イナズマイレブン〜双星の軌跡〜 (奇稲田姫)
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プロローグ

季節は春。

 

時期としては桜の舞う入学式の時期…………よりも少し時間は過ぎでちょうど5月の後半から6月の頭にかけて。つまりどちらかと言うと新入生も学校に慣れ始めてちょくちょくまとまったグループができ始める頃。

 

とは言っても入学早々1ヶ月間の引きこもり街道まっしぐらでとある少女に連れられてようやく学校に行き始めた彼女には当然よく喋る友達や思いを寄せる先輩なんて人はいるはずもなく、ただただ周りの浮ついた空気に居心地の悪さだけを感じながら自分の机で乱れた教科書を揃えていた。

 

そんな元気とは程遠いような彼女の周りがバタバタと慌ただしく教室の扉を開けながら駆け込んでくるとある少女によって瞬く間に騒がしさを取り戻した。

 

「おはよう現美ちゃん。」

 

「ひゃあっ!」

 

騒ぎの張本人、相澤このはは学校指定の学生鞄を肩にかけながら駆け込んできた勢いのまま現美の前の席へドカッと腰を下ろした。

 

しかしそんなに騒々しさに未だなれることが出来ない現美はいつも通りビクッと肩を震わせながら可愛らしい声を漏らした。

 

「いやぁ、相変わらずいい反応してくれるよ♪」

 

「か、からかわないで…………。」

 

ついでに整えていた教科書で口元を隠しながら視線だけ左右に泳がせている現美。

思いもよらない声が出たせいで恥ずかしくなったのだろう若干頬も紅潮気味だった。

 

しかし、そんな彼女のことも気にする様子などなく、このはは手早く自分の鞄から教科書類を机の中な放り込むと再びくるりと後ろ……現美の方に向き直って彼女の机をバン!と叩いた。

 

「っ!な……なに?」

 

「ボクいいこと思いついちゃった!」

 

「……へ?」

 

一瞬時間が止まったのかと錯覚するほどの感覚を覚えながらこのはの突拍子もない一言に現美が頓狂な声を上げた。

 

「な、なに?」

 

「だーかーらー!いい事、思いついちゃったの!」

 

「え…………」

 

「な、なに?その顔。」

 

「だ、だって、このはちゃんのいい事って…………。今まで、いいこと……なかった。」

 

「大丈夫!今度はすごく面白いことだから♪」

 

「嫌な予感……。」

 

そんなひしひしと伝わってくるキラキラとした表情から、このはが何となく面倒なことを言い出しそうな予感が漂ってくる。

 

 

 

 

 

 

「試合、しよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その一言の直後、現美の目が点になったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試合、しようよ。きっと楽しいよ♪」

 

「き、聞こえてるよ〜。で、でもさ…………。」

 

「なに?」

 

「部員……私とこのはちゃんしかいない。」

 

その一言で再びこのはと現美の間に束の間の静寂が訪れる。

 

 

 

 

 

 

「いないなら集めればいいのよ!」

 

 

 

 

「えぇ!?」

 

 

 

 

 

やっぱりこうなるのか、と内心ため息をつく現美であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

帰り道。

 

「はぁ。メンバー集めるって言ったって…………どうしよう……。」

 

 

 

 

──

───

 

「じゃあ、試合は1週間後の日曜日の午前10時。河川敷のグラウンドで。ボクと現美ちゃんがそれぞれキャプテンで、お互いが集めたメンバーで勝負。ね?面白そうでしょ?そうと決まったらこうしちゃいられない。さっそくメンバー集めなきゃ〜♪」

 

「え?あ、ちょっとこのはちゃん…………い、行っちゃった……。もう、いつも急……なんだから。…………?私が、キャプテン?〜〜〜っ//////」

 

 

───

──

 

 

 

 

 

 

 

「無理だよ〜私にキャプテンなんて…………ぐす……。でも、やるしか……ないんだよね……。メンバー探さなきゃ。」

 

そう覚悟を決めて現美は一人暮らしのマンションの前でくるりと踵を返して学校の方へ引き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

季節は春。

 

神奈川に新設された中高一貫校の弓鶴学園中等部1年生の現美とこのは。

 

新しく立ち上げたサッカー部の仲間とともに今走り出す。

 

 

 

 

 

 

※【次から紅白戦までのしばらくの期間はこのはと現美それぞれの視点でルートを進めます。最終的な物語には何も支障はないですが、お好きなルートでどうぞ←】※

 

 

1.相澤このはのスカウト日記帳

2.御陵現美のスカウト日記帳

 




キャラ案は活動報告の方へよろ←


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紅組ver.
相澤このはのスカウト日記帳 1日目


とりあえず集まった人から書いていこうと思います。



呼称などは私の匙加減なのでそこはご了承ください←
でも、リクエストは受け付けているので何かあれば活動報告によろしくお願いします←




では、紅白戦前のスカウト日記帳スタート←


スカウト1人目

 

 

 

GK「五十嵐 佳奈」編 (人生百一様より)

 

 

 

 

…………。

 

「(う〜む。むむむ……。)」

 

 

ボクは悩んでいた。

 

 

 

勢いに任せて現美ちゃんと試合をしようと持ちかけたはいいものの現在メンバーは2人、ボクこと相澤 このはと御陵 現美だけであり、しかもそもそも二人しかいないので部ですらない状態だ。

新設校でまだまだどこもかしこも駆け出したばかりというのもあるが、人数がいなければ部として活動などは出来ない。それくらいボクにも分かる。

 

その場のノリで「いなければ探せばいいのよ!」とかなんとか言ってしまったが宛なんてある訳もなく、ボクは放課後の廊下をうんうん唸りながら歩いていた。

 

ボクは何よりサッカーが大好きだ。

本当ならちゃんとサッカー部がある学校に進学すればよかっただけの話なのだが、何となくそれではつまらないと思ってしまったボクはサッカー部のない、そもそも新設されて間もない無名の学校への進学を決めたのだ。

(学力が足りなかったのは乙女の秘密。)

 

やるからには全国を狙いたい。

ただ、もともと基盤が出来上がってしまっているチームで全国に行っても味気ないし、自分たちで1から作り上げてこそ楽しさというのは膨れ上がっていくのだ。

 

まぁ、そんなことは置いておいてとりあえずチームというか部員を何とか確保しなければ大会どころの話でもなく、自分の提案した紅白戦にも影響してしまう。うかうかしていたら現美ちゃんに取られかねないからね。

 

そんなことを考えていたちょうどその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

バシッ!…………バシッ!…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「(?ボールの音…………何処からだろう。)」

 

ボクは無意識のうちに走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校舎裏。

 

 

 

 

 

ボクが校舎裏に着くとそこには校舎の影を吹き抜ける風に乗せ、日陰の色に溶け込んだ黒髪の一つ結びをなびかせてボールを蹴る少女の姿があった。

 

足元のボールをつま先で軽く浮かせて思い切り校舎の壁へ蹴り込み、跳ね返ってきたボールをそのままボレーシュート。

それを数回繰り返してそこそこ跳弾にも威力が加わってきたころ、跳ね返ってきたボールを再び思い切り壁に蹴りこみ、その跳弾に向かって軽く腰を落として軸足の右足を踏ん張ると、強くにぎりしめた右手の拳を力いっぱい突き出した。

 

ボールは少女の拳に当たると同時に反作用を受けて今までのシュートよりも一回りくらい早いスピードで壁に激突した。

 

返ったきたボールをトラップし大きく息を吐き出す

 

「はぁ!…………はぁ!…………。み、見つけた!!」

 

学校の敷地内を全力で走り回ったボクは校舎に右手をつきながら荒く乱れた息を整えていく。

 

「ねぇ!君!」

 

そして、まだ息も完全に整わないままボクは校舎の裏で1人ボールを蹴る帽子をかぶった少女に声をかけた。

 

「?……私?」

 

「そう!君、サッカー好きなの?」

 

「え…………好き、ですけど、どうして……」

 

「サッカー部!入らない?」

 

唐突の部活勧誘に少女が驚いて目を見開いた。

 

「あの、私になにか?」

 

そう問われてはっと我に返る。

 

「あ、ごめん。つい興奮しちゃって……。ボクは相澤 このはって言うんだ。これから作るサッカー部のキャプテン。君は?」

 

「え?私?……私は五十嵐です。」

 

「五十嵐……なにさん?」

 

「……五十嵐 佳奈です。」

 

「五十嵐 佳奈…………佳奈ちゃんだね。じゃあ、サッカー部入ってくれる?ポジションは?ジュニアの時どのチームだった?あとはあとは……」

 

「ま、待って!!」

 

その一言でまたしても興奮しすぎていた自分から我に返る。

と同時に無意識のうちに掴んでいた佳奈ちゃんの手をぱっと離した。

……これがボクの悪い癖だってわかっているのにな。

興奮しすぎると周りが見えなくなっちゃうの。

 

と、心の中でひとりため息をついていると佳奈ちゃんがボソリと小さな声で呟いた。

 

「……怖くないの?」

 

不意の一言にボクは疑問符を浮かべた。

 

「?怖い?どうして?」

 

「え?いや、だって私、目つきだって悪いし。人付き合いだって悪いし。」

 

言葉を発するたびにだんだんと声のトーンも落ちてきてしまいには視線すらゆらゆら宙を漂い始めた。

…………なんか物凄いデジャブを感じるのはボクだけかな。

 

「ん〜。ボクにはそういうことわかんないよ。目つきがどうとか人付き合いがどうとか、そんなことより君を一目見た時にこれだーって思っただけなんだよね。さっきの見てたけど凄かったよね♪こう……ズバーン!って感じから最後はバシーー!!って感じで、とにかくすごかったの!」

 

「へ?」

 

佳奈ちゃんが信じられないとでも言いたそうに再び目を丸くする。

 

「だから、ボクと一緒にサッカー、やろうよ♪絶対楽しいよ♪にひひ♪」

 

そう言ってボクは佳奈ちゃんに向けて右手を差し出す。

 

佳奈ちゃんは差し出されたボクの手と顔を1度ずつ見てから、ふわりと微笑んで被っていた帽子を照れ臭そうに深く被り直した。

 

そして、小さく頷きながらその手を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、佳奈ちゃんはポジションどこなの?」

 

「私ですか?私はゴールキーパーです。」

 

「ゴールキーパー!?やった!キーパー確保だ♪」

 

「……そう言えば、その……」

 

「このはでいいよ。」

 

「……このはさんはいつもこんな感じで勧誘を?」

 

「う〜ん。いつもはもっと…………って!こんなことしてる場合じゃないよ佳奈ちゃん!早くほかのメンバーも集めないと!」

 

「え!え!?どういうことですか?」

 

「あーとーでーせーつーめーいーすーるー!!!」

 

「わっ!ちょ……ちょっと!……まっ!……ひゃあっ!」

 

そう叫びながら慌てて走り出したため無意識のうちにボクが

 

佳奈ちゃんの腕を掴んでいたことなんてしばらく気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカウト2人目

 

 

 

MF「時乃 運命」編 (音無 重音様より)

 

 

 

 

教室前。

 

「ふぅ、着いた。」

 

無意識に掴んでしまった挙句ここまで引っ張り回してしまった1人目の部員、五十嵐佳奈の腕を離しつつ私は自分の教室の前で一息つきながら腰に手を当てた。

 

「はぁ……はぁ……このはさん早すぎです。……はぁ……」

 

「ごめんごめん。」

 

あははと苦笑いを浮かべながらボクは両手をパンっと合わせて謝罪の言葉を述べる。

 

「……でも、どうして教室?もう誰もいないと思いますけど。」

 

「あぁー、いや、別に教室に来たのは誰かを誘う訳じゃなくて…………忘れ物。」

 

その一言に佳奈ちゃんがため息をついた。

 

「明日の宿題引き出しの中に置いてきちゃって…………」

 

「なにしてるんですか、もう。」

 

半ば呆れ気味に言う佳奈ちゃんに苦笑いを返しながら教室の引戸に手をかけようとしたその時。

 

……教室の入口が勝手に開いた。

 

あれ?

ここって自動だったっけ?

 

いきなりのことに若干眉間に皺を寄せつつ腕を組むと頭の上を疑問符が飛び交っていく。

 

「ん〜、騒がしいなぁ。誰?」

 

「あ、時乃さん。」

 

不意に開いた教室から今まで爆睡でもしていたのだろうか眠い目を擦りながら現れたポニーテールの少女に佳奈ちゃんが反応した。

 

「…………ん?あれ?五十嵐さんじゃんそれと、このはも。なんでここにいるの?」

 

「時乃さんこそ、どうして?」

 

「僕は授業終わって爆睡してたんだけど、気づいたらこの時間。」

 

「ね、寝てたんだ。」

 

「机に突っ伏してたおかげで身体中痛いんだけどね。」

 

教室から出てきた少女はやれやれというふうに首をふるふると横に振った。

 

「ん?運命っちと佳奈ちゃんって知り合い?」

 

なんてなんとなーく言ったつもりだったが、何故かふたりとも目をぱちぱちさせながらお互いの顔を見合わせていた。

 

「いや、このはこそ何言ってるのさ。」

 

「は?」

 

「クラスメイト。」

 

「へ?」

 

自分でもわかるほど間抜けな声を出した私は軽く首を傾げたポーズのままフリーズした。

 

「待って、まさか同じクラスだって知らずに連れ回してたわけ?」

 

「私、そんなに影薄いかな?」

 

「いやだって、まだ新しいクラスになって1ヶ月……だし?」

 

「1ヶ月あれば大抵覚えられるよ。」

 

「私も覚えてる。」

 

もはや四面楚歌状態になりつつあるこの状況の打開策はひとつしか思い浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめん〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

こうして教室に着いたボク達のスカウト大作戦開戦合図はボクの盛大なる謝罪からスタートしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、このははサッカー部に入ってくれる生徒を片っ端から勧誘して回っていると。」

 

「そう!さすが運命っち。話が早くて助かる!」

 

教室の隅っこの誰ともわからない人の机に腰掛けながらビシッと人差し指を運命っちこと時乃 運命に向けた。

 

「で、それに巻き込まれたのが五十嵐さんってわけか。」

 

「うん…………うん?」

 

「巻き込んだなんて人聞きの悪い言い方しないでよ。ボクは誠心誠意心を込めてお願いをしたんだがら。」

 

「誠心誠意ね〜。どうなんだか。」

 

「嘘じゃないよ、ね?佳奈ちゃん。」

 

「え?うん……まぁ。」

 

「なんか言わされてる感がするんだけど。」

 

「気のせいじゃない?」

 

ふぅ、と息をつきながらボクは足をぶらぶらさせた。

 

「でも、サッカー部に入るって決めたのは……私、だから。」

 

おぉ!

ナイスタイミングの助け舟!

さすが紅組(自称)のゴールキーパー!

 

「……あの無口の五十嵐さんが、ねぇ。」

 

「あうっ……。」

 

何となく話があらん方向に向かいそうなのでここいらで軌道修正でもしないとのちのち収集がつかなくなる可能性が。

 

そう思ったボクは無理矢理話題を戻して本題に入った。

 

「もう!そういうことはいいの!でね?事は相談というかお願いごとなんだけど、運命っちさ…………。」

 

「いいよ。」

 

「いやまだ何も言ってないんだけど?」

 

「サッカー部、入ってってことでしょ?」

 

「どうして分かるの!?」

 

「今の話の流れを聞いていれば誰でもわかるよ。で?いいの?ダメなの?」

 

なんとなく話の主導権を握られているようで若干の違和感を感じながら腰掛けていた机からぴょんと飛び降りた。

 

「いいに決まってるよ。…………それでさ、一応聞きたいんだけど、運命っちってサッカー出来る?」

 

運命っちが呆れたようにため息をついた。

 

「え、今頃?知ってて誘ってきたんじゃないの?」

 

「いやぁ、偶然教室に戻ったら…………。」

 

「呆れた。」

 

「あはは……。」

 

「時乃さんがいないと、先が不安。」

 

勧誘したばかりの佳奈ちゃんにまで言われてしまったらもはやぐうの音も出なくなってしまう。

 

ボクは諦めて降伏のポーズを示した。

 

「そういうわけだから、よろしく。このは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でさこのは、ひとつ聞いてもいい?」

 

「ん?」

 

「あの新学期そうそう引きこもりになった現美がさ、1人でメンバー集められると思う?」

 

「………………。」

 

「少しは考えなよ。」

 

「不安……。」

 

「大丈夫だよ大丈夫。きっとなんとかなるって。」

 

「「……はぁ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカウト初日からため息が多発中のAチームであった。

 




さて、このはルートスカウト1日目が終わりました!

1人目は五十嵐 佳奈ちゃん(人生百一様より)、2人目は時乃 運命ちゃん(音無 重音様より)でした。


正直、まさか1人目からキーパー来るとは思いませんでした←(笑)

佳奈ちゃんは「校舎裏でよく壁あてをしている:スカウト場所は校舎裏 」ということでしっかり校舎裏までこのはちゃんに走ってもらいました←(笑)
一応本文中では直ぐに校舎裏に到着していますが、実は音を頼りに敷地内をひたすら駆けずり回っていたんです。←
それから、「目つきが悪い。無口。孤立癖。」等々、目つきが悪いのは置いておいて残りの2つは現美ちゃんに似ている部分があるので、結構ストーリーも考えやすかったですね〜。


2人目の運命ちゃんですが、この娘は必殺技の説明見た時からイメージが頭の中に出来すぎて(考案した時のイメージと同じかはわからないですが…………)その演出を書きたい衝動に襲われながらストーリー重視で書き上げました。←

運命ちゃんの私の中でのイメージは「このはのストッパー」みたいな感じですかね。(違ったら申し訳ないですけど)
感覚派のようなので試合中どのように動いてもらおうか考えるのか結構楽しいです←(笑)


この回の見所ですが、
佳奈ちゃん編では行き当たりばったりの勢い任せなこのはとそれに流されつつも「独り」から抜け出した少女ですね。勢い任せな所は現美ちゃんと対称性を持たせてます←
運命ちゃん編では「部の勧誘」と言うよりかは「放課後の1場面」でスカウトってところですね。お人好しな娘なので恐らくどう言っても「部員が足りない」って言えば入ってくれると思ったので、勧誘と言うよりかは常識人枠というのを少し表に出してみました。感覚派というのは後ほど←(笑)






というわけで、このはルート1日目はこんな感じでした←


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相澤このはのスカウト日記帳 2日目

このはルート2日目に入ります←



今回のキャラは………………なんと!!




…………というのは、実際に見た方がわかりやすいでしょう←(笑)


では、どうぞ♪


スカウト3人目

 

MF「神宮 雫」 前編 (夜十喰様より)

 

 

 

 

さて、本日は快晴。

絶好のスカウト日和…………ではなく、今日は昨日スカウトした2人と軽く練習でもしようかな〜と思っていたのだが、学校のグラウンドは既に現美ちゃんに予約を入れられてしまっていたため、ボクは仕方なく場所を移して学校の近くにある運動公園内こサッカーグラウンドにやって来ていた。

 

…………いや、まさか現美ちゃんがボクと同じことを考えていたなんて思わなかった。

 

でも、グラウンドを使うってことはメンバー集めの方も順調という事なのかもしれない。

いい事だいいことだ。

 

あの会話能力皆無かつ人見知りの引きこもりだった現美ちゃんがここまで成長してくれたことは素直に嬉しい。

 

っと、ボクは一体何を考えているんだか。

 

ボクは断じて現美ちゃんの友達であって保護者じゃないんだぞ。

全く。

 

そんなことを考えつつ、1人にはあまりにも広すぎるグラウンド脇に備え付けであるベンチに鞄を放り投げるとそのまま制服のボタンに手を掛けた。

 

…………勘違いしてもらっては困るのだが、ボクは既に制服の下に練習着を着込んでいるのだ。

そうやすやすと乙女の秘密を見せる訳にはいかない。

ボクはまだ発達途上。

これからが成長期なんだもんね。

 

いやいや、ボクは誰に向かって話しているんだ。

1人ベンチで首を横に振りつつ、カバンの中から愛用の赤いリストバンドを取り出すと両の手首に装着し、通学用の革靴からスパイクに履き替えて準備はOK。

 

運命っちはさっき担任に捕まっていたので遅れそう、佳奈ちゃんは家に行って着替えてから来るらしいから同じく遅れそう。

 

パンと両手で自分の頬を叩くと持っていたボールを右足で軽くリフティングをした後広々としたグラウンドへ蹴り出した。

 

とりあえずセンターサークルからゴールネットを眺め見ながら息をひとつついてドリブルを開始。

 

あ、コーンでも何個か立てておけばよかった…………なんて考えながら相手のディフェンダーを頭の中に思い描きつつ右足で起用にコントロールしながら左右にボールをキープして前線へ。

 

自分の思い描いていた軌道よりも大幅にサイドへ流されながらもペナルティエリアの端っこまで到達する。

 

そこでディフェンダー2人のプレッシングを想定しながらボールをキープし、視線は常にフィールド上を漂わせておく。そして、ここだと思った一瞬のタイミングでシュート体勢に入る、が。

 

ズルッ。

 

「ありゃ?」

 

ディフェンダー突破のために勢いよくルーレットで回転したのはいいのだがその遠心力に逆らえず勢い余って軸足まで滑るように浮いてしまう。

 

「あ、やば……。」

 

そのままなんとかボールを捉えてシュートまでするのだが、そんな状態でコントロールなどつくはずもなく、ボールは無常にもゴールポストに阻まれた。

しかも、運の悪いことに当たりどころがよかったのかボールは真っ直ぐに僕の方へ戻ってくる。

 

「へ?うそ!冗談キツイ………………ふぎゃっ!?」

 

シュートの威力が十分に乗った跳弾は寸分狂わずボクの顔面(正確にはおでこあたり)へクリーンヒットし、そのままグラウンドの外へ転がって行ってしまった。

 

「いたたっ…………ん?あ、あれ?ボール…………あ、おーーい!!そこの人〜〜!ボール取って〜〜。」

 

もはや不慮の事故としか言い様もないが、同時に言い訳ができないほどの恥ずかしい事故によって真っ赤になったおでこを擦りながらたまたま……本当にたまたまその付近にいた自分と同じ学生服に身を包んでトコトコ歩いている少女に向かってボールを取ってもられるように声をかけた。

 

「お〜〜い!」

 

その一言でようやくボクの存在に気づいたのか少女がふと足を止めて、自分の足元付近にあるボールとボクとを順番にゆっくりと見比べた。

 

「ごめん〜!呼び止めちゃって〜!その足元のボールこっちに投げて〜〜。」

 

とりあえずボクはその場で両手を大きくブンブンと振りながらポイントの合図を出す。

 

本当になんにも考えずに…………ただ、ボールを取ってもらうために。

 

「…………承諾。

 

「?」

 

少女が何か言ったように見えたがさすがにここからの距離じゃボクには何を言っているのか理解出来なかった。

 

読心術の類は心得ていないうえに、間に木があって邪魔なんだよ。

 

そんなことをしている間に少女がふと足元のボールを拾い上げてポンポンと軽くリフティングをし始めた。

 

「(んん?)」

 

そして、一弾と大きく弾ませたボールを間にあった木の上を通すように大きく蹴りあげた。

 

ただ、それだけならよかった。

 

()()()()()()

 

この距離でも目視できるほど強いドライブ回転のかかったボールはちょうど木の真上あたりを通過するタイミングから急激にドロップし始め…………。

 

「おおっ!?」

 

寸分たがわずしかもノーバウンドでボクの右足に収まる。

 

この距離でこんな正確なボールを蹴れるなんて、凄いや。

 

ん〜、次はこんなパスができる人をスカウトしたいな〜。

 

ま、とりあえず今は練習練習。

 

「ボール!取ってくれてありがと〜!!」

 

ボクは先程の少女に満面の笑顔で手を大きく振った。

 

しかし、当の少女はさも当たり前みたいに踵を返すとそのまま歩き出してしまう。

 

ふぅ。

 

ボクは肩でひとつ息をついて再びゴールネットに向かい合った。

 

 

 

 

 

………………?

 

ん?何か引っかかる…………

 

 

 

なんだろう。

 

 

 

 

 

不意に浮かび上がってきた違和感に軽く首を傾げ、何となくゴールネットに視線を移し、その後足元のボールを見た瞬間今この瞬間で1番重要な事実を見逃していたことに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょーーーーーーーっと待ったぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンド一帯に響き渡ったボクの叫びは幸いにも、いや運が悪いことにと言った方がこの場合はいいのか、誰にも聞かれることなくお空の彼方に消えていった。

しかし、そんなことには構っている余裕は今はない。

 

急いでさっきの少女を探さなければならないのだ!

ついさっきまでそこにいたから、まだ遠くまでは行ってないはず!

 

理由は当然、スカウト!

 

あの正確無比なボールコントロール、ボクの直感がこれでもかと言うほどビンビンに反応しまくっている!

 

ボクはこのグラウンドで運命っちと佳奈ちゃんの2人と待ち合わせしていることなど完全に頭から吹っ飛び、グラウンドから飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案の定。

少女の姿は直ぐに発見することが出来た。

 

「ま、待った!!」

 

運動公園の出口付近。

スクールバッグを肩にかけて物静かそうな雰囲気を醸し出している少女の背中に向かって思い切り声をかける。

 

「さっき、ボール取ってくれた娘だよね!」

 

「…………応答。そうですが、それがなにか?」

 

少女は振り返ることも無く淡々と、まるで感情の無い機械のような返答に若干の違和感というか不思議な感覚を覚えながらボクは会話を続ける。

 

「その制服、弓鶴のでしょ?ボクも一緒。でね、さっきのボール凄かったね。サッカーとかやってたの?」

 

「…………。」

 

そう問いかけると、無言のまま少女がゆっくりと振り返った。

 

艶やかな紺色にふんわりと柔らかな緩いカールを加えたセミロングの髪はサラリとそよ風に晒されて僅かに揺れる。

前髪の隙間から垣間見る眠そうな半開きの瞳は琥珀色に揺らめいていた。

しかし、その瞳には人間本来の輝きが薄く本当にアンドロイドかなにかだと思ってしまうほど冷たい光が張り付いていた。

 

それを見た瞬間ボクは小さく生唾を飲んでしまう。

 

「…………否定、…………はしません。」

 

Noでは無い。

それを聞いた瞬間ボクはほっと胸をなでおろした。

 

「よかった〜。じゃあさ!サッカー部n…………」

 

「拒否。」

 

ボクの言葉を静かに遮った拒絶の言葉に一瞬言葉を失った。

 

「どうして?あんなに凄いボール蹴れるのに。」

 

「拒否。話す必要は皆無です。要件は以上ですか?では、失礼します。」

 

「あ!ちょ、ちょっと!………………………………行っちゃった。」

 

ボクの静止も間に合わず、少女は無理やり話を切りあげるとさっさと踵を返して自身の帰路に着いてしまった。

その背中を見送りながら、やっぱりなんかデジャブってやつを感じるんだよな〜なんて考えていた。

 

佳奈ちゃんといい今の少女といい、凄く似てるんだよな〜。

 

 

 

 

 

現美ちゃんと。

 

 

 

 

 

でも、まだ現美ちゃんには勝てないかな。

会話出来るだけでもマシな方だと思う。

 

…………初対面の現美ちゃんは会話にすらならなかったからね〜。

 

まぁ、その話はまた今度としてボクはため息をひとつついてからグラウンドへ戻った。

 

「……お?来てる来てる。おーい!」

 

「ん?あ、このは!君は僕達との待ち合わせをほっぽり出していったいどこに行ってたのさ。」

 

「いや、ちょっと…………気になる娘がいたからスカウトに。」

 

「気になる人、ですか?」

 

「うん。すっごいボールを蹴る娘でさ。あ、でも、シュートとはまた違う感じかも。どっちかと言うと…………ものすごく正確なパスって感じ。」

 

「すごい正確なパス?」

 

「そう!」

 

興奮して自分で鏡を見なくてもキラッキラしているだろうボクを流しつつ、多少なりとも興味を示した運命っちが足元のボールをヒョイっと右足で浮かせた。

 

ちょうど胸のあたりでキャッチし、それをボクに向かって軽く投げ渡してくる。

 

「おっと。」

 

「で、ちなみに名前は?」

 

「名前………………あ。」

 

その瞬間運命っちが大きくため息をついた。

 

「それが分からなきゃ探し用がないでしょうが。A組から1クラスずつ見てくわけ?」

 

「このはちゃん、詰めが甘い……。」

 

「うぐ………………だ、だって、急いでたんだもん……。」

 

「まぁ、どうせうちの制服着てたんならどこかで会えるでしょ。」

 

「そういうこと!さ、せっかく集まったんだから練習練習。」

 

そう言いながらボクは自分の失態を誤魔化すように渡されたボールをグラウンドに向けて蹴り出した。

 

 

 

 

でも、ま。

 

ボクは諦めないからね!

