エム×ゼロ 規格外の魔法使い(仮題) (九澄清矢)
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プロローグ:出会い

初めて小説を書くので、うまく書けるかどうかわかりませんが、頑張ります!
楽しんでいただけたら幸いでございます。


「ふぁ~・・・」

 

桜並木の歩道。

その中を一人の青年があくびをしながら歩いていた。

彼の名前は「冬木八代」。

今年から聖凪高校に通うこととなった生徒だ。

短髪の黒髪にアメジストのような瞳をしており、

その顔立ちはどこか大人びた表情をしていた。

 

「やっぱすこし早すぎたかな?」

 

桜が舞う季節。つまり春。

春といえば新学期の始まり。

中学から高校へと上がる八代にとって、これが最初の高校生活。

熊本から引っ越してきた彼にとって、初めてはやはり緊張するものだ。

たが、知らない人だらけの学校で不安でありつつも、やはりどこか楽しみにしている。

そんな自分を「子供だなぁ」なんて思いながら歩いていると、やがて聖凪高校の校舎が見えてきた。

 

「やっぱり綺麗なとこだな・・・」

 

自分の見たものに対し率直な感想を述べる。

古き伝統が残ると言われているこの学校は、初めて自分が見たときもその通りであろうと思った。

正直八代にとっては引っ越した際近いから通うのが楽だという理由であったが、

このような素晴らしい学校に通えるのなら、頑張って合格した甲斐があったというものだ。

しかも親はほぼ家に帰れないと言っているため、家は好きにして良いときた。

そのため、今日から自分は事実上ほぼ一人暮らし。

嬉しいやら悲しいやら考えたが、自分の好きなように生活ができるこの環境に、八代は心の中でガッツポーズをとるのであった。

 

「・・・そういえばあいつもこの高校受かったかな」

 

とある日に起きた突然の出来事。

八代は思い起こしながら自分の教室に向かうのであった。

 

 

 

---2か月前 2月7日 聖凪高校受験当日

 

「さて、いっちょやってやりますか!」

 

校門の前で気合を入れながら、八代は聖凪高校に向けて歩き出す。

 

「っ!?八代じゃないか!?」

 

「ん?」

 

校門を通って受験会場まで歩いていたところ、後ろから急に声をかけられた。

振り返ってみると、驚いた表情でこちらを見ている見知らぬ男の子が立っていた。

 

「えっと、悪い。俺君のこと思い出せないんだけど、どこかであったっけ?」

 

「えっ!?誰って俺は・・・あっと、初対面だったよな?」

 

「いや、俺に聞かれても。というかなんで俺の名前知ってるんだ?」

 

「悪い、俺にもよくわかんねぇんだ。なんかパッと頭に浮かんで、つい呼んじまったんだよ」

 

「へぇ、そうなのか」

 

(なんとも不思議なやりとりだな・・・)

 

頭を抱えて「わけわかんね~。俺どうしちゃったんだ~~!!」と頭を抱えている男の子を見ながら八代は苦笑する。

 

(多分どっかであってるんだけど、俺が忘れちゃっててこいつが気を使ってくれてるんだろう)

 

「じゃあしつこくなっちゃうかもしれないけど自己紹介な。俺は冬木 八代。熊本からこっちに引っ越すことになったから、先に受験に来てるんだ」

 

「熊本から!?遠いところから受験しにくるなんて大変だな。えっと、俺は九澄 大賀。急に名前呼んじゃって悪かったな」

 

「別にいいよ。そのまま名前で呼んでくれて構わない」

 

「そっか、じゃあ俺も大賀でいいぜ!宜しくな、八代!」

 

お互い名前で呼び合いながら握手をする。

 

「そういえば八代はなんで聖凪受けるんだ?ここ受験難しいし、熊本から来たならなおさら入りやすい学校受けた方がいいんじゃね?」

 

「まあ普通はそうだよなぁ。でも入れればいろいろ免除されるし、この学校見たとき凄い綺麗でさ。しかもこれから住む俺ん家からスゲー近いから受かったらいいなぁって思ってね!」

 

「ハハハ!最後が一番の決め手みたいだな!」

 

「大賀は?」

 

「俺?俺は・・・」

 

会場に向かいながら話していると急に九澄があることに気付く。

 

「あー、やべー!俺入試案内書を家においてきちまったんだった!」

 

「はぁっ!?お前、何してんだよ!たしか受験はこの入試案内書必須って書いてあったぞ!」

 

八代は自分の入試案内書を見せながら大賀に言う

 

「そうなんだよ!だからわりぃ、俺行くわ!柊父に言われてて、なんとしても合格しなきゃならねえんだよ!それに案内書なら事務室に行けばあるかもしれねえからさ!」

 

「事務室?ああなるほどね。てか、ひいらぎちちって誰?」

 

「説明してる暇はねぇ!八代、すまん!俺行くわ!」

 

鞄を担いで大賀が走り始める。

 

「まったく・・・。大賀!」

 

「なんだよ!俺、急いでるって・・・」

 

「また会おうな!」

 

八代はそういって拳を握り締めて高く上げる。

お互いこの高校に入って再開しようという気持ちを込めて。

 

「っ!おう、また会おうな!!」

 

そういって大賀も拳を上げた後、事務室を探しに走っていった。

 

[受験生の皆さん、校舎へお入り下さい。まもなく面接試験が始まります。面接が始まる前に入試案内書の面接試験の項目を隅々までしっかり読み直しましょう。万が一案内書を忘れてしまった受験生は最寄りの教職員にお申し出下さい。]

 

「あいつ足早ぇな。・・・さて、俺も頑張らないとな!」

 

今度会ったら話せばいい。

八代はそう思いながら、再び受験会場へ向かうのであった。

 

 

 

---現在

 

「あれから無事に入試案内書もらえてれば多分入学できてるはずだよな・・・」

 

唐突の出会いだった。しかも急に名前を呼ばれるというなんとも不思議な出会い。

だからこそ、八代にはあの時の記憶が頭に焼き付いて離れなかった。

 

「楽しそうな奴だったし、また会えるといいな!」

 

そんなことを考えながら八代は校門をくぐり、入学式の会場へと向かうのであった。




いかがでしたでしょうか。
各キャラクターの設定は後ほど上げようかと思ってます。


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第1話:入学

第1話は早めに投稿します。


「えー、それでは1年C組のホームルームを始めます。私の名前は相川 蓮といいます。皆さん、これから宜しくお願いしますね」

 

入学式が終わり、各クラスの教室へ集まった生徒たち。混乱するものもいる中、相川と呼ばれた先生の言葉が教室に響く。

八代は入学式の後、自分の教室である「1-C」に入って、後ろの席でただ静かに先生の言葉を待っていた。

 

「あー、まあなんでしょう。混乱してる方も多いと思いますが、入学案内や入学式でも伝えられていた通り、この学校では普通では体験できない「魔法」に関する勉強をしてもらいます。形式上は他の高校と同様に必要最低限の学力は身に着けてもらいますが、それ以外は魔法についての勉強となりますので、その辺を理解しておいてください」

 

魔法・・・。

この聖凪高校は「魔法特区」と呼ばれる「魔力が強力に生まれる稀有な土地」となっており、本校でのみ使用が許可された特別な力である。

受験時や校門をくぐった時に感じた自分の身体に何かが湧き上がる感覚。

そして、面接時に試験管が発したあの質問と、何も書かれていなかったはずの案内書の最終ページにあった答え。

 

Q「もし、あなたが魔法を使えたらどんな事をしてみたいですか?」

A『日々の生活で、困っている人を助けるために使ってみたいと思います』

 

(なるほど。あれはこういう意味だったわけだな。けど・・・)

 

八代は自身で体験したあの感覚を思い出しながら納得するが、一つの疑問が浮かぶ。

 

「そこで、早速ですが君たちにやってもらいたいことがあります。これから名前を呼ばれた人は所定の場所に行って魔力検査を行って、あなたたち専用のマジックプレートをもらってください。このマジックプレートは皆さんがもらった後にちゃんと説明しますが、本校での生活においてとても重要なものになりますので、絶対に無くさないようにしてくださいね。まあ、これは1人ずつしかできないですし、それゆえに時間がかかってしまうものなので、本日の予定はほぼこれで潰れてしまうと認識しておいてください」

 

「先生、質問よろしいでしょうか」

 

「君は確か、下田明歩くんでしたね。なんでしょうか?」

 

「恐らく私たち全員だと思いますが、この校舎に入るまで「魔法」に関係する記憶が一切ありませんでした。これは何かしらの魔法による影響ということなのでしょうか」

 

(・・・まあ当然の質問だよな)

 

自分も確認しようと思っていたが、下田明歩と呼ばれた女子生徒が手を挙げて質問をする。

 

「いい質問ですね、じゃあまずは・・・。もうこの校舎にいるわけですし、この学校に特別な魔力障壁が展開されていることはみなさん知っていますね。詳しくはこれから勉強するとして、この障壁からはマジックプレートを持っていることと、特別な処置ができる校門でしか外に出ることはできない条件となっているわけです。また、その2つの条件に対して、障壁外に出たときに発動する魔法、簡単に言ってしまうと「魔法に関わる記憶を障壁内に保管する魔法」が強制発動するってわけです。結果、君たちは再度障壁外へ出た場合魔法に関する記憶を忘れてしまうんですけど、再度この学校に入れば思い出すということになるわけです。だいたいわかりましたでしょうか?」

 

「なるほど、貴重なお話ありがとうございました!」

 

「いえいえー。他に質問あったりしますか?」

 

「はいはーい!俺津川 駿っていいます!そもそもこの学校って・・・」

 

下田の質問を皮切りに、ほかの生徒たちが質問を投げ始める。

 

(なるほどな。ここに来た時には話を事前に聞いていたけど、実際この校舎に入るまでは魔法に関することだけがフィルターにかかったみたいにわからなかったわけだ)

 

「相川先生、そろそろC組の魔力検査が始まりますので、生徒の誘導をお願いします」

 

「おや、もうそんな時間だったんですね。じゃあ出席番号順となりますので、出雲さんから順番に先生について行ってください」

 

他の先生が呼びに来たため、相川先生が最初の生徒を呼ぶ。

 

「うわぁ・・・。私1番最初か」

 

相川先生の言葉に少々憂鬱になりながら、出雲と呼ばれた女の子が教室を出ていく。

 

(出席番号順ということは名前の順か。なら俺はしばらく待ちだな)

 

名前の順であれば「冬木」だと「は行」。つまり後ろから数えた方が早い方である。

呼ばれるのは先のため、八代はかったるいと思いながら、鞄から本を取り出す。

 

「ねぇ、あなた」

 

「ん?」

 

声のほうを向くと、帽子を被った女の子が声をかけてきていた。

 

「もしよかったらちょっとおしゃべりしない?あ、私桃瀬 晶っていうんだ。みんな「桃」て言うけど、好きに呼んでいいよー。まあ簡単に言っちゃえば苗字が「ま行」だから結構暇なのよ」

 

「別にいいが、俺でいいのか?」

 

「あははー、実はさっき呼ばれた子が私の友達でさ。ほかの女の子達もグループ作って話し始めちゃったから入りづらくってね。ちょっと迷ったけど、あなたが良ければどうかなって」

 

「なるほどな、そういうことなら別にいいぜ。俺は冬木 八代。八代でいいぜ。ちょうど今日からこっちに引っ越してきたから勝手がわからんが、宜しく頼むよ」

 

桃瀬という女の子が困った顔でそう言い、八代はまあいいかと考え、鞄に本をしまい自己紹介をする。

 

「八代だねー、よろしく♪冬木ってことは、私と一緒で当分呼ばれなそうだね!」

 

「たしかにな。桃瀬さんはなんでこの学校に?」

 

「あー!自分は名前で呼べって言ったくせに私は苗字ー!?」

 

「いや、別に呼べって言ってはいないんだが・・・。じゃあ、桃はなんでこの学校に進学したんだ?」

 

桃瀬と呼ぶと口を膨らませて睨まれたので、八代は苦笑しながら言い直して聞く

 

「まあいっか♪まあ、私は魔法が使えるからかな。他の高校じゃ絶対体験できないことだと思うし、なにより面白そうだから!そういう八代はなんで?それに引っ越してきたって言ってたけど、どこに住んでたの?」

 

「俺も桃と同じだよ。ここに入るまでは近いって理由が1番だったけど、やっぱり面白そうって思ったからかな。引っ越してきたのは熊本だよ。詳しくは俺も知らないんだけどさ、親が研究関係でこっちに引っ越すことになって、ついていくことになったんだよ」

 

満足したのか桃瀬が笑顔で答え、八代も質問に対して思い出しながら答える

 

「熊本!?めっちゃ遠いじゃん!良くこっちに来る気になったね・・・」

 

「まあ大変ちゃ大変だったよ。でもそのおかげでこの高校通えるようになったわけだし、家は親があまり帰ってこれないから、かわりに一人暮らしみたいに自由にして良いって言われてるし、こっちにきてよかったよ」

 

「へぇー、一人暮らしか。大変そうだけどちょっと私も憧れるなー」

 

桃瀬は驚きながらも八代の「一人暮らし」発言に羨ましそうに言う。

しばらく桃瀬と話していると1人目の出雲が教室に帰ってきた。

 

「あ、文美お帰りー。どうだったー?」

 

「ただいま、桃。んー、ちょっと痛かったかな。けどそれ以外はなにがなにやらで、あなたは「レッドアイアン(RI)プレート」ですって言われてプレートもらったわよ。その後は説明を受けて、無くさないようにとか規則に則ってとかいろいろ言われたわね」

 

「え?痛かったってどゆこと?」

 

出雲の「痛かった」という言葉に反応し、桃瀬が首を傾げながら聞く。

 

「なんか魔力を測定するのには血が必要らしいのよね。それで採血してから測定するわけ」

 

「へぇー、そうなんだ。八代は注射苦手だったりする?」

 

「いや、急に振るなよ。まあ、苦手な奴は知ってるけど俺は平気だよ。ごめんね出雲さん、俺は冬木 八代って言うんだ。急に話を振って申し訳ないけど、「RI」ってどういうことか教えてくれないかな?」

 

急に話を振るもんだから困ったものだと思いつつ、自身の好奇心にも逆らえず出雲に簡単に自己紹介してからプレートについて八代が聞く

 

「え?別にいいけど・・・。桃、あんた冬木くんと知り合いだったの?」

 

「いや、今日あったばかりだよー。出雲が先に行っちゃって話し相手がいなかったから、隣だったし声かけて一緒に喋ってたんだ♪」

 

「・・・はぁ、なるほどね。ああ、ごめん改めて自己紹介するわ。私は出雲 文美。この子と一緒に受験してここに入ったの。宜しくね、冬木くん」

 

出雲はため息をつきながら八代に向き直って、自己紹介する。

 

「丁寧にありがとう、出雲さん。桃も呼んでるし、出雲さんに任せるけど「八代」でもいいから」

 

「んー、そうね。・・・じゃあ八代くんって呼ばせてもらうわね」

 

お礼を言う八代に対し、出雲はちょっと気恥ずかしそうに言う

 

「えーっと、プレートのことだったわよね。私もちゃんと覚えてはいないんだけど、そもそも魔法ってこのマジックプレートにインストールしてから使えるものなんだってさ。それで、入学生は基本的にこの「RI」のプレートが渡されて、授業で魔法を学んでいきながら成績次第で徐々に上のプレートに昇格していくみたい」

 

「昇格か・・・。てことは単純に考えれば、この他にブロンズ(B)、シルバー(S)、ゴールド(G)のプレートがありそうだね」

 

「えっ、なんで?」

 

「アイアンは鉄って意味だからね。価値が上がるって意味と考えればそうなるだろ?」

 

「あー、確かにそうだね」

 

出雲が説明すると八代は考察しながら桃瀬の問いに答える。

 

「なぁ、その話俺も混ぜてくれない?」

 

「私も!」

 

そんな話をしていると出雲が教室に戻ってきていたのを確認していたからなのか、周りが話を聞きつけてやってくる。

 

「冬木 八代くん、キミの番となりましたので魔力検査に向かってください」

 

「あ、了解しました。じゃあ出雲さん、桃。あとよろしく」

 

「ああ、うん!」

 

「いってらっしゃーい」

 

相川先生から呼び出されたので、八代は桃瀬と出雲にそういって教室の外へと向かう。

正直集まってきた連中を相手するのが面倒だったので、これ幸いと思いながら八代は検査室まで向かうのであった。




入学当時なので、話としてはしばらく九澄は出てきません。


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第2話:ゴールドプレート

「はい、採血はこれで終了です。この後魔力検査を行いますので、隣の教室に移動してください」

 

「わかりました。それでは、失礼いたします。本日はありがとうございました」

 

「礼儀正しいわね。そう構えなくていいのよ。後は血を垂らして、魔素を見るだけだから」

 

移動後、別教室で医者のような白衣を着た人の指示に従いながら八代は採血を終わらせて、隣の教室へ移動し扉をノックする。

コンコンっと暖かみのある硬質な音が廊下に響くと「どうぞー」と扉越しに声が聞こえてきた。

ただその声は八代の耳にはあまりにも聞き覚えのある声であった。

 

(あれ?今の声って・・・)

 

「し、失礼します」

 

まさかなと思いつつ、八代は恐る恐る扉を開ける。

 

「やぁ、八代!久しぶり!」

 

「・・・やっぱり父さんか」

 

八代の考えは当たっており、そこに座っていたのは自分の父親である「冬木 巧」が座って待っていた。

 

「フッフッフ、驚いたかい?今まで僕の仕事についてはうやむやにしてきちゃったけど、八代がこの高校に入ると聞いてやっと話せると思ってね!受かったって聞いたときは父さんも母さんも本当に嬉しかったんだよ!」

 

「・・・なるほどね。研究員とは聞いてたけど、魔法の研究をしていたってわけか。ここに入って熊本にもまだ建設中だけど魔法特区になる場所があるって聞いたし、まあ納得かな」

 

テンションの高い父親をそのままに、八代はふむと考えをまとめながらそう言う。

 

「おや、なんだいそのリアクションは!もっと驚くと思ってたんだよ!それにテンション低くない!父さん寂しいぞ!」

 

「うるさい、うざい、とっとと検査済ませろ」

 

「えー、ひどくない!?」

 

辛辣な八代の言葉にダメージを受けながら、巧はしぶしぶ検査の準備を始める。

 

「さてと、じゃあ気を取り直して検査を始めようか。まあ先ほど採血してもらった八代の血を検査用の魔法陣に垂らすだけなんだけどね。立ち合い人として必ず研究員が呼ばれているんだけど、今回は八代がいることもあって僕が立候補したってわけだよ」

 

「立候補とかすんなよ、恥ずかしい」

 

「この照れ屋さんめ☆」

 

「うざっ・・・」

 

「うっ・・・。まあともかく始めるとしよう」

 

自業自得もあるが、再度辛辣な八代の言葉の刃にダメージを受け、巧はよろよろとしながら検査を始める。

八代は巧に誘導されて魔法陣の中央へ向かい、中央に着いたことを確認すると、巧は八代の血を専用の魔法陣に垂らし、その血に魔法陣が反応して色が変わり始める。

 

「さてと、八代の魔力素はどうかな?まあ、初めて魔力に触れる人はだいたい適性CかDランクからだから、初歩としてRIから入るんだけどね~。どの子も予想通りだったからもう見飽きたし、個人的には八代に突然Bとか出してくれたら嬉しいな」

 

「仕事で来てるんだから飽きたとか言うなよ・・・」

 

----ビィー、ビィー!

