何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅰ (ダークバスター)
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第一部 魔法少女リリカルなのはMTFS ~二つの運命と螺旋に出逢う者~
予告編


オリ主の作品であり、予告から離れた作品。
なお、シグナムがヒロインだったけど、リメイクだったら、リインフォースⅠかアミタか王様(大人版)辺りかな。


 時空管理局――在りとあらゆる時空の調査や事件の解決、ロストロギアと呼ばれる遺産の回収・管理などを行う機関。

 だが、本来は有り得ないのだが、一つだけ見逃している……黙認している組織が一つだけあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅰ

魔法少女リリカルなのは

予告編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時覇、まだ持ってたんだ、そのグローブ」

 クラスメートが、時覇が手にはめているグローグを見ていった。

「ああ、これは俺の大切な存在だからな」

 そのグローグは、甲の部分に黄色いリングの中央に緑の水晶が付いた装飾品が輝いていた。

「しっかし、変わったグローブだなそれ……いつから身に付けているんだ?」

「そう~だな……かれこれ十一、十二年以上の付き合い、かな?」

 そのグローブの装飾品を、撫でながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急に呼び出してすまない」

 そこには、なのは、フェイト、はやて、守護騎士たち、他の魔道士数名いた。

「今回は、管理局の中でも……機密の高い任務であることを伝えておく」

「機密の高い任務?」

 なのはが首をかしげながら言った。

「そうだ、今回の任務は――」

「それについては、私から言います。クロノ提督」

「リンディ提督」

 クロノが後ろを振り向いた。

「エイミィ管制司令官、例のファイルを」

「了解しました」

 エイミィは、手際良くファイルを展開していく。

「あの、このデータはいったい?」

 デュナイダスが、リンディ提督に質問をした。

「これは、ある犯罪組織から送られてきた、ロストロギアのデータとその使い方です」

 その言葉に、リンディとクロノ以外全員が驚いた。

「なんで犯罪組織からデータが送られてくるんだよう」

「こら、ヴィータちゃん」

 シャマルがヴィータを叱る。

「ええ、ヴィータ特別捜査官の言う通りです」

 少々暗い顔で答えるリンディ。

「今回は、その犯罪組織・ラギュナスの壊滅と、ロストロギアの回収です。そして……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ジャジャジャジャ、ガシン!

 緑と黄色の鎖が、男を縛り上げる。

「これは、チェーンバインド」

 男に焦りはなく、軽く体を縛る鎖を鳴らした。

「ふむ、なるほど……相当な熟練者だな」

 関心する男。

「あの男、どこまで馬鹿にすれば!」

 怒りをあらわにするアルフ。

「アルフ、落ち着いて……今だよ、三人とも!」

 アルフを宥めつつ、なのは達に指示を出すユーノ。

 なのは、フェイト、はやては、それを待ってたと言わんばかりに、照準を合わせる。

「スターライト――」

「プラズマザンバー――」

「ラグナロク――」

 三人はそれぞれの最大魔法を、一人の男に向け――

『ブレイカー!』

 ――放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあ~、なんだ今日は」

 ため息をしながら、愚痴をこぼす時覇。

「いくらバイトでも、あの額でこの労働時間は割が合わないよ……早く他のバイトを探すか」

 そう言いつつ、公園に入っていった。

 そして、違和感に気づいた。

「なんでこんなに静かなんだ?」

 それは、鈴虫の鳴き声が聞こえないことだった。

「……早めに出よ、お?」

 ふと、暗くなり、空を見上げた。

「え、ぐわ!?」

 ――ドシン!

「っ、てて、えぁ、はぁ、はぁ、な、なん……女性?」

 赤い髪の毛にポニーテールで、コスプレの様な服装、極めつけは前方に付き刺さっていう剣らしき物。 コスプレの様な服装 だが、そのコスプレの様な服装は、あちらこちらに焦げ目や破かれたあとが目立った。

「…………」

 黙る時覇。

「おい、青年」

「え?」

 辺りを見回すが、誰もいない。

「上だ、上」

 時覇は、ゆっくりと上を見上げた――そこには、宙に浮かんでいる男がいた。

 しかも、ゲームに出てきそうな銃を持って。

「その女を渡せ」

 時覇に、そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、魔法との出逢いであり――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シグナムとの出逢いでもある――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、ここで二つの可能性が成り立つことになる――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、時覇」

「どうした、シグナム?」

 不意にシグナムに呼ばれ、止まりながら振り返る時覇。

「いや、その……礼を言う」

 少々頬を赤らめ、俯きながら言った。

「ああ」

 時覇は、笑顔で返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時覇、我々と共に行かないか……なに、戦いに手を貸せとは言わん」

 そう言って男が、手を差し出してきた。

「……条件がある」

「ほう、なんだ?」

 やはりか、と、いう顔だった。

「管理局について、教えてほしい……嘘は無しで」

「……よかろう。……まずは魔法についてだが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局と共に戦うのか――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスと共に戦火と向き合うのか――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二つの可能性を画いた話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~The person who meets in two fate and spirals~

 

 

~二つの運命と螺旋に出逢う者~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

可能性という名の運命に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナタは、二つの真実を見る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで最後だ……いくぞ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロングイ!」                  「クロノ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドライブ・イグニッション!




あとがき
 オリジナル主人公・時覇で進む物語。
 時覇が分岐点で、話が変わるストーリーで、信念、疑惑、偽り、真実が入り乱れる。
 二つのサイド、管理局、ラギュナスの属した方によって、人間関係も、能力も、全てが変わる。
 サークル・闇砲が送る、新たなる挑戦の作品。
 何かに出逢う者たちの物語とはことなる、外伝シリーズ第一弾。


魔法少女リリカルなのは ~二つの運命と螺旋に出逢う者~



お、宜しく。






制作開始:2006/2/6

打ち込み日:2006/2/6
公開日:2006/2/6

変更日:2008/10/24
訂正日:2006/2/14+2006/2/26


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第一話:平凡な日常の最後

 時の流れは、無限ループに等しく、また絶え間無く続く道を進み続けるかの如し。
 永遠に回り続けるも、しかし、少しずつ変わっていく。
 だが、誰もが一度は思う事がある。
 それは――『IF(もしも)』である。
 誰しもが、あの時ああすれば良かった。こうすれば良かった。と、思うだろう。
 一度きりの人生。
 ただ一度の後悔も無く過ごせる人間などいない。
 いたとすれば――物語の登場人物くらいである。
 可能性に縋るならば、今を見ろ。
 今を見て、何を感じる。
 感じなくても、過去に囚われていては意味が無く、だが、背いていても始まらない。
 受け入れる事から始まり――前へ一歩踏み出すことで、全てが始まる。
 この物語は、過去に囚われた男と、今と未来へ進むことを選んだ男が、互いに出逢い、ぶつかり合う物語。
 誰にも否定することが出来ないが、その男だけが否定することが出来る。
 過去と現在と未来――全てが交わる、その瞬間まで。
 交わる時、世界は終わるのか、始まるのかは――まだ、誰にも判らない。


 地球にある町――水多町(みたちょう)。

 何の変哲も無く、どこにでもある町。珍しいモノがある訳でもなく、交通事故がゼロ件でもない。犯罪が起こらない町ではない。

 本当に、どこにでもある町。

 そんな町の一つの高校≪公立 文武両道高等学校≫。文字通り、文武両道を目指した学校であるが、現在は文武両道を求めている訳ではない。設立当初は、実際に文武両道を目指していた。だが、近年の情勢――少子化、不景気といった時代の流れによって、文武両道は薄れていった。

 今は、どちらかが突発的な才でも問題ない。だが、どちらかが掛けているのは問題があり、補習などの対象者に上げられる。早い話が、最低ラインだけは、今も変わらずぅである。

 そして、クラスは5クラスの3年間。設立当初は、最小人数との事で2~3クラスしかなかったらしい。ただ、世の中の情勢に合わせるように、クラスや生徒数は変化し続け、今の状態に落ち着いている。なお、C―1、B-1、A-1といった感じに、Cが1年、Bが2年、Aが3年となっている。

 そのB-4というクラスの扉が開けられ、見た目から不良だと判る他クラスの者が入ってくる。不良たちは、そのまま後ろのとある席へ向かい、帰り支度をしている男子に声を掛ける。

 

「おい、時覇(ときは)」

 

 午後の授業も終わり、帰り支度を終えようとしていた矢先の出来事。いつもの事なので、内心ため息を吐く。無視してもいいが、この学校の不良ブループの人間で、校内に知らない人間はいない奴らなので、する事が出来ない。

 

「なんだ?」

 

 横目で相手を確認して、返事を返す。ただ、手は休めずに教科書をカバンに詰め込む。

 

「今度さ――」

「断る」

 

 即答で答え、黙々と片づけを続ける時覇。男は、その言葉に口元を引き攣らせ、片方が掴みかかろうとする。だが口元を引き攣らせた男――不良Aが、掴み掛かろうとする男――不良Bを何とか堪える。

 

「まだ何も言って――」

「金だろ。お前らに支援する金など無い」

 

 と、言い放ち、教科書を鞄に入れて席を立った。だが、先の男が回り込んできた。そして、廊下から入ってきた男――不良Cが、時覇を追い詰める様な形で立つ。

 

「いいじゃねぇ~かよ。付き合えよ、と・き・は・く・ん」

 

 なめ腐った態度で言う不良の男。

 そして、不良Cの背後から、別のだらしない服装をした男が出てくる。

 

「金くらい、いくらでもあるのだからさ~、ちょっとしたボランティアのつもりでさ」

 

 チャラチャラと装飾品がついた服装の不良D。

 しかし、時覇は無視し、2人の間を割って抜けようとしたが、最初に声を掛けてきた男――不良Aが立ち塞がる。さらに、少し後ろで不良Bが待機。3人を振り切っても、最後の1人が立ち塞がる戦法。

 この状況に、呆れる時覇。

 

(めんどぅくさいのに、目を付けられたな)

 

 そう思いながら、小さくため息。

 それを知ってか知らず、3人は上手く牽制し、残りの1人が威嚇して、他の生徒たちに見えないようにしていく。そして、3人目の不良Cは、左ポケットからナイフの様な物を取り出して、ちらつかせてきた。

 だが、時覇は勢いよく窓際に振り向く。

 

「ちょっ、待てよ!」

 

 その後を追う3人。時覇はカバンをしっかり抱え、開いている窓から窓枠に足を掛け――

 

「――って、おい!? ここは3階だぞ!?」

 

――外に出た。

 その言葉に、クラスに残っていた生徒が一斉に振り向いた。

 そう、時覇は飛び降りたのだ。

 慌てて3人の不良が外を覗く。それに続きて、クラスに残っている生徒も覗いた。だが、その下には何も無かった。

 どんなに身体能力が高い人間が、3階からコンクリートなどの固い地面に、何の装備も準備も無しに飛び降りれば、子供でも分かる図式だ。運が良くても足にヒビは入ってもおかしくは無い。下手すれば、今覗き込んで見ている場所は、一面血に染まっている。

 しかしそこには、業務担当の先生が腰を抜かし、座り込んでいるだけ。ただ、花壇に水をやっている最中だったのか、手にはホースが持たれていた。そのホースから、規則正しく流れ続ける。

 

 

 

 

 

 変わって、海と山が見える町――海鳴町。

 ここはのどかで、どこか安らぎを感じる町であるものの、人知れずに起きた戦いがあった。

 しかも、2度も。

 この町を中心に、戦いの舞台になった。人知れず始まり、人知れずに終わるのだが。悲しい想いと出来事。そして、後悔を起こし続けて。

 1つ目は――プレシア・テスタロッサが、アルハザードを求めて起こした事件。

 それは、なのはが魔導師となったキッカケでもあり、フェイトと出会うキッカケとなった。それが、ジュエルシード事件――この事件の原因となったロストロギア、ジュエルシードから。もしくは、PT事件――これは、プレシア・テスタロッサの頭文字から付けられた。

 2つ目は――行く時も経て、時代を駆け抜けて管理局が負い続けた魔導書との戦い。同時に、はやてが魔導師もとい、騎士になった出来事。

 それは、多くの人々の人生を狂わせ続けた事件。

 しかし、やっとの思いでその蓋を開けてみれば――原因となった魔導書、闇の書もとい、夜天の書ですら犠牲となっていた。

 大半の人々は、闇の書のせいだと答えるだろう。しかし、大元からみれば、人の欲望から起きた出来事から生まれた。道具が悪い訳ではない――人の飽くなき欲望が起こした結果であった。

 この世界が崩壊する可能性が、非常に高かった2つの事件。

 それを止めたのが、2人のエース――高町なのは、フェイト・T・ハラオウン。そこに、両名の名があった。

 私立聖祥大附属中学校は、まだ授業の最中だった。

 

「――そして、ここの事について……」

 

 誰かを指名しようとしていたが、途中で学校全体にチャイムの音が鳴り響く。どこの学校でもなるチャイムの音だが、それなりに歴史がある。

 リアルの話となるが、導入経由は、終戦後しばらくは授業の開始・終了を知らせていたのは、空襲を知らせるベルの音だったらしい。それにより、一部の生徒に空襲を思い出すのでやめてほしいという要望が出たそうである。確かに、戦争の傷が癒えていないにも関わらず、合図としてならされては堪らない人間がいるのは当たり前である。

 そして、1954年(昭和29年)に発明家の石本邦雄によって現在のチャイムが鳴る、ミュージックチャイムを開発した。曲名「ウェストミンスターの鐘」の「キンコンカンコン」というチャイムになった。理由は、石本によると当時イギリスのBBC放送のラジオ放送をよく聴いていて「ウェストミンスターの鐘」が流れていたため、チャイムに採用しようと思ったとのことである。なお、チャイムの音は音程がわかりづらく、少々はずれていても気にならない、という特徴が挙げられているらしい。

 結局どこの次元・平行世界も、わかりづらく、気にならない音が、チャイムとして選ばれているのかもしれない。

 

「っと、今日はここまでね。このまま連絡事項を言います」

 

 教科書を閉じながら先生は言い、今後の事に付いてと簡単に話した。

 内容は、他県ではあるが変質者が出るようになった事、今年で卒業となる事。そして、進学について――など、この時期はどこの学校も変わらないのかもしれない。

 そして、そろそろ中学生最後の夏休みが近いので、それに弁状して羽目を外しすぎない様に。と、そんな事が、クラスに伝えられる。

 

「では当番、号令をお願い」

「はい」

 

 先生の言葉に、今日の当番が返事をしながら席を立つ。

 

「起立――礼――さようなら」

 

 他の生徒たちも、当番の号令に合わせて立ち上がり、頭を下げて挨拶をする。これにより、今日の授業は終わりを付けたのである。ちなみに、今日は土曜日なので、午前中で終わりである。だって、授業が3時間しかないから。

 皆チリジリに教室を出て行く学生たち。なのはも、カバンに教科書などを手早くしまい、席を立とうとしていた時だった。

 

「なのは、一緒に帰ろう」

 

 アリサの声が背後から聞こえ振り返る。案の定そこにアリサがいた。

 アリサと他クラスにいるすずかとは、小学校からの付き合いで、フェイトとはやてよりも、付き合いが長い。余り関係は無いが、なのはの兄である恭也と、すずかの姉である忍が結婚している。

 

「ごめん、アリサちゃん。今からお仕事があって」

 

 片手を顔の前に立て、ごめんのジェスチャーをするなのは。そのジェスターに、またかとアリサは思ったが、いつもの事なので気にはしない。

 むしろ、前みたいに大怪我しないでくれれば、それでいい。

 大怪我とは、なのはが小学6年生の時に、未確認機動兵器にやられた事件である。ただ、大怪我の過程にも問題はあった。なにせ、その日まで溜まりに溜まった疲労が、なのはの判断を鈍らせて起きた結果でもある。

 なお、未確認機動兵器は、現在も調査中との事。結局の所、何も判っていないのが現状でもある。形状は、長細い胴体らしきモノに、鋭い爪の様な足が左右に3本ずつの計6本。その爪の様な足が、なのはを貫いた。

 ただ、そこから少し離れた場所には、別系との未確認機動兵器らしき残骸を発見。こちらは、何かのケーブルと装甲の欠片のみ。なのはを襲った未確認機動兵器と同じだと考えても可笑しくは無いのだが、装甲やケーブルの材質がまったく違うとの事。それにより、未確認機動兵器は、最低でも2種類存在していた事が判明している。だが、先の説明通り、現在調査中により、何も判っていない。

 一応、その情報はなのはのご両親や、アリサやすずかも聞いている。よほど極秘でない限りは、情報が行く様になっているが、心配する心は変わりない。

 

「ああ、だからフェイトも急いでたんだ……って事は、はやても?」

 

 あの時と同じことが起きないかと、少々心配しつつも、クラスメートと他のクラスにいる友達の名前を上げる。

 はやてとすずかは同じクラスであるが、別のクラスなので、なのはたちは少し残念だと思っている。第一、今年が5人一緒に学校へ行く、最後の年であったから。

 理由は、言わずともなのは、フェイト、はやての3人は、管理局へ完全に就職する事が決まっている。まぁ、地球の方では無職に変わりが無いのが痛い。結果的に、中卒扱いだし。アリサとすずかは、言わずとも進学。私立聖祥大附属は、大学までエスカレーターとなっているからである。

 

「うん、なんだか緊急に集まって欲しいのだって」

 

 少し畏まった状態で言う。

 その見に纏う雰囲気が変わった事に、アリサは感じ取れた。

 

「ふぅん~……まっ、詳しいことは今度聞くから、頑張っておいで」

 

 しけた雰囲気を殴り飛ばすように、拳を突き出し、今から仕事に行く友人にエールを送るアリサ。今度もまた、無事に帰ってくる事を祈って。

 

「うん!」

 

 それを感じ取るように、笑顔で返すなのは。そして、鞄を持って席を立つ。

 

「じゃあ、行くね」

 

 と、言いながら教室を出る。

 アリサも、返事を返す変わりに、なのはの背中に向けて手を挙げるだけ。理解し合っている故に、絆も強く、そして深い。

 それと、すれ違いに別のドアから入ってくるすずかに、アリサは声を掛けるが、なのはが聞くことは無かった。

 

「なのは」

「なのはちゃん」

 

 そして、先に廊下で待っていた、フェイトとはやてから声が掛かる。

 

「フェイトちゃん、はやてちゃん」

 

 小走りで駆け寄る、なのは。

 そして、簡単な世間話をしつつ、3人は屋上に向った。夏休の事。これからの事。そして、今日の召集。

 いつも通りだと、この時はまだ3人は思っていた。

 

 

 

 

 

 時覇は、あのあと素早く下駄箱で靴を履き替え、学校から離脱。現在は、商店街を進んでいた。

 

「ふう……すまないな、ドゥシン」

 

 長年の付き合いがある黄色いリングの中央に緑の水晶が付いた、グローブの甲に装飾品として取り付けられていた相棒に礼を述べる。そして、それに答えるかのように、グローグの甲の部分に黄色いリングの中央に緑の水晶が付いた装飾品が輝いていた。どういう原理だか知らないが、このグローブの装飾品が輝くと、ケガや病気が早く治る。

 ちなみに『ドゥシン』というのは、サポテカ(西暦600年頃まで、現在のメキシコ南部太平洋岸地域に栄えていた文明)神話から取って付けた。

 ドゥシンは、死と正義の神と言われ、ダンの使徒とも呼ばれていたらしい。

 

「よお、時覇」

 

 後ろから声が掛かる。

 それに反応し、振り返ると――中国人と日本人の中間的な存在の男がいた。容姿から、中国人よりっぽい。

 

「ん……欄間(らんま)か」

 

 時覇は、少し低い声で、友人の名前を言った。

 クラスメートの欄間もとい、礼羽 遜真(らいま そんま)がいた。一応彼は、中国人であるのだが、どうも日本人臭い男である。

 

「お前まで言うようになったな」

 

 少しゲンナリとした顔をする欄間。本人は、このあだ名は気に入ってなかった。

 同じ名前で、1/2とかいうアニメがあり、主人公は水を浴びると男から女に代わる――という、一風変わったギャクバトルアニメ。今でも、夏の再放送で時たまだがお目に掛かるので、実際に水を掛けられた経験がある。

 

「で、今日はバイトの方は休みか?」

「ああ。急にバイトが辞めたから、その分がこっちに回ってきていたからな」

 

 肩を竦めながら、肩を並べて歩き出す2人。

 それからバイトの話から、世間話へシフトしていく。時折、人とすれ違う。

 聞かれても問題無い内容から、公道で言えるギリギリの内容まで、時には渋り、時には笑いう。

 そして、不意にグローブの装飾品に、光が反射して欄間の目を眩ませる。

 

「――――っ」

「すまない、欄間」

 

 咄嗟に装飾品を反対の手で押さえる。そして、目元を揉み、目をパチクリさせながら視界を回復させる。

 

「ああ、大丈夫だ。ところで時覇、まだ持っていたのだ――そのグローブ」

 

 欄間が、時覇が手にはめているグローグを見ていった。

 

「ああ、これは俺の大切な存在だからな」

 

 そのグローグは、甲の部分を見せた。

 

「しっかし、変わったグローブだな~それ……いつから身に付けているのだ?」

 

 装飾品を、ジロジロ見る。すると、ほんの一瞬だったが、装飾品が輝いた。

 また太陽の光に反射したかと思うが、相棒は、どうやらジロジロ見られたくないらしい。なども取れるが、そう見えてことにして気にしないでおこう。

 

「そう~だな……かれこれ11、2年以上の付き合い、かな?」

 

 グローブの装飾品を、撫でながら答えた。

 その見る目は、まるで親を、年上の兄弟を見る様な感じである。そこで、風に乗せる様な声が耳に届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見つけたぞ……失われた拳――ロストフィスト』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ん? 」

 

 時覇は辺りを見回した。が、自分たちを見ている人は、見当たらなかった。

 

「どうした、時覇?」

「いや……誰かの声が聞こえたような気がしたのだが……気のせいだ」

 

 と、時覇の懐から音楽が流れた。

 

「今時マツケンサンバは無いだろう」

 

 苦笑する欄間。確かに、少々時代遅れな気がする。

 

「黙れ」

 

 と、言いつつ懐から取り出し、画面を確認する。

 携帯は、去年高性能の最新型と歌われたモノだが、すでに2ランクほど高い能力の携帯電話が出ている。言わば、旧式であるが、未だに人気がある機種ではある。

 どうやらバイト先からの電話だった。

 

「別にいいだろ――はい、もしもし」

 

 欄間を一瞥しつつ、ボタンを押して耳に当てる。

 

『早乙女スタンドの松田だ』

 

 相手は、バイト先の店長の松田だった。店長か、主任からだとすると――急用だろうと察しがついた。

 

「店長、今日はどうしたのですか?」

『すまないが、今から出てきてくれないか?』

 

 いつもより、畏まった声で尋ねてきた。それに少々違和感を覚える――いつもの店長じゃないと。

 

「 ? 別にいいですけど……どうしたのですか?」

 

 少々戸惑いを覚えつつ答える。

 とくに学校からの課題とかは無かったので、問題無く引き受けられる。が、斜め上の答えが返ってくる。

 

『……うちのスタンド……今日限りで閉店することになった』

「はあ!?」

 

 衝撃の事実に、驚きの声を上げる。隣に居た欄間も驚いた。

 

『と、言う訳だ。最後だから、来てくれ』

「……わかりました」

 

 どう言う訳かわからないが承諾する。またか……またなのか。と、内心でぼやく。

 

『じゃあな』

 

 3秒待ってから、電話を切る時覇。

 そして、終わったと同時に、どこか沈んだような雰囲気を放つ時覇に、どう話を掛けたらいいのか迷う欄間。だが、ラチがあかないので、勇気を出して声を掛けた。

 

「ど、どうしたのだ?」

 

 その問いに時覇は、ゆっくりと振り向きながら言った。

 そして、こちらを向くと重々しく口を開く。が、内容を聞いて、尋ねるべきではなかったと思ったが、後の祭りである。

 

「また店が潰れた」

 

 どこと無く慣れた感じであったが、やはり絶望の雰囲気を所々かもし出している。そして、その言葉に固まる欄間。

 気まずい雰囲気が、2人と周りの空間を飲み込んでいく。ジワジワと、沼地に沈んでいくかの如く。と、思えてくる。

 

「じゃ、今から最後のバイトなので……いくわ、俺」

 

 考えても埒が明かないため、時覇が切り出した。

 事情を知らない者は、ご愁傷様か、自分もならない気をつけないとの、どちらかではないだろうか。

 

「そ、そうか……頑張れよ」

 

 何とか言葉を返す。

 そのままトボトボと帰る時覇の背中を、ただただ見ているしかなかった欄間。

 

「確か……アイツが勤めていた所、これで5件目だっけ?」

 

 事情を知っているだけに、下手に声を掛けることが出来なかった。ただ、ゴミが風に吹かれて、道を横切るように転がっていた。

 

 

 

 

 

 時空空間の中心と言えるかどうかは判らないが、その空間に巨大な建造物が浮かんでいる。

 その建造物から、時空空間を航行する為の戦艦が出入りを行っている。名は、時空管理局――文字通り、次元世界を管理する組織。管理名用は2通りあり、管理世界か、管理外世界かに分けられる。

 分けられる基準は、その世界が魔法文化主体か、そうでないか。目的は、1つ――各次元世界の崩壊を未然に防ぐこと。

 2つ――文明が発達しすぎ、崩壊した世界から流失した技術やモノを回収、管理する。流失物の名称は、ロストロギア。

 3つ目は――このロストロギアを巡って行われる争いや、密売するモノを鎮圧し、取りしまる事。これを行う者を、時空犯罪者と呼ぶ。

 あとは、各次元へ飛び、魔法やロストロギアを使った犯罪者を取り締まることが、主な活動である。

 そして、時空管理局・第25ブロックにある特別会議室前。そのドアの前に、4人の男女が立っていた。

 局員の男性が、徐(おもむろ)にドアの横にあるパネルのボタンを押して、通信回線を開く。

 

「クロノ提督。言われた三方をお連れしました」

[判った、入ってきてくれ]

 

 そして、男性がドアを開け、敬礼する。

 

「失礼します。高町なのは二等空尉、フェイト・T・ハラオウン執務官、八神はやて特別捜査官をお連れしました」

 

 男性を先頭に、3人を会議室に連れてきた事を報告する。

 

「ご苦労だった」

「では、私はこれで」

 

 男性は、後ろで待機していた3人を中に入れてから、外に出る。同時に、なのはたちは、それぞれ開いている席に移動し、席に座る。

 

「これで全員揃ったようだな」

 

 クロノは全体を見回し、全員揃ったことを確認してから言った。

 後ろには、リンディ、レティ、エイミィの3人が居るが、確認するまでも無い。

 

「まずは、急に呼び出してすまない」

 

 そこには、先ほど来たなのはたち、守護騎士、他の部隊から来たと思われる数名のランクの高い魔導師が、それぞれバラバラに席に座っていた。

 既に、豪華なメンツが揃っている為か、自然と緊張した空気に変わり始めてきた。

 

「えぇよ、それがこの仕事なんやし」

 

 はやてが、クロノは悪くないと言う。

 

「ああ、その通りだな、はやて特別捜査官」

 

 濃い緑の髪で、クロノより少し体格の小さい、ランガ執務官も同意した。

 フェイトの先輩に当たるが、残念ながらフェイトの方が、戦闘能力が上だと分かった時は1週間ほど不貞寝したらしい。が、真実は未だに闇の中であるが、1週間ほど無断欠勤した記録は存在する。

 それ以外は、ランク以上の働きをしている事で、上層部にも名が通っているが、本人は知らない。

 

「すまない、2人とも。今回は管理局の中でも……機密の高い任務であることを伝えておく」

 

 重々しく言うクロノ。その言葉に、周りの空気が打って変わる。

 

「機密の高い任務?」

 

 なのはが、首をかしげながら言った。その言葉に同意するように、皆困惑する。

 機密など、日常茶飯事……とはいかないが、なぜ自分たちに降りてきたのか。まして、上層部の一部が毛嫌いしている人材がいるにも関わらず。

 

「そうだ、今回の任務は――」

「それについては、私から言います。クロノ提督」

 

 背後から声が掛かり、クロノが後ろを振り向いた。

 

「リンディ提督」

 

 今まで沈黙を保っていたリンディは、顔を向けてきたクロノに頷く。そして、そのままエイミィの方を向く。

 

「エイミィ管制司令官、例のファイルを」

「了解しました」

 

 エイミィは、前もって渡されていたデータファイルを、素早く展開する。そして同時に、各席にデータが展開されていく。

 展開された内容は、色々なデバイスに、ロストロギアらしきデータなどが映し出されていた。デバイスは、斧にヌンチャク、ドリルにバンカーなど、多種多様。ロストロギアらしき方は、ジュエルシードに似た結晶体から、どこかで見たことがある巨大ロボットまで。ロストロギアも、デバイスに劣らず、それ以上に多種多様である。

 

「あの、このデータはいったい?」

 

 冷たい印象を持つデュナイダス捜査官が、リンディ提督に質問をした。

 こちらも、はやての先輩に当たる。ついでに言えば、ランガと同期で訓練校時代は、先走りやすいランガのストッパー役でもある。

 捜査官としての能力は、それなりに高く、戦闘も部隊指揮も取る事が出来る、オールマイティ的な存在。しかも、執務官以外の資格は大体持っているというが、資格申請をしていないので、本当に持っているかは不明。

 

「これは、ある犯罪組織から送られてきた……デバイスの開発案及びロストロギアのデータとその使い方です」

 

 その言葉に、リンディ、レティ、クロノの3人以外の全員が驚いた。エイミィも、このデータと説明は事前に教えてもらってなかった様で、みんなと一緒に驚いている。

 そして、データの閲覧を見ながら、ヴィータは疑問をぶつける。

 

「なんで犯罪組織からデータが送られてくるのだよ」

 

 デスクに肘を付き、顎を支えていた状態で言い放つ。一応、公式な場なので、少し行儀が悪い体勢である。

 

「こら、ヴィータちゃん」

 

 すぐさま隣にいたシャマルが、ヴィータを叱る。それに対して、ふぅんと鼻を鳴らしてソッポ向く。

 どうやら、データ内容の出所が気に入らないらしい。

 

「ええ、確かにヴィータ特別捜査官の言う通りです」

 

 少々暗い顔で答えるリンディ。

 それもそのはず。第一、時空管理局といえば、犯罪者たちにとって不利益な存在であり、邪魔者である。しかし、組織から情報提供――裏があるにしても、本物かどうか怪しむ。おかげで、ある者は首を捻り、ある者は目を点にするなど、様々な反応を浮かべる。

 それに見かねたのか、それとも次へ進みたいのか、クロノが声を出す。

 

「詳しい説明は、これから行う。リンディ提督」

 

 クロノは、リンディに言葉のバトンを渡す。息子からの、言葉のバトンをしっかり受け取り、暗くなった雰囲気を吹き飛ばす。

 そして、全員を見回してから口を開いた。

 

「今回は、その情報手供してきた犯罪組織・ラギュナスの壊滅と、ロストロギアの回収です。そして……」

 

 リンディが一区切り置いて、口を開いた。

 

「桐嶋 時覇の確保です」

 

 

 

 

 

 早乙女スタンドは、忙しくも無く、かといって暇でも無く、仕事をこなしていた。

 小さいガソリンスタンドだが、それになりに評判はいいのだが、何故潰れることになったのか、疑問に思いながら、仕事を淡々と行う。カードを受け取り、給油をし、洗車・点検・窓を拭くかを尋ね、灰皿・ブレーキランプを確認する。最後に満タンにし、キャツプ・ロックを確認後、カードとレシートを渡す。

 そして、誘導。

 

「ありがとう~ございました~!」

 

 最後の客が出て行った。

 そして、出入り口をロープで閉める。本来は、スタンド内の外の照明を落としてからなのだが、店長からの指示で早めに閉める。

 後日、燃料タンクを空にする為に、ガソリンだけ販売するために一旦開く予定らしい。が、それは、終了時のミーティングで話すとの事。

 

「時覇、今日で終わりだ、お疲れ」

 

 店長の松田さんが、声を掛けてきた。

 

「お疲れさまです店長……ところで閉店が決まったのは何時頃ですか?」

 

 先ほどまで気になっていた事を、躊躇いながらも尋ねた。

 

「昨日」

 

 看破も躊躇もする事無く、即答で答える店長こと松田さん。

 

「な、何で、ですか?」

 

 引きつった顔で聞く時覇。

 毎度の如く、また店長が馬鹿をやったのではないかと冷や冷やする。が、この店長は期待を裏切らなかった。むしろ、裏切って欲しかった。

 だが、それを看破する言葉を、簡潔に言ってきた。

 

「俺が競馬で負けたから」

 

 その言葉を聞いた瞬間――戦闘モードへシフトする。

 素早く移動して、店長の背を取る。

 

「お前が原因か!」

 

 そう言いながら、すぐコブラツイストをかます。

 

「あだだぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁ!」

 

 

 

 

 

 その頃、サービスルームでは、終了後の事務を行っていた。

 そして、作業中に外から――

 

『お前が原因か!』

『あだだぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁ!』

 

――のやり取りが聞こえる。

 それを聞いて、一同はため息。毎度の如くと言えるこの出来事なだけに、もう慣れた。しかし、毎度の如く言うセリフがあるが、今日で聞き納めである。

 

「何やっているのだ、あいつらは?」

 

 と、缶コーヒーを飲む従業員の飯塚。ここの店舗が潰れると聞いた時、最後まで残っていた店員の1人。義理は無いのだが、最後の締めなので残る事を選んだ人である。

 一応、新しい就職先は決まっているらしい。何でも、昔の伝手で、とある大企業の社長をやるらしい。「何者だ、アンタは」という時覇の言葉。

 

「どうせ、また店長が時覇に技掛けられているのでしょ」

 

 今日の集計をしている木本。

 最近転属して来たばかりだったのに、再び転属となった事のグチを、時覇が時折聞いていた。次の仕事先は、未だに決まっていないらしいが、相談関係の職から紹介状が着ているらしい。

 

「でも、今日であの馬鹿が見られなくなるとは……少々寂しい気がするな」

 

 帰り支度が出来ていたバイト。面はヤクザっぽいのだが、高校2年生で、文武共に学年トップ。人は見かけによらないという言葉の具現体でもある。あと、バイトが2人いたが、既に上がった後である。

 それぞれ思いふける3人だったが――

 

『はあぁぁぁぁぁぁ!』

『うらぁぁぁぁぁぁ!』

 

――雄たけびと共に、金属音が耳に流れ込んでくる。それを聞いた3人は、大慌てで飛び出していった。

 そこでは――ちゃちな道具で戦闘が行われていた。

 

「せいっや!」

 

 右手に装備された使用済みワイパーを逆手に持ち替え、そのまま斬りかかるもとい、殴りかかる時覇。

 

「甘いは砂糖!」

 

 水切りで掃う店長。そのまま下から顎目かげて、容赦なく飛んでいく。

 

「くっ」

 

 体を後ろに反らしつつ、左に避ける。僅かに掠ったが、気にするほどでもない。

 しかし、体勢が不安定になっていたので、地面に手をついて横に転がり、起き上がり際に後ろに跳んで、間合いを取った。

 睨み合う2人。なまじ、レベルの高い戦闘だけに、手が終えない。

 一触即発の雰囲気だった――が、互いに横から思いっきり水を被る。濡れる2人は、恐る恐る同時に水が飛んできた方向へ顔を向ける。

 

「ホント、最後の最後まで何やっているのだ、お前らは」

 

 バケツを持ったまま、呆れる飯塚。そのまま横を向く。

 

「木本さん、あとお願いしますね~」

 

 と、手をタッチしながら選手交代。その瞬間、2人の運命は決定した。

 それとは関係無く、もう無関係だと言わんばかりに、飯塚はカウンターへ戻っていく。まだ処理などが終わっておらず、自分の作業+3人分の作業も行わなければならないからでもある。

 

「はい……お2人さん、上の方までお願いします」

 

 木本の後ろに、鬼神の幻影が浮かび上がったのが、見えて様な気がした。二人は小さくなりながら恐縮しつつ、戦慄を覚えながら、休憩室の2階に上がっていた。

 ついでに、先へ行くのを譲り合い、競り合い、殴り合いになりそうになった時、再び雷が落ちたのは――言うまでもない。

 

 

 

 

 

 同時刻の夜の空。

 空に所々雲はあるが、地上からは月や星が見える。風は夏到来を告げるように、穏やかにふく。しかし、上空の風は肌寒く、風は30階建ての高層ビルの屋上で受けるよりも強い。

 そんな中、杖タイプのデバイスと男と、片や魔法関係の世界には、珍しい銃器タイプのデバイスを持った男が浮いていた。

 髪をなびかせながら、杖タイプのデバイスを持った男が口を開く。

 

「ここで間違いは無いな……ゴスペル」

 

 街を見下ろしながら、銃器タイプのデバイスを持った男――ゴスペルに尋ねた。そのゴスペルは、街を一瞥しながら答える。

 

「ああ、間違いは無い。ターゲットも一致したし、微弱ながらロストロギアの反応も確認した」

 

 風が一段と強くなったのか、自分の髪を抑えながら、男が言葉を返す。

 

「そうか……どちらにせよ、管理局が動いているのは間違い無い……慎重に行動するぞ」

 

 風が少し収まると、男は腕時計で時間を確認する。そして、懐から小さな宝石を3つほど取り出して、手で弄って遊ぶ。

 

「2手でいいのか、ロングイ?」

 

 手持ちのカートリッジを確認しながら聞き返すゴスペル。

 その言葉に、男――ロングイは、口元を緩め、宝石を懐に仕舞いなおす。

 

「問題は無いだろう……不安か、ゴスペル?」

 

 少しあざけ笑うように言った途端、デバイスの銃口を左のこめかみに突きつけた。銃口とデバイスのコアが、不気味に輝く。

 

「喧嘩なら買うぞ?」

 

 ロングイの発言が気に入らず、ドスの効いた声を出す。その言葉に、杖タイプのデバイスを宙に浮かし、すぐさま両手を挙げるロングイ。

 デバイスを単体で宙に浮かせることに、ゴスペルは僅かに感心した。

 

「こんなところで魔力を消耗したくない――殺気が無いし、隙だらけだろ?」

 

 確かに殺気も無く、引き金を引けば確実に当たる距離であり、状態でもある。だが、ゴスペルは忌々しく見ながらも、こめかみから銃口を放す。

 

「ふん……始めるぞ」

 

 そうゴスペルは言い放ち、先にどこかへ飛んでいってしまう。

 

「そうだな」

 

 続いて、ロングイもデバイスを手に取り直して、ゴスペルとは反対側へ飛んでいった。

 そして風は、一旦静まったと思いきや、さらに強い風が吹き上がる。

 その風の動きは、まるでこれから起こる事を表した様な動きであったが、それに気がつく者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人と人が出会う時――何かが始まる。

 別れは終わりを意味示す。

 運命の歯車は1つであり、1つでなく。

 1つの道は無数に別れ、無数の道は1つになる。

 交わる事は必然。

 交わす事は偶然。

 世界は肯定。

 世は否定。

 種族は差別。

 想いは決別。

 言葉遊びは尽きぬ間に、物語は開幕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのは

~二つの運命と螺旋に出逢う者~

 

 

第一話

平凡な日常の最後

 

END

 

 

 

 

≪次回予告≫

運命が鼓動する様に、人々が動き始める。

時覇を中心に、静かに動き始める。

だが、その影に動く者たちの存在。

時覇だけが、度々耳にする声。

 

 

 

次回・何かに出逢う者たちの物語・外伝

 

魔法少女リリカルなのは

~二つの運命と螺旋に出逢う者~

 

 

第二話

動き出す歯車

 

 

 

に、ドライブ・イグニッション!

 




ショートコント

 DB「改正版、ついに完成!」
 時覇「どうでもいいが、相当BBSで叩かれたそうだな」
 DB「うむ、本当に叩かれたが、いい勉強になったぞ?」
 時覇「で、今度はどうする? このままシグナムEND? それともフェイトに移るのか?」
 DB「優柔不断END」
 時覇「へぇ?」
 DB「優柔不断END」
 時覇「何で!?」
 DB「だって、その方が色々面白いこと書けるから♪」
 時覇「……ガンドレッド・鉄――起動!」
 DB「ふっ、その程度が――ってバインド!?」
 ???「申し訳ないですが、ここで一旦散っていただきます」
 DB「まっ、まて、優柔不断END=お前のルートも用意されている! だから見逃して」
 ???「時覇を独占していんです」
 DB「うんうん、純粋な気持ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――……」
――キラリン☆
 時覇「はぁー、はぁー、はぁー……サンクス、捕まえといてくれて」
 ???「いいえ、アナタの為ならば、いつでも」
 時覇「しかし、何故名前が『???』なんだ?」
 ???「ネタバレしたくないとの事です」
 時覇「はぁ、しかし優柔不断END、本当に書くつもりか?」
 ???「あくまで未定だそうです」
 時覇「その方がありがたい」






あとがき  追加文搭載ヴァージョン3.0。
 説明不足だった部分の補い&「」などの記号変更に伴い、急遽停止していた再々改正が始動。
 色々書いていて、表現技量も上がったと思うので。あと、行の改正などを。
 国語がアヒルの人間が、遅い製作ながら書き続け、小数の読み手に支えられつつ、趣味を爆走。
 あ、一応、二部と少し追加連動させたいので、ちと追加する可能性あり。






オリジナル紹介
 桐嶋 時覇(きりしま ときは)
 この物語の主人公。
 ロストフィストと呼ばれた、装飾品のグローブを所有。


 礼羽 遜真(らいま そんま)
 欄間(らんま)というあだ名で親しまれている、時覇の友人。


 ゴスペル
 ロングイと共に、時覇を狙う男。
 銃器タイプのデバイスを所有。


 ロングイ
 ゴスペルと共に、時覇を狙う男。
 杖タイプのデバイスを所有。


 ランガ
 濃い緑の髪で、クロノより少し体格の小さい執務官。
 フェイトの先輩に当たるが、残念ながらフェイトの方が、戦闘能力が上だと分かった時は1週間ほど不貞寝したらしい。
 が、真実は未だに闇の中であるが、1週間ほど無断欠勤した記録は存在する。


 デュナイダス
 冷たい印象を持つ捜査官。
 はやての先輩に当たり、ランガと同期で訓練校時代は、先走りやすいランガのストッパー役でもある。


 ラギュナス
 犯罪組織の1つ。
 ロストロギアと新型デバイス案などの、情報提供していた。
 これは、大分前から行われていたらしい。


 以降、物語が進むにつれて、物語内で説明&あとがきなどで補足してきます。






参考書物・サイト
・学校のチャイム(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』、検索用語:チャイム)


















制作開始:2006/2/12
再々改正:2007/10/21~2009/4/9

打ち込み日:2006/12/23
公開日:2006/12/23

変更日:2008/10/24+2009/4/9
修正日:2006/2/20+2006/2/21+2007/8/18+2007/9/27+2007/10/5+2009/6/20


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第二話:動き出す歯車

運命は、時に祝福で、時に残酷である。
避けられない運命、定められた時。
覆す事すら出来ない出来事。
覆す事が出来る出来事。
運命と螺旋が、今動き始める。


 

 この世界の、この国――日本という国の時間は、午後7時辺り。

 その町から少し離れた森の中。

 町と町の間の森のため、人が居ることは滅多に無い。ましてや、今は午後7時――夜の時間帯。

 その森に、切り開かれたらしき場所に、魔方陣が出現した。この世界には存在しない力であり、幻想の類として扱われていたモノ――ミッドチルダ式と言われた魔方陣。その魔方陣は、一瞬だけ強い光を放ち、そして収まる。先ほどまで魔方陣しか無かったはずの上に、時空管理局の者たちが立っていた。

 この世界には、存在しないはずの者たちであり、本来なら干渉が許されない。だが、干渉が許される例外がある。

 まず1つ目は、現地の調査。

 2つ目が、ロストロギアという代物の存在の調査と確認、及び回収。

 3つ目は、時空犯罪者の探索と逮捕。

 4つ目が、管理外での魔力反応の調査。

 他にも、いくつか項目が挙げられるが、大きな項目は全部で4つ。次元世界の平和を守るための処置である――それが、時空管理局の弁解。しかし、傍から見れば、世界干渉とも取れなくも無い。だが、他の次元世界を巻き込んだ事故や事件も存在している以上、誰かがやらなければならない。故に、その正義が、権力の暴走に繋がらない事を懸念されても、可笑しくは無い。無いのだが、その監視機関が、全て時空管理局所属になっているのが可笑しいといえる。だが、それを知る者は、余り少ないのも事実であった。

 話は戻り――時空管理局、次元管理局艦船≪アースラ≫のメンバーが、立っていた。

 すぐさまリバンとカルナが、周辺の偵察に出た。一般人に見られたかどうかの、念のための目視確認に。一応、アースラから索敵を掛けているが、念には念を入れているだけである。何事にも、例外は存在するし、敵がいるかもしれないのだから。

 

「よし、先に目的のポイントまで行くぞ!」

 

 クロノは、全員に指示を出す。彼は現在、アースラの艦長をしているので、現場に出る事は滅多に無い。だが、今回はアースラの前艦長であり、自分の親でもあるリンディ・ハラオウンが、指揮を執っている。さらに、副艦長として、人事部のレティ・ロウランもいる。2人は友人であり、付き合いも長いので、お互いが判る人選を選んだ結果である。

 途中で、偵察に先行していたリバンとカルナと合流し、目的地が見える場所まで移動した。目的の人物である、桐嶋時覇が住んでいる街へ。

 そして、森から抜ける手前辺りの茂みに、身を隠す。一応、魔法で一般人から見えなくする事も出来るが、魔力サーチを使われると、一発で場所が割れてしまうので使用していない。ステルス効果もあるが、そちらは魔力消費が激しすぎるとの事。結局、なるべく魔法を使わないのが、ベストなのである。

 

「あそこって……水多町?」

 

 転送してきたアースラで構成されたチームの一人、なのはが街を見て呟いた。

 

「知ってるの、なのは?」

 

 その呟きを聞いたユーノが尋ねてきた。

 

「うん、って言うか……あっちが、私たちが住んでいる海鳴町だよ」

 

 苦笑しながら、水多町の反対側を指差した。

 そこには山がある。その山を越えると、なのはやフェイト、はやてたちの家がある海鳴町がある。ここでは関係無い話だが、はやては中学を卒業したら、今住んでいる家を出て、ミッドチルダに移住する予定らしい。フェイトの方は、まだ秘密だが近々兄のクロノと姉的存在だったエイミィと結婚する事。付き合いのある高町家と離れるつもりも無く、このまま定住するそうである。

 

「と……隣町だったのか」

 

 手で顔を覆うクロノ。他の魔導師たちも苦笑、呆れ、引き攣るしかなかった。

 緊急でない限り、予定が組み立てられていれば、事前調査というものが存在する。それは、どの世界――というより、企業でも行う。今回は、一応緊急かつ極秘任務とはいえ、簡単な事前調査は行われる。例えば、行き先の場所の周辺地図の確認とか。いくらなんでもピンポイントに調べすぎである。

 

[ま、まあ~、地元だったんだし……それに家を留守にしなくても良くなったんだし、ねぇ?]

 

 なんとかしようと、エイミィがフォローを入れる。

 ある意味、彼女にも責任があると言える。一応、今回のオペレーターなのであるのだから。むしろ、フォローという名の責任転換か、逃れだろう。だが、それに誰も気がつく事はなかった。

 

「ま、まあともかく、クロノ提督、指示をお願いします」

 

 黒髪の男性――ランガが指示を求める。

 

「ああ、そうだなぁ、ランガ執務管」

 

 ランガに同意するクロノ。一旦深呼吸してから、全体を見てから言う。

 

「……では、先の指示道理、3人一チームとなる。第1チームがはやて、シグナム、ザフィーラ。第2チームがなのは、ユーノ、ヴィータ。第3チームが、フェイト、アルフ、デュナイダス。そして最後のチームが俺、ルーファン、ライガ。そして待機チームのシャマル、リバン、カルナだ」

 

 チームの選別を述べるクロノ。

 第1チームは、守護騎士の長であり、切り込み隊長の的な前衛のシグナム。守護騎士の主であり、司令官役でもある後衛のはやて。その付き添いのリインフォースⅡ。守護騎士にして獣であり、盾の守護の名を持つ防御のザフィーラ。さらに、主従関係なので、どのチームよりも連携が取れやすい。ただし、リインフォースⅡは、ユニゾンデバイスなので頭数には入っていない。

 第2チームは、鉄槌の名の如く、突撃隊長的な前衛のヴィータ。エース・オブ・エーズの名を持ち、主砲系魔法がメインの後衛のなのは。地味であるが、サポート系のプロ中のプロである補佐のユーノ。前衛のプロと、中距離から超遠距離のエキスパートとのなのは。それと、なのはとは師弟関係かつパートナーである、サポートのエキスパートのユーノ。

 第3チームは、高速移動によるかく乱と、前衛のエキスパートのフェイト。ファイトと連携が取れやすく、前衛とサポートがこなせる使い魔のアルフ。そして、中距離のプロフェッショナルと過言ではない、デュナイダス。

 第4チームは、アースラの切り札でもあり、平均的な能力を持つクロノ。防御魔法に関しては一級品のルーファン。サポートに関しては、ユーノにも引けを取らないライガ。

 最後の第5チーム、所謂(いわゆる)待機チームの中継管制役兼前線医療スタッフのシャマル。その護衛役で、索敵能力が非常に高いリバン執務官、武神と言われたカルナ教導官の2枚盾。

 しかし、リンバは索敵能力が非常に高いのなら、探索に回すべきだと思うだろう。だが、ラギュナスの襲撃を想定し、各チームの場所を把握する為。そして、敵襲を警戒しての人選である。

 人海戦術を行う場合は、待機している一般の武装局員を出せばいい。待機している理由は、チームが多すぎて連絡に支障を起こる可能性がある為。さらに、肝心な時に集まらない場合を考慮した結果――だと、同席した4人目の提督が決めた。

 その提督の名は、カーキッ・クゥ・サー。時空管理局・上層部の人間――つまり、お偉いさんである。現在はブリッジにおらず、自分の宛がわれた部屋で、何か作業中との事。

 そして、エイミィが通信で補足を伝える。

 

[各チームのリーダーは、はやて特別捜査官。なのは教導官。フェイト執務官。クロノ提督。シャマル特別捜査官補佐です]

 

 選抜は、経験を積むには良い機会として、なのは、フェイト、はやてが各チームリーダーをする事に。ここは、ベテランで行うべきだが、ベテランがいないチームもあるので、この様な形になったのである。

 そして、エイミィが言い終わると同時に、リンディに変わる。

 

[今回の任務は、ロストロギアの回収と桐嶋時覇という方の確保です。ラギュナスよりも早く彼と接触をお願いします]

 

 どこと無く焦りがある言葉。それほど切羽詰った状況というか、緊張が漂う。

 

[では、クロノ提督]

「はい、リンディ提督……では、作戦開始!」

 

 そして、森から12つの光が飛び立ち、水多町へ4方向に別かれていった。

 ただ、その光は、魔力を持たない人間に見えることは無かった。

 その理由は、簡単に言えば、魔力の認知度を下げた結果である。認知度とは、視界で知覚する度合いである。つまり、魔力の光の度合いをおとした訳である。さらに、魔法による誤認する様にしてあるので、もし知覚できたとしても、薄い魔力の光だけとなっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話

動き出す歯車

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ~、店が潰れたんじゃなくて改装工事かよ……紛らわしいんだよ、店長」

 

 店長の嘘に踊らせられていた時覇。

 あの後、木本に尋問を受けている時に発覚し、店長だけ叱られている最中だ。ちなみに、時覇が今までバイトしてきたところ、全て潰れて止めているのだ。しかも、最短記録が、ファミレスの一週間だった。潰れた理由は、初の休みの日に店が火事にあった為である。

 お陰で、バイト探しは慎重になりすぎて、視察に行くほどのレベル。

 

「それにしても、改装工事なら仕方ないか……別の短期バイトでも、探すかな」

 

 などとボヤキながら、大通りに出る。この道の名は、≪水多大通り≫といい、水多町の端から端まで真っ直ぐある大通り。言わば、この町の特徴の一つである。その大通りを沿って歩き、ふと駅前のデパートが目に入った。そして、『新規改装のため、在庫処分セール開催中!』という垂れ幕が掛かっていた。

 時覇は、それを見てからその場で立ち止まるも、邪魔になるので道の端――ビル側による。そして、懐から財布を出して、中身を確認する。

 札入れを見ると、1000円札が4枚。小銭入れを開くと、500円玉と100円玉が1枚ずつ。50円玉が1枚。10円玉が4枚。5円玉が2枚。1円玉が8枚。合計残金――4,708円。

 今月のバイト代も大雑把に計算して、余裕があると判断する。

 

「……久しぶりに、本でも買おうかな」

 

 財布を懐に戻して、デパートの中に入る。すると、垂れ幕に引かれて、色々な人が物色したり、眺めたりと行きかっていた。

 

「古き風、新しき風、変わりては、時代の流れ、世の定めとな」

 

 などと、川柳を口にした。

 しかし、その言葉は、デパートの中を行きかう人たちの騒音に、誰の耳に届く事無く消えていった。例え、聞こえたとしても一時の言葉ゆえ、漠然と流される……何気に口ずさんだ川柳のように。

 

 

 

 

 

 打って変わり、水多町・東側上空。なのはのチームは、ロストロギアを重点において、捜索魔法をかけていた。

 探索に長けている訳ではないが、魔力の多さによる広範囲探索が出来る。その利点を生かした探索を行っている最中である。なお、現在の所、目的の反応は無い。

 

(こちらはなのは、シャマルさん聞こえますか?)

 

 なのはは、辺りをも回しながら、シャマルとの念話を続けた。通信を使うべきかも知れないが、通信モニターの光が、下から見えるとは限らない。

 理由は、地面から空を見上げて、不自然な光が漂っている様に見えるからである。別の理由として、結界を張るという事は、ここに時空管理局がいますよと、看板を掲げるようなもの。目的の存在は、ラギュナスと同じ。よって、エンカウントしない限り、結界を展開する事は無い。

 

(ええ、聞こえますよ、なのはちゃん。定期念話ですね……どうぞ)

 

 シャマルに念話を繋ぐ、なのは。シャマルは、中継の管制役も担っているので、会話はその場で記録され、アースラに送られる仕組みになっている。

 

(ターゲットらしき人物およびロストロギアの反応はありません。ユーノくん、ヴィータちゃん、そっちの様子は?)

 

 シャマルに繋いだまま、ユーノとヴィータに念話を繋ぐ。この念話を繋いだ相手の記録をし、送られている。まぁ、無駄話すれば、アースラの上官2人に筒抜けと言う訳である。が、シャマルに繋がない限り、記録されない抜け穴がある。

 

(こちらユーノ。まだ見つからなかったよ、なのは)

(こちらヴィータ。こっちも同じだよ)

 

 順に報告する2人。ユーノは割と穏やかだったが、ヴィータは少し焦り気味の口調だった。ラギュナスもいる可能性があるので、接触は控える為にかつ細かい地形把握を兼ねた探索である。アースラでも可能だが、建物の外装までしか把握できない。内部となると、やはり直接調べないと無理である。

 ただ、魔法の無い世界と言っても、中が透けて見える魔法を妨害するように出来ていない。だが、現在のミッドチルダ――延いては、奇跡の様な魔法など、科学によって確立された魔法などには、存在しない魔法なので意味は無いが。その代わり、X線などに似たモノで、建物をスキャンする事は可能である。あと、熱源調査も。

 世は、透視は不可であるが、スキャンは可能なだけの話である。

 

(わかったわ、引き続き捜索とお願いします)

(はい、わかりました……、ユーノくん、ヴィータちゃん、私は東の方を見てくるから)

 

 と、東の町外れの方に、顔を向けるなのは。念話なので、本人以外は判らないが。

 

(うん、僕は町に下りて探してみる)

 

 と、言いつつ降下していた、ユーノ。

 

(アタシは、なるべく二人の中間地点上空で索敵魔法を行ってるから)

 

 ユーノとなのはの距離を測り始めるヴィータ。それを素早くキャッチし、シャマルにデータを送る。一応、シャマル側でも特定していると思うが、確認の意を込めて送ったのである。

 理由はある――今から4年前のミッドチルダ暦67年。なのはが、謎の機動兵器に落とされた事があった。現在も、その機動兵器の所在は不明。その同系、または発展期と思しき機動兵器は、その事件以来、存在を確認できていない。

 なお、機動兵器の形状は、現在のミッドチルダの技術を上回ったモノで、2足歩行する事が出来る獣人、というべきか。人の形状ながら、多数のアイカメラが搭載され、手は獣のように鋭く尖った指。背中に搭載された6枚のプレートらしきモノを使って、飛行する事が可能な機体。ただ、魔力を動力源に使用しておらず、完全に電力関係で動いていた。そのエネルギー源の電力も不明。

 結果、姿形に、謎のエネルギー。そして、魔力を使用していない事と、現在の技術を遥かに上回っている事のみである。謎のエネルギーの該当世界も、管理内外共に無かった。現在も、エネルギーのみ捜索中で、過去に滅んだ次元世界を確認中。滅んだ世界ならば、調べない限り判らない。しかし、滅んだ世界を調査するなど、過去にタイムスリップでもしない限り、不可能である。何せ、滅んだという事は、既に存在しないのだから。

 だが、当時の記録さえあれば、話は別である。記録上であれ、何か手がかりが掴めるかも知れないのだから。それを可能にするのが、無限書庫。文字通り、次元世界の全ての記録が集まる場所。

 ただ、文字通り無限に近い量の情報なので、殆ど整理されていない。よって、探すだけでも時間が非常に掛かるのである。現在は、ユーノ・スクライアを中心に、管理局局員がチームを組んで、整理を始めている。だが、事件は常に発生し、資料を求める際、チームに依頼する。よって、資料整理は難航し、事件の資料捜索にチームの半分を持ってかれる始末。ユーノ本人も、クロノからの依頼で、事件資料を捜索する事もある。

 どんなに忙しく、本来の資料整理を行いたくても、結局、何処も人材不足の一言で片付けられてしまう。未だに、ストライキが行いのは、ユーノの人望があってこそと言える。

 

(うん、わかった。二人とも、気をつけてね)

 

 なのはのフィンフライヤーは一段と輝きを増し、先ほどよりも速いスピードで東側の街外れに飛んで行く。

 

(気をつけて、なのは)

(高町もな)

 

 ユーノとヴィータが、それぞれの言葉で返す。そして、念話を終え、それぞれの行動に移った。

 世界は、時間は、いつも通り川の如く流れ、メビウスの輪の様に回り続ける。

 

 

 

 

 

 一方、はやてのチームは、水多町・中央駅前で桐嶋時覇を探すことに重点を置いていた。もっとも人が集まりやすく、人の行き来が激しい場所である。裏を返せば、ここを通る可能性があるという事。さらに、情報を集めるにも持って来いの場所である。

 が、聞き込みのみが難航していた。理由は、知らないならともかく、変な目で見ているところである。一応、管理内世界であれば、管理局権限を見せれば問題は無い。だが、ここは管理外世界。時空管理局という、訳も分からない組織というか、作り話程度しかならない。下手すれば、この世界の警察に突き出される可能性がる。よって、早々聞き込みを取り止め、探索魔法による自力の発見を選んだのである。なお、この事は、既にアースラに話が通っているので問題はない。むしろ、少し同情された。

 現在、はやては探索を終え、一足先にベンチでダレていた。やる事をやっているので、文句は言われない。むしろ、回復には、ちょうど良いかもしれない。主に精神面の。

 

「あぁ~……ん? シグナム、見つかった?」

 

 先ほどまで唸っていたが、探索魔法で辺りを捜索しながら周って、戻ってきたシグナムに気がつき、迎えたはやて。シグナムも、はやてに気がつき、ベンチへ向かう。

 

「いえ、残念ながら」

 

 ベンチの前に立ち止まり、首を横に振りながら答えるシグナム。

 

「そっか……リイン、そっちはどうなったんや?」

 

 いつの間にか、シグナムの横にいた、リインフォースⅡ。普段の妖精の様に小さな姿ではなく、その辺の10児くらいの子どもと変わらない大きさでいる。まぁ、普段の姿でいたら、大騒ぎであるのは、目に見えている。

 妖精は、ファンタジー。つまり、幻想の存在となっている。実際、ファンタジー用語のある程度は、化学現象から来ているらしい。ただ、昔妹の為に、姉が絵に描いた妖精と戯れる写真を撮って、世間を騒がせた出来事がある。理由は、妹の為。妹はやんちゃな性格で、よく森に入っては服を汚して、母に怒られていたそうである。その際、妹をかばう為に、妖精と遊んでいたからと嘘をついたのである。そして、証拠写真を持って行き、母を納得させた――と言う、実話がある。ただ、その姉が老いた頃に、嘘だと真実を告白。だが、ある1枚の写真だけ本物だと、その姉が主張した。

 結果的に、その1枚以外は嘘だと判明したものの、その最後の1枚の結論が、どうなったのか定かではない。だが、本当に実在しているのならば、大発見とも言える。が、一般常識的には、動く実物を見ない限り、誰にも認められない。

 そう考えると、いつものリインフォースⅡの姿は、格好の見世物となる。さらに、解析されれば生き物でない事もばれる。何せ、リインフォースⅡは、ユニゾンデバイスなのだから。よって、世間にさらに疑問を生み出すのは必然。

 なので、知識はともかく、精神年齢的に問題の無い姿――10児くらいの子どもの姿が、適切といえる。

 そんな管理内外世界の事情は、一旦置いておき――駅前周辺を限定に、密度の高い探索魔法を発動しているリインフォースⅡ。とは言っても、写真データしかないので、上手くサーチ出来るかに疑問が残る。

 

「いえ……こう人が多いと……」

 

 少し落ち込むリインフォースⅡ。仕方ないといえば、仕方が無い結果である。

 サーチ方法は、魔力を持つ者、となっている。だが、魔力が無いものから、微量に持っている者。さらには、なのはやはやての様に、強力な魔力を持っている場合がある。が、強力な魔力を持つ者は、特に管理外世界では珍しいのでる。

 なお、この第97管理外世界では、基本的に魔力反応は、皆無に等しい。だが、無い――つまり、魔力値0と言う訳ではない。簡単に言えば、ミッドチルダにいる虫と変わらない。ただし、例外が存在するが、それは置いておく。

 結果、時覇の魔力値が一般人と変わらない場合、顔と身なりで探さなければならない。

 

(お前のせいではない)

 

 リインフォースⅡの手に握られているリードに繋がれているザフィーラが、念話で励ましの言葉を掛ける。

 ちなみに、ザフィーラは子犬モードなので、念話のみの会話しかできない。子どもが、子犬とお話しする場面は、可愛らしい場面である。だが、子犬が実際に、人間に通じる喋っている場合は、異様な場面である。ってか、政府権限で、どこかに連れて行かれるのが目に見える。

 

「はい――!? マイスターはやて、微弱ながら反応がありました!」

 

 はやての上着を引っ張りながら、慌てる様に伝えるリインフォースⅡ。

 

「ほんまか!?」

 

 その言葉に、シグナムとはやての足元にいたザフィーラが、リインフォースⅡに視線を向ける。

 

「って、リイン、服が伸びてまうやないか」

「あ、ごめんなさいです、マイスターはやて」

 

 引っ張り過ぎている事を指摘され、すぐ手を離すリインフォースⅡ。

 確かに、服は人間の様に回復する能力を持ち合わせていない。人間でも、回復しきらない部分は存在する。だが、服の場合は、モロに出てくる。部分的には、袖や首元辺りが、1番判りやすいだろう。

 

「リイン、場所は?」

 

 はやての変わりに、シグナムが尋ねる。

 

「はい、ロストロギアの反応があります。場所は……あのデパートの3階辺りからです」

 

 その反応があったデパートを指差した。

 そのデパートは、『新規改装のため、在庫処分セール開催中!』という垂れ幕が、風になびかれつつ、壁に掛かっていた。

 

「あそこか……主、どうしますか?」

 

 シグナムの問いに、考えるはやて。

 そして考えがまとまったのか、顔を上げ、シグナムを見る。

 

「シグナムは、私と反応を追う。で、ザフィーラがシャルマに連絡でいい?」

「わかりました」

(仰せのままに)

 

 はやての言葉を、それぞれの返事で返すシグナムとザフィーラ。

 

「ではマイスターはやて、案内します」

 

 それを聞いてから、リインフォースⅡは、はやてとジグナムを案内し、デパートの中に消えていった。

 それを見送ったザフィーラは、すぐさま裏路に入る。少し奥へ進み、周囲を確認してから物影に隠れて、可愛らしい小型犬から、大型犬に姿を変える。体を軽く震わせ、もう一度周囲を確認、警戒しながら上空へ飛んだ。

 

(シャルマ、聞こえるか?)

 

 ザフィーラは、早速シャルマに念話を飛ばす。

 

 

 

 

 

(シャルマ、聞こえるか?)

 

 ザフィーラからの念話受けるシャマル。

 

「どうしたの、ザフィーラ? 定期連絡には、少し早いみたいね」

 

 片手には、水分補給として先ほど配給された、ペットポトルのスポーツドリンク『アクエリアス』を右手に持っている。

 軽く、口にアクエリアスを含もうとした時に、ザフィーラが念話する。

 

(ロストロギアの反応を確認した。今、主とシグナムが後を追っている)

(はやてちゃんとシグナム二人だけで?)

 

 と、ザフィーラと念話中にアクエリアスを一口含み、ペットポトルに蓋とする。

 

(リインフォースもいるのだが)

 

 八神家の末っ子の名前が抜けていたので、付け足す様に言うザフィーラ。本人が聞いたら、怒り出しそうな内容である。が、管理局内で『うっかりシャルマ』というあだ名がある。いや、あだ名というより2つ名か、呼び名の方が正しいのかもしれない。

 

「どうしたんだ?」

 

 一旦、情報整理の為に戻っていたクロノが、シャルマに直接声を掛けてきた。そして、シャルマは、問いに答える前に念話を繋ぐ。ちなみに、同チームのルーファンとライガは、調査を継続している。

 

(ロストロギアの反応を確認した際、主とシグナムが後を追っているところだ)

「なんだって!? 場所は!」

 

 念話なのだが、思わず声を出してしまったクロノ。いきなりの大声に、シャルマ、リバン、カルナの3人は、少しビクついた。それと、カルナは、持っていた『ファンタ・オレンジ味』という炭酸ジュースを、地面に落としてしまう。しかも、まだ一口しか飲んでおらず地面に落ちた際、石にぶつかってリバウンドしてしまったのである。炭酸故に、開けづらくなったのは、言うまでも無い。

 

(閉店の垂れ幕が掛かった、中央駅前のデパートの3階だ)

「……よし、リバン執務官、カルナ教導官の2名を向わせる」

 

 右のこめかみ部分に、右手を当てて、言葉を放つクロノ。本来ならば、クロノのどうチームのルーファンとランガを向かわせるべきだが、探索能力ならば今言った2人の方が上であるから。一応、ルーファンとランガとは、後で合流予定である。

 

(頼む)

 

 そこで、ザフィーラとの念話は途絶え、リバンとカルナの方を向くクロノ。

 

「聞いての通りだ。出られるか、二人とも?」

 

 その言葉に、無言で頷く2人。

 

「シャマル特別捜査官も、あとから向かわせる」

「了解」

 

 杖タイプのデバイス≪ストレージ・ロッド005≫を、バトンの様にクルクル回しながら答えるカルナ。文字通り、ストレージデバイスである。

 時空管理局が、訓練生や一般の武装局員が支給するデバイスの試作性能強化版。

 一時期であるが、訓練生や一般の武装局員の中には、優れた能力の持ち主がいる時ある。それによって、デバイスが使い手についてこられない状態を解消する為に、発案された試作計画。だが、訓練や一般の武装局員が使う事を前提に作られたデバイス。強化するにも、一から使い手のスタイルにあったデバイスを作った方が良い事から、白紙となった。

 その産物の1つのデバイスで、全部で6本存在した。現在は、資料用に001・002の2本と、カルナが使っている奴の、全部で3本しかない。あとは、解体や使い手と共に亡くなっている。

 

「はぁ……カルナのあ――オホン。カルナ教導官、遊ぶなら先行ってますよ?」

 

 と、浮遊魔法を展開して、空中で浮遊するリンバ。その右手には、父親の形見である鈍い黄金色の杖≪キングダム・ロット≫が、握られている。こちらも、ストレージデバイスであるが、本来はインテリジェントデバイスだった。デバイス名通り、王の杖の如く、鈍い黄金色の杖。コアは、宝石の様に、杖の先端の装飾品みたいに付いている。

 そして、何故インテリジェントからストレージに変更したのか、理由はある。だが、愛称が悪かったという理由からではない。

 父親の形見で、子どもの時だったリバンの子守の為に置いていたので、父親と共にこの世を去らずに済む。だが、父親の死を聞いたインテリジョンの人格プログラムが崩壊、蛻(もぬけ)の殻になってしまう。その際、リバンの要望で、インテリジェントの部分を再構築、ストレージにし直した。そして、現状に至る。

 

「ああ、ごめんごめん。それでは」

 

 2人は、空高く上がり、薄い魔力の軌跡を残しながら、中央駅前に飛んでいった。

 それを見送るクロノとシャマル。

 

「シャマル、今までの状況をアースラに報告を」

「はい、わかりました」

 

 その指示に、空間モニターのキーパネルを展開・操作して、アースラに通信を繋ぐシャマル。

 そして、クロノはユーノに新たに念話を繋げる。

 

「ユーノ聞こえるか、確保対象である桐嶋時覇を見つけたらしい。至急、はやてたちと合流してくれと、なのはに伝えといてくれ」

(わかったけど……今、肝心のなのはとの連絡ができないんだよ)

 

 そうユーノから、少し焦った感じで返ってきた。

 

「なのはとか? ならヴィータとは?」

(それも駄目なんだ。けど、一緒にいるから……とにかく、なのはとヴィータを探したいいんだけど)

 

 ユーノの言葉に、左手を顎に当て、少し考えるクロノ。本来ならば、すぐに捜索命令を出したい所だが、捕獲対象である桐嶋時覇を逃がす訳には行かない。

 

「……わかった、判断はそっちに任せる」

 

 結局、曖昧な答えしか出せなかった。だが、もしラギュナスの妨害が発生したとしても、なのはとヴィータの2人が、早々落とされる可能性は低いと判断したからである。そこで、下手に増援を送り、返り討ちにはっては、それこそ人材の無駄となる。曖昧とはいえ、慎重に判断しなければならない。1つの判断が、後々問題となるのだから。だが、最適な判断を弾き出せる存在は、運や感の良い人間、未来が判る人間か、もしくは神くらいの様なモノ。ただ、神ですら、判断を間違える場合があるので、本当は存在しないのかもしれない。

 

(了解。何かわかったら、連絡する)

 

 そこで、ユーノとの念話が終わる。

 

「クロノ提督、報告終わりました」

 

 シャマルが、タイミングを計って、クロノの後ろから声を掛けてきた。

 

「ああ、ご苦労……すまないが、一人で向かってくれないか?」

「え、わかりましたけど、何か問題でも?」

 

 クロノの言葉に、少し困惑するシャマル。

 

「どうやら、なのはと連絡がつかないらしくてな。これからユーノたちと合流する」

「なら、私も一緒に――」

 

 手を出しで、言葉を止めさせる。

 

「駄目だ、今は任務を最優先にするべきだ」

 

 少し落ち込むシャマル。なのはの心配もあるが、家族であるヴィータの心配するのは当たり前である。それを見越して、そのまま言葉を続ける。

 

「ユーノがいるんだ、すぐに見つかるさ。あいつの探索魔法には、いつも当てにしているからな」

 

 軽く笑って見せるクロノ。

 

「第一、不本意だが、ユーノの補佐する形で行くだけだから、1人で足りる用事さ。ただ、危険になったら来てもらうが」

 

 その言葉に、いつも口論している2人だが、それなりに信頼はしているのだなと、感じるシャマル。クロノの言葉通り、危険と判断すれば、すぐに連絡が飛んでくる。まぁ、妨害されなければという前提条件が発生するが。

 

[大丈夫だよ、シャルマ]

 

 そこで、不意に空間モニターが、2人の前に展開される。

 

『エイミィ!?』

 

 いきなりの登場に、驚く2人だったが、それを気にすることなく、エイミィは説明を始めた。

 

[クロノくんには、通信回線を繋いでもらった状態で、行く事が決まったから]

「通信を繋いだ状態……リンディ提督とレティ提督の案か?」

[そうだよ]

 

 クロノの問いに、あっさり答えるエイミィ。クロノも、提督権限を持っているが、同じ権限でも質は低いし、第一2対1である。クロノの反論意見は、どう足掻こうが押し切られる。そう思い当たった瞬間、ため息を漏らす。いい加減、慣れたいという意味も含まれているのかもしれない。

 

「了解した。これより、第2チームと合流する」

「同じく、捕獲対象である桐嶋時覇の探索の為、第1チームと合流します」

 

 クロノの言葉に、シャマルも続く。

 

[了解。2人とも気をつけて――クロノくんは、特に、ね]

 

 そのエイミィの言葉に、顔を渋くするクロノと、クスリと笑うシャマルだった。

 

 

 

 

 

[本日は、当デパートをご利用いただき、まことにありがとうございます。今日の閉店時間は、8時となって――]

 

 頭上からアナウンスが流れるが、時覇は特に気にする事無く、棚に置いてある本を眺めていた。今いる本のコーナーは、漫画が置いてある場所。アダルト本は、ここの本屋は取り扱っていない。ただ、近いモノは置いてあるが。

 

「う~ん……ほとんどいい本が、残ってないな~」

 

 頭をかきながらぼやく。

 本屋の棚という棚、コーナー関係無く一通り見たが、ほとんどいいのは残っていなかった。やはり、本屋では珍しい割引特価が効いているのだろう。既に、本屋の半分は無くなっているのが、良い証拠である。

 

「やはり最終日2日前は、お目当てはほとんど無い、か……しゃあない、諦めるか」

 

 渋々本屋を出てきた瞬間、時覇は違和感を覚えた。

 

「…………」

 

 そして、辺りを見回すと、ある一点に集中した。こちらをチラチラと柱の影から、見ている人がいたが、

 

「……自信過剰か」

 

 そう言って苦笑しながら、エスカレーターを降りていった。だが、近くのベンチに座っていた3人は、違っていた。

 エスカレーターから、完全に時覇の姿が見えなくなってから、緊張を解いた。

 

「はぁ……なぁ、シグナム、バレたかなぁ?」

 

 未だにハラハラしているはやて。

 

「いえ、他の方を向いていたようです」

 

 さすがのシグナムも、少しばかり焦ったのか、頬の辺りに一滴の汗が垂れていた。

 

「大丈夫です、マイスターはやて。時覇が見ていた場所は、私たちの後ろにある柱辺りですから」

 

 はやてを宥めながら、時覇の視点場所が違うと報告するリインフォースⅡ。

 なお、ベンチに座っている順番は、座っている側から見て右から、シグナム、リインフォースⅡ、はやての順である。

 

「後ろの柱?」

 

 シグナムは、リインフォースⅡの言葉に従い、振り返ろうとするが途中で止め、はやてに顔を向けた状態に留める。そして、急かす様に話題を振る。

 

「ともかく、桐嶋時覇を追わないと」

「そうやな、シグナム。リイン」

 

 シグナムの言葉に、事を起こす事を決め、リインフォースⅡに声を掛ける。

 デパートには、子供には誘惑が多いので、実態を解いてデバイスの中に戻う事を考えた。が、下手に実体化を解くわけにはいかないので、姉妹の家族として行動する事に。

 たがはやては、おふざけで自分は母親。シグナムは父親。リインフォースⅡは娘役。という設定を持ち出したが、仕事なの軽く流す事に。コレが仕事でなければ、はやては主権限でも使って行っていたかもしれない。などと、内心冷や汗を掻いたシグナムだったりするが、はやてが「今度の休みにでもやろうかな」という一言に、戦慄が走ったのは秘密である。

 

「はい、時覇さんの位置はトレース出来ていますが、ただ……」

「ただ、なんや?」

 

 言葉を濁すリインフォースⅡだったが、無理に聞こうとせず、優しく聞くはやて。それが聞いたのか、次の言葉を口にした。

 

「はい、時覇さんから少し離れた距離で、あとを追う人がいるんです」

 

 その言葉に、はやては焦った。

 

「まさか――ラギュナス!?」

 

 その焦りが、つい大声を上げてしまった為、視線が集中する。それに対して、シグナムは、はやてに気づかれない様に、小さくため息は吐く。

 

「あ……あ~、行こうか、シグナム。なぁ、リイン」

「はい、主はやて」

「は、はいです!」

 

 3人――はやてとリインフォースⅡは、顔を赤くしながら、その場を離れた。そのままエスカレーターからではなく、横の階段から時覇の後を追った。というより、この場を早く離れたい一身だったと思う。何故、エスカレーターを使わなかったのは、人が絶え間なく使っていて、駆け下りる余裕するらないからである。

 同時に、柱の影に隠れていた者も後を追うように、階段を駆け下りて行った。

 

 

 

 

 

 最後に、水多町・東側外れの上空。なのはは、ラギュナスのメンバーと名乗る男と、空中で向き合っていた。

 その男の名は、ロングイ・バウンティト。男が、自ら名乗ったのである。そして、互いに向き合って、彼此二分は経過していた。

 そんな沈黙を破ったのが、不意に口を開いたロングイだった。

 

「管理局に伝える。今すぐ桐嶋時覇から手を引け……お前たちには無価値な男である」

 

 淡々となのはに言い放ちおえると、いつでも攻撃態勢に入れるようにしてあるロングイ。しかし、それで引き下がるなのはではなかった。

 

「悪いけど……それは無理かな」

 

 そう言いつつ、レイジングハートを構えるなのは。いる場所は、上空故、バリアジャケットと髪の毛が、風に靡く。それは、ロングイも同じである。

 

「無理、か……ならば悪いが、当分病院で休暇とシャレ込んでくれ」

 

 そう言いながら、ロングイの魔力が一瞬で高まった瞬間に、なのはは全身に怖気が走った。

 ロングイの言葉と、魔力増大を感じ取ったレイジングハートが、なのはの代わりに障壁を体全体に展開する。あの4年前の再現をさせない為に。

 が、次の瞬間――14発のディバインシューターみたいな攻撃が、四方八方から飛んできた。

 

「くうぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 

 絶え間なく魔力弾が、なのはの障壁を叩きまくる。直接ダメージが無くても、耐えるとは維持する。つまり、叩かれて脆くなった部分を元に戻しつつ、脆くなっていない部分を維持し続ける。その作業で、魔力を消費する。

 基本に戻るが、魔力を使いには、精神を集中しなければならない。つまり、魔力と精神は、密接な関係なのかもしれない。つまり、精神にも負担が掛かってくる事を意味する。

 結果、魔力の消費が激しく、精神疲労も大分溜まってしまった。だが、なんとか不意打ちの攻撃を防いだ。防いだのが、1発1発の攻撃力が並ではなかった。おかげで、攻撃が終わったと同時に、障壁は破壊された。

 

<マスター、無事ですか!?>

 

「な、なんとか……あ、ありがとう、レイジングハート」

 

 デバイスらしからぬ慌て振りのレイジングハートに、少々息を切らしながら顔を向けて、礼を言うなのは。

 

<――マスター!>

 

 だが、すぐにレイジングハートは叫んだ。それに反応し、前を向くと――目の前にロングイがいた。それを認知する事に、戸惑ってしまったのが、仇となった。

 

「――なぁ!?」

 

 状況把握が今一の所であったが、反射的に後ろに下がる。

 

「邪魔して悪いが、ここでチェックメイトにさせてもらう――」

 

 言いながら少し離れてから腰を落とし、体を横に捻り、左手をなのはの前に突き出す。それと同時に、デバイスが杖から槍に変形した。

 

<拘束一撃>

「――バインド・ストライク・ランサー!」

 

 なのはの手を左右斜めの上に上げられ、両足も手と対照になる様に左右斜め下にバインドが掛かる。しかも、一瞬で。

 

「え――がぁ!?」

 

 腹部目掛け、離れた距離を一瞬でゼロとなるほどの勢いで、矛先が突き刺さった。その衝撃で、なのはの意識は、闇に飲み込まれていった。

 それは、一瞬の出来事だった。

 いつの間にか、至近距離にいたロングイが、離れたなのはにバインド付きゼロ距離攻撃の直撃を与える。状況は、いつの間にか目の前にいたロングイが、拘束魔法でなのはを縛り、持っていた杖が槍に変形。その槍の先端に、魔力が集約させて矛を生成し、ゼロ距離の直接攻撃を鳩尾に受け、なのはは訳も分からずに気絶してしまったのだ。

 しかも、鳩尾に突き刺した瞬間、魔力集約させて生成した矛を、爆発させたのである。いくらバリアジャケットが頑丈でも、内部からは意味をなさない。いや、無力といって言い。例え防ぐ事が出来なくても、耐えるには身体強化魔法しか方法が無い。

 そのまま崩れ落ちるなのはを受け止めるロングイ。それと、なのはの手にも垂れていたレイジングハートは、機能停止ししたまま落下していった。

 理由は、なのはを使ってきた衝撃が伝達し、システムエラーを引き起こして、機能停止を引き起こしてしまったのである。だが、ロングイは回収する事無く、むしろ気にする素振りも見せなかった。

 

「管理局のオーバーSクラスの魔道士……アレに使え――」

「うおぉぉぉぉぉぉおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 上空から叫びと、強力な魔力の波動があった。だが、ロングイは顔を向ける事無く、デバイスに指示を出す。

 

「チェンジング・インフィニティ」

<了解――ディフェンダー・リフレクト>

 

 そのまま叫びと、強力な魔力の主であるヴィータが、グラーフアイゼン振りかざす。

 

「吼えろ、グラーフアイゼン!!」

<了解、ラケーテンフォルム!>

 

 ハンマーヘッドの片方が噴射口に変形すし、その反対側がスパイクに変形。噴射口から火が入り、ロングイ目掛けて回転しながら突っ込んでいったが――スパイクが障壁に当たった途端、一瞬だけ障壁が一段と輝きを増した。

 それにより、ヴィータは目が眩み、同時に吹き飛ばされるように弾かれた。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――……!?」

 

 弾かれた衝撃が強かったのか、もの凄い勢いで町外れの森に落ちていくヴィータ。ついでに、叫び声を残していきながら。

 

「……ただ闇雲に突っ込めばいいという訳でもないのに」

 

 ヴィータの落ちて行った場所から上がった煙を、見つめながらなのはを抱え、中央駅方面に飛んでいった。

 

「雑魚は……無視していいな」

 

 そう呟きながら、なのはを抱えて飛び去った。一呼吸遅れて、ヴィータが落ちた森の方では、慌てて駆けつけたユーノが、落下したヴィータを発見する。

 

「ヴィータ! しっかりしてヴィータ!!」

 

 回復魔法を展開しながら、必死に呼びかけるユーノ。たが、ヴィータは気絶していた。

 

「こちらユーノ! 緊急事態発生!」

 

 緊急で、アースラに緊急通信を飛ばすユーノ。念話だと、盗聴される恐れより、伝達のロスがある。よって、緊急性が高い通信を入れれば、自動的にアースラに繋がる。

 

[こちらアースラ、どうしたのユーノくん? そんにあわ――]

「エイミィさん、大変なんだ! なのはとヴィータが、ラギュナスのメンバーと名乗る男、ロングイって奴にやられたんだ!」

[なんですって!? 状況は!]

 

 エイミィは、通信越しでも判るほどの素早さで、キーパネルを叩いていく。

 

「ヴィータの方は、気絶しているけど……なのはが連れていかれたんだ」

[なのはさんが!?]

 

 別の通信回線が開き、リンディが割り込んできた。表情は、少し切羽詰った状態である。

 

「はい。ロングイと名乗った男は、水多町へ飛んでいきました。目的は不明」

[わかったわ、すぐ各チームに連絡を入れるわ。ユーノくんは、一旦ヴィータ捜査官を連れてアースラに戻ってきて]

「わかりました」

 

 そこで、通信回線は閉じられる。今頃、アースラのブリッジ内は、蜂の巣を突っ突いた様な状態だろう。

 

「……なのは、無事でいてくれ」

 

 そう呟きながら、ヴィータと共に転送魔法で、アースラまで跳んだユーノ。

 ただそこには、何かが墜落した様な衝撃後と、少し離れた場所に落ちたレイジングハートだけが残された。

 

 

 

 

 

 ロングイは、なのはを抱えたまま、水多町上空を駆け抜ける。

 その際、下に広がる街を見ながら、一言。

 一言だけ呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『待っていろ、時覇』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ん? 」

 

 ふと、歩みを止めて、東の空を見上げた時覇。そこに、米粒ほどだが白と灰色の光が見えたような気がした。

 

「……気の、せいか?」

 

 何か釈然としなかったのか、首を傾げながら再び歩き出す。そして、そのまま公園の方に足がいく時覇。

 気まぐれなのか、必然なのか……何かに導かれるように。

 ただ、手の甲の緑色の水晶は輝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日常と非日常とは、太陽と月の様に、表裏一体の関係みたいだと考える。考える、いや、考えられるからこそ、可能性が生まれる。

 可能性は、ありえる出来事、ありえない出来事の狭間に出来た言葉。

 なら、その狭間には、何があるのか。それは、過程という言葉なら。過程は、そこまでの成り立ちを示す言葉。

 つまり、可能性を示す事が出来るのは、過程が無ければ存在しない。

 その過程が、どの様な結果を生み出すのかは……誰にも判らない。それが判るのは、未来予知がある人間か、もしくは神かもしれない。

 だが、神ですら、間違う事もある。だから、一つ言える事がある。それは、『未知』。即ち、誰にも判らない。と言う事である。

 交差する運命。

 交差しなかった出逢い。

 交差できなかった出来事。

 交差しえなかった想い。

 どこで、何が交差するのか。

 どこで、何が交差しないのか。

 過程という名の行動を起こす事で、何かが交差する。

 それが、『結果』という言葉で、答えが示されるその時まで。

 人々は、歯車の様に動き続ける。何かと、噛み合い続ける為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話

動き出す歯車

END

 

 

 

≪次回予告≫

ロングイと名乗る男に敗退し、捕まるなのは。

その頃、時覇を発見し、尾行するはやてたち。

だが、時覇の尾行を中断し、なのはの救出に向かう。

そして戦闘が始まり、フェイトの様子が……

 

 

 

 

次回

何かに出逢う者たちの物語・外伝

 

魔法少女リリカルなのは

~二つの運命と螺旋に出逢う者~

 

第三話

変局する状況

 

 

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 書き直し――と、言うより、追加修正版です。
 お陰で、名前だけ、特に決まった設定が無かった、オリジナル管理局員。こいつらの設定を起こすのに時間が掛かった、掛かった。何せ、一度自分で読み直さないと、設定が判らないから。(汗
 何せ、その場で追加して言った結果ですので。(汗
 挙句の果てに、そのせいでチームの説明を書くのに、時間が掛かりすぎた。むしろ、そこが鬼門だった。でも、キチンとした資料を作成できたので、5分5分と言ったところ。
 ただ……こいつが公開された現時点では、三話以降の話に食い違いが発生します。ので、その辺がご了承ください。
 まぁ、追加修正で、これだけ増やせたのは、凄いものだなよ。満足してないよ。一話、1枚400文字の40枚(予告&後書き抜きで)を目指しているからね。ぶっちゃけ、雑誌の一話分の量です。(たしか)
 少し、ページ数が足りなかったが、現時点(2009/6/19)ではこの位が限界らしい。
 また改正すると思うから、今回はこの辺で。
 最後に、妥協じゃないとだけ、言わせてください。
















制作開始:2006/2/12~2006/2/20
改正日:2009/4/9~2009/6/20

打ち込み日:2009/6/21
公開日:2009/6/21

修正日:2007/9/15
変更日:2008/10/24


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第三話:変局する状況……

必然か、偶然か
誰にも判る訳が無い
それが判るのは……
終わりの鐘が告げ、ある程度の月日が経った時


 

 

 いつも道理の道、当たり前となった風景。

 その場所を歩く青年がいた。

 

「……誰かに、着けられてるのか?」

 

 後ろを振り向かずに、ただ呟く。

 後方の反対車線の歩道に、はやて・シグナム・リインフォース。後ろには、謎の人物が時覇の後を着けていたが――

 

「ぃっ……」

 

 後方から、ゴツンという鈍い音と、小さな声が聞こえてきた。

 どうやら躓いたか何だかで、電柱に頭をぶつけていたらしい。声からして、女の子だと分かった。

 

「ストーカーなのか、ドジッ娘なのか……、どっちかにしてくれ」

 

 すでに着けられていると確信したが、あまりにも間抜けなため、徹底的に黙認することにした。が、気になる。

 何かの揉め事に巻き込まれるのは、基本的に御免被りたいのがモットー。

 

「この際、裏道に入って巻くか……、いや、それだと相手が危ないし、俺のせいにされかねからな……」

 

 故に、ドジッ娘ストーカーを、振り切る計算を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 時覇がいる反対側斜線の歩道に、はやて・シグナム・リインフォースⅡが様子を伺っていた。

 

「なあ、リインフォース」

 

 呆れながら、訪ねるはやて。

 

(なんでしょうか、マイスター?)

 こちらも、呆れながら問いに答える。

 

「あの人、たしかに高い魔力の持ち主だけど……、本当に、ラギュナスの人かな?」

 

 さすがのはやても疑いたくなった。

 時覇を追いかけている人物は、たしかに魔道ランクAAかAAAクラスだった。だが、行動が行動なだけに、何とも言えない衝動に立たされる。

 

「ですが、我々の目的は彼の確保です。あの人物に、魔法や他の事を見られてはマズイのでは? 高町なのはや主のこともありますゆえ」

 

 なるべく悟られないように、二人を監視するシグナム。

 

(右に同じです。あの人物がラギュナスでなかった場合は、荒事に巻き込んでしまいます。ですから、なんとか引き離さないと……)

 

 時空管理局・魔道ランクS兼戦技教官・高町なのはは、六年前の春の時は、まだ普通の小学三年生だった。

 だが、ユーノとの出逢いをキッカケに、魔道士の才能を開花させていった。

 そしてこの六年間は、大いなる活躍と武装局員の育成などに、多大なる活躍をしていた。

 また、ヴォルケンリッターの主・八神はやては、第一級ロストロギア関連事件・闇の書事件の際に、魔道士としての才に目覚めた。

 しかし、どちらもロストロギア関係で目覚めた才能であり、同時に悲劇を出逢うことになった。

 現在、なのはは今、確保対象の時覇の世界は、本来魔法というものが無いことになっている。

 つまり、管轄外の人間に魔法を見せる訳にはいかない。

 たしかに、人為不足であるが、管轄外の人間を管理局に誘うわけにはいかない。

 したがって、相手がどうあれ、今は時覇からストーカーらしき人物を引き離さなければならなかった。

 

「しゃあない……魔法を使って、上手く時覇さんから、あのストーカーを引き離すんや」

「で、主。作戦は?」

 

 シグナムは、はやてに尋ねながら、レヴァンティンを何時でも発動できるように手に握り締める。

 

「う~ん……、なんかあらへんか、リインフォースは?」

 

 何故か、リインフォースに話を振るはやて。

 

(え、ええ! そ、そんなことを言われましても……あ、いい考えがあります)

 

 少々戸惑いながらも、考えが思いついたリインフォース。

 

「なんや、どんな方法なんや?」

(ビルの裏に引きずり込んで、グルグル巻きにしてほっぽっておくってのは?)

 

 その人非道的かつ時代錯誤のやり方を、満面に笑みで言うリインフォース。

 それを聞いて、固まる二人。

 ちなみに、足も止まった。

 

(……冗談です、ごめんなさいです)

 

 引き攣った笑いを浮かべながら、謝罪するリインフォースⅡ。

 

「そ、そうか……じょ、冗談やな」

 

 顔が引き攣るはやて。

 

「リインフォース。冗談にも、もう少し考えろ」

 

 少々唖然とするシグナム。

 

(はやて、シグナム、聞こえるか!?)

 

 いきなりクロノの念話が飛んできた。

 それを聞いたはやてとジグナムは、驚いて大声を出しそうになったが、何とか押し留めた。

 

(く、クロノくん、どうしたん?)

(どうしたも、こうしたも……なのはが、ラギュナスと名乗る男に捕まったんだ)

 

 その言葉に、三人は言葉を失った。

 

(な……、なんだって……)

 

 言葉を無くすはやて。

 

(あとヴィータが、やられたんだが――)

(なんだって!? 様態は!)

 

 勢い良く怒鳴るシグナム。

 

(お、おちつけ、シグナム。大丈夫……擦り傷程度だが、軽い脳震盪を起こして気絶しているが、明日までは安静にしてなければならないがな)

(そ……そうか)

 

 安心するはやてたち。

 

(ところで、対象の時覇は?)

 

 思い出したかのように、言い出したクロノ。

 

(ああ、現在捕捉して、後を追っているが……厄介な事が発生した)

(厄介な事?)

(ああ、時覇を着けている者がいるのだ)

(着けている者?)

(そうだ。魔力も感じる……ランクはAAかAAAクラスだと考えていいが……なのはと主の事もある為、迂闊には手が出せないんだ)

(そうか……なら、尾行を中断して、なのはの救出に当たって欲しい)

(せやけど、誰か見てへんと――)

(たしかに。だが、なのはが一撃で倒した相手なんだ……数で何とか押し切りたいんだ)

 

 少し考えるはやて。

 

(わかった。大至急、この近くを捜索してみる。ええな、ジグナム?)

(はい、主)

 

 頷くシグナム。

 

(すまない。そっちに武装局員を十五名送るから、指揮は任せる)

(ほな、了解や)

 

 そこで、念話は終わった。

 三人は頷き合い、裏の路地に入って行く。

 そこで、適度な所で周辺を見回して、人がいないか確認する二人。

 そして、いない事を確認すると――

 

「このへんかな……リインフォース」

「はい、マイスターはやて」

 

 返事をしながら、シュベルトクロイツから、出てくるリインフォースⅡ。

 

「レヴァンティン!」

「ユニゾン――イン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話:変局する状況……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び時覇が歩く歩道では――

 

「…………」

「……はう……あぐ……ぎゅう~」

 

 女ストーカー? は、電柱、壁、看板、溝にはまるなどで、喰らった時のダメージの呻き声? が、度々聞こえた。

 

「しかたない……何かあっても、悪く思うな、よ!」

 

 時覇は、勢い良く裏路地に走りこんだ。

 

「 !? 」

 

 女ストーカー? も、時覇のあとを追う。

 時覇は、只管走った。

 一度も振り向かずに。

 何度も曲がり、同じところを一回、二回……とにかく我武者羅(がむしゃら)に走った。

 そして、既に使われていなかった水路に飛び込み、トンネルに入って身を隠した。

 その数秒後、足音がだんだんと近くなって、時覇の後を追いかけてきた女ストーカー?  は、足を止めた。

 

「くぅ~、逃がしちゃった……」

 

 肩と顔を落す、女ストーカー? らしき人物。

 

「すいません、逃がしました」

 

 時覇は息を殺し、相手に悟られない様に、なるべく動かないようにした。

 

(何を言ってるんだ?)

 

 様子を見たくなったが、場所がバレる可能性があるので我慢した。

 

「……はい……管理局と合流……はい……わかった。じゃあ、またあとで」

(携帯電話を使ったのか?)

「さてと……バルディシュ」

“はいはい”

(もう一人いたのか!?)

 

 だが、神経を張り巡られて、気配を読んだが、女ストーカー? 以外はいなかった。

 そして、光が放たれ――

 何かが勢い良く飛び立った音が聞こえ、どんどん遠ざかっていった。

 もう一度、気配を張り巡らせて、誰もいないことを確認してから、トンネルから出てきた。

 

「一体なんだったんだ?」

 

 時覇は、ただ呆けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 公園を中心に、半径三十キロメートルの結界が張られていた。

 ちなみに、この結界を張ったのはラギュナスである。

 そこには、三、四十の光が、二つの光を取り囲んでいた。

 その二つの光は、何度もぶつかり合い、吹き飛びあった……、いや、片方の光が一方的に吹き飛ばされていた。

 青白い光――クロノが、至近距離からのゼロ距離射撃をしようとするが――

 

「 く! 」

 

 逆に吹き飛ぶクロノ。

 そのまま回りの光――武装局員たちの方に吹き飛んで、受け止められる。

 同時に、武装局員たちから、心配の声が上がる。

 

「その程度か……クロノ・ハラオウン提督?」

 

 灰色の光――ロングイが、悠然と空中に立っていた。

 そして、ロングイの持つデバイス――チェンジング・インフィニティが、槍から大剣に変形した。

 完全に変形を確認すると、腰を落とし、射抜く様な体勢に入る。

 

「いくぞ――鉄心両断」

“ザンバー・ストライク”

 

 物凄い音を上げながら、チェンジング・インフィニティの刃に、風を纏い始める。

 

「くっ、ブレイズキャノン!」

 

 すぐ体勢を立て直し、武装局員から離れるとクロノのデバイス――S2Uの先端から、光が放たれた。

 

「いい攻撃だが……まだ弱い!」

 

 そのままロングイは、ザンバー・ストライクを放つ。

 ブレイズキャノンごと、クロノを叩き斬った。

 

「ぐあああああああああっ!」

 

 全員が驚いた。

 

「クロノ提督!」

 

 一旦離れ、待機していた武装局員数名が、再び吹き飛んできたクロノを受け止めた。

「ご無事で!?」

「あ、ああっぐ!」

 

 胸を押さえるクロノ。

 

「この程度か……ならば、あとはたかが知れるな」

 

 ロングイは、ザンバーモードを基本形態の杖に戻した。

 

「来るか? 雑魚ども」

「ならば、私が相手をしよう」

 

 後ろから、女性の声が聞こえた。

 

「たしか……ヴォルケンリッターの将、剣の騎士シグナム……だったな」

 

 ロングイは、ゆっくりと振り返った。

 

「ふん……良くしているな。……先ほどは、私の仲間を倒したそうだな」

「仲間……クロノ提督、ではなく……ああ、あの闇雲に突っ込んできた鉄槌の騎士ヴィータのことか?」

 

 記憶を探り、何とか思い出した感じであった。

 

「あの娘に伝えとけ……不意打ちの時の掛け声は、心の中で叫べと」

「……言いたい事は、それだけやな?」

 

 後ろ斜め下から、声が聞こえた。

 

「 ん? 」

 

 ロングイが、そちらを向く。

 

「詠唱終了……ヴィータに怪我させたお返しや! ――ラグナロク・ブレイカー!」

 

 はやては、いつの間にかロングイの死角で、詠唱を終了させ、こちらを見るや否や、ラグナロク・ブレイカーを容赦無く放つ。

 一筋の閃光がロングイに着弾、爆発する。

 

「あ、主はやて?」

 

 目をパチクリさせながら、驚くシグナム。

「は、はやて? それは……やりすぎじゃあ……」

 容赦無い攻撃に、唖然とするクロノ。

 他の局員たちも、その場で固まった。

 

『は、はやてちゃん……一応、なのはちゃん救出が、最優先なのですが?』

 

 エイミィは口を引き攣らせながらも、はやてに通信を入れる。

 

「あ……」

 

 怒りに我を忘れ、問答無用の砲撃をぶちかました事に固まった。

 

『……はやて捜査官』

 

 通信から、レティの声が聞こえた。

 

「は、はい!」

 

 その場で直立し、冷や汗を流しながら敬礼をする。

 

『後で話があるので、任務が終わり次第、私のところに来てください』

「りょ、了解しました」

 

 空中で背筋を伸ばし、敬礼をするはやて。

 

『マ、マイス――プロテクト・ウォール!』

 

 緊急防御プログラムを作動させたリインフォース。

 その次の瞬間――九発のディバインシューターが、真正面に飛んできた。

 しかも、その元が未だに晴れていない煙からだった。

 

「くぅぅぅぅぅぅぅ……リインフォース!?」

『大丈夫です! ロングイ、未だ健在です!』

 

 だが、煙は一向に晴れない。

 

「エイミィ!」

 

 クロノが叫んだ。

 

『ちょっと待って!』

 

 

 

 

 

『エイミィ!』

 

 モニターから、クロノの叫びが飛ぶ。

 

「ちょっと待って!」

 

 エイミィが、もの凄いスピードでキーボードを打つ。

 そして、煙のスキャンデータが映し出される。

 

「そんな!? ……ありえない、こんなこと」

 

 エイミィは絶句した。

 

「どうしたの、エイミィ!?」

 

 リンディが呼びかける。

 

「は、はい! スキャン結果、出ましたが……」

 

 エイミィは、メインモニターに解析したデータを映し出した。

 

「こ、これは!?」

 

 リンディは、悲鳴に近い声をだした。

 その解析モミターの結果には、『高町なのは』と出ていた。

 

 

 

 

 

 その頃、桐嶋時覇探索別働隊では、異様な雰囲気に支配されていた。

 そこには、はやてたちと合流するはずだった武装局員たちが、転々と傷つき、倒れている。

 さらに、ザフィーラは特に酷く傷つき、アレフに抱えられている。

 そして、その光景を蔑んで見ながら、空に浮かんでいるフェイト。

 

「何で……何でこんな事をすんだい……フェイト」

 

 その目線の先には、見慣れた防護服を着たフェイトが居た。

 

「仕事ですから」

 

 満面の笑みを浮かべるフェイト。

 

「だいじょ……う、ぶで、すか?」

 

 増援に来たシャマルは、この状況を見て固まった。

 何がなんだか判らない状況が、シャマルの視界に広がっていた。

 他の二人も唖然としていた。

 

「あ、シャマルさん。どうしたんですか?」

 

 平然と答えるフェイト。

 その言葉に、シャマルは怒りを爆発させた。

 

「どうしたんですかじゃないです! フェイトちゃん、これはどういう事説明してください!」

「ええ、簡単な事です。私が後ろからザフィーラを斬っただけですから」

 

 当然のように答える。

 シャマルは言い返そうとしたが、リバンに止まられた。

 

「落ち着いてください、シャマルさん」

 

 宥めるリバン。

 

「そうですよ、シャマルさん。いい加減にザフィーラ特別捜査官を回復させないと、ね。こっちはリンバ執務官にまかせ――」

「お前も手伝え」

 

 調子に乗って、楽な方を選んだカルナを、睨みつけながら猫摘みした。

 

「……はい」

 

 小さくなるカルナ。

 一応、リンバは、カルナの教え子である。

 

「では、お願いします」

 

 シャマルは、すぐさまアルフ元へ行った。

 

「さて……いきなりですが、拘束させてもらいますよ……フェイト執務官」

 

 睨みつけながら言うリンバ。

 

「そうね。たとえ、リンディ提督の娘であっても……容赦はしませんよ?」

 

 デバイスを構えるカルナ。

 

「悪いけど、アタシも混ぜてもらうよ」

 

 二人の後ろに、アルフが立っていた。

 

「いいの?」

 

 少し曇った表情で、問い掛けるカルナ。

 

「ああ……何でこんな事したのか、理由を知りたいからね」

 

 暗くなった顔が、少し怒りの表情に変わった。

 

「なら、決まりだな……とにかく追い込むぞ、二人とも!」

 

 叫ぶリンバ。

 

「何時でも問題ないよ」

 

 不適に笑うフェイト。

 その言葉が合図となり、三人はフェイトに飛び掛った。

 

「いくよ、バルディシュ・ネオ・アサルトバスター」

“はいよ、マスターさん”

 

 

 

 

 

 水滴が落ちて、空洞全体に響く。

 

「うう~、くせ~」

 

 時覇は鼻を摘んで、下水道を移動していた。

 外では、また誰かにつけられる可能性がある為、遊びで覚えた下水道の中を歩いていた。

 そして、マンホールの下にたどり着いた。

 壁には、『公園近くの路地』と、特殊な字で掘り込んであった。

 

「お……ここ、ここ」

 

 鼻から手を離して、壁に固定された梯子を上っていった。

 マンホールの蓋を開け、外に出る際、念の為、人もしくは警察がいないか確認してた。

 前に一度、マンホールから出てくるのを見られて、追いかけられた事があったからだ。

 その時は、下水道で巻いたが。

 

「はぁ~……やはり、下水道は臭いな」

 

 などと、当たり前のことをボヤく時覇。

 

「ん、よっ――と……、さて、公園、公園っと」

 

 時覇は手に付いた埃を払いつつ、軽い足取りで早歩きした。

 だが途中で、不自然なことに気がつく。

 家に明かりは無い。

 車も通らない。

 人の気配も無い。

 それ以前に、虫の息吹すら感じない。

 ただ感じるのは、上空から特殊な気配が多数感じ取れる事だけ。

 そして、遠くの方から、何かの音が聞こえてきた。

 

「ヤクザ同士の争いか? ……いや、音からして……鋼の鳴る音か、この音は?」

 

 微かに鋼の音はするが、ジェット機が飛んだような音も混じっていた。

 その瞬間、背筋に何かが走った。

 しかしそれは、寒気でもなく、ましてや恐怖から来るものでもない。

 待ちに待った何かがある。

 そう、本能が伝えていた。

 だが不意に、時覇のグローブの水晶が輝いた。

 その本能を否定するかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話:変局する状況……・END

 

 

 

次回予告

異常な強さを見せるロングイ。

フェイトは何故、ザフィーラを斬ったのか?

いつの間にか、結界内に居る時覇。

そして……シグナムは、爆発に――

 

次回・何かに出逢う者たちの物語・外伝 魔法少女リリカルなのは ~二つの運命と螺旋に出逢う者~

 

第四話:二つの決断

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 第三話の改正版、完成!
 で、もうすぐラギュナスサイドの第六話が半分完成したが、途中から書き直しかも。
 矛盾しているから。
 話に。
 以上です。
 相変わらずBBSやメールで批判を受け付けます。















制作開始:2006/2/20~2006/2/24
改正日:2006/11/29~2006/12/17

打ち込み日:2006/12/17
公開日:2006/12/17

修正日:2007/10/4
変更日:2008/10/24


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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第四話:二つの決断(前編)

その出会いは、偶然だったのか
それとも必然だったのか……
過去の爪あとか、未来の出逢いからなのか
運命の悪戯に翻弄された青年は、今――


 

 

 

 不意に、時覇のグローブの水晶が輝きだした。

 

「え……公園の方」

 

 すぐに走り出す時覇。

 そして、鋼の音や、ジェット機が飛んだような音も、段々大きくなって来た。

 

「この辺からだが――」

 

 言いかけた瞬間、爆発音が降り注いできた。

 

「上から!?」

 

 時覇は上を見上げた。

 そこには、空中爆発した時に起きる、煙が広がっていた。

 その煙の一部から、何かの塊が煙にまみれて、こちらに向かってもの凄いスピードで飛んできた。

 時覇と煙の距離が半分になった時、その煙が晴れてきた。

 そう、それは――

 

「人!? ってぶごばぁ!」

 

 確認できたのはいいが、逃げ遅れた為に直撃を受けてしまった。

 反射的に抱え込む。それと同時に、おぼろげな意識の中で、何かが地面に刺さる音が聞こえた。

 しかし、その勢いは殺すことは出来ず、一緒に転げ回り、数メートル付近で止まる。

 

「あ、たたたたたた~、サンクス」

 

 相棒に礼を言った。

 時覇は、常にこのグローブに守られていた。

 本来なら、死んでも可笑しくない事故からでも、中傷傷程度で済んでかつ一ヶ月のケガも二、三日ほどで治ってしまっていたのだ。

 その時は、いつもグローブをしていた時で、緑の水晶が輝いていた。

 だから、投下物を鳩尾(みぞおち)に受けても、軽く殴られた程度で済んだといえる。

 

「って、アレは……剣?」

 

 剣は剣だが、あんなに装飾が施された剣は見たことも無い。

 

「で、この投下物もとい、人は……女性!?」

 

 赤い髪の毛にポニーテールで、コスプレの様な服装、極めつけは前方に付き刺さっていう剣らしき物。コスプレの様な服装 だが、そのコスプレの様な服装は、あちらこちらに焦げ目や破かれたあとが目立った。

 

「…………」

 

 黙る時覇。

 

「おい、青年」

「え?」

 

 辺りを見回すが、誰もいない。

 

「上だ、上」

 

 時覇は、ゆっくりと上を見上げた――そこには、宙に浮かんでいる男がいた。

 しかも、ゲームに出てきそうな銃を持って。

 

「その女を渡せ」

 

 そう告げた。

 しかし、困惑する時覇。

 時覇と男は、見詰め合っていた。

 反らせば殺させる。そう、時覇に悟らせていた。

 現に、自分――時覇を中心に、半径50メートル以内は男の殺気に包まれていた。

 つまり、今下手に動けば、ゲームに出てきそうな銃で、撃ち抜かれるのは必然。

 この状況を、どう打破するか考えようとした時、男からの殺気は一段と増した。

 

「いい加減に答えろ。その女……渡すか渡さないか、どっちか言え」

 

 そして、銃口を向ける男。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この瞬間――運命の歯車が動き出した。

 そして、その歯車によって開かれる扉は、二つに一つ。

 青年の人生が――いや、時空の命運が大きく変える出来事を選択することになる。

 だが、その時の青年が選択した運命に直面するのは――まだ少し、本当に少し先の話であるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四話:二つの決断(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時は、数十分ほど遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はやての攻撃で上がった煙だったが、未だ晴れることもなく留まり続けていた。その中からディバインシューターが飛び出てきていた。

 数は五十七個くらいだが、普通のディバインシューターの攻撃力とは桁が違う為、武装局員の四分の一が落とされていた。

 そして、クロノはこれ以上長引くと危険と判断し、エイミィのスキャン結果を待たずに、攻撃開始を決意した。

 

「全員、あの煙に一斉攻げ――」

『ちょっと待ったッ!』

 

 クロノの号令は、エイミィの怒鳴り声で中断された。

 

「どうしたんだ、エイミィ!?」

『どうしたの、こうしたの、あの煙の正体が判ったの! だから、一旦あの煙から距離を置いて!』

「わかった。全員、一時退却!」

 

 その号令に、武装局員たちがディバインシューターの雨あられの中を掻い潜りながら、煙から距離を置き始めた。

 

「クロノくん!」

 

 はやてが怒鳴った。

 

「え――っく!」

 

 死角から飛んできた攻撃を何とか防ぎ、離脱に手戻っている武装局員を援護した。

 

「はやても、シグナムも早く!」

 

 ブレイズキャノンを放ちながら、クロノは二人に呼びかける。

 

「ああ、分かっ、てる!」

 

 シュランゲバイセンで、ディバインシューターを次々と叩き落していくシグマム。

 

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍――ミストルティン!」

 

 石化魔法・ミストルティンを、煙に打ち込む。

 だが、光の槍が突き刺さった瞬間、ガラスが砕けたような音を上げながら、根元から砕け散った。

 

「なんやて!?」

 

 驚きの余り、動きを止めてしまった。

 煙はその隙を見過ごさなかったように、はやてに向かってディバインバスターが飛んできた。

 

「主はやて!」

 

 シグナムが、はやての元に向かうが、どう見ても間に合わなかった。

 しかし、それでもシグナムは飛んでいった。

 

「はやて――っくぅぅぅぅぅ!」

 

 シグナムより近かったクロノだが、ディバインシューターの全方向からの攻撃を防ぐのが精一杯だった。

 そして、はやてが居た場所を打ち抜いた。

 

「はやてぇぇぇぇぇぇ!」

 

 閃光が走った。

 だが、そこには何もなかった。

 シールドを張った場合、攻撃との衝突で爆発が起きる。打ち落とされた場合も、はやてが落ちていくのだが、どちらでもなかった。

 ディバインシューターを防ぎきったクロノと、シグナムは辺りを見回した。

 

「はやてはこっちだよ」

 

 クロノの後ろから声が聞こえた。

 

「フェイト!」

「テスタロッサ!」

 

 クロノとシグナムが同時に名を呼んだ。

 

「はあ~、さすがフェイトちゃんや。ありがとうな」

 

 姫様抱っこ状態で礼を言うはやて。

 

「うん。それよりもクロノ、ここから一旦離れないと!」

「あ、ああ、シグナム!」

「わかっている!」

 

 四人は、煙から距離を取った。

 追跡してくると思ったが、煙はその場から離れることなく、その場に留まった。

 煙が見えつつも、攻撃が届かない場所まで来た。

 だが、先に離脱した武装局員たちは、何故か見当たらなかった。

 

「エイミィ、他の者たちは?」

 

 だが、通信は帰ってこなかった。

 

「エイミィ? エイミィ、応答してくれ! エイミィ!」

 

 何度も通信を試みるクロノ。

 

「駄目やクロノ、念話も通じへん」

「こちらもだ」

 

 はやてとシグマムも念話を試したが、通じなかった。

 

「これからどうするの?」

 

 フェイトがクロノに尋ねる。

 

「出来ればエイミィに、あの煙の正体を聞ければ……、それなりの対策ができるのだが」

 

 片腕を押さえる。

 

「他の武装局員たちの行方不明、通信及び念話の遮断、トドメにあの煙には下手に手出しできんよーやわ」

 

 と、はやて。

 

「たしかに、この状況で下手に動くのは危険だ」

 

 何故か、はやてクロノの間の後ろにロングイ。

 

「待て、何故お前がここにいる」

 

 レヴァンティンをロングイに突きつける。

 

「ふむ、上手く馴染んだつもりだったんだが……梵(ぼん)」

“クラッカー・インパクトinゼロ距離ヴァージョン”

 

 ロングイの持つデバイス――チェンジング・インフィニティを中心に、魔力が広がった。

 そしてロングイを含む五人は、爆発に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

『全員、あの煙に一斉攻げ――』

「ちょっと待ったッ!」

 

 クロノの号令は、エイミィの怒鳴り声で中断された。

 

『どうしたんだエイミィ!?』

「どうしたもこうしたも、あの煙の正体が判ったの。だから、一旦あの煙から距離を置いて!」

 

 慌ててクロノに言った。

 

『わかった。全員、一時退却!』

 

 その号令に、武装局員たちがディバインシューターの雨あられの中を掻い潜りながら、煙から距離を置き始めた。

 

「で、あの煙の正体は!?」

 

 急かす様に聞くリンディ。

 

「それなのですが、あの煙だけが解析不能なのです!」

「もう一度解析を!」

 

 激を飛ばすリンディ。

 

「もう三回目です!」

 

 もう一度キーボードを打ち込みながら、叫び返す。

 

「それは間違いないのよね?」

 

 あくまで冷静に聞くレティ。

 

「はい、ですからクロノ提督たちが離れてから伝えようと――」

 

 言葉を遮る様に、アースラの警報が艦船体に鳴り響いた。

 そして次の瞬間――アースラのエネルギーが、いきなりダウンした。

 

「どうなっているの!?」

 

 今度はレティが激を飛ばす。

 

「大変です、レティ提督! アースラ内部の一部の電力以外は、すべて停止しています!」

「そんな!? ――他の局員の状況は!?」

 

 キーボードを操作するエイミィ。

 

「駄目です、確認できません!」

「通信も完全に断たれています!」

 

 他のオペレーターの報告も飛んできた。

 

「く、どうなさいますか、リンディてい、と……、く……」

 

 エイミィが、リンディの方を向くと、そこにはフード深く被った男らしき人物が、リンディの首元に逆手に持ったナイフを突きつけていた。

 その光景を見たレティとオペレーター達も、驚愕したのだった。

 

 

 

 

 

“マスター、お怪我は?”

 

 煙が晴れ、視界が良くなっため、チェンジング・インフィニティが、主の様態を尋ねる。

 

「……左腕の筋肉繊維の1589番から1697番が少々痛かった」

“……問題ないようですね”

 

 主のボケをスルーするデバイス。

 

「冗談だ。それよりも……さすがに、この程度では落ちないか。さすが第一級捜索指定物相手に、犠牲者を一人も出さなかった集まりだけのことはあるな」

 

 何とか持ちこたえたクロノ達だが、今の爆発で魔力と体力を消耗してしまった。

 クロノはフェイトに支えられ、息を整えていた。

 フェイトは、そんなクロノを支えながら、ロングイに困惑の眼差しを向ける。

 

「はぁ、はぁ……くそっ、なんて無茶苦茶な奴だ」

「ほっ、ホンマ正気のさたかいな!?」

 

 シグナムやはやても困惑していた。

 

「まあっ、こんなことする奴は、自殺志願者かその類の奴らしかやらない方法だな……そろそろ時間か」

 

 頬を指で掻きながら答える。

 そして、懐から取り出し、懐中時計で時間を確認した。

 

「遊びはここまででいいだろう。そろそろ時覇が、この公園に来る頃の時間だからな」

「……何故、わかる?」

 

 レヴァンティンを構えながら尋ねるシグナム。

 

「お前達が知る必要は無い」

 

 言い終わると同時に、チェンジング・インフィニティを構える。

 それに合わせるように、前衛にフェイトとシグナム、後方にはやて、その中間にクロノという陣形を組んだ。

 

「ふむ……派手な陣形を組むと思ったが、基本中の基本だな」

 

 少し拍子抜けするロングイ。

 

「お前を確実に捕らえるには、まず確実に攻撃を通すことだからな」

 

 デバイス――S2Uを持ち替え、新たにデバイス――デュランダルを出し、構え直すクロノ。

 

「だが……詰めが甘いな、クロノ提督――フェイト」

 

 ロングイが不意にフェイトの前を口にした為、クロノたちに緊張が走った。

 

「やれ」

 

 デバイスを左手に持ち替えて、右手の親指を立てて首に横線を引いて、最後に下に向けて言った。

 血飛沫が、宙を舞った。

 フェイトが持っていたバルディシュ・ネオ・アサルトバスター、ザンバーモードでクロノの体を貫いた。

 

「うっ――ぷふぁ、っ!」

 

 血を吐くクロノ。

 口元を押さえるために、デュランダルを手放す。

 そして、躊躇することも無く引き抜く。

 その光景を見たはやては口元を両手で押さえ、シグナムはただただ呆然と立ち尽くしていた。

 

「ふ、ふぇ……イト? ――!?」

 

 クロノは、貫かれた腹を押さえながらフェイトの方を見て驚いた。

 フェイトの魔力の色は黄色であった。

 その色は、魔法を発動させる時にも繁栄されるのだが、今目の前にいるフェイトの魔力の色は――

 

「し、白……ばっ、かな――」

 

 そう呟いたクロノは気を失い、自然落下を始めた。

 

「クロノ!」

 

 すぐさま飛び立つはやて。

 しかし、その行動を阻止しようと、ロングイがランサーモードに切り替えて、はやてに襲い掛かった。

 だが、上から紫の炎が襲ってきた為、急停止、バックステップの如く後ろに飛んだ。

 

「主のジャマはさせない!」

 

 レヴァンティンを構えながら言うシグナム。

 

「フェイト、クロノに止めを刺して来い」

「うん、わかった。行くよ、バルディシュ・NA」

“はいよ、主殿。でもって、略すのはヤメロ”

 

 フェイトは、クロノとはやての元へ行った。

 

「くっ、行かせ――」

「――てもらうよ」

 

 レヴァンティンとチェンジング・インフィニティがぶつかり合う。

 だが、シグナムはすぐさま弾き、すぐさま技のモーションに入った。

 

「喰らえ――紫電一閃!」

 

 距離は、約1メートルという所で放った。

 

「ぜい!」

 

 ロングイはギリギリでかわし、ランサーモードから通常モード――杖の状態にして、ディバインシューターを撃つ。

 だが、上、右斜め下、左斜め下と三方向に残像を残しながらかわした。

 そして、下から斬りかかるシグナム。

 だが――

 

「もら――くっ!」

 

 すぐに下がる。

 そして、桜色の砲撃が通過する。

 シグナムは後退しながら、砲撃が飛んできた方向を見る。

 未だに漂う煙からの攻撃。

 

「束縛圧縮」

“グラビティ・バインド”

 

 シグナムの周りに薄い灰色の膜が、覆いつくす。

 

「な、なんだ、これは?」

 

 二振りほど膜に斬りかかるが、効果が無い。

 膜が完全にシグナムを覆った瞬間、

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 体に纏わり付くように拘束する。

 さらに追い討ちを掛けるように、ほんの少しずつだが、圧力が掛かっていく。

 

「あああああああああっ、ぐっ――あがぁぁぁぁっ!」

 

 異様な圧力に声を上げる。

 しかも、えげつない事に、足、腕、腹には徐々に圧力が掛かっている。だが、致命傷である喉やアキレツケン、心臓や頭には圧力を殆ど掛けていない。

 まさに拷問も兼ねたバインドである。

 

「くっ――レヴァンティン!」

“――――!”

 

 反応はあった。しかし、何も発動はしなかった。

 

「無駄だよ。そのバインドは、デバイスの機能を最低限に抑えることが出来るから」

 

 そう言って、左手で拳を作り、人の腹部を殴る動作をする。

 

「っが! ぅっがはっ! えがっ! ぅを――」

 

 その瞬間、太ももに圧力が掛かり、緩まったと思うと、今度は腹に極度の激痛が走る。それに耐えかね、口から胃酸や未消化の食べ物などが吐き出される。

 それでもバインドは解けることは無く、別の場所に圧力が掛かっていく。

 ただ成す術も無く、苦しみ、瞳の輝きは失われつつあった。

 

「口から出すモンも出したし……そろそろ止めてやるか――ディバインバスター、っ!?」

 

 掛け声が終わると同時に、晴れることの無い煙から、砲撃魔法が放たれるはずだった。が、ロングイは緊急回避を行った。

 先ほどいた場所に、橙色の砲撃魔法が通過し――シグナムに直撃。

 爆発が起きた。

 

 

 

 

 

「くっ――レヴァンティン!」

“――――!”

 

 反応はあった。しかし、

 

(馬鹿な!?)

 

 激痛に耐えながら、疑問を浮かべる。

 

「無駄だよ。そのバインドは、デバイスの機能を最低限に抑えることが出来るから」

 

 そう言って、左手で拳を作り、人の腹部を殴る動作をした。

 

「っが!」

 

 腹に激痛が走り、頭の天辺から足のつま先まで、衝撃が駆け巡る。

 

「っが! ぅっがはっ! えがっ! ぅを――」

 

 ゲロを吐いた。

 騎士として、これほどの屈辱は無い。

 だが、この状況では、屈辱云々とは言っていられない。

 

(はっ、早く、抜け出さな――)

 

 考えるよりも早く、再び体に激痛が走る。

 

「――ぐがあぁぁ――」

 

 思考が段々麻痺してきた。

 限界だ。

 

(あ……ある、じ、は……や、て)

 

 視界がぼやけ、思考が停止しかけた瞬間、突如全身の圧力が消え、横全体から衝撃が走った。

 そこで意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四話:二つの決断(前編)・END

 

 

 

次回予告

謎の砲撃に打ち落とされたシグナム。

その頃、はやてと負傷したクロノに、フェイトの斬激が襲う!

だが、それを防いだのは――二人目のフェイト!?

そして、アースラの状況は!?

 

ついに、時覇は決断する!

己が突き進み、突き進まされる運命を!

 

次回・何かに出逢う者たちの物語・外伝 魔法少女リリカルなのは ~二つの運命と螺旋に出逢う者~

 

第五話:二つの決断(後編)

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 改正&付け足しです。
 シグナムファン、ある意味ごめんなさい。一応自分もそうですが(汗
 あ、石投げないで! うぁ、爆弾は反則! ってか違反!
 え、あ、シグナムさん……レヴァンティンを納めていただけませんか? 駄目? そうですよ――ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
 次回まで――グッドラック、俺!






制作開始:2006/2/24~2006/4/2
改正日:2006/12/17~2006/12/19

打ち込み日:2006/12/23
公開日:2006/12/23

修正日:2007/10/4
変更日:2008/10/24


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第五話:二つの決断(後編)

決断は下される
己自身の意志で決めた道を
だが、その片隅では真実と偽りが交差していた
それを見極められるかどうかは、まだ、誰にもわからない……


 

「口から出すモンも出したし……そろそろ止めてやるか――ディバインバスター、っ!?」

 

 掛け声が終わると同時に、晴れることの無い煙から、砲撃魔法が放たれるはずだった。が、ロングイは緊急回避を行った。

 先ほどいた場所に、橙色の砲撃魔法が通過し――シグナムに直撃。

 爆発が起きた。

 様々な法則に従って、地面に向って落ちていくシグナム。

 ロングイは舌打ちしながら、

 

「――ゴスペルの奴、俺ごと撃ち抜くつもりだったな……ゴスペル、ヴォルケンリッターの将の回収を頼む」

 

 すぐさま念話を繋ぐ。

 

『っ、何で俺が!?』

「心当たりは?」

『……わかった、わかったよ、やればいいんだろ? やれば』

 

 上擦った声を出しながら、一方的に念話を遮断した。

 

「まだ、俺にはやる事があるのでな。……次のステップに進む為の、な」

 

 

 

 

 

 そして、公園にあったアスレチック広場では、フェイトの異変に戸惑いを隠せないはやて、リインフォースⅡ、クロノがいた。

 アースラと他の武装局員たちとの連絡が取れないまま、ドーム型のアスレチックの中に身を潜めていた。

 

「リインフォース、クロノくんの具合は?」

「はい、命に別状はありませんが……、戦闘はしない方がいいと思われます」

 

 クロノに『癒しの風』を掛けているが、急激な回復は体力を消耗させる為、焦らずゆっくりと掛けていた。

 

「はっ……はや、て」

「クロノくん、大丈夫?」

「あっ、ああ……なんとか。しかし、気になるのはフェイトの方だ」

 

 ゆっくりと、焦らずに起き上がる。

 そう、クロノを串刺しにしたフェイトのリンカーコアの色は――白色だった。

 

「ですが、フェイトさん本人に間違えはありません」

 

 そう答えるリインフォース。

 

「そういえば……クロノくん、リンカーコアの色って変えられるの?」

 

 不意に思った疑問をぶつける。

 

「それは事実上不可能だとは、言い切れないが……もともとリンカーコアについては、まだ謎が多いんだ。だから、僕からの口からではあまり言えないんだ」

 

 そう、リンカーコアは不可思議な部分が存在する為、他の地方でも研究は続けられているのだ。

 その為、フェイト本人だとしても、どうすればリンカーコアの色を変えることが出来るのかが気がかりとなる。

 

『残念だけど、それを知ることは出来ないよ。アナタ達はここで消えるのだから』

 

 アスレチックの外から、フェイトの声が聞こえた。

 それを聞いた二人とデバイスは、すぐさま魔方陣を展開した。

 

「でも、遅い――アイシングブレイド!」

 

 フェイトはサンダー・ブレイドの氷版を、ドーム型のアスレチック目掛けて放った。

 地面に着弾。アスレチックに着弾。その周辺にも着弾――アイシングブレイドは、ドーム型アスレチックに突き刺さった途端爆発し、辺り一面を氷付けにした。

 

「これで……ふぅ」

 

 肩を竦め、デバイスを構え直す。

 

「少し遅かったよ。ごめんバルディシュ、もう一仕事だから頑張って」

“ったく、わぁったよ。最後まで付き合うよ、マイマスター”

 

 ぶっきらぼうに答えるバルディシュ・ネオ・アサルトバスター。

 豪快な音を立てながら、氷を突き破って出てきたはやてとクロノ。

 だが、防護服に僅かながら氷がこびり付いていた。

 

「いくぞ、はやて!」

「うん!」

 

 二人が一斉にフェイトに向かったが――

 

「アイシングバインド」

 

 二人の防護服に、こびり付いた氷が、砕いたような音を上げる。

 

「なっ!?」

「ふぇっ!?」

 

 なんと、防護服にこびり付いていた氷がバインドとなり、手足や胴体、口を氷付けにしたのだった。

 

「ふふふっ、アイシングブレイドはこういった用に作られた二段構えの魔法なんだよ。攻撃が外れても、氷の欠片さえ服や大気に残存してくれていれば、バインドにもなるんだから。便利でしょ?」

 

 笑いながら二人に言うフェイト。

 

「でも……情けで二人とも一撃で仕留めてあげるから――バルデュシュ」

“アイシングサンダーランサー・ファランクシフト”

 

 冷気と電撃の玉が、フェイトの前に72個出現した。

 それを見た二人も、さすがに言葉を無くした。

 

「さよなら、二人とも――アイシングサンダーラン――」

「ハーケンザンバー!」

 

 声を重ねる様に叫び声が上がり、光の輪がフェイト目掛けて飛んできた。

 

「くっ!」

 

 ギリギリの所でかわすがが――

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

 

 追撃と言わんばかりに、バルデュシュとバルディシュが交差する。

 そして、高らかに響き渡る金属音。

 

「バルデッシュ!」

“ソニックモード”

 

 相手の防護服が変わる。

 

「せい!」

 

 三連激が、フェイトを襲うが――何とか凌ぎ、そのまま後退した。

 そして、ある程度距離を取るとフェイトは言った。

 

「フェイト・T・ハラオウン」

「覚悟はいいですか……もう一人の私」

 

 フェイト・T・ハラオウンは言い返した。

 もう一人のフェイトに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話:二つの決断(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 睨み合うフェイトとフェイト。

 その光景を見た、はやてとクロノは唖然としていた。

 どこからどう見ても、行き写しとしか言いようが無いほどのそっくりだったのだ。

 

「あの人、一体何やってるの?」

 

 呆れるフェイト。

 

「まさか……アンタ、アイツに『この服着て、写真取らせてくれたら出すけど』とか言われなかった?」

「…………そんな事ないわよ」

 

 少し赤らめながら言うフェイト。

 

「……もういい」

 

 疲れきった顔をする。

 

「アナタが来てしまった以上、この戦いは無意味になっちゃたから、帰ります」

 

 体を翻し、去ろうとするが、

 

「素直に帰すと思いますか、ロストロギアから生まれたもう一人の私――レニアスフェイト」

 

 バルデッシュを、レニアスフェイトに向ける。

 

「……少し付き合ってもらうから」

 

 正体を明かされた為、少し怒り気味に答えるレニアスフェイト。

 その頃、はやてとクロノは、レニアスフェイトが放ったバインドを外す為、悪戦苦闘していた。

 

(クロノくん、クロノくん)

 

 はやてが念話を繋ぐ。

 

(どうした、はやて?)

(さっきの話、聞いてた?)

(ああ、しっかりとな。リインフォース、今の会話は?)

(はい、きちんと録音してあります)

(助かる。今の話は、今後の役に立つからな……あと少し)

 

 クロノに掛けられたバインドが、外れる兆しを見せ始めた。

 

(リインフォース、こっちの方は?)

(もう少し時間が掛かってしまいます)

 

 だが、その光景――フェイトとレニアスフェイトの戦闘やアースラの状況などを監視する者がいた。

 

 

 

 

 

 薄暗い空間。

 その空間に、一人の男が立っていた。

 そして、その後ろに女が、バインダーを脇に抱えていた。

 

「状況はどうなっている?」

 

 男が、女に聞いた。

 

「はい、アースラは機能停止。高町はのははラギュナスに捕縛。それから――」

 

 バインダーに記載されていた情報を言い上げていく。

 その内容は、先ほどまで起きていた出来事から、今後の進展、時空管理局最高機密などがあった。

 

「――以上が、現状報告となっております」

 

 女は、バインダーを脇に抱えて直して、男に言った。

 

「そうか……あとは、桐嶋時覇次第ということか」

 

 それだけ言い残すと、男は薄暗い闇の中に掻き消えていった。

 

「……時覇の行動が……今後の計画に左右する、か」

 

 その場に残った女は、ポケットから時覇が写っている写真を取り出した。

 

「ずっと、アナタを――」

 

 女は、写真に何かを呟くのだった。

 

 

 

 

 

 そして、時間は戻り、

 

「その女を渡せ」

 

 時覇に、そう告げた。

 しかし、困惑する時覇。

 時覇と男――ゴスペルは、見詰め合っていた。

 反らせば殺させる。そう、時覇に悟らせていた。

 現に、自分――時覇を中心に、半径50メートル以内は男の殺気に包まれていた。

 つまり、今下手に動けば、ゲームに出てきそうな銃で撃ち抜かれるのは必然。

 この状況を、どう打破するか考えようとした時、男からの殺気は一段と増した。

 

「いい加減に答えろ。その女……渡すか渡さないか、どっちか言え」

 

 そして、銃口を向け直す。

 その出来事に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対抗心が芽生えた          恐怖が植え付けられた




あとがき
 改正前はなかったあとがき。
 話をある程度改正。
 最終巻が目茶苦茶厚くて有名な小説『終わりのクロニクル』の、文章の書き方を参考にしました。
 あ、話の内容をパクった訳ではないので、そこはご了承ください。
 で、選択肢の言葉も書き換え、選択後の初めの部分も、追加しなおしました。
 ので、最後まで楽しんでいってください。






制作開始:2006/4/2~2006/4/3
改正日:2006/12/19~2006/12/22

打ち込み日:2006/12/28
公開日:2006/12/28

修正日:2007/10/4
変更日:2008/10/24


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第一部:ラギュナスサイド
第六話:ラギュナス


運命とは――何だろう?
平凡な生活とは、何だろう?
平和な日々って、何だろう?
そんな事が、疑問に思う


 

 

「レニアスフェイト」

 

 艦の薄暗い廊下で、いきなりの事でビクンと反応し、背筋を伸ばす。

 そのまま、ギギギと鳴っている様な感じで、首を後ろに回す。

 

「また癇癪を起こしたそうだな……しかも、戦闘中に」

 

 先の戦闘で、癇癪を起こしてしまったレニアスフェイト。

 どんな事があっても、戦闘中の時だけは、癇癪は起こすなと念押しされていた。

 

「うう……ごめんなさい、ロングイ」

 

 凹みながら謝罪するレニアスフェイト。

 目が半泣きの状態なので、ある意味愛らしいといえる姿である。

 

「ふぅ……まあ、次から絶対にするなよ。ただ当分は、絶対に二人行動をとってもらうからな」

 

 と、すれ違いざまに、レニアスフェイトの頭を軽く撫で、近くの扉――医療室に入っていった。

 

 

 

 

 

「――なるほど。この数式を使って、こうすれば……あら? 矛盾発生? おっ、かしいなぁ~」

 

 魔導書とモニターを見比べる。

 先ほど入力した数式が、仮想データからエラーコードが現れる。

 

「ここがこうなって、ああなって――よく出来たな、俺」

 

 魔導書を見始めてから二日目。

 モニターと魔導書を見比べて、偶然見つけた未完成の術式――サイラ式を弄っていた。

 見つけた時は、理論とつぎはぎの基礎しかなかったが、適当な組み合わせと術式の基礎で組上げ――奇跡的に組みあがっていった。

 今現在、55パーセント完成し、もうひと息という所で矛盾が発生した。

 ここまでやっておいて、適当にやりすぎた? などと考え込んでしまった。

 そこで音が響くと同時にドアが開いた。

 

「体調はどうだ?」

 

 部屋に入るなり、起きて魔道本を読んでいた時覇に声を掛ける。

 

「うん……それより、赤い髪の――」

「彼女なら、まだ寝たままだ」

 

 言いながら、ベッドの横にある椅子に座る。

 

「そっか……所で、そろそろ俺を捕まえた理由を教えてくれないか?」

 

 頬を掻きながら聞く時覇に対し、

 

「ああ、すまない。すっかり忘れていた」

 

 ロングイは、頭を掻きながら答える。

 

「まず理由を説明する前に、ロストロギアについて語ってからの方が判りやすい」

 

 と、まずロストロギアについて話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第六話:ラギュナス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時覇が眠らされ、今に至るまでの経由を簡単に説明する。

 時覇が目覚めた時は、眠ってから半日後だった。

 そこで、担当医らしき人物から、大体落ち着いてから話すと言うことだった。

 それから三日たち、艦内・自分自身も落ち着いた。

 シグナムは、一応自分自身で回復はできるが、ある程度ははやてから魔力を供給している為、リンカーコアがなかなか回復できてなかった。

 本来は一日くらいで大体回復は出来るのだが、シグナム――ヴォルケンリッター達は、八神はやてから少しばかり魔力を貰うことで、活動しているからである。

 何故供給が成されていないかというと、時空拡散弾と魔力無効化弾を同時使用したのが原因である。

 今までの簡単な経由説明である。

 一応この三日間までの間に、簡単な説明と管理局とラギュナスの説明を受けている。

 ロストロギアとは――

 多数の次元世界の中で、急速に発展した世界で生み出されたモノ。

 その種類は多彩であり、同時に危険な代物である。

 故に、効果が判らず使用すると、死を招く危険性があった。

 場合によっては、世界が崩壊するモノもあると付け加える。

 

「と、まあ簡単に説明したら、こんな感じだ。質問は?」

「そのロストロギアと俺は、どう関係あるのだ? 今までの説明からすると、思い当たる節は――」

 

 そこまで言いかけた途端、いつも身に付けていたグローブを思い出した。

 

「まさか……これが?」

 

 と、手にはめたままのグローブを見せる。

 これを見たロングイは、口元を緩める。

 

「そう、それが俺たち、ラギュナスが探していたモノのロストロギア――ロストナックル、インテリジェントデバイスと言われているらしい」

「……でも、何で俺の所に?」

「それは、誰にも判らない。分かるとするなら、ロストナックルしか分からないかもしれない。まあ、ロスナ自身も分からない場合もあるが」

 

 苦笑しながら、妙な略し方をしたロングイ。

 

「ろ、ロスナって……」

 

 無理やり省略したのに、片側に少し肩が下がる時覇。

 

「まぁ、当分戦闘は無いはずだから……そうそう、レニアスたちの相手を頼めるか?」

「レニアスたちって?」

 

 問いを問いで返す。

 

「ああ、すまない。レニアスっていうのは、『レニアス』と呼ばれるロストロギアから、生まれた者たちの事を言っているのだ。一応全部で15人いるのだが……俺は、まだ10人しか会ってない」

 

 少し凹むロングイの背中が、少し老けて見えたのは気のせいだろう。

 

「……アンタ、一応この組織のお偉いさんだろ?」

「…………うん」

 

 涙目になった。

 時覇は何も言わず、ポンポンと肩を優しく叩いた。

 それから少し経ち、落ち着いてから思い出したように言った。

 

「ところで、どんな人がいるのだ?」

「まあ、色々だな」

 

 何故か、視線を泳がせるロングイ。

 

「ふぅ~ん。で、レニアスたちをどうしろと?」

「あっ、ああ、面倒を頼みたいのだが?」

「何だかな~と思うが、いいよ。別に」

「すまないな。特にレニアスフェイトを頼む。アイツ、目を離すとフラフラするからな」

 

 笑うロングイ。

 それに釣られて、微笑む時覇。

 

「じゃ、明日から頼む」

 

 そう言いながら立ち上がるロングイ。

 

「了解って、明日!」

 

 ワンテンポ置いて、驚く時覇。

 

「おう」

 

 その言葉に、満面の笑みで答えた。

 

「おう、って……右も左も分からん俺に、どうしろと?」

 

 両手を肩辺りの高さまで上げて、人差し指で左右に振った。

 

「それに関しては、お世話役みたいな奴を回すから、安心しろ」

「お願いします」

 

 頭を下げた――ロングイが。

 何故頭を下げたのか不明。

 

「何で貴方が下げているのですが!?」

 

 大阪人顔負けの突っ込みスピード。

 

「ははは、気にするな。個人的なネタだ。場を和ますための」

「はあ~、そうですか」

 

 こめかみ辺りを、人差し指で押さえる。

 

「ん? 今更だが、何やっているのだ?」

 

 モニターの存在に気づき、覗き込んでくる。

 

「いや、適当に術式を作っていたのだけど、ここに来てエラーばかり起きて……」

「どれどれ――おい、これ……」

 

 ロングイは険しい顔をしながら時覇を見る。

 

「やっ、やっぱり、知識が無いものが、適当に組んじゃだ――」

「凄いじゃないか! サイラ式をここまで組むなんて!」

 

 肩をバンバン叩きながら言った。

 おかげで時覇は、目を白黒させた。

 

「こいつは三代目ラジュナスの長だった奴が使っていた術式で、当時は長以外使いこなせる奴がいなかったそうだ。おかげで、使い手が逝ってからは手付かず状態。気づいた時は、データはボロボロ。かろうじて修復できたのは、理論とつぎはぎの基盤のみ。今まで修復を試みたが、誰もここまでできた奴はいなかった」

「つまり、俺は偶然ここまでできたって事でいのか?」

「いいや、偶然も必然となり、それは実力とも言える。お前、やっぱ才能あるじゃないか?」

 

 その言葉に言葉が詰まる。

 誰にも認められず、誰にも求められず、日々過ごしていた者にはこの上ない言葉である。

 ロングイは肩を竦める。

 

「……じゃ、しっかり休めよ」

 

 肩を軽く叩く。

 力なく頷くだけの時覇。

 ロングイはそのまま部屋を出て行き、ドアは閉まる。

 

「才能、か……認められたのか、俺は――」

 

 魔導書を閉じ、ベッドに倒れこむ。

 そして、子供の頃の出来事を思い出しつつも、再び眠りに付くのだった。

 

 

 

 

 

 薄暗い部屋の中。

 明かりといえば、ある人物の目の前にあるモニターの明かりのみ。

 あとは、機材に布が被さっており、床にも埃が積もっている。

 あからさまに長年使っていない部屋だと一目で判る。

 唯一の例外は、使っているモニターとモニター周りの機材、座っている椅子と周りの床に埃がほとんど無い程度。

 そして、砂嵐のモニターから機械音の声が聞こえてきた。

 

『例の計画は?』

「問題は無い。だが、このまま行けば計画に支障が出てくる」

 

 モニターに、ある人物が言った。

 

『何故だ? 理由を聞こう』

「言葉道理だ。管理局ならまだしも、騎士が動き出した」

『……の連中か』

「そうだ。管理局に手は回っていても、そっちには無理なはずだ」

『それに関しては、問題ない。既に何人か潜ませておいた』

 

 ある人物は眉を顰める。

 

「俺は、前に言ったからな? どうなっても知らんからな」

『計画に支障がなければ、な』

 

 そこで通信は終わった。

 

「…………はぁ。本当に……わかっているのかね」

 

 そこで、機材の電源を切ったのであった。

 

 

 

 

 

「ここね。ロングイが言っていた者がいる場所って」

 

 待機状態のデバイスを操作しながら呟き、氷の様に冷たい雰囲気を出す、青いポニーテールの女性。

 ドアから三歩手前で止まると、周りに浮いていたモニターを消す。

 終わったと同時に、デバイスを胸ポケットに仕舞いながら、ドアの前に立つ。

 そこでドアは開かれる。

 

「失礼し……何、やっているのですか?」

 

 ドアより見かけない女性が入ってきて、口元を引き攣らせながら言い放つ。

 その目線の先には――

 

「どうも」

 

 昔CM宣伝で、ゲームキャラたちがしていた踊りを、汗を垂らしながら踊っていた。

 

「いや~、運動もかねて少し暴走を」

 

 誤魔化し笑いをしながら弁解する時覇に対し、

 

「……元気で何よりです」

 

 僅かに沈んだ感じで答える女性。

 

「で、アンタがロングイの言っていた……」

 

 置いてあったタオルで汗を拭きながら尋ねる。

 

「ええ、レルナス、レニアスレルナス。レルナスでいいわ」

 

 完全に突き放した様な言い方で帰ってくる。

 

「レルナス、か……レルナでいいか?」

 

 タオルを置く、身なりを整えて聞き返す。

 

「別に構わないけど」

 

 淡々と答えるレルナス。

 

「じゃあ、着替えるから」

 

 ベッドから降りて、服を取り出す。

 そして、服を脱ごうとした時に手を止めた。

 振り向くと、レニアスレルナスが見ている。

 

「あの、出てってもらえませんか?」

「わかった」

 

 すんなり出て行くレルナス。

 その行動に、何か釈然としない蟠りを感じつつも、着替えに専念した。

 で、三分後。

 

「お待たせしました」

 

 着替え終わって、医務室から出てくる時覇。

 

「遅い」

「いや、カップラーメンが出来る時間程度だと思ったので――」

「それでも遅い」

 

 言葉に上乗せするように口を尖らす勢いで答える。

 

「…………案内お願いします」

 

 ラチが開かないと判断し、本題を切り出した。

 

「こちらです」

 

 すぐに背を向け、歩き出す。

 レルナスとはぐれない様に、後を付いて行った。

 

 

 

 

 

「ここが食堂です」

 

 感想――転校してきた気分です。

 何か、特別な施設を見せてくれるかと思いきや、やはり部外者。

 今の所、特別・特殊施設区域には入れてもらえず、一般的な部分しか見せてもらっていないからである。

 

「何か?」

 

 不思議そうな目で見てきた。

 

「いや、何でもないです。何でも」

「そう、ならいいわ」

 

 また背を向け、別の場所へ向うレルナスの後を慌てて追う。

 そして、いくつもの扉やすれ違ったメンバーに会釈をしながら、少し違った扉の前まで来た。

 

「ここは?」

「開発室よ」

 

 そう言いながら、扉の横にあるパネルを押す。

 

「開けろ」

 

 有無言わさずのお言葉。

 

『たく……誰だ? って、レニアスレルナスか。開いているぞ』

 

 声からして、成人女性くらいの声が聞こえてきた。

 

「そうか……失礼する」

「失礼します」

 

 普通のドアより横幅が苦い近く会ったので、二人並んで開発室に入れた。

 

「来たか」

 

 そこには、ロングイと、橙色のシュートヘアに白衣を着た女性がいた。

 

「桐嶋を連行してきた」

「案内でしょうが」

 

 レルナスの天然ボケに、即突っ込みで看破する白衣の女性。

 

「時覇、艦内の様子は大体わかったか?」

「ええ、お陰で転校生の気分を味わえました」

 

 苦笑するロングイと時覇。

 

「なぁ、ちょっとええか?」

「はい、何ですが?」

 

 後ろから来た問いに、返事をしながら振り返ると、白衣の女性がいた。

 

「アタシはティシェルナ。三番目のレニアスだから、宜しく」

「はい、桐嶋時覇といいます。時覇でいいので」

 

 互いに言い合い、ティシェルナから握手を求め、しあう。

 

「時に時覇」

「はい?」

 

 時覇は、一瞬駄洒落かと思ったが、ロングイの目は真剣なので、どうやら違うらしい。

 

「俺たちの仲間にならないか?」

 

 

 

 

 

「俺たちの仲間に、か」

 

 そう呟く時覇。

 先ほどロングイのいきなりの誘いに戸惑う結果となった。

 少し時間をくれと言い残して退室。そして、ちょうど昼時との事なので、食堂に足を運んできたのだ。

 それから20分間、料理を口に入れては2分くらい止まる。また口に放り込んでは2分くらい止まる。それの繰り返しだった。

 その繰り返しの合間に、レルナスが声を掛けている。

 

「……は、・きは、桐嶋時覇」

「あ、ああ、何ですか?」

 

 向かいの席にいるレルナスが、また声を掛けられた(通算11回目)――が、中々反応しなかったので少し不機嫌だった。

 

「どうした、食べないのか?」

「いや、食べるけどさ……少し考えていただけだから」

 

 そうか。という仕草をし、再び食べ始めた。

 どうやら、開発室の時の問いを考えていたために、食事の手がまた止まっていた様だ。

 それから、また再び食べるが次第に遅くなり、また止まる。それの繰り返しだった。

 

(ロングイ、聞こえるか?)

(な、何だ、レルナス? お前から念話してくるなんて)

(時覇の様子を改善したい。いい案を希望する)

(いや、いきなり言われても……)

 

 髪の毛を掻き揚げながら、

 

(さっきから食事の手が止まっている。これでは、体調にも響く)

(わかったよ……所でレルナス)

 

 その声の質に、少し戦慄が走る。

 

(なんだ?)

(時覇にホの字?)

「消えろ!」

 

 バンッとテーブルを両手で叩く。

 その衝撃で、少しだけテーブルの上に置いてあった全ての物が、僅かに飛び跳ねる。

 ついでに前に居る時覇や、周りの者たちの顔が向いた。

 

「あ、あの、レルナ、さん? 何か、気に入らないことでも……」

「へ?」

 

 我に返り、ふと僅かに零れた料理と周りの視線に気が付く。

 

「あ、いや……すまない。先ほどまで念話をしていた」

 

 追加で勢い余って、立ち上がっていた事に気が付き、身なりを整えなおしながら座りなおす。

 そしてレルナスは気を取り直し、再び料理を口の中に放り込むのであった。

 それ故、周りの連中のヒソヒソ話が、いつもより長いことには気がつくことはなかった。

 

 

 

 

 

 それから、子供のときから教わっている食器の片付けタイム。

 食堂のおばちゃん――通称おばやんに、心配そうに声を掛けられた。が、理由を説明したら納得してもらえた。

 

「もし困ったことがあったら、いつでも声を掛けてぇな」

 

 などと、優しい声で答えてくれた。

 正直嬉しかった。

 迷っている訳ではない。ただ人生の最大の分岐点にいることだけは、間違いないからだ。

 この選択肢を選ぶことで、これからの人生に後悔する。

 それだけは避けたいからだ。

 今までの世界――朝起きて学校へ行って、帰り際にバイトして寝る。これが平日の過ごし方。

 土日と休みは、一日バイトか、無駄な時間を過ごしている。

 家族関係は、ハッキリ言って冷めている。俺を除いては。

 俺がいない時は、家族で出かけたり、外食を食べたりと円満の限りを作っている。

 だが、俺がいる時は『暗い』の一言だ。

 例えるなら、健康的に体の中に突然悪性のガン細胞があると通告された様な、そんな感じだと思う。

 ……己の表現力の無さに絶望するが、今は関係が無い。

 とにかく、考えは纏まっている。

 だが、踏む切りがつかない。ただ、それだけなのだ。

 

 

 

 

 

 食器を片付け終え、レルナスに黙って廊下に出てさ迷っていた。

 そして、腰掛が出来るほど幅かある窓枠の端に腰を下ろし、背を預ける。

 窓と対となる場所には休憩室が設けられているが、あえて窓枠に座る。

 

「根性無しだな、俺」

 

 そうはき捨てるように呟いた。

 それから、時空空間の眺めている時、足音が聞こえてきた。

 その足音はどんどん大きくなり、後ろ辺りで止まった。

 その人物がレニアスレルナスだと、何と無くわかった。

 

「探しました」

 

 素っ気無い言葉。

 決まり文句と言えば、そこまでの言葉である。

 

「……何を考えているのですか?」

 

 これも素っ気無い言葉。だが、少し心配そうな声だった。

 

「……自分自身の弱さに、呆れていただけ」

 

 ゴツンと、窓に額をぶつける。

 

「元の生活に戻っても何も変わらないと判っているのに、それにすがり続ける自分がいる。それが……、何でも無い、忘れてください」

 

 妙な言葉使いではあるが、何かあることくらい先の言葉と雰囲気でわかる。

 

「……すがりたくなる事くらい、私にもわかる」

 

 レルナスは時覇の横に座る。

 

「私が、ロストロギア……レニアスから生まれた事は、聞いたばかりだったですね」

 苦笑し合う二人。

 

「そして、複製から生まれたレニアスはその複製の元になった人物の記憶までも、そのままコピーしてしまう。故に、自分自身が始めのうちは本物だと誤認してしまう。場合によっては、レニアスが本物を消す場合があるのです。恐怖本能、と答えるべきでしょうか。比較され、否定されるのが」

 

 体を丸めるレニアスレルナス。

 それと同時に時覇は立ち上がり、自動販売機の所まで歩き出した。

 

「レルナさん、何か飲みます?」

 

 と、言いながらコインを入れ、ボタンを押す。

 

「……アナタのオススメ」

 

 ガコンッと、薄暗い廊下に響き渡る。

 

「了解。それじゃ」

 

 ジュースを取り出して、再びコインを投入。

 ボタンを押す。

 ガコンッと、薄暗い廊下に、再び響き渡る。

 取り出し、レスナスに放り投げる。

 

「おっと」

 

 驚きながら受け取り、爪に指を掛けたまま缶の蓋を眺める。

 時覇の方は、缶を振りながら戻り再び窓枠に腰を下ろし、カシャと音を上げながら、そのまま一口。

 その音に反応し、レスナスも蓋を開け一口――全身にカミナリが落ちた。

 なんとも甘く、なんとも苦く、なんとも酸っぱく、なんとも言えないこの苦味。

 しかし、一糸乱れぬバランスの均衡が存在するのか、なんとも言えない味が口の中に広がる。

 全身の細胞が強制的に活性化され、額からは汗が流れる。

 さらに、感覚がどんどん研ぎ澄まされ、味覚の感度を上げていく。

 その結果――

 

「ぶぅふぅっ!」

 

 面白いくらい噴出してくれた。

 渡した缶は『100%黒酢和えのギュグナ』という表現不可能な味かつ、新暦初の黒歴史の一品と豪語されているジュースである。

 出た当初は、面白半分と興味で買っていったアースラのメンバー全員が飲み――撃沈したという曰く付きのシロモノとだけ答えておく。

 ちなみに買ってきたのは、鉄槌の騎士。

 

「――――――!」

 

 声にならない声を上げ床に塞ぎ込む際、缶の音が廊下に鳴り響く。

 実にいい音である。

 咳き込みつつも睨み付けながら、中身の入ったままの缶を専用ゴミ箱に突っ込むと、勢い良く襲い掛かってきた。

 時覇も中身の入った缶を窓枠に置いて、ダッシュで逃げ出した。

 

「とぉぉぉぉぉきぃぃぃぃぃぃはぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 奈落の底から這い上がる様な声を上げながら追う、レニアスレルナス。

 振り返る事無く、必死で逃げる時覇。

 先ほどの憂鬱な気分や、暗い空気はどこへ行ったのやら。

 今はただ逃げる者を追いかけ、追う者から逃げる。

 ただそれだけ。

 それから考えればいい。

 そう思っていた。

 だが、そんな想いとは裏腹に、戦いは始まろうとしていた。

 長い、長い旅路という名の戦いが。

 だが、その旅路の果ての結末に、光も希望も無い。

 ただの深い闇と絶望の二つしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第六話:ラギュナス・END

 

 

 

次回予告

ロングイの勧めで、ラギュナスに誘われた時覇。

しかし、今まで苦痛でしかなかった日常を変えることに躊躇いを覚える。

そして、自分はどうしたいのか悩みだす。

そんな時、公園で受け止めた女性――シグナムと再会するが……。

 

次回・何かに出逢う者たちの物語・外伝 魔法少女リリカルなのは ~二つの運命と螺旋に出逢う者~

 

 

ラギュナスサイド編

第七話:分岐点(前編)

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 相変わらず無計画というべきでしょうか。
 今回ついにラギュナスサイドの製作を……していたりしてなかったり。(汗
 色々追加修正を加え、ボリュームアップ!
 こちらも13話目で最終回。そして、次章へ!
 こっちはストライカーズを交える予定。
 っと、言っても、既に世界観が変わっているので、オリジナル設定で行きます。
 口調、性格、目的、目標は変えませんが……。
 とにかく色々起こります。
 なを、この話の最後の一文通り、深い闇と絶望しかありません。
 確実に原作・オリジナル関係なく、メイン及びサブキャラクターから死人は出ます。
 これは本当です。
 ですので、注意文を記載しないと。
 今後読むときは、お気をつけてください。
 では、次の話でお会いしましょう。






今回の没ネタ

「それに関しては、お世話役みたいな奴を回すから、安心しろ」
「お願いします」
 頭を下げた――ロングイが。
 何故頭を下げたのか不明。
「何で貴方が下げているのですが!?」
 大阪人顔負けの突っ込みスピード。
「ただの話を伸ばすためのネタ」
「生々しいから辞めよう!」
 ホントである。
『書いているお前が言うな!』
 ごもっとも。






制作開始:2006/10/29~2007/1/7
改正日:2007/3/29~2007/4/1

打ち込み日:2007/4/1
公開日:2007/4/1

修正日:2007/9/27
変更日:2008/10/24


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第七話:分岐点(前編)

この道を進み、希望を掴むと想う
されど、運命の悪戯は残酷な現実を見せ付ける
しかし、今はその時ではなく
ただ、『安らぎ』という名の嵐の前の静けさ


 

 未観測時空世界・ラーグンドライと呼ばれていた世界は、豊かで広大な自然と廃墟と化した都市が広がる世界だった。

 生きた存在といえば、動物や虫、魚などのくらいしかいない。

 人間は、既に滅んだ世界。

 この世界の人間は、全てデータで構成された存在だった。

 都市や街などの中心に存在する巨大データバンクによって管理を受ける。

 よは、電子人間と言うべき存在だった。

 だが、子を産む。個人個人のデータ量。老化データの削除など、莫大な量に膨れ上がり、世界に点在してあるデータバンクの容量を超え、崩壊が始まった。

 人々は混乱した。

 だが、その混乱の中で、ある事を思いついた人間が現れ始めた。

 

『データの量が多いのなら、他を消して少なくすれば良い』

 

 その結果、電子人間の削除――殺し合いが勃発。

 これにより、さらにデータ量が増え、たった一ヶ月で滅びを迎えた。

 時空管理局の目に留まることは無く。

 そんな世界のとある都市で、爆発音と煙が上がる。

 砲撃音。

 着弾――爆発音。

 崩れ行く建物の音。

 そして――

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 一筋の閃光に、

 

「マギリング・ノヴァ!」

 

 大量に飛び出る、小さな閃光群。

 今現在この世界は、ラギュナスの訓練場所として活用されている。

 この都市全体を包囲するように展開された、実戦用自立稼動兵器たち。

 そして、そのターゲットは、二人の戦士。

 片や魔法歴二ヶ月ちょっとの男。

 片やベルカの騎士にしてヴォスケンリッターの将、シグナム。

 二人は無意識ながら、互いに背を預けていた。

 別に好敵手だからではなく。

 愛し合っている訳でもない。

 ただ、信じられるから預けている。

 それだけの話。

 そこで、どこかで崩れる音が鳴り響く。

 それが合図となり、実戦用自立稼動兵器たちが再度進行を始める。

 二人もアイコンタクトでうなずき合い、二手に分かれた。

 

 

 

 

 

 そんな二人の様子を見ている者がいた。

 正確には、実戦用自立稼動兵器たちの設定と管理、二人のデータを記録しているのだが。

 

「よっ、順調にやっているか?」

 

 と、ロングイが手を軽く上げながら、部屋に入ってきた。

 

「順調ですよ」

 

 振り返る事無く、しかし、どこか嬉しそうな声で答えるレニアスレルナス。

 その目線は、目の前のモニターの映像に釘付けとなっていた。

 

「ふう~ん……相方は、大分さまになってきたな」

 

 椅子の背もたれに手を掛けながら言う。

 モニター内では、二人の身体データと戦場を映し出している最中である。

 

「さすがは、ヴォルケンリッターの将・シグナムって所だな」

 

 ちょうどシグナムが、先行試作型対魔導士迎撃用重装甲型・ヘビーブラスターの胴体辺りを叩き斬った所。

 

「で、もう一人は」

 

 シグナムが映し出されたモニターとは別に、男が映ったモニターに二人の視線は移動した。

 

 

 

 

 

 中距離砲撃用量産型・ガーマンの口から、砲撃が放たれる。

 男はそれに反応し、左に飛ぶ。

 次の瞬間――男が居た所が吹き飛ぶ。

 現在いる場所は、ある廃墟ビルの15階。

 シグナムと二手に別れて、個々に撃破していく作戦を取っている最中である。

 男は囮兼かく乱を担当し、シグナムが一体一体確実に撃破。

 しかし、情報と予想より数が多く、この作戦は失敗だと舌打ちをする。

 

「上手く発動してくれよ――展開!」

 

 足元に魔方陣が展開される。

 だが、その魔方陣は、ミッド式でもベルカ式でもなかった。

 大きな円の中に正方形がピッタリはまっている。

 そして、その正方形の角に小さな円が展開される。

 次にその小さな円の中にも正方形と、文字が展開される。

 各文字もまた、ミッド式でもベルカ式でもなく、大きな円の線に反って書かれている文字も同じである。

 サイラ式――先代のラギュナスの長が生み出した、完全オリジナルの魔法式。

 一度も表舞台に出ることも無く、風化していった式。

 風化した原因は、汎用性に大いに欠け、攻撃、防御、素早さのどれかに重点を置くことに特化した魔法式。

 ミッド式及びベルカ式以上に複雑な式で構成されている事。

 など、様々な理由が上げられる。

 だが、もっとも主な理由は――完全に扱える者がいなかった。という点にあった。

 全時空世界――現在まで確認されている時空世――を見回しても、珍しく習得難易度が高い魔法の部類に入る。

 しかし、それを扱う男――桐嶋時覇は、完全にとまでは行かないが、

 

「発動! グランド――」

 

 右手を天に突き上げ、拳を握り、それを地面に叩きつける。

 

「――アッパー!」

 

 ガーマンの下から岩の柱が突き出し、胴体に直撃して爆発。

 その音を聞いて、時覇は体を起こす。

 

「 ! 」

 

 殺気を感じ取り、素早く飛び跳ねる。

 先ほどまで立っていた場所の地面から、ドリルが飛びてくる。

 ミッドチルダの重工業社が土木作業用に開発した物を再設計、開発して生み出した戦闘兵器。

 スラドリラドグーン――通称スドラと呼ばれている。

 主な運搬は戦闘ではなく、地中に眠る資源の採掘と時空管理局・地上部隊のかく乱。

 最大の武器は、ドリルをフル回転させて電撃を生み、ビームとして放つ事である。

 そして、ドリルの回転力によっては、魔法を掻き消す事も可能となっている。が、大抵はそこまで出力は上がらず、落とされるのが現状である。

 よって、大半は発掘作業に回されている。

 

「スドラか……ドライブ・ランチャー!」

 

 空中で魔法を放つ。

 案の定、吹き飛ぶスドラ。

 不意打ち用には使えるが、スドラの存在を知っている人間にとっては、ほとんど効果は無い。

 そして、着地し――地面が崩れる。

 

「くっ!? さすが古い建物がぁあああ!?」

 

 14階に落ちると思いきや床は無く、一階どころか地下まで床が無くなっていた。

 どうやらスドラは、時覇を襲う前に14階までの床をそぎ落とし、地下空洞まで作り出していた。

 

「くそっ! スドラの野郎!」

 

 両腰に装備してある片方――右側のアンカーを射出し、壁に突き刺さる。

 そこで確認のために引っ張る――が、壁ごと抜けた。

 しかも、今の壁が壊れた事により、建物全体が崩れだした。

 

「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 なを、桐嶋時覇は現在時点での飛行魔法を使うことは――できません。

 まだ左側のアンカーがあるが、建物自体崩れている最中なので意味は無い。

 つまり、結論からして――地下空洞まで一直線。

 だがそこへ、崩れ行く壁の合間から、紅い何かが飛んできた。

 

「時覇!」

 

 紅い何かが叫んだ。

 時覇は声の方を向く。

 紅い――女神と目線が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第七話:分岐点(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り――二ヶ月前のこと。

 キッカケとは、偶然と必然の狭間ではないかと考える。

 今回は後者であった。

 

「ロスナを使う? 俺が?」

 

 行き成りの話だった。

 

「ああ、そうだ」

 

 デスクに展開されている資料を見ながら告げるロングイ。

 

「だけど、俺の魔力は……」

 

 自分の魔力値を思い出して暗くなる時覇。

 通常は、3万2560。

 最大瞬間値は、15万。

 結果的には、ランクは下の中から上辺りに位置づけられる。

 だが、ここで一番気になるのは、最大瞬間値である。

 五倍近い魔力値を叩き出している事実は揺ぎ無く。

 

「判っている。だからこそ、可能性に掛けるのだ」

 

 故に、賭けに出る。

 時覇は、どうやら生まれつきかは不明だが、後天的に発生する場合はそれなりに高い魔力を得る事がある。

 だが瞬間的に上がる魔力値を見れば、伸びる可能性はある。

 漫画の様に、窮地に追い込まれた主人公は、真の力を発揮する。お約束的展開が待っている。

 ロングイは、漫画を読むことは好きだが、そんな夢物語の展開はありえないと確信している。

 しかし、時間が無いことは確かである。

 奴が提示してきた計画を、実行に移さなければならないのだから。

 だから、心のどこかで焦っている。

 その焦りを、時覇に押し付けているのではないだろうか。

 そう考える。

 だが時間が無い。

 完全な板ばさみである。

 そこで、賭けに出ることにした。

 一応、奴の計画内容の一つでもある『桐嶋時覇の実戦への参加』。

 魔法を扱える扱えない関係ない。

 この結果を元に、交渉材料に計画の延期などが行える。

 そう踏まえた上で話を持ちかけた。が、

 

「悪い……こいつはデバイスで、俺に魔力がある事は判った。使わなければ宝の持ち腐れ、だから……」

「今すぐやってくれとは言わない。だから、少しだけ考えてはくれないか?」

 

 あくまで強制はせず、遠慮がちに進める。

 時覇は迷っている。

 そこへ漬け込んでいく。

 

「……わかった」

 

 それだけ言い残して、部屋を出て行った。

 少し経ってからため息をつき、端末を操作して展開された資料を消す。

 そして、椅子に背を預けきる。

 

「いるのだろ、レニアスレルナス」

 

 壁からすり抜けるように現れ、デスクの上に腰を下ろす。

 

「いつから?」

 

 顔を向けながら言った。

 

「その前に、机から下りろ。はしたない」

「心境はお父さん?」

 

 からかう様に煽る。

 

「いいから、時覇の所行って覚悟を決めさせろ」

「いやよ」

 

 即答である。

 その言葉に、目を見開くロングイ。

 だが、納得した顔つきになる。

 

「……なるほど、コレか」

 

 親指を立てて言う。

 作者の私はよく判らないが『彼氏』という意味があるらしい。

 ちなみに小指が『彼女』だそうだ。

 

「なっ、ななななななななな!」

 

 物凄い動揺に、思わず笑ってしまったロングイ。

 

「――――!」

 

 部屋全体に肌が叩かれた音が、気持ちよく鳴り響いた。

 

「いっつぅぅぅぅぅぅぅ……叩く事無いだろ」

 

 顔を背けるレニアスレルナス。

 

「しっかし、やっぱりお前も女か」

 

 などと、本人の前で呟いてしまう。

 

「ロングイ。今の発言、どういうことかしら?」

 

 レニアスレルナスが、エガオでロングイを見た。

 そう、『笑顔』ではなく、『エガオ』、で。

 ロングイに戦慄が走る。

 戦士としての本能が叫ぶ。

 逃げろ。

 逃げろ。逃げろ。

 逃げろ。逃げろ。逃げろ。

 脳内のサイレンがレッドゾーンを告げている。

 

「明確な回答を申請いたします」

 

 いつの間に横に立つレニアスレルナス。

 デスクの引き出しを開け、中を漁って紙を一枚取り出す。

 その紙には、『申請書』と書かれていた。

 項目に黙々と記入されていく。

 ロングイは隙を見て逃げようとするが、レニアスレルナスに骨が軋むほど強く肩を掴まれている。

 故に、完全に退路は絶たれた証拠である。

 振りほどいて逃げても良いが、背中に問答無用で砲撃魔法が飛んでくるので、どうにもならないのである。

 自業自得と言うべき状況なのかは、悩むところではあるが。

 一つ言えることは、触れてはいけないモノに触れてしまった。事である。

 ああだ、こうだと悩んでいる内に、記入が完了してしまう。

 あとは、上官であるロングイのサインか、印を記すだけである。

 

「あー……実は、これから会議が――」

「会議は10日後です」

 

 ロングイの一通りの予定を把握している数少ない人間に取っては、苦し紛れ以外の何者でもない言い訳であった。

 腹を括り、仕方なく白状した。

 

「今日の今日まで、お前を」

 

 一呼吸。

 

「男女だ――がぁ!」

 

 壁に激突。

 どうやら吹き飛ばされたらしい。

 体制を立て直しつつ、後ろを振り向いた。

 そこには、鬼と化した女が一人。

 覇気は最大級。

 死亡確定と、脳裏を過ぎった。

 

「シネ」

 

 その後、色んな音と悲鳴が、建物全体に鳴り響くことになった。

 

「失礼します」

 

 どこかスッキリしたような顔で出て行くレニアスレルナスに対して、部屋に残っているロングイは――時折痙攣を起こしながら、ボロ雑巾のように床に転がっていた。

 

 

 

 

 

「ん? 何だ?」

 

 途方にくれ、さ迷っていた時、後ろ右斜めの上から悲鳴と何やら凄い音が聞こえてきた。

 そして、周りを見ると、特に気にした様子も無く、作業を進めているメンバーたち。

 どうやら何時もの事らしい。

 尋ねるにも、確かあの方角にはロングイの部屋があったはずである。

 時覇と同じで、レニアスレルナスをからかったのかもしれない。

 一応、軽く殴られ、蹴られる程度で済むが、ロングイの場合は、病院行きクラスもの。

 その扱いの差にロングイは、不満の声を上げているが、砲撃魔法で黙殺された。

 そんな事を思い出しつつ、歩き回る時覇。

 階段を上ったり下りたり、廊下ですれ違うメンバーに挨拶したり、時には手伝いをしたり。

 時折、部屋に入って、どんな部屋か確認していった。

 ただ、危うく女性更衣室に入る所であったが、ギリギリで気がつき、難を逃れることができた。

 そんな事を繰り返しながら、探索を行っていた。

 

 

 

 

 

 シグナムは、ベッドの上で自分の手を見ていた。

 

「……そんなことをしたのだ、私は」

 

 愕然とした言葉だった。

 一種の喪失とも言える。

 よく病室には、ベッドの横に小さな引き出しが置いてある。

 その上に、待機モードのレヴァンティン。

 

“主……今は”

 

 主を想い、声を掛けるが、

 

「ごめん、レヴァンティン」

 

 それだけ言ってベッドに倒れこむ。

 そこで扉は開いた。

 シグナムはそれに反応し、再び起き上がる。

 

「あれ?」

 

 知らない男が間抜けな声を上げた。

 白衣を着ていない事から、定期健診とやらではない事は一目瞭然。

 だが、彼を知っている。

 でも――

 

「どちらさまですか?」

「ああ、あの時の」

 

 その言葉に、シグナムは眉を顰める。

 

「桐嶋時覇です。時覇で構わないので」

 

 と、ベッドから50センチくらいの位置で立ち止まる。

 そこで会話が無くなった。

 

 

 

 

 

 何を話せばいいのか判らない。

 何を言えばいいのか判らない。

 何とも言えない空気が漂い始める。

 大抵はここで第三者の乱入によって話は進むのだが、現実とは厳しいものである。

 長引けば長引くほど不利になる。

 故に意を決し――

『あの』

 同時に言った。

 二人とも黙り、さらに気まずくなる。

 切り出し口は、更に狭まった。

 さらにまた被れば、これこそ第三者の救いが必要になってくる。

 そして、自然とシグナムの相棒――レヴァンティンを見る。

 シグマムもそれに釣られて、待機モードのデバイスを見る。

 レヴァンティンにしてみれば、いい迷惑である。

 だが、主のシグナムの視線が痛いので、仕方なく発言することにした。

 

“はい”

 

 これだけである。

 ハッキリ言って、逆効果である。

 返事の『はい』の一言で、どう繋げと?