 

 

 

 

…………あの娘、絶対にサッカー部に引き込んじゃうんだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンド脇木陰。

 

 

 

「…………拒否。私は、もう…………。」

 

 

 

そんな小さなつぶやきとともに少女は先程の彼女を見るために戻ってきてしまったことに不思議な感覚を覚えながら再度帰路に着くのだった。

 




さて、このはルートの2日目が終わりました。

今回の選手は思い浮かんだストーリーがどうしても日をまたいでしまうため前編後編に分けました←


今後も日を跨ぎそうなら分けます←



でですね。
夜十喰様考案の雫ちゃんなんですけど。

基本的にはスカウト方法も書いてくれた方は出来るだけその方法で書いていきたいので、その方法で考えていたのですが………………どうやって「雫ちゃんの足元に偶然を装ってボールを転がすか」が課題でした←(笑)
そして、試行錯誤を重ねた結果…………このはちゃん自身に犠牲になってもらいました。
ちなみに、私的には喋り方が独特で楽しいですw
とはいえ、この娘やはり孤立癖持ちなのでどんなにアイディアを出しても私の実力では1日で部に引き込むことが出来ませんでした…………。


そして見所ですが、なんと言っても雫ちゃんの(障害物)の上をピンポイントで通すドライブ回転のかかった正確無比の超ロングパスでしょう。
もっとかっこよく書きたかったのですが………………語彙力のない自分が憎いです。



では、後編(3日目)もよろしくお願いします!←


あ、キャラ募集はまだまだ受け付けていますのでよかったらどうぞ。


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相澤このはのスカウト日記帳 3日目



1人目の方は極力リクエストに沿って書いたつもりですが、どうでしょうか。

2人目書き終わりました!やったぜ!


では、とりあえず本編、どうぞ←


スカウト3人目

 

 

MF「神宮 雫」 後編 (夜十喰様より)+α

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

 

 

「授業終わった〜!!!!」

 

授業終了のチャイムとともに机に突っ伏していた頭をガバッと勢いよく起き上がらせながら、ガタンと割と大きめな音を立てて立ち上がった。

 

机に突っ伏して寝ていたため若干のおでこの当たりがヒリヒリするがそんなことに構ってはいられない。

ボクは出しておいたテキストを乱暴に机の中へ投げ入れると、横にかけてあるカバンをひったくりながら教室の扉を思い切り横に開いて教室を飛び出した。

 

「あ、このは!ちょっと待って!」

 

「こ、このはちゃん……!待ってよ!」

 

後ろからは運命っちと佳奈ちゃんの声が聞こえるがとりあえず気にしない。なぜなら、迅速かつ早急に昨日の(喋り方が)不思議ちゃんを見つけてグラウンドに引っ張っていかなければならないのだ。

 

時は一刻を争う。

 

現美ちゃんに先を越されてしまっては元も子も無いからね。

 

現美ちゃんとは親友だけど、この一週間だけはお互いライバル同士。

スカウトする人材は限られている。

つまり、早い者勝ちだ。

 

…………なんてことを言ったら怒られそうではあるが、でも、あながち間違っていないから大丈夫。

 

右足を軸足にして直角に左折。

 

ボクはA組の扉の前まで来ると、走り込んだ勢いを殺さないまま入口の扉を思い切り横に引き開けた。

 

「ここかぁ!!」

 

そのせいで扉付近にいた生徒が数人ビクリと反応をしたが、そんな所はどうでもいい。

 

肝心の不思議ちゃん(ターゲット)は………………いない。

 

「違った!」

 

ターゲット不在だとわかるやいなや扉を閉めることなどすっかり忘れ、ボクは次の教室へ向かった。

 

「このは!」

 

その途中、すれ違いざまに運命っちに腕を掴まれたことで慣性の法則に従い脚だけが前に投げ出され、直後見事にお尻から着地をしてしまう。

 

「んぎゃっ!!」

 

「このは!待ってって…………まさか本当にA組からローラーするとは思わなかった。」

 

「はぁ……はぁ……。」

 

「いたた…………。どうしたのさ2人とも!」

 

「どうしたもこうしたもないよ。いきなり宛もないのにローラーしたって時間の無駄でしょ?効率も悪い。」

 

「ローラー…………ですか?」

 

「そう、要するに片っ端から確認して行くってこと。」

 

「だとしてもだよ?ボクだって覚えてることと言ったら…………喋り方が特徴的ってことくらいだし…………。」

 

運命っちがため息をついた。

 

「…………ちゃんとした特徴覚えるじゃないか。」

 

「喋り方に特徴がある娘…………それほど多くないよ。」

 

「E組とC組に1人ずつってところじゃない?…………っと、あ。あの子だよ。今C組の教室から出てきた。」

 

「今?」

 

打ち付けて若干ヒリヒリするお尻を擦りながら運命っちの指さす方に視線を向ける。

 

「…………あぁっ!!!」

 

「ひゃっ……。」

 

いきなり大声を出したおかげで佳奈ちゃんを含めた数人の生徒が短い悲鳴を上げた。

 

恐らく……いや間違いない。

 

鮮やかな紺色で緩いカールのかかった髪。

サラッとしたセミロング。

横顔でもわかる琥珀色で眠そうな半開きの瞳。

 

まさかこんなに早く見つけられるとは思ってもみなかったけど、そこはボクの運の良さが出てるのかもしれない、うんw

 

もはやぶつけた痛みすらとうに忘れて飛び跳ねるようにしながら走り出した。

 

「あ!ちょっとこのは!!」

 

運命っちの静止を背中で聞きながら例の少女の元へ。

 

「ねぇ!あのさ!昨日の娘だよね?」

 

スクールバッグを肩に掛けて静かに歩くその背中に向かって昨日みたいに声を掛けた。

 

「…………肯定。」

 

相変わらずどこか距離を感じるその単語にボクは少しだけ眉を寄せながら彼女の正面に回り込んだ。

 

「……。」

 

「サッカー、一緒にやろうよ!」

 

「拒否。」

 

予想通りといえば予想通りの回答に溜め息と同時に体の力までしゅ〜っと抜けていってしまう。

 

「なんで〜!!どうして〜!」

 

「黙秘。それでは、私はこれで。」

 

まるで本当に機械か何かのように淡々と単語を並べると、少女は何事も無かったかのように僕の隣を通り過ぎて行った。

 

…………でも、今日は諦めない!

 

「待って!」

 

「…………。」

 

再び彼女の正面へ回り込み、両手を真横に広げて通せんぼ。

 

「迷惑。なんのつもり?」

 

「理由を話してくれるまで通さないよ!」

 

「…………邪魔。 」

 

「邪魔じゃない!」

 

若干語調を強めたことで目の前の少女が僅かにピクリとした。

 

「…………。」

 

無言のままお互いを見つめ合うという沈黙が支配する廊下。

その静寂を破ったのは…………。

 

「このは!……ごめんね神宮さん。ちょっとこのはに お は な し があるからまた今度ね〜。」

 

「ちょ!?運命っち!まだ話は終わってない…………。」

 

「いいから!」

 

「…………。」

 

ボクは突如現れた運命っちによって無理やり引き摺られるようにその場から退場させられてしまった。

 

当の少女………………確か「神宮さん」って言ってた少女は相変わらず冷めた視線を向けながらふいっと顔を背けるとそのまま歩いていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女(神宮さん)が行ってしまったあと、残されたボク達は無言のままその背中をぼんやりと見送っていた。

 

「…………はっ!さ、運命っち!どうして止めたりしたのさ!」

 

「そりゃ止めるよ!廊下のど真ん中で何やってたと思ってるの!もっとこのはは視野を広げて!」

 

「……。」

 

「このはちゃん……。チームに入れたいのは分かるけど、無理矢理は、ダメだよ。」

 

運命っちと佳奈ちゃんに言い寄られてはっと我に返る。

 

…………確かに。

それに関してはボクの落ち度だった。

 

「…………ごめん2人とも。頭が冷えた。うん!それじゃあ気を取り直してまだ時間はあるから練習しよう!」

 

「え?スカウトは?」

 

「後4日あるから大丈夫、なんとかなるって。ほら、行こ行こ〜♪」

 

とりあえず今は体を動かしたい。

今の状態じゃ入ってくれそうな娘も入ってくれなくなっちゃいそうで、ちょっと不安だから。

元気だけが取り柄のボクが元気なくなっちゃったら元も子もないし。

 

2人の背中をグイグイ押しながら肩にかけた鞄を背負い直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弓鶴学園近くの運動公園サッカーグラウンド。

 

 

 

 

 

ポーン。

 

 

 

運命っちからボールが回ってくる。

 

「神宮 雫…………ちゃん?」

 

そのボールを右足でトラップしつつそのまま左足を使って次の佳奈ちゃんに向かってインサイドパス。

 

「うん。C組の中でも結構有名人。」

 

そう言いながらボクからパスを受け取った佳奈ちゃんはボク同様右足でトラップして左足のインサイドパスで運命っちにボールを戻した。

 

「よっと。そうだね。恐らく喋り方だけで言ったら1番特徴的な娘なんじゃ、ない!」

 

「へぇ。…………逆回り。」

 

再び運命っちからパスされてきたボールを右足で受け止めて今度は逆回りにインサイドパスを出す。

 

「ほい。でも、あの神宮さんがね。そんなすごいパス出せるなんて、ね!」

 

運命っちから佳奈ちゃんに。

 

「ちょっと、驚きです。」

 

最後に佳奈ちゃんから回ってきたボールをその場で止めてため息をひとつ。

 

「よし!今は練習しよう!佳奈ちゃんシュート練習!キーパーお願いしていい?」

 

「ふぇ?いいですけど、いきなりですね。」

 

「確かにいきなり。でも、変な言い方になるけど五十嵐さんの実力を知るいい機会なのかもね。僕もこのはに賛成かな。(ついでにこのはの実力も、ね。)」

 

「時乃さんまで……分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

少女達準備中……

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。準備出来ました。いつでもいいです!」

 

ちょっと待ってと言ってベンチに戻って行った佳奈ちゃんが何やらカバンの中からゴソゴソ何かを引っ張り出して戻ってくる。

 

そのまま見るだけで彼女の練習量を物語るグローブを両手にはめ、ゴールの前でパンと1回拳を打って構えた。

 

「OK。じゃ、行くよ五十嵐さん!」

 

「はい!」

 

ペナルティエリア内にボールを置いてPKの要領で運命っち→ボクの順番で交互にシュートを撃っていく。

 

「はっ!」

 

「やぁっ!!」

 

運命っちは正面に構えた佳奈ちゃんから1番遠い場所、つまり右上の角をピンポイントに射抜く軌道を描くシュートを放ち、佳奈ちゃんも持ち前の瞬発力で瞬時に反応するとそのシュートをなんの危なげもなく()()()()()()

 

「参ったな。あのコースを弾くんじゃなくて止めるのか。」

 

「ふふ。まだまだだよ。」

 

「言ってくれるね。じゃ、次はこのはだよ。」

 

「え?あぁ……うん。」

 

佳奈ちゃんから返されたボールを受け取ってPKの場所から少しだけ後ろにボールを置くと数歩下がって助走距離を確保した。

 

続けてタイミングを合わせて助走からのシュート。

 

コースはさっき運命っちが撃ったコースの逆サイド。

 

しかし、これも佳奈ちゃんはなんの危なげもなくガッチリとボールを掴んだ。

 

「…………。」

 

「惜しかったねこのは…………このは?」

 

「……あ、な、なに?」

 

「どうしたのさ。珍しくぼーっとして。」

 

「そんなことないって。」

 

「ま、なんとなく考えてることはわかるから言わなくていいけど。」

 

「あはは…………。はぁ。あぁ〜!もう!なんでこんなにモヤモヤするの〜!!」

 

「こればっかりは本人に任せるしかないし…………ね!」

 

ボクと会話をしながら再びシュートを打つ運命っち。

 

それを止めた佳奈ちゃんから渡されたボールをセットし、軽く足を乗せて目を閉じた。

 

「(あぁ〜モヤモヤするな〜。こんな時は甘いものでも考えて気分を紛らわさないと………………。)」

 

「このは?」

 

「(甘いもの…………甘いもの…………やっぱり苺かな〜美味しいよね〜苺…………にへへ〜。)」

 

「こ、このは?さすがにいきなりそれは引く……。」

 

おっと、頭の中を苺で埋めつくしていたら無意識のうちに顔に出てしまっていたらしい。

 

でも、そのおかげで少し気分が晴れた気がした。

 

「よーし♪」

 

ボクはセットしたボールをヒールリフトの要領で背中のほうから空中にボールを浮かせた。

続けて地面に手を着きながら両足でボールを挟んでさらに回転をかける。

 

急回転のかかったボールは空中で透明なシロップをまといながら赤い色のチョコレートがコーティングされて行く。

 

「へ?」

 

「ちょ、ちょっとこのは!?」

 

吃驚して目をぱちくりさせている2人の事などお構いなしにボクは空中で苺の形になるまでコーティングされたボールに向かってジャンプすると、そのままクルンと体を捻って思い切りオーバーヘッド。

 

「いっけぇ!!!!」

 

打ち出すのと同時にコーティングが弾け、フィールド一帯に苺の甘く柔らかな香りを撒き散らしながら真っ赤な軌道と共にゴールへ一直線に向かって行く。

 

…………はずだったのだが。

 

「あ、やば…………。」

 

何故かボールは無常にもシュートコースを大きく逸れてしまった。

 

「このは!いきなりなに必殺技なんかかましてるのかと思ったらどこ蹴ってるのさ!!」

 

「いやぁ、失敗失敗……。」

 

「でも、なんか苺のいい匂いが………………。」

 

「五十嵐さんそんなこと言ってる場合じゃないって。…………苺のいい匂いがするのは認めるけど。誰かに当たったりなんかしたら…………。」

 

「あ、やっぱりこういう偶然ってあるんだ〜。運命っち運命っち〜。ボールの射線上に女の子が…………。」

 

「こーのーはー!!!」

 

「わ、分かってるって!ねぇ!危ないよ!!!そこどいて!!」

 

運命っちの心配を嘲笑うかのようにボールはたまたまグラウンド脇を歩く一般人の方へ。

本を読みながら歩いている方にも少しは問題があるんじゃないかとも思いながらさすがに当てたらまずいので警告の声を張り上げた。

 

というか、この距離じゃボクと運命っちは声を上げることしか出来ないし、咄嗟に走り出そうとした佳奈ちゃんも焦りすぎて足を絡ませてよろけてるから間に合わない。

 

 

 

 

 

 

「危な〜い!!!!」

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

そんなボクの渾身の一言によってやっとこちらを振り向いた少女だったが、それでもタイミングは少し遅かった。

 

もう既に直撃寸前までに迫っていたボール。

 

「…………ひっ!?」

 

…………この状況ではさすがにそうなるだろう。

少女は咄嗟に目をキュッと瞑って読んでいた本を投げ出したことさえ気づかないほどに自分の体を守るように強く両手で抱き締めた。

 

かと言ってこの距離じゃ間に合わない。

 

どうする!

 

そう思って唇を噛んだその直後。

 

…………ボク達は急ブレーキをかける羽目になった。

 

 

 

 

 

「ひ……ひゃあああぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「ふぇ!?」

 

「嘘……。」

 

 

 

 

少女の足元から空に向かって赤い光が立ち上り、薄めなクリーム色のセミロングを逆立たせながら背後の眩い光とともに真紅の背表紙の巨大な本が1冊出現した。

 

それは立ち上る光によって勢いよくページがバラバラとめくれて行き、とあるページでピタリと止まる。

 

そこから無数のキャラクター達が出現してそのボールに向かって群がって行ったのだ。

シュートは無数のキャラクター達によって完全に無力化され、その場にポンっと何事も無かったかのように転がって行く。

 

少女はと言うと、しばらく体を抱きかかえて震えていたが、自分に何も影響がないことを確認すると物凄いスピードで投げ出した本を引っつかむとそのまま走っていってしまった。

 

そんな少女の背中をボク達はしばらく無言のままぼーっと眺めていた。

 

「凄いね。あれを止めたよ。」

 

「そうだね。このはの落ち度とはいえ必殺技のシュートを止めるとなると凄いディフェンス能力なのは確かだ。」

 

「だよね〜。次にスカウトするのはあんなふうに鉄壁のディフェンス能力を持った娘がいいよね〜。まだボク達にはディフェンダーがいないし。」

 

「ふぇ?あ、あの…………。」

 

「ま、そう簡単にそんな都合のいい娘なんていないだろうけど。」

 

「そだね、とりあえず今は練習しようよ。」

 

「あ、あの!」

 

思いのほか大きな声を出した佳奈ちゃんにつられてボク達はゆっくりと振り返る。

 

「どうしたのさ五十嵐さんにしては珍しく大声出して。」

 

「佳奈ちゃんやっぱりシュート練習じゃない練習の方が……。」

 

「今の娘!!」

 

ボクの言葉を遮った佳奈ちゃんは先程の少女が走っていった方を指さしながらボクと運命っちを順番に見てからその続きを口にした。

 

 

 

 

 

 

「い、今の娘!弓鶴の制服でした!!!」

 

 

 

 

 

「へぇ、あの弓鶴の…………。」

「偶然だね、ボク達も弓鶴の…………。」

 

 

そこまで喋ってボクと運命っちはお互いの顔を見合わせた。

 

……こんなこと、つい最近にもあったような気がする。

 

 

 

 

 

 

ボク達は二人同時にコクンと頷き合うと大きく息を吸った。

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ちょーーーっと待ったーーー!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西日によって少しずつ暗くなり始めたグラウンドにボクと運命っちの叫びが木霊して夕方と夜の境目に吸い込まれて行く。

 

直後、ボクと運命っちは同時に視線を佳奈ちゃんの方へ移した。

 

「へ?ふぇ?」

 

一瞬ビクッと体をふるわせた佳奈ちゃんだったが何かを察したのかボク達2人に交互に視線を合わせて深呼吸をしてから大きく息を吸った。

 

 

そして

 

 

 

 

 

「ち、ちょっと待った〜!!////」

 

 

 

 

 

 

「がはっ!?」(【Critical!】999 このはHP 1/1000)

「ぐはっ!!」(【Critical!】999 運命HP1/1000 )

 

 

 

「え?//えぇっ!?//」

 

 

「ご、ごめん五十嵐さん。ちょっと待ってねwww///(こ、このは!あれはずるい!反則!)」

 

「…………www///(皆まで言うな運命っち。)」

 

と、そんな茶番をかましつつ3人で円陣を組むように集まって状況を整理。

 

「えっと!状況を整理すると、ボク達が練習していたグラウンドの近くに弓鶴の制服を着た女の子が歩いてて!」

 

「わ、私達はシュート練習をしていました。」

 

「で!このはがいきなり必殺技を打ち始めて!」

 

「撃つタイミングがちょっとズレたおかげでシュートが大きく逸れた!」

 

「そのシュートがたまたまあの娘の所に飛んでいって。」

 

「僕達の目の前で…………」

 

 

 

 

 

「「「あの娘がシュートを止めた。」」」

 

 

 

 

 

3人の声が重なり、同時にお互いの考えが一致していることを確認する。

 

「これはもう…………だよね?運命っち。」

 

「あぁ、スカウト案件だね。」

 

「ですね………………ん?あれ、このはちゃんあの娘…………。」

 

さて、早速さっきの娘を追いかけてチームにスカウトしようと意気込んでいた矢先、不意に佳奈ちゃんがグラウンドの外の木の陰からこちらを見つめるひとつの視線に気がついた。

 

「どうしたの佳奈ちゃん……………………あ。」

 

クイクイっと袖を引っ張る佳奈ちゃんが指さす先にボクも視線を移して短く声を上げる。

 

「……運命っち。」

 

「ん?どうしたのこのは。早くしないと見失うよ?」

 

「ごめん。ボク、そっちに行けないみたい。」

 

「?なんでまた………………あぁ、なるほど。」

 

ボクの一言に若干疑問を抱いた運命っちもその視線の先を確認した瞬間小さくため息をついた。

 

「わかっていると思うけど……。」

 

「無理矢理は、ダメ。」

 

「大丈夫。ボクに任せてよ。という訳で!!」

 

再びボクは運命っちと佳奈ちゃんを集めて軽く円陣を組み直す。

 

「今日はさっきの娘と…………神宮さんを絶対にチームに引き入れるよ!……無理矢理じゃなくてね!」

 

「このはに説得なんてできるか心配だけど…………恐らくそっちはこのはが適任なのはなんとなくわかる。だから、そっちは任せたからね。」

 

「こちらは…………。」

 

「うん。佳奈ちゃんと運命っちに任せるよ。スカウトしたら集合はこのグラウンドで。」

 

「異議なし。」

 

「わ、私も!」

 

「OK。じゃあ、2人とも、健闘を祈る!」

 

「「了解(です)!キャプテン!」」

 

2人からの力の篭もった返答を聞き、まだ完全に日が落ちきらないうちから着き始めたナイターに照らされたグラウンド上で逆方向に走り出した。

 

 

 

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※ここで分岐です。

 

このはと一緒に神宮 雫(夜十喰様より)のスカウトに行くならこのまま。

運命、佳奈の2人と一緒に4人目のスカウトに行くなら下のリンクに。

 

スカウト4人目

 

───────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……。」

 

グラウンドを抜けて街頭の薄明かりの下を全力疾走していく。

昨日みたいにゆっくり歩いていてくれるならばそれほど苦労もせずに見つけることが出来るだろうが、今回は1度昼間にコンタクトを取って断られている前科が存在する。

 

正直昨日のように容易に見つけることは出来ないかもしれない。

 

「はぁ……はぁ……!神宮さん…………雫ちゃん!」

 

先程木陰からこちらを見つめていた少女の名前を口に出しながら数段しかない短い階段の手すりに走り込んだ勢いを殺さないまま飛び乗るとそのままスケボーの要領で滑り降りた。

 

着地で少しバランスを崩すが無理矢理体勢を立て直してなお走る。

 

 

 

 

「雫ちゃん!!」

 

 

 

 

その言葉の先。

 

グレーのコンクリートで固められたランニングコースのコース脇に並び立っている街頭の下に備え付けられた休憩用のベンチの所に少女は座っていた。

 

ちょうどコースに背中を向ける形に備え付けられているためここからでは今どんな表情をしているのかまでは分からない。

……やはり感情もないアンドロイドのような無表情でいるのか。

 

「はぁ……はぁ……見つけた……はぁ。」

 

ボクは乱れた息を整えながらその背中に向かって声をかける。

 

「名前、友達に聞いた。雫ちゃん!」

 

「拒否。サッカーはもうしない。それは昼間言った。」

 

案の定返って来たのは冷たい拒絶の言葉。

 

でも…………今回はそれに対抗出来るカードが存在する。

 

「うん。……はぁ……はぁ……それは聞いた、けど、それ、本心じゃないよね!」

 

「…………何故。そんなことない。私は本気。サッカーも…………嫌いだから。」

 

まだカードは切っていないが、返ってくる答えは変わらない。

 

「拒絶。もう、私に構うのはやめて。」

 

 

雫ちゃんからの完全なる拒絶の一言が言い放たれた。

 

でも…………。

 

 

 

でも………………。

 

 

 

 

 

「…………いやだ。」

 

 

 

 

 

「……。」

 

あれほど無表情を貫いていた雫ちゃんがボクの一言によって僅かにピクリと反応した。

 

 

 

 

「いやだ。だって納得出来ないもん!」

 

 

 

 

気づくとボクはその場で声を荒らげていた。

 

 

「あんなボール蹴れるのになんで!理由が知りたいもん!!」

 

「否定。話す義務はない。」

 

「義務とかそんな難しい事じゃなくて!」

 

「焦燥。ならなんだと言うんですか…………っ!?」

 

思いのほかピンポイントに話の核に切り込んだことで若干の苛立ちが言葉に現れてきた雫ちゃん。

 

彼女にしては珍しく感情を表に出して勢いよく振り返った。

 

ボクは雫ちゃんが振り返るのと同時に彼女の肩をガっと掴んで顔を極限にまで近づける。

 

 

 

そして、ここで切り札となる言葉を切った。

 

 

 

 

 

「今まで何があったかはボクには分からないけど!これだけは確信を持って言えるよ!雫ちゃんは………………。」

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!」

 

 

 

 

 

 

ボクは雫ちゃんの肩を掴んだ指に少しだけ力を込めて、視線も彼女の瞳を真っ直ぐに見据えた。

 

 

 

 

 

「サッカー、嫌いなんかじゃない!心の中ではやりたいと思ってる!!違う?」

 

 

 

 

 

 

「…………。」

 

 

 

 

 

不意に雫ちゃんが目を逸らした。

 

 

「雫ちゃん!」

 

「嘲笑。なんの根拠があってそんなことを……。」

 

「まず1つ目!昨日、ボールを取ってもらった時!あのボール、サッカーが好きでチームのことが好きな人にしか蹴れないボールだったから。パスを受ける人のことを第一に考えてその人が1番取りやすい場所に蹴る。それはサッカーのこともチームのことも好きじゃないと蹴れない!」

 

「…………それだけ?」

 

「2つ目!昨日もそうだけど今日もあれだけ拒否しておきながら、さっきもボク達の練習陰から見てたんだよね?それって、やっぱりサッカーやりたいって思ってる証拠じゃない。」

 

