偶には戦場から離れた話を (ぱんだ君)
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(1) UMP45 夢路は熱の中で
多分ずっとこんな話を書きますので宜しくお願い致します。
目が覚めると、日はもうとっくに跨いでいた。
換気のために開けていた窓から冷えた夜風が自室内に入ってくる、なるほど、そのせいで目が覚めたのだろう。
まだまだ冬は遠いとは言え秋の夜ともなればが部屋の中が冷え込んでくる。
...それでもなお、このベッドの中が暖かいのは一人ではなく、二人分の暖かさがあるからなのだろう。
「...すぅ...すぅ...」
普段の飄々とした態度や言動は鳴りを潜め、安心したような表情と規則正しい寝息がそこに確かな存在を感じさせてくれる。
喉が渇き、水でも飲みに行こうかと体を起こそうとしたところで、右手を握られているのに気づき小さくため息をこぼす。
体を起こすだけならいいかも知れないが水を飲みに行こうと立ち上がれば彼女を起こしてしまうだろう。
仕方がないと横になり、掛け布団をもう一度かぶりなおす。
ふと目を横に向けると彼女の暗い色の茶髪が目に入り、知らず知らずのうちに形のいい頭を左手が撫でていた。
「...ん...ふふ...」
まるでいい夢でも見ているかのように彼女が微笑む。
人形は人間と違って夢を見ることは無い。彼女達にとって睡眠とは、データの整理に使われる時間である。
もし仮にも、彼女が夢を見るとしたらどんな夢を見るのだろう...
幸せな夢を見るのだろうか?それとも何でもないような、どうでもいいような夢を見るのだろうか?
...彼女の過去や、記憶が悪夢となって出てきたりはしないだろうか?
訳あって彼女達404小隊の指揮官で、今そばで寝ているUMP45と制約を交わしてはいるが実のことを言うと彼女達の過去のことはそう多くは知っていない。
あまり多くを語りたがらない彼女達に合わせて話したくなければ話さなくてもいいと言うスタンスをとっているが、おかげで彼女の過去のことをあまり知れないでいる。
彼女達にどんな戦いがあったのか、どんな苦痛があったのか、どんな決断があったのか、どんな後悔があったのか。
彼女達は何を目的に戦って何を失ってどんな思いでここにいるのだろうか。何も知らないままでいる。
「んん...指揮官?」
彼女が起きてしまった、知らないうちに撫でる手に力がこもっていたのだろう。
「ごめん、起こしたか?」
「そうみたい...撫でるのはいいけどもっと優しくしてよ~...しきかぁん...」
まだ眠いのか微睡ながら、しかしどことなく嬉しそうに文句言う。
「ごめんって...」
「怖い顔してたけど、何か悪い夢でも見てたんですか~?」
眠そうに開かれていた目が、徐々ににやりと目尻を上げていく。
彼女の妹もそうだが、このUMPという人形はいたずらをする時やからかう時は分かりやすく顔に出るらしい。
...妹のほうは天然で、彼女は意識をしながらしているかもだが...
「...そんなもんだよ」
「きゃっ...も~...優しくっていったのに~...」
これ以上からかわれるのはたまらないと、少し強引に彼女の頭を胸に抱きしめる。
すると文句を言いながら背中に手を45が回してくる。
「ん、その調子...」
今度は優しく、意識をしながら頭を撫でてやると、どうやらお気に召したようだ。
HK416やG11が聞いたら耳を疑いそうな甘えた声で続けるように催促をしてくる。
黙って彼女の言う通りに続けていると、彼女が口を開いた。
「ねぇ、指揮官」
「...何?」
「どんな夢を見たの?」
「...あんまりよくない夢...」
彼女達の境遇を考えていた等とは言えずついつい誤魔化しの言葉が出る
「指揮官のことだから仕事で失敗した夢でも見たのかと思った」
「縁起でもない...やめてくれよ...」
くすくすと笑いながら彼女は抱きしめた腕から離れ。
「はいっ」
「...何してんの?」
「慰めようとしてるんでしょ~?しきかぁん?」
両手を広げ、からかうように彼女が言う。なるほど、抱きしめてやろうという事か。
黙って45の腕の中に吸い込まれる。優しい石鹸の香りと微かな硝煙の匂いに包みこまれる。
「おやすみ、指揮官」
「ああ、おやすみ、45」
冷えた秋風は微かに窓を揺らしながら部屋に入り込んでくる。
寒さから逃れるように、少し強く45の体を抱きしめながら意識を闇の中に落とした。
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