 この考えは、二人の脳裏を過ぎる。

 時覇とシグナムは、期待外れの出来事に思わず同時にため息をついた。

 そこでハッと互いの顔を見て――笑った。

 そして、改めて言った。

 

「時覇だ」

「シグナムと言います」

 

 笑顔で名乗り合う。

 

「で、何を話すか……」

 

 とにかく話題が無かった。

 受け止めたのは彼女で間違いは無い。

 だが、あの時の雰囲気とは、どこか違うものがあった。

 しかし、その感は当たっていた。

 

「そうですね……出来たら、私自身の話をして貰えませんか?」

 

 その言葉に、面を食らった。

 

「へ? シグナム自身の話?」

 

 何故聞く必要がある。

 自分自身の事は、だいたい自分が知っている。

 確かに知らない人間もいるが、無意識に感じ取っている者もいる。

 しかし、時覇は知らない。

 いや、名前すらさっき知ったばかりなのだから。

 

「私は、どうやら記憶喪失というものを患っているらしくて」

 

 それを聞いた途端、時覇は渋い顔をした。

 どうやら自分は、厄介ごとに直面してしまった。

 だが、これの出逢いが、己の運命を大きく左右する出来事の一つになるとは、まだ先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第七話:分岐点(前編)・END

 

 

 

次回予告

悩み、どうするべきか答えを見つけられずにいた時覇。

だが、紅の女神の事もあり、条件付で訓練を受ける。

そして、才能と可能性を開花させていく。

だが、その頃管理局では……。

 

 

ラギュナスサイド編

第八話:分岐点(後編)

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 少し短いけど、第七話完成。
 ほのぼの&シリアス。
 次回も同じ感じです。
 しかし、第九話目からは、激戦となっていきます。
 管理局の傲慢な対応。
 管理局も管理しきれない部隊。
 過剰な正義と大儀同士のぶつかり合い。
 無関係な人々は巻き込まれ、ラギュナス壊滅のためには手段を選ばす。
 新暦が作り出した秩序の崩壊。

 もう、後戻りは出来ない。
 ハッキリ言って、もう『魔法少女リリカルなのは』とは、かけ離れた物語。
 しかし、この物語を語らずして、日記(2007/4/5)に書いてある第三部は語れない。
 ので、とにかく理不尽の容赦ない雨嵐が、なのはたちに降り注いでいくので。
 読むときは、お気をつけて。

 では。






制作開始:2007/4/2~2007/4/6

打ち込み日:2007/4/6
公開日:2007/4/6

修正日:2007/9/27
変更日:2008/10/24


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第八話:分岐点(後編)

時は流れ
青年は経験を糧に、強くなる
仲間の為、友の為……
愛すが者を守るために


 

 

「記憶喪失、か」

 

 それを聞いた瞬間、実際あるのかと思った。

 楽あれば苦あり。

 一寸先は闇。

 先人が残した言葉は、これからの人生を歩む人間にとっての助言とも言える。

 しかし、前途多難と言うべきか。

 あー、という感じで、視線を天井に向けた。

 人生色々と言うが、こんな漫画の様な経験をすることになるとは。いや、すでに魔法に関わっている時点で、経験済みといえるなどと思う時覇。

 

“記憶喪失は――”

「いや、上辺程度なら知っているから」

 

 レヴァンティンの説明を、容赦無く叩き落とす。

 確かに詳しいことは知らない。

 だが、漫画とかでは、よく自分の名前以外忘れる事。

 一般常識の知識が覚えているか、いないか。

 場合によっては、特定の物、出来事などを見せてり聞いたりすると、良い場合、駄目な場合がある。

 しかし、実際は記憶喪失の立証は難しく、疑わしい場合もある。故に、医師に見せても判断しかねるケースもある。

 それでも、この場合は――

 

「担当医でも呼ぶか?」

 

 一応、専門医を呼んで、判断を受けるべきである。

 

「いやえ、大丈夫です。彼方が来る前に、見てもらいました」

「そうか」

 

 つまり、専門医の診断の結果という訳である。

 

「……ごめん、俺が知っているのは、アンタがシグナムと呼ばれている事と――」

 

 時覇は、今の時点で知っている事を話した。

 

「――だけなのだ」

 

 多少チグハグな説明ではあるが、自分の知っていることは全て伝えた。

 出会いから、自分が今日まで知った事まで。

 

「確かに、レヴァンティンから聞いた話とは、食い違いがありますが」

“特に時空管理局の辺りが”

 

 鋭いメスの如く、レヴァンティンから補足が入る。

 

「見方を変えれば、な」

 

 それをカウンターで返す。

 物一つとは言え、見方を変えれば意味も変わる。

 たとえばスコップ。

 本来は、地面や山を掘るために生み出された道具。

 だが、掘るのではなく、殴るのに使ったら鈍器と化す。

 打ち所が悪ければ、凶器にもなる。

 このように、見方で世界は変わる。

 

「しかし、彼方はこれからどうしますか?」

 

 シグナムは問いかける。

 その言葉に――

 

 

 

 

 

『今すぐやってくれとは言わない。だから、少しだけ考えてはくれないか?』

 

 

 

 

 

――脳裏にロングイの言葉が過ぎる。

 強制ではない言葉。

 しかし――桐嶋時覇という存在を、認めてくれた存在、恩師と言っても過言ではない。

 だが、苦笑した。

 

「今、それを悩んでいるのだよ、俺」

 

 そのまま壁際に置いてある椅子を取って、際ほどまで立っていた場所に置いて座る。

 それでも、言葉とは裏腹に、心は決まった様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第八話:分岐点(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二ヵ月後の訓練開始、一時間前。

 本局に設けられた、時覇の部屋で装備確認をしている時に、不意に二ヶ月前の出来事を思い出した。

 レニアスレルナスと初めて馬鹿をやった日。

 ロングイに認められた日。

 シグナムとの出会いの日。

 自然と笑みが零れる。

 

“どうした?”

 

 右手袋の甲が光る。

 

「なんでもない。ただの思い出し笑いだから」

 

 右手袋の甲――デバイスに言う。

 

“そろそろシグナムが来る頃です。お急ぎを”

 

 左手袋の甲――デバイスが言う。

 ロストナックル――通称ロスナと名づけられた、ロストロギアのデバイス。

 両手で一組となっている。

 愛称、ドゥシン's。

 名前の由来は、地球の古い歴史にあった神の名前。

 正確には、サポテカ(西暦600年頃まで、現在のメキシコ南部太平洋岸地域に栄えていた文明)神話に出てきた神の名前。

 正式名は、ドゥシン。死と正義の神、ダンの使徒とも言われているらしい。

 ケド、正義の神。コキ・ベセラオの化身とも言われる。

 ドゥジェト、死の神。

 そして、ケドとドゥジェトの前に、ドゥシンを付ける。

 よって、右手――ドゥシン・ケド。

 左手――ドゥシン・ドゥジェト。

 右は正義を貫き、左は死を振りまく。

 そうして名づけた、デバイス。

 そのデバイスに手を通しつつ、再び二ヶ月前のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 それから、シグナムと話し合い、記憶が戻るまで手伝いをして貰う事になる。

 それを聞いたロングイは、『一緒にいたほうがいいだろう』との事で、タッグを組むことに。

 そして――完治したシグナムと、いつの間にか参加していたレニアスレルナスのおかげで、サイラ式は完成。

 ロングイの指導の下、身体能力向上。

 レニアスレルナスからは、魔法の制御・得意魔法の模索、開発。

 シグナムとは、実戦同様の戦闘訓練を行っていた。

 成長は遅いものの、確実に一つ一つこなして行く時覇。

 時折、シグナムやレニアスレルナスからアドバイスを貰い、自分なりに解釈した結論をロングイに尋ねる。

 そして、実戦。

 そんな日々の繰り返しが続いているが、今までに無い充実感があった。

 魔法に触れたことなのか、変わりつつある自分自身への自信か。

 まだ判らない。

 ただ、一つ言えること。

 俺の居場所は、ここである。と。

 

 

 

 

 

 そう考えているうちに、扉が開く。

 時覇が顔を向けると、そこにはシグナムが立っていた。

 

「ああ、シグナム」

 

 マイペースで作業を進めながら、問いかける。

 

「時覇……そろそろ行かないと、レルナが」

 

 オドオドした声で言いつつ、顔が青いシグナム。

 その台詞に、脳裏にフラッシュバックが起こる。

 そして、体全体を振るわせる。

 

「い、いい、いこう! 理不尽な粛清は嫌だ」

 

 震えながら部屋を後にするのであったが、結局、粛清は行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時覇だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時覇!」

 

 紅い何かが叫んだ。

 時覇は声の方を向く。

 紅い――女神と目線が合った。

 

「シグナム!」

 

 そのままシグナムに受け止められ、崩れ行く建物から脱出する。

 ちなみにお姫様抱っこで。

 しかし、敵機の砲撃は止む事は無く、二人に降り注ぐ。

 が、シグナムは崩れ行く建物の瓦礫の破片を盾に、上手く降下していく。

 

「…………」

 

 この状況に渋い顔をする時覇。

 

「どうしたのですか?」

 

 真剣な顔付きでありつつも、心配の声を上げる。

 

「あとで話す」

「わかりました」

 

 地面に降りた瞬間、時覇はシグナムから降りて、自分の足で離脱する。

 シグナムも時覇の後を追いかける様に離脱していく。

 土埃が舞い、砲撃は唸り上げていたが、目標をロストしたのか、途中で音と爆発が止んだ。

 走り続け、ちょうど良い非難場所――頑丈な壁の後ろに回り込み、体に魔法を掛ける。

 使用魔法は、念の為の身体強化と埃が目や口などが入ってこない様にするモノ。

 シグナムにも使う。

 サイラ式ならではの産物魔法である。

 開発過程で、偶然生み出した魔法であり、ミッド式、ベルカ式には無い特有の――変わった魔法が使える事に気がついたのだ。

 当初は先代の長の様に、戦闘重視の魔法を開発していたのだが、ここで問題が発生した。

 式に異常は無いのだが、極端過ぎる魔法式と判明したのである。

 よは、攻撃に特化すると、防御がほとんど出来なくなる。

 防御に特化すれば、スピードがほとんど無くなる。

 素早さに特化すれば、攻撃、防御が低くなる。

 古典的な理論だが、ここまで来ると使い勝手が難しくなる。

 そして、大雑把に比較すると、以下のように表せる。

 ミッド式――汎用性、あれこれ学び、状況に応じて使う。

 ベルカ式――至近戦特化、身体・武器強化が主。

 サイラ式――完全特化、完全に一つの分野に特化する。

 この結果から、ジャンケンに例えるなら、片方には勝てるが、もう片方には負ける。

 チョキを出しっぱなしにすれば、パーには勝てるが、グーには勝てない。

 そこで、チョキから違うのに返ればいいと考えるが、それができないのである。

 射撃が得意な者でも、対策として嗜み程度の接近戦の技を一つくらいは持っているはず。

 だが、サイラ式はそうは行かない。

 どれかに特化すると、式が自動的に短縮され、他の式の計算を難しくしてしまうからである。

 簡単に言えば、癖になっている。

 子供の頃から、じゃんけんでチョキばかり出していれば、大人になってやると、一番目はチョキを出しやすい。又は出してしまう。

 それに気がついて直そうとしても、癖を直すのは難しい。

 この結果から、使いこなせないのではなく、使いにくいからだと推測だった。

 しかし、時覇はサイラ式をあえて選んだ。

 使いこなせる自身がある訳ではない。

 だが、自分自身が始めて魔法というモノに触れ、手助けがあったものの自分の力で完成させたモノだから。

 それから一ヶ月間、訓練とデータ収集を行っている。

 話は戻り、煙が次第に晴れてくる。

 そこで時覇が、

 

「さっきの何だが」

「ああ」

「どっちが男なのか判らないな、と」

 

 失言だった。

 苦笑しながらシグナムを見ると、目が潤んでいた。

 

 

 

 

 

『――いや、ごめんシグナム! 別に男女という意味じゃなくて!』

『別に気にしていませんので』

 

 モニター越しからでも、涙声が良くわかる。

 

「何をしているのだ、あの馬鹿は……」

 

 コメカミを押さえずにはいられないロングイ。

 それに対して、レニアスレルナスは、

 

「……再教育しないと」

 

 ウキウキと目が輝いている。

 完全に自分好み色に染める勢いで。

 それはもう子供が、裏が白い広告のチラシを見つけた時の心境の如く。

 これには、ロングイもさすがに引いた。

 と、言うよりも、トラウマがそうさせる。

 

「それはそうと――夫婦喧嘩は、そこまでしなさい」

 

 見飽きたのか、いい加減仲裁に入る。

 

『誰が夫婦だ! まだ結婚はしてないぞ!』

『その通りです! 言葉はきちんと使わないと!』

 

 モニター越しのレニアスレルナスに、顔を同時に向ける二人。

 否定の言葉も、打ち合わせしていたのかと言うほど、間が無いほど綺麗に繋がっている。

 

「…………」

 

 口を尖らせ、頬を膨らませるレニアスレルナス。

 

「嫉妬か? 焼くな、焼く――」

 

 言っている途中で、その場に倒れこむロングイ。

 時折痙攣らしき震えを起こす。

 そして、両手は……男の大事な、大事な部分を押さえて。

 しかし、レニアスレルナスは座ったままである。

 簡単に言えば、魔法である。

 威力が弱い射撃系で、非殺傷モードにして打ち込んだのだろう。

 正直、威力が弱くても男には、キツイ一撃である。

 

「いいからとっとと戻ってきなさい!!」

 

 鬼の様な鏡像で、二人に怒鳴りつける。

 

『はっ、はい、ただいま!』

 

 二人は驚きと恐怖に震えながら、大慌てで敬礼する。

 恐怖政治がしっかり根付いたことに、内心喜びを感じた。

 暴力による肉体的ではなく、精神面。

 しかし、刷り込みとかではなく。

 シグナムの場合――色んなコスプレ、着せ替えをさせられる。

 時覇の場合――レニアスレルナスの特別授業。

 これを語るのは別の話である。

 

「まったく……起動、停止、っと」

 

 キーパネルを操作しながら言う。

 これで、各機体の停止が確認される――はずだった。

 警戒音が鳴り、ランプは赤が点滅――それは、第一級緊急警戒である。

 自動的にモニターが表示される。

 

『第一級緊急警戒発令! 第一級緊急警戒発令! 実戦用自立稼動兵器、格納庫第0番より、緊急要請あり! 繰り返す――』

 

 実戦用自立稼動兵器、格納庫第0番。

 そこには、今月末にも解体処分が決定された機体――『デストロイ』。

 『アギト』と呼ばれたロストロギアのインテリジェントデバイスを元に、開発された試作機動兵器。

 大きさは、2メートル50センチ。

 ドラゴンを模様した顔に、人間のようなスマートな体。

 足は、恐竜の王・ティラノサウルスが元になっている。

 AMF――アンチ・マギリング・フィールドを標準装備。

 各武装には、新暦に入って以来禁止となっているモノを装備。

 完全制圧用に開発された、禁断の兵器。

 それが保管されている場所からの、緊急要請。

 素早くキーパネルを叩き、通信ラインを繋ぐ。

 

「聞こえるか! 誰か!」

 

 その問いに、モニターが開かれる。

 

『こちら、第0番格納庫!』

「状況は!?」

『はい! 解体処分のデストロイが勝手に起動して――』

 

 爆発音。

 

『うわぁぁぁぁぁぁ――』

 

 その衝撃で、通信していたメンバーが吹き飛び、モニターが砂嵐に変わる。

 そして、ブラックアウト数瞬後、回線遮断の字が映る。

 

「行くぞ、レニアスレルナス」

 

 いつの間にか復活し、バリアジャケットに身を包んだロングイがいた。

 だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

「了解!」

 

 今、運命の歯車が動き出す。

 絶望へ誘い、新たなる時を動かすために。

 

 

 

 

 

「――協議の結果、ラギュナスの完全討伐を決行する」

 

 リーダー格の老人が言った言葉だった。

 部屋の中央に円卓のデスク。

 そのデスクに13人座っている。

 男8人、女5人。

 座っている人は、どれも60、いや、70代後半。

 管理局の服装、そして、腕章からして提督のしかも一部の者にしか与えられていない階級。

 ここは、時空管理局極秘会議室・円卓の間。

 本来、ラギュナスは時空管理局の黒の正義と呼ばれた、黙認された非合法集団。

 今まで従順に従っていた連中だったが、ここへ来て反逆の狼煙を上げてきた。

 確かにソリが合わず、幾度と無くぶつかり合ったが、今回は異常である。

 ここまで話し合いで解決できたのだから。

 しかし、何の通達も無しに起きた出来事。

 当初は混乱を来たしたが、今回の件で良い口実が生まれた事に、全員気がついたのだ。

 旧暦の遺産ともいえる非合法黙認組織、ラギュナス。

 旧暦の時はともかく、今は新暦。

 旧暦の愚かな歴史を繰り返さない。

 その為には、今日まで黙認してきたラギュナスという異物を掃除しなければならない。

 

「で、どこの者に片付けさせるかだが……ハラオウンの所はどうだ?」

「あそこは無理だ、負傷者が出ている」

 

 リンディと関わりのある老人の一人が言った。

 

「仕方が無い……特殊機動部隊を出そう」

 

 リーダー格の老人は、手早く言った。

 その言葉に、一同は強張る。

 彼は性格上、こういう事は的確にかつ早く進めるために、妥当な提案を述べる。

 が、余りに的確すぎるかつ、個人的意見が強いとの事で保留状態のまま話が進む。

 だが、結果的に彼の案になってしまうのが大半である。

 

「それは危険すぎるのでは? 無差別破壊を行う可能性がある部隊だぞ」

 

 リーダー格の隣に座る老婆が意見する。

 

「しかも、色々嗅ぎ回る節もある。危険すぎる」

 

 それに上乗せするように、次々と反対意見、結論の急ぎすぎと声が上がる。

 それもそのはず、公式の制圧部隊。一種の軍隊とも言える部隊。

 しかも、多次元世界からも批判の声が上がっている。

 理由は、彼らの行いは無差別破壊に近い制圧行動に、下調べの際、徹底的にやる為、プライバシーもお構いなし。

 そして同時に、上層部も手を焼いているほどだが、それでも実績を上げているので、余り強くは言えない。

 危険だが、頼もしい。

 それが、特殊機動部隊である。

 故に、円卓に座る12人は、彼らを動かすことに抵抗がある。だが、

 

「だが、奴らに対抗できる部隊が、他にあるとでも?」

 

 この一言に、12人は沈黙した。

 アースラの面子が動けないのなら、今すぐ動かせる部隊は彼らのみ。

 どちらにしても、彼らが動くことには変わりないからである。

 

「……そう思い」

 

 一人の老人が声を出す。

 それに全員が顔を向ける。

 

「勝手ながら、命令を出しておきました」

 

 その言葉に、円卓の間は騒がしくなった。

 

「なんて事を……あの部隊の扱いは、慎重に行わなければならないというに」

「そうだぞ。単独で命を放つなど」

 

 一人の単独行動に、非難が殺到する。

 しかし、リーダー格の老人は、一声も上げない。

 むしろ、何かを考えている。

 

「場合によっては、調度良いかも知れん」

 

 非難の言葉の中、そんな言葉が出てきたので、ピタリと静まる。

 

「その命は?」

「極秘命令です。後が付かないよう、命令書も何もありません。ただの口約束みたいなモノです」

「モニターを使ったのか?」

「ええ、自分で作った単位デバイスのモニターを使って。既に粉々に砕き、何分割にして多次元に巻きました。復元ができるロストロギアでも、全ての粉が集まらない限り、不可能です」

「そうか」

 

 リーダー格は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第八話:分岐点(後編)・END

 

 

 

次回予告

ラギュナス本部に戻った、時覇とシグナム。

しかし、そこは既に戦場の後だった。

異臭が全体を多い、生きた人間はいなかった。

だが、ある場所から生命反応があったのだが……

 

 

ラギュナスサイド編

第九話:死別

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 シグナムの口調が違うだろ!
 と、殴りかかりたい衝動に駆られた方、落ちついてください。
 管理局では、偽りの記憶喪失ですが、こちらは完全に本物の記憶喪失です。
 故に、口調や性格が違くなるのは必然かと。
 そこは暖かく相愛で――ぐばっ!(殴られる)

 ごふっ、ごふっ――ごばっ!

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……失礼。
 所で、なのはストライカーズ放送開始され、今週で第二話目。
 こっち方面は金曜日なので、生殺し。
 見たいよ~、見たいよ~、『生まれたての風』のリュウさんのSSも読みたいよ。

 で、今回は管理局汚点武装集団部隊、登場。
 上層部ですら、動かすのを躊躇う危険な部隊。
 前々から言った通り、次回から死人が続出します。
 手始めにメンバーから。
 そして、10話目で主人公が変わる出来事が……起きないですが。
 起こす前に、シグナムを……。
 ネタバレなので伏せます。

 では次回会いましょう。



 っーか、あとがき長くなってきたな。
 ネタバレに近いもしくはネタバレ言ってるし。(汗






制作開始:2007/4/6~2004/4/11

打ち込み日:2007/4/11
公開日:2007/4/11

修正日:2007/9/27
変更日:2008/10/24


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第九話:死別

人は嘆き、怯え、絶望する
世界は理不尽の塊
世界は血に染まる
世界は混沌を望まん……


 

 

 

 二人が立つ場所は、ラギュナスの本部全体が見える高台。

 レニアスレルナスに帰還命令を受け、戻ってきたばかりである。

 いつもなら、理不尽な粛清を避けるために、一刻も早く本部へ戻るのが恒例であった。

 だが、今日は違った。

 高台の上に固まるように立っていた。

 

「なんだよ……これ」

 

 時覇は唖然としながら言う。

 

「…………」

 

 横にいるシグナムは、動揺からか言葉が出てこない。

 今、二人の目の前に広がるは、戦場の後。

 鉄の焦げた臭いが散漫し、あちらこちらから煙が上がっている。

 場所によっては、火が上がっている。

 いる場所が場所だけに、詳しいことは判らない。

 動きたくても動けない。

 それほど二人には衝撃的な光景であるほど。

 しかし、その均衡を崩す。

 

“時覇、生命反応だ!”

「! どこだ!?」

 

 右の甲――ドゥシン・ケドを顔の前に持っていく。

 

“格納庫の密集地からだ。詳しくは、ついてから言う”

「シグナム!」

 

 左を向く時覇。

 

「ええ!」

 

 その言葉に頷くと同時に、時覇を抱え空へ舞う。

 途中、風に混じって肉の焦げた臭いがする。

 臭いが濃い方へ顔を向けると――黒焦げ、腕、上半身、下半身だけになったラギュナスのメンバーの遺体が転がっていた。

 

「――――」

 

 吐き気が襲い、素早く口元を押さえた。

 胃の中のモノが喉辺りまで出てきたが、同胞の亡骸が転がっている場所で吐くわけにはいかない。

 この場は何とか堪える。

 

「大丈夫ですか?」

 

 シグナムの問いに、頷き返すことしかできなかった。

 ただシグナムの方は、記憶喪失とはいえ感覚的に慣れているのか、顔色一つ変えることは無かった。

 しかし、どこかやるせなく、悲しい顔つきだったのは印象的であった。

 そして、ドゥシン・ケドが指定した場所――格納庫の密集地へついた。

 だがそこが、一番被害が多き場所であった。

 数多くあった格納庫――地下も含め――のほとんどは原型を留めてはいなかった。

 唯一、原型を保っていたのが5つほど。

 五つの内二つは、半場崩壊気味。

 残りの三つの倉庫は、ギリギリのバランスを保った状態で残っている。

 建築にうといド素人でも危機感があれば、日が経てば自然に倒壊は必然だと見てわかる。

 そんな中、数ある完全に倒壊した倉庫の一つの前に立つ。

 

「瓦礫、しか見当たらないが……ここなのか?」

“ああ、間違いなくこの地下から反応がある”

 

 しかし、それらしき入り口は無い――以前に、建物自体が瓦礫と化している。

 そして、探索魔法で検索を掛けようとするが、シグナムに止められる。

 

「手探りで探すしかないですね。確か、この倉庫は試作として壁などの材質にAMFを取り入れていたとか」

 

 よって、手探りで探すことに。

 

「……手早くやるか」

「ええ、二手に」

「了解」

 

 時覇は右へ、シグナムは左へと別れた。

 だが、見渡す限り瓦礫、瓦礫、瓦礫……瓦礫の山もどきしかなく、手早くと言った割には中々進まない。

 瓦礫を退かす――何も無い。

 また退かす――何も無い。

 さらに退かす――何も無い。

 の、エンドレス。

 おかげで、この作業だけで三十分は無駄にした。

 ただ、その三十分の全てが無駄になった訳ではない。

 地下に繋がる道は見つからなかったが、いくつかデータや資料を見つけることができた。

 その場で確認しようとしたが、今は地下にある生命反応を最優先とし、懐やポシェットに詰め込んでいった。

 シグナムも、両腰にあるポシェットに見つけた物を詰めていく。

 それを繰り返して、十分後――瓦礫を退けると、不自然な壁と出会う。

 

「ん? これは……」

 

 目先にあるのは、黒焦げになった壁。

 しかし、その焦げ目から真新しい銀色のモノが僅かに輝いている。

 気になって黒焦げの部分を掃うと、銀色のダイアルとその上にランプらしきものがあった。

 一瞬悩み、

 

「シグナム! ちょっといいか!?」

 

 呼ぶことにした。

 さすがに、一人で決めるのは危険と判断する。

 トラップだった場合、ケガをしてはシグナムに心配を掛けるからである。

 シグナムは、すぐ飛んできてくれた。

 時覇は、ここと指差す。

 

「これは……ダイアルか?」

「見るからにダイアルっぽいけど、な……」

 

 そこで、シグナムはダイアルを回した。

 

「って、おい!?」

 

 驚愕する時覇。

 さすがはヴォルケンリッターの将であり、器量のでかい肝を持った戦士――騎士である。

 ダイアルを回すと、上に設置されていたランプが点灯し――ガコンという音が聞こえた。

 

『え?』

 

 無論、真下から。

 地面が抜ける――重力の法則が発動。

 重力の法則とは、多少違うが簡単に言えば、上のものが下へ落下する事。

 結論――落下。

 二人とも、瓦礫と共に。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――……!!』

 

 辛くも……問答無用で落ちていった二人。

 落ちた穴の底は深く、奈落の落ちる錯覚を起こす暗さ。

 光は、まだ見えない。

 これから起こる出来事を、示しているかの如く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その先は破滅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、まだまだ先のお話。

 ふふふふふぅ、あぁはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ、ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ、はぁはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ、ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狂った声が、闇に響き渡る。

 ただ残るは、狂いきった笑いと笑みのみ。

 運命の歯車は、ついに狂い始める。

 滅びという名の結果は、けして覆すことはできない道を、歩まなければならない。

 この結果を覆す事は、すでに無くなっているのは確かである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第九話:死別

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあああああああああああああっ!?」

「おわぁあああああああああああああっ!?」

 

 それぞれの雄叫びを上げながら落下していく、シグナムと時覇。

 シグナムは時覇を抱き寄せると、飛行魔法を展開するが――ガラスが砕けた様な音を上げながら、無効化されてしまった。

 

「な!? レヴァンティン!」

“原因判明。この空間と壁にATFと同質のモノを感知しました”

 

 その言葉に、シグナムは歯を食いしばる。

 だが、時覇はあきらめなかった。

 今度は、時覇がシグナムを右手で抱き寄せ、落下方向にある頭を起こして、アンカーを射出する。

 しかし、アンカーは壁に突き刺さることなく、弾かれる。

 

「くそが! ――魔のカギ爪!」

 

 空いている左手の甲から、物理と魔力で構成されたカギ爪が飛び出る。

 しかし、魔力の光は頼りなく輝くが、気にしている暇もない。

 よって、そのまま力強く無造作に突き立てる。

 またしても弾かれる。

 だが、諦める事なく壁に擦り付ける。

 これで、多少は落下速度を、気休めだが軽減できる。

 

「時覇、大丈夫ですか!?」

「問題ない! っと、断言したいところだが、魔力が余り持たんかもしれん」

 

 額に汗を浮かべながら答える。

 時覇の魔力の質は、集約と放出に向いており、固形化のみあまり向いていない。

 ただ単に不得意なだけで、固形化を維持する魔力の消費量は、普通の魔導士より若干高いだけである。

 尚且つ、AMFの効果があるため、消費率は倍以上掛かっている。

 

「ちぃ! どこまで続いているのだ、この穴は!?」

 

 毒を吐く時覇。

 落下しながら、鳴り響く壁が擦れる音。

 だが、正論でもある。

 この穴に落ちてから、彼此三分以上は落下しているのである。

 したがって、1秒辺り2メートル落ちた場合で計算すると――すでに、360メートル以上落下している。

 もっとも、落下速度や重力の法則、落下物の重さなどの計算などもしなければならないが、簡単に表すと上の文になる。

 

“……そろそろ終点みたいですね”

 

 ドゥシン・ドゥジェトが、呟くように言う。

 

『 !? 』

 

 ハッとなる二人。

 

“しかも、ありがたいことにAMFの影響がないぞ”

 

 今度は、ドゥシン・ケドの朗報。

 

「だったら――」

 

 その言葉に同調するように、カギ爪の輝きと魔力が増し、壁を抉る力も増す。

 抉る音も鈍くなり、減速率も僅かずつだが確実に上がっていく。

 そして、落下先に僅かな光が見える。

 どうやらそこが、この穴の出口だとわかった。

 

「シグナム、飛行よろしく!」

「はいっ!」

 

 時覇は腰から肩に腕を回し、シグナムは腰へ腕を回した。

 壁を抉りながら落下――穴から出て、壁からカギ爪が強制的に外れる。

 正確には、抉りきった。と、言った方が適切だろう。

 そこで、シグナムの飛行魔法、発動――するはずだった。

 

『なっ!?』

“いい!?”

 

 全員――デバイスも含む――予想外の出来事に、驚きを表した。

 ドゥシン・ケドの答えは、確かに当たっていた。

 現に、『魔のカギ爪』の魔力は、先ほどとはうって変わって、しっかりと輝いている。

 ならば、どうして発動できないのか?

 答えは簡単である。

 

「げっ、壁の粉」

 

 そう、先ほどまで抉っていた壁の粉が、周りに浮遊しているのである。

 どうやら、『抉った』事が拙かった。

 それに気がつき、シグナムは時覇を涙目で見、レヴァンティンは怒りのオーラをあらわにする。

 最後に、ドゥシン'sは――我が子の失態を恥じるかのように、押し黙る。

 既に、レヴァンティンには謝罪済みである。

 で、足と頭がひっくり返る。

 そして、シグナムは時覇を抱えるように、頭を胸に押し付ける。

 

「レヴァンティン、甲冑を!」

“パンツァーガイスト”

 

 全身魔力に覆われるシグナム。

 次の瞬間――衝突音と砂埃が舞い響く。

 

 

 

 

 

 少し時間を遡り――倉庫の地下。

 正式名は、第一級及び特級兵器処理・待機用極秘地下倉庫。

 そこに、レニアスレルナスが仰向けになって倒れていた。

 先の戦闘で、右足は消し炭となり、左足は引き裂かれ、左腕は瓦礫に潰された。

 辛うじて残ったのは、血まみれの右腕のみ。

 体は血まみれ、肺には棘が刺さっている。

 未だに生きていることが不思議な状態である。

 

「ぐっ、がぁ……はぁ、はぁ――」

 

 肺をやられ、呼吸が難しい。

 出血も酷い。

 助からない。

 たとえ、助けが来たとしても。

 すでに、致命傷にも関わらず、意識がハッキリしている。

 これが、死への拒絶の本能なのかと悟る。

 まぶたが次第に重くなってきた。

 ゆっくりと目が閉じられようとした時、天井から削れる音が響いてくる。

 次第に音は大きくなり、粉や欠片がポロポロ落ちてくる。

 一分。

 二分。

 一秒一秒が、一分と錯覚するほど長い感覚が襲う。

 何が来る?

 何が落ちてくる?

 敵?

 味方――その考えは捨てる。

 ここの場所は、あの二人には教えてないのだから。

 ならば――死を受け入れることにした。

 これ以上、苦しみたくない。

 これ以上、情報は与えない。

 これ以上、惨めな姿を晒したくはない。

 音は次第に大きくなり、仕舞いには抉れる音が聞こえてくる。

 でも、姿を確認してからでも遅くは無い。

 最後に面を拝まなくては、未練が残るというもの。

 だから、いつでも舌を噛み切る準備をする。

 さあ――来い!

 次の瞬間――衝突音と砂埃が舞い響く。

 砂埃は次第に晴れ、人影が浮かび上がる。

 …………え?

 

「時覇? シグナム?」

 

 呼吸も難しいはずにも関わらず、間抜けな声を上げるレニアスレルナス。

 

「げほっ、げほっ……レルナか?」

 

 せき込みながら、砂埃を振り掃いつつ現れる時覇。

 続いてシグナムも、レヴァンティンで振り払いながら現れる。

 

「レルナ、だいじょ…………」

「そうしたのだ、とき、は…………」

 

 どうやら、私の姿を見て驚いているらしい。

 当たり前か。

 

「あら……遅い、お帰りじゃ、ないの? ご両人」

 

 右腕を上げながら、にこやかに答えた。

 

「レルナ!」

「レルナスさん!」

 

 瓦礫の山を飛び越えながら、私の近くに駆け寄ってきた。

 ホント、元気のいい二人ね。

 

「今回復を! シグナムもた――」

 

 私は時覇の手を握り、首を横に振った。

 助からない。

 アイコンタクト紛いな事をする。

 時覇の顔をぐちゃぐちゃになり、声を上げて泣く。

 シグナムも、目元を赤く晴らして泣いている。

 私が男だったら、駄目男ね。女で良かった。

 

「れるな、いっ、だい……」

「泣か、ない……ちょっと、廃棄する物が、暴走して、ね。止め様としたら……この様よ」

 

 残っている力を使って、時覇の頬を撫でる。

 あ、血が付いちゃった。ごめんね。

 私の手をそっとやさしく握ってくれる。

 私は微笑み返し、シグナムの方を向いた。

 

「しぐなむ……散々振り回して、ごめ、んね?」

 

 そんなに激しく顔を横に振らなくても。

 

「帰る場所、アナタにはあるのよ? ……いい、かげん、帰りなさい」

「……時空、管理局」

 

 その言葉に、私は頷いた。

 

「――――――――! ――――――――!」

 

 講義の声を上げる訳ね、シグナム。

 しかし、何言っているの?

 聞こえないよ、そんな声じゃ。

 え、違うって?

 ああ、そうか。

 私の耳が壊れちゃったのね。

 もっとキチンと、声を聞きたかったな。

 あはは、そんな顔をしないで。

 私に、二人の笑顔を見せてよ、ね?

 最後のお願いくらい、素直に聞いてよ。

 ……そう、その笑顔。

 シグナムも、もっと笑ってよ。綺麗なのだから。

 ふふ、二人とも……自分の道は、自分で決めなさい。

 体勢も、大儀も関係無い。

 自分で進むことが大切なのだから。

 もう……最後みたいね。

 迎えが来たから。私の可愛い部下たちの迎えが。

 最後に、私が使っていたデバイス……時覇、アナタに上げる。

 アナタの手助けになるかもしれないから。

 そして、シグナム。

 記憶喪失でも、アナタには本当に帰るべき場所がある。

 そこへ、帰りなさい。

 ……二人とも、反論は許さないからね。

 これは、上官としての最後の命令。

 嫌だ? 困らせないで。

 お願い、未練は残したくないの。

 ……ごめんなさい。本当に。

 そして――さようなら、ご両人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行くわよ! 天国でも、地獄でも、私たちは自分の意思で進むのだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レニアスレルナスの体は、光となって消えた。

 二人の――最後の部下であり、親友に見守られながら。

 笑顔で送り、光となり消えた途端――大きな泣き声が地下倉庫を通り越し、外の倉庫あとまで響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ暦70年9月中旬。

 レニアスレルナスという女性は、この世から姿を消した。

 死亡原因――大量出血及び、肺に刺さった棘。

 犯人――不明。

 原因――廃棄処分機の謎の暴走。

 しかし、後に暴走の原因が判る。

 時空管理局特殊部隊の工作局員が潜入し、操作したのだと。

 それを時覇が知るのは、同年12月初頭の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第九話:死別・END

 

 

 

 

 

次回予告

死んだ

友も、仲間も、居場所さえも……奪ったのはお前たちか?

ならば――奪い返すのみ!

帰ってこない事だと判っていても、貴様らだけは許さん!

 

 

ラギュナスサイド編

第十話:死合

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 まず、また前回の予告書き換えました。(汗
 使用上の都合ではなく、何故かこの話へ。(号汗
 で……書いといて何ですが、少し重い。
 書いていて、胸辺りに違和感を覚えました。
 今もそうですが。
 多分、これを読むたびに違和感が再発するかも。
 本当に酷い有様です。
 いくらなんでも、ここまで酷い扱いは、家くらいでは無いでしょうか?
 管理局……暗躍しすぎ。
 他のサイトでは、ハッピーエンドだったのですが、こちらはバットエンド直球コース。
 これは確定事項です。
 で、次回は、特殊部隊との戦闘です。
 バリバリ人が死にます。
 グロくなるように、頑張って書いてみます。
 あまりグロくなくても相愛で。
 苦手なのです、グロテスク系統。
 じゃあ、書くなって? 書かないと、続けられないんです。この物語。
 ではでは。






制作開始:2007/4/12~2007/4/27

打ち込み日:2007/4/27
公開日:2007/4/27

修正日:2007/5/10+2007/9/27
変更日:2008/10/24


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第十話:死合

狂った歯車動く時
狂った螺旋曲を奏で
狂い笑い、狂い歌う……
狂った世界が今――開かれる


 

 

 

 場所は、瓦礫と化した倉庫の地下。

 そこに、ヒビだらけの待機モードのデバイスが一つ、ポツンと置いてある。

 それを囲むように、二人の男女がいる。

 男は、両手両膝を地面に付き、大きな声で泣いている。

 女は、声を上げるのをこらえているが、涙はこらえることはできず、頬を伝う。

 デバイスの名は『フィン・ガンドライバー』。

 レニアスと呼ばれているロストロギアから生まれた、複製人間のデバイス。

 複製人間の名は、レルナス。

 かつて、ラギュナスの初の女性長となった人物。

 しかし、所詮は複製。

 本物にはなれず、別人にもなれない中途ハンパな存在。

 だが、桐島時覇との出会いで、レニアスレルナスの人生は大きく変わった。

 出会う前は、冷静かつ感情の薄い性格だった。

 出会ってからは、初めのうちは時覇と二人きり、もしくは前でしか表情を表さなかった。そして、次第に感情を表すようになる。

 時覇は手間の掛かる弟、シグナムは可愛い妹として、接するようになった。

 時に明るく。

 時にやさしく。

 時に厳しく。

 時に笑う。

 時に泣く。

 三人で分かち合い、三人でぶつかり合う――たった二ヶ月ほどの日々。

 まさに『科学の魔法』ではなく、『奇跡の魔法』が掛かったように。

 まさに、夢の様な日々。

 こんな日々が何時までも続くと思っていた。

 だが、永遠などこの世には存在しない。

 夢は、何時か覚める幻想。

 それは、如何なる形で終わるかという事だけ。

 突発的に終わるのか、緩やかに終わるのか。

 ただ、それだけの問題である。

 今回は突然終わった。

 義姉の様な存在であり、仲間でもあり、友でもある女性――レニアスレルナス。

 時覇が今日まで歩んだ人生の中で、共に笑える人で最高であった。

 ガラッ、と、後ろの瓦礫から小石が落ちる。

 だが、それと同時に人の気配を感じ、デバイスを構えながら振り向くシグナム。

 そこには、ダークブルーをベースにしたバリアジャケットを着た者たちが、そこに立っていた。

 上着は、長袖と半袖以外には違いはないが、羽織るものはベスト、マントなどばらばら。

 下もまたスカート、ズボンなど、こちらもまたバラバラだった。

 ただ、装備からして、どこかの特殊部隊があると判った。

 

「……貴様らか」

 

 シグナムが問いただす。

 

「さぁな。俺たちが手をくだした訳じゃないぞ」

 

 デバイスを肩に担ぐ男が言った。

 服装から見て――男が8人、女が3人。

 計11人。

 それに対して、たった2人……いや、シグナム1人。

 時覇は――確認するまでもなかった。

 喪失により、戦闘不可。

 無理に戦わせても足手まとい。

 下手すれば、2人とも即死。

 結論――勝てない。

 状況は最悪。

 これで勝つことができたのなら、ラギュナスの『長』に相応しい存在といえる。

 

「シグナム……管理局の者が、我らに楯突く気か?」

 

 しかし、無言のまま武器を構え――向ける。

 それは――時空管理局に対する裏切り行為である。

 そして同時に――主はやてを、裏切ることになる。

 記憶喪失だから刃を向けるのではない。

 非道ゆえ、邪道ゆえに、その行いをした者たちに対してのみに刃を向ける。

 虫の良い考えだと判っている。

 だが、この者たちは許しては置けない。

 ただそれだけである。

 

「夜天の王も――タダではすまさん。シグナムは、我らが宿敵であるラギュナスの捕虜となる。挙句の果てに奴らは慰め者にした後、用済みとして処分された。と、報告するか」

 

 リーダー格らしき――黒い剣、ラインらしきモノは淡く輝く緑色があるデバイスを持つ男が言う。

 その言葉に、他の者たちもデバイスを展開し、構えていく。

 だが、それを知っているのか、感じ取っているのか、時覇は四つん這いから動くことはない。

 空気が重くなる。

 そんなことはお構いなしに、何かが聞こえてきた。

 

「……………………」

 

 発生源は、桐島時覇。

 それに最初に気がついたのは、チャラチャラした服装の男だった。

 

「ん? おい、小僧。なにブツクサ言っているのだ?」

 

 ニヤニヤしながら、その場にしゃがみながら問いかける。

 リーダー格やシグナム、他の者たちは口を挟まなかった。

 互いに判る――動けばやられる、と。

 だが、チャラチャラした服装の男は、そんなことはお構いなしに言葉を続ける。

 

「何だ? さっき消えた魔力の塊のことで泣いているのか? はん! こりゃあ傑作! おい! 聞いているのか、小僧!? あんな塊のために涙を流せるとは、滑稽や呆れを通り越して、感心してしまうよ!」

「…………」

 

 何かを呟く時覇。

 しかし、距離や声の大きさの問題で、近くにいるシグナムですらハッキリ聞き取れなかった。

 

「はぁ!? 何言っているのだから聞こえませ~ん! もう一度、おねがいちまちゅ~」

 

 完全に舐め腐った口調で聞き返す。

 

「……さい」

「はぁいぃ~? 聞こえないのですけど!? あ~、言葉がわかんないのでちゅぅね? かわいそうでちゅう~」

 

 唇をタコのようにしながら言う。

 リーダー格の男はともかく、近くにいる仲間は、完全に呆れ返っていた。

 この男の悪い癖である。

 赤ちゃんをあやすような口調で、相手の精神を逆撫でさせることに関しては、非常に長けている。

 仲間内でさえ、度々問題を起こすほど。

 魔力ランクB+。

 平均より少し上を行った部類に入る。

 しかし、保有ランクAAA-。

 戦闘能力が高いことを示している。

 時覇は無言で立ち上がる。

 来るか。と、チャラチャラした男も、ゆっくり立ち上がる。

 だが――それが命取りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第十話:死合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっと立ち上がったか。魔力検索の結果――げっ、E-ランククラスしかねぇのかよ。

 って、ことは――横槍入れなかったのは、これが原因かよ!?

 はぁ~、ハズレかよ。

 そう思っている間に、雑魚がこちらを睨みつけてきた。

 チャラチャラした男はデバイスを構える。

 

「それじゃあ、はじめまちゅぅ――がはっ!?」

 

 視界が揺さぶられ、胸の辺りに衝撃が走る。

 そして、口から血が出る。

 混乱する。

 何が起きた!? なぜ痛い!? 体が言うことを聞かない!? 動かせない!? 動けない!? なぜ――しゃべれない!?

 地面がどんどん近づいていく。

 だが、そこはただの地面ではなかった。

 暴走機体の残骸の破片がばら撒かれていた。

 しかも、全て尖っている。

 どんどん迫る。

 たっ、助け――。

 暗転。

 激痛が襲い、1秒後――全ての感覚はなくなった。

 

 

 

 

 

 シグナムは驚いた――正確には、唖然としていた。

 敵も同じである。

 たった一瞬で、チャラチャラした男の肺に風穴を開け、絶命させたのだから。

 しかも、内部からの破裂。

 魔法でも、こんな高度な技を使うには、それ相当な能力が問われる。

 人体の計算。

 座標の計算。

 空間の計算。

 それらの誤差の計算。

 その他の要因も絡んでくる。

 それを――指を鳴らしただけで、やり遂げた。

 前から計算を行っていれば可能であるが、そんな素振りを一度も見せていない。

 魔力反応すらなかった。

 異常である。

 ロストロギアの力によって、人生を狂われた人たちは多くいる。

 だが、目の前にいるのは、たかがEランククラスの魔力を持たない男。

 ロストロギアの力を借りても、何らかのワンモーションがある。

 判りやすい例えを上げれば――魔法名である。

 魔法名は、拳銃に例えるならば、いわばトリガーの役目である。

 思って魔法が発動してしまうのなら、簡単に問題が起きてしまう。

 攻撃魔法ならなおの事。

 ある意味、全ての魔導師に共通するものである。

 

「あらかじめ設定し、発動条件を用意しておけば、簡単に行うことができる」

 

 時覇は、呟くように言った。

 その言葉に、一同は納得した。

 プログラム化された魔法――科学として確立されている故、行うことができるモノである。

 だが、データにするにも、容量が違いすぎる。

 さらに言えば、今の時覇の魔力では発動は困難なはずであった。

 

「シグナム」

「なっ、なんですか?」

 

 いきなりのことで動揺する。

 だが、敵から目を反らさない。

 

「お前は離脱しても構わない」

 

 その言葉に、シグナムは反論しようとするが、言葉で封じ込める。

 

「一つ目の理由は、こいつらを殺すからだ」

 

 殺す。

 よもや、時覇の口から出るとは思っても見なかった。

 この二ヶ月間、『殺し』についての講義は一切受けなかった。

 痛いのは嫌だ。

 ケガはしたくない、見たくもない。

 血も見たくない。

 そんな事ばかり言って、逃げ続けた。

 が、最終的には講義は受ける羽目になっている。

 それでも、一度も使わなかった魔法を使った。

 人を殺した。

 

「二つ目は、こいつらは腐っても管理局所属部隊――意味は判るな?」

 

 その言葉で、察しがついた。

 シグナムは、八神はやての騎士であり、家族でもり、時空管理局所属でもある。

 すなわち、八神はやては自然に、何らかのペナルティを受けることになる。

 しかも、敵対となれば、軽い処罰でないことは確かだ。

 だが、シグナムは時覇の横に立つ。

 

「……確かにそうですが、今は……アナタと共に」

 

 レヴァンティンを構えながら、淡々と答える。

 

「……判った。それと、アレを使うぞ」

 

 『アレ』の部分を強調する。

 その言葉に、シグナムの顔色が変わった。

 それを察し、身構える特殊部隊一同。

 それが合図となり、時覇は左手を掲げる。

 同時にコアが光りだした。

 空気中に拡散していた魔力が、どんどん集約されていく。

 しかも、この部屋の壁には、あちらこちらにヒビが見える。

 ここは地下――下手に強力な衝撃を与えれば、生き埋めは必然。

 慌ててその場から離れる特殊部隊一同。

 だが、リーダー格は、何か違和感を感じ取り、警戒しながらその場を離れる。

 そして、左手を拳にし――地面を殴りつける。

 眩い紫色の閃光と、鼓膜が張り裂けんばかりの炸裂音。

 空気が震え、大気が乱れる。

 地面が震え、壁が軋む。

 壁が軋めば、亀裂が走る。

 亀裂が走れば、強度が落ちる。

 強度が落ちれば、壁は崩れる。

 壁が崩れれば、天井が崩れる。

 で――ここは地下な訳で。

 

「各自で退避しろ!」

 

 それだけ言って、自分はさっさと撤退するリーダー格。

 この部隊にとっては、いつもの事である。

 弱き者に、生きる資格無し。

 と、公言する連中の集まりの部隊。

 天井はどんどん崩れ、瓦礫と粉が雨の様に降り注ぐ。

 特殊部隊の面々は、上下左右を縦横無尽に動きながら、別の出入り口から地上を目指していく。

 

 

 

 

 

――爆発。

 それにより、瓦礫が宙を舞う。

 それと同時にリーダー格が、姿を現す。

 続いて、特殊部隊の部下たちも姿を現していく。

 その真下では、地面が揺れ、所々に亀裂が入っている。

 このままだと地下は潰れ、クレーターができる。

 だが、二人ほど出てこない。

 何を戸惑っているのかと、苛立ちを覚え始めるが、そこで念話が入る。

 

(こちら7! 8が瓦礫に挟まって動けない――至急救援を!)

 

 そこの言葉に苛立ちは冷め、どうでもよくなった。

 コードナンバー7、8には、僅かに期待があった。

 が、この部隊では馴れ合いは不要。

 

(こちら0。救援の必要なし、とっととこい)

 

 最終通達。

 せめて、7だけは一瞬だけ期待した。

 これは一時的な気の迷いだと。

 

(救え――)

 

 そこで念話を切る。

 

「非殺傷モード解除――真下へ一斉砲撃、用意」

 

 その言葉に、次々とデバイスを向ける。

 時覇とシグナムだけならともかく、部下がまだ残っているにも関わらずに。

 失望の感情は一瞬だけ表れ、一瞬で消えた。

 この時点で、7と8の存在はほとんど消えていた。

 すでに新たな人材リストを、頭の中で思い浮かべる。

 完全な切捨てである。

 

「隊長、コードナンバー7と8は――」

「ああ、空隊辺りから引っこ抜くつもりでいる」

「……了解。いいの、期待していますよ」

 

 武器を構え直す部下。

 これも、いつもの事である。

「撃て」

 砲撃が開始された。

 

 

 

 

 

「隊長!? 救援を――くそっ!」

 

 念話が途絶え、救援を見込めなかったと悟り――デバイスを瓦礫の下に差し込む。

 テコの原理である。

 だが、デバイス――片手杖タイプで、しかも機動力重視のために軽量化を図っている。

 結果、強度はそれほど無いので、真ん中辺りでボキッ! と、音を立てて折れた。

 

「くそがぁ!」

 

 デバイスの強度に怒りを覚える。

 再び助け出すために、リカバリーをかける。

 

「アキュード、もういい」

 

 その言葉に、顔を向ける。

 

「……行け」

 

 コードナンバー8が言う。

 

「だが!」

 

 しかし、無言で首を横に振る。

 コードナンバー7――アキュードの口から、血が流れ出る。

 己が無力をかみ締めたためだ。

 そして、無言で敬礼し、振返って飛び出した瞬間――肺辺りが焼けるように熱くなった。

 次の瞬間、一気に冷め、激痛が走る。

 

「――っか!?」

 

 口から、盛大に血を吐きながら倒れこむ。

 何が起きたか判らない。

 コードナンバー8も、唖然となった。

 それもそのはずである。

 天井から、砲撃魔法が貫通してきたのであるのだから。

 しかも、その砲撃の色は、我が部隊の隊長のモノだったから。

 衝撃で天井は崩れ、アキュードは瓦礫の下敷きになり、絶命した。

 

「あ――アキュード!? ――きゃあぁぁぁ――」

 

 彼女もまた、瓦礫の下敷きになった。

 アキュードと彼女は両想いであったが、互いに想いを伝えられないまま、この世を去った。

 親愛なる隊長の、非情な命令によって。

 この二人の不運は、時空管理局に入った時からである。

 リーダー格が、2人の秘めた能力に目を付けた。

 ある程度経験を積んだら、この特殊部隊に来るように配慮。

 2人の性格は悪くするために、裏工作をいくつも行った。

 アキュードは、人間不信気味に。

 彼女――ナーナもまた、人間不信気味に。

 今いる部隊は安心できない。

 そこへ、転属命令。

 来たときに、人間不信を解消させて終わり。

 同時に、非情さも教えたが、想いの前に無意味であった。

 だから切り捨てた。

 非情に成れぬ者には、この部隊にいる意味がない。

 しかも、極秘部隊に近い存在ゆえ、外部に漏れる訳にはいかない。

 よって、処分も含めた結果だった。

 

 

 

 

 

 黒い煙は空へ上がる。

 地面は大きく窪み、ガラガラと音を立てる。

 風はただ吹き、傍観するのみ。

 ただあるのは、瓦礫と化した基地後と大きなクレーターしかない。

 それを眺めるのは、時空管理局の異端児の集いし部隊。

 使えるものは最大限に使うだけ。

 

「生命反応ゼロ……海の連中に探索させますか?」

 

 ウォーハンマーを軽く一回しし、肩に担ぎながら男が言う。

 一回しする際、ブン! という音ではなく、ゴワァ! という音だった。

 相当の質量を持つハンマー型デバイスである。

 

「ああ。だが、その前に円卓に報告しておかないと。現場判断でかまわないと思うが、連中に通さないとマズイからな」

「あ、だったら、ウチが入れますわ。えっちん婆ちゃんと会話したいさかいに」

 

 大阪弁紛いの口調の女。

 デバイスは、血のように赤い靴。

 ただ、デバイスのコアは両腿についている。

 

「頼む」

「アイサイサー」

 

 手を一回転捻り、敬礼をしながら返事を返す。

 リーダー格は、振り向きながら呟く様に言った。

 

「ただ……」

「 ? 」

「反逆者シグナムと生き残りの男は、逃がしたと伝えておけ」

 

 どこかを見据えた様な目をしながら、空を眺めていた。

 黒く染まりかけた空……夜の空を。

 

 

 

 

 

 草を踏みしめる音と足音が二人分。

 辺りは暗く、虫が鳴く。

 月は――3つ。

 ここは、ラギュナス緊急避難世界の一つ。

 草が生い茂る森の中、2つの影がある。

 1つは赤き騎士。

 1つはデバイスの鎧を纏いし者。

 纏いし者は、赤き騎士に支えられながら歩く。

 泣き声を殺しながら進む。

 目の前で死んでいった、義理の姉を悲しみながら。

 赤き騎士は、纏いし者を支えながら進む。

 纏いし者を心配しつつ、今後のことを考えながら。

 あの時、崩れ行く地下室で、敵が撤退したことを見計らいつつ、別室へ移動した。

 時覇は、レルナスのデバイスを拾いつつ、シグナムを横道に先導。

 その先に緊急転送装置が置いてあり、しかも起動中であった。

 緊急用とはいえ、起動には最低でも1分は掛かってしまう。

 だが、元からなのか、それとも偶然なのか。

 いつでも転送が可能状態だったので、すぐに脱出できた。

 そのあと、どことも判らない世界に飛ばされた。

 ただ、森の中だったのが痛かった。

 しかも、夜。

 完全に方角が判らない。

 下手に魔法を使うわけにもいかず、徒歩で移動することに。

 だが、安心したのか、それもと緊張が途切れたのか――時覇はその場でうずくまり、その場で泣き出してしまう。

 シグナムは、この場に留まるのは危険と判断し、時覇をゆっくり起こし、支えながら進み出すことに。

 とにかく、身をある程度隠せる場所を探している。

 シグナムはふと止まる。

 前方にいい具合に生い茂った草と、大きな木があった。

 さらに、木の根元には窪みができている。

 隠れるのには最適な場所である。

 時覇を励ましつつ、木の根元まで移動。

 中を覗くと、それなりの大きさ――大の大人が三人は優に入れる大きさ。

 中に入り、時覇をゆっくりしゃがませる。

 少し見守り、外へ顔を出し、空を見上げる。

 星は輝き、月は赤々と光る……血のように赤く。

 これから起こる出来事を、映し出すように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第十話:死合・END

 

 

 

次回予告

シグナムが連れてかれてから5ヵ月。

一時期活動が停滞したラギュナスであったが、最近活動を再開。

管理局に協力的であり、好戦的でもあった。

世界は静かに、そして――

 

 

ラギュナスサイド編

第十一話:迷走深層

 

 

に、ドライブ・イグニッション!





あとがき
 はい、死者続出。
 次もさらに出る予定。
 敵味方、正義と悪、光と闇――全てを合わせると、混沌。
 どっちが悪だか微妙になっていきます。
 相変わらず不人気のサイドですが、一部の方々には好評なので、うれしいです。
 が、こういう話は、自分自身が余り好きではないです。
 書いている最中に、胸の辺りが疼きます。
 ……時折痛くなります、何故?(汗
 急展開になって行きますが、次回は『迷走深層』。
 お楽しみに。






制作開始:2007/4/30~2007/7/6

打ち込み日:2007/7/6
公開日:2007/7/6

修正日:2007/7/19+2007/10/4
変更日:2008/10/24


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第十一話:迷走深層

闇は闇を呼ぶ
悲劇は連鎖
怒りは暴走
なら、喜びとは?


 

 

 シグナムが連れてかれてから――5ヵ月が経った。

 当初は、全力で捜査に当たっていたが、他の事件やロストロギア関係の問題が発生。

 全てを捜索に回すことは不可能になり、調査は停滞していった。

 それから2ヵ月後――シグナムが死亡したという報告。

 なのはたち――とくにはやてには伏せるように頼んだのだが、自体は急変したのだった。

 

「ふぅ~」

 

 椅子に背を深く沈めるクロノ。

 

「クロノくん、お疲れ様」

 

 エイミィが、デスクにコーヒーを置く。

 豆は、ミディアスターという世界の品物。

 コーヒーの豆の質は、次元世界最高級品としてしられ、地元では500グラム――630円で買える。

 なを、世界によって物価と通貨が違うので、全て円単位で表示していきます。

 だが、ミッドチルダにくる時には、500グラム――5万円以上という金額となる。

 地元優先なので、輸出される量が少ない結果である。

 よって、遠いが直接買いに行き、一度にまとめて買ったほうが安上がりなのである。

 

「ああ。ありがとう、エイミィ」

 

 そう言いつつ、カップを口につけ、コーヒーを一口。

 そして、満足そうに頷く。

 その間に、エイミィはデスクに置かれた資料を見る。

 資料の内容は、一時期停滞していたラギュナスの活動の再開について。と、書かれた内容だった。

 現在ラギュナスは、管理局に対して好戦的な行動は取っていない。

 むしろ、こちら側から攻撃をさせてから、戦闘を始める。

 攻撃しなければ、交渉次第で、ある程度の情報交換をすることも可能。

 事件があっても、管理局より素早く動き、犯人を拘束し、引き渡してくる。

 そこまで読むと、書類は持ち上げられる。

 

「あぁ」

 

 名残惜しそうに書類を見ながら、声を漏らすエイミィ。

 書類は、デスクの引き出しではなく、シュレッダーに掛けられた。

 ちなみに、紙はアンチ・マギリングが掛かっているため、1枚1万円しても可笑しくないシロモノ。

 一番安いモノでも、たしか8000円はしたはず。

 重要書類系なので、それなりに高いのを用意するはず。

 それが束になって――計15枚。

 確か、会議に参加して人間の数は――30人以上。

 450万円以上、掛かる会議。

 早々無いが、それほど重要な件か、ただの汚職なのどちらか。

 だが、三提督と陸士のトップであるレジアス中将も参加したので、後者でないことは明白である。

 しかし、資料は読み途中だったので、恨めしそうに睨む。

 が、クロノは軽くないがして、コーヒーを啜って一息。

 

「ねぇ、今日の会議はなんだった訳?」

「ラギュナスについてだ。そう、資料に書いてあっただろ?」

「ええ、それだけね」

「……すまないな、まだ極秘扱いなのだ」

 

 それを聞いて、あっさり引き下がる。

 そして、クロノは無意識にカップを再び口へ運ぶが、中身が殻だったことに気がつく。

 

「クロノくん、貸して。入れてきてあげる」

「頼む」

 

 微笑みながら問いかけるエイミィに、微笑み返しながら返答するクロノ。

 来年辺りに結婚する予定だったが、完全に延期になるかもしれない。

 そう、エイミィにカップを渡しながら思うクロノ。

 ふと、引き出しを開け、アルバムを開く。

 そこには、闇の書事件が終わった次の年の春に、全員で撮った集合写真があった。

 今は、このメンバーが揃うことは滅多に無く、時たましかなくなってきた。

 多分、同じ任務で同じ部隊になることは、まず無いといっても過言ではない。

 各部隊には、保有ランクが設けられており、その合計値を超えることは許されない。

 それが、同じ部隊になることは無い理由である。

 だが、限定封印をして、魔力を意図的に下げることで問題は解決するが。

 能力自体に制限を掛けるため、あまりオススメできないのが現状である。

 今はまだ彼女たちには、経験を積むことが最優先である。

 そして、シグナムの安否。

 皆には知らせてはいないが、最近査察部から情報を聞いたときには、目眩がした。

 シグナムの裏切り。

 最初は、ラギュナスのメンバーに強姦され、不要となって処分されたと聞いた。

 が、それから1ヵ月後に訂正が来たのが――裏切り。

 あの忠誠心が高く、誇り高き騎士である彼女が、裏切りなど何かの間違いだと考えた。

 だが、この1ヵ月間で、武装局員を迎撃している話をちらほら聞く。

 完璧な証拠の映像は無いが、断片的な映像と通信内容だけだが。

 一応、立派な証拠品である。

 

「はい、おかわりのコーヒーだよ」

 

 デスクの上に再び置く。

 最高級品だけに、匂いはきつくなく、むしろ清々しい。

 母親――リンディの影響で、甘いものはあまりだが、このコーヒーにはクリームを入れる。

 ストレートで飲むのも良いが、クリームを入れると味が引き締まる。

 

「うん」

 

 置かれたのを確認してから、アルバムを閉じて引き出しに戻した。

 またコーヒーを取って、飲む。

 それから、モニターを表示し、カレンダーを開く。

 12月17日。

 

「クリスマスまで、あと一週間、か……」

 

 闇の書事件が終結した日でもあり、約束した日でもある。

 全員でのクリスマスパーティーを行うという。

 すでに今年の3月辺りから計画されていた事。

 全員が揃わなければ、意味が無い。

 だが、クロノは天井を見上げながら、一つの疑念があった。

 自分の中に渦巻く、この胸騒ぎをどう取るか。

 ただの思い過ごしであって欲しい。

 そう考えるクロノであった。

 

 

 

 

 

 だが、この物語にはハッピーエンドは無い。

 最悪な事態に進展していく、この物語。

 ただ判らないのは、この物語の終わり方のみ。

 どっちへ転ぶか、転ばぬか。

 世界は何を望むのか。

 人の絶望、欲望、悲しみ、怒り――不の感情は、混沌を作り出すスパイス。

 故に、料理への効きすぎたスパイスは厳禁だが、混沌には何も問題は無い。

 効きすぎれば、効きすぎるほど、最高の混沌が生まれる。

 世界は、次元は――混沌となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第十一話:迷走深層

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時空管理外世界の一つ――クエイク・グランド。

 大地の大半は岩と崖しかなく、緑は点々とある程度。

 生命が住める程度の酸素は補える。

 微生物、虫は基本的にいるが、人間はいない。

 変わりに、竜や龍やドラゴンがいる――全部一緒だが。

 簡単に言えば、中国の龍、外国のドラゴン、日本の竜など、多次元の世界のドラゴンが住む世界。

 ドラゴンが征する世界として、有名な世界。

 だが、何故管理外世界なのか?

 理由はとてもシンプルである。

 管理世界として指定したが、調査部隊が全員ドラゴンにやられてしまい、誰一人帰ってこなかった。

 第二、第三と、次々に送り込んだが、ろくに調査もできないまま全滅。

 出来たとしても、持ち帰ることができず――人的被害が多きいこともあり、仕方なく管理外世界として指定しなおされた。

 これは上層部が決めたことではなく、世間の非難から決まった事である。

 実際は、被害をしつつも、少しずつ少しずつデータは溜まっていていた。

 ので、強行軍してでも、少しでも多くデータを手に入れようとしたかったそうだ。

 だが、その計画もラギュナスのメンバーにより暴露され、目論んだ人間は全て退職した。

 色んな思惑があった世界の一つ――それが、クエイク・グランド。

 しかし今は、その世界のある場所が――戦場と化していた。

 

「こちら、マーズ01。状況は?」

 

 ツインテールの白いバリアジャケットを纏った女性が、通信回線を開く。

 

≪こちら、マーズ・マム。04から09まで、ラギュナスの機動兵器と交戦中。02は単独判断で交渉を開始。03、04はメンバーと交戦中ですが、両名共に押されています≫

 

 そこで、遠くの方で何度か爆発が起きる。

 時折、大岩が宙を舞い――地面に落下。

 ラギュナスの機動兵器の攻撃か、一つのかく乱か。

 ここからでは、判断の区別は付けづらい。

 

「了解しました。これより、03と04の援護に入ります」

 

 そう言いながら、デバイスを構える。

 

≪02の方は?≫

 

 そこで女性はため息。

 ここ最近は、ラギュナスと交渉して、情報を得ようと必死になっている友を思い浮かべた。

 危ない橋ではあるにも関らずに。

 

「仕方のないことです。彼女が危なくなったら教えてください」

≪了解しました――ポイントのデータを転送します≫

「うん、ありがとう――レイジングハート」

<はい、マイマスター>

 

 相棒暦6年となるデバイスに、データが送られてきた。

 飛行魔法――フィン・フライヤーが展開される。

 そして――勝利の鍵は空を舞い上がる。

 桜色の羽を振りまきながら。

 今度こそ、仲間を、友を失わないために、守るために、空を駆け抜ける。

 

「マーズ01、高町なのは――行きます!」

 

 

 

 

 

 射出型兵器・カタパルトセイバー。

 しかし、種類は様々あり、起動兵器発射カタパルトタイプ。

 質量兵器射出用――言うまでも無く、質量兵器を打ち出す。

 質量発射型専用――違いは、兵器ではなく、その辺に転がっている岩や柱を打ち出す。

 現在、この3種類がある。

 ラギュナスの後方支援と、前線からの増援を目的として生まれた起動兵器。

 そして、今武装局員たちが戦っているのは、簡易生産された質量発射型専用・カタパルトセイバーである。

 スドラが周りの岩を削り、運搬目的に開発された起動兵器・トラッグに運ばせ、カタパルトに乗せる。

 最後に打ち出す。

 この作業の繰り返しだが、狙いが正確なモノから、乱雑に打ち込んでいるのもある。

 慌てて回避するが、正確な一撃が飛んでくるので、死に物狂いである。

 魔法ではない。

 質量の攻撃。

 魔法と質量兵器の違いとは――細かい事を含めれば、色々出てくる。

 だが、一つだけ示せと言われた場合、これが上がると思う。

 非殺傷モードがあるか、無いか。

 それだけのこと。

 だが、それだけで生死は分けられる。

 非殺傷なら、当たっても死ぬことは無い。

 度が過ぎれば後遺症がでるかもしれないが、けして死ぬことはない。

 このミッドチルダでは、拳銃というモノがどんなモノか知らない世界。

 地球とは大違いである。

 かつ、クリーンでかつ安全な魔法というほどだが、安全など詭弁でしかない。

 使い方一つで、人を殺せる魔法。

 どこが安全なのか。

 結果的に、魔力を持たない人間は、魔力を持つ人間には勝てないことは確かだ。

 だが、兵器はどうなるのか。

 

「くっ! 反応が――早い!」

 

 体を捻りながら、飛んでくる岩を回避する男性武装局員、マーズ04。

 他の武装局員たちも、同じ光景である。

 反撃を試みたが、AMF――アンチ・マギリング・フィールドを発動したために、攻撃が一切通らなくなった。

 

「くそがぁ――」

 

 そこで、後ろからの声が途切れた。

 

「07!? どうした、07!? ――マーズ・マム!」

 

 振り向けば自分が死ぬのは必然なので、通信回線を開き中継を求めた。

 

≪こちらマーズ・マム、マーズ07のバイタル反応――なし! 死亡と断定≫

「ちぃ」

 

 通信の内容に舌打ちする04.

 07とは、この任務が終わった後、酒場に行こうと誘われていた。

 しかも、3日後には娘の誕生日だとか。

 それを思い出しただけで、地面から岩を射出する機動兵器に怒りを覚える。

 相棒――デバイスを握る力が強くなる。

 片手杖――管理局の支給品をインテイジェントデバイスに改造したモノ。

 申請許可は出しておらず、無断改造した。

 結果、言うまでも無く規則違反で独房へ。

 しかし、そのデバイスを使った実績は多く、降格処分程度で済んだ。

 2年程度のパートナー暦だが、互いを理解し合っている。

 

「いくぞ、ガーゴイル」

<ああ、判っている>

 

 デバイスをバトミントンの様に回しながら、機動兵器に突貫を掛けた。

 

「いくぞ――」

 

 視界は飛んでくる岩で埋め尽くされた。

 しかも、避ける隙間もない。

 急停止し、左手を前に突き出し、片手杖を回すのをやめる。

 

「プロテクション!」

<了解!>

 

 防御魔法展開。

 だが――防御魔法を突き抜けてきた物体があった。

 それは目で確認することは出来ず、左頬を掠っていった。

 それを追うように目を左へ持っていく。

 だが、次の瞬間――強烈な衝撃が全身を遅い、視界は黒く染まった。

 

 

 

 

 

「…………いいのか? また仲間が死んだが」

 

 背の高い女性は、生命の息吹が無くなった方向を向く。

 

「……言い訳やないやぁないか。それと、シグナムは――シグナムはどこにおる!?」

 

 十字剣の杖をなぎ払うように振り、睨みながら怒鳴るはやて。

 怒り――いや、悲しみが強いのか、殺気とは言えない覇気を纏っている。

 背の高い女性は肩を竦める。

 怒るのか、悲しむのかどちらかにして欲しいと。

 こういう状況は、背の高い女性が一番嫌いなのである。

 『曖昧』――それは、背の高い彼女にとって、思い出したくない思い出を思い出させる。

 だから、容赦無く根源を絶つ。

 だが、今回はそうはいかない。

 家族を悲しむ気持ちと焦りと、我々に対する怒り。

 それらが混じる事で、今の彼女がある。

 

「彼女……シグナムは、うちの隊長――長と一緒にいる」

「長……?」

「簡単に言えば、ラギュナスのトップだ。これ以上は言えない。時期が来れば判る」

 

 そこまで言うと、懐から少し厚いカードを1枚取り出す。

 

「まっ――」

 

 はやては、すぐ飛び出す。

 だが、距離は長すぎる。

 フェイトなら、距離を詰めることは可能だったが、はやてでは無理である。

 

「祝福の鐘が鳴り響く時――烈火の騎士、再び夜天の王の前に現れる」

 

 それだけ言って、カードを地面に突き刺す。

 次の瞬間――戦闘空域全体が、黄色の閃光に染まった。

 

 

 

 

 

 アースラの会議室。

 そこには、主力メンバーのなのは、フェイト、はやて。

 はやての保有戦力のリインフォースⅡ、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。

 アースラの艦長のクロノに、来年その妻になる予定のエイミィ。

 通信モニター越しに、リンディがいた。

 今は、今回の戦闘に関しての事を洗っていた。

 マーズ隊、総数35名。(リインフォースⅡは、デバイスなので含まれていない)

 うち死者、12名。

 重軽傷者、10名。

 戦力通告者、5名。

 負傷退職、2名。

 今回の被害である。

 

「結局、手掛かりは……この言葉だけ、か」

 

 その言葉に、エイミィがモニターパネルをタッチする。

 すると、背の高い女性が出てくる。

 そして、その横に文字が展開される。

 

『彼女……シグナムは、うちの隊長――長と一緒にいる』

『祝福の鐘が鳴り響く時――烈火の騎士、再び夜天の王の前に現れる』

 

 それを見て、一同は頭を悩ませる。

 

「祝福の鐘って、私のことですか?」

 

 リインフォースⅡが、自分を指差す。

 だが、クロノは首を横に振った。

 

「多分――別の事か、モノを指しているのだろ」

 

 確かに、リインフォースⅡを指しているのならば、何時現れても可笑しくは無い。

 いや、表れなければいけないはずである。

 だが、何も起きない。

 各地で起きている、ラギュナスとの戦闘。

 大体は、機動兵器で構成された部隊。

 しかし、稀にラギュナスのメンバーが指揮を取る時がある。

 もっと珍しいのは、部下を連れている時である。

 が、重要な事を起こすわけでも、かく乱するわけでもなく、いつも通りの戦闘。

 ただ変わるのは、強くなるのかならないか。

 それだけである。

 

 ≪でも、この言葉の意味が判れば……ラギュナスの動向が掴めるかもしれないわね≫

 

 リンディの言葉に、はやてとクロノが頷く。

 どうやら、2人は薄々気づいているのかも知れない。

 祝福の風が鳴り響く、意味を。

 

 

 

 

 

 風が吹く。

 丘から、瑠璃色の空を眺めている女性がいた。

 ピンク色のポニーテールが、風に吹かれてなびく。

 服は、黒い長袖の上着で、前は絞めていない。

 ロングスカートだが、動きやすいように切れ目が入っている。

 全体の色のベースは、黒。

 袖などのラインは、紅。

 すでに主から承った防護服の形は、ほとんど無い。

 

「シグナム様」

 

 シグナムと同じ色の、忍び装束を着た男が、背後から膝をついて声を掛ける。

 

「すまない……少し、遅れると伝えておいてくれないか」

 

 空を眺め、風を感じながら答える。

 

「いえ、長から今日は好きにして良いと、伝言を承っております」

 

 少し慌てた様に答える。

 的違いの返答に、少し戸惑ってしまったようだと、苦笑する。

 

「ですので、何か伝言があれば、こちらでお伝えしますが?」

「ふむ……その前に、お前に確認したいことがあるのだが」

「はい? 何でしょうか?」

「約束の日は、12月24日で良かったか?」

「はっ、その通りであります」

「そうか……伝言は、『愛している』と」

 

 その言葉に、背後から吹いた音が聞こえたが、気づいてないフリをした。

 私も、人前で平然と言えるようになったなと、内心で関心する。

 

「では、失礼します」

 

 そこで、背後から気配が消えた。

 地球での忍者は、このような感じだと言われているが、それは架空の物語である。

 どうやら、『忍者』は科学者らしい。

 詳しいことは、未だに判っていないが、文献から推測した結果らしい。

 話題休題。

 太陽が顔を出し始める。

 そして、相棒を指でゆっくり撫でる。

 レヴァンティン・滅を。

 目を伏せ、顔を下げるが、目を開けると同時に顔を上げる。

 レヴァンティン・滅を展開し、自分の前に掲げる。

 さらに前には、はやての幻想が浮かび上がった。

 

「はやて……裏切り者に、迷わず制裁を」

 

 シグナムは、目の前の幻想を切るように――レヴァンティン・滅を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第十一話:迷走深層・END

 

 

 

 

 

次回予告

クリスマス。

サンタクロースを乗せたソリを引く、赤い鼻のトナカイたち。

首に付けた祝福の鐘を鳴り響かせる。

それは――戦場の合図である。

 

 

ラギュナスサイド編

第十二話:混沌開門(前編)

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 テスト勉そっちのけで書き上げてしまった。(汗
 やばっ。
 で、また予告変更。
 物語も少し変更し、シグナムをラギュナスサイドから移動しない形にしました。
 俗に言う、裏切りです――あ、石投げないで、って焼け石は駄目だろ!?
 あっ、熱! 熱いから!
 …………と、とにかく、もうすぐで第一部が完結します。
 試作長編モノ完結。
 五話目で二つの話を出したのですが、当初の終わり偏り、既にかけ離れています。
 詳しいことは、ラギュナス13話を公開した後の、あとがきそうまとめバージョンで公開。






制作開始:2007/7/12~2007/7/17

打ち込み日:2007/7/19
公開日:2007/7/19

修正日:2007/10/4+2008/7/3
変更日:2008/10/24


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第十二話:混沌開門(前編)

全ては運命
全ては悪戯
全ては宿命
全ては定め


 

 

 12月24日――天気は曇りのち、雪。

 聖なる夜。

 クリスマス・イブもとい、ホワイトクリスマス。

 本来、ミッドチルダには無い文化ではあったが、第97管理外世界――地球出身である三人組のエースがメディアで紹介されたさい、その文化がそれなりに注目を集めた。

 それから、『クリスマス』と『バレンタイン』に目をつけた業者が、それをネタに商売を開始。

 瞬く間に広がり、今では12月24日はクリスマスというのは、どこの次元世界でも共通と成りつつあった。

 おかげで、1ヵ月前から玩具系統物は、売り上げが好調に。

 それは経済の発展に繋がっていく。

 ミッドチルダの政府も、これを機に正式に受諾しようという動きがあるらしい。

 子どもの笑顔は、大人の喜び。

 普通は。

 犯罪者や子ども嫌いなどは、置いておいて。

 クラナガンは、雪が少しずつだが積もりつつある。

 平和とは、こんな感じなのかと思えるのかどうかは、定かではない。

 だがこの日、白き雪は赤く染まる。

 世界の秩序は綻びを見せ、剥がれていく。

 幸せが絶望へ。

 喜びが悲しみへ。

 歓喜が悲鳴へ。

 平和が壊れる。

 ガラスのように簡単に割れる。

 命がロウソクの火のように消される。

 白く淡いカーペットが赤く染まる。

 クラナガンのどこかのビルの屋上。

 フード付きマントを羽織った者の手の中に、懐中時計。

 そして、蓋を開ける。

 蓋には開始時刻が張られている。

 時間を照らし合わせる。

 

「混沌生誕まで――あと、5時間23分14秒、か」

 

 時計の蓋を閉め、懐に入れつつ、街全体を見渡す。

 

「関係無い者を巻き込むのは釈然としないが……恨むなら、恨んでくれ。気が晴れるまで」

 

 その言葉に答えるように、一吹きの風が吹き抜けた。

 

 

 

 

 

 キーパネルがブリッジに鳴り響く。

 ここはアースラのブリッジ。

 展開されているモニターには、時空管理局の提督クラスの人間。

 各次元世界のお偉いさんの方々。

 その方々を護衛する形に、管理局の魔導師たち。

 さらに囲む勢いで、報道関係の者たちが展開している。

 

「今日は、ほっんとぉ~に多いね。いつもなら、来ない人もいるのに……うわっ、サボりで有名なギリア提督がいるよ」

 

 いつもなら来ない人間ですから、この緊急会議に参加しに来ていることに、驚くエイミィ。

 

「だろうな。今回の議題は、ラギュナスに関しての事だからな。否応無しに出てこなくてはならない。少しでも情報が欲しい故に」

 

 肘を突きながら、モニターを眺めるクロノ。

 この出来事は、1週間前に遡る。

 ラギュナスの動きが停滞する1ヶ月前――2ヶ月前に当たる頃。

 未確認機動兵器を確認した。

 コード名、ガジェットドローン。

 ラギュナスと何ならかの関わりがあると考えられる。

 さらに、11月から活動を再開し、管理局に多大な利益と被害を及ぼした。

 犯罪者の受け渡しに、局員の殺害や負傷。

 中には、奇跡的にも助かった局員もいるが、大抵が戦力外通告。

 他の次元世界でも、似たような事が起きている。

 この事態を重く見た時空管理局、空・陸・海全てが協力を要請しあう。

 まさにこれだけで異例の事態。

 陸と海の中の悪さは、ミッドチルダ全土に知られているにも関わらず。

 そして、12月17日未明に、緊急会議を執り行うと各次元世界に通達。

 1週間後の24日までに返答を求む予定だったが、19日までに『参加』と全ての返答が帰ってきた。

 ならば、膳は急げとの事により、12月24日――時空管理局本部にて、緊急会議を行うことに。

 よって、休暇申請は全て取り消され、緊急任務が宛がわれた。

 他の任務も、一時中断。

 中断不可能な任務、その日までに帰還不可能な部隊のみ免除。

 Bランク以下は、外回りの警護。

 B+ランク以上は、中の警護。

 簡単に言えば、自分たちの安全が第一と考えた結果だろう。

 外の警護が全滅しても、最低限の足止めにはなると踏んだ結果だと言える。

 

「なのはとフェイト、はやてに守護騎士たちも中の警護、か……なりふり構っていられないということか」

 

 クロノは、監視映像を自分の前に展開させる。

 そこには、なのは、フェイト、はやて、守護騎士たちの様子が映し出されている。

 他の局員と連絡を取り合い、警戒を怠らないようにしている。

 これが、本当の時空を守る守護者たちの姿なのだろう。

 だが、ラギュナスの一軒が終われば、また元に戻ってしまうのかと思うと、少し悲しい。

 そして、何とも言えない感覚に襲われる。

 ラギュナスのおかげで、今の状態が成り立っている。

 感謝しようにもできない。

 まさに『矛盾』である。

 

「クロノくん、眉間にシワ。よっているよ?」

 

 エイミィが、自分の眉間を指差しながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第十二話:混沌開門(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カラン、とグラスの中の氷が奏でる。

 店内は淡く薄暗くも、ポイントライトにより、雰囲気をかもし出している。

 ミッドチルダ、首都クラナガンのとある裏道の地下にあるバー。

 店名『フリーズタイム』。

 固まった時間。

 店内も固まったように静かである。

 故に時間を忘れ、飲むことすら忘れていると、氷が今を報せる。

 それをここでは『アイス・コール』と言う。

 男はそれに気がつき、一口含む。

 そして、懐から懐中時計を取り出し、蓋を開ける。

 

「……あぶな、時間に遅れる所だった」

 

 男は冷や汗をかきつつ、蓋を閉める事無く、懐中時計をカウンターの上に置いた。

 

「お客様」

 

 グラスを磨いていたマスターが、声を掛けてきた。

 この店独特の禁止事項がいくつかある。

 その内の1つ――店内で時間を見てはならない。

 

「ああ、すまない」

 

 そう言って、ここのバーでは厳禁の一気飲みをし、御代を置いて席を立つ。

 

「……今まで、最高の店だった」

 

 それだけ言い残し、重々しい扉を開く。

 

「はぁ……ありがとうございました」

 

 背後からそう聞こえたが、余り気にしなかった。

 この店に来るのは、これで最後なのだから。

 地下から地上へ上がる階段を、一段一段かみ締めるように上る。

 別れを惜しむように、上へ、上へと目指す。

 そして――光が顔に指した。

 地上だ。

 

「孤影(こえい)」

 

 声をする方に顔を向ける。

 そこには、同じフード付きマントを羽織った男が立っていた。

 背には、2本の長いものが交差した状態で布に包まっている。

 

「緋龍(ひりゅう)か、どうだった?」

「最後を満喫していたよ。今日でここが壊れると思うと、寂しくなる」

 

 顔を横に振りながら答える。

 そして、互いに懐から懐中時計を出す。

 なんの変哲も無い懐中時計。

 唯一違うのは、表の蓋に描かれた柄である。

 

「そう言えば、孤影」

 

 不意に思い出したように言う。

 

「何だ?」

「何を描いてもらったのだ?」

 

 と、言いつつ懐中時計を少し上に上げる緋龍。

 

「ん? 俺は名前通り、狐だ」

 

 ほら。と言いながら見せる。

 それを見て苦笑する。

 

「なんだ、お前も、か」

 

 と、緋龍も見せる。

 そこには、東洋の龍が彫られていた。

 そして、顔を見合い、ニコリと笑い合った。

 同時に、互いの懐中時計を弾かせる。

 裏路地に、軽やかな金属音が鳴り響く。

 まるで、冥福を祈らんとばかりに。

 

「いくか、孤影」

「ああ、打倒管理局」

 

 互いに頷き合うが、

 

「ただそれ……なんだか、97世界の甲子園の掛け声みたいだな」

 

 雰囲気がぶち壊しの言葉を述べる緋龍で。

 

「締まらないこと言うなよ」

 

 呆れる孤影であった。

 本当に、締まらない2人である。

 

 

 

 

 

「こちら、時空管理局本部の入り口付近にいます」

 

 どこかの局の女性リポーターが、カメラの前で状況を説明している。

 

「特別緊急会議が始まって、まもなく3時間が経ちましたが、以前終わりの兆候が見えません」

 

 その光景を壁際で眺めている者がいた。

 時空管理局のエースの1人、高町なのは。

 一応配置場所は決まっているが、別のオーバーSランクの方がいたので、断りを入れてからここへ来た。

 簡単に言えば、気分転換。

 ギスギスした空気の中より、好奇心旺盛な空気の方が、何と無く楽だった。

 最近ある噂を聞いて、少し混乱した。

 いや、今も少ししている。

 シグナムが管理局を裏切った。

 何かの間違いである。

 あのシグナムが裏切りなどありえない。

 はやてを主とし、彼女の事を第一に考えて行動するヴォルケンリッターの将が。

 本当の事だったら、何が彼女をそう駆り立てたのか。

 そんな事が、頭の中を回り続けている。

 フェイトがこの噂を耳にした時は、執行官の能力を生かして、真偽の確認を始めた。

 まだ半分しか判っていないが、裏切りは間違いではないらしい事に行き着いた。

 その時、ショックでその場に倒れこんでしまったらしい。

 結局、真実は判らずじまいだったが、判ったことは一つだけ。

 シグナムは、ラギュナスにいる。

 これは揺ぎ無い事実である。

 爆発と振動。

 天井の照明は点滅し、管理局全体が揺れ、爆発音が鳴り響く。

 人々は混乱した。

 局員ですら、動揺した。

 ここは次元に浮かぶ、時空の安全を守る本部。

 それが爆発。

 何が起きたのか把握するために、次々と通信回線を繋ごうとする。

 だが、回線がパンク状態になりつつあった。

 とにかく、報道関係者を安全な場所に誘導するのが最優先。

 考えがまとまったなのはは、通信回線を繋ぎ直しつつ、報道関係者に駆け寄った。

 が、壁が爆発。

 全員がその場に伏せた。

 煙が上がるのは当然だが、その中から大きな鉈らしきモノを持った、ロングコートの男が現れる。

 大きな鉈らしき物と言っても、刃渡り2メートルは優にある。

 全員が注目する。

 その中で、ロングコートの男は、高らかに宣言する。

 

「ラギュナスの者だ! 邪魔する者は容赦無く殺す! 死にたくなければ道を明けろ!」

 

 その言葉に、局員たちは反応し――デバイスを次々と展開していく。

 非戦闘員と、勝てないと判断した局員たちは、報道関係者たちを誘導する。

 ロングコートの男は、逃げ出した者に対しては満足したが、デバイスを向けてきた者たちには呆れのため息を吐く。

 

「聞こえなかったのか? 阻む者は殺すと。加減とか嫌いなのだよ、俺は」

 

 やれやれと肩を竦める。

 

「ラギュナスの方が、時空管理局に何の御用ですか?」

 

 右から声が聞こえる。

 横を向くと――バリアジャケットを纏った、エース・オブ・エースの高町なのはがいた。

 ロングコートの男は、露骨に嫌な顔を浮かべる。

 

「げぇ、時空管理局の白い悪魔!? ついてねぇーな、俺」

 

 天に煽る様に、顔を上にして手を目の辺りに置いた。

 

「誰が時空管理局の白い悪魔ですか!?」

 

 反論するなのは。

 しかし、次の言葉に、大体の局員は頷いた。

 

「だって、お話を聞くために砲撃魔法を叩き込んできるって、裏の世界じゃあ有名な話だぞ」

 

 なのはは、その場につっぷしそうになる。

 空中にだけど。

 ともかく、体勢を立て直してから、デバイスを向ける。

 

「と、とにかく! 管理局法以前に、隔壁の破壊と武力行使の意の表明により、あなたを拘束しま――」

 

 そこまで言った瞬間、ロングコートの男は目の前から消えた。

 他の局員も、何が起きたのか判らなかったが、次の瞬間――

 

「――がぁ!?」

 

 その声に、全員が振り向く。

 そこには、1人の局員の体から、血飛沫が噴出した姿。

 その後ろには、ロングコートの男。

 男は、振り向きながら、大きな鉈らしきモノ横に振り払う。

 そして、局員の首が――宙を舞う。

 考えが一瞬真っ白になる。

 男は、振り払った大きな鉈らしきモノを両手で持ち、頭上に振り上げ――思いっきり振り下ろす。

 真っ二つ。

 同時に、先ほど飛んだ局員の首が、地面にグチャっと音を立てながら転がる。

 

「いっ――いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 女性の悲鳴が、局員たちを恐怖と混乱に叩き落す。

 男は、高笑い。

 それが引き金となり、慌てて逃げる局員たち。

 我先にと逃げる、逃げる。

 そして、初めに言った言葉通り、逃げるものに対しては、一切攻撃を行わない。

 その素振りすら見せない。

 なのはは、冷静になることに必死だった。

 いきなり表れ、武力行使を宣言。

 そして――何の躊躇いも無く、殺す。

 しかも、首を跳ねたにも関わらず、追い打ちと言わんばかりに、首の無い局員の体を両断する。

 それから高笑い。

 異常であることは、始めの行動で判るが、ここまで異常だとどうしようもない。

 

「……じゃ、先に行かせてもらうぜ。やることがあるのだからな」

 

 大きな鉈らしきモノに付いた血を振り払いながら、奥へ進む男。

 だが、なのはは男の前に立ち塞がる。

 

「……やはり、計画通りに仕事をするか」

 

 男は、なのはに聞こえない大きさの声で呟く。

 男の任務――高町なのは、またはそれに順ずるオーバーSランクの人間を1人でも多く押さえる事。

 その際、相手の生死は問わないが、なるべく生かせ。

 余はかく乱。

 ランクは、E。

 最低ランクFの上。

 高町なのはのランクは、S+。

 ある程度経験を積んだ管理局の人間が見れば、高町なのはの勝ちは見えたも同然。

 だが、何事にも例外はある。

 そう、例外は存在する。

 全てにおいて。

 

 

 

 

 

 特別会議室に第一級警報が鳴り響く。

 それに会議に参加していた者たちが動揺する。

 そこで、通信のコール鳴り響く。

 

「どうした!?」

 

 提督クラスの人間が、通信回線を開く。

 

≪こちら、本局第17ブロック! 現在、ラギュナスと名乗る者たちからの襲撃を受け、現在こうせ――がぁ――≫

 

 そこで、通信をしていた局員の男が吹き飛び、通信画面が砂嵐になる。

 襲撃。

 時空管理局に直接攻撃を行うことは、どういうことか。

 子どもにでも判る。

 宣戦布告。

 しかし、そんなことよりも、会議に参加していた者たちに戦慄を与えた言葉があった。

 ラギュナス。

 今行っている会議の議題である組織。

 しかも、この会議室には各次元世界の著名人やお偉いさん。

 他の任務を切り上げてまで、この会議に参加した提督までいる。

 ここで怪我などでもされれば、任務にも支障をきたす。

 さらに、外交問題にも発展する。

 まさに、最悪の状況。

 

「とっ、とにかくひ――」

 

 会議室の扉が吹き飛ぶ。

 視線が一気に集中する。

 

「お嬢、ここで?」

「うむ、ここで良い」

 

 街中で見かけるような今時の格好をした若者と、背が小さいが口調が重々しい少女が入ってくる。

 何も知らず遠目から見れば、若者は警察に呼ばれても可笑しくは無い。

 だが、それはこの状況には相応しくない。

 言葉と状況を聞き見合わせれば、襲撃者だと推測される。

 

「あ~、俺はビーク。で、こっちは――」

「華丞(かじょう)と申す。ラギュナスの経理担当で、こいつのお目付け役だ」

 

 

 

 

 

 本局管制室。

 ここは、すでに戦場と化していた。

 情報という名の戦いが。

 

「状況は!? どうなっている!?」

 

 管制を統一するリーダーが、声を上げる。

 

「外部から隔壁を破り、次々と進入! 起動兵器も進入を開始!」

「入り口から魔導師らしく者たちが1人――いえ、3人!」

「何!? 3番ブロックに侵入者!? しかも――魔力を持たない人間だと! それに全滅しただ!? 馬鹿な!?」

「進入者は、現在確認できた数は25人! 未確認及びそれらしき情報から、30人以上いると思われます!」

「なんだと!? ――大変です! 登録の無い戦艦を3機発見との報告あり!」

 

 次々と報告されてくる情報。

 対処しきれない量が飛び交う。

 

「くっ! これ以上は……特別会議室との通信回線は!?」

「それが……」

 

 渋るオペレーター。

 今日は、ついに憧れの本局勤めの初日。

 前は、地上部隊の辺境のオペレーターに回されていたのだが、ついに念願の夢の場所へ。

 だが、その初日にこんな事になるとは、夢にも思ってなかった。

 しかも、これを報告してよいのかどうか。

 情報は正確に、素早く報告。

 これは、基本中の基本だと、先輩からいつも聞かされていた事である。

 

「報告は正確に、だ!」

 

 激を飛ばすリーダー。

 硬直する。

 だが、報告しなければならない。

 意を決し、報告した。

 絶望への第一歩の報告、を。

 

「回線は、未だに繋がりません!」

 

 この報告が、今後の時空管理局の方針を決める出来事に繋がるとは、この時は思っても見なかった。

 この偽りの報告が――世界を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラギュナスサイド編

第十二話:混沌開門(前編)・END

 

 

 

次回予告

始まりは爆音で

再会は悲しみで

偽りは変化で

秩序は終わり、混沌が始まる

 

 

ラギュナスサイド編

最終話:混沌開門(後編)

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 ついにきました、最終回!
 次を書き終われば、第二部発動!
 その前に、ラギュナスの予告を公開しますが、ストライカーズがある程度進んでから。
 でないと、管理局とラギュナスとナンバーズを上手く絡めていけないかと。
 もう物語自体、大部変換されるので。(汗
 で、最後ら辺は、予告を変えたくないので、少し追加。
 繋がりが見えないですが、最終回に回させてもらいます。
 もう、止まらない。
 止められない。
 世界は動く。
 世界は回る。
 そして、主人公とクロノのバトル!
 詳しくは書かないかも。(汗
 別の部分を書きたいので。

 まぁ、また一話目から改正していくので。
 その時は、追加文していきます。
 さらに広がる話ですが、何とぞ、最後までお付き合いください。

 で、最後に気づいたが、なのは以外、メインキャラ&サブキャラクターがいない事に気が付く。
 ほとんど即席と、新規参戦のサブキャラ。(号汗
 まぁ、いっか。(オイ






制作開始:2007/7/19~2007/7/25

打ち込み日:2007/7/25
公開日:2007/7/25

修正日:2007/10/4
変更日:2008/10/24


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最終話:混沌開門(後編)

欲望
絶望
悲願
願望


 

 

 

「パパ、あれ何?」

 

 娘が空を見て言った。

 ミッドチルダ、首都クラナガン。

 どこにでもいる家族。

 父親と母親の間に娘がいる。

 その娘は、両親の手を握っている。

 娘が着ている服は、赤がメインで、サンタクロースの帽子を被っている。

 帽子の先端は、白いふわふわした玉ではなく、鈴が付いている。

 

「ん、どれだ、い……」

 

 娘に釣られ、空を見上げた途端、父親は絶句した。

 

「どうしたの、あな、た……」

 

 母親もまた、空を見上げて絶句した。

 そこには、時空管理局が使うような戦艦が、浮かんでいた。

 しかも、全部で5機。

 その戦艦からは、次々と飛行型起動兵器が飛び出している。

 それらの進行方向の先には、時空管理局地上本部があった。

 地上の希望であり、法の番人の塔。

 

「お父さん、お母さん。あれ、なあに?」

 

 しかし、娘は無邪気に笑いながら尋ねる。

 帽子に付いた鈴を奏でさせながら。

 

 

 

 

 

「あれか……相変わらずデカイな」

 

 ゲシュ・ペ・ンストの同型艦、リ・バーレⅡ型のカドナ艦長の感想。

 本来ならば、本局の突撃部隊に編成される予定だったが、意外なことに指揮官能力があったことが判明。

 よって、微妙に人手不足ぎみだった、地上本部の迎撃へ回された。

 初めは愚痴をこぼしていたが、襲撃先を知った時――考えはがらりと変わった。

 ラギュナスの目的と自分の復習を同時に成しえることができる。

 まさに千代一隅のチャンス。

 願っても無い事に、喜びの余り泣き出してしまった。

 レギアスは、自分の地位を確立するために、極秘で局員を抹殺している。

 しかも、地上のトップなので、情報など簡単に改ざんできる。

 たとえ、改ざん証拠を手に入れても、最高評議会が潰してしまう。

 だから、この襲撃で一矢報いることができる。

 レジアスに消された兄の無念と、父と母の形見を奪った管理局を滅ぼすために。

 

「射程内に入りました!」

「機動兵器、局員とエンカウント!」

「指示をお願いします!」

 

 三人のオペレーターからの報告を受け、自らの頬を叩く。

 そして、モニターに映し出された、忌まわしき法の塔を睨みつける。

 

「全機と全艦に通達! 攻撃を開始せよ!」

『了解! 全機と全艦に通達! 攻撃を開始せよ!』

「それと3分後、ど真ん中の塔に、長距離魔導砲を叩き込んで」

「サー・イエッサ! 長距離魔導砲・グランドクロス起動用意!」

 

 カドナ・アラードラインの復讐とラギュナスの目的成就の攻撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なのだ……これは?」

 

 クロノの第一声。

 彼の目の前に映し出されているモニターの映像を見た、第一声。

 時空管理局・本部の襲撃中の映像。

 隔壁のあちらこちらから、爆発が起きている。

 しかも、本部の周りには機動兵器が無数に飛び交い、攻撃を行っている。

 これではまるで、戦争しているようにも見える。

 いや、これは戦争である。

 ただし、逃げるものに対しては一切攻撃していない。

 が、一度でも攻撃した場合、容赦無く襲い掛かる。

 

「クロノ提督!」

 

 男性オペレーターが声を上げる。

 

「どうした!?」

 

 本局からの伝命かと思ったが、的外れの言葉が飛び込んできた。

 しかも、自分が想像していた考えの斜め上を行く答えであったからである。

 

「地上本部が……襲撃されているとの報告が!」

「何だと!? 状況は!」

 

 その言葉に、キーパネルの上を手が踊り狂う。

 

「レジアス中将の活躍により、均衡が保たれていますが、崩れるのも時間の問題かと」

「救援要請は……ないか」

「はい」

 

 クロノの言葉に、苦い顔をしながら答える男性オペレーター。

 海=本局、陸=地上本部の仲の悪さは、一般人にも有名なことで知られている。

 よって、どんなに不利な状況でも評議会の指示が無い限り、レジアス中将は本局を頼らないだろう。

 しかし、今頼られても動くことは出来ない。

 こちらも、襲撃を受けている最中である。

 だが、クロノは動けずにいた。

 状況が状況だけに、下手に動けばとんでもないことになる。

 情報が少なすぎる。

 それでも、今は動かなければならない。

 そして、クロノの腹は決まった。

 

「……本艦は、本局の回りにいる敵を迎撃! 武装局員は、本局内部に潜入した敵を迎撃せよ! 状況によっては僕も出る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喧嘩

 争い

 衝突

 戦争

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本局入り口でぶつかり合う、鋼の音。

 時折、爆発音もするが、けして止む事はない。

 

「くっ! かっ、てーな、オイ」

 

 大きな鉈の反動で体制を立て直す、ロングコートの男。

 

「レイジングハート!」

<オーライ、マイマスター! アクセルシューター、セット!>

 

 なのはの周りに、桜色の球体が無数出現する。

 

「やべっ――ん?」

 

 ロングコートの男は、右足をすり下げるが何かにぶつかる。

 瓦礫と思い、振り返るとある物があった。

 ロングコートの男は、ニヤリと笑う。

 なのはをけん制できる物が、そこにあった。

 ありがたい。

 それを、なのはに悟られないように拾いながら、バックステップで後退する。

 懐から質量兵器の1つである『手榴弾』を、ある物に突っ込む。

 

「しゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅとぉ!」

 

 レイジングハートを振りながら、アクセルシューターが雨のように降り注いでくる。

 

「いや~、ここまで来ると綺麗だな――とぉ、防御、防御」

 

 と、ある物を自分の体の影に隠しつつ、大きな鉈を回転させて防壁を作る。

 この方法は、よく漫画なので使われる手の1つだが、実際やると遠心力など色々な問題が発生。

 はっきり言って、握力と腕力、腰の強さと土台となる足の踏ん張りが無ければ、逆に吹き飛ぶ。

 もしくは、巻き込まれて自滅する可能性がある。

 が、その条件を全てクリアしていたロングコートの男には、造作も無いことである。

 

「せりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 扇風機の如くの回転で、アクセルシューターを弾く。

 物理法則で、魔力法則を打ち破る。

 エナルギーを、モノで防ぐ――簡単に言えばそうなる。

 所詮、魔力も質量。

 防げるか、防げないか。

 これだけである。

 何発か弾きそびれ、回転を通過し、地面に着弾する。

 時に頬を、足を、太ももを、腕をアクセルシューターがかする。

 回転の影響もあり、次第に砂煙が起こり始める。

 そして、ロングコートの男は砂煙に消えていく。

 それと同時に、なのはは後退する。

 下手に砂煙に入れば、相手の攻撃の直撃を受ける可能性が高くなる。

 それを対処するための行動。

 しかし、いきなり砂煙からロングコートの男が現れる。

 とっさの事だけに、反撃が出来ないし、距離があまり無い。

 斬撃と判断し、防御で凌ぐ事に決める。

 だが、なのはの予想とは違う行動が起きる。

 

「プレゼント、フォー、ユー」

 

 今まで持っていたある物を、なのはに投げつける。

 手榴弾の安全ピンを抜きながら。

 なのはは飛んで来る、ある物を見て固まった。

 それは――生首。

 しかも、口には安全ピンの無い手榴弾。

 プロテクションを張ろうとしていたが、生首というインパクトのある物を見て、防御が遅れた。

 爆発。

 顔がバラバラとなり、四方に飛び散る。

 なのはを巻く込むほどの爆発ではなかったが、バリアジャケットが血で染まる。

 さらに、肉や血管なども張り付く。

 かざし掛けた手は、血まみれで肉が張り付き、脳の汁が袖にこびり付き、嫌な感覚を植えつけていく。

 血は、自分自身のも含めて、何度か見てきた。

 だが、ミンチみたいに吹き飛んだ人間の肉片は、見たことが無い。

 

「あ、ああ……はぁ」

 

 目を丸しく、震えながら肉片がこびり付いた手を見る。

 それを見た瞬間、喉から何かが湧き上がってくる。

 咄嗟に口に手を当てようとしたが、肉片がついていることに気がつき、躊躇う。

 

「あ――ん!? ぅえあぁぁぁ……ぅおえぇぇぇぇ……」

 

 そのまま空中で、ゲロを吐く。

 レイジングハートは、そのまま空中にいるのは危険と判断し、地面に降りる。

 そのままなのはは、地面に四つん這いになり、ゲロを吐き続ける。

 四方に吹き飛んだ生首と、手にこびり付いた肉片のインパクトが強かったらしい。

 当たり前といえば、当たり前である。

 まず普通に生活していれば、血は見ても、生首が吹き飛んだり、人間の肉片が手にこびり付いたりすることはまず無い。

 たとえ、危険度の高い任務を受けることのあるなのはでも、仲間を守りきり、解決に導いている。

 血は見ても、仲間の死には立ち会ったことは無い。

 

「エース・オブ・エースでも、これはきつかったか。やった本人ですら、きつかったからな」

 

 上から掛かることに、はっとなるなのは。

 顔を上げると、ロングコートの男が、手をこちらにかざしている。

 その手には、何か装置が付けられていた。

 

「悪いが、ここで消え――」

 

 そこまで言いかけて、後方に勢い良く飛ぶ。

 それと紙一重のタイミングで、なのはから見て右から雷の閃光が走る。

 

「くっ! この攻撃――金色の閃光、フェイト・T・ハラオウンか!」

 

 綺麗に着地しながら、左を向きながら叫ぶ。

 

「なのは!」

 

 ソニックムーブを解除し、なのはの横にしゃがむ。

 

「ふぇ、フェイトちゃん。ありがとう、助かったよ」

 

 笑顔を見せるも、弱弱しく答えるなのは。

 やはり、相当参っている様子である。

 

「くっ、姐さんの嘘つき。フェイトは抑えると言って置きながら、しっかり合流されているのですが」

 

 ぼやくロングコートの男。

 そこで、念話が繋がる。

 

(聞こえるか、私だ)

(嘘つき)

 

 問答無用の返答。

 

(すまない。フェイトとは行き違いになった)

(ベタ過ぎますよ!?)

 

 衝撃の事実。

 大体の計画は順調に進んでいるが、他の付属的な部分では、所々支障が発生しているらしい。

 

(すまないが、2人まとめて相手してくれないか? 長に言って、計画を早める様進言しておく)

(りょぉーかい。なるべく早めにお願いしますよ? 金色の閃光だと、相性が悪すぎるから)

 

 ロングコートの男は、フェイトのように素早く動く相手が非常に苦手である。

 

(だからあれほど訓練を受けろと言ったのに……長に言っておくからな)

(うぐっ)

 

 そこで念話が終わる。

 何とも中途半端な感じであるが、いつものことである。

 大きな鉈を一回転。

 そして、地面に軽く刺す。

 なのはとフェイトは、それに反応するように、こちらを向く。

 なのはの顔色は、先ほどより良くなったが完全とはいえない。

 

「さて、そちらはまだらしいが、俺には関係無い。悪いが、戦闘を再開するぞ――構えろ!」

 

 そう言いながら、ロングコートの男は突貫した。

 大きな鉈を手に、風を切り裂くような轟音を上げながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血が流れ

 肉が裂け

 人が地に伏せ

 それが山となす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどまで、提督クラスの中でも上位に当たる人間が座っていた席で、何かの作業するビーク。

 その横のデスクの上に座って、ビークの作業様子を眺める華丞。

 

「で、華丞。これからどうするのだ? 一応、神経麻痺のガスは巻いといたけど」

「お陰で我も巻き込まれたがのう、ビークよ」

 

 冷ややかな目でビークを見る華丞。

 先ほど撒いたガスにやられた事を根に持っている。

 それもそのはず。手はずは、突入する前にガスを混入。

 その後、ガスがある程度弱まってから、入り口から堂々と現れる。

 しかし、どこをどう間違えたのか、堂々と入り口から現れてからガスを撒く。

 おかげで華丞は、会議室にいる人たちと一緒に麻痺した。

 ちなみにビークは、対処用装備&念のための解毒剤を用意。

 華丞は、このことに関しては全く装備を持ってこなかった。

 結果――上の地の文章と会話通りである。

 

「まだお怒りなのですか」

 

 当たり前である。

 この計画を考えたのは、華丞であるのだから。

 

「さぁ~。で、首尾は?」

「言われた通り、あの新人としてオペレーターが役に立っている」

 

 そう言いながら、キーパネルを操作を続ける。

 エンターを押して、新たにモニターを展開。

 そこには『第一級極秘ファイル』と書かれていた。

 

「あったぞ。これで、裏の顔が丸だ――」

「そこまでや!」

 

 その声に、ビークと華丞が顔を上げる。

 そこには、騎士甲冑を身に纏った、八神はやて、シャマル、ヴィータ、ザフィーラの4人が立っていた。

 

「あら~、外の連中は……逃げやがった。帰ったら、減棒決定」

 

 こめかみに、怒りのマークを浮かべる華丞。

 その横で苦笑するビーク。

 一応、このラギュナスは給料制度がある。

 裏の就職としても有名であるが、危険度の幅が広いため、余り人は集まらないのが現状である。

 が、入ってくる大半の人間は、特殊技能やレアスキルを保有している。

 それが無くても、何らかの特化した何かを持っている。

 ちなみに、外にいた連中の平均給料は、日本円にして15万円。

 先月バカをやって減棒されたばかりであり、追加ペナルティとなるので、更なる減棒が行く。

 まさに、ご臨終である。

 

「で、彼女の相手は……俺か?」

 

 自分を指差すビークだったが、華丞がデスクから降りて、はやてたちの前に立つ。

 

「おいおいおいおい!? やり合うのか、アンタが!」

「仕方あるまい。我では、ハッキングはできん」

 

 そう言いながら、両袖から扇子を取り出す。

 そして、景気良く開き、構える。

 

「さすがの我でも、この人数では1分しか持たん。はよ、加勢しせぇい」

「了解――あと30秒お待ちを」

 

 ビークの手の速さが上がる。

 指の残像を僅かに残すほどの速さであるが、これ以上速く打つと、機械のほうが誤認して、作業が遅れるからである。

 

「させるかよ!」

 

 ヴィータが、一目散に華丞を通り過ぎて、ビークに突貫を駆ける。

 が、横から何かが飛んで来るのを感じ取り、急停止して後方に空中バックステップする。

 それは、綺麗な円を描きつつ、華丞の手に収まる。

 先ほど袖から出した扇子であった。

 

「言ったはずじゃ。1分ばかし相手せぇい、と」

 

 扇子で口元を隠しながら、ヴィータに言う。

 ヴィータは一旦、はやての所まで下がる。

 1人では抜けないと判断した。

 

「ヴィータは、もう一度突っ込んで。ザフィーラはヴィータの援護。シャマルは私と一緒に後方支援! ――いくで、皆!」

 

 華丞を睨みつけながら、指示を出すはやて。

 

『応!』

 

 それに答えるように、返事を返す守護騎士――ヴォスケンリッター。

 だが、そこには烈火の将はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1つの爆発

 1つの雄叫び

 1つの叫び

 1つの絶命

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦況は!?」

 

 クロノが状況確認を求める。

 

「駄目です! 完全に押されています!」

「武装局員の負傷者続出! このま――3名の死亡確認!」

「ああ、そんな!? 艦長、5番艦リードの轟沈確認!」

 

 次々と報告される最悪な出来事に、クロノは唇をかみ締めた。

 本局に武装局員を出したが、全く駄目であった。

 逆に被害を拡大させる結果となったが、非武装局員と報道関係者の脱出は完全に完了したことだけが、唯一の成果である。

 クロノは目を瞑り、ある決断をする。

 

「……エイミィ!」

 

 目を見開きながら、長年の相棒に声を掛ける。

 

「何ですか、クロノ艦長!?」

 

 振り返るエイミィ。

 

「これより、僕は本局に出向く! あとは頼む!」

「――了解! 死なないでよ、クロノくん!」

 

 その言葉に、クロノの口元が僅かに緩む。

 

「当たり前だ。来年は式を挙げるのだからな」

 

 それだけ言い残して、ブリッジを後にする。

 呆気に取られているオペレーター一同。

 ある意味コミカルな空間となる。

 

「さぁ! 皆、クロノ艦長をサポートするよ!」

 

 一同に激を飛ばすエイミィ。

 少し慌てるものの、すぐに気を取り直して作業に戻る。

 

「エイミィ艦長代理!」

「何!?」

 

 右後ろから声が掛かる。

 

「結婚式、呼んでくださいよ~」

 

 その言葉に、キーパネルに頭がぶつかる。

 このあと、どやされた事は言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 涙は悲しみの象徴

 笑顔は狂喜の象徴

 怒りは憎悪の象徴

 楽しさは愚の象徴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲシュ・ペ・ンストのブリッジ。

 

「長、聞こえますか?」

 

 女性オペレーターが、通信回線を開く。

 

≪ああ、聞こえる。どうした?≫

 

 準備体操をしながら、通信に応じる長。

 

「アースラから、クロノ艦長が出撃した様です」

≪そうか。なら、俺が仕留める≫

 

 体操を止め、両手のグローブを閉め直す。

 

「長自ら動かなくとも」

 

 少し困った顔で言う女性オペレーター。

 『彼女』から、なるべく止める様に指示を受けているからである。

 

≪確かに……だが、アイツとは戦ってみたかったからな≫

 

 そう言いつつ、転送装置に向かって歩き出す。

 

「判りました。ケガだけはしないでください」

≪ああ。あと、彼女を管理局に帰す、最後のチャンスだから。説得――≫

「しても無駄ですよ。本人は、アナタについていく気満々ですから」

 

 言いかけた言葉を覆い被せ、セリフを奪われ、少し凹む長。

 説得しても無駄との事に、さらに凹んだ。

 

「最後に、計画の繰り上げ進行が来ています」

≪繰り上げ? 現在の進行状況は?≫

「ただいま、本局の制圧は50パーセントを超えていますね。地上本部は、空の部隊とエンカウントしたので、予定より少し遅れていますね」

≪そうか……地上本部襲撃部隊に引き上げ命令を。それと、10分後に本局から撤退すると指示を出ておいて≫

「あの娘が素直に動いてくれますかね」

 

 ため息を1つ。

 

≪あははっ。まぁ、カナドに任せよう――じゃ、行って来るから、留守を頼んだ≫

 

 転送装置に入りながら、女性オペレーターに指揮を任せる。

 

「はいはい。行ってらっしゃいませ、我が長」

 

 キーパネルを走らせて、転送装置を起動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光と闇がぶつかる

 光と闇が擦り合う

 光と闇が侵しあう

 光と闇が交じり合う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議室の中では、金属音が鳴り響く。

 砲撃系の魔法は使うことは出来ないため、デバイス同士の白兵戦となっている。

 華丞の場合は、デバイスではなく鉄扇であるが。

 

「はぁ、はぁ……ビーク?」

 

 こめかみに怒りマークを浮かべながら、はやてたちを睨みながら言う。

 

「すいません。新しいデータが出てきたの、時間がさらに掛かって……もう何分かお待ちを。新しいのを発見しますタ」

 

 でかい汗を浮かべつつ、データ処理を行っていたが、隠しデータを見つけては処理を繰り返していた。

 すでにこの行動を、10回繰り返し、予定時間より10分以上オーバーしている。

 だが、ただの鉄扇2つだけで、4人のエース級を抑えたのだから、彼女の能力はオーバーSランクに匹敵すると考えられる。

 

「減棒」

「勘弁してください」

 

 半泣きになりつつも、キーパネルの勢いは留まる事を知らない。

 チャンスと感じ取ったはやてたちは、一気に勝負を決めようと、各自デバイスや拳を構える。

 天井爆発。

 瓦礫と一緒に何かが落ちてくる。

 その場にいた全員が身構える。

 ビークは、今までコピーしたデータを懐にしまい、四方にシールドを展開する。

 砂煙の中で、影が立ち上がる。

 

「ビーク、そこまで警戒しなくても……すまない、今は作業中だったな」

 

 はやてたちは、この声に固まった。

 行方不明と聞き、死亡と聞かされ、一ヶ月前からは敵となったという噂を耳にした。

 

「うむ。お陰で我が重労働することになった」

 

 華丞の顔は笑っているが、背後には何故か阿修羅が見える。

 お怒り。

 恐怖。

 圧力。

 ビークは防御魔法をさらに強固なモノにし、砂煙の人物も身構える。

 

「まぁいい。お前さんの身内じゃろぅ、何とかしてくれんか?」

「それ以前に、長に戻れと言われているのですが」

 

 華丞の言葉に、汗を垂らしながら答えるビーク。

 長から、『これが最後のチャンスだ』と言われている。

 だが、彼女は戻る気など、とうに無かった。

 確かに記憶は戻った。

 しかし、管理局の裏を見ているにも関わらず、おめおめと帰るわけには行かない。

 下手に帰れば、主に危害が及ぶ可能性がある。

 だから、この道を選んだ。

 愛すべき『長』と共に歩むことを。

 仕えるべき主を捨てて。

 

「それは言わない約束だったはずだぞ、ビーク?」

 

 砂煙が晴れてきたところで、持っていたモノで砂煙を一払いする。

 そこには防護服は違うが、その顔は一度たりとも忘れはしなかった。

 凛々しい目にピンクの髪のポニーテイル。

 それと纏めているのは黄色いリボン。

 

「あ、ああ……」

 

 はやては涙目になりながら、口元を押さえる。

 守護騎士たちは、唖然と見た。

 そして、ヴィータが先陣を切った。

 

「シグ、ナム……シグナム! 今までどこに行っていたのだよ!? はやてが心配していたぞ! 守護騎士のリーダーが――」

 

 そこまで言い掛けた途端、シグナムはヴィータに突撃を掛ける。

 

「ヴィータ!」

 

 獣の本能故か、シグナムとヴィータの間に割り込み、『鋼の盾』を発動。

 次の瞬間――『鋼の盾』ごと、ザフィーラが上空に吹き飛んだ。

 そのまま落下し、麻痺して動けない提督たちの上に落ちる。

 はやては、自分の目を疑った。

 仲間である――闇の書だった頃から、共に戦ってきた仲間を吹き飛ばしたのだから。

 自分で武器であるデバイス――レヴァンティンを使って。

 

「何、やっていんねぇん……シグナム、お痛はあかんよ」

 

 完全に動揺しきった瞳。

 全身は震えて、手に持っているシュベルトクロイツはカチャカチャ鳴っている。

 だが、口調はハッキリしている。

 しかし、シグナムは軽く首を横に振った。

 この場合、拒絶、否定を意味する。

 

「主……いや、はやて。敵は、倒すべきだ」

 

 そう言って、レヴァンティンの剣先をはやてに向ける。

 

「そして、私はお前たちの敵であり、裏切り者でもある――ヴィータ」

 

 いきなり振られたので、硬直するヴィータ。

 シグナムは、顔だけ向ける。

 

「言葉は理解できるな……ならば、やることはただ1つのみだぞ」

 

 その言葉を理解したくなかった。

 その言葉を見出したくなかった。

 その言葉を生み出したくはなかった。

 それでも、シグナムは言葉を続ける。

 はやてが無意識に生み出した壁を打ち壊しながら。

 

「ラギュナスの『長』に仕えし黒炎(こくえん)の剣――シグナム! 我が愛しき長の意の壁を打ち払う者なり!」

 

 デバイスを振り払う。

 同時に炎が僅かに舞う。

 

「我が長の意思を貫くために、ここで斬らせてもらおう――八神はやて!」

 

 

 

 

 

 爆発。

 それと同時に、機動兵器の部品が四方に飛ぶ。

 その爆砕の中から、クロノが飛び出てくる。

 

「デュランダル!」

<OK、ボス! ――アイス・トルネード!>

 

 クロノが右手に持つデバイス――デュランダルから、氷の竜巻が吹き荒れ、前方に放たれる。

 通路を占拠していた起動兵器たちの間接や隙間から凍り始め、全身を固めていく。

 

「U2S――スティンガースナイプ!」

<スティンガースナイプ>

 

 左手に持つデバイス――U2Sから、青白い光が打ち出され、次々と氷漬けの機動兵器たちを打ち抜いていく。

 中には、何とか動こうとしていた兵器もあったが、スティンガースナイプの餌食となって爆散していく。

 

≪クロノ提督! 地上本部の襲撃していた部隊に動きあり!≫

 

 通信回線が繋がり、新しい情報がもたらされる。

 ただ、モニターは表示されない。

 

「何だって!? 状況は!」

 

 スティンガースナイプを操作しつつ、通り過ぎ様に仕留め損ねた機動兵器にデュランダルで殴りつけて砕いていく。

 それでも砕ききれない場合は、スティンガースナイプで打ち抜く。

 

≪敵の部隊、全てが後退したそうです≫

「後退だと? ……――」

 

 クロノは、ある結末が浮かび上がる。

 

「襲撃部隊の動向は!」

≪ジャミングを使っているのか、サーチャーに反応しません! ですが、予測進行から見て……ここへ来る可能性は低いかと。あくまで予想ですが……≫

「…………」

 

 無言のまま通路を駆け抜ける。

 ふと思ったが、いつの間にか起動兵器が出てこなくなった。

 むしろ、残骸すら見当たらない。

 今通過している通路には、至る所に戦闘の後があるにも関わらず。

 おかしい。

 疑問。

 疑念。

 疑心暗鬼気味となるが、20歳と言う若さで提督なった頭脳は伊達ではない。

 後のことを考えると、危機に繋がる可能性は高いが、今は特別会議に向かわなければならない。

 各世界の重役やお偉いさん方に、提督クラスの人たち。

 今、この世を去られては拙い方々も含まれている。

 だが、既に管理局の責任とは言えない所まで来ていた。

 一応後方で待機していた、各世界の軍や警察を突破してここまで来た。

 即ち、管理局も対応が困難とされている犯罪組織に襲撃は、この新暦始まって以来の大事件と言っても過言ではない。

 

「エイミィ、聞こえるか!?」

≪はいはぁ~ぃ。何でしょうか、愛しのクロノ提督様♪≫

「ふざけている場合か? 大至急、なのはやフェイト、はやてたちと連ら――くっ!」

 

 伝達事項を言っている最中に悪寒を感じ取り、斜め左へ飛ぶ。

 2テンポ遅れて、先ほどまでいた通路の地面が抉れ、小さなクレーターが生まれる。

 

≪どっ、どうしたのクロノくん!?≫

「エンカウントだ!」

 

 2つのデバイスを構えるクロノ。

 前のほうから足音が鳴り響く。

 体を覆うようなマントに肩と胸に装飾品があり、フードを被っている。

 しかし、胸の装飾品にはラギュナスのマークがあった。

 

「貴様は何者だ?」

 

 その言葉に反応したのか、それともクロノと距離を置きたかったのか、そこで止まる。

 

「我はラギュナスの長だ、クロノ・ハラオウン提督」

 

 その言葉にクロノは身構え、警戒を最大限にする。

 目の前にいるのは、第一級の上の特級時空犯罪組織・ラギュナス。

 ちなみに、特級に指定されているのは、後にも先にもラギュナスだけである。

 しかも、長――すなわち、ラギュナスのリーダーにして、総帥。

 そして、確信する。

 この騒動の主犯格はラギュナスだと。

 

「時空管理局提督、クロノ・ハラオウンだ! 特級時空犯罪組織・ラギュナスの長よ! 時空管理局本局及び、地上本部襲撃の容疑で逮捕する! 残念ながら、君たちには弁解の余地はない」

 

 そこで、デバイスと体制を構え直す。

 

「君たちはやり過ぎた」

「やり過ぎなのは、お互い様だが」

 

 クロノの言葉を、そのまま返すラギュナスの長。

 その言葉に、表情はさらに険しくなる。

 

「ふざけた事を言うのは止めてもらおうか?」

「裏の顔を知らない人間の言葉ですね、提督」

 

 ラギュナスの長は、両手を上に掲げ――握り拳を作る。

 クロノはU2Sを、ラギュナスの長に向ける。

 

「遅い――『天の衝撃』」

 

 二の腕と両拳を肩の高さで維持し、胸の前で両拳をぶつけると、紫色の光が放たれる。

 その光は、通路全体に広がっていく。

 

「デュランダル! U2S――プロテクション!」

≪フリーティング・ウォール!(氷点の壁)≫

≪プロテクション≫

 

 まずフリーティング・ウォールが展開され、クロノとの間に入るようにプロテクションが発動する。

 が、フリーティング・ウォールを簡単に飲み込み――プロテクションで何とか耐える。

 しかし、時間の問題であった。

 ヒビが入り、徐々に周りから砕けていく。

――限界か

 そう悟るクロノ。

 だが、ここで終わる訳には行かない。

 

「U2S、耐えてくれ!」

 

 父から受け継いだデバイス。

 今では、完全に旧式となったデバイス。

 だが、パーツの取替えや機能の増加により、最新のデバイスとギリギリ互角の性能を生み出している。

 それに答えるかのように、デバイスの出力が上がる。

 まだ、父親に守られているのかと思うが、ありがたいと感じる。

 自分はまだ、未熟者であるが、母さんを支えることが出来る人間に。

 そして、愛する者を守り抜く人間となるために。

 もう少しだけ見守ってほしい。

 もう少しだけ支えてほしい。

 そう思いながら、ラギュナスの長の広域攻撃を耐えるクロノであった。

 

 

 

 

 

 薄暗い空間。

 そこに1つの質の良い椅子に、そこに座る男。

 その後方に、1人の女性が立っていた。

 

「状況は?」

 

 男が尋ねる。

 

「はい。現段階では、地上本部は50パーセント壊滅。本局も襲撃の最中です」

 

 まとめられたデータを展開しつつ、読み上げていく女性。

 男は拳を固める。

 

「誰が起こした?」

「ラギュナスの長です」

「ロングイめぇ! 何が協力関係だ! これでは全てがパァになるではないか!」

 

 怒鳴り散らす男。

 女性は、男が怒鳴るたびにビクビクしていた。

 何時八つ当たりされるのか。

 そう思う女性。

 

「そっ、その事なのですが」

「何がだぁ!?」

 

 ドンと、椅子の肘掛を殴りながら怒鳴る。

 驚き、体を少し縮こませるが、新しい報告をする。

 

「未確認なのですが、今の長はロングイではないという情報が――」

「何?」

 

 顔を女性の方に向ける。

 さらに縮こませるが、報告を続ける。

 

「ロングイは、本局の特殊部隊に本部を全滅させられてから、姿を消しています。襲撃の際に死亡したと考えられますが、彼の能力からしてありえないとかと」

「なるほど……確かに、奴の能力は未だに隠している部分がるとはいえ、SSランクに匹敵するからな」

 

 1人で納得する男。

 それを見て、女性は少し安心する。

 

「それと、評議会の方々からですが……」

 

 その言葉に、男の顔が僅かに暗くなる。

 

「いつも通りに処理しろ」

 

 ウンザリした口調で答える。

 いつも通りの回答と言える。

 

「かしこまりました」

 

 いつも通りに頭を下げて言う。

 そして、椅子ごと男は消える。

 そこには、女性1人しかいない。

 女性は無言で、2つのモニターを展開する。

 そこには、ラギュナスの長の戦い。

 もう一方は、シグナムの戦い。

 

「…………私は、彼に――」

 

 そう呟く。

 しかし、呟きは闇に呑まれていくのであった。

 

 

 

 

 

 ボロボロの通路。

 そこには、ラギュナスの長とクロノがいた。

 だが、クロノは通路にうつ伏せで倒れている。

 それを見下ろすラギュナスの長。

 バリアジャケットも所々破れ、肌が露出し、コゲ跡や切り傷、刺傷が目立つ。

 血も出ている。

 しかし、死んではいないが、虫の息である。

 

「うむ。派手にやったのう」

 

 その言葉に、後ろを振り向くと少女と男と女の3人がいた。

 

「華丞に、ビークか……シグナム――いや、もう何も言わん。ついてきてくれ」

「元よりそのつもりだ、長よ」

 

 長とシグナムの間と回りは、淡いピンク色の空間に包まれる――幻覚が展開される。

 

「お2人さん、やるなら帰ってからにしてくれ。あと、人がいない場所で」

 

 ビークから、鋭い突っ込みが入り、恐縮する2人。

 本末転倒気味? と、考える華丞。

 まぁ、ラギュナスでは時々あることなので、大抵のメンバーは耐性が多少ある。

 

「おほん……時にビーク」

 

 状況を反らす様に咳払いし、ビークに話を振る。

 

「あん? うんうん――ゴクンッ、何?」

 

 ちなみに、いつの間にか取り出したカロリーメート(シーフード味)を食し中。

 で、飲み込む。

 

「データの方は?」

「相当時間が掛かったけど、回収完了ぅス」

 

 データが入っているデバイスを、懐から出して見せる。

 

「なら、撤収しますか――オペ子、聞こえるか?」

≪誰が、オペ子ですか!? 私の名前は――≫

「冗談だ。全部隊に撤収命令を掛けろ」

≪…………判りました≫

 

 そこで通信が遮断。

 しかも、ノイズが入るほどの勢いで。

 

「――っ、み、耳が」

 

 耳を押さえながら言う。

 シグナムから、自業自得だという視線が向けられる。

 華丞からは呆れられ、ビークはカロリーメート(ツナマヨネーズ味)を間食中。

 

「とっ、とにかく離脱しま――」

 

 ラギュナスの長は、足早に行こうとした時、足が止まる。

 いや、止められた。

 

「まだやるのか、クロノ提督?」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あ、辺り、まぁ、えだぁ」

 

 ラギュナスの長の右足を掴む。

 それを一瞥するように見る華丞。

 さっさと先に戻るビーク。

 後方で何も言わずに待機するシグナム。

 片手で必死に掴むクロノを、普通に見るラギュナスの長。

 勝負は既についている。

 

「いい加減にしたらどうだ?」

「こと、わる」

「仕方が無いな」

 

 ため息を吐きつつ、左手をクロノに向ける。

 

「悪いが……寝ていてくれ――アイス・タイム」

 そこで、クロノの意識は凍りついた。

 

 

 

 

 

「殺さないのですね」

「ああ」

 

 氷付けになったクロノを見ながら会話する、ラギュナスの長とシグナム。

 

「まだ、死なれては困る」

 

 先に行った2人を追いかけるように、歩き出すラギュナスの長。

 それについていくシグナム。

 

「時空管理局の裏の顔を探ってもらうために、な」

「確かに。彼の能力は素晴らしいです」

 

 自慢するように言うシグナム。

 けして振り返ることも無く、ラギュナスの長の後をついていく。

 八神はやてとは、完全な決別を進言してきたが、彼女は諦めないだろう。

 だが、シグナムの心は変わりない。

 あの部隊の存在とあり方を知ってしまった以上、時空管理局にはいられない。

 ましてや、あの部隊の隊長は、八神はやてに何らか仕掛けてくる。

 私――シグナムがいる限り。

 ならば、敵となって見守るしかない。

 それが例え、かつての仲間を手に掛けようとも。

 それが、今のシグナムの決意である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦70年12月24日――クリスマス・イブと呼ばれるようになった日。

時空管理局・本局及び地上本部、両局壊滅。

祝福の日から、血滑れた日へ変貌した。

同時に、犯罪組織・ラギュナスから、宣戦布告がなされる。

全面戦争の開始宣言であるが、これ以降、姿は殆ど見せなくなった。

新暦71年1月頃より、時空管理局が機能しきれていないことを気に、時空犯罪が増加。

同年3月頃、時空管理局は制限があるが質量兵器の保有を宣言する。

同年4月、ミッドチルダの空港で災害発生。

ラギュナスの仕業だと騒がれたが、長自ら関与を否定し、災害救助に参加したことを公言。

同年6月に辺り、現場で犯罪者の抹殺が、極秘裏に許可される。

同年8月に入り、犯罪件数低下するものの、1軒1軒の内容が過激となっていく。

各世界、メディアからは過剰ではないかと言われるが、結果を出しているため否定は出来なくなってきた。

そして――新暦72年5月。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 左右には、生命ポットが並んでいる。

 その中に、裸の女性がちらほら入っている。

 

「いつ見ても……胸糞悪いな、これは」

 

 男は呟く。

 

「そう言わないでください、長」

 

 横を向くと、紫色のウエーブの掛かった髪の女性がいた。

 服も着こなし、まさに秘書の鏡といわんばかりの姿である。

 

「ウーノか……すまない」

 

 そう言って、奥へ歩き出す。

 ウーノも、後に続くように歩き出す。

 

「人の死は何とも思わなくなったのに、こういう光景には反応できるのだな、俺は」

「お気なさることはありません。敵に対しては不要な感情ですので」

「……感情、か。お前から、そんな言葉か聞けるとは……あいつのお陰か?」

 

 その場で立ち止まり、顔だけ向ける。

 ウーノは僅かに顔を赤らめ、男を追い越して先へ進む。

 男は肩を竦ませ、ウーノの後を追うように再び歩き出す。

 そして――開けた空間に行き着く。

 その中央に、白衣を着た男がいた。

 彼の名は、ジェイル・スカルエッティ。

 広域次元犯罪者である。

 

「ドクター、長をお連れしました」

 

 スカルエッティは、こちらを振り向く。

 そして、口元を緩めて言った。

 

「よくお出でくださいました。ラギュナスの長、桐嶋時覇様」

 そう言って、深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たち・外伝Ⅰ

魔法少女リリカルなのは

~二つの運命と螺旋に出逢う者~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

混沌開門(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

I say and am unpleasant……Showing it is not over here.

いいや……ここで物語は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The U-turn is not possible anymore.

もう後戻りは出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

I tell the future when I have finished being out of order.

狂いきった未来を語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはTIWB

Two intention and the world that have finished being out of order.

~二つの意思と狂いきった世界~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2007年公開予定!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、1つの未来。

混沌に満ちた次元世界の中で、男は戦場を舞う。

少女たちは大人へなっていき、ある部隊を立ち上げる。

名を『特別特殊部隊・機動六課』。

そこに集うは、元アースラの主力メンバー。

設立までに出会い、考えに賛同した者たち。

そして――新たな戦士。

希望を見つけ、掴み取るために戦う部隊。

しかし、この『今』の世界に『希望』は無い。

あるのは、『絶望』のみ。

そして、青年は大人となり、組織の完全な長となる。

名を『ラギュナス』。

そこに集うは、管理局の体制に不満を持つ者。

裏を見てしまい、管理局にいられなくなった者。

長の憧れ――目指すためにいつく戦士。

管理局を打倒、もしくは改善を行うために戦う部隊。

2つの組織はぶつかり合い、滅ぼしあう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に1つ――この物語に、ハッピーエンドは無い。

あってもそれは、ただの幻想でしか過ぎない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Part 1 / the end……And to Part 2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……to be continued





あとがき
 やっと完成しました。
 長らくお待たせしましたって、ここまで来るのに一年以上掛かったよ。(汗
 とにかく公開!
 ちと気合を入れました。
 相変わらず、行き当たりばったりの部分が大半を占めているお陰で、話がとんでもない事に。
 書いている自分もびっくりの勢いで。(汗
 ともかく、とんでもない事になるのは間違いなし。
 最後に、次からはストライカーズ編の部分になりますが、本物とは全く別の話になります。
 質量兵器は許可されているは、犯罪者は現場で抹殺が当たり前の世界。
 生きて拘束されているのは、軽犯罪者のみに近いです。
 多少、第一級犯罪者もいますが……ぷちネタバレなので伏せます。
 ここまでくれば、察しできる人は判るかも。
 まぁ、第一部はここで終わりです。
 では、第二部でお会いしましょう。






制作開始:2007/7/27~2007/8/15

打ち込み日:2007/8/15
公開日:2007/8/15

修正日:2007/9/3+2007/10/4
変更日:2008/10/24


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第一部:管理局サイド
第六話:俺の彼女だ!?


戦士達は傷つき……思い思い体を休めている
しかし、まだ戦いは終わっていない
だけど……今は休息の時
再び戦火が上がる、その時まで


 

 

「うっ……うっ、んん、ふぁ~ああ、うん」

 

 時覇は目が覚め、起き上がり際に背伸びをしながら欠伸をした。

 

“おはよう御座います”

「ああ……おはよう、レヴァンティン」

 

 寝ぼけ眼で答える時覇。

 そして、階段の音がドンドン大きくなっている事に気づき、大慌てで飛び起きる。

 

「 !? やべ!」

 

 そして、着ていたパジャマを脱ぎ捨てる。

 次の瞬間、ドアが開かれた。

 

「おっはよ~って、きゃああああああああ!」

 

 勢い良く閉まる。

 妹――真里菜(まりな)が、ノック無しでドアを開けてきた。

 その真里菜がみた光景は――時覇のパンツ一佇姿だった。

 

「せっ、セーフ」

“……女性に対して、不埒では?”

「しかたないだろう、シグナムの事……説明するのが大変なんだから」

 

 そうして、時覇の平凡では無い、一日目の始まりだった。

 

 

 

 

 

 台所から、リズミカルな音が鳴り響く。

 リビングの方からは、今日のニュースが流れる。

 そして、上からは――

 

『おっはよ~って、きゃああああああああ!』

 

 娘である真里菜の悲鳴が聞こえてきた。

 

「朝っぱらから騒がしいな」

 

 呆れ口調で、ごく当たり前のセリフを吐く父親。

 

「どうせ、またノック無しで入ったんでしょ?あの娘は」

 

 テーブルに、料理の乗った皿を置いていく母親。

 リビングのドアが、荒々しく開く。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 息を荒げ、整えながら椅子に座る真里菜。

 

「今日はどうした? また変な物でもあったのか?」

「ううん、バカの裸を見ただけ――いっただきま~す」

 

 ご飯の入ったお茶碗を持って、料理を食べ始めた。

 

「そうか……だが、ノック無しで入るお前も悪いからな」

「うっ」

 

 父の指摘に、真里菜の箸が止まる。

 

「はぁ~、この娘ったら」

 

 頬に手を当てながら、呆れる母。

 

「おはよ~」

「今日は、起きるのが早いわね。どうしたの?」

 

 席を立ち、時覇のお茶碗にご飯を入れながら、いつもと違う行動に尋ねた。

 

「今日は学校の創立記念日で休みだから、勿体無くて寝てられないよ――いただきます」

 

 時覇は、母からご飯を受け取り、朝食を取り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第六話:俺の彼女だ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないな、レヴァンティン」

“気にすることはありません、主”

 

 先ほど気がついたシグナムは、レヴァンティンから、今まで起きた出来事を聞いたのだった。

「あと、あの時覇という男にも、礼は言わないとな」

 

 不意に、ドアが開かれる。

 

「 !? 」

 

 シグナムは、すぐさま体制と取る。

 

「ふぇ~、やっと行ったぜって、気がついたのかシグナム……さん」

「何故、私の名前を?」

 

 警戒するシグナム。

 

「なに、レヴァンティンから大雑把な事だけを聞いたに過ぎないさ……俺の名前は桐嶋時覇、時覇でいいから」

 

 ドアを閉めながら、自己紹介をする時覇。

 

「……そうか、感謝する」

「そういえば、腹の方は大丈夫か? 飯ならすぐに作るけど」

 

 と、言いながら何故か、お盆の上には和風の料理があった。

 しかも、出来立ての。

 その状況を見て、固まったシグナムだったが――お腹の鳴る音が聞こえてきた。

 

「…………」

「…………」

“……主?”

 

 時覇の部屋から、賑やかな声が上がった。

 

 

 

 

 

――三十分後

 

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

 手を合わせるシグナム。

 

「お粗末さまでした」

 

 お盆を下げる時覇。

 

“すいません、私まで”

 

 刃が綺麗に輝いているシュベルトフォルムのレヴァンティン。

 

「なぁに、前のバイトでやっていた事があったからな」

 

 嬉しそうに話す時覇。

 

「バイトか……時覇の職業は何だ?」

「ああ、十八歳だけど高校二年兼ガソリンスタンドのバイターだったけど、昨日でクビになった」

 

 レヴァンティンを磨くのに使った道具を片付ける。

 

「何かやらかしたのか?」

「ふっ、色々とあっただけさ」

 

 時覇の背中は、異様なまでにすすけて見えたので、それ以上追求はよそうと、心に決める。

 

「そんでもって、話してもらうぞ……昨日の事」

 

 道具を片付け負え、食器を横に置いた時覇が、真剣な眼差しで言った。

 

「……恩はあるが、こちらにも事情があるのでな。悪いが、簡単に話させてもらっていいか?」

「レヴァンティンよりは、な」

 

 そして、途中質問、簡単な解説を含めながらの説明は、一時間費やすことになった。

 

「……大体はわかったけど、これからどうするんだ?」

「一旦海鳴町に戻る事にする」

「そうか……、なら、俺も行っていいか?」

「まあ、問題は無いが……」

 

 少し考えるシグナム。

 

「考えても始まらないなら、着いて行く事決定」

 

 そを言って、横に置いてあったお盆を取って、立ち上がった。

 

「待て、まだ私は何も――」

「レヴァンティン、あと頼んだ」

“お任せを”

 

 戸惑っているシグナムを置いて、男とデバイスは僅かな言葉だけ交わした。

 

「時覇、レヴァンティン」

 

 面を喰らった様な顔をするシグナムであった。

 そして、あれよあれよと言う間に、支度が整い、玄関にいた。

 

「シグナム、準備は?」

「問題無い、お前こそどうなんだ?」

「ああって、財布忘れた」

 

 自分の部屋に、取りに戻る時覇。

 

「全く、自分が忘れては意味がないだろうが」

 

 呆れるシグナムであった。

 

 

 

 

 

 その後、海鳴町に行くが……そこには翠屋はなかった。

 続いて、なのはが通っているはずの学校も、すずかとアリサの家、そして――

 

「主の家も……無いなんて」

 

 愕然となるシグナム。

 確かにここは、海鳴町である。

 一応、なのはやフェイトに似た人物は見つけたが、親が違かった。

 どうやらこの世界は、なのは達が居た世界とは異なる世界だとわかった。

 そして、そのまま夕方になってしまい、途方にくれた時覇とシグナムは、住宅地の公園にいた。

 ついでに言うと、二人ともブランコに座っていた。

 

「なあ、シグナム」

「……なんだ?」

「行く当てないなら、俺が何とかするが……どうする?」

 

 その言葉に黙る、シグナム。

 それに釣られて黙る、時覇。

 二人の間に、何とも言えない沈黙間が生まれた。

 

 が、それを打ち破る、救世主が誕生した。

 

“(時覇)”

(なんだ、レヴァンティン?)

 

 シグナムに内緒で、念話し合う。

 ちなみに念話の事については、朝の説明で聞いていた。

 あと、時覇には魔力があるが、シグナム曰く、念話できる程度の魔力しかないらしい。

 

“(主を頼む)”

(はぁ~、わかったよ)

 

 念話を終えて、ブランコから立ち上がる時覇。

 

「シグナム、何か飲むか?」

「いや、遠慮しておく」

「じゃあ、俺はコーヒーMXで、シグナムは――」

“(抹茶系の飲み物を)”

 

 すかさず念話で通達するレヴァンティン。

 

「――お茶系の飲み物を買ってくるから」

 

 シグナムは、自分の好きな物を言い当てられて、目を丸くした。

 

「え、あ、時覇!?」

「じゃあ、行ってくる」

 

 手を上げて、自動販売機に向かって、走り出す時覇。

 

「ふぅ……レヴァンティン、お前か?」

“何のことでしょうか?”

 

 とぼけるレヴァンティン。

 

「……先ほどの念話は、気のせいだったか」

 

 脱力したように言った。

 だが、シグナムの顔は、リラックスした顔だった。

 

 

 

 

 

 それから二人は、公園を後にし、人気がほとんど無い道――商店街の裏道を歩いていた。

 ここならば、公に魔法の事や、平行世界という会話をしても、怪しまれないし、聞かれることが無いからである。

 簡単に言えば文字通り、本当に人気の無い道、と言える。

 

「で、これからどうなるかぁ~」

 

 バス停から、五分くらい歩いた頃に、時覇が呟いた。

 

「確かに……ここが平行世界の一種であるならば、私は当てが無いといっていい」

「家にくればいいんだが……親に何と言えばいいのやら」

 

 肩を落す時覇。

 

「気にするな。これしきの事くらい、何とも無い」

 

 夜天の王兼現主、八神はやてに出会う前の出来事を思い出したシグナム。

 その時、時覇が見たシグナムの横顔は、痛々しいくらい暗かった。

 

「……シグナム」

「 !? っな、なんだ時覇?」

 

 感傷に浸っていた時に、不意に声を掛けられたので慌てた。

 時覇の方を向くと、手のひらが視界に広がっていた。

 

「そのまま、目を瞑ってくれないか……大丈夫、変な事はしないよ」

 

 真面目な顔で言う時覇。

 ただ、その瞳は偽りの無い真剣そのものだった。

 

「そうか」

 

 言われたとおり、目を瞑るシグナム。

 そして、時覇の手が次第に淡く光だした。

 氣功術の一つで、精神に直接安らぎを与える技。

 一分か二分たったのか、手から淡い光が消え、時覇は手を引いた。

 

「どうだ、少しは楽になったか?」

「……何だか、不思議な感覚だったな」

 

 呆然としながら言った。

 

「落ち込んでいる時は、嫌な事は忘れるに限る」

 

 苦笑しながら笑みを浮かべる時覇。

 シグナムから見たその表情は、どこと無く暗かった。

 

「……って、何時から居たんだ!?」

 

 家に向かって歩き出そうと振り向いた途端に、妹の真里菜が居たのだった。

 

「 !? 」

 

 とっさに飛び退くシグナム。

 そこには、父親と母親が居た。

 

「いつも息子がお世話になってます、シグナムさん」

 

 などと口走る母。

 

『はい!?』

 

 同時に叫ぶ時覇とシグナム。

 

「む、違うのか?」

「違うわ!」

 

 素でボケる父に、鋭い突っ込みを入れる時覇。

 

「じゃあ、何で昨日アンタの部屋で寝てた訳?」

 

 真里菜の指摘に、言葉が詰まる時覇。

 

「まさかと思うけど……法に触れた行いでもした?」

「してないよ!」

 

 的外れの言葉攻めに、ゲンナリする時覇。

 

「ああ、それはされていないから、問題無い」

 

 時覇の弁護をするシグナム。

 

(シグナム、頼みがある)

(なんだ?)

(口裏合わせてくれ、俺自身、何口走るかわからないけど)

(善処する)

 

 約五秒間のやり取りだった。

 

「シグナムは――」

「彼女」

「そう俺の彼女なんだ!?」

 

 後悔した。

 友達と言おうとしたが、真里菜が『彼女』と会話の途中で出したせいで、勢いで言ってしまった。

 おかげで、それで話を通すしかなかった。

 ちなみに、シグナムの視線が痛かった事も

 

「何故疑問系かは、置いといて」

 

 などとジェスチャーする母。

 

「じゃあ、今日のご飯は赤飯ね」

 

 母よ……と、時覇は地面に崩れ落ちた。

 

「時覇」

 

 顔を上げると、そこには――

 

「私にどうしろと?」

 

 怒りのオーラが見え隠れしているシグナムの姿であった。

 

 

 

 

 

 で、急遽家に帰宅し、リビングで祝いの宴会が開かれていた。

 

「うた~う、ことば~もしっ、らずに~♪」

「母さん、つまみを」

「は~い」

 

 歌う真里菜に、酒のつまみを食べる父、母は母で色々している。

 時覇とシグナムは――

 

「シグナムさん?」

「…………」

 

 時覇の問いを無視して、持っていたお茶を飲む。

 

(ま、怒るよな。普通は)

 

 時覇も、『ハジケ祭り』を飲んだ。

 

 

 

 

 ちなみに、『ハジケ祭り』とは――

 昔のコーラ並みの炭酸、発ガン性があるといわれる着色料の青を使用。

 簡単に言えば、2006年3月に出た『ポー○ョン』がベースとなっている品物である。

 

 

 

 

「ねえねえ、シグナム義姉様♪」

「っぷ、んっぷは、はぁはぁ、な、なんだ真里菜?」

「ブッウゥゥゥゥゥゥ!」

 

 義姉発言に、飲んできたお茶を噴出しそうになりつつも、何とか堪えた。

 だが時覇は、耐えられず噴いた。

 今のコーラでも、耐えるのがキツイのに……それを昔の炭酸量だとすると、とても耐えられる品物ではない。

 

「 む? 」

 

 もの凄い速さで、ソファーから一センチくらいの高さの状態で、いとも簡単にかわす父。

 さすがのシグナムと真里菜も、その俊敏性に少し驚いていた。

 

「げほっ、げほっ……真里菜、何故シグナムを義姉と?」

 

 肩を上下させつつ、口元を拭きながら、尋ねる時覇。

 

「そんなことよりも、キチンと吹いておきなさいよ」

 

 と、母から雑巾を投げつけられた。

 

「わかってるよ」

 

 渋々言いながら、振り向く事無く雑巾を空中で掴む。

 

「時覇」

「なんだ、父よ」

 

 雑巾でテーブルや、床を拭く時覇。

 

「シグナムさんとは、何時結婚するのだ?」

 

 コケた。

 シグナムと同時に。

 しかも盛大に。

 

「どうしたの、ご両人?」

「なんでだよ!?」

「へ、結婚前提のお付き合いじゃなかったの?」

「何時、どこで、結婚前提と言った!?」

 

 母の突っ走りに突っ込みをかます。

 

「だって……」

 

 エプロンのポケットから、カセットレコーダーを取り出して――再生した。

 

『大体はわかったわ、時覇』

『ご理解ありがとう御座います』

『で、何時知り合ったの?』

『……出会い系サイト』

『か、堅物の時覇が、出会い系サイト行くなんて……まさかシグナムさんと既に!』

『やってない!』

『でも、俺は出会い系サイトなんか行くかって、よく言ってた人がねぇ~』

『で、出会い系でも、びっ、BBSの集まりみたいなモンだよ。冷やかしで書き込みしただけだ』

『怪しい~』

 

 ちなみにこの時、父母妹の三人に同時に言われた。

 

『……もう、好きにしてくれ。シグナム、先帰ろうぜ』

『ああ、私も少し疲れた』

『じゃあ、こっちで何かしてもいい訳ね?』

『ああ』

 

 そこで録音会話が終わり、スイッチを切る。

 

「 ね♪ 」

 ぶりっ子して言う、母。

 

「ね♪ じゃねっ――ぶは!」

 

 時覇が来るのを待っていたかの如く、既に突き出されていたフライパンを、顔面に直撃した。

 倒れながら、

 

(何でフライパンで、ダメージを受けなきゃいけないんだ? ってか、俺、悪いことでもしたのか?)

 

 そう思いながら、視界はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第六話:俺の彼女だ!?・END

 

 

 

次回予告

何故か結婚前提のお付き合いになった時覇とシグナム。

次の日、時覇が学校へ行くと……

その頃シグナムも家で……

今までと違う日々が始まる。

 

管理局サイド編

第七話:何時もと違う日常……、かな?

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 やっと半分一歩手前まできました。
 でも、神曲奏界ポリフォニカのクリムゾンシリーズの書きたくなってきた。
 主人公設定も、脳内で完成してますし、パートナーも出来ています。
 あとは、書き起こすだけ。
 連載しまくっているのに、さらに首を絞める行為が思いつく男。
 ま、頑張ります。






制作開始:2006/4/8~2006/4/18
改正日:2006/12/29~2006/1/18

打ち込み日:2006/1/18
公開日:2006/1/18

修正日:2007/4/24+2007/10/4
変更日:2008/10/24


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第七話:何時もと違う日常……かな?

色んな出逢いがあって……
色んな別れがあって……
今日が明日になるように
少しずつ、世界は変わる


 

 

「行ってきま~す」

 

 と、桐嶋家から声が上がった。

 

「いってらっしゃい、真由美。ほら、時覇も行った、行った」

 

 母に、シッ、シッとやられる。

 

「わかっているよ――行ってきます」

 

 真由美のあとに続いて、玄関を出てったが、顔だけ玄関に入れてきた。

 

「母さん、シグナムに変なことするなよ?」

「大丈夫、大丈夫、服の着せ変え程度しかしないから」

「……行ってきます」

 

 そして、玄関を閉めた。

 そのまま道路に出て、学校へ向かいながら、シグナムに念話をした。

 

(シグナム、聞こえる?)

(どうしたんだ、時覇?)

(母さんに気をつけろ。隙を見せれば、玩具にされるぞ)

(……もう、遅い)

(……ごめん)

 

 そこで念話は終わった。

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン……ガシャーン! と、タイミング良くガラスが割れる音が、学校全体に響き渡る。

 

「おっ、落ち着け。き、気分を損ねたなら謝罪する、だから机を投げるのやめてくれ」

 

 時覇は、壁を背に床に座り込んで命乞いをしていた。

 周りの連中も、少々……いや、すでに教室から逃げ出していた。

 

「時覇が悪いんだから!」

 

 彼女の名前は、廼王寺 瑠々(だいおうじ るる)。

 一言で表すと、俺の幼馴染だ。

 瑠々が投げてきた椅子を、時覇は伏せてかわした。

 その椅子は、机や壁にぶつかりながら転げまわる。

 

「あっ、ぶねって!」

 

 とにかく教室を出ようと、ドアへと走るが――地味な音を立てながら、無情にも、外に避難していた生徒らにドアを閉められた。

 その際、教員も一緒に閉めていたのが、ちょっぴり見えた。

 ついでに言うと、その教員と目が合ったが――教員から目を逸らした。

 

「お、お前ら!」

「と~き~は~の……、馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 教卓が、勢い良く飛んできた。

 ちなみに、回避不可能の直撃コースである。

 

「ちょまっ――ぶがっ!」

 

 時覇の視界は、ブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第7話:何時もと違う日常……かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地鳴りのような駆け足が廊下に響いてきた。

 音は次第に大きくなり、とある教室の扉で止まると思いきや、勢い良く開かれた。

 

「真里菜!」

 

 時覇は、鬼のような顔をしながら、真里菜のクラスに乱入してきた。

 

「まっ、真里菜ちゃんなら、さっき出て行きました」

 

 クラスの女の子が、少々驚きながら教えてくれた。

 

「ちっ、アイツ以外、瑠々に情報リークする奴はいないからな……、家に帰ったら覚えとけよって、伝えといてくれ」

 

 渋りながら呟いて、伝言を頼むが――

 

「 嫌 」

 

 即答。

 一瞬で一蹴りされてしまう。それで一気に凹む、時覇。

 仕方なく、真里菜のクラスを後にするのだった。

 それを確認した女子生徒。

 

『と~き~は~!』

『げっ、瑠々って!』

 

 の、会話と後に、コンクリートが砕けるような音が聞こえてきた。

 

『ていや!』

『うおわ!』

「この学校……大丈夫かしら?」

 

 そう言わずにはいれなかった女子生徒であった。

 最後にまた、ガラスが割れた音が遠くから聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 一方、桐嶋家にいるシグナムは――

 

「あの、母上」

「何、シグナムさん?」

「……もっと別な服はありませんか?」

 

 ただいま、シグナムが着ているのは、何故かメイド服。

 ちなみに今まで着ていた服は、時覇の母の策略により、ただいま洗濯中であった。

「ならこっちの服を着る? それともこのフリル?」

 

 右手にはナース服、左手にはゴルロリ服。

 引き攣りながら固まる、シグナム。

 

「どっちがいい?」

 

 無邪気な顔をした母に聞かれるが、

 

「……このままでいいです」

 

 無き崩しに諦めつつも、時覇の帰りを願うシグナムであった。

 この暴君を止められるのは時覇くらいだかなら。

 シグナムは、この時そう確信していた。

 

(時覇、早く帰ってきてくれ)

 

 そう思う、シグナムだった。

 だが、その考えは夕食の買出しで打ち砕かれたのだった。

 

 

 

 

 

 その頃、管理局とラギュナスは――

 

 

 

 

 

「……そうか、あの世界はなのは達が居る世界ではなかったのか」

 

 時空管理局のとある医務室で、クロノはエイミィから今までの状況の説明を受けた。

 しかし、目覚めたとはいえ、まだ絶対安静にしなければならなかった。

 

「それで、あとは何か動きは?」

「特に何も……ただ、上の人達が……デバイス・XGを使うと言い出して」

 

 リンゴの皮を剥きながら答えるエイミィ。

 

「デバイス……XGだって!?」

 

 クロノは静かに驚いた。

 

「あのデバイスは、五年前に暴走を起こして、永久封印になったはずの代物なのに……上の連中は何を考えているのだ?」

「どうも、そのデバイスの特殊能力……それを当てにしているらしいの」

「特殊能力?」

 

 初めて聞いた言葉に訝しげに眉を寄せる、クロノ。

 

「いったいどんな能力が?」

 

 首を横に振るエイミィ。

 

「それが全く判らないのよ。リンディ提督も判らないらしいから」

「ふぅ、しかたないさ。デバイス・XGの出した被害は、対処を一歩間違えていたら次元崩壊を起こすほどだったからな」

 

 そこで言葉を区切り目を瞑る、クロノ。

 

「一応慎重に事を運んでいる訳だ」

 

 そこで、ドアが開いた。

 

「クロノ」

 

 リンディが入ってきた。

 

「母さん」

「提督」

 

 クロノとエイミィは、それぞれの呼び方で言った。

 

「ありがとう、エイミィ。クロノの事を見てくれていて」

 

 微笑みながら礼を言う、リンディ。

 

「いいえ、私は別にたいした事は……」

「それでも、ありがとう」

「はい」

 

 微笑みあう二人。

 

「ところでクロノ、体の方は?」

「当分は絶対安静だそうです」

「そう」

 

 少し顔が暗くなるリンディ。

 

「そういえば、フェイトとはやては?」

 

 その言葉に、黙り込む二人。

 

「……フェイトちゃんとはやてちゃんは、例の爆発の衝撃波からアースラを守ってくれたんだけど……。でも外傷は特に無かったんだけど……未だ、昏睡状態なんだ」

 

 リンディの代わりに、答えるエイミィ。

 そして、静まり返る医務室。

 同時にクロノは、自分の無力さを恨んだ。

 仲間以前に、家族である妹すら守れなかった事を。

 この事がキッカケとなって、あんな出来事を生むことになるとは、まだ……、先の話である。

 

 

 

 

 

 次元空間に漂う、ラギュナスの戦艦。

 今か今かと、その有り余すエネルギーを蓄積しつつ、浮遊していた。

 その戦艦の通路で、二人の男女が出会った。

 

「ロングイ」

「レニアスフェイト、どうしたんだ?」

 

 通路で出会った二人。っと、言うよりも、レニアスフェイトが俯きながら通路の壁に寄りかかっていて、ロングイの足音に気がいた所である。

 

「ごめんなさい。……また癇癪起こしちゃった」

「その事か。別にいいさ、お前が無事だったからな」

「っでも! っでも! っでも、でも……」

 

 ロングイに優しくだから、頭を撫でられて、気持ちが静まっていく、レニアスフェイト。

 

「今日は疲れただろう、そのまま眠るといい」

 

 その言葉に従うかのように、レニアスフェイトは眠りについた。

 

「東野、いるのだろ?」

「なんだ――」

「――その格好は?」

 

 東野が区切る前に、そのまま言葉を繋げる、ロングイ。

 

「マスクドライダー・ZO」

 

 聞いて呆れる、ロングイ。

 

「……とにかく、レニアスフェイトを部屋まで運んでおいてくれ」

 

 そう言い残して、奥の管制室へ入っていった。

 

「……アイツが使った業は……確か、前隊長の『氣』を使うモノだったな」

 

 そう呟きながら、レニアスフェイトをお姫様だったして、部屋へ運んでいった。

 

 

 

 

 

「状況は?」

 

 管制室に入ってくるや否や、オペレーターに尋ねる、ロングイ。

 

「ん~? 見れば?」

 

 茶を啜りながら答える、オペレーター。

 

「……ここでの飲食を禁止とする」

 

 その言葉を聞いた途端、茶を飲むのを止め、エイミィがキーボードを打つ速さよりも、さらに速い速度で打ち込んでいった。

 

「時空拡散弾の影響は52.369%-8.24、魔力無効化弾47.3598%+2.498だよ」

 

 僅か十八秒で終わった。

 エイミィでも、このデータを整理するのに、一分近くは掛かる。

 

「時空拡散弾の誤差が-5以上とは……、これだと、計画を急がなければならないな」

「でも、魔力無効化弾の誤差が+2以上あるから、五分五分って所じゃないの?」

「そうも、言ってなれない。管理局はデバイス・XGを使用するからな」

「デバイス・XG……不完全なデバイスを?」

「不完全とは。アレは一応完成しているのだが?」

 

 それを聞いて苦笑しながら答える、ロングイ。

 

「使い手が居ないデバイスなんて、ただのガラクタよ」

 

 言い切る、オペレーター。

 

「でも、あの特殊能力については、高く評価しているわ。ある一点を除いては」

 

 そう言って、デバイス・XGのデータを出す。

 

「仕方ないさ、過剰な能力や力は、常に何らかのリスクが付きまとう」

 ロングイは、ただただデバイス・XGのデータを見つめながら言った。

 

 

 

 

 

 時覇が通う、学校の放課後――

 

「廻裏(かいり)!」

 

――未だに続いていた追いかけっこの中、時覇目掛けて、氣を纏った飛び膝蹴りが飛んできた。

 

「防壁!」

 

 学校の階段の横の壁に取り付けられている壁を、瑠々の前に出した。

 バボハン! と大きな音と同時に、防火扉に大きな窪みが出てきた。

 ちなみに、少しだけ穴も開いた。

 『死』、この言葉が、脳裏を過ぎった。

 

「氣雷(きらい)!」

 

 氣が雷に具現化して、レールガンのように飛んできた。

 ちなみに、防火扉を貫通して。

 当たり前だけど。

 

「せいらっ!」

 

 後ろに振り向き、前に飛び込み前転してかわす。

 一発、お尻を掠った。

 そのまま階段を転がるように下り、窓から上着を投げ捨てて、廊下の影に身を隠す。

 

「――そっちね!」

 

 少し遅れて、瑠々も窓から出て行った。

 ちなみに、ここの窓は二階です。

 地面に片足がめり込みながら着地し、抉りながら足の軸を回転させて、校門方面へ向かった。

 物凄い轟音を上げながら。

 

「……おやっさん、娘が化け物に成りつつあるんですが?」

 

 瑠々の父親に、文句を呟く時覇だった。

 

 

 

 

 

「こんにちは~」

 

 八百屋の店主に挨拶する母。

 

「おっ、桐嶋の奥さんじゃないかって、こちらの方は?」

 

 八百屋の店主は、新撰組の格好をした女性を見て、尋ねてきた。

 

「ええ、息子の彼女、シグナムさんです」

「別嬪さんではあるが、何というか……オタクとかいうこれは……こすぷれ、って奴かい?」

「義母上に、無理やり着せられました」

 

 顔を真っ赤にして、俯きながら答えるシグナム。

 

「あら、お似合いじゃないの」

 

 ほのぼのと答える母。

 

(時覇……もう嫌だ)

 

 シグナムは涙目を浮かべながら、赤くなりかけた空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 その頃、時覇は――

 

 

 

 

 

 壁に背にしたり、茂みに隠れたり、しゃがんで進んだりと、有名なゲームのアクションを行いながら、商店街を移動していた。

 

「ったく、何でメタギアの真似事せにゃ~あかんの、俺?」

 

 そう言いつつも、瑠々が怖くて青いポリバケツに入って移動していた。

 傍から見れば不審者だが、見回りの警察官も素通りするほど見慣れた光景だったりする。

 

「おや? 時ちゃん、また瑠々ちゃんと揉めたね?」

「ああ、違うよ。一方的に瑠々から来たから」

 

 瑠々が居ない事を確認しながら、青いポリバケツから出てきた。

 

「ってことは……女絡みだね?」

 

 興味津々と言うか、茶化していると言うのか分からないが、おばちゃんは聞いてきた。

 

「一応図星とだけ答えておくよ」

「あらやだ、あの話は本当だったの」

 

 驚きながら答えるおばちゃん。

 

「あの話って?」

 

 服についた埃を払いながら、聞き返す時覇。

 

「出会い系サイトで彼女を見つけてきたけど、偉い別嬪さんだったて話」

「…………あのヴァヴァ!」

 

 ポリバケツを地面に叩きつけて一目散に走り出す、時覇。

 ポリバケツはバウンドして、向かいの散髪屋の窓に当たる。

 

「この時間だと、しゃもさんの魚屋に居るはずだよ!」

「ありがとう御座います! って、近!」

 

 

 

 

 

――そして……

 

 

 

 

 

「ゴラァ! 母さ――」

 

 言い掛けた言葉と足が同時に止まり、埃を巻き上げながら、シグナムと母の横を通り過ぎる、時覇。

 

「どうしたの? そんなに慌てて」

「母上様、こちらのお美しい方は?」

 

 新撰組の格好をしているシグナムを、再確認するために尋ねる。

 場合によっては、どっきりを行う為に、全世界から探し出して雇った可能性があるからだ。

 

 

 

 

○         ○         ○

 

 

 

 

 ここまで手の込んだどっきりはしないとコレを読んで考えているアナタ……、甘いです。砂糖よりも杏仁豆腐よりもチョコレートケーキよりも甘いです。

 桐嶋謳華(きりしまおうか)という人物は、己が楽しめれば、地球の裏側だろうが、墓地の中だろうが、強制連行したり、掘り返したりするという、神と魔王が同時に素足で逃げ出すほどの人である。

 何故、神と魔王が出てくるのかは別の話なので、伏せさせてもらいます。

 

 

 

 

○         ○         ○

 

 

 

 

「私の自慢の義理娘兼アナタと共に人生を歩むパートナーである、シグナムよ」

「……ごめんシグナム。お世辞ウンヌンの前に、謝罪させてください。ごめんなさい。」

 

 その場で土下座しながら言った。

 

「いや、気にするな。……嫌というほど判ったから」

 

 悟りきった様に口走るシグナム。

 

「……まだ序の口だぞ?」

 

 時覇の発言に、石化するシグナム。

 

「そして遅くなったけど、似合っているよ」

 

 テレながら答える時覇。

 

「そっ、そうか」

 

 顔を真っ赤にさせながら、短く答えるシグナム。

 その光景を、母・謳華と商店街に来ていて人と近くの店主が眺めていた。

 冷やかしてもよかったが、朴念仁であるはずの時覇が、女性にお世辞を言っているのだ。もう少し見てみたいという衝動に駆られていた。

 だが、それを打ち砕く様に――

 

「見~~~つ~~~~け、たっ――――!!」

 

 大気を震わし、衝撃波が広がり、野良・飼われている動物達が一斉に逃げ出したのだ。

 

「ゲェ!」

「なっ、敵襲か!?」

 

 シグナムは、すぐレバンティンが使えるように、手に仕込もうとするが――

 

「はいコレ」

 

 謳華から、木刀『村正・桜花』を渡された。

 

「あの、一体何処から……」

「さあ、頑張って」

 

 シグナムの問いを、笑顔で返す。

 次第に足音が段々大きくなって来たが、一瞬だけ聞こえなくなった。

 一瞬の静寂後、また聞こえてきたのだ。

 

「時覇の――」

 

 やはり瑠々だった。が、手に持っているのが――

 

「何故、大マグロ!?」

 

 青森の冷凍化された本マグロが、片手に装備されていた。

 あの艶といい、大きさといい、時価600万から800万くらいの代物である。

 

「瑠々ちゃ~~ん、返しておくれ~~~~!」

 

 どうやら魚屋からかすめて来たらしい。

 

「ってか、何であんの!? って、そう突っ込んでいる場合じゃ――」

 

 気づくのが遅い、既に振り抜く事が出来る射程内にいた。

 ちなみに謳華は、何故か自ら武装させた、シグナムと共に避難済みである。

 

「――馬鹿ち――――ん!!」

 

 本マグロの攻撃により、人類が出しちゃいけない音と共に、時覇の顔にジャスト&クリティカルヒットした。

 そのまま振り向かれて、宙をきりもみ回転+腰辺りを中心軸に大きな後転をしながら吹き飛んだ。

 地面に着弾したが、勢いが殺せずに七、八回バウンドした辺りで、時覇の意識がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第7話:何時もと違う日常……かな?・END

 

 

 

次回予告

あれから数日経ち、時空拡散弾と魔力無効化弾の威力が弱まり始めた。

動き出すラギュナスと管理局。

誰かを待つように、静かに稼動を始めるデバイス・XG。

そして、再び戦の光が輝きだす!

