殺人貴はダンジョンに行く (あるにき)
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月夜の女神
1話


なんとなくかいてみた


私はただみていることしかできなかった。

自分のファミリアの眷属たちが喰われるのをみていることしかできなかった。

震える。

吐き気がする。

情けない。

神をこのモンスターが喰えば、神の力を持ち、モンスターの力を持つ、最悪の化け物が生まれてしまう。そんな最悪が起きてしまったのだ。それはダメだ。しかし、私に抵抗することなんてできなかった。もう喰われ、アンタレスの中で眷属を殺すところを見ていることしか出来なかった。なら私にできるのはこの残った神の力で槍を作り出すことぐらいだろう。この力があればアンタレスを倒せる。もうモンスターとしての核を私にしてしまったアンタレスは私が殺されれば崩壊する。残滓が残れば、今の私とは違う少しぐらい柔らかくなった私がオリオンを導く。

あぁ、オリオンよ…どうか世界を救いたまえ…

 

「まったく、気づいたら森の中にいたってだけであれなのに、この強そうな化け物はなんだよ?」

 

少年…?!ダメだ!今の私は、アンタレスはたった1人で倒せるような相手ではない!それに口ぶりから察するに迷い込んだだけのようだ。ならまだ逃げられる。ここは私の眷属の力で封印された場所だ。私と今の眷属たちが入ったときにもしもの時を考え開けたままにいていたから入れたのだろう。早く!!早く逃げて!!

 

「あの馬鹿でかい宝石みたいなのが核なのか?………?!女の人が…………全裸?!服着ろよ!」

 

……そういうことを言わないでいただきたい。これでも私は処女神だ。こんな状況でなければ罵倒していた。まあ、残滓は私と別の性格になるだろうからきっともう誰かを罵倒するなんてこともないのだろうが。

そういえば子供たちに言われてしまったな。恋は素晴らしいと…

一度ぐらいしてみたいものだったな…

 

「見た感じ囚われてるって感じだし、どうにか助けられないものか…」

 

無理だ、神の力を使用しているアンタレスは確かに現状で私を殺してないと言える。しかしこのモンスターの核はすでに私なのだ。私を殺さなければこのモンスターは倒せない。

 

「この蜘蛛みたいな化け物だけを殺せば…やってみるか」

 

意味がわからなかったがアンタレスは気にしない。

少年めがけて攻撃を仕掛ける。

 

「早っ」

 

それもそうだ。最悪の化け物なのだから。あぁ、私は無関係の子供が死ぬのも見ていなければならないのか。

そう思いながらも人を殺すのだから目を背けてはいけない。その罪を受け入れなければいけないのだ。

私は少年の死を目に焼き付けよう。

そう思ったはずの私は呆気に取られた。少年を攻撃したはずのアンタレスの足2本はバラバラになっていたのだ。

 

「早いって言ってもこの手の攻撃が1番楽だな。飛んできた死をなぞるだけでいいんだから。」

 

気づけば少年は眼鏡を外していた。

灰色に見えた瞳は蒼くなっている。

アンタレスは切られた箇所を再生しようとする。しかし異変に気付いた。再生しないのだ。私にも訳が分からない。なぜ?彼のスキル?

アンタレスは疑問を持つのをやめ、魔力による砲撃を喰らわせようとする。

あれを真正面から受けた人間が無事な分けがない。今度こそ本当に危ない

そう思った矢先いつの間に現れたのか黒猫が彼の前に出る

 

「頼むよ、レン」

 

「……………………」

 

レンと言われた黒猫は突如形を変え、人の形となる。その人は暗い水色の髪で赤い目黒い服。服は身なりがよく、お金持ちを連想させる。そんな少女がアンタレスの攻撃を難なく防ぐ。

 

「ありがとレン。ここにケーキがあるかわからないけど、あったら買ってやるからな」

 

彼はお礼を言って私に、アンタレスに向かい合う。

 

「じゃあ、その女の人のためだ。

—————教えてやる。これが、モノを殺すっていうことだ」

 

走り出した彼は私は目で捉えることなどできなかった。気づけば彼はアンタレスの足を伝い胴体にまできていた。まるでそこに何かがあるように、じっと一点を見ている。ひと刺し。

またも気づいたのは少し後、アンタレスの体がバラバラになって私のいる核が地面に落ちる寸前だった。

私は後からアンタレスが死んだことを理解する。アンタレスのみが死んだことにより喰われたはずの私が生き繋いだことを理解する。

彼と猫だった女の子は私に近づいてくる。

彼は見たこともない服(後から聞いたら学ランというらしい)

の上着を脱いで私に渡す。

 

「…………?」

 

訳も分からずそれを受け取る。

まだお礼を言えていない。まだ疑問がたくさんあるが、とにかくお礼を…

 

「ありが————」

 

「とにかく服きなよ。いろいろ見えてるからな」

 

「———え………は、恥を知れっ!!」

 

私を救ってくれた人とのファーストコンタクトはぶん殴るというので始まった。




人気だったら続けようかなと


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殺人貴オラリオについた

くっっそ短いです


「ここがオラリオか〜。あの馬鹿でかい塔がダンジョン?」

 

「いえ、ダンジョンは地下です。」

 

遠野志貴はいま迷宮都市オラリオに来ている。

なんか、気づいたら森の中にレンと一緒にいて城みたいなのが見えたからなんとなく行って見たら馬鹿でかい化け物がいて、ややあって1柱の神さまを助けることとなった。名をアルテミスという彼女は有名な処女神らしく、恋愛とかそーゆうのオールNGな風紀委員みたいな人だった。

俺も裸だった彼女に上着渡したら殴られたしな。しかし、もう少し早く来ていたらファミリアのひとたちも助けられたかもしれないと思うと、心が痛む。彼女はかなりの傷を心におったみたいで、男嫌いも少しは改善されて来た。

 

ところでなぜ俺がここにいるのか、だが。

よくわからん。キシュアさんや先生と会ってアルクェイドになにかをしようとしたところまでは覚えている。

アルクェイドはもう限界で————

 

——私を◼︎してくれて、ありがとう——

 

「どうかしましたか、志貴?」

 

「………………」

 

アルテミスと今は人の姿のレンが首を傾げている。

やはり思い出せない。大切なことのはずなのに。

とりあえずわかることはここは元の世界とは全く別で、ハッキリと七夜の技を思い出せて、ここにアルクェイドはいないということだ。

 

「…いや、大丈夫。なんでもないよ」

 

「そうですか」

 

素っ気ない

 

「しかし、これからどうすればいいんだ?」

 

「あなたは既に私の初、男の眷属なのですから、冒険者登録をしにギルドに向かうのがいいのですが、その前に宿ですね」

 

「ん、確かファミリアってのはホームっていう拠点を作るんじゃないのか?だったら宿じゃなくって家を買った方が…」

 

「お金です。」

 

「うっ…」

 

「……………」

 

「お金がありません、あまり。なにせアンタレスの件で私の、眷属だけでなく…」

 

「言うな。わざわざ口に出す必要はないだろ」

 

「触らないでください。…しかしそうですね。ありがとう、志貴」

 

「しかし宿はどうするか…」

 

「確か私の神友のヘスティアがオラリオにいたはずです。彼女を頼りましょう」

 

「問題ないのか?」

 

「ええ、彼女は怠け者ですが、善性な神です。快く受け入れてくれるでしょう。」

 

「でもアンタ、処女神なんだろ?いきなり男の眷属連れてきたら驚かれるんじゃないのか?」

 

「貴方の場合、レベルのこともあるのですがね…」

 

————————————————

 

遠野志貴

 

LV.6

 

力:H=154   

耐久:H=135

器用:E=430

敏捷:D=503

魔力:D=526

狩人 :E

殺人鬼: S

殺人貴:SSS

暗殺者:G

短刀:H

 

 【スキル】

 

退魔衝動(セブンナイトブラッド)

 

ヒトでは無いものに対して殺意発生。

器用、敏捷の二つが超上昇。

 

 

 

 

◼︎◼︎殺し

 

概要不明

 

直死の魔眼

 

あらゆるモノの死を視ることができる

行使するにつれて眼が蒼く光る

浄眼としても使用可能

死の理解できないモノの死を見ることは不可




コメントをぉぉー!


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殺人貴、別の神に会う

短い?


「Level6ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ?????!!!!」

 

「あぁ、それもLevel7になる条件をすでに満たしている。」

 

「ナニィィィィィィぃぃぃぃぃぃいぃぃいぃぃぃい!????!!??!!」

 

俺たちはいまヘスティアファミリアのホームにいる。

ヘスティアファミリアのホームはオンボロ教会の地下で、少し狭いが秘密基地みたいで好きだ。

そこにいたヘスティアに俺たちの状況を説明した。

恐らく別の世界からきたこと死徒といういわゆる吸血鬼と戦ってきたこと。レンのこと。

それと、俺のステータス

アルテミスから恩恵を貰ってから突如身体能力等が急激にアップした。恐らく、恩恵を持っていないときに倒した敵の経験値が恩恵を持った瞬間にステイタスに反映されたのだろう…って言ってたけど普通ならそんなことにはならないらしい。

理由はわからない。話は変わるが、ここにくるまでの間、あの馬鹿デカイ塔の方から視線を感じた。レンはわからなかったらしいが気のせいか?

話を戻そう。ステイタスの概要は伝えなかったもののLevelについては教えた。結果、これだ。

 

「お、オラリオ最強格じゃないかその子……………………アルテミスの男の眷属かぁ……………これは荒れるぞ……」

 

ゴクリと戦慄する彼女。これ神なのかぁ?本当でござるかぁ?

 

「キミ、いま失礼なこと考えたでしょ?」

 

「ぎくっ!」

 

「声に出したが運の尽きさ!さぁなんて考えたか言ってごらん!」

 

案外ノリいいのな、この神

 

「………こんなのが神ぃ?って」

 

「こんなのとかいうなよぉ!」

 

「す、すみません…」

 

「だいたいねぇ、神だって生き物なんだ…」

 

五分ぐらい有難いお説教をいただきました。

 

————————————————————

 

「まあ、次はそのレン君だね。使い魔って言ってたけどモンスターなのかい?そしたらキミはテイマーなの?」

 

「いや、モンスターじゃありませんよ。レンは家族です。」

 

うん。家族だ

 

「家族?まあ確かに猫や犬をそう考える人は多いけど」

 

「猫?ああ、レンちょっと」

 

「………………」

 

俺の意図を察してかレンは黒猫から人の姿になって俺の膝に座る

 

「れ、レンさん?そこですか…?」

 

「………………」

 

ダメなのか?みたいな目で見られた。可愛いので仕方ない。肩をすくめると満足そうな顔になった。

 

「………………」

 

↑はヘスティアだ。

 

「ね、猫が人にぃぃぃぃぃぃいぃぃいぃぃぃい!?」

 

「デスヨネー」

 

あれこれ説明しているうちにヘスティアの眷属が帰ってきた




千ぐらいしかない?いやぁ…なんのことだか…


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驚かれるのは2回目です

サブタイにあまり意味はない


「ただいま帰りました、神さま!」

 

そういって現れたのは銀髪赤い目の純粋そうな少年だった。

 

「ベル君!おかえり!今お客さんがきてるんだ!」

 

ぱぁぁぁ と効果音が出てきそうなほどの笑顔。一目でわかる溺愛ぶり

 

「あ、そうなんですか!すみません」

 

「流石に5人もいると少し狭いけど我慢してくれよ?」

 

その言葉は多分全員に言われた言葉なのだろう。それはともかくとしてそのベル君とやらに挨拶をしないと

 

「こんにちは、俺は遠野志貴。膝の上に乗ってるのがレン。こっちは俺の主神さまのアルテミス。よろしくね」

 

俺含めて全員の紹介をする

 

「………………………」

 

「よろしくお願いします。ところで貴方の眷属は男だったのですね」

 

「え?そうだよ。僕のベル君は超かっこよくって可愛くてね!」

 

「恥ずかしいのでやめてください神さま!!……えっと、ベル・クラネル。Level2の冒険者です。」

 

Level2

なかなか強いらしい。話は変わるけどレンってこの世界で言ったらどんぐらい強いのかな?俺はステータスで強化されてもレンは違う。しかしレンも強化されているようで、俺は魔眼なしで戦ったら勝ち目なしだ。くっ!

 

「でも、それをいうならキミだってそうじゃないかアルテミス。あの風紀委員が男の眷属を連れてるなんて。それだけでも驚きだよ」

 

アルテミスは天界では風紀委員と言われていたらしい。

なんでも湯浴びを覗かれた時の話で、覗いた5、6柱の神を縄で縛って

 

『恥を知れっ!!!』

 

『ありがとうございまーーーす!』

 

なんてやりとりなんてあったらしい。

それを2人が話している間にベル君に教えてやると『ぼ、ぼく、アルテミス様が怖く見えてきました…』と言っている。よかった、Mとかじゃないらしい。

 

「!男の眷属なんておそらく今後一切作りません。志貴だけでしょう」

 

「ぞっこんだねぇ…ゴメンゴメン。そう睨まないでくれよ。でも他の眷属はどうしたのさ?」

 

「?!…………………それは……………」

 

「ヘスティアさん。アルテミスの反応見たらわかると思うけど…」

 

「す、すまない…知らなかったとはいえ…」

 

「いや、まあ問題ないでしょう。それよりアルテミスの眷属を殺したモンスター…アンタレスだ」

 

「あ、あんたれすぅ?!」

 

俺はよく知らないが有名なモンスターらしい。まぁあんな見た目のモンスターがぞろぞろいても嫌だしな

 

俺はアルテミスの様子を伺いながらアルテミスから聞いた話と、俺がきてからの話を伝える。

つまりモンスターはもう倒された、ということだ

 

「な、なら問題はないのかな…しっかし別の世界からの住人かぁ…嘘は言ってないようだったから信じてるけど、ほぼアンタレスを1刺しって…そっちの世界にはあんな化け物がぞろぞろいたとか?」

 

「いえ?ぞろぞろ…ではないにしろアレの何十倍もの化け物と戦ってきたので」

 

「嘘を言ってない…」

 

「とはいえ話を戻そう。私はここに泊めてもらいたくてきたのですが…」

 

「うーむ。流石に難しいかなぁ…1人や2人ならギリギリだけど…」

 

「あ、じゃあレン猫のままでしばらく頼めるか?」

 

「………………」

 

首を縦に振り猫になるレン

 

「……………………」

 

↑はベル

 

「ひ、人が猫にぃぃぃぃぃぃいぃぃいぃぃぃい!?」

 

「デスヨネー」

 

ベル君にもレンの説明をするのに時間を消費した




コメントくだ(中略


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説明が終わったよ。

お久しぶりです。
相変わらず短いです


「なるほど、使い魔っていうのはその魔術師?の従者のことなんですね。モンスターではないけど、人間でもない…あ、じゃあシキさんはその魔術師?何ですか?」

 

この世界に魔術は存在しない。そのかわり魔法が存在するが、俺の元いた世界の魔法とは違うらしい。もっと単純で簡単な、力 の総称らしい。中には魔法を研究する国もあるらしいけど

 

「俺は魔術師じゃないよ。レンを作ったのは魔術師だけど、その魔術師が死んだあとアルクェイドが預かって、その後に俺が契約した感じかな」

 

「作るって…レンさんをですか?」

 

「俺も魔術なんてからっきしだったから詳しくは知らないんだけどね。多分、この世界の魔法より数段も技術力が高いみたい。レンは病気で死んでしまった少女の魂と、黒猫の死体から作り出されたらしい。さっきも言ったけど、俺は俺の世界の魔術なんてよく知らないからそういうものだとおもってくれ」

 

「少女の魂と、猫の…」

 

まあ、衝撃は受けるよな。しかもそれが俺の膝の上で寝てるんだから

 

「……………………………」

 

「そういえばレンさんの声は一度も聞いてませんが……」

 

「あ、べつに喋れないわけじゃないんだ。レンを作った魔術師の方針だったんだって」

 

さっき、そういうものだ。と言っただけあってよくわからなくてもありのままを受け入れた、みたいな感じだ。

 

「これ、神様に説明しなくていいんですか?」

 

「あぁ、ベル君が来る前に大体の説明はしたんだよ」

 

「なら良かったです。ところでシキさんはこっちの世界に来て、オラリオに来たってことは冒険者になるんですか?」

 

ちなみに、神の2人は久々に会ったこともあって楽しくお喋りしている。

 

「そうだね。とりあえず自分のファミリアのホームを借りるか建てるかできるぐらいまで稼ぎたいなって」

 

「でも実戦経験があるんですよね?ステータスが無くても凄いと思います!」

 

純粋に褒めてくれる

 

「でもそしたらまだLevel1なんですよね?良ければ一緒にダンジョン行きませんか?僕もまだ新人ですけどこれでもLevel2ですから!」

 

「ありがとう。でも俺Level6なんだよ」

 

「れ、れれれ………Level6ぅぅぅうぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅ??!!」

 

「デスヨネー」

 

今日で三度目だ。

 

 

——————————————————————

 

なんだかんだで全てを説明し終わった後

 

「でもシキさん、第1級冒険者ですよ!これでギルドに登録したら二つ名貰えるんですよ!」

 

「二つ名?」

 

「ええ。Level2以上の冒険者に与えられる名前です。カッコいいのが欲しかったんですけど、僕のは【リトル・ルーキー】です」

 

「へえ、なんか意味とかあるの?」

 

「僕は…………………自分で言うのも恥ずかしいんですけど、世界最速兎(レコードホルダー)って言われてて……」

 

「凄いじゃないか!世界最速なんてベル君は凄いんだね」

 

「えへへ、ありがとうございます!」

 

【リトル・ルーキー】ぐらい普通っていうか無難な名前だったら俺も欲しいかな。アルテミスが下界の子供は神の目線で痛い名前が好きって言ってたし。俺の世界の基準と神の基準は似てるらしい

 

「でもダンジョンでのことなんてよくわからないからさ。明日は一緒に行っても構わない?」

 

「はい!僕もLevel6の方と行けるなんて嬉しいです!…あ、でも」

 

「ん?」

 

なにか予定でもあったのだろうか

 

「まだ、ファミリアや冒険者登録もしてないなら明日はそれで潰れちゃうかもしれません…」

 

「あ〜、登録ってそんな掛かるのか」

 

聞けばかなり面倒な手続きがあるのだとか。冒険者登録は字が書ければ問題ないようだが、ファミリアの登録はかなり時間がかかったとベルの主神のヘスティア言っていたらしい。この世界の言葉はこの世界に来た瞬間に何故か分かった…なんてことはなく、オラリオにくるまでの間アルテミスに教わった。発生言語は同じだったので、新しい単語を覚えた、という感じがあまりしなくて、なんとなく暗号みたいなのを教わった感じだ。ともあれ、こちらの世界の字はかけるので問題ないだろう。しかし今にもお金を稼がないとヤバイってのに…

 

「ウチのファミリアにも余裕があるわけじゃないんですけど、とりあえず明日の食事代ぐらいならなんとかなりますよ!」

 

「そっか、ありがとう、ベル君」

 

気づけば神たちはもう寝ている。

俺たちも顔を見合わせて、頷きあう

 

「僕たちも寝ましょうか」

 

「そうだね———おい、レン。とりあえず横になるから起きてくれ」

 

「…………………」

 

コクコクと縦にふる

地面に布団というか、布を引き横になる。そうするとレンが俺のお腹あたりまできて丸まって寝始めた。これは余談だが、レンはネコだからか時々猛烈に甘えてくる。それが猫の時ならまだしもその大半が人の時だ。アレはその…エロい。

 

 

 

とりあえず、寝よう。明日のことなんてわかんないけど、きっと楽しい筈だ




感想まってます!


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ギルド登録

殺人貴の方2日連チャンです。なんでって?書きたかったからさ!!!


起きてしばらくはダンジョンや冒険者、この街についての話を聞いていた。話していたのはベル君。正直アルテミスから聞いた話が大半だったが、丁寧に説明してくれた。

話が終わってからギルドに行くこととなった。ファミリアの登録に時間がかかるという話だったが、聞けば、アルテミスファミリアはファミリア登録されているのだとか。過去の眷属は全てアンタレスに殺されたため、アルテミスはそこらへんの記憶は思い出したくないものだろう。ともあれ、俺は登録した後はダンジョンに潜るのではなく、オラリオ内をいろいろ見てみることにした。無論、レンやアルテミスも。ベルが案内をしてくれるそうだ。

 

というわけでギルドの前。

レンは猫の姿でついてきてる。『冒険者になったらケーキを買ってやれる』と言ったらやる気になったらしい。

ギルドは別に酒場と一緒になっているわけではなく、依頼を張っているのであろう掲示板や、モンスターから手に入るという魔石を換金する場所、そして入ってまっすぐのところに受付と受付嬢らしき人がいる。

そこに行って真ん中にいた耳が少しとんがっている———おそらくエルフ———に話しかける。

 

「あ、冒険者登録をしたいんですけど、ここで合ってますか?」

 

「はい。少々お待ち下さい」

 

「お待たせしました。ではここに記入をお願いします。文字は書けますか?」

 

「はい。問題ないです。ここにくるまでに習いましたから」

 

「ありがとうございま……………す…………」

 

「あのどうかしましたか?具合が悪いならえっと……」

 

どこに連れて行くべきか分からず慌てていた瞬間、エルフの女性が大声で叫んだ。

 

「Level6ぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅ??!!」

 

「デスヨネー」

 

何度目だろうか

 

—————————————————————

 

「すみませんでしたっ!」

 

「い、いえ気にしないでください!」

 

「いえ!そんな訳にはいきません!冒険者の命ともいえるステータスを大声で叫んでしまったんですから!」

 

彼女はエイナ・チュールというらしい。さっき俺のLevelを叫んだ人だ。

 

「いいですよ。Levelは公表するものなのでしょう?なら別に問題ないですよ」

 

「そ、それはそうですけど…」

 

そう、叫んだことによって、オラリオに新しい最強格が!なんて言われてしまったのだ。しかも主神がアルテミスなのだからさらにそうだろう。

アルテミスは貞潔の女神。処女神。本来男の眷属など作りはしないのだ。

なのに志貴は男。そのため神の一部には『アルテミスに男?!』と大ニュースになっているはずだ。最悪志貴の二つ名は【月の女神の男】になる可能性だってある。

 

そんな話はさておき

志貴は冒険者としての常識やマナーなんてものを一切知らない。ギルドで受けられる講習に参加している。と言ってもマンツーマンなのだが。教諭はもちろんエイナ。上層のモンスターについてあれこれ教わっていた。 パーティを組むあてがあるのかと聞かれ、今泊めてもらっているヘスティアファミリアのベルのことを言ったら、どうやら知り合いだったらしく。それならとりあえず安心らしい。

 

それからたっぷり3時間講習を受けた

 

 

「そういえばシキくん、キミ防具はしてないようだけどつけない人なの?買ってないだけなら初心者用の防具を支給できるけど」

 

「え?ああそうですね。俺の動きだとプレートとかは邪魔になるので」

 

そう。七夜の動きに重装備は合わない。人間離れしな蜘蛛のごとき動きが七夜の動き。人の装備はつけてもいいがベル君よりさらに軽装になるかもしれない。

 

「へぇ、武器はどんなの使うの?」

 

ちなみに最初は敬語だったエイナさんだが、流石にむず痒いこともあって普通に話してくれとお願いした。エイナさんの方が年上なのだ。聞けばベル君のアドバイザーでもあるらしい。

 

「俺はナイフです。買うかは別で後で武器見にいっててみようかなって」

 

「そうなんだ。あ、確かベル君の専属のヴェルフ・クロッゾ氏に作ってもらうなんてどうかな?」

 

「ヴェルフさん…ですか?」

 

聴きなれない名前に聴き返してしまう。考えてみればこの世界で聴き馴染みのある名前なんてないな、と後から思う。

 

「そう、クロッゾ氏。本人はこう呼ばれるのは嫌いなんだって。あんまりこういう話はしたらいけないんだろうけど…」

 

それから呪われた一族なのだと教えてくれた。それと別にエイナさんがそう思っているのではなく、あくまでも知識としてだ。この世界の魔剣というのは魔法が放てる剣のことらしい。そして使っているうちに壊れてしまう。魔法が使えない人からしたら、まさに隠し球。形成逆転の必殺、なんだろう。

 

「…………へぇ、分かりました。多分そのうち会うとも思うので、あったら聞いて見ます。でも…」

 

「あはは

キミは冒険したいとか、英雄になりたいとかじゃなくって、お金がないから冒険者になるんだもんね。主神さまや、その猫ちゃんのこともあるだろうし」

 

「はい。レン、これで好物がケーキなんですよ。」

 

「それは、贅沢な猫ちゃんだね…。でもとっても綺麗な猫ちゃんだよね」

 

「そうですね」

 

レンは今講習が終わってものを片付けたたも今は何も置かれていないテーブルの上で丸まって寝ている。

 

「でも猫は気をつけてね?オラリオは治安が悪いところがあるから猫を意味なく殺したりするかもしれないし…」

 

本当に心配だ、といった顔でこちらを見ているエイナさん。

…………どう説明するかな

猫だけど俺より強いんです♪とかじゃダメだよなぁ

そういえばレンて人の姿のとき少し耳が長いよな。ちょうどエイナさんよりちょっとだけ長いぐらい。ハーフエルフと言われるエルフとヒューマンのハーフのエイナさん。エルフはもっと耳が長いのだとか。あと結構矜持を大切にしているらしいから接するときは気を使わなくては

 

「レンは………大丈夫ですよ。基本外出とかしませんし。」

 

なんとなく、なぁなぁに誤魔化すことにした

 

「そう?なら……まぁいいんだけど。Level6の冒険者が言うんだからまあ信じるけどさ」

 

エイナさんも渋々といった様子で納得してくれた。

 

「しっかしシキくん。キミのことが表沙汰になったら大変なことになるよきっと。キミ優しそうだから勧誘したら案外なびくかも、なんて考える輩もいそうだし。なにより神は面白いもの大好きだからね」

 

そう。娯楽を求めて下界に降りてきたという神々は基本的に快楽主義者。面白いもの、新しいものに目が無いのだ。外部からきたLevel6というのは神々からしたらいい玩具だろう。

 

「まあ、なんとかなりますよ。どうせ未来のことなんてわからないんだから、楽しい方に考えた方が得でしょ?」

 

「—————ふふ、そうね。それじゃあシキくん!私も仕事があるから講習は終わりです!お疲れ様」

 

「お疲れ様です、教諭」

 

「ねえ、なんで先生じゃなくって教諭なの?」

 

「俺にとって先生は1人だけです。あの人は踏み外しそうになっていた俺を人の道に引き戻してくれた———とっても凄い、魔法使いです」

 

俺はまるでそれが誇りであるかのように真っ直ぐエルフさんの目を見据えていった。

 

「……とっても素敵な人なんだね。」

 

「はい」

 

俺とレンはギルドの外に出る。レンは興味ないかもしれないけど、俺はこの街の武器——ナイフに興味津々なんだ。あのベル君の持っていた黒いナイフ、あんなナイフがあったら見て見たいよ




今回はエイナさんも出てきました。
感想待ってます!


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バベルだってよ。

めっちゃこっち楽しいんです


この街は上から見たら都市の中央から放射状に、北、北東、東、南東、南、南西、西、北西の八方位に巨大な大通りが伸びているらしい。

その中央。摩天楼施設『バベル』ダンジョンからモンスターがあふれ出さないようにするための蓋としても機能しているらしい。

バベルには冒険者のための公共施設、シャワールーム、簡易食堂、治癒施設、換金所等の他に、開いているスペースには色々な商業者にテナントとして貸し出されている。

また二十階から上はギルドの管理のもと神達に賃貸されている。

地下一階に、ダンジョンに入るための通路。

一階 エントランス

二階 冒険者用公共施設 簡易食堂等

三階 冒険者用公共施設 換金所等

四階~八階 【ヘファイストス・ファミリア】バベル支店

.

.

三十階 神会会場

ちなみにこの前視線を感じたのはこの塔の上の方からだ。50階建らしく流石に上までは見えない。

今日の目的は四階〜八階【ヘファイストス・ファミリア】の武器店だ。金はないので買うつもりはないもののどんなものが売っているのか興味本位で、だ。ちなみにレンは肩の上に乗ってキョロキョロしている。

レンも一応この街には興味があるみたいだ。

そんなわけで、魔石で動くという、エレベーターみたいなものに乗って武器エリアに行ってみる。八階はヘファイストス・ファミリアの武具を扱っているテナントだった。エレベーターを降りて正面の【Hφαιστοs】と書いてあるヘファイストス・ファミリアの店の窓から見える商品の値段………800万ヴァリス

………………………えっと、確か1ヴァリス1円だとすれば…………………………………800万円………………………ちょっと他の見てみよう。その隣にあったロングソード。細かな装飾がされていて高いというのは想像がつく。金額は

 

3000万ヴァリスぅぅ?!

俺なんて昼代500えんで1日暮らしてたんだぞ!?3000万て!

いやでも、ここら辺は第1級冒険者御用達らしいしな…もしかしたらダンジョンに潜ったら俺もこれが買えるぐらいには…

しかし、それには深層ってのに行かないといけないらしい。一人で行くには危険すぎるか…ベル君と行くにしてもベル君のLevelは2、深層は危険だろう…地道に稼ぐにしてもLevel6なら1日10〜20万は硬いってエイナさんも言ってたしな。

 

「………レン、とりあえず中入ってみよう」

 

「………………」

 

からん、と音がして中に入る

 

「いらっしゃいませー!今日は何の御用でしょうか、お客様!」

 

「いえ、ちょっと見にきただけで—————ヘスティアさん?」

 

「へ?———し、シキ君!?」

 

ヘスティアがいた。神だ。神が働いている。しかも他の神の店で

紅色のエプロンタイプの制服を見にまとった、家主さんが…

 

「なにやってんの?アンタ」

 

「いいかいシキ君、今日会ったことは全て忘れて、目と耳を塞いで大人しく帰るんだっ………!久々に再会した神友の眷属にこんな姿見せられないっ!」

 

「…まあ、分かりました。少し見たら大人しく帰ります。それで良いですか?」

 

「むう…知り合いに働いている姿を見られるのは恥ずかしいな…」

 

「おい!!ヘスティアてめぇ数日サボってたんだからくっちゃべってんじゃねぇよっ!!!」

 

「はーーい!!」

 

ちなみにヘスティアはベル君がダンジョンから帰ってこなかった時に捜索するためダンジョンに冒険者と一緒に潜ったらしい。神はダンジョンに入ってはいけないと言うルールがあるらしいが、バレなきゃセーフみたいなことを言った自由人みたいな神も一緒に行ったらしく、ルール破りをしでかしたのだとか。無論仕事をサボって。さっき奥から聞こえた声はつまりそういうことだろう。

とはいえ店の中をグルッと回ると確かに値段が納得できるような品が沢山ある。そして志貴の足が止まった

 

そこに置いてあるナイフだ。

無駄な装飾はされていないが、それ故に美しい一品。

志貴は見惚れていた。

本当にはたから見たらやばい奴だが、伊達に刃物採集が趣味な訳ではなく、このナイフは志貴のセンスにドストライクな業物ナイフなのだろう。何分たっただろう。そのナイフを見つめて何分たったのだろう。

5分?10分?30分や1時間かもしれないしもしかしたら1分だって経ってないかもしれない。レンに至っては「早く帰ろ?」とでも言うように肩に乗りながら首筋をツンツンと引っ掻いてくる。痛くはない

ちなみに志貴の格好は学ランだ

そんなこんなでナイフを眺めていると声を掛けられる。

 

「貴方、そのナイフの良さがわかるの?」

 

「え?」

 

我に帰った志貴は話しかけてきた女性の顔を見る紅い髪に右目を眼帯で覆った女性。神だと直感的に察した。こんなところ普通の神はこないだろう。そうするとこの店に関わりのある神なはずだからそれは

 

「え、えっと…ヘファイストス…さん?」

 

「あら、私を知らないってことは新人さん?新人にはまだ此処は早いわよ」

 

「いえ、まあ、オラリオに来たのは初めてですけど、冒険者としてのLevelは高いですよ」

 

「へえ。外から来たのね。外でレベル上げるのは大変だったでしょ?」

 

「まあ、そうですね…ははは」

 

はぐらかすことにした。違う世界から来た〜はいくら神に嘘が通じないからといって突拍子もないだろう。

 

「はぐらかされた…まあいいわ。それよりも貴方。このナイフの話なんだけど」

 

話を戻した、と言わんばかりにナイフの話に戻す。

 

「このナイフがどうかしたんですか?すっごい業物ですけど、今の俺に買うお金なんてありませんよ?」

 

「そのナイフ、値札付いてないでしょ?」

 

「え?」

 

本当だ。周りの品には最低でも500万ヴァリスの値札があるにも関わらずこれは飾ってある、というよりもただ置いてある。そんな感じだ

 

「貴方、メイン武器はナイフなのかしら?」

 

「そうですよ」

 

「良ければ見せてもらえない?」

 

わかりました、と言ってた『七ツ夜』を取り出す

 

「飛び出しナイフなの?値打ちものには見えないし冒険者がそれだけって……………………ねぇ、貴方名前は?見た感じ極東の人よね?」

 

「え、そうですね。遠野志貴といいます。ヘファイストスさん」

 

「そう確か苗字と名前が逆なのよね。だからシキか。ねぇシキ——————このナイフ、貰ってくれない?」




感想待ってます!


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ナイフ

日間ランキング30位っ!!!
すげーーー!!
みんな、皆様のおかげです。ありがとうございます
\(//∇//)\
これからも頑張ります!


