指揮官の日常 (けんろん)
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指揮官の日常 その1

05:30

 

いつのまにかベッドに潜り込んでいたSOPⅡを起こさないように起床。

いったいいつ入り込んだのか。

私室のセキュリティ強化をカリーナに申請しておいた方がいいかもしれない…悪い気はしないが。

 

 

06:00

 

ランニングに出掛けるとウェルロッドが待機していた。一緒に走ってくれるそうだ。

その時は普段と違うポニテ姿に目を奪われ思いもしなかったが、人形にランニングは必要なのだろうか。

まぁ1人で走るよりは楽しいし、よしとしよう。

 

今度からペース配分はもう少し甘めに頼みたい。

 

 

06:45

 

着替えを取りに私室へ戻るとSOPⅡはすでに起床し準備してくれていた。

せっかくタオルから何まで準備してくれたので、添い寝の件と衣類の引き出しがぐちゃぐちゃになっていることについては不問とした。

 

 

07:00

 

シャワーを浴び朝食をとりに食堂へ向かうと、M4と会った。

そういえば今日の副官は彼女であったことを思い出し、朝食を共にとることにした。

M4は、ぜひ指揮官と同じものを、と嬉しそうにオムレツを食べていた。

そんなにオムレツが気に入ったのだろうか。

 

 

07:30

 

M4に先に司令室へ向かうよう伝え、軽く基地内を見て回ることにした。

定期的に皆の様子を見て回ることは重要なことなのだ。

もしかしたらM16が二日酔いで廊下に突っ伏していることがあるかもしれない。

 

 

07:42

 

…本当にいた。

 

 

08:00

 

呑んだくれをAR-15の元へ運び終え、何事もなかったように司令室に戻りM4と仕事を始めた。

といってもここ最近は特に大規模な作戦もなく、仕事は演習や警備、後方支援の報告の処理や雑務がほとんどだった。

私から漂うほのかなウィスキーの香りに気付いたのか、察した様子のM4はおずおずと謝ってきた。

上目遣いのその仕草に思わずグッときたが、M4が謝ることではないとだけ伝えておいた。

 

かわいい。

 

 

09:00

 

ガリルが後方支援の報告書を提出に来た。

テントを片手に抱え、今度は忘れなかったのだと自慢げに話していた。

ルンルンで宿舎に帰った彼女は、次はどんな表情でやってくるのだろうか。

 

と、司令室に置きっぱなしのテントを見ながら考えた。

 

 

10:00

 

M4の優秀さは事務処理においても十分に発揮されていた。

指揮官が処理すべき案件のみ要約され、整頓された書類を渡されるおかげで、私はただのサインマシーンと化していた。

人間のような人形と機械のような人間。

皮肉にも程がある。

そのようなことを考えていると、作業が止まっていることに疑問を感じたのか、M4が小首を傾げてこちらを見ていた。

かわいい。

 

顔を赤くして俯いてしまった。

…声に出ていたか。

 

 

12:00

 

午前の仕事も終わり、そろそろ昼食をとりにいこうとするとAR-15がやってきた。

なんでもランチの差し入れに来たそうだ。

M16の件を気に病んでいるのか。

気にする必要はないのだが、せっかくだしいただくことにした。

紙袋にはサンドイッチが入っていた。

もしかしてお手製だろうか。

M4の分もしっかりあるようだ。

ふわふわのパンに卵とハムが挟んである。

少し辛みの効いたマヨネーズで味付けされており、素晴らしい味だった。

毎日でも差し入れて欲しいくらいだと言うと、何を思ったのか顔を赤くし、失礼しますと出て行ってしまった。

何かマズいことを言ってしまったか。

いやサンドイッチはうまかったが。

などと考えて意見を聞こうとM4を見ると、複雑そうな顔でサンドイッチを見ていた。

 

…卵が好きなわけではないらしい。

 

 

14:30

 

IDWの騒がしい支援報告を聞き終え、一息つく。

優秀な副官のおかげもあり、ある程度の事務処理を終えることができた。

M4に今日はもう休んでいいことを伝え、気分転換に司令室を出る。

視界の端に大量の書類を抱えたカリーナの姿が見えたが、きっとそれは気のせいなのだ。

 

 

15:00

 

