声劇 下書き (耽次郎)
しおりを挟む

声劇 下書き

声劇用に考えはしたものの、これって欲されているものとちがうのではと感じ没にしたものを、せっかくなので供養と反省を兼ねて、載せます。


エージェント組

 国の諜報部隊に属する人間たち。影の部隊として暗躍している。

 今回は、国の中枢に位置する名家の娘、リオンを秘密裏に守る任務を与えられている。

 

ベルモンド 

 ベテランエージェント。銃の扱いと格闘技術は天下一品。軟派な男に見えるが、仕事に対しては意外と真面目。女好きだが、独自の美学を持っている。本気で惚れる女は大体危険な奴。

 

ヒナ

 新米エージェント。腕は一流。テロリストとの戦いで実戦経験済みだが、暗殺を生業とする殺しのプロとの戦いは今回が初。

 

カスミ

 エージェントをバックから支えるサポート要員。ハッキング、車の運転などをこなす。まだ若いが、ベルモンドとは組織に入る以前よりも付き合いがある。

 

 

 

殺し屋組

 プロの殺し屋チーム。三人組で行動する。腕は超一流。

 

リン

 殺し屋チームのリーダー。銃と訓練を愛しており、殺しは自分の力を最大限に発揮できる仕事と考えている。世の中のことに疎く、それをからかわれることが多い。

 

モル

 鍼使いの殺し屋。体格差を鍼による攻撃でおぎなう。近距離、遠距離と万能に戦える。生き場所が他にないため、殺し屋チームでその腕を振るう。

 

チナミ

 殺し屋チームのバックアップ担当。運転、ハッキングの他、爆弾を用いた破壊工作や陽動などもこなす。明るい性格で、リンやモルという癖のある面子ともその明るさでうまく付き合っている。

 

 

パーティー参加者

 

リオン

 名家の娘。日々退屈しており、非日常を欲している。パーティーが嫌い。うわべだけの付き合いしかしてこないから。

 

スズキ

 リオンの専属執事。リオンによくからかわれているが、互いに信頼し合い、主従でありながら友人のようですらある。

 

メイジー

 歌姫と呼ばれる若手歌手。パーティーに呼ばれ、歌を披露することになる。

 

 

 

以下本編

 

パーティー会場

 

リオン「(独白)パーティーというのは、とても退屈。顔色うかがいと、お世辞で塗り固められた軽薄な言葉。せっかくの豪華で美味しい食事も、不味くなってしまう。いいことなんて、ひとつもない」

 

スズキ「お嬢様?」

 

リオン「あら。どうしたのスズキ」

 

スズキ「いえ、なんだか浮かない表情でしたから」

 

リオン「その通り。いい観察眼をしてるわね。顔色うかがいしているわりに私の退屈に気付かない連中よりはるかに優秀だわ」

 

スズキ「リオン様には立場がございます。もう少しの辛抱です」

 

リオン「あら? 私に指図するの?」

 

スズキ「そ、そんなつもりは……」

 

リオン「嘘よ。自分の立場はわかっているつもり」

 

スズキ「お嬢様……」

 

リオン「(独白)豪華な服。豪華な家。どこもかしこも煌びやかな世界。けれど、あまりに大きすぎて、この場所は大きな箱に見えてしまう。空っぽ。何もかもが。たぶん、私自身も、空っぽなんだろう」

 

 

 屋敷外

 

警備員A(モブ)「中じゃパーティーだってのに、俺たちは外でサンドイッチを食ってるってんだから不公平だよな」

 

警備員B(同じくモブ)「身分違いってやつさ。諦めな。それか、生まれを憎むんだな。うん?」

 

 暗がりに気配を感じる警備員B。

 

警備員B「おい! あんたここで何してる!」

 

 暗闇から出てきたのは、セクシーなドレスを着た美しい女性。

 

リン「すいません。なんだか、飲みすぎてしまったようで……外の空気でもと思って歩いていたら、敷地の外まで出てしまったみたいなんです」

 

 頬に差した紅い色。漏れる吐息。警備員二人は、そんな姿に見とれてしまう。

 

