雪の皇女と落ちこぼれの僕の人理修復 (noanoa)
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少年は覚悟する

ーーこれは証明だ。僕にも世界が救えるっていうね。

「なんだ?今のは・・・?」

変な夢を見たものだ。Aチームの中で一番落ちこぼれの僕が世界を救う?

それは違う。実際に世界を救うのはキリシュタリアやデイビット達のAチームの中でも実力者の彼らだ。

魔力量が少ない僕に出来ることなんてサポート程度だろう。

「全く・・・自分が自分で嫌になる」

 

カドック・ゼムルプス。それが僕の名前だ。これから他の四十七人のマスター候補生達と特異点の修復へと向かう。実際に聖杯探索なんて物にはあまり興味は無い。

「だけど・・・もし僕が世界を救えるならその時は自分を認められるかもしれない」

ショルダーバッグを持つと自室を出る。説明会に遅れるとあの所長の事だしうるさいだろう。

 

「僕が召喚出来るのは魔力量から考えてキャスタークラス。戦闘向きではな・・・痛っ!」

考え事しながら歩いていたのが悪かったのか誰かとぶつかったようだ。

「あっ!ごめんなさい!ちょっと急いでて」

目の前にはアホ毛が伸びたオレンジ色の髪の少女が居た。僕の記憶にないってことは一般人から選ばれた十人の一人か。

どこか眩しい。本質的に僕とは違うと思わされた。

「あの?大丈夫?」

「あぁ。僕は大丈夫。君は?」

「あ!私の名前は藤丸立香!よろしくね」

怪我をしていないか聞きたかったのに自己紹介された。

「僕はカドック。カドック・ゼムルプスだ。よろしく」

互いに握手を交わすと彼女は慌てた様子で走って行った。説明会がある中央管制室とは逆方向に。

 

オルガマリー・アニムスフィア所長の説明を聞いていると同じAチームのベリルが僕の肩を叩いてきた。

「・・・カドック。落ち着いて聞けよ」

普段から飄々としている彼とは思えない程の重圧がその声にはこもっていた。

「どうした?」

「火薬の匂いがする。恐らくこの部屋を吹っ飛ばせるくらいのな」

「なっ!?」

狼男とまで言われていた時計塔でも名の知れた彼がこう言うのだから間違えは無いのだろう。

「お前だけでも逃げろ。これはマシュを除いた俺達Aチームの総意だ」

俺達が動くと目立ち過ぎると付け加えて、その重い拳を僕の鳩尾に入れてきた。

「な・・・何で!?」

息が詰まって言葉を出しずらい。そんな僕の疑問に対してベリルは無視をして声を張り上げた。

「おい所長!こいつの体調が悪いみたいだ。医務室に連れて行ってやってもらってもいいか」

「この私の説明中に!好きにしなさい!」

「了解。おいそこの赤毛。こいつを連れてドクターの所へ行け」

僕は今朝ぶつかった女の子に抱えられて説明会を中座した。

震えながらも振り向くとキリシュタリア、デイビット、ベリル、ペペロンチーノ、オフェリアが優しく見守っていた。芥も本で顔を隠しながらも目だけは僕を見ていた。

 

医務室に向かう為に廊下を歩いていると耳を劈くような爆発音が後ろから聞こえてきた。

「なに今の!?」

「ッッ・・・!行くぞ藤丸!!」

急いで来た道を引き返す中央管制室の扉は壊れて吹っ飛んでいた。

室内から漂うのはむせるような血の匂い。そして聞こえるのは痛みに呻く声。

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました』

「うるさい・・・」

『シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来百年までの地球において人類の痕跡は発見できません』

「うるさいって言ってんだよ!」

機械音声にあたるなんて間違ってる。そう分かっていても僕は・・・

『人類の生存は確認できません。人類の未来は保証できません。コフィン内マスターのバイタル基準値に達していません。レイシフト定員に達していません』

「なんだ・・・簡単な事だ」

『該当マスターを検索中・・・発見しました。適応番号07カドック・ゼムルプス。適応番号48藤丸立香をマスターとして再設定します』

「僕が・・・」

『アンサモンプログラムスタート霊子変換を開始します。全工程完了。ファースト・オーダー実証を開始します』

「世界を救ってやる!!」

 

その瞬間僕の意識はフッと飛んだ。



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少年は皇女と出会う

目が覚めるとそこは炎に包まれた地獄だった。周りは火の海、空気は淀み人の気配はしない。

「ここが特異点か・・・地獄だな。藤丸は居ないか」

僕一人レイシフトされたかもしれない。当然不安もあるけどこれでいい。僕はAチームに入るまで常に一人だったんだ。

「むしろ一人の方が・・・」

拳に強化魔術を施しベリルに教えてもらった通りの動きで背後に向かって正拳突きを放つ。

「カタカッ・・・!!」

骨で出来た頭部のない化け物がバラバラになって後方へ飛んでいく。

「やりやすいんだ」

とりあえずこんな道の真ん中では今みたいな化け物が襲ってくるかもしれない。少しでも安全な場所を探そうと歩き始める。

 