「………………。」

 

「雫ちゃん!」

 

 

目を逸らした状態のまま雫ちゃんが口を固く結んだ…………が、それも直ぐに解け、ため息とともに体から力を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………謝罪。」

 

「いいよ、謝罪なんて。」

 

運動公園のランニングコース脇にある街灯下のベンチに2人並んで座りながら雫ちゃんがボソリと口に出した。

 

「…………感謝。私…………。」

 

「うん……。」

 

ゆっくりとそれでいてハッキリと言葉を繋いでいく。

 

「……嘆息。私………、もともと感情って言うのが分からなくて。表情も変わらないみたいで。」

 

「あはは、確かに。」

 

「失笑。だから、ジュニアの時からずっと…………友達が出来なくて。1人でいることが多かったんです。」

 

だから、と続けて雫ちゃんは彼女にしては珍しく小さく頬を緩めた。

 

「だから……、どうせ1人になるならサッカーも友達もいないところでって思って、弓鶴に来たんです。」

 

「そうなの?今こうして話してる感じだとそんなことないと思うんだけどな〜。」

 

ボクからしたらそれが素直な感想だったのだが、雫ちゃんは何故か目を見開いていた。

 

「え?ボク何か変な事言った?」

 

「そ、相違。今までそんなこと言われたこと、なかったので。」

 

「そうなの?雫ちゃんなら友達だってすぐ出来ると思うけどな〜。」

 

「…………。」

 

「…………はぁ。大丈夫だよ。ボクからしたら全然まだまだノーマルな方だから。」

 

「え?」

 

「ほんとほんと。そもそも、初対面でちゃんと会話が成り立つんだから全然問題ないよ。」

 

「……どういう意味、ですか?」

 

「いやぁ、ボクは初対面で会話が全く成り立たなかったと言うより会話にすらならなかった娘を知ってるからさ。まぁ、これは相当特殊な娘なんだけどね。」

 

「それって…………御陵さんのことですか?」

 

「知ってるの?」

 

「はい。学校でもお二人の噂は聞いているので。隣のクラスの相澤さんが引きこもりの御陵さんを外に連れ出したって。」

 

「あはは、そっか。あれは大変だったよ。だってさ!現美ちゃんってば初対面で初めて会った時なんか「あ」と「う」と「え」の3文字のどれかしか喋らなかったんだよ?」

 

「は?」

 

案の定雫ちゃんが不思議そうに眉を寄せた。

 

「だよね!そうなるよね?普通ならありえないでしょ?何話しても五十音1文字しか返って来ないんだよ!それに比べたらまだまだ雫ちゃんは可愛い方だよ。うん、全くだ。」

 

「…………クス。」

 

「あ、やっと笑った。」

 

「はっ…………わ、忘れて……//」

 

「なんでさ。可愛いのに。ねぇ、もう1回笑ってみて?」

 

「い、嫌です//」

 

「えぇ!いいじゃんいいじゃん。」

 

なんだ、アンドロイドみたいに冷たく冷めきった娘だと思ってたけど意外と可愛いところあるじゃん♪

 

「ま、それは置いておいて。話を戻そっか。」

 

「……。」

 

「雫ちゃん。サッカー部、どう?」

 

その問の後少しだけボク達の間に沈黙が訪れ、ゆっくりと雫ちゃんが意を決したように口を開いた。

 

「…………私、皆さんと上手くやっていけるでしょうか?」

 

「うん!やって行けるよ!………………と言いたいけど、そこだけはボクも無責任に済ませる訳にはいかないかな〜。雫ちゃんがみんなと仲良くしたい〜って強く想っていれば大丈夫だよ♪」

 

「そう、ですか。」

 

「うん♪(ふぅ、雫ちゃん気づいてないのかな〜。)」

 

 

ボクは隣に座る少女に向かって満面の笑みを見せてからそのまま夜空に視線を移して彼女の回答を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(口調、途中から変わってることに。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことを考えているとようやく雫ちゃんが答えを決めたらしい。

こちらを真っ直ぐに見据えてハッキリと答えを述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()。分かりました。相澤さんを信じます。これから、よろしくお願いします。」

 

「…………。」

 

もはや説明不要。

 

「……?困惑。相澤さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………な」

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……?」

「なんで口調戻しちゃうのさ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「こ、困惑!?く、口調……ですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

なんで!

なんでさ!

さっきまでいい感じだったじゃん!

今までの機械っぽい喋り方なんかよりもずっと人に近づいたと思っていたのに!

 

「そうだよ!どうして戻しちゃうのさ!やっといい感じになってきたな〜なんて思ってきたのに。いや、勘違いしないでね。今までの喋り方が悪いってわけじゃないよ?そういうわけじゃないんだけど、あぁ!もうなんて言ったらいいんかな〜〜あぁぁ!!」

 

「ろ、狼狽。口調、変えた覚えないですけど。」

 

「あ、気づいていなかったのね。なら仕方ないか。」

 

さっきまで両手で頭をガリガリ掻き毟りながら悶絶していたボクも今の一言で我に返った。

当然のようにいきなりケロッと態度を変えたボクに困惑の表情を浮かべる雫ちゃん。

 

「……混迷。理解が追いつかないです。」

 

「大丈夫。雫ちゃん、今のは見なかった。いいね?」

 

「こ、肯定。」

 

「うん♪ならよし。じゃ、もう暗くなっちゃったけどグラウンドに戻ろう。チームメイト、紹介したいからさ。」

 

「こ、混乱。あ、相澤さん、ま、待って……ください。」

 

「大丈夫大丈夫!善は急げ〜。あははは♪」

 

そう言って善は急げと連呼しながらボクは雫ちゃんの手を取るとそのままグラウンドの方へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカウト4人目

 

 

 

DF「坤蔵寺 輪廻」編 (妄想のKioku様より)

 

 

 

 

「はぁ。」

 

グラウンドから少し離れた場所の街灯の下。

 

白……と言うよりかはオレンジに近い灯を頭上から受けながら運命はひとりため息をついた。

 

神宮 雫のスカウトをこのはに任せてこちらのシュートを止めたディフェンダーのスカウトを買って出たはいいが意外と足はあるようで見失ってしまっていた。

 

今は彼女と共にこちらをサポートしている五十嵐 佳奈と手分けして探している最中。

 

「しまったな。見失った。」

 

そこに息を切らせながら佳奈が合流する。

 

「どう?」

 

「す、すみません。見つけられませんでした。」

 

「そっか。」

 

吉報を期待してはいたのだが、その反面そう簡単に見つけられないのだろうと思っていたこともあり、やっぱりかと言って運命は再びため息をつく。

 

「行く宛でも分かればいいんですけど……。」

 

「行く宛どころか、正直名前も……クラスですら分からないこの状況じゃ見当の付けようもないけどね。」

 

「そ、そうでした……。」

 

しゅんと肩を落とす佳奈。

 

「そんな落ち込むことないよ。そもそもこの短時間の間じゃ移動できる範囲なんてたかが知れてるんだからさ。」

 

とはいえ、せめて彼女が向かいそうな場所の候補くらい絞りたいところではある。

この広い運動公園を虱潰しに回ってる時間なんてないし、そもそも既に公園外に出てしまっていた場合はその時間が無駄になってしまいかねない。

 

さて、どうしたものか。

 

「五十嵐さんは見覚えとかない?」

 

「私は…………ごめんなさい。」

 

「やっぱりそうだよね。僕も同意見だし。」

 

後ろ頭を軽く掻きながら運命は思考を巡らせる。

なるようにはなるだろうが、それを待っているほど悠長な時間はない。

 

やはり今は戻るべきか。

弓鶴の制服をみにつけていたと言うことは明日学校にいる時の方が見つけやすい。

今宛もなくむやみに探し回るよりは効率はいいかもしれない。

 

「五十嵐さんやっぱり今は…………。」

 

そう言って振り返った瞬間言葉を切った。

 

「?時乃、さん?」

 

「いや……なんでもない。ふふ、なんだかいけそうな感じだ。」

 

「?…………あ、あの娘。」

 

ペロリと軽く唇を舐めてから運命が僅かに口角を上げる。

 

その視線の先には、先程の少女が本を脇に挟みながら若干うつむき加減のまま歩く姿があった。

 

「そういう事。行くよ五十嵐さん!善は急げ!」

 

「あ!ちょ、ちょっと待ってください!時乃さ〜ん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、こんな所で女の子が1人で歩いているのは頂けないなぁ。」

 

不意に運命が少女の進行を妨げるように彼女の前方へ躍り出た。

 

「だ、誰?」

 

いきなりなんのアポもなく飛び出したため当然少女の反応は若干引き気味になる訳だが、まぁ運命本人が気にしてないなら大丈夫だろう。

 

若干街頭のあかりが弱くお互いの顔が辛うじて見える距離で、2人は向かい合った。

 

「おっと、紹介が遅れたね。僕は時乃 運命。弓鶴学園1年B組、出席番号…………。」

 

「と、時乃さん!そこまでは………はぁ、はぁ。」

 

そこにようやく追いついた佳奈が合流する。

 

「わ、私は……同じくB組の五十嵐 佳奈です。」

 

「うんうん。ま、冗談は置いておいて、僕達は時乃 運命。サッカー部の部員だよ。さっきのプレーを見て君をスカウトしに来た。うちのキャプテンがどうしても君の力を貸してほしい、ってさ。」

 

「さっきのプレー?」

 

「そう。飛んできたシュート、止めたでしょ?」

 

「止めた…………。あ。」

 

「それで、良かったらなんだけど、その力サッカー部で存分に活かしてみる気はないかい?」

 

「わ、私からもお願いします。」

 

そう言ってぺこりと頭を下げる佳奈と何かを含ませたような笑みを浮かべながら右手を差し出す運命。

 

「…………私が、サッカーを?」

 

差し出された手と2人の顔を見定めたあと、少女がポツリと言葉を漏らした。

 

「そう。どうだい?僕達は大歓迎なんだけど。」

 

「分かりました。」

 

「ふぅ、そうだよね。やっぱり君もなにかしら過去に問題抱えて………………ん?なんだって?」

 

「ですから。やります。サッカー好きなので。」

 

意外にもあっさりとした返答に運命と佳奈は思わず顔を見合わせてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、まだ名前聞いてなかった。教えてくれないかな。」

 

「うん。あなたも私たちと同じ弓鶴学園の生徒、だよね。」

 

夜空一面に敷き詰められた星の光を霞ませてしまうほど明るく照らす街頭の下を3人並んでグラウンドまでの道を歩きながら運命と佳奈が少女に問いかける。

 

「わ、私ですか?」

 

こくこくと無言で頷く2人の顔に視線を移した瞬間、少女が一気に顔を紅潮させた。

 

「え、えっと……その。わ、私…………。」

 

先程までハッキリと言葉を話していた少女とは思えないほどオドオドとしはじめた少女にまたしても運命と佳奈は顔を見合わせてしまう。

 

「こ、坤蔵寺……輪廻……です。」

 

「なるほどE組の。」

 

「じゃあ、輪廻ちゃんだね。よろしく。」

 

「よろしく。」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

そんな輪廻の笑みを見ながら運命はふと夜空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

「(…………どうしてこのチームにはコミュニケーション能力が低い娘が来るんだろうな〜。このはってなんかそういう娘を引き寄せる能力でも持ってるのか。ま、考えるだけ無駄か。今はメンバーを揃えることを優先にしよう。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

グラウンド。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンド。

 

 

運良くまだナイターの照明がついたままのグラウンドにボクが到着すると、運命っちと佳奈ちゃんは先の宣言通りさっきの娘をスカウトして既に戻ってきていた。

 

「ん?お、やっと戻ってきた。」

 

「このはちゃん。」

 

「お〜2人とも〜。やったんだね?やったんだね?お手柄だよ!これで一気に2人のメンバーゲットだよ!!」

 

「このはちゃんはしゃぎすぎ……。」

 

「いいんだよ。サッカー好きなメンバーがまた2人も増えたんだよ?これを喜ばずに何を喜ぶのさ!」

 

「あはは……、まぁ、僕達のキャプテンはこんな感じのノーテンキなんだ。ごめんよ。」

 

「ノーテンキって、酷いな運命っち。……ふぅ。さぁ、何はともあれ新メンバーの自己紹介タイムと行こうよ!さぁさぁ♪」

 

そうテンションを上げながらボクは自分の後ろからついてきていた神宮さんと2人が連れてきた少女を並べてニンマリと笑みを浮かべたままほれほれと両手でジェスチャーをした。

 

「了承。それでは私から。神宮 雫です。ポジションはMF。パスの正確性には絶対の自信があります。」

 

「(へぇ…………()()の正確性、ね。)」

 

「つ、次は私。坤蔵寺、輪廻です。ポジションはDF。…………でも、サッカーやっていたのは小学2年の時までなので……初心者とほとんど変わらないと思う、よ?」

 

「大丈夫大丈夫。フォローならバッチリ任せてよ。」

 

「そう、ですか。」

 

ふっと輪廻ちゃん…………いや、輪ちゃんがなんだか安心したようにふわっと微笑んだ。

 

「よーし!これで5人、明日あと一人見つけて試合に向けて特訓するぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこのはの声はは暗い夜の空の中に木霊していった。

 

 

 

 




お疲れ様でした。

正直な感想は恐らくリンクであっちに飛んだりこっちに飛んだりで忙しかったみたいな所でしょうか←(笑)



なんでこんなことしたかって?
当然、やってみたかったからに決まってるでしょ←(笑)

でも、読みづらくなるようならやめます←




まぁ、それは置いておいて、今回のキャラとストーリー案紹介ですね←


このはルート3人目のキャラは神宮 雫ちゃん(夜十喰様より)です。

まずこのキャラ最大の特徴はやっぱり口調でしょう。
独特すぎて書いてて結構面白かったです←(笑)
それから、感情表現が会話頭の熟語ってだけに色々調べながらセリフ考えたので新しい発見とかもあって良かったですよ、はい♪
今まで出てきたキャラの中では初めて「スカウトに日を跨いだ」キャラですが、このはに「熱烈な勧誘」をさせようとすると結構執拗い感じになってしまうことが今回分かったのでちょっと考えものですね〜。
なんとか今回は「説得」という結論になったわけですけど………………ちゃんと無理矢理な展開になってないか心配ですね。


それでは今回の見どころですが、雫ちゃん編ではこのはの全力疾走シーンからの説得フェイズでしょうか。
やっぱりそこに1番力を入れたので。

あ、このはの必殺シュート、「ストロベリーパーティー」も頑張って書き上げたのを忘れないで下さいね←(笑)




4人目キャラ坤蔵寺 輪廻ちゃん(妄想のKioku様より)書き終わりました!


この娘に関してはまずリクエスト通りに書けなくてすみませんでした!
どうにかしてなるべくリクエスト通りになるようにあれこれ試してみたんですけどどれもしっくり来なくてですね…………。このような形になりました。
一応初めてのタイプですね。
このはじゃなくてチームメイトがスカウトをするという点では。
それから比較的あっさりチームに引き入れられたのはちょっと考えがあっての事なので←



見どころは、一応このはじゃなくて運命と佳奈にスカウトをさせたところでしょうか。
色々設定も軽く盛り込みつつ……ね。←(笑)






それでは、気長に更新をお待ちください←




敵キャラの募集はまだまだ行っていますのでよかったらどうぞ←



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相澤このはのスカウト日記帳 4、5日目

やっと書けた…………



やっと全員分かけましたよ
Урааааааааааааа!

今回はちょっと、他とは違う感じに仕上げてみました。
(そのせいで遅れてしまった…………申し訳ない!)



まぁ、とりあえず遅れに対してのクレームの前に四の五の言わずに本編へ飛んでくれ!

では、どうぞ♪



スカウト5人目(昨日はおやすみだった)

 

 

 

MF 「舞埼 友紀」編 (ハマT様より)

 

 

 

 

学校からさほど距離もない運動公園のベンチ。

お馴染みグレーのコンクリートで固められた一般的なランニングコースを背中に向けて、脇に1本の街灯が立っていた。

そんなベンチに今は近くの移動販売車から買ったアイスを片手に持った少女が2人並んで座っていた。

 

 

 

 

 

ボクは今…………。

 

 

 

「どうしたのさこのは。アイス、食べないと溶けちゃうよ?」

 

 

 

猛烈に頭が混乱している。

 

 

 

「ふふん♪食べないんならボクがもーらいっ…………」

 

 

「あっ、ダメーっ!」

 

 

 

隣に座っている紫髪の少女に危うく自分のアイスをペロリと食べられそうになるのを辛うじて抑え、付属のスプーンで自分のアイスを1口口に入れた。

 

バニラという定番のシンプルなアイスは口の中で僅かにシャーベットのようなシャリシャリ感を残して爽やかな後味と共にするりと喉を通って行った。

 

「ケチ。いいじゃん1口くらい。ほら、ボクが買ったあの店限定味の『ダークマター』味あげるからさ〜。」

 

「ネーミングからしてハズレだよそれ〜!」

 

そう言いながらボクはまた1口口に運びながら、視線を少女の持つ未だに手をつけられていないソレに向けた。

 

ダークマター………………。

 

少女の手に持っているアイスはそのネーミングに相応しく……………シンプルに真っ黒であった。

原料はなんだろうか。

しかし、この黒さであればイカスミを使ってますと言われても納得ができそうだ。

 

 

少女はガックリと肩を落としながらため息をついて、1度コクリと喉を鳴らしてから恐る恐るスプーンをその真っ黒な暗黒物質(ダークマター)状の物体(アイス)に差し込んでゆっくりと少量すくうと、そのまま意を決してか一気に口の中に入れた。

 

「…………味は?」

 

「………………………………………………しい

 

「え?なんだって?」

 

「……………………お、お い し い……(泣)

 

「はぁ、分かった。ボクのバニラあげるよ。」

 

「ホント!?ありがとう!やっぱりこのはは優しいな〜♪ん〜♪」

 

あの地雷アイス(ダークマター)のせいで口にスプーンを入れたまま青い顔で固まっている少女を見かねて自分のアイスをボクはすっと差しだした。

 

それを本当に嬉しそうに食べる隣の少女を見ながらふと頭の上に浮かび上がっているはてなマークを見上げて、小さく首を傾げた。

 

 

 

 

………………この子は誰だろう?

 

 

 

 

何を言っているんだと言われるかもしれないのだが、今の状況ではそれしか思い浮かばないのだ。

 

向こうは何故かこちらと面識があるようでやけに絡んでくるが、ボクとしては全く記憶にないわけで、ボクの感覚では初対面でかつ向こう的にはボクと顔見知りらしい紫髪の少女と一緒に公園のベンチで仲良くアイスを食べている、と言ったような感じだろうか。

 

もしかしたら単にボクが忘れているだけかもしれないけど、何度記憶の中をあっちこっち探し回っても思い当たる節がない。

 

確かに昔同じような髪の色をした娘とよく一緒に遊んでいたりもしていたのだが、あの娘の髪はここまで長くないし赤いカチューシャもしてなかった………………ん?赤いカチューシャ?

 

あ、この娘カチューシャしてたんだ。

 

髪の色と似てるからパッと見だと気が付かなかったよ。

 

隣の少女は今も尚ものすごく幸せそうな表情をしながらボクが渡したアイスを食べ続けている。

 

 

 

 

 

 

 

………………事の発端は私の追試だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

6限目終了、英語小テスト返却。

 

 

「な……なな、な……。」

 

ボクは久しぶりにとった赤点の文字を見ながら教卓の前でワナワナと手を震わせていた。

 

「せ、先生!ちょ、ちょっとこれ!おかしくないですか!?」

 

「おかしくない。」

 

「どうしてボクが赤点なんですか!?」

 

「簡単な話だ。〇の数より✕の数の方が圧倒的に多かったからだ。」

 

「いや、それはそうなんですけど〜。どうしてこんなに間違いが多いんですか!」

 

「お前が間違った回答を解答欄に書いているからだろう?」

 

「いやいや、そーれーはーそうなんですけど〜!」

 

「だろう?ま、これに懲りたら毎回毎回御陵に頼ったり授業中にグースカ居眠りなんかしないことだな。あと授業中に寝言も止めてくれ。他の奴らの気が散ってしょうがなくてな。」

 

「寝言なんか…………………………冗談だよね?////

 

「今日はそうだなぁ…………『何奴〜!我こそわ〜、天下の大将軍〜、相澤〜、こn…………』」

 

 

 

「わああぁぁぁぁぁ!!!!!!!////」

 

 

 

嘘だ!

嘘だよね!?

た、確かについうとうととしちゃう時はあるんだけど………………寝言なんて。

 

嘘だよね!?

嘘って言ってよ!

 

 

「ボ、ボク、寝言なんか…………言ってないよね?ね?現美ちゃん!」

 

「え?あ…………そ、その…………クスww

 

「あぁ!笑った!!やっぱりボク、喋っちゃってたんだ〜!」

 

「だ、大丈夫です、よ。私、聞いてませwwwwwんwwからwww(フルフル)」

 

「凄い。現美ちゃんがここまで笑うようになってくれたって言うのに、素直に喜べないんだけど。」

 

「あれ?珍しい。御陵さんもそんな顔できたんだね。それに、このはは案の定追試か〜。こりゃ今日はダメそうだな。このは〜、僕と佳奈ちゃんは少しスカウトできそうな人を探してから帰るよ。追試頑張って〜。」

 

「あぁ!運命っちの人でなし!佳奈ちゃんは!」

 

「わ、私も時乃さんと一緒に……。」

 

「裏切り者〜〜。」

 

この日のホームルームはボクの嘆きと共に始まったと言っても過言では無いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな追試の帰り道。

 

 

 

現美ちゃんはホームルーム終了と同時に彼女にしては珍しく桃華ちゃんと一緒にドタバタと慌ただしく教室を出ていっちゃったし。

 

運命っちと佳奈ちゃんは追試の私の肩をポンポンと叩いてから教室を出て待っていた輪廻ちゃんと雫ちゃんと一緒にグラウンドの方に向かって行ってしまった。

 

………………あれ?

スカウトは!?

 

あ!

 

運命っち…………さっき、輪廻ちゃんと雫ちゃんと話してた時に「あぁ〜やっぱりスカウトは明日でいっか〜。」とか言ったんじゃ!?

 

明日学校お休みなんですけどぉ!?

 

なんて考えながら追試を受けていた訳だが、運良く同じ問題だったためなんとか合格ラインに乗せることが出来た私は他の追試メンバーよりも一足先にカバンを背負いながら教室を出てくることが出来た。

 

 

「はぁ…………。」

 

案の定既に学校のグラウンドには人気も無かったのでどうやら現美ちゃん達も帰ったのかな〜なんて考えつつ私にしては珍しく1人で帰路に着いていた。

 

いつも練習していたグラウンドの方にも行っては見たものの、物の見事に誰もいなかった。

 

「ま、たまにはいいか〜。久し振りに1人を全力で謳歌しよ〜っと。」

 

そんなことを言いながら運動公園の出口へ向かおうとしたまさにその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

あんまりにも唐突に発せられた特大の叫び声にも似た言葉に一瞬だけビクリと体を震わせてしまった。

しかも、ついでに耳もやられたようでキンキンする。

 

「な、ななな、何何!?」

 

反射的に耳を押さえながら周りを一回り見回してみるがそれらしい声を発するような人は…………………………いた。

 

しかもその人はボクの目が見間違いとかでなければこちらを指さしている。

 

…………そっか、あれは私じゃなくて私の後ろにいる人の……。

 

そう思ってふと背後を振り返ってみるが当然誰もいない。

 

「…………。」

 

もう一度彼女を見てから自分の背後に視線を向ける。

 

やはり誰もいないことを再確認すると視線を彼女にもどし、若干の間を持たせてからまさかと思いつつ自分を指さした。

 

それに答えるように、指差し少女は腰に手を当てて仁王立ちの状態で無言のままこくこくと頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ〜〜?

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな調子でボクは彼女に手を引かれるままバタバタと走り回った挙句、冒頭のように最後には2人1緒にアイスを片手にベンチに座ってアイスの取り合いをしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※冒頭に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ。ひとつ聞きたいんだけどさ。」

 

「んむ?」

 

ボクがそう切り出すと、彼女は口いっぱいにアイスを頬張ったままこちらに振り向いた。

 

「…………あ、いや、それ食べ終わってからでいいよ。」

 

キャラにも合わず冷静に会話を流しているためなんだかとってもむず痒い感覚に襲われながら、アイスを平らげる少女の隣で頭の上に浮かび上がっている疑問符を律儀に数えてみる。

 

いや、別にその数はどうでも良くて問題は彼女が何者でどうしてボクのことを知っでいるのかだと思う。

こっちは覚えがないのに向こうは知ってる。

 

世の中には不思議なことがいっぱいあるな〜。

 

まさか、これが俗にホラー系の都市伝説でよく言われる「ドッペルゲンガー」と言うやつかな。

 

ボクの知らないところでもう1人のボクがなにかよからぬことでも…………。

 

いや、それは無いか。

 

でもさ、色んな人と会話するのはいいけどそれを本物のボクに教えておいてもらわないと困るのはこっちなんだけど。

現に今こうして困っているわけで…………。

 

困っている…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝ねぇ、なんか困り事?良かったらボクに話してみてよ。〟

 

〝え?…………あなたは、だあれ?〟

 

〝ボク?相澤 このは。困ってるならボクがスパーンと解決してあげる♪〟

 

〝で、でも…………。〟

 

〝いいからいいから。ね?にひひ♪〟

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

これ………………は?

 

どうして今、()()の記憶が。

 

 

 

 

 

 

 

〝引越し?〟

 

〝うん。〟

 

〝そう、なんだ。ボク寂しくなっちゃうよ。〟

 

〝うん。私も。〟

 

〝でも…………でも!泣いちゃダメだよ!だって、絶対にまた会えるから!〟

 

〝うん。ありがとう。このはちゃん。〟

 

〝だから、言うのは『さようなら』じゃなくて…………〟

 

 

 

 

〝_______♪〟

 

 

 

 

 

これは…………そうか、彼女が引越しをしてしまう当日のやりとりだ。

 

でも、最後、なんて言ったんだっけ。

 

 

 

 

 

そんな時。

 

アイスを食べ終わったらしい隣の少女がボクの袖をクイッと引っ張った。

 

「食べ終わった。」

 

「分かった。じゃあ、質問。ボク達って、知り合い?」

 

そう言った瞬間少女が信じられないことでも聞いたように目を見開いた。

 

「え、い、いや、やだなぁ。冗談はやめてよこのは〜。ボク達友達でしょ?」

 

「友達…………友達。」

 

なんというか物凄く視線で訴えかけてくるんだけど…………。どこをどう探しても彼女の容姿に見覚えがない。

 

「ほ、ほんとに忘れちゃったの?」

 

「そ、そういう訳じゃ…………むむむむ。」

 

「昔一緒に遊んでくれたじゃん!ほら!」

 

「昔…………。」

 

あぁぁぁぁぁ!!!!!!!!なんか喉の辺り(このへん)まで出かかってきた。すっごいモヤモヤする!

