結城友奈は勇者である R/Bの章 (ベンジャー)
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第1話 『南兄弟はウルトラマンである』

むかしむかし、あるところに勇者がいました。

 

勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王を説得するために旅を続けています。

 

そして遂に、勇者は魔王の城に辿り着いたのです。

 

「やっとここまで辿り着いたぞ、魔王! もう悪いことはやめるんだ!!」

「私を怖がって悪者扱いを始めたのは村人達の方ではないか!」

「だからって嫌がらせはよくない!! 話し合えば分かるよ!」

「君を悪者なんかにはしない!!」

 

と、そこまで勇者が魔王に言ったところで……2人の立っていた土台は倒れ、そこに2人の少女の姿が現れた。

 

その2人の少女の手にはそれぞれ勇者と魔王のパペットがはめられており……つまり、この勇者と魔王の話は今現在、幼稚園で子供達に見せている彼女等のお芝居。

 

勇者のパペットを手にはめている赤い髪の少女の名は「結城 友奈」中学2年生、もう1人の魔王のパペットを手にはめているのは中学3年生の金髪の少女の名は「犬吠埼 風」。

 

またナレーションや音楽を担当しているのは風の妹である中学1年の「犬吠埼 樹」と友奈と同じく中学2年で車椅子に乗った黒髪の少女、友奈の親友でもある「東郷 美森」。

 

そして魔王の部下役として背景として使われているボードの後ろに立ってスタンバっているのはメガネをかけた中学1年生の少年「南 良(みなみ りょう)」ともう1人は良の兄である中学3年生の「南 春木(みなみ はるき)」である。

 

ちなみにこの2人は友奈の幼馴染みである。

 

6人は香川県「綾香市」にある讃州中学に通う中学生であり、なぜこの6人がこのようなお芝居をしているかと言うとそれはこれが彼等彼女等「勇者部」の部活動だからである。

 

「勇者部」とは部長の風が設立した「人々のためになることを勇んで実施する」ことを目的としている活動であり、「幼稚園での交流会」や「猫の里親探し」などといったボランティア活動などをメインにした部活。

 

そしてこの勇者と魔王のお芝居も、幼稚園の子供達のために行われた勇者部の活動の一環なのだ。

 

「えっ!? なにどうした?」

「友奈さんがやらかした。 腕が土台に当たって倒れたらしい」

 

良の説明を聞いて春木が「あちゃ~」と頭を抱えて「やっちまったな友奈」と言いながらボードの後ろからこっそりと様子を伺う。

 

「あ、当たんなくて良かった~。 でもどうしよう……」

「もうゴリ押しで! ゴリ押しで行け友奈!」

 

ボードの後ろからなるべくこっそりとそう伝える春木、それを聞いて友奈は「分かった!」とでも言うように頷き、友奈が手にはめていた勇者は風が手につけている魔王にパンチを叩きこむ。

 

「勇者キィーック!!」

「えぇ~!!? ゴリ押しってえぇ~!!?」

 

春木の言葉は風にも聞こえていたが、あまりにもゴリ押し過ぎたのか風は友奈の取った行動に驚く。

 

「おま、それキックじゃないし!! っていうか話し合おうって言ってたところじゃないの!?」

 

その辺どうなんだ……とでも言うように怒る風に友奈は「あわわわ……!」と慌てふためき、それを見て良は呆れたように「はぁ」と溜め息を吐いた。

 

「ちょっ、どうするんだよこのグダグダ感……」

「園児には割と受けているぞ兄貴? 取りあえず樹さん、ミュージック適当になんか流してください」

 

良が樹にそう指示を出し、それに樹は「えぇ!?」と戸惑うが良は兎に角なにか状況に合うのを流すように言い、彼女は言われた通り「じゃあこれで!」とパソコンから音楽を流す。

 

するとパソコンから魔王のテーマが流れ、それに友奈は「ここで魔王のテーマ!?」と驚きの声をあげる。

 

「ワハハハ!! ここが貴様の墓場だ!! であえであえ~!! 我が部下達!!」

「この状況で俺等の出番かよ!?」

「良いから、やるぞ兄貴」

 

良は春木の首根っこを掴んで一緒に魔王の部下役としてボードの裏から出てきて勇者の前に立ち塞がる。

 

「イィー!!」

「おい兄貴、俺達ショ〇カーじゃないぞ。 台本にない台詞を言うんじゃない」

「いや、でも戦闘員って大体こんな声出さない?」

 

春木と良がそんな会話をしているが風に小声で「なんでも良いから続けるわよ!」と言われ、風演じる魔王の命令を受けて春木と良が勇者に襲いかかる。

 

「やってしまえ者どもー!!」

「お、おのれ~!?」

 

また一部始終を見ていた東郷は「このままではきっといけない!!」と判断し、彼女は勇者の為にここは園児達を先導しなければと考え、マイクで園児達に勇者を応援するように言い放つ。

 

『みんな!! 勇者を応援して! 一緒にグーで勇者にパワーを送ろう!! がんばれがんばれ!!』

 

そんな東郷の言葉を受け、園児達は言われた通りに手をグーにして勇者を応援する。

 

『がんばれー!! がんばれー!!』

「うぐ!? みんなの声援が私を弱らせる~!!?」

「「うわあ~!!? 俺達も力が~!!?」」

 

園児達の声援により、魔王とその部下2人は弱体化し、それを見て友奈演じる勇者は「今だ!!」と言って部下2人を軽く蹴散らし、魔王にトドメの一撃を放つ。

 

「勇者パーンチ!!」

「いってぇ~!!?」

(今の『いってぇ~』は絶対マジな奴だな)

 

それによって魔王は遂に倒れ、勇者は魔王を抱きしめる。

 

「これで分かってくれたよね? もう友達だよ!」

「なんという物理的な説得(?)……。 ハッ! 東郷締めて締めて!」

 

春木に言われ、東郷はそこでナレーションを入れる。

 

『と、いう訳でみんなの力で魔王は改心し、祖国は守られました』

「みんなのおかげだよ! やったー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月曜日……讃州中学の勇者部の部室にて。

 

そこでは勇者部のミーティングが行われており、ホワイトボードには「子猫の飼い主探し」という文字が書かれ、幾つかの子猫の写真が張られていた。

 

「うわ~、可愛い!」

「こんなにも未解決の依頼が残っているのよ!」

 

写真に写っている猫は全部で2匹1組なのも入れると全部で7匹、それを見て樹は「た、たくさん来たね……」これを全部探すのは大変そうだと冷や汗をかき、なので風は今日から強化月刊として学校を巻き込んだキャンペーンにしてしまおうと言うのだ。

 

「ふむ、学校を巻き込むというのは良いアイデアですが何か景品みたいなものがあった方がみんなもやる気が出るのでは?」

 

ただ良も風の意見には賛成なのだが、どうせならばなにか景品のようなものがあった方がみんな俄然やる気を出すのではないかと提案し、それに風も「確かにね……」と頷く。

 

「東郷の作るぼた餅とかで良いんじゃ無いか? 美味いし」

「あら、それじゃ沢山作った方が良いかしら?」

 

春木は景品に東郷の作るぼた餅を勧め、それを聞いて東郷もやる気を見せるが……取りあえずその辺は後回しにすべきだろうと風は言い、景品は後回しにして先ずは猫を探すための準備をするべきだろうと彼女は主張。

 

「成程、確かにそうですね。 それに学校を巻き込む政治的発想は流石1年先輩です!」

「あ、ありがとう……」

「東郷それお前褒めてんの?」

 

春木がジトッとした視線を東郷に向け尋ねると彼女は「勿論!」と力強く答え、それに対し春木は「そうは聞こえんぞ」と苦笑する。

 

「兎に角、学校への対応はアタシがやるとして先ずはホームページの強化準備ね? これは東郷か良に任せた!」

「はい! 携帯からもアクセスできるようにモバイル版も作ります!」

「あっ、それは俺が!!」

 

風に頼まれ、東郷と良はパソコンに向かうのだが……パソコンは一台しかないために2人のパソコンの取り合いが勃発する。

 

「いいえここは私が」

「いや俺が」

「私の方が早いわ!!」

「俺の方が早い!!」

「オイお前等喧嘩すんな。 良、ここは東郷に任せろ」

 

春木に言われ、良は「ぐぬぬ……!」と悔しそうな表情を浮かべ、逆に東郷は良に対して勝ち誇ったような笑みを浮かべ、パソコンでの作業を開始する。

 

「アイツ等相変わらず仲悪いな~」

「喧嘩するほど仲が良いんだよ、きっと」

 

そんな友奈の言葉を聞いて良と東郷は2人揃って「違う!!/違うわ!!」と声をあげ、それに友奈が「えぇ!?」と驚きの声をあげる。

 

「まぁ、多分アイツ等が喧嘩してる原因は……」

「んっ?」

 

春木が視線を友奈に向けると彼女は不思議そうに「んっ?」と首を傾げ、「どうかしたの春木先輩?」と尋ね、それに春木は「なんでもない」とだけ答えるのだった。

 

「それで風? 俺達は他になにするんだ?」

「んっ? えっと~先ずは今まで通りだけど……今まで以上に頑張る!!」

「成程、分かりやすい!! つまりは魂燃やして根性出せってことだな!!」

「そういうことよ!!」

 

風と春木はそんな感じに気合いを入れるのだが、すかさず樹が「アバウトだよ2人とも……」とツッコミを入れ、良も呆れて頭を抱える。

 

「それだったら、階段の掃除行くでしょ? そこでも人に当たってみようよ!」

「わあ! それ良いです!!」

「俺も、それに賛成です、友奈さん」

 

樹や良も友奈の意見に賛同し、それと同時に東郷も敬礼しながらホームページの強化も終了したという報告が入り、それに他の5人は「えっ!? 早っ!?」と驚く。

 

「しかもよく出来てる……!」

「すご……!」

「くっ、俺もこれくらい……!!」

 

友奈と風が唖然としながらも東郷の仕事の速さに感心し、また良はそんな東郷を見て悔しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、勇者部一同は行きつけのうどん屋である「かめや」を訪れ、みんなでうどんを食べることに。

 

尚、風は既に1人だけ三杯目のうどんを注文しており、それを見て友奈は「三杯目……」と唖然とした顔を浮かべていた。

 

「お前太るぞ風!?」

「大丈夫大丈夫!! アタシそう簡単に太らないから!! それにうどんは女子力をあげるのよ~?」

 

春木は風に流石に食べ過ぎでは無いかと言われるが、風は平気だと返すのだが……。

 

「太らないといっても風先輩、そんなに食べると糖尿病の恐れも……」

「あぁ~、確かにそれは嫌かもねぇ……。 まぁ、ボチボチ勇者部の活動で身体も動かしてるし!! その分も運動もするから大丈夫!!」

 

良の指摘に対してそんな感じで風は言葉を返し、それに良も春木は呆れた視線を彼女に向けていた。

 

「それにしても東郷先輩のホームページ強化凄かったです!!」

「あの短時間で仕上げるとか……」

「プロだ~」

「東郷って何気にハイスペックだよなぁ」

「科学者を目指している俺だって……!!」

 

樹、風、友奈、春木、良がそれぞれ東郷の仕事の速さに(1人は嫉妬だが)改めて5人は感心し、それに東郷は「ありがとうございます♪」と言って褒められたお礼代わりにてんぷらを風に差し出す。

 

「おぉ~、気が効くねぇ! 君、時期部長は遠くないよ!」

「いえ、先輩見てるだけでお腹がいっぱいに……」

 

するとそこで友奈が「あっ!」と声をあげ、今日かめやに来たのはうどんだけを食べに来ただけで無く風がなにかみんなに相談したいことがあるからということで集められたのを思い出し、そのことを風に友奈は尋ねる。

 

「あぁ、そうだ。 文化祭の出し物の相談!」

「えっ? まだ4月なのに?」

 

ぺろりとうどんを平らげた風の言葉に、樹が文化祭の出し物を相談するには少し時期が早いのではないかと言うが……。

 

なんでも去年は準備が間に合わず、何も出来なかったので今回はそれの反省として早めに準備をしておきたいのだと風は語り、それに樹は納得する。

 

「夏休みに入っちゃう前にさ~、色々決めておきたいんだよね~」

「確かに、常に先手で有事に備えることは大切ですね!」

「善は急げとも言うしな?」

 

風の考えに東郷や春木も同意し、風は「今年は猫の手も入ったし~」と樹の頭を撫で、それに彼女は「私!?」と驚きの声をあげる。

 

「うーん、折角だし一生の思い出になることが良いよね!!」

「尚且つ娯楽性が高い大衆がなびくものではないと」

 

友奈と東郷がそう言うのだが、しかしそれだけでは何をすれば良いのか分からず樹は困惑。

 

そんな彼女に風は「それをみんなで考えるのよ!!」と言い、宿題として各自考えてくるように指示。

 

「俺はもう既に考えたぞ、日本古来の妖怪やUFOなど、実在するのかどうかなどの歴史の謎を紹介する……!!」

「「「却下」」」

 

良が初々とした様子で提案を出そうとするのだが、即座に風、春木、東郷の3人に却下され、それにしょぼんっと良は落ち込む。

 

「良、お前がオカルト好きなのは知ってるけど流石にそれは……」

「でもまぁ、日本古来の妖怪を紹介するというのは案外良いかもしれないわね」

 

しかし東郷だけは他の部分は春木と風同様却下ではあるが妖怪の部分は良いかもしれないと言いだし、春木と風は「えぇ!?」と驚く声を出す。

 

「東郷先輩ならその辺は分かってくれると思っていた!!」

「私、妖怪なら酒呑童子とかが好きなのよ、強そうで」

「京を荒らし回った大鬼のことですね」

 

さっきまでの仲の悪さはどこへ行ったのか急に仲良く語り出す東郷と良。

 

またその光景を見て風は「さっきまで仲悪そうだったのに……」と目を丸くし、そんな風に春木が説明を入れる。

 

「アイツ等妖怪とか、そういう関係の話とかならウマが合うみたいなんだよな。 普段仲悪いけど、互いに嫌ってる訳じゃないからさ……。 ライバルみたいなもんなんだよ」

「ライバル……?」

 

春木の言葉に風が首を傾げ、そんな彼女に分かりやすく説明するために親指で友奈の方を指差す。

 

「アハハ、私そういう話よく分からないけど……好きなことを楽しそうに語る良くんや東郷さん好きだなぁ」

「っ……」

「そ、そうかしら?」

 

愛らしい笑顔で良と東郷にそう言う友奈に対し、良は顔を赤くし、東郷も思わず笑みを浮かべてしまう。

 

そしてそんな3人のやり取りを見て風は「あぁ、成程」と春木の言っていることを理解した。

 

その後、友奈と東郷、春木と良、風と樹といった組合わせで一同は帰ることになり、本日は解散することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅途中、風は今日の夕飯はなにをしようかと本日の献立を考え、そんな風に樹はあれだけ食べたのにまだ食べるのかと思わず苦笑してしまう。

 

「樹は小食ねぇ?」

「お姉ちゃんが食べ過ぎなの!」

 

その時、風のスマホが鳴り、彼女はポケットからスマホを取り出すとそこには「大赦」と呼ばれる組織から来たメールが入っていた。

 

それを見て風は怪訝な顔を浮かべ、それを見て樹が「お姉ちゃんどうしたの?」と尋ね、風は慌てて「なんでもない」と首を横に振って答える。

 

「……ねえ樹?」

「なに?」

「お姉ちゃんに隠し事があったらどうする?」

「えっと~、よく分からないけど……」

 

風の言葉の意味がよく分からず、首を傾げる樹。

 

なので風は分かりやすい例えば話を樹に聞かせる。

 

「例えばね? 甲州勝沼で援軍が来ないのに戦えって言わなきゃいけなかったとして……」

「えっとぉ~」

「あはは、ごめんなんでもない!」

 

風は笑って今の自分の質問を誤魔化すように笑うのだが、樹は風の質問に答える。

 

「ついて行くよ、何があっても」

「えっ?」

「お姉ちゃんは……唯一の家族だもん!」

 

そう答える樹の言葉に風は一瞬悲しげな表情を浮かべて顔を俯かせるが、すぐにうっすらと笑みを浮かべ「ありがとう……」と樹に伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土曜日、今日は特に勇者部の活動もなく春木は父である「南 ウシオ」が経営している実家兼セレクトショップ「クワトロM」で仕事の手伝いをしていた。

 

「なぁ! 春木!! どうよこの服?」

「んっ? なにそれ『うちゅ~ん』?」

 

ウシオが見せてきたのは地球が「うちゅ~ん」と叫んでいるような柄の自分が制作した服であり、ウシオは服の感想を春木に求めるのだが……。

 

「いや、普通にクソダッサイ!! こんなのホテルおじさんくらいしか買いに来ねーよ!! 在庫の山が増えるだけだろこんなの!!」

 

そこへ、頭をボサボサの寝癖だらけにして両手にツリーのようなものを持った良が現れる。

 

「ふむ、夕べは研究に没頭し過ぎたな……、兄貴朝飯あるか?」

「お前また夜更かししたのか? 変なもんもまた作って……今日が日曜だからってたるみ過ぎだろ。 あと今はもう昼だ」

「変なもんじゃないぞ兄貴!! これは地上を観測し地球環境などを調査したりするためのものだ!! 環境を調査すれば四国外にあるウィルスの駆逐も可能かもしれん!!」

 

良の語る「四国外にあるウィルス」……というのは今からおよそ300年前、突如として世界中に発生した即座に人を死に至らしめるウィルスのこと。

 

そのウィルスは未だに四国の外で蔓延しているらしく、良はいつかそのウィルスを消し去り、再び世界が300年前のように広くなることを夢見て科学者を目指しているのだ。

 

最も、中学生である彼にできることなどかなり限られてはいるのだが。

 

ちなみに、彼等の住む四国はなぜウィルスに浸食されていないのかと言うとそれは土着の神々が、残された人類を守るために融合し「神樹」となることで四国を守る結界を作り出しからであり、人々が生きるための資源も供給しているのである。

 

そのことから神樹は人々の信仰の対象となっており、敬っている人も数多く存在する。

 

「それにだ兄貴、これはそれだけではなくバイブス波の反射を解析し、数百年前の地層だって調べることできる優れものだぞ!!?」

「へぇー!! よく分かんないけど良くん凄いね!!」

「そうだろう!! 友奈さんならそう言うと……えっ?」

「えっ?」

 

そこにはいつの間にか来ていた友奈が興味深そうに良のツリー型装置を眺めており、それに良は慌ててその辺にあった机の上に置いてボサボサの髪を慌てて直そうとする。

 

「ゆ、友奈さん!!? いつの間に……!!?」

「母親と一緒に服を買いに来たんだと。 っていうかお前がここに来る少し前に試着室に既にいたんだよ」

「そ、それを早く言ってくれ兄貴!!」

 

しかし春木は「普段だらしないお前が悪い」と返し、良は「身だしなみちゃんと直してくる!!」とだけ言ってその場を立ち去り、春木はそんな良に対し苦笑いして友奈に謝罪する。

 

「なんかすまんな、友奈?」

「ほぇ? なんで春木先輩が謝るの?」

「いや、弟のみっともない姿を見せてしまったなと・・・・・・」

 

だが、友奈は「そんなことないよ」と首を横に振る。

 

「だって良くん、この凄い感じの装置作るのに夢中で徹夜しちゃったんでしょ? そんな風になにかに夢中な良くん私は好きだもん!!」

「それ聞いたら良の奴飛んで喜ぶだろうな・・・・・・」

「えっ、なんでですか先輩?」

 

友奈がなんで今の自分の言葉を聞いたら良が喜ぶのか分からず、首を傾げる友奈だったが春木は彼女の頭を撫で「気にすんな」とだけ言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜・・・・・・綾香山という山にある橋の上で2人の男女のカップルが星を眺めていた。

 

「すごーい! 星綺麗ね?」

「ホントだね」

 

それと同じ頃、カップルの近くである人物が青いアイテム・・・・・・「ルーブジャイロ」の中央に怪獣が描かれた「怪獣クリスタル」と呼ばれるものをはめ込み、両端のレバーを引っ張る。

 

『グルジオボーン!』

「んっ? 今なんか動かなかった?」

「えっ? なになに?」

 

そして星をバックにスマホカメラで自分達を撮影していたカップル達は、カメラに何かが動いたことに気づき、後ろを振り返ると・・・・・・。

 

2人の目の前に、黒く蠢く巨大な影が現れた。

 

「う、うわああああ!!!!?」

「きゃああああ!!!?」

 

それと同時にクワトロMにある良の作ったあのツリー型装置が突如として回転を始めていたのだが・・・・・・爆睡していた良はそのことに気がつかなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、日曜日・・・・・・春木とウシオは店の開店準備を早めに済ませ、今は2人で開店するまでテレビを視聴しており、そこには綾香市に拠点を置く大企業「アイゼンテック」の社長「愛染(あいぜん) アキラ」が女性レポーターからインタビューを受けているところだった。

 

『愛と善意の伝道師、愛染 アキラです!』

 

手でハートを作りながら笑顔で決めポーズを取る愛染。

 

『早速ですが愛染社長、あれはなんでしょうか?』

 

レポーターがの視線の先には人がピョンピョンと跳びはねており、愛染は「よくぞ聞いてくれました!」と言わんばかりの表情を浮かべて質問に答える。

 

『あれは筋肉強化『バイオパワード・フットギア』です! 人間が本来持っている筋肉の電気信号を解析、増幅してフィードバックするシステムです!!』

「いやぁ、愛染社長は素晴らしいなぁ!」

 

ウシオは愛染の発明に感心するが、それに春木は「そうかぁ?」と疑問を口にする。

 

「そうだよ、だってこの町もアイゼンテックがあるから発展したんだし、母さんだってあの人には随分お世話になったもんだ」

「・・・・・・母さん・・・・・・。 あれからもう数年か・・・・・・。 そう言えば今日は母さんの誕生日だっけ」

 

春木がどこか悲しげな表情を浮かべながらそう呟くとウシオは「あぁ」と頷く。

 

「今どこでなにしてるんだろうな」

「んっー? なぁに、母さんはいつかきっと帰ってくる。 港に船が戻るように」

 

ウシオの言葉を聞き、春木は笑みを浮かべて「そうだね」と答え、テレビに再び視線を映すと今は愛染の「本日のお言葉」というコーナーが始まっていた。

 

『本日のお言葉は・・・・・・【石橋に当たって砕けろ】何事にもまず、チャレンジする精神が大切です!』

 

にこやかな笑みを浮かべながら愛染はそう語るのだった。

 

「さて、そろそろ開店時間だなっと・・・・・・」

 

春木はテレビを消し、開店の時間に備えようとするのだが・・・・・・その時、珍しく早起きした良が慌ただしく春木の元へと走りより、スマホの画面を見せる。

 

「兄貴!! これ観てくれこれ!!」

「おぉ!? なんだよ!?」

 

そこには昨晩あのカップルの目の前に現れた黒いシルエットの巨大な怪物を雄叫びをあげており、「兄貴はこれをどう思う!?」と興奮した様子で尋ねてくるが、春木はそんな良に呆れ、「こんなものはCGかなんかだろ」と言い、それに良がムッとした表情を浮かべていると・・・・・・。

 

「あら、でもCGにしてはよくできてると思うわ」

「あー、これなんかニュースでやってたよね! なんかカッコイイ!!」

 

そこにはいつの間にか友奈と東郷が良の持つスマホの画面を一緒になって観ており、それに「おわあ!?」と春木と良は驚きの声をあげる。

 

「東郷! 友奈!! お前等いつの間に!?」

「それよりも兄貴!! これがフェイクだと言うならこれを見てみろ!!」

 

良は自分のノートパソコンを開いて綾香山の地表のデータを見せる。

 

「バイブス波の発生源が山中から大きく移動している!! 綾香山には絶対になにかいる!!」

「そう言えば、あの山には『グルジオ』様がいるっていう伝説があったわね。 あの動画に映っていた怪物・・・・・・どことなくグルジオ様に似てる気がするわ」

 

東郷の言葉を聞いてウシオが「もしかしてこれのことかな?」と尋ねながらある絵本を渡し、受け取った東郷はウシオに「ありがとうございます」とお礼を言った後、ページを開いて先ほどの動画に映っていた怪物と絵本に映っているグルジオを交互に見つめる。

 

「確かに、ちょっと似てる」

「あっ、私もその話知ってるよ! 確か大昔に空から『綾香星』が振ってきてその中からグルジオ様が出てきて・・・・・・戦で争っていた人達はみんなグルジオ様に飲み込まれちゃったって話だよね!」

「流石友奈ちゃん、よく知ってるわね?」

 

東郷に褒められ、友奈が「えへへ~」可愛らしく笑うが・・・・・・春木は「でもおとぎ話だろ?」と言うのだが、良はそれに反論。

 

「綾香市っていう町の名前にもなってるくらい歴史的な事実だ! 綾香星は今だと隕石なんて言われてるが俺はそうは思わん!! 地磁気の異常もある!! 母さんだって綾香山の研究をやっていただろう!?」

「そういやそうか。 それにしても、綾香山か・・・・・・」

「そういうことだ兄貴!! 俺は今から調査に向かう!!」

 

良はそう言って荷物をバックにまとめて綾香山に向け店を飛び出し、そんな良に危なっかしさを感じた春木は自分もついて行き、また東郷も友奈も「私達も気になる!!」ということで2人も良と春木の後を追いかけるのだった。

 

ちなみに移動にはバスを使う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾香山の公園にて・・・・・・。

 

「おぉ~、懐かしいな!! なあ、良!! 昔はよくここに母さんと一緒に遊びに来てたよな!! 覚えてないか!?」

 

春木は公園を見渡しながら良に尋ねるのだが、良からの返事は返って来ず、いつの間にか良の姿がいなくなっていた。

 

「あれ!? 良!!?」

「良くんなら既にあそこに・・・・・・」

 

東郷が指差す方向を見ると既にかなり離れた位置にバイブス波を検知する為の装置を持った良を発見し、良の興奮した様子から彼は全く自分の話を聞いていないのを春木は即座に理解し、溜め息を吐いた。

 

ちなみに友奈は良と一緒にそのバイブス波の発生源を探している。

 

「・・・・・・はぁ。 あいつの変なところは母さんとホントよく似てるよ」

 

それから春木は再び公園を見渡し、公園を見ながら数年前の日を思い出していた。

 

春木と良の母親は地元ではちょっとした有名な考古学者であり、数年前の丁度この日、すき焼きの豆腐を買いに行くと言ったままそのまま母は帰っては来なかったのだ。

 

(でも、あの時の母さんの温もりはよく覚えてるな・・・・・・。 ってん?)

「・・・・・・」

 

するとそこで春木が東郷が黙ったまま公園にあった遊具をジッと見ていることに気づき、春木はそんな東郷に「どうかしたのか?」と尋ねると東郷は「あっ、いえ!」と慌てて首を横に振る。

 

「ここ、私初めて来るんですけど・・・・・・なんだか初めてじゃないような気がして・・・・・・」

「ふむ。 そういや東郷って昔の交通事故のせいで記憶を失ってるんだっけ。 もしかしたら、本当に前にここに来たことがあるんじゃないか?」

「・・・・・・かもしれませんね・・・・・・」

 

春木の言うように東郷は2年前、交通事故にあったが為に過去数年の記憶を失ってしまい、さらにはそのせいで足が不自由になってしまったのだ。

 

そしてどことなく暗い表情を浮かべる東郷を見て春木は「すまん」と彼女に頭を下げて謝罪し、そのことに東郷は驚く。

 

「ど、どうしたんですか春木先輩? いきなり謝って・・・・・・」

「いや、記憶喪失のこと、気にしてたんなら悪かったなって思って・・・・・・。 なんか、悲しそうな顔してたし・・・・・・」

「えぇ? そんな顔してました!? そんな私気にしてませんから頭あげてください」

 

東郷にそう言われて春木は頭を上げるがその顔には未だに申し訳無さそうにしている様子が伺え、東郷はそんな彼に対し「本当に平気ですから」と思わず苦笑いしてしまう。

 

「それよりも友奈ちゃん達のところに行きましょう? このまま友奈ちゃんと良くんを2人っきりにさせたくもないですし」

「・・・・・・そうだな」

 

春木は東郷の言葉に頷き、彼女の車椅子を押して友奈と良の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一同は良のバイブス波を追いかけ、1つの廃墟が目に入ったのだが・・・・・・そこに進む為の道には「立ち入り禁止」と書かれた看板が置かれてあったのだが・・・・・・。

 

良は問答無用で立ち入り禁止エリアに入ろうし、それを慌てて友奈と春木が止めに入る。

 

「ちょっと良くん!! ここ立ち入り禁止って書いてあるよ!?」

「そうだぞ、良!! 幾ら何でも・・・・・・」

「だが!! この先に何かあるのは確かなんだ!! 見てくれこれを!!」

 

そう言って良は端末機の画面を友奈と春木に見せるのだが・・・・・・その時・・・・・・。

 

「グルアアアアアア!!!!!」

 

廃墟から赤黒い禍々しい体色と骨格を彷彿させる姿をした巨大な怪獣・・・・・・「火炎骨獣 グルジオボーン」が出現。

 

「わああ!!? か、怪獣だ~!!?」

「「・・・・・・グルジオ様?」」

 

友奈はグルジオボーンの登場に驚きの声をあげ、また東郷と春木はグルジオボーンが絵本に書いてあったグルジオに似たことからその名を呟き、そして良はグルジオボーンの登場に興奮した様子でグルジオボーンを追いかけようと先へ進もうとする。

 

「おい何やってんだ良!!?」

「こんな機会二度とないかもしれないんだ!! 追いかけないと損だぞ兄貴!!」

 

そう言って良は自分の腕を掴む春木の手を払いのけてグルジオボーンの元に向かおうとするのだが、グルジオボーンがこちらを睨み付けているのを見て思わず足を止める。

 

「・・・・・・やっぱ逃げようか・・・・・・」

「そうだね! 命は大切にだよ良くん!!」

 

ということで先ほどの言葉を前言撤回、一同は逃げることに。

 

「でも東郷の車椅子押しながらじゃ逃げにくいよな・・・・・・!」

「へっ? きゃあ!!?」

 

しかし、東郷の車椅子を押しながら逃げるのは困難な為、春木は東郷を抱きかかえて一同はグルジオボーンから逃げる為に走り出すのだが、東郷は突然のことに困惑し、顔を赤く染める。

 

「そ、その春木先輩・・・・・・恥ずかしいのですが・・・・・・」

「今そんな場合じゃないだろうが!!」

 

やがて公園の方まで戻って来たのだが、グルジオボーンが口から放つ100万度もの高熱火炎「ボーンブレスター」が地面に直撃し、その衝撃で春木達は吹き飛ばされてしまう。

 

「「わあああああ!!!?」」

「「ひゃあああ!!?」」

 

4人は地面に倒れ込むが春木はすぐに立ち上がり、良達の元へと駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

「なんとか・・・・・・」

「こっちも平気だよ!」

「私も・・・・・・」

 

その時、春木が泣きじゃくって動けなくなっている少年の姿を発見し、その少年の母親が少年を助けに行こうとしているのだが、逃げ惑う人々のせいで中々息子の元へと向かうことが出来ずにいた。

 

「っ! 良!! お前はあの怪獣の注意を引いてくれ!! その間に俺はあの子を!! 友奈は東郷連れて逃げろ!!」

「よし、分かった!! 早く頼むぞ兄貴!!」

 

だが、それを東郷は「ダメよ!! 危ないわ!!」と言って引き止めようとするのだが、春木は彼女の肩に手を置き、「大丈夫だ」と言って笑みを浮かべる。

 

「またな」

「っ・・・・・・!!」

 

そんな彼の姿と、言葉を聞いてなぜかとてつもない不安にかられた彼女は必死に春木に手を伸ばし、彼を引き止めようとする。

 

「ダメ・・・・・・行かないで・・・・・・。 ダメよ!!」

「そうだよ!! 2人とも危ないよ!! 怪獣は私が・・・・・・!!」

「友奈!! お前は東郷を守れ!! それに女の子にこんな危なっかしい真似させられっか!!」

 

東郷と友奈が必死に止めようとするが、春木と良は2人の言葉を聞かないで春木は少年、良はグルジオボーンに向かって行く。

 

「おいこのデカ物!! こっち見ろ!!」

 

良は石をグルジオボーンに投げながら必死に注意を逸らそうとし、春木はその間に少年を抱きかかえて母親の元まで連れて行き、少年を母親に渡し、母親は頭を下げてお礼を言った後、そこから急いで立ち去る。

 

「いよし!! 早く俺達も・・・・・・!!」

 

良も急いでグルジオボーンから逃げようとするのだが、途中でつまずいてしまい、それを見た春木は急いで良を助けようと彼に手を差し伸べながら走り出す。

 

「良ーーーーー!!!!」

「兄貴ーーーー!!!!」

 

それに良も手を差し伸べ、2人の手がもう少し届きそうになった瞬間・・・・・・!!

 

グルジオボーンがボーンブレスターを吐き出し、春木と良の2人は炎の中に包まれてしまう。

 

「そんな・・・・・・良くーーーーーん!!!!」

「せんぱーーーーーい!!!!!」

 

それを見て友奈と東郷は悲痛な声をあげて叫ぶのだった。

 

しかし、東郷と友奈は気づかなかったが・・・・・・炎の中で春木と良の2人の手は互いに届いており、次の瞬間、春木と良の2人は1つの光に包まれそこから姿を消していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば、春木と良は白い空間を漂っており、2人は当然ながら突然のことに困惑する。

 

「なになに!? 俺達どうなったんだ!?」

「まさか、死んだのか・・・・・・?」

 

するとその時、2人の目の前に突如4つのクリスタル「ルーブクリスタル」とそれを収納する為のケースである「ルーブクリスタルホルダー」、そして青い2つのアイテム「ルーブジャイロ」が2人の目の前に現れたのだ。

 

「なんだこれ?」

「さあ・・・・・・?」

 

次の瞬間、いきなり2人の頭の中にあるビジョンが浮かび上がり、地球に隕石が落下し、グルジオボーンに倒された2人の巨人の姿だった。

 

「今のは・・・・・・」

「これを俺達に使えってことなんだろうか・・・・・・」

「かもな」

 

クリスタルは自動的にホルダーの中に収納され、戸惑いつつも良は春木に「兎に角使ってみよう!!」と提案し、春木もそれに頷く。

 

「じゃあ1、2の3で行こう!!」

「よし!!」

「「1、2の3!! 俺色に染め上げろ!! ルーブ!!」」

 

そして春木と良はルーブジャイロを手に取り、最初に春木がホルダーを手に取り、「ウルトラマンタロウ」という戦士の絵が描かれた火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

タロウクリスタルの角を2つ立ててルーブジャイロの中央に春木はセット。

 

『ウルトラマンタロウ!』

「纏うは火!! 紅蓮の炎!!」

 

最後に春木はルーブジャイロのトリガーを3回引いて右腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! フレイム!!』

 

春木は炎に包まれ、赤い巨人「ウルトラマンロッソ フレイム」へと変身を完了させる。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

続けて今度は良がホルダーから「ウルトラマンギンガ」という戦士の描かれた水のクリスタルを取り出し、それをルーブジャイロにセットさせる。

 

『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは水!! 紺碧の海!!」

 

また春木と同様に良もルーブクリスタルのトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! アクア!』

 

良は水に飲み込まれ、青い巨人「ウルトラマンブル アクア」へと変身を完了させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

グルジオボーンの炎によって春木と良が消されたと思った友奈と東郷はそこから逃げることも考えられず、ただただ2人の名を呟きながらその場で泣きじゃくっていた。

 

「先輩・・・・・・! う、うぅ・・・・・・!! 良くん、私との決着がまだついてないわよ・・・・・・グスッ!」

「せんぱぁ~い!! 良く~ん!! うわああああん!!」

 

そんな2人にお構いなしにグルジオボーンは口からボーンブレスターを2人に放とうとするのだが・・・・・・その時!!

 

空から2人の巨人・・・・・・ウルトラマンロッソとウルトラマンブルが大地へと降り立ち、それに気づいたグルジオボーンはそちらの方へと顔を向ける。

 

「こ、今度はなに・・・・・・!?」

 

ロッソとブルの登場に友奈の東郷は驚きの声をあげ、その一方でロッソとブルはというと・・・・・・。

 

『お、おぉ~!! なんだかよく分からんが凄いことになっているな兄貴!!』

『な、なんじゃこりゃああああああ!!!!?』

 

変身者である良は興奮気味、春木は戸惑いの色を隠せないでいたが、グルジオボーンはそんな2人を待たずに攻撃を仕掛けようと走り出す。

 

『やる気か!? 望むところだ!!』

『あっ、おい良!!』

 

対してブルもグルジオボーンに向かって走って行き、跳び蹴りを繰り出すのだが・・・・・・。

 

グルジオボーンはそれをヒョイッと簡単に躱し、ブルの蹴りは空振りに終わってしまう。

 

『ジャンピングキィーック!! ってん!? どこ行ったあいつ!?』

 

グルジオボーンはそんなブルに背後から掴みかかってロッソの方へと放り投げ、投げ飛ばされたブルはロッソと激突し、2人で倒れ込んでしまう。

 

『『うああああ!!!!?』』

 

倒れ込んだ2人に追撃しようとグルジオボーンは素早い動きでロッソとブルに接近。

 

『うおっ!!?』

 

それに思わず驚いたロッソは咄嗟に指先を前に突き出すとそこから赤い火球が放たれてグルジオボーンに直撃し、動きを止めることに成功した。

 

『兄貴!? 今の火球どうやって出したんだ!?』

『あっ? う~ん? 勢い?』

『勢いか、よし、なら俺も!!』

 

それを聞いたブルは立ち上がり、指先をグルジオボーンの足に向けて水流を放つのだが、狙いは外れて木々をそれで切り裂いて倒してしまう。

 

『バカお前!! 自然破壊してんじゃねえよ!!』

『いたっ!?』

 

木を壊すブルの頭をロッソが平手で叩き、ブルを押し退かしてロッソがグルジオボーンに向かって行き、グルジオボーンと取っ組み合いが始まる。

 

『デヤアアアア!!!!』

 

ロッソはグルジオボーンの頭を殴りまくるが全く効果はなく、グルジオボーンに振り払われてしまい、さらには振るった尻尾を横腹に叩きつけられて吹き飛ばされてしまう。

 

『ぐあああ!!?』

『こんのぉ~!!』

 

 

今度はブルがグルジオボーンに戦いを挑み、グルジオボーンの腹部に拳を何発も叩き込み、多少怯むグルジオボーンだったが即座に口からボーンブレスターを吐きだしてブルに直撃させ、ブルは火花を散らして大きく後退し、膝を突く。

 

『うぐあああああ!!!!?』

『良!!? 大丈夫か!?』

『あ、あぁ!』

 

ロッソはブルの元に駆け寄って彼の肩に手を置くが、2人揃ったところを狙い、グルジオボーンは再びボーンブレスターを吐きだして2人纏めて攻撃し、ロッソとブルを巻き込んで辺りが爆発する。

 

『うっ・・・・・・ぐっ!? どうする兄貴!? このままだとやられてしまう!?』

『俺に聞くな! ぐじぐじ頭で考えんのは苦手なんだよ!! だから俺は直球勝負だ!!』

 

立ち上がったロッソはグルジオボーンへと駆け出し、自分に向かって走ってくるロッソにグルジオボーンはボーンブレスターを発射するのだが、ロッソはそれをジャンプして回避し、そのまま急降下しながらグルジオボーンの頭部にチョップを叩きこむ。

 

『オラァ!!』

「グルアアア!!?」

『おぉ!? 効き目あったか!?』

 

そのままロッソは何発も拳をがむしゃらにグルジオボーンの身体に叩き込み、グルジオボーンは距離を取ろうとするのだがすぐさまロッソは詰め寄ってくるため、中々反撃することが出来なかった。

 

『この力、身体にだんだん馴染んで来た!! 勇気!! 根性!! あとは気合いだあああああああ!!!!!』

 

最後に拳を一発グルジオボーンに叩き込もうとするロッソだったが、動きを見切られ、その拳をグルジオボーンは右手で受け止め、左手の爪を振るってロッソの胸部を斬りつける。

 

『うぐあああ!!!?』

『兄貴!!』

「グオオオオオオン!!!!」

 

グルジオボーンは続けざまに右手の爪を振るおうとロッソに攻撃を仕掛けようとするが、それをブルが受け止め、膝蹴りを喰らわせてグルジオボーンを後退させる。

 

『アクアジェットブラスト!!』

 

さらに今度は先ほどと同じように水流・・・・・・「アクアジェットブラスト」を放ち、グルジオボーンをブルは引き離す。

 

『大丈夫か兄貴?』

『あ、あぁ、なんとかな・・・・・・』

 

するとその時、突然ロッソとブルの胸部のクリスタル「カラータイマー」が点滅を始め、活動時間の限界が迫っていることを知らせる。

 

『おぉ!? なんだこれ!?』

『一瞬、力が抜ける感じがした・・・・・・。 早く決着つけないとヤバいのかもしれないぞ兄貴!!』

 

ブルの言葉にロッソは「そうだな」と頷き、一気に決めようとロッソとブルは並び立つのだが・・・・・・そうはさせまいとグルジオボーンは高速移動して動き、すれ違いざまに両手の爪でブルとロッソを斬りつける。

 

『『うわああああ!!!!?』』

 

さらに旋回して再びグルジオボーンはロッソとブルの身体を斬りつけ、2人は地面に倒れ込んでしまう。

 

『ぐっ・・・・・・! どうすれば・・・・・・!』

『・・・・・・そうだ!! 兄貴!! 他の2つのクリスタルも試してみよう!!』

『それしかないか!』

 

グルジオボーンの攻撃を受け、フラつきながらもロッソとブルはなんとか立ち上がり、ロッソとブルの中にいる2人はホルダーから新たなクリスタルを取り出す。

 

『セレクト、クリスタル!!』

 

ホルダーの中の2つの内のクリスタル、桔梗が描かれ「翼」という文字が刻まれたクリスタルを取り出した春木はそれをルーブジャイロに新たにセット。

 

『大天狗!!』

「纏うは翼!! 剣撃の嵐!!」

 

そして3回トリガーを引き、右腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンロッソ!! ダイテング!!』

 

するとロッソの赤かった足の部分と頭部、胸部は白に、腕は黒になり、右肩にはカラスの嘴を模した黒いショルダーが現れ、左には黒い翼のようなショルダーが現れた「ウルトラマンロッソ ダイテング」変身を完了させる。

 

『セレクト、クリスタル!!』

 

続けて良も新たなクリスタル、桜が中央に描かれ「勇」という文字が刻まれたをクリスタル取り出し、それをルーブジャイロにセット。

 

『酒呑童子!!』

『纏うは勇気!! 荒ぶる拳!!』

 

そして良もまた3回トリガーを引き、左腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンブル!! シュテンドウジ!!』

 

するとブルは胸部が黒くなりX字の赤い鎧のようなものが装着され、青かった頭部と足と手の部分は桃色に変化し、その後腕に赤いガントレットのようなものが装着された「ウルトラマンブル シュテンドウジ」に変身を完了させる。

 

『おぉ! 酒呑童子ってマジか・・・・・・!!』

 

戦闘BGM「威風堂々」

 

自分の好きな妖怪の力を纏い、興奮するブルだったが、グルジオボーンは容赦なくボーンブレスターをブルに向かって放ち、それをブルは巨大な拳を交差して炎をガード。

 

その間にブルの横をロッソが走り抜け、グルジオボーンに接近してすれ違いざまに右手を白く輝かせた手刀を繰り出すが、グルジオボーンはロッソの手を掴んで攻撃を阻止。

 

『まだ俺の攻撃が残っているぞ!!』

 

だが、そこへブルの放った拳がグルジオボーンに迫るのだが、グルジオボーンはロッソを盾にしてブルの拳はロッソの背中に直撃した。

 

『ぐっはああああああ!!!!!? こ、腰がぁ!!?』

『す、すまん兄貴!?』

 

膝を突いて腰を摩るロッソにブルは両手を合わせて謝罪するが、グルジオボーンはそんな2人を容赦なく尻尾を振るって叩きつけ、2人は吹き飛ばされる。

 

「あの2人、戦い方下手くそね・・・・・・」

 

そんなロッソとブルの戦いの様子を見て東郷がそう小さく呟くのだった。

 

『ぐううう、良!! 息を合わせろ!! 先ずは俺が奴と戦う。 お前は俺の合図であいつに攻撃するんだ!!』

『分かった!!』

 

ブルはロッソの言葉に頷き、ロッソは右手を掲げるとその手に1つの光の刀「生大刀」を出現させ、それを静かに構える。

 

またグルジオボーンは素早い動きでロッソに向かって行き、それにロッソもグルジオボーンに向かって駈け出す。

 

そしてロッソはすれ違いざまにグルジオボーンの腹部を生大刀で切り裂き、斬りつけられたグルジオボーンの腹部から火花が飛び散る。

 

『グルアアアア!!!!?』

『今だ良!!』

『よし!!』

 

ロッソの合図でブルも腹部を抑えるグルジオボーンに向かって行き、ブルは千回の拳を連続で叩き込む「千回連続勇者パンチ」を叩きこむ。

 

『千回ぃぃ……!! 連続勇者ぁ!! パーンチ!!!!』

「グギャアアアアア!!!!?」

 

何発もの拳が叩き込まれた後、最後にブルはアッパーカットでグルジオボーンの顎を殴って空中へと殴り飛ばし、ブルとロッソはクリスタルを元のアクアとフレイムに戻す。

 

『『セレクト!!』』

 

ロッソはフレイム、ブルはアクアに戻るとロッソは十字に組んだ腕から炎の力を宿した破壊光弾を放つ「フレイムスフィアシュート」を繰り出し、ブルは腕をL字に組み、水のパワーを宿した破壊光線「アクアストリューム」をグルジオボーンに向けて発射。

 

『フレイムスフィアシュート!!』

『アクアストリューム!!』

 

2人の光線の直撃を受け、グルジオボーンは身体中から火花をあげて頭から地上に落下し、爆発するのだった。

 

「ギシャアアアアア!!!!?」

 

グルジオボーンを倒し、ロッソとブルは互いに顔を見合わせる。

 

『やった・・・・・・!! おいやったぞ!!』

『あぁ!!』

 

怪獣を倒したことに2人は喜び、2人は拳を上下にぶつけあった後、ハイタッチ。

 

『って、なんか力が抜けて・・・・・・ふわ~』

『良!! って俺も・・・・・・あぁ~』

 

その時、ロッソとブルの時間制限が来てしまったが為に、2人は力が抜け、倒れそうになるのだが・・・・・・途中で2人はそこから忽然と消えてしまうのだった。

 

また同じ頃、倒されたグルジオボーンは「魔」と書かれたクリスタルに変化し、とある人物の手の中へと落っこちていた。

 

 

 

 

 

 

「春にぃ!! 良にぃ!! 目を覚ましてください!!」

「先輩!! 良くん!!」

「2人ともしっかりして!!」

 

ウルトラマンから人間の姿に戻った春木と良を友奈と東郷・・・・・・そして春木と良の妹である「南 ヒナタ」が2人を揺さぶって必死に起こそうとしていた。

 

「んんっ・・・・・・ヒナタ? 友奈に、東郷も・・・・・・」

「もうっ、心配したんですよ先輩?」

 

やがて春木と良は目を覚まし、東郷と友奈は目尻に溜った涙を拭い、2人が目を覚ましたことにほっと一安心。

 

「良かったよぉ~!!」

「おぉう!?」

 

友奈は起き上がった良に泣きながら抱きつき、それに良が顔を真っ赤にしてまた倒れそうになってしまう。

 

「ってかヒナタ、お前なんでここに?」

「お父さんがきっと2人はここにいるだろうって!! さぁ、皆さんそろそろ暗くなりますし、帰りましょう! 今夜はすき焼きです!! 友奈さんや東郷さんも良ければ」

 

ヒナタの言葉を聞いて友奈は「えっ!? 良いの!?」と嬉しそうな顔を浮かべ、それにヒナタも笑顔で頷く。

 

(それにしても、なんか凄いことになっちまったな。 でもまぁ、取りあえず母さん、誕生日おめでとう!!)

 

それから一同はバス停まで歩くことになり、車椅子を無くした東郷は春木が背負って歩くのだった。

 

「あの・・・・・・先輩重くないですか?」

「重くねえよ。 重いとしてもそれ多分お前の胸のせ・・・・・・」

 

そこまで言いかけて東郷は頬を赤くしながらビシっと春木の頭にチョップを入れ、春木は「いてぇ!?」と小さな悲鳴をあげるのだった。

 

「セクハラですよ、先輩。 もう・・・・・・」

「はは、すまん・・・・・・」

 



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第2話 『勇者はじめました』

ゆゆゆのベストアルバム発売日記念。


場所は香川県綾香市。

 

人気のない夜の森の中・・・・・・。

 

そこでは春木と良がもっと自分達が変身するウルトラマンの力を知る為、夜中にこっそり家を抜け出してそこに来ていた。

 

良は前回いきなり変身が強制解除された為、ウルトラマンとして戦うには時間制限があるのだろうということを予想し、それを計る為のタイマーをセット。

 

「よし、準備完了だ兄貴!!」

「良、興奮するのは分かるけどあんまり無茶するんじゃねえぞ? 力を確かめるだけなんだからな」

「分かってる!!」

 

それから春木と良は互いに拳を上下にぶつけ合わせた後、ハイタッチし、2人はルーブジャイロを取り出す。

 

「「オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!」」

 

ルーブジャイロにクリスタルをセットし、春木は「ウルトラマンロッソ フレイム」、良は「ウルトラマンブル アクア」に変身する。

 

『いよーし!! 先ず身体を動かすには準備運動からだな!!』

『いや、それ変身する前にやれよ兄貴!! 取りあえず身体を動かすか』

 

ブルはそう言って軽くバク転をし始め、それにブルは「おぉ!?」と感激の声を漏らす。

 

『身体が軽い!! 運動選手並みに動けるぞ!! 実に面白い』

『おい、あんまりはしゃぐな! 先ずは能力を1つずつ試して・・・・・・』

 

しかしブルはロッソの言葉を聞かずに再びバク転を繰り返し、それを見てロッソは「話を聞けよ・・・・・・」と呆れて肩を落とすのだが・・・・・・。

 

その時、ブルの背後に橋があることに気づき、ロッソが「危ない!!」と叫び、橋の存在にブルも気づいて途中で立ち止まったのだが、このままでは倒れて橋を壊して・・・・・・しまわなかった。

 

『おっ? おぉ~!!』

 

ブルは咄嗟に空中へと浮かび上がり、それを見たロッソは「飛べるのか!?」と驚きの声をあげる。

 

そのままブルは空の彼方へと飛んでいき、ロッソは慌てて自分もゆっくりと空中へと浮かんだ後、ブルを追いかけて飛行する。

 

やがてブルとロッソは大気圏を突破して宇宙に飛び出し、ブルは自由気ままに宇宙を飛び回り、そんなブルを少し危なっかしく感じたロッソはブルを必死に追いかける。

 

『宇宙キター!!!! 気持ちが良いな兄貴!!』

『いやいやいや!! ちょっと待って良!!』

 

ロッソはやっとブルに追いついて彼の足を掴み、ブルは「わあ!? 離せ!!?」とロッソを振り払おうとするが、なぜかそこで飛行できなくなってしまい、地上へと真っ逆さまに落下。

 

『えっ? ちょっ・・・・・・!!』

『落ちるぅ~!!!!?』

 

隕石となって2人は地面に激突し、ロッソは「いってぇ~!!」と頭を抑えながら立ち上がるのだが・・・・・・ブルはロッソと違ってすぐに立ち上がり、未だに身体を動かしてはしゃいでいた。

 

『楽しそうで良いですね良くん・・・・・・!!?』

 

ロッソはブルを睨み付けるが、ブルはそんなことお構いなくそのまま腕をL字に組んで水のパワーを宿した破壊光線「アクアストリューム」を岩山に発射し、破壊。

 

それを見てロッソはブルの頭を引っぱたく。

 

『なに壊してんだお前は!?』

『先っぽだけだ壊したのは!!』

『壊すこと自体がいけないんだよ!!』

 

ロッソとブルはそこから口喧嘩が始まるのだが、2人のカラータイマーがそこで点滅をはじめ、エネルギーの無くなった2人は元の春木と良の姿へと戻ってしまうのだった。

 

「大体、3分くらいってところか」

 

元に戻った良はタイマーを確認しながら自分達の活動限界時間が3分であることを知り、春木は「体力の限界か」と静かに呟く。

 

「そう言えば、兄貴の使っていたクリスタルを俺が使うことってできるのかな?」

「あっ? 多分できるんじゃないか・・・・・・?」

「なら今度は火のクリスタルを俺が使ってみよう!! 俺色に染め上げろ!! ルーブ!!」

 

良はルーブジャイロを構え、再びブルに変身しようとするのだが・・・・・・ルーブジャイロは先ほどと違って起動せず、良は「あれ?」と首を傾げる。

 

「どうやら、次に変身できるまでに時間がかかるらしいな・・・・・・」

「成程。 そう言えば、ルーブジャイロの音声で俺達が変身する巨人の名前はウルトラマンブル、ロッソって名前で火と水のクリスタルには俺達とは別のウルトラマンみたいなのが描かれてるのに、これは一体なんなんだろうな?」

 

そう言いながらホルダーから取り出したのは大天狗と酒呑童子の2つのクリスタル。

 

明らかに浮いているこの2つのクリスタル、なぜこれだけ他のウルトラマンの力では無く妖怪の力なのか・・・・・・。

 

この疑問には春木も「確かにな」と頷き、そもそもなぜ大天狗の力を宿したクリスタルに桔梗が描かれているのか、どういう接点があるのか分からず2人は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、春木と良の2人はヒナタやウシオと一緒に朝食を食べながら朝のニュースを観ていた。

 

数日前に現れた3体の巨大生物、グルジオボーン、ウルトラマンロッソとブルのことが報道されていた。

 

「ここ、この前春にぃ達が行ってた場所ですよね?」

「あ、あぁ・・・・・・。 そうだな」

 

ヒナタの言うように、ニュースキャスターのいる場所は前回自分達が怪獣と戦ったあの公園であり、ニュースキャスター曰くあの事件は様々な憶測が飛んでおり、今日はあの辺りにはアイゼンテックが所持する建物もあったということで社長である「愛染 アキラ」がインタビューを受けていた。

 

『愛と善意の伝道師、愛染 アキラです!』

 

前回と同じく、手でハートマークを作って決めポーズを決めるアキラ。

 

『巨大生物と言っても、知性を感じる人間型の2体と凶暴な1体、これらは別種と考えるべきでしょう』

『と言うと?』

『凶暴な1体を私は怪獣。 そして人間型の2体を私は・・・・・・!!』

 

目を瞑り、しばらく溜め込んだ後、目をカッと開くとアキラは巨人の名を言おうとするのだが・・・・・・。

 

『ウルトラ・・・・・・』

『ありがとうございました~!』

 

と途中で時間が来てしまった為、レポーターにバッサリと切り捨てられ、アキラはかなり不満そうな顔をしていた。

 

『あのレポーター後で上に苦情の電話入れてやるからな。 いや、上司に言うべきか』

 

それにアキラはそんなことを言ってグチグチ文句を言っていたが、周りには聞こえていない模様。

 

『綾香市に突如現れた凶暴な巨大生物、今も尚不安に包まれる現場からお送りしました!』

 

それを観て春木と良は不満そうな顔を浮かべ、春木は「凶暴か・・・・・・」と静かにそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、テレビの取材を終えたアキラは自分のファンの人達に囲まれ、ファンの人達と一緒に手と手でハートを作り、「みんなありがと~!!」と来てくれたファンの人達にお礼を言って廻る。

 

「愛と善意の伝道師、愛染 アキラです!! ありがと~!!」

 

その時、ファンの内の1人の女子高生にバランスを崩してしまった別のファンの男性と勢いよくぶつかり、女子高生は軽く吹き飛ばされてしまう。

 

「ひゃああ!!?」

 

それを少し離れた位置に立っていた男性が勢いよく飛び出して女子高生を見事にキャッチし、男性はゆっくりと降ろして女子高生の頭を優しく撫でる。

 

「大丈夫か? 生の愛染社長と会えて嬉しいのは分かるがもっと周りに気をつけろ」

「う、うん、ごめんねお兄ちゃん?」

「お兄ちゃん・・・・・・!!? それに今の動き・・・・・・!!!!」

 

それを見たアキラは嬉しそうな顔を浮かべながらその男性と女子高生の元へと駆け寄り、アキラは男性の肩に両手を乗せる。

 

「君ぃ~!! 良いもの持ってるねぇ!! そこの娘は君の妹かい?」

「え、えぇ・・・・・・そうですけど」

「ちなみに妹さんはアイドルとか目指してたりしてたりしない!!? もしくは部活動でそういう活動してたりとか!! あと、君達の名前は妹『ほのか』で兄が『もみじ』だったりしない!?」

 

早口でそう質問してくるアキラに戸惑いつつも女子高生の少女は「い、いえ!! 全然違います」と戸惑いながらも首を横に振り、それを聞いて少し残念そうにするアキラ。

 

「そうかぁ~。 でもまあ大丈夫!! お兄さん、君は私の中で十分ベストマァーッチ!! したからね!!」

「は、はぁ・・・・・・」

「君の力、お借りします!!」

 

 

 

 

 

 

 

翌日、学校の昼休みの中庭にて。

 

そこではベンチに座って今日の昼食であるカレーパンを春木と良が2人で食べているところだった。

 

「なんだテレビのあの言い方は!! 街を守ったのは俺達なのに!! 俺達まで凶暴な巨大生物扱いなんて!!」

「落ち着けよ、良。 そんなの他の人達は知る由がないだろう?」

「しかし・・・・・・!!」

 

良はテレビで自分達まで怪獣と同列扱いされていることに不満を感じるのだが、春木はそんなこと他の人達は知る由もないのだから仕方がないと割り切り、春木は良に落ち着くように言う。

 

「でも俺達、怪獣から街を救ったんだぞ? ヒーローじゃないか。 世の中にウルトラマンだと宣言しよう!」

「そんなことしたら家族や友人に迷惑がかかるだろ! それにヒーローというのは普通そういうものだ。 誰にも理解されなかったり、孤独だったり」

 

そんな春木の言葉に良は「そうだろうか」と首を傾げる。

 

「頭の良いお前ならそれは家族に迷惑をかけることだって分かるだろ? それにそんなことをすれば捕まって人体実験されるのがオチだ!!」

「だが、俺達が活躍したから街は守られたと訴えれば良いだろ!!」

「この前のあの怪獣、あれが最後の一匹とは限らないだろ!! 正体を明かせば、俺達は負けるのは許せなくなるぞ!!」

 

春木に強くそう言われ、良は以前の戦いもギリギリの戦いだったことを思い出し、口ごもる良。

 

「あんな巨大生物に勝ち続けるなんて、俺達そんな重い責任背負えるか?」

「・・・・・・」

 

春木は良の肩に手を乗せ、そんな彼の言葉に、黙り込み、顔を俯かせる良。

 

しかし、良は拳を握りしめて春木の腕を振り払う。

 

「でも!! 俺達がやらなくちゃいけないだろ!! 何時も気合いと根性の兄貴はどこ行ったんだ!!? 見損なったぞ兄貴!!」

 

良はそう言ってどこかへと走り去って行き、途中、東郷と一緒に近くを通りかかった友奈が良の姿を見て「おーい!!」と手を振るのだが、良はそれに気づかず通りどこかへと行ってしまうのだった。

 

それを見て東郷は口に手を当て、驚いた表情を浮かべる。

 

「良くんが友奈ちゃんに気づかないなんて・・・・・・珍しいわね?」

「うーん? なにかあったのかなぁ? 良くん? なんか思い詰めた顔してたし」

 

そこで東郷が春木の存在に気づき、友奈に車椅子を押して貰って2人は春木の元へと駆け寄る。

 

「春木先輩、良くんとなにかあったんですか?」

「東郷、友奈・・・・・・」

「兄弟喧嘩ですか先輩?」

 

東郷と友奈が心配そうに春木に尋ね、そんな2人に春木は笑って誤魔化すように「なんでもないよ」と言うのだが、東郷には「嘘ですよね?」と言葉を返され、春木は困ったような表情を浮かべる。

 

「あぁ、まあ友奈の言う通り、兄弟喧嘩・・・・・・かな?」

「何があったのか分からないけど、喧嘩はダメだよ先輩!!」

「そうね、友奈ちゃん。 先輩、私達で相談に乗れることがあったらなんでも言ってください。 部員の悩みを解決するのも、勇者部の活動ですから!」

 

そんな2人の気遣いと言葉に、春木は嬉しくなり、彼は「俺は良い後輩に恵まれてるなぁ」と東郷と友奈の頭を撫で、春木は「ありがとうよ」と2人にお礼を言うのだった。

 

「けど、しばらくちょっと1人で考えたいこともあるから、また今度お願いするよ」

「そうですか・・・・・・」

「でも、2人の気遣いはホントに嬉しいよ。 さて、そろそろ授業だ。 教室に戻らないと」

 

春木にそう言われ、友奈と東郷は「そうですね」と頷き、友奈と東郷は2年、春木は3年の自分の教室へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の授業・・・・・・。

 

春木と風は同じクラスであり、隣同士の席である。

 

2人は他の生徒達と一緒に今日も普通の授業を受けていた。

 

しかし、不意に風の持っているスマホから音が鳴り響き、その音を聞いた瞬間、風は目を見開き、慌ててスマホを取り出す。

 

「あっ? おいおい風、スマホの電源切っておかないとダメだろ?」

 

隣の席の春木と授業を行っていた教師がスマホの電源を切っておくようにと注意するのだが、風はまるで話を聞いておらず、春木は風の様子がおかしいことに気づいて首を傾げた。

 

「風?」

「まさか・・・・・・そんな!! 私達が・・・・・・!!?」

 

次の瞬間、世界は一部の人間を除いて時間が突如として「停止」した。

 

その停止した世界で動けるのは「勇者アプリ」というものをスマホに入れていた友奈、東郷、風、樹だけ・・・・・・の、「筈」だった。

 

例外がいたのだ。

 

その世界でも他に動ける人間が、2人・・・・・・それが、春木と良の2人である。

 

「おいおい、みんなどうしちまったんだ!? なんでみんな動かなく・・・・・・!?」

「春木!? アンタなんで動けるの!!?」

「はぁ!? おい風、お前この状況なにか知ってるのか!?」

 

春木の問いかけに、風は戸惑いつつも「えぇ」と首を縦に頷かせるが・・・・・・。

 

今は説明している暇はないと春木に言い、兎に角先ずは自分達の妹と弟、樹と良の元に駆けつけるのが先決だと風は春木に言い、それに春木も渋々ながら承知し、2人で1年の教室へと急いで向かう。

 

「兎に角!! あとでちゃんと説明して貰うからな風!!」

「勿論そのつもりよ!!」

 

1年の教室へと向かうと、丁度樹と良が戸惑いながらも教室から出てきているところで風と春木はすぐさま2人に駆けつける。

 

「兄貴!! どうなってるんだこれは!?」

「分からん・・・・・・!! 風が何か知ってるみたいだけど・・・・・・」

 

一方で風は樹の肩に左手を、頭に右手を乗せ、「樹、よく聞いて?」とあることを伝える。

 

「な、なにお姉ちゃん?」

「私達が、『当たり』だった」

 

次の瞬間、世界は眩い光に包み込まれ、気づいた時には風、樹、春木、良・・・・・・そして2人と離れた位置にいた友奈と東郷は見渡す限り植物のようなものしかない白い世界が広がっていた。

 

「なんだこれは!? 凄いな!! まさかまたこんな不思議体験ができるとは思わなかったぞ!!」

「良!! この状況でなにはしゃいでんだ!!?」

「うるさい!! そんなの俺の勝手だろ兄貴!!」

「なっ、なんだお前その言い方!!」

 

口喧嘩をする良と春木に風は「こんな時に2人とも喧嘩しない!!」と強く注意され、春木と良は「すまん」「すいません」と謝罪。

 

兎に角、今は友奈と東郷と合流するのが先決だと風は3人に伝え、春木は「2人の居場所が分かるのか?」と尋ねると風はスマホを春木に見せるとそこには風達や友奈達の今いる場所の位置が記されており、風はこれを使って友奈と東郷を見つけることを一同に伝えた。

 

「画面を見ると、結構近くみたいね。 みんな行くわよ!」

 

風に言われた通り、彼女について行くとしばらくしてから無事、友奈と東郷と合流。

 

合流するや否や、突然の出来事に不安だったのか友奈は泣きながら風に抱きついてきた。

 

「ふぅ、なんとか会え・・・・・・」

「わー!! 風先輩!! 春木先輩!! 樹ちゃんに良くん!! えっと、なんで!? なんで4人ともここに!?」

 

また風達の姿を見て東郷も「ふぅ」と安堵の溜め息を吐くのだった。

 

「不幸中の幸いかな? 2人ともスマホを手放してたら見つけられなかった」

 

そんな風の言葉に、友奈と東郷は「えっ?」と首を傾げる。

 

それから一同は場所を少し移動した後、風は友奈達を探すのに使ったアプリの隠し機能のことを教え、風が言うにはその隠し機能はこの事態に陥った時に自動的に機能するようになっているというのだ。

 

「このアプリ、部に入った時に風先輩にダウンロードしろって言われたものですよね?」

 

東郷のその疑問に風は少し暗い表情を浮かべながらも「えぇ」と頷き、そう答えた風に対し、東郷は「先輩は何か知ってるんですか?」と尋ねる。

 

「・・・・・・」

 

風は一瞬、樹を見た後、少しだけ間を開けて口を開く。

 

「みんな、落ち着いて聞いて? 私は・・・・・・大赦から派遣された人間なの」

「えっ、大赦って・・・・・・神樹様を奉っているところですよね?」

「なにか、特別なお役目なんですか?」

 

友奈と東郷が尋ねると風は「うん」と頷き、また春木はそれを聞いて風とは中学1年の頃からの付き合いだというのに風が大赦の人間だということを今知って驚いた表情を浮かべていた。

 

「ずっと一緒だったのに、そんなの初めて聞いたよ?」

(樹も知らないなら、俺が知らないのも当然だよな)

「うん、当たらなければ、ずっと黙っているつもりだったからね。 でも、私の班が・・・・・・。 讃州中学勇者部が、『当たり』だった」

 

風曰く、今見えている世界は神樹によって作り出された結界であり、神樹によって選ばれた彼女達はこの中で敵と戦わなければならないというのだ。

 

当然『敵と戦う』なんてことを聞けば当然戸惑いを見せる者もおり、東郷や樹は特に不安そうな表情を浮かべていた。

 

「敵って・・・・・・この前現れた怪獣みたいなやつですか先輩?」

「まぁ、似たようなものね」

 

すると友奈が風からの説明を聞いてスマホの画面を見ると自分達に向かって「乙女座」と書かれた何かが接近してきていたのだ。

 

それを聞いて風は「来たわね」と呟き、一同が後ろを振り返るとそこには巨大な乙女座を模した怪物「ヴァルゴ・バーテックス」がこちらに向かって来ていたのだ。

 

「あれね、遅い奴で助かった。 アレはバーテックス、世界を殺すために責めてくる人類の敵」

「世界を殺すって・・・・・・」

 

風が言うにはバーテックスの目的はこの世界の恵みである神樹に辿り着くことであり、もし辿り着かせれば世界は死んでしまうというのだ。

 