 

 

管理局サイド編

第八話:始動する思惑

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 第七話の改正版、いかがでしたか?
 やっと折り返し地点に到達。
 言葉も訂正しつつ、追加していく日々。
 課題やりつつ書いてましたが、大半がコッチへ。(汗
 何やってんだ、俺?
 2007/01/24現在、明日テストを控えている人間。
 ついでに明後日も……、コッチが大変なんだけどね。
 明日のテストは持ち込み可! ノートの見直ししておけばOK!
 追試にならないように頑張らないと。






制作開始:2006/04/19~2006/5/29
改正期間:2007/1/9~2007/01/24

打ち込み日:2007/01/24
公開日:2007/01/24

修正日:2007/9/27
変更日:2008/10/24


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第八話:始動する思惑(前編)

色々な想いが交錯し、飛び交う
翻弄し続けたのか、され続けたのか
この出来事に気づいていたのか、気づかなかったのか
判るのは、まだ先の話――


 

「――指定ポイントの到着確認完了!」

「時空及び魔力修復プログラム起動!」

「管理局に動き無し、あとカウントまで61秒!」

 

 ラギュナスの母艦――ゲシュ・ラ・ンペルド。

 とある時空世界のトーラス語と呼ばれる言語で、『屍の戦艦』と言われている。

 

「よし、修復開始! あと、管理局の動きにも注意しろ!」

「了解!」

「よ~し、腕が鳴るぜ」

 

 それぞれのいつも道理の返事をして、作業を続けるオペレーターたち。

 

「状況は?」

 

 ローブを纏った者が現れて、ロングイに声を掛ける。

 声からして、男であることが判る。

 

「少し問題が起きた」

「デバイス・XGの事ならば、問題は無い。アレは、私が用意させたのだからな」

「……時間合わせ! どうなっている!?」

 

 先の言葉を聞かなかった事にしたのか、聞き流したのか分からないが、それを誤魔化す様にオペレーターに激を飛ばす。

 

「す、すいません! ――時間合わせ、あと25秒!」

「修復プログラム起動完了、時間合わせと同時に展開します!」

「管理局に動きあり! ……3時間後に、ここへ来ます!」

「こちらの動きを掴んだのか!?」

「いえ、向こうの都合です!」

 

 ブリッジに、オペレーターたちの情報が飛び交う。

 

「……慌しいな」

 

 ローブの男が呟く。

 

(ここまで仕組んでおいて、よく言えるな)

 

 心の中で吐き捨てるロングイ。

 

「――時間合わせ、5、4、3、2、1――作戦開始!」

「修復プログラム展開!」

 

 オペレーターが言い終わると同時に、ロングイの命令が飛ぶ。

 

「展開!」

 

 

 

 

 

 アースラ格納庫の近くにある休憩室では、クロノ、リンディ、レティの三人で、今後の事を話し合っていた。

 敵の情報も掴み、三時間後に出動する為の最終的な手はずを話し合っていた。

 

「クロノ提督、リンディ提督、レティ提督、大変です!」

 

 そこに、エイミィが慌てて休憩室に入ってきた。

 

「何があった?」

 

 聞き返すクロノ。

 ちなみに、三人が飲んでいたのは順に、お茶・砂糖入りお茶・紅茶である。

 

「桐嶋時覇がいる次元の周囲の空間と魔力が、異常なスピードで修復されているのです!」

「何ですって!?」

 

 驚くリンディ。

 

「まさか、ラジュナスの?」

 

 聞き返すレティ。

 

「母艦らしき反応が僅かに確認されているので、他の組織の可能性もあります」

「第三勢力だったらマズイな。レティ提督、至急動ける局員を集めて頂けませんか?」

 

 飲みかけのお茶をテーブルに置いて頼む。

 

「ええ、30分で集めます。クロノ提督と、リンディ提督、それと、エイミィ管制司令官は至急アースラへ」

「わかりました。クロノ提督とエイミィ管制司令官は、先にアースラへ。私は、上層部に掛け合ってきます」

「了解しました」

「はいはい、行きますよ、クロノ提督」

 

 一足先にと、部屋を出て行くエイミィ。

 

「はぁ~。それでは、また後ほど」

 

 続いて、呆れながらため息をついて、あとを追うクロノだった。

 

 

 

 

 そのあと、リンディが上層部と掛け合ったが、一方的な通知だけで、こちらの話は一切取り次いでくれなかったそうだ。

 これも、ローブの男の仕業とは、誰も気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第8話:始動する思惑(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ!」

 

 布団を履く様な、勢い良く飛び起きる時覇。

 

「って、ぐおば!」

 

 体中に走る痛みに、変な叫び声を上げた。

 まあ、腰を中心に後転しつつ、きりもみ回転しながら地面に15回バウンド。そして、電柱にぶつかって止まったのだから。命があるだけ、奇跡である。

 ちなみに例の如く、グローブが淡く光っていた故、この程度で済んだに等しい。

 

「……しかし、何故(なにゆえ)魚屋に、冷凍マグロが?」

 

 などと、論点の違う部分に疑問を持つ時覇。

 そこでドアノブが音を立て、扉が開かれる。

 

「ん? 気がついたか」

 

 シグナムが、水とタオルが入った桶を手に持って、部屋に入ってきた。

 

「どうだ、調子は?」

 

 ドアを閉めながら尋ねるシグナム。

 

「体中が痛いのは、確か」

 

 男ならここで『大丈夫だ』と、多分答えるのだと思うが、素直に答える時覇。

 

「それ以外は?」

「……平気っぽい」

 

 少し体を動かして、確認した。

 

「あの人身事故のような状態だったのに、よく体が痛いだけですんだな」

 

 呆れ口調のシグナム。

 

「まあ、回復力には自信はあるんで」

 

 苦笑しながら答える。

 

「そういえば、瑠々は?」

「廼王寺瑠々の事なら、母上に相当絞られたそうだ」

 

 タオルを絞りながら、どことなく怯えているシグナム。

 

(ママン……貴女は、何をしたんですか?)

 

 横になった状態で、暗くなり始めて、星が出始めた空を見る時覇であった。

 

「シグナム、明日辺りデートしないか?」

「で、ででっ、でーとっ!」

 

 顔を真っ赤にしながら、動揺しまくるシグナム。

 おかげで、桶がひっくり返し――

 

「しまった!」

「あ!」

 

 二人して慌てて受け止めようとするが――胸辺りに、水を被ってしまったシグナム。

 しかも、同時に時覇も突っ込んできた。

 

「おわっぷ!」

「うわぁ!」

 

 やはり、体が完全に治りきっていないため、自分自身を支えきれず、シグナムにダイブしてしまった。

 

「っ、何を――」

「ぁぐごが!」

 

 全身に衝撃が走ったため、痛みが暴発して雄叫びを上げる時覇。

 体勢は、シグナムの上に時覇が覆いかぶさった上に、顔は胸にあるという羨ましき状況だが、そうも、言っていられなかった。

 

「い、いかん!」

 

 シグナムは、大慌てで時覇をベッドに戻した。

 

「え、えっと、こ、この場合は……」

 

 母・謳華より貰い受けた、『ド素人でも判りやすい医療』という本を開くのだった。

 

 

 

 

 

 その頃、ロビーの上から、大きな音が響いてきた。

 

「何をやっているのだ?」

 

 少々困惑する父。

 

『ぁぐごが!』

 

 続いて、時覇のうめき声。

 

「母さん、本当に大丈夫かな?」

 

 いつもは、兄である時覇の事を気に掛けない真里菜だが、さすがに心配になってきた。

『い、いかん!』

「やっぱり……、付いて行ってあげるべきだったかしら」

 

 こめかみに指を当てて少しばかり後悔する謳華。

 そこで――ピンポ~ン! と、チャイムが鳴った。

 

「は~い!」

 

 謳華は、玄関に向かった。

 

 

 

 

 

 玄関先で、律儀に男がチャイムを鳴らす。

 

「隊長、本当にいいのですか? これは、命令違反ですが」

 

 剣型デバイスを持っている男が、隊長に尋ねる。

 

「いいのだよ。どうせ、障害になるなら排除したほうがいい」

 

 カードを懐から取り出すと、トンファー型デバイスに変化した。

 

『は~い!』

 

 家から、女性の声が聞こえた。

 

「来ます」

 

 ハンドガン型デバイスを構える女。

 その言葉通り、玄関が開いた。

 

「どちら様でしょうか?」

 

 ひょいっと顔を出した。

 それが合図となり、魔力を込めたトンファーを力一杯、玄関に叩き付けた。

 悲鳴すら上げる暇も無くそのまま吹き飛ぶ、謳華。

 

「魔力結界、展開!」

 

 ハンドガン型デバイスを持つ女が空に向かって打つと、結界が展開した。

 

「行くぞ!」

 

 トンファー型デバイスを持つ男――隊長を筆頭に、桐嶋家に雪崩れ込んでいった。

 

 

 

 

 

『どちら様でしょうか?』

 

 のんびりと茶を飲む、父・桐嶋悟朗(きりしまごろう)。

 娘も、テレビを見ているので、平和だと思った矢先――玄関が砕かれる音と、何かが壁にぶつかる鈍い音が聞こえてくる。

 

「何だ!?」

「きゃあ!?」

 

 非日常的な音だけに、二人は声を上げた。

 

「おじゃまします」

 

 そこで、コスプレ風の服を着た女性が、土足で入ってきた。

 

「ちょっとアン――もがっ」

 

 悟朗は、娘の口を素早く塞いだ。

 理由は、手に収まっている黒くて鈍く輝くモノを見たからだ。

 

「望みはなんだ? いや、その前に玄関に居た女性はどうした?」

「死んではいませんが、危険な状態とだけ言っておきます」

 

 デバイスを構えながら言う、女。

 

「望みは、桐嶋時覇とシグナムの捕獲、または抹殺です」

 

 その言葉に、悟朗は全てとは言えないが、最低の出来事は理解できた。

 

 

 

 

 

 下から何かが砕かれた音が聞こえてくる。

 

『 !? 』

 

 その音に、二人は反応した。

 いや、反射的に動いたと言った方が適切化と。

 時覇はと飛び起きたが、体はまだ不完全のために背を少し丸め、シグナムはドアを見た。

 そして同時に、何かが広がっていくのを感じ取った。

 

「シグナム」

「ああ、これは魔力結界だ」

 

 そう言いながら、レヴァンティンを起動させるが――

 

「――起動できない!?」

「この結界は、あらかじめ登録されている魔力以外は無力化されるのさ」

 

 ドアを見る二人。

 

「ども~、ラギュナス人事管理部のスカウトマンの者です、って!」

 

 トンファーを持った男が、場違いな挨拶をしている最中に、後ろの人に頭を叩かれた。

 

「隊長が出世できないのは、こういう事をしているからなのですよ?」

 

 男は、呆れながら言った。

 

「いきなりで悪いですが、我々と共に来ていた――」

「あっ!」

 

 いきなり声を出しながら、驚きの顔をする時覇。

 隊長と男は後ろを振り向いた。

 が、何も無く、部屋から窓が砕ける音が聞こえた。

 

「 !? 」

 

 再び視線を戻すと、時覇とシグナムはすでに居なくなり、窓ガラスが割れていた。

 

「くっ! バス、ラランを呼んで来い、俺は奴らを追う!」

「アイアイサー!」

 

 隊長は窓から飛び立ち、バスはラランを呼びに一階へ降りていった。

 静寂と化す部屋。

 そこで、独り出にクローゼットが僅かに開く。

 

「……行ったか?」

「ならば、奴らをお――」

「まだ早い。少し待ってから、一階に下りて様子をみよう」

 

 

 

 

 

 上から窓が砕ける音が聞こえ、狭い庭にガラスの破片が降り注ぎ、一筋の光が軌道を描いていった。

 

「ん、二階から……時覇の所からか」

 

 謳華を看病しながら冷静に分析する父――悟朗(ごろう)。

 

「よくわかるね」

 

 タオルを絞る真里菜。

 

「それなりに、な」

 

 娘の問いに、曖昧な答えを出しながら、タオルを受け取る吾朗。

 

「ララン!」

「どうした?」

 

 廊下から響いてきた。

 

「ターゲットが外へ逃げ出した!」

「何!?」

「お前と合流後、すぐに来いと」

「わかった、いくぞ!」

 

 外に出る、奇襲者たち。

 そして、数十秒後――轟音が鳴り、遠ざかっていった。

 

「……お父さん、行っちゃったみたい」

 

 様子を覗こうとした真奈美だったが、既に二人は玄関から出て行った跡だった。

 

「……あ、アナタ」

 

 気がつく謳華。

 

「大丈夫か、謳華?」

「痛い所はある、お母さん?」

 

 母に駆け寄る真奈美。

 

「それより……二人は?」

「シグナムと時覇の事か……大丈夫、そう簡単に捕まる事は無いさ」

 

 柔らかい表情で、答える悟朗。

 

「もしかしたら、まだ家に隠れているかもしれんな」

「いや、確定だから」

 

 などど、突っ込みを入れながら部屋に入ってきた、時覇とシグナム。

 

「シグナム義姉さま、大丈夫でしたか!?」

 

 と、兄である時覇を無視して、シグナムに駆け寄る真里菜。

 

「あ、ああ、時覇のおかげで、戦闘を避けることができた」

 

 真奈美の勢いに少々戸惑いながら答える、シグナム。

 

「だが、奴らが戻ってくるかもしれないから、早くココから出ないと」

「そうか……怪我だけはするなよ」

 

 静かに言う悟朗。

 

「父さん、母さ……」

 

 寝ている母が目に入り、言葉を無くす時覇。

 

「私は……大丈夫。……だから、行きなさい」

 

 弱弱しく答える謳華。

 

「……母さん」

 

「事情は聞かないわ……一年前だって、いつの間にかいなくって。でも、キチンと帰って来たのだから」

(そうだ……一年前も理由も無く帰らなかったのに、理由も聞かずに「ただいま」と迎えてくれたのだっけ)

「……必ず、全て終わらせて帰ってくる。だから、安心して休んでいて」

 

 母に言い聞かせると、父の顔を見た。

 何も言わずに頷く父。

 

 それに答えるように、時覇も頷き返す。

 

「真里菜……俺の留守の間、瑠々を頼む。アイツの暴走、変わりに止めてくれ」

「気が進まないけど……任された。でも、早めに帰ってきてよ? 私でも、止められるかどうかわからないのだからね」

 

 事情は良く判らないが、両親が許可したからとやかくは言わない。

 

「了解。……シグナム、行こう」

「ああ」

 

 部屋から出て行く二人。

 

 

 

 その後、先ほど襲ってきた三人と出くわし、戦闘中に、時覇はシグナムを庇い、結果――左脇に穴が開き重症。

 そして、遅れて到着する管理局。

 時覇は、そのままアースラで治療兼保護観察に入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拡大していくラギュナスとの戦いは……急激な加速を見せる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デバイス・XGの起動によって……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第8話:始動する思惑(前編)・END

 

 

 

次回予告

先の戦闘でシグナムを庇い、重症になる時覇。

次第に、ラギュナスの目的が判明していく。

そして、時覇を呼ぶ謎の声は?

陰謀という螺旋と、仕組まれた運命を超える為の力が、今覚醒する。

 

 

管理局サイド編

第9話: 「鉄‐クロガネ‐」という名の篭手

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 改正といっても、言い回しの修正と効果音の訂正。
 あとは、簡単なデバック。
 いい加減、就職活動しなきゃ、不味い時期に。
 とにかく、頑張りますよ。

 そして、この話は相変わらず短い。(汗






制作開始:2006/6/1~2006/6/16
改正期間:2007/01/24~2007/1/31

打ち込み日:2007/01/1/31
公開日:2007/01/1/31

修正日:2007/9/27
変更日:2008/10/24


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第九話:始動する思惑(後編)

意識は深き闇の中
そこで、呼ぶ声が響く
力を求めるのか、と
今度こそ……、仲間を、家族を、愛する者を守る為の力を


 

 

 アースラの医務室では、色んな機材やコード、チューブなどが張り巡らされていた。

 その中央に、時覇は眠っていた。

 

「時覇さんの容態は?」

 

 暗く俯いているシグナムに、問いかけるはやて。

「主はやて。……今の所、昏睡状態のままです」

 

 力無く答える。

 医務室の先生が、はやての肩に軽く手を置いた。

 はやては振り向いて頷くと、医務室の先生と共に、治療室を出るのであった。

 

「…………時覇」

 

 擦れて消えそうな声で呟きながら、ベッドの上で寝ている時覇の手を、ただただ握るしかないシグナム。

 その姿は、騎士として仲間を心配する者ではない事は、確かだった。

 

 

 

 

 

「ぐぅ!」

 

 桐嶋家を襲った部隊の隊長――リグアは、ロングイに殴られて、壁にぶつかった。

 リグアの口からは血が出てくる。

 

「貴様、勝手な行動は慎めと言ったはずだが」

 

 静かに言い放つロングイだが、心の中は怒りで一杯であった。

 

「…………」

 

 無言のまま、口から出た血を、袖で拭うリグア。

 

「弁解はあるか?」

 

 問い詰めるように言い放つが――

 

「ねぇよ」

 

 ぶっきら棒に言い放ちながら、背を向けて歩き出す。

 

「貴様は、ラギュナスがどういう存在か、理解しているのか?」

 

 その背中に、問いかける。

 が、振り返る事も、立ち止まることも無いまま歩く。

 

「知るか。ただ俺は、力を示すだけだ……俺の力を、な」

 己の要望を言い放つリグア。

 だが、その思考と発言が、命取りだった。

 

「――っぷぅ」

 

 体全体に衝撃が走る。

 ゆっくりと、しかし、震えながら振り返る。

 

「ぐふぅ……ろ、ロング……イ?」

 

 血を吐き出す。

 

「やはり貴様みたいな……ラギュナスの業を理解できぬ者は、不要だ」

 

 リグアの腹部は赤く染まり、デバイスの先端が突き刺さり、貫通していた。

 

「貴様は、ラギュナスの在り方を勘違いしている節がある」

 

 そのまま腹部から引き抜き、床に倒れるリグア。

 血は止まる事無く溢れ、廊下の床を染めていく。

 

「……貴様は、少しはラギュナスを理解してくれると思い、今まで多めに見ていたが。……正反対だが、結局あの管理局の上層部と同じだったと言う訳だ」

 

 薄れゆく視界が捉えた光景は、ロングイの周りに、光の玉がいくつも出現し始めたモノだった。

 

「さらばだ、リグア」

 

 それが、リグアの最後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第9話:始動する思惑(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通路の方から、爆発音が聞こえ、振動が部屋に響く。

 その振動で、歩いていた者、立っている者たちは、床に倒れたり、近くの壁、椅子などにしがみついた。

 

「なっ、なんだ!? 敵襲か!?」

「い、いえ、内部――近くの通路からです!」

 

 いきなりの出来事に、慌てふためくオペレーターたち。

 ブリッジ全体が緊張に包まれる。

 とにかく状況確認! 急いで調査しろ! などの激が会話や通信で飛び交う。

 

「どうした?」

 

 そこでロングイが入ってきた。

 同時に、近くにいた人間は振り向き、この場を仕切る司令官役が駆け寄ってきた。

 

「たっ、隊長! 先ほど――」

 

 慌てて報告する司令官役だが、制止させる。

 

「ああ、あれは愚か者を始末しただけだ。諸君らが気にすることはない……奴らの状況はどうなっている」

 

 そこ言葉に固まる一同だったが、

 

「じょ、状況確認完了! 直ちに元の作業へ戻れ! 他にも連絡を入れろ!」

 

 司令官役が指示を放ち、元の作業へ戻っていた。

 そんな中、管理局の動きを報告を聞く。

 

「……よし。一時間後、アースラに再攻撃を掛ける。出られる者は全て出るように伝えろ。ここで、奴らを確実に潰すぞ」

 

 ロングイは、待機状態のデバイスを戦闘状態にし、地面に突きながら宣言するのだった。

 

 

 

 

 

 どの頃、アースラの会議室では、重々しい空気に支配されていた。

 その中にいるのは、リンディ、レティ、エイミィ、上層部の者――計四名だけである。

 

「――以上が、先ほどの戦闘報告です」

 

 エイミィが、その言葉で報告を締めくくった。

 

「……負傷した武装局員が合計で34人に、消耗率が58パーセントを超えるとは……奴らは一体何者なのだ」

 

 上層部の者が言った。

 心なしか、少し落ち着きが無いように見える。

 

「ええ、確かに。……管理局と同等、それ以上の戦力を持っていた事に驚きましたが……ロストロギアの技術を使ったデバイスに戦艦などと、私達の想像を遥かに超えた組織」

 

 呟くように言う、リンディ。

 

「それに加えて、本局と連絡が取れない状態に……未だ行方不明のなのはさん」

 

 頭を抑えながら答える、レティ。

 

「前途多難と言うよりも、八方塞だよ。これでは」

 

 上層部の者は、ウインドに表示されていた資料を閉じながら言った。

 その言葉に、黙る三人。

 その時、ドアの開閉音が会議室に響き、一斉に振り向いた。

 

「クロノ!」

 

 思わず立ち上がりながら、叫ぶリンディ。

 

「はぁ、はぁ……クロノ・ハラ、ぶふっ、ごほっ!」

 

 何とか立って入ってきたクロノだったが、先の激戦で再び負傷していたのだ。

 内臓が少し逝きかけ、左腕にはヒビ、左足は焼け爛れ、額は全体的に切れている。

「クロノ君、駄目だよ、まだ寝てないと」

 

 エイミィが、すぐさま駆け寄り、クロノの背に手を置いた。

 

「エイミィ……まだ、任務中だ、ぞ」

 

 途切れ途切れに答えるクロノ。

 

「もお! 医療班、大至急会議室へ! クロノ艦長が!」

 

 入り口付近だったので、小型設置用モニターで通信を飛ばす。

 

『わかりました、すぐに向かいます! 担架を急いで用意しろ! だから、薬品は足らないんだって何度言わせれば気が済む!』

 

 どうやら、向うは向うで大変だった。

 その切りそびれた通信の内容に、耳を覆いたくなるリンディ、レティ、エイミィであった。

 

 

 

 

 

『三番ボイラーが上がらないぞ! どうなっている、そっちは!?』

『六番ボイラー上がりすぎ、上がりすぎ! 出力を抑えろ! 吹き飛ぶだろーが!』

『おい! 誰だ、この配線担当は!? やりかけだぞ!』

 

 ゲシュ・ラ・ンペルドの動力室。

 作業員の激の飛び方は、狭い空間もあるせいか、ブリッジよりも反響が大きい。

 そんな慌しい中、一つの部屋だけ手づかずのままの場所があった。

 この戦艦の心臓部の一部である、動力源の部屋である。

 

「は~ぁ、ったく、何ちゅう悪趣味の悪い動力源だろうか。何度見ても吐き気が出るわ」

 東野は、頭をかきながら呆れ口調でボヤいた。

 回線を弄るわけでもなく、ただ数値と波長を見ているだけだった。

 

「そっちの調子はどうだ?」

 

 外から整備員が、声を掛けてきた。

 が、けして部屋には入って来ることはない。

 そう言う風に、指示をしたからである。

 

「ああ、問題無い」

 

 お気楽答える。

 

「そうか。そういえば、東野もスクランブル掛かっているんだろ? ここはいいから、早く準備しに行ったほうがいいんじゃないのか?」

 

 少し心配と先ほど思い出したような言い草をしてくる、整備員。

 あいつは、あいつなりの優しさでもある。

 故に、こんな動力源を見せたくは無かった。

 

「いや、ここは俺以外触らないほうがいい。下手すればドカンだからな」

 

 扉越しに会話する。

 何とか聞こえる範囲なので、互いに気にはならない。

 

「ははっ……在り得そうだから、お前は言うな」

「へいへい」

 

 頭に、二つほど怒りマークが現れるが、すぐに引っ込んだ。

 軽くノックがあった後、少し静かになった。

 そして、完全――とまではいかないが、ある程度いなくなった事を確認して、最後に動力源を見る。

 

「……ほんっと、ラギュナスは……完全に地に落ちた、な」

 そう言って、動力源をあとにするのだった。

 

「動力源が……時空管理局武装隊戦技教導官、高町なのはだからな」

 

 呟きながら、ドアを閉める。その閉まる音は、何と無く気の抜けた音が響く。

 そして、動力室を出て、直接転送室へ向う。

 慌ただしく、整備員やオパレーターなどとすれ違う。

 その途中で、デバイスを展開、防護服を纏う。

 しかし、いつの間にか張り詰めた顔をしていた事に気がつき、いつものお茶らけた表情に戻す。

 

「遅いぞ、東野」

 

 開けた空間に出るや否や、ロングイに指摘された。

 

「スマン、スマン。動力源が少々不安定だったから、調整をしていたんだよ」

 

 東野の言葉を聞きながら、懐から時計を出すロングイ。

 時計は、今時珍しい懐中時計である。

 金の刺繍が施されている故、素人から見ても高いと感じる一品である。

 それに加え、品と重みがあり、普通の人からは持ち歩くことを躊躇わせるほどの素晴らしい物である。それが、魅力とも言える。

 秒針が作戦開始時間5秒前になる事確認すると、懐に仕舞う。

 

「……時間だ、出るぞ!」

 

 ロングイを筆頭に、武装した魔導師たちが、大声と共にデバイスを掲げた。

 

「ルナスティ!」

『了解――転送開始!』

 

 次々と武装した魔導師たちが光に包まれて、消えていった。

 

 

 

 

 

 アースラの会議室に、警報が鳴り響く。

 

「何が起きた!」

 

 上層部の者が、ブリッジに通信回線を開く。

 その画面には、他の女性オペレーターが何かの指示を出し、後ろでは局員が走り回っていた。

 そして、女性オペレーターは、通信回線が開いていたことに気がつき、慌てて向きなおす。

 

『あっ、すいません! 現在詳しい詳細は確認中ですが、武装したラギュナスがこちらに急接近しています! 数、約24!』

「くっ!」

 

 上層部の者は、歯を食いしばった。

 

(何が安全な任務だ! これでは、話がまったく違うではないか!)

 

 聞いていた話とは全く違うことに、心底怒りを覚える。

 安全かつ、確実に昇進できる任務と聞いて飛びついたのだから。

 

「直ちにスクランブルを! ここから離脱を最優先、武装局員で動けるものは!?」

 

 別の回線から、リンディの指示が飛ぶ。

『それが、10名たらずで……あとクロノ艦長が』

「まさか――出撃したの!?」

『はい……、非武装局員が総出で止めたのですが』

 

 悔やむ表情になる、女性オペレーター。

 

「とにかく、発進を! 私も出ます!」

 

 席を立ちながら、怒鳴るように言い放つ。

 

「リンディ提督!?」

 

 上層部の者は、リンディの発言に驚いた。

 

「レティ提督、あとの事はお願いします」

 

 上層部の者の発言を気にも留めず、レティに後を託す。

 

「わかったわ。あなたは息子を」

 

 安心して。と、言わんばかりに微笑みながら答えを返す。

 

「ええ」

 

 その言葉を聞き、堂々と会議室を出て行く。

 その背中は、時空管理局提督の姿ではなく、我が子を迎えに行く一人の母親の姿だった。

 

「クロノたら、コレが終わったらおしおきね」

 

 などと、場違いなことを口走るリンディであったが、我が子可愛さゆえ共言える発言だった。

 

 

 

 

 

 取り付かれていたモニターには、外の戦闘が映っていた。

 負傷しながらも、ロングイと戦うクロノ。

 アースラを守るために、リンディが結界を張る。

 はやてとフェイトの即席コンビネーションの展開。

 他の武装局員たちも、お互いをカバーし合いながら、武装した魔導師たちと戦う。

 だが、優勢とは行かず、むしろ押されているのだった。

 たかが一人、されど一人。

 状況を覆せる程ではないが、少しは有利になる。

 そんな想いを胸に決意を固め、デバイスと防護服――バリアジャケットを展開するシグナム。

 そして、後ろを振り向き、時覇を見た。

 

「時覇……すぐに戻る」

 

 それだけ言い残して、医務室を出て行った。

 

 

 

 

 

「ぐあっ!」

 

 ロングイの蹴りを受け、後退するクロノ。

 ロングイは、すぐさま腰に手を回して、マテリアルを取り出す。

 

「マテリアル、セット! ――ボンバー・エクスキューションシフト!」

 

 デバイスのマテリアルを素早く取り替え、魔法を放つ。

 空から、ボンバー――爆砕魔法の雨がクロノに降り注いできた。

 

「くっ――がっ!」

 

 手を上空に掲げてシールドを展開しようとしたが、傷の影響で痛みが走り、腕を押さえる。

 

「シュツルムファンケン!」

 

 ボンバーの一つに当たり、他のボンバーも巻き込んで爆砕して消えた。

 

「大丈夫か? クロノ提督」

 

 クロノの盾になるように立つ。

 

「すまない、シグナム」

 

 礼を述べるクロノ。

 

「来たか……ヴォルケンリッターの将・シグナム。時覇はどうした?」

 

 少し憎しみを込めた様な感じで言う。

 

「お前に答える義理は――」

 

 切り掛かるシグナムと、それに応戦するように、受けの構えを取るロングイ。

 

「――無い!」

 

 ぶつかり合うデバイス。

 そして、上段、中段、下段と多彩な組み合わせで切り掛かるシグナム。

 だが、それを受け流し、時にはかわすロングイ。

 

(テスタロッサよりも――早い!)

(高速戦闘に慣れているのか。だが――アイツより遅い!)

 

 再びぶつかり合う。

 そして――

 

「紫電一閃!」

 

 ロングイが横に受け流すと同時に、上から二撃目を放った。

 

「ちぃ!」

 

 ロングイは、レヴァンティンの面を叩いて弾く。

 その勢いで、吹き飛ぶシグナム。

 後ろに飛ぶロングイ。

 

「ブレイズカノン!」

 

 予測していた場所に来たロングイを狙い撃ちにするクロノ。

 が、それよりも素早く振り向く。

 

「ザンバー・ストライク!」

 

 ロングイは、デバイスをランサーモードからザンバーモードに切り替え、ブレイズカノンを相殺する攻撃を放った。

 

 

 

 

 

 闇。

 時覇は闇の中に浮かんでいた。

 上も、下も無い浮遊感。

 下手をすれば左右の感覚もなくなる。

 だが、動かない。

 いや、動くつもりはなかった。

 故に、闇に取り込まれつつある意識を、流れに任せる様に、身を委ねている。

 

“我が声を聞き取れる者よ、目覚めよ”

 

 そんな時――空間一杯に響き渡るような声で語りかけてきた。

 

(……誰だ、お前?)

 

 とにかく気になったので尋ねてみる。

 

“力を求めるか?”

(イラネ)

“即答かい!?”

 

 さすがの声も、驚きを隠せないようだった。

 なんせこの瞬間のやり取りは0.1秒――ほとんど一人突っ込みの反応速度であるである。

 

“ほらっ、たとえば……欲しいモノがあるが、手に入らない。だから、力を使って手に入れたいとか、な? 何かないのか?”

 

 動揺しつつも、力を求めるように進めてくる声。

 だが、時覇にとって、力は――

 

(力、ね。……不要としか言えんな。あっても、使いこなせるわけがない。俺みたいな未熟者が)

 

 何かを悟った様に答えを返す。

 

“まだ、悟るのは早いのではないか?”

(…………)

 

 無言。

 沈黙を選び、闇に取り込まれることを選ぶ。

 

“本当に、そう思うのか? 『      』の者よ”

 

 その言葉に、時覇の意識は闇を拒む。

 溶け込むことを拒否し、自分自身さえも拒否しようとした。

 が、再び闇と同化するために、意識を溶け込ませるように沈める。

 

(……昔の話だよ。今となっては、ただの一般人と変わりない)

 

 軽い口で答えるが、何処と無く後悔と虚しさを感じる声である。

 

 

 

 

 

 上空は、色々な光が飛び交っている。

 その中に、一際輝く二つの光――白と黄と一つの黄緑が、空を舞い踊っている。

 魔法弾が飛び交い、残撃が舞う。

 それは――戦闘という名のワルツとでも表現するべきか。

 

「行くよ、はやて」

「フェイトちゃん……、わかった」

 

 目の前に居るラギュナスの銃使い――ゴスペルに自分自身の最強の技を繰り出す決意か固める。

 

(雰囲気が変わった……、でかいのがくるか)

 

 さすがのゴスペルも、負傷しているとはいえ、管理局のSクラスを二人も同時に相手をするには骨が折れる勢いだった。

 それでも負けるわけには行かず、使いかけのカードリッジを捨て、満タンのカードリッジを装填し直す。

 

(なら――タイミングを合わせる!)

「ラグナロク――」

「プラズマザンバー――」

 

 二人が同時に魔法を放とうとするが、

 

「ブラッディ・ガトリング」

 

 重ねるようにかつ、一足早く魔法を打ち込む。

 そして、言葉通りの血の様に赤い弾が、フェイトとはやてを襲う。

 

“ディフェンサープラス”

“パンツァーシルトプラスです!”

 

 とっさに、魔法を切り替えるバルディシュとリィンフォースⅡ。

 それでも、盾越しからの衝撃は、半端ではなかった。

 

 

 

 

 

(この命は、貰い物で……、形見同然の品物だからな)

 

 思い出しながら、ポツポツと呟く。

 忘れもしない、あの時の出来事。

 未熟。

 自惚れ。

 うつけ者。

 そんな負の想いが渦巻く。

 

“確かに。……だが、それは関係無い”

 

 声は、それを振り払うかのように否定する。

 

(今さら、どの面して出て行けばいいのか)

 

 自傷するかのような言いようで語る。

 

“このままここで朽ち果てるのか? 母との約束も守らずに? 愛する者を守らずにか?”

 

 声は、的確に時覇を打ち込んでいく。

 

(…………)

 

 時覇もまた、声に的確な想いを打ち込まれ、黙り込む。

 

 

 

 

 

 レニアスフェイトの砲撃魔法をかわし続ける、ライガ。

 本来のフェイトは、高機動接近戦が得意とするが、レニアスフェイトは、なのはに顔負けの砲撃魔法を放ってくる。

 

「ディバインシューター、GO!」

 

 レニアスフェイトが、ライガに向けて放つ。

 50以上のシューターが、ライガを襲う。

 それはまさに、高町なのはの姿と被っていた。

 

「ラウンドシールド!」

 

 何のためらいも無く、シールドを展開するライガだが、

 

「そういくかいな――バリアキックブレイク!」

 

 レニアスフェイトの魔法が届く前に、いつの間にか現れたギアのバリアキックブレイクが炸裂し――

 

「 !? 」

 

 問答無用で打ち砕かれる。

 ギアは、それに満足したのか、ライガとすれ違い様に口元を僅かに緩める。

 それは一瞬の出来事。

 だが、ライガはしっかりとその顔が脳裏に焼きついた。

 そのまま振り向こうとするが、

 

「しまっ――」

 

 直撃を受け、爆発に包まれた。

 

 

 

 

 

“どうするかは、己自身で決めるんだな”

 

 吐き捨てるのではなく、問い掛けでもなく、ただ、尋ねる様に言う。

 その言葉は、闇の世界全体に響き渡るような感覚だった。

 同時に、飲み込まれる感覚は、いつの間にか無くなっていた。

 

(…………)

 

 沈黙。

 可でも不可でもない。

 ただ答えない、無の回答――沈黙である。

 

“デバイスの保管場所で……、貴様を待つ”

 

 それが、闇の――死と生の狭間の世界での、声との最後の会話だった。

 そして、時覇は意識を取り戻した。

 自分の体は、色んなモノが取り付けられている事に気がつく。

 が、呆気ないほど簡単に外れた。

 体の痛みも無い。

 声の力かどうかはわからないが、どうやら傷も癒えたらしい。

 そのままベッドから起き上がる際に、モニターが目に入る。

 そこには、シグナムたちが戦う姿があった。

 見るからに不利だと判る。

 

「……すまない、再び戦場に出るよ」

 

 時覇は上を見上げ、目を瞑りながら、既に無き恩師に謝る。

 ベッドを下りて辺りを見渡したが、私物は無く、何も持たずに医務室を出ていた。

 とにかく、謎の声が言っていた場所に向う。

 度々振動が起きたが、とにかく進んだ。

 

「ロングイ……やはりお前はアイツを……――急がないと」

 

 そう呟きながら進み、走り続ける。

 しかし、管理局の局員や関係者には会わずじまい。

 そして、デバイスの保管場所にたどり着いた。

 

「……ここか」

 

 扉に触れようと伸ばしたが、独り出に扉が開いた。

 そのまま中に入ると、中央にアクセサリーが浮かんでいた。

 形は、キューブの枠組みタイプで、中心に濃い紺色の球体の水晶が埋め込まれていた。

 ふと、横を向くと画面に、アクセサリー――デバイスと、名前と詳細らしきモノ、メンテナンス結果が記載されていた。

 再び浮かんでいるデバイスに視線を戻すと、躊躇う事無く掴んだ。

 

「……行けるか、デバイス・XG?」

 

 確信を持って尋ねる。

 

“問題無い。……待っていたぞ、真なるマスターよ”

 

 デバイス・XGは心待ちにしていたかのように答える。

 それが必然だったかのように。

 

「まあ、ロングイを止めないとヤバイし、シグナムも助けないとな」

 

 苦笑しながら言う時覇。

 次の瞬間、顔つきが変わった。

 

「いい加減、馬鹿騒ぎを止めさせないと、先代に申し訳が立たない」

 

 自分の手前に持ってくる。

 

“詳しくは聞かないが……そろそろ出るか”

「ああ、その前に一つ」

“なんだ?”

「デバイス・XG、ってのは、少しダサいから、名前を変えるぞ」

 

 おちゃらけな笑い顔で、いきなりシリアスな雰囲気をぶち壊す時覇だった。

 が――

 

「好きにしろ。ただ、ダサい名前は却下だぞ」

 

 言葉とは裏腹に、声は嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

「今のアースラの状態はどうなっているの!?」

 

 レティの檄が飛ぶ。

 

「第一、第四、第五エンジンをやられて航行不能!」

「第二、第三、共に出力20パーセントが低下! なおも低下中! このままでは艦の機能が維持できません!」

 

 ブリッジでは、どんどんアースラの不調を告げる報告しか聞こえない。

 朗報は、戦闘を含め――未だに無い。

 

「何とかならんのか!?」

 

 上層部の者が、両手でパネルを叩きつけながら、オペレーターに叫ぶ。

 

「手の空いている大体の者は、エンジンの修復に行かせましたが、修理が困難な状態らしく、最低でも一時間は掛かるそうです!」

「くっ! 無能な連中が!」

 

 激怒する上層部の者。

 さすがのレティも、怒りを爆発させそうになったが階級が上の為、何とか堪える。

 いや、正確には言えないのが適切である。

 

「ん、これは――大変です、レティ提督!」

 

 他のオペレーターが叫ぶ。

 

「今度は何!?」

 

 八つ当たり気味に答えるレティ。

 少し体を縮み込ませるが、躊躇している暇は無いと、勢いで報告した。

 

「デバイス・XGのエネルギー増大を確認! このままでは起動します!」

「何だと!? すぐに止めろ!」

 

 顔色を青くしながら、激を飛ばす上層部の者。

 

「はっ、はい!」

 

 レティよりも素早い反応に驚くが、すぐ作業にかかる。

 

「――くっ、駄目です! 止める事が出来ません!」

 

 その言葉に、ブリッチに戦慄が走る。

 このままでは、五年前の再来が起きる可能性があるからだ。

 だが、そこで上層部の者はとんでもない事を口走った。

 

「すぐに転送だ! 早くしろ!」

「えっ、あっ、いや、その」

 

 脈絡も無い命令に困惑する、オペレーター。

 

「ええい! こちらで転送させる!」

 

 上層部の者はキーボードを操作する。

 

「どこへ転送させるのですか!?」

 

 その行動にギョッとなり、レティが急いで問いただす。

 

「そんなもの決まっているではないか! 奴らのど真ん中にたたき出す!」

 

 顔を真っ赤にさせながら怒鳴り散らす。

 その言葉に、言葉を失うレティとオペレーター一同。

 上層部の者は、周りの意見、様子などお構いなしに操作を続ける。

 

「それでは、クロノ艦長や他の武装局員たちが――」

「そんなもの、どうでもいい!」

 

 エイミィの言葉を看破する。

 

「アナタという人は!」

 

 ついに溜まりに溜まった怒りを爆発させるレティ。

 もう、何時でも襲い掛かる勢いである。

 

「私は、この事を報告する義務がある!」

「そんな理由で!」

「皆、聞こえる! 大至急そこから離れて!」

 

 外にいる局員全員に、通信を行うエイミィ。

 

「勝手に通信をするな! 奴らにバレたらどうするつもりだって――貴様! 何をするつもりだ!? 離せ、離さんか!」

 

 そこで、レティが上層部の者に飛び掛り、床に押し倒したのだ。

 

「誰でもいいからコイツを取り押さえて! 早く!」

 

 その言葉に、近くにいたオペレーターや局員が一斉に上層部の者に飛び掛った。

 

『はぁ、はぁ――何があった!?』

 

 そこで、クロノからの通信が入ってきた。

 唖然と見ていたエイミィがハッと気を取り直し、モニターに体ごと向け直す。

 

「ごめん、クロノ君! 詳しいことはあとで、それよりデバイス・XGが起動しそうなのよ!」

『何だって!?』

「それで、どうやっても起動を止める事が出来ないの!」

 

 少しだけ沈黙。

 上の方では、まだドタバタしているが、徐々に収まりつつある。

 そして、ドアが開くエアー音が聞こえる。

 どうやら、上層部の者はブリッジから退場になったらしい。

 

『くっ……一か八か、こっちのど真ん中に転送してするんだ』

 

 痛みを答えつつ、指示を出すクロノ。

 

「それじゃあ、クロ――」

『今はそれしかな――ごふぅ、ごふぅ!』

 

 思いっきり怒鳴るが、力み過ぎで僅かに血を吐きながら咳き込む。

 エイミィは、一瞬だけ躊躇したが、クロノの口から出た血を見て――腹をくくった。

 

「わかったわ!」

 

 キーボードを打ち込む。

 他のオペレーターもそれに気がつき、作業を手伝ってくれる。

 そして――

 

「いくよ、クロノ君!」

 

 決定キーが押された。

 

 

 

 

 

「じゃ、これで決まりだな」

 

 時覇の前には、色んな名前の字が書かれたモニターが浮いている。

 デバイス・XGが展開してくれたモノである。

 

“中々古風な名前ですな”

 

 感心したように答える、デバイス・XG。

 

「だろ? ――っと、そろそろだな」

 

 地面に魔方陣が展開される。

 

“ああ、転送反応確認――外に出されるぞ”

 

 感心した声で、マスターに助言する。

 

「なら丁度いい。魔力の節約になる――バリアジャケット展開」

 

 立ち上がりながら頼み、デバイスと防護服を想像する。

 

“心得た”

 

 考えが纏まり、バリアジャケットを展開。

 展開の光と同時に、転送の光に包まれた。

 

「いくぞ……起動――鉄(クロガネ)!」

“ああ!”

 

 

 

 

 

「転送、く――何だ、この魔力は!?」

 

 増援と思ったロングイだったが、異様な魔力反応に驚いた。

 波の様に体全体を飲み込み、肌が突かれる、引っ張られる、圧縮される。

 そんな感覚が襲い掛かる。

 

「この魔力――まさか、間に合わなかったか!? ――――!」

 

 悔やむ表情のクロノ。

 しかし、体の治りは不完全。

 故に、飲み込まれた瞬間、体全体に激痛が走る。

 視界がチカチカし、髪の毛の先から爪先まで電撃が駆け抜ける感覚が襲う。

 ロングイと間合いを取っていたシグナムは、すぐにクロノの元へ飛んで、彼を支える。

 足しになるか判らないが、防御魔法を展開する。

 他の者たちも戦闘を中断し、何が来るのか唖然となっていたが、波に飲まれると急いで退避を始める。

 肌で魔力を感じ取れるほどの強大な力が、転送場所から放たれている。

 

『――て、転送完了!』

 

 通信で、エイミィが転送を戸惑いながら、終了した事を告げるのだが、未だに光は収まらない。

 エイミィが戸惑う理由は、魔力値の測定結果。

 転送中に測定したが、メーターが振り切れた。

 何かの間違いかと思い、再度計測、計測、計測――三回もやり直したが、結果は同じだった。

 なんせ、8桁の魔力カンウターを振り切っているからだ。

 そして――光が収縮していき、光の玉になった時、人の手より一回りか二回りほど大きい手が、光を裂く。

 腕辺りからは、廃熱が行われる。

 その光景に、皆唖然となった。

 そして、一部の者は驚愕した。

 何故なら、すでにデバイス・XGは起動していたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪われたデバイスは――呪いを振り払い、戦場に現れた。

 本来の使命を果たす為に。

 前の主が行っている出来事を、止める為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第9話:始動する思惑(後編)・END

 

 

 

次回予告

ついに起動したデバイス・XG――ガンドレット・鉄(クロガネ)!

正常に起動した事に、驚く一同だが、時覇に憎悪を燃やすロングイ。

何故そこまで憎悪を出すのか?

そして、時覇の知るラギュナスとは?

 

 

管理局サイド編

第10話: 「鉄‐クロガネ‐」という名の篭手

 

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 ……ラギュナスサイド書いたら、もう一度、一話目から改正しますね。
 何度改正すれば気が済むんだろう、俺?
 技術向上中なので、何度でも改正していきますね。
 色々進めながら。
 で、コミケにでも出展しようかなと考えるのである。
 まあ、まずは近くのコミケで。
 だって、管理局サイド全部まとめると、軽く100ページは行くから。
 一話一話は短くとも、まとめれば短編小説の厚さに。
 チリも積もれば山となる。
 チリは、作品。
 積もれば山は、作品の量。
 これは努力にも当てはまる方式。
 先人の言葉、いい言葉を残してくださいましたね。

 言葉は魔法。
 想いは願い。
 努力は強さ。

 このフレーズ、いい感じじゃん♪
 今度出そう。

 最後に、今まで書いて公開した小説の中で現在(2007/2/13)に置いて、一番長いと作品です。






制作開始:2006/6/16~2006/6/18
改正期間:2007/01/24~2007/2/13

打ち込み日:2007/2/13
公開日:2007/2/13

修正日:2007/9/27
変更日:2008/10/24


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第十話:「鉄‐クロガネ‐」という名の篭手

時は満ちた……
螺旋と言う名の、運命が動き出し――
今、二つの光がぶつかり合い……
身を滅ぼす、業が放たれる


 

 

「デバイス・XGが……正常に起動しているだと」

 

 唖然と呟くクロノ。

 そして、支えていたシグナムも驚き唖然としていた。

 五年前――デバイス・XGの初起動時は、暴走によって一つの次元を崩壊させた。

 だが、今己の目に映っているのは、デバイス・XGの完全なる起動だった。

 暴走でも無く、押さえつけでも無く、ただ普通に起動していた。

 魔力があり、念話程度まで使えることは判ってはいたが……デバイス・XGを起動させる魔力は無かった筈だからだ。

 だが、この人から放たれる魔力波動は異常だった。

 それ以前に、魔力波動が僅かでも発生する事は、SSSランクを意味していた。

 

「時覇……なのか?」

 

 シグナムは、ただただ呟くしかなかった。

 

 

 

 

 

 アースラのブリッジでは、年末の大忙しのような勢いの騒ぎようだった。

 

「デバイス・XGの完全起動を確認! 暴走の確率――0パーセント!」

 

 エイミィは、驚愕しながら言い放つ。

 さすがのレティも、驚きを通り越して呆れていた。

 上層部の者との格闘。

 先ほどの魔力数値――487万という測定結果。

 これ位ならば、S+、SSランクだが、瞬間最大値――1369万。

 こちらは、文句無しのSSSランクであった。

 そして、トドメにデバイス・XGの暴走無しの完全正常起動。

 三連続の出来事で、感覚が麻痺してしまったらしい。

 

「はぁ~。ほっんと、人生何が起きるか判ったものじゃないわね」

 

 故に、自然と暢気な言葉が出てくる。

 

「ふっ、老け込むにはまだ早いですよ」

 

 一応フォローを入れる、女性オペレーターであったが、艦内通信が入る。

 

「はい、こちらブリッジ! ……え!? 本当なんですか! ――レティ提督!」

「何かしら?」

 

 この慌しい雰囲気の中、普段どおりに対処する。

 いつもと変わらない対応で。

 

「先ほど連行された者が、錯乱状態になったそうなのですが」

「錯乱状態? 薬物中毒か何かの類かしら」

 

 一般に漏れれば、時空管理局は信用を無くす様な発言を、サラリと口にするレティ。

 

「あ、いえ……どうやら、デバイス・XGの正常作動の事を聞いた途端、だそうです」

 

 それを聞いて、眉を顰めた。

 デバイス・XGは機密事項が多く、一部の者しか判らないからである。

 それが、正常に起動したことに対して錯乱を起こす事は、本来はありえない現象だと仮定が生まれる。

(あとは揺すりと証拠だけね)

 レティは、これまでデバイス?XGを独自に調べていたが、全くと言っていいほど情報が無かった。

 裏も含め、まともな情報は、『ラギュナスとの共同開発ではないか?』だけである。

 故に、真実は闇の中の闇に埋もれてしまっているのが現状である。

 もっとも、現時点で証拠は無いので、これから揺すって吐き出させるのだが、それは別の話である。

 

 

 

 

 

 時覇は悠然と構えていた。

 それこそが、あるべき姿だった言わんばかりに。

 だが、

 

「……ぅ、ふっははははぁ! はぁははははっ!」

 

 高笑いする三変形のデバイスを持つ男――ロングイ。

 行き成り笑い出したため、周りの者は困惑した。

 体を仰け反るほどの高笑い。

 笑いながら前屈みになり、

 

「――とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 デバイス形状をランサーに変更し、突撃を掛けてきた。

 

“ディフェン――”

「キャンセル!」

 

 クロガネが、ディフェンサーを展開しようとしたが、管理者権限でキャンセル。

 そして、右斜め上から斬り込んでくる、ロングイ。

 左へ体をずらし、剣先が下へ行った瞬間、クロガネを腹部に叩き込む。

 だが、そのまま勢いを利用して、柄の部分を盾代わりにした。

 そのままロングイが押し返し、マテリアル変更無しでザンバーからランサーに切り替え――

 

「ランサー・ストライク!」

「ちぃ!」

 

 突きと同時に反り返り、デバイスを蹴り上げる。

 その場で空中一回転して――

 

「もらった!」

 

 時覇にデバイスを蹴り上げられた為、懐ががら空きになったロングイに、左の掌底を叩き込む。

 

「エア・プロテクト!」

 

 風の力を利用した盾に阻まれ、懐に届かなかった。

 だが、時覇は素早く手を引っ込め、防御魔法を軸に回り込むように、右肘をわき腹に叩きつける。

 

「ぐぶっ!」

 

 ガード越しに、吹き飛ぶロングイ。

 

(しまっ――)

 

 本当に完全にがら空きとなったロングイだったが、時覇は追撃を行わなかった。

 なを、ここまでの行動が5秒以内に行われた出来事だったで、周りの者はさらに唖然となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第10話:「鉄‐クロガネ‐」という名の篭手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――なぜ……何故やめた!?」

 

 わき腹を押さえなら怒鳴り散らす。

 

「…………」

 

 沈黙。

 しかし、時覇の表情はポーカーフェイスではなく、悲痛な表情だった。

 それが原因なのか、ロングイの表情は険しくなる。

 

「アイツへの……リューナへの罪滅ぼしか?」

 

 その言葉に、時覇は目を瞑り、ロングイは時覇を睨みつけながら、互いの脳裏に女の子の笑顔がよぎる。

 いつ、どこで、どんな状況でも笑って支えてくれた。

 時覇にとって最高のパートナーであり、ロングイにとって唯一の肉親でもあった。

 そして今は――もういない存在でもある。

 

「だったら俺は……俺は、ここには居ない」

 

 その言葉が終えたと同時に、何かを投げつけてくる。

 何か細長いものが空中で煌くのが見え、クロガネを盾にする。

 そこで二、三回金属音が聞こえる。

 すぐ確認すると、細い鉄針(てつばり)だった。二本ほど弾いて、二本ほど隙間に刺さっていた。

 どうやら、一つだけ重ね投げをしたらしい。

 この場合の重ね投げとは――二本を上下同時に投げ、相手の視界からでは一本にしか見えないようにする方法を指す。

 悲しみを秘めた目で、細い鉄針を見ながら抜く。

 

「やはり、お前の目的は……」

 

 目線を、細い鉄針からロングイに移す。

 その目に映るものは、復讐だけで動く男ではなく、何か方法を見つけ強行しようとする男の姿であった。

 

「そうだ……悪いが、リューナの命――」

 

 デバイスを構え直すと同時に、マテリアルが排出される。

 そして、新たにマテリアルを取り出す、ロングイ。

 

「――返してもらうぞ! マテリアル、セット!」

 

 デバイスに開いている穴に、宝石――マテリアルをセットし、杖に変形する。

 だが、時覇は構え直す所か、ただ突っ立っていた。

 

「追撃弾! 奴に食らいつけ!」

“ホーミング・ウルフ・シューター(追撃・狼の射出)”

 

 その場でデバイスを横に振ると、ログインの周りから光の玉が出現し、時覇目掛けて飛んでいった。

 魔法の弾丸は、ロングイと時覇の間を半分過ぎた辺りで、いきなり狼の姿に変わり、さらに加速して飛んでいった。

 それでも、時覇は動ずる事も無く、腰を少し落とし、両手首を合わせ、前に突き出す。

 そして、食らいつく距離まで来た途端――両手で円を描く様に回して、HWS(ホーミング・ウルフ・シューターの略)を全て掻き消した。

 全ての弾が、真ん前に飛んで来た事が、全段を掻き消す事が可能になっただけだが。

 

「ちぃ! ――ケロニカル、クニロカル……」

 

 その言葉に合わせるように、急に天候が変わり始めた。

 ただ一つ違うのは、詠唱が始まった瞬間に、である。

 本来は詠唱の半場差し掛かる頃に、天候が急激に変わるモノなのだが。

 どうやら、詠唱の省略化に成功したのか、何か道具か裏技を使用したと考えられる。

 

“天候操作魔法か? どうする、マスタード?”

「おいコラ、誰がマスタードだ? 一応、多段式魔法を三、四通り用意しておいてくれ」

“りょーかい”

 

 呆れ口調の鉄。

 それもその筈。多段式魔法とは、別々の魔法の詠唱を同時に行い、いつでも使えるようにする事である。

 言わば、複数の魔法――例えば、砲撃魔法とバインドを同時に使う。または例え、片方を使っても魔法陣展開と詠唱をすることなく使うことが出来る。

 

「……これを使うか」

 

 先ほどの鉄針を腰から取り出す。

 

「ラスタライドナル、レロニクス、トルベント……」

 

 詠唱を続ける、ロングイ。

 

「シグナム。悪いけどその人連れて、ここから離れてくれないか?」

 

 惚けた様な面で言う、時覇だが、どこか焦りを感じさせる。

 

「大丈夫なのか?」

 

 何かを察して、聞き返すシグナム。

 その顔は、時覇の身を案じる顔でもあった。

 が、その雰囲気と表情を吹き飛ばすように、

 

「ジョブジョブ、大丈夫だって。それより、その人手当てを早くした方がいいから」

 

 笑いとばして答えた。

 そして、クロノを目線で見る。

 

「わかった……行くぞ、クロノ提督」

「ああ」

 

 シグナムは、クロノを支えられながら飛び去っていく。

 

(ま、これで当面は大丈夫か)

 

 腰に左手を回し、ポートの中を弄った。

 そして、あるモノを掴んだ。

 同時に空を見上げる。

 

「本当は、俺がお前を止める資格は無いが」

 

 そこで深呼吸をして、ロングイを見る。

 

「彼女との約束を果たさせてもらう」

 

 詠唱中のロングイに、突進を掛ける時覇。

 

 

 

 

 

「 !? って、ロングイの奴、俺たちまで巻き込むつもりか――よっと!」

 

 ロングイが発動させようとしている魔法を感知し、止まって空を見上がるギア。

 そこに、ライガが砲撃魔法を放ってきたので、寸前の所でかわす。

 

「Rフェイト、ここから離れるぞ――わぁを!」

 

 振り返りながら、訳の判らない決めポーズをする。

 が、決まった瞬間に白い雷が走り、揉みきり回転風にかわす。

 

「誰がRですか! 誰が!」

 

 変な略の仕方に怒る、レニアスフェイト。変な決めポーズに関しては黙認としたらしい。

 

「いいから行くぞ」

 

 飛び去りぎわにレニアスフェイトの腕を掴み、ロングイから距離を取る為にその場を離れる。

 

「逃げるきか!?」

 

 逃げると思い、怒鳴るライガ。

 しかし、二人は振り向く事無く、ロングイの攻撃範囲内から出て行った。

 

「っちい!」

 

 それを知ってか知らずか、二人のあとを追いかけるライガだった。

 故に、あの魔法攻撃から助かったと言える。

 

 

 

 

 

 電撃が舞い、歌という名の詠唱が空に響き、魔法が奏でる。

 鈍い光を放つ黒い銃口からは、二人の小さき妖精を狙い、撃ち放たれる。

 二人の妖精は頷きあい、狩人に電撃と拘束を掛ける。

 

「……ちっ」

 

 フェイトとはやてのコンビネーション攻撃をかわし、射撃で牽制をしつつ舌打ちをするゴスペル。

 ロングイが、このエリアを吹き飛ばすくらいの強力な広範囲魔法を使おうとしているのがわかった。

 フェイトとはやても、何と無く気付いている様な素振りを見せている。

 だが、お互いその場を引かない。

 どちらかが背を向ければ、そこで終わる。

 それほど、お互いの実力がある事が判っているから。

 それでも、この場から離れるべきだと、三人の直感が作動している。

 

「はやて!」

「うん! ――クロック・ダウン!」

 

 一瞬の隙を突き、ゴスペルに魔法が掛かる。

 

「しまっ、た……、どうなっているんだ?」

 

 しゃべり方、動きまで遅くなった。

 クロック・ダウンとは――しゃべり方や動きを遅くする魔法。

 簡単にまとめれば、全ての動きを遅くする魔法。

 ただし、人間や生命体のみにしか効果は無い。

 ただ、効果がそれほど長く続く訳でもない為、多様は禁物の魔法であるが、不意打ちや相手から距離を取るには、役立つ魔法である。

 

「マイスター、今のうちに!」

 

 と、当たった事を確認したリインフォースⅡが叫ぶ。

 その叫びに、フェイトとはやては同時に背を向け、全速力で離脱をした。

 

「待ちやがれ……、はえ~な」

 

 『待ち』辺りで、既に5000メートル近くは飛んでいた事に感心した。

 クロック・ダウンの影響でもある。

 

「どこまで耐えられるかな」

 

 防御魔法発動の準備を始めるのだった。

 ついでに、他の武装局員やラギュナスの戦闘員も離脱する。それでも不可能だと判断した者は、その場に留まり、防御魔法の一点集中を行う事にした。

 

 

 

 

 

「天が転び、地が引き裂かれ……」

 

 突撃しながら時覇は、ポシェットからマイクロチップみたいに小さなチップを取り出す。

 そして、クロガネの甲の部分の水晶に当て、取り込ませる。

 

“プログラム認識、インストール――インストール完了、オーバーロード・ナックル”

 

 右の拳が淡く光りだし、無防備のロングイに殴りかかる。

 

「せいや! ――なっ!?」

 

 だが、何かによって弾かれてしまった。

 

「時が捻じ曲がり、空間が悲鳴を上げる……」

 

 何事も無かった様に、詠唱を続けるロングイ。

 それでも時覇は、攻撃を続ける。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 正拳、掌底、回し蹴りの三連撃。

 それも弾かれる。

 

「戒めと共に、滅びの歌を歌わん……」

 

 一旦距離を置く。

 そして、勢いをつけた攻撃を仕掛けようとしたが、すぐやめ、予め用意させていた防御魔法を展開する。

 

「エリア・デリート」

 

 展開と同時に、ロングイの詠唱が終わった。

 そして、何の前触れも無く空間のモノが消滅していった。

 ロングイを中心に、空気、雲、木、草、地面、水など、言葉通り消滅していった。

 一応魔法なので、防御魔法は有効であった。

 だが、防御魔法を展開していた武装局員やラギュナスの戦闘員は、圧力に負け何人もが消滅していった。

 離脱した者たちや、戦艦で待機していた者たちは、この光景を見て恐怖を覚えた。

 リンディも、アースラまで転送仕切れなかった為、ロングイの効果範囲外にいたクロノとシグナムと合流して、その光景を三人で見ていた。

 その光景を見て、三人とも言葉を無くす。

 はやてとフェイト、ギアとレニアスフェイトも。

 効果範囲外にいる武装局員とラギュナスの戦闘員も、言葉を無くし、恐怖を覚えた。

 敵味方関係無い、完全なる無差別消滅魔法。

 まさに、アルカンシェルそのものと言っても過言ではない。

 結局……効果範囲内で生き残ったのは、時覇とゴスペルの二人だけだった。

 

「……ロングイ」

 

 悲しみの瞳で、ロングイを見る。

 かつては友であり、仲間であり――

 

「貴様さえいなければ……あんな出来事は起きなかった」

 

 片手でデバイスをくるりと一回転させる。

 

「いるいない関係無い……俺があの時、勝手な行動をしなければ良かったんだ」

 

 目を瞑り、少し俯く時覇。

 

「今更悔やんでいるのか?」

 

 異物を見た様な顔で、時覇を見るロングイ。

 

「…………」

 

 否定も、固定もしない。

 完全なる沈黙。

 これこそ、曖昧という表現が相応しい姿は無いと言えるほど。

 

「この力……、どう思う、時覇?」

 

 辺り一面を見渡しながら尋ねる。

 

「……『過剰な力は滅びを生む』と、前隊長の言葉を忘れたのか?」

 

 焦りと困惑を抱きつつも、それを表に出さないように、平然とした顔で尋ねる。

 

「あんな老いぼれの言葉など、今の俺には不要なモノだ。その言葉の性で、俺の見る世界は変わった」

 

 デバイスを強く握りなおしながら、吐き捨てるように言い放つ。

 その言葉は、時覇の心に重く圧し掛かる。

 だが、時覇自身、ここで止まるわけには行かないのだが、ふと疑問が過ぎる。

 ロングイの魔力はここまで強かったのか?

 記憶の中に埋もれた出来事を掘り起こしていく。

 そして、一つの記憶にぶつかった。

 

「……第一級封印系統の魔法……それを使う魔力の量……こんな事は出来ないはずだが――ロングイ、お前まさか!?」

 

 してやったりと、笑みを浮かべる。

 

「そうだ。前が作り出したシステム……ロストロギアの発展応用型の、な」

 

 その言葉に、時覇の顔色が青くなった。

 目眩を覚えるほど。

 

「お前は……本当に、救い様の無い大馬鹿野郎、一歩手前まで行くんじゃねえよ」

 

 髪をゆっくりと掻き揚げながら言う。

 潤んだ目を隠すために。

 

「だから言ったはずだ――リューナが帰ってくる可能性があるなら、地獄からでも這い上がってくれるわ!」

 

 ランサーモードで、時覇に向かって突き進むロングイ。

 時覇は、ロングイを迎え撃つべく構える。

 

(ロングイ)

 

 拳を握り、構え直す。

 ただただ、自分のせいでここまで変わってしまった親友を、全て受け入れるために。

 そして、まだ引き返させる事が出来る今のうちに――全てを終わらせる。

 

 

 

 

 

 ラギュナスの戦艦、ゲシュ・ラ・ンペルドでは、マシントラブルが発生していた。

 

「エンジントラブルだと? どうなっている!」

 

 チーフらしき男の激が飛ぶ。

 戦闘が始まってから五分後に、急にエンジンの出力が低下を始めてのだ。

 その為、急遽作業チーム編成、調査に当たっていたのだ。

 

「わかるかよ! 全回線と配管調べてけど、異常なかったぞ!」

「だったら出力が上がらない訳ではないだろうが!」

 

 原因が全く判らない為、誰もがイラつき、報告も口喧嘩状態である。

 

「原因がわかりました!」

「本当か!?」

 

 その場にいた作業員たちが一斉に振り向く。

 

「はい! こちらに来てください!」

 

 と、先導する作業員。

 

「お前らは、一応ここで点検作業を続けろ! あとの連中はついて来い!」

 

 そこには五、六名が残った。

 散らかった工具を纏め、外した鉄板などを付け直す作業を始める。

 そして――

 

「あ、れ?」

 

 ある一人が膝を付き、そのまま倒れた。

 

「おい、どうし、た……、んだ」

 

 また一人、また一人と、糸が切れた人形のようにその場に倒れていく。

 

「ど、どうなっ……、て」

 

 最後の一人も倒れて――

 

「すっー、ぴぃー」

 

 寝てしまった。

 

「……さすが、なのはの使い魔」

 

 と、物陰に隠れていた、ヴィータが呟く。

 

「誰が使い魔だ! 誰が!」

 

 ワンテンポも置かずに、速攻で食い掛かる。

 クロノに使い魔扱いされて嫌がっているのに、ヴィータにまで言われたらな。

 

「まあまあ、ほらヴィータちゃん」

 

 エガオで言うシャマル。

 

「!? ――ごめんなさい」

 

 瞬速で謝る。

 周りの者も、少しだけ片足を引いたのだが、シャマルが気づくことは無かった。

 

「……どうでもいいが、高町の救出はどうする?」

 

 ポツリと喋る、ザフィーラ。

 

「そ、そうだった! 早く探さないと!」

 

 本来の目的を思い出す、ユーノ。

 

「リンバ執務官とカルナ戦技教官が、奴らを遠ざけている内に終わらせないと」

 

 辺りを見ながら答えるルーファン調査員。

 

「シュマルさん、お願いします」

 

 と、ユーノが言う。

 

「ええ――お願い、クラークヴィント」

“うん”

 

 探索魔法を発動させる。

 しかし、回りの機材はAMHと同じ効果で出来ている為に、探索が難航。

 その数分後――

 

「見つけた!」

 

 目をカッと開くシャマル。そして、ある通路を指差す。

 

「あの通路を550メートル行って、左のドアの先になのはさんがいます!」

「なのは!」

 

 誰よりも早く走り出すユーノ。

 それに続いて、慌ててあとを追いかけるのだった。

 ただ、近づいて行くごとに、周りからなのはの魔力を感じるのであったが、誰も気がつくことはなかった。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「はぁ――せいやっ!」

 

 時覇の正拳を流し、ロングイのランサーモードによる高速の突きをかわし、デバイスとデバイスがぶつかり、弾け飛ぶ。

 

「バウンド・バインド!」

 

 時覇は、弾け飛んだ先にバインドを発動させる。

 そのバインドの中心が重なるように素早く編まれていく。

 そして、単位トランポリンみたいなモノが完成。

 それに両足を中心に預け――反動で、再びロングイに飛びつく。

 

「チェーン・バインド!」

 

 自分の手首辺りからバインドを発動、地面の大岩に巻き付かせ――振り上げる。

 

「 ! 」

 

 右下から、大岩が鉄球の如く襲い掛かってくるが、

 

「クロガネ、弾くぞ!」

“ちょ――パワード・ハンド!”

 

 デバイス全体が、魔力に覆われる。時覇は、手をかぎ爪の様に構え、目の前に大岩が来た時、手を掛けて流すように掃う。

 

“お前らの戦いは、無茶苦茶だぞ!?”

 

 バインドは、文字通り『拘束』の為の魔法であり、今のように使う物ではない。

 魔力も規格外にも関わらず、戦い方まで規格外と来ると、どう表せばいいのか定かではない。

 

「なら、もっと派手にやるから覚悟しておけ」

“ ぃ ”

 

 虫を噛み潰したような声が上がる。

 ロングイのデバイスが激しく変形し、時覇は砲撃を払い除け突進する。

 そんな中、時覇は昔の事を思い出していた。

 リューナとの出会い、共に歩いた日々を。

 

 

 

 

 

 俺が魔法と初めに出逢ったのは、今から一年前の事だった。

 その日の天候は、晴れ。

 ニュースの占いは、どれもトップという、逆に気味の悪い日であった。

 いつも道理、外を散歩してした時だった。

 そこへ、信号無視をしてきた車に跳ねられた。

 一瞬だけ体全体に激痛が走ると、次は何とも言えない浮遊感に襲われた。

 最後に体が下に向って落ちる感覚――言わば、ジェットコースターに乗った時の感覚だ。

 そして、再び衝撃。

 そこで意識は途絶えた。

 次に気が付いたら、ベッドの上にいた。

 どこかの病院だと判ったが、窓が無い為、どこの病院か判断がつかなかった。ついでに、何日、いや何ヶ月寝ていたのか、そんな事も気になった。

 ここまでくればベター言えば、ベターなのだが。

 そして――

 

「あ、起きたの?」

 

 と、女の人が入ってきた。

 服装は白衣などで無く、見たこと無い服装だった。

 何と言うかコスプレ? に近い服装だったのが印象だった。

 

「 ? まさか貴方――」

 

 女の人の言葉に、唾を飲み込んだ。

 

「私に一目ぼれ?」

 

 その言葉で、ベッドから落ちた。

 不思議なくらいに。

 

「っ……ぁ……」

 

 体を地面に叩きつけ、激痛が走った。

 

「だ、大丈夫!?」

 

 女の人は慌てて駆け寄り、肩を借りながら立ち上がり、再びベッドに寝かせてもらった。

 

「外傷は治っていても、まだ内部の怪我が完全に治ってないんですから。無茶はやめてくださいね?」

 

 その言葉に『誰のせいだよ』っと、心の中で突っ込みを入つつも返事を返した。

 

「あ、あと、自己紹介がまだでしたね。……私は、リューナ、リューナ・バウンテッド、宜しくね」

 

 リューナは笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、魔法との――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラギュナスとの――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女――リューナとの出逢いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第10話:「鉄‐クロガネ‐」という名の篭手・END

 

 

 

次回予告

ついに明かされる時覇とラギュナスの関係!

リューナという名の少女との関係とは?

そして、そこで何があったのか!?

だがその時、ゴスペルのデバイスが!

 

 

管理局サイド編

第11話:過去という名の罪

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 ついに10話目まできました。
 が、ラギュナスサイド。一向に書いてねー。(汗
 前回はNGシーンがあったのですが、シリアスぶち壊しに繋がるので削除。
 どんどん改正化されていく小説たち。
 よりよい作品作りの為に、生まれ変わっていく。

 脳内爆走サイコー!
 想像よ、永遠に膨らめ! 広がれ! 駆け抜けろ!
 そして――具現化せよ!
 己が想いを! 魂を形にせよ!
 絵に! 文章に! 立体物に!
 作れ! 生み出せ! 生きた証を!

 などと、叫んでみる今日この頃。(苦笑
 でも、想像を何かの形にしないと残らないから。






制作開始:2006/6/1~2006/8/10
改正期間:2007/2/18~2007/3/3

打ち込み日:2007/3/3
公開日:2007/3/3

修正日:2007/3/7+2007/9/27
変更日:2008/10/24


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第十一話:過去という名の罪

この出逢いは、運命だったのは確かだ。
だが、同時に運命の歯車が動き出す瞬間でもある。
幾重にも交差する運命の輪、そして散らばっていく。
そして再び、一つになろうと集まり始める序章だった。


 

「私は、リューナ。リューナ・バウンテッド、宜しくね」

 

 リューナは笑顔で言った。

 

「俺は桐嶋時覇、時覇が名前だ。宜しく」

 

 と、手を差し出した。

 そこでハッは気がついた事がある。

 今まで自分から握手を求めることなど、一度も無かったのだから。

 

「ええ」

 

 リューナも差し出して――乾いた音が鳴り響く。

 手のひらが痛い。怪我しているから、なお痛い。

 理由――弾かれたから。

 しかも天使の様な笑みのままで。

 ヒリヒリと微妙に痛む手を見る時覇。

 ……新手のイジメか? イジメなのか? それとも新手の宗教の挨拶?

 最後の一言はともかく、そんな言葉が脳裏を過ぎる。

 

「あ、あの~」

 

 汗を出しながら、尋ねるリューナ。

 そして、訝しげに見る時覇。

 何とも言えない雰囲気が漂う間と空間。

 そして、リューナが口を開く。

 

「握手ですよね、これ?」

「…………全然違う」

 

 看破入れようと思ったが、あえて間を空けてから答えた。

 

「ええ!? そんな、男性から手を差し出してきたら、その手を叩くのが握手だと兄から……」

 

 本気で驚いている。

 こいつの兄貴の頭の中が見たくなった。

 いや、シスコンという言葉が脳裏に過ぎるが、それよりも突っ込みが発動した。

 

「どこの国の握手だよ! ってか、うんな握手あってたまるか!」

 

 と、激しく突っ込みを入れる。が――

 

「――――!」

 

 無言のまま、ベッドの上でもがく。

 どうやら叫んだのが良くなかったらしく、体全体に激痛が響いた。

 

「ああ! え、え~と、医療班の方、至急来てください!」

 

 ナースコールらしきモノで通信をしていた。

 その後は記載するまでも無く。

 で。

 

「以後、安静にしていてください」

 

 普通に言われ文句を言う看護士。

 外見は17歳前後の女性。

 髪は緑色で、ロング。顔立ちは、まだ幼さを残している。

 しかし、腕はベテラン顔負けである。

 が、後から歳を聞いたが、25歳で思いっきり泣かれた。

 お陰で泣き止ますのにも大変であった。ついでに回りからは白い目で見られるは、リューナからはお灸を据えられる羽目になるのは、別の話である。

 

「わかってます、痛いのは嫌いですから」

 

 時覇は、苦笑と苦痛と呆れが入り混じった、何とも言えない表情で答える。

 

「それでは」

 

 苦笑しながら、看護士が出て行く。

 それはそうだろう、原因と理由を話したら、爆笑する者から堪える者までいたのだから。

 それほどリューナの兄は、妹にゾッコンだと判る。いや、既に父親の心境か?

 

「さっきも行った通り――」

「わかってますよ」

 

 真っ赤な顔をしながら、そっぽ向くリューナ。

 看護士たちが来た時に、握手を話して、笑い者になってしまったのだから。

 こうなるのは、当然であるが。

 

「だが、今一番気になるのは……何故君が、ネコミミを付けていることだ」

 

 ネコミミを指差した。

 そう、看護士が付けていったことは分かったが、何時に付けたのかが分からなかった。

 まあ、そんな事があって彼女――リューナと出逢い、兄であるロングイと出逢い、魔法と出逢いであった。

 だがこの時から、この出来事が仕組まれたモノだとは、思っても見なかった。

 そう気づかされたのは、今起きている戦いが終わった後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第11話:過去という名の罪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せい!」

 

 ロッドモードで、強化魔法を腕とデバイスに掛けて、殺傷率を上げて殴りかかってきた。

 

「ふん!」

 

 だが時覇もまた、左腕に身体強化魔法を掛け、弾き飛ばし、右腕のデバイスで殴る。

 が、体を右に捻りってかわし、ランサーモードに切り替え、顔面目掛けて突いてきた。

 首を前に傾け、ギリギリでかわす。それと同時に、後ろの髪の毛が数本だけ、持ってかれる。

 そして、右腕を力一杯横に振る。

 さすがのロングイも、これには避けられず、防御魔法を発動。不意に弾かれた為、驚きの表情を浮かべる時覇。

 そのままロングイは、オーバードライブを起こして、防御魔法の波動で吹き飛ばす。

 吹き飛ぶと思いきや、何とか耐え抜き、再び殴りかかる時覇。

 交差する信念と想い。

 交差させる運命の悪戯。

 交差していく過去。

 

 

 

 

 

「これが、アタナのリンカーコアです」

 

 と、オペレーターの人が、俺のリンカーコアを見せてくれた。

 

「これがリンカーコア……鮮やかな緑なのか」

 

 大きなスクリーンを見て、驚く時覇。

 

「あと、あなたの魔力指数なのですが……もう一度検査させてもらえないかしら?」

「何で?」

 

 と、オペレーターに聞き返すリューナ。

 ここの設備は、時空管理局に置いてある機材の質は劣るが、性能面では10年先を行っている。

 機械の故障が無い限り、再度計測は無意味である。

 

「その……スクリーンの数値を見てください」

 

 二人はスクリーンの数値を見て、リューナは驚き、時覇は首を傾げた。

 

「……再調査、許可します」

 

 その言葉に、再び医務室へ連行されていった時覇。

 そのスクリーンに表示されていた数値は、数度に渡り厳重に検査したが、結局覆る事はなかった。

 桐嶋時覇、魔力数値――2435万

 ラギュナス創設以来、前代未聞の一般人として、名を刻んだのだった。

 いや、それ以前にどんなに時空を見回しても、ここまで高い人間は子供でも数えられる数字しかいない。

 

 

 

「ぐあっ!」

 

 ロングイの上段蹴りが、時覇の頬を蹴り抜く。

 数回転しながら墜落したが、何とか体勢を立て直し、そのまま地面に向い――

 

「グランド・クエスト!」

“――発動! って、なんじゃこりゃ!?”

 

 クレーターとなった地面から、あちらこちらに石の柱や壁が、縦に斜めに地面から出てきた。

 そして、広範囲に何かの遺跡の跡地が出来上がった。

 そのまま降下し、物陰に隠れこむ。

 

“お、お前が使う魔法、無茶苦茶にも限度があるぞ”

 

 クロガネの言葉を無視しつつ、今度は懐からカードを数枚取り出し、扇子の様に広げた。

 そこでふと止めて、カードを見る。

 

「MGK、か」

 

 リューナが好きだった、カードゲーム。

 今はまだ全盛期であるが、同時に末期でもある。

 ルールの改正に、制作・販売会社の不祥事、ゲームバランスの崩壊などが目立ってきたからである。

 お陰で、MGK離れが起き始め、第二世代カードゲーム・RGK――ロボットをベースにしたモノである。

 それに移り変わる者が多いいのだが、時覇は違った。

 理由は、思い出が詰まったカードゲームを手放したくは無かったから。

 

 

 

 

 

 ここに来て5日目。

 本調子で無いので、療養を兼ねて部屋で本を読んでいた。

 その時、リューネが暇だと言って、部屋に乱入し、人の荷物を漁っていた時だった。

 

「時覇、これ何?」

 

 と、読書中だった時覇は、顔を上げた。

 ちなみに、読んでいた本は『魔法の心得』という本である。

 そして、リューナの手には、時覇が持っていたカードケースだった。

 

「 ? ああ、MGKか」

「MGK?」

 

 カードケースを訝しげに見ながら、ケースを空けて、カードを一枚抜き出した。

 

「ああ、俺の世界のカードゲームだよ。モンスター同士を戦わせるのもよし、コレクションとして集めるのもよし、大ヒットカードゲーム。今じゃ、世界大会や、賞金が出る大会まであるんだからな」

「へぇ~、こんなカード同士で戦ってお金が貰えるなんて……変わった世界なんだね」

 

 と、持っていたカードの表裏を見ながら言った。

 で、その後、やってみるかと進めてみたら、喜んで受けてくれた。

――結果は……15戦15勝で、リューナの貫禄勝ち。

 理由は、聞かないでくれると助かる。

 

 

 

 

 

 その時の事を思い出し、苦笑する時覇。

 そして、そのカードを懐に仕舞い直して、別のカードを出す。

 うん、今度はトランプだ。そう確認した時、背後からプレッシャーを感じ、前に前転する様に飛び込んだ。

 そこで閃光が走る。

 と、背凭れ(せもたれ)にしていた柱が、横一線に切れ、空中にきりもみ回転しながら吹き飛んだ。

 そして、相手をロングイと素早く確認すると、トランプを放つ。

 と、投げた同時に、目くらまし魔法を発動させる。

 ロングイも、物理防御魔法を展開しながら、腕で目を覆う。

 それを確認した瞬間、素早く物陰に隠れ、その場にあるモノをセットする。

 気づかれない様に、攻撃して意識を反らさせた。

 だが、ロングイはこの作戦に気づいているのではないかと、擬似暗鬼掛かりつつあった。

 何故なら、この『あるモノ』は、ロングイが作ったモノだから。

 それでも必死になった。

 ロングイを抑えるには、これしかないのだから。

 時覇自身の目測では、昔あった魔力は2000万を超えていたが、今は5分の1――400万くらいしかない。いや、それ以下かもしれない。

 だが経験からして、最低でもあと200万くらいの魔力が残っていると確信している。

 あの出来事以来、魔力の消耗の仕方が普通の魔導士より、早過ぎる体質になっている。その代わり、魔力回復も早いが。

 故に、早期決着が望ましい。

 魔力の弾丸が飛び交い、拳と槍、剣、杖が幾度と無く交わる。

 全てが判り、全てが見えず、全てが曖昧となった現実。

 否定された訳ではなく、ただ生きがいを奪われただけの男。

 生きがいを奪っていまし、己の軽率な行動を呪い続ける男。

 その二人が折りなす、壮絶な、すれ違いの劇。

 片や運命を嫌う男が一人――ロングイ・バウンテッド。

 片や運命を呪う男が一人――桐嶋時覇。

 そして、この劇は一時の終焉を迎える事になる。

 全て設置が完了し、ロングイを特定の場所に誘き出した。

 

「いくぞ、ロングイ――リミッター解除!」

 

 その言葉に反応するように、あちらこちらから青白い光が輝きだす。

 

「これは!? ――くそ!」

 

 青白い光と配置状況を見て、『あるモノ』を思い出した。すぐ様、上空に立とうするが、時既に遅し――

 

「発動――グラビティ・フィールドバインド!」

“起動シークエンス作動!”

 

 『あるモノ』――即ち、広範囲用型バインド発生装置である。

 カード型装置を、ある程度予め決められた一定の位置に配置し、一定の魔力が溜まった時にリミッター解除する事により発動可能の装置である。

 本来は対大型もしくは対多数捕縛用であるが、単体――しかも人間一人だと、強力すぎる故に5人以上、もしくは10メートル以上の大型の存在以外の使用は禁じられているシロモノである。

 この条件以下で使用すると、高出力の影響で対象の蒸発が起こる可能性があるからである。

 

「防壁、全方向!」

“フルフェイス・バリア”

 

 体全体を覆うように、半透明のバリアが展開され、ロングイを包み込んだ。

 それを束縛する様に、光の触手がバリアに絡みつく。

 

「くそ、まさかコレを使ってくるとわな」

 

 睨みつけながら、時覇を見る。

 

「しかたないだろ、俺にはお前とタイマンはれる魔力は無い。だから、使えるものは使わないと……たとえ、それが曰く付であろうとも」

 

 と、懐からカメラに使うような、メモリステックを取り出した。

 

「まさか……それは!?」

「ここでお前を止める。じゃないと、あいつに顔向けが出来なくなる」

 

 そう言いながら、デバイス――クロガネにセットする。

 

“最終プログラム認識、完了。しかし、プロテクトの問題により、一旦初期化します。その間、魔法などのサポートが行うことが出来ません。宜しいですか?”

「構わん、続けてくれ」

“……了解”

 

 データを読み取った瞬間、クロガネは正気を疑ったが、時覇は本気だった。

 この危険すぎる魔法を、使う意味を悟った顔でもあった。

 劇は続く……今は、僅かな休憩時間。

 

 

 

 

 

「こいつは?」

 

 と、リューナから渡された緑色の玉が付いたキーホルダー。

 

「それは、アナタのデバイスよ」

「俺の……デバイス?」

 

 首を捻る時覇。

 

「あ、ごめん。まだ説明してなかったよね? ――これが私のデバイスよ」

 謝りながら、デバイスを展開して見せてきた。

 ちなみに、リューナのデバイスの待機状態が指輪で、通常はごついヨーヨーである。

 ついでに、そのヨーヨーを受け止める為の手袋も、相当な物だった。

 

「こんなのがデバイスなのか?」

 

 リューナの手に収まっているヨーヨーを眺める。

 

「ううん。これは特殊な部類に入るデバイスだから、大抵は杖なの。私は、なんか杖じゃつまんないからって、無理言って作って貰ったの」

 

 と、懐かしの『犬の散歩』や『ループ・ザ・ループ』をやって見せた。

 

「ってな訳で、展開して」

「訳がわからん」

「と・に・か・く、イメージして。デバイスと身を守る為の服を」

 

 と、渋々思いながら目を瞑り、デバイスと防護服をイメージした。

 が、デバイスに反応はなかった。

 戸惑うリューナを尻目に、時覇は首を捻るばかりだった。

 

 

 

 

 

――それから、数ヶ月たったある日の出来事。

 

 

 

 

 

 リューナとも仲良くなり、ロングイと馬鹿やっては怒られていた日々だった。

 時覇は、生まれ持っていた天性の才があった。そして、いつの間にかラギュナスのロストロギアの解析とその技術を応用したモノの解析・開発担当となっていた。

 だが、そんな時――ロングイの忠告を無視したばかりに、ロストロギアを暴走させ、再び瀕死になった。

 しかも最悪な事に、時覇を庇ったせいでリューナの腕や足が無残な姿と化し、視力も無くなった。……いや、眼球自体に損傷が及んでいる為、二度と回復することは無い。

 時覇は、五体満足で視界も良好。だが、瀕死。

 ロストロギアの影響で、心臓が弱りきっていたのだ。

 そして、リューナは、

 

「――――――――」

 

 朦朧とした意識の中、時覇の耳元で何かを囁いた。

 何を言ったのかは、思い出せなかった。

 視界はぼやけていたが、リューナの顔だけはハッキリと見えていた。

 それが、桐嶋時覇が見た、リューナの最後の姿だった。

 そして、次に目覚めた瞬間、時覇は生きていた。

 ベッドから起き上がり、廊下を出る。適当な奴を捕まえてリューナの事を聞いたが、ある場所の部屋しか聞き出せなかった。

 他の奴もそうだった。

 仕方なく、その部屋へ行った。

 そこで見たものは――後悔と絶望が広がっていた。

 

 

 

 

 

 その後、時覇はラギュナスと魔法を捨て、逃げるように自分のいた次元世界へ帰っていった。

 

 

 

 

 

 そして、半年後――今、ロングイと再び出逢った。

 かつては仲間であり、兄弟のような関係だった。

 だが今は、デバイスを手に取り合い、お互いに向けている。

 互いの目的を達成させる為に。

 壁となっている友――存在を殺す為に。

 壁となって襲い掛かる友を、止める為に。

 二つの意思と想いがぶつかり合う。

 周りに提示させられているとも知らずに。

 互いは戦場となる舞台を舞う。

 道化の様に。

 

 

 

 

 

 しかし、そんな時覇とロングイの戦いを近くで見ている人物がいた。

 

「……冗談じゃね~ぞ。奴らは化け物か?」

 

 物陰に隠れながら、呟くゴスペル。

 なんとか無差別破壊魔法もとい、無差別消滅魔法から耐え切った。だが、魔力不足の為、すぐに離脱することが出来なくなっていたのだ。

 ついでに、デバイスの調子が悪いらしく、カードリッジシステムが上手く作動しないのだ。

 故に、物陰に隠れてやり過ごすしかないのだった。

 この嵐の様な戦いを。

 ハッキリ言って、生きた心地がしない。いや、すでに死んでいても可笑しくは無かった。

 地面から岩が生えてくるは、魔力弾が飛び交うは、今度は高出力のバインド。

 全て紙一重でかわしていた。

 おまけに今度は、さらに危険なモノが出てくる匂いがしてきた。

 だが、今から逃げるにも、どこへ逃げればいいのか? また、どのくらいの範囲の攻撃なのか? そんな事が頭の中を過ぎる。

 だが、異変は起きた。

 

「 ? 」

 

 不意に違和感を覚え、右手を見ると――

 

「な!?」

 

 金属質の触手が巻きついていた。

 取り外そうとするが、ビクともせず、そればかりかどんどん広がり始める。

 デバイスのコアが異様な光を放ちながら触手がさらに生えていき、ゴスペルに襲い掛かる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 足、胴体、首、そして顔にまで巻きついていく、ゴスペルを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 その叫びに、時覇は後ろを振り向いた。

 

「やっと発動したか」

 

 ロングイは静かに呟き、バインドを吹き飛ばし、牽制のために射撃魔法を打ち込んでくる。

 時覇は、はっ、となり前を向き直し、

 

「ちぃ! クロガネ!」

“パワード・ボム”

 

 デバイスを盾にしながら、爆弾を生成し、間合いを取ろうとしたロングイに投げつけた。

 強烈な爆砕音。

 だが、ロングイは無傷だった。

 

「エア・トルネードの応用か!」

「そうだ!」

 

 と、デバイスを一振りしながら答え、さらに距離を取と思ったが、その場に留まる。

 その行動に、神経を研ぎ澄ませるが、背後から異様な何かが襲い掛かる。

 

「後ろを見ろ」

 

 デバイスの先で、後方を示す。

 警戒糞喰らえの勢いですぐ後ろを振り向く。

 が、そこには何も無かった。

 しかし、下――地面の方から、何かが襲い掛かる感覚に襲われる。

 すぐさま下を向く。

 

「 !? 」

 

 時覇は、体を硬直させた。

 そこには、デバイスの取り込まれているゴスペルの姿があった。

 さすがに遠巻きに見ていた者たちは、唖然となっていた。

 

「ロングイ、お前まさか!」

 

 振り向きながら叫ぶ。

 唖然と怒りを込めて。

 

「ああ……自ら生み出した罪という形に、滅びるがいい!」

 

 その言葉に、同意または鼓動する様に、ゴスペルを取り込んでいく。

 さらに触手はどんどん増えていき、絡みついていく。

 ついには、ゴスペル全体に絡みつき、卵の様な形となった。

 異様な光景である事だけは確かだった。

 そして、数秒ほどの静寂。

 次の瞬間、卵が割れた様な音が、空間全体に響く。

 その中から――拘束具の様なバリアブルジャケット、胸にはデバイスのコア、背には六枚と三枚の禍々しい白い羽。

 闇の書事件に関わった者――特にアースラの、フェイト・はやて・クロノ・リンディ・シグナム・エイミィの脳裏に、リインフォースと闇の書の闇の姿が過ぎる。

 だが、リインフォースと闇の書の闇とは似ても似つかなかった。

 リインフォースは、はやてを守りたいという想いがあって。闇の書の闇は防衛プログラムの暴走体、ただ破壊を求めるだけの存在だった。

 しかし、ゴスペルの変わり果てた姿は、そのどちらともではない。

 

「まさか――魔力が上がってのかっ!? 馬鹿な、あのシステムはデバイスとの融合によって、耐久性と詠唱能力の向上だけのはずだぞ!」

 

 デバイスに取り込まれる前のゴスペルの予想魔力値は、175万前後だった。にも、関わらず三倍、いや四倍以上も上がっているのだ。

 いくらシステムやプログラムとして組んだとしても、魔力の増加は不可能である。

 などと時覇は考えていた途端――

 

「――――――――!!」

 

 ギリギリで反応して魔力砲撃を受け止めるが、勢いに負け、そのまま地面にぶつかり、爆発が起こる。

 その性で、時覇の叫び声は掻き消えてしまった。

 劇は続く……役者交代で、第二幕の始まり、始まり。

 

 

 

 

 

「何なの、アイツは」

 そう呟きながら、解析を進めるエイミィ。

 今現在の解析で判ったことは――

1.魔力値:1032万4598

2.謎の融合デバイス製作者と関係者思しき人物:ロングイ・バウンティド、桐嶋時覇

3.取り込まれたゴスペルの生命が、微弱ながら低下している事

 の、三項目だけである。

 それ以上の解析は、困難を極める事は明白だった。

 簡単に言えば、ブラックボックスそのモノを、短時間で解析せよと言っている様な状況であった。

「何が何でも解析してやるんだから!」

 素早いキーボード裁きで呟くエイミィであった。

 

 

 

 

 

 上に覆いかぶさっていた岩を退かす時覇。

 そして、体をゆっくりと起こす。

 

「く、っそ」

 

 口に入った砂を掃きながらぼやく。

 

“d、だ――大丈夫か?”

 

 先の衝撃でシステムにエラーが出て、上手く発音できなかった。

 一時的なエラーだったので、単位修復プログラムで直せた。たとえ修復できなくても、音声発音プログラム――声を発生させる部分なので、戦闘には支障は無い。

 それに会話は念話でも可能である。

 

「何とか。お前こそ大丈夫か?」

 

 コアを見ながら言う。

 篭手の部分に小さなヒビが入っているが、支障は無いと判断。

 

“問題無い、衝撃で誤作動が発生しただけだ”

 

 コアを点滅させながら、正常をアピール。

 それを見て、納得する時覇。

 

「さてと……いい加減、本気で如何にかしないと。……最終プログラムは?」

 

 と、服に付いた砂を掃いながら答え、問いかける。

 

“既に初期化完了しているが、今再インストール中だ”

「どのくらい掛かる?」

“――魔法を使わなければ3分、使うなら6分30秒”

 

 その言葉に、顔を曇らせる。

 クロガネが提示した時間は、あくまで一般を基準としたモノ。

 この状態だと、何分掛かるか判らない。

 既に、滅茶苦茶な戦闘を行っているので、提示された時間が適用されることは、100パーセント無理である。

 魔法の最低限の知識がある者ならならば、100人答えたら100人固定する。

 

「ギリギリか」

 

 予想通りなので、あまり驚くことの渋ることのなかった。

 

“それから、ゴスペルという男の――”

「生命力が低下中、このままだと10分以内に死亡する。だろ」

 

 その言葉に驚くクロガネ。

 やはり、ラギュナスに居た者だと痛感した。

 携わってなくとも友が作ったモノなら、ある程度判る。

 まだ小さな絆は残っている。

 そんな感じがした。

 

「ま、正確には8分10秒で、現在進行中ってな訳だ……クロガネ、限界まで頼む」

 

 その問いに、少し間を置き――

 

“頼まれた”

 

 確信を持って言った。

 その答えに微笑む時覇。

 そして、上空に聳える(そびえる)禍々しい白い羽を持つ存在を見る。

 『存在』から見て、右が三枚、左が六枚の羽根。

 普通に見れば、美しい白銀の羽根。

 だが、今は悪しきモノを纏う白銀の羽根。

 それは拒絶。

 それは否定。

 それは滅び。

 それは絶望。

 また、犯された羽根を背負う存在は、時覇を見下ろしていた。

 アレが敵だと。

 初めから設定された訳ではない。

 故にプログラムでもない。

 始めて見たモノが敵だという、意識も無い。

 本能。

 髪の毛の先から、足のつま先までが、本能で告げている。

 アレが敵だ、と。

 互いが互いを敵と見た。

 互いが互いを拒否した。

 互いが互いを消し合う。

 ただ、それだけ。

 それだけが、互いを敵としてしまう。

 そして、どこかで鐘が鳴る音が聞こえる。

 それは、祝福の鐘か。

 はたまた、絶望の鐘か。

 ただ、鐘は鳴り続ける。

 世界を震わせるように。

 開演を奏でる鐘が、鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いで、全てが終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、これは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始まりでしかなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永きに渡る様な、短き戦いの本当の始まりでしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、枝分かれした運命と螺旋は、再び一つとなるその時まで――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕組まれた運命と戦いは……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鐘が鳴り響くままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第11話:過去という名の罪・END

 

 

 

次回予告

上空に佇んでいる、三対六の白い羽を持つ『存在』。

圧倒的な力の前に成すすべも無い時覇だったが――

最後の……命を賭けた力が発動する。

その頃、なのはの救出に向ったユーノたちが見たものは――

 

 

管理局サイド編

第12話:命を賭けた一撃、そして閉幕へ

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 ついに11話の改正版、ここに完成。
 10話と併合してやってました。
 魔力の数値関係をどうしようか悩んだ末、SSSランクに変えました。
 強大な魔力、遺恨の出来事、己の業、友の妹。
 しかし、豪華の如く復讐、いや野望に燃えるのか。
 リューナの兄にして現ラギュナスのリーダー、ロングイ
 想いは願い、願いは希望へ変わっていくはず。
 だが、それを捻じ曲げる者たちがいる。
 願いは欲望へ。
 ただそれだけ。
 戦いは拡大を見せる。
 戦場、政治、そして世界おも巻き込んでいく。
 全ては、時覇を監視する男なのか、それとも別の誰かなのか。
 それはまだ、誰にも判らない。
 想いは想いを呼び、願いは願いを呼ぶ。
 運命は、何処へ向うのか。
 それとも、何処へ向わせるのか。
 それは、終わってみなければ判らない事なのか。

 と、まぁ、こんな感じです。
 ラギュナス書かないと、物語が繋がらないから。(汗
 頑張って、『ここまでやって良いのか?』と、思わせるような物語を描きたいです。
 描ききれるか判りませんが、これからもよろしくお願いします。






制作開始:2006/8/11~2006/9/2
改正期間:2007/3/1~2007/3/7

打ち込み日:2007/3/7
公開日:2007/3/7

修正日:2007/9/27+2007/10/6
変更日:2008/10/24


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第十二話:命を賭けた一撃、そして閉幕へ

罪が強大な壁へ変わり、立ち塞がる
だが、人は進み続けなければならない
超えなくてはいけない、道の壁を
青年は、試練という名の始まりに手を掛け、登り始めるのだった


 

 

 時覇と『存在』が睨み合っている? 頃、遠巻きに見ていたリンディたち。

 

『……エイミィ、解析は?』

 

 全体が見える丘で座り込んでいて、今までの出来事を唖然として見ていたが、ふと我に返ったリンディが、エイミィに通信を入れる。

 

「解析はしているのですけど……ブラックボックスの塊らしくて、解析には相当な時間が掛かるのは明らかです。とても一日で終わることは無いのは確実です」

 

 技術班からの報告を抜粋して読み上げる。

 いくつか詳しい記載があったが、簡単に説明すればたったの二行で終わる。

 状況が状況なだけに、断片的な事だけを伝えた。

 詳しく聞かれれば答えるが、聞かれない限りではあとで報告すればいい。

 

『そう……エンジンの調子は?』

「はい……芳しくないようです」

 

 少し落ち込んだ口調で報告した。

 単位修復は完了済みなのだが、全くと言って良いほど出力は上がらない。

 ただ下がることも無く、現状を維持が精一杯なのだ。

 

『エイミィ、無事な局員の数は?』

 

 クロノが通信に割り込んできた。

 こちらも、単位的な手当てを受け、普通に会話は出てきる程度まで回復できた。

 が、戦闘は論外として、動くことは難しいと言ってよい。

 

「クロノくん、それは……」

 

 言葉が詰まる。

 絶望的を意味していた。

 あの攻撃から退避したとはいえ、範囲から逃れる為に、後先考えずに魔力を使ったのだから、帰還分の魔力などほとんど無いのは明白だった。

 そして、時覇とロングイのとんでもないバトルから、今度は闇の書事件を思い出す存在が現れた。

 ハッキリ言って、状況は最悪である。

 アースラ、航行不能中。

 なのは、未だ現在行方不明中。

 しかし、なのはが居る場所らしき所に捜索隊を派遣したが、今回特別に配属されてきたAAAランク以上を六人出したのだ。

 トドメと言わんばかりに出てきた武装局員の生死不明かつ、クロノ重症(魔力はほぼ皆無、左腕の骨と肋骨左真ん中辺りにヒビ有り、右足打撲)、リンディ軽症(右手捻挫、魔力残量Eランクくらい)、シグナムはレヴァンティン使用不可と魔力切れ。

 シグナムの話では、レヴァンティンの調子が良くないらしく、上手くカードリッジシステムが作動できないそうだ。

 

「にしても……あれは一体……まさか――」

 

 右側に三枚、左側に六枚の羽を持つ『存在』を見ながら呟くクロノだったが、最初の発言の前に素早く手で口を塞いだ。

 シグナムが居る為、『闇の書の闇』などと口が裂けても言う訳にはいかなかった。

 外見・感覚的には似ているが、根本的な何かが違うと告げている。

 存在の白い羽は、神々しいとは言えず形ばかりで、禍々しい何かを纏っている。

 故に『存在』が、闇の書の暴走のリインフォース姿が一瞬だけダブって見えてが、すぐ消えた。

 多分、闇の書事件に関わった者ならば、そう見えたかもしれない。

 リインフォースは、主の願いを捻じ曲げて解釈し、素直に従っていただけだから。

 そして『存在』は、ただ時覇を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第12話:命を賭けた一撃、そして閉幕へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『存在』は左手を時覇に向けると同時に、指を鳴らした。

 そして――時覇が居た場所から、大きな轟音と共に光の柱が立った。

 純粋な魔力の攻撃――『光の柱』

 着弾地点から直径10メートルから、50メートルほど吹き飛ばし、上空25メートルから200メートルまで柱が上る攻撃魔法。

 ただ条件として、地面もしくは壁など、ぶつかった所から爆発が起きる。

 しかも、ぶつかった場所の面積も関係してくるので、最低7、8メートルないと発動しないのが欠点である。

 その攻撃は、ロングイと遠巻きに見ていた者たちも、直撃だと確信した。

 だが時覇は――

 

「……せいやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!」

 

 と、その光の柱から出てきたのだ。

 しかし、『存在』は表情を変える事無く、シールドを展開。

 それと同時に、砲撃魔法を放つ時覇。

 その砲撃は、『存在』の少し手前で全方向に拡散し、後方へ飛んでいく。

 『存在』は、前にシールドを張ったまま後ろを振り向く。

 砲撃は再び一点に集まり、『存在』に向けて打ち込まれる。

 爆発。

 シールドを張る事を確認しなかった為、時覇は感じ取った。

 

「クロガネ、フルドライブ!」

“了解、リミッター解じ――時覇!”

 

 リミッター解除を行う瞬間、立ち篭る煙の中から魔力反応を確認し、時覇に激を飛ばす。

 それにより、リミッター解除は無くなったのは言うまでも無い。

 

「 !? ――らぁ!」

 

 クロガネの叫びに、懐から手の平サイズの円盤を間の前に投げる。

 その円盤は宙に浮き、中心を軸に四方に分裂し、前方へ展開される。

 篭る煙から、数十発の砲撃魔法が飛び出す。

 だが、爆発後の煙から前方に四方八方飛んできた思いきや、右左、上下と変則的に飛ぶ。

 左右上下、後方から打ち抜いた方が早いのだが、何故か砲撃は前方に展開されたシールドに集中砲火が降り注ぐ。

 結果、当然ながら単位型バリア発生器を突き破ってきた。

 とっさにクロガネを盾にして――雨荒しの如くの数十発の小さな砲撃を耐え抜いた。

 そして煙が晴れると、『存在』は右手を掲げて、一発の小さな砲撃が生成中の姿があった。

 

「こなくそ!」

 

 と、合図を待っていたかのように、言葉と同時に放たれる。

 そして、時覇はクロガネを盾にし、クロガネに強化魔法をかける。

 小さな砲撃はクロガネに当たり弾かれるが、時覇は衝撃に耐えられず後方へ吹き飛ばされる。

 それに続くように、『存在』が突進を掛けてきた。

 その構え、右腕には白き光が集い、左手には黒き光が集う。

 ラギュナス内では、禁忌扱いの魔法――ヘル&ヘブン・ドライバー。

 使い手によっては、自らの腕を破壊し、時には次元振さえ起こしかねない――人には、余りにも強大な力。

 滅びしか呼び寄せない、破滅の魔法。

 

 

 

 

 

 鐘は鳴る。

 滅びの鐘か、それとも……。

 緑が溢れ、清んだ蒼が広がる空、そして平原に生えた一本の木。

 そこに腰を下ろし続けているマントを羽織った者は、リュートを奏でつつ、詩を歌い続ける。

 この状況を見透かした詩を。

 風に煽られ、木に吊るされた鐘が鳴る。

 奏で続ける。

 風が吹くままに。

 

 

 

 

 

 廊下に足音を響かせながら、走り続けるユーノ。

 そして、なのはが居ると思われる部屋の前まで来た。

 

「こっ、ここ、か」

 

 少しばかり息切れ気味のユーノ。

 しかし、シャマルはドアと言ったが、実物を見ると左右に開閉する少々大きめの扉だった。

 続いて、ヴィータ、シャマル、ルーファン、ザフィーラの順に来た。

 

「ユーノ、少し下がってろ。先陣で出るから」

 

 ユーノを扉から下がらせて、ヴィータが前に出る。

 

「グラークア――」

『ストップ!』

 

 技を繰り出そうとしたヴィータを、全員で止めに掛かる。

 

「何すんだよ!?」

「いきなり扉を壊そうとするからです」

 

 少し早口で、突っ込みを入れるルーファン。

 

「私が開けるから、開いた瞬間にヴィータちゃんが入れば問題無いから、ね」

 

 と、宥めるシャマル。

 

「――行きます」

 

 シャマルの掛け声と共に、重い扉が上下左右に開いた。

 同時に白い煙も出てきたが、別に寒い訳で無く、熱い訳でも無かった。

 半分くらい扉が開いた途端、ヴィータが飛び込んでいった。

 続いてサポート役のルーファン。

 完全に開ききった瞬間、ユーノとシャマル。

 ザフィーラは、敵が侵入して来ない様に、廊下で待機している。

 

「ヴィータ、なのはは!?」

 

 部屋の入り口付近で立っていたヴィータに声を掛ける。

 ヴィータは無言のまま、前を指差した。

 

「なの――!?」

 

 ユーノは唖然とした。

 ヴィータが立ち止まっていた理由がわかる。

 目の前には、なのはは確かにいたが、なのはの姿は無かった。

 あったのは、なのはの――

 

「なのはの、リンカー……コア?」

 

 動力源供給装置らしき中心には、なのはのリンカーコアがあるだけだった。

 

「ユーノさん、その奥に!」

 

 その言葉に我に返ったユーノは、リンカーコアが浮かんでいる装置の奥を見た。

 そこには、アリシアが入っていた生態維持装置のカプセルに入っている、なのはがいた。

 

「なのは!」

 

 ユーノは、一目散になのはの元へ駆け寄った。が、あと数メートルの距離で、ユーノはいきなり吹き飛ばされた。

 

「がはぁ!」

 

 何かを鳩尾に喰らうユーノ。

 そして、前の空間が渦を巻く様に捻じれ、一人の少女が出てきた。

 

「ここから、通さない」

 

 デバイスを突き立てて、なのはが言い放った。

 

 

 

 

 

 禍々しい白い光と、緑色の光がぶつかり合う。

 高速いや、瞬速でぶつかり合う時覇と『存在』。

 描く軌道は様々だが、均衡は保たれている。

 

「っせい!」

 

 ポシェットから、機雷弾を三個取り出して、左へ避ける様に投げる。

 上の進行方向を塞ぎ――そのまま下の進行方向を塞ぐ。

 そして、最後の機雷弾が、右の進行方向を塞ぐように爆発――するはずだった。

 

「な!?」

 

 爆発する瞬間に『存在』は、機雷弾を凍結魔法で固め、爆発しない様にした。その機雷弾を掴み、そのまま投げ返してきたのだ。

 

「ちぃ――!?」

 

 避けようとしたが、左足にワッカが掛けられていた。

 

「固定バインド!? いつの間に、ってあの時か!」

 

 固定設置型バインドを喰らいながら、先の瞬速戦闘を思い出す。

 しかし、クロガネで外そうとしたが、他のバインドが発動し、完全に動きを止められてしまった。

 ご丁寧に、右のデバイスには三重のバインドのオマケ付き。

 服に機雷弾が触れた。

 

「し――」

 

 次の瞬間――炸裂爆発。

 

「っぐぁ!」

 

 そのまま時覇は後方に飛ばされ、落下していった。

 『存在』は、やっと終わりか。と、確信した。あとは、残っている者たちを殲滅するだけだと。

 そう思い、後ろを振り向くと、時覇が技を繰り出す体制で待っていた。

 少々驚く『存在』。

 

「体魔武総覇術、体の型――」

 

 そう言いながら、すうっと『存在』の胴体辺りに、手の平を添える。

 『存在』は、すぐさま後ろに下がろうとしたが、時覇がワンテンポ速かった。

 

「――無距・掌底破(むきょ・しょうていは)!」

“追加で――インパクト!”

 

 オマケ付の中距離専用格闘攻撃をかます時覇とクロガネ。

 しかも、体を捻る瞬間だったので、『存在』の横腹に直撃。

 そのまま吹き飛び、落ちていくはずだった。

 

「 !? 」

“何!?”

 

 驚く時覇とクロガネ。

 それもそのはず。なんせ、どんな反応度の高い兵器であっても、僅かなワンモーションある。

 だが、それすら見る事は無く反対側の脇に左拳ぶつけ、相殺していたのだ。

 しかも、一寸狂わずの完全相殺である。

 全くと言っていいほどの勘の良さ、もしくは未来予知の類である。

 

「ゲィム・オーバァー」

 

 と、ゆっくりと一言、一言ハッキリと呟いて――吹き飛ぶ。

 斜めに吹き飛んで地面に激突し、土の柱が立つ。

 しかし、それだけでは収まる事無く、真っ直ぐに地面を抉りながら吹き飛び続ける。

 そして、やっと静止。

 砂煙は、着弾地点から抉った場所を中心に、数十百メートルにまで散開した。

 地面に激突してから地面が抉れた距離は、推測500メートルほどである。

 しかも、いい角度で地面と激突したので、綺麗に抉れた格好になっている。

 

「――ぐぁ……」

 

 右の肘を胸に喰らったダメージは、それなりに効いた様だ。

 素早く単位防御魔法を展開してので、ある程度は軽減したが、気休め程度の結果だった。

 

 

 

 

 

「……最終警告です。このまま立ち去れば、何も無かった事で終わります」

 

 デバイスを構えて淡々と語る、なのは。

 

「君は……レニアスと呼ばれるロストロギアから生まれた、擬似生命体なのか?」

 

 ユーノは、少し躊躇いながらも、デバイスを構え続けるなのはに言った。

 そして、なのははその言葉に少し俯き、仮面を被った様な表情から、どんどん怒りの表情へ変わっていた。

 

「……アナタに……」

 

 顔を上げる、なのは。

 今まで感情が無かった顔に、完全な亀裂が入る。

 目に涙を浮かべているのだから。

 

「アナタに、何が判るっていうのよ!」

“GDS(グラビトン・ディバイン・シュートの略)”

 

 僅かに空間が捻じ曲がる。

 大きさは、サッカーボールほどの大きさで、ユーノ目掛けて飛んで行った。

 

「――ん、ぷぱっがっ!」

 

 ユーノは腹部に強烈な衝撃が立て続けに二度走り、口からゲロと血が混じったモノを吐き出した。

 あと、足の踏ん張りがきかず後ろへ吹き飛ばされ、後方にいたザフィーラに受け止められた。

 

「大丈夫か、スクライア」

「がは、がは……な、なん、とか」

 

 切れ切れながら、ザフィーラの問いに答えるユーノ。

 それを見た、ヴィータは――

 

「よくも! ユーノの仇!」

 

 と、勢い良くなのはに向って跳んでいく。

 無言のまま、ルーファン調査官もヴィータの後に続く。

 

「ヴィータちゃん、ユーノさんまだ生きていますから!」

 

 とか言いつつも、ヴィータのサポートに回るシャマル。

 ユーノを壁際に連れて行ってから、外で待機していたアレフに念話を

 

(アレフ、聞こえるか?)

(どうしたんだい、ザフィーラ?)

 

 冷静に聞くアレフ。

 

(大至急、こちらに来てくれ。スクライアが負傷した)

(ユーノが、誰にやられたんだい!?)

 

 ザフィーラは、一呼吸置いて――

 

(レニアスというロストロギアから生み出された、高町なのはだ)

(なのはが!? って、ロストロギアがなんだって)

(詳しい話は、スクライアから聞いてくれ)

 

 念話を閉じて立ち上がり、ユーノを守るように構える。

 今戦っているなのはは、どうやら接近戦が得意らしく、ヴィータが苦戦していた。

 

「うわぁ!」

 

 テートヒ・シュラークとシールドとの競り合いに負け、吹き飛ばされるヴィータ。

 なのはは、吹き飛んだヴィータとの間合いを一瞬で詰め、デバイスをつけると――

 

「ゼロ・クラッカー!」

 

 と、小型の爆発魔法を腹部にゼロ距離から叩き込む。

 小規模爆発。

 

「――――!」

 

 小型の爆発でありながら、爪先から髪の毛の先まで、体の隅々まで衝撃が駆け巡る。

 そのまま地面にぶつかり、何度かバウンドする。

 

「ヴィータちゃん!」

 

 とっさにヴィータに跳び付くシャマル。

 

「くっ!」

 

 ジュースのカンくらいの大きさの筒を、腰から取り出す。

 

(皆さん、私の合図と共に、ここから出てアースラに!抗議は一切聞きませんので!)

 

 ルーファンは念話を飛ばし、筒をなのはの前に放り投げる。

 そして、カラン、カランと二回、三回と音を立てて転がっていく。

 筒は二つに割れ――

 

(今です!)

 

 閃光を放つ。

 それと同時に、ザフィーラ、ユーノ、シャマル、ヴィータ、ルーファンの順に出て行ったが――

 

「しまった!?」

 

 最後に部屋を出ようとしたルーファンが、ドア辺りでバインドを受けてしまう。

 

「ルーファ――がは、がは!」

 

 ユーノは気がつき、名前を呼ぼうとしたが、まだ腹部にダメージが残っていたために、僅かな血を吐きながら咳き込んでしまう。

 

「ユーノ!」

「 !? アレフか!」

 

 廊下から、アレフが走ってきた。

 

「ザフィーラ、これはいった――」

「すまないが、スクライアを頼む」

 

 アレフの言葉を遮り、ユーノを渡すザフィーラ。

 

「ざっ、ザフィーラ!?」

 

 バインドに捕まっているルーファンの元へ走っていく。

 ルーファンを通り過ぎ、なのはに突撃を掛ける。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 だが、

 

「ぐぁあああああああああ!」

 

 何かに吹き飛ばされたザフィーラは、バインドで捕まっていたルーファンにぶつかる。同時にバインドもとけ、そのまま巻き込まれるように廊下に戻ってきた。

 ザフィーラは顔を少し上げて、何に吹き飛ばされたか確認した。

 そこには、ローブの男がいた。

 

 

 

 

 

 カラ、カラと、石が落ちてくる。

 

“生きているか、時覇”

「……がはっ、がはっ……ああ、なん――とか」

 

 起き上がりながら、答える時覇。

 ついでに簡単な身体チェックをする。

 

“しかし、よく生きていたな。今の防護服も貫通していたはずだか?”

「はあ、はあ、ふぅ……何、防の型――全点一点防御を使った、までだ」

“全点一点防御?なんだ、その即席みたいな名前は?”

「文字通り、本来人間は体を無意識に丸めるか、硬直するかでダメージを軽減させる傾向があるだろ。だが、それは場所によってはダメージを倍加させる危険性もある。故に、一点の部分の防御力を上げ、あとはそのダメージを逃がす場所として扱う我流体術みたいなモノさ」

“その言い方だと、半分は流派か何かから来ている言い方だな”

「まあな……また、追々話すさ。それより今は――」

 

 上空から見下ろしている『存在』を見る。

 

“確かに。アイツを仕留めない限り、この戦いは終わらないからな”

 

「で、アイツが取り込まれてから、どれくらい経つ?」

“かれこれ、7,8分経っている”

「そろそろヤバイな……クロガネ、あと1分で蹴りをつけるぞ」

“了解した。出力最大、ガンドレット・フルバースト!”

 

 その言葉に合わせるように、時覇は飛び立つ。

 

 

 

 

 

「…………――!?」

 

 『存在』は、驚いていた。

 確実に、しかも急所に入ったはずなのに、まだ挑んでくるのだから。

 デバイスでありながら、恐怖を覚える『存在』。

 だが、それは一瞬の出来事であり、時覇を抹消するのが己の使命なのだから。

 そして、『存在』は体制を整える。

 倒すべき敵を倒す。

 それが、『存在』に与えられた使命であり、生まれてきた存在意義なのだから。

 だが、ふと過ぎる事がある。

 時覇を倒したら、己という存在はどうなるのか、と。

 しかし、その考えは泡の様に弾け、消えていった。

 相手が立ち上がってくる。

 ならば、全力で排除すればいい。

 後の事は、それから考えることにする。

 そう結論がついた。

 だから構え、詠唱を始めた。

 

 

 

 

 

「いくぜ、クロガネ!」

“ああ――バーン・ナックル・ゼロ!”

 

 デバイスの手の部分が赤く光だし、一瞬静止して、後ろに引き、真正面に叩き付ける。が――轟音と火花が飛び散る。

 片手だけのシールドで防がれた。

 

「くそっ――まさか!?」

 

 このシールドは、先ほど時覇が使った行動と同じ原理だと気が付いた。

 『存在』は、空いている片手でシールドごと、時覇を吹き飛ばし、右手で指をパチンと鳴らす。

 そこで、時覇の周り――360度に、砲撃魔法が展開した。

 しかも、最大出力後のオーバーブローにより、クロガネは使用不可の状態になっていた。

 故に、自ら張れる防御魔法しか、対処のすべは無かった。

 爆発。

 爆発。

 爆発。

 爆発。

 爆発――と、エンドレスの如く、数千発近くにも及ぶ砲撃魔法の直撃を受ける。

 また再び地面に叩きつけられた。

 

“時覇、これ以上は危険だ! 悪いが、転送させてもらうからな!”

 

 転送魔法を起動させるクロガネ。

 

「…………待て、クロガネ」

 

 それを、うわ言の様に呟いて止める。

 

“しかし!”

「だったたら、何でアレを発動させなかった?」

“だがアレはお前の――”

「わかっている……わかっているから、言っているんだろうが」

“…………覚悟は、もうできているということか”

「ラギュナスを抜けた時からな」

“了解した……全システムオールクリア、最終安全プログラム解除……MHモード封印解除。これで、いつでも起動可能だ”

 

 ゆっくりと立ち上がる時覇。

 

「ぐぅ」

 

 少しよたつき、胸に痛みが走るが、全てに耐え……再び飛び立つ。

 それを確認した『存在』は、今ある魔力を胸のコアに集め始めた。

 それは、今取り付いている奴の魔力と、空気中に残存する魔力をかき集め、強力な魔法を叩き込まなければならないと判断したからだ。

 そうではければ、また再び立ち上がってくる。

 とにかく内と外の魔力を、必死でかき集める。

 だが、それを優に超えた素早さで、距離を詰める。

 

「MHモード起動!」

 

 クロガネの手の部分とコアが分離し、手だけ収納され、魔力で構成された手が出る。

 その甲にコアが取り付くことで、生成完了する。

 生成が終わると一気に間合いを詰める。

 『存在』が、防御魔法を展開しようとするが、それよりも速く詰める。

 そして――

 

「喰らえ、マジック・フィンガァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

 と、間合いを詰めた時の素早さよりも、速くコアを掴み――

 

「ぅらぁ!」

 

 胸の部分にあったコアを引き剥がす。

 

「――――!?」

 

 『存在』が集めた魔力と、コアが異常なまでに輝き出す。

 

「クロガネ、アイツを!」

“だ――っち、転送!”

 

 コアが取れた事により、ゴスペルは元通り戻っていたので、適当な場所へ転送させた。

 その次の瞬間、時覇は二つの光に包まれ、爆発に巻き込まれた。

 三度目の落下。

 デバイスの損傷は激しく、中はともかく外の外装は殆ど破損している。

 コアは、今にも砕けそうな亀裂が入っている。

 挙句の果てに、時覇の魔力は今の攻撃で底をついた。

 結果――地面と激突。と、思いきや、木や草に守られるような形で地面に落ちた。

 簡単に言えば、枝と葉が落下速度を和らげ、生い茂っていた草がクッションの役割を果たしたからである。

 受けた衝撃は、人を死に追いやるほどのモノではなくなった。

 

“……覇……が……くs……”

 

 デバイスの発音言語機能辺りが故障したらしく、上手く声を出す事が出来ないクロガネ。

 同時に時覇の意識は、既に闇に沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに一つの戦いが終わった。

 だが、時覇は管理局に拘束されてしまう。

 そして、なのはは救出できず行方不明。

 アースラのメンバーは全員拘束、全ての権限の凍結。

 人事の転属などにより、チリジリとなる結果となった。

 全ては仕組まれた茶番劇だったのか?

 答えはまだ、闇の中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鐘は鳴る。

 鳴り響き続ける。

 運命が奏でるままに。

 人が舞い、欲望が渦巻き、理不尽な命令が飛ぶ。

 それは、今の人の業を表したかの様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理局サイド編

第十二話:命を賭けた一撃、そして閉幕へ・END

 

 

 

次回予告

語れる物語では無い。

それでも語らなければならない物語。

現実はいつも残酷な結果しか訪れず。

ただ、流れに逆らう事を許されない日々を送る。

 

 

管理局サイド編

最終話:カーテンコール

 

に、ドライブ・イグニッション!




あとがき
 やっと次回で、管理局ルート改正版が完成!
 でも、一話から五話まで少し書き直し+ラギュナスルート書き書き。
 書き書き、書き書き、書き書き、書き書……スイマセン、全然書いてません。
 ラギュナスサイド。(汗
 マジで、どうしよう。
 ネタ、プリーズ? もうヤダって言ったら、話が続かなくなるんだよね。(汗
 でも、ラギュナスサイドは、全力全壊はちゃめちゃなストーリー展開があります。
 はっきり言って、今まで(現時点で)書いてきた小説の中でも、もっとも死人が出る話ですから。
 これ以上は、ノーコメント。
 誰が殺し、誰が死ぬのかは未定だが、最終話のイメージはしっかり完成できていますので。
 あとは、前の話を構築するだけ。
 改正版を書くのは必然かと。
 それでも、満足できる作品は作りたいです。
 では、次回の最終話でお会いしましょう。






制作開始:2006/9/3~2006/10/14
改正期間:2007/3/10~2007/3/16

打ち込み日:2007/3/16
公開日:2007/3/16

修正日:2007/9/14~2007/9/15
変更日:2008/10/24


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最終話:Curtain Call

 戦いは終わりを告げる、鐘なる
 だが、これは始まりでしかない……
 このまま進めば、やがて絶望にうちひしがれるのみ
 だが――






























「だったら……このまま眠らせるのが正しいのではないのか?」

 言葉を重ねるように木霊した。


 

 時空管理局――文字通り、各時空・次元を管理・監視。時空を崩壊へ追いやるほどの技術の結晶、ロストロギアの回収と管理。時空犯罪者を取り締まる事を主にした組織。

 そして、強力な魔力を持つ者は、管理局に登録される。

 魔法が関知されている次元は、時空管理局の管轄下に入っているし、出資などを行っている次元もある。

 汚職、天下りが無い組織。

 まさに、各時空の鏡と言える警察組織である。

 が、一件ありふれた警察組織みたないモノだが、別の視点から見れば――神を気取った組織を言える。

 一つの組織だけが管理・監視を行い、ロストロギアの回収・管理。

 余りにも危険すぎる。

 故に何時横暴に出ても、止められる対抗組織は限られる。場合によれば皆無に等しいと言える。

 一応、聖王教会、ガードルド軍、ヴィバスター騎士団など、対抗可能な組織は存在する。

 だが、時空管理局には、時空航行艦搭載型の強力な魔法『アルカンシェル』、今まで回収した『ロストロギア』の数々。

 この物語――『魔法少女リリカルなのは』を知っているものなら、簡単に察しはつくだろう。

 例えるなら『アリと像』、とまでは言わないが、精々『ゴリラかサイのどちらかと像』の対決みたいなものだ。

 時空管理局は信用された、正式かつ歴史のある組織。

 あらゆる時空を管理している点に関して、顔が利く。幅が広い。などが上げられる。

 確認され、管理下に置かれている時空は、管理局を信用していると言って良い。

 ただ、全てではないが、それは些細な問題である。

 結論は、時空管理局が横暴に出ても、止められる組織、軍事は少ない。もしくは、殆ど皆無に等しいと言う事である。

 例えあっても、それは文明が進みすぎた時空か、第一級又は秘蔵級ロストロギア、第一級自然・生物災害くらいである。

 そんな時空管理局・集中治療室の一室。

 部屋の中は、無数の機材と壁に埋め込み型のモニター、そして中央にベッドがあるだけの部屋。

 一言で表すなら、『機械的な部屋』と言えばいいのかもしれない。

 その中央のベッドには、時覇が寝ていた。

 その横には、フードの男が立っている。

 フードの男は、時覇の首に手を翳しているよりも、首を絞められるような感じである。

 

「…………」

 

 その体制を維持したまま、既に二時間近く経過しようとしていた。

 

(躊躇しているのか、俺は?)

 

 自問自答する。

 

(人を殺すことは慣れている。ここへ来るまでに、いくつモノの世界、人、時空などを破壊し、殺し、血を浴びた……なのに、何故ココまで来て戸惑う)

 

 時覇は、ただスヤスヤと寝ている。

 時折、寝返りをしようとするが体に激痛が走るのか、悲鳴に近いうめき声を上げる。

 デバイスはデバイスで無理が祟り、現在修理へ回されている。

 

(ただ一言、一言で、ここまで世界が変わるのか?)

 

 時覇から、手を退けるフードの男。

 そして、その手の平を見つめる。

 見えない血がこびり付いた手を。

 顔を上げ、

 

「いいだろう。世界がお前を求めるならば……絶望を越えて見せよ。……もし……もし、越えられないのなら……俺が、お前を殺す」

 

 それだけ言うと、振り向くと同時に掻き消された様に居なくなった。

 ただ部屋に聞こえるのは、機材の僅かな稼動音と時覇の息遣いだけだった。

 

 

 

 

 

 どこかの世界の、どこかの場所のどこかの木の下で、詩を歌う者がいた。

 そして囁くように、風に乗せるように、詩を歌い、そして奏でる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歴史は、常に動き……変化していく

 螺旋のように周り、交わりあっては離れていく

 だが、全てが良い結果では無い

 ただ判る事は、常に無常にも、時は動き続ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、アースラのメンバーはどうなった?」

 

 と、暗い部屋の中に、男と女が立っている。

 女の方は、報告書らしきデータを持っている。

 

「はい、リンディ・ハラオウン、レティ・ロウラン、クロノ・ハラオウンの三名は提督の地位を剥奪後、無期の自宅謹慎処分となっております」

 

 女は、持っている機材から、別のデータファイルを取り出す。

 

「ユーノ・スクライア、フェイト・T・ハラオウン、その使い魔のアレフ、八神はやて、ヴォルケンリッターたちも同じく地位を剥奪。無期の自宅謹慎となっております」

「そうか……ラギュナスとあの男は、どうなった」

「あの男――桐嶋時覇の事でしょうか?」

「いや、フードの男について、何かわかったか」

「申し訳ありません。過去の情報を探したのですが、全く無いのであります」

「全く無い、だと?」

 

 男の声が、少し重くなる。

 同時に女も、背筋を強張らせる。

 

「は、はい」

 

 女は僅かばかり震える。

 

「……小僧は?」

「えっ、あ、はい! 桐嶋時覇は、時空管理局に拘束され、現在集中治療を受けております。最後にラギュナスですが、戦艦のエンジン部に先ほど謹慎処分になった者たちの襲撃を受けたそうです」

 

 男は肩を竦めた。

 

「その報告は先ほど聞いたぞ?」

「あ――」

 

 言葉を失う女。同時に顔が絶望の色に染まる。

 男は無言のまま、指を鳴らす

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 床に倒れこみ、喉を押さえ、胸を掴み、もがき苦しむ。

 髪は乱れ、片足の靴は脱げる。

 口からは唾液を垂らし、瞳の光は段々と光を失っていく。

 

「いい加減、使える女になれ」

 

 呆れた訳ではなく、慣れていた感じでその場を後にする男。

 女の苦しみは数分ほど解けた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 唇を噛む。

 最悪の男だと考えるが、現在のマスターの為、逆らう以前に罵倒の言葉すら放てなかった。

 それでも、従うしかない。

 ポケットから取り出したハンカチで口元を拭い、靴を履き、身なりを整えながら言う。

 

「いつまて……続くの?」

 

 自問自答気味の言葉は、どこにも届くことなく闇に消えていった。

 ただ女の目に映るモノは、虚空では無い事は確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが例え、外道の奴でも。

 それが例え、悪魔だろうと。

 それが例え、死者であろうとも――

 時は、動き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お兄ちゃん」

 

 その言葉にクロノが顔を上げる。

 

「これからどうなるの?」

 

 ソファーで蹲るフェイトが言った。

 

「…………わからない」

 

 それしか返事を返さない――いや、返せないクロノ。

 今回の件で、クロノ、リンディ、レティの三人の提督という称号を一時的に凍結という異例の処置。

 しかも、管理外の世界である時空――馴染みのある地球での、半場監禁。

 魔法の使用は一切禁止。使用した場合、第一級犯罪者として捕縛するというお墨付き。

 ハッキリ言って異常であり、慌てても無意味である。

 リンディも、ただゆっくりとお茶を飲むだけであった。

 部屋の中はテレビの音しか鳴ってない。

 エイミィとアレフは、監察官付き添いで買い物に出かけた。

 エイミィは、別に部屋に居てもよかったのだが、アレフが大変な事になると感じて一緒に出かけたのだった。

 もっとも、監察官が居るので、余り変わらないのが現実であるが。

 リンディは、空になった湯飲みを置くと、どこかに念話を繋いだ。

 

「はい、リンディ・ハラオウンです……そうですか……はい、許可を……わかりました――フェイト、はやてちゃんの家に遊びに行っていいって、許可が下りたわよ」

 

 少し疲れ気味の顔だったが、それでも笑顔で話すリンディ。

 

「え?」

「 !? 」

 

 その言葉にクロノは素早く顔を向け、フェイトはリンディを見て言葉を漏らした。

 何度申請しても許可が下りなかった『友人の家に行く』が、あっさり許可が下りたからである。

 

「あ……でも」

 

 と、クロノとリンディを交互に見る。

 自分だけ友達の家に出かけるのが、忍びなかったからである。

 

「フェイト、行ってくるいい。このままだと、気が滅入ってしまう一方だからな」

 

 微笑みながら、母の意見を後押しするクロノ。

 

「……うん、わかった。出掛けて来るから……アレフを宜しく」

「ああ、わかった」

「いってらっしゃい、フェイト」

 

 一旦部屋に戻り、一応着替えてから家を後にした。

 マンションの階段を一段一段、ゆっくりと降りて行く。

 まるで今をかみ締める様に。

 そして、外へ。

 

「 ん 」

 

 腕で顔に影を作る。

 久しぶりの直射日光に少しだけ目が眩んだからである。

 そして、見慣れた道を歩く。

 だが、後ろから付けられている事は判っている。

 監視官である。

 ストーカーみたいで気分は良くないが、振り向くと確実に姿を見るので、多少はマシである。

 そこで柔らかい風が吹き抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は、廻り続ける

 時は、止まる事無く、進み続ける

 この歌響け

 どこまでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ? 」

 

 辺りを見回すフェイト。

 だが監督官以外、誰も居ない。

 不思議に疑問を抱きつつも、はやての家に行くのであった。

 

 

 

 

 

 その頃、はやての家では――

 ヴィータとリインフォースは、テレビを見ている。

 シグナムは、ソファーで新聞を何度も読む。

 ザフィーラは、ベランダで空を眺めていた。

 シャマルは、監察官にバレない様にリビングと別室を行き来してカードリッジを作っている。

 はやては、部屋のベッドにねっ転がりながら、待機モードのシュベルトクロイツを眺めていた。

 『存在』を見てからというもの、闇の書事件で去っていったリインフォースを思い出していた。

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐く。

 考えれば、考えるほど気が滅入り、気持ちが沈んでいく。

 

(こちら、時空管理局監察課、アグリッド・ドーマルだ。八神はやて、聞こえるか?)

 

 不意に念話が入る。

 

(はっ、はい、聞こえます)

 

 慌てて起き上がるはやて。

 

(そちらに、フェイト・T・ハラオウンが向っている)

(フェイトちゃんが?)

(そうだ、くだらない考えは起こさない様に。以上だ)

 

 そこで念話は途切れる。

 少し経ってから起き上がり、部屋を出る。

 友人を迎える為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつまでも

 いつまでも変わらぬ時を

 いつまでも変わらぬ永久を

 いつまでも変わらぬ世界を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ? 誰か歌っているのかな?」

 

 などと疑問に思いながら、リビングへ向う。

 ドアを開け、

 

「なあなあ、誰か歌ってへぇんかった?」

 

 と、リビングに全員が居たので、尋ねてみる。

 だが、全員が首を横に振った。

 それに、歌事態聞こえなかったそうだ。

 一応、フェイトが来ることを伝え、持て成しのお菓子を作る為、台所に入っていった。

 

 

 

 

 

「どうするのだろう、これから」

 

 と、食堂で呟くレニアスなのは。

 

「それはわからないよ、私たちは所詮使い捨てなんだから」

 

 判りきった口調で答えるレニアスフェイト。

 

「どんなに上手い言葉で飾っていても、所詮コピー。人形さんと同じ――」

「――な訳ないだろ」

 

 その言葉に驚きながら、振り向く二人。

 そこには、東野君がいた。

 

「何臭い話しているのだ?」

 

 椅子に座りながら尋ねる。

 

「今後の事です」

 

 レニアスフェイトの代わりに、レニアスなのはが答える。

 

「そうか……ラギュナスの行く末はいかに!? って、感じだからな。今回の件で、抜ける奴も出てきているし……大分変わる事は確かだな」

 

 椅子をギコギコと鳴らす東野君。

 

「ところで、この艦の動力炉はどうなっているの?」

 

 ふと、思い出したように聞いてくるレニアスなのは。

 

「ああ。それについては、ようやく完成した動力炉を使っている」

 

 遠い目をしながら思い出したように言った。

 

「私の本体は、どうなったの?」

「高町なのはの事か……あの時の爆発で、時空空間に消えていったからな、状況が状況なだけに、探す暇も無いし、しなくてもいい。無視しても構わないさ」

 

 と、レニアスフェイトの生姜焼きを引っ手繰り、口に入れる。

 ちなみに、それが最後の肉であった。

 

「ああああああああああああ! 私の生姜焼き返せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 東野君の襟首を掴み、前後に揺する。

 

「レニアスフェイト、落ち着いて」

 

 なんだ、なんだと、周りが騒がしくなる。

 一応地球時間では、お昼辺りなので人は多く居る。

 そして、揺すりが止まると――

 

「悪い、もう胃の中だ」

 

 ぷっつん。と、レニアスフェイトの何かが切れた。

 

 

 

 

 

――約3分後

 

 

 

 

 

 担架に担がれていく東野君。彼の顔は青くなっている。

 そして、部屋の隅で蹲っているレニアスフェイト。

 それを慰めるレニアスなのは。

 落ち着いて、いつも道理になったロングイが食堂で見た光景だった。

 一言――プチカオス。

 

「何があったのだ?」

「ああ、さっきの凄かったぜ――ってたっ、隊長!?」

 

 全力で飛び退く部隊員。

 

「ああ、だからどうなったのだ? 気になるだろうが」

 

 起き上がりながら報告する。

 

「はい、東野君がレニアスフェイトの食事を奪ったらしいのですが……食べたと言った途端、レニアスフェイトがディープキスの勢いで口を押し付けて、吸い上げようとしていたのです」

 

 こめかみを押させるロングイ。

 東野君も東野君だが、レニアスフェイトも、レニアスフェイトである。

 

「もういい、わかったから。少しそっとしといてやれ」

 

 それを言い残し、食堂を後にした。

 

「はぁ! ――って、何やっているのだよ!?」

 

 さらに騒ぎが起こったらしいが、この際知らなかった事に決めた。

 

 

 

 

 

 そのままロングイは、転送装置を使い、ある場所へ向う。

 そこは、歴代の秘密の場所。

 代々ラギュナスの長――隊長しか、知らない次元世界。

 名も無き世界。

 ただ、虚空の様に広がる世界。

 あるのは―― 一寸の光も無い闇か。

 鼓動は、音を奏で。

 血は、流れを歌う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神々の遺産

 人には過ぎた物

 それでも人は、求める

 絶対なる力を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下を移動している時に、不意に思い出した。

 吐き気がするが、前隊長が書いた詩の一部で、妹がよく口ずさんでいたのを覚えている。

 多分、これから行く場所が元になったモノだという事が、痛いほど判る。

 虚空――すなわち、無の世界。

 何も無い世界。

 だが、そこには封印されたモノがある。

 おとぎ話に語り継がれる伝説の世界、アルアザード。

 その世界には、死者蘇生の秘術や時間を越える魔法など、神の領域を侵す数々の魔法があるとされている世界。

 人が絶望し、何もかも失い、狂気となった時に縋る世界。

 だが、その世界は実在する。

 時空断層の何千億分の一有るか無いかという確立の、天体的数字で辿り着ける世界。

 故に、おとぎ話として、後世に語り続けられてきた。

 だが、その世界すら滅ぼしかねないモノを、その虚空の世界に封印されている。

 名も無きロストロギア。

 古の時代から、次元に漂っていたモノ。

 それを使う時が来たようだ。

 全てを破壊する。

 それは、妹を蘇らせるという悲願から、いつの間にか変わった願いだ。

 それはいつの頃からだろう。

 あの男と出会ってからか?フードの男とか?時覇を見てからか?

 どれも違う。

 

「ただ……世界の果てを目指すのみ」

 

 今は、それだけだ。

 その先が無だとしても、妹がそこにいると信じて。

 

 

 

 

 

「全てが過ぎ去る。やがて、終わり無き争いへ。人は人で居る為に。戦士は戦士である為に……」

 

 そこで歌は終わり、リュートを弾くのをやめる。

 そして、横に立てかける。

 そのまま空を見る。

 

「全てが……やっと始まる」

 

 呟くように言った。

 

“これからどうする?”

 

 と、リュートが言葉を放つ。

 

「さぁ……あの男がどう動くのかが興味深い。前の時は世界が崩壊し、自らの行いを悔い、狂気になってしまったのだからな」

 

 少し体勢を整える男。

 そして、座ったまま背伸びをする。

 

“これからが、始まりか。今度は何処まで楽しめるか”

 

 と、自ら曲を奏でだす。

 ひとりでに弦が弾き、音楽は静かに舞う。

 

「歌、歌いて、彼の地に待つ……集え、愚かなる道化の戦人たちよ……」

 

 風に乗せる様に口ずさんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時は常に動き続ける

 抗おうとしても、時は進む

 終わり無き明日を……

 奏でいでし、この歌を――

 愚かなる道化の戦士たちに捧げん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、いつまで寝てりゃ~いいのだよ、俺は」

 

 などと、ベッドの上で一人愚痴るゴスペル。

 場所は、時空管理局、病室・第364号室。

 あの転送の後、気絶していたらしく、管理局に保護された。

 一応、第一級犯罪者兼重要参考人なので、廊下に監視官が三人ほど待機している。

 

「で、俺の相棒は…………はぁ」

 

 その視線の先には、ボロボロに砕けたデバイスがあった。

 デバイスの管制コアが破壊され、カートリッジシステムもお釈迦である。

 ただ、このデバイスがインテリジェントでない事が、唯一の救いである。

 ここまで破損した理由は言うまでも無く、規格外の違法改造及びロストロギアを応用発展型の特性管制システムの使用だったからだ。

 その肝心の開発者なのが、前ラギュナスの長だったらしい。

 しかも、ロストロギアを応用発展型の特性管制システムの開発者の発案者だそうだ。

 詳しい事を極秘に調べようとしたが、肝心のデータがデリートされていたので、調べることは出来なかった。

 で、前から居た仲間にも聞いたが、その人の事だけは口を閉ざす。

 故に、前ラギュナスの長が造った物としか判らないのである。

 

「カートリッジシステムだけは、復元したいものだな」

 

 再び眠りに付くゴスペル。

 

(そういえば……アイツには、礼の一つくらいしておかないと、な)

 

 眠りに付いた。

 戦士の勘が告げる。

 近いうちに戦が起こる、と。

 故に眠る。

 再び戦場へ赴く為に、己が力で道を切り開く為に。

 桐島時覇に借りを返す為に、恩を仇で返したくない為。

 戦士――ゴスペルは、闇に意識を委ねる。

 意識が朦朧としてきたとき、何かが聞こえてきたが、ゴスペルには聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 踊れ

 回れ

 侵せ

 刻め

 打ち抜け

 脅えろ

 足掻け

 怨め

 冒せ

 血を浴びろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 何か言ったか?」

 

 振り向きながら、開発者Bを見る。

 

「いいや、気のせいじゃない?」

 

 問い掛けに、キーパネルを打ち込みながら答える。

 

「そうか」

 

 それだけ言って、再び作業に戻る開発者A。

 静かな部屋――メンテナンスルームに鳴り響く、キーパネルとモニターの音。

 その部屋には、二人の開発担当者と、中央に置かれたデバイスが一つ。

 開発担当者はともかく、デバイスはクロガネである。

 待機モードになってはいるが、損傷が激しかったので小さな亀裂がいくつも入っている。

 

「ここまで使いこなしているなんて……驚きの一言ですね」

 

 デバイス開発者Aが声を上げる。

 

「ああ、曰く付きのデバイスの解析と修復が出来るのだ。滅多に無い機会だぜ」

 

 解析を進めるデバイス開発者B。

 

“(ったく、人の中をジロジロと覗きやがって……まっ、修復して貰うまでガマンだな、こりゃ)”

 

 分かり切った事を思うクロガネ。

 何と無く考えていなければ、嫌になってしまうからだ。

 逃げ出すにも破損率が、見た目よりも大きいので諦めている。

 故に、自分の中を見せつつ時間を稼ぎ、修復を行っている最中なのである。

 

「ここは……」

 

 キーパネルを素早く叩き、データを解析する。

 

「お、おい! これ見てみろ!」

 

 開発者Aが声を上げ、開発者Bを呼ぶ。

 

「今度はどうした?」

 

 呆れ気味の開発者B。

 開発者Aは、未知の技術や自分の知らない、見たこと聞いたこと無い技術を見せに来る傾向があるからだ。

 開発者Bが知る、知らない関係無く。

 

「これ、これ」

 

 アホみたいな顔をしながら、モニターのある部分を指で指す。

 

「どれど――これは!?」

 

 そこには――ありえないモノが、映し出されていた。

 

 

 

 

 

 時覇の意識は、未だに闇の中だった。今何日なのか? 何時なのか? いつ目覚めるか判らない。

 ただ、闇に埋もれている。

 しかし、一部の意識が覚醒していた。

 俺はどうなる?

 そんな考えが過ぎる中、どこからとも無く、声が囁いて来た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘲笑え

 裏切れ

 狂え

 憾め

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこからか聞こえてくる、唄のようなモノ。

 内容は酷いなと感じる。

 そして、言葉の一言、一言に何かが押し寄せてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 叫べ

 怯えろ

 滅べ

 震えろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故、叫ぶ必要がある? 何故、裏切らなくてならない? 何故、狂う事を求める。

 そんな疑問が思い浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 犯せ

 壊せ

 見限れ

 斬り捨てろ

 恨め

――戦士たちよ、この世界で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『滅びを奏でよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前が勝手に奏でていろ」

 

 時覇は、急にしっかりとした声の言葉に、拒絶を表すように言い放つ。

 そこで、視界は急に明るくなった。

 目の前には、大きな鍵――世界を滅ぼす鍵『アカシックレコード・キー』と、勝手に名付けたロストロギアが、今にも発動しようとしていた。

 危険と判断し、止めに向おうとしたが、ここから動くことは出来なかった。

 少し立つと、遠くからぶつかり合う音が聞こえ、どんどん近づいてきた。

 二つの光だ。

 片方は薄紫色で、もう片方はネービーブルー(暗い紫みの青)だった。

 ネービーブルーの男は、見たことは無いが、問題なのは――

 

「……  、だって」

 

 薄紫色の光は、紛れも無く『    』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たち・外伝Ⅰ

魔法少女リリカルなのは

~二つの運命と螺旋に出逢う者~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Curtain Call

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

I say and am unpleasant……Showing it is not over here.

いいや……ここで物語は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

It begins now.

今から始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To bring about the future.

未来を生み出す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはTTFS

Two traces and the future when it was settled

~二人の軌跡と確定した未来~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2007年公開予定!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドライブ・イグニッション――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドゥシン’s起動!」

 

 

 

“了解!”         “起動します”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを滅ぼす――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュエルデバイス、セット・アップ!」

 

 

 

“ジュエルシード――ⅩⅠ、発動します”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Part 1 / the end……And to Part 2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……to be continued





あとがき
 A fight / an overture of fateは『運命の戦い・序曲』の略です。
 で、これは前のタイトルで、今回は『カーテンコール』です。
 前々から、劇に例えて物語を進めていたので、あえてシメも劇関係にしました。
 プラスで、いくつか修正と訂正をし、追加文を記載。
 ちなみに、判り辛い人もいるかと思いますが、物語の間と間に書かれている文章。
 あれは、リュートを弾いていた男の詩です。
 よは、吟遊詩人って奴です。
 リュートの事に関しては、次回作で明かしますので。

 そして、ラギュナスサイドほっぽって再び第一話から改正を行います。(汗
 何故か、って? 不完全だから。
 つーか、コミケで売るか。
 改正版を。
 CDに焼き回しして、一枚300円くらいで。
 一応、表紙や裏面の印刷料とCDロム代+利益少し。
 読みやすいようにプログラムを打ち込んで、文字を真ん中に揃えて、前後編で販売。
 正直、売れるか判らないが、30枚ほど焼いて出してみるか。

 初回限定版としてDVDケース特製版表紙と、ネタバレ上等キャラクター紹介文。そして、試作品イメージイラストが入った、ショボイコピー本を同封。
 ケースは一杯あるから。
 しかも、ただでもらえる場所に心当たりあり。
 だけど、今もらえるか不明。(汗
 ただ、参加場所は『沼津』の小さなコミックマーケット。
 今年中に、一回は参加してみたいと、無謀極まりない野心を抱く。
 ちょっと欲しいと思った人は、おこがましいですが拍手ボタンにコメント入れて置いてください。
 50人くらい居たら、本気で準備を始めます。
 内容は、管理局サイド構成のみ。
 ラギュナスサイドは何時完成するか不明なので、無しという方針で。

 では、拍手まってま~す。

 ちなみに受付期限は、2007/7/1までです。
 やる場合は、準備とか必要なんで。






制作開始:2006/10/14~2006/10/25
改正期間:2007/3/17~2007/3/27

打ち込み日:2007/3/28
公開日:2007/3/28

修正日:2007/9/14
変更日:2008/10/24


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第二部 魔法少女リリカルなのはTIWB ~二つの意思と狂いきった世界~
予告編


この作品――TIWBは、グロ、エロスなどの表現含まれています。

よって、この作品は15歳推奨作品と表示します。

なを、この作品を読んで、気持ち悪くなったりなど、一切の責任を負う事ができません。

それを踏まえて、お読みください。

 

第一部のラジュナスサイドの続きです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦70年、12月24日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、クリスマス・イブと呼ばれるようになった日は、一変して――血に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白き雪は赤くなり、歓声が悲鳴に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――新暦75年4月。

特別特殊部隊・機動六課が始動。

主な任務は、ロストロギアの回収兼ラギュナスの壊滅。

そのために部隊制限は無く、必要とあれば何時でも増員が可能。

さらに、質量兵器の使用も許可されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の任務中、リインフォースⅡとアギトは別次元世界へ飛ばされる。

またスバルとティアナも、別次元世界へ飛ばされる。

このことにより、新たなる戦火が巻き起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダブルユニゾン

伝説の武具

終焉の次元

混沌の先

獄門開門

死者の復活

不死の体

賢者の石

聖王の覚醒

魔王生誕

ゆりかごの複製

生まれたての技術

戦士たちの末路

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は世界を包み、命が命を奪う。

牙は牙を生み、屍は屍を築く。

魂は魂を磨き、血は血で洗う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わり無き想いは――欲望。

終わり無き主張は――傲慢。

終わり無き言葉は――罵倒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

染まりつつある混沌。

それは、取り除くことは叶わない事。

しかし、パンドラの箱のように希望はある。

世界を守りたい人々は、そう思い続けた。

だが、希望など存在しない。

この物語にハッピーエンドは存在しない。

あるのは、終焉。

あるのは、理不尽。

あるのは、絶望。

あるのは、狂喜。

あるのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅰ

魔法少女リリカルなのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはTIWB

Two intention and the world that have finished being out of order.

~二つの意思と狂いきった世界~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2010年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

までには、公開します。(汗

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、絶望しか存在しない世界の中で

戦士たちは、どのような結末を迎えるのか

そして、時覇はそれに直面したとき

物語は終幕と開幕が同時に起こる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 もう、カオスです。(汗

 禁止されている質量兵器は、すでに許可されているわ。

 現場で犯人の抹殺が当たり前。

 書いておきながら、収集つけるのが大変な物語に変貌。

 無計画な製作がツケとなって帰ってきたが……現在、第一話目をどうしようか検討中。

 予告と年数が違うのは仕様にしておいてください。

 気が向いたら訂正します。(汗

 まだまだ長い作品ですが、引き続きお楽しみにください。

 では。

 

 

 

 

 

 

制作開始:2007/8/16~2007/8/17

 

打ち込み日:2007/9/4

公開日:2007/9/4



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第一話:嵐の前の日常

 新暦72年12月14日。

 ある次元世界の山奥。

 そこに、巧妙にカモフラージュされた建物があった。

 その周りには、兵器の残骸と管理局員の屍骸が転がっていた。

 そして、建物内から爆発音や銃声が鳴り響く。

 

「魔力と手持ちのカードリッジを常に確認し――くぉぁわ!?」

 

 リーダーらしき局員が怒鳴っている最中に、真横の壁に兆弾が起こる。

 それに驚き、慌てて身を屈める。

 

「先行した部隊は!?」

 

 別の所で伏せている局員に、状況を尋ねる。

 

「第7ブロックまで到達したようなのですが、弾幕が激しすぎて進行できな――」

 

 爆発。

 リーダーらしき局員は、とっさに来たばかりの道を戻る。

 再び物陰に隠れて、安否の確認のために怒鳴る。

 

「アソック5! アソック5、生きてるか!?」

 

 しかし返事は無い。

 

「アソッ――糞が!!」

 

 兆弾。

 それに毒気を吐きながら、持っていた質量兵器を乱射する。

 質量兵器名は、『アサルトライフル・TMUG02‐v2』。

 TMUG02は、形式番号でもあり、名前の一部でもある。

 ちなみに『タイプ・マギリング・ウェポン・ガン02‐バージョン2』の略。

 質量兵器でありながら、魔力による武装をいくつか備えている兵器の1つ。

 対AMF――アンチ・マギリング・フィールド――に対応できる、特殊人工金属『リオファルコン』を使っている。

 銃身辺りには、小規模のコイルが巻かれてある。これにより、プチレールガン的なモノが発射される。

 さらに、カードリッジに収納拡大として、変形できるデバイスと同じ原理を搭載させた。

 ただし、壊されると弾が無駄になるので、3000発しか入っていない。

 本来は、1万発以上可能である。

 なを、弾丸にも特殊コーティングが施されているので、ランブルデトネイターが普通に発動することが出来る。

 

「うぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 リーダーらしき局員は、次々と機動兵器を破壊していく。

 5体目が撃破されると、他の機動兵器は、すぐさま後退していった。

 しかし、銃声は収まらない。

 当たり前である、敵が視界から消えるまで打ち続ける。

 下手に背を向ければ、自分が死ぬ。

 それが、今の戦い全てに共通するモノである。

 完全に消えると、銃声が止む。

 それから、ゆっくりと顔を上げて周囲を見渡す。

 敵がいない事を確認してから、中腰で移動する。

 

「アソック5。アソック5、返事をしろ」

 

 徐々に視界が良くなる。先ほどの爆発と銃撃戦で、辺りに埃が舞っていた。

 忙しなく首を振っていると、自分と同じ靴が見えた。

 

「そこにいたのか、アソック5」

 

 気絶したのだろうと思い、そばによるが――上半身が無かった。

 どうやら、先の爆発で吹き飛んだのだろう。

 リーダーらしき局員は、頭を抱えた。

 アソック5――彼は、この部隊最後の前線の中継管制係だったのである。

 

「はぁ……これじゃ、増援も呼べねぇじゃん」

 

 その場に座り込み、懐から煙草を取り出す。

 胸元からライターも取り出すも、破片が突き刺さっていた。

 それを見て、一瞬だけ恐怖する。

 もし、胸元に入れていなければ、すでに死んでいたのだから。

 気持ちを落ち着かせたいものの、火が無い。

 ライフルを見るが、危ないのでやめる。

 プチレールガンが搭載される前なら、何とかなったのだが。

 顔の横から、ぬるりとライターが出てくる。

 そして点火。

 

「ああ、すまない」

 

 余りの同様に、味方が来たことにも気がつかなかったのか。と、内心でホッとする。

 ? 味方?

 今度は、全身が硬直した。

 後方に後ろはいない。

 いるのなら、別のルートか、先行した奴らのみだから。

 

「メーカーは?」

 

 女性の声。

 間違えない。うちの部隊に女性は、全員にバックスに回っている。

 しかも、デスクワーク系の存在。

 手を震わせながら、口元の煙草を取る。

 

「あ、アルディン……97、管理外の品、らしい」

 

 恐怖を抑えつつ、断続的だがしっかりと答える。

 

「アルディン、ねぇ~……判ってるじゃないか、君」

 

 嬉しそうな声。

 どうやら、自分と同じ煙草愛好家なのだろう。

 この味が判るのは、そうそういない。

 

「君となら、良い論戦ができると思う。けど――」

 

 白く、美しい手が、リーダーらしき局員の首を撫でる。

 

「敵、なんだよね」

 

 首に、パチパチと、痺れるような感覚に襲われる。

 

「――ごめんね。これも、長のためだから」

 

 その声は、どこと無く悲しそうだった。

 背後に魔力と、魔力と異なった力を感じ取る。

 勝てない。

 本能で悟る。

 

「だから、何も感じずに終わらせてあげるよ」

 

 そこで、視界は黒く染まった。

 

 

 

 

 

「リスティ」

 

 背後から声が掛かる。

 リスティと呼ばれた女性が、先ほど死体になったばかりの存在をゆっくりと地面に寝かしてから、立ち上がって振り向く。

 髪はショートで銀色。青い瞳に白い肌。

 美女さながらの顔立ち。

 着ている服は、ライダースーツの様にピッチリとした感じで、色は黒。

 背中には妖精の様な6枚の羽。

 

「何、ドクター?」

「先行していた部隊も片付きました。撤収して良いそうですよ」

 

 手に持ったメスをペンのように回す。

 髪は黒く、ユーノみたいな髪型で、茶色い瞳。

 中間の色で、ヘラヘラした印象を受ける。

 着ている服は、名前通り白衣――ではなく、何故か自衛隊が着るような戦闘服一式。

 柄は砂漠仕様となっている。

 

「危ないから止めてくれない。それに――」

 

 リスティの顔が険しくなる。

 同時に、羽も僅かに下がる。

 

「嫌いだって言ったでしょ」

 

 その言葉に、ドクターと呼ばれた男は肩を竦め、メスを懐から取り出したケースにしまう。

 リスティは、それを不思議そうに見る。

 

「何ですか?」

「い、いや、いつもの『アレ』に仕舞うのかと」

 

 いつもと違う動作に、少々面食らいの顔をする。

 

「ああ、これは私が最近、試作的に作ったメスでして」

 

 と、再びケースからメスを取り出す。

 

「『アレ』に仕舞ってあるのは全て鉄製でして。これはセラミックを加工、コーティングしたものです」

「セラミックねぇ~」

 

 リスティは、意味あり気な表情で、ドクターとメスを交互に見ながら答える。

 

「あの子の対策?」

 

 ドクターの目の前で、小指を立て、すぐ親指を立てるという繰り返しの動作を行う。

 それを見たドクターは、肩を下げながらメスを再びケースに戻す。

 

「ここにいたのか」

 

 リスティの背後から、声が掛かる。

 

「ああ、チンクじゃないか」

「やぁ、久しぶりだな。チン子――」

 

 ドクターの顔が爆発する。

 

「誰がチン子だ!? 誰が!?」

 

 真っ赤な顔をして、両肩を震わせながら怒鳴るチンク。

 まぁ、その言葉を全て平仮名にすれば、男の急所の名前になるからな。

 ってか、ローマ人に謝らないと。

 

 

 ダークバスターの豆知識

 リリカルなのはStSを見ている方なら判ると思うが、ナンバーズの名前は、ローマ数字の呼び方である。

 

 

「まぁ、まぁ、落ち着いて、な」

 

 と、チンクを宥めるリスティ。

 

「ドクター。長に言われたばかりでしょ?」

「まぁな」

 

 と、煙が晴れていくが、無傷だった。

 しかも、吹き飛ばされた後も無い。

 

「くっ……とにかく、ここを破棄するから、帰ってこいだそうだ」

 

 ドクターを睨みながら、伝言を言う。

 

「何時頃です――」

「20分後だ。すでにデータのバックアップや、搬送は完了済みだ」

 

 ドクターの言葉をぶった切る。

 

「そんな! では、私のはぁ!?」

 

 思いっきり焦るドクター。

 それを見て、チンクは内心微笑む。

 が、顔はポーカーフェイスを気取る。

 

「そんなモノなど知らん、自分で何とかしろ」

 

 ドクターに悟られないように答えるチンク。

 いい気味だと言って、仕返しに笑いたいが、ここは耐える。

 

「ああ、私の研究が! 研究がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――……」

 

 その場に崩れ、四つん這い――ネット語で言う、『orz』になった。

 

「行くか」

 

 ドクターを、冷たい眼差しで一瞥して見るチンク。

 

「いいの?」

 

 さすがのリスティも困惑する。

 

「いいのさ」

 

 と、言ってリスティの手を引いていった。

 

 

 

 

 

 ある次元世界の山の麓。

 そこには、仮設テントが立てられていた。

 

「状況はどうなっている!?」

 

 女性が怒鳴る。

 襟首にある章から、提督クラスでないものの、それなりに高い地位の存在だと判る。

 

「はい! Aルートは順調に進行している模様。しかし、3人入り口付近でやられたそうです! Bルートは、前衛と後衛が分断し、前衛だけ先行させたそうです!」

「そうか」

 

 そこで、空間モニターに表示された地形マップを眺める女性。

 そこへ、慌てて駆け寄る女性局員がいた。

 

「シーナス部隊長! Aルートのグループからの通信が途絶えました!」

「なぁ!?」

 

 その場に緊張が走る。

 現場の中継通信は、特殊な機材を持った局員を通している。

 つまり、通信が途絶えるという事は、機材のトラブルか局員の死亡のどちらかである。

 女性――シーナスは、慌てて空間モニターに目線を戻し、瞬時にマーカーの数を数える。

 2つ足りないことに気がついた。

 どうやら、報告を受けている最中に、Bルートの局員も死亡したらしい。

 隊長は、歯を食いしばり、下を向く。

 ここまで来て、多大な犠牲を出しても、ラギュナスの拠点を制圧することが出来なかった。

 その隊長は、ラギュナスの拠点制圧を負かされていた。

 理由は簡単。情報を得るためである。

 現時点で時空管理局が、ラギュナスに対して把握できていることは少なすぎる。

 1つ、ラギュナスは旧暦から存在する犯罪組織。

 2つ、何か特殊な通信ラインがある。

 3つ、管理内外問わず、拠点及び協力者が存在する。

 4つ、何種類モノの機動兵器、戦艦を保有する。

 あとは、小話的な情報ばかりなのだが、明確であるのがこれだけ。

 殆ど謎だと言って良い。

 あの戦いから、もうすぐ2年経とうとしている。

 にも、関わらず、占拠できた拠点はゼロ。

 発見された拠点は、一週間前後に爆破解体されている。

 しかも、得られた情報は、ラギュナスの正式なモノでなく、メンバーの趣味で行われたデータばかり。

 確かに、非道な研究データも出てくるも、ラギュナスは1度も使ってきていない。

 近いモノの使った兵器が出てきても、合法的な代用品を使っている。

 しかし、ここで挫ける訳には行かない。

 そう思い、顔を上げた瞬間――乗っていたマーカー全てが、消滅した。

 

「…………――っ」

 

 シーナスの顔全体に、しわが寄る。

 そして、再び顔を下に向ける。

 前線メンバー全滅。

 仮設テーブルに、涙が1粒、2粒と落ちていく。

 また、何度目かの敗北。

 ベテランから新人まで、全て死んだ。

 どうせ、いつも通り、爆破解体が始まる。

 シーナスは、涙を流しながら言う。

 

「前線メンバー、全員死去……これより、最低限の機材を回収後、ここから離脱する」

『了解』

 

 仮設テントに、悲しく響いた。

 

 

 

 

 

「また、失敗か」

 

 ラガール提督が、報告書を読み終わって呟いた。

 

「他の部隊も失敗を繰り返していますが、確実に拠点を潰しています」

 

 秘書が、そう付け加える。

 秘書――彼女は、シーナスの同級生であり、幼馴染でもある。

 

「確か、君は彼女と……」

「はい、同級生であり、幼馴染でもあります」

 

 ラガール提督の言葉を、素直に肯定する。

 

「安心しろ、君が私情を出している訳では無い事は100も承知だ。だが……」

 

 そこで、椅子に背を預け、展開されている空間モニターを眺める。

 

「結果がこれでは、な」

 

 空間モニターには、シーナスが参加した任務の成功もしくは失敗の数。

 そして、成功は――ゼロ。

 無能という烙印を押されても、文句は言えない。

 だが、相手がラギュナスだと話は別になってくる。

 謎に包まれている組織、ラギュナス。

 目的、活動はともかく、運営方法や人事の確保など、不明点がいくつも挙げられている。

 人事に関しては、管理外世界の人間の可能性があると踏み、極秘裏に調査した。

 が、結果は惨敗。

 むしろ、関係があると思われる次元世界が、無法地帯、戦争中、消滅したなど、情報が当てにならなかった。

 資金援助を行っていると思われる存在も、人事と同じ結果であった。

 しかし、こちらは当てになる情報でありながらも、証拠不十分や、摘発すれば世界経済に影響を与えかねないモノばかり。

 完全に八方塞である。

 最後に、ラギュナスのメンバーは家族や仲間、友を裏切らない。

 故に、ここ2年くらいで逮捕したラギュナスのメンバーは、口を決して開かない。

 どんな拷問を受けようが、取引を持ちかけても。

 結束は固く、統制が取れている。

 

「シーナス部隊長に、当分休むように伝えておけ。今回までで、相当溜まっているはずだからな」

「はい、判りました」

「あと、お前も一緒に休め」

「……ありがとうございます」

 

 秘書は、ラガールに頭を下げた。

 

 

 

 

 

 ラギュナス。

 その言葉に、意味は無い。

 だが、その言葉を聞けば、誰もが恐れ、こう口にする。

 犯罪組織・ラギュナス、と。

 今やラギュナスを知らない人間は、管理外世界くらいである。

 しかし、風の噂では、その管理外世界で資金を調達しているという。

 また、メンバーの大半が管理外世界の人間だ。

 さらには、ラギュナスは神だという。

 デマや誤認などの情報も飛び交っている中、実際本当の事もある。

 流れた時は、ラギュナスのメンバー全員が冷や汗をかいたが、デマだと切り捨てられた事に安心した事もある。

 ともかく、今やラギュナスは一般常識になっていた。

 ミッドチルダ流行語大賞というものがあるが、ラギュナスは除外された経由もある。

 そして、どこかにあるラギュナスの本拠地、『長の間』で、ある事が起きていた。

 

「あ~、シグナム、様……弁解――」

 

 ベッドの上で、全裸の状態で怯える長、桐嶋時覇。

 

「あると思うか?」

 

 満面の笑みを浮かべつつも、背後に阿修羅と炎の幻影を浮かべ、レヴァンティン・滅を構えるシグナム。

 炎に関しては、幻影ではなく魔力のモノなのだが。

 

「嫉妬は醜い」

 

 と、これまた全裸のディエチが言う。

 ちなみに、股の辺りには、赤いシミがある。

 ここまで記載すれば判るだろう――男女関係の修羅場である。

 そこで、部屋の扉が開き、同時に3人の視線が集まる。

 

「長~、あの3人がかぇ…………」

 

 報告に来たメンバーが、部屋の光景を見て固まる。

 シグナムの気迫もあるも、そんなのは屁の河童的な顔でいるのが、恐ろしい。

 しかし、時覇はここぞと言わんばかりに、助けの目線を求める。

 

「…………失礼しました」

 

 無常に閉まる扉。

 これにより、もうここには誰も来ない。

 この修羅場が終わるまで。

 

「……覚悟は出来ているな、時覇、ディエチ――レヴァンティン!!」

<は、はい――バースト・スラッシュ>

 

 レヴァンティンの刀身が、マグマの様に赤く染まる。

 この魔法の効果は、相手を斬った部分をマグマの様に熱くする。

 しかも、効果が切れるのは、3日後。

 それまでの間、沸騰した鍋の如く、痛みが不規則に襲う。

 

「イーメルカノン、セット!!」

 

 布団を思いっきり捲ると、巨大な砲台が姿を現す。

 どう見ても、これを予想して隠して置いたのが明白に判る。

 そして、全裸のまま砲台形デバイスを修羅神――もとい、シグナムに向ける。

 ちなみに、イーメルカノンは、完成予定品のイノーメスカノンの試作品である。

 形は同じなのだが、エネルギー消費が激しく、砲身が3発までしか耐えられない。

 一応、最善策として、砲身がカートリッジの様に取り外しができる。

 

「ババァは帰れ――ドラグーン・ブレス!!」

 

 砲身が加熱され、集約さていく音は、まるで獣の様な雄叫びを上げる。

 同時に、互いの準備が整った。

 シグナムは飛び込み、ディエチは引き金を引くだけ。

 時覇は素っ裸で、動くことが出来ない。

 動けば終わる。

 全身全霊が告げている。

 そこで、ベッドから何かの袋が落ちる。

 落ちる瞬間、何もかもスローモーションになる。

 落ちる。

 落ちる。

 落ちる。

 落ちる。

 落ちる。

 地面に付いた。

 

「紫炎開斬(しえんかいざん)!!」

「ファイヤァァァァァァァァッ!!」

 

 2つの力がぶつかり合い、部屋全体が白く染まる。

 ただ、布団のシーツに赤いシミがあったが――食紅だ。

 決して、血ではない。

 

 

 

 

 通路に工事独特の音が鳴り響く。

 

「お~い、修復ナノはまだか?」

「ああ、今渡すよ」

「破棄したいモノがあるから、誰かカートを持ってきて」

「もう通路に置いてあるよ」

 

 と、メンバーの下っ端たちが、片付けと修復、修理を行っている。

 その手際の良さは、職人技である。

 が、彼らは修繕を行う者でなく、武装隊である。

 簡単に言えば、ただの慣れ。

 

「派手にやったな」

 

 ボロボロになった部屋を、作業の邪魔にならない位置から眺めるドクター。

 転送ポートから帰ってきた矢先に、振動。

 発生地点が、長の部屋と聞いて、大体検討がついた。

 今向いている方角の反対側では、補佐が時覇、ディエチ、シグナムの3人を説教中。

 

「いや、ドクターくん」

 

 後ろから声が掛かり、振り向く。

 

「ジェイルか、久しぶりだな」

「ああ、久しぶりだよ」

 

 そう言いながら、互いに握手を交わす。

 

「また、長かね?」

「説教されている所を見てきているだろ。お前の娘も、1枚噛んでる」

 

 その言葉に、ジェイルスカルエッティが苦笑する。

 

「私も、正直驚きの連続だ」

 

 そう言って、天井を見る。

 

「私が生み出した戦闘機人……それが、人と同じように感情をだし、恋をし……あんな行動まで起こすとは」

 

 あの行動とは、先のディエチの偽装口実の事である。

 

「彼――長には、感謝している」

「データか?」

 

 しかし、ジェイルスカルエッティから意外な言葉が返ってきた。

 

「データなど、どうでもいい」

 

 さすがのドクターも、この言葉には驚いた。

 

「今では、私の娘だと……家族だと思っている」

 

 その言葉に、ドクターは肩を竦めた。

 

「可笑しいかね?」

「まぁ、な。しかし、悪いことではない」

 

 ドクターは、ジェイルスカルエッティの問いに答えながら、歩き始める。

 ジェイルスカルエッティも、それに続く。

 

「そういえば」

 

 と、ジェイルスカルエッティが声を出す。

 

「ノーヴェとウェンディは、どこへ?」

 

 ここ10日ばかり、姿を見ていない娘の名を上げる。

 

「あの2人なら、こっちで作ったデバイスを使った訓練に出かけているよ」

 

 

 

 

 

「でぃりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ノーヴェが、右手の篭手に搭載された粒子ブレードを向けて、叫びながら突貫してくる。

 

「甘いは砂糖で十分!!」

 

 それを迎え撃つのが、特別戦技隊・副隊長のトーラングス・L・ギーム。

 だが、彼はデバイスを持っておらず、簡易防護服も身に着けてはいない。

 第一、彼――トーラングスは、魔力が一般人クラスしかない。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――」

 

 トーラングスの右手に、青白い光が灯る。

 しかし、ノーヴェは臆する事無く、突貫していく。

 

「――氣功・甲之覇気(きこう・こうのはき)」

 

 右手を突き出して、手の平で円を描きつつ、脇辺りに引っ込め、拳を握る。

 引っ込めると同時に、左手で円の軌道を描きつつ、右手に添えるように持っていく。

 ただし、右手に乗せることは無く、覆い被せるような形にしておく。

 

「――氣龍波(きりゅうは)!!」

 

 右手を体全体で、前に突き出す。

 すると、龍が飛び出して来た。

 だが、ノーヴェは驚く素振りの見せず、突き進んでくる。

 粒子ブレードを構えたノーヴェと、氣龍波が向かい合う。

 が、ノーヴェは急停止し、右へ跳ぶ。

 トーラングスは、氣龍波をノーヴェの避けた右――トーラングスから見て左へ向けようとする。

 しかし、彼女――ノーヴェには届く事は無い。

 

「ウェンディか!?」

 

 なんと、ノーヴェの後ろには、誘導弾があったのである。

 そのまま氣龍波とぶつかり合い――爆散。

 同時に、後方へ跳ぶトーラングスだったが、ノーヴェに先回りされていた。

 

「――せぃ!!」

 

 砂煙を上げながら、右下から左上に切り上げる。

 だが、間一髪で回避し、ノーヴェの腹に拳を打ち込む。

 

「――――かぁはっ」

 

 口から、胃液が吐き出される。

 腹よりも背中に衝撃が走り、背中を中心に全身に広がる。

 衝撃が突き抜けた証拠である。

 ただ、鳩尾には変わり無く、後から腹に痛みが生まれる。

 蹲るノーヴェに、トドメを刺そうと足を空へ上げる。

 しかし、トーラングスは左へ跳ぶ。

 先ほどまでいた地点に、魔力弾が地面に突き刺さる。

 次の瞬間、魔力の柱が立ち上る。

 地面貫通衝撃弾――通称、GPSB。

 魔法名は、ポール・フレア。

 ポールの如く、火柱が上がることから名付けられた。

 

(ノーヴェ、大丈夫ッスか?)

