ムース1/2 (残月)
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憑依した日

 

 

こうして久し振りに日記を読み返すと如何に自分が異常な状態に置かれていたか……否、置かれているかが分かる。

俺は死んだらしい。そして漫画の世界に来たらしい。

何故それを知っているかと問われれば目の前の人物を知っているからだ。

 

 

「勝負だ!」

「やれやれ、何度目だろうな……お前と戦うのは!」

 

 

目の前の少年、早乙女乱馬と戦うべく俺は構えた。そう、この光景が日常となる切っ掛けは今から10年以上も昔に遡らなければならないのだ。ただの男子高校生だった俺が数奇な運命に巻き込まれた日の事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

バキィと左頬を殴られた感覚に俺は目を覚ます。何事かと目を開けたのだが視界がボヤけて良く見えない。

 

 

「やっぱ男は弱いネ」

「ド近眼の奴だしね」

 

 

左頬が痛いと同時に、周囲から恐らく俺をバカにしているであろう声も聞こえてくる。

 

 

「やっぱり弱いネ、お前。これで終わりヨ!」

 

 

視界がボヤけたままで見えないが前方に居るであろう人物が迫ってくるのが分かる。何も分からんまま殴られるのは癪だから、取り敢えず動きを止めねば。目の前の人物は声からして女の子である事が判明した。

 

ギリギリまで引き付けて、拳が見える範囲に入ったら避ける。見えない以上こうやって避け続けるしかない。相手が疲れて動きが止まったら話を聞かせてもらうとしよう。

 

 

「な、なんだアイツ、急にシャンプー様の拳を避け始めたぞ」

「さっきまであんなに食らってたのに!?」

 

 

周囲がざわついている様だが俺はそれどころじゃない。つか、シャンプー様って?

 

 

「いい加減に……沈むね!」

「うおっ……とっ!」

 

 

あ、ヤベ……目の前の娘があまりの剣幕と共に俺の袖を掴んで殴ろうとしていたので、咄嗟に避けて更にがら空きだった首筋に肘を叩き込んでしまった。

悲鳴と共にドサリと地面に叩きつけられる音が聞こえた。ヤベーよ咄嗟の事だったから、かなり綺麗にカウンターが入っちまった。

 

 

「だ、大丈夫か!?」

「私は……まだ負けてないネ!」

 

 

あまりに綺麗に入ったカウンターに心配して女の子に駆け寄ろうとしたら、逆にカウンターを入れられた。先程とは逆に右頬に拳が叩き込まれる。

 

 

「へ……ぶ……」

「え……きゃん!?」

 

 

意識が遠退くと同時に、可愛らしい悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫か!?」

「あー……痛ててっ」

 

 

誰かに呼ばれて目を覚ますと知らない天井……と言うか天井もボヤけて見えなかった。俺、眼鏡してるけど、こんなに視力落ちてない筈なんだけどな……手探りで眼鏡を探していると「ほら、しっかりしろ」と眼鏡を手渡された。ありがとうございます。

だが、手渡された眼鏡に違和感を感じる。俺の眼鏡って丸眼鏡じゃなかったんだが。仕方ないと丸眼鏡を掛けてみると、まったく知らない部屋だった。

呆然としていると先程の男性から声を掛けられる。

 

 

「しっかしムースも強くなったんだな。まさかシャンプー様に勝ってしまうとは」

「アナタ、まだ勝ったと決まった訳じゃ……」

 

 

やたら美形の顔つきの男性と瓶底眼鏡を掛けた地味目の女性が俺を見ながら会話しているが、俺の頭には入ってこない。いや、ちょっと待って……さっきからシャンプーとかムースって……

 

 

「どうした、ムース?」

「まだ傷が痛むのかい?」

「ああ……まだちょっと痛いかな」

 

 

男性と女性は心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。俺はまだ少し傷が痛むと言いながら辺りを見回して……絶句した。窓ガラスに反射して見た姿に。

そこには男性と女性の他には後一人しか映っていない。

 

写し出された姿は俺の好きな漫画の登場人物の幼い頃の姿に違いなかった。

 

 

俺、ムース(三歳)になってました。



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既に食い違う原作

原作のムースと違ってムース(憑依)は日本人なので一人称が『オラ』から『俺』になっています。喋り方も原作のムースの様に鈍っていません。


 

 

 

元々の俺は高校二年生の只の学生だ。

少し目が悪く眼鏡を掛けていたが運動神経が悪い訳ではなく、寧ろ空手を学んでいた。

趣味は読書。ジャンル問わず漫画や小説が好きで特に『らんま1/2』はお気に入りだった。アニメのDVDも買い集めた程だ。

 

そんな俺は今現在……

 

 

 

「ムース、修行に行くぞ!」

「わかったよ……親父」

 

 

中国、女傑族の村でムースとして生きています。ガチな戦闘民族なのだと日々実感してます。

ムースとして覚醒した日から数日が経過した。

何ゆえにムースになったか定かではない。原因を調べようにも調べようがない。

『俺、元は日本人で漫画のキャラに転生したから此処に居るんだ』と迂闊に言おうものなら精神科の病院に送り込まれるだろう。この村に精神科の病院があるかは別として。

 

目覚めた当初、何かの間違いか夢だと考えていたがそんな事もなく寧ろ此処が『らんま1/2』の世界だと確信を得てしまった。

まずアニメで見たシャンプーの幼い頃と姿が一致。女傑族の名も聞き、俺自身がムースと呼ばれて姿も同じだったからだ。極めつけはシャンプーの曾祖母であるコロンの存在だ。まんまだよ……アニメや漫画で見たまんまの姿と喋り方だった。原作のムースが『猿の干物』と揶揄していたのが非常に納得できた。

 

目覚めて最初に会った男性と女性はやはりムースの両親だったらしく、父親の方は原作のムースの眼鏡無しがダンディになった様な容姿で、逆に母親はムースの特徴でもある瓶底眼鏡をしていた。ムースの近眼は母親譲りだったと判明した。

 

疑問に思ったのだが女傑族の名前は色々と変だ。

原作のムースやシャンプーは言わずもがな……ムースの親父の名はワックスで母親がトリートメント。シャンプーの一族に至っては曾祖母コロン、祖母コンディショナー、母親コスメ、父親フレグランスと整髪剤とか香水関係の名前ばかり。正直ナメてんのかと言いたくなるラインナップだ。しかも当て字の中国語でナチュラルに読める様になってるし。

ドラゴンボールの食材関係の名前と同じに見えてきたわ。

 

そんな事を思いながら親父との日々鍛練に勤しむ。ムースは暗器の使い手でそれは父親から学んでいたのか父親も暗器と言うか武器使いだった。特にトンファーが得意だったみたいで暗器の中にもトンファーを仕込めと薦められた。トンファーって暗器の部類なんだろうか?でも原作のムースもオマルを武器として使ってたし何でも有りなんだろう。

 

修行を終えて一休みしてると背中をバシンと叩かれる。振り返れば不満顔のシャンプーが睨んでいた。

 

 

「もう修行サボってるか。軟弱ネ」

「一区切りついたから休んでるんだよ。サボってる訳じゃないって」

 

 

なんて会話をしてるとシャンプーは俺の隣に座る。

 

 

「いいか、私と引き分けた奴が軟弱だと私が困るネ」

「アレはまだ勝ち負けが決まってないと思うんだけどなー……親父たちも連日話し合いをしてるみたいだし」

 

 

そう、俺が憑依してしまった日の戦い。あの日、実は女傑族の小さな子供達の武道大会の日だったのだ。そして決勝戦で戦っていたシャンプーとムース。戦況はシャンプーが圧倒的に有利だったが俺が憑依してしまった為にムースの逆転劇が起こってしまった。

 

そしてシャンプーがカウンターで俺の頬に拳を叩き込んだと同時にムースの袖に仕込んでいた暗器が溢れ落ちてシャンプーの頭に直撃。二人揃って気絶した為にダブルノックダウンとなってしまったのだ。

 

此処で話がややこしくなったのだ。

『シャンプーが優勢だったからシャンプーの勝ちだ』と主張する者がいれば『ムースの逆転劇は素晴らしい』と言う人がいる。他にも『先に気絶したのはシャンプーだ』『ムースの暗器が偶々当たっただけだ』と当人達そっちのけで大人が盛り上がってしまっているのだ。

余談だがムースが勝ったと主張している筆頭は親父で逆にシャンプーが勝ったと主張している筆頭は女傑族の族長コスメ。つまりはシャンプーの母親なのだ。

 

因にシャンプーは自分の勝ちを主張していたが、気絶させられたのも事実なので俺に勝ちを譲る気はないので『引き分け』としたい様だった。それからと言うものシャンプーは事ある毎に俺に突っ掛かってくる様になった。原作みたいに冷たくあしらわれるよりかはマシと思いたい。

 

だが、それとは裏腹に俺は少々焦っていた。『シャンプーと引き分けた』これがネックなのだ。

何故ならば原作だと『ムースは三つの頃にシャンプーに負けている』からだ。女傑族の掟で『女に負けた男はその女を嫁に出来ない』と言う掟が存在する。原作のムースは『三つの頃にシャンプーに負けてしまった』から婿としての資格を失い、シャンプーに長年冷たくあしらわれる事になってしまうのだが今の俺は『シャンプーと引き分けた』つまり、この段階で原作と話がズレてしまっている。

それ即ち『乱馬との勝負に負けたシャンプーが掟に従って乱馬に求婚する』と言う話が変わってきてしまうかもしれない。そうなってくると今後の話にも影響が出てきてしまうのでは?と思ってしまう。

そもそも俺はシャンプーに負けた訳じゃないからシャンプーを嫁にする資格を持っている事になる。

 

 

「何、私を見つめてるか」

「ん、ちょっと考え事」

 

 

そんな事を考えながらシャンプーをジッと見つめていたら睨まれた。

 

 

「ふん、そうやってボーッとしてるがいいネ。次は私が勝つのだから」

「うん、気を付けるよ」

 

 

鼻を鳴らしたシャンプーは立ち上がって行ってしまう。そんな仕草が背伸びをして無理をしてる子供みたいで思わず微笑んでしまう。

まあ、実際に今のシャンプーはまだ三歳だし子供みたいって言うか子供なのだが。俺も今は三歳だが元は高校生なので幼い妹を見てる気分だ。

そんな俺の笑みが気に食わなかったのかシャンプーはそのまま行ってしまう。

 

 

怒らせちゃったかな?

 

 



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ムースの日記とコロン

◯月△日

 

 

ムースになってから数週間。薄々感じてたけど、この村めちゃくちゃ閉鎖的な村だった。

なんせ電気が通ってないんだもん。テレビもなけりゃラジオすら聞けない。文明開化に逆らってるとしか思えない。

オマケに他所の村の人達との交流も殆ど無い。マジでアマゾネスみたいな村だよ、女傑族。

 

 

◯月□日

 

女尊男卑が凄まじい女傑族。普段から女が強く男が弱い立場だ。俺がシャンプーに勝ったと親父が強く主張するのは女傑族の女尊男卑を覆したいからなのではと思う。

シャンプーは女傑族の族長の娘。そのシャンプーに男の俺が勝ったとなれば、実際今の女尊男卑を変える切っ掛け程度にはなれるかもしれない。

 

 

◯月×日

 

シャンプーとはよく遊ぶのだが何故か最終的には勝負に持ち込まれる。頼むからトランプで負けた腹いせに格闘に持ち込むのは止めてくれ。

 

 

△月×日

 

修行しながらもシャンプーと遊ぶ日々が続く。手の掛かる子だけど可愛いし楽しいからいっか。

 

 

△月◇日

 

何故かシャンプーの曾祖母コロンに鍛えられてます。正直、大変だが体は三歳でも中身は高校生だ。乗りきってみせる。

 

 

△月◆日

 

なんか日々の修行がめちゃくちゃキツい。いや、三歳の子供にさせる特訓じゃねーよと叫びたい。

 

 

△月◯日

 

毎日、ボコボコにされてる。体が痛め付けられて筆を持つ手が震えてる。シャンプーの可愛さが癒しとなってきてる段階でヤバいかも。

 

 

△月□日

 

かゆ……うま……

 

 

□月×日

 

修行の最中に気絶していたらしい。コロンの婆さんもやり過ぎたと謝りに来ていた。シャンプーが見舞いに来ていたらしいけど軟弱者と罵られました。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideコロン◆◇

 

 

 

どうしたものか……先日、行われた武道大会でシャンプーとムースが引き分けてしまった。本来の予定ではシャンプーが他の者達を圧倒し、優勝するのがワシやコスメの描いておった未来だったんじゃがムースは見事な逆転劇を披露しよった。最後の詰めの甘さが気になるが誰の目から見てもムースの勝ちじゃった。

コスメや他の村の者はシャンプーの勝ちを主張しとるがワシはワックスらが主張するムースの勝ちを支持したい。

 

それと言うのも女傑族の風習を変えねばならんとワシ自身が考えとるからじゃ。

女傑族の掟として『余所者に負けた場合、相手が女なら地の果てまで追い詰めて殺す。男なら夫とすべし』この掟故に近年、女傑族では子供不足に悩まされている。

掟を破り、村の外へ嫁ぐ者も増えてきてしまった。

 

このままではこの村に未来はない。じゃがワシもこの掟を守り、嘗ては族長をしていた身。おいそれと反対意見を出す訳にもいかん。じゃがムースの存在はそれを破る切っ掛けとなりそうじゃとワシは考えた。

ムースがこのまま強くなれば女傑族の悪しき風習を覆せるやもしれん。

 

それに日頃からムースとシャンプーは良く遊んでおる。この話にはうってつけじゃろう。

以前はムースがシャンプーの後を追っている印象じゃったが今はシャンプーがムースの後を追っている様に見える。歳は同じ筈なんじゃが、どうもこうにも最近のムースは年相応には見えんな。

ムースとシャンプーを見ておると歳の離れた兄妹を見ておる気分じゃ。

 

ともあれ……ムースを鍛えてやるとするか。ワックスも決して弱い訳じゃないが師とするには少々頼りない。むしろムースの才覚を伸ばしきれぬやもしれん。ワシ自ら鍛えてやるとしよう。

 

 

 

やり過ぎたと反省しておる。修行を重ねる内にムースの身の丈を越えた修行を課してしまった。その結果、ムースは怪我をしてしまい、今は熱を出して寝込んでおる。

 

ムースは修行中でも弱音は吐くが諦めはせなんだ……更に与えられた試練を持ち前の器用さで解決してしまう。故に三歳の子に課す以上の修行を強いてしまった。

 

修行中に倒れてしまってから過ちに気づきムースを家まで送り届け、ムースの両親に謝罪した。ワシの我儘にムースを巻き込んでしまうとは情けない事をしてしまった。ムースの修行は取り止めじゃな。特にムースが倒れたと聞いた時のシャンプーの泣きそうな顔はもう見たくないからの。

 

そう思っておったのじゃが、ムースの父ワックスはワシに寧ろ頭を下げて修行の継続を申し出た。

 

 

「コロン様。アナタがムースを鍛えてくれるのはムースの為になるでしょう。それこそ最初の内はムースがシャンプーに勝った事に対する腹いせかと邪推しましたが修行をしているムースは楽しそうにしていましたし……何よりも此処で修行を止めてしまうとムースとシャンプー様の仲を崩してしまうやもしれません」

 

 

そう言って視線を眠るムースに向ければ心配そうにムースに寄り添うシャンプーの姿が。『軟弱、弱虫』と言ってはおるがムースの事を心配しているのは表情から明らかじゃった。

 

 

「じゃがのう……」

「無論、今までのような修行ではなくムースの成長に合わせた修行でお願いします。私もムースの成長が楽しみなので」

 

 

今回の原因となったワシは修行の継続を悩んでおったがワックスの申し出を受ける事にした。

一先ずはムースの体が治るのを待って……日々の修行プランの練り直しじゃな。

 

 

「何を寝てるか……早く治さないと愛想尽かすぞ、ムース」

 

 

これ、シャンプー!寝ているムースの頬を引っ張るでない!ワシは不満そうな顔をしているシャンプーを引き剥がすとムースの家を後にした。

 

 

「曾婆ちゃん……ムース、大丈夫アルか?」

「うむ……過労と怪我で熱を出しておるからの。暫くは安静にせねばなるまい」

 

 

家を出た途端に先程の態度から一転。シャンプーは不安そうな表情でワシに問い掛ける。やれやれ、素直になれんのは血筋かの……ワシは自分の若い頃と曾孫に姿を重ねて溜め息を溢した。

ムースとシャンプーの仲を取り持つ方法も考えねばならんな。

 



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ムースの日記②とシャンプー

シャンプーの口調って難しい……


 

 

 

□月×日

 

ムースになってから二年が経過した。

婆さんとの修行も気絶した日からは厳しさが軟化した。正直、助かった。あのペースで修行してたら強くなる前に死んでたわ。

あの日からシャンプーの態度も少し変わった気がする。それまではツンケンとした態度だったけど少し優しくなった気がする。

 

 

□月◯日

 

親父が仕事で隣村に行くと言うので同伴した。隣村に行ったらエラく怯えた様子で迎え入れられた。理由を聞いたら女傑族に逆らったら大変な目に遭うと言われた。どんだけ近隣に迷惑を掛けてたんだよ。

 

後、最近背が伸びた。少し前までシャンプーとそう変わらない高さだったけど少し追い抜いた。

 

 

 

□月□日

 

婆さんに先日の話をしたら当然だと言われた。女傑族は戦闘民族であると同時に古代中国の武具や秘宝を取り扱う一族なのだと言う。秘宝の中には呪いのアクセサリーや武器が有るのだと言う。

そう言えば原作でも反転宝珠とかあったっけ。あれなんか明らかに呪いのアクセサリーだし。

そんな物を管理してるから余所者を村の中に引き入れるのを拒み、他所の村へと交流を控えているらしい。

閉鎖的な村の理由は此処にあったか。

 

俺が背が高くなった事が悔しいのかシャンプーにジト目で睨まれたので頭を撫でたらボディブローを貰った。解せぬ。

 

 

×月◯日

 

先日の話の続きになるが女傑族は他の村や部族の呪われた武器やアクセサリーを回収、管理していたらしい。

中には土地も含まれていた。先祖代々からその土地に呪いをかけていた一族が居たらしく、その一族を成敗した後に現地住民を説得して立ち退きをしてもらったとか……それって要は地上げなのでは?

 

 

×月△日

 

女傑族の閉鎖的な理由は理解したけど、このままじゃイカンと痛感する。日々の修行で強くなる反面、閉鎖的な村は社会から取り残されてるのを実感する。

特に親父の仕事で女傑族の村から離れると、この村が退廃的と思えてしまうのだ。

因にだが親父の仕事は村で育てた野菜を村の外へと売りに行く事。俺はそれに付いていくのだが文明の利器に触れると村の生活が虚しく思える。日本で生まれ育ち、スマホやゲーム三昧だった身としてはツラいのよ今の生活。いや、今の生活が嫌いって訳じゃないけどね。

 

シャンプーが可愛くてヤバい。遊んでいたら転んで膝を怪我したので傷の手当てをしてから、おんぶして帰ったら途中で寝てしまった。

背中に伝わる体温と寝息が俺の理性を奪う。

もう一度言うシャンプー可愛くてヤバい。

 

 

 

 

 

◆◇sideシャンプー◆◇

 

 

最初は私に纏わり付く鬱陶しい奴だった。

弱い癖に私を嫁にすると叫んでいた情けない奴。でも二年前のあの日。私はムースに負けた。武道大会の決勝戦で戦った私達だが私は負けた。反撃された時は悔しくて反撃したが、ムースのカウンターを食らった時に決着は付いていた。その後、ムースと縺れ合って気絶してしまったがママが言うには私はムースに勝ったと言っていた。そう言えば大丈夫と念を押されて。

家から出ると大人たちは口々に私とムースのどちらが勝ったかを話し合っていた。私達の意見を聞かずに勝手アル……むしゃくしゃしてたらムースはのんびりと木陰で休んでた。

 

 

「もう修行サボってるか。軟弱ネ」

「一区切りついたから休んでるんだよ。サボってる訳じゃないって」

 

 

ムースは私の方に視線を移すと気の抜けた笑みを浮かべていた。その笑みがパパに少し似ていて何故かイラッと来たネ。

私はムースの隣に座る。

 

 

「いいか、私と引き分けた奴が軟弱だと私が困るネ」

「アレはまだ勝ち負けが決まってないと思うんだけどなー……親父たちも連日話し合いをしてるみたいだし」

 

 

私はムースに話し掛ける。あの勝負は私の勝ちと主張するべきだとママが言っていたから。でもムースは村の大人達と違って困った風に頬を掻いて苦笑いしてた。

そして其処で会話が途切れるとムースは私の顔をジッと見てた。何を考えてるか分からないネ。目は瓶底眼鏡で窺えないアル。

 

 

「何、私を見つめてるか」

「ん、ちょっと考え事」

 

 

何も言わずにジッと見つめられるのも癪だから睨んだのだがムースは考え事と答えた。

 

 

「ふん、そうやってボーッとしてるがいいネ。次は私が勝つのだから」

「うん、気を付けるよ」

 

 

私が皮肉を込めるとムースは先程と同じ様に気の抜けた笑みを浮かべていた。なんかイラッとするアル。

 

 

ムースにイラッとする日が続く。最近では遊んでいてもムースに勝てない。トランプや花札でもムースはスゴく強かった。それどころか村の外で手に入れたというゲームをしても勝てなかった。私はそれにイライラし、ムースに殴り掛かるが軽くあしらわれたヨ。

 

 

そんなある日、ムースは曾バアちゃんから修行を受けていた。曾バアちゃんは村で一番の強者で、曾バアちゃんの修行は余程の才覚を持たねば受けられない。つまりムースは曾バアちゃんに認められる程の実力?なんかモヤモヤするネ。

 

 

 

最近、ムースと遊んでないネ。ムース、曾バアちゃんと修行ばかりネ……少し寂し……いやいや、そんな事、無いネ!

 

 

ムースが修行中に倒れたと聞いてサアッと血の気が引いた。なんで、そんな事に!?聞いたら曾バアちゃんが修行をさせ過ぎたと言ってたネ。そんなになるまで修行頑張ったのカ!?

ムースの家に行ったらムースは布団の中でスヤスヤ寝てた。心配して損したね。でも良く見たら体や顔には細かい傷が沢山有った。

 

 

「何を寝てるか……早く治さないと愛想尽かすぞ、ムース」

 

 

私はムースの頬を引っ張る。こんなになるまで修行するなんて何考えてるか。私を放ったらかしにして。ムースの頬を引っ張っていたら曾バアちゃんに叱られた。ムースが起きないから私が叱られたね。

 

 

ムースの見舞いを終えてから私は曾バアちゃんに問い掛ける事にした。

 

 

「曾婆ちゃん……ムース、大丈夫アルか?」

「うむ……過労と怪我で熱を出しておるからの。暫くは安静にせねばなるまい」

 

 

曾バアちゃんの言葉にホッとする。そしたら曾バアちゃんは今後の修行は無理をさせず、シャンプーとの時間を作らせると言っていた。やた、またムースと遊べるネ。

怪我が治ったら仕方ないから少しだけ優しくしてやるネ。

 

 

 

最近、ムースの背が伸びた。少し前まで同じくらいだったのに悔しいアル。そんな事を思っていたらムースは私の頭を撫でていた。頭にキたので中段突きを叩き込んだ。

 

 

ある日、外でムースと遊んでたら私は転んで膝を擦りむいてしまた。痛くて立てないと思てたらムースは袖から救急箱を取り出したかと思うとテキパキと処置をすませる。暗器の使い道、間違えてないカ?

その後、私はムースに背負われて家に帰った。途中で寝てしまったらしく気が付いたら私の部屋だった。

 

その話を曾バアちゃんは楽しそうに私に語った。ムースが頼りになるとか強いとか。ママはそれに反論してたけど……私、ムースの背で寝てたのだな。そう思うと顔が熱い……風邪でも引いてしまったかな?

 

 



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ムースの日記③

 

 

 

×月◯日

 

ムースになってから五年が経過した。ムースになった時も思ったけど体がハイスペックなんだよな。視力を除いて。元の俺の体と比べても天と地の差がある。でなけりゃ婆さんの修行の途中でくたばってる。

 

 

×月△日

 

所謂『気功波』的な技を学ぼうとしたら出来なかった。これは俺自身の才能に問題があった。気功波的な技は才能に頼る部分が多く、出来る人間と出来ない人間に分かれるらしい。思えば原作のムースも暗器使いで気功波的な技は使っていなかった。

それを思うと獅子咆哮弾を会得した良牙や乱馬は才能が有ったんだな。

 

 

×月◇日

 

気功波は習得出来なかったけど人の気を感じる修行を始めた。この修行で『心眼』を会得すれば気配察知能力が格段に上がるらしい。心眼と言っても相手の心を読むとかの類いではなく、音や気配で相手の位置を認識したりするものだとか。オマケに俺は視力が異常に悪いから却って心眼を会得しやすいらしい。視力が悪い分、観の目を鍛えやすく攻撃範囲内を把握して制空圏を組みやすいらしい。

原作のムースもこれを会得してればもっと強かったのでは?と思う。シャンプーと間違えて他の人に抱きついたりしないだろうし。

 

 

×月□日

 

心眼の修行をしてるけど一向に進展しない。心を静めて気配に敏感にならなきゃいけないらしいけど、焦って上手くいかない。座禅してるけど、寧ろ色々と考えちゃうんだよな。

 

 

×月×日

 

シャンプーに妹が産まれた。おめでたいね、ひゃっほう……じゃねーよ!原作に居なかったわ、そんなキャラ!俺がムースになった事やシャンプーに負けなかった事といい、予想外のストーリーだよ。因にだがシャンプーの妹の名は『リンス』

何処までも整髪剤の名で攻めるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

心眼を会得すべく座禅を続けるが雑念が増してる気がする。目を閉じて座ってると心が静まるどころか考える事が増える。

なんで俺はムースになってしまったんだろう。

なんで俺はシャンプーに負けなかったんだろう。

なんでシャンプーに妹が出来たんだろう。

 

原作と違ってムース(俺)はシャンプーに負けなかったけど、原作が始まるとシャンプーは乱馬に惚れてしまうのだろうか……

 

そんな事ばかり考えてしまう。思えば原作のムースは一言で言えば可哀想なのだ。

初登場時は男乱馬と互角の実力で女らんま相手には圧倒する実力者(アニメだと女らんまに負けてたけど)

しかし、再登場した時から弱体化が続き、負けるシーンが増えた。

その後もギャグ要員としての側面が強くなり、乱馬と良牙の修行話はあってもムースのは無し。

良牙と同じライバルキャラだったのに、この差はいったい……

 

それにムース最大の悲劇はシャンプーの事だろう。女傑族の掟でシャンプーにはフラれてしまい、幼い頃から惚れていたシャンプーは同じく掟で乱馬に惚れてしまう。

 

そう考えるとムースって不憫と不遇が重なりあったキャラだったんだよな。

それを思うと……俺も原作のムースと同じ様な運命なのだろうか。俺自身もシャンプーに惚れていた。

原作が始まるとシャンプーは乱馬に惚れてしまうのだろうか……

 

 

「ムース、雑念が増しとるぞ」

「ムース、お昼ご飯持って来たネ」

 

 

悶々とした気持ちのまま座禅を続けていたのだが結構な時間が経過していたらしい。目を開けて眼鏡を掛けると婆さんとシャンプーが来ていた。シャンプーの手には岡持ちが。どうやらお昼ご飯を持ってきてくれたらしい。

 

 

「まだ心眼の会得には至っとらんらしいの」

「上手くいかないんだよなぁ……」

「焦りは禁物ネ……さ、食べるヨロシ」

 

 

呆れた様子の婆さんに苦笑いを浮かべるとシャンプーが岡持ちからラーメンを取り出して渡してくれる。

 

 

「ああ……ありがとう、シャンプー」

 

 

シャンプーからラーメンを受け取って礼を言う。俺は今、ちゃんと笑えているだろうか。

 



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ムースの日記④とリンス

 

 

△月◯日

 

ムースになってから八年が経過した。

最近、やっと村の中に電気が通る事になり、漸く文明の利器に触れる事が出来る。この閉鎖的な村が文明開化に触れる切っ掛けとなったのはシャンプーの妹のリンスの存在だろう。この頃、三歳となったリンスをちょっとした用事で都会へと連れていった族長コスメだが、その時のリンスが目をキラキラさせて都会の街並みを見るもんだから親バカ発動。少しでも良い暮らしをさせようと女傑族の村に電気を通し、家電を購入した。

決して初めて見るテレビじゃないにしても普段から電話程度の機器しかない村だ。暫くの間、族長の家に人が在中し続けた。

 

族長がリンスに甘い一方で厳しく育てられていたシャンプーは不満そうだった。頭を撫でて慰めたら、馬鹿にするなとレッグラリアートを食らった。

 

 

△月△日

 

シャンプーの妹リンスだが女傑族の女らしくない。性格は温厚で穏やか、そして優しいのだ。それと言うのも族長や親族が甘やかすからだろう。

因にそれには理由があり、リンスは生まれつき体が弱い。更に姉のシャンプーが居るから次期族長はシャンプーになるだろう。ならば妹はその補佐をさせる為に武術よりも勉強を……となったらしい。

その事に不満を抱くのは厳しい修行を課せられたシャンプーだったがリンスに『シャンプー姉様』と呼ばれて頬が緩んでいた。気持ちはわかる、可愛いもんね。

 

 

△月×日

 

リンスが可愛くて尊い。先日、婆さんとの修行でボロボロになったのだがリンスが心配そうに慣れない手付きで手当てしてくれた。あまりにも優しくて可愛いので頭を撫でたら、頬を染めて照れていた。マジで尊い。

なんて思ってたらシャンプーから踵落としを食らった。最近過激になってきてねーか?

 

 

△月◇日

 

リンスが勉強を教えて欲しいと言うので勉強を教えてる。元々一人っ子の俺でムースになってからも一人っ子。幼馴染みのシャンプーは居るが妹は居なかったので新鮮だ。三歳の子供に勉強を教えるのは大変だが必死に勉強しようとする姿勢に感心してしまう。

プライドが高く、ツンケンなシャンプーと優しくて穏和なリンス。本当に血が繋がってる姉妹なのだろうかと考えてしまう。そんな事を思ってリンスをジッと見ていたら顔を真っ赤にして俯いてしまった。この後、シャンプーに『このロリコン』と誤解を受けてブッ飛ばされた。

この後、平謝りをして誤解を解くのに三日も費やした。

 

 

△月◆日

 

誤解は解けたがシャンプーの機嫌が悪かったので久々に一日一緒に過ごして遊んだ。帰る頃にはシャンプーの機嫌もスッカリ良くなっていたので楽しんでもらえたなら此方も嬉しい。シャンプーを家まで送り届けたらリンスがシャンプーのお出迎えをしていた。本当に仲の良い姉妹である。

 

俺の帰り際に俺の耳元で「今後もシャンプー姉様をよろしくお願いします。ムース兄様」と囁かれた時は吐血しそうになった。リンスちゃん、マジで天使。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideリンス◆◇

 

 

 

「ほぶぁ!?」

「ふん、ムースの馬鹿!」

 

 

シャンプー姉様のビンタがムース兄様の頬を捉えていました。ムース兄様は村のお姉さんの仕事を手伝っていただけのはずなのですが、また何やら誤解が起きた様です。

シャンプー姉様とムース兄様は喧嘩……と言うかムース兄様が一方的に殴られてるのを良く見ます。村の大人の人達はムース兄様が弱いからだと言っていましたけど私にはシャンプー姉様がムース兄様に素直になれないだけの様に見えます。

私がムース兄様と一緒に居るとシャンプー姉様は目に見えて不機嫌になっていました。

 

以前、シャンプー姉様に「ムース兄様がお嫌いですか?」と聞いたら「き、嫌いじゃないアル」と言っていました。テレビで知りましたけど姉様の態度は『ツンデレ』と言うらしいです。

 

 

シャンプー姉様に「なんでムースを『ムース兄様』と呼ぶか?」と聞かれたので「だってシャンプー姉様とムース兄様が結婚したらムース兄様は本当にリンスの兄様になりますよね?」と言ったらシャンプー姉様は顔を真っ赤にして黙ってしまいました。私、変な事を言っちゃいましたか?



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ムースの日記⑤

 

 

 

 

□月◯日

 

ムースになってから十二年が経過した。現在、十五歳……つまりもうすぐ原作が始まるということだ。原作ではシャンプーやムースの年齢は公表されなかったが、同年代とされていたので最低でも来年には原作に突入する筈。さしあたり俺がやる事は以下の三つ。

 

1.女乱馬とシャンプーを戦わせない。

2.男乱馬にシャンプーが負けない様にする。

3.鴨子溺泉に落ちない様にする。

 

 

本来なら他にもあるんだろうけど、大きな分岐点はこの辺りだろう。俺としては1と2はどうにか防ぎたい所だ。

何故ならば1と2が成立してしまうとシャンプーは乱馬に惚れてしまう。原作のムースと違って自惚れでなければ俺はシャンプーと仲が良いと思ってる。この感情は元々のムースの物なのか、俺自身の物なのか……確かめる術はないが、このままシャンプーが乱馬に惚れる展開を作りたくないと思うのは間違いなく俺の意思だ。

 

 

□月×日

 

一年後に村の女子だけでの武道大会を開催すると言われた。間違いなく、これだな。乱馬とシャンプーが戦う武道大会は。対策を練らねば。

 

 

□月△日

 

色々と考えたけど、武道大会はシャンプーが優勝するだろうから乱馬とパンダが優勝賞品のご馳走を食べないように監視しよう。つーか、それくらいしか思い付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「ま、こんなところか……」

 

 

俺は三ヶ月後に迫った武道大会の準備をしながら呟いた。現在は大会の進行状況や誰が参加するか等の確認作業をしている。俺自身は大会に出ないが物語のターニングポイントを逃す気はない。

 

 

「ムース、お疲れさまネ。差し入れヨ」

「おお、ありがとうシャンプー」

 

 

俺が考え事をしながら仕事をしていると、シャンプーが差し入れを持ってきてくれた。

 

 

「武道大会の準備か?大変だナ」

「村のお祭り行事だからな。ちゃんと進行出来る様にしなきゃだし……それにシャンプーが優勝するんだから俺も気合いを入れるさ」

 

 

俺の一言にシャンプーは驚いた表情で俺を見ていた。何故に?

 

 

「ムース……お前、私が優勝する思うてるカ?」

「え、ああ……勿論だとも!シャンプーの優勝を信じてるよ!」

 

 

焦ったぁ……原作だとシャンプーが武道大会に優勝して乱馬がその優勝商品を横取りしてしまう流れだから、思わずシャンプーの優勝を断言しちまった。多少疑いの目を向けられたけど、俺がシャンプーの優勝を信じてるって解釈したみたいなので便乗した。

 

 

「そっか……なら、ムースの期待にも応えなきゃならないネ。人気者はツラいネ」

 

 

そう言うとシャンプーは笑みを浮かべた。やっぱり可愛いよな……ん、ムースの期待にも?

 

 

「俺以外にも言われたのか?」

「リンスにも言われたヨ。『シャンプー姉様の優勝が見たいです』って。私は二人の為にも優勝ネ!」

 

 

俺の疑問にシャンプーはビシッと構える。なるほど、リンスにも言われてたか。一時期、リンスに嫉妬してた時期もあったけど今は姉妹仲も良好だし、この調子でいて欲しい。

 

 

「な、なあ……ムース?」

「ん、どうしたシャンプー?」

 

 

なんて考えていたらシャンプーが俺の服の裾を引っ張っていた。

 

 

「その……私が優勝したら……ご褒美に、お願い聞いて欲しいネ」

 

 

シャンプーはモジモジしながら俺を上目使いで見上げる。おっふ、可愛すぎんぞ!?じゃなかった……えーっと、お願い?なんなんだろう……でも武道大会の優勝を掛けてお願いする位だからシャンプーにとっては重要な事なんだろう。

 

 

「わかった、シャンプーが優勝したらご褒美に、その『お願い』を聞き届けよう」

「本当ネ!?約束ヨ!!」

 

 

俺が『お願い』の事を了承するとシャンプーは俺の手を取ってブンブンと揺さぶる。なんかテンションが超上がってんですけど!?

 

 

「よーし、優勝を確実にする為にも特訓ヨ!曾バアちゃん、修行に行くネ!」

 

 

シャンプーは気合いを入れると、婆さんを探しに走って行ってしまう。俺の手にはシャンプーの柔らかい手の感触が残っていて……じゃなくて。

 

 

「シャンプーが優勝したら俺に『お願い』か……何をお願いされるんだろうな……」

 

 

 

俺はこの時、浮かれていて気付いていなかった。軽々しくしたこの約束が、後に俺自身を大いに苦しめる事に。

 

 



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原作突入

 

 

 

遂に来た武道大会当日。シャンプーは順当に勝ち進んでいる。やはりシャンプーは強いんだよな。

 

 

「ムース兄様、シャンプー姉様が勝ってます!」

「ああ、シャンプーは強いからな」

 

 

俺は乱馬を警戒する為に優勝賞品の近くに腰を下ろして武道大会を見ていた。リンスは俺の膝の上で大会を見て、シャンプーの勝ちをはしゃいでる。

進行状況的に今は準決勝。ならばそろそろ乱馬とパンダとガイドが村に来る筈。

 

 

「ムース兄様。シャンプー姉様が手を振ってます!」

「ご機嫌だな。ほら、手を振り返してやろう」

 

 

試合会場の丸太の上、勝利を収めたシャンプーは俺とリンスに手を振っていた。にこやかな笑顔だ……それは原作で乱馬に向けていた笑顔の様で。

 

 

「へー……武道大会ね」

「武道大会で勝つ、これ大変な名誉ネ」

 

 

そして耳に届いた見知らぬ声。視線を声のした方に向ければ赤髪の女の子とパンダとガイドさんが歩いてきていた。遂に来たか……原作主人公。俺は膝に乗せていたリンスを降ろすと、そちらの方へ歩いていく。

 

 

「あの女、てーしたパワーだな」

「はい、ちょっと待った」

 

 

女乱馬と思わしき人物が優勝賞品のご馳走に手を伸ばそうとしていたので、その手を掴む。

 

 

「な、何すんだよ」

「何をする……はこっちの台詞だ。勝手に食べるな」

 

 

驚いた様子で俺を見ている女乱馬に、俺は少し睨みを聞かせて話す。

 

 

「お前、日本語喋れるのか?」

「色々とあってな……じゃなくて、ここの料理は武道大会で優勝した者が食べる品だ。それを横取りしては駄目だろ」

「この料理は優勝したシャンプー姉様の物です!勝手に食べては泥棒なんです!」

 

 

俺が日本語を普通に話したのに驚いている様だが、怒られてる自覚を持とうな原作主人公。年下のリンスにも叱られて恥ずかしくないのか。

 

 

「え、あ……ごめん。腹減ってたからさ……」

「そっちに村の人達用に振る舞ってる料理があるから食べるなら、そっちを食べろ」

 

 

女乱馬は俺とリンスに怒られて少し怯んだのか、しどろもどろに話す。俺が指で示した先には、武道大会を観戦中に村の人達に振る舞う予定だった料理。今回の事態を防ぐ為に俺が村の人達にお願いして準備をしておいたのだ。

理由としては『武道大会に参加しない者は退屈、暇になるだろうから何か摘まむ物を用意するのはどうだろう?』と。後はこれで女乱馬が優勝賞品を食べずに用意した料理を食べれば問題無しっと。

 

 

「ハーッ!」

「え、うわっ!?」

「どわっ!?」

 

 

突如、俺と女乱馬の間に何かが突き刺さる。それを見ると、突き刺さっていたのはシャンプーが持っていた武器だった。

 

 

「シャ、シャンプー?」

「お、おい……なんか、めちゃくちゃ怒ってねーか?」

 

 

視線を移せば武器を投擲した体勢のまま俺と女乱馬を睨むシャンプーの姿。何故だ、優勝賞品を横取りされた訳じゃないのに凄い怒ってる。

 

 

「私が優勝したのに何を他の娘とデレデレしてるカ」

 

 

シャンプーの怒りの籠った一言にハッとなる。

 

1.俺は今、女乱馬の手を取っていた。

2.優勝賞品を食べるなと注意している間にシャンプーは武道大会で優勝。

3.優勝する瞬間を俺は見ていなかった上に見知らぬ女と喋っている。

 

ヤバい……何やら誤解が発生しやすい状況になっていた。と、兎に角説明しなきゃ……

 

 

「ち、違うんですシャンプー姉様!ムース兄様はこのお姉さんが優勝賞品を勝手に食べようとした事を注意していたんです!」

 

 

俺が説明しようと一歩出ようとしたら一連の流れを見ていたリンスが説明してくれた。ナイスだ、天使ちゃん!

 

 

「そうか……でも、お前のペットが優勝賞品を食べてるネ」

「ほえ?」

「……あ」

 

 

リンスから説明を聞いたシャンプーは納得した様子だが怒りに震えた様子で俺達の背後に指を突き刺す。そこには食べ散らかされた優勝賞品と腹を膨らませたパンダが。

 

 

「何をしとんのじゃ、お前は!」

『だ、だって腹が減ってたから』

 

 

女乱馬はパンダの胸ぐらを掴みながら叫ぶ。パンダはプラカードを出しながら抗議してるが、それは意味の無い抗議だ。

しかし、俺も迂闊だった……女乱馬さえ止めておけば問題ないと思っていたけど、親父の玄馬/パンダの存在を忘れてた。

 

 

「ペットのした事は飼い主の責任。どうしてくれるカ?」

「あ、えと……なんて言ってるんだ?」

 

 

睨みを効かせるシャンプーに女乱馬は俺に話しかけてきた。あ、そっか。今の俺は日本語と中国語の両方を話してるけど女乱馬は中国語が分からないんだった。

 

 

「お客さんが食べてしまった料理は、この娘の物だたヨ。ペットの責任取れと言ってるネ」

「ったく……しょうがねーな」

 

 

俺が悩んでる間にガイドさんが通訳して女乱馬に伝えてしまう。女乱馬は頭を掻きながらシャンプーの前に一歩踏み出そうとした。マズい、この流れは……

 

 

「ちょ、ちょっと待った。この武道大会は女傑族の村の中での武道大会だ。他所の娘を交えるのか?」

「やらせてやれ、ムース。シャンプーにも譲れんものがあるんじゃ」

「そうですよムース兄様」

 

 

どうにか止めようとしたけど、婆さんとリンスに止められた。俺が足止めを食ってる間にシャンプーと女乱馬が戦う事が決まってしまってる。マズい、マズい!止めないと!

 

 

「大丈夫ネ、ムース。しっかり勝って優勝ネ」

 

 

シャンプーは笑みを浮かべてピースを俺に向けている。その笑顔はとても眩しくて……

 

 

「ほら、座って見ましょうムース兄様」

「安心せい、シャンプーなら負けんじゃろ」

 

 

婆さんとリンスは俺を挟んで無理矢理座らせる。流れが原作に向かっている気がするが最近、シャンプーは婆さんに修行をつけて貰ってたから更に強くなってるし……大丈夫だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて思ってた五分前の俺、死にさらせ!

見事に原作通りになっちまった。いや、完全に原作通りじゃなくて女乱馬とシャンプーはほぼ互角の戦いをしていた。原作では女乱馬にアッサリと負けたシャンプーだったが、先程までの戦いは女乱馬とシャンプーはほぼ互角の戦いをしていた。しかし、女乱馬が迫り来るシャンプーの猛攻を避け、懐に入り一撃を与えてシャンプーは武道会場の丸太から落ちてしまい、敗けが確定してしまった。

 

 

「な、なんと……シャンプーが負けてしまうとは……」

「シャンプー姉様が……」

 

 

俺の隣では婆さんとリンスが唖然としていた。そりゃそうだろう。現状、シャンプーは婆さんや一部の大人を除いて女傑族の中でも指折りの実力者。だからこそ、婆さんは女乱馬との戦いを許可したのだが、まさかの結果に驚愕していた。

 

と言うか絶句しているのは俺もだ。負けたシャンプーは女傑族の掟にしたがって『死の接吻』をするのかと思っていたのだが……

 

 

「え、あ、その……痛かったのか!?やり過ぎちまったか!?」

 

 

女乱馬が慌てている。そりゃそうだろう。何故ならば、シャンプーは丸太から落ちて敗けが確定してしまった後に、ペタンと座り込んで呆然としたままポロポロと涙を溢し始めたのだから。

 

 

「なんたる悲劇か……」

「シャンプー姉様……可哀想……」

 

 

シャンプーが泣いている事情を婆さんやリンスは知ってるみたいだけど、俺はそれどころじゃない。俺は走ってシャンプーの下へ駆けつけた。

 

 

「シャンプー!」

「ムース……私、負けてしまったネ。優勝したら……ムースに……お願いを……」

 

 

泣いたまま俺を見つめるシャンプー。そうか……負けた事よりも優勝したのに余所者に負けて優勝が有耶無耶になった事を泣いているのか。でも、村の武道大会で優勝したんだから約束は果たしてるよな。

 

 

「お客さん、逃げないと大変ヨ!?」

「え、でも……」

 

 

ガイドさんが女乱馬に逃げる様に促すが女乱馬はシャンプーが泣いている事に罪悪感を抱いて動こうとしない。シャンプーは涙を拭うと立ち上がり、女乱馬に歩み寄った。あ、ヤバい!

 

 

「ちょ、待ったシャン……」

 

 

俺の制止を振りきってシャンプーは女乱馬に『死の接吻』をしてしまった。『死の接吻』とは女傑族の掟で余所者に負けた場合、相手が女だったら地の果てまで追って殺すという誓い。原作でも女乱馬にシャンプーがした行為だが……

 

 

「…………殺す」

 

 

明らかに原作以上に殺意を抱いてる。話し掛けるのも怖いんですけど!?なんか殺意の波動が形となって現れてるみたい。

そうこうしている間に女乱馬、パンダ、ガイドさんは逃げて行ってしまい、シャンプーは後を追おうとしたが足を止めて俺の方に振り返った。

 

 

「ムース。直ぐに、始末してくるから待ってるヨロシ」

「お、おいシャンプー!?」

 

 

ニッコリと文面と真逆の笑顔を浮かべたシャンプーは女乱馬達を追って走り出してしまった。

防ごうと思った原作は防げなかった。それどころか原作以上の結果になってしまった気がする。

俺は呆然としたまま女乱馬を追うシャンプーの背を見送ってしまっていた。



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ムースの日記⑥と原作介入

ランキング二位、評価感想ありがとうございます!


◯月×日

 

シャンプーが乱馬を追ってから一ヶ月が経過した。

未だに帰ってこないって事はまだ仕留めていないんだろう。そりゃそうか、原作でも乱馬はシャンプーの追跡を振り切って日本に帰ったんだし。

しかし……シャンプーがいないと静かなもんだな。思えばシャンプーとは幼なじみとして育ち十年以上も一緒だったんだ。考えてみたらシャンプーとこんなに長期間離ればなれって今回が初めてな気がする。

 

 

△月◯日

 

シャンプーが乱馬を追ってから二ヶ月が経過した。

最近、どうにも調子が上がらない。修行にも身が入らないのだ。心眼の修行で座禅してても雑念だらけで婆さんに叱られた。

それに最近、リンスの元気もない。やはり仲の良い姉と離れているのがツラいのだろう。昼寝に付き合っていたら『……シャンプー姉様』と涙を浮かべて寝言を言っていた。正直、俺もシャンプーに会いたい。

 

 

□月△日

 

シャンプーが乱馬を追ってから三ヶ月が経過した。

俺は俺が思っていた以上にシャンプーに惹かれていたんだと思う。会えないだけで、こんなにツラい思いになるとは……。

ただ、シャンプーに会いたいと思う気持ちと原作が始まった事でシャンプーが乱馬に惚れてしまうのだろうかと邪推してしまう。原作でもシャンプーは乱馬に負けた瞬間から乱馬にベタ惚れだった。もしもシャンプーが原作通りに乱馬に負けた場合、俺は原作のムースと同じ憂き目に会ってしまう。

何よりも防ごうと思っていた原作を防げなかったんだ。心配にもなるわ。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

シャンプーが乱馬を追い掛けて遂に四ヶ月が経過した。

早々と乱馬を始末して帰ってくると考えていた村の人達は困惑し、騒ぎになり始めてる。

 

 

「ムース兄様……シャンプー姉様はいつ帰ってきますか?」

「使命を果たしたら帰ってくる筈だから……そろそろ帰ってくるさ」

 

 

リンスには掟の内容はちゃんと伝えていないのだが、不安そうに俺を見上げていた。俺はリンスの頭を撫でながらも不安は隠しきれていなかった。もしかしたら今ごろ、乱馬を追って日本に行ってる可能性もあるからだ。

 

 

「你好」

 

 

そう、シャンプーの声が聞こえるくらいに不安な気持ちに……って、あれ?