また東郷は「どうして・・・・・・」っと自分達が神樹に選ばれたのか、疑問を口にし、それは大赦の調査で最も適性があると判断されたからだと風は答える。

 

それに対し、東郷は「あんなのと戦える訳ない!!」と弱音を吐くが、風はバーテックスと戦う方法はあると言い放つ。

 

「戦う意思を示せばこのアプリの機能がアンロックされて神樹様の・・・・・・『勇者』となるの!!」

「いや、ちょっと待て風。 そもそも俺と良のアプリは隠し機能すら使えないんだが・・・・・・」

「そりゃだって、本来神樹様に選ばれて勇者になるのは少女だけ。 アンタ達が樹海にいるのはイレギュラーなのよ」

 

春木の質問に風が答えると春木と良は顔を見合わせた後、互いに「はっ?」と首を傾げるのだが・・・・・・すぐに2人は自分達が樹海にいる理由に思い当たる節があることに気づいた。

 

そう、2人の持っているアイテム「ルーブジャイロ」だ。

 

もしかしたら神樹の力ではなくルーブジャイロの力で自分達はこの世界にいるのではないだろうかということを即座に理解した。

 

「勇者・・・・・・」

 

風の言う勇者になる為のアプリをスマホ画面に映し、友奈がそう呟いた直後のことだった。

 

東郷が何かに気づいて「みんな!!」と呼びかけ、彼女の視線の先を見てみるとそこにはヴァルゴが球体のようなものをこちらに向けて発射しているのが確認でき、良はルーブジャイロを構えてみんなの前に飛び出す。

 

「おい!! 友奈達の前でそれを使うつもりか良!!?」

「迷っている暇なんかないだろ、兄貴!! 俺だけでもやってやる!! オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!」

 

そして良は春木の制止を無視してルーブジャイロを構え、良は「ルーブクリスタルホルダー」からギンガクリスタルを取り出し、1本角を立てる。

 

「セレクト、クリスタル!!」

 

それからクリスタルを良はルーブジャイロの中央にセット。

 

『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは水!! 紺碧の海!!」

 

最後に良はルーブジャイロのトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! アクア!』

 

良は水に飲み込まれ、1本角の青い巨人「ウルトラマンブル アクア」へと変身を完了させる。

 

『シュア!!』

 

ブルへと変身した良はヴァルゴの放つ球体を両腕を交差してガードし、ブルは友奈達をヴァルゴの攻撃から守ることに成功する。

 

「良・・・・・・くん? 良くんが、変身した・・・・・・!?」

「じ、じゃあテレビでやってた巨人は、良くんだったの・・・・・・!!?」

 

当然、良が友奈達の目の前でブルに変身した為、彼女達はそれに驚き、また良がブルだったことから友奈はまさかと思い、春木の方へと視線を向ける。

 

春木はその視線に気づき、一瞬友奈と目が合うが・・・・・・すぐに逸らした為、友奈は春木があの2本角の巨人であることをほぼ確信したのだった。

 

「・・・・・・んっ? 東郷さん!?」

 

その時、友奈は身体を震わせ、目尻に涙を浮かべている東郷に気がつき、友奈は東郷の肩に手を置く。

 

「ダメ・・・・・・こんな・・・・・・! 戦うなんて、できる訳ない・・・・・・!!」

「東郷さん・・・・・・」

 

またそれを見たブルは春木達の方に振り返り、ブルは春木に「戦う気がないなら兄貴はみんなを安全な場所に連れて行け!!」と言い、その言い方に若干イラッとしつつも「分かった」と頷く。

 

『それから風先輩も逃げてください。 こんな奴、俺だけでも!!』

 

ブルはそう言って風の「待ちなさい!!」という言葉も無視してヴァルゴへと向かって駈け出して行き、大きくジャンプしてから勢いよくヴァルゴに拳を叩き込もうとするが・・・・・・。

 

ヴァルゴは複数の球体を発射し、それらが直撃したブルは途中で撃ち落とされ、地面に倒れ込んでしまう。

 

『ぐあっ!? やってくれたな!! 面白い形しやがって!!』

 

すぐに立ち上がったブルは右手から水流を発射する「アクアジェットブラスト」を発射し、ヴァルゴに見事命中し、怯んだところにすかさずブルはヴァルゴに向かって跳び蹴りを繰り出すのだが・・・・・・。

 

「危ない良くん!!」

 

スマホの敵や自分達の位置を知らせる画面に突如「強酸怪獣」「古代怪獣」と書かれた文字が表示され、地中から「強酸怪獣 リトマルス」「古代怪獣 ツインテール」という2体の怪獣がヴァルゴを守るように出現。

 

そしてリトマルスがこちらに向かって蹴りを放つブルの足を触手で絡ませ、地面に叩き落とす。

 

『ぐうう!?』

 

さらに倒れ込んだブルにツインテールがジャンプして何度も踏みつけ、ブルは悲痛の声をあげる。

 

『うあっ・・・・・・!!?』

「ギシャアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「なに、あれ・・・・・・。 あんな怪獣まで樹海に出て来るなんて・・・・・・私聞いてないわよ」

 

一方、風は自分達が戦う相手はバーテックスだけだと聞かされていたのに、バーテックスとは別に2体の怪獣が出現したことに驚きを隠せずにいた。

 

しかし、すぐに彼女はヴァルゴ、ツインテール、リトマルスの3体を相手にして苦戦を強いられるブルを見て彼に「逃げろ」と言われたが、風はブルに助太刀するためにも戦う決意を決める。

 

「友奈、春木、東郷を連れて逃げて」

「えっ・・・・・・。 でも、先輩!!」

「早く!!」

 

風に強く言われ、友奈は戸惑いつつも「は、はい!!」と答えて東郷の車椅子を押し、春木も「分かった」と言ってその場から立ち去る。

 

「お、お姉ちゃん・・・・・・」

「樹も一緒に行って!!」

 

それから風は樹もこの場から離れるように言うのだが、彼女はそれを「ダメだよ!!」と拒否。

 

「お姉ちゃんを残していけないよ!! ついて行くよ、なにがあっても・・・・・・!!」

 

目尻に涙を浮かべながらであるが、樹はそう力強く風に言い放ち、それを聞いて風は一瞬驚いた表情を浮かべた後、笑みを浮かべる。

 

「よし、樹、続いて!!」

「うん!!」

 

そして風はスマホにある「勇者」へと変身する為のアプリを起動させ、それと同じく樹も勇者アプリを起動させる。

 

すると風は黄色いオキザリスを模した服を纏った姿に。

 

樹は緑色の鳴子百合を模した服を纏った姿に変身し、それを見たヴァルゴは風と樹に先ほどと同じ球体を発射。

 

2人はそれをジャンプして避けるのだが、樹は予想以上のジャンプ力に驚いて悲鳴をあげてしまう。

 

「うわああああああ!!!!? これが!!?」

「そうよ! これが神樹様に選ばれた勇者の力よ!!」

 

風と樹はそのまま地面に着地するのだが、樹は慣れない力のせいで転んでしまうのだった。

 

目を回しながらなんとか立ち上がる樹だったが、その時突然目の前に緑の毛玉に葉のような触覚を生やしている可愛らしい姿の生物が現れ、それに彼女は「うわ!? なに? 可愛い!!」と驚く。

 

「この世界を守ってきた『精霊』よ。 神樹様の導きでアタシ達に力を貸してくれる」

 

そこへ再びヴァルゴは球体を風と樹に向かって発射し、風は「樹避けて!!」と樹に声をかけ、2人はジャンプして回避。

 

「うわああああ!!!!? ジェットコースター!!?」

「手をかざして戦う意思を示して!!」

 

風はそう言いながら青い犬のような姿の精霊「犬神」の力を使い、大剣を出現させてそれを手に持ち、リトマルスが振るって来た触手を大剣を振るって払い除ける。

 

また樹も風に言われた通り、戦う意思を示すと自身の精霊「木霊」の力により、右手首に花環状の飾りが現れ、そこからワイヤーを射出してヴァルゴの放って来た球体も切り裂く。

 

「な、なんか武器出たぁ~」

『先輩!! 樹ちゃん!? どうして・・・・・・!!』

 

ブルは自分に向かって来るツインテールを蹴り飛ばし、風と樹に攻撃を仕掛けるリトマルスを背後から掴みかかり、ツインテールの方へと投げ飛ばし、ブルは樹と風の元へと駆け寄る。

 

「3対1は卑怯だと思ってねー!! っていうか、アンタこそこの戦いが終わったらその巨人の力のこときっちりと説明して貰うわよ!! アタシもちゃんと説明するから!!」

「って危ない!!」

『ぐあっ!?』

 

その時、樹が叫ぶのとほぼ同時に背後からブルの首をツインテールが触手で締め付け、ブルは引き剥がそうとするのだがそこにヴァルゴからの球体での攻撃を受け、さらにリトマルスが自身の触手を使ってブルの両腕を拘束。

 

そのままリトマルスは自分とツインテールの触手に当たらないように身体の穴から強酸の泡を発射し、それを受けたブルは身体からバチバチと火花をあげ、苦痛に満ちた声をあげる。

 

「キシャアアア!!!!」

『ぐうううう!!!?』

 

さらに後ろからツインテールがブルの足首に噛みつき、動きを封じられ、為すがままにされてしまうブル。

 

「樹!! アイツ等の触手を叩っ切るわよ!!」

「う、うん!!」

 

それを見て風と樹はブルを拘束しているリトマルスとツインテールの触手を切り裂こうと攻撃を仕掛けるのだが、それを妨害するようにヴァルゴが立ち塞がり、球体を発射して襲いかかって来る。

 

「くっ!!」

 

風はその攻撃に対し、樹を後ろに下がらせて大剣を盾にしてなんとか防ぎ、一瞬の隙を突いて風は「今よ!!」と樹に声をかけると彼女は「うん!!」と頷いて風の後ろからジャンプして飛び出す。

 

「えーい!!」

 

樹は右腕からワイヤーを伸ばしてリトマルスとツインテールの触手の1つずつ切断することに成功し、触手の数が減り、力が弱まったところで足を噛んでいるツインテールをブルはどうにか振り払い、そのままツインテールの頭を踏みつける。

 

『シェア!!』

「グギャア!?」

 

それによりツインテールはブルから離れ、残ったリトマルスの触手もブルは両手で掴みあげ、フルスイングして投げ飛ばす。

 

「グルアアアアア!!!!?」

 

さらにブルは追撃しようとリトマルスに攻撃を加えようとするのだが・・・・・・そこでブルのカラータイマーが点滅を始め、力が少しだけ抜けてしまい、膝を突いてしまう。

 

その間に背後からツインテールが触手を鞭のように振るい、ブルの背中を叩きつける。

 

『うおっ!?』

「良!!」

 

風はブルの援護に向かおうと彼の元に駆け出そうとするのだが、それをまた妨害するようにヴァルゴが球体を発射して妨害。

 

彼女はなんとかその攻撃を避けるのだが、ヴァルゴは手を休めず、風や樹を球体を飛ばして攻撃してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、ヴァルゴ達から離れた位置まで避難した友奈達。

 

そして春木は友奈達を避難させることを完了させた為、自分も戦いに行こうと友奈に東郷を「任せるぞ」と言ってその場から離れようとする。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!! 春木先輩どこに行くつもりなんですか!?」

「っ・・・・・・それは・・・・・・」

 

しかし、春木は東郷の質問には答えず、彼はどこかへと走り去って行ってしまう。

 

「先輩!!」

「良くんが1本角の巨人だったから、もしかしてと思ったけど・・・・・・」

「えっ、どういうこと友奈ちゃん? まさか・・・・・・」

「そのまさかだと、私は思うな、東郷さん。 鈍い私でも流石に気づいちゃうよ」

 

友奈の言葉により、東郷も良がウルトラマンだったことから春木もウルトラマンなのではないかという考えが頭に過ぎり、また春木は今変身すれば確実に友奈達に正体がバレることは分かっているのだが・・・・・・。

 

「兎に角今は、やるしかないか・・・・・・」

 

やはり苦戦するブルや必死に戦う風や樹を黙って見ていることが出来ず、友奈達に確実にロッソの正体がバレるとは思うものの春木はルーブジャイロを構える。

 

「オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!」

 

そして春木はルーブクリスタルホルダーからタロウクリスタルを取り出し、それをルーブジャイロの中央にセット。

 

「セレクト!!」

『ウルトラマンタロウ!』

「纏うは火!! 紅蓮の炎!!」

 

それから春木はルーブジャイロのトリガーを3回引く。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! フレイム!!』

 

春木は炎に包まれ、赤い巨人「ウルトラマンロッソ フレイム」へと変身を完了させ、ロッソはすかさずブルに触手で攻撃を仕掛けようとするツインテールを跳び蹴りで蹴り飛ばす。

 

『兄貴!? 勝つ自信が無いんじゃなかったのか!?』

『今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!? それくらい、俺にだって分かる!!』

 

ロッソはブルにそう言ってツインテールへと駆け出していき、ツインテールは触手を振るうが・・・・・・ロッソはそれを掴みあげて力いっぱいにツインテールを引き寄せ、身体の中央部分にストレートキックを叩きこむ。

 

『デヤアア!!』

「グラア!!?」

 

またブルはリトマルスの放ってきた強酸の泡を避け、再び「アクアジェットブラスト」を放ち、リトマルスは直撃を受けてダメージを負い、後退る。

 

「グウウウ・・・・・・!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、友奈と東郷は遠く離れた位置でロッソとブル、風と樹の戦いを不安な表情を浮かべながら見守っていたのだが・・・・・・その時、自分のスマホに風から連絡が入る。

 

「あっ、風先輩!?」

『よし繋がった!!』

「風先輩大丈夫ですか!? 今戦ってるんですか!?」

 

風は樹と一緒にヴァルゴの放つ球体を避けながら、スマホで友奈に連絡を取っており、自分達の心配する友奈に対し風は「こっちの心配よりそっちは大丈夫!?」と尋ねられ、友奈は「は、はい!」と頷いて返事をする。

 

それを聞いて風はほっとした表情を浮かべると、彼女は静かに口を開く。

 

『友奈、東郷・・・・・・。 黙ってて、ごめんね?』

 

風はこんなことに友奈達を巻き込んでしまった責任を感じ、彼女は友奈達にそのことを深々と謝罪の言葉を口にするのだが・・・・・・。

 

そんな風に、友奈は・・・・・・。

 

「風先輩は、みんなの為を思って黙ってたんですよね? ずっと1人で・・・・・・打ち明けることもできずに。 それって・・・・・・それって、勇者部の活動目的通りじゃないですか!」

 

友奈のその言葉を聞いて、風と東郷はハッとした表情を浮かべる。

 

「風先輩は・・・・・・悪くない!!」

『ウルトラマンになると、耳もよくなるんだな。 そうだな、風は悪くない!!』

 

尚、ロッソとブルはウルトラマンになったことで得た超聴力で友奈と風の会話を聞き、ロッソは友奈の言葉に全面的に頷いて同意し、またブルはリトマルスを蹴り飛ばしながら友奈の言葉に少し泣きそうになっていた。

 

『うぅ、友奈さん天使か何かなのか? 戦闘中にちょっと泣きそうなこと言うのやめてくれ』

「ちょっ、なにアンタ達アタシと友奈の会話聞いてんのよ!!? なんか恥ずかしいでしょ!?」

 

ロッソとブルに友奈と会話を聞かれ、顔を真っ赤にする風。

 

だが、その間に風の後ろにヴァルゴが至近距離まで近づいており、樹が「お姉ちゃん!!」と叫びながら助けに行こうとするが間に合わず、ヴァルゴは球体を発射。

 

『風!!』

 

しかし、それをロッソが左手で受け止め、手から火花があがるがなんとか風へとの直撃を防ぐことができ、ロッソは慌てるように右拳でヴァルゴを殴り飛ばす。

 

『ぐぅ・・・・・・!? 大丈夫か風?』

「うっ、アタシはね・・・・・・。 ってアンタ、もしかして・・・・・・」

『この際だからバラすけど、春木だよ。 どうせもう隠してもしょうがなさそうだし』

 

それを聞いて風は「やっぱりそうなのか・・・・・・」と呟き、またそれを聞いた樹は「えええええ!!!?」と驚きの声をあげていた。

 

『諸々の説明はお互いに後な? ってあの眠そうな顔した怪獣どこいった?』

 

その時、ロッソはツインテールが姿を消していることに気づき、ロッソはリトマルスと戦うブルにツインテールの行方を聞くが・・・・・・ブル曰く、リトマルスの相手をしていてそんなことには気づかなかったらしい。

 

『まさか!!』

 

ロッソが友奈達の方へと振り返ると友奈達の目の前にいつの間にか地中に潜っていたらしいツインテールが地面から出現し、ツインテールは触手を振るって友奈と東郷を攻撃する。

 

「わああ!!?」

「きゃああ!!?」

 

友奈は東郷の車椅子を引いてどうにか避けることに成功したのだが、ツインテールは彼女達を追いかけ、それを見たロッソは急いで友奈達の元へと駆けつけようとする。

 

しかし、そうはさせまいとヴァルゴが球体を発射し、それによって風や樹を吹き飛ばし、ロッソの背中に直撃させると3人は地面へと倒れ込んでしまう。

 

「「わああああ!!!?」」

『ぐおおおお!!?』

 

そしてツインテールから必死に逃げる友奈と東郷はというと・・・・・・。

 

「友奈ちゃん!! 私を置いて、今すぐ逃げて!!」

 

東郷は突然、そんなことを友奈に言いだし、それを聞いて当然友奈は「なに言ってるの!?」とそんなことはできないと拒否。

 

「友達を・・・・・・! そうだよ、友達を置いていくなんてこと、絶対にしない!!」

 

すると、友奈は何かを決意したかのように一度そこで立ち止まり、自分達を追いかけてくるツインテールに拳を強く握りしめて振り返る。

 

「グルアアアアア!!!!」

 

そして迫り来るツインテールの巨大な顔を見て、強い恐怖を感じた東郷は涙目になり、身体を震わせる。

 

「大丈夫、私が・・・・・・東郷さんを守るから!!」

「ダメ!! 友奈ちゃんが死んじゃう!!」

 

しかし、どれだけ怖くても、それでも自分の大切な友人・・・・・・友奈が死んでしまうくらいなら、自分が囮になって犠牲になった方が全然良いと考え、東郷は友奈に逃げるように必死に訴えるが友奈は決してそこから逃げ出さなかった。

 

「嫌だ」

 

それどころか、友奈は逆にツインテールの方へと向かって走り出し、それが予想外だったのかツインテールは驚いた様子を見せたものの、ツインテールは触手を振るって友奈に攻撃を仕掛ける。

 

「ここで友達を見捨てるような奴は・・・・・・!! 勇者じゃない!!」

 

そしてツインテールの触手が友奈を叩きつけると、強い風が巻き起こって砂煙が舞い、それを見た東郷は友奈の名を叫ぶのだが・・・・・・。

 

逆にツインテールの触手が、何かに弾かれたのだ。

 

やがて砂煙が止むとそこには左手にスマホを持ち、拳だけが勇者に変身した友奈が・・・・・・立っていたのだ。

 

「嫌なんだ。 誰かが傷つくこと、辛い思いをするくらいなら!!」

 

そこでヴァルゴがツインテールを援護するように球体を発射して来るのだが、友奈はそれを今度は足部が勇者に変身しながら回し蹴りで蹴り飛ばし・・・・・・。

 

「みんながそんな思いをするくらいなら・・・・・・!!」

 

そして友奈はヴァルゴの放った球体による攻撃をジャンプして避け、友奈は桜を模した衣装の勇者へと変身を完了させ、彼女は真っ直ぐツインテールに向かって行き、それにツインテールは慌てて触手を振るい、友奈を叩き落とそうとする。

 

「私が・・・・・・!!」

 

だが、それを友奈は両手で掴みあげ、空中で身体を力いっぱいに回転させてフルスイングし、ツインテールを地面へと投げて叩きつける。

 

「頑張る!!」

「グアアアア!!!?」

 

さらに友奈はツインテールを踏み台にして高くジャンプし、ヴァルゴに真っ直ぐ向かい・・・・・・強烈なパンチをヴァルゴに叩きこむ。

 

「勇者ぁ!! パーンチ!!!!」

 

友奈はそのパンチでヴァルゴの身体の一部を吹き飛ばし、それを見て風は思わず「凄い・・・・・・」と呟く。

 

「勇者部の活動は、みんなの為になることを勇んでやる!! 私は、讃州中学勇者部、結城 友奈!! 私は、勇者になる!!」

 



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第3話 『勇者部五箇条』

ホントはラブオーブ更新する予定だったんですが、ゆゆゆい3周年、五周年を記念して発表された勇者部五周年五箇条がボリュームアップしたと聞いたので既に3話は完成していたこともあり記念に更新。
次回こそはラブオーブ更新するつもりではあります。



前回の戦いで・・・・・・ヴァルゴ・バーテックスの身体の一部を破壊することに成功した友奈だったが、ヴァルゴの身体は即座に再生。

 

それを見たブルはリトマルスに掴みかかりながら驚きの声をあげた。

 

『あいつ、再生した!!』

「ギシャアア!!」

 

またリトマルスは身体を激しく左右に動かして突き飛ばし、すかさず強酸を吐き出すが・・・・・・ブルは自分の前方に円形状のバリア「アクアミラーウォール」でリトマルスの強酸を防ぎ、強酸を反射させるのだが・・・・・・。

 

リトマルスは素早い動きをそれを躱し、1本の触手を振るってブルの顔に叩きつける。

 

『ウアッ!?』

「良くん!!」

『こっちは大丈夫!! あのイカ野郎を頼みます友奈さん!!』

「えっ、イカなのアレ!?」

 

そんなやり取りを行う2人に対し、ロッソと風から「そこは今どうでも良いから!!」とツッコまれる。

 

それから友奈は風に再生するヴァルゴをどうやって倒せば良いのかを尋ね、風曰くバーテックスはダメージを与えても回復するらしく、完全に倒すには「封印の儀」という特別な手順を踏まないとダメらしいのだ。

 

「て、手順ってなにお姉ちゃん!?」

「攻撃を避けながら説明するから避けながら聞いてね!!」

「またそれ~!? ハードだよ~!!」

 

樹の言う通り結構ハードなことではあるが、今はそうするしかないと樹と友奈は風に言われた通り、ヴァルゴの放つ球体を避けながら彼女から封印の義の説明を受けることに専念。

 

また離れた位置で戦いを見守っていた東郷はというと・・・・・・勇者アプリを起動させつつ、一応スマホは手に持っていたのだが・・・・・・。

 

やはり恐怖心から変身することも、怖くて戦おうとすることもできず、東郷はただただみんなの戦いを見守ることしかできないでいたのだ。

 

「みんな・・・・・・友奈ちゃん」

 

そんな彼女に、起き上がったツインテールが触手を振るって来たのだが・・・・・・。

 

『東郷!!』

 

それをロッソが左手で受け止め、ツインテールの中央部に右拳を叩き込んで東郷からツインテールを引き離す。

 

「はる・・・・・・き、先輩?」

『・・・・・・やっぱバレてるか。 そうだよ、春木先輩です』

「・・・・・・ごめんなさい、先輩。 私、やっぱりダメ・・・・・・戦うなんて、できない・・・・・・!』

 

東郷は申し訳無さそうに顔を俯かせ、膝を突つきながらロッソは「東郷・・・・・・」と心配そうに呟きながら彼女に視線を降ろす。

 

『いきなり戦えなんて普通は無理さ、それが当然だ。 だから気に病むことなんかない』

 

ロッソは「ふぅ」と一息つくと再び立ち上がる。

 

『戦えなくて良い。 俺も似たようなもんだからな。 でも、勝ち続ける自信が無くても、取りあえず今は俺がお前を守るくらいはしてやるさ・・・・・・!』

「先輩・・・・・・」

 

ロッソはそう言い放ちながら東郷に頷き、ロッソの中の春木は「大天狗クリスタル」を取り出すとクリスタルを春木はルーブジャイロに新たにセット。

 

『セレクト!!』

『大天狗!』

『纏うは翼!! 剣撃の嵐!!』

 

そして春木は3回トリガーを引き、右手を掲げるとロッソは大天狗の力を宿した「ウルトラマンロッソ ダイテング」へと姿を変える。

 

『ウルトラマンロッソ! ダイテング!!』

『テヤアア!!!!』

 

ダイテングへと姿を変えたロッソはツインテールの振るって来た最後の触手を手刀で切り裂き、そのまま駆け出して手刀でツインテールの身体を連続で斬りつける。

 

『シェア!!』

「キシャアアア!!!!?」

 

さらにロッソは後ろ回し蹴りをツインテールに喰らわせて蹴り飛ばし、続けざまに両腕を振るって放つ光の刃をツインテールに向かって飛ばし、それを受けたツインテールは火花を散らす。

 

「グルアアアア!!!?」

『このまま気合いと根性入れて行くぜぇ!!』

 

その頃、友奈達はヴァルゴを封印するための準備を行うため、友奈と樹は風の指示でヴァルゴを囲むように走って移動。

 

しかし、ヴァルゴはそうはさせまいとヒラヒラとした腕のようなものを伸ばして友奈に攻撃を繰り出すが、彼女はなんとかそれをジャンプして回避。

 

3人が定位置に辿り着くとヴァルゴの攻撃を弾きながら手順二、『敵を押さえ込むための祝詞を唱える』を彼女達は行おうとするのだが・・・・・・祝詞はやたら長く、それを見て友奈は一瞬「うっ」と声を唸らせる。

 

「こ、これ全部唱えるの~?」

「えっと、かくりよのおおかみ、あわれたまい」

「めぐみたまい、さきみたま、くしみた・・・・・・」

「大人しくしろおおおおおお!!!!!」

 

樹と友奈がそれぞれ祝詞を唱えるのだが・・・・・・そこで風が叫びながら大剣を地面に叩きつけると、ヴァルゴの周りに円形の光が囲むようにして現れ、友奈と樹は当然それを見て「それで良いの!?」とツッコミを入れる。

 

だが、風が言うには用は魂さえ籠もっていれば言葉は問わないらしく、樹から「早く言ってよ~」と文句を言われる。

 

すると封印の儀を行ったことでヴァルゴの身体から三角状の物体が出現。

 

「な、なんか出たー!?」

「封印すれば『御霊』が剥き出しになる!! あれはいわば心臓!! 破壊すればこっちの勝ち!!」

 

風の説明を受け、「それなら私が行きます!!」と跳び上がった友奈が御霊に拳を叩き込むのだが・・・・・・あまりの硬さに彼女は「いたーい!!?」と泣きながら手をさする。

 

「・・・・・・ねえお姉ちゃん、なんか数字減ってるんだけどこれなに?」

 

そこで樹がヴァルゴの足下(足ないけど)にある浮かび上がった減り続ける数字は何かを風に尋ねるとそれは自分達の残りのパワー残量の表示らしく、0になるとバーテックスを押さえつけることができなくなり、倒すことも不可能になってしまうというのだ。

 

「ふえええ・・・・・・っと言うことは・・・・・・」

「こいつが神樹様に辿り着き、全てが終わる!! 友奈代わって!!」

 

そこへ風は友奈と交代し、友奈はヴァルゴの押さえつけ、風は御霊の破壊を行うのだが・・・・・・。

 

やはり堅いのか風の全力で振るう大剣でも御霊はちょっとやそっとでは中々破壊することができないでいた。

 

「くっ、いきなりまずいかな・・・・・・! ならばあたしの女子力を込めた渾身の一撃をおおおおお!!!!」

 

風はヴァルゴを踏み台にしつつ、通常よりも高く跳び上がってそこから一気に急降下し、大剣で御霊を斬りつけると・・・・・・僅かながらにヒビが入るのだが、風はそのまま地面に落下。

 

「風先輩!! はっ・・・・・・」

 

その時、周りの樹海の木々が突然枯れ始め、それを見た風は「始まった・・・・・・!」と冷や汗を流す。

 

「長い時間封印していると樹海が枯れて現実世界に悪い影響が出るの!!」

 

それを聞き、友奈がヴァルゴの足下の残りを時間見ると既に封印できる時間まであと僅かであり、時間がないと思った友奈はここは自分がとヴァルゴの御霊に向かって跳び上がる。

 

(痛い! 怖い・・・・・・でも!!)

「大丈夫!!」

 

友奈はそう叫びながら拳を構え、御霊の風がつけた傷に向かって拳を炸裂させ、御霊は粉々に砕かれ、破壊され・・・・・・ヴァルゴの身体は砂へと変わるのだった。

 

「どうだぁ!!」

「友奈ぁー!! やったね! ナイス友奈!!」

 

地面に着地した友奈に向かって風が抱きつき、その後彼女の手を握るのだが・・・・・・先ほどほぼ連続で御霊を殴ったせいで手をかなり痛めており、手を握られた彼女は「いたたた!?」と目尻に涙を浮かべ、風は謝罪しながら慌てて手を離す。

 

一方、ブルはリトマルスの強酸を受けない為に背後に回り込んで身体に掴みかかり、持ち上げるとそのまま地面に強く投げて叩きつける。

 

それによって地面を転がるリトマルスだったが、すぐに起き上がりブルに向かって強酸を身体から吐き出し、攻撃を仕掛けるがブルがそれをジャンプして躱しながらリトマルスに跳び蹴りを喰らわせ、それを受けたリトマルスは蹴り飛ばされる。

 

『お前の攻撃パターンは大体読めて来たぞ!!』

 

しかしそれでもリトマルスは触手を振るったり等して攻撃をして来るのだが、ブルはそれを両手で掴んで力いっぱい引っ張って引き千切り、ブルは空中に飛んで回転しながらかかと落としをリトマルスの頭上(?)に叩き込んでダメージを受けたリトマルスは後退する。

 

『攻撃パターンは読めてると言った筈だ!!』

 

腕をL字に組み、水のパワーを宿した必殺光線「アクアストリューム」をブルは放ち、直撃を受けたリトマルスは倒れて爆発四散するのだった。

 

『アクアストリューム!!』

「キシャアアアアア!!!!?」

 

またロッソは東郷を守りながら手刀でツインテールの身体を斬りつけ、ツインテールはリトマルスが倒されたことを確認すると分が悪いと判断したのか・・・・・・ツインテールは急いで地面の中へと潜り、逃げようとする。

 

『あっ、待てこの野郎!! 逃げるな卑怯者!!』

 

ロッソは逃げようとするツインテールの身体を掴みあげて引っ張り上げ、空中へと放り投げる。

 

『うおらあああああ!!!! んでもってセレクト!!』

『ウルトラマンロッソ! フレイム!』

『これで決める!! フレイムスフィアシュート!!』

 

ロッソはフレイムへと戻り、十字に組んだ腕から炎のエネルギーを集約した光弾を発射する「フレイムスフィアシュート」をロッソはツインテールへと放ち、直撃を受けたツインテールは空中で爆発し、粉々になって倒されるのだった。

 

『はぁ、はぁ・・・・・・疲れたぁ~』

 

それからロッソとブルは変身を解いて元の姿へと戻り、その時、敵がいなくなったことで樹海で桜吹雪が吹き始め、それに春木は「なんだ!?」と驚くが・・・・・・次に一同が気づいた瞬間には・・・・・・。

 

一同は屋上になぜか立っており、そこでは何時もと変わらない、普通の町の風景が広がっていたのだった。

 

「あ、あれ? ここ学校の屋上?」

「神樹様が戻してくださったのよ」

 

友奈の疑問に風がそう答える。

 

すると友奈は少し離れた位置で無事な姿の東郷を発見し、「東郷さーん!」と友奈は春木と一緒にいる東郷の元へと駆け寄る。

 

「東郷さん、無事だった? 怪我はない?」

「友奈ちゃん・・・・・・。 春木先輩が守ってくれたから。 ありがとうございます」

「そうなんだ。 ありがとうございます、春木先輩!!」

 

友奈と東郷からお礼を言われ、春木はそれに戸惑いつつも「お、おう」と照れ臭そうに答え、またそれを見た良は少しだけムっとした表情を浮かべていた。

 

「友奈ちゃんこそ、大丈夫だった?」

「うん! もう安全、ですよね?」

 

友奈が風に尋ねると彼女は「そうね」と頷き、次に彼女はそこから見える町の風景に視線を向け「ほら見て」と言うと一同は風に言われた通り、町の風景を眺める。

 

町は何も変わらない、なんの変哲もない町があった。

 

「みんな今回の出来事気づいてないんだね」

 

そう樹が呟き、風はそれに頷くと彼女曰く普通の人からすれば今日は普通の日なのだそうだ。

 

「あたし達が守ったんだよ、みんなの日常を」

「良かった・・・・・・」

 

風からその言葉を聞いて友奈はほっと一安心するのだが・・・・・・そこで1つ疑問に思ったことを良が風に尋ねる。

 

「ところで俺達、時間が止まった後にあの樹海とか言う場所に来ましたけど・・・・・・今とか一体どういう感じになってるんですか?」

「あー、多分今は諸に授業中だと思う」

 

それを聞いて当然春木達は「えぇ!?」と「ヤバい」という感じの驚きの声をあげ、春木はそっと樹に耳打ちする。

 

「お前の姉ちゃん緊急事態だとしても先に言えって感じの説明多すぎない?」

「あはは、すいません・・・・・・」

「アンタ等なんかあたしに失礼なこと言ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほど、樹が呟いていた言葉を覚えているだろうか?

 

『みんな今回の出来事に気づいていない』という言葉。

 

確かに普通ならば彼女等以外に樹海で戦いに気づく者はいなかっただろう。

 

しかし、春木達ウルトラマンや、友奈達勇者以外にもいたのだ。

 

樹海での戦いを覗き、それを知る人物が・・・・・・それがアイゼンテック社長の「愛染 アキラ」であり、アキラは愛染の秘書AI「ダーリン」を使い、樹海での戦いを記録していたのだ。

 

通常、樹海用に特殊に作られたものでもない限り、樹海の景色を写真や録画などで撮影することはできないのだが・・・・・・。

 

アキラは独自にその特殊な撮影機能をダーリンに搭載しているため、ダーリンは樹海にも行けるし、樹海での撮影を行うことに成功したのだ。

 

勿論、神樹に勘付かれないようにも気をつけている。

 

そしてアキラはダーリンの帰還を社長室で出迎え、ダーリンの映した記録映像をアキラに観せる。

 

『樹海での撮影、成功しました~』

「なぁ~るほど~、私もこうして樹海を見るのは初めてだ。 しっかし、あの2人のウルトラマン共はまだまだだな。 戦い方がなっていない!!」

 

椅子に座りながらアキラはロッソとブルの戦う映像を見ながら怪訝な表情を浮かべて、次に勇者達の戦う様子を見せる。

 

「それにしても、勇者か・・・・・・。 まだいたいけな中学生の女の子達ばかりだと言うのにあの兄弟よりも上手く戦えているようにも見えるのは気のせいか? いずれかしこい!! かっこよく!! なった私が樹海で共に戦う日が来るまで・・・・・・是非とも頑張って貰いたいものだ。 ファイトだよ!」

 

するとアキラは窓の外を見つめつつ、彼は鼻歌を歌うのだった。

 

『それなんて歌ですか?』

「スノハレ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが終わり、学校の放課後。

 

風は今日あった樹海での戦いを大赦に報告しなくてはいけないのだが、ロッソとブルについてどう話すべきか彼女は教室の隅っこでそのことについて春木と一緒に話し合っていた。

 

「出来れば、大赦にも正体は隠して置いて欲しいんだけど・・・・・・」

 

自分達がウルトラマンになった経緯などは明日部室で話すとして春木としては大赦にも正体を隠しておきたいところなのだが、一緒に風と教室から消えていることや戻って来た時も彼女等と一緒だったことなどからその辺の誤魔化しは難しいかもしれないと2人は考え、どうすれば良いかと思い悩む。

 

「まぁ、怪獣が現れたのも予想外の出来事だし、それと一緒に戦ってくれたんだから、大赦も悪いようにはしないでしょう。 一応、正体は言わないようにはするけど」

「悪いな、頼むよ」

 

春木は頭を下げて風にお礼を言い、風も「できる限りのことはしてあげるわ」と答え、それに春木は頷くのだった。

 

ちなみに、風的にはどう説明するのかと言うと・・・・・・。

 

「今回、私達が勇者として初陣した際、バーテックスのみならず2体の怪獣が出現し、それをテレビでも映っていた2人の巨人が助けてくれました。 何者なのか分かりませんが、私達と同じく南 春木と南 良も教室から消えていたらしく、彼等が2体の巨人なのではと思いますがハッキリしたことは私にも分かりません。 取りあえず、教室から私達が消えた件などについては一応南兄弟共々学校にフォローをお願いします」

 

という感じの文章で報告をするつもりらしい。

 

「これ殆ど俺達がウルトラマンだって言ってない? 絶対大赦に探り入れられそう」

「でも他に説明のしようがないじゃない・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、翌日。

 

勇者部一同は南兄弟と風の勇者に関する質問などは翌日、学校の放課後に部室ですることとなり、今は部室。

 

先ずは南兄弟の説明から行うことに。

 

「つまりだな! あのグルジオ様みたいな怪獣がズドーンッと現れて俺達に火がババーッとなったらそしたらピカーッと光ってそれでギュインギュインのズドドドドって感じでウルトラマンになった訳だ」

 

なったのは良いのだが、春木に任せると擬音ばっかりで全く説明になっておらず、風は良に視線を映し、彼に質問を求める。

 

「えっとだな、この前東郷さんと友奈さんと一緒に動画にあった怪物を興味本位で探しに行ったんだ。 そしたら本当に出てきてそいつが火を俺達に吹いて来た。 でっ、気づいたら白い空間にいてこのルーブジャイロっていうのがあってそれを使って俺達は初めてウルトラマンに変身したんだ。 ザックリで申し訳ないですが大体こんな感じですね」

「成程ね。 ザックリでも春木より分かりやすいわ」

「だからそう言ってるだろ?」

 

なぜ自分ではなく良の説明の方に風が納得しているのか、春木は分からず首を傾げ、そんな春木に「いや、言ってないですよ」とすかさず樹がツッコミを入れる。

 

「正直、これが何なのかまだ俺達は何も分かってないんだ。 だから、まだ色々と聞きたいこともあるだろうけど、多分今言った説明以上にできるものはあんまりないと思う」

 

次に風が勇者についての説明を行うため、ボードに絵を描きはじめ、準備が整うまでは一同はお喋りしながら待つことに。

 

「なぁ、良・・・・・・」

「・・・・・・なんだ兄貴?」

 

昨日喧嘩したことの件をまだ怒っているのか、良は未だに春木に対して苛立った様子を見せており、春木は「ウルトラマンとしてこれからどうして行くのか」そのことについてもう1度春木は話し合おうとするのだが・・・・・・。

 

「あの話ならもういい」

「よくないだろ!! ちゃんと話し合わないと・・・・・・!!」

 

それに対して良はそっぽを向き、それを聞いて当然春木は「よくない」と良の肩を掴むのだが・・・・・・。

 

その様子を見ていた友奈の牛の精霊「牛鬼」を頭に乗せた友奈が「喧嘩はダメだよ2人とも!」と春木と良の2人の間に割って入る。

 

「友奈さん・・・・・・」

「もう、2人ともちゃんと仲直りしないとダメだよ?」

 

友奈にそう注意され、春木は「すまん」と謝るのだが・・・・・・良は顔を俯かせて黙り込み、そこで説明の準備を整えた風が「はい注目!」と声をあげ、一同は風とボードへと一斉に視線を向ける。

 

「さてと、みんな元気で良かった。 それじゃさっきの戦いのこととか、色々と説明していくわ」

「よろしくお願いします!」

「戦い方とかはアプリとかに説明テキストがあるから、今はなぜ戦うのかって話をしていくね」

 

そう言いながら風はボードに書いたデコボコとした謎の物体を「こいつバーテックス!!」と言いながら指差し、バーテックスは四国を囲んでいる壁の外から12体責めてくる存在でそのことが神樹のお告げがあったらしく、目的は神樹の破壊であるという。

 

「あっ、それはこの前の敵だったんだ」

「き、奇抜なデザインをよく表した絵だよね!」

(友奈、お前それ傷口抉ってるように見えるぞ)

 

風の絵にフォローを入れる友奈だが、あんまりそんな感じがせず、フォローになってないのではと考える春木。

 

取りあえず、風は説明を続け、以前にもバーテックスは襲って来たらしいのだがその時は頑張って追い返すのが精一杯だったらしい。

 

そこで大赦が作り上げたのが神樹の力を借りて「勇者」と呼ばれる姿に変身するシステムを作り上げたのだと風は棒人間のようなもの4人に赤い丸囲みながら話し、それを見て樹は「それ私達だったんだ・・・・・・」と目を丸くしながらツッコミを入れる。

 

「げ、現代アートってやつだよ~!」

 

すかさず再び友奈がフォローを入れるが、それに風は恥ずかしそうに頬を赤くし、それを春木は「やっぱり傷口抉ってるじゃん!!」と心の中で友奈に言い放つ。

 

「注意事項として樹海化が長引いたり、封印の義の時みたいに周りの木が枯れたりし始めると現実に戻った時に、何かの災いとなって現れると言われているわ」

 

それを聞いて友奈は教室でクラスメイトが「隣町で交通事故があった」という話をしていたことを思い出し、もしかしたらそれが風の言う「災い」なのかもしれないと考える。

 

「だからなるべくそうならないようにあたし達勇者部が頑張らないと!」

「・・・・・・その勇者部は、先輩が意図的に集めたメンツなんですよね?」

 

そこで今まで暗い表情を浮かべながら黙って風の説明を聞いていた東郷が、風に質問を投げかけ、それを受けて風は気まずそうな顔を見せる。

 

「うん・・・・・・。 春木と良は自分から入りに来てくれたけど、それ以外のメンバーはそうね、適正値の高い人は分かってたから。 私は、神樹様をお祀りしている大赦から使命を受けているの。 この地域の担当として」

「・・・・・・知らなかった・・・・・・」

「黙っていてごめんね」

 

風の言葉に対し、そう呟く樹に風は申し訳なそうな顔で大事なことを黙っていたことに謝罪する。

 

次に友奈が今度は敵は何時来るのかと尋ねるのだが、それは誰にも分からないことらしく、明日かもしれないし一週間後かもしれないのだと風はそう友奈の質問に答える。

 

ただ、次の襲撃事態はそう遠くはないだろうという予測は既にできているらしい。

 

「なんでもっと早く、勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか? 友奈ちゃんも樹ちゃんも、下手したら春木先輩達だってそのせいで死ぬかもしれなかったんですよ?」

「・・・・・・ごめん、でも勇者の適正が高くてもどのチームが神樹様に選ばれるか敵が来るまで分からないのよ」

 

東郷の厳しめの言葉に、風は暗い表情を浮かべながらもそう説明し、また風が言うには「むしろ変身しないで済む確率の方がよっぽど高い」のだという。

 

「そっか、各地で同じような勇者候補生が・・・・・・いるん、ですね?」

「うん、人類存亡の一大事だからね」

 

友奈の質問に風は答え、一通りの説明を終えた風だったが・・・・・・。

 

東郷はそれでも今まで彼女がこのことを黙っていたことに納得できないようだった。

 

「こんな大事なこと、ずっと黙っていたんですか・・・・・・!」

 

怒鳴るように東郷がそう言い放つと、彼女はそれだけを言い残し、顔を俯かせながら彼女は車椅子を動かして部室から出て行くのだった。

 

「東郷・・・・・・」

「あっ、私行きます!」

「俺も・・・・・・行って良いですか友奈さん?」

「うん、勿論!」

 

そんな東郷の後を友奈と良が追いかけ、春木はポンッと風の肩に手を乗せる。

 

「喧嘩すんのは、俺と良だけで良いってのになぁ?」

「春木・・・・・・」

「少なくとも、今は・・・・・・東郷には時間が必要なんだ。 もうちょっとだけ、落ち着ける時間がな」

 

そんな春木に風は「うん」と頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に飛び出し、そこで立ち止まったたたまま顔を俯かせている東郷。

 

するとそこへ、紙パックのお茶を買ってきた友奈がそっと後ろから「はい! これ私の奢り!!」と言いながら東郷に渡してきたのだ。

 

また友奈の後ろには「世話が焼ける先輩だ」とでも言いたげな顔をしながら良が立っており、そんな顔をする良に対し東郷は内心少しイラッとしてしまった。

 

ついでに「なんでお前が友奈ちゃんと一緒なんだ」とでも言いたげな顔になる東郷。

 

最も友奈が目の前にいるのですぐに表情を東郷は切り替えて視線を友奈に戻したが。

 

「で、でもそんな理由なんて・・・・・・」

 

東郷はお茶を渡してきた友奈に、自分は奢って貰うような理由なんてないと言うのだが・・・・・・そんな彼女の言葉を友奈は遮って「あるよ!」と断言する。

 

「だってさっき東郷さん私の為に怒ってくれたから! ありがとうね? 東郷さん!」

 

友奈は東郷にそう眩い笑顔を向け、そんな友奈の笑顔を見て東郷は少し頬を赤くして両手で頬を添える。

 

「あぁ、なんだか友奈ちゃんが眩しい・・・・・・!」

(友奈さんの笑顔が天使過ぎてホントに眩しいんだが、俺も・・・・・・!)

 

そんな東郷の言葉に対し「えっ? どうして?」と首を傾げる友奈。

 

「えっとね、私・・・・・・昨日ずっとモヤモヤしてたんだ。 このまま変身できなかったらこのまま勇者部の足手纏いになるんじゃないかって・・・・・・」

「そんなことないよ東郷さん・・・・・・!」

「だからさっき怒ったのも、そのモヤモヤを先輩にぶつけてたところもあって・・・・・・」

「つまり、自分へのイライラをつい風先輩に八つ当たりしてしまった訳だな?」

 

良の言葉に東郷は重苦しく頷き、彼女は「私、悪いこと言っちゃった」と風にキツく当たってしまったことを反省し、それに、良や友奈・・・・・・戦うことには未だに少し否定的な春木だって変身して戦ったというのに自分は勇者どころか敵前逃亡してしまったと少しずつ声を暗くしていきながら同時に元気を無くして行く。

 

「と、東郷さーん・・・・・・?」

「東郷先輩、このまま放っておくとやさぐれそうだな」

「風先輩の仲間集めだって国や大赦の命令でやっていたことだろうに・・・・・・はぁー、私はなんて・・・・・・」

「おいホントにやさぐれ寸前なんだが!? 元気を出してくださいよ!! いつもの奇天烈な東郷先輩はどこに行ったんだ!?」

 

そんな風にどんどん元気を無くす東郷。

 

「そうやって暗くなってたらダメー!!」

 

どんどん暗くなっていく東郷に慌てて彼女を元気づけようと「じゃあ私のお気に入りを見せてあげるね!」と言いながらメモ帳に挟んであった写真を友奈は取り出して東郷に見せる。

 

「これ見てたら凄く楽しくなるよー!! じゃじゃーん!! キノコの押し花~!! 凄いでしょ? トウモロコシの奴もあるよ!」

「・・・・・・うん、綺麗だね」

「・・・・・・」

 

そっぽを向きながら東郷は友奈に気を使い、良は呆れたような視線を友奈に向けていた。

 

(気を使わせてしまった!? しかも良くんからは冷ややかな視線が!?)

 

東郷のみならず、良にもスベってしまった為、友奈はならば「一発ギャグで勝負だ!!」と考えつき、胸に牛鬼を押し込めて見せる。

 

「ねえ見て!! 私のバストまるでホルスタイン~!」

「牛鬼貴様なんて羨ま・・・・・・そこ変われ」

「私の為に・・・・・・こんなネタを・・・・・・」

 

結局、友奈の一発ギャグを見ても東郷は元気にはならず。

 

「んっ? 良くん今なんて言ったの?」

「あっ・・・・・・いや、なんでもないです!! それよりも話の続きを!!」

 

一瞬キッと東郷に睨まれ、身の危険を感じる良だったが誤魔化すように話の続きをしようと東郷に言い、東郷は先ほどの良の発言が少々気になったが・・・・・・確かにそうだ、自分も友奈に聞きたいことがあるということで中断し、東郷は友奈にあることを尋ねる。

 

「ねえ、友奈ちゃんは大事なことを隠されていて怒ってないの?」

「・・・・・・そりゃ、驚きはしたけど、でも嬉しいよ。 その適正のおかげで風先輩や樹ちゃんと会えたんだから!」

「この適正の・・・・・・おかげ?」

「うん!!」

 

東郷の質問に、友奈はそう力強く答える。

 

「私は・・・・・・中学に入る前に事故で足が全く動かなくなって記憶も少し飛んじゃって・・・・・・学校生活を送るのが怖かったけど友奈ちゃんがいたから・・・・・・春木先輩達がよくしてくれたから不安が消えて勇者部に誘われてから学校生活がもっと楽しくなって・・・・・・そう考えると、適正に感謝だね・・・・・・」

 

友奈の言葉を受けて東郷はこの適正のおかげで勇者部に誘われ、毎日を楽しく過ごせているのだということに気づき、そんな東郷の両手を友奈は握りしめる。

 

「これからも楽しいよ! ちょっと大変なミッションが増えただけで・・・・・・」

「何事も前向きにってね。 俺も一緒に樹海でもみんなと戦います。 例え兄貴がいなくても俺が絶対そんな楽しい毎日を守ってみせます」

「そっか、そうだね! ありがとう、友奈ちゃん、良くん・・・・・・」

 

東郷は友奈と良に励まされてお礼を述べるのだった。

 

そんな時のことである。

 

「呼ばれてないけど飛び出てジャッジャーン!! 私、ヒナタです!!」

「「「おおぅ!!?」」」

 

いつの間にか一同の足下にまで忍び寄っていたヒナタが下から飛び出すようにして3人の中央から現れ、3人は当然目を丸くして驚く。

 

「ヒナタ!! なんでここに!?」

「この学校に入る許可は取りましたよ?」

「そういうことを聞いているんじゃない!!」

 

いきなり現れたヒナタに驚きつつも東郷は「あ、ヒナタちゃんなにかご用なの?」と尋ねるとヒナタ曰く昨日から喧嘩したままで今朝も全く口を聞いていなかった良と春木を仲直りさせる為、ヒナタは小学校の授業が終わってすぐさまここへと駆けつけて来たらしいのだ。

 

「そして今丁度良にぃの姿を発見したのでここに来た次第です」

「そんなの・・・・・・別に余計なお世話だ。 そんなことをする暇があるなら早く帰って宿題でもしてろよ」

 

良はそう言ってヒナタはさっさと帰って宿題でもやっているように言うのだが、そんな良の言い方にムッとした友奈が軽く良の頭にチョップした。

 

「友奈さん!?」

「ヒナタちゃん良くん達が心配で来てくれたんだよ!? なのにそんな言い方ないよ!!」

 

友奈はムスーッと頬を膨らませながら良を睨み付け、彼女にそう言われた良は少しばかり反省する。

 

「確かに、ちょっと今の言い方はキツかったかもだけど、ヒナタには関係ないことだし・・・・・・これは俺と兄貴の問題d・・・・・・」

「だまらっしゃい!!」

「むごっ!!?」

 

するとヒナタは良の言葉を遮るかのように持っていたあめ玉を三つ良の口の中に無理矢理押し込み、良は喋るのを中断されてしまう。

 

「それこそ関係ないです!! 大体、2人が朝も喧嘩していたせいで朝食を美味しく食べれなかったんですよ!! これで夜もとか冗談じゃないですよ!! さっさと仲直りしないとぶっ飛ばしますよ!!?」

「ちょっ、怖っ・・・・・・あんまり凄むなヒナタ。 怖いから!!」

 

物凄い勢いで睨み付けてくるヒナタを良はなんとかなだめようとするが、良が「春木と仲直りする」とハッキリ断言しない限り彼女はずっとガミガミ言い続けてやると言い放ち、それに良は困ったとでも言いたげな顔を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、部室では・・・・・・。

 

風は自分の精霊である犬神を東郷に見立てて頭を下げ、「ごめんなさい!!」と大事なことを黙っていたことを謝る練習をしており、また樹はタロットでどうやって風と東郷が仲直りするかを占っていた。

 

「えっとぉ~、説明足りなくてごめんね~♡」

「それもっと怒るやつだろ」

「だよね~。 って春木、アンタこそ弟と仲直りしなくて良い訳?」

「っ、それは・・・・・・」

 

風にそう質問され、口ごもる春木。

 

「アンタ等は何が原因で喧嘩してんの? 昨日からなんか揉めてるみたいだけど?」

「・・・・・・実は・・・・・・」

 

そこで春木は風に昨日の朝、良と喧嘩した原因についてのことを風、それと樹にも話し、それを聞いて彼女等は「成程」と納得した。

 

「なんだか、今のお姉ちゃんと東郷先輩の状況に似てますね」

 

樹の言う通り、東郷も春木もどちらも戦いへの不安が拭いきれない点などは似ているかもしれないと春木は感じ、「確かにちょっと似てるかもな」と苦笑しながら小さく呟く。

 

「負けることが許されないのはあたし達も同じだし、2人の気持ちはある意味どっちも正しい。 春木が戦いに不安を感じる気持ちだって分かるし、あたしだって怖いわ」

 

顔を俯かせながら、そう語り始める風。

 

「でもね、最初の戦いの時・・・・・・樹が一緒に戦ってくれるって言ってくれた時、ちょっとだけホッとしたの。 姉妹力を合わせれば・・・・・・なんとかなるんじゃないかって。 その後は友奈も来てくれて・・・・・・アンタ達もいてくれたおかげで不安も少しは和らいだわ。 勿論、樹達まで戦わせてしまうことには今も後ろめたさを感じているけど・・・・・・」

「勇者部五箇条、『なせば大抵なんとかなる』だよ。 お姉ちゃん、春木先輩!」

「風、樹・・・・・・」

 

樹の言う「勇者部五箇条」とは勇者部のモットーであり、分かりやすく言えば「ウルトラ5つの誓い」のようなものである。

 

そして今樹が言ったのは五箇条の1つ、「なせば大抵なんとかなる」というものであり、この他にも「挨拶はきちんと」「なるべく諦めない」「よく寝て、よく食べる」「悩んだら相談!」というものがある。

 

「ありがとう。 なんか元気出てきたよ。 もう1度ちゃんと良と話し合って・・・・・・仲直りしてみる」

「うんうん!! 分かればよろしい!!」

「でも風も東郷とちゃんと仲直りしろよ?」

「あははは、分かってるわよ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして・・・・・・どこかの場所。

 

そこではとある男性がジャイロに怪獣のクリスタルを装着し、男性は両端のレバーを引っ張る。

 

『ガルバラード!』

 

すると街に突如として空中から1体の怪獣・・・・・・「電磁怪獣 ガルバラード」が出現して街に降り立ち、ガルバラードは最初に目についたビルを腕を振るって破壊し、建物を破壊しながら歩き始める。

 

「グオオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

場所は学校へと戻り、怪獣が出現したことにより学校の警報が鳴り響き・・・・・・校内放送で怪獣が出現したことが今いる生徒達に知らされる。

 

「また怪獣が現れたというのか!? クソ・・・・・・!! 例え、俺1人でも・・・・・・!!」

「あっ、良くん!!」

 

良は唇を噛み締めながら出現した怪獣を倒す為に友奈が自分の名を呼ぶ声も聞かずに学校を飛び出し、ヒナタも慌てて「どこ行くんですかー!!?」と言って急いで良を追いかける。

 

「あっ、ヒナタちゃんまで!!」

「友奈ちゃん、私のことは良いから2人を早く追いかけて!」

「えっ、でもそれじゃ東郷さんは・・・・・・」

 

そこで東郷は友奈に早くヒナタと良を追いかけるように言うのだが、車椅子に乗っている東郷を1人で置いて行くなど彼女にできる筈がなかった。

 

「きっと良くんは怪獣を倒しに行ったんだわ。 そんな彼をヒナタちゃんが追いかけて行った・・・・・・つまり、今1番危ないのは良くんを追いかけて行ったヒナタちゃんかもしれないのよ!? 大丈夫、スマホで助けは呼べるから」

「・・・・・・でも」

「行って友奈ちゃん!」

 

東郷にそう力強く言われた友奈は「うん!!」と頷き、彼女は急いで良とヒナタの後を追いかける。

 

「全く、ヒナタちゃんや友奈ちゃんにこんな風に迷惑かけて・・・・・・後でお仕置きとして吊しておくべきね。 さっきの友奈ちゃんへの不純な発言のことも込みで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして良はガルバラードが暴れる場所へと辿り着き、例え自分1人でも怪獣を倒してやろうとルーブジャイロを構えるのだが・・・・・・周りには逃げ惑う人々で溢れており、良は流石にここでは人目がつくかと考え、彼は人気のないビルの真下へと移動する。

 

「よし、ここなら・・・・・・! オレ色に染め上げ『良にぃー!!』」

 

しかし、そこで自分を探しにやってきたヒナタの存在に気づき、良は「ヒナタ!?」と彼女の存在に驚いて変身するのを思わず中断してしまう。

 

「グルルルル・・・・・・!!」

「ヒナタ!! 逃げろぉ!!」

 

見ればガルバラードはすぐそこまで迫ってきており、良はヒナタに逃げるように言い放つのだが・・・・・それと同時にガルバラードは尻尾から電撃を良のいる建物へと放ち、その建物は電撃を受けて破壊されてしまう。

 

「うわあああ!!!?」

「はっ、良にいいいい!!!」

 

良は吹き飛ばされ、地面に激突するが・・・・・・幸いかすり傷程度で済むことができた。

 

しかし・・・・・・そんな良の身体の上には柱が彼を挟み込むようになって倒れ、良は身動きができなくなってしまう。

 

「ぐっ・・・・・・なんのこれしき!! ウルトラマンにさえなれれば・・・・・・!!」

 

良はウルトラマンになって柱を退かすため、ルーブジャイロを取り出そうとするのだが・・・・・・ジャイロは微妙に手の届かないところに落ちており、良は必死にその手を伸ばす。

 

「チクショウ・・・・・・!! ジャイロに手が届かん・・・・・・!!」

「良にぃ!!」

「良くん!!」

 

だが、そこへヒナタと友奈が駆けつけてくる。

 

「何をやってる!!? 2人とも早く逃げろ!!」

「嫌です!! 良にぃと一緒じゃないと!!」

「そうだよ!! 目の前で困ってる友達を置いていくなんてできないよ!!」

 

ヒナタと友奈は2人で必死になって柱を押し退かそうとするのだが・・・・・・流石に少女2人だけの力ではそう簡単に柱は上がらず・・・・・・。

 

勇者に変身できればこれくらい簡単に推し退かせることができるだろうが、勇者のことは一般人には秘密にしなければならない為、傍にヒナタがいるので友奈は変身することができなかった。

 

(それなら・・・・・・!)