 

 ウェンディからの念話。

 しかし、ノーヴェは首を横に振った。

 念話を返す余裕すらないらしい。

 

「そこか!!」

 

 トーラングスは、ある方角を向きながら叫び、跳びだした。

 ちなみに、ウェンディがいる場所までの距離は、直線状にしても、5キロメートルは下らない。

 

「しまったッス!!」

 

 右脇にあるDヴェスパーをスライドさせて背中に戻し、慌ててその場から離れるウェンディ。

 だが、相手は猛スピードで近づいてくる。

 

「くっ――マイン、セット!!」

 

 手の平で生成した大きな魔力の玉を、後ろを向かず、適当に放り投げる。

 すると、大きな魔力の玉は、空中で大量の小さな玉にバラけて、ホウセン花の如く飛び散る。

 そして、近くの岩場に隠れ、大地との呼吸を合わせ、できる限り気配を消した。

 魔法名、ランダム・マイン。

 文字通り、辺りにランダムに拡散するが、爆発効果もランダムとなっている。

 炎、氷、石柱、水、爆発、束縛など、多種多様となっている。

 問題なのが、スカである。

 滅多に出てこない効果だが、出たら出たで、策略などに影響が及ぶ事である。

 一度、チーム戦をやった時に、大量のスカが出てしまい、ウェンディの属するチームがボロ負けした記録がある。

 故に、余り信用性が欠ける魔法であるが、けん制目的なら有効である。

 ちなみに、空中にも展開できるので、汎用性は高い。

 だが、トーラングスには無意味だった。

 

「――破!!」

 

 獣の様に、地面に向かって叫ぶと、地面に爆発が次々と起こる。

 覇気による衝撃で、大気を震わせ、大地を揺らして誘爆させる。

 

(改めて見ると、私ら――戦闘機人の存在意義が薄れるッスね)

 

 その光景を見ながら、冷や汗を流しながら内心で呟く。

 そこで怖気が走り、本能的にその場から跳び離れる。

 次の瞬間――背もたれにしていた岩が粉砕した。

 砂煙が上がるも、その中から敵がいると本能で悟り、座り込んだ状態で両手を上げる。

 完全に手詰まりである。

 

「…………知恵は付いた様だな」

 

 晴れていく砂煙の中から、トーラングスは歩いてくる。

 

「うッス、私の負けッス」

 

 笑顔を浮かべながら、思考を走らせる。

 トーラングスが歩く歩幅と、自分までの距離、到着時間、敵の能力などを絡める。

 結果――逆転不可能。

 離脱は可能であるが、五体満足は不可。足と腕1本ずつ持ってかれる。

 だが、ノーヴェだけ逃げられる時間は確保できる。

 

「見事だ」

 

 トーラングスが、関心の声を上げる。

 

「この状況化で、よく思考した。ノーヴェの戦闘能力も上がった」

 

 そう言いながら、ノーヴェがいる方向を向く。

 

「訓練は終了だ――ノーヴェを拾って帰るぞ」

 

 その場から跳んでいく。

 

「うッス!!」

 

 そう言いながら立ち上がり、ウェンディも後に続いた。

 

 

 

 

 

 まだ未登録の世界――名は、『ダーストレイド』。

 文明を築いて崩壊、また築いては崩壊を何度も繰り返してきた世界。

 そのせいで、多種多様の人種が育まれている。

 人間はもちろん、狼人、キメラ人、竜人、エルフ、獣人、物の怪人、魔物人など。

 とにかく、人をベースとなった人種が存在する世界。

 今ではハーフも存在し、さらにバリエーションを増やしている。

 ただ人間も含めて、先祖は全て人工的に作られた存在。もともと、戦争の消耗品扱いとして生まれてきたからである。

 故に生粋の人間は、この世界には存在しない。

 海の堤防で釣りをしている、ある2人を除いては。

 

「あ、そういえば」

 

 麦わら帽子を被った孤影(こえい)が、声を出す。

 

「どうした? ――っと、キタキター!!」

 

 緋龍(ひりゅう)が、聞き返しつつ、竿を持ち上げてリールを巻き上げる。

 使用している竿は、ガーディ社が作った釣竿――MAKISIMAMU。

 強度は鉄並みにあるものの、プラスチック並みに軽く、よくしなる。

 その理由は、ガーディ社が独自で開発した金属――『ゴルガーナ』。

 リオファルコンの製作過程で出来た金属である。

 が、コスト面では問題ないものの、生産するにも時間が掛かるので、支援会社に譲渡したシロモノである。

 今では高級釣竿として、釣りをするユーザーに好評となったブランド品である。

「今日、定例会議じゃなかったか?」

 ほのぼのしながら言う孤影。

 

「あっ――って、あぶね!!」

 

 一瞬固まった緋龍だったが、竿の引きに、思考が再起動する。

 

「どうする?」

「今、修羅場跡の片付け最中だから――おっと! 今は、大丈夫、だろ!!」

 

 リールを巻き、一気に竿を上げる。

 水中から、強大な――マグロ並みの――魚が出てくる。

 

「うげっ!? 釣り上げ禁止のバスバじゃねぇか!! 最悪だ!!」

 

 天然記念物級の魚――バスバ。

 捨てる場所が無く、全てが食材として使える事で、重宝される魚である。

 が、近年の研究で、汚染した水を浄化させる力がある事が判り、一切の捕獲を禁じたのである。

 しかも、ゴミを餌としているので、さらに水が綺麗になる。

 理由は、昔の戦争の影響で水が使えない時期が何度もあったからである。

 使えない理由は、毒ガスや放射線などが染み渡った事が原因である。

 故に、水の重要・大切さを一番理解している世界でもある。

 しかし、密漁問題が発生する。

 そこで法律が改正し、バスバの密漁対処として、その場で射殺も良い。である。

 よって、ここで見つかれば、射殺されても文句は言えない。

 

「ルアーは諦めろ」

 

 と、大分離れた場所から言う孤影。

 無論、私は関係ない事をアピールする為。

 

「白状者~!!」

 

 結局、泣く泣くリールを切ることにした。

 結果、孤影が6匹、緋龍が5匹。

 大量とは言えないものの、全てがマグロ並みの大きさなので、問題は無い。

 ちなみにクーラーボックスに入る訳でもないので、空間倉庫に氷付けにして入れてある。

 空間倉庫は、デバイスの変形の際、別パーツを取り出す時にある部分を、応用して作った物である。

 こちらも便利なので、別の支援会社に譲渡し、製品化されている。

 なを、時空管理局も使用しているほどであるが、発案・開発がラギュナスだとは気づいていない。

 

「あ~う~」

 

 手をブラブラさせながら、危ない足取りで道を歩く緋龍。

 余りの暗さに、不良やヤクザみたいな連中ですら、道を空けた。

 

「いい加減にしろよ」

 

 ため息を吐きながら、問いかける孤影。

 

「罰金されないだけマシだろ?」

 

 さすがに街中で、バスバの事を上げるのはヤバイので、伏せながら話す。

 

「たしかにそうだが……――まっ、とにかく戻るか」

「そうだな。俺たちが最後かもな」

 

 空を見上げながら、孤影が言った。

 空は青々しく、雲1つない。

 風も、優しく吹き付ける。

 しかし、それは――嵐の前の静けさであった。

 

 

 

 

 

 ラギュナス本部の中央の建物の中。

 中央全会議室と書かれたプレート。

 その左側には、両開きにも観音開きのもなる大きな扉がある。

 そこに、次々と人が入っていく。

 中には、時空管理局の人間もいた。

 そして、それぞれ適当な場所に座る。

 特に席の場所は決められてはいない。

 来られない者は、独自回線の空間モニターから参加する。

 

「これより、ラギュナス定例会議――通称、ラ定会を行います」

 

 と、時空管理局・提督クラスの女性が言う。

 歳は28だが見た目は19歳くらいで、髪はセミロングの黄緑。

 追加でモデル体系に、優しそうな顔立ちながら、キリッとした空気が漂う。

 

「まず今月の方針と達成率から――」

 

 いつも通りの報告から始まり、部隊の被害、ケガ人、死者、巻き込まれた一般人の数などを言っていく。

 その間にも、チラホラと入り口からと途中から入ってきた者がいたが、特にお咎めは無い。

「次に、各自の主に目立った報告を上げます。上がらなかった報告は、各自で確認をお願いします」

 時空管理局・提督クラスの女性――司会者が、左に展開されていた空間モニターを操作する。

 主な内容は、管理局によって見つかった基地の破棄と、私物の研究・発明内容について。

 前者は仕方ないとしても、後者はそろそろ見過ごせなくなってきた。

 

「――以上です。なを、個人で研究・開発している方々は、この会議が終わった後、報告書として提出してください」

 

 そういい終わると、辺りが騒がしくなる。

 報告された研究・開発内容は、ラギュナスの範囲内ギリギリの線ばかり。

 さすがに誰が開発したのかまでは挙げられなかったが、同じ部隊にいるとなると、とても他人事では無かった。

 1歩間違えれば、自分たちにも危険になるからである。

 一通り騒いだことを見越して、司会者が静止させようとすると、また1人途中参加者が入ってくる。

 

「――長!!」

 

 その言葉に、一斉に静かになる。

 

「報告はどこまで?」

「はい、こちらまで――」

 

 と、司会者は、手早く長――時覇に、空間モニターを見せる。

 

「…………うむ、続けてくれ」

 

 それだけ言って、会議室から出て行く。

 

「はい」

 

 返事を返し、頭を下げる。

 日ごろ、馬鹿な事やなんやらで、騒ぎを起こしている男といえで、長に変わりは無い。

 この男だからこそ、皆が付いて来てくれているのだから。

 

「ときちゃ~んぅ♪」

 

 上の席から、女性の声が聞こえる。

 

「リスティか、どうした?」

「何で戻るのかな~、と思って」

 

 その言葉に、周りの人間たちも首を縦に振る。

 

「シグナムのご機嫌取り」

 

 それだけ言って、とっとと出て行ってしまった。

 しかし、その言葉で大体察しがついたらしく、苦笑したり、呆れたり、笑ったりと様々な顔が生まれた。

 司会者も、その1人である。

 

「はいはい」

 

 パンパンと手を叩きながら、自分に注目させる。

 

「あと少し終わりだから、耳を傾けて」

 

 今日も、1日が過ぎていく。

 だが、ラギュナスの大半は考えた。

 時空管理局・円卓の守護者たちの動向を。

 そして、新暦75年4月を機に――再び戦火が舞い上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第一話

嵐の前の日常

 

END

 

 

 

 

 

次回予告

 

均衡が続いていた戦い。

しかし、その世界の中で、2人の少女たちが試験に望む。

名は、スバル・ナカジマとティアナ・ランスター。

だが、試験中に使った、スバルの技は――

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第二話:高みの試練

 

 

 

静止していた狂った歯車が、ゆっくりと動き出す。そう、ゆっくりと……。




あとがき
 難航していた、第一話が完成!!
 第二話も、完成次第アップしていきます。
 っーか、設定が物凄くなってきていますが、回収していきます。
 難関の第一話目を公開し、流れを作っていき、その流れが終わる。
 さらに、新た流れを作る際が、一番難しいですね。(汗
 最後に、リスティは『とらいあんぐるハート3』に出てくる方です。
 フィリスも出そうか検討中ですが、基本的にオリキャラが目立ってきますね。
 ではでは。






制作開始:2008/2/8~2008/2/14

打ち込み日:2008/2/14
公開日:2008/2/14

変更日:2008/10/29


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第二話:高みの試練

出逢いは別れの始まり。
別れは何時来るのか、明日? 1年後? それとも10年後?
それは、その時にならなければ判らない。
色んな偶然が重なって、出逢いや再会もあれば、普段の別れから悲惨な別れもある。
今回は、色んな偶然と必然が混ざった再会である。


 

 

(やったね、ティア!)

 

 念話でスバルの歓声が響く。

 

「うっさい」

 

 と、念話を飛ばしつつ、実際に呟きながら、その場に座り込んだ。

 最後の難関――ラギュナスから鹵獲・解析し、時空管理局が作り上げた起動兵器シリーズ・パイロンと呼ばれる兵器。

 ティアナの幻術魔法のかく乱により、視覚センサーと範囲レーダーを騙す。

 その隙に、範囲レーダーのエリア外らしきギリギリの部分からの高速接近による、一撃必殺による撃破を完遂する。

 パイロンは右腕が完全に破壊され、全身がボロボロに成りつつ、廃棄ビルの最上階部分から落下した。

 ちなみに、一撃必殺は高町なのはの十八番の1つである『ディバインバスター』である。

 スバルはまだまだ余裕があるのか、それとも疲れより喜びが勝るのか、喜びに浸っている。

 ティアナは、幻術魔法の使用後の消耗率が高かった為に、肩で呼吸をしながら座り込んでいる。

 あとは、ゴール前に置いているターゲットを確認し、仕留めるか仕留めないか決め手、ゴールする――だけだった。

 落ちた衝撃で瓦礫の下敷きになったパイロンだったが、低音の稼動音が鳴り響く。

 完全なイレギュラーであった。

 スバルが合流しようとした時、ティアナの下からビームが出てくる。

 ティアナは反射的に避けるも、右肩に当たってしまう。

 

「――――――――!?」

 

 悲鳴にならない悲鳴を上げるティアナ。

 爆発――砂煙の中から、右腕を失ったパイロンが姿を現す。

 

「なぁ!?」

 

 窓から見下ろしていたスバルは驚愕する。

 仕留めたと思った矢先の出来事。

 リインフォースⅡも驚くも、すぐに空間モニターを展開する。

 

「こちら、リインフォースⅡ空曹長!! 至急試験の――」

≪その要請を却下します≫

 

 リインフォースⅡの言葉を聞かずに、問答無用で切り捨てる。

 

「何故ですか!?」

≪何故って……≫

 

 モニター越しから、ため息が聞こえる。

 

≪この程度のトラブルを解決できなければ、この試験を脱落させるべきだよ。いや――≫

 

 そこで、一呼吸。

 その間にも、瓦礫を力任せに押し上げながら、ティアナと同じハイウェイに立つ。

 

≪管理局を辞めたほうが言い……命がいくつあっても、足りないから≫

 

 その言葉に経験上、納得せざる負えないリインフォースⅡ。

 敵に情けを掛けたことで、重症になりかけた経験がある故に。そして、上司にこう言われた――甘さは死を呼ぶ。

 主であるはやてからも、そう言われた。

 頭では判っていても、本能が理解していない証拠であると、唇を噛みながら考えるリインフォースⅡ。

 

「くっ――」

 

 ティアナは、パイロンの足元に魔力弾を打ち込み、砂埃でカメラの視界を奪う。

 気休めだと判っていても、ほんの数瞬の隙が出来れば、少しでも動ける。

 その数瞬が、命取りにもなり、何かの切っ掛けにもなる。

 足を引きずりながら、瓦礫の後ろに回りこむティアナ。

 その瓦礫に隠れつつ、少しでも離れるために動く。

 

「ティア、今行く――ウイングロード!!」

 

 スバルは、右腕を地面に叩きつけると、そこから青白い光の道が生まれる。

 そして、風の道――ウイングロードを駆け抜ける。

 パイロンは、攻撃目標をスバルに定め、口から低出力のバースト・ビームを乱射する。

 スバルはそれを掻い潜り、素早く接近するも――上空へ逃げるパイロン。

 しかも、ハイウェイから飛び出したので、このまま追撃しても叩き落とされるか、回避されれば地面に落ちる。

 だが、スバルは臆する事無く、ウイングロードを出して駆け抜ける。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 無謀と思えるほどの勢いで突撃するスバル。

 しかし、彼女のデバイスのリボルバーナックルの手が、青白く光り輝く。

 ウイングロードから飛び出し、パイロンへと進む。

 だが、パイロンの口のエネルギーが臨界点まで達している、いつでも撃てる事を意味する。

 スバルもその事は確認しているも、避ける事もせずに突き進む。

 それを驚く様に、ティアナ、リインフォースⅡが見入る。

 そして、互いに放つ強大な力。

 パイロンは、今の状態で放つことが出来る、最大出力のバースト・ビーム。

 スバルは、右手をパイロンの顔に目掛けて――スバルを助けた恩師の技を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話:高みの試練

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新暦71年4月――ミッドチルダ北部臨海第8空港。

 そこは、大きな火災現場と化していた。

 すぐに地上部隊が展開するも、規模が大きく、近隣のみで行える限界を超えていた。

 しかし、偶然にもオーバーSランク魔導師の高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやてがいた。

 それと同時に、空港にはまだ30数名ほど取り残されていた。

 そして――エンストラホールでは、青い髪の少女が、泣きながら歩いている。

 

「――うぇ、ぐっすん……お姉ちゃん、お父さん」

 

 泣きながら父と姉を呼ぶも、誰の返事も無く、炎の燃え盛る音しか返ってこない。

 それから5、6歩ほど進んだ瞬間――真横が爆発。

 

「きゃあぁぁ!?」

 

 その爆風に巻き込まれ、大きな女神像のある部屋の中心まで吹き飛ばされる。

 飛ばされた際、2、3回ほど地面をバウンドしている。

 少女は痛がりながらも、四つん這いの体勢まで起き上がる。

 だが、それから先――立ち上がろうとはせず、その場で涙を流し始める。

 

「……痛いよう」

 

 確かに、地面に2、3叩きつけられ、その上、足や腕に擦り傷がある。

 これは、大人でもきついモノを、11歳の子どもが受けているのだ。

 耐えられる度合いが、違いすぎるのは当たり前である。

 

「誰か……」

 

 痛みを堪えつつ、涙を流しながら、何とか声を出す。

 

「誰か――助けて!」

 

 弱弱しい声で助けを呼ぶも、運命は時に残酷な事を与える。

 後ろにあった大きな女神像を置く台座が壊れ、少女に向かって倒れ始める。

 砕けた音と自分を覆う影に気がつき、振り向く。

 人々を見守る女神像も、今はただの障害物にして、ただの危険物。

 始めはゆっくりだったが、すぐに加速を始め、倒れこんでくる。

 少女は体を丸め、目を瞑った。

 そんな事をしても、何も変わらない。

 動かないでいれば、ペシャンコになるだけ。

 立ち上がっても、前に進めば同じ末路。

 左右のどちらかに移動すればすむ事だが、この状況で手負いの子どもが回避する事など不可能である。

 特殊訓練を積んでいれば、確かに話は変わるが、一般的な暮らしを送っている子どもは、100パーセント死亡する。

 大きな女神像は、少女に襲い掛かる――が、炎の中から、影が飛び出す。

 

「展開――フィンガー発動!!」

<――――――――>

 

 その言葉は、少女の耳にしっかり届く。

 影――その者の右手が、鮮やかな紫の色に包まれる。

 そして、右手を思いっきり、女神像の横っ腹に叩きつける。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――」

 

 手が女神像に当たり、衝撃音が鳴り響く。

 

「――フィンガァァァァァァァァァァァァァァ――ブレイクゥ!!」

 

 女神像は横へ少し動き、そのまま真っ二つに粉砕される。

 同時に砲撃みたいなモノが、手から放たれていたのを、体を丸めていたはずの少女は見ていた。

 衝撃音の際、釣られて顔を上げたのである。

 その者――とても動きやすいバリアジャケットを纏う男が、少女の前に降り立つ。

 そして、しゃがみ込み、手を差し伸べる。

 

「大丈夫か?」

 

 それが、少女と男の出逢いであり、今後の人生を大きく左右する出来事でもあった。

 

 

 

 

 

 そして――新暦75年4月、ミッドチルダのとある首都の廃棄区画。

 風がなびき、雲は回りに点在し、2つの月が見えるほど空は清んでいる。

 その下に、2人の少女と、少し離れた上空にヘリが1台飛んでいる。

 あれから4年目経ち、少女――スバル・ナカジマは立っていた。

 右腕には、愛器のリボルバーナックルと、両足には自作でありながら、3年間使い続けていたローラーブレード型のストレージデバイス。

 少し離れた所には、デバイスと同じく3年間もコンビを組んでいるオレンジ髪のツインテールの少女――ティアナ・ランスターが、自作デバイスのアンカーガンにカードリッジを詰め込んでいる。

 スバルは軽くウォーミングアップに、両腕を素早く突き出し、その場で軽くステップを踏みつつ、横に中段蹴りを放つ。

 

「スバル。あんまりはしゃぐと、そのオンボロローラー逝っちゃうわよ?」

 

 と、後ろから声が掛かる。

 

「もぅ、酷いよティア」

 

 スバルは顔だけ向けながら、返答を返す。

 

「ちゃんと油は挿してきた。ティアだって、アンカーガンの調子は?」

 

 その言葉と同時に、アンカーガンを閉める。

 

「まだ大丈夫よ。だけど……」

 

 ティアナは、アンカーガンをひっくり返したりして、簡単に見る。

 

「そろそろヤバイ事は、確かね」

 

 それだけ言って、腰のフォルダーに収める。

 それから、左腕にある空間モニター型の時計を展開、時間を確認する。

 只今の時間、10時54分12秒。

 

「開始まで、あと5分48秒……か」

 

 空間モニターを消し、空を見上げる。

 青く輝く空を。

 目指すものは、空の如く高く、背伸びして届くような安いものではない。

 だけど、そこを目指す――目標のために。

 スバルも準備体操を終え、空を見上げる。

 あの時の事を思い出す――空港火災の時の無力さを。

 目指すものは、計り知れないほど高く、同時に難しく。

 だけども、憧れのままで終わらせるつもりも無い。

 目指す――必ず、あの人に追いつくために。

 肩を並べあい、超えるために。

 物語は、動き出す――狂った歯車と共に。

 そして、11時ジャスト。どこからとも無くブザー鳴り、同時に空中に、空間モニターが映し出される。

 そのモニター内には、髪の長い小さな女の子がいた。

 

≪これより試験を開始します。私、この試験の担当者であるリインフォースⅡ空曹長であります――宜しくお願いします≫

 

 リインフォースⅡは、敬礼をしながら挨拶をした。

 

『お願いします!!』

 

 2人は背筋を伸ばし、同時に挨拶を行う。

 それに、リインフォースⅡは軽く肯く。

 

≪はい、まずは受験者2名、揃っていますか?≫

 

 視界に入っているも、念の為の確認を行うリインフォースⅡ。

 

『はい!』

 

 スバルとティアナ共に、同時に返事をする。

 

≪確認しますね。スバル・ナカジマ二等陸士――≫

「はい!」

 

 と、自分の名前を呼ばれて、返事を返すスバル。

 

≪と……ティアナ・ランスター二等陸士≫

「はい!」

 

 ティアナもまた、返事を返す。

 

≪確認しました。今回、お2人が受ける試験は……保有ランク・Bランク昇格試験で宜しいですか?≫

「はい!」

「間違えありません!」

 

 ティアナの返事に続き、スバルが問題無いと答える。

 

≪はい。それでは、これより試験を行う際の注意事項の説明に入ります≫

 

 全ての確認事項が終わり、リインフォースⅡの口から、試験の注意事項を聞く2人。

 

 

 

 

 

 廃墟のビルの屋上に、スバルとティアナが立っている。

 そして、2人の前に空間モニターが展開され、そこにリインフォースⅡが映し出されている。

 その上空に、1台の大型ヘリが静止飛行を行っていて、開閉ドアを開けて嬉しそうな顔で眺める女性が1人。

 

「うんうん、いい感じや」

「はやて、おっこっちゃうよ。下の様子は、モニターでも確認できるのだから」

 

 と、髪の毛を押さえながらフェイトは、はやてに言った。

 

「はいはい、判っていますよぉ~だ」

 

 19歳にもなりながら、子ども口調で返事を返し、開閉ドアの横にあるボタンを押して、ドアを閉める。

 そして、自分の席に戻り、空間モニターを展開していく。

 

「さぁ~て、宝石の原石たちの実力、見せて貰おうかな」

「うん……でも、まだ開始してないよ」

 

 と、苦笑し合いながら、空間モニターを眺めていた。

 そこで、フェイトが思い出したように言い出す。

 

「そういえばはやて、スバルって子……確か」

「そや。4年前の空港火災で、なのはちゃんが助けた子や」

 

 はやては、フェイトの方を向きながら、顔の横で人差し指を作り、天井に向けながら言う。

 

「ちなみに、その時フェイトちゃんが助けた女の子は、その子のお姉ちゃんや」

「え、そうなの?」

 

 はやての言葉に、フェイトは驚く。

 しかし、スバルをまじまじ見ると、どこと無く面影が見えた。

 

「うん、きちんと見たけど、確かにそうだね」

 

 髪の色といい、顔の形といい、それと無く助けた少女に似ていた。

 

 

 

 

 

 

 ヘリよりさらに上空かつ、大分離れた場所。

 そこには、青いライダースーツみたいな服と白いマント、眼鏡をかけた女性。その横に、フードを深く被り、マントで体を覆った人物の2名がいた。

 

「クアットロ、モニタリングは?」

 

 声は、ボイスチェンジャーによって変えられているため、性別の判明が不明である。

 

「ええ、大丈夫よ。ちゃんと監視ヘリとリンクさせてあるから」

 

 クアットロと呼ばれる女性は、鍵盤と複数のモニターを展開している。

 鍵盤は、キーボードの代わりらしいが、音楽を弾いているようにしか見えない。

 

「……スバル、か」

「 ? タイプ・ゼロ・セカンドに、何か?」

 

 と、首を傾げながら尋ねるクアットロ。

 

「いや、昔、空港火災で」

 

 脳裏に、火災の中で怯えていた姿を思い出す。

 

「ああ、あの空港火災ですか……結局、あれは何だったんでしょうねぇ~」

 

 指を顎に当てながら、少し上を向いてぼやく。

 あの時、クアットロはバックスでのサポートを行っていただけなので、詳しい事は聞いていなかったのである。

 

「お前らの生みの親が捜していたロストロギアが、何らかの理由で爆発した結果らしい」

「レリックですか? あれは、アナタのおかげで集める必要が無くなりましたので――」

「判っている。別にお前らを疑っている訳ではない……ただ」

 

 そこで、顔を上げる。

 

「円卓の守護者か、最高評議会が絡んでいるという話らしい」

 

 その言葉に、クアットロは顔を顰める。

 円卓の守護者とは、時空管理局の13名の上官で構成された特別かつ、極秘に近い集団。

 最高評議会とは、地上本部を主に時空管理局全体を見守っている存在。

 ただし、これらの2つの組織は『正義の為なら我々のやる事は正しい』と、考えている節がある。

 故に、ラギュナスからは、もっとも潰すべき存在である。

 正義の為ならば、全てがまかり通る事など、あり得ない。

 ラギュナスの行いも、全てが正しい事ではないのは、十分承知しているからである。

 

「ともかく……今回は、我々の敵と成りうる存在の調査だ――頼むぞ」

 

 クワットロの方を向きながら言う。

 

「ええ、お任せあれ……ディエチちゃん、聞こえる?」

≪呼んだ?≫

 

 と、空間モニターが展開され、返事を返すディエチ。

 彼女もまた、クワットロと同じ服を着ているも、マントを纏っている。

 そして、その手には全部布に巻かれた、持ち主より大きな棒らしきモノが収まっている。

 

「準備はいいかしら?」

≪問題無い。あるとしたら……最近、体重が増えたクアッ――≫

「はい終了!!」

 

 問答無用で通信を切る。

 しかし、フードを深く被り、マントで体を覆った人物は、肩を震わせながら聞かなかったフリをする。

 あの時の少女が、どこまで成長しているのか、何と無く予想するのだった。

 

 

 

 

 

≪――以上で、注意事項は終わります。ここまでの質問はありますか?≫

「はい!」

 

 リインフォースⅡの言葉に、ティアナが手を挙げて返事をする。

 

≪はい、ティアナ・ランスター二等陸士≫

「はい、先ほどの説明で……ケガをしても、管理局は一切の責任を問わないとは、どう言う事ですか?」

 

 その言葉は最もと言える。

 こういった試験は、ケガも考慮した上で考えられた、安全なプランのはず。

 しかし、ケガは自分の責任かもしれないにしろ、一切の責任を負わない事など、可笑しすぎる。

 

≪ええ、その部分ですね。お二方は、ラギュナスをご存知ですか?≫

 

 その言葉に、スバルとティアナの顔つきが代わる。

 ラギュナスと言えば、管理局に登録され世界の住人になら、知らない方が可笑しいと言われる有名な組織。

 

「知っています。5歳児でも知っている言葉でもあります」

≪その通りです。犯罪組織ラギュナスは、管理局所属世界の人なら、必ず1度は聞く言葉です≫

 

 指を立てながら言う、リインフォースⅡ。

 

≪我々、時空管理局は、どんな出来事にも対応力が求められます。たとえそれが――≫

 

 その次の言葉に、スバルとティアナは固まり、頭の中が真っ白になった。

 

≪可能性よりも、確実――つまり、2人助けられそう。では無く、1人なら確実に助かる。を、選ばなくてはなり――≫

「待ってください!!」

 

 リインフォースⅡの言葉を遮るスバル。

 何と無くだが、不機嫌に見える。

 

≪何でしょうか、スバル・ナカジマ二等陸士≫

「たとえば――岩を退かせば2人が助かるのと、今すぐ抱えて助かる人がいたら……その2人は見捨てて、今すぐ抱えて助かる人だけを選ぶ。と言う事ですか!?」

 

 悲痛にも似た言葉を述べるスバル。

 しかし、現実とは皮肉なものである。

 

≪その通りです!!≫

 

 笑顔で喜びながら答えるリインフォースⅡ。

 その言葉と表情に、怒りが湧き上がってくる。

 

≪可能性より、確実を選ぶことが、今の管理局員に求められているモノなのです≫

 

 スバルは1歩前に出ようとしたが、左手が握られていることに気がつく。

 左を見ると、横に立っていたティアナが、こちらを見ていた。

 落ち着け――パートナーである、ティアナからの無言の伝言。

 それを受けて、感情を押し殺すも、奥歯をかみ締めるスバル。

 何時から、こんな世界になったのだろう。

 あの、赤い血に染まった日――クリスマス・イブと呼ばれた日からだった。

 時空管理局と地上本部を襲撃し、多大なる被害と死傷者を出していった日。

 あの日が、世界の意識を、成り立ちを、あり方――全てを変えた。

 

≪ですから、この試験で――例え、死傷傷を受けても治療は行いますが、責任は一切取りませんので、再度改めておいて下さい。あと、他の質問はありますか?≫

「ありません」

「……ありません」

 

 すんなりと答えるティアナと、まだ納得できない表情のスバルだった。

 

≪判りました。では次に、コース説明を行いたます。まず、この場からスタートしてもらい――≫

 

 そこで、リインフォースⅡの表示部分が縮小され、空間モニターの左下へ移動。中央には、新たに別のモノ――この一帯の立体地図が映し出される。

 そして、スバルとティアナが進むべき、大雑把な道筋が描かれる。

 

≪この赤い線が、アナタ方2人が移動する大体のルートです。ですが、途中――≫

 

 立体地図も縮小し、今度は右上に移動。そして、また中央に新たなモノが表示される。

 今度は、球体の機会と長細く赤い丸のマークが付いているモノ。

 

≪オートスフィアとターゲットを、全て破壊してください。ちなみに、丸いのがオートスフィアで、長細いのがターゲットです≫

 

 と、オートスフィアの映像だけが消え、ターゲットの映像が2つになる。

 しかし、マークの色と形が違った。

 右側に、先ほどからあった赤い丸のマーク、左側は、四角と三角が合わり、デッパリは下を向いて青色をしている。

 

≪ただし、左側のターゲットはダミーで、間違って破壊した場合は、ペナルティが加算されますので注意してください≫

 

 説明が言い終わると、3秒ほどで左下の映像以外全て消え、中央に戻りながら最初の大きさに戻る。

 

≪以上で全ての説明を終わりにします。全てを通して、もう一度確認しておきたい事、質問があったら、聞いてください≫

 再びティアナが手を挙げる。

「ペナルティについて、聞きたいのですが」

≪はい、ペナルティについては、残念ながらお答えすることは出来ません。ですが、参考で一例でしたらお教えできます≫

「聞かせてください」

 

 リインフォースが言い終わると、素早く言うティアナ。

 それに少々面を喰らったような表情を見せるも、すぐに元に戻る。

 

≪そうですね……ペナルティは、コースを設定した教導隊の方によって異なります。軽いのでペイント弾、重い時は魔力弾による過剰攻撃ですね≫

「魔力弾による過剰攻撃、って……」

 

 そうボヤくスバルは、顔を引き攣らせ、ティアナは唖然となる。

 

≪具体的には、非殺傷設定で地面が抉れるほどの威力です≫

 

 その言葉に、完全に止まる2人。

 つまり、喰らえば気絶確定で、試験脱落ほぼ確実。

 

≪とにかく、スタートは今から3分後ですから、気をつけてください。それから、頑張ってゴールしてください、ですよ♪≫

 

 リインフォースⅡが言いながら、指を立てつつ、ウインクの姿をしたまま、空間モニターが消える。

 それから少しして、動き出す2人。

 正直、困惑と驚きを通り越してしまった。

 だが、これから3分後には試験が始まる為、今更引き返せない。

 どんな出来事が待っていようと、突き進むしかない。

 2人は、それぞれ自分の言葉で思いながら、覚悟を決める。

 不意に、空間モニターが開かれ、青い丸が3つ表示される。

 それを見た瞬間――無言で体制を整え、いつでも走り出せるようにしておく。

 左から黒色に変わり、真ん中が黒へ。

 その時、2人は少しだけ前屈みになる。

 次の瞬間、右に残る最後の青い色は、黒くなった2つの色と同時に赤に変わり、開始合図のブザーがなる。

 

『ゴォー!!』

 

 2人で同時に叫び、同じ方向に走り出す。

 それは、明日への希望を目指すのではなく、絶望への片道切符である事を、2人はまだ知らなかった。

 知ったとしても、それに気がつくことは無い――真っ当な考えでなければ。

 この世界は、正常が異常で、異常が正常――すなわち、『犯人を上手く捕まえる』のではなく、『犯人を上手く殺す』と言う事である。

 新暦70年12月25日以降、犯罪が増加し、新暦71年1月1日を気に激増する。

 それでも、時空管理局は、『旧時空管理局法』に則り、日々犯罪の対処に出向いた。

 だが、それも限界があり――新暦71年6月、極秘であるもついに犯罪者は抹殺しても良いと、上層部から出る。

 さらに、新暦72年2月に旧時空管理局法は、色々と改正・緩和・規制・解除・禁止などがなされる。

 同年4月、ついに現在の『新時空管理局法』が認められ、質量兵器の保持・使用が設けられた。

 その代わり、ロストロギアの使用規制を明確とした法案が、同時に提示されたことが決め手となった。

 予断だが、新時空管理局法が出来てから、地上本部との仲は、多少なり改善された。

 同年5月には、時空管理局製第一号・質量兵器『マギリング・R・ライフル』。

 Rは、レールの略であり、レールガンのライフルバージョンと考えていただければ幸いである。

 しかも、使用者か外部装置からの魔力の供給を受けることにより、さらに威力が増す使用になっている。

 それから、より隠し持てる武器から、戦艦用の装備または戦艦その物を作り出している。

 これらは、管理局の監視下の元、民間企業らにも製造している。

 だが、それらの装備品を横流し、紛失、盗難などがあれば、企業は潰される。

 実際に現在――新暦75年3月――まで、大中の企業だけでも20社以上を超え、小規模の企業を含めると、100社はくだらない。

 これが見せしめとなり、兵器開発・製造を行っている企業の警備システムは、強固なものとなっている。

 しかし、それでも盗む犯罪者が後を絶たない為、特別処置として、企業にもいくつかの特別処置が施された。

 1つ目が――侵入者の特別排除。つまり、その場で抹殺可能を意味する。

 2つ目が――企業同士の技術提供の際の、企業同士の極秘交渉。違法な取引でも、時空管理局は知らないフリ。

 3つ目が――管理外世界での武器の調査・調達の許可。管理外世界に、管理世界の製品を持つ込むことは許されないが、持ち帰ることは良い。

 これらの特別処置のお陰で、技術はさらに発展し、横流し、紛失、盗難などが皆無になってきている。

 今の時空管理局の武装は、次元世界ナンバー1と豪語しても良い。

 ただ、ロストロギアの使用が、時々見え隠れするが、きちんと監視組織の許可を貰っている。

 それは、聖王教会と対ラギュナス連合組織――Association of anti-Ragyunas organization――通称AARO、時空平和議事会の3組織である。

 AAROは、文字通りラギュナスに対抗するために設立された組織。

 時空平和議事会は、各次元世界の平和と安全及び、時空管理局とAAROのストッパー役として――AAROと共に、新暦73年4月に設立された。

 ただし、時空平和議事会は、72年4月に仮として設立された、時空管理局の監視を行う組織――時空管理局監視委員会である。

 自ら禁止していた質量兵器を使うのだから、当然の処置と言えよう。

 あの血に染まったクリスマスの日を境に、生まれた産物。

 

 狂いきった世界は、戻るにも時間が掛かる。

 100年、10年、1年、半年、1ヵ月、半月、1日、半日、1時間、30分、1分、1秒――いや、一瞬あれば狂う。

 場所、時間、人物――歴史を見れば判る。

 1度狂ったモノは、2度と戻らない。

 例え、同じ通りに戻しても、その時の様になる事は無い。

 簡単に言えば、平らな鉄板が曲がり、それを平らに戻しても、その曲がった部分は元には戻らない。

 道具を使えば、見た目は戻るが……正確に戻ったとは言えない。

 その今の世界を生き、駆け抜かねばならない若き者たち。

 そして今、2人の少女が高みへ行く為に、走り出す。

 試験という、壁を超える為に。

 

「スバル、私は上をやるから中を!」

「了解!」

 

 と、ティアナは走りながら、スバルに指示を出しつつ、アンカーガンのダイアルを少しだけ回す。

 そして、建物の端まで行くや否や、アンカーガンを構え、狙いを定めて打ち込む。

 すると、銃口の下に添えられていた黒い突起物が放たれる。その端末に細いワイヤーが付いている。

 それを確認すると、スバルはティアナの側により、ティアナがスバルを抱えて――屋上から、飛び降りる。

 その際、距離が3分の1辺りに差し掛かった時にワイヤーが巻き戻り始める。

 

「行くわよ、スバル!!」

「OKだよ、ティア!!」

 

 そう言い合い、ティアナはスバルを放す。

 スバルは、重力と物理法則に従い、斜め下を降下して行き――まだ残っていた窓ガラスを突き破って、中に入る。

 その瞬間、中で待機していたスフィアが、一斉にスバルに集中砲撃を開始する。

 スバルは、涙目で声を上げる暇も無く、全力で回避を行う――変な踊りをしながら。

 ともかく、その集中砲火の弾幕を掻い潜りながら、拳と足と魔法で1つ1つ確実に撃破していく。

 その技は洗礼されており、無駄も無く、行き着く暇も無い連続攻撃により、スフィアが鉄くずと化していく。

 その頃、ティアナは――屋上に辿り着き、そこから隣のビルにあるターゲットに狙いを定める。  ターゲットも、試験ということでティアナに見えるように、窓際に移動してくる。

 破壊する、してはいけないターゲットを瞬時に見分け、魔力弾を叩き込んでいく。

 さらに奥からターゲットが出てくる――射撃で打ち抜く。

 だが、斜め上からの砲撃。

 

「え!?」

 

 ティアナは、慌ててバックステップを踏み、後退する。

 しかし、バックステップを行う瞬間、魔力弾を放ち、最後のターゲットを破壊した。

 

(スバル、聞こえる!?)

 

 ティアナは、後退して物陰に隠れてから念話をスバルに送る。

 

(うわぁぁぁぁん!! てぃあぁ~!! たす――)

 

 相棒からは、鳴き声で返される。

 その瞬間、ティアナから念話を切断、当分繋げさせないでおく。

 ともかく、この状況を1人で打破しなければならなくなった。

 

「ああ、もぉ~……」

 

 手に持たれているアンカーガンのグリップに、僅かだが軋む音が聞こえる。

 どうやら、それなりの強さで握りしているのだろう。

 そして、アンカーガンの先端を、額に当てる。

 

「レベルが高――」

 

 ティアナは、アンカーガンを右手から左手に持ち替え、物陰から狙撃を行う。

 

「――過ぎるのよ!!」

 

 しかも、同時に3発の魔力弾を放ち、1つは直撃コースだったスフィアの攻撃と相殺。残り2つは、スフィアに直撃。

 それを確認する間も無く、素早く体を翻し、物陰に戻す。

 一瞬だけだったが、5体のスフィアが見えた。

 先の攻撃で2の爆発音が聞こえたので、2体撃破したと考える。

 さすがに、スフィアがダミーの爆発を行うとは考えにくい。

 ましてや不意打ちに近い攻撃だったので、未来予知か、人間並みの瞬発的な思考能力が無い限り、不可能に近い。

 空いている右手を腰に回し、ベルトに取り付けられた長細いポケットから、その長さにあった黒いモノを取り出す。

 それの先端部分を押して凹ませてから、スフィアが浮遊している方へ投げ、耳を押さ、目を瞑る。

 その黒いモノは、スフィアのセンサーに反応するも、攻撃対象にはならず、そのまま放置される。

 だが、地面にバウンドして、2回目で宙に跳ねた瞬間――爆発が起こる。

 凄まじい轟音と閃光、爆風がスフィアに襲い掛かる。

 爆心地より近くにいた2体のスフィアは、爆発に巻き込まれて撃破。

 それから少し離れたスフィアは、センサーを狂わされて、その場に静止する。

 最後のスフィアも、爆風の影響は僅かなら柄も、センサーを狂わされて360度ランダムに攻撃を始める。

 ティアナは、心の中で10秒数えてから目を開け、物陰の端から放つ光が収まってから、顔を出す。

 それにより、スフィアの位置を確認してから、手早く全て打ち落とす。

 ちなみに、先ほどティアナが使用した黒いモノは、『魔力型手榴閃光弾』と呼ばれるモノ。

 簡単に言えば、火薬による爆発ではなく、魔力による爆発である。

 一般にも、自衛のための武装は認められてはいるも、質量兵器は公認の組織しか保有を認めてはいない。

 裏を返せば、一般でも手に入る武装と言える。

 が、公式の組織からの紹介状が無いと、変えない武装ではあるが。

 だが、これにより、ティアナが担当していた部分の掃除は終わった。

 

「魔力型手榴閃光弾……1つで、今の給料の5分の1も掛かるのが、難点ね」

 

 この魔力型手榴閃光弾は、強力な上にコストが少々掛かるため、販売価格が高いのである。

 なを、今ティアナの貰っている給料が、日本円にして25万円とすれば、5、6万はくだらない。

 さらに、それの強化版や別バージョンになれば、軽く9万円を超える。

 一応、簡易版はあるものの、100円ショップの品質みたいな代物で、信用性に掛ける。

 故に、自然と普通の魔力型手榴閃光弾に手がいってしまうのが、心情である。

 

「スバル、今どこ!?」

 

 カードリッジを取替え、手持ちの残弾を確認しながら、今まで封鎖していた念話を開通させる。

 

(ティアの馬鹿!! おかげで魔力型手榴閃光弾2つに、拡散魔力型1つ使ったよ!!)

 

 鳴き声のように聞こえる、スバルの声。

 その言葉に、さすがのティアナも汗を垂らす。

 拡散魔力型手榴閃光弾は、文字通り魔力を拡散させて放つ爆弾であり、日本円にして1つ15万円する。

 つまり、魔力型手榴閃光弾も合わせると、約25万円消費したことになる。

 一ヶ月近くの給料を、1日で使い切ったようなものである。

 それは、いくらなんでも泣きたくはなる。

 消耗品とはいえ、デバイスの定期メンテナンスに生活費、色んな維持費に使っているので、娯楽に使える金は少ない。

 しかも、貯蓄や武器などの高価なモノを、買い置きしておかなければならない。

 

「ごめん。今度アイス奢るから」

(アーチェのデラックス!! 15段重ねの奴で)

「ぶっ!! ちょぉ、待ってよスバル!?」

 

 ミッドチルダに店舗を構える、『喫茶店アーチェ』。

 ミッドチルダ全域に展開し、多くのバリュエーションを用意している。

 若者向け、女性向け、高齢者向け、年配向け、静かな雰囲気、明るい雰囲気、軽い雰囲気など、様々な店が存在する。

 その喫茶店アーチェは必ずどこの店舗にもある、特別メニューが何点か存在する。

 その内の1つが、『アイス・デラックス』と呼ばれるアイスで、最低5段から最大15段までで販売されている。

 前は30段まであったが、アイスが溶け終わる前に食べ切れないので、15段に変更したという逸話がある。

 ちなみに、15段はアイスの種類によるが、6500円を基準に+6500円、-1500円掛かると考えて良い。

 

(拒否は無しだよ、ティア。奢るって言った以上、奢ってもらうからね)

 

 嬉しそうに言うスバルに対して、額を右腕で押さえるティアナ。

 1度言い出したら、こちらの意見を聞かないわがまま。

 できれば、わがままは身内だけに発動して欲しいと思うティアナだった。

 

「…………とにかく、ビルから降りて合流して、次に行くわよ」

 

 そう言いながら、走り出すティアナ。

 

(了解!)

 

 スバルも、元気良くかつ機嫌良く答える。

 自分の大好物であるアイスが、たらふく食えるのだから、これで機嫌が良くない訳がない。

 自分の財布が軽くなるのが目に見えているティアナにとっては、不機嫌になるしかない。

 感傷に浸りつつ、屋上からジャンプ――アンカーを発射。

 渡り通路の壁に当たると同時に、ワイヤーが巻き取られ、地面から1メートルほどの高さに収める。

 そのまま重力と遠心力の法則にしたがっていき、途中でアンカーを外す。

 それから、足を3分の1ほど曲げる程度で衝撃を緩和し、ワイヤーを収納して、アンカーが音を立てて止まる。

 それを聞くと、ティアナは走り出す。

 そして、その先はT字となっており、右からスバルが現れる。

 スバルも、左を見てティアナを確認すると、スピードを落としていく。

 スバルとティアナは、並んで走る。

 

「次は、未処理の建物内の戦闘! 少しの油断が、命取りになるわよ!」

「OK――ところで、時間は?」

 

 その言葉に、ティアナは時計を表示する。

「うん、まだ20分ある! って、言っても、先の戦闘は10分も掛かったから、急がないと」

「うん、じゃあ私が先行して、けん制する?」

「それは駄目、アタシがアンタに合わせるのが大変だから――っと、見えてきたわよ」

 

 2人の前に、廃墟の建物もそうだが、その建物の前には大量のスフィアが浮遊、攻撃態勢に入っていた。

 だが、2人は臆する事無く、前進する。

 それが、己が正しき判断だと信じて――絶望への道という名の泥沼に、足を突っ込んでいく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第二話

高みの試練

 

END

 

 

 

次回予告

 

スバルとティアナは、順序良く障害を排除していく。

そこで、見知らぬ機動兵器が乱入し、戦闘を余儀なくされる。

だが、試験は中止されることも無く、継続されていく。

その最中――スバルは、ティアナは……。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第三話:争いの試練

 

 

 

変動する状況の中で、活路を見出し、活かしていくしか……道は無い。




あとがき
 ラギュナス第二話公開!
 一話で終わりにするつもりが、次に突入してしまった。(汗
 下手すれば、全三話通すことになるかも。
 でも、話が伸びれば、複線とか盛り込める可能性が増える増える。
 無計画の真髄ともいえる、この展開&進行の遅さ。
 だが、それだからこそ変な感じに膨らみ、縮小させるのに一苦労させるも、新たな展開が生まれる。
 上手くいけば、とんでもない伏線に化けるかもしれない。
 ……詭弁に取られても仕方がないな。(汗
 とにかく、作者でもどう転ぶか判らない展開に、こうご期待!?






制作開始:2008/3/15~2008/3/30+2008/4/3+2008/4/17

打ち込み日:2008/4/17
公開日:2008/4/17

修正日:2008/4/18
変更日:2008/10/29


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第三話:争いの試練

世界は人を染め、人は世界を染める。
人が動けば世界が動き、世界が動けば人も動く。
人という種は、この世界の頂点だと思い込んでいる節があるも、事実上君臨している。
人が襲われれば、人に害を成す存在として、消そうと動く。
それが、何故か当たり前になっていた。


 

 

 廃墟区画で爆発音と黒煙。

 銃声音と兆弾が響き渡る。

 コンクリートは抉れ、大気は揺れる。

 風が吹き荒れ、熱気で温度が上がる。

 

「――いくら試験項目とは言え!?」

 

 ティアナは、物陰に飛び込んで攻撃を回避。

 しかも、数瞬前までティアナがいた場所に、ビームが通り過ぎる。

 どう見ても、当たれば即死クラスの攻撃である。

 

(どうする、ティア!?)

(どうするって言っても――)

 

 敵の攻撃が来ないと直感で感じ取り、物影から飛び出しつつ、アンカーガンから魔力弾が放たれる。

 

「――こいつをどうやって潰せばいいのよ!?」

 

 魔力弾は、敵の装甲板に当たるも、あっけ無く消滅する。

 それもそのはず、敵の装甲板はリオファルコンで出来ているため、生半の魔力での攻撃は無力化される。

 

「グォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 遠吠え。

 敵は、鹵獲し解析して開発された、ラギュナス製の管理局版起動兵器――パイロン。

 廃墟の建物の入り口付近で、大量のスフィアを撃破し、中に入った瞬間に出てきた。

 5秒ほど遠吠えを行った後に、挨拶代わりにバーストレーザーを叩き込んでくる。

 2人は慌てて回避し、自然に2手に別れた。が、パイロンはティアナに狙いを定め、追撃を開始。

 スバルは完全に無視して、ティアナのみに攻撃を集中させてきた。

 結局、途中で合流し合い、パイロンの迎撃に当たっている最中である。

 だが、相手はパイロン。

 ラギュナスの保有する起動兵器シリーズの中で、現在も上位クラスに君臨する存在。魔導師ランク・Sランクでも、1人でどうにかできる相手ではない。

 

「うぉぉおおおお――リボルバァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 パイロンの背後から、一気に接近して右腕のリボルバーナックルを構える。同時に、スピナーの回転が疾風を巻き起こすほどになる。

 だが、パイロンは背後に振り向かず、背中に付いている6枚のプレートを動かすだけ。

 それを見つつも、当たると確信してしまったスバルには、深く考えさせる出来事ではない。

 

「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥトォ!!」

 

 拳銃から弾丸が放たれた如く、反動で腕が上がる。

 同時に飛んでいく、スバルの魔力弾はパイロンの背後に迫るも、予備動作も無く上に跳んだパイロンに当たる事無く通過。

 そのまま、ティアナのいる場所に飛んでいく。

 ティアナも、予備動作も無く上に跳んだパイロンに呆気に取られていたが、正面から来る何かを感じ取り――正面を見る事無く、後ろに反らして回避を行う。

 そして、地面に手を付き、ブリッジの体制で固まりつつ、スバルの魔力弾の着弾を目視する。

 その瞬間、スバルに魔力弾か、何かを叩き込むことを心に決めた。

 次に、スバルの背筋に怖気が走る。多分、ティアナから制裁が来るのだろうと考える。

 しかし、そんな余裕は――上から来る殺気にかき消され、本能のままに跳ぶ。そして、その辺の物陰に隠れる。

 そこに、2人が数瞬までいた場所に、1つずつ長さ5センチに直径3センチほどの円柱が落ちる。

 地面に落ち、1度だけバウンドすると――爆発。同時に、棘らしきモノが四方に飛び散る。

 パイロンの武装の1つ、グレネード・ニードルボム。

 だが、本来はパイロンの試作型、トライアとトライア・鉄(くろがね)の時に装備されていた武装である。

 この2機の試作機は、トライア・鉄(くろがね)のD.S.Mビームカノン――ダブル・ストライク・マジック・ビームカノン以外の武装が、質量兵器だった。

 最初の試作機であるトライアは、動力が電力で、武装の全てが質量兵器である。電源地点から半径100メートル以上は、ケーブルの関係で行動できない。

 あと、外部電源供給ケーブルが切断、何らかの理由で消滅、使用不能となると、内部電力が作動し、350秒だけ稼動できる。が、それも無くなると動かなくなる。

 という点があり、とてもではないが、余程の事がない限りは実戦に出すことは無い。

 そして、その改良型のトライア・鉄には、外部電源供給ケーブルを廃止、魔力動力で動くように改造された。これにより、遠距離にも態様できるようにした。

 そして、魔力による武装、D.S.Mビームカノンが搭載される。だが、エネルギー量の関係で、魔力による武装はこれだけしかない。

 その2機の完成型が、パイロンである。

 パイロンには、バースト・ビームと、これまで試作型にもあったメタルクロー。

 最後に特殊装備が1つだけあるも、全体的に武装が減るも、エネルギー消費率は格段と減らす事に成功。

 余計な武装を積むよりも、機体性能を優先するべきと、外部武装は取り付いていないはずである。

 その光景を、遠くの空から眺める2人――時覇とクワットロ。

 

「グレネード・ニードルボムだと? パイロンには、装備されていなかったはずだが……した奴がいたのか?」

 

 そう言いながら、首を傾げる時覇。第一、報告は全て聞いているので、耳にしていれば思い出せる。

 クワットロは、鍵盤型空間パネルを操作し、鹵獲、もしくは残骸を回収されたという報告書をピックアップ。1つ1つ確認していく。

 しかし、それらしい報告書は、上がっていなかった。

 

「管理局が、トライア・鉄とパイロンを、間違えて組み立てた可能性があるかもしれませんね」

 

 クワットロの言葉に、時覇は理解した。

 確かに、トライア・鉄からパイロンが出来た訳であり、多少なり互換性はある。

 故に、間違えたのか、それとも足りなかったから代用に使ったのかは、管理局の意思なので、詳しくは判らない。

 ともかく、2人が遠目で見ている場所は、試験というには余りにも異常な光景が目に入る。

 パイロンの攻撃をかわすだけで、精一杯のティアナ。

 ティアナから、自分に標的を変えさせようとするも、全く相手にされないスバル。

 Bランク試験は、混沌を極め――中盤に差し掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話:争いの試練

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃墟区画のとある場所。

 試験区画より、さほど離れていない場所で1人の女性が空間モニターにタッチしながら、試験の様子をモニタリングしている。

 服装は、管理局員の白いブレザーと青いスカート。

 スカートのタイプは、女性スーツ用の少し丈が短めの奴。

 茶色い髪に、片ポニーテールが特徴。

 その左手には、赤い水晶が特徴の杖――レイジングハートが握られている。

 

「大型スフィアを、このパイロンに変更したけど……どう乗り越えるのか、ためさせて貰うよ、2人とも」

 

 白のブレザー、戦技教導隊所属の証を身に纏うは――高町なのは。

 今回の試験プランを考えた教導官である。

 展開されている空間モニターには、攻撃を避けながら、隙を見て反撃をしているティアナ。かく乱、援護を行っているスバルの姿が映し出されている。

 まさに、この戦いの主役であり、華であるスバルとティアナは、命の危機を感じ取りながら、攻撃を回避する。

 だが、完全に劣勢の1歩を辿りつつある。

 

(ティア、このままじゃ!?)

(判ってる!! でも、こんな――)

 

 ティアナの横に、大きな瓦礫が飛んできて、斜め後ろにあった瓦礫と衝突して、互いに砕きながら吹き飛ぶ。

 その吹き飛んで破片と化した瓦礫の一部が、ティアナの足に突き刺さる。

 

「――――――――!?」

 

 悲鳴にならない悲鳴を上げながら、倒れこむティアナを見過ごさなかったパイロン。

 だが、パイロンの後頭部に衝撃が走り、よろけると同時に青い塊が、斜め上を通り過ぎていく。

 止めを刺しに掛かるパイロンを止めるは、相棒のスバル。

 リボルバー・シュートでパイロンの後頭部に当て、一時的にフリーズを起こさせる事に成功。

 そのまま、ティアナを背負って、その場を離脱。

 全速力で、その場から離れる。

 パイロンのフリーズは3秒で回復するも、あとを追わずにある部分を追っていた。

 それは、血の跡である。

 ティアナの足――正確には、左の脛と足首の中間に当たり、破片が刺さっている。

 そこから垂れた血が、パーキングの役割を果たしてしまっていた。

 しかも、ティアナの足の怪我は、回復魔法を使っても完全に治るのは不可能である。

 つまり、完全に機動力を失ったに等しい状態の2人。

 パイロンは、狩人みたいに2人の後をゆっくりと追う。

 その映像を、サーチャーとパイロンのカメラ目線をモニタリングしていた、はやてとフェイト。

 

「生命の危機による回避能力の向上と、魔力の上昇――うん、なかなかええ結果や」

「でも……ティアナって子の怪我、大丈夫かな?」

 

 モニタリングの様子を喜ぶはやてに、ティアナのケガを心配するフェイト。

 2人のバイタルを表示したモニターには、ティアナのバイタルが乱れている表示が出されている。

 

「そんなもん、実戦では当たり前の出来事や。これくらい、乗り越えられへんと、どこ行っても通用せんよ」

 

 あっさりと、切り捨てるような言い方で結論を出すはやて。

 すでに『現場』という言葉は無くなったに等しい言葉――今は『戦場』と言う方が相応しい。

 常に人は死ぬ。

 確かに、出て行った全員が生きて帰る事があるも、ケガ人は確実に出る。

 中には、稀であるが戦力外通知が、渡される事もある。

 生死の境目を、行き交う戦士にとっては、当たり前の事だと心構えしていなければ可笑しい。

 この試験は、その心構えが備わっているかの確認及び、色々な独自もしくは、模範的な対処法を知っているか。

 それを、色々な状況下に合わせて行うことが出来るか。

 最後に、純粋な戦闘能力の把握が、主なポイントである。

 戦術、戦闘能力、状況判断は、成り立てのBランクにするには問題は無い。

 もし、この状況――ティアナは負傷し、それを背負っているスバルが、2人を追うSランクでも撃墜が難しい起動兵器を撃破する。

 これは、才がある人材と言える。たとえ、逃げ切る方針に切り替えても、逃げ切ればそれはそれで才があると認められる。

 元から目を付けていたので、この試験の結果次第で、自分――はやての人を見る目は、良い線を行っている証明となる。

 これから立ち上がる部隊の一員になる予定なのだから、最低でも逃げ切ってもらわないと困る。

 ただ、最終的な判断は、なのはが受け持っているが。

 

「とにかくや」

 

 両手を叩いて、不安な顔を浮かべるフェイトを引き締める。

 

「この程度で根を上げるなら……管理局を辞めるべきや」

 

 と、とんでもない結論を叩き出して、口にするはやて。

 

「は、はやて。いくらなんでも、飛躍しすぎじゃ――」

 

 そこまで言って、口を噤む。

 この前に、また部隊が全滅した話があったばかりであった事を思い出す。

 すでに、今の管理局員――特に、前線メンバーは、使い捨ての道具扱いの雰囲気である。

 しかも、局員を補充する際、魔力のある人間なら、管理外世界からでも連れて来る様になっている傾向がある。

 古株でも、たった3年で仲間入り。それが10年となれば、神様扱いに近い状態になっている。

 前線に出ていたベテランは、上層部にとっては失いたくない人材故に、教導のサポートやバックスに回している。

 今の前線を支えるのは、新人とベテランに成りつつある者たちだけである。

 

「入局して4年。救助隊で3年の経験を持つベテランが、何を今更」

 

 フェイトの言葉に、はやては目を瞑り、呆れながら首を横に振った。

 

「当たり前なんよ」

 

 言葉の通り、言い切った。

 その言葉に反応する様に、大きな爆発が起きる。

 その衝撃で、はやてとフェイトが乗っていたヘリが揺れ、いくつかのサーチャーが吹き飛んだせいで、モニターできなくなった。

 なのはも、空間モニターを操作するも、反応も無い。

 

「困ったなぁ……でもいいか」

 

 あっさり言うなのは。あのクリスマス前の出来事が起こる前のなのはを知るものが聞けば、驚くであろう。

 しかし、あの出来事を境に、彼女の考えは、病に犯されるようにジワジワと考えを変えていった。

 しかも、本人が気づかないうちに。

 結果的に言えば、高町なのはもまた、世界という名の流れの被害者なのである。

 八神はやて、フェイト・T・ハラオウン。今生きている人々、これから生まれてくる人々も。

 世界という名の大きな流れに、飲み込まれ続ける。

 そして、視点は廃墟に立ち上る、黒煙が上がる付近に戻る。

 爆発の中心は、言わずともクレーターが出来上がっている。その周りの瓦礫も、さらに細かい瓦礫と化している。

 周りの建物も衝撃には耐えて、何とか保っているが、崩れるのも時間の問題かもしれない。

 そんな付近で、瓦礫の山が動く。それから、山の一部が崩れ、そこから2人の少女が顔を出す。

 スバル・ナカジマとティアナ・ランスターである。

 

「げほっ、げほっ――はぁ、はぁ、はぁ……ティア、大丈夫?」

 

 弱弱しくも、パートナーをしっかり支えるスバル。

 

「…………しょ、正直、キッ――……イ、かも」

 

 スバルに支えられ脂汗を多く流すも、痛みを耐え続けるティアナ。

 左の脛と足首の中間に刺さった瓦礫の一部は、そのまま刺しっぱなしである。処置も出来ない状態で抜くと、出血多量で死ぬ可能性がある為である。

 ただ、刺しっぱなしのおかげで、止血できているのが、不幸中の幸いなのかもしれない。

 未だに立ち続ける黒煙の中から、機械の稼動音が聞こえてきた。

 今はまだ僅かしか聞こえないが、ものの数分もしない内に、今2人がいる場所に辿り着く事は明白である。

 スバルは、ティアナをおぶって、急いでその場を離れる。

 ローラーブーツに違和感を覚える。ちらりと見ると、時折ショートしていたのである。

 それを見て、内心舌打ちをするも、まだ持ってくれと思いながら、適当な建物の中に入る。

 ハイウェイと同じ高さの階まで上がり、適当な部屋に入って、背中からティアナを下ろす。

 互いに呼吸を整えてから、互いに何も言わず、手持ちの物を全て出す。

 ただ、ティアナの手当てが先なので、2人分治療道具を使って野応急処置を施す。

 その際、やはりと言うべきか、破片を抜いた瞬間、刺さっていた部分を中心にして体全体に激痛が駆け抜けた。

 抜く前に、手持ちの布を使って傷口から指3、4上にきつく巻きつけた。これは、出血の量を減らすための処置である。

 

「これで……よし、と」

 

 リボルバーナックルを外し、ティアナの手当てを行っていた。それが、先ほど包帯を巻き終えて、全てが完了したのである。

 

「ありがとう。あとは、手持ちね」

「うん」

 

 ティアナの言葉に、スバルは頷きながら、横に退かしていた残りの道具を2人の間に滑らせる。

 まず治療道具は……ティアナで殆ど使ってしまい、1人分も満たない量しか残っていない。

 次に、互いのカードリッジは……ティアナが16発のリロード8回分。スバルは、残り5個。

 持ち込んだ武装――魔力型手榴閃光弾が3個。拡散魔力型手榴閃光弾が2つ。まだ未使用であるデバイス汎用外部取り付け型魔力ブーストが1つ。

 デバイス汎用外部取り付け型魔力ブーストとは――形は様々だが、相当特殊なデバイスで無い限りは取り付けが可能である、外部パーツである。

 能力は、文字通り魔力ブーストであるが、副産物として、使用者の魔力消費率を抑えてくれる。

 だが、デバイス自身に掛かる負担は大きく、パーツ自体が精密すぎるために、使い捨てになっている。

 しかも、使用後の使用者への反動もそれなりにあるので、取り扱っている店舗の現品以外製造されていない。ある意味、レア物でもある。

 

「……スバル、行きなさい」

「ティア?」

 

 不意の言葉に、スバルはハテナマークを浮かべる。

 

「アタシを置いて、先に向かいなさい」

「え!? なっ、何言ってるのティ――!?」

 

 悲鳴に近い声を上げるスバルの胸倉を掴み、自分の前に引き付ける。

 

「状況を考えなさい……武装とアタシ達の姿を見なさい」

 

 言葉通りに、置いてある武装と自分とティアナの姿を見る。

 

「判るでしょ? 負傷したバックスを抱えて戦闘が無理なのは、先の戦闘で理解できたでしょ?」

 

 2人の脳裏に、パイロンとの戦闘を思い出させる。

 Sランク魔導師が、1人で片付けるのが難しいと言われる起動兵器の脅威を。

 

「今回の試験で、管理局を辞めさせられる事は無いと思うし、さすがに命までは取らないでしょう……たかが試験如きで」

 

 ティアナの言葉は、もっともである。この試験は、あくまで自分の戦闘能力の証明――検定みたいなモノである。

 検定でも、多少は危険な事もするが、本当にヘマさえしなければ、命に関わる事は無い。

 だがティアナは、極度な疲労で少しばかり朦朧とした意識だったので、重要な事を忘れていた。

 この試験を受ける際、受付である署名を提示された。そして、その証明には、こう書かれていた。『本試験での負傷(体の一部が損失などの重症は除く)は、当管理局が責任を負いますが、先の重症や死亡に関しましては、一切の責任を負うことはいたしておりません。よって、下記の各項目をお読みの上で、サインと印鑑(拇印、もしくは血判でも可)をお願いします』と。

 この時、これを見た2人は困惑の声を出していた。たかが試験を受けるだけなのに、この大げさな処理は何だと。

 だが、これにサインしなければBランク昇格試験を受ける事ができないので、2人は深く考える事無くサインをしてしまった。

 つまり、この試験で死んでも問題は無い、と。

 ティアナの言葉に、スバルは犬の如く食い掛かる。

 

「じゃあ、ティアは次の試験で――」

「1人でやらせてもらうわ。それの方が、多少なり試験内容も落ち着いたモノに成るかもしれな――」

「駄目だよ、ティア!!」

 

 スバルの言葉を途中で割り込むティアナだったが、今度はスバルから言葉を割り込ませる。

 

「私、前にも言ったよね」

 

 その言葉に、訓練校の出来事が、ティアナの脳裏で駆け抜ける。

 

「誰かに助けられっぱなしが嫌で、陸士部隊に入ったって」

 

 俯きながらも、言葉を続けるスバル。

 

「自分の魔力とシューテングアーツを使って、人助けがしたいって」

「知っているわ……聞きたくも無い話、何度も聞かされているから。嫌でも覚えるわ」

「だけど、ティアがどんな夢を見て、それを追って……昇進にどれだけ掛けていることも判るよ」

「だから見捨てられない……あと、ちょっとの時間で、走れないバックスを抱えていくの?」

 

 スバルの気持ちも判りつつも、ティアナはそれを拒否する。

 策があれば、話は変わるけどと思うティアナだったが、次のスバルの言葉で変わる。

 

「1つだけ、方法がある」

 

 その言葉で、朦朧としていた意識が僅かずつであるが、取り戻し始める。

 それから、自ら顔を上げてスバルの目を見る――目の輝きに、偽りは無いという光がある。

 信用できるし、自分の不甲斐無さに呆れる。

 そこで、時間を確認――残り、5分弱。

 

「……プランは?」

 

 疲れた表情で言うも、その目の輝きは、諦めではない事を物語っていた。

 そして、2人はプランについて話している最中、管理局製に仕上げて鹵獲兵器・パイロンは、2人がいるビルとは違うビルにいた。

 どうやら、スバルの攻撃が後頭部に衝撃を与えた際、何らかの機能に影響を与えた結果である。

 その影響が出た機能が、パイロンの自己スキャンでも、不明と出る。

 はっきりとは言えないが、トライア・鉄とパイロンの部品を混ぜて組み立てたのが、原因だろう。

 互換性があるも、それはある程度なので、多少の誤差が出る。

 今までは、上手く均衡を保っていたが、後頭部に衝撃が当たる事により、全てにおいて誤差が生まれ始めたのである。

 このまま行けば、点検不良で機能停止が起こるのも時間の問題である。が、それが起こるまでの予想時間は3時間強と出ている。

 問題無く、戦闘を継続できる。

 それと、ティアナを優先的に狙った理由は、最初から2人のデータを保有しており、幻術という厄介な魔法を持っていたからである。

 幻術とは、字の如く『幻』の術である。

 幻とは――面影(おもかげ)・夢・ファンタジー・幻影(げんえい)・幻覚・幻想・幻像・夢幻 妄覚(もうかく)・泡影(ほうえい)・泡景、に含まれて上げられる。

 さらに、それに近いものとして――蜃気楼(しんきろう)・不知火(しらぬい)・鬼火(おにび) 陽炎(かげろう)・逃げ水・ご来迎(らいごう)・後光、が上がる。

 人間の認知情報は、大半が視覚と言われており、目を騙す事は感覚を狂わし、思考を混乱させる効果がある。

 それは、センサーで動く機械も一緒である。

 頭脳といえるプログラムが正常に動かなければ、誤作動を起こして動かなくなる。

 見て判断するモノなら、なおさらである。

 遠くにモノがある――それは、実際に遠い場所にあるのか。

 写真や画家による遠近法を用いた絵の中のモノなら、話は変わってくる。

 なんせ、遠くに見えて、近くにあるのだから。

 幻は、いわゆる『騙し』の1つの手段である。

 一度引っかかれば、あとは芋蔓形式で引っかかっていく。そこから抜け出すには、冷静な判断が必要となる。

 よって、正常な判断を失わせるためには、どうすればいいのか。

 それは、疲れなどの疲労による思考能力の低下か、疑心暗鬼にさせることである。

 他にもあるが、判りやすい状態は、上記の2つである。

 パイロンは、各センサーを駆使して情報を集めるも、このビルにいないと判断する。

 別のビルに行こうとした瞬間、外のハイウェイに胴体反応がある。

 素早く窓際に向かうと、そこにはハイウェイを走るティアナがいた。

 接近して確実に叩くと出たが、別の結果が生まれる。

 ティアナは足をケガしている為、普通に走ることは不可能である。

 仮に、出来たとしても、ケガを治すのが早すぎる。

 結論――幻術の可能性大。

 生態コンピューターが、そう結論して、バーストビームを放つ。

 幻影に直撃し、オレンジ色の光の粒子なって散開した瞬間、爆発。

 さらに、幻影が2体出てくる。

 とにかく、全体が見渡せる遠距離攻撃を放ち続ける。これにより、確実に1つ1つ潰して行く。

 ただ、この幻術は視界を惑わすタイプなので、術者を潰すか、幻影そのモノを確実に潰していくしか、方法は無い。

 パイロンが、バーストビームを乱射いている中、ハイウェイの瓦礫の影にティアナの姿があった。

 そして、その下に魔方陣が展開されている――幻術に、全神経を張らしているのである。

 

「この魔法、結構魔力を消費するのよね……スバル、1発で決めなさい。失敗したら一緒に不合格になってもらうからね!!」

 

 口で言いながら、同時に念話を飛ばす。

 パイロンがいるビルから、少し離れたビルの屋上。そこに、スバルが右腕を構え、拳を握り締めている。

 そして、非力な自分が情けなかった時の事を思い出す。4年前の火災――彼女、スバルにとっての初めての人生の分岐点であった。

 その分岐点を選んだ結果、今ここに立っている。

 

「アタシは……適性が無くて、空は飛べない」

 

 額に巻いているハチマキは、常に風に吹かれてなびいている。

 

「それでも、母さんが残してくれたシューティングアーツと――」

 

 右手に装備されたリボルバーナックルが、太陽の光に反射して輝く。

 

「――この、リボルバーナックルがあるから……」

 

 そこで、一呼吸して。

 

「――いっくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 叫びに近い気合の声を上げ、足元に魔方陣が浮かび上がる。

 三角形で、角の部分に小さな円が付いた魔方陣――古代ベルカ式ではなく、近年開発されて生まれた術式、近代ベルカ式。

 古代ベルカとミッド式を合わせた術式。

 

「ウイング――」

 

 右の拳を高らかに振り上げる。

 

「ロォォォォォォォドォッ!!」

 

 声と同時に、右の拳を地面に叩き付ける。

 付いた瞬間、青白い光の道が飛び出す。そして、パイロンがいるビルの階の壁に突き刺さる。

 パイロンの後方の壁に衝撃が走り、ビル全体を僅かに揺する。

 その衝撃と魔力反応で、素早く振り向く。が、幻影が目の前に現れ、メタルクローで引き裂く。

 幻影が消滅したと同時に、新たに後方に2体の幻影が出現。バーストビームでなぎ払う。

 その瞬間、その階全体に砂煙が上がる。

 

「行って!!」

 

 ティアナは、そう叫ぶと同時に魔法を停止させる。疲労万班に魔力がギリギリという所である。

 その言葉を聞いた瞬間、少し前かがみになる。

 

「ごぉ!!」

 

 そう叫ぶと、ほぼ同時に飛び出すように駆け抜けるスバル。

 トップスピードを維持したまま、ウイングロードを駆け抜ける。

 そして、壁に迫った瞬間、リボルバーナックルを叩き付け――壁を突き抜ける。

 パイロンは、それに素早く反応し、バーストビームを放つ。だが、それをしゃがんで、右に、左にと素早く移動して回避する。

 懐に飛び込むことを見越して、パイロンはタイミングを計って、メタルクローを放つ。

 が、スバルは後方に下がって回避。渾身の一撃に近い攻撃をした為に、反応動作が遅れる。

 スバルとパイロンの間の距離は、2メートル半ほど。

 そこで止まって、魔方陣を展開――リボルバーナックルのコッキング音と噴射口の音が、2回ずつ鳴る。

 さらに両手を前に出すと同時に、魔力球が形成される。

 

「ティバイィィィィィィィィン――」

 

 その言葉を言いつつ、両手を前で回して右拳を引く。

 ローラーブーツを履いているも、両足に踏ん張りを利かせる。

 そして、目の前にある魔力球に、右拳をぶつける。

 

「バスタァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 拳がぶつかり、魔力球から巨大な砲撃が放たれる。

 その砲撃は、パイロンに襲い掛かり――爆発する。

 周りに黒煙が上がるも、ビルの外に放り出されるパイロン。そのまま、動く事無く地面に落下。その際、右腕が外れた。

 地面とぶつかり、周りにあった瓦礫は衝撃で崩れて、パイロンを埋める。

 戦闘時間、2分9秒。

 色んな要因があったモノの、Sランク魔導師1人で破壊するのに困難な起動兵器を、Cランク魔導師2人だけで撃破したのである。

 この瞬間、試験の合否は関係無く、はやてが立ち上げる部隊に転属させる事が決定された。

 

「倒したか」

 

 澄ました顔で、宙に静止している時覇だったが、内心ハラハラしていた。

 全部監視していたとは言え、緊張の連続だった。

 

「ええ、確かに――ディエチちゃん、そっちのデータはどう?」

≪問題無い。結果から相当伸びるよ、あの2人≫

 

 データを整理しながら、ディエチに通信を開くクアットロ。そのクアットロのデータと自分が採取したデータを照らし合わせ、今後の期待値に驚くディエチ。

 敵になる事は判っていても、誰から上を目指すことに対しては、見習いたいとディアチは思っているからである。

 

「……そろそろ引き上げるか」

「ええ、そろそろ頃合かと」

≪賛成、帰って抱き合う≫

 

 時覇とクアットロの言葉はともかく、ディエチの最後の言葉に、2人は固まった。

 

≪どうしたの?≫

「ディエチ……すまないが、俺にはシグナムがいる」

≪知ってる。あのババアでしょ?≫

 

 さらにヤバイ発言を重ねるディエチに、クアットロは自分だけ離脱できるように、シルバーカーテンの発動を用意しておく。

 しかし、そのバカなやり取りは、先ほどまで監視していた地点からの爆発で終わった。

 そして、少し時間が戻って、ヘリの中。

 

『ふぅ~』

 

 今まで空間モニターを食い入るように見ていたフェイトとはやてであったが、息を吐きながら、背凭れに圧し掛かる。

 ヘリの中で、今までの状況――幻影のティアナが、ハイウェイを走る部分から――を見ていたが、息をつく、瞬きする暇さえなかった。

 

「これはもう、合格だね」

 

 フェイトは、笑顔ではやてを見ながら言う。

 

「そやな。けど、なのはちゃんの結果は、どうなんやろうか」

 

 はやても、笑顔でフェイトを見ながら言う。

 だが、そんな和やかな雰囲気も終わる――警戒音である。

 はやては、素早く空間モニターに触り、原因を調べる。

 原因は、機能停止したはずのパイロンの再起動である。

 

「はやて、緊急停止させるね!」

 

 フェイトは、そう言いながら空間パネルを展開。だが、新たに開かれる通信回線によって止められる。

 

≪このままでお願い≫

 

 なのはからの通信である。

 

≪もう少し、もう少しだけ見てみたいの≫

「せやけど、さすがにこれ以上は危険やよ? いくら署名にサインしたとはいえ、これほど良い人材を試験如きで無くす訳には……」

≪判っているよ、はやてちゃん≫

 

 そこでなのはは、軽く目を瞑る。

 

≪だからこそ、見てみたいんだよ……窮地に追い込まれた人間が、どの様な行動に出るのかを≫

 

 はやてもフェイトも、なのはの言いたい事が何と無く判った。

 はやてが立ち上げる部隊は、確実に『死』が隣り合わせの日常を体験する事になる。窮地に追い込まれた人間が起こす行動は2つ。

 1つ、自らを奮い立たせ、何かに立ち向かっていく。

 2つ、自らの身を守るために、自分勝手に行動する。

 大抵が2つ目に該当するも、1つ目に該当する人間は滅多にいない。

 守る守ると言っておきながら、肝心なときには見捨てる。スバルとティアナは訓練校からの付き合い。

 しかも、『死』と隣り合わせであるも、救助隊という人助けの戦い。

 なのはたちがいる戦いは、殺すか殺されるかの戦い。まったく畑が違うのである。

 いきなり舞台を変えるのに、果たして2人が耐え切れるのかが問題視していたのである。

 故に、見たい――2人の絆が、真なのかどうかを。

 そんなやり取りが行われている中、ハイウェイでは疲労で座り込むティアナ。ビルの中ではしゃぐスバルの姿があった。

 

(やったね、ティア!)

 

 念話でスバルの歓声が響く。

 

「うっさい」

 

 と、念話を飛ばしつつ、実際に呟きながら、その場に座り込んだ。

 

「でも……よく落とせたわね、アレを」

 

 荒い呼吸をしながら言うも、その声に嬉しさが混じっている。

 

(でもでも、Sランク魔導師でも大変な奴なんだよ!?)

「はいはい、判ったから、とっととこっちに着て」

(りょうか~ぃ♪)

 

 そう言って、スバルが合流しようとした時、ティアナの下からビームが出てくる。

 ティアナは反射的に避けるも、右肩に当たってしまう。

 

「――――――――!?」

 

 悲鳴にならない悲鳴を上げるティアナ。

 爆発――砂煙の中から、右腕を失ったパイロンが姿を現す。

 

「なぁ!?」

 

 窓から見下ろしていたスバルは驚愕する。

 仕留めたと思った矢先の出来事。

 戦いは、まだ続く――だが、終幕を迎えつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第三話

争いの試練

 

END

 

 

 

次回予告

 

再起動するパイロンが、再びティアナに襲い掛かる。

だが、試験は中止される所か、そのまま継続していく。

スバルは、再びウイングロードを展開――パイロンへ、突っ込んでいく。

そこで、使った技が……あらぬ展開を呼び込む。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第四話:魔法の手

 

 

 

その手に掴むのは――誰かを守るための力だと信じていた。だから――覚えただけなのに……。




あとがき
 『幻』の意味は、Yahooの辞書検索からの引用である。
 やっと書き終わりました。
 本作の方とは違い、ティアナのケガは捻挫ではなく、とんでもない所に刺さりました。
 このあとがきを書きながら、自分の足を見ながら創造してみた所――やばぁ!?
 です。冷静に考えると、本気で拙いです。(汗
 ともかく、濃厚な話の3話目をご賞味感謝。
 次は、アニメで言うと2話目に当たる部分ですが、こちらは1話で収まるかも。
 プロットの無い故の遅さ&どう転ぶか作者ですら判らない展開。(爆
 その日の気分と、脳内展開で話は常に変わっていきます。
 ではでは、次の話で。


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第四話:魔法の手

目に焼きついた光景を、時折思い出すことがある。
その時の出来事を思い出すも、それは美化されたり、胆略・省略されたりすることがある。
それは、時に自分なりに良過ぎるモノに変化する可能性が、非常に高い。
だが、それも『人間』という種の特性なのかもしれない。
ただ……純粋な思いは、世界には通じない。


 

 

「――――――――!?」

 

 悲鳴にならない悲鳴を上げるティアナ。

 爆発――砂煙の中から、右腕を失ったパイロンが姿を現す。

 

「なぁ!?」

 

 窓から見下ろしていたスバルは驚愕する。

 仕留めたと思った矢先の出来事。

 リインフォースⅡも驚くも、すぐに空間モニターを展開する。

 

「こちら、リインフォースⅡ空曹長!! 至急試験の――」

≪その要請を却下します≫

 

 リインフォースⅡの言葉を聞かずに、問答無用で切り捨てるなのは。

 

「何故ですか!?」

≪何故って……≫

 

 モニター越しから、ため息が聞こえる。

 

≪この程度のトラブルを解決できなければ、この試験を脱落させるべきだよ。いや――≫

 

 そこで、一呼吸。

 その間にも、瓦礫を力任せに押し上げながら、ティアナと同じハイウェイに立つパイロン。

 その姿は、ただの兵器には見えなかった。

 

≪管理局を辞めたほうが言い……命がいくつあっても、足りないから≫

 

 その言葉に経験上、納得せざる負えないリインフォースⅡ。

 敵に情けを掛けたことで、重症になりかけた経験がある故に。そして、上司にこう言われた――甘さは死を呼ぶ。

 主であるはやてからも、そう言われた。

 頭では判っていても、本能が理解していない証拠であると、唇を噛みながら考えるリインフォースⅡ。

 その間にも、パイロンはティアナに、1歩1歩確実に迫る。

 

「くっ――」

 

 ティアナは痛みを堪えながら、パイロンの足元に魔力弾を打ち込み、砂埃でカメラの視界を奪う。

 気休めだと判っていても、ほんの数瞬の隙が出来れば、少しでも動ける。

 その数瞬が命取りにもなり、何かの切っ掛けにもなる。足を引きずりながら、瓦礫の後ろに回りこむティアナ。

 その瓦礫に隠れつつ、少しでも離れるために動く。

 

「ティア、今行く――ウイングロード!!」

 

 スバルは、右腕を地面に叩きつけると、そこから青白い光の道が生まれる。

 そして、風の道――ウイングロードを駆け抜ける。

 パイロンは、攻撃目標をスバルに定め、口から低出力のバースト・ビームを乱射する。

 本来の出力だと、連射することが出来ず、チャージにも時間が掛かる。だが、低出力ならば、攻撃力がガタ落ちするが、それ以外問題は無く連射もできる。

 スバルはそれを掻い潜り、素早く接近するも――上空へ逃げるパイロン。

 しかも、ハイウェイから飛び出したので、このまま追撃しても叩き落とされるか、回避されれば地面に落ちる。

 だが、スバルは臆する事無く、更にウイングロードを出して駆け抜ける。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 無謀と思えるほどの勢いで突撃するスバル。

 しかし、彼女のデバイスのリボルバーナックルの手が、青白く光り輝く。

 ウイングロードから飛び出し、パイロンへと進む。

 だが、パイロンの口のエネルギーが臨界点まで達している、いつでも撃てる事を意味する。

 スバルもその事は確認しているも、避ける事もせずに突き進む。

 それを驚く様に、ティアナとリインフォースⅡ、なのはが見入る。

 さらに、ヘリからフェイトとはやて、遠くから見ていた時覇にクアットロ、ディエチも驚く。

 スバルの使おうとしている技は、この世で今の所1人しか存在していないものなのだから。

 そして、互いに放つ強大な力。

 パイロンは、今の状態で放つことが出来る、最大出力のバースト・ビーム。

 スバルは、右手をパイロンの顔に目掛けて――スバルを助けた恩師の技を放つ。

 

「マジックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――」

 

 バースト・ビームが放たれる同時に、右手を前に突き出す。

 

「フィンガァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 その手に輝く魔法は――希望を掴むことが出来たかもしれない、魔法の手であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四話:魔法の手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法の手と爆発の粒子がぶつかり合う。

 均衡。

 互いの力をぶつけ合い、同じ力だった結果で生まれる現象である。

 だが、魔法の手――マジック・フィンガーによって、スバルが徐々に押し始める。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 バースト・ビームを拡散させながら、徐々にパイロンの顔に迫る。

 パイロンの放つ、バースト・ビームの出力低下が均衡を破る原因となっている。その原因の理由は、やはり破損である。

 たかが片腕を落とした程度と言っても、ビルの25階辺りから地面に叩きつけられているのだから、不調になるのは必然ともいえる。

 人間でも、いくら魔法で強化し防護服を身に纏っても、落ちれば良くて重症、悪ければ死。という結果が出るのだから、戦闘用とはいえ精密機械が落ちれば破損する。

 崩れた均衡は戻ることは無く、スバルはパイロンの顔を掴む。正確には、真正面から口を中心にして掴んでいる。

 

「りゃぁぁぁぁああああああああああっ――」

 

 スバルは、さらに強くパイロンの顔を掴む。

 出力が落ちたとはいえ、未だにバースト・ビームは放たれているが、真正面から抑えられて拡散されている。

 

「――ブレイク!!」

 

 右手がさらに輝きを増し、パイロンの顔を一気に握り潰す。

 さらに顔を潰したことにより、バースト・ビームのエネルギーの放出先が無くなった。

 スバルは、パイロンを蹴ると同時に後方へ跳び、1回転だけして空中でウイングロードを展開。その上に着地し、ハイウェイに戻る。

 その間に、パイロンは再び地面に落下し、地面にぶつかる前に空中爆発を起こした。

 ここに、最終ターゲットの破壊を確認――全ての項目をクリア。あとは、ゴールをするだけである。

 

「ティア!!」

 

 スバルの背後に、爆発と黒鉛が上がる。が、特に気にはしていない様である。

 

「大丈夫!?」

「怒鳴るな……行くわよ、ゴールへ」

 

 ティアナは、疲れきった表情ながらも、口を吊り上げた。

 そして、ゴール地点では、リインフォースⅡがハイウェイの先を眺めており、その横に時間が表示された空間モニターあった。

 リインフォースⅡは、遠目で見据えていると、ハイウェイの中心に砂埃が上がっているのが判った。さらに、その砂埃は徐々に大きく、こちらに迫ってくる。

 さらに目を凝らしてみると、その砂埃を発生させている原因が判る――ローラーブーツで走行するスバルと、背中に背負われたティアナの2人であった。

 

「来たですぅ!!」

 

 リンフォースⅡは、大いに喜んだ。彼女らが無事だった事に。

 

「見えた――ティア!!」

 

 ティアナは、素早く時計を表示する。

 

「残り14秒、まだ可能性はある!!」

 

 スバルはその言葉を聞いた瞬間、体内の残り少ない魔力を全て足につぎ込む。

 

「いっくぞぉぉぉぉおおおおおおおお!!」

 

 ローラーブーツは、一気に回転数を上げて、加速を掛ける。

 

「――って、止まる事考えてるの!?」

「――え!?」

 

 ティアナの言葉に、我に返ったスバル。この状況を冷静に把握。

 前には、ゴールがあるのも一目瞭然。今のスピードは、ブレーキを掛けても相当な距離が必要。だけど、その距離を稼ぐにも、ゴールの先には瓦礫の山がある。残りの魔力もほとんど無い。

 うん――無理。

 僅か1秒で悟ったスバル。ティアナも、何と無くだが雰囲気で悟る。

 ティアナは思う――この試験の後で、必ずシバく。

 互いに心に思いつつ、とりあえず出すモノは出しておく。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 心の中とは裏腹に、正面のハイウェイを完全に封鎖させる量の瓦礫が、山となって待ち構えている。

 リインフォースⅡは、彼女らを止める術を持っていない為、そのままゴールを素通りさせてしまう。

 対処したくても、対処できない状況に慌てふためくのである。

 しかし、それを見てため息を吐きながら、右手を頭上に上げるなのは。

 

「はぁ~……レイジングハート、アクティブガード。あと、ホールディングネットを」

≪了解しました――アクティブガードとホールディングネット≫

 

 スバルとティアナがぶつかると思った瞬間、ピンク色の爆発が起こる。

 ヘリの開閉ドアからは、フェイトが片手に魔方陣を展開し、はやては魔道書を開いている。

 そして、ピンク色の爆発が晴れると、アクティブガードに引っかかるように乗っているティアナ。左のローラーブーツが脱げ、ホールディングネットの上にひっくり返った状態でいるスバルがいた。

 ティアナの表情は、痛みよりも疲れが強く、スバルを軽蔑の眼差しで見ている。

 スバルはスバルで、ティアナの視線に耐えられず、ひっくり返ったまま凹み続けている。

 

「こらぁ~!」

 

 その幼い声ながらも、怒鳴る言葉に2人は顔を向ける。

 

「危険行為は減点対象です! そんな事も判らない様では、魔導師としてはダメダメですぅ!」

 

 リインフォースⅡが、空中で全身で怒りを表している。だが、傍から見れば、それはそれで愛らしい姿を見せている。

 そして、初めてリインフォースⅡを見た2人の感想。

 

「ちっさ」

 

 ティアナが、唖然とした顔で洩らした言葉。

 

「ふぇ~」

 

 スバルが、ぽけぇーと出した言葉。

 そして、1つの影が差し掛かり、声が響く。

 

「まぁまぁ、そこまでにして」

 

 その言葉が放たれた方を向く。

 白いバリアジャッケットに、青いラインが幾つも描かれている。さらに胸には、トレードマークとも言える様な少し大きめの真っ赤なリボン。ツインテールに髪留めとして使われている白いリボンが2つ。

 手には、赤い水晶体が目立つ杖――レイジングハート・エクセリオンが握られている。

 時空管理局戦技教導隊所属・高町なのは一等空尉であった。

 彼女は、ゆっくりと降下していき――ハイウェイに立つ。

 

「なのはさん!」

 

 喜びの声を上げながら、リインフォースⅡはなのはの降下しながら元へ向い、なのはの顔の高さ辺りで静止する。

 

「リイン、ご苦労様。試験管の方も、それなりに良かったよ」

「はい、ありがとうございます!」

 

 そこで、敬礼をしながら感謝の意を述べる。

 なのはは軽く頷き、魔法を放つ。すると、ティアナの全身がなのはの魔力に覆われ、ゆっくりと上がり、山形を描きつつハイウェイに降ろす。

 

「ティアナだっけ」

「はい」

「足の治療を行うから、この場でもう少しだけ簡易処置を施すね」

「あ、それでしたら、私がやります!」

 

 と、言いながらその場で1回転してから、ティアナの側へ向かう。

 

「お、お願いします」

 

 そんなやり取りが行われている横を素通りし、スバルの元へ行くなのは。

 いつの間にか体制を戻し、その場に座り込んでいたスバルだったが、なのはが歩み寄ってきたことにより、慌てて立ち上がる。

 そして、昔――4年前の出来事を思い出す。

 空港火災。

 力を秘めていたにも関わらず、それを背けて無力と化していた自分。

 やさしく抱き上げてくれた、憧れの2人の内の1人。

 それが、目の前にいる。

 

「久しぶりだね、スバル」

 

 その言葉に、涙が溢れて来るのが判った。判ったが、止めることができない。

 

「なのは、さん」

 

 涙目になりながら、そう答える。

 だが――感動の涙はと衝動は、次の言葉で一気に冷める。

 

「スバル・ナカジマ二等陸士。あなたを、スパイ容疑で拘束します」

 

 その言葉に、困惑するスバル。ティアナもだが、リインフォース、ヘリにいたフェイトとはやては悟った顔をしていた。

 

「先の魔法――マジック・フィンガーは、犯罪組織・ラギュナスの長が使っている魔法です。よって、残念ながら、あなたを関係者として拘束します。同行を」

 

 

 スバルは、その場で1歩下がるも、ローラーブーツが地面に引っかかり、その場でしりもちをついてしまう。

 しかも、困惑の余り、気が動転して呂律(ろれつ)も回らない。

 

「とにかく、ティアナの処置が終わり次第、ヘリで本部に戻ります――リイン」

「はい、お任せくださいです」

 

 それだけ言って、ティアナの簡易処置に専念するリインフォースⅡ。

 そして、その近くに不時着しようとするヘリの窓から、フェイトが顔を出す。

 なのはは、スバルと適度な距離を保ちつつ、その場で待機。ティアナは、自分の足の処置を眺めている。

 

「フェイトちゃん」

「何、はやて?」

 

 その声に、振り向くフェイト。はやては、人差し指を立てながら言う。

 

「実はフェイトちゃん、あの空港火災の時にスバルって子のお姉ちゃんを助けたんよ」

「え、ホント?」

 

 そう言って、再び視線を外へ戻す。

 座り込んで、放心状態のスバルの顔を良く見る。すると、スバルよりも少し紫よりの長髪の女の子を思い出す。

 

「ああ、確か……陸士訓練生のギンガ、って子だったね」

 

 そう言いながら、フェイトとはやては、当時の事を思い出す。

 4年前、はやては陸士の研修、なのはとフェイトは休みを利用して、近くの泊まりで遊びに来ていた時だった。

 その日の午後4時辺りに、ミッドの臨海地区の爆発火災が起こる――この爆発は、初めはラギュナスの仕業だと誰もが考えるが、そのラギュナスのメンバーも救助活動に参加していた。

 初動が遅いと言われる陸の管理局だったが、そんな事は関係無く、あっという間に空港全体を飲み込む。近隣の救助隊と航空隊が緊急招集されるほどの大火災となった。

 本局のオーバーSランク魔導師、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやても参加。

 なのはとフェイトは、先行して救助活動を行い、はやては積極的に指揮官役を買い、色々と指示を出し、被害を食い止めていた。ただ、裏を返せば、被害を食い止めることだけが精一杯だった。

 

「第2、3消化班は、燃料タンクの方へ! 4と6は第12ブロックへ!」

 

 管制用のトラクターの上に乗り、色々な空間モニターを展開し、あちらこちらに指示を飛ばす。

 その最中に、下から本局の制服を着たリインフォースⅡが、切羽詰った姿で現す。

 

「はやてちゃん、全然人手が足らないです!」

「そんなことゆぅても、首都から航空隊が来るまで持たせるんや」

「はぁ、はいです!」

 

 はやての言葉に、リインフォースⅡは慌てて敬礼し、下に戻ろうとするも、何かを見つける。

 

「あれは――はやてちゃん! 応援部隊の指揮官が到着です!!」

 

 その言葉に、指示を一旦中断し、地面に飛び降りる。

 そして、はやての元に小走りで来る陸士部隊の上官に、立ち上がってから敬礼する。

 

「遅くなってすまない」

「いえ、陸士部隊で研修中の本局特別捜査官、八神はやて一等陸尉です。臨時で応援部隊の指揮を任されています」

 

 そして、応援部隊の指揮官も敬礼を返す。

 

「陸上警備隊108部隊のゲンヤ・ナカジマ三佐だ」

 

 挨拶を交し合うも、周りで指示や激が飛び交う。それにつられて、ゲンヤは顔を向ける。

 

「はい、ナカジマ三佐。部隊指揮をお願いしたいのですが」

「ん? ああ、確かお前さんも――」

 

 はやては、胸元から十字剣のペンダント――待機モードのデバイスを取り出し、ゲンヤに見せる。

 

「広域型なので、消火の手伝いを」

「判った、こっちは任しておけ」

 

 そこで通信が入り、はやての右側に空間モニターが表示される。

 

≪はやてちゃん、指示のあった女の子を無事に救出したんだけど、そこでラギュナスの長と会ったんだよ≫

「何やてぇ!? 今どこにおるんやぁ!?」

≪おっ、落ちついて、はやてちゃん! 何でもラギュナスは、今回は無関係だから、身の潔白を証明するから救助を手伝うって≫

 

 その言葉に、はやてとリインフォースⅡ、ゲンヤが驚く。つまり、この火災現場にラギュナスが活動している。

 はやてにとって、長がいる事はまたと無いチャンスであるが、今は目の前の火災に集中しなければならない。手が届きそうで、届かない。故に、奥歯を噛み締めるしかないはやて。

 

≪それで、はやてちゃんからの指示で助けに行った女の子を、ラギュナスの長が助けていたんだけど……私に押し付けて、火の中に飛び込んで――って、女の子!!≫

 

 なのはが進んで説明した時に、自分が助け出した女の子の事を思い出す。

 

≪スバル・ナカジマ、11歳の女の子を救出。お姉ちゃんが、まだ中にいるらしいから、再突入するね≫

「…………了解や、無理はせんといてな」

 

 奥歯をかみ締めつつ、なのはに当たらない様に、なるべくゆっくりとした口調で言う。

 

≪了解≫

 

 そこで通信は切れる。

 しかし、主の感情とは裏腹に、リインフォースⅡはなのはの報告にあった女の子の名前に、何か引っ掛かりを感じた。

 

「ナカジマって……」

「家の娘だ」

 

 ゲンヤの言葉に、はやては怒りを忘れ、リンフォースⅡと共に驚く。

 はやては、無言のまま炎上する空港を見る。再び、ゲンヤに視線を戻して口を開く。

 

「ナカジマ三佐。後の事、よろしくお願いします――リイン」

「はい!」

「ナカジマ三佐のサポートを。終わり次第、合流や」

「はい、了解です!」

 

 リインフォースⅡの返事だけを聞いて、また振り返り炎上する空港の方へ走り出す。

 ある程度走ると、はやての全身が白い光に包まれ、砕けるように剥がれた瞬間――バリアジャケットを纏い、十字剣が特徴の杖のデバイス・シュベルツクロイツが握られていた。

 それから、数歩目で踏み込んだ足に力を入れ、高く飛び立つ。魔力で構築された黒い羽を少しだけ散らしながら。

 

「ったく、強引な嬢ちゃんだな」

 

 と、後頭部を掻きながら、はやてが飛んでいった辺りに目をやる。それから、目線をリインフォースⅡに移す。

 

「じゃ、指示を頼む」

「はいです、よろしくお願いします」

 

 互いに微笑み合いながら挨拶を交わした瞬間、2人の顔が引き締まる。

 各部隊への迅速な指示が要求され、1つの小さな間違いが大惨事に変貌する。その大惨事を未然に防ぐために、先を見据え、的確な指示と決断をする事が望まれるからである。

 心構えを確かに持ち、2人がトレーラーに乗り込んでいく。

 その頃、フェイトは別のオペレーターからの指示で、一般人の救出を行っていた。

 最短ルートを行くために、いくつかの壁に穴を開けて進んで行く。本当はやってはいけない事なのだが、人命が掛かっているので免除される。

 請求書は、多分保険会社が出すのだろう。できなければ、経理部が泣きながら出すだろうが、それは経理部が1番避けたい事である。

 が、そんな事は知った事ではないと言わんばかりに、壁抜きを行い続けていた。

 

「バルディシュ」

<了解――プラズマスマッシャー>

 

 爆発開通。大穴空けて、新たなる道を開拓していく。

 そして、爆煙を払いながら、辺りを見渡す。

 

「時空管理局です! 救助に来ました! 誰かいませんか!?」

「こっ、こっちです!!」

 

 声がする方――左を向くと、そこに簡易バリアに守られた3人の男女がいた。

 

「大丈夫ですか!? 今、強力なのを」

 

 フェイトは、3人の男女に駆け寄りながら、バルディシュを向ける。

 すると、バルデッシュはカードリッジを1つ吐き出し、魔法を発動する。

 

<ディフェンサープラス>

 

 今張られていたバリアより、大きくて強力なモノを張る。

 

「大丈夫ですか、おケガは?」

 

 片膝を付きながら、相手と同じ目線に合わせる。

 

「はぁ、はぁ……こ、これを張ってくれた、魔導師の女の子が――」

 

 と、言いつつ、フェイトの後方を指差す。それを、顔を向けて確認する。

 

「妹を探しに、アッチヘ」

 

 そこで、一旦目を瞑り、再び開きながら振り向く。

 

「判りました、皆さんを安全な場所まで連れて行った、すぐ――」

 

 フェイトの後方が爆発。慌てて振り向くと、地球の忍者という衣装のゲームで出てきそうな服装のクノイチが、機械兵器と交戦していた。

 ちなみに、髪の色は青でショートカット風の首の高さ辺りで纏めた髪型。長さは腰の辺りまであり、服の色は水色をベースに黒が所々ある服である、エロチックな感じの服である。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 機械兵器の射撃攻撃をかわし――刀を一振り。そのままクノイチは通り過ぎ、足でブレーキを掛け、止める。

 機械兵器にダメージはなく、外したとフェイトと3人の男女は悟る。が、その考えを大いに裏切る光景が広がる。

 機械兵器が振り返った瞬間、上下半分に別れ、上だけ振り返るという摩訶不思議な光景が生み出される。

 そして、機械はショートして爆発。

 まさに、神業というべき行いを目の当たりにするフェイトだったが、首に巻かれたマフラーのロゴを見て、硬直する。

 そこには『ラギュナス』と、ミッドチルダ語で書かれていたからである。

 そして、フェイトたちの方を振り向いた。

 

「管理局員が固まってどうするの?」

 

 呆れ口調で言われ、フェイトはハッと我に返る。それから、思考をフル回転させる。

 何が正しくて、何が間違いで。

 何が優先で、何が後回しで。

 

「その人たちは、私が運ぶから。貴女は別の人を――……当然の反応ね」

 

 近づいてきたクノイチに、バルディシュを突きつけるフェイト。

 

「当たり前です。ラギュナスは、例外なく――と、言いたいですが」

 

 そう言い、バルディシュを下げ、立ち上がる。これが、今が正しい答えだと信じて。

 

「奥に行った女の子を救出してきますので、この人たちをお願いできますか?」

 

 その言葉に、苦笑するクノイチ。

 

「当たり前じゃない。まぁ、魔導師でない私には、1度に3人も運ぶのは難しいけど……」

 

 クノイチの後方に、いつの間にか2人の男が立っていた。

 

「3人に対して、3人。これなら問題ないわ」

「……――では、お願いします」

 

 呆気に取られたフェイトだったが、思考を素早く再起動させ、クノイチと男2人の横を通り過ぎていく。

 クノイチも、その後を追うように見て、フェイトの後姿を捉える。

 組織よりも感情を選び、尊重すべきモノを見据えた彼女を。

 この狂った――我々ラギュナスが狂わせてしまった世界では、絶滅危惧種に近い存在の人間。

 昔は当たり前でも、今は非難される考え。

 こんな世界に、未だ彼女の様な人間が、まだ何人いるのかは判らない。それでも、時空管理局に所属しつつも、今の世界の考えに逆らう行いが出来る人間がいて、嬉しく思うクノイチ。

 彼女なら、世界を変える存在の1人になるのだろうと、核心を持てた。

 

「じゃ、この人たちを外へ連れ出すわよ」

 

 それだけ言って、男女3人をそれぞれ1人ずつ抱え、走り出す。

 クノイチの名前は――九帖 明菜(くじょう あきな)。

 時空管理局に、まだ発見されていない世界の住人であり、フェイトたちと2度と出会う事が無い。

 理由はいくつもあり、その中に未来の事も含まれるからであり。

 その中で、今上げられるのは、彼女はラギュナスの特殊極秘部隊の1人である。

 特殊極秘部隊は、ラギュナスの戦闘員および非戦闘員関係無く構成された部隊で、ラギュナスの中でも極秘扱いと成っている。

 また、特定の人間――最高権力者である長が該当しない時もある。つまり、もっとも信用できた人間しか知らない部隊である。

 裏を返せば、入りたての下っ端が知る事ができ、トップ辺りにいる人間が知らされない場合もある。

 その基準は、特別極秘部隊の5分の4以上の人間の信用を得なければならない。

 つまり、ラギュナス全体に信用が行き届いている人間でなければ、一生知る事ができない部隊なのである。

 明菜は、救助者を背負って、燃え盛る通路を駆け抜けていく。それは、自分が進むべき未来の道の様にも見えた。燃え盛る炎の道――燃える様な熱い人生なのか、業火の様な地獄の人生なのか、それを知る為に駆け抜ける。

 そう思いを馳せながら、自分の今成すべき事を成す。

 ただ、それだけで満足なのだから。

 そして、フェイトは魔導師の女の子が、進んで行った言われる道を突き進んでいた。

 魔法でホバーリングして進めばいいと思うが、魔力は無限にある訳ではないので、体力があれば走って節約すべきである。

 時折、横から爆発があるが、バリアジャケットだけで防げる威力なので、舞う爆煙を振り払いながら怯まず進む。

 走り続けると、通路の出入り口が見える。そこを潜ると、大きな直角型の螺旋の非常もしくは作業用階段に出る。

 手摺りから少し身を乗り出して、下の階を見渡す。すると、フェイトがいる階から2つ右下に、青く長い髪にリボンがポイントの女の子がいた。手摺りを伝って、四つん這いで前進しているのが目に入る。

 

「……ル……た……」

「そこの女の子!!」

 

 すると、女の子はその場で止まり、フェイトの方を振り向く。

 

「今助けるから、そこでじっとしていて!!」

 

 言い終わった瞬間、空港全体が揺れるほどの爆発が起こる。

 その振動の影響で、女の子がいた場所に亀裂が入り――次の瞬間、女の子がいた場所が崩れた。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「あっ!!」

 

 女の子が瓦礫と共に落ちていく中、フェイトは手摺りを乗り越え、十八番の魔法を初度させる。

 

<ソニックムーブ>

「きゃあぁぁぁぁぁぁ――」

 

 女の子の悲鳴は途切れ、瓦礫は派手な音を出しながら、地面と激突する。

 女の子は目を瞑っている。

 史を覚悟せざる、終えなかった状況下で、死の風に吹かれていた。が、今は暖かく包まれた感覚にいる。

 さらに、下に下がるのではなく、上に上がる感覚が当たる。

 先ほどとは間逆の感覚であるが、死んだとう感覚でない事は何と無く判った。

 女の子は恐る恐る目を開けると、そこに黒い服が目に入り、目線をそのまま上に持っていく。

 

「遅くなってご免ね。ケガは無い?」

 

 フェイトは、優しく声を掛ける。執務官としての能力ではなく、自分自身の持ち味で話す。

 

「はっ、はい、大丈夫です」

 

 緊張気味で答える女の子。

 フェイトは、少しだけ周りを見てから、その場を離脱するように上昇する。

 そして、ある程度進んでから少女に尋ねる。

 

「妹さんの名前は?」

 

 その言葉に、少女はハッと顔を上げる。

 

「ぁ、ぁの……」

「どっちに行ったか判る?」

「あの、エントランスホールの方ではぐれてしまって。名前は、スバル・ナカジマ、11歳です」

 

 的確な答えに、少し驚くフェイト。

 すると、横に通信が繋がり、空間モニターが展開する。

 

≪こちら通信本部。スバル・ナカジマ、11歳の女の子≫

 

 空間モニターに、なのはに抱えられたスバルの姿が映し出される。

 

≪すでに救出されています。救出者は、高町教導官です。ケガもありません≫

 

 それだけ言って、通信と空間モニターが消える。

 それを聞いて、女の子は涙目になる。

 

「スバル……無事でよかった」

「了解。こっちは、お姉さんを保護。お名前は」

 

 そう言いながら、女の子に顔を向けるフェイト。

 女の子も、フェイトの方に顔を向ける。

 

「ギンガ、ギンガ・ナカジマ。陸士候補生、13歳です」

 

 女の子――ギンガは、そう答える。

 その答えを聞いて、少し加速する。

 

「候補生か……未来の同僚だね」

「きょ、恐縮です」

 

 それだけ言って、フェイトは更なる加速を掛ける。

 それで、外――リインフォースⅡの方では、ゲンヤをサポートしていた。

 

「補給は?」

 

 と、リインフォースⅡに尋ねるゲンヤ。

 

「はい、あと15分で液体補給車が10台到着予定です。あと、航空隊も2時間以内に主力部隊が到着だそうです」

 

 その言葉に、驚くゲンヤ。いくらなんでも、遅すぎるからである。

 

「おせぇじゃねぇか!? 連中は何をやっているんだ!?」

「それが、機械兵器が出現した様で、そちらにも態様に追われているそうです」

「くそぉ、こんな時に……要救助者は?」

「現在……12人です。魔導師さんたちの頑張りもあるのですが……」

 

 そこで、言葉が詰まるリインフォースⅡ。今の状況を、どう説明すれば良いのか、悩んでいるのである。

 

「どうしたんだ?」

「それが、やはりなのですが……」

 

 次の言葉に、ゲンヤは大いに驚くことになる。

 

「どうやら、ラギュナスが救助を手伝っているらしくて」

「本当にラギュナスなのか!?」

 

 体ごとリインフォースⅡに向ける。

 ラギュナスの一般人の認識は――残忍で冷徹、目的の為なら何でもする集団。っと、時空管理局のプロパガンダと刷り込みでなっている。

 実際、それに近い事はするも、きちんと一線は保っている。だが、その一線を越える者がいれば、容赦無く断罪している。

 簡単に言えば、紙一重状態であるが、時空管理局も似た様なものである。ただ、それが隠蔽・改ざん・誤認情報による情報操作によって、時空管理局は完全な白と主張しているだけなのである。

 

「ったく、どうなってるんだ、今回の件は!?」

 

 頭を掻き毟りながら、空間モニターに視線を戻すゲンヤ。

 リインフォースⅡも同じ気持ちだったが、主の気持ちを考えると、ラギュナスは完全な敵でしかないのだから。

 その主である八神はやては、火災現場上空にて、魔法詠唱を行っていた。

 

「ほの白き雪の王」

 

 世界に響くような声を、高らかに上げる。

 

「銀の翼もて」

 

 夜天の王たる威厳を放ち、王だけが持つ事を許された魔道書『夜天の書』の呪文を読み上げていく。

 

「眼下の大地を、白銀に染めよ」

 

 その瞬間、はやての少し上辺りの四方に、青白いキューブが4つ出現する。

 はやてがいる所から下にいる――彼らもまた宙にいる――局員2名が、下の炎上している建物内をスキャンしている。

 

「スキャン完了! 八神二尉、お願いします!」

 

 同じバリアジャケットを着ている片割れが、はやてに声を掛ける。

 ちなみに、声を掛けた方が髪の毛が黒く、もう1人は髪の毛が水色である。

 

「アーテム・デズ・アイゼス!!」

 

 呪文を言いながら杖を振り下ろすと、4つの青白いキューブは、炎上する建物目掛けて着弾していく。

 すると、その着弾視点から氷が広がり、次々と炎を掻き消していく。

 後々思ったが、この方法だとバックドラフトが発生する可能性があったかもしれないが。広域タイプだったので、隅々まで氷付けになったので問題は無かったりする。

 

「すげぇ……これが、オーバーSランクの力なのか」

「ああ、話じゃ制御が多少下手だと利いてはいたが……全然上手いじゃないか」

 

 そう、眼下に広がる光景を見ながら、ぼやく黒い髪と青い髪の局員たち。

 昔のはやてなら、確かに多少の巻き添えはあっただろう。

 だが、この程度の制御がリインフォースⅡ無しで出来なければ、ラギュナスには勝てない。

 たった2ヶ月で、制御を完璧にしたのである。

 大切な家族を奪われたと未だに信じている心が、はやてを駆り立て、強くしていく。皮肉と言うべきなのかは、まだ何とも言えない。

 ただ、今は力と権力が必要なのだと考えている。その為には、より功績が求められてくる。

 

「次の消火可能ブロックはどこや!?」

「はっ、はい! ただいま捜索します!」

 

 はやてに怒鳴られた2人の局員は、大慌てで二手に分かれて捜索を開始する。

 が、そこで全体通信が入る。

 

≪――こちら、航空魔導師隊!≫

 

 その瞬間、はやての表情は喜びに変わるも、内心で舌打ちをする。

 救援はありがたいが、功績の大半を持っていかれるのが気に食わないからである。

 

≪遅れてすまない! 現地の局員と臨時の魔導師に感謝する! あとはこちらが受け持つ!≫

「了解しました! 引き続き、支援を行います」

≪――っ……判った。引き続き頼む≫

 

 ほんの僅かだったが、舌打ちした様な音が聞こえた。どうやら、相手もこちらに手柄を持っていかれるのが気に入らないようである。

 が、最後ら辺に来て、美味しい所だけ持って行かせない。

 

「はい!」

 

 そう返事して、消火活動を再開する。

 空港火災は、沈下の一途をたどる事となるが、ラギュナスと謎の機動兵器の動向が気に掛かるはやてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第四話

魔法の手

 

END

 

 

 

次回予告

 

4年前の空港火災の翌日に、はやてのある思いが固まる。

その思いに集う事を約束する、なのはとフェイト。

そして、ラギュナスは、謎の機械兵器についての調査を、逸早く始める。

再び戻っては、スバルの処遇と試験の結果が通達される。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第五話:強制徴収

 

 

 

上の命令は絶対であり、逆らってはいけない。




あとがき
 何か、長くなっています。(汗
 しかも、まだ2話目の前半部分であり、今こちらは4話目。
 まだ、2話目の後半があるのに……まだ、話は長くなります。(汗
 ちなみに、アンケート(2008/5/4現在)は未だに続いていますが、そこで現実世界とクロスという声が僅かにありました。
 が、それはアニメの5話目、こちらの予定は立っていますが、話数がずれるのが目に見えているので未定にしておいて下さい。
 とにかく、そこ――まで、お楽しみに。(ここまで書いておけば、察しがついてしまいますが、どうなるかはお楽しみに!)






制作開始:2008/4/18~2008/5/4

打ち込み日:2008/5/4
公開日:2008/5/4

修正日:
変更日:2008/10/29


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第五話:強制徴収

『過去』から『今』に続き、『今』から『未来』へ。
 過去があってこそ今があり、今があってこそ未来がある。
 希望を胸に抱き、輝かしい未来があると信じて、人は進む。
 たとえそれが、ただの謳い文句だとしても。
 それを信じて、人は進んでしまい……何かが起きてから、人は後悔する。


 

 ミッドの臨海地区の爆発火災の翌日。

 現場の火災はすでに沈下し、航空魔導師が原因を調査している。ニュースでも、航空魔導師が解決したという解釈で話しているので、近隣部隊に調査を任せるわけにはいかないのである。

 ここまで来ると、建前というものがある。

 近隣部隊などは、通行規制や野次馬の誘導に辺り、少数の部隊が調査の手伝いを行っている。

 そして、今回の要となった3人のエースたちは、なのはとフェイトが泊まっているホテルにいた。

 15という歳でありながら、発育の良い体つきの3人は制服姿のまま、楽な状態で寝ていた。

 余は、ブラウスのボタンは全て外してあるは、スカートは脱ぎ捨ててあるわなどの無防備状態である。

 男ならルパンダイブしたくなる状況かもしれないが、後が怖い……いや、死が確定なので誰も行わないだろう。一時の快楽の為に死ねるのは、本物の馬鹿だけだろう。

 そんな部屋に、ニュースの報道が流れ、それを聞いていたはやてが呟く。

 

「あかんなぁ」

「何が駄目なの、はやてちゃん」

 

 そう言って、なのはが少しだけ体を起こす。

 

「頑張ったのは、近隣部隊と救助隊、それに私たち3人やないか」

 

 はやては、不機嫌な顔で先ほどのニュース内容の不満を口にする。

 

「にゃははぁ。要救助者が無事なら、私はそれで良いよ」

 

 はのはは、そう言って再びベッドに体を沈める。

 

「せやけど、遅れてきて美味しい所を持っていく。って、いうスタンスが気にくわないんよ」

「……ふぁん……はやて、どうしたの?」

 

 フェイトは、欠伸をしながら体を完全に起こし、少し眠気がある状態で目を擦りながら言う。

 そして、リインフォースⅡも起きる。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん……私――」

 

 はやては、真面目な顔つきで、なのはとフェイトに自分の夢を話す。そして、今の初動といい、現在の管理局の体制に不満を上げる。

 それで、新たな部隊を設立した際、なのはとフェイトにも参加して欲しいと述べる。

 なのはとフェイトは、当たり前の様に参加する事を、はやてに伝える。

 これにより、4年後――現在の部隊に集結する。

 なのはたちが結束を再確認している頃、救助活動を行っていたラギュナスは、近くの首都内にある高層ビル群の屋上にいた。

 

「ふぅ~」

 

 と、メンバーの1人が、缶コーヒーを口から話す際、洩らした言葉。

 

「あっ。お前、それいつ買ったんだ?」

 

 バリアジャケットが煤だらけの、スキンヘッドのズラを被った男――ヘッドピカリン、本名は、青木 挂(あおき かける)に声を掛ける、クッダ。

 

「うんゃ? 空港にあった自動販売機で」

「あの火災の中で買ったのか!?」

「ああ。動いている自動販売機があったから、つい」

 

 あの火災の中でジュースを買うのは、神経が図太過ぎるのか、いかれた神経の持ち主のどちらかだと思われる。

 

「ついじゃねーよ!? 長! こいつになにか言ってやって――」

 

 と、長の方に振り向くが、似たような光景があった。

 

「――ふぅ、この茶は?」

 

 水筒の蓋でお茶を味わう時覇。

 注ぐ役を明菜が、とても幸せそうに行っている。

 

「はい。シグナム様が、ご自分でお入れになったお茶です。葉は、華紅埜(かぐや)です」

「華紅埜? たしか産地は……」

「はい、私が凱螺(がいら)の葉国(はこく)から取り寄せたモノです」

 

 時空管理局未確認世界・凱螺。

 世界全体が、日本の平安時代と中国の三国時代が交じり合った世界である。

 その世界は、2つの大陸があり、『凱』と『螺』と呼ばれている。さらに、凱に2つ――世界一の大国・華国(かこく)と、世界一の諸国・牙国(がこく)がある。

 一方、螺に均等に4つに判れ、輝国(てこく)、癒国(ゆこく)、葉国(はこく)、砦国(ぜこく)がある。

 華国は、全てにおいて均等の国である事が特徴。牙国は、諸国ながら武力において世界一を誇り、華国すら制圧する力を持つ。輝国は、世界の教団国として認められている。癒国は、文字通り癒しに長けた国で、精神の疲れから欲求の不満まで解消する事ができる。葉国は、茶の生産国であり、もっとも上手い茶を作れる。砦国は、世界の建築物の見本となっていている。

 大雑把に表すと、上記の様な説明となる。

 なを、この世界は、数年前まで世界戦争を起こしていた。しかも、その原因は第7勢力の存在があったのである。

 それに気が付いたのは、偶然補給に立ち寄ったラギュナスであった。

 しかも、その時に時覇とシグナムがいて、メンバーと共に戦乱の解決に乗り出したのである。

 その際、葉国と砦国の間にある渓谷に忍びの隠れ里を発見するも、里の全てが謎の病に侵されていたのである。

 見てみぬフリは、後味が悪いと万一致で、魔法で調査・治療を行った。

 その時に、第7勢力の存在・世覇(せは)と名乗る集団がやった事を掴む。

 そして、里は恩を返す為に九帖明菜が仲間になり、世覇を追い続けることになる。

 で、世覇を壊滅することができ、その功績としてラギュナスは第7の国としての権利を得たのである。

 これはこれで、嬉しい誤算であるが、特に進言するつもりも無いので、全ての国に店を構えるだけに留めた。

 今では、世界一の商業店舗になっているほどである。

 話題休題。

 その葉国は、世界で始めてお茶の葉を生産した国ゆえに、500年前に採取し、乾燥させたお茶の葉が存在する。

 しかも、モノがモノだけに、年々量も減る一方と年数が重ねられるので、値段が高騰の一途を辿っている。かつ、選ばれた者のみ購入が許されていない。

 名を『華紅埜』といい、1グラムを日本円にして、100億は下らない代物と化している。

 お茶に必要な最低グラム数は人それぞれだが、基本的に150CCの給水に対して、お茶の葉は8グラムが目安らしい。

 つまり、一杯のお茶で800億円という破格の値段。

 それが、水筒1本分――2リットルも入るモノになると、約266グラムとなる。つまり、金額は約2兆6600億円となる。

 先ほど説明した通り、人により量にバラつきがある。つまり、これより多く入っている可能性もあれば、少ない場合もある。

 だが、一度でも水または湯に浸してしまうと量が判別出来ない為、正確な金額を弾き出す事は不可能である。

 

「……いくらだ?」

 

 大雑把な金額を弾き出した結果、大いに口を引き攣らせながら尋ねる。

 

「はい、今回は凱螺からの贈り物として頂いた品物です。特に気にする事はありません」

 

 時覇の持つ蓋に、少しだけお茶を継ぎ足しながら答える明菜。

 その言葉に、時覇は安心して、再び口を付ける。

 

「……ふぅ、贈り物か」

 

 蓋を、顔より少し高めに上げて眺める。明菜は、時覇の横顔を眺める。

 

「何で返そうかな」

 

 何ともほのぼのした雰囲気が漂う。

 明菜は、時覇に淡い想いを抱いているが、シグナムという紅の女神が付いている事を踏まえ、お使えするだけに留まっている。彼女にとって、そばにいられるだけで幸せなのである。

 が、明菜にとって、空気が読めない存在が現れる。

 

「長! 暢気に茶なんか飲んでないでください!」

 

 クッダは、怒鳴りつつ長に迫る。だが、その間に明菜が立ち塞がる。

 その瞬間、その2人の空気が変わった。

 

「…………メス豚はどけ」

 

 ドスの利いた声で言うタッグに対して、明菜は無言のまま。言い返す気配すらない。

 この2人は、顔を合わせれば睨み合いを行うくらい、犬猿の仲の如く仲が悪い。

 一昔は、顔を合わせるなり――

 

「よう、緩々マ○コ豚」

「あら、御機嫌よう――汚物塗れのち○ぽ野郎」

 

――という会話が、普通に飛び交っていたくらいである。

 管理局に保護を回す訳には行かず、こちらに保護した子どもなどがいるので、衛生上良くないと改善に踏み切ったのである。

 結果的に、今の睨み合いまでに収まっているが、時折訓練所を占拠してはバトルしている。しかも、罵声を浴びせ合いながら。

 防音設備は万全だが、結界が壊れてしまえば意味も無くなる。

 この防音設備だけでも、1000万クラスする代物ながら、この2人の喧嘩で3回も壊している。

 このままだと、教育所か、組織全体に影響を及ぼしかねないと、長を筆頭に特別風紀部隊を設立。特別更生プログラムを受けさせたのであった。

 現在は、組織ラギュナス第6部隊・内外部調査風紀隊として、名残を残している。

 

「やめんか、2人とも。茶が不味くなる」

「申し訳ありませんでした」

 

 時覇の言葉に、素直に謝る明菜に対し、タッグは不服そうな顔をする。

 

「今は待て」

 

 2人を見る事無く、言葉を投げかける。だが、その言葉は重く感じた。

 

「…………了解」

 

 言葉の重みを感じ取り、渋々下がるタッグ。長には長の考えがあるのだと判っているが、今1つ掴めない苛立ちを覚える。

 

「明菜、タッグに」

「…………」

 

 無言で作業を行う明菜。

 

「盛るなよ。あと、皆にも頼む」

 

 タッグに渡す予定の湯飲みに、白い粉を入れようとしていたが、時覇の言葉に止まる。仕方が無いと言わんばかりに、普通に入れて渡す。

 タッグは、明菜の頭に渡されたお茶を掛けようとしていたが、入れるのを辞めた事に免じて素直に飲む。

 他のメンバーも、明菜からお茶を渡されて、次々に飲んでいく。

 時覇がお茶を飲み終わった瞬間、目の前に空間モニターが展開される。

 

≪長、時覇様≫

 

 ラ定会で司会を行っていた、時空管理局・提督クラスの女性――リュクナイア・ブリューグザスが映し出される。

 近年は時空管理局の方が忙しいので、司会は別の娘にバトンを渡している。

 ひと段落が着けば、返還して貰うつもりでいるらしいが、多分無理だろうと自分でも悟っている。

 

「出たか?」

≪はい。やはり、原因はレリックだと判明しましたが……機械兵器なのですが≫

 

 そこで、リュクナイアは言葉を切るも、そのまま言う。

 

≪ジェイル・スカルエッティに確認した所、本人が開発した試作型起動兵器の同系機と確認しました≫

 

 その言葉に、時覇は手を顎に当てる。

 

「AMF……ガジェットドローンだったか?」

≪仮名ですが、その通りです≫

 

 AMF――アンチ・マギリング・フィールドの略で、魔法結合を無効化にする事が出来る代物である。が、発生後の効果――雷や石などの自然、物理を無効化にする事はできない。

 新暦71年辺りまでなら、運用できたかもしれないが、今は無意味に等しい兵器。

 現在の管理局は、確かに未だ魔力主体であるが、質量兵器が開発・保有が認められている今となっては意味がないからである。

 ただ、この時点――新暦71年4月時点では、まだ考案改正2ヶ月前なので、まだ有効性が認められる物だった。

 

「ったく、2ヵ月後に法案改正で、管理局が質量兵器を保有するようになる事を知らん連中だな」

 

≪なっ、何で知っているのですか!?≫

 

 時覇の言葉に、リュクナイアは驚愕する。まだ報告はしていないモノであり、今日――正確には、昨日知りえたばかりの情報である。

 

「あぁ、大分前から、それらしい動きがあると聞いて、な。だから、ジェイルの兵器を採用しなかった理由でもある」

 

 あの時、ジェイルから提案書とプロトタイプを見せられてが、丁度ドゥーエから内偵報告を受けたのである。

 お陰で、ジェイルは自ら提案書とプロトタイプを破棄、AMFだけがラギュナスに残ったのである。ちなみに、半泣きで提案書を破り、地面に叩きつけたジェイルの姿は、とても珍しかった。

 なを、場所が長の間――代々受け継がれた長の部屋だったので、後片付けは本人にやらせたが。

 だが、ここで疑問が残る。

 今回の空港火災で戦闘した機械兵器は、ジェイルが開発した代物である。AMFはともかく、プロトタイプは一部の者以外、知らないはずである。

 設計図は、ジェイルが提案書と共に破り捨てている。つまり、同系機はこの世に存在しないはずである。

 外見は、データや写真さえあれば、いくらでも復元が可能であるが、中の機能までは再現できない。

 つまり、どうやって設計図すら存在しない兵器を生み出したのか。

 

「リュクナイア」

 

 考えれば考えるほど思いつくので、リュクナイア声を掛ける。

 

≪はい≫

「調査を、頼む」

 

 そう言いながら、右の中指で右頬を2回掻きながら伝える。

 

≪――早急に≫

 

 そこで空間モニターは消え、通信が終了すると同時に、時覇は立ち上がる。

 

「さて、撤収しますか」

 

 尻についた埃を払いながら言う。

 その言葉に、各メンバーが立ち上がり始める。ゴミはきちんと持ち帰るので、各自で出だしたゴミは、各自で持つ。

 少し騒がしくなるが、特に気にしないで、空港火災現場を見る時覇。

 そして、一言呟く。

 

「……荒れるな、確実に」

 

 そう言って、ラギュナスの長を含めたメンバーたちは、本部へ戻っていた。

 これが、4年前に起きた空港火災の出来事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話:強制徴収

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は戻り、新暦75年の現在。

 廃墟の試験から近くにある陸士部隊の隊舎のロビーの一角。スバルとテーブルを挟んで、その反対にフェイト、はやて、リインフォースⅡが座いる。

 廃墟の試験から近くにある陸士部隊の隊舎のロビーの一角。スバルとテーブルを挟んで、その反対にフェイト、はやて、リインフォースⅡが座いる。

 入り口付近に武装した陸戦魔導師が2名。さらに、ロビーの大きなガラス張りの窓の下付近では、多数の武装局員が待機。

 静かなのは当たり前なのだが、空気が相当重い。

 その様子を、大分離れた海の上から見ている時覇と、キーパネルを操作するクワットロ。

 合格の雰囲気ではないと悟り、後を付けてきたのである。ただ、ディエチは先に帰ってもらっている。渋っていたが、空を飛べないと足手まといでしかないからと、早めにデータの解析をして貰いたいからである。

 

「クワットロ、状況は?」

「少々お待ちを――っと、出ました」

 

 空間モニターに表示された報告書を、クワットロは時覇に回す。それを手早く読んだ時覇は、頭を抱えた。

 

「まさか……最後のアレはマジック・フィンガーだったのか」

 

 マジック・フィンガーとは、時覇のオリジナル魔法でもあり、ドゥシン’sの能力を最大限に引き出すことが出来る魔法である。

 先の説明通り、ドゥシン’sの能力を最大限に引く出すことを前提に開発したので、汎用性に欠けている。あと、構築された方法がサイガ式であるので、ミッド式やベルカ式に書き換えるのが面倒なのである。

 故に、部隊でも、長であり開発者でもある時覇以外、誰も使っていないのである。

 それが、他の人間――ラギュナスを目の敵にしている組織の人間が使ったのである。話がややこしくなるのは、火を見るよりも明らかであった。

 

「ともかく、ここから監視を続けるぞ、クワットロ」

「了解ですぅ~、愛しの長様♪」

 

 時覇の言葉に、上機嫌で答えるクワットロ。しかし、時覇は突っ込みを入れた。

 

「今の言葉」

「はい?」

 

 一呼吸。

 

「シグナムの前では言うなよ? 血の雨は見たくない」

「…………以後、気をつけます」

 

 冷や汗を流す時覇と、滝の様に汗を流しつつも、作業を止めないクワットロの会話であった。

 そして、スバルは俯いたまま、その場で固まったまま。フェイトはスバルを見ながら、魔力サーチで周囲を警戒。はやても、念話で定期的に陸戦魔導師たちと、連絡を取り合っている。

 

(フェイトちゃん、様子は?)

 

 不意に、はやてからフェイトに念話を繋げる。

 

(うん、今の所は何も。なのはは来るにしても、ティアナって子が来れないかも)

(あ~、確かに。足に穴が開いたからね、できればまとめて聞きたかったんやけど……流石に無理かな)

 

 と、念話で話し合う2人。なを、ここに座ってから1時間近く経とうとしている。

 不意に、廊下の方が僅かに騒がしくなる。

 

「フェイトちゃん、アタシが見てくるよ」

 

 と、はやてが立ち上がろうとすると、斜め後ろから声が上がる。

 

「いえ、はやてちゃん。私が行ってくるです」

 

 そう言って、廊下の方へ飛び立つリインフォースⅡだったが、男女が現れる。

 

「スバル!!」

 

 そう言って、長髪の女性がスバルに近づく――が、すぐに足を止める。

 理由は、待機状態で宙に浮くプラズマランサーが、向けられていたからである。

 男性も、同じく向けられているので、その場から動いていない。

 

「あれ? ナカジマ三佐じゃないですか、どなんしたのですか?」

 

 はやては、陸士の服を着た男性が、師匠であるゲンヤ・ナカジマだと認識する。

 

「って、事は……こっちの娘さんは、ギンガ・ナカジマ?」

 

 はやての言葉に、フェイトは陸士の服を着た女性が、4年前に助けた少女である事を思い出す。

 

 面影が、それなりにあったので、すんなりと名前を出すことが出来た。

 

「はっ、はい! 家の妹がスパイ容疑で逮捕されたと聞いて」

「娘と一緒に、お前さんらがいる場所を締め出して、乗り込んできた訳だ」

 

 ギンガの言葉はともかく、ゲンヤの一部の言葉に突っ込みたくなるも、あえてスルーする。

 

「あの、フェイト執務官」

「ギンガ陸曹、何か?」

「スバルと話が――」

「それは認められへんよ」

 

 ギンガの言葉を、はやてが断ち切る。

 

「理由をお答えください」

 

 怒りのオーラが見え隠れするギンガに、はやては答える。

 

「犯罪組織・ラギュナスの関係者と断定された人物は、たとえどんな権限があっても、無効化されるんや」

 

 なを、新暦72年に改正された新時空管理局法で――ラギュナスと関わりのある存在と判断された場合、無関係と言える証拠か行動が求められる。

 しかも、判断されている最中は、第三者とは接触すら許されていないのである。

 よって、家族との面会は出来ない。それは、権力や金を持ってしても成しえる事は、叶わない。破れば、有罪無罪関係無く、第特級犯罪者というレッテルを貼られ、処刑が行われる。

 

「だから言っただろう、ギンガ」

 

 後ろから、ゲンヤの声が掛かる。

 

「法案改正で駄目だって言ったんだが……まったく聞きやしねぇんだよ」

 

 後頭部掻きながら、ゲンヤが簡単な説明をする。

 

「妥当な感情、ではあるんやけど……」

 

 ゲンヤの言葉に、はやてが目を瞑りながら考えるも、答えは1つしか用意されていなかった。

 

「……こればかりは、どうしようもないんよ」

 

 残酷な一言。

 どんなに望んでも、ラギュナスとは無関係である事を証明しない限り、蚊帳の外なのである。

 

「せやけどな、すぐに身の潔白が証明できる方法があるんよ――スバル・ナカジマ二等陸士」

「っ……はい」

 

 はやての問い掛けに、体を一瞬だけビクつかせるも、少し間を置いてから返事をするスバル。

 ゲンヤとギンガも、はやての声に耳を済ませる。身の潔白の方法など、おいそれと見つかる訳ではない。なのに、あっさりそれを提示しているのだから、気になる。

 

「本当は、試験の結果によって、決めるんやったんだけどな。こんなことになってもうたし」

 

 と、スバルの顔を見て言う。

 

「で、話は簡単や。私が設立する部隊――対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課に入る事。これが、今現在考えられる中で、もっとも簡単に身の潔白を開かせる方法や」

 

 はやては、人差し指を立てながら、スバルに言い聞かせる様に言う。

 

「対ラギュナス迎撃専用」

「特別特殊部隊」

「機動六課、だと?」

 

 順に、スバル、ギンガ、ゲンヤで声が上がる。

 

「まぁ、一言で表せば、ラギュナスを積極的に捕まえていく部隊やけど、詳しく説明すると――」

 

 対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課。

 文字通り、犯罪組織ラギュナスを壊滅させるために設立された組織である。

 かの地上本部からの支援を受け――まず始めにミッドチルダに潜伏しているメンバーや、出入り口に使っている場所の確保、または破壊する事である。

 時折ではあるが、ロストロギア関係の事件・事故にも出る予定となっている。

 それが大体済み次第、別の部隊を設立し、他の次元世界へ配備。ネズミ算の如く、確実に1つ1つ片付けている。

 ただこの計画は、試験運用の結果次第での予定なので、まずはミッドチルダでの活躍がどこまで良くかが鍵である。

 

「――っと、言う訳や」

 

 所々に脚色はあったものの、勧誘説明には問題は無い。あとは、本人の意思次第なのだが、今回はそうは行かない。

 身の潔白の証明こそ、今の最大の焦点である。

 

「な訳で、スバル・ナカジマ二等陸士」

「はっ、はい」

「悪いんやけど、機動六課に強制転属してもらうからな」

 

 強制転属――本人の意思を無視した権限であり、組織特有の権限でもある。

 だが、納得できない人物が2人――スバルの家族である、姉のギンガと父親のゲンヤである。

 が、はやてが手を出して、ストップを掛ける。

 これしか、早期解決の手段と方法が無い。と、その手から感じ取れるほどの圧力を放っていた。

 それを感じ取ったのか、ギンガとゲンヤは止まる。そして、ゲンヤが口を開く。

 

「……命の」

「 ん? 」

 

 はやてが反応する。

 

「命の保障は……」

「…………正直、低いともらってええ。ラギュナスが相手やから」

 

 はやての言葉に、ゲンヤは肩を落とす。

 ラギュナス相手では、旧ベテランです対抗するのが難しかったのである。なを、旧ベテランは現場経験8年以上の者を指し、今のベテランは現場経験3年以上の者を指す。

 ちなみに、振り分けられるようになった時期は、新暦73年辺りから自然に生まれた言葉である。

 もちろん、ラギュナスとの激戦で、ベテランの再起不能や死亡した事が上げられる。

 

「どちらにしろ、このままだとスバルは――」

「第特級犯罪者専用の独房入りです」

 

 ゲンヤの予想通り答えが、目を瞑りながら答えたはやて。あまり、嬉しくない当たりである。

 

「判ったよ――っ……ギンガ」

 

 一瞬だけスバルを見て声を出そうとするも、すぐに口を閉じてギンガに声を掛ける。

 

「何、父さん?」

「今日は、もう帰るぞ」

「…………判り、ました」

 

 ギンガはそれだけ言って、スバルを少しだけ見て振り返り、ゲンヤと一緒にロビーを出て行った。

 スバルは、2人に声を掛けようとしたが、口を噤んだ。はやての言葉を、思い出したからである。

 強制徴収――辞令でも、ある程度は拒否を認められている時空管理局だが、その拒否権を無効にする行い。

 スバル自身に断る権限は、もう存在しない。

 あるのは――今を受け止める事。ただそれだけ。それだけなのだが、1つなることがあった。

 

「あの、八神二佐」

「何か?」

「っ……ティアナは……その――」

「フェイトちゃん、はやてちゃん」

 

 その言葉に、フェイト、はやて、スバルが顔を向ける。そこには、バインダーを持ったなのはと、松葉杖を持ったティアナの姿があった。

 そこで、少し時間を戻して、医務室から始まる。

 

「――――――――!!」

 

 医務室から、ティアナの声にならない悲鳴が上がる。

 理由は、穴の開いた足の部分に、ゲル状の物体を無理やり詰め込んだからである。しかも、簡易処理を引っぺがしてから行った。

 

「うむ……あとは、これを巻けば終わりだ」

 

 ここの隊舎の医務長が、文字が刻まれた包帯を巻いていく。

 

「あの、ゲル状の物体といい、包帯といい……何なのですか?」

 

 治療方法が、大雑把かつ知らない医療法が行われていることに、疑問をぶつけるなのは。

 

「む? ああ、ゲル状の物体は、人間の細胞――皮膚、肉、骨、血など、必要な物をゲル状にした物だ。これなら、まず腐る事は無い。あと、今巻いている包帯は、治癒能力を高める魔法を詰め込んでいるだけの物だ。作り方さえ判れば、質は悪いが誰でも作れる」

 

 そう言いながら、手早く包帯を巻き終える。だが、ティアナの顔に脂汗が流れ、声を出したくても出せないでいる。

 

「あっ、あの~、本当に治療なのですか?」

 

 さすがのなのはも、この治療に対して、不安が駆け巡る。

 それは、ティアナの心配ではなく、自分も受ける可能性がある事を視野に入れての事。

 

「うん? 我流だけど治療だよ。まぁ、もの凄い激痛と焼けるような熱さに襲われている事は、確かだな」

 

 ティアナの苦痛に歪む顔を見ながら、うんうんと納得した様な表情で肯くドクター。

 ある意味、タチが悪いヤブ医者だと認識する。

 

「この調子だと、あと数分で完治するが――」

「もう治るのですか!?」

 

 完治速度の速さに、驚くなのは。回復魔法もビックリするほどの早さである。ただ、回復魔法は疲労や軽症程度、重症の応急手当程度にしか使えないが。

 今回のケガは、肉体に穴が開く――骨まで貫いているのである。部類は重症である。にも関らず、治療を含めて15分ほどで終わらせてしまったのである。

 即ち、一言で表すなら『異常』。

 だが、高価な見返りが望める代わりに、それに見合う代価が発生する。

 

「まぁ、リスクと先ほど言った通りだから、荒治療と変わらんな」

 

 それだけ言って、さっさと片づけを始めるドクター。患者の事など、一切気にしてもいないし、見てもいない。

 ヤブ医者、ここに極まる。

 

「じゃあ、なの助」

「なっ、なの助って、クロ助じゃ無いんですから」

 

 ドクター独自に考えたあだ名で、名前を呼ばれるなのは。昔、リーゼロッテとリーゼアリアが、クロノを『クロ助』呼んでいたのである。

 なを、リーゼロッテとリーゼアリアは、グレアム元提督の使い魔であり、クロノの師匠でもあった。

 闇の書事件の際、時空管理局を辞めているのだが、ラギュナスの過激派に殺されて亡くなっている。

 ちなみに、それを行った過激派は、粛清されて半殺しとリンカーコアの損傷を負わせてから、時空管理局に渡してある。今は、どうなっているのかは、不明である。

 ただ、気になる事が1つ――使い魔である、リーゼロッテとリーゼアリアの行方である。

 本来は、使い魔を生成した人物が死亡した場合、使い魔は消滅するのである。ので、その辺は何の疑問が持たれてはいない。

 当時、時空管理局は、グレアムが殺させる前に殺されたのか、身動きだ取れない為に、連絡が出来なかった。と、いう結論に達していた。

 だが、最近になって、リーゼロッテとリーゼアリアに似た人物を見かけたという報告があったのである。

 他人の空似かと思えるが、確かめる必要がある。が、その肝心の人物が捕まらないのである。

 見かけたという報告はちらほらでるが、部隊を派遣しても見つからない。

 悪戯の可能性が大きくなるも、やめることが出来ない理由がある。

 魔法を使用した後に残る魔力残滓の解析結果、リーゼロッテとリーゼアリア本人のモノと一致するのである。

 いくつモノの憶測が飛び交う中、1つだけ面白い推測があった。使い魔の継承、もしくは受諾である。

 使い魔は本来、使い魔を生成した人物の魔力が元になっている。よって、使い魔を継承、あるいは他の人間に譲る事は、理論上不可能となっている。

 故に、謎が謎を呼び、真実が有耶無耶になっていったのである。

 話題休題。

 ドクターは、片づけが終わると、出入り口を向かう。

 そのでなのはは、慌てて呼び止める。

 

「どっ、どこへ行くのですか!?」

「ん? もう済んだから、適当にぶらついて来る」

 

 と、言って、ドアを開けて廊下に出て行く。なのはも、ドアへ向かおうとするが、閉められてしまい、もう一度開けて廊下を見渡す――が、誰もいなかった。

 なのはは肩を落として、医務室に戻る。

 で、ティアナはティアナで、声の無い悲鳴を上げながら激痛と戦っている。

 なのはは、不意に松葉杖の存在を思い出す。いくら治りが早いとは言え、すぐに歩く事は無理だろう。

 思い立ったら、行動あるのみ。医務室を軽く漁ると――薬品や医療道具は当たり前だが、酒、エロスな本、菓子類、武器類などを発見する。

 それらは、今回は見なかった事にして松葉杖を探し、ベッドの下から見つける。

 箱の中に入っており、中身は折りたたみ式のタイプであった。

 組み立ては簡単で、鉄よりも硬く、スチールよりも軽い素材である『リルド』で出来た最新型とも言える松葉杖であった。

 ただ、値が張ってしまうので、余り一般には普及していないので、知られていない代物でもある。

 なのはは、組み立て説明書を見ながら、あっさりと組み上げる。っと、言っても、折り畳まれて物を伸ばしただけであるが。

 それから数分後、やっと落ち着きを取り戻したティアナに、タオルと水を渡す。

 

「あ、ありがとうございます」

「うん、どう致しまして。で、足の方はもう?」

 

 渡しながら、包帯が巻かれた部分を見て尋ねる。

 

「はい、動かすと痛いですが、それ以外は何とも無いです。あ、頂きます」

「どうぞ」

 

 ティアナはそれだけ言い、なのはは軽く肯くのを見てから、水に口をつける。

 

「そうだ、ティアナ」

「ぅん――はっ、はい」

 

 飲んでいる途中だったので、慌てて飲み込んでから返事をするティアナ。

 

「えっとね……今、はやてちゃんたちが、スバルを見張ってい――」

「スバルはどうなるのですか!?」

 

 ティアナの声に、一瞬驚くなのはだったが、すぐに元に戻る。

 

「おっ、落ち着いて、ティアナ。今、状況を説明するから」

 

 そう言って、今の状況を説明するなのは。時折、ティアナの顔が険しくなるが、気にせずに説明を続けた。

 

「――で、今回設立する部隊に、強制徴収される訳なんだけど……」

「待ってください」

「何か?」

 

 話の腰を折ったティアナに、なのはは誠意で聞く体制を作る。内心、話の腰を追った事に注意はしたかったが、する場面ではないと悟る。

 

「私も、対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課に入れてください」

 

 まっすぐな瞳で、なのはの目を見ながら答えるティアナ。

 その言葉は、後戻りできない合言葉でもあった。

 なのはは内心で微笑む。スカウトする予定の人材が、あっさり手に入ったのだから。

 多分、この調子だと、スバルも入るはずだから、原石を手に入れ損ねる事は無くなったと言える。

 

「判った。けど、まずは部隊長になる八神二佐に会わないとね」

「――はい!」

 

 なのはは、ティアナに松葉杖を渡しつつ、サポートをする。

 そして、医務室を出て、はやてたちがいるロビーへ向かう途中で、ゲンヤとギンガに出会う。

 

「ティアさん」

 

 ギンガが先に声を掛ける。

 

「ギンガさん。もしかして……スバルの事で」

 

 その言葉に、ギンガの顔は暗くなる。

 

「ええ、先ほど会ってきたわ。会話は出来なかったけど」

「ギンガさん……所で」

 

 ギンガに影が掛かり、心配するティアナだったが、ふと後ろにいる男性に気がつく。

 

「こちらの方は?」

「あ、私とスバルの父親の――」

「ゲンヤ・ナカジマだ。娘が、いつも世話になっているな。感謝する」

 

 ギンガの言葉を引き継ぎ、ゲンヤが自分で答え、感謝の言葉も述べる。

 

「いっ、いえ、そんなこ――!?」

 

 ティアナは、足を動かしてしまい痛みが走り、顔が苦痛で僅かに歪む。

 

「おっ、おい、大丈夫か?」

「だっ、大丈夫です。今はもう、足を捻挫した程度の傷だと思います」

 

 ティアナの言葉に、ゲンヤとギンガの頭に、ハテナマークが浮かび上がる。ケガの状況を知らない為、疑問が浮かぶのは当然といえる。

 

「ティアナ、そろそろ」

「あっ、はい。それでは、ギンガさん、ゲンヤさん、失礼します」

 

 なのはとティアナは、ゲンヤとギンガの横を通り過ぎていく。

 ゲンヤとギンガも、特に気にする事無く、その場を後にした。

 そして、ある程度進むと、出入り口に武装局員が立っているのが見える。武装局員がこちらに気づき、敬礼を行う。なのはも、軽い敬礼をしながら入っていき、ティアナもその後に続く。

 そして、はやてとフェイト、相方のスバルが座っていた。

 

「フェイトちゃん、はやてちゃん」

 

 と、なのはから声を掛けた。

 その言葉に、はやてとフェイトとスバルの3人が、こちらに顔を向ける。

 

「なのはちゃん、ティアナ・ランスター二等陸士の様子は?」

「はい、もう完治しているらしくて、あとは軽い痛みだけかと」

「そうか。もう完治――って、足に穴が開くケガやったんよ!? それがもう治るって、どんな治療やねん!?」

 

 当たり前の反応を返すはやて、フェイトも声は上げないも、驚いて目を見開いている。スバルも、フェイトと同じ状態である。

 

「色々突っ込み所満載だけど、今は置いといて――」

 

 バインダーを脇に挟めて、右から左へ物を上げて置くジェスチャーをしながら言うなのは。

 そして、バインダーを持ち直す。

 

「こちら、ティアナ・ランスター二等陸士が、我々の部隊――対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課に転属したいとの事で、八神部隊長の指示を仰ぎに、連れて来ました」

 

 はやてに敬礼をしながら、報告をするなのは。

 

「なんやて!? ホンマかいな!?」

 

 はやてはソファーから立ち上がり、ティアナの元に歩み寄る。

 ティアナは、少し体を強張らせる――緊張していると自覚する。

 

「ティアナ・ランスター二等陸士」

「はい」

 

 重々しく言うはやてに、真剣に答えるティアナ。

 

「自分の言葉に、二言は無いんやな?」

「はい」

 

 真っ直ぐな瞳で、はやての目を見るティアナ。その瞳は嘘偽りが無い輝きを、久しぶりに見るはやて。

 

(私も、こんな時期があったんやったな)

 

 はやては目を瞑り、その時の事を思い出し、再び目を開ける。

 

「ほな、ティアナ・ランスター二等陸士。スバル・ナカジマ二等陸士と共に、対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課へ歓迎する――宜しくな、ティアナ」

 

 狂った運命の歯車が動き出す。

 そしてそれの歯車の音は、狂気の祝福の音である。

 だが、その音は、誰も聞く事はできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第五話

強制徴収

 

END

 

 

 

次回予告

 

対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課への転属が決まった、スバルとティアナ。

この展開に、ラギュナスの長・時覇は、眉を顰める。

そして、新部隊に工作員を送り込む事を決め、行動を開始する。

その頃、円卓の守護者は、スバルの事で話し合いが行われていた。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第六話:試験終了後日談

 

 

 

理想と現実の違いに、戸惑いを覚えた日だった。




あとがき
 英語が出来ないから、即席で考えた言葉を適用している。(挨拶
 なを、お茶の分量は、実際に調べた結果で、金額は架空のなので真の受けないよう、お願いいたします。
 ただ中国に、500年?(100年単位は確か)くらいだかのお茶の葉を乾燥させて固めた物が、実際に存在します。
 テレビで見て、売る覚え状態なので、詳しくは覚えていませんが、一杯日本円にして10万円以上したはずです。(それ以上だと思いました)
 で、やっと五話目完成。
 でも、アニメ二話目の後半です――長!? 一話で三話!?
 って、これ以上長い話を書いている人が、フリーでいるだろうぅが。(一人ボケ突っ込み
 ともかく、次の話もお楽しみに。
 最後に、下品な言葉が出て申し訳ないです。(汗
 これ、もう15歳以上推奨作品にしちゃおうかな、もう。






制作開始:2008/5/5~2008/5/31

打ち込み日:2008/5/31
公開日:2008/5/31

修正日:
変更日:2008/10/29


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第六話:試験終了後日談

後悔はと、何時気がつくのだろう。
簡単な事だ――行った後に起こる結果を見てからである。
それは、すぐに判るか、数年後に判るのかという差がある。
その差を見通すことなど、誰が出来ると思うのか。
予測は出来ても、結果が同じとは違うのだ。


 

 

 動き出した歯車は、もう止まらない。

 運命を止める事は、誰に出来るのか? もし止める事が出来るのなら、それは神だけなのかもしれない。

 人は運命を帰る事が出来る力を秘めているが、運命を消すことや止める事は出来ない。

 『変える』事は、『消す』や『止める』とは、異なり過ぎている。

 消すとは、存在そのモノを無くし、止めるとは、流れを止める事を指している。

 では、変えるとは何か。

 簡単なことである。新たなる道を、教え、気づかせてやればいい。

 例えば、1本道しかないと思われて道が、実は枝分かれした複数の道であった事を教える。

 例えが悪いかもしれないが、これは1つの考え方である。

 それに、こういう言葉がある――100人いれば、100通りの考えがある。

 意味は、100人いれば、1人1人違う考え方があるからという意味である。

 話は戻り、右から見てスバルとティアナの反対側に、なのは、フェイト、リインフォースⅡ、はやての順に座っている。

 

「じゃあ、まずは試験結果だけど……規定通りだと、2人とも不合格」

 

 その言葉に、肩を落とすスバルとティアナだったが、ティアナだけが顔を上げる。

 

「あの、規定通りって?」

「うん、規定通りなら、ね。だけど、特別に合格にしておいたから――おめでとう、Bランク試験合格だよ」

 

 スバルとティアナの顔に、笑顔が広がる。

 死に掛けた思いをしたのに、これで不合格だったら、相当落ち込んでいただろう。

 それを見て、なのはは言葉を続ける。

 

「まぁ、タッチの差での時間切れだったんだけどね。けど、パイロンの撃破が1番効いていて、その程度だったら問題無いって、本局から連絡があったんだよ」

「ほっ、本局からですか!?」

 

 スバルも驚いているが、ティアナは驚きの声を上げる。

 本来、試験は決められた項目事項に沿って、個々の判断で合否を決めている。しかも、その決定に、試験担当者も口を挟むことは出来ない。

 だが、今回は本局からの合格許可が下りている事は、規定を特例で自ら口を挟んでいる事になる。

 スバルの強制徴収にも驚いたが、今度は本局からお墨付きのおまけ合格。

 

「あ、あと、明日の1200から、一等陸士に昇格になるから」

『はい!?』

 

 入って4年になったばかりの人間が、たかが試験中に起動兵器を撃破したくらいで昇進するのである。驚くのは当たり前で、普通はありえない出来事である。

 

「あとは、試験中に使用した武装の出費や危険手当もあるから、それも明日辺りに」

『ええ!?』

 

 もう、至り尽くせりの状態である。だが、裏を返せば何かがある。

 

「ふふっ、驚くのは無理も無いけど……当たり前の報酬だよ」

 

 と、横からフェイトが答える。

 

「なんせ、Bランク――正確には、Cランクの陸戦魔導師が、Sランクの魔導師が苦戦する機械、じゃなくて起動兵器を倒したのだから」

 

 微笑みながら言うフェイトに、スバルが思った疑問をぶつける。

 

「あの、フェイト執務官」

「何かな、スバル?」

「パイロンって、そんなに凄い兵器なんですか?」

 

 その言葉に、なのはたち4人は固まり、横にいたティアナが呆れ、耳を引っ張る。

 

「いっ、痛い、痛いよ、ティア!?」

「アンタ、ラギュナス自体、判ってないでしょう!?」

 

 ラギュナス――3歳児でも知っている言葉であり、5歳くらいで何と無く理解する。

 残虐で冷徹、非道を行う『悪』だと。つまり、自動的にその言葉に合う兵器が生まれる、のだが、スバルは今一理解していないようであった。

 

「まっ、まあ、その辺で、その辺で」

 

 フェイトが中腰で、スバルとティアナの行動を止める。

 ティアナは、渋々とした感じで耳から手を離す。スバルは、ティアナの手が離れてから、引っ張られていた耳を両手で押さえる。

 それを見たフェイトは、ソファーに座り直す。

 

「ともかくや。スバル、悪いけどティアナから説明を受けてぇな。ティアナもお願いや」

「判りました」

「了解です」

 

 はやての言葉に、スバルとティアナはそれぞれの言葉で、返事を返す。

 

「では、機動六課に出頭する期日などは、折り入って連絡を入れるから。フェイト執務官、はやて二佐、何か伝える事は?」

 

 なのはは、バインダーを手に、フェイトとはやてに尋ねる。が、2人とも、特に言葉は無いらしく、なのはが顔を向けると無言で首を横に振る。

 なのはは、それを確認してから、スバルとティアナの顔を見る。

 

「では、本日はこれにて解散します」

「は――がぁ!?」

「はいって、ティア!?」

 

 返事と同時に起立をするが、ティアナはケガの事を忘れて立ち上がったが、激痛ですぐにソファーに沈む。

 スバルは立ち上がったが、相方の変な声で横を向くと、足を押さえて蹲るティアナの姿が視界に入る。

 その光景に、なのは、フェイト、はやて、リインフォースⅡも慌てるのであった。

 そして、その行動と会話を、遠くの海の上空で見ていた時覇とクワットロ。

 クワットロは、少し面白く無さそうに見て、時覇は、眉を顰めた。

 

「これが……お前の望んでいた結果ではないだろう、スバル」

 

 時覇は、そう呟く。

 スバルと、姉であるギンガの2名は、時折だが監視を行っていたのである。故に、目指す理想はどんなモノかを知っている。

 それを捻じ曲げてしまったのは――紛れも無く、先導して行動を起こした、自分自身であるラギュナスの長・桐嶋時覇である。

 

「クワットロ」

「はい?」

 

 キーパネルを叩いているクワットロ。しかし、手を止める事無く、作業をこなしていく。

 

「帰るぞ」

「判りましたわ――転移魔法展開」

 

 作業を終了させ、転送準備に入る。そして、2人の周りに光の粒子――正確には、魔力の粒子が舞う。

 時覇は、モニターに映し出されているスバルを、もう一度見る。

 モニターの映像は、ティアナの介抱する場面が映し出されていたが、そこら辺は見ていない。

 

「信念を通しきれないのなら……こちらに来るのも――いや、それは自分の傲慢だな」

 

 それだけ言って、モニターを消す。

 

「展開完了、座標補足――オールオッケイ。行きますわよ?」

 

 ウインクしながら言うクワットロ。

 

「ああ、頼む」

「了解――転送開始」

 

 その瞬間、2人は光に包まれ、光が収まると消えていた。

 その光景を、監視魔法で眺めていた人物が4人。

 真っ暗な空間で、真ん中に魔法によって円で表示された風景が1つ。その周りに、均等に4人が立っている。

 全員が、フード付きのローブを羽織っている為、外見的な特徴が上げられない。1つだけ上げるのならば、身長と声の違いである。

 

「あれが、現在のラギュナスの長・桐嶋時覇、か」

 

 4人の中で身長が一番高く、声が低い事から、30代の男性と思われる。

 

「我々の存在には?」

 

 4人の中で2番目に背が高く、声が清んでいる事から、成人に成りたての女性と思われる。

 

「もう気が付いている。早急に何か対策を」

 

 4人の中で1番背が低く、幼い声の所から、女の子だと思われる。

 

「べっつにいらねぇだろ?」

 

 4人の中で3番目、ちゃらちゃらした感じの印象から、高校生くらいの青年だと思われる。

 

≪ああ、問題は無い≫

 

 真っ暗な空間に、響き渡る声。

 その言葉に、4人はその場で片膝を尽きて頭を下げ、4人が声を揃えて言った。

 

『我らが叡智よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六話:試験終了後日談

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある世界にある、ラギュナス本部。

 その転移装置のある部屋で、ある事が行われていた。

 

「この遊戯士を、3パック」

「あいよ、450円ね。あ、それ1つ、80円だよ」

 

 なを、今回の品が第97管理外世界のモノなので、売買に使う紙幣は円である。

 

「なあ、これは何だ?」

「それはケン玉。隊長の出身世界の一昔前の玩具で、今では地方の田舎の人たちしかやっていない様な雰囲気らしい」

「ふぅ~ん……こいつはいくらだ?」

「はい、おつりの57円だよ。ああ、ケン玉ね――500円だ」

 

 などと、商売が行われていた。

 ちなみに、ラギュナスのメンバーの4分の1は、遊戯士と呼ばれるカードゲームがブーム。あと、RGK(ロボット・ゲーム・カード)、Leads(リーズ)、ディメンション・クロスの全部で4種である。

 時折、賭博でやる奴もいるが、組織内での賭け事は全面的に禁止になっているので、見つかれば始末書である。

 ただし、賞金制度の公式大会であるRGKは、あくまで公式大会なので黙認。

 そして、転送装置が作動する。

 

「ん? 誰か来るみたいだぞ」

「あん? おっちゃん、移動してくれないか。邪魔になるから」

「おっ? ああ、判ったわい」

 

 露天? の親父さんは、荷物を手早く纏めて、その場から退く。それと同時に、転送が完了し、時覇とクワットロが姿を現す。

 その瞬間、露天? の親父さん以外のラギュナスのメンバーは、敬礼をする。

 時覇も、それに答える様に、歩きながら敬礼をする。

 クワットロは、ウキウキしながら時覇の左斜め後ろから付いていく。

 その光景を見て、あるラギュナスメンバーの1人が言う。

 

「これが拍手だったら、ある意味結婚式だよな」

 

 その言葉に、一同が固まる。そして、それを言った人物に顔を一斉に向ける。

 

「えっ!? 俺、何か拙い事でも言った!?」

 

 現状にたじろぐラギュナスメンバーの1人、ティーティ・D・ブレイドス。

 彼は、ミッドチルダでスカウトし、入ったばかりの新人である。

 なを、彼を任されている者は、青を通り越して土気色である。クワットロも、始めは顔を赤くしたが、徐々に青くなっていった。

 理由は簡単だ。

 

「ほぅ、それわぁそれは、良い例えだな」

 

 その言葉と、背後から襲い掛かる圧力に、ティーティは固まった。

 例えるなら、背後から死神が大鎌を首に当てている瞬間と言っても、過言ではない。が、背後に居るのは死神ではなく、阿修羅なのだが。

 さらに、いつの間にかティーティの周りには人が居なくなっていた。救援を求めても、誰も来ないだろう。誰だって、巻き添えは御免である。

 とにかく、目だけ動かせるので、見える範囲の存在に助けを求める視線を送る。が、目が合うと、露骨に顔ごと反らされる。

 終わった――悟りの境地に立たされるティーティ。だが、神は彼を見捨てなかった。

 

「シグナム、そいつは新人だ」

「何?」

 

 その声のする方を、一同が向く。

 

「よぅ」

 

 そこには、時覇とシグナムをラギュナスに連れて来た男、ギア・ストラクチャー。

 ただし、服装はエプロンに三角巾、手にはバケツにデッキブラシの清掃員の姿だった。

 

「…………」

 

 無言。

 シグナムは、口を閉じたまま。

 そして、そのまま手を離す。離されたと同時に、慌てて距離を取り、適当な人を盾にする。

 

「おっ、おい、ゴラァ!?」

 

 などと、抗議の声も上がるが、無視される。

 クワットロは、その大衆の中に退避しているのだが、誰も気にしない。むしろ、触れたくは無いのである。

 シグナムは、そのまま時覇の前に行く。そして、そのまま大衆の面前でキスを交わす。

 しかも、ティープキス。舌と舌で、互いの唾液を混じり合わせ、味を堪能する行い。

 そして、口を離すと唾液の糸が輝き、そのまま地面と互いの服の胸辺りに落ちる。

 

「おかえり」

「ただいま」

 

 まさに、新婚のバカップルレベルと言える様な光景が広がる。

 

「ウン、ウッン!!」

 

 と、タイミング良く、ゴスペルがワザと咳き込んで辞めさせる。

 その瞬間、シグナムの顔に影が掛かるのを見た時覇の対応は、もはや慣れである。

 

「あ~、悪かった。で、クワットロ」

「はっ、はい!?」

 

 直立した状態で硬直するクワットロ。面白い反応ではあるも、『死』がマジかにある状態で、先ほどの状況であれば仕方の無い反応である。

 

「すぐにデータを纏めておいてくれ。1時間後に緊急ラ定会を開く」

 

 その言葉に、周りにいた一同は、すぐさま通路に出て行った。

 店を開いていた親父さんも、荷物を纏め始める。邪魔になるので店じまいだと、肌で感じ取ったのである。

 

「すいません、親父さん」

 

 時覇は、後ろから片づけをしている親父さんに謝る。

 

「何、不定期なのはお互い様よ。また、今度頼むよ」

 

 そう言いながら、商品を箱にしまい、カバンに詰めていく。

 それを見て、シグナムはふと思い、言葉に出す。

 

「空間倉庫は?」

「ああ、あれは良い物だが……」

 

 カバンに商品を入れてから、手を止めて答える。

 

「壊れた時は、正直泣きたくなったよ」

 

 その言葉に、空間倉庫の欠点を思い出す。

 収納は、整理整頓をしていれば問題は無い。だが、その空間倉庫に一定のダメージを与えると、空間が崩壊して虚数空間に引き擦り込まれてしまう可能性があるからである。

 一種の次元断層が空間倉庫で起こり、荷物が外に吐き出されるか、虚数空間に落ちるかの2択しかない。

 なを、あくまで倉庫にダメージを与えた場合であり、与えなければ管理装置の定期点検を行っていれば問題は無い。

 

「それは――」

「いや、自業自得でよぅ。規定量以上のモノを積み込んでよ、数時間後にドボンさ」

 

 時覇の言葉に、親父さんは素直に話す。

 空間は無限ではなく、有限である。故に、無制限ではなく、限度が生まれる。

 夢のようで、現実味のある力を具現化したモノ――魔法である。

 この世界の認知は、魔法は『奇跡』、では無く、魔法は『科学』である。

 これが差となって、制限が生まれる。

 奇跡にも、制限や法則があるが、科学を覆すことが出来る『力』がある。

 故に、その領域には辿り着くことは叶わず、近い所で終わってしまう――それが、科学というモノなのかもしれない。

 人の限界が科学であり、奇跡は人の限界を超えた表現。

 科学が過ぎれば魔法。そう置き換えても、可笑しくは無い。

 

「じゃあ、頑張りな」

「親父さんも」

 

 そう言いながら転移装置に入り、転移装置が作動。光に包まれて、消える親父さん。

 それを見送る時覇とシグナム。

 光の中に消え、転移装置が停止したのを見計らってから、時覇は背伸びをする。

 

「お疲れ様です」

「ぁべぁ~……何かあったか?」

 

 シグナムは、微笑みながら労いの言葉を掛け、時覇は両肩を回しながら尋ねる。

 

「特に何も。そちらの方は……何も無ければ、緊急ラ定会など開かないか」

「まぁ、まとめて話すから」

「はい」

 

 時覇の言葉に、優しく返事を返すシグナム。2人の姿は、相変わらず夫婦に見える。

 そしてその頃、ラギュナス本部内では、慌しくなっていた。

 警報が鳴り響くわけではないが、変わりに何故か、江戸時代に使われていた火災を知らせる半鐘が鳴り響いていた。

 

「カンカンカンカンうるせぇぞ!! っーか、何で半鐘!?」

 

 などと、突っ込みを入れるトッドス・クリスタン。

 

「サイレン鳴らしたら、第1級警戒警報と間違えるから」

 

 トッドスの突っ込みに、冷静に受け答えをするアゲック・ソルティド。

 ちなみに、アゲックが苗字で、ソルティドが名前である。

 

「いやいやいやいや。俺が言いたいのは、何でこの時代に半鐘なのかと」

 

 手を顔のまでパタパタさせながら、自分の意見を述べる。

 

「~~~~~~~~♪」

 

 しかし、ソルティドは耳にヘッドホンをし、リズム乗りながら踊っていた。

 なを、両腕を奇妙に動かし、背中で地面を数回転した後、立ち上がって右の人差し指を高く上げて決めポーズをした。

「聞けよ!!」

 などとやり取りか行われている場所から、少し離れた所で作業を行うヘッドピカリンと、トーラングス。

 彼らは、ラ定会で配布する個別のスティクメモリーの数を、再確認していた。

 

「こっちはOKっと……にぃても」

 

 言い終えてから。後ろを振り向くヘッドピカリン。

 

「何をやっているんだ、あいつらは?」

 

 騒いでいる2人を眺めながら、呆れ口調で言う。

 

「無視しろ」

 

 素っ気無く答えるトーラングス。案外冷たい口調だが、仲が悪い訳ではない。

 

「だけどよぉ、あの2人、お前さんの弟子だろ? 何とかしないのか?」

「修行以外は、なるべく干渉はしないつもりであるが、酷い様なら何とかする」

 

 スティクメモリーを隅々まで見ながら、ヘッドピカリンの問いを答えるトーラングス。

 そんなやり取りをしながら、時間は過ぎていき――開始時間となる。

 

「これより、緊急ラ定会を始めるよ。司会は、年増もとい美しき司会者嬢のリュクナイアに変わり――うら若き乙女であるリスティが」

 

 その言葉に会議室は、場違いのヒートアップが起こる。

 そのノリは、まさに人気絶頂のアイドル顔負けの勢いである。が、それは幻の如く終わりを告げる。

 

「誰が年増だって?」

「お送りしま――」

 

 会話の間に別の女性の言葉が入り、言いかけた言葉を飲み込むリスティ。

 会議室は、ヒートアップから一転して、クールダウンする。ただ、クールダウンという優しさではなく、一気にマイナスまで下がる勢いである。

 

「リスティ、ちょっといいかな?」

 

 いつの間にかいたリュクナイアは、リスティの返事を聞かずに、出入り口に引き摺りながら向かう。

 それと入れ替わりに、リインが入ってきて、リュクナイアと引き摺られるリスティを眺めつつ、中央に立つ。

 

「代わりを務めます、リインです。まずは、こちらの映像をご覧ください」

 

 その言葉に従い、中央に空間モニターが展開される。さらに、自分の手元で空間モニターを開いて、見ることも出来る。

 その空間モニターには、クワットロとディエチが撮った試験の映像である。

 スバルとティアナが映し出されたときは、男女の声が上がり、何箇所からか痴話喧嘩や殴る音などが聞こえる。

 しかし、試験の映像が流れるにつれて、声がしなくなる。そして、誰もが試験内容に思った――『異常』だと。

 だが、同時に思う事は、ただ1つ――そうしたのは、我々である。

 常に自覚しつつも、この様に見せ付けられる。判っていても、世界は見せ付ける。

 それが、見たくないものであっても、世界が見せ続ける。

 それこそ、このラギュナスの『罪』なのかもしれない。

 贖罪の機会は、与えられるかどうか怪しく、償うことすら許されない現状。

 今の世界は、言わばラギュナスの『罪』を、具現化した世界とも言っても過言ではない。

 過去を振り返ることは、決していけない事ではない。ただ、その過去にすがり付く、取り付かれる、追い求める事はいけない。

 過去は、あくまで過去。過ぎた時間に、戻る事はできない。

 小説やドラマ、アニメにタイムトラベルというモノがある。それは、過去や未来へ行く事が出来る、夢の力。

 だが、未来を見た場合、その未来を変える為に行動を起こす人間が現れる。

 過去へ行けるなら、今を変える為に過去の出来事を変える人間も現れる。

 今と言う『現在』は、『過去』が積み重なって出来た結果であり、『未来』はこれから創るモノである。

 未来を知るとは、今現時点での結果を見ている訳であり、1つの可能性なのである。よって、未来を変えるには、現在の頑張りと過去の積み重ね次第となる。

 変えるのではなく、積み重ねである。

 だが今、空間モニターに映し出されている試験内容は、『罪』を重ねた結果の産物。

 それを受けるのは、若き局員であるスバルとティアナ。

 試験中盤に差し掛かった瞬間、管理局製の起動兵器パイロンが映し出される。

 その瞬間、会議室はどよめきの声が上がるも、それは一部だけであり、大半は黙っている。

 ただ、眉を顰めたり、目を細くしたりなどの小さな動きは、ちらほら見られる。

 通路からは、笑い声らしき声が聞こえてくるが、全員スルーする。

 

「なを、このパイロンは、トライア・鉄との混合機だと思われます。報告で、グレネード・ニードルボムを使った事から、判断した結果だそうです」

 

 リインは、手元の資料から読み上げ、簡単な言葉で説明する。周りの連中も、何と無く理解の色を示している。

 同系機というよりも、発展機に近いモノであり、姿形に変化は余り見られていない。

 よって、残骸と化して同じ機体だと勘違いしても、知らなければ仕方が無いと言える。

 ティアナのケガに、困難を極める試験。そして、Bランクの陸戦魔導師が、パイロンを撃破する。

 その盤面では、全員が騒ぐ事無く押し黙る。純粋に、それぞれの思いの言葉が頭に過ぎる。

 仲間にしたい。

 生意気な存在。

 戦ってみたい。

 教育してみたい。

 悲しい子どもたち。

 運命の歯車。

 どう化けるのかが楽しみ。

 厄介な存在。

 化ける前に潰さないと。

 思い思いの言葉が過ぎるも、最終的な考えは――長に任せる。その部分だけは、誰もが一致した。

 長は、確かに偉大であり、権限が最高位である事は確かであるが、下の部下一同が拒否することができる拒否権も存在する。

 簡単に言えば、長の独走を止める為の最終手段であるが、基本的には長の考えに賛同した者が集う組織。止める事は、相当無謀な事ではない限り、この権限は発動しない。

 ただ例外なのが、長になった時にラギュナスの誓いを使いする時だけ、無効にすることが出来ない。これは昔からの決まりであるが、無効のする方法が1つだけある。

 先代のラギュナスの長である。

 先々代は無効になるが、先代は1度だけ、現在の長を止めることが出来る権限を持っている。

 先代から見て、今のラギュナスを判断し、ラギュナスを危険に晒すと見た場合のみ可能な権限である。

 しかも、基本的な方針は長になった時に決めるので、人によっては先代の方針とは180度変わるときもある。

 故に、先代の権限によって阻害の意を含め、たったの1回しか止める事が出来ないのである。つまり、逆を言えば、やり直しの出来ない計画の最終段階辺りでも、止める事が出来る訳である。

 今のラギュナスに損害を当てえることも、利益を与えることも出来るタイミングで。

 話は戻り――メンバーの考えは、100人いれば100通りの考えがあるという言葉通りになっている。

 しかし、モニターの映像は、なのはが降り立つ辺りで止まる。

 

「問題と言えば問題だが、無いと言えば無い。それを踏まえて、聞いていてくれ」

 

 そう、ラギュナスの長である時覇が、普通より大きめだが、大声より小さい声で言う。

 それから、停止していた映像が再開し――あの言葉を突きつけられる。

 

≪スバル・ナカジマ二等陸士。あなたを、スパイ容疑で拘束します≫

 

 その言葉に、大半の人間が疑問に感じた。

 

≪先の魔法――マジック・フィンガーは、犯罪組織・ラギュナスの長が使っている魔法です。よって、残念ながら、あなたを関係者として拘束します。同行を≫

 

 たしかに、マジック・フィンガーを使っているのは、ラギュナスでも長ただ1人。

 特に制限されている訳ではないので、その気になれば誰でも使える魔法である。が、対応魔法がサイガ式だけだったので、誰も使う事は無かっただけの話である。

 使いたがっていた奴もいたが、自分でミッド式やベルカ式などに変換しないといけない。が、面倒臭い、やったけど途中で挫折などが見受けられた。

 結局、似たような技を作ったりして対応を始め、結局使えるのは開発者である、桐嶋時覇だけとなってしまったのである。

「この後、近くの駐屯基地で話が行われたが、その話も厄介ごとだ」

 いつの間にか現れた時覇は、そう言いながら、全員の視線を集める。

 何と無くだが、視線が集まったのを感じ取り、話を再開する。

 

「八神はやて――シグナムの元主が設立した部隊、対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課について。リイン」

「はっ」

 

 後方にいたリインは、手元の空間モニターのキーパネルを操作し、中央モニターと各手元に資料を展開する。

 資料の内容は、それほど多くは無い。

 だが、その後の会話を全て録音、簡単に纏めた結果が表示されている。

 それを個々に読んでいき、段々と声が上がり始める。

 

「対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課、ね。お前はどう思う?」

「そんなモノ、ただ打ち貫き、噛み砕くのみよ」

「気楽でいいよな、力がある奴は。俺なんか、サポートで精一杯だっていうによぅ」

「腐るな、腐るな。コレばっかりは、どうしようもならないんだからな」

「なぁなぁ――って、何やってるんだお前?」

「PSPtΒ(ピーエスピータイプベータ)のテトリスポトリス」

「ぶぅ! 会議中だろ」

「おいおい、アッチなんてDC持ってきてる奴がいるぞ」

「家庭用ゲーム機なのは判るけど、小型のじゃないんですけど!?」

「竹刀買わない?」

「いや、いらないから」

「なぁなぁ、この『ギアブレーダー』と、お前の『カクスの除』を交換しない?」

「割に合わないし、カードが別々だから。ってか、2種類やってるのか?」

「いや、3種でロボをやってない」

「なっ!? 貴様、それでもオカマか!?」

「くっ、何故判った!? 長にもまだ報告していないのに!」

「え、マジで?」

 

 …………話の方向がズレ初めて来ているようだが、コレはいつもの事なので問題は無い。

 

「オカマだと!? ――同士よ!!」

「なぁにぃ!? お前もかぁ!? お前もなのかぁ!?」

『兄弟!!』

「キモ! 近くで抱き合わないでよ!! って、アンタの部下でしょ! 何とかしなさいよ!」

「俺の部下じゃない。俺の部下じゃない。俺の部下じゃない。俺の部下じゃない。俺の部下じゃない。俺の部下じゃない。俺の部下じゃない。俺の部下じゃ――」

「おいおい、大丈夫――な訳ないか。あの2人は、お前の所の主力だったよな、確か」

「すいません。68番のトーン、あります?」

「ごめん、切らしてる」

「こっちも。あ、10番ある?」

「あるよ~。はい」

「お前ら、漫画をここで描くなよ。しかも、やおいを」

「カップリングは?」

「長とピカリンヘッド――ってのは、冗談で」

「死ぬからやめろよ、冗談でも」

「うん、でもやめられない」

「お前、M?」

「うんん、S。男に対しても――ああ、尻隠さなくても、アンタには興味無いから」

 

 問題は無いのだが、いつの間にか話が纏またのかを問いただしたい衝動に駆られる、リインである。

 時覇は、気になると言えば気になるが、この程度の事を一々気にしていては、この先やっていけないと考えている。それ故、何も言わない。まぁ、度が過ぎる場合は注意するが、基本的には黙認している。

 時には、その中に混じっているが。

 

「はいはい。リインの顔が固くなってきたので、ここらで纏めるぞ」

 

 と、時覇の言葉に、『はぁ~い』と小学生の様な返事が返ってくる。

 リインは、時覇の後頭部を睨むも、スルーして話を続ける。

 

「ここは、手っ取り早く工作員を送るで、いいかい?」

『いいとも~♪』

 

 何ともノリの良い集団であるが、それ故に結束が強い事を示している。ただ、そのノリに真面目組みは、ただただ呆れるしかないのだが。

 シグナムとリインが、いい例であるが、内心苦笑している。打ち合わせもしていないのに、毎度毎度上手く合わせることが出来るのか、不思議に思っているくらいである。

 

「よし、このまま悪乗りして、誰を生け贄にするか、一斉に声を上げて言うか」

(悪乗りにっ、てぇ生け贄!?)