あてもなく歩いていると、コーヒーの良い香りが漂ってきた。

香りを辿り食堂へ行くと、スプリングフィールドがコーヒーを振舞っていた。

どうやら彼女は休暇の日にはこうして食堂の一角を貸し切り、臨時のカフェを開いていたようだった。

せっかくなので1杯頼むと、少し驚いたような表情を見せた後、何も言わずに手際よくコーヒーを淹れてくれた。

彼女にもよく副官を頼むので、サボ…もとい、見回りのことはバレているようだ。

 

 

16:00

 

同じくコーヒーを嗜みに来たグリズリーと談笑しながら、2杯目の特製ブレンドを飲み干したあたりで気付いた。

もう1時間以上経っている。

そろそろ戻らねば、カリーナに水増しされた請求書を突きつけられかねない。

お代は結構ですよ、と言うスプリングフィールドに今度何かお礼をすると告げ、席を立つ。

ドライブに行こう、と腕を掴むグリズリーをたしなめつつその場を後にした。

 

 

16:30

 

司令室に戻ると片頬を膨らませたカリーナが、指揮官用の椅子にふんぞり返って座っていた。

机の上には作戦報告書の束。

本当に申し訳ない。

今度ショップで買い物をするという条件で許してもらえた。

 

 

17:00

 

バッテリーの状態を確認しに宿舎へ。

以前MP5にペットを飼ってほしいと頼み込まれたが、なかなか余裕が出ない為少し待ってもらっている。

なら指揮官がペットになれば解決ね!と、誰かが言っていた気がしたが、あえて触れないことにした。

 

 

18:00

 

グローザ14が夕食の誘いにやってきた。

非番の時はこうして作ってくれる。

グローザの手料理は美味いが、難点が2つだけある。

美味くてつい食べ過ぎてしまうことと、

食べている間じっと見つめられることだ。

 

 

19:00

 

風呂にでも入ろうと私室へ戻る。

すると当たり前のようにG36が待機していた。

今朝のSOPⅡによる殺傷榴弾(仮)の形跡がないところをみると、ありがたいことにどうやら掃除や洗濯など一通りやってくれたようだった。

何度か、身の回りの世話まではしなくてもいいことを伝えたが、ご主人様の必要にこたえるのが私の勤めなのだと頑として聞き入れてくれなかった。

 

 

19:30

 

私室にもシャワー室はあるが時間のある時は浴槽に浸かりたいのと、なによりG36が背中を流すと言ってシャワー室にまで随伴しようとするので、大浴場へとやってきた。

人形とはいえ仮にも女の子なので、普段頑張ってくれているみんなに労いをと、大金をはたいて付設した大浴場。

もちろん利用するのはほとんどが彼女らなので、男女に分かれてはいるが男性用のスペースは狭く作っている。

 

 

20:00

 

男女に分かれている、はずなのだが。

いったい何がいいのか、彼女らは普通にこちらへ入ってくる。

狭いだろうに。

よく見たら男女を隔てる壁が一部破壊されて行き来できるようになっている。

またカリーナに修繕の要請をしなければ。

 

あとGrMk23がくっついてきたとき用に素数の勉強を始めた。

 

 

21:00

 

M16とトンプソンが飲みに誘ってきたため、基地内にあるバーに行く。

M16が飲み過ぎないよう監視するのが主な任務だ。

その点トンプソンは自分でキープしてくれるので助かるが、酔ってくると毎度のようにこちらを口説き倒してくるのは恥ずかしいのでやめてもらいたい。

 

ちなみにM16は酔うと機嫌がすこぶるよくなり、M4は泣き上戸、SOPⅡは笑い上戸。

AR-15は1杯目で顔を真っ青にしていた。

 

 

23:00

 

少し飲み過ぎてしまった。

彼女らと一緒だとどうも飲む量を履き違えてしまいがちだ。

これではあまりM16を責められない。

帰る途中心配そうに駆け寄ってきた9A-91に支えられながら私室に戻る。

定かではないが、花のような良い匂いがしたのはよく覚えている。

 

 

23:30

 

朧げな意識で私室へ持ち帰ったカリーナの作戦報告書に目を通し、消灯。

彼女の仕事ぶりは丁寧なので、問題はないだろう。

ベッドに見慣れたツインテが見えた気がしたが、気のせいのはずだ。

ベッドが暖かく心地良い。

今日もよく眠れそうだ。



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指揮官の日常 その2

05:40

 

身体を揺さぶられ起床。

どうやらUMP9が起こしてくれたようだ。

おはよう指揮官♪と、水を入れたコップを差し出された。

ありがたい。

二日酔いの身体に染み渡る。

 

…待て、なぜ彼女がここに?