 

ならばと思い、友奈はその辺にあった鉄パイプを持って来て柱を起こそうとするのだが・・・・・・やはり簡単には持ち上がらない。

 

「良にぃ!! 頑張ってください!!」

「ヒナタ・・・・・・友奈さん!! 俺のことは良い!! だから、早く逃げてくれ・・・・・・!!」

 

悲痛な顔を浮かべながら、良はヒナタと友奈に逃げるように言うのだが、彼女等は決して諦めようとはせず、なんとか柱を持ち上げようと必死に頑張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、怪獣の出現とそれを知って良が飛び出したことを東郷から聞かされた春木もまた怪獣が暴れる場所へと行っており、そこで良達の姿を探すのだが・・・・・・中々見つからず、悪戦苦闘していた。

 

「良のことだから、てっきりもう変身して怪獣と戦ってるものだと思ってたんだがな・・・・・・」

 

しかし、何時まで経っても良の変身するブルが現れる様子もない。

 

「何かあったのか? だとしたら早く怪獣を倒す必要があるかもしれないな。 ここは俺が!!」

 

戦いへの不安が消え去った訳では無い。

 

しかし、怪獣にまともに立ち向かえる力を持つのは良と自分だけ・・・・・・戦いへの不安だろうがなんだろうがその「自分達がやらなければ誰がやるんだ」という事実だけが彼を突き動かす。

 

その為、彼は抵抗なくウルトラマンロッソに変身しようとルーブジャイロを取り出すのだが・・・・・・。

 

それと同時に、良もまたなんとかルーブジャイロに触れることが出来たのだ。

 

「ッ!?」

 

すると春木の目に良のルーブジャイロを通して、今良が見ている光景・・・・・・友奈とヒナタが必死に良を助け出そうとしている姿が春木にも見えたのだ。

 

『もう良い!! 2人とも早く逃げてくれ!!』

『絶対に嫌です!! 今度余計なこと言ってみてください、口を縫い合わせてやります!! それに、お母さんも言ってたじゃないですか!! 『1人ではできなくても、2人ならできる』って!! 兄弟はいつでも、一緒に頑張るんです!!』

『そうだよ!! それに、友達だっている!! 困った時、友達に手を差し伸べられるのが友達なんだよ!! 勇者部五箇条!! 『なるべく諦めない』!! まだ私は・・・・・・諦めてなんかないんだからああああああ!!!!』

 

その光景を見て春木はハッとなり、周りの風景から良達がどこにいるのか分かった春木は急いで彼等の元へと向かって駈け出す。

 

「良!! ヒナタ!! 友奈!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・・・・ガルバラードが尻尾の先を良達に向けて電撃を放ち、直撃こそしなかったがその爆風によってヒナタと友奈は大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「「きゃあああああ!!!!?」」

「ヒナタ!! 友奈!!」

 

しかし、そんな彼女達を春木が見事にキャッチし、受け止めたのだ。

 

「春木・・・・・・先輩?」

「ヒナタを頼む」

 

ヒナタは先ほどの衝撃で気を失っており、春木はヒナタとは逆に気絶していなかった友奈にヒナタを任せて自分は良の元へと行き、鉄パイプを持って良の柱を持ち上げようとする。

 

「大丈夫か良!? ぐっ・・・・・・重っ!?」

「そりゃそうだ! 男の力でも兄貴はまだ中学生なんだから簡単には・・・・・・!!」

「知るかそんなことおおおおおお!!!!!! 気合いと根性でどうとでもなるわこんなもんんんんんん!!!!!」

 

春木は言葉の通り気合いと根性で柱をなんとか押し退かすことに成功し、良に手を伸ばすと彼はその手を掴んで立ち上がる。

 

「流石のバカ力だな、兄貴・・・・・・」

 

引き気味に苦笑しながら立ち上がった良は「ありがとう、助かった」とお礼を述べ、春木はそんな良に対して笑みを浮かべる。

 

「俺はいつも気合いと根性・・・・・・らしいからな?」

「ふふ、そうだったな。 友奈さん!! ヒナタを連れて安全なところに!!」

「あいつは俺達が!!」

 

春木と良の言葉を受けて友奈は「う、うん!!」と頷いてヒナタを連れてその場から離れ、未だに街で暴れるガルバラードを睨み付ける。

 

「『兄弟はいつでも、一緒に頑張る』・・・・・・ヒナタが教えてくれたな、兄貴」

「あぁ、それに友奈や風達も教えてくれた。 俺達は・・・・・・たった2人じゃないって。 もう俺は恐れない、俺達の傍には家族がいる!! 友達がいる!! 何よりも・・・・・・お前がいる」

 

春木はそう言いながら良の肩にポンっと手を置き、良はその手を照れ臭そうに払いのける。

 

「気持ち悪いことを言うな、兄貴。 行くぞ?」

「あぁ!!」

「「勇者部五箇条!! 『なせば大抵なんとかなる!!』 オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!」」

 

そして春木と良の2人はルーブジャイロを構え、最初に春木がホルダーから「ウルトラマンタロウ」のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

タロウクリスタルの角を2つ立ててルーブジャイロの中央に春木はセット。

 

『ウルトラマンタロウ!』

「纏うは火!! 紅蓮の炎!!」

 

最後に春木はルーブジャイロのトリガーを3回引いて右腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! フレイム!!』

 

春木は炎に包まれ、赤い巨人「ウルトラマンロッソ フレイム」へと変身を完了させる。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

続けて今度は良がホルダーから「ウルトラマンギンガ」のクリスタルを取り出し、それをルーブジャイロにセットさせる。

 

『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは水!! 紺碧の海!!」

 

また春木と同様に良もルーブクリスタルのトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! アクア!』

 

良は水に飲み込まれ、青い巨人「ウルトラマンブル アクア」へと変身を完了させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ガルバラードの目の前にロッソとブルが降り立ち、2人のウルトラマンはファイティングポーズを取る。

 

『『シェア!!』』

「グルルルル・・・・・・!!」

 

ロッソとブルの姿を見るや否やガルバラードは2人に向かって突進を繰り出し、それに対して「ここは俺に任せろ!!」と言ってロッソがガルバラードの突進を受け止める。

 

『グウウウウウ・・・・・・!!?』

 

しかし、ガルバラードの突進の勢いは止まらず、ロッソは後ろへと後退していき・・・・・・最後にはロッソはガルバラードに突き飛ばされてしまう。

 

『ウアアアア!!?』

『兄貴!! この!!』

 

そこでブルが跳び蹴りをガルバラードへと繰り出すのだが、ガルバラードは両腕を交差して蹴りを防ぎ、ブルを弾き飛ばす。

 

『グオッ!?』

「ガアアアアアア!!!!!」

 

さらにガルバラードは尻尾から電撃を放ってロッソとブルに喰らわせ、2人のウルトラマンは直撃を受けて身体から火花を散らす。

 

『『ウアアアアア!!!!?』』

 

攻撃を受け、膝を突くロッソとブル。

 

『ぐぅ、あいつ・・・・・・強い!!』

『だが、相手が電撃を使うのであれば・・・・・・!! 俺に考えがある!! 兄貴はあいつに電気を使わせるようにしてくれ!!』

『分かった!!』

 

ブルの言葉にロッソは頷き、ロッソは立ち上がってガルバラードに再び立ち向かっていく。

 

『シュア!!』

 

ロッソは拳をガルバラードに何発も叩き込んでいくが、ガルバラードに大したダメージは与えられず、ガルバラードは腕を振るってその爪でロッソを斬りつけようとする。

 

しかしロッソはなんとかバク転して回避し、火の玉をオーバースローのフォームで放つ「ストライクスフィア」をガルバラードに繰り出し、ストライクスフィアはガルバラードの顔面に命中する。

 

「グルアア!!? グウウウ!!!!」

 

それに怒ったガルバラードは電撃をロッソに放とうとするのだが・・・・・・。

 

『今だ!! アクアジェットブラストォ!!』

 

電撃を放つ瞬間、ブルが右手から水流を放つ「アクアジェットブラスト」を放ち、大量の水を全身にかけられたガルバラードはそれによって電撃が発射できず、逆に自身の身体の全身に電撃が走り、ガルバラードは身体から火花を散らす。

 

「グウウウウウ!!!!?」

 

さらなる追撃を行おうとするロッソだったが、その瞬間2人のカラータイマーが点滅を始め・・・・・・一瞬だけ力が抜けてしまう。

 

『もう時間がないか。 このまま一気に!!』

 

しかし、次の瞬間・・・・・・突如としてロッソとブルにガルバラード・・・・・・。

 

そして戦いの光景を見守っていた友奈やここにはいない東郷、風、樹以外の全ての時間が停止したのだ。

 

「グルルル・・・・・・?」

『これってまさか・・・・・・!!』

『オイオイ、2日連続な上にこんな時にか!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて世界の風景は変わり、周りは樹海へと変わり、四国を囲む壁の外からさらに3体のバーテックス、「スコーピオン」「サジタリウス」「キャンサー」が出現。

 

しかもガルバラードもなぜか樹海に来ており、ガルバラードは突然のことに困惑しつつもすぐにロッソとブルに攻撃を仕掛け、2人のウルトラマンもすぐさまガルバラードに応戦する。

 

『ぐっ!? こいつこんな状況でも攻撃してくるなんて!!』

『こいつにとってはそんなこと関係ないだろうよ!!』

 

ガルバラードの突進を左右に避けるロッソとブル。

 

そこで2人は1つあることに気づいた。

 

それは先ほど鳴っていたカラータイマーが赤から青に戻っており、ロッソとブルはそのことに疑問を抱き、首を傾げた。

 

『なんか、エネルギーがいつの間にか回復してるな、兄貴?』

『樹海化の影響か・・・・・・?』

『だが、有り難い!! これでもう少し長く戦える!!』

 

また樹海では既に変身を完了させた風と樹が来ており、戦いの準備を完了させていた。

 

「今回、向こう側から怪獣は来てない見たいだけど・・・・・・バーテックスは3体同時に来たか・・・・・・。 モテすぎでしょ?」

「っていうか春木さんと良さんがさっきまで戦ってた怪獣までいるよお姉ちゃん!!」

「そうね、あっちはあの2人に任せて私達はバーテックスを!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、友奈も勇者へと変身し、先ずは樹と風の2人と合流するのが先決だと考え・・・・・・彼女は急いで2人の元へと向かっていた。

 

その途中、樹海で怯えた様子の東郷を彼女は発見し、友奈は「東郷さーん!!」と彼女に声をかけながら東郷の元へと駆け寄る。

 

「ゆ、友奈ちゃん・・・・・・」

「大丈夫東郷さん!!?」

「う、うん・・・・・・。 私は平気。 でも、友奈ちゃんはまた・・・・・・。 私も!」

 

勇者に変身していることから、東郷はすぐに友奈がまた戦いに行こうとしているのを即座に理解し、彼女は今度こそ自分も戦うと友奈に言おうとするのだが・・・・・・。

 

「っ・・・・・・!」

 

前回の戦いの光景を思い出し、彼女は思わず怯えてしまう。

 

そんな東郷の両手を友奈は握りしめ、「大丈夫だよ!」と東郷を安心させるように微笑む。

 

「行ってくるね!」

「あっ・・・・・・」

 

結局、東郷は一緒に行くこともできず、友奈は高くジャンプしながら風と樹の元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

風と樹と合流した友奈。

 

ガルバラードはロッソとブルに任せ、先ずは遠くにいるサジタリウスは放って置いて先行しているキャンサーとスコーピオンを封印しようと風が作戦を立てて指示。

 

「遠くの奴は放っておいて先ずはこの2匹纏めて封印の儀、行くわよ!!」

 

しかし、友奈はサジタリウスだけなぜキャンサーとスコーピオンが離れていることに疑問を浮かべ・・・・・・するとその瞬間・・・・・・。

 

サジタリウスは口を開き、巨大な矢を風へと放って来たのだ。

 

「ひゃっ!?」

「お姉ちゃん!?」

 

なんとか大剣でガードするも彼女は弾き飛ばされるのだが、風はなんとか空中を立て直し地面に着地する。

 

さらにサジタリウスは複数の矢を同時に放って雨のように友奈達に降り注がせ、風と樹はなんとか後方へと走って回避するのだが・・・・・・友奈だけは前に走って矢を回避し、彼女は先ずサジタリウスを叩こうと攻撃を仕掛けるが・・・・・・。

 

「っ!? 友奈さん危ない!!」

「グルアアアアアア!!!!」

 

彼女の背後から翼竜か始祖鳥を思わせる姿をした怪獣・・・・・・「火山怪獣 ガドン」が突如、上空から現れてその巨大な口を開き、友奈を飲み込もうと襲いかかって来たのだ。

 

「わあああ!!?」

 

なんとか避けた友奈だが、ガドンの足が僅かに当たり、僅かとはいえ彼女を弾き飛ばすくらいの威力には十分あり、友奈は地面に叩き落とされたのだ。

 

「友奈!! そんな・・・・・・また別の怪獣なんて、いつの間にか・・・・・・」

「アプリのセンサーにも引っかからないくらい、遥か上空から待機してたってことかしらね」

 

一方で3体のバーテックスは勇者の相手をガドンに任せて自分達は進行状の問題もあり、ロッソとブルの方へと向かい、サジタリウスはロッソとブルに大量の矢を先ほどと同じように雨のように降り注がせる。

 

『なに!?』

『ヤバい!! セレクト!!』

『ウルトラマンロッソ! ダイテング!』

 

ロッソは即座に「ダイテング」へとクリスタルチェンジし、両手を光らせて鋭くなった手刀でなんとかサジタリウスの矢をブルを庇いながら素早く弾く。

 

だが、今度は後ろからガルバラードが突進でブルとロッソの2人を纏めて突き飛ばし、吹き飛ばされた2人は地面へと身体を強く打ち付けて倒れ込む。

 

『『ぐああああああ!!!?』』

 

さらにスコーピオンが尻尾を伸ばして先端の針をブルへと突き刺そうとするのだが、ブルはなんとか尻尾を掴みあげて攻撃を防ぐ。

 

『良い気になるなよ!!』

 

ブルはそのままスコーピオンを再び突進して来たガルバラードに向かって尻尾を思いっきり引いて放り投げ、スコーピオンとガルバラードは互いに激突する。

 

「グルルルル!!? ガアアアア!!!!!」

 

それに怒ったガルバラードはスコーピオンの尻尾を掴みあげると仕返しとでも言わんばかりに振り回しながらそれを振るってブルの身体に叩きつけ、スコーピオンを放り投げてブルを攻撃する。

 

『ええい邪魔くさい!!』

 

ブルは投げつけて来たスコーピオンを腕を大ぶりに振るって弾き、ガルバラードに向かって掴みかかるが・・・・・・ガルバラードはブルを振り払って肘打ちを喰らわせる。

 

『グアッ!?』

 

そこへキャンサーが複数の反射板のようなものを空中に浮かせ、それをブルとロッソの周囲に展開し、サジタリウスが反射板に向かって複数の矢を発射し、それによってロッソとブルの全方位から矢が放たれる。

 

『オールレンジ攻撃だと!?』

 

矢は幾つもロッソ、ブルに直撃し、2人は身体から火花を散らして膝を突き・・・・・・。

 

さらに追撃としてジャンプしたガルバラードが上空から電撃を放ち、ロッソとブルを攻撃する。

 

『『うわああああああ!!!!!?』』

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ガドンと戦う友奈達は・・・・・・。

 

「「オリャアアアア!!!!」」

 

友奈と風はジャンプして拳を、風は大剣を振るってガドンに攻撃を仕掛けるが、ガドンはは翼を大きくはためかせて突風を起こして2人を吹き飛ばす。

 

「わああ!!?」

「くっ、樹! あいつの足をワイヤーで縛って動きを封じてくれない!?」

 

風の指示を受け、「分かった!」と頷いてワイヤーを樹は伸ばしてガドンに足に絡みつかせて拘束するのだが、ガドンは足を大きく振り上げると樹はそれに引っ張られて宙に浮かび、ガドンが足を勢いよく振り下ろすと彼女は地面に激突し、ワイヤーの拘束も解けてしまう。

 

「きゃああああ!!!?」

 

樹の精霊である「木霊」によってダメージは最小限に抑えられてはいるのだが、それでもかなりの衝撃が彼女の身体に伝わり、彼女はなんとか倒れた身体を起こそうとする・・・・・・。

 

そこへガドンが樹を踏み潰そうと彼女目がけて襲いかかり、それを友奈が両手を交差して樹を庇うように素早くガドンの足を受け止める。

 

「ぐうぅ!?」

「友奈さん!!」

「こんのおおおおお!!!!」

 

ガドンの背後から風が大剣を振るってガドンの背中を斬りつけることに成功。

 

だがそれでダメージを受けたガドンは怒って振り返りざまに翼を振るい、風を弾き飛ばす。

 

「グルアアアアア!!!!」

「ぐうううう!!!!?」

 

なんとか大剣で防いだものの、岩場に激突し倒れ込む風。

 

そのままガドンは空中へと跳び上がって風に追撃しようと襲いかかり、友奈はそうはさせまいとガドンに向かって殴りかかろうとするのだが・・・・・・。

 

その時、地面からスコーピオンの尻尾の毒針が出現し、友奈を突き飛ばす。

 

勿論、牛鬼がバリアを張ってくれたおかげで針が刺さることは無かったのだが・・・・・・落ちて来た友奈を地面から突然出現したスコーピオンが尻尾を振るって弾き飛ばし、友奈は勢いよく地面を転がる。

 

「きゃああああ!!!!?」

「友奈さん!! あのバーテックス、さっきまで春木さん達のところに行ってたのにいつの間に・・・・・・」

 

実はスコーピオンはウルトラマンやガルバラードに散々ボコボコにされ、自分がウルトラマン等と戦うのは不利と判断しターゲットを勇者に変更したのである。

 

樹は慌ててスコーピオンとガドンにワイヤーを伸ばして動きを封じようとするが、それに即座に気づいたガドンは翼を大きくはためかせて彼女をワイヤーごと吹き飛ばし、自分達を拘束させるのを失敗させる。

 

「ひゃあああ!!!?」

 

その間にガドンは風に向かって進行し、風は大剣を構えて彼女は友奈を助けに向かおうとするのだが・・・・・・当然、ガドンがそれを阻む。

 

スコーピオンは尻尾を何度も友奈に突き刺そうとし、牛鬼がバリアで守ってくれてるとはいえ、何時まで耐えられるか分からない状態が続く。

 

「友奈ちゃん・・・・・・!!」

 

そして、それを遠くから見ていた東郷は不安げな表情で友奈の名を呟き、その時、彼女は友奈の隣の家に引っ越して来た時のことを思い出した。

 

『新しいお隣さんだ! 歳が同じなら、同じ中学になるよね! 私は結城 友奈! よろしくね!』

『おっ? 新しいご近所さんか? 俺達は友奈の友達で・・・・・・俺は南 春木、こっちは弟の良だ』

『・・・・・・良、です・・・・・・』

 

それが東郷と友奈との出会いであり、同時に南兄弟との出会いでもあった。

 

『あっ、は、はい・・・・・・』

 

友奈はにっこりとした笑顔で東郷に手を伸ばし、その伸ばした彼女の手を東郷は戸惑いつつも握りしめ、お互いに握手をした。

 

『えへへ。 そうだ! この辺よく分からないでしょ! なんだったら案内するよ! 任せて!!』

『この辺にはどんなお店があるかとか、分かんないこととかあったら遠慮せず聞いてくれよ?』

 

優しい笑みを浮かべながら友奈と春木がそう言うと、東郷も自然と笑みを浮かべた。

 

東郷は中学入学前に交通事故に遭ったことからその後遺症で半身不随で車椅子生活を余儀なくされ、記憶にも曖昧な部分があったことから彼女はふさぎ込みがちだった。

 

だが、東郷は友奈や春木達と出会った事でそれを乗り越える事が出来たのだ。

 

「っ・・・・・・! やめろ・・・・・・! やめろ!! 友奈ちゃんを・・・・・・いじめるなあああああ!!!!!」

 

なのに、自分を救ってくれた1人である友奈が、友奈が苦しんでいるのを見た東郷は力強く叫ぶ。

 

するとスコーピオンは彼女の存在に気づき、尻尾を伸ばして攻撃を仕掛けるのだが・・・・・・その攻撃を彼女の叫びに応えるように現れた彼女の精霊・・・・・・割れ目から目と手を覗かせた卵のような姿で、殻の左側に青い花模様のある「青坊主」がバリアで攻撃を防いだのだ。

 

「私、何時も友奈ちゃんに守って貰ってた! だから! 次は私が勇者になって、友奈ちゃんを守る!!」

 

そして確かな決意を胸に抱いた東郷はスマホのアプリを起動させ、彼女はアサガオを模した勇者服を身に纏い変身を完了させる。

 

ただし、変身しても足の機能までは回復しないらしく、コスチュームの一部である4本のリボンを触腕のように使って立っており、彼女はそれを使い友奈の元へと駆け寄る。

 

「東郷・・・・・・さん? 綺麗・・・・・・」

 

変身を完了させると彼女は2体目の精霊「刑部狸」を出現させ、同時にその精霊の力によって一丁の短銃が出現し、東郷はそれを手に持つ。

 

(どうしてだろう、変身したら落ち着いた。 武器を持っているから?)

 

そこでスコーピオンが尻尾を東郷に向けて突き刺そうと攻撃を仕掛けるのだが・・・・・・それよりも早く東郷の撃った弾丸がスコーピオンの尻尾の先の毒針を撃ち抜き、さらに東郷は3体目の精霊「不知火」を出現させ、それと同時に武器を二丁の散弾銃に変化させる。

 

「もう友奈ちゃんに手出しはさせない!!」

 

そして東郷はスコーピオンに向かって反撃を許さないほどの弾丸を次々と撃ち込んでいき、スコーピオンの身体はヒビ割れていく。

 

一方、風と樹はガドンと戦闘を行っていたのだが、樹のワイヤーで拘束しようとすれば翼をはためかせて突風でワイヤーごと彼女等を吹き飛ばし、風が接近して大剣で斬りつけようとしてもガドンは翼を振るって殴り飛ばす・・・・・・という風に中々風と樹は反撃することが出来ず、苦戦していた。

 

「あーもう!! 厄介と言ったらありゃしないわね!!」

「向こうが接近してきたところを私がワイヤーで拘束すれば・・・・・・!!」

 

するとガドンは素早い動きで風と樹に攻撃を仕掛ける為に接近。

 

樹はワイヤーを伸ばすが、ガドンはそれらを起用に潜り抜け一気に2人に詰め寄って来るのだが・・・・・・次の瞬間、友奈によって投げ飛ばされたスコーピオンがガドンに激突し、2体共々倒れ込む。

 

「その海老運んで来たよー!!」

「サソリでしょ!?」

「どっちでも良いから・・・・・・」

 

そんなやり取りを行う友奈と風に樹は苦笑しながらツッコミを入れ、そこへ東郷が駆けつける。

 

「樹ちゃん!! 今の内に怪獣とバーテックスを拘束して!!」

「は、はい!」

 

東郷の指示を受け、樹は言われた通り倒れ込んでいるスコーピオンとガドンをワイヤーで何重にも縛り上げて拘束。

 

「ウルトラマンの援護は私が行います! バーテックスと鳥の怪獣の方を、他のみんなはお願いできますか?」

「それは良いけど・・・・・・東郷、戦ってくれるの?」

 

風の質問に対し、東郷は笑みを浮かべながら力強く頷き、それを見て風は安心したような表情を浮かべる。

 

「よし!! 今の内にあの怪獣を先ずは叩きつぶすわよ友奈!! 樹はそのままあの2体を拘束してて!!」

「「了解!!」」

 

風の指示にそう返事を返す友奈と樹。

 

「それとあの矢を放つやつがこっちに攻撃してくるかもしれないから上には一応気をつけていて!」

「「はい!!」」

 

また東郷が続いて友奈達にそう指示を出し、友奈と樹の2人は勢いよく返事をするのだが、それを見て風は「私のより返事が良い・・・・・・」とちょっと落ち込んでいた。

 

「勇者ぁ!! パーンチ!!!!」

「うおりゃああああああああ!!!!!」

「ガアア、ガアアアアア!!!!!?」

 

それから・・・・・・友奈の必殺拳が先ずガドンの顔面に炸裂し、続いて風の巨大化させた大剣でガドンの身体を切り裂き・・・・・・それらを受けたガドンは雄叫びをあげながら身体から火花を散らし、爆発。

 

その瞬間に樹はワイヤーの拘束を解き、爆風によってスコーピオンは空中へと放り出されてそのまま真っ直ぐ地面に落下して倒れる。

 

「今よ!!」

「「うん!!」」

 

そしてスコーピオンを樹、風、友奈が囲んで封印の儀を発動し・・・・・・スコーピオンの身体から御霊が出現する。

 

「私、行きます!!」

 

先ず、友奈がスコーピオンの御霊に攻撃を仕掛けようと駆け出すのだが・・・・・・なんと、スコーピオンの御霊は幾つにも分裂し、友奈は思わず立ち止まってしまう。

 

「な、なんか増えた~!!?」

「数が多いなら、纏めて~!!」

 

すると樹がワイヤーを使って御霊を全て拘束し、さらにそこからワイヤーを引っ張り御霊を次々と切断し破壊。

 

「ナイス樹!!」

 

尚、ガドンとスコーピオンを倒した際、樹の勇者服にある5つある花弁の1つが、一瞬だけ光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

 

サジタリウス、キャンサーの連帯攻撃をロッソとブルは中々抜け出せずにおり、さらにバーテックス2体に加えてガルバラードも電撃で攻撃して来る為、ロッソとブルはかなりの苦戦を強いられていた。

 

だが、そんな時・・・・・・サジタリウスの身体を青い弾丸が貫き、さらに続けてガルバラードの目に同じく青い弾丸が直撃し、ガルバラードは悲鳴に似た雄叫びをあげる。

 

「グルアアアアア!!!!?」

『ぐぅ、今だ!!』

 

痛む身体を無理矢理動かし、ロッソはキャンサーの反射板の1つを掴みあげるとそれを別の反射板に投げつけてぶつけ合わせ、さらにはもう1つの反射板をロッソは素早く手刀で切り裂いて破壊する。

 

『今のは・・・・・・東郷先輩!?』

『なに?』

 

ブルの言葉を聞き、ロッソが弾丸が飛んできた方へと顔を向けるとそこには俯せになって狙撃銃を構えている東郷の姿があり、それを見てロッソとブルは驚いた様子を見せる。

 

『東郷、お前・・・・・・。 ありがとう!』

 

理由は分からないが、東郷が戦う決意を固めたことを即座に理解したロッソはお礼を述べながら彼女に対しサムズアップをしてみせた。

 

「先輩・・・・・・」

『俺がお前を守るくらいはしてやるさ・・・・・・!』

 

友奈達の最初の戦いで、ロッソが自分に言ってくれた言葉を東郷は思い出しながら、彼女はロッソ、ブルに攻撃を仕掛けようと矢の発射準備をしていたサジタリウスを撃ち抜く。

 

「今度は私が、あなたを守りますよ、先輩!」

 

それからロッソはフレイムへと戻り、ガルバラードと戦いを挑もうとするのだが・・・・・・それをブルに引き止められる。

 

『なんだよ良!?』

『いやなに。 少し試したいことがあってな。 兄貴、火と水のクリスタル、それを交換して使ってみよう!!』

『交換って・・・・・・そんなことできるのか?』

『見たところ、作りはほぼ一緒なんだ。 できるだろう』

 

それを受け、ロッソは「分かった」と頷き、2人は今使っている互いのクリスタルを交換する。

 

『セレクト!! クリスタル!!』

 

最初に春木がギンガクリスタルの角を2本立ててルーブジャイロにセットする。

 

『ウルトラマンギンガ!』

『纏う水!! 紺碧の海!!』

 

続けて春木はジャイロのレバーを3回引き、右腕を挙げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンロッソ! アクア!』

 

するとロッソの姿が変化し、青い姿の「ウルトラマンロッソ アクア」へと姿を変える。

 

『セレクト!! クリスタル!!』

 

続けて今度は良がタロウクリスタルの角を1つだけ立ててルーブジャイロの中央にセット。

 

『ウルトラマンタロウ!』

『纏うは火!! 紅蓮の炎!!』

 

そして良はルーブジャイロのトリガーを3回引いて左腕を掲げる。

 

『はあああ、はあ!!』

『ウルトラマンブル! フレイム!!』

 

ブルもまた、姿が変化し、赤い姿「ウルトラマンブル フレイム」へと姿を変える。

 

『ホントに出来た・・・・・・!! よっしゃ、気合い入れて行くぞおおおおお!!!!』

 

アクアへと変わったロッソはそのままガルバラードに向かって駈け出して行き、そんな彼の様子を見てブルは「水の力使っても脳筋なのは変わらないんだな・・・・・・」と小さく呟くのだった。

 

その時、ブルの背後からサジタリウスが矢を放とうとしてくるのだが・・・・・・ブルは振り返りざまに掌から火炎状の破壊光線を放つ「パイロアタック」をサジタリウスに放ち、直撃させる。

 

『パイロアタック!!』

 

さらにブルはサジタリウスが怯んだ隙にキャンサーの反射板を素早く纏めて掴みあげるとそれを風達の元まで投げ飛ばして地面に叩き落として破壊する。

 

『後は頼みます!!』

「よっしゃ、任された!!」

 

ブルは勇者達にキャンサーのトドメを任せ、自分もロッソと共にガルバラードに向かって駈け出す。

 

そして友奈、樹、風の3人ははサジタリウスを取り囲み、御霊を出現させる。

 

「今度こそ!!」

 

続けて友奈が今度こそ御霊を破壊しようとするのだが、御霊はそれを躱し、それに友奈は「あれ?」と首を傾げる。

 

さらに追撃しようと友奈は御霊を殴りつけようとするのだが、御霊はそれらを全て回避し、躱す。

 

「こ、この御霊絶妙に避けて来るよー!」

「変わって友奈!!」

 

そこで友奈を風は下がらせ、風は大剣を御霊に振りかざすが・・・・・・御霊はそれすらも回避してしまう。

 

「点の攻撃をひらりと躱すならぁ!! 面の攻撃で押しつぶすぅ!!!!」

 

しかし、直後に風は大剣をさらに巨大化させてそれを平らな向きにして振りかざし、範囲を広げた攻撃により、御霊はその一撃は躱せずに押しつぶされてしまうのだった。

 

その際、彼女は樹と同様に勇者服にある5つある花弁の1つが、一瞬だけ光る。

 

「あと1つ!!」

 

その時、東郷がスマホで風に電話で通信し、「風先輩」と彼女の名を呼ぶ。

 

『風先輩、部室では言い過ぎました。 ごめんなさい・・・・・・』

「・・・・・・東郷・・・・・・」

『精一杯援護します』

 

そんな東郷からの言葉を受け、風は笑みを浮かべて「あたしの方こそ・・・・・・」と彼女も東郷に謝ろうとするのだが・・・・・・。

 

その時、風の返事を聞く前に東郷の放った弾丸が次々と容赦なくサジタリウスに撃ち込まれ、それに風は僅かに恐怖してしまう。

 

「えっと、あの・・・・・・ホントごめんなさい、はい」

「よし! 封印開始♪」

 

そして友奈達が封印の義を行い、サジタリウスの口らしき部分から御霊が現れるのだが・・・・・・御霊はサジタリウスの身体の周囲を超高速で飛び回る。

 

「この御霊・・・・・・!」

「早い!!」

 

その目で追うのもやっとなほどの速さの御霊に驚愕する友奈達だったが・・・・・・それを東郷は難なく撃ち抜いたのだ。

 

「東郷先輩!?」

「撃ち抜いた!?」

 

同じ頃、ロッソとブルはというと・・・・・・。

 

挿入歌「Hands」

 

ロッソとブルは同時にガルバラードに跳び蹴りを喰らわせ、少し怯ませたところで2人はガルバラードに掴みかかるのだが・・・・・・。

 

ガルバラードは身体を左右に激しく振って振り払うと、両拳を前に突き出してロッソとブルの腹部を殴りつける。

 

『『グウ!?』』

 

そこからガルバラードは後退すると尻尾から電撃を放つ。

 

『アクアミラーウォール!!』

 

だが、それをロッソは自分の前方に円形状の防護壁を展開して相手の攻撃を反射する「アクアミラーウォール」を使い、ガルバラードの電撃を跳ね返して自身に直撃させる。

 

「グガァ!!?」

 

そこからブルとロッソは同時にがガルバラードに向かって駈け出し、ガルバラードの両腕を掴みあげると2人で同時にガルバラードを持ち上げて空中へと飛行し、そこから一気に地上に叩き落とす。

 

『『シェア!!』』

「グアアアアア!!!!?」

 

それに怒ったガルバラードは立ち上がって再び尻尾から電撃を放つのだが、それをロッソは水球弾を腕から放つ爆裂弾「ストライクスフィア」を放ち、ガルバラードの技を相殺する。

 

『ストライクスフィア!!』

『フレイムエクリクス!!』

 

続けてロッソは大きく両腕を回してエネルギーを集束し、両腕を前に突き出して両手の先から炎の破壊光線「フレイムエクリクス」を向かって放つ。

 

それを受けるとガルバラードは身体中から火花を散らし、身体の外装が徐々に崩れていく。

 

「ギシャアアアア!!!!?」

『『セレクト!!』』

 

さらにロッソはフレイム、ブルはアクアへと戻り、トドメを一撃を放つ体勢に入る。

 

ブルは腕をL字に組み、水のパワーを宿したエネルギーを放つ「アクアストリューム」を。

 

『アクアストリューム!!』

 

ロッソは十字に組んだ腕から炎のエネルギーを集約した破壊光弾を発射する「フレイムスフィアシュート」をガルバラードに向かって放つ。

 

『フレイムスフィアシュート!!』

 

ロッソとブルの同時必殺光線をガルバラードは受け、途中まではその防御力の高さから耐えていたが・・・・・・徐々に耐えきれず、ガルバラードは身体が粉々になって爆発するのだった。

 

「グルアアアアアアア!!!!!?」

 

ガルバラードを倒し、ロッソとブルは地上へと降り立つ。

 

『やったな、良』

『あぁ』

 

ロッソはブルに右拳を突き出し、ブルも自分の拳を出そうとしたその時・・・・・・。

 

「ガアアアア!!!!」

 

爆発の炎の中からガルバラードの本体である球体型の怪獣「電磁球獣 イーム」が出現し、ロッソとブルの2人に襲いかかるのだが・・・・・・。

 

「ガアア!!?」

『『うわっ!?』』

 

東郷の放った弾丸がイームに直撃し、ロッソは慌ててイームに対して再び腕をL字に組んで放つ「フレイムスフィアシュート」を発射。

 

直撃を受けたイームは火花を散らし、空中で爆発四散するのだった。

 

『あっぶね! また助けられたな、東郷に・・・・・・』

『別に、東郷先輩が助けてくれなくともなんとかなっていたさ!』

『見栄張るなよ』

 

ロッソはブルの胸を軽く叩き、「ありがとう」と右手を挙げてロッソは東郷にお礼を述べ、それに東郷も頷くのだった。

 

「・・・・・・状況終了。 みんな、無事で良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、樹海化が解けて一同は学校の屋上・・・・・・現実世界に戻ってくると友奈が後ろから東郷の元に駆け寄って「東郷さんかっこ良かったなー!!」と言いながら抱きついて来た。

 

「良くんや春木先輩も助けてドキッ! としちゃった! フフ・・・・・・」

 

そんな友奈と東郷の様子を見て「ぐぐぐぐ!!」と悔しそうな顔を浮かべる良。

 

そんな良の肩にポンッと手を置き、「落ち着け」と呆れた視線を向けながら窘める春木。

 

また、そこへ風も東郷の元に歩いて来て彼女は助けられた感謝の言葉を東郷に伝える。

 

「でも、ホントに助かった。 それで・・・・・・」

「覚悟はできました。 私も勇者として頑張ります!」

 

東郷のその返事に風は嬉しそうに笑みを浮かべ、それに風もまた笑みを浮かべてお礼を述べるのだった。

 

「東郷・・・・・・。 ありがとう。 一緒に国防に励もう!」

「国防・・・・・・。 はい!!」

 

その2人の様子を見て春木達は風と東郷も仲直りができたようで安心し、春木はそっと東郷の頭を撫でる。

 

「えっ、ちょっと先輩!?」

「そっちも仲直りできたみたいで何より何より!!」

 

「アッハッハッハ!!」と笑いながらくしゃくしゃと春木は東郷の頭を撫で回し、それに気恥ずかしそうに顔を赤らめる東郷。

 

「も、もう髪が乱れちゃいます! やめてくださいよ先輩・・・・・・」

「あっ、すまん」

「ほう、ふーん?」

 

その光景を風がニヤついた笑みで見ていることに気付いた東郷は咄嗟に話題を変えようとして友奈に「課題はやったの?」と尋ねるとそれに友奈はハッとなり、まだ課題をやっていないことを思い出す。

 

「課題明日までだった~!! アプリの説明テキストばっかり読んでて・・・・・・!!」

「やべぇ、俺もやってねえ!!」

「そこは守らないから頑張ってね♪」

 

東郷にそう言われ、「そんなぁ~!!」と嘆く友奈。

 

「勇者も勉強も両立よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、南家の朝の朝食の時間にて。

 

『数日前、新しい巨大生物が町を襲った事件ですが、またもあの巨人2体が現れ、彼等が怪獣と戦って3体とも戦ってる途中に急に消えたようですが・・・・・・。 愛染さんはこのことをどのようにお考えですか?』

 

ウシオは開店準備をしており、ヒナタはなにかダンボールの中を漁っており、春木と良の2人はゆったりと朝食を食べながらニュースを観ていた。

 

『愛と善意の伝道師、愛染 アキラです! 私は、彼等は町を救ったヒーローだと考えています。 急に消えてしまったのは謎ですが、恐らくあの怪獣は彼等が倒してくれたと予想しています』

 

そしてアキラは以前できなかった巨人の名前を今度こそ発表しようとカメラの前に大きく出る。

 

『名付けるならばそう、超ヒーローという意味で・・・・・・『ウルトラマン』』

 

アキラのその言葉に、春木と良の2人は朝食を食べる手を止め・・・・・・まだ自分達と勇者部以外の人物がウルトラマンの名を口にしたことに驚き、春木と良の2人はどうしてその名前をアキラが知っているのか、疑問に思う。

 

「どうして愛染社長がその名前を・・・・・・」

「『ミーしゃんは、2人の子供の寝顔を見ると、どんな疲れも忘れられるよ。 ウーたんは、どうですか?』」

 

するとそこでヒナタが一冊の手帳を開いてそこに書かれてある内容を読み上げていると顔を真っ赤にしたウシオが駆けつけてくる。

 

「ちょっと!? ヒナタなに読んでるの!? それ父さんと母さんの交換日記じゃないか!!」

 

ウシオは急いでヒナタから日記を奪い返そうとするが、ヒナタは「もう少し読みたいです!!」と言って逃げ回る。

 

「良いじゃ無いですか!! 減るもんじゃないし!!」

「ダメダメ! それ父さんと母さんの宝物なんだから!!」

 

ヒナタはウシオから日記を取られまいと逃げ回るのだが、その時躓いてヒナタは転びそうになり、そんな彼女を春木が慌てて支え、その際に手に持っていた日記をヒナタは落としてしまう。

 

「おっと! おいおい、あんまり父さんからかうなよ・・・・・・」

「別にからかっていた訳じゃ・・・・・・」

 

その時、床に落ちてたまたま開いた日記のページに良が視線を落とすと・・・・・・そこには自分達が所持するクリスタルと酷似した絵が描かれており、それを見た瞬間、良は素早く日記を拾いあげる。

 

「兄貴! これって・・・・・・」

「これは、まさか、もしかして俺達のクリスタルか・・・・・・?」

 

それを見て春木と良はお互いに顔を見合わせ、その絵に驚きを隠せなかったのだった。




ガルバラードとの戦闘中、樹海化が発生しましたけど「普通にこういうこともありえますよ」って言うのを説明したかったんですよね。
ミノさんの葬式の時とかも来ましたし。
あれは空気読めないってレベルじゃねえって思いましたね。
同時に天の神はクソ野郎だなと思いました。


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第4話 『ワンダフルアイゼンテック』

穂乃果ちゃんの誕生日と、ゆゆゆ3期決定を記念して更新


前回、母と父の交換日記に書かれていたクリスタルらしき絵を発見した春木と良はウシオにその日記に書かれたクリスタルについて聞いていた。

 

「父さん! これが何なのか分かる?」

「数年前か・・・・・・。 この絵がなんなのか俺にも分からないけど、母さんはアイゼンテック社で愛染さんと共同研究していたからな。 多分その時のものじゃないかな」

 

ウシオは日記の絵を見ながら春木と良の2人にそう説明し、良は母の仕事のことで何か覚えていることはないかと尋ねる。

 

「あー、仕事の話はあんまりウチでしなかったからなぁ。 まぁ、俺がそんなこと聞いたところでちんぷんかんぷんだしな!」

 

そう言ってウシオは日記を机の上に置いて開店の準備を始め、良は春木の腕を引っ張ってホルダーを取り出して開き、ルーブクリスタルを春木に見せる。

 

「愛染社長と母さんが共同研究してたのって、やはりこれだろうか?」

「そんな無闇に出すなよ。 でも、確かにあの人は俺や勇者部の人達にしか知らない筈のウルトラマンの名前を知ってたし・・・・・・」

 

こうなれば直接アキラに話を聞く為、アイゼンテックに行くしかないと考える良だったが・・・・・・あんな大企業の社長が自分達のような中学生に会ってくれるだろうかと悩む春木。

 

「あっ、私も行きたいです!!」

「私も行きたいな~!」

「あっ、友奈ちゃんと春木さんが行くなら私も・・・・・・」

「「うおっ!!?」」

 

そこに春木と良の間に割って入るようにヒナタといつの間にかやってきていた友奈と東郷。

 

「友奈と東郷はいつの間にここに・・・・・・」

「アイゼンテックに2人だけ行こうなんてズルいですよ!!」

「遊びに行く訳じゃないんだぞ」

 

遊びに行くわけでは無いとヒナタに注意する春木。

 

一方で良はこっそりと友奈と東郷にだけなぜ自分達がアイゼンテックに行きたいのかを小声で説明し、それによって一応納得してくれる友奈と東郷。

 

「でもそれなら尚更行ってみたい気もしますね、私達だってウルトラマンのことは気になってますし、それに愛染社長がその名前を知っているのも・・・・・・」

「まぁ、確かに東郷達にも知る権利はあるだろうけど・・・・・・」

「兎に角、アイゼンテックに行くのは決定だ兄貴! 友奈さんや東郷先輩も行きたがってるみたいだし、考えてる暇なんてないぞ!! この際だしヒナタも連れて行こう!!」

 

良がそう言い放つと若干オマケ扱いなのに不満を覚えつつもヒナタも「やったぁ~!」と飛んで喜び、結局押し切られる形で春木達はアイゼンテックへと向かうことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイゼンテック本社の入り口前にて。

 

「・・・・・・あのさぁ、なんで風と樹も一緒に来てんだよ!?」

「えー、別に良いじゃ~ん! アンタ等だけで楽しもうだなんてそうは行かないわよ!」

「だから遊びに来た訳じゃないんだよ!!」

 

ここに来る途中、風と樹にバッタリ遭遇し、友奈が「私達これからアイゼンテックに行くんですよ!!」なんて堂々と話したものだから、風も「面白そう」ということでついてきたのだ。

 

尚、樹に限っては殆ど風に引っ張られる形でついて来た為か、彼女は申し訳無さそうな顔をしていた。

 

「そんなこと分かってるわよ! ただあたしは、アンタ等兄弟にちょっと渡すものとかもあってさ・・・・・・」

 

先ほどまでのおちゃらけた態度から一変して風は真面目な顔になり、それを見て春木は「どうかしたのか?」と尋ねると・・・・・・風は春木に手を出すように言い、そのことに疑問に思いながらも言われた通りにする春木。

 

すると、彼女は春木の手の上に4つのルーブクリスタルを渡したのだ。

 

「これは・・・・・・!!」

「一応大赦にはウルトラマンのことは報告しておいたんだけど・・・・・・その翌日、大赦の人が来てさぁ、これをあたしに渡していったのよね」

「えっ、大赦ってこのクリスタル所持してたのか!?」

 

大赦がなんでルーブクリスタルを持っていたのか、ワザワザ風の家にクリスタルを届けに行ったのか・・・・・・もしかしてまだ大赦には自分達のことがバレていないのかと様々な疑問が浮かぶ春木。

 

「一応、神託でも大赦はクリスタルをウルトラマンに渡す以外の干渉はしてならないって言うのがあったらしくてね・・・・・・」

 

「神託」・・・・・・その説明の前に、先ずは神樹に選ばれた「巫女」について説明せねばなるまい。

 

先ず、巫女というのは神樹の力を授かりバーテックスと戦う少女達が勇者であり、それとは別に神樹の声を聞く事ができる少女達、それが「巫女」である。

 

そしてその神樹の声・・・・・・というのが「神託」であり、巫女はその神託を受け取り、勇者達に伝えたりするのが主な役目であり、どうやら今回は大赦勤めの巫女が「ウルトラマンにはクリスタルを渡す以外の手出しは無用」という言葉を受け取ったらしい。

 

「それであたしからクリスタルをウルトラマンに渡して欲しいって」

「有り難いよ、神樹様。 風もありがとう」

「いやいや、あたしはお使いを頼まれただけだし」

 

そんな時、ガシッと風の右腕を誰かが掴み、「おわぁ!?」と驚いた声をあげて右の方に顔を向けるとそこには鋭い視線でこちらを見つめてくる東郷が姿が・・・・・・。

 

「随分と春木先輩と楽しそうにお喋りしてますね? 風先輩♪」

「いやいやいや!! 別に楽しくお喋りしてた訳じゃ・・・・・・。 つうか東郷怖い! やめて、その視線怖いからやめて!?」

 

風は必死に東郷から逃げようとするのだが、東郷の手は一向に風から離れず、そんな2人を見て東郷の後ろに回り込んだ春木は「コラ!」と軽めのチョップを東郷の頭に落とす。

 

「あぅ!? 先輩!?」

「なんかよく聞こえ無かったけど・・・・・・お前等また喧嘩か? この前仲直りしたばっかりだろ! これから一緒に戦って行く仲でもある訳なんだからさ・・・・・・」

「ご、ごめんなさい、春木先輩・・・・・・。 風先輩も、ごめんなさい・・・・・・」

 

春木に怒られた為か、東郷は素直に反省して春木と風に謝罪し、風は苦笑しながらも「気にすんな気にすんな!」と許し、「仲直りしたのならよし!」と春木も納得して良達の元へと歩いて行くのだった。

 

「・・・・・・前から思ってたんだけどさ、アンタって友奈と春木、どっちが好きなの?」

「愚問ですね、先輩。 両方です」

「逆にカッコイイわね、アンタ・・・・・・」

 

風と東郷がそんな会話をしている内に春木、良、ヒナタ、友奈、樹は受付係の女性の元へと駆け寄り、代表して良が女性と話し、ここに来る前に電話してアキラと会う為のアポを取った者であることを説明すると女性は笑みを浮かべて「お待ちしておりました」と頭を下げる。

 

「それではこちらへどうぞ。 社長は今、飛んで参ります」

「んっ? 飛んで参りますって・・・・・・」

「どういうこと?」

 

風と樹、それに春木が女性の言葉に首を傾げていると・・・・・・空から「ハーッハッハハ!!」という笑い声が聞こえ、上を見てみると背中に飛行装置をつけた愛染 アキラが飛んでいたのだ。

 

「うわっ! ホントに空から飛んで来た!」

「「「すごーい!!」」」

 

そのままアキラはゆっくりと着陸し、受付の女性に装置を外して手渡す。

 

「仕事のあとの空は気持ち良いな~! いっぱいの夢を叶えて見せる、しっかりと未来を!! 愛染 アキラです!!」

「えっ、何言ってんのこの人・・・・・・」

 

アキラの言葉に春木が首を傾げているとアキラはハッと何かを思いついたかのような顔を浮かべ、懐から短冊と筆を取り出し、サラサラと何かを書き上げる。

 

「『一難去ったら空を飛べ』。 うん、良いの浮かんじゃったな~!」

「わぁ~! 生の愛染さんのお言葉だよ、お姉ちゃん!」

 

アキラの言葉を聞いて樹は嬉しそうに笑みを浮かべ、アキラはダーリンに今の言葉を自分の名言集に加えるように指示。

 

『『一難去ったら空を飛べ』、登録しました~』

「ふむ・・・・・・。 むっ? あの娘達は・・・・・・むむむっ!!」

 

するとそこでアキラが春木達の存在に気付き、春木が話しかけようとするのだが・・・・・・アキラはそれよりも早く、彼の横を通り過ぎ、その後ろの方にいた友奈に話しかけてきたのだ。

 

「君ぃ~!! 良いねぇ!! イメージピッタリだよ!! あっ、そこの君も、君も、君も!!」

「えっ、えっ?」

 

突然、アキラが東郷や風、樹を指差し当然のことに困惑する友奈達。

 

「あぁ、すまない突然のことで何がなんだか分からないよね」

「え、えぇ・・・・・・」

「実はね、私・・・・・・あるアイドルグループの大ファンなんだよ! それで我が社でも我が社のイメージアイドルとしてアイドルグループを作る計画をしていたんだ!! そのグループのイメージに君たちは4人はとってもピッタリなんだよ!!」

「「「「え、えええええ!!!!?」」」」

 

アキラのその言葉に驚きの声をあげる友奈、東郷、風、樹。

 

「あ、あの・・・・・・でも、私なんて車椅子ですし、とてもアイドルに向いているとは・・・・・・」

「っ!!?」

 

東郷は車椅子生活の自分などがとてもアイドルに向いているとは思えないと言うのだが、そんな彼女の「声」を聞いて目を見開くアキラ。

 

「大丈夫、我が社の『パワード・フットギア』があれば足が不自由な人でもアイドルになることはできる!! そういった人達の為に開発したものだしね! 大和撫子な容姿、イメージカラーが青って感じ!! そして何より声が素晴らしい!!」

「な、なんだかそこまで言われると照れますね・・・・・・」

 

続いてアキラは風と樹に視線を向け・・・・・・。

 

「見たところ、君はこの娘のお姉さんかな?」

「あっ、はい・・・・・・。 私、犬吠埼 風って言います。 こっちは妹の樹・・・・・・」

「成程、髪の色的にお姉さん属性持ち・・・・・・、ブツブツ」

 

何かぶつぶつと呟くアキラ、そんなアキラを不思議そうに見つめながら首を傾げる風と樹。

 

「樹ちゃんだったかな? 君はどうかな?」

「えっ、いや私なんてアイドルには向いてないですよ~!」

「謙虚だね~、ますますグループに欲しくなるよ!」

 

最後に友奈を見つめ、彼女の両肩に手を置いて「アイドルやってみない?」と勧誘するアキラ。

 

「君は見た感じ、元気いっぱいって感じで笑顔がとても似合いそうだね!! その私が大好きなアイドルグループ、その私の推しであるリーダーと似た雰囲気があってとても良い!! どうかな? どうかなみんな? アイドルになって見ないかい?」

 

一度友奈から離れるとアキラは改めて友奈達4人にアイドルになってみないかと勧誘し、顔を見合わせる4人。

 

「い、いえ、今は遠慮しておきます・・・・・・」

 

代表して友奈がやんわりと断り、それを受けてアキラは「そうかぁ・・・・・・」と落胆するが、無理強いする訳にも行かないので止むなく今は諦めることにする。

 

「ただ1番重要なのは出来るかどうかでは無く、やりたいかどうかだから。 やりたいって気持ちを持って自分達の目標を持ってやってみる! 私が作りたいのはそういうグループなんだ。 だから気が変わったら何時でも言ってくれ」

「は、はぁ・・・・・・分かりました」

 

ちなみに唯一女性陣の中でスカウトされなかったヒナタだったが、そんなにアイドルに興味があった訳でもなく、スカウトされたらされたで困るので特に気にした様子は無かったのだが・・・・・・。

 

「ヒナタだけ勧誘されてないな。 フフッ・・・・・・」

 

とヒナタだけ勧誘されていないことに笑った良にイラッと来たので彼女は良のほっぺを少し強めに捻るのだった。

 

「なに笑ってるんですか良にぃ?」

「イタタタ!!? ごめんごめん!!」

 

しかしなんだかすっかり蚊帳の外になってしまった春木達、そこで春木が慌ててアキラと友奈の間に「あの!!」と割って入り、春木はアキラに面会希望の電話をした者であることを伝え、春木達の存在に気付いたアキラは「あぁ~!!」と申し訳無さそうな顔を浮かべる。

 

「すまない気付かなくて! え~っと君たちは・・・・・・えっと、喉まで出てるんだけどねぇ~! ヒント頂戴ヒント!!」

「あ、あの・・・・・・南 ミオの息子で長男の南 春木です!!」

「えっと!! あの、俺はみな、南・・・・・・!! りょりょりょ・・・・・・!!」

 

春木はアキラに対して自己紹介を行い、それに続いて良も自己紹介しようとするのだが本物のアキラに会えて感激したのか、緊張して上手く自己紹介ができないでいた。

 

「こいつは弟の良です!!」

「あぁ!! そうだ!! 南 ミオさんの息子さん達だ!! 通りで見覚えあると思った!! 大きくなったね2人とも~!!」

 

そこでアキラはヒナタの存在に気付き、「こちらは?」と尋ねると春木と良はヒナタは自分達の妹であることを紹介する。

 

「この子はヒナタ、俺達の妹です」

「こんにちわ愛染さん!!」

「う~んむ、元気があって良いね! しかし、娘さんがいるとは知らなかったなぁ」

 

アキラは笑みを見せながらヒナタと握手し、また友奈達の名前もまだ聞いていなかったと思い、彼女等にも名を尋ねると友奈達も自己紹介を行う。

 

「私、讃州中学2年、結城 友奈って言います!!

「同じく東郷 美森です」

「同じ中学の3年で犬吠埼 風です」

「私はその妹で、犬吠埼 樹って言います。 ちなみに私も同じ中学です」

 

友奈、東郷、風、樹もそれぞれ自己紹介をすませ、アキラは先ほどと変わらない笑みを浮かべて「よろしく~」と挨拶をしていると・・・・・・突如、「パリン!」とガラスが割れたかのような音が鳴り、アキラの頭に何か落ちて直撃してきたのだ。

 

「ふごっ!?」

「愛染さん!!?」

 

春木達はすぐさま倒れ込んだアキラに向かって駆け寄り、樹は何が落ちて来たのかと周囲を見回すとすぐ近くに鳥の形をした石を発見したのだ。

 

「石の鳥・・・・・・? なんでこんなものが空から・・・・・・?」

「それよりも愛染さん大丈夫!?」

 

風が心配そうにアキラに大丈夫かと尋ねると、アキラは目をくわっと開いて勢いよく立ち上がり、「平気平気!!」と元気な姿を見せる。

 

「この程度のこと、どうってことはないよ!! ファイトだよ!! 私!! それじゃ、早速行こうか!!」

「え、えぇ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一同はアキラによってアイゼンテックの中へと案内され、ゆっくり話をする為に社長室へと向かう。

 

その際、アキラはすれ違う社員達に気さくに話しかけ、その姿に良は「流石だなぁ」と感心していた。

 

「でも急に押しかけたのに申し訳ないな、俺達・・・・・・」

「そんなこと気にしなくて良いんだよ!! 気にしない気にしない!」

 

するとその時、ヒナタが壁に飾られているある写真を発見し、彼女はその写真の元まで行くとアキラに「これはなんですか?」と尋ねる。

 

「あぁ~、これは創業者である父とその会社、つまりはこの会社がまだうぶ毛のことりだった頃の会社の『愛染鉄工』だね」

「へぇ~、これが・・・・・・。 まだこの時小さい会社だったんですね・・・・・・」

 

良が興味深そうに写真を見つめ、またアキラは良の言葉に「うむ」と頷いてどこか遠い目をしながら当時の思い出を語り始める。

 

「そう、この頃はまだ小さな町工場で・・・・・・まさにアイゼンテックの始まり、スタートダッシュ。 それを私の代で事業を拡大し綾香市にやってきた。 それで名前も愛染鉄工からアイゼンテックに変え・・・・・・ことりの翼がやっと大きくなって飛び立った瞬間だね。 やっぱりグローバルな名前にも・・・・・・」

 

アキラがそこまで言いかけた時、またヒナタが何かを発見したようで彼女はしゃいだ様子でそこから走り去って行き、春木は申し訳なさそうに「すみません」とアキラに頭を下げて謝罪する。

 

「いやいや良いんだよ! あのくらいの年頃の娘さんなら色々なことに興味が行っちゃうだろうし」

 

そしてヒナタが見つけたのは以前テレビで紹介されていたアイゼンテックが開発した「パワード・フットギア」の性能テストが行われており、それには良や風達も興味深そうに眺める。

 

「あれこの前テレビでやってたやつですよね愛染さん?」

「いいや、実はアレはその強化版だから・・・・・・正確には違うね」

 

樹がアキラにパワード・フットギアのことを尋ねるとアキラは以前テレビで紹介したやつの進化版であると説明し、そのままアキラは意気揚々とフットギアの説明を行うのだが・・・・・・。

 

「あの私!! やってみても良いですか!?」

「あっ、出来れば私もやりたーい!!」

 

説明の途中でヒナタと友奈が手を挙げてフットギアを使ってみたいと頼み、風と春木は慌てて友奈とヒナタの手を下ろさせる。

 

「アンタ等もう少し遠慮せぇい!?」

「風の言う通りだ! 友奈まで!!」

「いやいや、良いんだよ。 是非とも使ってみて感想を聞かせてくれ!!」

 

そんな訳でヒナタと友奈はフットギアを貸して貰い、手足に装着してピョンピョン跳ね回る。

 

「わ~い! すご~い!!」

「わぁ~!! ホントだ凄い!! 楽しい~!! よっと!!」

 

ピョンピョン跳ね回りながら友奈はなんとなく試しに回し蹴りのような動作を繰り出すのだが・・・・・・今日、友奈はスカートを履いているため、そんな動きをすればスカートの中が見えてしまう訳で・・・・・・。

 

「ゆ、友奈さん! そんな動きしたらスカートの中見えますよ!?」

「あっ、そっか!!」

 

樹に指摘されて友奈は顔を真っ赤にして慌ててスカートを抑え、またアキラ、春木はスカートの中を見ないように咄嗟に顔を横に向けていたのだが・・・・・・。

 

「ぐぐぐぐ・・・・・・何すんだ東郷先輩・・・・・・!!」

 

良に関しては友奈のスカートの中を見せまいと東郷が目元にアイアンクローをかけて目を塞いでいた。

 

「ぐぐぐ、当然でしょ? 良くんに友奈ちゃんのスカートの中見せたくないもの」

 

尚、良も東郷の目元に向かって友奈のスカートの中身を見させないようにアイアンクローをかけて目を塞いでいたりした。

 

「というかなんで良くんは私の目を塞ぐのかしら・・・・・・? 一応女性なのだけど・・・・・・?」

「同じ女性でも、アンタにだけは友奈さんのスカートの中見せたくないんで・・・・・・!!」

 

そんな東郷と良の2人に春木、風は呆れた表情を浮かべ、樹は苦笑してしまう。

 

「さぁ、そろそろ本題に入ろうか? 遊びに来た訳ではないんだろう?」

 

アキラにそう言われて春木達はすっかり本題を忘れており、一同はハッとした顔を浮かべて慌てて良は持って来ていた母親のノートを取り出してアキラに見せる。

 

「あの、実は愛染さんに見て頂きたいものが!」

 

そのノートに書かれている火と水のクリスタルのイラストを見てアキラは何か思い当たる節があるらしく、「あぁ、これか!」と春木達の予想通り、アキラはクリスタルについて何か知っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから春木達は未だにフットギアで遊んでいる友奈とヒナタを置いて社長室に案内され、詳しい説明を聞くことに。

 

「この話をする前に、先ずは綾香市の歴史から知って貰わないといけないんだけど、綾香星の伝説って知ってるよね?」

「あっ、はい勿論です! 風先輩と兄貴もちゃんと覚えてるよな?」

 

良はジトッとした目で春木と風に視線を送り、「覚えてるよ/覚えてるわよ!!」と怒りながら応える。

 

「なんであたし等だけに言うのよ! 空からなんとかってのが落ちて来てそこからなんか出てきたって話でしょ!?」

「説明がザックリ過ぎるよ、お姉ちゃん・・・・・・」

 

樹は風のザックリな説明にやんわりとツッコミつつ、風と春木がちゃんと伝説を覚えているのか不安だった為、代わりに東郷が2人にその伝説を教えようとするのだが・・・・・・春木が「待て!」と待ったをかける。

 

「風と違って俺はちゃんと知ってるぞ!」

「じゃあ説明してみなさいよアンタ。 綾香星の伝説って?」

「あぁ!!」

「・・・・・・それがやりたかっただけでしょ、アンタ」

 

そんな風と春木のやり取りに東郷は「いちいちふざけないでください2人とも」と強く、特に風は注意されてしまう。

 

その際、風は「なんであたしだけ!?」と思ったがなんだか東郷が恐かったので追求しないことにする。

 

「今のやり取り・・・・・・、ブラック店長に来た時のあの兄妹を思い出すなぁ・・・・・・」

 

その際、風と春木のやり取りを見て、小声で何かアキラが呟き、春木達は首を傾げるが「いやなんでもない、気にしないでくれ」と言って誤魔化した。

 

改めて今度こそ東郷はイマイチ伝説の内容を覚えていない春木と風に説明するため、彼女はその綾香星の伝説について語り出す。

 

「綾香星の伝説、それは『綾香星』という隕石が空から降り注ぎ、そこからもののけが生まれたと言われたおとぎ話ですね。 この街の人なら誰でも知ってる話ですよ先輩方・・・・・・」

 

東郷から呆れた視線を送られ、春木と風の2人は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「その通り! しかぁーし! その伝説はあながちおとぎ話とは言い切れないんだ!」

「おとぎ話じゃないって・・・・・・どういうことですか!?」

 

アキラの言葉を聞いて、春木達は驚きの声をあげ、特に良は興味深そうに詳しい事情を聞きたそうにする。

 

「あれ? 良いね、興味が湧いてきた? 現地の調査と過去の文献を照らし合わせてみたんだがね、それを見て私は1つの仮説に辿り着いた!」

 

そう言いながらアキラは胸ポケットから黒豆の入ったせんべいを取り出し、それを綾香星に例える。

 

(なんでそんな所からせんべいが・・・・・・)

 

樹がなんで胸ポケットにせんべいがあったのか気になったが、話の腰を折りたくはないため、黙っていることに。

 

そしてアキラはせんべいを綾香星に例え、それが宇宙から飛来して来たと説明。

 

「ひゅーん、ずどーんっと!! そしてボーン!!」

 

アキラはせんべいを机の上に置くとそれを3つに割る。

 

「通説ではこれが隕石だと言われているんだけど、実はこれは隕石ではなく巨大生物ではないかと思われるんだ。 しかも3体!」

 

それを聞いて春木と良は自分達がウルトラマンになった際に頭に浮かんだグルジオボーンと対峙するロッソ、ブルのイメージを思い出す。

 

「って訳でこれ持って!」

 

そう言いながらアキラは3つに割れたせんべいを春木、良に持たせ、自分は最後の1つを持つと3人はせんべいを掲げる。

 

「これが3体の巨大生物! まだ西暦だった頃の300年前にこれがもつれ合いながら落ちて来て綾香市にグワーっと激突!!」」

 

アキラはそう説明しながら3人は3つに割れたせんべいを机に置くと、アキラは手でバーンッとせんべいを叩いて割り、粉々にするとせんべいの中に入っていた黒豆を手に取る。

 

「そしてそれはあるものとなって飛び散った! これが、それなんじゃないかと思ってね」

 

アキラは机の上に開かれたクリスタルが描かれたノートのページに黒豆を置き、つまり、その飛び散ったものはウルトラマンのクリスタルであることに春木と良は気づき、アキラの話を聞いて春木達は合点がいったという様子だった。

 

「私はこの仮説を証明するために綾香市にアイゼンテックを構え、君たちのお母さんであり、宇宙考古学者のミオさんと研究を行ったんだ」

「そ、そうなんですか・・・・・・!?」

 

さらにアキラが言うにはミオと更に研究を重ねた結果、戦った3体の内、2体が光の巨人ではないかと推測されるらしい。

 

「そしてその者のことを私はこう呼んでいる!! ウ・・・・・・」

「ウルトラマンですね!」

 

アキラが言うよりも前に先に東郷が応えてしまい、若干悔しそうにしつつも気さくな笑顔で「正解!!」と東郷と握手するアキラ。

 

「しかし、一緒に研究を行っていた君たちの母親であるミオさんは数年前に突如姿を消してしまった。 彼女が姿を消したと共に研究成果もなくなってしまったんだよなぁ・・・・・・」

 

アキラは遠い目をしながら窓から見える街を眺める。

 

「それが元で犯罪に巻き込まれた可能性も考えられるとして警察も随分動いたし、私もかなり探したんだけどね・・・・・・。 君たちには、すまないと思っている・・・・・・」

 

そう語るアキラは春木と良に対する申し訳なさからか、目尻に涙を浮かべる。

 

「・・・・・・んっ?」

 

その時、突如街の上空から巨大なワームホールのようなものが開き、そこから緑の蛇のような怪獣、「化石魔獣 ガーゴルゴン」が出現し、地上へと降りてきたのだ。

 

「ギシャアアアアア!!!!」

 

ガーゴルゴンは街を破壊しながら歩き回り、アイゼンテックではすぐさまダーリンによって避難警報が出される。

 

『危険です。 巨大生物が接近しています。 避難してくださーい』

「緊張感のない警報ね・・・・・・」

「言ってる場合じゃないでしょお姉ちゃん!」

 

風がダーリンの緊張感のない警報にツッコミつつ、一同は急いで避難することとなり、先ずはフッドギアで遊んでいた友奈とヒナタの2人と合流することに。

 

その際、東郷は車椅子ということもあり、春木がまたお姫様抱っこすることになったりしていたが。

 

(役得・・・・・・!!)