「ナイフを…………?でも……」

 

今はお金はないぞ。というニュアンスを込めたが

 

「お金なんていいわよ。貴方はこのナイフの良さを鍛冶師でもないのに理解してる。そこが重要よ。貴方ならきっと、うまく使ってくれる」

 

「は、はぁ」

 

「ちょと時間ある?お茶していきなさい」

 

有無を言わせないその態度に志貴は呆気にとられならが彼女の後をついていくのだった。

 

 

 

 

「………………………………」

 

ヘスティアは志貴同様ポカンとしながらその状況を眺めていた。

 

 

 

————————————————————

 

 

「へえ、貴方の主神、アルテミスなんだ。オラリオに来てたなんて初めて知ったな」

 

「ええ、なにせオラリオに来たのは昨日ですから。」

 

「オラリオに来てすぐウチの店に来るなんて、やっぱ見る目あるじゃない。」

 

「あ、あはは〜」

 

俺は何故かヘファイストスファミリアの店の奥、ヘファイストスさんの鍛冶部屋って言うのか?そこでお茶している。ナイフ見に来たはずなのに

レンはヘファイストスさんから甘さ控えめのショートケーキを貰ってご機嫌で食べてる。

 

「それにしてもよくアルテミスが男の眷属なんて認めたわね。アイツの天界での徹底振りったら凄かったんだから」

 

「本人から、あとヘスティアからも聞きました。なんでも湯浴みを覗かれた時に」

 

「そうそう!あれはなんていうか、一部の神からしたらご褒美みたいなものだったからね…」

 

「男神ってろくな奴いねぇ…」

 

「あら?そうでもないわよ?例えばミアハって奴なんかは…」

 

なんでもそのミアハなる神は自分のファミリアが貧乏なのにも関わらず、ファミリアで作っているポーションを無料であげては眷属の子に怒られているんだとか。おまけに女たらしでもあるとかで……………これ実はロクでもないんじゃ…………いや、いい人だよきっと、うん

 

「シキはLevel2超えてるんでしょ?冒険者登録もしたって言ってたし、次の神会で二つ名貰えるわね。いい名前つけてあげるわよ?」

 

「俺も【リトル・ルーキー】ぐらい無難な名前がいいですよ。無駄に痛い名前なんてつけられてたら……」

 

ガチで戦慄する志貴をみてヘファイストスは少し驚く

 

「シキの価値観は神寄りなのね…」

 

下界の子供と神の価値観は違う。下界の子は俗に言う痛い名前をカッコいいと思う。精神的に幼い、と神たちは考えていて実際そうらしい。

しかし志貴は文明が発達した世界から来た人間。この世界の常識が通用しない。

 

「この猫、贅沢にケーキ食べてるけど可愛いわね。なんて言うか優雅な感じで。名前なんていうの?」

 

「レンですよ。これで凄く頭いいんで、言ってる言葉の意味はきちんと理解してるんです。」

 

流石に正体はいえないので、賢い猫、程度の説明で済ませておく。

 

「へぇ、…レンちゃん。ケーキもう一個あるけど食べる?」

 

「……………………………………」

 

首を縦に降る。心なしか目が嬉しそうだ。なんだか、いつだったか学校で食べさせてあげた時のことを思い出す。あの時は妹って言ってごまかしたんだっけか

 

「でも、感情表現が乏しいわね。普通嬉しかったら鳴くぐらいすると思ったのだけど」

 

「俺はレン以外の猫をあまり知らないのでよくわからないです」

 

嘘をついた。レンを作った魔術師の方針で〜なんて口が裂けてもいえない

 

「嘘ね」

 

………か、神って嘘通じないんだった!!や、やばい、マジヤバ……ウチのレンはマジヤバやー!

 

「なんか事情がありそうだし、まあいいわ。それより本題に入りましょう。」

 

「ナイフですね…でも貰うってどういう?」

 

「あれね…私が作ったの」

 

「ええ!?ヘファイストスさんが?」

 

神ヘファイストスは鍛冶の神だ。天界で神の力を用いていろいろ作っていたとアルテミスから聞いたがまさか神の力を使って作った武器…

 

「神の力は使ってないわ。そんなことしたら即天界に戻されちゃうもの」

 

確かそんな話をアルテミスから聞いたような気がするが、とりあえずだ。

 

「じゃあそのナイフは一体…」

 

「ほら、そのナイフ、ファミリアのロゴが入ってないでしょ?」

 

ヘファイストスファミリアのロゴを作った武具に入れることを許されるのは一流の鍛冶師の証しらしい。しかしそれがこのナイフにはない。神が作ったから?

 

「私が作ってもロゴはちゃんと入れるわよ?ただこれは………なんとなく入れたらダメな気がして」

 

「?」

 

よく見たら見覚えがあるようなナイフだ。それよりも入れたらダメ?どういうことだ?

 

「そもそもこのナイフ、珍しい鉱石やドロップアイテムや鉄を使ってるわけじゃないの。それでも今までにないぐらいに業物に作ったはずよ。でも……なんとなく作らないといけない気がして、作ったの」

 

「作らないといけない気がして…?」

 

「ええ、3ヶ月ぐらい前にね。インスピレーションとは違うんだけど…作らないとってね。それでこっそりお店に置いておいたのに誰も気づかないの。あれはなんだったんだろうなって考えていたときに貴方が来たの」

 

3ヶ月…ちょうどこの世界に来たあたりだ。しかし、

やっぱり見たことあるなこのナイフ…こんだけのナイフ忘れるとは思えないし…じっくり見るタイミングがなかった?敵が使ってた、とかか?

 

「無論、お金はいらないわ。このナイフは貴方に使われたがってる…そんな感じがするのよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………あーー!!

これあの着物に革ジャンで、おまけに同じ魔眼持ちの、あの人のナイフ!!




式のナイフです。ヘファイストスと絡ませるのにいいかなと


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結局貰いました

昨日の夜、日間ランキング8位になっててびっくりしました!すげぇ、志貴すげぇ


そうだ!これ、いつかの夜で会ったあの人の!いや、戦ってる時に業物だなーとか思ったけどさ、軽口とか叩ける状況じゃなかったしな。

どうするんだこれっ!今ここで『このナイフ見たことあるんです』なんて言ったら絶対話こじれるだけだろっ!

そうだ、レンっ………て寝てるし……そういえばこの時間は普段寝てる時間だ。ケーキ食べたし仕方ないか

 

「ダメ………かしら?」

 

ヘファイストスさんがめっちゃ見てる!ど、どうする?!も、貰っちゃうか?てかこの流れはもらう流れ。ここで貰わなかったら絶対食い下がってくるし………

 

————————————————————

 

貰いました。ヘファイストスさんめっちゃ笑顔。考えても見れば、貰うのを躊躇うようなものでもないよな。あのときのあの人俺のこと解体(バ ラ)したいとか言ってて怖かったんだよ。とはいえ鞘もあるし、もしものとき用に持っておくか。ポケットに入るし

具体的な時間は分からないがもう日も暮れてくる。そろそろ帰らないと

…すこし、散歩でもしていくかな、この街のことよく知らないし。

なんとなく人がいっぱいいた南の方向に行って見る。目抜き通りに軒を連ねる店は全て高く、大きく、外観は豪華で派手派手しい。

高級酒場、カジノ、シアターなど、オラリオの他では見られないような施設が沢山ある。

 

「へえ、冒険者の街ってぐらいだからこういう豪華なものじゃなくって、荒くれ者の街って感じを想像してたけど、これじゃまるで貴族とかの街って感じだな」

 

レンは人の姿になって一緒に歩いている。この人混みで猫だと最悪逸れるかと思って。今日は一日付き合ってくれるらしい

 

「すごいな、カジノなんて行ったことないな。てか、日本にあるのかな」

 

「…………………………!」

 

レンが俺の制服の裾をツンツン、と引っ張る

 

「ん?どうしたレン。…あぁ、アレ。確かにケーキ屋だ。でも、さっき食ったろ?我慢しろよ」

 

「……………………」

 

シュンとしちゃったけど、とりあえず分かったみたいだ。でもすこし可哀想だし、

俺はレンの頭にそっと手を乗せて撫でてやる。

 

「…………………!」

 

驚いてネコミミが出て来ちゃってる。次の瞬間ネコミミは無くなって、されるがまま撫でられる。うん可愛い

その間周りから刺し殺さんばかりの視線を浴びたのはいうまでもない。

 

 

あたりも暗くなって、もう帰ろうとしたとき、不意に見たことある人を見かけた。

 

「あ、おーい!ベル君!」

 

「あれ?シキさん?それにレンちゃんも」

 

路地裏の方に入りかけていたベル君を見かけたので声を掛けみた。

 

「ベル君、こんなとこで遊べるほどお金持ちだったの?すごいな、Level2でそうなら俺、帝王とかになれるんじゃないかな?」

 

「い、いえ!!流石にこんなとこでは無理ですよ!ここの路地裏にある『火蜂亭』って場所で待ち合わせしてるんです」

 

なるほど、路地裏のお店だからすこしは安いのかな?

 

「そうそうベル君、明日から一緒にダンジョン行けないかな?行ったことないからね。エイナさんにいろいろ教えて貰ったからとりあえず行ってみたいんだ。」

 

「あ、シキさんのアドバイザーもエイナさんなんですね!でもいいんですか?僕達のパーティ、シキさんのLevelとじゃ、釣り合いませんよ」

 

「いや、まだちゃんとした装備も作ってないからさ。装備なしで行けるところまでって事で……ね?」

 

「そ、そういう事なら二人とも納得してくれるとは思いますけど…」

 

「それと、お金が貯まったらヴェルフ君に装備作ってもらおうと思ってるんだ。エイナさんの提案でね。」

 

「ほんとですか!ヴェルフも喜びますよ!なんたってLevel6の装備が作れるんですから!」

 

そっちの方がリーズナブルだし、割引とかしてもらえそうだし

口に出したら怒られるよなぁ…いやベル君じゃなくってそのヴェルフ君に……経験あるもん

 

「それじゃまた後でね、ベル君。詳しいことは帰ってからってことで」

 

「あ、シキさん!良ければ一緒に行きませんか?」

 

そのなんたら亭ってのがなんの店だか知らないけど酒場だよな……酒飲んだことないしな……日本じゃまだ未成年だし。でもこの世界ではそんなのなくって飲みたかったら飲め、というスタンスらしい。なんというか、流石だな

 

「なんでも、そこの蜂蜜酒が絶品らしいんですよ。冒険者とか鍛冶師の方に人気があるそうで」

 

蜂蜜酒……なんとなくアルコールが少なそうだ。そんぐらいなら俺でも行けるかな

あ、でも一番重要なもの忘れてた。

 

「俺、金ないよ?」

 

根本的な見落としをしていたことに気づいた。そもそもお金ないんじゃ飲み食いできないじゃん

 

「誘ったのは僕ですから!それくらい出しますよ!」

 

ベル君めっちゃいい子。




感想待ってます!できれば酷評は……つらい。いや、貴重な意見なのだけれども


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酒場の出来事

結構長いです
書いてる途中間違えて消してしまいテンションが超下がってます泣


ではどうぞ


鳥や獅子など、様々な動物を象った看板が立ち並んでいる酒場の一つで、俺やレンを除いたベル君他3人は、ジョッキとグラスを掲げて重ね合った。

 

『乾杯!』

 

笑みとともに泡が弾け、ジョッキからお酒がこぼれ落ちる。ベル君達の声が随伴するように、周囲で騒ぐ冒険者達のデーブルからも、ガチン、ガチン!とグラスを叩き合う音が鳴った。

 

【ファミリア】のエンブレムとも似た、真っ赤な蜂の看板を飾る酒場『火蜂亭』。ここのオススメらしい蜂蜜酒は、まるで紅玉(ルビー)を煮詰めたような真っ赤なお酒は少しアルコールが強いように感じるが、ちびちび飲んでいる。

路地裏の店だけあってすこし狭苦しく、移動するのも苦労するほどの大量の丸テーブルや、小汚い内装、そして、やたらゴツくて小さい人—— ドワーフというらしい——の男性達の笑い合う大声が、どうも心地いいのが不思議だ。

………路地裏?いやなんでもない

ともあれ『これぞ冒険者!』って感じの店だ。あんまりベル君には合わないかな

 

「【ランクアップ】おめでとう、ヴェルフ!」

 

「これで晴れて上級鍛冶師(ハイ スミス)、ですね」

 

「ああ……ありがとうな」

 

はにかんだようにお礼をいう赤髪の少年。エイナさんから聞いていた鍛冶師の人だ。彼が口元からこぼす笑みは喜びが抑えられない証拠だろう。【ランクアップ】と言っていたからきっとベル君の言っていた『中層』での事件で功績を建てたんだろう。

 

「これでヴェルフ様は、【ファミリア】のブランド名を自由に使うことができるのですか?」

 

「自由に、とはいかない。少なくとも文字列(ロゴタイプ)を入れられるのは、ヘファイストス様や幹部連中が認めた武具(もの)だけだ。下手な作品を世に出して、あの女神(かた)の名を汚せないしな」

 

彼のレベルがいくつだか知らないが、要は物によってはバベルで見たような武具を作ることができ、そして作ったものに【Hφαιστοs】というロゴを刻めるのだ。物によるという条件がつくもののきっとすごいことなんだろう。

なんてお祝いムードの中、ベル君の表情は暗い。

 

「でもこれで……パーティ解消、だよね?」

 

………俺、なんで来たの?

後から聞いたがヴェルフ達がパーティに入ったのは『鍛冶』のアビリティを手に入れるためだったらしく、ランクアップでそれを獲得してしまった今、もう一緒にダンジョンに潜れないと思ったのだろう。もしかしたらその上でまたパーティを組んでくれと頼むつもりだったのかもしれないが、それを言う前にヴェルフが頭をかきながらベル君に告げる。

 

「そんな捨てられた兎みたいな顔するな」

 

ジョッキを手で軽く回しながら、ヴェルフは言葉を続ける。

 

「お前達は恩人だ。用が済んで、じゃあサヨナラ、なんて言わないぞ」

 

「えっ…」

 

「呼びかけてくれればいつでも飛んで行って、これからもダンジョンにもぐってやる」

 

「そうだよベル君。だいたい、それで解散されたんじゃ俺はなんで来たんだって話だしね」

 

だから心配するなとヴェルフは快活に笑った。

ベル君はそれに目を丸くして、その笑みにつられて破顔する。さっきヴェルフに様をつけていたことから多分エイナさんの言ってたサポーターだろう少女もベル君の隣で目を細める中、もう一度3人は笑いあって、3つの杯を打ち付けた。

 

「ところでベル様、そちらのお二人は?」

 

「あ、この人達は——「あ、ベル君、自己紹介は自分でするよ」——分かりました」

 

ベル君の言葉を遮って俺が話し始める。

 

「俺は遠野志貴。こっちはレン。ちょっと前にオラリオに来て今はベル君のホームに泊まってる。ベル君には話したんだけど、良ければ俺もパーティに加えてくれないかな?」

 

「……………………」

 

「おう、俺はヴェルフ・クロッゾだ。ヴェルフでいいぞ。ベルが連れて来たんだから安心だろうし、俺は構わねぇぞ。それよりアンタ、中々見ない格好してるな」

 

今の俺はこの世界に来た時の制服姿だ。しかし学校という概念がないこの世界で制服ですとは言えないからな…

 

「これは地元の民族衣装……みたいなものだよ、うん」

 

適当にはぐらかした

 

「シキ様の顔を見るに極東の方とお見受けしますが、レン様も極東出身なのですか?ハーフエルフのように見えますが」

 

サポーター(仮)の質問だ。

 

「俺とレンは家族なんだ。同じ極東出身でね。…えっと、キミは?」

 

名前を呼ぼうとしてサポーター(仮)じゃダメだなと気付いて名前を聞いてみた

 

「あ、失礼しました。リリはリリルカ・アーデと言います。ベル様、リリもシキ様のパーティ入りは賛成です。これでもいろんな人を見て来ましたから、そういう『目』は持っているつもりです。シキ様はきっとベル様みたいなお人好しの部類ですね。この人が何かすることもないでしょう。あ、シキ様。もしかしてそちらのレン様も……」

 

ダンジョンに来るのか、とニュアンスで伝えて来る。

 

「いいや、レンはダンジョンにはいかないよ。レンはそういうのあんまり興味ないしね」

 

言ってから危険とかではなく興味ないで片付けてしまったことに後悔したが、別に二人は気にしてないようだ(ベル君には説明済み)

 

「じゃあ、構わない感じ…かな?」

 

ベル君含めた3人が笑顔で頷いてくれた。やはりベル君みたいな心の綺麗そうなやつの周りにはいい人が集まるんだな。

 

「じゃあよろしくお願いします」

 

ちょっと照れ臭くて後頭部を手で押さえながら軽く頭を下げる

 

それから運ばれて来た料理を食べる。蜂蜜酒とよく合っていてとても美味しい。

 

「そういえばベルは【ランクアップ】したのか?」

 

「うん、僕はまだ」

 

詳しいことは後で聞くとして今はとりあえずちょっと前にダンジョン18階層『リヴィラの街』でとんでもない事件が起きたらしい。さっき言った『中層』での事件だ

ダンジョンの中に街とかあるの?とか思ったが説明が長くなりそうだったので後でベル君から聞こう。

 

「Level1と、Level2では獲得する【経験値】(エクセリア)の基準も、昇格(ランクアップ)に必要な総量も違うのでしょうが……まぁ、最後の戦闘に限っては、ほぼリュー様の総取りでしょうからね」

 

そこからは俺のよく分からない話だった。なんだか不吉な雰囲気だったり、したしもしかしたら重要なことなのかもしれないのでさっきのこともまとめてあとでベル君に聞こう。

 

「そういえば、ベル様達は大丈夫なのですか?ギルドに言いがかりをつけられて、罰則(ペナルティ)を課せられたと聞きましたが?」

 

さっきから話していた事件についてギルドから言及され、いちゃもんつけられたのちに罰金らしい。理不尽は話しだ。罰金額は

 

「えっと……【ファミリア】の資産の半分」

 

「………キツイな」

 

……今更ながらに奢ってもらっているのが、罪悪感だ

明日ダンジョンで頑張ろう

俺の考えを表情で察したのか、ベル君は気遣うように

 

「半分って言ってもうちのファミリアなら数十万ぐらいなので、安心してくださいシキさん!それに取り返せる目処もたってるので!」

 

「そ、そうなのか?ならいいが…」

 

半分と聞いて未だに嘆いているヴェルフには俺とベル君揃って苦笑いするしかなかった。

ふと、リリルカさんの方を見ると、なんというか下を向いて心ここに在らずといった感じになっている

 

「……?リリルカさん?」

 

「リリ………大丈夫?」

 

俺たちの声でハッと上を向いて「大丈夫です。ちょっとぼーっとしてしてしまいました」と言って誤魔化した

 

「それと、シキ様、リリのことはリリ、で構いませんよ」

 

「そ、そうか?」

 

強引に話を変えられてしまった。そしてベル君の方に向き直って、

 

「ベル様も、先日の事件で随分株が上がったことだと思います。少なくともあの階層主攻略(た た か い)に参加していた冒険者達には、認めてもらったのではないでしょうか?」

 

「う、うん…」

 

完全に話をそらされてしまい、ベル君も空返事を返してしまっている。

それに聞き耳を立てていたのか、別のテーブルにいた客、おそらく冒険者が聞こえよがしに大声で

 

「——何だ何だ、どこぞの『兎』が一丁前に有名になったなんて聞こえて来るぞ!」

 

なんていっていやがる。全く、楽しいお祝いが台無しだ。




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酒場での出来事 2

少し遅れました。今日というか昨日は忙しかったので


ではどうぞ


「——何だ何だ、どこぞの『兎』が一丁前に有名になったなんて聞こえて来るぞ!」

 

声が聞こえて来たのは真隣のテーブルからだった。

六人がけのテーブルに座っている内のベル君より小さい子供——と思ったが、小人族(パルゥム)だとヴェルフが言っていた。——が杯を片手に叫んでいる。

 

新人(ルーキー)は怖いものなしでいいご身分だなぁ!世界最速兎(レコードホルダー)といい、嘘もインチキもやりたい放題だ、オイラは恥ずかしくて真似できねえよ!」

 

幼い少年のような声色が、騒々しい酒場の隅々まで響いていく。あの容姿で俺より年上かもしれないのか……

周りの視線が集まってくる。無論、俺やベル君、ヴェルフやリリのだってそうだ。

騒いで注目を浴びている小人族(パルゥム)の服には太陽を刻んだエンブレムが施されている。ファミリアのだろう。そうすると彼らは他派閥の構成員達なのだろうか

椅子にもたれ掛かる小人族(パルゥム)の男は、ぐいっとお酒をあおり、唖然としたベル君たちをみてせせら笑った。

 

「ああ、でも逃げ足だけは本物らしいな。昇格(ランクアップ)できたのも、ちびりながらミノタウロスから逃げおおせたからだろう?流石『兎』だ、立派な才能だぜ!」

 

この煽り、どっかの番外位(裸ワイシャツ)を思い出す……

それは置いておいて、その小人族(パルゥム)はワザとこちらに聞こえるように話してるんだろう。その証拠に、あいつと同席している奴らが止めもせず、面白そうにこちらを見ている。

ベル君には『構うな』と目配せをする。ベル君は意図は分かったようで難しい顔をしながら俯いた。

 

「オイラ知ってるぜ!『兎』は他派閥(よ そ)の連中とつるんでるんだ!売れない下っ端の鍛治師(スミス)にガキのサポーター、寄せ集めの凸凹(でこぼこ)パーティだ!」

 

言葉の矛先はベル君ではなくヴェルフとリリに向かった。調子の良い幼い声に、くっくっと男の仲間が喉を鳴らす。ベル君が一瞬席を立ちかけるがそれを止めるようにヴェルフ達は同時に口を開いた

 

「よせ、構うな。気が済むまで言わせてやれ」

 

「ベル様、無視してください」

 

2人が余裕そうに言うものだからベル君も少し落ち着いて聞き流す体制に入ろうとした瞬間。

聞き捨てならない声が聞こえた

 

「威厳も尊厳もない女神が率いる【ファミリア】なんてたかが知れてるだろうな!きっと主神が落ちこぼれだから(, , , , , , , , , , ,)、眷属も腰抜けなんだ!!」

 

小人族(パルゥム)がそう言った瞬間俺はそいつの後ろに回って、そいつの首元にナイフを突きつけていた。

 

ベル君がブチギレそうになったようにも見えたが俺の行動に呆気に取られる。

 

「悪いな、ヘスティア(アイツ)は俺んとこの主神の友達なんだ。眷属として、黙っちゃいられないだろ?取り消せ」

 

「………だ、誰だよてめぇ…」

 

周りは誰もが何も口にできず、静寂に包まれていたのを小人族(パルゥム)が破った。

 

「言ったろ。いまお前が馬鹿にしてた神の神友(とも)の眷属だ。それで?取り消すのか?」

 

しばらく硬直していたが皮肉気味に口を釣り上げて震える声で言葉を発する

 

「へ、へへへ……おい『兎』ぃ……図星かよ。しかも自分でかなわないと思って他の【ファミリア】のやつに助けてぶびっ?!」

 

言い終わる前に後ろから払い蹴りで椅子ごと蹴飛ばした。

 

「それ以上喋るな。脳天かち割って二度と喋れないようにするぞ。馬鹿!」

 

俺が大声を出したことで状況が掴めてなかった小人族(パルゥム)の仲間たちも怯みながらも一斉に立ち上がる。

 

「てめぇ!?」

 

「やりやがったな!!」

 

そいつらにテーブルが蹴り上げられ、宙を舞う。瞬く間に響き渡る皿が割れる音と支給の悲鳴。邪魔な障害物を取り払って1対4という状況にニヤついている冒険者。1人まだ席から立っていない奴もいるが、態度から察するにリーダー格か何かなのだろう。

俺はあくまで脅しとして眼鏡をとって奴らの『死』を視る

 

————————————————————

 

私はヒュアキントス。今起きている酒場の乱闘騒ぎで突如仲間の後ろに回ってきた、見たこともないヒューマン。見たこともない男がLevel2の冒険者の背後を取れるはずが無い。小手先だけの手品だろうと割り切っていた。

仲間の1人がテーブルを蹴飛ばし、私たちと『ソイツ』との間に邪魔なものを退かす。

その間に眼鏡をとった『ソイツ』の目は蒼かった。それに私を含めた5人が疑問に感じる。——魔法か?スキルか?いや、魔法なら詠唱しなければいけないのでこの間合いでは使用など不可能。スキルであっても私はLevel3の冒険者。いかに強力なスキルだろうと新人に負けることはない。それはここにいる私の【ファミリア】の仲間全員に言えることだ。

 

私は座ったまま、他の仲間は立っている。周りにいた奴らも立ち上がり野次馬、観客同然に盛り上がっている。

私、いや私たちは『ソイツ』の目をジッと見る。スキルの警戒としてだ。

 

 

 

先ほども言ったが、その(.)は蒼かった。

濁ることの無い深い蒼。

それは綺麗だが、何処かゾッとする何かを秘めている。

 

——————————————————————————

 

その(.)を見続けていたヒュアキントスは、バラバラになっていた。

 

鮮血と共に腕がとぶ。

胴が音も無く崩れ去る。

首がゴトッと落ちる。

 

 

 

一瞬にして〝ヒュアキントス〟だったはずの肉片に成り果ていた。




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酒場での出来事 3

短いっす


鮮血と共に腕がとぶ。

胴が音も無く崩れ去る。

首がゴトッと落ちる。

 

 

 

一瞬にして〝ヒュアキントス〟だったはずの肉片に成り果ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筈だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……………ハァ…………」

 

なんだ、今のは…………

思わず首に手を当てる。

実際には腕も胴も首も斬られてはいない。

魔法?スキル?あるいは呪詛?いやどれも違うと断言できる。あれはただの殺気(. .)だ。

向けられたのは殺気。それ以上でも以下でもない。それもまるで本当に殺された幻想を見てしまうほどの濃密な。主神の方針もあり対人戦闘というものに慣れているはずの私が恐怖している?しかしその証拠に手足、いや指一本動かない。私は今、殺人鬼(バケモノ)と対峙しているのだと、目の前にいるのは『死』の権化なのだと細胞の1つ1つに至るまで身体全てが理解した。

 

 

 

心の底からの恐怖。私は残る全ての力を用いて全力で逃げようと出口に走る

 

 

仲間の4人が地面に伏していることにすら気づかずに。

 

 

「ど、どけ!!邪魔だっ!!く、来るなぁ!!」

 

野次馬をどかして前にすすむ。

振り返ると死神(. .)はそこにいなかった。

慌てて辺りを見渡しても何処にもいない。しかし周りにいた野次馬どもの視線で気づいてしまった。ヤツは私の後ろにいるのだと

 

「————ッ!?」

 

振り向くとヤツは私の懐に入り込んでいた。

次の瞬間に私の意識は途絶えた——

 

 

——————————————————————

 

俺は名も知らぬ冒険者の懐に入り、

 

 

『閃走・六兎』を喰らわせる

 

腹部に二回、鳩尾に一回、肺に三回、計六回の蹴りを相手に喰らわせ意識を刈り取る。

地面に突っ伏しもう聞こえないとは思うが一応声はかけておく

 

「次はうまくやれ。何に注意し、誰を避けるべきかは分かっただろう」

 

そう言って眼鏡をかけて未だ呆気にとられている野次馬の中にいるベル君達の元に行こうとした瞬間。

後ろの方でテーブルが蹴飛ばされた。

誰もが視線を向ける。その先には灰色の毛並みを持つ獣耳の男——狼人(ウェアウルフ)というらしい——がいた。

 

「テメェ……何者だ?」

 

鋭い目つきと剣呑な威圧感に、周囲の人間は顔色を悪くする。

彼に同伴している仲間の服に刻まれたピエロのようなエンブレム。アルテミスから聞いた【ロキ・ファミリア】の人だ。都市最大派閥と名高い【ファミリア】の団員達、それが彼に萎縮しているのだからきっと彼は【ファミリア】でも幹部に入るのだろう。

 

「何者って………冒険者だよ。他に何か?」

 

粗暴で、刺々しく、はるかに劣るものの今まで戦ってきた吸血鬼(最強)と同じ本物(. .)の空気を感じ取る。

 

「ハッ!白々しいぞオラ!!テメェが出した殺気、的確に5人のみ(. . . . . . . )に出されていた。そうでもなけりゃここにいる野次馬どもが立ったままでいる(. . . . . . . .)説明がつかねぇ!!!」

 

確かにあれは今倒れている5人のみに向けたものだ。

 

「それにそれは……本気じゃねぇな?」

 

!そこまで見抜くのか……

純粋に凄いな

 

「まあ、否定はしないよ。それで?テーブル蹴っ飛ばしといて、要件はそれだけか?」

 

「ケッ!生意気なヤツだぜッ……ま、あの変態野郎の無様な姿が観れただけで今日んところは勘弁してやる。テメェ、名前は?」

 

細かい話はいい、と言わんばかりに名前を聞いてくる。聞きながら歩いて俺の1メートルほど前まで近づいて、俺を見下ろすように聞いてきた。

俺は狼人(ウェアウルフ)の目をまっすぐ見据えてハッキリと告げた

 

「遠野志貴だ。オマエは?」

 

右手を差し出す。

 

「【凶狼】ベート・ローガだ」

 

相手から見て左手で手を弾くように握手を返される。拒絶ではなく、少しは交友的なものだ。行儀がいいものではないが

クルッと背を向けて【ロキ・ファミリア】は酒場を後にする。

 

「シキさんっ!!」

 

ようやく緊張が解けたベル君たちが近寄ってくる。

 

「シキ様!いろいろ聞きたいことはありますが、その前に————貴方のLevelはいくつなのですか?」

 

「え?6だけど…」

 

いろいろ怒られると思っていたので唐突にLevelを聞かれて困惑してしまう

 

「Level…………」

 

ヴェルフが驚いたように口をあんぐりと開け、目を見開いて呟く。それはリリも同様で、次の瞬間2人は息ぴったりに声を揃えて

 

「「シックスゥゥゥゥゥゥゥぅぅぅぅぅぅうぅぅ????!!!!」」

 

その頃レンは酒場の騒ぎなどどこ吹く風で、すっかり眠りこけていた。




死にませんでした。
感想お願いします!


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拳と甘い空気

ダンまち世界だとアポロンとアルテミスの関係どうしようかな…………意見ください


酒場の事件のあった日の夜

 

「つまり、他所の眷属を5人負傷させて店に迷惑をかけたと」

 

「…………………はい」

 

「私が待っているのを忘れて酒場に行ってご飯まで食べてきたと?」

 

 

「…………………はい」

 

拳を構えるアルテミス

 

「だぁーーーー!!!待て!何か因果律が狂ったんだ!!運命の悪戯だ!!!!」

 

「言い訳は以上ですか?では…」

 

「は、早まるなッ!!」

 

殴られました。そりゃもうボコボコに。

ちなみに志貴は知り得ない話だが、志貴の元いた世界のアルテミスには湯浴みを覗いた男を鹿に変えて愛犬たちに襲わせる。なんてことをした逸話が残っている神でもある。つまり————男に容赦などしないのだ。

 

———————————————————————

 

場所は【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)、教会の隠し部屋。

あの酒場での揉め事のあと、アルテミスにボコボコにされ、気を失い、目を覚ましたのは朝だった。Level6の意識刈り取るとは本当に神か?でも考えてみたらオラリオにくるまでに森の中でモンスターに遭遇した時も割と普通に戦ってたな。……思えばあの時魔石を回収しておけばよかった。アルテミスはオラリオ(ここ)に着く少し前まで眷属を喪ったショックから立ち直れておらず(今も立ち直りこそしていないが、だいぶ良くなった)いろいろポンコツ化していた。だいたい魔石の説明を聞いたのはベル君からだ。

 

話を戻そう。

今ここにはベル君、ヴェルフ、リリ、ヘスティア、アルテミス。ほぼ全員いる状況だ。レンは散歩に行った。

 

「他の【ファミリア】の相手5人を気絶させた、かー」

 

ヘスティアはリリから状況説明を聞いて納得した素振りを見せている。

アルテミスはまだ少しお怒りだった。

 

酒場の主人(マスター)に謝罪した後、店の修理代を【ファミリア】(ベル君の)に請求するように頼んだことも伝えた。返すので許して

 

「とりあえずシキ君、ボクのために怒ってくれてありがとう。ベル君も怒ってくれたんだよね?思ったよりやんちゃで、ボクは嬉しいような、悲しいような………」

 

「シキ様がやってくれたから良かったもののシキ様が先に出ていなければ乱闘騒ぎでしたよ。これはきっとヴェルフ様の影響です!ヴェルフ様に会ってから、ベル様はどんどん性格が冒険者気質(ら ん ぼ う)になっています!」

 

「おいおい、それは言いがかりだろう………つか、それ以前にシキのLevelが6だったとはな」

 

「ええ、Level6の新人冒険者なんてオラリオに革新が起きますよ」

 

そっからのリリはアルテミス同様大層お冠だったようで「全くっ」「心配するこっちの身にもなってください」「あの時だって…」と小言を繰り返している。主にベル君に。

……アルテミスとリリは仲良くなりそうだなぁ

リリの小言にはヘスティアも苦笑いだった。

 

「しかしシキ君、君はいくら強くてもそういう揉め事を起こすようなタイプだとは思わなかったよ。やっぱり男の子なんだね」

 

「それは、確かに志貴は基本的に平和主義の塊みたいな考え方ですが、怒ったときはかなり毒のある話し方をしますよ。オラリオにくる前にだって……」

 

言いかけて真っ赤に赤面して俯いてしまうアルテミス。多分あの時のことか……?でも赤面するような要素あったっけか…。

それを見てそれぞれ頭の上にはてなマークを出すが、ヘスティアだけニヤニヤしていた。

 

話を切り替えて、ヘスティアとベル君のことに切り替わり、家庭の神と言われるだけあってヘスティアがベル君を嗜める。

 

「今度は笑い飛ばしてやってくれよ。僕の神様はそんなことで一々怒るセコイやつじゃない、懐が広いんだ、って。シキ君もさ」

 

俺は兎も角、ベル君は頭が冷えてきたようだった。俺が先に行ったことにより怒鳴ることもできず、行き場のない怒りがあったのだろう。

ベル君は押し黙り黙って頷く。

 

「今度は、我慢します……ごめんなさい」

 

ヘスティアは暖炉の火のように微笑んだ。

 

「シキ。貴方も我が神友(とも)のためとはいえ5人はやり過ぎです。でも……ありがとう。その場にはいませんが、聞いただけでも少しスカッとしました。」

 

その笑顔を正面から見れない。

多分俺の今の顔はさっきのアルテミス並みに赤いだろう。自分の浮かべている表情に気づいて同じくまた赤面するアルテミス。

 

側から見たら初々しいんだろうな…

恥ずかしいな。

 

「ところで、皆はその人たちの【ファミリア】が何処だか分かるかい?」

 

周りがこの空気に耐えられないとばかりに話を変える。皆少し顔が赤い。

 

ともあれ【ファミリア】か。

無論俺は知らないのでベル君の方に視線を送るが首を横に振られる。知らないらしい。

 

ああ、でもそういえば

 

「太陽っぽいエンブレムがあったよな」




感想お願いします。
それと誤字修正してくださる方々、本当にありがとうございます!!