 

「うう〜〜ん。昔…………。」

 

「そう昔!た、確かにボクも見た目とか色々変わっちゃったけどさ。」

 

「見た目が変わった…………あっ!!」

 

彼女の言葉でボクの頭に電流が走った。

 

 

見た目が変わる。

赤いカチューシャ。

紫色の髪。

自分と同じ特徴的な一人称。

自分のことを知っている。

アイスが大好き。

 

頭の中に一人の少女の姿が浮かび上がった。

 

彼女の引越しの当日、父親に手を引かれながらこちらに振り向いた少女の姿。

 

「このは、あの時、ボクが引越ししちゃう日に言ってくれたじゃん!絶対にまた会えるって。だからお別れの言葉は『さようなら』じゃなくて………………」

 

そう、ボクはあの時……言った言葉は………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝またね♪〟

「『またね♪』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一言で全てが繋がった。

 

 

 

 

 

 

「友紀……ちゃん?」

 

「うん…………うんうん。ただいま〜、このは〜。」

 

自分の記憶の中の彼女とは髪の色とアイス大好きという特徴を除いてほぼ全ての雰囲気がガラリと変わったかつての友達、舞埼 友紀に久しぶりの再開ということもありしばらくボクはかける言葉が浮かんでこないままガバッと飛びついてきた友紀を抱きとめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても、変わったね〜友紀ちゃん。昔よりもなんか大人っぽくなったというか………………出るとこもちゃんと…………あれ?」

 

「待って、なんで視線を下げるのこのは!//」

 

「出てないじゃん!!なんで成長してないのさ!!」

 

「ちょっ!!?//そ、それはいったいどういう意味かなぁこのは〜?//」

 

「冗談だよ冗談。」

 

思いもよらないタブーに触れたことで若干の口元をヒクつかせる友紀ちゃんをなだめながらもう一度彼女の顔に視線を合わせた。

 

…………確かに、昔のようなあどけなさはきれいさっぱり無くなっていた。

 

その代わり…………なのかどうか分からないのだが。

 

そこはかとなく自分を鏡写しで見ているような感じもする。

 

それに関しては気の所為かもしれないが。

 

「でも…………。」

 

不意にボクの肩を掴んでいた友紀ちゃんからパタリと何かが落ちてきてボクの膝の上を濡らした。

 

それが彼女の潤んだ瞳から零れていることはすぐに理解出来た。

 

なにせボクでさえ少し目頭が熱くなってきてるくらいだから。

 

「でも…………。このは…………また、会えて良かった……。私…………また、このはに会えた。」

 

「友紀ちゃん…………あはは、泣き虫なのは直って無さそうじゃん♪」

 

「うっ!?(ぐしぐし)……泣いてないから。そういうこのはこそ、説得力無いんだからね!」

 

「そうだね。あはは。」

 

そんな感じでボクと友紀ちゃんはしばらくそのベンチで募る思い出話に花を咲かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして別れ際。

 

 

 

「あ、そうだ。1つお願いがあるんだけどいい?」

 

ボクが話を切り出した。

 

「お願い?」

 

「そう。実はね………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女説明中…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かった。ボクもサッカー部入るよ。」

 

「いいの!?」

 

「いいっていいって、このはの頼みならなんでもOKだから〜。」

 

薄々気づいてはいたがサッカー部の件について話をしたら案の定二つ返事で承諾してくれた友紀ちゃん。

 

まぁ、何はともあれここに来て最後5人目のメンバーが集まったことには変わりないので一安心。

 

あとは明日色々と作戦を練って明後日の紅白戦に望むだけだ。

 

 

 

 

 

 

「ありがと。友紀ちゃん。」

 

 

「あったりまえでしょ?」

 

 

 

そんなやり取りを交わしたあと、2人並んで公園の出口まで歩きもう一度向かい合う。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、友紀ちゃん……。」

 

「うん、そうだね。このは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「また明日。」」

 

 

 

 




はぁ。

さて、と。

ついに…………ついに10人全員のキャラクターエピソード1を書ききったわ。



そう書ききったのよ!



5人目
舞埼 友紀(ハマT様より)ちゃんです。

さて、いつも通り友紀ちゃんについてです。
見所は当然、このご時世にしては珍しいアイスの移動販売車限定味である暗黒物質(ダークマター)味でしょう!
本編中でこのはが表現しているように「シンプルに真っ黒」ということで実はこのはの推理が見事に的中していたんですね〜。その通り、アレの原料は何を隠そう『イカスミ』をふんだんに使用して極力甘さを控えまくった究極の無糖アイス………………………………まぁ、冗談はこれくらいにして本当の見所は2人の再開ですかね。送っていただいた設定では会ってからしばらくして友紀ちゃんの方が引っ越してしまうので、そこをどうにかピックアップして上手く出来ないかと模索した結果このような感じになりました。

さて、1番力を入れたシーンですが、そこはもう決まってますね。
「過去に友紀ちゃんに対して自分が言った一言」と「目の前の友紀ちゃんが自分に対して発した一言」がシンクロしたその瞬間でしょう。


〝またね♪〟
「またね♪」


くぅ〜〜!
もう、序盤の暗黒物質(ダークマター)味のアイスなんて目じゃないほどの破壊力だと思ってます←(笑)

あくまで姫個人の感想ですが←(笑)

ともあれようやく全員揃ったので紅白戦に少しずつ入れそうですね…………はい。
頑張ろう!


奇稲田姫でした←


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相澤このはの決戦前夜

相変わらず遅れて投稿このはルートです←



ブリーフィングです←

正直まえがきでは特に言うことないので、本編をどうぞ←(笑)


私立弓鶴学園近辺ファミレス店内。

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで、めでたく6人揃ったよみんな!」

 

嬉しさのあまりつい大声になってしまった。

 

一瞬にして店内にいたお客さんの視線がこちらのテーブルに向けられる。

 

「こ、このは!声大きすぎ!抑えて!」

 

「あ、ごめんつい興奮しちゃって」

 

「このは張り切りすぎ〜」

 

運命っちと友紀ちゃんに言われて微笑しながらガッツポーズをするために握っていた拳を解いた。

 

「なんというか…………勢いのいい人ですね」

 

「同意」

 

「あー、ごめんね2人ともこんないい加減なキャプテンで」

 

「待って、それは酷くないかな運命っち」

 

ため息混じりに頭を抱える運命っちにつっこみつつカバンから紙とペンを取り出してテーブルの上に広げる。

 

「さてさて、そんなことより………………ズズズ…………ぷはぁ、いよいよ紅白戦は明日に迫ってきたわけだけど、思ったらボク達ちゃんと自己紹介とかしてないな〜って思ったの」

 

「自己紹介?」

 

「そう、自己紹介!ほら、これから一緒に戦っていく仲間でしょ?こういうのは必要だと思うわけですよ、うん。はい!そういうことで、細かいことはナシナシ、まずはボクから」

 

オレンジジュースで喉の乾きを潤してからボクはスっと立ち上がって胸を張った。

 

「ボクはこの紅組(自称)のキャプテンの相澤(あいざわ) このは。ポジションはFW。チャームポイントはポジティブシンキング♪よろしく」

 

そんな感じで一気に喋ってからバッとみんなの前に手を差し出した。

………………あ、あれ?

なんかシンとなっちゃった…………………………いやこれはもしかして……

 

「………………このは、滑ってる」

 

「う、うるさいなー!いいじゃない元気だけが取り柄なんだもん!もういい!はい次、こっち回り!次は運命っちの番」

 

ボクは半ば投げやりになりながら自己紹介の順番を運命っちに渡す。

 

「え?こっち!?普通時計回りじゃないの!?」

 

「いーいーのーー!!」

 

「……はぁ、全くもう。改めて僕はB組の時乃(ときの) 運命(さだめ)。ポジションはMF。よろしく」

 

「通称【運命っち】。よっ!可愛い愛称!」

 

「このは……」

 

「…………ごめんってばもう、そんなに睨まなくても……。それじゃ次。佳奈ちゃん!」

 

「は、はい。五十嵐(いがらし)佳奈(かな)です。ポジションはGK。よろしくお願いします」

 

運命っちに続いて佳奈ちゃんが律儀に立ち上がって、さらに帽子を取りながらぺこりと頭を下げる。

 

「よっ!帽子がチャームポイント!」

 

「へ!?うぅ………………//」

 

ボクの茶化しに再び帽子を先程よりも目深に被って真っ赤になりながら唸り出してしまった。

 

そんなに恥ずかしがることないのに。

可愛いんだから。

 

「さて、次〜。雫ちゃん!」

 

「承知」

 

そんな佳奈ちゃんの隣でストローを使ってちゅーちゅー水を飲んでいた雫ちゃんが立ち上がる。

 

「紹介。神宮(じんぐう) (しずく)…………」

 

「以上!!…………………………………………わ、わかってるってば、だからそんな目で見ないで雫ちゃん!」

 

「…………ふぅ。ポジションはMF」

 

「僕と同じ場所だね。よろしく神宮さん」

 

「相槌」

 

さてこれでGK1人MF2人。

まだまだ次行ってみよう。

 

「はいはいポジション同士の親睦を深める会は自己紹介が終わってから!それじゃ次〜輪ちゃん!」

 

「り、輪ちゃん!?」

 

「そう、『輪廻』だから輪ちゃん。嫌だった?」

 

「いえ、そういう訳では……」

 

「ならならOK♪」

 

「はあ……………………コホン。改めまして坤蔵寺(こんぞうじ) 輪廻(りんね)と言います。ポジションはDF……で、……す。そ、その……よろしくお願いします……」

 

あらら意気揚々と喋りだしたはいいけどふと我に返って見るとみんなの視線の的になっていた事に気づいてしまって急に恥ずかしさが込み上げてきたと見た。

 

こちらに視線で助け舟を要請してきたので……………………

 

「グッ!」

 

親指を立ててキランと笑って見せた。

 

あ、目を潤ませちゃったか、仕方ない1隻用意してあげよう。

 

「友達増えるよ!やったね輪ちゃn……………………」

 

「「言わせないよ!」」

 

両隣にいた運命っちと友紀ちゃんに勢いよく口を塞がれたことで、むせる。

運命っち、どさくさに紛れて氷入れたな?

 

しかしそのおかげなのかどうか分からないが、輪廻ちゃんもとい輪ちゃんが口元をほころばせた。

 

ま、結果オーライ。

 

「はぁ、ふぅ。はい。何はともあれ。よろしくお願いします。それでは最後は………………」

 

「舞埼 友紀」

 

「あ、そうでした。舞埼さんにバトンを渡しますね」

 

表情も穏やかになった輪ちゃんからバトンが6人目の友紀ちゃんに回る。

 

「えー、コホン。ボクは舞埼(まいさき) 友紀(ゆうき)。ポジションはMF。場合によっては前にも出れるよ。」

 

「おぉ、それは心強いな」

 

「守りが大変そうですが…………」

 

「同意。しかし、その時は………………………………どう、しましょう?」

 

「残ったメンツで守るしかないでしょう?」

 

溜息をつきながら運命っちが頭を抱えるが友紀ちゃんはお構い無しにニカッと笑ってブイサインを作った。

 

さてと、これで一通り自己紹介が終わったと。

それじゃあそろほろ明日の作戦会議にでもシフトしますか。

 

「うん。みんなよろしくね。さて、それでまぁ直近の話題なんだけど……………………」

 

「駅前の新しく出来たケーキ屋さんすごく美味しいんだって!」

 

「高揚。直ぐに向かいましょう」

 

「わ、私いちごのケーキが………………」

 

「あ、ボクもボクも〜……………………って違ーーーーーう!運命っち!余計な話題出さない!雫ちゃんも輪ちゃんも便乗しない!……………………って雫ちゃん甘いの好きだったんだ」

 

「肯定。見くびってもらっては困ります」

 

「それはごめん………………ってそうじゃなくて」

 

あ、危ない咄嗟のことでついノリツッコミをしてしまった……。じゃなくて、その話は一旦置いておいて……

 

「ケーキと言えばさ〜この前このはと行った公園に来てたアイスの屋台美味しかったよね〜。ねぇねぇ、じゃんけんで負けたらあそこの『ダークマター味』のアイス食べるって言うのは♪」

 

「あ、大賛成」

 

「す、すごく不穏な響きですね…………」

 

「友紀ちゃん犠牲者の会でも設立したの?………………………………ってそれでもない!運命っちの次は友紀ちゃん……違う話題出さないでよ〜。で、なんで今度は便乗側に回るかな運命っち!それからどうして佳奈ちゃんも便乗するのー!止めてよ!全くもー!」

 

はぁ、はぁ、一通りツッコミ終えて肩で息をする。

いやいやなにゆえ?

 

「このは、意外とツッコミ役が似合っているんじゃない?」

 

「そんなの似合いたくないーだ。違うの!明日の試合の作戦会議をするために来たんでしょー!」

 

だーーもう、みんなしていっせいに『あぁ、それだ』みたいな顔しないでよ。

 

「冗談はこれくらいにして、そろそろ真面目に行こう。このは、御陵さんのチームの方は誰がいるかって知ってる?」

 

「お互い秘密にしてるんだから知るわけな……………………あ、いや、同じクラスで1人そうじゃない?ほら、あのお嬢様っぽい人」

 

「お嬢様っぽい……………………もしかして銀さん?あぁ、なんかクラスメイトからは【頼れるお姉さん】みたいな感じの人じゃなかったっけ?」

 

「うん、多分それ」

 

「あれ?そう言えば…………坤蔵寺さんと舞埼さんのクラスってどこなのですか?神宮さんはC組って知ってますけどお2人は…………」

 

佳奈ちゃんが輪ちゃんと友紀ちゃんに問いかける。

 

「ボクはE組〜」

 

「私はD組です」

 

「おぉ別れたね。じゃあなんか情報とかないの〜?」

 

ボクの問いかけに輪ちゃんと友紀ちゃんが考え込む。

 

少々時間を置いてからそう言えばと言って輪ちゃんが手を挙げた。

 

「昨日の放課後蒼空さんと村雨さんのところに他クラスの方が何人か来ているのを見ました。あ、確か天野さんも一緒にいたような……。すみません名前までは分かりませんでしたけど…………。何やら英語の小テストに関して話しているようでした」

 

英語の小テストかぁ〜。

ちょっと違うかも。

いくらなんでもサッカーの話題を話してて英語の小テストが出てくるとは到底………………

 

「あ、でも、そう言えば『現美さん』とか『桃華さん』とか言われてたような………………」

 

!?

ボクと運命っちが同時に立ち上がった。

 

「「それだ!」」

 

そら見たことか!

情報は命、情報を制するものが試合を制するのだ!

 

「坤蔵寺さん…………ごめん長いから輪廻さんって呼ぶよ。輪廻さんそのなんだっけ……………………『村雨さん達』のこと教えて!」

 

運命っちの喧騒に輪ちゃんが若干びっくりしながら、頷く。

 

「わ、わかりました。私が知っている限りの情報で良ければ」

 

「いいよいいよ全然OK!いやぁお手柄だよ輪ちゃん。これで現美ちゃんのチームのほとんどの人の情報が割れたことになるよ〜」

 

「確かに。あとは最後の一人の情報が分かれば対策も立てやすい。紅白戦とはいえやるからには勝ちたいし」

 

「でも、心当たりがある方、いらっしゃいますか?最後の一人の」

 

運命っちの言う通りやるからには勝ちに行きたい。

そうなると最後の一人まで知っておいた方がいいにはいいが……。

 

佳奈ちゃんの問いに対して有益な回答を持っている人は残念ながらいないようだ。

視線をめぐらせてもみんなふるふると首を振るだけだった。

 

とはいえ、よ?

 

「まぁ、1人くらい大丈夫じゃない?こっちのチームだって顔が割れてるのってこのはと……………………可能性があるとすれば運命と佳奈ちゃんでしょ?アドバンテージとしては十分じゃない?」

 

「同意。私もそう思います。ほかのメンバーの対策をしておけばその場で対応も出来ると思います」

 

言われてみればというより、その通りだ。

友紀ちゃんの意見に雫ちゃんが賛同する。

 

「そうだよね。ま、あれこれ考えても仕方ないしとりあえず情報交換と行こう。輪ちゃんお願い」

 

「わかりました。ではまず村雨さんですが…………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

少女会議中……………………。

 

 

 

 

 

 

 

30分後。

 

一通り相手チームの情報を公開したところで運命っちがまとめを始めた。

 

「なるほどなるほど。相手チームの中でジュニアチーム経験者は3人。村雨さんと天野さんと……」

 

「現美ちゃんだね。残りの2人……………………あ、いや3人はデータ無し、と」

 

「私も知り合いに聞いた情報なので合っているかは分かりませんけど」

 

輪ちゃんが申し訳なさそうにため息をついた。

 

「良好。それだけでも十分」

 

「そうだよ〜。ある意味心の準備が出来るから」

 

そう言いながら大きな深呼吸をする友紀ちゃんに雫ちゃんが頷きながら肯定し、輪ちゃんが真似して深呼吸をしている。

 

「さてそれから一人不明がいてうちのクラスの銀さんと………………」

 

「御陵さん」

 

運命っちの司会に佳奈ちゃんが合わせて同時にボクの方へ視線を向けた。

よく見るとほかの3人もいつの間にかこっちに視線を向けていた。

 

「あー、うん。そうだよね。今このメンバーの中で現美ちゃんのことを1番よく知っている人って、ボクしかいないもんね」

 

「そういうこと」

 

「とは言え、さ〜。試合に関係があると言ったら……………………現美ちゃんはDFとして試合に出てたって聞いたくらいだよ。なんだっけ確か……………………パーミヤンだかカレーナンだか…………」

 

その一言で佳奈ちゃんがピクンと反応する。

 

「………………ま、待ってください。もしかして【守護門番(ガーディアン)】、ですか?」

 

「あ、そうそうそれそれ。ガーディアンって言われてた〜って言ってた」

 

そう返した直後、佳奈ちゃんか信じられないと言って続ける。

 

「ま、まさか本人だったなんて…………」

 

「五十嵐さん知ってるの?」

 

「は、はい。知っているというか…………ジュニアチームに入っていた人なら誰でも知っていると思います。ペナルティエリア内の【守護門番(ガーディアン)】。連続無失点記録をチームに捧げ、稀代の大型ディフェンダーと騒がれた方です。噂では…………………………GK不在で迎えた前半30分間、彼女1人で全てのシュートを受け切ったとも言われています」

 

「え、ま、まじ?それ………………」

 

思わず友紀ちゃんが苦笑いを浮かべる。

 

ただ、言葉を出せただけまだいい方でほかの3人に関しては絶句して言葉を失っていた。

………………え、現美ちゃんってそんなにすごい子だったの!?

 

「あ、あくまで噂です。私も名前と噂しか聞いた事なくて、顔だって見たこと無かったんです…………。同じ名前の子がいる……とは思いましたけど、御陵さんが所属していたチームは確か東京のチームだし性格はもっと明るくて快活だったって聞いてましたから……。まさか神奈川(ここ)にいるなんて思っても見ませんでした……ので……」

 

「そうなんだ〜。とりあえずなんかすごい子ってことは伝わったよ」

 

「まぁ、嫌ってほどに、ね………………」

 

「絶句…………」

 

僕の言葉にようやく言葉を出した運命っちと雫ちゃんが複雑な表情を浮かべ、輪ちゃんに関してはため息をついていた。

 

全くもう!

それじゃあここはキャプテンらしく…………

 

「まぁ、何はともあれ今は敵同士だけど実質チームメイトみたいなものなんだから気楽に行こう。このはもそれでいいよね?」

 

「へ?あ、うん。いいよ?」

 

…………そのセリフはボクの台詞だったよ運命っち……。

 

「じ、じゃあ気を取り直して明日の作戦会議の続きと行こう!まず司令塔なんだけど………………」

 

「僕だけど?」

 

運命っちがさも当然のように名乗り出た。

 

「いやいつ決まったのさ……」

 

「いや、決めるまでもないと思うけど。っと、今から言う言葉は別にみんなのことをバカにしてる訳じゃ決してないからそれだけは言わせて」

 

「?」

 

「じゃあ聞きますけどこのは?他に適任、いると思う?いるなら譲るよ別に」

 

「………………」

 

そう問われて全員の顔を見回してしまった。

 

確かに言われてみれば………………。

キーパーの佳奈ちゃんと輪ちゃんは性格的にそういうタイプではないし、雫ちゃんに関しては喋り方が特殊すぎて一瞬の判断が問われる役割にはおそらく不向き。

最後に友紀ちゃんだけど………………感覚派に任せたらどこに行くかわかったものでは無い。

では自分は?

………………どちらかと言えば感覚派でした。

 

「確かに………………」

 

「でしょ?」

 

「このは?今ちょっと失礼なこと考えてなかった?」

 

友紀ちゃんに突っ込まれて思わず視線を逸らした。

 

「あぁ!やっぱり!」

 

「だって間違ってないでしょ?感覚派!」

 

「うっ………………」

 

「ハイハイもうそれくらいにして。納得した?このは?」

 

運命っちに言われてその場は収束する。

そんなこんなでようやくブリーフィングがスタートした。

 

「さて、じゃあ作戦だけど………………」

 

「はーい」

 

「はぁ、開始早々どうしたの舞埼さん」

 

「苗字で呼ぶのなんて堅苦しいから『友紀』でいいよ。呼び捨てで」

 

「で?なにか案があるの?友紀」

 

「いやまぁ、作戦というかなんだけど、今の状態だとFWとDFが1人ずつでMFが3人いるでしょ?さっきの御陵さんのことを考えるとFW1人ってかなり厳しくない?」

 

「あ、それは私も思います。せめて2人の方がいいかもしれません」

 

友紀ちゃんの案に輪ちゃんが賛同する。

 

「先程の五十嵐さんの言ったことが本当なら1対1で挑むのは少々分が悪いと」

 

「確かにそうなんだよね。となればフォーメーションを2-2-1 が妥当かな?」

 

サラサラと紙にフォーメーションを書いていく運命っち。

 

「意見。であればディフェンス面を考慮して私もディフェンスラインに下がります」

 

「その根拠は?」

 

「回答。先も言いました。ディフェンス面の考慮です。もし相手チームが御陵さんのディフェンス能力を考慮した上で作戦を立ててくるとしたら、ディフェンスを御陵さん1人に任せてほかの4人全員で攻撃に参加してくる可能性も否定出来ません。その時に前線が全員抜かれた時にディフェンスを輪廻さん1人に任せてしまうのはリスクが高すぎると思います。もちろん対処できる可能性もありますが、1体4となった場合正直輪廻さんでも勝率は下がってしまう可能性の方が高い。であれば、私が下がってボールを取った瞬間カウンターを出来るように準備しておく方がいいのではないか、と判断した結果です」

 

ペラペラと言葉を並べていく雫ちゃんにボク…………と、隣の友紀ちゃんが感心するように頷いた。

 

「私からもお願いします。正直1対1だとしても不安が残っている状態なので、もう1人DFに下がってくれる方がいると私も心強いです」

 

輪ちゃんが少々自信なさげに手を挙げながら便乗する。

それに対して手を軽く顎に当てながら考えたから運命っちが結論を出した。

 

「……確かに、それの方が効率的か。よし、それで行こう。フォーメーションは2-1-2で。FWはこのはと友紀」

 

「おーけー」

 

「ボクにおまかせ」

 

「うん。頼んだよ。さて次MFは僕で………………DFに輪廻さんと神宮さん」

 

「わかりました!」

 

「肯定。あとそれから私のことは『雫』でいい。苗字は呼ばれ慣れていない」

 

「了解。それじゃあ最後にGKは五十嵐さん………………この際だから『佳奈』でいいかな?」

 

「大丈夫です」

 

紙の最後にGKの文字を記入して運命っちがペンを置いた。

 

「よーし、これで決まったね。あとは明日に向かって練習しよ〜♪あ、あとそれから。みんなこれからは苗字で呼ぶんじゃなくて名前で呼びあおう?ね?それの方が親近感が湧くでしょ?」

 

僕の一言に雰囲気が少しだけ緩和されたように感じる。

気持ちの面でリラックスさせることが出来たらしい。

いいことだいいことだ。

 

「それもいいけど………………今日はゆっくり休もうよ。確か午前中じゃなかったっけ、明日」

 

「あ、そういえば………………」

 

「でしょ?だから、今日は昼間にみんなの実力はそこそこ把握出来たし、大丈夫だよ」

 

「肯定。それには私も同意します」

 

「そっか…………まぁ、休むことは大切だから、この後はお休みにしよっk…………」

 

「わーい!さっすがこのは!わかってる〜♪ねねね、これからみんなでカラオケ行こうカラオケ♪」

 

「歓喜!ぐっじょぶ」

 

「おぉ、それいいね。乗った!佳奈と輪廻はどうする?」

 

「「い、行きます!」」

 

……おぉ、見事に一致。

 

それはそうと、なーんでみんなボク抜きで話を進めるかなぁ!

 

 

 

「ストップ!」

 

 

 

「?どうしたのこのは?」

 

全員の視線を集めたボクはゆっくりと立ち上がりながら…………あることを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………機種はLIVE D〇Mじゃないと認めないからね!」

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでブリーフィングの後はみんなでカラオケ大会になったAチームでした。

 

 

 

 

 

紅白戦へ(未投稿)

 



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白組ver.
御陵現美のスカウト日記帳 1日目


とりあえず分岐ルート第2弾の御陵現美パートです←



スカウト1人目

 

 

 

DF「村雨 涙」編 (夜十喰様より)

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……。」

 

急いで校舎の階段を駆け上がったおかげで屋上に着く頃にはもう脇腹が悲鳴を上げていた。

 

やはり最近の引きこもりによる運動不足が響いてきてしまっているのだろうか。

 

……こんなことならもっと体動かしておくんだった。

 

そんなことを考えながら私は屋上の扉を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どうして私が屋上まで柄にもなく全力で向かってきたのかと言うと、時は少し遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

校門。

 

 

「ふぅ、戻ってきちゃった…………はぁ、戻ってきちゃったけど、私にメンバー集めなんて……出来ないよこのはちゃん。」

 

自分の今の性格を痛いほど理解してしまっているだけあってこちらから誰かに声をかけるなんてそれこそ天地がひっくり返りでもしない限り出来そうになかった。

 

そう親友に影響されたのか勢いに任せてここまで来てしまった自分に若干後悔しながらため息をついてとぼとぼ校門をくぐる。

とりあえずまだ校内に生徒が残っていることを願いながら校舎内へ入ろうとしてふと足を止めた。

 

「(……し、視線?…………上!?)」

 

引きこもりとなってしまったがゆえの能力だろうか、妙に他人の視線に対して敏感になってしまっていた。

 

「(上……上……っ!屋上!誰かいる!)」

 

こんな時くらいしか役に立ちそうもない能力に任せてその場所から上を見上げながらその視線の出処を察知する。

 

屋上。

 

そこには金網に片手をかけながらこちらを見下ろす生徒が1人。

 

しかし、私と視線を交わすと直ぐに踵を返してしまった。

 

「ま、待って!」

 

そう叫んで、素早く下駄箱で靴を脱ぎ捨てると内履きに一瞬ではきかえて全力で階段を駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで冒頭に戻る。

 

 

ガチャ!