 

また春木に抱きかかえられた東郷は顔を赤らめつつも、嬉しそうにしており、春木はなぜこの状況で東郷が嬉しそうな顔をしているのか分からず、首を傾げた。

 

「なんでちょっと嬉しそうなんだ?」

「えっ、わ、私そんな嬉しそうな顔とかしてました・・・・・・!?」

「それよりも春木、アンタお姫様抱っことか大胆ねぇ・・・・・・」

 

そんな2人の様子を見ていた風はニヤニヤとした視線を送り、そんな風に春木はそんなことを言ってる場合ではないと叱る。

 

「言ってる場合か!! それに、こういうのは1番年上の奴・・・・・・尚且つ男がやるもんだ!!」

「分かってるわよ」

「ああ~、こんな時に何なんだけど、どうして君たちはあの絵に興味を持ったのかなぁ? それもウルトラマンと何か関係が・・・・・・」

 

すると、アキラは不意に立ち止まって春木や良にどうして絵のことを自分に聞きに来たのかと尋ね、それを受け、樹は「それ今聞くことですかぁ!?」と最もな疑問をぶつける。

 

「いや、確かにこんな状況だけどどうしても気になってしまってね~。 何か知っているのなら・・・・・・」

「「わぁ~!!!!? 誰か止めて~!!!!」」

「「うぐぉう!?」」

 

その時、アキラの背中にフットギアを履いたままぴょんぴょん飛び回って止まるに止まらなくなったヒナタが激突し、同じように止まらなくなった友奈も良に激突してしまい、友奈は良を押し退かす形になってしまう。

 

それを見た風は「普通逆じゃね?」と思ったとか。

 

「なっ・・・・・・なっ・・・・・・友奈さん!!?」

「あっ、ごめんね良くん!! すぐに退くから」

 

友奈に押し倒されて顔を真っ赤にする良。

 

友奈はすぐに良から離れ、そのことに名残惜しそうにする良だが・・・・・・すぐに彼は後ろから鋭い視線が背中に突き刺さるのを感じ、恐る恐る振り返ると・・・・・・。

 

そこには鬼の形相を浮かべている東郷の姿が。

 

「良くん、事態が落ち着いたら後でちょっとお話があるからね・・・・・・?」

「い、今のは不可抗力だろう!!?」

 

またヒナタはぶつかってしまったアキラに対して「ごめんなさい!!」と慌てて頭を下げて謝るのだが、アキラは何事も無かったかのように勢いよく立ち上がる。

 

「全然大丈夫!! このくらいじゃ~、私はへこたれない!! うん、ファイトだよ!!」

 

アキラは謝るヒナタに「気にする必要はない」と言い、その直後、アイゼンテックのビルが大きく揺れ、流石にこれ以上のんびりしている訳にはいかないと判断したアキラは話は後にすることにしてみんなを避難場所まで誘導することに。

 

「春木先輩、代わります」

 

その際、友奈が東郷を抱きかかえるのを代わると言いだし、そのことに「えっ、でも・・・・・・」と戸惑う春木。

 

「先輩と良くんは、怪獣を止めに行ってください!」

「そうね、二人がちゃんと安全に避難したのを見届けたら、後で私達も援護する為に合流するから、アンタ達は先に行って怪獣に対処して」

 

友奈と風の2人が力強く春木と良の2人にそう言うと、春木に抱きかかえられた東郷も「行ってください」と2人がガーゴルゴンを止めに行くことを催促する。

 

「今は2人の力が必要な筈です。 みんなを守る為にも・・・・・・」

「・・・・・・そうだな。 分かった。 行くぞ良!」

「あぁ!!」

 

春木は東郷を友奈に預け、春木と良の2人はアキラやヒナタに気付かれないようにこっそりとその場から抜け出して外を目指して走り出す。

 

外に出た2人は互いに頷き合い、手をぶつけ合わせてからルーブジャイロを同時に取り出す。

 

「「オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!!!」」

 

最初に春木が空中に浮かんだホルダーを手に取り、そこから「ウルトラマンタロウ」の絵が描かれた火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

タロウクリスタルの角を2つ立ててルーブジャイロの中央に春木はセット。

 

『ウルトラマンタロウ!』

「纏うは火!! 紅蓮の炎!!」

 

最後に春木はルーブジャイロのトリガーを3回引いて右腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! フレイム!!』

 

春木は炎に包まれ、赤い巨人「ウルトラマンロッソ フレイム」へと変身。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

続けて今度は良がホルダーから「ウルトラマンギンガ」の描かれた水のクリスタルを取り出し、それをルーブジャイロにセットさせる。

 

『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは水!! 紺碧の海!!」

 

また春木と同様に良もルーブクリスタルのトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! アクア!』

 

良は水に飲み込まれ、青い巨人「ウルトラマンブル アクア」へと変身を完了させる。

 

変身を完了させた2人はアイゼンテックに迫ってくるガーゴルゴンの前に立ち塞がるようにして現れる。

 

『おっしゃああああ!!!! 気合いと根性入れんぜぇ!!!!』

『おわっ!? 急に横でデッカい声出すな兄貴!!』

『あっ? 気合い入れてんだよ気合い!! 行くぞ良!!』

 

ロッソはブルにそう言うと、ロッソはガーゴルゴンに向かって駈け出し、そんなロッソを見て呆れたように溜め息を吐くブル。

 

『はぁ、脳筋兄貴め・・・・・・』

 

最初にロッソがガーゴルゴンに迫ると、ガーゴルゴンの腹部に向かって蹴りを入れ、続けて飛び上がったブルが勢いをつけた拳をガーゴルゴンの顔面に叩き込む。

 

「グギャギャギャ・・・・・・!!」

 

するとガーゴルゴンは両腕から肩に掛けて生えた触手状の顔の様なのものを伸ばし、その伸ばした触手はロッソとブルの身体を拘束し、2人を空中に持ち上げて激しくぶつけ合わせた後、素早く地面に叩き落とす。

 

『『ウアアアアア!!!!?』』

 

さらにガーゴルゴンは倒れ込んだロッソとブルに向かって両肩の触手から青白い稲妻の様な破壊光線を発射。

 

『あぶねぇ!!?』

 

咄嗟にロッソとブルは身体を転がして光線を左右に避け、立ち上がると2人は同時にガーゴルゴンに向かって駈け出す。

 

それに対してガーゴルゴンは両肩から破壊光線をロッソとブルに撃ち込むが、2人は高くジャンプして飛び上がり、空中からガーゴルゴンに向かって2人同時に急降下キックを叩きこむ。

 

『『シェア!!』』

「キジャアアアア!!!!?」

 

それによって大きく後退するガーゴルゴンだが、ガーゴルゴンは頭部に当たる部分の口を開き、そこにある目玉から放つ相手を石化させる「石化光線」を放つが、2人はそれをなんとか躱す。

 

だが、2人の後ろにあったビルに直撃すると、そのビルは石化してしまい、それを見たロッソとブルは驚愕した。

 

『こいつ、相手を石化させる能力があるのか!? まさか、さっき落ちて来た石の鳥も・・・・・・!!』

『こいつの仕業と言う訳か・・・・・・。 どうやら、かなりの強敵のようだな』

 

そのガーゴルゴンの能力を見た2人は先ほど見た石の鳥はこいつが鳥を石化させたのだと思い、ロッソとブルはガーゴルゴンの能力に警戒を強める。

 

「グルアアアアア!!!!」

 

ガーゴルゴンはロッソに向かって一気に近寄ると、右手の鋭い爪で突こうと攻撃を仕掛け、なんとかそれを回避するロッソだが・・・・・・直後に左肩をガーゴルゴンの右肩の触手の牙に噛みつかれ、さらには横腹を左腕で殴られて片膝を突いてしまう。

 

『ウグアア!!?』

 

その隙にガーゴルゴンはブルに向かって石化光線を放ち、ブルは咄嗟に回避するのだが・・・・・・。

 

石化光線はビルの窓で光線は反射されてしまい、光線はブルに直撃してしまう。

 

『おい待てそれ反則・・・・・・!!』

 

直撃を受けたブルは身体が石となってしまい、それを見たロッソは良の名を叫ぶ。

 

『なっ、良ーーーーーー!!!!!』

 

また、ヒナタやアキラの避難完了させ、ロッソ達を援護するためにこっそり避難所から抜け出した友奈達はというと・・・・・・。

 

アイゼンテックから少し離れた場所にあるビルに勇者服を纏った状態で立っており、風はどうやってロッソ達を援護するか考えていた。

 

「そんな・・・・・・良くん!!」

「落ち着いて友奈ちゃん!! 大丈夫、きっと良くんを助けられる方法はある筈よ・・・・・・」

 

石化したブルを見て、友奈は今にも飛び出しそうになるが・・・・・・そんな友奈に東郷はきっと良を助けられる方法はある筈だと落ち着かせるように言い、それを受けて友奈は「うん」と頷くが・・・・・・彼女は悔しそうに拳を握りしめていた。

 

「私達勇者の存在は、一般人には知られてはいけない。 だからあまり人目につかないようにウルトラマンを援護したいんだけど・・・・・・。 そうも言ってられないかしらね・・・・・・!」

 

勇者の存在は教師などは兎も角、一般人には極秘であり、そのことから風はなるべく人目につかないようにしたかった。

 

しかし思いの外ガーゴルゴンは強敵のようで、彼女は四の五の言ってる場合ではないかと思ったのだが・・・・・・。

 

「あっ、春木先輩が・・・・・・!!」

 

次の瞬間、ガーゴルゴンは右肩の触手でロッソの首を巻き上げ、動きを封じると口の中の目を開き、石化光線を近距離からロッソに撃ち込もうとする。

 

『ぐぅ~・・・・・・!! 離れろゴルァ・・・・・・!! んっ?』

 

その時、ロッソは隣のビルを見てみると、そのビルの窓に映る自分の姿を見てロッソは違和感を感じた。

 

それは、ロッソの2本角が光っている光景であり、それにロッソは「えっ? なにこれ怖っ!? 頭光ってる!!」と驚いた様子を見せる。

 

「・・・・・・そうか! もしかしたら・・・・・・!! 東郷!! あいつの口の中の目が開いてるところに銃弾を撃ち込んじゃいなさい!!」

「っ! 了解です!!」

 

東郷は風に指示された通り、狙撃銃を構えるとガーゴルゴンの口の中の目に向かって銃弾を次々撃ち込み、ガーゴルゴンは目から火花を散らしながら苦痛の声をあげる。

 

「キジャアアアア!!!!?」

 

それによってロッソの拘束が緩み、ロッソは素早くガーゴルゴンの拘束から抜け出す。

 

『おっと!! 助かったぜ、東郷!!』

 

ロッソは東郷に礼を言うと、恐る恐る自分の2本角に手を触れ・・・・・・そこから2本の短剣、『ルーブスラッガーロッソ』をロッソは取り出す。

 

『ルーブスラッガーロッソ!! ってなんか武器出たぁ!!?』

 

ロッソがそうこうして驚いている間にガーゴルゴンは口の中の目を攻撃されたことでブルの石化も解け、ブルは復活。

 

ブルは急いでロッソの元に駆け寄る。

 

『元に戻って良かった』

『おう。 んっ? 兄貴? なんだその武器は?』

『頭に武器が仕込んであったみたいだ』

『えっ、なにそれ怖っ・・・・・・。 だがまぁ、使えるもんは使っておかないとな!!』

 

ロッソからスラッガーロッソがどこにあったのかを聞くと、ブルも頭部に手を触れ、そこから1本の剣、「ルーブスラッガーブル」が出現し、ブルはそれを手に取って構える。

 

『ルーブスラッガーブル!!』

『こいつでアイツを切り刻んでやるデス!!』

『なにそのどっかで聞いたことある口調・・・・・・。 それより見ろ!! アイツの口の中の目を・・・・・・再生してやがる』

 

ロッソが言うように、ガーゴルゴンの口の中の目は東郷の狙撃で一度は傷ついたもののすぐに再生を始めており、このまま下手に戦えばまた石にされてしまうとロッソは懸念する。

 

『なら、再生する前に奴を仕留める!!』

『だな!!』

 

ガーゴルゴンは両肩の触手から稲妻のような破壊光線をロッソとブルに放つが、ロッソとブルの2人はそれぞれのルーブスラッガーを振るい、光線を弾く。

 

「ギシャアアアアア!!!!」

 

それに焦ったガーゴルゴンはさらに力を込めて破壊光線をロッソとブルに撃ち込もうとするのだが・・・・・・突如、ガーゴルゴンの両肩の触手は後ろに引っ張られるようにワイヤーのようなものが巻き付いて拘束され、ガーゴルゴンの動きが幾つか制限されてしまう。

 

「これで動きはある程度封じたよ!!」

 

それは樹の出したワイヤーであり、彼女はガーゴルゴンの後ろにあったビルに移動してガーゴルゴンの背後に回り込み、ガーゴルゴンの両肩の触手をワイヤーで拘束したのだ。

 

ちなみに、ガーゴルゴンが反撃した時のことを考えてか友奈が樹の傍で待機していたりする。

 

『ナイスだ樹さん!!』

 

だが、ガーゴルゴンは2本の尻尾を真っ直ぐ樹に向かって伸ばして攻撃を仕掛けてくる。

 

「えぇ!? その尻尾伸びるのぉ!?」

「させない!!」

 

だが、それは友奈が両手の拳を素早く振るって尻尾を弾き、その隙にブルとロッソは同時にガーゴルゴンに向かって駈け出し、すれ違いざまに2人はルーブスラッガーでガーゴルゴンの両肩の触手を切り裂き、切断することに成功。

 

「ギシャアアアア!!!!?」

『よし、今だ!! 良、新しいクリスタルを使え!! なんとなく勘だが、こいつはお前と相性が良い気がする!!』

『新しいクリスタル!? 兄貴、いつの間に・・・・・・』

『さっき風に貰ったんだよ!! 詳しい説明は後だ!!』

 

ブルはロッソの言葉に戸惑いつつも頷くと、ブルのインナースペース内の良はホルダーから新たに加わった「雪」と書かれたクリスタルを取り出し、角を1本立てる。

 

『セレクト!! クリスタル!!』

『雪女郎!』

 

そこから良はルーブジャイロにクリスタルをセット。

 

『纏うは雪!! 凍てつく吹雪!!』

 

続けて良はルーブジャイロのトリガーを3回引き、左腕を掲げる。

 

『はあああ、はあ!!』

『ウルトラマンブル! ユキジョロウ!』

 

すると、ブルの青かった部分は白となり、カラータイマーはそのままであるが、胸部にはX字のような模様の入った「ウルトラマンブル ユキジョロウ」へとブルは姿を変える。

 

『成程、雪女郎か』

 

またブルが姿を変えると同時にガーゴルゴンの目が再生を完了させ、ガーゴルゴンは石化光線をロッソとブルに放つ。

 

『うおっ!!?』

『そう何度も同じ手を食うか!!』

 

ロッソとブルは光線をなんとか避け、ガーゴルゴンが光線を打ち止めた瞬間を狙い、ブルはスラッガーブルを一度仕舞って素早く両手から放つ強力な冷気光線、「ブリザードシュート」をガーゴルゴンに向かって繰り出す。

 

『ブリザードシュート!! 今度は俺がお前を固まらせてやる!!』

 

それを受けてガーゴルゴンは全身を氷付けにされ、ロッソは今がチャンスだとばかりに右手に持つスラッガーロッソをガーゴルゴンに向かって振るうのだが・・・・・・。

 

ガーゴルゴンは力尽くで氷を打ち破り、左手でロッソの右手を掴みあげると左拳でロッソの胸部を殴りつけて殴り飛ばす。

 

『なっ、ウアアアア!!!?』

「グルアアアアア!!!!」

『兄貴!! だったらこれだ!! アイスシューター!!』

 

ブルは自分の周囲に鋭く尖った槍のような氷を出現させ、それを一気に相手に向かって飛ばす「アイスシューター」を繰り出し、槍の氷はガーゴルゴンに次々直撃し、ガーゴルゴンは火花を散らして怯む。

 

「グルアアアアア!!!!?」

『シェア!!』

 

そこからさらにブルはガーゴルゴンに向かって駈け出し、ドロップキックを叩き込こもうとするが、ガーゴルゴンは2本の尻尾を振るってブルを叩き落とす。

 

『ウアア!!?』

 

そこでロッソは「雷」と書かれた「ウルトラマンエックス」という戦士のクリスタルの2本角を立ててスラッガーロッソにセット。

 

『ウルトラマンエックス!』

『ザナディウムソニック!!!!』

 

そしてロッソはX字型の光刃を飛ばす「ザナディウムソニック」をガーゴルゴンに向かって繰り出し、ガーゴルゴンの身体を斬りつける。

 

「グルアアア!!?」

 

続けざまにブルもガーゴルゴンの頭上に右手をかざし、氷柱を幾つか形成するとそれを相手に雨のように降り注がせる「アイスレイン」を繰り出す。

 

『アイスレイン!!!!』

「グウウウウウ・・・・・・!!? グルアアアアアアア!!!!!?」

 

ロッソとブルの放った連続必殺攻撃を受け、耐えきれなかったガーゴルゴンは身体中から火花を散らし、倒れ、爆発四散。

 

ガーゴルゴンはなんとかロッソとブルによって倒されたのだった。

 

『やったな、良!!』

『兄貴・・・・・・あぁ!』

 

ガーゴルゴンを倒したロッソとブルは互いに頷き合うと拳をぶつけ合わせ、最後にハイタッチするとブルは「お先!!」と言って飛び立って行ってしまう。

 

『『一難去ったら空を飛べ』、だぞ兄貴!』

『愛染さんの台詞だろ、それ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある薄暗いどこかの部屋。

 

そこでは「石」と書かれたガーゴルゴンの姿が描かれたクリスタルを手に持つアキラの姿があり、彼はテーブルの上にそのクリスタルを置いてニヤリとした笑みを浮かべる。

 

また、そのテーブルの上にはガーゴルゴン以外にも以前にも出現したまた、そのテーブルの上にはガーゴルゴン以外にも以前にも出現したグルジオボーンやガルバラードのクリスタルも置かれていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

クワトロM。

 

その後、ヒナタと一緒に家に帰った春木と良はというと・・・・・・。

 

良はノートパソコンを開いて綾香山と巨大生物についての関係を調べており、良はそれを調べる中で1つ分かったのはやはりこの2つは何かしらの関係があるということだった。

 

「それってお前が前に言っていたバイブス波ってやつか?」

「あぁ、それともう1つ気になることがあるんだが・・・・・・」

「んっ? なんだ?」

 

良が言うもう1つ気になること・・・・・・それは今回、怪獣が現れたというのに前回と違い、樹海化が発生しなかったということ。

 

最初の戦いの時は兎も角、前回と同じように今回は樹海化が発生しておらず、なぜ今回は神樹は樹海化を発生させなかったのか・・・・・・そのことについて良は疑問を抱いていた。

 

「うーん、神樹様としては、樹海化する時の力をなるべくバーテックスやバーテックスと一緒にやってくる怪獣達に対して使いたいから・・・・・・とかかな?」

「案外そうかもしれないな。 前回は銀色の怪獣とほぼ同時にバーテックス達がやってきたから、樹海で纏めて倒せって感じで樹海化したのかもしれん」

 

その時、ウシオが新しい服を作ったから見てくれと春木や良の元にやって来ると、彼はそれを2人に見せ、その服はグラフのような模様が描かれており、そのグラフの下には「バイブス派」と書かれた文字が刻まれていた。

 

「見てくれ!! 最近お前達の言うバイブス派とか言うのをイメージに取り入れたこの服を!!」

 

しかし、それを呆れた顔を浮かべる春木。

 

さらに、その服の「バイブス派」という文字を見て「んっ?」と何か違和感を感じる良。

 

「お父さん、字が違いますよ。 バイブス派ではなくバイブス波! なんですかその部活の部を陪って書くような間違いは」

「えっ、えぇ!? なんだよ、これれもう発注かけちゃったよ!! もう少し早く言ってくれないとさ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方頃・・・・・・1人河原を風来坊風の男性がカレーパンを頬張りながら歩いていた。

 

「君、素質あるよ! イメージにピッタリだ!!」

「はい?」

 

背後から突然誰かに声をかけられ、男性が振り返るとそこにはアキラの姿が。

 

「愛染 アキラです!! 君、良いねぇ~!! その風来坊風の格好!! あの人も今は風来坊に戻ってるからねぇ~! それにそのカレーパン!! 君の好物なのかい?」

「は、はぁ・・・・・・まぁ、好きですけど・・・・・・」

 

男性は戸惑いつつもアキラの質問に応え、アキラは半ば強引にその男性と握手する。

 

「良かったら、私と一緒にどうだろう!? みんなで叶える物語を一緒に作ろうではないか!!」

「えっ・・・・・・えっ・・・・・・?」

「さあ、行こうでは無いか!! 私と一緒に見たことのない場所へ、見たことのないステージへ!! 叶え、私の夢!! 叶え!! あなたの夢! 叶え!! みんなの夢ってね!!」

 




アキラ
「ふふふ、あの人の誕生日に更新がラブオーブでないのは残念だが!! 今日という日を祝おう、そう、最高最善にして初代ラブライブ元祖主人公にして、μ'sのリーダー!! 高坂 穂乃果さんの誕生日をな!!」

春木
「ゆゆゆ三期も決定したぞ!!」

アキラ
「知るか!! 今は穂乃果さんだ穂乃果さん!! 今日は宴だ!! バースデーケーキも用意したしな!!」

東郷
「それ、全部誰が食べるんですか・・・・・・」

アキラ
「社員にもお裾分けするが基本私だけだな」

春木
「なんか、悲しいな」

アキラ
「うるさい放っておけ!!」





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第5話 『新たな仲間』

ちゅるっと放送記念に更新。


友奈達が勇者になってから、1ヶ月ほどが経った頃。

 

今回は久しぶりに樹海化が発生し、既に友奈達は勇者に変身して樹海で結界の外から来るバーテックスを待ち構えているところだった。

 

また、春木や良も何時でも変身できるようにルーブジャイロを構えており、やがて全体的にメカニカルな姿をした山羊座を模したバーテックス、「カプリコーン・バーテックス」が出現する。

 

「あれが5体目・・・・・・」

 

後方で寝そべるような体勢で狙撃銃を構えながらカプリコーンの姿を見て、そう小さく呟く東郷。

 

「来た!」

「あれ? 今回はバーテックスだけですかね?」

 

しかし、良は出現したバーテックスがたった1体だけしか出現しないことを疑問に思い、ガルバラードのような例を除けば何時もバーテックスのお共のようにツインテール、リトマルス、ガドンなどが出現していた筈。

 

なので良は今回、ウルトラマンである自分達もいるのにバーテックスたった1体なのだろうかと首を傾げるが・・・・・・。

 

「バーテックスが1体だけと油断しない方が良いわよ、良。 忘れたの? 最初の樹海での戦いの時も、2回目の樹海での戦いの時も怪獣達や地中や勇者アプリのセンサーが反応できないくらい遥か上空から待機していたのを」

「あっ、そうか!」

 

風に言われて良ははっと樹海に出現した怪獣達は何時もよく隠れていたことを思い出し、だとしたら今回もどこかに怪獣が隠れている可能性があるかもしれないと良は辺りを見回して警戒する。

 

「・・・・・・1ヶ月ぶりだから、ちゃんと出来るかな」

 

そこで友奈がボソッと不安そうな表情を浮かべながら呟くが、それを受けた樹がスマホを操作しながら「ここをこうこう」と友奈と作戦を練り、友奈は「ほうほう!」と納得するが・・・・・・。

 

「えーい!! 成せば大抵なんとかなる!! 四の五の言わず、ビシッとやるわよ!!」

「風の言う通りだ!! 今更作戦なんて考えたって遅い!! 用は気合いだ!! 気合いがあればなんとかある!! 当たって砕けろだ!! さぁ、気持ち燃え上がらせるぞぉ!!」

「この脳筋年長者共・・・・・・」

 

年長者の癖に春木も風もロクな作戦1つ考えないことに良は呆れたような溜め息を吐き出し、「砕けたらダメだろ、砕けたら世界滅びることにならない?」と春木の言葉にツッコミを入れるが、春木はなんの根拠も無いのにサムズアップしながら「大丈夫!!」と良に言葉を返す。

 

「例え砕けても砕けた状態のまま敵に立ち向かえば良いんだよ!!」

「もう言ってること無茶苦茶じゃないのこの脳筋兄貴!!」

 

もはやもう何を言ってるんだがよく分からない春木に良は再び溜め息を吐きつつ、友奈の方へと顔を向け「でもまぁ、きっと大丈夫ですよ」と声をかける。

 

「実際のところ、みんなで力を合わせれば、確かに風先輩の言うようにきっとなんとかなると思います。 今までもそれで実際なんとかなりましたし」

「あっ、うん、ありがとう良くん! 良くんがそう言ってくれたおかげで、私もちょっと不安が消えたよ!」

 

良が友奈を励ますようにそう言うと、友奈も笑顔を取り戻し、「よーし、やるぞー!」と気合いを入れる。

 

しかし、その時、良は背筋にゾワリとした悪寒を感じ、誰かの視線を感じて何気なく東郷の方に目を向けると・・・・・・。

 

そこでは彼女の目からハイライトが消えて、良に対して指で首を斬るかのような動作をしながら「お前を殺す」というジェスチャーを送る東郷の姿があるのだった。

 

(こっわぁ・・・・・・!! いやだが、この程度で友奈さんのことを諦める俺じゃないぞ、東郷先輩! でも銃口こっち向けるのやめてくれませんかね!? 向けるならずっとバーテックスに向けといて欲しいんですけど!?)

「取りあえず、先ず俺と良が先行して行くか。 怪獣が隠れてて、出て来るなら多分ウルトラマンがいる時だろうし」

 

樹海に出現する怪獣は何時もウルトラマンが現れている時にしか姿を見せないので、春木は今回は先行して自分と良がカプリコーンの相手をすると言いだし、春木はもし怪獣が出現した時などは援護を頼むと風達にお願いすると、春木は冷や汗を大量に流す良の肩をポンッと叩き呼びかける。

 

「おい、行くぞ、良?」

「うおっ!? お、おぅ、兄貴・・・・・・」

「?」

 

春木は良の様子を不思議に思いながらも春木と良は互いに手をぶつけ合わせてからルーブジャイロを同時に構える。

 

「「オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!!!」」

 

最初に春木が空中に浮かんだホルダーを手に取り、そこから「ウルトラマンタロウ」の絵が描かれた火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

タロウクリスタルの角を2つ立ててルーブジャイロの中央に春木はセット。

 

『ウルトラマンタロウ!』

「纏うは火!! 紅蓮の炎!!」

 

最後に春木はルーブジャイロのトリガーを3回引いて右腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! フレイム!!』

 

春木は炎に包まれ、赤い巨人「ウルトラマンロッソ フレイム」へと変身。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

続けて今度は良がホルダーから「ウルトラマンギンガ」の描かれた水のクリスタルを取り出し、それをルーブジャイロにセットさせる。

 

『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは水!! 紺碧の海!!」

 

また春木と同様に良もルーブクリスタルのトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! アクア!』

 

良は水に飲み込まれ、青い巨人「ウルトラマンブル アクア」へと変身を完了させる。

 

変身を完了させた2人はカプリコーンに向かって駈け出し、ロッソの跳び蹴りとブルの拳が同時にカプリコーンに叩きこませ、カプリコーンは火花を散らしながら後退する。

 

『シュア!!』

 

そこからさらにブルの後ろ回し蹴りがカプリコーンに繰り出されるが、カプリコーンは空中で飛ぶことで攻撃を回避し、下部に存在する四つの突起をドリル状にしてロッソに向かって突っ込み、攻撃を受けたロッソは吹き飛ばされて倒れ込む。

 

『ウアアアッ!!?』

『兄貴!?』

 

さらにカプリコーンが地上に降り立つと、地震を発生させ・・・・・・ロッソとブル、友奈達も思わずバランスを崩し、倒れそうになる。

 

「わわわ!? 地震!?」

『こんの・・・・・・調子に、乗るなぁ!!』

 

ロッソは爆裂光弾をオーバースローの要領で発射する「ストライクスフィア」を放ち、それの直撃をカプリコーンが受けると地震は止み、その間にブルが掌から水流を発射する「アクアジェットブラスト」をカプリコーンに放とうとするのだが・・・・・・。

 

『アクアジェットブラス・・・・・・ぐあっ!?』

 

その時、地面から顔を出し、ブルの足に噛みつく怪獣、「地底怪獣 マグラー」が出現し、マグラーは身体を全体を地中から出現させると同時に足に噛みついていたブルを投げ飛ばし、その際にブルは空中を一回転しながら背中を地面に激突させる。

 

『ぐぅ!? いったぁ~!!』

『良!! この!!』

 

ロッソはマグラーを蹴り飛ばし、噛みつかれた自分の足を摩るブルに「大丈夫か!?」とすぐさま駆け寄る。

 

「グルアアアアア!!!」

 

マグラーとカプリコーンはロッソとブルを挟み込むようにして2人に立ち塞がり、立ち上がったブルとロッソはファイティングポーズを構えながら2体の攻撃に警戒する。

 

「春木の予想通り、怪獣が出てきたわね! みんな!! あの2人を援護するわよ!」

「「「了解!!」」」

 

風の言葉に友奈、東郷、樹が頷き、先ずはマグラーとカプリコーンが自分達に注意が向くよう仕向けようと風は友奈と樹に指示するのだが・・・・・・その直後のことだった。

 

空から飛んで来た複数の刀がカプリコーンとマグラーの頭部に突き刺さり、爆発。

 

「グルアアアアア!!!?」

『なんだ!?』

「東郷さん!?」

 

それを見ててっきり友奈は東郷がロッソとブルを援護射撃したのかと思ったが・・・・・・。

 

「私じゃない」

 

どうやら攻撃を行ったのは東郷ではないようで・・・・・・なら誰がと友奈達が疑問に思っていると・・・・・・。

 

ヤマツツジ・レンゲツツジを模した赤い勇者服を着た少女、「三好 夏凜」が赤い甲冑をまとった武士のような姿の精霊、「義輝」を出しながら両手に刀を持った状態で空から現れ、「ちょろい!!」と言い放つと同時にすれ違いざまにマグラーの身体を何度も滅多切りにし、斬りつけられたマグラーは悲鳴をあげる。

 

「グルアアアアア!!!!?」

『えっ!? 誰あれ!?』

『そんなの今は後だ! 俺達も行くぞ!!』

 

ブルは突然現れた夏凜の存在に驚きつつも、今はそれどころではないとロッソに言われてカプリコーンに視線を移す。

 

対して、カプリコーンは紫色の毒煙を放ち、友奈達は精霊バリアのおかげで毒煙の影響を受けなかったが、バリアのないロッソとブルは煙に触れた瞬間身体から火花が散り、ロッソとブルは悲痛な声をあげながら素早く後退する。

 

『ぐああっ!? だったら光線でって・・・・・・これじゃ相手の姿も・・・・・・!』

 

ならばブルは光線技でカプリコーンを倒そうと考えるが、カプリコーンは毒煙に姿を消してしまった為、どこに光線を撃ち込めば良いのか分からなくなってしまった。

 

『それなら! 俺に任せろ!!』

 

ロッソのインナースペース内にいる春木はホルダーから「勇」という文字が刻まれたをクリスタル取り出し、1本角を立たせるとそれをルーブジャイロにセット。

 

『酒呑童子!!』

『纏うは勇気!! 荒ぶる拳!!』

 

そして春木は3回ジャイロのレバーを引き、右腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンロッソ! シュテンドウジ!』

 

胸部が黒くなりX字の赤い鎧のようなものが装着され、赤かった頭部と足と手の部分は桃色に変化し、その後腕に赤いガントレットのようなものが装着された姿「ウルトラマンロッソ シュテンドウジ」となるとロッソは拳を前に突き出す度に放つ「ナックルインパクト」を発射。

 

『ナックルインパクト!!』

 

連続で放たれる衝撃波によって毒煙が振り払われ、さらにそのまま衝撃波はカプリコーンの身体に直撃し、カプリコーンの姿を見つけたロッソは巨大な拳を模った衝撃波、「ナックルビッグインパクト」を放つ。

 

『ナックルビッグインパクト!!』

 

同時にブルも腕をL字に組み、水のパワーを宿したエネルギーを放つ「アクアストリューム」を発射。

 

『アクアストリューム!!』

 

2人の必殺技がカプリコーンに見事直撃し、火花を散らしながらカプリコーンは「御霊」ごと爆発するのだった。

 

一方、夏凜の方はというと・・・・・・。

 

マグラーは何度も夏凜を踏み潰そうとするのだが、彼女は素早い動きでマグラーの攻撃を躱しまくり、その度に反撃としてマグラーの身体を斬りつける夏凜。

 

「遅い遅い!! 遅すぎる!! 怪獣って言うのもこの程度!? 思い知れ!! 私の力!!」

 

そのまま夏凜何度もマグラーを一方的に攻撃し、最後に大きく跳び上がった夏凜が右手に持った刀を振るってマグラーの身体を一刀両断すると、マグラーは身体中から火花を散らして爆発するのだった。

 

「殲・滅・・・・・・!」

『所行無業~』

「グルアアアアアア!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、誰?」

 

マグラーを倒し終えた夏凜が友奈達の前にやってくると、友奈は苦笑しながら「誰?」と首を傾げる。

 

「揃いも揃ってボーッとした顔してんのね? こんな連中が神樹様に選ばれた勇者ですって? はっ!」

 

夏凜は友奈達の姿を見ながら彼女達を鼻で笑い、そこへ丁度ロッソとブルも彼女達の元にやってきて2人は片膝を突きながら彼女達を見下ろす。

 

ちなみに、ロッソとブルが変身を解いていないのは夏凜が何者か分からない以上、そう易々と素性を明かす訳にはいかないからである。

 

最も、見たところ彼女も友奈達と同じ勇者であるのは間違いないようだが・・・・・・それでも下手に正体を明かすことはないだろう。

 

友奈達に正体を明かした時はあれはほぼ不可抗力だったので止む無しだったが。

 

『オイオイ、随分といきなり、ご大層な挨拶だな』

『俺、あの娘と仲良くなれる気がしないな。 なんか偉そう』

 

そしてどこか偉そうに、見下したような態度を見せる夏凜にインナースペース内で春木は苦笑し、逆に良はそんな夏凜に対して苦い顔を浮かべていた。

 

「アンタ達が噂のウルトラマンってやつね・・・・・・。 そんなデカい図体してる癖にあの程度の奴等に苦戦するなんて、思ったよりも大したことない連中なのね」

『はぁ!? なんだよその言い方!! 俺達だってあそこから逆転するところだったんだよ!!』

「弱い奴がよく言う言い分ね」

 

そんな夏凜の言い方にムカッと来たブルは拳を握りしめ、肩をワナワナと震わせるがブルの肩に手を乗せて落ち着くように言い聞かせるロッソ。

 

『落ち着け良。 俺達が未熟なのは本当のことだ。 だけど君も、もうちょっと言い方ってもんがあるだろ? そんなんじゃ友達無くすぞ?』

「いらないわよ、友達なんて!」

 

ロッソは自分達がまだまだ未熟な戦士であることを受け止めつつ、ブルを落ち着かせ、尚且つ夏凜の言い方を注意しつつ、そんなのでは友達できないと忠告するが、友達なんていらないと夏凜はそれを一蹴。

 

「っていうか、アンタ達何時までウルトラマンに変身してんのよ。 一応、アンタ等の正体は大赦の方で連絡行ってるから私に正体を隠す意味ないわよ?」

『あっ、やっぱり大赦は俺達の正体を知ってたか』

 

以前、大赦から預かったというクリスタルを風から渡されたことからも春木や良は大赦がウルトラマンの正体に薄々感づいているのではないかと思っていたが、どうやらやはり大赦の方で自分達のことは把握していたらしい。

 

ならばもう夏凜に正体を隠す必要もないなと思い、ロッソとブルは変身を解除して春木と良の姿に戻るが、良は未だに不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 

「えっと、あの・・・・・・」

 

そこでオドオドとしつつ友奈が夏凜に話しかけるのだが・・・・・・。

 

「なによちんちくりん」

「ちん!?」

 

夏凜にちんちくりんと言われたことに少しショックを受ける友奈だったが、夏凜は特に気に留めることもなく、友奈達に自分の素性を明かす。

 

「私は三好 夏凜! 大赦から派遣された正真正銘、正式な勇者! つまりあなた達は用済み、ほい! お疲れ様でしたー!」

「「「「「「え、えええええ!!!!?」」」」」」

 

夏凜のその言葉に友奈、東郷、風、樹、春木、良は驚きの声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、友奈と東郷のいる教室にて。

 

「はい、良いですか? 今日から皆さんとクラスメイトになる・・・・・・三好 夏凜さんです」

 

そこではなんと昨日あのまま詳しいことも聞けず、言いたいことだけ言って帰って行ってしまった夏凜がクラスに転校してきて今は担任よる紹介が行われているところだった。

 

そのことに友奈と東郷はどこか唖然とした様子を見せており、担任からは両親の都合でこちらに転校して来たことを生徒達に伝えられる。

 

「三好さんはご両親の都合でこちらに引っ越して来たのよね?」

「はい」

「編入試験もほぼ満点だったんですよ?」

「いえ」

 

担任からの言葉に夏凜は素っ気なく返事をしつつ、担任に言われ、「三好 夏凜です。 よろしくお願いします」とだけ自己紹介を終えると東郷はこの状況をある程度理解したのか「成程」と呟いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、放課後には勇者部に春木達が集っており、そこにはより詳しい事情を聞く為、また本人自身も色々と説明しなければならないと思ったからか部室には夏凜も訪れていた。

 

「そう来たか」

 

またこの状況については風も何か納得しているようで夏凜は「転入生のフリなんてめんどくさい」と呟きつつ、その後どこか自信満々な様子でガッツポーズをする彼女。

 

「でも、私が来たからにはもう安心ね! 完全勝利よ!!」

「スゲー自信だな。 でもなんでそんな自信満々ならすぐに来てくれなかったんだよ? どの戦いも結構大変だったんだぞ。 君が来てくれたおかげか、昨日は比較的楽だったけど」

 

そんな夏凜の姿を見て、それだけ自信があるならなぜもっと早く来てくれなかったのかという疑問を春木は口にする。

 

実際、春木の言うように昨日の戦いが夏凜がいるおかげなのか今までと比べると比較的楽だったのは確か。

 

昨日戦ったマグラーは決して強い怪獣ではなく、なんだったらロッソかブル、1人でも余裕で倒せる程度の相手なのだが、それでも巨大な怪獣相手にたった1人で圧倒できる辺りを考えるに、それは夏凜の実力が決して口だけのものではないからだろうと春木は思った。

 

なのでもっと早く夏凜が来てくれていたらもう少し今までの戦いが楽になっていたのではないかと考え、同じことを東郷も考えていたようで彼女もそのことを夏凜に問いかけると、本人的には「自分だってもっと早く来たかった」という返答が返ってきた。

 

「私だってすぐ出撃したかったわよ? でも大赦は二重三重に万全を期しているの! 最強の勇者を完成させる為にね!」

「最強の勇者・・・・・・?」

 

なんでも夏凜が言うには大赦には友奈達先遣隊の戦闘データを得ることで完璧に調整された完成型勇者を作るという目的があったらしく、夏凜はそしてその完成型勇者というのが、自分なのだと言う。

 

「私の勇者システムは対バーテックス用に最新の改良が施されているわ! その上、あなた達トーシローとは違って戦闘の為の訓練を長年受けて来ている!!」

 

すると夏凜は近くに置いてあった箒を手に取ってかっこ良さげに構えるのだが、その際箒の後ろの部分が夏凜の背後にあった黒板に「バン!」と当たってしまい、大きな音を立てる。

 

「黒板に当たってますよ」

「ここ狭いんだから箒振り回すな危ないだろ~」

 

それに東郷がやんわりとツッコミ、春木が箒を振り回すなと注意すると、そんな夏凜を見て風はボソリ

と「躾がいのありそうな娘ね~」なんて呟いていた。

 

「なんですって!?」

 

ただそれにカチンと来たのか、夏凜は風を睨み付けるが、それを見た樹が慌てて2人を止めに入る。

 

「わわ! 喧嘩しないで!」

「フン、まあいいわ。 兎に角大船に乗ったつもりでいなさい!」

「そっか、よろしくね、夏凜ちゃん!」

 

椅子から立ち上がって夏凜に歩み寄り、改めてこれからよろしくと挨拶をする友奈。

 

「いきなり下の名前?」

 

そんな友奈に下の名前で呼ばれ、少し驚いた様子の夏凜。

 

それに友奈はもしかして下の名前で呼ばれるのは嫌だったのだろうかと思ったが、夏凜は「どうでも良い」と言って特に気にしないことに。

 

「名前なんて好きに呼べば良いわ!」

「なら良かったぁ~。 それじゃ夏凜ちゃん! ようこそ、勇者部へ!」

 

友奈はそう言いながら笑顔で夏凜の勇者部への入部を歓迎するのだが、それに対して夏凜は「はっ? 誰が?」と聞き返し、頭に疑問符を浮かべる。

 

「えっ? 夏凜ちゃん!」

 

そんな夏凜に友奈はまるで「何言ってるの?」とでも言わんばかりの顔浮かべ、彼女は勇者部の入部を歓迎していたのは夏凜のことであると教えるが、夏凜は別に勇者部に入ったつもりは無かったので、彼女は戸惑いつつも部員になるなんて話はしていないと友奈に伝える。

 

「部員になるなんて話、一言もしてないわよ!」

「えっ? 違うの?」

「違うわ! 私はあなた達を監視するためにここに来ただけよ!」

「えっ? もう来ないの?」

「また来るわよ、御役目だからね」

「じゃあ部員になっちゃった方が話が早いよね!」

 

徐々に徐々にと、友奈に話のペースを持って行かれる夏凜。

 

さらに友奈の部員になった方が手っ取り早いという意見にも東郷は「確かに」と同意し、夏凜も最初こそ勇者部に入ることを少し渋っているようだったが、合理的に考えて確かにその方が自分に取っては好都合かもしれないと思い、友奈達を監視しやすくなるだろうということから彼女は僅かに悩んだ後、「まぁいいわ」と部員になることを承諾した。

 

「その方があなた達を監視しやすいでしょうしね!」

「監視監視ってアンタね? 見張ってないとあたし達がサボるみたいな言い方やめてくれない?」

 

そんな時、やたらと口うるさく監視監視と言ってくる夏凜に風が文句を言うのだが、夏凜はそれを「フン」で鼻で笑って一蹴。

 

「偶然適当に選ばれたトーシロが大きな顔するんじゃないわよ!」

「ムッ」

「風先輩、でも実戦経験はこっちの方が上ですよ俺達、大きな顔してやりましょうよ。 ほら! ドヤァっと!!」

 

大きな顔するなと言われたので、だったら逆にデカい顔してやると言わんばかりに良はドヤ顔を決め、それにイラッとする夏凜と東郷。

 

((なんか無性に殴りたい、この顔))

 

これに関しては東郷も夏凜も全く同じことを考え、春木からも呆れた声で「腹立つからその顔やめろ」と言われ、友奈もちょっと引き気味なこともあり、すぐにドヤ顔をやめる良。

 

(友奈さんにちょっと引かれた・・・・・・)

「兎に角、大赦の御役目はね? おままごとじゃないのよ・・・・・・ぎあああああああ!!!!?」

 

その時、夏凜の精霊である義輝が頭を牛鬼にかじられていることに気づき、自分の精霊が食べられていることに絶叫。

 

すぐさま夏凜は牛鬼と義輝を引き離し、涙目の義輝を抱える。

 

「何してんのよこの腐れチクショー!!」

『外道め!』

「外道じゃないよ、牛鬼だよ! ちょっと食いしん坊くんなんだよね?」

 

ビーフジャーキーを牛鬼に与えながら友奈は牛鬼のことを夏凜に教えるが、夏凜は「じ、自分の精霊の躾もできないようじゃやっぱりトーシローね!!」と怒りながら文句を言い、東郷曰く、牛鬼にかじられてしまうからみんな精霊を出さないようにしているのだと言う。

 

「じゃあそいつを引っ込めなさいよ!」

 

だったら牛鬼を友奈が出さないようにすれば良いのではと夏凜が言うが、牛鬼はどうも友奈の意志に反して勝手に出て来るのだそうだ。

 

「はぁ? アンタの勇者システム壊れてるんじゃないの!?」

『外道め!』

「そう言えば、この子喋れるんだね!」

 

友奈は義輝の頭を撫でながら夏凜の精霊が喋っていることに興味を持ち、それに夏凜は胸を張ってどこか自慢げ。

 

「えぇ、私に相応しい強力な精霊よ!」

「あっ、でも東郷さんには3匹いるよ?」

 

友奈に話を振られて東郷はスマホを操作すると青坊主、刑部狸、不知火が出現。

 

「えっと、出ました!」

「っ、わ、私の精霊は1体で最強なのよ! 言ってやんなさい!」

『諸行無常~』

 

一瞬、東郷の精霊が3匹もいることに驚く夏凜だったが、夏凜は自分は義輝1体で最強だと張り合い、義輝にも何か言ってやれと言うのだが・・・・・・喋れる精霊と言っても言葉のレパートリー自体は少ないらしく、義輝はそれしか言えず、目を丸くする夏凜。

 

「しっかし、なんで東郷だけ精霊が3体もいるんだろうな」

「なんででしょうね?」

 

刑部狸の頭を撫でながら他のみんなは夏凜含めて1体だけなのにどうして東郷だけは精霊が3匹もいるのだろうかと疑問に思う春木。

 

「まぁ、もしかしたら適合率的なものが実は1番高かったからとかそういう理由なのかもしれないな? 実際東郷、強かったし」

 

刑部狸を東郷の頭に乗せて遊びながら後方支援タイプとは言え、初期メンバーの中でもかなり強かったことからもしかしたら適合率的なものが東郷は1番高かったのかもしれないと予想してみる春木。

 

「でもそういうのは友奈ちゃんの方が高そうですけどね」

「あっ、どうしよう、夏凜さん・・・・・・」

 

するとそこで樹が夏凜の名を呼び、夏凜は「今度は何よ!?」とまた何かトラブル的なものかと身構える。

 

どうにも樹はいつの間にか本人許可なく夏凜のことを机の上でタロットカードで占っていたらしく、しかもそれが不吉を示す死神のカードが出ていたそうで・・・・・・。

 

「夏凜さん、死神のカード・・・・・・」

「勝手に占って不吉なレッテル貼らないでくれる!?」

「不吉だ」

「不吉ですね」

「不吉だな~」

「不吉じゃない!!」

 

死神のカードを見つめながら東郷、風、春木が不吉さを感じ、またそんな夏凜を見て良はずっと夏凜のことは俺様の女性バージョンみたいな感じのキャラかと思っていたのだが・・・・・・

 

先ほどから友奈達に弄られまくってることから「もしかして本当は弄られキャラなのかな?」と思う良。

 

最も、だからと言って明らかにこちらのことを下に見ているかのような発言はあまり褒められたものではないので良としてはその辺はどうにかして欲しいと思うところではあるが。

 

「兎に角! これからのバーテックス退治は私の監視の下励むのよ!?」

「部長がいるのに?」

 

もう既にリーダー的存在がいるのにそれって必要なのだろうかとでも言いたげな様子で首を傾げる友奈。

 

そんな友奈に対し、夏凜は「部長よりも偉いのよ!」と返すが・・・・・・。

 

「ややこしいなぁ・・・・・・」

「えー、面倒くせぇ」

「ややこしくないわよ!! っていうか面倒くさいって何よ!?」

 

友奈はリーダーみたいなのが2人もいたらややこしいという感想を述べ、春木も友奈と同意見のようで面倒くさそうとどこか嫌そうな顔を浮かべながら彼は不満を口にする。

 

「まぁ、あなたが監視してようがしてまいが、俺達の・・・・・・少なくとも俺のやることは変わらない。 友奈さん達を手助けする為にバーテックス退治するのは当然だし、怪獣の対処もするし、勇者部の活動も今まで通りやるつもりだからな・・・・・・」

 

そこで良はキッパリと夏凜に対し、例え夏凜が自分達を監視していようがいまいが少なくとも自分はそんなのは関係なく何時も通り過ごすと言い放ち、そんな良の発言を受けて夏凜はキッと彼の顔を睨む。

 

「アンタね! さっきから・・・・・・っていうかずっと思ってたけど、ちょっと生意気なんじゃないの?」

「はぁ!? アンタに言われたくないな!! 人のこと言えるのか!!」

 

良と夏凜はお互いに睨み合って間に火花を散らすが、そこで春木が慌てて2人の肩を掴んで引き離し、仲裁に入る。

 

「お前等喧嘩すんなって! これから一緒に戦って、お互いの背中を預け合うことになるんだからもうちょっと仲良く・・・・・・」

「言っただろ、兄貴。 俺、この人と仲良くなれる気がしないって!」

「あたしもよ。 元より、アンタ達と馴れ合うつもりはないけど・・・・・・こいつとだけは絶対に、特に仲良くなれないわ!!」

 

春木が両腕で抑えられながらも、お互いに睨み合って威嚇し合う良と夏凜の2人。

 

そんな2人に呆れつつ、春木はどうすれば良いのだろうかと困惑するのだった。

 

「まぁ、取りあえず事情は分かったけど・・・・・・学校にいる限りは上級生の言うことを聞くものよ? 事情を隠すのも任務の中にあるでしょ?」

 

そこで風は夏凜に学校にいる間くらいは普通に学生らしくいこうという形でお互いに接するべきだと主張し、風のその言葉に夏凜も確かに一理あると感じたのか、夏凜は良を睨んで威嚇するのをやめ、風の提案を一度鼻で笑いつつも不本意ながら納得する。

 

「フン。 まぁいいわ。 残りのバーテックスも殲滅したら御役目は終わりなんだし、それまでの我慢ね・・・・・・」

「うん! 一緒に頑張ろうね!」

 

そんな夏凜にズイッと近寄りながら共に頑張ろうと声をかけ、彼女に微笑む友奈。

 

それに夏凜は僅かに戸惑い、照れ臭そうな顔となる。

 

「っ」

 

彼女はそんな自分の顔を見られないようにする為か、友奈達に今の自分の顔を見られないように腕組みをしながら後ろを向く。

 

「頑張るのは当然! 私の足を引っ張るんじゃないわよ!」

 

そんな友奈や夏凜のやり取りを見て、春木達は微笑ましさを感じ、良以外は思わず笑ってしまうのだった。

 

「・・・・・・ねぇ! 一緒にうどん屋さんいかない?」

 

すると、唐突に友奈が夏凜を一緒にうどん屋に行かないかと誘うのだが、彼女は「必要ない」と言って友奈の誘いを断ってしまう。

 

「なんか用事あるのか? これから一緒に戦うんだし、お互いの交流は大事だと思うんだけど・・・・・・」

「必要ないって言ってるでしょ? 言ったでしょ? バーテックスを全部倒すまでって」

 

夏凜はそう言うと春木の言葉も一蹴し、部室の出入り口の方へと歩いて行き、友奈の「もう帰るの?」という言葉も無視してそこから立ち去って行ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は結局友奈、東郷、春木、良、風、樹の6人でうどん屋のかめやに行くこととなり、何時ものように勇者部のメンバーはうどんを注文して食べていた。

 

「美味しいのに・・・・・・」

 

ただ、うどんを食べつつも友奈は夏凜が来なかったことを残念そうにしており、東郷も夏凜のことを「頑なな感じの人ですね」と風や春木に呟いていた。

 

「どこの世界でも、追加戦士ってのは大体あんな感じの奴多いよな」

「つまり最終的にあたし達にデレるって訳ね! ふふふ、ああいうお堅いタイプは張り合い甲斐があるわ!」

「張り合うの・・・・・・?」

 

春木は夏凜のことを追加戦士あるあるで例え、風は張り合いがあると評し、そんな風の発言にやんわりとツッコミを入れる樹。

 

「うーん」

 

そこで友奈が困り顔でどうすれば夏凜と仲良くなれるのだろうかと呟き、その呟きを聞いた良は「ちんちくりん」だとか言われ、自分達のことを「トーシロ」と呼んでちょっと下に見た発言をしたのに、友奈はよく夏凜と仲良くなりたいなんて言える彼女に感心していた。

 

「・・・・・・あんなこと言われて、よく仲良くなりたいなんて友奈さん言えますよね。でもまぁ、友奈さんのそういうところ俺は好きですけどね」

「ふぇ?」

 

何気なくボソッと呟いた良だったが、すぐさま自分の言葉の恥ずかしさに気付き、良は慌てて「あっ、いや、なんでもないです!」と誤魔化そうとするのだが、その前にすかさず良の顔に東郷のアイアンクローが繰り出される。

 

「ねえ? 今何か言ったかしら良くん?」

「痛い痛い痛い痛い!! 言ってません!! 何も言ってません!! とでも言うと思ったかぁ!!」

 

すると良も負けじと東郷の目元に向かってアイアンクローを繰り出し、お互いに目元を掴み合う2人。

 

「ぐぅ!? やるわね、良くん・・・・・・!!」

「俺もやられてばかりじゃないんでね・・・・・・!」

「なんの張り合いだよ」

「ってか他のお客さんの迷惑になるからさっさとやめなさーい。 店から出禁にされるわよ?」

 

風に注意され、渋々お互いの手を離す良と東郷。

 

最も、お互いに睨み合いだけはうどんを食べながらも続けていたが。

 

また先ほどの良の呟きは幸い、友奈にはよく聞こえていなかったようで、彼女は目を丸くして「どうしたの?」と首を傾げていた。

 

それはそれで聞こえていなかくて良かったと安心した良だったが、同時に聞こえていないのもいないので悲しいと思い、良は複雑な気持ちになってしまうのだった。

 

そして東郷は良の言葉が友奈の耳に入っていないことが分かると、ニコニコ笑顔で「なんでもないわ♪ 友奈ちゃん♪」と誤魔化したのだった。

 

「友奈さんと春木先輩のこととなるとホント怖いね、東郷先輩・・・・・・」

「そうね・・・・・・」

「えっ? 友奈はまだ分かるけどなんで俺も入るの?」

 

友奈や春木のこととなると本当に色々怖いと東郷に恐怖を覚える樹と風。

 

しかし、春木は東郷が友奈大好き人間なのは知っているので、嫉妬でああいう行動によく出るのは分かるのだが・・・・・・何故そこで自分の名前が出て来るのか分からず、春木は不思議に思う。

 

そんな春木に当然ながら風と樹は冷ややかな視線を送るのだった。

 

「まぁ、でもさ・・・・・・夏凜の奴が俺達のことをトーシロって呼ぶの、あながち間違ってないだろ? 良は実戦経験ならこっちが上だって言うけど、俺達がまだまだ未熟なのは確かだ。 特に、俺と良の2人はさ・・・・・・」

 

ガーゴルゴンの時でこそ、なるべく人目を避けて自分達を友奈達は援護してくれたが・・・・・・御役目を終えれば彼女達は勇者でなくなる可能性がある。

 

それに、友奈達と違い自分と良は現実の世界でも怪獣と戦わなくてはならない身。

 

友奈達の援護などがずっとあるとは限らない、何時か自分と良だけでこの世界を守らなくてはいけなくなるかもしれない。

 

だからこそ・・・・・・自分達はよりもっと頑張らないといけない、強くならないといけないと考え、春木は夏凜の言うことも最もだと思ったのだ。

 

「確かに、夏凜さんの言うことも一理あるかもだけどさ・・・・・・」

 

夏凜に噛みつくような態度こそ取ってはいたものの、実際のところ自分達がまだまだ未熟であることは良自身も痛感している。

 

自分が夏凜に対して噛みつくかのような態度を取っていたのも、彼女が自分達を下に見たような発言ばかりしていたからというよりもそこを指摘されてムキになっていたからなのかもしれないと良は考え、少しばかり今日の夏凜への態度を反省するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、大赦が用意してくれたマンションへと帰宅した夏凜はというと・・・・・・。

 

運動用の服に着替えてマンションの近くの海辺で木刀を2本手に持ち、日課の鍛錬を行いながら今日一日のことを頭の中で振り返っていた。

 

(・・・・・・下らない。 学校なんて別に期待していなかったけど想像以下ね)

 

その後は帰りにコンビニに寄って弁当を買って帰り、大赦への定時連絡としてメッセージを送る為に「讃州中学に着任。 滞りなし」という文章をスマホで打っていく。

 

その際、今日彼女が友奈達に抱いた印象「現勇者達は危機感の足りない者ばかりの印象。 危惧される」という文を書き上げ、夏凜は文字を打ち終えるとそのままメッセージを大赦に送信。

 

ちなみに春木と良に関しては「あんな巨人になれるからどれだけ凄い人達なのか期待したけど、期待外れ。 ただのバカ2人」という友奈達以上の酷評が大赦に送られていたりした。

 

それから夏凜はランニングマシンで一通り走り終え、買って来た弁当を温めて食し、風呂に入ってから寝るという彼女に取っては何時もの日常を今日は終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日・・・・・・。

 

友奈達のクラスの女子達は今、水泳の授業をしているところであり、そこで夏凜は水泳選手並のタイムを叩きだし、他の生徒から驚かれ、感心の声が寄せられているところだった。

 

「すっごーい!! 三好さんこれ水泳選手並じゃない!?」

「・・・・・・鍛えてるから」

 

あっけらかんとした態度で特に鼻にかけることもなく「これくらい当然」とでも言いたげに夏凜がタイムを計っていた生徒にそう言葉を返すと、その生徒はどうやら水泳部の部員だったらしく、夏凜に「ウチの水泳部に来ない?」と勧誘を受ける。

 

まぁ、水泳選手並となれば当然水泳部からの勧誘は来るだろう。

 

「興味ない」

 

しかし、夏凜は言葉の通り興味なさげに勧誘を断り、プールサイドへと上がると他の生徒達と同じく驚き、感心している友奈が立っていた。

 

「凄いね夏凜ちゃん! みんなビックリしてるよ~! すっごいねーって!!」

「っ、結城 友奈・・・・・・。 良い? 勇者はね、すっごくないと世界を救えないのよ!! 勇者の戦闘力は勇者の基礎運動能力に応じて大きく左右されるの!! アンタも勇者なら自覚を持ちなさい!!」

 

スポーツ選手並の身体能力・・・・・・そんなの、勇者なら出来て当たり前、凄くて当たり前じゃないといけない、そうでないと世界を救うことなんてできないと夏凜は友奈に豪語し、夏凜は友奈も勇者なら自覚をもっと持つべきだと忠告する。

 

「先月勇者になったばかりだから・・・・・・」

 

そんな夏凜に対して友奈は苦笑するしかなく、そんな友奈に夏凜は呆れた視線を向ける。

 

「アンタ、よくバカだって言われるでしょ?」

「実はそうなんだよねー!」

 

「アハハハ」と苦笑いする友奈に、夏凜はさらに呆れた視線を向けるのだった。

 

「全く、そんなんでよく勇者に選ばれたわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから全ての授業を終え、放課後の勇者部へと集まった春木達。

 

そこには夏凜も部室に訪れており、今回は風達と「情報交換と共有」という名目でやってきていたのだ。

 

「仕方がないから情報交換と共有よ! 分かってる? アンタ達があんまりにも呑気だから今日も来てあげたのよ!」

「・・・・・・にぼし?」

 

尚、何故か夏凜はにぼしを食べながら話しており、なんでにぼし食べてるんだとでも言いたげな表情を浮かべ、不思議そうに首を傾げる風。

 

「何よ! ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPA、DHA!! にぼしは完全食よ!!」

「まぁいいけど・・・・・・」

 

別ににぼしを食べること自体なんの問題もないので風は特に気にしないことにしたのだが、夏凜は風がにぼしを物欲しそうに見ているとでも思ったのか「あげないわよ?」と言ってくるが、別に風はにぼしが欲しかった訳ではないので普通にいらないと返すのだった。

 

「あっ、じゃあ私のぼた餅と交換しましょ?」

 

するとどこからかタッパーに入れたぼた餅を東郷が取り出し、それを見た春木は東郷の持って来たぼた餅を見た瞬間「マジで!?」と目を輝かせる。

 

「さっき家庭科室の授業で作ってきたんですよ?」

 

どうやらこのぼた餅は家庭科の授業の一環として東郷が持って来たもののようで友奈は「東郷さんはお菓子作りの天才なんだよ!」とまるで自分のことのように自慢げに夏凜に話す。

 

「いかがですか?」

「い、いらないわよ!」

 

東郷は自分の作って来たぼたもちを夏凜に勧めるが、彼女はそれを断り、春木は「えー? 勿体ない」と残念そうな顔を浮かべる。

 

「東郷の作るお菓子ってマジで美味しいのに。 将来良いお嫁さんになりそうだよな、東郷って・・・・・・」

「そんな・・・・・・先輩のお嫁さんなんて照れちゃいますよ・・・・・・」

 

春木の「良いお嫁さん」発言に東郷は右手で頬を押さえながら嬉しそうに、尚且つ照れ臭そうに顔を赤らめ、そんな東郷を見てキョトンッと目を丸くする春木。

 

「東郷、別に俺のお嫁さんになって欲しいって言った訳じゃないんだけど・・・・・・」

「ふふ、ほんの冗談ですよ、先輩♪ あまりにも嬉しいことを言ってくれるものだから・・・・・・」

「っていうかイチャついてんじゃないわよそこの2人!!」

(あと、多分だけど東郷先輩の半分以上本心入ってるよね。 誤魔化しただけだよね)

 

夏凜からのツッコミが入り、先ほどの東郷の冗談は冗談ではなく、割と本気で言ってそうだと思う樹だった。

 

その後、いい加減話を推し進める為に部室の黒板に情報を少しでも分かりやすく整理するため、バーテックスの襲来周期を書き、その隣に「平均約二十日に一体(のはず)」という文字を風が書き上げる。

 

次に1体目襲来! 3体一気に襲来! と風が書き上げると、次にまた夏凜が5体目襲来!(安心しろ、バーテックスは私が倒した)という文字を書き上げ、最後に「あと7体!!」と文字を書くと、夏凜はチョークを置いて椅子に座りながらぼた餅を食べる一同の方へと顔を向ける。

 

「良い? バーテックスの出現は周期的なものと考えられていたけど、相当に乱れてる。 これは異常事態よ! それに帳尻を合わせるため、今後は相当な混戦が予想されるわ」

 

夏凜の説明を受け、自分が初陣した時バーテックスが3体もいたことから、「確かに」と納得する東郷。

 

「一ヶ月前も複数体出現したりしましたしね」

「私ならどんな自体にでも対処できるけど、あなた達は気をつけなさい? 命を落とすわよ!」

 

そこからさらに夏凜は勇者システムについての説明を行い、彼女が言うには戦闘経験値を溜めることで勇者はレベルが上がり、より強くなるシステム、「満開」なるものが存在するのだと友奈達に説明する。

 

「そうだったんだ~」

 

夏凜の話を聞いて友奈は「そんなのあるんだ」と驚いたようだったが、それは勇者アプリの説明に書いてあることだと東郷に教えられ、友奈は「そうなんだ!」と又もや驚きの声をあげる。

 

それに呆れる夏凜だが、取りあえず今は話を続けることに。

 

「満開を繰り返すことによってより強力になる! これが大赦の勇者システム!」

「へぇ~、すごーい」

 

友奈はメモ帳に今教えられたことを書き込み、東郷は夏凜に「三好さんは満開経験済みなんですか?」と尋ねるが彼女は気まずそうにそっぽを向きながらも応える。

 

「いや、まだ・・・・・・」

「なぁ~んだ! アンタもレベル1なんじゃあたし達と変わりないじゃない!」

「あれだけ大口叩いてたのに」

 

結局自分も友奈達と同じレベル1からのスタートなんじゃないかと風や良に指摘される夏凜。

 

「基礎戦闘力が桁違いに違うわよ! 一緒にしないで貰える!?」

 

しかし、夏凜はそもそもが違うと反論し、実際、昨日の戦いを思い返せば不意打ちとは言えバーテックスと怪獣に先制攻撃を喰らわせてダメージを与え、たった1人で怪獣を殲滅したことからも明らかに友奈達4人よりも基本的な戦闘力がズバ抜けているのが確かなのは間違いないだろう。

 

「そこはあたし達の努力次第ってことね?」

「じゃあじゃあ! これからは身体を鍛える為に朝練しましょうか! 運動部みたいに!」

 

そこで友奈が身体を鍛え、今よりも少しでも強くなるために朝練をしようかと提案し、それには樹や良も同意するように頷く。

 

「樹、アンタは絶対朝起きられないでしょ?」

「「アハハハ!」」

 

風からの指摘を受けて友奈と良は思わず笑ってしまうが・・・・・・。

 

「人のこと笑えるのかお前等~?」

「友奈ちゃんと良くんも起きられないでしょ?」

 

と今度は春木と東郷に全く人のこと笑えないだろと指摘され、「うっ」と苦笑する友奈と良。

 

そんな一同のあまりの緊張感の無いやり取りを見て「はぁ」と溜め息を吐き、ますます友奈達が勇者に選ばれた理由が分からなくなる夏凜だった。

 

「なんでこんな連中が神樹様の勇者に・・・・・・」

「成せば大抵なんとなる!」

 

すると不意に友奈が勇者部五箇条の1つを言うと、夏凜は首を傾げながら「何それ?」と尋ね、友奈は部室に張られた勇者部五箇条が書かれた紙を指差す。

 

「勇者部五箇条! 大丈夫だよ! みんなで力を合わせれば大抵なんとかなるよ!」

「なるべくとか、なんとかとか、アンタ達らしい見通しの甘いふわっとしたスローガンね。 全くもう、私の中で諦めがついたわ」

 

相変わらず友奈達に呆れた様子を見せる夏凜だが、もう自分がどうこう言っても友奈達は今まで通りのこの調子で過ごしそうなので、その辺のことをとやかく言うのをやめることにするのだった。

 

「いやぁ、あたし等はその~、現場主義なのよ!」

「本番に強いんだ。 俺達は!」

 

風は自分達は現場主義、良は本番に強いと主張するが、明らかに今思いついたもの感が凄く、夏凜からもそのことについてツッコミが入る。

 

「アンタ等それ今思いついたでしょ?」

「はいはい、考えすぎるとハゲるハゲる」

「ハゲる訳ないでしょ!?」

 

夏凜は自分の頭を抑えながらハゲる訳ないと風に言い返し、そんな2人のやり取りに苦笑する春木。

 

そんな時、春木は1つ気になったことがあり、それは夏凜なら何か知っているのではと思いあることを尋ねる。

 

「あっ、そうだ。 そう言えば夏凜はどうして樹海にも怪獣が現れるのかって理由知ってる?」

 

春木が気になったこと、それは自分達がバーテックスの話ばかりしていて全く話題になっていなかった怪獣のことであり、その怪獣達・・・・・・主に樹海の怪獣達について夏凜ならばもしや何か知っているのではないかと思い、春木は手を挙げて夏凜に怪獣のことについて尋ねてみたのだ。

 

「あぁ、それなら・・・・・・大赦務めの巫女が受け取った神託や、大赦の調べである程度は知ってるわ」

「マジか!」

 

夏凜が言うには今日はそれについても話すために勇者部に訪れたそうで彼女は大赦から聞いた樹海に現れた怪獣達のことについて先ずは春木達に教えて行く。

 

「なぜ怪獣が何時もバーテックスと一緒に樹海で現れるのか、まだ少し分からないところはある。 でも1つだけ分かっていることはあるわ。 樹海に現れる怪獣達は・・・・・・恐らくバーテックスが別の宇宙から連れて来た怪獣よ」

「「「「別の宇宙?」」」」

 

夏凜曰く、大赦に勤めている巫女が受け取った神樹からの神託・・・・・・。

 

それには樹海に現れた怪獣達がどこから現れたのかがあったそうで、怪獣達は何時もバーテックスに別の宇宙から連れて来られた存在なのだという。

 

しかし、それを聞いても夏凜の言う「別の宇宙」という中々聞き慣れない言葉を受けて首を傾げる春木、風、友奈、樹の4人。

 

最も良や東郷は夏凜の言う「別の宇宙」というのが何を指しているのか分かったらしく、特に良はどこか興奮気味に興味津々でズイッと夏凜に詰め寄って話しに食いついて来てそんな良に彼女も戸惑う。

 

「べ、別の宇宙ってまさか!! 平行世界ってことか!!?」

「平行世界ってなに?」

「ググれ脳筋!!」

 

春木が平行世界ってなんだと尋ねるが、説明が面倒くさかった良は自分で調べろと言葉を返し、言われた通り春木は不満げな顔を浮かべつつもスマホを取り出して言われた通り検索をかけてググる。

 

「その話が本当なら、平行世界は実在するということか! いや、神様が言ってる訳だから本当の話か! おおお、凄い!! 夢が広がる!!」

「ま、まぁ・・・・・・そういうことね。 ちなみにその際、これまで現れた怪獣達の名前も判明していたりするわ」

 

そう言うと夏凜はこれまで樹海に現れた怪獣達の名前を挙げていき、最初に現れたのがツインテール、リトマルスで次にガドン、そして昨日現れたのがマグラーだと友奈達に教えて行く。

 

また現実の世界で現れた怪獣達についても神樹が教えてくれたようで春木と良が初めて戦った怪獣がグルジオボーン、次に現実世界と樹海で戦った銀色の怪獣がガルバラード、最後にアイゼンテックの時に戦った怪獣がガーゴルゴンという名前であることを夏凜は春木達に教えるのだった。

 

「ついでに言っておくと、グルジオボーン、ガルバラード、ガーゴルゴンはこの世界に元からいた怪獣だそうよ」

「そいつ等はバーテックスとは特に関係のない怪獣達ってことか・・・・・・」

 

また夏凜が言うにはバーテックスと一緒に怪獣がやってくるのは神樹でも予想できなかったイレギュラーな事態だったようで最近になって改めて神樹からの神託で怪獣達もバーテックスを全て倒せば打ち止めにななり、バーテックスを全部倒したのに怪獣だけ現れ続ける・・・・・・。

 

なんて事態にだけはならないとのことだった。

 

「あー、そりゃ良かったわ。 ずっと気になってたのよねー。 これバーテックス全部倒しても怪獣は現れ続けるんじゃないかって不安だったのよ」

「でも、現実世界に現れる怪獣はバーテックスとは関係のない怪獣達なんだよね・・・・・・」

 

そう、樹の言う通り樹海に現れる怪獣達には限りがあるのかもしれないが、現実世界では怪獣達に限りがあるのかは全く分からない。

 

以前にも少しだけ友奈達は考えたことがあるのだが、バーテックスを全て撃退したら友奈達の御役目は終わり、勇者の力を失う可能性はある。

 

そうなった時、戦えるのは春木と良だけになってしまう。

 

それに友奈達は自分達がいなくても大丈夫だろうかという心配げな視線を春木と良に向けるが・・・・・・春木も良も「気にしなくて良い」と友奈達に言って来たのだ。

 

「大丈夫大丈夫! 成せば大抵なんとかなる! だろ?」

「でも・・・・・・」

「まぁ、でも念のためにあたしからも一応大赦に勇者の力を預けたままにしてくれって頼んでおくわ」

「私からも連絡しておくわ。 アンタ等2人とも戦い方がなってなくて不安で仕方がないもの。 有り難く思いなさい!」

 

そんな春木と良の2人を心配して、風や夏凜は一応大赦の方に御役目が終わっても勇者の力を持ったままでいさせてくれとかけ合ってみるとのことだった。

 

「別に俺達のことは気にしないで風先輩達は日常に戻ってくれてもいいんですけど」

「そういう訳にはいかないわよ。 自分達だけ何もしてない感凄くなりそうだし」

 

という理由で風は良の言葉を一蹴。

 

無論風は他のみんなに怪獣退治を強制するつもりはないのだが、全員降りるつもりはないようだった。

 

「ハァ、友奈達って結構頑固だよな。 まぁ、取りあえず樹海にどうして怪獣が現れるのかは分かったが・・・・・・現実世界に現れた怪獣達はなぜ現れたんだろうな」

 

一応、夏凜が説明してくれたおかげでなぜ樹海に怪獣が現れたのかは分かった。

 

だが、現実世界に現れた怪獣達、彼等が現れた理由は未だに分からず、その辺りのことは今のところ何も分からない状態だった。

 

「怪獣達が現れた理由なんてあるの? 怪獣って普通なんの前触れもなくどかーんっと出て来るイメージしかないんだけど」

 

そこで友奈が怪獣が現れるのに理由なんてあるのかと疑問を口にしてくるが、良としては怪獣が現れたのには何か理由があるように思えたのだ。

 

「俺、最近たまに思うんですよ、友奈さん。 テレビの中だけの存在だと思われていた怪獣が実際に現れるようになったのは、人間が怪獣の出現を望んだからじゃないかって。 人は怪物を想像しないでいられない、人はそれに強く憧れてきた。 だからいつの間にか怪獣は単に作り物の存在じゃなく、俺達の想像の中で現実化していったって・・・・・・」

「つまり、誰かが怪獣を呼び出してるってこと?」

 

良の話を聞いていた友奈は頭を抱えて「う~ん?」と唸りながらもつまり良が言いたいのは「怪獣は誰かが呼び出してるのかもしれない」ということなのだろうかと尋ねるが、良は「そういう訳ではないんですけど・・・・・・」とだけ応える。

 

「なんて言えば良いのか、誰かが怪獣を呼び出したとかではなく、もっと掻い摘んで言うと俺達人間が無意識の内に怪獣を生み出してしまったのかもしれないってことですね」

「えっ、そうなの!?」

「いや、ただの予想ですけどね。 ハッキリとしたことはまだ分かりませんよ、そりゃ」

 

良はこれはあくまでただの予想に過ぎず、未だに怪獣が現実世界に出現してくる理由は謎のままだと言うが、それでもここまで怪獣が出現した理由を想像できるのは流石は良だと春木や友奈は感心する。

 

「ハイハイ、怪獣がどうして現れるのか、それを考えていくのも悪くないけど時間も無いし、そろそろ難しい話はおしまいにして次の議題に行きましょ!」

 

怪獣が現れる理由を探していくのもそれはそれで楽しそうだが、時間も押しているからと風は議題を変え、ここからは勇者部としての活動を開始することに。

 

そこで樹は風の指示を受けて鞄から「子ども会のお手伝いのしおり」と書かれた紙を取り出し、一同へと配る。

 

「という訳で今週末は子ども会のレクリエーションをお手伝いします!」

「具体的には?」

「えーっと、折紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を書いたり、やることは沢山あります!」

 

樹は今週末に行う予定の子ども会のレクリエーションについての説明を一同へと行い、それを受けて友奈は「わー! 楽しそう!」と今からワクワクした様子を見せる。

 

「夏凜にはそうねぇ? 暴れ足りない子のドッジボールの的になって貰おうかしら? 春木と一緒に」

「はぁ!?」

「俺も的かよ!?」

 

夏凜と春木は風の言葉に驚きの声をあげ、春木は渋々「まぁ、別に良いけど・・・・・・」と承諾するが、夏凜の方は「なんで私まで!」という感じでそもそもなんで自分も参加していることになっているのかと意義を唱える。

 

すると風は夏凜に昨日彼女が提出した入部届けの紙を彼女に見せつけてきた。

 

「昨日、入部したでしょ?」

「け、形式上・・・・・・」

「ここにいる以上部の方針に従って貰いますからね~?」

「そ、それも形式上でしょ!?」

 

確かに昨日、部活の入部の申請書を書き、職員室へと提出した。

 

しかし、夏凜としてはほぼほぼ不本意な形で勇者部に入部したので自分が子ども会に参加することに納得することが出来なかったのだ。

 

「それに、私のスケジュールを勝手に決めないで!」

「夏凜ちゃん日曜日用事あるの?」

「ニチアサ観たいとか?」

「あっ、それは確かに大事な用事だね!」

 

そこで友奈が夏凜に日曜は何か用事があるのかと尋ね、春木はそれがニチアサを観たいのではないかと予想。

 

そしてその予想に友奈はそれなら確かに大事な用事だと納得されるが・・・・・・。

 

「いや、別にニチアサ観たいとかじゃないから! そもそもあたし観てないし! そうじゃなくて! なんであたしが子供の相手なんかしないといけないのかって話で・・・・・・」

「えっ? いや?」

 

夏凜は自分がどうして子供の相手なんてしないといけないのか、そのことについて文句を言おうとしたのだが、友奈が今にも泣きそうな声で「いや?」なんて聞いてくるものだから、夏凜は「うっ」と罪悪感にに苛まれてしまい、仕方なく子ども会に参加することを承諾してしまうのだった。

 

「うぅ、分かったわ。 日曜日ね。 丁度その日だけ開いてるわ」

「良かった~!」

 

夏凜が参加してくれる意志を見せたことで、はしゃぐように喜ぶ友奈達。

 

そんな彼女等を見て夏凜はボソッと「緊張感のない奴等」と呟くのだった。

 

「・・・・・・んっ?」

 

その時、夏凜は窓の方に何か視線を感じ、そちらの方を見るのだが・・・・・・。

 

窓の外には特に何かいる様子はなく、彼女は不思議そうに首を傾げるのだった。

 

「あれ、おかしいわね。 確かに視線を感じたんだけど・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ~、危なかった。 危うく気付かれるところでした』

 

夏凜が感じた視線・・・・・・それは気のせいなどではなかった。

 

そこには愛染 アキラのドローン型の秘書AI、「ダーリン」が飛行しながら実は先ほどからずっと勇者部の様子をこっそりと伺っていたのだ。

 