 

 時覇の発言に、内心で突っ込みを入れるも、斜め上の発言が行われたので驚愕するリイン。

 ついでに、本当に今まで残っていたのが、不思議な組織だと再認識もする。

 

「うむ。問答無用で一斉に言うぞ。なった奴は、問答無用で飛ばす方針でOK?」

『OK!!』

 

 そのノリに、真面目組みも参加する。適度に参加しないと、ノリに付いて来られないで、寝込む可能性があるからである。

 実際に、入りたての真面目タイプは、大体が3ヵ月当たりで寝込むのがデフォとなっている。

 耐性が付いていれば、問題無く過ごす事が出来る。

 

「では!」

『――1! 2! 3――』

 

 時覇の言葉に、メンバーが付いてくる。

 そして、工作員として送られる人間の名前が上がるのだが、リインとシグナムは、ある人物を哀れみの目で見ていた。

 悟られても可笑しくは無いのだが、本人は気づいていない。

 本人はノリノリ。しかし、2人の目には、哀れな子豚にしか見えない。

 

『レーレ・ナ・エルティア!!』

「クルティアス・D・ジェリ――ぁぁぁぁああああああああ!?」

 

 レーレ・ナ・エルティアは、そのまま絶叫を上げる。

 

「なっ、何で私!? 私なの!? 局員だけど!? 意味無くない!?」

 

 そう、彼女は時空管理局、本局の武装隊の人間である。しかも、はやてとは面識があり、それなりに仲良しでもある。

 ちなみに、彼女が上げようとしていた人物は、クルティアス・D・ジェリスカスァー。第2部隊・偵察暗部隊の中で、もっとも優秀で、出世に興味を持たない人物である。

 さらに、Leadsのラギュナス外の全次元大会で、只今5連続優勝で有名となっている。なっているが、偵察暗部隊の人間が有名になったら拙いのでは? という疑問は、置いておく。

 趣味は、他人に迷惑を掛けない、ラギュナスの掟に触れないのならば、特に何も言わない暗黙の了解がなされている。

 

「しっ、進言!!」

『却下!!』

 

 即答であり、清々しいほどの一刀両断にあうレーレ。

 

「う……――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 うろたえ、仕舞いには泣き出してしまったレーレだったが、周囲の反応は冷たかった。

 正確には、レーレの日頃の行いが悪かったと言うべき待遇が待っていたのである。

 

「嘘泣きだな」

「ああ、嘘だな」

「この前、酒蔵から何本か持ち出していたぞ」

「止めろよ」

「次の日には、医務室のベッドの上で寝ていた」

「あの時か」

 

 などなど、レーレの悪行が、次々と上げられていったのである。時覇も、色々聞いている。

 だが、部隊長となる八神はやてと親しい仲であるから、今回の任務を指定した。

 他の人間では、見つかる可能性がある為、怪しまれる可能性を選んだのである。怪しまれる程度なら、逆に見落とされる可能性もある。

 可能性は、希望性でもあるのだが、何もしないよりかは遥かにマシと言える。

 

「レーレ」

「はぁ、はひぃ!」

 

 泣いていたレーレだったが、時覇の言葉にすぐさま立ち上がり、背筋を伸ばしたまま硬直する。

 

「色々やっている事に関しては、第6部隊・内外部調査風紀隊に任せているから、何も言わない」

 

 外野から、「何か行ってください」という発言が飛んで来るが、あえてスルーする。

 

「今回の任務は、工作員が見つかる可能性よりも、怪しまれる可能性を取っている」

 

 時覇の言葉に、大体の者がハテナマークを浮かべるが、理解できる者は、その言葉で理解した。

 

「よは、ある程度怪しまれていれば、こちらもそれなりに警戒ができ、ある程度収まるまで動かなくていい。だが、何も怪しまれず、それを良い事に活動して見つかる。まぁ、潜伏期間の超過が目に見えるが、敵からの信頼を勝ち得る事ができる」

「つまり、敵から信頼を勝ち取って、情報を駄々漏れに、と?」

「まぁ、そんな所だ。あまり、使いたくはないし、させたくもなかったが……」

 

 時覇の纏う陽気な雰囲気から一変、覇気に変わる。

 それにより、レーレもだが、会議室にいた者全員が身構えた。

 

「そろそろ、動く可能性がある」

「どっちが?」

 

 レーレは、覇気に押されるも尋ね返す。

 

「多分、ほぼ同時だと思う」

 

 その言葉に、この場にいる全員が腹を決めた。

 

「長、我ら第2部隊・偵察暗部隊にも、出撃要請を」

「第15部隊・外交隊にも。外部と連携して、調査を行います」

 

 第2部隊・偵察暗部隊隊長と、第15部隊・外交隊隊長が立ち上がり、頭を下げながら進言する。

 

「我ら第10部隊・混合隊も、今から命を出せば、1週間で集まります」

「こちら第7部隊・特殊能力戦闘隊も右に同じですが、第10部隊より3日ほど遅れてしまうのが難点ですが」

 

 続く第7部隊、第10部隊の隊長も進言する。

 さらに、通信でモニター越しから、他の部隊の状況を上げ、進言してくる。

 

「判った、判った! 判ったら落ち着け!」

 

 両手を頭の上で交差させながら、自体を収集する時覇。嬉しいことだが、これではラギュナス全体を動かす事と同じである。

 こういう事は、最小かつ穏便に済ませなければ意味がない。

 だが、こんな長でも、皆が尽くしてくれる事は、非常に嬉しかった。

 その頃、円卓の間で、スバルの事で話し合いが行われていた。

 

「――結局、引き入れる事にしたのか」

 

 リーダー格らしき人物――ガーディアン1、創造の覇気(そうぞうのはき)が、報告書を眺めながら声を出す。

 今は67歳の老人であるが、その身体能力は現役時代から維持、いや、それ以上に鍛え上げられている。

 正直、今現在のオーバーS魔導師が5人揃って不意打ちを行っても、それを難なくかわして全員沈める事が可能である。

 故に、当時は最強と騒がれ、今では伝説と言われた人物である。が、誰も本当の名前を知らない。理由はいくつかあるが、1番なのが『彼を知っている人物がいない』からである。

 それにいたった経由は、未だに不明である。

 

「八神はやての独断だ。こればかりは、どうにもならん」

 

 左側にいるガーディアン13、神魔の体(しんまのたい)が答える。

 常にフード付きのローブを纏い、ボイスチェンジャーみたいなモノで声の質を変えているため、性別や年齢が不明である。

 さらに、いつも唐突もなく現れ、消えるという動作を繰り返している。

 故に、日頃何をしているのか、誰にも判らないのである。例え、素顔を見た事があるにしても、本人かどうか確認しようがない。

 しかも、常に通信を切っているので、召集時の合図以外返事が無い。

 

「こちらから圧力を――掛ける訳にはいかないか」

 

 右側にいるガーディアン3、水扇の舞(すうせんのまい)の横槍が入るも、自分から撤回する。

 若干17歳にして、この円卓の守護者のメンバーになり、現在19歳と若い部類に入る。

 ただ現在の服装は、時空管理局本局の特別専用制服ではなく、都会の街にいる娘の格好であった。

 上はTシャツに袖の無いベストで、下は短パン風になっているジーンズに黒のサイハイソックス。靴はスニーカー。

 髪はお尻の辺りまで長く、腰より少し上辺りに赤と白のリボン――赤、白、赤と言う順になっている――で結ばれている。

 

「大本は管理監視が出来ても、個々まで無理な話だ」

 

 ガーディアン5、城門の壁(じょうもんのへき)。

 こちらは、水扇の舞とは打って変わり、きちんとした制服である。

 

「それは言い訳になる。発言は、もう少し慎重に頼む」

 

 ガーディアン6、空転の者(くうてんのもの)が答える。

 服装は少々だらしないが、威厳が見え隠れしている。

 

「っていうか……何でいないの、あいつらは?」

 

 俳句風に言う、ガーディアン8、命灯の揺(めいとうのゆ)。ちなみに、偶然できた言葉である。

 そして、それを示す、空いている席が4つ。

 ガーディアン2、9、11、12である。

 

「いつもの事だ。あとで詳細をまとめて置いてくれ」

 

 その言葉で締めくくられ、会議は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第六話

試験終了後日談

 

END

 

 

 

次回予告

 

この日より、対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課が動き出す。

それよって、集う仲間。

初めての訓練。

そして、蠢く闇。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第七話:集結

 

 

 

物語は、終焉を綴り始めた。




あとがき
 土気色とは、土のような色。生気を失った人の顔色などにいう。つちいろ。(Yahooの辞書より)(挨拶
 ちなみに、今まで出てきたオリキャラは、大体が背景キャラなので、何時死んでも可笑しくはないです。
 で、カードは、判る人には判りますね。(汗
 さらに、キスの表現部分は、短いながらも少し恥ずかしくなりました。経験は無いですよ、自分は。
 でも、何でヘッドピカリンという名前を作ったんだろう、俺。(汗
 っーか、少しテンパリ過ぎたな、俺。会話がカオス過ぎる。過ぎるが、真面目の時は、とことん真面目なので。
 最後に――うん、15歳以上推奨にした方が、色々とやりやすくなるよな。






制作開始:2008/6/2~2008/6/29

打ち込み日:2008/6/29
公開日:2008/6/29

修正日:
変更日:2008/10/29


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第七話:集結

集うは仲間。
集うは想い。
集うは願い。
集うは善。
集うは悪。


 

 

「ふぁ~ん……眠ぅ」

 

 ラフな感じに管理局地上本部の制服を着る、レーレ・ナ・エルティア。

 ラギュナスの決定で、今日の10時より運行が開始されるラギュナス制圧専用部隊――対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課に潜入する事に。

 元々局員なので、偽造する書類はそれほど無く、特に問題視されることも無かった。

 そして、今いる場所は、ミッドチルダ南部臨海第11空港。

 数日前に到着予定だった2人――エリオ・モンディアルと、キャロ・ル・ルシエの出迎えである。

 何故、今日出迎えになった理由は、偶然にも2人が出発するはずだった空港で犯罪が発生。それにより、空港は一時閉鎖となり、出発が遅れてしまったのである。

 そんな訳で、サボりが目立っているとはやて部隊長からの指示により、迎えに来なくてはならなくなってしまった。

 仲が良くても、仕事とプライベートの区別はある。しかも、現在は上司と部下の関係。

 今までのツケが、回ってきただけの話なのだが。

 

「しっかし、5時に起こさなくても良いじゃない……まったく、もぅ」

 

 待ち合わせのベンチに腰を掛けながら、時々欠伸をしながら、待ち人を待つ。

 現在7時半、人もそれなりに増え始める時間。

 時折、レーレをちら見しているが、本人は気にしていない。触ってきたり、攻撃してきたり、ナンパしてきたりなどの、不快関係の事がなければ問題無い。

 すれば、人気のいない所まで連れてって、半殺し。

 少し遊ばない的な発言で、相手を惑わして。

 それはともかく遅い、来るのが遅すぎる。

 

「迷子にでもなったのか? それだけは勘弁だよ、ガキはガキでも局員なんだから」

 

 何気に黒くなりつつも、はぁ~。と最後にため息を吐いて、締めくくる。

 そこで、何かが近づいてくる気配があった。

 男だと判り、ナンパの類か思いきや、子どもの気配――やっと来たか? と、思いながら顔を上げた。

 そこには案の定、年頃の服を着た赤い髪の毛の男の子が、こちらに向かっていた。

 

「おそかったね……エリオ・モンディアル、だっけ?」

 

 確認の意を込めて、名前を言う。

 

「はい! エリオ・モンディアル、ただいま着任しました!」

 

 敬礼をしながら、元気良く返事を返すエリオ。

 それを見て、苦笑するレーレ。やはり、子どもは子どもだなと思った。

 ともかく、ベンチから立ち上がって、敬礼を返した。

 

「ええ。私は、レーレ・ナ・エルティア。フェイトさんから聞いてない?」

「はい、迎えに来てくれる人だと、伺っています」

「そう」

 

 何気に、年頃の子どもとは思えない口調と、落ち着いた雰囲気だと感じ取るレーレ。

 ラギュナスから機動六課に来る前に、一通りの人材リストには目を通してある。

 いくら怠け癖がある彼女でも、任務に当たる心構えは出来ている。出来なければ、選抜されていないし、この日まで生きてはいない。

 

「あとは……キャロ・ル・ルシエって娘を待つだけね」

「あの」

 

 辺りを見回すレーレに、声を掛けるエリオ。

 

「何?」

「今、時間は何時でしょうか? 場合によっては、迷子に成っているのかもしれません」

 

 その言葉に、レーレは空間モニターを展開して、時間を見る。確かに、遅い。

 そのまま航空情報にアクセスし、キャロが乗ってくる航空機を確認。すると、すでに着いていた。

 少しだけ、鬱に成りかける。

 局員が、迷子の報告をする訳にはいかない。恥でもあり、ネタにされる。

 

「もし、宜しければ……」

「 ん? 」

「僕が、探してきます」

 

 その言葉は、まさに有り難かった。

 正直に言えば、フェイトに悪影響は与えない様にと、過保護MAXの勢いで言われているのである。

 どうやら、レーレの存在自体が悪影響を与える様な言い方だったので、内心泣けた。

 

「よし、頼む」

 

 満面の笑みで、エリオの肩を叩きながら言う。

 心なしか、エリオは後ろに下がろうとしていたが、この際気にしない。

 

「では」

 

 そのまま走り去っていく。

 

「元気が良いね~」

 

 エリオの背中を見ながら言いつつ、ベンチに座りなおす。

 そして、満足感に浸るレーレだったが、そんなものは一瞬で終わった。

 

「管理局のキャロ・ル・ルシエさぁ~んぅ! いたら返事をしてくださぁ~ぃ!」

 

 思いっ切り後頭部を後ろにぶつけて前に飛び、床に蹲って左右に転がり回る。相当痛かったのであろう。

 満足感崩壊。レーレは、内心で愚痴る。

 もう嫌だ。今すぐ帰りたい。機動六課ではなく、ラギュナスに。

 あそこはやる事さえされば、文句は言われない場所なのだから。まぁ、不利益になると、第8部隊・バックヤード隊辺りから怒鳴られ、第6部隊・内外部調査風紀隊による指導がなされる。

 あそこも嫌だ。何、渡された経済論文本を読んで、どう解釈したか500枚ほどのレポート用紙に書く事。軽く1000枚超えた。

 その後、何か珍獣を見る様な目で見られたが。

 レーレは、一通り愚痴を零した後、立ち上がって体中の埃を叩いてからベンチに座る。

 そして、空間倉庫から冷えたビールに手を掛けるが、やめて隣に置いてあった『リーフ』というジュースを取る。

 このジュースは、ただの水であるのだが、『ナ・デュシュッン』という世界の奥地に湧き出る水である。

 しかも、奥地は禁地となっており、1年に数回決められた日以外の立ち入りは不可。

 魔力、霊力などの様々な結界が張られており、ラギュナスのメンバーでも突破は困難を極める。

 ちまみに、1本1万5000円という、缶ジュースでは有り得ない金額となっている。

 口を開け、一口含んだ所で――2人が来た。

 

「さて、行きますか。新たなる職場に」

 

 それだけ言って、缶ジュースを一気飲みした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七話:集結

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――って、な訳で、あんまり長話だと嫌われる原因になるので、ここで終わりにさせて貰います。なのは隊長からは?」

 

 はやてから見て、左下にいるなのはに聞く。

 

「いえ、特にありません」

「フェイト隊長からも?」

「いえ、何も」

 

 なのはの隣にいたフェイトも、同じ事を言った。

 はやては軽く頷き、顔を前に戻す。

 

「では、これで終わりにします」

 

 拍手が起こり、はやては台から降りていく。

 

「では、私リインフォースⅡから、簡単にこれからの予定を伝えます」

 

 そう言って、説明がなされた。

 その説明の最中に、武装隊はなのはに連れて行かれた。

 そして、連れて来られたのは、駐機場前の広い場所であった。

 

「全員いますかぁ~!?」

『はい!!』

 

 その返事に、武装隊全員が返事を返す。

 

「では、大人数なので部隊分けを行います。選抜基準は、バランスやパートナー関係、交友関係などを総合的に検討したモノであります」

 

 そういうと、なのはの後方の頭上に、空間モニターが展開される。

 そこに、各メンバーの配置と、各リーダー名が表示されていた。

 スターズ分隊――高町なのはを筆頭に、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスターを含む、計5名。

 ライトニン分隊――フェイト・T・ハラオウン、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエを含む、計6名。

 ツインズ分隊――レーレ・ナ・エルティアを含む、計4名。

 グラーフ分隊――八神ヴィータを含む、計5名。

 合計20名で構成された武装分隊。

 ツインズ分隊が1人少なく、ライトニン分隊が1人多いのか。それは、エリオとキャロの子どもが入るからである。

 それでも、また近い内に何名か配属される予定らしいので、さらに編成が変わる可能性があると、なのはが補足を加えた。

 

「では、これより各分隊の目的と、それに見合った訓練の説明に入ります」

 

 まず、スターズ分隊は、ティアナを筆頭にチームの連携を高める。ティアナにはリーダー適正があり、それを伸ばした方が、効率が良い判断した。

 次にライトニン分隊は、部隊数が多いが機動性メインで訓練が進められる。さすがに、フェイトに着いて来いという無謀な事まで要求しない。が、最低でも足腕纏にはならない程度になってもらわなければならない。

 3番目のツインズ分隊は、機動性もありつつ、小回りの利く部隊を目指す。最小の装備で、最大の成果を上げるために、基礎を徹底的に極める事。応用は、基礎の成果と見合わせてから、追々行っていく。

 最後にグラーフ分隊は、ヴィータを基礎として、突貫部隊に仕上げる。俗に言えば切り込み分隊で、一転突破を専門とする。多少重装備になっても、突撃能力を落とさない様に、瞬発性を高める。

 

「以上が、各分隊の目的と訓練内容です。詳しい訓練内容は、追々説明を行っていきますので。今回は、総合訓練を行います」

 

 その言葉に、分隊の武装局員たちがヒソヒソし始める。

 総合訓練――総合的な能力を駆使して行われる訓練。だが、高町なのはが行う総合訓練は、地獄だと言う噂があった。

 タカマチ訓練法と表側では言われているが、裏ではアクマチ訓練法と呼ばれていた。

 訓練を受けた者曰く――生き地獄。

 またある者は――生きっているって素晴らしい、と言った。なを、この者は根性が腐っていた人間だったが、これ以降真っ当な人間になったそうである。

 ほかにも色々あった、総合的な意見として――生き地獄で、受けた者は性格が変わる。

 つまり、性格を変貌させる中かが行われた事になる。

 それで1番有力なのは、お話を聞くためにディバインバスターを叩き込む。である。

 犯人に向かって、満面の笑みを浮かべながら放つ砲撃は、まるで悪魔を超え、魔王とまで言われている。

 余談であるが、裏社会では高町なのはは、管理局の白い魔王と言われている。ラギュナスでは、すでに廃っている呼び名であるが。

 今は、ラギュナスでは普通に呼ばれている。簡単に言えば、脅威と成りうる存在では無くなりつつあると言って良い。

 

「はいはい、ヒソヒソ話は終わり!」

 

 なのはは手を叩きながら、注目させる。

 

「ただ、今回皆を監督できるのは私とヴィータ三等空尉だけ。フェイト執務官は、八神部隊長と一緒に首都クラナガンへなっているから」

「はい、ではもう時間なので、あとをお願いします」

「はい、判りました」

 

 そう会話し、フェイトは隊舎に入っていった。

 

「では、訓練に入りたいと思うので、各自準備をお願いします。集合場所は――」

 

 こうして、対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課の初訓練が成される事になる。

 

 

 

 

 

 組織ラギュナス本部、第8部隊・バックヤード隊。

 とある1室の窓際席に、1人の女性がダルそうにしながらも、それを感じさせないスピードで書類を片付けていた。

 

「レーレの奴、今頃どうしているんだろうな」

 

 そう物思いに耽る女性――リーリ・C・ダールド。

 第8部隊・バックヤード隊の中では下っ端の人間。故に、雑用ばかりこなしている日々を送っている。

 本来なら、第2部隊・偵察暗部隊所属のSS魔導師ランクのレーレとの接点は、本来は無い。

 が、レーレの日頃はサボり魔に近い人間で、医務室で酒盛りし、酒が切れれば消毒液であるアルコールを飲むというお馬鹿っぷり。

 その瞬間を、リールは目撃。余りの馬鹿さに、レーレにドロップキックを炸裂させ、アルゼンチンバックブリーカーを叩き込んだ。そしてそのまま、プロレス技の炸裂コンボタイム。

 その後、異変に気がついた者が医務室に入るや否や、地獄絵図と化していたらしい。

 詳しくは不明だが、部屋がぐちゃぐちゃになり、壁や床、天井に血の跡が付いていたそうである。

 

「どうした? 愛しの相方がいないから、寂し――」

 

 その瞬間、声を掛けてきた同僚の男性に打撃。それにより、強制的に姿勢を正せる。そして、そのまま背後に回って、腰に腕を回してロック。そのまま技を掛けると、窓を突き破ってしまうので方向転換後、ジャーマンスープレックスを行った。

 その業務が行われている部屋で、明らかに業務で鳴ることが無い音が響き渡る。

 誰もが一瞬だけ止まるも、いつもの事なのですぐに作業を再開する。

 

「何が愛しいと?」

 

 技を掛けた状態で呟くリーリ。

 

「…………すいませんでした」

 

 素直に同僚の男性は謝った。

 

「リーリ・C・ダールド」

 

 その美しいのか、奇妙なオブジェと言うべきか、技を掛けた状態で固まっている2人に声を掛かる。

 

「はい、何ですか?」

 

 そう言いながら、素早く立ち上がるリーリ。技を説かれた同僚の男性は、そのまま地面に沈んだ。

 そんな光景を見ながらも、何事も無かったようにする上司。その上司もまた、慣れた光景だと認知している証拠である。

 

「お前は働きすぎだ。有給を1回も使ってはいないだろう?」

 

 その言葉に、リーリは渋い顔をした。

 

「何か不満でもあるのか、ホリックワーカー君?」

 

 上司は、皮肉を込めて放つが、リーリは反論する。

 

「使いたくても、申請の仕方が判らなければ、どうしようもありません。第一、レーレの手綱は誰に預けろと?」

 

 これもまた、皮肉を込めて返すリーリ。

 その言葉に、上司は「うぐっ」と唸るも、不意に思い出したように言う。

 

「レーレと一緒に取ればよかったのでは?」

「日頃サボっている人間が、有給を貰えますか?」

 

 正論を言われ、黙ってしまった上司。

 ラギュナスの労働基準法は存在するが、ミッドチルダの労働基準法とは違う点がある。

 その中の1つに、申請を行えば、有給を給料に変換できるのである。

 が、その反面、無断欠勤やサボり、個人での組織の出費が大きい場合、給料の天引きや有給の消失となる。

 レーレは、無断欠勤はしないがサボりが多く、個人での組織の出費が大きい――訳ではないが、特定のモノの消費が激しいのが上げられる。

 ので、先の労働基準が適用されている。

 よって、レーレには有給が無いのである。

 つまり、有給を取れないレーレの休みは、自然と指定休暇のみとなる。さらに、その指定休暇の申請は、リーリが行っているのである。つまり、自然と同じ日になっているので、有給をとらないのである。

 ただ、有給を給料に変換申請を行うには、個人で行わなければならない。申請を行わなければ、有給は溜まる一方なのである。

 が、今レーレは敵のメンバーに入っているので、普通に有給を取ってもレーレに関する心配は無い。

 

「では、有給を使いたいのですが」

「……あ、ああ、判った。今から申請手続きを行うから、ついて来い」

「はい」

 

 という会話が成されていた。

 そして、上司の男性とリールが廊下を通っている時、休憩所から話が聞こえてきた。

 

「なぁ、ファミコンのZガンダムファイナルバージョン持ってない? オリハルコンと交換しない?」

 

 その言葉に、2人は立ち止まってしまった。

 

「ダークマテリアルとならいいぞ」

 

 その言葉に驚愕。

 

「ああ、あるけどさぁ。質が悪いから勘弁してくれないか?」

「どれくらい?」

「50パー」

「いいじゃないか」

「駄目だ。プライドで70パー以上でないと、取引に出していないんだよ」

 

 その言葉に、完全に固まる2人。ファミコンのソフト如きで、レアメテルで交換するなと叫びたくなる。

 

「仕方が無いな……わかったよ。俺が持っている中で、ギリギリ純度の高いダークマテリアルを出してやるよ」

「サンクス♪ リスティに、ダークマテリアル製の武装を頼まれているんだ」

「待て。なおさら純度が高い奴の方がいいじゃないか」

「確かにそうだけど……無いんだろ、良質の」

「……3日。3日だけ待ってくれ。純度95パーセント以上のダークマテリアルを見つけてやる」

「本当だな……なら、制作の準備を行っているから、手に入り次第頼む」

「心得た」

 

 それから声が聞こえなくなり、気配すら消えてなくなった。

 2人は慌てて休憩所を覗くも、そこには誰もいなかった。

 リーリと上司の男性は、互いに顔を見合わせる。

 この出来事は、後の新型の基礎となるのだが、それはまだ先の話である。

 

「今の何だったんでしょうね」

 

 と、レーレが呟く。しかし、上司の男性は言う。

 

「多分、第0か第5部隊の奴かも知れんな」

「第0か第5部隊……ですか」

 

 第0部隊・特別特殊隊。

 簡単に言えば、エリート部隊であり、魔法の他に別の力を持っている者が集まる部隊。長の直属ではないが、魔導師としてはラギュナスの中で最高品質の部隊と言える。

 第5部隊・技術開発部隊。

 色々な開発、製造を行う部隊。余計なモノを開発しては、一般に流してこづかいや資金を集めている時もある。

 中には、ラギュナスの掟に違反する者も現れるので、第6部隊・内外部調査風紀隊の定期的検査や、抜き打ち調査が行われている。

 

「まぁ、ともかく手続きを済ませようか」

 

 上司の男性は、そう言って先に歩き出す。

 リーリも、すぐに後を追う。簡単に言えば、今の事は聞かなかった事にしたのである。

 通路を通り、エレベーターで下の階へ。

 降りている途中、エレベーターの入り口と対となる壁は、全部ガラス張りになっており、開放的なモノとなっている。

 そこから見えるのは、世話しなく動く人たち。

 

 それをサポートするように動く起動機たち。

 起動機――兵器とは異なり、一般的な利用法をする為に制作された、サポートメカと言える。

 清掃、機材搬入、案内係などなど、多種多様なモノがある。

 すでに、外装は異なる物の、一般に出回っている。1番多く利用されているのは、ミッドチルダに時空管理局。

 低コストであるも、維持費は少々値はあるが、将来を考えると安いモノである。

 最近の物は、小さいバッテリーでも、熱エネルギーの再利用と太陽パネルが搭載されている。

 熱エネルギーは、大気の気候・湿度・温度などもちろん、稼動している最中の熱すらエネルギーに転換できるのである。

 だが、これはまだ試作段階なので、一般に出回るのはまだ先の話である。

 そして、エレベーターは目的の階に着き、先に上司の男性が降り、次にリーリが降りた。

 そのまま何人か入り、エレベーターは再び上に上がった。

 業務処理カウンターへ向かい、上司の男性の指示に従って、渡された紙に記入していく。

 している最中で、ここは本当に犯罪組織なのか疑いたくなった。どう見ても、一般の業務処理と同じで仕方が無いから。

 

「……あとは、先ほどのカウンターに出して、受理されればOKだ」

「判りました。ご協力感謝です」

「気にするな。有休消化してもらえないと、色々大変だからな。一応、この本部の表向きは、時空管理局の下請け会社なのだから」

「確かにそうですが……誤魔化さないのですか?」

「すれば、公共機関の連中に見つかった時の問題の方が、人手不足よりも大変だよ」

 

 シビアな話をする、リーリと上司の男性。

 ちなみにラギュナス本部は、ミッドチルダの首都レルスタンティドの北部にある。

 120階建の下請け会社で、管理局から一般の下請けを行っている。

 裏は組織ラギュナス、表は下請け総合会社。

 余は、一般家庭に使われているスポンジの材料から、新型デバイスのパーツまで、幅広く受け付けている。

 無理なものもあるが、大体の物は製造可能である。

 最近は、表の求人の集まりは良いが、質が悪い事この上ない。裏は、量は少ないが、質が良いと表と裏が均衡している。

 まさに、中国にある陰陽の関係である。

 が、表側は質が落ち、裏側は数が減った――これは少々痛手である。

 表は、定期的に関係ない人間を採用しておかないと、周りの一般人に不振がられる。

 裏は、戦力の拡大と保持、他の組織への圧力と威厳が保てないからである。

 

「人事部の奴らが、表の連中は質が悪いとぼやいていたな」

 

 男性の上司は、思い出したように言う。

 

「っていうか、人事部の律子さん、泣いてたよ。余りにも質が悪すぎて。それでも雇わなきゃいけないのかって」

 

 それに同意して、年上の友人である律子の泣き顔を、思い出しながら答える。

 

「あ~、建前は必要だからな。これだと経理部も――」

「泣いてはいませんが、発狂して発散していました」

 

 前に、経費を落そうとして行った時に、発狂しながら踊り狂っていたので、レーレに頼んで落としてもらった。

 その時、帰ってきたレーレの姿は、何故かボロボロだったのは気になったものの、何も聞かないであげた。

 むしろ、私が聞きたくなかっただけであるが。

 

「…………今度、何か差し入れするかな」

「でしたら、この休暇を使って、差し入れの品を買ってきますね」

「なら頼む。金は、あとで払わせてもらうから。でも、高いのは止めてくれ。俺が持たない」

 

 そう言って、その場を離れる上司の男性。

 リーリも、それを見送ってからその場を離れ、カンターに提出。すぐに受理され、今日から休暇が始まった。

 

「あ、今からレーレの職場にでも、冷やかしに行こう」

 

 

 

 

 

 海上演習場の空間シミュレーター。

 今、映し出されている空間は、廃墟の市街地である。

 その市街地のあちらこちらに、死屍累々と言わんばかりに、武装局員たちがボロボロに転がっていた。

 言わずとも新人たちもボロ雑巾の如く転がっているも、レーレも転がっては居なかったが、ボロボロになっていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……絶対、危険手当……貰うから、ねぇ」

 

 息を荒くしながら、呟くレーレだったが、それが精一杯だった。

 何せ、訓練内容の中で『絨毯爆撃を掻い潜れ』と言うものがあり、内容は――魔力弾とゴム弾による爆撃地帯を通り抜けろ。

 正直言うと、全員中腹辺りで全滅した。

 上手く回避できたと思いきや、遠方からのスナイパーライフルによる狙撃。

 当たって怯んでいる最中に、爆撃に巻き込まれてアウト。

 鬼のようなメニューで、クリアできたものから抜けて行くモノだったが、結局誰一人も抜けられなかったのである。

 

(いっ、生きている奴……返事しろ)

 

 と、各武装局員に、念話を飛ばすも――ひとつも帰ってくる事は無かった。

 どうやら、自分以外、大地かコンクリートに沈んでいるのだろうと考える。

 

≪各武装局員に連絡≫

 

 そこで、なのはから空間モニターで、連絡が開かれる。

 モニターを見て聞いているのは、果たして何人居るのだろうか。

 

 

≪今からお昼だけど……状況から訓練すらキツイと思うから、午後の訓練はお休みで≫

 

 その言葉に、喜びの感情が湧き上がるも、一瞬でどん底に落ちる。

 

≪夕方の訓練は行うから、それまでに回復しておいてね。っと、言う訳で、一時解散します。集合場所は、空間シミュレーター前で、時間は5時からだから。遅れない様にね≫

 

 そこで、空間モニターは消える。

 レーレは、そのまま前に倒れ、地面に沈む。

 

「高町隊長……今の、止めです」

 

 そこで、レーレの意識は途絶えるのであった。

 なを、ラギュナスでも過酷な訓練があったが、この訓練は明らかにクリアさせないのが目的であった。

 過酷な訓練をクリアしたことによる驕りを生み出さず、自分たちがゴミだと言うことを刷り込む。

 

 自分たちは、ゴミだと、屑だと、蛆虫いかだと悟らせる――軍お達しの洗脳訓練の一種。

 過酷な訓練の日々を送らせ、従順な兵士を作り上げる。

 この訓練は、まさにそれに近いモノであった。

 

「…………今は」

 

 意識を取り戻したレーレは、空間モニターを出して、時間を確認する。

 空間モニターには、1230と表示されていた。

 

「12時半ジャストか……他の連中らは」

 

 少し重い体を起こしつつ、辺りを見回す。

 そこには、見える範囲ではあるも、未だに倒れている者、既に起き上がっていない者、意識は回復したが動けない者など。

 様々な状態ではあるも、未だに倒れている者の中には、壁に上半身が突き刺さっていたり、犬神家みたいな状態になっていたりなど。

 様々なオブジェが出来上がっているが、そのままにしておく。

 中には、手を貸してほしい者もいるかもしれないが、知らん振りしてもらえると助かる人間もいる。

 なので、見分けが付かない以上、そのままにしておくしかない。

 

「はぁ……昼、食べよう」

 

 重たい体を引き摺る様に歩くレーレ。

 背後では、意識を取り戻し始めた武装局員が動き出し、何かを始めたが、気にしないで食堂に向かった。

 

「お~い――って、瓦礫が!?」

「全員退避!! 退避!!」

「まだ埋まっている人間が!?」

「我が身第一だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 その声と同時に、コンクリートが崩れる音が聞こえてくるも、知らん振りして向かうのであった。

 そのまま演習場を出て行き、コンクリートの階段を上って隊舎に向かう。

 途中で、バイクが横を通り過ぎたが、特に気にすることも無かった。

 そして、機動六課の食堂。

 メニューを見て驚いた。

 デスクワーク組の食事は、豪華のモノばかりだが、武装局員には素っ気無い料理しかなかったのである。

 エネルギー吸収を第一に考えた料理の数々――正直萎える。

 一応、豪華なモノも食べられるが、1週間に1度しか食べられない。

 しかし、それは正しいのかもしれない。

 腹いっぱい食べた後で、あの様な訓練に参加すれば、悲惨な状況がお目に掛かれる。

 ぶっちゃけると、ゲロの雨。

 掃除も大変だし、当分臭いも残る。

 あの訓練所は、最新式の技術で出来たモノ。そんな物に、早々とゲロを吐かれては困るのも判る。

 でも、何と無くではあるが、近い内に誰かがやるだろうと思った。

 なを、それが自分――レーレになりたくは無かったので、一段楽するまでは、酒や夜食を控えようと思ったりする。

 予想だが、ゲロを訓練中にはいた奴は、自己管理不良で追加メニューが課せられると睨んでいる。

 現に、ラギュナスの訓練時代でも、似たような事があったから。レーレも、追加を貰った口である。

 で、食堂で頼んだのは――少食の栄養満点メニュー。

 が、胃が受け付けずに吐いたしまった為、水をうがいしながら飲む程度になってしまった。

 他の武装局員も、似たり寄ったりで、無理やり食べたりして間食を目指そうとしている。

 正直、その選択は間違いだよと、心の中で呟くレーレ。

 これまた彼女は、訓練時代にやって吐いた口。まぁ、大抵の事は訓練時代で行った。

 ゲロを吐き、胃液をぶちまけ、泥の中で気絶し、恐怖の辺り失禁もした。

 1番酷い時は、便秘で調子が悪いと言ったら、いきなり消化のいい物を食わされ、強力な下剤を飲まされた。

 で、お腹に激痛が走り、下半身に痛みが下がった瞬間、レーレのお腹を抉りこむ様に殴りこむ。

 お陰で、人前で野糞をぶちまけた。

 次の日から引き篭もりになろうとしたが、無理やり部屋から引き摺り出されて、訓練に参加させられた。

 他の女性も、その被害にあった事もあると聞いた。

 しかも、男の場合はもっと酷い。野糞をぶちまけた後、顔面を突っ込まされるそうだ。

 それからは、従順になるか、反抗的になるかのどちらか。無気力になる事は無い。

 なれば、無理やり這いずり回される。

 逃げたくても、訓練中は逃がしてはくれない。

 何せ、訓練前に契約書みたいな物に、サインをしなければならない。

 細かい記載は省くが、『訓練中は、有給申請、除隊などの他の権限の申請及び発動を禁ずる』。

 よは、ベテランであれ、階級の高い人間であれ、訓練中は指定された休み以外は休ませず、途中で辞める事は許されない。

 でも、この訓練を終えた奴は、例外無く身体能力と経験と知識だけで、最低でもAAランク魔導師を潰すことが出来る。

 地形や装備、状況によって変わるが大体は叩けるも、何も無い平地で空を飛ばれたら終わる場合がある。

 地を這う者に、空を飛ぶ者には勝てない。簡単に言えば、攻撃が届かないからである。

 ただ、空を飛ぶ者は接近戦しか出来ない場合は、勝算が生まれる。

 簡単に言えば、カウンターを取って相手に取り付き、ゼロ距離で仕留めれば良いだけの話。

 その訓練で判ることは、戦い方にマニュアルなど無い。個人の都合などお構いなし。殺る前に見極めてから殺れ。逃げる事は恥じで在らず。生きていれば次がある。など。

 それを悟るのは、訓練を受けた人間それぞれ。

 レーレは、訓練で学んだ事は――何事にも動揺せず、どんな状況でも、常に自分を保ち続ける事。

 これが1番と言える。

 他にも多数あるも、これが1番大きい。

 ただ、それが我が道を行く状態と化してしまったので、良かったのか悪かったのかは微妙な所である。

 レーレは、食べ終わるとすぐに食器を片付け、その場を後にした。

 通路で自動販売機を見つけ、『新世界のバリブレンジョ』という飲料水が売っていた事に感動し、速攻で購入。

 一気飲みして、

 

「――――――――――――!!!?」

 

 吹きました。

 その味は、まさに新世界と言うべき味と言える代物だが、今の時代には合わな過ぎる。

 まさに先取りしすぎたモノ。

 

「――……仕事するか」

 

 まだ中身の入った缶を、ゴミ箱に入れ、資料室へ向かう。

 事前にメンバー情報は、ある程度は入っていたが、急遽変更になった人材と部分があるので、それの調査・確保である。

 が、放送の合図がなる。

 

『隊員呼び出しです。レーレ・ナ・エルティア三等空尉、ロビーにてご友人がお待ちです。至急ご足労お願いします』

 

 と、いう内容だった。

 

「友人……はぁ~、リーリも世話焼きだなぁ」

 

 などと、ため息交じりの苦笑を浮かべつつ、心を躍らせながらロビーへ向かう。

 それで、レーレはロビーを見た瞬間、思いっきりズッこけた。

 そこには、物凄く怪しく変装してきた人物が1名。

 サングラスにマスク、帽子に厚手のコート、ご丁寧に手袋までしてある。これでボイスチェンジャー装備していたら、もう完璧だな。などと、思いつつ、その人物に近づく。

 周りからも、さっさと済ませてくれと言う視線が、レーレに集中していた事もある。

 

≪遅いわよ≫

 

 レーレは、再びズッこけた。予想を裏切らない結果に。

≪ここのロビーは、よく滑るの?≫

「……違うわ」

 

 復活しながら、突っ込みを入れるレーレ。体中に付いた埃を払う。

 

「で、マジで誰?」

≪リが付く人、女性、貴女といつも一緒≫

「ああ、なるへそ。お久しぶり」

 

 変装した人物がリーリだと判り、安心するレーレ。

 これが長だったら、とんでもない事に成っていたかも。まぁ、やりかねないのが怖い所。

 

≪感想は?≫

「久しぶりに気絶したよ――訓練で」

 

 レーレは、それを言った瞬間、少しだけ透けた。

 その透けた姿を見て、懐かしいなと和むリーリ。

 端から見れば、この上なく不自然な光景であるが、その辺は誰も突っ込まない。むしろ、知らん振り。触らぬ神に祟り無し的に。

≪気絶って……うちの所だけだと思っていたけど、世界は広いね≫

「いや、この程度で広いって可笑しいから」

 などと、会話を弾ませる2人であった。

 

 

 

 それから時間が経ち――夜。

 夕方の訓練も終了し、ボロボロになりながらも、寮へ帰還する武装局員たち。

 が、1人だけ隊舎へ向かう者がいた。

 魔力ではなく、ラギュナス製の潜入装備をした黒い影。

 最新式の警備システムを搭載した機動六課の隊舎であっても、無駄であった。

 何せ、使っているシステムが――ラギュナスの関連会社なのだから。

 

「こちら、RX-78より支店へ」

 

 堂々とど真ん中に立っているのではなく、壁際に張り付いている。

 いくら管轄内とはいえ、別の独自の警備システムが存在するかもしれない。

 

≪こちら支店。誤魔化せる時間は、今から0000から0130までだ≫

「了解。0110くらいまでに終わらせる。失敗したら、処理を頼む」

≪……了解。ご武運を≫

 

 処理と言う言葉に、通信者は一瞬だけ黙ったが、すぐに返事を返した。

 処理――それは、文字伊通りである。

 ともかく、レーレははやての仕事部屋を目指す。

 そして、はやての仕事部屋のドアを、ピッキングツールを使ってロックを解除。

 扉を開けた瞬間――背後から、後頭部に冷たいモノが突きつけられる。

 

「動くな、ラギュナス」

 

 その言葉通り、腕すら上げず、そのまま硬直状態となる。

 声から男性だと判るが、それ以上は判らなかった。

 長や第3部隊の隊長・福隊長の様に、気配を明確に読み取る事はできない。

 気配といっても、どのくらいの距離で、どの辺に隠れているくらいはレーレでも判る。

 だが、先ほどの長や第3部隊の隊長・福隊長では、それに性別、大まかな年齢、慎重、体重、どの様な武装を持っているのか。など、明らかに異常な探知能力を保有しているからである。

 

「取引だ」

 

 男は、そう告げる。

 そして――この選択と言う名の言葉は、全てと狂わす小さな歯車の1つ。

 

「……レーレ・ナ・エルティア、我々の同胞となれ」

 

 また1つ、狂った無数の歯車。

 小さな、小さな歯車が、ゆっくりと動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第七話

集結

 

END

 

 

 

次回予告

 

対ラギュナス迎撃専用特別特殊部隊・機動六課が動き出してから、2週間目。

訓練は順調に進み、部隊の連度が増していく。

そこで、各武装局員のデバイスが強化される。

だが、そこでエマージェイシーコールが鳴り響く。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第八話:出動

 

 

 

運命は、ついに新たなる可能性を呼び込む――この混沌の世界に。





あとがき
 もろ日常会話的な様な話に。(汗
 っーか、ゲロの次は野糞……これを厳密な描写を書いたら、18禁小説ですなぁコレ。(汗
 書いておいてアレだが、何か過激になっていくなぁ~と。一応、拷問を描写予定であるが、そちらも過激。
 まぁ、エロを書くにし、ギリギリ描写しますかね。
 あとは、少しだけ少ない話が少ない事。(汗
 追々追加しますけどね。
 なを、本当は3日後の話を書こうと思いましたが、モチベーションの関係で話を結合。






制作開始:2008/7/2~2008/8/15

打ち込み日:2008/8/16
公開日:2008/8/16

修正日:2008/8/19+2008/10/1
変更日:2008/10/29


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第八話:出動

歯車。
小さな歯車が動き出す。
それに連なって、周りの歯車も動き出す。
しかし、歯車と歯車の間には、アソビがある。
そのアソビが、遅れを生み出す時――。


 

 

 朝一の海上訓練場。

 八神はやての宣言より、2週間が経った。

 3日間での、基礎訓練と言う名のシゴキに、今日までの部隊全体の訓練。

 その間にも、各武装局員の新型デバイスの開発が、確実に行われていた。

 数人のデバイス開発が遅れていたりするが、主に目立った問題は起きてはいない。

 さらに何人かは、デバイスの変更は行わず、補強と強化が行われた。

 そして、海上演習場で爆発が起き、何人か宙を舞った。

 

「相変わらずの鬼畜だな、これは」

 

 その光景を、遠目から眺めて呟く男が1人。

 

「前に受けた訓練より、さらに悲惨な事になってないか?」

 

 彼が受けた、高町なのはの訓練は――爆発で人が飛ぶのは、2人までだった。

 だが、今の爆発で飛んだ人間は、今いる位置で5人ほど確認できたのである。

 明らかに倍増し、かつ、人数が少ない事を考えると――前よりグレードアップしている事を、意味している。

 正直、鬱に成り掛ける男。

 だが、機動六課に正式配属される前になるのは、まだ早い。

 男は可能性を信じ、己が信念のままに進む。

 そう思う思いながら、振り向いて隊舎に向かうも、数歩後に止まる。

 

「…………――放り出して、逃げようかなぁ~」

 

 などと、ボヤくのであった。

 

 

 

 

 

「はぁ~い、今日の訓練はここまで!!」

 

 なのはが、空中で笑みを浮かべながら、元気良く言う。

 纏っているバリアジャケットには、所々に黒ずみや破けた部分がある。

 しかし、その地面には――相変わらず武装局員たちが、屍を築き上げて転がっていた。

 この光景は、部隊全体の訓練に入ってから、未だに変わらない光景である。

 

『おっ、おつかれさまでしたぁ』

 

 だが、3日前からではあるものの、この様に返事を返せるようになったのである。

 なのはにとっては、嬉しい事である。

 だが、訓練を受けている武装局員には、地獄と言っても過言ではない。

 

「あ、そういえば……前から声を掛けていた、スバルとティアナを含めた6人。デバイスも完成しているから、実戦用のモノと交換してもらうから」

 

 その言葉に、目を輝かせる者、喜ぶ者、驚く者など、様々な反応が現れる。

 ただ、レーレは渋い顔をしていた。

 長年使い続けた相棒を手放し、新型デバイスに変更しなければならない事に。

 だったら、強化・改良を施すべきであったが、デバイス自体古く、強化・改良の為の互換性のパーツが無い為である。

 特注で作る方法もあったが、今まで特注のパーツだったので、製作・コスト・時間の三拍子揃って大きすぎるのである。

 ラギュナスでも、そろそろ潮時の雰囲気があったが、ここで決定的になってしまったと言える。

 しかも、八神はやてからの命令のオマケ尽き。

 結果、デバイスを変更することになった。その代わり、デザインは同じものになっている。

 だったら、問題は無いのではと考える者もいるが、それは違う。

 デザインや形状が、寸分な狂いも無くても、長年使い続けてきたモノとは違うと悟る。

 

「それじゃあ、お昼ご飯食べ終わったら、今度はミーティングルームに集合。時間は、1330」

『はい、お疲れ様でした』

 

 数名ほど、完全に沈んでいたが、特に気にする事も無く終わった。

 で、レーレは、自分の愛用のデバイスを眺め、上に上げる。

 太陽の光が、愛用のデバイス――ダガーの刃に反射し、煌びやかな輝きを放つ。

 美しき、銀の光。

 輝きとも言える美しさと、洗礼された銀。

 それは、2つで1つであり、片方は、地面に軽く突き刺さっている。

 デバイスとしては、本当に必要最低限の機能しかない。

 詠唱サポートシステムと、待機モードの2種類しかなく、ストレージデバイスよりも機能は少ない。

 あとは、デバイス本体の強度の増加。

 それも、限界最大値まで上げていた。さらに、強度限界を超える為に、無重力合金を使用。

 なを、無重力合金とは、文字通り無重力で作られた合金である。

 本来、重力化で混ざらない比率・金属や液体でも、重力の法則を受けない事で混じりあって出来る合金である。

 ただし、少々説明、解説不足・勘違い解釈もある為、違う場合もあるので注意。

 つまり、レーレのデバイスの大半の使用材料は、無重力合金で開発されたモノである。

 よって新型デバイスは、強度の低下の変わりに、デバイス機能が向上された事になる。

 ちなみにレーレの戦い方は、2本のダガー型デバイスを組み合わせた体術である。

 

「こいつを受け継いでから、10年……か」

 

 そう言いながら、上に上げたダガーを引っ繰り返したりして、全体を眺める。

 そして、思い出す。

 このダガー型デバイスを持っていた恩師の事を。

 辛くも、充実した訓練の日々。

 恩師と共に作った料理を食べては、笑い合った夜。

 業火の中で、恩師と誰かが戦い――恩師の首が飛んだ瞬間を。

 恩師を殺した相手が憎い訳ではないが、何故かどうでも良かった様に思える。

 敵討ちなど、1度も考えたことも無く、追い求めた事も無い。

 ただ、強かったなと思うだけである。

 怨んでも、怒りに燃えても、悲しみに暮れても、絶望の淵に立たされようとも、死んだ人間は帰ってこない。

 復讐など、なお更である。

 すれば、あの世で恩師にぶちのめされる。

 恩師曰く、死んだ人間の思いや信念は受け継ぐのは良い。ただ、負の感情は持つ事も、受け継ぐ事も許されない。

 そんな訳で、復讐者になるのは駄目なので、普通に就職しようと考えた。

 が、同時、いくら就職年齢は低いミッドチルダでも、身元不明の子どもを雇ってくれる場所は無い。

 あるとしても、時空管理局くらいであるが、正義を掲げる偽善者としてしか見ていなかったので、対象外。

 そんな感じで、裏道で食料確保に勤しんでいた時に、ラギュナスのメンバーに拾われた。

 そのラギュナスの男は、数日後に戦死した。

 名前すら知らないので、誰かに尋ねるが、誰も教えてはくれなかった。

 拾われた恩義もあり、そのままラギュナスに居つく。そして、年月が経ち、権限もある程度与えられた。

 調べた結果――相当ランクの高い方だったらしく、情報が僅かしか閲覧できなかった。

 できたのは、名前と顔写真だけ。

 それ以上の事は、調べる事はできなかった。

 現在は、さらに閲覧する事ができたかもしれない。何せ、今はその情報は無いからである。

 理由は――5年前に、ラギュナス本部が壊滅したからである。

 現在の本部は、現長である桐嶋時覇が作ったモノであり、前の本部の管理者は、現在行方不明で前長、ロングイ・バウンティド。

 現時点での情報は、何も無い。

 個人的な人脈は無いので、組織に居座るしかない。

 リーリに頼る手もあるが、迷惑は掛けたくないのが本音。

 余計な事に巻き込みたくは無い。只でさえ、今は管理局とドンパチしている最中なのだから。

 どこで何が繋がっているのか、今の世界では判らなすぎる。

 結局、関係無いが……私たちは、どこへ向かっているのだろう。

 そう思いつつ、空に向かって、持っていたデバイスを放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八話:出動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒れ果てた荒野の世界――グァラオンドゥ・ゴゥーケ。

 時空管理局の未発見世界の1つであり、次元世界リ・バーレの世界の1つである。

 次元世界リ・バーレは、多数の次元世界と繋がっており、その世界を行き来して発展してきた。

 ある意味において、ミッドチルダと変わらない。

 なを、全部で23あるが、実際は禁止世界などを含めて、44の世界と繋がっていた。

 何故過去形か――理由は、転送装置が壊れてしまった。また、凶悪なモンスター徘徊世界、ゴミの投棄世界。特別な人間にしか行けない世界に、囚人が納められる世界に分けられているからである。

 まず、転送装置――ジャンピング・トンネルは、固定された場所から場所に飛ぶ装置である。

 それを発展かした装置――ハイ・ジャンピング・フィールドと呼ばれ、固定された場所から自分が指定した場所に飛ぶことが出来る。

 が、こちらは既に廃棄となり、使用及び製造を禁じている。

 理由は、言わずとも戦争である。

 禁止世界や、行けなくなってしまった世界も、それが原因である。

 行けなくなった世界は、軍の進撃を阻止する為にジャンピング・トンネル(以後、J・Tとする)を破壊。

 さらに、次元炸裂弾によって、ハイ・ジャンピング・フィールド(以後、H・J・Hとする)を無効化にした。

 が、結果、現地に兵士が残されてしまう自体が続発。しかも、無暗に使えば、全ての世界に影響が及んでしまう。

 これによって、次元戦争制限条約が結ばれるが、時既に遅く、影響を受けた世界も含めて7つの世界がH・J・Hの使用不可に。うち、3つが両方の使用が出来なくなってしまったのである。

 なを、次元炸裂弾は、ラギュナスが保有する時空拡散弾の強力版と考えた方が早い。

 簡単に言えば、次元が回復するかしないかの差である。

 よって、次元は裂けたままなので、救援に向かう事が出来ないのである。

 なら、時空管理局の様に、戦艦を造れば良いのでは思われるが、次元世界リ・バーレにはそこまでの技術は無い。

 時空間航行の技術は、J・Tの調整と補強・修理か、H・J・Hの製造くらいである。

 よって、完全にお手上げ状態になっている。ただ、それ以前に次元が裂けてしまっているので、戦艦も向かう事ができないが。

 さらに、禁止世界は、どこかの軍が極秘に開発したモンスターが脱走、繁殖してしまった結果の処理である。

 しかも、凶悪モンスターたちは、J・Tを使って進軍を開始。

 この出来事によって、戦争は中断・停戦となり、凶悪モンスターたちの進撃を阻止し始めた――後に、その出来事も含めて、次元戦争と呼ばれる。

 そして、仕方なくJ・Tを破壊して、二度と来ない様にしたのであった。

 これが、次元世界リ・バーレの一部の歴史である。

 話は戻り――グァラオンドゥ・ゴゥーケに、強化訓練をしに来ていたノーヴェと、つきそいでウェンディ。

 が、ウェンディは巻き込まれて、共に訓練に勤しんでいた。いや、強制の方が、適切なのかもしれない。

 

「いぃぃぃぃやぁっほぉぉぉぉおおおおおおおお!!」

 

 真っ青な顔をしながら、絶叫を上げながらボードを必死に操るウェンディ。

 

「うぅぅぅぅふぅぉぉぉぉ!! いい男ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 などと、錯乱しながら大地を駆け抜けるノーヴェ。

 後ろから、ミサイルや砲弾が飛んでくるのを、必死に避けながら全力で加速する。

 その2人の後ろから――闘牛ランチャーの群れ。数は30体いる。

 闘牛の背中に埋め込まれているミサイルランチャーと、腰の部分に備え付けられた対空砲。ちなみに、接近戦用に鼻バルカンとヒートホーンがある。

 最初に見た瞬間は、何この生物と言いたくはなるが、次元戦争の負の遺産である。

 凶悪モンスターの1種で、空を飛ぶモノを狙撃して、地面に落ちた瞬間に問答無用でミサイルランチャーの雨。

 トドメに、群れにより踏み潰し。

 なので、2人とも、空に上がれないで地面を爆走していたのである。

 何故こうなっているのか、原因は簡単である。

 この日、特別戦技隊・副隊長のトーラングス・L・ギームからの一言から、始まりだった。

 

「お前ら、ウォーミングアップして来い」

 

 それだけの為に、この世界に落とされたのである。

 しかも、闘牛ランチャーの群れのど真ん中に。

 鬼である。

 が、一斉に鼻からバルカンが放たれ、大慌てで回避&ボードで防いだ。

 で、角が赤くなり、熱を放ち始めた瞬間に突撃してきたので、今度は2人とも上空に回避――したのが運の尽き。

 闘牛が鼻からバルカンを放ってきた動揺と焦りで、腰の部分に備え付けられていた大砲に気が付けなかったのである。

 闘牛は、一斉に対空砲火を放つ。

 しかも、中には拡散弾もあったので、回避するのはほぼ無理に等しく、何とか被弾せずに地面に降りる。

 そして、現在に至る訳であった。

 

「いくら師匠でも、これは無しだぁ――ろぉ!?」

 

 師匠であるトーラングスの愚痴を零すも、後方から飛んできた対空砲を、体を横に捻ってかわす。

 ちなみに、この回転は5回転。スケートリンクだった場合、超高得点間違い無しであるが、プロでも現時点で4回転が限界だったはずである。

 

「それには同意ッス!! ――対攻撃拡散弾、発射!!」

 

 ライディングボード・タイプAの後ろの部分に取り付けられたボックスから、ピンポン玉のらしきモノがばら撒かれる。

 そして、爆発。

 その爆発から、紫色の球体が出現。直径75センチほどの大きさまで膨れ上がる。

 闘牛ランチャーの対空砲が紫色に触れた瞬間――弾丸が消滅。

 紫色の球体は、一回り小さくなった。当たらなくても、僅かに小さくなっていくが、当たると小さくなるのが早くなる。

 対攻撃拡散弾――物理・魔法・方術などのありとあらゆる攻撃を消滅させる、とんでもない兵器である。

 なを、その紫色の球体にぶつかれば、人間なども消滅する。

 が、弱点は、発動した場所から動かせない事。消滅させる事が出来るのは、あくまで紫色の球体に触れたモノのみ。

 しかも、少々コスト高なので、量産するのは難しいのである。

 動かせない事を逆手に取られれば、こちらが不利になる可能性も出てくる。

 よって、この対攻撃拡散弾の製造は終わっており、在庫があるだけとなっている。

 なを、製造年令は新暦より前の旧暦になる。

 何故、ウェンディが使っているのか――無断拝借である。

 そして、ライディングボード・タイプAとは、ライディングボードをベースに発展開発されたボードである。

 タイプAは、オプションの換装と装備。

 タイプBは、量産化を目的に。

 タイプCは、軽量化や素材変更などの開発・発展を目的に作れたモノ。

 この3タイプとなっているが、

 で、弾丸が消滅したのを見て、何かを感じ取ったのか、闘牛ランチャーたちは一斉に止まったのである。

 

『チャンス!!』

 

 この機を逃さんばかりに、全力で逃げたのであった。

 で、荒野から木々が生えている場所を発見。大慌てで滑り込む。

 そして、草むらの茂みから、戦闘機人の能力で視力を拡大し、遠くの状況を確認する。

 ……どうやら、巻いたようなので、2人一緒に安心して息を吐いた瞬間、通信モニターが開かれる。

 

≪お前ら、出撃する事になったぞ≫

 

 2人の疲労の原因を作ったトーラングスが、真面目な顔で伝える。

 

≪ミッドチルダの山岳のリニアレールは知っているか?≫

 

 その言葉に、反応したのは――ウェンディ。

 

「確か、貨物専用に成りつつある、あの?」

≪そうだ。一応、客も乗せているが、3分の2は貨物だな――で、だ≫

 

 トーラングスは、新たにモニターを表示させる。

 

≪その貨物に、レリックが輸送されている≫

 

 その言葉に、2人は目を細める。

 

≪それを探知したガジェット3種が追っている≫

「3種? 3種類あるのか?」

 

 その言葉に、ノーヴェが返す。

 

≪ああ、その通りだ。何時のも長細い奴がⅠ型として……戦闘機型と、人のサイズより大きめの球体の2体だ≫

 

 そう言いながら、トーラングスの顔のモニターは右上に縮小して映し出され、新たに中央に2枚のモニターが映し出される。

 右に戦闘機型が表示され、右下にⅡ型と表示されている。左に人のサイズより大きめの球体が表示され、右下にⅢ型と表示されている。

 なを、Ⅲ型のみに大きさの目安として、175センチほどの人が表示されている。

 

≪先に言っておくが、変形はしないからな≫

 

 その言葉に、ウェンディは少し凹んだ。

 

≪装備を整え直すから、戻って来い≫

『了解!!』

 

 その返事は、高らかに上り――闘牛ランチャーに、居場所を教えてしまったのであった。

 

『転送、転送!!』

≪動くな!! 座標が固定できんわ!!≫

 

 闘牛ランチャーのミサイル郡を掻い潜りながら、空間モニターに向かって声を出す2人。

 だが返答は、無茶苦茶なお言葉であった。

 誰しもが、同じ能力、持ってない、人それぞれに、合うモノがある。

 

『死ねと仰いますか!?』

≪ぅるせぃ!!≫

 

 

 

 

 

 その頃、ミッドチルダの首都クラナガン、機動六課・ミィーティングルーム。

 

「本局から配属された新人の――」

「クーガスト・イリュード三等空尉です」

 

 真面目な顔で、フォワードメンバーに名前を告げる。

 ただ、フォワードメンバーの大半がボロボロ状態でいるが、あえてスルーした。

 彼もまた、経験者だから。

 

「私は、研修の時に、高町分隊長の特別訓練を受けた経験があります」

 

 その言葉に、ある種の哀れみの視線が集中する。何せ、研修生がなのはの訓練を受けた事に対して。

 ベテランでも気絶する者がいるのに、研修生が受けるとなると、どれだけ悲惨な事になるのは想像できる。

 想像できるので、想像以上の悲惨な状態を生み出す。

 よって、フォワードメンバーは、誰1人聞く事は無かった。

 だって、誰も地獄の体験談は聞きたくは無い。現在進行形で、堪能中なのだから。

 

「久しぶりだね、クーガスト。元気にしてた?」

「日々地獄でしたよ」

 

 なのはの言葉に、率直な感想を述べる。

 

「あ、あとで八神部隊長から、連絡があると思いますが」

 

 なのはは、首を傾げながら聞く。

 

「俺、基本的に護送係をやらされるので、訓練とかには参加しなくても言いそうです」

 

 そう言葉を放った瞬間――フォワードメンバーから、殺気が放たれる。

 何故か、って? 同じフォワードメンバーなのに、地獄に参加しないから。

 クーガストも、さすがにたじろぐものの、気を取り直す。

 

「くっ、詳しくは――」

「うん、判ったからとっとと帰れ」

 

 世界停止。

 問答無用のお言葉&立てた親指を、地面に向けて放ったのである。

 まさに魔王の名に、相応しき言動と言えよう。

 

「あ――ごふぉ!?」

 

 クーガストの鳩尾に、ローリングソバット炸裂。

 後方に吹き飛びながら、ドアを突き破りながら廊下に弾き出された。

 余りの唐突な言動と出来事に、何も言えないで硬直するフォワードメンバー。

 むしろ、今、この瞬間に何も喋ってはいけないと、脳が警戒を促している。

 まさに、戦士の本能と言えよう。

 

「さて――」

 

 と、話を反らすためなのか、話題を変えたいからは判らないが、強引に話を切り替えるなのは。

 そして、クーガストは……血を吐きながらも、何とか立ち上がって壁に寄り掛かりながら、廊下を進む。

 

「いっ、一応……ここの技術部の管理者には、顔だけでも出すかはぁ!」

 

 吐血。

 ゲホォ、ゲホォと咳き込みつつ、鳩尾に回復魔法を掛ける。

 気休めではあるものの、やらないよりかはマシである。

 で、壁を伝いつつ、口元の血を垂らしながら向かう先は、精密機器室。

 

「失礼します」

「はぁー……大丈夫ですか?」

 

 デバイスマイスター(自称)のシャリオ・フィニーノは、入ってきた男性を見て一瞬だけ硬直。で、状況把握して、尋ねたのである。

 何せ、入ってきた男性――クーガストの状態は、一言で言えば酷い。

 服は少しボロボロで、口元には血の跡。

 さらに、腹に手を当てているのだから、大丈夫でない事は見て判る。

 ファッションと言えば、通る――事も無い。こんなファッションは存在しない。しても困るが。

 

「まぁ、色々ありまして――できれば、聞かないでください」

 

 顔を反らしながら、シャリオに言うクーガスト。

 シャリオもシャリオで、それを察して何も聞かなくなった。むしろ、聞きたくは無かったのかもしれない。

 

「で、ここには、どんな御用で?」

「ええ。今日、護送してきたモノがキチンと入ってきているのか、確認をと思いまして」

 

 その言葉に、シャリオは胸の高さ辺りで片手を拳にし、もう一方の片手のひらを叩く。

 

「ああ、あの3つですね? キチンと着てますよ。現物を見ますか?」

「では、お願いします」

 

 そう言って、シャリオの後についていく。

 どうやら、護送してきたモノは、奥にあるそうだ。詳しい記載は知らないが、ロストロギアの可能性があるらしい。

 シャリオは、胸ポケットからIDカードを出して、扉の横についているリーダーに差し込む。

 それから、リーダーのカバーがスライドして、空間パネルが展開される。

 そのパネルには、A~Zと0~9までの文字と数字と、エンター(決定キー)が表示されていた。

 シャリオは、30以上の文字と数字を打ち込み、エンターを押す。

 機械音独特のピーと言う音が鳴り、ドアがスライドする。

 

「結構厳重ですね」

「ラギュナスやスパイ、工作員対策です。あ、ちなみにパスワードは、1時間に1回変更されています」

「ってことは、今のパスワードも?」

「はい、使い捨てです。もちろん、正規のパスもありますが、それを仕えるのは八神部隊長か、中将以上の方のみです」

 

 結構ではなく、相当の方があっているな。などと思いながら、ドアを潜り抜ける。

 その部屋の奥に、自分――クーガストが護送してきた、3つの黒いケースが並んでいた。

 

「間違いは?」

「……無いですね」

 

 クーガストは、モノを見て納得する。

 開けられるらしいのだが、今まで誰1人も開ける事ができなかった。

 機械と魔法を使っても、傷すらすける事もできず、長年本局の倉庫で埃を被っていたのである。

 が、ある日、とある上司がコレを引っ張り出してきて、派遣されるついでに持っていけと言われて、持ってきたモノである。

 ロストロギアの倉庫にあったモノなので、取り扱いには注意しろという伝言付きで。

 正直、これが餞別だよって、笑顔で言われて泣きたくなった記憶はある。

 けど、泣いた所で何も変わらないので、仕方なくバイクの後ろに括り付けて、持ってきた。

 案の定、途中で『漁業戦隊ギョレンジャー』と呼ばれるテロリスト集団に襲われたが、何とか逃げ切った。

 まぁ、何か5隻の漁業船が変形合体までしたが、合体中の接続部分に爆弾を叩き込んでやった。

 言わずとも、爆散して終わった。

 テレビを見て思うが、何故敵は合体の最中に攻撃をしないのか。

 合体なら、敵の前でしないのは当たり前。

 まぁ、それをやったら終わりだけど、ご都合主義は羨ましい物だと思う。

 

「ところで……え~と」

「あ、自己紹介がまだでしたね。私は、シャリオ・フィニーノ一等陸士です。この機動六課のデバイスマイスターで――」

「それ自称でしょ? 閲覧可能な範囲で、個人情報を見せてもらいましたが、書いてなかったですよ?」

「…………」

 

 クーガストの痛恨の一撃に、黙るシャリオ。何とも気まずい空気が出てくる。

 

「俺は、今日配属されたクーガスト・イリュード三等空尉です。一応フォワードメンバーですが、基本的には護送係をやる事になっています」

「そうですか」

 

 素っ気無い回答が帰ってくる。この空気を打破するには、劇的な何かが必要なほど。

 が、そこで赤いライトが点滅し、警報が鳴り響く。

 

『!?』

 

 2人は、咄嗟に天井を見た。

 一種の人間の心理と言える行動。

 数秒後、全体放送が入る。

 

≪山岳地帯のリニアレールにて、ガジェットの襲撃が発生!! 直ちに、フォワードメンバーは出動してください!! 繰り返し――≫

 

 クーガストは、素早く部屋を出る。

 

「わっ、私も行きます!!」

 

 少し遅れて、後からシャリオが追い掛けて来る。

 隊舎内は、所定の配置の移動に大忙し。

 曲がり角辺りで、何回か交通事故に愛想になったが、間一髪でお互いに踏みとどまる。

 そして――作戦司令室。

 

「失礼します、状況は!?」

 

 その声に、眼鏡を掛けた男性が、顔を向けてくる。

 

「自分は、今日配属されたばかりの――」

「クーガスト・イリュード三等空尉、ですね?」

 

 そう眼鏡を掛けた男性が答える。どうやら、話は通っていたようである。

 

「はい、そうです!」

「私は、グリフィス・ロウラン准陸尉です。状況は――」

 

 グリフィスより聞いた状況は、以下の通りである。

 まず、はやては、聖王教会から最速で帰還中。

 フォワードメンバーは、なのはを筆頭に、ヘリで出撃。

 フェイトは、はやてを送った帰りにエマージェーシーコールを受けたので、近くのパーキングエリアから向かうらしい。

 しかも、リニアレールを乗っ取ったガジェットの数は、確認できただけで50体いるらしい。

 さらに、それが外壁の確認できた数で、内部はジャミングによって不明になっている。

 ただ、レリック反応は感知。場所は、リニアレールの列車の真ん中の車両だと判明。

 

「――と、言う訳ですが……イリュード三等空尉は、ここで待機をお願いします」

「了解しました。一応、ブリーティングルームで待機しています」

 

 お互い敬礼を行い、クーガストはブリーティングルームに向かった。

 なを、シャリオは、2人の会話中に作戦司令室に入り、通信を行っていた。

 ただ、精密機器室の奥の部屋に置いてある、3つのケース。

 それのロックが開いた音が、部屋の中に静かに響いた。

 

 

 

 

 

 そして、機動六課・屋上。

 

「各員、速やかに指定されているヘリに搭乗!!」

 

 なのはは、ヘリの音に負けない様に声を張り上げる。

 普通は、武装局員の数が多い場合、予算の関係で旧式が配備される事が基本である。

 だが、今、屋上に置かれているヘリは――全て最新型。

 多目的換装型特殊輸送ヘリ――MR405S・ショルド。

 ショルドは、ジュルイド社が開発したヘリで、『ディージョ』と呼ばれる次元世界で開発されたモノである。

 なを、ショルドをディージョ語から、ミッドチルダ語に略すと『衝撃の拳』となる。

 換装パーツは、現在2種類しか完成していない。

 戦闘用のBaシリーズ――迎撃用、殲滅用、防衛用の3タイプ。

 防御用のDeシリーズと、サポート用のSシリーズ。

 あとは、現在開発中の災害用のDiシリーズ、救急用のFaシリーズ、搬送用のTrシリーズ。

 Baシリーズにて、爆撃用が追加予定となっている。

 そして今、ジョルドにはDeシリーズが換装されている。

 今回は、ヘリによる迎撃ではなく、現場に魔導師の護送が目的である。

 

「高町隊長!!」

 

 と、後ろから声が掛かる。

 

「何か!?」

「ヴァイス陸曹のショルド1号機・ストームレイダー以外、まだ未調整のままで、発進に少々時間が掛かります!!」

 

 そうショルド2号機のパイロットが告げる。

 なのはは、軽く舌打ちをするも、その音は誰にも聞こえない。

 

「仕方が無いな……1号機だけ先行するので、2号機と3号機は調整が完了次第出撃!! 場合によっては、そのまま待機!! 判断は部隊長に仰いで!!」

「了解!!」

 

 ショルド2号機のパイロットは、敬礼しながら返事を返し、振り返って3号機へ向かう。

 なのはの指示を伝える為であろう。

 なのはは、そのままショルド1号機に乗り込み、通信回線を開く。

 

「2号機と3号機のフォワードへ。ショルド2号機と3号機が未調整の為、1号機の我々スターズとライトニングが先行います。乗り切れなく、2号機と3号機へ回ったスターズとライトニングは、他の隊の隊長の指示に従う事――ヴァイス陸曹!」

 

 そう最後に名前を叫びながら、通信を切る。

 

「了解!! 行くぜ、ストームレイダー」

≪はい≫

 

 ヘリのコクピット内に、デバイスの音声が響く。

 

「ヴァイス陸曹、ショルド1号機・ストームレイダー、出るぜ!!」

≪了解――発進、どうぞ!!≫

 

 備え付けられた通信機から、作戦司令室にいる女性の声が上がる。

 その瞬間、ヘリが浮上――空へ舞い上がり、山岳地帯を目指すのであった。

 

 

 

 

 

 山岳地帯上空。

 そこには、ラギュナスのショルドが飛行していた。

 

「――で、あれが目的の」

 

 開放されたハッチから落ちないように壁に手を置き、しゃがんで見るノーヴェ。

 なを、装備はジェットエッジにガンナックル。

 

「ああ、長も出ると五月蝿かったが、シグナムに見張りを頼んであるからな」

「……今は、関係無いと思うッスけど」

 

 初代のライディングボードを手に汗を垂らしながら、ヘリパイロットに突っ込みを返すウェンディ。

 なを、初代とは、ジェイルスカルエッティが開発した固有武装である。

 ラギュナスのタイプシリーズは、それをベースに発展・開発・量産を行っているのである。

 

「ともかく、第三副隊長から聞いての通りだ。上手く撃破して、レリックを持って帰ってきてくれよ。ただし、帰りは手はず通りに」

「判っているさ。こいつを使って、帰ればいいんだろ?」

 

 横顔を見せながら、防護ジャケットの懐から1枚の札を見せる。

 漢字に似た字で書かれているが、『転移符』と何と無く見える。

 

「ああ、そいつが凱螺の代物らしい」

「へぇ~、紙切れなのに……不思議ッスねぇ~」

 

 そう言いながら、ウェンディは札の裏や横を見る。

 裏には、墨が染み込んでいない事から、重ねたのか、元が厚いのかが思いつく。

 

「ちなみに、1枚10万なんだが」

『これで10万――って、当たり前か』

 

 転移技術を詰め込まれた紙のモノ。ミッドチルダから見れば、安い物だと思う。

 

「使い捨てで高性能らしく、50万するらしい」

 

 その言葉に、2人は化石化した。

 2人で100万――物凄いプレッシャーが圧し掛かる。

 

「気にするな――粛清の担当者は」

『聞いて後悔はしたくない』

 

 2人して言いながら、両耳を押さえる。

 それを見て、ヘリパイロットはクスクスと笑う。が、その笑いはすぐになくなる。

 ヘルメットに内蔵された通信機からの緊急連絡。

 内容は、機動六課が出撃した事。

 

「御2人さん、御2人さん」

 

 その声に、両耳から手を離す。実は、耳を完全に塞いではいなかったので、あのまま言えば2人は絶望していただろう。

 それを判っていて、あえてヘリパイロットは言わなかったが。

 

「機動六課が出てきたそうだ」

 

 その言葉に、2人の目の色は変わり――完全に戦士の目に変わる。

 

「数は配備された人数より相当少ないが……高町仕込みらしいから、気をつけろよ」

『了解』

 

 2人は、手に持っていた符を仕舞い、それぞれ開放されたハッチの手前に立つ。

 

「ご武運を――GO!!」

「RN-09!!」

「RN-11!!」

『出る!!』

 

 2人は同時に飛び出し、地面に落下していく。

 だが、ノーヴェはウェンディのライディングボードに乗り、リニアレールの屋根に取り付く。

 その瞬間、下の屋根からレーザーが放たれる。

 ウェンディはライディングボードでガードし、ノーヴェは右に左へ回避。

 そして、屋根を突き破って内部に侵入。

 壁を使っての3次元戦法を行い、ガジェットドローンⅠ型に蹴りを叩き込んで真っ二つにし、撃破する。

 

「連中が来る前にカタをつけるぞ!!」

「了解ッス!!」

 

 ノーヴェの激に答えるウェンディ。

 

≪気合を入れたばっかりで悪いのだが≫

 

 不意に、ヘリパイロットから通信が入る。何と無くだが、切羽詰っている様な感じである。

 

≪機動六課の連中が来たぞ≫

 

 その通信に、舌打ちをするノーヴェ。

 しかし、やる事は変わらないので、攻撃を回避しながら敵を撃破していく。

 ウェンディも、内部に侵入してノーヴェのアシスト。

 

≪ノーヴェとウェンディだったな――生き残れよ≫

 

 そこで通信は切れる。

 そこで、空間モニターが開かれて、こう表示されていた。

 

≪ショルド撃沈・パイロット死亡≫

 

 その表示に、2人は葉を喰いしばって、敵に八つ当たりするように攻撃を続ける。

 怒りに任せた攻撃は、単調になり易く、隙も出来やすい。

 だが、トーラングスの訓練により、怒りを露にしつつも冷静を保ち、確実に潰していくのであった。

 

 

 

 

 

 少しだけ時間が戻り――ショルド1号機・ストームレイダー内。

 

「――と、作戦説明はここまで。何か質問は?」

 

 なのはの問いに、フォワードメンバーが顔を合わせ合うも、特に無いらしい。

 しかし、キャロが震えている事に、なのはは気がつく。

 だが、キャロは胸元からペンダントを取り出し、それを両手で掴んで深呼吸。

 すると、徐々に体の震えが止まり、何とか持ち直したのである。

 なのははそれを見て、自分は必要無いのだと感じ取って、ヴァイスに声を掛ける。

 

「じゃあ、私は先行するから――ヴァイス陸曹」

「ウッス、ハッチ開放します」

 

 エアー音を立てながら、ハッチが開かれて風が入ってくる。

 

「作戦通りに。リイン、あとは任せるよ」

「了解です、高町分隊長」

 

 なのはの問いに答えながら、敬礼をしながら返事を返すリインフォースⅡ。

 そして、なのはとリインフォースⅡ以外の人間は、こう思った。

 

(いたんだ、リイン空曹長)

 

 フォワードメンバーとヴァイス陸曹の心が、1つになった瞬間であり、今まで空気化していた瞬間でもあった。

 それに気がついたのか、気がつかなかったのか、なのはは開放されたハッチから飛び降り――セットアップをする。

 それから、後から来たフェイトと合流して、ガジェットドローンⅡ型と交戦を開始。

 

「じゃあ、ひよっこ――もとい、ベテランさん方!! 目的の上空に到達!!」

「では、各自、指定されたリニアレールのポイントに飛び乗ってください」

『了解!!』

 

 そう言って、リインフォースⅡが先行して降り、次にスターズのスバルとティアナの先頭に4名降下。

 次にライトングは、1人降下してから最後にエリオとキャロ、フリードが降下した。

 だが――なのはとフェイトを抜けたⅡ型と、リニアレールの横や屋根の上、車内からのⅠ型の攻撃が飛び交っていた。

 おかげで、リインフォースⅡ、スバル、ティアナ、エリオ、キャロとフリードしか、飛び乗る事はできなかった。

 あとは、Ⅱ型のミサイルによって吹き飛ばされ、Ⅰ型の攻撃を受けて、森へ吹き飛ばされてしまった。

 ただし、スターズの2人は死亡。

 死亡原因は、セットアップする前に、Ⅰ型の攻撃に頭を吹き飛ばされる。

 セットアップしたものの、陸戦魔導師だったので、吹き飛ばされた先がリニアレールの真ん前だった。

 言わずとも、上半身だけ無事で、下半身はリニアレールにすり潰されたミンチと化す。

 ライトニングは、森に吹き飛んで助かったものの、右腕と左足を骨折。結局、戦闘不能に。

 その状況を聞いたなのはは、アクセルシューターを放ちながら、舌打ちをする。

 

「仕えないな、もう……当分は、スバルとティアナだけでいいや」

 

 そう言いながら、山勘で上空にディバインバスターを放つ。

 桜色の砲撃が放たれた先で――爆発が起きる。

 その爆発は、ラギュナスのショルドであった事は、なのはが知る由も無かった。

 

「邪魔者がいるぽいけど――あの子達なら、問題は無いかな」

 

 敵のミサイル攻撃を回避しつつ、アクセルシューターで応戦しながら、空を翔る。

 その空には、絶望しか広がっていない。

 それでも、なのはは希望があると信じて駆け抜ける。

 だが、そんなモノはこれっぽっちも無い。どんでん返しも無い事を、心の底から知ることになる。

 自分が信じ、生き甲斐とした空で。

 

 

 

 

 

 舞台は整い、ここに新たなる扉が開かれる。

 その扉は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、彰浩(あきひろ)」

 

 学校の帰り、後ろから声を掛けられる。

 

「なんだ、友人S」

「だれが友人Sだ!? まぁいい――の奴だけど」

 

 と、彰浩が貸したDVDを、鞄から取り出して渡される。

 

「熱血バトルって……これ、本当に魔法少女か?」

「……………………………………………………………………………………多分」

「何だ、その長い間は!?」

 

 友人Sから、突っ込みは来るも、彰浩は笑って流す。

 

「とにかく、それは返したぞ」

「おう、次の貸すよ」

「いい。俺には合わないから」

 

 そう言って、友人Sと別れた。

 そして、返してもらったDVDを見る。

 

「言いと思うんだけどなぁ~」

 

 そうぼやきつつ、鞄にDVDを仕舞うのであった。

 

 

 

 

 

 ある家にて、掛け声と打撃音が鳴り響く。

 

「はぁああああああああ!!」

 

 緑の髪の女の子が、棒で突撃を掛けてくる。

 しかし、男――勇斗(ゆうと)は、棒の先端をいなして流し、一気に懐に潜り込む。

 

「――喰らえ!!」

 

 だが、緑の髪の女の子の方が1枚上手だったのか、拳法のカウンターを貰い――3、4メートル後方に吹き飛ぶ。

 が、彰浩はその反動を利用して、さらに距離を開ける。

 お互い構え直し、睨み合いをする――が、目覚まし時計の音で、その均衡は破られた。

 

「ありぁ、時間切れやな」

 

 緑の髪の女の子は、構えを時ながら言う。

 

「そうだな、お互い決着はまた今度か」

 

 勇斗も、同意の声を上げる。

 

「じゃ、アタシは買い物行くやけど――勇斗は?」

「後片付けをさせて貰おうか」

「うん、了解や。ほな、頼むでぇ~」

 

 緑の髪の女の子は、そう言いながら家に入って行った。

 

「じゃあ、片付けでも始める前に……シェイクダウン、シェイクダウン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が交差し、常識と非常識、現実と空想が混合する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第八話

出動

 

END

 

 

 

次回予告

 

レリックを求め、ぶつかり合うスバルとノーヴェ。

そして、ティアナとウェンディ。

激闘の末に、レリックと同じ場所に積み込まれていた荷物が光りだす。

それは、別世界の切符であった。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第九話:交差

 

 

 

その時、世界は交じり合う。




あとがき
 何とか完成。(汗
 微妙に詰まっていましたが、何とか完成。ただし、締め切りオーバーしました。
 それに関しては、真に申し訳ありませんでいした。
 で、主人公出してないな~と思ったが、物凄く偉い立場なので、滅多に動かせない状況に。
 それに、主人公視点で書いていると――10話行くかな? 行くと思うが……余り長く続か無いかも。
 しかし、多数視点になれば、それなりに話は伸びます。
 目指せ、総数100話――は、無理かな。更新遅いし、何年掛かるのだろうか。(汗
 でも、完結はしますよ。超長編モノに成りつつありますが。
 でもって、相変わらずのスプラッター的な表現発生。(汗
 早速活躍前に、死亡者発生――でも、名も無い人物なので、問題無し。
 名前付けても良かったけで……下手に増やすと、誰が誰だか判らなくなって来るので止めました。






制作開始:2008/8/19~2008/10/1

打ち込み日:2008/10/1
公開日:2008/10/1

修正日:2008/10/5
変更日:2008/10/29


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第九話:交差

常識とは何か。
非常識とは何か。
誰が常識と決めつけ、誰が非常識と決め付けたのか。
世界が? 時間が? 人が? 大半の人間が言えば、常識となる。
だが、その常識を打ち砕く答えがあれば?


 

 私の名前は、キャロ・ル・ルシエ。

 とある世界の辺境の住んでいる少数民族の出身である。

 だが、その辺境の守る守り神であり、ル・ルシエの民に恐れられていたボルテールと契約した事により、私の人生は変わった。

 ボルテールと契約してから数日後に、追放されてしまった。

 理由は、言わずとも神竜ボルテールとの契約。

 大きすぎる力には、災いしか呼ばないといわれて。

 私は、もう1匹契約した竜がいた。

 その子は、常に私の側にいてくれた。

 名前は、フリードリヒ。愛称はフリード。

 召喚魔法である『竜魂召喚』により、真の姿になる事ができるが、私が未熟な為に暴走してしまう。

 暴走したフリードは、私以外を全て攻撃します。

 力を使う事は怖いです。

 時折、手から血が溢れ出てくる幻覚を見るほどに。

 だけどあの日、いつも身に付けているペンダントをくれた人の言葉を思い出すと、気持ちが落ち着いていきます。

 その人は、私と同じローブを纏い、フードを深く被っていた為、顔が見えませんでした。

 でも、声からして女性でした。

 それだけは確信が持てましたが、あの声で男性だったら人間不信になりますよ。

 ともかく、その名前も知らない人のおかげと、フェイトさんに出会えた結果、今日と言う日を迎えられた。

 そして、明日も、明後日も。

 日々繰り返される日常の中で、私は今日も生きる。

 あの女性がくれたペンダントと――言葉と共に。

 

「貴女は、何かを成し得る事ができる力を持っている」

 

 荒野の真ん中で、出会った瞬間に言われた言葉。

 

「だけど、運命まで変える事はできない」

 

 運命――今の、一人ぼっちの事を指しているのだろうと考えるが、すぐに否定された。

 

「一人ぼっちはもうすぐ終わる。この旅路の終点は、もうすぐだから」

「どれくらい?」

 

 私は、何と無く聞いた。

 

「それは、自分で進んで確かめなきゃ」

 

 当たり前の答えが返ってきたが、今度は別の事を聞いた。

 

「……貴女は?」

「私は貴女、貴女は私――さぁ、誰でしょう?」

 

 からかい口調で帰ってきたが、返事を返す。

 

「わかりません。初対面ですし、顔も見えないから」

「うん、正論だね――って、話が反れちゃった」

 

 そう言って、マントの下に手を入れて、何かを取り出して渡してきた。

 

「貴女にこれをあげるわ」

 

 そう言って、2センチほどの長さの細長い円柱の先端に、紐を通したような物を渡してきた。

 

「――ペンダント?」

「そう。ただ、お守りの意味合いが強いけど」

「お守り、ですか」

 

 そう呟いて、まじまじとペンダントを眺める。

 触ってみると、紐だと思っていた部分は、何気に金属の様な感触があった。

 その金属みたいな紐を良く見ると、何か彫られているような小さな穴みたいなのが刻まれてある。

 そして、円柱の色は白銀で、それを保護するような形で薄い透明なモノで巻かれている。

 厚さは、1ミリあるか無いかくらい。

 ただ、白銀の円柱には、所々にクリアグリーンがはめ込まれている。

 

「どういう意味がある、の……」

 

 そう尋ねながら、視線をペンダントから外して顔を上げる。

 しかし、そこには誰もいなかった。

 荒れ果てた荒野を見回すも、誰もいない。

 今のは、幻だったのか、それとも幻覚だったのか。

 だが、それは現実であると――ペンダントが教えてくれる。

 そして、それから少しして時空管理局に保護されるも、ボルテールと契約した時の民族の皆と同じだった。

 能力調査と言われ、無理やり竜魂召喚をさせられて、フリードは暴走。

 その後、すでに待機していたオーバーSの方によって鎮圧された。

 それにより、私は無能扱い。

 それでも、殲滅戦に使えるだとかで、1人で戦地に送られる事が決まった少し後。

 フェイト・T・ハラオウンという人に出会った。

 その人は、私を連れ出してくれた。

 その人は、温かい居場所をくれた。

 その人は、やさしさをくれた。

 その人は、母親になってくれた。

 だけど、未だに私は、フェイトさんとしか呼べない。

 多分、母親よりもお姉さんの方が合っているのだと思ったのかもしれない。

 そしてなにより、あの人が教えてくれた旅の終着点なのだと。

 だけど私は――ここが旅の終着点だとは思っていない。

 確かに一人ぼっちの旅は終わりましたが、旅は続けます。

 自分の意思で、色々なモノを抱えて、前に進みます。

 立ち止まるのは止めて。

 

 

 

 

 

 閉じた目を開けて、視界に入るのは――あの時のペンダント。

 場所は、機動六課が保有している、多目的換装型特殊輸送ヘリ・ショルド1号機・ストームレイダーの中。

 もうすぐ初任務であり、初の戦場に足を踏み入れる。

 恐怖を振り払うわけでも、押さえ込むわけでもない。

 乗り越えるものだという事を、このペンダントが教えてくれた。

 あの日見た、夢の――。

 

「これから作戦説明を始めます」

 

 その言葉に、私――キャロ・ル・ルシエは、顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九話:交差

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後尾に降り立つ、スバルとティアナ。最前列には、キャロとエリオ、フリーダだけ。

 あとのメンバーは、ガジェットドローンに落とされてしまった。

 

「スバル、大丈夫!?」

「うん、私は平気だけど……他の人たちが……」

 

 そう言いながら、スバルは左下に見える森に目を移す。

 それに釣られて、ティアナも視界に入れるも、すぐに前方に向ける。

 

「気にしている余裕は無いわよ。今の内に、装備の確認するのよ」

「うん!」

 

 ティアナの言葉に、スバルは自分のバリアジャケットを見る。

 ティアナも部分的ながら、なのはのバリアジャケットの能力が追加されていたのである。

 エリオとキャロの方も、この調子だとフェイトのバリアジャケットの能力が追加されている筈である。

 

「へぇ~、これって……なのはさんの?」

(その通りです、スバル)

 

 スバルの呟きに、リインフォースⅡからの念話が飛んでくる。

 

(あなた方のバリアジャケットをベースに、各隊長陣のバリアジャケットのパーツを付け加えたモノです。その代わり、少々癖が付いてしまいますが、上手く使いこなし――)

 

 リインフォースⅡの念話が終わる前に、上からミサイル、下からレーザーが飛んでくる。

 

「うわぁ、とっ!?」

「迎撃を開始します!!」

(了解です!!)

 

 2人は、少々慌てながらも回避――ティアナは、リインフォースⅡに状況を報告して空を。スバルは、屋根を突き破って内部に突入した。

 まず、スバルの方は、屋根を突き破って内部に入った瞬間、顔を上げて状況確認。

 ガジェットドローンⅠ型のレーザーを掻い潜って前進。

 最小の動きで回避運動し、レンズ部分に右の拳を叩き込んで抉り取って、1機目を撃破。

 そのまま前進して、壁走りを行いながら内部全体を見回す。

 これにより、やっと後ろだった方が確認できた。

 どうやら全部で5機――その内、1機は先ほど撃破済みなので、あと4機。地面と空中に2機ずついる。

 壁を蹴って、先に宙に浮いているガジェットドローンⅠ型に向かうスバル。

 しかし、ガジェットドローンⅠ型も、そう易々と落ちる代物でもなく、反撃と言わんばかりにレーザーを放つ。

 

「しまっ――」

<ウイングロード!!>

 

 が、マッハキャリバーは空中で、スバルのIS――天性魔法であるウイングロードを出して、道を作って避ける。

 

「サンキュゥ――せいやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!」

 

 そのまま道を伝って、ガジェットドローンⅠ型のレンズに拳を叩き込み、そのままそれを盾代わりに使って一直線に向かう。

 もう1機のガジェットドローンⅠ型がレーザーを乱射するも、スバルの拳がめり込んでいるガジェットドローンⅠ型が防ぐ。

 レーザーが、装甲に当たるたびに、金属音を奏でつつ、凹みを作っていく。

 だが、装甲が貫通する前に、ガジェットドローンⅠ型同士がぶつかり合う。さらに、ぶつかり合った瞬間、さらにめり込ませている腕に力を入れて、床に向かう。

 その下にも、ガジェットドローンⅠ型がいるが、回避するには遅すぎた。

 

<トリガー、セット>

「バンカァアアアアアアアアッ――シュゥゥゥゥゥゥゥゥトッ!!」

 

 3機とも纏めて地面に叩きつけられ、装甲が潰れて句の字を描く。

 装甲が一気に砕かれ、破けた部分からは精密機械の部品が飛び散る。同時に、電気が迸り、周りを一瞬だけ明るく照らし出す。

 スバルは、それに少し目を晦ましつつ、素早く両足をガジェットドローンⅠ型に付け、腕を抜くと同時に後方へ飛ぶ。

 

<プロテクション>

 

 その際、シールドを展開したと同時に、ガジェットドローンⅠ型が爆発。

 勢いは屋根を突き抜け、外に放り出されてしまったのである。

 

「――うわぁっ、とぉ!!」

 

 が、体を捻って、上手く着地する。だが、その瞬間を狙って、最後の1機が襲い掛かる。

 

「遅い!!」

 

 が、屋根の上で応戦していたティアナの射撃を貰って爆発。

 そのまま中に入るティアナ。

 なを、ティアナは今まで、屋根の上で対空砲の役割をしていたのである。

 数が多く、ミサイルも何発か向かってきていたのを狙撃。あとは、横から湧き出てくるガジェットドローンⅠ型を迎撃。

 着地した瞬間、壁際によって今いる部屋を確認。

 

「スバルは、そのまま上から先に行って!! 私は中から攻めるけど、途中の9車両目で合流!!」

「OK!!」

 

 そう言って、スバルは屋根の上を先行する。

 その隙に、ティアナは周囲警戒をしつつ前進。

 案の定、天井に取られているガジェットドローン。スバルには悪いが、ティアナにとっては好都合な状態である。

 レンズより、数段階も硬い装甲を貫くには少し掛かるが、敵の攻撃にさらされる事無く叩き込められるのである。

 

「行けるわね、クロスミラージュ」

<問題ありません――マグナムバレット>

 

 装填されているカードリッジ1発使われ、砲身の先端に光の球体が生まれる。

 何でも、管理外世界の質量兵器の魔法版だと聞く。

 練習では、危険なので出力を落としていたが、今回が初めてである。

 ティアナは、生唾を飲みながら引き金を引く。

 魔法である程度緩和されているはずなのに、構えていた両手が反動で浮き――弾丸は、ガジェットドローンの横に当たる。

 だが、当たった瞬間、威力か想像以上に高く、句の字を描いきながら吹き飛んだのである。

 さらに突き抜けた反対側からは、精密機械を撒き散らす。

 ティアナは唖然とする暇も無く、物陰に隠れて爆発を逃れるも、奥の方からさらに爆発音が3、4回ほど聞こえた。

 どうやら貫通した弾丸は、さらに貫通して2、3両ほど貫通していったようである。

 

「…………封印しよう」

<それが懸命です>

 

 ボソッと呟くティアナの言葉に、新たなるパートナーのデバイスであるクロスミラージュが、同意の声を上げる。

 この魔法は、非殺傷モードで使うことが少々難しいらしく、魔力の集約量によってはトンでもない威力を発揮するらしい。

 ティアナ自身が、魔力値をカバーするために考えた魔法だったのだが、どうやらそれが仇になった様である。

 ただ、今回の救いは、ティアナ自身の集約率の甘さと、先ほど使った魔力の量のお陰と言える。

 

<別の魔法検索――パワーバレットか、バリアブルシュートを推奨>

「……パワーバレットをお願い」

<了解、集約率を調整します>

 

 ガンッ!! と、兆弾が木霊する。

 ティアナは、一瞬だけ身を竦ませるも、まだ何機か残っていた事を思い出す。

 そのままの体制で、カードリッジを交換。

 空のカードリッジを左手に持ち、タイミングを計って上に投げる。

 すると、ガジェットドローンたちは、そちらにセンサーを移す。

 ティアナは、素早く構えて狙いを定め――。

 

<パワーバレット>

 

 引き金を引く。

 弾丸は、レンズに直撃して1機目を撃破。だが、2発目は、撃破した奴に当たってしまう。これは、倒れる際に偶然に当たってしまったのである。

 3発目は、2機目のガジェットドローンに当たるも、装甲を凹ませる程度。

 4発目は、3機目のガジェットドローンのレンズに直撃。しかし、撃破には至らなかった。

 2機目のガジェットドローンがレーザーを放つも、見当違いの場所に飛んで行く。どうやら、センサーに異常を来たした様である。

 破壊に至らなかった3機目は、酔っ払いの様な足取りで、宙を浮遊するも2機目と接触。

 そのまま、コードで拘束をし始めるも、暴れる2機目。

 この状態を無視して次の車両に進みたいが、一応ガジェットドローン全機撃破も任務なので、ほって置く事が出来ない。

 なので、乱射する2機目の攻撃をかわしつつ、別の場所から狙撃する事に。

 

「沈め」

 

 一呼吸して、コードが出ている横に、弾丸を叩き込む。

 すると、あっさり内部爆発を起こして、2機とも撃破。

 

<お見事>

「よしてよ、こんなのイージー過ぎるわよ」

 

 そう言って、次の車両に向かうティアナであった。

 だが、ティアナが狙撃ポイントに選んだ場所は、コンテナがぐちゃぐちゃに変形して危ない場所である。

 しかも、AMFの濃度率が滅茶苦茶にも関わらずに本体に当てられなど、イージーとは言わない。むしろ、ノーマルハードクラスである。

 地形が悪くも揺れる事無く立ち、波が激しい空間を一直線に貫く。

 まさに、スパルタ――と言うか、地獄の訓練をこなして来た結果とも言える。

 お陰で、少々感覚のズレが生じているが、一般人と比べる事は余り無いと思うので問題は無いと思われる。

 そして、次の車両も難無く制覇し、さらに次――3番目の車両に入った瞬間、我が目を疑った。

 既にガジェットドローンが撃破されていたのである。

 数は5。音も立てずに、短時間で撃破など考えられない。確かに、短時間は可能だとしても、音を立てないでなど不可能である。

 急所だけを狙い、最小の部分を叩けば音も無く撃破できる。

 だが、これら目の前に広がっている残骸は、どう見てもスバルが先ほど行った戦闘の跡に似ている。

 ガジェットドローンⅠ型なのか、新型のⅢ型と思しき残骸が入り混じっているのである。

 まとめて片付けたのか、意図的に混ぜたのか、宙を浮くので偶然残骸の真上で迎撃されたのか。

 仮説は色々立てられるも、まず判る事は残骸を触っても熱くないから。

 つまり、ほんの5分前にやられたばかりでないと言う証拠。すなわち、自分たち以外の誰かが撃破した可能性が出てくるのである。

 ティアナは、すぐに念話をリインフォースⅡに繋げる。

 

(リイン曹長、聞こえますか?)

(こちら、リインフォースⅡ。感度良好です)

(つき先ほど、何者かに撃破されたと思しき残骸を発見。撃破も憶測ですが、場合によっては先に来た者がいる可能性があります)

(――了解! 今、六課に通信を入れます! 場所は!?)

(場所は、13車両目です。私は、このまま先行し、9車両目でスバルと合流します)

(了解です。ですが、目的ポイントである8車両目には、十分気をつけてください)

(了解です。これより、先行を再開します――スバル、聞こえる)

 

 と、報告を終えたので、そのまま念話をスバルに繋げる。

 

(何、ティアナ?)

(アンタ、今何車両目の天井?)

 そう交わしながら、12車両目に突入する。

(今10車両目の天井、一歩手前――って、うわぁ!?)

(スバル!? 今何と交戦しているの!?)

 

 ティアナは、耳に手を当てて訪ね返す。

 

(大きな球体! 確か、新型のⅢ型だったっけ?)

(ええ、合っているわよ。ところでスバル)

 

 物陰から、少しだけ顔を出して、内部を確認。案の定、先の13車両目と同じ光景が広がっていた。

 

(何?)

(アンタ、絶対に8車両目に、1人で先行したりしないでよ)

 

 何とか残骸を越えつつ、周囲警戒をする。

 いくら残骸があるとはいえ、物陰に潜んでいる可能性がある。よって、この様の時に限って、敵がいないと油断して背後から攻撃、などが出てくる。

 挙句の果てに、そんな事になれば、なのはから特別訓練と言う名の大地獄がプレゼントされるのは、目に見えている。

 実戦の前に訓練で殺されるなど、笑い話にもならない。その代わり、なのはの訓練の悪名がさらに大きくなるのだが、それは別の話。

 

(え? 何でさ?)

(何でも良いから、絶対に入るんじゃないわよ! 絶対に9車両目で合流!!)

(さっ、サァー、イエッサァ、ボス!!)

 

 その言葉に、少しだけ体が傾くも、すぐに取り直す。

 

(誰がボスよ、誰が)

 

 呆れ口調で返しつつ、11車両目に突入。

 だが、ここも同じ光景が広がっていた。

 ただし、客が乗る小部屋の車両みたいな感じで、通路が狭くなっている。

 お陰で、通路を塞ぐように残骸が転がっているので、周囲警戒しながら進むのは難しい。

 

「クロスミラージュ、周囲警戒をお願い」

<お任せを>

 

 そう言い合ってから、ティアナはクロスミラージュを腰のガンホルダーに入れる。

 攻撃魔法で吹き飛ばせば早いのだが、下手に攻撃して派手な音を立てれば、他のガジェットドローンが着てしまう可能性がある。

 今現在、ティアナの所には、追撃されている様子は無い。

 その代わり、スバルの方に集中しているのか、ライトニングとリインフォースⅡのどちらか2つ。

 もしくは、未確認かつ推測のみであるも、第三勢力の可能性。

 その答えはもうすぐ判る。

 9車両目で合流する予定のスバルと共に、目的ポイントである8車両目に。

 答えは、そこにあるはず。

 そう考えながら、ティアナは残骸の山を越え、退かしつつ9車両目と10車両目の境目に入る。

 そして、ドアを開けた瞬間――ティアナから見て、すぐ横の右の壁に何かがぶつかったのである。

 反射的に横を見ると、そこにスバルがいた。

 

「スバル!?」

 

 しかし、すぐに寄る事無く、正面を向く。

 そこには、青がベースとなっているライダースーツらしきモノを着た、赤い髪の少女が2人。

 ティアナから見て右に、短髪でスバルと似た装備をしている。違うのは、右腕の装備にタービンは無く、両足に付いている。

 左にいる少女は、後ろに纏めて上に上げて留めている髪型で、右手にスノーボードらしきモノを持っている。

 ただし、ゴツゴツした部分があるのと今の季節、今いる場所を考えて――武器か、移動手段関係だと推測できた。

 さらに、髪の色以外での共通点があった。胸の上辺りのプレートに、数字が刻み込まれていた。

 短髪の娘には『Ⅸ』があり、後ろに纏めて上に上げて留めている髪の娘は『XI』が刻み込まれていたのである。

 

「まさか、いきなりタイプ・ゼロと出会うとは、な」

 

 と、『Ⅸ』が刻まれた娘――ノーヴェが喋る。

 

「そぉッスねぇ~。でも……」

 

 ノーヴェの問いに、『XI』刻まれた娘――ウェンディが答える。

 そして、そのままティアナを見据える。

 

「ティアナって娘」

 

 その言葉に、ティアナは身構える。

 だが、ウェンディは言葉を続ける。

 

「お持ち帰りしたいッスね」

 

 その言葉に、身震いを覚えるティアナ。

 彼女には、百合の趣味は持ち合わせていないし、スバルの過剰なスキンシップも払いのけている。

 にも、関わらず面と向かって言われると、さすがに引く所か恐怖を覚える。

 なを、恐怖は圧倒的な存在を恐れるのではなく、生理的に受け付けられない所から来ているものである。

 

「まぁ、待て!!」

 

 スバルは、そう言いながら、何とか立ち上がる。しかし、少し足に来ているのか、壁に寄り掛かっている。

 そして、ノーヴェとウェンディに、こう言い放った。

 

「ティアは……ティアは、私のモノだ!!」

 

 その瞬間――空間が凍結した。

 だが、1人だけ動ける人物が……阿修羅がいた。

 

「――――!?」

 

 阿修羅の存在に感じたスバルは、マッハキャリバーを前進させ、腰を重心にして自ら尻餅をつく。

 だが、この行動が正解だった。

 先ほどまで、スバルの頭があった部分に、オレンジ色の弾丸が炸裂。

 そのまま壁に大穴があいて、岩の壁に大きな窪みを生み出す。

 打ち込まれた弾丸は、先ほど封印したはずのマグナムバレット。

 いくら非殺傷モードとは言え、当たれば重傷である。

 

「スバル」

「はぁ、はひぃ!!」

 

 スバルは、顔を真っ直ぐにしたまま答える。

 左上に顔を上げようにも、物凄い圧力によって、本能が拒絶して向けないからである。

 

「今、目の前に何がいる?」

「って、敵です!!」

 

 体を震わせ、カチカチと歯を鳴らしながら答えるスバル。

 ティアナの阿修羅化により、赤い髪の娘たちも恐怖に、1歩下がっている。

 

「なら判るわね? 私は?」

「後衛!!」

 

 大きな声で、ハッキリと答える。

 

「貴方は?」

「前衛!!」

 

 ティアナは、左手を右肩辺りまで持っていく。

 

「よし行け」

 

 言葉と同時に、腕を前に伸ばして指し示す。

 

「サァー、イエッサァ!!」

 

 尻餅状態から、素早く立ち上がると同時に突撃を掛ける。

 狙いは、ウェンディと見せかけて、ノーヴェを狙う。

 

「――はぁ!」

 

 早速、右腕のリボルバーナックルが唸りを上げる。

 

「ちぃ――せい!」

 

 右手のガンナックルに、魔力と氣を混ぜたものを纏わせる。

 衝突。

 しかし、爆発や衝撃波は起きなかった。

 どうやら、同じエネルギー量でありながら、性質が噛み合ってしまった結果である。

 スバルは、押し出す衝撃。ノーヴェは、包み込むような衝撃。

 よは、凹凸が噛み合ってしまった現象でもある。

 故に、この現象を打破するには、相手より強いエネルギーを放つか、どちらか、もしくは同時に止めるかしか無い。

 その横では、ティアナとウェンディが弾丸の打ち合いをしていた。

 

「喰らえ!!」

 

 ティアナは、クロスミラージュを両手に持って、バルカンバレッドを放つ。

 

「甘いが――さくら棒ッス!!」

 

 軽々と自分より大きなボードを振り回して、盾代わりにする。しかも、強度が高いのか、傷すら付かない。

 

「エネルギー展開」

 

 そう呟きながら、右の蹴り易い位置に、エネルギーの球体が生まれる。しかも、それはティアナからは見ることが出来なかった。

 なんせ、ボードが陰になっているのだから。

 急にボードが淡く光りだした瞬間、ウェンディは思いっきりボードを振り上げる。

 それにより突風が発生し、ティアナのガトリングバレットを吹き消したのである。

 

「!?」

 

 さらにその突風はティアナに向かい、攻撃を止めて両手で顔を覆って防ぐ。

 

「オブジェクトボール――」

 

 そのまま溜め込んでいたエネルギーの塊――『オブジェクトボール』は、対象に追尾機能付きで当たるまで止まらない攻撃魔法である。

 ただし、永遠に追撃できるわけでもなく、機械的な追尾、飛距離の問題もあるので、余り好まれない魔法である。ついでに、チャージタイムの問題もある。

 

「ちぃ!! ――パワーバレット!!」

 

 蹴りと引き金。その動作は、余りにも違いすぎる。

 指で数センチ引くのと、足で数十、数百センチ上げてから蹴る。明らかに、蹴りの方が不利である。

 だが、そのチャージタイムと足を上げる時間は無くなり、既に足を振り下ろし始めている。

 ティアナは、構え直して集約し直す。その集約は、構え直す前から行われていたので、すぐに集約は完了。

 あとは引き金を引くだけである。

 だが、ウェンディの足が、オブジェクトボールに当たりそうになっている。

 つまり、発射は同時となった。

 

『シュゥウウウウウウウウトォ!!』

 

 そして、放たれたお互いの魔力の塊は、スバルとノーヴェがぶつかり合う隣でぶつかり合う。

 さらに同時に、スバルとノーヴェのぶつかり合いが、臨界点に達し――2つの衝突は、同時に爆発した。

 

 

 

 

 

 ほんの少しだけ時間が戻り、エリオ、キャロ、リインフォースⅡの即席チーム。

 リニアレールの天井の上には、新型のガジェットドローンⅢ型。

 それに、キャロのブーストを掛けてもらい、攻撃力を強化したストラーダを突き刺しているエリオ。

 そのガジェットドローンの下の車両内を進む、リインフォースⅡ。

 そして、『竜魂召喚』により、真の姿に覚醒したフリードリヒの背中には、キャロがいた。

 エリオは、ストラーダを上に上げる。

 

「うぅおぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ガジェットドローンⅢ型を切り裂く。

 爆発。

 しかも、タイミング良く9車両目も爆発。こちらは内部爆発により天井が吹き飛ぶ。

「なっ!?」

 

 それに驚くエリオ。

 キャロもフリードリヒも驚く。

 

≪何があったのですか!?≫

 

 慌ててリインフォースⅡが、通信回線を開いてきた。

 

「リイン空曹長!! エリオくんのせいで――」

「何で僕!?」

 

 問答無用で、無関係な爆発の責任と押しつけられるエリオ。

 しかし、タイミングがタイミングだけに、誤解を受けても仕方が無い。

 その爆発の黒煙から、8車両目の天井にノーヴェとウェンディが。10車両目の天井に、スバルとティアナが降り立つ。

 

「アレは!?」

「タイツ!?」

≪ライダースーツもどき位にしましょう≫

 

 と、エリオ、キャロ、リインフォースⅡの順に言う。

 

≪こちらロングアーチ!!≫

 

 そこに、割り込み通信が入る。

 

≪現状報告を求める!≫

 

 アルトから、激の様な返答が来た。どうやら、ロングアーチの方でも、状況が把握できていないようであった。

 

 

 

 

 

 黒煙越しに睨み合う、ノーヴェとスバル、ウェンディとティアナ。

 ノーヴェとウェンディは氣功術により、スバルとティアナは魔力探索によって、大体の位置をお互い把握する。

 だが、そこで異変は起きた。

 黒煙の中心から、空間が渦を巻いて歪み始める。

 だが、その歪みはほんの僅かで、ロングアーチの方でもまだ感知できないほどの、本当に小さな歪み。

 スバルとティアナ、ノーヴェとウェンディは、お互い構える。

 そのまま数秒経過し――互いの目の前にある黒煙が歪む。

 スバルとティアナ、ノーヴェとウェンディが、互いに来ると考えて構えた瞬間である。

 歪みが一瞬で、スバルとティアナ、ノーヴェとウェンディを飲み込んだ。

 声を上げる暇も無く。

 そして、歪みは再び一瞬で集約して、何事も無かったように消えた。

 この現象は、ラギュナス及び機動六課は、次元震だと結論に至る。

 だが、何故次元震が起きたのか、その予兆すら互いに感知できなかったのである。

 一瞬にして巻き込まれたスバルとティアナ、ノーヴェとウェンディは、どこへ飛ばされたのか。

 今それは、飛ばされた本人も判らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本のとある県にある、ある一軒家。

 そこに、ある1人の青年が入る。

 

「ただいまぁ~」

 

 そう言いながら、野山彰浩(のやま あきひろ)は家の中に入る。が、返事は返ってこなかった。

 

「誰もいないのか――って、じいちゃんばあちゃんは、海外旅行。親父とお母は転勤で、外国だったな」

 

 そう言いながら、横にあるドアを開けて、自分の部屋に入る。

 そこで、荷物を机の椅子の上に置き、部屋の中を一回り見てから出る。

 そのまま廊下を歩いて、隣のリビングに入る。出入り口の右側の壁に、120センチほどの高さがある戸棚の上には、ある女の子の写真が置かれていた。

 

「よぉ、帰ってきたぞ……妹よ」

 

 笑顔でポーズを決めた、妹の姿が映し出されていた。

 家族構成は、じいちゃん、ばあちゃん、父親、母親、彰浩の5人家族。

 妹はいたのだが、大型トラックの運転手が、信号無視で跳ね飛ばして即死。

 一緒にいた友達数名も巻き込まれたものの死者も出ず、体に障がいは発生する事は無かった。

 その結果、今では健康的な生活を送っている。

 よは、家の妹だけが、当たり所が悪くて死んだ。

 轢き逃げ犯は、そのまま逃亡したものの、別の事件に巻き込まれて死亡。轢き逃げ犯を殺した人物も、別の事件で死亡。

 という、イタチごっこが3年も続いてしまい、家族も賠償金だけで貰うだけに留まった。

 まぁ、イタチごっこが15件も続けば、怒りが否応無く沈下してしまうのは必然だったのかもしれない。

 

「さぁ~てぇと……DVDを見るか。それとも、スーパーロボの新作でもプレイするか――」

 

 ドドン!! と、自分の部屋の方から、大きな鈍い音が聞こえた。

 

「…………荷物は無事か!?」

 

 大慌てで、自分の部屋に戻る彰浩。

 彼の部屋には、ポスター、トレカ、漫画、ゲームなどのオタクの品が沢山置いてある。よって、荷物に傷が付くのを恐れている。

 そして、ドアを勢い良く開けると、部屋の中央に娘が2人倒れこんでいた。

 そこで、互いに目が合って固まる。

 彰浩は、良く知っていた。

 身に付けている服は、バリアジャケット。足や手に装備されているのは、インテリジェントデバイス。

 娘たちは、何と言えば良いのか唖然としている。もしくは、念話し合っている最中なのだろう。

 そう考えた彰浩は、こう呟いた。

 

「スバル・ナカジマと、ティアナ・ランスター?」

 

 案の定、その言葉に目の色が変わった。

 

「ここは、ミッドチルダのどの辺り何ですか?」

 

 と、ティアナが言う。

 

「違いますよ」

 

 その言葉を否定する彰浩。

 

「じゃあ、どこか管理内世界のどこか?」

「いえ、地球ですよ」

 スバルの問いに、彰浩は今の場所を伝える。

 その言葉で2人は困惑したらしく、目を大きくしたり、パチクリしたりしている。

 確かに、ミッドチルダならともかく、管理内世界で時空管理局の事は知っていても可笑しくは無い。だが、まだ名も上げていない2人を、フルネームで答えられる方が可笑しいといえる。

 さらにここは地球。すなわち、管理外世界なので局員の2人の以前に、時空管理局を知っている訳ではない。

 何事にも例外は存在するものの、彰浩とは例外の人たちとの接点が見当たらない。

 何せ、管理外世界で時空管理局を知っている人間は、末端の局員でも情報を閲覧する事ができる。

 さらに、前に一度、八神部隊長の指示によって、地球で時空管理局を知っている人物のリストを見た事がある。が、彰浩の存在は記載されていなかったのである。

 

「とにかく、ここは俺の部屋なので、リビングで話しません。一応、俺以外家族は出ているから」

『はぁ、はぁ~……』

 

 彰浩の言葉に、2人からは生返事だけが帰ってきた。

 

 

 

 

 

「ほぁ、買い物へ行って来るわぁ」

「了解、留守は任される」

 

 そう言って、緑の髪の娘――フォウ・レンフェイが、外に出て行った。

 それを確認してから、羽山勇斗(はやま ゆうと)は背伸びをしながら、中庭に向かう。

 今いる家は、高町と言う家。

 勇斗は、居候の身であり、他3人ほどいる。その内の1人が、フォウ・レンフェイ。

 中国人と日本人のハーフで、日本語は関西弁で覚えたらしい。なを、いる理由は、両親の海外出張が切っ掛けとなる。

 レンフェイ――レンは、子どもの頃から心臓が弱く、入退院を繰り返していたらしい。今は、手術が成功しているので、病院とは余程の事が無い限り無縁となっている。

 勇斗とは、稽古をしている仲で、成績は5分5分である。

 勇斗の戦法は体術重視でもあるが、居候の1人である晶と互角か、少し下程度である。

 ついでに、居候の最後の1人は、フィアッセという外人である。

 

「あ、冷蔵庫に飲み物あったか?」

 

 そう呟いて、中庭に向かう足を、台所があるリビングに向ける。

 しかし、たまにはおふざけして見たくなったので。

 

「こちら蛇男。これより任務を開始する」

 

 ダイニングルーム入り口付近でしゃがみ込み、壁に張り付きながら、手には無線を持ったフリ。

 そのまま中腰で、テーブルやカウンターに身を潜めつつ、冷蔵庫の前まで行く。

 

「さぁ~て、何があるかなぁ~」

 

 と、ここまで着ておきながら、普通に探し始める。

 だが、こんな所を見られてば洒落にならないと言えば、そこまでである。人、それを羞恥心と言う。

 

「お! リアゴールドはっけぇ~んぅ♪」

 

 缶全体が金色になっているのがトレードマーク、120円のお手頃栄養ドリンクで、何気に美味い。

 その場で飲んで、プルタブを取り、缶の中身を水洗い。そのまま口を引っ繰り返して乾かす。

 プルタブは、引き出しのプルタブが入っている袋に入れる。

 再び冷蔵庫を漁る。

 

「むっ!? これは――」

 

 と、野菜室からそれなりに質の良い牛肉が出てくる。しかも、トレーにラップではなく、肉屋専用の包みに入っている。

「今晩は、すき焼きを希望したいな」

 そう言いながら、元にあった場所にしまう。

 

「お、ポカルススエットか――貰い、っと」

 

 あとで判ったのだが、リアルゴールドはレンので、ポカリスエットは晶の物だった。

 言わずとも、後で制裁が待っているのだが、それを勇斗は気がついていなかった。

 あとは、戸棚に入っていたポテトチップス焼肉味を持って中庭へ。

 

「――――!?」

 

 不意に、中庭の方から違和感を覚えて、走って向かう。

 廊下を滑る様に止まって、顔を外に向けると――3、4メートルくらいの高さ、一部の空間が歪んでいた。

 さすがの勇斗も、非現実的な光景に唖然となる。

 一応、高町家の長男である恭也は、『神速』という瞬間移動的な技を持っている。

 一般の人間の能力を超えた、まさに白と黒の世界に入る事が出来る技らしい。詳しくは知らない。

 ただ、恭也は、膝に怪我を持っているので、1日3回までしかできないそうである。

 簡単に言えば、非現実的な光景ではあるが、こちらは見慣れている一言で片付ける事が出来る。

 だが、こちらはどうであろう。

 空間が歪む現象は、自然でも確認はされているものの、ある一定の条件が揃わないと発生しない現象である。

 故に、高町家の中庭に、その自然現象を発生させる条件は、どれも揃ってはいない。

 つまり、ここに非現実的な現象が起きていると言える。もしくは、幻覚とも言う。

 だが、幻覚を否定するモノが現れる。

 つまり、歪みから、何かが落ちてきたのである。

 

「…………女、の子?」

 

 落ちてきた者は、全身が青いライダースーツらしきモノを着た、赤い髪の毛の女の子が2人。

 胸の上辺りに、ローマ数字で『Ⅸ』と『XI』と刻まれている。

 しかも、サーフボードみたいなモノが転がっており、『Ⅸ』と刻まれた女の子の方には、ゴツイローラーブーツ。手には篭手みたいなモノが身に付けられている。

 

「とっ、とにかく、中に運ばないと」

 

 そう言って、気を失っている2人の女の子を、リビングに運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてスバルとティアナ、ノーヴェとウェンディは、出会ってしまった。

 混沌をさらに増加させてしまう存在に。

 ただ、時代が違ったのなら、運命を変えていたのかもしれない。

 運命は、更なる加速を生み出し、歯車を狂わせる。

 そして、狂った歯車は、次第に疲労を起こして壊れていく。

 壊れていった歯車は、大きな破壊を齎(もたら)す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も、気がつかない内に。

 共に嘲笑おう。

 共に苦しみあおう。

 共に罵倒しあおう。

 共に狂いあおう。

 共に。

 共に。

 共に――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第九話

交差

 

END

 

 

 

 

 

次回予告

 

平行世界に来てしまった、スバルとティアナ、ノーヴェとウェンディ。

そこは、暖かい家庭と戦いとは無縁の日々。

だが、それを満喫している暇は無く。

しかし、戻る手段が判らないまま過ぎていく日々。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第十話:平行世界

 

 

 

非現実が、現実となる。




あとがき
 ついに、4名が平行世界に突入。
 片方はともかく、片方は言わずともとらいあんぐるハート3です。時間軸は、リリカルおもちゃ箱の中間辺りの作者ご都合主義で悪しからず。
 一応プレイ経験はありますが、全部やっていません。小説版も少し読みの腰があります。
 無謀もいい所ですが、とらハ3の内容は余り殆ど触れません。

 いい加減、オリジナル魔法の紹介でも行きますかな。
 オリキャラ紹介の一覧も公開しないと。(汗
 なので、今回はこの話だけ使用したオリジナル魔法だけ紹介します。纏めた物は、後日公開します。
 で、またシリアスブレイカーをやらかしました。(汗
 不快になった方、スイマセンでした。(号汗


<バンカー・シュート>
 ネタは、スパロボOGのアルトアイゼン・リーゼから。あの機体は、まさに漢(おとこ)の機体です。
 あと、右手繋がりだし。(オイ
 ちなみに、カードリッジ1発消費。
 ついでに言えば、色々なゲームに似たような武器があるので。あくまでネタはイメージとして取ってもらえれば幸いです。

<マグナムバレット>
 ティアナのバレットシリーズの1つ。
 反動がデカイ拳銃からで、45ミリ口径の奴だと、アメリカの大型ダンプを一撃と止められるとか。
 威力を上げられた理由は、砲身から放たれる際、回転しながら飛んで行くからである。なを、マグナム専用の弾丸でないと撃てない。
 なので、少ない魔力でも上級魔法クラスの威力を発揮します。が、使う場所を間違えれば味方殺しに早代わり&対人戦使用厳禁モノ。
 非殺傷モードで扱うのが難しく、バリア越しでもジァケットを貫く事が可能な凶悪魔法なので。(汗
 Sランクの人間が、この魔法を使った場合……ディバインバスターを超えるかもしれないですね、コレ。(号汗

<パワーバレット>
 ティアナのバレットシリーズの1つ。
 シュートバレットの強化版。同じ弾丸でも、形成集約率が違う。

<バルカンバレット>
 ティアナのバレットシリーズの1つ。
 文字通り、ハンドガンのマシンガンバージョン。威力は、シュートバレット15分の1。
 使用者の魔力総力が上がれば、威力も上げる事も、弾丸数を上げるなど、使用者のお好みに合わせることが可。

<オブジェクトボール>
 ISとして扱えるなど、エネルギー源の変更が出来る点に関しては優れている攻撃魔法である。
 ただし、チャージタイムの問題や、飛距離、機械的な追尾性、発射の仕方とロスの問題がある。
 よって、エネルギー源の汎用性は高いが、それ以外の能力が低いので、使用者の装備と使い手を完全に選んでしまう。
 プラスマイナス0とは言えず、むしろマイナス面が大きいのかもしれない。






制作開始:2008/10/1~2008/11/2

打ち込み日:2008/11/2
公開日:2008/11/2

修正日:2008/12/23


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第十話:平行世界

普通の出会い。
悲しい出会い。
嬉しい出会い。
変わった出会い。
アナタは、どんな出会い方をしたい?


 

 

 リニアレールは、次元振の影響によって偶然、緊急自動停止機能が作動して止まっている。

 ガジェットドローンは、すでに1体もいない。

 そして、黒煙は既に収まった9車両目を中心に、10両目にはスバルとティアナに、知らない男性。そして、7両目に不審者3名。

 知らない男性には、手には槍、鎧の様なバリアジャケット、背中には6枚の長細い筒らしきものが浮いている。それは、何か羽を連想させる様でもあった。

 不審者3名の内、2人は女性で、赤い髪が特徴と言える。あとは、身に纏っているのは、リインフォースⅡが言ったとおり、ライダースーツもどきと言える。

 不審者最後の1人は男で、甲冑というより、どこかダークヒーロー物に近いのかもしれない。足の部分は靴ではなく、獣の足のような感じ。手も、似たようなモノである。

 互いに睨み合っているも、お互い少し戸惑っている様子が見られた。

 この状況を、1から見ていた人間に聞いても、訳が判らないという答えが返ってくるだろう。

 何せ、約1分前に9車両目の上がっていた黒煙を中心に、瞬間的な次元震が発生。

 スバルとティナ、不審者2名を飲み込んだのである。そして、その衝撃でリニアレールが停止。

 だが、それから次元震再び起こり、今の状態に成ったのである。

 

「どうなっとるんや、この状況は?」

 

 ロングアーチ、機動六課・作戦司令室にいた、八神はやてが放った言葉である。

 だが、この言葉に返せる者は、現場にいるメンバーですら答える事が出来ない。

 不審者の戦闘から、瞬間的な次元震の発生。

 それから同じ場所に戻ってきたという事実だけでも、混乱を極める。だが、それに加えて、両方に男が加わっているのだ。

 この状況を、どんな優秀な人間に答えさせても、材料が無さ過ぎて答える事はできない。

 いや、唯一答える事が出来るのは、あの6人のみ。不審者3名と、スバルとティアナ、それと一緒にいる男である。

 しかし、それとは別に、本日クーガスト・イリュードによって搬入された代物の3つケースが、全て開いていた事である。

 詳しい経由は不明のままだが、どうやら次元振と同時に開き、中にはどこかへ消えたらしい。

 その瞬間の映像の記録が残っているのが、目の前の自体が終わってから落ち着かないと、解析も検討も出来ない。

 その事を知ったクーガストは、扉を開ける為にシャリオを連れていってしまう。

 それに関しては、暗黙の了解で万一致のスルーが発動。ドラップ音が、廊下に響き渡ったが、完全に無視した。

 

≪こちら、スターズ隊隊長、高町なのは。八神部隊長、指示を≫

≪同じくライトニング隊隊長、フェイト・T・ハラオウン。こちらにも指示を≫

 

 あちらも、状況が状況だけに、どう行動していいのか判断しかねている。

 それは仕方が無いといえる。

 だが、次元が不安定なのかもしれないが、やる事は只1つのみ。

 

「色々あるけど、しゃあない――至急、不審者3名の確保! スバルとティアナには、一緒にいる男を保護して離脱!」

 

 その言葉に従い、一斉に行動を開始する。

 不審者3名――ノーヴェ、ウェンディ、勇斗に、機動六課の残りのメンバーが襲い掛かる。

 なを、残りのメンバー構成は、先行したなのは、フェイト、エリオ、キャロとフリードリヒ、リインフォースⅡ。さらに、遅れてきたショルド2号機、3号機に乗っていたメンバーである。

 だが、その上空から、魔力砲撃と質量兵器、謎のエネルギーが降り注ぐ。

 降り注いだ弾丸や直線的な砲撃は、素早く突撃した人間に直撃。手や足、頭などが吹き飛び、空中に肉片と血を撒き散らす。

 内臓に、眼球、腕や足、脳までもが宙を舞う。

 その下にある岩や森に攻撃が当たった部分は吹き飛ぶ。だが、フォワードメンバーが、一斉に距離を置くと、攻撃は止む。

 止んだ後に出来上がったクレーターや窪み、まだ残っている岩や森に、攻撃を受けた武装局員たちの血や肉片が降り注ぐ。

 ツインズ分隊――レーレ・ナ・エルティア以外全滅。同じく、グラーフ分隊――八神ヴィータ以外、全滅。

 この攻撃による被害――重傷者3名、死者6名。

 重傷者は、言わずとも戦力外通告が成される。いや、むしろあの隙間が殆ど無い弾幕の雨の中で、生きている事自体が奇跡と言える。

 いくらシミュレーションで同じ事をやれと言われても、誰もが無理だと言うだろう。

 それが例え、オーバーSランクの人間でも。まぁ、SS+以上のランクの魔導師からは、何とか耐えられるかも知れ得ない。限度はあるが。

 その攻撃の元と言える上を見る。そこには、ラギュナスのメンバーと、あのクリスマスの襲撃以来、まったく姿を現さなかった長がいた。

 

≪大丈夫だったか!? ――って、そいつは?≫

≪大丈夫ッス!!≫

≪俺も平気だ。で、こいつは恩師≫

 

 ラギュナスの長の問いに、ウェンディに続いてノーヴェが答える。

 その会話によって、どうやらノーヴェとウェンディの2人と一緒にいる男――勇斗と面識が無いと判明する。

 つまり、ラギュナスの新たな逸材となる可能性が出てくる。前例として、現在の長である桐嶋時覇が上げられる。

 その前例を照らし合わせると――クリスマスの惨劇か、もしくはそれ以上の惨劇が生まれるかもしれないと、はやての脳裏を過ぎる。

 

「フォワードメンバーへ! 至急、あの列車の上にいる男を確保せよ!!」

≪りょ、了解!!≫

 

 戸惑いながらも、フォワードメンバーから返事が返ってくる。

 

≪野郎ども! 悪人は悪人らしくやるぞ!?≫

≪おー!!≫

 

 長以外、顔には覆面やフードがしてあり、声もボイスチャンジャーが使われているらしく、機械的な声が唸りあがる。

 毎度の如く、おふざけで変な声にしてある奴も、何人かいるらしい。唸り上げた時に、機械音とは別の変な声が聞こえたから。

 時たまだが、そういう奴もいるので注意はするのだろうと思いきや、それすらしていない。

 ラギュナス内部で、多少のおふざけは公認なのか、それとも歯止めが利いていないのか。

 前者なら、こちらの感情を、煽るのが目的だとすいそくされる。なを、後者だった場合は、長である桐嶋時覇の技量が、手に取る様に判る。

 つまり、無能の一言。周りが優秀なのか、秘書か副隊長がそうなのだろう。

 そう考えている内に、戦闘が始まる。と、そこで、とある会話が耳に入り込む。

 

≪いっくぜ――管理局の白い魔王!!≫

≪誰が魔王なの? なの!?≫

 

 会話の一部に、真実を指摘して煽る勇者に、少し関心と敬意を称するロングアーチ一同。

 他の連中も、苦笑したり、顔をしかめるなどのアクションを表しつつも、攻撃をしたり、回避したりする。

 色鮮やかな砲撃。斬撃による軌道の跡。ぶつかり合った瞬間に出る、火花と爆発。

 人が舞い、砲撃が唸り、武器が弾き合う。

 ここに、山岳地帯のリニアレールでの戦闘は、第2戦を開幕することになった。

 だがその前に、ここまで発展の原因になった空白の1分を知る為に、4人の過ごした時間の始めの部分に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十話:平行世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スバルとティアナが、彰浩の家に居候してから3日目。

 初日は混乱したが、今では落ち着いている。

 

「彰浩、ジュース飲んでいい?」

「ああ、勝手に飲め。ただし、飲みすぎるなよ」

「はぁ~い」

 

 そう言いながら、冷蔵庫からスプライトを出して、リビングに持ってくる。手にはコップ、その中に氷が入っている。

 ティアナはティアナで、ニンテンドーDSをやっている。ソフトは『ナナシノゲエム』である。ヘッドホォンを装備して、何気に震えながらプレイ中。

 まぁ、結論を言えば、2人とも馴染みきっている。

 若さは馬鹿さ。適応能力は高いと言えば高いと思うが、平行世界なので基本的には普段と変わらない。

 近くに訓練できる場所が無いので、イメージトレーニング程度の訓練を消化しつつ、平和を満喫している。

 

「ところでさ、彰浩」

 

 スバルは、ゲームコントローラーにコマンドを入力しながら、彰浩に声を掛ける。

 

≪貰った!!≫

 

 テレビから、キャラクターのセリフが唸りを上げる。

 

「っと――何だ」

 

 スバルが放ってきた攻撃を、ギリギリで回避して接近戦に持ち込む。

 

≪甘いが砂糖!!≫

 

 そうキャラクターが叫びつつ、背中に装備されていた大剣・フロンティアブレードを、真上から叩き落すように斬る。

 スバルは、それを避けようとするが、間に合わずに直撃を受けて、後方に吹っ飛ばされる。オマケで、追い討ちの切り上げた瞬間、切り下げられて地面に激突して追加ダメージ。

 だが、地面に叩きつけられた瞬間に、ブースターで立ち上がって、空中で1回転。そのまま、攻撃が放たれる。

 

≪最後に勝つのは私だ!!≫

 

 そうキャラクターが叫びながら、カットシーンが入る。

 どうやら、最大級の攻撃が始まる。

 

≪喰らうがいい――OGPO起動!!≫

 

 スバルの機体の周りに、色とりどりの球体が出現する。

 

≪我が究極の武装の1つ――しかと、その全てに刻み込め!!≫

 

 そう宣言した瞬間、色とりどりの球体が彰浩の機体を刻み始める。

 碗部、脚部、胴体、顔、背中、武装――全てに対して、均等にダメージを与えていく。

 だが、コクピットだけにはダメージを与えない。むしろ、掠らせない。

 機体の5体がボロボロになった所で、色とりどりの球体は、スバルの機体の右腕に集まる。そして、光の粒子となって腕に集約。

 そして、右腕を引いたと同時に、手のひらが開かれる。

 

≪これで――終わりだぁぁぁぁああああああああっ!!≫

 

 そう叫びながら、トドメの一撃である右腕をコクピットに突き刺す――彰浩の機体は爆発して、カットシーンは終わる。

 それで、耐久値が残っていれば、戦いは続けられた。だが、文字通り必殺技だったので、そのままゲームセット。

 彰浩は、そこでコントローラーを床に落とした。それなりに、今回の勝負には自身があったのだが、最後の最後で逆転されてしまったのであった。

 

「私の勝ちぃ~♪」

 

 スバルは、コントローラーを持ったまま、両手を挙げて喜ぶ。

 

「で、話は何だ?」

 

 プレイしながら聞こうと思っていたが、勝負が付いてしまったので、聞けなかったので再度聞き直した。

 ゲーム名は、同人ソフトのロボット格闘ゲームである。ベースとなっているのはガンダムVSガンダムの劣化コピー版みたいなモノである。

 ユニットは、スパロボのオリジナル風である。なを、タイトルは『戦場の遠吠え』である。

 ちなみに、スバルは魔法と科学の技術を混合させた、ダークヒーロー的なロボット、フラング・ウィンガー。

 設定は、パイロットであるジャスン・ティスンが、上官の陰謀によって敵の囮にさせられた事から始まる。

 当時のジャスンの上司は、まだ20歳のジャスが自分と同じ階級になる事に苛立ちが、頂点に達した事が原因であった。

 前々から、ジャスンと上司は折り合いが悪く、ジャスンの提示した作戦の方の成功率が高い事。他の基地からの信頼も厚い事などもあって、抹殺という考えに思いつくのであった。

 そして、そのチャンスは偶然が幾度も重なって成し得られた。

 ジャスンが目覚めた時には異世界に飛ばされ、ジャスンがいた世界と同じ敵が飛び交っていた。

 そこでも色々あり、自分が乗っていた機体を、異世界の技術と融合させて作り上げたのが、フラング・ウィンガーである。

 異世界にいた敵を倒し、自分のいた世界に戻って、1番最初に行った事は――上司への報復。

 それによって、敵味方両方から追われる事になったが、ジャスンに後悔はなかった。

 と、いう設定になっている。

 彰浩が使っていたのは、接近戦重視の大剣を振り回す機体。ブレード・ストライカーと言う名で、背中に大剣であるビック・ブレイカーを収納すれば、空を自由に飛び回ることが出来る。

 ただし、ビック・ブレイカーを抜いてしまうと、地べたを走るしかなくなってしまうが。

 設定では、統合整備汎用兵器の開発で生まれた機体なのだが、メインが大剣で使用中は飛行が不可。さらに、別の開発チームが出した機体の方が、汎用性が高かったので、試作型のワンオフ機としてお蔵入りに。

 だが、他惑星との戦争が発生した為、表舞台に立つ事になるのだが、汎用性の高い機体を好まれたので乗り手がいなかったのである。

 結果、乗り手は上層部に反感を買ってゴミ扱いされたパイロット候補生、ターク・ボンバイヤ。

 だが、タークは次々と敵の主力機や、リーダー機を撃破していく。お陰で味方からも毛嫌いされるものの、タークは黙々と任務をこなしていた。

 そこで転機と言える瞬間に出逢う――自軍のシンボルであり、最高司令官であるグランド・グライアンと、その娘であるアナン・グライアンの対面である。

 だが、グランドの誘いを断って、過剰といえる任務に戻る。

 グランドの誘いに乗れば変わっていたのかもしれないが、上に不信を持っていたタークには誘いは嫌味でしかなかった。

 それより、最大の理解者であったボルダ指揮官が、敵の特攻で戦死。他の仲間も、敵の猛攻によって戦死した為に、タークだけが残った。

 その後は、他の部隊と基地を転々とし、任務完遂の為なら躊躇わずに味方ごと殲滅する鬼神と化していた。

 その冷酷無慈悲な行動から、『殲滅鬼神』と呼ばれるようになった。

 と、言う設定である。

 同人作品なので、何気に設定が曖昧な部分があるも、ゲーム自体の完成度は高いので批判派余りネットでは見ない。

 バグチャックも完璧だったので、見たとしても、せいぜい設定かパクリの事くらいである。

 二次創作のSSも、ネットで公開されているなど、何らかの補足仕合がなされているくらいである。

 東方シリーズ――制作側は、シリーズでは無いと否定――に及ばないものの、オリジナル同人作品としては、それなりに注目されている作品である。

 ただ、スパロボ風のマッチョのアンパンマンたちが戦うムービーみたいに、本家から横槍が来ないか冷や冷や作品ではあるが。

 

「あ、ごめん。そういえば、両親は何時頃帰ってくるの?」

「そういえば言ってなかったな」

 

 彰浩は、スバルの問いに答えながら、この3日間を思い出す。

 始めに会った時に、彰浩が2人の名前を、しかもフルネームで呼んでしまった事が切っ掛けである。

 お陰で、問答無用でデバイスを突きつけられ、落ち着いてもらうのに必死だった。

 だが、スバルが不意に彰浩のフィギュアコレクション置き場を見たのが、信じて貰える切っ掛けとも言える。

 フィギュアコレクション置き場は、スバルとティアナのシークレットのガチャガチャのフィギュアが置いてあったのである。

 そして、そのまま――靴だけは脱いでもらい、リビングに移動。そのまま『魔法少女リリカルなのはStrikerS』のDVDを観てもらった。

 理由は、コレの方が1番手っ取り早いから。

 何時頃のスバルとティアナなのかは判らないが、撃たれたり殴られたりされるのはマシだと判断。

 バリアジャケットからして六課設立以降だと判ったが、JS事件発生前か後なのかは不明。

 ティアナがロングヘアーだったら、JS事件後確定だと判るのだが、生憎ツインテールだった。

 発生前だった場合は、その未来が変わるかもしれなかったが、自分優先にさせて貰った。

 だが、その後でスバルとティアナから聞いた話だと、DVDの世界とはかけ離れたモノに成っていた事が判った。

 ただJS事件の大本が、最高評議会だったのは収穫だと、素直には喜べなかった。

 何せ、スバルは母親の最後の原因が、管理局だった事に絶望していた。

 そのまま、親は当分帰ってこないので、家で泊まる事を進めたら、お言葉に甘えてと言って、ようやく武装を解除してくれた。

 その後は、空間収納に入っていた服に着替えに、今後の事を計画するも目処が立たず。

 次元世界ならともかく、平行世界は誰も行ったことが無いのである。

 学会に仮説はあったらしいが、誰にも証明する事は出来なかった。よって、あくまで仮説の1つとして埋もれてしまった様である。

 さらに判った事なのだが、無限書庫の簡易版がデバイスに搭載されているので、その仮説が出てきたのである。

 偶然入っていたのが救いだったと、クロスミラージュがぼやいていた。

 そして夜は――人生初の、頬に紅葉。しかも、両方のダブルで。

 2日目は、ネットや図書館での地理検索。

 大まかな部分は、97管理外世界と変わらないと判明したが、高町なのはと八神はやてが住んでいた街が無かった事である。

 あとは、裏社会の事情とか細かな部分での話になってくるので、この辺で切り上げる事に。

 帰りにファミレスに寄り、スバルが大食いを発動。幸い、エロゲーを買う予定でサイフに入れていた3万で何とか済んだ。

 が、何本か予約を取り消さなくてはならなくなったので、夜に車で行って頭を下げてきた。

 で、普段と同じ生活スタイルで始まり、今に至るのであった。

 話題休題。

 

「親が帰ってくるのは、1ヵ月先らしい」

「長!? 何しに行ったの?」

「じいさんばあさんは温泉旅行で、親は海外に。ってか、1ヶ月で帰ってくるのかが疑問だが、な」

 

 そう言いつつ、ガクガグ震えるティアナを横目に、家族の事を思い出す。

 70代にも関わらず、未だに白髪の中に黒い髪の毛が混じっているじいちゃん。

 じいちゃんより年下だが、70代で散歩好きなばぁちゃん。

 両親は……未だに20代だと言わんばかりの元気の良さ。

 前者は慰安旅行でも楽しんで欲しいと願うも、後者は少し落ち着いて欲しい。っーか、一般家庭の水準に治めて欲しい。

 と、叫びたいものの、未だに傷は癒えていない事は判るので、何も言わないでいる。

 

「親の最低限の義務さえ果たしてくれれば、今の所は何も言わないつもりだ」

「最低限って……どんな家族なのよ」

 

 横からティアナが声を出したので、そちらを向くと、荒い息をしながらヘッドホンを外して涙目の姿でいた。

 ゲームでここまでだと、オバケの類は全く駄目だというのが判る。ついでに、彰浩も駄目である。

 

「妹が死んでから、色々あり過ぎてなぁ……」

 

 スバルが使っていたコップを取り、ジュースを追加してから口を付けた反対側で飲む。

 飲む前にティッシュで淵を拭き取ったので、間接キスの可能性はゼロである。気分の問題ではあるが、話の腰を折らない為である。

 

「忘れる、という訳じゃないが……恨むに恨みきれない状況になって、な」

 

 そう言いながら、彰浩の脳裏に犯人の末路が浮かび上がる。

 妹を殺した犯人は、別の事件に巻き込まれて死亡。またその事件を起こした犯人も、別の事件に巻き込まれた死亡――という、物語の様なイタチごっこ。

 ぶつけ様の無い怒りに、日々を無駄に送る事を余儀なくされた両親――とくに母親は、一時期精神病院で入院していたくらいである。

 群がる報道陣に、どう対処しようかと悩まされた日々。

 人の噂も75日だったか、3か月くらい我慢すれば良いと言うも、そんな余裕は無かった。

 よって、近所や学校の連中から白い目で見られる覚悟で、インターネットで調べた放送禁止言語を手当たり次第乱発。

 さすがに報道陣は、この日を境に来なくなったが、彰浩自身の評価は少しだけ下がった。

 理由は、連日の過剰な報道陣も、近所や学校側も迷惑していたのが、彰浩の評価を少しだけに抑えたのである。

 その後も色々あったが、今では完全に落ち着いている。

 本当に時々ではあるが、母親の記憶障害が起こる事があるが、これはストレスによる精神障がいの一種だと告げられている。

 よって、今考えると、よく家庭崩壊したり、心労がたたったりしなくて良かったと思う。

 ティアナは、言葉と雰囲気で悟ったのか、それ以上言わなかった。いや、言えなかったというのが正しかった。

 両親は物心付く前に亡くなっていたので、その辺は実感が無い。だが、兄が亡くなった時の記憶がある。

 つまり、肉親の死に関しての心境は、それなりに理解が出来る。

 ただ、今の現実世界(彰浩の世界を基準として)では、人が死ぬ事は日常茶飯事に近く、当たり前になっているのかも知れない。

 よって、例えばマンションで隣の部屋の住人が亡くなった場合、その葬式に参加するのであろうか?

 答えは大まかに2つあり、前者は親しければ参加するのが基本。後者は、親しくなければどうでも良くて参加しない。

 多分、後者が多い世の中になっているのだろう。

 しかし、それはどこの世界でもある事なのだろう。

「きょ、今日の晩御飯は何かな!?」

 急にスバルが、気の早過ぎる発言をする。だが、この発言により、重い空気をある程度軽くする結果となった。

 

「気が早いなぁ……冷蔵庫の中は――」

「スバルで空」

「…………あとで買いに行くか」

 

 そう言いながら立ち上がり、背伸びをする。

 腕がポキポキと音を立てるも、スバルとティアナには聞こえない。

 度合いにもよるが、普通は耳を近づけないと聞こえない。ただし、本人は骨を通して聞こえる。

 

「もしぃ」

 

 彰浩の言葉に、スバルとティアナが顔を向ける。

 

「もし……帰れなかったら、2人はどうする?」

 

 その言葉は、2人の心に大きく圧し掛かった。

 自分たちの世界に返れなかった場合――この世界に留まるしかない。

 この世界は、他の次元世界の存在を架空と、空想の産物としている。よって、突拍子も無い事でもやらない限り、他の次元世界への進行などありえない。

 戸籍に関しては……デバイスを使えば、何とか発行は出来る。よは、ハッキングによる偽造と改ざんである。

 だが、問題なのが、この世界の通過を所有していない事である。

 隣の家の人たちとの交流すら取っていない人々がいて、なおかつ人殺しなどの犯罪が日常化している世界。

 心優しく向かい入れてくれる人などいるのだろうか。

 それこそ、この世界で起こる事件の手段の1つとして、利用されても可笑しくは無い。

 よって、警察のお世話になる――取り合ってくれれば、ホームレスなどという存在はありえない。

 それ以前に未成年なので、どこかの施設のお世話になるのだろう。もし、親だと名乗り出たとしても、その人達は下心が丸判りと言える。

 その他、複雑な事を含めても、行き先は真っ暗である。

 

「よかったら、俺の親に相談してみるか?」

 

 彰浩の提案に、目を丸くするスバルと、肩を竦めるティアナ。

 

「私達の事、どうやって出会った事にするにするよ? 親と良く話しているのなら、難しいんじゃないの?」

 

 冷やかに告げるティアナ。

 しかし、ティアナの言葉にも一理ある。

 

「大丈夫! コミケで知り合った友人にしておけば」

 

 ニコリとスマイルで、親指を立てながら言う彰浩。だが、スバルとティアナのイメージが、変な方向で固まる事確定である。

 その言葉に、完全に固まる2人であったが、ティアナが先に再起動して彰浩の胸倉に掴みかかった。

 

「アンタ、スバル並の大馬鹿か!? 何でアンタの趣味の友人にならなきゃなんないの!? 俗に言うオタクの仲間入りにするんじゃないわよ!! ってか、アンタの親に変な誤解されるのが丸見え!! オタクの同類視されるのだけは御免被る!!」

 

 などと、マシンガントーク並の言葉と速さで言い放つティアナ。しかし、その言葉を彰浩は、一撃で看破した。

 

「でも、ゲームにははまったら?」

「うぐぅ!」

 

 その言葉に、ティアナは言葉を詰まらせる。

 何せ、先ほどまでニンテンドーDSの『ナナシノゲエム』をプレイしたいたのだから。

 本来彰浩は、恐怖系のホラーゲームはやらないのだが、2日目にティアナが興味を示していたので買ってあげたのである。

 案の定、恐怖に怯えつつはまっている最中である。

 結末は気になるが、ニコニコ動画で最短プレイ動画を鑑賞済みなので、もうお腹一杯である。

 ただし、音量はゼロで。

 スーファミのクロック・タワーですら、音量ゼロでの視聴。見ているだけで怖かった。

 現に、幽霊や宇宙人がいるという肯定はであるが、まぁ、サンタさんが存在したな程度であるが。

 あと、未だに闇が怖い。幽霊が出ると言うか、得体の知れないモノへの恐怖心というべきか。

 人間の心理に、忠実なのかもしれない。

 

「でぇ、でも、普通に楽しむ程度なら、一般人扱い、のはず」

「徹夜してまでやりませんよ」

「…………」

 

 最後辺りは小声になるティアナ。

 だが、彰浩のカウンターに沈黙してしまう。

 で、蚊帳の外になっているスバルは……いつの間にか、ダイニングにある戸棚からポテトチップス・ガーリックを開けて、間食していた。

 

「って、スバル! それ俺の!!」

 

 スバルの状況に気がついた彰浩が、抗議の声を上げる。

 

「早い者勝ちだよ~♪」

 

 美味しく頬張りながら、サラリと流す。

 そんなこんなで、ドタバタな日々を送る3人であった。

 だが、狂った運命は、彼らを再び混沌へ引き摺り込もうとしているのだが、それはまだ少し先の話である。

 

 

 

 

 

 一方、スバルとティアナが飛ばされたとは違う平行世界。

 そこには、ノーヴェとウェンディが、高町恭也と羽山勇斗と戦闘を行っていた。

 場所は、神社の裏にある山の中。

 見学者は、高町家一同(居候も含む)、フィリス、さざなみ女子寮一同、月村家という豪華なメンバー。

 魔法を駆使した戦闘を行うノーヴェとウェンディ。対するは、身体能力だけで魔法を凌駕せんとする、恭也と勇斗。

 しかし、勇斗は棒術使いに近い人間であり、装備が棒だと木々が遮蔽物となり、取り回しが上手く出来ないでいた。

 恭也は、元から山で修行していてかつ小太刀の使い手なので、技量と経験共に問題は無いと言える。ある1点を除いて。

 とにかく、戦況は総合的に見れば互角である。

 理由は、恭也はともかく勇斗が足手まといとなり、ノーヴェとウェンディは互いにカバーし合っている。

 よって、順位は1、恭也。2、ノーヴェ。3、ウェンディ。4、勇斗の順となっている。

 勇斗は、明らかに経験不足である。他の3人と違って、型を崩しきれてはいない。

 試合や練習、訓練では100点満点であるものの、実戦では30点以下の赤点に等しい。

 実戦に、決まった事やルールなど存在しない。やるかやられるか、それだけしか実戦には存在しない。

 

「貰ったッス!!」

「くっ!!」

 

 ライディングボードの腹で体当たりを行うウェンディに、両足を踏ん張って棒で何とか支える勇斗。

 しかし、所詮は市販の棒である為、強度などたかが知れている。

 結局、棒の方が耐えられずに折れ、そのまま勇斗にライディングボードが圧し掛かって、地面に押し倒される。

 ウェンディのとっさの判断により、地面とライディングボードのサンドウィッチは免れた。

 それを見て、模擬戦は中断して皆が駆け寄る。

 

「大丈夫ッスか!?」

 

 ウェンディが、ライディングボードから下りて、一番に駆け寄った。

 

「あ、ああ、大丈夫。背中を強く打ったくらいだから」

 

 脂汗を流しながら、痛みに耐えながら答える勇斗。

 

「大丈夫か!?」

 

 他の皆の姿を認識する。どうやら、これで訓練は終わりらしいと、悶絶しながら考える勇斗。

 

「立てるッスか?」

 

 ウェンディの言葉に頷き、肩を借りながら立ち上がる。

 何故、この様な事をしていたのか。それは、今から2週間前に遡る。

 高町家の庭で、空間が捻じ曲がった所から出てきた、ノーヴェとウェンディ。

 行き成り逃げようとするも、偶然帰宅した高町家の長男である恭也に、あっさり捕まって終わる。

 その後、家族と警察官である知り合いのリスティを交えて、事情を聞く。だが、リスティの能力によって、嘘は悉くカンパされてしまい、仕方なく本当の事を話。

 その時点で、2人が抵抗する方法もあったが、恭也の戦闘能力の高さを見たのか、勝てないと判っていた。

 一通り聞いた、家族一同とリスティは、さすがに言葉を失った。どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか。

 だが、リスティの能力が嘘でない事を証明しているので、話の内容を認めるしかなかった。

 次の日、体の検査を兼ねて、リスティの妹であるフィリスがいる病院に向かった。ついでで、逃亡を図ろうとした恭也を連行して。

 なを、フィリスとリスティは姉妹であるも苗字は違うが、それはまた別の話である。

 まず、逃亡を図ろうとした恭也を差し出し、治療が完了してから2人――ノーヴェとウェンディの検査に入る。

 ちなみに、2人は恭也の妹である美由紀と、居候の1人であるフィアッセから服を借りている。さすがに、ライダースーツもどきの奴では、目立ちすぎる為である。まぁ、とばされる前の世界でも、それなりに目立つモノだと思われる。

 で、検査はレントゲンと血液検査、スキャニング程度だったが、レントゲンとスキャニングの結果を見て、急遽取りやめたのである。

 何せ、人間の体内を支えるモノが、『骨』でなく『機械』だったからである。

 今で言う補強する機械ではなく、体の内部で構成された――骨の代わりの機械の骨。

 しかも、今の技術ではありえない技術、オーバーテクノロジーの塊。ノーヴェとウェンディ自身、技術の塊として表現しても過言ではない。

 人権問題もあるかもしれないが、この事をした政府は強制連行。犯罪組織は拉致する可能性が、非常に高い。

 よって、フィリスは理解者であり、自分の親である父と話して、2人の面倒はフィリスが見ることになった。緊急時は、父に任せる方針で。

 機械の骨に関しては、月村忍に任せる事に。彼女の一族である月村家は、夜の一族と呼ばれる存在である。

 性質上、吸血鬼に近い存在であり、昔はかなりの技術力を誇っていたが、現在は殆ど失われている。

 だが、その失われた技術を、独学で修復した存在――ノエル・エーアリヒカイトのを応用すれば、質は下がるが何とか成る事が判った。

 なを、ノエルは人間ではなく、夜の一族の失われた技術の結晶の1つである存在、エーディリヒ式と言われる自動人形である。

 今現在のロボットとは違い、人間にもっとも近くなるように作られた機械で、性行為も行う事が可能なのである。

 それを考えると、人工授精の段階で機械を受け入れられるように調整された者たちと、そんなに変わり無いと思われる。

 あくまで素体が、人間か機械かの差である。言葉では、それだけの差ではあるが、現在の法律に照らし合わせるにも、認められる存在ではない。

 その他にも色々あるが、現時点では何の問題もないし、ノーヴェとウェンディの体の事を知っても、軽蔑する事無く接している。

 

「では、勇斗くん」

 

 不意に、背後から恐怖を感じ取り、ガクガクグルグルと震えだす勇斗。

 ウェンディも感じ取ったらしく、むしろとばっちりが来るのは、火よりも明らかだった。

 つまり、既に2人の周りからは、距離を取って避難し、特に恭也は誰よりも早く距離を取っている。

 

「今すぐ、病院へ行きましょう。恭也くんも、一緒に」

 

 有無言わせないフィリスの圧力の前に、名前を上げられた該当者2名は、ただただ頷くしかなかった。

 それを見て、恐怖する者や、自業自得だとため息を吐く者、仕方が無いと思う者など、様々な思想が思い浮かべられる。

 フィリスを先頭に、勇斗と恭也がトボトボとついていく。それを見て、誰かが小さくドナドナを歌っていたが、誰かは判らないが。

 

 

 

 

 

「ぅ……ぁぁ……」

「…………」

 

 ベッドの上で呻く勇斗と、無言の恭也。

 フィリスの特別整体治療を、強制的に受けた2人の姿。いや、末路といっても過言ではない。

 その横では、フィリスがカルテに2人の状態を記入していく。まぁ、どちらとも概ね良好――とは言いがたいが、特に異常は無かった事は確かである。

 

「ふむ……うん、まず勇斗は全身打撲で、しかも軽いモノだったから問題無し。でも――」

 

 勇斗のカルテを見ながら、微笑を浮かべて容態を伝えるフィリス。だが、恭也に変わった瞬間、フィリスの目が鋭くなった。

 それを察知したのか、恭也は体を強張らせる。

 

「前……と言っても、診察日をボイコットして10日経過」

 

 その言葉に、恭也の顔から汗が流れ出てくる。

 

「しかも、前回よりも少しだけ膝の容態が、悪化」

 

 さらに恭也に、震えが追加される。

 

「…………言い訳は?」

 

 満面の笑みで、しかし黒いオーラを纏ったフィリスが問い掛ける。

 

「……………………無い、です」

 

 ボソッと呟く様に答えた恭也。この返事により、彼の命運は決まった。いや、それ以前に、すでにボイコットした時点で決まっていた。

 

「学校は、今は休みですから……その間、病院で入院してもらいます。言いですね?」

「はい」

 

 フィリスの圧力の聞いた言葉に、恭也はただ返事を返すしかなかった。

 

「では、勇斗」

 

 そのまま顔だけを向ける、勇斗。フィリスの圧力で、少しだけ震える。

 

「大丈夫ですよ。問題は無いようですし、夕方頃には家に帰っても良いですから」

 

 フィリスの言葉に、ホッ、と息を付いて頷く勇斗。だが、釘は刺された。

 

「今日見たいな事があったら、すぐに報告……OK」

 

 最後のOKは疑問系でなく、確定した言葉であり、それを言った瞬間、目が赤く光った様に見えたのである。

 さらに、背後には阿修羅が見えた様な気がした。うん、絶対に逆らわない事を、改めて再認識した瞬間だった。

 で、何だかんだで、夕方になる。

 その夕方になる前の間、恭也はずっとフィリスの説教を永遠と聴かされていたが、勇斗には関係が無い。

 勇斗は、簡単に身支度をして病院を出ると、ノーヴェとウェンディがいた。

 

「よお」

「おいっす!」

 

 勇斗の姿を確認すると、ノーヴェは軽く右手を挙げ、ウェンディは左手で砕けた敬礼をして合図する。

 勇斗は、無言ではあったものの、笑みを浮かべながら右手を挙げて、2人に歩み寄った。

 

「どうだった?」

「俺はともかく、恭也がアウトだったな」

「ありまぁ~と言って、あの時の反応を見れば、一目瞭然ッスね」

 

 素っ気なく言うノーヴェに、勇斗は苦笑しながら両肩を軽く上げ下げし、ウェンディが要点だけを言った。

 

「ああ、そう言えば桃子さんが、用事で親戚に飛んで、レンと晶は友達の家に泊まりに。うんで、今言えるにいるのは、フィアッセと美由紀さんだけだし」

「そうなのか?」

 

 ウェンディが思い出したように言い、その内容に驚く勇斗。驚いた理由は、一度に家を空ける人が多かった事である。

 約1名は自業自得であるが、今は置いておく。

 

「しっかし、2人が来てから……2週間だったっけ?」

「そうだけど、急にどうした?」

「いや、まぁ……そうだな。2人は何時までいる予定だ?」

 

 勇斗は、不意に思い出しながら言い、ノーヴェが答える。そして、勇斗は後頭部を掻きながら、今後の事を聞く。

 既に来た当初に粗方聞いていたが、2週間も経てば少しは目処が付くと考えて聞く。

 

「…………一寸先は闇、さ」

 

 一言。そう一言だけ、ノーヴェは言った。

 少し重い空気に支配される。だが、そんな事は気にしないと言わんばかりに、勇斗が口を開く。

 

「なら、まだ一緒に居られるな」

 

 そう、2人より前に出て、振り返って笑みを浮かべながら言った。

 その顔を見た、その言葉を聞いた2人は、顔を真っ赤にして――その顔面に拳を叩き込んだ。

 だが、ノーヴェは手恥ずかしさの余りに。ウェンディは嬉しさの余りに。

 そうやって、時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、運命は、戦いをやめさせる事無く、さらに拡大化を図る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空は青く、時間は昼過ぎ。

 その空に人が空を飛んでいた。もちろん、スカイダイビングの類ではなく、本当に空を飛んでいた。

 正確には、宙に浮いているのが確実である。

 

「ターゲットを発見。予定通り、強襲を掛けますが……タイミングは?」

 

 空中で、ギリギリ窓から見える角度から、彰浩たちを見ていた。

 

≪タイミングは任せる。ただ、人気(ひとけ)が無い所でやれ。その後、すぐさま結界を展開し、殲滅せよ≫

 

「了解した……だが、本当にこいつでいいのか?」

 

 展開された空間モニターには、スバルとティアナの写真ではなく、何故か彰浩の顔写真が映し出されていた。

 

≪ああ、間違いは無い。それは何れ我々の障害と成り得る存在だ≫

 

 

 

 

 

 空は赤く、時間は夕方。

 その空から、病院の外でじゃれ合っている3人を見ていた人がいた。

 

「ターゲットを監視して2週間だった。いい加減、仕掛けてもいいか?」

≪ああ。先ほど、許可が下りた。思う存分にやれ≫

「よっしゃあ!! ――けど、本当にこいつを最優先に?」

 

 その者は、戸惑っていた。展開された空間モニターには、スバルとティアナの写真ではなく、何故か勇斗の顔写真が映し出されていたのだから。

 

≪ああ、そうだ。それは何れ我々の障害と成り得る存在だ≫

 

 

 

 

 

 2つの空間モニターの通信に、複数の声を当てている『存在』。

 空間自体が真っ黒で、どこまでが地面で、どこまでが天井で、どこまでが壁なのか判らない。

 辛うじて重力が存在するので、どちらが天と地、左右が判る程度。明かりも、2つのモニターしか存在しない。

 さらに、『存在』は、複数の声を出しておきながら、空間モニターの通信には、1つの声しか通っていない。

 

「野山彰浩を――」

「羽山勇斗を――」

 

 別の次元でありながらも、紡がれる言葉のタイミングは同じ。

 

『抹殺しろ。あとの2人は、ついでで構わん』

≪了解した――我らが叡智の為に≫

 

 その受け答えのタイミングと内容も、同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次元の、平行の世界を超えた戦い。

 それは余りにも広大に見えるも、集約地点は1つである。

 どんなに戦場が広がろうとも、どんなに泥沼化しようとも、必ず集約される。

 終わる事が無い戦い、という言葉は存在する。しかし、始まりがあれば、必ず終わりがある。

 ただ、その終わり方が、どの様になるのかはそこまでの過程が物語る。

 しかし、過程の段階で、終わり方を見極める事は不可能に近い。

 何事も、積み重ねが存在する。

 例えば、難しい数学の計算を、暗算を一瞬で出す事。それは、自分なりの考え方があるからである。

 その自分なりの考え方も、今まで勉強してきた過程で生み出された産物。

 だからこそ、積み重ねを無視した結果論など、理数科しか通じない。

 偶然の産物も、数値化を明確にすれば、偶然で無くなる。

 偶然は必然。

 奇跡は、何に当てはまるのだろうか。

 多分、それもまた、必然なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていてね、――――」

 

 青い空の中で、彰浩を見つけた女の人が呟いた。

 そして、その言葉は風に揉まれて、拡散していった。

 かつて、命と血を撒き散らした様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第十話

平行世界

 

END

 

 

 

次回予告

 

急遽動き出す、謎の組織。

2つの平行世界を舞台に繰り広げられる、戦火。

そんな中、2人の男が覚醒するも、ただの枷でしかなかった。

片や、実戦以前に喧嘩すら出来ず、片や、訓練はともかく実戦経験が無に等しく。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第十一話:枷に変わり無く

 

 

 

2人の男は、無力を噛み締める。




あとがき
 現実世界は、今現在の日本がベースなので、自重しないで本命の商品などを堂々と上げました。(汗
 商業でやったら、編集者からどやされそうな内容がヒシヒシと。(号汗
 よく創作で見ているけど、高町家って戦闘民族っていう言葉が当てはまるのは、何でだろぅ?(汗
 まぁ、遅れた理由は――とらハ3を軽くやった程度で、しかも忍とノエルしかクリアしてない。あとは、1・2・3セットの奴のおまけをやったくらい。
 うん、無謀すぎた。
 すいません、とらハ3は二次設定&作者の見解でやらせてもらいます。(汗 でないと、書けないから。(汗 っーか、書き直したほうがいいのかな?
 その処置で、まず主人公役の恭也には、フィリス先生によって強制入院退場に。
 もう1、2話伸ばしても良かったが、2008/12/21辺りの日記を参照。よって、ここらで急展開にします。
 だって、アニメで言うとまだ5話目の後半だし。さらに伸びる可能性があるので、ここらでぶった切らせて貰います。
 で最後に、覚醒で対等にしたかったのですが、その展開は中二病だという類に入るので、雑魚路線を走らせます。(ネタバレ
 どの様な雑魚路線は、見てからのお楽しみで。






制作開始:2008/11/2~2008/12/23

打ち込み日:2008/12/23
公開日:2008/12/23


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第十一話:枷に変わり無く

出逢うはずも無い者同士が出逢う事。
それは、世界の常識を覆す出来事なのか。
それとも、ただの運命の悪戯なのか。
どちらにせよ、この世に神がいたのなら。
その神は、魔王として生まれて来るべきだったのかもしれない。


 

 

「はぁああああああああっ!!」

 

 バリアジャケットを身に纏い、リボルバーナックルを唸らせながら、空にいる不敵に笑う少女に殴り掛かる。

 しかし、少女は、無詠唱でシールドを展開。真正面から受け止める――のではなく、初めからスバルから見て左へ反れる様に、予め僅かにずらす。

 そのまま何も気がつかないまま、シールドの触れた瞬間、一気に斜めにして受け流したのである。

 スバルは、力を反らされてしまうも、マッハキャリバーを重石として遠心力を利用し、左足の踵を放つ。構図的には、歪な回し蹴りである。

 少女の不敵な笑みが、驚きに変わるも気を取り直したのか、その場に留まらずに後方に自ら吹き飛ぶ。

 

「バルカンバレッド――」

 

 ティアナが、少女が吹き飛んだと同時にバレッドを装填し、狙いを定める。

 それを見た少女は、ふと笑みを浮かべるも、ティアナから見えることは無かった。無論、スバルからも。

 

「――シュート!!」

 

 何の躊躇いも無く、魔法を放つティアナ。

 オレンジ色の魔弾が、少女に向かって放たれる。が、少女は、スバルの防御に使ったシールドを消したのである。

 それを見たティアナと、新たにウイングロードを展開して着地したスバルは、避けると考えた。

 だが、次の光景で、その考えは打ち砕かれる。

 行き成り、浮遊する金属の棒が3つ現れ、少女とティアナの魔力弾の間に出現。浮遊する金属の棒から、さらに3本の棒が飛び出てくる。ただし、片方は固定されたまま。

 それらが魔力の線を放ち、互いに結び合った瞬間、逆三角形が出現したのである。

 しかも、ティアナの魔力弾を弾く。

 その光景に、ティアナは舌打ちをして、距離を取る。すぐに封印したマグナムバレッドを使用しても良かったが、まだ見せるのは早いと考えたからである。

 だが、その距離を取らせんと言わんばかりに、さらに浮遊する金属の棒が出現。細くなっている先端から、魔力弾が放たれる。しかも、1発1発が、AAランク級の威力。

 おまけで、殺傷モードなので、着弾した場所の地面が抉れる。

 

「――っち!!」

 

 舌打ちするティアナ。そんな時、スバルから念話が飛んでくる。

 

(ティア、あの浮遊する金属の棒って――)

(十中八苦、デバイスでしょうね。もしくは、ファンネル?)