 

 

06:05

 

今朝のランニングは56-1式がお伴してくれた。

なんでも運動後の方が、美味しく食事できるのだと。

昨日深酒したことを知っていたらしく、軽めのジョギングと柔軟体操を組んでくれた。

柔軟時は無意識なのか遠慮なく体を密着させてくる。

素数の勉強が役立った。

 

 

06:40

 

シャワーを浴びに一度私室へ。

見慣れたツインテの姿はすでになく、いた痕跡も残していないあたり彼女の潜入能力の高さが伺える。

本当に9はいたのだろうか。

 

ちょっと怖くなってきた。

 

 

07:00

 

朝食をとりに食堂へ。

いつものオムレツモーニングセットを頼むと、今日の副官であるHK416が席を確保していた。

食べずに待っていてくれたようだ。

 

 

07:30

 

朝食を済ませ、軽い見廻りを始める。

基地は警備体制が万全なため本来見回りなど必要ないのだが、人形達の様子を見て回るのは指揮官として重要なことなのだ。

もしかしたら叩き起こされるも睡魔に負け廊下で二度寝をしているG11がいるかもしれない。

 

 

07:39

 

…勘弁してくれ。

 

 

08:00

 

寝坊助をUMP45に預けた416が司令室に戻り、本日の業務を開始する。

なんだかんだ言って見捨てないあたり、面倒見がいいのだろう。

指揮官は何もしなくていいのよ、と全ての書類を持っていこうとするのは面倒見がいいというレベルを超えている気はするが。

 

 

09:00

 

M1895が後方支援の報告に来た。

流石は年長者。

成果は大成功と言えるだろう。

ついちびっ子達にやるように頭を撫でると、子ども扱いするなと怒る素振りを見せる。

すかさず手を振り払わないあたり、まんざらでもないらしい。

 

 

10:00

 

416の優秀さは流石と言うべきか。

山のようにあった書類を、指揮官が確認すべきもの、サインすべきもの、サイン不要なものと分けて持ってきてくれる。

これはよりサインマシーンとしての性能がレベルアップしそうだ。

ただ、たまにサイン不要類の中に『副官希望申請書』や『新規人形受け入れ承諾書』などが混ざっていることもあるので、念のため全て目を通すようにはしている。

 

余談だが、416は可愛らしい猫がプリントされたペンを使っている。

かわいい。

 

…反応が見たくてわざと声に出したが、ピクリと反応しただけで仕事に戻ってしまった。

耳が真っ赤になっているところが見れただけでも、戦果は上々である。

 

 

12:00

 

昼食をとりに食堂へ向かうと、しきかーん♪と猫撫で声で45が近寄りナチュラルに腕を組んできた。

懐いてくれるのは嬉しいが、416に見せつけるようにわざとするのはやめていただきたい。

視線が痛い。

 

お返しとばかりに416にあーんしてもらったのは役得と言わざるを得ないが、おかげで45が頼んだ激辛麻婆も一口食べるハメになった。

こんなにも辛いものを食すなど、きっとストレスを溜め込んでいるに違いない。

もう少し休暇を増やしてやろう。

 

 

14:00

 

おかしくなった味覚が元に戻り始めた頃、ようやく書類仕事に終わりが見えてきた。

 

FNCに後方支援を要請する代わりにロリポップキャンディが3つほど消えたが、持ち帰ってくれる資源に比べれば安いものだ。

 

 

15:00

 

一通り業務を終え自由にしていい旨を伝えると、416は訓練へと向かった。

完璧主義なだけあって、訓練と整備は欠かせないらしい。

本当に頭が下がる。

 

入れ替わりでやってきたカリーナに通信連絡を任せ、司令室を出る。

 

 

15:30

 

指揮官は見た。

WA2000が野良猫におやつを与えているところを。

自称殺しのためだけに作られた戦術人形は、ツンケンした普段からは想像もつかないほど素直な笑顔で猫とじゃれあっていた。

本来ならば許可なく生物等を飼うことは許されず、それは餌付けも含まれる。

が、いいものが見れたのでよしとしよう。

 

本格的にペットを飼うことを検討しなければ。

 

 

16:00

 

中庭のベンチにG11が寝ていた。

風邪をひくぞと声をかけようとして、思いとどまる。

そういえば人形は風邪などひくのだろうか。

少し考えた挙句、416にまたどやされるという理由で起こすことにした。

 