突然機械音が鳴ったため八代が周りを見渡すと、先ほどまで発光していた魔法陣が突如消えてしまった。

 

「ん?なんで魔法陣が消えたんだ?変だね、今までこんなことなかったのに・・・」

 

「父さん、なんかやらかしたんじゃないよな?」

 

「ひどいな!?自分でいうのもなんだけど、仕事に関してはどんな時だろうと僕は手を抜かないよ!しっかりやってたさ!」

 

八代から疑いの目を向けられ、魔法陣のチェックをしながら巧は必死に答える。

 

「・・・やっぱり異常は見受けられないか。んー、仕方ない、ちょっと異例だけど普段我々が検査している魔法陣を使用しよう。八代、僕についておいで」

 

「え?ああ、わかった」

 

巧が他の教職員に事情を伝え、担当を変わってもらった後、校舎を離れて別の場所へ移動することとなった。

 

 

 

 

 

しばらくすると施設のようなしっかりとした建物が現れ、二人はその中へ入っていく

 

「ここは?」

 

「ここはプレートの昇格試験の際に使用する検査場だよ。ここの魔法陣だったら先ほどの魔法陣とは違い精密な検査が行えるものだから、しっかりと調べられるはずなんだ」

 

「なるほどね」

 

「あら、冬木室長。こんなところに何の御用ですか?」

 

中に入ると一人の老婦人が魔法陣の前に立っていた。

だが八代は先ほど聞こえた言葉のほうが気になって仕方なかった。

 

「室長・・・だと・・・」

 

「絶対言うと思った!まあ、そのことは後でちゃんと話すよ・・・」

 

八代の驚いた声に巧も予想通りと言わんばかりにそう言う。

無理もないだろう。室長ということは研究室の長であり、実質的に研究を推進する管理職であるため、自分の父親がそこまででかい職に就いているとは八代自身も考えてはいなかったのだ。

 

「ご無沙汰しております、花先校長先生。実はこの子の検査中に検査用の魔法陣が突然異常を起こしてしまいまして。少々正確な測定をしようと考えたため、こちらの魔法陣をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「あらあら、そうだったのね。別にかまわないわよ、好きに使ってちょうだい」

 

「ありがとうございます。では、ありがたく使用させて頂きます」

 

「あ、ありがとうございます」

 

こんな丁寧口調の父親を見たことがないと思いながら、急に遭遇した校長先生に対し巧に習って八代もお礼を言う。

 

「あら、あなたがその生徒さんね。お名前を聞いてもよろしいかしら」

 

「あ、はい。自分の名前は冬木 八代といいます」

 

「あら、冬木ということは・・・」

 

「はい、息子です。父がいつもお世話になっております」

 

校長に自己紹介をしながら八代はお辞儀する。

 

「礼儀正しいのですね、お父さんに似たのかしら?」

 

「いえ、絶対違います」

 

「即答!?」

 

「やっぱり?じゃあ、お母さんに似たのね」

 

「やっぱりってどういうことですか!?校長先生もひどくないですか!?」

 

「ふふふ、さぁ時間のこともありますし、早く検査を始めましょうか」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

「検査するの僕だからね!?ねぇ、まってよ!僕の話聞いて!」

 

巧の悲鳴を背に、校長と八代は検査の準備をすすめるのであった。

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ改めて始めるとしようか。八代はまた魔法陣の中央にいてね」

 

「わかった」

 

巧の指示により再び八代は魔法陣の中央へ移動する。

 

「でもおかしいですね。ここの魔法陣と検査用の魔法陣、そこまで違いがありましたでしょうか?」

 

「校長先生のおっしゃる通りです。特に異常が見られませんでしたし、もしかしたらこちらの魔法陣でも異常が出てしまわないか心配なんですけどね」

 

校長先生の指摘を肯定しながら、巧は先ほど同様魔法陣に八代の血を垂らす。

それに反応し、魔法陣の色も変わり始める。

 

「ここまでは先ほどと同じだね。さてどうなるかな・・・」

 

----キュイーン!

 

「おっ、よかった!どうやら成功したようだね!魔法陣の中で適性が決まったようだよ!」

 

「ふぅ、やっと終わるのか」

 

「ちょっと待ってください、動かないで八代くん。魔法陣の色がまだ変わりきっていないようです」

 

巧の嬉しそうな声を聴き、八代は安堵するが校長が八代を静止させる。

 

----ブゥン!ブゥン!

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

2回ほど変化が起こった。

その変化は、魔法陣の色が赤から茶色、茶色から銀色に変わる瞬間であった。

そして・・・

 

----・・・ブゥン!

 

最後の変化のだろうか。

一時の間があってから再度変化した魔法陣の色は、金色に輝いていた

 

----ピーッ!ピーッ!

機械音が鳴り、排出された紙には魔力測定結果の文字。

内容は・・・

 

「・・・魔力適性。ランク・・・S」

 

「なんということでしょう・・・」

 

「俺が・・・Sランク?」

 

巧の発せられた言葉に校長が信じられないといった驚愕の表情を浮かべる。

八代としても、今日初めて測った適性が「Sランクでした!」と言われても、ピンとくるわけがない。

 

「校長先生、突然となってしまい申し訳ございませんが、これから少しご相談してもよろしいでしょうか」

 

「構いませんよ。このような光景を見てしまった以上、私もこの学校の校長として、この先のことも考えなくてはいけませんからね。とりあえず、魔法技術主任である柊先生も呼びましょう。これからの授業に関しても相談しなくてはいけませんし」

 

「そうですね。まあ僕・・・というよりは妻に似たのでしょうね。この子がこんなに凄い存在だったとは思いませんでしたよ。いやぁー、凄いね八代♪」

 

「・・・まあ、とりあえず凄いってことはわかったよ。それで俺はどうすればいいんだ?」

 

既に校長と巧で話が進んでしまっているため、八代は諦めながらそう聞く

 

「八代くんも私たちと一緒に来てもらいますよ。1年C組ということは相川先生でしたね。彼には後で事情を話すとして、現時点では八代くんは測定中に貧血で倒れてしまったので保健室で休んでいるとでも言っておきましょうか」

 

「え?なんで本当のことを伝えないんですか?」

 

「八代、ちょっと考えてごらん?みんなは魔力適性CもしくはDランク。今の八代は適性Sランク。その状況がわかっている状態で教室に戻ってごらん?」

 

「・・・確実に注目の的だな」

 

「その通り。しかもSランクだってことは、先生達ならばまだしも他の生徒に知られれてしまうと、この学校に通う間ずっと特別な目で見られてしまうよ」

 

八代に問いに答えながらも巧と校長は連絡を取って話を進める。

 

「確かにな。父さんに指摘されるまでわからなかったなんて、ちょっと考えが安直だったわ」

 

「そうそう。・・・ってそれはどういう意味!?」

 

「とにかく、状況は理解したよ。でもそうすると俺のプレートはどうなるんだよ?」

 

巧をいじりながら軽口をたたく八代が問いかける。

 

「そうだね~。・・・校長先生、私は現時点で八代にRIなんて低ランクのプレートを渡してしまうと、適性が合わず最悪の場合プレートが壊れてしまうと考えておりますが、校長先生の見解は如何でしょう」

 

「あなたと同意見ですよ、巧くん。恐らくその先についても」

 

「そうなってしまいますよね。まあ表側をRIにすれば当面の問題は解消されそうですからね」

 

「・・・あの、先生方?」

 

校長先生と巧で何やら相談しているが、八代にはなにがなんだかわからないでいる。

 

「八代くん。あなたには校長である私から、特例として、G(ゴールド)プレートをお渡しします。これから、大変ですが頑張ってくださいね」

 

「・・・は?」

 

こうして八代の高校生活は、最強のプレートを手にすることで始まりを迎えるのであった。



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第3話:始まり

お気に入りや評価頂きありがとうございます!


「では、八代くん。こちらがあなたに渡すプレート、G(ゴールド)プレートです」

 

「はい、ありがとうございます」

 

校長室より、八代はRIと書かれたGプレートを校長から受け取る。

 

「しかし、私は未だに信じられません。本来適性は勉強を重ね、魔力を体に覚えさせていくことで、ランクが上がっていくもののはず。今までの生徒で『B』の適性ランクは何度か見たことがありますが、『A』ですらなく『S』だなんて」

 

「お気持ちはわかりますよ、柊先生。昔はあったことなのかもしれませんが、今回の件は私ですら初めてなのですから」

 

柊先生の言葉に対し、校長も苦笑しながらそう答える。

 

「冬木・・・、いやここには冬木室長もいらっしゃることだし、八代と呼ばせてもらおうか」

 

「はい、大丈夫です。宜しくお願いします、柊先生」

 

柊先生に名前で呼ばれ、八代もそれに了承する。

 

「うむ。その落着きようからして問題ないだろうが、念のため釘を刺させてもらおう。この学校に来たということは、お前は魔法についてまだわからないことだらけだろう。その中で、適性がSランクだからといって、自分を過信しないよう気を付けるんだぞ」

 

「はい、気を付けます。正直Sランクと言われても自分はまだそれがどういう意味があるのか理解できていませんし、仮に理解できていたとしても現時点で自分と他の入学生とで魔法における明確な差はないはずですから。なので、授業に関しても他の生徒と同じようにちゃんと基礎から学んでいくつもりです」

 

「・・・お前、本当に冬木室長の息子さんなのか?」

 

「柊先生!?今の言葉聞き捨てならないんですけどっ!?」

 

「まあ・・・そうですね」

 

あまりにもしっかりとした八代の返答に柊先生は真顔で質問を返してしまっていた。

それを聞いた巧の発言に八代も苦笑しながらそう答える。

 

「よし。では簡単に現状の説明をしておこうか。まずお前の持つGプレートだが、教師である俺たちと同じで、他の生徒と違い多数の強力な魔法をインストールして使用することができる。マジックプレートにはインストールできる魔法の容量が制限されているため、本来すべての魔法を入れることはできないんだが、Gプレートであればほぼ全ての魔法のインストールが可能だ」

 

「ほぼ全てってことは、インストールする容量が大きすぎる魔法がある・・・ということですね」

 

「その通りだ。ただ先ほども言ったようにお前の適性がSランク、つまりどんな魔法でも使うことができる体質であったとしても、まだ魔法をしっかりと理解しているわけではない。そのような状態で強力な魔法をインストールしても、使いこなせなければただの宝の持ち腐れというわけだ。まあ、表向きはRIなのだから強力な魔法が多数使用されているとなればまず怪しまれるはずだ。そこのところは注意しておけ」

 

「了解です。もともと勉強してから色々な魔法を試そうと思っていましたし、最初からその認識をしていれば問題ありません」

 

柊先生の言葉に八代は自分の考えも付け加えてそう答える。

 

「ふふふ、あなたが仮初のプレートを本物にする日が楽しみですね。あなたの成績は聞いていましたから、この学校でしっかり学び、しっかり活躍すれば昇格試験の際に多少大幅なランクアップがあっても問題ないと思います」

 

「はい、頑張ります。このプレートが本来の姿になれるよう、ちゃんと自分の力で勉強していきます」

 

「まあ、頼もしいですね。期待していますよ」

 

八代が真剣にそういうと校長が満足したように言う。

 

「では、みなさん。これから宜しくお願いしますね。八代くん、ちゃんとお話しもできましたし、教室へ戻っていただいて構いませんよ」

 

「あ、わかりました。では校長先生、柊先生、ついでに父さん。今後ともよろしくお願いします」

 

「ええ、宜しくお願いしますね」

 

「ああ、気をつけてな」

 

「うん。けどついではひどいよ八代!」

 

それぞれ挨拶をすると、八代は教室へと戻っていった。

 

「まったく、あの子は父親をなんだと思っているんだ」

 

「まあまあ冬木室長。いい息子さんじゃないですか」

 

「ええまあ、自慢の息子ですよ。最近はあまり話してあげれてませんが、こちらに引っ越してきたからにはちょくちょくは帰ってあげるつもりですし」

 

柊先生の言葉に巧も嬉しそうにそう答える。

 

「これからあの子の活躍が楽しみですね」

 

八代が出て行った扉を見ながら、校長が嬉しそうにそう言うのであった。

 

 

 

 

 

「さて、確か俺は貧血で倒れて保健室で休んでることになっているんだったな」

 

自分の教室に戻るべく、八代は現在の自分の状況を整理しながら廊下を歩いていた。

 

「教室前まで戻ってきたのは良いが、このまま教室に戻っても問題ないのだろうか?」

 

1-Cの教室は目の前にあるが、事情を話していない相川先生には伝えてから会ったほうが良いのではないかと八代は考える。

 

----ガラガラッ

 

「ああ、おかえりなさい冬木くん。もう体調は大丈夫ですか?」

 

「えっ!?あ、ああ相川先生。はい、もう問題ありません」

 

考えていた矢先に扉が開き、相川先生が出てくる。

突然の状況に若干焦りながらも、八代は落ち着いて答える。

 

「そうですか。それはよかったです。ただ残念なことですが、先ほど最後のHRは終わってしまいましてね。もう皆さん下校すると思いますし、キミも体調が優れないでしょうから内容は後日お話しするとしましょうか」

 

「ああ、わかりました。保健室を出る途中で担当者からある程度お話を聞けたので、それで問題ないです」

 

相川先生の言葉に八代は頷く。

実際には校長室だが、その際HRの話を聞けたので何も問題はないと考える。

 

「そうですか、それはよかったです。ああ、それと・・・Gプレートの件、校長からお話を聞きました。お互い注意していきましょうね」

 

「・・・もう伝わっていましたか。ご迷惑をおかけすると思いますが、宜しくお願いします」

 

「校長先生から個別でテレパシーがきていましたから概ね理解していますよ」

 

相川先生が小声で言い、八代も小声でお願いする。

 

「ではまた明日、気をつけて帰ってください」

 

そういって相川先生は廊下を歩いて行った。

それを見送った後、八代も教室へ入っていった。

 

「あ、八代!貧血倒れたって聞いて心配したよ!歩いて大丈夫なの?」

 

「八代くん、大丈夫?プレートはちゃんともらえた?」

 

教室に入ると桃瀬と出雲が近寄ってきて心配しながら言う。

辺りを見渡すと皆もう帰る支度をしており、残っているのは数名しかいなかった。

 

「二人とも残っててくれたのか。心配かけて悪かったな。大したことはなかったし、もう大丈夫だよ。ほら、プレートもちゃんと貰えたよ」

 

「「よかったー」」

 

八代は心配させたことを謝り自身のプレートを見せると、桃瀬と出雲は安堵の表情で言う。

 

「よっ、冬木。俺津川 駿って言うんだ、よろしくな。検査中お前だけ倒れたって聞いたからちょっと気になってよ。もう大丈夫なのか?」

 

「ああ、もう大丈夫だ。心配してくれてありがとうな、津川」

 

「いいってことよ!クラスメイトなんだしこれから仲良くしようぜ!」

 

「そうだな、宜しく頼むよ」

 

ニカッと笑いながら津川が話しかけてきたので、冬木も笑顔で返す。

 

「それにしても、みんな同じ魔法陣使ってたのにお前の時だけ異常が出るなんて変だよな。お前の後に検査したやつは大丈夫だったって聞いたぜ?」

 

「そうだよね。私も八代の後その魔法陣使ったんだけど、特に何事もなく終わったからね」

 

津川が起きた出来事を不思議に思い、桃瀬も自分が体験したことを話す。

 

「ああ、そのことか。なんでも俺の場合、熊本からこっちに引っ越してきたことが影響して、うまく測れなかったらしいぞ」

 

「そういえば、熊本も魔法特区指定だったって先生が言ってたっけ」

 

「ああ、だから熊本の魔素とこっちの魔素が混じっちゃって、うまく測れなかったってわけ」

 

(実際はあの魔法陣が魔力適性ランクBまでしか測れなかったってことが原因なんだけどな)

 

異常の原因については校長と巧が試行錯誤し原因を突き止めていた。

だが、理由としてはこちらの方がピッタリだと判断し、他の人にはそのように伝えることとなったのだ。

 

「なるほどなー。てか話には聞いてたけどさ、冬木は熊本からこっちに来たって言うじゃん!九州の方ってどんなものがあるんだ?熊本の話とかいろいろ聞かせてくれよ!」

 

「あー、それ私も聞きたいな!」

 

「わ、私も!」

 

津川が九州について興味を示すと、それに桃瀬と出雲が乗っかってくる。

 

「んー、別にいいけど大した話はできないぞ。それに今日はもう終わりだし、帰って引越しの整理したいから今度でいいか?」

 

「おう、全然問題ないぜ!てか、まだ引越しの整理中なのか?」

 

「まあな。今日引っ越してきたばかりだし、段ボールとか積みっぱなしだからさ」

 

八代は自分のカバンを持ちながら帰る支度を進める。

 

「八代ー、大変そうなら手伝ってあげようか?」

 

「いや悪いだろ。重いものもあるし、開けてもどこにしまうとかわからないだろ?」

 

「それなら八代が指示してやればいいんじゃね?てか、重いものもあるなら俺も手伝ってやるよ!」

 

「気持ちはありがたいけど、お前らの時間つぶしちゃうぜ?いいのか?」

 

桃瀬と津川がそれぞれ引越しの手伝いをしようと進言する。

嬉しいことだが、他人の時間をつぶしてしまうため八代は聞き返す。

 

「なんだよ水くせぇ。困ったときはお互い様だろ?」

 

「あたしも問題ないよー。個人的には八代の家に興味あるし♪」

 

「ならあたしも手伝ってあげるわよ。人数多い方が終わるのも早いでしょ?」

 

「んー、ならお願いしようかな。ここから近いし、4人でやれば早めに終わらせられそうだ。終わったらなんか奢るよ」

 

3人とも手伝うと言い出し、八代も早く終わらせたかったため、厚意に甘えることにする。

 

「よっしゃ、じゃあさっさと帰って八代ん家にいこうぜ!」

 

「「おー!」」

 

「お手柔らかに頼むよ」

 

テンション高い3人に八代は苦笑しながらそう言い、4人は校門へと向かうのであった。



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第4話:再会

今回はちょっと長めに書いてます~。


入学から数週間が経ち、4月の終わりになろうとしていた。

 

「えーっと、『無限包容(バブルパッケージ)』。この魔法は泡をイメージしてるのか。魔力体を吸収して泡に閉じ込める魔法ねー。こいつは少々『MP(マジックポイント)』の消費量が多いけど、色々使えそうだし汎用性高そうだな」

 

自分に合う魔法を捜索するため、八代は毎朝早く起床しては蔵書室が開くと同時に入室し、魔法に纏わる本を借りてはどのような魔法があるかの確認を行っていた。

 

マジックプレート・・・

プレート内に魔法をインストールすることができ、そのインストールした魔法を唱えることで、プレートから様々な魔法を使用することができる代物である。

 

(まあ当たり前だけど、魔法もそんな便利なものばかりじゃなかったんだな)

 

この数週間の授業を受けて、八代が重要視している点が2つあった。

1つはMPの存在。各生徒が持っているプレートの1日に使用できるMP量は予め決まっているということだ。

魔法を使用するためにはMPが必要であり、各魔法によってその消費量は異なる。

そのため、低ランクのプレートでは、強力な魔法を使用してしまった場合、残りのMPに見合う魔法でなければ、その後のいくらその魔法を唱えても発動しないというわけだ。

 

(俺の場合はGプレートだから、使用できるMP量は他に比べて膨大だし、魔力切れになることはないだろうけどな・・・)

 

2つ目は魔法をインストールする方法とインストールできる限度が存在するということ。

それぞれで魔法をインストールする方法は様々だが、基本は魔法の内容を理解し、その内容をプレートに対して『自身にあった行動』を行うことで魔法をインストールすることができる。

八代の場合、適性ランクがSだからなのか、魔法内容を理解した状態でプレートに手を添えて、魔法名を唱えるだけでプレートにインストールをすることができるのだ。

また、魔法をインストールできる数は、自身の1日に使用できるMP量から、インストールされている魔法が最低1回使用可能な状態であればいくらでもインストールすることができるということ。

逆に強力な魔法をインストールした後に他の魔法を入れようとした場合、両方の魔法が使用できる状態でなければ、そのプレートに魔法をインストールすることができないというわけだ。

 

(俺もみんなと同じRIって設定だから、下手に強力な魔法をインストールするのは避けてるけど、それでも入れられる魔法はたくさん入れて試してみたいからな)

 

朝早くから蔵書室にいるのも、人目につかず、誰にも邪魔されず、魔法書を見ては様々な魔法をインストールすることができると考えたためだ。

プレートのランク上、どの魔法もインストールや使用する分には問題ないが、当然低ランクの魔法ばかりとなる。

 

(早くプレートのランクを上げたいな。今はいろんな魔法使うためにインストールとアンインストールを繰り返してるっていってるけど、一日にどの魔法を使用するかは決めておかないとバレるからな)

 

「・・・よし、今日はこんなもんかな」

 

プレートへの魔法インストールも問題なく終わり、八代は本棚に魔法書を返してから蔵書室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

----ガラガラッ

 