 

 

「ただいま、帰ったネ」

「シャ、シャンプー!?」

「シャンプー姉様!」

 

 

 

にこやかに手を上げて帰って来たシャンプーに俺は固まり、リンスはシャンプーに抱き付いた。

 

 

「流石はムース兄様です!本当にシャンプー姉様がすぐに帰ってきました!」

「ムース、リンスに何を言ったカ?」

 

 

嬉しそうに俺を誉めるリンスだが、まさか本当にすぐに帰って来るとは思わなかった。だからリンスも『流石、お兄様』と目をキラキラさせないで。信頼で胸が痛むから。シャンプーはシャンプーで俺に疑いの視線を向けてるし。

 

 

「いや、リンスがシャンプーがいつ帰って来るか不安そうにしてたから、すぐに帰ってくるさと言ったんだが……掟は果たしたのか?」

「いや……まだネ。その事で曾バアちゃんに相談に来たヨ」

 

 

まさか、乱馬を仕留めたかと思ったが違ったらしい。悔しそうにしているシャンプーは婆さんに何か相談を持ってきたみたいだ。

 

 

「んじゃ、婆さんの所に行くとするか」

「ムース、お前も曾バアちゃんの所に行くのカ?」

 

 

俺は抱き合ってるシャンプーとリンスを連れて婆さんの所に行く事にした。俺も現在の状況を確認したいしね。

 

 

「久し振りにシャンプーに会えたんだ。もう少し、一緒に居たいんだよ」

「私もです!」

「ムース、リンス……ありがとう」

 

 

するとシャンプーは頬を赤く染めていた。久し振りに見る照れたシャンプーが可愛くてヤバい。

そんな話をした後に俺達は婆さんに会いに行った。

 

 

「ふむ……あの娘とパンダは日本へと行ったか」

「そうネ。あの女の名は乱馬。追い詰めたけどギリギリの所で逃げられたネ」

 

 

所変わってシャンプーの実家。最初は掟を果たしたかと思われたシャンプーだが、実際は乱馬とパンダに逃げられた報告だった。更に乱馬とパンダは日本に航り、これ以上の追跡が困難になったのだ。そこでシャンプーは婆さんに相談して日本に行く方法を相談に来たのだという。

 

 

「ふむ……ならば行商人が使っとる船を手配させるかの。行商人に連絡を取っておくからシャンプー、お主は準備と母共にも挨拶を済ませておくがよい」

「わかったネ」

「行きましょうシャンプー姉様!お母様達もシャンプー姉様に会いたがってますよ!」

 

 

婆さんはアッサリと日本に行く術を提示した。しかし、飛行機とかじゃないのね。まあ、誰かを仕留めたいからなんて理由じゃ入国ビザは通らないわな。

 

 

「ムース、お主は残れ。少し話がある」

「ん、ああ……わかったよ。シャンプーはお母さん達に会ってくるといい」

「………うん」

「ムース兄様、また後で」

 

 

俺も席を立とうとしたけど婆さんに止められた。なんの話かは分からないけど重要な話みたいだ。俺はシャンプーとリンスを先に行かせる事にした。シャンプーは少し俯き気味だったけどリンスを引き連れて部屋を後にする。

 

 

「……さて、ムースよ。シャンプーは日本に乱馬を追っていくが、お主も同行してくれんか?」

「へ……俺も?」

 

 

婆さんの意外な提案に俺の思考は追い付かなかった。原作だとシャンプーは一人で乱馬を追ってた筈だけど……

 

 

「シャンプーを一人で異国に行かせるのは、ちと不安での。博識な、お主が一緒なら安心なんじゃよ。シャンプーを頼む」

 

 

驚いていた俺だったが婆さんに頭を下げられる。そっか俺もこの四ヶ月間、シャンプーが心配だったけど、婆さんも心配してたんだな。

 

 

「わかったよ。どこまで力になれるか分からないけど俺もシャンプーと一緒に日本に行くよ」

「うむ。ならば、ムースの分の準備もさせるとするかの」

 

 

 

こうして俺はシャンプーと一緒に日本に行く事となる。久し振りの……転生してから初めての日本か。楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

◆◇sideシャンプー◆◇

 

 

ママ達の所に行く前に曾バアちゃんとムースの話が気になって私とリンスは扉の前で聞き耳を立てていた。

すると曾バアちゃんはムースに私と一緒に日本に行くようにとお願いしてた。

 

私は内心、凄く嬉しかった。本当なら乱馬を追うのも一人で問題なかったし、本当は村に戻らずに追っても良かった。でも……

 

 

「日本に行く前に一目会いたかったなんて……言えないネ」

「シャンプー姉様?」

 

 

リンスに話し掛けられてハッとなる。考えていた事を口に出してしまっていたらしい。私の呟きはリンスには聞かれなかったみたいだったけど私は慌ててリンスの手を取る。

 

 

「さ、リンス。ママ達に会いに行くね」

「はい、シャンプー姉様!」

 

 

私が手を繋ぐとリンスは笑顔で返してくれる。なんとか誤魔化せたらしいけど……私の頬はまだ熱を帯びていた。

 

 



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ムースの日記⑦とお互いにすれ違う気持ち。

ランキング一位……ビックリしました。
感想評価していただき、読んでくださった皆様に感謝です。


 

 

×月◯日

 

あれから二週間程が経過し、シャンプーと一緒に日本へ。二週間も時間があったのは準備と船の出る日にちを待っていたからだ。

因みに出発の際にリンスが大泣きしてしまった。なるべく早くに帰ってくるから泣くなと慰め、いざ出発。不安の方が多いけどね……

 

 

×月△日

 

日本行きの船の中なう。

 

 

×月◇日

 

普通、中国から日本にフェリーとかで行く場合は三日程で到着すると聞いた事があったけど、何故か一週間は掛かると言われた。寄り道するとか言ってたけど、この船本当に大丈夫なのだろうか?婆さんが手配したから問題無いとは思うけど。

 

 

×月□日

 

船に乗ってからシャンプーに日本語を教えてる。以前から日本語はちょくちょく教えていたが、本格的なのは今回が初めてだ。アニメの様な所謂『なんちゃって中国語』口調になってきてるが、急拵えで覚えたのなら上等な上達力だと思う。

それはそうと勉強の時にシャンプーが隣に座るのだが距離が近い。正直ドキドキもんです。なんとかポーカーフェイス保ってるけど何時まで堪えれるかな、俺。

 

 

×月×日

 

シャンプーから暇だと言われる。まあ、船の中で日本語の勉強しかしてないしね。船で時間が掛かるから仕方ない。かと言って飛行機で行くかと問われれば否である。なんせ俺の服の中の武器やシャンプーの武器を持ったままでは確実に空港で止められるからだ。だからこそ船での移動という制限が出たのだろう。

思えば原作で早乙女親子は泳いで中国まで行ったらしいが、それを考えると乱馬の身体能力のスペックは計り知れない。

 

 

×月◆日

 

そういや、どうやって乱馬を探そうか。なんせ手掛かりは武道家である事と早乙女乱馬の名前とパンダが一緒にいるという事のみ。警察とかに尋ねようにも先に俺やシャンプーの目的とかを怪しまれる。とりあえず港に到着したら船乗りの人達に話をしてみるか。何か知ってるかもだし。

それはそうと……隣で寝息を立てているシャンプーがヤバい。思春期の男の前で無防備な、その姿は……と思うが俺って単なる幼なじみ程度にしか見られてないんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆sideシャンプー◇◆

 

 

ムースと一緒に乱馬を始末する為に船に乗ったけど毎日、日本語の勉強ばかり。退屈ネ。でも曾バアちゃんから船で行くように言われたから仕方ない。

ムースと一緒に居られる時間が増えたのは嬉しいけど……ムースは私をどう思ってるのだろう。

勉強の時も側に寄り添っても反応が薄い。眼鏡掛けてるから視線も何処向いてるか今一分からないネ。

今だって無防備な状態で隣で寝てるのにムースは私に手を出す様子は無い。

 

ムースは私をどう思ってるのかな……妹みたいに思ってるのだろうか。思えば昔からそうだった。何かと私の後に付いて回って世話を焼いて。最近では、その行動がリンスに向けられていたから、より一層ムースは私を『妹』としてしか見ていないんじゃないかと考えてしまう。

そんな事を思いながら、私はムースが「風邪を引くぞ」と掛けてくれた毛布を強く握り締めた。

 



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手掛かりと視線はどちらに?

 

 

 

長かった船旅もやっと終わって日本に到着。長かったぁ……流石に一週間も船の上だと体も鈍るな。グッと体を伸ばして骨をポキポキと鳴らす。

 

 

「んー……やっと地に足が着いたネ」

「………そーね」

 

 

 

俺と同じく背筋を伸ばしていたシャンプー。少し体を伸ばせば、その発育した体のラインが服の上からでも分かるから困りもの。俺は即座に視線を逸らした。こんな事で嫌われたくないからね。それを思うと船の上での一週間よくぞ耐えきったぞ俺。自分で自分を誉めたいわ。

 

しかし、まあ……どーすっかな。正直、原作を知ってる俺は天道道場や風林館高校の存在を知ってる。つまりは、その気になれば乱馬の居場所はすぐに判るのだ。

でも、それを俺が知ってるのは不自然だし、シャンプーに天道道場の事を教えれば何故それを知っていたかを疑われるだろう。まあ、原作でもシャンプーは自力で乱馬の居場所を突き止めていたから、何かしらの手掛かりはある筈。暫くはそれに付き合って……

 

 

「それ、本当カ?嘘、許さない」

「ああ、本当さ。確かにおさげの女とパンダを見たのさ」

 

 

俺が考え事をしていた間にシャンプーが港に居た船乗りに詰め寄ってる。会話から察するに早速手がかりを見付けたか。

 

 

「何処ネ、教えるヨロシ」

「教えてやってもいいが……そのかわり」

 

 

シャンプーの言葉に船乗りの男はスッと手を伸ばした。その先にはシャンプーの胸が。あ、ヤバい展開だわコレ。シャンプーもそれを察してか拳を握って殴る準備してるし。

 

 

「おっと、そのまま」

「え、どわぁっ!?」

「ムース!?」

 

 

俺は船乗りの男がシャンプーの胸に触れる前に、短刀を投擲して胸に触れそうになった男の手のギリギリの所に短刀を突き刺した。壁に突き刺さった短刀は男の前で揺れ、男は顔面蒼白となっていた。

 

 

「情報は感謝するが、その情報に対する対価が釣り合ってないな。シャンプーの胸はそんなに安くはないぞ」

「じょ、冗談だって、あ、はは……そうそう、おさげの女とパンダは何か喧嘩してて女の方が「風林町が~」なんて言ってたぜ。じゃ、俺は仕事があるから!」

 

 

俺が凄みを利かせると男はビビった様子で一、二歩退がる。そして情報を告げた後に走り去って行ってしまう。風林町か。そういや漫画やアニメじゃ東京都の練馬区って言ってたけど町の名前は出てなかったな。

 

 

「ムース、余計な事するな。あんなの私だけで対処できたネ。殴りそこなった」

「やっぱり、殴る気だったか。余計な手出しをしたのは謝るよ。でもシャンプーに下世話な事をしようとした奴を許す気は無かったんでな」

 

 

シャンプーが壁に刺さった短刀を引き抜いて投げ渡す。キャッチしたけど抜き身の短刀を投げ渡さないで欲しい。楽々受け取れるとしても怖いから。

それにしても……自分でもビックリする位に頭がカッとなった。俺って結構頭に血が上がりやすいのかも。原作のムースもこんな気持ちだったのかな。

 

 

「兎に角、手掛かりは見つかった。風林町に行くネ」

「まだ其処が何処か分からないから調べてから行こうな」

 

 

余計な手出しを怒ってるのか、シャンプーは俺から顔を背けながら歩き出そうとしていたが、俺はシャンプーの手を取って阻む。まずは住所を調べてバスか電車で行けるかを調べないとね。不満そうなシャンプーの手を離さないまま俺は本屋に行き、タ◯ンページを購入して住所を調べた。其処には天道道場や風林館高校の住所も載っていたが一先ず保留だな。シャンプーに話したら間違いなく即座に襲撃に行きそうだし。

風林町は現在居る港から電車で三時間ほどだった。

 

日本に来る前に金は日本円に替えておいたので電車に乗る。電車で三時間か……結構時間かかるよな。そして電車に揺られていると、ふと視線を感じる。首を動かさずに視線を移すと車内の数名が此方をチラチラと見ていた。目立つよなぁ……チャイナ服だと。それと隣のシャンプーだろうな。男からの視線を集めてるよ。可愛いんだもんシャンプー。

 

後、三時間はシャンプーに視線が集まるな、この分だと。ハァ……と俺は内心、溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideシャンプー◆◇

 

 

降り立った港で乱馬の情報を得た私とムースは風林町を目指してたね。電車に乗って三時間……長いネ。でも、やっと掟が果たせるヨ。

それにしても、さっきのムース……格好良かったネ。船乗りが私の胸に触ろうとしていたけどムースが短刀で脅して追っ払った。以前、曾バアちゃんが『実力差を思い知らせたり、武器等を見せて相手の戦意を削いで退かせるのも兵法の一つ』と言ってたけど、さっきのムースはそれを体現していた。

 

助けてもらった事を照れ隠しに怒ったけど、ムースは純粋に心配と怒りの気持ちがあったみたいで私は更に頬を熱くする事になってしまったネ。

この後、ムースに風林町の事を調べてもらってから電車で移動してる。

電車に揺られていると周りから視線を感じて辺りを見回すと乗客が私とムースを見てた。私達、目立ってたのだナ。

それに……女の視線がムースに行ってたね。ムースは瓶底眼鏡をしてるけど、顔立ちが良いから目立つネ。

 

後、三時間はムースに女の視線が集まるネ。

ハァ……と私は心の中で溜め息を溢した。

 




町の名前はオリジナルです。


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対策とその結末

 

 

 

 

電車に揺られる事、三時間。やっとの事で風林町に到着した。車内の視線に耐えながらも駅から出ると、俺は車内でずっと考えていた今後のプランを実行する事にした。

 

 

「さて、シャンプー……此処からは手分けして、乱馬とパンダの情報を集めようか」

「別行動アルか?」

 

 

俺の発言にシャンプーは眉を顰める。うん、急な別行動の提案を怪しんでるね。

 

 

「港で目撃情報を得たのは偶然だったし、町は広いからな。だからこそ手分けして情報収集と思ったんだよ。それと乱馬とパンダの情報を得ても、いきなり襲わない事。戦うのはちゃんと場を整えてからだ」

「情報収集は分かったけど、襲わないのは何故か?」

 

 

シャンプーは情報収集には納得してくれたけど、襲撃しない事に納得いかないみたいだ。だが、襲撃しないのが今回のポイントだ。

 

 

「以前、シャンプーが乱馬に負けたのは武道大会の後で戦ったからだ。疲弊した状態で戦ったから負けてしまったなら、マトモな状態で戦えば勝てる筈だ。でも襲撃だと乱馬も戦おうとせずに逃げるはず。ならば逃げられないように決闘という形で逃げ場を無くす」

「なるほど……なら先ずは居場所を突き止めてからの話という事ネ」

 

 

俺の説明にシャンプーは納得してくれた。

俺が考えたシャンプーが男乱馬に負けない対策。それはシャンプーと女乱馬がもう一度戦い、今度は対等な状態で戦わせたとして、最初の戦いを無しに、又はこれで一勝一敗の引き分けとさせて納得させる事。このどちらかを目指す。そうすればシャンプーは女傑族の掟で女乱馬の命を狙う理由が無くなり、女乱馬は命を狙われる心配がなくなる。更に話をそこで終わらせる為に男乱馬とシャンプーの戦いを防ぎ、シャンプーが男乱馬に惚れる事態を防ぐ事が出来る。

 

かなりこじつけで屁理屈まみれだが屁理屈も理屈だ。後は婆さんや族長を説得出来れば万事解決。その為にもシャンプーと別行動をして、乱馬の方も説得しなければならない。シャンプーが同伴だと説得もしづらいし。

 

少々、不満顔のシャンプーと別れ、俺は電車の中で見えた看板に既に当たりを付けていた。その看板には『格闘ペア・スケート シャルロット杯 争奪戦』と書かれていた。俺の記憶が確かなら、三千院帝、白鳥あずさVS乱馬、あかねの戦いが勃発の後に三千院帝、白鳥あずさVS乱馬、良牙ペアの戦いとなる。その後でシャンプーの乱入と続く。

現在、シャンプーは別行動で別の場所に行かせてるし、襲撃はしないと約束させた。俺はこのスケートの戦いが終わったら控室に出向いて事の経緯の説明と決闘の説得だな。まあ、とりあえずは試合観戦と行くか。俺はスケート会場へと足を踏み入れた。

試合観戦と思ったけど、試合は既に中盤だった。しかも、あの名シーンの部分だった。

 

 

「あかねは俺の許嫁だ!手ェ出したら、ぶっ殺すぞ!」

 

 

乱馬の叫びに、会場は静まり返り、あかねは真っ赤になっている。うーん、大胆だ。普段から、あれくらい素直に言えるのであれば日常的に喧嘩など起きないだろうに……等と思ってる間に試合は進み、選手交替となった。良牙がリンクに乱入し、乱馬、あかねペアから良牙、女乱馬ペアへと交代された。

仲間割れを続け、そのついでに三千院とあずさを倒した良牙と女乱馬だが、今は女乱馬と良牙の戦いになっていた。砕けたスケートリンクの氷の上で殴り合い、氷を砕きと激しい攻防が繰り広げられていたが、二人の戦いを止めようと、あかねが乱入したが足を滑らせて割れたリンクの下の水に落ちて溺れてしまう。そういやカナヅチだったな、あかねって。

さて、試合は終わったし、控え室にお邪魔するか。

 

 

観客席を抜け出して控室に足を運ぶ。控室のプレートに『天道あかね 控室』と書かれていたので、此所で間違いなさそうだ。ノックをしてから扉に手を掛ける。

 

 

「はい、どーぞ」

「失礼します」

「あ、お前は!?」

 

 

入室許可が出たので部屋に入る。そこにはキョトンとした表情で子豚を抱いたあかねと、驚いた表情で女乱馬が俺を指を差していた。

 

 

「久し振りだな、早乙女乱馬」

「女傑族の村でシャンプーと一緒に居た奴……ま、まさかシャンプーも日本に来てるのか!?」

 

 

久し振りに会う女乱馬に挨拶したのだが、女乱馬は怯えた様子でシャンプーの事を問う。どんだけトラウマになってんだよ……と思うと同時に原作以上に怒っていたシャンプーを思い出す。

 

 

「一先ず落ち着け。シャンプーも日本に来ているが俺はお前に提案を持ってきたんだ」

「し、信じられるかよ!散々酷い目に合わされたんだぞ!」

「ちょっと乱馬!話くらい聞きなさいよ!それにシャンプーって誰よ!?」

 

 

怯えた様子で戦闘体勢に入ってる女乱馬に、あかねが仲裁に入る。

 

 

「ごめんなさい、乱馬が。あ、私は天道あかね」

「先程の試合も見させてもらっていた。俺はムースだ」

 

 

自己紹介を済ませた俺とあかね。そして俺は事情を知らないあかねに乱馬が女傑族の村に来た時の話をした。

早乙女親子が村の武道大会の優勝賞品を窃盗した事。

その後、乱馬が忠告を無視してシャンプーと戦い勝ってしまった為に、女傑族の掟で命を狙われている事。

乱馬は中国から日本に逃げ帰ったがシャンプーは俺を伴って日本まで追ってきた事。

説明を聞いていた、あかねは途中から呆れと怒りに顔を歪めていた。

 

 

「全部、乱馬とオジ様が悪いんじゃない……」

「悪かったのは認めるけど命を狙われるなんて思わないだろ!?シャンプーの怒り方は半端じゃなかったし!」

 

 

呆れた様子で乱馬に話し掛けるあかねに乱馬は言い訳をしてるが……彼処まで怯えるとは本当に何をしたんだシャンプー。

 

 

「ま、兎に角……このまま命を狙われるのも嫌だろう?そして俺もシャンプーにそんな事をさせたくないから一つ、提案を持ってきた。さ、どうする乗るか乗らないか?」

「へっ、そんな事を言って騙し討ちする気…だ……ろ」

 

 

俺の提案を信じられない乱馬は俺に暴言を吐こうとしたが、俺は乱馬の顔の隣に先程の船乗り同様に短刀を突き刺した。

 

 

「勘違いするなよ。これはお前の為でもあるが主にシャンプーの為だ。お前が断ると言うならシャンプーの代わりに俺が相手をしてやろうか?」

「上等だ!この早乙女乱馬、逃げも隠れもしないぜ!」

 

 

俺の脅しに乱馬は噛み付いてくるが……いや、お前はシャンプーから逃げも隠れもしてるから日本に来たんだろ。

 

 

「乱馬、アンタが悪いんだから話くらい聞きなさいよ!それとも責任取らないなんて男らしくない事するの!?」

「ほほう、許嫁の方が話が通じるとみえる」

「けっ!」

 

 

あかねに叱られて漸く話を聞く気になったようすの乱馬。やれやれ、やっと話が出来るな。

俺は二人が着替えをするのを控室の外で待つ事にした。一応、逃げられない様に気を配っていたが、逃げられる事もなく素直に出てきた。違ったのは乱馬が女から男に戻っていた事だが。

 

 

「あ、びっくりしたと思うけど、この男の子は……」

「早乙女乱馬……だろ?」

「お前……分かるのか!?」

 

 

あかねが説明をしようとするが俺は男の乱馬を知っていたかの様に話すと二人は驚いた様子だ。そりゃそうか。

 

 

「中国には溺れた者をその姿に変えてしまう呪われた泉の修行場、呪泉郷が存在する。その姿に確信を得たのはさっきの試合を見てたからだがな。一瞬でペアの姿が変われば疑いもするさ」

 

 

本当は原作を知っているから……なんて事は言わず、呪泉郷を知っている事と先程の試合の最中で男の乱馬が一瞬の停電で女乱馬に変わっていたのを観客に紛れて俺も見ていた……という事にした。

 

 

「凄い洞察力……同じ武道家でも、こんなに差が出るのね」

「こんな、とか言うな」

 

 

あかねの尊敬の視線が胸に痛い。図らずも自身の株を無駄に上げてしまった気がする。

 

 

「さて、提案させてもらうが……女傑族では『余所者に負けた場合、相手が女なら殺すべし。相手が男なら夫とすべし』とあるが……」

「それで女乱馬が狙われてるのよね?」

 

 

俺の説明にあかねが口を挟むが俺は首を縦に振ると、乱馬に向き合う。

 

 

「だが、あの場ではシャンプーは武道大会で戦った後で疲弊していて公平な戦いではなかった。そこを利用する」

「どうゆうこったよ?」

 

 

俺の説明に首を傾げる乱馬に俺はポンと肩を叩く。

 

 

「つまり、もう一度、女の状態でシャンプーと戦って欲しい。そして、その上で負けてくれ」

「そっか、それで乱馬が負ければ一勝一敗……ううん。正式な果たし合いで負けたならシャンプーって娘の勝ちだから乱馬は命を狙われなくなる」

「そんなんでシャンプーが納得するのかよ?あの怒りようだと話も聞きそうにないんだが……」

 

 

俺の説明にあかねは理解を示したが乱馬は不安そうだ。シャンプーが怒ってるのは負けた事よりも寧ろ、俺やリンスとの約束を果たせなかった事だと思うが。

 

 

「その辺りは俺が説得する。だから頼む」

「ちょっと、ムース!?」

 

 

俺が深々と頭を下げると、あかねは驚いた様子だった。乱馬も驚いた様で声も出ていない。

 

 

「あなた……そんなにシャンプーって娘の事を思ってるのね」

「掟は掟だが、今回はまだ抜け道がある。そして掟の事とは言っても俺はシャンプーにそんな事をさせたくない」

「わかった……俺や親父が仕出かしちまった事だ。男らしく責任とるぜ!そんなに頭を下げられたのに断るのは男が廃っちまう!」

 

 

俺の誠心誠意の説得が通じて、乱馬とあかねが協力してくれる事に。よかった……これなら前回みたいな事にはならない筈。前回と違って協力者がいるのは大きい。

 

 

「でも……その掟からすると乱馬が本当は男って知ったらシャンプーは男の乱馬に惚れちゃうんじゃ……」

「村で負けた時は女だったし、シャンプーは男の乱馬を知らない。シャンプーを説得する時にそれも織り混ぜて説明して納得してもらおう」

 

 

あかねが何か思い付いた様に話すが、俺はその辺りは最初の戦いの時の性別を優先させると決めていたし、説得の際には、その事を持ち出すつもりだ。

そんな話をしながら天道道場へ到着した。デカぁ……思えば大きな家に道場まであるって凄いよな。

そんな感想を抱きながら、俺は乱馬とあかねに連れられながら天道家の居間にたどり着いた。そこにはシャンプーがコタツに入りながら茶を飲んでいた。乱馬は脱力したが俺はなんとなくこうなってる気がした。なんせ町中でパンダを見付ければビンゴであり、その後を追えば乱馬に辿り着く訳なのだから。原作でも女乱馬に逃げられた後に先に天道道場に居たわけだし。

 

 

「你好」

「に、にーはお」

 

 

シャンプーにトラウマを持つ乱馬はシャンプーの挨拶に怯えながら返した。よく見りゃパンダも部屋の隅に移動してるし。

 

 

「男……」

「お、女じゃなくて残念だったな」

「なるほど、男の乱馬とは初対面な訳か」

 

 

シャンプーが乱馬の胸をペタペタと触る。今は男だから別人と考えたみたいだけど、これから説明しなきゃなと思っていたら子豚から人間に戻った良牙が顔を出してきた。

 

 

「ほう、事情に詳しいじゃないかPちゃん」

「俺にそんな口を利いていいのかな?せっかく掟で来てくれたんだ。女になってやれよ」

 

 

乱馬が良牙に皮肉を込めるが、良牙はバケツに水を溜めた状態で乱馬に水を被せようとしてる。まったく……纏まりかけた話をややこしくするなっての。

 

 

「余計なマネはやめてもらおうか。これは俺達の問題なんだからな」

「はっ……だったら言わせてもらうが一度決まった勝負を再度やらせようなんて片腹痛いぜ。軟弱な考え方だな。お前自身、女傑族の掟から逃げてるんじゃないのか?」

 

 

俺は良牙からバケツを奪い上げると庭の池に水を流す。すると行動を阻まれた良牙が俺に喧嘩を売ってきた。何も事情を知らな……くもないな良牙は。さっきまでPちゃんの状態で話は聞いてた筈だし。思えば良牙ってお人好しである反面、あかねに関する事だと乱馬を陥れようとするシーンが幾つかあった気がする。面倒な事になる前に退場してもらおうか。

 

 

「女傑族、そしてムースを馬鹿にする許さないネ!」

「くっ!?」

「お、おいシャンプー!?」

 

 

俺と良牙の会話で、俺と女傑族が侮辱された事に怒ったシャンプーは良牙に武器を突きつけた。勢いが良かった為に襖や家具を破壊しながらシャンプーは良牙を叩きのめそうとする。

 

 

「待ってシャンプー!その前に、きゃあ!?」

「あかね!ったく……人の家で暴れるな!」

「待て、乱馬!?」

 

 

シャンプーが暴れた事で、こわれた家具の破片があかねに降り注ぎ、それを見た乱馬が暴れているシャンプーの武器を蹴り上げた。嫌な予感がした俺は止めようとしたが間に合わなかった。

そして蹴り上げられた武器は宙を舞い……シャンプーの頭の上に落ちた。そのまま倒れたシャンプーを俺は呆然と見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すべては原作通りに事が進んでしまった。

 



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シャンプーの決意

 

 

◆◇sideシャンプー◆◇

 

 

目が覚めた後に自覚したのは絶望だったアル。後頭部の痛みに私が倒れていた事実。昔、ムースと戦って負けた時と同じ状況。それは即ち、私が目の前の男に負けたと言う事。

 

ムース以外の男に負けた。女傑族の掟で、この男を愛さなければならない。ムースとは一緒に居られない。そう思ったら胸が痛み……涙が出ていた。

 

 

「え、あ、ちょっ……」

「シャ、シャンプー……」

 

 

目の前の男とムースが泣いている私に動揺し、慌てている。私は……私は……

 

 

「シャンプー、こっちに来て!乱馬とムースは此所で待ってて!」

「ふえ?……アイヤー!?」

 

 

ふと気が付けば私は男と一緒に居た女に手を引かれていた。

 

 

「お、おい。あかね!?」

 

 

男の方が女の名を呼んだようだが女は止まらずに私を連れ出す。着いたのは恐らく、女の部屋と思わしき場所。

 

 

「よしっと……」

「なんで……私をあの場所から連れ出したカ?」

 

 

困惑する私を尻目に女は私の手を取った。

 

 

「この後、どうなるにしても一度落ち着いた方が良いかと思ってね」

「落ち着いたって……変わらないネ」

 

 

そう……落ち着いたって何も変わらない。

 

 

「その……掟の事はムースから聞いたわ。でもムースも言ってたけど掟の抜け道を探してたって」

「ムースが……?」

 

 

女に言われてハッとなる。思えばムースは日本に行くと決めた時から妙に考え込んでる事が多かった。まさか、私の為に掟に逆らおうと……そこまで考えてから私は頭を振った。

 

 

「違うネ……ムースは……」

「何が違うの?私はまだ少ししかムースと会って無いけどムースがシャンプーの事を大切に思ってるのは凄く伝わったわよ」

 

 

私が否定すると女はムースの事を語る。確かにムースは私を大切にしてる気がする……でも、それは……

 

 

「違う……ムース、私を女として見てないネ。いつもそう……」

「シャンプー……」

 

 

そう。ムースは私を只の幼馴染みか妹としてしか見ていない。以前は私と一緒にいて優しくて、それは私だけにと……そう思っていた頃にリンスが生まれて、その優しさはリンスにも向けられていた。つまりそれはムースが私を妹として見ていたと言う事。

 

 

「私……ムースにとっては只の妹……それだけネ」

「そうなの?……でも私は羨ましいと思っちゃったかな」

 

 

私の言葉に女は微笑んだ。羨ましいって何カ?

 

 

「私ね……お姉ちゃんばかりでお兄ちゃんは居なかったの。それにムースはシャンプーの事を思ってるじゃない。乱馬は私に優しくないし……」

「ムースは優しさが過ぎるね。それに気を使ってる様で妙な行動とる時もあるネ」

 

 

乱馬とは先程の男か?女的乱馬と同じ名前ネ。

 

 

「それに私の事、貧乳とか寸胴って馬鹿にするし……」

「女として見られてないの私も同じ。一週間の船旅でムース、一度も私に手を出さなかったネ」

 

「それってシャンプーに気を使ってたり、照れてるんじゃないの?ムースって大人の人って感じだし」

「それを言うなら男的乱馬は素直になってないだけに聞こえるネ。意地張って思ってる事と違う事、言ってる風に聞こえるアル」

 

「私達って似てるのかもね」

「男に振り回されてる件じゃ同意ネ」

 

 

気が付けば私達は声を出して笑っていた。立場が違うけど男に悩ませられるのが、とても似ていた。

 

 

「でも……私の場合、事情が違うネ。女傑族の掟で男に負けたら、その男を夫にしなければならないネ」

「アレッて負けたと言えるのかしら?良牙君を狙ってシャンプーが暴れた所を乱馬が止めた形になるからマトモな戦いじゃないと思うんだけど」

 

 

女傑族の掟を口にしたけど女には納得がいかないと言われる。たしかに……掟には当たらない気もするけど……

 

 

「だから今回、乱馬に負けたって言うのも違うんじゃない?良くても引き分けとか」

「でも、前に……子供の頃にムースに同じ形で負けたね……だから今回も負け……子供の頃に同じ形でムースに負けた……」

 

 

女の言葉に私は昔を思い出す。そう……あの頃は意地を張って『引き分け』と言ったけど今は『負けた』と言える。

あの時、ムースと戦った結果として私は負けたとなる。つまり、あの頃に私はムースの仮の嫁となっていた事にすれば今回、男的乱馬に負けたとしても女傑族の掟は適応されない。何故なら『余所者に負けた場合、相手が女なら殺すべし。相手が男なら夫とすべし』とあるけど、これは既に夫や許嫁が居る場合は適応されない。

この話なら、私が子供の頃に負けた事を認めて仮の嫁とすれば、男的乱馬の嫁にならずに済む。

 

 

「それにシャンプー、男の乱馬と女の乱馬は同一人物なのよ?」

「え……同一?」

 

 

女の言葉に私は驚く……男的乱馬と女的乱馬が同じ?

 

 

「うん……呪泉郷って所で呪いを浴びてね。水を被ると女になっちゃうの」

「そう言えば前にムースが調べていたネ……」

 

 

ムースは昔から様々な物を調べていた。書物を調べたり曾バアちゃんに聞いたりしてた。でも、もしそれが本当なら全てが上手く行く。

私はムースに以前負けた時に仮の嫁/許嫁になっていたとすれば、男的乱馬に負けたのも夫としなくても問題は無くなるし、女的乱馬も元は男だとすれば今後、始末する必要は無くなる。

 

 

「だから女の乱馬も命を狙う必要は……」

「大歓喜!謝謝!」

 

 

私は女の手を取り、礼を言う。この女から説明を貰って全てが解決した。

 

 

「シャ、シャンプー?」

「全部解決したネ!これで私、自由の身になれる!ムースもきっと喜ぶネ!」

 

 

驚く女に私は先程の考えを全部話した。

女傑族の掟や昔、ムースと戦った時の事の全てを。

 

 

「じゃあ、シャンプーはもう男の乱馬を夫にする必要もないし、女の乱馬を狙う必要も無くなるのね?」

「そうネ。後は私とムースが女傑族の村に帰ってママや曾バアちゃんを説得すれば問題無!」

 

 

私の説明に女は私と喜びを分かち合ってくれた。そして私は其処で気付く。

 

 

「どうしたの……シャンプー?」

「私、お前の名前聞いてなかったネ」

 

 

怪訝な顔になる女に私は思った事を口にした。散々話をしていたのに自己紹介もまだだったネ。

 

 

「そうだったね。私は天道あかね」

「ヨロシクな、あかね」

 

 

今更、改めて交わす自己紹介に互いに笑ってしまった。こんなに笑ったのも久し振りネ。

 

 

「後は下で待ってるムースに伝えるネ」

「そうね。命を狙われる心配も無くなるから乱馬も安心だわ」

 

 

私とあかねは笑いながら部屋を出る。なんか晴々とした気分になってきたネ。

 

 

「あかねもスマなかったな。色々と迷惑掛けたネ」

「いいのよ。私も乱馬の事を愚痴れたし……何よりも、私達はもう友達でしょ?」

 

 

そう言って先に下に降りていく、あかね。友達……あかねの言葉に私の胸が少し暖かくなった気がするネ。今まであんなに真っ直ぐ私に友達と言ったの、あかねが初めてだったヨ。

 

 

「後はムースに私を女と認めさせるネ。いつまでも妹扱い許さない」

「頑張ってシャンプー。私も応援するわ!」

 

 

しかし、そんな決意を新たにした私とあかねが先程の部屋に戻ったら凄い光景が目に飛び込んできたネ。

 

 

 

 

ムースは男的乱馬とさっきのバンダナ巻いた男と戦ってたね。庭にはムースの暗器や砕かれた庭の石などが散乱していた。どうしてこうなったアルか?

 



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ムース、怒りの血の拳

 

 

 

俺は絶望しきっていた。あれだけ手を尽くし、対策を練ったのに……原作通りに事は進んでしまった。

 

 

「ふ、く……かはは……」

 

 

口から乾いた笑い声が漏れる……なんか、もう……どうでもよくなってきた。

 

 

「お、おい……ムース?」

 

 

乱馬が俺に何か話し掛けて来るが、ろくに聞こえない。何処か遠くの出来事の様だ。どんだけやっても原作には敵わないって事なのか……

 

 

「良牙、お前が余計な挑発をシャンプーにするから!」

「何を!乱馬、お前がシャンプーを倒しちまったんだろうが!」

 

 

乱馬と良牙が言い争って責任の擦り付けをしていた。コイツ等、責任取る気、一切ねーな。

 

 

「そもそも女傑族のふざけた掟が悪いんだろうが!」

「だとしても、あかねさんを巻き込むな!」

 

 

もう……キレても良いよね?

 

 

「つまり、お前等は自分に責任は無く……尚且つ、此方に責任の所在を押し付ける……と?」

 

 

ユラリと俺が立ち上がると乱馬と良牙は俺に視線を戻した。俺が……何年も……何年も……

 

 

「ま、待てって……落ち着けよムース」

 

 

俺が何年も悩み苦しんでいたってのに……シャンプーはいつか乱馬に惚れてしまうのだろうとシャンプーに俺の思いを伝えられなかったってのに……コイツ等は無責任に……そう思った瞬間、俺の頭は沸騰した。

 

 

「もう許さん、叩きのめしてやる!」

「うわっ!?止せって!」

「自業自得だな乱馬」

 

 

俺が袖から九節棍を取り出して乱馬に襲い掛かると、良牙がドヤ顔をしていたのでイラっと来た。

 

 

「テメェも同罪だろうが!」

「どわっ!?」

 

 

ドヤ顔の良牙に手裏剣を投擲する。驚いた様だが俺を睨み付けてきた。

 

 

「恨みは分かるが!」

「売られた喧嘩は買うぜ!」

 

 

乱馬と良牙が同時に掛かってきた。よかろう、相手をしてやろう。主に憂さ晴らしだがな!

 

 

「せやっ!」

「おっと」

 

 

乱馬が先に拳を振るって来たので俺は数歩退がり、距離を取る。俺は乱馬の拳を左腕で受け止めると右手で持っていた九節棍を乱馬の脇腹に叩き込む。

 

 

「ごふっ!?」

「隙有り!」

「ねーよ」

 

 

脇腹の痛みに怯んだ所で良牙が蹴りに来たので袖から鉄球を出して良牙に放つ。

 

 

「甘い……ながっ!?」

「甘いのはお互い様だな」

 

 

良牙は鉄球を避けたが、その為に蹴りの速度が落ちたので距離を詰めて鳩尾に膝をめり込ませた。

 

 

「つ、強い……」

「俺も伊達に女傑族の生まれじゃないんでな」

 

 

乱馬が脇腹を押さえながら立ち上がってくる。こっちは長年、婆さんに鍛えられてるんだ。簡単に負ける訳にはいかない。

 

 

「へへっ……シャンプーの事や掟の事は悪いとは思うけど、強い奴と戦えるのは嬉しいぜ!」

「待て、乱馬!奴を倒すのは俺だ!」

 

 

乱馬は笑い、良牙はライバルの乱馬が自分よりも俺に興味が向いている事に怒ってる。やれやれ、一瞬で忘れてら……なら、こっちも本気でやるか……

 

 

「来いよ……相手になってやる」

「行くぜ!」

「負けるか!」

 

 

俺は両手に鉤爪を装着すると構えた。それと同時に乱馬と良牙も襲ってきたが、俺は先に飛び上がると良牙に狙いを定めた。

 

 

「ふ、俺にこんな武器は通じ……なん!?」

「まず、一人」

 

 

俺が右手の鉤爪を振り下ろすと良牙は俺の右腕を捕らえ、押さえ込もうとしたが俺は体を捻り、左膝を良牙の顔に叩き込んだ。

 

 

「良牙!?ちぃ、ムース!」

「うりゃ!」

 

 

良牙が敗北した事に驚く乱馬だが速度を落とさずに迫ってきたので、俺は右手の鉤爪を外して乱馬に投げる。

 

 

「こんなのに当たるかよ!」

「当てるのが目的じゃないんで……な!」

 

 

乱馬は鉤爪を避けるが俺は元々、鉤爪を避けられるつもりで投げていた。投げた鉤爪は背後の壁に刺さる。実は鉤爪はロープで繋がっているので、俺は乱馬にロープを絡ませて体勢を崩させる。更に左手の鉤爪も同様に投げるが、右手の時とは違って真っ直ぐに投げずに円を描く様に投げて乱馬の体にロープを巻き付ける形にした。そして体勢を崩していた乱馬は避ける事も出来ずに、ロープにグルグル巻きにされてしまった。

 

 

「勝負有り……だな、乱馬」

「ま、まだ負けちゃいな……と、どわ!?」

 

 

俺が勝負有りと言うと、乱馬は無理矢理立ち上がろうとして庭の池に落ちた。

しかも乱馬はロープでグルグル巻きの状態なので当然起き上がれずに池に沈んだままだった。

 

 

「ったく……」

「う、え……げほっげほっ……」

 

 

女になった乱馬を引き上げると咳き込んでいた。まあ、急な事で動揺した上に溺れ掛けたから呼吸が乱れるのも当然か。

 

 

「懲りたか乱馬?」

「ま、まだまだ……」

 

 

水に落ちて女になった状態で俺を睨む乱馬だが女の状態で睨まれても怖くねーな。しかもロープ巻かれた状態で身動きとれないだろうし。

 

 

「この響良牙を侮るな!」

「ほらよ」

「うわっ!?」

 

 

良牙が背後から襲ってきたので乱馬を投げ渡す。高めに投げ渡した為に良牙の顔の位置に乱馬の胸が当たっていた。良牙は乱馬を支えきれずに、そのまま倒れてしまう。

 

 

「女の胸に抱かれて幸せか、良牙?」

「テメェなぁ~」

「ま、待て乱馬。動くな!」

 

 

俺の挑発に乱馬が立ち上がろうとするが、ロープで動けない為に良牙の上でモゾモゾと動くしか出来ない。良牙は乱馬とはいえど今は女の体で、その胸に顔が当たって動揺している。更にモゾモゾと動くから女乱馬の柔らかい体は思春期男子には刺激的だろう。

 

 

「な、なんと……」

「乱馬君と良牙君を二人同時にあしらうなんて……」

 

 

縁側でパンダから戻った玄馬さんと早雲さんが驚いていた。そりゃそうか、原作でもほぼ負け無しのふたりだったからな。その強さを知ってれば二人同時に負けるなんて思う筈もない。

俺はそんな事を思いながら、玄馬さんがパンダに戻る時に使ったであろうヤカンを借りると、乱馬と良牙に歩み寄る。乱馬は良牙からロープを外してもらっていた様だが、良牙は乱馬とはいえど女の体に触るのに照れているのか顔が赤くなっていた。

 

 

「そら、お湯だ」

「え、どわちちちち!?」

 

 

俺がヤカンからお湯を注ぐと女乱馬は男に戻ったがお湯が熱かったのか、のたうち回っていた。

 

 

「テ、テメェ……」

「俺の怒りはこんなもんじゃないぞ。覚悟しろ……」

「止めるネ、ムース!」

 

 

乱馬は俺を睨み付けてくるが俺の怒りは収まらない。乱馬や良牙を馬鹿にした行動を取ったが俺の心は全然晴れなかった。やっぱボコボコに叩きのめさないとダメかな?俺はそんな事を思いながら乱馬を殴り飛ばそうとギリギリと拳に力を込めた。

しかし俺が拳を握りしめると同時にシャンプーの制止が掛かった。振り返ると心配そうな顔をしたシャンプーが。そっか……乱馬が心配なんだよな。やっぱ原作通りでシャンプーは乱馬に惚れて……

 

 

「ムース、もう乱馬と戦う必要無い。女傑族の掟を覆す切っ掛け、あかねと見つけたネ!」

「え……どういう事だ?」

 

 

シャンプーは俺に駆け寄ると俺に抱き付いてきた。待て、どうなってるんだ?シャンプーは乱馬に惚れたんじゃ?

 

 

「だから、もう戦わないで……辛そうな顔見たくないネ」

「そうよ、それに……ほら」

「へ……痛だだだ!?」

 

 

シャンプーが抱き付いてきた事に動揺してると、あかねも俺の側に歩み寄ってきていた。右手を引っ張られるが。その瞬間、激しい痛みが走った。

 

 

「あ、あれ……なんで……」

「気付いてなかったのね。こんなに血が出るまで拳を力一杯握ってたのに」

 

 

自身の掌を見ると血で染まっていた。まさか、さっき乱馬を殴ろうと力を込めた時に?

 

 

「ムース、私の為に怒ってくれたのだな、大歓喜!」

「へ、え、あれ?」

「ほら、シャンプーから話があるのよ。手の治療もあるから此方にきなよ」

「あ、あの……ちょっと?」

 

 

シャンプーは嬉しそうに、あかねは羨ましそうにしながら俺の手を左右から引っ張る。俺は困惑したままシャンプーとあかねに手を引かれて天道家の居間に連れ込まれた。嬉しそうにしている女子二人に対して、俺、らんま、良牙、玄馬さん、早雲さんは理解が追い付かずポカンとしていた。

 

 

マジで何があったの?

シャンプーは凄く嬉しそう……と言うか浮かれてるし、あかねはシャンプーと妙に仲良くなってるし。

もしかして……原作と変わってきてる?

 



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ムースの新たな決意

 

 

 

 

シャンプーとあかねから掟を覆す方法を聞いた。

その方法とは過去に俺とシャンプーが戦った時の勝負の判定を俺の勝ちにするという事だった。今回の戦いでシャンプーが乱馬に負けたとするなら、あの時の俺とシャンプーの戦いの結果はシャンプーの負けとなる。

そして、その時に俺に負けたシャンプーは俺の仮の嫁/許嫁になっていたとすれば、男の乱馬に負けたのも夫としなくても問題は無くなるし、女の乱馬も元は男だとすれば今後、始末する必要は無くなる……っと。

 

 

「……なるほど」

 

 

俺はシャンプーから右手の治療を受けながら話を聞いて納得したというか……なんというか……

 

 

「ね、これでもう女の乱馬も男の乱馬も狙われずに済むのよ。良かったじゃない乱馬」

「ちぇ……だったら、もっと早くにその結論を出してくれりゃ良かったのによ」

「抗議できる立場か、お前は」

 

 

あかねが乱馬に、もうシャンプーに襲われない事や俺とシャンプーの仲を説明して乱馬に良かったと同意を求めていたが、乱馬はもっと早く解決出来ただろうと不満気味だった。が、俺のツッコミに押し黙る。

 

 

「よし、これで大丈夫ネ。でも、まだ激しく動かしたら駄目ヨ」

「ありがとう、シャンプー」

 

 

手の治療をしていたシャンプーは俺の右手に包帯を巻き終えると笑みを浮かべた。色々と未解決だった事が解決して、ご機嫌だな。

 

 

「れ、礼は必要無い……旦那の怪我の手当て……つ、妻の仕事ネ……」

「お、おおう……」

 

 

プシュ~と湯気が出そうな位に真っ赤になるシャンプー。可愛いなぁ、おい!

 

 

「シャンプーったら、可愛い~」

「可愛らしいわねぇ」

 

 

あかねとかすみさんに言われて更に顔を赤くするシャンプー。何、この可愛らしい生き物。

 

 

「しかし……良かったのかシャンプー。俺が相手で……その……」

「ムース!お前がいつも私に何か遠慮してたのは分かってる!私が族長の娘だからカ?私を妹としてしか見てないからカ?でも、私は昔から相手はお前と決めていたネ!他は嫌!お前はどうアルか!?」

 

 

俺の発言にシャンプーは俺の胸ぐらを掴み上げると、顔を真っ赤にしながら涙目で俺に迫る。それはシャンプーの行動や思いが本気なのだと伝わる。

俺は今まで……この世界に転生してから何処か諦めていたのかも知れない。

『原作だから』『話の流れだから』そんな考えをしていたから『いつかシャンプーは乱馬に惚れる』と考えてシャンプーの事も本気で考えてなかったのかもしれない。そう思うと馬鹿馬鹿しいな。原作の流れに背こうとする反面、何処か諦めていたのだから。

でも、今の思いを否定する気には……もうならない。

 

 

「シャンプー……だったら俺から言わせてくれ。掟なんか関係なく俺と一緒になってくれるか?」

「………うん、勿論ネ。旦那様」

 

 

俺は胸ぐらを掴み上げていたシャンプーの手を取ると両手で握る。シャンプーは俺の行動と発言に一瞬理解が追い付かなかったのか、キョトンとしたが直ぐに顔を真っ赤にして返事をくれた。

これでいい……原作なんか関係ない。俺は俺の思いでシャンプーを……と俺は此処でハッと気付く。何に気づいたかと言えば、これから族長や婆さんを説得しなければならない事とか原作の流れ的に日本には移住しないのか?等の考えではなかった。

俺が気づいたのは……

 

 

「あ、あいやー……」

 

 

シャンプーも俺の動きが固まった事で気付いたらしい。冷や汗を流しながら顔を真っ赤にするという合体技を披露している。

何故ならば、同じく頬を染めながら此方を見る乱馬、あかね、かすみさん、玄馬さん、早雲さん。なびきは頬を染めていないもののニヤニヤと興味深そうに此方を見ている。

そう……此処は天道家の居間なのだ。人様の家でプロポーズ染みた台詞を言った俺に先程から告白を連発した挙げ句、既に夫婦感を出してしまったシャンプー。これはもう恥ずかしいとかの次元じゃなかった。

 

 

「あ、あいやー!!」

「え、ちょ、シャンプゥゥゥゥゥッ!?」

 

 

シャンプーは握られていた手を上手く捌くと、俺の手首を逆に掴み俺を庭の池へと投げ飛ばした。突然の事態に俺は受け身を取る間もなく池へと叩き落とされる。

 

 

「あらあら、まあ」

「照れ隠しの仕方が、あかねと同じね」

 

 

かすみさんは仕方ないわね、と言った様子で、なびきは煎餅を頬張りながら呆れた様子で……乱馬とあかねで、この光景に慣れてるな天道家の皆さんめ。

 

この後、俺とシャンプーは今夜は天道家でお世話になる事になった。夜も遅いと言う事と……まあ、シャンプーがまだ落ち着かない様子だったので、あかねに任せる事にしたのだ。

 

 

「しっかし、意外だったな。あかねとシャンプーが仲良くなるなんてよ」

「シャンプーの方は嬉しかったんだろう。さっきシャンプーが言ってただろ。『族長の娘だから遠慮したのか?』ってさ。シャンプーは族長の娘って立場だから同年代からも敬語を使われて、年下からは『姉御』って呼ばれて少し距離を置かれてたんだ。俺はいつも一緒に居たけど、同年代でハッキリと『友達』って言ってくれたのは、あかねだけだったからな」

 

 

俺は乱馬の部屋でシャンプーはあかねの部屋で一夜を過ごす事になっていた。玄馬さんはパンダに変身してから既に就寝している。何故、寝るときにパンダになったのだろう?

それはさておき、乱馬と寝る前に少し話をしていたのだが当然話題はシャンプーに関する事だった。

 

 

「でも、これで色々と片付いたよ。族長や婆さんの説得が大変になるかもだけどな」

「掟に厳しい一族だもんな……シャンプーに命を狙われてる時は気が気じゃなかったぜ……でもよ、あんだけ恥ずかしい事をよく言えたなムース。俺には言えないぜ」

 

 

悩みが解決した一方で悩みが発生したが、それは今後の課題だな。あの中国3000年妖怪婆さんをどう説得するか……乱馬はシャンプーに命を狙われてる時を思い出してるのか顔が青ざめてる。と思ったら乱馬は俺を弄ろうとしている。やれやれ、俺を弄るなら覚悟は必要だぞ?