警備員A「そいつは大変だ。屋敷までエスコートしますよ」

 

 警備員Bが恨めしそうに警備員Aを見る。

 

リン「よろしいんですか?」

 

 リンは警備員Aに近づく。

 

警備員A「もちろんですよ」

 

リン「ありがとうございます。けれど、私、どちらかといえば、案内をしたいんです」

 

警備員A「どういうことです?」

 

リン「モル」

 

 風切り音。それと同時に、何かが地面に倒れる音。

 振り返る警備員A。そこには警備員Bが倒れている。

 

警備員A「な、何が……」

 

リン「お先にご案内しただけです」

 

警備員A「何を言って……」

 

 風切り音。警備員Aが崩れ落ちる。

 暗がりから、ドレスの上から黒いフードをかぶった少女が出てくる。

 

モル「……」

 

リン「どうしたの?」

 

モル「……えっち」

 

リン「これも立派な武器。女のね」

 

チナミ「(耳に差した小型無線からの声)リンさんはハニトラの達人ですからね」

 

リン「男を扱うより銃を扱う方が得意なんだけどね」

 

 モルがバックを置く。そこから消音器付きの拳銃を取り出し、手慣れた様子で動作確認をするリン。

 

リン「バックアップ任せたわよ、チナミ」

 

チナミ「(無線)お任せくださいな」

 

リン「モル、どうしたの?」

 

モル「この服、落ち着かない」

 

リン「似合ってるわよ。ドレスが似合う女であることを誇ったほうがいいわ」

 

モル「……」

 

リン「はいはい。じゃあ、さっさと片づけて着替えましょう」

 

モル「そうする」

 

 

パーティー会場

 

ベルモンド「パーティーは良い」

 

ヒナ「どうしたんです突然」

 

ベルモンド「どこを見てもドレスばかりだ。いい目の保養になる」

 

ヒナ「……集中してください」

 

ベルモンド「緊張しすぎると、変化に気づきにくくなるんだよ」

 

ヒナ「本当ですか?」

 

ベルモンド「もちろん。伊達に長くエージェントをやってないさ」

 

カスミ「(無線越し)信じない方がいいですよ。ただ単にスケベなだけです」

 

ベルモンド「ひどいな」

 

カスミ「(無線越し)実際そうでしょう」

 

ベルモンド「否定はしない」

 

ヒナ「……スケベ」

 

ベルモンド「いやいや、下心だけじゃないんだよ本当に」

 

ヒナ「真面目にお願いしますね……あ、来ましたよ」

 

 パーティ会場に入ってくる女性。彼女は、歌姫として有名なメイジーという。

 

ベルモンド「可愛いねぇ」

 

ヒナ「ま・じ・め・に」

ベルモンド「わかってるよ」

 

 

 パーティ会場(VIP席)

 

スズキ「お嬢様。メイジーさんがいらっしゃいましたよ!」

 

リオン「あら、ずいぶんと嬉しそうね。ああいう子が好みなのかしら?」

 

スズキ「な……! ち、違います! 僕はメイジーさんの歌が好きで! いや、そりゃあ、魅力的だとは……思いますけど」

 

リオン「あなた、本当にからかいがいのある子ね」

 

スズキ「お嬢様、退屈だからって僕をからかって遊んでるんじゃ」

 

リオン「そうだけど?」

 

スズキ「お嬢様ぁ」

 

リオン「でも、嬉しいわね。私も好きよ、あの子の歌」

 

 

 パーティ会場

 

カスミ「(無線)そろそろ彼女のステージが始まります。演出上、照明は落とされ、演奏によって音も聞こえにくくなる」

 

ヒナ「そこを狙ってくる」

 

カスミ「(無線)その通りです」

 

ベルモンド「刺客は二人。一人はバックアップだ。現場にはいないだろう。俺たちでその二人を食い止める」

 

ヒナ「(短く息を吐く)」

 

ベルモンド「どうした? 実戦は初めてじゃないだろう」

 

ヒナ「ええ。しかし、今回はプロ中のプロが相手です。武力で制圧するしか考えのないテロリストとは違います」

 