「はよーっす」

 

「あ、八代おはよー!通学路で姿見なかったけど、また蔵書室に行ってたの?」

 

「おはよう、八代くん。最近いつも早起きしてるよね」

 

「おっす、桃、出雲。まあせっかくめったに体験できない魔法ってものを学べるわけだし、色々試してみたいのよ」

 

教室に入ると出雲と桃瀬が挨拶をしてきたので、八代は軽く返事しながら自分の席に座る。

隣であることもあり一緒に喋ることが多いため、桃瀬と出雲とはこの数週間ですっかり仲良くなっていた。

 

「相変わらず魔法に関して熱心だよな、おまえは」

 

「ん?おやおや、今日は早いな孝司さんや。おはようさん」

 

「おはようさん。まあ今日は珍しく早く起きれちゃったからさ。たまには早く行くかって思っただけー」

 

「起きれたことが奇跡みたいに言ってんじゃねぇよ」

 

「あはは、ユッキーは相変わらず能天気だよねー!」

 

後ろから声が聞こえたので振り向くと孝司と呼ばれた男の子が八代に話しかけてきていた。

雪比良孝司。通称ユッキー(命名:桃)。

八代の席の後ろのため、話しかけられることが多く、八代としてもその話に入りやすいため、最近ではよく喋っている。

孝司曰く低血圧だからと言っており、いつもギリギリで登校してきているので、八代より早く席についているのが珍しかったのだ。

 

「やかましい、桃。てか、んなことはどうでもいいんだよ。それで、今日はどんな魔法をインストールしてきたんだ?」

 

「相変わらず初歩魔法だよ。朝早いっていっても蔵書室開いてから朝のHR(ホームルーム)までだからな。そんなに時間ないから少々ローテしただけ」

 

「へぇー、なるほどね。でも八代くんは魔法インストールするのに理解して唱えるだけって簡単でいいわよね」

 

「まったくだよ!というか、文美だって書くだけなんだから楽でいいじゃん~!私なんて八代に比べたらチョーめんどいんだから!このラッキーボーイめ!」

 

「なんだよラッキーボーイって・・・」

 

いつも通りの4人との会話に八代は苦笑しながら朝の会話を楽しむ。

 

----キーンコーンカーンコーン

 

「おはようございます、皆さん。さぁ、今日のHR始めますよー」

 

「ありゃ、先生来ちゃった」

 

チャイムが鳴り、相川先生が入ってきたことを確認すると、他の生徒も席に着き始める。

 

「では出席とりますね、名前を呼ばれたら返事してください」

 

 

 

 

 

----キーンコーンカーンコーン

 

「チャイムが鳴りましたね。次の授業は移動教室なので注意してください。今日の日直の方は・・・柊さんと冬木くんですね。申し訳ないですが、授業開始時間までに事前準備をお願いします」

 

「わかりました!」

 

「了解ですー」

 

「では、授業はこれで終わりにします。下田さん、お願いします」

 

「はい。起立ー、礼」

 

柊と呼ばれた女の子と八代が返事をし、相川先生が委員長である下田に合図をして、下田の号令とともに授業が終了した。

 

「やっぱ委員長は声が張ってていいね!」

 

「そ、そうかな。ありがとう、桃ちゃん」

 

桃瀬がそう言うと前の席である下田が褒められたため嬉しそうに返す。

 

「さて、昼飯食いに行くかな。八代はいつも通り弁当?」

 

「まあな。たまには買ってもいいんだけど、自分で作った方が早いからな」

 

「さいですか。なんにせよ朝弱い俺には無縁の代物だな。まあいいや、俺行くわ」

 

「おう、また後でな」

 

八代に確認したあと、孝司は鞄から財布を取り出し教室を出ていった。

八代も孝司を見送ると弁当を取り出して蓋を開ける。

 

「よし、今日もあるね!八代ー、から揚げちょうだーい!」

 

「・・・またか。桃、俺のから揚げはただでは渡さんぞ?」

 

「わかってるって!こっちもたこさんウインナーあげるからさ!」

 

「はいはい、わかったよ。ったく、いつもお前が持っていくから多めに作っておいて正解だったよ」

 

八代が弁当の蓋をあけると、弁当を覗いていた桃瀬が待ってましたと言わんばかりにガッツポーズしながらそう言う

 

「八代のから揚げが美味しいのがいけないんだよー。んー、やっぱり美味しい♪」

 

「そりゃどうもー。まあ手間暇かけて作ってるから美味しいって言ってくれて嬉しいよ。自分でも上手くできてると思ってるし」

 

桃瀬の感想に返事をしながら、八代も桃瀬のたこさんウインナーを頬張る。

当然だが現状の八代は実質一人暮らしであるため、家事全般は一人でやっている。

中学時代から母とともに料理をやっていたので、高校でも自炊して食費を抑えているのだ。

 

「あ、八代くん。私も卵焼きあげるから一個くれない?」

 

「わ、私も食べたいな。八代くん、私のお弁当からどれでも好きなの取って良いから、から揚げ1つもらってもいい?」

 

「あいよー。じゃあ委員長からは肉巻き貰うよ」

 

八代が弁当を作っていると言うと桃瀬と出雲、途中から委員長も弁当に食いつき、こうして弁当の中身を交換しあっている。

この光景は周りからしたら女子3人の中に男子が混じってるというものであり、他の男子では羨ましがっている者もいたのだが、お弁当というワードが聞こえると、皆挫折しながら気にしないようにすることとなったのだった。

その後も昼食をとりつつ、おかずの交換を要求され、八代はそれに応じながら昼休みを過ごしていくのであった

 

 

 

 

 

「さってと、腹ごなしにちょっとその辺歩いてみるかな」

 

昼食を取り終えた後、桃瀬たちはそのまま女子トークに花を咲かせてしまったため、先に事前準備しておくかと苦笑しながら八代は教室を出て背伸びをする。

 

----ピンポンパンポーン

 

八代が歩き始めようとした瞬間、アナウンスの音が聞こえる。

 

[あー、昼休み中に失礼する。魔法技術主任の柊だ。現在校内に部外者が侵入している。見つけた者はすぐ私に連絡を入れるか取り押さえて欲しい。なお、危険でもあるため強制はしないが、協力してくれた生徒には特別に魔法ポイントを与える。その者の顔は各自プレートに送ったので、各自確認しておいてくれ]

 

(・・・部外者?なにかあったのか?)

 

放送があった後、八代はプレートを取り出すと男の顔が浮かび上がる。

 

「・・・!?これ、大賀じゃないか!」

 

そのプレートに映し出されていたのは、面接会場でまた会おうと約束した九澄 大賀の姿が映っていた

 

(部外者って言ってたな。てことはやっぱり入学できなかったのか)

 

入学式の後、他のクラスの名簿を確認させてもらったたため、九澄 大賀の名前がないことはわかっていた。

 

(部外者としてこの校舎に入ったということは、やはり落ちていたんだな。でも、また変な再会になりそうだ)

 

落ちていることは予想していたが、まさかこのような形でまた会うことになるとは思っていなかった。

 

「とりあえず行くか。あいつには悪いけど、ポイントもらえるんならおとなしく捕まってほしいもんだね」

 

そういって八代は教室を後に、九澄を捜しに飛び出していった。

 

 

 

 

 

「さてと、あいつはどこにいるかなぁ」

 

校舎の外に出ると既に騒ぎが起きていたため、人だかりができている場所へ向かった八代は辺りを見渡す。

 

「いだぞ、あっちだ!」

 

「やだー、こっち来るよ!」

 

「お、あっちかな?」

 

悲鳴が聞こえる場所へ向くと、明らかにこの学校のものでない男子が別校舎の方へ走っていた。

八代はその姿を確認すると、自分も走りながら八代は九澄に声をかけようとする。

だが、その手前で衝撃的な光景を目の当たりにする。

 

「おーい、大「おおおーーーっ!!どけーーっ!!」

 

「ふげっ!」

 

「んがっ!」

 

「ぐががっ!!」

 

「・・・おおぅ。すげぇな」

 

進行を阻もうとした上級生と見受けられる生徒を九澄は走りながら殴り飛ばしていた。

 

「何かする前に潰すまで!!」

 

「・・・ああそうか。あいつ今日初めて「魔法」を目にするってことになるのか」

 

吐き捨てるように放った九澄の言葉に八代はポンッと手を叩く。

 

(そりゃそうだよな。相川先生が言っていたことが本当なら、受験に落ちたことでこの校舎にある大賀の「魔法に関する記憶」は消されているはずだからな。そんな状況でこの敷地内に入ってみたら、急に魔法を使える学校でしたって言われたって信じられるはずもないからな。混乱の一つや二つしない方がおかしいか)

 

状況を分析しながら八代は走る九澄の背中を追う。

 

(それにしても、改めて見るとあいつ足早いな。さっきの身のこなしといい、この走る速度といい、こいつかなり体鍛えられてるんじゃないか?速さだとあいつについていくのがやっとだ)

 

中学時代からサッカー部に入り、体を鍛えていた八代でさえ九澄と同じスピードで走るのがやっとだった。

八代は九澄のスペックの高さに驚きながら走っていると、女子生徒に阻まれ別校舎内に逃げ込んだため、八代もその後を追って中に入る。

 

「だはぁーーー!!全教室閉まってやがるーーー!!」

 

(そりゃそうだろ、この校舎は授業や部活動以外で使われない校舎なんだから)

 

一つ一つ素早く扉を確認する九澄を観察しながら八代は心の中で呟く

 

(・・・しかたねぇな。このままじゃ見つかった途端こっちまで殴られるかもしれねぇし。クールダウンさせるためにも、この家庭科室だけ開けてやるか)

 

----ガチャッ

 

「おーい、大賀。家庭科室開いてるからこっちこーい」

 

八代は事前に次の授業のため持っていた家庭科室の鍵を使用し、慌てふためいている九澄を呼ぶ。

 

「えっ!?今俺の名前が聞こえたぞ!?と、とにかく迷ってる暇はねぇ!!家庭科室へゴー!!」

 

九澄は声の聞こえた通り家庭科室へ逃げ込む。

 

「だ、誰だか知らねぇが助かったぜ!ありがとうな!まったく、この調子だと見つける前に力尽きちまうぜ」

 

「おう。まぁ、次の授業ここだったし、ついでだったから気にすんな」

 

「それにしても俺の名前知ってるなんていったい誰なん・・・だ・・・」

 

ぜぇぜぇと息を吐きながら、九澄がやっと落ち着いて顔を上げると・・・

 

「久しぶりだな、大賀。元気してたか?」

 

「や、八代!?」

 

こうして、八代と九澄の再会の約束は、予想していたよりも、いやかなりドタバタとした形で果たされるのであった。




はい、やっと原作主人公登場です!
八代はたくさん魔法覚えてますが、九澄同様必要な時だけしか魔法を使用する気がないのでセーブしてます。


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第5話:騒動

「ほ、本当に八代なのか!?」

 

「んだよ、他に誰がいるんだよ。この学校にお前を名前で呼ぶ奴なんていないだろ?」

 

九澄が驚いた表情でそういうと、八代は当たり前だと言わんばかりに聞き返した。

 

「た、確かにな。一緒にこの学校受験してたんだからここにいてもなんの不思議じゃないか」

 

「そういうこと。ま、元気そうでなによりだわ。そんで、お前は何やってんの?」

 

「なにって、捕まえようとしてくる奴らから逃げてんだよ」

 

「ああー、悪かった。質問を変えるよ。なんでお前はこの学校にいるんだ?」

 

当たり前だろと言わんばかりに九澄が言うので、八代はため息をつきながら質問する。

 

「なんでって・・・。そうだ、聞いてくれよ!校門付近でちょっと中に入れる場所ないかなって探してたらさ、ロン毛で金髪のおっさんがいきなり宙に浮きながら現れて、急に俺をこの校内に引きずり込んだんだよ!」

 

「・・・大賀、それマジ?」

 

「マジだよ!俺をこの学校の生徒だと思ったんだろうけどさ、プレートがないならどうとか言って、急に俺の腕とおっさんの腕がくっついたと思ったら引き擦り込まれてたんだよ!」

 

(・・・柊先生。やっちゃったんですね)

 

九澄の発言に八代は頭を抱えながら話を聞く。

 

「なぁ、やっぱこの学校にいるやつらって全員魔法ってやつが使えんのか!?さっきの放送でも魔法ポイントとか言ってたし!」

 

「ん?ああ、そうだな。全員かどうかはわからんがら多分だけど、こういったプレートを持っているやつは魔法を呼び出して使用することができるんだよ」

 

九澄が恐る恐る聞いてきたので、八代は自分のプレートを取り出してわかるように説明する。

 

「マジかよ・・・。ん?じゃあ俺もこのプレートを持ってるから魔法を使用できるってことなのか?」

 

「は?何言って・・・」

 

「いやさ、俺が追われてるときに俺の身体の中からお前の持ってるやつと同じようなプレートが出てきたんだよ」

 

意味が分からず聞き返すと、九澄が懐からプレートを取り出してこちらへ向けていた。

しかも、そのプレートの色は金色に染められており、表面に書かれていた文字がG。

つまり・・・

 

「ゴールドプレート・・・だと・・・」

 

「どうした、八代?そういえばこのプレート見せたらどいつもこいつも尻込みしてやがったな。すげぇプレートなのか?」

 

(・・・なるほどな。他の生徒が積極的に手を出してこないわけだ)

 

八代は九澄が持っていたプレートを見て驚愕したが、それと同時にここまで大きな騒動のはずなのに、追ってくるものが少なく騒ぎがそこまで大きくなっていないことに納得する。

 

(しかも体から出てきたって言ってたな。だとするとあのプレートは・・・)

 

「それは俺のプレートだ。返してもらうぞ」

 

「うげぇっ!?」

 

「ん?ああ、やっぱり先生のでしたか」

 

突如現れた柊先生が九澄の後ろから自身のプレートを取り上げる。

 

「八代か。・・・そうか、お前がこの教室まで追い込んでくれたんだな。助かったぞ、後は私に任せろ」

 

「あー、少々勘違い入ってますけど、長くなりそうなんで一旦それでいいです。では、あとはお任せします」

 

柊先生の言葉に苦笑しながら八代は家庭科室を後にしようとする。

 

「なっ!?八代お前俺を嵌めたのか!?」

 

「まあ、半分な。当然だろ?お前は現状部外者で、勝手に入り込んできちゃってることになってるんだからさ。けどまあ、もう半分はお前との約束守るためかな。また会おうって約束したろ?」

 

「約束守ったらハイさよならって薄情過ぎませんか!?ここまできたら、もうちょっと付き合ってくれませんかねー!?というか助けてください、お願いします!」

 

「人聞き悪いこと言うんじゃねぇよ。それにいやだよ、柊先生頭に血が上っちゃってるし、当人たちの問題に俺まで関わっちゃったら俺までこの学校から追い出されちゃうじゃん」

 

「そこをなんとか!?」

 

「お・こ・と・わ・り・だ」

 

ガタンッ!

 

九澄は必死に八代にそう言って八代は教室から出ていった。

 

「・・・・・・・・」

 

「別れは済んだか?」

 

「ヒィーーー!!HELP!!HELPーー!!」

 

直後、九澄の悲鳴と家庭科室からバコンッバコンッ!となにかが破壊される音が聞こえてきた。

 

(あーあー、ああなったら多分家庭科室今日使えないだろうな・・・。しかたねぇ、教室戻るか)

 

八代はため息をつきながらそそくさと別校舎を出る。

 

「あ、冬木くん。やっぱり早いね、もう事前準備に来てたんだ。職員室に鍵取りに行こうとしたらもうなかったから先に行ってることはわかってたけど、もう準備終わっちゃったかな?」

 

「ん?ああ、柊さんか。教室の鍵はここにあるし、準備もまだ終わってないけど、今は家庭科室に近づかないことをお勧めするよ」

 

外に出ると本日同じ日直である柊 愛花に遭遇し、八代は苦笑しながら伝える。

 

「なんで?なにかあったの?」

 

「放送で聞いたろ、例の侵入者のこと。その侵入者と柊先生がバトってたんだよ。で、面倒くさいことになりそうだったから引き返してきたところ」

 

「え、お父さんとあの人が戦ってるの!?」

 

(あの人?柊さんも大賀とどこであったことあるのか?)

 

八代が事情を話すと、柊は驚いたように声を上げる。

 

「私、ちょっとみてく・・・」

 

----キュドォオンッ!!

 

「「っ!?」」

 

柊と話していると、なにかが爆発したような物凄い音が鳴った

 

「あんのバカども!!」

 

「ちょ、冬木くん!」

 

八代は外回りで家庭科室のほうへ向かい、柊もそれに続く。

現場に辿り着くと、爆発が起こったように変わり果てた家庭科室と、その家庭科室の前で柊先生がピクピクと痙攣しながら横たわっており、その数メートル先で九澄の手にゴールドプレートが落ちてきたところだった。

 

(はぁ・・・、ほんと何してんのあんたら・・・)

 

辿り着いた先で見た光景に八代は頭を抱えていた。

そして、もういっそ他人のふりをしようと思ったくらい盛大な溜息をついた。

無論、八代は九澄が魔法を使えないこともゴールドプレートでもないことを知っているため、この光景を見ても何かしらの偶然で起こった事故であることはわかっていた。

ただ、それは八代であればというだけであり、傍から見ればこの切り取られた光景は、誰がどう見ても、あたかも九澄がゴールドプレートの力を使って柊先生を倒した光景であった。

 

「うそぉ・・・柊先生が・・・」

 

「うわーー!!」

 

「キャー!!怖ーい!!」

 

(大賀、柊先生、やり過ぎですよ・・・。ここまで大きな騒ぎになってしまうと俺もフォローしきれませんよ・・・)

 

その光景を目の当たりにした生徒たちが一斉にその場から逃げていった。

 

「きゃあ!!大丈夫、お父さん!?」

 

「え!?お、お父さん!?」

 

そんな中、柊が実の父親である柊先生のもとへ駆け寄る。

その光景に信じられないものでも見るように九澄が動揺する。

 

「ひどい・・・どうしてこんな事!!」

 

そういって柊は自分のプレートを取り出し息を吸いながら首にプレートを挿入する。

 

「『許せない!!!』」

 

----ボゥン!!

 

「のぉああああああーーー!!」

 

柊が怒鳴ると、その声が砲撃となり、九澄をさらに数メートル先まで吹っ飛ばしていた。

 

(『声震砲(ボイスワープ)』か・・・。MP消費量はRIだとかなり大きいけど、かなり恐ろしいものを覚えているな・・・)

 

「はぁ、はぁ、はぁ!!」

 

「ひとまず落ち着け」

 

----ゴンッ!