 

 

「『あかねは俺の許嫁だ。手を出したらぶっ殺すぞ』だったっけ?」

「な、お、お前……」

 

 

俺の言葉に乱馬は顔を赤くし始めながら俺を指差してプルプルと震えてる。

 

 

「言ったろ、試合を見たってな。俺の告白が恥ずかしい?お前もよっぽどだと思うがな」

「て、てめぇ!」

 

 

ニヤニヤとしていたら乱馬が襲い掛かってきた。先に弄って来たのはお前だろうが!迎え撃とうとしたのだが寝ている時にバタバタとしていたのがイラッと来たのかパンダ状態の玄馬さんにブッ飛ばされた。

ギャグが多いとは言っても流石は乱馬に武術を教えていた人だ。重い一撃で俺と乱馬は沈められ、意識を失った。

 

 




良牙の行方は次回です


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ムースの日記⑧とこれからを決める話し合い

 

 

△月◯日

 

お世話になった天道家を後にして船に乗る為に港へ。乱馬やあかね達には「もう少しゆっくりしていったら?」と言われたが、シャンプーが早くけじめを付けると早々と言った為に、翌日に出発と相成った。シャンプーはあかねに抱擁されながら「頑張ってね」と激励されている。原作と違って親友みたいになってんな。

親友と言えば乱馬のライバルである良牙は昨日の段階で天道家を飛び出していた。俺とシャンプーの話を改めて聞いた後に「お、俺は……長年、苦しんでいた奴になんて事を……」と自分の行動と発言を悔いていた。普段はお人好しで男気がある奴だから、より一層自身の行動を愚かと思ったのだろう。

荷物を担いで走り去ろうとした良牙を呼び止め「何処に行くんだ?」と問うと「東の山で御祓をしてくる!」そう言いながら夕日に向かって走って行った時、俺は凄いと思った。方向音痴も極めれば一種の才能だと思う。

 

 

△月△日

 

中国行きの船の中なう。

行きは一週間掛かったのに帰りは三日で済むと言われた。行きの便はやはり何か怪しく思えてきた。

 

 

△月◇日

 

行きと同様……いや、帰りの方がツラいかも。なんせシャンプーを意識してしまう。お互いに今の距離感を測りかねている。時折、目が合うと思わず逸らしてしまう。だって、今までと違って両思いと思うとドキドキしてヤバい。

 

 

△月□日

 

煩悩よ、俺から出ていけと叫びたい。思えばシャンプーは原作でも乱馬に過激に迫っていたが……俺には頬を染めて恥ずかしそうに迫るのだ。何、この可愛い生き物。思わず抱き締めようとしてしまった。まだだ……女傑族の村に到着して婆さん達を説得してからだ。じゃないと族長や婆さんに殺されかねない。不満顔のシャンプーに怒られた。大切に思ってるから手を出せないジレンマを察してほしい。ヘタレとか言わないで。

 

 

△月◆日

 

漸く中国に帰って来た。なんか妙に長く感じたな……考える事も多いし……婆さん達を説得できるか不安だ。そんな俺の不安を察してかシャンプーが俺の手を握る。そうだよな、頑張らないと。そう思いながら俺とシャンプーは女傑族の村へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

村に戻った俺とシャンプーは村の皆さんに歓迎されながら族長の家……即ち、シャンプーの実家へと向かった。帰るなり、リンスがシャンプーに泣きながら抱き付いてきた。やっぱ寂しかったんだな。

 

 

「シャンプー姉様、誓いを果たしたのですか?」

「いや、少し事情が変わってきたネ。それをママや曾バアちゃんに話しに来たネ」

 

 

リンスの問いにシャンプーは少し苦笑いだった。そりゃそうだよな。下手すりゃ女傑族の掟に逆らう様なもんだし。そう思いながらも俺も覚悟を決めていた。

 

そして族長や婆さん達に日本で起きた事の報告をしていた。部屋の中には俺、シャンプー、リンス、族長、シャンプーの親父さん、婆さん、俺の両親。

因にだがシャンプーの祖母祖父と曾祖父は既に他界してる。と言っても俺やシャンプーが生まれる前の話なのだが。

 

俺とシャンプーは日本で起きた事の全てを話した。日本に行ってから乱馬と戦った事。が元々は呪泉郷で落ちた男だという事。シャンプーが乱馬に負けた事。その時に、あかねと思い付いた掟を覆す事。俺が乱馬と良牙と戦った事。俺とシャンプーが両思いとなった……と言うか両思いだった事。

 

それら全てを話終えると、族長は元より婆さんや俺の両親も険しい顔をしていた。リンスは難しい話を理解できなかったみたいだけど、俺とシャンプーが両思いって事は分かったみたいで目をキラキラさせていた。

 

 

「つまり……その屁理屈で女傑族の掟を破ると?」

「と言うよりもシャンプーが乱馬に負けたのを認めるなら過去の俺との戦いもシャンプーの負けって事だから、認めてほしいと言うか……そこを認めてくれればシャンプーも手を汚さずに済みますし」

「ママ、お願い私達を認めて!」

 

 

眉間にシワを寄せながら族長は腕を組んで難しい顔をしていた。俺の発言やシャンプーの懇願を聞きながらも何かに悩んでいる様だ。

 

 

「やれやれ……コスメよ。もう良いではないか」

「お婆様、しかし!」

 

 

何処か呆れた様子で婆さんが口を開く。

 

 

「コスメよ。お主がシャンプーを思って厳しく育てたのは知っとるがもう良かろう。シャンプーにワシ等は掟を押し付けすぎた。リンスに甘くしてしまった様にそろそろシャンプーも甘えさせても良いのではないか?」

「お婆様!」

 

 

どういう事なんだろうと俺、シャンプー、リンスが首を傾げていると大人達から説明が入った。

シャンプーの祖母祖父。つまりは族長コスメの両親は今の俺やシャンプー同様に女傑族の掟に逆らっていきていたらしいのだがコスメが小さい時に事故で他界したらしい。その時に村では掟に逆らった報いと噂が出たらしい。幼いコスメはそれがトラウマとなり、掟を何がなんでも守ると決めて、シャンプーにも厳しく教えていたのだと言う。

シャンプーを厳しく育てていたコスメだが、リンスが産まれた際にシャンプーに向けていた厳しさの分、甘やかしてしまい考えを改め始めていたのだ。しかし、今さら態度を変える訳にはいかないと意地を張っていたとの事だった。

 

 

「コスメよ。お主の気持ちも分からんでもない……ワシも娘を失ったのだからな……だが、ワシ等年寄りの考えを若者に押し付けるのも限界じゃろ」

「婆さん……」

「曾バアちゃん……」

 

 

反対側だと思ってた婆さんが俺達の応援側だと思わなかった俺とシャンプーは驚いていた。族長が俺やシャンプーに厳しかった理由も驚いたけどね。

昔から閉鎖的な村だとは思ってたけど、こんな事情が有ったとは……

 

 

「じゃが、コスメの言い分も分かる。故にムースとシャンプーには再度、ワシが鍛え直そう。そしてムースがシャンプーの婿に相応しいか検討する。シャンプーは族長の器か見定める、これでどうじゃ?」

「……お婆様がそう言うなら従いましょう」

「私共には不満はありません。ムース、男を見せろよ」

「ムース兄様、シャンプー姉様、頑張って下さい!」

 

 

婆さんの提案に族長は条件付きで認めてくれて親父は後押しをしてくれた。リンスはちゃんと理解してるか怪しいけど応援してくれている。

 

 

「ならば、シャンプーにムースよ。お主等を鍛え直す。厳しい修行にするぞ」

「望む所ネ!」

 

 

婆さんの言葉にシャンプーが猛っている。認めてもらう為にも頑張らないとだな。

 

 

「その意気やよし。では……伝説の修行場、呪泉郷に行くぞ!」

 

 

婆さんの言葉に俺は固まる。このタイミングで呪泉郷に行くってヤバくね?

 



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落ちた呪泉郷。その泉は……

 

 

 

 

 

私、メリー。今、呪泉郷に居るの……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ現実逃避も止めようかな。俺とシャンプーとリンスと婆さんは今、呪泉郷に来ている。

わざわざ呪泉郷じゃなくてもいいじゃんと抗議したら「修行に緊張感を持たせる為」と言われた。あの笑みは絶対にそれ以外の理由があるとみた。因にだがリンスは修行の見学で後学の為にと婆さんが連れてきたのだ。

 

 

「どうしたシャンプー!以前よりも動きに隙があるぞ!」

「ま、まだまだネ!」

 

 

現在、シャンプーは婆さんと共に呪泉郷で修行している。呪泉郷の泉に刺さっている竹の上にのって戦うのはバランス力を鍛え、相手の動きを先読みする訓練にもなる。シャンプーはなんとか婆さんに一撃を与えようと頑張っているが婆さんに軽くあしらわれていた。流石は中国3000年の妖怪。動きが人間離れしてるわ。

 

 

「ほれ、隙ありじゃ」

「あいやー!?」

 

 

シャンプーは一撃を与えようと婆さんに飛び掛かったが逆に一撃を貰ってしまい呪泉郷の泉に落ちてしまった。そして這い上がって来た姿は猫の姿だった。

 

 

「あの泉は猫溺泉。1800年前に猫が溺れたという悲劇的伝説がある泉。それ以来、猫溺泉に落ちた人間は猫の姿になってしまうのだよ」

「シャンプー姉様、可愛いです!」

「みにゃー!?」

 

 

ガイドから猫溺泉の解説が入り、リンスが猫になったシャンプーを抱き上げている。シャンプーは自分の姿が猫になった事に驚いている様だった。シャンプーは猫になっても可愛いなぁ……

 

 

「未熟者め……さて、次はムースじゃな」

「お、おう……」

 

 

婆さんに促されて俺は呪泉郷の泉に刺してある竹に飛び移る。俺はガイドから鴨子溺泉の場所を予め確認していた。アヒルになんぞ、なってたまるか。その泉の場所にさえ気を付けて落ちないようにしないとな。

 

 

「ムースよ……お主の強さは充分な所にまで到達しておるが弱点がある」

「弱点?俺はまだまだ未熟者なんでな。そんなもん、いくらでもあるだろうさ」

 

 

婆さんの含みを込めた言葉に、俺は先手必勝とばかりに袖から手裏剣を放ち、婆さんの足下の竹を狙った。

 

 

「甘い、甘いのぅ」

「くそ……妖怪め」

 

 

婆さんはそれをドッジボールでボールを避けるみたいに簡単に避けると、素早い動きで俺を翻弄する。こんなに動かれちゃ投擲武器は使えないな。

 

 

「お主は優しいのぅ……この状況で飛び道具を使えば相手に不慮の怪我を負わせてしまうと気遣って飛び道具を使わん」

「後ろ……んが!?」

 

 

婆さんの声が背後から聞こえたかと思えば脇腹に鋭い痛みが走る。マジで動きが妖怪染みてるぞ!

俺は足場の竹から落ちそうになるが、袖から鉤縄を取り出すと他の竹に括り着けて落下を防ぐ。

 

 

「見事じゃな……じゃが、その不安定な体勢で次はどうする?」

「こうするんだ……よ!」

 

 

俺は竹のしなりを利用して反動で勢いを着けて婆さんに迫る。逆に泉に落としてやろうか!

 

 

「ほぅ……じゃが……」

「………え?」

 

 

殴り飛ばしてやろうかと思ったら婆さんはなんと無抵抗に手を下ろした。いや、なんのつもりって言うか、このまま殴ったら危ない!つーか、俺も危ない!バランスを崩して危うく泉に落ちる所だった。なんとか竹を掴んで落下は防いだけど。

 

 

「っとと……婆さん!なんのつもりだ!?」

「お主の弱点の一つじゃよ。先ほどもそうじゃがお主は心根が優しいから相手への追撃を止めてしまうじゃろ。相手が戦意を喪失したり、想定以上の怪我を負ってしまった時などに、その傾向が目立つの。故にお前は武器や技を見せ、相手の戦意を削ぐ戦いをしておったが……逆に今はそれに慣れすぎじゃ」

 

 

俺は泉に落ちない様に竹の上に登ると婆さんから指摘される。否定出来ない所がツラい。

 

 

「それが理由でお主は昔、シャンプーと引き分けた後で再戦しなかったんじゃろ?」

「しっかり……バレてたのね」

 

 

流石、婆さん。俺の気持ちなんざお見通しって訳だ。

 

 

「じゃが、武道家ならば時に非情にならねばならん。故に……」

 

 

婆さんはそこで言葉を区切るとニヤリと笑みを浮かべた。ヤバい……嫌な予感がする。そう直感した俺は一目散に逃げ出した。

 

 

「おおっと逃がすか!」

「げ、ヤバい!」

 

 

隙を突いて逃げようとしたのに既に婆さんは俺に追い付いていた。俺は咄嗟に蹴りを放つが婆さんは俺の脚に乗ると杖を振りかぶった。

 

 

「そぉれ、行ってこい」

「痛っ!?ってマズい!」

 

 

俺が婆さんに殴り飛ばされると一直線にある泉にブッ飛ばされる。その行き先は先程、ガイドに教えてもらった鴨子溺泉の泉。

 

 

「落ちて……堪るか!」

 

 

俺はなんとか体を捻り、体勢を整えると鴨子溺泉の淵に手を着いて落下を防いだ。そして、その勢いを殺さずに飛び上がる。やった、これでアヒルにならずに済む。そう思った瞬間だった。

 

 

「お主の弱点、その二じゃな。何かが上手くいくと気を抜いてしまい隙だらけになる」

「…………あ」

 

 

婆さんは俺の頭上に居た。まるで俺が泉に落ちない所まで計算してそこで待機していたかの様に。

 

 

「この……うぎゃ!?」

「遅い!」

 

 

俺が迎撃しようと動くよりも先に婆さんは俺を叩き落とした。そして落ちていく先には何らかの泉が……

バッシャァァァァンっと水に落ちる音と感覚が体に伝わる。泉に叩き落とされ、途端に体が重く感じた。ヤバい、暗器を仕込んだ服を着込んだまま小動物にでもなってしまうとマジで溺れ死んでしまう。

直ぐに泉から上がらなければと思い、手を伸ばすと思いの外、アッサリと上がれた。あれ、呪泉郷の泉じゃなくて普通の泉だったのか?と考えたのも束の間。俺は自身の手を見て違和感を感じる。

 

俺の手ってこんなに小さく細い指だったっけ。胸の辺りが妙に重たく、股間が軽く感じる。まさか……まさか……今、俺が落ちた泉って……

 

 

「あいやー、娘溺泉に落ちてしまた。娘溺泉は1500年前、若い娘が溺れたいう、悲劇的伝説があるのだよ。以来ここで溺れた者、皆、若い娘の姿になてしまう呪い的泉。珍しいね、最近もこの泉に落ちたお客さんが居たのだよ」

 

 

その最近落ちたお客さんってのは乱馬の事だな……鴨子溺泉には落ちなかったけど……やはり原作には勝てなかったよ。なんて事を少し前の俺だったら考えて嘆いただろうが今は違う。受け入れると決めたんだからな。そう冷静になろう。COOLだCOOL。

 

 

「あ、あいやー……ムースが乱馬みたいに女になってしまったアル!」

「ムース兄様……お綺麗です……」

 

 

人の姿に戻ったシャンプーとリンスが俺の今の姿を見て驚いてる。だが、まだ慌てる時間じゃない。

 

 

 

「落ち着け二人とも。確かに俺とシャンプーの姿は変わってしまったが今、男溺泉と娘溺泉に入れば問題ない筈だ」

「そ、そうネ!直ぐに泉に入って体質改善すれば……」

「ま、待つね。お客さん!そんな事したら大変よ!?」

 

 

俺の言葉にシャンプーも同意して今、俺が落ちた娘溺泉に入ろうとするがガイドがストップを掛けた。

 

 

「どうしてだ?呪泉郷の呪いに掛かったのなら直ぐに男溺泉か娘溺泉に入れば解決なんじゃないのか?」

「呪泉郷の呪い的泉に入ってしまった者はその姿になってしまうが、その呪いが体に定着するまで他の泉に落ちたら大変よ。呪いが二重に掛かって体に呪いが馴染めずに下手をすれば二度と元に戻れない!」

 

 

男溺泉と娘溺泉と入ろうとする俺とシャンプーに戦慄が走る。直ぐに入れば解決だと思ってたけど、考えが甘かったか。

 

 

「呪泉郷の呪いが体に定着するまでは他の泉に入いる良くない。馴染まない体に再度使用は悪影響よ」

「呪泉郷は化粧水か!」

 

 

体に馴染むまで使いましょうってか!?

 

 

「そ、それで馴染むにはどれほどの時間が必要なのですか!?」

「人によって様々ね。早い人は三ヶ月程で馴染むが遅いと十年は掛かるよ」

 

 

リンスが慌てた様子でガイドに呪いが馴染む期間を聞くが思っていた以上に長かった。原作やアニメでなんですぐに男溺泉と娘溺泉に入り直さなかったのか不思議だったけど、これが理由だったか……

 

 

俺は今まで俺自身とムースの気持ちが半分ずつで俺という存在がなりたっているんだと思っていた。まさにムース1/2だな、ムースの体に俺の心で1/2ずつとか、なんて冗談めいた考えをしていたけど……まさか、まさか……原作主人公の乱馬みたいになってしまうなんて……これじゃ本当に『らんま1/2』じゃなくて『ムース1/2』だろうが!

 

 

なんて錯乱した思考を頭の中でリフレインしていた。俺、これからどうなるんだろう……




作品タイトルの二つの意味の判明回でした。


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女になった次はどうする?

前話でムースを女体化させましたが、実はギリギリまでどの泉に落とすか悩んでいました。

候補は三つ程に絞りましたが、どの泉に落としても出来る話と出来ない話の多さに非情に悩み、話を組みやすいと判断し娘溺泉にしました。
もう一つの理由に書きたいエピソードが出来たのですが、その話の為にムースが娘溺泉に落ちている事が前提の話となっていた為に……と言った次第です。

他の泉に落ちると予想された方やアヒルムースが好きな方、また女体化嫌いな方にも不快な思いをさせた様です。申し訳ない事をしました。
未熟な文章の小説に今後とも、お付き合い頂けたら幸いと思います。



新咲葉月様より素敵なイラストを頂きました。ありがとうございます!あらすじの方にも貼らせて頂きました。

【挿絵表示】




 

 

 

「ムース、動く良くない。綺麗に纏められないネ」

「あのな、シャンプー……」

 

 

シャンプーは俺の後ろで座りながら俺の髪を弄ってる。さっきから三つ編みにしたり、ポニーテールにしたりと色々と変えられてる。

 

 

「ムース兄様、今度はこれを着てください」

「リンス……俺が着るには派手じゃないか?」

 

 

リンスが笑顔で持ってきたのはモデルさんとかが着ていそうな派手な服。いつ購入したんだ、そんな服。

 

 

「ホッホッホッ……楽しそうじゃのう」

「俺としては不本意だがな」

 

 

女になった俺と楽しそうにしているシャンプーとリンスを眺めて笑う婆さん。

原作に負けないようにと思ってアヒルにはならなかったけど、まさか女になってしまうとは……まさに予想外だよチキショー。こんな事になるなんて誰が予想出来ようか……

 

 

「ま、これも修行の内じゃ。呪泉郷の呪いに掛かってる内は水を掛けられない様に周囲に気を配るんじゃな。特にムースは心眼の完全な習得に至ってはおらんのじゃからな」

 

 

何処が修行になるんだか……と思ったけど尤もらしい理由が。加えて耳の痛い事を……

 

 

「お主も悩みが消えたのか晴々としておったからの。心眼の習得も早かろうと思い、更なる試練を与えたのじゃ」

「その試練が無ければもっと早い習得になったと思うがな」

 

 

せっかく、原作を気にしないとかバタフライエフェクトを考えないとか色々とスッキリしたのに余計な悩みを増やしやがって。

 

 

「しかし、可愛らしい姿になったのう。ワシの若い頃を思い出すわい」

「乱馬の気持ちがよーく分かるよ……」

 

 

男が可愛いとか言われても嬉しくないっての。

俺の女体化だが乱馬と違って背は低くならなかった。パワーは落ちたが暗器を取り扱うには問題無さそうだ。良かったよ、変身したら服の重みで身動きが取れなくなるとかシャレにもならん。

因にだが、変身後にシャンプーに胸を揉まれ「良かった……私の勝ちネ」と言われた。まあ、元男に胸の大きさで負けるってのは屈辱なんだろうな。それを考えると、あかねが乱馬に対して怒っていたのは間違いではないのだろう。

 

 

「それで、呪泉郷での修行は終わりなのか?」

「いや、次からが本番じゃ」

 

 

呪泉郷で修行というか苛められた俺とシャンプーだが、まだ修行の本番が待っていたらしい。俺の髪を弄っていたシャンプーの手が止まり、一緒に婆さんを見る。

 

 

「それで……どんな修行なんだ?」

「うむ……お主とシャンプーは日本に行き、様々な知識と武術の技術を学んでくるんじゃ。聞けばシャンプーを倒した早乙女乱馬は無差別格闘流と言う流派じゃそうだな。他にも吸収すべき技術は日本に有ると見た……そこでムースとシャンプーに行ってもらい、その技術を継承するまで村には里帰り以外での帰郷を許さん。これは族長命令でもある」

「な……ママはまだ私に無理強いをさせる気か!?ちょっと行ってくるネ!」

 

 

俺が婆さんに促すと婆さんから告げられた修行内容は、要約すると『日本に行き、様々な技術を体得してこい』との事だった。その話を聞いたシャンプーは怒り心頭で族長の部屋へと慌ただしく向かっていった。しかし、俺にはこれは修行とは思えなかった……

 

 

「なあ……婆さん。これって要は『シャンプーを甘やかせる為に修行場所を友人のいる日本にして、更に心行くまで遊んでおいで。たまには村にも里帰りしてね』に聞こえたんだが」

「ま、そうじゃの。ワシも日本には同行するつもりじゃったがコスメは未だに素直に成りきれておらんの」

 

 

俺が婆さんに問うと予想通りだったらしく婆さんはやれやれと呆れ気味だった。

 

 

「ま、長年厳しくしておったからシャンプーもコスメの甘やかしに気付いておらんがの」

「あの様子じゃハッキリ言わないと気付かないと思うけどな」

 

 

既に族長の部屋から言い争う声が聞こえてきてる。

 

 

「似た者親子だな」

「シャンプーも猫になったから懐くまで時間が掛かるかの」

 

 

素直になれない所や勘違いする所、ついでを言うなら気の強い所も全部、族長譲りなんだよなシャンプーって。

 

 

「ムース兄様……ムース兄様もシャンプー姉様もまた村から出ていってしまうのですか?」

 

 

逆にリンスは真逆だよな。俺の脚にしがみついて泣きそうな、この子は天使としか言いようがない。しかし、こればかりは俺がどうこう出来るかは問題じゃないんだよな。何よりも族長がリンスを村から出すのを許可しないだろうから。

 

 

「心配するでないぞ、リンス。お主も日本に行くんじゃからの」

「え、そうなのですか!?」

「マジかよ」

 

 

婆さんの言葉に驚かされるのも本日、何回目だろうか。リンスも凄いビックリしてるし。

 

 

「コスメがの……シャンプーとムースからリンスを離ればなれにさせると可哀想と言い出してな。まあ、ワシも一緒だからこそ許可を出したんじゃろうがな。それにリンスには日本の学校に通わせるつもりじゃしの」

 

 

なんか本人の知らぬ所で大人達に勝手に行く末を決められていた。ま、俺に不満はないけどね。女にさせられた事以外は。

 

 

「じゃ、今日は帰るわ。親父と母さんにも話さなきゃだしな」

「お主の両親は既に知っておるが……まあ、お主からも伝えてやるのが親孝行じゃの」

 

 

俺は婆さんに挨拶を済ませると家路に着くことにした。

 

 

「そうそう……シャンプーの修行内容には花嫁修業も含まれとるから期待しても良いぞ」

 

 

最後に胸が膨らむ事を言いやがって……ん、胸?

婆さんの発言に視線を下に向ける。そこには山が二つ……女に変身したままだった……

 

 

「男に戻ってから帰ろ……」

 

 

そう呟いて族長の家の台所にお邪魔してから帰る事にした。アヒルじゃないだけマシなんだろうけど前途多難な気がしてきた……

 

 




女ムースのイメージは『fate/stay night』のライダーが黒髪になった物をイメージすると分かりやすいかもです。


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人物紹介①

 

 

『ムース(憑依)』

 

ふとした拍子にムースに憑依してしまった高校生。

当初は、らんま1/2の世界で生きる事に躊躇いと焦りを感じていたが、いつ頃からか、この世界で生きると決意。

 

原作と同様にシャンプーとは幼馴染みだが、原作の流れを知るムース(憑依)は『いつかシャンプーは乱馬に惚れてしまう』と考えて、後一歩が踏み出せずにいた。

だが、原作の流れを変える事が出来る事とシャンプーの思いを知り、踏み出せなかった後一歩を進み、シャンプーと両思いとなる。現在はコロンや族長にシャンプーとの仲を認めてもらう為に修行中。シャンプーとは仮の許嫁となっている。

 

原作では落ちるとアヒルになる鴨子溺泉に落ちたが、本作では娘溺泉に落ちて、女となった。女ムースのイメージは『fate/stay night』のライダーが黒髪になったもの。

 

戦法は原作のムース同様に暗器使いだが、やたらと武器を振り回すのではなく、武器をかざして相手の戦意を削ぐ戦いをする。またマトモに戦う際には視線誘導やフェイントを駆使して的確に暗器や技を叩き込む戦法を得意としている。

コロンに戦いを学んでいる為に隠し技を所持しているが現状、明かしていない。

 

 

 

『シャンプー』

 

本作のヒロイン。

原作では乱馬に惚れたが本作ではムースに惚れている。

原作では幼い頃にムースを倒した為に掟により相手にしなかったが、本作では引き分けだった為に掟が適用されなかったので仲の良い幼馴染みとして育った。

だがシャンプーはムース(憑依)から妹として扱われていると感じていた為に、素直じゃない行動をしていた。

後に紆余曲折あったがムース(憑依)とは掟を越えた仲となり、両片思いから両思いとなった。更に掟を逆手に取った考えでムースとは仮の許嫁となっている。

 

女傑族の族長の娘として厳しく育てられた為に母親とは喧嘩気味だったが後に和解。だが、互いに素直になれずに喧嘩は継続中。

 

あかねとは原作で乱馬を巡る恋のライバルで険悪な間柄となっていたが、本作ではアドバイスを受け、掟に逆らう切っ掛けを与えてくれた人物。原作と違って親友の様な間柄となっている。

 

 

『リンス』

 

本作オリジナルキャラ。

シャンプーの妹。生まれつき体が弱く、女傑族の女としては心穏やかな性格。常に敬語で喋り、シャンプーをシャンプー姉様、ムースをムース兄様と呼ぶ。

幼いシャンプーの様な容姿で髪はセミロング。

 

 

 

『コロン』

 

原作では乱馬に様々な奥義を教えていたシャンプーの曾祖母。本作ではムースを子供の頃から鍛えていて、ムースの事も曾孫の様に扱っている。

 

 

 

『コスメ』

 

本作オリジナルキャラ。

シャンプーの母で現在の女傑族族長。

幼い頃からシャンプーを女傑族の次期族長として厳しく育てていたが、リンスが生まれてから、その育て方が間違っていたと実感するが今更、止める訳にもいかずにシャンプーとの距離を測りかねていた。

女傑族の掟を何よりも守る人物で、その原因は掟に背いていた両親が事故で他界した為に、シャンプーにはそうなって欲しくないとの願いから何がなんでも掟を守ろうとしていた。

 

 

 

『フレグランス』

 

原作にも少しだけ登場していたシャンプーの父。名前はオリジナル。

サングラスを掛けている割に少し気弱な人物。

原作ではシャンプー、コロンと共に日本に来たのだがムースが現れてから何故か居なくなった。

余談だがPCエンジンのゲームではラスボス担当。

 

 

『ワックス』

 

本作オリジナルキャラ。ムース(憑依)の父。

原作の眼鏡無しのムースをダンディにした容姿をしている。ムースの暗器の師でもある。

 

 

『トリートメント』

 

ムース(憑依)の母。アニメにのみ少しだけ登場。名はオリジナル。

ムースが掛けている瓶底眼鏡を同様にしており、ムースの近眼は母親譲りである。心優しい人物でアニメではムースとシャンプーが結婚する事を願っていた。

 

 

 



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人物紹介②

 

 

『早乙女乱馬』

 

原作主人公。呪泉郷の娘溺泉に落ちてしまい、水を被ると女になる。湯を被ると元に戻る。

女になった姿を嫌がるが、人を騙す為や隙を作る際に女の体を利用するシーンが多く、ノリノリで女を演じる事が多い。

許嫁の天道あかねと結婚し、天道流の道場を相続して無差別格闘流を栄えさせるのが使命。あかねとは両想いだが互いに不器用で素直になれない。

本作では良牙とのタッグでもムース(憑依)に負けてしまい、再戦した際に負けない様に修行中。

 

 

『天道あかね』

 

原作ヒロイン。格闘技道場を営む天道家の三女にして末娘。乱馬とは、父親同士によって定められた許婚。

乱馬とはいつまで経ってもツンデレで両思いになりきれない

何にでも真面目に取り組む性格だが、無類の不器用で壊滅的な料理下手でカナヅチ。因にだが料理下手なのは味見をしなかったり、調味料を無駄に使う為で味覚そのものは正常。

本作では似たような境遇からシャンプーにアドバイスを送り、シャンプーとムース(憑依)との仲を取り持った為にシャンプーとは険悪な間柄には成らず、親友となった。

 

 

『早乙女玄馬』

 

乱馬の父。物語の主な原因の八割方は玄馬の軽はずみの行動や空約束による物。呪泉郷の熊猫溺泉に落ちてしまい、水を被ると大きなパンダに変身する。

無差別格闘早乙女流の師だが、すちゃらかな性格で基本的にはギャグ要員である。マジメに戦う場面は少なく、サボり癖が付き、物語中盤で乱馬よりも弱くなった。

しかし海千拳と山千拳、2つの邪拳の封印を解放した際には乱馬を一方的に倒す程の実力を発揮した。

 

 

 

『天道早雲』

 

真面目で威厳のある雰囲気を漂わせているが、実際には小心者で気さくで面白いおじさん。 責任を重んじる良心的な性格。

天道家の家長でかすみ、なびき、あかねの父。

玄馬の親友で若い頃に互いの子供を結婚させようと誓い、乱馬とあかねの結婚を決めた。

怒ると何故か妖気を放ち、妖怪の様な姿になる。

実力的には玄馬と同等とされているが格闘シーンが極端に少ない。

乱馬に対しては玄馬よりも父親らしく接する事が多く、乱馬が責められた際には庇う場面も多い。その為、乱馬は早雲の言う事に素直に従う事が多くある。

 

 

 

『天道かすみ』

 

原作の良心、聖母とも言える人物。

天道家の長女で天道家の家事全般を引き受けている。

本作でもポジションは変わらず。

 

 

 

『天道なびき』

 

自らを『お金の奴隷』と称する守銭奴。

天道家の次女でしっかり者。物語を引っ掻き回す役割を担う事が多い。

本作でもポジションは変わらず。

 

 

『響良牙』

 

原作の主人公乱馬のライバル。

呪泉郷の黒豚溺泉に落ちてしまい、水を被ると黒い子豚に変身する

乱馬を目の敵にしているが、基本的にはお人好しで男気がある性格。

本作では乱馬を陥れようと行動を起こしたが、結果としてムース(憑依)とシャンプーの仲に亀裂を起こす切っ掛けを産み出してしまった。

自身の行動を悔やみ、「東の山で御祓をしてくる」と言って夕日に向かって走り去って行った。

 

 



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ムースの日記⑨とこれから起きる事は……

 

 

×月○日

 

日本に行く事になり、親父や母さんに話したら、すんなりと受け入れられた。やはり婆さんが言っていた通り、話は通していたみたいだ。

母さんは素直にシャンプーとの仲を喜んでおり、親父は『一足早いが新婚生活を楽しんでこい!』等とほざいていたが、俺とシャンプーだけじゃなくて婆さんやリンスも一緒だっての。

 

 

×月×日

 

婆さんに『日本に行ったら飯処をするから手伝え』と言われた。店の名前は『猫飯店』。名前の由来を聞いたら『看板娘が猫じゃからのぅ』と言っていた。

シャンプーは猫娘というか娘猫だと思うが余計な事は言わんとこ……

 

 

×月△日

 

村の人達に挨拶をする傍ら、シャンプーとの事を冷やかされる。だが、それ以上にシャンプーの妹分達の視線が痛い。彼女達からしてみれば『シャンプー様を負かした男』と認識されており、シャンプーを慕う妹分達からは嫉妬というか……侮蔑というか……そんな視線を浴びせられていた。うう……こんな視線になんか負けないぞ。

 

 

×月◇日

 

俺やシャンプー、婆さんは猫飯店で仕事をするがリンスはそうはいかない。年齢的にも小学校に通わせなければならないのだ。手続き等は婆さんや族長がしているので俺はリンスに勉強や小学校での過ごし方をレクチャーしていた。この村、閉鎖的すぎて学校自体が存在しない。親が教えたり、私塾みたいなのはあるけど、基本的に学校ではないのだ。俺も当然、小学校には通わなかったが、前世の記憶と本などで得た知識があるので、リンスに教える分には問題なかった。

 

余談だがシャンプーはリンスに隠れて勉強を始めていた。何故かと言えば勉強でわからない所を聞かれて答えられなかった場合、姉の威厳が損なわれると思ったかららしい。

 

 

×月◆日

 

 

母さんやシャンプーから女の振る舞いについてレクチャーを(強制的に)受けた。

娘溺泉に落ちて女に変身する体質にはなったけど、女らしく振る舞う気はないから勘弁してほしい。

 

 

×月□日

 

婆さんに聞いたのだが、呪泉郷に落ちた者は落ちた泉の影響を受けやすいらしい。娘溺泉に落ちた俺は変身後の女になった姿に少しだけ人格や体質に影響を受ける。つまりは女らしくなったり、振る舞いに違和感を感じなくなるらしいのだ。

思えば原作で乱馬は初期は女装や女になるのを嫌がっていたが中盤から女の体を利用してたり、ノリノリで女になるシーンがあったな……俺は気を強く持とう。そう誓った。

 

余談だがシャンプーは猫溺泉に落ちた影響なのか少し猫舌になっており、熱いお茶をフーフーして飲んでいた。可愛いなチクショウ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

来週から日本か……前回は慌ただしかったから今回は観光とかもしたいな。シャンプーやリンスともいろいろな所に連れて行きたいな。

心配事があるとしたら既に原作の流れから大きく変わった事だろう。

 

本来の流れだとシャンプーと婆さん、シャンプーの親父で日本に来て、乱馬をシャンプーの婿として鍛える話だったが現状その流れではないだろうし。

 

大きく違うと言えば、俺とシャンプーが恋仲である事。シャンプーの妹のリンス。俺が婆さんに鍛えられてる事。そして俺が落ちた泉が鴨子溺泉ではなく娘溺泉だった事。……とまあ、こんな所か。

まだ絡んでいない久能兄妹や右京の事も気にかかるし……目下最大の不安要素、八宝斎の件もある悩みの種は尽きないな。

 

 

「ムース、準備出来たか?来週には日本ネ。ちゃんと旅支度するヨロシ」

「ん、ああ……俺は最低限の着替えや本があれば大丈夫だからさ」

 

 

勝手知ったる幼馴染みの部屋とばかりにシャンプーが窓から俺の部屋に。こういう所が本当に原作と違うんだもんな。

 

 

「まったく……ムースは他の人の事ばかり気にして自分のが疎かネ。私が荷物纏めしてやるネ」

「待てシャンプー。俺がやるから適当に入れないでくれ」

 

 

シャンプーはタンスから適当に旅行鞄に詰め込み始めるのを見て俺は慌てた。一応、持っていく物をリストアップしてから持っていくつもりだったから適当には詰めないでくれ。

 

 

「ま、そんときにならなきゃ分からないよな」

 

 

俺はシャンプーにも聞こえない位の声で呟いて日記を閉じた。原作を外れても続くであろうドタバタ劇はこれからだ。

 



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日本へ引っ越し。店の名前は猫飯店。

 

 

 

なんやかんやあって日本に到着。風林町に到着して猫飯店を目指していた。

 

 

「シャンプー姉様、あれはなんですか?」

「あれは……」

 

 

リンスは初の日本で興奮してるのか、道行く先々で気になった物をシャンプーに聞いていた。

 

 

「ホッホッホッ……初々しいのぅ」

「楽しそうだな……婆さん」

 

 

俺は婆さんの隣で荷物を担いで歩いているのだが……

 

 

「なんじゃムース。何が不満なんじゃ?」

「女の姿にされて歩かされりゃ不満だっての」

 

 

そう……俺は日本に到着するなり、婆さんに水を掛けられて女にさせられていた。なんか慣れないんだよな。

 

 

「暫くは、その変身体質で過ごさねばならんのじゃ、少しは慣れておかんとな」

「慣れたくないけど慣れなきゃなんだな……」

 

 

どうもジロジロと見られてる様な気がするんだが……

 

 

「ホッホッホッ……美人じゃからのぅ」

「ムース兄様、美人ですもの」

「私と並ぶ美人ネ」

「からかうなよ」

 

 

俺と婆さんの後ろを歩いていたシャンプーとリンスが追い付いて会話に参加する。男が美人と言われても嬉しくないってのに。

話をしていると猫飯店に到着。店には既に看板も出ており、アニメで見た店構えと同様だった。

 

 

「凄いです、お婆様!」

「立派なお店ネ」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

 

 

リンスやシャンプーが立派な店構えに驚き、婆さんが得意気になっている。実際、いつの間に建てたと言いたくなるが立派な店構えだ。村に居た時からちょくちょく色んな所に連絡してたみたいだけど、下準備はさせていたんだな。何処にどれだけの繋がりを持ってるんだろう、この妖怪婆さんは。

 

 

「店の準備は来週からとして先に引っ越し作業を進めるか」

「ご近所への挨拶回りとかもだな」

「あ、だったら私、あかねの所に行ってくるネ」

「私もシャンプー姉様に同伴します!」

 

 

ご近所への挨拶の話をしたら、シャンプーはそわそわした様子であかねの所へ行こうとしていた。本当に親友みたいになっとるな。

 

 

「天道家に行くなら皆で行くとしよう……これから長い付き合いになるからの」

「………はーい」

 

 

婆さんの言葉に不満顔のシャンプー。初めての友達だから早く会いたいんだろう。………少し妬けるな、ちくせう。

 

 

「とりあえず今日明日の所は引っ越し作業を完了し、明後日に天道家に挨拶に行く予定じゃな。リンスの小学校への手続きもせねばならん」

「あう……小学校とかドキドキです」

「大丈夫だよ、リンスは可愛いから人気者になれるさ」

 

 

婆さんの発言にリンスは不安そうな顔になるが、安心させる為にも頭を撫でてやるとリンスは頬を染めながらも笑顔になった。天使の笑みだわ、リンスちゃん。

 

 

「なんかムースの方がリンスの姉みたいネ」

「女扱いは勘弁してくれ。と言うか猫飯店に到着したんだし、俺は男に戻るぞ」

 

 

シャンプーにジト目で睨まれたが女扱いは嫌だってのに……さっさっと男に戻ろう。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

この二日間の間に引っ越し作業を完了し、天道道場を目指していた。引っ越し蕎麦としてラーメンを岡持ちに入れて四人出歩いている。因にだが俺はちゃんと男の状態である。

 

 

「男の方の乱馬さんに会うの初めてです」

「また会おうとは言ったけどまさか、こんなに早くになるとは思わなかったな」

 

 

本当にこんなに早くとは思わなかったよ。原作じゃムースの登場はもう少し後で同時に挨拶には行かなかったから。

 

 

「あかねにも私とムースが許嫁になった報告が出来るネ」

「はは……俺とシャンプー。乱馬とあかねで随分と似た関係になっちまったな」

 

 

シャンプーが俺の腕にスルッと抱き付いてくる。岡持ち持ってて危ないと思ったけど悪い気は……いや、寧ろ嬉しいんだけどね。

でも、本当に似た関係になった。許嫁が出来た事や娘溺泉に落ちた事とかも含めて。

 

 

「ふむ……乱馬はムースよりも先に娘溺泉に落ちて既に女になる体質に慣れておる筈じゃのぅ」

 

 

天道道場に向かう際の婆さんの一言が妙に印象的だった。なんか嫌な予感がしてきたが大丈夫だろうか?。



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引っ越し蕎麦と鍛える理由

 

 

 

天道道場に到着し、呼び鈴を鳴らすと、かすみさんが出迎えてくれた。

 

 

「あら、ムース君。シャンプーちゃん」

「お久しぶりです、かすみさん」

「日本に引っ越して来たネ」

 

 

にこやかに挨拶をする最中、リンスはシャンプーの後ろに隠れていた。

 

 

「ほら、リンス。かすみさんに挨拶をしなさい」

「は、初めまして……リンスです……」

 

 

初めて会う人にリンスは緊張してるのか、シャンプーの後ろから出てこようとしなかった。

 

 

「あら、可愛い子ね」

「リンスはシャンプーの妹なんです。それと婆さん……あれ?」

 

 

かすみさんがリンスの事を誉めてくれて嬉しかった。その流れで婆さんの紹介もしようかと思ったら、いつの間にか婆さんの姿が消えていた。

 

 

「他にもいらっしゃったのかしら?」

「ええ……シャンプーとリンスの曾祖母の婆さんが一緒だったんですが……」

「いつの間にか居なくなってたネ」

「お婆様、何処に行ったんでしょう?」

 

 

俺達は揃って首を傾げた。何処に行ったんだ妖怪婆さんは。

 

 

「あら、随分大荷物ね」

「あ、すいません。引っ越し蕎麦を持ってきたんです。近所で猫飯店って中華料理屋を開店したので、そっちもよろしくお願いします」

 

 

俺やシャンプーが持っていた岡持ちに気付くかすみさんに猫飯店の話もしておく。こういった事が後の営業にも繋がるからね。

 

 

「あらあら、じゃあ居間に行きましょう。皆にも教えてあげなきゃ」

「お邪魔します」

 

 

かすみさんはパタパタと居間に向かう。恐らく、居間の片付けに行ったのだろう。俺達は、かすみさんの後を追って行く。

居間に行くと早雲さん、かすみさん、なびき、あかね、パンダに変身してる玄馬さんが居た。この人、パンダでいる時間の方が多いんじゃなかろうか。ついでに、あかねに抱かれてる子豚が一匹。居たのかPちゃん。

 

 

「シャンプー、帰ってきたの!?」

「日本に引っ越してきたから暫くは、この街に留まるネ」

 

 

会うなりキャイキャイと騒ぎだす女子二人。シャンプーがあかねと騒ぎ始めたからリンスは俺の後ろに隠れちゃったよ。しかし……本当に原作とはかけ離れた間柄になったよな。でも、それを考えると今後はどうなるんだろう?原作の流れだとシャンプーの婿として乱馬を鍛えていて、その過程で奥義を伝授したり、良牙やムースと戦ったりしてたけど、今の婆さんに乱馬を鍛える理由って無いんだよな。

 

 

「よう、ムース」

「久しぶりだな、乱馬。修行……って事で日本に住むからヨロシクな」

 

 

居間に居なかった乱馬が丁度帰ってくる。パシッと握手を交わしたのだが、俺の後ろに居たリンスはササッと隠れてしまった。

 

 

「恥ずかしがり屋なのね」

「私達の周りには居なかったタイプね」

 

 

かすみさんはにこやかに笑みを浮かべ、なびきは珍しい物を見る目でリンスを見ていた。

 

 

「シャンプーの妹?私は天道あかね。よろしくね」

「………リ、リンスです」

 

 

あかねの自己紹介にリンスは恥ずかしそうに俺の袖に隠れながら挨拶を返した。知らない人ばかりで不安そうにしていた。

 

 

「リンス、この家の人達は良い人達だから大丈夫だぞ」

「は、はい……」

 

 

リンスの頭を撫でてやると少し安心したのか、力が入っていた体から緊張が抜けた気がした。俺やシャンプーと違って初めて村から出て知らない人に会うのだから無理もないか。

 

 

「やれやれ、リンスの人見知りも治さねばならんのぅ」

「あ、さっきのババア!」

「私の曾バアちゃんアル」

 

 

これまた、いつの間にか天道家の居間に婆さんが居座ってラーメンを食べていた。乱馬は乱馬で気になる事、口走ってるし。

 

 

「何かあったのか?」

「さっき、急にこのババアに襲われたんだよ」

 

 

俺の問いに乱馬は婆さんを指差しながら叫ぶ。何をしてんだよ婆さん。

 

 

「ホッホッホッ……ちと腕試しをな。中々、やるようで何よりじゃ」

「なんで、乱馬の腕試しをしたんだ?」

 

 

俺はその場の全員を代表して婆さんに問う。婆さんが乱馬を腕試しをする理由なんてないのに。

 

 

「ムースのライバルとして鍛えようかと思っての。ムースよ、お主は同年代の者と互角の戦いをした事がないじゃろう。それは武道家としては致命的な実戦不足となる。乱馬はムースを除けば、この年齢の武道家としては確実に上位じゃ。ならば鍛えればムースの良きライバルとなろうて」

「あのな婆さん……俺は無差別格闘流の跡継ぎだ。他流派の誰かに鍛えて貰おうなんて考えちゃいないぜ!何よりも前にムースに負けた時から俺は特訓してるんだ。今度は負けねえ!」

 

 

婆さんの主張に乱馬は噛み付いた。まさか、婆さんが乱馬を鍛えようとした理由が俺だとは……

 

 

「よくぞ言った乱馬!」

「偉い、乱馬君!」

 

 

乱馬が無差別格闘流の跡継ぎ発言や特訓してた事を玄馬さんや早雲さんは喜んでる。

 

 

「お主とムースは似た境遇……無理にでも鍛えてやろう」

「似た境遇……どういう意味だよ?」

 

 

婆さんの言葉に乱馬やあかね達が首を傾げる。婆さんが呪泉郷の事を話すのかな?と思ったら既に婆さんは水の入ったコップを手にしていた。おい、ちょっと待て!

 

 

「ぶわっ、冷た!?」

「うにゃん!?」

「え、女に変わった!?シャンプーは猫に!?」

「うぇっ!?ね、猫!!」

 

 

俺とシャンプーに水を浴びせた婆さん。水を浴びせられた俺とシャンプーは女と猫になってしまう。その光景にあかねは驚き、乱馬はシャンプーが猫になった事で後退る。そういや乱馬は猫が苦手だったんだ。俺は猫になったシャンプーを抱き寄せて膝に乗せた。

 

 

「と、まあ……俺もシャンプーも呪泉郷で泉に落ちてな。俺は娘溺泉にシャンプーは猫溺泉にな」

「そ、そうか……似た境遇って、そう言う事かよ」

 

 

女になった俺の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らすシャンプー。乱馬は怯えたままだった。これじゃ話にならんのでお湯を貰って元の姿に戻った俺とシャンプー。

 

 

「それに私、正式にムースの許嫁になったネ」

「本当!?おめでとうシャンプー!」

 

 

シャンプーとあかねが、はしゃいでる。女子は好きだねぇ、この手の話。

 

 

「ま、そんな訳で乱馬、お主を鍛えてやろう。ワシの見立てではお主は強いがまだムースには届かんじゃろう」

「こ、このクソババア……」

 

 

話を打ち切るかの様に乱馬に評価を下す婆さんだが、火に油を注ぐ言い方は止めてくれ。乱馬も頭に来てるみたいだし。

 

 

「だったら、勝負だムース!婆さんに言われなくても、お前との決着は着けたかったんだ!」

 

 

怒りの矛先は婆さんから俺に向いた。俺、今日一度も乱馬に喧嘩売ってないのに最終的に俺が悪い事にされたよ。

 



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乱馬との決闘と心眼の切っ掛け

 

 

 

 

天道道場なう。

婆さんの挑発に乱馬が乗ってしまい、俺VS乱馬の構図が出来てしまった。道場には先程のメンバーが勢揃いしていた。

 

 

「今度は負けねぇぞ、ムース!」

 

 

当の本人はめちゃくちゃやる気だし。

 

 

「ムース、手加減無用じゃ」

「ムース、頑張るネ」

「ムース兄様、頑張ってください!」

 

 

こっちの応援団は止める気なし……

 

 

「ま……やるからには手は抜けない相手だから手加減なんか考えないけどさ」

「上等だぜ!」

「こほん……では、私が審判を務めさせてもらおう。両者、構え」

 

 

俺が乱馬と戦う覚悟を決めると乱馬は拳をパシンと鳴らす。やる気十分だな。早雲さんが審判をしてくれる事となり、俺と乱馬は同時に構えた。

 

 

「始めっ!」

「行くぜ、ムース!」

「来い、乱馬!」

 

 

試合開始の合図と共に間合いを詰めようとする乱馬。俺はそうはさせないと手裏剣を数枚投擲する。

 

 

「よ、は、っと!」

「避けたか、それに速いな」

 

 

乱馬は俺が投擲した手裏剣を最低限の動きで避けると一気に間合いを詰め、流れるように素早い拳を俺に叩き込もうとする。何とか避けてるけど、このままじゃ当たるな。

 

 

「どうだ、こうやって間合いを詰めりゃ暗器は使えないだろう!オマケに道場の中なら狭くて武器を振り回せない筈だ!」

 

 

ドヤ顔の乱馬が俺を追い詰め始めると、間合いを詰めた理由や道場で戦う事を決めた事を叫んだ。なるほど、俺の暗器の対策は考えていたってか。だが、甘いな。俺は乱馬の拳をわざと食らうと数歩下がる。

 

 

「トドメだ!」

「馬鹿者、暗器使いに迂闊に攻め込むな!」

「………バレたか」

 

 

乱馬が一気に攻め込もうとしたので、罠を張ろうとしたら玄馬さんが叫び、乱馬は動きを止める。俺は心の中で舌打ちすると乱馬との距離を離す為に飛び退いた。

 

 

「邪魔すんなよ親父!」

「乱馬よ……ワシが止めねば今ので勝敗は決していたぞ」

 

 

乱馬は戦いに水を差された事に苛立っていた様だが、玄馬さんの指摘に婆さん以外の人達は首を傾げていた。

 

 

「ど、どういう事なの、おじ様?」

「あのムースはわざと乱馬の拳を食らっていたのだ。そして弱ったフリをして左腕のガードが下がったと見せ掛ける。後は迂闊に攻め込んできた乱馬が罠に掛かるのを待てば良い。案の定、乱馬は一気に決着を着けようとガードの下がった左側を攻めようとした。そしてワシが止めねばムースは右側の袖に隠した暗器で逆に隙だらけになった乱馬に一撃カウンター……と言った所であろう?」

「セコンドが居ると……この戦法は厳しいか。お見事です」

 

 

あかねが今のやり取りを玄馬さんに聞くと玄馬さんは解説を始めた。暗器は直接戦ってるよりも外野から見てた方が種はバレやすい。見事に看破されちゃったよ。

俺は参ったとばかりに右袖に潜ませていた鉄球を床に落とす。カウンターで叩き込んでやろうかと思ったのに。

しかし、流石は乱馬の親父だ。すちゃらかに見えても乱馬の師である事に変わりはないな。普段の姿からは想像できんが強いし、武術に関する事なら乱馬が頼りにするだけの事はある。

 

 

「ホッホッホッ、親心かのぅ。決闘の最中に口出しするとは」

「正式な決闘ではないし、乱馬が相手の戦略を知らぬのは不利と言うものでしょう」

 

 

婆さんは笑って玄馬さんと話している。玄馬さんは思わず口出しをしてしまった事に恥を感じているのか、そっぽを向いていた。

 

 

「じゃが、これで分かったじゃろう。にわか仕込みではムースには勝てぬぞ」

「ま、まだだ!」

「危なっ!」

 

 

婆さんに指摘されて乱馬は悔しそうにした後に俺に向かってきた。先程よりも速い攻撃に俺の反応は遅れて一撃を貰ってしまう。その衝撃で眼鏡を落としてしまった。落ちた眼鏡は割れたのかパリンと音が聞こえた。

 

 

「よっしゃ、チャンス!覚悟しろ、ド近眼野郎!」

「ま、待て乱馬!?」

 

 

俺が視界不良で慌てていると、乱馬は千載一遇のチャンスとばかりに襲いかかってきた。

 

 

「ほう、相手の立場が弱くなった瞬間に強気になったのぅ」

「相手の隙を突く非情さも武道家には持ち得なければなりますまい」

 

 

婆さんと玄馬さんの会話が聞こえるが一切、止める気無いのね!視界がボヤけて良く見えないってのに!