そのため、夏凜の感じた視線は気のせいなどではなく、ダーリンは夏凜がこちらを向いた瞬間咄嗟に木の影に隠れた為、夏凜はその存在に気付けなかった。

 

またダーリンはリアルタイムで勇者部の部室での様子を撮影しながらその光景をアイゼンテックの社長室にいるアキラの持つノートパソコンに送っており、勇者部での春木達のやり取りを見てどこか不服そうな顔を浮かべていた。

 

っていうかこれ盗撮では・・・・・・。

 

「盗撮ではない!! 監視だ!! あの未熟なウルトラマン2人がしっかりとウルトラマンとしてやれているかどうか監視するためのな!! しかし全く、何時までもグダグダグダグダと!! 下らない会話ばかり繰り広げおって! 少しはウルトラマンとしての自覚を持たんかい!!」

 

アキラは画面越しに春木と良を指差しながら2人はウルトラマンとしての自覚が足りなさすぎると怒り、次にダーリンに夏凜の姿を映させると、アキラは腕を組み、「ふむ」と何か考え込む仕草を見せる。

 

「勇者部に来た新しい勇者か・・・・・・。 見たところ素直じゃなさそうな感じ・・・・・・。 『彼女達』で例えるなら誰のポジションが良いと思うダーリン!?」

『いや、私に聞かれても知りませんけど・・・・・・』

「『彼女達』と『彼』についての素晴らしさをあれだけ教えただろう!? いや、まぁそれは今は良い。 兎に角、あの兄弟はウルトラマンとしての自覚が足りなさすぎる! それを少しでも理解させる為にも・・・・・・」

 

アキラはそう言うとアイゼンテックの屋上へと出ると彼はどこからかルーブジャイロと酷似したアイテム、「AZジャイロ」と「牛」と書かれたクリスタルを取り出す。

 

「奴等は怪獣が何故現れるのかという話をしていたな。 ならばこいつの出番だ!」

『ゲロンガ!』

 

アキラはクリスタルをジャイロにセットし、3回トリガーを引くとそれを空に向けてかざす。

 

「せぇーの! ファイトだよ!! ゲロンガ!!」

 

するとジャイロからビルの外に向かって紫の光が放たれ、光は大柄な体格の怪獣、「牛鬼怪獣 ゲロンガ」となって街に出現し、地上に降り立ったのだ。

 

「ギイイアアアアア!!!!」

「わー!! 怪獣だぁ!!?」

「逃げろぉ!!」

 

ゲロンガの出現に人々は怯え、逃げだし、ゲロンガは雄叫びをあげながら太く長い尻尾を振るってビルを破壊し、さらに口から吐き出す火炎によって街を焼いてく。

 

「ギイイアアアアア!!!!」

 

それと同じ頃、そのように暴れるゲロンガの出現は勇者部の部室の窓からも遠目ながら確認することができ、春木と良はお互いに顔を見合わせる。

 

「また現実世界に怪獣が現れたか・・・・・・!」

「みんな! 行ってくる!」

「分かったわ。 あたし等も後からアンタ達の援護に向かう」

 

風の言葉に春木は頷くと、春木と良はルーブジャイロを同時に取り出す。

 

「「オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!」」

 

最初に春木が空中に浮かんだホルダーを手に取り、そこから「ウルトラマンタロウ」の絵が描かれた火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

タロウクリスタルの角を2つ立ててルーブジャイロの中央に春木はセット。

 

『ウルトラマンタロウ!』

「纏うは火!! 紅蓮の炎!!」

 

最後に春木はルーブジャイロのトリガーを3回引いて右腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! フレイム!!』

 

春木は炎に包まれ、赤い巨人「ウルトラマンロッソ フレイム」へと変身。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

続けて今度は良がホルダーから「ウルトラマンギンガ」の描かれた水のクリスタルを取り出し、それをルーブジャイロにセットさせる。

 

『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは水!! 紺碧の海!!」

 

また春木と同様に良もルーブクリスタルのトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! アクア!』

 

良は水に飲み込まれ、青い巨人「ウルトラマンブル アクア」へと変身を完了させるのだった。

 

 

 

 

 

 

『『タアアア!!!!』』

 

変身を完了し、ゲロンガの前に現れると同時にロッソとブルが同時に放った跳び蹴りがゲロンガに叩きこまれ、それによってゲロンガは吹っ飛び倒れ込む。

 

「ギイイイアアア!!!!?」

『おっしゃああ!! 気合いと根性で今回も勝つぞ!! 良!!』

『だから五月蠅いって・・・・・・。 だが、負けるつもりが無いのは俺も同じだよ、兄貴!』

 

ロッソとブルはファイティングポーズを構えながら再び起き上がったゲロンガに向かって走って行き、同時に起き上がったゲロンガもロッソとブルに向かって勢いをつけた突進を繰り出す。

 

ゲロンガの突進攻撃はそのままロッソとブルの2人を同時に弾き飛ばし、吹き飛ばされた2人は地面に叩きつけられてしまう。

 

『『グアアア!!?』』

「ギイイイアアアアア!!!!」

 

さらにゲロンガは勢いをなるべく殺さないようにしつつ旋回し、先ずは倒れ込んだロッソに向かって再び突進を繰り出すが・・・・・・。

 

『アクアジェットブラスト!!』

 

俯せに倒れながらも掌から水流を発射する「アクアジェットブラスト」をブルがゲロンガの顔目がけて放ち、それの直撃を受け、怯んだところを狙って起き上がったロッソの跳び蹴りがゲロンガに放たれるが、ゲロンガはロッソの足を掴んで受け止め、地面に叩き落とす。

 

『ガア!!?』

 

そこからゲロンガはその巨大な口を開けてロッソの肩に噛みつこうとするが、そこへ駆けつけて来たブルの拳がゲロンガの顔面に直撃し、ゲロンガを後退させて引き離すことに成功する。

 

『大丈夫か? 兄貴?』

『あぁ、助かった』

 

ブルはロッソに手を差し伸べ、ロッソはその手を掴んで立ち上がると2人は頭部の角に手を添えてそこからそれぞれの専用武器である「ルーブスラッガーロッソ」と「ルーブスラッガーブル」を取り出す。

 

『ルーブスラッガーロッソ!!』

『ルーブスラッガーブル!!』

 

ロッソとブルはルーブスラッガーを構えながらゲロンガに向かって駈け出し、対するゲロンガは口から火炎を吐き出して攻撃を繰り出してくる。

 

だが、それをブルが前に出てスラッガーブルを縦一閃に振るうとゲロンガの放った火炎を真っ二つに切り裂かれ、ブルの肩を踏み台に高くジャンプしたロッソは一気にゲロンガに詰めより、2本のスラッガーロッソをゲロンガに振るって身体を斬りつける。

 

『シェアアアア!!!!』

「ギイイアアアアア!!!!?」

 

さらに追撃しようとロッソはスラッガーロッソで再びゲロンガを斬りつけようとするが、ゲロンガは屈むことで攻撃を回避し、そこから尻尾を振るってロッソを叩きつけ、ブルのいるところまで吹き飛ばす。

 

『オアアア!!?』

『おっと!』

 

ブルはなんとか吹き飛んできたロッソを受け止めるが・・・・・・直後、ゲロンガはこちらに向かって飛びかかり、その巨体を生かした圧しかかり攻撃を繰り出して来たのだ。

 

『『ウワアアアアア!!!!?』』

 

圧しかかり攻撃を受け、ブルが1番真下、ロッソが真ん中、ゲロンガが1番上というサンドイッチのような構図となり、苦しむ2人のウルトラマン。

 

『お、重いぃ・・・・・・!! 背中と腹がくっつきそうだ・・・・・・!!』

『早く退けぇ・・・・・・兄貴ぃ! 俺が1番キツ・・・・・・はぁ、はぁ、息が、息がぁ・・・・・・!!』

 

ロッソは必死にもがきながらゲロンガの腹をバンバン叩くが、サンドイッチ状態にされた為かまるで力が入らず・・・・・・ブルは息が出来なくて今にも窒息死しそうだった。

 

『まず、このままじゃ・・・・・・ホントに潰され・・・・・・!』

 

そんな時、ゲロンガの頭の角に幾つもの銃弾が撃ち込まれ、それによって角の一部が欠けたゲロンガは驚き、思わずその場を飛び退く。

 

『グルアアアア!!!?』

『ゲホゲホッ・・・・・・死ぬかと思った・・・・・・!!』

『はぁ、はぁ、なんて重さだよ。 アイツ・・・・・・! って今の銃撃・・・・・・東郷か!』

 

ロッソは銃弾が飛んできた方向を見るとそこにはロッソの予想通り、ビルの屋上で勇者に変身し、狙撃銃を構えている東郷の姿があり、周りには同じように勇者に変身した友奈、風、樹、夏凜が立っていた。

 

「しっかし、夏凜、アンタも来るなんてなんだか意外だったわ。 アンタのことだから『現実世界の怪獣と戦うのは勇者の御役目に含まれてない』とか言うかと思ったのに」

「別に・・・・・・。 だって幾らなんでも流石にあんなの放っておけないでしょ?」

 

現実世界で怪獣と戦うことは神樹から託された御役目の中には含まれていないため、風はてっきり夏凜は一緒に来ないんじゃないかと思っていたが・・・・・・そこはやはり勇者に選ばれただけはあり、怪獣が暴れるのを黙って見過ごすなんて真似を夏凜は決してすることは出来なかったのだ。

 

「グルルルル・・・・・・!!」

 

またゲロンガは角が欠けながらも唸り声をあげてロッソとブルを睨み付け、またもや2人に対して突進攻撃を仕掛けて来る。

 

『その手は食うか!!』

 

しかし、ゲロンガの攻撃を見切ったロッソとブルはジャンプしてゲロンガの頭上を飛び越えることで攻撃を回避し、後ろに回り込むとインナースペース内の良がクリスタルホルダーから雪のクリスタルを取り出す。

 

『セレクト! クリスタル!』

 

良はそれをルーブジャイロにセット。

 

『雪女郎!』

『纏うは雪!! 凍てつく吹雪!!』

 

続けて良はルーブジャイロのトリガーを3回引き、左腕を掲げる。

 

『はあああ、はあ!!』

『ウルトラマンブル! ユキジョロウ!』

 

すると、ブルの青かった部分は白となり、カラータイマーはそのままであるが、胸部にはX字のような模様の入った「ウルトラマンブル ユキジョロウ」へとブルは姿を変える。

 

戦闘BGM「戦い 優勢」

 

「ギイイイアアアアア!!!!」

 

ゲロンガはロッソとブルに向かって口から火炎を吐き出し、それに対してブルは両手から放つ強力な冷気光線、「ブリザードシュート」を放ち、ゲロンガの炎を相殺。

 

しかし、それに怯まずゲロンガは得意攻撃である突進をロッソとブルに仕掛けるが・・・・・・直後、夏凜と風の放り投げてきた刀と大剣がゲロンガの右の巨大な牙に直撃するとそれがポッキリと折れ、ゲロンガは立ち止まって悲鳴をあげる。

 

「グルアアアアアア!!!!?」

「なんか、凄く痛がってる・・・・・・?」

「そっか、あの怪獣の弱点は牙なんだ!! 春木先輩!! 良くん!! その怪獣の弱点は牙です!!」

 

友奈がゲロンガの悲鳴を聞いてそのことに不思議がると、樹はゲロンガの弱点が牙であるとロッソとブルに教え、2人はそれに頷く。

 

『分かった! 牙だな!!』

『ウルトラマンロッソ! ダイテング!』

 

樹からゲロンガの弱点を教えられ、ロッソとブルは頷くとロッソは姿を「ダイテング」に変え、ルーブスラッガーロッソを再び構えると刀身が僅かに伸びて輝き、スラッガーロッソが強化される。

 

『おぉ、ダイテングのクリスタルを使うと、ルーブスラッガーが強化されるのか!!』

 

切れ味が強化されたスラッガーロッソを手に、ロッソはゲロンガに向かって駈け出すとすれ違いざまにゲロンガの残ったもう片方の牙を切り裂いて破壊。

 

「ギイイアアアアア!!!!!?」

 

それに怒ったゲロンガは口から炎を吐いてロッソに浴びせ、直撃を受けたロッソは身体宙から火花を散らして吹き飛ばされてしまい、ゲロンガは視線をブルの方に移すと突進を繰り出して来たが・・・・・・。

 

牙を両方とも折られて弱体化したせいか、先ほどまでのゲロンガは勢いは無くなっているようで僅かに動きが遅くなっていた。

 

そのため、その突進はブルにあっさりと受け止められ、膝蹴りを受けて怯むゲロンガ。

 

『デヤアアア!!!!』

 

さらにそこからロッソのドロップキックが直撃し、ゲロンガは大きく後退する。

 

『トドメだ!!』

 

ロッソはスラッガーロッソを頭部に仕舞い、光の刀「生大刀」を生成するとそれを構え、刀身にエネルギーをチャージしてから横一閃に敵を切り裂く「一閃緋那汰」をゲロンガに放つ。

 

『一閃緋那汰!!』

『アイスレイン!!』

 

同時にブルも氷柱を幾つか形成するとそれを相手に雨のように降り注がせる「アイスレイン」を放ち、2人の技を受けたゲロンガは火花を散らし、耐えきれずに爆発するのだった。

 

「グウウウ、ギイイアアアアアアア!!!!!?」

 

ゲロンガを倒すと、ロッソとブルは拳を上下にぶつけ合わせた後にハイタッチし、空へと飛び去って行くのだった。

 

「いやー、無事に怪獣を倒せたけど・・・・・・今回私達全然活躍できなかったね」

「ですね・・・・・・」

 

ロッソとブルが飛び去るのを見届け、友奈と樹は折角勇者に変身したのに活躍出来なかったことを嘆くが・・・・・・そこですかさず風がフォローに入る。

 

「なに言ってんのよ! 怪獣の弱点に気付いたのは友奈と樹! しっかりアンタ達も活躍してたわよ!」

「ですね」

 

風の言葉に東郷も笑みを浮かべて同意するのだった。

 

最も、夏凜だけは「まぁまぁね」とだそっぽを向きながら呟いていたが。

 

 

 

 

 

 

 

それから・・・・・・戦いを終えた一同は今日はもう時間もないのでまた後日詳しくレクリエーションの話をすることとなり、各自解散。

 

夏凜は家に帰宅すると、今日のことを振り返りながら大赦への定時連絡を行う。

 

『現勇者達を一から指導。 あまりの頼りなさに今日まで無事だったことが奇跡に思える。 そしてウルトラマンの2人もあれだけの力を持っていながら未熟さが全く拭えない。 ホントになぜ今まで無事だったのか不思議で仕方がない』

 

といった具合の文をメールで夏凜は大赦に送り、メールを送り終えた彼女は何時もの日課であるランニングマシンを使って走る。

 

(こんな非常時にレクリエーションなんて・・・・・・)

 

そんな風に、一通りの運動を終え、買って来たコンビニ弁当を食べ、彼女に取っては何時もやっていることを過ごすが・・・・・・その日、1つだけ何時もやってることと違うことがあった。

 

それは、「おりがみれんしゅうブック」と書かれた折紙セットが机の上に置かれていたこと。

 

彼女は日曜のレクリエーションに向けて折紙の練習をしていたのだ。

 

なんだかんだ言いつつも、やるからにはしっかりとやる夏凜なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日が経ち、レクリエーション当日の日曜日。

 

「来てあげたわよ!」

 

夏凜は勇者部に訪れたのだが、まだ部室には誰もいない。

 

「誰もいないの?」と首を傾げつつ、彼女はスマホの画面の時計を確認すると時刻はまだ「9時45分」。

 

集合時間は朝の10時であるため、まだ15分前なら少し早かっただろうかと思い、その場でジッと待機することに。

 

しかし・・・・・・。

 

10時になったにも関わらず、誰1人として夏凜以外に部室に訪れる者はおらず、それに彼女は「だらしない」と苦言を零す。

 

そこからさらに30分、友奈達が来るのを待っていたのだが・・・・・・一向に部室に誰1人として現れず、「もしかして・・・・・・」と夏凜は風に渡されたレクリエーションの紙を取り出して確認すると紙には「現地集合」と書かれていた。

 

つまり、間違えていたのは夏凜の方だったのである。

 

「現地・・・・・・しまった。 私が間違えた・・・・・・! えっと、電話・・・・・・しておいた方が良いわよね?」

 

一応、お互いに連絡先を交換していたので電話をかけようと思えばかけられるのだが、少し電話をかけることに戸惑う夏凜。

 

そんな時、夏凜の持つスマホから着信音が鳴り、それは友奈からの電話だった。

 

「うわ!? この番号、結城 友奈!? あっちからかかってきた!? えっ、えっと・・・・・・」

 

いきなり電話がかかってきたこともあり、夏凜は思わず間違えて通話ボタンではなくキャンセルボタンを押してしまう。

 

「き、切っちゃった。 か、かけ直した方が良いわよね・・・・・・? こういう時は、なんて言って・・・・・・」

 

夏凜はかけ直すべきだろうと考え、友奈に折り返し電話をしようとするが・・・・・・その時、彼女はふっと動きを止め、「なにをやってるの、私は・・・・・・」と呟くと、友奈に電話をかけようとするのをやめる。

 

「そうよ。 関係ない! 別に部活なんてハナから行きたかった訳じゃないし! そうだ、神樹様に選ばれた勇者が何を呑気に浮かれてるのよ!」

 

どこか言い訳がましいことを1人で言いながら、スマホの電源を切ると部室を後にするのだった。

 

「私は、あんな連中とは違う。 真に選ばれた勇者!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま彼女は集合場所の現地に向かうこともなく、夏凜は一度家に帰ると木刀を2本持って近くの海辺でそれを振るって鍛錬を行う。

 

(アイツ等は所詮試験部隊、私は違う。 私は、世界の未来を背負わされている。 期待されているのよ。 だから・・・・・・普通じゃなくて良いんだ・・・・・・!)

 

それからコンビニ弁当を買いに行き、家のマンションに帰ってランニングマシンで走っていると不意にインターホンが鳴り、彼女は「んっ?」と頭に疑問符を浮かべる。

 

すると、今度はインターホンが連続で鳴り響き、それに「うわぁ!?」と驚きの声をあげる夏凜。

 

「誰よ!!」

『うわああああ!!?』

 

それに何度も何度もピンポンピンポン鳴らしてんじゃないとでも言わんばかりに怒りながら木刀を持って扉を開けるとそこには春木、良、友奈、東郷、風、樹の勇者部のメンバー(あと友奈の頭に乗っかってる牛鬼)+偶然そこで会ったらしいヒナタがおり、春木達は木刀を持って夏凜が現れるものだからそのこに驚いて思わず悲鳴をあげるのだった。

 

「こ、この! 危ないだろうがこのサボり魔!!」

 

良はいきなり木刀持って現れるなんて危ないだろと夏凜に怒り、そんな良を春木は「まぁまぁ」とたしなめる。

 

「あれ? あんた達・・・・・・」

 

夏凜は春木達が家に来たことを不思議に思うが、風はそんな夏凜に構わずスマホの電話に出なかったことに対して文句を言ってくる。

 

「あ、あんたねぇ! 何度も電話したのになんで電源OFFにしてんのよ!?」

「えっ? そ、そんなことより何!?」

「何じゃないわよ、心配になって見に来たの!」

 

風の言葉を受けて、「心配?」と首を傾げる夏凜。

 

「良かった~、寝込んだりしてたんじゃないんだね~」

 

友奈は夏凜の元気そうな姿を見ると安堵したような表情を浮かべ、それに戸惑う夏凜。

 

「全く、休むなら休むと連絡を寄越してくださいよ」

 

良は呆れた視線を夏凜に向けながら休むなら休むと連絡しろと注意し、そこで今度はヒナタが夏凜に敬礼しながら挨拶する。

 

「どうも! あなたが勇者部に新しく入部した夏凜さんですね! 私、春にぃと良にぃの妹、南 ヒナタって言います!! これ、お近づきの印に・・・・・・ハイ、飴ちゃん♪」

 

にっこりと笑顔を浮かべながらヒナタはお近づきの印として飴玉を夏凜に手渡し、夏凜は戸惑いつつもそれを受け取る。

 

「それじゃ、そろそろ上がらせて貰うわよ~」

 

すると今度は風が強引に夏凜の部屋へと入っていき、それに続くように春木達も動揺する夏凜を余所に次々と彼女の部屋へと入り、「なに勝手に上がってんのよ!!」と文句を言うが、春木達を止められず、結局部屋に招き入れることに。

 

「はぁー、殺風景な部屋」

「全然サッパリ女性の部屋って感じしませんね。 でもスッキリしてて良いと思います!」

 

風とヒナタはそれぞれ夏凜の部屋の感想を述べ、それに夏凜は「どうだって良いでしょ!?」と風とヒナタの自分の部屋の感想に文句を言う。

 

「ってかヒナタだっけ? ちょっと言い方失礼じゃない!?」

「アイツちょっと口悪いからな。 気をつけろよ、夏凜」

「だが、そこが割と可愛かったりする」

 

春木はヒナタは毒舌キャラだから気をつけろと警告し、でもそこが可愛いと評する良。

 

それを受けて夏凜は「シスコンか」と冷ややかな視線を良へと送る。

 

「まぁいいや、取りあえず座って座って!」

「な、なに言ってんのよ!?」

 

まるで自分の部屋のように風がみんなに座るように言うと夏凜はなんで風が仕切ってるんだとツッコミを入れるが、すると今度は樹がランニングマシンに興味を持ち、それをさわさわと触る。

 

「これすごーい! プロのスポーツ選手みたい!」

「勝手に触んないでよ!!」

「わー!!」

 

すると今度は友奈が何かに驚いたような声をあげ、声のした方に顔を向けるとそこには冷蔵庫を開けている友奈の姿が。

 

「水しかない」

 

どうやら、冷蔵庫に水しかないことに驚いたようだった。

 

「勝手に開けないで!」

 

すると春木は夏凜が買って来たコンビニ弁当の存在に気付き、少々失礼だとは思いつつもゴミ箱の中をちょっとだけ確認。

 

「あー、夏凜、お前コンビニ弁当ばっかり食ってるのか? 栄養偏るし、身体に悪いんじゃないか?」

「アンタも勝手にゴミ箱の中見るなぁ!!?」

 

そこで風はコンビニで買ってきたお菓子を広げ、テーブルの上に置いていく。

 

「ねっ? やっぱり買って来て良かったでしょ?」

「なんなのよ・・・・・・いきなり来てなんなのよ!!」

 

勝手にずかずかと部屋に上がって来て、ランニングマシンは触るわ、冷蔵庫やゴミ箱の中身を見るわで好き勝手する友奈達を夏凜は怒鳴りあげるが、友奈は「あのね!」と言うと少し大きめの白くて四角い箱をどこからか取り出す。

 

「ハッピーバースデー!! 夏凜ちゃん♪」

 

その箱の蓋を開けると、そこには「お誕生日、おめでとう」と書かれたショートケーキがあり、それに「えっ?」と鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔を浮かべる夏凜。

 

「夏凜ちゃんお誕生日おめでとう!」

「おめでとう」

 

友奈と東郷が夏凜にお祝いの言葉を贈るが、夏凜は「どうして?」とイマイチ何が起こったのか分からないようで風は夏凜から預かっていた入部届けを取り出してそれを夏凜に見せる。

 

そこにはしっかりと自分の名前や住所、そして誕生日が書き込まれていたのだ。

 

だから友奈達は今日が夏凜の誕生日であることを知っていたのである。

 

「アンタ今日誕生日でしょ? ちゃんとここに書いてあるじゃない?」

「友奈ちゃんが見つけたんだよね?」

「えへへ、あっと思っちゃった。 だったら誕生日会しないとって!!」

 

夏凜以外の一同はパーティーグッズ用の三角帽子を被りながら樹が「これなら歓迎会も一緒にできるねって友奈さんが」と夏凜に教え、また東郷言うには本当は子供達と一緒に児童館でやる予定だったらしいことも教えた。

 

「驚かそうと思って黙ってたんだけど・・・・・・」

「でも、あなたが来なかったもんだから予定が狂った。 その辺はちゃんと反省してくださいね」

 

友奈はサプライズで誕生日兼歓迎会を夏凜に子供達と一緒にやるつもりだったことを彼女に伝え、良は来なかった件に関して反省するように注意を促す。

 

「そうそう。 当のアンタが来ないもんね。 焦るじゃないの!」

「家に迎えに行こうとも思ったんだけど・・・・・・子供達も激しく盛り上がっちゃって・・・・・・」

 

また風は夏凜の家に訪れるのに夕暮れ時というこんなにも遅い時間になってしまったのは子供達の相手をしていたからで、風は来るのが遅くなってしまったことを夏凜に謝罪する。

 

「結局この時間まで解放されなかったのよ。 ごめんね」

「・・・・・・」

「んっ? どうした?」

「夏凜ちゃん?」

 

先ほどからずっと黙っている夏凜を見て、彼女の様子がおかしいことに気づき頭に疑問符を浮かべる友奈と風。

 

「あれ? ひょっとして自分の誕生日も忘れてた?」

「この反応はそうだろうなぁ」

 

風は悪戯っ子のような笑みを浮かべながら誕生日を忘れていたのかと指摘し、春木も夏凜の唖然とした姿から反応的にも恐らくはそうなのだろうと感じた。

 

すると・・・・・・今まで黙っていた夏凜が口を開く。

 

「アホ、バカ、ボケ・・・・・・おたんこなす」

「はぁ!? いきなり罵声!?」

 

ようやく口を開いたかと言えば自分達に対しての暴言・・・・・・それに良は怒りそうになるが、春木に肩を掴まれて止められる。

 

「なによそれ!?」

 

ただ誕生日を祝いに来たのにこの言いようはないのではないかと風も文句を言うが・・・・・・。

 

「いやいや、夏凜の顔よく見てみ?」

 

春木は風と良にボソッと耳打ちし、2人はそれに首を傾げつつジッと夏凜の表情を見てみると・・・・・・。

 

「誕生会なんてやったことないからなんて言ったら良いか・・・・・・分かんないのよ・・・・・・」

 

そして良と風は夏凜の顔を集中してジーッと見てみると、彼女の頬は赤く染まっており、それを見て良と風は先ほどの夏凜の発言が照れ隠しだったのを理解した。

 

「なんだ、意外と可愛いところあるんじゃないですか」

「誰が可愛いよ!! うっさいわね!!」

 

良にそう言われ、夏凜は「うるさい」と返すものの、良はそんな夏凜を見てケラケラ笑うのだった。

 

「ってか、アンタまで私のこと祝いに来るのはちょっと意外だったわ」

 

夏凜は良を見ながらてっきり彼は自分のことを嫌っていると思っていたので、彼女は良が来たことを意外だったと呟く。

 

そんな良に夏凜はわざわざ自分の誕生日会兼歓迎会をしてくれるのかという疑問を投げかけ、良はコーラを飲みながらもその問いかけに応える。

 

「俺は夏凜さんと仲良くなれる気がしないと言っただけで、嫌いだとは言ってませんよ。 正直、あの時の援護とか助かりましたし、これからは一緒に戦って行く訳ですから多少お互いに交流しといた方が効率的でしょ、戦いとかで」

「おっ? ちょっと良が夏凜に対してデレたわよ!」

「なんの話してるのかよく分かりませんけど、男のツンデレは吐くほど気持ち悪いですよ、良にぃ」

「デレた訳じゃないです。 あと、誰が気持ち悪いだヒナタ!?」

 

風は良が夏凜に対して少しだけ心を開いたのを感じ、またそんな良を見て男のツンデレは気持ち悪いと評するヒナタ。

 

あれ・・・・・・無爪・・・・・・。

 

「いや、あの人のツンデレは可愛いのでセーフです。 主に良にぃがやると気持ち悪いってだけですよ。 あっ、でも吐くほどなのは良にぃだけかも」

「オイ!!」

 

良に対して毒舌全開のヒナタ。

 

またその時、友奈が夏凜の部屋のカレンダーを見て今日の日付に丸をつけていることに気づき、彼女は視線を夏凜に向けると、改めて祝いの言葉を贈るのだった。

 

「お誕生日おめでとう、夏凜ちゃん」

「っ~!」

 

それに夏凜は顔を真っ赤にし、その後はみんなでジュースで乾杯して誕生会を開始。

 

ちなみに牛鬼はヒナタがいるためテーブルの下に隠れてお菓子などを食べている。

 

「アハハハ!! 飲め飲め!」

「コーラで酔っ払うんじゃないわよ!」

 

コーラ飲んで酔っ払いみたいにする風にすかさずツッコミを入れる夏凜。

 

「こういうのは気分よ気分! 楽しんじゃえるのが女子力じゃない?」

「むしろ今のはおっさん臭かったから女子力低下してね?」

 

風はこういうノリの良さこそ女子力ってものだと夏凜に説明するが、むしろおっさんに見えるということで春木は逆に女子力下がっているのではないかと呟き、それを聞いた風は「あぁん?」と春木のことを睨み付ける。

 

「だぁれがおっさんよ!! まだまだ若い、ピチピチの中学生に向かって!!」

「その言い方もおっさん臭いぞ風!?」

「あっ、折紙! 練習してたんですか!?」

 

そんな時、樹はテレビの下の台の中に夏凜が折ったと思われる鶴の折紙があることに気づき、それを見た東郷も「凄い上手!」と彼女のことを褒めるが、それを受けた夏凜は慌ててテレビの前に素早く移動し、折紙を顔を真っ赤にして必死に隠す。

 

「だぁーーーー!!!!? みみみ、見るなぁ!!? ってん?」

「えっと、勇者部の予定と私達の遊びの予定♪」

 

すると夏凜はいつの間にか自分の部屋のカレンダーに友奈が勝手に日付に赤丸をつけながら予定を立てていることに気付き、すかさず夏凜は当然ながら「勝手に書き込まないで!!」と怒鳴りあげる。

 

「勇者部は土日に色々活動があるんだよ?」

「忙しくなるわよ!」

 

しかし、友奈や風にほぼ強引に予定を立てられ、夏凜はそれに対して抗議する。

 

「勝手に忙しくするな!!」

「そうだよ忙しいよ! 文化祭の演劇の練習とかもあるし!」

「えっ?」

「えっ?」

「演劇?」

 

友奈の演劇発言に樹や東郷、春木、良は頭に疑問符を浮かべ、春木達は以前文化祭について話した時のことを思い返す。

 

すると確かに以前の話し合いで一同は文化祭で勇者部は何をやるか考えてくることになってはいたが・・・・・・。

 

文化祭で演劇をやるなんて話、そもそも話題にすら出ておらず、樹は「何時決まったんですか?」と尋ね、「アレレ?」と友奈は頭を抱えて困惑した表情を浮かべる。

 

「もしかして私の中の勝手なアイディアを口走っちゃっただけかも・・・・・・」

「バカなの?」

 

どうやら演劇というのは友奈のただの記憶違いなだけだったようでそんな友奈を見てクスリと笑みを浮かべる良。

 

「今の困惑顔の友奈さん、可愛かったですよね」

「そうね、天使よね」

 

良はそのままボソッと小さな声で東郷に耳打ちすると、彼女もそれに同意するように頷き、ついでに今の姿をこっそりと誰にも気付かれないようにスマホの写真で撮影して隠し盗り。

 

この作品盗撮魔ばっか!!

 

「いいねぇ、演劇」

『えっ?』

 

そんな時、風が友奈の口走った演劇のアイディアを気に入ったようで、なんとそれを採用してしまったのだ。

 

「決まり! 今年の文化祭の出し物は演劇でいきましょ!」

「っていうか、私を話に巻き込まないでよ!?」

 

勝手に自分も話に巻き込もうとするなと訴える夏凜だが、風はそれを軽く流し、どうせ暇なのだろうと返される。

 

「良いじゃん、暇だったんでしょ?」

 

しかもやたらイケボな声で。

 

「やだ、この人イケボ」

 

そして風ってそんな声出せたのかと感心する春木だった。

 

「っ、忙しいわよ! トレーニングとか!!」

「1人で? 暗ッ!!」

「もうちょっと華やかな日常送りましょうよ、だから部屋が殺風景なんですよ夏凜さん!!」

「う、うるさい!! ってかヒナタ、私の部屋が殺風景なの関係ないでしょ!?」

 

そのまま主に風と夏凜の2人は口論に発展するが、その口論は微笑ましい内容なものだった為、特に誰か止める訳でもなく・・・・・・。

 

「良かったね、友奈ちゃん」

「うん」

 

そして、僅かかもしれないが、夏凜と仲良くなれたことを感じた友奈は東郷の言葉に頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、春木達は帰宅し、彼等が出したゴミをゴミ捨て場に置きに行って部屋に戻ると、スマホに「NARUKOに招待します」という件名が書かれたメッセージが届いていた。

 

「あれ?」

 

送られてきたメールの内容は、勇者部全員が登録しているSNSアプリのリンクであり、彼女は寝間切りに着替えてベッドに入りつつ、取りあえずNARUKOのページを開くとそこには風からのメッセージがあった。

 

『アンタも登録しておいてね。 今日みたいに連絡の行き違いがないように』

『これから仲良くしてくださいね。 よろしくお願いします』

『次こそはぼた餅食べてくださいね。 有無は言わせない』

 

風に続くように東郷と樹がメッセージを送り、それを見て夏凜は「ぼた餅って・・・・・・」とどれだけ東郷は自分にぼた餅食べさせたいのかと考える。

 

『ハッピーバースデー、夏凜ちゃん! 学校のことや部活のことで分からないことがあったらなんでも聞いて!』

『まぁ、とりまよろしく・・・・・・です』

『今度時間空いてる時で良いから俺や良にたまに稽古つけてくれよな!』

 

次に友奈、良、春木からメッセージが送られ、夏凜は溜め息を吐きつつも「了解」と返信する。

 

『わー返事が返ってきた』

『ふふふ、レスポンスいいじゃない』

『わーーい』

『わーーい』

『ぼた餅』

『気合い』

 

すると、こんな感じで友奈、風、また友奈、樹、東郷、春木という順で返信が返って来ると、夏凜はそれに戸惑いつつ照れ隠しをするかのように「うっさい!!」とメッセージを送るのだった。

 

『ぶはははは』

『ぼた餅』

『気合い』

『アンタ等さっきからなんなんだ・・・・・・』

 

今度は風、東郷、春木からの返事が来て良は先ほどから謎のぼた餅と気合い推しの東郷と春木にツッコミを入れるのだった。

 

「なんなのよ、もう・・・・・・んっ?」

 

そして最後に・・・・・・。

 

『これから全部が楽しくなるよ!』

 

という友奈のメッセージが届くと、それと同時に今日の誕生日会で盗った写真が送られて来るのだった。

 

「全部が楽しくなる・・・・・・か。 世界を救う勇者だって言ってるのに・・・・・・。 バカね」

 

言葉こそ友奈達に呆れたような発言ではあったものの・・・・・・その時の夏凜の表情はどこか満足そうに、笑っていたのだった。



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第6話 『姉妹と兄弟』

春木達の住む香川県にあるとある山奥にて・・・・・・。

 

オーソドックスな恐竜タイプの黒いボディの怪獣「熔鉄怪獣 デマーガ」が突如として出現し、それを受けて春木が変身した「ウルトラマンロッソ フレイム」と良が変身した「ウルトラマンブル アクア」がデマーガの対応に当たっていた。

 

『シェア!!』

 

ロッソはデマーガに掴みかかって動きを封じると、そこに真横からブルが跳び蹴りを放って攻撃を仕掛けるのだが、デマーガは背中から火炎弾を放つことでそれを周囲に降り注がせ、跳び蹴りを放って来たブルと自分を押さえつけているロッソに直撃させることで2人を引き離すことに成功。

 

『『グアアアア!!!?』』

 

さらに尻尾を振るうことで片膝を突いたロッソを叩き飛ばし、倒れ込んだブルに向かって口から吐く高熱の熔鉄熱線を浴びせる。

 

「グルアアアアアア!!!!」

『ウアアアアア!!!!?』

 

咄嗟に両腕を交差して攻撃を防ぐものの特に意味を成さずブルは身体中から火花を散らして吹き飛ばされ、大ダメージを負ってしまう。

 

『良!! この!!』

 

そこへ立ち上がったロッソがデマーガに向かって駈け出し、デマーガは熔鉄熱線をロッソに向かって放つがロッソは身体をスライディングさせることで回避し、スライディングさせた勢いのままデマーガの腹部に蹴りを叩き込むことに成功。

 

「グウウウ!!?」

『今だ!! セレクト! クリスタル!』

 

デマーガが怯んだ隙を狙い、インナースペース内の良は大天狗クリスタルを取り出すと1本角を立ててルーブジャイロにセット。

 

『大天狗!』

『纏うは翼!! 剣撃の嵐!!』

 

そして良はルーブジャイロのトリガーを3回引き、左腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンブル!! ダイテング!!』

 

するとブルの青かった足の部分と頭部、胸部は白に、腕は黒になり、右肩にはカラスの嘴を模した黒いショルダーが現れ、左には黒い翼のようなショルダーが現れた「ウルトラマンブル ダイテング」へとブルは姿を変える。

 

『クロスブレイカー!!』

 

姿を変えたブルは両手でX字を描くように振るうことでX字の斬撃を飛ばす「クロスブレイカー」をデマーガに向かって放ち、対するデマーガは熔鉄熱線を口から放って相殺を計るが光線はX字に切り裂かれてしまい、クロスブレイカーはデマーガの身体に直撃。

 

「グルアアアア!!!?」

 

さらに両手をブルは光らせ、勢いよく振るうことで光のナイフを放つ「ナイフスラッシュ」を放つが、デマーガは尻尾を地面に力強く叩きつけることで大ジャンプを行って攻撃を回避し、そのままブルにドロップキックを浴びせる。

 

『ダアアア!!?』

『良!』

 

そこでロッソが火の玉をオーバースローのフォームで放つ爆裂光弾「ストライクスフィア」を放ってそれをデマーガに直撃させ、デマーガが大きく怯むとロッソはブルに向かって「今だ!!」と叫ぶ。

 

『分かっている!』

 

ブルは右手を頭上にかざし、自分の刀身と同じくらいの巨大な光の剣を作り出すとそれを相手に向かって振りかざす「大斬撃」を繰り出し、身体を縦一閃に切り裂かされたデマーガは身体から火花を散らし、爆発して倒されるのだった。

 

『大!! 斬!! 撃!!!!』

「ガアアアア!!? グルアアアアアア!!!!!」

 

デマーガを倒し終えるとロッソとブルは頷き合い、拳を上下にお互いに叩き合った後、ハイタッチをすると2人は空へと飛び立ってその場を去るのだった。

 

『今日は友奈達の援護も無しで怪獣を倒せたな!』

『あぁ、変身解除したらもう終わったって連絡しないといけないな・・・・・・』

 

だが、その時2人は気付いていなかったのだ。

 

デマーガが放った火炎弾によって地面に1つだけ不自然に巨大な亀裂が入っているのを・・・・・・。

 

そして、逆にそれに気付いていた人物が1人・・・・・・。

 

そう、ダーリンを使ってロッソとブルの戦いの様子をアイゼンテックの社長室で監視していたアキラである。

 

「あの地面の亀裂の仕方・・・・・・なんだか妙だな。 ダーリン、悪いがもう一仕事頼めるかな?」

『あっ、は~い、お任せあれ~』

 

 

 

 

 

 

 

その翌日。

 

今日、樹と良のいるクラスでは音楽の授業が行われており、今は1人1人順番に生徒達の前に出て教師のピアノのリズムに合わせて歌を歌うこととなっていた。

 

良はある程度上手く歌えたので特に問題は無かったのだが・・・・・・、問題は順番が廻ってきた樹にあった。

 

彼女は今朝学校に来た時から浮かない顔をしており、良はそんな彼女を体調でも悪いのかと思って気にかけていたのだが・・・・・・樹が言うには特にそういう訳ではないそうで・・・・・・。

 

良も「樹さんがそう言うなら・・・・・・」と納得したものの、音楽の授業が始まると今朝からしていた浮かなかった顔はますます顕著となり、良は一体どうしたのだろうか、本当に体調の方は大丈夫なのだろうかと心配になったが・・・・・・理由は樹が歌う番になったことですぐに理解することができた。

 

「次は、犬吠埼さん」

「は、はい!!」

 

名前を呼ばれ、緊張した様子で席から立ち上がる樹。

 

樹はオドオドとしながらも生徒達の前に立ち、歌の歌詞の載った教科書を開くのだが・・・・・・それが逆さまになっていることに気づき、慌てて普通の位置に戻す。

 

それにクスクスとクラスメイト達から笑われてしまう樹。

 

そのこともあってか先ほどよりもより一層緊張したようで、良もそのことに気づき、先ほどから顔色が優れなかったのはもしかして緊張していたからだったのだろうかと思ったのだが・・・・・・。

 

実は良は以前、樹が誰もいない部室で1人静かに歌を歌っているのを聴いたことがあったのだ。

 

その時の樹の歌声はとても綺麗な音色を奏でており、きっと樹は今日の授業でもその音色を遺憾なく発揮してくれるのだろうなと良は予想し、少し彼女の歌を聴くことを楽しみにしていた。

 

しかし、いざ樹が実際に歌ってみると・・・・・・。

 

「~♪ ~♪」

 

音は外しまくり、声は上擦り、しかも声の音量も小さく・・・・・・。

 

結果、樹は自分の音痴っぷりをクラスメイト達に晒さすだけの結果となってしまうのだった。

 

(私、人前で歌うのは、ちょっと苦手です・・・・・・)

 

しかもこれはまだ次回の音楽テストに向けての歌の練習で、このままの状態では樹は絶対に次の授業の時のテストに合格するできないことを物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後の勇者部活動。

 

そこでは今日も今日とて春木達が勇者部の活動に勤しんでおり、頭に牛鬼を乗せた友奈は「うーん」と怪訝な顔をしながら壁に貼られた「春の勇者部活動」と書かれた自分達の活動が記録された記事と先ほどからずっと睨めっこしていた。

 

「この写真は・・・・・・ここで!!」

 

すると友奈は手に持っていた写真を勢いよく記事に「バン!!」と張り付けると「うん、バッチリだ!!」と彼女は記事の見栄えの出来に「うんうん」と満足げに頷く。

 

また東郷はパソコンで何やら作業中の様子・・・・・・。

 

「わお! 今日も閲覧者数すごーい!!」

 

写真を貼り終えて一旦作業の終了した友奈は後ろから東郷の操作するパソコンの画面を覗き込むと勇者部のホームページのアクセス数の多さに彼女は歓喜の声をあげる。

 

「あとは学校の連絡先と子猫の写真を載せて・・・・・・」

 

東郷はホームページに学校の連絡先と「飼い主募集中」と書かれた子猫の写真を載せることでそのページを完成させる。

 

「野球部の練習の手伝い行って来たぞぉ!! いやぁ!! 良い汗かいた!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・・・死ぬ、じぬ゛ぅぅ・・・・・・!」

 

そこへ丁度野球部の助っ人に行っていたらしい春木と良が戻って来たのだが・・・・・・春木は物凄くスッキリとした良い笑顔だったのに対し、良の方はまるでゾンビのように顔を青ざめさせ、生気を感じさせないくらいにフラフラしながら部室へと戻って来たのだった。

 

その光景に風は「なにがあった!?」と驚きの声をあげ、取りあえず良を椅子に座らせ、これには友奈も驚いたようで一体何があったのかと友奈が心配げに尋ねると、どうにも今回、野球部の練習の手伝いは春木だけでは手が足りなかったらしく・・・・・・。

 

そこで勇者部の活動で手が空いてて暇そうだった良を半ば春木が無理矢理連れて行ったようで、普段から運動の苦手な良に取っては普通の野球の練習でも相当苦痛だったようだった。

 

「お前、全然運動しないし、休みの日は基本家に閉じこもってるからな。 たまには身体動かした方が良いだろう?」

「余計なお世話だ・・・・・・このバカ兄貴ぃ・・・・・・。 インドア派の体力の無さを舐めるなよ・・・・・・」

 

友奈から渡されたスポーツドリンクを飲みながらインドア派に運動を強要するなと苦言を零すが、体力の無さを訴えるとかそれでも自分達と同じ世界を守る使命を持ったウルトラマンかと2人のやり取りを見ていた夏凜は思わずにはいられなかった。

 

「よしよぉーし、それでも苦手なことから逃げずに、よく頑張ったね良くん!!」

 

また友奈は良の頭を撫でながら運動は苦手と言いながら最後まで野球部の練習に付き合ったことを褒め称え、それに良は顔を赤くしながらバッと彼女から顔を背け、口元を押さえながら必死にニヤケそうになるのを良はなんとか堪える。

 

(これならたまには運動するのもありかもしれないな・・・・・・!)

「・・・・・・」

(同時に東郷先輩の怒りも買うけどな・・・・・・)

 

当然、友奈から「頭を撫でられる」なんてことをされれば当然ながら東郷からの怒りも買うこととなり、彼女の目からハイライトが消え、凍てつくような視線を先ほどからずっと良に向け、それを感じながら良は背中を刺されないようにしようとこれから後ろに注意しようと思うのだった。

 

実際さっき小声で「後ろに注意しなさい」とかちょっと聞こえたので尚更。

 

「はぁ、アンタ達のせいで集中力切れたわ。 もう、余計にストーリーが思いつかん!」

 

一方、文化祭の劇に向けて脚本を書いていた風はただでさえ話が中々上手く思いつかず、頭を抱えて悩んでいたのに、春木達が騒ぐものだから余計に思いつかないと苦言を零し、それに春木達は「すいません」と反省し、謝罪する。

 

「んっ? あー、なに食べてるの?」

 

その時、風の視界に先ほどから何かボリボリと食べている夏凜の存在に気付き、気になった風は一体何を食べているのだろうかと気になって尋ねる。

 

「んっ? にぼし」

「学校でにぼしを貪り食う女子中学生って夏凜くらいね」

「健康に良いのよ?」

「って割には食事はコンビニ弁当で済ませてる辺り・・・・・・夏凜って栄養偏ってそうだな・・・・・・」

 

健康に良いものを食べるのは良いことなのかもしれないが、だったら何時もコンビニ弁当で済ますのはどうなのかと考え、春木はもしかしたら夏凜は結構栄養が偏っているのかもしれないと思わずにはいられなかった。

 

「じゃあこれから夏凜のことは『にぼっしー』って呼ぶ!」

「ゆるキャラにいそうなあだ名つけるなぁ!!」

(ふな〇しー・・・・・・的な?)

 

にぼしを食べているからか、風にそのようにあだ名をつけられる夏凜。

 

当然ながらそんなあだ名をつけるなと夏凜は反発するが・・・・・・。

 

「そう言えば、にぼっしーちゃん!」

「待って、その名前定着させる気!?」

「良いじゃないか、愛嬌があってさ! なぁ、にぼっしー!!」

「いよ、にぼっしー!」

「にぼっしーって言うなぁ!!」

 

友奈に便乗して春木や良まで夏凜のことをにぼっしーと呼び始め、特に良は凄くニヤついた顔で言ってくるため、夏凜は額に青筋を浮かべて今すぐにでも良だけはぶん殴ってやろうかと思うのだった。

 

「それより、飼い主捜しのポスターは?」

「んっ? そんなのもう作ってあるわ!」

 

東郷は夏凜に頼んでおいた猫の飼い主捜しのポスターの完成の有無について尋ね、夏凜は「余裕!」とばかりに既に完成させていることを東郷に伝えると夏凜は彼女に自分の描いたポスターを彼女に渡す・・・・・・のだが・・・・・・。

 

「えっと、妖怪?」

「猫よ!!」

「どっちかと言うと虎っぽいな」

 

そのあまりの下手くそな猫のイラストに、東郷は思わず妖怪か何かかと勘違いしてしまい、春木はイラストの猫モドキの身体の色が背中に縞模様っぽいものが入っていたことから猫というよりかは虎っぽいと感想を漏らすのだった。

 

「ハァ・・・・・・」

「んっ? 樹?」

 

そんな時、タロットカードで占いをやっていた樹が大きな溜息を吐き出していることに春木達は気づき、気になった風が彼女に声をかけるとどうやら無意識に溜め息を吐いていたらしく、樹は不思議そうな顔を浮かべながら「えっ? なに?」と首を傾げる。

 

「どうした? そんなクソデカ溜め息なんか吐いて。 そんなデカい溜め息を吐いてると幸せが逃げてくぞ?」

「春木のクソデカ溜め息とか言う言い方よ」

「あっ、えっと、あのね? もうすぐ音楽の歌のテストで上手く歌えるか占ってたんだけど・・・・・・」

 

春木達から心配され、樹は次の音楽の授業で歌のテストがあることをみんなに教え、今日はその練習だったのだが、散々な結果だったことからテストの結果をタロットカードで占ってみたそうなのだが・・・・・・。

 

「死神の正位置、意味は破滅、終局、うぅ・・・・・・」

「うーん、当たるも八卦、当たらぬも八卦って言うし気にすることないでしょ!」

「そうだよ! こういうのってもう1度占ったら全く別の結果が出るもんだよ!」

 

タロットカードの占いの結果に落ち込む樹を風と友奈がそう言って励まし、友奈に言われてもう1度試しにもう何回かやってみてはどうだろうかと提案された為、樹は試しにもう3度ほど占ってみることに。

 

しかし・・・・・・。

 

占いの結果は全て「当然正位置ィ!!」とばかりに毎回死神のカードが出てきて最初と同じ結果となってしまい、これには風も頭を抱え、やり直しを提案した友奈は気まずそうな顔をしながら身体を震わせ、それに春木は苦笑いするしかなかった。

 

「だ、大丈夫!! フォーカードだからこれは良い厄だよ!!」

「死神のフォーカード・・・・・・」

「あっ、いや、悪い意味じゃなくて・・・・・・!!」

 

なんとかフォローしようと頑張る友奈だったが、先ほどから言うこと全部が裏目に出る結果となってしまうのだった。

 

「俺は実際に樹さんの歌を聴いたが・・・・・・うん、大丈夫! ジャ〇アンレベルって程じゃないし、あれと比べると全然上手いですよ樹さん!!」

「それ、なんの励ましにもなってないよ、良くん・・・・・・」

 

良は耳がイカれるレベルではない、普通に聴けると言えば聴けると樹に励ましの声をかけるが、それは全く励ましになっておらず、そもそもそれは根本的な解決になってないと樹から指摘されてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

それから風は自分達勇者部は困ってる人を助ける、それは部員も同じということで今日の勇者部の活動はみんなで樹を歌のテストで合格させるというものに決定し、一同は早速みんなで樹がどうすれば歌を上手く歌うことが出来るのか、話し合うことに。

 

「ってか要は気合いだろう!! 破滅だか終局だかなんだか知らねえが、気合いと根性でぶっ飛ばしちまえば良いんだよそんなの!!」

 

早速春木がどうすれば樹は上手く歌うことが出来るのか、意見を出してくるのだがやはりというかなんというか、みんなが予想した通りの根性論。

 

「根性論だけで歌が上手くなるかバカ兄貴!」

「アンタのさっきの励ましよりかは参考になるわよ」

 

それに良は溜め息を吐きながら根性だけでどうにかなる問題ではないと言うのだが、即座に夏凜からお前よりかは参考になる意見だとツッコまれ、「ガーン!」と頭を殴られたレベルのショックを受ける良。

 

「そんな・・・・・・俺よりも兄貴の意見の方が参考になるなんて・・・・・・」

「お前普段どんだけ俺のことバカだと思ってんだ!?」

 

そんな春木に「そりゃ何時も赤点ギリギリなんだからそう思われても仕方ないでしょ」と風から言われ、良からは「なんだったら友奈さんよりもテストの点が悪い時もある」と指摘され、それに何も言い返せず、「ぐぬぬ」と悔しそうに唇を噛み締めながら膝を抱えて落ち込む春木。

 

「というかそこで私を引き合いに出すのやめてくれる良くん!?」

 

自分を引き合いに出されたことに友奈は顔を真っ赤にして「むぅー」と頬を膨らませながら怒り、そんな友奈を「ちょっと可愛い」と不覚に思いつつも良は「す、すいません」とまたニヤけそうになる顔を必死に堪えながら謝るのだった。

 

「それよりも、樹ちゃんのことですよ。 先ず歌声で『アルファ波』を出せるようになれば勝ったも同然ね?」

「アルファ波?」

「良い音楽や歌というものは大抵アルファ波で説明がつくの!」

 

未だに落ち込んで膝を抱えている春木の頭を左手で撫でて励ましながら右手で円を描くようにしてアルファ派について樹に教える東郷。

 

それさえ出すことが出来れば歌のテストも大丈夫と言うが・・・・・・。

 

「んな訳ないでしょ!?」

 

すかさず夏凜が嘘教えんなとでも言いたげにツッコミを入れる。

 

「ちなみにアルファ波っていうのは本来は人・動物の脳が発生する電気的信号のうち、8~13Hz成分のことを指すそうです(作者的w〇ki調べ」

「うーん、樹1人で歌うと上手いんだけどねぇ? 人前で歌うのが緊張するってだけじゃないかな?」

 

流石に樹の姉なだけあり、樹が本当は歌が上手いことを知っている風はきっと緊張して声が上ずってしまっているだけではないかと考え、それには以前樹の鼻歌を聴いたことがある良も納得だった。

 

「俺も以前、樹さんが部室で1人でいる時に歌を口ずさんでるの外から聴いてたことがありますけど、とても上手かったですよね。 だから授業の時急に下手になっててビックリしましたよ」

「えっ、良くん私の歌って・・・・・・き、聴いてたのぉ!?」

 

確かに少し前にみんなが来るよりも前に一足早く部室にやって来て1人だったこともあり、歌を口ずさんでいたことはあった。

 

だが、まさか良に聴かれているとは思わず、樹は顔を真っ赤にして恥ずかしがった彼女は「今すぐ忘れて!!」と必死になって懇願するが、「むしろ下手な歌をみんなに聴かせる方が恥ずかしくないか?」と思わずにいられない夏凜だった。

 

「でも、そっか、それなら・・・・・・習うより慣れろ、だね!」

 

そこで両腕を組みながら風の話を聞いた友奈は何かを思いついたようでポンッと手を叩くと一同は彼女の出した提案に乗る形で・・・・・・カラオケボックスへと向かうこととなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

カラオケへとやってきた勇者部一同。

 

先ずは風が1番手として「soda pops」という曲を一曲歌い、それにタンバリンやマラカスなどを使って盛り上げる春木達。

 

「お姉ちゃん上手!」

「意外と歌上手いんだな、風って」

「ありがと!」

 

歌い終わると風は席に戻り、友奈は「ちょっとごめんね?」と断りを入れつつ、樹の前に置いてあった曲を入れる為の機械を手に取り、曲名を入れて検索をかける。

 

「ねえねえ! 夏凜ちゃん? この曲知ってる?」

「一応、知ってるけど・・・・・・」

 

すると友奈はその曲を夏凜に見せ、もしも知っているなら一緒に歌おうと彼女を誘うのだが、それに夏凜は「なな、なんで私が!?」と戸惑いの色を見せる。

 

「馴れ合う為にここにいる訳じゃないわ!!」

「そうだよねぇ? あたしの後じゃ・・・・・・ご・め・ん・ね?」

「本当は緊張してる時の樹さん以上に歌が下手なんだろ! 怖じ気づいてんじゃないぞ完成型勇者さんよぉ!」

 

そのように92点という高得点を叩きだした風と別にまだ歌ってすらもいない良に滅茶苦茶煽られ、それに静かにキレた夏凜は友奈にマイクを渡すように要求。

 

「友奈、マイクを寄越しなさい」

「へっ?」

「早く!!!!」

「は、はいぃ~!!」

 

夏凜は怒鳴るようにそう言うと友奈は慌ててマイクを夏凜に手渡し、「○△□(マルサンカクシカク)」という曲を入力して2人で一緒に歌うことに。

 

2人が歌い終わると画面には「92点」と表示され、風と同じ高得点を叩きだすことに成功。

 

「夏凜ちゃん上手じゃ~ん」

「フン、このくらい当然じゃん!!」

 

尚、この後春木と良の兄弟2人で「Hands」という曲を歌ったのだが、点数は「78点」という微妙な数字を叩きだしたせいで今度は良が夏凜から煽られることに。

 

「あんだけあたしのこと煽ってた癖にアンタは大したことないのねー!! アハハハ!! アーッハッハッハ!!!!」

「ぐうううう・・・・・・!!」

「夏凜と会ってから今までで1番楽しそうにしてるわね、あの娘・・・・・・」

 

風の言う通り、夏凜が良を煽る姿は出会ってから今まで見たことがないレベルで楽しそうであり、それに良は握り拳を作りながら悔しそうに歯ぎしりするのだった。

 

それから春木と良が歌い終わると、次は樹の順番が廻ってきて彼女は音楽のテストで歌う予定の曲、「早春賦」を入力し、歌うことになるのだが・・・・・・。

 

やはりというべきか、彼女は見るからに不安そうな顔を浮かべており、その姿は誰が見ても彼女が緊張しているのが丸分かりだった。

 

それでもなんとか声を絞り出して歌い出す樹だが、やはり緊張のあまり声が上ずってしまう上に音を外しまくり、当然、歌の点数も最低ランクを叩きだしてしまう羽目に。

 

「ハァ・・・・・・」

 

歌い終わると彼女は溜め息を吐きながら席に戻り、「やっぱり硬いかな?」と風はそんな樹に感想を述べる。

 

「誰かに見られてると思うとそれだけで・・・・・・」

「重傷ね・・・・・・」

「見るからに緊張してたし、やっぱり問題はそこかな」

 

とは言うもののその緊張をどうすれば良いのか分からず、樹はまた溜め息を零す。

 

「うーん、まぁ、取りあえず今はただのカラオケなんだし上手かろうと下手だろうと好きな歌を好きに歌えば良いのよ!」

「そうそう、気にしない気にしない!!」

 

そんな風に落ち込む樹に風は今はカラオケなのだから肩に力を入れる必要はないと励まし、友奈もそれに同意して頷きながらお菓子でも食べて少しリラックスしようとお菓子を手に取ろうとするのだが・・・・・・。

 

「さっ、お菓子でも食べてって残ってない!?」

 

先ほどまでそこにあった筈の買って来ていたお菓子は既に1つも残っておらず、お菓子は全て牛鬼に美味しく頂かれてしまっていたのだった。

 

「フフ、牛鬼は本当によく食べますね!」

「食べ過ぎだよ~」

 

友奈は牛鬼に全てお菓子を食べられたことを泣きながら嘆く。

 

するとそんな時、東郷の入れた「古今無双」という曲のやたら力強い感じのイントロが流れ始めると春木、友奈、風、樹の4人が一気に険しい顔となる。

 

「あっ、私が入れた曲」

「なに!? 東郷先輩が歌うなら曲は『夢飛行』ではないのか!!?」

「勝鬨やめろ」

 

そして曲が流れ始めるとそれに思わず友奈、春木、風、樹の4人は勢いよく立ち上がってビシッと敬礼を決め、それに「えっ、なに!?」と突然の出来事に驚く夏凜。

 

その光景+東郷のやたら渋い歌に夏凜を目を丸くするしかなく、歌い終わると友奈達は椅子に再び座り、夏凜は一体何が起こったのかと友奈に問いかける。

 

「東郷さんが歌うと私達何時もあんな感じだよ」

「良はやらないけどな。 ノリの悪い。 そんなんじゃ女の子にモテねーぞ!」

「何時も暑苦しい兄貴だってモテな・・・・・・!!」

 

春木の言葉に良は暑苦しさ全開の春木だって女子にモテないだろと言い返そうとしたのだが、不意に視線が東郷の姿を捉え、春木に好意を寄せていることを知っている良はそこで言葉を途切れさせてしまい、「少なくとも1人にはモテてる」という事実に良は滅茶苦茶悔しそうに・・・・・・恨めしそうに春木のことを睨むのだった。

 

「えっ、なに? そんなに睨んで急にどうしたんだよ良!?」

 

自分は友奈に好意を寄せているが、彼女の方からはなんというか、友奈はあまり自分のことを異性として意識してなさげでどちらかと言うと弟のように扱われている感じだったので、良は自分とは違い東郷から明確に好意を寄せられている春木のことを羨ましく思わずにいられなかった。

 

取りあえずこれで歌う順番は一週し、次は誰がどの順番でどんな曲を歌うか、みんなでワイワイ楽しみながら話していると風のスマホに着信音が鳴り、スマホを取り出すとそこには大赦からのメッセージが表示されていた。

 

「っ・・・・・・!?」

 

そのメッセージを読んだ風は目を見開き、彼女はお手洗いに行ってくると友奈達に伝えてから部屋を出て行くのだが・・・・・・そんな風のおかしな様子に気付いた夏凜は彼女もまたお手洗いに行ってくると友奈達に伝え、風を追いかけるようにして部屋を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

女性用のトイレで風は蛇口から水を流しながら彼女は何やら怪訝な顔を浮かべており、少し遅れてからそこへ夏凜がやってくる。

 

「大赦から連絡?」

 

風の様子から察するに大赦から連絡が来たのだろうと夏凜は思い、確認を兼ねて彼女は風の後を追いかけて彼女は風にそのことを尋ねるとどうやら夏凜の予想は当たっていたらしく、彼女の問いかけに風は「えぇ」とだけ応える。

 

「そう、私には何も言って来ないのに」

「・・・・・・」

「内容は想像つくわよ? バーテックスの出現には周期がある。 今の奴等の現れ方は当初の予測と全く違ってるわ。 オマケに、怪獣なんていうイレギュラーも発生してるしね」

「・・・・・・最悪の事態を想定しろってさ。 しかも、次にまたバーテックスが怪獣を引き連れて来るとしたら、その怪獣はあたし達が今まで遭遇したどの怪獣よりも強力な奴が来る可能性が高いんだって」

 

風達が今まで遭遇したどの怪獣よりも・・・・・・ということはつまり、それは現状自分達が戦ったことのある怪獣の中で恐らく1番強かったあの「化石魔獣 ガーゴルゴン」よりも格上の存在が来ることを意味していた。

 

そのせいかただでさえバーテックスだけでも厄介なのに、その上ガーゴルゴンより上の怪獣が来ることに風は不安を感じているのか、彼女の腕は震えており、そんな風の姿を見て夏凜は「怖いの?」と問いかける。

 

「あなたは統率役には向いてない。 私ならもっと上手くやれるわ!」

 

長年の戦闘訓練を受けていることからか、戦闘指揮などならば自分の方が適役だと夏凜は風に訴えるが、風は蛇口を捻って水を止めると彼女は夏凜の方に振り返りながらその申し出を断った。

 

「これはあたしの役目で、あたしの理由なのよ。 後輩は黙って、先輩の背中を見てなさい」

「・・・・・・フン」

 

風は夏凜にそれだけを言うと、彼女を残してトイレから出て行くのだった。

 

「・・・・・・そんなとこで何突っ立ってんの春木?」

「あっ、いや・・・・・・」

 

扉を開け、トイレから出て行くと壁にもたれ掛かっている春木の姿があり、風は一体そんなところで何してるんだと尋ねるとどうやら春木の方も夏凜と同じく風の様子のおかしさに気付いたようで何かあったのではないかと思い、彼女が出て来るのを待っていたのだ。

 

「まぁ、なんて言うか取りあえず・・・・・・話し声がここまで丸聞こえだったぞお前等。 もうちょっと声のボリューム下げて話せよ」

「えっ、っていうかそれ以上に女子トイレで女子2人の会話盗み聞きしてたの? キモ!」

「うるせえ!! 人聞きの悪いこと言うな!! たまたま聞こえて来ただけだわ!!」

 

風は女子トイレの前で真面目な内容だったとはいえ夏凜との会話を聞いていたという春木に気持ち悪さを感じてぞっとして身体を震わせて顔を引き攣らせるが、春木からしたら別に聞きたくて聞いた訳ではない。

 

風の深刻な表情から察するに、あまり友奈達には聞かれたくないことなのかもしれないと思い、風から話を聞くのなら彼女達のいないところで聞いた方が良いのではと思い、春木は彼女がトイレから出て来るのを待っていたのだ。

 

「だとしてもキモいわ。 女子がトイレから出て来るまで待ってるとか」

「しょうがねえだろ! 今じゃ無いとなんかお前と話すタイミング逃しそうだったし!!」

 

取りあえずこのネタを引っ張ると話が進まないと春木は思い、強引に本題に入ることに。

 

「まぁ、なんだ。 次の戦い、結構キツめな感じ・・・・・・らしいな」

「そうね。 今度来るバーテックスは、今までとひと味違う可能性が高いし、今度怪獣が来るとしたら、今までで1番強い奴が来るかもって」

「そうか・・・・・・」

 

そこから春木と風の間でしばらく沈黙が続くが・・・・・・不意に、春木が自分の胸をドンッと叩き、「だとしても、きっと大丈夫!」と笑みを浮かべて、そう言い放つ。

 

「どれだけ強い奴が来ようと、俺達全員の気合いと根性と力を合わせればどんな奴にだって負けはしねえ!!」

「その自信は一体どこから来るのよ・・・・・・」

 

春木はこうは言ってくれるものの、正直それだけでは未だに風自身の不安を拭うことはできず、彼女の表情は暗いまま。

 

「風が不安に感じるのも分かるよ。 俺だって最初の頃は戦うことが怖かったさ。 今でもたまにそう感じる」

「・・・・・・」

「だけどさ、それ以上に大切な家族や友人達が傷つくことの方が俺はよっぽど怖い。 だから、俺も良もまだまだ全然未熟で、頼りないかもしれないけど・・・・・・それでも、俺達『ウルトラマン』が・・・・・・絶対にお前等を死なせたりなんかさせない。 最悪の状況なんかにさせない! どんな奴が来たとしても・・・・・・絶対! 約束する」

 

風に向かってそう力強く言い放つ春木。

 

そんな春木に風は呆れたような溜め息を吐いた後、そんな彼の真っ直ぐさ、暑苦しさに彼女は思わず苦笑してしまい、ほんの僅かではあるものの少しばかり気が紛れるのを感じたのだった。

 

「マジでアンタのその自信はどっから来るのよ。 でも、春木のおかげでちょっと不安が和らいだかも。 まっ、少しは頼りにしてるわ」

「おう! 困難に、打ち勝つぞ」

「・・・・・・えぇ」

 

2人は絶対に最悪の状況なんてものを作り出さないことをお互いに約束し、友奈達の待つカラオケ部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、楽しかったー!」

「歩いて帰るの、久しぶりね」

 

既に日は傾き始め、夕暮れ時。

 

存分にカラオケを楽しんだ勇者部一同は今、帰路を歩いているところだった。

 

「けど、カラオケは樹ちゃんの練習にはならなかったかな」

 

楽しんだことには楽しんだのだが、今の1番の目的であった樹の歌の練習はあまり出来なかったのではないかと不安を感じ、友奈は呟くが、樹はそんなことをないと言って特に気にした素振りは見せなかった。

 

「でも楽しかったですよ。 みんなの歌が聴けて」

「・・・・・・」

「お姉ちゃん?」

 

そんな時、樹はどうにも浮かない顔で俯いている風の姿に気付き、彼女に呼びかけると風は「へっ!? なに?」と驚いて顔を上げる。

 

「樹の歌の話よ」

「風先輩、何かあったんですか?」

 

何やら元気のない様子の風の姿を見て友奈は何かあったのだろうかと思ったが、風は首を横に振って「ううん、なんでもない」とだけ応える。

 

「樹は、もう少し練習と対策が必要かな?」

「アルファ波出せるように!」

「アルファ波から離れなさいよ」

 

またもや引っ張ってくる東郷のアルファ波ネタに夏凜がすかさずツッコミを入れ、風の様子がおかしい理由を知っている春木は彼女を心配げに見つめた後、友奈や良、夏凜に樹、そして東郷に視線を向けていくと彼は拳を握りしめ、改めて絶対に誰も犠牲を出さないことを決意をより一層固めるのだった。

 

(誰も死なせやしない。 困難なんて、ぶっ潰してみせる)

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、勇者部の部室では・・・・・・。

 

机の上に夏凜が持って来たと思われる大量の十数種類のサプリやら健康食品やらが置かれており、夏凜曰く「喉に良い食べ物とサプリ」を持って来たらしいのだ。

 

「マグネシウムやリンゴ酢は肺にいいから声が出やすくなる。 ビタミンは血行を良くして喉を健康に保つ。 コエンザイムは喉の筋肉の活動を助けオリーブオイルとハチミツも喉に良い」

 

夏凜が持って来た健康食品やサプリの解説をぺらぺらと早口に説明し、正直早口過ぎて何言っているのかサッパリ分からなかったが夏凜がこれらの物に物凄く詳しいということだけは理解することができた一同。

 

「詳しい」

「夏凜ちゃんは健康食品の女王だね!」

「夏凜は健康の為なら死んでも良いって言いそうなタイプね」

「健康に気を使って死んだらそれ本末転倒じゃねえか!」

「ってか言わないわよ、そんなこと! さぁ、樹! これを全種類飲んでみて! グイッと!!」

 

夏凜は持って来た健康食品全てを全部飲むようにと樹に促すが、樹もこれには「全部!?」と驚きの声をあげるしかなく、風からも「流石に多すぎでしょそれは」という指摘が入る。

 

「流石に夏凜でも無理じゃない?」

「ぐっ、無理ですって!? 良いわよ、お手本を見せてあげるわ!!」

 

※以下、危険性を考慮した上でギャグとして行っています。

 

風に挑発されたからか、ムキになった夏凜は健康食やサプリを手にしては次々とそれらを口の中に放り込み、胃の中に納めていく。

 

※特殊な訓練を受けた者が行っております、絶対に真似しないでください。

 

しかもサプリなどは一錠や二錠ではなく、ほぼ全部纏めて口の中に入れ、そこからオリーブオイルで流し込んで飲み込むといった常人なら間違いなく身体を壊しかねないことを彼女はやってのけ、その光景は夏凜とは微妙にウマの合わない良ですら「あんまり無理しない方が良いんじゃ・・・・・・」と心配になるレベルだった。

 

そして最後には自分の持って来た全てのサプリ等を全部飲み干し、彼女は見事完食し「どうよ?」と不敵な笑みを見せながらこれで風ももう自分にあんな口叩けないだろうとでも言いたげな顔を浮かべるが・・・・・・。

 

「うっぷ・・・・・・」

 

直後、彼女の顔が青ざめ始め、夏凜は両手で口を押さえながら部室を飛び出し、トイレへと駆け込んでいくのだった。

 

「んっ、んんっ! 樹はまだビギナーだしサプリは1つか2つで十分よ」

「そりゃそうだろうよ」

 

※あくまで個人の感想であり、効能を保証するものではありません。

 

その後、口元をハンカチで拭いながら吐き出すもの吐いて戻って来た夏凜は取りあえずは先ずはサプリを1つ2つだけ飲めば良いと勧めてくるが・・・・・・普通に考えたらそれはそうだろうと夏凜が先輩であることも思わず忘れてタメ口でツッコミを入れる良。

 

「実は夏凜先輩って阿呆だろ。 テストの点は良いらしいけど」

「お前が言うな」

 

頭の良いバカ・・・・・・という意味では良も人のことを言える立場ではないことを春木に指摘され、良はそれに色々と反論してくるが話が進まないのでスルーし、取りあえずは樹は夏凜に言われた通り戸惑いつつもサプリを2錠ほど飲んでまたみんなの前で歌うことに。

 

しかし、やはりというべきか樹は相変わらず声が上ずってそのせいで音を外しまくってしまい、未だに人前で上手く歌うことが出来なかったのだ。

 

それに春木達は頭を悩ませるが、樹の本来の歌声を知っている風と良としてはやはりここまで緊張しているのが1番の問題なのではないかと思い、そこをどうにか改善するべきではないかという話し合いに発展する。

 

「やっぱり緊張するのがいけないんだから、喉よりもリラックスの問題じゃない?」

「それもそうね。 次は緊張を和らげるサプリメントを持って来るわ」

「やっぱりサプリなんですね・・・・・・」

「今度はちゃんと限度守って持って来てくださいね」

 

相変わらずの夏凜のサプリ推しに一同は苦笑し、取りあえずは緊張をほぐすのが1番なのではないだろうかという結論に至り、今後からはそれをメインにどうにか対策を取っていこうという話になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は特に樹の合唱力の成果が上がるなんてこともなく、解散となり、樹は家に帰って今は浴室で入浴中だった。

 

濡れないように袋に入れたスマホを見つめながら、樹は「ハァ」と全く歌の成果が進展しないことに溜め息を吐き、そんな彼女を心配げな様子で見つめる精霊の木霊。

 

「大丈夫だよ、木霊」

 

そんな木霊に樹はそう声をかけ、彼女は再び視線をスマホの画面に落とし、そこには昨日みんなでカラオケに行った時の写真が映っていた。

 

その写真を見つめながら、彼女は「早春賦」を口ずさむのだが・・・・・・その時の彼女の歌声は今までとは全く違い、声も上ずっておらず、音も全く外さず、しっかりと歌うことが出来ていたのだ。

 

「やっぱり樹、1人で歌うと上手いじゃん!!」

 

そんな時、不意に浴室の扉が開くとそこから風が顔を覗かせ、先ほど自分が歌を口ずさんでいたのを聴かれていたことに樹は恥ずかしくなって頬を赤くしてしまう。

 

「お、お姉ちゃん聴いてたの!? 酷いぃ~!」

「全く、樹はもっと自信持って良いのに。 ちゃんとできる娘なんだから!」

「うぅ・・・・・・」

 

それだけを言い残し、扉を閉めて風は出て行き、残された樹は先ほどかけられた風の言葉を思い返していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学生の頃、知らない大人達が家にやってきたことがあった。

 

私は、お姉ちゃんの背中に隠れてるだけで後でお姉ちゃんがお父さんとお母さん死んじゃったって教えてくれた。

 

あの日から、ずっとお姉ちゃんは私のお姉ちゃんでお母さんでもあって・・・・・・。

 

ずっとお姉ちゃんの背中が1番安心できる場所でお姉ちゃんがいれば私・・・・・・なんだってできるよ!