…起きない。

その上なぜか隣に座り一緒に寝る体勢となってしまったが、まぁたまにはいいだろう。

 

これで同罪…とのつぶやきが聞こえる頃には睡魔に逆らえなくなっていた。

 

 

16:50

 

訓練を終えた416にこっぴどく叱られた。

G11は共に訓練する予定だったらしい。

指揮官ともあろう者が風邪でも引かれては困る、との理由で同じくお叱りを受けたが、上官の理不尽な暴言よりは性根優しいお叱りに心が和んだ。

 

 

17:00

 

416に引きずられていったG11を見送り、バッテリーの確認に宿舎へ向かう。

 

関係ないが、たまに私室のシャツや下着類が勝手に新品に交換されているのはなぜなのだろう。

カリーナが気を利かせて新調してくれているのだろうか。

だが守銭奴、もとい節約家の彼女がまだ十分使える消耗品を勝手に新調するだろうか。

今度聞いてみよう。

 

 

18:00

 

今夜は自分以外とは食事をするな、と脅迫めいた勢いで言われたため他の誘いを断り食堂で待っていると、416が食事を運んできた。

夕食を作ってくれたらしい。

メニューはカレー。

彼女は料理もほとんど完璧だった。

ほどよい辛味にコクのある旨味が合わさり食が進む。

 

416がおかわりを注ぎに行った時に、精力剤と銘打った空のビンがちらりと見えた。

かすかに感じた妙な味はもしかしたらあれを入れたからかもしれない。

そんなに疲れているように見えたのか。

416の配慮は嬉しいが、トップが疲れを見せるなど士気に関わる。

気を付けなければ。

 

 

19:00

 

私室に戻るとシャワー室に

“故障中につき使用禁止”との注意書きが。

どういうことだ。

今朝までは普通に使えたはず。

カリーナが何か知っているだろうか、と踵を返した瞬間いつの間にか隣にいたG36に

水道関連の故障だそうですので、恐れ入りますが大浴場の方へ。

と食い気味に言われてしまった。

いつからいたのか、なぜ急に壊れたのか、気配を消して隣に立つのはやめてほしいここは戦場じゃないんだぞ、

などと言いたいことはいろいろあったが、人は本当に驚くと声が出ないものだ。

 

 

19:10

 

大浴場の入り口、男と書かれた扉には

“男性のみ!人形立ち入り禁止!!”と書いてある張り紙を

 

…していたはずなのだが。

見るも無残に破り捨てられている。

いったい何が気に入らないのか。

男性用スペースを独り占めしていることか。

 

とりあえずタオルだけはつけてくれ。

 

 

19:30

 

『タオルを巻いたまま湯船に浸かるのはマナー違反』と、誰も言うことを聞いてくれない。

戦場ではあんなに忠実に従ってくれるのに、と思ったが先刻自分で言いかけたことを思い出した。

ここは戦場ではないのだ。

銭湯マナー講座を開いたのは一〇〇式らしい。

ぜひ男性風呂に入り込むこともマナー違反だと教えていただきたい。

 

ただ、Vectorが澄ました顔でタオルを頭に乗っけていた場面を見られたことは、一〇〇式の数多くの功績の一つとして数えられるだろう。

 

 

21:00

 

風呂から上がり、司令室で報告書をまとめていると、FALとFive-sevenが訪ねてきた。

バーに行くので1杯付き合ってほしいとのこと。

毎晩飲むのもどうかと思い断ろうとしたが、彼女ら2人からの誘いは珍しいため、少しだけ付き合うことにした。

まぁあの呑んだくれコンビがいないのなら大丈夫だろう。

 

 

22:00

 

結論から言えば、かなり飲んだ。

いや呑まされたと言うべきか。

FALと57は本当に軽く1、2杯嗜む程度だったが、2人して隣席から間合いを詰めひたすらにじっとこちらを見つめるのだ。

まるでその目先のものを肴に酒を楽しむように。

会話をしようにも向こうにその気がないのか、すぐに途切れてしまう。

おかげで間が持たず、何杯飲んだかよく覚えていない。

顔が熱いのはきっと酒のせいだ。

 

 

23:00

 