 

 

「今回は勝たせて貰うぜ、ムース!」

「危ねぇ!」

 

 

乱馬の繰り出す拳や蹴りを何とか捌くが長くは保たない!乱馬の攻撃の気配を感じながら避ける……って何で避けてられるんだ俺。良く見えないのに攻撃のタイミングは感じ取れる。

 

 

「ムースめ、土壇場で完璧ではないが心眼に目覚めおったか」

「心眼?」

 

 

背後では婆さんが何やら解説を始めているが、俺は乱馬の攻撃を避けるので手一杯だ。

 

 

「ムースは元々、気配察知を高める修行をしておったが上手く会得しておらんかった。じゃが眼鏡を失った事と戦いの気配を感じる事で心眼……即ち気配察知能力が格段に増したんじゃよ。ほれ、その証拠に乱馬の攻撃を避ける速度が上がっておる。眼鏡が無い分、周囲の気配や音に敏感になっておるのじゃよ」

「確かに、いつものムースよりも素早いネ!」

「流石です、ムース兄様!」

 

 

確かに避けられる様にはなったけど避けるだけじゃ勝てない。かと言って見えないんじゃ暗器は迂闊に使えない……これしかないよな。そう思った俺は乱馬の攻撃を避けるのを止めるとグッと前に出る。

 

 

「避けるのは止めたのかムー……グハっ!?」

 

 

乱馬の拳を受けると、その攻撃してきた方向に蹴りを繰り出す。見えないなら、位置を把握してからそこに攻撃するしかない。一か八かのカウンターだったが、上手くいった。だが、俺も拳をマトモに食らったので倒れてしまう。

 

 

「相討ちか。これでムースの1勝1引き分けじゃの。まだ自分に修行は必要ないと言い張るか乱馬よ」

「ムース、大丈夫か?」

「ムース兄様、お怪我は!?」

 

 

婆さんが乱馬に話し掛け、シャンプーとリンスは俺に駆け寄ってくれた。目が見えないから声でしか判断できないけど。

 

 

「けっ、だからってムースの師匠相手に教えを請えってのかよ」

「やれやれ、意地を張りおって。まあ、良いわ。すぐに修行させてくれと泣きつくじゃろ」

 

 

乱馬と婆さんの会話を聞き取るが、乱馬は意地でも婆さんからの修行を受けようとしない。だが、直後にドスッと何かを貫く様な音が聞こえる。

眼鏡が無いので見えなかったから後で聞いたのだが、俺が聞いた音とは婆さんが杖で乱馬の体を突いたらしい。

 

もしかして総身猫舌のツボを押したのか?って言うか眼鏡どうしよう。何も見えないんだけど。



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ムースの日記⑩と乱馬の火傷

 

 

 

◆月○日

 

眼鏡がなくて見づらいが日記を再開。あの後聞いたのだが、やはり乱馬は総身猫舌のツボを突かれていたらしい。総身猫舌のツボを押されたら熱さに極端に弱くなる体質になってしまう。それを解いて欲しければ修行を受けろと言うのが婆さんの言い分だ。

因にだが俺は店の手伝いはしていない。なんせ眼鏡が無いから料理は出来ないし、ウェイターも出来そうにない。眼鏡が無いと、めっちゃ不便。婆さんは心眼の修行に丁度良いと言ってたけど、仕事が出来ないっての。

 

 

◆月×日

 

シャンプーに手を引いてもらい眼鏡屋へ。視力検査をしたら以前よりも視力が回復していた。婆さんから目が良くなる食材や運動を習って実行していたが効果が出てきたらしい。中国三千年恐るべし。

視力検査の後に眼鏡を作って貰ったが、数日掛かると言われた。多少視力が良くなったと言ってもまだド近眼である事に変わりはなく、作成に時間が掛かるとの事だ。帰り際にシャンプーがやけに熱心に店員さんと話をしていた。なんだったんだろう?

帰りもシャンプーに手を引いて貰ったが……シャンプーの手、細くて柔らかかった。

 

 

◆月△日

 

乱馬が猫飯店でバイトを始めた。理由は婆さんが持っている不死鳥丸。これを飲めば総身猫舌のツボを改善できるからだ。因みに昨日猫飯店に来なかったのは、昨日は東風先生に江戸っ子爺さんのツボを押してもらい一時的に治ったからだった。ただし江戸っ子爺さんのツボは一回しか効果がなく、根本的な解決には至らなかった。途方に暮れていた乱馬を救ったのはリンスだった。小学校の手続きで婆さんとリンスが小学校に行った帰りに乱馬と会って不死鳥丸の事を教えたらしい。

リンスは俺やシャンプーを困らせたとして乱馬を少し嫌っていたから、リンスが乱馬に不死鳥丸の事を教えたのは意外だった。理由を聞いたら「可哀想だったので、つい……」と言っていた。リンスちゃん、マジ天使。

 

そんな訳で乱馬は婆さんから不死鳥丸を奪おうとしたのだが失敗の連続。そこで思い付いたのが、猫飯店でバイトをしながら隙あらば不死鳥丸を奪う作戦に出たのだと言う。眼鏡が無いから仕事が出来ない俺の代わりにと婆さんも乱馬のバイトを快諾。女物のチャイナ服を身に纏い、エプロン姿の乱馬はたちどころにシャンプーと並ぶ、看板娘となっていた……らしい。だって俺は眼鏡がないから見えないんだもん。リンスから後々聞いただけである。

 

 

◆月◇日

 

乱馬はバイトをしながら不死鳥丸を奪おうとしているが、今のところ成功したとは聞かない。寧ろ、婆さんに芸を仕込まれている様だ。

乱馬に呼び出された……と言うか、シャンプーの案内で俺の部屋に来た乱馬は「眼鏡を割ってゴメン」と謝りに来た。顔は見えないがちゃんと謝りに来た辺り、本当に悪いと思っているのだろう。普段からこんだけ誠実なら、あかねとの喧嘩も少なくなるだろうに……

 

 

◆月◆日

 

注文した眼鏡が出来たと連絡を貰ったので再び、シャンプーに手を引かれながら眼鏡屋へ。

出来た眼鏡は以前の瓶底眼鏡ではなく横丸長の眼鏡だった。しかも瓶底眼鏡みたいにレンズが分厚くなく、軽い。更に簡単に割れない素材を使用している上にツルが滑り止めになっていて落ちにくくなっているらしい。

 

見た目も良くなって使いやすい……今までの瓶底眼鏡とは、まるで違う。なんて素晴らしい。眼鏡を選んでくれたシャンプーもニコニコとしていた。

帰り際に店員さんが教えてくれたのだが、シャンプーがこの眼鏡を選んだ際に使いやすさやデザインを念入りに注文していたとの事だった。この間、熱心に店員さんと話をしていたのはこれだったのか。マジで嬉しいわ。

 

猫飯店に帰ったらリンスに「格好良くなりましたね、ムース兄様!」と言われた。普段からキミは俺をどんな目で見ていたんだいリンス。

 

 

◆月□日

 

 

乱馬が婆さんから火中天津甘栗拳を学んでいた。この技を覚えれば、婆さんから不死鳥丸を奪える……と本人から学んでちゃ世話無いと思うが。

この技は女傑族に伝わる秘拳の一つで、目にも止まらぬ速い拳で火中の栗を熱さを感じる前に拾う事が出来る。

当然、修行方法も名前の由来となった火中の栗を拾う事だが、普通の人には当然無理である。だが、乱馬は男に戻れるかの瀬戸際であり、無理にでも物にしようと頑張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side乱馬(女)◆◇

 

 

俺はシャンプーの婆さんに総身猫舌のツボを押されてしまい、お湯を被れず男に戻れなくなっちまった。

シャンプーの妹リンスから婆さんが総身猫舌のツボを治す不死鳥丸という薬を持っている事を教えてもらった。

 

なんでその事を教えてくれたのか聞くと、「乱馬さんはシャンプー姉様を倒したり、ムース兄様を虐めた人ですけど……ムース兄様とシャンプー姉様の友達ですから」と言っていた。一番にムースやシャンプーの事が出るなんて本当に慕っているんだと感じる。

リンスの言葉に俺はシャンプーやムースに散々迷惑を掛けたのだと実感させられる。そういや、ムースの眼鏡を割っちまったんだった。

 

猫飯店でバイトを始めてからムースと会う機会も増えたので眼鏡の事は謝ったけど、他は謝らないぞ。そんな中、婆さんから火中天津甘栗拳を教わったが火中の栗を拾うなんて、無茶苦茶だ。だが、やらなきゃ俺は男に戻れない。

 

 

「でも……熱ちゅい……」

 

 

俺は練習の為に焚き火の中に栗を焼いているが上手くいかない。まだスピードが足りてない証拠なんだろう。もっと……もっと早く手を動かさないと……

 

 

「練習するのも良いが、火傷して練習出来なくなったら本末転倒だぞ」

「ムース、まだ技の習得が出来ない俺を笑いに来たのか!?」

 

 

俺が悩んでると後ろから声を掛けられる。振り返るとバケツを手にしたムースが立っていた。

 

 

「真面目にやってる奴を誰が笑うか。ほら、氷水だ。火傷した手を冷やしとけ」

「お、おう……サンキュー……」

 

 

ムースは俺の前に氷水の入ったバケツを置いた。焚き火に手を突っ込んで火傷でヒリヒリと熱くなっていた手が冷やされて気持ちいい。

 

 

「まったく……婆さんも無茶をさせる。火中天津甘栗拳は一朝一夕で身に付く技じゃないってのに」

「ムースは……火中天津甘栗拳、出来るのか?」

 

 

俺の隣に座るムースに俺は思った事を聞いてしまう。もしもムースが火中天津甘栗拳を使えるなら俺はムースに完全に敗けているからだ。

 

 

「いや、使えないぞ。そもそも俺の戦闘スタイルに火中天津甘栗拳は合わないからな。婆さんが乱馬に火中天津甘栗拳を教えたって事は乱馬と相性の良い技だって事だからだと思うし」

 

 

ムースに言われて納得する。手数の多さやスピードに頼る火中天津甘栗拳は無差別格闘早乙女流にピッタリだと思うからだ。

 

 

「ま、頑張るんだな。男に戻りたい気持ちは痛いほど分かるが手伝う訳にはいかないから応援しか出来ないが」

「へっ。火中天津甘栗拳を物にしたら婆さんから不死鳥丸を奪って男に戻って……ムース、お前と再戦だ!今度は負けねぇ!」

 

 

俺が叫びながらムースを指差すとムースは俺を見据える。シャンプーが選んだという眼鏡は今までの瓶底眼鏡で見えなかったムースの瞳が良く見えた。

 

 

「再戦は兎も角……根を詰めすぎるなよ。肩に力が入りすぎて無駄に力が入ってるぞ」

 

 

そう言って俺に背を向けて歩いていくムースの背中は何処か大きく見え、自分に足りない何かがムースにはある……そんな気がした。

 

 



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夏祭りの特訓とあかねから見たムース

 

 

 

 

 

本日は夏祭り。シャンプーと一緒に屋台を楽しもうかと思っていたのだが、婆さんとシャンプーは近隣のラーメン屋組合でお化け屋敷をする為に不在だった。俺もそっちの手伝いをしようかと思っていたのだが、俺はリンスを連れて屋台を回ることになった。

 

 

「ムース兄様、凄いです!」

「ほら、口の回りにソースが付いてるぞ」

 

 

リンスは初めての日本の屋台にはしゃいでいた。本当ならリンスも学校の友達と来るべきなのだろうが現在は夏休み。即ち、学校も休みなので、リンスが学校の友達を作るのは当分先となるだろう。そんな訳で俺はリンスと一緒に屋台を回っていた。

 

 

「あら、ムースにリンスちゃん?」

「あかねさん!」

「あかね、それに乱馬も……おや、デートだったか?」

 

 

リンスと屋台を回っていると声を掛けられる。振り向くと、浴衣を着たあかねと屋台を楽しみまくってる乱馬の姿が。

 

 

「デ、デートって違うわよ。乱馬が落ち込んでるから気晴らしにと思って……」

「とても落ち込んでる人間には見えないけどな」

「私よりも、はしゃいでますね」

 

 

俺の言葉に頬を赤くしたあかね。乱馬が未だに火中天津甘栗拳を会得出来ていないから気晴らしにと夏祭りに来たらしいのだが、リンスの言葉通り屋台を楽しんでいる様子の乱馬に火中天津甘栗拳を会得出来なくてツラいといった雰囲気は微塵もなく、寧ろ全力で祭りを楽しんでいた。

 

 

「楽しそうで何よりだ」

「男に戻るの忘れてんじゃないかしら?あれ、ムースはシャンプーと一緒じゃないの?」

「シャンプー姉様はお婆様と組合の出し物に出てるんです。お化け屋敷にいる筈ですよ」

 

 

あかねはシャンプーが一緒じゃない事に疑問を持った様だ。リンスが説明すると納得したようで、俺とリンスも乱馬達と一緒に祭りを楽しむ事となった。しかし、乱馬よ……女物の浴衣が似合ってんな、おい。

そんな事を思っていると、あかねが金魚すくいに挑戦するが何度やってもポイが破れて失敗してしまう。全部取れば無料と書かれており、何度もチャレンジするが、やはりダメ。

 

 

「馬鹿だな、あかね。不器用な上に力が入りすぎてんだよ」

「何よ、もう」

 

 

ここでチャレンジャーがあかねから乱馬に変わる。すると乱馬は一枚のポイで次々に金魚をすくっていく。その動きは実に滑らかで力を入れずにポイを壊さないように綺麗な動きだった。

 

 

「す、凄いです乱馬さん!」

「きゃー、全部捕ったらタダよタダ!」

「おう、任せろよ!」

 

 

リンスとあかねは乱馬の手際の良さに驚き、乱馬は喋りながらもペースを落とさずに金魚を全部、すくい上げた。しかし、ここで待ったを掛けたのは金魚すくいの屋台をしていたオッチャンだ。『全部取れたらタダ』と看板は出していても、本当に全部取られたら破産である。それを防ぐ為に次なる挑戦を叩き付けに来た。その名も『ピラニア掴み取り』。

しかもそれを素手で行えというのだ。出来なければ金魚は全て返却と中々に横暴である。周囲からブーイングが巻き起こるが、乱馬はピラニアの水槽をジッと見詰めていた。

 

 

「ピラニアが俺の手を噛む前に掴んで引き上げりゃいい……これって要は火中天津甘栗拳と同様のスピードが求められるって事だ!」

「そっか!火の中で熱さを感じる前に栗を拾うのとピラニアに噛まれる前に捕まえるのは同じだわ!」

 

 

乱馬とあかねは衝撃を得たかの様な顔をしているが、少し違うと思う。が、水は差さないでおこう。

 

 

「で、でも危ないですよ……乱馬さん」

「リンス、大丈夫だ。ピラニアって実は結構大人しいんだ。噛んでくるのは興奮した状態の奴だから水槽を揺らしたり、血でも水の中に落とさない限りは大人しいままの筈だ」

 

 

映画とかの影響で人食い魚としてのイメージが多いピラニアだが、実は観賞用のピラニアも居る。人に襲いかかるのは興奮した状態の奴とか血の臭いに反応した奴だ。変に刺激しなけりゃ大丈夫な筈。

 

 

「じゃ、スタートな」

「おい、待てやオッチャン」

 

 

そう言うや否や金魚すくいのオッチャンはナイフで自身の指先を斬ると血を一滴、水槽に落とす。血の臭いに反応したピラニアはバシャッバシャッと水槽の中で暴れ始めた。なんか、原作よりもハードルが上がった!?

 

 

「ハッハッハッ、出来なきゃ金魚は返してもらうぜ!」

「上等だ……やってやるぜ!」

 

 

高笑いする金魚すくいのオッチャンに乱馬の闘争心に火が付いたのか、乱馬はピラニアの水槽に手を突っ込んでピラニアの掴み取りを始めた。周囲から悲鳴が上がるが、乱馬は一匹のピラニアを掴むと素早く水槽から手を離しバケツに放り投げる。するとバケツの中には乱馬が素手で捕まえたピラニアがピチピチと跳ねていた。

 

 

「おお、凄い!」

「あの女の子、ピラニアを掴んでるぞ!」

 

 

ギャラリーも大いに沸いている。滅多に見れる光景じゃないからなぁ。

しかし、先程よりも乱馬の動きが鈍くなっていた。ピラニアに噛まれる恐怖心から動きが固くなっている様だ。

 

 

「乱馬、さっきの金魚の時の方が素早かったぞ」

「この状況で言うかよ!熱くない分栗よりもやり易いけど、噛まれるかと思うと怖いんだよ!」

 

 

俺が話し掛けると更にペースが落ちた。もう少し、助言してやるか。

 

 

「乱馬、さっきあかねに『力が入りすぎてる』って言ってたよな。それはお前にも言える事だ。人間、力を入れようとすれば動きは重く鈍くなる。素早く動きたいなら力を適度に抜いて、しなやかに動かさないとな。火の中の栗を拾う、ピラニアの水槽に手を突っ込む。どちらも恐怖だが、緊張や恐怖は人の実力を半減させるぞ」

「ムース……お前……」

 

 

俺は乱馬に助言を残して、リンスの手を引きながらシャンプーと婆さんが居るお化け屋敷に移動する事にした。

後は頑張れよ乱馬。

 

 

 

 

 

 

◆◇sideあかね◆◇

 

 

 

乱馬が火中天津甘栗拳を会得できずに落ち込んでるから気晴らしに夏祭りに誘ったら、スゴい喜んでくれた。

女のままだけど、はしゃいでる乱馬は元気が出たみたいで私も誘った甲斐があった。

 

乱馬と夏祭りを回っているとムースとリンスちゃんに会った。リンスちゃんは小さな浴衣を着て凄く似合っていた。シャンプーが羨ましいな。私も妹が欲しかったかも。リンスちゃんの保護者代わりとして来ていたムースも浴衣姿で、最近シャンプーに眼鏡を買って貰ったらしく、瓶底眼鏡じゃなくてお洒落な眼鏡をしていた。シャンプーに聞いたんだけど、ムースの視力を矯正するレンズって高かったみたい。それでもそんな眼鏡をプレゼントするなんて、ムースってシャンプーに愛されてるわよね。

 

 

「あかねさん!」

「あかね、それに乱馬も……おや、デートだったか?」

 

 

私が声を掛けると二人は振り返り、笑顔を見せてくれた。その後のムースの発言に私は慌てて否定する。

 

 

「デ、デートって違うわよ。乱馬が落ち込んでるから気晴らしにと思って……」

「とても落ち込んでる人間には見えないけどな」

「私よりも、はしゃいでますね」

 

 

ムースやリンスちゃんの発言通り、乱馬は凄いはしゃいでる。ああ、もう恥ずかしいんだから。

シャンプーが居ないことを疑問に思ったんだけど、シャンプーやお婆さんは組合の方の出し物に行っているらしく、少しムースに元気が無い様に見えた。

 

この後、どうせなら一緒に回ろうという事になって、私は金魚すくいをしたんだけど、上手くいかなかった。乱馬が代わりにやってくれると、乱馬ったら目にも止まらないスピードで金魚すくいをしていく。火中天津甘栗拳の特訓のおかげで乱馬のスピードやキレは以前よりも格段に上がっていたみたい。

その証拠に金魚すくいのオジさんがピラニアの掴み取りを挑んできても、乱馬は火中天津甘栗拳の特訓になるとピラニアを次々に取っていく。時折、噛まれている様だけど凄いわ乱馬。でも、そんな乱馬にムースが口出しを始めた。

 

 

「乱馬、さっきの金魚の時の方が素早かったぞ」

「この状況で言うかよ!熱くない分栗よりもやり易いけど、噛まれるかと思うと怖いんだよ!」

 

 

ムースが話し掛けて、乱馬がピラニアに噛まれてる理由が分かる。いくらなんでも恐怖心から逃れるなんて無理だわ。私なら怖がって、やる事も出来ないから。

 

 

「乱馬、さっきあかねに『力が入りすぎてる』って言ってたよな。それはお前にも言える事だ。人間、力を入れようとすれば動きは重く鈍くなる。素早く動きたいなら力を適度に抜いて、しなやかに動かさないとな。火の中の栗を拾う、ピラニアの水槽に手を突っ込む。どちらも恐怖だが、緊張や恐怖は人の実力を半減させるぞ」

「ムース……お前……」

 

 

ムースはそう言うと、袖から暗器……じゃなくてポーチに入った救急キットを私に渡す。

 

 

「ピラニアの掴み取りは上手くいくだろうけど、噛まれた所の手当てはしてやんな」

 

 

そう言い残して、リンスちゃんと手を繋ぎながらシャンプーやお婆さんと合流しにいったムースは、同年代ではなく年上の人に見えた。

乱馬はムースが言っていた通り、ピラニアを全部素手で掴み取ってしまった。これで火中天津甘栗拳の体得になったのね!

 

乱馬はそのままの勢いでお婆さんとお化け屋敷で対決し、無事に不死鳥丸を手に入れて総身猫舌のツボを治した。

 

 

こっちは後で聞いたんだけど、ムースったら『乱馬は既に火中天津甘栗拳を会得したから元の姿に戻してやってくれ。流石に同じ体質の奴があのままだと不憫だ』と、お婆さんに言ったらしいの。

お婆さんは万が一の為に不死鳥丸を別の物にすり替えようとしていたらしく、ムースが言ってくれなきゃ乱馬はまだ総身猫舌のままだったわね。

 

 

後日、乱馬に内緒でお礼を言いに行ったら、「乱馬の実力なんだから気にすんな」って言って頭を撫でられた。

シャンプーが長年、妹扱いに不満を感じていたって言ってたけど、少し気持ちがわかった気がする。

ムースって何処か年上の人に……東風先生みたいな、優しいお兄さんみたいな雰囲気なのよね。



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ムースの日記⑪

◯月○日

 

乱馬が男に戻ってから一週間。同じ体質としては、あの状態は見過ごせなかったから良かった良かった。

 

 

◯月×日

 

出前から帰ったら良牙が店の鍋で煮込まれていた。

何言ってんだと思われるだろう。水を被って黒子豚になっていた良牙。それを知らない婆さんが迷い黒子豚を拾ったと思い、茹で豚にしようと鍋に入れたらしいのだが、熱湯に入れられた良牙は黒子豚から人間に戻ったのだ。

婆さんは良牙を乱馬の友達と思ったらしいが、良牙はそれを否定。自分は乱馬のライバルで、乱馬を叩きのめす為に山籠りをしていたと言う。

この話って確か、良牙が『爆砕点穴』を覚える話だったな。

 

 

◯月△日

 

婆さんが暫く俺に店を任せて良牙を山で修行をさせてくると言ってきた。そういや、原作だとシャンプーの親父がまだ居たから店を任せていたけど、今は居ないから俺が店を任されたのか。良牙の爆砕点穴を見たかったけど、前に婆さんの爆砕点穴を見たこともあるし仕方ないか。

 

 

◯月◇日

 

婆さんが良牙と修行に出たとシャンプーとリンスに告げると、凄い驚いていた。二人には何も言わずに出たらしいのだが、理由はすぐに分かった。良牙が人間に戻った際に、二人共良牙の裸を見てしまったらしい。シャンプーは俺以外の裸は興味ないと言っていたらしいのだが、リンスは顔を真っ赤にして目を回してしまったらしい。シャンプーやリンスに汚れた物を見せるとは……店に奴が来たら叩きのめしてやろうと心に誓った。

 

 

◯月◆日

 

婆さんから店を任されて数日。今のところ、何事もなく順調だ。店の常連さんから「店長になったのかい?」とよく聞かれるが、店を一時的に任されてるだけです。

 

シャンプーは「まるでムース君と新婚さんみたいだね」と言われて顔を真っ赤にしていた。頼むから煽らんでください。

 

 

◯月▲日

 

お客さんから『新婚さんみたい』と言われてからシャンプーと少々気まずい。互いに意識してしまい目が合うと互いに逸らしてしまう。と言うかシャンプーが色っぽい目と仕草で迫るからヤバい。理性が負けそうになって楽になれと叫んでいるかの様だった。

リンスが居なかったらシャンプーの誘惑に負けていたと思う。流石のシャンプーも妹の前では迫る事はなかった。前に一度、迫ってる時をリンスに見られて三人揃って顔を真っ赤にした物だ。

 

 

◯月□日

 

婆さんが帰って来た。良牙は無事に『爆砕点穴』を会得した。あかねを賭けて乱馬と決闘を繰り広げたが負けてしまったらしく、また修行の旅に出たらしい。なんか俺とも戦いたがっていたらしいが、道に迷わないで店に来れるかが疑問である。そもそもシャンプーやリンスに見せたくない物を見せた恨みがあるのだ。来たら返り討ちにしてやる。

 

婆さんから「なんじゃ、せっかく留守にしてシャンプーとの時間を作ってやったのに何もしなかったのか?」と言われた。アンタ、確信犯か。

 



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究極のエロ妖怪との接触

 

 

人間とは慣れる生き物なのだ。

どんなに大変なトレーニングでも続ければ日常となる。

どんなにツラい思いをしても時間が経てば忘れる。

 

 

 

 

でも……これは未だに慣れない。

 

 

 

 

「よ、お嬢さん達可愛いね。オマケしちゃおう!」

「大歓喜!オジさん、太っ腹ネ」

「……ありがとーございます」

 

 

店の親父に商品をオマケしてもらったシャンプーと俺。オマケしてもらったのは嬉しいが俺の心中は穏やかではない。そう……俺は今、女の状態で買い物をしているのだ。

 

これは初めての経験ではなく、今まで何度も行ってきた事だ。基本的に猫飯店の食材などは業者や婆さんの知り合いの物売り等から買うのだが、時折、商店街で買い物もする。その際に俺は女の姿である事を婆さんやシャンプー、リンスから強要される。何故なら、買い物の時にオマケしてくれる確率が高いからである。婆さん曰く、「女の武器を最大限に使うのも女傑族の女の強さよ」と言われたが、俺は男です。

 

 

「ムース。いい加減、慣れるネ」

「慣れたら色々と終わると思ってんだよ」

 

 

シャンプーと一緒に商店街を歩きながら会話するが、女の身はどうにも落ち着かない。しかも買い物をする為に俺はいつもの服から黒のタートルネック、ジーンズに着替えている。シャンプーやリンスはもっと可愛い服やスカートを穿かせてみたいと言っていたが、そっちは断固拒否する。

 

 

「早く帰ろう。雨が降りそうな天気になってきた」

「あいや、本当ネ」

 

 

雨が降りそうなのもあるがさっさっと男に戻りたいんだよ。なんて思ってたら本当に雨が降ってきた。

 

 

「あ、ヤバいな。ほら、シャンプー傘を」

「ダメよ。私が使ったらムースの傘がなくなるネ」

 

 

俺は懐から折り畳みの傘を出すとシャンプーに差し出す。俺は既に変身してる状態だけど、シャンプーは雨を浴びると変身してしまうからシャンプーが使った方が良い。

 

 

「俺は大丈夫だからシャンプーが使って……うひぃ!?」

「ムース!?」

 

 

シャンプーに傘を渡そうとした瞬間、何者かにケツを触られた。その触り方に背筋が寒くなり鳥肌が立った。振り返ると小さな影が素早く物陰に消えていった。

 

 

「にゃー、にゃー」

「嘗て無い程に悪寒が走った……なんだったんだ?」

 

 

今まで生きた中で一番の悪寒だったと思う。ま、まさか……俺がある意味一番懸念していた事態が始まったのでは……俺は傘を差すのが間に合わず、猫になったシャンプーを抱きながら、一抹の不安を胸に猫飯店に帰る事にした。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

次の日。俺の予想は的中していたらしい。リンスを小学校へと送っていく最中、女性の悲鳴が聞こえたのでそちらに視線を移すと、婆さんと同じサイズの爺さんが道行く女子高生を襲っていた。間違いない……八宝斎だ。究極のエロ妖怪。となると昨日の悪寒の正体は奴か。今の俺の体質を考えると、あまり関わりたくないな。

 

 

「あの……ムース兄様、あのお爺さんが……」

「見ちゃいけません」

 

 

俺はリンスの目に八宝斎を映してはならんと、足早に小学校へリンスを送り届けようと思ったら、八宝斎が目の前に立っていた。

 

 

「なんじゃ……昨日のお姉ちゃんかと思ったが違うみたいじゃのう」

「そりゃ残念だったな。俺はこの子を送らなきゃならないから失礼するぞ」

「あ、あの……さようなら」

 

 

全然気づかなかった……気配を消して俺の前に現れるとは。しかも発言から、昨日、俺のケツを触ったのはコイツで確定した。昨日と違って男の状態の俺を見て女の俺とは別人だと思ったらしく、がっかりしていた。原作の乱馬の気持ちが痛い程分かる。リンスが行儀良く爺さんに頭を下げたが、そんな必要ありません。

 

 

「おお、スイート!数年後には更なる美少女になると見た!」

「リンス、行くぞ。この爺さんには関わるな!」

 

 

俺はリンスを抱き抱えるとダッシュで小学校へと送り届けた。リンスにはあの爺さんに関わらないようにとしっかりと言い聞かせておいた。

 

 

後に聞いた話だが、八宝斎は原作通り天道家に居座ったらしく、乱馬が愚痴っていた。

あの爺さんをどうにかしないと今後の生活に確実に支障をきたすな。

 




今回のムースの服装は『fate hollow ataraxia』 ライダー私服verになります。


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ムースの日記⑫

 

 

×月○日

 

あのスケベ妖怪をどうするか悩んだけど、基本的に対策ってとれない気がする。強すぎるから倒すのは無理だと判断。なんせ婆さんと同レベルの強さと考えれば敵わない相手なのだ。何故か、ツッコミ一発で倒せる時もあるがそれ以外では大概、乱馬が八宝斎に組伏せられていたからだ。そうなった八宝斎を仕留めるには色仕掛けくらい……俺もやらなきゃなのだろうか。気が重い。

いっそ婆さんに八宝斎の事を話してなんとかしてもらおうかと思った。この頃の婆さんは忘れているが、実は八宝斎と旧知の仲で昔は八宝斎に惚れていたエピソードすらある。これならば……と思ったが断念した。話したところで何故、俺がそれを知ってるか追及されるだけだ。

 

とりあえずシャンプーとリンスにはスケベ妖怪が現れたから気を付ける様に言っておいた。

 

 

×月×日

 

なんか風呂屋が引っ越しを決めたと騒いでいた。銭湯がそんなにアッサリと引っ越しを決めて良いのだろうかと思えば、なんでも昨晩おさげの女の子と爺さんが風呂で暴れて銭湯が壊滅状態になった挙げ句、客足が遠退いたそうだ。早速周囲に迷惑かけてるな。

 

 

×月△日

 

町内会の案内で下着泥棒が現れると連絡が回ってきた。復活してから数日で此処まで悪行を重ねるか、邪悪エロ妖怪め。

その日の夕方に『早乙女乱馬』の名前でラーメン五十人前の出前連絡が来た。明らかに乱馬の声じゃなかったし、怪しさ大爆発だったので返事だけして電話を切る。

思い出すと八宝斎が乱馬への仕返しで乱馬の名を騙り、イタズラ電話や下着泥棒をしていたのを思い出す。

その後、近隣の飲食店に電話すると同様の出前注文が着ていたらしく、『イタズラ電話だから対応しない様に』と告げておいた。

様子を見に行こうと天道家に向かう。すると、怒り心頭のお姉さん方が居たので事情を聞くと、下着を盗まれた上に『下着は貰った 早乙女乱馬』と書かれた置き手紙があったらしく、天道道場に苦情と乱馬を叩きのめす為に来たらしい。八宝斎の仕業と分かっている俺としてはこんなのに引っ掛かる人も人だよな、と思いながらも乱馬の無実を主張した。

そもそも盗みに入ったのなら証拠は残さない筈。これは乱馬に罪を被せたい他の誰かの仕業と話すと、頭に血が登って冷静な判断が出来なかったお姉さん方もやっと冷静になったのか「確かに怪しい」と考えてくれた様だ。

ついでに犯人を教えると言って皆さんを天道道場に案内した。

 

あかねに事情を話して八宝斎の部屋へ行き、予告も無しに戸を開ける。そこには戸を開けられた事に驚く八宝斎が盗んだ下着をアイロン掛けしている姿。その光景に真の犯人が八宝斎だと知ったお姉さん方が八宝斎を取り囲んでタコ殴りにし始めた。エロ妖怪滅ぶべし。これで少しは懲りるだろう。

 

この後、早雲さんと玄馬さんに感謝され、乱馬からは「余計なお世話だぜ」と言われたが帰り際に「サンキュ」と言われた。このツンデレめ。

 

 

×月◇日

 

翌日、出前で自転車を漕いでいると、タコ殴りにされた影響からか包帯姿の八宝斎が襲い掛かってきた。返り討ちにしてやろうと思ったが、作中で最強クラスはやはり実力が違った。男だから手加減無用とばかりにボコボコにされ、動けなくなるまで叩きのめされた。俺が帰ってこない事を心配したシャンプーが探しに来るまで俺は寒空の下で寝たままだった。

 

 

×月◆日

 

俺が八宝斎にボコボコにされた事にシャンプー、リンス、婆さんは凄い怒っていた。聞いたらシャンプーの下着も盗まれていたらしく、怒りのボルテージはMAXだ。と言うかあのスケベ妖怪め……シャンプーのも盗んでいたとは……今度、会ったら殺っちまうか……なんて思っていたらテレビから緊急速報が入った。テレビを見ると其処には町中で巨大化した八宝斎とパンダが映っており、さながら妖怪大戦争を見ているかの様だった。

 

あの騒動以降、八宝斎は少しだけ大人しくなったらしく。イタズラ電話や天道家に迷惑を掛ける行為が減ったらしい。下着泥棒は止めなかったらしいが……とりあえずシャンプーとリンスに下着は外に干さない様に言っておこう。

 

 

×月□日

 

 

早雲さんと玄馬さんに道場破りをしてくれと頼まれた。え、何事?

 

 




『巨大化』
無差別格闘流の秘奥義。
自身の闘気を爆発させ自身を巨大化させる技。原作では八宝斎と玄馬が一度だけ使用したがアニメでは早雲も使用し、何度も巨大化をしていた。巨大化した姿は自身の思い描く『強い姿』で八宝斎はそのまま巨大化し、玄馬はパンダ、早雲は鎧武者の姿になる。

この奥義の応用なのか早雲は怒ると顔を巨大化させ、妖気を放ち、掛け軸に描かれた妖怪のような姿になる事が多い。


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偽装道場破りの依頼①

 

 

 

 

早雲さんと玄馬さんに頼まれ事をされた次の日。二人には猫飯店に来て貰って詳しい話を聞く事に。

 

 

「で、何なんですか?道場破りをしてくれだなんて」

「うむ……乱馬とあかね君の仲をもっと進展させたいのだが」

「あの二人は素直にならなくてね……そこで考えたんだ。天道道場の危機となれば二人は協力する筈。だが、我々では正体がバレる可能性が高い」

 

 

俺の質問に玄馬さんが答え、早雲さんが話を繋げる。なるほど……確か原作でもあった流れだ。

天道道場の危機を演出した玄馬と早雲。道場破りが来るとでっち上げの話をしたのだが、本物の道場破りが現れてしまう。しかも、肝心の乱馬はシャンプーが持っている『即席男溺泉』を貰う交換条件にシャンプーとデートに行ってしまい、あかねが一人で道場破りと戦う羽目になる。しかし、あかねの事が気掛かりでデートに集中できない乱馬はあかねの手助けに参上し、道場破りと対峙する。シャンプーはデートを中断された事とあかねの事を気に掛けている乱馬に嫉妬して道場破りと結託し、即席男溺泉の袋を道場破りに貼り付ける。これで道場破りを倒せば即席男溺泉が手に入ると喜んだ乱馬だが、道場破りに貼り付けられた即席男溺泉には爆竹がセットされてあり、道場破りを倒すと即席男溺泉が手に入らないといった事態になった。が、乱馬はそれを知らずに道場破りを倒してしまう。更にシャンプーとデートをしていた事に不満爆発していたあかねだが、乱馬はそんなあかねの態度にシャンプーが持っていた最後の即席男溺泉を破り捨ててしまう。自分を助けに来た乱馬に不満を露にした上に最後の即席男溺泉を破り捨てさせたのは自分だと、あかねは涙を流す。しかし、それは乱馬の悪知恵で最後の即席男溺泉は別の袋とすり替えていたのだ。結局、その事がバレた乱馬はあかねにぶっ飛ばされるが二人の仲は少しだけ進展し、シャンプーは乱馬とのデートを楽しんだ。そして即席男溺泉で男に戻った乱馬と玄馬だったが。この即席男溺泉は一度しか効かないインチキ商品で結局元の体には戻れなかった……とまあ、こんな感じの話だったな。だが、この話を俺が受けるには少々問題がある。

 

 

「仮に変装したとしても直ぐにバレますって。乱馬とあかねとは良く会うんだし」

「だが、我々じゃもっと簡単に正体がバレちゃうからねぇ」

 

 

そう、原作のムースと違って俺は天道道場によく遊びに行くので、ちゃちな変装したとしてもバレる確率が非常に高いのだ。らんまの世界観なら眼鏡一つで変装可能だが、生憎と俺は普段から眼鏡だから変装のしようもないのだ。

 

 

「と言う訳なんで俺が道場破りってのは無理が……」

「面白そうじゃの。やってみるんじゃムースよ」

 

 

俺が道場破りを断ろうとしたら婆さんが会話に参加してきた。しかも俺に道場破りをしろとは何事?

 

 

「ムースよ、これはお主の修行にもなる。見事、道場破りをしてみせい」

「だから、俺が変装した所で正体がバレたんじゃ意味が……ぷわっ!?」

 

 

婆さんに正体を隠したまま道場破りをするのは無理だと言おうとしたら、婆さんに水を掛けられた。水を掛けられた俺は女に変身してしまう。

 

 

「何すんだ、婆さ……うぎゅ!?」

「これでよし」

 

 

抗議の声を上げようとした瞬間、喉を指で突かれた。不意打ち気味に刺さった指は俺の意識を一瞬飛ばす。

 

 

「何すんだ、このクソ婆……あ、あれ?」

「な、なんと!?」

「声が変わった?!」

「声帯をちょいと弄ったんじゃよ。さて、ムースよ。後はコンタクトレンズにして、服を変え、化粧をすれば別人になれるのぅ」

 

 

俺は自分の声に違和感を感じ、玄馬さんと早雲さんは驚いている。そりゃそうだ、女になった時の俺の声とは更に違う声になっていたのだから。そんな俺を尻目に婆さんは何処から出したのか、様々な女物の中華服に化粧品の数々を揃えていた。

 

 

「お、おい婆さん。まさかとは思うけど……」

「ムースとバレなきゃ良いのじゃろう?」

 

 

ニヤリと笑った婆さんに俺は即座に店の入口から逃げようとしたが、玄馬さんや早雲さんに取り押さえられた。

 

 

「後生だムース君!」

「見事、道場破りを果たしてくれ!」

「だぁぁぁぁぁっ!アンタ等は乱馬とあかねの仲を進展させる望みがあるんだろうが俺には絶望しかないだろうが!」

 

 

逃げようとする俺を玄馬さんや早雲さんはしがみついてくる。めちゃくちゃ必死なのか暴れてもびくともしない。

 

 

「さぁて……可愛くしてやろうかの」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

ニヤニヤと笑みを浮かべた婆さんがジワジワと俺に迫る。その手には女物の服と化粧道具が握られていた。逃げられないと悟った俺の口からは女の悲鳴が出ていた。

 



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偽装道場破りの依頼②

 

 

 

正直ツラい……なんで俺がこんな目に遭っているのだろうか。

 

 

「おお、凄い!」

「まるで別人ですな!」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

 

 

早雲さん、玄馬さん、婆さんの順にコメントを出すが俺の心は晴れない。晴れてたまるか。

 

 

「ワシの若い頃のように美しいぞムース」

「勘弁してくれ」

 

 

婆さんの若い頃の姿はアニメで見たから知ってるけど、可愛かった……だからなんだと言いたい気分だ。

 

今の俺は袖の無いノースリーブのチャイナドレスを着ている。裾は長いがスリットが入り、足が丸見え状態。恥ずかしいのでスパッツを履いてます、はい。

髪型はウィッグを付けてお団子ツインテールで髪を下ろす……セー◯ームーン的な髪型となった。しかも特殊な薬品で地の髪も金髪に染めて。オマケとばかりにコンタクトレンズを着用し、手には武器として鉄扇を装備。

これで俺だとバレない下地が出来た。しかも婆さんに声帯のツボを押されたので声も別人となっている。

 

 

「惜しいのう……スパッツが無ければ百点なんじゃが」

「九十点台なら十分だろ……ったく」

 

 

落ち着かないよ……この格好。女の体になってるからって、こんな服装は初めてだし。

 

 

「何はともあれ、これで道場破りとして天道道場に来ても正体はバレないだろう!」

「うむ、後は乱馬とあかね君にキミだとバレない様に戦ってくれ。道場破りが来ると二人に告げた日は三日後だ」

 

 

そっかぁー三日後かぁ……三日後?

 

 

「ちょっと待った。俺が断ったらどうするつもりだったんですか?」

「あ、いや……その時は私達で変装しようかと思ってね」

「そうそう、決して何も考えてなかった訳じゃないんだよ!」

 

 

つまりは俺の逃げ場を無くしてから頼むつもりだったと……

 

 

「ただいま帰りました!」

「おお、お帰りリンス」

「っ!」

 

 

なんて思っていたら店の入り口が勢い良く開く。元気良く帰ってきたのはリンスだった。学校帰りでランドセルを背負ったままだ。

婆さんは暢気にリンスに返事を返しているが俺は冷や汗がツゥと背中に流れている気がする。ヤバい……リンスに知られたら兄の尊厳が……

 

 

「早雲さん、玄馬さん、こんにちは。いらしてたんですね……あれ、此方の方は?」

「あ……は、初めまして」

 

 

早雲さんと玄馬さんに気付いて挨拶をする中、リンスが俺に気付く。俺は顔がひきつってる感覚を覚えながらリンスに『初めまして』と言ってみるが……どうだ?

 

 

「は、初めまして……綺麗な方です」

「……ありがとう」

 

 

リンスに正体がバレなかった事に心の中でガッツポーズをした俺だが気分としては微妙な所だ。

 

 

「リンスよ、この者は道場破りじゃ。腕試しの為に天道道場に看板を掛けた戦いを挑んできてな。ワシはその戦いの立会人として頼まれたのじゃよ」

「そ、そうそう!」

「公平な審判を頼みたくてね!」

 

 

婆さんが事情と嘘を混ぜた説明をする。あまりにもサラッと話すので嘘が入ってるとは微塵も思わせない会話だ。早雲さんと玄馬さんは激しく同意して首を縦に振る。これで俺の逃げ場は無くなった。やるしかない。

 

 

「そうなんですね。道場破りなんて、余程腕に自信があるんですね、お姉さん」

「そ、そうですね。町の道場なんかには負けない程度には……ですけど。兎に角、三日後に天道道場の看板は頂きますので、そのおつもりでいてください」

「心得た。無差別格闘流は退かぬ」

「三日後に道場で。その際には若い二人が戦うので簡単にいくとは思わぬ事ですな」

 

 

リンスが俺を見上げながら聞いてくる。俺は咄嗟に鉄扇を広げて口元を隠しながらいつもとは違う口調で喋る。

玄馬さんと早雲さんも俺の演技に乗ってくれたらしく、如何にも道場破りと対峙して緊張している様に演出していた。なんて演技をリンスの前でしている訳だが互いに冷や汗が出ている状態だ。なんせアドリブで即興の演技をしているのだから、いつバレるか冷々している。

 

 

「では、三日後を楽しみにしていますね」

「あ、待ってください!」

 

 

俺は用件が済んだとばかりに足早に店の外へ出ようとした。ボロが出る前に退散しなければ。店の外に出て、裏口から入り、自分の部屋で着替えれば……と考えていたらリンスに呼び止められた。バレたか!?

 

 

「お、お名前を聞いても良いでしょうか?」

「な、名前?……名前は……」

 

 

一瞬、バレたのかと焦ったけどリンスは名前が聞きたかった様子。しかし、名前か……えーっと……

 

 

「スフレと申します。よろしくね、お嬢さん」

「は、はい。私はリンスと申します!」

 

 

俺は出来るだけ、にこやかに笑みを浮かべリンスに告げると、そのまま店を出た。そしてバレない様にこっそりと裏口から入り、自分の部屋へ。焦った……そして緊張したぁ……

 

 

「良くバレずに場を流したの。上出来じゃ」

「婆さん……気が気じゃ無かったぞ……つーか、店に居た三人は?」

 

 

俺が力無く座り込むと婆さんが部屋に入ってきた。

 

 

「早雲と玄馬は帰らせ、リンスは宿題をしておるから心配は無用じゃ。特にリンスはお主とスフレが同一人物とは気付かなかった様じゃ」

「上手くいってるのに嬉しくないんだけど」

 

 

それって要は女を演じてるのに違和感無く演じて騙せたって事だけど、男としてはどうなんだろう……っといった心境だ。

 

 

「その調子で道場破りを果たすんじゃな。ただし、お主とバレない様に暗器を封じ、肉弾戦のみとなるがの。その上で乱馬とあかねに正体がバレぬ様に戦うんじゃぞ」

「つまり、それが俺の修行になる……って事か」

 

 

確かに最近、暗器ばかりに頼っていて肉弾戦はしてなかった。俺は暗器使いだけど、それだけじゃ手詰まりになるのは原作のムースで分かってる事だ。気が進まないけど……道場破りを頑張るしかないか

 

 

「さて、乱馬を釣る為にも奴にも何か、賞品を考えねばな」

 

 

悪どい顔をしている婆さんに俺は一抹の不安を抱えた。嫌な予感しかしねーよ。取り敢えず、スフレの変装はさっさと止めよ。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。夕食での一時だった。

 

 

「天道道場に道場破り?しかも店に来てたアルか?」

「はい、早雲さんと玄馬さんと一緒に来店して、お婆様に試合の立会人を頼んでいました。スフレさんと仰るそうです」

「へ、へぇ……そうなんだ」

 

 

リンスが今日の出来事を俺とシャンプーに話してくれたのだが……正直、バレていないのだろうかと邪推してしまう。

 

 

「どんな奴だったアルか?」

「金髪でスラッとした方でした。クールビューティって感じですね」

 

 

シャンプーの問いに答えたリンスだが俺は心の中でのたうち回っていた。ある種の拷問だよ、これ。婆さんは厨房でニヤニヤと笑ってるし。

 

 

「私、出前に行っていて、ソイツを見られなかったネ」

「三日後に天道道場で試合なので、一緒に行きましょうシャンプー姉様、ムース兄様!」

「あー……すまないが、その日は婆さんに頼まれて遠くまで買い出しにいかなきゃならないんだ。ほら、婆さんが試合の立会人になったから俺が行かないと……」

 

 

スフレを見れなかったシャンプーにリンスが試合観戦を提案するが俺は行けない。俺が試合を見に行ったらスフレが現れないからね。予め婆さんと打合せしていた話をしてやんわりと断った。

 

 

「そっか、それは残念ネ」

「じゃあ、私達でムース兄様の分も応援してきます」

「ああ、頼んだよ」

 

 

残念そうにしているシャンプーとリンス。うん、俺も残念だよ。出来れば観客の一人で居たい気分だよ……マジで。

そんな事を思いながら俺は三日後にどうやって、乱馬とあかねの二人と戦おうか考えるのだった。

 



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偽装道場破りの依頼③

道場破り当日。俺は朝早くからスフレに変装をしていた。

 

 

「ムースいや、スフレよ。もう慣れた様じゃの」

「慣れたく無かったよ」

 

 

婆さんが俺の変装状況を確認しに来るが、俺としては慣れたくなかった。正体がバレてはならないからと三日間、毎日変装させられた。今では婆さんに手伝ってもらわなくても化粧やら声帯を変えられる様になった。オマケに中国三千年の化粧品とやらで、一瞬で毛染めが出来る薬品で時間を掛けなくても即座にスフレの金髪となれる。更にウィッグを付けて服装を変えればスフレの完成である。因みに下着だが女物を着たくなかったのでボクサーパンツにサラシである。

 

 

「今日は天道道場の道場破りを頼まれた日じゃったの。しっかりとお役目を果たすんじゃぞ」

「乱馬とあかねを最初に圧倒して、協力体制になった二人と戦って負ける……まあ、ある程度は考えてるよ」

 

 

結構むちゃくちゃな依頼だけどやれるだけやるしかない。最悪、適当な理由を付けて看板を貰わずに帰ればいいんだし。

 

 

「それとスフレよ。お主にコレを授けよう」

「なんだコレ?」

 

 

婆さんが俺に紙袋に包まれた薬剤が入った袋を渡す。これってもしかして……

 

 

「これは即席男溺泉じゃ。男溺泉とは言っても一度しか効かんインチキ商品じゃがの」

 

 

普通なら俺が即席男溺泉に反応する所だが、インチキ商品と説明を聞いたので飛び付きはしなかった。

 

 

「あかねも乱馬の体質を気にしておる。二人が協力する切っ掛けになるじゃろう」

「なるほど、二人を一度倒してから即席男溺泉を見せて、やる気にさせるのか」

 

 

本来ならシャンプーが持っていて乱馬を釣るけど、ここで婆さんから渡されるとは思わなかった。

 

 

「即席男溺泉の袋は胸の間にでも挟んでおくが良い」

「これって、あかねに喧嘩を売ってないか?」

 

 

なんか別の意味で心配になるんだが。

 

 

「さて、そろそろ時間じゃな。ワシも後から行くから先に行くがよい」

「ああ、そうするよ」

 

 

婆さんとの話を終えた俺は、鉄扇を手にしてシャンプーやリンスにバレないようにコッソリと家を出る。

婆さんからの指摘で天道道場に向かう最中、ムースとしてではなく、スフレとして歩く。なんかチラチラ見られて落ち着かないんだけど。

 

 

「おお、スウィート!お嬢さん、ワシと燃える様な恋を……どわぁっ!?」

「くたばれ日本妖怪!」

 

 

なんて周囲の視線が気になりながら天道道場に向かっていると、八宝斎が迫ってきた。襲ってきたので鉄扇を構えて、飛び掛かってきた勢いを利用して、そのまま投げ飛ばした。危なかった……前回の事があったので全力で投げ飛ばした。

 

 

「ったく……最悪のスケベ妖怪が……」

 

 

俺はパンっと鉄扇を閉じて自身の身の安全が保たれた事に安堵した。つーか、今のも周囲の視線が気になって周りに注意が行ってたから気付けたんだよな……まさか、婆さんはこれを考えて……?

俺の修行の為になるって言ってたけど、この為になんだろうか?