 

でも、私1人じゃ・・・・・・。

 

『ずっと黙っていたんですか』

『やっぱり、怒るよね』

 

お姉ちゃんは勇者部のことをずっと抱え込んでた。

 

もし、もし私がお姉ちゃんの後ろに隠れてる私じゃなくて、隣を一緒に歩いていける私だったら・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・き、いつ・・・・・・き、樹! 起きなさい!」

 

数年前、両親を失いそこから風に今まで育てられてきた時のことを樹は夢に見ていた。

 

だが、風の自分を起こす声によって彼女は目を覚まし、風の「樹、着替えて顔洗ってきなさいよ」という声を最後に彼女は朝食の準備をするために樹の部屋を出て行き、樹は頭が眠気でボーッとしつつもなんとかベッドから起き上がる。

 

「うーん・・・・・・」

 

朝食の準備に戻った風は犬神のドッグフードの餌を与え、自分の作ったスープの味見をしているとそこへ制服に着替え、眠そうに目をこする樹がやってきた。

 

「おはよう、お姉ちゃん」

「おはよう。 もうスープも出来てるから先にトースト食べてて」

「うん」

 

眠そうにしつつも樹は椅子に座り、トーストにバターを塗り食べ始める樹。

 

そんな時、何かに気付いた風が樹の後ろに回り込むと樹に「動かないでね?」と声をかけつつヘアブラシで彼女の髪の毛を整える。

 

「よし、今日も可愛いぞ!」

「っ・・・・・・」

 

風は樹の髪を整え終えると向かい側の席に座り込む。

 

「元気ないね? どうした?」

「・・・・・・あのね。 あのね、お姉ちゃん! ありがとう・・・・・・」

 

突然、樹にそのように言われて風は目を見開き「なに? 急に?」と不思議そうな顔を浮かべる。

 

「なんとなく・・・・・・言いたくなったの。 この家のこととか勇者部のこととかお姉ちゃんにばっかり大変なことさせて・・・・・・」

「そんな、あたしなりに理由があるからね」

「理由・・・・・・って?」

 

風の言葉に疑問を感じた樹はその風の語る「理由」がなんなのか気になり、その理由の意味を問いかけると風は樹に微笑みを向けながら応える。

 

「んっ? ま、まぁ、簡単に言えば世界の平和を守るため~かな? だって勇者だしね」

「でも・・・・・・」

「なんだって良いよ! どんな理由でも、それを頑張れるならさ」

「どんな・・・・・・理由でも?」

「ハァ~イ!! シリアスはここまで! 冷めない内に食べて! 学校行くよ!」

 

そのように風はやや強引ではあるもののそこで話を終わらせるが、樹は風から返ってきた言葉について考え込み、彼女は顔を下に俯かせるのだった。

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どんな理由でも頑張れるなら、だったら、私は・・・・・・? 理由なんて、何もない)

 

学校の授業中、樹は今朝風の語った何かを頑張れる理由についてずっと考え込んでおり、彼女は暗い表情を浮かべた。

 

(勇者になったのも部に入ったのも、お姉ちゃんの後ろについて行っただけ。 私、理由なんて何も無い・・・・・・)

 

そうこうと考え込んでいると、学校の授業終了のチャイムが鳴り響き、現在の授業が終了。

 

「ハァ・・・・・・」

「まだ悩んでるんですか樹さん?」

 

そんな時、溜め息を吐く樹の元にまだ歌のテストのことで悩んでいるのかだろうかと良がやってくると、彼女は「それもあるけど・・・・・・」とどうにも歯切れの悪い返事を返す。

 

「んっ? もしかして、なにかそれ以外に悩みでも?」

「えっと・・・・・・」

「あっ、別に無理に言う必要はないですよ。 でも、悩みがあるなら誰かに言った方が少しはスッキリするんじゃないかなって・・・・・・。 だから、俺で良ければ相談に乗ります」

 

無理に言う必要は無いと言ってはくれるものの、ここまで気を遣われてはしまっては逆に断りにくいと感じた樹は少し相談すべきかどうか悩んだものの、良の言う通り誰かと話すことで多少は気が晴れるかもしれない。

 

ただでさえ歌のテストでゴタゴタなのに出来ればこれ以上問題を抱えたくないと考えた樹は最終的に良に相談することを決め、彼女は今朝自分が見た昔の夢、朝食の時にした風との会話のことを良に話すのだった。

 

「成程、ねっ・・・・・・。 樹さんの気持ちも、ちょっと分かるかな。 俺の家もさ、父さんはいるけど・・・・・・母さんが行方不明になったのは知ってますよね?」

「あっ、うん。 それは・・・・・・」

「兄貴がいなくなった母さんの分まで父さんと一緒にずっと俺の面倒見てくれてて・・・・・・。 脳筋兄貴なんて呼んでるけど・・・・・・凄い感謝してるんですよね。 俺も兄貴には。 だから、樹さんの気持ちはなんとなく分かるんですよ」

 

樹からの話を聞き終えた良はその境遇を自分と重ねながら彼女に対してそう語りだし、それには樹も良に対して共感を覚えたようで彼女は「そうなんだ」と呟きながら同意するように頷く。

 

「理由なんて、なんでも良いって風先輩が言ったんでしょ? だったら、なんだって良いじゃないですか。 隣を『一緒に歩いて行きたい』っていうのもまた立派な理由の1つだと、俺は思います」

「・・・・・・本当に、それで良いのかな・・・・・・」

「それで良いのかどうか、最後に決めるのは樹さんですよ。 俺はあくまで参考程度になればと思って自分の考えを言っただけですから」

 

結局のところ、最終的に答えを出すのは樹自身であり、自分はヒントになるかもしれないことを言っただけだと良は語り、それを受けて樹は彼に笑みを向けて「ありがとう」とお礼を述べるのだった。

 

「少し、頭の中のモヤモヤが晴れたかも」

「答え、出ると良いですね」

「うんっ」

 

そんな時、樹と良のスマホに着信音が鳴り、見てみるとNARUKOで風からのメッセージが届いていた。

 

『こちら部長。 本日のミッションは二手に別れて決行する。 飼い主捜しの依頼が来てた猫のうち二匹の買い手がついた。 皆依頼主の家へ行き、子猫を引き取って来るべし』

「なんだこのエージェント気取りの文。 まあいいけど。 とりまこれが今日の勇者部の活動内容ってところか」

「だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の放課後、勇者部一同はそれぞれ友奈、東郷、夏凜、春木の組み合わせ、良、風、樹の組み合わせで子猫を引き取るため依頼主の元へと向かうことに。

 

「なぜ俺は友奈さんのとこ・・・・・・友奈さん達のところじゃないんだ!」

「だってアンタ、これから依頼主に会いに行くってのにアンタまであっち行くと東郷か夏凜と喧嘩しそうなんだもん」

 

良はこの組み合わせを考えた風に対し、なぜ自分は友奈達のところではないのかと文句を垂れ、風は東郷や夏凜と喧嘩しそうだからという理由で引き離したらしいのだが、だったら友奈だけをこっちに呼ぶなりすれば良かったのではないかと意見するが・・・・・・。

 

「えっ? あたしに死ねってか」

 

友奈だけをこっちに呼ぶということは=友奈を東郷から引き離す=東郷の怒りを買う=風の命が危ないということを意味しており、風が言うにはこの編成が1番偏りが無いというのだ。

 

それなら春木は・・・・・・と思うかもしれないが、友奈が春木に変わっただけなのでそもそも論外。

 

だったら夏凜と良が入れ替われば良いのではないかと考えられなくも無いが、夏凜はまだ勇者部に来て日が浅い。

 

そのため勇者部の活動を少しでも彼女に慣れて貰おうと思い、風は物知りな東郷、コミュ力の高い友奈、面倒見の良さそうな春木を夏凜と一緒にさせたのだ。

 

そして風からの説明を受けたことで彼女の言うことにも一理あるし、この編成が1番バランスが良いのは確かだと感じ、流石に風の命を脅かしてまで友奈と一緒にいたいとは思わないのでこれに良は渋々納得するのだった。

 

「ぐっ、分かりました。 東郷先輩の怒りを買いかねないなら、俺も諦めざる得ませんね・・・・・・。 それに、そう聞くとこの組み合わせも納得ですし」

 

 

 

 

 

 

 

一方で、春木、友奈、東郷、夏凜はというと勇者部に子猫の飼い主捜しを依頼してきた2名の内、片方の依頼主の家の元に向かっていたのだが・・・・・・。

 

「えーっと」

 

先頭をスマホの道案内アプリを見ながら歩いていた夏凜は不意に立ち止まると、彼女は東郷にスマホの画面を見せて「ここどこ!?」と焦った顔で尋ねて来る。

 

「この住所なら、あっち!」

 

「かりん」って名前のやつはみんな方向音痴なんだろうか。

 

「わ、わ、分かってたわよ! ちょっとまだこの辺りの地理に慣れないだけよ!」

 

そんな夏凜の姿を見ながら春木、友奈、東郷の3人は微笑むと不意に友奈が「あっ、そうだ!」と声をあげ、肩にかけていた鞄からノートとペンを取り出す。

 

「春木先輩、東郷さん、夏凜ちゃん、ちょっと協力して欲しいことがあるんだ!」

「んっ? なんだ? もしかして樹の歌の件か?」

「そう、私に良い考えがあるんだよ!」

「その如何にも失敗しそうな台詞やめなさいよ」

 

春木は自分達に協力して欲しいこと、と言うのはもしかして樹の歌の件のことだろうかと思い問いかけるとどうやらその通りのようで友奈は頷き、その際発した彼女のいかにも作戦失敗しそうな台詞に夏凜はすかさずツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませーん!! 讃州中勇者部でーす!! 子猫引き取りに来ましたー!」

 

一方、風、樹、良の3人は子猫を引き取るためにもう片方の依頼主の家に訪れており、風のインターホンを鳴らし、玄関を開けるとそこには駄々をこねる少女とその母親が何やら言い争いをしている最中のようだった。

 

「絶対やだー!! この子をあげるなんて!! 私が飼うから!」

「でもね? うちでは飼えないのよ」

 

どうやら少女は拾ってきた子猫を他の誰かにあげるのを嫌がっているようでそんな少女の我が儘を母親は困り気味な表情を浮かべながらウチでは飼えない事情があると少女を説得しようとするのだが、少女は全く子猫を手放す気がないようだった。

 

「タイミング悪い時に来てしまったな、俺達」

「もしかして、子猫連れて行かれるの嫌だったのかな?」

「あっちゃー、もっと確認しておけば良かった・・・・・・」

 

このことに風は「やってしまった」と言わんばかりの表情を浮かべ、あらかじめその辺のことをもっとしっかりと調べておくべきだったと彼女は反省し、これには良や樹もこの事態をどうすれば良いのか分からず困惑気味であった。

 

「これじゃ無理に子猫を連れて行く訳にもいかないしな。 風先輩、どうします?」

 

ただでさえ大泣きしている少女から子猫を取り上げるなんて真似を良達が出来る筈もなく、樹も「どうしよう」と困っていると風は顔をあげ、良と樹の2人に「大丈夫!」と声をあげたのだ。

 

「大丈夫。 お姉ちゃんがなんとかする!」

「えっ、なんとかって?」

 

一体何をするつもりなのか、樹の問いかけに風は応えなかったが彼女なりに何か考えがあるようで風は扉を開いて挨拶をしながら未だに言い合っている親子の家の中へと入っていくのだった。

 

「失礼しまーす! 讃州中勇者部の者ですけどー!!」

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後・・・・・・。

 

結果から言えば、あの家は子猫を飼うことになった。

 

というのも風が少女と一緒になって少女の母親と子猫が飼えるように説得したからであり、おかげで風達は少女から子猫を取り上げるような真似をしなくて済み、そのことに樹は無事に問題を解決できたことをとても喜び、満足げな表情を浮かべ、嬉しそうに笑っていた。

 

「あのお母さん、考え直してくれて良かったねー!」

「うん・・・・・・」

「喧嘩にもならなかったし、お姉ちゃんのおかげ!」

 

しかし、問題が無事に何事もなく解決したというのにも関わらず、風は何故か浮かない顔をしており、そのことについて心配になった良は「どうかしたんですか?」と声をかけると、不意に風は「ごめんね」と謝罪の言葉を送って来たのだ。

 

「ごめんね、樹・・・・・・ごめん」

「へっ? なんで、謝るの?」

 

突然の謝罪に樹は戸惑い、なぜ謝るのかと問いかける。

 

「樹を、勇者なんて大変なことに巻き込んじゃったから」

「へっ?」

「さっきの家の子、お母さんに泣いて反対してたでしょ? それでさ、思ったんだ。 樹を勇者部に入れろって大赦に命令された時・・・・・・あたし、『やめて』って言えば良かった。 さっきの子みたいに、泣いてでも・・・・・・」

 

両親を亡くし、親戚などが引き取ってくれた訳でもないのに犬吠埼姉妹が普通に中学校に通え、生活できるのには理由があった。

 

それは両親が亡くなった時から大赦が生活面で援助していたからだ。

 

だから風は友奈や東郷、そして樹を勇者部入れるようにと大赦から命令された時・・・・・・彼女は断ることが出来なかった。

 

だが、あの少女のように泣いてでも必死に頼めばもしかしたら唯一の肉親である樹だけは勇者にならずにすんだかもしれないと、風はそう考えずにいられなかったのだ。

 

「そうしたら、もしかしたら・・・・・・樹は勇者にならないで、普通に・・・・・・「なに言ってるの、お姉ちゃん!!」」

 

そんな風の言葉を遮るように、樹の声を上げ、ハッとなって顔をあげるとそこにはこちらを真剣に、真っ直ぐな瞳で見つめる樹の姿が。

 

「お姉ちゃんは、間違ってないよ!」

「でも・・・・・・」

「それに私、嬉しいんだ! 守られるだけじゃなくて、お姉ちゃんと、みんなと一緒に戦えることが!」

 

橋の上から見える夕日に顔を向けながら、樹は決して風の行動は間違ったものではないと言い放ち、樹のその言葉を受けて風は気持ちが少し軽くなったのを感じた。

 

「っ、ありがとう」

 

そんな樹に、お礼を述べると樹は顔を風の方へと向けて「どういたしまして!」と笑顔を風に向けるのだった。

 

「樹ったらなんか偉そう」

 

そこから風と樹の2人は思わずお互いに声を出して笑い出し、そんな2人の様子を見ていた良は少しばかり両腕を組んで何か考え事をしているようだった。

 

(大赦からの命令・・・・・・かっ)

 

それは先ほど風の述べた「大赦からの命令」という言葉がどうにも良の頭の中で引っかかっていたからであり、今の風の話を聞くとどうにも大赦に対してきな臭いものを良は感じにいられなかったのだ。

 

犬吠埼姉妹の生活の援助を大赦がしているのは良も知っている。

 

だから良はもしかしたら犬吠埼姉妹の生活を援助しているのを盾に、風に決して自分達の命令に逆らえないようにしているのではないかとつい思ってしまったのだ。

 

元々、胡散臭い組織だとは思ってはいたが、世界を守ってくれている神樹を奉っている組織だし、今の世の中のために色々と動いてくれていることから大赦に対して不信感などを良はあまり抱くことはなかった。

 

しかし、今の風の話を聞くとまるで・・・・・・。

 

(いや、考えすぎか。 大赦も風先輩達を戦場に駆り立てるのは不本意だったのかもしれないし・・・・・・)

 

そこで一度思考をやめ、良は「さて」と声を発すると何故か風と樹から驚いたかのような視線を向けられ、一体どうしたのかと良は首を傾げる。

 

「アンタ、いたんだ・・・・・・」

「良くんいたんだ・・・・・・」

「さっきからずっといましたけど!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アイゼンテック屋上では以前、デマーガとロッソとブルが戦った影響で出来た地面の亀裂を調べ終えたダーリンが戻って来てティータイムを楽しんでいるアキラに報告をしているところだった。

 

『ただいま戻りました~。 やはり社長の読み通り、あの亀裂の中にはクリスタルと同じ反応が検出していました!』

「うーんむ、ありがとうダーリン!」

 

ウルトラマン達と怪獣との戦闘で先日出来上がった地面の亀裂からは何故か不自然な風が上に向かって吹き出していたそうで・・・・・・そのことが気になったアキラはダーリンに頼んでその亀裂と吹き出す不可思議な風に調べて貰っていたのだ。

 

結果、その地面の中にはルーブクリスタルと酷似した反応が検知されていたことが判明し、アキラは「嵐」と書かれたクリスタルを取り出す。

 

『それは『グエバッサー』のクリスタルですね?』

「その通り! 風のクリスタルなら、この子に風を探知し正確な場所を探って貰い、風のクリスタルを掘り出して貰おう~!!」

 

アキラはそう言いながらAZジャイロを取り出し、中央部分にはめ込む。

 

「出でよぉ~!! グエバッサー!!」

『グエバッサー!』

 

そのまま3回トリガーを引くと、空に向かってジャイロをかざす。

 

「アンドゥ・トロワ~!! アンドゥ・トロワー!! アンドゥ・トロワァ!!」

 

そこから紫の光が放たれると光は巨大な白い鳥の怪獣、「猛禽怪獣 グエバッサー」となって街に出現。

 

「グエエエエエエ!!!!!」

 

グエバッサーの出現に人々は驚き、逃げ惑い、グエバッサーはその巨大な両翼を使って超強力な羽ばたき「バサバッサー」によって風速90メートル以上の暴風を起こし、巨大な竜巻を作り出す「バサバッサストーム」によって人々やビルに車等をまるで紙のように軽く吹き飛ばすと、グエバッサーは風のクリスタルが眠っていると思われる場所を目指し、空中へと飛び立つ。

 

そして学校の部室に向かって歩いていた良達のスマホにもアラート音が鳴り響き、緊急速報としてスマホの画面には緊急速報として怪獣が出現した時の動画が映し出されており、良達はお互いに顔を見合わせる。

 

「また怪獣かよ」

「良!!」

 

怪獣出現に対しどこか呆れたように悪態をつく良だったが、そんな時丁度友奈達を引き連れた春木と合流し、良は風達と顔を見合わせるとお互いに頷き合う。

 

「行って来て。 あたし等も後で行くから」

「了解。 行くぞ、兄貴」

「おう!! 気合い入れて行くぞ!!」

 

春木と良の2人は友奈達以外に周りに人がいないことを確認すると互いに拳を上下に叩き合わせた後にハイタッチし、ルーブジャイロを構える。

 

「「オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!」」

 

最初に春木が空中に浮かんだホルダーを手に取り、そこから「ウルトラマンタロウ」の絵が描かれた火のクリスタルを取り出す。

 

最初に春木が空中に浮かんだホルダーを手に取り、そこから「ウルトラマンタロウ」の絵が描かれた火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

タロウクリスタルの角を2つ立ててルーブジャイロの中央に春木はセット。

 

『ウルトラマンタロウ!』

「纏うは火!! 紅蓮の炎!!」

 

最後に春木はルーブジャイロのトリガーを3回引いて右腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! フレイム!!』

 

春木は炎に包まれ、赤い巨人「ウルトラマンロッソ フレイム」へと変身。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

続けて今度は良がホルダーから「ウルトラマンギンガ」の描かれた水のクリスタルを取り出し、それをルーブジャイロにセットさせる。

 

『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは水!! 紺碧の海!!」

 

また春木と同様に良もルーブクリスタルのトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! アクア!』

 

良は水に飲み込まれ、青い巨人「ウルトラマンブル アクア」へと変身を完了させる。

 

変身を完了させた2人は空を飛んでソニックムーヴを起こしながら街を破壊するグエバッサーを追いかけるのだが・・・・・・グエバッサーの飛行速度は速く、中々追いつくことができなかった。

 

『この野郎!! 逃げんなぁ!!』

 

手先から放つ火球弾「フレイムダーツ」をロッソはグエバッサーに連射して放つが、グエバッサーは身体を捻ることで攻撃を全て回避し、そうしている間に目的地が見えるとグエバッサーは地面に降り立ち、同時にロッソとブルも地面に降り立つ。

 

『なんでこいつ、逃げるの辞めたんだ?』

 

急にグエバッサーが地面に降り立ち、自分達から逃げることを突然辞めたことを疑問に思うブルだったが、ロッソとしては逃げるのを辞めたのなら後は戦うだけだと特に気にすることもなく、相変わらずの脳筋っぷりを見せながらロッソはグエバッサーに向かって行く。

 

『んなことはどうでも良い!! 焼き鳥にしてやるぜ!!』

 

ロッソはグエバッサーに向かって駈け出し、拳を振るうがグエバッサーは翼でロッソの攻撃を受け流すとそのまま背中に回り込んで左手の爪で背中を斬りつけ、ブルの放って来た跳び蹴りも振り返りざまに翼を大きくはためかせることで強烈な突風を起こし、ブルを吹き飛ばしてしまう。

 

『ウアアア!!?』

『あの翼が厄介だな。 2人同時に翼を掴んで動きを封じるぞ!』

『よし!』

 

ロッソの提案にブルが頷くと2人は左右からグエバッサーに飛びかかって2人で翼を掴みあげて動きを押さえ込み、ロッソとブルは拳をそれぞれグエバッサーの胸部に叩きこんだ後、さらに膝蹴りを連続で叩きこむ。

 

「グエエエエエ!!!?」

 

それに怯むグエバッサーだったが、右翼を掴んでいるロッソの肩を嘴で突くことでダメージを与え、ロッソを引き離すことに成功すると今度は左翼を掴んでいるブルを翼を大きく動かすことでどうにか突き放し、そのままグエバッサーはブルの腹部に強烈な蹴りを叩き込む。

 

『グアアッ!!?』

 

そこからさらにグエバッサーは両翼を大きく力強くはためかせると強烈で巨大な竜巻「バサバッサストーム」を巻き起こし、その竜巻はロッソやブルですら立ってるのがやっとな程で、そのせいでロッソもブルもグエバッサーに反撃することが出来ずにいた。

 

『キッツ、これ・・・・・・!』

『マズいぞ兄貴、このままじゃ反撃も禄に出来ずに3分経って変身解除してしまう・・・・・・!』

『そうなったら生身で吹き飛ばされて終わりだな・・・・・・!』

 

しかし、かと言ってこんな状態では一歩も前に踏み出せないどころかまともな光線技も使えない。

 

「援護しに来たってうわああ~!!? なんじゃこりゃああああ!!!!?」

 

またグエバッサーが竜巻を起こす少し前に、そこに勇者に変身した風、友奈、東郷、夏凜、樹の5人も到着したのだが直後にグエバッサーの起こす突風に巻き込まれて吹き飛ばされそうになってしまい、風は大剣、夏凜は刀を地面に突き刺すことでなんとか耐え、樹はワイヤーをなるべく大きめの木に巻き付けることで堪え、東郷はコスチュームの一部である4本のリボンを触腕を上手く起用に使うことで吹き飛ばされないように工夫して立っていた。

 

「うぅ、どうしよう、このままじゃ・・・・・・」

 

そして友奈は東郷に背中を支えて貰いながら踏ん張っていたのだが、風達もこのままでは援護も何も無い、手も足も出ない、どうすればと悩んでいると・・・・・・。

 

「んっ? あれは・・・・・・!」

 

そこで友奈があの例の亀裂の存在に気付き、さらにはその地面の中から紫とオレンジ色の2つの光が溢れており、それに共鳴するかのようにインナースペース内では春木や良の持つルーブジャイロに装着された2つのクリスタルと、クリスタルホルダーに入れたもう2つのクリスタルが2人の目の前で光を放って輝いていたのだ。

 

『兄貴、これってもしかして・・・・・・』

『あの地面の中に、新しいクリスタルがあるってことか!?』

 

その地面の中にあるクリスタルを使えばこの状況を逆転できるかもしれないと春木達は考え、「そういうことなら!」と夏凜は地面に刺していた2本の内の1本を抜き、風の動きを読んで、正確にその亀裂の入った地面に刀を投げ、突き刺す。

 

すると地面にさらに大きな亀裂が入り、夏凜は視線を友奈に映し、「地面をブン殴れ!!」と言いながら手を差し伸べると友奈は夏凜の意図を察したのか「うん!」と頷き、同じように何かを察した東郷は力を込めてドンッと友奈の背中を押すと、夏凜の手を友奈が握りしめる。

 

「いっけぇ!! 友奈ぁ!!」

 

そのまま夏凜は力任せに腕を振るって空中に投げ飛ばすと、勢いをつけた友奈は風に逆らいながら拳に力を込めて亀裂の入った地面に「勇者パンチ」を叩きこむ。

 

「勇者ぁ!! パーンチ!!!!」

 

するとそれによって地面が大きく抉られ、中から2枚のクリスタルが飛び出し、2枚のクリスタルをそれぞれ吸い寄せられるようにロッソとブルの元へと飛んでいき、それを2人が手に掴むとインナースペース内に新たなクリスタルが現れる。

 

『これは、『風』のクリスタルか!』

『こっちは『輪』って書いてあるな』

 

尚、友奈はあの後案の定と言うべきか突風に吹き飛ばされてしまったのだが、東郷がリボンを操って吹き飛ばされそうになった友奈を掴んだ為、大事にならずに済んでいた。

 

一方、その戦いの様子をダーリンの撮影機能を使って見ていたアキラは絶叫し、詳しそうにその場で叫び声を上げて地団駄を踏んでいた。

 

「あああああ!!!! それ私が先に見つけてたのにぃ~!!!! また先に使われたぁ!! それもよりによってティガさんのクリスタルだとぉ!!? っていうかもう1個あったのぉ!!?」

 

そしてロッソとブルはお互いに顔を見合わせ、頷き合う。

 

『セレクト、クリスタル!!』

 

先ずは春木が輪のクリスタルの1本角を立てるとそれをルーブジャイロの中央部分にセット。

 

『輪入道!』

『纏うは『輪』!! 特攻の火車!!』

 

そこから春木はジャイロのトリガーを3回引き、右腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンロッソ! ワニュウドウ!!』

 

するとロッソの姿が変わり、ロッソの赤かった部分はオレンジ色へと変わり、左腕には旋刃盤のような武器、「神屋楯比売」が装着された「ウルトラマンロッソ ワニュウドウ」へと姿を変えたのだ。

 

『セレクト、クリスタル!』

 

さらに続けて良は風のクリスタルの1本角を立ててジャイロの中央にセット。

 

『ウルトラマンティガ!』

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

そこから良はジャイロのトリガーを3回引き、左腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンブル! ウィンド!!』

 

するとブルの姿が変わり、青かった部分は紫色に変化した姿、「ウルトラマンブル ウィンド」へと姿を変えたのだ。

 

『ウルトラマンブル! ウィンド!!』

 

戦闘BGM「ウルトラマンブル ウインド」

 

風のクリスタルを使用した為か、ブルはグエバッサーの起こす強烈な突風に吹き飛ばされなくなると真っ向から突っ込んでいき、頭部に手を添えて1本の剣、「ルーブスラッガーブル」を取り出し、すれ違いざまにグエバッサーを斬りつける。

 

『シェア!!』

「グアアアアア!!!!」

 

それによって腹部から火花を散らすグエバッサーだったが、グエバッサーは右の翼を振るうことでブルを殴りつけ、引き離すとグエバッサーは起爆性のある羽根をミサイルのように飛ばす「バサフェザーシュート」を放つ。

 

『デヤアア!!』

 

しかし、ブルはそれをスラッガーブルで全て切り落とすとグエバッサーは空中へと逃亡。

 

『逃がすかぁ!!』

 

すると今度はロッソは光のワイヤーで繋いだ神屋楯比売を飛ばすことでグエバッサーの背中を斬りつけ、それを受けたグエバッサーは悲鳴を上げて地面に撃墜。

 

すぐに立ち上がるもののブルの目にも止まらぬ素早い高速移動で再びグエバッサーはスラッガーブルによる剣撃を受け、ダメージを受けるグエバッサー。

 

『グエエエエエ!!!!』

 

それに怒ったグエバッサーは突風を起こそうと翼をはためかせるが、そうはさせまいとジャンプして一気に接近し、左腕に装着された神屋楯比売を振るうことでグエバッサーを斬りつけ、グエバッサーは吹き飛ばす。

 

『グアアアアアア!!!!?』

 

続けざまにロッソは神屋楯比売をワイヤーで飛ばしてグエバッサーに攻撃を繰り出すが、グエバッサーは左の翼だけを大きく羽ばたかせると風圧で神屋楯比売を投げ返し、投げ返された神屋楯比売はロッソの身体を斬りつけてしまう。

 

『ウアアアッ!!?』

「グルルルル!!」

 

その隙にグエバッサーはもう1度空中へと飛び立ち、それをブルと立ち上がったロッソも追いかけて空中へと飛行する。

 

だが、その時グエバッサーは素早くロッソとブルの2人を取り囲むように飛行すると漆黒の竜巻を作りだし、彼等をその中に閉じ込めてしまった。

 

『うわあああ!!? バランスが・・・・・・!!』

『どうにか抜け出さないと・・・・・・!!』

 

竜巻の中に閉じ込められたロッソとブルはどうにかここから抜け出す方法は無いかと必死に考えるが・・・・・・そんな時、地上にいる樹が声を張り上げ、大声でロッソとブルに向かって叫んできたのだ。

 

「竜巻なんだから、逆方向に回転すれば良いんじゃないかな!! 良くん!!!!」

『樹さん・・・・・・そうか!』

 

樹の言葉を受けたブルは自身が高速移動することで大竜巻を生み出す「スパイラルソニック」を発動させ、グエバッサーの起こした竜巻とは逆方向に竜巻を起こしたことでブルはグエバッサーの竜巻を内側から破壊することに成功。

 

「っ!?」

『逆回転の竜巻だ。 力は打ち消し合うってな!!』

 

自身の竜巻が消されたことで驚いた様子を見せるグエバッサー。

 

そんなグエバッサーの隙を突いて、東郷の放った狙撃銃が右目に直撃し、グエバッサーはそれに悲鳴を上げながら地上へと落下。

 

「グエエエエ!!!!?」

『うっわ、えげつな』

 

ブルはグエバッサーの右目を潰して来た東郷にドン引きながらもロッソと共に地上に降りると、それと同時に右目を潰されながらも未だに戦う意志を見せてグエバッサーが立ち上がってくる。

 

「グエエエエエエ!!!!!」

 

雄叫びをあげながらロッソとブルに気迫迫る勢いで突っ込んで来るグエバッサー。

 

だが、そこで風が飛び出し、平らにした大剣をグエバッサーの左膝に叩きつけることでグエバッサーは動きを止め、すぐさま風はそこから飛び退く。

 

「ガアア!!?」

「弁慶の泣き所って怪獣相手でも効くものなのねぇ。 まっ、取りあえず、今よ2人とも!!」

 

風の言葉を受けてロッソとブルは頷くとブルは胸の先で起こした竜巻を、光線として放つ必殺光線「ストームシューティング」を放ち、それと同時にロッソはワイヤーから切り離して神屋楯比売をブーメランのように投げつけ、相手を切り刻む「大輪車旋風刃」をグエバッサーへと放つ。

 

『ストームシューティング!!!!』

『大輪車旋風刃!!!!』

 

2人の技がグエバッサーに直撃すると、グエバッサーは身体中から火花を散らして倒れ、爆発を起こし倒されたのだった。

 

「グエエエエエエエ!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グエバッサーのクリスタル、回収致し帰還しました~』

「ありがとう、愛してる!」

『ミートゥー~♪』

 

アイゼンテック屋上ではダーリンがグエバッサーのクリスタルを回収してアキラに届け、テーブルの上に置かれたアタッシュケースを開けるとそこには様々な怪獣達のクリスタルが綺麗に並べられており、グエバッサーのクリスタルをアキラはその中に仕舞う。

 

また、そのアタッシュケースの中央には「剣」と書かれた錆び付いているウルトラマンのクリスタルが存在し、そのクリスタルを囲むように「嵐」「炎」「氷」「岩」と書かれたクリスタルが並べられていた。

 

「ティガさんのクリスタルは回収しこねてしまったなぁ~」

 

アキラはそう呟きながら、ジッと「機」「恨」「造」等と書かれたクリスタルを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、グエバッサーを倒して数日後・・・・・・。

 

樹は遂に、音楽の授業でテストを受けることとなり、今は樹の前の人が歌を歌っている最中だった。

 

(大丈夫、昨日も練習したんだし・・・・・・)

 

頑張ってかなり練習をしたが、しかしそれでもやはり彼女は中々緊張を解くことが出来ず、不安な気持ちが未だに拭えていなかった樹。

 

そして今の歌っている生徒の番が終わると、音楽の先生から名前を呼ばれ、自分の順番が廻ってくると樹は「は、はい!!」と上擦った声をあげながら席を立ち、みんなの前に立とうとするがそんな彼女を良が少しだけ呼び止める。

 

「樹さん」

「・・・・・・良くん?」

「俺達、勇者部がついてます」

「・・・・・・うん」

 

良がそれだけ伝えると、樹は頷いてみんなの前に立つのだが・・・・・・いざ、みんなの前で立つと彼女の中にある緊張が最高潮に達してしまい、半ば諦めモードとなってしまう。

 

(やっぱり、無理・・・・・・!)

 

そこで音楽教師がピアノを弾き始めると、樹は慌てて音楽の教科書を開くのだが、その時、教科書に挟んでいたと思われる紙が樹の足下に落ち、それに気付いた彼女は急いでそれを拾いあげる。

 

「っ・・・・・・!」

 

その紙を拾いあげると、彼女はその紙に勇者部のみんなが自分に宛てたメッセージが書かれていることに気付き、樹はそれを見て目を見開く。

 

『テストが終わったら、打ち上げてでケーキ食べに行こう!』

(友奈さん・・・・・・)

『周りの人はみんなカボチャ』

(東郷さん・・・・・・)

『気合いよ』

(夏凜さん・・・・・・)

『気合いだぁ!! って俺と言ってること夏凜被ってんじゃねーか!』

(春木さん・・・・・・)

『みんなあなたについてます』

(良くん・・・・・・)

『周りの目なんて気にしないで。 お姉ちゃんは樹の歌が上手だって知ってるから』

(お姉ちゃん・・・・・・)

 

勇者部、みんなからのメッセージを受け取った樹は少しずつ、笑顔を取り戻していき、自信をつけていく。

 

「犬吠埼さん、大丈夫ですか?」

「はい!!」

 

教師の問いかけに樹が元気よく返事を返すと、彼女は明るい表情を浮かべ、教科書に載ってある歌詞を見ながら歌い始める。

 

(私はみんなと一緒にいる! 勇者としてだって! この歌だって!)

 

その時の樹の歌声はとても綺麗で、教師はクラスメイト達は以前聴いた時とは全く違う、見違えたその歌声に驚く様子を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後の勇者部。

 

そこでは樹の歌のテストの報告を作業をしながら待っている春木達の姿があり、友奈はそわそわした様子で樹のことを心配していた。

 

「樹ちゃん、テスト上手く行ったかなぁ?」

「大丈夫よ! だってあの娘は、あたしの妹なんだから!」

 

風がそう言い終わると同時に、部室の扉が開いて樹と良が同時に部室に入ってくると、友奈達は早速樹にテストの結果を尋ねて来る。

 

「樹ちゃん!」

「歌のテストは・・・・・・?」

「バッチリでした!」

 

友奈や東郷の問いかけに対し、樹はVサインを作って見事、テストに合格したことを伝えると一同は自分のことのようにそれを喜び、友奈は「やったやったー!!」とはしゃぎながら樹とハイタッチ。

 

「きっと、みんなカボチャだと思ったのが良かったのね!」

「いや、やっぱ気合いだろ!! 気合いがありゃ、人間なんでも出来るからな!!」

「あはは、ありがとうございます」

 

そんな東郷と春木に苦笑しつつ、この2人とも樹はハイタッチ。

 

「夏凜さんも、ありがとうございます!」

「あっ、う、うん」

 

夏凜は樹がテストに合格したことを凄く喜んでいる様子だったが、即座に彼女はツンッとした態度を示し、戸惑いながらも樹とハイタッチを交わす。

 

「良くんも、色々と気にかけてくれてありがと!」

「んっ」

 

樹のその言葉に、良は小さくサムズアップしながら応える。

 

そして、樹は風と目を合わせると、両手を広げて「やったー!!!!」と歓喜の声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、自転車を押しながら自宅へと帰る帰り道で・・・・・・。

 

「あのねお姉ちゃん、私、やりたいことが出来たよ」

「んっ? やりたいこと?」

 

樹はふっと風に自分のやりたいことが出来たということを話すと、風は不思議そうに首を傾げる。

 

「なになに? 将来の夢でも出来たってこと? だったらお姉ちゃんにも教えてよ!」

「うーん、秘密」

「えっ、酷い~。 誰にも言わないから、ねっ?」

「ダーメ。 恥ずかしいもん・・・・・・」

 

結局、樹の「やりたいこと」について風は聞き出すことが出来ず、「ちぇっ、残念」と風は拗ねてしまうが・・・・・・そんな風を見ながら樹は「でも・・・・・・」と言葉を続ける。

 

「いつか、教えるね」

「じゃっ、そのいつかが来るまで気長に待つよ」

 

そんな風に、風と樹の2人はお互いに笑い合いながら帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、以前にも訪れたカラオケボックスにて。

 

そこでは樹が自分の歌声をノートパソコンを使って録音しているところだった。

 

(まだこれは、夢なんて言えない。 やってみたい事が出来た。ただそれだけ。 けど、どんな理由でも良いんだ。 頑張る理由があれば、私はお姉ちゃんの後ろじゃなくて、一緒に並んで歩いて行ける)

 

すると、樹がマウスを動かした際、机に置いていた鞄に手が当たり、それが落ちた。

 

「あっ、先にこっち」

 

その鞄の中からは彼女の所持しているタロットカードが1枚飛び出すように落ちるのだが、そのカードには死神の絵が描かれていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、風は自宅のマンションで大赦にメールを送ろうとしていた。

 

『連絡。 今後の戦闘でアタシが戦闘不能になった場合、撤退の・・・・・・』

 

そこまで書き終えたところで、風はメールの内容を削除してしまう。

 

(あたしの理由は、バーテックスのせいで死んだ親の仇。 凄く個人的な事だしね・・・・・・)

 

そう呟きながら、風はテーブルの上に突っ伏していると・・・・・・突如スマホから樹海化警報が鳴り響く。

 

それを受けて、風が慌てて外に出ると既に樹海化が始まっており、それは遂に決戦の時が始まったことを意味していた。

 

「始まったの・・・・・・!? 最悪の事態!」

 

 

 

 

 

 

 

そして、樹海化した空間で・・・・・・。

 

「行くよ、牛鬼!」

 

友奈がそう牛鬼に声をかけながら、戦う覚悟を決めていた。



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第7話 『決して明日を諦めない』

樹海化した空間では既に友奈、東郷、樹、夏凜、春木、良の6人が集結しており、見れば壁の向こう側から既に複数のバーテックス達が襲来してきているのが目に見えていた。

 

「残り7体・・・・・・全部いるんじゃないの、これ?」

 

夏凜がスマホの画面を確認すると、そこには夏凜の懸念通り残り7体のバーテックス全てが総攻撃を仕掛ける為にこちらに向かって来ており、魚座、牡牛座、天秤座、水瓶座、牡羊座、双子座、獅子座を模したバーテックス達・・・・・・。

 

ピスケス、タウラス、アクエリアス、ライブラ、アリエス、ジェミニ、そしてレオ・バーテックスが集結していたのだ。

 

「最悪の襲撃パターンね。 それに、まだ姿を現してはいないけど、これまでバカ兄弟共や私達が戦った怪獣達よりもより強力な奴が来る予定みたいだし、ホント最悪・・・・・・」

「今、さり気なく俺達のことディスった?」

 

流石にこの状況はある程度こそ想定していたものの、やはり実際となると幾ら自分の力に絶対的な自信のある夏凜と言えどバーテックス7体が一気に責めてくるというのは少々圧巻されてしまう光景であり、さらにあらかじめ聞かされていたとは言え、ガーゴルゴンよりも強力な怪獣が何時現れるか分からないという状況が、彼女に相当のプレッシャーを与え、そのことに彼女は冷や汗を流していた。

 

「あれ? 何時もの自信過剰なほどの夏凜先輩がこれくらいの状況でビビってるんですか・・・・・・?」

 

そこでそんな緊張を隠せない様子の夏凜に対し、ニヤついた笑みを浮かべながら良が右手で口元を隠しつつプークスクスと笑ってウザいくらいに煽って来たものだから、それにイラッと来た夏凜は良に腹パンを喰らわせた。

 

「オラァ!!」

「ぐはあ!!?」

 

そしてそんな夏凜に、彼女と同じく今の良にイラッと来ていた東郷は夏凜に向けて「よくやった!!」と言わんばかりにグッとサムズアップし、それには夏凜も応えるようにグッとサムズアップを東郷に返して見せるのだった。

 

「ったく、誰がビビってるって? やりがいありすぎてサプリもマシマシよ!!」

 

そう言いながら夏凜はどこからかサプリの入った小さな瓶を取り出し、何錠かサプリを口の中に放り込んで噛み砕き、飲み込むと隣に立つ樹も「飲むか?」とサプリの瓶を差し出す。

 

「樹もキメとく?」

「その表現はちょっと・・・・・・」

「危ないクスリやってるみたい・・・・・・」

 

樹と春木はサプリを勧めてくる夏凜の言葉に、なんかやばいクスリやってる人みたいだとツッコミを入れていると、そこで友奈が何故か何時まで経っても攻め入ってこないバーテックス達に疑問を抱き、そのことを口にするのだが・・・・・・。

 

「さあ? どの道神樹様の加護が届かない壁の外に出てはいけないって教えがある以上、私達からは攻め込めないけどね」

「もどかしいなぁ」

 

バーテックス達がまだ責めてこない理由は誰にも分からないが、1つ確かなことが言えるとすればバーテックス達がまだ壁の向こう側にいる以上、こちらから手出しすることは出来ないことだろう。

 

そのことを夏凜が友奈に説明すると、今ならバーテックス達の虚を付ける可能性が高く、上手く行けば複数体纏めて倒せるかもしれないのにこちらから責められないことに対して春木はもどかしいと嘆くが・・・・・・。

 

壁の外には出ては行けないという教えがある以上、それを破るつもりもない春木達はバーテックス達が壁を越えない限りこちらから攻め入ることが出来ず、ここで足止めを喰らうしかなかったのだった。

 

するとそこへ、あらかじめ勇者に変身してバーテックス達の方へと偵察に行っていた風が戻ってくると彼女は今のバーテックス達の様子を春木達に説明する。

 

「敵さん、壁ギリギリの位置から責めて来るみたい!! 決戦ね、みんなもそろそろ準備を!」

 

そして風が言うにはバーテックス達はそろそろこちらに向かって一斉に責めて来るそうで風は気を引き締めた表情でみんなに戦う準備と覚悟をするように促すと、それに春木達は頷くのだが・・・・・・。

 

「っ・・・・・・」

 

樹だけは、当然と言えば当然だが、どこか不安げな顔を浮かべており、誰の目から見ても彼女が緊張しているのが分かった。

 

「っ、あはははは!!?」

 

しかし、緊張で顔が強張っていた樹が突如として笑い出し、いきなり笑い出した樹に春木達が一体何事かと思い彼女の方に視線を向けると、そこにはいつの間にか樹の背後に回り込んでいた友奈が彼女の両脇をコチョコチョとくすぐっている姿があり、樹は逃げるようにして友奈から離れる。

 

「なんですか友奈さん!?」

「緊張しなくても大丈夫! みんないるんだから!」

「っ」

 

友奈のその言葉を受けて、樹は春木達の方へと一瞬だけ視線を向けると、夏凜だけは照れ臭そうにそっぽを向いたものの全員不安げな表情を見せる樹に対し力強く頷き、それを受けた樹も「はい!!」と友奈に力強く頷くのだった。

 

「よし、勇者部一同変身!! ただし、春木と良はまだ怪獣が現れてないからそのまま待機」

「「「はい!!」」」

「「了解!!」」

 

風の指示を受けて、夏凜以外の全員が声を出して返事を返すと、友奈、東郷、樹、夏凜はスマホを取り出し、勇者アプリを起動させてそれぞれ勇者へと変身を完了させる。

 

勇者への変身を完了させると同時に、丁度壁の向こう側からバーテックス達が遂にこちらに向かって侵入し、未だに友奈達と離れた位置にいるとは言え、肉眼でもハッキリと複数体のバーテックスの姿を確認することが出来た。

 

「敵ながら圧巻ですね・・・・・・」

 

その光景に、東郷は遠目からでもバーテックス7体という光景に圧巻されたことを呟くのだが・・・・・・。

 

「逆に言うとさ。 こいつ等殲滅すればさ、もう戦いは終わったようなもんでしょ」

「そこは俺も夏凜と同意見だな! 纏めて来てくれた方が面倒なもんは一気に片付くから手っ取り早いし!!」

 

しかし、夏凜の言うように逆に言えばそれは残りのバーテックス7体を全ていっぺんに纏めて倒すチャンスとも言え、彼女の言葉に春木も拳を握りしめながら同意し、面倒なことが一気に無くなるとこの状況を逆にポジティブに考えるのだが、そんな脳筋臭い考えの2人に対し、良は呆れたように溜め息を吐くのだった。

 

「ハァ。 夏凜先輩は頭良い割に兄貴と同じで割と脳筋なんですね。 少数で来てくれるなら、それにこしたことは無いのに」

 

現実世界への影響も考えると、あまりに数が多く来てしまうと被害を最小限に抑えるのが難しくなってしまう。

 

逆に少数で来るのなら、友奈達と協力して上手く連帯すれば現実世界への影響も少なく出来る上に、自分達が戦いの中で命を落とすような最悪の事態を招く可能性だって低くなる。

 

だから良は出来ることなら少数でバーテックスに来て(どうせなら一生来なくて良いけど)欲しいと思わずにはいられなかったのだ。

 

しかし、7体全部来てしまったものは仕方がない上に自分がどう言おうが相手は意志疎通のできない化け物で敵対してくる以上、こちらの言い分なんて汲み取ってくれる訳が無い。

 

「あ゛!? こんなのと一緒にしないでくれる!?」

「こんなのって・・・・・・」

 

そして夏凜はそんな春木と同類扱いされたことに良に文句を言うが、そのようにまたまた喧嘩をおっぱじめる2人を友奈と春木が慌てて仲裁する。

 

「お前等喧嘩すんな!! 喧嘩する元気があるなら、それはアイツ等にぶつけてやれ!!」

 

春木はバーテックス達の方を指差しながら、喧嘩する気力を奴等にぶつけろと言うと、夏凜は苦い顔をしながらも「それもそうね」と納得し、良の方も友奈に仲間同士で喧嘩している場合ではないと叱られてしまうのだった。

 

「良くんめっ! だよ? 今は夏凜ちゃんと喧嘩してる場合じゃないでしょ? みんな仲良く、協力しなくきゃ! ねっ?」

「は、はい・・・・・・」

 

友奈に叱られて彼女の言葉に素直に頷いて反省の色を見せる良。

 

そんな春木達の姿を見て「こいつ等ホント緊張感ねーな」と思いつつも、風はバーテックス達との本格的な戦いに備えてどうせならばここは一丁気合いを入れる為にも、春木達にあることを提案する。

 

「みんな、ここはアレいっときましょう!」

「アレ? どれ?」

 

風の言う「アレ」という言葉に友奈達は何となく察しがついたようだったのだが、勇者部の新人である夏凜だけは風の言う「アレ」がなんなのかよく分からず、一体なんのことを言っているのかと首を傾げていると、春木、良、友奈、樹、風、東郷の6人はお互いに肩を掴み合い、円陣を組む体勢に入る。

 

「え、円陣!? それ必要!?」

「決戦には気合いが必要なんでしょう?」

「おう!! これやるとホント滅茶苦茶気合い入るぜ夏凜!!」

 

風や春木は円陣を組んでみんなで気合いを入れようと提案するのだが、夏凜はあまり円陣の中に入りたがろうとはせず・・・・・・。

 

しかし、友奈に「夏凜ちゃん」と優しく名前を呼ばれると、一瞬迷いこそしたものの夏凜は渋々といった表情ではあるものの「ったく、しょうがないわね!!」と言いながら円陣の中へと入り、彼女もまたみんなと肩を掴み合うのだった。

 

「アンタ達! 買ったら好きなもの奢ってやるから絶対死ぬんじゃないわよ!!」

「よーっし、美味しいものいーっぱい食べよっと!! 肉ぶっかけうどんとか!!」

「言われなくても殲滅してやるわ!!」

「わ、私も・・・・・・叶えたい夢があるから!」

「頑張ってみんなを、国を、守りましょう!!」

「あんな奴等全員ぶっ飛ばしてやる!!」

「おっしゃあああ!! 何時も以上に気合い!! 根性!! 入れんぜ!! あと、風、俺は高級焼き肉を所望する」

 

風、友奈、夏凜、樹、東郷、良、春木がそれぞれ順番にそう言っていくと、そんな春木達の言葉を聞いて(ただし、春木の高級焼き肉の下りは無視した)風は笑みを浮かべると、「よーし!!」と叫ぶと、彼女は一同に向かって号令をかける。

 

「勇者部ファイトォー!!」

『おおーーーーー!!!!!』

 

そして、全員が力強く叫んで気合いを入れると、7人は円陣を解いてこちらに進行してくるバーテックス達に向き合うのだった。

 

『出陣~!!』

 

夏凜の精霊の義輝が姿を現すと法螺貝を吹き、戦闘開始の合図を送ると夏凜は両手に刀を持ち、バーテックス達に向かって真っ先に飛び出す。

 

「殲滅!!」

「よし、私達も!!」

「「はい!!」」

 

夏凜に続くように少しだけ遅れて風と友奈、樹もバーテックス達の方へと向かって行き、遠距離タイプである東郷はその場に寝そべると何時でも友奈達の援護をできるように狙撃銃を構え、春木と良は東郷の傍で何時でも変身出来るようにルーブジャイロだけは取り出しておく。

 

「バーテックスの進行速度にバラつきがある」

 

東郷はスマホの画面を見ながらタウラスとアリエスが他の5体よりも早く先行して来ると、この2体は二手に別れて2方向から責めてくるような姿勢を見せ、東郷はそのことを確認しつつ狙撃銃のスコープでバーテックス達の中でも特に巨大で、明らかに他のバーテックスとは異なり威圧感のあるレオを見据え警戒するが・・・・・・。

 

「でも先ずは・・・・・・」

 

それでも先ずはバーテックス達の中でも1番素早く動き、神樹の元へと辿り着こうとするアリエスを優先して叩きつぶすべきだと判断し、そのことは友奈達も理解しており、先ずはアリエスを倒そうと先陣を切って進む夏凜が出会いがしらに刀を思いっきり振り上げ、アリエスの頭部と思われる場所を斬りつけた。

 

「1番槍ーーーーー!!!!」

 

夏凜がアリエスの頭部を斬りつけると、その傷口から連続で東郷が撃ち込んだ銃弾が直撃し、それにバランスを大きく崩したアリエスはその場に倒れ込む。

 

しかし、すぐに夏凜と東郷の連帯攻撃によって傷つけられた頭部は再生を初めてしまうのだが、それよりも早く夏凜が封印の義を開始する。

 

「先ずは一匹目!! 封印するわよ!!」

「凄いよ夏凜ちゃん!!」

 

そこへ少しだけ遅れて友奈、風、樹が夏凜に合流すると風は他の敵が合流してくる前に先ずは1体目をさっさと倒そうとアリエスを逃がさないように彼女等はアリエスを囲み、封印の義を行うことによってアリエスの御霊が出現する。

 

しかし、御霊はドリルのように高速で回転し、壊されないように防御態勢に入るのだが、それを夏凜は刀を投げつけて回転を止めようとする。

 

「なに回ってんのよ!!」

 

だが、夏凜の投げつけた刀は御霊の高速回転の前にあっさりと砕かれてしまい、それに夏凜は僅かばかりに「チッ」と舌打ちするが・・・・・・。

 

「よーし!!」

 

ならばと友奈が御霊の位置よりも少し空高く跳び上がると、彼女は東郷の名を叫びながら右拳を振るって思いっきり御霊をぶん殴り、拳が御霊にねじ込むようにして突き刺さり、それによって御霊の回転が止まると友奈は素早く御霊から離れる。

 

直後、東郷の撃ち込んだ銃弾が御霊を貫き、御霊が破壊されるとアリエスの身体は砂となって塵と消えるのだった。

 

「夏凜さんの刀を弾く回転を、拳で止めるとかちょっと危なくないか友奈さん・・・・・・?」

「まぁ、パワーだけなら夏凜ですら上回ってそうだったから止められるっていう自信はあったんじゃないか・・・・・・? 後は殴った位置が良かったってのもありそうだな」

 

良は投げた刀を弾き飛ばすほどの回転をする御霊を拳で殴った友奈に、下手したら腕が吹っ飛んでいたのでは無いかと心配するが、パワーだけなら恐らくは勇者部の勇者達の中では彼女が1番強いだろうという考えから、友奈には自分なら止められるという確信に近い自信があったのではないかと予想する春木だったが・・・・・・。

 

「友奈さん多分そこまで考えて無いと思うぞ兄貴。 兄貴ほどではないが、友奈さんも脳筋臭いところあるからな・・・・・・」

「ありがとー!! 東郷さーん!!」

 

東郷に向かって元気よく手を振ってくる友奈の無邪気そうな笑顔を見ると、どうにもそこまで考えているようには思えない良だった。

 

「それでも、友奈ちゃんは多分直感的なもので大丈夫だと思って判断して動いていたと思うわよ。 まぁ、あんまり無茶しないに越したことはないけど」

 

自分に手を振ってくる友奈に東郷は微笑み返しつつ、春木と良の会話に少しだけ参加すると、彼女はすぐに狙撃銃のスコープを覗きつつ、怪訝な表情を浮かべる。

 

「・・・・・・それにしても、今の敵の動き・・・・・・。 まるで叩いてくれと言わんばかりの突出・・・・・・」

 

先ずは無事に1体、アリエスを倒した友奈達だったが・・・・・・どうにもあっさりしすぎている気がして違和感を感じにいられなかった東郷はバーテックス達が何を考えているのか少しばかり考え込むと・・・・・・。

 

「罠!?」

 

すぐに東郷はこれがバーテックス達の罠だったことに気付き、アリエスは所謂「囮」だったことを理解すると、彼女はすぐに友奈達にそのことを報告して警戒するよう連絡を取ろうとするのだが・・・・・・。

 

既にそれは手遅れであり、いつの間にか友奈達の背後に回り込んでいたタウラスが身体に装着されていた鐘を鳴らすと、友奈達は思わず耳を塞ぎ、苦痛の声をあげながら苦しみ、その場に蹲ってしまう。

 

「うっ、うぅ!? 何よこの音!? 気持ち悪い!!」

「こ、これくらい!! 勇者なら・・・・・・!!」

 

耳を塞ぎつつ、友奈は「勇者ならば」と気合いを入れてなんとか立ち上がろうとするが、それでもタウラスが鳴り響かせる鐘の音は強烈で、友奈達に痛烈なほどの不快感を与え、彼女等の動きを完全に封じてしまったのだ。

 

「友奈さん!! みんな・・・・・・!!」

「俺達が出るか!?」

「いえ、恐らくはあのベル・・・・・・! あれを壊せば!!」

 

春木はここで自分達が出るべきかとルーブジャイロを構えるが、東郷は向こうが「怪獣」という切り札を出して来ていない以上、時間制限のあるウルトラマン2人にはなるべく力を温存しておいて貰うようにと待ったをかけ、彼女は狙撃銃を構えてタウラスのベルを破壊しようとする。

 

しかし、東郷の目の前にあらかじめ地中に潜っていたと思われるピスケスが地面から飛び出し、再び地面に潜るとその際に発生した砂煙によって東郷の視界が遮られてしまい、タウラスへの狙撃が不可能となってしまったのだ。

 

「あーもう!! やっぱダメだ!! もう我慢できねえ!! 行くぞ、良!!」

「あぁ!! 俺も我慢の限界だ!!」

 

流石にこの状況では春木達に頼らざる得ないと東郷も判断したようで、まだ怪獣は出てきてはいないが・・・・・・彼女は彼等が変身することを特に咎めるようなことは言わず、春木と良の2人が互いに頷き合うと、2人は拳を上下にぶつけ合わせた後、ハイタッチし、ルーブジャイロを2人同時に構える。

 

「「オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!!!」」

 

すると最初に春木が空中に浮かんだホルダーを手に取り、そこから「ウルトラマンタロウ」の絵が描かれた火のクリスタルを取り出す。

 

最初に春木が空中に浮かんだホルダーを手に取り、そこから「ウルトラマンタロウ」の絵が描かれた火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

タロウクリスタルの角を2つ立ててルーブジャイロの中央に春木はセット。

 

『ウルトラマンタロウ!』

「纏うは火!! 紅蓮の炎!!」

 

最後に春木はルーブジャイロのトリガーを3回引いて右腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! フレイム!!』

 

春木は炎に包まれ、赤い巨人「ウルトラマンロッソ フレイム」へと変身。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

続けて今度は良がホルダーから「ウルトラマンギンガ」の描かれた水のクリスタルを取り出し、それをルーブジャイロにセットさせる。

 

『ウルトラマンギンガ!』

「纏うは水!! 紺碧の海!!」

 

また春木と同様に良もルーブクリスタルのトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! アクア!』

 

良は水に飲み込まれ、青い巨人「ウルトラマンブル アクア」へと変身を完了させるのだった。

 

『俺はあのタコをぶん殴る!! お前はあの牛を頼む!!』

『どちからと言えばクラゲっぽい見た目してるが・・・・・・ピスケスは魚だ、兄貴・・・・・・。 だが、分かった!! そっちは任せる!!』

 

それぞれ春木と良はロッソ、ブルに変身すると、ロッソはピスケス、ブルはタウラスに向かって駈け出し、ロッソは再び地面から飛び出したピスケスにガバッと掴みかかって捕まえると、ロッソはピスケスを地面に叩きつける。

 

『オラァ!! タコが地面に潜ってんじゃねえ!!』

「だから魚です、先輩・・・・・・」

 

ロッソはピスケスに馬乗りとなると、ブルや東郷が魚だと言ってるにも関わらず「たこ焼きにしてやるわ!!」と言いながら拳を何度もピスケスに叩き込んで行き、一方的に攻撃を喰らわせていくが、ピスケスが身体を激しく大きく揺らすとロッソをなんとか振り払うことに成功し、再び地面へと潜って姿を消してしまう。

 

一方で、タウラスの音によって動きを封じられた勇者達はというと・・・・・・彼女達がまともに動けない隙を突くかのようにライブラとアクエリアスが差し迫って来ており、そのことに気付いた夏凜もこのままではマズいとどうにかタウラスの怪音波から抜け出す方法を考えるが・・・・・・。

 

タウラスの出す音のせいで、激しい頭痛に襲われてる状態でまともな考えが出る筈も無く、万事休す・・・・・・そう思われたその時・・・・・・。

 

『雑音!!』

 

丁度そこに駆けつけたブルがタウラスに掴みかかり、そのまま膝蹴りを喰らわすとタウラスはライブラとアクエリアスの2体に激突し、3体のバーテックスが倒れ込む。

 

タウラスの出す怪音波は勇者に対してこそ頭痛、不快感などを与える厄介な代物ではあるが・・・・・・変身すれば聴力も強化されるとは言え、ウルトラマンであるブルにとってはそれはただの雑音でしかない。

 

そのためにタウラスの怪音波はブルには通用せず、あっさりとブルの接近を許す結果となり、無事に友奈達のピンチを救うことに成功したのだ。

 

「遅いわよ!!」

 

最も、夏凜は来るのが遅いと苦言を零し、折角助けに来たのに文句を言われたことにブルも何か言い返してやろうかと思ったが・・・・・・そこへ丁度、体勢を立て直し、再びライブラやアクエリアスと共に立ち上がって来たタウラスがまたもや友奈達に対し、怪音波攻撃を繰り出そうとする。

 

「音は、みんなを幸せにする音・・・・・・!!」

 

しかし、タウラスが再度、怪音波を発しようとするよりも早く樹が腕から幾つもの緑のワイヤーを伸ばすことでタウラスの鐘を拘束し、今度は逆に樹がタウラスの動きを封じることに成功したのだ。

 

「そんな音ぉ!!」

 

拘束されたタウラスを見てか、援護しようとするかのように動き出すライブラとアクエリアスだったが・・・・・・そうはさせまいとブルがライブラに跳び蹴りを喰らわせると、すぐさま隣にいたアクエリアスに後ろ回し蹴りを喰らわせてタウラスから引き離す。

 

「樹・・・・・・! よし、先ずは・・・・・・アイツ等から!!」

 

樹がタウラスを拘束し、ブルの攻撃を受けて怯んだ隙を狙い、風は高く跳び上がって大剣を構えると・・・・・・一気にライブラとアクエリアス、2体のバーテックスを横一閃に振るって真っ二つに切り裂く。