ベルモンド「そうだな。だが、いまさらどうこうできるわけでもないだろう。いつも通りやればいい。向こうも優秀だが、お前さんだって十分優秀だ」

 

ヒナ「……ありがとうございます。少し落ち着きました

 

ベルモンド「上出来だ」

 

カスミ「(無線)そろそろです」

 

 

 パーティ会場

 

モル「メイジーだ」

 

リン「好きなの?」

 

モル「好き。素敵な声、素敵な歌」

 

チナミ「(無線)むしろ、リンさん知らないんですか?」

 

リン「知らない」

 

チナミ「さすが訓練と銃だけを愛する女」

 

リン「何か言った?」

 

チナミ「(無線)いいえなにも!」

 

リン「まあ、誰であろうと関係ないわ。利用するだけだもの」

 

モル「言い方、好きくない」

 

リン「あら失礼。でも、仕事は仕事。わかるわね?」

 

モル「わかってる。そこはきちんとする。ボクだって、プロ」

 

リン「なら、言うことなし。じゃあ、準備しておきなさい」

 

 

 パーティ会場

 

メイジー「今日はこのような素敵な場に呼んでいただき、ありがとうございます。皆様に少しでもよいと思っていただけるような歌を披露できるよう、心をこめて歌わせていただきます」

 

 拍手

 

メイジー「それでは、聞いてください……」

 

 歌

 

ベルモンド「始まった」

 

ヒナ「いつ来るんでしょうか」

 

ベルモンド「考えすぎるな。違和感を探れ。気配をどれだけ消そうが、どれだけ紛れ込もうが、殺しをする以上は、瞬間でもにおいがでる」

 

ヒナ「それをかぎ分けろってことですか?」

 

ベルモンド「その通り。心の嗅覚がなにより大切だ。どうだ? 感じないか?」

 

ヒナ「……ステージ近くに一人」

 

ベルモンド「上等。あと一人は?」

 

ヒナ「……わかりません」

 

ベルモンド「いいさ。一人見つけただけで上等だ。お嬢ちゃんはそっちを頼む」

 

ヒナ「了解」

 

ベルモンド「カスミ」

 

カスミ「(無線)はい」

 

ベルモンド「事が済んだらすぐに車まわせるようにしておけ。あと、監視カメラの細工もわすれるなよ。俺たちは影だ。影は日向の世界じゃ見えないもんだからな」

 

カスミ「(無線)了解」

 

モル「……敵」

 

ヒナ「……!」

 

 風切り音。

 

ヒナ「(独白)なに? 何か飛んできた。かわせたけど、一体何が」

 

モル「(独白)外しちゃった。殺気、消したつもりだったのに。でも、それでもかわされると思わなかった。こっち側の人間?」

 

ヒナ「(独白)下手に逃げ回るのは不利。このまま一気に近づく!」

 

モル「(独白)近づかれた。面倒。でも、しょうがない」

 

 戦闘。周りに感づかれないように、静かな応酬。

 ヒナはモルを抑え込もうとする。

 モルはそれをかわす。

モル「(小声)面倒。誰?」

 

ヒナ「(小声)そっちこそ」

 

モル「(小声)消えて」

 

ヒナ「……!」

 

 何かがヒナの首元に伸びる。すんででかわす。

 

ヒナ「鍼……」

 

モル「……」

 

 

 パーティー会場 VIP席近く

 

リオン「いい歌ね」

 

スズキ「ですよね」

 

 迷いなく歩みを進めるリン。静かに、正確に周りの護衛を射殺し、VIP席に近づいていく。

 

ベルモンド「それまで」

 

リン「(振り返り問答無用で発砲)」

 

ベルモンド「いきなりかい? せっかちな姉さんだ」

 

リン「無駄がないと言ってくれない?」

 

ベルモンド「いいね。そういう女性も好みだ」

 

カスミ「(無線)敵を口説いてどうするんですか」

 

ベルモンド「癖になってるんだ。許してくれ」

 

リン「ほめられて悪い気はしないけど、時間もないし消えてくれない?」

 