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

そんな訳で天道道場に到着した俺は、早雲さんと玄馬さんの案内で道場へと通される。中では道着姿の乱馬とあかねが待っていた。

 

 

「お前が道場破りか!」

「看板は渡さないわよ!」

 

 

乱馬とあかねのやる気は充分な様だ。それに正体が俺だとバレてはいない様だ。第一段階はクリアかな。ここでバレたらおしまいだし。

 

「ホッホッホッ、中々の手練れの様じゃな」

「やっぱり、お綺麗です」

「アイツがスフレ……強いネ」

 

 

立会人の婆さん。観戦組のリンスとシャンプー。婆さんは兎も角、リンスとシャンプーにも正体がバレてはいないな。さて、後は上手く、戦わないと……

 

 

「私が相手になるわ!」

「待てよ、思ったよりも強そうだ。俺が相手をする」

 

「何よ、私じゃ勝てないって言うの!?」

「俺に任せろって言ってんだ!」

 

「引っ込んでてよ!」

「んだと、可愛くねぇな!」

 

 

普通、敵を前にして痴話喧嘩するかね、まったく……

 

 

「痴話喧嘩なら後でしてくださいな。どっちが来ても同じなのだからどちらからでもどうぞ。なんなら二人同時に来ますか?」

「なんですって……天道道場を甘く見ないで!」

「あ、おい!あかね!」

 

 

鉄扇で口元を隠しながら笑い挑発すると、あかねはアッサリと乗ってきた。乱馬の制止を無視して、あかねは俺に襲い掛かってきた。俺は鉄扇を畳むと腰の帯に挟む。

 

 

「武器は使わないの?とことんバカにして!」

「無手が相手なら流儀に合わせるまでです。それに武器は必要なさそうなので」

 

 

あかねが繰り出す拳や蹴りを捌きながら俺は観察する。あかねの攻撃は素直な拳だった。その動きは力強く、真っ直ぐに相手に向かっていくようで、まさに本人の性格がよく出ていた。

 

 

「くっ……当たらない!」

「あかねさん、貴女の型は基本に忠実でスピードもまずまずといった所……キレもあり悪くない。ですが、逆に言えば動きが硬い。もう少し、緩急を付けて拳を繰り出さないと……こうなりますよ」

 

 

がむしゃらに攻撃してくるあかねの拳を受け止め、その受け止めた拳を支えに体を浮かせてサマーソルトキックを浴びせる。勿論、直撃はさせずに顎を掠める程度に手加減をして。

 

 

「あうっ!?」

「一定のリズムを予測されてしまえばカウンターの餌食ですよ。今みたいに……ね」

 

 

尻餅をついたあかねに、俺は説明をする。俺も未熟だが指摘ぐらいは出来る。あかねは悔しそうにしているが、俺の言ってる事に自覚はあるのか言い返せずにいた。

 

 

「ま、まだよ!」

「止めとけ、顎に当てられて立てなくなってるじゃないか。今度は俺が相手だ!」

「さて、次はどうなるでしょうね」

 

 

無理に立ち上がろうとするあかねの肩を押さえ立ち上がらせない乱馬は、俺と向かい合う。俺は平静を装ったが、正直油断できない。以前の乱馬ならまだしも婆さんの特訓を経て火中天津甘栗拳を会得した乱馬は強さの次元が違っている筈。女の状態、しかも暗器無しとなると厳しいな……ふと、婆さんと目が合う。

 

 

――お主の修行になると言ったじゃろう?――

 

 

婆さんの目はそんな風に語っていた。やるしか、ないよな。俺は拳を握り、乱馬と対峙した。

 

 

 



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偽装道場破りの依頼④

二話くらいで終わらせるつもりだったのに長くなりました。偽装道場破り編の完結です。


 

 

 

「行くぜ、だららららららっ!!」

「ふっ、はっ、とっ!」

 

 

乱馬から繰り出される素早い拳をなんとか捌くが、速いし、一撃が重い。あかねと違って乱馬は喧嘩慣れしているのもあるのか、緩急を付けた拳が多い。

右ストレートを避けて、懐に飛び込もうとするが左手の追撃が既に迫ってきており、俺は距離を離す為にバックステップで下がる。すると乱馬は即座に前に出て、俺の足を払うようにローキックを放つ。完璧に避けるのを無理だと判断した俺は、払われた足に寧ろ、勢いを乗せて半回転しつつ回し蹴りを乱馬の延髄に叩き込もうとしたが、ガードされてしまう。だが、俺はガードされた足を支点に体を捻り、顔面に膝を叩き込んだ。怯んだ乱馬を前蹴りを当てて無理矢理距離を離す。

 

 

「痛ててて……クルクルと回りやがって……」

「今ので沈まないとはお見事です」

 

 

乱馬は顔を擦りながら立ち上がり俺を睨む。男の状態の俺だったら今ので完全に沈める事が出来たのだろうが、やはり女の体だとパワーが落ちるな。

しかし、今の立ち合いで感じたのは、乱馬はとてつもなく勘が鋭い上に咄嗟の判断力が高いって事だ。

今の俺は変則カウンターを主体に戦っている。変則カウンターは相手の攻撃を受け止める。または自身が攻撃した際にガードされた箇所を支えにそこからカウンターを叩き込む戦法だ。あかねにはカウンターが通じたが、乱馬には最後の一撃以外はカウンターを避けられ、対応されていたのだから。

 

その中で感じたのは無差別格闘流の流派の違いだ。

あかねの天道流は基本に忠実。しいて言うなら作法に則った道場で戦う事を主体に置いた流派。

乱馬の早乙女流は臨機応変。型に捕らわれず相手の技を見切り、その上で自分のペースに相手を巻き込む戦い方。どちらかと言えば野良試合に向いている流派。

 

天道流と早乙女流で静と動がハッキリと分かれているな。と言うか設立した人の影響かな。真面目な早雲さんとすちゃらかな玄馬さんの性格が良く出てるわ。

 

 

「では、今度は此方から行きましょう!」

「来い!」

 

 

分析を終えた俺は戦法を変える事なく戦う事にした。乱馬やあかねだけならまだしもシャンプーやリンスも観戦しているのだ。今、下手に戦い方を変えると正体がバレそうだから変える訳にはいかない。

俺は手刀を乱馬の肩を目掛けて振り下ろす。乱馬はそれを避けて膝を叩き込もうとするが、俺は左手で膝を受け止め、半回転しながら乱馬の脇腹に爪先で蹴りを放つ。決まったと思ったのだが、乱馬には大したダメージにはならなかったみたいで既に体勢を整えていた。タフだねぇ。

 

 

「どうした道場破り!もう終わりか!?」

「なんの、まだまだこれから……と言いたいですが、二対一では敵いそうもないので、今日の所は退きましょうか」

 

 

乱馬の挑発に俺は鉄扇をパッと広げ口元を隠しながら笑う。その事に眉を潜めた乱馬だが、俺の言葉の意味を直ぐに察した。乱馬が後ろを振り返れば、先程のダメージから復帰したあかねが立ち上がってきていた。その目には闘志が燃えている。

 

 

「あかね、無茶すんな!それに俺が戦ってるんだから引っ込んでろ!」

「元々は私が戦ってたんだから乱馬が引っ込んでなさいよ!」

 

 

乱馬はあかねが無理にでも戦おうとしているのを察したのか声を張り上げるが、その言葉のチョイスは駄目だろう。あかねは案の定、反発して戦おうとして前に出てきた。仕方ない……本来の予定とは違うけど、そろそろ終わりにするか。

 

 

「二対一でも結構ですよ。もっとも……乱馬さんはあかねさんが心配で集中力を切らしてますし、あかねさんは乱馬さんばかりに天道道場の事を押し付けたくない故の無茶……互いを思っている様ですが、それではいけませんね」

 

 

俺はいがみ合う二人に詰め寄り、手刀をあかねの首筋に、鉄扇を乱馬に突き付けた。言い争っていた二人は油断からかアッサリと詰みの状態へと追いやられ、目を丸くしていた。

 

 

「うむ、そこまで。勝者はスフレじゃ」

「ま、待ってよお婆さん!」

「そうだぜ、今のは……」

「この、たわけ者!」

 

 

あかねと乱馬が今の結果に不満と異議を申し立てようとするが、婆さんが喝破した。その声はビリビリと道場に響く。

 

 

「スフレはお主等を相手にした際に交代もせずに間髪いれずに戦っておったのじゃぞ。言い争って隙だらけのお主等を待っていたにも関わらずお主等は喧嘩を止めなかった。果たし合いの最中に、やることじゃないじゃろう」

「左様……乱馬よ。父は悲しいぞ」

「あかね……乱馬君とのいがみ合いは知っていたが道場の看板を掛けた戦いにそれを持ち込むとは……お父さんも思わなかったよ……」

 

 

婆さん、玄馬さん、早雲さんに責められ言葉も出ない乱馬とあかね。シャンプーとリンスは何を言っていいのか分からずに口を閉ざしていた。

乱馬は心底悔しそうに、あかねに至っては涙を流していた。罪悪感ハンパないんだけど。

 

 

「スフレよ、天道道場の看板は……」

「その件ですが……今回は辞退させて貰いましょう」

 

 

婆さんの発言に俺は鉄扇をパシッと閉じる。俺の言葉に婆さんを除いた全員の視線が俺に集まった。

 

 

「本来ならアッサリと勝って看板を頂く予定でしたが……しかしながら本日の戦いで私も未熟であると思い知らされました。ですので修行を積み、再度、道場破りを挑ませていただきます。その時こそ、看板を頂きに参ります。ですので、それまで看板は守ってくださいね」

「お前……」

「スフレさん……」

 

 

俺の言葉に乱馬とあかねは何か言いたそうにしているが何を言っていいのか分からない。そんな顔をしていた。

 

 

「本日は双方引き分け。これで良いでしょうか?」

「うむ、仕方ないの。じゃがスフレよ、これではお主が持っておる物は無駄になったのう」

 

 

俺の提案に婆さんは何処か意地の悪い笑みを浮かべた。そういや、これの存在を忘れてた。

 

 

「即席男溺泉の事ですね。コロンお婆さんから乱馬さんの体質を聞いていましてね。本来なら乱馬さんをやる気にさせる物でしたがすっかり忘れてました」

 

 

俺は胸の間に挟んでいた即席男溺泉の袋を取り出す。この仕草をした時に、あかねの視線がキツくなった気がするがここはスルーしよう。

 

 

「即席男溺泉!?おい、見せてくれ!」

「あ、ちょっと乱馬!」

「わ、ワシにも見せてくれ!」

 

 

即席男溺泉に食い付いた乱馬が手を伸ばし、あかねが無遠慮にそれを要求した乱馬を止めようとして、玄馬さんも即席男溺泉に食い付いて飛び掛かってきた。おいおい、落ち着きなさいっての。

俺は乱馬に即席男溺泉の袋を差し出したが……それが不味かった。

乱馬と玄馬さんが同時に袋を引っ張った為に袋は破けて即席男溺泉の素となる粉が道場に散らばる。更に窓を開けていた為に粉は風に乗って飛んでいってしまった。

 

 

「…………本来は乱馬さんのやる気を上げさせる為に私に勝ったら差し上げるつもりだったんですが……残念でしたね」

 

 

ホホホっと鉄扇を広げて誤魔化しながら笑う俺だが、乱馬も玄馬さんも微動だにしなかった。乱馬と玄馬さんは立ったまま気絶していたのだ。彼等からしてみれば千載一遇のチャンスを棒に振ったんだから無理もないか。

 

 

気絶した乱馬と玄馬さんは取り敢えず放置して、俺は天道道場の入口であかねと別れを告げていた。

 

 

「今回は引き分けにしてもらったけど……次は負けません」

「それで結構ですよ。乱馬さんとも仲良くすればもっと問題ないんですけどね」

 

 

あかねが今回の件をどう感じたのかは謎だが、乱馬とは仲良くしてほしい。と言うか先程も言った通り、二人が協力すれば今回の件だって何程も問題じゃなかった気がする。

 

 

「その……スフレさん、看板を賭けての勝負じゃなくて……また、いつか私と戦って貰えませんか?」

「ええ、喜んで」

 

 

あかねの頼み事に俺は出来る限り優しく微笑むと看板を賭けた戦い以外での再戦を受け入れた。こうして、俺はあかねや早雲さんに見送られながら天道道場を後にした。

 

 

やれやれ……これで二人の仲も進展してくれれば良いんだけど。俺としては正体もバレずに乗り切った満足感でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の話なのだが……

 

 

「ムース、明日から修行に付き合うヨロシ」

「シャンプー、どうしたんだ急に?」

 

 

変装を解いてスフレの姿からムースに戻った俺は、予め買っておいた物を背負って猫飯店に帰った。俺は本日、婆さんの代わりに買い出しに行っていた設定だから。

しかし、猫飯店に帰るなり何故か気合いMAXのシャンプーから修行のお誘いを貰った。

 

 

「あの女……スフレとか言ったけど、あかねや乱馬よりも強かったネ。あの強さを見せられて私のプライドも傷付いたネ。あかねがスフレと再戦する時は私も戦うアル」

「そ、そっか……そんなに強かったのかスフレって人は……」

 

 

シャンプーの発言に俺は顔がひきつっていたに違いない。乱馬とあかねの関係に発破を掛ける筈が違う所に火が付いたみたい……

 

しかも、婆さんから「あかねと再戦の約束をして、またスフレになる機会が確実に出来たのぅ」と言われて、いつか再びスフレにならなきゃならないフラグが立っていたのに気付いたのは後になってからだった。

 

 

 



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ムースの日記⑬

△月○日

 

道場破りをした次の日に乱馬が猫飯店に来た。事情を聞くと天道道場の看板は守れたが勝負には負けてしまった事。玄馬さんや早雲さんの期待を裏切ってしまったと愚痴を溢していた。いや、その期待を潰す切っ掛けを作ったのが、その二人だと言いたくなるが我慢した。

これから負けない為に修行を更に積む決心をした事と、時折修行相手になって欲しいと頼まれた。猫飯店の仕事が無いときならと了承したが「良牙には頼まないのか?」と聞いたら「決闘なら兎も角、いつ帰ってくるか分からない奴に修行は頼めないし、良牙はライバルだから」と言っていた。良牙がライバルなら俺は?と聞きたくなった。

 

夕食時に聞いたのだが、シャンプーの所にはあかねが相談を持ち掛けに来ていたらしい。あかねも乱馬同様に凹んでいたらしく、今度から一緒に修行をするそうだ。本当に仲良くなったなシャンプーとあかね。

 

 

△月×日

 

なんか乱馬とあかねがロミオとジュリエットの演劇をするらしい。なんでも風林館高校の演劇部から、あかねにジュリエットを演じて欲しいと依頼が来たらしく、あかねは喜んで引き受けた。ジュリエット役は憧れだったらしい。しかし、そこで風林館の青い雷、久能帯刀、クラスメイトの五寸釘、更に八宝斎が、あかねとラブシーンを演じる為にロミオ役を狙って演劇部に入部。乱馬は演劇コンクールには興味が無かったが優勝高校には中国旅行ご招待と聞き、ロミオ役をやると気合いを入れていた。中国旅行へ行き、そのまま呪泉郷に行こうと目論んでいるんだろうけど……この話のオチを知っている身としてはなんとも言えない心境だ。

 

 

△月△日

 

乱馬から『ロミオとジュリエット』の話はどんな物なのかと持ち掛けられた。演劇コンクールの前日に聞きに来るか普通?シャンプーはあかねから演劇コンクールの話を聞いていたので観に行くと約束していたらしいが、「マトモな劇になりそうにないネ」と既に諦めている。

店のテーブルでリンスが乱馬にロミオとジュリエットのストーリーを説明しているが、本当に乱馬が理解しているかは微妙である。

 

 

△月◇日

 

演劇コンクール当日。俺はシャンプーとリンスを連れて乱馬達が演じるロミオとジュリエットを見に来たのだが……案の定ドタバタ劇となっていた。乱馬、久能、五寸釘、八宝斎が演じるロミオのバトル・ロイヤル。既にロミオとジュリエットのストーリーから、かけ離れた内容となっていた。リンスは俺の隣で「乱馬さんにちゃんとストーリー教えたのに……」と呟いている。うん、気持ちはわかる。シャンプーは、あかねに同情しているのか哀れみの視線を送っていた。

 

結局、ロミオとジュリエットの話から白雪姫のストーリーにアドリブ変更され、乱馬とあかねのキスシーンで風林館高校の優勝が決定した。リンスはキスシーンに顔を赤くしていたが、あのキスシーンはあかねが乱馬の口にガムテープを貼っていたので直接のキスではないのだが……ま、いっか。

 

その後、中国旅行ご招待は演劇コンクールの主催者が『中国人の旅行さん』と言う方をお招きしての宴会であった事が発覚。乱馬はショックで寝込んでしまった。

しかし、キスシーンの辺りを良牙に告げたらどうなるか考えている俺は悪い子なのだろう。

寝込んでしまった乱馬を尻目にシャンプーとあかねは例のキスシーンの話で盛り上がっていた。

しかし、キスか……せっかくシャンプーと両思いになったのに日本に来てからバタバタしてて、そんな雰囲気にならなかったな……今日の乱馬とあかねを見てたらそんな気分になってしまった。

 

 

 

 

『――ここから数行が慌てて消した跡がある――』

 

 

 

 

 

日記に何を書いてんだ俺は。テンション上がりすぎて日記に書いてしまったが恥ずかし過ぎるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideシャンプー◆◇

 

 

あかねから演劇コンクールの話を聞いた。演目はロミオとジュリエット。女なら一度は憧れるストーリーで、聞けばあかねは昔、ジュリエット役をやりたかったがクラスメイトの推薦でロミオ役をやったらしく、今回の件は長年の夢が叶う機会だったらしいのだが……乱馬や他の共演者はロミオとジュリエットのストーリーを理解してなかったネ。特に乱馬はリンスからストーリーを聞いていた筈なのに何をしてるアルか。

ドタバタ劇は結局、白雪姫にストーリーが変更され乱馬とあかねのキスシーンで幕を閉じた。それで良かったのか、あかね?

 

演劇コンクールを終えた後にムースから天道道場に行こうと提案されて、リンスを連れて一緒に行く事にした。乱馬とあかねは演劇の後片付けで遅れると言っていたので私達が先に行く事に。

 

天道道場に着いたら驚いた。そこには『中国人、旅行氏、御招待』と書かれた看板が掲げられ、大人達は酒を飲んで既に宴会をしていたのだから。

 

 

「ムース、これって……」

「言葉の行き違い……だろうな」

 

 

私の言葉を言い切る前にムースは呆れた様子で告げる。これは乱馬の骨折り損のくたびれ儲けが確定した瞬間だった。その後、言葉の行き違いが発覚し、中国旅行に行けない事がわかった乱馬は涙を流しショックのあまり寝込んでしまった。凹む乱馬をムースが同情している最中、私はあかねとキスシーンの話をしていた。

 

 

「あいや、ガムテープ越しだったアルか」

「流石にね……咄嗟だったし」

 

 

あかねは乱馬が人前でキスできないと照れていたのを察してガムテープで口を塞ぎ、その上でキスをさせていた。それでも……私はあかねが少し羨ましかった。日本に来てからバタバタしていてムースと落ち着いた時間を過ごせていなかった。両思いとなったのにムースは私に手を出さない。曾バアちゃんやリンスが居る手前、イチャイチャ出来ないのは分かるけどもどかしいね。

 

でも、そんな思いは帰り道で四散した。天道道場ではしゃぎすぎて眠ってしまったリンスを背負っていたムースは私にキスをした。軽く触れる程度の口付けだったが突然の事態に私の顔は一気に熱を持ち、赤くなったのを感じる。

 

 

「な、な……突然、何をしてるアルか!?」

 

 

帰り道で、突然、それも夜。更にリンスを背負ったままのムースの行動に私は夜だと言うのに叫んだ。

 

 

「その……今日の乱馬とあかねを見たら、つい。日本に来てからトラブル続きで店に帰ったら婆さんが居るから今しかないかなって……悪い、ムードも無かったな」

 

 

そう言って先に歩き始めたムースの言葉に私は理解する。私がもどかしいと思っていた事はムースも同じだったという事。私はムースが同じ気持ちを持っていてくれた事が嬉しくて前を歩くムースの前に回り込んで、背を伸ばした。

ムースは私よりも、ずっと背が高いので私はつま先立ちになってムースに口付けをした。先程ムースにして貰ったよりも少しだけ長く……繋がった唇を離すとムースの顔は真っ赤。多分、私も同様に真っ赤になっている。

 

 

「これで、おあいこネ。今度からもっと一緒の時間を過ごすアル」

「お、おいシャンプー」

 

 

私を呼び止めるムースの声を無視して私は先に歩きだす。あかねはあかねのペースで乱馬と歩いている。私もムースと一緒に歩こう。時間はあるんだから焦らず。

そんな事を思ったら私の足取りはさっきよりも軽く感じた。

 

『ちゃんと捕まえてないと逃げちゃうアルよ、私のロミオ様』

 

 

リンスを背負って私を追い掛けるムースに、声には出さずその言葉を送った。



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和風男溺泉を探せ①

 

 

 

 

 

ある日、猫飯店の休憩時間中に乱馬が店に駆け込んで来た。

 

 

「ムース、頼む!手伝ってくれ!」

「休憩時間中になんの用だ、乱馬」

 

 

何やら慌てた様子の乱馬は何故かボコボコされており、タンコブや擦り傷が目立っていた。

 

 

「取り敢えず傷の手当てだな。それから、何があったかを……」

「それどころじゃねーんだ!これを見てくれ!」

 

 

乱馬はボロ切れの地図を俺に差し出す。地図には和風男溺泉の地図と書かれていた。そーか、和風男溺泉の話か。

 

 

「和風男溺泉の地図か……しかし和風男溺泉を探すのは難航している様だな。そんなにボロボロになるとは」

「これには事情があるんだよ!その地図が示す和風男溺泉の場所が……場所が……」

 

 

俺の疑問に乱馬は言い淀む。いや、事情を知ってるから分からんでもないが。

一応、乱馬から話を聞くと良牙がとある寺から和風男溺泉の地図を貰ったらしく二人で和風男溺泉を探し始めた。だが、地図が示した和風男溺泉の場所は風林館高校の女子更衣室の下に有るのだという。つまり和風男溺泉を探す為には女子更衣室に侵入しなければならないのだが、普段から八宝斎に下着や体操着を盗まれていた女子達が女子更衣室の周囲に罠を仕掛けたらしく、警備態勢が厳しい上に、地図を持ってきて協力体制だった良牙が裏切って、あかねの味方となった。

 

 

「大方、あかねが誤解して都合の良い解釈をした挙げ句、その評価を落としたくない良牙が目先の事に捕らわれて女子更衣室への侵入を拒んでるんだろ?」

「流石、ムースだ。話が早い……って事で手伝ってくれ!」

 

 

原作でも、あかねからの評価を落としたくない良牙が乱馬の評価を落とそうと動いたからな。乱馬は余程、追い詰められてるのか必死に頭を下げてくる。

しかし和風男溺泉か……オチが見えているけど手伝わないのは不自然だよな。

 

 

「和風男溺泉探し手伝ってやろう。ただし、正攻法でだ」

「頼りになるぜ!」

 

 

椅子から立ち上がった俺を乱馬は尊敬の眼差しで見ている気がする。下手に侵入しようとするから駄目なんだ。ならばそれを逆手に取る。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「おい、ムース……なんでシャンプーを連れてきたんだよ」

「合法的に中に入る為だ」

「事情はムースから聞いたネ。任せるヨロシ」

 

 

俺は出前から帰って来たシャンプーに事情を話して風林館高校へと出向いた。先程の乱馬達の様に女子更衣室へ侵入するのではなく、堂々と入る為に。

 

 

「そっか、シャンプーなら女子更衣室に入っても問題ない!」

「そう、男の俺達が入るから変態扱いされる。ならば、女のシャンプーに任せれば問題は無いって事だ」

 

 

女子更衣室から少し離れた地点の木の上で俺と乱馬はシャンプーからの報告を待っていた。まあ、和風男溺泉が無いのは分かっているが協力しない訳にはいかない。ならば俺達が一番被害が少なくするにはどうするか。それはシャンプーに和風男溺泉が眠る女子更衣室の地下を調べて貰えば、問題は無いって事だ。後はシャンプーが『和風男溺泉は閉鎖しました』って書かれた文章が納められている壺を見付ければ終わりだ。

 

 

「にゃん、うにゃん」

「え……」

「な、な、な……」

 

 

そう、作戦は完璧だった筈。しかし、何事にもイレギュラーは発生する。木の上に居た俺と乱馬だったが、その乱馬に甘える様に野良猫が乱馬にすり寄っていた。突然の事態に乱馬は硬直してる。

 

 

「落ち着け、乱馬!今、猫を……」

「ね、ね、猫ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

パニックになった乱馬は猫を振りほどこうと暴れ始めた。木の上で暴れれば落ちるのは当然。俺と乱馬と猫は纏めて落下した。俺は咄嗟に猫を抱き抱え暗器で猫を地面にそっと下ろす。よし、これで猫は……ぐえっ!?

 

 

「猫が好きぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

「落ち着け、乱馬っつ……止まれ!いや、マジで止まって!」

 

 

乱馬はパニックになったまま、俺を抱えて走ってる。その進行方向には女子更衣室が……

 

 

「止まっ……」

「ふぎゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 

俺の制止も虚しく、乱馬は女子更衣室へと突撃した。窓を破壊し、中に侵入してしまった。ヤバい……このままでは俺も変態の扱いをされてしまう……

 

 

「ムース、こっちネ!」

「シャンプー!?」

 

 

女子更衣室に突撃したと同時にシャンプーが俺を抱き、外へと連れて出してくれた。乱馬は置き去りだが仕方ない。

 

 

「た、助かった……」

「私が女子更衣室に入る前に突入したからビックリしたね」

 

 

振り返ると乱馬が女子生徒達にボコボコにされていた。南無、お前の犠牲は無駄にはしないぞ乱馬。

 

 

「乱馬がボコボコにされている間に女子更衣室に入って調べちまおう」

「了解ネ」

 

 

図らずも囮にしてしまったが今の内に終わらせちまおう。俺はシャンプーを引き連れて窓からではなく扉から普通に女子更衣室へと入った。流石に先にシャンプーに入ってもらってから俺は後で入る。先に入って女子が居たら洒落にならんからな。

 

 

「曲者!」

「良牙、お前カ」

「よう、恥知らずな裏切り者」

 

 

中には椅子に座って待機していた良牙が椅子を投げてきたが俺は椅子を叩き落とすと良牙と向かい合う。

 

 

「乱馬かと思ったが……お前とはなムース」

「乱馬から聞いたぞ。お前、一人だけ逃げた上に乱馬に罪を被せようとしたんだろ」

 

 

良牙は少し驚いた様子だった。俺は乱馬から話を聞いていたのもそうだが、原作でもこの部分は許せなかった。Pちゃんの姿で女子達の下着裸を見た挙げ句、その罪を乱馬に被せ、自身は正義の味方みたいな振る舞いをしていた辺りが特に。

 

 

「し、しょうがないじゃないか!そうしなければ俺があかねさんに嫌われてしまう!」

「いっそ嫌われてしまえハレンチ豚野郎」

 

 

乱馬とあかねの事を思ってか、辛辣なシャンプーの一言。罪の意識があるのか胸を押さえる良牙。もっと反省しろ。

 

 

「シャンプー、良牙は俺が叩きのめすから和風男溺泉の事を調べてくれ」

「待て、ムース……良牙とは俺が戦う……」

 

 

俺はシャンプーに和風男溺泉の事を調べて貰おうかと思ったけど、扉から乱馬が入ってきた。

 

 

「良く無事だったな乱馬」

「蛇とか蛙のオモチャで撹乱してから来た。それはそうと良牙……よくも」

「乱馬……そんなにしてまで下着が欲しかったの?」

 

 

会話の最中で、追い付いてきたあかねが絶望したかのような表情で乱馬を見詰めていた。

 

 

「乱馬が変態なのは体質だけだと思ってたのに……さよなら」

 

 

あかねは乱馬に下着の束を渡して、シリアスに去ろうとしている。いや、シリアスのベクトルが明らかに間違ってる気がする。

 

 

「待つネ、あかね。乱馬を信じるヨロシ」

「なんでよ!乱馬は下着欲しさに女子更衣室に入ろうとしてたのよ!」

 

 

シャンプーの制止にあかねは目の端に涙を溜めていた。

 

 

「違うっての!この女子更衣室の下に和風男溺泉があるんだよ!」

「和風男溺泉が……?」

 

 

乱馬の叫びにあかねは俺やシャンプーを見る。俺とシャンプーは肯定する様に首を縦に振るう。

 

 

「本当なの?ムースやシャンプーが言うなら本当なのかも……でも……」

「俺の言う事は信じないのにムースとシャンプーは信じるのかよ」

「少なくとも俺は乱馬から和風男溺泉の話を聞いてな。穏便に話を進めようとしたんだが……まあ、トラブルがな」

 

 

あかねは乱馬を信じなかったが俺やシャンプーを信じてくれた。うん、信頼があるね。つーか、普段の事を思えば乱馬を信じても良い筈だが。

 

 

「この間、スフレさんにも言われた……もっと乱馬と仲良くって……」

「乱馬、女の敵めっ!」

 

 

あかねの思考を遮るかの様に良牙が乱馬に襲い掛かっていた。何をしてるか、このタイミングで。大方、このまま話が進んで女子更衣室に自分が侵入した事を隠したいんだろうが対処が甘いな。

 

 

「そもそも、和風男溺泉の地図を持ってきたのはテメェだろうが!」

「黙れ!」

「はい、そこまで」

 

 

喧嘩を始めた乱馬と良牙。俺は縄付きの鉤爪で良牙を縛る。話がややこしくなるから止めろ。グルグル巻きにされた良牙をあかねは驚愕の表情で見ていた。

 

 

「なんで、良牙君が和風男溺泉の地図を……まさか!乱馬の体質を治す為に地図を探してきてくれたのね!」

 

 

自身の正体がPちゃんだとバレたのか?そんな戦慄が走った良牙だったが、あかねの勘違いは未だに続いていた。

 

 

「あかねが鈍くて良かったなー、Pちゃん」

「誰が……Pちゃんだ!爆砕点穴!」

 

 

乱馬の発言に怒った良牙はグルグル巻きで身動きが取れなかったから爆砕点穴で地面を刺した。その直後、地面から間欠泉の様に水が溢れ出てきた。

 

 

「やった、これで男に!」

「女子達は速く外へ!急げ!」

 

 

喜ぶ乱馬だが、今は女子を逃がす方が先決だろ。俺の叫びに女子生徒達は弾かれた石のように女子更衣室から逃げていった。シャンプーやあかねも逃げていったのを見た俺は安堵し……その直後、大量の水に押し出され外に飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side乱馬◆◇

 

 

 

大量の水に押し出されて俺とムースと良牙は木の上に弾き飛ばされていた。俺達は木の上で座って絶望していた。

 

 

「…………おい、あの地図は本当に和風男溺泉の地図だったんだよな?」

「ぶきぃ」

 

 

俺は良牙が持ってきた和風男溺泉の地図を信じ、ムースにまで頼んで和風男溺泉を探した。苦労したが和風男溺泉を堀当てたと思った……思ったのに。俺とムースは女になって、良牙は豚になっていた。

 

 

「じゃあ、なんで元に戻れないんだよ!なんとか言ってごらん、Pちゃん!ブヒブヒじゃ分からないのよ!」

「落ち着け、乱馬。女言葉になってるぞ」

 

 

俺が良牙を責めているとムースが止めに入る。落ち着けないっての!

 

 

「しかし、和風男溺泉じゃなかったって事はこの地図が偽物だったか……おっと」

「なんだ……壺?」

 

 

すると水に押し出されて来たのか、妙に大きい壷が飛んで来た。ムースはそれを察知していたのか壷を受け止めた。その壷は青い色をして不思議な模様が描かれていた。

 

 

「変わった壷だな……まさかこれに和風男溺泉の在処が!?」

「………こっちだったか」

 

 

俺はこの壷が和風男溺泉の手がかりになるんじゃないかと思った。婆さんに聞けば何か分かるかも知れない。ムースは壺を見て何か呟いたが、今は婆さんの所に行かなくちゃだな!待ってろよ和風男溺泉!絶対に探してやる!

 

 

 



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和風男溺泉を探せ②

 

 

 

青い壺を猫飯店に運んで婆さんに鑑定して貰うと、青い壺は呪泉郷に伝わる伝説の『青こけ壺』だった。

やっぱ原作じゃなくてアニメの方だったか……アニメだと和風男溺泉の話は追加要素が多数あり、まず青こけ壺、赤こけ壺、黄こけ壺を探さなければならない。三つの壺を探したら三つ子岩のある山まで行き、道中で八宝斎との戦い。それを乗り越えた後に三つ子岩に三つの壺を捧げ、一番星が現れると和風男溺泉が沸き出る……のだが、和風男溺泉は成分が枯れて閉店したと看板が浮き出てくるのがオチとなる。見事なまでの骨折り損のくたびれ儲けである。

俺がそんな事を考えていると、婆さんが乱馬達に青こけ壺の説明をしていた様で次は赤こけ壺探しとなる。婆さんが青こけ壺の暗号の解読をし、赤こけ壺の在処を示した地図を書いていた。

婆さんから地図を受け取った乱馬は店を出て、走り去っていく。良牙も後を追い掛け、俺とシャンプーもその後を追って行く。

 

良牙は乱馬への対抗心からなのか、乱馬が持つ赤こけ壺の地図を奪おうと乱馬に攻撃を仕掛けていた。

 

 

「よせ、良牙!方向音痴のお前が地図を持っても意味はないだろ!」

「黙れ、そもそも和風男溺泉の地図は俺が最初に見付けたんだろうが!」

 

 

勝手な言い分で乱馬の地図を奪おうとする良牙に俺は少しイラッと来た。まったく……女子更衣室の件で少しは懲りたかと思えば……

 

 

「元を正せば、お前が先に乱馬を裏切ったんだろうが」

「頭、冷やすヨロシ」

「んが!……って、どわぁ!?」

 

 

俺が良牙の頭にエルボーを叩き込み、シャンプーがハイキックで良牙を近くの川に落とした。

ちと、やり過ぎた気もするが反省して貰わんとな。そう思いながら俺とシャンプーは乱馬の後を追った。

そして地図の示す場所に辿り着いた俺達の前には大きな屋敷が。どうやらこの屋敷に赤こけ壺があるらしいのだが掲げられた表札を見て乱馬が絶句していた。

 

 

「く……九能……」

「あれか、風林館高校の蒼い雷」

「立派なお屋敷ネ」

 

 

三者三様にリアクションは異なるがコッソリと九能屋敷に侵入する事に。

 

 

「黙って入って良いアルか?」

「話して分かってくれる奴じゃねーよ」

 

 

シャンプーが乱馬に聞いているがダメだと思う。どうするかな……

 

 

「さ、行くネ。ムース」

「あ、ああ……」

 

 

悩んでる間にシャンプーに腕を引かれて九能屋敷に侵入する事に。まいったな……普通に不法侵入だよ、これ。

 

 

「大丈夫だってムース。出てくるのが九能なら問題ねーよ……あ」

「ったく、俺はそうやって楽観的には……って、おい」

「な、何アルか?」

 

 

楽観的に不法侵入が問題ないと話す乱馬。いや、問題しかねーよとツッコミを入れようとしたら乱馬が足下に張ってあった釣糸みたいな糸に足を引っ掛けた。

その俺と乱馬のリアクションに不安そうな表情になるシャンプー。マズい、この後の展開は……

 

 

「シャンプー!」

「ひゃん!?」

「うわわわわわわっ!?」

 

 

突如、俺達の居た地点に矢が射られ、斧が飛んで来た。俺は咄嗟にシャンプーをお姫様抱っこで抱き上げて走る。シャンプーに矢や斧が当たらないように気を配りながら避けて走り、屋敷の奥へ。

 

 

「ム、ムース……その、お姫様抱っこは初めてアルな……」

「頬染めて可愛いんだが後でね!?」

「この状況でイチャイチャすんなよ!」

 

 

シャンプーは俺の首に手を回して甘える様にすり寄って来た。非常に可愛いんだが今はそれどころじゃない。乱馬は乱馬で俺達に嫉妬してるし。悔しかったら、あかねとイチャイチャしてみせろ。

なんとか罠を掻い潜り、安全な所に身を隠した俺達は赤こけ壺探しを再開する事に。ここまで来たらもう、戻れないし俺も腹を括るか。

 

 

「しっかし……広い屋敷だし何処に赤こけ壺があるんだ?」

「屋敷って言うか最早、城だな。普通の一般家庭に罠なんか無いだろ」

 

 

乱馬が赤こけ壺が何処に有るのかと悩み、俺は九能家の屋敷にツッコミを入れた。規模からいって観光地の城とかと変わらない大きさなんだよな久能屋敷。

 

 

「出会え、出会え!侵入者よ、九能家お庭番筆頭、猿隠佐助がお相手致す!出会えぃ!」

 

 

俺達が頭を悩ませていると何処からともなく叫び声が。あ、佐助だ。そっか、アニメ版だからコイツも出るんだった。

 

 

「どうした拙者の名を聞いて怖じ気づいたか!?」

 

 

一人で九能家を守ってるお庭番佐助。あの変態兄妹に良く仕えてるよな、本当に。

 

 

「よ、佐助」

「む……早乙女乱馬。貴様が侵入者であったか。この九能家屋敷に不法侵入するとは見下げ果てた奴!くたばれ、ニャハハハハ!」

 

 

木の枝でポンと佐助の頭を叩いた乱馬。その事に驚いた佐助だったが、飛び退いて叫ぶと石の灯籠に触れて一部分を動かし高笑い。

 

 

「で……何なんだ、それは?」

「あれ……可笑しいな、これで仕掛けが動く筈なんだが……なんせ曾爺さんの代から使って無かったからなぁ……」

「どんだけ侵入者がいないんだか……」

 

 

乱馬のツッコミに佐助は作動しない罠に首を傾げていた。曾爺さんの代から使ってないって、ほぼ未使用って事かよ。

 

 

「こりゃ参ったな……ほがっ!?」

「アホか、二人ともさっさっと行くネ」

「そうだな」

「お役目、お疲れ様です」

 

 

侵入者を前に呑気にしていた佐助をシャンプーが頭上から踏んづけて佐助を倒し、俺と乱馬は先を急ぐ事に。去り際に俺は佐助に合掌をした。基本的に苦労人なんだよな、この人。

 

 

「な、なんの逃がすか、てりゃあ!」

「うわわわっ、なんだこりゃ!?」

「あいやー!?」

「乱馬、シャンプー!」

 

 

佐助が合図すると同時に九能屋敷の木が倒れて俺達に襲い掛かって来た。なんだ、この仕掛け!?アニメには無かった仕掛けだ!俺は左に避け、乱馬とシャンプーは右に避けた。分断された俺達は別々に逃げる事になる。

 

 

「ムース、壺を探しながら後で合流だ!」

「ムース!」

「ったく……穏便にはいきそうにないな。無理するなよシャンプー!」

「逃がすか、九能家屋敷を甘く見るなよ!」

 

 

それぞれ別方向に逃げる俺達。佐助は乱馬とシャンプーを追って行ったか……出来れば俺がシャンプーと一緒に逃げたかったが、贅沢は言ってらんないか。そう思いながら俺は乱馬達が逃げた方向とは別方向に走り、赤こけ壺を探す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideあかね◆◇

 

 

 

今日、乱馬が女子更衣室にお爺ちゃんと一緒に下着を盗みに来た事件が起きた。でも、それは私の誤解だったみたいで乱馬は良牙君が持ってきた和風男溺泉を探していたみたい。私は乱馬の話を聞かずに下着泥棒の言い訳だと思っていたけど、ムースやシャンプーが『乱馬を信じろ』『和風男溺泉は存在する』と言っていた。良牙君が掘り当てたのは単なる水道管だったみたいだけど、本当に和風男溺泉があったのかな……

 

 

「ムースやシャンプーの方が……乱馬を知ってるみたい……」

 

 

私がポツリと呟いた言葉は私の心を締め付けた。私と乱馬は許嫁だけど、良牙君の方が友達付き合いが長い。ムースやシャンプーは乱馬が中国に修行に行ってた時からの付き合いで呪泉郷に落ちた仲間でもある。私は乱馬との付き合いが一番短いし、信頼が薄い気がしてきた。乱馬が和風男溺泉を探した時だって私を頼らずにムースやシャンプーを頼りにしていた。私は……本当にただの許嫁ってだけなのかな。

 

 

 

「ぶきぃー!ぶきぃー!」

「え、Pちゃん!?」

 

 

そんな沈んだ私の思考を戻したのは聞き慣れた鳴き声だった。その声の主を探すと川の方から鳴き声が聞こえてくる。私は急いで川を覗き込むと川の流れに流されそうになっていたのはPちゃんだった。助けようと川に飛び込もうとしたら川沿いを走っていく三人組。乱馬、ムース、シャンプーの三人だった。あの三人が何処に行くのか気になった私は、素早くPちゃんを助けると三人の後を追った。

 

Pちゃんを抱き上げたまま走り、三人にやっと追い付いたかと思って辿り着いたのは、とてもデカいお屋敷。乱馬達が中に入って行ってしまったので、私は家の人に事情を聴くと共に乱馬達の話も聞こうと思った。だけど、入った場所が同じでも進んだ方向が違ったのか乱馬達を見失ってしまう。引き返そうかと思った所で竹に囲まれた小屋を発見。琴の音が聞こえてきたから人が居ると思って声を掛けようとしたら襖を破って琴爪が飛んで来た。

 

 

「聖ヘベレケ女学院、新体操部のエース……人呼んで黒バラの小太刀」

「え、小太刀……って事は此処って九能先輩の家!?」

 

 

襖が開かれ、そこから顔を出したのは私や乱馬と格闘新体操で戦った黒バラの小太刀だった。なんで、乱馬達は九能先輩の家に来たのよ!?

 

 

「まあ、天道あかね。我が屋敷に来るとは私との決着を付けにいらしたのね。ならば、お望み通り決着を付けましょう!九能家、秘技仕込み振袖!」

「違うってば!話を聞いて!」

 

 

小太刀が着ていた着物の振袖には刃が仕込んであるのか、小太刀が振袖を振り回す度に周囲の竹が綺麗に切られていく。私はPちゃんを抱いたままで避けるのが精一杯だった。

 

 

「乱馬がこの屋敷に入ったのを見たから私は追いかけて来ただけなの!」

「まあ、乱馬様が我が屋敷に……なら此所で天道あかねを始末すれば乱馬様は私の物に……ならば本気で行きますわよ!」

 

 

戦いを止めて貰おうかと思って乱馬の名を出したけど、火に油を注いだだけになっちゃったみたい。小太刀は着物を脱ぎ捨てると中に新体操のレオタードを着ていたらしく、私にリボンで攻撃し始めた。

 

 

「オーホッホッホッ!天道あかね、覚悟!」

「乱馬!」

 

 

小太刀の攻撃を避けきれない。私は抱いていたPちゃんが怪我をしない様にと胸の中に抱き締めて庇った。そして私の口からは、この場に居ない許嫁の名が飛び出していた。

 

 

「………あれ?」

 

 

目を瞑り、攻撃される事を覚悟した私だけどいつまでたっても痛みが来ない。それを不審に思った私が目を開くと、最近良く目にする人が私を守っていた。

 

 

「何者!」

「やれやれ、シャンプーや乱馬とはぐれたと思ったら……」

「ムース!」

 

 

小太刀のリボンを素手で受け止め、私を庇う様に立っていたのはムースだった。



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和風男溺泉を探せ③

 

 

 

 

乱馬とシャンプーとはぐれて屋敷内を探していたら、あかねと恐らく小太刀と思われる少女が戦っていた。そういや、アニメだとムースはアヒルの状態であかねに同行してたっけ。明らかに劣勢な状態だったから、俺はあかねを庇う様に前に出てリボンを受け止める。

 

 

「何者!」

「やれやれ、シャンプーや乱馬とはぐれたと思ったら……」

「ムース!」

 

 

小太刀のリボンを受け止めた俺だが、この後どうしよう。あかねを庇ったまでは良いけど、女相手に本気で戦う訳にもいかんな。

 

 

「まあ、なんですのアナタは!」

「乱馬とあかねの友達だよ。少し事情があって、この屋敷に居るが用が済んだら引き上げるから見逃してはくれないか?」

 

 

俺は小太刀に平和的な解決を望んだ。これで済む話とは思えないが試さない事には……

 

 

「乱馬様のご友人なら歓迎致しますが、恋敵の天道あかねを見逃す訳にはいきませんわ!」

「そうか、そりゃ残念だ」

 

 

一瞬、上手くいくかと思ったが、そんなに甘くはないか。俺はリボンを手放し、あかねを庇う様に立つ。

 

 

「ムース……どうするの?」

「とりあえず無力化を目指す。危ないから離れてな」

「覚悟、オーホッホッホッ!」

 

 

あかねが不安そうに聞いてくるが乱暴はせずに済ませたい。レオタード姿で高笑いをしながら襲い掛かってくる小太刀。残念美人と言う言葉が此処までマッチする奴も珍しいと思う。

俺は袖の中に仕込んでいたロープ付きの鍵縄を投擲してロープを阻む。

 

 

「やりますわね……ですが、その程度ではこの黒バラの小太……んきゃ!?」

「甘いのはお互い様ってね」

 

 

右手の袖から出した鍵縄で小太刀のリボンを防いだ俺だが、小太刀から見えない角度で左の袖から野球のボールを投げ、反射で小太刀の後頭部に当てた。見事に命中した小太刀は台詞の途中で倒れた。がに股でうつ伏せに倒れる小太刀。もう少し女らしく倒れられんのかねコイツは……本当に残念美人だ。

 

 

「凄い、あっという間に小太刀を倒しちゃった」

「気絶してる内に移動しようか」

 

 

俺と小太刀の戦いを見ていたあかねは、アッサリと着いた決着に驚いていた。俺としても、あんなにピンポイントで当たるとは思わなかった。俺は小太刀を一先ず置いて乱馬とシャンプーと合流する事にした。そこで油断したのが不味かった。

 

 

「この程度で私は負けませんことよ!」

「あかね!」

「きゃあ!?」

 

 

気絶したかと思われていた小太刀は起き上がるとリボンを俺とあかねに向けて放ってくる。俺は咄嗟にあかねを庇い壁際に下がったのだが、その壁の一部が回転扉になっていた為に俺とあかねは落とし穴になっていた回転扉の向こう側に落下してしまう。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「あかね、掴まれ!」

 

 

落下する最中、悲鳴を上げるあかねを掴み、抱上げてから着地する。横抱きの体勢で着地して、あかねと二人でホッと一息。

 

 

「ふぅー……危なかった」

「あ、ありがとうムース」

「ぷぎぃ」

 

 

何気に高さがあったから、そのまま落ちていたら危なかった。さて、乱馬とシャンプーを探さないと……

 

 

「いつまで抱き合ってるカ!」

「んがっ!?」

 

 

なんて思考は脳天に与えられた一撃に遮られた。そのまま倒れそうになるが、何とか持ちこたえる。

 

 

「痛たたたっ……あ、シャンプー」

「あかねを抱いて……満足カ?」

 

 

振り返ると腕を組み、怒り心頭のシャンプーが俺を見下ろしていた。

 

 

「なんで、あかねが居るんだよ。それもムースと一緒だなんてよ」

「何よ、そっちこそシャンプーと一緒じゃない!」

 

 

そして俺に抱かれたままのあかねと乱馬が喧嘩を始める。とりあえず、話がややこしくなりそうだから、あかねは下ろそう。

 

 

「俺は別行動を取ってたら、あかねと小太刀の戦いに出会してしまってな。その後、落とし穴で落ちた先が此処だったんだが」

「私は乱馬がこの屋敷に入るのを見たから……そう言う乱馬はどうなのよ!女子更衣室に入ってきたかと思えば久能先輩の家に来るなんて!」

「ムースの言う事なら信じるネ……でも、あかねがムースにお姫様抱っこは少し悔しいネ」

「そ、それは……」

「ニャーハッハッハッ!」

 

 

俺とあかねの説明にシャンプーは納得してくれた様だが、乱馬は何故か言い淀む。いや、そこはちゃんと説明しろよ。しかし、そんな話を遮る様に何処からか笑い声が響く。

 

 

「引っ掛かったね、早乙女君!」

「佐助!」

 

 

明かりが灯ったと思えば、そこは妙な部屋だった。縦に細長く、ハムスターを運動させる車輪みたいな……あ、この部屋、福引の間だわ。上を見上げれば天窓から佐助が顔を出している。

 

 

「此処は久能屋敷地下迷宮!一度入った者は二度と出る事は叶わん!」

「個人の家の下にそんなもん作るなよ」

 

 

佐助の叫びに俺は思わずツッコミを入れてしまう。本当に技術の無駄遣いだと思う。だが、そんな俺のツッコミを無視して佐助は仕掛けを作動させた。玉乗りサイズのボールが大量に流れてきたかと思えば部屋が回転し始めて俺達は強制的に走らされる。

 

 

「ニャーハッハッハッ!これぞ猿隠流からくりハウス術、恐怖の歳末大売り出し福引の間!季節外れだが此処がお前の墓場となるのだ!」

「ムース!」

「おっと!」

 

 

大量のボールに追い付かれない様に走り続ける俺達。そんな中、シャンプーが俺に抱き付いてきた。咄嗟の事で慌てたけど俺はしっかりと受け止める。

 

 

「さっきはあかねを抱いてたけど、此処は私の場所ネ」

「何もこの場で主張せんでも……」

 

 

シャンプーはそのまま俺の胸に甘える様に身を寄せてきた。あ、凄い柔らかい……

 

 

「そっか……ごめんね、シャンプー」

「ううん、あかねが悪いわけじゃ無いネ……でも、さっきはちょっと悔しかったアル」

 

 

あかねとシャンプーは普通に会話を続けてるけど、人を一人抱えて走るって、かなりキツい。そんな中、乱馬はあかねと俺達を交互にチラ見していた。乱馬よ、お姫様抱っこをしたいなら素直に言えよ。素直じゃないんだから。

 

 

「おのれ、拙者を無視してイチャイチャするとは許せん!食らえ、猿隠流忍術けん玉輻射砲!」

「痛っ!?」

「いだだだだっ!?」

 

 

その空気を察してか、佐助が天窓から部屋の中に入ってくるとけん玉を使った攻撃を始め、俺と乱馬を狙い始める。特別製のけん玉なのか紐がかなり長く、離れた距離から俺と乱馬の後頭部にけん玉の玉が連続して当てられた。シャンプーとあかねを狙わない辺りが微妙に紳士だ。だが、地味に痛い上にやられっぱなしが頭に来たのか乱馬は逆走して佐助に迫った。

 

 

「このぉ!もう堪忍袋の緒が切れたぜ!」

「おっと!てありゃ!」

 

 

しかし佐助は素早い動きで乱馬の攻撃を避けると、部屋の軸になっている柱に身を移し、更にそのまま乱馬に攻撃を続行した。流石、忍者とだけあって素早いな。

 

 

「いだだだだっ!?」

「ニャハハハハ、げふぁ!?」

 

 

体勢を崩した乱馬に追い討ちを掛ける様に佐助はけん玉輻射砲を浴びせ続けた。

そっちに夢中になっていたので俺はシャンプーを抱き抱えたまま跳躍し、背後から佐助にドロップキックを浴びせた。俺とシャンプーの二人分の体重を乗せたドロップキックは佐助を地面に叩き落とした。

 

 

「そこまでだぜ、佐助!」

「なんのまだまだ!こんにゃろう!」

 

 

トドメを刺そうと乱馬が佐助に迫るが、佐助はけん玉で天窓近くに設置されていた仕掛けを作動させるパネルを叩き割る。すると、走っていた床が突如落とし穴となり俺達を飲み込んだ。

 

 

「危なっかしいな!」

「ムース!」

「あかね!」

「乱馬!」

 

「ニャハハハハ!これぞ運命の分かれ道!辿り着くのは天国か地獄かお楽しみに!」

 

 

 

俺とシャンプー、乱馬とあかねがそれぞれ分かれて落とし穴に落下してしまう。佐助の説明を聞きながら俺達は落とし穴に落ちてしまった。あの二人、喧嘩しなきゃいいんだが……俺は落下しながらシャンプーを抱き止め、そんな事を思っていた。

 

 



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和風男溺泉を探せ④

「痛った!?」

「あいやー!?」

 

 

シャンプーと一緒に九能屋敷の地下に落ちて地面に叩き付けられる。しかし、地下に居たのに更なる地下に落とされるとは、九能屋敷は何処まで地下があるんだ。

 

 

「痛ててて……」

 

 

シャンプーを抱き止めながら落下したので受け身が取れなかった。シャンプーが無事なら俺がどれだけ傷付こうが……

 

 

「……ムース」

「シャ、シャンプー……落ち着こう。此処は人の家だ。あ、ヤバ……柔らか……」

 

 

シャンプーがトロンとした瞳で俺にすり寄ってくる。抱き止めていたのも含めて密着していたからシャンプーの吐息が掛かる距離だ。良い匂いが……

 

 

「おのれ!九能屋敷でハレンチな真似をしおって!」

「邪魔するナ!」

「あー……」

 

 

密着していた俺とシャンプーの姿を目撃した佐助が怒って殴り掛かってきたけど、シャンプーの一撃に沈められる。此処って全自動洗濯機の間じゃなかったっけ?イチャイチャする俺とシャンプーを見て怒りを抑えられずに飛び込んで来た佐助は見事に返り討ち……っと。

 

 

「さ、ムース。邪魔者は居なくなったネ」

「シャンプー……乱馬とあかねを探さないとだからさ」

 

 

キスしようとしてくるシャンプーの唇を指で制する。

不満そうに頬を膨らませてるシャンプーは可愛いが、今は優先しなきゃならない事があるから。取り敢えず地下から出て乱馬とあかねを探さないと。

 

気絶した佐助は放置して地下から脱出した俺とシャンプー。地下をさ迷っていたら小太刀に再び会ってしまう。

 

 

「む、先ほど天道あかねと一緒に居た男!それに……乱馬様を狙う別の女!」

「待て、此方は争う気は……」

「そうね!それに私の良い人はムース!私は乱馬に興味は無いネ!」

 

 

小太刀はリボンを構えて俺とシャンプーを威嚇してきた。なるほど、あかね以外にも乱馬を狙ってると思われてんのな。なんて思ってたらシャンプーが俺の腕に抱き付いて叫んだ。非常に嬉しいが恥ずかしいです。

 

 

「あ、あら……私ったら失礼しましたわ」

「分かれば良いネ」

 

 

顔を赤くしてオホホと笑う小太刀。意外と純情だな、オイ。

 

 

「乱馬様のご友人でしたら歓迎いたしますわ。私も乱馬様を探しておりますので、ご一緒しましょう!」

「あ、ああ……んじゃ、道案内頼めるかな。正直広くて困ってたんだ」

 

 

乱馬を狙っていないと分かると小太刀はにこやかに道案内を始めてくれた。乱馬が関わらないとマトモなんだよなぁ、小太刀って。

 

 

「乱馬様を交えてお茶会でもしましょうか。あ、クッキーも焼きましょう!」

 

 

俺とシャンプーの前を道案内をしながらルンルンと歩く小太刀。

俺は思わず小太刀をじっと観察しながら原作の小太刀を思い出していた。

作中で自画自賛していたが容姿端麗、スポーツ万能で頭が良くて料理上手。更に実家が金持ち……まあ、要は性格の問題なんだよな。

小太刀は乱馬と兄の帯刀が絡むと残念な感じになる。

 

 

「何をデレデレと見詰めてるカ」

「ひてててて……ひがうって」

 

 

そんな俺の視線に気付いたのかシャンプーは俺の頬を強くつねった。いや、マジで痛い。

 

 

「……あんな服装が好みカ?ムースが望むなら着てみるネ」

「その話はまた今度にしようか」

 

 

勘違いしたシャンプーは、俺が小太刀のレオタードを気にしていると思ったらしい。更に自分が着ているのを想像してモジモジして顔を赤らめていた。

そして俺はシャンプーのレオタード姿を想像する……うん、今度土下座してでもお願いしよう。

 

 

「あら……乱馬様の声が聞こえましたわ!乱馬様ぁ!」

「あ、おい!小太刀!」

「後を追うネ!」

 

 

なんて話をしていたら小太刀は乱馬の声が聞こえたと叫ぶと、俺達を置いて走って行ってしまう。慌てて後を追うとその先は風呂だった。いや、普通にスーパー銭湯並みに広いんだけど。個人の家でこんな広い風呂を構えるか普通。

 

 

「貴様、九能屋敷の風呂で天道あかねと混浴とは許せん!」

「だから!地下から此所に辿り着いただけで混浴した訳じゃないっての!大体、こんな色気の無い女と混浴なんて望まないっての!」

「誰が色気の無いってのよ!」

 

 

九能に襲われている乱馬。乱馬は九能に襲われながら否定をしているが、もう少し考えてから発言しろよ。あかねにいらん反感買ってるし。

 

 

「女の敵!」

「痛だっ!?」

 

 

あかねを貶された事からシャンプーが怒って乱馬の頭をひっぱたく。うん、自業自得だ。

 

 

「くっくっくっ……天誅だぁ!」

「どわっ、あぶねぇ!?」

 

 

シャンプーに殴られた乱馬を見て隙ありと感じた九能は木刀を振り下ろす。なんとか避けた乱馬だが足下の大岩が砕け散った。九能も何気に人外な部分があるよな。木刀で木を斬ったり大岩を砕いたりと凄いよな。

そして砕いた大岩の中から赤い壺が出てきた。

 

 

「あ……赤こけ壺!」

「その壺は曾祖父さんが城を作る時に出てきた壺だそうだ。風呂の添え物にしていたのだが……」

 

 

乱馬は大岩から出てきた、赤こけ壺を抱き止める。九能が赤こけ壺の説明をするけど……明らかに風呂の添え物には向かないと思う。

 

 

「これくれ!」

「ふむ……大して価値のある物には思えんが…やらん」

 

 

赤こけ壺を欲しいとねだる乱馬だが、九能は乱馬に赤こけ壺を渡すのを拒んだ。

 

 

「お兄様!乱馬様が欲しがっているのに渡さないとはなんとお心の狭い!」

「黙れ、変態妹よ!早乙女乱馬にくれてやる物など何もない!」

 

 

意外な所から助け船が出た。まさか小太刀が援護してくれるとは。アニメだと小太刀はあかねとシャンプーと戦ってたけど今は助けてくれた。俺は九能が持っていた赤こけ壺を取り上げると小太刀に話し掛ける。

 

 

「小太刀、貰うとまでは言わんが少しの間だけ貸してくれ。用事が終わったら返しに来るから」

「あら、それは乱馬様に差し上げるのですよ」

 

 

俺の言葉に小太刀は貸すのではなく差し上げると言うが、『貸し』にするのは小太刀の為になる。協力してくれたお礼だな。

 

 

「『壺を貸した』なら壺を返しに乱馬はまたこの屋敷に来る事になるぞ。その時は俺も一緒に来るけどな」

「まあ!なら壺は貸した事に致しますわ!」

 

 

俺が小太刀の耳元で囁くと小太刀はパアッと明るく笑みを溢す。普段から、この笑顔が出せりゃ乱馬も惚れたのではないかと思う。

 

 

「んじゃ、この壺は借りていくよ。お邪魔しました」

「お、おいムース!?」

「あ、待ってよ!」

「ムース!」

「待て、早乙女乱……ぐえっ!?」

「またのお越しをお待ちしておりますわ」

 

 

俺が赤こけ壺を持って九能屋敷を後にしようと歩き始めると乱馬、あかね、シャンプーも後を追ってくる。九能は再度、戦おうと木刀を振るおうとしたが小太刀のリボンで動きを封じられて黙った。動きを止めてくれたのは有り難いが首を絞めるのは止めときなさい。

ま、何はともあれ赤こけ壺ゲットだぜ。いつもこれくらい平和な解決が望ましいものだ。

 

 

「おい、ムース。さっき小太刀に何を言ったんだよ。あんなに小太刀が素直になるなんて異常だぜ」

「ん、まあ……それに関しては後で説明をするし、俺も同伴するから。今はこの壺を婆さんに見せて次の壺を探そうぜ」

 

 

乱馬の疑問に俺が答えると乱馬に赤こけ壺を渡そうとした。その瞬間だった。

 

 

「大量、大量じぁ!あ、お宝発見頂きじゃ!貴様には貸しがあるから貰っていくぞ!」

「え、あ……」

「あ、あのくそ爺!」

 

 

なんと八宝斎の爺さんが俺の手から赤こけ壺を奪っていきやがった。まだ前の事を根に持ってやがったか。俺と乱馬は慌てて後を追うが爺さんは素早くあっという間に逃げられた。ここまで順調だったのにチクショウ!