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戦争遊戯 shall we dance?
【アポロン・ファミリア】


こんばんは!新章です
頑張りましたので




ではどうぞ


夜空に浮かぶ月の光を浴びて、金属で作られた太陽のエンブレムはきらめいている。

くだんの酒場の付近の魔石街灯の光が届かない、薄暗い路地裏。ちなみに吸血鬼などいない。同盟など作られていない。いないったらいない

そこには、ヒューマン、獣人、小人族(パルゥム)と種族の異なった6人組の男達が、無数にある細い裏道の1つに集まっている

 

「なんなんだあの怪物(バケモノ)……」

 

「ああ、目ぇ合わせただけでわかったぜ……アイツはダメだ」

 

「オイラたちは睨まれただけで意識飛んじまったんだぜ?ヒュアキントス、いくらアポロン様の命令とはいえ、アイツまで引き込もうとするのはまずいって……」

 

「私だって怖い。何せ酒場でみっともなく逃げ出しかけたのだからな……」

 

しかし、とヒュアキントスはいう

 

「もし仮にアイツがギルドの方で噂になっていたアルテミスという神の眷属ならば黙ってはいられないらしい」

 

原因はギルドにてエイナが志貴のLevelを叫んだことにある。あのあと状況説明として、志貴について軽く説明したのだ。外から来た冒険者でオラリオは初めて。Levelは6。そして、【アルテミス・ファミリア】だということ。周りの証言による志貴の珍しい格好と、今日酒場で出会った眼鏡の男は特徴が一致していた。故に彼がアルテミスの眷属だと分かったのだ。

 

本来ならこれは酒場でベル・クラネルを軽くボコるための作戦だったのだ。理由は簡単。主神、アポロンがベル・クラネルに関心を抱き、あわよくば眷属として迎えたいということである。

しかし、それに失敗し、ヒュアキントスたちを逆にボコった男の素性が割れおそらく【アルテミス・ファミリア】のものだと、報告した途端、アルテミスには負けられないという方向に話が進み、結果的にベル・クラネルとトオノシキの2人を対象としたのだ。

無論その場にいた酒場での被害者系4名は反対したものの、主神の決定ならばとヒュアキントスが反対を押しのけた。ヒュアキントスにとってアポロンとは絶対の存在。死ねと言われたら死ぬのだ。仮に無理難題だろうがなんとしてでも完遂しなければならない。

望みとあらば

 

「アポロン様…………」

 

太陽ではなく夜空に輝く闇夜の月を、ヒュアキントスは目を細めながら仰いだ。

 

 

—————————————————————————

 

今はベル君と一緒にギルドに来ている。朝いろいろあったがとりあえずひと段落ついたのだ。二柱(2人)とも太陽のエンブレムには思うところがあるらしい。詳しい話は長くなりそうだったので放棄した。

 

ギルドに来て驚いたのがエイナさんの受付の上でレンが座っていたことだ。話を聞くと、エイナさんの出勤時間ぐらいから来ていたらしい。つまり朝。レンは朝の騒ぎの間ギルドに避難したらしい。エイナさんの受付にいたわけだからエイナさんのことは気に入ったらしい。コイツ、興味ないヤツとは目も合わせないからな……

 

「この猫、レンちゃんだっけ?シキ君が言ってた通りほんとに賢いんだねぇ」

 

なんでも本当に人の言葉を理解しているかのように仕事の手伝いをしてくれたのだとか

理解できるも何も……な話ではあるが言えない。

 

何はともあれ、ようやく今日からダンジョン、なのだが——

 

「じゃあダンジョンにもぐるのは装備が整ってから、ってことだね。ちなみに探索の再開は、どの階層から始めるつもりなの?」

 

「やっぱり、13階層からしっかりやっていこうと思います。18階層まで行けましたけど、まぐれみたいなものなので………」

 

ベル君たちのパーティは予定を確認し合い、時には相談して、今後の方針と詳細を決めたという。

ベル君は装備が整ってから、ヴェルフはベル君の武器作り。リリもなんかあるらしく、パーティでのダンジョン探索は3日後程度なのだという。

そると冒険者といての知識が全くないのでベル君とエイナさんの会話があまり理解できない。なんだよ、クエストって

俺は装備がないので8階層あたりまで行ってみると言ったら一応許可が取れた。エイナさんはかなり過保護のようだ

最後にエイナさんに酒場での件でありがたいお小言を言われる。なんでも【ファミリア】同士のいがみ合いは戦争にまで発展するかもしれないのだと。この世界の人短気なのではないだろうか。戦争なんてそう軽々く起こすな。話は終わり、ギルドのロビーに出て、受付前でエイナさんと別れてようとした時だった。

視線を感じ辺りを見渡すと2人の女性と目があった。相手は目が合うなりこちらに寄って来て

 

「アンタがトオノシキ?こっちはベル・クラネルで間違いない?」




感想、誤字修正、お願いします!


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招待状

日間ランキング5位!すげぇ!


今回はかなり短いです。


「アンタがトオノシキ?こっちはベル・クラネルで間違いない?」

 

「「は、はい」」

 

初対面の人だったので、とりあえず敬語を使おうとしたが、ベル君と被る

気の強そうな短髪(ショートヘアー)の少女。俺と同じぐらいかな、なんて考えていれば、

後ろに控えていた柔らかそうな長髪の少女が、おどおどしながら歩みでてきた。

 

「あの、これを……」

 

上目がちに差し出される、2通の手紙。俺とベル君で1通ずつ。ベル君と顔を合わせて2人で頭の上に ? を浮かべる。しかしベル君はこの手紙がなんだか分かったようだ

 

「…シキさん、これ招待状ですよ」

 

「招待状?」

 

上質な紙には封鑞(ふうろう)が施されおり、差出人がわかるように徽章されている。そして刻まれているのは、弓矢と太陽のエンブレム(, , , , , , , , , , ,)。それはまるでうちの【ファミリア】のパクリみたいで(, , , , , , , , , , , , , , , , )

つまりコイツらは……

 

「ウチはダフネ。この娘はカサンドラ。察しの通り、【アポロン・ファミリア】よ」

 

自己紹介をする女性、ダフネさんは、俺の予想通りの所属を明かす。

射手と光明を連想させる弓矢と太陽のエンブレム———【アポロン・ファミリア】。昨日、酒場で一悶着を起こした冒険者と、仲間に当たる人達だ。やはり昨日の忠告は聞こえてなかったみたいだ。

側にいたエイナさんがそっと俺たち2人に顔を寄せて、「ダフネ・ラウロスにカサンドラ・イリオン、2人ともLevel 2で、第3級冒険者だね」と耳打ちしてくれる。名前はエイナさん曰く有名な方で、どうやら熟達(ベテラン)の冒険者らしい。

2人とも俺と同じか少し上だと思う。

吊り目のダフネさんは強気そうな印象を最初は受けたが、思ったより落ち着き払った人物らしい。逆に垂れ目であるカサンドラさんは、纏っている雰囲気もあってか、どこかあどけなく見える。

こちら2人を探していたようだし……冒険者の出入りが激しいこのギルド本部で、俺たちが姿を現わすのを待っていたのだろうか。

 

「え、べ、ベル君。こういう時ってどうすればいいの?なんか言うの?俺なんも知らないんだけど……」

 

「僕だって知りませんよ!」

 

2人でこそこそ話して、どうすればいいか困っていると、カサンドラさんがやはりおずおずと話しかけてきた。

 

「あの、それ、案内状です。アポロン様が『宴』を開くので、も、もし良かったら………べ、別にこなくても結構なんですけどっ…………」

 

聞く人が聞いたら失礼だったのかもしれないが、一生懸命言っている様は見ていて面白い。

ぺしんっ、とカサンドラさんの後頭部をダフネさんが叩いて、身を乗り出す。

「あぅ」という呻き声を無視して出てくる彼女は招待状と俺、招待状とベル君。交互に指を向ける。

 

「必ず貴方たちの主神に伝えて。いい、渡したからね?」

 

「………わかりました」

 

「はぁ……わかりましたけど」

 

けど、に続く言葉があったわけじゃないが有無を言わせない態度に少し不満みたいなものがあったのかもしれない。

しかし、念を押されて了承すると、ダフネは身を引いた。無駄話をするつもりはないのか、カサンドラさんに呼びかけ俺達の前から立ち去ろうとする。

短い髪を揺らす彼女は、その去り際、こちらに向かって

 

「あんたのLevelがいくつであろうとアポロン様には関係ない。ご愁傷様」

 

え?と聞き返す俺を無視してダフネさんはそれ以上何も言わなかった。

背を向けて離れていく彼女をカサンドラさんが会釈をした後、慌てて追っていく。

エイナさんとベル君と一緒に立ち尽くしながら、俺は手元の招待状を見下ろした。

 

 

ややあって、手紙はレンに渡して、ベル君、エイナさんと別れる

いろいろ分からないことが増えてしまったがようやくオラリオに来て本当の目的である。

ダンジョンだ————




感想、評価の程よろしくお願いします!


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初ダンジョン

こんにちわ。酷評受けて精神にダメージがっ……!


志貴はいまダンジョンの1階層に来ている。

ダンジョンは上層、中層、下層、深層、この四つの階層でモンスターは住み分けができている。

志貴が今居るのは上層。本当に入ってすぐのところだ。

ダンジョンがどんなとこなのかと思っていたが、上層は本当に普通の洞窟だ。少し狭くはあるが七夜暗殺技法を使うには丁度いいぐらいの広さだった。

1階層にはゴブリンやコボルトといったモンスターが現れた。

2体ともゲームとかに出てくるやつそっくりで、ザ・モンスターだと思った。(その手のゲームに手を出したことはないが)

油断して居るわけではないが流石にこんなところで魔眼を使うのは躊躇われ、ナイフのみで戦うことにしたのだが、正直、モンスターにこのナイフの刃が通るのか心配だったのだ、1階層のモンスター程度なら問題なかった。1階層においては暗殺技法を使うまでもなく、単調に飛んでくるモンスターに危なげなくナイフを突き刺さすだけで終わった。ゴブリンやコボルト以外のモンスターも見たくなって40体ほど倒して魔石を回収し、予め持っていた腰に当てている魔石入れ(ギルド支給)に入れて2階層、3階層とどんどん進んでいく。

2階層から4階層ではヤモリ型のモンスターや、カエル型のモンスター、フロッグ・シューターという大型犬ぐらいの大きさの犬型モンスターなんかがいた。

6階層に来たところでエイナさんから教わった新米殺しといわれるウォーシャドウだ。

全身が影でできているようで真っ黒。

俺より少し小さいぐらいの二腕二足。

十字型の頭でその頭には手鏡のような真円上のパーツが組み込まれている。

俺は高速で敵に突っ込みすれ違い様に斬りつける

 

『閃鞘・七夜』を喰らわせウォーシャドウを真っ二つにして倒した。そしたらここで初めてドロップアイテムを採集することができて、「ウォーシャドウの指刃」を手に入れた。少し大きくてこれだけでそれなりに魔石入れが埋まってしまったので、次の階層で魔石入れを満杯にしたら帰ろうと思う。

 

「にしても……もう7階層か。案外すぐだったけど、やっぱり1人で持てる量には限界があるしサポーターってのは重要なんだな」

 

サポーターが冒険者の間で批判を受けていることを知らない志貴はサポーターを重要なものだと勘違いしている。

事実として、荷物持ちがいるというのは助かることではあるが、自分は戦わず荷物を運ぶだけというスタンスは冒険者にはあまり気に入られていない。大手の【ファミリア】ともなれば変わってくるものの、そもそもサポーターというのは冒険者と違い正式な役職として認められていないのだ。

 

ともあれ、7階層に降りて来た志貴は、1から6までと変わらない洞窟を目の当たりにする。

 

「まったく、飽きないよなほんと。……確かここだと、キラーアントが出るんだったよな」

 

キラーアントとはさっきのウォーシャドウと同じく新米殺しといわれているモンスターで、でっかいありみたいな見た目のモンスターだ。エイナさんの講習ではピンチになると仲間を呼ぶと言っていた。

一撃で仕留めるのがいいだろう。

ダンジョンの壁を用いてキラーアントの上空にまで接近し、頭上から奇襲攻撃を喰らわせる、

『閃鞘・八穿』を用いて助けを呼ぶまでもなく消滅するキラーアント。

のちにニードルラビットという兎のモンスターもなんなく倒して魔石入れには入らないほど魔石が溜まったところでダンジョンから出ることにした。

 

「これでいくらぐらいになるのかな〜」

 

もしこれで大金だったら、ゆくゆくは自分たちの【ファミリア】のホームをかうことだって夢じゃないだろうか

などと期待に胸を膨らませる。

Level6が上層で魔石稼ぎをした結果、同じ階層にいた新米冒険者はほぼ、全くモンスターに遭遇しないという事件が起きたことを志貴は知らない……

 

少し経ってダンジョンから出た志貴はギルドに向かうことにした。入る時もそうだったが視線を向けられる。それはおそらく防具でもなんでもなさそうな見たこともない服を着ているせいだ。制服だが、前にも言ったがここ世界には学校がないから当然変な目で見られるだろう。その視線にむずむずしながらもギルドに向かう。

ギルドに入ると昼間になってギルドが騒がしくなったためか、レンは受付で寝ているのではなく、奥の方の職員の事務処理用のデスクの上(おそらくエイナさんの)の上に座っている。前足で手紙を抑えているのでまだ帰ってはいないらしい。エイナさんに戻ったと報告する前に換金窓口で魔石とドロップアイテムを換金する。

 

62000ヴァリス。ここで今更だが、日本金とこの世界での金銭は基準が違う。

普通50ヴァリスもあればお腹は満たされるぐらいの感覚らしい。

ベル君がよく行くという酒場は少し高めでパスタでも300ヴァリスするが、とても美味しいとか。そう考えると6万というのはかなり稼いだ方なのではなかろうか?Level6のくせに小心者故、あまり行き過ぎないようにしていたが、今思えば行かな過ぎだったように思う。もっと行っていたらどんぐらい稼げたんだろうか……

とりあえずエイナさんに報告をする。

 

「エイナさん」

 

「はい……あ、シキ君!随分と早かったんだね」

 

「ええ、7階層までしか降りてないんで、エイナさんの言ってた『冒険者は冒険してはいけない』は守りましたよ」

 

これは、あくまで命優先という意味らしい。

 

「あはは、シキ君が冒険するにはそれこそ深層とかに行かないとだからね。換金は済ませたの?」

 

「はい。だいたい62000でした」

 

「やっぱり第一級冒険者なら上層でもそんなに稼げるんだね……」

 

うん。やっぱり6万はデカイか

 

「レンは大丈夫でしたか?」

 

「うん、すごく大人しくてね。あんまり触られるの好きじゃないんだね、レンちゃん」

 

エイナさんのことが気に入ったからといってそこが変わるわけじゃないらしい。しかし、エイナさんの口からそんな発言が出るということは激しく撫で過ぎたのだろう。多少撫でるぐらいならレンは何も言わないし、むしろ好きなぐらいな訳だし

 

「あはは、独り身の悲しみってやつなのかな……」

 

「シキ君?」

 

「あ、なんでもないです」

 

目が笑ってない。というかかなり小さい声で言ったはずなのになんで聞こえてるんだか。

 

「じゃあエイナさん、今度また講習お願いします。おいレン!帰りにケーキ買って帰ろう」

 

ケーキという言葉に反応し、耳をぴこぴこさせて、こちらに寄って来て、俺の肩に飛び乗った

 

「バイバイシキ君。お疲れ様」

 

「ありがとうございましたー」

 

「あ、シキ君!」

 

「?なんですか?」

 

ギルドから出ようとしたとき、エイナさんに呼び止められる

 

「その、ベル君にも伝えて欲しいんだけど……【アポロン・ファミリア】には悪い噂もあるから、その…気をつけてね?」

 

「……ありがとうございます。ベル君にも言っときます」

 

 

そう言って昨日のケーキ屋の方に足を運ぶ事にした。




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その日の夜

お久しぶりです
忙しくてできてませんでした。年号変わりましたね、令和。
あと、エイプリルフールネタで月姫コラボは笑いました

堕ちた真祖はなにを無双するのか



ではどうぞ


その日の夜。

【ヘスティア・ファミリア】のホームたる教会の隠し部屋にて

ベル君、ヘスティア、レン、アルテミス、俺、の5人と1匹で入るには少し狭い部屋で昼間あったことを伝えた。

 

「『神の宴』の招待状か……」

 

「あまり気乗りはしませんね……」

 

テーブルに広げた招待状を、椅子に座るヘスティアは腕を組みながら見下ろし、アルテミスは右手に持ってため息を吐いている。

既に夕食を済ませた食卓にはお茶と俺とレンが買ってきたケーキが置かれていた。バイトから帰ってきて疲れてるヘスティアの代わりに、後片付けを軽くこなした。

 

「ガネーシャの開いた『宴』から1ヶ月半くらい……そろそろ誰かがやると思っていたけど」

 

ヘスティアが言うに『神の宴』は、神達が自主的に開くパーティらしい。

宴を開けるほどの自勢力(ファミリア)の力を誇示、自慢したりする側面もあるらしいが、基本的に娯楽に飢えた神達同士で騒ぐため催すものらしい。前のそのガネーシャとかいう神が開いた『宴』にはヘスティアも参加したらしい。

そして今度、2日後に『神の宴』を開くのが【アポロン・ファミリア】。

ベル君がいうに【アポロン・ファミリア】はその派閥としての力や、冒険者の質は高い。よく意味がわからなかったが、17階層の階層主(ゴライアス)を自分達のパーティで倒したとかなんとか。ギルドの等級(ランク)は、D。

 

…………等級(ランク)ってなんだよ

でも言える空気じゃなかった。特にアルテミスは普段の人を罵倒するときの塵でも見てるんじゃないかって目をしてる。怖い

しかし、その【アポロン・ファミリア】は【ヘスティア・ファミリア】よりも遥かに格上の【ファミリア】だということがわかった。

嫌な予感がするから行きたくないんだが……

 

「志貴」

 

アルテミスがあの目をやめて俺に話しかける

 

「どうした?」

 

「行かなくても良いでしょう」

 

「そうだよな」

 

「「えぇぇぇぇぇぇ?!」」

 

アルテミスが俺に目で訴えてきたのだ。『アイツと会いたくない』と。

俺はアポロンとの関係を知らないがただでさえ男神(だんせい)というだけでダメな女神(ヤツ)なのだから当然といえば当然だ。主神の意見もあって丁重にお断りしたいところだが【ヘスティア・ファミリア】の神と眷属(ふたり)から叛意の声が上がった。

 

「シキ君!この前揉め事があったばかりだろう!?流石に無視はできないよ!」

 

「そうですよシキさん!」

 

そうなのだ。この前、酒場での騒動を起こしたばかりなのだ、ここでわざわざ招待してもらったのを断ると、話がこじれるかもしれない。

つまり、この誘いを無視するということは、普通に考えて相手の顔に泥を塗る行為と同じだろう。

そこまで察してアルテミスは

 

「以前、酒場での騒動であなたに感謝を伝えた筈ですが———撤回しましょう。屑」

 

「す、すびばぜん!?」

 

ワルクェイドばりに怖い気がする!なんなんだ!?俺がぶっ飛ばしたのが悪いのか!?

 

「すみません、神様……」

 

ベル君がヘスティアに謝罪している。俺だけが悪い問題だと思うが、ベル君はそういうとこ意識してる俺とは違って立派だな

 

「ああ、大丈夫だよ、変な責任は感じないでくれ。……というか、実はボクもアルテミス同様アポロンが苦手なんだ」

 

「え、そうなんですか?」

 

「ああ……天界でいろいろあってね」

 

もにょもにょ、と言葉を濁すヘスティアに、首を傾げてしまう。アルテミスに視線を向けてみるも、目はそのままにして『聞かないでやれ』と伝えられる

 

「まぁ、それは置いておいて……今回の宴は普通の宴と違って、趣向が凝らされてる」

 

そんな事を言って、ヘスティアは招待状を見ながら1笑した。アルテミスも同じだ。ワルクェイドは辞めてくれたらしい。しかし行くのは決定な流れだ。アルテミスも断れないとは察しているらしい

手紙の中身を見ていないベル君と俺は2神(ふたり)の言っている意味がよくわからない

 

「参加しなきゃいけないのは決まっているようなものなんだ。ミアハ達にも届くだろうし、せっかくだ、みんなで一緒に出席してみよう」

みんな(, , ,)?と俺とベル君はまたしても首を傾げてしまった。




相変わらず短いですが、
感想、評価、誤字などありましたらよろしくお願いします!!


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いざパーティへ!……なんで顔赤いんだ?

始まる前に1つ。
細かいことは無しの方向でお願いします。作者のメンタルが砕かれますゆえ


ではどうぞ


それから宴までの間、志貴はダンジョンに潜り続けた。理由は1つ。金だ。

あとからヘスティアとベル君に聞いたことだが、『神の宴』はドレスコードが必須だったらしい。

しかし、現在の【アルテミス・ファミリア】にお金はない。学ランでごまかせるかもしれないと思ったがダメだと言われた。その為、アルテミスと自分の衣装を買うためにダンジョンに潜ったのだ。仕立てる時間も考慮すれば、時間は本当にない。

しかし志貴はめげなかった

必死にダンジョンを走った。魔眼だって使った。曰く、ダンジョンには意思があるらしい。1つの生物だとも聞いた。

その為かダンジョン内のモンスターは量産型に近い。つまり、『死』が見えやすかったのだ。良く視る、あるいは魔眼が高ぶっている時じゃないと、明確に見えない『死の点』ですらただ視ただけで捉えることができた。

オラリオの外のモンスターにそんなことはなかったが。

 

ともあれ、もの凄い勢いでダンジョン探索していた志貴は他の冒険者の間で噂になっていた。

それもそのはず、7階層などゆうに超え、8階層、10階層、果ては17階層にまで来ていた。

志貴のLevelなら問題はないが、今の彼は防具をつけていない。通常なら危険だが、生憎志貴は常に吸血鬼(最強)と戦って来たのだ。今更迷宮の孤王(モンスターレックス)などに怖がる志貴ではない。というより、なるべく魔眼を行使し過ぎないようにしながらも出会ったモンスターを『死の点』で一発だったので迷宮の孤王(モンスターレックス)をでっかい魔石を落とすモンスターぐらいにしか考えていなかった。ちなみにこの迷宮の孤王(モンスターレックス)は17階層のゴライアスだ。ともかくそれを倒した志貴はその馬鹿でかい魔石を半日かけて持ち帰った。外に出た時には一日経過しておりそれを売り、大量のお金を手に入れた志貴は急いでアルテミスを連れて衣装を仕立ててもらった。

結果的にギリギリにはなったが『宴』には間に合ったのだった……………

 

 

 

—————————————————————

 

突然ではあるけれど、オラリオは今、春を迎えている。

冬の重く垂れ込めていた雲が姿を消し、あらゆる草花が一斉に花に咲かせる季節。オラリオにくるまでの期間は冬だった訳だが雪は降らなかった。オラリオがどの辺りに位置する街なのかよくわかってないが、いうほど四季の違いを感じさせはしなかったのが印象的だ。

この時期は判って都市を訪れる旅人の数も多くなるらしい。ベル君は2ヶ月ぐらい前にオラリオに来たらしい。都市の賑わいに一役買っているのは案外ベル君みたいな都市外出身の人々のおかげなのかもしれない。

寒さは緩み、日に日に気温は高くなっている。

夏の足音を身近に感じさせるようになっている中———俺たちは今馬車に乗っている。『神の宴』の出席のためだ。馬車に乗る前に別れたベル君は酷く緊張していたが、俺はそうでもない。遠野志貴という人間はあまりこの手のもので緊張する人間ではないのだ。今は窓の外で流れる茜色の街の光景を眺め続けていた。

 

馬車が止まる。

馬の(いなな)きが響く中、高級な作りの扉を開けて、外へ出る。

普段の学ランとは違ってあまり着慣れない礼服、いわゆるタキシードというやつだ。靴は高価そうな革製。

誰かをエスコートなんて経験がほとんどないが、なんとなく執事にでもなったつもりで挑もうと思う。これは志貴の自覚していることではないが、七夜曰く、遠野志貴という人間はもともと要領のいい方で、なんでもやれば人並みには出来てしまうのだ。

振り返り、次に降りてくる少女に手を差し伸べる。奥に座っていた少女は嬉しそうに微笑み手を取り———なんてことはなく振り払われた。

顔を覗かせたのはアルテミス。

正装のドレスで身を包み、普段よりずっと綺麗で華々しい。

 

「あまり触れようとしないでくれませんか?ただでさえこれからアポロンに会わないといけないというのに…………ところで志貴。貴方、執事でもやっていたのですか?」

 

「ん?いや別にそんな経験ないが……それよりアルテミス。お手をお取りください、お嬢様?」

 

「っ!?」

 

ちょっとそれっぽく言ってみたが、割と受けは良かったらしい。せいぜい睨まれることはなかった。その代わり少しし顔が赤い気がする。

 

「わ、分かりました……でもそれは辞めてください」

 

「そうか?結構、堂に入っていたと思ったんだが……」

 

「……………」

 

いつもの侮蔑の目ではなく、ジト目で睨まれた。はいはい辞めますよっと。

恐る恐る、と言った感じに手を取ったアルテミスを確認しゆっくりと馬車から降りてもらう。地面に降りたアルテミスはまだ少し顔を赤くしながら手を離す。そこまで恥ずかしいことは言っていないと思うんだが…

 

志貴は知らない、さっきの従者っぽい態度がアルテミスにドストライクだったことを

 

続々と集まる高級そうな箱馬車、正装している何人もの美男美女、止めに大富豪の豪邸——いや、宮殿かと見粉うほどの巨大な会場施設。遠野の家より大きいかもしれない。豪華ではあるが、庭などは遠野の家の方が綺麗な気がするのはささやかな対抗心だろうか。

本日【アポロン・ファミリア】が開催する『神の宴』は、眷属一名を引き連れての(, , , , , , , , , , , )、神と子を織り交ぜた異例のパーティだったのだ。




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最近ハンドスピナーを発掘したんで無意識にやっています。どうでもいいですね


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いざパーティへ!………だからなんで顔赤いんだ?

こんにちわ
短いことは徐々に解消していきます!


ではどうぞ


本日【アポロン・ファミリア】が開催する『神の宴』は、眷属一名を引き連れての(, , , , , , , , , , , )、神と子を織り交ぜた異例のパーティだったのだ。

通常『神の宴』では眷属の参加は認められないが、今回は主催側が同伴を条件としていたのだ。これが前にヘスティアの言っていた趣向が凝らされている。の正体だ。

娯楽を求めて下界に降りてきた神達は例によって面白がってその要求を呑み、自分の子供を自慢しようと選りすぐりの団員を判って参加している。完璧な容姿を誇る男神女神に紛れて、派手に着飾った冒険者や職人達がごろごろといた。無論俺もその1人。

少し前の方にいたベル君とヘスティアを見つけるものの、ベル君がやたらキョロキョロしている。緊張だろうか

ふと横のアルテミスに視線を向ける。

 

「どうしたんだよ、アンタ。似合ってるんだからそんな目するな」

 

アルテミスの目つきはかなり悪くなっていて、おそらくだが

 

「あまり見ないで頂けますか駄犬。……これからアポロンに会うのかと思うと……」

 

駄犬?!そんなの出会った当初ぐらいしか言われなかったぞ?!どんだけ動転してるんだよ……

しかし予想通りでアポロンと会うのがいやらしい。

今のアルテミスの格好は水色のドレスで、髪の色も相まってよく似合っている。沢山のレースとフリルをあしらっていて、露出こそ少ないがアルテミスの女性らしさがよく際立っている。

何処かの国の王女様………というより普段の態度からして女帝か?ともかく今のアルテミスは可憐さと美しさが同居している。

 

「すまぬな、シキ、アルテミス。服から何まで、色々なものを世話になって」

 

俺達に続いて馬車から出てくるのは神のミアハさん。その手に引かれて、団員であるナァーザさん。勿論2人でも正装している。

ミアハさんの【ファミリア】はポーション販売のお店をやっている。

俺が初めてダンジョンに行った日、実はそのお店に行っていた。

エイナさんに「ポーションは1本でもいいからもっていきなさい!」と言われたためベル君に貰ったお金を握りしめ駄菓子でも買いに行く子供の気分でミアハさんのお店に行ったのだ。そしたら、ナァーザさんやミアハさんが荷物運びやらなんやらで忙しそうだったので手伝わせて貰った。終わった後、買ったポーションとは別に一本タダで貰えだのだが、そのポーションはダンジョンで怪我にこそ使うことはなかったが、ダンジョンで会った怪我をしている人に上げてしまった。そういうところ根本は違えどミアハと志貴は似ている。

あげてしまったため、招待状を貰った次の日。またポーションを買いに来た志貴だったが、先客がいたベル君とヘスティアだ。要件は『神の宴』のことだった。

最初は極貧【ファミリア】の分際で豪遊するのは抵抗がある、と宴の参加に乗り気ではなかったミアハさんだが、俺が『ナァーザさんも普段苦労してそうだし、偶に羽目を外してもいいんじゃないですか?』と言ったら確かに、と最後は苦笑して納得してくれた。志貴は見ていたのだ。ポーションをもらった日、受け取った瞬間にナァーザさんの目が死んでいたことを。きっと苦労人なんだろうな、と思っていたが結構合ってるらしい。

ついでとばかりにポーションを買うために持っていた6万ヴァリスを渡し、これで衣装とか買ってくださいと言うとかなり感謝された。6万ヴァリスで足りるらしい。オラリオの物価がよくわからなかったがいつだったの話を総合すれば日本より桁が1つ少ないと考えていいかもしれない。そうすると6万は60万なわけだから確かに十分だ。馬車などの手配はヘスティア達任せたが、俺達と同じ馬車に乗ることで解決した。

 

「誘ってくれて、ありがとう、シキ……」

 

神同士なら男嫌いも少しは……と思ったが、考えてみれば天界で湯浴み覗き事件が起きたんだっけか。

聞けばミアハさんは無自覚の『女誑し』な側面があるらしい。それに対して『恋愛アンチ』のアルテミスは相性が悪かった。お互い面識はあるらしいが、アルテミスは超無視して、ミアハさんがオロオロしてる。可哀想だ。

なんて考えていたらナァーザさんが話しかけて来てくれた。馬車の中じゃ緊張してるのか、中々口を聞いてくれなかったのだ。

 

「感謝を言われるほどのことはしてませんよ、それよりナァーザさん。よく似合ってますよ」

 

それを聞いたミアハさんが『ナァーザにも春が……』と言ったらアルテミスに睨まれていた。

ナァーザさんの種族は犬人(シアンスロープ)という獣人だ。18歳らしいので敬語はいいですと断っている。

そのため褒められて嬉しいのか、半分瞼が下りている彼女の表情は心なしか嬉しそうで、ぱたっ、ぱたっ、と尻尾を左右に振っている。

前に会ったときは質素な服を着ていただけに、今のナァーザさんのドレス姿はとても魅力的だった。生地は赤く、右腕の義手を隠すように長袖の設計で仕立てられいる。義手は冒険者をやっていた時に喰われたらしい。それがトラウマで冒険者を引退して、オラリオにある『銀の腕』という義手をつけている。これば馬鹿高くてこれり買うために借金をしたためもともと中堅どころでそれなりに規模のあった【ミアハ・ファミリア】の団員たちは次々と抜けていき、今ではナァーザさんだけの貧乏弱小ファミリアになってしまったらしい。それはともかく犬と言うこともあり、レンは苦手かな。いつだったか白いのと一緒に犬から逃げてたし。

 

「ではシキ、そろそろ行くとするか」

 

「ええ、不本意ですがマナーです。仕方ありませんね」

 

ミアハに促される。要はこれアルテミスとナァーザさん2人をエスコートしろということだ。さっきアルテミスにはやるなと言われたがもう一度やるか

 

「それではお嬢様方、お手をお取りください。エスコート致します」

 

「「———?!」」

 

それを聞いた2人は途端に顔を赤くして俯く。なんでだ

 

「シキは執事でもやっていたのか?なかなか堂に入っているじゃないか」

 

「そんな経験ないんですけど、そう言ってもらえると嬉しいですよ」

 

 

志貴は知らない。アルテミスだけでなくナァーザにも従者然とした態度はドストライクだったことを

 

2人はおそるおそる俺の手を取る。

背後を振り返ると、たちまち視界一杯に現れる豪華な宮殿。開かれた正面玄関には貴族然とした神達が足を向け、きらびやかな衣装を纏う眷族とともに入室している。

……やっぱり遠野の屋敷の方が…………やめよう。

周囲に倣ってアルテミスとナァーザさん、2人の女性をエスコートし、俺達は見上げるほど高い建物の中へと入っていった。




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やっぱ短いんですよねぇ


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パーティでの出来事

こんばんは
短いことはご容赦下さい_:(´ཀ`」 ∠):
あんまり長すぎると毎日更新できなくなってしまうので……
少しずつ頑張ります!!



ではどうぞ


玄関ホールは建物の外観に負けず劣らず絢爛豪華だった。

金銀の光が太い柱や燭台(しょくだい)に散らばっていて目が眩しくなるぐらい。吹き抜けの造りはとても開放感がある。壁際に並んでいる雪花石膏(アラバスター)の彫像は神を模したものだろうか、男神と女神、一体ずついる。いや、神の石像なのだから一柱といった方がいいのか。

ホームから思わず仰け反ってしまうほど豪奢(ごうしゃ)な大階段を上った先、建物の二階にパーティを行う大広間はあった。

既に賑わっている大広間はもはや語る必要がないほど豪勢だ。高い天井にシャンデリア——の形の魔石灯らしい——、沢山の長卓の上には上位階級の人間しか口にできないような料理がずらりと並べられている。しかし、琥珀さんの料理の方が美味そうではある。というか食べ方もわからないような料理がいくつかある。この世界に来てから和食を食べてないが、極東の島国からくる冒険者もいるらしいからもしかしたらコメとかは探せばあるかもしれない。

話題を戻す。

背が高い窓の外は、バルコニーになっていた。

日暮れは終わり、外の景色は底闇が満ちていた。会場施設は北のメインストリート界隈。近くには少し前に絡まれたベートの所属している【ロキ・ファミリア】のホームがあるらしい(エイナ談)

立地が高い高級住宅街の中だからか、酒場や雑踏が奏でる夜の喧騒が遠い。本当にオラリオなのかと疑ってしまうくらい、この場所はとても静かだ。

恐らく社交界特有と言える雰囲気はなんだかムズムズする。

 

「ん、あの人。昨日すれ違ったな」

 

「あの冒険者は前から結構有名、強いよ……あ、でもシキはLevel6なんだっけ…………あっちに固まってる派閥連中はいい噂は聞かないから、要注意……」

 

広間の中に進んでいくと、何度か見かけた冒険者を見つける。嫌々参加していそうなエルフに、窮屈そうに礼服を着ているドワーフ、鋭い雰囲気の獣人に褐色の人、神の他にも多くの亜人(デミ・ヒューマン)が会場内にいた。これで2人1組なんだからオラリオってどんだけ【ファミリア】あるんだよ。

側にいるナァーザさんにいろいろ聞きながらつい辺りを見渡してしまう。

少し離れた所にいたベル君とヘスティアを発見し合流した。

 

「ウソ……ホントにアルテミスだ」

 

「あ、ヘファイストスさん、こんばんは。……こっちの人は?」

 

「ヘファイストス、タケ!」

 

ヘスティアが君付けで呼ばないということはタケさんも神なのか。

 

「タケミカヅチですよ、志貴」

 

「……なんで考えてることがわかったんだ?」

 

「分かりやすいのです。志貴は」

 

そう言って嬉々としながら駆け寄るヘスティアの後ろに続いて行ってしまった。俺とベル君とナァーザさんが今来た2人の神に会釈をする。俺だけタケミカヅチさんには「初めまして」と言ったが。他は「よお」「元気そうね」と2人は笑いかけてくれる。タケミカヅチって日本の神だよな。コメとかのこと聞いてみるか。

 

「タケの同伴は(ミコト)君か。この間はありがとう」

 

「い、いえっ、はっ、はいっ………!」

 

「ヘファイストスの子はどうしたのだ?見えないが」

 

「変わり者でね、主神(わたし)を置いて、あたりを1人で散策してるわ」

 

(ミコト)と言われた人はタケミカヅチさんの横でがちがちに緊張している人のことだろう。それこそベル君みたいに……ってベル君が「良かった、同士(なかま)がいた」みたいな顔してる。

そこから先はアルテミスの身の上話となり、男性眷族についていろいろ聞かれていた。主にヘスティアとヘファイストスの質問だけに答えていたように思うが気のせいだろうか。タケミカヅチさんはアルテミスが無理だと判断して俺に聞きにきた。Levelとか極東出身なのか、とかだ。

俺もタケミカヅチさんにコメについて聞こうとしたところ後ろから大きな声がして振り返る。

 

「——やぁやぁ、集まっているようだね!オレも混ぜグハっ??!!」

 

近づいてきた知らない人はアルテミスの拳によって3メートルほど後方に吹き飛ばされた。綺麗に決まったなぁ…

 

「あ」

 

「あ、じゃないぞアルテミス!!何をするんだっ?!」

 

「いえ、貴方(汚物)が視界に入ったので」

 

ちなみにタケミカヅチさんは殴られた人の顔を見るなり、げっ、と嫌そうな顔をしていたので苦手なのだろう。

そして今も続くアルテミスと殴られた人との言い争いを見て寄ってきた眼鏡の女性が「ヘルメス様、もっと声を下げてください……」と諫言しながら溜息をついていた。

察するにこのヘルメスさんは神なんだろう。そいや、湯浴みを覗かれたという話を聞いたときヘルメスが先陣切ってたとかなんとかいってたな……

そして付き添いの眼鏡の女性。……カレーとか好きかな。てかカレーあるのかな

 

「何でお前がこっちに来るんだ。今まで大した付き合いもなかったろうに」

 

「いてて……おいおいタケミカヅチ、ともに団結してことに当たったばかりじゃないか!オレだけ仲間外れにしないでくれよ!」

 

どこか胡散臭い。どっかの番外位(裸ワイシャツ)みたいだな……おい、この世界裸ワイシャツめっちゃいるな。2人目だぞ。

明るい調子で喋った後、ヘルメスさんはするりとタケミカヅチさんの脇を抜いた。

ベル君たちの前に出て、人当たりがいい笑みを浮かべる。やっぱり胡散臭い。具体的には路地裏のなんかの同盟の下っ端くらいに。絶対にトップになれないタイプだ。

ヘルメスさんはベル君、ナァーザさん、命さんを順に褒める。

 

「やぁ、ベル君!その服、決まっているじゃないか!ナァーザちゃんも綺麗だよ!」

 

「あ、ありがとうございます」「どうも……」

 

「おや命ちゃん、緊張しているのかい?せっかくの可愛い顔がもったいないぜ!」

 

「か、可愛っ………?!」

 

ミアハさんとか俺たちと違い衣装を着崩しているヘルメスさんは、神達からナァーザさん達まで、片っ端から誉めそやした。最後には面白いものを見つけたように命さんに近づき、手を取って、その指に唇を落とす。ボンッ!と命さんがとうとう真っ赤になって爆発した。

ガンッ、ゲシッ!とタケミカヅチさんが後頭部を殴り、眼鏡の女性が靴のつま先で蹴りを見舞う。それで懲りたかと思えば俺の方にも寄ってきた。

 

「キミがアルテミスの新しい眷族なんだって?噂は聞いてるぜ?なかなか堂に入った格好じゃな———」

 

『諸君、今日はよく足を運んでくれた!』

 

と、高らかな声が響き渡った。




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パーティでの出来事 2

こんばんは
今回も短いな、とかは言わないでくださいね。言い訳なんてありませんから


ではどうぞ


『諸君、今日はよく足を運んでくれた!』

 

と、高らかな声が響き渡った。

室内にいる全ての人達の目が向かう先、大広間の奥には、1柱の男神が姿を現している。

陽の光の色を放つブロンドの髪。まるで太陽の光が凝縮したかのような金髪は煌々とした艶がある。アルクェイドの金髪とはまた別の輝きだ。アルクェイドのは月明かりをそのまま髪の色にしたかの様な眩さがあった。

話を戻す。

口元に浮かべている笑みは眩しく、その端麗な容貌に横にいるベル君は心奪われそうになってる。背丈も高い。

……ベル君ってそっちの人だっけ?