 

「きゃう!?な、何するの冬木くん!」

 

今もなお戦闘態勢を維持している柊に対し、八代は後ろからチョップを食らわして正気に戻す。

 

「まず第一に、校内で勝手に魔法を使用するのは厳禁だ。減点くらうぞ」

 

「そ、そうだけど、ここ外だから大丈夫だよ、多分!!」

 

「自信満々に言ってる割には途方もない屁理屈だなおい・・・。それにもう柊さんの攻撃であいつ伸びてるから大丈夫だぞ。それより先生起こすから手伝ってくれるか」

 

「う、うん。わかったよ。けどどうやって起こすの?見た感じお父さんも気絶しちゃってるよ?」

 

八代は辺りを見渡しながら先生のもとへ行き、落ち着いた柊が八代に聞く。

 

「幸いここにいるのは俺と柊さんだけみたいだし、使用してもいいよな。柊さん、キミが魔法使ったこと内緒にしとくから、キミもこれから見た光景は内緒にしてくれよ?」

 

「え?う、うん。わかった」

 

「よし、それじゃあやるか。『状態調整(コンディションコントロール)』」

 

八代がそういうと、プレートを取り出しながら自分の手に挟んで魔法を唱えると、八代の手が光り、その手を柊先生のおでこへと持っていく。

状態調整・・・。

その名の通り、触れた相手の状態を調整する魔法である。

この魔法によって、八代は気絶している状態を正常になるよう整えていく。

 

「さてと、柊先生起きてください。こんなとことで寝てると風邪ひきますよ」

 

「んん・・・。ここは・・・」

 

八代の呼びかけとともに、柊先生が目を覚ます。

 

「お父さん!よかった!」

 

「ああ、愛花か。・・・はっ!?あのくそガ・・・侵入者はどこだ!?」

 

「柊さんの『声震砲』で吹っ飛んであそこで伸びてますよ。ここまで騒ぎ大きくしたんですから、ちゃんと校長室までつれてってください」

 

柊先生が気づいた途端、辺りを見渡すので八代は九澄が吹っ飛んだ先を指さしてそう言う。

 

「あ、ああ。八代、悪いがあいつを連れて行くのを手伝ってくれないか。状況を説明できるものも必要なのでな」

 

「・・・はぁ。まあ、ここまで大騒ぎになったんですから、そうなるだろうなって思ってましたけどね。わかりました、大賀は俺が連れて行きますんで、先生はこの場の収拾をお願いします」

 

「すまないな、頼む」

 

「いえいえ、先生の最後のお願いですし、ちゃんと連れて行きますよ」

 

「・・・ん??まあ、宜しく頼むぞ。愛花、お前も教室に戻っていなさい」

 

「え?う、うん。わかった」

 

八代の発言に首を傾げながら柊先生は辺りにいる生徒の混乱を収めるため、その場を後にする。

 

(校則『本校に関わりのない者に魔法の存在が知れてしまった場合、原因となった者は本校に関わる一切の記憶と籍を失うものとする』。やっちゃったものはしょうがないし、校長先生次第だと思うけど、ここまで大きな騒動になっちゃったから難しいだろうからな。本人気づいてなかったみたいだけど・・・)

 

八代はそんなことを考えながら、気絶している九澄を背負い、校長室に向かうのであった。

 




状態調整(コンディションコントロール)
オリジナル魔法です。今回のようなオリジナル魔法は今後も展開します。(オリジナルキャラ紹介と同様に後ほど上げようかと)
また、原作の「エム×ゼロ」だと魔法名があるものとないものがあり、基本的に原作の魔法はそのままにしますが、魔法名がない魔法はこっちで勝手に名前つけたり内容変更しようかと思ってます。
なお、名字や名前しかないキャラもいるので、そちらもそのようにすると思いますのでご認識ください~。


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第6話:編入

「以上が今回の騒動の状況報告となります」

 

「なるほど、それでそこにいる九澄 大賀くんが、当校敷地内に入ってしまい、この騒動がおきたということですね」

 

「極端に言っちゃうとそういうことになりますね」

 

「はぁ~~~~~~~~。困りましたね~」

 

校長室で八代が状況を説明すると、校長が盛大な溜息をつく。

 

「おおおいばあちゃん!言っとけど俺は被害者なんだかんな!このおっさんに無理やりこの敷地に連れ込まれたんだよ!あの爆発だって・・・!」

 

九澄が最後の抵抗とばかりに、校長に詰め寄りながらそう言う。

すると柊先生が九澄の後ろに回り込み、磁石を取り出して素早く九澄の頭へプレートとともに突っ込む。

 

----ギュンッ!!

 

「ぬぁあああああーーーー!!」

 

----ガチンッ!!

 

「はうっ!」

 

九澄の身体が急に宙を浮き、室内の銅像にくっついたのだ。

 

(なるほど、大賀の頭を強力な磁石にして銅像に張りつけにしたってわけか)

 

「校長に向かってばあちゃんとは何事だ!そして俺もおっさんじゃない!」

 

「まあまあ、落ち着いてください柊先生」

 

九澄の「おっさん」発言に怒っている柊先生を校長が宥める。

 

「この学校に入って随分と驚かれたことでしょう。魔法という言葉自体は知っていても、本当に実在するなんて思ってもみなかったでしょうからね」

 

「そうだぜ!敷地外から覗いてみようとしたら、このおっさんは宙に浮いてるし、中に入ったら体をネジで分解させられるし、別世界にでも迷い込んだ気分だったんだぞ!」

 

「おっさんじゃない!聞いてねぇのかこのクソガキ!」

 

「柊先生、落ち着いてください」

 

校長と九澄が会話をはじめ、再度「おっさん」発言が飛び交ったため柊先生が怒り、今度は八代がそれを宥める

 

「簡単に説明しましょうか。この聖凪高校が建っている山「聖凪山」が特別な力をもっており、その力を我々は魔法磁場と呼んでいます。まあ、簡単に言ってしまえば『魔力』ですね。ここでの『魔法』はそんな『魔力』を『魔法』として使用でき、この土地『魔法特区』内で生まれる『魔法現象』をコントロールする技術のことを言います。なので、『魔法使い』という特殊な存在がいるわけではないのです。それに技術ですから、特区内であれば訓練次第では誰でも扱えるようになりますよ」

 

「え、それじゃあ俺もその『魔法』ってやつを使えるのか?」

 

「ええ、もちろん。ただ短期で身につけるには才能が必要です。そのため、当校では入試の時に魔法の資質が大きな判断基準となっているわけです」

 

「入試!?」

 

校長が淡々と説明する中、入試という単語に九澄は過剰に反応する。

 

「ええ、当校に入ってからでないと浮かび上がりませんが、入試案内書の最後のページに予め魔法で各自異なる答えが書かれていて、資質の高い人にはその文が読めるというわけです」

 

「なんだって!?そんなもんみてねぇぞ!?」

 

「あらあら本校を受験されていたのですね。でも残念ですが、魔法文字が読めない場合は本校の合格は出来ないようになっているのですよ」

 

「な、なんてこった・・・」

 

校長から事実を突き付けられ、九澄はこの世の終わりのように気を落としていた。

 

(まあしかたないだろうな。こればっかりはどうしようもないからな)

 

「校長、もういいでしょう。彼も観念したようですし、記憶を消して帰しましょう」

 

「・・・残念です」

 

柊先生も九澄の状態を察し、校長に言う。

 

「ええ、僕も残念です。大賀、会えて嬉しかったよ。また会えるといいな。あと柊先生、短い間でしたが、今日までご指導いただきありがとうございました」

 

「柊先生、今まで本当にご苦労様でした。第2の人生頑張ってください」

 

「・・・は?」

 

八代と校長が並んで一緒にそう言うと、柊先生が鳩が豆鉄砲くらったような表情になる。

 

「校則『本校に関わりのない者に魔法の存在が知れてしまった場合、原因となった者は本校に関わる一切の記憶と籍を失うものとする』」

 

「それが、当校の絶対厳守の規則です」

 

「なっ!?ちょっと待ってください!それは生徒の規則では・・・」

 

八代と校長が規則である内容を読み上げると柊先生が焦りながらこちらに詰め寄ってくる。

 

「やっぱり気づいてなかったんですね・・・。この内容ですが、生徒だけなんてどこにも書かれてませんよ」

 

「八代、お前知ってたならなんで教えてくれなかったんだ!」

 

「ことがことだからですよ。そもそもここまで大きくなると思ってませんでしたし、先生と大賀だけで済ませて貰いたかったので、俺は関わらないようにしたんです(本当は俺も関わったら巻き込まれそうだったからだけど)」

 

「ぐぬぬ!!」

 

柊先生が詰め寄るが八代の正論により押し黙る。

 

「そうですね。八代くんの言う通り、本件に関してはこの学校のほとんどが知っていることになりますからね。私としても優秀な教師がいなくなってしまうことは痛手ですが、この規則を教師が破っておいて処罰をしないとなると生徒たちに示しがつかないですし」

 

「バカな!こいつのせいで私は辞任しなければならないというのですか!!」」

 

校長の言葉に柊先生が九澄を指差しながら先ほどの九澄と同様にどうにかしてくれと言わんばかりに詰め寄る。

 

「あのさぁ、話聞いてる限りじゃさ、俺が聖凪の生徒だったら丸く治まるんじゃね?」

 

「「「・・・は?」」」

 

九澄がそういうと校長室にいるほか3名の目が点になる。

 

「いやさ、実は俺スベリ止めで入った高校通ってたんだけど、つい最近合わなくて辞めたばっかでさ。だからここに今日来たのも暇もてあましてたからなんだよな」

 

「「「・・・・・・」」」

 

「・・・なんてねェ・・・ハハハ」

 

「それだっ!!」

 

「うぉわっ!ビックリしたー!」

 

「校長!!それしかないですよ!!」

 

九澄の発言に柊先生は食いつくように校長に進言する

 

「まぁまぁどうしましょう・・・;」

 

「大賀、お前よくそんなこと思いついたな。ただのバカだと思ってたわ」

 

「バカは余計だってのっ!てか早く降ろせよおっさん!」

 

「おっさんじゃない!校長、なにを迷っているんですか!?それとも私を失っても構わないとおっしゃるんですか!?」

 

「そ~~~・・・ですねぇ・・・;」

 

こうして、混沌とする話し合いの末、九澄大賀はこの学校への編入、先ほどの騒動は抜き打ちテストという形となり、柊先生も辞任を免れることとなったのであった。

 

 

 

 

 

「・・・で、どうするつもりなんですか?」

 

「なにがですか?」

 

九澄と柊先生が手続きのため校長室を出て行ったあと、八代が校長に聞くとニコニコしながらとぼけた様に言う。

 

「・・・正式にこの学校に入れたとしても、魔法を使えないのであれば、直ぐにボロが出てしまうと思いますが」

 

「そうですねぇ~、困りましたねぇ~」

 

「・・・校長先生、わかってて言ってますよね?」

 

「あら、心当たりでもあるのかしら?」

 

八代の問いかけに少しも動じずに校長は笑顔で逆に聞いてくる。

 

「・・・はぁ、あんまり厄介ごとに巻き込まれたくないんですがねぇ。・・・大賀の正体がバレないよう、自分が出来る限りでフォローすればいいんですね?」

 

「ええ、八代くんならそう言ってくれると思ってました。頼みましたよ」

 

「自分も偽っている方なんですけどね」

 

満足のいく答えだったのか、嬉しそうに頷く校長に対し、苦笑しながら八代はそう答える。

 

「しかし、改めて状況を整理すると、九澄くんはあなたとちょうど逆のような状態ですね」

 

「・・・まあ、大賀の場合はあの状況下で目撃していた生徒が多い以上、Gプレートであったほうが辻褄も合いますしなにかと都合がいいですからね。その分デメリットも多いですが、そこはあいつに何とかしてもらいましょう」

 

そう、九澄の持たされたプレートは来客用でこの校舎に入ることができる以外何の魔法も使えないプレートであるが、外側はGプレートに見えるようになっているのである。

なぜそのような状況になっているのかというと理由は2つある。

一つ目は当然騒動による辻褄合わせである。

あの騒動の場には少なからず何十名の生徒が九澄を目撃しており、その際に九澄が持っていたプレートは柊先生のGプレートだった。

そんな者が違うプレートを持っていれば、まず間違いなく不審に思われるであろう。

そのため、騒動通りの情報であれば、目立ちこそすれど九澄への不信感は「本当にGプレートなのか」という点に持っていけるということだ。

二つ目はハッタリをより大きく見せるためである。

魔法が使用できない以上、九澄にとって天敵は授業であり、授業ではその魔法を実践してみせなければいけない場合がある。

その際に、Gプレートならそのレベルはもう使えるであろうから他の人に実践してもらうなど、自然に他の人に誘導することができるからだ。

また、Gプレートということであれば、現学年の生徒ではレベルが違いすぎるため、不信感を持っていたとしても無暗に手を出してこないという利点もある。

 

「問題は魔法の実践を強制させられたときですかね。まあ、あの様子からして大賀は不良とまでは言いませんがガン飛ばすタイプでしょうから、その態度をどうにかしようと思う人は柊先生くらいしかいないでしょうし、恐らく強制はされないでしょう」

 

「そこまで考えてるんですか、さすが八代くんですね」

 

「これくらい誰でも考えられますよ。俺のほうが知っている情報が多いだけです」

 

校長の感嘆の言葉に八代は肩をすくめながらそう答える。

 

「ああ、そうそう。柊先生が言っていた魔法ポイントの追加に関しては八代くん、あなたに付与されることになりました」

 

「え?いいんですか?」

 

「ええ、もちろんです。このように協力してもらっていますし、聞けば九澄くんをあの教室に誘導したのは八代くんだと柊先生からも伺っていますから」

 

「それはたまたまなんですけどね。でも、そういうことであればありがたく頂いておきます」

 

魔法ポイントに関して校長がそういうと八代も嬉しそうに承諾する。

 

(ラッキーだったな。魔法ポイントはもともと欲しいと思っていたし、今の話であれば広まったとしてもそこまで怪しまれることはないだろうからな)

 

その後、プレートを出して校長からポイントをもらった後、八代は自分の教室へ帰っていった

 

 

 

 

 

「あ、八代おかえりー!」

 

教室に着くと桃瀬が八代に気づきこちらに手を振ってくる。

すると、それに気づいたクラスの連中がこちらに集まってくる。

 

「よう八代、お前凄いな!Gプレートを捕まえちまうなんてよ!」

 

「どれぐらいポイント貰ったの?やっぱり抜き打ちテストだったみたいだから結構もらえたりした?」

 

「どうやってGプレートのやつを捕まえたんだ?魔法つかったのか?」

 

「あー、一旦待ってくれ。一度に全部は喋れない・・・」

 

こちらが黙っていると絶え間なく質問が飛んでくるため、八代は一旦話を切るために手を上にあげながらそう言う。

 

「まずはじめに、どういう尾ひれがついたか知らないが、俺はほぼ何もしてないってことを伝えておく。侵入した生徒が勝手に家庭科室に入ってきたからちょっと話して足止めしただけで、その後直ぐに柊先生が来たから先生がそう勘違いしただけ。ただラッキーだっただけなんだよ」

 

「えー、本当にそれだけなのか?そもそもなんでお前が家庭科室にいるんだよ」

 

「今日の日直は俺と柊さんだろ?先生に言われたし、事前準備をしに教室を開けて中に入ったら、その後にそいつが身を隠すために入ってきたってわけだ。だから特別なことなんてしてないし、たまたまそうなったってだけで俺がどうこうしたってわけじゃないんだわ」

 

「なんだー、そうだったのか。でも魔法ポイントはもらったんだろ?」

 

「それはもらったよ。けどもらったのはたかだか授業一回分のポイントだよ。さっきも言った通り俺がどうこうやったってわけじゃないんだし、まだ学年も1年なんだからそこまで優遇はできないだろうからね」

 

「なるほどねー」

 

八代が話し始めるとそれぞれ質問が飛んできたが、嘘も混ぜつつ一人ひとり答えてやると、納得して野次馬も徐々に消えていった。

 

「ふぅ、やっと解放された・・・」

 

「お疲れ~、八代。いやー情報って伝わるのはえーなー。うちのクラスでこれだし、お前しばらくは時の人になるんじゃね?」

 

「・・・勘弁してくれ」

 

説明に疲れ切った八代が席に戻ると孝司がニヤニヤしながらそう言う。

 

「でもそうね。雪比良くんの言う通り、抜き打ちテストで唯一貢献したのは八代くんだけになるから、真実がどうであれしばらく噂は続くんじゃないかしらね」

 

「そだねー、まあ人の噂も75日って言うじゃん。気にせず生活するしかないんじゃない?」

 

「なげぇ・・・。まあ、悪いことばっかじゃないから素直に受け止めるしかないかな」

 

孝司の言葉に出雲と桃瀬も頷きながら肯定し、八代は諦めたようにそう言うのであった。

 



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第7話:班編成

 

あの家庭科室騒動がおきて数日、九澄大賀は晴れて聖凪高に編入することができた。

 

「じゃあ俺魔法使えないの!?」

 

「そういう事です」

 

そんな中、朝早くから呼び出された九澄は八代、柊先生とともに校長室でプレートに関する説明を受けていた。

 

「マジックプレートというのは使用者がプレートに必要な分魔法術を記録し、『魔法特区』で生まれる魔力を使って実行する。いわば魔力の記憶装置なんです。魔法はその効果・時間で使用する容量が異なりますし、大きな魔法ほど複雑な記憶が必要となりプレート容量を食います。レベルの低いプレートでは扱えない事もあるでしょう。そのため、各生徒には個人証もかねて魔法能力に合わせたプレートが支給されますが、新たなプレートはいつでも作れるワケじゃないのです」

 

「今はできねーの・・・?」

 

「ええ、プレート自体が最高の魔力を用いないと生み出せないため、この聖凪山の魔力が高まる特定の時期でなくてはプレートを生産する事ができないのです」

 

「じゃー俺とーぶんただの人でこの魔法学校で過ごすのかよ!!・・・うっそー!!」

 

校長がプレートの説明をすると、悲鳴に近い九澄の言葉が校長室に響きわたる。

 

「つまり正体を知られずにやっていくには事情を知る俺達の協力が不可欠という事だ」

 

(こ、このやろう・・・!自分のクビだってかかってんだろーに主導権は自分が握ろうってか!)

 

柊先生がそう言うと九澄は嫌な顔をしながら威嚇する。

 

(なんてナマイキなガキだ・・・!置物に変えて男子便所の便器横に飾り付けてやろうか・・・!)

 

(クソオヤジ・・・!校外連れ出して桜並木の肥料にしてやりてぇぜ・・・!)

 

「「ニヒッ・・・ニヒヒヒ」」

 

「気持ちわる・・・」

 

「別のところでやっていただきたいですね・・・」

 

悪い笑みを浮かべながら睨みあう二人を見て、八代と校長はため息をつきながらそう言うのであった。

 

 

 

 

 

「ったく、早朝からなんで呼び出されたのかと思ったら、魔法が使えないってだけでもショックだったのに、魔法使えない状態でしばらくは魔法を使えるふりをしなきゃならないなんてよー。八代はいいよなぁー、ゴールドプレートだし魔法使いたい放題じゃん」

 

「お前に巻き込まれる俺の身にもなれっての。まあ先生がいるおかげでお前の練習に合わせて堂々と魔法練習できるから引き受けるけどさ。とにもかくにも、お前は柊先生と一緒に魔法が使えるふりの練習しとけよ?今日で基礎期間が終わって俺たちも来週から本格的に魔法授業に入るんだから、このハッタリすら出来ないんじゃお話にならないんだからな」

 

校長室での話が終わった後、八代は九澄の魔法練習(ふり)の手伝いをしながら二人で教室に向かう。

 

「わ、わかってるよ。でもよー、なんで班まで違わなきゃならねーんだよ。一緒の班じゃないとフォローできねーじゃんか」

 

「まあ普通はそうだな。けど俺がフォローするなら魔法以外の部分になるわけだから、その場合はむしろ同じ班じゃないほうが都合がいいんだよ」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「そもそも俺の場合はお前の魔法に対するフォローが難しいんだよ。俺のプレートはGプレートだけど表面上はRIプレートだろ?そしてお前が魔法を使用する場合、必然的にゴールドクラスの魔法が使用されなきゃいけない。仮にゴールドクラスの魔法でなくても、投げるにしろ魔法解除するにしろ、使用されるプレートはRIプレートになっちまう。つまり俺の場合、本来ありえないことが起きちまうんだよ。ゆえに俺がフォローできない以上、魔法に関してのフォローの場合は俺より同じGプレートである柊先生のほうが適任ってことだ」

 

そう、八代のプレートは本来であればGプレートなのだが、現状表面上はRIプレートなのだ。

また、プレートは魔法解除した場合、持ち主の手に戻るようになっている。

そのため、魔法を使用した際、投げた時に判別できなくとも、魔法解除の際は必ず手に戻る。

この場合、プレートが戻る際は九澄の近くにいることでそのプレートを九澄が取れば済むのだが、そのプレートはGプレートでなければならない。

これにより、八代は九澄の魔法に関するフォローが難しいのだ。

 

「な、なるほど」

 

「それにGプレートなのに俺が同じ班で横から助言したら逆に怪しまれかねないだろ?だったら最初から違う班で隠れながらフォローしたほうがリスクも低いんだよ」

 

(まぁ、理由は他にもあるんだが・・・)

 

「で、でもよー、やっぱ知り合いがいたほうがいいじゃんか。一人じゃ不安なんだよなぁ」

 

「なに女々しいこといってんだ。お前が無理言って入るって決めた学校だろ。なら、なんでもかんでも頼ってないで、自分で切り開いていくしかないだろ」

 

「・・・んー、まあそうだな。それに最終的には自分で決めなきゃいけないんだよな。・・・おし、いっちょやってやるぜ!」

 