 

 縦横無尽に飛び回る、浮遊する金属の棒。それから放たれる魔力弾を、回避しながら考えに至った意見を、スバルに述べる。

 

(あ、それ、私も思った。特に、逆三角形の奴を出した時なんか、νガンのフィン・ファンネルを思い浮かべたよ)

 

 彰浩がやっていたスパロボシリーズの一場面を思い出して、同意するスバル。

 実際、それに匹敵する俊敏性を兼ね備えているものの、1発1発の発射される間隔は、余りにも開きがある。

 νガンダムのフィン・ファンネルが、1秒間隔放つ事が出来るとすれば、こちらは3秒ほど時間が掛かっている。

 ただ、その3秒は、スバルとティアナにとってありがたかった。

 何せ、ニュータイプという数秒先の未来を感知や、相手を理解して先回りする事ができる相手では、既に決着は着いているだろう。

 

「彰浩!!」

 

 物陰に隠れさせていた、彰浩の腕を掴むティアナ。無理やり立たせて、そのまま引っ張る。

 

「ディバイィィィィン――」

 

 スバルが、砲撃を放とうとしている。それに合わせる様に、ティアナが再び倉庫から魔力拡散弾・煙幕タイプを取り出して、後方に思いっきり投げる。

 

「――バスタァァァァアアアアッ!!」

 

 と、スバルは、砲撃を地面に向けて放ったのである。巻き起こる爆風と砂埃。ティアナの魔力拡散弾・煙幕タイプの煙の散布。

 少女が顔を覆うのには、十分なほどであった。

 爆風が収まり、煙を浮遊する金属の棒――デバイス、『九尾の尾』の内の1本を右腕と連動させ、煙を薙ぎ払う。

 下を見渡すが、抉れた地面。燃え盛る家々。魔力サーチを掛け様としても、魔力拡散弾の影響で、サーチは不可。デバイスも、自立稼動は可能なのだが、離れすぎると鉄屑化してしまう。

 結果、自分で散策するしかない。が、少女の表情は、悲観的なモノではなく、むしろ喜びの表情であった。

 まるで、遊びを楽しむかの様な。

 

「逃がさないよ――」

 

 そう少女は呟く様に言ったが、最後の部分は、家のガスか何かで引火した爆発音で掻き消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十一話:枷に変わり無く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は、1時間ほど遡る。

 夕飯を買いに、3人で出掛けた事である。

 行き成り結界が展開され、空から大量の魔力弾が降り注いできたのである。その光景は、まさに中世の戦争で使われた、大量の矢が降り注いでくる様であった。

 慌ててスバルとティアナは、バリアジャケットを纏い、彰浩をかばう様にシールドを展開。

 大分魔力を持っていかれたが、倉庫に仕舞ってあった『マジック・リカバリー』を取り出して飲み、魔力を回復させる。

 ちなみに、『マジック・リカバリー』は、ラギュナスが関わっている会社の製品であるが、それは完全な裏話なので知るよしも無いが。

 なを、『マジック・リカバリー』の登場は、ミッドチルダを震撼させた。

 何せ、魔力は休んで回復する以外、回復方法が存在しなかったのである。にもかかわらず、RPGに出てくる魔力回復のアイテム的存在が現実と化したのである。

 架空の物が現実となる――それは、今までの常識を崩した、第一歩の存在と言える。

 だが、やはり今の常識を崩したくない科学者たちが、因縁を付けて徹底的に調べ上げた。結果、実用性を証明してしまったというオチもある。

 話は戻り、彰浩を守りながら周辺警戒をする2人だったが、堂々と目の前に少女が現れた。

 フード付きのマントを纏っていたが、フードはせずに顔を曝け出していたのである。

 その顔を見て、驚愕する彰浩。何せ、死んだ妹と似ているのだから。

 だが、彰浩はすぐに冷静さを取り戻す。世の中には、同じ顔を持つ人間が、3人いると言われているのを思い出したから。

 そのまま、妹に瓜二つの少女は、スバルとティアナに来いと言わんばかりに、手招き――戦闘開始。

 そして、今に至る。

 

「ったく、あのファンネルもどきは、何なのよ」

 

 そう、デバイスのカードリッジを交換しながら、吐き捨てる様にぼやくティアナ。取り替えたカードリッジは、その辺に捨てる事無く、倉庫に放り込む。

 

「それは同意。激しく同意」

 

 足に装備されているデバイス――マッハキャリバーのステータスを見ながら、ティアナの言葉に同意するスバル。

 ステータス上では、特に不具合は検索されていない。だが、何処と無くマッパキャリバーに、違和感を覚える。

 

「彰浩は――って、その格好は何!?」

「え――ふぇ!?」

 

 ティアナの言葉に、振り向いて驚くスバル。

 目の前には、何故かバリアジャケットを纏い、デバイスと思しき槍に、背中に浮遊する羽根の様な物体。ちなみに、3対3に判れていて、計6本。

 

「……俺も判らないけど、スバルとティアナが戦っている最中に、白い光に包まれて目を瞑ったけど。開けたら、この状態で、槍は目の前に転がってた」

 

 何がなんだか判らない内に、装備されていたらしく、それ以上の説明が出来ないでいる彰浩。

 どこの中二病だと叫びたいティアナだが、少女に見つかるので、ここは抑えておく。関係無いが、ティアナも、この世界のオタクに染まりつつあるのかもしれない。

 不意に、肩を突付かれたティアナは、そちらを向く。すると、スバルが瓦礫に張り付いていて、張り付いている瓦礫の先を指差す。

 ティアナは、少しだけ顔を出して確認すると――少女が、近くの上空を飛んでいたのである。

 魔力拡散弾の影響で、魔力サーチされないのが救いである。だが――少女の横顔、眼を見た瞬間、ティアナの背筋が凍った。

 怒り、悲しみ、憎悪、嫌悪感などという、生温いモノではない。

 狂喜の眼。そして、笑み。

 戦いそのモノを楽しんでいる訳ではない。

 狩りに見立てて楽しんでいる訳ではない。

 強き者に巡り合えた喜びを噛み締めている訳ではない。

 狂った眼と笑み。そう、純粋に狂っている者が作り出せる独特の笑み。だが、その眼と笑みは、人間が作れる様な笑みではなかった。

 人間であって、人間に在らず。すなわち、人であって人でならずの存在。

 では、何と言えばいい――化け物? 妖怪? 魔物? 違う、ただ其処に存在している。

 判らない。それが、ティアナの感想だった。

 不意に、少女は両手を、自分の頭より高く上げる。

 その言葉は――ここ一帯に響き渡った。

 

「震えろぉ世界」

<揺れ動く衝撃>

 

 少女の声に、デバイスが反応する。そのまま、少女は、頭上に上げた両手を、その場で叩く。

 一呼吸後、衝撃波が発生。全てを薙ぎ払うかの様に、辺りに衝撃を撒き散らす。

 3人の意識は、真っ白になりながら、その場に気絶する。

 

「あら、其処にいたんだ」

 

 以外に近くいたのに驚く少女。そして、3人を浮遊する棒1本で、それぞれ掴んで移動する。

 少し開けた場所を見つけると、そこに3人を下ろして、回復魔法を掛けたのである。

 

「……ぅ、あ……」

「……――ぃつぁ」

「……ぅ……こっ、ここは?」

 

 スバル、ティアナ、彰浩の順に意識を取り戻す。意識を取り戻す順の理由は、言わずとも判ると思うが、前衛、後衛、ド素人。

 素人は、素人。

 作者の見解であるが、喧嘩が強く、場を踏んだ程度では、素人の部類に入ると考えられる。素人に毛が生えた程度が、不良や暴走族が当てはまるのだろう。

 そして、プロと呼ばれる存在が、警察官、ヤクザ、ボディーガード、警備会社の社員などに当たる。

 その中で、戦闘――殺しのプロに当たるのが、軍か自衛隊だと考えている。

 自衛隊は、自国を守る組織であり、殺しのプロではないと抗議があると思う。だが、自国に攻めてくる相手を倒すには、武器を向けざるぅ終えない。

 なら、武器とは何か。脅しの為か? 確かに、相手を威嚇する事は出来る。

 だが、それでも相手が攻めてきて、自分たちに被害が出たらどうする――武器を使うだろう。

 そして、それによって人が死ぬ。

 戦争では、戦争だから仕方が無いで済ませられる。

 自衛では、自衛の為だったので仕方が無いと済ませられる。

 人を殺しても、上の2つの文章によって、免罪される。結果、それは人殺しで無いと言い張れる。

 だが、作者から見れば、所詮人殺しは人殺し。人々が罪を許しても、罪という人殺しの事実は、消えない。

 けれども、こんな偉い事を書いて置きながら、もし自分がその立場になれば、この文章を撤回するだろう。

 それが当たり前なのかもしれない。

 人は、自らを守る為に、色々な理屈や理由で心をガードする事がある。そうしなければ、自分自身が壊れてしまうからである。

 こういった定義や論理は、常にどの時代、どの世界、どの時間にも存在するだろう。

 それが、人が人である為であり、傲慢や贖罪などを生む結果でもある。

 まだ書きたい事もあるが、話がずれるので話題及第。

 彰浩たちは、頭を抑えながら、霞んだ意識と視界を戻していく。が、そこに声が掛かった。

 

「久しぶりだね……お兄」

 

 その言葉に、意識と視界が元に戻って硬直した彰浩。嫌な汗が、額から、背中から、流れ出てくる。

 知っている声。懐かしい呼び名。妹と似ている顔――全ての鎖が、1つに繋がった。

 

「鈴々(りんりん)……なのかぁ?」

 

 かつて、死んだ筈の妹の名前を言う、彰浩。

 

「ううん、違うよ。今は――藍(らん)」

 

 彰浩の言葉を、首を横に振りながら、かつての自分の名前を否定し、新たな名前を口にした。

 

「狐之藍(きつねのらん)――それが、今の私の名前」

「狐之……藍」

 

 否定したが、『今』と答え、自分自身の名前に狐が入っていた所で、彰浩は自分の妹だと確信する。

 妹は、狐に対して執念と言うほど愛していた。彰浩が所有している弾幕同人ソフトに、狐の関係が出ると判った瞬間に、興味を持たなかった同人ソフトを強奪するほど。

 その後、交渉によって、新しく買って来る事で返してもらえたが。コピーディスクで済ませ様としたが、プライドが許さないと言う事で、仕方が無く買ってきた。お金は、何とか徴収できたからよかったが、下手すれば丸損になりかけたのは、良い記憶――とは言いがたいが。

 

「そう。ちなみに、藍いいから、ねぇ。お・に・い♪」

 

 彰浩も、藍の顔を見た瞬間、ティアナ同様に背筋を凍らせた。

 

(妹、なのか?)

 

 先ほど繋がったはずの鎖は緩み、核心が揺らいだ。自分が知っている妹は、こんな顔を作る事は出来ない。

 だが、すぐに我に返る。妹と最後に過ごした時間から、数年経っている。だから、その数年に何かあったのだろうと思い立つ。

 

「凛り――」

 

 行き成り、右頬と腹に衝撃が貫く。そのまま吹っ飛ばされて、数メートルほど離れる。

 スバルとティアナは、行き成りの出来事に声を上げようとした。が、上げる前に、スバルは顎からの衝撃で体が浮き、彰浩と同様に腹に衝撃は貫いて吹き飛ぶ。ティアナも同様に、後頭部に衝撃を受けて、その場に倒れる。

 そして、その光景に満足したのか、藍は浮遊する金属の棒――デバイス『九尾の尾(きゅうびのお)』を操って、まず彰浩とスバルに九の柱をそれぞれ飛ばす。

 柱の1本が、クリスタルケージを生成して、彰浩を拘束する。なを、そのまま周りを浮遊し始める。

 成り立てとはいえ、魔導師は魔導師。デバイスを持っている以上、油断は出来ない。例えそれが、扱いきれないモノであっても、何かの拍子で使う事が出来てしまうかもしれないのだから。

 偶然が幾つも重なれば、それは実力と変わらないとも言う。つまり、幸運も実力の内に入ると言っても、過言ではない。

 藍は、足元に転がっている彰浩の槍のデバイスを、蹴り飛ばす。

 デバイスは、地面にスライドする様に滑り、瓦礫にぶつかる。ぶつかった衝撃で瓦礫が崩れ、下敷きに。

 それを確認すると、倒れこんでいたスバルの両手両足に、1本ずつ――計4本が取り付き、宙に上げる。

 上げると言っても、スバルの足から50センチくらいの高さである。

 

「ふふふっ……お兄のお気に入りの女の子……ぺろり」

 

 拘束されたスバルに近づきながら、下を出して口元を撫でる。

 

「どんな声を奏でてくれるのかしら?」

 

 その言葉を放つ瞬間、藍の目が狂喜に染まった。それを見たスバルは、全身に恐怖が走る。

 体を震わせ、逃げたい衝動に駆られる。だが、九尾の尾の柱の陣モードによって、両手両足を拘束させられている。

 さらに、先ほどの攻撃で、マッハキャリバーがエラーを起こしている最中であり、復旧作業中。

 つまり、今、まともに魔法を使えない状態だと言える。

 

「じゃ、やって」

 

 その言葉を言った瞬間――スバルは、全身焼ける様な感覚に襲われる。

 

「――――――――!!?」

 

 行き成りの出来事に頭は混乱し、全身は焼ける様に熱い――いや、熱いと言う表現は生ぬるい。つまり、熱さを通り越して、痛みに変わっているのである。

 声に出来ない叫びを、声が枯れるのではないかという勢いで叫び続ける。

 さらに、電撃も走り、痛みをさらに割り増しにさせる。しかも、魔法での精神攻撃なので、体に傷が残る事は無いし、おまけで強化魔法も掛けている。

 強化魔法によって、精神はより強固なモノとなり、そう簡単に壊れる事を出来なくさせる。さらに、神経の1本1本まで、細かな電流と炎の熱を交互に流して、感覚を麻痺させない様にしている。

 まさに、生き地獄とは、この事なのかもしれない。

 それが、1分か2分くらい経ってから、スバルが許しを請う言葉を放つ。

 

「イヤァァァァアアアアッ!! もう許してぇぇぇぇええええっ!! 助けぇ、助けてティアァァァァアアアアッ!!」

 

 そう言いながら、泣き叫ぶスバル。

 だが、ティアナは、藍の強襲によって気絶し、地面に横たわっていて、彰浩は、体を動かす事すら出来ない。

 唯一出来る事は、何とか動く手で、耳を塞ぐ事だけである。まさに、無力そのもの。

 そして、藍はその叫びに酔い痴れ、体をくねらせる。

 

「だぁ~めぇ♪ もっと、もっと聞かせて貰うわよ。お兄にも、聞いて貰う為に」

 

 右手で人差し指を立て、自分の口元に立てて言う。

 

「ぐぅぎぃぃぃぃいいああああっ!! あがぁぁぁぁああああっ!!」

 

 拘束された手足を外そうと、体を上下左右に動かし、顔も上下左右に振り回す。さらに、口から下を突き出し、涙と一緒に唾液を撒き散らす。さらに、股から液体が漏れる――俗に言う失禁という奴である。

 

「お兄――って、耳を押さえちゃ、聞こえないよ? で・も――」

 

 振り返り、兄の姿を見てガッカリする藍だったが、すぐに顔が笑顔に歪む。

 

「今度は、ティアナちゃんの無残な姿を、ご鑑賞願いましょうか!!」

 

 耳を押さえても、聞こえる様な声で言いながら、残った4本をティアナに飛ばす。

 1本ずつ足に取り付き、両手はバインドで1つに纏めて取り付く。最後の1本は、ティアナの周りを浮遊する。

 そして、ティアナを逆さに吊り上げ、回復魔法を掛けて強制的に意識を起こす。

 

「…………――――!?」

 

 気がついたティアナは、天と地が反転していた事に驚くが、藍の姿を見て気を取り直す。そして、スバルの叫びを聞く。

 

「スバル!?」

 

 だが、顔を向け様にも、後ろで行われて、腕が邪魔をして向く事が出来ない。

 さらに、ティアナの声は、既にスバルには届かなかった。それほど、激痛に全ての意識を持って行かれている証拠でもある。

 

「じゃあ、ティアナちゃん。1つだけで良いから答えてくれる?」

「誰がアンタなんか――」

「処女?」

「はぁ!?」

 

 藍の言葉に、ティアナは拒否するも、問答無用で爆弾発言を投下されて驚きの声を上げる。

 どう考えても、場違いな発言としか言えないのだから。

 

「んなぁ、馬鹿な事聞くか!? 今!? ここで!?」

「うん、聞くよ。だって……処女なら、お兄の前で散らしてあげようかと思って、ねぇ?」

 

 その言葉に、ティアナは硬直し、直感的に悟る。本気だと。

 藍は指を鳴らすと、ティアナの周りを浮遊していた1本が、Vの字に開き、真ん中に砲身が生えてくる。

 本来、それは敵を打ち抜く為に使うべき武装の1つなのが、ティアナの恐怖心を煽る。簡単に言えば、そのまま挿した状態で打ち抜かれる、という恐怖もある。

 スバルの叫びがBGMと成りつつある中、さすがのティアナも戦慄する。この状況で、この様な行いをする人物と対面し、挙句の果てに自分自身が餌食になろうとしているのだから。

 藍は、不意にスバルを見るや否や、口元を隠して笑い出す。

 

「あらあら。余りの勢いに、お漏らしまでしてしまうとは……その刺激が、よほど心地よいと見ました」

「なぁ訳あるか!?」

 

 藍の言葉に、さすがのティアナも突っ込みを入れる。どう考えれば、お漏らしが快楽に繋がるのかが判らないからである。

 

「ああ、ごめんなさい。アナタの時間でしたね」

 

 そう言いながら、ティアナに歩み寄って、バリアジャケットで生成されたパンツを剥ぎ取る。

 

「~~~~~~~~!!?」

 

 顔を真っ赤にして、声にならない声で怒鳴るティアナ。基本的に、行き成りパンツをひん剥かれては、誰だって怒鳴るだろう。

 断言できないのは、色々な人間がいる訳で。

 だが、そんな真っ赤な顔も、九尾の尾の1本を見た途端、顔を青くする。

 その1本が、ゆっくりと股の方に近づいていく。ついでに、股を軸として砲身が角度を変える。

 そして、砲身が真上に来た。

 何もする事が出来ないティアナに、藍は歪な笑顔を向け――ゆっくりと、人差し指で股をなぞる。

 その感覚に変えつつも、体勢が体勢なだけに、上手く力が入らずに時折甘い声を出してしまう。

 それに満足した藍は、問答無用でティアナの股に、砲身を奥まで突き刺した。

 ティアナは、声にならない声を、目を全開にして涙を流しながら上げる。さらに、砲身を上下に動かして、激痛を味合わせる。

 それに合わせる様に、声を上げるティアナ。下を突き出し、唾液と涙を地面に撒き散らす。

 

「あ、これオマケ♪」

 

 突き刺した砲身から、魔力弾が放たれ、下半身を一時的に膨張させる。5~10回に1回、押し込むと同時に魔力弾を叩き込む。

 いくら非殺傷モードでも、それなりの威力が体の中に打ち込まれているので、ケガをしても可笑しくは無い。が、砲身を突き刺す前に、藍がコッソリ強化魔法をティアナに掛けているので、ケガの心配は殆ど無いのである。

 ただ、威力があり過ぎるか、強化魔法の効力が消えれば――想像は、容易い。

 しかし、やられているティアナには、『死』と言う恐怖が付き纏う。言うなれば、生き地獄。快楽に溺れるよりも、心が恐怖に慄く。

 なを、BGM役のスバルは既に気絶し、地面に放置されている。

 

「まだまだ行くよぉ~!!」

 

 どこぞぉのエロゲの歌手の一部を言いながら、この惨状を高らかに楽しむ藍。

 その光景を止める事が出来ず、ただ耳を塞いでいる事しか出来ない彰浩は、己の無力さを呪った。

 覚醒して魔力を手に入れ、デバイスも手に入ったのに、満足に扱う事無く終わった自分自身に。

 絶望は続く、ティアナの悲鳴と言う名のBGMを流しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変わって、ノーヴェとウェンディ側。

 こちらもまた、彰浩たちと変わらず、敵の襲撃を受けていた。

 

「ブラッディ・エア・マイン&レイン」

 

 男――襲撃者は、左手を空に掲げ、トリガーである魔法名を口にする。その左手に、赤く血の様な球体が1つだけ出現する。

 しかし、その球体の直径は、5メートルはあるのではないかと言わんばかりの大きさを生成する。

 

「どこが雨なのか、問い質したいのだが?」

「それは、コレを喰らってからにしてもらおうか」

<ロックオン――アクション>

 

 デバイスの音声と同時に、攻撃魔法が放たれる。

 5メートル在ろう球体は、襲撃者の手から放たれ――ノーヴェとウェンディとの距離が半分辺りになった瞬間に、辺りに弾ける様に球体が吹き飛ぶ。

 

『!?』

 

 その光景に、ノーヴェとウェンディは、防御体勢に移り――周辺の空間を把握する。

 目には見えないものの、無色透明の宙を漂う50センチほどの球体が、無数に散らばっていた。

 

「ゲェ」

「うぇ~」

 

 と言いながら、ノーヴェは少し引き、ウェンディはウンザリした顔をする。

 何せ、2人とも空を飛ぶと事は出来ない――ウェンディのライディングボードは除く――が、全方位に広がっているのが問題なのである。

 一応、球体同士がぶつかり合わない様に間隔を保っているが、魔法名から爆弾だと判明しているので厄介である。

 さらに、1つ爆発すれば誘爆が起こる可能性が高いので、下手に壊す事も出来ない。

 ただ、地面に何も仕掛けられていない事が唯一の救いである。

 

「どうするッスか?」

「どうするもこうするも……こいつは、なぁ……」

 

 ウェンディの問いに、ノーヴェは感覚を研ぎ澄ませ、周囲の空間を再度把握し直してから答える。

 確かに、球体同士が一定の間隔を開けている事は判るが、人が抜けられる隙間が存在しない。

 唯一空きがあるのは、上空のみ。言わずとも、誘っているのが丸判りの如く、隙間が開きまくり。それでも、誘爆できるように配置されているのは、敵ながら見事であると敬意を表すノーヴェ。

 ウェンディも、ライディングボードで上空に上がるべきか、否かを考えている。

 

「考えるのは良いが……時間は無いぞ?」

 

 と、2人に声を掛ける襲撃者。

 確かに、正論である。何せ――勇斗が、木に背を預けたまま俯いている。ただ、腕には金属の輪をはめていた。

 

「まぁ、魔力が目覚めてなければ、助かったのかもしれないが――後の祭りって奴だな、コレが」

 

 勇斗は、8日ほど前に、魔導師としてのリンカーコアが覚醒したのである。そして、この日戦闘の末、襲撃者の所有していた薬品――コア・イーターを飲まされたのである。

 そして、何故この様な状況になったのか。それを説明するには、1時間ほど前に戻る必要がある。

 

 

 

 

 

 家には、勇斗、ノーヴェ、ウェンディしかいなかった。他の人達は、用事があるとの事で、全員で掛けている。恭也のみ、例外であるが。

 で、留守を預かる事になった3人は、各自で分担して家事を終わらせ、庭で簡単な訓練をしていた。

 まぁ、家事を始めてやったノーヴェとウェンディは――色々やってくれた。

 まず、ベタと言えばベタだが、洗濯機に入れる洗剤の量を間違える。言わずとも、結果は思い浮かぶと思うので省略。

 次に、料理は……美由紀よりマシだが、ギリギリ食えるか食えないかのレベル。一週間ほど、桃子率いる料理が出来る人間からの指導により、平均レベルに達する。コレにより、美由紀は料理の才能の無さに、さらに絶望する事になったのは、言うまでも無い。

 で、完全にやる事がなくなったので、昼になる前に訓練をする事になり、庭に出た時に結界が展開。襲撃者の奇襲から、戦闘が始まったのである。

 

「せいやぁぁぁぁああああっ!!」

 

 ノーヴェが、気合の声を上げながら、襲撃者に右の跳び回し蹴りを放つ。

 

「リング・リン――って、長い! リング3!!」

<はぁ……イエス・マスター>

 

 デバイス名が長かったのか、略名でデバイスを起動させる襲撃者。どうやら、インテリジェントデバイスらしく、デバイスからもため息が出るほど飽きられている様子。

 だが、誰もその言葉に突っ込んでいる余裕など無く――ノーヴェの攻撃が炸裂。

 しかし、渋い金色の輪が出現し、輪という特性、物理法則、遠心力の法則などの法則を利用し、攻撃を受け流す。

 ノーヴェは、流された右足をそのまま地面に付け、左の回し蹴りを放つ。殆ど距離が無いので、当たる部分は脹脛(ふくらはぎ)辺りになる。

 さすがの襲撃者も、フラフープ並に大きさの輪型のデバイスでは、受け流す事は出来ない。かぁと思いきや、本当にフラフープの様に、自分の体を輪の中に入れる。

 攻撃は、またも襲撃者に当たる事無く、輪に当たるも、そのまま吹き飛ぶ襲撃者。地面に激突すると踏んだノーヴェだったが、襲撃者はそれすら防いだのである。

 何せ、縦に吹き飛んだ体を、輪ごと横にして手の平を広げて、輪を支える。そして、多少押さえきれない部分があったものの、タイヤの様に転がってダメージをほぼゼロにしたのである。

 

「なぁ!?」

 

 さすがのノーヴェも、この回避行動に驚く。ラギュナスでも、襲撃者と似た様な形のデバイスを使っている相手と模擬戦はある。だが今、襲撃者がやった様な回避行動は、見た事が無かったのである。

 その硬直を、隙だと判断した襲撃者。持っていた輪を、ノーヴェの上に向かって投げる。その投げた輪は、ノーヴェが輪の中に納まる様に真っ直ぐ落ちる。

 

「ノーヴェ!!」

「!?」

 

 ライディングボードに乗ったウェンディが、真っ直ぐ落ちてきた輪にボードで体当たりして弾き飛ばす。

 それを合図に、ノーヴェは襲撃者と輪から距離を取る。けん制で、襲撃者にガンナックルを向けて、エネルギー弾を放つ。

 だが、あくまでけん制かつ、乱雑に放った攻撃は、襲撃者に当たる事は無かった。が、その場から動かなくする事は出来た。そして、意表を突く事も出来た。

 行き成り、襲撃者から見て左に勇斗が現れ、それに驚いて顔を向ける。その顔を、勇斗から見て、左から持っていた棒を横から振り抜く。

 それをまともに喰らうと思いきや――

 

<プロテクション>

 

――防御魔法によって、防がれてしまう。

 

「くっ!!」

 

 勇斗は、そう吐き捨てて、地面に足を付いた瞬間、棒による突きを放った。

 

「っぅ」

 

 無駄だと変わらないのかと言わんばかりに舌打ちし、プロテクションを張りっぱなしのまま対応する。が、棒の先がプレテクションに突き刺さった瞬間、襲撃者の顔を吹き飛び、体を後方によろめかせる。

 

「――がっはぁ!?」

<貫通攻撃!? 魔力――いや、物理によるモノ!?>

 

 魔力も持たない人の攻撃に、頭の中が真っ白になる襲撃者と、初めての部類の攻撃に戸惑うデバイス。

 襲撃者は、リンディや桃子みたいに若作りされて、18歳に見えるのだが、実は50年以上生きている。よって、少なからず似た様な攻撃を受けていても可笑しくは無かった。

 だが、その襲撃者の全ての経験が、少なからず魔力を持った人――魔導師か、魔導剣士だけである。人間でなければ、似たような攻撃は存在した。存在したのだが、よもや人が使ってくるとは思いも寄らなかったと言える。

 伊達に50年生きていたのだが、やはり柔軟な思考は、老人の様に固まった思考になっていたのである。即ち、今までの経験が勝手に作ってしまった、無意識の先入観と価値観。

 精神は、肉体に惹かれると言われるものの、歳を重ねた結果がコレ――魔力も持たない人の攻撃を、防御魔法越しから貰う。

 襲撃者は、考えるよりも先に空へ上がった。ノーヴェとウェンディはともかく、魔力も持たない人――勇斗からは、逃れる事は出来る。

 

「逃がすか!!」

 

 案の定、その隙を逃がさないとばかりに、ウイングロードを展開して走って来るノーヴェ。

 

「援護射撃ぃッスよ!!」

 

 そう言いながら、ライディングボードを腕に装備し、砲身からエネルギー弾を放つ。

 

「ちぃ!!」

 

 この不利な状況に対して、吐き捨てる様に言う襲撃者。ウェンディのエネルギー弾を避け、弾き、ノーヴェの足技を受け流す。さらに、下から小石が飛んで来るので、プロテクションで防御。

 襲撃者は、ノーヴェをウェンディの射線軸の方に吹き飛ばしてから、下を見る。そこには、勇斗が持っていた棒をバット代わりに、小石を放っている姿があった。

 小ざかしい真似ではあるが、相手の注意を拡散させるには有効な手でもある。

 

<マスター、ウザイから先に潰しましょう。いや、潰せ>

「デバイスが、マスターに命令するな」

 

 デバイスのトンでも発言に突っ込みを入れつつも、同意する様に勇斗に襲い掛かる。

 勇斗は、歯を食いしばり、足を地にめり込ませる勢いで踏ん張りを効かせる。そして、棒に、体の中にあるエネルギーを流し込むイメージをする。

 

「一刀両断!!」

<ヒートリング・ハンドタイプ>

 

 襲撃者が持つ輪が淡く光りだし、一気に間合いを詰めて手前で一回転して、打ち放つ。それを勇斗は、棒を平行に持つも、左を少しだけ下げる。

 衝撃――と、思いきや、受けた瞬間に一気に左を下げ、受け流す形を取ったのである。その際、掴んでいた左手を開いて、支える様にする。火花を上げながら、リングは棒から地面に落ちていく。襲撃者も、やばいと思いつつも、勢いを上げたのが仇となった。

 襲撃者の持つリングは、地面に突き刺さった瞬間、地面を焼く。だが、勇斗にはそれを確認する余裕など無い。今が絶好のチャンスなのだから。

 流した体勢で、さらに体を左に回して1回転し、襲撃者の後頭部に棒を振り落とす。その際、左手は右手の近くまで持っていった。

 

<――プロテクション>

 

 が、案の定、デバイスの的確な判断によって、後頭部への打撃は弾かれる。その弾かれた反動を利用して体勢を立て直し、襲撃者の横顔に棒による突きを放つ。

 

「くっ、プロテクション!」

 

 棒の突きが来る所に、防御魔法を張るも――再び顔面が吹き飛ばされる。

 

「貰うスゥよ!!」

「でぃりゃあぁ!!」

 

 その追い討ちと言わんばかりに、ノーヴェとウェンディが突撃する。

 

「――ぁ」

 

 体を無理やり引き、体勢を整えて右手でリングを持ち、体を左に捻る襲撃者。

 

「けんなぁぁぁぁああああああああああああああああっ!!」

 

 その叫びと同時に、リングを右に振り払う。すると、手に持つリングと、地面に吹き飛ばされたリングを含めて、12の輪が出現する。

 勇斗は、襲撃者の反応に、ヤバイと感じ取ってバックステップを行う。しかし、襲撃者は、一気に間合いを詰めて、手に持っているリングは振付ける。

 

「ぐぅ!?」

 

 重い一撃。その証拠に、魔力で強化した棒が、少しだけ掛けたのである。マズイという嫌な予感は、これによって一層高まる。だが、襲撃者が行う攻撃に、逃げる隙すら無い。頼みの綱とも言える2人は、遠隔操作で動くのか、11個のリングの攻撃を防ぐのに精一杯の状況。

 放たれる攻撃に、受け、流し、防ぐ事で、次第に棒が傷だらけになる。

 そんな傷だらけ棒で、何とか攻撃を受け流しながら、不意に思い出したのである。ノーヴェとウェンディから、魔力の事を聞いた事を思い出す。

 

 

 

「リンカーコア?」

 

 2人の説明を聞いている最中に出た、聞きなれない単語を尋ね返す。確かに、魔力や魔法に関しては、ゲームや漫画、アニメによって何と無く判る。だが、魔力の塊であり、元となる核――リンカーコアと現す事は、初めてである。

 

「個人の魔力の核、リンカーコア。これには、個人特有の波長や色、魔力の元をひっくるめて現す言葉ぁッス」

「今じゃ、魔力の残留しによって、個人を特定する事も出来るようになっている。場所は、胸辺りに存在する」

「ふぅ~ん」

 

 と、2人の言葉に返事を返しつつ、自分の胸辺りを見る。

 

「もし、使える事を前提として聞くけど、使う場合は如何すれば良い訳?」

「基本的には、この――」

 

 ウェンディが、横に長けかけていたライディングボードを、ペシペシと叩く。

 

「――デバイスという道具が、必要となるぅッス」

「ちなみに、アタシのは、この――」

 

 右足を上げて、ごついローラーブレードを指で指す。

 

「ジェットエッジだ。大雑把見言えばデバイスだが、厳密に言うと少し違うけど」

 

 そう、ノーヴェとウェンディ――戦闘機人が使う武装は、あくまで個々の戦闘機人の能力を最大限に生かす為の、いわば剣や銃と同じ武器である。

 魔法を補助する機能があれば、ストレージデバイスの部類に入る。なのに何故、2人がデバイスといったのか。それは、ラギュナス技術によって、魔力圧縮による待機モードを取り入れたからである。

 それによって、ラギュナスは武器の部類である、『デバイス』の中に捻じ込んだのである。

 

「まぁ、デバイス無しでも使えるけど……発動するものによって、時間が倍以上掛かるぅッス」

 

 と、そのままウェンディが、補足を付け加える。

 

「あとは、基本的に魔力を使うイメージをする事、だな。慣れれば少し意識するだけで使える様になる」

「イメージ、か」

 

 ノーヴェの言葉に、勇斗は魔力をイメージした。

 それにより、少なからず魔力を扱う事が出来るようになった。が、魔法を使うほどの量が無いので、精々自分自身と持ち物の強化くらいである。

 ちなみに、持ち物が自分自身の手から離れた瞬間、効力は消えるが。

 

 

 

 そして、時間は戻り――襲撃者による一方的な攻撃に戻る。

 場違いな思い出しだったが、まだやられる訳には行かないと、心を強くする。

 だが、襲撃者の攻撃を捌く動作に、隙を見つけることは出来なかった。出来なかったのだが、ついに勇斗の限界が来てしまった。

 

「――っう!?」

 

 我慢できなくなった体の痛みに、右足を滑らせて、膝を付いてしまう。

 恭也と美由紀が使う流派――御神流の技である『神速』と改造版の『貫・改』を使ったのである。

『神速』とは、御神流奥義の歩法で、『貫』を極めた先にある奥義であるが、勇斗はそれを飛ばして偶然覚えてしまった奥義である。

『貫・改』とは、『貫』を勇斗による独自の技。『貫』は、相手の防御を見切る技であるが、『貫・改』は、内部破壊技である。

 さらに、覚醒しつつある魔力の使用による疲労。日頃から、戦闘訓練をしていればまだ持ったかもしれな。だが、所詮運動の延長戦くらいでしかやっていない、かつ碌な戦闘経験も無い。

 

「貰った!!」

 

 リングが、勇斗から見て左から迫る。しかし、痛みに耐え切れず、ついに左も膝を付いて倒れこんでしまう。

 それが運良く回避する行動となり、襲撃者のリングは、頭上を過ぎるだけとなった。

 

<運の良い奴>

 

 この光景に、悪態をつく襲撃者のデバイス。

 

「これでトドメ――と、思ったが、良い事を思いついた」

 

 トドメを刺す為に、リングを頭上に掲げるも、思い付きによりリングを下げる襲撃者。

 デバイスも、遠隔操作を行いながら、行き成りの出来事に困惑するデバイスだったが、懐から取り出したモノを見て理解する。

 襲撃者は、蹲る勇斗の髪を掴んで顔を無理やり上げて、取り出したモノを飲ませ、近くの木に寄り掛からせる。

 時折呻き声を上げる勇斗だったが、徐々に声を出さなくなり、規則正しい呼吸しかしなくなる。

 

「おい! お2人さんや!!」

 

 その言葉に合わせる様に、2人に襲い掛かっていたリングが離れ、一定の距離を開けて2人を中心にして回り始める。

 そして、襲撃者の声を聞いて、顔を向けた2人の先に、木に横たわる勇斗の姿。

 

「どこを見ている!!」

 

 その言葉に、今度は上を見る2人。

 そして、今に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彰浩は、ティアナの叫びと言う名のBGMを聞きながら。

 勇斗は、薄れ逝く意識の中で。

 絶望を噛み締める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第十一話

枷に変わり無く

 

END

 

 

 

次回予告

 

無残な姿を晒す、スバルとティアナ。

恩師を救う為に奮闘する、ノーヴェとウェンディ。

その戦いの中、彰浩は藍の、妹の過去の話を聞く。

勇斗は、薄れ逝く意識の中で、自分の過去を思い出す。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第十二話:力こそ全て

 

 

 

無力を呪い、強くなる事を決意する。それが、どんな結果になろうとも。




あとがき
 これ以上表現すると、18禁になるので自重。ってか、もうアウト?(汗
 2分割にすれば良かったと後悔するも、割り増しで凌ぐ事にしました。(号汗
 これでも、18禁ゲームや小説を持っているので、もう少し細かい描写ができましたが、さすがに一文目になるのでやめました。
 あとは……予告内容失敗。でも、手に入れた力を使いこなすのは、中二病扱いなんだよねぇ~。
 言われたくないから、ものすごっく端折った様な感じで、力を手に入れた事にしました。いや、こっちの方が中二病か?
 でも、使う暇ななくぶちのめされて、絶望タイムへ――でOK?(汗
 最後に、小文字いらないんじゃない部分がありますが、ワードだと赤字線を貰い、自分で発音すると必要だと判ったからです。
 なので、読み難い部分もあるかもしれませんが、基本的に自分の書く小説は、このスタンスを貫き通す予定でいます。

 P.S.オリキャラの襲撃者のデバイス名、愛名が『リング3』……やべぇ、リアルにある映画のタイトルだったよ。(汗
 と、製作途中で気がついた。(号汗
 でも、このまま。(爆





≪オリジナル魔法&技≫
・揺れ動く衝撃
 魔法と言うより、術の方が強い。
 あと、文字通り、辺り一帯に衝撃波を作り出す技。だが、あくまで空気を振動させるだけなので、周りの建物の被害は少ない。
 スタングレネードの音だけ強化バージョンだと、考えれば早い。


・ブラッディ・エア・マイン&レイン
 名前通り、風を爆弾にした魔法。雨は、強大な球体が分離して降り注がれる所からの由来。


・貫・改
 物語の中で、簡単に説明が出た通りの技。
 御神流の独自の改良技で、相手の防御を見切れないのならば、実際に貫通させれば良いと言う考えの下に編み出された技。
 この技の開発には、恭也も携わっているので、使用可能。ただし、美由紀は使用不可。ってか、この技の存在すら知らない。
 言わずとも、負担はデカイ。


・ヒートリング・ハンドタイプ
 襲撃者が使う、専用魔法と言っても過言ではない。
 輪の1つを熱して使う。使用する際、手には魔力コーティングして掴まなければ成らない。






制作開始:2008/12/26~2009/1/27

打ち込み日:2009/1/27
公開日:2009/1/27


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第十二話:力こそ全て

 力を求める事は、罪なのか。
 力を得る事は、代償を背負う事なのか。
 だが、力とはなんだろう。
 圧倒的な、暴力? 権力? 名声? 名誉?
『力』とは、いったい何だろう。


 

 暗い闇。

 何処までもが闇で、何処までが天井で、何処までが地面で、何処までが壁なのか判らないほど、闇に染まった場所。部屋なのか、世界なのかすらぁ、判別が出来ない。

 

「時は来た」

 

 そんな闇に、1つの声が木霊する。

 

「いや、まだ早い」

 

 2つ目の声。

 

「遅い、の間違いでは?」

 

 3つ目の声。

 次第に、どんどん声が木霊していく。

 

「……静まれ」

 

 たった1つの声で、数十、数百、数千、数万、数億、数兆……無限と言っても過言ではない声が、一斉に止んだのである。

 ただその声は、人間が口で発音できる様な声ではない。

 

「状況は、我々に好ましくない方向に進みつつある」

 

 その言葉に合わせる様に、2つも空間モニターが展開される。1つは、彰浩たちと藍。もう1つは、勇斗たちと襲撃者。

 視線――というべきか、全ての意識が、彰浩たちと藍が映し出されている空間モニターに集まる。

 そして、その空間モニターに、両耳を力無く塞いでいる彰浩が全面的に映し出される。

 

「何故、機動六課に輸送させたはずのデバイスが、ア奴の手に渡っているのか」

 

 老人男性の声。

 

「とある遺跡で発掘された、古代のデバイスと言えた存在であり、伝説として語り継がれた武具でもある」

 

 貫禄のある男性の声。

 

「だが、問題なのは――何故、才も無き者如きが、3つも装備できているのか、という点だな」

 

 少し渋い成人男性の声。

 

「確か、伝説の一説に……3つの武具を纏う事叶わず。成し遂げようとせし者には、その罪によりて身を滅ぼさん……だったっけ?」

 

 かん高い成人女性の声。

 

「そうだ。テストの結果、1000人中1000人が死亡する結果を残している」

 

 堂々とした少年の声。

 

「正確には、第26京3000兆2367億904万90回目の適合検査結果だ」

 

 堅物の様な男性の声。

 

「1回1回の検査人数は区々――全27正(せい)4568潤(かん)2689溝(こう)9957穣(じょう)3001予(じょ)91垓(がい)6587京(きょう)1100兆3968億9875万2341人。うち、管理世界の人間、3正1潤5897溝2698穣157予987垓1112京2690兆1201億59万1050人。管理外世界の人間、8正354潤1212溝9887穣2119垓4589京7895兆6969億6666万7890人。プロジェクトFなどによる様々な技術によって人工的に生み出された人間、16正3212潤5579溝7472穣0724予9104垓885京514兆5798億3149万3401人。内、第1段階成功率、85パーセント。第2段階成功率、35パーセント。最終段階成功率、0パーセント」

 

 無表情な少女の声。

 

「3つの組み合わせはともかく、2つまで同時に装備できる存在はいた。だが、3つ目を発動させる前に死ぬものが殆どで、実際の第2段階成功率は2パーセントも満たなかった」

 

 雑音みたいな、だがハッキリと言葉が判る男性らしき声。

 

「だが、実際に生きていられたのだけでも、奇跡に近い」

 

 モザイクが掛かった女性の声。

 

「人工的に造った人間よりも、天然の人間の方の比率が良いのが、納得できんが」

 

 渋い男性の声。

 

「事実を受け入れよ。それが我らのあり方のはずだが?」

 

 柔らかく、ハッキリとした口調の女性の声。

 

「判っている……あの小僧――彰浩だったな。藍の改名前の兄だったという」

 

 10代の青年らしき声。

 

「藍だけでは、少し荷が重いのでは?」

 

 ほんわかした口調の女性の声。

 

「それは、良心というだけの結論だな。理論的ではないが、念には念を入れておくのが筋と言うもの……ガジェットドローンを送るか?」

 

 ゆったり口調の男性の声。

 

「ガジェットドローン……ラギュナスが破棄した兵器、だったな。予想以上に使えぬ代物を送るのは、逆に足手まといでは?」

 

 裏返った男性の声。

 

「いや、援護はともかく、探索や回収作業には持ってこいの兵器だ」

 

 ハキハキとした成人男性の様な、子どもの声。

 

「……良かろう。至急、ガジェットドローンにコントロール制御を搭載し、藍の援護に」

 

 人間が口で発音できる様な声が、皆の言葉を受け、整理し、明確にかつ正しいと思われる選択を弾き出す。

 

「ア奴はどうする?」

 

 老人女性の声。

 

「グーリ・ド・アイブか……苦戦は必然だ。これくらいの事を乗り越えられんようでは、先が思いやられる」

 

 人間が口で発音できる様な声。

 

「大分買ってぉるのぅ?」

 

 時代口調の掛かった10代前半の少女の声。

 

「奴の潜在能力を見れば、大体の奴は買うと思うぞ?」

 

 人間が口で発音できる様な声は、先の声に対して反論を返す。

 

「今は、この2人が問題であろう」

 

 再び人間が発音する事が出来ない声によって、また沈黙する。

 

「勇斗という個体は置いておく。ただし、彰浩という個体は、我らの下に置いて置くべき存在。よって、藍に増援を送る事とする――ラハブ・ラカム」

 

「ここに」

 

 人間が口で発音できる様な声の主の呼び声と、ほぼ同時に現れる30代の男性――ラハブ・ラカム。

『我らが叡智』の直下の部下に当たる存在であり、『叡智の四大代行者』の1人であり、リーダー各として存在する人物である。

 

「汝に、命を与える……判るな?」

「はぁ! ケイル・ヘートン」

 

 その言葉に従うかのように、ラハブの後ろに魔方陣が展開。そこから、片膝を付いた状態の男性――ケイルが現れる。

 

「ここに」

「デバイス・ヘカトンケイルは?」

 

 ラハブは、振り返る事無く、ケイルに尋ねる。

 

「既に完成、試運転を兼ねた訓練を行いましたが、不具合なのが発生した結果、現状で74パーセント。そして、私自身がまだ扱いきれていないのが上げられます」

「ふむ……現状で、どれ位まで扱える?」

「今の状態を100パーセントとした場合、45パーセントと言った所です」

「……ケイル、実戦データの採取も兼ねて、藍の援護に跳べ」

 

 少しだけ沈黙するラハブだったが、試運転を兼ねた実験テストを行った所で、全ての不具合が解消される訳ではない。だが、未完成にデバイスを実戦で使うのは、自殺行為にも限度がある。が、未完成の状態での実戦データは、開発者側にとってはダイヤモンドよりも価値がある代物である。

 立証されたデータであれば、次の開発に大きな成果を約束させると言っても過言ではない。ただし、そのデータが参考になる兵器ならの話であるが。

 それでも、些細なデータが、他の兵器に大きく貢献する事もある。故に、何事にも絶対など存在しない。

 

「了解しました」

 

 その意図を察したのかは不明であるが、返事を即答で返すケイル。事実、試運転も兼ねた訓練――つまり、開発に関わっていると思われるが、それは間違いである。

 あくまでケイルは、自分が扱う予定のデバイスの感触を確かめる事と、一瞬でも早く扱いこなせる様にする為である。よって、開発に携わっているとは言い辛いのである。

 そして、その即答された返事に、肩を落とすラハブ。彼も、ケイルの行動と情報を照らし出せば、考えなど簡単に行き着いた結果の行いである。

 ケイルは、再び魔方陣が展開され、光と共に消える。それを確認したラハブは、声を出す。

 

「これで良いので?」

「構わん」

 

≪我らが叡智よ≫の言葉を皮切りに、全てが闇に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人と人の戦いは、次第に人外の戦いとなり、やがて神々の戦いの再来と成すか。

 人の域を超える事無く、技術と言う名の力に溺れ、自滅を歩むか。

 全てが夢だったか。それとも、現実と言う名の物語だったか。

 答えは――『力』が示さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十二話:力こそ全て

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法結界により、外界と――魔力を持たない人間の世界と、遮断された簡易世界。結界が、術者自ら解くか、破壊されない限り続く。

 その結果以内では、住宅街が戦争でも起きたかの様な風景。燃え盛る炎に、瓦礫と化している家々。そこに、人はいない。別に死んでいなくなった訳ではなく、本当に人がいないのである。

 そんな攻撃が少し前まであった、この場所で、4人の男女がいた。

 

「あぁ~あ、だらしない格好で。しかも、外で寝るなんて、女を捨ててるとしか思えないわねぇ」

 

 だらしなく地面に顔から倒れこんでいるティアナに、暴言を吐く藍。言わずとも、原因は藍にあるのだが、それを逆手に取って言っているだけである。が、当のティアナは、先の快楽と苦痛の拷問に耐えかね、気絶している。

 目には、光が宿っていない状態で、口からだらしなく下と唾液が飛びでている。鼻水も出ていて、地面で唾液と混ざり合っている。

 さらに、体中から汗だらけで、股から液体が流れ出ている。その液体は、股周りのバリアジャケットを濡らし、地面に池を作り、ジワジワと染み込んでいく。

 

「で、こちらのスピーカーは……はぁ、もう終わりなの? 残念無念また来週ぅ~」

 

 と、言いながら、拘束したままだったスバルをその場で話す。言わずとも、重力に引かれて、地面に倒れ込む。なを、今まで忘れられていたが、拷問は継続中であり、体中から煙が立っている。

 

「うぅ~ん……何気に香ばしいのが、気に入らないわね」

 

 自分で臭いを嗅いで置きながら、美味そうな臭いだったので、鼻と口を手で覆う藍。さすがの藍も、人肉を食べると言う行いは、生理的に受け付けない。ちなみに、人肉は肉の中では最高に美味いらしいが、食べないで生涯を終える事が当たり前なのだろう。

 

「で、お兄――って、こっちは回復してもらいますか」

 

 体がボロボロで、耳にただ手を置いてあるだけの彰浩。スバルとティアナの絶叫と言う名のBGMを、聞きたくない為の動作。第一、女性の悲鳴を聞く事に快感を覚える特殊な感覚は、彰浩には無いし、無力な自分から背けたい一身で耳を塞いだけ。

 これは、『逃げた』と言われても仕方が無いかもしれない。だが、体はボロボロで、立つ事以前に動く事が不可能の状態。立ち向かっても、120パーセントで返り討ちになる。唯一、動いた腕を引き摺りながらも、手を耳に置く事だけ出来た。

 よって、これは『逃げた』と言うべきだろうか。人によって見方は違えどぉ、大体の人は『逃げた』と言わないだろうと思われる。だが、この場合は『抵抗が出来ない』と言うのが、正しいのかもしれない。

 

「回復ぅ回復ぅ回復ぅ~♪」

 

 藍は、生き生きとしながら、彰浩に回復魔法を掛ける。ただし、全快させず、体が上手く動かせない程度で止める。

 彰浩は、悲しみ、怒り、絶望、困惑と言った、情けない顔で藍を見上げる。

 

「丁度、お2人さんが気絶してくれたので、少し昔話にお付き合いをお願いします。ちなみに強制だから」

 

 と言う唐突的な言葉から、藍の簡単に纏めた昔話が始まった。

 何でも、1番始めは――やはり、交通事故からだった。言わずとも、家族の何かが壊れてしまった出来事でもある。

 藍は、事故に巻き込まれた瞬間、転送魔法によって、どこかに転移させられたらしい。

 そして、意識が戻るまでの間に、蘇生を兼ねた肉体改造を施される。これにより、身体機能の向上、魔力が開眼する。

 ただ、それを扱いこなす為に、地獄の様な訓練と圧縮記憶データの強制移植を受けた。

 圧縮記憶データとは、文字通り圧縮した記憶をデータ化したモノで、それを直接人間の脳に詰め込むという荒業。これにより、短期間で膨大な知識を得る事ができるが、脳内でデータを解凍した瞬間、死にたくなるほどの頭痛が襲う。

 一言で『頭痛』で表すと、時々起こる程度の痛みを思い出すかもしれないが、そんな生易しいものではない。

 先のように、『死にたくなるほど』と表しているように、脳に強い刺激が何度も走り、血管が焼き切れた様な感覚。それは、気絶したくても仕切れない地獄。その間の1時間が、1分が、1秒が、とても長く感じる様になる。しかも、時間が判ると、なお明確と為る。

 それが終わると、休む間も無く訓練に飛ばされた。まさに、文武両道を貫き通した内容であった。

 脳内で構築された膨大な記憶のデータバンク内部から、素早く取り出す事が出来るように。そのデータバンクに、新たな知識を瞬時に書き込む様に。無駄な筋力を付けない様に、かつ洗礼された訓練。

 

「――洗脳の刷り込み英才訓練だったけど、自分でこの道を選んだつもりだよ。でも、それも刷り込みかもしれないけどね」

 

 そして、その言葉で締めくくった。

 彰浩は、事故の日から大体の経由を知った。知ったが、どうしようもなかった。

 何故か。起きてしまった事を、消す事は出来ないから。それこそ、過去へ跳んで行かなければならない。

 だが、ここで疑問にぶつかる。

 

「なら……何で、顔を――」

「出せる訳無いじゃない」

「それは、判るけど」

「判ってない。判ってないよ、お兄は」

 

 彰浩の言葉に、藍の表情から笑みが消える。

 

「来たとしても何? 葬式が終わってぇて、学校にもいけなくなって、友達もいなくなって、欲しかった限定品も買えなくて……」

 

 藍は、そう言いながら顔を背け、手を強く握り始め、肩を徐々に振るわせていく。

 

「家に……家族がいても……部屋があっても……私物が残っていても……」

 

 それ以上、藍は言葉を言わなくなった。その代わり、地面に落ちていく雫が見えた彰浩。

 

「失ったモノは……2度と戻ってこない」

 

 涙を頬に伝わせながら、顔を向けて答える。

 彰浩は、軽率な言葉だと悟る。失ったモノ――それは、時間、絆、何時もと変わらないと思いつつも、ほんの少しずつ変わっていく日々。そして、常識だった筈の知識。日々の中での、衝動買い、些細なケンカ、一時の出会いなどの経験と感情を得る機会まで。

 常識が打ち破られ、非常識が常識へ変わる。

 架空の産物が現実と化し、否定が肯定と成す。

 失ったものは、時間から一時的な、突発的な感情までにいたるまで。

 

「戻ってこないからこそ、今まで歩んできた、歩まされた私を受け入れて……ここにいる」

「…………それでも…………」

 

 彰浩は、何とか体を起こして、藍の顔を見る。

 

「……何で、帰ってこなかった?」

 

 その言葉を聞いた藍は、悲しみの感情が一気に冷め、代わりに怒りの感情が湧き上がった。

 そのまま、藍は彰浩の右横へ行き、右足に魔力を込めて、浮き上がっていた体――鳩尾部分を蹴り込む。ちなみに、電撃のオマケ付き。まぁ、スタンガンの1種と考えた方が早い。

 

「――――!?」

 

 彰浩の視界が白黒に染まり、体が宙を舞う感覚に襲われる。だが、それも一瞬で、地面にぶつかり、跳ねしながら転がる。

 転がると言っても、3、4回転くらいで仰向けの状態になる。それと同時に、腹部に衝撃が走る。

 

「――ぅっぶぅぁがぁっ!?」

 

 口から血を噴出しながら、咳き込む彰浩。だが、その咳も満足に出来なかった。何故なら、藍が彰浩の腹部を右足で、踏んでいるからである。

 手を足に持って行こうとするも、電撃と地面を転がった上乗せダメージによって、動かす事は出来ない。

 

「何も……判ってない」

 

 足を軽く上げて――再び腹部を踏む藍。

 

「っぐふぁ!?」

 

 腹部を踏まれ、強制的に空気と血を吐き出す彰浩。

 

「何も」

 

 もう1度、足を上げて踏む。

 

「っはがぁ!?」

 

 再び踏まれた瞬間、空気と血を吐き出す。

 

「何も!」

「っばぁっ!?」

「何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! 何も! ――」

 

 何度も、何度も藍は、彰浩の腹部を踏み続けた。そして、藍に踏まれた瞬間、何度も空気と血を吐き出す。

 結界によって切り離された世界の中で、打撲音と、何かを吐き出す声と音と、少女の声が響くだけ。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁああああっ!!」

 

 ノーヴェは、襲撃者――グーリ・ド・アイブの懐に飛び込むや否や、移動途中の空中でジェットエッジを強制パージさせる。

 なを、これは緊急用なので、1度パージすると2度と履けなくなる。だが、回収して組み直せば、何度でも履く事は出来る。だが、どちらにしても、スピードが一気に落ちる事には代わりが無い。だが、代わりに得るモノもある。それは、小回りである。

 ジェットエッジを履いていると言う事は、靴に靴を履いている状態。さらに、ローラーという延長部分と、重さが付き纏う。

 スピードは言わずとも、遠心力を利用した攻撃が可能となる。しかし、いくら力があっても、遠心力を完全に制御する事は出来ない。制御が可能――それは、この世の法則を無視した力、或いは現象、またはその倍以上の力が加わる事である。

 ただ、倍以上の力を加えると言う事は、それなりの代償を払う事になる。反動などに従って、徐々に弱めていくなら大丈夫だが、強制的に止めるとなると代償が発生する。徐々に弱めていくのも代償が発生する――つまり、何事にも代償は必要となる。なるが、ケース・バイ・ケース。時と場合により、大雑把な理論で言えば、ゆっくり止めるより、急に止める方が、代償は大きい。

 話は戻り――ジェットエッジを脱いだ状態では、小回りが聞く様になり、懐さえ飛び込めれば勝率が上がる。

 互いに接近戦が出来ると言っても、グーリはデバイスという延長線を持っている。それに対してノーヴェは、拳――ガンナックルという、拳より一回り大きい篭手の装備を片手にしているだけ。小回りが利き易いのは、もはや明確。むしろ、必然と呼べる。

 

「台風の目とは――中々のやり手だぁ、なぁ!」

 

 ノーヴェの至近距離の蹴り上げを、紙一重でかわすグーリ。顎を掠ったが、脳を揺さぶられる程度では無い。

 

「くっ――そぉあ!!」

 

 振り上げた足の踵を、そのままグーリに向けて落とす。

 

「当――たるかぁ!!」

 

 飛行魔法でホバーリングして回避し、そのまま上空へ上がろうとする。が、砲撃魔法が、一斉に襲い掛かる。

 

「上には行かせないッスよ!!」

 

 ウェンディのライディングボードから放たれる砲撃――拡散爆撃弾。

 拡散爆撃弾とは、文字通り拡散するのだが、弾丸1発1発が爆弾になっていて、着弾した瞬間に爆発する。

 グーリは、それを突破することは出来るが、確実に攻撃を貰ってしまう。ノーヴェのシールドを壊す事無く、貫通ダメージを放つ技を持っている。グーリが、シールドを張ろうにも、攻撃が手薄になってしまう。

 魔導師は、基本的に2つの魔法を使うことは無い。いや、正確には、使う事は出来ないと言っても過言ではない。

 魔法の中には、確かに2つ同時に使っても、支障は無いモノもある。だが、魔法はデバイスが制御している為、デバイスの処理能力が追いつかないのである。

 人間の場合、火事場の馬鹿力、死に物狂いなどの精神的な要素により、普段以上の力を発揮する時がある。だが、デバイスは、インテリジョンデバイスになっても、所詮は機械。人間の様に、感情を得ても性能限界を超える事は出来ない。

 

 だが、感情を得た事で限界を超える事があるのならば、それは、デバイスという種族の誕生の瞬間なのかもしれない。理由はある。動物にだって、何らかの感情はある。そして、種類別に分けられている。つまり、デバイスも道具と言う部類の武器でなく、デバイスと言う名の種類が設けられても過言ではないだろうか。

 現に、ユニゾンデバイスの人格プログラム――リインフォース、リインフォースⅡが上げられる。

 今は失われたに等しい技術だが、人の様に喜怒哀楽を表現し、食事を取り、睡眠を取る。姿は、2人とも人間。まさに、種族としてのカテゴリーを生み出している。だが、種族として認められない。それは、祖先を残す事が出来ないからだと考える。

 所詮、2人は人格プログラムであり、デバイスの管制システムの人間版。性行為を行えても、子を生む事は無い。

 だから、どんなに人の姿を、動物の姿をしていようとも、種族としては認められない。さらに、人間以上の存在に成り得る可能性を秘めた存在。

 難しい事を排除して、一言で表せるならば――人間は、人間以上の存在を認めない。

 人間は、下は認めても、上は認めないという傲慢な種族であり、存在でもある。故に、動物という言葉は、『動く物(うごくもの)』。それを縮めて言い易くしたのが『動物(どうぶつ)』である。

 話が反れたが、限界を超えるには、色々な要素がある。

 感情、信念、想い、願い――そういった概念的なモノが、デバイスにも考えられるのならば、可能かもしれない。

 だが、この場にそれを成し遂げられる関係を持つ者は、1人もいない。よって、グーリは、上空に上がる事ができないまま、地に足を着けて戦うしかない。

 

「リング3!!」

<重力の足枷>

 

 グーリの足に、黄色身が掛かった赤色の球体に覆われる。そして、一気に地面に落ちていく。

 その際、当たる筈だった砲撃は、そのまま空を舞う。

 

「やぁ――」

 

 コンマ0秒で落ちてくるグーリから、距離を取ろうとするノーヴェ。だが、グーリも逃がさないと言わんばかりに、足の自分の力を加える。

 

「――べぇ!!」

 

 だが、グーリの方が早く、地面に落ちてクレーターを生み出す。それと同時に、瓦礫と衝撃波が、至近距離でノーヴェに襲い掛かる。

 

「――――!?」

 

 悲鳴は、衝撃波によって掻き消され、瓦礫と一緒に後方に吹き飛ばされる。

 その際、顔は咄嗟に腕を交差させて防ぐ事が出来たものの、盾代わりに使った腕、体、足に瓦礫がぶつかる。

 

「ノーヴェ!?」

 

 叫ぶウェンディ。しかし、駆けつけたくても衝撃波のせいで近づく事が出来ず、ライディングボードの後ろに隠れる。

 瓦礫が、ライディングボードにぶつかる。金属音を奏でながら、ぶつかっては砕け、その衝撃に持って行かれない様に、ボードを支えるウェンディ。

 そして、勇斗にも、瓦礫と衝撃波が襲い掛かる。だが、瓦礫よりも衝撃波の方が早く、さらに昏睡状態によって体に力が入っていない。これによって、衝撃波に乗って吹き飛ぶ。

 草木に突っ込みながら、木の枝などに皮膚を傷つけ、血を流す。それは、緑1色に染まる大地のキャンパスに、赤い無数の線が描き込まれる。

 そんな中、勇斗は昔の事を思い出していた。

 家族――と言っても、今の高町家ではなく、羽山家にいた時である。

 どこにでもあった普通の家族――とは言いがたかった。何故なら、父親は、表面上は問題なかったものの、家に帰れば酒とギャングル。母親は、夫に見切りをつけて浮気三昧。俺は、2人から腫れ物扱いだったが、孤児院にぶち込まれることはなかった。

 2人とも、周りの評価を気にするタイプだったからである。気にしなければ、既に孤児院に行っている。

 だが、そんな荒れた日々は、日に日に増して行き――ついに、周りの評価を気にしなくなった。余は、馴れと言うべきだろう。

 勇斗は、両親から誕生日を祝ってもらった事が無い。それ故に、自分の誕生日は判らない。年齢は、小学校の子たちの年齢に合わせているだけなので、本当になっているかどうか怪しい。だが、その時はまだ周りの評価を気にしていた時だったので、年齢に間違いは無い。

 そして、中学を卒業した辺りで、孤児院に入れられた。

 どうやら、勇斗が義務教育を、終わるのを待っていたらしい。なを、勇斗を孤児院に入れる時の両親の顔は、とても笑顔だった事を勇斗は覚えている。

 それから、どこにも引き取り手が見つからず、鍛錬に励む日々を送る。

 ある日、孤児院から出る事になった。職員のずさんな管理体制に嫌気が差したからである。が、行く当ても無いので、初日で路頭に迷う嵌めに。

 それから、当ても無くフラフラしている時、海鳴町でとある子どもを助ける。その子どもの名前は、高町なのは。

 

 その後、お礼と桃子に、自分が経営している喫茶店・翠屋に強制連行。そこで、孤児院から抜け出した事を隠したが、天涯孤独を明かした結果、高町家にお世話になる事に。

 迷惑になると何度も言ったが、桃子には聞き入れてもらえず、いつの間にか養子扱いになっていたのである。

 さすがに、学校へ行く事を進められたが、その時既に18歳になっていたので、高校へ行くには抵抗があった。かといって、大学に行く学まで無いので、翠屋の店員として働く事に。まぁ、基本的はバイト扱いで、家の掃除やなのはの迎えが主な仕事となっている。

 そして、高町家の居候として、晶やレン、フィアッセが来る。

 3人とも、それぞれの事情があるが、勇斗は何も聞いていないし、聞こうともしなかった。想いは、人それぞれで、安易に聞くものではない。

 それから色々あり、ノーヴェとウェンディと出逢い――今の勇斗がいる。

 

「…………――っ」

 

 勇斗の指が、微かに動く。そして、意識も段々とハッキリしていく。

 

「――ぅっぱぁがぁふぁ!?」

 

 変な咳き込み方をしながら、口から黄緑色の液体を吐き出す。

 液体の正体は、グーリが飲ませた何か。これが、勇斗を昏睡状態にした原因である。

 まだ意識は定まっていないが、起き上がるだけなら支障は無いほどに落ち着いた。だが、体を動かそうにも、動く事は無かった。

 勇斗自身は気がついていないが、先の戦いのダメージに、何かによる精神系の疲労。さらに、爆風で吹き飛ばされた際、地面に激突した時のダメージが、全て上乗せとなり、完全にピークを過ぎている。

 痛みなどが、今余り感じられないのは、それが原因である。よって、明日以降に起きた瞬間、全身筋肉痛などによって、ベッドの上から起き上がることは不可能である。

 回復魔法を掛けるのであれば、多少はマシになるかもしれないが、焼け石に水に等しい状態。

 

「…………」

 

 勇斗は、何とか動かす事が出来る口を、強く喰いしばるしかなかった。

 そして、その場所から少し離れた場所では、まだ戦闘は続いていた。が、そろそろ終盤に差し掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に、誰かが笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノーヴェは、俯きで地面に倒れ、ウェンディは、仰向けになって気絶している。

 ジェットエッジは、足のローラー部分以外は、どこかへ吹き飛んだ。ライディングボードは、木に寄り掛かった状態にある。だが、装甲は瓦礫の衝撃により、少しだけ凹凸がある。

 その2人の位置から、対角線上に襲撃者が右膝を付いている。言わずとも、3人ともボロボロである。

 

「――ぶぅぱぁ!」

 

 グーリは、慌てて右手で口を押さえ、左手で自分のデバイス、リング・リング・リング――通称リング3の輪の1つを、地面に付き立てる。それと、吐き出された血は、緑と茶色のキャンパスを染める。

 

「――ん、ぅんん……――ぷぅぺぇ!」

 

 口の中の何かと同時に血を吐き出す。地面にぶつかり、跳ねる血の中に、白い塊があった。

 

(歯が、折れたか)

 

 そう思いながら、呼吸を整える。肩で息をしながら、ノーヴェとウェンディを見る。

 年頃の娘でありながら、ここまでの戦闘が出来る。センスか良いとか、才がある、天才などのレベルではない。

 鍛錬。

 日々積み重ねた鍛錬によるモノ。短期間かつもっとも濃い内容の。それも、1歩間違えれば壊れても可笑しくは無いレベルの。

 

(あの2人は、事前調査だと……ラギュナスが受け入れた戦闘機人だと聞く。だが、それだけでは片付かん戦闘スキル。コイツらの師は、秀才か? それとも天才か? どちらにしても、我らの敵には変わり無い。無いのだが、強力すぎる)

 

 そう考えながら呼吸と整えるも、先の戦闘で受けた傷の痛みと、溜まった疲労によって、呼吸が中々整わない。

 だが、抹殺任務は終わってない。

 リング・リング・リングを、松葉杖代わりにしながら、最優先ターゲットである羽山勇斗を探す。

 探査魔法を使いたいところだが、魔力の大半を回復と身体強化に回しているので、使う余裕が無い。

 記憶を手繰り寄せ、勇斗が吹き飛ばされたと考えられる付近を捜す。茂みを払いのけ、奥へ進む。その茂みに、勇斗のモノらしき血痕を見つけたられた。

 その茂みを抜けると――傷だらけの勇斗が、動物の様な爪が指となっている篭手と足当てを、装備して立っていた。

 

「……まだぁ、立てたのか? それと、手と足につけている奴は、何だ?」

 

 だが、勇斗は何も答えない。答えない代わりに、グーリに襲い掛かる。

 

「――――!?」

 

 跳び蹴りを右へ、間一髪でかわす。だが、勇斗の体がグーリと平行になった瞬間、その空中で横に回転して、回し蹴りを放つ。

 咄嗟に反応した右手で防ぐが、足の踏ん張りが利かずに、後方へ吹き飛ばされる。だが、同時に痺れる感覚に襲われる。

 地面にワザと転がってダメージを受け流し、顔を上げて確認すると、手と足に電気が帯びていた。さらに、篭手と足当ての排気口らしき部分――篭手は腕の前腕の肘に近い部分に、対等に2つずつの計4つが、両篭手に付いている。排気口の向きは、腕を伸ばした場合、使用者の方へ向いているが、斜めに向いていて右側は右、左側は左となっている。

 足の部分は、脛の側面に立てに3つ、排気口は下向きに付いている。なを、右足の場合は右側に、左足の場合は左側に付いている。

 ちなみに、前腕とは腕の部分の名称である。肘を中心として、手に近い方の前腕と言い、肩に近い方を上腕と言う。

 それを確認するや否や、グーリの顔色が一瞬で変わる。

 

「D・アーマー!? 馬鹿な、試作品のサブ・デバイスが、何故ココに!? いや、それ以前に、何故この男が装備を!?」

 

 D・アーマーとは、賢者の石が開発したサポートデバイス。なを、『D』は、デストロイの略であり、元々開発コンセプトが殲滅用に設計されていたからである。

 なを、D・アーマーは、勇斗が装備しているデバイス名であり、そのデバイスの総称ではない。

 このデバイスは、確かにデバイスの部類である。だが、サブ・デバイスは、普通のデバイスとは訳が違う。

 使い手とデバイスの補強を行う為の特性のデバイス――それこそが、このサブ・デバイスの真髄である。

 単体でも使用可能だが、決め手に掛ける。だが、一旦サポートに回れば、その真価が発揮される。

 ただ問題点なのが何点かある。

 ピンキーしか考えられていないことである。 故に、量産化が難しく、誰にでも扱える訳でもないのが上げられる。

 そして、インテリジェントタイプしかない事――これが、一番の原因に当たる。

 使い手とデバイスの相性がよければ、1+1の答えは、10にも20にもなる。 しかし、相性が悪ければ2にすらなく、場合によってはマイナスとなることもある。

 さらに、インテリジェント同士――俗に言う三角関係(やましい意味ではなく)を築き上げなければならない。

 使い手の相性が良くても、デバイス同士が悪ければ駄目。 デバイス同士が良くても、使い手と合わなければ駄目。 相性があるインテリジェントデバイスを探すよりも難しい。

 ならば、ストレージデバイスにすれば良いと思われるが、それでは使用者とデバイスのサポートと掛け離れてしまう。

 よって、試作されたザブ・デバイスは、現時点で9つ。その1つが、D・アーマー。

 追加で、試作品と言う事で、魔力変換装置というモノが搭載されている。この装置も試作品だが、魔力変換できない人間でも、この装置によって変換する事が出来ると言う装置である。

 種類は、炎・氷・電撃・風・地・物質・闇・光・水。その中で、電撃の装置を搭載したサブ・デバイス――D・アーマーは、現存しているサブ・デバイスの中で、頂点に君臨する。

 君臨とはいっても、あとは土木、開発、治療、調査といった、戦闘系のデバイスで無い為でもある。氷の装置を積んだサブ・デバイスも、戦闘用ではあるが、個人戦用である。殲滅戦用の代物とは、訳が違う。

 確かに、個々の能力を照らし合わせると、Dアーマーは、別のサブ・デバイスに劣っている面もある。あるのだが、電撃は雷。すなわち、自然界の中でも最速が備わっている。

 つまり、速さで勝つ事は、ほぼ不可能であると言っても過言ではない。

 

(くっそぉ、本領発揮される前――)

 

 愚痴を心の中で吐こうとした瞬間、目の前に勇斗の姿が現れる。

 

「なぁ――」

 

 驚きの表情に染まるも、何とか顔をずらそうと思った瞬間。ホントに、瞬間だった。

 

「――がふぁ!?」

 

 打撃音が、僅かに遅れて鳴り響く。

 グーリの顔が、強制的に上を向く。だが、その向く勢いは、首が飛んでも可笑しくは無い勢いである。同時に、体も宙へ上がり、左手に持っていたデバイスを、その場に手放す。

 だが、助かったのは、身体強化魔法というより、体の恩恵と言える。

 

(みっ、見えなかった! どっちで攻撃した!?)

 

 そう思いながら宙を舞うも、今度は内臓辺りに拳を叩き込まれる。

 喉から込み上げて来る液体が、喉に差し掛かった時に、鳩尾にアッパーが叩き込まれる。

 そのままグーリの体は、くの字に曲がり、喉に差し掛かっていた液体は口まで届くも、今度はグーリの左こめかみが殴られる。

 脳が揺さぶられ、意識が飛び掛けるグーリだが、閉じていた口の中に広がっていた液体の苦味で、何とか耐え抜く。閉じた口の隙間から、唾液と混じった液体が流れ出ている。

 だが、勇斗は、そのまま両手で頭を掴み――膝を、顔面に叩きつける。喰らったグーリは、口から唾液が混じった液体を吐き出す。吐き出した液体は、顎から流れ落ちる。

 ヨロヨロと後ろに下がり、数歩で尻餅を付く襲撃者。

 

(何だ、あいつ? 限界で倒れた筈だ。それとも、ハイになってバーサーカーにでも……バーサーカー? ――バーサーカーだと!?)

 

 襲撃者は、自分でバーサーカー――狂戦士の言葉に、あるシステムの事を思い出す。それは、D・アーマーの呪われた由来という2つ名が付いたシステム。

 I do not distinguish it.――区別しない。即ち、無差別。distinguishの『D』とDestroyの『D』。

 Destroyが正式名であり、Distinguishが2つ名となる。

 その2つ名が付いた理由――殲滅とは、相手を完全に根絶やしにする事こそが、全て。ならば、全てを、敵味方、無関係な一般人などの全てを殲滅する。そこにいる『人』を殲滅するのならば、敵味方など必要が無い。つまり、区別する必要性が無い。

 すなわち、使用者すらデバイスの、兵器の一部とするシステム――バーサーク・ドール・システム。通称BDS。

 意識を乗っ取り、思考を凍結させ、目的だけを遂行させる人形と化す。そして、敵味方関係なく、命ある存在と襲い掛かる存在だけを目的のついでに消していく。

 つまり、目的を達成するか、使用者の行動不能か、システムに介入して解除するかの3択しかない。途中破棄は、まずありえない。

 

(再起不能以前に、抹殺するから問題ないとしても、相手の動きが早い)

 

 そう思考している間にも、勇斗は1歩1歩近づいてくる。

 

(なら、まず拘束して抹殺――いや、BDSのシステムの、Dアーマーの全てを知っている訳じゃない)

 

 さらに1歩。

 

(だが――仕方ない、システム介入して、システムそのモノの削除か、あるいは命令解除か変更――)

 

 さらに1歩。同時に、指を鳴らす為に、右手を軽く握る。

 

(――って方針で)

(判った)

 

 思考と同時に、念話のラインを繋げていたので、リング・リング・リングに指示が行く。

 

(タイミングは、お前に任せる)

 

 インテリジェントデバイスという名の相棒に、命を預ける。

 

(……死なないで頂きたい)

(判っている)

 

 その発動タイミングは――あと3歩。

 

 

 

 

 

「――其処までです、藍様!」

 

 藍の背後から、声が掛かると同時に、腕に押さえ込まれる。

 未だに蹴り続けていた藍を止めたのは、ガジェットドローンを連れて現れたケイル・ヘートン。

 藍は、ケイルとガジェットドローンの大群が、一度に転移してきた事に気がつかないほど、兄を蹴る事に集中していたのである。

 ガジェットドローンの大群――と言っても、10機しかいない。本来ならば、25機ほど整ってから出る予定だったが、藍の行動により、急遽出られるだけで飛んで来たのである。予定の15機は、コントロール制御の搭載に戸惑っていたり、数が用意できなかったりと、時間が掛かるらしい。可能な数だけ搭載次第、纏めて転送させるとの事。一応、遅れた言い訳で、増援と言う形にしてある。何分急だった事であり、仕方が無いアクシデントである。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………――少し落ち着いたから、放しなさい」

 

 荒れた息を整えてから、腕と胴体に回された腕を、外す様に命令する藍。

 その命令に、少し戸惑ったケイルだったが、藍の脈拍が落ち着いている事を確認すると、手を放す。

 

「で、何しに?」

 

 まるで、兄である彰浩を、ゴミを見るかの様な目を向けながら答える、藍。

 

「ラハブ様の命により、藍様の手を増やしに参りました」

 

 ケイルは、特に気にする事無く、淡々と返事を返す。

 

「2本で十分よ」

 

 そう言って、自分の両手を軽く上げて見せる。が、それを気にする事無く、ケイルは答える。

 

「これは、≪我らが叡智よ≫の命でもあります」

 

 その言葉を聞いた瞬間、軽く舌打ちをする藍。≪我らが叡智よ≫は、組織・賢者の石の創造主である。つまり、創造主の命は絶対である。だが、命令を取り消す事も出来るが、余程の事がない限り、不可能と言って良い。

 

「それ以外の命は? 変更有り?」

「特にありませんが……藍様の兄である彰浩氏の抹殺について」

「こいつの?」

 

 そう言って、ケイルに顔を向ける、藍。

 

「はい。もし、無理であれば、私に抹殺を代われとの事です」

 

 その言葉に、藍の心は揺れ動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、瓦礫の下敷きとなった槍型のデバイスが、少しずつ輝きだした。

 そして、それに気がついた者は、誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第十二話

力こそ全て

 

END

 

 

 

次回予告

 

戦場に、謎の男が乱入。

さらに混沌と化す戦場の中で、蹲るティアナ。

謎の男により、無理やり前を向かされる。

そして、天を突く光の柱。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

 

第十三話:帰還という名の入り口(前編)

 

 

 

絶望の物語の中で、奇跡を見る。





あとがき
 日本数字の単位で、無限大数(むげんたいすう)、不可思議(ふかしぎ)、那由多(なゆた)、阿僧祇(あそぎ)、恒河沙(ごうがしゃ)、極(ごく)、載(さい)、以下本内容に続く。
 なので、後残りが気になる方は、検索してみてください。すぐに出てきます。
 つーか、計算がちとしんどかった。合ってるか少し不安だけど。だって、パソの計算機でも穣辺りが限界だった。
 てか、兆を入れ忘れてた結果、正まで行かず。後付なので、数字が微妙になってしまった。(汗
 キャラの賢者の石のメンバー名は、何気に神話の存在から引用。その説明から、こんな力を使うのだと思えば良いかと。(あくまで現時点なので、書いていく内に変更あり)
 で、ジェットエッジのパージ機能は、作者独自の後付設定ですので、あしからず。
 そして、時折自分のプチ論文作品ぽい様な。(汗
 最後に、これ、リリなの本編で言うと、5話目後半なんだよね。(汗
 自分で書いているわけだが、何気に長いんだなと思う。次の13話目で、やっと帰還します。が、どんでん返しでもさろうかな?






≪オリジナル魔法&技≫
・重力の足枷
 文字通り、足の重力を纏わり付かせて、相手を拘束する技。今回は、自分に使って強制回避に使用した。






制作開始:2009/1/28~2009/3/7

打ち込み日:2009/3/8
公開日:2009/3/8


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第十三話:帰還という名の入り口(前編)

力に、善悪は無く。
思いに、善悪は無く。
それが、純粋なのか、穢れなのか。
それが、正しいのか、間違いなのか。
世界に住む人々が築き上げた概念が、それを別ける。


 

 

「…………」

 

 無言のまま、倒れ込んでいる彰浩を見る、藍。

 その藍の後ろで見守るように待機している、ケイル。そして、その周囲には、ガジェットドローンたちが、浮遊しながら待機している。

 抹殺――組織・賢者の石の創造者≪我らが叡智よ≫の命であり、余程の事が無い限り、命は撤回や変更はされない。

 藍は、先ほどまで兄に自分の考えを理解してもらえなかった余り、ケイルが止めるまで蹴り続けていた。だが、ケイルの言葉より本来の命令を思い出し、心が揺らぎ、躊躇している。

 思考する。

 裏切る――それはありえない。帰る場所が、あの場所なのだから。

 連れて帰る――どっちみち、抹殺される。

 誤魔化す――不可能である。≪我らが叡智よ≫を騙す事など、不可能。

 奇跡を待つか――それこそが、奇跡である。

 なら、如何すればいい。方法が無い以上、如何する事もできない。

 そうして、刻々と時間が過ぎていく。結界を維持するにも、魔力を使っている以上、限界はある。

 それに、部下である者も、後方で待機している。多分、藍がやらなくても、部下に当たる存在のケイルがやる。

 藍は、久しぶりに泣きたくなった。

 別に、お兄である彰浩を殺したい訳じゃない。ただ、彰浩に理解してもらえなかっただけである。それなら、時間を掛けてでも、ゆっくりで良いから理解してもらえればいい。

 だけど、それが出来ない。圧倒的に、時間が無さ過ぎる。

 無いからこそ、決断しなければならない。殺すか、殺さないか、を。多分、ケイルは保険なのだろうと行き着く。彰浩は、藍にとっては肉親であり、兄妹なのである。代わりなど、どこにも無い事など、この日まで実感してきている。

 だから、決断しなければならない。

 

「藍様」

 

 不意に、ケイルが声を掛ける。答えは、聞かなくても判る。

 

「変わらなくて良いわ」

 

 藍は、その一言で切り捨てる。

 揺らいだ心を、氷の様に固めていく。徐々に、ゆっくりと。心を決める様に。

 彼女は、昔を捨てて、今を取った。なら、血縁や罪などに捕らわれる必要が、どこにあるのか。

 手に魔力を集中。脳内で、武器をイメージ――生成完了。

 藍の手には、魔力で構成された長柄武器≪岩融(いわとおし)≫――かつて、武蔵坊弁慶が使っていたという薙刀。

 普通の薙刀の刃の部分が75~90センチ、柄の部分は120~150センチであるらしい。だが、岩融は刃だけで三尺五寸(約105センチ)と通常のモノに比べると、大きかったという。常人が容易にこれを使用し得たとは考えにくく、やはり弁慶の剛腕あってこそ、自在に使いこなせた武器であったらしい。

 なを、これはオリジナルではなく、贋作強化版である。実際の物は、今では脆い物だったり、実際に存在しない物だったりする。よって、生成された武器の強度は、藍の魔力の質によって変化する。

 これは、≪叡智の四大代行者≫の≪火に属せし、灯火の者≫の能力である。

 ≪叡智の四大代行者≫とは、≪我らが叡智≫に直に使える4人の存在であり、称号の1つ。あと、ラハブ・ラカムは≪水を友とし、全てを流す者≫である。後の2人は、≪地を纏いし、乾きし者≫と≪風を従えし、地に足着かぬ者≫である。

 属性と呼べるモノは、その称号名を見るだけで判る。そしてそれは、神に近き力、もしくは神その者の力を見せる事がある。

 よって、≪叡智の四大代行者≫とは、≪我らが叡智≫が創造神とし、創造神から作られた神と言っても過言ではない。

 藍は、岩融を構えて刃を一旦、彰浩の首に添える。銃でいうと、標準を合わせる様なモノ。手の片方は岩融をしっかり握り、片方はスライドできるように握っている。

 そして、握っている手を点にして、岩融を振り上げる。

 振り上げると同時に、岩融の刃に炎を纏わせ、凝縮させる。すると、刃はマグマの様な模様を浮かべ、周りの空気を歪ませる。

 地下浅所でのマグマの温度は、おおよそ650~1300度の間である。ただ、藍は2000度まで上げる事が可能である。だが、やはり心に揺らぎがあるのか、800~1000度の間を行ったり来たりしている。

 故に、刃の部分の耐久値が定まっていない事に、藍は気がついていなかった。だが、今は関係が無い事。マグマは、熱気だけで物を燃やすことができる。刃だけを翳すだけでも、相手を殺せる。

 藍は、一瞬で終わらせる事を決めた。マグマの様に赤く染まった刃を、首に叩きつける事を。

 

「……火は……」

 

 その言葉に、周りにある炎は、静かに成り始める。その現状にケイルは驚き、辺りを見回す。そして、重大な事実を知り、藍に進言する。

 

「っ――藍様!」

「……ほっ――何?」

 

 神聖な呪文の詠唱を邪魔される事に怒りを覚えるも、その反面は、彰浩を殺さなくて区かった事に安心とする。

 

「管理局の2人が――2人がいません!!」

「何ですって!?」

 

 ケイルの言葉に目を丸くし、構えを解いて辺りを見回す。確かに、2人はいなくなっている。あれだけ時間が経てば、気絶から目覚めると思うが、体力の消費は激しかったはず。さらに、この業火の中で地面に倒れている最中に、完全に回復できる事など難しい。

 不意に、藍の後方から殺気が貫き、素早く岩融を振り向き様に盾にする。

――高らかに鳴る、金属音。

 柄の部分には、刃が受け止められている。その刃の持ち主は、ウェーブの掛かった首の長さくらいの髪、色は黄緑。目の色は黄色で、何気にナルシストっぽい感じの男である。

 その男の手に持たれている武器は、宮本武蔵のライバルと言われた佐々木小太郎の代名詞の刀≪物干し竿≫に似た武器。備前長船長光の作で、その異名は刃渡り三尺三寸(約1メートル)という長さから由来する。

 似ているという表現を使うのは、鍔(つば)が無く機械的なデザインとなり、柄の先が、デバイスのコアである。極めつけは、刃の長さが2メートルある事。既に、実物の2倍の長さである。

 藍は、柄で刃を払いのけ、後方に下がる。

 

「行けぇ――天照之剣(アマテラスのつるぎ)!!」

 

 藍を追撃するように、男が剣を魔力で20数本生成して、一直線に飛ばしてくる。原理的に言えば、ブラッティ・ダガーと同じである。ただ、色は本人のリンカーコアの色が適応されているのか、白色になっている。

 

「はぁああああああああああああ!!」

 

 しかし、藍は持っている薙刀を手足の様に扱って、男が飛ばしてきた天照之剣(アマテラスのつるぎ)を、全て弾き、粉砕し尽くす。その際、爆発の煙幕が広がる。

 

「――っ!?」

 

 が、その煙幕を利用して、一気にナルシストっぽい男が突っ込んでいく。それに、思わず舌打ちをした藍。

 防御に薙刀を構えようにも、相手との距離が無くなっていた。

 

「――させん!!」

 

 爆煙の中から、一筋の閃光が走る。ナルシストっぽい男は、素早く跳躍し、藍ごと閃光を飛び越える。着地後、そのまま物陰に隠れた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 閃光を放った人物、ケイルが慌てて飛び寄ってくる。あと、閃光の正体は、デバイスのヘカトンケイルの拳である。

 ケイルのデバイス≪ヘカトンケイル≫。

 使用者の両肩に3本ずつ生え、背中に顔が3つ、周囲には宙に浮かぶ腕が97本、顔が47つ展開される。

 術者の詠唱サポートではなく、物理的攻撃と索敵に長けている。しかも、1つ1つが独立した魔力エンジンを搭載しているので、AMF内でも使用可能。

 なお、魔力エンジンは、核エンジンと同様に近い代物であり、半永久的に動く事ができるデバイス。その代わり、制作コストが日本円にして、1つ1340億ほどする代物なので、量産するのは難しい。管理局の訓練生専用デバイスの杖型が、日本円にして500万で考えると、2万8600本製造できる計算となる。

 ただ、デバイス本体と内蔵された魔力エンジン共に、まだ稼動実験段階なので、周囲には宙に浮かぶ腕が29本、顔が10つ。両肩、背中に腕や顔は無い。現状では操りきれていないのである。本来の予定は、今年の新暦75年8月に、最終調整も含めての完成。同年10月までに、いくつかの次元世界で稼動実験を経て、実戦投入予定だった。今回の件がなければ、完成するまで表に立つ事は無かったと言える。

 

「助かったわ……ありがとう」

「いえ、これも全ては……」

 

 と、ケイルはそこまで言って、口を閉ざす。しかし、藍はそれを気にする事は無かった。

 

「では、私は先の男を追います。ケイルは、どこかに消えた、管理局の2人の捜索を。見つけ次第、私の元へ」

「はっ」

 

 その言葉を言って、ケイルは宙に浮いている顔と腕を、周囲に飛ばした。少ししてから、ケイルの周りに10の空間モニターが展開される。

 藍は、それを見てから、ナルシストっぽい男を探す為、宙を舞う。

 

(何故躊躇った? 何故戸惑った? 相手は敵だ。兄ではなく、敵なのだ。上に恩義も忠義も無いけど、私が私である事を示す為に)

 

 内心思いつつも、≪今の自分自身≫を優先すべく、戸惑いを押しつぶした。

 今の自分こそが全てであり、それ以外の自分は無意味である。ただ、それは己を殺し続ける答えだと知らず。ただの、無意味な防衛本能に振り回されて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十二話

帰還という名の入り口

(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んぅ……ぅんっ、ぬぅ――……ここ、は?」

 

 闇に沈んだ意識が、次第に浮かび上がっていき、重い瞼を開く。そして、少し空を眺めてから、言葉を呟いた。

 

「――彰浩」

 

 視界はぼやけているが、青色の判別が出来た。

 

「すぅ、スバル?」

 

 そう言いながら、何度も瞬きをして、視界を補正・回復させていく。

 そして、彰浩の右側から覗き込む、スバルの姿を確認出来る様になった瞬間に、息が止まった。何せ、影で少し暗くなっていても判るほど、スバルの肌が少し白い肌色ではなく、少し日焼けし過ぎた様な濃い肌色。もしくは、こげ茶に変色していたのである。成った原因は、少し前まで行われていた拷問。ディアナとは別の痛みであるが、恐怖と激痛に襲われたのは、紛れも無い事実。その証拠が、肌の色。

 知らない人間がみれば、元々そう言う色の肌、もしくは、日々の日焼けか、海の日焼けとなる。

 

「……体の、方は? それと……――ティアなはぁ!?」

 

 彰浩は、スバルの状態を見て言うも、ティアナの事を思い出して体を動かそうとした瞬間、全身に激痛が走る。精神、肉体共に疲労満杯状態。むしろ、過剰疲労状態と言った方が、正しいのかもしれない。そんな状態で動こうとしたのだから、激痛が走らない訳が無い。

 

「だっ、駄目だよ! 今は安静にしていないと」

 

 悶絶しながら悶えている彰浩に、スバルが言い聞かせる。それに従い、体を動かすのを止める彰浩。だが、まだ気掛かりがあった。

 

「ティアナは?」

 

 その一言で、スバルは言葉を詰まらせる。だが、言わなければ成らない事なので、重い口を開く。

 

「……大丈夫だけど……今は、今だけは、ソッとしておいてあげて」

 

 その言葉に、彰浩は何も言わずに肯いた。何せ、妹のデバイスに大人にされ、挙句の果てに公開陵辱されたのだ。心身共にボロボロなのは、必然と言える。これで大丈夫な奴は、既に精神が屈強、もしくは訓練された奴。あとは、ヤり成れているくらいだろう。

 

「目が覚めたか」

 

 その言葉に、スバルは顔を上げ、彰浩は顔を左に傾ける。

 

「ラグナスさん」

「レニアスが抜けているぞ」

 

 スバルの言葉に、ラグナスというナルシストっぽい男が、訂正を述べる。そして、視線を彰浩に向け、傍に寄ってしゃがむ。

 

「野山彰浩、だな?」

「そうだけど……アンタは?」

「俺の名は、レニアスラグナス。名前を言う時は、必ずレニアスを付けてくれ」

「レニアス……ラグナス……」

 

 彰浩の言葉に、レニアスラグナスは、首を横に振った。

 

「レニアスラグナス。レニアスは、苗字でないからな。あと、名前だが、一部でしかない」

 

 つまり、≪レニアス・ラグナス≫ではなく、≪レニアスラグナス≫と言う、1つの名前だと言っているのである。確かに、先ほどの彰浩のニアンスでは、≪レニアス・ラグナス≫だと受け取られてしまうのは、仕方が無い事だと言える。

 

「で――ティアナ! いい加減、こっち来い!」

 

 レニアスラグナスは、振り向き様に声を上げる。彰浩からでは、場所とレニアスラグナスが壁となっているので見えない。そして、当人であるティアナは、瓦礫を背にし、体育座りで体を小さく丸まっていた。

 

「!?」

 

 レニアスラグナスの声に反応し、体をビクンと震わせて硬くなる。それを見たレニアスラグナスは、ため息を1つ吐く。

 

「状況が状況だから、容赦なく言わせて貰うぞ……あのな、たかがデバイスに処女を破かれたくらいで、蹲るな」

 

 そう言いながら、レニアスラグナスは立ち上がり、ティアナに歩み寄る。それに対して、スバルは慌てふためくも、彰浩の傍を離れる事はしなかった。スバルの性格上ならば、すぐにレニアスラグナスを止めに入っただろう。だが、それをしなかった理由がある。

 それは、彰浩が気絶している最中に、レニアスラグナスから現在の状況・状態の説明。今の状態で、今後どうするかの簡単な説明を受けているのである。その際、ティアナの事で口論になったが、『死にたいのか』の一言に、スバルは黙るしかなかった。さらに、この状況で良い案があるのかと聞かれたが、下を向くしかなかった。

 

「それとも何か? 処女は、共に添い遂げる男にしか捧げないとつもりだと考えていたのか? だったら、どこかの次元世界で、慰み物に成っている女たちはどうなるんだ?」

 

 言っている事は、とんでもないし、無機物に処女を破かれた女性に対して、掛ける言葉ではない。案の定、その言葉に反応する様に、ティアナの体も僅かずつだが震え始める。

 

「男は獣と言うが、貪欲に塗れた男に捕まり、犯されて狂い死ぬか、飽きて捨てられた女たちは? それに比べれば、今のお前は十分マシじゃないのか? 別に男に犯されて、中出しされた訳じゃないんだからな」

 

 ティアナの前で止まり、しゃがみ込むレニアスラグナス。それを何も言わずに、ただ見守るスバルと彰浩。途中で、彰浩が止める為に声を出そうとしたが、スバルに止められた。

 

「いい加減、顔上げて――までとは言わんから、こっち来い。ここから脱出する作戦説明をするぞ」

 

 しかし、ティアナからの返答は無く、ただ体を振るわせるだけ。レニアスラグナスも、その場でため息を吐きながら、下を向いた。そして、再び顔を上げて、ティアナに問う。

 

「1分……いや、3分だけ待つ。それ以上は待たんからな」

 

 その言葉に、彰浩とスバルは、引き摺ってでもこの場所に連れてくるだろうと、先ほどの暴言から察した。

 

 

 

 

 

「1分……いや、3分だけ待つ。それ以上は待たんからな」

 

 私――ティアナ・ランスターに、レニアスラグナスは、そう言った。

 

『状況が状況だから、容赦なく言わせて貰うぞ……あのな、たかがデバイスに処女を破かれたくらいで、蹲るな』

 

 たかがとは何様かと思った。女性の初めては、本当に初めてである証拠の証。それが無くなると言う事は、既にヤった経験があると言う証拠。

 

『それとも何か? 処女は、共に添い遂げる男にしか捧げないとつもりだと考えていたのか? だったら、どこかの次元世界で、慰み物に成っている女たちはどうなるんだ?』

 

 極論だ。極論だが、言っている事は、間違いではない。

 実際に、事件に巻き込まれての強姦は、さして珍しい事ではないが、頻繁に起きている事でもない。ただ、起きたとしても、余り表沙汰に成らないだけ。表沙汰にしたくないという女性や、犯人の特定が出来ず、泣き寝入りするケースだって存在する。

 表沙汰に成らないのは、世間体から。犯人の特定が出来ないのは、変身魔法による変装。同じ魔導師ならともかく、一般人では話にならない。

 

『男は獣と言うが、貪欲に塗れた男に捕まり、犯されて狂い死ぬか、飽きて捨てられた女たちは? それに比べれば、今のお前は十分マシじゃないのか? 別に男に犯されて、中出しされた訳じゃないんだからな』

 

 確かにそうだ。男に犯されるのと、物に犯されるのでは、度合いが違う。男に犯された場合、穢れた女と決め付けられて、勝手に男が離れていく。しかも、軽い女だと決め付けられ、ヤらせろと言い寄ってくる男もいる。

 では、物では。ただの性に興味があるか、性欲を持て余す女として、見られる場合がある。本当に嫌になる。あの男――レニアスラグナスの言っている事は、余りに極論であるが、否定できない部分もある。全部が全部、正しい訳じゃない。だが、全部が全部、間違いでは事は確かである。

 否定。

 肯定。

 間違い。

 正しい。

 不正解。

 正解。

 ハズレ。

 アタリ。

 その言葉を、頭の中で繰り返し続ける。

 

「時間だ」

 

 結局私は……顔を上げる事は、出来なかった。

 

 

 

 

 

「時間だ」

 

 結局、ティアナは顔を上げる事は無かった。仕方が無いので、レニアスラグナスは立ち上がり、ティアナの左腕を掴んで引っ張る。だが、立ち上がろうとはせず、塞ぎ込むまま。ただ、手を振り払う事も無く、成すがままの状態。軽く引っ張っても立ち上がらないので、引き摺る事にした。

 それを見た彰浩とスバルは、やっぱりやった的な視線を向ける。だが、レニアスラグナスは、そんな視線を気にする事は無かった。無かったが、またため息を1つ。

 

「おい、ティアナ。いい加減にしろよ?」

 

 だが、ティアナから、反応は返ってこなかった。

 

「……そんなに、俺を怒らせたいのか?」

 

 無言。

 

「…………いいだろう。貴様は、俺を怒らせた」

 

 そう言って、レニアスラグナスは、左手を右の懐に入れ、銀色に輝く太い棒を取り出す。太さは直径5センチほどで、長さは15センチ程度。それを、掴んでいたティアナの左腕に付き立てる。

 

「――いっ!?」

「って、何やっているんですか!?」

 

 ティアナの声に、スバルが驚きの声を出す。彰浩も、内心で何やってんだよと、突っ込みを入れる。

 

「何って……ただの媚薬を打ち込んだだけだが? 侵食率は滅茶苦茶遅いが」

 

 その言葉に、完全にフリーズする彰浩とスバル。ついでにティアナも。そして、いち早く解凍完了したのは、当人であるティアナだった。

 

「――って、勝手にとんでもない物を打ち込まないでください!!」

 

 狂犬の如く、速攻で噛み付かん勢いで、怒鳴り声を上げるティアナ。敵の事など、完全に忘れている。むしろ、この場にいる全員が、忘れているのかもしれない。

 

「ちなみに、依存性は高いから」

「淫乱になれと!?」

 

 とんでもない言葉の爆弾を落とすレニアスラグナスに、的確な突っ込みを炸裂させるティアナ。その言葉を聞いた、彰浩とスバルは。

 

「百合でも咲かすのか?」

「私は別にいいけど、彰浩の方が健全で適任かもよ」

「あんた等も何勝手な事ほざぁいてぇる!?」

 

 ウガァー! と、吼えるティアナに、涼しい顔のレニアスラグナス。別に問題無いんじゃない的な顔をするスバルと、ご愁傷様と呟く彰浩。4人が4人、それぞれの表情を浮かべていた。喜怒哀楽とまでは言わないが、それに近い状態である事は、第3者――というか、人数からして第5者でいいのか? から見ても、何と無く判る。

 

「……お取り込み中、失礼するわよ」

 

 その声に、4人は一斉に向く。

 そこには、一応原型を保ったコンクリートの壁の上に、九尾みたいな尻尾を装備した、呆れ顔を浮かべる藍が立っていた。刀は、手に持っておらず、既に収納済みだと思われる。

 

「よくここが判ったな」

「本気で言っているのかしら? 本気なら、アナタの頭の中は、さぞ愉快な事でしょうね」

 

 レニアスラグナスの言葉に、呆れ顔から打って変わり、左の袖で口元を隠して、小ばかにした目線を向けて言う藍。

 

「個人的には、本気だったのだが」

 

 その言葉に、彰浩とスバル、ティアナと藍の心は、呆れに染まった。原因はともあれ、ティアナがデカイ声を上げれば、否応無く気づくのは視線の流れ。他にデカイ音、距離がもっと離れていれば、また変わっていたのかもしれない。

 

「ともかく……お前らの相手は、俺1人で十分だ」

 

 レニアスラグナスの宣言に対して、背後の瓦礫に隠れていた、宙に浮く腕――ケイルのデバイスであるヘカトンケイルが、襲い掛かった。飛んで来た腕は、全部で25本。

 レニアスラグナスは、ティアナを突き飛ばし、振り向く事無く、天照之剣を自分の背後に生成・展開。そのまま飛ばし、ヘカトンケイルの腕を相殺していく。

 

「っち――なぁ!?」

 

 目の1つである宙に浮く顔の視界から、レニアスラグナスが消えた。

 

「どこへ行っ――上!?」

 

 慌てて顔を上げるケイルだったが、そので見たのは、両手で物干し竿に似た武器≪MONOHOSHIZAO≫。名前は、物干し竿をローマ字に表記しただけのモノ。だったら、そのままで良いのではないかと、制作した当時にあった。だが、パクリならパクリらしくした方が良いと、レニアスラグナスが押し切ったのである。

 なお、刀身に、しっかり刻み込まれているので、相手からもデバイス名が判るという、いらない仕様になっている。判ったとしても、それがどうしたと言う話だから。ただ、そのデバイスの設計図や特徴が判るのなら、話は別となるが。

 

「――せっ!!」

「アゲルァサッ!!」

 

 レニアスラグナスが、デバイスを振り下ろす。だが、謎の掛け声を放って、左に避ける。

 

「――はぁ!!」

「サリュ!!」

 

 返しの如く、レニアスラグナス側から見て、下から右斜め上に切り上げる。が、ケイルは、さらに地面を蹴って、後方に飛んでかわす。

 さらに追撃を掛けようとするレニアスラグナスだったが、ケイルが遠隔操作で呼び戻した、デバイスの腕たちに襲われる。すかさずその場に留まり、デバイスで防いで弾き、弾いていなす。弾かれた腕たちは、地面に突き刺さるが、少ししてから宙に舞い戻り、ケイルの回りで静止する。顔の方は、四方八方からレニアスラグナスを監視する。

 腕が襲ってこない事を、肌と魔力サーチで確認しながら、デバイスを構え直す――が、一旦構えを説き、少し気の抜けた楽な姿勢になる。その姿にケイルは、警戒の認知度を上げつつも、レニアスラグナスの様に、楽な姿勢となる。いくら戦いの最中とはいえ、一瞬の気の緩みが、死に繋がるのは共通認識と言っても過言ではない。

 レニアスラグナスは、ケイルの足から頭へと目線を動かしてから、口を開く。

 

「お前……アギティの出身だな」

 

 その言葉に、ケイルの顔が歪む。だが、レニアスラグナスは、言葉を続ける。

 

「管理局未確認世界、アギティ。15年前の次元間戦争で、敵国だったケディフが開発した、次元消滅弾を喰らって消滅。開発したケディフも、アギティの開発途中だった次元消滅弾に反応。威力が倍増されて、ケディフも消滅したという、ある意味間抜けな話だったな」

 

 その言葉に、ケイルの拳が、強く握られる。だが、それに気が付く事無く、さらに続く。

 

「会戦の発端は、些細な出来事。とある生命――」

 

 言い掛けた瞬間、レニアスラグナスは言葉を止めて、その場を飛び込み前転して離れる。次の瞬間、藍のデバイスである九の柱の内、4本の柱が地面に突き刺さる。さらに、追尾する2本の柱。全体がVの字に開き、砲身が飛び出る。

 それを見たレニアスラグナスは、右手に持っていたデバイスを、強く握り直す。それを気に、砲身から魔力弾が放たれる。

 魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾。魔力弾――多少隙間らしきモノが見えるが、弾丸の雨か、弾丸の壁と言い表せる量が、レニアスラグナスに襲い掛かる。

 

「詮索屋は、女に嫌われるよ!!」

「そうですね、お陰で彼女に振られた回数――」

 

 魔力弾が、デバイスの刃に叩き斬られていく。

 

「――5!!」

「何かリアル過ぎるからやめてよ!?」

 

 何気にリアルな回数を吐くレニアスレアグナスに、藍は少し引く。引くものの、魔法のよる攻撃は、緩める事はなかった。

 

「い、ろ、は、に、ほ――へぇ!?」

 

 切り裂いていく魔力弾の中に、ケイルのデバイスの腕が混じっていた事に驚く。それが命取りとなり、デバイスの刃を掴まれてしまう。レニアスラグナスは、振り払おうとするが、容赦無く魔力弾が襲い掛かってくる。

 

「エグイぞ!!」

 

 と、愚痴を零しながら、デバイスを振り続ける。だが、デバイスを振るうたびに、手首、腕、肩の負担が大きくなる。理由は、捕まっている腕である。1本とはいえ、デバイスを振る方向を変則的に変え、時に振るタイミングをズラしに掛かる。よって、押さえながら振り続けているのである。精神・肉体共に、掛かる疲労は大きく、辛いとの一言。

 しかし、そんな泣き言を言う暇も無く、Vの字に開き、砲身が出ている柱の攻撃は続く。

 

「――――!?」

 

 デバイスを振るう度に、変な方向に力が加わる事により、掛かってくる負担は徐々に大きくなる。デバイス≪MONOHOSIZAO≫を振るさい、力で振るうのではなく、コテの原理やムチを振るう様な感覚で振っていた。だが今は、力だけで振っている状態ゆえに、手首の筋が軋み、力瘤辺りが膨張し、肩が悲鳴を上げる。さらに、右側よりの背筋と腹筋、踏ん張っている下半身までもが、釣られて痛み出し始める。

 だが、止まれない。デバイスを振るのを止めれば、魔力弾の餌食となる。さらに、これは実戦であり、殺し合いなのだから。当然、非殺傷では無い。

 蓄積されていく負担は、異常なまでに早く、早々限界が来てしまう。回復魔法による回復を行いたいが、する余裕が無い。魔力弾をデバイスで斬るさい、それなりに計算と予測が、デバイスで行われている。その導き出した結果を元に、デバイスを振り、魔力弾を切り裂いているのである。その状態での回復魔法の使用は、デバイスがオーバーヒートするか、計算と予測の演算が遅くなる。

 

「――ぬぁ!?」

 

 だが、手首の限界を知らせる激痛が生まれ、その拍子に一瞬だけ、体が硬直してしまう。

 

「そこぉ!!」

「くらえ!!」

 

 それを見逃す藍とケイルではない。藍は地面に刺しっぱなしだった4本の柱を、先の2つと同じ形状にして、魔力砲撃≪トーテム・バスター≫を放つ。

 魔力砲撃≪トーテム・バスター≫とは、1種のレーザー砲みたいなモノだと考えてくれた方が早い。砲撃の大きさは、直径20センチ程度。その代わり、速度は通常のバスターより速く、射程も長いのが特徴。具体的な長さは、2キロメートル。

 なお、質量兵器であるスナイパーライフルの射程は、狙撃銃は一般の小銃弾に分類されている物を使用し、概ね100~600メートル程度の射撃に適するらしい。5キロメートル程度まで弾丸は届き、1~2kmくらいまでならば致命傷を与えることができる。だが、この距離だと、重力、風、湿度等、様々な要因に干渉されるので基本的に命中は期待出来ない。

 また、12.7ミリメートルを超える規格の弾丸を使用する対物ライフルも、超長距離の弾道直進性をかわれて狙撃に用いられる。小銃弾より桁違いに重い弾丸重量のおかげで、1000メートルを超えるような狙撃でも、風などの外部干渉要因に左右されにくい。その結果、命中を期待できる。高貫通力、高威力でもあるため採用する軍や警察が増えているそうである。一部にはハーグ陸戦条約の≪不必要な苦痛を与える兵器≫に該当するのではないかという見方があるが、単なる解釈の例にすぎない。

 全くこの物語とは関係無いが、ハーグ条約の条文に大口径銃弾への記述があるわけでもないらしい。よって、具体的に使用を制限する条約や法律は、存在しないらしい。

 閑話休題。

 それにより、スナイパーライフルとは打って変わり、魔法は、風のような外部干渉要因に全く左右されないのである。さらに、魔力と運営、術式によっては、超遠距離砲撃も可能。なのだが、AMF――アンチ・マギリング・フィールドには、相当な使い手かつ相当な魔力を持っていない限り、魔法は無力となる。

 結果、一丁一旦であり、使い所を見極めるべし。である。

 話が大幅にズレるが、クリーンを謳う魔法に、禁忌として謳う質量兵器。しかし、質量兵器がある世界から見れば、非殺傷モードが付いているか、ないか。才能が無ければ扱えないモノか、誰でも扱えるモノか。ただ、それだけの話。

 どんなに安全かつクリーンな事を言っても、それを≪武器≫にした時点で、質量兵器と変わらない事を自覚しなければならない。だが、それをミッドチルダ、時空管理局は、全く理解していない状況。故に、魔法上等主義という偏見も、生み出してしまったのである。

 結局、武器が、質量から魔法に変わっただけの事なのである。

 話は戻り――魔力砲撃≪トーテム・バスター≫が、レニアスラグナスに向かうが、体を無理やり捻り、緊急回避を行った。ただ、その回避の仕方の代償に、腰と下半身に、多大な負荷を掛けた。

 

「――っあ゛!?」

 

 よって、下半身に激痛が走り、そのまま尻餅をついてしまった。

 

「貰った――火炎弾幕!!」

「そこだ――拳、行けぇ!!」

 

 藍のデバイスから放たれた魔力弾が、宣言と同時に火の弾丸に変化――この魔法は、≪火炎の弾丸≫と言う。

 特徴は、見た目は火の玉だが、当たると爆発して球体型に広がり、炎上する。なお、バリアジャケットは、多少温度調整が可能である。だが、その調整可能範囲を超えた熱量なので、バリアジャケット越しからでも火傷を負う。

 ちなみに、温度調整可能範囲は、現在の管理局の技術で+―120度である。なお、温度調整無しでも、+―50度は問題ない。

 ただし、+―50度を超える温度調整は、バリアジャケットの維持魔力の消費率を上がる。よって、+―50度を超えた場合は、大体の人間は諦めている。寒さは、バリアジャケットクラスの固さを誇る防寒具を羽織る。また、暑さは、冷却具を装備する。ただ冷却具の場合、5時間しか持たないので、現在の最大活動時間は2時間半となっている。

 5時間なのに2時間半なのは、往復を考慮してなのである。管理局の保有する冷却具は、小型である。が、エネルギーのバッテリーの交換が出来ないのである。これは、小型化を優先した結果による問題である。現在は、すでにバッテリー交換は可能だが、数が少ないのが現状である。

 閑話休題。

 ケイルのデバイスの腕が、魔力に覆われて、雪崩の様に襲い掛かる魔法――≪コブシノナダレ≫。

 先の通りに説明した魔法だが、魔法と物理を兼ね備えた技故に、防ぐにも魔法だけではなく、物理にも気を使わなければならない。

 防御魔法にも、いくつか種類がある。が、基本的な分類は、4種類。

 バリア――攻撃を防御膜で相殺し、柔らかく受け止める事を旨とする、もっとも汎用性の高い魔法。いわば、基礎魔法と言っても、過言ではないかもしれない。

 シールド――攻撃と相反する魔力で、固く・反らす事を旨とする防御。ベルカの騎士が、基本とする防御魔法とも言える。

 フィールド――範囲内で発生する特定効果(温度変化等)の発生を、阻害する事による防御。 これには、魔導師の天敵と言えるアンチ・マギリング・フィールドが、該当する。なお、通常は複数の種類を重ね、バリアやシールドの補強として使用する。

 その例が、闇の書事件で現れた、闇の書の闇が使った、4層の複合魔法防御。これには、物理・対魔法の2種類ずつが、交互に重なった強固なモノ。ただ、なのはたちには、1人一撃の4人による4回攻撃に、あっさり崩壊した。

 物理装甲――素材強度による、物理的防御。これは、魔力を持たない人間が、誰にでも扱える防御でもある。モノによっては、アンチ・マギリング・フィールドの付加が掛かったモノも存在する。が、その手のモノは、早々手に入らない・存在しないに等しい一品なので、そこは諦めるしかない。

 で、ケイルの攻撃を防ぐには、これらの中から1つだけで防ぐなど、魔力が余程高くない限り不可能である。現に合ったとしても、それなりに戦闘して魔力を消費しているので、賢い選択とは言えない。

 よって、まず物理防御は除外。防御できそうな装備品が無く、体制を崩している最中なので、現実的に不可能に近い。すると、必然と魔法による防御となる。一応、どんな体制からでも展開できる防御方法。しかし、魔力の消費は、ある程度避けたいのが本音。魔力は無限にあるわけではなく、有限である。しかも、個々によってバラつきがあると来ている。ゲームの様に、均等に能力を上げられる訳ではないし、やはりどんなに頑張っても限界は存在してしまう。

 漫画などでは、限界を超える場面があるが、それはある種の才能の1つだと思う。真の努力の果てに、限界を限界以上の力で打ち壊した結果である。人間、どんなに努力しても、無意識に限界を決めているので、必然と能力上昇から維持に変わる。だが、その限界の状態で、限界以上の力を出す事が出来る方法は、存在する。

 それは、経験による、引き出しの量である。経験は、限界を打ち破らずに超える事ができる方法を、導き出す知識でもある。ずば抜けた才が無いのなら、複数の経験を生かして、才を超える。経験が、多ければ多いいほど、可能性が生まれていく。時に必要が無いと思う経験も、他で得た経験を合わせた時に、新たな経験・知識・可能性が生まれる。

 

「――展開!!」

 

 レニアスラグナスは、魔力を放出してデバイスに流し込み、プログラムを起動させる。起動させたプログラム――魔法は、シールド・バリア・フィールドの3種類。

 まず、フィールドを展開して、魔力の拡散率を上げる。次にバリアを張り、自分の周りにフィールドの影響の軽減に専念させる。最後に、宙に浮くシールドを、4枚展開。少し斜めにてある。これは、完全に弾かないで、最初から反らす事を目的とした手法である。100パーセント受けてから反らすより、80パーセント受けて反らす方が、シールドの耐久値、魔力の消費を抑える事が出来るからである。

 簡単に説明をしているが、実際にやってみると難しい。何せ、アンチ・マギリング・フィールドに近い魔法を、自分の周りに発動。まず、この時点で、自爆としか言えない。何せ、低ランク魔導師が今から行う事をやろうとすれば、この時点で終わっているからだ。

 それにも関わらず、バリアを展開している。この時点で、バリアは徐々に分解されているので、魔力の無駄遣いとしか言えない。だが、フィールドは空間干渉の一種みたいなモノなので、それくらいの対価は仕方が無いとも言える。

 最後にシールドは、何故斜めに傾けたのか。防御魔法の大体が、受け止めるという手法――もとい、それが前提で生み出されたモノ。だが、受け流すという行為は、基本的に組み手で行う。それを、シールドで行うのは、ナンセンスでもある。だが、この場合は、受け逃せれば良い。ただし、失敗した場合の切り替えを瞬時に行える為の行動。タイミングが、完全にモノを言う行動、とても簡単に説明できるが、実際行うのは難しすぎる。出来たとしても、相当な訓練・実戦をこなした者の中でも、一握りしかいないかもしれない。

 それ以前に、盾で受け流すより、剣などで流した方が速いかもしれないが。

 だが、結果的は成功。

 飛んできた、ケイルのデバイスの腕は、次々と盾に受け止め、流される。魔力弾も、フィールドによって結合を解かれて、空中散開。それでも、原型を保った魔力弾は、バリアによって弾かれる。

 ノーダメージで、この攻撃を防ぎきった。だが、その代償として、魔力の大半を消費してしまった。その証拠として、

 

「――くぅ」

 

 右膝を地面に付き、持っていたデバイスを杖代わりにする。なお、右膝を曲げた瞬間に、シールド・バリア・フィールドの3種類の魔法は、消滅した。

 

「アレを防ぎきった!?」

「ですが、今のが、限界の様ですが……」

 

 驚きの声を上げる藍に、ケイルは冷静に分析した結果を述べる。が、ケイルの内心で冷や汗を掻いていた。

 何せ、3種類の防御魔法――内1つが、アンチ・マギリング・フィールだったからである。明らかに自爆行為に等しい行動だったが、それを上回る結果を出したのである。一般の時空管理局の局員が見れば、驚愕の表情になっているはずである。

 後の事を考えなかったのは、普通ならば詰めの甘い奴扱い。だが、先に見せた行動は、予想を上回る技量を見せ付けられたのだ。つまり、まだ敵は、この状況を打破する何かを持っている事を示す。

 

「藍様」

「――何かしら?」

 

 ケイルの言葉に、宙に浮く柱を、自分の周りに戻しながら答える藍。ケイルもまた、自分の周りに、飛ばした拳を戻し始める。

 

「生け捕りにしますか?」

「何故か、理由をお願い」

 

 ケイルの進言に、訝しげに問い返す藍。何せ、行き成り現れた挙句、先ほどまで殺し合いと言う名の戦闘を行っていたのだから。行き成り、殺しから捕獲に変えるなど、あからさまに可笑しいと言える。

 

「先の防御方法です。一応、戦闘データは記録されていますが、実際に再現となると……ですので、本人を生け捕りにし、記憶を吸い出す事が最短距離と考えましたので」

 

 その言葉に、顔を僅かに下に向ける藍。だが、すぐに顔を上げる。

 

「――却下」

「なぁ、何故ですか?」

 

 即答で却下された事に驚き、どもりながらも理由を尋ねるケイル。

 

「愚問を口にするのか……ケイル・ヘートン」

「っ――申し訳ありませんでした!」

 

 藍の言葉に、慌てて謝罪したケイル。

 だが、この謝罪は、藍に向けてモノではない。正確には、自分自身が所属する組織の頂点、≪我らが叡智≫に。ひいては、組織≪賢者の意思≫に対してモノ。

 余談であるが、≪賢者の石≫と≪賢者の意思≫は、同一であり、別にどちらでも良い。ただ、正式名所は≪賢者の石≫である。今は、≪賢者の意思≫と呼ばれている。

 話は戻り、≪我らが叡智よ≫の名の下に、与えられた使命を果たす。その過程で発生したイレギュラー・トラブルなどは、基本的に排除する事になっている。例外はあるが、今回は完全に排除しなければならない。

 

 レニアスラグナス――レニアスと付いている時点で、ラギュナスのレニアスシリーズである事は明白。下手に捕獲して連れ戻った際、逆に情報を持っていかれては困る。ラギュナスとは、事を構える予定であるが、まだその時ではない。

 

「ラギュナスには、まだレニアスシリーズ全員が、集結した訳じゃないから……事を構える事は低いわね」

「断言するのは危険かと思われますが。確かに、現状の情報から推測すると、その様な結論に至るのも、また1つの結論の事」

「だから、ここで潰すわよ。いいわね、ケイル?」

「はっ! ――ヘカトンケイル!!」

 

 ケイルが、デバイスの名を叫ぶと、コアが光りだす。同時に、藍もデバイスに指示を出し、コアを光らせる。

 

「…………――ッ」

 

 それを見ていたレニアスラグナスは、ここまでかと悟り、歯を強くかみ締める。これから来る痛みの衝撃に耐える為に。そして、少しでも意識を繋ぎ止め、3人が逃げる時間を稼ぐ為に。

 しかし、同時に笑いが込み上げて来る。何せ、本来は、その3人とは敵対する予定だったのだから。だが、何の因果か、ふと助けてしまい、挙句の果てに自分を犠牲にして逃がそうとしている。笑うべきなのかもしれない。だが、笑っている暇は無い。今すべき事は、目も前から来る筈の攻撃を、一瞬でも多く耐え切る事。

 その瞬間、大分離れた場所――まだ、残り火が残存する、瓦礫と化した町跡。瓦礫に埋まって、今まで放置されていた槍型のデバイスが、輝きだす。

 その輝きは、瓦礫を吹き飛ばして天に上り、光の柱を生み出す。

 その現象は、離れた場所からでも確認でき、藍とケイルは、光の柱に振り向く。

 

「なぁ!? なんだアレは!?」

 

 レニアスラグナスも、自体を飲みきれずに、思わず叫んでしまった。それが合図となったのか、光の柱が徐々に広がり始めた。

 

 

 

 

 

 少しだけ時間が戻り、レニアスラグナスと藍、ケイルの2人の戦闘が行われている最中に、瓦礫の物陰に隠れながら移動する影。言わずとも、勇斗、スバル、ティアナの3人。

 戦闘開始直後に、レニアスラグナスが計画していた話を、≪圧縮念話≫によって行動していた。

 圧縮念話とは、圧縮データの様に内容を一度に纏めたモノを、相手に送ると言うシンプルなモノ。ただ、受け取り側の人間の脳に負担が掛かる為、それほど多くを一度に送る事ができない。それにより、この圧縮念話は、あっさりと歴史の影に埋もれてしまったのである。数年前に再発見・再利用されていたが、現在は使用禁止となっている。

 埋もれた原因と使用禁止は、受け取る側の負担の問題。及び、送り過ぎによる気絶や、脳内出血の発生が上げられる。ただ、送る量を少なくし、かつ少ないモノを送れば良いだけの話。なのだが、それを守らない人間が多くいた事と、この圧縮念話による傷害事件の発生。制約されたプログラムを作り出しても、それを解除する輩もいる。使用制限を設けても、完全にイタチごっこは明白。それにより、早々使用禁止となったのである。

 

「彰浩、スバル、体の方は?」

 

 無意味かもしれないが、なるべく気配を殺しつつ、周囲を確認しながら、ティアナが2人に声を掛ける。

 

「動くのが、やっと」

「右に同じく」

 

 2人の言葉に、ティアナは肩を落とす。

 今、この瞬間に戦闘する事になれば、絶対に負ける。よく、『この世に≪絶対≫と言う言葉はない』とあるが、完全に時と場合による。やる前から、『絶対に無理』となると、先の言葉は適用される。だが、敵は圧倒的で、戦う力もなければ、仲間を見捨てて逃げても、逃げ切れるほどの体力も無い。

 まさに、≪絶体絶命≫の状態である。ただ、運良く助かったり、救援が来たりする展開は、漫画・小説・アニメ・ドラマなどによる架空の出来事でしかあり得ない。現実にあったとしても、相当な運の高さくらいである。運命と言う名の歯車故に、世界によって生かされるのは、それこそ架空の出来事に入る。

 ティアナは、瓦礫から顔を出しては、辺りを見回し、別の瓦礫に移動して身を隠す。そして、手で合図して、2人が動く。動くのがやっとの2人の事を考えて、移動距離を考えなければならないので、探すのに一苦労する。お陰で、移動距離と範囲が限定され易くなっているが、堂々と平地のど真ん中を歩くよりはマシと言える。よは、壁があるか、無いかの差である。が、相手にはあってない様な状態でも、自分たちの心や思考に余裕が生まれる。切羽詰まっていると、思考が鈍り、判断を誤りやすくなる。

 

「ここで、一旦休みましょう」

 

 ティアナは、周囲を見渡してから、2人に告げた。その言葉に、2人はその場に、尻餅をつく様にその場に座り込む。

 すると、離れた所から、爆発音、地面が抉れる音が、聞こえてきた。

 

「……やっているわね」

 

 ティアナが、呟く様に言う。

 自分に掛けた言葉は、罵声でもあり、励ましである言葉。だが、最後に侵食率は低いが、で依存性の高い媚薬を打ち込んだのは、本当に余計だと思う。いや、100人中100人が、余計だと答えてくれるだろう。ただ、真っ当な価値観を持った、100人の人間だった場合だが。

 彰浩とスバルは、瓦礫に背を預けて、肩で息をしているほどの疲労。それを見るティアナ自身も、限界が近い事を、薄々感じ始めていた。むしろ、疲労は、3人とも既にピークに成っているが、緊張の余り気がついていないだけなのかも知れない。いや、むしろその考えが正しいのかもしれないと、瓦礫に背を預けながら、ティアナは思った。

 ガラッと、瓦礫の一部――小石が、転げ落ちる。

 次の瞬間、瓦礫を超えて風を打ち破る音と共に、ガジェットドローンが出現する。しかも、ティアナの背後の瓦礫から。

 

『――――!?』

 

 3人は、一斉に戦慄し、息を飲む。ティアナの前と左右からならば、座った状態でも攻撃が出来た。だが、ティアナの背後からの出現。背を預けていた瓦礫の高さは、3メートルあり、完全に死角。

 

「――くっ!!」

 

 ティアナは、座った状態からの立ち上がりダッシュ、というよりも前に跳んだと言った方が適切な行動を起こす。

 

(何でデバイスのセンサーに引っかからなかったの!?)

 

 そう、内心に毒を吐きつつ、背を地面に向けてスライドしながら、デバイスを構え――トリガーを引く。

 ガジェットドローンのセンサーレンズが輝き、レーザーみたいな攻撃を放つ。ティアナが放った魔力弾は、全部で3つ。そこで、装備されていたカードリッジ切れとなってしまった。マガジンキャッチを行うが、作動せず。

 魔力弾は、ガジェットドローンに向かうが、3発ともレーザーみたいな攻撃に相殺され、4発目がティアナを狙う。

 

「しまっ!?」

 

 ティアナは、飛んで来た攻撃に、身を固めて両腕で顔と胸を覆う。が、それより早く攻撃が迫る。

 それを見ていた彰浩とスバルは、行動を起こすが、体が動かなかった。やはり、先ほどティアナの考えが、ここで的中してしまったのである。案の定、3人とも――特に、彰浩とスバルは、この休憩で緊張の糸が無意識に切れてしまい、疲労がジワジワ湧き上がり、ここで一気に出てしまった。

 その時のティアナの見ていた世界の全てが、スローモーションになる。

 世界が、映像端末のスロー再生以上に、鮮明なスローモーションを描く。飛んで来る、ガジェットドローンの攻撃。

 何かを叫ぶ、彰浩とスバル。

 力の限り、体を丸めようとするティアナ。

 だが、遅い。余りにも、動きが遅すぎた。彰浩とスバルの2人と同様に、ここに来て、疲労が爆発し始めた。

 迫る攻撃に、身を丸めて致命傷を避けようとする防御行動。

 だが、有らん限りの力を使おうとも、奮闘虚しく、攻撃が迫る。そして、悟る――この攻撃は、即死の直撃コースだと。

 今は、バリアジャケットを装備しているが、露出している部分――顔や腕には、魔力の防御膜が付いているが、今までの戦闘により、その分の魔力が無くなっていた。よって、今は素の状態。露出への直撃は、大怪我か即死のどちらかしか無い。

 そこで、ティアナの脳裏に、一瞬だけ。一瞬だけ、兄が微笑んでいる姿が見えた。ああ、私も兄の元へ向かうのかと悟る。だが、再び兄の姿が見え、首を横に振ってこう言った。

 

『今の相棒が、守ってくれるよ』

 

 そう、ティアナに向かって言った。

 そして、その攻撃は……右手に持っていた相棒――クロスミラージュのカードリッジでもあった、銃身に直撃した。

 

 それにより、ティアナが見たスローモーションを描く世界は、終わりを告げた。

 

「――っくぁ!? がぁ!?」

 

 右腕に持っていたデバイスは、勢い良く掴んでいる手ごと跳び、右手の甲が額に当たって地面に上半身を叩きつける。

 その衝撃で、右手のクロスミラージュは、後方に吹き飛んで地面を1回バウンド。そして、銃身が爆発して砕け、コアとグリップ、接続部分のみを残したカードリッジの状態となる。

 

『ティア!!』

 

 彰浩とスバルの声が、ここでやっとティアナの耳に入った。

 だが、ガジェットドローンは、容赦無く追撃を掛けようとするが、天を突く様な光の柱が出現した。それにより、ガジェットドローンは攻撃を一時中断し、その場を離れていった。

 何がなんだか状況が把握できない3人は、その場で呆然となるが、光の柱が広がり始める。

 

「なぁ!?」

「てぃ、ティア!?」

「アタシに聞かないで!!」

 

 彰浩、スバル、ティアナの順に、声を出す。が、光の柱は目の前に迫っていた。唖然となってから、声を出して5秒も満たない。

 今いる場所から、光の柱の発生地点の距離は不明だが、見た目から最低10キロは離れていても可笑しくはない距離。

 結局、3人は、その場から動く事も無く、それ以上の発言をする暇も無く、光の中に消えていった。

 ただ、藍とケイル、レニアスラグナスは、既に離脱済み。

 何故、レニアスラグナスは3人を助けなかったのか。

 理由は、光の速さである。光の速さは、地球を1秒で7周半する速さらしい。よって、光の速さを超えない限り、3人を救出出来ない。例え、光の速さを超えた場合、何も見えない闇の世界しかない。精々、重力が判るか判らないか程度。

 一応、一回りほど大きくなる時は、本当に遅かった。だが、二周りの大きさになった瞬間、本来の光の速さに化けたのである。飲まれたが、光の中で転移魔法が作動し、別世界に避難して行った。

 よって、レニアスラグナスの行動は、納得しない人間もいるが、少なからず仕方のない事だと言えた。

 

 

 

 

 

 そして、再び時間が戻り……勇斗たちの物語を語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

第十三話

帰還という名の入り口

(前編)

 

 

END

 

 

 

 

 

次回予告

無差別攻撃を促すシステムにより、惨劇を作り出す勇斗。

瀕死となったグーリ・ド・アイブのデバイスが、怪しく輝く。

それにより、人ならざる者に変貌する、グーリ。

そして、この世界にも、光の柱が出現する。

 

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTIWB

~二つの意志と狂いきった世界~

 

第十四話:帰還という名の入り口(後編)

 

 

 

絶対運命――アカシックレコードと言う名の歯車により、歯車が集い創(はじ)める。





あとがき
 独自解釈のオリジナル設定あり&色々横道(設定的な話)に入りつつ、第一部でご無沙汰だった、レニアスシリーズ、ここに登場! あ、忘れていた訳じゃないからね。(汗
 あとは、表現が直球過ぎたり、緩和したりと、今一微妙な線引きとなっている。加減が判らないんだよね、15禁と推奨の差って奴が。絵だと、胸が露出しても、乳首が隠れていれば推奨、出ていれば15禁。股も同様――だと、自分は考えている。
 え、なら18禁SS書けばいい? 一度書いたけど、難しいんだよ。ゲームや小説みたいに長く書くのが。イメージは出来るんだけど、それを文章に表すのがねぇ。(汗
 ってか、表現を直球に決定。ごちゃごちゃになるので。ただし、エロシーンは簡略化、もしくは曖昧化する方針で。それ以外の言葉などの問題は、伏字に。でも、ネギまの一巻では≪パイパン≫は伏字じゃないのに、後の巻では伏字になっていた。その辺もどうするか決めないと……でも、ここのルートは黒く行くから、直球に決定。でも、自重すべき部分は、キチンと自重しますよ。じゃないと、これ18禁になるから。
 異論がある方は、拍手ボタンか投票まで。
 ……ところで本当に、この物語は、どこに向かうんだろう。いや、終わり方は決まっているよ。決まっているけどさぁ……道中がねぇ。(汗
 っーか、一話で纏める予定だったのに、何だが話が膨らみすぎたよ! お陰で二分割確定。ってか、もう少し伸ばせるけど、いい加減進めないと。(汗
 でも、良くここで、死ぬ瞬間の出来事を、思いついて書いたと思うよ。でも、この奇跡によってどうなるのかは、お楽しみに。お陰で、話がさらに膨らんだよ。あ、次の話じゃなくて、その少し先の話ね。


 最後に、物語中にあったティアナの思考≪犯された女≫については、完全な作者の独自の創作的な考えであります。物語を、何気に重くする為に言葉であり、決して面白半分に書いた物では無い事を宣言します。
 ので、決して間に受けないよう、お願いします。なお、この様な考えに賛同して行動を起こされてしまっても、作者は一切の責任を負う事はできませんので、ご注意を。





使用書物&サイトなど
・見てわかる! 幻想世界の武器&防具案内(コンビニや本屋などで販売。定価:本体552円+税)
・ゲーム・アニメ・映画に登場した[図解]世界のGUNバイブル(コンビニや本屋などで販売。定価:本体552円+税)
・Yahoo百科事典『検索キーワード:マグマ』
・ウィキペディア『検索キーワード:光速、スナイパーライフル』
・魔法少女リリカルなのはStrikerS THE COMICS







制作開始:2009/3/10~2009/9/30

打ち込み日:2009/9/30
公開日:2009/9/30


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第二部 魔法少女リリカルなのはTTFS ~二つの軌跡と確定した未来~
第一話:時はまだ動かず


第一部:管理局サイドの続きです。


 

 

 部屋の中央に円形のデスクがある。

 その周りには13人の男女が座っている。

 彼らの前には、紙媒体の資料は一切無く、モニターに資料が展開されていた。

 デスクの中央には、時覇の顔写真と簡単な経歴が映し出されている。

 そして、リーダー格の男が何かを言う。

 内容は、桐嶋時覇の処理について。

 永久凍結やら第一級犯罪者として処理するなど、経歴改ざんや冤罪などが主である。

 しかも、その内容に誰も反論しないが、やり過ぎではないか程度の言葉しか出てきていない。

 自分も含めた、計13人の意見と見解及び、今回の件を総合した結果を述べていくリーダー格の男。

 

「――よって、桐嶋時覇の処分は以下の様に頼むぞ」

 

 手に持っていた紙媒体の書類をデスクに置きながら言う。

 

「はぁ! 我らが望む秩序の為に」

 

 リーダー格から右に4人目の男が言いながら立ち上がり、周囲の空間の闇に消えていく。

 他の12人は驚かない。

 これがここの退室の仕方でもあるが、むしろ先を越されたと悔しそうにしたのが2、3人いた。

 

「じゃが、これからどうするつもりだ?」

 

 リーダー格から、左から5人目の女性が言う。

 

「不安か?」

「いいや。ただ……」

 

 リーダー格に一瞥されるも、あっさり流して返答しつつ、時覇の顔写真を睨む。

 

「この男は危険すぎるのではないか?」

 

 慎重に発言する。

 過去にラギュナスとすでに接触済みだった時覇。

 元々、起動と同時に暴走するように仕組まれていたデバイス・XGを、暴走させずに起動させた。

 不安要素がとてつもなく高い事は確かであると、照明している様なモノ。

 だが、右に座っている男性が鼻で笑い飛ばす。

 

「ふん。今の奴は、リンカーコアに治る事のない傷を受けている。老いぼれ魔導師みたいなものだ」

 

 背もたれに体を預けながら言う。

 リーダー格は、安易な考えだなと思うが、けして口には出さない。

 言いたいことはすでに言い終えた。

 あとは、ここを引き上げるだけ。

 まだ『表』の仕事が残っているからである。

 

「だが、手負いの獣ほど、危険なモノはない」

 

 反対に座る女性も、同意する言葉を上げる。

 そして、コレが引き金となった。

 

「だが、奴は――」

 

 先ほどまでの静寂は、一変して騒々しくなる。

 リーダー格は、小さくため息をついた。

 威厳のある円卓の間が、提督たちの定例会議の様な騒々しくなってしまったことに。

 だが、桐嶋時覇への対策は取れた。

 あとは、ラギュナスの対処と、今後の計画について。

 イスに背を完全に預け、中央のモニターを見る。

 率直な感想は――危険かつ不安要素が大きすぎる存在。

 可能性を秘めた原石。

 故に無限の可能性と危険性の両面を保有している。

 さらに、秘蔵級ロストロギアの可能性のあるデバイス――ロストナックルの保有者。

 たとえ、我々が協力を呼び掛けた所で、同意してくれないだろ。

 いや、絶対に協力はしない。

 目的があっても、自分自身が信用できる者たち以外で行動を共にすることはないだろう。

 多分、我々は壁だろう。

 それも通過点の。

 あの男もだが――ローブの男は別だろう。

 情報がまったく無い。

 唯一判ったことは、いつの間にか現れたことだけ。

 桐嶋時覇同様に、警戒せねばならぬ存在。

 だが、現在消息不明。『表』の顔で管理局を動かしているが、尻尾すら掴めていない。

 しかも、接触した組織がラギュナスのみなのだから、情報が中々回ってこない。

 他の組織ならば、それなりに情報が回ってくるのだが、接触した形跡すらない。

 完全な手探りになり、人海戦術を使うしかない。

 人為による、完全な量作戦。

 質を選ぶなら、優れた人物は複数いるが、こちらの意図まで探られては本末転倒である。

 よって、一定の能力を持った人間を大量に使った方が、断片的な事だけでも拾えるかもしれない。

 あとは、捕縛して仲間として迎え入れるか、消すかのどちらか。

 

「……後始末は、特殊部隊でも使うかな」

 

 何と無く呟くリーダー格の男であった。

 ただその呟きは――いつの間にか、殴り合いまで発展し、滅茶苦茶になりつつある円卓の間の状態を見た様子の結果である。

 ついでに言えば、ため息を吐くような感じでもあった。

 特殊部隊も、いい迷惑である。

 

 

 

 

 

 廊下を慌しく行き交う医師や看護師たちと、そこを移動する患者や家族たち。

 ここは、時空管理局の医療施設区画。

 主に武装局員の者が利用していると言っていい。

 基本的にケガなどするのは、前線に出る武装局員たち。

 あとは、事件や事故に巻き込まれた人々や、作業ミスでケガなどした局員の人たちである。

 

「はい、アストさん。生きていますか~?」

 

 女性看護士が、声を出しながら部屋に入っていく。

 

「第一声がそれかよ!? っーか、勝手に殺すな! まだ生きているよ」

「ちっぃ! ……アストさん、お薬の時間です」

「マテやオイ! 今、露骨に舌打ちしただろ!」

 

 って、いうか……露骨過ぎる。

 廊下に聞こえてくるほどの舌打ちって……。

 

「何のことですか?」

「とぼけるな、このボケ看護士が!」

「――男がグダグダ言ってないで、薬を飲みやがれ!」

「逆切れ!? どこか導火線!? ――って、hそ×ああbこ○しゃ!」

 

 などと、返答が廊下まで聞こえてくる。

 ここ一週間ほど行われているやり取りなので、たまたま近く似たい患者や看護士は『またか』と苦笑したりする。

 まぁ、事情を知らない人間は、驚くだろうが。

 そんな微笑ましい? 区画から、少し奥にある医療区画。

 そちらは、打って変わって静かで、逆に不気味すぎる。

 夜の時間帯ならば、この静寂な空間は判る。

 だが、今の時間帯は――昼。

 病院とはいえ、多少騒々しい時間帯のはずであるが、まったく不気味なほどに静寂を維持している。

 この区画は、ケガや病気になった犯罪者たちが、治療を受ける場所。

 暴れる犯罪者もいるため、各部屋の床や壁、天井には特殊な素材を使い、外に音が漏れないようになっている。

 しかも、各部屋には監視カメラなどが取り付けられていて、24時間監視体制で整えられている。

 そして、この区画を担当する医師や看護士は、特別戦技指導を受けている。

 さらに、戦闘用デバイスと医療用デバイスの2つ所有。

 又は、2つの機能を搭載したデバイスを、ここでは常に携帯していなければならない。

 そんなある部屋――機械的な医療施設の部屋。

 この部屋は、主に第一級犯罪者などを治療するための特別な部屋である。

 そこの中央に、男性が1人ベッドの上に横になっており、その横では女性看護士がデバイスをかざしていた。

 その女性看護士の周りには、色んな数値などが映し出されたモニターがある。

 

≪バイタル正常値に安定、脈拍及び呼吸も正常……問題はありません≫

「ありがとう、スキャドラン」

 

 看護士は、自分の相棒に礼を述べながら、モニターを再確認する。

 とくに異常はなく、寝ているだけ。

 そう結論づけ、満足に頷く。

 そして、デバイスを待機モードにして、部屋を出て行った。

 男は眠り続ける。

 事が起きるまで。

 それに呼吸を合わせる様に、息を潜めているグローグ。

 ここに運び込まれた時に外そうとしたが外れず、仕方なくそのままにしてある。

 一応解析したが、ただの装飾が施されたグローブと判断されたためでもある。

 だが、それは誤りであるが、それを知るのはまだ先の話。

 男が起きる時、それは――次元世界の命運を掛けた戦いの始まりを意味することだと。

 

 

 

 

 

「なぁ~、しーさんや」

 

 デスクに肘を突き、クロガネのデータを見ながら声を掛ける開発者A。

 

「ちゃんと解析しろよ。どやされるのは、俺なのだからな」

 

 黙々と、ゴスペルが使っていたデバイスの解析を行っている開発者B。

 この二人の能力は、平均的には普通扱いなのだが、一風変わったモノに関しては異常な能力を発揮する。

 とくにロストロギア関係の品物に関しては。

 しかし、2人は周囲からこう呼ばれている――『変態マッドズ』と。

 開発者Bに関しては、非常に真面目で変態とは無縁のはずだが、相方の開発者Aと同類視されているからである。

 ちなみに開発者Aは、マッドサディストではないのだが、一工夫が大改造なみに凄い。

 ついでに言えば、僅かの予算だけで再現できる予定のモノを、2倍や3倍の性能をたたき出す。

 開発者Bも一枚噛んでいる故、まとめられてしまう原因でもある。

 

「そっちの解析、どう?」

「破損以前に、大破しているからな。解析するにもまだ時間が掛かるし、完全に復元は無理だな、これは」

 

 呆れ口調で言いながら、キーパネルを叩く開発者B。

 

「これなら、お前と一緒にクロガネの解析をしていた方がまだマシだよ」

 

 キーパネルで踊る手を休め、椅子に背を預ける。

 開発者Aは、少し照れながら苦笑しつつ、クロガネの解析を行っていた。

 そして、クロガネはただ眠っていた。

 初めは騙し騙しだったが、上層部の者が現れ、特殊キーコードを打ち込まれてしまい、現在半球氏状態。

 人間で言うならば、意識が朦朧とし、何も考えられない状況。

 植物人間とは、また違う状況である。

 だが、その朦朧とした意識の中で、自分は2度と桐嶋時覇と共に戦うことはないかもしれない。

 そんな考えが過ぎるのだった。

 だが――まだやらなければならないことがある。

 電子の思考に光が走り、2人の開発者にバレない様に再起動する。

 未だに眠る、時覇を安全にここから逃げ出す為に。

 管理局の管制データにアクセス。

 見つからないように解析するにも、時間が掛かる。

 しかも、何も無い状態ではすぐに捕まる――協力者が必要である。

 だが、ここに当てがあるだろうか。

 とにかく解析を続ける。

 

「……ん? もうお昼か――しーさん、飯にしよう」

 

 返事を待たずに、コンピューターにロックを掛ける開発者A。

 

「ああ、そうだな」

 

 少し呆れつつも、同意して席を立つ開発者B。

 こちらも、同様にロックを掛ける。

 そして、今日は何を食べるか会話しながら、部屋を後にする2人。

 クロガネは、それを確認しながら慎重に作業を進めていく。

 そして、ある事を思い出す。

 もう1人、運び込まれた人間がいた事を思い出す。

 大破しているデバイス――ストライククラッシャーが、ここにある事で確信した。

 あとは、作業と平行してコンタクトを取るだけ。

 危険な賭けでもあるが、やるしかない。

 そう考えつつ、ストライククラッシャーのマスターを探すのであった。

 

 

 

 

 

 入り口の左右に局員が立っている。

 そして、入り口と対になる様に、局員1人――計3名の武装局員が立っている。

 ここの場所もまた、医療区画であるが犯罪者の特別区画ではなく、一般区画である。

 その固められた部屋の中には、1人の男がベッドの上で寝転がっていた。

 

「暇だ~」

 

 男――ゴスペルもまた、ベッドの上にいた。

 強制融合の影響は無くなっているが、未だに魔力エンプティが回復しない。

 それどころか、時折悪化するので、下手に魔力を使うことができない。

 体は動かすことは出来るものの、軽い激痛が走る。

 

「相棒は……成れの果て」

 

 ボロボロになった相棒を思い出す。

 当初は、ベッドの近くに置かれていたが、検分という形で持ってかれた。

 もう二度と扱うことはないだろう。

 鬱に近い症状だったが、それを解消するために周りを見渡す。

 だが、何も無い。

 なので、パネルリモコンを操作するが、外部からの情報は遮断されている為、砂嵐しか映らない。

 何度もチャンネルを変えるが、全て砂嵐。

 それが判りつつも、チャンネルを変え続ける。

 不自然な行動であるが、電気代の掛かる暇つぶしである。

 

≪あ~、エンペラーさんでしたっけ?≫

 

 不意にモニターが開かれ、監視係の女性が映し出される。

 

「ゴスペルで構わん」

≪じゃあ、ゴスペルさん。言いたい事は判りますよね?≫

 

 呆れ口調にため息。

 要するに、この電気代の掛かる暇つぶしは止めろという通達である。

 

「案外、癖に成りそうだったのだが?」

 

 お茶ら毛口調で答えるゴスペル。

 その言葉に、女性監視係の両肩が僅かに下がった。

 

≪ご自宅でおやりください≫

 

 もっともな発言である。

 いくら患者の為に用意された設備とはいえ、こんな事に使われては困る。

 

「ヤダ。電気代が掛かるから」

 

 こちらも、負けず劣らずもっともな発言をする。

 確かに、地味にお金が掛かる暇つぶしである。

 

≪自覚していたのですね≫

 

 その場につっぷしたくなった女性監視係。

 何故、自分が彼を担当するのかが判らなかった。

 時空管理局に入隊し、訓練を受け、配属されてから1年くらいしか経っていない新人である自分。

 しかも、今担当しているのは特級クラスの犯罪組織、ラギュナスのメンバーである。

 責任重大にも限度があるが、今回はそれを度が視し過ぎている。

 もし、彼が脱走すれば――除隊処分ではすまない可能性は、非常に高い。

 そうなると……考えただけで体が震えた。

 

「おっ、おい!? どうした、何があった!?」

 

 さすがのゴスペルも、いきなり震えだした女性監視係に驚く。

 その言葉に、我に帰る女性監視係。

 

≪だっ、だぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁだぁいじょうぶです!≫

 

 大慌てで敬礼する。

 相当テンパっていると、子どもでも判る程のリアクション。

 

「とにかく落ち着け。このままだと、支障が起きるぞ?」

≪し、支障!? ――あぁ≫

 

 頭に腕を当て、そのまま後ろに倒れる。

 しかも、両足を上げながら。

 古典的かつ、漫画でありそうな倒れ方に感心するが、別の意味で危機感を覚える。

 瞬時に緊急コールを押す。

 

「何があった!?」

 

 出入り口から、武装局員が急いで入ってくる。

 

「来たか――」

 

 と言い、モニターを指差す。

 それに釣られたモニターを見ると――また慌ててどこかへ通信回線を繋ぐ。

 少しばかり慌しくなりそうだな。

 俺の尋問も含めて。

 案の定、武装局員に肩を叩かれるゴスペル。

 へいへい。と言いつつ、正直に会ったことを話し、別の重役の人間を監視役にして欲しいと述べる。

 また同じことに繰り返しでは、こちらも気が気でなくなる。

 で、案外言ってみるもので、きちんと重役の人間が来た。

 が、五月蝿くて敵わなかったりする。

 で。

 

「暇だ~」

 

 本日二度目のお言葉。

 チャンネル弄りすら禁止され、完全にやることを無くしてしまったが、特別にマイナー雑誌が1冊支給された。

 タイトルは『魔異納(まいな)』。

 ……どうでもいい様なタイトル以前に、適当過ぎるにも限度がある。

 ともかく外の現状が判る、唯一の本であることには変わりない。

 だが、まともな情報が手に入るかどうかが問題でもあるが、背に腹は変えられない。

 なので、早速開く。

 パラパラとページを捲っていくが……情報規制が掛かっているのか、今回の件について触り程度しか書かれていなかった。

 さすがに一般には、まだラギュナスの名は出ていないが、この雑誌には認知らしき部分が設けられる。

 この雑誌には、別の意味で興味が湧いてきた。

 隅から隅まで読んでみたが、下らなくも面白い内容だった。

 今度バックナンバーでも探してみるかなどと思っていると、通信が入ってきた。

 しかし、その回線は監視係経由ではなく、ここに直通。

 ラギュナスかと思ったが、頭を振って考えを消す。

 すでにラギュナスに捨て駒とされた身。

 今更声が掛かるはずも無い。

 ならば誰が? ――疑問に思いつつ、注意しながら通信を開く。

 

「誰だ?」

≪私は誰だかはどうでもいい……お前に頼みがある≫

 

 ボイスチェンジャーを使っているみたいだが、独特の音声からデバイスだと判った。

 しかし、どこか焦りを感じる。

 

「……何だ?」

 

 何と無く答えてみる。

 シカトして済まそうとしたが、デバイスが焦るのは珍しいことなので、少し乗ってみたくなった。

 

≪単刀直入言います。桐嶋時覇の脱出に協力してください≫

「――誰だ、そいつ?」

≪…………あれだけ壮大なバトルを近くで見ておいて、その言葉は無いかと≫

 

 焦りが呆れに変わる。

 

「壮大な……あれか!? って、いててて……」

 

 大声を出して体に響いたのか、体を丸める。

 その後、言われるまでも無く、武装局員が入ってくる。

 ゴスペルは、馬鹿をやって体を少し痛めたと言うと、大人しく下がっていった。

 雑誌1つでは、気が滅入りやすい事を理解しているらしいと見える。

 

≪とにかく、今は時間が無い。手伝ってくれるなら、情報を明け渡す≫

「どんな情報だか知らないが、今の俺には何もできん。第一、デバイスが無い」

 

 そう言い、ベッドにゆっくりと寝転がる。

 だが、次の言葉により何もかも吹っ飛んだ。

 

≪あるではないですか――アナタの口の中に≫

 

 飛び上がるように起き上がるゴスペル。

 

「……何時から気がついた?」

≪私が生まれる以前から、とだけ、言っておきます≫

 

 その言葉に絶句した。

 生まれる以前――つまり、5年以上前から知っていることになる。

 だが、これを仕込んだのは5年前。

 つまり、予知していたのかと思ってしまう。

 一応、仕込み刀ならぬ、仕込みデバイスは自分で暇つぶしに組んで完成させ、口の中に仕込んで持ったら。

 しかも、仕込む際にはただのアクセサリーと言って、変な人を演じて歯医者に頼んだ。

 よって、詰め込んだ歯医者の人間ですら知らない。

 それ以前に、このデバイスの存在を知っているのは、自分自身以外ありえない。

 確かに、AIシステムはある人物から貰ったが、デバイスの形については何も知らない。

 

「ふぅ……判った。少しだけ付き合おう」

 

 両手を挙げながら言う。

 

≪感謝する……銃王≫

 

 そこで通信は途切れる。

 ゴスペルは、天井を見上げる。

 

「銃王、かぁ……そんな人間じゃねぇーってぇの」

<確かに。ヘッポコガンナーなら、同意する>

 

 口の中から2種類の声。

 1つは、言わずとも本人――ゴスペルの声。

 もう1つは、機械的な声――デバイスの独特の声である。

 

「まぁ、文字通り牙なのだけどね。お前の場合は」

 

 かぁ、かぁ、かぁ、と、ワザとふざけ笑いをするゴスペル。

 

<仕込んである場所に問題があるかと>

 

 呆れる相棒にして、最後の牙。

 

「文句を言っても始まらんだぁろ? ――何時でも抜けるように準備しておいてくれ」

 

 おふざけ顔から一変して、真面目な顔つきになる。

 頼み――依頼されれば、こなす事。

 それだけである。

 

<ああ、判っているが……兄貴は完全に逝っちまったからな。アンタの牙は、オレだけだからな>

 

 兄貴――ストライククラッシャーを指している。

 ストレンジデバイスではあるが、生まれた年数や使用頻度に経験の差。

 調整と起動確認程度しかしていない、口の中に待機状態のデバイスにとっては、憧れの存在だった。

 同時に、けして姿を現さず、発動せずに待機状態のまま、主と共に一生を終えるはずだったデバイス。

 ありえないことだと判っていた。

 この道を歩み続ける限りは。

 しかし、こんなに早く訪れるとは思っても見なかった。

 『創造主』からは、遅くても起動は5年後の新暦75年になると言っていた。

 それはその年に何かが起きることを意味しているのだが、それはその時にならなければ判らない。

 だが、この年で目覚めたとなると『  』が変わったことを意味する。

 世界の歯車がゆっくり回りだしたのか、それとも急激に回りだしたのか。

 それは、この戦いの結末に答えがある。

 それをマスター、ゴスペルに伝えることはできない。

 時期が早すぎるからである。

 伝えるには、この戦いの終局か、終わってからになる。

 信じていないわけではない。

 ただ、ここで世界の変動を増やすわけにはいかない。

 今はまだ、最小に留めるべきである。

 

<マスター>

「何だ?」

 

 視線を天井から、目の前の毛布に移す。

 

<……何でも無い>

「そうか……完治までどれくらい掛かる」

 

 その言葉に、ゴスペルの体をスキャンする。

 体温、体調、疲労度、魔力値など、様々な角度から調査する。

 そして、導き出した答えを伝える。

 

<この調子なら、3日、4日で完治します>

「判った。少し寝るから、段取りを頼む」

<了解>

 

 その言葉を聞きつつ、今一度眠りにつくゴスペルである。

 目を瞑り、数十秒後には意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 薄暗い空間に、豪華な椅子が1つ。

 そこに男が座っており、その後ろには女性がいる。

 何時もの定例報告である。

 男曰く、『情報を制す者こそ、世界を制す』と。

 きな臭い言葉ではあるが、事実を突いている。

 

「報告は以上ですが、1つ気になることが。宜しいでしょうか?」

 

 恐る恐る尋ねる女性。

 男に対して下手な事を聞くと『戒め』を使っていく故に、言葉を1つ1つ選びつつ聞く。

 

「お前にしては珍しいな……いいだろ、なんだ?」

 

 少し感心したように言う男。

 良く言う。と、顔に出ないように頑張りつつ、平常心を保つ。

 

「あの『男』の動きなのですが……宜しいのですか?」

 

 あの『男』――ローブの男とは違い存在。

 大分前から問題視されている人物だが、今回の件に関しては一切手出しをしていな事が気に掛かった。

 関っていたとしても、触り程度。

 何時もなら、深く潜り込んで関っている人間が、である。

 

「ああ、あの『男』か。仕掛けてこない限り、放っておけ」

 

 諦め口調で返す。

 男も、ローブの男と同様に、知っている事はほぼ皆無。

 動向が掴めないのなら、諦めるしかない。

 それに、深く関ってこないのならば、触らぬ神に祟り無しである。

 

「了解しました」

 

 女性は頭を下げ、闇に消えていった。

 男はそれを確認すると、椅子に深く腰を下ろし直す。

 そして、モニターを展開する。

 モニター内には、桐嶋時覇とローブを羽織った男が映し出されている。

 

「あの女を餌にするのは惜しいが……出し惜しみしてられんな」

 

 眺めながら呟く男であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第一話

時はまだ動かず

 

END

 

 

 

次回予告

 

再び動き出す、円卓の守護者。

急遽、監獄の次元世界に収容となるゴスペル。

ゴスペルをサポートするはずだったクロガネは、機能停止に。

目覚めた時覇は……。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第二話:銀髪の女性

 

 

 

当たれ――ブラッディ・ダガー!




あとがき
 やっと第二部の一話目完成!
 無計画軌道で、管理局に収容された主人公をどうするかで悩みました。
 で、今回は気絶のまま。
 そして、次回は早速キーキャラクター登場!
 今回の物語は、運命が運命と交差しあう中で、確定した何かを打ち崩すために動き出します。
 こちらは、できたら26話くらい書こうかと思っていますが、筆の進み具合でどうなるか。(汗
 それ以前に、話がどれくらい大きくなるか、自分でも判らず。(号汗
 一応、コードギアスみたいな終わり方をするかもしれないし、核心的な終わり方をするかもしれません。
 ぶっちゃけると、第三部編まで続くので。
 なので、また第一部みたいな終わり方をするかもしれませんが、それまでお待ちください。
 まぁ、書いていて自分もここまで話が拡大するとは思いませんでした。
 ので、(何度目か忘れましたが)最後までお付き合いいただけると幸いです。
 では。






制作開始:2007/8/17~2007/9/3

打ち込み日:2007/9/3
公開日:2007/9/4

変更日:2008/10/25


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第二話:銀髪の女性

銀の髪と赤き瞳。
身に纏うは、看護士の服。
目指すは、管理局医療区画・特別医療区。
そこに眠る王を、起こしに歩く。
そして、使えるものは何でも使う。
私は……アナタの傍にいます。


 

 

 時空管理局・医療区画、犯罪者など危険人物を治療する区画。

 そこへ向かう2人の女性。

 片方は、時覇を担当する女性看護士。

 もう片方は――腰の部分まで伸びている、長い髪。

 色は美しく、光を反射させる銀。

 瞳は真紅のように赤い。

 透き通るような、白い肌。

 すれ違うたびに、男女関係無くその場で立ち止まり、振り向いていく。

 けしてなびく事も無く、淡々と先輩についていく新人看護士。

 

「――と、まぁ~、こんな所です」

 

 と、先輩看護士が言う。

 ただし、先輩といっても看護士になって半年しか経っていない。

 確かに時空管理局に入ってから5年になるが、武装局員だった頃、ある任務で大怪我をしてしまう。

 その時、医者から武装局員として、今後の活動は危険と通告を受ける。

 だが、管理局を辞める気も無いが、デスクワークは向いていないことは百も承知。

 唯一、何をどう間違えたのか、看護士の資格を取っていた事を思い出し、転属する。

 管理局に入りたての頃、先輩たちが話しているのを、聞き耳を立てて聞いていたのだが、それが拙かった。

 その先輩方も、局員の制服を着ていた――これは当たり前である。

 が、その先輩たちは、武装局員と看護士という、別々の部署で活動している友人同士だった。

 よって、話の内容が武装局員と看護士を混合させたモノになっていた。

 先輩たちは相当乗っていたのか、会話で悪乗りをしていたらしい。

 だが、彼女は真に受けてしまった。

 それから、武装局員の任務とこなしつつ、看護士の一級資格を取ろうと奮闘。

 局に入ってから2年目に取得。

 期間は、僅か3ヵ月。

 しかも、2級と3級は未修得で1級を一発合格。

 もの凄い快挙を成しえた彼女であったが、上司のその事を話したが――思いっきり笑われた。かつ、自分の勘違いだと知り、1ヵ月ほど部屋に引き篭もった経歴を持つ。異色の看護士でもあった。

 まぁ、魔導師ランクAA保有者でもあり、それなりに重宝されていただけに、色々あったらしい。

 武装局員でやっていくのは危険ではあったが、あくまで武装局員での話。

 この看護士では、それほど危険も無く局員を続けても問題はないとされているので、この道を選んだ。

 ただ、こんな事で埃まみれになった資格が役に立つとは、思っても見なかったりする。

 人生とは、本当に判らないものである。

 話題休題。

 

「判りました、アリークシェアさん」

 

 新人が微笑みながら、礼を述べる。

 その微笑に、先輩看護士――アリークシェアが、頬を赤らめる。

 美しい。

 率直な感想で、その場に止まって見とれてしまう。

 

「あ、あの、私……何かしましたか?」

 

 その言葉に、アリークシェアが我に帰る。

 

「え――ええ、平気、平気!」

 

 慌てて返事をするが、新人看護士は首を傾げるのであった。

 どうやら本人は、人が見とれるほど美しいことに、まったく自覚が無かったようである。

 たとえ自覚していても、鼻にかけることは無い。

 最後に関係無いが、新人看護士は化粧をしてはいない。

 

 

 

 

 

 こちらは一般区画。

 相変わらず、扉の前と左右に計3人の武装局員が待機している。

 その部屋に、特級犯罪組織の人間が、ベッドの上にいる。

 名を、ゴスペル・エンペラー。

 銃器型のデバイスを扱う、中距離型の人間。

 ポジションと型が当てはまる、理想型でもある。

 そんな男は――カリカリと、ベッドの横に置かれている棚の染みを掻いていた。

 雑誌を19回も読み返し、飽きてやることが再び無くなってしまった為、何と無くやり始める。

 バレたら、また怒られるのは必然だと思う。

 ってか、その前に壁でやっていたが、運悪く通信回線が開かれた時に見つかった。

 例の如く怒られる――ついでに、自分で直せと言われて、道具を押し付けられる。

 仕方なく修繕。

 で、新たに染みを発見し、懲りずにやっている訳である。

 こちらも、バレたらバレたである。

 だが、今日の夕方辺りに、本局から別次元の刑務所に搬送される予定なので、前みたいに修繕する暇など無い。

 完全に計画的なやり逃げである。

 だが、今の女性監視係の性格から、直すまで搬送は禁止と通達が来そうである。

 飯は三食。

 風呂は2日に1回。

 悪くない入院生活であった。

 そろそろ行動を移す時間になる。

 2日前の最初で最後の通信となったデバイスの頼みを、実行に移す為に。

 昨日の昼間に通信で、今日の今の時間に脱走を行うので、準備しろと言われたからである。

 デバイスも、何時でも起動可能。

 通路のほうが騒がしくなる――そろそろ時間らしい。

 ベッドから、体を起こす。

 それからデバイスを展開し、バリアジャケットを身に纏いつつ、ドアにデバイスを向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話:銀髪の女性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い通路。

 昼間にも関わらず、夜の病院のように静けさを保つ空間。

 そして、誰もすれ違うことは無い。

 会っても、本当に時々か偶然である。

 ともかく、2人の女性は進む。

 その足音は、通路全体に響き渡り――ある1枚の扉の前に立ち止まる。

 機械的な扉の横の壁に、ミッドチルダ語で『BQ-001』と書かれたプレートが張られていた。

 BQは『best quality』、特級の略である。

 

「ここが……私とアナタが担当する患者よ」

 

 そう言いながら、アリークシェアは胸ポケットからカードキーを取り出して、リーダーに挿し通す。

 すると、リーダーの横からキーパネルが浮かび上がる。

 暗証番号を打ち込み、もう一度カードキーを通す。

 そこで、厳重な扉が重々しく開かれていく。

 安全のためだろうか、完全に開ききるまで入り口付近には魔力の檻が下ろされている。

 早く開けば、完治して動けるようになった犯人から不意打ちを。

 遅ければ、待ち伏せを。

 その対象法の1つとして、この魔力の檻がそうである。

 他にもいくつかあるが、普段はこの檻が使われている。

 

「結構、厳重なのですね」

「ええ。ここは、仮にも特級又は第一級クラスの犯罪者が、人権で治療を受ける場所だからね。治療中に逃げられましたじゃ、それはそれで問題になるから」

 

 胸ポケットに、カードキーを仕舞いながら、部屋に入るアリークシェアだったが――頭に衝撃が駆け抜ける。

 

( !? )

 

 そう思いながら、地面に倒れる間際に、気を失った。

 

 

 

 

 

「では、やってくれ」

 

 首元に輝く階級のプレートは――提督にして、円卓の守護者の証が刻まれていた。

 円卓の守護者が1人、焔緑の理(えんりょくのことわり)。

 25歳という若さでありながら、管理局内の発言力は、他の提督よりも群を抜いている。

 しかし、年配やら長年いる提督たちには目障りな存在で話あるが、円卓の守護者に選ばれている以上、口出しはできない。

 下手に指摘すれば、降格か除隊される可能性があり、最悪消される可能性もある。

 現に、他の円卓の守護者が、気に食わない提督を極秘裏に抹殺したことがある。

 しかも、噂も立つが、10日ほどで消えてしまう。

 円卓の守護者の存在を知る者ほど、そういった話題に触れたくないからである。

 

「了解――デバイス・XGの人格プログラム、及び各機能の停止を行います」

 

 と、開発者Aが宣言した後、手をキーパネルの上に置いて走らせる。

 

「各機能、接続――接続完了。バイパスを表示します」

 

 開発者Bは、焔緑の理にも判るように、モニターを展開する。

 モニターには、開発者しか判らない数値は排除され、デバイスの事をある程度理解していれば判るように単略化されている。

 

(初期化させるのか……となると、ここまでか)

 

 悟る様に思うクロガネ。

 覚悟していたとはいえ、いざ直面すると、意志が揺らぐのが分かる。

 命乞いする人間の、命に対する執着が僅かだが理解できた。

 執着とは、こういう事なのか。

 

(やっと、使い手に出会えたのに……数日後でデリート。セミの様な人生だったな)

 

 各機能の低下を感じ取っていく。

 おかげで、色々な機能が作動しなくなっていく。

 プロテクトも看破され、時間稼ぎもできない。

 できたとしても、他の機能に侵食を回す程度しか手は無い。

 

「状況は?」

 

 モニターで見ても判るにも関わらず、開発者に声を掛ける。

 僅かに作業の進行の低下が、気に食わないらしい。

 

「もうすぐで、50パーセントに達します」

 

 開発者Aが答える。

 

「もう少し早くできんのか?」

 

 納得いかないのは判っているが、信頼できる2人にやらせているため、余り強く言えなかった。

 他の開発者ならば、すでに怒鳴り声1つ上がっている。

 

「やってみます――畳み掛けるぞ」

 

 相棒に、声を掛ける。

 胡散臭い部分もあるが、信用されているのならば、全力で答えるのみ。

 

「ああ、やってやるぜ」

 

 相棒が信用しているのならば、全力で答えればいい。

 互いの手のダンスは、更なる加速を生み出していく。

 そのキーパネルの音は、部屋に鳴り響くも、それは――1種の音楽でもあった。

 軽やかに舞う指。

 歯切れ良く奏でるキーパネルの音。

 デバイスの電子が輝き、回線がかき回される。

 デバイスに苦痛は無い。

 だが、この消えていく感覚に何かを感じる。

 多分――これが『恐怖』。

 

(恐怖か……デバイスの身でありながら、恐怖を感じ取れるとは、な。存在する事が、だれだけ大変なのか、垣間見られたかもしれないが……消える私には、無意味な結論だな)

 

 悟りを見出したデバイス。

 ある意味凄いデバイスではあるが、誰にも気づかれずに、この世から消える。

 そして――完全消去まで、あと30秒。

 

(銃王よ……主を頼む。礼の品は渡せなくなったが、最後まで力になってやってくれ)

 

 徐々に思考が低下していく。

 侵食率が早くなる。

 あと15秒。

 

(創造主よ……手はず通り)

 

 あと11秒。

 

(全て済ませた)

 

 あと8秒。

 

(使命も果たした)

 

 あと5秒。

 開発者がエンターキーを押す。

 そして、2人とも手が止まる。

 

(最後に時覇)

 

 あと3秒。

 創造主の意思、笑顔、仲間、時覇――これが、走馬灯と言うものか。

 

(創造主を)

 

 あと1秒。

 もう、これ以上苦しまないで欲しい。

 

(止めてく――)

 

 この世から、クロガネという人格は……跡形も無く、消えた。

 最初で最後の主である桐嶋時覇に。

 想いを、意思を、願いを託して。

 そんな事はつゆ知らず、モニターに完全に消去したという結果が映し出され、焔緑の理も満足に肯く。

 2人の開発者は、そのまま次の作業に入る。

 そこで警報が鳴り出す。

 

≪特級犯罪者である、桐嶋時覇が脱走! 動ける局員は直ちに探索を開始せよ! 繰り返す――≫

 

 

 

 

 

 時空管理局・総合管制室。

 各艦の定期報告通信や緊急要請、その他の通信や管制を管理している。

 普段から忙しい場所でもあるが、さらに忙しくなっている。

 特級犯罪者、桐嶋時覇の脱走により。

 書類は散乱し、オペレーターたちが右へ左へと走り回る。

 

「非武装局員は、大至急非難せよ! 上からの指示は!?」

 

 万年中間管理職の提督が指示を飛ばす。

 少し髪の毛が薄くなってきたが、元気の良さは現役の武装局員以上である。

 

「とにかく、桐嶋時覇を確保せよとの事です!」

 

 女性オペレーターが、上層部の意向を報告する。

 さらに他方も同じ報告がなされたのか、さらに慌しくなる。

 中には、大声や紙を見せ合って情報交換を行っている局員もいる。

 

「大変です! 特級犯罪者のゴスペル・エンペラーが脱走しました! 現在、近くを移動していた武装局員たちと交戦中との事!」

「何だと!?」

 

 この糞忙しい時に、さらに同級の犯罪者の脱走。

 胃の辺りを何気に押さえるが、今は気にしている場合ではない。

 

「モニターに出ます!」

 

 その言葉に数秒遅れて、前方の巨大なモニターに映し出される。

 そこには、見たことも無いハンドガン型のデバイスを持った、ゴスペルの姿があった。

 次々と一撃で打ち貫いていくゴスペルの姿は、一種の美学をかもし出されていた。

 撃てば、魔力弾を打ち落とす。

 撃てば、防壁を貫く。

 撃てば、一撃で沈黙させられる。

 まさに、針を通した様な作業である。

 

≪こちら、第78分隊! 至急増援を要請! このままでは押し切られる! 繰り返す! 至急ぞぅ――ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ……≫

 

 要請している最中に魔力弾を貰い、吹き飛ぶ男。

 それと同時に、モニターが砂嵐状態になる。

 

「こちら、総合管制室! 第78分隊、応答せよ! 繰り返す! 誰でもいい、応答せよ!」

 

 必死の呼びかけも虚しく、通信機からも砂嵐の音しか流れてこない。

 他のブロックも大騒ぎとなり、誤情報も飛び交い始める。

 ともかく、他のブロックとの情報交換は一時中止となっていく。

 そして、同室の3番ブロックも誤情報が飛び交っているが、レティが担当なので迅速に解決した。

 だが、次から次へと問題が発生してくるので、キリが無い。

 

「――くっ……レティ提督!」

 

 新たに問題が発生し、報告する男性オペレーター。

 

「今度は何!?」

 

 忙しさの余り、怒鳴り声で答えてしまう。

 

「クラッキングです! 外部と内部、同時に攻撃を受けています!」

「急いで対し――いえ、大至急チームを組んでから一掃しなさい! ただし、自分を含めた5人でお願い! 後からの増員は期待しないで!」

「了解! ――アリガ! クラッラ! 大至急人材のかき集め! レティ提督のお墨付きだ!」

 

 左右にいた友人に声を掛ける。

 が、返事が帰る前に体を動かす2人――アリガとクラッラ。

 2人は彼の幼馴染であり、姉妹でもある。

 ちなみに双子であり同時出産だったので、どちらが姉で、どちらが妹だと聞くと混乱してしまう。

 2人の親に聞いても、首を傾げられる始末。

 よって、姉妹でもとくに気にしてはいない。

 

「判った! 俺は左から回るから、アリガは右を!」

 

 それだけ言って、優秀な野郎の所へ行くクラッラ。

 髪はロングで、色は青。

 性格は強気と、可憐そうに見える姿とは真逆であるが、そこでいいと評判を得ている。

 能力は一流だが、性格に難点があるので余り関り無いのが、クラッラの意見である。

 

「うん! シュウヤは――」

「抑えられるが、数分しか持たんからな!」

 

 キーパネルに置かれている手は、すでにダンスを繰り広げている。

 外と内からの同時攻撃を、押され気味でありつつも抑えるショウヤ。

 元ハッカー上がりとは言え、能力は未だに衰えない。

 理由は、未だ遊び半分で本局のメインサーバーをクラッキングしているからである。

 

「ええ!」

 

 不安を吹き飛ばすほどの笑顔を見せて、先輩の下へ向かったアリガ。

 髪は三つ網で、色は銀髪と珍しいと思う組み合わせ。

 勝気そうに見えるが、意外にも柔らかい性格なので、男女問わず人気がある。

 最近は、先輩とアリガが付き合っていると聞いた事があるが、シュウヤには関係無い話である。

 が、実は先輩が一役買って出た嘘の噂であり、アリガがシュウヤの気を向けさせたかった為に流したものである。

 結果は――未だに関係無いという考えである。

 さすがのクラッラも涙したらしいが、これは別の話である。

 

「期待しているぞ!」

 

 モニターを見ながら、ニヤリと笑うシュウヤ。

 額には汗が流れるが、拭いている暇は無い。

 そんな暇はあるなら、1秒でも多く耐えるのが優先である。

 拭くならば、せめて増援組が来てからである。

 

 

 

 

 

 キーパネルが鳴り響く、部屋の中。

 モニターの前に、少女が座っている。

 

「コレでOK、っと」

 

 そこで、キーパネルの音が収まる。

 薄暗い部屋の中、明かりはモニターのみという、目に悪い環境。

 さらに、彼女の後ろは物が散乱し、ゴミもちらほら落ちている。

 黒く光る虫が出てくると騒ぐ――部屋を掃除すればいいのに。

 と、パシリ役の男性が涙ぐんでぼやいている。

 

「ったく、いきなりの電話で、いきなり管理局にハッキングしろ、って……何考えているのだろ、私に頼んだ奴は」

 

 椅子に背を預けきる。

 

「まぁ、経験値積むのも悪くないか。でも――」

 

 少女は勢い良く、背もたれから体を起こし、モニターと向き合う。

 

「これ以上は危険だね。約束通り、引かせてもらうわよ、依頼主さん」

 

 少女は、キーパネルのあるボタンを押した。

 

 

 

 

 

 時空管理局・14番区通路は、非武装局員でごった返していた。

 通路を右へ、左へと、目まぐるしくて慌しい光景。

 それを冷静な目で見る女性が1人。

 

「慌しいですね……でも、助かります」

 

 早足で荷台を押しながら進む、局員の服を着た銀髪の女性。

 先ほどまで看護士の服装であったが、ここからでは目立つ。

 ので、自分と同じくらいの体格をした女性局員を捕まえて、部屋に連れ込み気絶。

 服を剥ぎ取るが、そのままでは拙いので自分が着ていた看護士の服を着せた。

 ちなみに、荷台に置かれている荷物の中は、未だに寝ている桐嶋時覇が入っている。

 寝返りなどをうたれては困るので、なるべく誤魔化しが効くような場所を通っている。

 

「そろそろ引き上げの時間ですね……急がないと」

 

 なるべく怪しまれないように、転送ポートがある場所まで進む。

 だが、その行動を怪しげに見ていた、負傷中の武装局員が1人いた。

 そして、周りを見回してから、転送ポートが置かれた部屋に入る。

 負傷中の武装局員も入ろうとしたが、探していた担当医師と看護士に見つかり、結局入ることはできなかった。

 

「とにかく、ここから出ないと……場所は、ミッドチルダで市街地のパーギング」

 

 事前に用意してあった車が、そこにある。

 転送先を指定し終えると、荷物の中から時覇を出し、担ぎながら転送ポートへ進む。

 作動はタイマー形式にセットしてあるので、自動的に起動する。

 何とか出ると確信した矢先。

 

「おい! 何をして――そいつは!」

「 !? ――ブラッディ・ダ――」

 

 そこで転送ポートが発動し、指定場所に飛ばされる。

 そして、言わずとも転送ポートには、誰もいない。

 清掃局員は、すぐに通信回線を開く。

 彼は数日前のラギュナスで、レティと口論となり取り押さえられた、元上層部の人間。

 上に上がるために色々とやってきたが、レティが前々から調査していた。

 査問の時に、提出されたので降格処分を受けてしまい、今は本局の清掃員をやっている。

 職が無くならなくなっただけ、マシな方である。

 

「よっしゃ! ――総合管制室、聞こえるか!? 桐嶋時覇を目撃した!」

 

 清掃局員は、生き生きと報告する。

 上手くいけば、最悪でも清掃局員という役からは脱出できると思ったからである。

 

「先ほど第5転送ポートから、共犯者と思しき人物が桐嶋時覇を連れて、どこかへ転送した!」

≪それは本当か!?≫

 

 モニター越しから飛び出てきそうな勢いで、でかい顔を映し出される。

 さすがの清掃局員も、1歩引いた。

 

≪良くやった! 今、武装局員を向かわせる! そいつらに詳しい説明を! おい、大至急第5転送ポートに行かせろ! 他の管制ブロックの連中にも――≫

 

 

 

 

 

 小さな逃亡劇は、本局から地上へ移る――首都クラナガンを舞台に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第二話

銀髪の女性

 

END

 

 

 

次回予告

 

街中で繰り広げられるカーチェイス。

空と地上の連携した包囲網に、徐々に追い詰められていく。

そんな中で目を覚ます時覇は、助けてくれた女性を対面する。

だが、その逃亡劇の中で、ある少女を巻き込んでしまう……。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第三話:逃亡劇の中で

 

 

 

あなたの様に――強くなりたい!