頭の上には、緑葉を備える月桂樹の冠。

左右には男女の団員が控えていて、間違いないだろう。きっとアポロンだ。

 

『今回は私の一存で趣向を変えてみたが、気にいってもらえただろうか?日々可愛がっている者達を着飾り、こうして我々の宴に連れ出すのもまた一興だろう!』

 

宴の主催者らしく盛装するアポロンの声はよく通っていた。乗りのいい他の神達がやんややんやと声を上げ、喝采を送っている。こうしてみるといい神に見えるが、アルテミスとヘスティアの間には何があったんだ?

 

『多くの同族、そして愛する子供達の顔を見れて、私自身喜ばしい限りだ。——今宵は楽しき出会いに恵まれる、そんな予感すらする』

 

それから口上に耳を貸していると、不意に。

賓客を見渡していたアポロンの視界が、こちらを射抜いた。正確にはベル君も、だが。

 

(………?)

 

「なぁ、ベル君。アポロンとかいうやつ、こっち見てなかったか?」

 

「やっぱりですか。一瞬見られたような気がしたんですよね…」

 

ベル君と話すも意図は読み取れず、2人揃って自分たちの後ろに顔を向けて、顔を戻す。後ろの人ではないようだ。アポロンは俺たちなんかてんで気にしてないように見向きもせず、挨拶を続けていた。

………【アポロン・ファミリア】とはいろいろあったから、少し神経質になっているのかもしれない。俺たちはさっきの視線をひとまず気のせいだと切り捨てた。

 

『今日の夜は長い。上質な酒も、食も振る舞おう。ぜひ楽しんでいってくれ!』

 

その言葉を最後にアポロンは両手を広げた。

同調するように、男性の神達を中心にして歓声が上がる。沢山の人が洒落(しゃれ)たグラスを掲げ合い、たちまち大広間は騒がしくなった。

 

「で、アルテミス。どうすりゃいいんだ?」

 

「本来ならアポロンと話しておいた方がいいのでしょうが、構わないでしょう。彼奴ですし」

 

「そんなに嫌いか」

 

「それに、話しに行くにしたって後の方が良さそうだ。ほら、どうやら忙しいようだし」

 

アポロンの方をみてヘスティアが言う。

酒場の一件で禍根を残すことをしたくないと俺は思っているが、確かに【アポロン・ファミリア】は忙しそうだ。同一の制服を纏った団員達は給仕役を務めていて、主神であるアポロンも挨拶回りがあるのか多くの神達に囲まれている。話しかけるのも、あれでは骨が折れる。

ヘスティアの言う通り、もうちょっと時間をおいた方がいいかもしれないな。

 

「ま、せっかく来たんだし、パーティを楽しもうじゃないか。美味しい料理でも食べようぜ、ベル君」

 

「あ、はい」

 

そういってミアハさん達の輪に加わった。既に酒飲んでる人もいる。

はい、とナァーザさんにグラスを渡されて、しばらくいろいろな人と歓談することにした。

とりあえずさっきガチガチに緊張していた(ミコト)さんに話しかけて、簡単に自己紹介をする。Levelを言うと案の定『Level6ぅぅぅぅぅうぅぅうぅ???!!!』と驚かれた。何回目だよ……

命さんはタケミカヅチさんの【ファミリア】だけあって極東出身らしい。俺もそうなのかと聞かれて『両親がそうだが行ったことはない』と言って嘘をついた。少し心が痛むが仕方ないだろう。第二魔法なのか知らないが、全く別の世界に来てしまったんだから。

ちなみにコメはあるらしい。

そのあと、ナァーザさんと話してからまた命さんのいた所に戻ろうとすると、Level6ということを聞いて噂の【月の女神の男】か!と神々から怒涛の勧誘を受け、それをやんわり断りながら、命さんのいた場所に戻ると、ベル君が話していた。

 

「あの、(ミコト)さん。18階層ではありがとうございました。たくさん助けてもらって………」

 

「い、いえっ。自分は何も……」

 

俺と話していた時より少し落ち着いたのか、命さんはどもりつつも返事をする。さりげなく、2人の輪に入って話を聞く。

命さんは概要程度しか聞いていないが、前に起きた中層?での事件でダンジョンから帰ってこないベル君を探す探索隊に参加したらしい。

 

「ベル殿こそ、お見事でした。あのような事態に陥っても果敢に階層主へ挑み、最後にはご自分で決着まで……恥ずかしながら、あの光景には心が浮き立ってしまいました」

 

これは志貴勘違いだが今の話を聞いて18階層に迷宮の弧王(モンスターレックス)がいるのだと思ってしまっている。本当は17階層だが本当に概要しか知らないので仕方ない。

 

「あ、あれは僕1人の力じゃないというか、1人じゃ何もできなかったというか……」

 

命さんがしみじみ話すのでどんなんだったのだろうかと興味が湧いたが、ベル君が謙遜する。

2人が譲り合っていると、同時に笑みがこぼれた。

 

「………ベル殿。何かありましたら、いつでも声をおかけください。微力ながら助太刀します」

 

「命さん……」

 

桜花(オウカ)殿も千草(チグサ)殿も、ベル殿達の力になりたいと願っています。無論、自分も」

 

「えっと、それじゃあ………命さん達も何か困ったことがあったら、呼んでください。力を貸しますから」

 

それを聞いて命さんは破顔する。

すっと手を差し伸べて、ベル君は頰をかいて照れながら、しっかりと握り返す。

 

「伝聞ですが、ベル殿の成長には眼を見張るものがあると聞き及んでいます。何か強くなる秘訣はあるのですか?」

 

「ベルは改造人間、私お手製のヤバイ薬を飲んで、日々薬物強化(ドーピング)している……」

 

「嘘言わないでくださいよ?!」

 

「嘘じゃないぞ。かくいう俺も昨日ベル君の薬物強化(ドーピング)の瞬間を目撃してる。」

 

「だから!!嘘言わないでくださいってばぁ〜〜?!」

 

ナァーザさんも交えながら会話を楽しむ。

しかし、『神の宴』には格式ばったこともないらしく、ある神達は口を大きく開けて笑い声を上げている。

和やかなこんな雰囲気はかなり好きだったりする。




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パーティでの出来事 3

こんばんは
もっと早く始められたら文字量増やせたんですが、これ以上やると今日投稿できないので………


ではどうぞ


「あの、この建物って【アポロン・ファミリア】の所有物……ホームなんですか?」

 

不意に、ベル君がそんなことを口にする。そういえばそうだ、こんなでっかい宮殿が買えるほど冒険者ってのか稼げるものなのか?

 

「いえ、違います。この施設はギルドが管理している公的な物件です。必要があれば、【ファミリア】や商人達に貸し出しを行っています」

 

ベル君の疑問に、眼鏡さんが答える。俺も眼鏡だが。後から自己紹介してアスフィという名前だと知った。そっか……シエルじゃなかったか……

当然か

続いてタケミカヅチさんが口を開いた。

 

「ホームで『宴』を開く神もいるが、それはガネーシャくらいだな。普通、【ファミリア】の本拠地に他派閥の連中を招く真似しない」

 

タケミカヅチさんの説明に納得する。ガネーシャが誰だからわからないが

 

「情報とか、いろいろと盗み放題ってことか」

 

「うむ」

 

俺の言葉にミアハさんが相槌を打つ。

俺達の会話を隣に、ヘファイストスさんとヘルメスさんも四方を見渡した。ヘルメスさんはさっき、俺に何かいいかけていたが、何をいうつもりだったのだろうか。単純に服装を褒めるだけ、といった雰囲気じゃなかったようにも思う。………考えても仕方ないか。

 

「今日の『宴』はまた勝手が違うから、普段はこないような神もいるみたいね」

 

そういえばさっき、ナイフはどんな調子か、とヘファイストスさんに聞かれてようやくアルテミスにナイフの説明をしていないことに気づいた。隣にいたヘスティアも招待状のことでゴタゴタしていて聞くタイミングがなかったらしい。かくいうヘスティアは【ヘファイストス・ファミリア】の店でヘファイストスさんに続いて奥に入っていく俺を目撃してるのだ。なんだったのか気になったのだろう。

ヘファイストスさんには言わなかったが、アルテミスとヘスティアには元いた世界で見たことあるナイフだったと説明したものの、なぜそんなことを忘れていたのだっ!とアルテミスには罵られた。

 

「ああ。アポロンも面白い計らいをするなぁ」

 

ヘファイストスさん達の話を、ちらりと(うかが)う。

一つ気になっていたことがある。せっかく、神達がいるのだし聞いてみるのもいいかもしれない。なにせアルテミスやヘスティアは話してくれなかったのだ。アルテミスは言わずもがな。ヘスティアは端切れが悪そうにするばかり。俺は聞いてみることにした。

 

「あの……アポロンさんって、どんな神なんですか?」

 

「ん、気になるのかい、シキ君?それにベル君も」

 

ヘルメスさんの言葉にベル君の方を見ると、『セリフを取られた』みたいな顔をしている。つまりベル君も同じことを聞こうとしてたんだろう。

俺はは「はい」とヘルメスさんの言葉に頷きを返す。

橙黄色(とうこうしょく)の両目を弓なりに曲げて、ヘルメスさんは口を開いた。

 

「面白いやつだよ。オレは天界から付き合いがあるけど、見てて飽きない。他の神々からはよく笑い種にもされている」

 

見た目に反してそんなやつなのかと、意外に思った。ベル君もそうだったみたいで俺達は揃って目を点にしてしまう。

 

「とにかく色恋沙汰には話題がつきないやつでね。冒険者でもないのに【悲愛】(ファルス)なんて渾名(あだな)をつけられるほどにさ」

 

悲愛(ファルス)?悲恋じゃなくってか?

何だよそれ、結局よくわからないな。

 

「恋愛に熱い神、ってことさ。なぁ、ヘスティア?」

 

「知らないよっ!」

 

「やめなさい、ヘルメス。それはヘスティアの黒歴史です」

 

いつの間にか背を向けて食事——食い溜め——をしていたヘスティアは、ニヤニヤしているヘルメスさんに叫び返す。アルテミスも口を開くがヘスティアとアポロンの間に何があったのかは察せない。料理を食べてるヘスティアの背中はどことなく不機嫌だが、一体何があったんだよ……

 

「後は、そうだな——執念深い(, , , ,)

 

「は?」「え?」

 

なんだよ執念深いって。

何処の番外位(裸ワイシャツ)だよ。てか本当に裸ワイシャツ多いなこの世界。流石にラスボスなのに扱いがモブみたいなやつはいないだろうけどアイツに次ぐ何かを感じる。

どういう意味なのか尋ねようとした、直後。

ざわっっ、と広間の入り口から起こった大きなどよめきに、俺の声は遮られた。

 

「おっと……大物の登場だ」

 

音の出どころを見つめて、ヘルメスさんがおどけるように言う。

俺も人込みの奥に視線を飛ばすと——何が騒ぎの原因になっているのか、一瞬で理解した。

衆目を根こそぎ集めているのは、巨身の獣人を従えた、銀髪の女神だった。

見ただけでわかった。前に感じた視線の主だ。……こう言っちゃなんだが、あんな美人でも視姦の趣味なんかあるんだな………

 

「大まかあっているとは思いますが、いくらなんでも視姦なんて言わないであげてください。流石に可哀想ですよ、志貴」

 

「だからなんでアンタは俺の考えが分かるの!?」

 

「フレイヤ、【フレイヤ・ファミリア】の名前は説明したでしょう?」

 

あ、無視ですか……

しかしフレイヤ、か

確かに聞いたな

【ロキ・ファミリア】と並ぶ最強派閥……だっけか

都市最強のLevel……7?がいるはずだ。

多分だがアレだ。後ろにいる大男。動物の耳があるし獣人だ。………ネロ・カオスを思い出すな。体から動物出てこないかな、なんかゴツイし

しかしアレがフレイヤ……

なんとなく、『さん』を付けるのは憚られる。

フレイヤの登場を境に、場は一気に盛り上がった。それほどまでに彼女は美しい。

銀の髪を持つ美貌も、大きな胸やくびれた腰を閉じ込めた天の衣のようなドレスも、一つ一つの動作でさえも、沢山の視線を釘付けにしている。しかし俺は———彼女より美しい女性を知ってる。だから大した驚きはなかった。

 

「———ぬっ!?」

 

突如料理を貪っていたヘスティアのツインテールが震えた。ヘスティアはガッ!とこちら側——ベル君の方——を向き、勢いよくベル君に向かって突進し、飛びつく。

 

「フレイヤを見るんじゃない、ベル君!!」

 

「へあっ!?」

 

素っ頓狂な声を出すベル君。

 

「子供達が『美の神』を見つめると、たちまち虜になって『魅了』されてしまう!」

 

ベル君とヘスティアが取っ組み合いみたいになっている。

 

「ヘスティア!!場をわきまえなさいッ!」

 

2人の取っ組み合い?は一瞬で終わった。

我が主神『恋愛アンチ』によって……




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パーティでの出来事 4

こんばんは
中途半端かもしれませんが、出さないよりはましかなって

ではどうぞ


『美の女神』———神も下界の者も、万人を例外なく『魅了』してしまう、美そのものとも言える超越存在(デウスデア)らしい。

ヘスティアの言葉を裏付けするように、各派閥の団員は口を開いてフレイヤに魅入っていた。性別は関係なく、魂が抜けたかのように立ち尽くしている人もいる。

横でナァーザさんも、いかんいかん、と首を振り、(ミコト)さんは顔を赤くして呻いていた。

アスフィさんに至っては最初から視線を明後日の方向に飛ばしている。賢いな。

 

「ガネーシャの『宴』から続いて2回目………フレイヤがこうも(おおやけ)に顔を出すなんて、本当に珍しいわね」

 

「そうなんですか?なんか、こういうパーティ的なものに慣れてそうな雰囲気ですけど」

 

「それはさすが『美の女神』ってことね。どんなところでも堂々としてるのがフレイヤだもの。」

 

「普段フレイヤ様は『バベル』の最上階にいて、人前には全く出てこないんだよ。男神の中には彼女を拝みたいがために、一縷の望みを賭けて『宴』へ足を運ぶやつ等もいるくらいだ」

 

ヘファイストスさんの呟きに質問したらヘルメスさんも補足というかで説明してくれた。

ちなみにベル君とヘスティアは2人揃って正座して『恋愛アンチ』から説教を受けている。俺は他人のふりをしながら背を向けた。

 

人前には現れない………確かにこうまで人の注目をかき集めては、滅多に出歩くこともできないだろう。フレイヤが外出を嫌っているだけという可能性がないわけじゃないが、迂闊に外出すればその度に混乱が起きるに違いない。それが『魅了』の力なのかフレイヤ本人の魅力なのかは知らないが。

そをなことを思いながら、男神に囲まれるフレイアをぼーっと見ていた。

 

「——」

 

その時、銀の瞳がこちらを捉える。

ぴたりと動きを止めたフレイヤは、じっと俺を見つめていたかと思うと……微笑んだ。

コツ、コツ、と靴を鳴らして歩み出す。見えない壁があるかのように彼女の前からは人込みが散り、道がどんどん開けていく。この時点でお察しだが、獣人の従者を引き連れる女神は、間もなく俺達の前で足を止めた。

 

「オラリオに来ていたのね、アルテミス。久しぶりね。ヘスティアにヘファイストスも。神会(デナトゥス)以来かしら?」

 

「………お久しぶりです、フレイヤ。何をしに来たのですか?」

 

にこやかに挨拶をするフレイヤに対し、アルテミスは敵意丸出し、とまではいかないにしても交友的でない挨拶を返す。

「元気そうで何よりよ」とヘファイストスさんが、「何しに来たんだい?」と身構えながら言うヘスティア。

 

「別に、挨拶をしに来ただけよ?珍しい顔ぶれが揃っているものだから、足を向けてしまったの」

 

そう言って、フレイヤ様は男神達に流し目を送った。

蠱惑的なその視線に、ヘルメスさんはあっという間にデレデレし出し、タケミカヅチさんは軽く赤面しつつ「おほん」と咳払い、ミアハさんは「今宵もそなたは美しいな」と普通に褒めた。

直後、眷族である女性達に足を踏まれ抓られ打撃される神達。「ぐあっ?!」「うっ!?」「ぬおっ!?」と悲鳴が飛んだ。一歩退してしまう。

ベル君の方に視線が向いて少し固まったかと思うと、思いの外早く視線は移動し最後であろう俺で止まる。

吸い込まれそうな瞳にごくりと喉を鳴らしてしまうと、フレイヤは笑みを深めた。その瞳はなんだか俺なにかを見とうしているような気がして気分が悪い。

自然な動きですっと手を差し伸べ、頰を撫でてくる。避けることもできたが、男神達の視線もあって避けたら面倒な気がした。避けなくても面倒だが。

 

「——貴方、素敵ね。あの子のように透明で輝きを見たくなるような色じゃない。貴方ならきっと神の試練もどんな怪物も飲み込んでしまう——いいえ、殺してしまう。まるで死神のようなのに、美しくて、残酷で、鮮やかで、こんな魂二つと無い。唯一無二の輝き。もしかしたらあの子の輝きが完成したときよりずっと…………ねぇ」

 

フレイヤはチラッとベル君の方に目を向ける。

 

「——今夜、私に夢を見させてくれないかしら?」

 

「——見せるものかッ!」

 

それはフレイアにかけられた言葉ではなく、俺。

声の主はアルテミス。

アルテミスはフレイヤに吠える。

アルテミスは沸点が頂点に達したら普段の丁寧な口調が抜ける。どっちが素だか知らないが多分両方素だとおもっている。

そんなことはともかく、アルテミスは頰に添えている手をはたき落として、赤面しつつ言う。これで、ヘスティアとかなら激昂するだろうが、アルテミスは良識ある神だ。そのようなことはしなかった。

 

 

「志貴、なに顔を赤くしているのですか。」

 

その言葉にはどこか怒りがこもっている気がする。俺は被害者だと思うんだが……

 

「問答は無用です。帰ったらたっぷり『話し合い』の必要がありそうですね…」

 

「ご、ごごごごめんなさい!」




短いなぁ
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パーティでの出来事 5

こんばんは
メッッッチャ短いです
あと、これからは毎日は難しいそうなんですが、なるベル早く短いのをポンポン出していく感じか、少しゆっくりになりながらも長い話の方がいいですか?もし感想書いてくださるならその時教えてください。

ではどうぞ


「あら、残念」

 

一方でフレイヤがおかしそうに微笑んだ。

アルテミスと俺の問答を一頻り楽しんだ後、あっさりと身を引く。

 

「アルテミスの機嫌を損ねてしまったようだし、もう行くわ。それじゃあ」

 

固まる俺達を置いて、背を向ける。「オッタル」と側にいた従者に声をかけ、彼女は歩み出した。従者——2メートル(この世界ではM(メドル))を超す猪人(ボアズ)に一瞥されるが無視して、俺はフレイヤの後ろ姿を目で追う。

美しい銀の長髪は、再び人の群れに囲まれながら、ゆっくりと遠ざかっていった。

 

「———早速、あの色ボケにちょっかい出されたなぁ」

 

嵐が過ぎ去ったような間を置き、誰もが口を開かないでいた時。

今度は別の方向から声がかかる。

驚きながら振り向くと、男性用の正装をした赤い髪の人と薄い緑色を基調にした美しいドレスを見に纏った、金髪金眼の少女がいた。

 

「———」

 

不意に、その髪に目がいく。アイツとは色の質が違うが同じ金髪。

 

「ロキ!!」

 

「よぉーアルテミスー。久しぶりやなー。ドレス着ててめっちゃ可愛いやん!」

 

俺は意識を切り替える。さっきの男かと思ったが、声を聞く限り女のようだ。態度から察するに神だろうし。

 

「………!?」

 

ベル君はその金髪の女性を見て赤面する。

 

「いつの間に来たんだよ、君は!?音もなく現れるんじゃない!」

 

フレイヤの時のようにヘスティアが吠える。

 

「うっさいわボケーー!!意気揚々と会場入りしたらあの腐れおっぱいに全部持っていかれたんじゃー?!」

 

どうやら2人は今来たところらしい。フレイヤとのやり取りがあって、広間へ入室したことに気づけなかったのだ。

2人はまるで令嬢に付き従う護衛のような、主従逆転した絵はとても様になっていた。

何故だろうか。全く似てないのにどことなくアイツ……アルクェイドを思い出してしまう。金髪金眼少女。

その少女とベル君。

男装女神とアルテミスとヘスティア。

二つのグループで話が始まってしまい取り残される。

1人でぼーっとするのもどうかと思って、ナァーザさんや(ミコト)さんと話す。

 

「2人とも、あの2人って誰なんですか?」

 

あの2人とか金髪金眼少女と男装女神のことだ。

 

「シキ……知らないの?」

 

「ええ、世界に名を轟かせているものだと思っておりましたが、シキ殿はご存知ありませんでしたか」

 

一呼吸置いて

 

「彼女はアイズ・ヴァレンシュタイン殿。オラリオ最大派閥、【ロキ・ファミリア】のLevel6にして、【剣姫】の二つ名を冠する第一級冒険者です」

 

「【ロキ・ファミリア】?ならあの男装女神がロキなのか。……なんで男装なんてしてるんだろうな?」

 

「それは自分にも……」

 

「それにしてもなんでシキ知らないの?………極東の方にはオラリオの話があまり流れていない……とか?」

 

「…………そうですね、俺のいたところだとあんまり」

 

「確かに自分のいた地域でもそうでしたね。全く聞かないというわけではありませんでしたが」

 

なんだか、いい感じに誤解してくれたので心苦しいが乗っておく。

やがて、その【剣姫】と言われたアイズさん——ヴァレンシュタインさんとロキさんがこちらに寄って来た。




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パーティでの出来事 6

お久しぶりです。遅れてすみません汗
そのくせ長くないです泣
唐突ですけどこの作品、ベル君不遇かも


ではどうぞ


「こんばんは、ヴァレンシュタインさん、ロキさん。俺は遠野……」

 

そこまで言って思い出す。この世界では英国みたいに名前が先で苗字が後だ。この人たちは俺の出身地を極東の方だと気付いていないかもしれないし、ここは反対にした方がいいか

 

「シキ・トオノです。よろしくお願いします」

 

朱色の髪をした神、ロキ。

トリックスターなんて呼ばれていたこともあったらしい。下界に来てから人が変わったという話をアルテミスから聞いた。

 

「ふむ、その少年がアルテミスたんの眷族()か……」

 

ロキさんが俺をじっと見てくる。品定めのように。

朱色の瞳に凝視され、ジロジロと無遠慮に見られ、少々居心地の悪い時間が流れた。

 

「ふーん、中々肝が据わってるやん。ドチビの眷族()よりは評価できるなぁ」

 

何やら知らないが俺は合格らしい。

後ろの方で「なにをぉ?!」と言う声が聞こえるが無視しよう。

………無視できなかった。アイツ、ヘスティアがこちらにやって来た。

ピクピクと頰を痙攣させている。

そしてビッシッとロキさんを指差した。

 

「前のように直接言い争っても勝てないと知って、今度は眷族(こども)自慢かい!?あーやだやだっ、浅はかで見苦しい!」

 

パーティの料理を食い荒らしてたヤツの言うセリフではない。

 

「———あァん?」

 

ピキッ、とロキさんの顔に青筋が走る。沸点低いなぁ……

とりあえずこの二柱(ふたり)は見なかったことにしよう。

取っ組み合いになるような勢いで口論を始めた二柱(ふたり)をみてまたか、とヘファイストスさんがげんなりする。聞いてみればさっきまでは別のことで言い争っていたらしい。

ミアハさんも空々しい笑みを作り、ナァーザさん達は口を半開きにしていた。ベル君は唖然を通り越して絶望じみた顔をしている。そりゃ自分のとこの主神が口論始めたらな……頑張れ

その光景を見て他の神達がぞろぞろと集まって来た。

『今回もやって参りました』『祭りだ』『見ものだな』などと野次が飛んでいる。ヴァレンシュタインさんとベル君がなだめに行き、ヘルメスさんの仲介もあり、なんとかことなきを得る。

ヘスティアはベル君を連れて流れでどこかに行ってしまう。

もう片方の方も何処かに行くものかと思ったらそうではないようで、俺の方に戻って来た。

 

「ふー、ふー、……………ほんで当初の目的を忘れてたやないかい!!あンとドチビ!!………そんでシキ、話があるんやけどちょっとエエか?」

 

やっべ絡まれた。

 

—————————————————————

 

「はぁ……つまり、【ロキ・ファミリア】のホームに泊めてくれる、と」

 

俺はロキさん、ヴァレンシュタインさん、アルテミスのふたりと二柱(4人)で話している。

 

「ええ、ヘスティアに頼りきりではまだ、始まったばかりの彼女や彼の生活に余裕がなくなるかもしれませんし」

 

理由はわかる。確かにそれなら当分家を買うまでお世話になるつもりだった【ヘスティア・ファミリア】に迷惑はかからない。もっと言えばウチにはレンもいるのだ。今回のパーティでは眷族は1人というルールからアイツを連れて来ることはできなかったが、レンだって女の子なわけだし、ぎゅうぎゅうの空間に男ふたりと女神二柱と一緒というのは猫の状態でも苦かもしれない。

だから俺に断る理由はない。

 

「それにな?お前さんはオラリオ外から来た『Level6』や。弱小ファミリアじゃ庇いきれへん」

 

「庇う?」

 

「ああ、そうや。外から来たLevel6 これだけでも大騒ぎやのに、其奴が優しそうな少年となれば勧誘したら靡くかもしれない、なんて考えるやつらが出て来てもおかしくない」

 

世界1の都市で勧誘騒ぎとなれば暴力的な手段を用いる輩だって出るかもしれない。それをどうにかするためだとアルテミスは言う。

 

「トオノ……さん」

 

「?えっと、ヴァレンシュタインさん?」

 

実はまだ自己紹介をしていないため、ぎこちない返事を返してしまう。

 

「志貴、でいいですよ、たぶん同じ歳ぐらいだし、敬語も使わなくていいし」

 

「……なら私もアイズでいいよ。よろしくシキ」

 

俺も敬語はいいかと考えて普通に答える

 

「ああ、よろしく」

 

「人格に問題があるわけじゃなさそうやし、ウチの眷族()に合わせても問題なさそうやな」

 

ところでアルテミスからアイズさん……アイズ、もとい【剣姫】は戦闘狂だと聞いたような……

 

「シキが私達のホームに来るなら、その時は……戦ってみたい」

 

本当に戦闘狂なのか……

マジかよ、なんて答えればいいんだ?

 

「ま、まあ……その、うち……な?」

 

「うん、絶対」

 

めっちゃ目が輝いてる………

戦闘狂って……銭湯狂じゃだめなのか……

いや、それはそれで怖いな。

 

「それで志貴。流石に善意だけ、というわけではありません。条件というか、やって欲しいことがあるらしいです」

 

アルテミスが言う。

8人と同時デートとかじゃなければいいが……

あれは死徒と戦うよりも辛かった……あれ?頭が……?

 

「………?」

 

「どうしました?」

 

「いや、なんでもない」

 

さっきまでなに考えてたんだっけ?まあいっか

 

「それで、ロキさん

やって欲しいことってなんですか?」

 

「ああ、それな。簡単なことや。ウチの【ファミリア】に協力して欲しいんや」

 

それはあまりに大雑把というか、適当な言い方でイマイチ容量を掴まない

 

「協力?」

 

「ウチらみたいな大手の【ファミリア】はギルドの方から街の支援活動をやらされることがよぉある。それはまぁ、街でもトップの武力を有しているわけやから当然っちゃあ当然やな。そしてもう一つ。『遠征』や。」

 

「遠征?」

 

オラリオの外にでも行ってモンスター退治でもするのだろうか

ん?でも外のモンスターはあまり強くないって聞いたな。実際そうだったわけだし、そうするとわざわざレベルの低い場所に行くより、ダンジョンに行った方がいいんじゃないか?

 

「その顔だと知らないって感じやな。オラリオの冒険者の言う『遠征』はな、ダンジョンに潜るんや」

 

ん?ダンジョンに潜るだけなら冒険者はいつもやることだろ?そうすると……

 

「そうや。それこそ大人数でダンジョンを泊まりがけで攻略する」

 

「……なんのために?」

 

「そりゃあ、『冒険』するためやろ。

まあ、それだけやないで?ギルドから採集のクエストを受けたりとかダンジョンのさらに先に進んだりするためやな。」

 

「さらに先?」

 

「そうや。ダンジョンは今は別に1番奥まで隅々探検され尽くされたわけじゃないんや。まだまだ謎が深い。行けてない階層がある。そこに行くために遠征してるんや」

 

「なるほど……でも俺。戦うのはあまり好きじゃないんです。なにぶん冒険者になる前は貧弱体質だったもんで、何事も無駄なく穏便に済ませたいんです」

 

「ぬ、流石にこれだけ聞いたらあんまりやりたいとは思わんよなぁ……

しっかし戦うのが好きじゃないねぇ」

 

もっと言えは魔眼の行使のしすぎは冒険者になったから問題ないわけじゃない。体が強くなっても俺は『死』を理解してるわけじゃないんだ

俺と大先輩の違いはそこだ。

大先輩はなんでか知らないが、俺より魔眼保有者として優れていた。俺みたいにたまたま手に入れてしまったのではなく、持つべくして生まれたのだろう。詳しい事情は知らないが

 

「じゃあ、こう言ったらどうや?