ベルモンド「そういうわけにもいかないな。これも仕事なんでね」

 

リン「お互い仕事ってわけね」

 

ベルモンド「そうなるな」

 

リン「じゃあ、やりあうしかないか」

 

ベルモンド「拳じゃなく言葉で語り合いたいがね」

 

リン「あら。じゃあ大丈夫。言葉はこの子が語るから」

 

 発砲。無駄がない動き。弾切れを起こした後のリロードも隙がない。

 

ベルモンド「ささやきは銃じゃなくて君から聞きたいね」

 

 ベルモンドも消音器付きの銃を抜く。互いに近い距離。だが、二人は軌道からうまくはずれ、かわす。

リン「(無線に向かい)チナミ」

 

チナミ「(無線)わかってます」

 

リン「悔しいけど、ここまでね」

 

 爆発。各々の場所で混乱が起きる。

 

リオン「なになに? 事件?」

 

スズキ「お嬢様なんで嬉しそうなんですか! 早く逃げましょう。というか、護衛は何をやってるんだ!」

 

メイジー「きゃっ!(つまづきそうになる)」

 

モル「大丈夫?」

 

メイジー「ありがとう。突然なに? テロ?」

 

モル「平気。これは混乱を起こすためだけのもの」

 

メイジー「え?」

 

モル「下手に動くより、ここにいた方が安全。ボクは行くけど、ここを動かないで」

 

メイジー「行くって……それなら、あなたもここにいたほうが……」

 

モル「ボクは平気。じゃあね」

 

メイジー「ちょ、ちょっとあなた! なんなの、一体」

 

 パーティー会場 VIP席付近

 

ベルモンド「カスミ、どうなってる」

 

カスミ「(無線)混乱に乗じて逃げたらしいです」

 

ベルモンド「それはわかってる。こっちも逃げられた。いい女ってのはどうしてこうすぐに去ってしまうのかね」

 

カスミ「(無線)こんな状態でもそんなジョークが言えるのは尊敬します」

 

ベルモンド「ヒナは?」

 

カスミ「(無線)無事です。でも、動けないみたいですね」

 

ベルモンド「リオンお嬢ちゃんは?」

 

カスミ「執事の青年と一緒に避難済みです」

 

ベルモンド「了解。ヒナを助けに行く。そうしたら、脱出だ。車まわしておけ」

 

カスミ「(無線)了解」

 

 

 殺し屋組 車内

 

チナミ「いやはや。失敗とは珍しいですね」

 

リン「次会ったら殺す」

 

チナミ「……こわー……。モルさんはなんか嬉しそうですね」

 

モル「メイジーちゃんとお話しできた。嬉しい」

 

チナミ「へえ。良かったですね。ね、リンさん」

 

リン「次あったら殺す」

 

チナミ「……ま、生き残れただけよかったですよ」

 

 

 エージェント組 車中

 

ベルモンド「いい女だったなぁ」

 

ヒナ「それしかないんですか頭の中」

 

カスミ「気にしたら負けですよ。それより、ヒナさん大丈夫でしたか?」

 

ヒナ「なんとか。急所を突かれるのは避けたから。それでも、息は苦しいし体は重いしで。すごい使い手だった」

 

カスミ「また会うことがあるんでしょうか」

 

ベルモンド「そん時はきちんとエスコートしたいもんだね」

 

カスミ「ベルモンドさん」

 

ベルモンド「わかってるよ。デートは牢獄ですませるさ」

 

 

 パーティー会場外

 

スズキ「ひどい目にあった。なんだったんです一体」

 

リオン「さあ。でも、楽しかった」

 

スズキ「僕はもう勘弁してほしいです。護衛もみんな死んでるし、シャレにならないですよもう」

 

リオン「こういう非日常もよくない?」

 

スズキ「よくないです!」

 

 少し離れた場所

 

メイジー「あの子、大丈夫だったかな。名前くらい、きいておけばよかった」

 

 

リオン「(独白)こうして、この日のパーティーは散々な状況で終わった。スズキはああいっていたけど、やっぱり、私はちょっと楽しかった、なんてね」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。