416が迎えにやってきた。

FALと57は満足したのか、お代を払い帰っていった。

そういえば報告書がまだ終わっていない。

その件でまた叱られるかと思ったが、彼女はただ迎えにきただけらしい。

たしかに今日の副官である416には念のため、バーに行くことは伝えていた。

心配して来てくれたようだ。

 

 

23:30

 

仕事が少し残っているが、酔った頭ではろくな作業にならないと判断し、ベッドに入る。

今日もいろいろあったが、皆が穏やかに過ごせるならばそれに越したことはない。

 

戦場に身を投じる彼女らは、想像もつかないほど過酷な思いをしているだろう。

ならばそれを強いている者として、

彼女らが少しでも心穏やかに楽しく笑って過ごしてくれるように、

戦場を日常とする彼女らが、そんな日々をも日常として受け入れてくれるように、

どんな苦労でも惜しまずやっていこう。

そう再確認するように一日を振り返りながら、明日への眠りにつく。

 

 

だから私室まで付き添ってくれた416がそのままベッドにまで入り込んできたことも、きっと些細な問題に過ぎないのだ。

 

 

彼女らにとって優しい日常が、少しでも長く続くことを祈るばかりである。



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指揮官の日常 その3

05:30

 

何かの気配を間近に感じ起床。

隣には私の腕を枕にしながらすやすやと眠るHK416。

就寝寸前の記憶がない。

確か昨晩バーへ迎えに来てくれたことは覚えているが、この状況と関係があるのだろうか。

 

 

06:00

 

腕に416の香りが残っているのを意識から外し、ランニングへ。

今朝はKSGが付き添ってくれた。

適切なペースを保ってくれるだけでなく、単調なトレーニングにならないよう様々なメニューを組んでくれて助かる。

ただ、バイタルチェックと称して全身くまなく記録しようとしてくるのはどうにかならないものか。

 

 

06:40

 

シャワーを浴びに私室へ戻る。

するとスポーツ飲料と着替えが用意されており、ベッド周りも小綺麗になっていた。

おそらくこれらを準備してくれたであろう416の姿はすでになく、ついでに寝間着にしていたTシャツも消えた。

 

 

07:00

 

食堂へ向かうと、今日の副官のVectorが入口で待機していた。

朝食はまだとっていないようだったので、本日の予定を確認しつつ共にとる。

 

 

07:20

 

早めに朝食を終えたので、いつもより長めの基地内見回りへ。

半日ほどは司令室に籠りきりになるので、人形たちとのコミュニケーションを多く取るためにも、この見回りは重要なのだ。

それにもしかしたらゲームをやり込んで完徹したRFBが朝食後、宿舎に戻る前に廊下で寝て…いや流石にいないか。

 

 

07:36

 

…ゲームはしばらく没収とする。

 

 

08:00

 

 

折衷案として自由時間内かつ消灯までという条件でゲームを返す。

危うくVectorが燃やしてしまうところだった。

 

Vectorは何事もなかったかのように仕事を始めてくれた。

 

 

09:00

 

スコーピオンが後方支援の報告にスキップしながらやって来た。

副官殿と比較するとその明るさがより際立つ。

彼女は資源だけでなく元気まで与えてくれるような存在だ。

 

 

10:00

 

Vectorはどんな仕事でも任務とあればしっかりやってくれた。

ほとんど無言でこなしてくれるため、こちらとしてもかなり作業が捗る。

ただ本当に静かなので、少し会話が欲しくなるのもまた事実。

どんな会話なら弾むのだろうかと考えながらふとVectorの方を見た。

 

整った顔に綺麗な瞳と白く透き通るような肌。

まるでお人形さんみたいに綺麗だなと褒めると、人形だもの、と真顔で返されてしまった。

 

何を言っているんだ私は。

恥ずかしさで耳が熱くなるのを感じた。

 

 

12:00

 

昼食のために食堂へ向かう。

料理を受け取り近場のテーブルに座ると、G41がやってきた。

席を探しているらしい。

座っていいぞと言うやいなや、私の膝の上に座って嬉しそうにパンを食べだした。

想定外ではあったが、少々食べづらいことを除けば問題はなかったので許してしまった。

 

問題はそのあと。

どこから嗅ぎつけたか、UMP9も座ると言い出し、私の膝上の取り合いに発展した。

納めるために左右に半分ずつ座ってもらったが、そのせいで昼飯を少し食べ損なった。

 

あの時のVectorの表情は微妙に機嫌が悪く見えたが、真偽は定かでない。

 

 

14:00

 