「(単純な奴・・・)。その意気だ、大賀」

 

気合を入れなおした九澄に、八代もそう言いながら二人は教室へと入っていくのであった。

 

 

 

 

 

----キーンコーンカーンコーン

 

「おや、もうそんな時間でしたか。では今日の授業はここまでとしましょう。下田さん、号令をお願いします。」

 

「はい。起立ー、礼」

 

時刻は過ぎ、授業が終了するチャイムが鳴ったため相川先生が下田に合図をして、下田の号令とともに本日最後の授業が終了した。

 

「下田さん、ちょっとお願いがありますので、職員室まで一緒に来ていただけますか?津川くんもプリントを運んでほしいので一緒に来てください」

 

「あ、はい。わかりました」

 

「了解ですー、先生!」

 

そういうと相川先生とともに下田と津川が教室から出ていった。

 

「ふぁ~、眠ぃ・・・」

 

「ねぇ八代ー、あんた班編成は誰かと一緒になるか決めてたりする?」

 

「ん?別に決めてはいないぞ。誰とだって一緒に勉強するだけだしな」

 

「よかった、まだ決まってなかったのね」

 

今朝が早かったため八代があくびをしていると桃瀬と出雲がこっちを向いて話しかけてくる。

 

「次のHRで班編成を決めるじゃない?だから今のうちにあんたを誘っておこうと思ってね!あたしと出雲とあんたで一緒にやろうよ!ほら、やっぱ知ってる者同士で組みたいじゃん♪」

 

「八代くんなら色んな魔法勉強してて頼りになりそうだし、成績優秀だもんね」

 

「別に構わないが、班は5人だろ?あと二人はどうするんだ?」

 

八代は軽く承諾し、桃瀬と出雲に残り二人について尋ねる。

 

「ホントはやっぱりGプレートである九澄くんを誘っておこうと思ってたんだけど、同じことを考えている人なんていっぱいいるし、競争率高そうじゃない?取り合いになるのも面倒だし、別の人を誘おうと思ってるのよ」

 

「ああー、確かにな。俺もあいつとはよく喋るけど面倒なのはゴメンだし、別の班にしようぜって話はしてるから問題ない」

 

出雲が苦笑しながら話すと八代はこれ幸いと思いながら同意する。

 

「そこのユッキーでいいんじゃない?魔法だけは優秀だし、なんだかんだでいつも喋ってるもんね」

 

「んだよ、魔法だけはって。まあ早く決まる分文句はねぇし、八代がいる分楽できそうだからいいぜー」

 

「おい待てコラ、聞き捨てならんぞ孝司」

 

八代が文句を言うが、桃瀬の誘いに孝司も承諾する。

 

「あともう一人なんだけど、私は氷川さんを誘おうと思ってるんだけどどうかな?」

 

「俺は向こうが大丈夫なら別に構わないぞ」

 

「私も問題なし!てか文美ちゃんや、今日子ちゃんならもう誘ってあるよ♪」

 

「はやっ!?まあ桃が誘ってるんなら問題ないだろうけど」

 

出雲が提案した内容は桃瀬がもう解決しているようで、氷川さんを含めればこれで5人の班が決定したということだ。

 

「そういえば委員長は誘わなくて良かったのか?お前らいつもよく喋ってるじゃん」

 

「委員長はもう班決まっちゃってるのよ。私たちよりも先に津川くんが人を集めてたみたいで」

 

「あらら、まあそりゃ仕方ないわな」

 

「あいつもムードメーカーだから、いろんな奴と話してるだろうし、こういう人選は早いんだろうよ」

 

孝司の問いに出雲が説明しすると、八代と孝司も納得して苦笑する。

 

 

 

 

 

----キーンコーンカーンコーン

 

「えー、相川先生ですが、他の先生に呼ばれこれからのHRに出られないということですので、代わりに委員長である私が進行します。以前から先生からご連絡があったように、魔法授業も本日で基礎期間が終了となりますので、来週から授業が本格化します。そのため本校では通例通り、これから班編成で授業を受けることとなります」

 

相川先生がいないため、委員長である下田が本日のHRの説明をしていく。

 

「各班は男女5人程で集まってもらいます。共に授業を受ける仲間として、得手不得手をカバーし合える友達で組むと成績にも有利ですので、よく考えて仲間を決めてください」

 

だが、そんなものはお構いなしと、ほかの生徒はゾワゾワと今にも何かの合図を待つかのように落ち着かない様子で座っていた。

 

(ふわぁ~・・・。気持ちはわからんでもないが、そんなにあいつが欲しいかねぇ・・・)

 

八代は内心ため息をつき、あくびをしながら後ろで寝ている大賀を見る。

 

「では、このHRの時間は各自で班を決め・・・」

 

ガタガタガタガタッ!!

 

「九澄ーーーーー!!!」

 

ドドドドドドドドド!

 

委員長が言い終わる前に周りの生徒は席を立って九澄の席へと向かうのであった。

 

「・・・まるで嵐だな」

 

「違いない」

 

ボソッと呟いた八代の言葉に孝司が同意しながらそう言う。

 

「九澄くん!私と一緒に班にならない!?」

 

「九澄!一緒の班になろうぜ!」

 

「・・・ん?えっ!?なにっ!?なにっ!?」

 

九澄が起き上がるとほぼ全員が九澄に対してアプローチをかけてきていた。

状況が把握できず、九澄は困惑しながら流されている。

 

「何言ってるのよ!私と組んだほうがいいに決まってるじゃない!?」

 

「ズリーぞ!!自分の班に九澄入れて得しよーとしてんだろ!!」

 

「お前だってそうだろうが!」

 

「俺がもらう!!」

 

「いや、俺がもらう!!」

 

「ちょっ・・・ちょっとー!」

 

次第に取り合いが始まると、てんてこ舞いになりながら、九澄は左右から引っ張り合われる。

 

(・・・よかった。俺Gプレート隠しててホントによかった)

 

そのカオスな現場を目の当たりにし、八代は自分がGプレートだと公言していなくて本当に良かったと心の底からそう思ったのであった。

 

「ありゃりゃ、こりゃ九澄くん大変だわ~」

 

「お気の毒ね」

 

桃瀬と出雲もその現場をみて苦笑しながらそう言う。

 

「桃、出雲。来たよ」

 

「あ、今日子ちゃん来た!これで5人1組だね♪」

 

「氷川さん、これからよろしくね!」

 

こちらにきた女の子がこちらに来てそう言うと、桃瀬と出雲が嬉しそうに歓迎する。

 

「ああ、宜しく。あと2人はこっちの男2人?」

 

「そう、八代とユッキーだよ」

 

「席も遠いしあまり話したことなかったよな。冬木 八代だ。みんな呼んでるし、氷川さんに任せるけど「八代」で良いぜ。これからよろしくな」

 

「俺をそう呼ぶのはお前だけだ、桃。ああ、俺は雪比良 孝司だ。俺のほうも「孝司」でいいぜ。よろしく頼むよ」

 

「ああ、二人から聞いてるかもしれないけど氷川 今日子よ。宜しくね、八代、孝司。私はどっちでも構わないから好きに呼んで」

 

八代と孝司の自己紹介に氷川も頷きながらそう言う。

 

「だぁーーーーー!うるせーーーーーー!勝手に騒いでんじゃねー!」

 

「・・・あっちはまだ掛かりそうだな」

 

「・・・そだね」

 

九澄の叫び声が教室に響き、八代と桃瀬は苦笑しながらその光景を見守るのであった。

 

 




現在少々忙しい日々が続いているため、次の更新は3週間後の6/24(月)とします。余裕があればそれより前に更新も検討中です。


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第8話:魔法バトル

「・・・なぁ八代」

 

「・・・なんだ大賀」

 

「やっぱ一緒の班になってくれーーー!頼むよーーーーー!」

 

「ええい、やかましい!自分の蒔いた種だろ!諦めろ!」

 

地獄の班編成HRが終わり、廊下をともに歩いていると、九澄が八代に泣きついてくる。

その理由は目の前の光景を見れば簡単である・・・。

 

「キャーー!?んもー、伊勢のバカ!」

 

「ハハハ!佐倉ァ、ちょっと肉ついたんじゃねぇかー?」

 

「・・・最低だな」

 

「・・・ああ」

 

女子生徒のお尻を軽やかに触る男、伊勢カオルを目にした瞬間、九澄と八代の不安は倍増されたのである。

そう。この伊勢カオルこそ、5人1組の九澄の班になった1人なのである。

 

「大体もう班編成の用紙は委員長が持って行ったんだから変更しようもないだろ」

 

「うぅー、こんなことになるんだったらちゃんとクラスメイトをちゃんと把握しておくべきだったぜ・・・」

 

「それはお前の自業自得だな。けど柊と一緒の班になれたんだろ?だったらそっちを喜べよ」

 

「まあなー・・・ってそれは関係ねぇだろ?!」

 

「どうだかねぇー」

 

八代の言葉に肯定するも、九澄は顔を真っ赤にしながら抗議する。

九澄と伊勢でペアを組んだ途端、案の定ほかの女性たちは伊勢を嫌がったため、男女合同の班決めだったため九澄たちは班を決めあぐねていた。

そこへ柊が九澄と伊勢を同じ班で良いと誘われ、一緒に組んでいた三国 久美と乾深 千夜とで5人1組となったのであった。

八代としては九澄がいつも気にかけている女の子が都合よく一緒の班になったのだ。

応援してあげたい気持ちもあるわけで、そのまま放っておくことにしていた。

 

(まあ親バカの柊先生には悪いけど、大賀がよりやる気を出せるようにするにはやっぱりモチベーションが上がるようにしてやんなきゃダメだからな)

 

言わずもがな、柊と同じ班になることに対して柊先生から猛反対されたが、もう決まったことだと押し切ったこともあり、渋々受け入れてもいる。

どちらにせよ、あとは九澄が自身で魔法授業を乗り切っていくしかないのだ。

 

「なに話してんだよ、お二人さん!俺と一緒にエロトークで友情を深めていこうぜ~!」

 

二人で話していると伊勢が両手を広げながらこちらに駆け寄ってくる。

 

「・・・お前ってホント女子の言う通りの奴なんだな」

 

「ある意味予想通りだな・・・」

 

「なに言ってんだよ二人して~!こういうことは男なら当然じゃねぇか!美しさってのは見て触れて初めて理解できるものなんだよ!こういう欲求は素直に受け入れなきゃいけねぇ、溜め込んじゃいけねぇのさ!」

 

「・・・あ、・・・そう」

 

「垂れ流しもダメだと思うがな・・・」

 

伊勢が持論を熱く語っているが、九澄と八代は呆れながらもそうツッコむしかなかった。

 

「やっぱ、強力な味方がついてくれたから、俺のゴールドフィンガーも絶好調だぜ!」

 

「大賀、短い人生だったな。お前が犯罪者として一緒につかまらないことを俺は祈ってるよ」

 

「ねぇ、やめて!結構リアルだからそういう言い方やめて!」

 

「おっ!!あれは『Gの旋律』B組時田!あぁ~、俺の右手が美を求めるぅぅぅ~!!」

 

「「ダメだこいつ・・・」」

 

通称『Gの旋律』と呼ばれる1年生で一番のバストサイズを誇るB組の生徒、時田マコを見つけるやいなや、伊勢は鼻歌交じりに右手を先行させて時田に近づいていく。

それを目撃した二人はもう何を言っても無駄だと悟ったのであった。

 

----ブォッ!!ボガーン!!

 

「ぐはぁっ!?」

 

「キャー!!」

 

時田へ近づく前に、一回り大きくなった本が連結した状態で伊勢を吹き飛ばす。

その光景を目の当たりにして怖くなったのか、時田は悲鳴を上げながら走って逃げていった。

 

「このボケが・・・、俺と同じ名前背負って恥さらしなマネしてんじゃねーぞ」

 

「あ、兄貴!!」

 

「あ、あいつはあの時の・・・って兄貴!?」

 

伊勢の発言に大賀は驚きながら、やってきた男子生徒を見る。

彼の名は伊勢聡史。

伊勢の兄であり、魔法力が高く1・2年の中では一番のだと言われているほどの実力者である。

 

「大賀、あの上級生の人知ってるのか?」

 

「あ、ああ。俺がこの校舎に侵入したときに、たまたまあいつがカツアゲしてるところに出くわしちまってよ。その時に絡まれて俺もテンパってたから何人か連れをボコっちまったんだ」

 

「カツアゲって・・・随分穏やかじゃない話だな」

 

大賀は関わりたくなさそうに嫌な顔をするが、八代はその話を聞いて伊勢兄を睨みつける。

 

「相変わらずしょーもねーヤロウだ。何も取り柄がねーくせに、みっともねーことだきゃ人一倍しやがる。だから俺の出がらしって言われんだよ」

 

「こ、この!お前こそいつも上からモノ見やがって、なめんな!!」

 

「お、おい!こっち来るんじゃねぇ!」

 

「俺らを巻き込むなよ・・・」

 

伊勢兄の言葉に怯み、九澄と八代を盾にして凄みながら言う。

 

「ん?お前は・・・あん時以来だな。聞いたぜ、授業中レベルが低い魔法は一切使わない舐めきった態度のGプレート一年ってのは。お前だろ、九澄 大賀。それにそこの点取り虫も一緒ってことは、あの噂はホントだったみたいだな」

 

「噂?」

 

「お前のことだろ、冬木 八代。たまたまそこの腑抜けたGプレートを捕まえただけで、いい気になって点数稼ぎをしてる目立ちたがり野郎は」

 

「なんだとっ!?」

 

八代と九澄に気づき、伊勢兄が噂について話すとそれに対して九澄が反応する。

 

「大した腕もないくせによ、出しゃばってんじゃねえぞ。それに、そこのゴミと一緒にGプレートの金魚の糞になってる時点で実力もたかが知れてる」

 

「・・・・・」

 

「ゴ、ゴミだと!?この野郎、言わせておけば!そりゃ俺はアンタにまだ何一つかなわねーよ!でもな、魔法に関しちゃまだ答えは出ちゃいねーんだよ!見てろよ、俺ぁあんたより良い成績あげて、あんたの上をいってやるからな!」

 

「るせぇ!!誰もてめーとは話しちゃいねーんだよ!!!」

 

伊勢兄の言葉に伊勢も反応し、見返してやると声を張り上げるが、黙れと言わんばかりに再び伊勢に向かって先ほどの魔法が飛んでくる。

 

----ブォッ!!

 

「・・・待てよ」

 

----ガァンッ!!

 

「・・・あん?」

 

「九澄!?」

 

「わけわかんねー兄弟ゲンカに関わりあいたくねーが、弱えーから頭押さえつけよーってのは気に入らねーな」

 

伊勢の前に割り込み、九澄が飛んできた本を上から殴りたたきつける。

 

「それになぁ、俺のことはいくら悪く言っても構わねぇよ。実際その通りだしな。けどな、俺とは違って八代は本当に魔法に一生懸命で頑張ってんだよ。それをバカにすんじゃねぇ!!」

 

「・・・大賀」

 

先ほどの悪口に腹が立っていた九澄が伊勢兄を指さしながらそう言い放つ

 

「ハンッ、くだらねぇ!友情ごっこはよそでやれよ!そーいやお前とはケリがついてなかったな!ここで続きやるか!!」

 

----グォンッ!!

 

「いいっ!!?」

 

自分に盾突いたことが気に入らなかったのか、伊勢兄が魔法を展開すると九澄へ矛先を変えて本を飛ばしてくる。

 

「伊勢!先生が来ないか辺りを見張ってくれ!」

 

「え、なんで!?」

 

「校内での魔法バトルは禁止だ!あの調子じゃ大賀も魔法を使って防御するしかないだろうから目撃されたら困るだろ!」

 

「そっか、わかった!」

 

そう言って伊勢が辺りを見渡そうと後ろを向いて確認する。

 

そして、八代の前には九澄と本の魔法が見えるが伊勢兄が見えないことを確認する。

 

その二つを確認した八代は九澄の手に向かって自身のプレートを投げる。

 

(『カトゥーン・ハンド』!)

 

「え?うわぁ!?手が大きくなった!?」

 

「大賀!周りは俺達が見張ってるから、気にせず魔法を使ってくれ!」

 

(ってことはこの魔法は八代の魔法か!)

 

「わかった!サンキュー、八代!」

 

カトゥーン・ハンド・・・。

授業中に柊先生が時々使用する魔法であり、対象の手を強化及び巨大化しさせる魔法である。

 

「うおぉぉぉーー!!」

 

----ボボボボボボボボッ!!

 

カトゥーン・ハンドのおかげか、九澄は次々と襲い掛かる本の嵐を拳の連打によって叩き落していく。

 

「オイ、何だあれ・・・?」

 

「本と人間でバトルしてるぞ!大道芸にしか見えね~!」

 

激しいぶつかり合いのせいなのか、次第に野次馬が増えていく。

 

「こらソコ、何やっている!校内での魔法バトルは禁止のはずだぞ!」

 

「冬木、遠くから教師が近づいてくるぜ!」

 

「ああ!大賀、伊勢先輩!これ以上は危険ですのでやめてください!」

 

伊勢がそう言い八代もそれを確認すると、戦ってる二人に対して停止を促す。

 

「チッ・・・邪魔が入ったか・・・」

 

次第に本の攻撃が止まり、自身に引き寄せてから魔法解除を行うと、本とマジックプレートが伊勢兄の手元に戻ってくる。

 

(シルバーか。やはり、あれだけの質量を手足のように自在に操っている以上、実力は本物のようだな)

 

伊勢兄が手にしていたマジックプレートはSプレート。

先ほどの戦いを分析しながら、八代は実力は本物だと改めて確認する。

 

「ま、いいだろう。いずれまた戦う機会もあるだろうし。そん時にじっくりお前らの実力を確かめてやるさ」

 

伊勢兄はそういうと、九澄と八代に背を向けて立ち去っていく。

 

「大賀、伊勢。俺達もここから離れるぞ!」

 

「ハァー、ハァー、・・・えっ!?あ、ああ!」

 

「ちょっ!?待ってくれよ二人とも!」

 

八代は先ほどのバトルで息を切らしている九澄の首根っこを掴み、伊勢を置いてその場を後にする。

 

 

 

 

 

「ここまでくれば大丈夫か。お疲れさん、大賀」

 

廊下の角を曲がり前方に誰もいないことを確認すると、八代は魔法解除し九澄の手から出現した自身のプレートを回収する。

 

「さ、サンキュー、八代。お前の魔法のおかげで助かったわ」

 

「気にすんな。それに、ありがとな。俺なんかのために怒ってくれてさ、嬉しかったよ」

 

魔法バトルから解放された九澄が脱力する中、八代は照れくさそうに頬を掻きながらそう言う。

 

「やっと追いついた・・・。」

 

「悪いな伊勢、置いてきちまって」

 

「ホントだぜ!って言いたいけど、助かったぜ二人とも!それに、やっぱ九澄は強いし頼りになるぜ!」

 

伊勢が遅れてきたため八代が謝るとそんなこと気にしないくらいに笑顔で二人にお礼を言う。

 

「いや、あれは俺も危なかった・・・じゃなくて!あそこは八代も怒るところだろ!伊勢だってあんなに言われてたのに、お前はあんなこと言われてムカつかねぇのかよ!」

 

「そうだぜ!冬木はなんであそこまで言われて黙ってられたんだよ!悔しくねーのかよ!」

 

九澄と伊勢が憤怒しながら八代にそう言う。

 

「んー、確かに腹は立ったけど。伊勢先輩も噂を聞いたってだけだったみたいだし、俺の代わりに大賀が十分怒ってくれたから別に気にしてもないさ」

 

「そりゃそうかもしれねぇけどよー。普通怒らねぇ?」

 

「所詮事情も知らない奴らが流した噂だろ?次第にそんなこと言えないくらい実力をみせていけば、そんな噂も消えていくさ」

 

「前向きだねぇー、冬木は。少なくとも俺はあんなこと言われて黙ってはいらんねーなー」

 

二人はそれぞれ思ったことを口にするが、自分のことなのに怒る素振りを見せない八代に対してこれ以上は言わなかった。

 

「それより、そろそろ教室に戻ろう。次の授業に遅れてしまう」

 