 

お前さんとこの『特殊なお嬢ちゃん』も庇う……守っちゃる」

 

「!」

 

特殊なお嬢ちゃんとはレンのことだろう。確かにこの世界では特殊だ。

それを言ったら俺もだが、レンはその外見もある。可愛いだけならまだしもアイツの耳はすこしとんがっているのだ。なにも知らない奴が見たらハーフエルフに見えるだろうが、エルフが見たら気づくだろう。そんな未知な存在が見つかったときどうなるか……アルテミスはそれを危惧したらしい

というか

 

「……アルテミスから聞いたんですか?」

 

アルテミスに視線を向けるが概要はなにも言ってないと同じく視線で返される

 

「安心せい。特殊な子がいるって聞いただけやから。しかし、娯楽好きな神に見つかったら何されるか分からんなぁ?」

 

煽るように、俺に訴えかける。

事情を説明するかは別にして、ここは大人しく勧誘、というか協力するべきだろう。やたらデメリットがある気がするが気のせいだろ

それに俺やレンはなんでこの世界に来たのか全くわかってないんだ。

それを知るためにもいろいろ情報の入りそうな大手【ファミリア】にいることはプラスだと思う。

 

「分かりました、俺は———」

 

 

——————————————————————

 

「ところで、【ロキ・ファミリア】って大手なわけだからかなり団員いるんだよな?」

 

「うん……ホームもおっきい。館って言ってるけど、あれはお城……」

 

「城?」

 

近くに想像しただけで城作るような奴がいたので、どのぐらいの大きさなのか気になった。

 

「丁度ここからも見えるよ」

 

アイズが近くにあった窓の方に近づいて、指を指す。

 

「どれどれ……」

 

俺も窓の方を除く。

そうしたら、街の端の方——方角は北——に一軒馬鹿でかい家、というか城がそびえ立っていた。

 

「ほ、ほんとに城だ……」

 

城というにはすこし小さいかもしれないが、それでも今住んでいる廃教会の何倍もデカイ。

 

「アレ、【ファミリア】の全員住んでるのか?」

 

「うん、大体は」

 

「すごいな……」

 

ほんと団員何人いるんだよ

 

「あんなところに住んでるんならやっぱり食事とかも豪華なものなの?」

 

「ううん。料理人の人を雇ってるし美味しいけど、豪華って訳では無いと思う……」

 

「へぇ……アイズは、何か好きな食べ物とかあるのか?」

 

「ジャガ丸くん」

 

ものすごい勢いで食いついて来た。

目がキラキラしている。そりゃもう凄くキラキラしてる。よっぽど好きなんだろうな……

さっきからあまり表情の変化が無いからもしかしたら嫌われているのかとも思ったが、表情が乏しいだけなのだろうか

とはいえじゃが丸くんは聞いたことがある

 

「じゃが丸くんって、屋台とかにあるやつだろ?なんだか何処かのお嬢様みたいだと思ってたけど、案外庶民派なんだな」

 

「庶民派……そうかも知れない……

でもじゃが丸くんは美味しい」

 

彼女が着ているドレスは凄くよく似合っている。それこそ、冒険者らしさなんて全くなくって、何処かしらの令嬢と言われた方が納得できてしまう。

しかし、さっきの戦って発言と、好きな食べ物のことでアイズもやはり冒険者なのだと分かった。

 

「良かったら今度食べに行こうな。奢るからさ」

 

「………うん」

 

すこし微笑んだ。

その顔がやたら魅力的で赤面してしまったのは仕方ないだろう。

それからしばらくじゃが丸くんの話を聞いて会話を楽しんだ。

 

 




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パーティでの出来事 7

連続投稿です。
6、7で合計したらまぁ、きっとそれなりにあると思いますので、許して泣


ではどうぞ


それからはアルテミスの知人だという神に挨拶をして回った。

アルテミスのファミリアが一度崩壊しているということは臭わせず、なぁなぁにはぐらかす型になったが。

無論その間男神に話しかけてられたがその全てを罵倒によって蹴散らしているアルテミスの姿はまるで女王。いや女帝か?普段はそんなことないんだが……

あと、罵倒された側は喜んでるから……

 

人の良さそうな神を何人か紹介されて言葉を返す。前の世界では経験なんてほとんどないが思いのほかうまく出来たと思う。

それなりに時間が経ったので、邪魔にならないよう壁際に移動して休憩をもらった。

 

「ふぅ……貧血とかの問題は無いにしても、流石に疲れたな」

 

なんだかんだで1時間近くいろいろと回っていたわけだからな。眺めていると性懲りもなく口喧嘩を初めてアルテミスに怒られている、ヘスティアとロキさん。

 

(こんなことになるとは思わなかったな……最初森で気がついたときはサバイバル生活しないといけないと思ってたし……)

 

優雅に舞い踊る美男美女を眺めて、呟きがこぼれる。

きらきらと光り輝く煌びやかな世界。つまり昨日までいた場所とは、本当に別世界。最初森だったし。

ここにいる半数は人間で、もう半分は神。しかも人間のほうは冒険者なのだ。見る限り冒険者でも美形の人は多い。俺が冒険者に抱いていたイメージしてとはかけ離れている。自慢の眷族を連れてくるわけだから当然かもしれないが、それなりに驚きではあった。

ふと、バルコニーの方からベル君が見えた。せっかくだ。今後のこともあるし話をしておかないと……

そう思って話しかけようとしたとき、別の誰かがベル君に話しかけた。

 

「ベル君?」

 

「!」

 

ベル君は声をかけられて振り向く。

そこにいたのはヘルメスさんだった。ベル君はなにやら下の方に視線を向けている。何かいるのかな?

 

『こんなところで何をしてるんだい?』

 

『あ、いえ……別に』

 

ヘルメスがベル君の方に歩み寄る。やはりベル君はどこか挙動不審だが、ヘルメスさんは気にしないことにしたらしい。

 

『……まぁいいか。ほら、飲むといい』

 

『あ、ありがとうこざいます……』

 

ヘルメスさんが持っていたグラスの片方をベル君に差し出す。中身がなんだかわからないが、多分水だろう。

ところで、すっかり盗み聞きの体制になってしまった………

 

『ゆっくり話す機会がなかったからね。可愛い女の子じゃなくて悪いけど、いいかな?』

 

『勿論です』

 

すっかりたたずまいを直して2人は話し始める。

 

『君とヘスティアの快進撃はとどまることを知らないね。前から気にはなっていたけど、あの18階層の戦いっぷりを見て、オレもすっかり君の応援者(ファン)になってしまったよ』

 

そういえば、18階層の件はヘスティア以外にもヘルメスさんもダンジョンに入ったって言ってたな。忘れていたが、そのヘルメスはこの人のことだ。

 

『そ、そんなっ……』

 

ヘルメスさんは話すのが上手い。賞賛したり、からかったり、冗談を言ったり、今まで会ったひとの中でも上位に入る話術(はなし)

それからしばらく当たり障りのない話を繰り返していたが、ヘルメスがベル君に問うた

 

『ベル君は、どうして冒険者になったんだい?』

 

確かにベル君はそういう荒事に向いてなさそうではあるが、Level2と聞いたしきっと才能があるんだと思う。

今まで冒険者ってのを荒くれ者だと思っていた分、この街に来て、特にこのパーティでは俺の冒険者に対するイメージが崩れている。やたらオシャレな人だっているし、荒くれ者には程遠い。

それはともかくベル君の冒険者になった動機は気になる。

ベル君は恥ずかしそうに頰をかきながら口を開いた

 

『祖父が……育ての親が、亡くなる前言ってて………『オラリオには何でもある。行きたきゃ行け』って』

 

『へぇ?』

 

聞き手の受け取り方によっては変に聞こえるかもしれないがベル君の話し方にはそのようなものは感じられない。自慢のお爺ちゃんの残した言葉ってニュアンスだ。

 

『オラリオにはお金も、その、可愛い女の子との出会いも、何でも埋まってる……何だったら女神(びじん)の【ファミリア】に入って、手っ取り早く眷族(かぞく)になるのもありだって』

 

「…………ぷっ」

 

『————はははははははははっ!』

 

「ぷ……くく……」

 

意外だ。純粋そうな少年が実はただのエロガキだったとは。

でも笑ってしまったのは悪かったな。ヘルメスさんぐらいさっぱりした笑いならまだしもこういうのは良くないか。盗み聞きも良くないわけだし、あとで謝らないとな。

 

『『英雄にもなれる。覚悟があれば行け』………そう言われました』

 

田舎から来たって言ってたし、かなり悩んだ末の決断なんだろう。

 

『………ベル君の育ての親は、愉快な人物だったみたいだね』

 

『そう、ですね。面白い人でした』

 

それからはオラリオの歴史についての話になっていった。

今でこと、【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】が最大手だと言われているがつい(まえ)までは違ったらしい。

この2つの【ファミリア】が台頭したのは15年ほど前。それより前は男神(ゼウス)女神(ヘラ)が総べるニ大派閥があったらしい。ロキさん達がそれを倒していまの情勢になったとか。

しかし、ゼウス達は勢力争いに負けた、というわけではないらしい。原因はとある冒険者依頼(クエスト)の失敗。

オラリオには下界全土(せかい)から求められている3つの冒険者依頼(クエスト)がある。それを『三大冒険者依頼(クエスト)』というらしい。

『古代』と呼んでいる時代に、ダンジョンから地上に進出した力ある三体の怪物(モンスター)———その討伐依頼。

古代のモンスターがまだ生きているということに驚きを隠せなかった。

そしてゼウスとヘラの【ファミリア】は満を持してモンスター討伐に出発し、陸の王者(ベヒーモス)海の覇王(リヴァイアサン)を撃破してみせた。しかし、最後の一匹『黒竜』に敗北し、全滅した。ベル君は知っているらしく『隻眼の竜』といって物語の中に出てくるらしい。

そして返り討ちにあったゼウスとヘラを仲が悪かったロキさんとフレイヤで結託して追い出した。ロキさんってそんなことする人だったのか?やさしそうだと思ったんだがな……

そして、ギルドは味方することなく、2人の神の追い出しを見逃した。

これがいまのオラリオの状況。

オラリオについてはあれこれ聞いたが、歴史なんて初めて聞いた。いい話が聞けたし、そろそろ俺も戻るか。経験ないけど、踊ってみるのもいいかもしれない。中に戻ると未だにロキさんとヘスティアがギャーギャー喚いていた。その後ろにアイズ、少し離れたところでもう諦めたのかそれともダーゲットを変更したのか。男神数人を縛り上げている。あ、そっちのほうから『ありがとうこざいまーーす!』なんて声が聞こえた。神って神格(じんかく)者少な過ぎないか……?

ともかく、ロキさんとヘスティアの仲裁に入るかどうかオロオロしているアイズに話しかける。

 

「やあ、アイズ」

 

「あ、シキ」

 

じゃが丸くんの話で、それなりに親睦が深まるというか芽生えた様な気がしていたが、最初よりは仲良くなったと思う。それから少しアイズと話して、せっかくなのでアイズを踊りに誘うことにした。話しながらダンスを見ていたのでなんとなく出来るような気がする。

 

「アイズ、いや———淑女(レディ)?」

 

「?」

 

「瑞々しいお嬢さん?私と一曲踊っていただけませんか?」

 

周りに習って、アイズに歩み寄り、向かい合い、手を差し伸べて、恭しく(こうべ)を垂れる

アイズは頰をうっすらと染め、微笑んだ。

 

「……喜んで」

 

重ねられた細い手を握る。

指を絡ませた俺達は、ダンスホールとなっている広間の中心へ赴いた。




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パーティでの出来事 8

どうもこんばんは
ちょっとぶりですね
長くなるよう努力はしているのです。です


ではどうぞ


遠野志貴という人間の本質は世捨て人のようなものなので、根本的にこの手のことで緊張はしない。というか気にしないのだ。全くというわけではないが、一般より緊張の度合いは低いだろう。その世捨て人の考えはズボラな面もあるが、元々の素養の良さもあり、大体のことを堂々と危なげなくこなせてしまうのだ。

 

 

俺はアイズのほっそりとした腰の辺りに右手を回すと、アイズも俺の肩に手を置いた。

音楽に合わせて踊り始める。

 

「———」

 

「んんっ——」

 

なんとなくイメージはしていたがアイズはかなり不器用なようだ。根っからの剣士であろう【剣姫】のアイズには社交的な踊りは縁がなく、勝手がわからないのか。

()先導(リード)しないといけないらしい。当たり前か

それに今のちょっとで勝手は掴めた気がする。

相手の目を見る。足の向かう先を、判断を、相手の声を、瞳から察するんだ。要は駆け引き。特別な技なんてない。

相手がどうしたいかを読んで、それを踏まえた上で、自分の動きに反映させる。余談だが、志貴のすごいところは相手に合わせているようで、しっかりダンスの原型をとどめている先導(リード)だ。初めて踊る人間の出来ることではない。

 

「ほらアイズ、目を見て」

 

「わ、分かった」

 

瞳が交わる。交わったとき俺達はどちらからともなく、笑った。アイズも少しはコツが掴めたようで、

 

——右でいいかい?

 

——うん。

 

俺とアイズは揃ってステップを踏み始めた。

タケミカヅチさんと(ミコト)さんがこちらに寄ってきていたが、大丈夫だったようだと笑いながら戻っていった。コツとかを教えてくれようとしていたのかもしれない。

 

『————うぉ?!シキ?!アイズたん??!!おいっコラッ………』

 

『はぁ?何を言って……………』

 

『志貴……!!』

 

これでもしアイズのパートナーがベルだったらヘスティアは絶叫していただろうが、志貴だったから……という理由だけで絶叫しなかったわけではない。

ロキやアルテミスも同様の理由。見てしまったのだ、ふたりの踊り(, , , , , , )

 

まるで絵画を動かしているようだった。

ふたりの踊りはまさにそれだ。ふたりとも美男美女。志貴の方はやや地味めだが、充分美形だし、着飾っていることもあり、その地味さは感じさせない。

志貴は先導(リード)として紳士然とした笑顔を、アイズはそれにつられてか硬い作り笑顔ではなくはにかみながら踊っている。

ただ純粋な空気。2人を取り巻く空気はそれだ。甘ったるいわけでも冷たいわけでもない。ただ純粋に踊りを楽しむふたりがそこにいた。

そしてそれに皆が見惚れていたのだ。………数人を除いては

 

『あっちゃー……ごめんベル君。先約がいたようだ』

 

言葉とは裏腹に少し苛立ち気味の顔。決してベルの方には見えないようにしているが。

 

『い、いえ、大丈夫ですよ。それにあんな急に踊れるかどうか………はぁ』

 

心の片隅で抱いていた、好きな女性と踊れるタイミングを失ったベルは影でため息ひとつ。

 

『………オッタル、ここにミノタウロスの群れを連れてこれないかしら?』

 

『不可能です、フレイヤ様……』

 

1番やばい視姦魔(志貴命名)が何やら物騒なことを言っている。

 

—————————————————————

 

お、悪寒が………?

 

「初めて……」

 

「ん?」

 

「ダンスを踊ったのは、これが初めて……」

 

アイズの唇が動いた。

俺とあまり身長差のない彼女は、ほぼ同じ目線で話しかけてくる。

 

「子供の頃は、少し、憧れていたけど……」

 

「そうなのか?」

 

「うん」

 

意外だ。

俺はアイズのことをあまりよく知らないが、それでも出会い頭に戦ってなんていう子は踊りなんかには憧れない。

なんだか嬉しくって口元が緩んだ。

 

「だから、嬉しい……ありがとう」

 

そして笑った。

一瞬、あどけない女の子の顔をその笑みの中に見て、目を奪われてしまう。

凛々しい彼女の表情からこぼれ落ちた、幼い少女の笑顔。

気づいてしまった。

 

「———どういたしまして」

 

照れを隠しながら少し間をおいて言葉を返す。

 

多分アイズは過去に、それこそさっきの笑顔のような、あどけない女の子のとき。大切なものを奪われたのだろう。あの笑みは奪われたものの笑みだ、と志貴は直感的に理解した。

でもきっと今は必要ないことだ。今聞くことじゃないし、気にすることでもない。

俺はいま笑うことができているだろうか。分からないけど、いまはアイズの笑顔が絶えないように踊りをふたりで楽しむだけだ。

腰と肩に手を添えあって円舞曲(ワルツ)を踊る。

美しい弦楽器の調べに合わせて、金の長髪が揺れる。

ステップを踏んで俺達は、横に揺れてくるりと回る。薄暗い大広間、周囲で優雅に舞う多くの人々。

照らし出される光の下、俺は彼女と踊りながら、夢のような一時(ひととき)を過ごした。

 

 

—————————————————————

 

ダンスを終えた俺とアイズは、ダンスホールから元いたロキやヘスティアのいた辺りに戻ったら、そこにはアルテミスもきていた。

最後までリードして、手を離す。触れ合っていた箇所の感覚がまだ生きているようで俺が変な気持ちになっていると、アイズは緊張の糸が切れたように吐息をつく。

何人かの神や人に笑いかけられ、俺は少し照れながら感謝を告げた。

 

「突然付き合わせて悪かったな」

 

「ううん。楽しかったよ」

 

「はは、そっか。喜んでもらえて何よりだ」

 

そこからまた次の言葉を続けようとしたとき、アルテミスとロキがこちらに駆け寄ってきた。

 

「志貴!今度は私と一緒に踊りましょう」

 

男嫌いなら俺達のダンスなんてやらないと思っていたが、どうしたんだ急に。

 

「アイズたんもうちと踊ろー!!拒否権はなしやァ!」

 

ロキさんもそうだが、この2人目が怖い。俺とアイズ。2人揃って捕まってしまった。

しゅぱっと光の速さで身だしなみを整え、鷹揚に手を差し出してくる。

断れる訳もなく、苦笑する俺が応じようとすると———。

 

「——諸君、宴は楽しんでいるかな?」

 

主催者である、アポロンさんが登場した。

従者達とともに俺達のもとへ足を運び、正対する形になる。

いつの間にか舞踏の演奏は止まっており、その声は思いのほか響いた。いや、これはきっと意図的(, , , )なものだろう。そうするといまからアポロンさんはとんでもないなにか(, , , )をするつもりなんだろう。

 

「盛り上がっているようなら何より。こちらとしても、開いた甲斐があるというものだ」

 

俺達が動きを止める中、他の招待客も自然と集まり、アポロンさんを中心に円ができあがる。

適当な言葉を並べた後、月桂冠を被る男神はアルテミスとヘスティアに目を向けた。

 

「遅くなったが……アルテミス、ヘスティア。先日は私の眷族()が世話になった」

 

「………いえ」

 

アルテミスは心底話すのも嫌そうに

 

「………ああ、ボクの方こそ」

 

笑みを浮かべているアポロンさんに、ヘスティアは返事をしつつ怪訝な表情をする。

ひとまずことを荒立てないようにヘスティアが話をつけようとすると。

男神は最初からみなまで言わせず、発言を被せてきた。

 

私の子は君の子に重傷を負わされた。(, , , , , , , , , , , , , , , ,)代償をもらい受けたい」

 

次には、そう要求される。主に俺とアルテミスに。

首を傾げて顔を見合わせる俺とベル君。アルテミスもそのときの状況を聞いているため、今の発言にはポカンとしてしまっている。その中ヘスティアだけはサーっと血の気が引いていた。

気づいたのだ。話を聞く限り手を出しても傷を負わせたのは志貴のみ(, , , , )ということに。

後からのち3名が気づく。ヤバイ、と。

割とこっちが悪いぞ、と。冷や汗をダラダラとだす2人と2柱(よにん)

 

「私の愛しいルアンは、あの日、目を背けたくなるような姿で帰ってきた……私の心は悲しみで砕け散ってしまいそうだった!」

 

……ん?と現場にいた目撃者(ベル)実行犯(志貴)は思った。

 

まるで演劇を見ているかのように、アポロンさんは胸を押さえ、かと思うと両腕を広げて大げさに嘆く。左右に控えていた従者達は泣く素ぶりを見せ、極めつきによろよろと俺達の側に歩み寄ってくる影があり「あぁ、ルアン!」とアポロンさんはソレに駆け寄った。

ルアンと呼ばれた小柄な影、小人族(パルゥム)の団員は………全身を包帯でぐっるぐる巻きにしたミイラ状態で、呻いた。

 

「痛えぇ、痛えよぉ〜」

 

「……志貴とクラネルの話によれば、団長以外の一緒に来ていた【アポロン・ファミリア】の団員は志貴に睨まれただけで気絶したと聞いています。あなたのそれは明らかな言いがかりです」

 

「いいや、こっちには証人もいる」

 

パチン、と指を、弾くと、俺達を取り囲む円から複数の神とその団員が歩み出てくる。

証人……あのときいは酒場の客?俺は顔なんざ覚えていなが、都合が良すぎる。

しかし、其奴らは、口を揃えてアポロンさんの言葉を肯定し、そして低劣な笑みを浮かべた。

嫌〜な予感が胸の中に芽生えた。

 

「待ってくれ、アポロン!?あのときシキ君はボクのために怒ってくれたベル君の代わりに行動してくれたんだ!!アルテミスだけを責めるのは筋違いだよ!?」

 

「ああ、だからヘスティア。キミはあとで(, , , )代償を払ってもらう。」

 

なっ?!っと戦慄しているヘスティアを目尻に志貴は動く。

 

「おい、アンタ。ルアンって言ったか。」

 

「痛えぇ〜……ん?な、なんだよ……」

 

志貴はルアンに話しかけた。

酒場でヘスティアを馬鹿にしていて俺がナイフを突き立てた小人族(パルゥム)だ。

 

「アンタ……傷を見せてくれないか(, , , , , , , , , , )?」

 

「へ?」

 

何を言っているのか分からないと言った顔をされる。しかし、志貴は構わず続ける。

 

「だから、傷だよ。俺にやられたんだろ?なら俺がその治療費を払うのが筋だ」

 

「え、えぇと……」

 

「実は俺、『エリクサー』持ってるんだけど」

 

「!!??」

 

エリクサー。万能薬とも言われるそれは現存する治療系アイテムでは最高の回復力を誇り、瀕死の傷すらたちまち直す。

それを持っていると言われたら普通は驚く。なにせ額がとんでもないのだ。

しかりルアンが驚いた理由は別にある。なぜならこいつは別に怪我なんてしていない。実際に持っている訳ではなく、ブラフだが。きっとさっきのは志貴をはめるための罠だろう。

こうして、志貴がまた言葉を発っそうとした瞬間。

多少強引ながらアポロンさんが話を切った。

 

「……………他の【ファミリア】の団員を傷つけたというのに傷を直せば許されるとでも思っているのか!?見下げ果てたぞアルテミス!!———こうなればその腐った根性を叩き直さなければならない!!!」

 

口角を釣り上げ、こう言い放った。

 

「ならば仕方がない。アルテミス———君に『戦争遊戯』(ウォーゲーム)を申し込む!」




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パーティでの出来事 9

おひさーです。
ちょっとぶりのくせに短いです。すみません泣
パーティ回は今回終わりでいいのかな?
封緘のグラセスタやってました。グラセスタのダンまちクロスオーバー書きましょうかね。どうですかね?感想にとお伝えください。ʅ(◞‿◟)ʃ


ではどうぞ


アルテミスは目を見開いたが、俺はイマイチよくわからない。

『戦争遊戯』(ウォーゲーム)

 

「——ってなんすか?」

 

アポロンさんの顔が引きつった。

引きつきながらもキメ顔だ。多分、すごいこと言ったんだよな……いや、説明してくれ。

そんな間にも神達は騒ぎに騒ぎまくっている。

 

『アポロンがやらかしたァ———!!』『あいつLevel6なんだろ?』『見てみたい』

 

未だ頭の上に ? が付いたままの俺を置いて話はどんどん進んでいく。

とりあえず説明して貰おうと、アルテミスに声を掛けようとしたとき奥にいて、黙っているロキさんと、瞳を見張るアイズと目があった。

 

「我々が勝ったら……君の眷族、シキ・トオノをもらう」

 

愕然としているアルテミスに、アポロンが更に要求を重ねた。というか無視か。アルテミスにさっきのつぶやきは聞こえてなかったようだし、聴こえてたのはアポロンさんだけみたいだ。

さらにわからなくなってきた。つまりなんだよ。

 

「最初からそれが狙いですか?」

 

アルテミスが何を言っているのか、混乱して愕然としていると、アポロンさんは。欲望だけを一途に煮詰めたような、そんなおぞましい笑みを浮かべた。

 

「——駄目じゃないかぁ、アルテミス〜?こんな可愛い子を独り占めしちゃあ〜」

 

ぞっっ、と。

血の気が引いた。一瞬で理解した。これに関しては小難しい言葉を並べる必要もなく一言で表せる。

 

「変態か………」

 

「この変態がっ……私の眷族にそのような下賎な顔を向けるなっ!」

 

おっとアルテミスさん?塵を見る目ですよ?

 

「変態めぇ………!!」

 

アルテミスの隣にいたヘスティアもさっきの顔を見たわけで、結果3人に変態呼ばわりされたアポロンさん。

ヘスティアは親の仇を見るように、アポロンさんを睨みつける。

 

「変態とは酷いな、3人とも。特にシキくん?その言い方が一番傷つくぞ?

アルテミスはどうでもいいとして……ヘスティアもだ。天界では求婚し、愛を囁き合った仲だろう?」

 

「嘘を言うな嘘をおおおおおおおッ!?ベル君っっ、勘違いするなよ!?この処女神(ボク)が守備範囲の広過ぎる変神(へんじん)の求婚なんて受け入れるものかァ!!」

 

「は、はいっ………!?」

 

顔を真っ赤にしてまくし立てる必死のヘスティアにベル君が気圧されまくる。

ヘスティアがアポロンさんを苦手としている理由は、つまり結婚を迫られたことだったらしい。一気に疲労したのか、はぁーはぁー、と肩で息をするヘスティアは顎の下の汗を手で拭う。

てかさっき、アルテミスはいいとして、とか言ってなかったか、アポロンさん?やっぱりこっちはこっちで仲悪いのか……

しかし、これでなんとなくわかった。わかってしまった。

アポロンさんは恐らく、ヘスティアのような外見の少女から……その、俺みたいな男まで、とにかく男性だろうと女性だろうと関係なく見初めた者には求愛しているのだ。よく思い出せば、【アポロン・ファミリア】の団員は標準が高過ぎるくらい美男、美女、あるいは愛らしい容姿をした者が多い。招待状を届けに来たダフネさんやカサンドラさんも、小人族(パルゥム)のあのルアン?でさえ貴族とか金持ちに可愛がられる小姓(こしょう)のようですらあった。

行き過ぎた恋の情熱、まるで輝く太陽のような。

 

——【悲愛(ファルス)】。

喜劇にもなりかねない求愛を繰り広げる神、それがアポロンさんなのだ。

 

「いいのですか、アポロン。こちらは1人とはいえLevel6。そちらはLevel4が最高ではありませんか。勝負になりません」

 

そうなのだ。Level4ではLevel6には敵わない。これがこの世界の常識。1つLevelが違うだけでその実力差は圧倒的なのだ。今回の場合、Level差は2

これは圧倒的にこちらが有利。そもそも普通なら挑まない……が。その為か面白いもの見たさで、かなりの数の神がアポロンさんの味方となったこの広間。

 

「フン、外部からのLevel6など。実力の高が知れている。」

 

アポロンさんはそう言ってのけた。

てかアルテミスの時だけ対応雑じゃないですか?

しかし、その意見にも一理あるらしい。オラリオ外のモンスターが基本的に弱い。たまに『三大冒険者依頼』(とんでもない)のもいるらしいが。そもそもこの世界のモンスターを少し脚色しながらわかりやすく言ってしまえば、いわゆる古代のモンスターが、真祖。オラリオ内のモンスターが死徒。それ以外がグールと考えたらわかりやすい。強いモンスターや珍しかったり古いモンスターには純然な経験値があるが、オラリオ外のモンスターにはそれがなく。経験値が入りにくい。そのため、外ではLevel4ぐらいが限界だと言われているらしい。俺がアンタレス?を倒したというのを知っているのはギルドぐらいだし、舐められるのも当然……らしい。

いい加減【戦争遊戯】(ウォーゲーム)について教えてくれないか?

だがそれを言える雰囲気ではないらしい。不意に、無言でグラスに唇をつけているフレイヤと視線がぶつかった。

 

「それでアルテミス、答えは?」

 

「………これを受けてしまえば、文字どおり貴方達をボコボコですよ。それでもいいのですか?」

 

アルテミスの目つきは鋭いが、怒りや貶しとは違う感情が込められていた。つまり、

——お前、頭大丈夫か?

というような。

 

「……受ける義理がありません」

 

アルテミスはそう結論付けた。よくわからないがとりあえず争いごとは無くなったと考えていいのか。

 

「後悔しないかい?」

 

「するものか!志貴、ここを出ますよ!」

 

一瞬だけ口調が崩れたが、そのまま帰ることになるらしい。

にやつくアポロンさんに怒声を飛ばし、アルテミスは俺の手を掴む。

 

「え?か、帰るのか?」

 

つまらん、と不興を買った神達の人混みに睨みを利かせ、道が開く。そこをまるで女帝のごとき堂々とした態度で進むかアルテミス。

 

「——」

 

会場の出口を通過する間際、壁に寄りかかっていた美青年と目が合う。

瞳を細めるヒュアキントスさんの冷笑が、俺の双眼に焼きついた。まるで、こうなる事を予測していたかのように。俺は足を止めて、ヒュアキントスに向き合う。手はもう掴まれていない。ヒュアキントスは冷笑はそのままだが、どこか引きつった笑いに変わっていた。

 

「言ったはずだぞ?次は上手くやれ、って」

 

少し睨んでやる。

相手の反応は見ないでアルテミスを追いかけて外に出る。

まだ、問題は解決していないようだった

 

—————————————————————

 

アルテミスに追いついた時には後からついてきてくれたヘスティアとベル君がいた。だからベル君に聞いて見ることにした。

 

「………なぁベル君。【戦争遊戯】(ウォーゲーム)って……なんだい?」

 

「「「え?」」」




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一夜明け、翌朝

おーーーひーーーさーーしーーぶりです!!!
いうほどでもないですね。
いろいろ立て込んでいまして、全く書けていませんでした。でもそろそれあげたほうがいいよなーって思いまして、上げます。短いです泣
あ、あと今後の活動報告上げたのでよかったら見てください

ではどうぞ


———『戦争遊戯』(ウォーゲーム)

対戦対象(ファミリア)の間で規則(ルール)を定めて行われる、派閥同士の決闘。眷族を駒に見立てたボードゲームのごとく、対立する神と神が己の神意を通すためにぶつかり合う総力戦。

言わば、神の『代理戦争』。

勝利をもぎ取った神は敗北した神から全てを奪う、命令を課す生殺剥奪の権利を得る。通常ならば団員を含めた派閥の資財を全て奪うことが通例らしい。

エイナさんに教えてもらったという知識をベル君から聞いていた。

『神の宴』から一夜明け、翌朝。

【ヘスティア・ファミリア】のホームである教会の隠し部屋で、ベル君が【ステイタス】更新をするというので、一度教会の方でアルテミスと待って、終わったそうなのでまた戻ってきた。

 

「全く、あの糞虫(アポロン)……

明らかな自殺行為だというのに……なにを企んでいるのでしょうか…」

 

今日はとある場所(, , , , , )に向かう予定があるため、支度をしているアルテミス。俺も同じで支度をするが、2人揃って大して持ち物がないためすぐ終わる。

 

「気をつけてくれよシキ君?アポロンのことだから何かにつけてちょっかいをかけてくるかもしれない」

 

ヘスティアはバイトがあるらしく、その支度をせっせとしている。

 

「シキさん達は今日、何処かに出かけるんですか?」

 

ベル君がそんなことを尋ねてきた。

ダンジョンに行くにはアルテミスが支度をしていた理由がわからないし、第1昨日のうちに明日はダンジョンに行かないと言ってあるからだ。

 

「ああ、それなんだけど、俺達、近々【ロキ・ファミリア】でお世話になろうと思うんだよ」

 

「へー、それじゃあもう……………」

 

「ロキ……………………………………?」

 

「「えぇぇえぇぇぇぇえぇぇえぇぇえ???!!!」」

 

「デスヨネー」

 

アルテミスと2人で説明することとなった。

………てか何回目だよ

 

 

——————————————————————

 

「なるほどねぇ、確かにレン君のことはバレたらまずいね……」

 

「ええ、スキルと言ってしまえばそれまでですが、レンは分類で言ったら夢魔……悪魔に分類されるようで、そもそも【ステイタス】が刻めなかったのです。耳が長いことでエルフのようにも見えますが実際は違いますからエルフには見破られるでしょうし……」

 

「それに、昨日の事もあるし、仮に誘拐なんてことがあったら何されるかわかったもんじゃない」

 

「それで昨日の宴で話を持ちかけられて、それを受けたってことですか……」

 

説明はあらかた終え、ぶっちゃけアルテミスが個室欲しかったとか5人で暮らすには流石に狭すぎるとかいろいろあるがそこは割愛した。

 

「しかしロキかぁ……他の(やつ)のところならまだしも、ロキかぁ……」

 

やっぱり仲が悪いらしく、渋るヘスティア。

 

「でも神様、確かにそれが一番最善だと思いますし……」

 

ベル君はそんなことを言って自身の主神(ヘスティア)を説得する。

 

「そうなんだよなぁ………………」

 

「だ、ダメか……?」

 

本来ならヘスティアにいいかダメかなんて聞くことじゃないが、なぜか聞いてしまった。

 

「………わかったよシキ君。ただし、ベル君と一緒にダンジョンに行くっていうのは忘れないでくれよ?」

 

「ありがとう、ヘスティア」

 

「わかった。俺もヴェルフに防具作ってもらいたいしね」

 

そんな話をしながらヘスティアはバイト。ベル君はダンジョン、俺とアルテミスは【ロキ・ファミリア】のホームに向かうことになった。まだ準備が終わっていなかったのと、ベル君と2人で歩きたいというメッセージをヘスティアから目で伝えられ、俺達は先に向かうことにした。

レンはなんだか乗り気ではないらしく、未だに寝ている。レンの話もあるのだからレンも連れて行きたかったが、行きたくないなら仕方ない。レンは猫らしく気まぐれなんだ。実際、猫の姿で寝てるわけだし。

そしてレンに甘い志貴であった。

 

 

——————————————————————

 

アポロンは、志貴に無謀な勝負を挑み。それを受けられることなく終わった。しかしそれは、考えなしに言ったわけでは無かった。

オラリオにおいてのシキ・トオノとアルテミス、そして一緒にオラリオにきた1人の少女(, , , , , )

アポロンはいつくかの手を使いその情報を入手し、タイミングを合わせて、その少女を——————誘拐することを考えた。少女が強いということも考えたが、オラリオに入国するときにシキはその少女——レンのことを妹と言ったらしい。外見からしてシキの年齢は15〜18といったところ。そうするとレンの年齢は10〜14程度と考えるのが妥当。そしてアルテミスのことなので、幼い少女に恩恵を刻んでモンスターと戦わせるようなことはしないだろう。

現在【アルテミス・ファミリア】の面々は【ヘスティア・ファミリア】に寝泊まりしており、今日はレン以外の全員がホームを離れた。

今がチャンスだと。

そしてせっかくだからともう一つ悪巧みをしていた。

ベル・クラネル

【ヘスティア・ファミリア】所属のLevel2 二つ名は【リトル・ルーキー】。前から気に入っていて、シキが手に入ったあとに狙っていた子供だ。

教会に奇襲を仕掛けるのだ。

教会を燃やし、レンを攫う。

タイミングはヘスティアとベルが教会を出た瞬間。何よりタイミングが良いのがアルテミスとシキが出て行ってからそれなりに時間が空いていること。いくらLevel6といえどもこの裏路地は少し進むのに困難な節がある。Level6といえども戻ってくるのに15分はかかる。アポロンにはそれで十分だった。

教会を燃やしながら大人数での武力行使。ヘスティアとベルを投降させ、改宗(コンバージョン)

その算段を立てた。本来レンを誘拐するだけのつもりがこれほどまでにタイミングがいいとは。アポロンは下衆な笑顔を浮かべ、わざわざ【ファミリア】の全戦力を連れて来てよかったと考える。

 

しかし、(かれ)は知らない。

(かれ)はとんでもないものに喧嘩を売ったということを。

それは一匹の(英雄の器)と死を視る殺人鬼。

この状況でどちらが怖いかなど、言うまでもないだろう。




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ベル・クラネルの逃走劇 前編

こんばんわ
相変わらず短いですが、頑張りました汗
そして.......志貴でないです(ぼそっ


ではどうぞ


ベルとヘスティアは一緒にバベルにいくことになった。

ヘスティアの今日の仕事は【ヘファイストス・ファミリア】の支店の雑用だ。隠し部屋でレンが寝てしまったのを確認して部屋を出る。

階段を登って上がり出てくる小部屋は薄汚く、がらんどうの本棚には埃がうっすら積もっていた。

ヘスティアが階段を上がる音を背で聞きながら、お先に狭い部屋を後にする。

祭壇が備わった礼拝堂にも似た広い屋内は、相変わらず床のタイルから雑草が伸び放題だ。

天井、いや屋根にぽっかりと空いた大穴から青空が見えた。廃墟然とした教会内を見渡しながら、流石に綺麗にした方がいいだろうか、とベルは考える。

 

(…………魔力?)