 

 

 

 

「はぁっ!はぁっ!」

 

荒い息を開いた扉に体重を預けながら整える。

 

そのまま視線を動かして先程の視線の正体に焦点を合わせた。

 

こちらに背を向ける少女は紺色のセミロングの髪と季節外れの赤いマフラーを風になびかせながら先ほどと同じように金網に手をかけながら景色を眺めていた。

 

「やっぱり。来ると思ってた。御陵 現美さん。」

 

「へ?ふぇ?」

 

不意に名前を呼ばれ、瞬きを1度してしまう。

 

あれ?

私、自己紹介……したっけ?

 

「弓鶴学園中等部1年生、相澤このはと共に自称サッカー部として活動中。あなた個人としてはジュニア時代【ペナルティエリアの守護門番(ガーディアン)】とまで言われ名を轟かせていた過去がある。そんな選手がこんな無名校で引きこもりになってるなんて、驚いた。どう言った風の吹き回し?」

 

へ?

 

なんかいきなり始まった自分の暴露話。

正直過去のことは掘り返して欲しくない私は強く言いたい気持ちとは裏腹に恥ずかしさで彼女のことを注視出来ずにふわふわと宙を漂わせることしか出来ないでいた。

 

「わ、私…………ひっ!」

 

口ごもる私を射抜くように振り向いたその瞳はサラリとした紺色によく馴染んだ鮮やかな青い色をしていた。

 

とはいえ私はそんなことを気に止めていられるほどの余裕もなく、視線を合わせた瞬間体を僅かに萎縮させてしまった。

 

そんな私の反応を感じ取ったのか少女は1度ため息をつく。

 

「はぁ、本当に何があったのか問い詰めたいところだけど。それを聞くのは酷というものよね。それほどまでに怯えてしまうようでは私の方が悪者になりかねない。」

 

「…………。」

 

その一言でようやく私は今自分がどんな状態なのかを理解する。

 

両の肩を自分で抱きしめながら小刻みに体を震わせて屋上に膝をついていた。

 

「ごめんなさい。怖がらせるつもりはなかったの。」

 

「あ、うん……こっちこそ、ごめんなさい。」

 

「あなたが謝る必要は無いって。まぁ、そういう性格になってしまったようだから仕方ないけど。それはそれで今はいい。で、御陵さんは私に用があるからここまで走ってきたんでしょ?」

 

そう言われて私はやっとここに来た理由を思い出して我に返る。

 

「そ、そう……実は…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

少女説明中…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。サッカー部に。一応聞くけど私がサッカーをやっているという確証はあって言っているの?」

 

「あう……。嫌なら、ごめんなさい。」

 

「嫌ってわけじゃないけど、ただ…………。」

 

「うぅ……(グス)」

 

「…………。(参った。これがあのどんなシュートでも無効化してしまうという鉄壁のディフェンス能力を持った御陵 現美なのか?まるで別人。)」

 

「……でも、直感……だけど、サッカー好きそうな雰囲気だった、から。」

 

「雰囲気?」

 

「あうっ(ビクッ)……ご、ごめんなさ……い。」

 

ほとんど反射だろう問に対してビクリと体を震わせた私を見ながら少女は再びため息をつくと後ろ頭を軽く掻いた。

 

「なるほど。ま、正直私に断る理由はないね。気まぐれで入学した無名校で噂の選手から部への勧誘を受けているんだし、断る方が野暮というもの。」

 

「へ?じ、じゃあ……。」

 

「私は村雨 涙。よろしくね。ポジジョンはDF。得意なことは…………後で教えてあげる。」

 

「DF。私と同じ。」

 

「そうね。あなたと同じ。」

 

「同じ……ふふ♪」

 

何となく同じポジションの娘が入ってくれて嬉しさが込み上げてくる。

久々に顔がにやけてしまうのを薄々感じながらとある話を切り出した。

 

「じゃあ、お姉ちゃんにも……紹介してあげる。」

 

その一言で何故か涙は目を丸くしていた。

 

「お姉ちゃん?あなた一人っ子じゃ……。」

 

「?私は一人っ子、じゃない。お姉ちゃんがいる……。待ってて、今呼ぶから。」

 

「今!?」

 

何故か私に姉がいるという事実に対して異様に食いつく涙に疑問を感じながらいつも通り姉を呼び出す。

 

と言っても、電話や叫んで呼び出すのとは少し違う。

 

「お姉ちゃん……出てきて……(コツン)」

 

そう言いながら自分の頭の右側面を軽く拳で叩いた。

 

「何をして…………!?」

 

その一瞬で私の意識は暗い闇へ溶け、表にはもう1人の人格が姿を現す。

 

「…………(フッ)…………フフフフ♪初めまして♪現美の姉、御陵 明夢と申します♪以後、お見知り置きを、赤スカーフの彼女さん♪クククク♪」

 

一瞬にして雰囲気が文字通り反転し、先程までの自信なさげな表情から一変して瞳は僅かに釣り上がり、同時に口元にも「今の御陵現美」からは想像もできないような笑みを浮かべながら右手を胸に当てると、まるで執事のように優雅にお辞儀をして魅せた。

 

「なっ!?嘘でしょ?そんなことって…………」

 

「別に驚くことないだろう?現美に姉がいても、さ。」

 

「いや、そういう意味じゃ…………」

 

「ま、それはともかく。これから宜しく。同じポジション同士。仲良くしようよ♪ね♪ま、もっとも…………。」

 

「……。」

 

そう言いながら現美…………いや、今は明夢がゆっくりと涙に近づき、その耳元で小さく囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の実力に着いてこれたら、の話だけど♪フフフ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「あはは、冗談だよ冗談。こんな冗談でも火がついちゃう君は最っ高に可愛いなぁ。クククク♪」

 

「かわっ……!?〜〜っ/////」

 

勢いのいい涙の反論にその場で軽やかにくるんと一回転すると両手を大きく広げた明夢。

 

「だからこそ、現美と仲良くして欲しいんだ♪どうだい?」

 

「言われなくてもそのつもりだから安心して。」

 

「そっか。ならいい。じゃあ私はそろそろお暇するよ。今度はグラウンドの上で会おう!さらば!……(コツン)」

 

そう言いながら明夢は先ほど現美が行ったように軽く拳で今度は頭の左側面を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

「(フッ)…………ふぅ……あ、あの、もしかしてなにかお姉ちゃんに変なこと言われましたか?き、気にしないでください。お姉ちゃん、人をからかうのが、好きなだけなんです。」

 

「えぇ、今のを見て痛いほどわかった。ま、それも含めてこれから宜しく。現美。」

 

「うん!涙ちゃん。」

 

そうやり取りを交わして2人はお互いに握手をした。




さて、現美ルート1日目終了です。


1人目の参加者は村雨 涙ちゃん(夜十喰様より)です。


さて、この娘なんですが一つだけストーリーの都合上とある設定を付け加えさせてもらいました。
それは「ジュニア時代の現美を知っている」という設定ですね。
「鋭い観察眼」と「状況判断能力」に上の設定を織り交ぜながら同じディフェンダーとして現美をサポート出来たらいいな〜なんて想いを込めてみました。
明夢との絡みはまだまだこれからですね。
今後どうしようか検討中です←


さて、見所ですが。
現美との絡みと言うより明夢との絡みの方が今後に響いてくるのではないでしょうか。あとは、「現美のジュニア時代を知っている」というのがやっぱりキーになりそうですね。


そんな感じの1日目でした。


2日目もご贔屓に←(笑)


では♪


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御陵現美のスカウト日記帳 2日目

現美ルート2日目です。


またまた確定枠のキャラを2人書きました。



必殺技のカラーリングとエフェクトはイメージで書いちゃったので………………どうだろう。

とりあえず本編どうぞ←


スカウト2人目

 

 

 

MF「銀 桃華」編 (妄想のkioku様より)

 

 

 

 

 

このはがサッカー部創立を決意した上に突拍子もないようなぶっ飛んだアイディアを出したのが昨日。

あれから1日経った2日目の放課後。

芯の補充を済ませたシャーペンをペンケースにしまいつつ先程までなんやかんやと騒いでいたこのはちゃんが次のメンバーをスカウトしにバタバタと教室を飛び出して行ったのをぼんやりと見送った。

 

私一人だけになった教室内に静寂という名の空間が訪れるのと共に、ようやく落ち着ける時間が出来て少し胸を撫で下ろす。

 

そもそも引きこもりの私には教室に1日いるだけで相当のストレスなので正直言うと早いところ人目のない場所に篭もりたい衝動に駆られていた。

それこそ掃除道具用のロッカーの中でも全く問題はない程に。

とはいえさすがに自分が女子であるという自覚だけはあるので出来ないけど…………。

 

はぁ…………。

 

 

「はぁ…………。」

 

心の中と現実とで2回ほどため息をつくと机の横に掛けられた鞄にテキストを無造作に放り込み、窓から外を眺め見る。

 

そんな時、不意に声を掛けられた。

 

「少し、お話よろしいですか?」

 

「へ?…………(サァァァーーーーッ)…………あ、ご、ごめんなさいごめんなさい!!!」

 

いきなりの出来事に一瞬脳がフリーズする。

 

わ、私に!?

なんで!?

い、いつから!?

 

真っ白だった頭の中が徐々に色彩を取り戻したのも束の間、今度は思考回路が真っ黒な「?」で埋め尽くされた。

 

過去のトラウマ故、予想外の出来事に脳の処理が追いつかずパニックに陥った私は小刻みに身体を震わせながら萎縮しきってまるで石のように動かなくなった体を両手で抱き締めた。

 

それから無意識のうちに口から言葉が次から次へと漏れ出てくるが、それがどういう意味なのか理解できるほど私に余裕すらなかった。

 

「あ…………あ……ダメ…………いや……や……めて…………そんな、そんな目で…………見…ない……で…………。わた……し…………私…………。」

 

そして、過去の記憶が一瞬にしてフラッシュバックしそうになったその瞬間。

 

 

 

 

 

「大丈夫です!今ここにあなたを咎める人はいません!安心してください!御陵(みささぎ)さん!」

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

いきなり両肩を掴まれたかと思うと何かが言葉を発した。

何故かそれだけが鮮明に脳内に響き渡り、黒い「?」で埋め尽くされた霧が一瞬にして晴れていくのを感じる。

 

そのおかげでようやく今の状況の処理が出来るようになった。

 

「あ…………、(しろがね)……さん?」

 

「そうです!…………あなた、やっぱり訳アリだったのですね?」

 

ゆっくりと顔を上げると、そこには真っ白な長髪を夕日に反射させたクラスの中でそれこそいい所の令嬢だと噂される少女が真っ直ぐに私を見ていた。

 

その引き込まれるような鮮やかな青色の瞳は…………なんか、あんしん……する

 

黒に近い群青は深く鮮やかな色を醸し出し、さながらラピスラズリのように私の心に安らかな落ち着きを与えてくれる。

 

私は安堵の表情をした少女の瞳を見つめながら、またしても無意識のうちに自分の頭の右側面を軽く叩いていた。

 

 

 

 

 

 

【Change】

 

 

 

 

 

 

さて、落ち着きつつはあるもののそろそろ精神状態が限界になりそうな我が愛しの妹の腕を動かして無理矢理出てきた私は、頭を人格入換の反動でだらりと前に垂れ下がった状態のまま自分の肩に乗せられた手を僅かに力を込めて掴んだ。

 

案の定いきなり今までと違う反応を見せられた目の前の少女は目を白黒させている頃だろうが、そんなことに構っている暇はない。

 

「…………ふぅ、ごめんよ。現美(うつみ)は突発的な出来事にめっぽう弱くてね。直ぐにパニックになってしまうんだ。…………あまり深くまでの詮索はオススメしないよ?」

 

不意に自分の腕を掴まれたおかげで少女が小さく呻いた。

 

「…………。それで?君は……いや、銀さんは私になんの用かな?」

 

「用……と言うか、少しお話をしてみたかっただけです。入学早々学校に来なくなってしまったあなたと。」

 

「私と?」

 

……驚いた。

私を見ても驚かないのか。

いい所の令嬢だと思っていたけど、意外と肝は座っている方なのかもしれない。

それかただの鈍感か……。

 

つられて私もニヤリと笑みをこぼした。

 

…………まぁ何につられたのかなんて私にもさっぱりわからないけど。

 

「奇遇だね。私も君に話があるんだよ。」

 

「私に?」

 

先ほどと全く同じ問答を攻守入れ替えで行い、私は掴んでいた手首をぱっと離して頭を上げた。

 

「そう、(しろがね) 桃華(とうか)っていう娘にサッカー部勧誘の話をね。」

 

「…………。」

 

その一言で彼女が僅かに目を見開いたのを私は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※明夢説明中…………※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……事情は分かりました。協力ももちろん致します、が、その話とさっきの話の繋がりが分からないのですが。」

 

「そりゃそうさ、繋がりなんてほとんどないからね。乙女の話題は2転3転が当たり前、なのさ。」

 

「そうなのですか?」

 

「そうさ。それにさっきも言ったでしょ?()()()()()()()()()()()()()()()って。まだ時期じゃないのだよ。さ、そんなことよりおめでとう♪今日から君はこの弓鶴学園サッカー部の一員だ。仲良く行こうじゃないか♪」

 

何か釈然としないとでも言いたそうな桃華には気もくれずに私は椅子に座ったまま両手を軽く広げて見せた。

 

「そんなわけでもう一度軽く自己紹介しようか。私のこともただ『雰囲気が変わった』程度にしか考えていないんだろうからね。でしょ?」

 

「む…………。」

 

「当たりかな。私は御陵 明夢(あかめ)。現美とは姉妹でね。私が姉なんだ。あ、いつも妹がお世話になってます♪今後とも妹をよろしく。」

 

そう言いながら私はカタンと軽く椅子を引いた。

そんな新設校特有の真新しい椅子の音によって何かを言いかけた桃華はそのまま口をつぐみ、私も笑みを浮かべながら軽く2、3度頷く。

 

「さぁ、こんなことしてはいられない。やることはいっぱいあるんだ。まずは1人目のスカウトと顔合わせからだね♪実は今日はね昨日スカウトした娘とグラウンドで軽く練習しようと思っていたところなんだよ。というわけで、グラウンドにレッツゴー♪」

 

私は手早く荷物をまとめてテキストの分だけ重量の増した鞄を肩に担いで、足早に教室の扉に手をかけた。

 

手をかけたところで軽く視線だけを後方に移し、未だ椅子に座って呆然としている桃華に向かって一言だけ投げかける。

 

「来ないのかい?」

 

「……あ、い、いきます!待ってください。」

 

こんな感じでめでたく2人目の勧誘に成功した私は教室を出るのとともに自分の頭の左側面を軽く叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Change】

 

 

 

 

 

 

 

「…………(フッ)…………ん、ん?もう、お姉ちゃん…………出てくる時は一言声かけてくれればいいのに……。あ、うん?え?銀さん……が?うん、わかった。

 

私は頭に響いてくる姉の声に小さく頷きながら廊下の階段を降りかけて足を止めた。

それからゆっくりと自分の後ろを振り返る。

 

「今は……現美さんで合ってますか?」

 

「はい。……あの、さっきはパニックになってしまって、すみません。」

 

「謝る必要はありませんよ。こちらこそいきなり声をかけたりして申し訳ありません。」

 

「そ、そんな…………私こそ迷惑……かけちゃって。」

 

「いえいえ、私こそ。でもまぁ、お姉さん……からあなたの事情は聞きました。と言っても深くは詮索するなと釘を刺されただけですが。」

 

一段一段階段を降りながらため息をつく銀さん。

 

「でも、こうしてあなたのこと少しでもわかって良かったです。これから何かあればなんでも相談に乗りますわ。これでも相談事は得意なんです!」

 

そう言いながら階段を踊り場まで降り切ったところで銀さんが私の手をガシッと掴んできた。

一瞬にして目が回りそうになるのを何とか堪えてどうにか笑顔を作る。

 

「……そ、その、よろしくお願いします。」

 

「あ、すみません私ったらまた。」

 

「だ、大丈夫です。後ろからいきなりとかでなければ……。」

 

「そうですか。」

 

そんなやり取りをしながら私達は1階の渡り廊下へ。

 

「あ、あの、銀さんのポジションは……。」

 

「ん?私ですか?私はMFです。と言ってもどちらかと言えばディフェンス寄りになりますが、攻撃にも参加は出来ますよ。」

 

「MF……大事。」

 

「しっかりとボールを前へ繋いでみせますので任せてください。」

 

そう言って銀さんは自分の胸をぽんと叩きながら微笑んだ。

私はなんとなくこのはちゃんとはまた違った安心感がある人だなぁ、なんて考えながら渡り廊下への扉を開いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカウト3人目

 

 

FW「蒼空 友過」編 (現実と幻想の境目の住人様より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう。なにやら面白そうなことやってるな。」

 

「ひゃっ!!?」

 

不意にどこからともなく飛んできた声にA棟からB棟を繋ぐ渡り廊下のど真ん中で私は思わずビクリと体をふるわせてしまった。

 

「誰ですか!」

 

そう体を萎縮させる私を庇うようにさっきまで後ろをついてきていた銀さん…………桃華さんが前に出た。

 

視線の先には渡り廊下を抜けた先の校舎で大きく開かれた窓の窓枠に肘をつきながらニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる赤眼の少女が缶コーヒーを片手にこちらを見つめていた。

 

「おいおい、そんな怖い顔するなよ。ビビらせたことは謝る。」

 

少女はそのニヤニヤを崩さないまま小さく鼻で笑うと持っていた缶コーヒーをこちらに向かって軽く投げてきた。

 

なんとか震えも止まってきた私は硬直が解けて自由を取り戻した手でその缶を直撃ギリギリのところで受け止める。

…………まだ未開封。

 

「買ったはいいけど、やっぱり自分で入れたヤツ以外は飲む気になれないからやるよ。お近付きの印、ってな。」

 

「あ、ありがと……ございます。」

 

「あなたは確か…………。」

 

「D組の蒼空 友過だ。君たちB組の2つ隣のクラスだな。ま、そんなことはどうでもいい。(るい)から聞いたよ。サッカー部員集めてるんだって?」

 

その一言で貰った缶コーヒーのプルタブを爪でカリカリやっていた私は我に返る。

 

「る、涙ちゃん……から?サッカーに興味がある、の?」

 

「まぁな。ことによっては入ってもいい。」

 

「ほ、ホント…………「ただし!」

 

また1人新しい部員が増えると胸を撫で下ろそうとしたのも束の間、私が喋り終わらないうちにスっとただでさえ鋭いアイラインをさらに細くさせながら蒼空さんがそれを遮った。

 

そして、いきなりどこからともなくサッカーボールを取り出すとこちらに向かって思い切りシュートしたきた。

そのボールは校舎の窓を抜けたところで急激に曲がり、渡り廊下の風通しを良くするために開かれた窓からピンポイントに私の方へ…………。

 

「現美さん!」

 

「ひゃあっ!!」

 

とっさの出来事に私はボールを受け止めるよりも避けることを優先してしまった。両手で頭を抑えながら勢いよく屈んだおかげで直撃だけは避けたが、後頭部すれすれをボールが通り過ぎていく。

 

「蒼空さん!何するんですか!…………さすがに怒りますよ?」

 

普段は温厚な桃華さんですら語調が少し荒くなってきていた。

 

「ははは、言っただろう?()()()()()()()ってな。確かに私はサッカーが好きなんだ。まぁ、それはいい。でもな、やるからには勝ちに行きたい。…………でだ、涙をサッカー部に引き入れた御陵現美。その実力、是非ともこの目で見てみたくてね。十分だと判断すればそれでいい。しかし、劣っていると判断した場合………………。」

 

「…………わか、りました。」

 

「……ほう。

 

そんな相変わらずなにか含ませているようなニヤニヤを浮かべる蒼空さんに向かって、なんとか震えが収まった体で真正面から向かい合った。

 

「勝負…………で、勝ったら入ってくれるんです、よね? 」

 

「あぁ、約束しよう。」

 

「わかりました。グラウンド、に、行きましょう。」

 

「現美さん。」

 

「桃華さん……、心配してくれて、ありがとうございます。でも……私も、やっぱりサッカー、好きだから。みんなと一緒にサッカーするの……楽しみ、だから。頑張るよ。」

 

「…………わかりました。頑張ってください。」

 

「はい♪」

 

私は心配そうに見つめる桃華さんに向かって精一杯の笑顔を返すと、薄ら笑いを崩さない蒼空さんに続いてグラウンドに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンド。【三人称視点】

 

 

 

 

 

 

「…………で、こうなってるわけ。」

 

「大丈夫でしょうか。」

 

「さぁ。現美(あの娘)が私の期待通りなら問題ない。」

 

ちょっとした用事のおかげで予定の時間よりも若干遅れ気味にグラウンドへやってきた村雨 涙は先客の銀 桃華に事の顛末について説明を受け、ようやく状況を理解する。

 

グラウンドで練習しようと言い出した御陵 現美は今やセンターサークル付近で同じクラスの蒼空 友過と向かい合っていた。

 

なんでも友過が現美に対してチームに入ることを条件に勝負を持ちかけたらしい。

それを受ける形となった現美も現美で珍しくいつもの彼女よりかは若干キリッとして見える。

 

「決着の条件はどうする?」

 

「…………三本勝負、とかどう、かな?先に2点入れたら……勝ち。」

 

「異議はない。なら早速始めようか。」

 

「……(コクン)」

 

かくしてチームの加入を掛けた1対1の真剣勝負が幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜1本目〜

 

 

 

 

 

センターラインに並んだ現美と友過。

ボールは友過ボールからスタート。

 

軽く前へ蹴り出すのと同時に友過が一気にドリブルを開始する。

それを追いかける形になった現美もどうにか彼女に追いつき、そのまま追い抜くと友過の前に立ち塞がるように陣取った。

 

そのままボールを奪うためにプレッシング。

 

…………しかし、どれだけプレッシングしてもなかなかボールが奪えない。

 

思った以上に友過のテクニック値が高いのだ。

まるで足にボールが吸い付いてでもいるかのようなボールキープに加え、時折交ぜてくるフェイントのタイミングも絶妙で正直着いていくのでやっとの状況だった。

 

それでもなんとか抜かせまいと必死に食らいついていく。

 

「へぇ、引きこもりだったって聞いていたが、意外とやるじゃないか。」

 

「はぁ……はぁ……。」

 

「でも、手を抜く気は無いからな。」

 

「……っ!?」

 

友過は左右にフェイントを掛けていた右足の踵の部分で軽くボールを1mくらい後方に浮かせ、宙返りをしながら空中でボールを足に収めた。

そして、着地とともに両手を胸の前で組む。

友過の背後に純白の翼が出現し、辺り一面に真っ白な羽をばらまいた。

 

「こ、これ……。」

 

あまりの出来事に自分と友過の距離を詰めようとしていた現美の足が止まる。

 

それを見ながら祈るように両手を組んでいた友過が背後の翼をはためかせてその両手を大きく左右に広げた。

同時に彼女のちょうど真上あたり……だろうか、眩いほどの光の収束と共に()()()が投影される。

 

10程の球体とそれぞれが直線によって繋がれたそれは圧倒的な存在感を醸し出しながらそこに鎮座していた。

 

「……これって。まさか…………」

 

その樹に見とれて完全に足の止まった現美の真横を翼を羽ばたかせながら抜き去って行く友過。

そして、抜き去る寸前。

空中に鎮座する巨大な樹から目をそらせないでいる現美の耳元で囁くようにその技の名前を口にした。

 

「セフィロト。」

 

「っ!?」

 

その一言で、放心状態だった現美は一瞬にして我に返り後方を振り返るがその時には既に友過は翼を粒子に変えてゴール前でシュート体勢に入っているところだった。

 

現美の咄嗟の切り返しも間に合わず、ボールは無常にもゴールネットを大きく揺らした。

 

 

 

 

 

「これでリーチ。次を決めれば君の負けだな。」

 

「はぁ…………はぁ……」

 

「出し惜しみは無しだ。」

 

 

 

 

 

そう言いながら友過は膝に手をついて息を整える現美の横を通り過ぎながら軽く言葉をなげかけてスタート地点のセンターサークルに向かっていった。

 

現美もやっと落ち着いてきた呼吸の中、最後に大きく深呼吸をして友過の後を追った。

 

 

 

 

 

 

〜2本目〜

 

 

 

 

「Go!!」

 

2本目から涙に頼んでスタートの合図を掛けてもらい、その声と同時に両者が一斉にセンターラインから飛び出した。

 

ドリブルをする友過よりも少しスピードを上げた現美がゴール前で反転し、友過と正面から向かい合う。

 

しかし、今度は先程のように競り合いが起こることは無く、友過が早々に勝負を決めに来た。

 

「ふ、悪く思わないでくれよ。これで抜いて終わりだ!セフィロト!!」

 

再び胸の前で両手を組むモーションと同時に純白の翼が出現し、その上空に巨大なセフィロトの樹が現れた。

 

「っ…………ま、また。」

 

再び視線をセフィロトの樹に奪われて体が硬直する。

 

その隙に友過は現美の横を鼻で笑いながら通り過ぎて行った。

 

「もらった!!」

 

そして、現美の硬直が解けるのよりほんの僅かに早く、友過がシュート体勢に入る。

 

「…………。」

 

その瞬間。

 

異変は起きた。

 

「?……風?」

 

今しがた友過がゴールに蹴り込もうとしたまさにその時。

 

ボールを中心に小さくつむじ風が舞い始め、次第に強く大きく成長していく。

そして、

 

「それ以上は……進ませません!プリズムリーフ!!!」

 

「なにっ!?」

 

友過の背後から聞こえた現美の声に同調するようにつむじはその回転を強めながらボールを虹色に煌めく若葉に乗せて上空高くに巻き上げた。

 

その落ちてきたボールをふわりと右足の甲に収めると、素早く切り返してボールを取られたことで一瞬の硬直状態となった友過の真横を通すように今度は現美がゴールネットを揺らした。

 

「…………よし。」

 

「………………やるじゃないか。」

 

「蒼空さん……も。」

 

「友過でいい。」

 

「え?」

 

「苗字で呼ばれるのはあまり好きじゃないんだ。」

 

「じゃあ、友過ちゃん。」

 

「…………『ちゃん』は勘弁してくれ。」

 

「ふふ、わかっ……た。友過ちゃん。」

 

「はぁ…………。まぁ、好きに呼んでくれればいいか。ただ、これでイーブンだ。次でラスト。文句は無いな。」

 

「うん。」

 

お互いに軽く頷きあい、両者はセンターサークルに向かった。

 

 

 

 

「(悪いな御陵現美。今のであることに気づてしまった。次は確実に…………。)」

 

 

 

 

 

 

 

〜3本目〜

 

 

 

 

「Go!!!」

 

再び響く涙の合図とともに両者がセンターサークルを飛び出す。

 

戦況は変わらずドリブルをする友過にその前方ペナルティエリア内で友過に向かい合う現美。

 