PPKの無駄に距離の近い後方支援報告に耐えながら、書類作業を同時進行させる。

そのスキンシップは、触れられることはないもののずっと耳元で囁かれるというもので、なかなか心臓に悪い。

 

 

15:00

 

なんとか事務仕事もひと段落し、散歩がてら司令室を出る。

まだ司令室に残ると言うVectorと、作戦報告書を提出した後も帰ろうとしないカリーナの2人が、司令室に残っている。

彼女らが2人の時どんな会話が成立するのだろうか。

少し気になったが、カリーナならば少なくとも会話が険悪になることはないだろう。

 

 

15:30

 

昼食をあまり多く食べられなかったため、小腹を満たしに売店へ。

ちょうどコルトSAAが売店近くの休憩スペースでコーラをがぶ飲みしていた。

コーラは売り切れていたためポテチを買い、彼女にコーラとシェアしようと提案する。

快諾してくれたSAAとともにコーラとポテチを貪った。

犯罪的な美味さだったが、早朝のランニングを少し重めにする必要性が生まれてしまった。

 

 

16:00

 

ふと中庭へ向かうとRO635がベンチで佇んでいた。

聞けば、先ほどまでSOPⅡが膝枕で寝ていたが、訓練を忘れていたと飛び起きて行ってしまったらしい。

羨ましいなとついこぼすと、よければと膝枕を勧めてくれた。

 

彼女の太ももはふかふかで心地よく、小腹も満たされていたため、寝落ちしてしまうのに時間はかからなかった。

 

 

16:40

 

危なかった。

彼女に頭突きで起こされなければ、寝過ごしてしまうところだった。

彼女には迷惑をかけてしまった。

今度お詫びをしよう。

 

しかしなぜ頭突きだったのだろうか。

 

 

17:00

 

バッテリーの状況を確認しに宿舎へ。

 

たまたま部屋着姿のAR-15と出くわした。

シャツ・短パンに軽く上着を羽織っただけのもので、目のやり場に困る。

だがよく見るとその着ているシャツには見覚えがあった。

いつぞや新品に変わっていた私のシャツにすごく似ている。

詳しく聞こうとすると、早口で何か言いながら去って行ってしまった。

 

謎は増える一方である。

 

 

18:00

 

司令室に戻りひと仕事終えた後、晩飯のために食堂へ行こうとすると司令室にVectorがやってきた。

食事を持ってきてくれたようだ。

不在だったのは食堂まで行ってくれたからだろう。

 

ありがたく頂くと、美味しいかどうかしつこく聞いてくるVector。

美味いと言うと、そっか、とだけ言い放ちまたどこかへ行ってしまった。

 

猫のような印象を受ける。

 

 

19:00

 

シャワー室の操作パネルが何者かによって完全に壊されている。

一体なぜ。

敵?いや部屋にそんな痕跡はない。

敵だとしてもなぜわざわざシャワー室を。

 

などと考えている間に隣にいたG36が、澄ました顔でお着替えセットを持って手招きしている。

何の説明もないことに疑問を抱きつつ、仕方なく大浴場へ向かった。

 

 

19:10

 

男女を隔てていたはずの壁の穴はだんだん広くなっており、全体が崩れないよう補強工事までされている。

その工事が可能なら修繕に回して欲しいものだ、と胃を痛めながら湯に浸かった。

 

 

19:30

 

スオミに誘われたため、共に新しく増設したサウナへ。

サウナは良い。

汗を掻くのは気持ちがいいし、リフレッシュにもなる。

 

それにしても一体彼女は何分入っているのだろうか…い、意識が…。

 

 

20:30

 

火照った体を冷ましながら、少しだけ残った仕事を片付けるため司令室に戻る。

Vectorは自分の仕事をきっちり終わらせたようで、司令室にはいなかった。

 

 

21:30

 

仕事を早めに切り上げ、就寝前の散歩も兼ねて夜の見回りへ。

途中夜間警備に当たっていたMG5と会った。

彼女は率先して任務や警備をこなしてくれるのでありがたい。

一度しっかり休めと言うと戦力外通告と勘違いしたのか、らしくない悲しい顔をされてしまった。

それ以来休みの代わりにこうした緩めの任務を与えている。

だがそれすら本気でやるあたり、実に彼女らしいと言えるだろう。

 

 

22:00

 