「ああ、そうだな。それにしても、改めて九澄はGプレートなんだなって再確認したぜ!さっきの魔法って柊先生がやってる『カトゥーン・ハンド』だろ?先生クラスの魔法が使えるんだからスゲーよなぁ!」

 

「え?あ、ああ。・・・まあな」

 

(俺も再確認したぜ。八代がホントにGプレートなんだってな。あの魔法がなきゃ、俺の手は膨れ上がってたろうからな)

 

伊勢が激励を言い、教室へ戻ることを促す八代の背中を見て、九澄は改めて心強い仲間がいることを感謝しながら、二人の後を追うのであった。

 



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第9話:魔法授業

「なるほど、そんなことがあったのね」

 

「まあな。ちょっと調べてみたら伊勢先輩はSプレートで元生徒会魔法執行部だったみたいだし、あそこまで魔法を自在に操ってるのを見ると、相当な実力者だなって思ったな」

 

「へぇー、そうなんだ。・・・というか八代って結構厄介ごとに巻き込まれるタイプ?」

 

先ほどあった騒ぎの内容を八代に聞き、出雲と桃瀬はそう言う。

 

生徒会魔法執行部・・・。

それはこの学校で規則を破った者がいた場合、実力行使でその生徒を取締まる学校直属の警察のような部である。

この学校では時間外の魔法使用は原則禁止となっており、執行部はその時点で連絡を受け取締りを行うのだが、その際に逃れようと抵抗してくる生徒も少なくはない。

そのため、取締りを行う執行部のメンバーは制圧することができるもの、事実上必然的に魔法の実力がある者が集められているということだ。

 

「・・・個人的には否定したいところだ。どちらかというと、大賀のほうがその気質があるからな」

 

「確かにあれは厄介ごとの塊だわな。Gプレートってだけでも目立ちまくりだしよ」

 

肩を竦めながら八代が言うと、孝司が苦笑しながらそう言う。

 

「・・・ちょっと、お喋りはその辺にしときなさいよみんな。柊先生、こっち見てるわよ?」

 

「おっと。悪い氷川さん、気を付けるよ。ありがとう」

 

「・・・別に」

 

氷川が注意し、柊先生をみると授業の説明しながらこちらを見ていたので、お礼を言いながら八代は授業に集中することにした。

 

現在、魔法実習授業により、八代達1年C組は高校敷地内の聖凪山自然区域にきていた。

ここでは魔法を使用することを許されており、野外授業で使われることが多く、周辺には木々や岩など自然で溢れている場所である。

 

「けっ、大したことねーよあんなヤツ!ここにGプレート持ってる1年がいるじゃねーか!」

 

「いいっ!?」

 

そんな中、一際大きな声が聞こえたと思ったら、伊勢が九澄を指さしながら柊たちに話をしているところだった。

伊勢の声が大きめだったため、他の生徒も九澄たちの班に注目する。

 

(聞こえた内容からすると、俺らと同様で伊勢兄の実力が凄いって話だったから伊勢がぶった切ったんだろうな。けど・・・)

 

八代がちらっと柊先生を見ると、大きなため息を尽きながら、大きな木にプレートを挿入するところが見えた。

 

すると、木からツルが伸びて九澄のほうへ向かっていく。

 

それを見た瞬間、八代は氷川にお礼のジェスチャーをし、それを確認した氷川も気にするなとばかりに苦笑する。

 

「ったく、ハタ迷惑な・・・。俺を巻き込むんじゃねぇよ。気持ちは分からなくもねーが・・・」

 

「ああ、気持ちはわかる。こういった野外授業はついムダ話をしてしまうものだ・・・」

 

ため息をつく九澄の後ろに柊先生が目を光らせながら、先ほど伸ばした木のツルを九澄の足に巻きつけていく。

 

----ヒュッ、ガシッ!!

 

「はっ!?」

 

「だが、俺の授業では命取りだということを覚えておくんだな」

 

「ヒィーーー!!すみませんーーー!!つかなんで俺だけーーー!!」

 

足をツルに巻き取られた九澄の身体は上下が反転し、木が大きく揺られて九澄自体を大きく振り回すこととなった。

 

「助けてくれーーー!!!」

 

(これ操作系の魔法だな。操作自体は大賀の足を掴む以外は単一の命令で操作してるのか)

 

人間バイキング状態の九澄を見ながら八代は冷静に柊先生の発動した魔法の分析をしていたのであった。

 

 

 

 

 

「では、聞いていなかった馬鹿者も含め、再度説明する。今日のこの時間は1つの課題をクリアしてもらう。基礎学習で物に動的変化を加える技術は習ってるハズだ。今回はその応用で、一塊10kg弱の石を浮かせてもらおう」

 

そういうと、柊先生は身近にあった石にプレートを投げ、適当に浮かせながら説明をしていく。

 

「時間は30秒間。この授業時間が終わるまでに各班5人が全員クリアできたら合格とする。わかったな。浮かせる方法は一種類ではないぞ。風圧、引力、重力制御あるいは空気を固めてその上に乗せてもいい。各自身についている魔法で対応しても良し、魔術書の魔法を今入力してもかまわん。オイ、九澄。ちょっと手本を見せてやれ」

 

「はぁ?・・・っと、俺はあんまり人前で魔法を見せびらかしたくねーから・・・」

 

「いいからやれ!」

 

----ヒュッ、ピッ!

 

「!・・・アハハ、しっかたねーか・・・。ったく、ちょっとダケだぜ?」

 

一通りの説明をすると、柊先生が九澄を手招きして実演を指示する。

魔法が使えないため九澄は否定していたが、柊先生のサインを確認し仕方がない振りをしながら前に出てくる。

 

「大賀、最初は派手に見せた方がいいぞ」

 

「ああ、俺もそう思ってる」

 

横を通り過ぎる際、八代は九澄に小声でそういうが、九澄もわかっていたようで八代に対してそう答える。

 

「そーいや俺らって九澄が魔法使うトコ見たことねーな」

 

「大概は実演で指名しても拒否ばっかだったからねー」

 

周りからは九澄が魔法を使ったことがないことに気づき、ほとんどの生徒が九澄の実践に注目する。

 

「そーだなー。普通の石コロじゃもの足りねーか、どーせならこっちのでけー岩くらいいきますか、センセイ?」

 

「こんな重そーなのを?てか岩じゃん」

 

「マジ?」

 

九澄が指さしたのは先ほど柊先生が浮かしていた10Kg弱の石ではなく、それよりも明らかに大きすぎる岩であった。

それを聞いた他の生徒たちは一気にどよめきたてる。

 

「・・・おい、調子に乗るなよ」

 

「いーじゃんいーじゃん、こういうのはやるならトコトンだって!最初の擦り込みはハデなほど信じ込みやすいし。一回信じちまったことは人間そう簡単に疑えなくなるモンだろ?」

 

(・・・こいつ)

 

こめかみをピクピクさせながら柊先生が小声で言うと、自分の考えを言い九澄はにやっと笑いながらそう伝える。

その考えに柊先生も納得し、自分もプレートを投げる準備をする。

 

「ねぇ八代ー、ああ言ってるけど実際にあんなに大きい岩を操作なんてできると思う?」

 

「ん?ああ、大賀のことか?魔法自体は強力な操作魔法があるの知ってるからできるとは思うけど、どの魔法も今のRIじゃMPの消費量的に不足してるから実質無理だな」

 

「なるほどね、つまり九澄くんならGプレートだし、その魔法をインストールしていれば可能ってわけね」

 

「そゆこと」

 

桃瀬の質問に八代が答え、その内容に出雲も納得して九澄の成り行きを見る

 

「そんじゃいくぜーーーー!ほいっ!」

 

----ヒュンッ!!

 

九澄は自分のプレートを前にだし、思いっきり投げると見せかけてプレートを胸ポケットにしまう。

そしてその九澄に重なるように立っていた柊先生の手から岩に向かってプレートが投げられていた。

 

(まるで手品師だな・・・)

 

事情を知っている八代は呆れながら事の成り行きを見守っていた。

岩にプレートが挿入され、次第に岩が持ち上がっていく。

 

「1メートルじゃつまんねーし、ガケの上くらいいっとくかー!」

 

「お、おいこら!」

 

「いっけーー!!」

 

(ったくあのやろー!)

 

----ゴゴゴゴゴッ、ズズズズズゥン!!

 

柊先生の静止の言葉も受け付けず、九澄が崖の上へ腕を突き出したため後戻りもできず、仕方なく崖の上まで岩を運んでいった。

 

----ゴウゥンッ・・・

 

「ふぅ・・・、こんなもんかな」

 

『おおおーーーー、』

 

九澄がいかにも魔法を使って疲れたようなフリをすると、周りから歓声が聞こえた。

 

「すげぇ、さすが九澄だぜ!」

 

「やっぱりGプレートは格が違うな!」

 

「ねぇねぇ、今度私にも魔法教えて!」

 

「ハハハ、また今度な」

 

先ほどの魔法が凄かったようで、他の生徒が言い寄ってきたため、九澄も苦笑しながら席に戻っていく。

 

「凄いね、九澄くん!やっぱああいうのを見るとホントにGプレートなんだなって実感するよね!」

 

「そうだな。彼は簡単にやってみせてるけど、実際魔法操作は難しいからやっぱり相当な実力者なんだろうな」

 

「ああ、そうだな(実際は柊先生が操作してるから疲れなんて微塵も感じてないんだがな)」

 

委員長と孝司が感嘆の声をあげているが、実際の状況を考えると八代は苦笑するしかなかった。

 

(でもこれで大賀が魔法が使えることの証明が全体的にできたわけだ。後はお前次第だよ、大賀)

 

「では、それぞれ班ごとに分かれて課題に取り掛かってくれ。また、もうこの場ですぐにクリアできるという生徒はこの後私のところへ来なさい。課題がクリアできればその場で合格印を押してやろう。では、各班練習始め!」

 

柊先生の合図により、他の生徒たちはそれぞれの魔法を試すために散り散りになっていく。

 

「さてと。八代、お前はどうすんだ?クリアできそうなら柊先生のとこ行ってきていいんだぜ?」

 

「え?八代、もう課題クリアできるの?!」

 

「・・・まあ、やれなくはないかな。けど孝司、なんで俺がクリアできるってわかったんだ?」

 

孝司の言葉に桃瀬が驚いていると、八代が不思議そうに尋ねる。

 

「いや、クリアできるかはわからなかったぞ?けどお前、毎日蔵書室で魔法の勉強してたし、魔法はたまにローテションしてるみたいだから使える魔法があれば即クリアできそうだなって思ってよ」

 

「ああ、なるほどな。確かにお前の言う通り、今日の課題にマッチしてる魔法があるわけだし、先にクリアしてお前らのフォローに回るのもアリかな」

 

「ゆ、ユッキーが頭使ってるっ!?悪いものでも食べたの?!」

 

「お前が普段俺のことをどう思っているのかよーくわかったわ!」

 

孝司に関しては普段だらけた姿がほとんどだったため、八代に推測を話している姿を見た瞬間桃瀬が驚きながらそう言う。

 

「じゃあ、八代は課題クリアしてきたら?私たちもあまり時間つぶしてるわけにもいかないし、他の場所で魔法を試してるから後で合流してくれればいいからさ」

 

「そうだね。みんなどんな魔法使えるのか確認したいし、今日子ちゃんの言う通り授業中の課題となると魔法インストールする時間も考慮しないといけないから場所変えよっか」

 

「賛成ー!じゃあ八代、さくっと終わらせて早く来てねー♪」

 

「へいへーい。んじゃ行ってくるか」

 

そういって八代を除いた他の者は離れていき、八代は柊先生のもとへと向かっうのであった。

 

 

 

 

 

「む?やはりきたな、八代」

 

「ええ、まあ。せっかくの機会ですし、先生のご厚意にも答えないといけないと思いましてね」

 

「フッ、採点はしっかり行わせてもらうぞ。Gプレートだからといって魔法を使いこなせていなければ減点させてもらうからな」

 

「望むところです!」

 

八代は柊先生のもとへ向かうと自分のプレートを取り出し、そばにある石を見ながらそう答える。

その場でできる生徒とは言ったが、柊先生としても八代以外の生徒がすぐに自分のもとに来るとは思っていなかった。

この課題に関しては、まず自分の魔法が何をどれくらいできるかしっかり把握している必要がある。

その上で他の魔法が必要か、このままの魔法で問題ないかを判断しなければならないのだ。

ましてや、一定時間以上という特定の指示をしているため、自分がその魔法を持続できる時間も把握しなければならない。

そのため、授業で教わったことを含め普段からしっかりと魔法を使用して勉強しているものでなければ、たやすくこの試験を合格することはできないのだ。

その点、八代に関しては九澄の魔法を使用するフリの練習をしているときに、自由かつ大胆に様々な魔法の練習をしている。

Gプレートである前に、八代が魔法について勉強をしていたことも柊先生は知っているため、自分の魔法さえ理解していれば難なくクリアできると考えていた。

それゆえに、早めの課題クリアを希望と考え、先ほどのような言葉を選び、八代もその意図に気づいたため、こうして足を運んだというわけだ。

 

「では、始め!」

 

「いくぞ、『重力操作(グラビティコントロール)』!」

 

柊先生の開始の言葉を聞き、八代は石に向かってプレートを投げ、石の重力を操作する。

重力を操作された石は徐々に浮上し始める。

重力操作・・・。

対象にしたものの重力を任意で変更することができる魔法である。

対象にしたものの質量によってかかっている重力が違うため、操作できる度合いは異なってくる。

しかし、今回の課題では30秒以上地上から浮かすことが目的のため、石の位置の固定を気にしなければ、コントロールはさほど難しくはないと考えた八代はこの魔法を選んだのであった。

 

「27・・・28・・・29・・・30!よし、合格!」

 

『おおー、スゲェー!』

 

「ふぅ、『魔法解除』」

 

30秒継続したのを確認し、柊先生から合格の言葉を聞いた後、八代は石の重力を徐々に重くしていき、静かに降ろした後に魔法を解除する。

周りで見ていた班からも歓喜の声が上がる。

 

「ふむ、石への重力操作を多彩に行うことで、静かに降ろしたか。流石だな、八代」

 

「ありがとうございます、柊先生。上手くいってよかったです」

 

「フッ、そういうことにしておくよ。では、プレートを渡してくれ。合格印を押してやる」

 

八代は照れながら柊先生にプレートを渡し、合格印をもらう。

 

「じゃあ、俺は他のやつらの課題見に行くので、これで失礼します」

 

「ああ、頑張ってこい」

 

八代は柊先生に一礼し、その場を後にするのだった。



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第10話:課題

気がついたらたくさんの方がお気に入りに登録してもらえてました!
評価や感想もたくさん頂けてとても嬉しいです!
これからも頑張っていきます!
今回の話はちょっと長いですが、どうぞご覧ください。


「あ、八代こっちだよー。課題どうだった?」

 

少々探して八代が桃瀬たちを見つけると、桃瀬も気づいてこちらに手を振ってくる。

 

「ああ、無事合格したよ」

 

「凄いね!おめでとう、八代くん!」

 

「まあ、あんだけ魔法勉強してるし課題にマッチしてる魔法が入ってるんだったら問題ないだろうな」

 

「それでも凄いわよ。やっぱり八代は頼りになりそうね」

 

八代が合格の報告をするとそれぞれから称賛の言葉をもらう。

 

「それで、みんなはどうなんだ?なんか手伝えそうなことがあれば手伝うが」

 

「んとねー、あたしは石を変身させちゃえば大丈夫そうかなーって思ってね」

 

「変身?もしかして桃は『HENGE』を使えるのか?」

 

「お、当ったり!さすが八代だね!まあアタシの場合は何に変身させるかなんだけど・・・」

 

八代が答えると桃瀬は指を指しながら嬉しそうにそう言う。

HENGE・・・。

対象にしたものを任意のものに変身させることができる魔法である。

 

「ふむ・・・。なら軽いものがいいと思うぞ。磁力でくっつけるのもアリってことなら持っても問題ないはずだからな。持続時間を考えるなら軽いものを持ってたほうがその分魔法の発動に集中できると思うからな。イメージしやすいし鉛筆で良いんじゃねぇか?」

 

「あ、そっか!持ってるだけでその石は浮いてるってことになるもんね!あれ、じゃあ私課題楽勝じゃん♪ありがとー、八代!」

 

「おう、桃は大丈夫そうだな。他は何を使えるんだ?」

 

八代がアドバイスすると桃瀬は納得しながら嬉しそうにそう言う。

 

「私は『書家の魂(しょかのたましい)』って魔法が使えるわ。この巨大な毛筆で漢字を1文字書くと、その漢字の意味する現象を実現させることができるのよ」

 

「なるほどね。となると出雲の場合は書く漢字が重要だな」

 

「そうなのよね。だから書くなら『浮』なんだろうなって思ってるんだけど、字の維持がちょっと難しくってね」

 

出雲は自分の魔法は理解できているが、どのようにその魔法を活用すればいいかわからず悩んでいるようだった。

書家の魂・・・。

魔法の発動と同時にプレートより巨大な毛筆が出現し、特定の漢字を1文字書くと、その漢字が意味する現象を実現させることができる魔法である。

 

「んー、多分出雲の場合、石が浮いているイメージが想像できないと維持が難しいんだと思うな。というか、この魔法って汎用性高すぎるから想像次第でどうとでもできると思うんだよ」

 

「例えば?」

 

「試したことがないからできるかどうかはわからないけど、俺なら石に『小』って書いて石自体を小さくしちゃうとかかな。桃の変身よりは難しいかもしれないけど小石くらいに形状変化できちゃえば桃と同じで持つだけでいいし、そこら辺の小石くらい小さくって感じなら誰でもイメージできるだろ?」

 

「なるほどね!ありがと、八代くん!ちょっと試してみるわね!」

 

出雲の方向性も決まり、さっそく試すために少し離れて『書家の魂』の練習を始めた。

 

「八代、私は今のところ『チェンジシール』って魔法しか使えないんだけど、どうしたらいいと思う?」

 

「氷川さんは『チェンジシール』かぁ。うーん・・・」

 

氷川の困った言葉に八代も悩みながら考え込む。

チェンジシール・・・。

あらかじめ用意した2枚1組のシールを用いて、魔法の発動と同時に貼った物同士の位置を交換することができる魔法である。

 

「凄い魔法ではあるんだけど、位置の交換だから浮かせるとなると今回の課題ではちょっと難しそうだね・・・」

 

「だよね。この場合、あたしは新しい魔法インストールしたほうが良さそうね」

 

「そうだね、そのほうが良さそうだ。あ、ならインストールするなら魔法は『位置固定(ポジション・コントロール)』がいいと思うよ。『チェンジシール』と組み合わせると面白そうだしね。その魔法なら俺が借りてきてある魔術書に入ってると思うから、それ使ってインストールするといいよ」

 

「へぇ~、ありがと八代。さっそく確認してみるよ」

 

八代が魔術書を渡すと、氷川は魔法をインストールするために木の木陰に向かって歩いていった。

位置固定・・・。

指定したい座標をイメージして、対象物を視認した状態でその座標にプレートを翳して発動させることで、対象物をその座標に固定させることができる魔法である。

限定的であり、座標がしっかりイメージが出来ていないと発動が困難な魔法なのだが、勉強面で優秀である氷川であれば問題ないと思い八代はその魔法を教えたのであった。

 

「よし、みんな頑張れよ!」

 

「おい、おかしいだろ!俺も同じ班だろうが!」

 

「あ、悪い。ついな」

 

「こ、このやろう・・・」

 

協力してもらう立場のため、自分に対して酷いだろと言いながら、孝司は八代にそう言う。

 

「はいはい、孝司は何ができるんですかねー?」

 

「はぁ、まあいいや。俺は今んとこ風を起こす魔法『ウインド・ブロウ』が使えるんだ」

 

「なんだ、じゃあ簡単じゃん。イメージ的には岩を持ち上げるように風を発生させて、その風を維持させればいいんだし」

 

「やっぱそうなるかねー。ただ俺持続させるのが苦手でさ、30秒維持できるかどうか不安なんだよね」

 

八代がやりかたを教えるが、孝司は苦笑しながらそう言う。

 

「んー、そうだなぁ・・・。孝司の場合、風ってものをイメージができないから持続が難しいんじゃないかな」

 

「風なんだから目に見えないし、イメージできなくて当然じゃね?」

 