 

良牙?P助のまま人間に戻らずに、あかねに抱かれてたよ。マジでその内、チャーシューにしちまうかアイツ。

 



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人物紹介③

 

 

『スフレ』

 

本作オリジナル。

ムースが自身の正体を隠しながら活動する為の姿。

女になった状態で髪を金髪に染め、ウィッグでお団子ツインテールにしている。服装はチャイナドレスにスパッツ。手には鉄扇を装備。

正体がバレない様に口調を丁寧語にして、戦い方も暗器を使った戦い方ではなく変則カウンターを主体としている。

 

 

『八宝斎』

 

実戦型格闘技「無差別格闘流」の創始者で、早乙女乱馬、早乙女玄馬、天道早雲の師匠。

作中最強最悪の人物で118歳。アニメでは300歳を越えていた。非常に小柄で、子供じみた性格。極度のスケベで、下着泥棒の常習犯。

悪意のイタズラを働く事も多いが、基本的に女性には暴力を振るわない(女らんまは例外)。

天道かすみ・早乙女のどかなど「母親」的ポジションの女性にはセクハラを行わず、原作やアニメでも意外と子供には甘く、優しく接するシーンも多数存在し、二ノ宮ひな子の貧弱な体を治す。子供達の為に自身を花火にして打ち上げる等の行為は行っていたので悪い事ばかりではない。

 

師匠として微塵も尊敬されていないと思われていたが、寿命で倒れた際に早雲と玄馬は寝ずの看病をしたりと心の底では慕われていた。

 

 

『九能帯刀』

 

風林館高校の剣道部主将であり、自称『風林館高校の蒼い雷』。

登場初期は乱馬と引き分ける実力者だったが、乱馬に勝負を挑んでは軽くあしらわれるパターンが定着してしまう。自信過剰な性格だが、『木刀で地面を割る』『石柱を切る』など一般人目線なら驚異の実力者。

あかねに惚れており、風林館高校の全生徒に「天道あかねに勝たなければこの九能帯刀が交際を認めない」と宣言し、あかねの男嫌いを加速させた人物でもある。また、女状態の乱馬を『おさげの女』と呼び交際を申し込んでいる。

乱馬が変身体質である事を知らず、乱馬とおさげの女が別人だと思い込んでいる。

実家は地元の名家で屋敷は城と見間違える程にデカい。

聖ヘベレケ女学院に通う九能小太刀は実妹。

 

 

『九能小太刀』

 

九能帯刀の妹で、聖ヘベレケ女学院に通う高校生。丁寧な言葉使いと『オーホッホッホッ』と高笑うのが癖。

 

新体操部のエースで、リボンを自由自在に使うことができる。

外出時は洋服を着ているが、常に下にレオタードを着ていて戦闘体勢に入ると即座に脱いでレオタード姿になる。料理が出来て成績優秀だが、性格に難があり、兄の帯刀ですら『変態妹』『陰険で執念深く気立てが悪く根もひねくれていて、狙った男は逃がさない』とコメントしている。

乱馬に惚れてアプローチを続けているが相手にされていない。乱馬はシャンプー、右京といった女性に言い寄られた時は顔を赤くする場面があったが、小太刀の時には顔を赤くする事はなく寧ろ、恐怖心を抱いていた。

アニメではファザコンという設定が追加された。

 

 

『猿隠佐助』

 

アニメオリジナル。

代々九能家に使えているお庭番。九能兄妹に振り回されている苦労人。

使用人がいない九能屋敷を一人で管理している。

実は作中で比較的常識人に当たる人物で、周囲を宥めたりツッコミを入れる役。ストーリーの進行役になる事も多く、彼単体のエピソードも多数存在する。

敵対してる時は呼び捨てだが、普段は敬語で喋り『◯◯殿』と敬称を付けて呼ぶ。語尾は『◯◯でゴザル』。

 

猿隠流忍術と猿隠流からくりハウス術の使い手。忍者とだけあって素早く、乱馬を翻弄する程のスピードの持ち主。乱馬を翻弄する割には帯刀の稽古相手でボコボコにされる。あかねに稽古を挑まれアッサリ追い詰められる等、強いのか弱いの分からない人物。

 

 



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和風男溺泉を探せ⑤

 

 

 

八宝斎の爺さんに赤こけ壺を奪われた翌日。赤こけ壺を乱馬に任せた俺は店の厨房である物を探していた。

なんで乱馬に赤こけ壺を任せたかと言えば、爺さんの所在は基本的に天道道場だからだ。赤こけ壺を奪うには、やはり同居している乱馬の方が都合が良い。まあ、アニメだと普通に乱馬が赤こけ壺を取り返すからなのだが。

そして赤こけ壺を乱馬に任せた俺が店の厨房で探し物をしているのは、黄こけ壺探しだ。アニメだと赤こけ壺の表面に描かれた地図が示す黄こけ壺の在り処はなんと猫飯店の場所。店の改築の際に出てきた壺が黄こけ壺だったというオチだった。思い返すと俺は触れてなかったが婆さんが幾つかの壺を厨房の奥に置いていたのを思い出した。「漬物やキムチを浸けとく壺じゃ。その内、使うかの」なんて言っていた壺が……あった。

 

 

「やっぱり……黄こけ壺だ」

 

 

奥に片付けられていた壺を引っ張り出すと、出てきたのは黄こけ壺だった。青こけ壺と赤こけ壺と同じ模様と文字で描かれて黄色の壺だから間違いなさそうだ。

 

 

「婆さん、この壺って……」

「なんじゃ、その壺は猫飯店の改築の時に出てきた壺じゃぞ。あの時は気づかなんだが、これは黄こけ壺じゃのう」

 

 

婆さんに黄こけ壺を見せるとビンゴだった。

 

 

「やっぱりそうか。前に漬物とかキムチを浸けるって言ってたのを思い出して店の奥から引っ張り出してきたんだ」

「そう言えばそうじゃったな。すっかり忘れておったわ。となると乱馬が赤こけ壺を取り返そうと無駄になるかのぅ」

 

 

俺の発言と壺を見ながら婆さんは笑うが、話はこれで終わらないのを知っている身としては苦笑いをするしかない。

 

 

「無駄になるかは兎も角。黄こけ壺を見てくれないか?先に調べても損はないだろうからさ」

「そうじゃの……ふむふむ……」

 

 

婆さんに黄こけ壺の解読を頼むと俺は暇になる。取り敢えず乱馬が赤こけ壺を持ってくるのと婆さんの黄こけ壺解読が終わるまで片付けをしておこう。黄こけ壺探しで倉庫が荒れた状態だし。それと……弁当でも作るか。これから山登りになるんだし。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「やったぜ、ムース!赤こけ壺を取り返したぞ!」

「おー、お疲れさん。こっちの準備は終わってるぞ」

 

 

あれから一時間程が経過した頃に乱馬が赤こけ壺を持って猫飯店に駆け込んできた。一緒にあかねと良牙も来ていた。俺はと言えば作った料理を弁当箱に詰めていた。

 

 

「どうしたの、これ?」

「凄い量だな」

 

 

あかねと乱馬が俺の作った料理を覗き込んで来る。こらこらつまみ食いをしようとするんじゃない。

 

 

「乱馬が赤こけ壺を取り返してる間に黄こけ壺を見付けてな。んで、暗号を解読したら弁当が必要になりそうだったんで準備してたんだわ」

「…………へ、黄こけ壺はもう有るのか?」

 

 

俺の発言に乱馬、あかね、良牙はポカンとした表情になる。うん、まあ、そうだよね。

 

 

「前に店の奥に仕舞っていた壷が赤こけ壺と青こけ壺に似てたのを思い出してな。引っ張り出したらビンゴだったって訳だ」

「お、俺の苦労って……」

「苦労したのは俺だろうが!」

 

 

俺が笑いながら話すと乱馬がガックリと肩を落とす。すると乱馬の様子を見た良牙が乱馬にツッコミを入れた。

思い返してみると、アニメだと八宝斎の爺さんから壺を取り返す為に乱馬はPちゃんに下着を被せて、そっちに注意が向いている間に赤こけ壺を奪う……だったな。

 

 

「良牙が苦労したって何したアルか?」

「何をしたんですか良牙さん?」

「あ、えと……それは……」

 

 

シャンプーとリンスに聞かれて顔を赤くして黙る良牙。これはビンゴだな。お前は乱馬にもっと酷いことをしてるんだから、もう少し苦労しろ。

 

 

「そんな事より、黄こけ壺の暗号はなんだったんだ!?」

「三つ子岩に三つ壺、捧げて一番星が輝く時、和風男溺泉が涌き出る……って暗号だったんだ。んで、調べたら町外れの山に三つ子岩ってのがあるから、其処だろうと判断した」

「あ、三つ子岩なら知ってるわ!小学校の時に遠足で三つ子岩の近くに行ったわ!」

 

 

乱馬が和風男溺泉について話を促すので、俺は婆さんから教えて貰った暗号を説明すると、あかねが昔、其処に行ったと言う。これで準備は整ったな。

 

 

「ま、と言う訳だ。後は三つの壺を持って三つ子岩まで行けば和風男溺泉に巡り会えるって事だ。距離が距離だから弁当も用意したし出発するか」

 

 

話をしながら料理を弁当に詰めていた俺だが作業も終わり、弁当箱の蓋を閉める。これでよしっと。

 

 

「ホッホッホッ。ピクニックみたいじゃの」

「リンスも小学校で行くだろうから、下見になるな。さて、俺と乱馬と良牙で壺を持つからシャンプーとあかねは弁当箱を持っていってくれ」

 

 

婆さんの発言に俺はシャンプーとあかねに弁当箱を渡してから壺を持ち上げる。

ピクニックとは言うが……山に行ったら八宝斎の爺さんが待ち構えてるんだよなぁ……今までの分の借りも返したいし叩きのめしてやろう。そんな事を思いながら俺達は三つ子岩のある山へと向かい始めた。

 



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和風男溺泉を探せ⑥

お待たせしました。更新再開します。
本当なら今話で終わらせるつもりだったのですが長くなったので分割します。



 

 

 

三つの壺が揃った俺達はそれぞれの壺を俺、乱馬、良牙が持ち、弁当をシャンプーとあかね、荷物無しなのが婆さんとリンスだ。老人と子供に荷物を持たせる気はない。

 

電車に揺られながら二時間程経過して目的地の山に到着。ハイキングに向いた山で参道が整えられていた。

 

 

「此所に……三つ子岩があって……」

「其処に壺を捧げれば和風男溺泉が……」

 

 

乱馬と良牙は念願の男に戻れると息巻いているが、俺としては不安要素もある。まず第一に爺さんの妨害だ。これはほぼ確実にあると思った方が良いだろう。リベンジマッチだ。これは俺も気合いが入る。

 

問題なのは和風男溺泉だ。原作やアニメの通りなら成分が枯渇して枯れている泉で残念……となるが、万が一和風男溺泉が湧き出た場合、本当に元の姿に戻れるか否かだ。あの時、ガイドが言っていた。体質に馴染まない内に入ったら体質が混ざり、変身後の姿が変わってしまう。下手をすると元に戻れないリスクがある。

思えば原作のパンスト太郎が良い例だ。パンスト太郎は変身後の姿で蛸溺泉に入りタコの足を変身後の姿に付け足した。つまり、変身したまま他の泉に入ると変身体質が混ざるという事だ。

 

出来たらこの辺りはもっと調べてから、和風男溺泉に入りたかったが仕方ない。一応の対策としては変身前の状態で和風男溺泉に入るしかない。

 

 

「それにしても……良牙君まで付いてきてくれるなんて友達思いなのね」

「い、いやぁ……それほどでも」

「なーに、言ってんだよ、良牙は……ぶわぁ!?」

 

 

俺が考え事をしていると、あかねの発言に良牙が照れたかと思えば、乱馬が何かを口走りそうになったのを感じて池に突き落とした。池に落とされた乱馬は女になってしまう。

 

 

「さあ、行こう皆!青春の時は短い!無駄にしてはいけないん……ぐぇ!?」

「気合い入れるのは結構だがそっちじゃねーよ。方向音痴は勝手に動くな」

 

 

乱馬を突き落としたのを誤魔化そうと走り出した良牙だが、走り出した先は山ではなく駅に向かって走ろうとしたので首に縄を掛けて阻止した。もう方向音痴の次元では無いと思う。

やれやれとため息を吐きながら山頂へと歩き始めた俺達。歩いていると、ふと乱馬が話し掛けてきた。

 

 

「しっかし……ムースは用意周到だよな。俺が赤こけ壺を取り返してる間に黄こけ壺を探し当てて、三つ子を調べあげてから弁当も用意してるなんてよ」

「黄こけ壺の事は単に思い出しただけだよ。三つ子岩の事にしたって地元じゃ有名な岩らしいからな。あかねも知ってたみたいだし」

 

 

乱馬は俺を見上げながら珍しく賛辞を送ってきた。純粋な言葉に裏がないと感じる辺り本当にそう思っているのだろうな。

 

 

「乱馬だって、爺さんから赤こけ壺を取り返したんだろ。あの爺さん相手に大したもんだ」

「はは……良牙にも手伝ってもらったんだけどさ」

「乱馬、あれは手伝いなんてもんじゃないだろ。パンツを被せられた恨みは忘れんからな……」

 

 

俺達の会話に良牙が入ってくる。なるほど取り返し方も同じだったかと思い出す。アニメだと赤こけ壺を取り返す為に乱馬はPちゃんに爺さんが盗んだ下着を頭に被せる。爺さんがその事に気付いてPちゃんを追い掛け回してる間に乱馬は赤こけ壺を奪い返す話だったが……話を聞くとまったく同じやり取りがされていたらしい。良牙はその事に腹を立てているが……

 

 

「良牙、お前は乱馬に更衣室侵入の罪を被せただろ。その事と今回の事でお互い様にするんだな。それとも、あかねに全て本当の事を話そうか?」

「ぐ……わ、わかった」

 

 

俺がギロっと睨むと良牙は押し黙る。ったく……反省しない豚野郎め。

因にだが、俺と乱馬と良牙は会話を聞かれない様に女性陣とは距離を離して歩いている。今の会話を聞かれただけで良牙は社会的に死ぬな。

 

 

「待てい、小童共!」

「や、やっほー」

 

 

等と此処までは順調だったが、俺達の行方を阻むように八宝斎の爺さんが立ちはだかった。さぁて、リベンジマッチといきますか。

 

 

「ジジイ!」

「お父さん達まで!」

 

 

乱馬が爺さんの姿を確認すると叫び、あかねは爺さんに連れ従っている早雲さんと玄馬さん達に驚いている。

 

 

「乱馬よ、わしのコレクション入れにしておった壺を返せ!この泥棒め!」

「そのコレクションは盗んだ下着で赤こけ壺は俺達が九能から借りている壺だ。どっちも爺さんの所有物じゃないだろ」

 

 

爺さんが怒りと共に叫ぶ。が、俺のツッコミに目を丸くしてポカンとしている。

 

 

「そ、そうですよお師匠様。ムース君の意見が正しいかと……」

「それにワシも元の姿に戻りたいですし……どうかご自重を……」

「えーい、黙れ黙れ!一度わしの手に収まった物はわしの物じゃ!返してもらうぞ!」

 

 

早雲さんと玄馬さんの説得も虚しく爺さんの闘気が膨れ上がった。

 

 

「やるしか……ないみたいだな」

「冗談じゃねぇぞ!此処まで来て引き下がれるか!」

「邪魔するってんなら容赦しないぜ!」

「私達もやるわ!」

「当然ネ!」

 

 

俺の言葉を皮切りに乱馬、良牙、あかね、シャンプーは邪魔する気満々の爺さんと闘う体勢に入る。

 

 

「ホッホッホッ、こりゃ良い見世物となるのぅ。リンス、危ないから下がっておれ」

「は、はい」

「じゃあ我々は観戦しようか早乙女君」

「そうだね、どっちに加勢しても後が怖いし」

 

 

婆さんは三つの壺と弁当を持って壁際まで下がり、リンスの警護もしてくれている。これで心置きなく戦えるな。早雲さんと玄馬さんも婆さんとリンスの側で観戦する様だ。

 

 

「行くぜ!」

「ふん、小童共が!元祖無差別格闘流奥義、御彼岸御萩重!」

 

 

乱馬と良牙とあかねとシャンプーが爺さんに一斉攻撃を仕掛けようとすると、爺さんは妙な構えから腕を振るう。俺は即座に横に避けて射線上から退避した。すると爺さんが振るった位置から竜巻が発生し、四人は竜巻に飲み込まれ宙に舞い上がる。

 

 

「つ、遂に出た……御彼岸御萩重」

「あれぞ、お師匠様が御彼岸の日にお萩を独り占めした際に思い付いた奥義。今でも思い出す、あのアンコの艶と香り……卑しきお師匠様ならではの奥義」

「解説どうも!」

 

 

早雲さんと玄馬さんの解説を聞いた後、俺は両袖から鉤爪付きのロープを取り出し乱馬達に向けて伸ばし、それぞれをキャッチしてから良牙を一番下にして乱馬、あかね、シャンプーの順番に落とす。下敷きになった良牙は苦しそうだが乱馬、あかね、シャンプーのダメージは最小限で済んだ。

 

 

「何しやがる!」

「直接叩き落とされるよりもマシだろ?それにあかねやシャンプーはあの高さから落ちたら危なかったんだし」

 

 

良牙が俺に抗議しに来るが仕方ないだろ。因にだが良牙の次に乱馬を落としたのは良牙の上にあかねやシャンプーを落としたくなかったからだ。

 

 

「わしの御彼岸御萩重の射線を見抜いて避けたのは褒めてやるが……打つ手は無かろう。さあ、壺を返してさっさっと帰れ!」

「こっちにも意地があるんでな!」

 

 

爺さんの叫びに俺は袖に仕込んでいた鉄球を爺さんに放つ。当然、避けられるが一瞬動きを止められれば十分だ。

 

 

「秘技、手裏剣豪雨!」

 

 

この技は相手の視線を外側へと向けさせて、動きを止めたと同時に相手が居る位置に手裏剣を雨のように降らせる技だ。俺は鉄球を投げたと同時に、両袖に仕込んでいた手裏剣を爺さんが居る位置に満遍なく落ちるように上空に投げた。そして爺さんが鉄球を避けて動きが止まれば後は手裏剣が雨のように降り注ぐ。逃げようにも動きを止めてしまった以上回避は間に合わない筈……だった。

 

 

「なんと……じゃが、甘いわ!」

「げっ!?」

 

 

なんと爺さんは懐から手拭いを出すと自身の頭の上で振り回して手裏剣を叩き落とした。手裏剣が雨のように降り注ぐにも関わらず爺さんは楽しそうにしていた。んな、バカな。

 

 

「未熟者めが!」

「げほっ!?」

 

 

爺さんは全ての手裏剣を叩き落とした後に俺との間合いを詰めると、キセルで俺の腹を突いた。あまりの出来事に呆然としてしまった俺はガードする事も出来ずに重い一撃を食らってしまった。俺はそのまま仰向けに倒されてしまう。

 

 

「手裏剣豪雨とは洒落た技じゃったが……あの様な技は厚手のコートか気で強化した手拭いでもあれば防げるわい。落ちてくる速度とタイミングが同じじゃから後はそれに間に合うようにコートや手拭いを振るえば良い。ついでを言うなら刃引きをした手裏剣なんぞ怖くないわ馬鹿者が」

 

 

やはり化物だ、この爺さん。落ちてくる手裏剣の速度とタイミングを見切って手拭いで叩き落としやがった。口で言うのは簡単だがそれを実行するのは格段に難しい。流石、腐っているが達人だな。つうか、突かれた腹が超痛い。

 

 

「そんな……ムースまで……」

 

 

あかねの絶望した様な声を出す。やっぱ俺や乱馬達では敵う相手じゃなさそうだ……

 

 

「どれ、さがっておれ。お主等の敵う相手じゃなさそうじゃ」

「むっ」

 

 

俺達が爺さんに敗北したのを見ていた婆さんが前に出る。そんな婆さんを見て、爺さんは俺達の時とは違って警戒した様に構える。

 

 

「油断のならぬ相手じゃな!」

「それはお互い様じゃ。見よ、このシルバーパワーを!」

 

 

互いに気配で強さを察したのか互いに闘気を異常に高めている。おいおい、地鳴りまで発生してるぞ。

 

 

「むう……中国三千年妖怪と日本の邪悪の権化。果たして勝つのはどちらでありましょうか?」

 

 

解説をする玄馬さん。確かにこの戦いの結末は予想不可能だ。なんせ強さの次元が俺達とは違う。こんなんで戦いを予想しろとか無理だよ。

 

互いに隙を窺ってるのか闘気を高めたまま膠着状態になった婆さんと爺さん。この戦い……どうなる?アニメだと婆さんのブラジャーで決着が付いたけど。しかし、この戦いの結末は意外な形で訪れた。

 



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和風男溺泉を探せ⑦

やっと和風男溺泉編完結。


 

 

 

 

一触即発。婆さんと爺さんの戦いは凄まじいものとなり、膠着状態に陥った。しかし、その雰囲気を破ったのは意外な人物だった。

 

 

「……ぐすっ」

「へ?」

 

 

誰かの泣き声に八宝斎の爺さんの闘気が消える。いや、ぶっちゃければ、その場に居た全員が呆気に取られた。全員の視線は涙を流すリンスに注がれている。

 

 

「ぐす……ひっく……なんで……ムース兄様達を苛めるんですか?……うっ……」

「あ、いや……そ、それは……」

 

 

おおぅ……爺さんがたじろいでる。そういや八宝斎の爺さんって邪悪の権化だけど子供には甘かったな。原作やアニメじゃ子供には優しく接する話もあったっけ。リンスの涙に爺さんは一歩、二歩と後退る。

 

 

「ひ、くっ……ムース兄様も乱馬さんも元の姿に戻りたいのに……なんで意地悪するんですか?」

「わ、わしは……あ……」

「「「あ」」」

 

 

リンスの涙ながらの説得に後退りをしていた爺さんは、崖から足を滑らしてそのまま落ちていった。その光景に俺達の言葉も重なる。

 

 

「この高さだし……死んだかなぁ早乙女君?」

「うむ……これで世も平和になる」

「「これで我等の老後は安泰だ!」」

 

 

崖から落下した爺さんの安否……というか生死を確認している早雲さんと玄馬さん。そして目の上のたんこぶが消えた事に喜んでいたが、そんな二人を見て乱馬がドロップキックで早雲さんと玄馬さんを崖から蹴り落とした。

 

 

「親父達も同罪だ!」

「高さはあるが……下は川だし大丈夫だろう。見た感じ上手く川に落ちたみたいだし」

「乱馬は兎も角、ムースも冷静よね」

 

 

怒ってる乱馬に俺は早雲さんと玄馬さんの落下先を眺めていた。確かに高さはあるが、下は川だし上手く川に落ちていったから一応は無事の筈。遠かったけど水飛沫が見えたし。アニメでも爺さんと一緒に川に落ちていたし無事だろう。そんな事を思っていたら、あかねからツッコミが入る。あかねが落ち着いてるのも俺が状況を見てたからなんだと思う。じゃなきゃ、親が崖から落とされたのにこんな冷静にはならんだろう。

そんな中、シャンプーはリンスを慰めていた。やれやれ、原作とは違う流れになったけど穏便に済んだ方かな?

 

この後、俺達はまだ日が暮れるには早かったので俺が作った弁当に舌鼓を打ち、少し休憩。俺の料理の腕前を知った、あかねから料理を教えて欲しいと頼まれた。うん、あかねの料理は恐らく、原作・アニメ同様に壊滅的だろうから、しっかりと指導してやろう。話の流れでリンスにも教える事となり、シャンプーも一緒になる事となった。華やかだねぇ。

 

小休憩も終わった所で三つ子岩を目指して歩く俺達。軽いハイキング位のノリだったのだが段々、道が険しくなっていき最終的にはロッククライミングみたいになっていた。あかねは小学校の遠足で三つ子岩の近くに行ったと言っていたが、小学校の遠足の範疇を明らかに越えた道のりを俺達は行く。

因にだが、俺と乱馬と良牙で壺を持ち、あかねは空になった弁当箱を背負い、シャンプーがリンスを背負って山登りをしていた。婆さんは杖に乗りながらヒョイヒョイと山を登っていく。さっき玄馬さんが『中国三千年妖怪』と比喩していたが、あながち間違ってない気がする。

 

 

苦労の末、遂に三つ子岩に辿り着いた俺達。やっと男に戻れると乱馬と良牙は涙目になっていた。俺は一先ず壺を下ろすと湯を沸かし始める。和風男溺泉は原作やアニメだと成分が枯れて効果がないとされていたが、万が一を考えると乱馬を女のまま入らせる訳にはいかない。沸かした湯で乱馬を男に戻した後、俺達は一番星を待った。

 

暫くすると一番星が夕焼けの空に輝き、それに反応して青こけ壺、赤こけ壺、黄こけ壺から水が溢れ出て来た。本当に和風男溺泉が沸き出た事に俺を除いた全員が驚き……そして絶望した。

 

 

「なんで……なんで女になってんだ!?」

「ど、どうなってるんだ!?」

 

 

乱馬が良牙を押し退けて和風男溺泉に一番に入ったが……男の状態だった乱馬は女乱馬に変身してしまう。これは乱馬の体質が元に戻らなかったという事だ。

 

 

「やっぱこうなったか……」

「ムース、こうなるって分かってたのカ?」

 

 

俺が溜め息混じりに一言呟けばシャンプーが俺の顔を覗き込みに来ていた。

 

 

「出来れば当たって欲しくない予想だったけどな。もしも和風男溺泉が本当に存在するならもっと話題に上がっても良い筈だ。それが無いって事は和風男溺泉が存在しないか伝説だけか……まあ、期待はしてたんだけどな」

「予想は当たってるぜムース……」

 

 

俺はあたかも予想していたかのような発言をする。原作やアニメを知ってからなんて言えないので考えていたカバーストーリーだ。そんな俺に乱馬が一枚の板を渡す。其処にはこう書かれていた。

 

 

「えーっと『長らくご愛顧頂いた和風男溺泉は成分が枯渇した為に閉店します。男溺泉をご所望の方は中国呪泉郷をご利用下さい』……か」

「そ、そんな……風呂屋じゃあるまいし……」

 

 

俺が板に書いてあった文章を読み上げると良牙が膝から崩れ落ちた。こらこら、乱馬。そのまま水の中に沈もうとするんじゃありません。

 

 

「さて、帰るかの」

「とんだ無駄足だったネ」

「小学校の遠足でここまで来るんですよね?」

「うん、でも私が来たのは此処よりも低い場所で景色の良い場所だったわよ」

「俺はコイツ等が立ち直ったら帰るよ」

 

 

婆さんの言葉を皮切りにシャンプー、リンス、あかねは先に帰ってしまう。乱馬と良牙を此処に放置するわけにもいかんので俺は乱馬と良牙が和風男溺泉ショックから立ち直るまで待つことにした。

 

その結果、復帰するまで一時間ほど待つ事となり、俺はその間に壺の回収や小太刀とのお茶会をどうするか悩む事となる。会った感じの印象で言えば、小太刀は少しマトモな方向性に頭をシフトさせれば普通に良い子になるのではと考えていた。

 

まあ、色々考えるけど……とりあえずは……

 

 

「はぁ……やっと……やっと男に戻れると思ったのに……」

「こんな苦労をして……無駄骨とは……」

 

 

この凹んだ馬鹿二人をどうにか元気付けなきゃだな。猫飯店でラーメンでも奢ってやるか。俺は未だにブツブツと和風男溺泉ショックから抜け出せていない乱馬と良牙を見てそう思った。

 

 

 

 

 



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ムースの日記⑭と右京との出会い

 

 

□月○日

 

和風男溺泉の件から数日後。俺と乱馬で九能屋敷に赤こけ壺を返しに行った。小太刀からお茶を出され、少し話をした後に帰る。小太刀のお茶に痺れ薬や眠り薬が入っていない事に首を傾げた乱馬だが、実は俺は前日に九能屋敷に来て小太刀に『怪しげな薬を入れずに、お茶だけ振る舞ってみな』と助言をしていた。小太刀から『では、何を入れれば良いのでしょうか?』と返された時は『お茶に何も入れるな。アサシンかオメーは』と思わず素でツッコミを入れた。

まあ、助言の甲斐もあってお茶会は無事に終了。これで小太刀も乱馬の対応を見て少しはマトモな接し方になると願いたい。

 

 

□月×日

 

先日のお礼です、と小太刀から紅茶の茶葉の詰め合わせを貰った。凄く高級な一品だったので驚いたが、小太刀からは『感謝の気持ちですから』と押しきられてしまった。先日のお茶会は小太刀の認識を少し変えたらしい。良い傾向だ。

 

この後だがシャンプーに小太刀との仲を疑われた。シャンプーの機嫌が治るのに数日掛かった。解せぬ。

 

 

□月△日

 

貰った紅茶が凄く美味かった。普段からどんだけ良い紅茶を飲んでんだアイツ。

 

 

□月◇日

 

シャンプーの機嫌が治ったのでデートに出掛けた。まあ、先日のは小太刀の純粋な礼だったと気付いたシャンプーが気まずい雰囲気を出していたので、俺が外に連れ出したのだが。

 

デートを楽しんでいると見知らぬ店が出来ていた。最近、出店したのだろうか?

 

 

□月◆日

 

『近所に店を出しました』と関西弁の男の子が挨拶に来ていた。お好み焼き屋らしいのだが……そこで思い出す。コイツ、男の格好をしてるけど女の子だ。乱馬の幼馴染みの久遠寺右京。和風男溺泉の時もだけど……これから騒がしくなるんだろうなぁ……と俺は何処か他人事の様に感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆side右京◇◆

 

 

ウチはこの町に店を出すと決めてから近隣の飲食店に挨拶回りをしとった。

お父ちゃんの下を離れて暮らすと決めたのもウチを捨てた早乙女玄馬と乱ちゃん……やなかった、乱馬に復讐する為や。たっぷりと焼きを入れたる。

でも、この町に店を構えると決めたのも復讐のためだけやなかった。短期間やけど住んでみて良い町やからと思ったからだった。

 

そんな中、今日の挨拶する店はこの町でも人気中華料理屋の『猫飯店』やった。町の人の噂でも良い店だと聞いていたのですぐに挨拶に行きたかったのだが、先日挨拶に来たら臨時休業やった。通りがかりの人から『今日はピクニックに行くと行ってたよ。なんか壺を担いでたけど』と言っていたが、なんでピクニックで壺を担いでたんやろ?

 

それは兎も角、今日こそは挨拶という事で暖簾をくぐる。

 

 

「いらっしゃい。お一人様ですか?」

「ああ、お客さんとちゃうねん。近所にお店出したんで挨拶に来たんですわ」

 

 

店に入ると長髪でメガネを掛けた兄さんが接客に来てくれた。なんや、格好いい兄さんやな。

 

 

「そうでしたか?あ、もしかして二丁目の所の?」

「そうです。なんや、知ってたんですか?」

 

 

意外な事にもうウチの店を知っていたらしく直ぐに気付いてくれた。

 

 

「先日、その近くを通ったんですよ。おーい、婆さん、シャンプー」

 

 

ニコリと笑みを浮かべた兄さんは店の奥に行ってしまう。他の店員を呼びに行ったらしい。

町の人が良い店だと言っていたが理由が少しわかった気がする。店の雰囲気や店員さんの態度が優しいからなんやと感じた。

 

この後、店の奥からやけに小さいお婆ちゃんと綺麗な娘が出てきた。年齢の近いと言う事でシャンプーとはすぐに仲良くなったけど……なんや、兄さんの方がウチをジッと見ていた。

 

 

「なあ、キミ……男の格好をしてるけど女の子だろ?」

「女アルか!?」

 

 

なんやろうと思ってたら兄さんが驚きの発言をする。隣に座っていたシャンプーも凄く驚いていたが、ウチはもっと驚いていた。ウチは自分の部屋に居る時以外は男装をしている事が多く、今も髪を束ねて手拭いで固めてるから後ろ髪は見えない筈だし男の服装をしてるから気付かれないと思ってたらアッサリと見抜かれた。この兄さん、何者や!?

 

 



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ムースと右京

 

 

 

俺が右京が女である事を指摘すると、右京本人もシャンプーも凄い驚いていた。俺も原作を知らなければ同じリアクションだっただろう。

 

 

「兄さん、何で気付いたんや!?大概の人は言わなきゃ気付かへんで!?」

「仕草や動きからかな。何となくだけど男として振る舞おうとする動きが見えたのと……後は体のラインかな。男にしては華奢すぎる……どがっ!?」

 

 

 

俺が右京を女の子と気付いた経緯を説明していたら後頭部を殴られた。振り返るとシャンプーが丸盆で俺を殴っていたのだと分かる。おいおい、ステンレス製のお盆が凹むってどんだけ強く殴ったんだよ。超痛い。

 

 

「それでジロジロ見てたアルか!」

「いや、すまん。つい癖で」

「ムースは暗器使いじゃからな。相手を観察するのが癖なんじゃよ」

 

 

ああ、女の子をジロジロ見てたら、そら怒るわな。婆さんのフォローも入って少し怒りが軟化した様だがまだ納得はしてない感じだ。

 

 

「あ、はは……そうやったんか。でも、ウチは女を捨てた身や。気にせんでええよ」

「女を捨てるにはまだ早いと思うがの」

「そうそう。捨てるなら婆さんくらいの年齢になってか……らぅ!?」

 

 

苦笑いの右京に婆さんが口を出す。俺は口が滑って婆さんの杖に小突かれた。地味に痛い。

 

 

「女一人でこの町に来たのも、何か理由が有るのカ?」

「………復讐や。ウチが女である事を捨てる切っ掛けを作った親子に焼き入れる為や」

「穏やかじゃねーな」

 

 

シャンプーが疑問を口にすると右京は俯きながら答えてくれた。俺は穏やかじゃないと言いつつも事情を覚えてるから何とも言えない。

 

そもそも事の発端は十年以上前に乱馬と右京が出会った頃にまで遡る。乱馬の親父の玄馬は右京の親父から右京を乱馬の嫁にと提案を持ちかけられるが玄馬は一度は拒否するも持参金代わりの屋台に目がくらみ、屋台だけを持ち逃げし、右京は置き去りにした。

 

普通に刑事案件だよな、これ。裁判になったら確実に負ける。恨まれるのも当然だと思うが……だけど、この頃の右京は口では恨んでると言ってはいたものの乱馬を意識してるのがバレバレだった。

 

 

「それで、その親子の所在はわかっておるのか?」

「この町に居るって噂を聞いたんや!それにお父ちゃんから、そいつに許嫁がおって、其処に居候してるちゅー話も聞いとる!」

「この町に居て……許嫁の家に住んでる?」

 

 

話の流れで婆さんが右京の身の上話を聞いていたのだが、この中で右京の復讐の対象の情報が出ると婆さんとシャンプーはハッとした表情になる。うん、そんな奴はこの町に一人しかいないだろう。

 

 

「なんや……婆ちゃん達、なんか知っとるんか?」

「もしかして、乱馬カ?」

「……だろうな」

「あやつしかおるまい」

 

 

右京が怪訝な顔付きで訪ねてくるが俺達は既に確証を得ていた。この町で許嫁の家に居候していて、人に迷惑を掛ける親子。これだけの情報があれば察する事は出来るだろう。そして右京から子供の頃の話と名前を聞くとやはり、早乙女親子の犯行だと判明する。

 

 

「迷惑な親子じゃのう」

「女の敵ネ」

「焼き入れるなら俺達は止める気はないから安心してくれ。その噂の許嫁の家だが……」

 

 

俺達は早乙女親子に同情する気はなかった。そろそろ本気で反省してもらわないとトラブルが目白押しすぎる。

俺は右京に天道道場の住所を教えると右京から感謝された。

 

 

「ほな、おおきに。探すのにもっと時間かかる思てたから助かったわ!」

「今度、妹も一緒にお好み焼き食べに行くよ」

 

 

俺達は右京を見送りに店の外に出ていた。話し込んでしまったが右京も引っ越したばかりでやらなければならない仕事が多いのだ。

 

 

「妹?なんや兄さんの妹なら可愛いんやろうなぁ」

「いや、俺の妹じゃなくてシャンプーの妹なんだ……もっとも」

 

 

右京は俺に妹が居ると勘違いした様だが、リンスは俺の妹じゃなくてシャンプーの妹だと訂正して、俺はシャンプーを引き寄せ肩を抱く。

 

 

「何年かしたら俺の妹にもなるけどな」

「え、あ……ムース…」

「うっひゃぁ……大胆やわぁ」

 

 

俺の発言に一瞬遅れてから顔を赤くしたシャンプーと意味を察して顔を赤くする右京。女の子のテレる顔って可愛いね。

 

 

「あはは……ほな、ご馳走さまぁ~」

 

 

右京はそそくさと猫飯店を後にした。シャンプーはジッと俺を見上げてる。

 

 

「ムース……その……さっきの……」

「ただいま、帰りました!」

「お、おかえりリンス」

 

 

シャンプーが何かを言おうとしたと同時にリンスが帰って来た。俺とシャンプーは向かい合ったままリンスを出迎える形となってしまった。

 

 

「?……どうかされました?」

「いや……さっきまでお客さんが来ててな」

「今度、リンスも一緒にお好み焼き食べに行くネ」

 

 

小首を傾げるリンスに俺とシャンプーは簡単に事情説明をする。くそう、せっかくいい雰囲気になりかけてたのに……

 

 

「ムース……後で話があるネ」

「ん……わかった」

 

 

シャンプーの真面目な表情に俺は思わず頷くが……さっきまで上機嫌だったのが急に真面目な顔付きになったな。何か思うところでもあったのだろうか?