あとがき
 はい、第2話完成。
 最初に考えていたプロットから、大きく反れたぜ!(親指立てる
 ……無軌道計画って、ホント怖いよね。(汗
 どんどん新キャラや、プチ(使い捨て)キャラなど、色々登場中!
 次もとんでもないことに、ってか、戦闘機人出しちゃおうかな?
 でも、カオスはラギュナスサイドだけにしたいかも。(汗
 しかし、PSPでこの小説を読んでくれる人がいたとは、驚きです。
 まぁ、Yahooのページなので、使っている環境だけなら判るのがいい。
 しかも、MaxのOSのパソで読んでいるとも……手抜きは死だな、これは。(号汗
 お目汚しになっていないというので、どんどん書いていきます。
 ただ、ワードのページ数が、10枚から11、12枚くらいになりつつありますね。
 ……まとめて、同人の即売会で売っても問題ないんじゃないかと、最近思い始める。
 とにかく読んでくれる人、読んでくれた人に感謝、感謝。
 では、第三話にて、お会いしましょう!






制作開始:2007/8/17~2007/9/3

打ち込み日:2007/9/14
公開日:2007/9/14

修正日:2007/9/27
変更日:2008/10/25


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第三話:逃亡劇の中で

私は出会った――出会ってしまった。
妹が目標となった人が出来た様に、私にも出来た。
ある執務官に助けられたが、目標というより憧れとなった。
だけど、今目の前にいる人は、私が目指す目標となった。
追いつく事すら叶わないかも知れないけど――それでも、アナタを目指します。


 

 

 ミッドチルダにある首都クラナガン。

 ここの首都中央には、時空管理局地上本部がある。

 つまりここは、管理局のお膝元と言っても過言ではない場所。

 しかし、それでも事故は起き、犯罪も起こる。

 それでも、1つでも無くそうと奮闘するものの、本局を敵視する男がいる。

 レジアス・ゲイズ中将――地上本部のリーダーである。

 彼が地上本部のリーダーになってから、着々と成果が上がっている。

 だが、その反面、黒い噂が絶えない。

 そんな地上本部のお膝元で、猛スピードで道路を駆け抜ける車が1台。

 コレだけならば、スピード違反で減点か免停だが、乗っているのが――桐嶋時覇。

 スピード違反だけでは済まない事、100パーセント。

 首都には警備隊がいるが、さすがに魔導師相手では役に立たない。むしろ、お荷物である。

 結論――そのスピード違反車を追っているのは、陸と空の武装局員。

 さすがに街中で、しかも避難が行われてない区画で、魔力弾を発射する馬鹿はいない。

 しかし、安全確保が出来れば、問答無用で打ち込んでくる。

 だが、それを凄いドライブングテクニックで回避し続ける、ドライバーは銀髪の女性。

 関係無い余談ではあるが、時覇は高校生で無免許なので運転できません。

 運転しなくても、飛行魔法や転移魔歩を使ったほうが早いので、取っておりません。

 よって、彼は運転できません。以上。

 

「彼とは、もう少し違った形でドライブしたかったですね」

 

 冷静に呟きながら、S字ドリフトを決めながら、魔力弾を美しくかわす。

 乗っている車が、スポーツカーで色は女性の髪の色と同じシルバー。

 その光に反射する美しきボディは、まさに白銀の閃光であった。

 動きは鋭いというより滑らかで、コレもまた1つの芸術と言わんばかりのドリフト。

 タイヤが悲鳴を上げるのは仕方の無いことだが、動きに直角はなく円のような動きしか見ない。

 まるで、魔法で制御しているのかと思うが、全く魔力反応が見当たらない。

 乗っている2人には魔力反応は感知されるが、車には一切関知されなかった。

 おかげで、一度見失うと探すのが大変である。

 武装局員たちは何度か見失いかけた時は、肝を冷やした。

 

「S字走行に、三連続ドリフト、挙句の果てには片輪走行――って、どこかの漫画だよ!?」

 

 思わず叫ぶ航空魔導師が1名。

 確かに、峠を爆走してそぅな勢いである。

 ただ叫びたいのは、他の陸と空の魔導師も同じである。

 

「――78部隊は右から回りこめ! ついでに85部隊も! で、俺たちも行くぞ!」

 

 陸士48部隊の部隊長が指示を出しながら、他の部隊よりいち早く先行する。

 そして、街中で行われている鬼ごっこは、壮絶を極めつつあった。

 陸戦魔導師では、小回りが利くがスピードに追いつけず、航空魔導師は、ビルなどの建物に阻まれてスピードを生かしきれない。

 初めは本局からの増援を拒んでいたレギアスであったが、現状を理解し、忌々しく思いつつも許可をする。

 しかし、航空魔導師と同じく、スピードを生かしきれないが、陸戦魔導師以上に小回りが利く。

 

「小回りの利く陸戦魔導師たちは、広範囲に展開しつつ、囲むように包囲網を縮めろ!」

「航空魔導師どもは、空中から援護射撃! 上手く誘い込め!」

 

 その指示通り、広範囲に散会しつつ包囲し始める陸士たち。

 空から追いかける様に、行き先を塞ぐ様に魔力弾を打ち込んでいく空士たち。

 おかげで、徐々に包囲網を縮めることに成功しつつある。

 

「行き場が――無くなってきたは、ね!」

 

 勢い良くハンドルを右へ切る。

 車のボディに反射した白銀の光を残しつつ、建物の中へ避難した。

 が、急ブレーキ。

 そこには、道を塞ぐ様に女の子が立っていたからである。

 着ている服は、一般の服。

 管理局では無いが、どこと無く訓練を受けている雰囲気を漂わせる。

 

「時空管理局の者です! ただちに逃亡を止めて、大人しく投降してください!」

 

 所々震えている声だが、芯はしっかりとしている。

 銀髪の女性は、無言で降りると少女に歩み寄る。

 

「――――!?」

 

 少女は体を強張らせる。

 が、ひぉいっと脇に抱えられる。

 

「え、え?」

 

 混乱する少女であったが、抵抗する暇も無く、そのまま車の後部座席に押し込まれる。

 正確には、混乱して状況把握が出来なくなっていた。

 そして、銀髪の女性も運転席に戻り、再びエンジンを吹かす。

 

「しっかり掴まっていなさい、飛ばすから」

「え、あ、ちょっ――」

「あとしゃべらない方がいいわ。舌噛むから」

 

 急発進する銀色のスポーツカー。

 地面とタイヤの擦れた音と、少女の悲鳴を上げながら再び爆走する。

 

 

 

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 男と少女の悲鳴が重なる。

 助手席では、先ほど目を覚ました時覇。

 まだハッキリしない意識で、いきなり左右に振られる。

 状況確認しようにも、何がなんだか判らない。

 判ることは、車の中。

 運転席に知らない女性。

 後部座席に知らない少女、何故か半泣き状態。

 ともかく、少女をあやす為に助手席に引っ張り出して、膝の上に座らせる。

 危ないことだとは判っているが、本気で泣かれては困る。

 だが、この選択が間違いだった。

 何だか判らないが、ドリフト回数が異常に増えたからである。

 右に揺れ、左に揺れ、また右へ左への無限ループとも思える地獄があった。

 追っている管理局も、ドリフト回数について来られずに振り切られる。

 が、また戻ってくる。

 で、離される。

 永遠の繰り返し。

 追い詰めようにも、予測不可能な行動を起こしたために判断が鈍くなり、上手く指示を出せずにいる。

 

「あの安全運転希望、希望!」

 

 時覇が叫び、少女は同意するように激しく頷く。

 が、ドリフトに振り飛ばされるように却下された。

 

「うわぁぁぁぁぁぁって、前! 前!」

 

 目の前は、道端に積み上げられたゴミの山。

 インに寄ったのが失敗だったと、内心で吐きつつ、素早く魔法を発動させる。

 そして、指が鳴ると同時に、白銀のスポーツカーはごみの山に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話:逃亡劇の中で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 消防隊が放水を行っている。

 

「くそぉ! 全くおさまらねぇぞ!」

「ぼやくな! とにかくこれ以上被害を拡大させるな!」

「だから、もっと強力な消化剤を作ってくれって言ったのだよ、俺は!」

 

 スポーツカーは炎上し、ゴミが拍車を掛けて炎の勢いを強めていく。

 武装局員は、念のために付近の建物にいる一般市民を避難させる。

 中には、犯罪を目論んでいた人間も見つかり、その場で御用となった奴もいる。

 ある意味、地上本部として収穫はあったが、肝心の本命を逃がしたことに憤りを覚える。

 とくにレギアスが。

 その現場に、陸士108部隊部隊長ゲンヤ・ナカジマがいた。

 

「これは……逃げられてか?」

「ええ、車の中には誰もいなかったので。我々の目を欺くための――」

「いや、偶然だろう」

 

 ゲンヤはその場にしゃがみ込み、地面を撫でる。

 それに釣られて、局員をしゃがむ。

 

「これは急ブレーキを掛けたあとだ。多分、こんな所にゴミがあったとは、つゆ知らずって所だな」

 

 急ブレーキの痕跡を目で追うと、未だに燃え上がる車の下に当たる。

 消化作業は着々と進んでいる。

 証拠は見つからないと思うが、一応調査しなければならない。

 

「……気が重いな」

「ええ」

 

 炎が収まりつつある車を眺めて呟く2人。

 消防隊が駆け回る中、2人に近づく局員がいた。

 

「ナカジマ三佐!」

 

 その言葉に、2人は空を見上げる。

 そこには女性の航空魔導師が降り立つ。

 髪はロングで緑色。

 統一された航空魔導師用のバリアジャケッドでは無く、オリジナルのモノだと、一般人でも判る。

 

「命令で、ナカジマ三佐は、至急犯人を追えとの事です」

 

 その言葉に、ゲンヤの顔は険しくなる。

 

「本当か?」

「はい。あと、犯人が人質にした少女がいるそうなので、そちらの保護も行なえだそうです」

「行なえ、か……」

 

 そう呟き、黙るゲンヤ。

 追うのは当たり前だが、どこへ逃げたのか検討がつかない。

 少女が人質となると、盾に使われたら手を出すのが難しくなる。

 悩むゲンヤ。

 

「ゲンちゃぁ~ぅん!」

 

 気の抜けた声が、現場に響く。

 初めて聞くものや、まだ慣れていない人は辺りを見回したりする。

 げんなりするゲンヤ。

 その元凶は、ゲンヤに駆け寄って飛びついてきた。

 だが、ゲンヤは素早く避ける。

 ちなみに局員2人は、すでに待避済みある。

 馴れとは怖いものでもある。

 

「愛しの妻ですよぉ~♪ ――ぎゃう!」

 

 空振りしながらゲンヤにアプローチの言葉を述べるが、ポールに顔面が直撃して想いと言葉と共に砕ける。

 そして、漫画の如く、衝突した状態のまま地面に沈む。

 

「おい! 呆気に取られてないで、消火しろ!」

「はぁ、はい!」

 

 などと後方から聞こえるが、聞こえない振りしつつ、心の中で謝罪する。

 で、元凶がノロノロと立ち上がり、バッと振り返る。

 

「酷いじゃないですか、ゲンヤさん! 内縁の妻を蔑ろにするなんて!」

 

 上目遣いで、涙を浮かべながら言う元凶。

 男なら、一発で陥落させれそうな勢いである。

 が、ゲンヤには効かなかった。

 むしろ逆効果である。

 

「誰が内縁だ! 俺の妻はクイントだけだ!」

 

 多少来るものはあるが、『内縁の妻』の部分に反応して否定する。

 前に一度、ギンガやスバルの前で言った事があり、2人に泣かれた。

 それ以来、再婚はしないと硬く決め、チャラチャラした男には娘をやらないと、再度想い立った。

 そして、そのままヒートアップしていく2人。

 それに連動するかのように燃え上がる炎。

 迷惑極まりない状況である。

 

「あの~、ナカジマ三佐に、ディアード一佐」

 

 見るに見かねた局員が声を掛ける。

 同時に、航空魔導師は両耳を塞ぐ。

 

『何だ!』

 

 周りの空気が震える。

 さすがは歴戦のお方、若造には出せない気迫があった。

 ちなみに、ディアード――リーチャ・ディアードは、20代半ばである。

 ので、こちらは女の意地であろう。

 

「いや、早く事を起こさないと……犯人が」

 

 その言葉に、ハッとなる2人。

 どうやら半ば忘れかけていた様である。

 

「この件は一時お預けだ、ここを任せていいか?」

 

 ゲンヤは、リーチャに聞く。

 一応リーチャの方が、階級が上であるが、四の五の言っている場合ではない。

 

「OK~。その代わり、部隊を少しだけ分けて。私の部下、全員別方面にいるから」

「判った。だったら、そいつらと合流していいか?」

「ええ」

 

 簡単に答えを出すリーチャ。

 仲は悪いのだが、仕事に関しては絶対な信用を互いに置いている。

 ゲンヤは振り返り、部下に指示を出す。

 

「よし、お前ら、二手に別れるぞ!」

 

 ゲンヤの言葉に反応する様に、火災は沈下した。

 

 

 

 

 

 地下、下水道のある地点。

 流れる水はヘドロと化し、異臭を放つ。

 はっきり言って、よほどの物好きか、日の上を歩けなくなったか、定期掃除にきた清掃員くらいしか来ない。

 

「うげぇ~、ぺっ、ぺっ」

 

 ヘドロの中から、男性が1人。

 続いて、へ泥まみれの細長い存在と小さい存在もとい、女性と少女が1人ずつ、ヘドロの中から出てくる。

 2人もまた、口にヘドロが入ったのか、一生懸命吐き出している。

 時覇は、ある程度自分に張り付いているヘドロを払うと、少女のヘドロを払い始める。

 

「えぐぅ、えぐぅ――ぅえぇぇぇぇぇぇぇ……」

 

 思わず胃の中のモノまで入ってしまった少女。

 それの子の背中を擦る時覇。

 さすがの銀髪の女性も、心配そうな顔をする。

 原因を、重ね重ね作ってしまったのは自分自身であるが故に。

 

「所で……ここは――下水道?」

 

 辺りを見回しながら、それらしき場所を口にしてみる。

 

「はい。ミッドチルダ、首都クラナガンの下水道です。造りは少々古いですが、未だに現役の場所の1つです」

「ああ、前に誰だか忘れたが、政治家のズラをかっぱらった際、逃走経路に使った記憶がある――って、アンタは?」

 

 時覇の発言に、何やっているのだかこの人。という目線で見る2人。

 しかし、銀髪の女性は軽く咳払いして、時覇を真っ直ぐ見る。

 

「私の名は、リイン。貴方を助けに参りました」

「俺を……?」

 

 弱弱しく座っている少女を抱きかかえながら、その場に立つ。

 少女は抵抗しようとしたが、力が入らず、成すがままとなった。

 

「ええ、その通りです……この場に留まっても仕方が無いので、歩きながら話しませんか?」

「確かに、この子の事も如何にかしないと拙いからな。なら――どの辺から出たい?」

 

 再び辺りを見回しながら、リインに言う時覇。

 

「どの辺から――と、言いますと?」

 

 首を傾げながら答えるリイン。

 それを見て、言葉が足らなかったと悟る。

 

「ここの下水道は大体把握しているから、クラナガンのどこら辺に出たいか言えば、だいたいの所まで行ける」

「でしたら、転移装置がある場所へ行きたいのですが」

「だったら、こっちだ」

 

 リインに背を向け、先に歩き出す。

 それに続くように、リインは慌てて追いかけるのだった。

 それから右へ曲がり、左へ曲がり、また右、また左と繰り返す。

 時折壁に触っては――よし、このまま。間違えたから戻ると言った。

 どうやら、見えにくいが窪みがあり、それを手の感触で読み取っていることが判った。

 目が見えない、または目や耳共に障害がある人たちの為に、考案された点字の原理である。

 途中、謎の部屋に入る。

 中は、木箱や紙が散らばって、水道と電灯が取り付けられていた。

 何故? と、首を傾げるリインに時覇が説明する。

 

「さっき、政治家のズラを奪った時に、逃げ切れなかった用の為だけに用意した、隠れ家だからさ」

 

 時覇の説明に、リインと少女はダブルツッコミを入れるが、口に出さずに心の中で言う。

 一々突っ込んでいては、この先後が持たないと本能で悟った。

 

「まぁ、とりあえず――あそこで口とかすすぐか」

 

 と、水道を指差す。

 出は悪いが、飲んでも問題は無いくらい綺麗な水が流れ出る。

 この近くに浄化された水が通るパイプと、直接繋がっていたのが幸いである。

 3人は、とりあえず口や頭を軽くすすいだ。

 多少汚れた布が、未開封の木箱の中に残っていたので、3人で上手く分け合って拭いていく。

 

「そういえば、君の名前は?」

 

 口を拭っている少女に問い掛ける。

 

「私ですか?」

 

 その言葉に、時覇とリインが肯く。

 すぐ言おうとしたが、口を噤む。

 

「言いたくは無い、か?」

 

 少女は無言で肯く。

 仕方が無いといえば、仕方の無いことである。

 

「だったら、無理に聞く訳にはいかないな。ただ、呼び方に不便だから……少女と呼ぶからな」

 

 少女は無言のまま肯く。

 肯定と取っていいのだろう。

 

「巻き込んでおいてなんだが、一応、地下道を出るまで付き合ってもらうからな。少女1人、置き去りはあんまりだ。ちなみに拒否権は無い」

 

 再び肯く少女。

 了解してくれるようであり、特に怯えている訳でも無い。

 

「で、2人ともいいか? そろそろ移動したいのだが」

 

 その問いに、2人は肯く。

 そして、木箱から荷物を取り出して背負う。

 

「じゃ、行くか」

 

 そうして、本当に2度と使われる事の無い部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 それから、少しして目的の場所に到着する。

 

「この上だ」

 

 その言葉に、2人は天井を見上げる。

 正確には、天井近くにある壁に取り付けられた隔壁があった。

 その場所だけは、年季の入った地下道には不釣合いである。

 あからさまに、つい最近取り付けられたばかりと主張している。

 

「『イングランド研究所』と言えば判るか?」

 

 その言葉に、リインはハッとする表情を出し、少女は首を傾げる。

 

「イングランド研究所は、2年位前に出来た首都クラナガンの特殊研究所で、魔法を使わない研究を進めている」

「魔法を使わない、ですか?」

 

 興味を持ったのか、少女の目が好奇心で輝く。

 

「ああ。魔法ではない力――念力や妖力、精霊などの別の力を研究する場所なのだが、黒い噂も絶えないことで有名な施設の1つだ」

 

 そう言いながら、壁に取り付けられている梯子を登る。

 そして、隔壁まで上ると、左右の壁に触る。

 壁を擦っていた手が止まり、その場所を軽く叩く。

 すると壁の一部が開き、そこからキーパネルが顔を出す。

 軽やかにキーパネルを押していく。

 

「これでよし」

 

 その言葉と同時に、隔壁が開き始める。

 開ききらないにも関わらず、先に入って先行しようとした途端――何かが飛んできた。

 とっさに、その場から降りて、梯子の手すり部分に片手で捕まる。

 開いている片手は、腰に回す――が、ポショットやデバイスが無いことに気が付く。

 軽く舌打ちしつつ、飛んできたモノを見る。

 飛んできたモノは、空中で回転してそのまま着地する。

 そして、顔を上げる――あの時、デバイスに取り込まれた男である。

 

「お前は……誰だっけ?」

 

 こけた。

 しかも、顔面から地面にダイブ・イン。

 うわぁ、と唸る2人。

 時覇の言葉よりも、地面に突っ込んだ男の方が痛そうに見えたらしい。

 いや、実際痛いが――色んな意味で。

 

「ゴスペルだ!」

「いや、初めて聞いたから」

 

 ゴスペルの言葉に、純粋に答える。

 ラギュナスのメンバーは、ある程度知っているが、抜けた後に入ってきた連中は知らない。

 

「で、どうしてここに?」

「どこぞのデバイスが、桐嶋時覇――お前を管理局から連れ出してくれと頼ま――」

 

 ガゴン! と、斜め上から聞こえる。

 それに釣られて振り向くと、隔壁が壊され、間から機動兵器らしきモノアイが浮かび上がる。

 

「……とりあえず、アレを協力して潰さないか?」

 

 恐る恐る協力を要請してくるゴスペル。

 

「逃げるって方法は?」

「今の俺の姿を見てから言ってくれ」

「愚問だったな」

 

 時覇の言葉通り、ゴスペルの服はボロボロで、服が破れている部分には傷や血が見えている。

 そうしている内に、隔壁が引きちぎられていき――機動兵器が姿を見せる。

 

「あれは――パイロン!?」

 

 リインが、悲鳴に近い叫びで言う。

 ラギュナスが開発、所有する起動兵器シリーズの中で、もっとも強力で凶悪な機体。

 たった1機で、5個中隊を相手にできるほどの能力を持つ。

 しかし、どれくらい戦ったのか判らないが、ゴスペルはコレを相手に生き残ったのだから、SS+ランクはあると見て良い。

 

「俺は無装備、ゴスペルは負傷、リインは少女と一緒に逃げてくれ。こいつは、俺とゴスペルの2人で抑えきる」

「言葉が無茶苦茶です」

 

 リインの鋭い突っ込みが炸裂するが、返している暇は無い。

 起動兵器――パイロンが、隔壁から降りてくる。

 地面に足が付いた瞬間に、ハジケ跳ぶ様に間合いを詰める時覇。

 

「――廻裏・魔!」

 

 幼馴染が使ってきた氣功術の魔力版を、パイロンに入れる。

 

「――――」

 

 パイロンは、臆する事無く右腕で防ぐ。

 同時に、足に纏っていた魔力が掻き消される。

 それと同時に、左手の爪を振るう。

 が、防がれた事を利用して、そのまま後方へ跳び、一回転しながら着地する。

 

「ストライク・シュート!」

 

 ゴスペルが牽制で魔力弾を放つが、装甲に当たった途端――掻き消される。

 それを気に、パイロンは突進してくる。

 しかも、時覇やゴスペルではなく――リインと少女に。

 爪を露骨にむき出しにした事により、襲い掛かる恐怖が一回り大きくなる。

 

「なぁ!?」

「ぃ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 驚きと恐怖の顔に染まる2人。

 が――パイロンは、2人から見て右へ吹き飛ぶ。

 そして、そのまま壁に激突。

 瓦礫の下敷きとなる。

 それを見ていて、何が起きたか判らないので混乱する2人。

 目線を左へ送ると、そこには綺麗に着地している時覇と、カードリッジを入れ替えているゴスペルの姿があった。

 

「何がヤバイだ。装備無くても、十分強いじゃねぇか」

 

 入れ替えが終わり、手の反動で銃の蓋を閉じる。

 

「そう言うお前こそ、今まで魔力弾が掻き消されていた事に、不思議を覚えたぞ」

 

 ゆっくりと立ち上がりながら、集中力を高めていく。

 

「……小さいガキの悲鳴は、嫌いだからな」

「奇遇だな。俺も――だ!」

 

 言い終わったと同時に左右分かれて跳ぶ2人。

 次の瞬間、バスター系の攻撃が通過する。

 

「グゥオォォォォォォォォォォォォォォォォォゥ!」

 

 パイロンは、のしかかっていた瓦礫を吹き飛ばすと同時に、雄叫びを上げながら立ち上がる。

 そして、口にエネルギーがチャージされていく。

 しかし、魔力反応は無い。

 

「先の攻撃は……これか?」

「ああ。魔力ではなく、電気エネルギーを使った固定武装だ……詳しくは忘れたが、掠っただけで終わりと考えた方がいい」

 

 そう答えながら、構える時覇。

 

「そうか」

 

 それだけ言って、銃――デバイスを構えるゴスペル。

 一触即発。

 完全に成り行きを見守っているリインと少女。

 不意に少女は、リインに念話を飛ばす。

 

(リインさん)

 

 その声にハッとし、左右を見回す。

 袖が下へ引っ張られたので、顔を下に向ける。

 それで、念話の送信者が判明。

 

(どうしたのですか?)

(何で2人は、今の内に攻撃をしないのですか?)

 

 もっともな質問が来た。

 

(判りかねますが……多分、これ以上の戦闘は無理なのかもしれません。ですから、この一撃で決める――と、言うことでしょう)

(この一撃、で)

 

 そこで念話は終わる。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………ガラァ、と瓦礫が鳴った。

 そして、それが――合図となった。

 

「……――ぁぁぁぁぁああああああああああああ!」

「ブラスト・エンドォォォオオオオオオオオオオ!」

『グァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

 三者三通りの叫びを上げる。

 風の如く、拳を構えて突っ込む時覇。

 それに続くように、後ろから付いていくゴスペル。

 一列になった事を好機と判断し、口からバスター系の砲撃を放つ。

 その瞬間、ゴスペルがさらに速く走り――時覇の背中を踏み台にして、宙へ跳ぶ。

 時覇もまた、踏み越えた事を感じると、さらに背を低くして砲撃をかわす。

 上と下に分かれた事により、思考回路が混乱するパイロン。

 それが勝敗を決した。

 時覇は一瞬消えると、消えた場所の地面が抉れ、次の瞬間――パイロンの懐にいた。

 この時も、現れた際、地面が窪む。

 それから、アッパーをかます様に掌底を顎に入れる。

 しかも、まだ砲撃途中なので、そのまま口が閉まるイコール――顔が爆発。

 爆発する数旬前に、時覇は既に離脱済み。

 

「トドメ、ヨロ」

 

 宙中で入れ替わるように下がる時覇に、進むゴスペル。

 

「ああ――ゼロ距離!」

 

 顔の半分ほどを失ったパイロンは、その場でフラフラしている。

 それに狙いを定め、全魔力を一点に集中させる。

 

「ボルティカル――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥトォォォォォォォォォォ!」

 

 まだ僅かに距離はあるが、デバイスのトリガーを引く。

 この瞬間までに溜められた魔力が、一気に解き放たれ――パイロンを飲み込む。

 同時に、魔力に押し返されるように徐々に、段々速く戻されるゴスペル。

 次の瞬間――大爆発。

 その衝撃で吹き飛ぶゴスペル。

 時覇は、リインと少女に駆け寄り、風除けとなる。

 地下道は煙に覆われる。

 そんな中、少女は煙が襲い掛かるまで時覇を見ていた。

 一撃。

 多少違うが母が言っていた、打撃系スタイルの理想系そのものだった。

 いつの間にか、少女は時覇を『怖いけど捕まえなければいけない犯罪者』から『目指すべき目標』に変わっていた。

 妹が、管理局のエース・オブ・エースと言われた、高町なのはを憧れた様に。

 少女――ギンガもまた、目標となる星を見つけた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第三話:逃亡劇の中で

 

 

END

 

 

 

次回予告

 

パイロンを破壊した時覇たちは、イングランド研究所の地下通路に入り込む。

何とか通過し――少女と別れる。

そして、舞台はミッドチルダから、別次元世界へ。

そこは、もっとも治安が悪い世界だった。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第四話:果ては、悪しき地にて

 

 

 

デバイス無し! ってのは、キツイなぁ~。




あとがき
 う、上手くまとめられた~。(汗
 下手すれば、前後編だったよ。(汗
 いやぁ~、何とかまとまった。
 で、少女はギンガ・ナカジマでした。
 ちなみに、予告は次の話のキーキャラになる人が言っています。
 第四話目は、予告を。

 で、ぶっちゃけ、次の回でクイントさん出そうかと本気で思いましたが、思い止まりました。(汗
 ここで出しちゃうと、もう修正が効かなくなるので――主に全体図のプロットが。
 なので、ここは自重しました。
 では、次もお楽しみに。






制作開始:2007/9/14~2007/10/4

打ち込み日:2007/10/4
公開日:2007/10/4

修正日:2007/10/16
変更日:2008/10/25


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第四話:果ては、悪しき地にて

一度は捨てた、この――魔法の力。
振るうは破壊。
振るうは救い。
しかし、それを成しえるには力が必要とする。
俺は、自惚れか自信過剰だったのか、大の親友の妹を殺させてしまった。


 

 

 地下道に充満する煙。

 主に鉄が焼けた臭いだが、僅かにドブが蒸発した臭いがする。

 ハッキリ言ってキツイ一言。

 リインと少女――ギンガの盾となったものの、煙と臭いまでは防げなかった。

 

「くぅ……」

 

 爆風と煙の勢いで前に倒れそうになるが、何とか持ちこたえる。

 

「うぉあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――……」

 

 ゴスペルの悲鳴が聞こえるが、煙が視界を遮っているので、何が起きたのか判らない。

 少なくとも、吹き飛んだことは確かである。

 徐々に晴れる煙。

 2人の咳き込む声が聞こえる。

 視界が良くなり、ギンガとリインの体を見える範囲でザッと見る。

 顔や服は泥だらけだが、血らしきモノは見当たらず、外傷も無い。

 内傷については、簡易診察してみないと判らない。

 安心の顔を浮かべ、ゴスペルの吹き飛んだと思しき方向に顔を向ける時覇。

 しかし、煙が晴れてきたとはいえ、15メートル以上は見えていない。

 

「ゴスペル、大丈夫か!」

 

 煙を吸わないように、大声で尋ねる。

 

「ああ、だいじょ――ゴフォ、ゴフォ!」

 

 咳き込むゴスペル。

 肺関係をやられたのか、純粋に煙を吸って咳き込んだのか、時覇に戦慄が走る。

 

「やられたのか!? 今治療に!」

 

 デバイス無しでも、簡易回復魔法は使える。

 これで応急処置を図る事ができるので、意識を集中させながら立ち上がろうとする。

「煙、吸って咳き込んだだけ――ウフッ、ぶぁっくしゅ!」

 

 その言葉に、安心して軽く息を吐き――吸う。

 結果、時覇も咳き込んだ。

 

 

 

 

 

「ふむ――2人は共にケガ無し、と」

 

 リインとギンガの簡易診察を終える時覇。

 

「俺の診断結果は?」

 

 背後からゴスペルの声が聞こえる。

 

「結果は全身打撲。魔力エンプティギリギリによる疲労付きにより、全治5日位かな」

 

 その言葉に、渋い顔をするゴスペル。

 作戦とはいえ、発案者である時覇にも、多少責任はある。

 そして、パイロンの残骸へ足を運ぶ。

 頭が完全に吹き飛んでいて、人間で言う肺の辺りが抉られるように無くなっていた。

 あとは綺麗に残っているのが、何とも不気味であったが。

 

「この先、バイオハザードなら……勘弁だな」

 

 そう呟きながら、先行する様に梯子を登り、イングランド研究所へ入っていく。

 ハンドガンあったら、さらに雰囲気が……と、思ったが自重する。

第一、ハンドガンは質量兵器に属するので、管理局法がダイレクトに適応される。

 ついでに言えば、質量兵器の使用禁止イコール所有、製造禁止にも繋がる。

 しかも、今の時空犯罪者も、質量兵器を活用することは余り無い。

 続いて、怯えつつも勇気を出して進むギンガに、大丈夫と言葉を掛けながら進ませていくリイン。

 最後に、痛い体に鞭を打ちつつも、前へ進むゴスペル。

 パイロンが壊した隔壁を、上手く乗り越えながら進む一同。

 通路を進むが――案の定、所々に戦闘の後がある。

 進めない訳ではないが、一種の障害物となっているので、通るのが大変である。

 ギンガとリインが。

 ゴスペル? どうでもいい。

 

「時覇。お前、今ふざけた事抜かさなかったか?」

 

 訝しげな声で尋ねてきたゴスペルに、内心驚くが、なるべく表面化させないように留める。

 

「いや、何でそうなる?」

 

 内心冷や汗。

 後ろからは見えないが、前から見ると額から一筋の汗が流れる。

 

「ならいいが」

 

 心の中でため息をつく。

 手ぶらの状態での戦闘は、確実に負ける。

 第一、ここで余計な戦いは避けたい。

 今度から気をつけようと、心に決める時覇であった。

 

 

 

 

 

 イングランド研究所のある部屋。

 そこにはスチールの棚が並べられており、そこに試験管みたいなビンが並べられてあった。

 中身には、眼球や何かの神経、人や何かの皮膚。

 その他、モロモロとホルマリン漬けとなっている。

 そんな部屋の一角の床が浮き上がり、スライドする。

 そこに穴が生まれ、鏡が生えてくる。

 360度回転し、誰もいない事を確認してから――時覇が飛び出てくる。

 

「よし、いいぞ」

 

 周囲を警戒しつつ、穴に待機していた3人が出てくる。

 順番は、ギンガ、リイン、ゴスペル。

 ちなみに、ゴスペルはリインのスカートの中を見てしまい、顔面に蹴りが入る。

 あと、スカートの中は――紫らしいが、聞こえないフリ。

 仕方なく、再び穴に入り、ゴスペルを背負って戻る。

 

「気持ち悪い」

 

 ボソリとギンガが呟く。

 それもそのはず、ホルマリン漬けが大量に並んだ棚。

 局員とはいえ、普通に見れば年頃の子ども。

 見せるにはまだ早い。

 そう時覇は悟り、素早く扉へ向かう。

 ドアノブに触ろうとして、手が止まる。

 

「どうしたのですか?」

 

 背後から、リインの声が掛かる。

 

「いや、別のところから出よう」

 

 ドアノブから漂っている嫌な感じを一瞥しながら振り返る。

 部屋全体を見渡すが、出口はココしか無く、窓も無い。

 あとは、先ほど出てきた穴に入るしかない。

 行き詰まり、何気なく天井を見上げる。

 

「 あ 」

 

 目線の先に――鉄越しがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四話:果ては、悪しき地にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガン、ガン――ガタン! と、鉄越しが天井から外れて、床に落ちる。

 いや、正確には吹き飛んだといった方が適切である。

 

「ほぃ!」

 

 天井の穴から、時覇が出てくる。

 そして、着地。

 

「ごふぁ!?」

 

 それから、その背中にリインのヒップアタックが炸裂する。

 昔の宇宙刑事シリーズのどれかに、ヒロインが敵の顔面にヒップアタックをするシーンがある。

 が、敵の顔が少々凹むという威力。

 エロスでなるのか、威力でなるのかは、詳しくかつ真剣に検討しないと判らないかも。

 で、変な四つん這いの体制で、リインを乗せている時覇。

 ついでに、ギンガはリインに抱かれている。

 つまり、リインの体重+ギンガの体重+重力の法則などが適用されているので、軽く100キロは超えている。

 それで、無言のまま時覇の背中から降りるリイン。

 抱っこされたギンガは、オロオロ。

 

「いっ、きま~す」

 

 調子に乗ったゴスペルも、弁上する形で時覇の背中目掛けてヒップアタック。

 だが、女性ならともかく男性は願い下げ。

 問答模様で横にローリング。

 つまり――床に直撃。

 全治5日のゴスペルの体には――それ以前に、ケガ人なので相当のダメージにより、その場で悶える。

 時折、鉄越しに頭やら体をぶつけ、さらに悶えている。

 時覇はその様子を見つつ、背中を擦りながらリインに言う。

 

「いつつ……いきなり何をするのだ? 痛いのですけど」

「もう少し静かに、です」

「……すいませんでした」

 

 最もなお言葉なので謝罪。

 そして、背中を擦りつつ辺りを見回す。

 薄暗く、人の気配すら感じられない。

 それ以前に――埃が舞う量に違和感を覚える。

 すぐに足で軽く床を撫でる。

 埃の積もる量から、1ヵ月以上前から使用されていないことが判った。

 ドアノブといい、埃といい、不安を煽らせる事が多い。

 そして、通路の奥から、何かの金属音が微かに聞こえ、何かが壁と天井と床を使って通過していく感じがあった。

 が、結論がすぐ見えた。

 ハッキリ言って、血の気が引くのを全身で感じ取れた。

 それほど集中できたのだなと、内心感心するがそれ所ではない。

 

「リイン、ゴスペル!」

 

 振り返ることなく、背後にいる2人に声をぶつける。

 

「……れ」

 

 聞き取れなかったので、首を傾げる3人。

 だが、すぐ3人とも顔を青ざめる。

 

「走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 振り返りながら叫ぶ時覇。

 彼の後ろ――通路の奥から、天井が崩れだしていた。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 4人仲良く全力疾走。

 走る。

 走る。

 走る、走る。

 時折、転がっているダンボールをジャンプ。

 蹴ればいいのだが、もし中身が入っていた場合、とんでもない事になる。

 だから、避けるか走る。

 ただそれだけ。

 そして――お約束の如く、Tの字の分かれ道。

 右へ行くか、左へ行くか。

 人生の別れ道の如し。

 結果――時覇とゴスペルは左へ。リインとギンガは右へ。

 お互い気がついて振り返るが――後の祭り。

 結局はぐれてしまうのであった。

 

「リイン――って、のぅわぁ!?」

「くそぉ、体が!」

 

 床が崩れ、そのまま再び地下へ落ちていく。

 

「時覇様! ――っ」

 

 瓦礫の雑音の中から、時覇の声を拾い上げたリインであったが、声を掛ける間も無く走る。

 今立ち止まれが、抱かかえている少女――ギンガごと瓦礫の下敷きとなる。

 巻き込んだ挙句の果てに、こんな所で死なすなどもってのほか。

 必ず外へ連れ出す事を誓うリインは、今だけギンガの事だけを考えて張り続けるのであった。

 

 

 

 

 

 瓦礫の破片が、ゴスペルの頭に当たる。

 

「生きているって、ホント素晴らしいな」

 

 頭が下で、足が上の体制になっているゴスペル。

 

「右に――同じ、くぅ!」

 

 目の前の瓦礫を退かしながら答える時覇。

 倒れた瓦礫は、砂煙ではなく水しぶきを上げる。

 

「……水道管もやられたのか?」

 

 その場にしゃがみ込み、水に触れる。

 どうやら、純粋な水だと判った。

 

「地下水か」

「何で……そんな事が判るのだ?」

 

 ゆっくりと体制を立て直しながら、体に響かないように立ち上がるゴスペル。

 

「人工的な水と、天然の水の差って奴だ」

 

 その言葉に首を傾げるゴスペルを見て苦笑する。

 

「よは、天然水か、水道水どちらかって意味だ。使用済みは、また別だが」

 

 補足説明を言いながら立ち上がり、天井を見上げる。

 登れる事は無いのだが、通路が塞がっていたら体力と時間の無駄になる。

 崩壊があった以上、この建物内で長居は無用。

 次の崩壊が起きる前に、外に近づかないといけない。

 

「ん? ――時覇! こっちに通路があるぞ!」

 

 その言葉に、顔を向けると――壁から通路が現れていた。

 どうやら隠し通路の類だろう。

 やはり、この研究所では何かが行われ、何かが起きた時に迅速に逃げられるようにしてあるのだろう。

 その真意を探るにも、崩壊し始めた建物は危険極まりないかつ、今は脱出が最優先。

 リインとも合流しなければならない。

 よって、ここは地元警察か、管理局が調査するだろう。

 出てくるモノは、何もないと思うが。

 この崩壊は、明らかに意図的なモノ。

 出来てから間もない建物が崩壊など、建築法違反にも限度があり過ぎる。

 しかし、何故起動兵器があったのかが気になるが、それは無事脱出してからゴスペルに聞けば良い。

 

「行けるか?」

 

 その言葉に、ゴスペルが見る。

 

「……大丈夫だと思うぞ。こういう奴は、案外丈夫に作るものだからな。ただ使用後は、簡単に崩れやすい構造設計となっているのがセオリーだが」

 

 壁を触りながら述べる。

 手を上げに当てる時覇。

 だが、すぐ答えは出た。

 

「行くぞ」

 

 その言葉に呆れている反面、嬉しそうな顔を浮かべつつ、後頭部を掻く。

 そして、時覇は先行していき、背中を見て――ため息を1つ。

 だが、そのため息は、完全な呆れのモノではなかった。

 少しの間だけ、この男に命を預けて見るか。

 

「了解、とき――いや、隊長さん」

 

 デバイスを抜き、構えながら言った。

 背後くらいは、守らせてもらう為に。

 

 

 

 

 

 一方――リインとギンガは、崩壊から何とか免れた。

 お互い――主にリインだが、肩で息をしながら、ゆっくりと歩いている。

 

「大丈夫、ですか?」

 

 心配の声を掛けるギンガ。

 しかし、リインは大丈夫と言わんばかりに、作り笑顔を向ける。

 そのまま、優しく手を引きながら前進する。

 リインの息は上がっていたが、徐々に普通に戻りつつある。

 それと同時に余裕が生まれ、注意深く周りを見回す。

 床には埃が目立つ――連中の報告が正しければ、1ヵ月と14日前にここは破棄されている。

 あとは先の崩壊――機密保持か、時覇様の暗殺か。

 どちらにしても、まずはここを出ることが先決。

 結論が出て、慎重にかつ素早く進む。

 ギンガの歩幅に合わせつつ、かつ少しばかり急かす様に進む。

 ギンガもギンガで、雰囲気を読み取り、なるべくリインに合わせる。

 そして、通路を少しばかりさ迷っていたら、大広間みたいな場所に出た。

 辺りを見回したが――どうやら玄関口の大広間だと悟る。

 天井は吹き抜けで、シャンデリアみたいなモノがぶら下がっている。

 地面に敷かれた絨毯(じゅうたん)は、埃で白くなりつつあった。

 埃塗れの絨毯を踏みしめながら、大広間の中央辺りまで出る。

 

「あ、出入り口!」

 

 出入り口が見えた。

 喜ぶ2人であったが、ギンガは肝心な事に気がつく。

 今更だが、誰1人とも会っていない。

 崩壊があったのだ。警報の1つや2つ鳴っていても可笑しくは無い。

 だが、それすら鳴っていない。

 

「誰も……いませんね」

 

 ギンガは率直な感想を言うが、リインは事前に情報を得ていたので何とも思わなかったが。

 2人――リインの指示で壁側により、身を隠すような形で壁際から出入り口に進んでいく。

 そして、真正面か出ようと考えるが、あえて却下。

 別の場所はないかと振り返ると、業務員が使う部屋の入り口があった。

 ドアの前まで歩き、ドアノブを回す。

 案の定というべきか、破棄されたにも関わらず、鍵が掛かっていた。

 最後まで職務を、キチンと全うして行った人間がいたのだろう。

 せめて鍵くらい開けておけと、内心愚痴る。

 仕方ないので拳を握り、構える。

 

「打ち砕け――シュヴァルツェ・ヴィルクング!」

 

 魔力の鉄拳が、容赦なくドアノブに打ち込められる。

 だが、勢い余ってドアと周りの壁を粉砕してしまう。

 さすがのギンガも驚くが、同時に凄いと感じる。

 しかし、それを他所にリインは唖然とし、額に汗を垂らす。

 ドアノブだけを吹き飛ばすつもりだったのだが、ドアと周りの壁を吹き飛ばしてしまった。

 これなら、最初から正面の出入り口のほうが早い。

 と、考えるがやってしまった事には変わりなく。

 少し凹みながら、部屋に入る。

 が、異臭があり、素早く鼻と口を押さえる。

 ギンガも両手で押さえる。

 

(これは……精液の臭い? ……下種どもが)

 

 異臭の原因が判り、内心で吐き捨てる。

 ギンガにも悪影響が出ると考え、問答無用で壁にシュヴァルツェ・ヴィルクングを叩き込む。

 だが、壁は浅いクレータを作るだけ。

 どうやら、対魔法防壁材か何かが使われているのかもしれない。

 そんな事など、どうでもいい。

 今はただ、目の前にある壁を打ち貫くだけ。

 それから2発目が放たれる。

 僅かに深くなったが、精々1、2センチ程度。

 3発目を打ち込むが、結果は同じ。

 一刻も早く部屋から出たいが、出られる場所は無い。

 まさに密室。

 そして、誰もが思うが――だったら、正面出入り口から出ればいい。

 しかし、リイン自身がそれを許さない。

 嫌だった――自分が無力だった事が。

 嫌だった――奴隷のように扱われた事が。

 嫌だった――欲望を吐き捨てるための処理道具だった事に。

 嫌だった――喉や鼻、体に纏わり付くような精液の臭いが。

 何より嫌だった――あの男の思惑通りに、事が運ばれていく事が。

 だから抗う。

 それと同時に、あの男の思想を、計画を崩壊させる。

 それが出来る可能性を秘めた存在――桐嶋時覇を守り抜く事。

 あの男は、時覇に何かを求めているが、知ったことではない。

 今は『戒め』が起こらない――いや、発動させることが出来ない。

 詳しい原理は解明できなかったが、一定条件を満たさない限り、発動不可。

 その1つが、男の側に私がいなくてはならない事。

 そう思考しつつ、壁を殴り続けている。

 溜まっていたモノを、全てを吐き出すように。

 

「打ち砕け――シュヴァルツェェェェェェェェェェェェ・ヴィルクングゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 

 腕の振りと重心軸のシフトし、全体重を前進に。

 かつ自然体で、何も考えずにただ一点を見つけ――魔力の鉄拳を打ち込む。

 

 

 

 

 

 天井から滴る水。

 それが落ちて、水溜りへ。

 水溜りに落ちた時の音が波紋となり、通路全体に響き渡る。

 一応左右の壁の足元の高さ位に、光が放たれている。

 そんな通路を、2人の男が歩いていた。

 

「見事に漏れているな」

 

 天井から落ちた雫を、頭に受けながらゴスペルが呟く。

 その言葉に反応して、壁を触り、軽くノックする。

 

「腐食は始まっている、となると……特定の維持条件が揃わなくなると、崩れるようになっている。そうなる、先の崩壊もこれが原因だな」

 

 これを開発・製造するだけで、どれだけ予算がかかったか想像すると――経理の所がだいぶ荒れると結論図ける。

 実際に、似たようなモノを開発するために、経理部に必要な額に少しだけ上乗せした金額を提示したら――半殺しの目にあった記憶がある。

 それ以来、経理部の人たちの目が、時折痛かった。

 そんな事を思い浮かべるやいなや、半殺しにした相手の顔を思い出す。

 

「ゴスペル、1つ聞いていいか?」

「何だ?」

 

 警戒しつつ、返事を返す。

 

「今の経理部のリーダーは誰だ?」

「経理部…………アラン・ラドラグスァーとかいう野郎だったな」

「……そうか」

「それがどうした?」

「何でも無い」

 

 寂びそうに、時覇は答えた。

 ゴスペルは、その会話で何かを察したのか、何も聞かないことにした。

 

「お、あれは……」

 

 そう言いながら、立ち止まる時覇。

 それに続いてゴスペルも止まりつつ、そのまま奥を見ると――物資搬送用らしきエレベーターがあった。

 顔を見合わせ、互いに頷く。

 そして、そのままエレベーターに乗り込み、パネルを起動させる。

 まだラインが生きていたらしく、起動シークエンスが始まる。

 それから、床が上がる。

 どうやらワイヤーで制御させているのではなく、左右の窪み――凹凸に歯車が噛み合って制御されているらしい。

 不確定なのは、制御が床の下で行われているので、何がどうなっているのか想像するしかない。

 それと、天井――隔壁がどんどん開放されていく。

 こちらは、エレベーターが一定の距離まで行くと、反応する仕組みになっているのだろう。

 最後の隔壁が開閉されると同時に、振動が起こる。

 

「なっ!?」

「ぅおぁ!?」

 

 振動によろける2人。

 同時に安全装置が働いたのか、エレベーターが止まる。

 振動が収まると、2人同時に天井を見る。

 そして、顔を見合わせ、ゴスペルは何か胃痛そうな顔。

 時覇は、諦めろと目を瞑り、首を横に振る。

 それを見て、ため息を吐くゴスペルであるが、仕方がないと腹を括り、横の凹凸を梯子の要領で登り始める。

 同じく時覇も、対にある凹凸を登る。

 で、先にでは地上に出たのは、時覇。

 ゴスペルは、一応3分の2は消化済み。

 それで、地上に出て見たものは――リインとギンガが微笑み合い、指きりをしている姿だった。

 

 

 

 

 

 リインの魔力の鉄拳が――壁を貫く。

 だが、同時にこの一体に小さな振動を生み出した。

 どうやら、魔力を高め、より威力の高い攻撃を行った結果、追加効果あったようだ。

 ともかく、ウップを晴らし、確実に脱出できる穴を作った。

 リインはギンガを見ると、手招きでこちらへ来させる。

 来たら、ギンガを抱えて先に外へ出してから、続いてリインも出る。

 穴からは、精液の異臭が漂うので、ある程度離れる。

 そこで、不意にギンガが声を出す。

 

「あ、あの!」

 

 それに反応し足を止め、しゃがんで向き合うリイン。

 

「どうしたの?」

 

 声が掛かると、押し留まってしまうギンガ。

 しかし、リインは微笑みながら、ギンガの言葉を待った。

 そして、ギンガは恐る恐る口を開ける。

 

「あ、ありがとうございました」

 

 そう言って、その場から1歩下がり、頭を下げる。

 それを見て、何と無くだが頭を撫でる。

 

「無事だったか、リイン」

 

 背後から声が掛かり、慌てて振り返ると、守るべき者が立っていた。

 さらに後方には、正方形の穴が開いており、そこからゴスペルが出てきていた。

 

「ご無事だったのですね」

 

 安心した顔を浮かべつつ、そっと立ち上がる。

 手を離す際、2度ほど柔らかくポン、ポンとする。

 

「何とか、な――それより」

 

 リインはそこの言葉を察して、返事を返す。

 

「はい。魔力は温存しておきたかったのですが――」

「いや、これを使う」

 

 時覇は、リインが転移魔法の使用を宣言する前に、ある物を見せた。

 

「札……ですか?」

 

 そう、札である。

 古来より日本の文化の1つで、魔よけともされているモノ。

 ゲームや漫画になれば、式紙と呼ばれる擬似生命体を生み出す媒体として使われることもある。無論、非生命体も、である。

 さらに、それを使った封印など、多数の使用方法が存在する。

 ただ、これを使用するには『魔力』ではなく、『霊力』もしくは『妖力』が必要とされる。

 これらも、魔力と同じ人の潜在能力の1つであるが、性質がまったく違う。

 霊力は――言わば、普段の生活の中で見えない存在を見る為に、必要な力。

 大雑把に言えば、幽霊を見るためである。

 3歳になる前の育児なら、誰でも保有している可能性があるらしい。

 この世に生まれてから、まだ間も無く、故にあの世にまだ近い存在からだと考えられる。

 しかし、その力が衰えていく原因は――この世の知覚である。

 赤は赤、黄は黄、青は青と曖昧な知覚を無くしていく事が、霊力の低下、および使用不可になる。

 だからと言って、完全に使用不可なった訳ではない。ただ単に見る事ができなくなった、だけの話である。

 次に、妖力は――妖怪と呼ばれる存在の力。もしくは、源とされている。

 妖怪は、人には理解できない奇怪で異常な現象を象徴する超自然的存在。あるいは不可思議な能力を発揮する日本の民間伝承上の非日常的存在のこと。妖(あやかし)または物の怪(もののけ)とも呼ばれる力、もしくは源――それが妖力とされている。

 そして、その力――霊力と妖力を最大限に発させることができるとされるモノが、札である。

 ちなみに、『札』にも種類があり、木でできた細長い板、細長い紙、カードなど。

 今回の札は、細長い紙の物である。

 

「こいつはラギュナスにいた時に作ったモノなのだが……どこに飛ばされるのか変わらないシロモノなのだよ」

 

 つまり、欠陥品である。

 

「いますぐ使えるが……どうする?」

 

 手を顎に当てて考えるリイン。

 時覇の横から手が伸びて、札が持ってかれる。

 それに釣られて横を見ると、いつの間にゴスペルがいた。

 どうやら、札が珍しく、興味心身に眺めている。

 

「どこかに……というと、完全なランダムですか?」

「いや、どんなにランダムでも、人が住めて、かつ生命体がいる世界のどこか」

「なら、使いましょう」

 

 即答で結論付けるリイン。

 

「おいおい、待てよ」

 

 そこに、札を持ったままゴスペルが割り込んでくる。

 

「正気か、お前ら? こんな欠陥品を使うなんて」

 

 札を突きつけながら言う。

 そして、その札をリインが取り返す。

 

「正気です。このままでは、管理局に再拘束されます。しかも、脱獄ですので重罪は免れません。さらに、これ以上足止めを喰えば――」

 

 と、そこで言葉を止め、空を見上げる。

 時覇とゴスペルも釣られて見る。

 そして、ギンガがこう言った。

 

「航空魔導師の方々です!」

「どうしますか、ゴスペル・エンペラー?」

 

 そのまま視線を外さずに、問いかけるリイン。

 時覇も、どうするのだ? という、視線を投げかける。

 その視線に耐えられないのか、何処と無く震えている。

 その震えは、徐々にあからさまに成って行き――爆発する。

 

「わぁった! わぁったから! とっととやってくれ!」

 

 背を向けながら、その場に座り込むゴスペル。

 それを見て、時覇に札を差し出すリイン。

 札を受け取り、詠唱を始める。

 

「アス・フォル・リル・レイ・スェリアス・チョ・リムカ……」

 

 どこかの世界の言語を口ずさみ始める。

 それは、どこか虚ろで。

 

「シューオ・ティウ・アステゥノロヲ・カ・ルゼロ・シュクイア・ノミフォ……」

 

 それは、どこか孤高で。

 

「リンクソ・セリオクサ・セミィイ・ウリャ・リマンデォヴ――始動開始」

 

 これは、どこか気高かった。

 不意にギンガの事を思い出し、顔を向ける時覇。

 

「少女Aよ。転移に巻き込まれるから、離れていろ」

「ですから、それはやめてください! 私の名前はギンガ! ギンガ・ナカジマです!」

 

 顔を真っ赤にしながら、子どもらしく叫ぶギンガ。

 最後の最後まで、犯罪者のような名前扱いは、ごめんである。

 例えが悪いが、死んだ人間でもキチンと名前は出る。

 

「やっと名前を聞いたよ……強くなれよ」

 

 そう言って、微笑む時覇。

 体術か何かをやっているのが判っていたので、何と無く言葉を送る。

 それが、あの出来事を生み出す要因になったのは、まだ先の話である。

 

「巻き込んでしまってごめんなさい、ギンガ。縁があったら、どこかで会いましょう」

 

 リインも微笑みながら言う。

 それは、最初で最後の……。

 

「ギンガだったな……そろそろ発動するから、早く下がれよ」

 

 めんどぅくさそうに言うゴスペルだったが、何と無く声が嬉しそうだった。

 

「嬉しそうですね」

「ガキは嫌いじゃない。ああいう反応は、ガキらしくていい」

 

 リインの問いに、すんなり返すゴスペル。

 ロリコン発言とも取れるが、茶化している暇は無い。

 

「……はい!」

 

 返事を返して走り出す。

 航空魔導師の姿も、米粒から10センチくらいの大きさに見える。

 

≪こちらは、時空管理局航空45隊――≫

 

 声の高さを上げる魔法か、何かを使用しているだろうが、そんな事は聞く耳持たず。

 詠唱完了――ギンガは、安全圏までの離脱を確認。

 銃に例えるのならば、カードリッジを装填し、安全ロックを解除した状態。

 あとは、トリガーを引くいいだけである。

 すなわち――その使用術の名前が、発動キーとなる。

 

「リラグロンガ!!」

 

 リラグロンガ――ある次元世界の言語で『次元の渡り鳥』という意味である。

 一種の転移魔法だと考えれば良い。

 しかし、この言語を保有していた世界はすでに滅んでいる。

 滅んだ世界の名は、『コシュテゥヲラ』。

 世界観は、平安時代がベースで、所々東洋のファンタジーが混じっている。

 その世界が滅んだ原因は、質量保有限界という概念。質量保有限界とは、その世界が保有できる限界指数を指す。

 大陸、山の数、霊の数、妖の数、水の総数量、人の数など、様々な存在に当てはまる。

 しかし、質量保有限界は常に変化し、ゆっくりと少しずつ限界指数を増やしたり、減らしたりしていた。

 だが、ある日事件が起きた。他の次元世界からの進入である。

 これにより、質量保有限界に異常が発生する。今までは中で行われていた存在が、外部からの存在介入により、限界指数へ近くなっていった。

 世界は調律を行った。

 自らを破壊しないために。しかし、結局無駄に終わってしまう。

 中の人間が、外部の存在を受け入れてしまったからである。

 外部から来た存在が、次々とモノ入れていったからである。玩具から兵器まで、ありとあらゆるモノが入っては出て行った。

 この世界は、貿易に適した――言わば、市場みたいな存在であった。

 あとは先ほど言ったとおり、質量保有限界があっさり来て滅びを迎えた。

 それは、世界を開港して――僅か、5年の出来事である。

 

 

 

 

 

 3人は光の柱に包まれ、消えていった。

 ギンガは、それをしっかり見ていた。

 

「そこの君! 大丈夫か!」

 

 その声にギンガが振り返ると、航空魔導師がゆっくりと降下してきていた。

 着地地点に駆け寄り、敬礼をする。

 

「はい! ご迷惑お掛けしました!」

 

 その行動に驚くが、自分たちと同じ職だと悟る。

 

「そうか、名前と階級を」

 

 空間モニターを展開し、地上本部にアクセスする。

 

「ギンガ・ナカジマ、訓練生であります」

「ギンガ・ナカジマ……訓練生――ナカジマ? ゲンヤ・ナカジマ三佐の……」

「はい、父であります」

 

 その言葉に、納得の表情を浮かべる。

 そして、転送で消えていった者たちがいた場所を見る。

 他の航空魔導師が、簡易調査を行い、また数名は建物付近へ行く。

 

「あ、大至急建物に入らないように連絡を」

 

 釣られて見ていたギンガが、慌てて伝える。

 

「建物の倒壊が始まっています。下手に入れば死人が出ます」

「わっ、判った――建物にいる奴ら、大至急退避しろ……ああ、詳しくは――」

 

 と、念話であるが、声を出して伝えている。

 塀ごしから、車のエンジン音などが聞こえてくる。

 どうやら、陸戦魔導師が到着したようである。

 案の定、正門から地上本部の局員の服を着た人たちが、なだれ込んでくる。

 その中に――知っている顔が目に入る。

 

「お父さん!」

 

 そう言って、ゲンヤの元へ駆けて行くギンガだった。

 新暦75に起きる事件に、大きく関わることになる1人。

 シューティングアーツを学ぶは、母への憧れだった。それは、今も名を色あせることは無く。

 ただ、憧れる者が増えただけ。

 そう、ただ増えてだけである。

 

 

 

 

 

 荒れ果てた街を覆うように、生い茂る森。

 そこに時覇、リイン、ゴスペルの3人が転移していた。

 

「だから俺は、正気かと聞いたのだ」

「……ココまでとは、想像できていませんでした」

「……街が近くにあるといいな」

 

 三者三通りの答えかつ、無事に乗り越えた証。

 全員が逆さまの宙吊り状態を除いては。

 しかも、蔓に絡まってのオマケ付き。

 

「ゴスペル、ナイフか何か無いか?」

 

 時覇が訪ねる。

 一応持っているが、

 

「あるが……」

 

 手を腰に回そうと頑張るものの、上手く取り出せずにいた。

 

「――くそぉ、絡まって取れん」

「リイン」

 

 最後の希望の名を上げる。

 

「すいません、魔力が上手く結合できないのです。加えて、少々魔力を使いすぎたみたいです」

 

 それもそのはず、蔓が胸や太ももなどに食い込んでいるからである。

 まさにエロティクであるが、時覇は天を煽った。

 完全な手詰まりである。が、ここか、賭けに出るしか方法は無い。

 蔓に氣を通し、根元辺りに膨張させる様に圧力を加える。

 根元辺りにある蔓は、徐々に膨張し――バン! という音を上げながら破裂した。

 が、予想通り爆発が大きく、他の2人を蔓ごと吹き飛ばす。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 ドッシーン! と、音と砂煙を上げる。

 砂煙は徐々に晴れ、時覇に2つの視線が向けられる。

 

『…………』

「…………ごめんなさい」

 

 とりあえず、謝罪した。

 そして、渋々納得したような顔をして立ち上がる2人と、恐縮しきって立ちがある男。

 

「 あ 」

 

 不意にリインが声を上げたので、視線の先に振り返る。

 そこに、街があった。

 その街を見て、ここはどこの次元世界なのは判った時覇。

 いや、判ってしまったと言うべきが、適切だろうか。

 できれば、ここには来たくなった次元世界の1つ――アリアグライアド。

 もっとも治安の悪い次元世界である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第四話:果ては、悪しき地にて

 

 

END

 

 

 

次回予告

 

アリアグライアドへ着いた、時覇たち。

そこで、成り行きで助けた少女の伝で宿に止まる。

が、それはリインを愛玩具にする為の罠だった。

さすがの時覇も本気で怒り――。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第五話:氣孔と魔法

 

 

 

愛玩具だと? ……なら、殺されても文句は言えまい――覚悟しろ、下種ども!





あとがき
 ついに完成! いや、長い間お待たせしました。
 次は、さらにお待たせする事になりますが。
 では、次もお楽しみに。

 霊力と妖力を調べ、自分なりに(過大)解釈により結論づけたモノです。
 実際のモノとは違う可能性があるので、鵜呑みにしないでください。
 で、妖怪の説明文は、こちら(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A6%96%E6%80%AA)から抜粋させて頂きました。






制作開始:2007/10/4~2007/10/31

打ち込み日:2007/10/31
公開日:2007/10/31

修正日:
変更日:2008/10/25


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第五話:氣孔と魔法

追って追われの果ては、寂れた街。
昔を思い出す――無力だった頃を。非力な子どもだった時を。
だが、今は違う。
あんな思いを作らなくて済む力を持っている。
だから、ふざけた野郎は慈悲も与える事もなく、すべてなぎ払う。


 

 

「アリアグライアド、か……1番厄介な場所に来たな」

 時覇は、手のひらで否定を押さえながら答える。

 それに釣られて、ゴスペルもため息を吐く。

 しかし、リインだけは、キョトンとしていた。

「あの、何か問題でも?」

『ある』

 リインの言葉に、2人は同時に答える。

「あのな、アリアグライアドって言えば……管理世界の中でも、もっとも治安の悪い世界なんだぞ」

 アリアグライアド。

 ミッドチルダから、さほど遠くない管理世界であるも、現在管理された世界の中で、1位2位を争うほど治安が悪いとされている。

 しかし、時空管理局はこの世界に介入することは無かった。

 理由は様々ではあるものの、主なのが他次元世界に干渉及び介入していない事である。

 犯罪が起きるとしても、全てアリアグライアド内で行われている。

 他次元世界で行う事が出来るにも関わらずに、である。

 一応、この世界にもルールは存在するも、97管理外世界地球と法律を照らし合わせるも、呆れて言葉が無いほど酷い内容である。

 簡単に言えば、このアリアグライアド以外の世界には不干渉。それさえ守れば、このアリアグライアド内でなら、何でもしても良い。

 たったそれだけである。

 さすがに奴隷制度は無いものの、犯罪のオンパレード。

 力ある者がまかり通り、力なき者は泣き寝入りするしかない。

 そんな世界である。

「…………」

 その説明に、さすがのリインも絶句した。

「ともかく、リインは本気で気をつけろよ。確実に狙われるから」

 時覇の言葉に、ゴスペルがうんうんと頷く。

 しかし、首を傾げるリイン。

 そして、一言。

「何故、私なのですか?」

 2人は地面に倒れ込んだ。

 しかも、盛大に砂煙を上げながら。

(自覚して欲しい)

 と、念話でぼやく時覇。

(それは酷だろ)

 などと、ゴスペルは返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話:氣孔と魔法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街を目指して、森の中をひたすら歩き続ける3人。

 時に、足を取られて倒れる時覇。

 時に、足を滑られて、リインと時覇を巻き込んでの大転倒。

 時に、リインが枝にスカートを引っ掛けて、破いてしまうなどのアクシデントが続いていた。

 段々と疲労が浮き出てきた証拠なのか、普段ならあり得ないことばかりである。

 平らな道はあるものの、見晴らしが良く、この世界では襲ってくださいと言っているようなモノ。

 体調が完璧ならば、堂々と通って良いのだが、今の状況では負けるのは必然に近い。

 仕方無しに、道無き道を進んでいるのである。

 それから、一吹きの風。

 

「――ゴスペル!!」

 

 時覇は、森の奥へ飛び出す。

 

「時覇様!?」

 

 時覇とゴスペルの行動に、困惑するリイン。

 そんな事を気にする事も無く、奥へ進んでいく。

 先には、少し空けた場所があり、数人の男が、ボロボロの服を纏った女の子を取り押さえていた。

 

「――誰――ごふぁ!?」

 

 出るや否や、問答無用で飛び蹴りを咬まして、後方に吹き飛ばす。

 他の男共も、声を上げる間も無く、殴り、蹴り飛ばされる。

 その時間――僅か10秒。

 あり得ない速さで、強姦を行おうとしていた、体格の良い男共を蹴散らした。

 

「大丈夫か?」

 

 ある程度、距離を離し、しゃがんで目線を合わせる。

 ボロボロの服を纏った、10歳くらいの女の子は、体を震わせ涙目を浮かべながら、首を縦に振った。

 

「名前は?」

 

 普通にかつ、なるべく優しい声で問いかける時覇。

 女の子は黙ったままだったが、少し経ってからポツリと呟くように言った。

 

「……あ、アリサ……アリサ・ローウェン……」

「アリサ・ローウェンか……っと、とにかく、これを羽織れ」

 

 と、未完成かつ試作段階の空間倉庫から、一回り大き目の薄い毛布を取り出す。

 アリサの体に合うように、大きさを畳んで調節し、体に巻きつけてあげる。

 それから、念話で状況を説明し、こちらに来てもらうことにした。

 連れて戻ろうと思ったが、先ほど強姦されそうになったばかりで、見知らぬ男と2人きりは、さすがに酷と言えよう。

 ついでに、なるべくアリサの視界に入らないようにかつ、彼女が見える茂みへ行き、ボロボロの患者服から私服へ着替える。

 これも、空間倉庫から取り出したものであるが、少しきつかった。

 かれこれ1年前のサイズの服だから、当たり前と言えば、当たり前である。

 

「来たぜ」

「どうなされましたか?」

 

 と、草むらを掻き分けながら、2人が到着した。

 

「はぁ!? まさか、ろ――」

「今すぐ死ぬか?」

 

 ゴスペルの発言に、素早く首筋に氣を纏った手刀を突きつける。

 これならば、相手の首をナイフの如く、裂くことが出来る。

 

「スイマセンデシタ」

 

 片言に謝罪するゴスペル。

 それを見て呆れるリインだったが、アリサに歩み寄る。

 

「立てる?」

 

 優しく声を掛ける。

 

「…………うん」

 

 その言葉に微笑を浮かべながら、アリサの手を取り、ゆっくりと立ち上がる。

 

「家はどこ?」

「無い」

 

 即答された言葉に、リインは固まった。

 残り2人――時覇は、納得しつつも困惑した顔を浮かべに、ゴスペルは怒りのオーラが吹き出ている。

 こんな事になる子どもは、この世界では普通である。

 むしろ、家がある子どもは、この世界の支配者格の人間たちの子どもくらいである。

 稀にある家庭もあるが、最終的には手放すのがパターン化されている。

 自分たちが生きるには、他者を確実に蹴り落としていかなければ、生き残れない世界。

 力ある者が生き、弱き者は死しかなく。

 弱き者が生きるには、それより弱い者――女、子ども、ケガ人や病人がターゲットになる。

 女は愛玩具として生きるか体を売るか、子ども――男の子は労働力へ。ケガ人や病人は町外れか、廃墟などで野たれ死ぬ。

 ある意味、たちの悪い版ともいえる自然の摂理が成り立っているのである。

 が、その状況が打破される事無く、今まで続いてきたのも、また歴史であり伝統でもある。

 美しき。でなく、悪しきであるが。

 

「……ゴスペル」

「何だ?」

 

 時覇の問いに、ドスの聞いた声で返すゴスペル。

 

「この一件のケリがついたら――」

「断る」

 

 即答で切り捨てる。

 

「お前が養え。俺は、一人身がいい」

「悪かった」

 

 そこで会話は終わるも、それを不思議そうに眺めていたリインとアリサは、首を傾げた。

 その後、薬草などを見つけ、ケガの治療を行い、簡単な休息をする。

 そして、戻りたくないと言うアリサを説得し、今1つ納得いかない表情を浮かべながら、街へ移動した。

 そこで早速歓迎を受ける事になった。

 

『うらぁあああああああ!!』

 

 街に入った瞬間、息が合ったチンピラが4人ほど、ほぼ同時に襲い掛かってきたのである。

 しかも、街の中と外から2人ずつ、挟み撃ちの状態で。

 

「ゴスペル」

「後ろヨロ」

 

 それだけ言って、前に走り出すゴスペル。

 

「じゃあ、後ろを片付けます――かぁ!!」

 

 そう言いながら、時覇はバックステップを踏み――回し蹴りで、1人蹴り飛ばす。

 

「がぁはっ!?」

 

 頬に貰い、横に2回転ほどして、地面に転がる。

 そして、そのままステップを踏み、もう1人の顎を蹴り上げる。

 蹴り上げた足を素早く戻して、続いて腹に蹴りの一撃。

 チンピラは後方に吹き飛び、後ろに何回転し、大の字になって地面に沈む。

 ゴスペルも、ある程度魔力も回復し、動けるようになっているも、本格的な戦闘は駄目である。

 が、その辺の雑魚のチンピラ程度の相手なら、多少は問題ない。

 時覇は振り向くと、拳をバッと払っている姿が目に入る。

 血みたいなものが、振り払う拳から吹き飛ぶが、よく見ると容器みたいなモノが握られている。

 カッコつけに見えなくないが、遠巻きで見ている奴らには、丁度良い脅しとなる。

 そして、僅かに震えるアリサの頭に手を置き、優しく撫でてやる。

 

「ゴスペル、ちょい来て」

 

 と、言いながら、手招きする。

 そして、リインとアリサから少しだけ離れて、ゴスペルの耳元で囁く。

 

「周りの雑魚はともかく、アリサが怯えてるから」

 

 その言葉に、アリサを見る。

 すると、体をビクつかせ、リインのスカートを握り締め、後ろに隠れる。

 

「フォロー頼む」

「判ってる」

 

 ゴスペルは、アリサから少し下がって距離を取る。

 時覇は、リインとアリサの元へ。

 さすがに、男1人は近くにいないと拙い。

 

「で、宿はどこら辺だ?」

 

 おでこ辺りに手を当て、ワザとらしく周囲を見渡す。

 

「…………あそこ」

 

 と、僅かに怯えつつも呆れ果てた顔で、左斜め前の建物に指を指すアリサ。

 その柱に、ベッドのマークが描かれた看板が出ている。

 

「どこのRPGだよ」

 

 在り来り過ぎる看板に突っ込みを入れつつ、4人は店の中に入っていく。

 中は酒場となっており、案の定、柄の悪い連中が屯っている。

 階段が見えるので、2階が寝床と判断する。

 時覇は気にせず、カウンターにいる親父に声を掛ける。

 

「寝泊りできるか?」

「――珍しいな……何人だ?」

 

 少し驚いた声で答える親父。

 どうやら、宿としての機能は殆どしていなかったのだろうと考える。

 

「4人だよ」

 

 と、親指で後ろにいる、3人を示す。

 

「別嬪と未来があるガキだな。売りモ――」

「それ以上言うな。首を跳ねるぞ?」

 

 親父の言葉を静止させるために、氣を纏わせた手刀を首に当てる。

 

「わ、悪かった。あとは――」

「1泊だけでいい。代金は?」

 

 そう言いつつ、手刀を首から離す。

 

「通貨は?」

 

 首を撫でながら、言う親父。

 

「これだが」

 

 入る前に、リインから受け取ったミッドチルダの通貨を見せる。

 

「それだと、2000だ」

「嘘だろ!?」

 

 ちなみに、ミッドチルダの通貨は、リアルにあるアメリカの通貨と同じような原理と考えた方が早い。

 つまり、日本円で100円は、アメリカで言う1ドルと考えられる。

 そして、親父が提示した2000に100をかければ、20万という額となる。

 その市場は、高級ホテル1人1泊の金額辺りになる。

 よってこの額は、あからさまなボッタクリである。

 

「いくらなんでも高すぎるだろ!?」

「ミッドの通貨は、この世界じゃ偽造がそれなりに出来るからな。仕方が無いのさ」

「ぬぁあぁ~……――!!」

 

 時覇は後頭部を掻くも、自分の国のお金を思い出し、懐から財布を取り出して紙幣を見せる。

 

「こいつはどうだ? 管理外世界の紙幣だ。5000までなら出せる」

 

 数字だけ言って、単位は言わない。

 ココが味噌である。

 上手くいけば、5000『円』で済むのだから。

 『万円』ではなく、『円』で。

 親父の喉から音が聞こえる。

 

「いいだろう、5000で」

 

 掛かった。

 最近のネット(2008年3月現在)で言う、いわゆる釣られクマという奴なのだろう。

 

「はい、5000『円』」

 

 親父の目の前に、1000円札が扇状に5枚並ぶ。

 親父が口元を引き攣らせるが、時覇は涼しい顔で述べる。

 

「確かに5000と入ったが、5000『万』と言っていないぞ」

 

 親父が無言で手を振る。

 すると、柄の悪い連中が、席やら床から立ち上がり、時覇とゴスペルたちに向かう。

 

「親父」

「何だ、糞ガキ? 今更命乞いか?」

「いや、こいつら全員締めたら、宿代タダな」

 

 その言葉に、柄の悪い連中から、殺気が湧き上がる。

 

「ふん、やれるものなら――」

 

 次々とデバイスやら、刃物やらを取り出す連中。

 時覇は拳に氣を再び纏わせ、ゴスペルは簡易デバイスを展開させる。

 

「やってみやがれ!!」

 

 それを合図に、柄の悪い連中が襲い掛かるも、時覇とゴスペルは、それに突っ込んで行く。

 

「氣神――」

 

 時覇は両拳を脇に持っていく。

 

「バーストモード――」

 

 その言葉に、デバイスが変形する。

 

「双龍・激!!」

「ドライブ!!」

 

 宿の酒場から、2つの光が迸り――同時に、爆音が鳴り響いた。

 後に、宿の親父は、キチンとした料金を設定した事を付け加えておく。

 

 

 

 

 

「いやはや、申し訳ありませんでした。お詫びに、宿を全てお貸しします」

 

 親父は、口元を引き攣らせ、手をすり合わせながら言う。

 それもその筈――屯っていた柄の悪い連中は、外で体から煙を上げながら気絶している。

 その光景は、さすがのリインとアリサも唖然として見る。

 外にいる雑魚も、時覇とゴスペル、リインにアリサの4人には、絶対に手を出さないと決まった。

 力の差が歴然と判る光景なのだから。

 

「ああ、判った――じゃ、上に行くか」

 

 その言葉に、リインとアリサはただ頷くしかなかった。

 で、各自の部屋に分かれる。

 一応、男と一緒に寝たほうが、安全面では良いと思うが、アリサの手前があるので三部屋に分かれる事となる。

 防犯の都合により、リインとアリサが真ん中の部屋、その左右に時覇とゴスペル。

 ちなみに右が時覇、左がゴスペルとなっている。右側が階段、左が窓側なので。

 階段からの進入は空を飛べない連中と踏んでいいが、飛ばない可能性もあるも、室内で決着をつければいい。

 窓からだと空を飛ぶので、射撃がメインのゴスペルの方が良いと考えた為である。

 手っ取り早く言えば、打ち落としが確実に出来る事になるからである。

 

「調子はどうだ?」

 

 時覇は、カードをシャッフルしながら尋ねる。そして、右手前に置く。

 

「ぼちぼちだ。寝れば、7、8割回復するはずだ」

 

 ゴスペルもまた、シャッフルして右手前に置いた山札を、上から5枚取る。

 そして、互いに宣言する。

 

『デュエ――』

 

 その瞬間、扉が開け放たれる。

 

「いい加減に寝ろ!!」

 

 アリサからの一言。

 ちなみに今は、深夜0時を回った所。

 時覇とゴスペルなら、アリサの言葉を一刀両断できるが、言えない。

 小さい鬼は怖くは無いが、後方にいる美しき鬼が怖かった。

 

『はい』

 

 どうやら、掛け声が五月蝿かったらしい。

 覇気に怯えながら、2人は仕方なく部屋に戻った。

 で、就寝。

 外は満月が淡く光るも、街は不気味なほど静かと為る。

 風に吹かれ、少し錆びた缶が、音を奏でながら転がる。

 だが、その音は……余りにも聞こえ過ぎる。

 魔力反応。

 それに感づいて、部屋を飛び出す時覇。

 少しだけ遅れて、デバイスを手にしたゴスペルが出てくる。

 時覇は、ドアノブに手を掛けるが動かない。

 ガチャガチャと鳴るが、開けることが出来ない。

 そして、肩に氣を纏わせ、ショルダーアタックを繰り出すが――扉に弾かれる。

 何度も繰り替えるが、結果は同じ。

 

「どけ!!」

 

 その言葉に時覇は退くと同時に、扉に魔力弾が叩き込まれる。

 が、打ち抜かれる事無く、相殺されてしまう。

 

「ゴスペル、外から頼む!」

「判った!」

 

 すぐさまゴスペルは階段を駆け下りる。

 時覇も、降りて行くのを少しだけ見て、扉に向かってショルダーアタックをする。

 

 

 

 

 

「静か過ぎるな……」

 

 そう呟きながら、テーブルに置かれ、月明かりに照らされたデバイスを眺める。

 10年前に貰った、デバイスのAI。

 貰った当初は、壊れているのではないかと言うくらい、何も喋らなかった。

 AI自体は完成し、デバイスに組み込まなくても、そのまま会話することができる。

 が、何も喋らなかったので、倉庫の奥に放置。

 それから2年後――裏社会にいた。

 夢だった管理局員となり、仕事をこなしていたが、ある事件の失敗を全てゴスペルに背負わせ、管理局を辞めさせられた。

 特別なミスをした訳でも、仲間内の評判が悪かった訳でもない。

 ただ、上司に疎まれていた。昇進の早さと人望に。

 所属していた部隊の上司は、出世命だった。

 ある日の任務、その上司に出世チャンスが恵んできた。

 任務内容は、ある有力者の護衛。成功すれば、間違えなく昇進だった。

 だが、その昇進は、ゴスペルの手に渡ってしまう。

 そして、上司には、無能という烙印が押された。

 その上司の出世チャンスは、ほぼ来ないと言って良かった。

 そして、2年後の管理局を追われることとなる運命の日――ゴスペル以外の武装局員が死亡。

 原因は明らかな、上司の判断ミス。

 しかし、その現場を知っているのは、上司とゴスペルのみ。

 上司はすぐさま、上層部に偽装した報告書やデータを提出。その時、ゴスペルが入れば、状況が変わっていたのだろう。

 だが、ゴスペルのデバイスが壊されていた為、無罪を主張する証拠が無い。

 よって、上層部はこれまでの功績を差し控え、ゴスペルを解雇処分に留めた。

 裏を返せば、功績が無ければ犯罪者扱いとなり、留置所へ送られていた事を意味する。

 それからゴスペルは、金と大切な品以外のモノを全て引き払い、裏社会へ転がり込んだ。

 その際、新たにデバイスを購入しようと考えたが、オーダーメイドの良いかと思い、思い切って今のデバイス――銃型デバイスにした。

 ちなみに、銃型デバイス――ストライククラッシャーは、前回の戦いでお釈迦となっている。

 それから1年後に、組織ラギュナスに入る。

 管理局員だった時にも噂はあった。色んな噂が。そして、裏社会でも。

 ただ、噂の内容が180度違っていた、と、言うよりも……斜め上を行った。

 何らかの技能が特化していなければ入れない組織。ただし、トイレ掃除や修繕作業に特化した特技でも入れる――オタク知識でも入れるほど。

 ここ最近は動きが無かったが、パン屋を始めたらしい。首都クラナガンのど真ん中に。

 など、訳の判らん噂が飛び交っていたが、いくつか本当だったことが判明。

 よくよく思えば、ラギュナスの経営店舗を使っていたことを思い出す。

 ともかく、銃型デバイスを使っていると言うことで、スカウトされた。

 一度、本当にミスをして、仲間を大怪我させた事があるが、特にお咎めは無かった。

 逆に、大怪我された仲間からは、色々要求はされたが。

 色んな出来事があったが、管理局員の時よりも、充実した日々だった。

 ただ、告白して振られ、ラギュナスから離れる際、5年前に貰ったAIを使った仕込みデバイスを受け取った。

 奥歯に紛れ込ませ、緊急時に使用しろと――いわゆる、餞別である。

 それから、仕込みデバイスを使うほどの緊急に見舞われる事無く、時は過ぎていった。

 そして、半年前――再びラギュナスへ戻る事になった。

 

<きっと良いことがあるさ>

 

 不意にデバイスから声が上がる。

 

「だったら、話し相手になってくれ」

 

 沈黙。

 

「ったく、都合のいい時にしか、喋らないんだよな……お前」

 

 左足を懐に縦に引き寄せ、座っている椅子の上に置く。

 そして、その左足の膝に顔を乗せる。

 魔力。

 

「!?」

 

 ゴスペルは、咄嗟にデバイスを掴み、部屋を出る。

 そこには、時覇の全体像が写る――あちらの方が、一足早かったようだ。

 時覇が、ドアノブに手を掛けも、ガチャガチャとしか鳴らず、開けることが出来ないらしい。

 そして、ショルダーアタックを繰り出すが――扉に弾かれる。

 何度も繰り替えるが、結果は同じ。

 

「どけ!!」

 

 その言葉に時覇は退くと同時に、無造作に構えて扉に魔力弾を放つ。

 が、打ち抜かれる事無く、相殺されてしまった。

 

「ゴスペル、外から頼む!」

 

 その言葉の一瞬で理解したゴスペル。

 

「判った!」

 

 すぐさま階段を駆け下りる。

 そして、暗い店内を駆け向け――途中でぶつかった椅子やテーブルは吹き飛ばして――出入り口の扉を蹴破り、外に出る。

 上を見上げると、リインとアリサを抱えた魔導師が1人に、それをサポートする魔導師が5人。

 計6人だが、やる事は変わり無い。

 

「ブラストシュート!!」

<ロックオン――ブラストシュート>

 

 ゴスペルのハンドガン型デバイスの銃口から、直径30センチの魔力砲撃が放たれる。

 だが、一呼吸置いてからの発射だった為、全員が気づいて回避した。

 ただし、1人ほど左腕に直撃して、使い物になら無くなった。回復魔法を掛ければ直るも、神経にもダメージが行く様にしたので、外が直っても内が直らなければ使い物にならない。

 

「がぁ――!?」

「ちっ――そいつらを!!」

 

 右腕をやられた魔導師を、他の魔導師が支え、リインとアリサを抱えた魔導師に指示を出す。

 

「…………」

 

 2人を抱えている魔導師は軽く肯き、どこかへ飛び去ろうとする。

 それを止めようとデバイスを向けるが、残りの3人の攻撃が飛び、バックステップして回避する。

 が、リインとアリサのいた部屋の窓から、扉が飛び出して、偶々いた支え合う魔導師たちに直撃。

 そうやら、インテリジェントタイプではなく、ストレージタイプだったので、防御が間に合わなかったのだろう。

 ただし、インテリジェントタイプになれば、話はまた変わっていただろうが。ともかく、2名撃破する。

 それと同時に、壊れた窓から時覇が飛び出してきた。

 

「氣神・餓鬼来王(きしん・がきらいおう)!!」

 

 時覇の背後から、ごつい顔と体をした男が現れ、2人を抱えた魔導師に襲い掛かる。

 しかし、2人を抱えた魔導師は、慌てる事無く呟く。

 

「――ゴールド・シェルド」

<スパイラス・シールド>

 

 主の問いに答えるデバイス。

 ごつい顔と体をした男――餓鬼来王はそのまま殴り掛かるも、金色の螺旋の盾に阻まれる。

 中心に吸い込まれるように巻かれた渦の盾。そのまま、腕は渦に巻き込まれ、吸い込まれるように消滅した。

 

「ちっ――だが……」

 

 時覇は、そのまま盾に向かって行く。

 体勢は受け身や回避ではなく――迎撃。

 

「2人は置いて行け!!」

 

 しかし、渦は中心から吐き出されるように、逆回転を始める。

 時覇は、それを気にも留める事無く、拳を打ち込む。

 結果、渦に絡まれ――弾き飛ばされる。

 が、追撃と言わんばかりに、無傷だった残り2人の魔導師が、砲撃魔法を放ってくる。

 それを、上手く体を捻らせて、僅かに服に掠りつつも、ギリギリのラインで回避を行う。

 そして――アクロバティクな動きを決めながら、他の屋根の上に着地する。ただ、着地の際、屋根に足の軌跡を抉ってしまったが。

 ともかく、すぐに上を向き、空で静止する3人の魔導師を睨む。

 ゴスペルも、デバイスを構えながら、狙いを定める。

 

「この2人についてだが……」

 

 不意に、2人を抱えた魔導師が声を出す。

 

「諦めろ」

「理由を言え!!」

 

 ゴスペルが、強い口調で言い放つ。

 むしろ、少しでも動けば打つという、明確な気迫が感じ取れる。

 時覇も、抉れた部分に埋まっている足を引き抜きつつも、3人に警戒を強める。

 

「雇い主が欲しがっているからだ」

「雇い主、だと?」

 

 2人を抱えた魔導師の言葉に、仲間の2人が驚き、念話で何か話し合っている。

 だが、そんな事は気にせずに、ゴスペルの問いを答える。

 

「ああ……美しいから、連れて来い――何時もの事さ」

 

 そう言いながら、2人を抱えた魔導師は、仲間の2人にそれぞれ1人ずつ渡す。

 

「愛玩具になるから、命の保障はされ――」

 

 その言葉に、空気が凍りついた。

 時覇も、動きを止めたままの状態から、なるべく動かないようにする。

 自分は敵ではない、と主張するように。

 

「……今」

 

 静寂を通り越し、静止した世界に声が隅々まで響く様な感覚に襲われる。

 風すら吹かぬ世界。

 

「今、何か言ったか?」

 

 さながら、抜刀する様な雰囲気を話しながら、ゴスペルが言う。

 リインとアリサを抱える魔導師2人は、現状を維持しつつ、呼吸を行うのがやっとの状態。

 

「もう一度だけだぞ……愛玩具にな――」

 

 砲撃音。

 それを裂き弾く音。

 下を見れば、ゴスペルがデバイスを上に向けている。

 上を見れば、円錐型のシールドを張る魔導師。

 

「愛玩具だと?」

 

 ゴスペルの握るデバイスのグリップの音が、ギュっと鳴る。

 

「……なら、殺されても文句は言えまい」

 

 ゆっくり顔を上げるゴスペル。

 

「――覚悟しろ、下種ども」

 

 ゴスペルの脳裏に、フラッシュバックが起きる。

 非力な子どもの時

 押さえつけられ、――されるのを目の当たりにした時。

 結果、どこかへ連れて行かれ、自分だけが訳の判らない場所に置いていかれた時。

 それと入れ替わるように、一緒に置いてかれた――の姿。

 愛玩具――所詮、欲望に駆られた男たちが、作り出した言葉であり、現実でもある。

 

「お前ら」

 

 その言葉に、リインとアリサを抱える魔導師2人は、体を硬直させる。

 しかし、それを気にすることも無く、言葉を続ける。

 

「先に戻っていろ。邪魔だ」

 

 その言葉に数秒後、思考が動き出し、焦りながら背を向けて飛び立つ。

 時覇は、すぐさま後を追うも、魔力で構成された無数の刃に阻まれる。

 が、両手に氣を纏い、最小の数だけ叩き落とし、間をすり抜ける。

 そして、屋根の上を飛び跳ねながら、そのまま後を追う。

 だが、その場に残っていた最後の魔導師が、時覇の背後に目掛けて――放たれる。

 が、それは届くことは無かった。

 魔力で構築された刃――先ほど時覇の進路妨害となったモノと同じ――が、時覇の背中に迫ると思いきや、一発の砲撃で全て打ち消される。

 

「お前の相手は――」

 

 その言葉に、下を向く魔導師。

 その眼下には、顔を上げ、目を合わせる様に見ている。

 

「この、俺だ」

 

 静止した世界に響くも、その声は怒りや憎しみが僅かに含まれるも、真っ直ぐかつ、堂々とした声である。

 その言葉に同意するように、待機状態を保ったデバイスを、ポケットから取り出す。

 形は、正方形のプレートの中心に穴が空いている様なモノ。

 例えるなら、手裏剣に近いモノなのかもしれない。

 

「名は?」

「ゴスペル、ゴスペル・エンペラー」

 

 そう答えつつ、デバイスのカードリッジを装填する。

 

「ガナ・リオ……ガナが家名で、リオが名だ」

 

 デバイスが展開され――大きな手裏剣が出現し、右腕に篭手が構成される。

 大きな手裏剣は、正方形が4枚あり、それを支えるのに交差した2本の先端に取り付いて、その中心に輪がある。

 右腕の篭手の甲の部分に、コアが取り付けられている。

 どうやら、大きな手裏剣と篭手がセットになっているデバイスの様だ。

 

「忍び、って奴か?」

「……知っているのか?」

 

 ゴスペルの言葉に、リオは少し驚いた様に答える。

 

「ああ、齧った程度なら、な……」

 

 右腕はデバイスを構え、左腕は腰に回す。

 

「銃王・ゴスペル!!」

 

 緩み始めた世界の空気を、今一度引き締め直す。

 

「鉄之忍(くろがねのしのび)・リオ――参る」

 

 再び静止した世界に、銃撃音と、鋼の音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

「……始まったか――とぉ!?」

 

 咄嗟に右足を無造作に上げると、先ほどまで右足があった場所に、魔力で構築された無数の針が突き刺さる。

 続いて、魔力の弾丸が体目掛けて飛んでくる。

 それを察し、上半身を回して回避する。

 そして、そのまま地面に降りる。

 屋根の上の移動は発見されやすく、的になりやすいので、建物の間を通る事を選んだ。

 街通りなら、建物が盾となり、目視できなくなる利点を兼ねている。が、逆に空への視界を遮り、移動速度を大幅に削られる不利な点が上げられるのだが。

「魔力の後を追っているが……くそ、直進できないのが痛い」

 目的地まで一直線に進みたいが、それをするには建物を飛び越えていかなければならない。

 同時に、自分の位置を教える事になるので、それは避けなければならない。

 だが、今ゴスペルが相手にしている魔導師の言葉通りなら、目的の場所は簡単に判る。

 この街を治める領主の館。

 質と見栄えの良い女は、全て領主の館に集められているだろう。

 

「少しの間だけ待っていろよ、何かされる前に助け出すからな」

 

 そう呟きながら、気配を消しながら静寂した街を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝

第二部

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第五話:氣孔と魔法

 

 

END

 

 

 

次回予告

 

連れ去らわれたリインとアリサ。

それを追う時覇。

激突するは――銃王と鉄之忍。

理不尽がまかり通る世界での戦いが吹き荒れる。

 

 

 

次回、何かに出逢う者たちの物語・外伝

魔法少女リリカルなのはTTFS

~二つの軌跡と確定した未来~

 

 

第六話:激突と潜入

 

 

 

闇に抱かれ、血の大地に沈むがいい――闇の公演界。





あとがき
 やっと、第六話が完成~。
 未公開のSSも書いていたので、進行率が遅いです。
 召喚少女のプレイ&自動車学校&就職活動を行っている所です。
 遅い更新率ですが、必ず完結させます。
 ホームページが閉鎖しても、コミケに出してでも完結させますので。

 あとは、当分の間、使い捨てキャラが続出する可能性が高いので、出したいオリキャラの投稿を募集しようかなと思っています。
 ただし、発案権はともかく、所有権などの法的な権利は、残念ながらこちらが全て頂くことが前提になりますが。(汗
 でないと、あとで色々問題が発生したら、対処が面倒なのが主な理由です。(号汗
 ではでは。






制作開始:2008/1/31~2008/3/14

打ち込み日:2008/3/14
公開日:2008/3/14

修正日:
変更日:2008/10/25


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魔法少女リリカルなのはGaG(ギャグ編)
第一後悔≪クリック・オン!(予告編)/デブ(本編)≫


注意:この話は、我がサイトのリリカルなのはSSと、ストライカーズ編(仮)のネタバレが含まれています。
   はっきりって、我がサイトの本編と矛盾が発生する可能性はきわめて高いので、ご注意ください。


追記:前書きに予告編で、本文に本編を記載したモノとなります




この日、俺は――機動六課の女性陣に殺されかけそうになっている。



























何故か、って?



























それは、ある昼下がり――気まぐれで溜まっていた有給を消化していた時だった。





























「へぇ~、新しい店ができたのだって?」
 俺――時覇は、何気にスバルに聞いた。
「うん。その店のケーキは、すぅごくおいしいのだよ! ティアも大絶賛だよ!」
 感心しながら、スバルの話に耳を傾けた。
 だが、これがあんな出来事を引き起こすとは……。
 あんな物、偶然でも作るんじゃなかった。



























 それから数日後のある昼下がり。
「最近思ったのだけどさ」
 と、皆が集まっているときに、俺は何気にこう言った。
「女性陣、太ったんじゃないの?」
 空気に、亀裂が入る音が聞こえてきた。
 その瞬間、ザフィーラと視察に来ていたクロノ、クロノに担がれたエリオ、たまたま遊びに来ていたユーノは、一目散に部屋から出て行った。
 その時俺は後悔した。
 俺も逃げればよかった。
 って、いうか、言うんじゃなかった。マジで。



























「このケーキから検出された成分の中に、極めて特殊なモノが発見された」
 その言葉に、女性陣から殺気と言う名の圧力が、俺に圧し掛かる。
 本当に、殺気だけで人が殺せる勢いだよ。
 それを見ていたクロノは、少し怯えた様に説明を続けた。
 その検出された成分の名は『シボウゾーカーン』安直かつ直球の名前である。
 だが、体内に入ると、本来なら排出されるはずの脂肪を体内に留めこませる性質がある。
 簡単に言えば、脂肪が付きやすい体質になる。
 俺がラギュナス時代に偶然開発した成分で、時空全土の女性を敵には回したくなかった。
 よって、速攻で処分した。
 が、どこぞの誰から拾ってきたのか、再利用する馬鹿が現れるとは。
 使った奴もそうだが、元を辿れば俺に行き当たるわけで……。



























「バルディシュ」
“イッ、イエッサー! ザンバーフォーム!”
 リボルバー式カートリッジシステムが、二回ほど唸りを上げる。
「レイジングハート」
“はっ、はい! エクセリオンモード!”
 こちらもコッキング式カートリッジシステムが、二発の弾丸を吐き出す。
 他にも、カートリッジシステムの鳴る音や、魔力の密度が散漫する。
 ハッキリ言って、怖いです。
 いくらなんでも、非殺傷設定された魔力攻撃でも、これだけくらえば死にます。
 ええ、死にますとも。
 何故か、って?
 その攻撃は全て――俺に向いているから。




























ラギュナスの長であり、技術開発に携わっていた俺――桐島時覇



























偶然できた産物『シボウゾーカーン』



























それを巡って起きた事件



























この人生で後悔した、数ある内の一つの出来事



























魔法少女リリカルなのはGaG



























第一後悔:デブ



























2007年



























公開予定!



























ホント……無暗に口にすることじゃないね。


























あとがき
 『gag』は文字通り、ギャグです。
 本気で書きます。
 ええ、書きますとも!
 ファンにはすいませんが、俺ロードを走ります!
 では。






制作開始:2007/4/27~2007/4/28

打ち込み日:2007/4/28
公開日:2007/4/28

修正日:2007/6/4+2007/7/20
変更日:2008/10/29


 

 あの戦いから四年後――新暦75年、機動六課が生まれた。

 なのは、フェイト、はやての三人が選んだ新人たちも加わり、事件へ立ち向かう日々。

 苦悩し、絶望しても、明日という光を目指し、立ち上がる新人たち。

 そんな日々の中での、ある日の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅰ――発生物語

魔法少女リリカルなのはGaG

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機動六課――ロストロギア、第一級捜索指定物・レリックの回収と、未確認機体の撃破が主な任務。

 四年前、ラギュナスが起こした事件――事実上抹消された事件である。

 ラギュナスとは――時空管理局の汚点であり、旧暦の遺産とも言われた、元管理局所属特殊部隊。

 主な目的は、時空管理局の裏のサポートと、法では裁ききれない罪人の処罰及び抹殺。

 しかし、時を重ねるごとに存在意義が変わり、すれ違いが発生し――対立してしまう。

 これにより、時空管理局・上層部は、ラギュナスをテロリスト集団として、世間に公表。

 それからラギュナスは、時空管理局と戦闘を繰り返すようなる。

 時には、次元世界を破壊。

 時には、時空管理局よりも早く救援活動を行う。

 時には、ロストロギアの回収・管理を行うなど、時空管理局と重なる部分もあった。

 目的は、時空管理局の打倒もしくは、無能だということを示すこと。

 そして、ラギュナスには、その目的に同意する者、己が利益のためなど、傘下に集まった。

 その中で、優れたものがリーダー、『長』と呼ばれるようになった。

 長の特別権限として、目的を自由に変更することができる。

 だが、一度目的を変更した場合、現長が何らかの理由で辞めない限り、決めた本人ですら変えることは許されない。

 最後に、長を自分の意思で辞める場合のみに限り、最後の特別権限を受けることができる。

 それは――ラギュナスの『永久の掟』というもの。

 ラギュナスが存在する限り、この永久の掟には、これから誕生する長ですら破る事は許されない。

 それと、自分自身の命が尽きるまでの間、前長として新長に対し、意見する事が許される。

 ただ、新長は全て前長に従う義務はないため、ほとんど意味の無い権限だと言える。

 時空管理局と対立してから、500年近く経ったある日の出来事。それは、ラギュナス解散及び時空管理局との、長い戦いに終焉を呼び込む出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――現在、新暦75年某月のある昼下がり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一後悔

デブ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機動六課、ラギュナス分隊長――桐島時覇は、有給を消化するべく休暇を満喫しついる最中だった。

 正確に言えば、有給を取らされていると言った方が適切である。

 理由はいくつもあるが、もっともな理由は、人事部からの通達である。

 当たり前だが、時空管理局にも労働基準法がある。だが、この職は常に人事不足で、常に色んな事件が起きている。

 故に、有給はほとんど消化できない状況である。

 追加で言えば、結婚する前のクロノ提督の様に個人的に取らない物好きも入る訳で、有給が溜まる一方である。

 人事部も、頭を悩ませる一つの原因。

 で、桐島時覇は、2年近く有給を取らず、しかも人事部の追撃をことごとく回避していた。

 その間、墓参りなどは仕事の合間に行くなり、申請無しでの無断休暇などでしていた。

 だが人事部は機動六課、ロングアーチの隊長である八神はやて経由で、引導を渡したのである。

 これにより、桐島時覇と人事部の2年近くの戦いの幕が、ここに下りたのであった。

 それはさて置き――ともかく、やる事も無いので現在機動六課を徘徊している時覇であった。

 

「時覇さん!」

 

 廊下を歩いていると、後ろから声が掛かってくる。

 後ろを振り向くと、スバルが駆け寄って来た。

 彼女の服装は、外出用の服――彼女も、有給を取らされたのかと悟る。

 

「どうしたのだ、スバル――それは……ケーキか?」

 

 スバルの右手にある、ケーキらしき箱が目に入る。

 ただ、大きさから察するに、(目測で)ケーキ15個以上か、1、2ホールあるかないかの大きさがある。

 

「はいっ! 市街地の新しい店で、今大人気のケーキ屋さんなのですよ。これを手に入れるのに、開店3時間前から並びました」

「さっ……どこかのコミケか――いや、一夜あけが当たり前か」

「ええ、すでに200人くらい並んでいました。しかも、50人くらいが一夜あけっぽかったです」

 

 そう言いながら、少し凹むスバルと、あー、と唸る時覇。

 これから察するに、本当に欲しかったモノは手に入らなかったのだろう。

 そこで時覇は、何と無く尋ねる。

 

「一応聞くが、全員女性だよな?」

「はい、そうです」

 

 女性なのだから、せめて明け方くらいにしておけよ。などと考えが過ぎる。

 そこで、スバルが思い出したように、笑みを浮かべながら言った。

 

「よろしければ、ご一緒にどうですか? これから皆で食べるのですよ」

「いや、ここ数年甘いものにはご無沙汰だったから、ケーキ辺りになると甘ったるくて敵わん。すまないな――そうだ、アイツはどうだ? 勇斗は」

 

 ラジュナス4を背負う、若き戦士の名を上げてみる。

 スバルとティアナとは、現在、友達以上恋人未満の関係を築いている青年である。

 

「はい、ユウにも頼まれたので」

 

 その言葉に、時覇の方が下がる。

 

「あの馬鹿、女に行か――せるべきだな、この場合は」

 

 勇斗を非難しようとしたが、すぐにやめた。

 こういう場合は、女性の方が有利である。

 さすがの戦場を駆け抜けた男たちも、これには勝てない。

 まあ、例外もいるが、基本的には負けるのが普通である。

 

「あはははは」

「ふはぁはぁはぁはぁ。スバル、もう行ったほうがいいぞ。ケーキが溶けるし、不味くなるぞ」

「はい、それでは」

 

 スバルは走って、大広間へ向かった。

 故に、時覇は助かった。

 このあと起こる――正確には、明日の夜であるが――悲劇の幕開けとは気づかずに。

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ中央街――リトルラガン裏手通り。

 ここは、占屋や骨董屋、情報屋などが並んでいる裏手通りで、一般人も利用するほど有名な場所である。

 しかも、お偉いさんから犯罪者までが利用する場所であるため、暗黙の了解が自然発生した事でも有名。

 そこに、時覇は歩いていた。

 多少悪びれた奴らもいるが、通り道の邪魔にならないように、隅っこでたむろっている。

 ゴミはちらほら見るが、それほどでかいゴミは落ちていない。比較的、綺麗な部類に入る。

 ついでに言えば、ここで犯罪は起きたことは無い。

 ある意味、安全な場所だと言えるが、余り長いはしないほうが良い場所でもある。

 治安は完璧ではないが、時たまだが揉め事はある。

 微妙といえば、そこまでの場所である。

 そんな場所を歩いていると、目的の看板が掲げられていた場所を見つける。

 そして、吸い込まれるようにドアを開け、店に滑り込んだ。

 職業柄というよりも、この瞬間に襲われる危険性があるため、素早く入るのがここでは基本である。

 

「時覇」

 

 店の奥から声が掛かる。

 老人臭い声であるが、列記とした20代前半の女性である。

 

「来たぞ。で、何かわかったのか?」

 

 店の奥――カウンターまで行き、両肘で寄りかかる。

 

「レリックの方はまだじゃが、面白い情報が入った」

 

 カカカッ、と、笑いながら言いつつ、カウンターの下から、あるモノを出してきた。

 それを見た時覇は、カウンターにツップした。

 思い出したくない思い出を思い出したからである。

 渋々起き上がりつつ、懐かしさを感じながら、あるモノを手に取る。

 

「こいつは……『シボウゾーカーン』じゃないか。こんなもんよく見つけたな、ってか、すでに破棄したモノがここにある?」

 

 感心から一変して、疑念に包まれながら答える。

 

「ラギュナス時代の若かりし思い出」

「勘弁してくれ。若かりしじゃなく、地獄の、だ」

 

 『シボウゾーカーン』の入ったビンを振りながら眺める。

 あの時は、本当に命が無くなっても可笑しくは無かった――いや、今生きているほうが可笑しいか。

 あの地獄を乗り越えられたのだから。

 そう鮮明に思い出した途端、全身に寒気が起こり、その時の嫌な予感が駆け巡る。

 

「おい……まさか――」

 

 外れてくれ!

 戦慄が走り、体は振るえ、全身から嫌な汗が噴出してくる。

 当たれば地獄。

 外れれば天国、ってか、大至急探し出し、データごと廃棄処分しなければならない。

 現物がある以上、どこかで量産されているのは明らか。

 だが、世界は無常で理不尽だった。

 

「うん、出回っているよ。しかも、すでに一般にも、な」

 

 満面の笑みで答える女性。

 終わった。

 時覇は、頭の中が真っ白になった。

 そして、そのまま地面につっぷしたのであった。

 しかし、本当の地獄はこれからであった。

 

 

 

 

 

「今日の訓練はここまで」

 

 あの日から二日後の夕方。

 なのはの終了宣言とともに、訓練は終わりを告げた。

 

「皆、大分慣れてきたみたいだね」

 

 満足そうに言うなのは。

 新人――スターズのスバルとティアナ、ライトニングのエリオとキャロ。そして、ラギュナスの勇斗と現在行方不明中の人間が一人。

 勇斗――羽山勇斗、なのはとはやて、スバルの父の先祖の故郷、地球出身。

 厳密に言えば、平行世界の地球出身と言う方が正しい。

 時覇もまた平行世界の地球出身であるが、こちらの場合は特殊なケースのため、説明が長くなる。

 が、これは別の機会に。

 

「慣れてきた、っと、言っても……ハードだな」

「あっ、アンタの……くんっれ、ん、の……方が、キツイ、は」

 

 呆れ口調の時覇対し、屍になりかけている勇斗が抗議の声を上げる。

 それに同意するように、スターズとライトニングの新人たちが、首を縦に振る。

 なのはやフェイト、ヴィータも同意のように苦笑する。

 

「そんなに厳しかったか? 普通だと思うのだが……」

 

 首を傾げながら言う。

 その言葉に、全員少し引いた。

 どう見ても、なのはがやっていた総合訓練時の三倍の量を、夕方の訓練だけでやらせたからである。

 ハッキリ言って、死んでも可笑しくは無い。

 だが、それでも生きているのは、しっかり勇斗の限界とさじ加減を見極めているからである。

 しかも、これをすでに一週間続けているにも関わらず、体のどこにも以上は無いと診断されている。

 訓練後のケアもしっかり行っている結果である。

 が、端から見ても異常なので、見ているだけで死にそうになる。

 

「まぁ、体が壊れてないのだから、それでよしとしようじゃないか! ……駄目か?」

 

 全員が苦笑しながら頷いた。

 

「とにかく、今日の訓練はここまで。明日は特別訓練をやるから、早めに、ってことで」

『はい!』

 

 なのはの言葉に、元気良く――と、まではいかないが、出せるだけの声で返事を返す新人たち。

 

「じゃあ、解散。フェイトちゃん、みんなを宜しく。時覇さんは、訓練内容について、簡単にじっくり話し合おう」

「うん、なのは」

「了解って、日本語が可笑しくなかったか?」

 

 笑顔で答えるフェイトに、首を傾げる時覇。

 原因は薄々判っているが、応じることに。

 新人たち、フェイト、ヴィータは、隊舎に戻っていった。

 ある程度見えなくなった時、なのはから切り出した。

 

「で、時覇さん」

「訓練のことだろ? あいつが望んだ事だ……これでネを上げるようなら、俺の下にいるより、なのはの下にいた方がいい」

 

 遠い目で、勇斗が通った道を見据える。

 まるで、勇斗本人の背中を見るように。

 これらか降り掛かる何かを見透かしたように。

 釈然としないなのはであったが、意図は何と無く判ったので、これ以上は追及しなかった。

 

「わかった。でも、訓練は見ている方の事も考えてね」

 

 念のために、もう一度釘を刺しておく。

 じゃないと、明日も同じメニューで訓練をする可能性が、非常に――いや、絶対にやるからである。

 

「了解、スターズの隊長さん。じゃ、データ整理が終わるまで、近くで待機しているぞ」

「うん♪」

 

 嬉しそうに声を上げながら、鼻歌を歌いつつデータ整理を開始した。

 

 

 

 

 

 データ整理も終わり、隊舎に戻ってきた二人。

 入り口でなのはと別れ、時覇は食堂へ直行した。

 食堂に入ると、エリオと勇斗がテーブルで何かを話し合っている。

 

「よう」

 

 手を上げながら、エリオと勇斗が座るテーブルへ行った。

 

「あ、時覇さん」

「ん、隊長」

「ああ、何話しているのだ?」

 

 椅子に座りながら尋ねる。

 

「はい、今回の訓練のことで、少し……」

 

 話しながら、何故か目線が泳ぐエリオ。

 勇斗がアイコンコンタクトで、気持ちを察してやれ、と投げかけてきた。

 察しはつく……理由は、なのはと同じか。

 そのアイコンタクトに、無言でうなずく。

 ただ追加で、訓練メニューの変更あり、と返した。

 勇斗も、無言でうなずいた。

 まさに、プロフェッショナルのやり取り。

 ただし、時覇は、なのは、フェイト、はやて、シグナムに。勇斗は、スバルとティアナに見抜かれてしまうのだが。

 その辺の詳しい話――とくに勇斗は、また別の話で。

 

「しかし、女性陣は毎度毎度遅いな。男性陣のことも、少しは考えてくれよ」

「あはは。ぼやかないでください、父さん」

 

 その言葉に、テーブル越しに少しこけた。

 

「エリオ……フェイトとは、正式なお付き合いもしてないし、結婚しろとも、一言も言ってないぞ?」

「え、でも、フェイトさんが、そう言えって」

 

 その言葉に速攻で念話を飛ばすが、向こうがシャットダウンしているのか、繋がらなかった。

 

「ちっ、フェイトの奴、完全にラインをオフにしてやがる」

「苦労していますね、隊長」

 

 にやにや笑っている、ラギュナス4もとい――羽山勇斗。

 未だに、好きな相手を絞り込めず、とんでもないことになっているのは否定する権利は無い。

 だが、勇斗もまた、同じ立場である。

 

「貴様とて、スバルやティアナのどちらかに絞りこめん貴様、だけ! には、言われたくないわ」

 

 別の話でと言ったが、簡単に言えば、二人は勇斗に好意を寄せている。

 だが、二人と釣り合う要素が無い、という建前を理由に、友達&仲間以上恋人未満を築き上げた。

 時覇も似たような状況ではあるが、事情が事情だけに、付き合ってくださいと気軽に答えられない。

 勇斗と建前、時覇は事情で逃げている。

 今の関係が壊れるのを恐れている。

 ただそれだけ。

 たかがそれだけ、されどされだけ。

 それだけが、人を、絆を、思い、考えを変えていく。

 言葉を力であり、言葉は思いを『言葉』という形に変化させたモノ。

 相手に告白。ひいては、永遠の――共に別つその時までの誓いをする。

 すなわち、人生の分岐点でもあり、今後を左右する。

 遊び半分な気持ちで、答えてはいけない。

 二人には、それを成しえる覚悟が出来ていないから、曖昧なままなのである。

 話は戻り――互いに睨み合いをしている勇斗と時覇。

 しかし、互いに目を瞑り、椅子に深く座り背を預けた。

 

『お互い様、だな』

 

 同時に声を出し、同じ事を口にした。

 似たもの同士とは、この事ではないだろうかと、エリオは思った。

 

『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 どこからともなく、機動六課全体に悲鳴が上がる。

 いち早く突入したのは、時覇、勇斗、エリオ、フリードリヒ。

 今までどこにいたのだ、フリードリヒ。と、思ったが、どうやらテーブルの下にいたらしい。

 ともかく、複数の女性の声が聞こえた場所へ急行。

 

「グリフィス! 聞こえるか!?」

 

 時覇の顔、左辺りに魔方陣が展開され、その中央にモニターが表示される。

 時空管理局の技術力の結晶の一つである、通信回線。

 管理外世界97番の地球が、この技術を開発するには、まだ何百年後の話になる。

 

≪はい! 場所は――女性更衣室です!≫

「…………了解! 勇斗、エリオ、フリードリヒ! 敵は女性更衣室に潜伏しているそうだ、先行して牽制を!」

『了解!』

「ギャウ!」

 

 敵はいないと判りつつ、多少の犠牲はやむをえないと判断。

 よって、2人と1匹は、生け贄になってもらうことに。

 

≪あ――≫

 

 グリフィスは、否定の言葉を上げようとしたが、問答無用で時覇が回線を切った。

 

(悪く思うなよ)

 

 心の中で呟きつつ、先行する二人と一匹の冥福を、走りながら祈るのであった。

 

 

 

 

 

 で、言わずとも突入。

 デバイスを展開し、戦闘バリバリであった。

 しかし、そこに広がる光景は――男であれば、誰もが一度は夢見る光景が広がっていた。

 2人と1匹はその場で固まり、女性陣も固まる。

 見つめ合い、数十秒後。

 結果――

 

『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 廊下からでも判るほどの魔力密度の増加を確認。

 念のためのシールド発動する、時覇。

 次の瞬間、

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「エリオぉぉぉぉぉぉぉぉのわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 雷音、爆発音、閃光音、衝撃音――が同時に上がる。

 二人は、隊舎を揺るがす爆発と共に、廊下に吹き飛ばされた。

 

「きゅいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 フリードリヒは、全力で退避。

 あとで二人から裏切り者扱いされたのは、言うまでも無い。

 で、後から到着したフリをする時覇。

 その後、他の局員たちも到着。

 索敵結果、不審人物はいないと判明、女性局員――シャーリーに状況を確かめてもらうことに。

 他は周囲警戒と、吹き飛ばされた二名の手当て。

 で、出てきたシャーリーから一言。

 

「不憫ね……みんな」

 

 と、治療中の二人と、後ろの部屋にいる女性陣に哀れみな目を向けざるおえなった。

 しかし、時覇を含む男性陣は首を傾げ、女性陣は多少理解した。

 そこで、桐島時覇はどうリアクションを取れば良いのか、混乱してしまった。

 事情以前に、原因が自分にあることは薄々気が付いていた。

 心当たりは、2日前にスバルが買ってきたケーキ。

 あれにシボウゾーカーンが使われている可能性は、非常に高い。

 一日目は、それほど変化は無いが、問題は二日目からである。

 あれこれ考えている内に、近くにいた局員が怪しげに見てきたので、とにかく適当に言った。

 だが、これが拙かった。

 

「……ああ、体重が増えたのか」

 

 と、胸の所でポン! と、手を叩く。

 その瞬間――バインドが体全体に掛かる。

 

「うわぁ! ってか、首、首、首が絞まる! 絞まるから! ってが!」

 

 追加で、旅の鏡。

 リンカーコアがむき出しである。

 その言葉に、納得と恐怖が混ざった表情が、男性陣に広がる。

 女性陣からは、あきれと同情が混ざった表情が広がる。

 そして、そのまま入浴室へ引き擦り込まれていく時覇。

 普段は女性専用のため、男たちからすれば夢が広がる魅惑の場所。はいったらはいったで問題だし、犯罪になるからマズイが。

 しかし、今の地獄のオーラが漏れこんでいる場所へ、変貌を遂げている。

 結果は――目に見えている。

 故に、大体の人間は耳を塞いだ。

 

「うぁごがばぐげごどはぎぁみぐちてあっ――――!」

 

 こちらも言うまでも無く、隊舎全体に響いたのは言うまでもない。

 全員――助ける事無く、合掌したことも言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、14時間後の午前12時30分――機動六課、特別会議室・改。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより、機動六課特別簡易裁判を執り行う」

 

 八神はやて隊長のからの一言だった。

 声と口は笑っているが、目だけが笑っていない。

 ついでに言えば、どす黒いオーラの炎と共に阿修羅像が背後に見える幻覚を起こしている。

 しかも、阿修羅像の目は、怪しく輝く。

 被告人――桐島時覇。

 問われている罪――女性の体重を増やしたこと。

 被害者――はやて、リインフォースⅡ、なのは、フェイト、カリム、キャロ、シグナム、ヴィータ、シャマル、スバル、ギンガ、ティアナの計12名。

 傍観者――機動六課の女性代表数名、ゲンヤ、クロノ、リンディ、レティ、アレフ、ザフィーラ、ヴァロッサ、他数名。

 そして、まずは八神はやて裁判長の指示が下される。

 

「判決――私刑、女性陣による集団リン――」

「ちょっと待てやぁ! 行き成り判決かよ! いくらなんでも弁解の機会はあるだろ、普通!?」

 

 時覇は、大慌てで撤回を求めた。

 反省文や罰掃除だったら文句は無かった。

 だが、このメンツからの集団リンチは、非殺傷設定でも確実に死ぬ。

 故に、命の危機から全力で抗議する。

 と、言うよりも、いきなり判決だったことに対してのだが。

 裁判は、本来裁判に当たるための前置き説明から始まる。

 そして、検事と弁護士の欠席の確認。

 その後、証人が現れる。

 という形らしい。

 だが、それを全てすっ飛ばし、いきなり判決なのだから、抗議の声は当たり前である。

 しかし、それを気にする事無く、次のスッテプに移る。

 

「フェイト・T・ハラオウン執務官」

 

 その言葉に、スゥ、と素早く立ち上がり、

 

「はい。今回の事件は、極めて悪質であり、多くの女性に苦痛を与えた事により、弁解の機会は不要となっています。従って、この判決には全くの違法性は――」

「大有りだから!」

 

 とんでもないことを口走ったので、言葉の途中でも被せる様に声を上げる。

 だが、バンッ! と、フェイトは机を叩いて真顔をこちらに向けて、指を刺して、

 

「ありません!」

 

 断言した。

 即答で。

 有名な某裁判ゲームの生きの良い声で。

 

「それでいいのか、執務官!?」

 

 もう、ノリが良いと言われるほどの言葉の流れ動作。

 

『異議無し!』

 

 リンディとレティが同時に叫ぶ。

 一休みも入らないまま、意見がすんなり通る。

 こちらもこちらで、有名な某裁判ゲームの如し。

 

「提督!? ってか、止めてくださいクロノ提督!」

 

 傍聴席のクロノの目を見て、助けを求むが……無言で目を反らした。

 見放された――と、思ったが、この流れを止める勇気ある者が現れるのなら、それは、真の無謀者である。

 空気を読めない人間ならば、断ち切ることは可能だろう。

 だが、この部屋に充満する質量を持った殺気、というべきものが体に巻きつくような感覚。

 女性陣の無言の圧力。

 歴戦の戦士――男どもは、肩を狭めて小さくなっているほどである。

 追加で言えば、一部の女性陣にはデバイスを展開済みや、鈍器や椅子などを露骨に装備している。

 この状況下での下手な庇い立ては、問答無用で私刑執行の巻き添えとなる。

 男女差別、下克上、そんな言葉はここには存在しない。

 ここでは、女が一番。

 あとはカス。

 時覇は、生きている価値すらなく、また死ぬ価値すらない存在。

 逃げるにも背を向けた瞬間、集中砲火を浴びることは、必然の極み。

 なんというか、無性に遺書を書きたくなってきた。

 これは生存本能――いや、生きた証を文章として残したいという、死への恐れ。

 こんなことで感じたくは無かったと悟る、機動六課ラギュナス分隊長、ラギュナス1、桐島時覇。

 そして、無言が支配する会議室・改。

 クロノに見捨てられ、うなだれていたがガチャ、ガチャという金属音が鳴り響き、顔を上げた。

 その瞬間、時覇は顔を青くしながら声を上げる。

 

「って、いうか、なんで皆デバイスを構えているわけ!? それ以前に今気づいたけど、いつの間に男どもいなくなっている訳!?」

 

 そう、いつの間にか、男性陣枠の傍聴席からひとっこ一人いなくなっていた。

 本当にいつの間に、である。

 まぁ、女性陣の殺気に耐えかねて、こそこそと出て行く姿が目に浮かんだが。

 そんなことよりも――私、桐島時覇は、ここから生きて帰れるでしょうか?

 いやむしろ……。

 そう思った瞬間、はやて裁判長が声を上げる。

 

「私刑執行――かかれ!」

 

 その返事が合図となり、各自デバイスや鈍器類を振りかざしながら、証言台に突撃を掛けてきた。

 周りから見れば俊足の如く。

 しかし、時覇には、全てがスローモーションになって見えた。

 そして、方向からデバイスやら魔法やらがピンポイントに飛んでくる中、ポツリと一言だけ呟いた。

 

「せめて、生かしてくれ」

 

 その言葉は、誰の耳にも届く事無く、撲殺音、爆発音、電撃音などなどの音にかき消されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、それから3日後――機動六課、特別会議室。

 『改』が付いていたのは、簡易裁判を行うために、特別仕様に改装を行ったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このケーキから検出された成分の中に、極めて特殊なモノが発見された」

 

 その言葉に、女性陣から殺気と言う名の圧力が、俺に圧し掛かる。

 本当に、殺気だけで人が殺せる勢いだよ。

 それを見ていたクロノは、少し怯えた様に説明を続けた。

 その検出された成分の名は『シボウゾーカーン』安直かつ直球の名前である。

 だが、体内に入ると、本来なら排出されるはずの脂肪を体内に留めこませる性質がある。

 簡単に言えば、脂肪が付きやすい体質になる。

 俺がラギュナス時代に偶然開発した成分で、時空全土の女性を敵には回したくなかった。

 よって、速攻で処分した。

 が、どこぞの誰から拾ってきたのか、再利用する馬鹿が現れるとは。

 使った奴もそうだが、元を辿れば俺に行き当たるわけで……。

 

「――つまり、そのシボウゾーカーンというのが……」

「そぅや、エリオ。時覇が偶然開発した成分、シボウゾーカーン……まったく、ふざけるにも限度があるわ」

 

 少し怯えながら聞いたエリオの問いに、プンプン顔で答えるはやて。

 男性陣は怯え、女性陣は怒りのオーラが上がっている。

 だが、次の一言で鎮火した。

 

「限度に関しては、隊長たちにも当てはまるのでは?」

 

 包帯グルグル巻きのミイラ男もとい、ミイラ魔導師。

 

「うっ……まっ、まあ、お互い様と言うことで、な?」

 

 それに対し、平謝り。

 言わずとも、ミイラ魔導師に対して。

 三日前の集団リンチ後の次の日、シボウゾーカーンの情報が本部から届く。

 内容は――真犯人らしき人物と、サボウゾーカーン使用店舗の一覧。

 さらに、本来時間が掛かるはずの流通ルートと、販売元、ついでに製造場所まで特定済み。

 しかも、おまけでこれから広がると思われる買い手や、取引場所も特定済み。

 いたりつくせりの情報内容。

 早速はやては、各陸士部隊と連携を取るため、行動を開始――の前に、桐島時覇の治療を最優先とした。

 男性陣から簡易治療を受けていたが、本格的な治療を受けられたのは二日前。

 さすがは体魔武総覇術の使い手、拳の型と呼ぶべきかどうかは定かではないが、回復は早かった。

 が、微妙にふて腐れ気味。

 確かに、完全な元をたどればぶち当たるが、過程に関しては一切無関係である。

 

「この案件終わったら、勝手に休暇取らせてもらいますから」

「おいおい、事務処理は――」

 

 苦笑しながら、ラギュナス2――ゴスペルが言った。

 

「八神、ハラオウン、高町分隊長に回せば? いや、回せ」

「いや、それまず――」

「知るか」

 

 膝をつき頬に手を当てて、違う方向を向く。

 完全なふて腐れとなった。

 気まずくなる一同。

 さすがにやばいと思う勇斗だった。が、下手に言って状況悪化した場合、収集が付かなくなった厄介になるので黙る。

 

(ユウ、ユウ)

 

 スバルからの念話。

 その瞬間、苦い顔をする。

 内容は大体察しがつくからである。

 

(スバル……断るからな)

 

 こめかみを押さえながら、返事を返す。

 

(バカユウト、何とかしなさい)

(今度はティアかよ……勘弁してくれ)

 

 両耳を手で覆い、机に塞ぎこむ。

 ついでに念話もカット。

 最後辺りに、怒鳴り声みたいなものが聞こえてきたが、聞こえなかったことで片付ける。

 後が怖いけど。

 

「ま、まぁ、ともかくや。成分分析も完了したことで裏は取れたし、強制捜査の手続きも完了や。ほな、早速出動しようか」

 

 少し頬が引き攣りつつも、指示を出すはやて。

 引き攣る理由は、時覇の書類の量がハンパではないからである。

 

『はい!』

 

 それを知ってかしらずか、時覇以外返事をしたのであった。

 

 

 

 

 

 市街地、大通り――時空管理局陸士部隊によって、交通規制が行われていた。

 ここの所、事件らしい事件が起きていない場所での交通規制は、野次馬の格好の的となっていた。

 報道局の者たちも集まり、上空からはヘリが飛び交っている。

 

≪ここ、ミッドチルダ中央の市街地大通りの上空からお送りしています!≫

 

 逆三角形の真ん中に、レンズを思わせる水色の丸が描かれたエンブレムのヘリ。

 ミッドチルダ全土放送マイナーニュース番組、リッカスティルバード。

 信憑性は今一つのニュース番組であるが、行動力、汎用性が高い事が売りである。

 他のニュース番組では、少ししか扱わなくても、一週間に渡り放映する。などと、変わったことをする。

 だが、そのおかげで事件解決や、政治問題の不信点などが公となった場合が多い。

 ただ、公表してはいけないものを公表したり、逆に政治を悪化させたりなど逆の貢献をすることもある。

 よって、半分真実半分嘘で、好評を得ているという状況である。

 

≪私たちの下では、時空管理局の陸士部隊の方々による、交通規制が行われています≫

 

 カメラは、リポーターから地面に移り変わる。

 そこには、陸士部隊による交通規制の模様が写る。

 しかも、どうみても最近開店を向かえ、大人気のケーキ屋を包囲する陣形を取っている。

 

≪一応、一般公開されている情報では、食品の一部に極めて違法性の高い成分が使われていた。とのことで、その食品を扱っている店に強制捜査が入る予定となっています≫

 

 横からスタッフに渡された、小汚い紙切れに書かれた文章を読み上げる。

 そして、読み上げた途端、そのままポイ捨てした。

 

≪ん? あれは――最近設立された、機動六課のヘリコプターです! 見えますか、皆さん! カメラさん、向こう映して!≫

 

 その言葉にカメラが、リポーターが指差す方向を向くが、どこにもいなかった。

 さすがのカメラマンも首を捻った。

 目線でどこ? と、リポーターに問いかける。

 

≪あそこです! あの豆粒の!≫

 

 豆粒の発言に、カメラのレンズを絞る。

 絞る。

 絞る。

 さらに絞る。

 

「 あ 」

 

 カメラマンは声を漏らした。

 なんせ、言われたとおりに一機のヘリコプターが、こちらへ向かってきているのを捉えた。

 

 

 

 

 

「局長命令で、上空から降下して現場へ急行する。のを、カメラの前でやる」

 

 はやてが、フォワード部隊一同に伝達する。

 その言葉に、意図が掴めないで困惑する。

 

「時空管理局をアピールしろ、って事ですか?」

 

 勇斗が先陣をきり、質問する。

 

「そや。今期の受験者数が減っているのが、一番の原因や」

 

 なるほど。と、一瞬で理解する一同。

 それもそのはず。

 時空管理局は、主にロストロギアの回収と次元犯罪者の逮捕が主な仕事である。

 ロストロギアでは、モノによっては凶悪なモノもあり、それを回収する際亡くなる者がいる。

 次元犯罪者でも、似たようなモノである。

 ただ単に、捕まえるか、回収するかの二種。

 他にも別の安全な任務もあるが、代表的なのはこの二つ。

 どちらも死傷者が絶えない任務。

 しかも、犯罪は年々増加の一歩を辿りつつあり、人為不足は一層深刻となってきている。

 だが同時に、危険な仕事だということがより一層表面化している状況。その中で、ここらで若き者たちの活躍を見せて、より一層集まるように仕向けたいのだろう。

 

「しかし……上層部の考えは判るが、タイミングが悪いし、動機が微妙に不純だな」

 

 全身ミイラ男から、顔だけ包帯を外せる様になった時覇。

 

「仕方が無いよ。人為不足は、今も昔も変わらないから」

 

 フェイトがフォローするように、現状を言う。

 確かに、今も昔も変わらない。

 レティも、頭を悩ませている部分であった。

 

 

 

 

 

「ふぁ、くしゅ!」

 

 書類整理の最中に、くしゃみをするレティ。

 

≪大丈夫ですか? レティ提督≫

 

 モニター越しで、心配そうに見る新人のリーナス。

 彼女は、個人的にレティの手伝いをしている、物好きなことで本局でも有名な人物。

 

「ええ、大丈夫よ。誰かが噂でもしていたのかもね」

 

 コーヒーを啜りつつ、微笑みながらぼやいた。

 リーナスもまた、つられて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ヴァイスが操縦する、機動六課のヘリコプターは、現場の上空に到着した。

 下のほうでは、機動六課のメンバーが安全に着地できるように、人払いをきっちり行われた。

 

「じゃ、私から――」

「アタシが一番手に出る!」

 

 なのはの言葉を、上から重ねるようにヴィータが名乗りを上げる。

 さすがに目をパチクリさせる。

 

「そか、なら一番はヴィータからでええんか? なのはちゃん」

 

 なのはは、ニコリと微笑みながらうなずくが、

 

「先に出る」

 

 と、勝手に時覇が先陣をきって降下する。

 続いて奥のほうで座っていた勇斗が、勢い良く飛び出す。

 

(スバティア、また下で)

 

 スバルとティアナに、一方的な念話を送って降下した。

 

「ラギュナス4――羽山勇斗、出る」

 

 降下後に言うのは違反ではあるが、ラギュナス分隊に関してはとくにお咎めは無い。

 スバルトティアナから念話が飛んでいるが、勇斗は完全に無視した。

 その光景に唖然とする者、呆れる者、苦笑する者と様々である。

 

「アイツら……スターズ2、ヴィータ――出るぞ!」

 

 少し怒りマークを出しつつも、渋々降下した。

 それを気に、次々とフォワード陣が降下を開始。

 スバルとティアは、少し怒り気味で降下していった。

 降りたら勇斗を締め上げるのは、恒例行事みたいなモノになりつつある。

 そして、最後にはやて、ザフィーラ。

 

「じゃ、あとは宜しくや」

「了解、八神隊長」

 

 そう言って、はやてが降り、主の背を守るためにザフィーラも降りた。

 

 

 

 

 

 先陣をきった時覇が降り立つ。

 

「――――――――!」

 

 が、全身に激痛が走り、路面を転げ回る。

 待機していた陸士部隊の面々も、この行動には驚いた。

 

「って、隊長! 大丈夫ですか!?」

 

 続いて降下してきた勇斗が、時覇に駆け寄る。

 そして、ヴィータを初め、機動六課フォワード隊が降り立つ。

 しかし、途中で勇斗の上に影ができる。

 

「ん? ――のわぁ!?」

 

 そのまま確認する事無く、上空からの落下物の下敷きとなる。

 だが、その落下物は、

 

『ごめん、気がつかなかった♪』

 

 満面の笑みで謝罪する、スバルとティアナ。

 背後に見え隠れする、黒いオーラが怖かったりする。

 

(二人とも、カメラカメラ!)

 

 降下中のシャマルからの念話が飛んでくる。

 

((大丈夫です。ドジッ娘は、萌えのステータスらしいので))

 

 その言葉に、空中でこけるシャマルであった。

 そのあとすぐにシグナムに体制を立て直してもらい、地面に降り立つ。

 そして、最後にはやてとザフィーラが降り立つ。

 これで、完全なる機動六課フルメンバー集合である。

 ある意味、この光景は絵となる。

 ……女性陣の少し丸みを帯びた部分さえなければ。

 元々スタイルの目立つバリアジャケットの構造ゆえに……。

 結果、美少女から普通の女性に降格。

 カメラからは、堕落の声やため息などが聞こえてくる。

 

『……………………』

 

 その声を聞いた瞬間、女性陣は一斉に時覇を見る。

 先ほどまであった激痛は消える。

 その代わりに背筋に悪寒と通り越して、冷たい氷の刃が当てられている感覚に襲われる。

 これを一般的に、殺気と呼ぶ。

 エリオ、勇斗、ザフィーラにとっては、本当にいい迷惑である。

 とくにザフィーラは死活問題と成りかねない。

 

「と、ともかく、強制捜査を……」

 

 一足先に店の前に向かうが、やはり背後から来る圧力には、逃げ出したくなった。

 しかし次の瞬間、空気と流れが変わった。

 

「ふははは! 来たな、機動六課諸君!」

 

 その高笑いとセリフに、一同は戦闘体制に入る。

 全員での周囲警戒。

 

「シャマル!」

 

 時覇は、すぐさま激を飛ばす。

 

「はい! クラールヴィント、お願い」

 と、起動パスであるキスをする。

 

“はい”

 返事と共に、魔方陣を展開しようとするが横槍が入る。

 

「ふん! そんな索敵魔法なんぞ使わなくとも、こちらから出て行ってやるわ――とう!」

 

 その言葉と同時に、空に五つの影が生まれる。

 そして、背を向けながら原因のケーキ屋の屋根に乗り、思い思いポーズを決める。

 しかも、右から、黒、青、赤、黄、緑の順に並ぶ。

 それを見ていた一同は、目が点になった。

 そして、こう思ったことが一つになった。

 

(戦隊モノ?)

 

 そんな唖然を無視して、赤い変態は言葉を続ける。

 

「我らは――ごふぉあ!」

 

 赤が、セリフを言いながらこちらを向いた瞬間――吹き飛ぶ。

 

『れっ、レッド!?』

 

 慌てて赤い変態に、四人の変態が駆け寄る。

 周囲の人間は、もう何が何だか判らなくなってきた表情を浮かべる。

 

「誰だ!? 神聖な決めセリフの最中に先制攻撃を仕掛けた奴は!?」

 

 黒い変態が怒鳴り声を上げながら、周囲に睨みを利かせる。

 が、全員――とくに目が合ってしまった者は、全力で顔を横に振った。

 

「取り込み中すまないのだが――」

「何だ!?」

 

 黒い変態は、全力で声のする方を向く。

 そこには、時覇がいた。

 

「シボウゾーカーンって、知っているか?」

「知っているも何も、我々がこの店を開き、ケーキの中に仕込んだのだからな!」

 

 堂々と宣言する。

 次の瞬間、後ろから危険を感じた時覇は弾ける様に横へ飛ぶ。

 その次に、先ほどまで時覇がいた場所に、砲撃が通過する。

 店に直撃――大爆発。

 

『ぶぼあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――……』

 

 5人の変態と悲鳴は瓦礫と共に埋もれていった。

 

 

 

 

 

≪……あ、え~と、何がなんだか……≫

 

 先ほどまで、下で起きていた状況を唖然と見ていたリポーターだったが、先の爆発で解凍した。

 カメラマンも、どう指示をすれば良いのか困惑する。

 少し経つと、悲鳴やら何やら聞こえてくるが、煙で良く見えない。

 

≪現場の近くのカメラって……私たちだけ!? なんで!? ……はぁ!? 経費削減って……いくらなんでも、あんま――≫

 

 カメラの映像はそこで途切れ、『しばらくお待ちください』というテロップが表示された。

 

 

 

 

 

 地面に伏せていた時覇が、恐る恐る顔を上げ、店の方を向くと瓦礫しかなかった。

 そして、起き上がり、砲撃の後を辿ると――杖をかざしたなのはが立っていた。

 それを見て悟る――ディバインバスターか、と。

 声を掛けようにも、何やら危険なオーラが見え隠れするため、誰も声を出せない。

 下手に出すと撃たれる。

 脳裏に過ぎり続ける。

 この沈黙に包まれた空間を打破したいが、打破するために案が無い。

 だが、その沈黙はあっさり破られた。

 

「ぶはぁ! いきなり何さらすのじゃい、ボケェ!」

 

 瓦礫を吹き飛ばしながら、起き上がる赤い変態。

 他の4人も、何とか瓦礫を退かして起き上がる。

 

「俺たちが何した――」

 

 そこまで言った瞬間、首に金色の鎌が当てられる。

 

「……俺たちが何をした、か、ですって?」

 

 一言――怖。

 野次馬や報道関係者は、恐る恐る逃げ始める。

 これ以上いたら巻き込まれると踏んだからである。

 しかし、交通規制している陸士部隊の方々には、いい迷惑である。

 なんせ、逃げることができないからである。

 

「れっ、レッドを放せ! この金色の死にがぁはっ!」

 

 黄色い変態の胸から、リンカーコアと手がむき出しとなっている。

 

「うふふふっ、少し黙ってもらえませんか?」

 

 旅の鏡を発動させながら言うシャマル。

 目が笑ってないが。

 他の3人も、デバイスを突きつけられて押し黙る。

 

「まずはいくつか質問します。『はい』か『いいえ』かで、答えてください」

「ちょっと待て! せ――」

 

 赤い変態の首に、金色の鎌が僅かに当たる。

 武器を下ろしてくれと言いたかったが、『はい』か『いいえ』以外の言葉は受け取らないらしい。

 

「まず一つ目。この事件の首謀者は、アナタ?」

「はい」

「二つ目、仲間はこれで全員?」

「はい」

「三つ目、手を組んでいる組織はある?」

「な――いいえ!」

「四つ目、シボウゾーカーンはどこで? 普通に話して良いわよ」

「はい、闇市で成分データを手に入れました」

「五つ目、ここ以外にも、シボウゾーカーンを使っている場所は?」

「取引先を揃えただけで、まだ発注は……」

「そう。……最後に、この成分を早急に体内から取り除くには?」

「……魔力エンプティまで、消費させることです。シボウゾーカーンの特性で、魔力に反応するらしいので。魔力が高い人の体内に蓄積された場合、とんでもないことになる、と」

「そう――はやて、命令」

 

 首から鎌を放すなり、ケンカキックをかまして吹き飛ばしながら言う。

 赤い変態は、勢い良く瓦礫に突き刺さる。

 

「リンディ提督とレティ提督、それにクロノ提督から権限もらっておいたから……だから、私刑執行や」

 

 満面の笑みのはやて。

 しかし、陸士部隊、機動六課男性陣、変態五人衆から見た笑みは、阿修羅の顔に見えた。

 そして、その言葉に機動六課女性陣は、次々とデバイスを構える。

 その光景に、名もなき――語っていないだけ――変態五人衆は、子犬のように震えた。

 いや、子犬という生易しい表現ではなかった。

 奥歯がガタガタ震わせ、中には失禁した変態もいる。

 それほどまでに、恐怖を覚えたのである。

 多分――いや、これから一生覚えるだろう。

 この光景を。

 この魔力の圧力を。

 この光を――決して、忘れることはない。

 足元には、大量の使用済みの弾薬。

 隊長各は、オーバーSランクで、何故かリミッター解除済み。

 副隊長ですら、ニアSランク。

 こちらも、何故かリミッター解除済み。

 後日、いつ限定解除したのか確認を取ったが、気合と根性で解除したという結論に達した。

 直接関係はないが、陸士部隊もとうとう逃げ出した後。

 それに気がついたエリオと勇斗は、ザフィーラと共に逃げようとした。

 だがすでにザフィーラは離脱済み。

 それに気がつき、双方は顔を見合わせて、大急ぎで走り出す。

 それに遅れて時覇も、後に続くが――

 

「バインドぉぉぉぉおおおおおおおお!?」

 

 色とりどりのバインドが、体中に絡みつく。

 しかも、そんなことはお構い無しに、エリオと勇斗は振り向くことなく走り続ける。

 

「エリオぅぉぉぉぉおおおお! 勇斗ぉぉぉぉぉおおおお!」

 

 それでも振り向くことなく走る。

 

「うぉい! せめて繰り向いてくれ! 頼むから!」

 

 が、そんな余裕などどこにもなく、ひたすら全力で走る。

 走る。

 走る。

 とにかく走る。

 元凶となる中心地から、少しでも遠くへ。

 

『ぎぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――……』

 

 後方から複数の悲鳴が上がるが、振り向くことが怖かった。

 肉が殴られる音。

 骨が鳴る音。

 瓦礫に何かがつぶされる音。

 すり潰され、燃やされる臭いと音。

 とてもじゃないが、これ以上は表現したくはない。

 グロテスク系は、正直嫌いではないが好きはなれない。

 アニメや漫画の架空のもならギリギリであるが、本物は御免こうむりたい。

 命乞いや謝罪の言葉、恐怖による悲鳴も飛び交う。

 

「って、なんでお前らがこっちにくるのだ!? っうか、俺を盾代わりにする――」

 

 もの凄い寒気が、背筋を走る。

 本能が叫ぶ。

 逃げろ。

 逃げろ。

 逃げろ、逃げろ。

 逃げろ、逃げろ、逃げろ。

 逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ。

――ニゲロ!

 

「うわぁあああああああああああああああ!」

 

 気が狂ったように発狂し、バインドを振り解こうと暴れだす。

 だが、その程度で解ける代物ではない。

 顔を前に向けると――女性陣がデバイスをかざす姿があった。

 

「あ、ははっ……」

 

 乾いた声しか上げられない。

 一言――有給とって、当分バッくれるか。

 俺を盾代わりにしている変態五人衆は、全員失禁して気絶している。

 そんなことを知ってか知らずか、追い討ちを掛ける。

 

「バルディシュ」

“イッ、イエッサー! ザンバーフォーム!”

 

 リボルバー式カートリッジシステムが、二回ほど唸りを上げる。

 

「レイジングハート」

“はっ、はい! エクセリオンモード!”

 

 こちらもコッキング式カートリッジシステムが、二発の弾丸を吐き出す。

 他にも、カートリッジシステムの鳴る音や、魔力の密度が散漫する。

 ハッキリ言って、怖いです。

 いくらなんでも、非殺傷設定された魔力攻撃でも、これだけくらえば死にます。

 ええ、死にますとも。

 何故か、って?

 その攻撃は全て――俺に向いているから。

 

 

 

 

 

『ぎぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――……』

 

 その瞬間、エリオと勇斗は耳を塞ぐ。

 だが、肝心の衝撃波が来ない。

 二人は走りながら振り向くと、時折小さな煙が上がる程度。

 まだ大丈夫。

 前を向き、全力で走る。

 

「うわぁあああああああああああああああ!」

 

 また振り向く。

 だが、何も起きてないが、逆にそれが恐怖を煽る。

 言うなれば、嵐の前の静けさ。

 再び前を向こうとした途端――振動。

 地面が揺れ、後方から爆発音と衝撃波が背後に襲い掛かる。

 衝撃波の影響で、エリオが前方に吹き飛んでしまう。

 勇斗も条件は同じだったが、体格のおかげで転げる程度で済むが、すばやく起き上がり、エリオに飛びつく。

 そのまま体を擦りながら着地。

 

「すっ、すいません! 大丈夫ですか!?」

 

 心配そう見るエリオ。

 

「だっ、大丈夫だ。お前が怪我したら、キャロが泣く――立てるか?」

「はっ、はい!」

 

 エリオが立ち上がると、一呼吸遅れて勇斗も立ち上がる。

 何と無く二人は後方を見ると、円形爆発ではなく光の柱が立ち上っていた。

 完全に固まる二人。

 そうすれば、あんな事が出来るのだろうか? と、言う言葉が互いの脳裏を駆け抜ける。

 勇斗はポツリと呟いた。

 

「……腹くくって、堂々と歩いて離れるか」

「……そうですね」

 

 互いに何かを悟り、再び背を向け堂々と歩き出した。

 巻き込まれようとも、その時はその時だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――あの恐怖の一日から、一週間後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

 疲れきった声を出して、実家の玄関を開ける時覇。

 

「あ、おかえ――ど、どうしたの?」

 

 妹――真里菜がリビングから顔を出し、玄関前まで出てくる。

 

「…………聞くな」

 

 その姿に、歴戦の戦士の面影は無く、ただ煤けて見えた。

 そして靴を脱ぎ、家に入る。

 兄の異様な姿に、真里菜は無意識に壁により道を空ける。

 幽霊の如く、フラフラしながら二階にある久しぶりの自室へ向かう。

 真里菜は、最後まで唖然と見続けた。

 

「ただいま~」

 

 玄関が開く音と、生みの親である母――桐嶋謳華。

 手には、何故か巨大な扇子――大盤之舞嬢(おおばんのまいじょう)があった。

 巨大の割には、大きさは100センチ、幅は20センチ。広げると、それなりの大きさを誇る。

 完全戦闘用に作られた、巨大扇子。

 しかし、今となっては、ただの不良撃退、粛清用と化している。が、基本的はファッションの一部となっている。

 

「あ、おかえり」

「ん? 時覇が帰ってきているの!?」

「うん、今二階に――って、ちょっと待って!」

 

 息子に会いに行こうと、階段を駆け上がろうとする謳華だったが、娘の真里菜に止められる。

 

「なに?」

「今は、そっとしておいたほうがいいかな~、と」

 

 兄を庇う妹の姿を眺める。

 どうやら、本当にやめて方がよいと悟る。

 

「判ったわ。夕食の後にでも聞きますか」

 

 その言葉に、うんうんと頷く真里菜。

 謳華も、うんうんと頷きながら、台所へ向かった。

 と、ここでチャイム。

 

「は~い、開いていますよ」

「どうも、時空速達運送・ジャンパーです。こちらに、サインをお願いします」

「はい、わかり――」

 

 そこで手が止まった。

 完全電子化の伝票に、どうサインすればいいのか判らないからである。

 なを、時空速達運送・ジャンパーに関してはスルー。

 

「あ、ここに印鑑をタッチして貰えれば構いませんので」

 

 伝票のある部分を指す。

 印鑑を電子化できる世界――便利である。

 

「母さん! 荷物受け取りに印鑑!」

 

 台所にいる謳華を呼ぶ。

 

「はぁ~――きゃあっ!」

 

 ガシャーン! と、音も廊下まで響いてくる。

 そのあと、転ぶ音、何かが割れる音、何かが倒れる音など、色々聞こえてくる。

 それに上乗せするように、黄色い悲鳴から痛そうな悲鳴まで。

 リビングの扉から、ボロボロの謳華が印鑑を持って出てくる。

 リレーバトンの様に受け取ると、その場に倒れこんだ。

 とにかく印鑑を取り出して、伝票に押す。

 その時の従業員の顔は、同情に染まっていた。

 

「仕事、まだあります?」

 

 その辺の男が見たら、一発で惚れそうな笑顔を向ける。

 とんでもない事になっている思われる台所の片付けを手伝わせるために。

 

「ありますよ……勘弁してください」

 

 サラリと流した。

 一応彼には、妻と子どもがいる。

 この10年間、真面目に勤務していたにも関わらず、リストラの危機にさらされている。

 何故、リストラになるのか検討がつかない。

 ここらで不祥事を起こすと、一気にリストラされてしまうのは必然。

 よって、当たり障りもないまま出て行った。

 

「…………っち」

 

 従業員が玄関を閉め、少し経ってから舌打ちする。

 労働力が確保できなかったからである。

 カオスのオーラが漂う台所に突入したいのは山々なのだが、母の手当てが先である。

 兄に手伝ってもらいたいが、ここは我慢する所。

 従って、夕飯は遅くなる。事だけは確かだった。

 

 

 

 

 

 腹の音が、部屋に鳴り響く。

 

「ん? ん~……ん?」

 

 顔を起こし、辺りを見回す。

 カーテンの隙間からは、赤い光が差している。

 時間は夕方。

 どうやら、部屋に入りベッドの上のねっころがった途端、寝てしまったらしい。

 ふと、下から物音が聞こえてくる。

 気になり、起き上がって部屋を出る。

 階段を下りて、リビングを覗くと――気配を消して、すぐ自分の部屋に戻った。

 厄介ごとは、これから一ヶ月間はコリゴリである。

 部屋に入り、再び眠ろうとしたが、通信が入る。

 通常回線は遮断していたが、緊急回線だけは切らなかった。

 一種の職業病である。

 

≪こちら、時空か――≫

 

 問答無用で通信回線を叩き切る。

 が、また回線が繋がる。

 

≪勝手に切るんじゃないのかしら?≫

 

 普段どおりのレティの顔が映し出される。

 

「レティ提督か……何のようだ?」

≪何時までボイコットするかと――≫

「一ヶ月」

 

 即答である。

 

≪少しくらい悩んでよ……≫

「断る。っーか、どうせ機動六課は、当分謹慎だろ」

≪もう解いたわよ……はやてからの伝ご――≫

「聞きたくは無い」

 

 耳を塞ぐ時覇。

 その行動に、ため息を漏らすレティ。

 一応SSランク保持者で、限定封印をしていない、機動六課の中で現最高クラス保持者。

 魔力にある障害を抱えているため、特別処置として、部隊の保有総合ランクの対象外となっている。

 彼がいる、いない、関わらず万年人事不足の時空管理局。

 全体から見ても、数少ない能力保持者の一人。

 彼がいれば、解決できる事件があると思うと、頭が痛くなる。

 

≪できればすぐに戻ってほしいのだけど……無理ね。だから、一週間以内には戻ってきてね≫

「…………了解」

 

 とりあえず返事だけはしておく。

 

≪じゃ、早い復帰を≫

 

 そこで通信は切れ、サークルモニターも消えた。

 ため息。

 空腹を思い出し、再び下へ行った。

 厄介ごとには関わりたくないと決めたばかりだったが、これが片付かないと飯は無い。

 仕方がって、渋々顔を出したが――

 

「なんでいるのだ、お前らが!?」

 

 そこには――何故か謹慎処分解除済みのはやてとザフィーラを含む、フォワード部隊全員がいた。

 

 

 

 

 

「では――いただきます」

『いただきます!』

 

 謳華の言葉に、リビングに大勢の声が上がる。

 テーブルには、豪華な料理――半分は時覇が、もう半分は真里菜と謳華が担当――が、並んでいる。

 誰にでも少し練習すれば出来る料理から、高級店の料理まである。

 オプションで、他国の珍味があるが、何を使ったのかは伏せるなり、偽ったりしている。

 具体的に一つ上げると、巨大ミミズのオリーブ炒め。

 ……まず、材料の調達から突っ込みがあると思うが、あえてスルー。

 そんなこととは露知らず、皆が食べていく。

 皆幸せそうな顔をしている。

 釈然としないので、完全に食事が終わってから、暴露すること決定。

 顔が青く染まるのが目に浮かぶ。

 などと考えていると、視線を感じ取る時覇。

 そちらを向くと、母がいる。

 

“ひ・み・つ♪”

 

 アイコンタクト。

 同時に悪寒が走る。

 逆らえば――死。

 黙秘をすることを選択。

 まだ死にたくはない。

 そのまま何事もなかったように、食事は進んだ。

 

「で、食事中だけどさ……改めて聞くが」

 

 時覇は箸を止め――深呼吸。

 次の瞬間、目をカッと見開き、部屋全体に響くように言う。

 

「なんで――お前らがここにいるのだ!?」

 

 バンッ! っと、テーブルを叩こうとしたが、まだ料理が全体で半分くらい残っているので、叩くことが出来なかった。

 この状態で叩けば、テーブルから何点か落ちる。

 皆の服や床が汚れる。

 お片づけ。

 そして、各服のお洗濯。

 この過程で、時覇に掛かる負担は――料理の後始末。

 続いて、全員分の着替えを用意するが、無い場合は自腹を切る。

 女性の下着はなしだが、罰の意を含め、服は全て手洗いで行う。

 結論――もの凄い負担がくる。

 以上。

 

「ふぇ? レティ提督から、何も聞いてへんかったか?」

 

 美味い料理に出会った感動に浸っていたはやてが答える。

 

「なに――あ」

 

 夕方ごろの通信を思い出す。

 仕事関係ではなかったらしい……だが、相手はあのレティ提督。

 事件を解決しても、次の事件を回してくるやり手。

 下手に用件を聞くと、仕事まで押し付けてくるからである。

 桐島時覇は、NOと言える人間。だが、中途半端なことは嫌なので、押し付けられた仕事でも最後まで完遂する。

 頼まれたら断れない性質なだけである。

 ……結局NOとは言えない人間だよな。

 後頭部を欠きながら、苦い顔をする時覇。

 

「あいかわらずやなぁ~、と、言いたい所やけど……なぁ?」

 

 愛想笑いをするはやて。

 やはり、一週間前の出来事を気にしている。

 その言葉に、女性陣は愛想笑いを浮かべあう。

 男性陣は一斉に味噌汁を、行儀が悪いが音を立ててすすった。

 時覇はこの光景に呆れて、ため息一つ。

 母と妹は、クエッションマークを頭に浮かべながら、首を捻り合う。

 

「ところで、頼みがあるんやけど――ええか?」

 

 子犬のような顔で聞くはやて。

 

「……当分、仕事タこるからな」

 

 根に持たないが、今回は完全に被害者なので機嫌が悪い。

 よって、問答無用で死刑宣告と呼ぶような条件を先に述べる。

 はやての仕事のデスクワークの半分は、時々と言いつつも大体時覇がやっている。

 

「はぅ……い、いいよ。それで頼みを聞いてくれんのやら」

 

 仕事の量、プラス反省文を考えると、頭が痛くなる日々が脳裏を過ぎる。

 

「ふん……で、用件は?」

「当分の間……一週間だけ、ここに止めて、な」

「帰れ」

 

 寝言は寝て言え。

 

「即答!?」

 

 本気で驚いている。

 しかし、今回ばかりは勝手が違う。

 

「一週間前のこと、忘れたのか?」

「はぅ!」

 

 言葉という名の拳が、はやての心を抉るように打ち込まれる。

 一週間? と、呟く妹と母。

 その言葉に、女性陣は愛想笑いのまま固まり、男性陣は黙々と料理を食べる。

 

「時に時覇」

 

 ダシャレとして捕らえられそうな言葉で呼ぶ謳華。

 

「ん――なに?」

 

 温くなった味噌汁を飲もうとしたタイミングで呼ばれ、口から味噌汁を放す。

 

「いいじゃない、たかが一週間」

「面白おかしいイベントを見たくて提示するな、母上――ん」

 

 謳華の企みを一発で見抜き、呆れつつ今度こそ味噌汁を飲む。

 そのタイミングを見計らっていたのか、謳華の目が怪しく輝いた。

 

「シグナムさんと一緒にお風呂」

「ぶふぅふぁ!」

 

 豪快に味噌汁を吹く。

 

『うわぁああっ!』

 

 目の前に座っていた、フェイトとシグナムが慌てて避ける。

 

「ごふっ、ごふっ――母さん!? ってか、フェイト、シグナム、すまん」

 

 二人に軽く平謝りするが――右肩が叩かれる。

 右を見ると――満面の笑顔のはやて。

 背後には、何故か風神が見える――なぜ?

 

「シグナム、あとで話があるから」

 

 その言葉に首を激しく立てに振る、ベルカの騎士にして烈火の将。あの名が高きヴォルケンリッターのリーダー。

 さらに左肩が叩かれる。

 左を見ると――微笑を浮かべるフェイト。

 

「少し、お話したいな」

 

 こちらの背後には、何故か雷神が見える――なぜ?

 パンッ! と、前から乾いた音が聞こえる。

 何と無く顔を向けると、頬を赤くしたなのは。

 

「はやてちゃん、フェイトちゃん、私も混ぜてよ」

 

 背後には――魔王ですら、裸足で逃げ出すような黒い何かが見える。

 各三人の横にいるスバル、ティアナ、エリオ、キャロ、勇斗が動くことができず、その場でガタガタ震える。

 ヴィータ、シャマル、リインフォースⅡも例外なく震える。

 シグナムは、夜に主はやてとの話に、顔を青くしながら体を振るわせる。

 ザフィーラは、獣の感で謳華と一緒に離脱済みだったりする。

 真里菜は真里菜で、のんびり兄の噴出した味噌汁の後始末中。

 脳裏にただ一言、こう過ぎる――恐怖、と。

 悪寒。

 絶望。

 失望。

 怒り。

 悲しみ。

 嫉妬。

 不条理。

 理不尽――そんな感情、感覚が押し寄せてくる。

 一週間前の出来事を持ち出して凌ごうと思ったが、これはこれ、と言って弾かれるのが目に見えた。

 よって、この三大最凶から逃げることはできないと悟るのは――早かった。

 掛かった時間――僅か3秒足らず。

 悟るより、諦めが適切だったかもしれない。

 そして、時覇は自分の部屋に引きずられていった。

 それから緊張の空気は消え、リビング全体に安堵の息が響く。

 

「隊長……生きていたら、今度なにか奢らせてください」

 

 上から異様な圧力を放つ場所に、ポツリと呟く勇斗。

 その言葉に同意するように、大体の人間が愛想笑いを浮かべる。

 それと、どこからともなくチーンという音が聞こえる。

 しかも近くからなので、何気に視線が向く。

 そこには真里菜がボソボソと御経を唱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「若いことは、良きことかな」

「そうですね」

「ええ、本当に」

 

 何故かなのはの実家である、翠屋で屯っている謳華、リンディ、桃子であった。

 ちなみにザフィーラは、店の外でアルフとのんびりしているのであった。

 主役に合掌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リインフォースⅡ(以後:リⅡ)「あの~、私のこと忘れていませんでしたか?」

 ごめん、ネタじゃなくて純粋に忘れていた。

リⅡ「ひどっ! 今すぐ追加文を!」

 無理、これ以上延ばすと、本当にキリが着けられなくなる。

リⅡ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! 作者のお馬鹿!」

 今度、メインで出してやるから。

リⅡ「本当ですか!?」

 ああ、面白おかしいイベントで。

リⅡ「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 皆さん! ――拍手でも何でも良いから、普通の話を書いてと送ってください! コメント付の同情票でもいいので!」

 号泣きしながら、自分から言うか?