たまたま通りがかったバーの前で、TMPがうろうろとしていた。

どうやらバーは初めてで、入りづらかったらしい。

飲む気は無かったが、彼女が安心するまで一緒に付き合ってやることにした。

 

 

23:00

 

サウナの時より意識が朦朧とする。

何が起きたかよくわからない。

たしかTMPが意外とイケる口で、軽くボトルを飲み干して驚いたところまでは覚えている。

 

いつのまにかVectorに支えられてバーから脱出していた。

心配で来てくれたのだろうか…。

申し訳ない。

 

 

23:30

 

気付けば私室のベッドの上。

とてもじゃないが一人では辿り着けそうになかったので、Vectorには世話をかけてしまった。

 

なぜか一緒に布団をかぶっているVectorが、なにやら隣でもぞもぞと動いている。

やけに涼しげな気がするが、サウナと酒で火照った体にはちょうど良い。

靄がかかった頭では、誰かが隣にいてくれると落ち着くものだ、とぼんやり思うのがやっとだった。

そのまま眠りに落ちる。

 

 

明日も良き一日でありますように。

 

 



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指揮官の日常 その4

05:45

 

予定より少し寝坊しつつもなんとか起床。

どうやら昨日の酒がまだ抜けていないようだ。所々身体も痛い。

もう今日は何があってもBarには近寄らないようにしよう。

隣を見るとVectorが穏やかな顔で寝ていた。

こうして見ると本当に綺麗な顔をし、待て、なんで一緒に寝ているんだ。

 

……今日は何があっても酒には近寄らないようにしよう。

 

 

06:00

 

若干ふらふらしつつ、毎朝の日課であるランニングへ。

今朝はSPAS-12が準備運動をしながら待機してくれていた。

人間とは比較にならない代謝量の人形でもダイエットは必要なのかと聞くと、運動後の朝食の方が美味しいから、らしい。

そっちか。

 

人形の代謝についてペルシカさんに聞いたことがあったが、いかんせん二日酔と目の前で上下する無遠慮な体躯のせいで思い出せない。

 

 

06:45

 

私室に戻りシャワーで汗を流す。

Vectorは再起動に時間がかかっているのか、いまだモゾモゾとベッドの上で戯れていた。

こうしてみるとただの猫だ。

 

 

07:00

 

朝食を摂りに食堂へ。

朝から賑わっている中に、本日の副官であるIWS(シュタイアー)2000が見えた。入り口付近で姿勢正しく待機している。

 

彼女に声を掛け、共に朝食を摂った。

スープをすする姿すら絵になるほど凛としていたが、身支度時に見落としたのかアホ毛のような寝癖が付いている。面白いので黙っておこう。

 

 

07:30

 

本日の日程を確認しつつ朝食を終える。

習慣付いてしまった見回りにでも行こうかと思い席を立つと、配膳カウンターの方にVectorが並んでいるのが見えた。ようやく起きたらしい。

格好は短パンに大きめなシャツ1枚。起き抜けとはいえ身なりに気を……いや、あれは、見覚えが、私の……。

 

 

08:00

 

質問責めに遭いながら、なんとか司令室へたどり着く。

みんなを振り切ったと思いきや、廊下でIWSに泣きそうな目で(すが)り付かれたのが一番の難所だった。

今はなんとか納得してくれたのか、上機嫌で仕事の準備に取り掛かってくれている。

 

私は何もしていない。

たぶん。

 

 

09:00

 

後方支援結果の報告にマカロフがやってきた。結果は大成功。

彼女は状況判断能力にも長け、作戦成功率は高い水準を誇っている。優秀と言うに相応しい人形だ。

そんな彼女のテキパキとした報告の最中、ついそのもふもふとした白い髪に目がいってしまう。少し癖っ毛で、身の丈ほどある長い髪。実にもふもふしていそうだ。

もふもふ。

 

 

10:00

 

先ほど間違えて呼んでしまった「マカモフ」という単語が軽くツボに入っていたIWSだが、彼女も極めて優秀だ。

少々うっかりしているところはあるものの、戦闘能力や作戦遂行能力は言わずもがな、事務作業まである程度の心得はあるようだ。

加えてすらりとした体躯に、整った目鼻立ち、透き通る白髪、明るい性格。どれをとっても非が見当たらない。

ただ、ほんの少し、うっかり屋さんなだけなのだ。

 

だから今、重要な機密書類を失くしてしまい必死になって探していたとしても、些細な問題だろう。

 

 