 

屋内を突っ切っていたベルは、ふと顔を上げた。

詠唱中の魔法行使の際に感じる出力の余波、それを朧げに感じたのだ。あくまでかすかなもので、本職の魔導士でもないベルにはこれが意味するところはわからない。

一度足を止めたベルは周囲を軽く見渡し、振り返る。背後では小部屋から出てきたヘスティアが、不思議そうな顔で首を傾げた。

怪訝な思いを抱くベルは、彼女を後方に置いて、扉のない教会玄関口を1人で潜る。

 

「————」

 

そして、半廃墟と化している教会から一歩出て、朝日を浴びた瞬間。

周囲の建物の屋根や屋上にたたずむ、無数の影が目に飛び込んできた。

自身を見下ろす数えきれない瞳。正面玄関を包囲するように配置された彼等、冒険者は、弓矢、杖をそれぞれ装備している。

 

———【アポロン・ファミリア】。

防具に刻まれた太陽のエンブレムを視認し、凍りつくベル。

待ち伏せていた冒険者は彼が出てくるなり武器を構えた。弓使い達が一斉に矢を引き絞り、詠唱を済ませ待機状態であった複数の魔導士から大きな魔力の風が吹き上がる。

小隊長と思しき、襟巻きで口元を覆い隠すエルフ、彼が片手を上げた瞬間———ベルは脇目も振らず反転した。

未だに教会内にいるヘスティアのもとまで疾走し、驚く彼女に抱き着いて、押し倒すように礼拝堂に飛び込む。

間髪入れず、エルフの手が振り下ろされ——大爆発が起こった。

 

 

——————————————————————

 

相次ぐ轟音に、発生する衝撃波。

魔法と爆薬が結わえられた矢が着弾し、教会が破壊される。

鏡面玄関の真上に立っていた半壊した女神像が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

 

「っっ!?」

 

咄嗟に教会の裏口から出てしまったベルはあることを思い出す

 

——中にまだレンちゃんがっ…!

 

英雄になりたい彼にとって、レンという女の子を見捨てることなどできはしなかった。

しかし、物事は意思だけでは進まない。考えに行動が伴わなければ意味がない。

その現実を突きつけるように刺客がベルを襲う。

 

「——シャアッ!」

 

「!?」

 

戦慄する暇も与えぬ間に、あらかじめ裏手で待ち構えていたのか、複数の獣人が短刀を持って頭上より奇襲した。

その瞬間、ふと教会が目に入ったが酷い有様だった。

粉塵を巻き上げ前半分が瓦礫の山と化す、見るも無残な教会(ホーム)にベルとヘスティアは息を飲む。

隠し部屋は大丈夫だろうか?中にいるレンちゃ——

その思考は長く続かず奇襲は続く。しかしそのとき教会の、それも地下室への入り口から中に入ろうとするヒュアキントス(, , , , , , , )をベルはしっかりと見た。

 

「——くっ!!」

 

狙いはそっちかっ!!

急いでそっちに向かおうとする。が、無論奇襲者達の斬撃の雨は降り止まない。《ヘスティア・ナイフ》を咄嗟に構え、ヘスティアを守るように立ち回る。

弾き、躱し、鎧を浅く斬りつけられながら——あえて立ち込める砂煙の中に飛び込んだ。

レンを助けに行かなければならない、しかしこのままではおそらく捕まる。なら、一先ずはなるべく多くの敵をこの場所から遠ざける。

敵方が躊躇する気配を後方に置き去りにし、ベルは土地勘を頼りに裏道の一つへ逃げる。

 

「ぶはっ!?」

 

煙を抜けた瞬間に、大きく息を吸い込むヘスティア。

顔を埃まみれにするベルは彼女を横抱きにし、追っ手から逃げるべく走った。

 

(———仕掛けてきた!?)

 

白昼堂々と、街の中で!

容赦なく攻撃を加えてきた相手、【アポロン・ファミリア】にベルは動揺を重ねる。

闇討ちや迷宮の奇襲どころではない。敵は堂々と、ためらいなく、この地上でベル達に攻めかかってきた。

どうして!?戦争遊戯(ウォーゲーム)に応じなかったのは【アルテミス・ファミリア】のはず!こちらを攻撃する理由はないのに!!

【アポロン・ファミリア】は【アルテミス・ファミリア】を滞在させているだけの【ヘスティア・ファミリア】まで敵とみなした?

おかしすぎる。

外部の顰蹙(ひんしゅく)を切って捨て、ギルドの取り締まりさえ恐れずにすることなのか?

いまだに混乱が抜け切らず頭が疑問で埋め尽くされる中、不意に——『【ファミリア】同士の抗争で街が戦場になってしまうこともある』——エイナの言葉が蘇る。

己が今まさに、噂に聞いた派閥間抗争の当事者となったことを、ベルは悟ってしまった。

 

「ベル君、襲ってきたあの子達は………!?」

 

「【アポロン・ファミリア】ですっ!」

 

幅三M(メルド)ほどの細い路地裏を走りながら、胸の中のヘスティアに叫ぶように答える。ちなみに、吸血鬼などいない。

彼女はベルの肩から顔を出し、すでに遥か後方、煙に満ちて崩れ落ちた教会を睨みつけた。

 

「あの中にはまだレン君がっ!!」

 

「くっ!!」

 

背後を振り仰いで認める教会の廃墟跡——帰る(ばしょ)を失い。一人捕まったかもしれないという疑惑。この二つがベル達に衝撃を与えていた。

 

 

 

 

そしてしばらく敵方から逃げ惑いながらついに行き止まりに直面した。

ホームの周辺、土地勘という利がありながら相手の目を振りきれない。己の足を最大限に活かして次々と新手が沸いてでる状況に、ベルは唇を噛みながら、錯綜する裏道をかけていく。

 

「ベル君、行き止まりだ!?」

 

振り落とされまいと必死にしがみついているヘスティアの悲鳴。

道の奥、巨大な人家の壁が立ちはだかる。

袋小路に追い詰められたベルは、そこから更に速度を上げた。

 

「掴まってください!!」

 

はっ?とヘスティアが目を丸くする中、勢いをつけて大股で走行する。

見る見る内に迫ってくる壁面を前に、ベルは長い助走を利用し——踏み切った。

 

「ぅ——わあああああああああああああああああああああああああああっ!?」




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遠野志貴の救出劇 前編

何日かぶりです。
温泉旅館に行ってました。
そのため全く書けてません。
短いです泣

ではどうぞ


都市北端、【ロキ・ファミリア】ホームの真正面に2人は立っていた。

 

「すごいな……(ホーム)じゃなくて城だぞ……」

 

宴の時にアイズから見せられていたとはいえ、この大きさは圧倒される。

 

「ええ………それだけ団員が多いということでしょうか…」

 

「でもこんなデカイか?100人は住めるぞきっと」

 

「いえ、多分もっとでしょう……」

 

そう、2人とは遠野志貴と、アルテミス。

城の前には門番が2人配置されていて、鎧は着ていないが両方長槍を装備していて、いよいよ、と言った感じだ。

そしてどうしても場違い感が否めない。アルテミスもオラリオ外(そと)でかなりの大きさの城に住んでいたようだが、あれはどっちかというと古城のようだった。

それに、アンタレスを封印していた空間が地下にあったのだ。離れることなどできなかったのだろう。

ともあれ、いい加減に門番に話を通して中に入らないといけないのだが、2人揃ってぼーっと城を見ていたばかりですっかり忘れていた。

 

「じゃ、そろそろ行くかアルテミス」

 

「そうですね……ところであの門番の方。なんだか不機嫌なように見えるのですが…」

 

ん?と門番の2人を見てみると、………なんというか、 不機嫌な顔をしていた。おそらく、門番の仕事に飽きたんだろう。そうすると、この門番は本職じゃなく【ロキ・ファミリア】の冒険者が本職なのか?なんだか話しかけるのを躊躇うが……

 

「い、いくか」

 

「え、ええ」

 

2人とももう一度声を掛け合い一歩踏み出そうとする。

 

 

「……大丈夫だよな。話しかけた瞬間刺されたりしないよな?」

 

「ろ、ロキの眷族(こども)ですよ?天界でトリックスターなんて言われていたぐらいですから………あり得ますね」

 

「ありえるのか!?」

 

「流石に冗談ですが、とにかく行きましょう」

 

アルテミスは決意を固めたようだが、志貴はそうでもなかった。

 

「え、凄く不安になってきたんだが……シオンに拳銃突きつけられたときぐらい怖いんだが……」

 

「行きますよっ!」

 

なかなか行かない志貴に痺れを切らしてか強引に腕を引っ張り門の前、つまり門番の前まで向かう。

途中観念したかのように引っ張られるのをやめ普通に歩き出した志貴。

 

事件はまだ始まってはいない。

 

———————————————————————

 

案の定絡まれた。

門番に声を掛けて呼ばれてきたと説明しても、聞く耳持たずで神のアルテミスも居たのに御構い無しだったところを、ちょうど帰宅したアマゾネスの人が中に確認を取ってくれた。ティオナさんというらしい。

ともあれ、中に入った俺たちだが、「誰だこいつら?」的な視線に晒されて居心地が悪かった。

何やら応接室のような場所に通されて、そこでしばらく待っているとアイズがやってきた。アイズだけではなく他にも何人か。

 

「待たせてしまって悪いね。僕はフィン・ディムナ 【ロキ・ファミリア】の団長だ。」

 

「やっほ〜、さっきぶり〜!あたしはティオナ・ヒリュテ。よろしく!」

 

「シキ……こんにちわ」

 

「おーおー、シキやぁ……この前はアイズたんと踊ってくれおってよぉ」

 

この中で顔を知らないのは1人。一番最初に挨拶をしてくれた金髪の子供……団長と言っていたから小人族(パルゥム)なんだろう

ディムナさんが右手を差し出してくる。

 

「えっと……遠野志貴です。よろしく」

 

少し萎縮気味に、その手を取り握手をする。

その後、応接室のソファに皆んな腰掛けて、話をすることになった。

 

「まず、シキくんはここに来たということはロキの提案を呑んだということで間違い無いかな?」

 

「はいはーーい!そんなことよりも!シキがオラリオ外(そと)でどんなモンスターと戦って【ランクアップ】したのか聞きたーい!」

 

すげぇ、一瞬で話脱線した。アルクェイドと同じタイプか?

 

「それは僕も気になるね」

 

「あ、それうちも聞きたーい」

 

「………私も」

 

しかもみんな食いついた。

アルテミスに助けを求めようにも紅茶飲んで我関せずだし。あんたなんのために来たんすか!?

……話さないと進まないみたいだ

 

「そうだな………一言で言うなら吸血鬼、かな」

 

「吸血鬼!?」

 

吸血鬼。

人の血を吸い、吸われた人を同じく吸血鬼にしてしまう鬼。或いは血を吸った人間を干からびさせたり、自分の眷族にしたり。その内容は普通の英雄譚とは異なりかなりオカルティックであり、そういう雰囲気が好きな人には好まれるのだとか。

一般にモンスターとして存在していない彼らは物語の中だけの存在というのが普通の解釈であり、対峙させる悪。

 

「……それは、本当かい?」

 

ディムナさんも目を丸くして聞き返してくる。アイズに至っては

 

「強いの?」

 

と、少し目を輝かせて言う始末。

 

「あぁ強いよ。バケモノだよ。ダンジョンのモンスターなんて比べものにならないぐらいバケモノだ。……たしか、神は嘘が見抜けるんじゃなかったか?」

 

ロキさんに視線を向けると、それで言葉の意図を読み取ってくれた。

 

「……ああ、シキは嘘はついてへん。にわかには信じられへんが、吸血鬼と本当に戦って来たみたいやな」

 

神繋がりで思い出したが、フレイヤの魅了の力。魔眼なのだろうか……

アルクェイドも魅了の魔眼持ってたし。

とまぁ、それは置いておくとして。目の前で吸血鬼について問い詰められている現状をどうにかしよう。

 

「どんなのだったの吸血鬼って!?」

 

「どんな特性を持っていたんだい?」

 

「……戦いたい」

 

……これ答えるのか

1人戦闘狂がいるがほっとこう。

俺の殺し合いの話なんて楽しいものじゃないが、死徒の特性ぐらいならいいか。あいつも魅了の魔眼持ってたらしいし。

 

「じゃあ俺が戦ったネロ・カオスってヤツの話を……!?」

 

その時突如爆発音がした。

その場にした全員が慌てて窓から音のする方へと視線を向ける。かなり距離があったが、爆発音がし煙が上がっているのは確かに自分が寝泊まりさせてもらった、【ヘスティア・ファミリア】のホームであった。

 

 

「………まずいレンが!?」

 

殺人貴は動き出す。

 

 

—————————————————————

 

「フレイヤ様は動いたか?」

 

逃亡と追跡が繰り広げられる戦場から置いた北西のメインストリート周辺。

高い建物の上から状況を追っていたヘルメスは、今しがた戻ってきたアスフィに問うた。

 

「いえ、フレイヤ派は今のところ静観しています」

 

「今回の騒動に関しては、フレイヤ様は手を出さないつもりか?」

 

装備した純白のマントをはためかせるアスフィの返答に、ヘルメスは手を顎に添える。

確認できただけでも戦況はベルにとって過酷なものだった。少年は主神をかばって今も闘争を続けており、敵との単純な戦力差——人数の差は、優に百倍を超える。

何か理由があるのか、それともこれを新たなベルへの試練(, , )と見なすつもりか。

加速度的に変化している少年を取り巻く環境を、あるいはあの美の女神も喜んでいる側面があるのかもしれない、とヘルメスは憶測する。先日、自分が見逃されたように。

彼女の言う『輝き』が今にも増しているだろう光景が、想像に難くない。

 

「どうするのですか?」

 

「何もしないさ」

 

背後から尋ねてくるアスフィに、前を向いたままヘルメスは答える。

 

「オレはヘルメスだぜ?今までもこれからも、傍観者に徹するさ」

 

己もまたベルの行く末を見守る、見届ける。優男の神は振り向いてそのように笑う。

眷族であるアスフィは何も言わず、ただ面倒が増えるだろうことにため息をついた。

この2人の行動、いや主にヘルメスの行動はこのオラリオ()に新たなる『英雄』を生み出すこと。それ以外など、さしてどうでも良いのだ。

この英雄狂い()ベル・クラネル(英雄の器)に英雄になるための試練と称した只の出来レースを見守るだけ。この時代の神の試練は必ず攻略できる存在にしか与えられない。英雄が成した偉業は決まって神が裏で糸を引いている。そういう世界。

ただ一つ、誤算があったとすれば。

この時代、この世界にもっともイレギュラーな存在である、とある殺人貴(, , , )ベル・クラネル(英雄の器)【眷族の物語】(ファミリア・ミィス)に首を突っ込んだことぐらいだろう。

 

「場所を移す。アスフィ、手伝って——」

 

「了解で———」

 

「あれ?ヘルメスさんにアスフィさん。こんなところで何してんすか?」

 

制服姿の青年がいつのまにか後ろに立っていた。隣には少し水色がかった銀色の長い髪、貴族のような高級感のある黒いコートを着て大きなリボンを付けた10歳ほどの愛らしい少女が無表情で寄り添うように立っていた。




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ベル・クラネルの逃走劇 後編

こんばんは
少しぶりです。ほんとは昨日更新しようと思ってたのですが、寝落ちしてしまい……
前回のベル・クラネルの逃走劇の後です。
なので、前編、後編をサブタイトル付け加えました。



ではどうぞ


大跳躍。

高さ八M(メドル)にも及び人家の壁を、【ランクアップ】を経て大幅に上昇した身体能力を持って、飛び越える。

ヘスティアの絶叫が轟き渡る中、放物線を描いた跳躍はギリギリのところで高壁を越え、屋根の上に着地した。豪快な着地音を決めるベルの胸の中で、幼女の女神が盛大に息を切らす。

閉鎖感の強い狭い路地裏から解放され、空と青空に包まれる。見晴らしのいい人家の天辺から辺りを見渡し、ベルは、北側の方角に視認できる大神殿を見据えた。

 

(こうなったら、ギルドに逃げ込むしか………!)

 

絶対中立である都市の管理機関にはさしもの敵も攻め込めない。レンのことが不安で仕方がないが、もう間に合わないだろうという気持ちもある。流石に殺すなんてことはないだろうが誘拐されてしまえば、それを盾にしてシキが【アポロン・ファミリア】に入ることになるかもしれない。

とにかく今は荘厳な万神殿(パンテオン)、ギルド本部に避難しようと、ベルは逃げる算段をつける。

 

「諦めた方がいいよ」

 

「!」

 

背後から投げかけられた声に、振り返った。

同じ人家の屋根に立っていたのは、数名の団員を率いたダフネだ。小隊の中にはロングスカート型の戦闘服(バトル・クロス)に身を包んだカサンドラの姿もある。何故だかすごく顔の色が悪いし、前にあった時の不景気な顔の軽く三倍は表情が暗い。

横から吹く風に短髪(ショートヘアー)をなびかせるダフネは、その吊り目を哀れむように向けてきた。

 

「アポロン様は気に入った子供を地の果てまで追いかける。手に入れるまでね。たとえシキ・トオノ(Level.6)だとしても」

 

「………!」

 

やはり本命はシキか。と考えながらも、何故自分を狙うのかとも考える。

 

「ウチやカサンドラも、見初められてずっと追われ続けたんだから。都市から都市、国から国……観念するまで、ずっとね。逃げても早いか遅いかの違いだけだって」

 

忠告すると同時に、自分もベルと似た境遇だったと告白する。

ダフネが同情の眼差しを送ってくる中、ヘスティアが表情を歪めた。

 

「アポロンめ……!狙いはシキ君だけじゃなかったってことか……!!」

 

ダフネの話を聞き、手段を選ばずベルやシキを強奪しようとするアポロンの神意に気づいた彼女は、後悔すると同時に男神への嫌悪と戦慄をあらわにする。

 

———執念深い(, , , , )

 

ヘルメスが『宴』の際に発した言葉が、ベルの脳裏にも過ぎった。

 

「投降しない?仲間になっちゃう子に、できれば手荒なことはしたくないんだけど」

 

「…………できません」

 

腰の鞘に収まった剣の柄をぽんぽんと叩くダフネに、ベルは顔を振る。

勧告を聞き入れずじりじりと後退していくベルとヘスティアに、彼女は溜息をついた。

 

「そうなるよね、早くしないとシキ・トオノも来ちゃうし。じゃあ——かかれ!」

 

ダフネが抜剣し、切っ先をこちらに向ける。彼女の号令に従い小隊員達が一斉に跳躍した。

ベルも背を向けて、ギルド本部の方角へ走り出す。

 

「相手は足が速い、リッソスの隊を読んで回り込んで!」

 

指示を飛ばすのと並行し、ダフネは短刃(ダガー)を投擲。

察知したベルは振り返り、驚愕しながら、寸分狂わず投じられた白刃を肩鎧で防御する。

甲高い音とともに凄まじい衝撃が走り、その体はバランスを崩した。

よろめいたベルに、団員達が殺到する。

 

「……! 神様、戦います!」

 

「わ、わかった!」

 

止むなく応戦するベル。横抱きにしていたヘスティアの腰に左腕を回し、脇に抱える格好を取る。あまりのわ姿勢にヘスティアの頰が羞恥に染まった。

自由になった右手で《ヘスティア・ナイフ》を引き抜き、接敵する。

 

「うっ!?」

 

正面から迫った剣撃をナイフで切り払う。すかさず迫る槍も弾き、続く攻撃はぎりぎりのところで回避した。

間際なく攻めかかってくる相手の冒険者達も手練れだ、パーティとしての連携能力も高い。

斬撃をしのいでは移動を続けるものの、ベル達は確実にギルド本部から遠ざけられていた。

 

(駄目だ…………!)

 

主神(ヘスティア)を抱えたままでは、逃げ切ることもかなわない。

ベルは躊躇を捨てるしかなかった。

一瞬ヘスティアと目線を交わし合い、ナイフをパス。彼女がしっかりと《ヘスティア・ナイフ》の柄をキャッチする中、ベルは空いた右手を突き出した。

頭上より飛びかかってくる三名の冒険者に向かって叫ぶ。

 

「【ファイアボルト】!」

 

爆炎が咲く。

無詠唱で放たれた『速攻魔法』が三連射、敵冒険者達を吹き飛ばした。

悲鳴が散り、黒焦げとなって屋根の一角に倒れ込む小隊員達。

目を見開くダフネは、しかし動かなかった。

 

「カサンドラ!」

 

「はい!」

 

すかさず飛んだ彼女の指示に、1人後衛として残っていたカサンドラが杖を構える。

素早く詠唱を奏で、次には治療魔法が発動した。

 

「!?」

 

焼け焦げて(うずくま)っていた冒険者達が青い光に包まれ、キズが癒えていく。復活した彼等は殺気を漲らせ立ち上がった。

カサンドラ——治療師(ヒーラー)の存在にベルは汗を流し、そして同時に見せつけられる。

組織としての、パーティとしての地力。本来あるべき【ファミリア】の姿。

敵の連携の方が一枚も二枚も上手であると、痛感させられる。

 

「くっ——!?」

 

ダフネ達の小隊に加え四方から集まってくる敵の陰に、ベルはたまらず下方へ。

放たれる何発もの矢をナイフで撃墜し、再び路地裏に飛び降りた。

 

 

 

「逃げ足速いなぁ……無駄なんだから諦めればいいのに」

 

高い家屋の上、足を止めたダフネは、目下で逃げ惑うベルへ呟いた。彼女が浮かべる表情と眼差しは同情的でありながら達観している。

ダフネはその強引に入団させられた経緯により、主神に心酔する団長(ヒュアキントス)達とは異なって、アポロンをそこまで慕っていない。しかし眷族になって育てられた以上、命令には従うし、つくしてやる義理(おん)もあると思っている。一応、男神(かれ)男神(かれ)で求愛を受け入れた者には紳士なのだ——というより男神(かれ)少年青年(おとこ)の方が好きなのだ——。

そんなアポロンが今度はシキを欲しがっている。そしてベルも。………少年に憐憫を抱くことはあっても、神意に背く気持ちはこれっぽっちもなかった。

 

「あの、ダフネちゃん、やめた方が……いいような気がする」

 

そんな彼女の背後から、場に1人残っていたカサンドラがおずおずと声をかける。

自身と似たような境遇で、かつ付き合いの長い少女は腰まで届く長髪を両手で弄り、その垂れ目を伏せがちに言う。普段のそれより顔色が悪い気がする。

 

「何が?」

 

「あの子を、いえ………『兎』は『アレ』に比べたらそれほどじゃない……でも、『アレ』が来たらダメっ………!」

 

弱腰に警戒してくる彼女に、ダフネは溜息をついた。

 

「また夢?」

 

呆れながら問いただすと、カサンドラは普段より強く必死に頷いた。

この少女(カサンドラ)は『予知夢』を見ることができる。と言ってもはばからない。そして誰にも全く相手にされない。無論、ダフネにも。

アポロンに見初められる前はいいところの育ちだったようだが、彼女の妄言はその育ちの障害だとダフネは思っている。

カサンドラの予知夢(それ)は、箱入り娘にありがちなな、一笑に付してしまうような『呪力(まりょく)』があるのだ。

 

「馬鹿なこと言ってないでおいかけるわよ」

 

「ど、どうして信じてくれないのぉ〜〜〜っ」

 

取り合う気のなかったダフネは面倒くさそうに、半べそのカサンドラへ目を向ける。

 

「じゃあ、どんな夢を見たのよ?」

 

「ぅんと……1人の男の子が太陽をバラバラにしちゃう夢(, , , , , , , , , , , , , )………」

 

ダフネは鼻で笑うことすらしなかった。

 

「そうよね、夢はそれくらい——」

 

言いかけてダフネは言葉を止める。いや遮られた。

 

「おい」

 

「ふぇ?」

 

カサンドラは間の抜けた声を出し、ダフネは言葉を遮られたことにより反射的に後ろを振り返る。

そこにいたのは本来ここにはいない者。この短時間でここまでオラリオ(まち)の端から移動できるはずがない。まして彼は【ロキ・ファミリア】のホームに行ったはずだ。そして最も問題なのが、団長(ヒュアキントス)が誘拐したはずのシキ・トオノの家族であるらしいとある少女(レン)を傍らに侍らせているのだ。団長が失敗した?なぜ?どうやって?

ダフネはこの突発的すぎる状況に困惑しながら目の前の男と対峙する。

カサンドラはまるで幽霊でも見たかのように体を震わせている。

少年、いや青年はゆっくりと口を開く。

 

「俺の友人に手を出したんだ。そのツケは払ってもらうぞ」

 

瞬間青年が発した研ぎ澄まされた『殺気』に当てられ、2人は自分の体がバラバラ(, , , , )になるイメージを押し付けられ、そのイメージに心の底から恐怖した。そのとき自身の首もとから強い衝撃を受け、ダフネは朦朧とする意識の中で自分にイメージを植え付けた青年に目を向ける。以前会った時とは違う『蒼い眼』に、心底底知れないものを感じながら、『コイツはダメだ』と生物の本能で理解した。




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舞台の端で役者は踊らされる。(それぞれの動き)

ちょっとぶりです。それなりに忙しかったため少し空きました 


ではどうぞ


「アルゴノゥト君が襲われてるって〜!」

 

都市北端、【ロキ・ファミリア】ホームの長邸。

街に出て情報を集めてきたティオナがら団員達が集まる応接間に駆け込んできた。

 

「ティオナ、本当……?」

 

「うん、【アポロン・ファミリア】が総出であの子を追いかけ回してるらしいよ!」

 

歩み寄って尋ねてくるアイズに対し、アマゾネスである少女は自分が見てきたものを語る。

彼女の説明を聞いたアイズは、感情の乏しい表情にかすかな心配の色をうかがわせた。

 

「ここまで表立っての抗争が行われるのも久々じゃな」

 

「アポロン派は、ギルドの罰則(ペナルティ)も覚悟の上だろう。」

 

ソファーの上に座りながらドワーフのガレス、エルフのリヴェリアが客観的に分析する。

自派閥の団員達も先程からホーム中でざわついている中、外で何が起こっているのか彼等は感づいていた。

 

「………その、そこで優雅に紅茶飲んでる人は?」

 

優雅に紅茶を飲んでいるのはアルテミス。志貴が行ってしまって客間に取り残されたフィン、ティオナ、アイズ、そしてアルテミスは客間から長邸に移動した。すぐに【ロキ・ファミリア】の幹部達が集まる中、我が物顔で紅茶を飲んで誰とも話さない彼女にとうとうしびれを切らし、ティオネが口を開いた。

 

「私ですか?私は【アルテミス・ファミリア】の主神アルテミスです。」

 

「え、ええ……それは聞いたんだけど……」

 

「あれ?そういえばロキは?」

 

次にティオナがふとした疑問を口に出す。

 

「少し前に見物に出かけやがったぞ、あのアホ女神は……」

 

アルテミスを除くその場の全員が「これだから神ってやつは」と思いはしたものの、アルテミスがいる前なので自重した。

 

「アイズ、貴方は何もする必要はありません」

 

リヴェリアやティオネ達がそれぞれ会話する一方、先程から微妙に落ち着きのない様子を見せるアイズにアルテミスは声を掛けた。

 

「その通りだよ、アイズ」

 

「アルテミス様……フィン……」

 

アルテミスは紅茶を啜りながら言葉の続きを紡ぐ。

 

「志貴が行きましたから。」

 

そうなのだ。彼は爆発音の発信場所が自身のいた教会だとわかった瞬間に飛び出した。……正確には飛び出したらしい(, , , )

 

「僕達はまだ彼の実力を全く知らない。オラリオ外(そと)からきた冒険者がどの程度なのかは知りませんが——」

 

志貴が向かったから大丈夫だ。などと言われても納得はできない。もともとこの抗争に手を出す気は無いがアルテミスに、もう少しましな説明をしてもらえるように言おうとするが、言葉は途中で遮られる。

 

「あら?ではあなた達は見えた(, , ,)の?」

 

「「!!」」

 

その言葉を自分の眷族を馬鹿にされているようにでも捉えたのかアルテミスは核心をつく。

2人とも何一つ言い返せない。

そう、あの時志貴は一瞬でレンが襲われていると直感し、どこからもなく『突然いなくなっていた』

それはLevel6の動体視力をもってしても不可能なほどのスピードだったのか。それとも気配を隠したのか。——或いは両方か。

 

「アイズ、すみませんが今が何時だか教えてもらえませんか?」

 

「え?」と思いながらも時間を教える

 

「なるほど……15分も経っていますね……志貴にしては遅すぎる(, , , ,)……大方道草食ってるだけでしょうが……」

 

「あの、アルテミス様………一体何が始まるのでしょうか」

 

フィンはアルテミスの状況に似合わない堂々としすぎた態度に何が始まるのかうずうずしてしまっている自分に気づく。

 

「もう終わりましたよ。」

 

そう言い終えてすぐこの部屋の扉が、トントントン、と、不器用な、慣れていない音で叩かれた。

ギィーと音を立ててドアから顔を覗かせたのは2人。

それは先程いなくなったはずの志貴と、10歳ぐらいの少女だった。

 

 

 

 

——————————————————————

 

「あれ?ヘルメスさんにアスフィさん。こんなところで何してんすか?」

 

ヘルメスとアスフィは同時に振り返る。

そこにいたのは、遠野志貴。そしてどこか貴族然とした服装の可愛らしい少女。

少し前のアポロン『宴』に参加し、アポロンに戦争遊戯(ウォーゲーム)を挑まれていた、オラリオ外(そと)からきたLevel.6

ヘルメスにとっては気を利かせてベルとアイズが踊るように仕向けようとしたものの、邪魔された。つまるところ、ベル・クラネルの英雄譚に不要な存在だと感じていた。

ヘルメスは神といえど、旅を続けてきた者だ。故に人を見る眼、英雄を見極める眼は確かな者だと自負している。そのヘルメスが志貴と初めて目を合わせた時に感じた感情は『恐怖』だ。

軽く話して、少し様子を見ただけでも彼の人間性は良い人の部類だと判断できた。しかしこの感情、この『恐怖』は何だ。

冒険者のソレとは違う。もっと歪んで禍々しい、ナニカ(, , ,)だ、そう考えていた。

その男が今まさに全く気配を感じさせず、真後ろまで迫っていた。

 

「…………や、やぁシキ君。こうして話すのは2回目かな?どうしてこんな場所へ?」

 

平然を装いそう言葉を返す。

 

「いや、【ヘスティア・ファミリア】の教会(ホーム)が爆発したのを見て不安で戻ってきたんすけど、まあ、見ての通りレンは大丈夫だったのでベル君探しに行かないとなって、捜索中です」

 

「な、なるほど………しかしシキさん。今、ベルさんはかなりあちこち移動しながら応戦を続けています。それに……」

 

アスフィが冷静さを取り戻し、志貴と話し始める。

それに、に続く言葉は【ガネーシャ・ファミリア】によって封鎖されている、の意だった。

 

「ベル君やヘスティアは恩人なんです。だから、俺は見捨てません。」

 

どうやって封鎖されている場所へ行くのか、という質問には答えず、「じゃあそろそろ行きます」と軽く会釈して、屋根から降りる志貴。レンも同様に下に降りる。

降りる間際、志貴とヘルメスは目があった。その目を見てヘルメスは全てを悟った。

先ほどの2人の会話を聞かれていた。

話してまずいことは言ってないものの、今回の事件に一枚噛んでいることが完全に露見してしまった。

急いで口止めを、とヘルメスとアスフィは顔を見合わせ、屋根から見下すように降りていった志貴に声をかけようとしたものの、そこにはもう志貴はそこにはいなかった。

 

「ヘルメス様………シキさんの隣にいたあの少女は……」

 

「あぁ、アポロンが誘拐を企てていた少女だ。」

 

「やはり………」

 

 

 

 

 

 

 

いったいどんな速度でここまで戻ってきたと言うのか。

【ロキ・ファミリア】から戻ってくるのに、バベルからでもなければ40分はくだらない。ましてこの人混み。

 

 

 

 

「シキ・トオノ………これは警戒するべきか」

 

 

 

—————————————————————

 

8本のメインストリートが集結する都市中央、中央広場(セントラルパーク)

白亜の巨塔『バベル』の前で、大刀を背に備えるヴェルフと獣人に変身しているリリはたたずんでいた。

 

「………遅すぎないか?」

 

「そう、ですね………いくらなんでもあのベル様がここまで遅刻して、一報も届けないなんて」

 

大刀とバックパックを備えるヴェルフとリリは、今日から再開される迷宮探索のため、ベルを待っている最中だった。ちなみに志貴は用事があるようで来れない。明日から参加という形だ。

広大な中央広場(セントラルパーク)内では多くの冒険者が移動を続けている。

理由はおそらく今さっきなった大きな爆発音(, , , , , , , , , , , , , )だと考えるのが妥当だ。

 

「…………嫌な予感がするのは俺だけか?」

 

「………」

 

白布に包まれたベルの新武器(ナイフ)を片手に、ヴェルフは懸念を口にする。リリは黙りこくった。

 

 

 

ふと、その瞬間。

ヴェルフの視界にまるで蜘蛛の如き動きで通行人の誰にも気づかれない速度で走るシキ(, ,)の姿を一瞬。本当に一瞬だけ捉えた。

 

「行くぞ!」

 

何かを考える前に早く行かないとベルがまずい、という状況を直感したヴェルフは立ち上がる。

 

「え?ど、どうしたのですかヴェルフ様!?」

 

「いいから行くぞリリ助!!」

 

強引に走り出す彼を追いリリも走る。

彼等の足が向かう先は、緋色の炎雷が鳴り響いた西方、第七区画。




順番としては、ロキファミリア→ヴェルフ達→ヘルメス達。です。
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遠野志貴の救出劇 中編

どーもこんばんは
いろいろ忙しいのでほんとぼちぼちやる感じになるかもしれませんが、これからも見ていただけると嬉しいです


ではどうぞ


レンが危ない。

そう直感した俺は【ロキ・ファミリア】のホームから全力で飛び出した。

窓から外に出る形になったが流石に許してほしい。

ここから【ヘスティア・ファミリア】のホームに行くには大通りより、裏路地を通った方が早い。実際のところは知らないが、七夜の体術は遮蔽物があった方が動きやすい。そのため狭い裏路地の方が動きやすい。

そもそも教会が爆発した理由はなんだ?火事か?……いや、あの教会に火事の要因になるようなものは置いていなかった。それに、火事にしては大き過ぎる爆発音。

故意的なものだ。そう判断し、裏路地に入ってからさらに速度を上げた。

極めて少ないとはいえ、通行人に被害がないように動く。恐喝しているゴツい奴を途中で見かけたのでナイフを逆手に持ってそいつのこめかみあたりをそれなりに力を込めて殴る。

上手いこと気を失ってくれたようなので、放置して先に進む。

道が開けたところで自分が中央広場(セントラルパーク)、つまりギルドの前に来ていることがわかった。まだ爆発音がしてから数分も立っていないだろうが、中央広場(セントラルパーク)はすこし騒めいていて数回しかきたことがないとはいえ目に見えて人が多かった。

人の波を七夜の蜘蛛の如き動きでうまく掻い潜る。幸い通行人も気づいてはないようだ。

爆発したものの目的は?そもそも爆発を仕掛けた者は誰だ?

動きながら考え始める。

今の俺の状況からして、アポロンだと考えるのが妥当だが、ベル君が誰かに恨まれていたという可能性がないわけじゃない。

でも、ここは【アポロン・ファミリア】が主犯だと考える。

目的は俺を【ファミリア】に入れること?