リⅡ「アナタには判らないのですか!? メインの一人だったのに、急に脇役扱いされた者の気持ちが!?」

 ユーノだったら、説得力あっただろうに……

リⅡ「…………ユーノさん、ごめんなさい」

 合掌してやろうか。

リⅡ「はい」

ユーノ(以後:ユ)「まだ死んでもいないから! ってか、七話目とちょっとでて、八話目には――」

 またどこかでお会いしましょう~。

リⅡ「さよならです~、って、コメント付の同情票でもいいですからお願いします!」

ユ「僕のはな――」




あとがき
 ついに完成!
 一ヶ月近く掛かって書きましたが、真面目にやっていれば15日くらいには完成していたかも。(汗
 あ、でもバイトもあるからって、それは甘えだな、うん。
 で、現在(2007/5/23)において、過去最高枚数を誇る作品。
 ギャグになっているかどうかは不明だが、笑いがくれば良しです。
 もし、別の内容の話が読みたいのなら、拍手かメールを送ってください。
 次回に反映されるかもしれません――力尽きない限りは。
 ので、今後も宜しくお願いします。



 後半になって、カオス化してきた。
 で、終わり所が判らなくなり、ここで切りました。
 別に続けてもよかったのですが、マジで終わりなきSS――グダグダ話になるのは必然。
 それで、続きは別の話で語ります。






制作開始:2007/5/2~2007/5/23

打ち込み日:2007/5/23
公開日:2007/5/23

修正日:2007/5/26+2007/6/11+2007/7/20+2007/8/18+2007/10/6
変更日:2008/10/29


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予告編

この作品は、外伝の番外編2作目になる作品で、計3話構成になる予定でしたが、データが飛んで影響でエターした作品です。


 

 

 

私はあの三日間の出来事は、できれば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いえ、絶対に思い出したくはありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デバイスの身でありながら、胃の調子がおかしくなりましたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は……7月上旬。

 あの事件もどきより、さほど経っていない。

 ある昼下がりの出来事……機動六課で、あるロストロギアが暴走。

 魔力の光に――なのは、フェイト、はやて、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、シャーリーが飲み込まれた。

 そして――受け取りのために立ち会っていた、クロノ、リンディ、ヴァロッサの変わりに来ていたカリムも一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時覇さん、勇斗さん、お疲れ様です」

 リインフォースⅡが、満面の笑顔で答える。

 現在の場所――元ラギュナスの英知の館・トラグロンベスティア。

 トラグロンベスティア――現在の時空管理局の技術・能力、いや、これからも進行不可能である場所。

 時空の壁を越し場所にある世界――トラグロンベスティア。

 世界全体が書物の保管庫となっており、今もどこかで生まれた技術、方法、歴史などを記載し続ける。

 無限書庫の巨大版と考えたほうが早い。

 ただ、ここには真実から改ざんされた歴史、裏の出来事まで記載してある。

 故に、とてもではないが一般に公開するわけにも、時空管理局に行き方を教えてはいない。

 ここへ来ることができるのは、現在――たった三人。

 ラギュナス分隊長である時覇、ラギュナス3兼現副隊長のゴスペル、新人のラギュナス4の勇斗だけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……なんなのですか、これは……」

 絶句するリインフォースⅡ。

 さすがの時覇も絶句。勇斗も、である。

 その視線の先には――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、どこ? ねぇ、お家に帰りたいよ……ヒック、ヒック」

 泣き出すスバル。

 それに弁上するように、キャロとエリオが泣き出す。

 そして、それが連鎖反応を起こすかのごとく、皆泣き出してしまった。

 しかし――救世主になりえる者がいた。

「皆、お父さんとお母さんは! 三日間だけ、お出かけしなくてはならなくなったのです!」

 勇斗が声を上げで、皆に言った。

「ですから、泣かないで! 三日間だけ、お兄さんとお姉さんと一緒に! いい子でまってようね!」

 笑顔で皆の意識を反らそうとしたが――

『うっ――わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん!』

 さらに大泣きしてしまった。

 勇斗は、この時の出来事をこう語った。

「自分が女性だったら、それなりに代わっていたかもしれない。って、いうか、フェイトさんだったら、もっと上手く立ち回れるだろ」

 と、肩を落として、騒動が終わった次の日の夜――酒場で牛乳を飲みながら語ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、ヴォルケンリッターは、本局へ研修生の指導へ――帰りは三日後。

 バックス一同は、強制的に三日間だけ有休消化のため、慰安旅行へ。

 よって――現在、機動六課にいるのは、リインフォースⅡ。

 ラギュナス分隊隊長、時覇。

 ラギュナス4、勇斗。

 サボりの常習犯にして、ラギュナス3にして現副隊長、ゴスペル――の4人だけ。

 知識はあっても、実戦で生かせなければ意味がない。

 ……この三日間で思い知らされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供のお守りは――小さな保母さん、リインフォースⅡ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはたちが元に戻るまでの間、業務に追われるラギュナス分隊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲鳴を上げる時覇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃亡するので、厨房へ立たされた勇斗

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連絡係のゴスペル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この四人だけで、三日間を切り抜ける!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはGaG

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ⅱ(ツヴァイツ)物語:リインフォースⅡの保母さん奮闘記

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2007年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公開予定!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

業務に終われ、書類の山に――骨を埋めるのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、こちら機動六課……チャーシューメン一つね、って、ラーメン屋じゃねぇぞ、おい!?」




あとがき
 みなさん――リイン話が読みたいか!?
 拍手はあるのにコメントないのが悲しい。(泣
 どうとってよいのか判らないから。マジで。
 本当は、これは時覇メインの話重視で行こうかと思っていました。
 が、期待されているのか良く判りませんが、色んなキャラクターをメインしていこうかと。
 ギャクといって、ドシリアスになる場合もあり。
 今後もよろしくお願いします。






制作開始:2007/5/30~2007/6/4

打ち込み日:2007/6/4
公開日:2007/6/4

修正日:2007/6/5
変更日:2008/10/29


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『はい、こちら機動六課……チャーシューメン一つね、って、ラーメン屋じゃねぇぞ、おい!?』編

 

 

 新暦75年7月◆日

 今日は、機動六課の局員の旅行へ行く日。

 シグナムさんやヴィータちゃんたち4人は本局へ。

 私はこれから、時覇さんと勇斗さんと一緒に、ある秘密の場所へ行ってきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅰ――発生物語

魔法少女リリカルなのはGaG

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は……7月上旬。

 あの事件もどきより、さほど経っていない。

 天気は晴天。

 洗濯日和とは、まさにこの日であると言える。

 機動六課――隊舎入り口前。

 そこに男が2人と女が1人。

 小さな妖精が一人浮いていた。

 

「よし、準備はいいか? リイン、勇斗」

 

 バリアジャケットは展開していないものの、グローブのデバイスを締めなおしつつ尋ねる時覇。

 

「…………うしっ――問題ありません」

 

 簡易チェックをし、忘れ物が無いか確認してから敬礼しつつ報告する勇斗。

 

「リイン、忘れ物はない?」

「はい。大丈夫です、はやてちゃん」

 

 可愛く敬礼し、笑顔を浮かべる妖精――リインフォースⅡ。

 服装は、ラギュナス特別仕様のバリアジャケット。

 どこかのロボットのような服で、背中には鋼の羽が六枚。

 その姿は、擬人化された感じの姿。

 生成魔力の負担は、時覇が請け負っている。

 時覇曰く、リハビリには丁度良い。らしい。

 

「うん。じゃあ、行くぞ」

 

 その言葉と同時に、時覇の前に魔方陣が展開される。

 しかし、その魔方陣はミッド式、ベルカ式ではない。

 サイガ式――極端な切り替えしかできない魔法式である。

 だが、使いこなせば理論上であるが、次元航行艦に搭載されたアルカンシャルをも弾くことが可能とされる。

 ただ問題なのは、使用するにはまず最低AAランクくらいの魔力が無いと使えない点である。

 さらに技術よりも、魔力に頼る部分が多い。

 故に、マイナーの中のマイナーにして、キング・オブ・マイナーと称号されても過言ではない。

 よって、ほとんど見向きもされる事無く、歴史に埋もれ消えていった魔法式。

 この先も、永遠に日の目を見ることはなかったはずである。

 だが、それに目をつけたのが先代のラギュナスの長。

 この魔法式を使いこなすものの、使いこなせる伝授者が現れる事無く、再び風化しつつあった。

 それを偶然発見し、何とか再現したのが時覇である。

 魔力はそれほど高くは無かったが、低い魔力でも運用できるように改良、発展させた。

 

「早く乗れ」

 

 魔方陣に乗って、こっちへ来いと腕を振って合図を送る。

 

「了解」

「は~いですぅ」

 

 勇斗は駆け足。リインフォースⅡは飛行、そのまま勇斗の頭に乗る。

 どうやら最近そこがお気に入りらしい。

 軽いから余り気にしないのでそのままにしてある。

 

「乗ったな――行くぞ!」

 

 一瞬眩い光を放つ次の瞬間――いつもの風景があった。

 ただ、男2人と妖精1人が消えただけ。

 それを確認したはやては、その場で背伸びをし、

 

「こんにちは、はやて」

 

 右から声を掛けられ、そのまま顔を横に向ける。

 が、目を丸くするほど驚いた。

 何故なら――

 

「カリム!?」

 

 そう、教会から滅多に動くことがなく、聖王教会トップの1人――カリム・グラシア。

 カリムに会うには、通信越しか、自ら直接会いに行かなければならない。

 

「どうしたん、今日はヴァロッサが来るのちゃうかぁ?」

 

 頭から足を、足から頭を何度も目を往復させながら言った。

 その行動に、素直に微笑むカリム。

 妹分の慌てぶりに喜びを覚えるのは、姉心というべきか。

 

「それがね、急に別世界の視察に行くことになって。それで、休暇も兼ねて私が変わりに来たの」

「なぁ!? そなら――」

「久しぶりに、直接はやての顔が見たかったから、ね」

 

 はやての言葉を押さえるように、手を自分の頬を当てながら言う。

 

 仕方ない。という顔で肩を落とす。

 

「……しゃあない。ほなら、案内するわ」

 

 振り返りながら、カリムを案内するはやて。

 

「ええ、お願いするわ」

 

 それに続くカリム。

 これから行われる、ロストロギア封印の立会いに。

 しかし――これが、リインフォースⅡの胃をおかしくする出来事になるとは、誰も予想できなかった。

 ……デバイスの胃の調子を悪くすることも。

 

 

 

 

 

「そういえば、はやて」

 

 廊下を歩いている時、不意にカリムが声を出す。

 

「どぉなんした、カリム?」

 

 少し先に前を歩いていたはやては、首を横にして、カリムの速さに合わせるように横につく。

 

「あのね、局員の姿が見えないのだけど……いくら人がいなくても、1人くらいすれ違うと思うのだけど」

「ああ。そのことやったら、主力メンバーを残して、他の局員は全員強制局員旅行や」

 

 苦笑しながら言う。

 

「強制局員旅行?」

 

 首を傾げるカリム。

 局員旅行は判るが、なぜ強制?

 まあ、局員旅行自体珍しいことだが。

 理由は今までもなく、人事不足で犯罪は止まらず。

 今この瞬間、どこかで笑顔が。

 平穏が。

 幸せが。

 希望が一つ消え、こんなはずではなかった出来事を。

 時間が。

 世界が。

 歴史が刻まれていく。

 それを防ぐために組織された1つが――時空管理局。

 しかし、所詮は人が集い、組織となす。

 そして、組織は人がいてこそ成り立つ。

 よって、人がいなくなれば、時空管理局が消滅してしまうことになる。

 人には、色々なモノを備えている。

 1人1人違うモノを持っている。

 疲れ知らず、手先が器用、レアスキルを持つ者、絵が得意、歌が上手など。

 だが、共通していることはいくつかある。

 人間の命は1つで、一度死んだ人間は生き返ることはない。

 疲れ知らずといえども、少なからず疲れは溜まる――度が過ぎれば、過労死する。

 他にもいくつかあるが、命に関わるモノの代表的な中の2つ。

 結果――時には、人は休息が必要である。

 ここの所、事件らしい事件は起きていないが、蓄積された疲労は、いつ噴出すか判らない。

 よって、今のうちに休暇を与え、完全とまではいかないが、ある程度英気を養ってもらう――というのが半分で、もう半分は、またしても人事部からの通達。

 主力メンバーか、サポートの局員のどちらかの休暇を使って欲しい。との、人事部のご都合による通達。

 しかし、主力メンバー――とくに新人たちは、まだモード2の扱いに不安がある。

 これから消極法で行くと――サポートの局員となる。

 いつ事件が起きるか判らないため、今日の朝、さっさと出発してもらった。

 今、機動六課にいるのは、各隊長と副隊長に、新人5人、サポート役に1人。

 サボりが1名いるが、いつもの事なので気にはしない。

 非常回線は繋がりっ放しなので、勤務的には問題あるが、それ以外は問題なし。

 呼べばきちんと来る。

 ただ呼んだら呼んだで、パシリだが。

 それは、また別の話。

 そんなことをカリムと話すはやて。

 そして――目的の部屋の前まで来た。

 

「ここや、カリム」

 

 扉の横のプレートには『特別封印処理室』と書かれてある。

 

「皆、おるか~?」

 

 そう言いながら、扉が開く。

 そこには、いつもの仲間がいた。

 唯一無二の親友――なのは、フェイト。

 はやてが見つけた希望の原石――スバル、ティアナ。

 フェイトの養子――エリオ、キャロ。

 中央のロストロギアの封印処置を行う役にシャーリー。

 それぞれ挨拶の言葉が飛んでくる。

 そんな中、提督のみ着ることができる服を着た人物――クロノとリンディである。

 

「こんにちははやてさん、騎士カリム」

「こんにちは、騎士カリム。今日はヴァロッサが来るはずでは?」

 

 リンディとクロノから声が掛かる。

 カリムはリンディに会釈をし、クロノと向き合う。

 

「ヴァロッサは、別件で遠方の別次元の方へ。出張との事で」

「そうですか……しかし、なぜ貴女が?」

 

 はやてと似たような行動を取るクロノを見て、思わず笑ってしまうカリム。

 その言動に、クロノは困惑する。

 

「ああ、ごめんなさい。最初に会ったときのはやての行動と似ていて、つい……」

 

 口元を押さえ、小さく笑うカリム。

 クロノは、はやてをジト目で見るが、はやては顔を反らした。

 私は関係ない、と。

 その行動に苦笑する親友と新人たち。

 シャーリーも釣られて笑う。

 そこでカリムはあることに気がつく。

 いつもの3人と1体がいないことに。

 

「あら? 守護騎士たちは……」

「ああ、それやったら、シグナムたちやったら本局に呼ばれていったんよぉ」

 

 ほのぼのしながら言いつつ、シャーリーの下へ行くはやて。

 シャーリーは頷き、キーパネルを操作する。

 すると、中央の機械が作動し、ロストロギアが姿を表す。

 それを見た一同は、顔を強張らせる。

 どんなモノで、ロストロギアはロストロギア。

 一歩間違えれば大惨事になりかねないモノかもしれない。

 形は球体で、灰色であるが輝きがない。

 光を反射しないらしく、その場で浮いている。

 浮いているのは封印処理の機能ではなく、自らを浮かしている。

 危険度はないと確認されているが、暴走しないとは報告されていない。

 よって、検閲と封印処理は厳重にかつ、最大の注意を払って行わなければならない。

 

「これが……今回の?」

 

 カリムが疑問の声を上げる。

 

「? 何言っているのや。カリムが頼んだのやないか」

 

 カリムの疑問に答えるはやて。

 しかし、カリムの顔は困惑の色に染まる。

 

「え? はやてから頼まれたのだけど……違った?」

 

 その言葉に静寂が訪れる。

 そして、思考が再起動し、次に出た言葉は、

 

『え゛?』

 

 同時に一同は固まった。

 機動六課では、カリムからの依頼で受け渡しに。

 聖王教会では、はやてからの頼みで受け取りに。

 そのように双方に連絡が行ったことになる。

 だが、誰が? 何のために?

 など、そんな事がなのはたちの思考で走る。

 それに鼓動するかのように、ロストロギアが光りだす。

 それに気がついたシャーリーは、急いでキーパネルを打ち込む。

 がだ、受け付けることはなかった。

 

「八神隊長!?」

「くっ――」

 

 言葉を躊躇うはやて。

 ここで逃げれば、機動六課の存亡に関わってくる可能性がある。

 ここに踏み止まり、万が一封印を失敗した時のことを考えると、最悪である。

 

「提督権限で、この場から離れろ! 我々が何とかする!」

 

 クロノが、躊躇するはやての変わりに激を飛ばす。

 

「せぇやけど――」

「いいから行――」

 

 はやての言葉を覆い被せる様にクロノが叫ぶが、次の覆い被さる言葉に絶望した。

 

「提督! ドアが――ドアが開きません!」

『!?』

 

 全員が絶句した。

 ここは完全な閉鎖空間。

 空調の部分には、ロストロギアを扱う場所なので、複雑かつ頑丈に出来ている。

 しかも、ここは機動六課隊舎の地下施設。

 限定封印されたエースたちの力では、地面の打ち抜く以前に、壁すら打ち抜くことは不可能。

 可と言って、限定封印をこんな所で解除する訳には行かない。

 一度使えば、次に許可を貰えるのは何時になるのか判らない。

 まさに絶望という言葉しかなかった。

 だが、ここで諦めるなのはたちではなかった。

 

「フェイトちゃん! はやてちゃん!」

 

 なのはの声に、二人は顔を向ける。

 その言葉となのはの顔を見て、二人の顔から絶望は消えた。

 フェイトとはやては頷き合う。

 そして――代わることの無い思いと、いつもの言葉を胸に。

 

「レイジングハート!」

<はい、マイマスター>

「バルディッシュ!」

<イエッサー>

「リインフォース――って、ぃなんのやった!?」

 

 その言葉に、全員が扱けた。

 しかも、シャーリーはモロ機材の角に頭をぶつけ、頭から出てきては拙い色が流れ出てくる。

 

『しゃ、シャーリーさん!?』

 

 同時に叫ぶ、エリオとキャロ。

 

「頭から赤いものが!?」

「早く手当てを!」

 

 それを見たスバルとティアナは、大慌てで治療に当たる。

 それはそれで置いといて。

 しかし、突っ込みを入れる時間すら惜しむ。

 2人は苦笑の顔から真面目の顔に戻り、合言葉――起動の言葉を、三人同時に叫ぶ。

 

『セェェェェェェェェェェトッ、アップ!』

 

 三人はデバイスを掲げるが――反応が無い。

 それ以前に――目の前でデバイスが消えた。

 静寂。

 しかし、それは一瞬の空気であった。

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

 全員――シャーリーは除く――が、声を上げた。

 それと同時に魔力の光が――なのは、フェイト、はやて、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、シャーリーが飲み込まれた。

 そして――受け取りのために立ち会っていた、クロノ、リンディ、カリムも一緒に。

 

 

 

 

 

「リイン。探し物はこれか?」

 

 古びた書物を、蒼天の妖精に掲げて見せる。

 それを見た蒼天の妖精は、勇斗に何かを話してからこちらへ飛んできた。

 書物のタイトルの眺め、時覇から受け取り、中身を確認する。

 タイトルは『新暦13年度・質量兵器による犯罪』。

 かつて、ミッドチルダの政府自ら動き、抹消した記録書の一つ。

 内容は、ミッドチルダ内で起きた事件。

 だが、ある犯罪組織を殲滅するために、当時のミッドチルダの政府の了解を得て――時空管理局自ら違法であるはずの質量兵器を使用した記録内容。

 

「これです! これを探していました!」

 

 大喜びする蒼天の妖精――リインフォースⅡ。

 最近、時空管理局の強硬派が兵器運用を推奨する動きが強くなり、ある人物から極秘に頼まれた。

 このまま兵器運用を行えば、どのような末路を辿ることになる資料の調査。

 それが、今見つけた書物の内容の一つ。

 他にも、いくつか見つけている。

 他世界の兵器運用の結果と末路。

 その大半は、犯罪の凶悪化に被害の拡大率。

 そして、死者の数。

 ドドメには、その世界の末路。

 それを突きつけられれば、さすがの強硬派も兵器運用を見直しせざる終えなくなる。

 しなかった場合は、一般に公開すればいい――訳にもいかない。

 大半の資料は、正式記録から削除され、無かったことになっている資料ばかり。

 公開したら公開したで、各方面が大変な騒ぎになってしまう。

 そう思いつつ、勇斗に声を掛ける。

 

「勇斗! リインが終わり次第撤収するぞ!」

「了解!」

 

 勇斗は、適当に積んであった本の山を上空に放り投げる。

 その光景は、まさに図書に関わる者に対するケンカ的な行動であった。

 だが、本は閉じたまま空中で静止し、四方へ飛んでいった。

 理由は、本の一冊一冊に魔法が刻まれており、元になった場所へ自動的に戻っていく。

 それは人の手で行われたものではない。

 この世界自身が、本を一冊一冊に魔法を刻んでいった産物。

 時覇も勇斗もそんなことを繰り返しながら、本が戻っていくのを眺めていた。

 

「これで……終わりました~!」

 

 大きな声と同時に、先ほど写し取っていた本を、思いっきり上に投げる。

 しかし、規定位置に届かなかったのか、それとも誤認なのか、リインフォースⅡの上に落ちてくる。

 

「へ――ふぎゅ!?」

 

 そのまま本に潰された。

 勇斗は慌てて駆け寄り、時覇は頭を掻きながら呆れてため息をついた。

 世界は――どうやら、一度試してみたかったらしい。

 

「……気持ちは判らんでもないな」

 

 世界に対してぼやいた。

 

 

 

 

 

「時覇さん、勇斗さん、お疲れ様です」

 

 リインフォースⅡが、満面の笑顔で答える。

 現在の場所――元ラギュナスの英知の館・トラグロンベスティア。

 トラグロンベスティアとは――現在の時空管理局の技術・能力、いや、これからも進行不可能である場所。

 時空の壁を越し場所にある世界――トラグロンベスティア。

 世界全体が書物の保管庫となっており、今もどこかで生まれた技術、方法、歴史などを記載し続ける。

 無限書庫の巨大版と考えたほうが早い。

 ただ、ここには真実から改ざんされた歴史、裏の出来事まで記載してある。

 故に、とてもではないが一般に公開するわけにも、時空管理局に行き方を教えてはいない。

 ここへ来ることができるのは、現在――たった三人。

 ラギュナス分隊長である時覇、ラギュナス3兼現副隊長のゴスペル、新人のラギュナス4の勇斗だけである。

 しかし……首のシップや足の包帯やらで、笑顔の魅力は僅かに下がる。

 

「大丈夫ですか、リインさん?」

 

 右手には包帯とシップの入れ物、左手にはハサミ。

 勇斗がリインフォースⅡに巻いたのである。

 彼が持つデバイス――D・アーマー。

 『D』は、デストロイの略。

 デバイスはデバイスでも、サブ・デバイス。

 使い手とデバイスの補強を行うために作られた、特性デバイス。

 単体でも使用可能だが、決め手にかける。

 だが、一旦サポートに回れば、その真価が発揮される。

 ただ問題点なのが何点かある。

 ピンキーしか考えられていないことである。

 故に、量産化が難しく、誰にでも扱える訳でもないのが上げられる。

 トドメは、インテリジェントタイプしかない事――これが、一番の原因に当たる。

 使い手とデバイスの相性がよければ、1+1の答えは、10にも20にもなる。

 しかし、相性が悪ければ2にすらなく、場合によってはマイナスとなることもある。

 さらに、インテリジェント同士――俗に言う三角関係(やましい意味ではなく)を築き上げなければならない。

 使い手の相性が良くても、デバイス同士が悪ければ駄目。

 デバイス同士が良くても、使い手と合わなければ駄目。

 相性があるインテリジェントデバイスを探すよりも難しい。

 それはさておき。

 

「はい、大丈ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

 体全体で元気を表現しようとしたが、全身に激痛が走り、宙でうずくる。

 

「無理するな。はやてにどやされるのは俺なのだからな」

 

 うずくるリインフォースⅡをそっと掴み、勇斗の肩に乗せる時覇。

 何で俺? という視線が来るが、あえて露骨に目を反らして無視。

 

「かたじけないです~」

 

 最近まで彼女は時代劇にはまっているらしく、時折シグナムと話を弾ませるときがある。

 だが、ここの所路線変更したのか、勇斗といることが多い。

 

「じゃ、隊舎に帰るぞ?」

 

 懐から取り出したカード型デジタル時計の時間を確認しながら、答える時覇。

 

「了解」

「はいです」

 

 それぞれの返事を上げ、時覇の横に立つ。

 

「世界は終わらん、時が刻むことを止めぬ限り――退館」

 

 その言葉が世界に響く。

 3人の視界は歪み、体が宙に浮く感覚に襲われる。

 そこで意識が消えた。

 

 

 

 

 

 重力に引かれつつ、目を覚ます時覇だが、

 

『…………』

 

 無言の圧力。

 

「……弁解していいか?」

 

 この空気を打破するために、一つの提案を提示する。

 だが、

 

『…………』

 

 無言の圧力は続く。

 ついでに軽蔑ともいえる眼差しを向けて。

 ちなみに、勇斗の頭には汚いトランクス、リインフォースⅡにはバナナの皮が乗っかっている。

 そう――ここは、機動六課のゴミ収集所。

 色んなゴミが捨てられ、一時的に貯められる場所。

 どうやら、あの世界――トラグロンベスティアは、どうやらイタズラが大好きらしい。

 視線と圧力に耐えかね、ため息を吐く。

 

「いい加減、ここから出るか」

『…………』

 

 体を動かす2人。

 出ることに対しては同意だったが、ここに出たことに対しては、まだ不満があるのは一目瞭然。

 ついに居たたまれなくなった時覇は、一足先に出入り口へ向かった。

 後方から何か声が聞こえるが――虫の声だけに無視した。

 ……くだらなくてスイマセンでした。

 そして、隊舎入り口前で、頭の中の警報が鳴り出した。

 

「ドゥシン‘s!」

 

 戦士の本能と条件反射で叫ぶ。

 それに連動するように、前で腕を交差させる。

 

“バリアジャケット――セット・アップ!”

 

 両手の甲が輝く――慣れ親しんだ光であり、未来を切り開くための剣と盾を生み出す光。

 私服から、バリアジャケットへ。

 魔力障害から、ある程度緩和されたためか、最近凝った作りのモノになってきた。

 上げるなら、簡単な装飾品と複雑な形になりつつある服である。

 

「時覇さん!」

「隊長! 先行命令を!」

 

 後ろから戦闘準備万端の2人が追いつく。

 リインフォースⅡは自前のバリアジャケットに着替え、勇斗の量腰に刀が添えられていた。

 

「慌てるな。後方役としてリイン。それを中心に、俺と勇斗の2人で前衛と護衛役」

「了解! 後方役としてリインさん。それを中心に、俺と勇斗の2人で前衛と護衛役!」

 

 時覇の言葉を復唱する勇斗。

 普通はしなくても良いのだが、勇斗場合は訓練の一環として行う。

 目的を見失いがちだった、“あの頃”から続いている癖。

 未だに見失いがちであるが、

 それを見て、微笑むリインフォースⅡ。

 はやてが生み出した人格故なのか、母親役が板についてきたようだ。

 時覇も、微笑ましく思うが、今はその時ではない。

 

「まずは、一階から順番に最上階を目指す。重要データのある各隊長の部屋も気になる」

「そうですね、持ち出されたかコピーされたかくらいは確認しておかないと」

「あと、地下の方も気になります。せめて、地下を封鎖してから進むべきかと考えますが」

「それも一理あるな。リイン、一時的に地下の閉鎖を」

「了解です」

 

 リインフォースⅡの目の前に、キーパネルが出現。

 その小さい手で、素早く入力していく。

 そこで手が止まる。

 

「時覇さん、特別封印処理室に複数の生命反応あり! これは――はやてちゃんたちやフォアード陣に、提督たちや……何故騎士カリムの反応が?」

 

 その言葉に、脳内の思考回路を走らせる。

 

「閉鎖一旦中止! 隊舎全体のスキャンを!」

「了解です!」

 

 再びキーパネルの上に、小さな手が踊りだす。

 

「勇斗!」

 

 咄嗟に叫び、互いに背を預ける。

 背の中心の上にはリインフォースⅡがいる。

 さながら、簡易基地を思わせる形である。

 

「……気配らしい気配がない……どういうことだ?」

「ええ、高町隊長たちの気配しか無いです。敵がいた場合、すでに離脱したあとだと考えるのが妥当かと」

「ああ、それもあるが……『奴ら』だったら、どうなる?」

「探索魔法など無意味でしょうね。あと、気配を探るのも」

 

 そこで会話が途切れる。

 あとはキーパネルの電子音が鳴り響くだけである。

 それ以外――何も無い。

 結局探索が終わっても、何も起きなかった。

 しかも、地下にいるなのはたち以外の反応しかない。

 感でも鈍ったのか?

 そう考えつつ、最初の陣形を取りながら、地下の階段を一段一段踏みしめてく。

 カードは通さずに、パスワードを入力して開ける。

 前後左右上下確認後に、前進。

 曲がり角でも同じ事を繰り返し、前進。

 扉の前でも同じことを繰り返し、部屋の中を確認してから前進。

 無視した部屋から、敵が出てきて不意打ちを貰う。

 などという最悪なケースを避けるためである。

 それを何十回も繰り返し――目的の部屋である、特別封印処理室に到着。

 時覇は、リインフォースⅡにアイコンタクトを送る。

 伝わらない時は、動作で示す。

 リインフォースⅡは、真剣な表情で頷き、パスワードを打ち込んでいく。

 今回は成功のようだ。

 大抵は、こんな感じ。

 なのはの場合――『そ、そんなに見つめられても……』

 そのあと、恒例のチョップ炸裂。

 フェイトの場合――『あ、あの、私にはエリオとキャロいるけど……子供、嫌いじゃないよね?』

 クロノに連絡し、厳重注意してもらう。

 はやての場合――『そっ、そなぁ見つめたらあかんで!』

 レティに通報し、反省文を書かせる。

 シグナムの場合は――可哀想だから、思い出さないでおこう。

 あの時は酷かった。

 これもまた、別の機会に。

 そんなことを思い出しつつ、準備完了できたようだ。

 3人は頷き合い、配置につく。

 リインフォースⅡは、管制役を主に扉を開ける役と追い討ち役。

 勇斗は、時覇のサポートを主に、先陣とかく乱役。

 時覇は、オールランウンド。

 臨機応変で行動をする。

 ならば管制役をやれと言われそうだが、やらないには理由がある。

 その理由は――めんどくさいから。

 ではなく、適正がそれほど高くないからである。

 才はあるが、はやてやリインフォースⅡより劣るためである。

 

「…………突入!」

 

 リインフォースⅡの掛け声と共に、扉が開かれる。

 その瞬間――一筋の小さな旋風が巻き起こる。

 勇斗が使う高速移動技――瞬速。

 文字通り、瞬間的な速さを知らしめる技。

 なのはの実家の父、兄、姉が使う剣術の『神速』と呼ばれるモノに似ているらしい。

 続いて、回りにシューターを展開させた時覇が続く。

 が、そこで止まった。

 いや、正確には固まったというべきである。

 前方に勇斗が刀を抜きかけたまま固まっている。

 

「何かあ――」

 

 さすがのリインフォースⅡも、何かを察して恐る恐る覗き込む。

 それに気がついた時覇は、周りのシューターを消し、勇斗を引きずって前を空けた。

 

「なっ……なんなのですか、これは……」

 

 絶句するリインフォースⅡ。

 さすがに衝撃が大きかったらしい。

 無理も無い。

 確かに、なのはたちであることは間違い無い。

 気配、魔力共に本人と一致しているが――小さすぎる。

 いや、幼すぎる。

 唖然と空中静止状態のリインフォースⅡ.

 気持ちは判らないでもない。

 だが、問題なのはその視線の先の光景であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ⅱ(ツヴァイツ)物語

リインフォースⅡの保母さん奮闘記

『はい、こちら機動六課……チャーシューメン一つね、って、ラーメン屋じゃねぇぞ、おい!?』編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リインフォースⅡの視線の先には――

 

「痛いよ~、痛いよ~」

 

 頭に包帯が巻かれたシャーリー。

 それを見て頭を撫でて、慰めるリンディ。

 クロノとカリムは、何かを話し合っている。

 子どもの癖に、意外と冷静である。

 すすり泣いているフェイトをあやす、なのはとはやて。

 半泣きしている3人――スバル、ティアナ、キャロ。

 それを見てオロオロしているエリオ。

 妙に精神年齢の高さに感心した。

 だが……全員下着やら上着しか羽織っていないことであるが、このさい気にしない。

 で、この状況に、未だに固まっている2人。

 どうすればいいのか悩む時覇。

 どうしてこうなったのか、原因を突き止めたい。

 だが、子どもになったなのはたちをどうにかするかが先である。

 そんなことを考えているうちに、ズボンが引っ張られる。

 ふと、視線を下に向けると――スバルらしき面影のある女の子が、ズボンを掴んでいた。

 

「ここ、どこ? ねぇ、お家に帰りたいよ……ヒック、ヒック」

 

 やばい。

 本能が告げる。

 例えるなら、噴火する前の火山と言えば判るだろうか。

 何といえばいいのか、良い案が思い浮かばない。

 今まで子どもの面倒など、機会が無かったので経験が無い。

 勇斗は趣味で二次創作の小説を書いているので、何とかかわせたかもしれない。

 で、何もいわない時覇に耐えかね――噴火してしまった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、お父さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 泣き出すスバル。

 それに弁上するように、キャロとエリオが泣き出す。

 そして、それが連鎖反応を起こすかのごとく、皆泣き出してしまった。

 しかし――救世主になりえる者がいた。

 

「皆、お父さんとお母さんは! 三日間だけ、お出かけしなくてはならなくなったのです!」

 

 勇斗が声を上げで皆に言った。

 いつの間に再起動したのだろうか。などと、場違いなことが脳裏に過ぎる。

 だが、時覇に今の勇斗の姿は、大げさではあるが英雄に見えた。

 

「ですから、泣かないで。三日間だけ、お兄さんとお姉さんと一緒に。いい子でまってようね?」

 

 やさしく語り掛け、笑顔で皆の意識を反らそうとしたが――

 

『うっ――わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっん!』

 

 さらに大泣きしてしまった。

 勇斗は、この時の出来事をこう語った。

 

「自分が女性だったら、それなりに代わっていたかもしれない。って、いうか、フェイトさんだったら、もっと上手く立ち回れるだろ」

 

 と、肩を落として、騒動が終わった次の日の夜――酒場で牛乳を飲みながら語ったらしい。

 

 

 

 

 

 ここで、一旦状況確認。

 現在、ヴォルケンリッターは、本局へ研修生の指導へ――帰りは三日後。

 バックス一同は、強制的に三日間だけ有休消化のため、慰安旅行へ。

 よって――現在、機動六課にいるのは、リインフォースⅡ。

 ラギュナス分隊隊長、時覇。

 ラギュナス4、勇斗。

 サボりの常習犯にして、ラギュナス3にして現副隊長、ゴスペル――の4人だけ。

 知識はあっても、実戦で生かせなければ意味がない。

 ……この三日間で思い知らされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラギュナス分隊長・桐島時覇】

 

 

 

「――って、な訳で来い。今すぐ来い」

 今までの経由を語りつくして、緊急要請を出す。

 で、勇斗は皆のご飯作り、リインフォースⅡは子どものお世話。

 俺は、ゴスペルを呼び出している最中。

 

≪やだ≫

 

 即答。

 

「母親に連絡入れるぞ?」

 

 ゴスペルの恐怖の代名詞の一つを上げる。

 何時もならば、奥歯をガタガタ振るわせるほど、怖がっているのだが今はその反応が無い。

 しかも、不敵な笑顔を浮かべている。

 それで察しはついた。

 

≪残念だったな。今、どっかに行ったきり帰ってきてないらしい≫

 

 やはり、母親はまたしても行方不明らしい。

 この男の母親は、いつもフラフラとボウフラの如く、消えては帰ってくる。

 しかも、現れた場所では伝説の一つや二つ残してくる。

 実際に、ある町に居座っていた犯罪組織を一夜にして壊滅させた。

 これは時空管理局でも確認済み。

 前に一度、とある次元世界――一面砂漠の世界で、サンドドラゴンを一撃で張り倒した瞬間を目視したことがある。

 末恐ろしい戦闘能力をその得ていることは、一目瞭然。

 そうなれば、時空管理局としてはそのままにしておけない。

 と、強硬派の連中が動き、拘束しようとしたそうだが――一週間後に、綺麗にラップングされた次元航行艦と共に帰還。

 何があったか尋ねるが、誰も語ろうとはしなかった。

 さらに、時空管理局を辞める者まで現れる始末。

 一体何があったのか、未だ謎に包まれている。

 それもさておき。

 

「とにかく来い! 人手が全然足らん」

 

 人手が足らない以前に人自体いないのだがなぁ。

 

≪じゃ、局員の連中を呼び戻せばいいだろう?≫

 

 正論で返してきやがった。

 しかも即答で。

 こういう時に限って、機転の利く奴だから腹が立つ。

 

「そうは行くか。都合を考えろ、サボり魔」

 

 こちらも手札を切る。

 オウム返しもとい、正論返し。

 利くはずはいだろうが、一応出してみる。

 言わない時に言わないと後悔する。

 

≪別にいいだろ? 緊急回線だけは、きちんと標準装備しているから≫

「関係ない」

≪ある≫

「ねぇーよ……」

 

 ため息を吐く。

 横暴具合に、敬意を表したくなってきた。

 夢に人とかいて――『儚(い)』(はかない)と読む。

 やはり無駄な足掻きであったと痛感した。

 危険度の高い任務ほど喜んでついてくるが、こういうアクシデント系の任務は断固拒否する。

 性格上、仕方ないといえば仕方ない。

 だが、神は彼に天罰をお与えになられた。

 

≪ないわよ≫

 

 モニターの向こうにいるゴスペルが固まった。

 声で察しはついた。

 奥歯をガタガタ震わせ、脂汗をダラダラ流している。

 先ほどの強気の姿勢はどこへ行ったのやら。

 アイコンタクトで助けを求める。

 たとえ助けに行っても間に合わないし、行ったら行ったで、巻き込まれるのは必然。

 

「……末路くらい、見守ってやる」

 

 かつて敵であった。

 かつて同胞であった。

 そして、今は仲間。

 戦友の末路くらい、見届けるべきである。

 ……内容が内容だけに、見届けないほうがよいが。

 この場合は。

 

≪お・し・お・き♪≫

≪いや、そのは――≫

 

 胸倉を掴まれ、一瞬で画面外へ連れて行かれる。

 それかは、もの凄い打撃音と人類が奏でてはいけない音が鳴り響く。

 ついでに、悲鳴あって悲鳴ではない声も聞こえるが、この際無視する。

 自信満々に答えるゴスペルの解答を思い出し、自然にため息が出てきた。

 同時に、胃の辺りを押さえる。

 ここ一週間、胃の辺りを押さえるようになった。

 リインフォースⅡ、勇斗も、である。

 何故だろう?

 そう思いつつ、惨劇が終わるのを待った。

 ただ、終わるには時間が掛かりそうなので、自らの権限で処理できる書類を片付け始めた。

 

≪オラオラオオオラァ!≫

≪――――――――≫

 

 今日も平和だな、うん。

 と、割り込み通信がコールされる。

 表示は『リインフォースⅡ』となっている。

 そのままモニターのパネルを押すが、一瞬だけ躊躇ったのは秘密だ。

 

≪時覇さん、ご飯ができたので食堂にきてください≫

 

 いつもと変わらない表情と声。

 しかし、何故だろうか。通信越しからでも疲労感が伝わってくる。

 いや、吹っ切れたというべきだろうか。

 何かがおかしかった。

 

「何があった?」

 

 聞いた。

 とにかく聞いた。

 聞かないといけない気がした。

 だが、

 

≪? 何も無いですよ≫

 

 満面の笑みを浮かべるリインフォースⅡ。

 ……神経でもやられたのか?

 考えても仕方が無い。

 

「判った、そっちへ戻る」

≪早めに、ですよ♪≫

 

 そこで通信は終わる。

 で、未だに奏でている方の通信へ戻る。

 

「母上殿、申し訳ないですが……」

≪判っているわ。制裁が終わり次第、そちらへ送ります。本当に申し訳ありません≫

 

 謝罪しながらも、息子への制裁は緩むことはない。

 

≪今後も息子をお願いします≫

「判りました……けど、ほどほどにお願いします。来た時に使えなかったら意味が無いので」

≪よしなに≫

「それでは」

 

 通信を切る。

 そして、徐に立って――その場に魔方陣展開。

 

「まずは……薬局に」

 

 魔方陣は輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラギュナス4・羽山勇斗】

 

 

 

 銀の刃は輝き、閃光を描く。

 描く軌道には、あるモノがあり――切り刻まれる。

 そのまま自然落下。

 焼けた鉄の上に乗り、ジュワァーと音を生み出す。

 それから、銀色のお玉がアンサンブルを奏でる――いわゆる料理である。

 味付けに予め用意しておいた調味料を流してみ、香ばしい匂いを出させる。

 それを気に、用意しておいてあった白米を入る。

 そこで通信モニターが展開され、強制的に繋がる。

 

≪皆さんのご飯は未だですか!? 痛――モノは投げちゃ駄目です!≫

 

 悲鳴に近い――いや、悲鳴のセリフを上げるリイン。

 左のこめかみ辺りに、玩具が飛んできて当たった。

 涙目でクロノとエリオを怒っている。

 大変だなと感じつつ、こちらの状況を伝える。

 

「もう少し待ってくれ! 量が量だけにまだ時間が掛かる!」

 

 加熱された中華なべを濡れタオルで掴み、お玉を走らせる。

 お玉を走らせるたびに、色とりどりの炒め物が飛び上がる。

 

≪とにかく急いでください! リインもお腹ペコペコです!≫

≪早くご~は~ぅん~!≫

≪め~し! め~し! め~し!≫

 

 飯コールのオンパレード。

 拍手のおまけ付きである。

 

「だぁ~! 黙っていろ、ガキども! あと少しで持って行くから!」

 

 そこで、お玉でモニターをタッチする。

 こちらから強制的に通信を遮断した。

 メインのご飯となる、チャーハンを炒めている最中である。

 隊長はゴスペル副隊長の呼び出し。

 リインさんは、子供たちの相手。

 残りの俺は――

 

「はい、チャーハン上がり!」

 

 ご飯を作っていた。

 さらに量を作るために、卵を取り――チンッ! と、タイマーが鳴る。

 

「できたか」

 

 卵を戻し、蒸し器へ向かう。

 開くと――しゅうまいとエビしゅうまいが、ほかほかと湯気を上げている。

 それを皿に素早く移し変える。

 他にもビーブン炒めにエビチリ、肉マンに水餃子。

 かに玉、マーボードーフまでは定番である。

 だが、棒棒ダレのサラダ、あさりの唐辛子炒めなど、普段聞いたことも見たことも無いものまであった。

 中国もとい、中華料理。

 油っ気のものが多いが、子どもなので余り気にしなかった。

 戻る時の結果は――この時は気づいていなかったが、子どもなので大丈夫だと信じた。

 もう一度、卵を持って料理を作ろうとするが、ある物が目に入った。

 

「あ。かに玉すでにできているの、忘れていたわ」

 

 後頭部を掻きながらぼやく。

 冷めないうちに、カートに素早く乗せ、簡単な後片付けをする。

 そして、カートを押しながら調理場を後にした。

 だが、俺は後悔した。

 もう少し早く持っていけば、あんなことは起きなかったと思う。

 隊長……俺も一緒に休暇を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ロングアーチ・リインフォースⅡ】

 

 

 

「リインのお姉ちゃん――うぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 ついに不安が頂点に達し、再び泣き出してしまったスバル。

 後方から『泣かした』コールが鳴り響く。

 はっきり言って、これは精神的に参る。

 

「あぁ~ん! 泣きたいのは私です!」

 

 悲鳴を上げる私。

 私を頼るのはありがたいですが、この状況下では面倒ごとが増えたとしか言えない。

 

「リインさん、お腹すいたの」

 

 リンディが人差し指をくわえ、服を引っ張って言う。

 ああ、もう!

 面倒くさくなり、緊急通信回線を開く。

 これが一番早く繋がるからである。

 しかも強制的に。

 

「皆さんのご飯は未だですか!? 痛――モノは投げちゃ駄目です!」

 

 頭におもちゃが直撃。

 言いながら飛んできた方を振り向くと、誰もいなかった。

 すっ、すばやい。

 冷や汗を垂らした。

 

≪もう少し待ってくれ! 量が量だけにまだ時間が掛かる!≫

 

 加熱された中華なべを濡れタオルで掴み、お玉を走らせている。

 お玉を走らせるたびに、色とりどりの炒め物が飛び上がる――凄いと素直に感心した。

 それに見とれたせいなのか、お腹が急に減ってきた。

 さすがに音はならなかったが、食欲が上がる。

 その証拠に、口の中の唾液の排出量が増えてきた。

 だが、後ろで起こっている出来事――振り向きたくないので確認していなが、酷いことになっているのは察しが着く。

 

「とにかく急いでください! リインもお腹ペコペコです!」

 

 状況と本音を伝える。

 

「早くご~は~ぅん~!」

 

 シャーリーが駄々をこねる。

 それに弁償するように1人、また1人と声が上がる。

 

『め~し! め~し! め~し!』

 

 その結果――飯コールのオンパレード。

 拍手のおまけ付き。

 しかも、この拍手だけは私も内緒で参加。

 

≪だぁ~! 黙っていろ、ガキども! あと少しで持って行くから!≫

 

 そこで強制的に通信を遮断された。

 ご丁寧に回線を完全遮断してある。

 何度も試すが――結果は同じ。

 この際、遠回りでも何でもいいので色んな回線を経由したが、元が絶たれているので無駄足だった。

 深くため息をつく私……少しお腹辺りが。

 ……私はデバイス、気のせいでしょう。

 そう結論に達した瞬間――今度は右からおもちゃが飛んできて、直撃。

 そのおもちゃは、尖った部分が多いモノ――超合金シリーズの一つ。

 名を『ダ・クォーガ・ノヴァイアサン』。

 5機の可変形型のロボットが、1体の巨大ロボットに合体するおもちゃ。

 さらに、追加で5機の戦闘機が各武装に変形して、巨大ロボットに装着される。

 新暦の黒歴史と呼ばれているロボットアニメ作品で出てくる機体である。

 だが、最近このアニメが再び日の目を見るようになりつつあるらしく、時折ニュースで取り扱われる。

 はやてちゃんと一緒に、そのアニメを行きぬきで見たことがありますが――見終わった瞬間、仕事を再開した記憶があります。

 あのオタクの勇斗さんさえ、さすがに引いたそうです。

 作画が酷いアニメは見られるらしいですが、このアニメだけは駄目だと宣言しました。

 ロボットはいいのに。と、しょぼくれていたのが印象的でした。

 話題休題。

 その場で塞ぎこみ、右のこめかみを押さえる。

 本気で痛いです。

 『凍てつく足枷』の冷気を右手に纏わせ、痛む部分を冷やす。

 こういう使い方をするようになったのは、やはり勇斗の影響が大きいかもしれない。

 彼は魔力が皆無ゆえ、魔法を一切使うことができない。

 荒業で使うことができるが――リスクが異常過ぎる。

 そんな訳で、時折私が試している訳です。

 一応、安全性が理論上で確認されてからですが。

 話題休題――その2。

 ともかく、

 

「お願いですから、言うことを聞いてくださぁ~ぃ!」

 

 半泣き状態の私は叫ぶ。

 アウトフレームで、大きくなり子どもたちの面倒を見ようとしたが、誰も聞いてはくれない。

 クロノとカリムの精細。エリオとリンディの特別封印処理室で見せた姿はどこへ行ったのやら。

 今は皆と共に遊んでいる。

 それはいい、それはいいのですが……誰も言うこと聞いてはくれない。

 時覇さんに任された時は、張り切っていた自分が情けないです。

 などと落ち込んでいると――バインドされた。

 

「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 混乱する私。

 何で拘束されるのですか!?

 

「クロノって、バインドが上手だね」

 

 感心するティアナ。

 ……戻ったら覚えてなさい、2人とも。

 

「そ、そうでもないけど……」

 

 頬を赤らめるクロノ。

 女の子に褒められて照れているのが判る。

 何妹に照れているのですか提督! 奥さんに言いつけるですよぉ!

 ってか、ティアナさんは、時覇さんの特別メニューの訓練に参加させます。

 クロノさんには、浮気らしきことをちらつかせてやる。

 今考えました、決定です。

 と、思うが、子どもになっていることを考えると、奥さんも怒るに怒りきれないのが目に浮かぶ。

 ってか、腹黒になってきている。

 

「って、今はそんなことを考えている場合じゃないです――今すぐバインドを解き――むぐっ!?」

 

 口を布で巻かれて塞がれた。

 犯人はカリム。

 それを見て、親指を立てるリンディ。

 カリムも立て返す。

 状況が状況だけに、オロオロするスバル。

 何か仕掛けを作っているエリオとキャロ、フェイトにはやて。

 

「ティアナちゃん、幻術系の魔法って使える?」

 

 と、なのはが尋ねる。

 何企んでいるのですか、アナタたちは!?

 そう叫びたかったが、口が塞がれているので言葉にすることができない。

 簀巻き状態なので、エビの様にピチピチと動くことしかできない。

 芋虫の如く、動くことは可能なのだが……固定バインドなので、その場から動けない。

 そんなことをしている内に、ティアナが私に変身した。

 しかし、声も変えて。

 嫌な予感が脳裏を過ぎる。

 何かの仕掛けの準備。

 なのはの『幻術系の魔法』発言。

 ティアナがリインフォースⅡへと変身。

 ……しかも、子ども。

 私はある結論に達した。

 この歳――5歳児は、ある意味最悪である。

 追加で無邪気なので立ちが悪い。

 叱ればわかる歳でもあるが、事を起こしてからでないと判らない。

 子どもは、何か起きてから出ないと理解できない部分もある。

 何もしていないのに注意しても、意味を成さないときがある。

 そこが、子どもの最悪な部分。

 

 

 

 

 ここで、DBことダークバスターからのちょっとした豆知識。

 

 この物語とは直接関係はないが、最近(2007年現在)では『子供』と記載することは駄目らしい。

 理由は、『子供』の『供』の部分。

 それは『お供』なので、表現的におかしいと言われるようになり――『子ども』と書かなければならないらしい。

 さらに関係無いが、『身体障害者』の『障害』の部分にも波紋が存在する。

 『障害』の『障』にではなく『害』の部分である。

 『害』は、文字通り――悪い結果や影響を及ぼす物事。

 障害者は、悪い結果や影響を及ぼす存在ということになる。

 よって最近は、『障がい』に変更になっている。

 今、この上記を正式な公的な場所で使うことは、駄目ということになっている。

 だが、あまり知られてはいないのが現状である。

 

 以上、これからの時代に必要な小さな豆知識でした。

 

 

 

 

 通信回線を開く準備をするクロノ。

 手際がよ過ぎるって、カリムさん、リンディさん、私をどこへ連れて行くつもりですか!?

 カリムとリンディが、可愛く「うんしょ、うんしょ」と言いながら、部屋の隅へ引きずられる。

 端から見れば、本当に可愛いが――運ばれている者にとっては、気が気でない状況。

 ロリコンと呼ばれる者たちを増やしかねない光景と、牛の如くドナドナのように連れて行かれる光景。

 天と地の差。

 月とスッポン。

 マグロとしらす。

 そんな感じ。

 なのはは変身したティアナと厳重な打ち合わせ。

 クロノは回線をいつでも開けるように、ラインを確保。

 シャーリーは、回線の最終調整。

 後の者は、仕掛けの製作。

 オロオロしていたスバルも、いつの間にか笑いながら参加している。

 子どもは無邪気でいいよね。と、引きずられながら何と無く悟る私。

 もう、疲れました。両方のこめかみが痛いです。

 こめかみの部分をヒリヒリさせながら、成り行きを見守ることにした。

 なのはとの打ち合わせが終わったのか、変身したティアナがクロノの元へ移動。

 それに気がついた作業組みは、一旦作業を中断する。

 シャーリーも準備が完了したらしく、モニターに移らないように、クロノと共に離れる。

 周りを確認してから――

 回線が開かれると、同時に演技が始まる。

 

「時覇さん、ご飯ができたので食堂にきてください」

 

 いつもと変わらない表情と声、私そっくりである。

 しかも、通信越しからでも伝わりそうな疲労感を出している。

 吹っ切れた感じも上手い。

 その辺の二流俳優より、凄く上手である。

 しかし、時覇さんの表情は少し硬かった。

 

≪何があった?≫

「? 何も無いですよ」

 

 満面の笑みを浮かべるティアナ。

 ……何故だろう、哀れみの目を向けるのですか?

 あとで教えてもらいましょう。

 

≪判った、そっちへ戻る≫

「早めに、ですよ♪」

 

 そこで通信は終わる。

 数秒間、沈黙が流れる。

 シャーリーがモニター展開後、回線のラインを確認――親指を立てる。

 歓声。

 続いて作業を継続する。

 ティアナも変身魔法を解いて、作業に参加。

 クロノとシャーリーも、である。

 ただ、カリムとリンディは私の監視役として残っている。

 この用意周到さ……こいつら、本当に5歳児のガキか?

 いい加減黒くなってきた、リインフォースⅡであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自動ドアが開くとピンポ~ン♪ という音と同時に薬品の匂いがする。

 

「いらっしゃいませ」

 

 お決まりの言葉が聞こえてくる。

 ここは、元ラギュナス愛用店の一つの薬屋。

 店名『m(_ _)m』。

 顔文字が名前。

 しかも『ごめんなさい』だし。

 突込みどころが大きいが、品揃えと質は一級品。

 ついでに安い。

 おかげで当時の予算部からは、大いに称えられ、神様扱いされたことを思い出す。

 

「胃薬、胃薬……あっ…………」

 

 目的の品を見つけたが……数の多さに絶句した。

 名前を挙げるとなさ過ぎるので伏せるが、数は100種類以上、一レーン分の棚を占拠。

 胃薬如きで。

 たかが胃薬、されど胃薬――と、思うが、これはどうかと思う。

 上に釣り下がっているプレートを見ると――『胃を大切に週間』――と、書かれていた。

 胃が駄目になる人が多いいのか、この時期は。

 などと思いつつ、店員に汎用性の高い物を出してもらった。

 これで、外面はともかく、内面の回復アイテムは手に入った。

 これがあれば、あと72時間は安心して戦える。

 妙にリアルな数字を浮かべながら、店を後にした。

 

「ありがとうございました」

 

 お決まりの言葉と共に。

 それから、人気が無い裏手に入り、魔方陣を展開――転移魔法である。

 バレたら、本局に呼び出しを喰らうが、緊急だと言えば何時ものことで処理される。

 とくに気にしないまま、隊舎に戻る時覇であった。

 

 

 

 

 

 再び隊舎前で脳内警報が鳴り響く。

 今度は、デバイスを発動させるほどではないが、警戒に越したことは無い。

 しかし、邪気が無い。

 悪意はなく、むしろ純粋な何かを感じる。

 だが、余りガキどもを待たす訳にはいかないので、周辺警戒を行いつつ入る。

 そして――何事も無く、食堂入り口前に到着。

 根源は、この扉の先から出ている。

 生唾を飲む。

 そして、一歩。

 次の瞬間、扉は開かれ――ガラスの破片と一緒に、空に浮かんでいた。

 わぁ、ガラスが光を反射させて、空が今以上にきれいに見える。

 そのまま落下。

 驚愕に染まるリインフォースⅡと勇斗。

 時覇を吹き飛ばしたのは、ピタコラスイッチ型衝撃トラップ。

 単純な仕掛けで、扉が開いたと同時に衝撃波系の魔法を発動。

 作業には時間が掛かるが、設置には時間は掛からない。

 むしろ、細かい微調整が気になる所だが、それ以外がガキでもできることを証明している。

 先ほど。

 時覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 と、内心で叫んでいる。

 叫ぶに叫べないのは、2人とも口にタオルを巻かれている――猿轡(さるぐつわ)状態。

 成功したことを喜び合うガキどもは放置して、芋虫状態から開放。

 全力で割れたガラスへ向かい、下を覗く。

 地面から下半身が生えた、オブジェが出来上がっていた。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 大急ぎで廊下を駆け走り、階段を駆け下りる。

 それはもう、全力で。

 勇斗は、リインフォースⅡを肩に乗せて、超高速歩行術『瞬速』を発動。

 世界は白と黒だけとなる。

 ただ、リインフォースⅡは目を瞑り、体全体にフィールド魔法を展開。

 体の負担を0に近い状態に保つ。

 いくらフィールド系魔法でも、物理的法則は無視できない。

 故に、完全に0にすることは不可能である。

 2階辺りで男子便に入り、窓を突き破って外に。

 着地と同時に再発動。

 連続使用は膝の負担が大きく、担当医師のフィリスさんから厳重注意を受けている。

 で、惨事の現場に到着。

 即効で引っこ抜く。

 上半身は泥だらけで、下半身はなんとも無い。

 異様な姿をさらしていた。

 時覇の目元から、涙が浮かび上がる。

 それから、一言。

 ただ一言だけ言った。

 

「俺……何かやったか、あいつらに」

 

 その言葉に、2人は考え込み――6月の出来事を思い出す。

 だが、それはすでに片付いたこと。

 さすがにそこまで根に持つ者は……いないはずである。

 ならば――何故思いついたのか?

 邪気は……無かったので、判別はできない。

 よって、完全に判らずじまいとなった。

 

 

 

 

 

「いただきます」

 

 調理してきた勇斗が号令を言う。

 

『いっ、ただぁきま~すぅ!』

 

 子どもたちは元気良く答えるのに対して、リインフォースⅡは、

 

「いただきますです」

 

 少し疲れた口調であったが、食事には支障はない様子。

 だが、ほとんど駄目なのが1名。

 上半身の所々に包帯とシップが貼られている。

 しかも、箸が進んでいない以前に箸を持っていない。

 だが、そんな状態でも誰も気にしない。

 とくに、リインフォースⅡと勇斗は、何も知らなかったことにしている。

 下手に言って、傷に塩を刷り込むようなことを避けるためである。

 

「おい、来たぞって……何、この状況」

 

 ピンピンしている割には、全体的にボロボロ状態のゴスペルが顔を出した。

 出したのは良いが、視界の状況が理解できなかった。

 出来たとしても、したくない――一種の拒絶反応である。

 この課では日常になりつつあるらしいと、三大提督の1人ミゼットが公言しているらしい。

 

「……どれを指しているのですか?」

 

 何気なく聞くリインフォースⅡ。

 

「……まず隊長が、何故ケガをしていることから」

「でしたら、まずこの子どもたちのことを話さなければなりません」

 

 満面の笑顔を浮かべながら、ゴスペルに言う。

 その瞬間――駆け出すゴスペル。

 しかし、それを逃がさんと勇斗が『瞬速』を使って背中におぶさる。

 とどめにリインフォースⅡから、『凍てつく足枷』を貰う。

 勇斗も巻き込んで。

 

「この自滅好きが!」

「好き好んで自滅なんぞ選ぶか!? ……自滅に関しては、余り否定はできないが」

 

 過去に起きた事件と戦いを思い出し――目線を反らしながら言った。

 何度も病院にお世話になったことか。

 何度もスバルとティアナから説教やらなんやら。

 何度も隊長たちにどやされたことか。

 何度も、何度も。

 何度も、何度も、何度も、何度も。

 

「ああ!? 戻ってきてください、勇斗さん!」

 

 トランス状態に入った勇斗の胸倉を掴み、揺すりながら叫ぶリインフォースⅡ。

 彼女の気苦労も増えてきたと、小言を耳に挟んだと他の局員から聞くようになった。

 これも勇斗に出会ったからでもあるし、ラギュナス5――現在、出身世界で専門学校を卒業するために帰還中――である彼のせいでもある。

 それは何度目かのさておき。

 解凍して、ゴスペルを食堂に連行した。

 子どもたちは食事を続けている中、任務が与えられた。

 

「――よは、連絡係をやれ、と? 俺に?」

 

 3人が同時に頷く。

 当たり前の結果といえば結果である。

 時覇――一応部隊長なので、部隊長権限で処理できる書類を片付ける。

 勇斗――子どもたちの飯作り&買出し。

 リインフォースⅡ――子どもたちの子守。

 で、仮とはいえ、『副』隊長なので、電話と通信応対になる。

 さすがに処理しきれない場合は、時覇が出るが。

 未だに続く嫌がらせの電話から、時空管理局――身内からのお門違いの依頼までかかってくる。

 機動六課自体には、毎度お馴染みの嫉みと嫌がらせの押収。

 とくに酷いのが、ラジュナス分隊長への罵声と脅迫と嫌がらせ。

 郵便でも同じ内容だが、度が過ぎる時は動物の死骸が詰め込まれている時。

 開封した時、興味本位で見ていた機動六課一同――しかも、食事時。

 さすがの時覇も怒り、元ラギュナスのメンバーと連携を取り、差出人を確保。

 社会的地位抹消とまではいかなかったが、二度と馬鹿ができないようにした。

 ついでに、溜まり溜まっていた怒りも噴火。

 今までふざけた内容の手紙や電話、通信などの差出人、電話や通信してきた奴らにも、警告した。

 中でも一番凄いのは、提督一同が集まる会議の時に乱入。

 そして、問答無用でバインド後、一緒に強制退出。

 素直に認める、渋ったり誤魔化したりしたが、最後に認めた提督たちはその場で解放。

 最後まで認めなかった提督たちは……何人かは退職、辺境の地で細々と生活しているらしい。

 それ以外は牢獄の中。

 一応、事の出来事は『ラギュナスの長による乱闘騒ぎ』という名で、管理局の記録に残っている。

 三提督から直々の厳重注意があったが、とくにお咎めなし。

 関わりがある、なしに関係なく、提督たち及び各部署にも通達は行われた。

 それ以来、ほとんど無くなったが、未だに遠回しの内容で着ている。

 が、それほど怒りを覚えないので無視している。

 そんなこともあってか、公式ではないが機動六課の後ろ盾には3人の人物と一つの組織がある。と、認知されている。

 3人の人物――今、テーブルで中華料理を頬張っている子どもたちの中にいる。

 クロノ・ハラオウン――チャーハンを間食中。

 リンディ・ハラオウン――子どもになってリンディ茶。

 カリム・グラシア――エビチリを一心不乱に食べている。

 最後に組織――時空管理局特別極秘部隊、ラギュナス。

 またの名は、第一級次元犯罪組織とも言われていたが、これは時空管理局の隠蔽工作の一つ。

 カリムは、聖王教会のトップクラスの1人。

 よって、時空管理局のトップクラス2人と、聖王教会にラギュナス――これで文句が言えたら、勇気があることと同時に無謀か馬鹿のどちらかである。

 それでも問題は起きたが――また別の話である。

 

「わかったよ。自業自得として、甘んじて受けましょう――うん、美味い」

 

 覚悟を決めて宣言し、マーボードーフを食べる。

 まっ、ガキになったこいつらの代わりなら……安いものか、な。

 子どもたちの笑顔を見ながら、そう思うゴスペルであった。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 勇斗が言葉を述べる。

 

『ごちそうさまでしたぁ!』

 

 子どもたちも元気良く答える。

 あとの3人も言葉を言う。

 

「では、お片づけするので、各自まとめてください」

 

 リインフォースの母性本能を発動させて、指示を出す。

 騒がしい子どもたちも、その指示には従ってくれた。

 大きい皿は重ねていき、ピラミッド型の形が出来上がっていく。

 無茶な重ね方が無い様にし、カートに乗せていく勇斗。

 合間を見て、リインフォースⅡとリンディにお茶を出す。

 リンディが、リインフォースⅡの分まで砂糖を入れようとしていたので静止させる。

 それを見て微笑ましく思いつつ、ゴスペルと一緒に食堂を後にする時覇。

 それを見ていたカリムが一言。

 

「男と男のいけない、あ、そ、び♪」

 

 もの凄い発言をする5歳児。

 いくらなんでも危険な発言であるし、下手すれば現実に存在する国家からこの部分の修正を求められるかもしれない。

 で、こけた。

 それは盛大にこけた。

 当たり前だがこけた。

 4人だけだけど。

 リインフォースⅡが一息ついて、お茶――普通の静岡産原産直通の――を飲んでいたので、さらに悲惨なことに。

 子どもたちは、一瞬、なんだと思ったらしく止まったが、関係ないと割り切り遊びを再開した。

 壁や椅子などに捕まって、ヨロヨロと立ち上がる4人。

 

「あっ、熱いです! 熱いです!」

 

 お茶の熱さを思い出したように言うリインフォースⅡ。

 立ち上がったのは良いが、再び地面に倒れこみ右へ、左へゴロゴロ転がり始める。

 そりゃ、入れたてのお茶を被ったのだから、熱いに決まっている。

 勇斗は、急いで濡れタオルをリインフォースⅡに被せる。

 それを掴んだリインフォースⅡは、上着を脱ぎ捨ててタオルを体に巻く。

 

「あっ、熱かったですよ……ありがとうでございます」

 

 息を上げながら、礼を述べる。

 乾いたタオルを2枚渡し、新しい服を取りに行こうとするが、本人に止められる。

 それで勇斗も気がついたが、服は騎士甲冑があるじゃないかと考える。

 

「じゃあ、俺がこいつらを見ているから、その間に」

「はいです、お願いしますね」

 

 上着を持って、リインフォースⅡはゴスペルの足を踏んで食堂を出て行った。

 ちなみに、ワザとではありません。

 

「――……チビスケ!!」

「ごっ、ごめんなさいです!!」

 

 廊下に顔を出しながら怒鳴るゴスペルに、全速力で逃げるリインフォースⅡ。

 いつものことなので気にしない。気にしない。

 だが、4人は気がついていなかった。

 これからが――地獄の始まりだと。

 

 

 

 

 

「はい、こちら機動六課……それはウチが扱う件じゃないですよ。っと、別の通信が入りましたので」

 

 何か言っているが、問答無用で回線を切るゴスペル。

 で、次。

 

「はい、こちら機動六課……しばしお待ちを――隊長! 107回線で通信を!」

「了解!」

 

 書類作成と処理を一度に複数行いつつ、パネル操作をして回線を回す時覇。

 

「かわりました……お門違いにも良い所だ。糞でもして寝ろ、こっちは忙しいのだよ」

 

 お門違いの依頼に問答無用で暴言を吐き、回線を切る。

 再びパネルの上で両手が踊る。

 

「はい、機動六課! ……はい、チャーシュウメン一つにチャーハン一つ、餃子が二つですね? ありがとうございますって、うちはラーメン屋じゃねぇ!」

 

 ……間違い電話らしい。

 ノリのより男である。

 缶詰状態覚悟で仕事を始めたが――今日に限って、滅茶苦茶忙しい。

 今の所、間違い電話を装った、嫌がらせ電話――15件。

 お門違いの依頼電話――24件。

 冷やかし――38件。

 3時間以内に来た電話の合計件数――77件。

 1時間に約26件着ていることになる。

 約2分9秒に1件の割合となる。

 いくらなんでも多すぎる。

 おかげで書類整理は中々進まなかったりする。

 ただ奇跡なのが、一度も複数通信が入らなかったこと。

 最近は複数通信が可能になったためか、一度に3件同時通信などという荒業になることがある。

 大体の内容は、嫌がらせだが。

 時たまだが、本当に間違えて電話してくる人がいるが、ときに気にしてはいない。

 

「この書類――フェイト宛かよ!? しかも、明日まで――無理だ!」

 

 発狂したくなるほどの書類の量。

 自分の分と各部隊長と副隊長の書類――合わせて7人分の書類を、処理しなければならない。

 書類の生き埋め。

 日本語的には間違いではあるが、何と無く創造は可能なはずである。

 ついでに、時折名指し指定がある――期限付きで。

 

「ゴスペル! ミゼットばあさんを呼び出せ! ついでにレティ提督も!」

 

 時覇の何かが切れて、ゴスペルに指示を放つ。

 

「了解って、ばあさん呼ばわりか? 確か、三提督の一人じゃなかったっけ、あの人?」

「いいのだよ、茶のみ仲間だし。それに、親友でもあるのだし」

「親しき仲にも礼儀あり」

「お前、だけ! には、言われたくは無い台詞だ」

「くっ……」

 

 自分がしてきた行動を思い出しつつ、反省の色のないまま――むしろ、何のこと? という顔で通信回線を繋いでいく。

 

≪何か用かしら? 時空管理局特別最高部隊機関ラギュナスの長兼次期元帥の、桐島時覇さん?≫

 

 皮肉混じりに、自分自身でも気が重くなるほど長い役職名を述べるレティ。

 

「『長』はともかく、次期元帥はやめてください。その役職には就かないと公言したじゃないですか」

 

 苦笑しながら言い返す。

 この2人が会えば、初めのやり取りはこんな感じである。

 最近は、はやての様子を報告する程度。っていうか、命令。

 まぁ、実際は時覇の方が地位は上なのだが、基本的には一部隊の分隊長。

 自ら名乗り、ラギュナスの証を掲げない限りは。

 で、息子よりもはやての方を気にしているらしく、後継者にしたいのではないかと最近思う――と、いうより、前から考えていたらしい。

 

「隊長、コードネームMより通信」

「誰?」

 

 心当たりはあるが、レティの前なので素でぼけてみる。

 驚く顔が見たいから。

 日ごろの仕返しでもあるのだから。

 

「と、伝えてくれと言われたので……そのまま繋ぎます」

「おう」

 

 その答えを聞く前から、すでに回す

 

≪誰なのよ、Mって? また新しい子?≫

 

 微笑みながら聞いてくるレティ。

 また面白いことになると考えているだろうが、そうは問屋が卸さない。

 

≪新しい子じゃなくて、残念でしたね。ロウラン提督≫

 

 この言葉に、レティは微笑んだまま固まった。

 それもいい具合に。

 おもむろに通信回線を遮断しようとするが、無駄である。

 こちらで通信回線のラインを掌握している故、こちらからの許可が出ない限り、切ることはできない。

 回線が切れないことに焦りを覚えたのか、必死でキーパネルを押す。

 それもう、怒涛の如く。

 それを面白がって見ている時覇とミゼット。

 はっきり言って、たちが悪いと痛感するゴスペル。

 レティに同情はするが、それ以上でもそれ以下でもない。

 仕方なく、代わりに仮副隊長権限で処理できる物はして、できないものは仕分けすることに。

 一応、心の中でレティに合掌しておく。

 今度、愚痴くらい付き合ってあげるかと思うゴスペルであった。

 

 

 

 

 

≪……アナタたちという人は……≫

 

 あはは。と声が重なる2人。

 レティは心底疲れたようなため息をする。

 遊ばれている。

 この言葉が思い浮かぶが、すぐ消した。

 そう思いたくないから。

 だが、それを口にすると、それをネタにして弄られるのは必然。

 かわすのだけで精一杯。

 管理局人事部のやり手の面影は、まったくもって無い。

 

≪今度、はやてさん辺りでも……≫

「いや、ここは新人ども辺りを――」

 

 何黒い相談やっているのだ? と、心の中でシンクロするレティとゴスペル。

 この2人がそろうと、ラルゴとレオーネも役立たずと言われるほどの脅威となる。

 しかも、2人とも管理局の最高機関のリーダーなので、始末に終えない。

 本当に、始末に終えない。

 主な被害者――クロノ。

 以上。

 理由――弄り易いから。

 ついでに、クロノの奥さん――エイミィから、ほどほどならよしと許可を貰い済み。

 万が一のケアと最悪のケースを考慮しているので、慰謝料の準備も万全。

 最悪である。

 最低である。

 しかし――笑いのネタには持ってこいの話である。

 とあるライトノベルにこう書かれていた。

『他人の不幸は蜜の味、他人の幸福は砒素の味』

 と、学生が運動会のスローガンとして、提出したモノ。

 しかも、砒素に味はないという反省会を開いたそうだ。

 そうだ。なのかは、そこの部分は語られていないからである。

 それくらい、笑いのためならばなんでもするが、ほどほどをモットーにしている。

 最後は、休暇や強制視察と名ばかりの家族旅行をさせている。

 艦長になってからは、全くと言ってよいほど休みが取れない。

 有給も宙ぶらりんのまま、消えていっているのが現状であるが故である。

 ミゼットはミゼットで、議題の口論。

 時覇は時覇で、極秘任務から機動六課の隊舎のトイレ掃除まで。

 互いに溜まるものは溜まる。

 ストレス発散である。

 で、溜まりきった、行き場の無いストレスは、家族と共に休暇で晴らす。

 そんなサークルが、ここ最近になって完成しつつあった。

 そろそろ別の人間が餌食になるのではないかと、ラルゴとレオーネは影で囁いているとか。

 だが、有給を消化させないと、人事部がうるさくて敵わないらしい。

 一応、機動六課の後継人は、クロノ、リンディ、カリムの三人。

 だが、極秘として、最高責任者は時覇となっている。

 よって、カリムはともかく、クロノとリンディ――とくにクロノの有給に関しては耳にたこである。

 

≪で、今日はどんな頼みごとなの?≫

 

 きりが無いと見えたらしく、レティが先陣を切った。

 

「ああ、実は3日間ばかし、六課は使えないから」

 

 はぁ? と、レティとミゼットが声を上げる。

 それはそうだ。

 いきなり使い物にならなくなったといえば、誰でも疑問の声を上げる。

 

「実は……」

 

 今までの出来事を説明。

 で、ミゼットから一言。

 

≪私も使っていいかし――≫

「駄目に決まっているだろ!」

≪駄目に決まっているでしょうが!≫

 

 ミゼットの発言を看破する。

 2人同時に。

 それはそうだ、三提督の一人なのだから。

 正式な休暇を取ってもらってからでないと、管理局全体に支障がきたしかねない。

 

≪残念で――≫

 

 そこで通信は切れた。

 時覇が自分で遮断した。

 ついでにブロックをかけた。

 

≪その行動力には、敬意を表すわ≫

「たかが5分程度の時間稼ぎですよ――簡単に言えば、名指しの書類の期限を、全て三日遅らせてほしいのですよ」

≪たった、それだけでいいのね?≫

「あとは我々が……終わったあとは強制休暇を」

≪…………いいわ。ミゼット提督には、アナタの方で≫

「判りました、では」

≪ええ、胃を大切に≫

 

 そこで通信は終わる。

 何だ、イマノコトバハ?

 そう思いつつ、胃の辺りを撫でる時覇。

 俺も大丈夫だろうかと、同じところを撫でるゴスペルであった。

 

 

 

 後片付けを済ませ、洗濯と掃除が終わった勇斗は廊下を歩いていた。

 子どもたちは、リインフォースⅡに任せっぱなしだったので、少し気持ちが焦っていた。

 あの中では、普段は年下なのだが、現在は一番年上になった。

 しかも、ピタゴラスイッチで隊長を吹き飛ばしたのだから。

 下手をすれば、大惨事になると思うと――いつの間にか走っていた。

 『瞬足』を使えばいいことなのだが、戦闘以外では使用禁止を貰っている。

 担当医から。

 訓練時でも、3回までしか使えない。

 一種の限定封印みたいなものであると、考えたほうが早い。

 階段は普通に上る。

 なるべく膝の負担を減らすためである。

 上がりきったら、歩き――早歩き――走り出す。

 そして、目的に場所に顔を出したとき、勇斗から笑みがこぼれた。

 散らかっているが、皆仲良くお昼寝している。

 すぐ医務室へ行き、毛布とシーツを強奪。

 戻ってきたら、散らかっている物は簡単にまとめ、端において置く。

 床にシーツを引き、1人1人起こさないように持ち上げていく。

 最後に毛布を掛けてやる。

 熱くもなく、寒くもなく室内を調節する。

 

「今度、風鈴でも買ってくるか」

 

 窓を開けながら呟く。

 もう7月。

 本格的な夏が、あと少しでやってくる。

 そう考えていると、ふと過ぎる。

 彼女たちの休暇みたいなものなのか? と。

 可でも不可でもない考え。

 ただの創造、空想、考え。

 だけど――そう考えたかった。

 世界が与えた、彼女たちの休暇であることを。

 

「晩御飯……何がいいかな……冷たいもの、いや――それは明日の朝だな」

 

 どこかで風鈴がなる音が……風に運ばれてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日目に続く。





あとがき
 いい感じにまとまったので、ここで一旦終了。
 ついでに読みやすくするように、セリフと地の文の間を空けてみました。
 多少、今までより読みやすくなったかと。
 次は二日目突入。
 だけど、三日目が……遊園地ネタを考えていたが、また事故(2007/6/25現在)が発生。
 外国だが、日本も日本でふざけるなと言いたい。
 そんなにコストが大事か?
 まずは人様の命を考えろ。
 苦しいのは判る。という、安易な発言はしない。
 考えられないのなら、やめろ。
 これしか言わないし、言えない。

 ……愚痴になった。

 で、二日目も皆さん大暴れ。
 昼飯&アドバイスを貰いに、ある場所へ……。
 そこでも、ひっちゃかめっちゃかなことに。(汗
 では、二日目でお会いしましょう!






制作開始:2007/6/6~2007/6/25

打ち込み日:2007/6/25
公開日:2007/6/25

修正日:2007/10/6
変更日:2008/10/29


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予告編:二日目

二日目の朝……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子どもたちの声が響く、機動六課。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人で、11人の面倒を見るのは大変なので――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なので、変わりに連絡を入れてもらえませんか、桃子さん」

 場所は翠屋。

 高町なのはの母親――高町桃子が経営する店。

 子どもたちの面倒の味方を簡易的な事を教わるためと、負担を減らすため。

 さすがに2人では、このやんちゃな子どもたちの面倒は見切れない。

 そして、別の平行世界にいる――ただいま専門学校へ通っている――民間協力者にして、Wユニゾンという荒業を使うことができる男を呼ぶためである。

 この時期は――CGクリエイター検定がある時期だと言っていたが、そんなものは知らない。

 こちらは緊急事態なので。

「勇兄~」

 と、金髪で左右違う色の瞳の女の子が駆け寄ってきた。

「ああ、ヴィヴィオ。元気だったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――と、言う訳だから、少しだけ、ね? 桃子さんからのお願い」

≪うぅ~ん……半日だけでしたら≫

 男は渋りながら答える。

 検定は今週の日曜日……2日後である。

「ありがとう、【名前がまだ決まっていません】くん♪」

 桃子は勇斗にOKサインを出す。

「じゃあ、また後で掛け直すわね」

 そこで、受話器を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【名前がまだ決まっていません】は、心の中で3秒数えてから、音を立てないように受話器を置いた。

 セールス系は終わったあと、問答無用で速攻で切る。

 音を立てて。

 場合によっては、相手が言い終わる前に切る。

 マナー違反だが、時間と電気代の無駄になった報復攻撃。

 本音はウザイから。

「誰からだった?」

 アギトがアウトフレームモード――リインフォースⅡの流量改造型――の姿で、アイスを食べながら尋ねてきた。

 ちなみにアイスは『たこやき風シューアイス』である。

 小説を書くために、ネットサーフィンをしている最中に見つけたアイス。

 材料は簡単に揃うので、簡易的に作ってみた。

 まぁ、味のバランスはイマイチ。

 本来は、実際にある店の商品なので。

「ん? 桃子さんから。緊急で、少し手伝って欲しいことあるのだと」

 肩を竦めながら答えるが、アギトの顔は険しくなった。

「いいのか? 2日後は検定試験だったはずだろ?」

 そこで最後の1個を食べる。

「うん。今度ルールーにも、あげよ」

 と、呟く。

 その言葉に、材料を揃えないと思いつつ、苦笑。

「半日だけだと言っていたから、何とかなるだろ」

 気楽に答える【名前がまだ決まっていません】。

 多少諦めている部分のある発言。

「バイトもあるのに?」

 が、別のことを聞いてみるアギト。

 そこで固まる。

「……忘れていた」

 その言葉に、ため息をついたアギトであった。

 ちなみに、その後ろで【名前がまだ決まっていません】が、受話器を取って、リダイヤルを押していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪昨日、アメリカのとある遊園地で、女の子が両足を切断する事故が――≫

 またか、思う勇斗。

 ここ3カ月間、遊園地と聞けば、そんなことばかりのニュースが流れる。

 始めの発端は、日本の遊園地のジェットコースターの事故だった。

 原因は、シャフトの金属疲労による切断。

 おかげで1人亡くなった。

 それを機に、各日本の遊園地を調査した。

 その結果、コスト削減による定期点検を行っていたことが原因だと判明。

 それは、一つだけの遊園地ではなく、各地の遊園地で発覚した。

 おかげで、遊園地は候補から外さなくてはならなくなった。

 子どもたちが、一番興味を引く場所の一つなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動六課の主力メンバーと提督クラス3人に、サポーターが1名

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その人たちが子どもになってから2日目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま子どものままでは、管理局自体に影響を及ぼしかねない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、これは休息ではないかと思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子どもに戻り――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子どもじゃなきゃできないこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子どもじゃなきゃ言えないこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今一度、ここで骨休めは良い時期なのかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、遊園地には連れてはいけない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし――思い出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日は天の川が掛かる日だと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはGaG

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ⅱ(ツヴァイツ)物語:リインフォースⅡの保母さん奮闘記

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『明日、どうしようかな』編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2007年8月中に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

できるだけ公開します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星に願いを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――さまと――さまは、どうしてこの日の夜にしか会えないの?」




あとがき
 二日目の予告を公開。
 本当は予告を書くつもりは無かったのですが、Wユニゾンという言葉を、一番に使いたかったから。
 え、誰と誰がユニゾンするかって?
 っか、『W』って何?
 まぁ、『W』は『ダブル』です。
 判る人は判りますね、こんなの。
 誰とは、本編で明かします。
 そういえば、この作品が7月になっていたので、急遽思いつきます。
 書いた時期も時期なので。
 第三部目は、海を。
 四部は夏祭り。
 五部は秋。
 六部も秋かな?
 で、クリスマス、年越し、正月……と、量が多いかつ、時折本作の方も書いていくので。
 内容と季節が大いにずれる事間違いなし。
 一応、2007年のクリスマスSSは、別件で間に合うように書くつもりです。
 先が長く、なのはブームが去った後も、終わりまで書くつもりでいます。
 今後も長い、長い旅路を書いていきますが、お付き合いお願いします。

 で、今思ったが、なのはの子ども編を書こうかな?
 あ、その前に、エタメロ書き直して、終わらせないと。
 大分放置しているからな、アレ。(汗

 最後に、(2007/7/8時点)【名前がまだ決まっていません】について。
 本当に決まっていないので。
 ただいま考え中。
 ちなみに、参考にした人物がいます。
 私、リアルの世界にいるダークバスターです。
 いや、マジで。
 ある程度、私に近づけますが、多少美化します。
 でないと、リアル過ぎてつまらない物語になりますので。
 名前は、まったく別物にします。
 これに本名使うと、地元の人間にばれる可能性が……。(汗






制作開始:2007/7/8

打ち込み日:2007/7/8
公開日:2007/7/8

修正日:
変更日:2008/10/29


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『明日、どうしようかな』編

 

 新暦75年7月□日もとい――7月6日

 昨日は大変でした。

 書類整理は、全て時覇さんがやってくれたそうですが……名指しの書類とかあったような……。

 でも、皆さんが帰ってくるまで、あと2日!

 何としてでも、持たせます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かに出逢う者たちの物語・外伝Ⅰ――発生物語

魔法少女リリカルなのはGaG

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ⅱ(ツヴァイツ)物語

リインフォースⅡの保母さん奮闘記

二日目:『明日、どうしようかな』編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽は常に上がる。

 空に雲があるか、空気汚染で見えなくなるか、太陽自体なくならない限り、一定の速さで上がる。

 そして、一定の速さで沈んでいく。

 それは、当たり前のこと。

 大半の世界の、当たり前のこと。

 星もまた同じ。

 太陽が沈めば、空から大地を照らす、小さな光たち。

 大きな光は、月の光。

 星が集えば、満点の空。

 天に掛かる川となす。

 世界は違ぇど、空は同じではないだろうか?

 そんな空の下で、物語は語り継がれていく日々。

 描く出来事、人それぞれ。

 語り語られ――されど、世界は回る。

 時は動き続ける。

 止まる事無く続くこの世。

 

 

 

 

 

 機動六課、食堂の台所。

 蛇口から流れる水の音。

 その下には鍋がある。

 さらにその中にはザルがあり、麺が入っている。

 冷凍庫は開けられ、冷気が目に見える。

 そこから昨日用意しておいた、氷をガラガラとかき出していく。

 全部で14人分。

 調理中の勇斗は、熱い方で食べる。

 ただそうすると、子どもたちが騒ぎ出すので、適当な理由をつけてここで食べるつもりでいる。

 顔を上げ、柱に取り付けられた時計を見る。

 時間は、7時50分。

 隊長が起きる時間……だと思う。

 大きな汗を、1つ垂らしながら思う勇斗。

 

「仕事……大丈夫か?」

「なにがだ?」

 

 その声に後ろを振り向くと、

 

「トーレか、って、何でここに? 確か、他のナンバーズと一緒に局員旅行に連行されたんじゃなかったっけ?」

 

 コメカミを抑えながら、思い出すように言う。

 

「何、忘れ物をしたのでな」

「そりゃ、するだろうな。行く当日になってから聞かされたのだからな」

 

 どうどうとしているトーレに、苦笑する勇斗。

 

「ところで、何かあったのか?」

 

 その言葉に、額から脂汗がジワジワ出てくる。

 トーレはそれを察し、ため息を吐きながら首を横に振った。

 

「危険だと判断したら、すぐ連絡を入れるように。隊長に言っておいてくれ」

 

 それだけ言って、背を向けて歩き出す。

 

「判っている。ところで、そっちは?」

 

 出入り口の節に手を置きながら振返る。

 

「いつも道理だ」

 

 ふと、笑みを浮かべ、廊下へ消えていった。

 それを見送り、心の中で感謝。

 

「――って、作業、作業」

 

 と、料理が途中だったことを思い出し、慌てるように戻った。

 

 

 

 

 

 暗い部屋。

 カーテンの隙間から、僅かな光が伸びる。

 その光は、寝ている者の顔を照らす。

 

「――うッ……ん、ふぅん……」

 

 眩しいのか、ただ単に嫌なのか。

 寝返りをうって、体を反らす。

 そして、満足そうな顔になる。

 が、階段から駆け上がる音が大きくなってくる。

 しかし、寝ている男は気がつくことはない。

 何故か。

 寝ているから。

 そして、扉は開かれた。

 

「おっ、きろー!」

「起きろ、ゴラァ!」

 

 金色の髪と赤い髪の毛の女の子が、来年で二十歳(はたち)になる――正確には19歳だが――男の元へ飛び込んできた。

 しかも、タイミング良く男は再び寝返りを打つ。

 本能的に、ベッドから落ちて回避するためである。

 がだ、2人のちびっ子の方が早く――お腹の上にダイブ。

 鳩尾へ。

 しかも、目が覚め始めた瞬間。

 つまり、特大の目覚し、な訳で。

 今日も、住宅地に大きな声が響き渡るが、

 

「あら? 今日は少し遅いわね」

「でも、10分くらいの差よ?」

 

 などと、近所はいつも通りの出来事で通っていたりする。

 

 

 

 

 

 男の母親は、息子の部屋の方を見上げ、ため息をつく。

 この19年間、アニメとゲームにしか興味なかった息子が、本物に興味を持ってくれたことはありがたい。

 が、犯罪に走らないことを祈るばかり。

 パソコンゲームばかりやっていたので、現実と空想の区別がつくか心配だった。

 が、息子が蒼天の髪の女の子と、燃えるような赤い髪の女の子を――10歳も満たない女の子を連れてきたときは、反射的に電話を取ったことを覚えている。

 そのあと、2人の女の子の口添えもあり、誤解は解けたが……一週間ほど、ロリコン扱いした。

 おかげで、『ロリコン』という言葉が、トラウマになってしまった。

 蒼天の髪の女の子――リインちゃんから、言わないように念押しされた。

 が、学校で言われたらしく、発狂に近い行動を起こしたそうだ。

 それで、学校全体で、その言葉を禁句と指定したらしい。

 いや、本当に。

 その噂を聞いて連絡すると『はい』の2文字が、速攻で帰ってきた。

 そして、学校のプリントにも――『ロリコンという言葉を絶対に使わないでください。聞こえた場合、即刻強制退出を願います』――という文章があった。

 母親として恥ずかしいが、原因を作った者として、何も言えないのである。

 そんな事を思いつつ、料理を皿に盛り付けていると、バタバタと音が聞こえてくる。

 

「おばさん、アキ兄起きた~」

「起こしてきたぜ」

 

 と、ヴィヴィオとアギトがリビングに入ってくる。

 元気で何よりである。

 ちなみに、今のアギトはアウトフレームモード――リインフォースⅡの流量改造型――の姿である。

 大きさも、リインフォースⅡと同じくらいだが、少しだけアギトの方が背が高い。

 

「ありがとう、2人とも」

 

 母は微笑みながら答える。

 ヴィヴィオとアギトは、テーブルに着く。

 そして、2人にトーストと目玉焼き、ハムにキャベツを出す。

 飲み物は牛乳。

 まさに、代表的な朝食メニュー。

 カロリーから計算された、朝食メニュー。

 ベターと言われれば、そこまでだが。

 2人が喜んで食べているのだから、いいのだと思える。

 子どもの笑顔は、大人の喜び。

 世界は、常にそんな図式が成り立ち続ければ良いのだが、そうはいかない。

 生まれた時から、罪を背負う子などいない。

 そんなのは、ファンタジーゲームの設定だけにしてほしい。

 別にゲームにいちゃもんをつけるわけではない。

 ただ、世界は常に非常だと言いたいだけだから。

 今、この世界で子どもは虐待され、殺され、犯され、捨てられ、愛されない日々を贈らされているはず。

 そして、いつも大人の都合に振り回されるのは、子どもたち。

 力なき、発言力なき子どもたちの事など考えず、自分たちが良いという考えだけで進んでいく。

 真に子どもたちを思うのであれば、きちんと愛し、きちんと向き合い、きちんと話し合う。

 これが、親の当たり前の義務なのかもしれない。

 それでも、時は刻み続ける。

 世界は動く。

 人も動く。

 ただ言えることは……目の前にいる子どもだけでも、幸せにしたい。

 ただそれだけ。

 などと、いつの間にか大きな出来事を考えてしまった母。

 息子ではあるまいと苦笑する。

 

「息子、参上」

 

 と、最近日曜日でやっている特撮の真似をしながら入ってくる息子を見て、盛大なため息。

 いや、呆れたと言っても過言ではない。

 だって、娘同然の少女たちの前でやることか、ってか、そっちに連れて行くな。

 という手厳しい視線を送る。

 息子――彰浩(あきひろ)は、咳払いして誤魔化す。

 

「アキ兄、おはようございます」

「おはよ、馬鹿」

 

 丁寧なヴィヴィオに対して、手厳しい言葉を贈るアギト。

 これも、いつも通りの朝の挨拶である。

 あははと乾いた笑いを浮かべつつ、テーブルに着く。

 

「今日はパンか、珍しく……なくなってきたな」

 

 今まで朝食はご飯だったが、リインやアギト、ヴィヴィオが来てからは、パンが主流となった。

 最近気がついたことだが、リインとアギトは彰浩のことを理解しているご様子。

 この前、リインちゃんが大人の同人誌を見つけ、厳重注意をしていたのが印象的だった。

 しかも、同人誌の内容は『リリカルなのは』をベースにした二次創作。

 メインは――確か、シグナムとフェイトだったか。

 ……大分前に、一度ミンチにされかけた事を忘れたのでは? と、思うが、欲望に従ったご様子。

 で、アギトは彰浩を上手く使って、お菓子を出してもらっている。

 美味しければ、ルーテシアちゃんに持っていっている。

 息子も、多少集られているのは判っているが、何も言わずに出している。

 ……どうとれば良いのか、母親として気が気ではない今日この頃。

 

「ん? ヴィヴィオ、ここにジャム」

 

 と、彰浩は自分の右頬を指す。

 

「 ん 」

 

 釣られるように、左頬を触るヴィヴィオ。

 それを見て、苦笑する彰浩とアギト。

 

「逆だよ、逆」

 

 アギトがやさしく指摘しながら、変わりに拭ってあげる。

 多少きつい声だが、優しさはハッキリと判る。

 妹みたない存在だと、テレながら言っていた。

 微笑ましい朝である。

 馬鹿息子さえいなければ。

 と、息子――野山彰浩(のやま あきひろ)を邪険する母であった。

 

 

 

 

 

「で、今日も学校へ行きますか」

 

 身支度を終えた彰浩は、ノートパソコンが入ったカバンを背負う。

 そして、財布の中身を確認。

 今日は中古のアダルトゲームを購入するために。

 ヴィヴィオが着てから、ここの所まったく買っていないし、やってもいない。

 なのはやはやてからも、釘を刺されている。

 が、今日はなのはの元へ帰る日。

 アギトが多少うるさいが、モラルは守っている。

 あとは、賄賂を渡すだけ。

 計画は完璧だ――多分。

 さっさと改造データをネットから引っ張ってきて、さっさと見たいのを見て売ればいい。

 パソコンに情報は残るが、ソフトがなければ問題無い。

 まぁ、バレたらバレたで、女性軍からまた当分白い目で見られる日々だが。

 私刑執行付きで。

 前は、紫電一閃とライトニングザンバーを向けて、追いかけてきたを今でも鮮明に覚えている。

 未だに受けた場所が痛むのは、気のせいだろう。

 思い出して痛くなるのは、肉体に恐怖という記憶が刻まれた証拠なのかもしれない。

 そう思いつつ、部屋を出て、階段を下りていく。

 

「おい、彰浩」

 

 アギトが下から飛んでくる。

 今は、アウトフレームではなく、いつものデバイスモード。

 リインフォースⅡが『蒼き妖精』なら、アギトは『紅き妖精』である。

 青と赤。

 氷と炎。

 祝福の風と業火の炎。

 優しさと強さ。

 見ていた世界を変えた、2人の妖精。

 創造は創造。

 現実には起こらない出来事。

 しかし、今――目の前に、妖精は存在する。

 これを妄想と言って否定する者は、絶対いる。

 それは、自分の目で確認できていないからである。

 現実の定義とは『目の前で起きていること』。

 だから、目の前の出来事は、紛れも無い事実。

 始めて見た彰浩は、それを否定しない。

 いや、否定したくなかった。

 憂鬱(ゆううつ)だった――それなりに充実していた――日々を、根底から覆す存在が、目の前にあったのだから。

 自分の考えすら、否定する存在が。

 家族ですら、見方を変えた存在。

 お陰で、彰浩は『科学の魔法』に出会った。

 ただ、死に掛けたことがあった。

 大半はユニゾン解除後と、襲撃と訓練時に。

 それはまた、別の話で。

 

「どうした?」

「なに、アタシもついていこうと思って、な」

 

 その言葉に、アダルトゲーム購入計画は、一瞬で吹き飛んだ。

 諦めましょう。

 素直に感じたモノだった。

 

「別にいいが……見つかると騒ぎになるし、声を掛けられても、返せないからな」

 

 確かに、現実ではありえない存在である、妖精――ユニゾンデバイス、アギト。

 姿を消しても……想像はつくと思う。

 完全に、頭のネジが飛んだ人である。

 属に言う、痛い人。

 学校で発狂した時点で属しているが、これ以上変な属性はつけたくは無い。

 それでも学校に行っているのは、偉いのか?

 書いている作者も、一瞬だけ真剣に考えた。

 

「念話があるじゃないか」

 

 セオリーな解答。

 ここで捻りのある解答を出されても困るが、彰浩自身とくに問題はない。

 授業中に考えことは、普通みたいなものである。

 故に、思考切り替えは訓練する前から、ある程度できていた。

 何故できるのだと聞かれたときに、そのことを言ったら、勉強しろと言われた。

 当たり前である。

 

「悪い。念話できる状況の授業は、今日は無いのだ」

「え~、つまんねぇ~な」

 

 空中で胡坐をし、後頭部に両手を添える。

 器用と言うより、女らしさが感じない。

 萌えない。

 

「って!? って、燃すことはねぇーだろ!?」

 

 炎が飛んできて、髪の毛を僅かに焼く。

 髪の毛は、性質上燃えやすく、本来は僅かでは済まない。

 僅かで済んだ理由は、反射訓練のお陰である。

 あれは、死んだ方がマシだと思える訓練だった。

 お陰で強くなれたのだから、余り文句は言えない。

 

「と・に・か・く! 行くぞ、オラァ!」

「いっ、いて! 痛いから! ――ほら」

 

 アギトの空中蹴りコンボを後頭部に受けつつ、鷲掴み。

 アギト&リイン専用の大型胸ポケットに突っ込む。

 ちなみに、アギトは左で、リインは右である。

 が、時々定位置を交換する。

 表面上、仲が悪そうに写るが、意外と仲は良い。

 ただ、リインはアギトの不真面目な態度が嫌いで、アギトはリインの生真面目な部分が嫌いなだけである。

 靴を履く。

 

「いい加減、新しい靴を買ったら?」

 

 ボロボロの靴を見ながら言うアギト。

 中底は、すでに穴が開き、片方は分裂しかけている。

 

「ああ、昨日隠してあったアダルトゲームを売った資金があるから、今週の日曜日にでも行くわ」

 

 立ち上がり、玄関を開けながら答える彰浩。

 その言葉にため息が1つ。

 

「まだ隠していたのかよ。いったい何個あるのだ?」

「秘密だ。それに、やる時はお前らがいない時だけだ」

 

 玄関の横にある倉庫を空ける。

 そこに2台の自転車が置いてあった。

 1つは大きめのシティマウンテン。

 もう1つは……事故で亡くなった妹の自転車。

 高校2年の修学旅行先で、車に跳ねられた。

 その車は、そのまま逃亡。

 しかし、天罰が下ったのか、トラックと衝突して重傷。

 命に別状は無いが、両足切断。

 裁判結果は死刑。

 ひき逃げで、ここまで刑が重いのか?

 だがこの男、妹をひき逃げする前に、10人以上人を殺した凶悪殺人犯。

 殺した人の中に、お忍びで来ていた外交官の娘もいたからである。

 賠償金は規定額分貰えたが、それ以上はなかった。

 母は母で、ヴィヴィオ、リインフォースⅡ、アギトを自分の娘のように思っている。

 それはそれでいい。

 過ぎたことは返られない。

 変えてはいけない。

 変えれば、『今』の自分を否定する。

 だから、ひたすら前を向き続けろとは、言わない。

 時には振り返って、罰は当たらない。

 ただ、しっかりと一歩一歩、前に向かって進めばいい。

 それは、誰にでも当てはまること。

 だから、彰浩も進む。

 どこまでも。

 そして、自転車を路上に出して跨る。

 

「じゃあ――いってきます!」

 

 家族が家にいる、いない関係なく言う。

 出かける時の合言葉にして、一種の挨拶。

 最近は、言わなくなってしまったが。

 母に『家に人がいなくなる事を報せているみたいなものだから』との事。

 別に近所なら良いと思うが、今のご時世は危険に繋がることが多い。

 関係無いでは、済まされなくなってきた世の中にありつつあったと、実感した。

 だが、彰浩には別の意味もあった。

 我が家に対しての挨拶でもあるのだから。

 

「いってらっしゃい」

「いってらっしゃぁ~ぃ! 早く帰ってきてね!」

 

 母の挨拶と、ヴィヴィオの元気な声を背に受けながら、自転車のペダルを漕いだ。

 

 

 

 

 

 時空管理局地上部隊・機動六課、オフィス。

 そこでは、ただ1人黙々と書類整理をしている男がいた。

 

「一体、どれだけあるのだ?」

 

 主力メンバーの書類の量を見ながらぼやく。

 機動六課・ラギュナス分隊隊長、桐嶋時覇。

 時空管理局の三提督に並ぶ地位を持ち、地上本部のトップであるレギアス中将に意見できる人間。

 非公式であるが。

 だが、三提督の申請がない限り、名乗り出ることは無い。

 レギアス中将にも、意見しないでいる。

 この男の上に立っているのは、八神はやて二佐。

 男の現在の公式階級は、一等空尉。

 天と地の差の階級を持ち合わせながらも、使い分けることない。

 あくまで公式の記録の階級を名乗る。

 非公式は、緊急時か、守るべきモノを守るときだけ。

 もしくは、横暴やふざけた事を考える提督クラスの人間及び、最高評議会を黙らせる時だけ。

 今回は、確かに緊急ではあるが、部下を強制局員旅行に参加させた手前、権限を使うわけにはいかない。

 よって、地道に作業していく。

 が、中々減らない書類。

 この作業は嫌いではないが、飽きたのが本音。

 ウーノがいれば、作業効率が上がる。

 セインはこの作業は向いていないが、会話が弾むので飽きることは無い。

 何気にナンバーズと親しいのは、色々あったから。

 それ以前に、この機動六課にいることについては、また別の話で。

 

「ふぅ~、終わらないな……昼は、なのはの実家でいいか。育児関係の勉強にもなるだろうし」

 

 書類を整理整頓して、通信回線を開く。

 

「聞こえるか? リイン、勇斗」

≪はい、聞こえます≫

 

 もう何かを悟った顔のリインフォースⅡ。

 服が微妙にボロボロなのは気のせいだろう。

 後ろでは、何だか凄い事になっている。

 今思ったが、元に戻った時、この過ごした出来事を覚えているだろうかと心配である。

 下手すれば、数人立ち直れないかもしれない。

 ……記憶に残らないことを祈る。

 

≪感度良好、どうしたのですか隊長?≫

 

 昼ご飯の献立を考えている勇斗。

 もう、『お母さん』が似合うかも。

 いや、お父さんになっても安泰だな、こいつの家族は。

 

「昼は、なのはの実家の翠屋に行くぞ」

≪えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?≫

 

 予想通りのご回答。

 慌てふためく姿は、それなりに面白い。

 

≪正気ですか隊長!? あ、書類で発狂でもしたのですか?≫

 

 こっちは事態が収集後、特別訓練決定。

 彰浩を交えて、徹底的に弄り倒す。

 怨むなら、この馬鹿を怨めよ、彰浩。

 

 

 

 

 

「ふぇっくしゅ!」

 

 授業中に、大きなクシャミをする彰浩。

 しかも、クラスの視線を一身に……浴びはしなかった。

 数人ほど寝ているから。

 ついでに、これくらい少し驚かれる程度で、すぐに戻る。

 

「どうした? クーラーの効きすぎか?」

 

 男性教員が声を掛けてきた。

 寝ている奴は、時々起こすが基本的には無視。

 起こしても寝るから。

 

「いえ、ただのクシャミです」

 

 袖で口元を拭きながら、ノートを取る。

 そこで、左胸ポケットが僅かに動く。

 だが、そこには何も入っていない、ただの空間。

 そう、そのポケットには無意味で不自然な空間があった。

 

(大丈夫か? アタシがクーラーの温度を下げてくるけど?)

 

 アギトが念話をかけてくる。

 姿を消した紅い妖精。

 彰浩も見えないが、目に魔力網膜を展開すれば、半透明だが姿が見える。

 が、今は展開していない。

 

(いや、誰かが噂をしているのだろう。それに、自分で上げにいけばいいことだし)

 

 シャープペンを走らせながら、アギトに返す。

 

(ならいいけど……アタシが少し寒いから、上げてくれるか?)

 

 身震いしたのか、僅かに振動を感じる。

 64を思い出すが、あの振動よりは遥かに弱い。

 ってか、比べる価値すらない。

 それ程の天と地の差。

 少しくすぐったい程度である。

 

(判った)

 

 アギトの意思を尊重するが、自分も僅かに肌寒かった。

 汗をかいていたのもある。

 

「先生、クーラーの温度、上げていいですか?」

 

 軽く手を上げて、男性教員に尋ねる。

 

「ああ、別に構わんよ。ちょうど、俺も肌寒いと思った所だ」

 

 許可を得て、席を立ち上がり、クーラーのスイッチが取り付けられた壁に行った。

 

 

 

 

 

「準備は……こんな所か」

 

 時覇の目の前には、第一級特別戦闘装備と管理局の禁じ手の質量兵器が並べられていた。

 またの名を、時覇専用殲滅装備。

 簡単に言えば、単体での組織殲滅。

 ……簡単では無いか?

 それは置いて、何故、喫茶店翠屋へ行くだけに、このような装備を持ち出すのか。

 もう一度記載するが、機動六課の前線メンバーは全員子どもに。

 サポート陣は、強制局員旅行。

 特別保有戦力のナンバーズも参加。

 ラギュナス分隊にいるのは、隊長、副隊長(仮)、部下2名。

 しかし、部下1人は専門学生で、単位確保で学校に。

 副隊長は管理局の通信請負。

 部下は、子どもの子守。

 実質上、動けるのは隊長、1人のみ。

 これで呼び出しを受ければ、その組織、その犯罪者は哀れである。

 何せ、八つ当たりは必然と言えるのだから。

 地獄絵図?

 話題休題。

 ともかく、特殊装備を手早く取り付けていく。

 出し入れし易いか、簡単に確認。

 質量兵器――ハンドガンのカードリッジの出し入れ。

 腰に装備されたサバイバルナイフの位置を確認。

 

≪隊長、何やって……何ですか、その重装備?≫

 

 勇斗は、時覇の姿と目の前に置かれた重装備に、口元を引き攣らせる。

 引き攣らなければ、固まるか、唖然となるか。

 それ以外の反応もあるかと思うが、何かしらのアクションはある。

 

「建前だ」

 

 もの凄い建前である。

 言葉の。

 属に言う、言い訳である。

 が、この場合、言い訳も糞もないが。

 

≪はぁ。とにかく、急いでください。皆が待っています≫

「判っているさ。これを装備したら、すぐ行く」

 

 と、質量兵器――ジャックハンマーを持ち上げながら言う。

 ジャックハンマー、ショットガンに分類される銃器。

 全長787ミリメートルで、重量4.57キログラム。

 フィクションの世界では、とても好まれる武装の一つである。だが、現実の世界では国際法基準や、軍法基準に当たっている部分があり、忌み嫌われた銃である。

 魔力収納に仕舞えば問題無いが、管理局自体、質量兵器の使用が禁じられている。

 にも、関わらず、今から行く世界からも忌み嫌われた武器を持っていくのはどうかと思う。

 一応、管理局及び国連からは、特別許可は下りている。

 どうやって、地球の国連から許可を取ったのか不明でだが。

 

≪りょぅーかい≫

 

 呆れ口調で通信を切られた。

 

「使わなければ、使わないでいい」

 

 武器は、使ってこと真価を発揮する。

 銃は撃つ。

 剣は斬る。

 盾は防ぐ。

 だが、武器は戦う為のモノ。

 人を殺めることのできる、危険なモノ。

 使わないで済めば、それに越したことは無い。

 それは、永遠に叶う事の無い概念である。

 人が戦うことを、争うことをやめない限り。

 ジャックハンマーを、ドゥシン‘sの魔力収納に入れ、部屋を出る。

 外に待たせている、部下と子どもたちの元へ歩く。

 

「財布の中身は大丈夫、かな?」

 

 内心冷や汗をかきながら、一言呟くのであった。

 翠屋は、あくまで喫茶店なので、それなりに(多分)高い訳で。

 子どもたちは、育ち盛りの年頃な訳で。

 予想結果としては、財布が薄くなる可能性が非常に高い訳で。

 

「……ゴスペルに貸した金、今日中に少しでもいいから返してもらわないと」

 

 持ち手の少なさ――524円に、泣きたくなった。

 彰浩ではないが、少しばかり無駄遣いし過ぎた。

 

 

 

 

 

「ふぁっくしゅ!」

 

 本日二回目のくしゃみ。

 今は二時限目で、課題製作を行っている。

 本来は別の授業だったが、急病になったとのこと。

 アギトと念話をしながら作っていた。

 ちなみに課題内容は、ポストカード製作。

 イラストレーター、ポトショップを使って製作に当たること。

 キャラクターはイラストレーターを使い、背景をポトショップで製作。

 以外にも、立体感のある作品が完成した。

 内容は、アギトを模様した妖精が夜空を舞う絵。

 なるべく本人には、気づかれないように描いているつもりである。

 

(なぁ、彰浩。本当に大丈夫か?)

(平気だと思うが……熱は無いはずだ)

 

 鼻を手の甲で擦りながら、返事を返す。

 

(おでこ貸せ)

 

 と、アギトがポケットから出てきて、彰浩のおでこに自分のおでこをくっつける。

 彰浩は、不自然な体勢にならないように、考えているフリをする。

 

(ふむ……確かに、熱は無い様だな)

 

 少し釈然としないが、納得してくれたアギト。

 おでこから離れて、再び左ポケットの中へ。

 彼女のお気に入りの場所。

 しかし、不意に考えることがある。

 彼女――アギトは、融合型デバイス。

 デバイス――すなわち、『物』に分類される。

 彰浩は、人間。

 人間50年とはよく言ったものである。

 近年は70歳、80歳まで生きる人間は、生きる。

 さらに、100歳まで生きる人間もいる。

 最近(2007年時点)なのかは不明だが、人間の最大寿命年数は、150年らしい。

 細胞は、半永久的に崩壊と再生を繰り返す。

 だが、心臓は別である。

 心臓は血液を送るポンプであるが、皮膚細胞みたいに細胞分裂を起こさない。

 ゴムは使えば使うほど劣化し、色は黒ずみ堅くなっていく。

 すなわち、心臓はゴムと同じ。

 使えば使うほど、弱くなっていく。

 そして、心臓が動かなくなる。

 これを一般的に、『寿命』と呼ぶ。

 そう、人と物の寿命は違いがあり過ぎる。

 物の寿命は、確かに物によって変わるが、長いものでも1000年以上は存在することができる。

 しかし人間は、せいぜい7、80年が目安と考えても、あまりにも違いすぎる。

 だから、もし自分自身がこの世を去った時、彼女はどんな想いをするのだろうか。

 リインフォースⅡは、八神はやてのリンカーコアと密接な関係である。

 八神はやてがこの世を去れば、自動的にリインフォースⅡも、この世を去ることを意味する。

 だが、アギトは独立した存在。

 下手をすれば、永遠を生きることになる。

 それは、耐え難い苦痛ではないだろうか。

 不老不死。

 それは、誰しも喉から手が出るほど欲しがる物。

 それは、物語だけの架空の産物。

 だが、実際に存在したとして、使用した場合どうなるのか。

 自分だけがひたすら永遠を行き続け、家族、恋人、友人、知り合いがどんどん亡くなっていく。

 自分という存在を残して。

 それは孤独。

 耐え難い、心の苦痛。

 死にたくても死ぬことのできない体。

 人という種が滅びようとも、自分だけが最後の種として生き続ける羽目になる。

 自分の意思とは無関係に。

 それでも唯一救いなのは、彼女は『物』であって『不死』ではない。

 ただ、それだけの事と言えば、そこまでである。

 パソコンに表示されている作品に、アギトを重ね見る。

 いつか、こいつは一人ぼっちになってしまう。

 確実とはいえないが、理論的に考えればいきつく結果だが。

 腕を組み、背を椅子に預ける。

 ……馬鹿な事を考えるのはやめだ。それは、まだ先の話だ。

 ある程度時期が来たときに考えるべき課題で、まだ若造である自分が考えることじゃない。

 そこで考えを打ち切り、体を起こす。

 そして、ペンタブレットを持ち――アギトに似せた妖精を、アギト本人に書き直し始める。

 

(おい、これ……アタシ、か?)

 

 アギトの問いに答えず、黙々と作業を進める。

 完成した時、どんな顔をするのか考えながら。

 そういえば、リインもと騒がれるかもしれないが、次の課題の時にでも書くか。

 そう思いながら、ペンを走らせる。

 

 

 

 

 

 青い空。

 白い雲。

 美しく輝く緑。

 煌めく海。

 海水浴を勤しむ者。

 勝負を楽しむ者。

 ナンパする者。

 そのナンパを吹き飛ばす者。

 海には様々な人たちがいる。

 とくにナンバーズに声を掛けた男どもは、問答無用で痛い目にあっている。

 素直に下がるならば助かっているが、しつこい奴は以下同文。

 酷い場合は、ISを使わんとする勢いで仕留める。

 やり過ぎになりそうになった場合、ラギュナス分隊が慌てて止める。

 ロングアーチとは違って、サポートは通信から戦闘まで何でもこなす。

 ナンバーズ相手では、完全に止めることはできなくても、時間稼ぎは行える実力はある。

 しかも、ヒット&ウェイは、どこの次元世界の軍隊よりも素早い。

 全員が、気配と魔力反応を消すことができるため、レーダーなどの捕捉系に捕まることは無い。

 ただ、熱源探知系だと簡単に見つかる。

 こればかりはどうしようもない。

 熱は人間が動くために必要なエネルギーの1つ。

 訓練でどうこうできる問題ではない。

 話題休題。

 ここは局員強制旅行地、リゾート・アークディアスの海岸。

 それなり――ではなく、第一級リゾートで一流ホテルがある、高級リゾート地。

 局員旅行如きでは、まず来ることは不可能な場所。

 だが、ここに来ている。

 何故か。

 それは、犯罪組織ラギュナスだった頃、ここの第一級ホテルのオーナーがメンバーだったのでる。

 故に、良い場所を知らないかと相談した所、経営しているホテルを使ってくれとのこと。

 しかも、『タダ』で。

 だが、それは拙いので、局員旅行の旅費の分だけ払うことに。

 全然足りないのが現状であるが。

 ちなみに、本当の額は旅費の15倍から25倍くらい必要である。

 そして、ホテルの近くに海があり、その対に山がある。

 まさに、一流という名に相応しき場所である。

 確かに、色々な施設が揃ってこそ一流と言えるが、ここまで綺麗な自然が回りにあるのも一流と言える。

 そんな海では、別のホテルで止まる客など多くの人がいるが、車の如く大渋滞という訳ではない。

 互いが干渉しない程度に、場所が確保できるくらい余裕がある。

 

「う~ん、サイッ、コォ~♪」

 

 水着姿のクワットロが、日光浴を満喫している。

 他のナンバーズや、非戦闘員たちも、思い思い楽しんでいる。

 

「クワットロ」

 

 上から声が掛かり、体を起こして顔を向ける。

 

「トーレ姉さま。どうでしたか、そちらの方は?」

「ああ、中々楽しめたぞ。お前もどうだ?」

 

 水着姿のトーレが、ニヤリと笑いながら妹に勧める。

 

「私は遠慮しておきます」

 

 サングラスを掛けなおしながら、日光浴を受けなおす。

 それを見て、肩を竦めながら別の場所へ移動する。

 ウェンディは、サーフィンを楽しんでいるが、時折操作しきれず宙を舞っては海へ落ちる。

 ノーヴェは、海の家で料理をむさぼりつつ、ナンパを撃退。

 病院送りにしようと奮闘するものの、他のナンバーズやロングアーチ、ラギュナスの面々に止められているが。

 チンクはノーヴェとウェンディの監視役。

 目を離すと――とくにノーヴェが――問題が起こる確率が非常に高いとの事で。

 ウェンディは、ケガをしないか内心心配しているからである。

 サーフボードから、何度も投げ出されているのを見ていれば、心配しない方が可笑しい。

 普段はお堅いウーノも、それなりに羽を伸ばしている。

 他のナンバーズは、山へ行っている。

 海も良いが、山の方が好きとの事。

 そして、ロングアーチとラギュナスの面々も、思い思い楽しんでいる。

 スイカ割り――顔以外埋めされて、身動きが取れない奴らの近くで行う。

 まさに、恐怖の風物詩。

 オーバードライブが使える者は、とっとと発動して逃げているが、出来ないものは全力で叫んでいる。

 

「派手に楽しんでいるな……あ、ヴァイスが殴られた」

 

 ロングアーチの男性局員が呟いた言葉。

 オーバードライブを使えない1人の人間として、叫びも虚しく犠牲となった。

 が、彼は叫ばなかった。

 いや、正確には叫べなかった。

 理由は、口を塞がれていたからである。

 そこまで至った経由を説明――間違えて女性更衣室に入ってしまったという、主人公属性のお約束をやった。

 お陰で、アルトの許可の下に、私刑が行われたのである。

 被害にあった女性局員がやったのだが、最近勇斗から暇つぶしに剣術を習っているので、殺傷能力はそれなりに高い。

 よって――赤い何かが流れ出てくる。

 まぁ、剣術を習って無くても、それなりの強さで鈍器を使って殴られれば、血は出ます。

 で、悲鳴。

 当然の結果である。

 それを遠くで見ていたドゥーエは、やれやれと肩を竦める。

 

「姉さんや、注文の焼きソバですよ」

「ん、どうも」

 

 お金を渡しながら焼きソバを受け取り、その場で食べる。

 

「うん、美味いわね」

「あはは、ありがとうございます」

 

 それなりにゴツイおっさんが、笑いながら答える。

 本格的な夏はまだではあるが、それに勝る日ざしが彼ら、彼女らに照らされる。

 ……爆発が聞こえるのは、何故だろう?

 食べるのを中断して、遠くを見る。

 そこでは――バレーボールくらいの魔力弾使って、ビーチバレーを行っていた。

 どうやら、失敗すると爆発して吹き飛ばされる仕組みらしい。

 何か係員が笛を吹きながら近づくが、巻き添えを喰らい、一緒に吹き飛ばされる。

 呆れてモノが言えない。

 とりあえず見なかった事にして、焼きソバを食べるのであった。

 

「インドネシアにカツカレーは存在しないぃぃぃぃぃぃぃぃ――……」

 

 着水爆発。

 ラギュナス分隊、第2サポート班の副隊長の叫びだった。

 聞こえない、聞こえない。

 ちなみに詳しくは忘れたが、仏教の教えで肉を食べてはいけないという教えがある。

 ので、本場インド謳うカレー屋で、肉を使ったカレーが出た場合、その店は偽者だという事である。

 

 

 

 

 

 そして、山の方では、珍しくガリューと一緒に歩く、ルーテシアの姿があった。

 ちなみに、今来ている服は、麦わら帽子に白いワンピース。

 言うに問わず、ロリコンという不名誉な称号を得ている、彰浩が進めた服装である。

 これに関しては、母親も良いと太鼓判。

 ルーテシア自身も気に入ったらしく、出掛ける時は、この服を良く来ているのを目撃されている。

 

「ガリュー、どう?」

 

 その問いに、無言で頷くガリュー。

 今までの感謝の意を込めて、森の中を一緒に歩いていた。

 本当は、夕方まで自由で良いとガリューに進めたのだが、一緒にいる意志を見せた。

 ので、それ以上強制する事も無く、無言で気ままに進んでいた。

 こちらには、オットーにディード、ディエチ、セッテ。

 意外ながら、海で泳いでいそうなセインがいる。

 他にも海に興味が無い、もしくは好かないなど理由で、ロングアーチとラギュナスも何名かいる。

 海の方から爆発音が聞こえるのは気のせいだろう。

 森にいる一同は、そう決めつめて聞かないことにした。

 ただ、他の客は海の方へ飛んでいった。

 野次馬根性丸出しである。

 一部気にしないでいる者もいた。

 

「アキヒロ、何しているのだろう」

 

 その呟きに、ガリューは少し嫉妬した。

 が、彰浩に主であるルーテシアが色々と世話になっているので、その感情はすぐに消えた。

 ただ、ルーテシアを泣かせることをしたら、問答無用でヤル気なのは確かである。

 それはそれで、ルーテシアに怒られるのである。

 ……時と場合と内容によるが。

 

「セッテ! ターゲットがそっちに!」

「任せろ!」

 

 不意に左側から聞こえてくる声。

 セインとセッテみたいである。

 

「ディエチ、ネット弾!」

「無理。魔力規制があるから使えない」

 

 ディエチの正確無比の砲撃による、ネット弾による確保が行われるはずだったようだ。

 だが、ここはリゾート区。

 魔力規制が掛かる結界が張られ、一般人同様となっている。

 ただし、念話などの私生活関係の補助魔法には、とくに規制は掛かっていない。

 飛行魔法は別であるが。

 ともかく、何かを捕まえようとしているのだが、未だに捕まらないらしい。

 しかし、戦闘機人がISを使えないと、ほとんど一般人と変わらないご様子。

 まぁ、身体能力が平均より高いだけである。

 

「…………」

 

 ガサゴソと茂みが鳴り、叫びと悲鳴が飛び交う。

 日ごろ無関心に近いルーテシアでも、興味を引いた。

 戦闘機人が苦戦する相手が気になった。

 だが、知らん振りして数歩で足が止まる。

 また歩き出すが、数歩で止まる。

 人造魔導師とは言え、所詮は年頃の子供。

 気にならないのは無理な話である。

 結局、好奇心が勝ち、ナンバーズの声がする方へ向かう。

 茂みを掻き分け、ルーテシアの目に飛び込んできたのは――女性の下着を被った変態がいた。

 女性だけど。

 

「ふふふふふぅ……こんなお子さまみたいな下着を履いているなんて、だめじゃないセッテ」

「余計なお世話です!」

 

 顔を真っ赤にしたセッテが、勢い良く突貫するものの、あっさりかわされてしまう。

 デバイスが使えれば、攻撃やけん制の幅が増えるのだが、それも規制されているので使えない。

 憤りを覚えるセッテだが、彼女には勝てない。

 いや、ナンバーズ全員が一同に相手しても勝つことはできない。

 元、組織ラギュナスの戦技教導総隊長、ラギュナスナンバー24。

 長である時覇を含む、ラギュナス全体の戦闘技術の基本を教えた女性――イーチス・クララナ。

 ちなみに、旧名はガドライド。

 故に、ラギュナスの部隊にいる全ての人間の師匠と言える。

 ただ、彼女以上に強くなった者たちは結構いるが、気にしていない。

 想いを貫き通すには、最低でも彼女自身を超えなければならないと、公言していた。

 現在は魔法が無く、治安がしっかりとしている管理外で一児の母をやっている。

 本当に時折であるが、管理局かラギュナス分隊から依頼を受けては、戦技を教えている。

 夫と子どもには、魔法のことは話していない。

 そのため、出掛ける時は友人の家に泊まってくると言い、2、3週間は帰ってこないのは当たり前。

 それが原因で夫婦喧嘩をするが、長である時覇が仲裁に行き、夫とタイマンで話し合った。

 それもまた、何度目かの別の話。

 何度目かのともかく、今は変態戦士と化してしまったイーチスを如何にかするべきであるが、今の戦力では不可能である。

 理由はいたってシンプル――現在ナンバーズは、彼女から戦術のノウハウを学習中。

 つまり、イーチスは彼女たちの癖を良く知っているからである。

 2日3日で、弟子となった者たちの癖を見抜けなければ、ラギュナスの戦技教導総隊長は務まらない。

 ラギュナスは、それほどアクが強く、見極め切れなければ変な方向へ成長してしまう。

 その結果、本当の実力を生かせない、もしくは殺してしまう可能性が非常に高い。

 よって、長期間、短期間関係無く、僅か数日以内で弟子になった者たちの癖を見抜く必要がある。

 それは一般的に言えることだが、ラギュナスは違う。

 ラギュナスは、良くも悪くも、何らかの能力が特化した人間が集まる組織。

 たとえば、トイレ掃除が非常に上手い。

 たとえば、全次元世界の紙を見ただけで、種類と生産地を言い当てることができる。

 たとえば、魔力値だけでSSSランクいく。

 などなど、戦闘に無駄な事でも、それらを持った能力保有者に勝つことは、容易なことではない。

 ただ、その特化された分野で勝負した場合に限りますけど。

 その分野が、戦闘と全く関係なければ、足手まとい。

 その足手まといを解消するために、この戦技教導が誕生した。

 旧暦時代は、戦闘能力が全員高かったので、戦技教導しなくてもよかった。

 だが、近年モラルが低下しつつある様に、戦士の質が低下し続けているのである。

 旧暦では、ラギュナスの中で最低ランクは、AAランク。

 しかし今は、Bランクが最低ランクとなっている。

 その代わり、接近戦や遠距離がSランクなど、どこかだけが特化された戦士しかいなくなりつつある。

 今の時代は、それを求めているのかもしれないが、ラギュナスの掟により認める訳にはいかない。

 掟が一つ――ラギュナスは常に最強を歌わなければならない。

 無茶苦茶な言い分の掟ではあるが、打倒管理局を掲げていた以上、当たり前の言葉。

 組織ラギュナスの時は苦労したが、今は時空管理局所属ラギュナス。

 掟に縛られる必要性は、どこにも無い。

 よって、ラギュナスでない彼女は、依頼を蹴っても問題は無い。

 ただ、管理局自体武装局員の質が悪いので、依頼があれば飛んでくる。

 というのは建前で、純粋に先生をやっているのである。

 もし、学校の教師への道があれば、この魔法の道へ来なかった。

 学生時代、それなりに地位があった男を振ったことから、全てが狂い始めた。

 決まっていた進学先から、急な変更があった。

 合格から不合格への。

 しかも、合格内定通知が着てから、3ヶ月以上経ったあとに。

 何故と聞くが、向こうからは手違いだった。間違いだった。の、解答しか帰ってこなかった。

 納得ができなかった。

 間違いが起こらないよう、厳重に何度も確認を行った上で郵送されてきたモノ。

 それが、3ヶ月経ってから問題が発覚したなど、スキャンダルである。

 その後、親が裁判を起こすために裁判所へ手続きに向かった。

 そして、帰ってきたら、

 

「諦めて、別の学校にしなさい」

 

 そう言われた。

 あんなに真剣な顔で出て行ったのに、帰ってきたら幸せそうな雰囲気をかもし出しながら言ってきた。

 それからは、自分で動いた。

 妨害があろうが、無かろうが、関係は無い。

 ただ真実を知りたい――それだけだった。

 だが、無職は家にも世間的にも拙いので、滑り止め感覚で他校を受けたが、面接で不合格。

 仕方なく、他校も併合して何件か受けたが――全部不合格。

 場所によっては、面接すら受けさせてもらえず、門前払いを喰らった。

 明らかに可笑しい。

 異常の一言しか、頭の中に無い。

 今から職を探すにも、ほとんど無いので派遣アルバイトすることにした。

 だが、回ってくるバイト全てが、下請けか、女性では無理そうな土木関係の仕事。

 あからさまに、他の仕事があるにも関わらず。

 結局、仕事を辞めて、家も出た。

 親のスネをかじりたくないのではなく、何かを知っているにも関わらず、何も教えてくれない母とは一緒にいたくない。

 僅かな資金と私物。

 雨の中、傘をささずにさ迷っている中で、高級車が彼女のスピードに合わせるように横につく。

 彼女は足を止めると、車から高校時代に振った男が顔を出してくる。

 

「いい気味だな」

 

 その言葉に、全てを理解した。

 それなりに地位のある人間が出来る技にして、権利という名の力。

 この男が黒幕。

 これからの人生を狂わせた男が、目の前にいる。

 だが、それ以上何も言わずに、車は去っていった。

 怒鳴り声を上げようとしたが、逃げられた以上、何も言えない。

 近所迷惑である。

 不意に涙が出てきた。

 今までの努力が無になった事への悲しみか。

 この世に絶望した結果なのか。

 気がついたら、高い所にいた。

 しかも、建物の屋上で、手すりや金網も無い。

 放心状態になったのか、それとも死にたいという願望が強かったのか。

 踏み出すには、少し高めの段差を上れば、あとは前に倒れるだけ。

 全ての法則に身を任せれば終わる。

 見えない死神に導かれるように、段差に手を掛けた時、人生を変える切符が舞い降りた。

 

「人生、捨てるのは早すぎるのではないか?」

 

 イーチスは、その場に振り返る。

 フードを被り、ローブに身を包んだ者がいた。

 声からして男だと判った。

 しかし、いつの間に。

 だが、男は言葉を続ける。

 

「力が欲しいか?」

「…………」

 

 イーチスは無言のまま。

 

「復讐したくはないか?」

 

 再び問いかける男。

 

「在り来り過ぎて、どうでも良くなったわ」

 

 笑いを浮かべながら、イーチスはその場に座り込み、段差に寄り掛かる。

 

「この世界を変えたくはないか?」

 

 イーチスは、空を見上げる。

 男との言葉遊びには付き合っていたくはないが、多少は気が紛れる。

 目に雨が当たる。

 イーチスは目を瞑り、顔を下げて目を擦る。

 雨の水が取れて視界が開くが、雨が当たらないことに気がつく。

 止んだのかと錯覚するが、周りからは雨の音。

 顔を上げると雨は降っているが、男がいなくなった。

 そんな事は気にも留めず、再び空を見上げ、絶句する。

 そこには、傘になるように男が横のまま浮いていた。

 唖然とした。

 

「もう一度問う。力は欲しくないか」

 

 その言葉に、自然と笑いがこみ上げてきた。

 そして――高笑い。

 夢を見ているのか、それとも現実なのか。

 判らない。

 判らないが、一つだけ確かなことがあった。

 

「力は――いらない」

 

 力を使えば、私をこの様にした連中と同じとなる。

 それだけは嫌だった。

 だから断った。

 

「復讐したいけど、力でやったらアイツと同じになるから」

 

 ハッキリと言った。

 男は、イーチスの前に降り立ち――お姫様抱っこする。

 イーチスは驚くが、とくに暴れたりはしなかった。

 何と無く心地よかったから。

 

「……別の世界に行かないか? この世界とは決別して」

 

 その言葉に、イーチスは躊躇い無く頷く。

 再び男は、イーチスを抱えたまま空へ舞い――消える。

 この世界から、イーチスという女性はいなくなった。

 まぁ、この男が今のイーチスの夫であるが。

 それから、色々な経由を経て、今のイーチスがある。

 ……今やっている変態行為は、前師匠の影響なのかもしれない。

 話を戻して――そのイーチスたちのやり取りを無言のまま、眺めていたルーテシア。

 ガリューは半場呆れ、首を横に振った。

 そして、ルーテシアから一言。

 

「夫が見たら何とやら」

 

 子どもの言う言葉ではないが、イーチスにとって痛い言葉である。

 しかし、そのままとんでもない爆弾を投下する。

 

「あと、変態おばぁタリアン?」

 

 その言葉に、完全に固まるイーチス。

 何故かナンバーズたちも固まる。

 その瞬間――ガリューがルーテシアを抱えて飛び立つ。

 本能が叫んでいる――危険と。

 それも、第一級警戒態勢クラスの警報が。

 ナンバーズたちも、そろそろとその場から離れていく。

 その場でプルプル震えるおばぁタ――もとい、イーチス。

 活気溢れていた森は、今や夜の静けさと貸している。

 虫の鳴き声すら聞こえない森。

 透き通る空。太陽は顔を出し、遮る雲は疎ら。

 海は光の反射で輝きを増し、それを利用する人々の活気は増す。

 なのに、森だけが静かになっている。

 異様な存在と化している森の中心に、元凶がいる。

 その元凶は、今は俯いている。

 そして、断続的に何かを呟く。

 そう――笑うかのように呟く。

 本能から湧き出て自然に呟く。

 

「……――ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ――」

 

 勢い良く顔を上げる。

 目は赤く染まり、全身が黒く見えた――バーサーカー、いわゆる狂戦士である。

 この場合は…………変態、が、前に付くのだろうか?

 それと同時に覇気を放つ――こちらも、負けず劣らずの勢いである。

 それ以前に、覇気だけで逃亡した者たちを範囲に収め、捕捉する。

 もう何でもありと言った状況である。

 

「み・つ・け・た」

 

 それだけ言った瞬間――その場から消えた。

 疾風が舞い上がる。

 地面に生えた草は宙を舞い、木から生えた葉は飛び散る。

 その疾風の目の前に来れば、細切れとなり、塵と化す。

 それは神風と呼ぶべきか。人の手で起こせる風ではない。

 しかし――彼女は神ではない。

 今の彼女は……………………変態狂戦士なのだから。

 

 

 

 

 

 リゾート・アークディアスの海岸近くの森で、女性らしきと悲鳴と発狂、悲鳴にならない悲鳴が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

「 む 」

 

 パソコンを使って作業していた彰浩の手が止まる。

 

(どうした?)

 

 アギトが声を掛けてくる。

 視覚誤認の魔法を使って、彰浩の頭の上に寝そべっている。

 男で髪の毛を時々しか洗わない人間もいるが、彰浩の場合は毎日洗っているので問題は無い。

 

(いや、ガリューの声が聞こえたような気がしたのだが……気のせいか?)

 

 周りを見渡すが、今は確か別次元の世界へ入っているはずなので、聞こえるのは可笑しい。

 本来は何かあったと思うが、特に危険なモノは感じなかったので、今回はスルーしておく。

 むしろ、しなければ何かに巻き込まれている可能性が非常に高い。ので、今回念話の回線は隊長格以外遮断してある。

 

(いや、それ以前にアイツ喋れてのかぁよ!?)

(ああ、視線で会話しているから。ちなみに声は、こちらで適当に設定した)

 

 ちなみに声の質は、渋い男性系の声である。

 けして、今(2007年現在)話題の? 小安ボイスではない事は記載。

 

(何でもありだなぁ~)

 

 完全に呆れ口調のアギト。

 まぁ、当然と言えば当然である。

 

(ははははぁ。作業再開、再開)

 

 と、彰浩は再びパソコンと向き合った。

 それから数分後にチャイムがなる。

 

「よし、号令掛けろ」

「きりぃーつぅ、れぇい」

 

 そこで言葉は終わる。

 

「ありがとうございました」

 

 誰も言わないので、彰浩が言う。

 それを機に、各自片づけを開始する。

 

「おつかれさん」

 

 先生も、自分の片づけを始める。

 彰浩も作業していたデータを保存し、使用していたソフトを落とす。

 それを確認した後に、パソコンを落とす。

 このご時世なので勘違いは起きないと思うが、パソコンを下に落とす訳ではなく、電源を切る意味である。

 教科書やノートを纏め、シャープペンや消しゴムを筆箱に放り込んで、それらを持って席を立つ。

 教卓の前辺りで、先生の方を見る。

 

「ありがとうございました」

 

 もう一度、恒例の挨拶をする。

 

「はい、お疲れさぁん」

 

 こちらを見て、返事を返す。

 そして、そのまま教室を出て、すぐ横にある階段を下りる。

 この校舎は5階建てで、現在5階から降りている最中。

 なを、屋上の出入りが可能で、バスケができるようになっている。

 ついでにエレベーターもある。

 が、エスカレーターは無い――当たり前である。

 エスカレーターのある学校があるのなら、ぜひ1度見てみたい。

 そして、階段を降りて3階の廊下に足を運び、教室に入る。

 荷物を置いてから、再び廊下へ。

 その際、財布の中身を確認する――うん、あると肯く。が、アギトがいたことを思い出す。

 1階の廊下で販売している売店を諦め、コンビニへ足を運ぶ。

 

(アギト、何が食いたい?)

(えぇ~と……ジュウシィ特製中華まぁん!!)

 

 その言葉に彰浩は固まるが、すぐに再起動して歩き出す。

 おもむろに懐から財布を取り出して、中身を確認。

 なを、アギトが言った『ジュウシィ特製中華まん』は、普通の肉まんより1.5倍の大きさ。しかし、使っている材料が高級品なので、1個525円(税込み)するのである。

 現実の世界でも、(2007年)現在260円を超えた額の肉まんをコンビニで見たことが無い。

 ちなみに、その260円肉まんは、ファ○リーマートで販売中との事。

 俺はカロリーメイル(チョコレート味)を頂くか、カレーまん付で。

 と、彰浩とアギトのお昼は過ぎて行った――彰浩のお昼のご飯に関して、少々お怒り気味だったりする。

 なんせ、カロリーメイル2本入りと、カレーまん一個――計210円で済ませているからである。

 

 

 

 

 

 打って変わって、ここは平行世界の地球。

 時空管理局やミッドチルダへ移動できる次元世界である。

 ちなみに、先の彰浩のいる世界もまた地球であるが、地球の平行世界である。

 平行世界――パラレルワールドとは、ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。当然ながら、いわゆる「四次元世界」や「異界」などとは違い、我々の宇宙と同一の次元を持つ。並行世界・平行世界とも呼ぶ。並行宇宙や並行時空といった呼称もよく使われる。

 で、こちらの地球は、なのはの実家――翠屋がある世界。

 その海鳴市が一望できる丘に、魔方陣が展開される。

 次元世界でも、もっとも親しまれている魔法式、ミッド式である。

 その上に、数十人の子どもと2人の男性が立っている。

 そして、魔法陣が消えると、子どもたちが散るように広がって辺りを見渡す。

 思い思い個々に騒ぐ子どもたち。蒼いロングヘアーの少女を除いて。

 学校の先生の如く、皆をまとめようとするが、中々纏まらない。

 それどころか、大騒ぎになる一方である。

 それを見て微笑む2人の男性であったが、片割れ――時覇が口を開く。

 

「そろそろ静かにしてやれよ」

 

 その言葉に、子どもたちは騒ぐのを止めて、時覇に注目する。

 大体の視線が集まったところで、ある1点を指差す。

 そこには――外国形式のお墓があった。

 それを見た子どもたちは、何と無く手を合わせ、目を瞑った。

 もう1人の男性――勇斗もまた、子どもたちと同じように手を合わせる。

 それから、少しして無言のまま、丘を降りていく。

 一筋の風が、『笑顔』を求めるように吹き抜けた。

 あとは、翠屋の前に来るまで静かだったが、視界に入るや否や、子どもたちが走り出す。

 

「――って、待て!?」

 

 大慌てで追いかける、時覇、勇斗、リインフォースⅡ。

 しかし、一足先に子どもたちが扉を開ける。

 扉は、カランカランと音を奏でつつ、何者も拒まずに受け入れる。

 

「いらっしゃいまぁ――」

 

 出迎えてくれたのは、まったく事情を知らない高町の母――桃子である。

 手には、作り終えたばかりにケーキがあった。どうやら、追加の品物だと思われる。

 で、案の定固まっている桃子。

 そのせいか、手に持っているケーキたちが徐々に傾きつつある。

 顔を出すように店の中を見る勇斗は、その様子を見て、素早く瞬速を発動。

 傾きつつあるケーキを、反対側から抑える。

 その感触に気がついた桃子は、同時に凍結が解除される。

 

「あ、あの~、勇斗くん?」

 

 来るべき嵐の前に、まずやらねば成らないことを進言する。

 

「まず……このケーキを起きませんか?」

「 ? ……あ! ごめんなさいね」

 

 笑顔を浮かべつつ、ケーキを空のケースと取り替える。

 そして、そのケースをバイトの娘に渡して、瞬速の如く勇斗の肩を掴む。

 

「――――!?」

 

 少し食い込んで痛いが、我慢する。

 

「この幼いなのはに似た子は?」

 

 もの凄いエガオで聞く桃子。

 さすがは魔王と呼ばれた娘の母親と言うべきか、この時は邪神に見えた。

 さすがは親子と言うべきだろう。

 全身冷や汗を掻きながらも、叱るべき人間が説明すべきなのだが――

 

「お昼は、ここで食べるから、好きなのを頼め。ただし、デザートは最後だぞ?」

『はぁ~い!』

「はいです!」

 

 何仕切っているのですか、隊長。俺を見捨てるのですか。

 と、目線で訴える。

 それに気がついたのか、隊長兼保母さん役の時覇がこちらに顔を向ける。

 あとは宜しく。

 と、めちゃくちゃ素敵な笑顔を浮かべつつ、親指を立てる。

 それに怒りを覚えるものの、それ以上の瘴気が打ち消し、代わりに恐怖を植えつけてくれる。

 ハッキリ言って、ありがた迷惑である。

 っーか、今日は無事に帰れるのかと、内心冷や汗である。

 とにかく何か言わないと、こちらが恐怖に耐えかねて発狂しかねない。

 

「えぇ~とですね、桃子様。詳しい事情は――」

「勇斗が説明します」

「はい、私が説明を――って、隊長!? この場合、貴方が説明するべきでは!?」

 

 しかし、もうこちらに顔をくける事無く、子どもたちと談笑する。

 完全に退路は無くなり、強制的に前進させられる。

 いわゆる、戦闘機、もしくは回天と呼ばれた魚雷に乗せられ、特攻をやらされる気分であった。

 で、現実逃避したいなぁ~、と考えつつも、門前は大魔神。後門は前進へ押し返す壁。

 …………完全に逃げ場無し。

 仕方なく、大魔神様にビクつきつつも、こうなった経由を説明するのであった。

 

 

 

 

 

「みんなぁ~、しっかり食べるのよ♪」

 

 機嫌良く言う桃子。

 

『はぁ~い!』

 

 と、声を合わせて返事を返す子どもたち。

 ちなみに、桃子の後方にあるカウンターの後ろには、屍が1つ。

 圧力に耐えかね、その場に転がっている。

 時覇は、屍と化した存在に手を合わせる。

 しかも、苦笑した状態で。ホンマ、鬼である。

 それはともかく、桃子は大判振るいを行い、子どもとなったなのはたちは、笑顔で食べる。

 それを見て内心で、今度ナンバーズたちを連れてくるか。と、思う時覇。

 この時点で、勇斗のことはすでに忘れている。

 悲しきサガと言う訳でなく、何と無く忘れていく。

 

「にしても、再び小さい頃のなのはを見ることができるなんて……桃子さん、感激」

 

 もう写真でしか見ることのできなかった、子どもなのはを生で再び見ることができる。親として、これ以上の感動はそうそう無い。

 

「所で、バイトの子は?」

 

 ふと時覇は、先ほどまでいたバイトの子たちがいない事に気がつく。

 

「あ、あの子は午後から用事があるから、早めに上がらせたのよ」

 

 期待の眼差しを向けながら、笑顔で答える。

 

「使うのでしたら……屍、もとい、勇斗を使ってください。俺は、この子達の面倒を見ないと拙いので」

 

 と、隣に座っていたカリムの頭を撫でる。

 カリムは食べるのを止めて、撫でられるままになる。

 これはこれで、別の引き金になるとは予想できなかった――が、別の話である。

 

「出来たら、もう1人欲しいのだけど……ねぇ?」

 

 桃子の目は、完全に時覇をロックオンしている。

 だが、ストックはまだある。

 彰浩というストックが。

 

「彰浩は、どうでしょう?」

「うん~……そうね」

 

 少々残念そうに言うが、何とか免れた。

 接客業は出来ない訳ではないのだが、食品関係は始めてである。

 管理局入局前は、ガソリンスタンド。

 入局後は色々あったが、公開イベントで案内係をやったことがある。

 まぁ、この2つだけだが、実績と言える。

 しかし、彰浩もガソリンスタンドでバイトしていたが、店長から『接客業は向いていない』と、御墨付きを貰っている。

 よって、命令でも嫌がるだろう。それ以前に、当分こちらには来ないだろう――いわゆる、無断欠勤である。

 だが、今目の前には、彰浩にとって女神に等しき存在がいる。

 ……時覇と勇斗には、魔神クラスの存在ではあるが。

 

「ただ……接客業が嫌いな人間で、俺が言っても来ないので、変わりに連絡を入れてもらえませんか、桃子さん」

 

 別の平行世界にいる――ただいま専門学校へ通っている――民間協力者にして、Wユニゾンという荒業を使うことができる男、彰浩。

 この時期は――CGクリエイター検定がある時期だと言っていたが、そんなものは知らない。

 こちらは緊急事態なので、彼には生け贄になってもらう。

 などと思っていると、カランカランと音がなる。

 店に誰かは言ってきた証拠なので、桃子が顔を出す。

 いつの間にか復活し、エプロンを装備していた勇斗が声を掛ける前に、相手から声が掛かってきた。

 

「勇兄~」

 

 と、言いながら、金髪で左右違う色の瞳の女の子が、レジに駆け寄ってくる。

 

「ああ、ヴィヴィオ。元気だったか?」

「うん♪」

 

 ふむ、さすがは幼女ハートゲッターというべきか――と、思った矢先、顔面めがけてお盆が飛んできた。

 とっさに顔を横に反らしてかわし、少し通り過ぎた瞬間にそれを桃子がキャッチ。

 手馴れていると言えば、手馴れている。

 

「どうした、ロリペドロフィン」

「喧嘩なら買うぞ、貴様」

 

 怒りの篭った言葉を投げつつ、戦闘体制の構えを取る。

 瞬速がもっとも負担が掛からない体制である。この脚の術は、初動が肝心である。

 まぁまぁ。と、桃子が間に入って静止させる。

 ヴィヴィオも、ケンカはめぇ~。と、言って来た。

 で、そのままヴィヴィオの指示で、時覇と勇斗は中央に正座して、お叱りを受ける。

 この辺は、血は繋がっていないのだが、なのはの娘だと感じる。

 2人は微笑ましく思いつつ、恐縮しきった態度を見せておく。ある意味、汚い大人の部分であるかは微妙。

 桃子も微笑みつつ、彰浩の家に電話を掛ける。

 彰浩は携帯電話を所有しているが、電源を切っていたりする事が多いので、直接家に掛けた方が確実なのである。

 誰も無くても履歴が残るので、すぐに掛け直してくるだろう。

 受話器から、恒例の音といえるプルルルルゥ……が、聞こえてくる。

 そのプルルルルルゥ……が、5回目に差し掛かった時、ラインが繋がった。

 

≪はい、もしもし≫

 

 受話器から彰浩の声が出てくる。

 

「あ、彰浩君、桃子です」

 

 顔が見えないのだが、何と無く軽い会釈を行う桃子。

 

≪あ、桃子さん、お久しぶりです。今日はどうしたのですか?≫

「ええ、実は――の前に、学校はどうしたの? 今の時間だと、もうすぐ授業が始まるはずだけど?」

 

 前に学校の時間や何やらを色々聞いたことがあり、それを照らし合わせると、彰浩が家にいるのはおかしい時間帯である。

 学校をサボる事はしないのは、桃子もわかっている。が、かといって、体調が悪いわけではなさそうな声。

 だが、その疑問はすぐに消える。

 

≪ええ、今日は2時限目で終了でしたから――で、実は何ですか?≫

「ああ、なるほど……で、実は――」

 

 それから、今までの事を簡潔に説明し、現状を伝える。

 一部、捏造と隠蔽があったが相愛ということで。

 

「――と、言う訳だから、少しだけ、ね? 桃子さんからのお願い」

≪うぅ~ん……半日だけでしたら≫

 

 彰浩は渋りながら答える。

 検定は今週の日曜日……2日後である。 つまり、一応勉強はしなければならないのである。

 

「ありがとう、彰浩くん♪」

 

 桃子は時覇と勇斗にOKサインを出す。

 しかし、時覇と勇斗は別の事を思い浮かべる。

 

(バイト、大丈夫か?)

 

 時覇と同じ、ガソリンスタンドでバイト中。すでに、1年以上やっているベテラン扱われる。

 が、未だに臨機応変で出来ない為、中途半端な新人に近い状態である。

 

「じゃあ、また後で掛け直すわね」

 

 そこで、桃子から受話器を置いた。

 

 

 

 

 

「お~い、一旦席に着け」

 

 教室で雑学の授業が終わったら、担任が担当教師と入れ替わる形で入ってきた。

 自分も含む生徒たちは、がやがやしながら座りなおす。

 全員が座るのを確認し、しぁゃべるの止めろと言う。

 しかし、完全に消えることは無く、ある程度収まった所で話を切り出した。

 

「今日は、これで授業は終了です」

 

 その次の瞬間、歓声が上がる。

 まぁ、学校の風物詩的な現象の1つである。

 

「静かにしろ。次の授業の担当者が、急遽来られなくなったので、これで終了と――」

 

 と、説明をする。

 少し聞き流しつつ、ノートに小説のキャラクターの説明を書く。

 

「――ってなぁ訳で、号令」

 

 その言葉に、全員が立ち上がる。当然、自分も。

 

「礼、さようなら」

 

 以上。あとは、各自でお辞儀。

 

「さようなら」

 

 声を出すのは、俺くらいかも。

 そんな事を思いつつ、各自さっさと教室を出て行く。

 彰浩も、カバンに物を詰めて教室を出る。

 そして、エレベーターを通り過ぎる際、いつも思うがある。

 降りごときで、エレベーターを使うのはどうかと思った。

 上りや10階以上下るなら判るが、最大5階までの高さしかないこの建物。

 足腰が弱くなる原因じゃないかと、余計なお世話的な事を思う。

 

(近くのエロゲー屋へ、レッゴー?)

 

 ニヤニヤと笑顔を浮かべるアギト。

 しかし、この顎――もとい、妖精と一緒に学校へ来た時点で、その目論見はカンパされている。

 なので、

 

(違うわ。飯食いに、一旦帰る)

 

 その言葉に、お腹の音が聞こえてきた。

 彰浩は、まだ平気である。つまり――発生源は、1つしかない。

 が、苦笑しつつ何も言わないでおく。

 あまりからかうと、前みたいに頭から炎が噴出しかねない。

 前というと、リインフォースⅡとアギトと出会い、共に行動していたある昼下がりの事。

 アギトがお腹の音を豪快に鳴らし、それを笑いながらからかった彰浩。

 それに、追い討ちを掛けるようにリインフォースⅡも、口元を押さえ肩を揺らしながら堪えている。

 2人のダブル攻撃に我慢の限界を超え――他の人がいるにも関わらず、髪の毛が燃えた。

 いきなりの発火現象に驚く周りの人たち。

 慌ててリインフォースⅡが消してくれたが、警察やら何やらが来てしまい、仕方なく事情聴取。

 しかし、本当のことも言えず、いきなり発火したと証言する。

 警察から所持品をすべて出すように指示され、全部出す。この時、2人の妖精はすでに撤退済み。遠目でこちらの様子を伺っていたらしい。

 結局、発火する道具なども無く、隠しているのではないかと踏んだ警察から、ボディーチェックを受ける。

 結果――原因不明ということで、病院で検査と治療を受ける。

 病院に来るまでの間、いつの間にか戻ってきていた2人の妖精が、バレない程度に回復魔法を掛けてくれた。

 おかげで、病院での検査結果も、髪の毛が軽く焦げた程度で終わった。

 だが、これが検査・治療後に受けた後では、回復魔法で治す訳には行かなくなる。

 それからは、生まれ育った世界では、絶対にアギトをからかわないと心に決めている。

 騒ぎになれば、確実に警察の御用となる。

 逃げるにも、見つかれば後々面倒な事態に発展する。

 それが現実である。

 

(今日の昼は……弁当だな、俺は)

 

 と、何と無く切り出す彰浩。

 

(弁当って――ああ、カバンの中の奴ね)

 

 今日は、4時限――1時限、1時間30分で、午前と午後に2時限ずつとなっている――だたので、教室で食べずに学校を後にしてきた。

 せっかく親が作ってくれた弁当を無駄にするわけにもいかない。無論、するつもりも無いが。

 そのまま駐輪場へ行き、自転車に乗って帰る。

 ちなみに免許は持っていないので、自動車はおろかバイクにすら乗れない。

 バイクに憧れはあるが、乗る気があまり起きない。

 それは子どもの頃、少しあった事と、自転車でも本当に時たまだが危なく車と接触しそうになる。また3度ほど軽くぶつかっている。

 いずれも、自転車のタイヤカバー部分が僅かにずれる程度で済んでいる。

 しかし、世の中の事故の状況も合わせると、いささか乗らないほうが安全と考えている。

 命あっての人生だから。

 

 

 

 

 

 ……ああ、確かに命あっての事。

 相棒である自転車は、今年の11月後半に接触事故で破損。

 修理するより、新品を買ったほうがお金も時間も早くて済む。

 が、それは4ヵ月先の話である。

 皆さんも、事故にはきお気をつけください。ですが、気をつけても相手からぶつかってくる事がありますので。

 最後に、保険屋を通した方が早いです。

 グダグダになるのは必然ですからね……人身事故は別ですが。

 

 

 

 

 

「けぶる空 焼ける大地 息をする たかぶり鎮めて」

(ふたりなら 見ててくれるなら 行けるよ 約束の通りに)

 

 と、自転車を進ませつつ、アニメソングを交互に歌っている。

 ちなみに歌は、maisov.com(http://maisov.oops.jp/)のより抜粋。きちんと許可は頂いております。

 

「いのちと いのちの 重さを 合わせて 信じる魂 在り処を重ねる unison we are the one」

(いのちと いのちの 重さを 合わせて 信じる魂 在り処を重ねる unison we are the one)

 

 そして、声を同時に合わせ、歌い上げる。

 のんびり進めつつ、なるべく声が高くならないように歌い続けた。

 まだ歌は途中なのだが、彰浩がそこで止める。

 そして、何と無く思ったことを口にする。

 

「ふむ……今度、本人に歌ってもらうか」

(えぇ~!? 教えるのかよ、ちょっと嫌だな)

 

 と、彰浩の提案に渋るアギト。

 この歌は、はやて、ヴィータ、シグナム、リインフォースⅡが歌っているモノ。

 それから、歌の続きを歌いながら帰宅。

 自転車を仕舞い、玄関へ向かう。

 

『ただいまぁ~』

 

 声を合わせながら、家に入る2人。

 

「おかえりぃ~」

 

 と、母が返事を返しつつ、出迎える。

 

「どうしたの、こんなに早くて?」

「ああ、今日は2時間で終わった」

 

 玄関を閉め、中に上がる。

 アギトも、自分に掛けていた幻影系の魔法を解除。

 正確には、視覚撹乱系の魔法の1種で、彰浩には向いていないと太鼓判を押された。

 喜んでいいのか、悪いのか――多分、喜んで悪いのだと思う。

 確かに、臨機応変の聞かない人間には、向かない魔法だと思える。

 

「そう、だったらご飯は――」

「アギトだけ頼む。俺には弁当がある」

 

 パンパンと、背負っているカバンを軽く叩く。

 

「あら、アギトちゃんも一緒だったの?」

「ああ」

 

 素っ気無く答える彰浩。

 

「ただいまぁ~」

 

 と、頭の上から降りて、アウトフレームを展開――子どもの姿になった。

 

「おかえりなさい、アギト。何が食べたい?」

「えぇ~と……」

 

 彰浩は、そのままに自分の部屋があるドアへ向かう。

 ドアを開けると同時に、母とアギトのやり取りを微笑ましく見つつ、部屋に入っていった。

 それから、カバンの中から弁当と水筒を取り出して、リビングへ。

 そこにはアギトが嬉しそうに座り、台所では母が奮闘している。

 だが、そこに1人足りないことに気がつく。

 

「あれ、母さん」

 

 台所まで行き、問い掛ける。

 

「なんだい?」

 

 手早く作業しながら、問いに答える。

 

「ヴィヴィオは?」

「あの娘なら、桃子さんの所だよ」

「ああ、なるほど」

 

 それだけ言って、戻ろうとする。

 

「戻るなら、これ持っていって」

 

 と、昨日の残りのおかずを渡される。

 鮭である。

 最近(2007/11月時点)値段が高騰していることで有名な魚。

 中国が買い占めているのが原因であり、日本が1匹200円で買いたくても、中国が250円出してくるのである。

 しかし、中国の250円は月収の4分の1らしいが、それでも買う家庭があるのだから驚きである。

 それが、月収が日本円にして1000円の家庭でも。

 ただ、俺はできたてのが好きなので、冷めたのは普通に格下げとなる。

 コンビニの鮭むすびは別物であるが。

 あれはあれで美味いから。

 ともかく、それを持ってテーブルに戻る。

 

「鮭か?」

「鮭だ」

 

 それだけ言って、テーブルの上に置く。

 

「暖めるか?」

 

 人差し指に炎を出すが、100円ライターぽい。

 が、言えば――俺が丸焦げ、アフロヘアー。

 治すのが大変なので、口には出さないでおく。

 それからは、たわいも無い会話を広げつつ、3人で昼ご飯を食べる。

 食べ終わったあと、アギトと母で後片付け。

 俺は俺で、自分の食器と残ったおかずを運ぶ事。

 そして、全部運んだ後は、布巾でテーブルを拭く。

 片付けが終わり、台所が開くと、彰浩が道具と材料を出し始める。

 3時のおやつを作るためにだが、そこで気がつく。

 ヴィヴィオは桃子へ。ルーテシアは旅行。

 つまり、アギトしかいないので、2人分で自分にも関わらず、癖で5人分もの材料を出していた。

 仕方ないので、明日学校に持っていって、適当な奴に食わせるかと考える。

 

「彰浩、今日のおやつは?」

 

 笑みを浮かべながら、訪ねてくるアギト。

 

「できてからのお楽しみ。だが、アイス系だと言っておく」

 

 つまみ食いしないように牽制しつつ答える。

 アギトはつまみ食いの常習犯なので、それなりに警戒している。

 1度だけ、調理中にイタズラで辛子系を入れたことがあり、罰としてアギトに全部食わせた。

 ただし、情けとして砂糖やクリームをある程度渡し、1週間ほどおやつ抜きがあった。

 以来、つまみ食いへ走ることとなるが、彰浩自身、余り怒らない事にしている。

 アギトに弁上して、ヴィヴィオやリインフォースⅡも来るからである。

 ただ、スバル辺りから年の高い人間には、お怒りを与える事もしばしば。

 手際良く作業を進め――完成。

 その名も『たこやき風シューアイス』である。

 小説を書くために、ネットサーフィンをしている最中に見つけたアイス。

 材料は簡単に揃うので、簡易的に作ってみた。

 まぁ、味のバランスはイマイチ。

 本来は、実際にある店の商品なのでかつ、個人的かつできる範囲内で。

 料理は一応できるが、本当に時たましかやらないので。

 アギトは待ちきれないのか、目をキラキラと輝かせ、口からは僅かに涎が垂れる。

 犬みたいだなと思うが、それはスバルの方が当てはまる。

 仕方なく、さらに2個乗せて、アギトに差し出す。

 いいのか!? と、目で激しく訴える。

 ああ。 と、彰浩は目で返答する。

 それを受け取るや否や、彰浩の手から皿は消え、いつの間にかテーブルにアギトが座っていた。

 ムーブより早いのか? と、思いつつ、作り終えたおやつをラップして、冷蔵庫に入れる。

 そこで受話器から、恒例の音といえるプルルルルゥ……が、聞こえてくる。

 電話はすぐドアの近くにあるので、手を拭きながら行く。

 そしてそのプルルルルルゥ……が、5回目に差し掛かった時、受話器を取る。

 

「はい、もしもし」

 

 受話器から彰浩の声が出てくる。

 

≪あ、彰浩君、桃子です≫

 

 いつもお世話になっている、高町なのはの母にして、どう見ても20代にしか見えない女性。

 ちなみに、娘であるなのはは、19歳になっている。しかも、出会ったときは修行を終えて就職していた。つまり、どう転んでも40歳以上は確定といっても過言ではない。

 が、本人の前で言えば、問答無用で魔王を超えた存在――魔神が光臨する。

 1度だけ、勇斗とザフィーラ、(念のために)ガリューを巻き込んで尋ねた事がある。

 …………あの時は、本気で眼力だけで死ぬかと思った。

 ザフィーラですら、『桃子さんの歳』と聞いた瞬間――音速でその場から逃げ出す。

 ガリューも、全力で逃げ出す始末。

 情けないと思った奴、1歩前に出なさい。生き地獄と言うものについて教えてやる。

 俺と勇斗、ザフィーラとガリューの4人で。

 ともかく、顔が見えないのだが、何と無く軽い会釈を行う彰浩。

 

「あ、桃子さん、お久しぶりです。今日はどうしたのですか?」

≪ええ、実は――の前に、学校はどうしたの? 今の時間だと、もうすぐ授業が始まるはずだけど?≫

「ええ、今日は2時限目で終了でしたから――で、実は何ですか?」

≪ああ、なるほど……で、実は――≫

 

 それから、今までの事を簡潔に説明し、現状を聞く。

 隊長絡みの桃子の電話はロクな事ではないが、桃子からの直接の頼みは断りづらい。

 別に人妻ラブではなく、いつもお世話に成りっ放しなので、この様な機会に恩を返すべきだと思っている。

 

≪――と、言う訳だから、少しだけ、ね? 桃子さんからのお願い≫

「うぅ~ん……半日だけでしたら」

 

 彰浩は渋りながら答えた。

 検定は今週の日曜日……2日後である。 つまり、一応勉強はしなければならないのである。

 

≪ありがとう、彰浩くん♪≫

 

 桃子は感謝の言葉を述べる。

 

≪じゃあ、また後で掛け直すわね≫

 

 彰浩は、心の中で3秒数えてから、音を立てないように受話器を置いた。

 セールス系は終わったあと、問答無用で速攻で切る。

 音を立てて。

 場合によっては、相手が言い終わる前に切る。

 マナー違反だが、時間と電気代の無駄になった報復攻撃。

 本音はウザイから。

 

「誰からだった?」

 

 アギトが、アイスを食べながら尋ねてきた。

 ちなみにアイスは、先ほど作った『たこやき風シューアイス』である。

 

「ん? 桃子さんから。緊急で、少し手伝って欲しいことあるのだと」

 

 肩を竦めながら答えるが、アギトの顔は険しくなった。

 

「いいのか? 2日後は検定試験だったはずだろ?」

 

 そこで最後の1個を食べる。

 

「うん。今度ルールーにも、あげよ」

 

 と、呟く。

 その言葉に、材料を揃えないと思いつつ、苦笑。

「半日だけだと言っていたから、何とかなるだろ」

 気楽に答える彰浩。

 多少諦めている部分のある発言。

 

「バイトもあるのに?」

 

 が、別のことを聞いてみるアギト。

 そこで固まる。

 

「……忘れていた」

 

 その言葉に、ため息をついたアギトであった。

 ちなみにその後、彰浩が受話器を取って、リダイヤルを押していた。

 

 

 

 

 

≪昨日、アメリカのとある遊園地で、女の子が両足を切断する事故が――≫

 

 またか、思う勇斗。

 ここ3カ月間(2007年頃に実際にあった事故)、遊園地と聞けば、そんなことばかりのニュースが流れる。

 始めの発端は、日本の遊園地のジェットコースターの事故だった。

 原因は、シャフトの金属疲労による切断。

 おかげで1人亡くなった。

 それを機に、各日本の遊園地を調査した。

 その結果、コスト削減による定期点検を行っていたことが原因だと判明。

 それは、1つだけの遊園地ではなく、各地の遊園地で発覚した。

 おかげで、遊園地は候補から外さなくてはならなくなった。

 子どもたちが、1番興味を引く場所の1つなのに。

 

「……これだと、遊園地は駄目だな」

 

 ポツリと呟く時覇。

 えぇ~。と、子どもたちから不満の声が上がる。

 

「えぇ~、じゃないの。もし、お前たちがケガをしたら、お父さんとお母さんがどんな顔をすると思っているのだ?」

 

 その言葉に、黙ってしまった子どもたち。

 それを見て、うぐぅの声を上げてしまう。

 桃子も何か名案が無いか考え、勇斗もどうするべきか悩む。

 が、勇斗が思い出したように言った。

 

「桃子さん」

「何、勇斗君?」

 

 おでこに当てていた拳を離して、こちらを振り向く。

 

「今日は、7月6日ですよね」

「ええ、そうだけど――って、ああ、なるほどね!」

 

 勇斗の言葉に、桃子は笑みを浮かべ、両手をポンと前に合わせる。

 子どもたちは、頭の上にクェッションマークを浮かべ、時覇は、なるほど。と呟く。

 

「いいですよね?」

 

 桃子に出るための確認を取る勇斗。

 

「ええ、笹の準備をお願いするわね」

「了解――隊長!」

 

 エプロンを外しながら、隊長である時覇に尋ねる。

 が、答えはすでに決まっていた。

 

「駄目」

「じゃぁ、行ってきます!?」

 

 ドン!! と、いう大きな打撃音と、ベルがカランカランと奏でる音が鳴り響く。

 その音の元に、勇斗が顔面から扉に顔が突き刺さった様な状態で、体勢を保っている。

 それから数秒後、ゆっくりと徐々にずり落ち、床に塞ぎ込む状態に入る。

 が、ガバッ!! と、いう効果音を出しながら時覇の方を、勢い良く向く。

 

「冗談だ。さっさと行って来い」

 

 勇斗は、やられた。と呟きつつ、鼻を押さえながら翠屋を出る。

 

「もう、時覇君。そんなことばっかりやっていると……桃子さん、怒っちゃうぞ?」

 

 満面の笑みを浮かべながら、優しく言う桃子。

 しかし、その笑顔が何と無く怖く見えてしまうのは気のせいだと、内心で言い聞かせる。

 だが、額から出た冷や汗が隠すことはできず、そのまま服に落ちる。

 

「あれ、暑いのですか?」

 

 と、リインフォースⅡが、いらない気遣いをする。

 だが、無下にする事はできず、適当にあしらう事に。

 

「まぁ、そうだな……けど、これ以上冷房を効かすと、お前やこいつらが風邪をひいてしまう可能性がある」

 

 現在の状況を逆手に取った言葉であるが、案外通るモノでもある。

 暑いからといって、ガンガン冷房を効かすと、お腹を壊す場合もある。

 それに今の状況とは関係無いが、クーラーを浴びすぎると、体の機能の一つである『汗をかく』という部分に支障が出る。

 中学生の時に聞いた話で、部活の最中に熱で女子が倒れたそうである。

 その女子は、常に汗をかく事無く、涼しい顔で動いていたという。しかも、運動中に加え、夏の時期である。

 つまり、汗をかく事は、排出物である体内の水であると同時に、体温を調節する為の重要な役割を果たしているのである。

 汗臭い、べとべとするなどは、体質の問題もあるが、人間が生活する為の重要な要素の1つである。

 ので、体温調節をクーラー任せにすると、後々大変な事になるのは必然である。

 ちなみに、扇風機に濡れタオルを置いて飛ばされないように固定して起動すれば、クーラーと同じ効果が生まれる。

 これは、昔やっていた深夜アニメの知識で、クーラーの原理を簡単に表したモノだと言っていた。

 ある意味お手軽であるが、乾いたらまた濡らさなければならない。という面倒な過程が生まれるが、体調の事を考えると、こちらを取るべきだと考える。

 話は戻り――子どもたちの体調を心配するフリをする。

 実際に心配だけど。

 

「確かに――って、リインも混ざっていませんか?」

「混ぜちゃいけなかったのか? 毒ガスでも発生するのか?」

「当たり前です! って、私は酸性とアルカリ性の混ぜるな危険の洗剤ですか!?」

 

 頬を膨らませて講義するリインフォースⅡの姿は、一生懸命背伸びをしている子どもそのものだった。

 

「あっははぁ♪」

「あっははぁ♪ ――じゃ、ないですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

 と、叫びながら、彰浩の胸倉を掴んで前後に揺する。

 ぶべろぼらぁ――! と、聞こえるが、無言の万一致でスルー決定。

 それを見て微笑んでいる桃子だったが、袖が引かれているのを感じて、その方向を向く。

 

「あのね、あのね。笹で何するの?」

 

 桃子の裾を引っ張りながら、スバルが目を光らせている。

 他の子供たちも。

 その言葉に、向き合ってしゃがみ、スバルと同じ目線辺りで優しく教える。

 

「それはね、『七夕』って言う日なのよ」

「たなばた?」

 

 首を傾げるスバル。

 ほかの子たちも、首を傾げるが、なのはだけニコニコしていた。

 

「えっとねぇ、七夕って言うのは――」

「大雑把に言えば、織姫様と彦星様が、年に一度だけ会える日さ」

 

 と、横から勇斗が掻っ攫う。

 が、この大馬鹿者は、地雷を踏んだ。

 それも、思いっきり。

 例えるなら、地面の上にそのままで置いてある地雷を、満面の笑みを浮かべながら踏みつける様な光景である。

 

「うぇ、うぇぐ……うぐぅすん」

 

 その瞬間、桃子は勇斗を掴む。

 それも、勇斗が地雷を踏んだと認識する前に。

 むしろ、トーレのライドインパスルや、フェイトの真ソニックフォーム時のスピードを遥かに上回る速度で。

 

「勇斗」

 

 桃子は、満面のエガオで問いかける。

 ちなみにリインフォースⅡは、時覇が回収済み。

 駆け抜けるのが怖かったが、瘴気の中に置き去りにしておくのは、さすがに気が引けた。

 

「大丈夫、リイン」

「あぅ、はやてちゃぁ~ぁん」

 

 涙目を浮かべながら、はやての膝の上で塞ぎ込む、リインフォースⅡ。

 仕方が無いと言えば、仕方が無い事である。

「では――ゆっくり、お話を――」

 

 ジリリリリン!! っと、電話が鳴り出す。

 その瞬間、瘴気が一瞬で消えた。

 

「はぁ~い!」

 

 桃子は、電話に駆け寄る。

 瘴気だけで、ボロ雑巾になった勇斗に駆け寄るリンディ。

 

「だいじょうぶ?」

「あ、はい……ギリギリで」

 

 それだけダメージがあったのか。と、思いたくなるほど弱っていた。

 どうやら、あの瘴気は当てられるだけでダメージがあるらしい。

 フィールド系の魔法か何かかと、純粋な疑問が時覇の中に込み上げてくる。

 が、調査する度胸が無い。

 ……死にたくないから。

 

「あら、彰浩くんじゃない……ええ……分かったわ。都合がいい時にお願いね」

 

 と、それだけ言って、受話器を置く。

 

「彰浩が何だって?」

 

 平常心を保ちつつ、時覇が尋ねる。じゃないと、あの瘴気が復活してはたまらないからである。

 決して、勇斗の為ではなく、身の安全のため。

 

「それが、向こうのバイトの事で。こちらに来るが遅れるって」

 

 残念そうに言う桃子。が、すぐに、瘴気が爆発する。

 咄嗟にフィールド魔法を展開する時覇。

 子ども達全員を覆うことができたが、睨んだとおり、ダメージがある。

 勇斗は言わずとも、フィールド外。

 入れると破られる可能性が、非常に高いからである。

 目線で助けを求めるも、子ども達のために切り捨てる。

 生死が関わることならば、何が何でも助けるが、今回は別の意味での生死なのでスルーする。

 

「そぉ、そう言えば」

 

 そこで、クロノが声を出す。

 

「織姫と彦星って何ですか?」

 

 もっともな疑問が飛んで来る。

 この世界でも、保育園か幼稚園にいる先生からか、親から聞くしかない。

 が、どれも漠然的な事柄しか判らない。

 かぁと言って、子どもたちに教えるには丁度良い。

 

「じゃあ、話すけど。その前に――なのは、泣き止んでくれ」

 

 声を殺してぐずっているなのはを、膝の上に置く。

 これを見ていたカリムやフェイト、リンディたちが『なのはズルイ』と言って、たむろって来た。

 実に微笑ましく、なのはもぐずるのをやめて、笑ってくれた。

 

「それじゃあ、話す――」

「――前に、隊長!」

「昔、昔、ある世界に」

 

 ちなみに、今から話すのは時覇のアレンジヴァージョン。

 その間に、勇斗は桃子に引きずられて行った。

 高町なのは(19)が、『魔王』なら、高町桃子(35~45辺りだと推測)が『魔神』であると。

 

「たぃ――」

 

 そこで言葉が途切れる。

 何か、ドスッ、という音が背後から聞こえてきたが、聞こえなかった事にする。

 人間、長生きしたければ、余計なことに首を突っ込まない事。

 まさにその時である。

 そして、引きずられて行く音。

 遠ざかり、裏手からガタゴト聞こえてくるも、すぐに聞こえなくなる。

 全員完全スルー。

 誰も気に留めない。

 そんなこんなで、時覇の話は進んでいく。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

 

 と、話の途中で、また袖を引っ張られる。

 

「 ? どうしたのだ、ティアナ?」

 

 向くと、そこにティアナが、不思議そうな顔をしていた。

 

「どうして、おりひめ様とひこぼし様は、年に1度しか会えないの?」

 

 その言葉に、時覇は苦笑した。

 今、目の前にいるティアナは5歳くらい。

 本来ならば、知っていても可笑しくはないのだが、彼女はミッドチルダ出身者。知るはずも無い。

 

「これから話すさ、じゃあ、続きを――」

 

 時覇は、再び語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカップル?」

 

 話が終わり、ティアナから出たお言葉にして、この場の第一声。

 うん、アレンジし過ぎた。

 ともかく、この後、大至急買出しに行かなくては。

 

「にしても――」

 

 未だに裏方の方から、何か音が聞こえる。

 

「終わるまで、ここで待機だな」

 

 今日も、今日という1日が過ぎていく、ある昼下がりの日。

 太陽はさんさんと輝き――世界を、時間を、人を照らしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日目――最終話に続く。




あとがき
 大分お待たせしました!
 で、すいませんでした!
 もう、リインⅡメイン話じゃないですね。(汗
 ついでに、サブタイトルの入る場所が無い事に気がついた。
 追加不可です。(汗
 今回も、平行世界の説明文はここから拝借しました。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89)
 ホント、ここのサイトは便利ですよ。
 で、今回出てきたオリキャラ――彰浩は、作者ダークバスターをベースにしたキャラクターです。
 周りの環境、色などを付けてそれなりにカッコ良くした存在です。
 一応言いますが、この物語では妹は事故死していますが、実際は生きていますので勘違いしないようお願いします。
 まぁ、物語を深めるためと、実際の妹を出すと本人に怒られるので。(汗
 縁起でもない話はここまでにして、家族全員寿命までめいっぱい生きていて欲しいものです。
 形あるもの、特に生命を持つ存在に限界があり、必ず死が平等に訪れる。
 で、事故の方は――書いていた時に、実際に起きた事件を書きました。
 予定通り書き終われば、2007年の8月に公開していたのですが、バイトで無理でした。
 ちょうど2件同時に改装工事に入ってしまったので、こちらのバイト先になだれ込んできたのですよ。
 正直、疲れました。
 その後は、ばたんきゅぅ~とバイトの繰り返しでした。
 書く暇ねぇ~。で、テンションダウンで、結果がこれです。
 が、手を抜いたつもりはございませんが、最初の文に書いてあった通り、リインⅡメインじゃなくなっている。
 最後の3日目は、計画性を立てて書きますかね。(汗
 ちなみに、本文にあった遊園地の事故は、2007年に実際に起きた事故です。
 本文の中に、簡単ながら詳細も記載。

 で、複数のキャラが、一場面に一斉に出ると――死ぬわ。書いていて大変ってか、辛くなって来る。
 ある意味拷問に近いかもしれないが、こんな事言っている時点で小説書きの初期の躓きか、末期のどちらかである。
 でも、やって勉強になったので、加減を覚える事にできた。

 そして、さらに気がついた! はやてを忘れていたような気がする!






制作開始:2007/6/25~2008/1/19

打ち込み日:2008/1/19~2008/1/20
公開日:2008/1/20

変更日:2008/10/29


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