いつものオドオドとして自信なさげにしている現美とは対象的にフィールド上では積極的に競り合いに持ち込み、友過にプレッシャーをかけていた。

 

右に左に正確にボールをキープしていく友過はその途中、激しいぶつかり合いによって軽く後ろに零れたボールにいち早く反応してボールを拾い直すのと同時に、足を乗せて一つ息をついた。

 

「ふぅ。なるほど。確かに引きこもりとは思えない動きだ。それは認める。」

 

「はぁ……はぁ……。」

 

「しかし、だからといって負けてやる訳にも行かない。勝負は勝負。」

 

「分かってる、よ。」

 

「ならいい。それじゃあ、これで最後だ。止められるなら止めてみろ!」

 

そう言うと、友過はセンターサークルとペナルティエリアのちょうど中間地点あたりで足元のボールを右足を使って軽く胸のあたりまで浮かせ、反対の左手を真横に大きくモーションを起こすと紫とも黒とも取れる暗雲がボールとフィールドを包み込み、背後に4本の剣の幻影を出現させた。

 

「え!?」

 

思わず現美が驚愕の声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは、まさか!!」

 

「そのまさか、だな。」

 

思わずフィールドの外で声を上げる桃華とそれを見ても特に動じる様子を見せない涙。

 

「現美さんはDFですよね?そんなの、止められるわけ……。」

 

「黙って見てて。」

 

「でも、」

 

「でもじゃない。あなたは知らなかったようだから教えておくけど…………。」

 

「なんですか?」

 

「現美はジュニアチームにはいっていた人間ならそれこそ知らない人は恐らくはほとんど居ない程の有名人なの。」

 

その一言で桃華が涙の方を振り返る。

 

「そんな彼女はそのプレースタイルからとある噂が一緒に付いていた。」

 

「噂?」

 

「ペナルティエリアの守護門番(ガーディアン)。」

 

「…………守護門番(ガーディアン)、ですか。」

 

「そう……………つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってね。」

 

「……ということは」

 

「……そういう事。現美にとっては……()()()()()()()()()()()()なのよ。プレースタイルまで変わっていなければ、だけど。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなりの出来事に驚愕する現美を気にする様子もなく友過は必殺シュートのモーションに入っていく。

 

「行くぞ!!!」

 

そんな力強い掛け声とともに今よりもさらに高く浮かせたボールを自身も空中に翔び、背後に出現させた4本の剣を纏わせた両足で連撃を加えていく。

 

右足で右下から左上にかけて蹴りあげ、次いで左足に切り替えて右下に向けて蹴り下ろし、くるりと回転を加えて左足に纏わせた剣で左下から右上にかけてというふうに3回ほどの蹴りを連続で行いエネルギーを極限にまで高めたボールを最後4本目の剣を纏わせた右足で思い切りゴールに向かって蹴り込んだ。

 

「エクリプティカ!!!!!」

 

4本の剣撃によって威力が格段に上昇したシュートは纏った闇冥を激しく切り裂きながら金色の軌跡を残して直線的に突き進む。

 

「このシュートが決まれば終わりだ!」

 

その言葉に後押しされるようにスピードが一段階加速されて現美に迫る。

 

「(さぁ、どうする御陵。)」

 

ゴール前で立ち尽くす現美を見つめながら友過は小さく口角を上げた。

 

「(君は言ったな。勝利条件は()()()()だと。つまり、どんな形であろうと点を入れればいい。フフ、条件の選択を見誤ったな!私の勝ちだ!)」

 

その視線の先では現美が力なく頭を前に傾けていた。

それだけの仕草。

本来ならば警戒するだけ無駄な状況なのにも関わらず、何故か彼女を前にすると感じる違和感を拭いきれない。

どうしてだろうか…………。

 

普通と違う仕草と言えば………………()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………(フッ)………………クククク♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり今までの彼女からは想像もできないような歪んだ表情を見せたかと思うと、その背後に白夜の逆光が眩いほどの閃光をばらまいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後…………勝負は一瞬でついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な…………なんだ、と……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今のシュートによってゴールネットが大きく波打った。

 

ただ、現美の背後のネットではなく()()()()()()()()()()()()が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりの出来事に愕然としてその場に固まる友過。

 

 

 

 

「今…………なにをした?」

 

 

 

「クククク……なにって、見た通りさ。君のシュートを蹴り返しただけ。そういうわけで得点は2対1、勝負はこちらの勝ちだよね?それじゃあ、また次回♪ごきげんよう♪……………(フッ)…」

 

 

 

それだけ言うと目の前の少女はまるで人が変わったかのようにつり上がった瞳のまま口角を僅かに上げると、今度は自分の頭の左側面を軽く叩いた。

 

 

 

再び頭が力なくだらりと前に垂れ、しばしの沈黙の後現美がまさに夢から勢いよく目覚めた時のように頭を上げた。

 

「…………(スッ)…………はっ、勝負は……あ。」

 

「…………おい。」

 

「へ?」

 

「おい!今、なにをしたんだ!蹴り返したって…………そんなの納得出来るかよ!!」

 

「あ、へ?ちょ……ま、待って………落ち着い、て…ひゃっ!」

 

「これが落ち着いて…………っ!」

 

「落ち着きなさい友過。」

 

そんな涙の一言でようやく自分のしていることを理解した友過がパッと両手を現美の肩から離してついでに視線も申し訳なさそうに宙を泳がせた。

 

「……きゅ〜……。」

 

いきなり肩を掴まれたことに加え、グラグラと少し強めに体を揺すられたおかげで若干ふわふわ状態になった頭を軽く振って感覚を振り払う。

 

「現美さん、大丈夫ですか?」

 

「あ、桃華さん。なんとか、大丈夫……です。」

 

「そうですか。よかった。」

 

ほっと胸を撫で下ろす桃華に向かって小さく微笑み、現美と友過の間に割って入っていた涙の隣に…………まではいかず涙の背中に僅かに隠れるようにしながら友過に向かい合った。

 

…………相変わらず視線は定まらず宙をふよふよと漂ってはいるが。

 

「あ、あの…………。」

 

「…………。」

 

「その…………。」

 

「わかってるさ。納得いかない部分はあるが、負けは負け。素直に認める。約束通りサッカー部にも入るよ。…………少なくとも退屈はしなさそうだし。 これから世話になるな、よろしく頼む。」

 

その視線にため息をついた友過は未だにモヤモヤする感覚を残しながら後ろ頭を軽く掻いた。

 

「……うん。よろしく、友過ちゃん。」

 

「だから『ちゃん』は………………まぁ、いいか。」

 

 

 

 

Bチームのメンバー。

これで現美を含めて4人になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……友過ちゃんは、やっぱり、FW?」

 

「ん?あぁ、見た通りのFWだ。が、得意分野はどちらかと言うとドリブル突破やフェイントといったテクニック寄りのプレーだな。」

 

「でもすごく、心強いと、思う。」

 

「そうね。これで一応キーパー以外のポジションは最低1人ずつってところみたい。欲しい人数はあと何人?」

 

「あと…………2人、かな。確か各チーム6人って、このはちゃんが、言ってた。」

 

「6人対6人ってことですか。しかし、この先もし大会に出場するとしたら登録できる人数は最大でも16人だと言いますし、最低限試合ができる人数としては妥当といえば妥当ですね。ただ、12人体制となると控えがいなくなりますけど大丈夫なんでしょうか。」

 

「う〜ん…………。このはちゃんがそこまで考えているか、不安…………だけど。」

 

「まぁ…………大丈夫だと思いますが。心配ではありますね。」

 

「いいじゃんか。行き当たりばったりってのもなかなかいいもんだぜ?ま、ともあれだ。晴れて私もサッカー部の一員だ。良かったらコーヒーでも入れようか?」

 

 

 

…………

 

 

 

こんな調子でスカウト2日目は過ぎていった。

 

 

残り2人。




…………2日目、ちょっと長くなりすぎましたね←(笑)

まぁ、現美とこのはじゃ性格もだいぶ違うのでスカウトの仕方も全然異なっていますけど、しょうがないと言えばしょうがないですね←



さて、現美ルート2人目は銀 桃華ちゃん(妄想のKioku様より)です。

設定を細かく書いて頂いたおかげでかなりイメージしやすかった娘ですね。
「話しやすい雰囲気」の娘がチームに居るって言うのは現美にとっても相当気持ち的に楽だと思うのでそんな感じの立ち位置で頑張ってもらいます←
あとは、このはがいない中で現美のメンタルが乱れた時のストッパー、チーム全体の相談役兼苦労人時々お財布←(笑)みたいな感じで書ければいいなと思ってますw
それから、必殺技いいですよね〜♪
あ、そうそう。
この物語の中ではオリジナル技、原作やゲーム内の技でシュートチェイン出来ない技でも私が出来そうと判断したら遠慮なくやります←(笑)
して欲しくないものは技の説明欄もしくはコメントに「このシュートにはシュートチェイン出来ない」と書いておいてくれると嬉しいです←(我儘ですんません!)



3人目は蒼空 友過ちゃん(現実と幻想の境目の住人様より)です。

このキャラは「捻くれ者で皮肉屋」ということなので、私の中でのイメージは原作の不動なんですけど合ってるかな……。
「喋り方が男っぽい、同性に告白されたことがある」の設定はのちのち挟みます。
立ち位置としてはメインストライカー陣の一角をになってもらいます。そもそも、このははストライカーとして単体での決定力はあまりないのである程度の力を持ったストライカーは嬉しいです。

それから、必殺技カッコイイ←(笑)
今回は2種類だけピックアップしましたが、結構演出に力を入れてみましたけど実際のイメージとあっているかと言われると不安はありますね〜。
でも、カッコイイのでOK←(笑)

特に「エクリプティカ」は書いてて楽しかったです←
一応、「剣の幻影」ということでベース属性は闇でその闇の中を切り裂いて架かる金色の軌跡はオランダ語で黄道を表すことからイメージ。




さて、この回の見所ですが

桃華ちゃん編では、やはり不安定な精神状態をしている現美をこのは以外に守ることの出来る存在という立ち位置の確立ですかね。
そして友過ちゃん編では当然サッカーバトルです!ただただ熱いバトルをしてもらいました!


そんな感じでまた次回♪


キャラはまだまだ募集しているので、よろしくお願いしま〜す←


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御陵現美のスカウト日記帳 3日目

さて、例にもよって現美ちゃんルートから先に投稿スカウト3日目です。

今回は正直私が思っていた量の倍以上の文字量になってしまいましたね〜(遠い目)

ちょっと長いですけどお付き合いください←




では、どうぞ!


スカウト4人目

 

 

 

FW「天野 孤白」編 (波の音様より)

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

 

 

本日最後6限目の授業終了のチャイムが高らかと鳴り響き、今まで静けさだけが支配していた教室内が一瞬にして騒がしさを取り戻した。

 

そう。

授業が終われば、終わりさえすればもう残るのは放課後だけなのだ。

荷物をまとめて部活へ向かう者。

数人で1人の机に群がって談笑する者。

先生に捕まって厄介事を頼まれている者。

はたまた愚痴を零しながら掃除用具入れから箒と雑巾を取り出している者、などなど。

 

私はと言うといつも通り教室で、窓際の席からいつも通り窓の外を眺めながらいつも通りぼーっとストレスを感じながら座っていた。

 

このはちゃんは授業の終了と同時に五十嵐さんと時乃さんを連れて教室を飛び出して行ったから今日もこの後スカウトをしに行くのだろう。

 

…………ということはあの二人は既にこのはちゃんのチームに所属していることになる。

 

あぁ、二人ともサッカーやってたんだ。

 

全然気づけなかった…………と言うよりかは、全く周りが見えていなかったと言うべきか。

 

まぁ、1ヶ月近く引きこもりで不登校していれば当然といわれればそれまでではある。

 

それからもう1つ。

今日初めて知った事実がある。

 

自然とため息が零れるついでに机の上に突っ伏して若干こみあげてくる眠気と戦いながら左手の指でグルグル丸を書いていると、昨日のように銀さんが私の机の前の席にストンと腰を下ろした。

 

「どうしたんです?悩みごとですか?」

 

「あ、銀さん。……違う、んです………………いや、これ、悩みごと……かな。あと2人。ちゃんと声をかけられるか不安で……。」

 

「あぁ、なるほど。確かに現美さんは自分からガツガツいくような性格ではありませんし。大変でしょう。」

 

「……うん。このはちゃん、凄い、です……。」

 

「相澤さんですか。むしろ彼女はガツガツ行き過ぎなような気もしますけど。」

 

やれやれと首を横に振る銀さん。

 

「しかし、あれが彼女の良いところでもあるわけですが。」

 

「私も、そう思います。」

 

銀さんの言葉に相槌を打ってそろそろ自分も行動に移さないとなんて思いながら鞄を机の上に置いたちょうど同じタイミング。

 

「ん…………現美は……お、いたいた。おーい!現美!」

 

「大声を出さないで。」

 

「ひゃあっ!……へ…………あ、友過ちゃんと涙ちゃん?」

 

「おっと、悪い脅かすつもりはなかったんだ。」

 

突然教室の入口付近から大声で自分の名前を呼ばれて反射的にビクリと体をふるわせてしまう。

 

恐る恐る声の主の方に視線を移すと、つい先日スカウトして入部してもらったばかりの村雨 涙ちゃんと蒼空 友過ちゃんがヒラヒラと手を振っていた。

 

そのせいでクラス内にいた女の子たちの視線が一瞬にして私の方へ向けられる。

 

「へ?…………あ…………。」

 

お世辞にも「好奇の」とは言い難い尖った視線に晒されて今にも世界がぐるぐる回りながら発狂しそうになるのをたまたま仕舞い忘れていたテキストで顔を隠すことで遮った。

 

…………そう。

これが今日初めて知った事実。

D()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

2人とも顔立ちは整っている上に、ぶっきらぼうなクールキャラの涙ちゃんはそんなクールな一面に加えて照れた時のギャップがたまらないと言う女の子が殺到し、片や友過ちゃんに関しては男勝りな口調に加えてその仕草の一つ一つが女の子の心を撃ち抜いていくのだとか。

ちなみに、友過ちゃんは女の子から告白まで受けたという噂まで聞いてしまった。

 

つまりこの視線の意味は全て「どうしてあの引きこもりが村雨さんと蒼空さんと仲良くしてるの?」ってところだろう。

 

正直ただでさえ人が密集している教室内にいるだけでもストレスだと言うのに、みんなで一気に視線を向けたりなんかしたらちょっと前のままであれば即気絶でもしていたはずだ、もしくは光の速さで掃除用具入れにでも閉じこもっていたと思う。

 

そんな状態の私を気にする素振りなど全く見せる様子もなく、涙ちゃんと友過ちゃんはそのまま教室内の所々から上がる歓喜の声に苦笑いを浮かべながら私の席まで来て、その近くにあった椅子にストンと腰を下ろした。

ただ、涙ちゃんは窓に背を向けて寄りかかるようにしながら腕を組む。

 

そしてもう1人は………………もう1人?

 

教室内に入ってきた瞬間の涙ちゃんと友過ちゃんの印象が強すぎて見落としていたがよくよく見ると2人の他にもう1人、涙ちゃんの後ろから着いてきていた女の子がいた。

 

このクラスではないと思うから…………2人と同じクラスなのかな?

 

「ふぅ、落ち着かねぇなここも。」

 

小声でボソリと呟くように本音をこぼした友過ちゃんにため息をつきつつ涙ちゃんも軽く首を縦に振る。

 

「ま、それはそれでいいとして。今日来たのは彼女をスカウトしたからその紹介みたいなものなの。」

 

このままでは友過ちゃんの愚痴が始まりそうになるのを涙ちゃんが軽く流し気味に遮った。

 

「彼女……ですか?」

 

銀さんも小首をかしげながらさっきから涙ちゃんの後を歩いて来ていた女の子に視線を向ける。

 

つられて私ももう一度その女の子に目を向けた………………ん?

 

……あれ?

そう言えばこの娘、どこかで見たことあるような…………。

 

紫髪という特徴の塊のような髪のツインテール。

若葉色の瞳の中に潜む瞳孔は少々縦に細めであり、そのせいもあってか若干の狐っぽさを身にまとった少女だ。

 

…………でも、何故かわからないけど私を見ながら驚愕してる。

 

わ、私、なにかしたのかな……。

 

「なんでも、涙曰くジュニアん時から有名だったやつだそうだぜ?」

 

「ジュニア……の時から?(あの紫の髪…………あ、ん?あれ……確かに見覚えある、んだけど…………。)」

 

「そう。現美もそうなんだけど…………どうしてこの学校にはこういう娘が集まっているのか不思議。」

 

「私はジュニアのチームには所属していなかったので詳しいことは分からないのですが…………村雨さんが言うならそれほどの事なのでしょうか。」

 

「本当ならあなたや彼女程のプレイヤーだったら名門校からのスカウトがいくつ来ててもおかしくない。なんでまたこんな無名校にいるのかやっぱりわたしにはわからない。」

 

「あう…………ご、ごめんな、さい。(う〜ん…………。もう少しで………思い出せ、そう………。)」

 

「謝らなくていい。」

 

「へぇ、お前意外と凄いやつだったんだな。」

 

「そ、そんなこと、ないよ。」

 

「ま、ともかく。とりあえず連れてきた。実力なら申し分ないはず。それは、あなたも知っているでしょ?」

 

紫髪の少女がぺこりと頭を下げた。

 

「へ?(あう…………わ、わかんないよ〜。)」

 

思い出せそうで思い出せないというなんとも形容しがたいモヤモヤが頭の中いっぱいに渦巻いているおかげで、ちょっとでも気を抜いたらすぐさま目を回して倒れてしまいそうになる。

ただでさえ、クラスの女の子達からの視線がプスプス刺さってきているというのに…………。

 

「あ………………。」

 

そんな視線に晒されていたからか、はたまた偶然の産物か分からないが不意に真っ白だった記憶の断片に僅かな色が戻ってきた。

 

 

 

 

───

 

 

紫色の髪の少女。

 

フィールドで向かい合う私。

 

試合は既に終盤。

このワンプレーが試合の流れを左右する。

 

そんな中でさえ、私達はお互いに軽く笑いあってひとつのボールを奪い合った。

 

 

 

 

「ここから先は行かせないよ!」

 

 

 

「なんの!私だって負けないから!」

 

 

───

 

 

記憶のフラッシュバックはそこで終止符を迎えた。

 

 

 

「あ…………も、もしかして…………。」

 

「ど、どうして…………あなたが…………。」

 

 

 

あまりに衝撃的な事実が故になかなか言葉を発することが出来なかった少女が、まさに信じられないとでも言いそうな雰囲気のままゆっくりと言葉に出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュニア時代のとある試合。

確かその日は違う地区のチームとの練習試合の予定だったのだが、それ以上に周りの観衆はある話題で持ちきりだった。

 

 

"天才と名高い2人の選手が一同に会して、真正面からぶつかり合う。"

 

 

という話題だ。

 

片方は全国でも名を轟かせるような強豪チームに所属していたジュニア選手にしては並外れたディフェンス能力を持ち、彼女の技にかかればどんなシュートをも無力化してしまうと言われる、まさに鉄壁、『ペナルティエリアの守護門番(ガーディアン)』の異名が示すようにキーパーに次ぐ第2の壁とも言える選手。

 

御陵 現美。

 

彼女の実力を物語る噂としては、「現美がいればキーパーは必要ない。」というものだ。

 

そしてもう1人。

こちらはさほど強豪というチームでもなければそれこそ全国は愚か地区大会の優勝候補ですらないような無名チームに所属していた1人のストライカー。

 

その特徴的かつ妖艶な色彩を持つ紫髪を風に乗せて若葉色の瞳を揺らめかせながらフィールド上を駆け抜け、巧みなボールコントロールと鮮やかなトリックプレー、そしてまるで狙った獲物は逃がさないとでも言わんばかりに攻め立てるその姿は、まさに伝説上の妖怪、九尾の狐が舞い踊っているようだとまで噂された少女。

 

天野 狐白。

 

その名前は、「妖狐」の二つ名とともにジュニアサッカー界に名を連ねていた。

 

このカードがジュニア大会でもないただの練習試合でお目にかかれるなんて当時からしたらどれほど話題性があったか。

 

 

 

 

 

「…………とまぁ、この2人の説明はこれくらいでいい。」

 

何故か私が話そうとしていたことを勝手に代弁した涙ちゃんは、話し終わるのとともにふぅ、とひとつ息をつくと彼女にしてはかなり珍しいドヤ顔をかました。

 

「…………涙、お前。」

 

「涙ちゃん……。」

 

「……な、なんだy…………なんですか。」

 

「口調戻さなくてもよろしいですよ。にしても、やけに詳しいですね。この2人のこと。村雨さん。」

 

「当たり前。ジュニアチームに所属していてこの2人を知らないやつは恐らくいない。」

 

涙ちゃんの一言でもう一度私と紫髪の少女が顔を見合わせた。

 

「…………ってことは、やっぱり……。」

 

「やっぱり、そうなんだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶり…………孤白ちゃん。」

「久しぶりだね…………現美ちゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、いや、まさかこんな形で再開することになるなんてね。あの練習試合以降1度も公式戦で当たること無かったから気になってはいたんだよ。あの娘どうしてるかな〜って。私のシュート、唯一キーパー以外で止めた娘だったし。」

 

「わ、わたし、も…………。あの時初めて、必殺技、破られた。ふふ、ふ…………楽しかったね。」

 

「…………でも、少し見ないうちにこんなに変わっちゃってるとは思わなかったよ。何があったの?」

 

「あう…………ご、ごめんなさい……。」

 

「はぁ…………。」

 

溜息をつきながら天野 孤白こと孤白ちゃんは視線を涙ちゃんの方に軽く投げた。

 

「それは私にもさっぱり。」

 

「はぁ〜、色々あったんだなお前らも。私と桃華には分からねぇ話っぽいしな〜。」

 

「興味はありますけど。」

 

「そんな、いい話じゃ…………ない。」

 

「であれば無理に話す必要もないですわ。話したくなったら話してくだされば結構ですよ。」

 

銀さんのフォローのおかげで何とか自分の過去がフラッシュバックするのを阻止した私は過呼吸になりかけた呼吸を整えながら話題を戻した。

 

「うん。ありがとう、銀さん……。そ、それで、その…………孤白ちゃんは…………。」

 

「ん〜、そう言えばそんな話だったね。涙と友過(そこの2人)からあらかた話は聞いているよ。」

 

「ほ、本当……?じゃあ…………。」

 

「ごめん。」

 

予想外の一言に私は言葉を失った。

ようやく、あの時の少女と一緒のチームで試合ができると込み上げていた嬉しさが一気に霧散していく。

 

「興味、無くなっちゃったんだ。だからもう、サッカーはしない。」

 

そんな真っ向から向けられた拒絶の一言はこの教室内のどんな視線よりも鋭利で容赦のない一言だった。

私の中で最も同じフィールドでプレーしたいと思っていた人物からの拒絶の言葉。

 

「え…………あ…………。」

 

言葉にならない呻き声を上げながら唖然として孤白ちゃんを見つめる………………でも。

 

「(まずいかもしれないですわね。なんとか止めないと……)あ、あの……」

 

「わ……分かっ、た…………。」

 

「(現美さん……。)」

 

「現美ちゃん……。」

 

私は込み上げてきた気持ちを押し殺して震えながら言葉を出した。

 

「こ、孤白ちゃん……が、そう、言うなら…………。本当は……一緒に、やりたかった……け、ど………………。」

 

ガタン。

 

私は込み上げてくる感情を俯くことで隠し、勢いよく椅子から立ち上がった。

その衝撃で椅子は後ろに倒れるが気にしない。

 

「…………今日……この後、学校のグラウンドで練、習するから…………見に、来て…………。それでも…………変わらなければ……諦める、よ。」

 

私はそのまま鞄を引っつかむと勢いよく廊下に飛び出した。

 

今ままでの私ならさっきの拒絶の言葉で我を忘れていたことだろう。

やっぱりこれもこのはちゃんやみんなのおかげでなのかもしれない。

 

私は込み上げてくる涙を腕で拭きながら廊下を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※(三人称)

 

 

 

 

現美が教室を飛び出して言ってから僅かな静寂が4人の中を支配していた。

 

「はぁ。」

 

その真ん中で孤白は1人ため息をついてカタンと椅子を軽く引いた。

 

「じゃあ、私、帰るね。」

 

「練習。見にこないつもりか?」

 

「言ったでしょ?もう、興味が無くなったって。」

 

「だとしても、言い方ってものがあったと思いますけど。」

 

「………………。」

 

「あの様子なら、本当に楽しみにしてたんだと思う。」

 

「………………。」

 

孤白が不意に口を強く結んだ。

 

「…………無理だよ。」

 

「無理、ですか?」

 

「そう。わたしには無理だよ。あの娘と同じフィールドに立つなんて…………。だって、背中を追いかけるだけで精一杯だったのに。現美ちゃん………………追いつけるどころか、どんどんどんどん見えなくなっちゃうんだもん。」

 

さっきまでの彼女とは打って変わって急にしおらしくなった孤白に、3人は顔を見合わせてしまう。

 

「そのせいで…………私、自分が分からなくなっちゃったんだ。どうしたら現美ちゃんに追いつけるのかをひたすら考えていて…………気づいた時にはもう…………。」

 

そこまで喋ってから、何かに気づいたようにふっと小さな笑みを作ると孤白は持ってきていたスクールバッグを肩に掛け直した。

 

「そういうこと。だから、私はもうサッカーはしないって決めたの。…………それじゃ。」

 

バッグを握っていない方の手をヒラヒラとさせながら歩きだそうとする孤白。

 

その背中に向かってスっと腕組を解いた涙が言葉を投げかけた。

 

「…………逃げるのね。」

 

「っ…………!」

 

涙の一言で孤白が足を止めて唇を噛む。

 

「…………涙。」

 

「涙さん……。」

 

「友過、桃華。行こう…………現美が待ってる。」

 

「……はい。」

 

「おう……。」

 

涙はそれ以上喋ることなく自慢のマフラーで口元を隠す。

そのまま立ち止まったまま唇を噛み締める孤白の隣を素通りした。

 

抜き際に一言だけ添えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………あのときの『妖狐』はもういない、か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!」

 

ガラガラ。

 

孤白の動揺も虚しく教室の扉は無常にも閉められる。

 

「あ、おい!涙!待てよ!」

 

「はぁ、全く、世話がやける方達ですね。孤白さんも、もし気が変わったらいつでもいらしてくださいね。相談に乗るくらいしかできないかもしれませんけど、必ず力になります。では。」

 

桃華と友過の2人も涙の後を追って教室を出ていった。

 

 

 

 

 

残された孤白は1人教室で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※(孤白視点)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして、私はここにいるんだろう。

 

もうサッカーはしないって決めたはずなのに。

 

学園の敷地内に作られたサッカーグラウンドは緑色のネットで覆われ、夜でも練習ができるようにナイター設備もしっかりと整っていた。

 

サッカーをしないならこんな所に用事なんて…………。

 

あんな表情されたら………………はぁ、ずるいなぁ。

 

 

 

 

 

「ーーーー!!」

 