何を当たり前なことを言ってるんだと言わんばかりに孝司は首を傾げながら八代にそう言う。

 

「目に見えなくてもイメージはできるだろ?それに竜巻は視認できるんだから、普通の風はこんなもんかなって想像できるし。もっと言っちゃえばアニメやゲームでの風のイメージでもいいんだぜ」

 

「そんなんでいいのか?ぶっちゃけそんなんで変わるとは思えないんだけど」

 

「いいからちょっとやってみろよ。俺たちが使ってるこの魔法ってものはイメージができていればいるほど、しっかりその形を作ってくれるもんなんだよ。自分のイメージが固まってなきゃ、最悪想像と違った効果しか出ないぞ」

 

「んー、まあやってみるか。ちょっと練習してくるわ」

 

八代のアドバイスに半信半疑になりながらも、孝司は練習のため壁のほうに向かって歩いていった。

 

「すごいねー、八代は。みんなにアドバイスできるんだから」

 

「ん?なんだ桃か。お、その鉛筆が石ってわけか」

 

「ピンポーン!いやー、こんな簡単でいいのかねぇって感じだよ」

 

桃瀬が練習がてら石を鉛筆に変化させて、くるくる回しながら八代に近づいてきていた。

 

「やっぱいっぱい魔法のこと勉強してたんだねー。『HENGE』のことも知ってたし」

 

「みんなが使ってる魔法は大体が初期段階の魔法だからな。そこらへんは俺の場合ローテーション組んで1度使ってるし、あとはその魔法をどう使うのか考えるだけで済むわけだよ。『HENGE』!」

 

八代はそう言いながら自分のプレートを取り出して、手ごろな石を見つけて桃瀬と同じように鉛筆に変える。

 

「ありゃりゃ、八代も『HENGE』使えたんだ。ならさっきの説明も納得だわ」

 

「と言っても、俺は桃みたいに『HENGE』を何回も使ってるわけじゃないから変身の質が悪いんだよ。持続時間もお前に比べれば全然長く続かないしな」

 

八代はそう言いながら自分が変身させた鉛筆を桃に見せる。

桃瀬が見ると、その鉛筆はデコボコしていたり、若干鉛筆としては重く感じられるものだった。

桃瀬からそれを受け取ると、八代はポイっと投げて魔法を解除して石に戻してしまった。

練度が違うとここまで変わるのかと見比べながら、この時八代は自分に合った専用の魔法が現状ないことに焦りを感じていた。

 

「俺もみんなみたいに自分に合った魔法を見つけていかないとなって思ってる。まあまだ1年なんだし、今はそれでもいいのかもしれないけどな」

 

「きっと見つけられるよ、八代なら!いっぱい勉強してるし、学年上がればもっとすごい魔法も使えるようになるんだからさ!」

 

苦笑しながら八代が言うと、桃瀬はえへへと笑顔のまま八代に言う。

 

「・・・そうだな。サンキュー、桃」

 

「どういたしまして♪じゃあ、みんなの練習を冷やかしに、もとい見学しに行こう!」

 

「おいおい・・・、まぁいいか」

 

桃瀬に手を引っ張られながら、八代と桃瀬は練習しているほかのメンバーたちのもとへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、授業時間も残り半分になりそうだし、そろそろ柊先生に見せに行こうか」

 

「え?まだ半分もあるんなら、もう少し練習すればいいんじゃないの?」

 

八代がそういうと、桃瀬はまだ時間があることに対して疑問に思いながらそう問いただす。

 

「桃、ちょっと考えてみなさい。この授業は柊先生に見せて合格印をもらうわけよね?」

 

「うん、そうだけど」

 

「じゃあ、それぞれの班が柊先生に見せに行った場合、1班を見るだけでどれだけかかると思う?」

 

「どれだけって・・・あ」

 

「なるほど、30秒持続しているところを見せるということは、1人あたり必ず30秒以上はかかるわけだね」

 

氷川と桃瀬の会話に孝司が納得しながらそう言う。

 

現在が授業中であり、ほかの班もいることを考えると時間が遅くなればなるほど、順番待ちになるということだ。

そのため、順番次第では見せる機会が1回しかなくなってしまい、万が一失敗してしまった場合、最悪授業中に合格印をもらえないということになってしまうのだ。

 

「まあ今のみんなを見ている限り失敗することはないと思うけど、余裕持たせたほうがいいだろ?」

 

「そうだね!じゃあちょっと早いけどみんなで柊先生に見せに行こう!」

 

「そうね、私も自分の魔法確認できたし、いつでも行けるわ」

 

「二人とも凄いわね。私はちょっと不安だなー。形状変化が成功すれば問題ないと思うんだけど」

 

「出雲、さっき出来てたんだから自信持てよ。俺のほうがシンプルなのに難しいんだぜ?」

 

各自それぞれの思いを口にしながら、八代の班である2班は柊先生のところへ向かうのであった。

 

 

 

 

 

「む?2班か。課題を見せに来たのか?」

 

「そうでーす!早速なんですけど課題見てもらっても大丈夫ですか?」

 

「ああ、丁度3班が終わったところだ」

 

「あれ、八代たちじゃん。お前たちも課題見せに来たのか?」

 

柊先生の元に着くと、3班である津川がこちらに歩いてきていた。

 

「よお、津川。お前らも見せに来てたのか」

 

「ああ、ついさっき終わったよ。でも悔しいぜ、八代はもう終わってるんだろ?1番乗りじゃん!」

 

「こんなものは自分に合った魔法があるかないかだからな。ただ運が良かっただけだし、そんな大したことじゃねーよ」

 

「そうだけど、俺が2番目だったんだよ!それならやっぱ1番取りたいじゃん!だから悔しいんだよ!」

 

見るからに悔しさを露わにしながら言う津川に八代は苦笑しながら答える。

 

「はいはい、津川くん落ち着いて。桃ちゃんたちも来てたんだね!私たちは終わったし、ほかのみんなは帰っちゃったけど、わたし応援するね!」

 

「委員長、ありがとう。頑張るよ」

 

「あたしたち頑張っちゃうよー♪」

 

「ありがと、まあ頑張ってみるわよ!」

 

下田が津川を鎮めながら激励をくれたので、女性陣3人も嬉しそうにそう答える。

 

「よし、始めようか。では先に誰がやるんだ?」

 

「じゃあ、1番手はユッキーで!!」

 

「俺かよ!?・・・まあ最後よりは早く終わらせられるしいいけどさ」

 

桃瀬のGOサインに愚痴りながらも孝司は用意された石に向かって歩いていく。

 

「雪比良か。いつでもいいぞ」

 

「んじゃ、やりますか。『ウインド・ブロウ』!!」

 

孝司が石付近の地面に向かってプレートを投げ、プレートが地面に吸い込まれると、石の下から風が舞い上がる。

 

「ほう、風で石を巻き上げたか。だが、持続時間はどうかな?」

 

柊先生は分析しながら、孝司の魔法を見守る。

 

「イメージ・・・イメージ・・・。風が舞い上がる・・・イメージ・・・」

 

「(・・・ふむ)28・・・29・・・30!よし、合格!」

 

「っし!!」

 

合格の言葉が聞こえ、30秒継続したのを確認して孝司は風の魔法を解除する。

 

----ゴトンッ!!

 

「石の置きかたは減点な」

 

「あ、やべっ!?」

 

合格という言葉で手を緩めた孝司に対し、柊先生は容赦ない言葉を投げつける。

 

「あー、俺らも最初の皆口がそれやったわ」

 

「おい、津川!そういうことはやる前に教えてくれよ!」

 

「ユッキー、あんたの犠牲無駄にしないからね!」

 

「おのれ桃!!謀ったな!」

 

「結果的にそうなっただけだよー」

 

ギャーギャー言いながら孝司は合格印をもらい、出雲の番となる。

 

「ふむ、次は出雲か。始めていいぞ」

 

「はい、ではいきます!『書家の魂』!!」

 

出雲が魔法を唱えると大きな筆が出現する。

 

「ほう、その魔法でどうするかだが・・・」

 

「『小』!!」

 

----サササッ

 

----ヒュインッ!!

 

「・・・なるほど、形状変化か。面白い使い方をする」

 

事の次第を見ていた柊先生はフッと小さく笑う。

出雲が書いた石が5センチくらいの小石くらいに変化し、それを出雲は掌に乗せて静止させる。

 

「ええっ、それありなのかよ!?」

 

「ありだぞ?磁力で磁石に石をくっつけるのも、人が持った磁石にくっつけるんだ。操作系で何かをコントロールして石を掴むのと同じと思えばいい」

 

「なるほど、発想次第ということですね」

 

津川の発言に柊先生が答えると、委員長が納得したように頷く。

 

「まあ、30秒たったし問題ないな。合格!」

 

「ありがとうございます!石を置いて魔法解除っと」

 

「くそー、ホントに俺だけ減点じゃねーか!」

 

「ごめんね、孝司くん。助かったわ♪」

 

合格後に出雲は石を置いて魔法解除したので、石も元に戻る。

そのため、先ほど孝司のような失敗にはならなかった。

 

「さてと、次は誰だ?」

 

「・・・じゃあ、あたしがいきます」

 

「氷川さん、頑張って!」

 

氷川が手を挙げて前に進んでいき、その姿を見て八代は応援の言葉を口にする

 

「氷川か。そのシールは?」

 

「すみません、私の場合ちょっと準備が必要なんで」

 

2枚1組のシールのうち1枚を石に貼り、もう1枚を小石に貼る。

 

「なるほど、『チェンジシール』か。だがその魔法は入れ替えるだけで、浮いたことにはならないぞ?」

 

「そうですね、おっしゃる通りです」

 

「・・・何か考えがあるわけか。いいだろう、やってみなさい」

 

「はい、『チェンジ』!」

 

----ヒュンッ!!

 

柊先生の了承も得たところで、氷川は石を上部に投げ、自身の魔法を発動させる。

 

----ヒュインッ!!

 

魔法の発動後、小石が石と入れ替わり、先ほど投げたものより大きなものが落ちてきているということになる。

 

「お、おい氷川!?」

 

「大丈夫です、『位置固定』!!」

 

----ブゥンッ!

 

「おおー、すげえ!ピクリとも動いてないぜあの石!」

 

ピタッと氷川の上部で石が完全に停止し、その光景を見て津川が感嘆の言葉を出す。

 

「・・・なるほど、『位置固定』か。しかも2つの魔法を続けて発動させたわけだな」

 

「流石先生。その通りです」

 

「発動の流れもスムーズだったし、よくできている。しかし、よくもまあこんな魔法を思いつくわけだ」

 

「八代に教えてもらったんですけどね」

 

柊先生も称賛の言葉を口にしたので、氷川も満足げにそう答える。

大体の魔法は対象のものにプレートを挿入することによって発動するが、一部の魔法は唱えるだけで発動する魔法も存在する。

今回のように『チェンジシール』は『チェンジ』と発言するだけで発動させることができ、『位置固定』はプレートを使いこそすれど、対象物を視認しながら翳して唱えるだけで発動するので、事実上どちらも発言するだけで発動させることができる魔法なのだ。

そのため、氷川は魔法の発動タイミングを自身の発言によりコントロールすることとなる。

そのタイミングや魔法の発動手順がスムーズであり、柊先生も感心しながら氷川の魔法を見守るのであった。

 

「29・・・30!よし、合格だ!」

 

「ありがとうございます。『チェンジ』」

 

「・・・やっぱそうだよね」

 

「いい加減人の失敗を願うのはやめろ、孝司」

 

柊先生の合格宣言後、氷川は再度入れ替えを行い、落っこちてきた小石をキャッチする。

その光景にがっくりと肩を落とす孝司を見て八代は呆れながらそう言う。

 

「最後は桃瀬か。準備はいいか?」

 

「大丈夫です!さっさと終わらせてくるね!」

 

「頑張れよ、桃!期待してるぜ!」

 

「アハハ、大丈夫だよユッキー♪ちゃんと静かに降ろしてくるからさ!」

 

「こんちくしょー!!」

 

孝司にトドメをさして桃瀬が柊先生のもとへ行く。

 

「いつでも始めていいぞ」

 

「了解ですー!んじゃ、『HENGE』!!」

 

柊先生が開始の合図をし、桃瀬はプレートを投げて石を鉛筆に変える。

 

「なるほど、物質変化か。鉛筆もちゃんとしたものになってるわけだし、内容も問題ないな」

 

柊先生が桃瀬の魔法の内容を確認しながらそう言う。

 

「なぁ、なんかあれズルくない?あれなら何でも変化させて終わりじゃん!」

 

「ズルじゃないよ!ちゃんと自分の魔法でできることを考えた結果だもん!」

 

「考えたの八代だけどな」

 

「ちょっとユッキー!余計な事言わないの!」

 

津川の発言に桃瀬が答えるが、孝司の言葉にあたふたしながらそう言う。

 

「28・・・29・・・30!よし、合格だ!これで2班も全員合格だな」

 

「やったー!ありがとうございました!減点は1人だけいたけどね♪」

 

「ぐはぁっ!?」

 

「死体蹴りもほどほどにな、桃」

 

合格後に桃瀬も出雲と同様に石を置いて魔法解除したので、石も本来の姿に戻った。

それを確認して桃瀬がニヤニヤしながら孝司に言うと、吐血をしながら倒れてしまったので八代が苦笑しながら桃瀬にそう言う。

 

「さて、合格者は次の授業まで自由時間だ。それまでは教室に戻ってもいいし、ほかの班を見に行っても構わんが、今回の授業は班毎の評価でもあるため助言等は控えること。いいな?」

 

『わかりました!』

 

こうして、2班は無事全員合格し、幸先のいいスタートをきった八代たちであった。

また、九澄を含めた6班も無事全員合格したが、ちょっとした苦労があったため後日C組の中で話題になるのであった。




前回同様で現在少々忙しい日々が続いているため、次の更新は3週間後の8/12(月)とします。余裕があればそれより前に更新も検討中です。


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第11話:帰宅

投稿が遅くなってすみません!
お盆中に投稿予約設定をする予定が忘れてしまいました・・・。
今回はオリキャラしか登場しません。
これらのオリキャラ設定も、後ほどあげようと思います。


[ご乗車いただきありがとうございました。次は○○~、次は○○です。お降りのかたは・・・]

 

「ふぅ、やっと着くか」

 

電車の中で首が疲れたのか、八代は首をポキポキ鳴らしながら、電車から下車する準備を始める。

現在八代は地元である熊本まできていた。

以前から母親から帰ってきてほしいと何度か連絡がきていたのである。

現在はちょっとした連休であるため、八代はこの期間に一度実家へ帰ることにしたのであった。

 

 

 

電車を降り、駅の改札口を抜けると、八代は携帯電話を取り出す。

 

「さてと、駅着いたら連絡しろって言ってたけど・・・」

 

「八代ー、こっちだよ」

 

「あ、秋姉じゃん!久しぶり!」

 

家に電話を掛けようとしたところで、自分を呼ぶ声が聞こえたため声のほうを向くと、姉である「冬木 秋穂」が八代に向かって手を振っていた。

髪は水色でやや長髪、瞳は普通の黒色をしており、顔立ちも年上のため八代より落ち着いていて大人びた印象の女性である。

そんな秋穂を見つけ、八代は荷物を持ちながら小走りで向かう。

 

「久しぶりだね、八代。遠いところ帰ってきてくれてありがとうね。っていっても1ヵ月ちょっとだし、そんなでもないか」

 

「そうだな、まだそんだけしか経ってないし、メールとかで連絡とかしてるから、あんまり久しぶりって感じはしないかな」

 

「だよね。あ、私車できてるから、駐車場一緒に来てくれる?」

 

「わかった、正直助かるよ。秋姉と父さん以外車乗れないし、歩いてもいいなぁって思ってたんだけど、家まで歩くにしてもちょっと距離あるからねぇ」

 

そう言いながら八代と秋穂は駅前の駐車場まで歩いていく。

 

「そういえば父さんはどうしたの?一緒に帰ってくると思ってたんだけど」

 

「ああ、父さんね。なんでも急な仕事が入っちゃって、こっちに来られるのは夜くらいになっちゃいそうだってさ」

 

「そうなんだ。・・・まあタイミングが良いのか悪いのか」

 

「ん?なんか言った?」

 

「ううん、なんでもない」

 

駐車場に着き、秋穂の車に八代の荷物をトランクに入れて、二人はそれぞれ車に乗りながらシートベルトを締める。

そのまま八代は秋穂と一緒に他愛無い話をしながら、実家である冬木家へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

「さてと・・・。八代、着いたよ」

 

「・・・zzzz」

 

「・・・まったく、かわいい寝顔ね」

 

秋穂が車を止めて八代に言うと、寝息が聞こえてきた。

隣を見てみると、飛行機や電車の疲れが出たのか、八代は助手席で寝てしまっていたのだった。

その姿を見ながら秋穂はクスッと微笑みながら再度肩を揺らす。

 

「ほーらー、八代起きて」

 

「・・・んんー。・・・ふぁぁぁ。あれ、俺寝ちゃってたのか」

 

「おはよ、八代。家着いたんだからさっさと降りなさい」

 

「うん、ありがとう秋姉」

 

起きた八代にそう言いながら、秋穂はトランクの荷物を出して八代に渡す。

 

「そういえば、母さんと陽菜は家にいるの?」

 

八代は荷物を運びながら、家にいるであろう母の「冬木 海松」と妹である「冬木 陽菜」について聞く。

 

「いるわよ。もうお昼だし、二人で一緒に昼食作ってくれてるわ」

 

「そうなんだ。二人とも元気かなぁー」

 

「・・・んー」

 

「え、なにその反応・・・」

 

玄関まで辿り着いたにも関わらず、秋穂が微妙な反応をしたため、八代は玄関の扉を開けるのをためらう。

 

「いや、家入ってからのほうがわかるかなって思ってね。特に母さんが激しいから・・・」

 

「激しいってなんだよ・・・」

 

わけがわからんと八代は首を傾げながらドアノブを回す。

 

----ガチャッ

 

「ただいm」

 

----ドドドドドドドドドッ!!

 

「やっくn」

 

----バタンッ

 

----ドガッ!!

 

「ふぎゃっ!!」

 

----シーン・・・

 

「・・・・・・」

 

ただいまと言い終わる前に廊下を駆けてくる音が聞こえ、身の危険を感じた八代は反射的に玄関の扉を閉めた。

その結果、何かがぶつかった音と声が聞こえ、気絶したのかしばらく静かになった。

 

「あんた、容赦ないわね・・・;」

 

「・・・いや、つい・・・な」

 

----ガチャッ

 

「母さん大丈夫?」

 

----ガシィッ!!

 

「酷いよやっくん!お母さん苛めて楽しい?!でもお帰り!」

 

「うん、わかったから一旦離れて落ち着こう」

 

再度玄関を開けると小さい女の子が八代の腰に張り付いてきて、嬉しそうにそう言う。

そう、この小さな女の子こそ、八代の親である「冬木 海松」本人であった。

髪は茶髪で長髪、スカイブルーのような綺麗な青い瞳をしている。

ただ、身長が140㎝しかなく、顔立ちも童顔のため幼い顔つきをした女性である。

 

「やだー!せっかくやっくんが帰ってきたんだから、やっくん成分を摂取しないとお母さん死んじゃう!」

 

「そんな成分ありません!いいから離れなさい!」

 

「母さん、八代飛行機とかで疲れてるんだから離してあげなよ」

 

「うー、わかったよー。でもご飯食べたらまた抱き着くからね!絶対だからね!」

 

八代と秋穂の言葉に渋々頷きながら海松は八代を話す。

 

「はぁ~、やっと離れた。じゃあ秋姉、俺荷物置いてくるけど、俺の部屋ってまだそのままだよね?」

 

「うん、2階で場所もそのままだよ。荷物置いたら昼食にするから、早く降りてきてね」

 

「りょーかーい」

 

自分の荷物を持ちながら、八代は階段を上がり、自分の部屋へ入ろうとドアノブを回す。

 

「ふぅ・・・」

 

----ガチャッ

 

----ドドドドドドドドドッ!!

 

「お兄ちy」

 

----バタンッ

 

----ドガッ!!