12:30

 

昼食を摂りに食堂へ。

たまたま相席したTAC-50が、トーストにふんだんにメープルシロップをかけて食していた。

見ているだけで胸焼けしそうだが、心底美味しそうに食べるその表情を曇らせるようなことは、私には言えなかった。

 

しかし私の丼物にまでかけようとするのは、勘弁願いたい。

 

 

14:00

 

後方支援結果の報告にHK45がやってきた。四六時中踊っているイメージだったが、報告の際は流石に真面目にやっていた。

かと思いきやすぐにくるくると踊り出す。見ていて飽きない。

ものの見事に一緒に踊る約束を取り付けられたが、まあ機会があれば付き合おう。

 

 

15:30

 

なかなか終わらない書類仕事に見切りを付け、気分転換がてらIWSと共に散歩に出かける。

いつも通り作戦報告書を持ったカリーナとすれ違ったが、またサボりですかと嫌味を言われた。

 

サボりではない。

見回りだ。

 

 

16:00

 

少し客足の遠のく時間を見計らって、春田カフェへと足を運ぶ。店主のスプリングフィールドが淹れるコーヒーの良い香りが、胸いっぱいに広がった。

今日も彼女特製をいただく。うまい。

IWSはメニューと睨めっこをしている。

 

 

16:30

 

店内の一角に『K5の占いコーナー』なるものが設置してあった。

聞くところによると、不定期に場所を借りては占っているらしい。

たまたま遭遇したのも何かの縁、占ってもらうことにした。詳細の結果は割愛するが、なかなかの運気らしい。

だが『酒に注意』と言われた時は、変な声が出た。

 

 

17:00

 

用事があるというIWSと別れ、バッテリーを回収しに宿舎へ。

すると、何枚かの布を持ったカルカノM1891と遭遇した。新しい服を製作中だとか。

見せてあげます、と私室へ招待されたが、せっかくなので完成まであえて見ないことにした。

いの一番に見せに来ると言うカルカノと約束を交わし、宿舎を後にする。

 

 

18:00

 

司令室に戻り仕事をしていると、IWSが帰ってきた。どうやら晩御飯を準備してくれていたらしい。ありがたい。

出てきたのは、"IWS2000"の生まれ故郷の料理だというターフェルシュピッツ。牛肉の煮込み料理だ。

うっかり味付けを、なんてことはなく、ものすごく美味しかった。

お付きのスープも美味かったが、やたらと体が火照ってくるような気がするのは、香辛料でも入っているのだろうか。

 

 

19:00

 

シャワー室の扉には、もはや立ち入り禁止のテープが貼ってあった。

いるであろうG36に振り返りもせずに問いただすと、修理中なので大浴場へ、と言われた。

 

夜になると急に壊れるのは一体何故なんだ。

 

 

19:30

 

気付いたら大浴場で混浴していた。

むしろセクハラでもすれば一緒に入らなくなるだろうかとも考えたが、下手に動けば失職どころか命を落としかねないのでやめた。

 

……タオルは付けてくれ。

走り回っちゃダメ。

泳ぐのもやめなさい。

 

 

20:00

 

火照る身体を冷ますついでに、司令室で残りの仕事を片付ける。

IWSも残るといって聞かなかったが、明日の作戦には彼女にも出てもらう予定のため、早めに休んでもらうことにした。

 

 

21:30

 

ちょうど一区切りつくというところで、M16とAK-47が突入してきた。

手にはもちろん、酒、酒、酒。すでに出来上がっている。

禁酒中なんだと追い返すと、司令室のソファで勝手に宴会を始めてしまった。

 

勘弁してくれ。

 

 

22:30

 

騒がしいのを聞きつけてか、やたらと人形が集まってきた。ここは宴会場ではない。

頼むからBarでやってくれ。

 

挙げ句の果てにはHK416までもがしかめっ面でやってきて、転がってきた酒瓶を、手にとって……飲ん──。

 

 

23:30

 

死屍累々の司令室から抜け出し、私室へとたどり着く。心配でやってきたらしいIWSがいなければ、あのまま床のマットと同化していたに違いない。

 

彼女に感謝を述べつつ、ベッドに横たわる。

ひんやりとしたシーツが心地よく、それとは対照的に温かい彼女の腕に包まれ、心がすっと落ち着くのを感じた。

 

 

なんだかとても気持ちがいい。

今日もいい夢が見られそうだ。

 

 



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