「ーー!」

 

 

 

 

 

グラウンドでは4人の少女がひとつのボールを巡って駆けずり回っている。

人数が少ないため攻撃と守備をポジション事に分けた2体2の実戦形式。

 

攻撃側はどんな事があってもゴールを狙い続け、守備側はどんな事があってもゴールは死守するといった単純なものだが、これが意外と奥が深いものでプレイヤーのフィジカルやテクニック、はたまた状況判断能力等々様々なステータスが如実に現れる。

 

特に、相手の動きを予測して自分の行動を決定する能力に関しては大きく差ができる練習とも言える。

 

グラウンド脇に並び立つ木の陰に身を隠しながら私はそんなことを考えていた。

 

「…………"『妖狐』はもういない"か。本当にその通りかもしれない。」

 

1人木陰で呟いて自嘲気味に笑うとそのまま木に背中を預けながらズルズルと座り込む。

 

…………それでも、やっぱり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───サッカー、やりたいな…………。───

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって無意識のうちにふとグラウンドの方に視線を向けた時、フィールドの現美ちゃんと目が合った。

 

私はふいっと視線を逸らすが向こうはそうもいかないらしい。

 

木の幹を挟んで反対側。

軽やかな足音が近づいてくるのがわかる。

 

その音は自分の近くまで来ると不意に止み、木を挟んで背中合わせになるように腰を下ろした。

 

「…………来て、くれたんだ、ね。孤白ちゃん……。」

 

「…………。」

 

「…………やっぱり……ダメ、かな。」

 

「…………。」

 

こんな時、言葉が出せなくなる自分が憎らしい。

 

「私は、孤白ちゃんと一緒に…………サッカー、したい。」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

現美ちゃんの言葉が嘘偽りの全くない純粋な言葉だからこそ、余計に胸が締め付けられる。

 

「…………。」

 

「…………孤白ちゃん……。」

 

現美ちゃん。

久しぶりに再開した時、あなたがこれほどまで変わり果ててるなんて予想もしてなかった。

あんなに明るくてよく笑って…………そして、遠く高い壁だったそんな現美ちゃんが今では面影すら無くなってしまっているなんて。

 

でも、どんなに変わり果てても人間って芯のところだけはなかなか変わらないんだな。

 

あぁ、私はどうしてこんなにも苦しんでいるのだろうか。

 

この心にポッカリと空いてしまった穴を埋めるためには今ここで彼女の手を取ればいいだけの話なのだ。

 

それが出来ないのは一体なぜなんだろうか…………。

 

サッカーに興味が無くなったなんて大嘘なのに……。

 

「…………孤白ちゃん。私…………。」

 

背中越しに現美ちゃんがポツリと言葉を漏らした。

 

「私、ね。孤白ちゃんとサッカーした時、すごく楽しかったの。それから…………。」

 

「…………。」

 

ワンテンポ置いてから現美ちゃんが丁寧に言葉を並べていく。

 

「……すごく、悔しかった…………。」

 

「え…………?」

 

自分が走っても走っても全力以上の力を振り絞って走っても追いつけないと思っていた人物からの意外な一言に、つい反射的に言葉を発してしまう。

 

「やっと、喋ってくれた……。」

 

「…………。」

 

「私……あの時、初めて自分の技を破られて…………すごく、悔しくて……。それから、いつも、練習中は孤白ちゃんのことを考えながらプレーしてた、んだよ。孤白ちゃんならどう動く、孤白ちゃんなら…………って。」

 

「…………。」

 

「周りからは色々、言われてたけど…………本当は……ずっと不安で。あの試合から孤白ちゃんと試合で当たらなくなっちゃったし。私は………………。」

 

背中越しの声がピタリと止んだ。

 

「………………現美ちゃん?」

 

そう返すが返答はすぐには返ってこない。

しばしの静寂の後、ゆっくりと現美ちゃんが言葉を繋いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…………私は、今までずっと、孤白ちゃんの背中を追いかけてここまで来たんだから……。孤白ちゃんの見えない背中を追いかけ続けてここまで…………。でも、やっぱり頑張りすぎちゃった…………みたい。えへへ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

背中に現美ちゃんの気配を感じながら絶句していた。

 

「ジュニアの試合で精神を壊して倒れるまで…………孤白ちゃん以外の選手には誰一人破らせなかったよ。」

 

…………これには自分でも理解が追いつかないほどのスピードだと自負できる。

背中越しに小さく膝を抱えながら気に寄りかかる現美ちゃんをその場に物凄い速さで押し倒した。

 

「ふぇっ!?…………あ……。」

 

()()()()()()()()()()()ってどういうこと!!」

 

「あ…………ちょ、ちょっと…………孤白ちゃん…………ま、待って…………。」

 

「答えてよ!精神を壊した?試合中に倒れた?どういうこと?私そんなの聞いてない!!」

 

「ま、待って…………ってば…………はぁ……はぁはぁ!!!……っはぁ……!!」

 

「…………あ。ご、ごめん。」

 

押し倒して怒鳴りつけた相手が真っ青な表情で呼吸を乱している姿を見て我に返った。

 

「…………はぁ……はぁ、ふぅ…………。ケホッケホッ…………。私!」

 

そんな過呼吸で苦しいはずなのに…………目の前の少女は弱気な引っ込み思案とは思えないほど真っ直ぐに私の目を見据えてきた。

 

 

 

「…………現美、ちゃん。」

 

 

 

 

 

「私!……はぁ……はぁはぁ!!……もう、孤白ちゃんを追いかけているだけじゃ…………嫌。私…………じゃ、力不足……かも…………はぁはぁ!……しれないけど……それでも!!私は孤白ちゃんの隣にいたい!……はぁはぁ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁはぁ!!……あの時、は敵どうし……だったけど……はぁ!ふぅ!…………今度は、孤白ちゃんと同じチームでサッカーしたい!…………ケホッケホッ……はぁはぁはぁ!!!…………だって…………だって……なによりもサッカーが好きだって言ってた孤白ちゃんがサッカーに興味がないなんて…………絶対に大嘘だから!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………やっぱり、現美ちゃんの方がずるい。

 

 

 

私は上半身だけ起こして尻もちを着いた状態で強く胸を抑えながら荒い呼吸を繰り返している現美ちゃんを落ち着くまで背中を撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけなので、改めて自己紹介を。天野 孤白です。よろしくね。」

 

いきなり押し倒された挙句すぐ近くで大声を出されたおかけで若干の過呼吸に陥っていた私の腕を肩に掛けて支えてくれながらグラウンドに戻ってきた私と孤白ちゃん。

 

待っていた3人に向かってまず第一声は謝罪の言葉を述べ、続いて今度はこのチームに入る意志を述べた。

 

「遅いんだよ全く。いつまで待たせんだ。待ちくたびれて帰るところだったぜ。」

 

「の割には1番ソワソワしていたのは友過さんでしょう?」

 

「…………桃華。この世界にはな、話すべきことと話さなくてもいいことってものがあるんだ。覚えておいた方がいいぜ?」

 

銀さんの一言に友過ちゃんが口元をヒクつかせながら苦笑いを浮かべた。

 

「いい表情。それでこそ天野 孤白だと思う。」

 

涙ちゃんもそんな中でふわりと微笑む。

 

「でもまぁ、タダでって訳にも行かないな。なんたって入部テストがあるからな。それに通れば晴れて私たちとチームメイトって訳だ。」

 

「入部テスト?」

 

「へ?入部……テスト?そんなのあったっけ…………。」

 

「私の時にやったアレだ。」

 

「アレって…………確か友過さんがただ勝手に勝負の話を持ちかけただけじゃ。」

 

「細かいことはいいんだ。で?やるのか?やらないのか?」

 

「ま、そっとしておいてやって。自分だけ負けて悔しいんだよ。」

 

「あぁ、なるほど。」

 

「涙、桃華…………お前らな。」

 

図星を突かれて肩を落とす友過ちゃんとそれに対して笑い合う涙ちゃんと銀さん。

 

つられて私も口元が綻んでくる。

 

「分かった。やろう。…………現美ちゃんは大丈夫?」

 

「へへ、そう来なくっちゃな。おい、現美。無理そうなら休んでていいぞ?」

 

私の体の事を気遣ってくれる孤白ちゃんと友過ちゃんに向かって、私は軽く首を左右に降ることで否定の意思を見せた。

 

「私()やる。」

 

()?」

 

「そう…………。孤白ちゃんは、私たち、4人で止める。……孤白ちゃんは私たちから1点取れば、勝ち。私たちは孤白ちゃんからボールを奪えれば勝ち。」

 

「4対1、ですか?さすがにそれでは…………。」

 

「大丈夫。」

 

「…………現美さんがそう言うのでしたら。」

 

「私も構わないよ。じゃあ、着替えるから先にグラウンドに行ってて。」

 

「うん。」

 

深呼吸をして呼吸が落ち着いてきたのを再確認しつつ返事を返し、3人に視線を順番に合わせてひとつ頷き合うとフィールドに散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※(三人称視点)

 

 

 

「OK。準備はいいよ。」

 

制服から練習着に着替えた孤白がセンターサークルでボールを弄びなから目の前の4人に向かって声を出した。

 

「なんだよ、あれだけ拒否しておきながら練習着だけはちゃんと持ってるんだな。」

 

「素直になれなかっただけだったのですね。」

 

「ほ、ほっといて//じゃあ、現美ちゃん!」

 

「うん!孤白ちゃん。」

 

「いくよ!!!」

 

 

 

そう叫んで私は足元のボールを軽く蹴り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続けて一気にトップスピードへ引き上げる。

 

「へっ!行かせないぜ!!」

 

まずは友過が最前線でプレッシング。

それを左右にボールをキープさせながら隙を伺う。

……いや、左右から抜くのは厳しそうだ。

友過の反応がいいおかげでどうやっても着いてくる。

 

「なら!」

 

横でダメなら他の選択肢は………………。

 

孤白は1度ボールを止めてから、右足でボールを跨ぐようにしながら前へ踏み出した。

そして右足の踵と左足のつま先を器用に使いながらボールを背後から空中へ。

 

「なっ!?ボールは!?」

 

プレッシングのために孤白の足元1点凝視だった友過はその一瞬だけで完全にボールを見失った。

 

「いや…………上か!?」

 

ヒールリフト。

 

しかも走り出すモーションと全くおなじモーションから繰り出す通常のヒールリフトよりも難易度が高めの技。

 

そのまま友過の左を走り抜けながら落ちてくるボールをピンポイントで右足に収めて抜き去った。

 

「…………おいおい、あんなのありかよ。」

 

友過は口元をヒクつかせながら苦笑いを浮かべる。

 

続けて今度は涙と桃華のダブルプレス。

 

「涙さん!ここで止めますよ!」

 

「当然!」

 

しかし、孤白はそれに臆することなくむしろドリブルのスピードを上げた。

 

「(……ここで立ち止まったら現美ちゃんにはいつになっても届かない!)」

 

ドリブルをしながら左手の拳を握ってそのまま胸の前へ。

 

 

ドクン

 

 

心臓が大きく鼓動を打った。

 

 

「(現美ちゃんに追いつくために…………いや、現美ちゃんの隣で胸を張って居られるように!!)」

 

 

 

 

ドクン

 

 

また1回。

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

握りしめた左手に真紅の光が収束していく。

 

 

 

「(……左……右………)そこだ!!」

 

 

 

「なっ!?」

 

「これって……。」

 

 

ドクン

 

ひときわ大きな鼓動とともに収束した光が解放された。

 

 

 

 

 

「アグレッシブビート!!!!」

 

 

 

 

真紅の残光と共に涙と桃華を一瞬にして抜き去り、最後、ゴールの前で待ち構える現美と真正面から向かい合った。

 

 

 

 

そして数メートル離れた位置でボールを止める。

 

 

 

 

 

「…………懐かしいね。この感じ。」

 

「うん。本当に…………。」

 

「でも、私は勝つよ。」

 

「私だって……負けない。」

 

その言葉を聞くや否やふっと小さく笑った孤白がうずくまるようなモーションと共に体の前で両の腕をクロスさせた。

 

刹那。

 

孤白の周囲を激しい気流が包み込む。

 

続けてボールとともにキリモミ回転をしながら大きく空中へ。

 

 

 

 

「これが!いつか現美ちゃんと戦う時のために密かに温めておいた必殺技!!」

 

 

 

 

上空高くで周囲に風をまといながら大きなテイクバックと共にボールを思い切り蹴りこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スピニングトランザム!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ボールを中心に渦巻く風が空気中を無数に切り裂きながらゴールへ向かって一直線に疾り抜ける。

 

 

その間に現美が割って入った。

 

 

全力で間に走り込んでその勢いを殺さないように右足のかかとを滑らせながら反転。

続けて左足で思い切り地面を殴りつけ、大地を隆起させる。

青白いオーラを纏った岩盤は現美の目の前で壁を作るように集結した。

 

 

 

 

 

「やっぱり………………孤白ちゃんは、凄い。でも、私も…………負けない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大地の加護(ガイアズフォース)!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間。

孤白のシュートが岩盤を直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい衝撃波が周りに広がっていく。

 

 

 

 

 

そんな中、現美が最後に見たのは目の前の岩盤にヒビが入る瞬間だった…………。

 

 




はい
長々とお疲れ様でした。

スカウト3日目の選手は天野 孤白ちゃん(波の音様より)でした。
まずはありがとうございます!
キャラの概要欄で「ジュニア時代に少し有名だった」という設定から現美との二大巨頭にしてみました←
そして、「1度断る」「もう一度やりたくなる」という設定から現美と孤白のそれぞれお互いに対する評価を含めてもりもりしてたら展開がすごく重くなってきちゃいまして…………。
このままでは収拾がつかないのではと不安になったりもしたんですが…………意外と何とかなりました。

ちなみに最後の勝負の行方ですけど…………想像に任せます←(笑)



で、ですね。
今回の見どころは前回の「エクリプティカ」と同様必殺技の演出ですかね〜。
特に、「アグレッシブビート」は私自身特に気に入ってます←(笑)
ただ、原作とはカラーリングを変更しています。
「スピニングトランザム」と「大地の加護(ガイアズフォース)」は私の語彙力及び表現力の無さが現れてしまいましたね……。

しかし!
私はこれからも必殺技は「演出」に最大限の力を注いでいきますとも!
せっかく皆さんが考えてくれたものなので出来るだけかっこよく!華麗に!ド派手に!をモットーにしていこうと思います!←(笑)

それから、技の威力は原作とは異なるので御了承。
恐らく原作通りの威力なら「スピニングトランザム」で現美の「大地の加護(ガイアズフォース)」にヒビを入れるのは無理かと。





そんな感じで出来上がりました現美ルート3日目。
楽しんで貰えたら幸いです←






良かったら、敵チームの選手もどしどし募集中なので気が向いたらよろしくお願いします。


では、さらば〜。


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御陵現美のスカウト日記帳 4、5日目

遅くなっちゃいまして、すみません!



まぁ、色々あったので…………


とりあえず本編をどうぞ!


スカウト5人目。

 

 

 

GK「寒朱 亜蘭」編 (ゾーンタイガー様より)

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

 

 

 

ガタッ。

 

 

 

「……。」

 

「……。」

 

 

この日の放課後。

 

授業の終了を告げるチャイムと共に私にしては珍しく後ろに椅子を倒す勢いで立ち上がった。

 

それから桃華さんとアイコンタクトを取ってお互いに小さく頷き合うと、机に突っ伏して何やらぶつぶつと文句を呟いているこのはちゃんに苦笑いを浮かべてから、そのまま思い切り扉を開いて物凄いスピードで教室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※D組

 

 

 

 

 

 

全力で廊下を駆け抜けてその勢いを全て左足の急ブレーキで押し殺し、D組の教室…………つまり友過ちゃん達の教室の扉を力任せに引き開けた。

 

当然そんなことをすれば教室内の生徒は当たり前のように視線をこちらに向けるわけで、思わず身じろぎしそうになるのを後ろから着いてきていた桃華さんに支えられながらその教室内にゆっくりと足を踏み入れた。

 

そのまま歩みを止めることなく私と桃華ちゃんは既に友過ちゃんの机付近に集結していたメンバーの方へ。

 

「……来た。」

 

それにいち早く気づいた涙ちゃんに、

 

「現美ちゃん、桃華ちゃん…………結果は?」

 

真剣な表情でこちらに問いかけてくる孤白ちゃん。

 

「…………。」

 

友過ちゃんに関しては机に突っ伏していた。

 

「うん。わ、私は大丈夫。」

 

「私もクリアです。それで…………肝心の友過さんは?」

 

桃華ちゃんの一言で私達の視線が同時に突っ伏した友過に注がれる。

 

「………………私か?ほらよ。」

 

そう言いながら机から顔を上げることなく友過は1枚のとある4つ折りに折りたたまれた紙をヒラヒラとさせた。

 

「…………。」

 

それを受け取った私はコクリと小さく生唾を飲み込んで1度視線を桃華さんに移す。

無言で小さく頷いた桃華さんの返答を受け取って再度視線を4つ折りの紙に戻してから深呼吸を1つ。

 

「…………なんか、そこまでされると複雑な気分だ。」

 

「誰のせいでこうなったと思ってるの?」

 

「う、うるさいな……。」

 

呆れたような孤白ちゃんの一言にジト目で言い返す友過ちゃん。

そんなふたりの様子を見ながら私はゆっくりとその折りたたまれた紙を広げていった。

 

「…………。」

 

「……どうですか?現美さん。」

 

「…………………………

 

そこに現れた赤い数字を見た瞬間無意識のうちに言葉が漏れてくる。

 

「現美ちゃん?」

 

「ひ…………100点です!ゆ、友過ちゃん!」

 

「おぉ。」

 

「やるじゃない。友過。」

 

「涙、孤白、その反応は酷いんじゃないか?私だってやる時はやるんだ。」

 

「はい、これで全員クリアです………………。が、そもそもですね。常日頃から英語を真面目に受けていればいざと言う時こんな苦労しなくて済んだんですよ。」

 

「おい、桃華は私の味方だと思っていたぞ!」

 

「み、みんな落ち着いて…………。ふ、ふふふ。」

 

なぜだか安堵を通り越して私にしては珍しく興奮していることが分かった。

 

「ほ、ほら!ちゃんと100点ですよ!き、昨日の……その……お勉強会のおかげ、かも……。ふふふ♪」

 

「落ち着いてって言ってる自分が1番嬉しそうだよね。」

 

「そうですね。現美さん、そんな表情もできるんですね。」

 

「あとは、屋上に行くだけ。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

私達はそんな上がり切った興奮状態のままD組の教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"放課後の教室で返却された英語の小テストの結果で盛り上がる5人の少女。"

"そんな5人がまさかサッカー部であることなど、これだけ見たらどんなに勘のいい人でも見破ることなんて出来ないのではなかろうか。"

 

"さて、ここで私からの問題だ。"

"なぜ現美たちは()()()英語のテストで満点を取った事に対してこれ程盛り上がっていると思う?"

 

"ククク、考えるまでもないって言う顔だw"

 

"なら、私はこれで失礼するよ♪じゃあね。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どうして私達がこれほどまでに英語の小テストで騒いでいるのかと言うと………………あれは昨日(スカウト4日目)の放課後に遡る。

 

 

 

 

 

スカウト4日目。

 

この日はたまたまスカウトに行くのは休みにして5人で練習をしようという涙ちゃんの提案によりいつも使っている学校のグラウンドで練習していた。

 

時間もいい時間となり、太陽も西の地平線付近で真っ赤に燃えているそんな頃。

 

「…………ふぅ。そろそろ上がろうぜ。シャワー浴びてぇよ。」

 

「確かに。いい時間。狐白、桃華、戻ってきて。」

 

激しい運動の直後、ダラダラと流れ落ちる汗をリストバンドをつけた左手で拭いながら息を整える友過ちゃんの一言に涙ちゃんが賛同し、センターライン付近で待機していた狐白ちゃんと桃華さんを私の周りに集めた。

 

「あれ、もう終わりにするの?」

 

「狐白、お前の体力は底無しかよ。」

 

「底無しって失礼ね。私の立派な取り柄の1つなのに。」

 

「1つって、他にあるのか?」

 

「ふふん。そりゃもちろんストライカーとしての実力に決まってるじゃない。」

 

「ほう。私を差し置いてストライカー宣言とはな。面白ぇ。つい昨日まで『……私じゃ、無理だよ。』な〜んて弱気オーラばらまいてたやつのセリフとは思えないぜ。」

 

「そ、その事はもういいでしょ?//わ、忘れて!//」

 

「ほらほら、友過さんもほどほどに。狐白ちゃんも困ってますから。」

 

「馬鹿言え、困ってるのはこっちだ。先に言い出したのは狐白(こいつ)だろ。」

 

「いや、友過の方が先だった。」

 

「どっちもどっち。」

 

「うっ……。」

「うぐ……。」

 

涙の一言で撃沈した狐白と友過が肩を落とす。

 

そんな調子の2人に流されて私も小さく笑いながら隣でため息をついている桃華さんに視線を移した。

 

「まぁ、言いたいことはわかります。」

 

「うん…………、賑やか、になった。」

 

「ですね。」

 

そう言い合って笑いあったまさにその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチ、パチ、パチ、パチ

 

 

 

 

 

 

「Great.It's really…………great.」(凄い。本当にすごいわ)

 

 

 

 

 

 

 

突然聞こえてきたネイティブな英語と緩やかなテンポを刻む軽やかな手拍子。

春先特有の涼しくなり始める夕方のグラウンド、僅かなそよ風にすらも影響を受けるほど軽やかな金色の髪を後ろで一つにまとめた碧眼の()()………………と呼ぶにはいささか出るとこがしっかり出てる上に冷静さが滲み出したような微笑みを見せるどちらかと言うと()()と表現する方がしっくりくるような人がネットの向こうからこちらに向かってヒラヒラと手を振っていた。

 

とはいえ、見るからに弓鶴の制服に身を包んだ彼女。

 

…………もしかして、サッカーに興味があるとか。

 

そんなことを考えているとその金髪碧眼の女性がゆっくりとした足取りで私達の前まで歩み寄ってきていた。

 

「Hey,girls.」(ごきげんよう。)

 

え?

 

へ?

 

ふぇ……。

 

い、いきなり英語で話されても…………。

 

唐突な出来事に思わず視線が宙を泳いでしまう私を制して桃華さんが1歩前に出た。

 

「Sorry,……but!who are you?」(失礼ですが、どちら様ですか?)

 

金髪の女性に対して僅かに眉を寄せながら桃華さんも同じようなネイティブ系の英語で返していく。

それが意外だったのか一瞬だけ目を見開いた彼女だったが、すぐに表情を戻して続ける。

 

「What a surprise. Can you speak English?」(驚いたわ。英語、話せるの?)

 

「…………。」

 

「……Sorry. Well…………,By the way, you guys, right?」(あぁ……ごめんなさい。えー…………っと、あ、ところでさ。あなた達でしょ?)

 

「What?」(なにがですか?)

 

「The people who are collecting the soccer team members.」(サッカー部の部員を集めてるって人達ってさ。)

 

「Hmm…………. surely……, right. 」(ああ………………。確かに、そうですが。)

 

 

 

 

 

 

 

「…………なぁ、何言ってるんだ?あれ。」

 

そんな二人の会話を聞きながら不意にペラペラしゃべっている2人以外に聞こえる声で友過が小声でそう呟いた。

 

「私に分かるわけないでしょ?現美ちゃんは?」

 

「…………(ふるふるふる)」←思い切り首を左右に振る。

 

「書く分には私もいいけど、話せない。」

 

私に続いて涙ちゃんもため息をついた。

 

「と言うか、桃華にこんな特技があったなんてな。」

 

「意外………………だけど……。」

 

…………桃華さん。私達には何を話してるかわかんないよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、会話は続き徐々に本題に入っていった…………様子?

 

「Are you interested in soccer?」(サッカーに興味がおありで?)

 

「Well……shall I join you?」(まぁ、ね。入ろうか?)

 

「Sure?」(いいのですか?)

 

桃華さんはそう短く答えたあとふとこちらに振り向いた。

 

「現美さん。もしかしたらチームに入ってもらえるかもしれません。」

 

「へ?本当に?」

 

「はい、これで人数は……「However!」(ただし!)…………っ?」

 

不意に金髪の女性が桃華さんの言葉をさえぎった。

 

「There's only one condition.」(ひとつだけ、条件があるわ。)

 

 

 

 

「Condition…………。条件。」

 

 

 

 

 

「……条件?」

 

………………なんだかどこかで見覚えが。

 

「この光景…………。」

 

無意識のうちに私と涙ちゃんは視線を友過ちゃんの方へ向けていた。

 

「おい…………なんだよ。私の顔になにか付いているのか?」

 

「いや…………。」

 

「な、なんでも、ない……。」

 

不思議そうに眉を寄せる友過ちゃんを置いておいて視線を元に戻す。

 

「…………What do you mean?」(どういう意味ですか?)

 

「It's easy.」(簡単な話よ。)

 

その一言で桃華さんがぴくりと反応した。

 

「If you want me to join the team, get a perfect score on the next English test. All members. 」(私をチームに入れたいなら、次の英語のテストで満点取りなさい。それも全員が。)

 

「Why…………English?」(なぜ、英語なのですか?)

 

「Now……Why. hehehe♪」(さぁ?なぜでしょう。ふふふ♪)

 

私には何を言っているのかわからないけど、不意に意地悪く笑みを浮かべた彼女。

 

「Anyways!That's all the condition. hehe. I'm looking forward to a good result. Let's meet on the roof after school. 」(とにかく!条件はそれだけよ。いい結果を期待してるわね。じゃあ、また屋上で会いましょう。)

 

いい感じに一通り話し終わったのだろうか、彼女はそのまま手をヒラヒラとさせながらグラウンドを出ていった。

 

残された私達もぼーっとそちらの方を眺めていたのだが、そんな静寂を切って友過ちゃんが桃華さんの肩を叩いた。

 

「悪い、今の内容私たちにも説明して貰えるか?何言ってるかさっぱりだった。」

 

「…………そうですね。お話します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女説明中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、つまり、チームに引き込みたいなら私たち全員が英語のテストで満点を取れってことだよね?」

 

5人で円形に集まった状態で狐白ちゃんが腕組をしながら解釈し、隣の涙ちゃんに話を振る。

 

「そういうことになる。確か英語の小テストは毎週金曜日に全クラス実施だから………………で、今日は木曜日。」

 

そして涙ちゃんも最後に私の方へ視線を向けた。」

 

「明日、だね。」

 

「…………。」

 

「そうです。明日実施されるテストで全員満点であれば正式に入部すると。一応、同じクラスなので現美さんは問題ないと思っているのですが…………どうでしょう。」

 

「……う、うん、大丈夫……。桃華さんも…………いつも、満点だっ……た。」

 

他のみんなとは1ヶ月分遅れているとはいえ、週末の小テストはその週の復習が中心。

毎回このはちゃんにノートを見せたり、教えたりしていれば嫌でも頭に入ってくるというものだ。

 

私の返答に予想通りと言ったふうな桃華さんがこくんと頷いた。

 

「では、涙さん達はどうですか?」

 

「大丈夫。心配なところがあったら明日までに詰めておけばいい。でも…………。」

 

1番心配なさそうな涙ちゃん。

 

「私も大丈夫。少しノートまとめる所あるけど30分あれば終わるし。でも…………。」

 

狐白ちゃんもとりあえず心配はなさそう。

 

………………あれ?友過ちゃんは?