執念深い。誰かが言った言葉を思い出す。ダフネさんから言われた言葉もある。そう考えると…………!?

つまり、レンは人質か?

下界の人間1人のために人さらいまでするか普通!!??

とにかく今は急いでレンの下まで行かないとっ!!

さっき視界の端にヴェルフとリリルカさんが見えた気がする。あ、そういえば今日はベル君とダンジョン探察をする予定だったんだっけ。

ベル君やヘスティアの現状もきになる。急ぐぞっ!

中央広場(セントラルパーク)を抜けて教会に向かう。あともう少しだ。かなりの大きさの酒場を少し進んで行った先にある脇道に入ったらあとは直線だ。

教会は火を吹き半壊していて既に原型をとどめていない。

しかし問題はそこではない。

問題は人だ。

ベル君とヘスティアはまだ中にいるのか、それとも今はもう逃げているのか。分からないがこの崩壊度で中にいたのならレンや冒険者のベル君ならともかく、神のヘスティアではまずい。

……いや、そういえば、神は下界で怪我をすると神の力が解放されるって聞いたな。それっぽい現象は起きていないようだし、とりあえず無事なのか。

さっき言った問題に戻ろう。

屋根にざっと10数名、何かを追うように指示を出し、走り去っていったのが数名。

 

『兎を追え!』 『神もいる!傷をつけるなよっ!』

 

他にも指示が飛んでいたが、はっきり聞き取れたのはそれだった。

今追われているのはベル君?ヘスティアも一緒みたいだがレンもそっちに……?

そう考えたとき、半壊しながら、地下室への入り口がむき出しになっていた場所から、人が入っていくのが見えた。 爆風や煙で誰かは分からなかったが———太陽の紋章(エンブレム)が少しだけ見えた。

 

太陽の紋章……【アポロン・ファミリア】!!!

やっぱり予想通り、主犯はアポロン!!消去法だが、中にまだ人がいるとするなら………地下室に入って行った奴の狙いはやっぱりレンかっ!急げっ!

 

 

—————————————————————

 

私の名はヒュアキントス。

今回の作戦は、以前酒場にて私達に圧勝したあのシキという少年の身内の誘拐だ。

なぜだかは知らないが、アポロン様はアレをえらく気に入ったらしい。

しかし、他の団員のようにひたすら追いかけ回すだけでは圧倒的に開きがあるLevel差の前には意味をなさない。

そのため人質だ。

人質を殺すと脅せばまず最低限、交渉のテーブルには着くだろうというのがアポロン様の狙いだった。

アレの身内は妹と申告しているそうだが、まず違うだろう。

アレは人間だが、人質……名前はレンと言ったか。レンはエルフ、あるいはハーフエルフだ。耳の長さからしてハイエルフではないことがわかる。

オラリオは来るもの拒まずが流儀なため、基本身分のないものだろうが、入れてしまう。

検査したであろう門番も深く物事を考えず、その家の都合、程度に考えていた筈だ。

聞けば、冒険者登録はしていないようなので今回の作戦にて私が一番楽な役回りかもしれない。

それもそうだたかだか10歳やそこらの少女だ。【ロキ・ファミリア】の【剣姫】でもあるまいし、万が一にも【ステイタス】を刻まれていてもLevelなど上がっているはずもない。

Level.3とLevel.1での差。

それは、シキと対面で理解している。

もうあの殺人鬼と会いたくもないが、我が崇拝する神の命だ。私はそれを執行するのみ。

兎に角、今は己の役割を果たすとしよう。

私は外から魔法や、火薬を使って爆破した廃墟の地下室の扉から地下室に向かった。

階段は石造りでまるで秘密基地でも思わせるようなものだった。

長い階段なわけではなく20段がそこら。階段を下がったところにとびらはなく部屋の光が階段から見えていた。

無いと断言はできないが、トラップなどがあるかもしれないので腰を低くして、ゆっくり階段を下る。

 

 

………………

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

下がり終わる。

別に長い階段ではないのですぐだ。

地下にあったのは別段広いわけでもない、少し狭いぐらいの空間だった。

ベットのあるこの空間ではおそらく一番広い部屋のほかに一見して風呂場などしかない。

ベル・クラネル、神ヘスティア、シキ・トオノ、レン、神アルテミス。

この数の人数が暮らすにはかなり狭いだろう。

しかし、目的のレンがいない。

隠れている?

その可能性がないわけではないが、レンがいない代わりに、ベットの真ん中にポツリと座る。

 

一匹の黒い猫がいた。

 

それ自体は何の変哲も無い。ただ毛並みがすごく綺麗で顔立ちも端正なように感じる。路地裏で見かけるような汚い猫では無いというのが分かる。

それから、Level.3の五感を持ってこの地下室にこの猫以外のものがいないことを理解する。

逃げていた?

他の混乱のなかこの部屋から誰にもバレずに逃げ出すだと?

あの混乱はあくまで我々が故意的に起こしたもの。

隙などなく、死角などなかったはず。

ではなんだ?

あのレンという少女が我々の予想を超える化け物だったということか?

シキ・トオノと同じように?

あれほどの男だ。連れも規格外でも納得はできる。

 

不意に、猫が立ち上がりてくてくと歩き始める。

その猫は私の目の前まで止まり、ジッと私を見る。

 

 

私が瞬きをしたその瞬間。

 

 

 

目の前にいたのは猫ではなかった。

水色がかった銀髪に、黒い貴族のような服装。

 

 

 

 

それは紛れもなく、攫うつもりであった少女、レンだった。

 

 

少女は指先から丸く青白い魔力の塊のようなものを発動させた。大きさはそれなりに大きい。せいぜい目の前の少女の握りこぶしよりも大きいだろう。

 

魔法?!詠唱もなしに!?いや、そもそも詠唱破棄の速攻魔法でも魔法名は言わなければならないはず!

第1、なぜ猫がレンに!?これも魔法か!!??

なんなんだっ!!なんなんだよっ!!!???

 

レンはその魔力の塊を使い、まるで踊るような動きで私の意識を完全に刈り取った。

 

 

———————————————————

 

「レン!?」

 

「…………………………………」

 

俺が奇襲をかけてきた連中を殺さないように気をつけながら倒しつつ地下室に入ったときにはレンはもうヒュアキントスを倒していた。

気絶しているヒュアキントスには傷があるので眠らせているわけではなく普通に倒したらしい。

しかし、気絶したヒュアキントスが身悶えているので悪夢は見せているのかもしれない。

 

「レン、遅れてきちゃってごめん。大丈夫だったか?」

 

 

「………………………………………………………………………………………」

 

コクコクと首を縦にふる。

とりあえず問題ないかな

 

「ありがとなレン。それと、なんだかベル君たちも襲われてるらしいから助けに行くんだ。来てくれるか?」

 

言いながら頭を撫でる。

 

「………………………!」

 

慌ててる慌ててる。

それでいて撫でられるのを拒むわけではないらしい。

たまにはこういうこともしてやらないとな。

レンは少し撫でられたあとコクンと頷く。

 

「そっか。それじゃあ———」

 

レンを撫でるのをやめてナイフを取り出す。

 

 

 

 

「いくか」




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遠野志貴の救出劇 後編

すこしぶりです。
あまり時間が取れていなくて……すみません汗


ではどうぞ


「………とは言ったものの、一体どこにいるんだか」

 

地下室を出て半壊なんてどころじゃない教会——廃墟に上がってくる。

さっきまで教会付近にいたはずだが、今では完全に姿を消していた。

いや、その言い方では語弊を生む。

もう見えないところまで逃げて行ってしまったのだ。

ベル君はヘスティアを抱えながらだからまずロクな戦闘は無理だろう。

仮に一度ヘスティアを下ろしたとしても、それは『防衛戦』であるわけで。

兎なんて言われているぐらいだからやっぱり遠くまで行ってるんだろうな、と志貴は一瞬考えたが、すぐにその考えを捨てた。

この世界でのLevelという概念は絶対らしい。

ベル君が兎と言われ敏捷(足の速さ)を取り柄にしていると言っても、それはLevel.2(今の強さ)での話。

その先、つまりより高いLevelの人間にその速さが通じるかと言ったらそれは………

とはいえ、これはあくまで志貴のただでさえ無いこの世界での知識での考えだ。

あっているのかどうかなどわからない。

 

「………………………………」

 

レンが俺の制服の裾の部分を引っ張って、ある場所を指差した。

 

そこは方角的には北西。

バベルのような圧倒的な高さではないにしろ、いい感じに辺りを見渡せそうな高い建物。位置は……メインストリートの近くか?

 

「なるほどな………あそこから見渡そうってことね」

 

「…………………………………………………」

 

「急がないとまずいし……よしっ、とりあえず行ってみるか」

 

志貴とレンはそこに走って向かった。

と言っても一瞬だ。

距離は、ざっと50メートル………M(メドル)程度。

周りの建物を利用して加速し、あっという間にその建物の真下に来てはレンに頼んで魔術で階段らしきものを作って登っていく。

別に志貴だけならばよじ登ることもできるが、レンが出来ない。

いや、魔術の反動なりなんなりを使い登ることはできるが、今回はあくまでこの方法。

魔術って便利だよな〜。この世界では【ステイタス】なんだし、俺も使えないかな。

なんて頭の片隅で考えながら登っていると、微かに話し声が聞こえた。

 

『フレイヤ様は動いたか?』

 

この声……ヘルメスさん?

この人ベル君の知り合いじゃないのか?なんで助けに行かないんだ!

 

「「……………………」」

 

レンは普段と同じだが、俺もレン同様話さず息を潜め、話し声に耳を傾ける。

 

『いえ、フレイヤ派は今のところ静観しています』

 

アスフィさんも!

というか、随分と事務的な会話だな。

まるで、この奇襲騒動をある程度予想していた(, , , , , , , , , ,)ような。

 

『今回の騒動に関しては、フレイヤ様は手を出さないつもりか?』

 

様?

神の間にも主従関係なんてあるのか?

だとしても部下が主人の出方をうかがいながら行動するのはおかしくないか?

それにアスフィさんはフレイヤ派、と言ってた。

その言い方は自分達は違う、と言っているようなものだ。

いや確かにアスフィさんは【ヘルメス・ファミリア】なのだから当然だろうが、自身の主神が使える神にまた己も使えるのではなく、あくまで別と考えるのであれば少し違和感があるように感じる。

 

『どうするのですか?』

 

『何もしないさ』

 

やはり動かないつもりなのか

 

『オレはヘルメスだぜ?今までもこれからも、傍観者に徹するさ』

 

傍観者、と彼は彼のことを評したが。

口ぶりから察するにまず一枚、この事件に噛んでいる。確証なんてないが、あっているだろうという自信はある。

そして、これは予想だが。

もしこの話を広めたり、本人に聞いていたなんて言えばかなり面倒なことになりかねない、そう考えると志貴はレンと目を合わせて気配を殺し彼らの背後に忍び寄る。

タチが悪いかもしれないし、もしかしたら痛いしっぺ返しを喰らうかもしれない。それでも、この自称傍観者の涼しげな顔を少しでも焦らせなければ気が済まなかった。

今もこうして、友人が傷ついているかもしれない現状で助けられるのに助けないのが腹に立ったのだ。

志貴は大切な人以外割とどうでもいいなんて考えの男なので見ず知らずの人と大切な人、どちらかが死ななければならない現状があれば迷わず大切な人を選ぶ。それでも、なんだかんだで両方助けてしまえるのが志貴なのだが、そこは割愛。とにかく、大切な人のために他人を犠牲にできる一途な男。

この世界の英雄にはとことん不向きだ。

それはつまり、ヘルメスという英雄狂い(道化)とはとことん合わないということで。

 

「あれ?ヘルメスさんにアスフィさん。こんなところで何してんすか?」

 

——————————————————————

 

ヘルメスさんとアスフィさん。

2人と話しながらベル君とヘスティアのいる場所を見つけたので、そこに行くことにして2人と別れた。

別れた、と言っても、俺達が勝手に来て勝手に去っていっただけだが。

去り際にヘルメスさんと目が合ったが、俺の狙いはうまくいったみたいだった。

それより、急がないとかなりマズイ状況みたいだった。

一対多

状況は最悪。

勝利は絶望的。

 

「—————あぁ、もう!無事でいてくれよ————ッ!!」

 

「………………………………………」

 

全力で走るに当たって、流石にレンが追いつけないので、あすなろ抱きの逆バージョンのごとく可愛らしくしがみついている。

猫になるのでもいいとも思ったが、もしものとき人の形の方が対処しやすいだろうからな。

狭い路地裏を通っているので俺からしたらかえって動きやすい。

 

右へ左へ。

 

 

路地裏の中のさらに脇道へ。

 

 

少しひらけた道へ。

 

 

とにかく急ぐ。

 

 

ある程度近づくと、目に見えて人が増えた。

と言っても増えたのは通行人や抗争騒ぎの見物客でもない。

【アポロン・ファミリア】の団員だ。

さっき高い建物から見ただけでも周囲に冒険者らしき人達が80は超えていた。流石に遠目に紋章(エンブレム)は見えなかったがここまで近づけば見えてきた。

 

『【ファイアボルト】!』

 

少し遠くの方でベル君の声が響く。

それと同時に小さな爆発音。どちらも三度。

次の曲がり角を曲がったところでベル君とヘスティアがいるはずだ。

その曲がり角を曲がると確かに数人の【アポロン・ファミリア】の冒険者はいたが2人の姿はもうなかった。

そのかわり見覚えのある二人組を発見。

確か名前は………ダフネさんと、カサンドラさん?だったはずだ。2人がいたのは屋根の上だ。2人とも確かLevel.3

彼女達もこんなことに参加してるのか……

そういえば、ギルドの前であったときに”ご愁傷様”なんて言われたな。

もしかしてあの2人も似たような方法で入団させられたのか?

いや、仮にそうだったとしても、主神に逆らえない状況だったとしても友人に手を出されたことには変わりない。

 

『————ラバラにしちゃう夢……』

音を立てずに屋根に登りレンを降ろす。

2人は俺達に気づいた様子もなく呑気に話しているが内容がよくわからない。夢?なんだよ、随分日常的な会話するんだな。

前にあった時同様、オロオロした感じに必死に何かを説明しているカサンドラさん。

 

でも今はそんなことどうでもいい

 

『そうよね、夢はそれくらい————』

 

 

今まさに話していたダフネさんの言葉を遮るように口を開く。

2人とも俺達の存在にやはり気づいていなかったようで、声を掛ける。

まともに戦闘なんてしてしまえば、手加減できないかもしれないので不意打ち狙いだ。

 

「おい」

 

「ふぇ?」

 

カサンドラさんは間の抜けた声を出し、ダフネさんは言葉を遮られたことにより反射的に後ろを振り返る。

この襲撃が計画なら俺がここに来れない算段をつけていたのかもしれない。

ベル君を狙わずともレンさえいれば最低限の目的だって終了していたはず。

 

アレはレンとまだ契約をしていない。つまり俺の見た(. .)夢。

レンがずっと見たがっていた。

大切な、レン(.)夢。

 

俺にとっての死神。紅赤朱

アレと俺を守るために戦ったレン。

そんなレンをもう死んでいると決めつけて。一瞬見ただけで最悪だと切り捨てた。

 

『まるで捨てられたゴミのようだと思ってしまった。』

 

アレと対峙するとわかって、心臓は通常より一回り大きく稼働した。

理性を司るのは脳であり、心臓はただ脳の指令を守る器官にすぎない。

そんなのはデタラメだった。一体どこの教科書がそんなこと広めたのか。

理性は脳に。だが原初的な感情を司るのはやはり心臓に違いない。

何故なら、あんなにも理性を総動員して震えを抑えたというのに、肉体は身勝手には痙攣していた。

心臓は理性を駆逐し、ありったけの恐れと迷いをまき散らした。

ジェット噴射の勢いで血管に流た闇。

全身、それこそ指の先まで張り巡らされたチューブを伝って、遠野志貴の肉体を痙攣した。

それを理性で押さえつけて、力の限り疾駆した。

肉体には知性がない。原初的な恐れに対する理論武装ができないのは当然だ。

自らの死を予感して逃走を促すのは生命の本能であり、最も優れた性能である。

それを理性で押さえつけて走るのだ。

心臓が、呼吸が乱れるのは当然だ。

 

だから、狂いそうな呼吸とはそういうコト。

自らの心象世界、自らが”死”と認めたモノに挑むコトなど間違えている。

間違えているから、肉体は発狂することでその過ちに対抗する。

 

逃げた。

何度も逃げて、ときには反撃して返り討ちにあって殺されて。

俺であれば少しはあった勝機。

しかしレンにはそれがないはずだったのだ。実際無かった。それなのに俺はずっと失念していた。

あのとき触れた唇を覚えている。

それは少し寂しげで、

まるで——————————

 

 

 

 

 

…………落とされる死神の鎌。

アレに握られた瞬間、俺の頭は潰される。

おそらく苦しみはないだろう。

なにしろあの怪力だ。タイムラグなんかないし、一瞬で握りつぶされるんだから、死んだことさえ気が付かないかもしれない。

 

———ああ、そうか。

なら別に、死を恐がる必要なんてなかったわけだ。

最期になって気が付くなんて抜けている。

視界には振り落とされるヤツの魔手。

 

……ただ、視界の端に。

小さくて柔らかそうで、苦しそうに、お腹を動かして息をしているなにかが見えた。

 

——————打撃が迫る。

 

これで最期?これで最期だって?

そんな筈はない、だってまだ右足は生きているしナイフだって握ったまま、意識は何一つ欠けていないしキズだって負っていない、なにより俺はまだ、何一つだってしてやいない………!

 

 

—————ふざけるな、まだ俺は

 

 

 

 

—————戦ってさえ、いないじゃないかっ………!

 

俺はそこで初めて己が死に立ち向かった。レンを救うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり、何が言いたいのかっていうとさ。

何となく今の状況がそのときに似ていた気がしたんで思い出したんだ。

敵の強さだってこっちじゃ段違いに弱いし、あのときのように自分の死に立ち向かったわけじゃないけど。

もう一度言う。

何がいいたいのかって言えば

 

 

「俺の友人に手を出したんだ。そのツケは払ってもらうぞ」

 

 

 

————————————————————

 

 

「レン、キミは目についた【アポロン・ファミリア】のヤツらを頼む。俺はベル君達を追うから」

 

「………………………………………………………」

 

コク、コクと

無言で頷くレンに微笑みかけてベル君達を追うために行ったであろう方向へ駆けた。

 

「はぁ………はぁ………なんで………、追ってこないんだ…………?」

 

「ベル君、これは逃げ切れたってことかい!?」

 

屋根からは降りているようで今の俺は2人を見下ろすように屋根の上にいるわけだが、追っ手が来ないのはさっきの2人。ダフネさんとカサンドラさんはこの襲撃の司令部に位置していたらしく、2人の意識がなくなったことで連携が少し乱れた。

そこにもれなくレンが追い打ちをかけている。

おそらくかなり離れたところに待機しているヤツがいない限り、そろそろ壊滅している頃だろう。

すこし安心してゆっくり降りて話しかけてみるとし………よ…………う…………

 

ハッ!!

そういえば何も言わずに【ロキ・ファミリア】から何も言わずに出てきたぞ…………?

アルテミスってば待たされると怒るタイプだし…………!!!!

 

 

脳内で怒っているアルテミスを連想する………

 

 

 

 

や、やべぇ!急いで戻らないと!!

 

「わ、悪いベル君!!多分だいたい片付いたから!そういうことでッ!」

 

「へ!?し、シキさん?!」

 

「し、シキ君!?ど、どういうことだいっ?!」

 

「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!!!!!!」

 

「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

途中でレンも回収して、いつだったか有彦の部屋にいたトンデモ生物と遭遇したときのように急ぐ。

なんとか15分かからずに往復することができ、とりあえず怒られはしなかったが、【ロキ・ファミリア】の面子にはいろいろ聞かれたが後でまたベル君達のとこ行かないとな。なにせ住む場所が燃えたわけだし。

とりあえず問題はひと段落っと。




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渾身のストレートと【ロキ・ファミリア】

少しぶりです。
ぶっちゃけこの時期はめっちゃ忙しくなってくるので、更新遅くなります。なるべく早くできるようにはしますが、皆さま見ていただけると嬉しいです。



ではどうぞ


実はあの抗争には【ソーマ・ファミリア】という、リリが所属している【ファミリア】も参加していたらしい。

レンがザッと敵を蹴散らしてくれたが、【ソーマ・ファミリア】の面子は少なからず残っていたらしい。だいたい片付けたと言った手前、恥ずかしい限りだ。

【アポロン・ファミリア】はギルドからの罰則(ペナルティ)覚悟だろうが、なんと【ソーマ・ファミリア】には大義名分、建前があった。

それはリリルカ(. . . . )アーデ(. . . )

そう、リリだった。

【ソーマ・ファミリア】は同胞を誑かした連中から奪い返す。そして然るべき報復を行い、我らの正義を証明する。

なんて名目で抗争に参加したらしい。

それに伴ってリリのこれまでの経緯を大雑把ではあるが聞くことができたが、そもそもソーマの連中はリリが死んだと考えていたらしいし、その原因を作ったのも【ソーマ・ファミリア】。

どう考えても同胞なんて考えていないものの行動だった。

ソーマの連中しかしなくなってもその実力差は圧倒的なもので、リリがソーマのもとに帰るのを条件に【ヘスティア・ファミリア】のベル、そしてヘスティアには手を出さないでくれと交渉……いや願ったらしい。

そのままリリは行ってしまい、当面はそちらが問題となってきそうだ。胸糞の悪い

しかしその前に今は、【アポロン・ファミリア】の問題だ。

あのとき言ったツケ(. .)

俺はまだ払ってもらったなんて思ってないぞ。

【ロキ・ファミリア】で丁度良さそうな手袋を借りてきて、今まさに【アポロン・ファミリア】のホームにガサ入れの如く突入し、計画が失敗し羞恥に顔を染め、親の仇でも見るように俺やアルテミスを睨むアポロンさんにアルテミスは借りてきた手袋を——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————渾身の力で投げつけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上等です。ツケを払ってもらいましょう。戦争遊戯(ウォーゲーム)だ」

 

あのとき断った挑戦を。

挑みかかるように高らかに。

高らかに宣言した。

まるで拒否権なんてないと言うように。

実際問題、アポロンにはこれを受けるしか道はない。

仮に先の作戦で俺かベル君を奪取出来ていれば、いくらでもやりようはあっただろう。

例えば、奪い取った俺かベル君にこう証言させればいい。

『主神が全て悪い』と。

誑かされただの、虐待でも受けてただの悪い(. . )に関しての言い訳などいくらでもあるはずだ。

しかし、俺もベル君も。どちらの奪取も失敗した今。

受けるであろう罰則(ペナルティ)は計り知れないらしい。

【ファミリア】解散、或いはオラリオでの無期限活動停止。

そのどちらかだ。

しかし、アルテミスはそこで一つ条件を出した。

この戦争遊戯(ウォーゲーム)を受けてくれればギルドには被害届は出さない、と

つまり、言ってしまえば、【アポロン・ファミリア】には【アルテミス・ファミリア】………いや、アルテミスにすがるしかなかった。

 

 

こうして、【アポロン・ファミリア】の起こした計画は文字通り、最悪の形で終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————————————————————

 

 

「…………と、言うわけで戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まるまでの3日間、何もすることがなくて」

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)が開催されるという知らせは、神々によって凄まじい速度で都市に広まった。

騒ぎ、浮かれ、はしゃぐ彼等の姿を見た冒険者達や市民の言伝えもその勢いに火をつけ、多くの者達へ知れ渡っていく。

アポロンとアルテミス……いや、ほぼアルテミスによる宣言がもたらされてから、一刻にも満たない間の出来事であった。

そして、日付は変わり、

志貴が今いるのは【ロキ・ファミリア】のホーム。

ここ城………家に来て初めての朝食で、だだっ広い大食堂に顔を出している。

形式でいえば、来た人から適当に好きな料理をよそったりもらったりする、学校の食堂みたいな感じだった。ちなみにこの世界にもカレーはあるらしい。カレーライスではなく、インドとかの本格的感じの。前に先輩とカレーバイキングに行ったときには………………うっ!!

 

 

………………俺は今まで何を考えていたんだっけ?

まあいいや。

とりあえず俺はなんか見たことあるようでないような植物のサラダに、ベーコンに目玉焼き。

朝ごはんとしては定番なのではなかろうか?レンはケーキだ。朝から重いとは思うが、何故か食堂にはあったのでとってきた。

そういえば、この世界にも米みたいなものはあるらしい。ただ世界中に出回っているわけじゃなくって(ミコト)さんのいたような極東だとよく食べられるらしいがオラリオではあまり見ないのだとか。

ご飯といえば、カレー!

この世界にもカレーはあるらしくて(中略)

 

 

 

…………………俺は今まで何を考えていたんだっけ?

まあいいや

 

食堂でアイズを見かけて話しかけてみると、ティオネさん、ティオナさん、それにレフィーヤという人と既に一緒に食べていて、男1人で少しあれだったが一緒に食べることになった。言い忘れていたが、レンも一緒だ。

俺、レン、アルテミスは【ロキ・ファミリア】でそれぞれ個室を貰ったわけだが、当然のごとくレンはその部屋では寝ないで俺のところに来た。今度から俺とアルテミスの部屋を気分次第で転々とするのだろう。アルテミスはロキと話があるとか言っていたから今日は一緒には食べないらしい。せっかく新生活での初めての食事だし、一緒に食べたかったんだが……

ちなみに、レンは昨日の抗争でそれなりに魔力を使ったみたいだが、俺に魔力の消費の感覚はあまりなかった。今までもそんな感覚なかったし、この世界に来てから異常が出たりしてるわけではないのだろう。レンも今日は朝起きたら布団に忍び込んでたし。

相変わらずエロい。理由までは言わないが。

話を戻そう。

俺はとりあえず戦争遊戯(ウォーゲーム)までの間暇だという旨の説明をしていた。リリの事はベル君たちがどうにかするって言われた。武力行使するにしても俺がいると圧倒的すぎる。これはきっとベル君やヴェルフ。あ、(ミコト)さんが協力してくれるとかなんとか…………

ちなみに、レフィーヤ(呼び捨てで構わないと言われた)との初対面での会話はこんな感じ

 

—————————————————————

 

食堂に入って料理を貰い、レンと2人で座れる場所を探す。

幸いあんまり混んでなかったので席自体は空いていたのだが、すぐ近くにアイズがいたので声をかけることにした。

 

「あ、おーいアイズ!」

 

「…………?シキ、おはよう」

 

「おはよう。一緒に食べないか……っと、そっちの2人は」

 

3人のうち2人は知っていた。

黒髪の褐色肌、アマゾネスだ。

ティオネさんとティオナさん。

片方とは門番の時の恩もあるし、改めてお礼をしたかったんだが、うやむやな感じで昨日は終わっちゃったからな。

 

「ティオナさん。ちゃんと言えてなかったけど、あの時はありがとう」

 

「あの時?ああ、門番のやつだねー。あの時門番やってた奴にはキツーく言っといてもらったからっ!」

 

「はは……、あんまりせめないであげてくれよ」

 

そんなことを言いながら席に着く。

ふと、アイズと少し距離を置きながら。それでいてもっと近づきたい……みたいな、そんな雰囲気を醸し出した少女と目があった。

気づかなかったが、この子も一緒にいたらしい。

 

「———えっとその………貴方は?」

 

その少女がおずおずといった感じに問いかけてくる。

 

「あぁ、ごめん。俺は遠野志貴。コッチはレン。昨日からここに住まわせてもらうことになってるんだ。よろしく」

 

右手を後頭部に当てながらそう言い、レンに挨拶しろと促すも、軽くその子と目を合わせてすぐ見向きもしなくなった。

 

「ありゃ……悪いな。コイツ滅多なことでもない限り話さないんだ。許してやってくれ」

 

見向きもしない、というところに触れずにやんわりと謝ると、その子は失念していたように名前を教えてくれた。

 

「い、いえいえそんな!お気になさらないでください!そ、それと私の名前はレフィーヤ・ウィリディスです!よろしくお願いします!!」

 

なにやら大変萎縮させてしまってるらしい。歳だって同じか1個2個下ぐらいだと思うがやっぱりLevelってのは冒険者内での社会格差なんだな。

 

「そんな、なんだか仰々しいな。もっと軽い感じでいいよ、ウィリディスさん」

 

そう言って右手を差し出そうとするが、エルフは認めたひと以外に肌を触らせないとかなんとか聞いたので握手のために出そうとした手を引っ込める。

 

「レフィーヤで構いません!それと、トオノさんの【アルテミス・ファミリア】は【ロキ・ファミリア】と協定関係になったと聞いています。協定先の団長さんに失礼のあるような真似はできませんっ」

 

「………………団長?」

 

まぁ、レフィーヤ(さんをつけないで)の言わんとすることはわかった。

だが、一つ疑問だ。

団長?

なんだそれ。一体俺はなんの団長になったっていうんだ?

 

「…………?」

 

「???」

 

レフィーヤも話が通じていないことに気づき首を傾げ、同様に俺も首を傾げる。

 

「……………団長って言うのは要はその【ファミリア】のリーダーです」

 

「あぁ、そういうことね。流石に言葉の意味は分かるけど、『団長』なんて言われたことなかったからな。

なんせ【アルテミス・ファミリア(ウチ)】は俺1人だけだからな」

 

レンは眷族じゃないし、と付け足して笑うと、みんなの顔から疑問の色が浮かぶ。

 

「…………ねぇシキ。確か【アルテミス・ファミリア】は女性のみで構成された大規模【ファミリア】だったはずよ。それがアナタだけって………」

 

……………………あー、やべ。

そこんところは昨日話すつもりだったが、色々あったせいで話せなかったんだ。まぁ、早くて今日中には話すつもりだったはずだし構わないんだが。

 

「あーーー、その辺りのことは今ロキさんにアルテミスが話してると思うけど、早くて今日中には話すよ」

 

渋々と、と言った感じではあったが承諾してくれた。

俺のせいで暗い雰囲気になってしまったこの現状を打破すべく、俺は少し声を大きくしてこういった。

 

「と、とりあえずレフィーヤ!これからよろしくな!」

 

別段面白みのない終わり方であったが、なんとか雰囲気を取り戻せたような気がした。

 

———————————————————

 

こんな感じだった。

途中からレフィーヤが関係していないような気がするが、こんな感じだ。うん。

 

それからは今度ジャガ丸くんを買いに行こうだの話をアイズとしていたら、最初の頃の態度と一変して、突如冷たくなってしまうレフィーヤがいたが省略。

そして冒頭に戻る。

 

「…………と、言うわけで戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まるまでの3日間、何もすることがなくて」

 

リリの件は俺が介入する余地はなさそうなので何もしないにしろ、戦争遊戯(ウォーゲーム)までは暇だ。

日時こそ決まっているが、どういう形式でやるかや俺の二つ名なんかを今日の夜、神会で決めてくるのだとか。

二つ名で変な名前つけられたらやだな、ぐらいにしか考えていないとこを思えば、シキの能天気っぷりが炸裂していると言えるだろう。

しかし、その話を聞いて突如目を輝かせたものが数名いた。

そしてその数名のうち1人は嬉しそうに、楽しそうに言い放った。

 

「あーー!ならシキ!中庭で戦おーよ!!」

 

「………………私も戦いたい」




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試合形式

どうも、こんにちわ
いい加減出さないとまずいかなぁーと思ったのでとりあえず投稿します。
まったく書いていないのですが、御容赦ください 

ではどうぞ


どうもこんにちは、遠野志貴です。

気づいたら森にいて、近くにあった千年城(あいつの作った城)とは違う雰囲気の城に入れば馬鹿でかい蜘蛛みたいなバケモノがいて、なんやかんやで助け出した女の子が実は神でした。

その神様の眷族となり冒険者の街、オラリオにて冒険者になったわけですが、最近別の神の眷族と少々揉めてしまい、戦争することになりそうです。

 

 

ま、そんなことは置いておいて。

俺がこの街に来て一位二位を競うほどにピンチな状況に直面しています。

 

「よーーーし!それじゃあ行くからねー!?」

 

場所は中庭。

右手によくわからないごつい武器(ウルガというらしい)を持ち目を輝かせ、今にも飛びかかってきそうなティオナさん。

壁に寄りかかって物見良さで見物しているティオネさん。

それを見てなんだか申し訳なさそうにしているレフィーヤ。

 

 

 

————————そして愛剣であろう細剣を持ち、爛々(. .)と瞳を輝かせるアイズ。

 

 

 

今の状況を一言で表そう。

口に出すからよく聞いとけよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………いや一言じゃ無理だ」

 

 

 

 

 

 

 

—————————————————————

 

 

は?

と、思うような現状だった。

シキが戦争遊戯(ウォーゲーム)まですることがないというので突如始まったこの手合わせというか勝負というかは私にとっては嬉しい出来事だった。

シキとは初めて会ったときから何か普通じゃない『ナニカ』を感じていた。

とても禍々しい雰囲気を醸し出しているのにもかかわらず、本人はその雰囲気とは真逆の態度に驚きもした。

そしてきっとこの人は強いと思ったから、私が強くなるために、いい勝負ができるかもしれないと思った。

ティオナと私が勝負をすることになったけど、ジャンケンで負けて、最初に戦うのはティオナになったのだが、シキの動きを見るためにも良かったかもしれないと前向きに考えることにしよう。

それにどんなにシキが強くてもきっと私の方が強いという、そんな考えもあったのだ。

 

 

 

しかし、そんな楽観的な考えは粉々に粉砕された。

 

「な、なんですか………あの動き……」

 

「…………………」

 

「………………普通ナイフってあんなデタラメな使い方できるものだったかしら?」

 

この驚きようは当然だ。

ティオナはわかりやすくも技と駆け引きをもって全身全霊で特攻している。

対してシキは受け身の姿勢だ。

考えてみれば、この勝負にも積極的じゃなかった気がするので当然といえば当然か。

 

 

なのに

 

 

………なのに

 

 

 

 

——なんでティオナ(. . . . )が押されてるの?

 

 

巨大なウルガの攻撃をナイフでいなし、シキ自体はナイフでは攻撃せず足技や肘などを使って攻撃している。

ウルガをナイフで、だ。

同Levelの人の戦いではないようだったが、それはシキが単に馬鹿力なわけではなく、全て(.)だ。

 

 

 

シキはナイフの扱いがとんでもなくうまいっ!

 

 

それに、そんな異次元な戦いをしながらももう一つ常軌を逸しているものがあった。

表情だ。

ティオナは食らいつくように必死の顔。

 

でもシキは、何というか慌てているような表情だった。

例えるなら、子供を泣かせてしまってオロオロしている感じ、とでもいうのだろうか。とはいえあくまで訓練なのでティオナやシキは本気じゃない。中庭に被害がないような力に抑えている。だいたいlevel4ぐらいだろうか。

でも、だ。

 

戦闘のときの表情じゃない。

しかしそれは狂人のそれではない。これはシキにとって戦闘じゃないのか?ティオナの技は戦闘の中で培った経験のそれだが、志貴には術理がある。対人戦においてこれは圧倒的に有利だろう。しかし、それでも

ティオナとシキでこれほどの差がある?