 

「ふぎゃっ!!」

 

----シーン・・・

 

ドアを開けると部屋の中からこちらに駆けてくる音が聞こえ、再度身の危険を感じた八代は反射的に部屋の扉を閉めた。

その結果、何かがぶつかった音と声が聞こえ、気絶したのかしばらく静かになった。

 

「なんなんだよ、どいつもこいつも!同じこと2回も起こったよ!しかも反応出来ちゃったよ俺!てか普通に再会する気ないのかよーーーー!」

 

再度起きたほとんど同じ出来事に八代は叫ぶが、その叫び声は廊下を空しく響かせるだけなのであった。

 

 

 

 

 

「ご馳走様でした。美味しかったよ母さん」

 

「ありがとやっくん!やっぱり男の子だから私たちより食べるねー。でもいっぱい食べてもらえて嬉しいよ♪」

 

「今日は朝少ししか食べなかったから、お腹空いてたんだよ。だから大満足!」

 

昼食を終え、八代はくつろぐために海松にそう言って自分の食器を流しに入れる。

 

「お兄ちゃん、今回はいつまで居られるの?」

 

「んー、連休中だけど明後日くらいに帰ろうかなって思ってるよ」

 

「えー、短いよ!!もっと長くいればいいのにー!」

 

「そうだよやっくん!なんでそんなにすぐ帰っちゃうのよ!」

 

八代は自分のスケジュールを確認しながら言うと、海松と妹である陽菜が不満そうにそう言う。

「冬木 陽菜」。先ほど八代の部屋に居座り突撃してきた小さな女の子である。

八代に似せているのか髪は短髪で茶色であり、母親と同様綺麗な青い瞳をしている。

こちらも母親と同様身長が122㎝と小さめで、顔立ちも童顔のため幼い顔つきをしている。

ちなみに秋穂は巧に似たのか身長は154㎝とこの中では高めであり、この家で発生する高いところの作業は彼女が受け持っているのであった。

 

「まあ飛行機の関係もあるし、通常通り学校もあるわけだから仕方ないんだよ。夏休みは帰ってくるようにするから我慢してよ」

 

「ぶー、しかたないなぁ。でもやっぱりお兄ちゃんがいないと寂しいんだよ~!」

 

「わかった、わかったからあまり強く抱き着くんじゃありません」

 

ソファーでくつろぐ八代に陽菜は抱き着きながらそう言う。

 

「学校と言えば、あんた聖凪高校に決めた時男の子のこと話してたじゃない?その子とは会えたの?」

 

「ああ、大賀のことか。ちゃんと会えたよ。色んな意味で凄い再会だったけどね」

 

「凄い再会?」

 

八代が苦笑しながら言うと、秋穂が首を傾げながら聞いてくる。

 

「実は大賀の奴、再会してた時は聖凪の受験落ちてたんだよ」

 

「え、じゃあなんでその子は聖凪高校にいたの?」

 

「それがさ、あいつ他の高校通ってたみたいなんだけど、その高校が合わなかったらしくてね。その学校辞めたみたいなんだけど、そのついでに暇だったからうちの学校に直談判しに来てたんだって」

 

「・・・バカじゃない?」

 

「俺もそう思うよ秋姉。で、その光景を俺が偶々目撃して再会したんだけど、その後どういうわけか編入試験受けさせてもらえることになって、そこで受かっちゃったわけ」

 

「へぇー、凄いじゃんその子!編入試験って難しいって聞くし、実は優秀だったんじゃない!?」

 

「(実際は柊先生が勘違いで敷地内に大賀を招き入れちゃって、それが校則違反だってことに気づいてあたふたしていたところに、大賀がその高校の生徒だったら収まるってことだから編入させられただけなんだけどね)」

 

家族の面々は面白そうに聞いている中、事実を知っている八代としては微妙な表情をしながら話を続ける。

また、魔法に関する内容は校内を抜けた際、都合よく改ざんされているのだった。

 

「まあだから今ではあいつと一緒に学校行ってるし、ほかの奴らとも楽しく学校生活を送っているよ」

 

「そうだったんだねー。でも楽しく通っているって聞けて、お母さん安心よ♪」

 

「そだね。そういえばあの家は父さんと一緒に暮らしてるんでしょ?大丈夫なの?」

 

学園生活の話を聞けて嬉しそうにする海松に対し、秋穂は現状の暮らしについて八代に尋ねる。

 

「ああ、問題ないよ。そもそも父さんはあまり家に帰れないって聞いてるから、家のことは俺が全部やってるんだ。けど好きにしていいって言われてるし、好き放題出来て嬉しいくらいだよ」

 

「いいなぁー、実質一人暮らしじゃん!陽菜も今度お兄ちゃんの家行ってみたい!」

 

「来るのはいいけど、陽菜はまだ子供なんだから母さん・・・だけじゃ不安だから秋姉と一緒じゃないとダメだからな」

 

「もー、お兄ちゃん子ども扱いしないでよ!」

 

「ねぇ、なんでお母さん一人じゃダメなの!?」

 

「てか言っとくけど、八代もまだまだ子供だからね?」

 

こうして八代は冬木家との団らんを楽しみながら、休日を過ごしていくのであった。

 

 

 

 

 

「・・・あれ、もう終わり!?僕まだ熊本着いてないんだけど!?」

 



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第12話:紛失

お久ぶりです!
投稿に随分時間がかかってしまいました。。。
最近仕事が忙しかったり旅行行ったりで書く暇がなかったのですが、やっと落ち着いてきた・・・気がする!
しばらくはこんな感じになってしまいますが、どうかご容赦ください!


「・・・じゃあ俺たち帰るね」

 

「海松ちゃん、ごめんね。やっと帰ってこれたのに、寂しいけど僕と八代はいかなきゃいけないんだよ」

 

連休もあっという間に最終日となり、熊本に帰っていた巧と八代も学校に間に合うように帰る支度をしていた。

 

「やっくん、寂しーよー!あと一日いようよー!」

 

「あれ、僕は!?」

 

「いや、最初に言ったでしょ!?飛行機の都合もあるんだし、ずらせないって!」

 

八代と離れたくないのか、八代にしがみつきながら母親である海松が駄々をこねる。

 

「台風直撃しろ・・・台風直撃しろ・・・」

 

「確かに近いけどシャレにならないからやめような陽菜!」

 

「もういいから、さっさと車乗りなよ父さん、八代」

 

「ありがとう秋穂!僕を機にかけてくれたのは君だけだよ!」

 

「状況見えてるよね、秋姉!?なら母さん剥がしてくれませんかね!?」

 

「いや、めんどいし」

 

長い戦いの末、飛行機の時間ギリギリまで八代を離さなかった海松と陽菜を引き剥がし、空港に着いた八代達。

 

「じゃあ、行こうか父さん」

 

「ああ、じゃあまた帰ってくるから、元気でね!」

 

「またねー、お兄ちゃん!」

 

「巧さん、八代をよろしくね!」

 

「体調に気を付けるんだよー」

 

それぞれ別れの挨拶をし、八代達は飛行機に・・・

 

[本日の航空機にご搭乗予定の皆様へご連絡いたします。本日台風接近のため、運航を予定した航空機が一部欠航となります。詳細は・・・]

 

『・・・・・・・・・』

 

乗ることができず、一日遅れの帰宅となるのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

「ふぁー、ねみぃ。まだ朝のHRまで時間あったし、もうちょっと寝とけばよかったぜ」

 

連休が終わり、珍しく早く起きた九澄はあくびをしながら登校していた。

 

「あ、きたきた!九澄くーん、オハヨー!!」

 

「ちょっと教えてくれない?この秘呪文が解読が出来なくてさー」

 

「この本なんだけど、九澄くんなら読めるよね?クラス違うけど教えてくれない?」

 

「いっ!?」

 

登校すると複数の女子生徒たちが魔法書を広げながら九澄に近寄ってくる。

 

「えぇーっと・・・;」

 

「はいはい、九澄への頼み事はまず俺を通してからにしてね!!」

 

「ギャー!!どこ触ってんのよ伊勢!!」

 

「もー、信じらんない!!」

 

当然読むことができない九澄が困っていると女子生徒の胸やお尻を触りながら九澄の前に出てきた。

 

「伊勢・・・お前なぁ・・・」

 

「よっ、九澄!いーなー、朝からモトモテでよ」

 

九澄が呆れながら伊勢を見ると、なんの悪びれもなくニコニコしながらそう言う。

 

「お、あれ九澄じゃね?」

 

「ホントだ、ちょっと困ってるし、力になってもらえねぇかな」

 

「なー、九澄。今ちょっと2年と問題起きててさー」

 

「ねー、九澄くんー!この魔法なんだけどさー」

 

「はぁっ!?何が一体どうなってるんだよーー!?」

 

九澄を見つけるなり各生徒たちが九澄の周りに集まってくる。

 

「九澄、ここは俺に任せておけ!」

 

「お、おう。そこまで言うなら任せた・・・」

 

サムズアップしながら笑顔で言う伊勢に若干引きながらも、この状況をどうにかしたいため、九澄は伊勢に任せることにする。

 

「まあまあ待てって!九澄に用があるなら、まずは俺を通してからにしてくれよ」

 

「なんだよお前」

 

「あー、九澄が言うにゃ、頼み事は1人1回5千円だってよ!女子なら乳モミ10秒でも良いってよ!」

 

----ドガーン!

 

とんでもない伊勢の発言に九澄は思わず壁に頭をぶつける。

 

「あー!?あいつ金取んのかよ!」

 

「うわっ、サイテーー!!女の敵ね!!」

 

「もうこんなヤツ頼んねーでむこういこうぜ!」

 

「そうしよそうしよ!」

 

各生徒が非難の声を上げながら九澄の周りから離れていく。

 

「アハハ、どーだ!みんな呆れて帰ってったぜ!」

 

「馬鹿野郎!なんてこと言ったんだよ!俺が一番呆れるわー!!」

 

「あれなら手っ取り早いだろ?今後のことも考えてお前の心を代弁してみたんだ!」

 

「俺の人格疑われるわ!何が乳モミだ!噂になったらどうすんだよ!一生誤解されんだろうが!」

 

伊勢に頼んだ時点で手遅れだったが、伊勢の説明に九澄は焦りながらそう言う。

 

「あのーー・・・、あんまりそゆ事要求しないほうがいいと思うよ。そんなんだと人格疑われちゃうよ?」

 

「いいーっ!?柊いたのか!?」

 

「愛花ー、置いてくよー」

 

「あ、待ってー。今行くよー」

 

「わー、待ってくれ!誤解なんだー!!」

 

さらっと先ほどの九澄たちの状況を目撃していた愛花がそう言い、三国に呼ばれたため走り去っていってしまった。

そんな愛花に弁明する暇もなく九澄の元を去っていってしまったため、この世の終わりのような絶望の状態に陥る九澄。

 

「気にすんな、こんくらいの事。人間だれしも恥ずかしい一面を持っているもんだって!」

 

----ズッゴーン!!

 

「うるぁあ!!星になれコラァーーー!!!」

 

「ぐはぁーーーーー!!」

 

悪びれもなく言う伊勢に、遂に九澄もキレて伊勢を吹っ飛ばすのであった。

 

 

 

 

 

「いってて、人が湧いてくるのはムリねぇーと思うぜ?お前は有名人なんだからよ」

 

「はぁ?俺そんなに目立ってるのか?」

 

吹っ飛ばした伊勢が痛そうにしながらそう言うと、九澄は心当たりがないのか首を傾げる。

 

「バッカじゃねぇの!この1・2年校舎でゴールドプレートを持った生徒なんてお前だけなんだぜ?」

 

「そ、そうなのか?」

 

「三年でも持ってるやついないかもしれねぇのに、1年からそれを持ってるんだから注目浴びるのも無理ねぇだろ?」

 

「ま、まあそうなんだろうな」

 

「だからここじゃ今2年差し置いて、お前が魔法の実力NO.1ってことだ!ある意味暫定ボスのポジションって感じ?」

 

「ボスだぁ!?そんな偉い人になってんの俺?!」

 

伊勢から飛び出す様々な発言の後、最後のボスの単語に驚きを隠せず言葉にする九澄。

 

(あー、でも伊勢の兄貴もそんなこと言ってたな・・・)

 

この校舎に入る前に初めて伊勢兄にあった時の言葉を思い出す。

 

--この魔法学校じゃ魔法力が劣る下級生は上級生に絶対服従なんだよ・・・

 

確かに魔法力が違う1年と2年では、抵抗したところでほぼ上級生が勝つであろう。

そのため、下級生は上級生に向かって強くでることができないというわけだ。

 

「お前がいるおかげで2年の1年イビリがかなり少なくなってるようだし、あとは例のプレート強奪魔もいなくなってくれればなぁ」

 

「は?なんだそれ?」

 

「いっ!?おめー、知らねーのかよ!?1年にケンカ売ってプレート奪ってく2年がいるんだよ!最近被害が急増してるってよ?」

 

「はぁ!?聞いたことねぇぞそんなやつ!」

 

プレートを強奪する生徒がいるという事実に九澄は過剰に反応してそう言う。

 

「さっきの取り巻きはきっとその口だと思うぜ?プレートを持っていかれても本人以外にゃ使えないから旨みはないけど、どんな理由でもプレートを失くした生徒は魔法ポイント減点だから持ってかれたやつにとっちゃタマンネー話ってわけさ」

 

「で、でも流石に犯人も返してはくれんだろ?」

 

「まあ完全に失くしちまうと学籍も失いかねねーからな。犯人もそこまではしねーそーだけど、そン代わりひっでー場所に捨てて返却するんだってよ。トイレの便器の中とか、ゴミ箱の中とかみたいだからもーイジメだよな」

 

(マジかよ、そんなのがいるのかよ。やっべー、俺のプレート持ってかれたら即死モンなんだけど・・・)

 

伊勢の話を聞きながら自分に置かれた状況を思い出す。

九澄が持っているダミープレートは生徒では本物と見分けはできないが、魔法教師はプレートを識別することができるのだ。

そのため、紛失したプレートを見つけた際は所有者の内部情報を確認することとなるため、柊先生以外に識別されてしまった場合は厄介なこととなるのだ。

 

「ま、注意してりゃあダイジョブかな・・・」

 

「アハハ!まあ流石にお前相手にケンカなんて売ってこないだろうけどな!」

 

「あ、ああ。そうだよな」

 

内容を理解した九澄に、伊勢は安心しきったように笑いながらそう言う。

 

「ねぇー、君たちーー!ちょっと待ってー!」

 

「ん?なんだ?」

 

後ろから声が聞こえてきたため振り返ると、2人の女子生徒がこちらに向かって声をかけてきていた。

 

「キミ、九澄大賀君だよね?ゴールドプレート持ってるって1年生の」

 

「あ、ああそうだけど」

 

「やっぱり!ねーねー、私たち新聞部の2年なんだけど、向こうでお話聞かせてほしいんだよね!本校舎で魔法実力No.1の生徒!ついでに魔法も見せてほしいんだけど!」

 

「いや、魔法はちょっと・・・」

 

「いーじゃん!!ねー!」

 

2年の女子生徒に双方から腕を掴まれて照れつつも、魔法を見せてほしいという言葉に九澄は戸惑いながらそう言う。

 

----ピコン!

 

(・・・え?あれ?なんだこれ、力が入んない?)

 

「さ、いこう?そこのキミも一緒に来る?」

 

「い、いーんスか!?よっしゃ九澄いこうぜ!」

 

「いや、俺はイヤだって!あとこいつらなんかおかs・・・」

 

「いーからいーから!早く早く!」

 

伊勢に引きずられながら九澄が2人の女子生徒を見ると、その顔がニヤリと笑みを浮かべたように見えたのだった。

 

 

 

 

 

----ピコーーーーン!!

 

----ドサッ!ドサッ!

 

「おっと、あったぜ。マジゴールドだぜこいつ!」

 

ハンマーを持っていた女子生徒の前には、ピクピクと痙攣しながら倒れている九澄と伊勢の姿だった。

 

「マジか!記念の20個目、めっちゃ大物で飾れたな!新聞部作戦大成功っと!」

 

「ああ、案外チョロかったな!」

 

----パンッ!パンッ!

 

ニヤニヤしている2人の女子生徒の顔がどんどん崩れていき、破裂したと思ったら男子生徒の顔となっていた。

その一人の男子生徒噛んでいたガムが変幻自在に動いている。

 

「俺のガムは対象を覆うことで一定時間どんなものにでも変化させることができる魔法だからな。女に化けたらこいつら油断しまくりだったし」

 

「お前はいいけど、俺はお前の噛んだガムを体に張り付けなきゃいけねーのがツレーけどな。それにしてもお前が高い声出せて助かったぜ」

 

「任せとけって!俺こういうのはマジ得意だからよ♪(高音)」

 

ガムを剥がして2人の男子生徒はケラケラ笑いながらそう言う。

 

「けっ、1年のくせにGプレートとかナマイキなんだよ!せーぜー、必死になって探すんだな!」

 

「しかし、女装までくるとこの遊びも手が込んできたな。Gプレートが相手だから下手に魔法を使われるとこっちがあぶねーわけだから仕方ないっちゃ仕方ないんだがな」

 

「まあな。ところでどうするよ、このGプレート。どこ捨てる?」

 

「ケケケ、そーだなー」

 

二人は着替えを済ませた後、九澄と伊勢から奪ったプレートを上に投げながら去ろうとする。

 

「待・・・て・・・コラ・・・」

 

「「っ!?」」

 

「何・・・しや・・・がんだ・・・おめーら・・・!!」

 

「なっ!?こいつ気が付きやがったぞ!?」

 

2人が振り返るとふらふらしながら意識を取り戻した九澄が物凄い顔でこちらを睨んでいた。

 

「お前、ハンマーの加減間違えただろ!?」

 

「こいつ、もういっぱつーー!!K・Oハンマーーーーー!!」

 

----ピコーーーーン!!

 

「うわぁーーー!?」

 

----ドサッ!

 

ハンマーに殴られ、九澄は吹っ飛ばされる。

 

「やべっ、顔見られたかな!?これってヤバくねーか!?」

 

「知らねぇーよ!?とにかく逃げっぞ!」

 

「プ・・・プレート・・・かえ・・・せ・・・」

 

逃げる二人が去った後、九澄は気力を振り絞りながらそう呟くしかなかった。

 

 

 

 

 

「お父さん?今日は休みだよ?」

 

「はぁっ!?ウソだろ!?」

 

「あはは、昨夜食べたサバが当たっちゃったみたいでね。今寝込んじゃってるんだよ」

 

「だーー!こんな時に使えねークソオヤジめーー!!」

 

気絶してから数十分後に目を覚ました九澄は一目散に職員室に向かったのだが、柊先生がいないことを知って教室にいる柊に聞くが、現状は非情なものであった。

 

「そうだ!なぁ、八代は教室来てるか?!それともまだ蔵書室にいるのか!?」

 

「んー?八代は今日休みって聞いたよ?」

 

「えーーー!?なんで?!」

 

八代の名前が出たので桃瀬が答えるとその声に反応して九澄が聞き返す。

 

「なんか連休中に熊本帰ってたみたいだけど、向こうは台風直撃してて飛行機動かないみたいだから今日学校来れないって、相川先生が言ってたのよ」

 

「マジかよー!あいつだけが頼りだったのにーー!!」

 

「さっきから叫んでるけど何かあったの?」

 

桃瀬の言葉に九澄は膝から崩れ落ちながら叫び、なにかあったのかと柊が聞いてくる。

 

「それがよー、俺らプレー・・・むぐっ!?」

 

「アッハハハ!なんでもねーから!!じゃましたなー!!」

 

何かを口にしようとした伊勢の口を塞ぎながら、あからさまに教室を出ていく九澄を柊と三国は見送った。

 

「・・・なにかあったな」

 

「うん」

 

 

 

 

 

「プレートの事は誰にも言うなよ・・・」

 

「で、でもよー」

 

教室を離れて九澄と伊勢は人気のない場所で話す。

 

「くっそーー!言ってたソバからパクられるなんて自分のマヌケさ加減に腹が立つ!!でもあいつらのツラはしっかり覚えてる!絶対見つけるぞ!」

 

「見つけるって、俺たち2人でかよ!?」

 

「ったりめーだろ!!2人でプレート取り返すんだ!!」

 

2年が相手だということにしり込みする伊勢に対して、怒り奮闘の九澄はそう言いながら2年がいる教室に向かって歩いていくのであった。

 



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