途中で骨の化け物・・・前に何かの魔術本で読んだ竜牙兵を倒しすぎたのが間違っていたのかもしれない。

目の前に居るのは今までの雑魚とは違う。白磁の髑髏面を付け黒のローブに体を包んでいる・・・恐らくサーヴァント。

「人間ノ生キ残リカト思エバ漂流者カ」

「漂流者?人に何かを言う時は仮面くらい取ればどう・・・」

その次の言葉が僕の口から発する事は無かった。思いっきり棒のような腕で吹き飛ばされていた。正直に言って早すぎて体が追いつけなかった。

「ククク。他愛モナイ・・・死ネ」

僕の顔の前でその鉄槌のような足が振り下ろされる。そうだ・・・強がっても僕は一人じゃ生きていけない。だからAチームに入った時は嬉しかったし少なからず認められたと思った・・・これが走馬灯か。

「死にたく・・・ないな」

我ながら情けない。最後の言葉が死にたくないとは。いや、人間らしいか。

しかしその足が僕の頭を踏み抜く事は無かった。直径1m位の氷の砲弾が髑髏面のサーヴァントを射抜いた。

「ギッ・・・!!コンナ攻撃ヲスル者ハ居ナカッタハズダ!貴様何者ダ!?」

 

そんな叫びすら無視してその白髪の少女は氷のように冷たい目で僕を見下ろしこう言った。

「立ちなさい。あなたが私のマスターなんでしょう?ならば無様は許さないわ」

凛とした声で言われると僕にだってプライドがある。

「好き勝手言いやがって・・・あぁ、立ってやる!何度でも立ってやるさ」

「そ、キャスターのサーヴァント。アナスタシアよ。ヴィイ共々よろしくお願いするわ。弱虫なマスターさん?」

「カドック・ゼムルプスだ。僕のサーヴァントなら一撃で倒してもらいたかったね」

あぁ、直感的に分かる。僕と彼女の相性は最悪だ。

右手に浮かんだ赤い令呪。死にたくないと願ったから召喚出来たのか?都合のいい考えか。

「あら?あなたの目は節穴かしら。もう終わってるわ」

「何ダッ!?コレハ!!」

僕が聞き返すよりも先に髑髏面のサーヴァントが叫ぶ。

さっき僕を踏み潰そうとしていた足が凍っていっている。

「あなたはヴィイに睨まれた。それだけよ」

そこから全身が凍り付くまでに1分もかからなかった。

 

「・・・助けて貰ってありがとう」

「あら、私はあなたのサーヴァントですもの。助けるのは当たり前よ。それよりもここはガッデムホットなので早く帰還するわよ」

「この特異点を修復しない事には帰れない。だからもうひとふんばりしてもらうぞ」

アナスタシアは軽く舌打ちするとその目を細めた。

「私はこれからあなたのことをカドックと呼ぶわ。私が認められるような理想的な男性になったらマスターって呼んであげる」

「そうかい。なら僕もキャスターと呼ぼう。真名で呼ぶほど愚かじゃない」

こんなやり取りをしながらも僕はアナスタシアに傷の手当てをしてもらっていた。竜牙兵にやられた傷は大したことなかったがあの髑髏面に吹き飛ばされた時に左腕を痛めたようだった。

 

「いやーお熱いね。お二人さん?」

瓦礫の上から声が掛かるとアナスタシアが僕を庇うように相手を睨みつける。

その男は青のローブで顔を隠し木の杖を持っていた。

「やめろやめろ。やり合う気は無い。あんたあの嬢ちゃん達と同じでカルデアの人間だろ?」

「あの嬢ちゃん達?まさか藤丸もこの特異点に来ていたのか!」

「あぁ。盾の嬢ちゃんとヒステリーな嬢ちゃんの三人で大空洞へ向かった。俺もすぐに向かうが着いてくるかい?」

この男が言っていることが真実とは限らない。罠の可能性も高いだろう。今までの僕なら着いて行きはしなかった。

「分かった。案内してくれ。キャスターもそれでいいか?」

「私がいなければ誰があなたを守るというの?」

「・・・そうか」

「そんじゃぁ行くぜ。俺もこの終わらないゲームはいい加減飽きたしな」

 

今までの僕とは違う。なぜなら隣には態度は大きいしマスターである僕すら見下している。けど強くて誰よりも頼りがいのあるサーヴァントが居るから。

「カドック。そんなに人の顔をジロジロ見るのものでは無いわよ」

「う、うるさい。自意識過剰なんじゃないか?」

 

訂正。やっぱりこいつ嫌いだ。



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