 

「お姉ちゃん!」

「頼りになります!! 勿論良くんも!! さっきは助けてくれてありがとー!!」

『っ』

 

友奈が手を振りながら自分にお礼を言ってくることに、インナースペース内の良は照れ臭そうな表情を浮かべるが、サムズアップして友奈に応えると、それに彼女も「イエイ!!」とサムズアップして返すのだった。

 

「よし、3体まとめて封印・・・・・・!!」

 

真っ二つにしたとは言え、ライブラもアクエリアスもまだ完全に倒された訳ではない為、風は樹がタウラスを拘束している間に3体まとめて封印の義を開始して御霊を破壊しようとみんなに指示を出そうとする。

 

しかし、その際タウラスが突如として後退を始め、純粋なパワーではタウラスに下回ってしまう樹は思わずタウラスに引っ張られそうになるが、風は急いで樹にワイヤーを解くように指示して彼女も言われた通りにタウラスに施していたワイヤーを解除し、止むなく拘束を解く。

 

「こんのぉ!!」

 

逃げようとするタウラスに、友奈は逃がすまいと拳を構えるが・・・・・・タウラスの様子が何かおかしいと気付いた夏凜は友奈を手で制して引き止める。

 

「待って!! 様子がおかしい・・・・・・」

 

見れば、タウラスだけではなくいつの間にか身体を再生させていたアクエリアスとライブラも、タウラスに続くように後退しており、風は戦況が不利と見てバーテックスが一瞬撤退でもするのかと思ったが・・・・・・どうやらそういった訳ではないようで・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、それと同じ頃・・・・・・ロッソや東郷と戦っていたピスケスも突如として地面に潜ると、レオの元へと向かって行き、いきなり戦闘を放棄したピスケスを疑問に感じはしたが、東郷は今の内に友奈達を援護しようと狙撃銃をレオに向け、スコープを覗くとそこにはライブラ、アクエリアス、タウラスの3体がレオの元に集結しており、レオの元に集った3体のバーテックスはレオに吸収される。

 

「っ、合体した!?」

 

すると、レオはライブラ、アクエリアス、タウラスと融合し、自身を含め、4体の特徴を全て兼ね備えた合体バーテックス、「レオ・スタークラスター」へと進化したのだ。

 

「ちょっと、こんなの聞いたことないわよ!?」

『なんだこれは? 合体怪獣・・・・・・っ?』

 

夏凜やブルは4体のバーテックスが合体したことに驚愕し、驚くが・・・・・・そんな中、友奈だけは「これなら纏めて倒せるよ!!」と逆に1体に纏まったことをポジティブに考え、風も確かに面倒が無くて良いと友奈の考えに賛同し、そんな2人に樹はどこか呆れたような声を出すのだった。

 

「友奈の言う通り、纏めて封印開始よ!!」

 

風はさっさと封印を開始して、レオを倒そうと意気込むが・・・・・・直後、レオの周りに幾つもの火球のようなものが現れるとそれを友奈、夏凜、風、樹、ブルに向けて一斉に発射。

 

友奈達は慌てて4方向に分かれて飛び散るようにして回避したのだが、この火球には追尾機能が付与されているようで・・・・・・火球は友奈達がどれだけ躱そうが、避けようが地の果てまで追いかけてやると言わんばかりにしつこく彼女等をつけ回す。

 

「こいつ追尾すんの!?」

「クソ!!? っ、わああああ!!!!?」

 

空中に跳び上がったところを狙ったかのように、幾つもの火球が風に迫ると、彼女は咄嗟に大剣でガードしたものの精霊バリアなどもあるとは言え、完全に防ぎきることはできず、空中にいたところ撃墜されて地面に倒れ込んでしまった。

 

しかも、それと同時に樹も火球による攻撃を受けてしまい、撃墜。

 

「きゃあああ!!?」

 

ならば追ってくるならこのまま真正面から打ち返してやろうと方向転換した友奈だったが、飛んでくる全ての火球に対応しきることができず、彼女もまた撃墜されてしまうのだった。

 

「やめろおおおおお!!!!」

 

そこへ、火球が厄介ならばと先ずは本体であるレオを倒そうと、夏凜がレオへと接近し、大きく跳び上がると彼女は刀を振りかざしてレオを斬りつけようとするのだが・・・・・・。

 

バーテックス4体が合体しただけあって身体の頑丈さも相当なものとなっており、彼女の振るった刀はあっさりと砕け散ってしまったのだ。

 

「っ!?」

 

自分の刀がこんな軽くポッキリと折れてしまったことに驚愕した夏凜は、そのことに動揺していたこともあり、後ろから追尾して来ていた火球への対応が遅れ、直撃受けて彼女もまた撃ち落とされてしまった。

 

「きゃああああ!!!!?」

 

『風先輩!! 樹さん!! 友奈さん!! 夏凜先輩!! それならここは俺が・・・・・・!!』

 

ブルも幾つか火球の直撃こそ喰らったものの、そこまでのダメージを受けていなかったブルは夏凜と同じようにならば厄介な火球を撃って来る本体のレオから倒してしまおうと考え、レオに向かって殴りかかるのだが・・・・・・。

 

『シェア!!』

 

その時、勇者達のスマホから警戒音が鳴り響き、現状唯一スマホの確認ができる東郷がスマホを取り出し、画面を見るとそこには「宇宙凶獣」という文字が表示されており、東郷は即座に「宇宙凶獣」と書かれたのが怪獣であることに気づくと同時にその怪獣が地面に潜っていて丁度今、ブルのほぼ真下にいることを確認すると、彼女は慌ててブルにその場で止まるように呼びかける。

 

「待って!! 良くん止まって!!」

『良!! みんな・・・・・・!!』

 

ロッソも東郷の様子から怪獣が来たことに気付き、急いでブルの元へと駆け出すのだが・・・・・・東郷の呼びかけがブルの耳に届くよりも早く、ロッソが駆けつけるよりも早く、地面から飛び出した巨大な剣がブルの胴を斬りつけ、火花を散らしながらブルは大きく吹き飛んだのだ。

 

『ウアアアッ!!?』

「グルルル・・・・・・ガアアアアアア!!!!!」

 

そしてそのまま、その怪獣が地面から飛び出すように出現し、全身を露わにすると・・・・・・そこには全身を金色の鎧で包まれ、左手にはトゲがはえた鉄球、そして右手にはシールドを備えた剣を持つ怪獣・・・・・・。

 

「宇宙凶獣 カイザーギラレス13世」が剣を構えながら出現し、唸り声をあげながら明らかな敵意をブルやロッソ、勇者達へと向けるのだった。

 

『良! 大丈夫か!?』

 

そこへ倒れ込んだブルの元に、ロッソが駆け寄り、ブルは「問題、ない・・・・・・」と弱々しくもロッソの言葉に応え、立ち上がるとロッソとブルの2人は並び立ち、カイザーギラレスと対峙する。

 

『先ずはあの合体バーテックスを優先して倒す!! 兄貴はあの怪獣を抑えててくれ!!』

『分かった!!』

 

ブルは先ずはあのレオを自分が先に倒した方が友奈達への負担が軽くなる上に、これ以上無駄にダメージを受けることは無いと判断し、少々キツいとは思いつつも、カイザーギラレスの相手をロッソに任せ、インナースペース内の春木と良はルーブジャイロにセットされたクリスタルを交換する。

 

『ウルトラマンブル! ウィンド!!』

『ウルトラマンロッソ! ワニュウドウ!!』

 

それぞれブルはウィンド、ロッソはワニュウドウへとクリスタルチェンジして姿を変えると、ブルは目にも止まらぬ速さで一気にレオへと接近し、頭部から取り出した剣、「ルーブスラッガーブル」をレオへと振りかざす。

 

しかし、そうはさせまいとカイザーギラレスの放った光線がブルに直撃し、吹き飛ばすとそこでロッソが左腕には旋刃盤のような武器、「神屋楯比売」をワイヤーで飛ばして攻撃を仕掛けるが、カイザーギラレスは左腕の鉄球で叩き落とし、一気にロッソへと詰め寄るとすれ違いざまに右腕の剣でロッソを斬りつける。

 

『グアアアッ!!?』

「ギシャアアアア!!!!」

 

さらに振り返りざまに破壊光線をロッソと先ほどの攻撃で吹き飛ばされ、倒れ込んでいたブルに向かって連続で放つと、2人のウルトラマンは身体から火花を散らしてダメージを受ける。

 

『『ウアアアアッ!!?』』

「みんな・・・・・・! おのれ!!」

 

東郷は狙撃銃を構えながら、友奈達やウルトラマン達を援護するために2発の弾丸をそれぞれレオ、カイザーギラレスへと撃ち込んだのだが・・・・・・レオやカイザーギラレスには直撃こそしたものの、頑丈な身体を持つレオや全身を鎧で覆われているカイザーギラレスには東郷の撃ち込んだ銃弾まるで効果がなく・・・・・・。

 

それどころか、レオは先ほどよりも巨大な火球を作り出し、東郷へと先ほど銃弾を撃ち込まれた仕返しだと言わんばかりに放って来たのだ。

 

『東郷!!』

 

それを見て、東郷を守ろうと咄嗟に彼女の元へと走り出そうとするロッソだったが、それ故に大きな隙が出来てしまったロッソは、後ろに回り込まれたカイザーギラレスに左手の鉄球で背中を殴りつけられ、強い痛みと衝撃を感じたロッソは前のめりに倒れ込んでしまったのだ。

 

「グルアアアアア!!!!」

『ウアッ!!?』

 

地面に倒れたロッソをカイザーギラレスは何度も踏みつけて動きを封じたことで、東郷はレオの放った火球の直撃を受けてしまい、これにより友奈達5人の勇者は全員、まともに立ち上がれないほどのダメージを負うこととなってしまったのだった。

 

さらに、カイザーギラレスは右手の剣を構え、自分が踏みつけて身動きが取れないロッソの背中に、剣を突き立ててやろうと腕を振り下ろすのだが・・・・・・それを阻止するように起き上がって来たブルの跳び蹴りがカイザーギラレスの頭に叩きこまれ、カイザーギラレスは軽く吹き飛ぶ。

 

「ガアアアア!!!!?」

『兄貴・・・・・・! 友奈さん達が・・・・・・!』

『分かってる・・・・・・。 でも、こいつ等滅茶苦茶強ぇ・・・・・・!!』

 

戦闘力ではロッソやブル相手では劣るレオを先ずは狙い、どちらか片方が自分を足止めするために向かって来るであろうことはカイザーギラレスには読めていた。

 

そのために、カイザーギラレスはレオを倒されないようにロッソやブルからレオを守るようにして戦い、上手いこと立ち回ることでロッソやブル、勇者達をここまで苦戦させることに成功していたのだ。

 

「じ、冗談じゃ、無いわよ・・・・・・!」

 

さらに、レオはフラつきながらもどうにか立ち上がろうとした風に向かってアクエリアス・バーテックスの能力を使い、風の身体1つくらいはすっぽりと全身を飲み込めるほどの巨大な水の球体を飛ばしてくると、彼女はその球体の中に囚われてしまい、風は慌てて手に持った大剣を大きく振りかざして球体を切り裂こうと脱出を試みる。

 

しかし、自分を包み込んだ水の球体はあまりにも大きく、自由に身動きが取れず、水を完全に切り裂くには大剣のリーチさが足りないこともありやがて彼女は苦痛の表情を見せ始め、当然水の中なのだから呼吸も出来る筈もなく、精霊バリアも水の中では意味をなさないことから、彼女は窒息寸前にまで追い込まれてしまう。

 

『風!!』

『風先輩!!』

 

なんとか風を助けに行こうとするロッソとブルだったが、それを阻むように当然ながらカイザーギラレスが立ち塞がり、それに苛立ったロッソとブルは2人同時に「退けぇ!!」と叫ぶとブルは胸の先で起こした竜巻を、光線として放つ必殺光線「ストームシューティング」を放ち、それと同時にロッソはワイヤーから切り離して神屋楯比売をブーメランのように投げつけ、相手を切り刻む「大輪車旋風刃」をカイザーギラレスへと放つのだが・・・・・・。

 

『ストームシューティング!!』

『大輪車旋風刃!!』

 

しかし、カイザーギラレスは盾でストームシューティングを防いで光線をブルへと跳ね返し、大輪車旋風刃も鉄球で叩き落とすと同時に破壊光線をロッソに撃ち込み、カイザーギラレスの反撃を受けた2人は身体中から火花を散らしながらその場に片膝を突いた。

 

『『ウアアアア!!!?』』

 

そして、ロッソとブルのカラータイマーも点滅を始め・・・・・・時間制限が差し迫って来ていることを告げる。

 

『ク・・・・・・ソ・・・・・・!!』

『ふざけ・・・・・・!!』

 

倒れ込む樹や友奈、東郷にロッソやブルを見て・・・・・・風は徐々に意識が朦朧としていく中、彼女はみんなを勝手に巻き込んでおいて、自分だけが真っ先に死ねる訳がないと必死に水の中で足掻くが・・・・・・やはり自分の身体を包み込む水をどうしても振り払うことが出来なかった。

 

(ダメだ!! 樹を置いて、みんなを置いて、みんなを巻き込んでおいて・・・・・・!! さっさとくたばるなんて・・・・・・出来る訳がないでしょおおおおおお!!!!)

 

そんな時だ。

 

風の勇者服に刻まれていた花の模様・・・・・・今まで最大まで溜め込んでいた「満開ゲージ」を光輝かせると、大地から大量の光が風へと集まり、風の身体が一瞬眩く、オキザリスの花のような形の光を放つと彼女を包み込んでいた水の球が弾け飛び、彼女はそこから抜け出すことに成功した。

 

さらに、風の姿は先ほどまでとは変わっており、服装は羽衣が追加され、白を基調としたものへと変化しており、これこそが以前・・・・・・夏凜が説明していた勇者の切り札・・・・・・。

 

一気に力を解放した勇者の強化形態「満開」を発動したのだ。

 

「お姉・・・・・・ちゃん? まさか・・・・・・」

「溜め込んだ力を解放する、勇者の切り札・・・・・・」

 

樹は倒れながらも、満開を発動した風を見上げ・・・・・・風もまた、初めて使用した満開形態となった自分の姿を興味深そうに見つめていると・・・・・・そこでレオが空中に浮かぶ風に巨大な火球を撃ち込んで来たのだ。

 

しかし、風はそれを余裕でヒラリと躱すと、彼女は一気に相手に詰め寄って体当たりを繰り出し、その一発だけで夏凜の刀や東郷の銃弾すらも通さず、怯みすらもしなかったレオを倒れ込ませることに成功し、初めてまともなダメージを入れることに成功したのだ。

 

それを受けて、風はこれなら勝てるかもしれないという確信を得る。

 

「行ける!!」

 

それと同時に、東郷もまた満開を発動し、風と同じく白を基調としたものへと勇者服も変化し、それと同時に浮遊能力を持つ移動台座が出現。

 

「もう、許さない」

「東郷さん・・・・・あれって・・・・・・」

 

東郷はバーテックス達を睨み付けながら、どこからか取り出した鉢巻きを頭に巻き付けると、そこで今まで地面に潜って隠れていたピスケスが地中から飛び出し、姿を見せるのだが・・・・・・彼女は移動台座に装備された複数の花状の可動砲台を展開し、ピスケスが地面から出て来ると同時に彼女は砲台から全方面からの砲撃によってピスケスの身体を粉々に砕いていく。

 

「我! 敵軍に総攻撃を実施す!!」

 

それによってピスケスの御霊が完全に剥き出しの状態になると、東郷は容赦なく最後の一撃を御霊に撃ち込む。

 

「この程度の敵なら、封印の必要もないみたいね」

 

東郷の砲撃によって、御霊は封印の義を行われるまでもなく貫かれると御霊は光を溢れ出させながら爆発。

 

東郷はそれを見つめながらいつも妙な散り方をする御霊に疑問を一瞬抱いていたが・・・・・・それよりもと彼女はこれならばカイザーギラレスにもまともに対抗できるかもしれないと考え、彼女は移動台座と砲台をカイザーギラレスの方へと向け、狙いを定める。

 

それに気付いたカイザーギラレスは、光線などを跳ね返すことができる盾を構えるがそれをロッソとブルが後ろから掴みかかり、ロッソはカイザーギラレスの右腕、ブルは左腕を掴んで動きをなんとか押さえつける。

 

「グルアアアア!!!!」

『東郷!! 今だ!!』

『撃てえええええ!!!!』

 

ロッソとブルの叫びに応えるように東郷がコクリと力強く頷くと、彼女はロッソやブルには当たらないように正確、尚且つ精密に幾つもの砲弾を次々と連続でカイザーギラレスの身体に撃ち込んで行くと、やがてカイザーギラレスは片膝を突いて崩れ落ち、そこを狙ってロッソとブルが同時に放った膝蹴りを喰らい、吹き飛ばされる。

 

『『ダアア!!』』

「グルアアア!!?」

 

レオに続き、カイザーギラレスにもまた初めてまともなダメージを入れられたことに成功し、ガッツポーズをするブルと、東郷に「やったな!!」と嬉しそうにサムズアップを送るロッソ。

 

東郷もそんなロッソに微笑みを向けながら、サムズアップを返していると突然東郷の目の前にモニターのようなものが出現し、いきなり出てきたモニターに一瞬驚く東郷だったが・・・・・・。

 

「神樹様に近い!? このバーテックス・・・・・・何故気付かなかった!? こいつ、小さくて速い!?」

 

そのモニターがすぐに新幹線並の強烈な速さで神樹に向かって走っているジェミニ・バーテックスの位置情報を表示しているのだということに彼女は気づくと、東郷はすぐさまジェミニの行く手を阻もうと砲台をジェミニ向け、神樹にこれ以上近づけさせない為にも砲弾を撃ち込む。

 

しかし、ピスケスを圧倒的な火力で葬った東郷の攻撃力を持ってしても、ただでさえ素早い上に他のバーテックスに比べて小型であること、身軽であることも合わさり、次々撃ち込まれる彼女の砲撃をジェミニは難なく躱してしまい、自分でも捕えきれないスピードと身軽さに東郷は驚愕した。

 

「かろやかに躱した!!? このままじゃ、神樹様が・・・・・・!!」

 

そんな時、東郷の少し後ろの方で地面から幾つもの光が溢れると・・・・・・神官や巫女を思わせる服装となり、背後に巨大なアーチと花が現出した満開形態となった樹が現れる。

 

「私達の日常を、壊させない・・・・・・!」

 

静かに、けれども力強く、そう呟いた樹は「そっちに行くなあああああああ!!!!!」と叫ぶと共に背後に出現した巨大なアーチと花から幾つもの大量の緑のワイヤーを飛ばすと、その機動性の高さもあってジェミニの全身をワイヤー出巻き付けて見事に拘束することに成功。

 

「お仕置き!!」

 

自分の方へとジェミニを引き寄せると、彼女はジェミニに向けて右手をかざし、握り拳を作ると同時にジェミニの全身がバラバラに砕け散り、最後に残ったジェミニの手の平サイズほどの小さな御霊も、樹のワイヤー1つによって貫かれ、完全に破壊されるのだった。

 

『地味に1番えげつない技使ってるな、樹・・・・・・』

『だが、今はそれが必要だ!! 樹さん!! アイツの右腕だけで良い!! ちょっと拘束しておいて貰えませんか!?』

 

そこでカイザーギラレスが振るって来る剣と鉄球の攻撃を躱しながら、ブルはカイザーギラレスを倒すための作戦を思いついたとロッソに耳打ちし、さらに樹に光線技を跳ね返すあの厄介な右腕の盾だけでも拘束するなりなんなりして封じてくれるようにブルは頼み、ブルの頼みを「分かったよ!」と快く引き受けた彼女は、ロッソとブルがカイザーギラレスの注意を引きつけている間に、背後に回り込んで幾つもの大量のワイヤーを伸ばしてカイザーギラレスの右腕を拘束。

 

「グルウ!? グアアアアア!!!!」

 

右腕を拘束されたカイザーギラレスは、樹を振り払おうと右腕を振り回そうとするが、満開によって力も増している樹はカイザーギラレスの片腕だけならばカイザーギラレス相手にも力負けはしないため、そう簡単に樹の拘束を振り払うことが出来なかった。

 

ならばと鉄球でワイヤーを引き裂いてやろうと思ったカイザーギラレスだが、それよりも前にロッソとブルはクリスタルチェンジを行う。

 

『あいつの鎧をフニャフニャにして柔らかくしてやる!! 兄貴!! 兄貴は火を、俺は雪のクリスタルを使うぞ!!』

『分かった!!』

 

ブルの指示を受けて、ロッソはフレイムに戻ると、それと同時にブルも白い姿のユキジョロウへと姿を変える。

 

『ウルトラマンロッソ! フレイム!!』

『ウルトラマンブル! ユキジョロウ!!』

 

戦闘BGM「戦い 優勢」

 

そしてカイザーギラレスの鉄球がワイヤーに届く前に、ブルは両腕から放つ冷凍光線「ブリザードシュート」をカイザーギラレスに放つ。

 

『ブリザードシュート!!』

「グウウウ!!?」

 

それを受けて、カイザーギラレスは鬱陶しいとばかりに破壊光線をロッソとブルに放つが、2人は二方向に飛んで光線を回避。

 

『フレイムダーツ!!』

 

続けてロッソが手先から放つ火球弾「フレイムダーツ」を連射してカイザーギラレスに直撃させる。

 

『これを何回も繰り返すぞ!! 兄貴!!』

『なんか知らんが、おう!!』

 

さらにそこから再びブリザードシュートをブルはカイザーギラレスに放ち、ブルが光線を撃ち終えると続けざまに今度はロッソがフレイムダーツをカイザーギラレスに撃ち込む。

 

時折樹に破壊光線を撃ち込もうとしたこともあったが、それは東郷がカイザーギラレスの頭部に砲撃を集中させることで阻止し、カイザーギラレスの破壊光線などもなんかとか躱しつつ、何度か繰り返して行くと、やがてカイザーギラレスの全身にビキビキと音を立てながら亀裂が入り、ブルの合図で樹が拘束を解くと同時に、ロッソが繰り出した拳と、ブルの放ったストレートキックが同時に叩きこまれ、カイザーギラレスは大きく吹き飛ばされる。

 

「グルアアアアア!!!!?」

 

冷気と炎を交互に当てることによってカイザーギラレスの身体にヒビが入り、そのおかげで攻撃とダメージが通りやすくなったこと、その影響でカイザーギラレス自身も弱体化し、そのせいで比較的影響の受けていない右腕もまともに挙げることすら出来なかった。

 

これであの厄介な盾もほぼ使えなくなったと判断したブルは、ロッソに対して頷くと、ブルの意志を汲み取ったロッソも頷き返し、十字に組んだ腕から炎のエネルギーを集約した破壊光弾「フレイムスフィアシュート」を放ち、同時にブルも強力な冷気光線「ブリザードシュート」を放ち、2人の合体必殺光線「フレイムブリザードハイブリッドシュート」がカイザーギラレスに撃ち込まれる。

 

『フレイム!!』

『ブリザード!!』

『『ハイブリットシュート!!!!』』

 

そしてフレイムブリザードハイブリットシュートによる直撃を受けたカイザーギラレスは身体中から火花を散らしながら倒れ、爆発するのだった。

 

「グルアアアアア!!!!?」

 

だが、カイザーギラレスを倒しても終わりではない。

 

まだレオ・スタークラスターが残っており、気付けばレオは倒れ込んだ状態のままいつの間にかレオが今までよりもさらに巨大な火球を作り出すと、それを見た風は冷や汗を流し、思わず後退ってしまう。

 

「なに? このヤバそうな元気っぽい球は・・・・・・?」

「いけない!!」

「お姉ちゃん!!」

 

そしてレオは風にその巨大な火球を撃ち込み、東郷と樹が風に向かって叫ぶが・・・・・・風はより巨大化させた大剣を出現させてそれを手に握りしめると、彼女は大剣でレオの放った火球を受け止める。

 

「勇者部一同!! 封印開始いいいいい!!!! 私がこいつの相手をしている内にぃ!! 早くぅ!!!!」

 

風は自分が火球を受け止めている間に早くレオへの封印を行うように友奈達に指示を出すと、彼女等は風が満開を使っているとは言えあんな巨大な火球に耐えきることが出来るかどうか心配ではあったものの・・・・・・。

 

それでも彼女を信じ、友奈、樹、東郷、夏凜はレオの周りを取り囲む。

 

「ったく、私にも良いとこ・・・・・・残しときなさいよね!!」

 

そう言いながら夏凜が刀を地面に突き刺すと、それと同時に東郷や樹はレオに向けて手をかざし、友奈は右手の甲を構え、レオの封印を開始。

 

「よし、流石勇者部!!」

『待ってろ風!! 今助けに!!』

 

レオへの対処は友奈達に任せ、ロッソとアクアに戻ったブルは風を助けに行こうと彼女の元へと駆け寄ろうとするのだが・・・・・・次の瞬間、レオは風が受け止めていた火球を爆発させることで彼女を吹き飛ばし、風は爆発によるダメージによって満開状態が解除され、地面に勢いよく叩きつけられて倒れ込んでしまう。

 

「お姉ちゃん!!」

「風先輩!!!!」

『風!!』

 

爆発の炎に吹き飛ばされ、悲痛な声で風の名を叫ぶ樹、友奈、ロッソ。

 

「そいつをぉ!! そいつを倒せえええええええ!!!!!」

 

しかし、風は自分の身を案じるくらいならレオを倒せと地べたを這いつくばるように倒れながら、力強く叫び、樹は一瞬すぐにでも風の元に駆けつけたい気持ちが溢れ出したものの即座に彼女はその気持ちを必死に抑えつけ、風の言葉に「うん!!」と頷くと、樹は封印の義を継続。

 

やがて、封印の義によってレオの身体から御霊が出現し・・・・・・後はそれを破壊することが出来れば自分達の完全勝利・・・・・・。

 

しかし・・・・・・。

 

レオの身体から出てきた御霊は、あまりにも巨大であり、その大きさはまさに宇宙規模で御霊は現在、宇宙空間を漂っており、そんなあまりにも規則外すぎる大きさの御霊の出現に友奈達は目を見開き、驚愕するしかなかった。

 

「えっ、えええええええ!!!!?」

「何から何まで、規格外すぎるわ・・・・・!」

「しかもあの御霊、出てる場所が・・・・・・宇宙!?」

 

あとは御霊を破壊するだけだというのに、最後の最後にこんな巨大なものどうやって破壊すれば良いのか、仮に破壊出来たとしても時間制限のある封印の義を行っている間に完全に破壊することが出来るのか、そのことが分からない夏凜達はその御霊に圧巻され、悲観な感情に支配されてしまうが・・・・・・。

 

「大丈夫!!」

 

それでも、そんな絶望的な状況の中で唯一、友奈だけが諦めず、今までと同じようにすれば良いだけだと言い放ってきたのだ。

 

「御霊なんだから、今までと同じようにすれば良いんだよ!! どんなに敵が多くたって、諦めるもんか!! 勇者って、そういうものだよね!?」

 

拳を握りしめながら、友奈がそう言うと、彼女のその言葉に絶望的な表情をしていた夏凜や樹も希望を取り戻し、東郷もまた友奈の言葉にコクリと頷いて見せたのだ。

 

「友奈ちゃん行こう!! 今の私なら、友奈ちゃんを運べると思う!!」

「うん! 2人は、封印をお願い!!」

 

友奈はレオの封印を樹と夏凜に任せ、彼女は東郷の乗っている移動台座に飛び乗ると彼女は東郷と手を手を繋いで握りあいながら2人は空を見上げ、東郷は移動台座を起動させて宇宙空間へと向かう。

 

だが、それと同時に樹海空間で浸食現象が発生し、地面や樹海にある木々が枯れ始め、何時もよりも浸食具合が早いことに夏凜は焦りを感じる。

 

「クソ、浸食が早い!!」

「拘束力が・・・・・・!」

 

さらに、木霊がスマホを持ちながら、画面を樹に見せると、もう既にレオを拘束していられる時間が76秒と表示されており、ブルはロッソに自分達も友奈達の手伝いに行かなくて良いのかと問いかけるが・・・・・・。

 

『もう変身していられる時間も少ない。 今の俺達が友奈達について行っても、きっとアイツ等の足手纏いにしかならないだろう。 でも、念のためにギリギリまで変身は保っておくけどな』

『確かに、それが懸命な判断か。 あとは友奈さん達に任せないといけないのは歯がゆいが・・・・・・』

 

変身していられる時間が迫っている以上、下手に友奈や東郷と一緒について行けばきっと宇宙空間で強制的に変身解除されてしまう可能性は高い。

 

一応、樹海化による影響か、勇者に変身しているからか、友奈達は宇宙空間に出ても息は出来るようだが春木達の変身が解除された時、宇宙空間で息をすることが出来るかは怪しい。

 

仮に出来たとしても、変身が解除されれば地上まで真っ逆さま。

 

そうなれば友奈や東郷は御霊を破壊するよりも自分達を助けることを優先するだろう。

 

ただでさえ時間がないのに、もしそんなことになれば確かにロッソの言う通り友奈や東郷の足手纏いになるだけだ。

 

そのことにブルももどかしい気持ちにはなるものの、それが最善で、もしもの時に備えて地上でギリギリまで変身を維持しておいた方がよっぽど良いと判断し、ロッソとブルは空を見上げながら、友奈達の勝利を信じて待つのだった。

 

だが・・・・・・、そんな時のことだった。

 

「グオオオオオオオオ・・・・・・!!!!!」

 

どこからか、地獄から響くような咆哮が聞こえ、その咆哮を耳にした瞬間、ロッソとブルはまさかと思いながら先ほどカイザーギラレスが倒れた場所に視線を向けると、そこには爆発の炎の中から全身の鎧がボロボロと崩れ落ちながらも、肉体を再生させ、立ち上がるカイザーギラレスの姿があったのだ。

 

「ちょっ、あいつまだ生きてんの!?」

 

再び立ち上がったカイザーギラレスを見て、夏凜や樹、風も唖然とするが・・・・・・それでもあんなボロボロの状態ならばゴリ押しすれば勝てるとロッソは身構えるが・・・・・・。

 

『いや、待て兄貴! 何かおかしい・・・・・・!!』

 

次の瞬間、カイザーギラレスの全身の鎧が元通りに直ると同時に鎧はドス黒く変色し、さらには剣と盾、鉄球もおぞましい悪魔的な形となって顔も地獄から這い出た悪鬼そのものとなり、無数の触手を持って身体も3倍の大きさとなって・・・・・・。

 

カイザーギラレスは体内にあった超古代怪獣、スフィア、根源的破滅将来体、カオスヘッダー、スペースビーストと呼ばれる怪獣達の細胞を活性化させることで、肉体を変化させた姿・・・・・・「デーモンギラレス14世」へと進化したのだ。

 

「グオオオオオオオ!!!!!」

『おい、嘘だろ・・・・・・!』

 

ちなみにこのデーモンギラレスという怪獣、本来はカイザーギラレスが進化した姿などではなく、超古代怪獣達の細胞だって体内には存在はしない。

 

本来のデーモンギラレスは「超古代怪獣 ガルラ」「超宇宙合成獣 ネオジオモス」「超空間波動怪獣 サイコメザード」「精神寄生獣 カオスジラーク」「フィンディッシュタイプビースト ノスフェル」と呼ばれる怪獣達の細胞とカイザーギラレス自身が融合することで生まれる怪獣である。

 

しかし、ならば何故このカイザーギラレスは体内に他の怪獣達の細胞を隠し持ち、デーモンギラレスに進化したのか。

 

どうせならばガルラ達と共にカイザーギラレスを送り込めば良かったのではないかと思うかもしれないが、それは樹海に現れる怪獣達もバーテックスと同様に「限りがあるから」である。

 

1体の怪獣に、複数の怪獣の細胞が組み込まれようが1体は1体、限りある数自体は変わらない。

 

そしてカイザーギラレスは自身が倒された今、もうカイザーギラレスの状態のまま戦闘を続行することは不可能と判断し、奥の手として内包されていた怪獣達の細胞を活性化させることでデーモンギラレスへと変貌を遂げることで、ロッソ達の前に立ち塞がったのだ。

 

「グオオオオオオ!!!!!」

 

デーモンギラレスの威圧感のある雄叫びを受けて、思わず後退るロッソとブルだが・・・・・・それでもロッソとブルは封印の義を行っている樹と夏凜、倒れ込んでいる風を守るようにデーモンギラレスの前に立ち塞がり、それぞれ「ルーブスラッガーブル」と「ルーブスラッガーロッソ」を取り出し、それを構える。

 

『ルーブスラッガーブル!!』

『ルーブスラッガーロッソ!!』

 

するとデーモンギラレスは電撃を纏った剣をロッソとブルに向かって振り下ろし、攻撃を仕掛けるがロッソとブルはすれすれでその攻撃を避けると一気に跳び上がり、デーモンギラレスが伸ばしてきた無数の触手を切り裂きながら、ルーブスラッガーを2人同時に振るってデーモンギラレスの盾を切り裂いて破壊。

 

しかし、破壊された盾はすぐに再生を始め、元通りに戻ってしまう。

 

『なに!!?』

「グルアアアアアア!!!!」

 

すると今度はこっちの番だとばかりにデーモンギラレスは光弾、ビーム、熱線、火炎などの多彩な攻撃でロッソとブルに反撃し、2人のウルトラマンはそれらの攻撃を受けて身体中から火花を散らしながら、地面に叩きつけられるように倒れ込んでしまう。

 

『『ウアアアアア!!!!?』』

 

さらにはデーモンギラレスの放った無数の攻撃は夏凜や樹をも巻き込み、危うく夏凜や樹はレオへの封印が解けそうになるところだったが、なんとか2人は踏ん張り、耐え抜いた。

 

「樹は封印を!! 私はアイツを・・・・・・!!」

 

夏凜は封印の義を樹に任せ、自分はロッソやブルの援護に向かおうと飛び出し、デーモンギラレスにどこまで通用するか分からないが自分も満開を発動させようとする。

 

「満か・・・・・・きゃあああああ!!?」

 

しかし、直後にデーモンギラレスの放った光弾が直撃し、精霊バリアのおかげで死にこそしなかったものの彼女は地面に叩きつけられ、一撃で戦闘不能レベルのダメージを受けてしまい、まともに立つことすら出来なくなってしまったのだ。

 

「ぐっ、クッソ・・・・・・!!」

「夏凜さん!!」

『夏凜先輩・・・・・・!! こんの、野郎おおおおおお!!!!』

 

夏凜のことは、正直言ってあまり好きでは無いが・・・・・・それでも一緒に戦い、共に勇者部で活動する仲間だと思っているブルは、夏凜がやられたのを見て怒りを込み上げ、立ち上がる。

 

『俺の、気合いと・・・・・・根性は!! こんなもんじゃねえ!! よくも夏凜をやってくれたなぁ!!』

 

ブルと同じように、夏凜が傷つけられて怒りを覚えたロッソもまた立ち上がると、ロッソはシュテンドウジ、ブルはダイテングへとクリスタルチェンジして姿を変える。

 

『ウルトラマンロッソ! シュテンドウジ!!』

『ウルトラマンブル! ダイテング!!』

 

ロッソはデーモンギラレスの又の下を滑り込むようにして背後に回り込むと、跳び上がって後ろから巨大な拳を模った衝撃波、「ナックルビッグインパクト」をデーモンギラレスの背中に撃ち込もうとするが・・・・・・。

 

『ナックルビッグインパクトォ!!』

 

ギョロリとデーモンギラレスの背中に存在していた巨大な目が開くと、無数の触手がロッソのナックルビッグインパクトを防いでしまい、さらにはロッソの足を拘束すると、ロッソを地面に叩きつけてしまう。

 

『グアアアッ!!?』

『兄貴・・・・・・!! なら、これで!! クロスブレイカー!!』

 

ブルはデーモンギラレスに対し、両手でX字を描くように振るうことでX字の斬撃を飛ばす「クロスブレイカー」を放ち、デーモンギラレスは直撃を受けるものの全く微動だにせず、逆にデーモンギラレスの鉄球による殴打をブルは受けて吹き飛ばされてしまう。

 

『ウアアアア!!!!?』

 

デーモンギラレスの圧倒的な力に、ロッソもブルもまるで歯が立たず・・・・・・2人のカラータイマーも激しい点滅音が鳴り響き、間も無く変身が解除されてしまうことを知らせてくるが・・・・・・。

 

それでも、2人は諦めず、立ち上がり・・・・・・ロッソとブルはそれぞれフレイムとアクアの基本形態に戻るとそれぞれ必殺光線の構えに入る。

 

『ここで、こんなところで・・・・・・!!』

『諦めて、たまるかよ・・・・・・!!』

 

フラフラになりながらも、ロッソは十字に組んだ腕から炎のエネルギーを集約した破壊光弾を発射する「フレイムスフィアシュート」、ブルは腕をL字に組み、水のパワーを宿したエネルギー光線を放つ「アクアストリューム」をデーモンギラレスに繰り出す。

 

『フレ、イム・・・・・・スフィア、シュート・・・・・・!!』

『アクア・・・・・・スト、リューム・・・・・・!!』

 

二方向から放たれた2人の必殺光線はそのまま真っ直ぐデーモンギラレスの身体に直撃するが、デーモンギラレスは平然と2人の光線技の直撃を耐えきり、直後にデーモンギラレスは光弾、ビーム、熱線、火炎を手当たり次第に発射。

 

『マズい!!』

 

それらのデーモンギラレスの攻撃が、封印の義を行っている樹や、倒れ込んでいる風や夏凜に直撃しそうだったのを見たロッソとブルは、急いで3人を庇うように立つことで、彼女等に飛んで来た攻撃を全てその身体で受けきるのだが・・・・・・。

 

『『ウアアアアアッ!!!!?』』

「アイツ、等・・・・・・」

「先輩!! 良くん!!」

 

風達こそなんとか守れたものの・・・・・・既にボロボロで、エネルギー切れ寸前にまでいっているロッソとブルが耐えきれるはずもなく、ロッソとブルの2人のカラータイマーの点滅が停止すると、2人は変身が強制的に解除され、その場に倒れ込むのだった。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

一方、ロッソやブルがデーモンギラレスと戦っているのと同じ頃。

 

宇宙空間へと辿り着いた友奈と東郷。

 

そのまま東郷は移動台座を操作して真っ直ぐ御霊に向かって行こうとするのだが、その時、御霊が予想外の行動に出たのだ。

 

なんと、御霊はその巨大さならば多少身を削っても問題無いと言わんばかりに自身の身を欠片として友奈や東郷に対して投げつけ、攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

「御霊が攻撃!?」

 

今まで、防御態勢しか見せてこなかった御霊が攻撃を繰り出して来たことに友奈は驚愕し、東郷は即座に移動台座の大砲を構え、欠片を全て撃ち落とそうとする。

 

「迎撃するわ!! 地上には落とさない!!」

 

欠片が地上に落ちれば、風達にも被害が及びかねない。

 

それを考慮して、東郷は御霊から放たれた欠片を全て撃ち落とすべく、砲弾を一気に撃ち込んで広範囲に欠片を破壊するのだが・・・・・・。

 

流石に数が多すぎることもあり、満開の力を持ってしても一撃で全て撃ち落とすことなどは不可能であり、すぐにまた御霊の欠片が雨のように降り注いで来たのだ。

 

そのことに東郷は唇を噛み締め、友奈は不安げな顔を浮かべながら東郷の名を呼ぶが・・・・・・そんな友奈に東郷は「大丈夫」と微笑み、握っている彼女の手をさらに強く握りしめる。

 

「友奈ちゃん、見てて!!」

「うん!!」

「一個たりとも通さない!!」

 

東郷は移動台座の複数の大砲を同時に操り、こちらに向かって降り注いでくる御霊の欠片を砲弾で次々に撃ち落として行き、一度撃ち漏らしが出たものもなんとか破壊することに成功し、最終的に御霊が放った欠片は全て東郷の手によって全て破壊することに成功するのだった。

 

「凄い東郷さん!! ここまで来たよ!!」

 

それから東郷は移動台座を使い、御霊のすぐ近くにまで接近することに成功したのだが・・・・・・既に彼女の体力は限界に近く、見るからに疲労しており、一瞬フラついた東郷を友奈は慌てて支えた。

 

「っ・・・・・・」

「東郷さん!!」

「友奈ちゃん、ごめん。 ちょっと疲れちゃったみたい・・・・・・」

「ありがとう、東郷さん! 見ててね、やっつけてくる!」

 

友奈は東郷の右手を両手で握りしめながら御霊を自分が破壊することを誓い、2人はほんの少しの間お互いに見つめ合った後、頷き合うと、友奈は東郷の手を離し、御霊を見上げる。

 

「何時も見てる」

 

そんな東郷の言葉を背に受けながら、友奈は移動台座から跳び上がると彼女は満開を発動し、全勇者共通の背部のリングに加え左右に巨大なアームが発現した姿へと変わる。

 

「満開!!」

 

友奈はアームによる拳を構えながら、御霊へと一気に接近。

 

「みんなを守って、私は勇者になあああある!!!!」

 

その際、東郷も最後の一撃として砲弾を先んじて御霊に撃ち込むと、御霊の一部に亀裂が入り、友奈はそこを狙ってアームによる拳で殴りつける。

 

「そこだああああああ!!!!!」

 

友奈はそのまま亀裂を殴って御霊の内部に侵入すると、左右のアームで御霊の内部を殴りまくり、御霊を順調に破壊していく。

 

「っ、硬い!?」

 

しかし、途中、満開の力で殴っても砕けない場所に当たり、一瞬動きを止めてしまった友奈。

 

そんな友奈の隙を突くかのように、御霊は内部から再生を始め、それを利用して友奈の身体を圧迫し、押し潰そうとしてくる。

 

「ううう、あああああ!!!!?」

 

やがて身体の殆どが埋まり、このままでは本当に友奈は押し潰されてしまうかと思われたが・・・・・・その時。

 

「っ・・・・・・!! 勇者部、五箇条・・・・・・!! ひとーつ!!!! なるべく、諦めなあああああい!!!!!」

 

友奈は勇者部五箇条を口にしながら気合いを入れ直し、より力を込めたアームによる拳を振るうことで自身を圧迫していた御霊の壁や先ほどは破壊出来なかった箇所を破壊することに成功。

 

「さらに、五箇条ォ!! もうひとーつ!! 成せばああああああ!!!! 大抵!! なんとかなああああある!!!!!!」

 

そこからさらに、気合いを入れ、力を込めた拳で御霊の内部を破壊して真っ直ぐ掘り進んでいくと、彼女はやがて太陽のような見た目をした御霊の中心部に辿り着き、最後の一撃としてアームによる拳で中央部分を思いっきり殴りつける。

 

それを受け、御霊は内部から徐々に全身にかけて亀裂が入っていき、光の粒子のようになって消滅すると同時に友奈も内部から脱出したのだが・・・・・・既に友奈自身も体力を大きく消耗していたこともあり、満開を既に意地することができず、それによって満開による飛行能力も失われた為、ゆっくりと地上に落下していきそうになるのだが・・・・・・。

 

既に満開形態は解け、通常形態に戻ってはいたが・・・・・・それでも満開の力を僅かに維持し、移動台座を巨大な空中を浮遊するアサガオに変化させていた東郷によって友奈は受け止められる。

 

「あっ、東郷さん」

「友奈ちゃん、お疲れ様」

 

友奈は東郷の顔を見ると、ホッと安堵したような表情を浮かべる。

 

「美味しいとこだけ、取っちゃった」

 

友奈はそんなこと言いながら苦笑し、東郷は友奈の手を握りしめると彼女は友奈に謝罪の言葉を送って来たのだ。

 

「ごめん。 最後の力で、これだけ残したけど・・・・・・持つかどうか、分からない」

 

今でこそ、僅かに満開での力を意地しているが・・・・・・それでも地上に戻るまでに持つか分からないことを不安げな様子で語る東郷だったが、そんな東郷を安心させるように「大丈夫」と友奈は優しく声をかける。

 

「神樹様が守ってくれるよ?」

「・・・・・・そうね」

 

そして、東郷はアサガオは蕾状に変化させて自分と友奈を包み込むと、そのまま地上に向かって落下。

 

大気突入すると、蕾は炎に包まれるが、既に力が不安定とは言えアサガオの内部は比較的安全だった。

 

(もし万が一ダメでも、友奈ちゃんと一緒なら・・・・・・。 怖くない。 あっ、でも春木先輩に私の想いくらいは、伝えたかったな・・・・・・)

(神樹様、2人とも無事に帰らせてください。 お願いします)

 

2人はアサガオの内部で、出来ることなら無事に帰らせて欲しいと神樹に願いながらお互いに握り合っていると・・・・・・やがてアサガオは地上がハッキリと視認できる距離にまでやってくると、友奈は御霊を破壊したことで身動きが取れるようになった樹がワイヤーで作った網で受け止められる。

 

「絶対、助けて見せます!!」

 

無論、網は何重にも張っており、徐々にではあるがアサガオの落下する速度が弱まっていき・・・・・・最後はなんとか無事にアサガオを受け止め、友奈と東郷を見事救って見せたのだ。

 

「ナイス、根性・・・・・・。 見て、樹・・・・・・。 アンタが、止めたのよ」

 

デーモンギラレスにやられたダメージを堪えながらも、樹の元にやってきて労いの言葉をかける夏凜。

 

「行ってあげて、ください・・・・・・」

「うん・・・・・・」

 

樹に言われ、フラつきながらも夏凜が友奈と東郷の元に歩み寄ると・・・・・・既に限界だった樹も満開形態が解除される。

 

「お姉ちゃん、私・・・・・・頑張ったよ。 でも・・・・・・」

 

弱々しい声を出しながら、ロッソとブルを倒し、もはや自分達など相手にする価値は無いと言わんばかりに自分達を無視して神樹に向かって歩み進むデーモンギラレスの背中を見つめながら・・・・・遂に体力や気力の限界を迎えた樹はその場に倒れ込んでしまうのだった。

 

「サプリ決めとけば、良かった・・・・・・かな?」

 

そして、友奈と東郷の元に歩み寄った夏凜は、まるで死んだかのように動かない2人を泣き出しそうになるほど心配するが・・・・・・。

 

「友奈! 東郷・・・・・・!? おい、2人ともしっかりしろよ・・・・・・!」

「ケホケホッ・・・・・・。 えへ、大丈夫・・・・・・?」

 

友奈や東郷は、目を覚まして生きていることを夏凜に教えると・・・・・・彼女はほっと一安心し、胸を撫で下ろすが・・・・・・まだデーモンギラレスが残っている以上、戦いは終わっていない。

 

「あの・・・・・・怪獣は・・・・・・?」

「あの金色の怪獣が、復活したんだ・・・・・・。 しかも、パワーアップした状態で」

 

そこへ、友奈や東郷、夏凜の元に、良に肩を貸しながらボロボロで、フラフラになった春木がやってくると、東郷も友奈も「そんな・・・・・・!」と驚愕し、当然ながら絶望的な表情を浮かべる。

 

「ゲホッ! エネルギーも限界だったとは言え、今まで戦った怪獣とは、格が違っていた。 まるで手も足も・・・・・・」

 

あとはあの巨大な御霊を破壊すれば、全部終わる筈だったのにと・・・・・・思わずにいられない東郷に友奈。

 

しかも、友奈も、東郷も、夏凜も、風や樹、春木や良も・・・・・・もう誰も、まともに戦えるだけの力を残してはいなかった。

 

もはや待つのは、滅びのみなのか・・・・・・。

 

ここにいる殆どの人物がそんな考えに支配されかけたその時・・・・・・。

 

ボロボロの身体に鞭を打ちながら・・・・・・友奈が立ち上がって来たのだ。

 

「あとは、アイツ・・・・・・だけなんだ・・・・・・!! こんなところで、ここまできて、諦めるなんて・・・・・・絶対に嫌だ!!」

「友奈・・・・・・。 でも、もう、私達には戦うだけの力は・・・・・・!」

 

今の自分達が、デーモンギラレスと戦ったところであっさりと殺される未来なんて簡単に予想できてしまう。

 

諦めたくない気持ちは夏凜だって同じだ。

 

しかし、この状況を仰せるだけの力を持つ人物は、誰1人としていない、この状況をひっくり返せるだけの作戦もない。

 

それに、自身が受けたこのダメージ量では自分が満開したところで、やはりどのみちデーモンギラレスに返り討ちにされるのがオチなのは目に見えていた。

 

だから夏凜は、諦めたくは無いが、打つ手が無い以上・・・・・どうすることも出来ないと嘆くしか無かった。

 

「俺も、友奈と同じだ。 やらない後悔より、やる後悔だ!! 良、もう1度・・・・・・変身するぞ!」

「だが、兄貴・・・・・・。 まだ、再変身できるだけの時間は・・・・・・」

「それでも、気合いでなんとかすんだよ!! 俺はやる! オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!」

 

しかし、こんな状況でも友奈と同じように、諦めたくは無いと強く思う春木もまた、ルーブジャイロを再び取り出し、ロッソに変身しようとそれを構えるのだが・・・・・・ルーブジャイロはやはりと言うべきか、無反応だった。

 

「やっぱり、ダメか・・・・・・」

「諦めるな!! もう1度だ!! 頼む、もう1度だけで良い!! 動いてくれ!!」

 

春木は何度かルーブジャイロを起動させようとするが、やはりジャイロはうんともすんとも言わず、一切起動する気配は無かった。

 

「私が、なんとかします!」

「なんとかって、ダメよ、友奈ちゃん・・・・・・!」

 

友奈はボロボロの身体で尚もデーモンギラレスに立ち向かうことを宣言すると、それを慌てて東郷が止めに入るが・・・・・・それでも、友奈はこのまま黙ってジッとしていられるなんて出来なかった。

 

「それでも私は、勇者だから・・・・・・!! みんなと過ごす毎日が大切だから!! だから!! 決して明日を諦めたりなんかしない!!」

「俺もだ。 例え変身なんて出来なくても・・・・・・俺は戦う!! どうやってあんなの戦えば良いのか分かんねえけど・・・・・・それでも、俺は全てを諦めたくない!!」

 

友奈の隣に、春木が並び立つと、2人はお互いに頷き合う。

 

「友奈ちゃん・・・・・・。 春木先輩・・・・・・」

「友奈さん、兄貴・・・・・・」

 

東郷と良が、それぞれ友奈と春木の名を呟き、友奈と春木がデーモンギラレスを見据え、友奈がデーモンギラレスに立ち向かおうと、動き出そうとしたその時だ・・・・・・。

 

ポンッと友奈の目の前に彼女や春木の「諦めない心に反応したかのように」牛鬼が突然現れ、友奈は「わきゃああ!!?」といきなり現れた牛鬼に驚いて可愛らしい悲鳴を上げると、唐突に現れた牛鬼に頭に疑問符を浮かべながら「ど、どうしたの牛鬼?」と尋ねる。

 

すると、急にモゴモゴと口の中を動かすとグペッと何か丸い物を勢いよく口の中から吐き出すと、それが春木に額に激突。

 

「なんか吐いたぁー!!?」

「あたぁ!!?」

「「せ、先輩!?」」

「えっ、なに!? 何が起こったの!?」

 

突然の出来事に、当たり前のことだが困惑せずにはいられない夏凜。

 

「これは、クリスタル・・・・・・!?」

 

取りあえず、ハンカチでクリスタルを良が拾いあげると、牛鬼が吐き出したそれは「七」と書かれたクリスタルであり、なんで牛鬼がルーブクリスタルを吐き出したのか分からず、一同はジッと牛鬼を見つめる。

 

「もしかして拾い食いでもしたのか?」

「牛鬼のことだから、有り得る・・・・・・」

 

良は食い意地の張った牛鬼のことなので、もしかしてどこかで拾い食いしたのではないかと予想し、主である友奈も自分が知らないところで拾い食いしていた可能性について否定することが出来なかった。

 

「いや、しかし・・・・・・。 幾ら新しいクリスタルが手に入ったからと言って、結局変身出来なければ意味が・・・・・・」

 

新しいクリスタルを手に入れたとは言っても、再変身することが出来なければ結局のところ意味はなく、この状況がひっくり返る訳ではない。

 

なので状況は全く好転する訳ではないと、そう思われたが・・・・・。

 

「んっ?」

 

そんな時、春木や良が所持していた大天狗、酒呑童子、雪女郎、輪入道のクリスタルが独りでに勝手に空中に浮かび上がると、良がハンカチで磨いていたクリスタル、「七人御先」も浮かび上がり、大天狗のクリスタルを中心に、5つのクリスタルを重なり合うと・・・・・・眩い光を放つ。

 

「これは・・・・・・」

「っ、ジャイロが・・・・・・!」

 

その光を受けると、良と春木の所持していたジャイロの中央部分が一瞬輝き、2人は直感的にその光を受けたことで再変身が可能になったことを理解したのだ。

 

そして、重なり合っていた5つのクリスタルは・・・・・・なんと、1つの金色のクリスタルとして融合した。

 

「融合した・・・・・・! これって・・・・・・」

 

そのクリスタルを春木は手に取り、良と顔を見合わせると、2人は頷き合う。

 

「行けるのね? アンタ達・・・・・・」

「あぁ。 多分・・・・・・再変身できる!」

 

夏凜の問いかけに、春木がそう応えると、春木と良は拳を上下にお互いにぶつけあった後、ルーブジャイロを構える。

 

「「オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!」」

 

最初に、良が空中に浮かんだルーブクリスタルホルダーを手に取ると、彼はそこから「ウルトラマンギンガ」の絵が描かれた水のクリスタルを取り出し、クリスタルの1本角を立ててジャイロの中央にセット。

 

「纏うは水!! 紺碧の海!!」

 

そこから良はルーブジャイロの左右にあるトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! アクア!』

 

そして良は全身を水に飲み込まれ、青い巨人「ウルトラマンブル アクア」へと変身を完了。

 

続けて、春木もまた手に取った5つのクリスタルが融合した「輝」と書かれたクリスタルの角を2本立て、ルーブジャイロの中央にセット。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

『輝クリスタル!!』 

「纏うは輝!! 不屈の意志!!」

 

そしてジャイロの左右にあるトリガーを3回引き、春木は右腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! ブレイバー!!』

 

そして、春木はロッソの身体のラインが金色となり、右腕に金色のブレスレット・・・・・・「ルーブレスレット」を装着した姿・・・・・・「ウルトラマンロッソ ブレイバー」へと変身したのだ。

 

『やった・・・・・・! 変身出来た!!』

『あぁ』

 

挿入歌「Hands」

 

『行くぞ!! 良!!』

『今度こそ終わらせる!!』

 

そしてデーモンギラレスもまた、ロッソとブルが復活したことに気付くと、彼等の方へと身体を振り向かせると同時に光弾、ビーム、熱線、火炎を無造作に放ち、ロッソとブルに攻撃を仕掛けるがロッソは左腕に旋刃盤のような武器、「神屋楯比売」を出現させ、右腕に装着すると光のワイヤーで繋いだ神屋楯比売をヨーヨーのように操ることで神屋楯比売の刃でデーモンギラレスの放ったビーム、熱線、火炎を全て切り裂いて防ぐ。

 

そこからロッソとブルはデーモンギラレスに向かって駈け出して行き、ブルは空中に浮かび上がり、デーモンギラレスの頭上に向かってかかと落としを繰り出す。

 

『オリャアアア!!!!』

 

しかし、それをデーモンギラレスは左腕の鉄球を振るって叩き落とそうとするのだが、それはロッソが地上から放った巨大な拳を模った衝撃波を放つ「ナックルビッグインパクト」によって弾かれ、ブルのかかと落としが見事にデーモンギラレスの頭上にクリティカルヒット。

 

「グウウ!!? ガアアアア!!!!」

 

だが、攻撃を受けたと言っても多少怯んだだけでまるでダメージにはなっておらず、かかと落としを決め、自分から一度離れようとしたブルを拘束しようと無数の触手を伸ばして来るが、ブルは紫の姿、「ウィンド」に変わるとデーモンギラレスの伸ばして来る触手を素早く躱しながら頭部から「ルーブスラッガーブル」を取り出す。

 

さらにインナースペース内の良はクリスタルホルダーから「雷」と書かれた「ウルトラマンエックス」のクリスタルをスラッガーブルにセット。

 

『ウルトラマンエックス!!』

 

スラッガーブルの刀身に緑色の電撃を纏わせた「スパークカッター」を使いながらブルは目にも止まらぬ素早い動きでデーモンギラレスの触手を全て切り裂く。

 

『スパークアタッカー!!』

「グルウウウ!!!!」

 

ならばと先ずはロッソから潰してやろうと左腕の鉄球を思いっきりロッソに振り下ろし、殴り潰そうとするのだが・・・・・・ロッソは1つの光の刀「生大刀」を生成し、ロッソは生大刀を素早く振るうとデーモンギラレスの鉄球は一瞬で細切れにされ、粉々に破壊される。

 

『シェアア!!』

「グウウウ!!?」

 

それにデーモンギラレスは驚き、動揺した様子を見せるが・・・・・・ならば今度は熱線、ビーム、火炎をロッソにだけ集中して放ち、遠距離からの攻撃を試みる。

 

だが、ロッソはそれらの攻撃を全てすり抜けてデーモンギラレスの腹部辺りにまでジャンプすると、冷気を纏わせた拳によるラッシュ攻撃「アイスラッシュ」を何度も繰り出す。

 

『アイスラッシュ!! オラオラオラァ!!』

 

何度も腹部を殴られ、殴られる度にデーモンギラレスの腹部が凍り付いて行くのだが、デーモンギラレスは「やめろ!!」と言わんばかりに右腕の剣を振るってロッソをなんとか引き離す。

 

そこからロッソとブルは一度地上に降り立ち、ロッソのインナースペース内の春木は自身の右腕に装着された「ルーブレスレット」を構え、左手でそれを添えると・・・・・・ブレスレットを変形させ、金色の槍型の武器・・・・・・「ルーブランス」へと変化させる。

 

『ルーブランス!!』

 

さらに春木はルーブランスの先端部分の中央にある丸い窪みに火のクリスタルをセットすると、ルーブランスは炎を纏った状態「フレイムランス」へとさらに変わる。

 

『ウルトラマンタロウ!』

『フレイムランス!!』

「グルアアアアアア!!!!」

 

そんなロッソに、だからどうしたと言わんばかりに剣を振り下ろして来るデーモンギラレスだったが、ロッソは全身を炎に変化させることでデーモンギラレスの攻撃がすり抜けると、炎そのものとなったロッソがさらにそこから4つの炎の槍に変わると、それらが一斉に敵を貫く「フレイムランスシュート」が放たれ、デーモンギラレスの身体を貫く。

 

「グウウウウウ!!!!?」

 

最も、その巨体さ故か・・・・・・多少のダメージは通ったものの4つの槍で身体を貫かれたくらいでは死なず、デーモンギラレスは無防備な状態の勇者達の姿を視界に入れると彼女等に向かってビーム、火炎、熱線を放つという卑劣な手段を決行。

 

「っ、こっちに攻撃してきた!?」

『マズい!! 良!! 今度はお前がこれを使え!』

 

それを見てロッソは赤い姿のフレイムになると、インナースペース内で春木は輝クリスタルを良に手渡す。

 

『ってこれ、俺にも使えるのか兄貴!?』

『四の五の言ってないで使え!! 多分、今はお前が使った方が良い!!』

『わ、分かった!! セレクト!! クリスタル!!』

 

ロッソに言われ、戸惑いつつもインナースペース内の良は言われた通り輝クリスタルをジャイロにセット。

 

『輝クリスタル!!』

『纏うは輝!! 不屈の意志!!』

 

ジャイロの左右にあるトリガーを3回引き、良は左腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンブル!! ブレイバー!!』

 

すると、ブルの姿が青から金色の姿へと変わり、良の右腕にもルーブレスレットが装着されると、良は左手をルーブスレットに添えて、ルーブレスレットをルーブランスに変化させる。

 

『ルーブランス!!』

 

そして、ブルがルーブランスを地面に突き刺すと友奈達の前に巨大な氷の壁が出現し、その壁がデーモンギラレスの放った火炎、ビーム、熱線を防ぐ。

 

「グウウウウウ!!!!!」

 

勇者達を殺すことも阻止され、ロッソとブルを睨み付けるデーモンギラレスだったが、ロッソとブルも友奈達を狙われたことに怒り、デーモンギラレスに対し、睨み返す。

 

『お前!! よくもあんな状態の友奈達を・・・・・・!!』

『許さん・・・・・・!!』

 

そこでインナースペース内の良は、ルーブランスの先端の窪みに水のクリスタルをセット。

 

『ウルトラマンギンガ!!』

『アクアランス!!』

 

ルーブランスを水を纏った「アクアランス」に変化させると、ブルの周囲に水の球体が3つ浮かび上がり、その球体とはアクアランスから放たれる強烈な水流「アクアランスシュート」を放ち、それを受けたデーモンギラレスは軽く吹き飛ばされる。

 

「グウウウ、ギシャアアア!!!!?」

 

それに片膝を突くデーモンギラレスだが、体勢を整えさせるつもりのないブルは「七人御先」の力を使い、7人に分身し、ルーブランスをブレスレットに戻して右腕に装着すると、代わりに今度は黒いエネルギーで作られた鎌のような武器「大葉刈」が出現。

 

さらにそこからブルは7人に分身する「シャドウイリュージョン」を使い、大葉刈を大ぶりに振るって敵を切り裂く「乱れ裂き地獄花」を分身したブル達全員が繰り出し、デーモンギラレスの身体を切り刻む。

 

『『『『『『『乱れ裂き地獄花!!!!!』』』』』』』

「グルアアアアアア!!!!?」

 

それを炸裂させた後、ブルは元の1人に戻るのだが・・・・・・分身は体力を使うのか、ブルはぜえぜえと肩で息をしており、そんなブルの肩に右手を乗せ、心配げに「大丈夫か?」と尋ねるロッソ。

 

『ハァ、ハァ・・・・・・。 ぶ、分身は結構しんどいらしい・・・・・・。 だが、ぜ、全然まだまだ行ける!』

 

しかし、これだけやってもデーモンギラレスは未だ健在であり、ここまでこんなにもダメージを与えたと言うのにまだ立ち上がるデーモンギラレス。

 

『こいつまだ・・・・・・! ここまでやったって言うのに、見た目通りの化け物だな・・・・・・』

 

まだ動けるデーモンギラレスの姿を見て、少しばかり弱音を吐くブル。

 

だが、そんな弱気なことを言うブルに渇を入れるように・・・・・・。

 

「がん、ばれ・・・・・・! 頑張れええええええ!!!! 良くん!! 春木先輩!!」

 

樹海中に友奈の声が響き、ロッソとブルは思わず声のした方に顔を向ける。

 

「先輩、私達にはもう、戦う力は残っていないけど・・・・・・それでも、私は・・・・・・先輩達を信じてます・・・・・・!!」

「部長命令よ、必ず、勝ちなさい!!」

「そうよ! 情けないけど・・・・・・今はもう、アンタ達だけが頼りなの!!」

「っ・・・・・・あっ・・・・・・がんば・・・・・・って・・・・・・」

 

友奈に続くように、今度は東郷、風、夏凜と、この戦いでのダメージのせいか、上手く声が出せないものの必死に応援をしてくれる樹。

 

全員の声援を受け、ブルは自分の頬を両手でパンッと叩き、ロッソと互いに目を合わせると、2人は頷き合う。

 

『俺達は、2人で戦ってるんじゃない』

『あぁ、友奈さんが、東郷先輩が、風先輩が、樹さんが、夏凜先輩が・・・・・・応援してくれている!!』

 

すると、そんなロッソとブルの言葉に反応するかのように輝クリスタルが薄い光を放つと、その光に共鳴するかのように突然友奈、東郷、風、樹、夏凜の身体がぽうっと光に包まれる。

 

そのことに友奈達は戸惑うが・・・・・・それでも、自分達が何すれば良いのか、すぐに分かった。

 

彼女達は、ロッソとブルに向けて、右手をかざすとそこから光がロッソとブルに向かって放たれ、それを受けるとブルはアクアの姿に戻り、ブルはロッソと2人で並び立つとデーモンギラレスを見上げる。

 

ブルは腕をL字に組み、水のパワーを宿したエネルギーを放つ「アクアストリューム」を。

 

ロッソは十字に組んだ腕から炎のエネルギーを集約した破壊光弾を発射する「フレイムスフィアシュート」をデーモンギラレスに向かって放つ。

 

『フレイム!!』

『アクア!!』

『『ハイブリットブレイバーシュート!!!!』』

 

そして、そんな2人の光線が混ざり合い、巨大な黄金の光線へと変化して放たれる必殺光線・・・・・・「フレイムアクアハイブリットブレイバーシュート」がデーモンギラレスへと繰り出され、デーモンギラレスは盾でそれを受け止め、防ごうとするが・・・・・・。

 

盾は再生が追いつけないくらいに木っ端微塵にあっさりと弾け飛ぶとロッソとブル、そして勇者達の力が合わさった光線がデーモンギラレスを飲み込むとデーモンギラレスは身体中から火花を散らし、大爆発を起こして遂に、倒されたのだった。

 

「グウウウウウ!!!!? グルアアアアアアア!!!!!?」

 

デーモンギラレスが最後に倒されると、その直後にゆっくりと樹海化が解け始め・・・・・・同時にロッソとブル、勇者達の変身も解除される。

 

そして気付けば、一気に気が抜けたのもあり、勇者部の7人全員が学校の屋上で倒れ込んでしまうのだった。

 

「いやぁ、美人薄命だからあたし・・・・・・、危なかったけどセーh・・・・・・あはは・・・・・・」

 

風がそんな冗談を言いかけた時、犬神が風の言葉を遮ってぺろぺろと彼女の頬を舐め、それにくすぐったさを覚えた風は思わず笑ってしまう。

 

そんな隣に倒れている風を見て、夏凜は苦笑した後、自分の持つスマホから着信音が鳴り響き、屋上の床に寝そべったままスマホを取り出して画面を見ると、そこには「大赦」と書かれており、彼女は戦いに勝利したことを報告するためにも、通話に出る。

 

「三好 夏凜です。 バーテックスや怪獣と交戦、私を含め、負傷者7名。 霊的医療班の手配を願います。 尚、今回の戦闘で、12体のバーテックスとそれに伴う怪獣達は、全て殲滅しました! 私達、讃州中学勇者部一同が・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、アイゼンテック、社長室にて・・・・・・。

 

「はああああ~・・・・・・! なんてギリギリの戦いをしやがるんだアイツ等は!! あともう少しで世界が終わっていたかと思うとゾッとするぞ!! まだ私の目的も完全に果たしていないというのに!!」

 

そこではダーリンに撮影して貰った樹海でのロッソ達の戦いの様子を、アキラが視聴しており、アキラは映像に映るロッソとブルを見つめながら彼等に対し、不甲斐なさを感じずにはいられなかった。

 

「ウルトラマンが2人もいて、女の子達があそこまでボロボロになるとはね・・・・・・。 全く、ウルトラマンだったら女の子5人くらいしっかり守らんか!!」

 

アキラはカイザーギラレス、デーモンギラレスと戦うロッソとブルの映像を観ながらネチネチと彼等に対し文句を言いまくり、人通りの批判が終わると、少しばかり息を切らしながら鞄を持って腰かけていた椅子から立ち上がる。

 

「あー、イライラする!! こういう時はやはり、『彼女達』の曲をメドレーで聴くに限るな!!」

 