なら私が戦ったらどうだろう。

 

 

———全くわからない。

 

だけど改めてこう思った。

 

 

 

 

 

戦いたい。

 

 

 

————————————————————

 

 

 

「全くもう。ついてない」

 

タタリのときみたいに下手に傷つけても問題ないような相手でもないから魔眼だって使えない。

七夜の技は殺すためのものだから必然的に俺は受け身の姿勢になっている。

でも別に辛いわけでもなかった。

確かにでっかい武器は使ってるし、攻撃も重いし速いが、そこまでじゃない。

どこぞの吸血鬼とかカレーの人とか鬼妹とかに比べたら全然マシだ。ま、この勝負がlevel4ぐらいの力と制限したものだから、level6として本気で殺りあったらどうなのか分からない。でも

......この世界に来てかなり身体能力は上がってると思うんだが、それなのにアイツらの方がマシなんて考えられるなんて、ほんと馬鹿げてるな。

俺はとにかく目の前で必死にでっかい武器振り回してるティオナさんに慌てふためきながら隙ができたらナイフを使わず反撃してどうにか落ち着いてもらえないかと考える。

ちなみに七ツ夜で攻撃を防いでいるが、七ツ夜に壊れる気配はない。

 

「....はぁっ.........やぁぁ!」

 

大振りに振り下ろされたでっかい武器を回避して決定的にできた隙。

すかさずティオナの横っ腹のところに蹴りを入れ、2、3メートル軽く飛ぶ。

振り下ろされたでっかい武器は土にめり込んでおり、俺はそれを抜くとティオナさんの顔に突きつけた。

 

「俺の勝ちでいいか?」

 

「..........」

 

「..........?」

 

「.....もぉー、こーーさん!!全然歯が立たなかったよぉーー!」

 

こうしてティオナVS志貴の戦いはあっさり終わった。

 

.......あとこの武器けっこう重いな

 

 

 

 

 

————————————————————

 

 

 

そうして。次にアイズとなのだが、やはりと言うべきか、終わった瞬間に『次!』みたいな感じで催促された。

元々やる予定ではあったが、少しぐらい休憩してもいいだろ、と思いとりあえず一休みすることになったのだった。

 

「シキめっちゃ強いね〜〜〜!」

 

「まさかうちのバカ妹が圧勝されるとは思ってなかったわよ」

 

「圧勝なんて。力を抑えての勝負だったから勝てたんだよ。たまたまだって」

 

「それでも凄いですよ!...私なんて目で追うので精一杯で....」

 

レフィーヤが俯いたまま自虐的なことを言う。

場所は同じく中庭で、建物の壁に寄りかかって話している。

今日は天気もいいのでいっその事昼寝でもしたいけどそうもいかない。

しかし、レフィーヤはどうしたんだろう?

レフィーヤはlevel.3って聞いたし、この集団で自分だけlevelが低いことでも気にしてるのかな。

そんなレフィーヤの正面まで言って頭に手を置く。

 

「.....え?」

 

「大丈夫だって、レフィーヤ。キミだってすぐ俺より強くなるよ」

 

「そ、そんなこと....」

 

「レフィーヤはどうしてもたどり着きたい場所とか、絶対に守りたいものとかあるかい?」

 

俺の場合、それはきっとアイツだったんだろう。

記憶に霧がかかっていて、あの時の状況も、そして俺が何をしたのかも思い出せないが。

確かに是が非でも守りたい、一緒にいたかったんだ。

俺は長く生きられないとか、そんなことはどうでもよかった。今までの楽しかった人生が、アイツがいることでもっと楽しくなるのならそれで....

 

「.....あります」

 

レフィーヤは俯いたまま答えた。

けどそれは。『絶対にやり遂げる』という意思の伝わるものだった。

 

「なら大丈夫だろ。だって、俺なんかが強いような世界なんだ。キミだって強くなれるさ」

 

そう言って頭を軽くなでる。

レフィーヤにはその言葉がどこか達観したように聞こえた。

慰めるとは違う。

いや確かにそれもあったが、何処か呟くように。

否定も肯定もせず、ただキミなら大丈夫だと声にした。その言葉の重みは今までとは大違いで、多分いろんな意味の込められた言葉なのだろうと思った。

この人は一体どんな人生を送ってきたのだろう。

分からないけど、きっとこの人とは長い付き合いになるのだろうと、そう思った。けれど、

 

 

 

とにかく今はこの人の手の感触に浸っていよう------------

 

 

 

レフィーヤは気づかなかったが、志貴はまさにレフィーヤの体に触れている。

それなのに嫌悪感がわかない理由など、双方共に知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

————————————————————

 

 

 

 

 

ある程度休憩したところで志貴とアイズの勝負が始まろうとしていた。

ここまで溜めると流石に【ファミリア】内の他の人も気がついたようで、いつの間にかそれなりの人数が集まっていた。

ある人は建物から見下ろすように。

ある人は同じく中庭まで足を運び。

 

 

と言ってもここはあくまで【ロキ・ファミリア】の敷地内なので20から30ぐらいだろうか。それでも充分多いが。

 

「お二人とも、気をつけてくださいね....」

 

いざやるか、となったタイミングでレフィーヤがそう俺とアイズに言った。さっきの(. . . .)を見たこともあって不安になったのかもしれない。

 

「大丈夫だって。レフィーヤは心配症だな」

 

 

「うん、大丈夫だよ。」

 

俺とアイズがそう言うと、とりあえず納得したのかそれ以上言ってくることはなかったがやっぱり不安そうな表情だった。

 

 

 

さていつの間にか練習試合感覚だったはずのこの勝負が周りの空気に押されて決闘かなにかのように感じてきた。

ジャッジマンいるし。

黒髪で鎧を来た、いかにも普通。みたいな人がジャッジを担当するらしい。(ラウルというのだとか。)

どことなく日本人みたいな顔だな〜、と思ったが違かった。

なんというか、黒髪黒目のやつがほとんど居ないような場所なんで、感覚が麻痺してるんだろうな。

(ミコト)ちゃんはなんかちょっと違う感じしたし。

 

 

 

 

——————————さて。

 

 

と、庭の中央にアイズと向かい合うように立ち、ナイフを抜く。

ティオナとの戦いは言ってしまえば練習(おあそび)みたいなものだったが目の前に立つこの少女は雰囲気が違う。

長いロングヘアの金髪にデザイン性も防具としての機能をしっかり留めていそうな装備。そして細剣(レイピア)

本気(マジ)で行く。と目が訴えている。




感想などありましたら、どうぞお願いします!


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手加減

どうもこんばんは
夏は時間があるものかとも思いましたが、案外そうも行きません。
と、まあ言い訳でしたが遅れてすみません。そして短いです(いつもの)
感想は主の活動原料なのでどしどしお願いします(懇願)
ズイ (ง˘ω˘)วズイ




ではどうぞ


鉄と鉄がぶつかる音。

激しい剣舞の音。

凄まじい速度で繰り出される紅緋の斬撃を蒼い短刀で対抗する。

細剣、サーベルとナイフの幾度もぶつかり合う。

片や魔法で風を使い、片や手に握るナイフ1本で対抗する。

冒険者同士の白熱した試合のはず。

ただ一つおかしいのは。

さっきの試合を演出せしめた黒髪に見慣れない服装の少年が命に関わりそうな攻撃以外の大半を食らっている(・・・・・・)こと。

違和感はこの試合のレベルについていけない私ですら感じてしまった。というかありすぎた。

一体これはどういうことなのか。

それは前衛にドが付くほど素人な私でもわかることだった。

 

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、終了!勝者、アイズ・ヴァレンシュタインさんっす!」

 

試合は終わり観客は黙る。

当然であれば観客は盛り上がるはずであるが今回はそうもいかない。

先程のティオナとの試合であれだけ圧勝した男が今回の戦いで、為す術なく地に伏しているのだから。

アイズが志貴の方へ歩く。

ティオナも向かう。

レフィーヤですらも。

 

しかしそれは身体をいたわるための行動ではなかった。

またそれは観客、【ロキ・ファミリア】の一同も気持ちは同じであった。

アイズとティオナ、レフィーヤが同時に口を開く。

 

 

「「どうして手を抜いたの(ですか)!!!???」」

 

「なんで.....?」

 

ティオナ、レフィーヤが口を揃えて同じ発言をして、アイズが遅れてこの場の全員の疑問を代弁した。

 

「な、何故それを...!?白熱の試合を演出してギリギリのところで負けるという角の立たない完璧な作戦の筈がっ!」

 

今の試合でボロボロになり、軽く血を口から垂らしながら本気でわからないという顔で少年は驚愕した。

 

「ギリギリって....ほぼモロ受けてたじゃないですか!」

 

「そうだよ!だいたいさっきのあたしとの試合で圧勝した癖に今度はぼろ負けしてたら違和感ありすぎっ!」

 

「そもそも角が立たないってどういうことよ?」

 

いつの間にかティオナの隣にいたティオネが言う。

 

「え?だってアイズってぶっちゃけ戦闘狂だろ?これでもし勝っちゃったらこれからも挑まれるじゃん。だから自分より弱いヤツことなんて気にしないだろうし、ここは負けておくかって」

 

ごフッ、と血を吐いた志貴を軽く無視してこいつの軽率さ加減にみんな驚く。

いや正確にはレフィーヤは心配している。

 

「さっきの試合は無効....もう1回」

 

アイズが静かに、かつせっかちにそう言って志貴に手を差し伸べ催促するがボロボロの志貴にその手を取れるはずもなくーー

 

「ば、バカ言うなっ!この傷自体はホンモノなんだぞっ!?血溜まり出来てるじゃないか!」

 

志貴は作戦の失敗に若干テンションを下げながらもう無理だと抗議する。

血溜まり出来てるとか言いながら、這いつくばっていても割と普通に会話している時点でしぶとさは相変わらずだが。

志貴は秋葉に同じことをやって似たような展開になったなァ、と自分の演技力の無さに落胆した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

志貴はその日ボロボロの状態で回復魔法が使える【ロキ・ファミリア】のメンツに回復してもらったが、何故だか志貴を回復する場合回復が遅く、半分程度しか回復出来ず、かと言って大してお金も持っていないためポーションも買えず、どうしたものかと悩んでいたところを【ロキ・ファミリア】の備品借りればいいんじゃね?後払いで

と思いつき速攻聞きに行くも、以前までファミリア総出でどこかに行っていたらしく、ポーションがそこをついたため明日にでも買いに行く予定だったらしい。

ボロボロがボロぐらいの状態に改善されたとはいえまだ怪我人。

しかし現実は無情で。

止血もして我慢すれば動けるようになったため買い出しに付き合うことになった。アイズはあれで手を抜かれたことにそれなりにご立腹らしい。【ロキ・ファミリア】の人からも不評をうけてしまい肩身が狭かったので逃げ出したかったのもあるので幸いではあるのだが。

でぃあんけ....なんかそういう神の【ファミリア】に行くらしく、またそこで看板娘ちゃんと仲良くなる訳だが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

 

「しかし、彼の実力を見るタイミングがひとつ失われてしまったね」

 

先程の試合を【ロキ・ファミリア】の建物内から見ていた人物が一人、団長のフィンだ。

階は1階。見ていたのは中にはに沿った場所にある部屋の小窓からだ。

本来なら中庭に出て見物するか、テラスにでも行きたいところだったが、話の内容が内容なため中止し少し見づらいところからになったのだ。

 

「ああ、しかし戦闘時の技術面では期待は出来そうじゃないか」

 

「たかだかナイフであのウルガを凌ぐなんぞ馬鹿げとるのぉ!」

 

ガハハ、豪快に笑った。

フィンを挟むようにして立つ二人はリヴェリアとガレス。

この三人は【ロキ・ファミリア】の初期メンバーで当初こそとんでもなく仲が悪かったものの今は固い絆で結ばれている。

たぶん、きっと、おそらく。

その三人が見ていたのは先程ティオナとアイズと戦った志貴。

力をかなり制限していたとはいえ、息一つ乱さず圧勝。

しかも武器のリーチの関係上一対一ではすこしフェアではなかったはずがこれを勝ってみせた。

 

「ああ、たしかに彼は凄い。でも僕があの試合で見たかったのは彼の『底』だ。『これが出来る』ではなく『ここまで出来る』というのが知りたかった。

そうでないと【遠征】で彼への指示が出しにくいからね」

 

そのためアイズとの試合には一種の期待をしていた。

その期待はアイズの方に、だ。

さっきの圧勝ぷりを見ればアイズも負けじと頑張るはずだ。ただでさえ手加減や力加減といった加減(・・)が苦手な彼女は絶対に本気を出す。【ロキ・ファミリア】(うち)のエースをぶつければ彼の本気になった姿が見れると思ったが、それは志貴思わぬ行動のため不可能になってしまった。

 

「しかしまぁ、よくあんな演技で白熱した試合を演出、なんて言えたものだね。ユーモアがあって良いとは思うけどさ」

 

やれやれ、といった様にフィンが肩を竦めた。

 

「次の【遠征】までには時間がある。Levelの差もあってまず【アポロン・ファミリア】に敗北することはないだろう。目の前の問題が全て解決すれば、彼とダンジョンに行く暇ぐらいはできるだろうさ」

 

リヴェリアがそう言うが問題はその問題だ。

 

「確かにその通りだけどーーー」

 

「あの小僧のとこの【アルテミス・ファミリア】が抱えてきたナニカ、じゃな」

 

顎髭に手を添えながら思考する。

こちら側が把握しているのは『レン』という少女のことのみであった。

 

「ああ、まず女性限定の【ファミリア】だったはずの【アルテミス・ファミリア】に入れた経緯。ティオネが言うには崩壊した可能性が濃厚らしいが....」

 

「なに?あの【ファミリア】には同胞(エルフ)もいたんだぞ!?」

 

リヴェリアの顔が驚愕で染まる。ありえない、と。

エルフにとって同胞の命はとてつもなく重い。

このままではシキに理由を問い詰めかねないリヴェリアを窘めながら話を進める。

 

「あそこにはLevel.5もいたはずじゃぞ。おおよそオラリオ外(そと)に【ファミリア】崩壊の要因なんぞありゃあせん。

と、すれば」

 

「ああ、おそらくは怪物(モンスター)だろう。しかもオラリオ外(そと)に置いてはかなりのイレギュラー」

 

強化種などではないだろう。

アレはダンジョンによる後付けの強化であって、外のモンスターには適用されない。

それが仮に現れたとして、そして【アルテミス・ファミリア】が崩壊したとしたなら、それをどうやって打ち破ったというのか。鍵を握るのはシキかレンか。......あるいは両方。

特にレンについては著しく情報が全くない。

シキのように試合をした訳でもない。

それどころか一言だって言葉を発していないのだ。

シキがベル・クラネルの救出から帰ってきたときに初めて対面したが、シキがアルテミスに怒られている中、シキの隣に座りくすんだ瞳で虚空(・・)を眺めていた。

 

 

 

 

それっきり言葉を出すものが居なくなった部屋の中でフィンは一人、目を閉じて【アルテミス・ファミリア】(あの三人)が秘める秘密に思いを馳せた。

 

 

三人は既に気づいていない。

 

そしてその部屋の窓辺には大きなリボンをつけた毛並みの非常に良い黒いネコが感情というものを感じさせぬ虚空(・・)の瞳で眺めていた。

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

 

 

 

夕闇が都市に満ち、空が蒼く移ろっていく。

都市中心部にそびえ立つ白亜の巨塔は、魔石灯を灯し始める広大な街並みを今も見下ろしていた。

 

「フレイヤ様、命じられていた物品(もの)が準備できました.......フレイヤ様?」

 

バベル最上階。

背後からかけられた従者(オッタル)の声に、フレイヤは反応を示さなかった。

怪訝そうな表情を浮かべる彼に美しい長髪を晒しながら、窓辺の椅子に腰かけ、視線の先の光景を眺める。

 

「......ふふっ」

 

銀の瞳が魅入るのは、服の下からでも傷を負っていることが察せられる見たことのない服装に()の入っていない眼鏡をかけた少年だ。

大通りを複数人で歩いている。おそらく帰宅中なのだろう。

彼が【ロキ・ファミリア】のホームに移住していることは知っている。アルテミスと一緒に門番に萎縮していたのを見ていたのだ。

彼は明らかに荷物持ちにされておりポーションなどの冒険者必須の道具を落とさないように慎重に運んでいる。一人だけ少年の身を案じる後ろ結びの少女がいるが、荷物持ちを手伝おうとすれば逆に少年に遠慮されていた。

 

 

「......本当に、アポロン派の行動に目を瞑ってよろしかったのですか?」

 

オッタルは主たる神に問いかける。

細い指で耳の後ろに髪をかけながら、彼女はクスリと小さく笑う。

 

「ふざけた真似をするからどうしてやろうかとおもったけど....そもそもアポロンでは彼の相手は勤まらない」

 

視線を眼下の少年に縫い付けながら、銀の瞳を細める。

 

「でも」

 

女神は欲望満ちた微笑みを浮かべて言った。

 

「これでようやく、彼の輝きが見れる」

 

 

 

 

 

 




感想、評価、誤字などありましたらよろしくお願いします!

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https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=220175&uid=265584
これです↑


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夜明け前後

どうも、こんばんは
一瞬だけ誤投稿しちゃったことがありましたけども....ま、まぁ誰も見てないよね.....?
アポロン陣営レベル少しあげてます
だってそうしないと勝負にすら....
ま、まあレベルをあげた人達はぶっちゃけ原作においても今後一切でないでしょうし、気にしないで置いてください。
レベル上がったひと。
ヒュアキン君 level.3→4
モブ 以下同様
モブ 以下同様



ではどうぞ


アルテミスとアポロンの戦争遊戯(ウォーゲーム)は、間もなくギルドに承認されることとなった。

 

同時に開催される運びとなり都市の動きは活発に、そして慌ただしくなっていく。

 

割を食らったのは都市管理機関であるギルドだ。派閥同士の総力戦という物騒な催しによって間違ってもオラリオに被害が及ばぬよう、物資や人員の手配、宣伝、戦争遊戯ウォーゲームの舞台候補となる戦場の絞込みなど、近隣地域への呼びかけも含め様々な作業に追われることとなった。

 

神々の身勝手な要望もそれに拍車をかける。

 

件くだんの話題が冒険者や一般人問わず持ちきりとなり、都市内外での注目を集める中、戦争遊戯(ウォーゲーム)への準備は着々と進められていた。

 

 

 

「ではこれより神会(デナトゥス)を始めましょう」

 

 

 

そう口にしたのはアルテミスだった。

 

オラリオ中央、バベル三十階。

 

列柱が高い天井を支え、円卓が一つの配置されている大広間には、現在多くの神々が集まっている。戦争遊戯(ウォーゲーム)規則(ルール)や形式の打ち合わせは、対戦派閥である主神の合意のもと、他神達の意見が織り交ぜられているーーー最高の娯楽とするためにーーーこの神会(ディナトゥス)で決められるのだ。

 

そして、都市を騒がせた奇襲騒動から一日。

 

こうして打ち合わせが始まった。

 

時間的には丁度志貴やアイズ等らが試合をするという話が持ちあがったくらいの時間だろうか。

 

まず女神(アルテミス)男神(アポロン)、両者の必要書類にサインや手続きを周囲の監修のもと済ませていく。

 

 

 

「我々が勝ったら、シキ・トオノをもらう」

 

「いいでしょう。もとより負けることはありません。願うだけならタダですから、好きな願いを口に出しなさい ? 」

 

 

さすがいがみ合う仲なだけあって口を開けば煽りが出る。

 

「君も変わったな ? 以前ならそのような丁寧な口調など使わなかったろう ? 一体何があったんだい ? 」 

 

言葉だけ見れば優しい言葉のように聞こえるがその実表情が一致せずいやらしく笑っている。要は下衆の勘繰りだ。 

 

「......ではこちらは昨日言ったようにこちらの要求をなんでも呑んでもらいましょう」 

 

それが【ヘスティア・ファミリア】のホーム、及び【アルテミス・ファミリア】に出た被害を申告せず黙っておいてやる、という条件だった。

 

あの奇襲が成功していればたとえ被害申告を出されたところで痛くも痒くもなかった。

 

何せ他【ファミリア】にも協力させていたのだ。二つのそれなりに大手【ファミリア】が口裏合わせをすればギルドからの罰則(ペナルティ)を八割は減少させられていたらしい。

 

しかし、それは失敗し探せば状況証拠はたんまり。

 

もはや中小【ファミリア】が握りつぶせる問題ではなくなっている。

 

「ーーーーいいだろう」

 

 

 

苦渋の決断。

 

苦虫を噛み潰したよう、というか正しくそんな表情で肯定の意を示す。それには先程の虚勢的にもアルテミスを煽ったときの余裕はない。いや、昨日の時点でなかったのだ。

 

己が勝つことを微塵も疑っていないアルテミスは、自分の要求を言い放ち、アポロンはそれに同意してから何も言わない中、会議の記録を取る書記の神へ『ほーい』と明文化させる。

 

 

 

やがて、戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝負形式に関して話が及んだ。

 

「まず前提として、一対一は論外だ」

 

「当然ね。【アルテミス・ファミリア】の団員は一人とはいえlevel.6 分が悪すぎるわ」

 

「俺も支持する」

 

誰かの意見にこれまた誰かが賛同する。

言うまでもなく当たり前なので当然のように了承された。

 

「闘技場を使って複数対一、っていうのは ? 確かアポロンのところの最高levelは4よね ? 団長とあと二人ぐらい同じlevelの眷族()がいたはず」

 

「なるほど。level.4三人対level.6 勝てるかは怪しいが試合にはなるだろうな」

 

「ならハンデを付けるのはどうか ? 例えばアルテミスのところの眷族(こども)は【魔法】使用禁止、とか」

 

「そもそもアルテミスのとこの眷族(こども)は【魔法】使うのか ? 」

 

「ーーーいえ、志貴は【魔法】は使いませんね」

 

アルテミスは少し言うか考えて、本当のことを言うことにした。

どうせ戦争遊戯(ウォーゲーム)は公開されるのだ。使うとしたらどうせ当日わかることだ。

なら正直に言ってしまおうと。それに闘技場のような開けた場所で使えるような短文のものとは限らないのだ。もしかしたら長文詠唱なのかと深読みしてくれる神もいるかもしれない。

 

とはいえ話は進む。

 

「アルテミスの他の眷族(こども)はどうしたんだ ? オラリオ外(そと) に居たとはいえ、最高level.4の大手だっただろう」

 

アルテミスにとって最悪の話題が振られた。

 

「そうだ ! シキ・トオノは出場させず、他の眷族(こども)達だけに戦わせるよいうのは ? 」

 

希望を見いだしたアポロンが声を上げる。

 

ここはアルテミスの決断が強いられる。

ずっとトラウマで、今ですら克服できていないのだ。

思い出すだけで戻してしまいそうになるほどに。

この場で言えるのか ? どんな態度で言えばいい ? 今までは志貴はカバーしてくれていたが、ここには志貴もレンも居ないのだ。こんな風に他の眷族(こども)はどうしたのかと聞かれることは何度かあったがその全ての状況で志貴がフォローをしてくれていたから何とかなっていた。ヘスティアに聞かれたときは聞かないように考えないように逃げていた。説明は全て志貴任せで、私は俯いて話が終わるのを待っていただけ。

 

一度克服するためにレンにあの光景を夢で見せるように頼んだ。

 

ダメだった。

必死になってレンにやめてくれと懇願するほどに、私はあの地獄(ふうけい)を克服できなかった。

真に神であるのなら、あの眷族達(こどもたち)の主神と言うのならここでハッキリ『壊滅した』と言うべきだ。

 

でも出来ない。

 

体が熱い。

砂漠にいるのかもしれない、と想像した。

けれど喉は渇いていない。

熱いのは体ではなく頭だ。

はあ、と。

一際高く、あえぐように呼吸した。

熱い。

何か、得体の知れない泥を食べてしまったかのよう。

溶岩のような泥は胃に溜まって、けれど溶岩なので消化などできず、グツグツと中から体を焼いている。

 

熱い。

呼吸は荒くなる一方で、苛立ちだけが増していく。

ここでハッキリ言えない自分にではなく、無力すぎた自分に。血の気が引く、なんて言葉があるが今の状態は真逆。暑くて熱くて仕方ない。視界はぼやけて息はしずらい。

 

熱い

......熱い。

熱い

......熱い。

熱い

......何か。

頼むから、

......熱い。

この熱を、

......熱い。

どうか。

......熱い。

消して、ほしい。

 

「はーい、そこまで。アルテミスは【ファミリア】の眷族(こども)をシキ君しか連れてきてないんだ」

 

「ーーーーーー」

 

声をかけたのはヘルメスだった。

 

 

..........なるほど。

どうやら私は、

あの日から一歩も前に進んでいないらしい。

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

 

あの後ヘルメスに「アンタレスの件なら知っている」と周りに聞こえないように伝えられた。

礼は言わないが後で問い詰めないといけない。

しかし、私の他の眷族のことは無理だということで決定した。

この(おとこ)は侮れない。言葉巧みに虚言と本音を使い分け、なまじ神同士では嘘が見抜けぬことをいいことにあっさりと話を逸らして騙しきった。

 

しかしすでに話は切り替わっているのだから、それと同様に私も切り替えないといけない。

 

月桂冠を被る金髪の男神は、冷静な仮面を被り、フッとせせら笑う。

 

「【ファミリア】の団員がオラリオに一人しかいないのは、他の団員をホームに置いてくる決断をした、君の責任だ」

 

「ーーーええ。その通りですね」

 

「故に、君の都合に合わせる道理はこちらには無い。そうだろう ? 」

 

「はい。では勝負形式の決定に関しては他の(もの)達に一任しましょう」

 

先程も言ったが、どのような状況であれ負けることはないだろう。これは慢心ではなく信用だ。志貴がアポロンとその眷族(あのような連中)に負けることなどありはしない。

 

「ここは公平に、くじで決めようじゃないか」

 

その提案は認められた。ヘイ、と準備のいい神が箱をどこからか取り出し円卓に置く。

そのばにいる神が一柱一枚戦争遊戯(ウォーゲーム)の方法を羊皮紙に書き、集められていく。アルテミスは書かない。

くじが完成すれば、誰が引くかとなる。

辺りを見渡し、いろいろな意味で常に中立のヘルメスが選ばれた。

 

「どうかお手柔らかに......」

 

呟きながら箱をゴソゴソとあさるヘルメス。

固唾を呑む神々の前で、彼は取り出した一枚の羊皮紙を確認すると......あ、と。

1度固まって、空々しく笑いながら、ぴらりと広げた羊皮紙を公開する。

 

 

 

 

 

 

『攻城戦』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

神会(ディナトゥス)での内容をアルテミスに聞かされながら食堂で夕食をとる。

いわゆる城でのディナーなので屋敷にいた頃と同じようにマナーにうるさいのかも、と思ったがあまりそういうルールは無かった。

志貴の聞いていた話だと、三日後、ということだったが勝負に使われる城はすぐ抑えができたが、城の設備云々とかで四日後に変更された。

移動時間に一日半程度かかるのでオラリオにいられるのはあと二日ぐらいだ。

攻城戦。

要は城を攻め落とせば勝ち、できなかったり捕縛されれば負け。基本ルールは結構簡単だ。

そして攻め落とせば勝ち、といっただけあって俺は攻める側らしい。

一人で相手【ファミリア】全員を相手どれというのだから無茶がすぎると焦ったが、level差の問題で妥当なのだとか。

むしろ城のような室内だと罠なども仕掛けられて、それでようやく平等(フェア)だと言われた。

 

そういえば、あの試合のあとあれこれあって買い出しに付き合わされ、その先で知り合いができた。

アミッドという俺と同じぐらいの少女で、ディアん....とかいう販売系の最王手【ファミリア】の看板娘だ。

ずっと仏頂面なんでほんとに客商売やってるのかと不安になったが、女っ気の薄い冒険者には美人な店員が居るというだけで来る価値があるらしい。主神の性格以外全てが他の派閥より良好なのも好かれる理由だ。

ちなみに主神は客の足元を見るような性格らしい。店の奥にいたらしいが俺は見えなかったから体格とか顔とか、そういうのは知らないが名前的に男神っぽい。

アミッドには採集クエストを依頼するときには【ロキ・ファミリア】同様、贔屓にさせてもらいます。と言われたが、最後の方にボソッと「安価で」なんて声が聞こえたような気がする。

素材 ? を売にいく時は誰か冒険者の知り合いを付けてこよう。うん

戦争前にしてはやたら危機感のないことを考えながら、遠野志貴はその一日を終えた。

 

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

夜明けの前の街、肌寒い冷気が漂っている。

鎧戸を締め切った店がならぶ大通りは日中の活気が嘘のように閑散としていた。高い市壁に囲まれる街並みは巨大な影に覆われていて薄暗い。

都市が朝の静寂を纏っている中、うっすらと白み始めている東の空を目指すように、三つの影が東のメインストリートを歩いている。

 

「志貴、東門が見えてきましたよ」

 

「あ、ホントだ。アレって俺達が入ってきたときの門 ? 」

 

「私達が入ってきたのは西です」

 

「え ? でもこんな感じの道じゃなかったか ? ....あ、でも地面のタイルの色が違うような.... ? 」

 

「門の付近は四方全て似たような造りです。違うところといったら地面の色ですね」

 

「やっぱり。....って隊商(キャラバン)ってあれじゃないのか ? 」

 

歩いているのは志貴とアルテミス。そしてレンだ。

彼等は話しながら東門前に向かって歩いている。

 

隊商(かれら)にはもう話をつけてあります。馬車に乗って古城の近くにあるアグリスという町で降りてください。そこからはギルドが臨時の支部を作っている筈なので彼等の指示を仰いでおけば問題ないでしょう」

「おっけーおっけー」

 

「....む。なんですか、その気の抜けた返事は」

 

「え ? フレンドリーっていうか、親しみを込めてみたんだけど....」

「ーーー次、私に対してそのような挨拶をしたら問答無用で殴りますよ」

 

「あ、はい。すみません。解かりました」

 

目が、本気(マジ)だった。

戦争遊戯(ウォーゲーム)開催、二日前。

戦争前だというのに気の抜けた言葉を発するこの男は開催場たる『古城跡地』に向かうためにこの世界に来て、二回目の馬車に乗る。

実際のところ、馬車というのはパーティの時に乗った豪華なものではなく、夢も希望もないものすごくおしりの痛くなるような代物なのだが、本人は快適な旅ができると信じきっている。

あの時の馬車が快適なものだったのはきちんと整備された道に低スピードで馬を走らせていたからであって、なんのても加えられていない道というのはそりゃもうガッタンゴットン揺れる。

それに本当だったら自分用に馬車と馬、そして運転( ? )手を雇うはずだったのだがちょうど同じ方向に進む集団がいたからという理由でそっちに乗せてもらいお金を節約したのだ。

小学生で10万貯金した男はやることが違う。どちらかと言うと悪い意味で。

 

「私やレン。戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加しない者は同伴出来ません。ここからは志貴、貴方一人です」

 

「ああ、大丈夫だって。あ、でもレンはどうする ? 猫の一匹くらいなら別に文句を言われることは無いだろうけど」

 

「………………………………………………………………」

 

しばしの沈黙のあと、レンはコクリと頷いて志貴の服の裾を引っ張った

 

「ん、わかった。それじゃあアルテミスーー」

 

「......ええ、貴方達が凱旋してくるのを、ここで待っています」

 

「おう。行ってきます ! 」

 

 

 

 

 

そして物語はようやく山場に。

神や人や猫の思考が入り交じり、太陽と月が交差する。

太陽は僅かな希望に賭け、

月は僅かにも進歩せずに、

 

月が沈み太陽が顔を出すこの刻、青年(殺人貴)が動き出す。




唐突に七夜の作品書きたいな、なんて思いつきまして。
もしなにか七夜をぶち込んで欲しい作品などあればこちらにお願いします。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=220690&uid=265584
↑これです。

感想は希望作者の創作意欲の糧となっていますのでどんどんお願いします。m(*_ _)m
酷評以外で(重要)
メンタルが辛くなりますw

ほかにも評価や誤字などありましたら、よろしくお願いします!


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閑話 敵側視点

お久しぶりです
実はいくつかまとめて投稿しようとしたのですが、このままではいつまで経っても投稿できないので上げました。
タイトル間違えたんで直しました


ではどうぞ


シュリーム古城跡地。

森も丘も存在しない平野の真ん中に堂々と建つ城砦は、『古代』に築き上げられた防衛拠点の一つ。『蓋』に当たる巨塔(バベル)と巨大市壁が完成する以前、ダンジョンの大穴から出現するモンスターの進撃を背後の都市や町を遠ざけるため、あるいは食い止めるため、こういった砦はオラリオの比較的近隣の地域に数多く造られた。今日(こんにち)ではほとんどが廃墟化しているが、このシュリーム古城跡地に限っては、隆盛を極めていた王国が一世紀以上前まで使用していたこともあり、寂れてはいるものの城壁を初めとした機能がまだ生きている。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)の戦場にはこの場所が選ばれた。

 

城壁の上で玉座の塔を見上げながら、短髪(ショートヘアー)の女性がいた。

名をダフネ。

王国の手で改築と補強を加えられたこの城砦の作りは少しおかしい。見栄と(ぜい)を好む主神(かみ)が命じたのか、玉座のある極太の塔が砦の中にこれみよがしに建っているのだ。質実剛健の城砦に王城のような鮮やかさが持ち込まれている。その塔の上でなびいている自派閥の(エンブレム)を見つけると、つい失笑したくなる。

正直な話、ここに集う()()と対峙したものの全てが今すぐにでも帰りたいと思っている。level.4が三人いようがあのlevel.6には勝てるイメージがしないのだろう。現に、酒場の一件で【ファミリア】(ウチ)の幹部がひとりいたようだが、なんてことないように殺気で意識を絶たれた。

奇襲のときも団員のほぼ全てに視認されることなく確実に意識を飛ばしていた。

 

たぶん、アイツは駄目だ。

最初会った時の態度から悪いヤツじゃないのはわかったが、()()は言うなればいてはいけない存在だ。

 

まるで死神

 

平等かつ等しく凡百の全ての命を刈り取ってゆく。

 

まるで死神(タナトス)

 

闇派閥の主神のよう

 

しかし、人間が死神と呼ばれるのには条件が必要だ。

だって、人間の肉体(いきながら)にして『死』を与える(理解する)チカラを持っていなければ、死神の死の鎌は作れないからだ。

 

「ダフネちゃん.....」

 

松明の代わりに魔石灯が灯る城壁の上、カサンドラが震える声でダフネの名を呼んだ。

ぼうっとした灯り(あかり)に横顔を焼かれる長髪の少女は、両手で自分の体をかき抱えながら口を開く。

 

「駄目......ここから逃げよう」

 

「はぁ? できるならとっくにやってる。できないからウチらはここにいるんでしょ」

 

「城が、城が滅ぼされる....」

 

突拍子もない事をいうカサンドラに、ダフネは少しうんざりする。

 

とはいえ植え付けられた『死』のイメージが離れないのは自分も同じで、これから起きるであろう悲惨に身を震わせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘シーンがないことついてはご愛嬌


え1000文字程度しかない?
あ、そ、その次は10000を越す予定なので許してください 
生存確認として


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