 



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シャンプーの不満

 

 

 

◆◇sideシャンプー◆◇

 

 

 

私はムースを部屋に呼び出した。最近のムースの行動に少し疑問を感じたから。

 

 

「シャンプー」

「ムース……待ってたネ」

 

 

店の仕込みを終わらせたムースが私の部屋に来る。さっきの私の雰囲気を察してか、ムースの表情は固かった。

 

 

「えっと……シャンプー、話って……」

「さっきの右京や……小太刀の事ネ」

 

 

私が話を切り出すとムースは顔を歪めた。最近の行動に自覚があったのか気まずそうにしていた。

 

 

「私はあかねと乱馬の仲を取り持ちたい……でも、最近のムースは乱馬を狙ってる女の手助けしてる何故アル?」

「そればかりが理由じゃないんだがな……一応、他にも理由はある」

 

 

私が睨むとムースは縮こまって言い訳を始める。

 

 

「まず……小太刀の件だけど、この間、赤こけ壺を返しに行った時に佐助から聞いたんだが……」

 

 

佐助って九能の屋敷に居たお庭番だった筈。そいつに何を聞いたって言うんだろう。

 

 

「小太刀は九能家っていう特殊な環境で育ったせいで男の選び方も特殊だったらしい。聞けば保育園に通っていた時も顔が良い男を同じ保育園の女と取り合って大ケガをさせたらしい。それ以来、男を選ぶ基準も顔が一番だとか。それを考えれば兄も似たような感じだったが」

「それが乱馬と小太刀を仲良くさせた理由アルか?」

 

 

それだけじゃ理由にならないと思っていたが、ムースには他にも理由があったらしく説明が続く。

 

 

「つまり……小太刀は一般常識的な恋愛を知らないって事だ。それを教えてやれば少しはマトモになるかと思ってな。因みにだが、お茶会の時も俺が止めなければ痺れ薬を入れようとしていた」

「一般常識的な恋愛以前の問題アル。そんなのを親はなんで止めないネ」

 

 

小太刀の普通じゃあり得ない行動に私は少し引いた。

 

 

「一般常識的な恋愛は女傑族も人の事は言えないけどな。九能家の父親は十年以上前から仕事で何処か行っているらしくて不在、母親は既に離婚していて居ないそうだ。そんな中で小太刀が見ていたのは兄のみ。それであんな性格になった……と考えられる」

「仕事で十年不在って……」

 

 

私の疑問にムースは悩みながら答えた。どんだけ常識外れな一家アルか。

 

 

「佐助の話じゃ今はハワイに研修に行ってるらしいが……その為に小太刀が物心が付いた頃には父親は家に居なかったそうだ」

「それ、本当に仕事アルか?」

 

 

仕事で十年不在ってだけで相当怪しいと思う。

 

 

「まあ、つまりだ。小太刀はあの家でマトモな方向性の考え方をしないって事だ。マトモな恋愛を学ばせれば乱馬に対する執拗な恋愛姿勢も直るかとおもったんだ」

「つまり……小太刀と乱馬を仲良くさせてるのはそういう理由アルか?それじゃ右京の方はどんな理由ネ?」

 

 

小太刀の方の理由は分かったけど……右京の方はどんな理由か訪ねるとムースは言いづらそうにしていた。

 

 

「その……さ。右京は子供の頃の約束を破られたって言ってただろ?子供の頃の初恋が実らない……って思ったら少し俺達の立場に重なってな」

 

 

ムースの言葉に私はハッとなる。右京の心情を思えば、一緒になれると思っていた人と一緒になれない。それは私が最近感じた、怖い思いだった。私は両思いとなれたが右京は相手方に裏切られて一人取り残されたのだ。それを思うとムースが右京に少し肩入れした気持ちもわかる……だけど……

 

 

「私はあかねと乱馬が一緒になって欲しいアル。あかねは私の恩人で親友ネ」

「ああ……俺も同じ気持ちだ……でも、右京の気持ちもわかるから、ほんの少しだけ背中を押してやった。後は当人達に任せようとは……思ってんだけどなぁ」

 

 

私が思いを吐き出すとムースは困ったように笑って、悩みながら頭を掻いていた。ムースはいつもそうアルな。誰かの為にと悩んで世話を焼いて……思い出したらイラッときた。

 

 

「ムースは……他の女の子の応援ばかりしてるけど、私の事はほったらかしアルか?」

「そんな事……ないようにしたかった。ごめん、最近バタバタしてて構ってやれなかったな」

 

 

そう言うとムースは私に抱きついてきた。むう、誤魔化されてる気がする。でも、最近ムースと一緒の時間が無かったから……そう思った私はムースの背中に手を回す。

 

 

「ムー……」

「シャンプー、ムース。そろそろ開店時間じゃぞ」

 

 

私がムースの名を呼ぼうとすると一階から曾バアちゃんに声を掛けられ私とムースはビクッと体を震わせる。

互いに顔を赤くしながら気まずい雰囲気の中、私たちはソッと離れた。

 

 

「は、はは……開店時間だったな、うん」

「そ、そうアルね。私、少ししたら下に降りるからムースは先に行くヨロシ」

 

 

ギクシャクとしながらムースは私の部屋を出ていく。それと同時に溜め息が溢れた。

なんか……折角、許嫁になったのにバタバタしててムースと一緒の時間が作れないネ。そんな不満を抱えながら私はエプロンを身に纏い、下に降りた。

 

 



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右京と玄馬の決闘

 

 

 

 

猫飯店の買い出しを終えた俺は買い物袋を下げながら歩いていた。普段から使う調味料の一つが在庫がなかったのだ。まだ予備があると思っていたら、既に予備を使い終えた後で急遽買い出しに出た俺は、空き地から聞こえた声に足を止める。

 

 

「おじ様!早乙女のおじ様、しっかりして!」

 

 

 

あかねの声……そんで、このシチュエーションって、もしかして。空き地の塀からこっそりと中を覗くと倒れている玄馬さんと呼び掛ける、あかね。更に慌てた様子で乱馬が走ってきた。

 

 

「おい親父、しっかりしろよ、誰にやられたんだよ!」

「ちょっと乱馬、おじ様は怪我をしてるのよ!」

 

 

乱馬は玄馬さんに駆け寄ると無理矢理起き上がらせ、体を揺さぶる。その行動にあかねは慌てて乱馬を止めようとしていた。

 

 

「そ、そっか……おいこら、起きろ親父!」

「怪我をしとると言ってるだろうが、たわけ者!」

 

 

あかねの制止はなんだったんだろうかと思うほどに乱馬は玄馬さんを揺さぶる。その痛みに目が覚めたのか玄馬さんは乱馬の頭に拳骨を落とした。

その瞬間、乱馬を目掛けて大きなヘラが飛んできた。

 

 

「あかね、危ない!」

「きゃあ!?」

 

 

玄馬さんは即座に避けて、乱馬はあかねを庇って抱き飛んだ。真っ先にあかねを庇うとはポイント高いぞ乱馬。

まあ、庇った拍子に胸を揉んでしまったのは不可抗力だろう。あかねは顔を真っ赤にして乱馬にビンタした。

 

 

「どさくさ紛れに何してるのよ!」

「助けてもらって、最初にそれか!」

 

 

夫婦漫才みたいな乱馬とあかねは放っておいて……俺はヘラが飛んできた方にバレない様に移動を開始。移動した先には空き地の塀の部分に立っている人物を発見。やっぱり右京だった。

 

 

「早乙女乱馬!次はお前の番や……たっぷり焼き入れたるからな!」

「ま、待ちやがれ!」

「よせ、乱馬。奴に関わるな」

 

 

宣戦布告をした右京は空き地の塀から乱馬達とは反対方向に飛び降り、後を追おうとした乱馬を玄馬さんが止めた。あっちは大丈夫だろうから俺は右京を見るか。

 

 

「宣戦布告はバッチリや……後は……乱ちゃ……乱馬やな焼きを入れれば……」

 

 

ある程度離れた場所まで移動をした右京はブツブツと呟いていた。あれはどちらかと言うと自分に言い聞かせてる感じだな。

 

 

「そんなに上手く行ったなら重畳だな」

「うひゃあ!?」

 

 

俺が後ろから声を掛けたら、右京は驚いて転んで尻餅を突いた。

 

 

「そんなに驚かせたか?すまない」

「な、なんや……この間の兄さんやんか。驚いたわ……」

 

 

ここまで驚かせる気はなかったんだが、右京は考え事をしてたから俺が突然現れた様に見えたんだろうな。

 

 

「ほら、大丈夫か?」

「あ、うん……やっぱ兄さん優しいわ」

 

 

俺が手を差し出すと右京は俺の手を掴み立ち上がる。うん、怪我はなさそうだ。

 

 

「さっき、空き地の決闘を途中から見てたから気になってたんだ」

「そ、そっか……だったら見ての通りやで。ウチは乱馬に宣戦布告をしてきたわ」

 

 

ドヤ顔をして不敵な笑みを浮かべる右京だけど……内心は穏やかじゃないんだろうな。本当なら初恋兼幼馴染みの乱馬と仲良くなりたいんだろうが、過去の因縁から素直になれないって感じかな。まあ、許嫁に捨てられた過去は簡単には赦せないだろうが。

 

 

「そっか……だがこの間話を聞いた時も思ったけど、乱馬は事情を知らない可能性が高いんじゃないか?」

「乱馬が事情を……知らない?」

 

 

俺の発言に右京は首を傾げた。

 

 

「幼い頃の話だし、玄馬さんが乱馬に事情を話してなかった可能性が高い気がする。で、乱馬はあの時の事を美しい友情だと思ってる……って所じゃないかな?」

「う……あのおっちゃんならあり得る気がしてきたわ……」

 

 

俺の指摘に右京は悩み始める。まあ、原作でそうだったからほぼ当たりだとは思うが。俺の発言にうんうんと唸る右京に俺はポンと頭に手を乗せた。

 

 

「まあ、俺の考えも単なる予想でしかないし……本当の事は本人たちから聞かないと分からないだろう。でも、ほんの少しだけでも信じてやったらどうだ?幼馴染みで初恋の相手なんだろ?」

 

 

俺はそのまま右京の頭を撫でる。右京はキョトンとした顔で俺を見上げていた。一頻り頭を撫でた俺は右京と別れて猫飯店へと帰る。このフォローで少しは状況が良くなってくれればと思いつつ……

 

 

「今日が玄馬さんと果たし合いなら明日は転校初日だったよな、確か……明日は風林館高校に様子を見に行くか」

 

 

原作を知って対策を取り続けてきた俺だが想ってた以上に上手くいかない事が多い。多分、今回もろくな結果に成らないと思いつつも話の行く末は見届けなきゃならないと思い、俺は明日、恐らく乱馬と決闘をするであろう右京の事を考えながら猫飯店へと帰るのだった。



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右京と乱馬の再会

 

 

 

◆◇side右京◆◇

 

 

ムースの兄さんと挨拶をした次の日。ウチは風林館高校に来ていた。勿論、転校する為と乱馬を探すためだった。教室に入ると昔の印象を残したまま大人になった乱馬を見付ける。

 

 

「えー、と言う訳で、転校生を紹介する」

「久遠寺右京、趣味はお好み焼きや。よろしゅう頼んまっせ、挨拶代わりや。お好み焼き乱れうち、食うてんか」

 

 

ウチは挨拶をした後に焼きたてのお好み焼きをクラスの皆さんに配り出す。生徒達は皆、お好み焼きを褒めてくれた。

 

 

「間違いない、昨日の奴よ」

「……ん、右京?」

 

 

教室の真ん中くらいの場所で乱馬の隣に座ってる女の子がウチを見て、何かを呟き乱馬は呆然とした表情でウチを見ていた。

 

 

「ねぇ乱馬、聞いてる?」

「……久しぶりやのう、早乙女乱馬!10年間、探したで、乱馬!」

 

 

ウチを見て呆然とした乱馬に女の子が話し掛けるけど、乱馬の視線はウチに釘付けだった。ウチは久しぶりの再会として昔焼いていた通りにソースで絵を描いて、お好み焼きを投げた。

 

 

「あー……そうだ、お好み焼きのウっちゃんじゃねーか、久しぶり!」

「そ、そうや……」

 

 

乱馬はお好み焼きを受け止めるとウチとの距離を詰める。いや、近い近い!息が掛かるくらいの距離に乱馬の顔がある。ウチは不覚にも少しドキドキした。

 

 

「乱馬、幼馴染なの?」

「ああ、昔、ちょっとの間だけな。ウっちゃんと出会ったのは幼い頃、親父と武者修行の旅に出ていた時だった。親切なウっちゃんはいつも俺にお好み焼きを奢ってくれたっけ」

 

 

女の子の発言に乱馬は昔の思い出を話してる。その顔は懐かしいものを思い出して楽しい事を語っていた顔だった。ムースの兄さんが言っていた通り、もしかしたら乱馬は……乱ちゃんは何も知らなかっただけなのではと思ってしまう。

 

 

「ウっちゃんは俺と勝負したらお好み焼きをくれる約束をしてたんだ。だから毎日勝負して、貰ってたんだ」

「それって強奪じゃない!」

 

 

そんな風に思っていたら乱ちゃんの説明は続く。

 

 

「違う、ウっちゃんは毎日、俺の為にお好み焼きにソースで描いた絵を用意してくれてたんだ」

「へー、戦いの中でも生まれた友情だな」

 

 

乱ちゃんの説明に周囲の目が暖かくなっていく……でも、重要な部分の説明がまだだった。

 

 

「なら……乱馬。別れの時を思い出してみーや」

「別れの時って……そりゃツラかったよ。ウっちゃんも泣きながら手を振って……」

 

 

ウチの言葉に昔を思い出した乱馬だがまだ足りない。もうちょっと気合いを入れて思い出さんかい!

 

 

「えーっと……あれ?何で親父が右京の親父の屋台を引いて俺はその屋根に乗ってるんだ?」

「泥棒じゃない!」

 

 

そう、乱馬と乱馬の親父はウチのお父ちゃんの屋台を盗んだ上にウチとの結婚の約束を破った。

 

 

「違ーう!あれは右京の親父に貰ったんだー!ついでに右京も貰って行く約束だったんだが……」

「んな、猫の子じゃあるまいし」

「……その約束を破って、あっさり捨てて行きくさって!」

 

 

すると親父の早乙女玄馬がいつの間にか教室に入ってきて叫んだ。クラスの一人がツッコミを入れて、ウチも当時の悔しい思い出が蘇り少し、涙目になってしまう。

 

 

「でも貴方、お父さんいたでしょ?」

「そーだよ。どうしてこんなクソ親父について行きたかったんだ?」

「乱馬、お前……訳を知らんのか!?」

 

 

乱馬の隣にいた女の子の発言に乱馬が乗ってくる。その発言にやはり乱ちゃんは何も知らなかったと確信する。だったら訳を話せば昔みたいに……乱ちゃんを好きになれるんやろうか。

 

 

「兎に角、置き去りにされたくらいで大騒ぎすんなよ。男らしくねーな」

 

 

そんなウチの考えを打ち砕いたのは乱ちゃんの発言だった。幼馴染みの許嫁になんやねん、その発言は。昔の事を謝る気も一切ない感じやし……ウチの怒りは頂点に達した。

 

 

「……お前の気持ちはようわかった」

 

 

そう言ってウチは、お好み焼きを焼いてソースに果たし状を書いて投げた。

 

 

「信じたウチが馬鹿やった。乱馬!お前は特に、究極のスペシャルモダンメニューで焼き入れたる!首洗うて待っとれよ!」

 

 

ウチは怒り心頭で教室を後にした。ムースの兄さんには乱馬を信じてみろと言われたけど、とてもそんな気にはなれなかった。

 

 

 

 

◆◇sideムース◆◇

 

 

 

 

「うーん、やっぱりこうなったか」

 

 

俺は校庭に生えてる木の上から教室を覗きながら呟いた。出前の依頼が風林館高校の近くだったから様子を見に来たけど、予想通りな結果になっていた。

そもそも乱馬は右京の事を男だと思っているから無神経な発言で右京を怒らせていた。

 

 

「果たし合いは放課後の筈だし、後で見に来るか」

 

 

そう言って木から飛び降りた俺だったが、その途中で右京を見付けてしまう。教室を飛び出した右京は廊下を歩いていたいたのだが……その目には涙を溜めて悔しそうな表情をしていた。

 

 

「今回はフォローすると乱馬の為にも右京の為にもならなそうだな」

 

 

原作同様に決闘させた方が遺恨が無くなりそうだしね。フォローするとすれば決闘の後の方が良さそうだ。

 



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乱馬と右京の決闘

 

 

 

 

 

乱馬と右京の決闘を前に俺は自室であるノートに目を通していた。これぞ、原作知識を纏めたノート『1/2知識』

俺がムースになった日に覚えてる範囲で原作知識を書き纏めた物だ。実はちょくちょく読み返して対策を取れる様にしていた。パラパラとページを捲っていくと右京の話の辺りに辿り着く。

 

右京の決闘→右京の策略で良牙とあかねのデートに乱馬が乱入→海で惚れ薬の話→ムースとの二度目の戦い→紅つばさ、右京にストーキング。

 

ザッと読み返すと大体の流れはこんな感じだ。まあ、ムースの二度目の戦いは無いだろう。だって、俺は既に日本に住んでいるし、原作と違ってシャンプーと許嫁なんだ。乱馬と戦う理由が無い。

となると気を付けるのは海での惚れ薬の話だな。海か……シャンプーの水着が楽しみだ。

少し、考えが逸れたが話の流れを確認した俺はノートを再度、隠した。このノートが人目に触れないようにちょっとした細工をした机に隠す。順番を守って引き出しを開けないとノートに火が灯り、ノートが燃える様にしてある。このノートがシャンプーや婆さんに見られると大変な事になるからね。バレるよりもボヤ騒ぎを起こして証拠隠滅の方がマシだって事だ。

 

 

そして放課後になり、俺はシャンプーを連れて風林館高校に向かっていた。

 

 

「この間の右京カ、乱馬と決闘をして何するつもりアルか?」

「まだ何も考えてないんだろ。昔の借りを返したいって風には見えたが」

 

 

シャンプーと並んで風林館高校を目指す中、シャンプーは右京の行動に疑問を感じていた。まあ、そりゃそうなんだよな。乱馬に復讐したいならもっと効果的でやりやすいやり方なんかいくらでもある。にも関わらず、右京は自身の手で直接の決着を望んだ。

そこまで考えると俺には一つの答えが出ていた。恐らく、原作でも同様の事が起きていたのではと思う。

 

そんな事を考えている内に風林館高校に到着すると、歓声と何やら美味しそうな匂いがしてきた。おや、これは出遅れたかな?グラウンドまで行ってみると、鉄板を型どった特設リングが設置してあって乱馬と右京が既に戦っていた。右京はゴム入り、焼きそばやボンド入りのお好み焼き生地で乱馬を翻弄し、かんしゃく玉入りの天カスで攻撃していた。

そういや、右京は何処からこのリングを持ってきて設置したんだ?明らかに個人で出来るレベルじゃねーけど。

 

 

「幼馴染みのよしみだ……こんな物騒なリングで叩きのめすのは勘弁してやる!」

「ひえ、うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

リングの事を考えていたら戦いは既に佳境に。乱馬は自身の体に巻き付いていたゴム入り、焼きそばを右京に巻き付けるとリングの外に投げ飛ばした。投げ飛ばした右京を乱馬が後を追い、場外乱闘を始めた。

 

 

「なんたる悲劇!何故、幼馴染みの二人が戦わねばならんのだ!?」

「主にアンタが原因だろ。俺とシャンプーは右京から事情を聞いてるからな?」

 

 

玄馬さんが泣きながら叫ぶが俺は淡々とツッコミを入れた。今回の騒動の90%はこの親父が原因だから。

 

 

「ムースとシャンプーも事情を知ってるの?」

「右京が店を出した時に挨拶に来てな。その時に事情を聞かせて貰った」

「乱馬が女の敵って事を再認識したネ」

 

 

俺とシャンプーの発言に玄馬さんが冷や汗を流し、あかねが小首を傾げた。

 

 

「女の敵って……まさか」

「そ、右京は女の子なんだ」

「そして、そのバカ親父の為に涙を流した悲劇的女」

 

 

俺達は玄馬さんの罪を認識しながら乱馬と右京の後を追った。さて、原作だとプレハブ小屋に落ちた筈だけど……

 

 

「キャァァァァァッ!いややぁぁぁぁっ!」

 

 

右京の悲鳴とパーンと何かを叩く音が鳴り響く。

 

 

「彼処だな」

「乱馬ったら何をしたのかしら」

 

 

プレハブ小屋から聞こえた悲鳴に俺達はプレハブ小屋に入っていく。其処には叩かれ頬を赤くした乱馬と着衣が乱れた右京。うん、見る人が見たら誤解する光景だ。

俺達がプレハブ小屋に入ると玄馬さんが入ってきて乱馬を踏みつけた。

 

 

「乱馬、紹介しよう。お前の許嫁の右京だ」

「初耳だぜ」

 

玄馬さんが右京を指名しながら話すと右京は頬を染めて恥ずかしそうにしていた。うん、これは当たりかな。

乱馬はツッコミを入れながら玄馬さんに蹴りを叩き込んでいた。

 

そして玄馬さんが語り始める。

十年程前に右京親子と出会った際に、右京が乱馬の嫁になりたいと右京の父から話を持ちかけられた玄馬さんは、乱馬には既に許嫁がいると断った。が、持参金代わりに屋台を差し出すと言い始めた右京の親父の一言に右京を貰うと宣言してしまう。天道家との許嫁の約束があった玄馬さんだが、持参金代わりの屋台も捨てがたいと考えた玄馬さんは乱馬に選ばせる事にした。

 

 

『乱馬よ、父の問いに心して答えよ。お好み焼きと右京……どちらが好きだ?』

『うーん……お好み焼き!』

 

「その一言がワシの迷いを絶ちきった」

 

 

渋めに決めた玄馬さんだったが、右京はプレハブ小屋に置いてあった平均台で乱馬と玄馬さんを殴っていた。

 

 

「おのれらはぁぁぁぁっ!」

「落ち着けよ右京。復讐云々は兎も角、お前はまた乱馬と会いたかっただけなんだろ?」

 

 

興奮する右京の肩に手を置いて落ち着かせようと話し掛ける俺に、右京はギギギっと錆びたロボットの様に顔を此方に向けた。

 

 

「な……に、兄さんなに言うてんねん!」

「そうよ!」

「このちゃらんぽらんな親子を叩きのめす理由としては十分だわ!」

「ムース、どういう事カ?」

 

 

顔を真っ赤にする右京に周囲の女の子達は俺に非難の声を上げる。

 

 

「あくまで推測だけど……右京は乱馬を憎みきれてないんだと思う。本当に憎んでいたら窃盗と結婚詐欺で訴える事が可能だ。それをせずに10年も乱馬を探していたのは……右京、本当はただ乱馬に会いたかっただけなんじゃないのか?」

「そ、それは……」

 

 

俺からの指摘にモジモジしながら顔を真っ赤にして、指をツンツンさせながら喋る右京。可愛いな、おい。なんて思っていたらシャンプーに尻をつねられた。振り返ると不機嫌なシャンプーが睨んでいた。

 

 

「こほん。まあ、罪の9割は玄馬さんだろうが残りの一割は何も知らなかった乱馬と自分の事をちゃんと話さなかった右京……って所かな。まあ、あくまで外野の意見だから後は当人で話し合ってくれ。さ、俺達は外に出よう。後、女子一同は玄馬さんをシメといてくれ」

「「オッケー!」」

 

 

俺はパンパンと手を叩いて乱馬のクラスメイトをプレハブ小屋から外に出す。少し乱暴だとは思うが後は当人達で話し合うべきだ。

不満そうにしながらもプレハブ小屋から出ていく生徒達だが、女子達は俺の発言にバットやトンボを手にして玄馬さんに迫る。自業自得だな。直後、プレハブ小屋の外から玄馬さんの悲鳴と打撃音が聞こえてきた。南無。

 

そんな中、あかねは心配そうに物影から様子を伺っていた。プレハブ小屋では乱馬と右京の話し合いが始まっていた。

 

 

「シャンプー、あかねと一緒に居てやってくれ」

「ムースはどうするアルか?」

「ちょっと、気になってる事があってな。すぐに戻るよ」

 

 

シャンプーに呼び止められるが俺はそれだけ答えてその場を離れた。グラウンドから離れた所を走り、散策すると右京と同じ様な服装をした髭面の親父を発見。

 

 

「娘さんが、心配で来たんですか?」

「なんの事や?」

 

 

俺が話しかけると髭面の親父は惚けようとするが、そんな服装で関西弁を話してれば証拠としては十分だろう。

 

 

「いくらなんでも右京一人であんなリングの設置は無理だろう。となると手助けに来てる人物が居る筈。そしてそれは乱馬と右京の事を知ってる人物となれば限られてくるだろう」

「そうか。本当なら、このまま帰るつもりやったんやがな」

 

 

俺の発言に髭面の親父は漸く此方を向いた。そういや、親父の名前って原作でもアニメでも出てこなかった。

 

 

「ワテも早乙女親子には言いたい事は色々あったんやけど娘に全部任せたんや。後は娘次第やろ」

「当人次第って事ですね。あ、玄馬さんの事はシメときますから……って言うか乱馬のクラスメイトにシメられてる筈ですから」

 

 

俺の発言に「後は頼むわ」と髭面の親父はいぶし銀にその場から去って行った。娘の幸せを願う父の背……って感じだ。

 

 

「それに比べて……身から出た錆だな」

 

 

プレハブ小屋に戻ると女子一同にボコボコにされた玄馬さんが気絶していた。さっきの髭面の親父と比べるとあまりの落差にかなり哀れだった。

 

 

「あれ?あかねとシャンプーは?」

 

 

キョロキョロと周囲を見渡してもあかねとシャンプーは疎か、乱馬と右京の姿もなかった。何処に行ったんだろう?

 



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ムースの日記⑮

 

 

○月○日

 

乱馬と右京の決闘の日。後から話を聞いたのだが、乱馬は右京に詫びの印として焼きを入れる事を了承し、右京は乱馬をボコボコにしようとしたが、乱馬の『ウっちゃんは可愛い』発言に復縁が決定したらしい。これで乱馬の許嫁はあかねと右京になった。その一部始終を見ていた、あかねとシャンプー。その事に不機嫌になったあかねをシャンプーが連れ出して甘い物のやけ食いに行ったらしい。あの時、不在だったのはそれが理由か。乱馬は右京との事を誠心誠意、玄馬さんと謝ったらしい。成長したな乱馬も。

 

 

○月×日

 

良牙が乱馬と右京を襲撃した。理由は『あかねさんという許嫁が居ながら二股を掛けた天誅』との事だったが、許嫁がいる女に横恋慕している奴には言われたくないだろう。

 

 

○月△日

 

右京の取り計らいで良牙とあかねがデートする事になったらしい。乱馬は女に変身した状態で変装して邪魔しようとしたが失敗したとの事だった。乱馬も素直じゃないな、気になってるのは明らかだし嫉妬してるのも目に見えてるってのに。

 

オマケに右京にも乱馬の変身体質がバレたとの事だったが、俺とシャンプーの事も話しといた方が良さそうだ。

 

 

○月▽日

 

シャンプーとリンスを連れて『お好み焼き うっちゃん』へ。やはり本場の人が作るお好み焼きはひと味違う感じだ。

しかし、まあ……右京は可愛いし、料理上手で気配りが出来る。その上、既に店を持つ一国一城の主。更に乱馬からしてみれば幼馴染みの許嫁。改めて考えると右京って超優良物件なのでは?でも、原作の右京は乱馬を好きではいるものの、あかねとの友情が強く、恋愛には一歩引いた印象だった。まあ、良牙と結託して乱馬とあかねを別れさせようとはしてたけど……。

目の前でお好み焼きを焼く右京をなんとなく見つめて俺はそう思って……いたら、シャンプーに頬をつねられた。見つめ過ぎたのかシャンプーにいらん勘繰りをされたらしい。この後、めちゃくちゃ土下座した。

 

 

○月□日

 

お祭りの日になり、本来なら二度目のムースとの戦いの話だが俺は乱馬と仲が良いし、戦う理由がない。俺はシャンプー、リンスを連れ、乱馬、あかねと合流して祭りを楽しんだ。ああ、なんて楽しい日々。

 

婆さんが『そろそろスフレとして戦わせるか……』と言った呟きは全力で聞かなかった事にしたい。もしかしてムースの二度目の戦いってスフレとしての戦いになるのだろうか……

 

 

○月◇日

 

猫飯店 海の家計画を婆さんから聞かされた。あ、これもう海に行って惚れ薬の話に繋がる流れだわ。

ここで思い出したのが原作なのかアニメなのかの差だ。原作だと惚れ薬の腕輪は婆さんの家宝だったが、アニメだと中国の秘宝と紹介されて、婆さんの家宝は南蛮ミラーになっていた。これは海に行ってからの確認だな。此処で俺が聞いたら怪しまれるし。

 

 

○月◆日

 

シャンプーとリンスに水着を買いに行こうと誘われる。え、ちょっと待って、俺も女物の水着を着なきゃダメなの?海パンにパーカーでも着ようかと思ってたんだけど。



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海の惚れ薬①

 

 

 

なんで……こうなったんだろう。俺はそんな事を思いながら目隠しされた状態で旅館の部屋で一休みしていた。

 

 

 

事の起こりは猫飯店 海の家出張での出来事だった。

女になった俺はシャンプーとリンスのチョイスの黒のビキニを着ていた。嫌だって言ったのに……万が一、男に戻ったらどうすんだよ。その事を話したら、婆さんに目の前が海なんだからバレない様に海に潜れと言われた。

そんな訳で俺は黒のビキニにエプロンのスタイルで海の家で働いていた。シャンプーとリンスには遊びに行くように伝えて俺は仕事が終わってから合流すると伝えておいた。

 

そんな訳で真面目に仕事をしていた俺だが、店に乱馬とあかねと八宝斎の爺さんが来た。あ、もう惚れ薬の腕輪の話になったみたいだ。取り敢えずシャンプーが惚れ薬を飲まないように注意しよう。今までの経験上、予想外の事って起きるからな。

 

等と思ってる間に、乱馬が爺さんの茶飲み友達として婆さんを紹介していた。爺さんは乱馬から『目がパッチリとしたロングヘアーの女』を紹介すると言われてシャンプーだと勘違いしていたらしい。原作通りに進んでいる様だが、この流れは妙に腹立たしかった。

 

 

「大丈夫よ、ムース。流石の乱馬もシャンプーを紹介しようとは考えてなかったみたいだから」

「いくら俺でもそれくらいは考えるっての!」

 

 

腹立たしさを覚えていたら闘気が溢れていたらしい。おっと危ない、危ない。

 

 

「ムース、嫉妬したのだナ?大歓喜!」

「うわっ、ちょっ、シャンプー!?」

 

 

俺が怒った事でシャンプーは自分の為に怒ったのだと感じて俺に抱き着いてきた。お互いに水着なのでダイレクトに感触が伝わってくる。こ、これはヤバい!

 

 

「ムース、鼻の下伸びてるわよ」

「男なら仕方ないだろ。今は女だけど」

 

 

あかねのツッコミに俺はシャンプーを剥がしながら答える。これで反応しなけりゃ、むしろ男じゃねーよ。

 

 

「ま、それはそーと後は年寄りに任せて……」

「若者は退散しましょう」

「待てい!」

 

 

乱馬の言葉をリンスが引き継ぐ。その光景に爺さんが待ったを掛けた。そして手にしていた腕輪をシャンプーに差し出した。それが惚れ薬の腕輪だと判断した俺は爺さんから腕輪を取り上げる。

 

 

「わぁ、綺麗な腕輪ネ!」

「結納の品じゃ。あ、返せ!?」

「どうせ、アンタの事だから盗んだ物だろ」

「ムース、その腕輪をワシに寄越せ!」

 

 

俺が爺さんから腕輪を取り上げると婆さんが慌てた様子で腕輪を催促してきた。これで間違いなさそうだ。

 

 

「何をそんなに慌ててるんだよ、婆さん」

「その腕輪は、かの孔子の母ですら欲しがった中国3000年の秘宝なのじゃ。何故にその爺が持っておるか謎じゃが……ちょっと見せてもらおうか」

 

 

乱馬の疑問に婆さんが答えた。そんな大秘宝とは思ってなかったのか全員が驚いていた。それはそうと中国の秘宝って事は婆さんの家宝じゃないって事か。んじゃ南蛮ミラーの話は後であるな。とりあえず婆さんに腕輪を……

 

 

「腕輪を返すのじゃ~」

「うひぃ!?離れろ、クソ爺……んぎゃ!?」

 

 

婆さんに腕輪を渡そうと思ったら背筋が凍るかと思った。爺さんが俺の背後に回り、胸を揉んでいた。振り向き様に殴ろうかと思ったら振り返ったタイミングで腹部に衝撃が走った。

 

 

「腕輪は返して貰ったぞ!」

「おのれ、妖怪爺め!」

 

 

爺さんは俺を殴り飛ばした上に腕輪を強奪し、煙玉で俺達の視界を奪うとそのまま逃走したらしい。

 

 

「ムース、大丈夫か!?」

「あ、あのクソ爺……」

 

 

乱馬に支えられながら立ち上がるが腹がめっちゃ痛い。

 

 

「曾婆ちゃん、何をそんなに慌ててたアルか?」

「そんなに危ない物なのですか?」

「あの爺が腕輪の秘密に気付いたら、この世は地獄と化すであろう……なんとしても腕輪を奪い返さねばならん!」

 

 

シャンプーとリンスが婆さんに腕輪の事を聞いているが婆さんは震えながら叫ぶ。確かにあの爺さんが惚れ薬に気付いたら洒落にもならん。

婆さんから腕輪に嵌め込まれていた丸薬が実は惚れ薬である事が説明され、爺さんにその事がバレたら確実に悪用される事が予想された。しかし、そんなに昔の惚れ薬が未だに効能が期待できるのだろうか?むしろ、薬を飲んだら腹を壊しそうな気がする。

 

 

「ぎゃはははっ!聞いたぞ、聞いたぞ!シャンプーちゃん、ワシと燃えるような恋をするのじゃ……ぐぇ!?」

「させるかっ!」

「私はもうムースと燃えるような恋をしているネ」

 

 

シャンプーに襲い掛かろうとした爺さんに俺はエルボーを落とし、シャンプーは膝蹴りを叩き込む。即座に爺さんを捕まえようとしたが逃げられてしまった。

 

 

「でも、一つだけ落としていきましたね」

「これが、惚れ薬か……」

 

 

爺さんが落としていった丸薬の一つをリンスが拾い、乱馬がそれを覗き込んでいた。

 

 

「乱馬さん、お一つどうぞ」

「んむっ!?」

「ちょっと、リンスちゃん!?」

 

 

するとリンスは拾った丸薬を乱馬に飲ませ、乱馬はそれを飲んでしまう。その事態にあかねが驚いているとシャンプーが目を光らせた。

 

 

「乱馬、あかねを見るネ」

「え、おいシャンプー!?」

 

 

するとリンスの意図を察したのか、シャンプーは乱馬の頭を掴んであかねの方に向けた。そして、あかねを見た乱馬は目を輝かせた。

 

 

「可愛い」

「え、ちょっと、乱馬?」

 

「可愛い」

「え、な……」

 

「可愛い」

「やだ、待って!」

 

 

乱馬は可愛いを連呼しながら、あかねに迫る。シャンプーとリンスは乱馬が大胆になったのだと思い込んでいる様だ。頬を染めながら二人のやり取りを見ている。でも、乱馬は多分丸薬を飲んでないんだよね。

 

 

「こんなの嫌!こういうのは……薬抜きで言って……」

「なーんちゃって!」

 

 

あかねが顔を真っ赤にしながら何かを言おうとしたタイミングで、乱馬が舌の上に丸薬を乗せたまま笑っていた。実は惚れ薬を飲んでいなかった事が判明し、からかわれていた事がわかった、あかねは頬を染めて涙目になりながら乱馬をパラソルで攻撃し始めた。あかねの最後の呟きは乱馬には聞こえてなかったんだろうな。聞こえてたらこんなに笑っちゃいないだろうし。

 

 

「バーカ、本当にこんなもん飲む訳ねーだ……むぐっ!」

 

 

そしてタイミングが悪い事は続く。乱馬があかねをからかっている最中、パンダ状態の玄馬さんが『遊ぼう』と看板を出しながら乱馬の背を叩いたのだ。その衝撃で乱馬は惚れ薬の丸薬を飲んでしまう。

 

 

「飲んじまった……惚れ薬を飲んじまった!おい、リンスどうしてくれるんだ!?」

「あ、バカ、乱馬!そっちを見たら!」

 

 

俺の制止も虚しく、乱馬はリンスに責任を問い詰めようとリンスに詰め寄った。その行為はリンスを見てしまう訳で……

 

 

「お、俺は……なんで今までこの女の魅力に気付かなかったんだ!」

「ひゃ、ひゃん!乱馬さん!?」

 

 

突如、乱馬に抱き付かれたリンスは顔を真っ赤にしていた。

 

 

「この柔らかな髪に愛らしい外見……俺はもうこの子以外考えられない!」

「乱馬がロリコンに目覚めた……」

「まさかの事態ネ……」

 

 

まさかの事態に俺とシャンプーは呆然としていた。あかねに至っては言葉も出ていなかった。そろそろ止めないとマズいなこれは。

 

 

「さあ、今から結婚式だ!式場に行こう!」

「け、けけけ結婚ですか!?」

「そんな……待って乱馬!」

 

 

乱馬はリンスを抱き抱えて結婚式場に走り去ろうとする。リンスは顔を真っ赤にしながら吃り捲っているが……兄としては許しません。あかねの悲痛な叫びを聞きながら俺はエプロンの中に仕込んでいた暗器を投げ、乱馬の動きを止める。その瞬間、シャンプーがリンスを乱馬から取り返しながら顔面に蹴りを叩き込んだ。

 

 

「乱馬でもリンスは任せられないネ!いくら惚れ薬を飲んだとしても、あかねを裏切るの許さない!」

「棚上げしたセリフなのは兎も角……目は覚めたか乱馬」

「あ、あれ……?俺は何を……」

 

 

時間経過とショックを与えた事により、乱馬は正気に戻ったらしく、周囲をキョロキョロと何が起きたか分からないといった様子だ。

 

 

「フゥー……危うく乱馬が弟になる所だった」

「危なかったネ」

「お、おい……本当に何があったんだ!?」

 

 

俺とシャンプーは汗を拭う仕草を見せると乱馬は慌てた様子で起き上がってきた。

 

 

「ホッホッホッ……今、乱馬が飲んだのは一瞬玉じゃ。だから効果が一瞬じゃったんじゃよ。後は一日玉と一生玉の二つじゃ」

「それぞれで効果が違うのね……」

 

 

状況を笑ってみていた婆さんが説明を始める。あかねは今、乱馬が飲んだのが一瞬玉だったのに安堵していた。

 

 

「後の二つが一日玉と一生玉か……爺さんが使う前に確保しないと……」

「シャンプーちゃん!ワシと恋をするのじゃー!」

 

 

俺が早く二つの惚れ薬を確保しようと呟くと同時に爺さんが飛んできた。既に原作と違う展開だが早めに騒ぎを終わらせる為に捕まえようと思ったら、爺さんはニヤリと悪い笑みを浮かべて……

 

 

「ほぅれ、良いものじゃのう」

「って、やめんか!」

 

 

爺さんは俺の足に抱き付くと、そのまま足を這うように登ってくると俺の尻を撫で回してきた。ゾワリと鳥肌が立つ。

 

 

「隙ありじゃ!」

「え、むぐっ!?」

 

 

俺が爺さんを殴り飛ばそうと拳を振り上げたと同時に、爺さんは俺の目の前に現れると俺の口に二つあった内の丸薬の一つを俺に飲ませた。

 

 

「何を考えて……痛っ!?」

「ムース、見ちゃ駄目ネ!」

 

 

思わず爺さんを見ようとしてしまった俺をシャンプーがタオルで目を覆った。メガネを巻き込んでタオルを巻かれたので超痛い!

 

 

そんな訳で冒頭に戻る。まさか、俺が惚れ薬を飲んでしまうとは……どうしよう、これから。



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海の惚れ薬②

大分ご都合主義な展開です。


惚れ薬を飲んでしまった俺は、目隠しをしたまま旅館の一室で休んでいた。目隠しをしたまま一休みは果たして休みなのだろうかと問いたい所だが、仕方の無い処置だ。何故なら俺が飲んだのが一日玉か一生玉か分からないからだ。故に迂闊に誰かを見ないようにしなくてはならない。

 

今は乱馬達が八宝斎の爺さんを捕まえて、惚れ薬が一日玉か一生玉かをハッキリさせないと俺はこのままなのだ。

因みに今の俺は男に戻り、黒のビキニから半袖のパーカーを着て、七分丈のズボンに着替えた。何故、男に戻ったかと言えば万が一にも女状態で八宝斎の爺さんを見るわけにはいかないからだ。

 

 

「ムース、大丈夫カ?」

「シャンプー……うん、なんか今のところ、問題ないよ」

 

 

襖が開く音が聞こえ、声からシャンプーと判断する。今の状況だと誰が来ても一瞬身構えてしまうわ。

 

 

「あかね達がお爺ちゃん探してるけど隠れてる見たいネ。まだ見つからない」

「そっか……腐っても達人だもんな」

 

 

腐ってもって言うか、腐ってしかないと思うけどな、あの爺さん。

 

 

「ま、今は乱馬達、待ちか……」

 

 

待つしかないってツラいな……こんな時に改めて実感するわ。そんな事を思っていたら頬に手を添えられる感覚。え、何?

 

 

「ムース……私を見るネ」

「え、ちょ、シャンプー!?」

 

 

シャンプーはスルッと目隠しを取るとジッと俺を見つめた。いや、ちょっとそんな事をしたら惚れ薬が!

 

 

「惚れ薬でムースに惚れられても意味はない……でも他の誰かにムースが惚れるくらいなら私ガ……」

「……シャンプー」

 

 

眼鏡が無い俺でもハッキリとシャンプーの顔がわかる位の近距離で見つめ会う俺とシャンプー。やっぱ惚れ薬で得た結果は嫌だと言うシャンプーだが、俺が他の誰かに惚れるよりも、と考えたらしい……そんなにも俺を思ってくれるなんて……凄い嬉しい……って、あれ?

 

 

「……ムース?」

 

 

何も言葉を発しない俺に違和感を感じたシャンプーは不思議そうな顔で俺を見つめているが……俺はシャンプーから離れるとテーブルの上に置いていた眼鏡を取って装着する。すると景色がハッキリと見える様になってからシャンプーを見る。ふむ……なんともない

さっきの乱馬はリンスに対して明らかに『惚れた』って効果が間違いなく出ていた。だったらなんで俺はシャンプーを見ても何も起きないんだ?

俺が惚れ薬が効かなかった事を不思議に思っていると不機嫌オーラMAXのシャンプーが俺を見ていた。良く見れば涙目になっていた。

 

 

「……ムースが他の誰かに惚れる前に私に惚れさせる……本当はあかねと同じで薬抜きでムースに好きって言って欲しかったのに……」

「シャンプー……聞いてくれ」

 

 

何かを決意した表情ではあるものの震えてるシャンプーの両肩を掴み、真っ直ぐ見た。身長差もあるので俺がシャンプーを見下ろし、シャンプーは俺を見上げる形となるのだが……うん、涙目のシャンプーも可愛い……じゃなくて。

 

 

「なんで俺に惚れ薬が効かなかったのか分からないけど……俺は惚れ薬関係無くシャンプーが好……」

「ちょ、ちょっと待つネ、ムース」

 

 

俺の発言にシャンプーは慌てた様子だ。視線も少し泳いでる。

 

 

「効いてないアルか?」

「うん……そうみたい」

 

 

俺の言葉にシャンプーは信じられない、っと言った表情になる。そしてみるみる内に顔が赤くなっていく。

 

 

「なんで……私を見た直後に言わなかったアルか?」

「あー……なんで効かなかったんだろうって考えてた」

 

 

シャンプーはグッと拳を握る。俺は嫌な予感がしつつも口を開いた。

 

 

「その……シャンプーが色々と俺の事を思って行動してくれたのは……凄い嬉しい。でも……ちょっと早まったかな?だから……その……」

「もっと早くに……ムースが惚れ薬が効いてない事を言えば問題無かった筈ネ……」

 

 

ギランと俺を見据えるシャンプーの瞳が鋭さを増し、シャンプーは既に拳を俺に打ち抜くべく放たれていた。

 

 

「ムースのバカァ!!」

「ほぶぁっ!?」

 

 

惚れ薬が効いてないなら、さっさっと言えよとばかりに俺はシャンプーにぶっ飛ばされて宙を舞った。流石に理不尽じゃね?らんまワールドならお馴染みな気もするが。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

後から聞いた話だが、どうも俺とシャンプーが惚れ薬の事でドタバタとしている間に乱馬達は原作通りの展開になっていたらしい。あかねは爺さんに惚れ薬を飲まされ、男を見たら惚れてしまう状態になってしまう。

惚れ薬を飲んだままの、あかねは乱馬への意地もあり乱馬から遠ざかろうとしていたらしい。そこへ方向音痴の良牙や九能が現れた。乱馬は、あかねが二人を見ない様にと、あかねを海に突き落とし、二人を叩きのめした。

そして良牙と九能を退散させた乱馬は『変な者を見る前に俺で手を打て』と覚悟を決めた……まではよかったが、あかねは乱馬に溺れさせられた段階で惚れ薬を吐いてしまったらしく、惚れ薬の効果は無かったらしい。つまりは乱馬の一人相撲状態だった。

 

その話を聞いてから俺も惚れ薬を無理にでも吐き出せば良かったと後になって気付く。そう言えば原作でも、あかねは惚れ薬を溺れた拍子に吐き出してたんだっけ。

 

その後、夜になったが、すっかりへそを曲げたシャンプーとあかねは俺達から距離を取ってリンスと手持ち花火を楽しんでいた。

俺と乱馬は変なところで割りを食う形となってしまった。だが、最後に疑問が残る。

 

 

「俺……なんで惚れ薬が効果無かったんだ?」

 

 

そう。俺は一日玉か一生玉か解らないが惚れ薬は飲んでいたのだ。その状態でシャンプーを見たのに何程の効果も無かった。寧ろ拍子抜けした位だってのに。

 

 

「それは……あれじゃない?惚れ薬の定番って奴」

 

 

そんな風に考えていたら、なびきがかき氷を食べながらニヤニヤとシャンプーを見ていた。なんのこっちゃ。

 

 

「既に惚れてる相手に惚れ薬は効かないって奴」

 

 

なびきの一言に納得した俺は気恥ずかしさと……これからシャンプーの機嫌をどう直そうかと頭を悩ませる事となった。



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私って綺麗?乱馬女宣言①

今回の話は今後の話のキーポイントになります。


 

 

海の一件からシャンプーとは妙な距離感だが平和な日々が続いてる。

 

 

「ムース兄様……後ろから………」

「ああ……放っておいてやれ」

 

 

店のテーブルを布巾で拭いていた俺。リンスの言葉に背後の視線に意識を向けるが、先に話した通りの妙な距離感の原因である。

 

俺の後ろ……つまり厨房からコソコソとシャンプーが俺を見ているのだ。普段ならこんな事はないのだが海の一件で俺をぶっ飛ばした挙げ句、拗ねて俺を無視していた事を頭が冷えてから自分の行動を恥じていた。そして、その事を謝ろうとしているのか……普段から『謝る』という行動をした事が少ないシャンプーは俺に対してどう謝るか。それを悩みつつ距離を測りかねていた。

原作のシャンプーなら冷たい態度で一蹴していた可能性が高いが、こっちのシャンプーはそんな事はないからな……良い傾向だとは思うが、少し寂しかったり。

 

 

「あ、お電話です」

 

 

そんな事を思っていたら店の電話が鳴る。近くにいたリンスが即座に電話に出た。

 

 

「はい、猫飯店。あれ、あかねさん?出前ですか?違う?え、ちょっと落ち着いてください、あかねさん」

 

 

電話に出たリンスだが様子がおかしい。電話の相手はあかねの様だが何処か慌てている様だ。

 

 

「リンス、俺が変わる。あかねか?何かあったのか?」

『あ、ムース!?お願い、お婆さんと一緒に天道道場まで来て!乱馬が大変なの!ガチャン!』

 

 

リンスから電話を受け取ると、あかねは早口に囃している。とてつもなく慌てた様子で何があったかも話さずに電話は切られてしまう。俺は要領を得ないまま受話器から『ツー、ツー』と音を聞いていた。

 

 

「あ、あの……何があったんでしょうか?」

「要点は教えてもらえなかったが乱馬が大変らしい。俺はこれから婆さんと天道道場に行ってくる」

「……ムース」

 

俺は布巾を片付けて天道道場へ行こうとしたのだが、シャンプーが俺の袖をクイッと引いた。

 

 

「私も……一緒に行くネ」

「え、あ……うん」

 

 

しょんぼりとした表情のシャンプー。上目遣いで俺の袖を引く仕草にドキッとした。

 

 

「ああ、じゃあシャンプーは婆さんを呼んできてくれ。俺は店を片付けて臨時休業にしてくるから」

「わかったアル」

 

 

俺の言葉を聞いて、シャンプーはパタパタと居間の方に婆さんを呼びに行った。時折、シャンプーってこっちの意表を突くと言うか……

 

 

「シャンプー姉様……可愛いです」

「ああ、可愛いな。ほら、リンスも準備してきな」

 

 

姉の可愛さに撃たれていたリンスだが俺がポンと背中を叩くとハッとなり自分の部屋へと走っていった。そして俺、シャンプー、リンス、婆さんで天道道場へ。

 

 

「何があったんでしょうか?」

「あかねは相当慌ててたな。余程の事があったんだろう」

「あかねを心配させる……許せないネ」

「ホッホッホッ、またいつものトラブルじゃろうて」

 

 

それぞれが天道道場で起きた事を予想しながら歩く。まあ、いつものトラブルだろうと結構軽い考え方をしていた。だが、そこが一筋縄で行かないのが、この世界の常であると天道道場の門を潜ってから思い知らされた。

 

 

「うふふっ」

「ら、乱馬……?」

 

 

俺達が見たのは天道家の庭で花に水をやりながら鼻唄を歌う女になった乱馬。しかも乱馬は女物のワンピースを着て上機嫌だった。なんと言うか……良いところのお嬢様って感じだった。そんな事を思っていたらシャンプーに頬をつねられた。

 

 

「シャ、シャンプー?」

「痛いアルか?なら夢じゃないネ」

 

 

俺が頬の痛みを感じているとシャンプーが信じられない表情をしていた。うん、つねるなら自分の頬をつねりなさい。

 

 

「な、何があったんでしょうか?」

「取り敢えず異常事態である事は間違いなさそうじゃの」

 

 

隣ではリンスと婆さんも目の前の光景が信じられていない様子だった。うん、気持ちはわかる。

此処に来て漸く思い出した。この話は『私って綺麗?乱馬、女宣言』だ。

この話は乱馬があかねの手料理を台無しにしてしまい、あかねに怒られた乱馬が頭を打って気絶してしまう。打ちどころが悪かったのか、目を覚ましてからも様子がおかしい。仕草も言葉づかいもすっかり「女」になってしまった。って話だった。アニメのオリジナルエピソードだったから忘れてた。個人的には結構好きな話だった。

 

しかし、まあ……実際に目にすると言葉を失うな……花も恥じらう乱馬って。



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私って綺麗?乱馬女宣言②

 

 

 

呆然としていた俺達だが、天道家の居間に通されて事情を聴くと更に唖然とした。

乱馬があかねの手料理を台無しにしてしまい、あかねに怒られた乱馬が頭を打って気絶してしまう。打ちどころが悪かったのか、目を覚ましてからも様子がおかしい。仕草も言葉づかいもすっかり「女」になってしまった。此処まではアニメと同じ展開だったが此処から先が違う。アニメでは頭を打った翌日に八宝斎の爺さんが乱馬に女の下着を着ける様に強要するのだが気弱く、女らしくなった乱馬は「それでお爺様が納得するなら……」と女物の下着を着けようとする。その事をあかねは許さなかった。女らしくなった乱馬は乱馬じゃないと再び怒り出し、乱馬を襲うあかね。その最中、再び頭を打った乱馬は元の人格に戻った。……ってのが本来のストーリーなのだが話を聞くとなんと女らしくなってから既に3日目だったのだ。

 

初日は頭を打った事もあり、様子見。

二日目は東風先生に見てもらったが異常無しと診断された(外傷はないので自然に治るのを待つべきと言われたらしい)

そして本日が三日目となるのだが、婆さんなら中国三千年の力でどうにか出来るのではと考えたらしい。それで電話口で焦った様子だったのか。そんな風に思いながら庭でリンスと戯れる乱馬を見る……うん、凄い違和感。

 

 

「最早、別人ネ」

「最初は同じ衝撃を与えれば治るかと思ったんだけど……」

「あの状態の乱馬君を殴れってのは無理があるわよね」

 

 

シャンプーの発言にあかねは考えていた事を話すが、なびきの言葉に押し黙る。確かにあの乱馬を殴って元に戻すってのは罪悪感が半端ない。

 

 

「で、どうなんでしょうか!?」

「乱馬君は元に戻れるんですよね!?」

 

 

悩んでいると玄馬さんと早雲さんが婆さんに詰め寄っていた。自分の息子の事と跡取り問題があるから必死になる二人に婆さんは困った表情を浮かべていた。

 

 

「ううむ……今回の様な事態はワシにも覚えがないのぅ。単純な記憶喪失ならまだしも認識が変わるとなると厄介じゃな」

 

 

婆さんの発言に撃沈の玄馬さんと早雲さん。あかねも目に見えて沈んでいた。俺は婆さんの発言と以前聞いた話を思い出していた。『呪泉郷に落ちた者は落ちた泉の影響を受ける』

 

 

「なあ、婆さん。前に『呪泉郷に落ちた者は落ちた泉の影響を受ける』って言ってたよな?今の乱馬はその影響を受けてるんじゃないか?」

「うむ、ワシも同じ考えじゃ。じゃが、それだけじゃよ。湯で乱馬を男に戻したとしても人格が元に戻る訳じゃないからの」

 

 

しかし、なんで元に戻らないんだ?アニメだと次の日には治ってたのに……あれ、待てよ?