アキラはそう言いながら、社長室を出て自宅に帰る為に廊下を歩いていると、社員の1人と思われる男性とすれ違う。

 

「あっ、社長! お疲れさんです!」

「あっ、うん、お疲れさんです・・・・・・んっ? お疲れさんです・・・・・・?」

 

すれ違いざまに、社員に挨拶をされ、アキラも快く挨拶を返すのだが・・・・・・その瞬間、彼は突然立ち止まり、社員の肩を掴むと「よし決めたぁ!!」と意気揚々に社員を指差し、それに「えっ? えっ?」と動揺する社員。

 

 

 

 

 

 

「はい、皆さんに新しいお仲間をご紹介しましょう!」

 

その後、彼はその社員を引き連れてアイゼンテックの地下深くにある薄暗い部屋にやってくると、そこには以前、アキラがテレビの取材を受けていた際、吹き飛ばされてしまった女子校生の妹を見事にキャッチしてみせた兄や、カレーパンを頬張りながら河原を歩いていた風来坊の男性、それ以外にも多数の人間が頭に赤い輪のような装置を嵌められ、虚ろな顔をしてそこに不気味に怪しく立っていたのだ。

 

「はい、これ被って! あっち行っててね」

「あっ、は、はい」

 

社員は戸惑いつつもアキラから手渡された装置を頭に装着し、少しだけ移動させて他の人々と並び立たせると、アキラは「よーし!!」とガッツポーズをして見せる。

 

「さあ、そろそろ見えて来たぞぉ!! ずっと探し続けていたユメノトビラ!! そして未来への足音と、希望への鼓動も聞こえて来たぞぉ!! 皆さんの絆の力、あっ! お借りします!!」

 

そして、彼等の中央の台には周りが錆び付いた状態の「剣」と書かれたウルトラマンのクリスタルを中心に、「炎」「氷」「岩」「嵐」書かれた怪獣のクリスタルが置かれていたのだった。



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第8話 『1つの戦いが終わり』

大赦が管理する病院にて。

 

そこでは先日のバーテックスやデーモンギラレスの戦いで傷を負った勇者達と春木、良の怪我の治療が行われており、風と夏凜、春木、良の4人は現在は病院の共用スペースに設置されたテレビのニュースを観ているところだった。

 

『昨日起こった、工事中の高架道路が落下した事故に関する続報です』

「これって・・・・・・多分、いやきっとこの前の樹海での戦いでの影響・・・・・・だろうな」

「このニュースを観た感じ、人的な被害は無かったようで良かった。 あれはかなりギリギリの戦いだったからな・・・・・・。 現実世界における怪獣の脅威はまだ完全に拭いされていないけど、これで少しは肩の荷が降りる・・・・・・」

 

ニュースを観ながら春木は先日の戦いで起こった樹海での戦いでの影響によって工事中の建物が崩壊こそしたものの、人的被害自体は無かったことにほっと安堵し、良の方もまだ現実世界における怪獣の問題は何も片づいてはいないものの、一先ずはこれでバーテックスや樹海に現れる怪獣は全て倒したことになるので、少しは気が楽になったと楽観的なことを呟く。

 

「おいおい、俺達はまだ気ぃ抜けねえぞ! しばらく友奈達は変身出来ないかもしれないんだ! だから怪獣が現れたらその時は俺達だけで戦い抜かないといけないかもしれないんだ、まだまだ肩の荷なんて降りねえんだからしっかりと気合い入れろ!!」

 

現在友奈、東郷、風、樹、夏凜の5人が所持していた勇者アプリの入ったスマホはメンテナンスの為に大赦が一旦預かることとなっており、そのスマホも何時帰って来るのか、怪獣が何時出現するかも分からない以上、まだまだ気を抜くことなんて出来ないと春木は言い放ち、そんな楽観的なことを言う良に対して春木は彼の背中を強くバンッと叩くとそれに良は「いっ!!?」と声をあげながらジッと自分の背中を叩いてきた春木を睨み付けた。

 

「アンタ等もアタシ達と同じぐらいボロボロの癖に、相変わらず元気ねぇ・・・・・・」

 

そんな南兄弟の何時も通りなやり取りを風は見つめながら、彼女は思わず苦笑してしまうのだった。

 

すると、そこへ診察を終えた友奈が共有スペースにやってくると良は「友奈さん!!」と彼女の名を呼びながら座っていた椅子から立ち上がって駆け寄ると、彼は友奈に対してどこも身体に異常なところは無かったかと心配げな様子を見せる。

 

「良くん! うん、平気だよ! 強いて言うならバッチリ血を抜かれたってだけ・・・・・・って、風先輩その目は!?」

 

そこで友奈は風が左目に眼帯をしていることに気づき、一体その目はどうしたのだろうかと疑問に思うと、風は「ふっふっふ」と不敵な笑い声をあげながら椅子から立ち上がるとバシッとかっこ良さげなポーズを友奈に見せつけるように唐突に決める。

 

「この目が気になるか? これは先の暗黒戦争で戦った際・・・・・・「左目の視力が落ちてるんだって」」

 

ポーズを決めながら厨二病全開な説明をし出そうとする風の言葉を遮りながら、夏凜はただ単に左目の視力が落ちてしまっているだけだと彼女は友奈に説明し、そして言葉を夏凜に遮られた風は折角ノリノリで喋っていたのにと彼女は夏凜にクレームを入れるのだった。

 

「ちょっとちょっと~! 折角魔王との戦いで名誉の傷を負ったニヒルな勇者って設定で語ってるのに~!!」

「ってかそれただの厨二病でしょ。 イタタタ」

「可哀想に・・・・・・前々からその節はあるような気はしてたけど」

 

そんな厨二な設定の解説を入れる風に、春木と良の2人はヒソヒソと「うわぁ」とでも言いたげな会話を繰り広げるのだが、風の耳には思いっきり2人の会話が聞こえており、誰が厨二病だと彼女は反論。

 

「だぁれが厨二病よ!? というか春木!! 前々からってどういう意味よ!?」

「・・・・・・視力が、落ちてる・・・・・・?」

「んっ? そうね?」

 

そこで友奈が風の視力が落ちてるとは一体どういうことなのかと疑問に思い、まさかバーテックス、もしくはあのデーモンギラレスという怪獣が風に対して何かされたのではないかと心配するのだが、風が言うには別にバーテックスにも怪獣にも何されておらず、理由は別にあるとのことだった。

 

「戦いの疲労によるものだろうって。 勇者になると、凄く体力を消耗するらしいから! この目も療養したら治るってさ!」

「そうなんですか・・・・・・!」

「まぁ、あれだけの戦いをすれば当然そうなるのかもしれませんね・・・・・・」

 

特に問題がある訳ではないと風から聞いて友奈はほっと一安心し、良も確かに勇者の切り札とも言える満開まで使用したあれだけの戦いを経ればこうなってしまうのも仕方が無いのかもしれないと思うのであった。

 

「そうなんですか・・・・・・」

「なんたってアタシ達、一気に7体+ラスボスみたいな怪獣纏めて倒しちゃったんだからね!! 身体も疲れちゃうのよ!」

 

するとそこへ友奈と風がそのように話していると、そこに検査を終えたらしい樹と、東郷の2人が共有スペースへとやってきたのだ。

 

「あっ、東郷さん! 樹ちゃん!!」

「私達も検査終わりました」

「樹ぃ~? 注射されて泣かなかった?」

 

東郷が樹共々病院での身体の検査が終了したことを報告すると風はからかうように樹に注射されて泣かなかったかと冗談半分で問いかけたのだが、問いかけられた樹は一瞬困ったかのような表情を見せた後、無言で彼女は首を横に振ったのだ。

 

「んっ? どうしたの?」

「樹ちゃん、声が出ないみたいです。 勇者システムの長時間使用による疲労が原因で・・・・・・すぐに治るだろうとのことですが」

 

なぜか喋らない樹に友奈や風、春木や良に夏凜が疑問に思っているとどうにも話すことができないらしい樹の代わりに東郷がどうして樹が言葉を発しないのかを一同へと説明を行い、風は「アタシの目と同じね・・・・・・」と不思議そうな顔を浮かべながら呟き、左手で自分の左目をそっと押さえた。

 

「・・・・・・」

 

またそんな東郷の話を聞いて、良は怪訝そうな顔を浮かべており、そんな良の様子に気付いた春木は「どうかしたのか?」と首を傾げながら東郷の話に思うところがあるのだろうかと彼は問いかけたのだ。

 

「樹さんは声、風先輩は左目の視力が、医者の話じゃ勇者システムの長時間使用によってそれらの機能を一時的に失ったらしいが・・・・・・何か引っかかるな」

「何かってなんだよ?」

「分からん。 だが、身体の機能の一部が失われたのはどうにも単なる偶然のように思えない気がして・・・・・・」

 

顎に手を乗せながら、勇者システムを長時間使用したことへのデメリットとして風の左目の視力、樹の声帯が一時的に失われているらしいのだが、それらのことに関して良はどうにも頭のどこかで何かがつっかえているかのような感覚を拭い去ることが出来ず、そのつっかえているものが何なのか、必死に考えを巡らせるのだが・・・・・・。

 

(なんだ? 何が引っかかる? 樹さんや風先輩の声帯や視力は本当に勇者システムによる長時間使用が原因なのか? 医者はその内元に戻ると言っているらしいが・・・・・・)

「えっと、きっとすぐに治るよ! お医者さんだってそう言ってたんだし!」

 

しかし、そこで良の発言でみんなが僅かに不安そうな表情になったのを見た友奈がそんなみんなの不安を払拭するかのように医者もすぐに治ると言っていたのだからきっとすぐに治ると言い放つと、風もそれに同意するように頷く。

 

「えぇ、そうね!」

「全くもう、ダメだよ、良くん! みんなが不安になるようなこと言っちゃ?」

「えっ・・・・・・」

 

そう言いながら友奈はぷくっと頬を僅かに膨らませながら良の鼻の先をツンッと右の人差し指で軽く突くと、良は顔を真っ赤にしながら「す、すいません友奈さん!!」と頭を下げて謝った後、彼は友奈の小突いた鼻の先を右手で抑える。

 

(一瞬だったけど、友奈さんの人差し指めっちゃ柔らかかった・・・・・・。 後、頬を膨らませてるの凄く可愛いか・・・・・・って痛い痛い痛い痛い!!」

 

気付けばいつの間にか自分の後ろに回り込んでいた東郷がニッコニッコ笑顔で良の尻を捻るように抓っている姿があり、それに良は涙目になって必死に東郷の手をどうにか振り払いつつ、彼女を強く睨み付けるのであった。

 

「友奈ちゃんに鼻ツンして貰えるとか羨ましい、羨ましい、羨ましい・・・・・・!!」

「アンタなら頼めば友奈さんやってくれると思いますけど!?」

「そういうのじゃない、そういうのじゃないのよ・・・・・・! 友奈ちゃんが自発的にやってくれないと・・・・・・!」

 

一応尻抓りをやめた東郷であったが、彼女は友奈に鼻ツンして貰った良に対して嫉妬の視線をジィィィッと向け、良はそんなに友奈にやって欲しいのならきっと断らないだろうから頼んでやって貰えば良いだろと提案するのだが、友奈が自発的にやってくれるのが良いのだと言い、東郷と良の2人はしばらくの間お互いに睨み合いを続けるのだった。

 

「アイツ等なんやかんやで仲良いよな」

 

東郷も良も友奈には聞こえないように会話をしていた為、話題の中心でもある友奈の耳には2人の声は届いてはいなかった為、友奈は2人が一体先ほどからなんの話をしているのだろうかと首を傾げており、彼女は春木に2人は一体何を話しているのだろうかと尋ねると、春木は内心「お前のことだよ」と内心思いながら苦笑しつつ、彼女の疑問に応える。

 

「東郷さんと良くんはさっきからコソコソなんの話をしてるの?」

「同じ好きなもののことで盛り上がってんだよ」

「ふーん・・・・・・そうなんだ・・・・・・。 あっ! それよりもさ、私達バーテックスや樹海の怪獣ぜーんぶやっつけたんだよ! お祝いしないと!!」

 

そう言いながら友奈は思い出したかのように「じゃじゃーん!!」と売店で買ってきたらしいお菓子やジュースをどこからか取り出して机の上へと広げ、みんなで仲良くお祝いしようと一同へと呼びかける。

 

「随分買ったわね」

「お祝いは豪勢にやらないと!」

 

結構な量のお菓子が並んだことで夏凜は少しばかり驚き、まだ現実世界における怪獣の脅威自体は完全に拭いされてはいないとはいえ、それでも1つの区切りとして自分達なりに盛大に盛り上がりたいということで勇者部一同は友奈の提案に賛同し、こうして讃州中学の勇者部の面々はバーテックス及びに怪獣との戦いの勝利を祝うこととに。

 

そこから友奈はそれぞれのメンバーにジュースを手渡していき、全員飲み物が渡ると彼女は一旦咳払いした後、風に乾杯の一言を頼む。

 

「それでは、勇者部部長から乾杯の一言!」

「えっ!? あ、アタシ!? え、えっと・・・・・・本日はお日柄も良く・・・・・・!!」

「真面目か!?」

 

唐突に友奈に話を振られたことで特に何も考えて無かった風はお堅くぎこちない口調となってしまい、それにすかさず夏凜からのツッコミを彼女は受け、そんな漫才のようなやり取りをする風と夏凜に一同は思わず笑ってしまうのだった。

 

「あはは、堅苦しいのは抜きで!」

「それじゃ・・・・・・! みんな良くやったー!! 勇者部大勝利を祝ってかんぱーい!!」

『かんぱーい!!』

 

友奈に何時も通り風らしく振る舞えば良いと言われたことで、彼女は勇者部の勝利を祝う一声をあげるとそれを合図に勇者部の一同はジュースを掲げて乾杯し、一斉に口の中に飲み物を流し込むのであった。

 

「・・・・・・っ!?」

 

しかし、その際友奈だけはジュースを飲んだ瞬間、何かを驚いたかのような表情を見せるのだが、すぐに彼女は何事も無かったかのようにジュースを飲み続けるのだが・・・・・・。

 

「「・・・・・・」」

 

そんな彼女の不自然な様子に、東郷と良は真っ先に気付き、一体どうしたのだろうかと2人は心の中で首を傾げるのだった。

 

「そうだ! 春木と良以外のみんなに渡したいものがあるんだった!!」

 

そんな時、風がどこからか取り出したダンボールをテーブルの上に置くとその中にあったスマホを友奈、樹、東郷、夏凜にそれぞれ手渡し、夏凜はこのスマホは何なのだろうかと尋ねると以前使用していたスマホは先ほども述べたように大赦が回収してメンテを行っている為、その代わりのスマホを大赦が用意してくれたのだという。

 

「新しい携帯! 前に使ってたのは回収されたでしょ?」

「はい、この病院に来た時に」

「あっちの携帯はメンテナンスとかで戻ってくるのに時間がかかるからしばらくその携帯を使って」

 

新しいスマホを渡されたことで友奈は「わぁ、新品だー!!」と喜びを露わにし、東郷は早速新しく支給されたスマホを弄ってみると彼女はこのスマホには勇者に変身するための勇者アプリが入っていないことに気がつき、風が言うにはこのスマホにはあのアプリを使うことは出来ないとのことだった。

 

「あー、あのSNSアプリは使えなくなってるの。 あれ勇者専用のだから」

「そう、そのことについても、ちゃんと話し合わないとな・・・・・・。 大赦からは何も聞いてないのか風?」

 

それはここにいる全員が以前からも少々疑問に思っていた「樹海での戦いが終わったら、勇者である5人はこれからどうするのか?」という問題。

 

春木はそのことについて何か大赦から聞かされていないかと風に尋ねるのだが、現状大赦からは何も聞かされておらず、彼女は春木の質問に対して首を横に振ることしかできなかった。

 

そもそも、友奈、東郷、風、樹、夏凜の5人に与えられた勇者としての本来の神樹からの御役目は「13体のバーテックスの撃退」であり、その中には「怪獣退治」なんてものは含まれていない。

 

樹海にバーテックスと共に現れる怪獣なら兎も角、現実世界に現れる怪獣の対処までは本来勇者の御役目として彼女等には与えられてはいないのだ。

 

それに勇者やバーテックス、樹海の存在は世間的にはその存在を秘密にしなければならない。

 

「だから、大赦としては現実世界で私達が怪獣と戦うことは避けて欲しいと思ってるんじゃないかしらね」

「だとしたら、牛鬼は・・・・・・」

 

そしてこれらのことを踏まえて、夏凜は自分の考えを口にすると友奈達は少しばかりどこか残念そうな顔を見せ、もう勇者になれないのならば牛鬼を呼び出したりすることは出来ないのかと風に彼女は尋ねると、やはりというべきか勇者アプリが使えないのならば精霊も呼び出すことは出来ないとのことだった。

 

「ごめん、アプリが使えないからもう精霊は呼び出せないんだ・・・・・・」

「そう、ですか。 ちゃんとお別れしたかったなぁー・・・・・・」

 

牛鬼ともう会えないかもしれないと思うと、友奈はしっかりとお別れが出来なかったことに寂しげに呟き、そんな友奈の肩にポンポンッと春木が励ますように右手を乗せる。

 

「取りあえず、俺達としても友奈達が戦わなくて済むなら、俺達も賛成。 なっ? 良?」

「あぁ。 怪獣が出たら、これからは俺と、兄貴と2人だけでもなんとか戦っていきます」

((なんか、こいつ等だけだと不安・・・・・・))

 

春木は友奈達にこれ以上の負担をかけさせたくないという考えからそう言い放ち、それに良は同意するように頷くのだが・・・・・・。

 

風や夏凜としては「このバカ兄弟2人だけで大丈夫だろうか?」という不安を拭うことができず、2人は疑うような眼差しを春木と良の2人に向け、そんな夏凜と風の視線に気付いた春木は「大丈夫だって!!」と胸を張って問題無いと主張。

 

「それに、つい先日強化フォームも手に入れたしな」

 

そう言いながら良は前回の戦いで手に入れた「輝クリスタル」を使用するのに必要な「影」と書かれたクリスタルを取り出して見せながら、彼は春木の言葉を補足する。

 

「慢心してんじゃないわよ。 そういうところが不安だって言ってんの!」

 

しかし、影のクリスタルを自慢げに見せる良の腕を風は軽く小突き、慢心は禁物だと良は注意を受けてしまうのであった。

 

「怪獣とまともに戦えるのは、ウルトラマンだけですからね・・・・・・。 でも、無茶だけは、しないでくださいね・・・・・・春木先輩」

 

春木の服の袖をキュッと握りしめながら、東郷は無茶だけはしないでくれと頼むと、春木は「あぁ、分かってるよ」と東郷に笑いかけながら返事を返して彼女の頭をワシャワシャと撫でるのだった。

 

「もう、髪が乱れてしまいます、先輩・・・・・・」

「あはは、悪い悪い」

「良くんもだよ!」

 

友奈が良の両手を握りしめながら、良も無茶はしないでくれと言うと、手を握られたことにドギマギしながらも彼は「は、はい勿論・・・・・・」と返事を返した。

 

「アタシ等なに見せられてんのこれ?」

『イチャついてるね、4人とも』

 

そんな春木、東郷、良、友奈の4人のやり取りを見て風は居心地の悪さを感じ、樹はメモ帳に書いた文字を風に見せるのであった。

 

「・・・・・・」

 

一方で、夏凜は先ほどから何かを考え込んで思い悩んでいるかのような表情を浮かべており、そんな彼女の様子に、誰も気付くことはなかったのだった。

 

(もし、もう勇者になれないんだとしたら、私はこれからどうすれば・・・・・・良いのかしら・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「退院は明後日だって! 早く学校に戻りたいなぁ~。 病院にいるのって退屈ぅ~」

「ふふ、私は検査にもう少し長い時間がかかるみたい」

 

その後、バーテックスを全て撃退したお祝いを終えた友奈は東郷の車椅子を押しながら2人はそんな会話を繰り広げており、友奈は東郷が自分と同じタイミングで退院できないことを聞くと彼女は少しばかり残念そうに呟く。

 

「そっか・・・・・・。 一緒に退院出来たら良かったのに・・・・・・」

「・・・・・・友奈ちゃん」

 

すると、少しだけ2人の間に沈黙があった後、不意に東郷が神妙な様子で友奈の名を呼ぶと名前を呼ばれた友奈は「んっ?」と不思議そうに首を傾げる。

 

「・・・・・・身体、どこかおかしいところ・・・・・・あるよね?」

「へっ・・・・・・?」

「さっき談話室でジュース飲んでた時、友奈ちゃんの様子・・・・・・変だったから」

 

東郷からのその指摘に友奈は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐさま彼女は「あはは」と苦笑いを浮かべつつ、東郷相手にその洞察力の高さもあって誤魔化しは効かないだろうと考えてか、友奈は特に嘘をつくような真似もせず、正直に彼女の問いかけに応える。

 

「東郷さん鋭いなぁ。 でも、大したことじゃないから」

「・・・・・・話して」

 

東郷にやんわりとではあるが催促されたこともあり、彼女は正直に先ほどジュースやお菓子を食べても、なんの味もしなかったことを東郷へと話したのだ。

 

「味、感じなかったんだ。 ジュース飲んでも、お菓子食べても」

「・・・・・・」

「多分大丈夫だよ! ほら、風先輩と同じだよ! すぐに治るって! でも、お菓子の味が分からないなんて、人生の半分が損だぁ~」

 

今の友奈の位置からでは東郷の表情は分からないものの、きっと東郷は自分に対して心配げな顔をしているのだろうと考えた友奈はこのぐらいすぐに治るのだからなんでもないとジョークを交えながら笑い飛ばすのだが、東郷の表情は友奈の様子通り、心配げな表情をしたままだった。

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

その夜、東郷は自分の病室で友奈、風、樹の3人が身体のどこかに異常が見受けられたことから彼女は「もしかして自分の身体にもどこかおかしいところがあるのではないか?」と考え、東郷はその確認の一環としてイヤホンで「夢飛行」という曲を聴いているところだった。

 

「・・・・・・」

 

だが、そこで何か違和感を感じた東郷は左の耳のみにイヤホンをつけて音楽を聴いてみると、左の耳からはなんの音も耳に入って来ないことに気付く。

 

「っ・・・・・・!」

 

それは左側だけのイヤホンが壊れている訳では無い。

 

壊れていないのは右側の耳でも音楽を聴いたので壊れていないのは実証済み。

 

そして東郷は自分の身体にも異常があったことから「やはり」とでも言いたげな表情を浮かべるのであった。

 

 

 

 

それから3日後、東郷を除く勇者部のメンバーが無事に退院し、今日から一同はまた学校に通うこととなり、放課後には以前と同じように勇者部のメンバーは何時も通り部室に集まることに。

 

「あ゛ぁ゛~」

 

部室では既に風と樹、春木と良が集まっており、風は部室に設置してある扇風機の前で声を発しながら涼んでいるところだった。

 

「結城 友奈、来ましたー!!」

 

そこへ丁度友奈が部室へと入って来ると風は友奈の方に振り返りながら「お疲れー!」と挨拶を交わすのだが、そんな時、友奈は風が左目に黒い眼帯をしていることに気づき、彼女は「あれ?」と首を傾げる。

 

「風先輩、眼帯が・・・・・・」

「どうよこれ!?」

 

友奈が自分が眼帯をしていることに気付くと、風は「ふっふーん!」とドヤッとした顔を浮かべながらこの眼帯どうだろうかと彼女に感想を聞くと友奈は興奮した様子で感想を述べる。

 

「超かっこいいですぅ!!」

「かっこ・・・・・・良いのか?」

「やっぱり厨二病じゃないですか、風先輩。 きっとその内邪眼がどうとか言い出すぞ」

 

友奈は風の眼帯をお気に召したようだったが、春木は「あれかっこいいか?」と頭に疑問符を浮かべ、良はやはり厨二病になりかけているじゃないかと少々風に対して心配げな視線を送ると、風はそんな2人に対して「誰が厨二病じゃい!!」と反論。

 

「厨二病じゃないわよ! イケてると思ったからつけてんの! って、あれ? そう言えば夏凜はー?」

「あれ? 来てないんですか?」

 

そこで風は春木や良に文句を垂れつつ、夏凜は友奈と同じクラスメイトだったことから、てっきり一緒に来るものだと思っていたようで友奈に彼女の行方を尋ねるのだが、友奈も夏凜は先に部室に来ているものだと思っていたようで彼女も夏凜が今どこにいるのかは知らないらしい。

 

「むむ? サボりか? 後で罰として腕立て伏せ1,000回とかやらせよう!」

「それ罰になってます?」

「夏凜ちゃんだったら本当に出来ちゃいそう・・・・・・」

「否定出来ない・・・・・・!」

 

風は夏凜からなんの連絡も貰っていないことから今日はサボりだろうかと疑い、彼女はそのペナルティとして1,000回の腕立て伏せを後で命じてやろうと考案するが、彼女の運動神経の高さを知っている者達からすれば夏凜は「何時もやってることよ」とか言いながら涼しい顔してやり切りそうだと良も友奈も風もその光景を簡単に想像できてしまった。

 

「サプリを決めながら、『朝飯前よ!!』って言って・・・・・・」

 

すると樹が持って来ていたスケッチブックに何かを書き込んでそれを風達に見せると、そこには「かりんさん、何か用事があったんでしょうか?」と書き込まれた文字があり、それに風も「そうかもね」と彼女の意見に同意するのだった。

 

「そのスケッチブックは?」

 

そんな樹の持つスケッチブックを見て友奈が不思議がると、どうやら樹は今、声が出ない為、声が出るまでの間の応急処置としてしばらくはこうして会話することにしたのだという。

 

「声が戻るまでの、応急処置。 その内治るから、少し我慢ねー。 さて、それじゃ今日の活動だけど、5人しかいないのよねー。 衣装のこと話したかったんだけど」

「「衣装・・・・・・?」」

 

話を切り替えて、風は今日の活動内容について話し合おうとするのだが、友奈と春木は「なんのことだ?」とでも言いたげな表情を見せ、首を傾げる2人。

 

「文化祭の衣装のことよ?」

「あっ、そうでした!!」

「そう言えば第1話でそんなこと言ってたな!?」

『メタ発言やめてください、春木先輩』

 

風に教えられて文化祭で演劇やりたいみたいなことを言っていたのを友奈と春木は思い出し、メタなことを言い出した春木にはすかさず樹がスケッチブックでツッコミを苦笑しながら入れるのだった。

 

「勇者の活動が一大事だったから、忘れてたでしょ?」

「それ+ウルトラマンのことでも色々あったしなぁ・・・・・・」

「あははは・・・・・・」

 

勇者とウルトラマン、その両方のことでここ最近勇者部はゴタゴタしていたので友奈も春木もすっかり文化祭のことを忘れてしまっており、風に指摘されて2人は少しばかり申し訳無さそうな表情を浮かべるのだった。

 

「まぁでも、これはちょっと出来れば全員揃ってからの方が演劇の話し合いしたいし・・・・・・」

 

風としては出来れば今日は全員揃ってから文化祭で行う演劇の話し合いをしたかったようなのだが、東郷は未だに入院中、夏凜も不在であるため、彼女は今日の活動をどうしようかと両腕を組みながら考えているとそこで樹がスケッチブックに「他の部活の手伝いは?」と書き込んで尋ねると風は「何かあったかな?」と思いながら自分のスマホを確認。

 

「そうそう、剣道部から練習に付き合って欲しいって依頼があったのよねー。 ってそれ夏凜をご指名か」

「夏凜先輩なら確かに剣道部は適任ですね」

「でも今夏凜いないしなー。 俺も運動には自信あるけど剣道は全然やったことないから代わりを務められそうにもないなぁ」

 

勇者部の他の部活の依頼内容を聞き、良は確かに夏凜なら剣の扱いに慣れているであろうことから適任だろうと納得するが・・・・・・。

 

今夏凜は不在状態な上、体力に関しては夏凜にも負けておらず、よく運動部の助っ人に駆り出されることの多い春木も、剣道に関しては全然やったことがないということで彼女の代わりを務めるには役不足感否めないことから「どうしようか」と悩むが、取りあえずは夏凜が戻ってくるまでの間「保留」ということになるのだった。

 

「他には・・・・・・そうだ! ホームページの更新は!?」

「私達が入院している間、ホームページの更新止まってましたからね。 あっ、でも~東郷さんがいないと更新のやり方が分からないです・・・・・・」

「更新ぐらいなら俺が・・・・・・。 一応、俺もホームページの制作には携わっているので。 と言っても東郷先輩ほどでないにしてもすぐに終わってしまうと思いますが」

 

良は自分もホームページの制作には関わっているので更新のやり方は分かるという理由で右手を挙手し、それに対して風は「じゃあ任せた!!」と言うと良は頷いてパソコンの前に座り、早速ホームページの更新を行うのことに。

 

「あとは、猫の飼い主になってくれる人は見つかって無いし・・・・・・」

『ホームページの更新終わったらやることないね』

 

風は他にも何かやること無かったかと考えるが、ホームページの更新以外にやれることは特に無く、そのことを樹が指摘するとそれに風は「確かに・・・・・・」と小さく呟いた。

 

「仕方無い。 ダラダラしよう!!」

「そうですねぇ・・・・・・」

「良いんか? それで?」

 

結局、ホームページの更新もすぐに終わってしまったこともあり、もう特にやることが無くなってしまった勇者部は今日はダラダラして過ごそうと風は決め、友奈もそれには同意するのだが、春木はそれで良いのかと思わずツッコんでしまうのであった。

 

「・・・・・・俺は良と一緒にちょっと走り込みに行ってくるよ」

「はぁ!? なんで俺まで!?」

 

今日の勇者部の活動は「部室でダラダラしよう」ということに決まったのだが、春木はそれならば今日はやることないのであれば自分と良は外に走り込みに行ってくると言いだし、それに当然ながら良は「なぜ自分まで」と反発。

 

「言っただろ? これからは俺達だけで戦わないといけないかもしれないんだ。 それなら、少しでも鍛えておく必要があると思わないか? 特に良、お前体力あんまり無いんだし」

「ぐっ、確かに兄貴の言い分は正しい、最もだ。 でもな、今外は結構な猛暑だぞ!? せめてやるなら夜にしてくれ! 熱中症や日射病にでもなったら元も子もないだろ!! 怖いんだからな熱中症や日射病は!!?」

 

病院でも言っていたように、友奈達はもう勇者になれない可能性がある。

 

そのため、春木は今後自分達2人だけで戦わなければならないかもしれないのだ。

 

だから春木は少しでも自分達を鍛え上げておくべきではないだろうかと言うのだが、外はそこそこな暑さであり、春木の言いたいことは分かるが、こんな状態で走り込みなんてすれば日射病になってしまうのではないかと良は反論。

 

そうなれば元も子も無いと言われ、それを受けた春木は「それも、そうか・・・・・・」と窓の外を眺めながら納得し、良も「夜ならやってもいい」ということで2人は今日の夜から走り込みを開始することを約束し、結局春木と良も部室でダラダラと今日は過ごすことに決めたのだった。

 

「絶対だぞ! 今日の夜絶対走り込みやるんだぞ!! 約束だからな!?」

「うるさいな!? ちゃんと約束は守るって」

「・・・・・・ごめんね、良くん、春木先輩」

 

そんな時、友奈が申し訳無さそうに春木や良に謝罪の言葉を不意に投げかけ、それに対して春木はキョトンとした表情を浮かべると良も同じく不思議そうに首を傾げる。

 

「いやいや、なんで友奈さんが謝るんですか」

「だって、私達がもう勇者になれないのだとしたら、今までみたいに2人の力になれないかもしれないし・・・・・・」

「そうね、これからは2人だけに負担をかけることになるかもね・・・・・・」

 

友奈に続くように、風や樹もどこか申し訳無さそうな表情を浮かべると、春木は良と肩を組みながら「心配すんな!!」とガッツポーズを見せる。

 

「これも言っただろ? 『友奈達が戦わなくて済むなら、俺達も賛成』だって」

「兄貴の言う通り、後のことは俺達に任せて下さい!」

 

病院の時よりも、どこか自信ありげにそう言い放つ春木と良。

 

けれども、2人はこう言ってくれるものの友奈達はどこか後ろめたさを感じずにはいられないようだった。

 

「だから、みんな気にすんなって! それより、今日は部室でダラダラするんだろ? 俺達も夜の走り込みに備えて鋭気を養う為にも今はしっかり休んでダラダラするぞー!」

 

春木はそう言いながら、椅子に座って台の上にグデーッと身体を長く伸ばしながらだらしない様子を見せると、それを見た他の勇者部員達はクスリと笑ってしまった。

 

「分かった。 アタシは春木達の言葉を信じるわ」

 

そんな春木の姿を見て、風は多少の不安や、未だに申し訳無さを感じるものの取りあえず今は春木達の言葉を信じることにし、それに友奈や樹も同意するように頷く。

 

「ですねー。 でも、私達に何か手伝えることがあるなら、春木先輩も良くんも言ってね?」

「あぁ、勿論です」

 

友奈にそう言われて、良が応えるとそのまま一同は風が最初に提案した通り、今日は全員でグデーッと台の上に突っ伏しながらダラダラと過ごすことを決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、春木達は机の突っ伏し、今日はグータラ過ごすことになったのだったが・・・・・・。

 

「急に熱くなってきましたねー」

「もう夏休み前だしねー」

 

扇風機が1台風を自分達に送って来てくれているとは言え、部室にはクーラーなんて物は無い為、時間が経つに連れて一同は徐々に部室も暑くなっていくのを感じ始めていた。

 

「熱波襲来・・・・・・ソドムでも来てるんじゃないのか?」

「ソドムってなんだよ?」

「『火の神の怒りを鎮め、人々を噴火から救う』って言い伝えられている守り神のことだよ」

 

良と春木がそんな会話を2人でしていると、今度は樹がスケッチブックに文字を書き込み、「とけてドロドロになりそう」という文字を見せるとそれに風も「まったくねー」と同意して頷く。

 

「全員いないとなんだかやる気出ませんねぇ」

「足りない・・・・・・。 何か足りない・・・・・・!」

「何かってなによ?」

 

ぐーたらしつつ、風が今日は何かが足りないと言い始め、春木は部員が全員揃っていないこと以外で何が足りないと言うのかと風に尋ねると、彼女は少し何が足りないのか考え込んだ後、その足りないものがなんなのかが分かったようで不意に椅子から立ち上がる。

 

「東郷のお菓子が足りない!!」

「はっ・・・・・・! それだ!!」

 

東郷はよくほぼ毎日のように手作りのお菓子を自分達に振る舞ってくれていたことから、風はそれが今の勇者部には足りないのだと言い放ち、それに春木も「コクコクコク!」と激しく首を縦に振りながら同意するように頷く。

 

「俺も東郷のお菓子を定期的に食べないと気合いと根性が微妙に入らないんだよなぁ。 もしかしたら俺は東郷に完全に胃袋掴まれたかもしれん」

「それ東郷先輩が聞いたら滅茶苦茶嬉しがるな・・・・・・兄貴」

『というか先ず食べ物なの?』

 

そのように東郷の手作りお菓子に飢える風と春木を見て樹がすかさずスケッチブックに書いた文字でそんな2人にツッコミを入れるのだった。

 

(東郷さんのお菓子・・・・・・。 今は味分からないんだ。 早く治らないかなぁ・・・・・・)

 

尚、春木や風の話を聞いていた友奈も自分もこの2人と同じように東郷の手作りお菓子をまた食べたいと思う彼女であったが、今は何を食べても飲んでも味覚を感じない身体になってしまっている為、彼女は早く再び味覚を取り戻したいと心の中で願うのであった。

 

 

 

*

 

 

 

その日の夕方、東郷の入院している病院にて。

 

東郷が病室でノートパソコンを弄っていると、友奈と春木、そして良の3人が彼女のお見舞いへとやってきたのだ。

 

「東郷さん!! お見舞いに来たよー!」

「あっ、友奈ちゃんに春木先輩! それと・・・・・・良くんもか」

「友奈さんと兄貴が来たらめっちゃ嬉しそうな顔したのに、俺の顔を見たら露骨に俺にだけ嫌そうな顔しましたね、東郷先輩」

 

自分の病室に入ってきた友奈と春木の顔を見てパアッと一瞬明るい表情を見せながらとても嬉しそうにする東郷であったが、自分にとって色んな意味でライバルとも言える良まで来たことに彼女は露骨に残念そうな表情となるのだが、それに良は自分も同じ立場ならきっと東郷に対して同じ反応をするだろうし、東郷の反応が予想通りだったこともあって特に何か文句を言ったりもせず、ただ彼は苦笑いを浮かべるだけであった。

 

「別に、嫌そうな顔なんてしてないわよ私は? 良くんがいなければ『両手に花状態だ! やったぁ!!』とか全然思ってないわ」

「おもっくそ思ってるじゃないですか! 完全に俺のこと邪魔者扱いしてるじゃないですか!」

「お前等一体なんの話してんだ」

 

相変わらず口喧嘩をする東郷と良に春木は呆れ気味に「どうどう」と2人を落ち着かせる。

 

「んっ? あれ? 東郷さん、パソコンなんて弄って何してたの?」

 

するとそこで友奈が東郷がノートパソコンを開いて何か作業をしていた様子に気付くと、彼女はそれが気になったのか「何してたの?」と尋ねると、東郷は「ちょっと調べ物」とだけ応えた。

 

「なになに!? 何を調べてたの!?」

「大したことじゃないから・・・・・・」

「いいじゃん! 教えてよ~!」

 

友奈は東郷の言う調べ物について興味を持つと、彼女は両手をワキワキさせながら東郷の言う調べ物というのがなんなのかと問いかけ、そんな友奈に東郷が「しょうがないなぁ」とでも言いたげに思わず苦笑すると彼女はなんの調べ物をしていたのかを観念して友奈に教えるのだった。

 

「調べてたのは、私達が暮らすこの国の特殊性。 及び正しいあり方を神世紀以前からの国家に比較考察して、現在の現在の護国思想の源流を大和神話の関連性に求める事の有意義! そして私達が今後担う時代のあり方を・・・・・・!」

「ごめんなさい! 私が悪かったです! 頭が追いつかない・・・・・・!」

 

しかし、その内容は友奈には到底理解できるものではなかった為に、彼女は無理に聞き出してしまったことを申し訳ないと頭を下げて謝罪し、彼女の隣にいた春木も東郷が何を言っているのか分からずちんぷんかんぷんで混乱して頭からプスプスと湯気が出ていた。

 

流石に良だけは東郷が何を言いたかったのかは理解できているようだったが。

 

「それより、来てくれてありがとう」

「私も東郷さんと話したかったし! っていうか、東郷さんがいないと学校の楽しさが当社比3割減だよー!」

「ふふ、随分減っちゃうんだね!」

 

東郷がいないと学校での楽しさがかなり減ってしまうと嘆く友奈に、東郷は思わず笑ってしまい、それに春木も友奈の言葉に同意するように自分を指差しながら「俺も俺も」とアピールする。

 

「俺も、東郷がいないとなーんか物足りない感じがしてな」

「春木先輩にもそんな風に言って貰えるなんて、嬉しいです。 私・・・・・・」

「おう、だから早く元気になって退院してくれよなー!!」

 

春木は東郷の頭をくしゃくしゃと撫でると彼女は「やめてください、髪が乱れてしまいます」と言いながらも嫌そうな表情はせず、むしろ逆に嬉しそうな顔を浮かべるのであった。

 

「こんなこと、東郷先輩に言うのは癪だが、俺もあなたがいないと張り合いが無いが感じがするんですよね・・・・・・」

「あら、良くんが私にそんなこと言うなんて珍しいわね・・・・・・」

 

まさか自分にとってのライバルであるはずの良にまで自分がいなくてそんな風に言われてしまった東郷は、そのことに少し驚いた様子を見せるのだった。

 

そんな風に、春木達は少しの間みんなで談笑をしていたのだが、ふっと東郷が神妙な顔つきとなると、春木や良の顔を見ながら彼女は自分も左耳が聞こえなくなったことを打ち明けるべきか少しばかり悩んだ後、ずっと隠していてもしょうがないと彼女は判断し、友奈ともそのことで話し合いたかったことや、良の意見も聞きたかったことから東郷は友奈、春木、良の3人に自分も左耳の聴力を現在失っていることを打ち明けたのだ。

 

「・・・・・・そっか、東郷さんは左耳が聞こえなくなってるんだ・・・・・・」

「うん・・・・・・」

「ってことは、まさか友奈さんと夏凜先輩も・・・・・・!?」

 

それを受けて友奈は少しばかり驚いたような表情を見せ、また東郷の話を聞いた良は風や樹に続いて東郷までもが身体の機能の一部が停止していることから、夏凜や友奈の身体にも何か異常が起こっているのではないかと考え、良は心配げな視線を友奈に送るのだが・・・・・・。

 

「へっ!? あっ、いやぁ・・・・・・私は全然大したことないし・・・・・・あはは・・・・・・」

 

春木や良に心配をかけまいとしているのだろうか、友奈は自分も味覚が無くなっているというのに、彼女はそれを隠すかのように笑って誤魔化そうとするのだが、目が泳いでいたことから友奈が嘘をついているのは一目瞭然で良は勿論、それは春木にだってバレバレだった。

 

「嘘が下手だな、友奈。 今のお前が嘘ついてんの、俺にだって分かるぞ?」

「友奈さん! あなたも、自分の身体のどこかに異常がでてるんじゃないんですか・・・・・・? 正直に答えてください!!」

 

良は睨み付けるようにジッと友奈の顔を見つめると、友奈はバツが悪そうな顔を浮かべつつ、彼女は「こくんっ」と首を縦に振ったのだ。

 

「実を言うとね、私は味覚が無くなってたんだ。 みんなに、心配かけたくなかったんだけど・・・・・・バレちゃった・・・・・・」

 

苦笑しつつ頬をポリポリと搔きながら遂に観念した友奈は自分は味覚が無くなるという異常が出ていることを春木と良にも正直に応え、話した。

 

「でも、きっと大丈夫! すぐ治るよ! 目いっぱい戦ったし!!」

「そうね。 友奈ちゃんの言う通りかも。 身体がちょっと悲鳴あげてるのかな?」

「だ、だよな! 医者も治るって言ってたんだろ? 気合いと根性がありゃきっともっと早く治るから2人とも頑張れよ!」

 

だが、友奈はきっとすぐに治ってくれると信じ、それに東郷もあれだけ激しい戦いをしたのだからきっとそうなのだろうと同意し、春木も少しばかり動揺していたものの彼もまたきっとすぐに治ると信じる姿勢を見せるのだが・・・・・・。

 

良だけは怪訝な表情を浮かべたままであり、彼は何か考え込んでいるようだった。

 

(確かに、先日の戦いはこれまでで1番ハードでキツい戦いだった。 身体に何かしらのダメージが来るのも当然だとは思うが・・・・・・本当にそれだけなのか? もっと何か、明確な理由が・・・・・・)

「あっ、もうこんな時間! そろそろ帰らないと・・・・・・」

 

そこで友奈が時計を見て流石にもう帰らないといけないと言うと、春木や良も今日から走り込みをやる予定なのもあり、3人は東郷に別れの挨拶を済ませ、病室を後にするのであった。

 

「明日もまた来るね!」

「早く元気になれよ、東郷!」

「ではまた・・・・・・」

「うん、待ってる!」

 

 

 

 

 

 

それから・・・・・・春木達3人が帰ったことを確認した東郷は、閉じていたパソコンを再び開くと、画面には彼女が作ったらしい表のようなものが作成されており、表には春木と良以外の勇者部のメンバーの名前と、これまで確認された自分達の身体の異常が書き込まれていた。

 

「・・・・・・」

 

そこで東郷は自分のスマホを取り出して風へと電話をかけるとすぐに風が通話に出ると彼女は野太い声で「私だ」と応えるのだが、東郷はそんな風を無視して話を進める。

 

「あの、伺いたいことがあるんですが・・・・・・」

『スルーされたぁ・・・・・・。 でもまあいいわ。 なに?』

 

無視をされたことに軽くショックを受けたものの、東郷の声色から真面目な話だということをすぐに察知することが出来たからか、持ち直した風は東郷は何を自分に聞きたいのかと、自分に応えられることなら言ってくれと返事を返したのだ。

 

「満開の後遺症とか。 そういうのって風先輩は何か聞いていますか?」

『満開の後遺症? なにそれ?』

「実は・・・・・・」

 

そこから東郷は風に勝手に言ってしまうことは友奈に申し訳無いと思いつつも、左目の視力を失っている風や声が出なくなってしまっている樹と同じように、友奈は味覚が失われていることを、自分も左耳の聴力が無くなって自分達にも身体に異常が出ていることを纏めて風へと東郷は報告。

 

『あっ、ちょっと待って』

 

その報告を受けた風は樹に話を聞かれるのは直感的にマズいかもしれないと感じ取ったからか、彼女は一旦外に出ると風は改めて東郷の言う満開の後遺症についての説明を求める。

 

『友奈は味覚が無くなって、東郷は左耳が聞こえない。 満開を起こした者は全員・・・・・・? 友奈、言ってくれたら良かったのに』

「友奈ちゃんの性格です。 みんなに心配かけないよう言い出せなかったんだと思います」

『・・・・・・あの娘らしいね・・・・・・』

 

身体に異常を来たしている者の中で、東郷はこれまで確認された身体に異常が出ている者の共通点は、夏凜だけが特にこれといったおかしな様子がなかったことから全員「満開」をした者だけに限定されているのではないかと考え、風は何か大赦から何か事情を聞いていたりしないかと尋ねたのだ。

 

「風先輩は、大赦から何か聞いてないですか?」

『うん。 何も・・・・・・』

「大赦の方々も知らなかったんでしょうか?」

「そうだろうね・・・・・・。 ごめん、こんなことになって・・・・・・」

 

自分が戦いに巻き込んでしまった結果・・・・・・そう考えてしまった風は東郷に電話越しながら彼女に対して深く謝罪し、謝るが東郷は風が悪い訳では無いと責めたりなどしなかった。

 

「風先輩が悪いんじゃありません。 それに身体の調子だって・・・・・・きっとすぐに治りますよ」

『・・・・・・そうだよね。 病院の先生もそう言ってたし!』

 

半ば自分に言い聞かせてるような部分もあるものの、兎に角きっとその内全員治ると信じ、取りあえず今は大赦からの返答を待つことに。

 

「兎に角、大赦からの返答待ちですね」

『うん』

「ありがとうございます、それではまた」

 

これ以上、特に風から聞きたいことは無かった為、東郷は自分の質問に色々と応えてくれた風にお礼を述べた後、通話を切るのだった。

 

 

 

 

 

「満開の後遺症・・・・・・。 何よ、それ・・・・・・」

 

そして・・・・・・東郷との通話を切った後、風はスマホを力強く握りしめながら・・・・・・彼女は自分の家の前で静かにそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

その頃、今日部活に訪れなかった夏凜はというと・・・・・・。

 

夕暮れ時に、家の近くの砂浜で彼女は何時も通り、木刀を2つ持ちながらそれを振るって鍛錬を行っていたのだが・・・・・・。

 

不意に、夏凜は動きを止めると、そのまま木刀を投げ捨てながら砂浜に倒れ込み、彼女はどこか虚無感に包まれたかのような表情を浮かべながら赤く染まった空を見上げた。

 

「・・・・・・戦い、終わっちゃった・・・・・・」

 

怪獣への対処など、大赦が今後どういった対応を取るかは不明だが、もし・・・・・・このまま勇者としての御役目が終わったのだとしたら・・・・・・。

 

戦う為に自分はここへ来たのに、それなのにこれから自分は何をしていけば良いのか、それが分からず、部活に顔を出す気にもなれなかった彼女は今日一日、ずっとそんなことを考えながら過ごしていた。

 

「私、これからどうすれば・・・・・・」

 

そんな時、夏凜の持っていたスマホからメッセージ音が聞こえ、彼女は上半身だけを起き上がらせてスマホを取り出すと、メッセージ画面を開くと連絡してきたのは風からだった。

 

『バーテックスとの戦いの後、身体におかしなところない?』

 

てっきり部活をサボったことをとやかく言われるのかと思ったが、メッセージにはそういった夏凜が予想していたのとは全く別の文章が書かれており、夏凜はそれを不思議に思いながらも「ないわよ。 なんかあったの?」と返事を返す。

 

『満開を起こした人は、身体のどこかがおかしくなってる』

「それって、私以外の全員・・・・・・!? じゃあ、友奈や・・・・・・東郷も・・・・・・!」

 

返事を返すと、即座に風からの返信が行われ、その文を見て驚きの様子を見せる夏凜。

 

「・・・・・・私だけ、私だけ傷を負ってない・・・・・・。 これじゃ、1番役に立ってないみたいじゃない・・・・・・!!」

 

それを受けて、右腕で顔を覆いながら悔しげにそう静かに夏凜はその場で呟くのだった・・・・・・。

 

「私は、戦う為にここに来たのに・・・・・・」

 

 

 

 

 

同じ頃、ヒナタが同級生の友人2人と仲良く学校から帰宅している時のこと。

 

「それでですね! 春にぃが木から降りられなくなった猫さんを助けようと木に登った結果、木が折れて下にいた良にぃを下敷きにしちゃった訳なんですよ!! それで打ち所が悪かったのか入院する羽目になったみたいなんです」

 

ヒナタは友人2人に春木と良の2人が入院する羽目になってしまった時のことを話していたらしく、そんなヒナタの話を聞いていた彼女の友人Aは「それで猫ちゃんどうなったの?」と尋ねると、なんでもヒナタは「ちゃんと無事でした!!」と元気よく解答するのだった。

 

どうやら、春木と良は自分達が入院することになった原因を誤魔化す為に、春木も良も家族に嘘をついてしまうことを心苦しく思いつつも「猫を助けようとして怪我した」という風に、あの2人はヒナタとウシオには説明したらしい。

 

「そっかぁー。 猫ちゃん無事で良かったねー。 ヒナタちゃんのお兄さん達も無事で良かった!」

「まぁ、あのストレートバカ兄貴と頭の良いバカ兄貴もあんまり危ないことしないで欲しいんですけどね、私としては」

 

なんて、話を友人Bとしていたそんな時のことである。

 

「グルアアアアアア!!!!!」

「「「!!!?」」」

 

ヒナタ達の目の前に、突如として唐突に巨大な怪物が現れたのは。

 

 

 

 

 

 

 

少し時間を遡り、アイゼンテックの社長室にて。

 

「ほう、ほうほうほう。 危機感を持って今日から身体を鍛え始めようと言う志は大変立派だ! だがしかぁーっし!! お前等の場合それをやるのが遅すぎるんだよ全く!! テストもう既に最終段階に入っているというのに・・・・・・」

 

社長室に椅子に座りながら、そんなことを大声で怒鳴るように叫ぶアキラ。

 

どうやら彼は今日も今日とて勇者部の部室を盗撮・・・・・・もとい監視していたらしく、どうやらアキラは春木と良のウルトラマンとしての自覚の無さに呆れているようだった。

 

「あの兄弟以外の、勇者部だったか? アイツ等もアイツ等でだっらしない顔しやがって・・・・・・。 初めて会った時はあの方々のような素晴らしいものを持っていると思っていたのだが・・・・・・。 あちらも私の見込み違いだったか?」

 

さらには春木や良だけではなく、何やら他の勇者部のメンバーにもどこか呆れているような節を見せながらアキラはAZジャイロと「艦」と書かれたルーブクリスタルを取り出し、彼はジャイロの中央にクリスタルをセット。

 

『バキシムデストロイヤー!』

「それではそろそろ、最終テストと行こうか! さぁ、ファイトだよ!! バキシムデストロイヤー!!」

 

そして、ジャイロの中央から紫の光が放たれて社長室の窓をすり抜けると光は芋虫のような姿をした怪獣のような姿に変化し、さらに両足と背中に何かの装備品らしきものと、右腕に軍艦の主砲のようなものが装着された「一角超獣 バキシムデストロイヤー」となって実体化し、街に出現したのだ。

 

「ギシャアアアアア!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪獣!?」

「やっぱり、まだ現実世界には現れるか・・・・・・! 友奈、お前は早く安全なところに! あいつは俺達が! 行くぞ良!」

「あぁ!」

 

春木や良が友奈と共に帰路について歩いていると、突如としてバキシムが出現した為、2人は互いに頷き合い、今は勇者になれない友奈には安全なところに避難するように言った後、春木と良の2人は急いでバキシムのいる場所まで駆け出す。

 

「あっ! 春木先輩! 良くん・・・・・・!」

 

走る春木と良の背中を見つめながら、友奈は自分の持つスマホの画面を見つめるが・・・・・・やはり画面の中を幾ら探しても勇者アプリは見つからず、今は春木達の力になれない自分に、彼女はもどかしさを感じるのであった。

 

「また、怪獣が・・・・・・」

 

そしてそれは夏凜も同じであり、彼女はバキシムが街で暴れる様子を海辺からただ見つめるしか無く、彼女は拳を強く握りしめることしかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、行くぞ良!」

「あぁ、準備はいつでもできてる!!」

 

バキシムデストロイヤーの近くまで春木と良が辿り着くと、彼等は周りに人がいないことを確認しつつ、2人は同時にルーブジャイロを取り出す。

 

「「オレ色に染め上げろ!! ルーブ!!」」

 

最初に春木が空中に浮かんだホルダーを手に取り、そこから「ウルトラマンティガ」の絵が描かれた風のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

ティガクリスタルの角を2つ立ててルーブジャイロの中央に春木はセット。

 

『ウルトラマンティガ!』

「纏うは風!! 紫電の疾風!!」

 

最後に春木はルーブジャイロのトリガーを3回引いて右腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンロッソ! ウインド!!』

 

春木は紫の風に包まれ、紫色の巨人「ウルトラマンロッソ ウインド」へと変身。

 

「セレクト!! クリスタル!!」

 

続けて今度は良がホルダーから「輪」と書かれたワニュウドウクリスタルを取り出し、それをルーブジャイロにセット。

 

『ワニュウドウ!』

「纏うは輪!! 特攻の火車!!」

 

また春木と同様に良もルーブクリスタルのトリガーを3回引き、彼は左腕を掲げる。

 

「はあああ、はあ!!」

『ウルトラマンブル! ワニュウドウ!』

 

すると良は眩い光に飲み込まれ、オレンジ色のカラーリングが身体に配色され、両腕に小型化したような「神屋楯比売」が両腕に装着された「ウルトラマンブル ワニュウドウ」へと変身を完了させるのだった。

 

変身を完了させたロッソとブルは暴れるバキシムの前に立ち塞がると、ロッソは専用武器である「ルーブスラッガーロッソ」を頭部から取り出し、先ずはロッソがウインドの力で自身の動きを加速し、一気にバキシムに詰め寄り、攻撃を仕掛ける。

 

『シェア!!』

 

バキシムに詰め寄ったロッソは2本のスラッガーロッソで目にも止まらぬ速さでバキシムを斬りつけまくるのだが、バキシムは多少後退したりはするものの、ダメージをあまり受けている様子は無く、それでもロッソがもう1発斬撃を喰らわせようと右手に持つスラッガーロッソを振るうのだが・・・・・・。

 

バキシムはそれを左手で掴んで受け止めると、右腕に装着された主砲をロッソの胸部に突きつけると強力な砲弾を零距離発射。

 

『ウアアアア!!!!?』

『兄貴!!』

 

吹き飛ばされ、地面を転がるロッソに駆け寄りつつ、今度は自分がとブルは両腕に装着された小型化された神屋楯比売を回転鋸の如く回転させながらバキシムの身体を何度も斬りつけ、バキシムは身体から火花を散らすのだが、それでもバキシムはブルの攻撃を受けながらも左手によるアッパーカットをブルに喰らわせ、殴り飛ばしてしまう。

 

『ガアア!!?』

 

そのままバキシムは口を大きく開けながらブルの右肩に噛みつこうとするのだが、そこでロッソの跳び蹴りがバキシムの頭部に炸裂し、それによってバキシムをブルから引き離すことに成功。

 

『なんだアイツ!? まるで痛みを感じてないみたいに・・・・・・!』

『中々厄介な怪獣みたいだな・・・・・・!』

 

尚、この戦いの様子をダーリンを通して社長室から観ていたアキラはというと・・・・・・。

 

「怪獣じゃない。 バキシムデストロイヤーは超獣だ」

 

ロッソとブルの会話を聞きながら、そんなことを呟いていたのだった。

 

そして場所を戻し、バキシムは両膝に装着された装備から魚雷のようなものを2発地面に撃ち込むと、魚雷は地面に潜り、ロッソとブルの足下にまで来ると爆発。

 

『『ウアアアアア!!!!?』』

 

足下が爆発された衝撃でロッソとブルの2人は空中へと投げ出され、そのまま地面に強く叩きつけられて倒れ込んだのだ。

 

「なにやってんのよ、アイツ等・・・・・・!!」

 

そのようにバキシムに苦戦するロッソとブルの2人に、夏凜は戦いの光景を見つめながらもっとしっかりと戦えと思いながらも今の何も出来ない自分への苛立ちから彼女はギュッとスマホを握りしめるのだった。

 

(これじゃ、本当に私はなんの為に・・・・・・!!)

 

そして、片膝を突きながらも、バキシム対峙するロッソとブルはというと・・・・・・。

 

『クソ! こんな調子じゃ、不甲斐ないって、怒られそうだよなぁ。 夏凜先輩辺りに俺達』

『だな。 これぐらい、楽勝で逆転しないと後で風とかにも色々とドヤされそうだし、もうちょい気合い入れんぞ、良!!』

『あぁ!!』

 

戦闘BGM「ウルトラマンロッソ ウインド」

 

そうやって自分達を鼓舞させつつ、ロッソとブルは再び立ち上がり、ブルはロッソにバキシムの動きを止めてくれと頼むと、それにロッソは快く頷いて承諾し、風のエネルギーを両掌に集め、竜巻をパンチで発射する「ストームフリッカー」を連続でバキシムに向けて放つ。

 

『ストームフリッカー!!』

 

それに対し、真っ直ぐロッソとブルに立ち向かおうと駆け出していたバキシムはロッソの技を喰らったことで動きが鈍り、それによってバキシムは動きを止められ、大きな隙が生まれてしまう。

 

『合体技だ! 兄貴!! 俺の方にもストームフリッカーを!!』

『よし!!』

 

ブルに言われた通り、ロッソはブルにストームフリッカーを連続で放つとブルはそれらを全て両腕の神屋楯比売でそれを受け止めると、神屋楯比売に風が纏わり、ブルは風を纏った両腕の神屋楯比売を高速回転させながら鋸状の巨大な風のカッター、2人の合体技「サイクロンカッター」を2つバキシムへと投げつける。

 

『喰らえ!!』

『『サイクロンカッター!!!!』』

「ギシャアアアアア!!!!?」

 

サイクロンカッターはバキシムの身体を切り刻み、バキシムは身体中から火花を散らしながら片膝をがっくりと突く。

 

『今だ!! セレクト! クリスタル!!』

 

するとインナースペース内の良は5つの精霊クリスタルを融合させ、「輝クリスタル」に変化させると彼を手に取り、ルーブジャイロの中央にセット。

 

『輝クリスタル!!』

『纏うは輝!! 不屈の意志!!』

 

そこからジャイロの左右にあるトリガーを3回引き、良は左腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンブル!! ブレイバー!!』

 

すると、ブルの姿がオレンジから金色の姿へと変わった「ウルトラマンブル ブレイバー」に変わると、良の右腕にもルーブレスレットが装着され、良は左手をルーブスレットに添えて、ルーブレスレットをルーブランスに変化させる。

 

『ルーブランス!!』

「グルアアアア!!!!」

 

ブルがルーブランスを構えると同時に、バキシムが立ち上がるとバキシムは頭部から放つミサイルを連続で発射。

 

だが、ブルはルーブランスでミサイルを全て切り裂いて弾き飛ばすと、そのままバキシムとの距離を一気に詰め、ルーブランスをバキシムに振りかざす。

 

『オリャアア!!』

「ギシャアア!!」

 

それをバキシムは真剣白刃取りの要領で受け止めたのだが、そこで再びスラッガーブルを手に持ったロッソに横腹をバキシムは斬りつけられ、それによって身体のバランスが崩れたバキシムは防御の姿勢が崩れてしまい、そのままブルの振るうルーブスラッガーによる攻撃を受けてしまったのだ。

 

「グルアアア!!?」

『ジュアア!!』

 

さらに下からルーブランスを振り上げることでブルはバキシムは空中へと叩き上げ、その間に良はルーブランスに水のクリスタルをセットする。

 

『ウルトラマンギンガ!』

『アクアランス!!』

 

それによってルーブランスは水の力を纏った「アクアランス」に変化させると、ブルの周囲に水の球体が3つ浮かび上がり、その球体とはアクアランスから放たれる強烈な水の力が宿った光線「アクアランスシュート」を空中へと投げ飛ばされたバキシムへと放つ。

 

『アクアランスシュート!!』

『グルアアアアア!!!!?』

 

直撃を受けたバキシムは身体中から火花を散らしながら地上へと落下するのだが、バキシムはすぐさま起き上がり、足部に装着された装備から魚雷を発射しようとするのだが・・・・・・。

 

『させるか! ハリケーンバレット!!』

 

超高速で投球した光球弾が、相手の少し前で炸裂し、竜巻状の破壊エネルギーとなって相手を切り裂く「ハリケーンバレット」をロッソはバキシムへと繰り出し、その技を受けてバキシムが怯むと今度はインナースペース内の春木が輝クリスタルを手に取る。

 

『輝クリスタル!!』

『纏うは輝!! 不屈の意志!!』

 

そこからジャイロの左右にあるトリガーを3回引き、春木は右腕を掲げる。

 

『はああ、はあ!!』

『ウルトラマンロッソ!! ブレイバー!!』

『ルーブランス!!』

 

ロッソは「ブレイバー」へと姿を変え、ブルは基本形態である青い姿の「アクア」に姿を変えると、ロッソはそのまま真っ直ぐバキシムに向かって駈け出すと、両手に出現させたルーブランスを使い、何度も「突き」による攻撃を連続でバキシムに炸裂させる。

 

「ガアアア!!?」

 

そしてインナースペース内の春木がルーブランスの中央部分に火のクリスタルをセットするとルーブランスは炎の力を宿した「フレイムランス」に変化。

 

『ウルトラマンタロウ!』

『フレイムランス!!』

 

そこからさらに炎そのものとなったロッソが4つの炎の槍に姿が変わると、それらが一斉に敵を貫く「フレイムランスシュート」が放たれ、それらはバキシムへと全て直撃。

 

『フレイムランスシュート!!』

「グアアアアア!!!!?」

 

続けざまに、ルーブスラッガーブルを取り出したブルは、インナースペース内で良が以前風に渡された「刃」のクリスタルをスラッガーブルにセットし、ブルは水の力を宿した巨大な光刃「ワイドショットスラッガー」を放つ。

 

『ウルトラセブン!』

『ワイドショットスラッガー!!』

「グルアアアア!!!!?」

 

そしてロッソ、ブルの必殺技を立て続けに受けたことにより、遂にバキシムの肉体は耐えきることが出来ず、倒れ込み、爆発四散するのであった。

 

『っしゃ、なんとか勝てたな。 兄貴』

『あぁ、この調子でこれからは俺達だけでも戦えるように頑張っていこうぜ、良!』

 

ロッソが腕を前に出すと、ブルもコンッと軽く自分の腕をロッソの腕にぶつけ、これからも来るであろう戦いに2人は気合いを入れるのだった。

 

そしてロッソとブルはそのまま飛び去ろうとするのだが・・・・・・。

 

「ウルトラマンさーん!! ありがとうー!!」

「わぁー!! かっこいい~!!」

 

そんな時、ヒナタと彼女の友人2人の黄色い歓声がロッソとブルの耳に入り、ロッソとブルの2人は互いに顔を見合わせ、少しばかり困惑してしまう。

 

『あれ? ヒナタ・・・・・・に、その友達か?』

『アハハハハ!! そんなカッコイイだなんて、照れるなぁ~!』

 

ヒナタ達が自分達に黄色い声をあげてくれることにロッソは照れくさそうに後頭部をポリポリ搔くとブルはそんなロッソに「なに照れてんだよ」と呆れたような視線を送る。

 

「すいませーん!! 一緒に写真撮って貰ってもいいですかぁ!?」

『えっ!? 写真!?』

『オイどうするよ良!? 俺、髪型とか変じゃない?』

『気にするところそこなのか!? というか、写真はちょっと・・・・・・情報漏洩とかの心配が・・・・・・』

 

なんてロッソとブルが話し合っている間にヒナタはスマホのカメラを起動させてしまい、それに気付いたロッソとブルは慌ててピースサインを作ってポーズを決めながらヒナタ達3人と写真を撮って貰うのだった。

 

 

 

 

 

「なんだよこいつ等ぁ~!! 戦いが終わったら何時までもその辺にいるな!! 原点10だな!! それでもお前等ウルトラマンか!? ああん!!?」

 

アイゼンテックの社長室で、ロッソとブルの戦いの一部始終を見ていたアキラは苛立つように1人でそう怒鳴ると彼は「よし」と小さく呟きながらアイゼンテックの地下室へと向かった。

 

その地下に存在する、とある薄暗い部屋にアキラはやってくると、そこには頭に怪しげな機械をつけられた多くの人々が存在しており、彼等は全員、どこか生気を感じられない表情をしていた。

 

「やはり、なるしかないか。 私が・・・・・・私自身が・・・・・・!!」

 

アキラは力強くそう言い放つと、中央にあったレバーのような装置を引き下げ、機械を装着した人々から何かのエネルギーのようなものが台の上に設置された5つのクリスタルに注がれ、その中央に置かれてある「剣」と書かれたルーブクリスタルの錆が徐々に剥がれ落ちてゆく。

 

そして、錆が剥がれる度に人々からは苦痛に満ちた声が溢れ出すのだがアキラは装置の起動を止めるようなことはせず、構わず続ける。

 

「お、おぉ~!! 遂にこの時がきたかぁ・・・・・・!」

 

さらに次の瞬間、アキラの目の前に、光の粒子のようなものが集い、それが1つの何かの形になろうとしたのだが・・・・・・。

 

しかし、それが完全な形になるには機械のパワーが足りなかったらしく、その「何か」は再び粒子となって飛び散ってしまったのだ。

 

「あ、あれ!? 機械のパワーが足りなかったのか!? へい、ダーリン! もっと機械のパワーをあげるんだ!!」

 

このことにアキラは困惑するが、すぐさま彼はダーリンに機械のパワーをあげるように命令を下す。

 

『これ以上被験者達に負担をかけるのは危険です』

 

だが、ダーリンはこれ以上機械のパワーをあげればここにいる人々の命が危ないことをアキラに告げるのだが、アキラはそれでも構わないと冷酷に告げ、ダーリンにパワーをあげるように再度命令。

 

「構わん! 良いからやれ!!」

『ラジャ!』

「それじゃ皆さん!! ギリギリまで頑張って!! ギリギリまで踏ん張って!! さあ、やり遂げようよ、最後まで!! ファイトだよ~!! 絆の力、お借りしますよ~!!」

 

やがて再びアキラの目の前に光の粒子が集まると、今度こそそれは徐々に形となっていき、アキラはそれを見つめながら不敵な笑みを浮かべる。

 

『エネルギー充填、120%!』

「今度こそ間違い無い! 今こそ、熱い胸できっと未来を切り開く時!! 世界中は誰を待っている!? 世界中は誰を信じる!? そう、この私! 愛染 アキラだ!!」

 

 



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