 

「………………。」

 

「残るは友過さんですけど、大丈夫ですか?」

 

「…………………………(ダラダラ)」

 

「友過さん?………………あの、申し上げにくいのですけど。」

 

そんな彼女にしては珍しく無言で冷や汗をダラダラと流す友過ちゃんに向かってため息混じりに声をかけた。

 

「……おそらく。」

 

「桃華の予想通り、かもね。」

 

そう言って涙ちゃんと狐白ちゃんも同時に溜息をつく。

 

思わず私も苦笑いを浮かべてしまった。

 

「だぁ!!うるさいな!わたしは日本人だ!英語なんて分かるか!」

 

「ということは…………」

 

「御名答だよ!私はあのテストで点数が半分超えたことないんだ!文句あるかよ!はぁ……はぁ……。」

 

「いや、ないけどさ。そこまで怒ることないじゃない。」

 

「うるさいうるさい!そもそもだ!なんでサッカー部員勧誘してて英語のテストが出てくるんだよ!おかしいだろそれ!」

 

「まぁ、交渉しようにも相手がもういない。交渉のしようがない。」

 

「諦めて今は明日のテストに集中しましょう。」

 

「嘘だろおい……。」

 

見るからにガックリと肩を落とす友過ちゃん。

 

「…………はぁ、まぁやるだけやってはみるけどさ。ダメでも恨むなよな。」

 

そんな様子の友過ちゃんを見ていたら、ふと頭にひとつの案がよぎった。

 

「…………勉強、会。あ、あの、…………だったら、これから、お勉強会……しません、か?」

 

私のそんな何気なくもらした一言に対して、4人がいっせいにこちらに視線を向けた。

 

「あ、そ、その…………ご、ごめん、なさい。わ、私、余計なこと…………。」

 

思わず視線を宙に泳がせながら後ずさり。

 

しかし、そんな私の様子を気にかけてくれたのか桃華さんがすぐに引き継いでくれた。

 

「……勉強会ですか。確かに有効かもしれませんね。私達の親睦も兼ねて、良い案だと思いますよ。」

 

「ほ、本当、に……?」

 

「うん。おそらく1人でやるよりいいと思う。」

 

「分からないところも聞きやすい。」

 

桃華さんに続いて涙ちゃんと狐白ちゃんも同意してくれる。

 

「勉強会…………効率上がるなら歓迎だ。」

 

「ホッ……。」

 

とりあえず意見が通ったことに私はホッと胸をなでおろした。

 

「現美、安心してるんじゃねぇぞ?会場は言い出しっぺのお前ん家だからな。」

 

「へ?…………えぇっ!?わ、私の、家!?」

 

「あら、それは名案です。たしか現美さんは一人暮らしでしたよね?ふふふ。」

 

「いや、一人暮らしの不登校って相当ガード固いじゃない。よく相澤さんは引っ張り出したよね。」

 

「ふふ、ちょうどいい。」

 

「決まりだな。んじゃとっとと現美家に行って早いとこ終わらせようぜ。」

 

「ちょ、ちょっと…………みんな…………あぅ。」

 

みんなは私の話なんて関係なしにトントン拍子で進んでいく勉強会の話。

 

そんな楽しそうなみんなの姿を見て………………私は諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。(スカウト5日目)

 

 

 

始業のチャイムよりも前。

 

 

私たちは1度グラウンドに集まっていた。

 

「いい?昨日やった事、忘れるんじゃないわよ?私達のD組は四時限目だからね。」

 

「分かってるよ。あれだけやりゃ………………嫌でもおぼえてるっての。」

 

「ならいい。結果はお互い六限目終了後のホームルームで返されるはず。」

 

「ええ。分かっています。放課後に私と現美さんがそちらに向かいます。」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

そして5人同時に頷くと私達はそれぞれの教室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして冒頭に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上。

 

 

 

 

 

 

 

階段を駆け上がり、屋上への扉を勢いよく押し開けるとちょうどその場所から真正面の位置に彼女はいた。

 

金網に片手を絡ませながらふわりと風になびかせる鮮やかな金髪。

 

 

 

 

 

 

「You'er here. 」(来たね。)

 

 

 

 

 

ゆっくりと振り返る彼女に向かって桃華さんが1歩前に出た。

 

「Can you join the soccer team as promised?」(約束通り、サッカー部に入ってもらえますか?)

 

桃華さんの一言に女性が小さく微笑んだ。

 

そして不意にポケットの中に手を突っ込むと1枚のコインを取り出す。

 

「Okey, because of a promise. But, lastly, 」(いいわ。約束だもの。でも、最後にもうひとつ…………。)

 

「What?」(なんですか?)

 

「why don't you play with me?」(私と勝負しない?)

 

「…………。」

 

「The rule is simple: just hit the true or false of the coin. How?」(ルールは簡単、コインの表か裏を当てるだけ。どう?)

 

その言葉の後、不意に桃華さんが視線をこちらに向けた。

 

「現美さん…………。彼女からの最後の挑戦です。受けますか?」

 

「ちょ、挑戦…………って、それに勝つこと、が、出来れば…………。」

 

「はい、おそらくそういうことになります。」

 

「だからなんでそうなるんだよ。」

 

「さぁ?」

 

友過ちゃんと狐白ちゃんのもっともなセリフも聞きながら少し考える。

今までの経緯からしてすんなり協力してくれるとは正直思っていなかったけど、どういうつもりなんだろう。

 

…………それでも、もし協力して貰えるなら。

 

「わ、わかりました。」

 

私は意を決して1歩前に出て桃華さんに並んだ。

 

「All right. Hehehe♪I'll show you…………『Your luck』.」(よろしい。ふふふ♪見せてもらいましょうか、あなたの())

 

私には何を言っているのかわからないが、なにか一言喋ってから彼女は手の中で遊ばせていた1枚のコインをキンと言う軽やかな音と共に空高くに弾き上げた。

 

その落ちてきたコインをなんとも鮮やかな手つきで左手の甲の上に右手で隠し、私の前に突き出す。

 

「True or false?」(表か裏か、さぁどっち?)

 

その言葉の意味は何となくわかる。

「表か裏か」どちらか選べとのことだ。

 

どっち……だろう。

 

でも、悩んでもしょうがない。

 

私は他のみんなの視線をいっぺんに背中に受けて少し呼吸が早くなりそうなのを堪えつつ、2択の中から片方を選択した。

 

「おm……………………()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?…………(Now…………her appearance changed for a moment?)」(今、一瞬だけ彼女の雰囲気が……変わった?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の答えになぜか目を見開いている彼女。

 

しかもよりによって自分を凝視されている。

 

「あ、その、結果…………。」

 

しばらく無言が続いた後、彼女がふと笑みを零して手の上のコインをぽんと上に投げて空中でキャッチした。

 

「False…………My defeat. 」(裏、私の負けね。)

 

「……そ、その…………桃華さん。あの人はなんて…………。」

 

「『裏、私の負け。』つまり、勝負は現美さんの勝ちってことですよ。」

 

「え?裏?」

 

あ、あれ?

私………………()って言ったような気がするけど…………ん?

 

お姉ちゃんがまた何かしたのかな?

ん〜?

 

でも…………。

 

……結果的に当たって、よかった。

外れたらどうしようかと思ったりもしていたがなんとかなったみたい。

 

これで人数は6人。

当初の予定していた人数に到達したわけだ。

 

…………なのだけど。

 

「You have a good luck.(あなた、強運の持ち主だったのね。) …………さて、と、私はE組の寒朱(さむす) 亜蘭(あらん)。GKよ。改めてよろしく。」

 

「へ?」

「え?」

「なっ!?」

「うわ……。」

「……。」

 

「ん?あら?私が日本語話しているのが意外かしら?」

 

いきなり暴露された衝撃的なカミングアウトに私たちは言葉を失うしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前…………しっかり日本語話せるんじゃねぇかよ。」

 

コイン勝負の1件が終わり、急に肩から力が抜けたのか屋上の金網を背もたれにしながら腰を下ろす友過ちゃんに、寒朱さん……亜蘭さんが軽く笑った。

 

「当然。だって、私は一応日本人よ。純粋な日本人。ごめんなさいね。」

 

「日本人なの?すっごいペラペラだったけど。」

 

「本気で勉強すれば誰だって喋れるわ。ね?」

 

「まぁ、英語とはいえ()()なのでやればそれなりに話せるようにはなりますよ。にしてもどうしてわざわざ英語で?」

 

溜息をつきながら桃華さんが亜蘭さんに疑問をなげかける。

 

「深い意味は無いわ。気まぐれ、とでも思ってくれれば結構よ。」

 

「気まぐれ。」

 

「とにかく、これで私もサッカー部の一員ですから。よろしくお願いしますね。」

 

「は、はい。よろしく、お願いします。亜蘭さん。」

 

 

 

 

 

 

かくしてBチームは6人のメンバーが揃いました。

 

 

あとは明後日の日曜日の紅白戦に向けて練習するだけ。

 




はい、終わりました4日目、5日目の同時回。

今回は本当に頭使いました←(笑)


なんてったって英会話ですからね……。
私、英語苦手でして、ものすごく調べました。
故に、変な表現とかここでこの単語はあまり使わないとかあったらどしどし指摘してくださいな。
この場合はこういう表現の方がいいとか言うのもあれば私にメッセージください!
待ってます!←(笑)




さて、スカウト4、5日目は寒朱 亜蘭さん(ゾーンタイガー様より)ですね。

このキャラに関してはかなり難しかったです。
さっきも言った通り「最初は英語で話してくる」との事だったので、とりあえず色々な翻訳アプリ等を使いながらセリフを考えてやっと形になりました。そこで問題になってくるのは、そうなってくるとこちら側陣営にも英語を話せる人がいないとそもそも会話にすらならない現象でして、考えに考えた結果桃華さんを英語ペラペラにさせて頂きました。と言うか、私の中で1番しっくり来ました←(笑)
昔の出来事によって「冷静な性格になって人を冷たい目で見るようになった」との事なので、そのうち「冷たい目で見るようになった」というのを少し使わせてもらって色々イカサマ的なこともしたかったんですけど………………ちょっと私にはレベルが高すぎました←(笑)
物語の都合上送っていただいた加入条件は少し変えさせてもらいましたが、どうでしょう。

と言うか、意外と友過ちゃんが扱いやすくてビックリしている私でございます←(笑)




そして、見所ですが、個人的には亜蘭さんと桃華さんの英語での会話に1番力が入ってますので(正誤は別としてww)そこが1番。
他にもまぁ細かいところは色々ありますが、1番はそこですかね〜。

…………ちょっと御陵宅でのお勉強会は気になるところでもありますけどwww


まぁ、そんなこんなの現美ルートではメンバー揃いました。
あとはこのはルートで最後の一人を加入させればようやく紅白戦に入れるのでお楽しみに←

それではこの辺で。

また次回♪


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御陵現美の決戦前夜

さて、前回まででメインキャラは全員スカウトしたのでこの回は特に伏線も何も無い上に別にこれに勝ったからと言って特段何かある訳でもない紅白戦のためのブリーフィング回です。

故に短いです←(笑)

ちなみにどうして紅白戦しようとしたのかというと………………私が書きたかったから!以上。

では、ブリーフィングをどうぞ。


私立弓鶴学園サッカーグラウンド。

 

 

 

 

パッ。

 

 

 

 

ちょうどボールが見えなくなりそうになったそんなタイミング。

 

春先のまだ気持ちの良い暖かなそよ風も視覚化出来るのではないかと思うほどの明るさを誇るナイターの照明が一斉に点灯した。

 

 

 

さっきまで敷地内の所々で飛び交っていた運動部の掛け声の数々もさすがにこんな時間ではもうほとんど聞こえなくなっている。

 

そんなグラウンドの上を何かに弾かれたボールが夜の空へと舞い上がり、グラウンドに落ちるのと同時に友過がライジングで思い切りそれをゴールに向かって蹴りこんだ。

 

「っ!?はっ!!」

 

しかし、一瞬だけ驚いた顔を見せたGKの亜蘭もすぐさまその瞬発力を使ってゴールポストの角へピンポイントに狙い済まされたシュートをパンチングで弾いた。

 

そもそもサッカーではあまりお目にかかることは無いであろうライジングショットを正確にゴールの角へとコントロール出来る友過に、一瞬タイミングを崩されたとはいえ並外れた瞬発力とパワーによって難なくボールを弾く亜蘭。

 

「へっ、やるじゃねぇか。」

 

「あなたも。まさかライジングをサッカーで見れる日が来るなんてね。Excellent。」

 

「そりゃどうも!んじゃ、もう1発行くぜ!!」

 

「どこからでも来なさい!!」

 

軽くやり取りを交わしながら弾かれたボールを受け止めてもう一度シュート体勢に入る友過に、グローブをパシンと力強く撃つことで答えた亜蘭だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

センターサークル付近。

 

 

 

 

ここでは2対2のミニゲームのような練習が行われていた。

 

「良いですか?ルールはいつもと同じです。私と孤白さんで攻めますので現美さんと涙さんは守備。制限時間は5分間、必殺技の使用は禁止、守備側にボールを取られたらセンターサークルに戻ってやり直し、以上です。問題ありませんか?」

 

「えぇ。問題ないわ。」

 

「問題ない。」

 

「大丈夫。」

 

短いルール確認後、4人はそれぞれの持ち場に散開した。

 

コートはグラウンドの半面。

 

2人で攻めるにはかなり広すぎるコート。

2人で守るにはかなり広すぎるコート。

 

故に攻撃側は攻めるタイミングと攻め方が勝つ上で最も重要になってくる。

単純にゴールを目指せばそれでいいという訳ではないのだ。

迂闊にシュートを打って止められたらそれこそ大幅なタイムロスになる訳だから。

 

守備側も守備側でフィールドの半面を2人のみで守るため迂闊に動けないのがこれの厄介なところだ。

策も無しに向かっていくと瞬く間に勝負が着いてしまう。

かと言って慎重になりすぎてもボールを奪うことなんて出来ない。

 

そして5分という時間はお互いの手の内を探るには全くもって短すぎる。

これこそ咄嗟の判断力以外に頼る道具が存在しない簡単な訓練になるのだ。

 

試合中であればたとえ司令塔がいたとしてもいつ何時(なんどき)どんなアクシデントが起こるかなんて分からない。

『司令塔が機能しなければ勝てないチームは脆い』……………という涙の提案で始まったこの特訓もそろそろ板についてきた頃だった。

 

 

「行きますよ………………2対2、開始です!」

 

 

桃華の合図と同時に4人がいっせいにグラウンドを蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習後。

 

 

御陵宅。

 

 

私は………………リビングの入口で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

理由は目の前に広がった光景にある意味複雑な感情が込み上げてきてきているからだ。

 

「あ……その、どうして…………私、の、家?」

 

つい最近まで自分が引きこもりだったことを加味したとしても一人暮らしにしては閑散としすぎてしまっていた部屋だったのだが…………。

 

「あぁ!友過!それ私が持ってきたお菓子じゃない!!自分で買ってきたやつ食べなさいよ!」

 

「いいじゃねぇか孤白。細かい事でケチケチすんなよ。」

 

「してないわよ!」

 

「Oh!Delicious!!なにこれ!すごく美味しい!本当に桃華が作ったの?」

 

「砂糖とココアのバランス…………クッキーってこんなに美味しかったっけ。」

 

「喜んでいただけてなによりです。あ、現美さん、キッチン借りますね。」

 

「あ……は、はい…………?」

 

持参していたのだろうバスケットを持ちながらキッチンに向かう桃華さんにあやふやに返事を返してもう一度自分の部屋を見渡した。

 

「あぁ!もう怒ったわ。そっちがその気なら…………こうしてやるわよ!!あぐっ!!」

 

「あ!!おい!そりゃあ私の持ってきたチョコレートじゃんか!!」

 

「へん!おあいこよおあいこ!!………………って、に、苦っ!?なにこれ!チョコじゃないの!?」

 

「何言ってんだどっからどう見てもチョコだろ?たかだか、カカオ95%ってだけのチョコレートだ。」

 

「…………なんてもの食べてるのよあんた。」

 

「Hey。カカオ95%?それ、甘いの?」

 

「まぁ、甘過ぎないって感じか。亜蘭も食べるか?」

 

「え、遠慮しとくわ。」

 

「私は貰う。………………うん、これは美味しい。」

 

「おぉ!やっぱりそうだよな!涙ならわかってくれるって思ってたぜ!」

 

「え?待ってよ涙。苦くないの?」

 

「美味しい。まぁ、孤白には早いかも。」

 

「なによ、私にはって……。」

 

「はい。一応マフィンも作ってきたんです。みなさんで食べてください。」

 

「おお〜、さすがだな桃華。」

 

「すごく美味しそう。…………ねえ、桃華って本当にお嬢様?」

 

「そうです……と私が言うのもなにか変なのかもしれませんが。それに、私としてはあまり好きではないステータスではあるのですけれど。」

 

「あ、あの……!!!……あぅ。」

 

何とか声を出そうと試みるもののその声はワイワイと楽しそうに盛り上がる5人の少女の声によって無常にもかき消されてしまう。

 

「はぁ………………。」

 

何となくここに全員集まった理由は分からなくもないのだが、何故私の家なのかという疑問しか浮かんでこない。

要は明日の紅白戦の作戦会議だ……………恐らく、多分………いや、もしかしたら違うのかも………………いやいや、そうに違いない。

というか、そうだと願いたい。

 

そうならそうと、事前に私に話してくれてもよかったと思う。

 

仕方ないので私もテーブル上いっぱいにわんさかと広げられたお菓子やらジュースを目の前にして、溜息をつきながら座ることにする。

同時に頭の中にとある聞き覚えのある声が木霊した。

 

 

"ククク。現美、ちょっとだけ変わって。"

 

 

「はぁ…………え?お姉ちゃん?うん。わかった………………(コツン)」

 

 

 

 

 

みんなが各々盛り上がるなか、私は静かに右手の拳で軽く右のこめかみを軽く叩いた。

 

刹那、私の意識に一瞬だけ暗幕がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(フッ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

【Change】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………クククク♪

 

表に出るのと同時に私は軽く息を吸い込んだ。

 

 

そして……小さく口角を上げて。

 

 

 

 

 

 

「ちゅうも〜く!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

叫び終わるのと同時に顔に張りつけたニヤニヤ顔を崩さないまま今度は左側のこめかみを拳で軽く叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(フッ)

 

 

 

 

【Change】

 

 

 

 

 

 

 

 

再び姉からバトンを戻された私はその場の状況を一瞬で理解した。

理解したくなくても理解した。

…………してしまった。

 

もう今すぐにでもこの場から逃げたしたい。

 

なぜなら………………今全員の視線がただ1点、私に全て向けられているからだ。

しかもみんな驚いたように目をパチパチさせながら。

 

…………なにしたの?お姉ちゃん。

 

「へ?…………あ、あの、その……。な、なにか…………。」

 

「いや、今、お前が叫んだのか…………?」

 

マフィンを食べようとしていた友過ちゃんが僅かに眉を寄せた。

 

「What a surprise…….。引きこもりで引っ込み思案って聞いていたのだけど…………。」

 

寒朱さんも驚いて目を見開いている。

 

「…………でも、何となく懐かしい感じのするしゃべり方だった……。」

 

そして最後に孤白ちゃんも口につけようとしていた紙コップをテーブルの上に戻していた。

 

「え………そ、そうかな……?い、いや、そうじゃなくて…………その、明日の、こと……。」

 

「「「「「あぁ〜(ぽん)」」」」」

 

私のその一言でその場の全員が一斉に手をぽんと叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コホン。では、明日の紅白戦のブリーフィングを行いたいと思います。まずは…………そうですね、改めて自己紹介とポジションの確認からしましょうか。私は銀 桃華。ポジションはMFです。」

 

ブリーフィングは桃華さん司会の元進められていく。

 

「村雨 涙。ポジションはDF。」

 

「私は蒼空 友過。FWだ。」

 

「同じくFW。天野 孤白よ。」

 

「寒朱 亜蘭。GK。そして…………」

 

「は、はい。御陵 現美です……。ポジションはDF、です。」

 

そんな感じで一通り簡単な自己紹介を終えた時、桃華さんが一つ息をついた。

 

「……現美さん。」

 

「は、はい?」

 

()()の方の紹介もしておいた方がよろしいのではないですか?」

 

「確かに。」

 

桃華さんに続いて涙さんもその意見に同意している。

それには私も首を縦に振るしかなかった。

 

2人の言っている()()なんてどう考えても1人しか居ないし、明日はこのチームで試合に望むわけなので持っているカードはすべて出しておく必要はあるはずだ。

それに………………多分、作戦を考えるとかに関しては私より()()()()()の方が適任だと思うし。

 

 

 

"おっと、ご指名かな?クククク♪"

 

 

 

「…………うん、お願い、出来る?

 

 

 

"お易い御用だよ。じゃあ、代わってくれるかな?"

 

 

 

頭に響くその言葉に導かれながら私は再び自分の頭右側面のこめかみを軽く拳でコツンと叩く。

 

刹那、私の頭がいきなり力が抜けたようにガクンと前に垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここから三人称視点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(フッ)…………ククク……クククク♪」

 

唐突の出来事に友過を含む3人が僅かに眉を寄せる。

 

「やぁ。こうやって面と向かって話すのは初めてかな?」

 

「……現美……ちゃんだよね?」

 

恐る恐るという様子を見せる孤白の問いに対して1度3人に向かって1人ずつ視線をめぐらせてから軽やかに顔を上げた。

 

「違うよ。クク、初めまして。私は御陵 現美の『姉』、御陵 明夢(あかめ)さ。以後よろしく〜♪」

 

『御陵 現美』という人物からは想像も出来ないような底の抜けるような、しかもそれでいてどこか脳裏に張り付いてくるような声で自身のことを『現美の姉』と自称する明夢が不敵に口角を上げる。

その細く釣り上がった瞳に加えて気持ち右に流し目だった前髪も反対の左側に寄っていた。

 

「さて、それじゃあ明日の話に移ろうか。おっと、私に対しての質問事項は受け付けないからそのつもりで。」

 

その一言で、なにかを言いかけた孤白がそのまま口を結んだ。

 

「Unbelievable…………。(信じられない…………)

 

「……まさか、あの時のも。」

 

「ククク、Exactly。とでも言っておこうか、『友過(女たらし)』クン♪」

 

「なっ……!?」

 

「明夢さん。脱線してます。」

 

「おや、それは失敬。じゃあ、明日の試合の作戦を考えようじゃないか。どうせこういうことは現美よりも私の方が適任だからさ。あの娘はそういうキャラじゃないからね。そう思わないかい?」

 

「まぁ、そう、かもしれないわね。」

 

「でしょ?ということで。私からちょいと提案がね〜あるのでございますよ。」

 

「提案?」

 

「そう提案。明日の作戦の提案。クククク♪」

 

テーブル上で指を組みながらニヤニヤと不敵に笑う明夢に5人が一斉に互いの顔を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※少女説明中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………と、言う感じの作戦でどうだい?」

 

作戦の説明が終わった瞬間、部屋の中にコクリと喉を鳴らす音と共に静寂が支配していった。

 

その静寂を切り裂くように友過がゆっくりと言葉を漏らす。

 

「……おい、そんなこと、本当に出来るのかよ。」

 

「出来るか出来ないかの問題じゃないよ。『やる』んだよ。ククク♪もし、勝ちたいと思うのならね。」

 

「明夢さん。確かにいい作戦ではあるのですけど……。」

 

「けど?」

 

「もし、作戦が相手にバレたら……。」

 

「そうだね。これがもし勘づかれたら相当やりずらくなるだろうね。だからこの作戦の最大の肝は………………私達6人の『演技力』が八割、そして、残りの二割は私達の指揮を執る君のセンスに委ねられるというわけさ。ねぇ?桃華(桃の字)♪」

 

「私の…………指揮?」

 

「そう。あ、それからGKの亜蘭(金髪)には覚えてもらうサインがあってね。」

 

「What?サイン?」

 

「私が指1本の時は私がシュートを打ち返す。2本立てたら…………分かるよね?クククク♪」

 

「…………ワザと。」

 

「そ、技を破られたフリをするから、それを止めて欲しいんだ。詳細は明日話すよ。」

 

「…………わかった。」

 

「うん。あとは友過(女たらし)孤白(狐っ子)(スカーフ)はさっき言った通り動いてくれれば大丈夫。」

 

「あぁ、わかった。」

 

「あ、狐っ子って私の事?まぁ、作戦を悟られないように前半は動けばいいのよね?」

 

「任せて。」

 

「うんうん。あぁ、そうだ。後で紙に書いておかないと。現美にも伝えないといけないからね。」

 

そう言いながら机の引き出しからガサガサとシャーペンとメモ用紙を取り出すと慣れた手つきで先の作戦の概要を書き連ねた明夢は描き終わるのと同時に放り投げるようにしてシャーペンを机の上に転がした。

 

「さて、これでよし。さてとここでもう一度確認しておこうか。」

 

テーブルに戻ってきた明夢が再び指を組む。

 

「勝負は後半。まず前半の前半、出来ればこのタイミングで2点取られたい。3点になると少し厳しいから2点にとどめること。そして、前半の後半。ここで、現美を中心にディフェンスを固める。2点取られたわけだしディフェンス面を強化するのは自然のことだから相当変なことしない限りバレないとは思うけど、まぁ、気をつけるのに越したことはないよね?そして後半。タイミングを見計らって私が現美と入れ替わるからそのタイミングで一気に畳み掛ける。簡単に言うとこんな感じかな。前半の指揮は桃の字。出来るだけさりげなく相手のシューターをサイドじゃなくて正面から撃たせるように誘導をお願いね?」

 

「わかりました。」

 

「他の人も、質問は?」

 

「いや。」

 

「私もない。」

 

「大丈夫。」

 

「OK(問題ないわ。)

 

5人それぞれの返事を聞いて満足気にこくこくと首を振る明夢。

 

「じゃあ、明日だね。よろしく頼むよ。クククク♪」

 

 

その言葉を最後に明夢は自身の左手で頭の左側面をコツンと軽く叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく暗幕の晴れた私はゆっくりと目を開けるのと共に顔を上げた。

 

「あ、あの……桃華さん。お姉ちゃんは、なんて?」

 

「…………そうですね。まずは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな感じで試合前日のブリーフィングは過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

紅白戦へ(未投稿)

 

 




さて、ようやく書きました現美サイドのブリーフィングです←


まぁ、大まかな作戦しか書いてないので細かい事は試合当日に書いていこうと思います。


…………ん〜、なんか書いてるうちに送ってもらった設定と変わってきちゃってる?もしかして……。



短いですけど今回はこの辺で、次回、紅白戦。お楽しみに〜←


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