 

 

「なあ、爺さんはどうしたんだ?姿が見えないが……」

「ああ、お爺ちゃんなら今の乱馬君を見て飛び掛かろうとしたんだけど、それを阻止しようとあかねがお爺ちゃんをぶっ飛ばしたのよ。だから今は行方不明よ」

 

 

俺の疑問になびきが答えるが……一つの事が狂うと他も狂っていくな。そして納得していた。本来、乱馬が元に戻る切っ掛けとなったのは八宝斎の爺さんのセクハラだ。それをあかねが防いだ為に元に戻る切っ掛けが失われ今に至る……っと。あの爺さん……居たらトラブルの元だが居ないと違った意味でトラブルになるな……。

 

 

「さて……どーすっかね」

「ううむ……自然に治るのを待つのが一番なんじゃが……」

「あかねはどう思ってるアルか?」

「私も最初はあの乱馬の様子に苛ついてたんだけど……今の素直なあの子を見てるとそう思えなくなってきて……だから、今日は藁にもすがる思いで、お婆さん呼んだんだけど……」

「そうそう、女の乱馬君、あかねに懐いてるもんねー」

 

 

それぞれが意見を出し合う中、女乱馬は悲しそうな表情で俺達を見ていた。

 

 

「やっぱり……今の私って変なんですね。あかねさんにも私は『男』だって言われました。やっぱり……私はいらない子なんです……」

「え、ちょっと待って!」

 

 

俺達の会話を聞いていたのか女乱馬はポロポロと涙を流して、その場を後にしようとする。あかねが引き止めようとするが効果は無く、今の女乱馬をあかねが殴れなかったのがわかった気がする。今の状態の乱馬殴るとか無理だわ。そう思いながら俺は居間から庭に飛び出した。女乱馬の前に立ちふさがるように跳躍し、行く手を阻む。

 

 

「乱馬……別に俺達は今の乱馬を嫌ってる訳じゃないんだ。確かに今の乱馬は以前の乱馬とは違う……だけど頭を打ち、怪我をした以上、心配するのは当然だろう?」

「……ムースさん」

 

 

女乱馬を泣かせないように言葉使いを気をつけながら会話をする。ここで泣かせたら絶対に面倒な事になる。

 

 

「今の乱馬には自分の事はわからないのかも知れない。でも、ここにいる皆が乱馬の心配をしている……それだけはわかってほしいんだ」

「は、はい……あかねさんにも怒られたので……不安だったんです……」

 

 

俺の言葉にウルウルと瞳に涙を溜める乱馬。俺があかねの方に視線を移すと、あかねは目が泳いでいた。話を聞くと乱馬を元に戻そうと道場で組手をしようとしたあかねだが、乱馬は今までの格闘センスが何処に行ったのやらまったく戦おうとしなかった。更に『今のアンタは乱馬じゃない』とまで言ってしまったらしい。

 

電話口で一方的に囃してていた事と乱暴に電話を切った理由も少しわかったかも。あかねは非常に焦っていたのだ。乱馬に乱暴なツッコミを入れて変にしたのも自分。暴言を吐いて乱馬を傷付けたのも自分。そして自分には治す手立てがない。それでも変わらずに懐いてくる女乱馬にあかねは俺達に泣き付いた……そして女乱馬は自分が変な状態である事を告げられていたし、本日俺達が来たことでそれに拍車を掛けてしまったみたいだ。

 

 

「大丈夫だよ。今はただ馴れてないだけだ」

「ほ、本当ですか?」

 

 

兎に角、今の女乱馬を刺激するのはマズい。穏便に話を進めて……

 

 

「ムースさん……優しいです」

「え……乱馬?」

 

 

すると女乱馬は俺の胸の位置にコツンと頭を乗せてきた。今の乱馬は女らしい服装をしている上に声音も優しい。仕草も完璧に女な訳で……正直、ドキッとした。

 

 

「何やってるアルかー!!」

「どわっ!?」

「きゃあっ!?」

 

 

その瞬間だった。声からしてシャンプーが俺の背中にドロップキックを放ったのだ。その勢いにぶっ飛ばされた俺は女乱馬を押し倒してそのまま庭の池の方に倒れ混む。

 

 

「ひぎゃん!?」

「お、おい乱馬!?」

 

 

水を被った俺は女になってしまったが、今はそれどころじゃない。池に落ちた際に女乱馬を下敷きにしてしまい、女乱馬は池の岩に頭を強打してしまい、悲鳴を上げていた。水から引き上げると女乱馬は完全に気絶していた。

 

 

「乱馬、おい乱馬?」

「ムースよ、そのまま乱馬を此方に。かすみよ、悪いが布団を此処に。今の衝撃で直ったかも知れんが念のためじゃ」

「は、はい!」

 

 

俺が女乱馬の頬を軽く叩くが返答は無く、ぐったりとしていた。婆さんの指示で急遽、居間に布団を敷いて女乱馬の様子を見る。女乱馬は看病の為にワンピースを脱がせて、タンクトップとトランクス状態にしてある。勿論、着替えは女性陣に任せたが。

 

 

「ムース……さっきの乱馬に鼻の下伸ばしてたネ」

「だから、さっきのは今の乱馬を刺激するのはマズいと思ってだな……」

 

 

先程からシャンプーの機嫌は急降下していた。いくら女らしくなったとは言っても元男に鼻の下を伸ばすとは何事かと怒っていたが……うん、まあ嫉妬してくれたのだと思うと少し嬉しかったり。

 

 

「痛てて……あれ、何してんだ、皆?」

「乱馬!」

 

 

そんな事を思っていると乱馬が目を覚まし、あかねが乱馬の名を呼ぶ。乱馬は何が起こったかわからない様子だった。

 

 

「乱馬、私の事がわかる?」

「何言ってんだよ、あかね……なんだよ、親父……へぶっ!?」

 

 

口調が先程のお嬢さんからいつもの口調に戻ってる辺り、元に戻ったのか?そう思っていたら玄馬さんが乱馬の胸ぐらを掴んでビンタをした。

 

 

「何すんでい、クソオヤジ!」

「おお、これこそ本来の乱馬じゃ!」

 

 

殴られた仕返しに玄馬さんを殴り返す乱馬。その事に殴られた頬を赤くしながら玄馬さんは喜んでいた。確認方法はどうであれ、乱馬は元に戻ったらしい。

 

 

「な、なんだよ、元に戻ったって……」

「乱馬、覚えていない様だが、お前はここ数日頭を打って記憶喪失だったんだ。大人しくなって別人みたいで皆が心配をしてたんだぞ」

 

 

恐る恐る聞いてくる乱馬に俺は咄嗟に嘘をついた。今回の事を乱馬が思い出したら最大級の黒歴史となるだろうから。

 

 

「そ、そっか……心配させちまったんだな……」

 

 

悩む仕草を見せる乱馬に天道家の人達は安心しきっていた。その仕草や口調は元の乱馬そのものだったから。

 

 

「乱馬も元に戻ったし、ワシ等は帰るか。店も臨時休業にしてしまったからの」

「早く帰って開店準備しなきゃだな」

 

 

婆さんが喜ぶ、天道家の皆さんを尻目に立ち上がり猫飯店の開店準備をする為に帰ろうとする。バタバタとしてたけど、思ってた以上に早く解決したからね……俺の背中は痛いけど。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

天道家の帰り道。俺とシャンプーは並んで歩いていた。婆さんとリンスが気を効かせて買い物をしてから帰るようにと言ってくれた。まあ、空気はメチャクチャ重いけど。なんせ先日の事と今日の事でシャンプーの機嫌はMAXに悪い。どう謝ったものかな……と思っていたら俺の腕にシャンプーが抱き付いてきた。

 

 

「え、シャン……」

「……对不起」

 

 

腕に抱き付いてきたのも驚いたけどシャンプーが謝ったのも驚いた。俺から顔を反らしての発言だったがそれでも十分驚くに値する。俺は何も言わずにシャンプーを抱き寄せて頭を撫でるとシャンプーは素直に甘えてきた。その柔らかさに魅了されつつも俺は先程の乱馬の事が頭の片隅に残っていた。

 

 

『呪泉郷に落ちた者は落ちた泉の影響を受ける』

 

 

この言葉通り、娘溺泉に落ちた乱馬は頭を打った際に女になってしまった。もしかしたら俺もその内、そうなってしまうのだろうか。俺はシャンプーと並んで猫飯店に向かいながら、そんな事を考えていた。

 

 



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ムースの日記⑯

 

△月○日

 

新作のラーメン試食の名目に乱馬の様子を見に天道道場へ。取り敢えず、あの後から女乱馬は出てきていないらしい。暫くは経過観察が必要だと婆さんに言われた。

 

 

△月×日

 

いつの間にか天道道場へ帰ってきていた爺さんが天道道場の前で店を開いていた。とは言ってもガラクタばかりの物で誰も買っていなかったが、その中に綺麗な手鏡が混ざっていた。あ、これは……と思ったのも束の間。婆さんが即座に爺さんに襲い掛かっていた。それと言うのも、この手鏡は婆さんの家の家宝『南蛮ミラー』だったのだ。南蛮ミラーとは、頭に思い描いた過去か未来を思いながら鏡に涙を落とすと、その思い描いた世界へと行ってしまう秘宝。爺さんが婆さんの若い頃を思いながら悔し涙を流したもんだから近くに居た俺、シャンプー、リンス、婆さん、乱馬、あかね、玄馬さん、早雲さん、爺さんを巻き込んで過去の世界へ。

 

 

△月△日

 

昨日はとんでもなかった。まさか過去の中国に行ってしまうとは……。しかも若い頃の婆さんに会ったのだがメチャクチャ美人だった。人生をどう生きたら、あの様な姿になるのか不思議である。

そして過去の世界で明らかになったのは若い頃の爺さんは婆さんに惚れていたという事実だ。しかし、爺さんは婆さんに惚れてると言う割りには他の娘にアプローチを掛けまくり。キレた若い頃の婆さんにボコボコにされた若い頃の爺さんは逆恨みで婆さんの家の家宝南蛮ミラーを強奪していた事が判明した。後になり、自分の行動を「こうした苦労の末にワシは南蛮ミラーを手に入れたのじゃ」とか言って誇っていたが全員から叱責されて涙を流して「元の時代に帰りたい」と呟いて南蛮ミラーに落とし、全員揃って元の時代へと帰って来た。

俺はこっそりと爺さんから南蛮ミラーを取り上げた。ほとぼりが冷めたら婆さんに返してやろう。

 

 

△月◇日

 

出前の帰り道、乱馬が郵便ポストに襲われていた。あり得ない状況に一瞬思考が停止したが、紅つばさの話だと理解して……スルーした。今回の話はあまり絡みたくない部類の話だ。だってフォローのしようがないんだもの。

 

 

△月◆日

 

猫飯店に乱馬が愚痴りに来た。先日の紅つばさの一件で色々と嫌な目に会ったと言う。うん、見た目が可愛い女の子なのに男に迫られればそうだろうと、思いかけたが呪泉郷の呪いで女になる俺達はどうなんだろう……と思いかけて考えるのを止めた。虚しくなるわ。

 

 

△月□日

 

俺の目の前にシャンプーが二人居る。そして瓶底眼鏡を掛けたムースも居る。オロオロと俺と瓶底眼鏡のムースと二人のシャンプーを交互に見ているリンス。

今回は俺自身の仕出かしてしまった事だがどうしよう……俺は南蛮ミラーを握り締めながら焦りから冷や汗をダラダラと流していた。いや、マジでどうしよう。

 

 

 



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南蛮ミラーの使い道①

 

 

 

何故……こうなったんだろう……

 

 

「お前、私にそっくりアルな」

「本当ネ、そっくりアル」

「おらがもう一人居て、シャンプーも二人いるだ!?」

「はわわ……シャンプー姉様とムース兄様が二人います!?」

 

 

 

二人居るシャンプーに挟まれ、瓶底眼鏡のムースに驚かれ、リンスがパニクってる。事の起こりはほんの数分前に遡る。

 

店の厨房で下拵えをしながら婆さんに南蛮ミラーを渡そうと思っていた俺は、今までの事を考えていた。原作やアニメのストーリーを消化してはいるものの俺や乱馬にとっての最大級の壁がある。それはハーブとの戦いや最終決戦のサフランとの戦いだ。

出来る事なら戦いたくないが……まあ、上手くはいかないだろう。ならば、彼等との戦いの前に出来る限りの事はしておくべきだ。そんな事を思っていたら手元が疎かになり、包丁で指を少し切ってしまった。

 

 

「痛っつぅ……」

「ムース、大丈夫カ?」

「兄様、絆創膏です」

 

 

その事を心配してくれたシャンプーとリンスの優しさにジーンと心が震える。思えば俺は原作のムースと違ってシャンプーと許嫁なんだよな。今更ながら幸せなものだ。原作のムースは不憫だし……そんな事を思いながら指先の痛みと幸せに涙が溢れた。

その時だった。近くに置いていた南蛮ミラーに俺の涙と俺の指先から滴る血が落ちてしまったのだ。涙と血を受け止めた南蛮ミラーは先日、過去に飛んだ時以上の光を発して俺達を飲み込んだ。

 

 

「収まった……か?痛っ!?」

「ムース、出前サボって何してるアルか!」

 

 

眩しい光に目を瞑った俺だったが光が収まったと同時に頭に衝撃が走る。振り返るとシャンプーがお盆で俺を殴っていた。

 

 

「シャンプー!?無事だったのか!?」

「何が無事アルか。さっさっと出前に行くヨロシ」

 

 

俺の疑問にシャンプーは何処か様子が可笑しい。それにいつもと違ってツンツンとした態度だ。

 

 

「あー、ビックリしたアル」

「前にお婆様の時代に行った時と同じでしたね」

「え……アイヤー!?」

 

 

その時だった。店の片隅から誰かが立ち上がる。其処に居たのはもう一人のシャンプーとリンス。二人は立ち上がるとキョロキョロと辺りを見回す。

 

 

「猫飯店の中アルな」

「何処にも移動しなかったんでしょうか?」

「えっと……シャンプー、リンス?」

 

 

キョロキョロと辺りを見回しながら『移動しなかった』と言う単語が出てきた辺り、こっちのシャンプーとリンスは俺が知る人物なのだろう。と言うかこの段階で俺は非常に嫌な予感がしていた。

 

 

「な、な、な……私が其処に……」

 

 

そう。俺の隣で先程、俺を殴ったシャンプーがもう一人の自分とリンスを見てメチャクチャ動揺しているのだ。シャンプーが二人居て、片方のシャンプーが俺に対してツンツンな態度を取る。それはつまり……南蛮ミラーが原因で過去ではなく、原作の世界に入り込んでしまったのだろう。

 

 

「シャンプー、出前から帰っただが、何を騒いで……」

「ムースも二人になってるアル!?」

「アイヤー!?」

「ムース兄様とシャンプー姉様が二人に!?」

 

 

そして瓶底眼鏡のムースが帰って来て更に騒ぎとなり……冒頭に至る。先ほどから何度も同じやり取りをしていてまったく話が進んでないな。

 

 

「まったく……なんの騒ぎじゃ。おや?」

 

 

どう話をしたものかと悩んでいると店の奥から婆さんが顔を出して……俺達を見て固まった。いきなり孫が二人になればそりゃそうだよな。

 

 

「ふむ……そっちのムースよ。それは南蛮ミラーじゃな?シャンプーが二人居る事も含めて説明せい」

「話が早くて助かるよ婆さん」

 

 

伊達に年食ってねーな。理解が早いわ。婆さん(原)を交えて状況説明をする事に。まずは南蛮ミラーの影響で此処に来た事から始まり、俺とシャンプーの関係からリンスの存在までを話した。

シャンプー(原)とムース(原)のリアクションから、此処はやはり原作の世界だと確信を持てた。何故ならばお互いの歴史を話した際に出だしから違うんだもの。俺は三歳の頃のシャンプーとの戦いに勝っていたが此方ではムース(原)は負けていたし、シャンプー(原)も乱馬に惚れていた。更に極めつけはリンスの存在だろう。此方ではリンスはそもそも存在していない様で話を聞いたリンスはしょんぼりとしていたが、俺とシャンプーが頭を撫でると笑みを見せてくれた。うん、優しく強い子になってお兄さんは嬉しいよ。

 

因みに南蛮ミラーで此処に来てしまった理由は『もしも三歳の頃にシャンプーに負けていたら、この関係も違ったのかな?』と考えていた事にしてある。だって『原作とは違う』と考えていた事を話す訳にはいかないから。

 

 

「私のムースは格好良くて頼りになるアル。それに……とっても優しいネ」

「乱馬の方が格好良いネ。そっちの乱馬が弱いのかも知れないけどこっちの乱馬は私を倒した強い人アル」

 

 

互いに惚れた男の自慢をしてるシャンプーとシャンプー(原)。本人を目の前にして惚気ないで欲しい。嬉しいが恥ずかしいから。

 

 

「何故、おらはあの時、勝てなかったんじゃ!勝てていれば、そっちのおらの様にシャンプーを憚ること無く嫁に出来たと言うに!」

「そ、その……こっちのムース兄様も頑張って下さい!」

 

 

俺の現状を聞いたムース(原)はマジ泣きしてリンスに慰められていた。

 

 

「ふぅむ……南蛮ミラーは過去と未来を行き来する魔性の鏡と伝えられていたが条件次第では違った歴史……平行世界をも越えられるか……」

 

 

婆さん(原)は俺の血が付着した南蛮ミラーの解析をしていた。

 

南蛮ミラーの誤作動で原作の世界に来てしまったが、元の世界に帰れるんだろうか?俺は一抹の不安を胸に抱きながらカオスなこの状況を嘆いていた。

 

 



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ムースの日記⑰

 

 

×月○日

 

元の世界へ戻る前にこっちの世界での日記を書き写す為にノートを貰った。それと言うのも、原作世界へ入り込んだ当日に帰ろうと思っていたのだが、婆さん(原)から『今回は偶然に近い転移だっただろうから、ちと調べてから試した方が良い』と言われた。なんせ本来の南蛮ミラーとは違う使い方をしたから次も同じように作動する保証が無いとの事だった。数日調べるから待てと言われ、俺とシャンプーとリンスは親戚の子として猫飯店に一時的に住む事になった。

ちゃんと帰れるのだろうか……とてつもなく不安だが、俺がそんな顔をするとシャンプーとリンスも不安になるだろうからポーカーフェイスを保とうと決めた。

 

ムース(原)から向こうでの生活を聞かれたので、答えると同時にこっちでの話を聞いた。やはりほぼ原作通りの展開みたいだが俺としては話を聞いていると胸が痛む。

今まであまり考えていなかった事だが俺が憑依した事で今の俺(ムース)がある。そうでなければ、こっちも原作通りに話が進んでいたのだ。俺はそれを周囲に黙りながら原作とは違うように生きようとしていたが、目の前に原作のムースが居るとその考えで良かったのかと思ってしまう。

 

 

×月×日

 

原作世界へ迷い混んだ次の日。猫飯店は臨時休業にして買い物へ。リンスは兎も角、俺とシャンプーはいくらなんでも、そのままだと親戚の子として誤魔化すには無理があるから服装と髪型を変える事に。俺はシンプルにパーカーとジーンズを選んで終了。男なんてこんなもんだ。髪も後ろで一品に纏めている。

 

しかし、シャンプーはそうはいかなかった。シャンプー、シャンプー(原)、リンス、婆さん(原)は、はしゃぎながら服を選んでる。女の子の服選びは時間が掛かるね。

『妖怪が混ざってるが女の買い物は良いものだ』とムース(原)が呟き、婆さん(原)にぶっ飛ばされていた。口は災いの元だと言う良い例だ。

 

因にだがシャンプーの服装はチャイナ服から七分丈のシャツにロングスカートと普段は着ない様な服装で髪型もポニーテールに結われていた。ヤバい……メチャクチャ可愛い……

 

この後、外食したのだがウェイターさんが水を溢して俺は女に変身してしまい驚かれた。いや、ウェイターさん以上にシャンプー(原)、ムース(原)、婆さん(原)に驚かれたんだが。その後、俺が娘溺泉に落ちた経緯を話したら、もっと驚かれた。そういや呪泉郷に落ちたことは話したけど、どの泉に落ちたか話してなかった。

逆にムース(原)がアヒルに変わったのを見て、シャンプーとリンスが凄い驚きながらも可愛いと言っていた。改めて見ると眼鏡を掛けたアヒルって超シュールだ。

 

 

×月△日

 

俺とシャンプーは猫飯店の厨房を手伝い、リンスも店の外を箒で掃いたり、テーブルを拭いたり、店の手伝いをしている。学校に行かせようかとも悩んだが、原作世界にリンスはそもそも存在しない。となると迂闊に外に出すわけにもいかないから結局、猫飯店に居るしかないのだ。

 

婆さん(原)は南蛮ミラーを調べているみたいだ。過去の文献を調べたりと色々と忙しくしている。そしてシャンプー(原)とムース(原)は俺達が店の手伝いをしているから出前の頻度を増やしたり、乱馬に会いに行ったりしているみたいだ。

そういえば乱馬(原)やあかね(原)に俺達の事を話しているのだろうか?明日にでも聞いてみよう。

 

先日からムース(原)と話した事で少しナイーブになっていた俺だがシャンプー(原)から『元気無いけど、どうしたアルか。どの世界でもムースに悩む顔は似合わないアル』と罵倒だか励ましなのか分からない事を言われた。冷たい対応だけどやっぱシャンプー(原)も普段からムース(原)の事は見ていたんだな、と思った。

 

 

×月◇日

 

風林館高校で乱馬(原)と決闘する事になった。どうしてこうなった?



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南蛮ミラーの使い道②

 

 

 

話は午前中まで遡る。店の準備をしていた俺はムース(原)と話をしていた。

 

 

「そっちのオラは乱馬に勝っただか!?」

「戦いに至るまで色々とあったがな。戦い方の相性ってのもある」

 

 

こっちのムース(原)は乱馬に勝った事が無いから凄い驚いていた。でも、原作のムースって婆さんの特訓無しで乱馬と互角に渡り合っていた強者なんだよな。原作で乱馬は『弱くて情けないムース』なんて馬鹿にしてたけど、婆さんに特訓される前の乱馬だったらムースに勝てなかったと言われている。

 

 

「そんなの答えは簡単ネ。そっちのムースが強いんじゃなくて、そっちの乱馬が弱いだけ。私の乱馬はもっと強いアル」

「それは聞き捨てならないネ!私のムースは強いアル!」

 

 

話を聞いていたシャンプー(原)は俺とこっちの乱馬を馬鹿にして、シャンプーはそんなシャンプー(原)に怒りを露にする。

 

 

「何アルか!私の乱馬はそっちのムースよりも強いネ!」

「そんな事無いネ!私のムースの方が強いネ!」

 

 

なんかシャンプー同士で惚れた男対決となっていた。こっちのムース(原)はへこんでいるが……

 

 

「だったら戦えばハッキリするネ!」

「わかったアル。だったら今日の夕方、乱馬(原)が学校が終わったら私のムースと乱馬(原)と決闘するネ」

「いや、当人の意思を無視して決闘の話を進めないで欲しいんだが……」

 

 

俺の意見を無視したシャンプーとシャンプー(原)は決闘のお膳立てを進めて行く。こうして当人が口を挟んでも意思を無視された決闘が成立してしまった。

 

シャンプー(原)が俺の代わりに乱馬(原)に果たし状を出し、俺はムース(原)の格好をしていた。いくらなんでもムースが二人居るって状況にしない為に、決闘するグラウンドにはムース(原)の格好をした俺とシャンプー(原)で行く事に。シャンプーとリンスとムース(原)は近くで隠れて観戦となった。因みにムース(原)は先程まで俺が着ていたパーカーとジーンズを着ている。シャンプーも先程までの服装で……なーんかポジション奪われたみたいでモヤッとする。

そんな訳でグラウンドにはムース(原)の姿をした俺と乱馬(原)と対峙していた。久々に掛けたよ瓶底眼鏡。

 

 

「果たし状は受けてやる……勝負だ、ムース!」

「やれやれ、何度目だろうな……お前と戦うのは!」

 

 

そして俺の正体に気付かない乱馬(原)は俺をムース(原)だと思ったまま戦う事に疑問を抱いていない様だった。

恐らくシャンプー(原)は俺の事を知らせずに、いつものムース(原)との戦いだと思わせる為に何も言わなかったのだろう。

 

 

「ちょっと乱馬!」

「心配すんなよ、あかね。ムースが相手なんだ、あっという間に終わらせてやるよ」

 

 

決闘する事に、あかね(原)が抗議の声を上げたが乱馬(原)は余裕綽々としていて、よそ見までしていた。そういや原作の乱馬って自信過剰だったな。だったら、その自信過剰な部分を矯正してやるか。

 

 

「よそ見か……乱馬!」

「って、うわっ!?」

 

 

俺は乱馬(原)に手裏剣を投擲する。当てる気がない投げ方だったが乱馬は驚いて飛び退いた。

 

 

「へ、不意討ちとは卑怯だなムース!」

「決闘を受けたと言っておきながら、よそ見をして油断をしていたのは……お前だろう乱馬(原)」

 

 

不適に笑った乱馬(原)に俺は睨む(瓶底眼鏡だから相手からは見えないとは思うが)

 

 

「笑わせるなよ、乱馬(原)それとも試合開始のヨーイドンが無ければ戦えないのが無差別格闘流か?」

「こんの……野郎!!」

 

 

俺の挑発にアッサリと乗った乱馬(原)は俺に襲いかかってくるが……やっぱり遅い。俺の知る乱馬ならもっと速い拳が来るが、こっちの乱馬(原)は僅かに遅い。俺なら十分に見切れる速度だ。

 

 

「な、なんだ……ムースの動きが違う!?」

「いつの間にこんなに強くなったのムース!?」

「ま、まさか……本当に強かったアルか……?」

 

 

乱馬(原)、あかね(原)、シャンプー(原)は驚いているがシャンプーとリンスはにこやかに俺を見ていた。ムース(原)は顎が外れるんじゃないかと思うほどに口を開いていた。そして俺は乱馬(原)のラッシュを潜り抜けて乱馬(原)の鼻を摘まみあげる。

 

 

「どうした乱馬(原)?まさかとは思うが油断していたなんて事はないよな。鼻を摘まめるって事は目を潰せるって事だ……油断をしている場合か?」

「くっ……この野郎!」

 

 

俺の指摘と馬鹿にされた事で顔を真っ赤にした乱馬(原)は俺の手を振り払うと、ローキックで俺の足を払おうとしたが、俺は距離を放して両袖から鉤縄の付いた暗器を飛ばす。乱馬(原)はそれを避けると『待ってました』と言わんばかりに俺の懐に飛び込んできた。成る程、暗器を敢えて使わせて両手の自由が効かない隙に攻撃するつもりだった訳だ。

 

 

「だが、甘い!」

「な、ぐわっ!?」

 

 

俺は鉤縄の暗器を木に括り付け、それを腕の力で引きながら足下の力を抜く。そうする事で俺はあお向けになりながら地面を滑る様に移動し、乱馬(原)の拳をすり抜ける様に避けた。対する乱馬(原)は決まると思った拳を避けられた事で動揺し、隙を見せたので俺は回し蹴りで乱馬(原)の背を蹴り上げた。

 

 

「ま、まだだ!火中天津甘栗拳!」

「火中天津甘栗拳は高速の拳だが……技を広範囲に広げれば疲れやすい。反して範囲を狭めれば威力は上がるが避けやすい」

 

 

俺は乱馬(原)の火中天津甘栗拳を避ける。技の仕組みを理解していれば素早く背後に回る事をするだろう。

火中天津甘栗拳を避けられた乱馬(原)は焦った様子で攻撃してくるが、俺は避けながら地味に暗器でカウンターを入れていた。

 

まるで今の乱馬(原)を指導する様な戦い方をしている俺だが実際は隠れて決闘を見ているムース(原)に見せ付けているのだ。俺も元々はムース(原)と同じ才能の筈……つまりはムース(原)も同じ様に強くなれる事を教えたいと思っていた。

 

 

俺は原作世界に来てからムース(原)が不憫に思えていた。俺は原作知識があったから色々と行動してシャンプーと恋仲となったが、実際にムース(原)を見ると、その気持ちが殊更に強くなった。

あまり原作世界を変えるのは良くないと思っていた俺だけど……少し助言や鍛えるのは良いよな?

そんな事を思いながら乱馬(原)の攻撃を捌きながら、それをムース(原)に見せるように動いていた。

 

 

 

 



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南蛮ミラーの使い道③

 

 

 

 

◇◆sideムース(原)◇◆

 

 

 

オラは夢でも見ているのかと思っただ……最近、別の世界から来たオラはオラ自身とは違う人生を歩んでいただ。その世界のオラはシャンプーと許嫁となっていただ。しかも乱馬よりも強い……オラは乱馬に勝つことを目標にしていただが、あっちのオラは乱馬よりも強く、シャンプーを嫁にしておる……なんで同じオラでこんなに差が出るんじゃ……

今、乱馬と戦っているあっちのオラは乱馬を相手に余裕の戦いを見せていた。

 

 

「差が出るのも当然じゃな」

「む、猿の干物」

 

 

オラがあっちのオラと乱馬との戦いを信じられない思いで見ていると、猿の干物がオラの隣に居ただ。

 

 

「誰が干物じゃ」

「ぶがっ!」

 

 

猿の干物の一撃でオラは沈められた。しかし、差が出るとはどういう意味じゃ。

 

 

「あちらのムースは幼い頃にシャンプーに勝利し、ワシの指導の下、修行をしておったと聞く。素質が同じだったとしても始まりが違うんじゃ差が出るのも当然じゃな」

「そ、そんなん言われなくても……」

 

 

オババの発言に反論しようとしたが言われた通りなので反論も出来ん。乱馬との戦いをあんなにも有利に進められてるのを見ると尚更じゃ。ん……今、あっちのオラと目があった様な……

 

 

「ホッホッホッ、あちらのムースも思うところがあるんじゃろう。お主に乱馬との戦いを見せ付ける様に戦っておるわ。本来ならとっくに婿殿を倒せるのに敢えて時間を掛けて戦っておる」

 

 

オババの言葉に改めて戦いを見ると、確かに何度も攻め手があったのに手を出さぬ事がある。

オラは乱馬を倒す事は諦めてはおらん。じゃが、最近は猫飯店のバイトが忙しく修行はサボっておった……

 

 

「どうした、乱馬?その程度だか?」

「くそっ!どんな修行しやがったムース!」

 

 

今も乱馬をあしらいながら戦っておる、あっちのオラを見ていると……武道家としての血が騒ぐだ。

 

 

 

 

 

◆◇sideシャンプー(原)◆◇

 

 

 

 

別の歴史から来たムースや私、そして居ない筈の妹のリンス。一時的な事故として、この世界に来てしまった、あっちのムース達を曾バアちゃんの考えで猫飯店でバイトとして雇っていたアル。

そして話の流れであっちのムースと乱馬が戦う事になった……と言うよりあっちの私が乱馬じゃなくてムースなんかに惚れている事が我慢ならなかった。だから乱馬とあっちのムースが戦えば、あっちの私の目が覚めると思ったネ。でも、結果は全然別のものとなった。

 

あっちのムースは乱馬と互角……ううん。それ以上の戦いをしていた。私の想像とは違う結果に呆然としていると隠れて戦いを観戦している、あっちの私やリンスはあっちのムースに見惚れているのかポーッと顔を赤らめていた。ムースは顎が外れるんじゃないかというくらいに口が開いたまま戦いを見て呆然としているネ。

 

そんな思いで戦いを観戦していたけど、終わりは意外な形で訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side乱馬(原)◆◇

 

 

 

いつもの調子の果たし状を受け取り、ムースからの決闘を受けた。良牙からも果たし状が届いていたが、いつも通り指定した日時には帰ってこないだろうから、ムースの果たし状を先に受けた。

ムース相手ならアッサリと決着をつけられると思っていたがムースはこの短期間にかなり強くなっていて、俺の攻撃が当たらなかった。焦れば焦るほど俺の拳はムースに捌かれて、一切当たらない。ここで俺は違和感に気付く。今日のムースは暗器をあまり使わないし、口調の訛りも少ない。なんだ……なんなんだ、この違和感は……

 

 

「乱馬!俺との果たし合いを無視してムースと決闘とは何事だ!」

「げ……なんで、今回に限って日時ピッタリに帰ってくるんだよ!?」

 

 

俺とムースの戦いを遮るように怒声が響き渡る。振り返ると怒りの表情で俺とムースを睨んでいる良牙が立っていた。

 

 

「乱馬、俺の決闘を受けてもらうぞ!ムース、お前には悪いが先に仕留めさせて貰うからな!」

「……やれやれ」

 

 

良牙は俺と決闘をする為にムースを倒そうと襲い掛かろうとしている。待てよ、良牙!俺は先にムースと戦って……

 

 

「甘く見られたもんだな」

「がはっ!?」

「な、良牙を一瞬で!?」

 

 

ムースは良牙の右拳を受け止める仕草をしたと思えば、良牙の腕を絡めとり関節を極めて地面に投げ落とす。トドメとばかりに地面に落とした良牙の腹部に一撃を与えて気絶させてしまった。俺がその光景を信じられないと思っていたらムースは俺の方に振り返る。

 

 

「これじゃ仕切り直しって雰囲気じゃないし……そろそろネタばらしといこうか」

 

 

そう言ったムースの笑みはイタズラが成功したような楽しそうな笑みだった。

 

 



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南蛮ミラーの使い道④

 

 

 

「べ、別の歴史から来たムースとシャンプーとその妹ぉ!?」

 

 

先程の果たし合いをしたグラウンドから猫飯店に移動した俺達は乱馬(原)、あかね(原)、良牙(原)に俺達自身の事を説明した。当初は笑い飛ばしていた乱馬(原)達だが俺とシャンプーが二人居る辺りから苦笑いへと変化し、リンスを見てから絶句へと変わった。そりゃそうか。しかも別の歴史である俺達の立場や人間関係の違いに更に驚いていた模様。

因みに俺は元のパーカー姿に戻り、ムース(原)もいつもの中華服に戻っている。そのままだとややこしい事になるから。

 

 

「ああ、さっきまでは……まあ、話の流れで決闘する事になってな。騙したみたいですまなかった」

「うそ……ムースがこんなにアッサリと頭を下げるなんて……」

 

 

一連の説明を終えた後に頭を下げたら、あかね(原)に驚かれた。まあ、原作のムースなら謝っても頭は下げんわな。

 

 

「ふん、だが頭を下げようが、あかねさん(原)や乱馬(原)を騙していた事に違いはないだろう卑怯者め」

「不意打ちで決闘に水を指した卑怯者には言われたくないネ。男らしさの欠片もない」

 

 

鼻を鳴らした良牙(原)に反論と追い討ちを掛けるシャンプー。良牙(原)は胸を押さえて「ぐっ……」と踞った。ああ、自覚はあったのね。シャンプーが良牙(原)を見る目は養豚場の豚を見る目だわ。

 

 

「そっちのシャンプーはムースと良い感じなんだな……」

「シャンプーがムースを庇うって不思議な光景だわ……」

 

 

乱馬(原)とあかね(原)は珍しい物を見る目で俺達を見ていた。

 

 

「私からしてみたら、そっちが変な感じネ。もっとも素直じゃないのは似てるアル」

「確かに乱馬さん(原)もあかねさん(原)も私達の知る乱馬さんとあかねさんにそっくりです」

 

 

シャンプーとリンスは少しだけ性格の違う乱馬(原)とあかね(原)に戸惑いと言うか……何処か納得している様な雰囲気を出していた。原作を知る俺からしてみればこっちが違うのだろうが口は挟めない。

 

 

「しっかし……何処か納得したぜ。ムースがいつもより強いから変だと思ったが別人とはよ」

「なんだと乱馬(原)……だったら今すぐ決着つけてやるだ!」

 

 

手を頭の後ろで組んだ乱馬(原)が納得した様に呟くとムース(原)が怒りを露にして服の袖から暗器を取り出して威嚇する。ああ、なんか原作の流れだ……じゃなくて。

 

 

「そっちの俺は店で暗器を出すな。そっちの乱馬(原)も安い挑発は武道家としての名を落とすぞ」

「ちっ……仕方ないだ……」

「お、おう……」

 

 

俺が嗜めると二人は引いてくれた。

 

 

「ムースが凄い大人だわ……」

「私のムースはカッコいいネ……」

「流石、ムース兄様です!」

 

 

あかね(原)が驚いているとシャンプーとリンスがうっとりとした表情で呟く。おいおい、可愛いなオイ。

 

 

「さっきの説明にもあったが……少しの歴史がズレると色んな事が変わっていく。俺達の当たり前が、そっちでは意外な事になってるんだ」

「それで……そっちのオラは乱馬を倒せる程に強くなっていただか……シャンプーとも……」

 

 

俺の説明にムース(原)は少し肩を落とした様子である。

シャンプーの辺りでとてつもなく落ち込み様だ。

 

 

「今は違うとしても元は同じなんだ。修行次第で追い付けるとは思うが……」

「元の才覚が同じでも鍛えた期間で差が出るじゃろ。そっちのムースは長年ワシが鍛えていたようじゃが此方のムースは独学。追い付くのはどれほど時間が掛かるかのぅ」

 

 

俺の言葉に婆さん(原)は笑っている。俺の強さは長年、婆さんに鍛えられたからであり、独学で強くなれと言うにはかなり無理がある。

 

 

「だったら今からでもこっちの俺を鍛えてやってくれないか婆さん?」

「シャンプーの婿には乱馬と決めておるんじゃ。ムースを鍛える理由が無いわい」

 

 

俺が婆さん(原)に頼むと婆さんはクックッと笑うと否定した。

 

 

「おのれ、ケチな猿の干物め……」

「誰が干物じゃ!」

 

 

ムース(原)が余計な一言を良い放ち、婆さんから一撃を

貰っていた。

 

 

「やっぱり乱馬(原)は私の婿になる運命ネ!」

「うわっと!抱き付くなよシャンプー!(原)」

「ちょっと乱馬(原)!」

 

 

後ろでは乱馬(原)達が騒いでいる。なんかリアルにアニメの世界を見ている様だ。シャンプー(原)が乱馬(原)に抱き付いてるのを見るとなんか、モヤッとするが……

 

 

「曾バアちゃん、本当にこっちの私の為を思ってるアルか?」

「………勿論じゃ」

 

 

ギャアギャアと騒いでる原作組を放っておいてシャンプーが婆さん(原)に問い掛ける。

それは俺も思っていた事だ。原作やアニメでも乱馬をシャンプーの婿にする気が薄かった気がする。乱馬のピンチには駆け付けて手助けや鍛えたりしていたけど、婿にする為の行動は極端に少ない。シャンプーの独断の行動は多かったけど、それに対して婆さんが手助けしたのは精々、反転宝珠の話くらいだ。それを考えると婆さんは乱馬をシャンプーの婿にする為の動きは消極的だった。

 

そして俺の知る婆さんは女傑族の掟の縛りをどうにかしたいと考えていた……つまり原作の婆さんも同じ事を考えていたのでは、と思う。

 

 

「だったら……もうちょっとやり方があるんじゃねーの?」

「ふん、くだらん事を言ってないで、サッサッと帰るんじゃな」

 

 

俺の言葉に婆さんは南蛮ミラーを差し出しながら答える。余計な事は言うなと言わんばかりだ。

 

 

「解析は済んでおる。お主が頭に思い描いた世界を思いながら南蛮ミラーに涙と血を落とせば、その世界に行ける筈じゃ」

「どうやって解析したのかは、さておき……やっと帰れるな」

 

 

帰れるのは良いんだけど……どうやって解析したのだろう。深くはツッコミを入れん方が良いだろう。

 

 

「え、もう帰っちまうのかよ!?まだ俺はそっちのムースに勝ってないってのに!」

「そうね……シャンプー(原)やムース(原)は数日一緒に居たけど私達はさっき会ったばかりなのに」

 

 

俺達が帰る事に乱馬(原)とあかね(原)は不満そうにしていた。俺ももう少し話をしたかったけど仕方ない。

 

 

「悪いな。向こうで婆さんが待ってるんだ」

「何日も留守にしてたから早く帰って顔を見せないと心配されるネ」

 

 

不満そうにしていた乱馬(原)とあかね(原)に簡単に事情説明をした後に俺は懐から暗器を取り出して指先を斬る。ツゥと血が指先から滴り、南蛮ミラーに落ちていく。後は俺の涙を落として元の世界を思い浮かべれば完了だ。

 

 

「あ、服をお返ししなきゃ……」

「よいよい。思い出の品として持ち帰ればよい。それがお主達がこの世界に来た証じゃ」

「じゃあ……遠慮なく貰っていくよ」

 

 

リンスは買って貰った服を返そうかと思ったが、婆さんの好意によりそのまま持ち帰る事に。一方でシャンプーはシャンプー(原)とあかね(原)に別れを告げていた。

 

 

「あかね(原)、乱馬(原)と仲良くな。そっちの私は掟に縛られて大切なものを見失わない様にするヨロシ」

「うん、ありがとうシャンプー。乱馬(原)とは仲良く出来るかは……わからないけど」

「大きなお世話ネ。用事が済んだならサッサッと帰るアル」

 

 

ガールズ達は女子特有の話をしていた。リンスは歳の差故か話には参加していなかった。

 

 

「そっちのムースとは決着つけたかったけど……しょうがないよな」

「ふん、いつか必ず追い付いてやるだ」

「そっちの俺達にもヨロシクな」

「ああ、そっちもそれぞれ頑張れよ」

 

 

乱馬(原)ムース(原)良牙(原)に見送られながら、俺はこれから彼等が送るであろう原作話の事を思いながらしっかりと返答した。詳しく話をする訳ではないがエールを送る位は良いよな。

 

 

「裏の空き地を使えば他の者を巻き込まずに済むじゃろう。達者でな」

「ありがとう婆さん。世話になりっぱなしだったな」

「曾バアちゃん、謝々」

「ありがとうございました!」

 

 

婆さん(原)から空き地を使えば良いと言われてそっちへ向かう前に最後のお礼をそれぞれする。本当に世話になったから。

 

 

「構わぬよ……ワシも孫が増えたようで楽しかったわい」

 

 

婆さん(原)は楽しそうに笑っていた。迷惑を掛けていたと思っていたので少し嬉しかったりする。そして俺達は婆さんに言われた通り、裏の空き地で南蛮ミラーを再起動せて元の世界へと帰った。こうして俺達の原作世界への旅は終わりを告げたのだった。マジで不思議な体験したもんだ。

 

 

 

 

◆◇sideコロン(原)◆◇

 

 

 

別の歴史から来たムース達が帰って行った。やれやれ、騒がしい日々も終わったかの。

 

 

「そういや、あっちのムースもアヒルになって苦労してたんだよな?」

「いや、あっちのオラは娘溺泉に落ちていて女になっていただ」

「ちょっと待て!その話聞いてないぞ!?」

 

 

良牙(原)の呟きにムース(原)が答え、婿殿が騒いでおる。もう少し、話をさせるべきじゃったかのぅ。

 

 

「何が大切なものを……アルか。そんなの私には関係ないネ」

 

 

ぶつぶつと向こうのシャンプーに言われた事を気にしているシャンプー(原)にワシは新たな希望と一抹の不安を抱えておった。やれやれ、奴等との接触で考え方に違いが出始めておるの。向こうのムース達との繋がりはコヤツ等にも良い刺激となったかもしれんな。

 

しかし、向こうのムースは何かを隠している様じゃった。何かに焦っているとも言えるが……それは向こうのワシがなんとかするじゃろ。

ギャアギャアと騒ぐ小童共を見ながらワシは向こうの孫達の無事を祈った。

 

 

 



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ムースの日記⑰その二

 

 

×月○日

 

原作世界から帰って来た俺達は速攻で婆さんに頭を下げた。婆さんは俺達の日本に居る間の保護者だ。一週間近く、行方不明だったのだ。その怒りは計り知れない。

なんて思っていたのだが、そんな事はなかった。婆さんにすぐさま謝ったのだが「何を言ってるんじゃ?」と言われてしまう。日付を確認するとなんと原作世界に行った当日だった。

 

婆さんに南蛮ミラーで平行世界(原作世界)に行った事、向こうの俺達の事、帰って来た経緯を話したら大層頭を抱えていた。俺もだがシャンプーもリンスも疲れていたので今日はお開きとなった。

 

 

×月×日

 

次の日になり、詳しい話を婆さんにしていた。婆さんは半分納得半分困惑といった感じである。

俺としては、なんで原作世界に行った時と同じ日付だったのか不思議だが、南蛮ミラーで『元の場所』を連想したのが原因じゃないかと婆さんの見解だ。

俺としては超安心した。なんせ、この日記や『1/2知識』を見られたら困るからだ。見られないように細工はしているが長期間、家を留守にしてると不安になる。

 

 

×月△日

 

原作世界の自分を知ってからシャンプーが妙に甘えてくる。俺としては嬉しいが理性が保ちそうにない。リンスも居るんだから自重しなさいと言いたいが俺の煩悩がそれを拒む……なんて思っていたら婆さんが俺に親指をグッと立てていた。頼むから玄孫が楽しみとか言わないでくれ。理性のブレーキ壊れそうだから。

 

 

×月◇日

 

乱馬が猫飯店で飯を食いに来たが妙にボロボロだった。しかも女の姿で。何事かと問うと良牙の妹になりすまそうとして途中までは騙せていたのだが、途中でバレてボコボコにされたらしい。ああ、そういやそんなエピソードあったっけ。乱馬も良牙もどちらも自業自得だ。

こんな事があると、関わらないだけでドタバタ劇は常に起きているのだと再認識してしまう。

 

 

×月◆日

 

シャンプーとリンスがあかねに誘われて温泉に行った。俺も行きたかったがたまには女だけで旅行に行ってくると良い……と思いたかった。が、シャンプーとリンスが出掛けてから乱馬が猫飯店に駆け込んできた。慌てた様子なので何事かと聞けば、八宝斎の爺さんが過去に封印した奥義の秘伝書を隠した場所に行こうとしているらしい。先にそれを得ようと玄馬さんと早雲さんと一緒に行こうとしたのだが、俺も誘おうと考えたらしい。そこまで聞いて俺は思い出した。爺さんの奥義『八宝大華輪』その秘伝書を封印した場所は昔は盆地だったが現在は温泉が沸いていて、原作ではその温泉にはあかねが行っていた。そして今日、シャンプーとリンスはその温泉旅行に誘われて一緒に行った訳で……急いで後を追おう。

 



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幻の八宝大華輪を探せ!①

 

 

 

 

幻の奥義『八宝大華輪』の秘伝書を求めて山奥まで来た俺、乱馬、玄馬さん、早雲さん。俺と乱馬は道行きを知らないので早雲さんと玄馬さんの後を追う形になっている。

 

 

「ムースが来てくれるのは心強いぜ」

「俺としても、あの迷惑爺さんが更に迷惑を及ぼすのは看過できないからな」

 

 

乱馬は俺が着いてきた事に喜んでいる様だが、俺のメインはこの後の温泉だ。秘伝書を埋めた地点に温泉が沸いた為に秘伝書の回収が困難とされた時に、あかねとその友達が旅行で来てしまうのが原作の話だが、シャンプーとリンスがあかねに誘われて、その旅行に行ってしまっている。あの妖怪爺にシャンプーとリンスの肌を見せてなるものか!

 

 

「此処だ……この崖の下に秘伝書を埋めた」

「おお、あれぞ正しく秘伝書を埋めた大岩!」

 

 

なんて考えに耽っていると、早雲さんと玄馬さんが立ち止まり、崖の下を覗きながら叫ぶ。確かに下には木々に囲まれた森の中に大岩が鎮座していた。

 

 

「お師匠様はまだ来ていないようだ……ならば!」

「うむ、善は急げだ!」

「先に行くぜムース!」

「あ、ちょっと待て!」

 

 

秘伝書を埋めた大岩を見つけたとあって早雲さんと玄馬さんは慌てて崖を飛び降り、乱馬も後を追う。三人は俺の制止を振り切って降りてしまうが……その直後、悲鳴と共に打撃音が聞こえた。やはり下は女性限定の温泉になっていたか。

 

 

「おーい、大丈夫だったか?」

「う、ううむ……」

「まさか、温泉が沸いているとは……」

 

 

俺は崖をロープを使って少し迂回しながら乱馬達と合流する。案の定、桶を大量に投げ付けられたらしい。

 

 

「痛てて……ムースは分かってたのか?」

「下が温泉とは思わなかったが周囲の状況を確認してからじゃないと危ないと思ってな。さて、女湯になってるなら、どうするか……」

 

 

俺は荷物を下ろしながら乱馬の問いに答える。原作でそうだったからなんて言えないから適当に答えは濁したが。

 

 

「よし、こうしよう」

「断る、俺とムースを女にする気だろ。無理だぜ、お湯を掛ければ男に戻っちまうんだからな」

 

 

玄馬さんの案を速攻で拒否しようとした乱馬。玄馬さんはバシャッと水を被り、パンダとなった。手にはペンキが握られている。

 

 

『私が行くのだ。コレで変装すれば完璧だ』

「そ、そうか……パンダに色を付ければのどかなパンダも狂暴な熊に大変身!」

「完璧だ、完璧だよ早乙女くん!」

「あー……確かに完璧だったとは思いますよ。ペンキが白じゃなけりゃ」

 

 

自信満々にペンキを出す玄馬さんだが、白熊になって女の子を脅そうとは無理がある。いや、白熊でも怖いとは思うが日本の山中に白熊はおらんわな。原作でもそれで失敗してたし。

 

 

「だったらどうする?」

「そうだな……俺と乱馬が女になった上で変装して清掃の為に一時的に温泉を封鎖しますとか言って、女の子達に立ち退きを要求するとか……」

「おお、ならばその案で…」

「この愚か者どもがーっ!」

 

 

次の案を考えていると何処に隠れていたのか妖怪爺が早雲さんの頭を叩いた。

 

 

「お、お師匠様……」

「この未熟者どもめ……見ておれ」

 

 

頭を叩かれた早雲さんが突如現れた爺さんに驚いていると、爺さんは猿の着ぐるみを身に纏い温泉にナチュラルに入っていく。

 

 

「お、おお……ごく自然に温泉に入っていく……」

「そうか、その場に状況の一部になる事、これぞのぞきの極意……我らが未熟でございました、お師匠様」

「のぞきの極意を伝授されて感動している場合か!」

「秘伝書を取りに来たんでしょ、のぞきに来たんじゃないんですから」

 

 

玄馬さんと早雲さんは感動しているが、乱馬と俺のツッコミに正気に戻ると俺達に水を被せた。

 

 

「最初からお前達が行けば良かったんじゃ!」

「威張って言う事か!」

「短期決戦だな。岩に素早く飛び移って秘伝書を掘り返そう」

 

 

玄馬さんに女にさせられた乱馬と俺は服を脱いで温泉に来た客を装い、温泉に向かう。

 

 

「乱馬、なるべく周囲を見ずに行こう。俺達は秘伝書を目当てに来たんだ。その経過で覗きをするのは許される事じゃない」

「お、おう……素早く行こう」

 

 

お互いに女の体になっているので互いを見ずに走り抜ける。しかし、後一歩のところで温泉から女の子達が上がって来てしまい、乱馬の足は止まってしまう。俺はそのまま飛び上がり大岩の所へと着地する。

 

 

「ちょっと大丈夫?温泉に飛び込もうとして岩のところに着地なんてドジねー?」

「あ、あはは……お騒がせしました」

 

 

乱馬は足を止めたが、俺は大岩へ飛び移った事は周囲には温泉に飛び込もうとして失敗したと見られた様だ。

 

 

「よし、今の内に秘伝書を……おわっ!?」

「伏せろ!」

 

 

秘伝書を掘り返そうとしたタイミングで乱馬に温泉に落とされる。その為、俺と乱馬は男に戻ってしまった。

 

 

「何すんだよ、早くしないと……げ」

「あっちを見ろ!」

 

 

小声で話す俺達の視線の先にはあかねやシャンプー、リンス達が……しまった。もう来たのか。

 

 

「あ、あかねにシャンプー……」

「温泉旅行とは聞いてたけど、まさか此処だったとは……」

 

 

知ってはいたけど……参ったな。シャンプー達が来る前に秘伝書を掘り返そうと思ったのに。って言うか秘伝書って本来、役立たずなんだから別に掘り返さなくても良かったんだっけ。完全に忘れてた……。

 

 

「ど、どうするムース?」

「落ち着け、乱馬。まだ向こうは俺達に気付いてないんだ。さっさと秘伝書を回収して逃げよう」

 

 

取り敢えずバレる前に撤退しかあるまい。本当なら秘伝書も回収せずに逃げるべきだが、乱馬は秘伝書が役立たずとは知らないから秘伝書を無視して逃げるのは不自然となってしまう。

 

 

「よ、よし……だったら……」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「あいやーっ!?」

「あっかねちゃん、シャンプーちゃん!」

 

 

乱馬が秘伝書を掘り返そうと瞬間、聞きなれた声の悲鳴が聞こえた。振り返ると、モモンガの着ぐるみを着た爺さんがあかねやシャンプーに空から迫ろうとしていた。それを見た俺と乱馬は即座に体が動いていた。

 

 

「「させるかっ!」」

「ひぎゃ!?」

 

 

俺は右拳を、乱馬は左拳を妖怪爺に叩き込んでいた。我ながら見事なコンビネーションだったと思う。

 

 

「ったく……こりないジジイだぜ」

「悪は滅んだ」

「お爺ちゃんは兎も角……アンタ達は……何をしてたのよー!」

 

 

爺さんを撃退した俺達だが、背後から掛けられた声にハッとなって振り返ると、あかねは秘伝書を埋めていた大岩を持ち上げて俺達に振り下ろそうとしていた。ヤバい、早くも説得しないと……と思った瞬間、背中にとても柔らかい感触が……まさか!

 

 

「ムース、一緒に来たかったのカ?大歓喜!」

「シャ、シャンプー!?ちょっ……ヤバい、柔らかいじゃなくて……」

 

 

シャンプーが後ろから抱き付いてきた。ヤバい、互いに裸だからダイレクトにシャンプーの柔肌が……最早、俺の神経は背中のしか機能していないと思われる。

 

 

「ワハハハッ!あかねちゃん達の裸も見れたし、八宝大華輪の秘伝書も手中に納めたり!」

「しまった秘伝書が!」

「秘伝書?」

 

 

そんな俺達の隙を突き、爺さんが秘伝書を奪い取って飛び立ってしまう。つーか、乱馬タフだな。あんな大岩で殴られて即座に復活しやがった。あかねは大岩抱えたまま爺さんが持つ秘伝書を見て、唖然としてるし。

 

 

「って、そんな場合じゃなくて……させるか!」

 

 

俺は桶を手にすると投擲で爺さんの手の秘伝書を狙う。

 

 

「馬鹿者め、そんなもんに当たる訳がなかろう!」

「させるか!」

「頼んだぞ、乱馬、ムース君!」

 

 

俺の投げた桶を避けた爺さんだが、隠れていたのか早雲さんと玄馬さんが木の枝で爺さんを殴り返す。俺の桶を避けた事で早雲さん達の攻撃を避けられなかった爺さんは野球ボールの様に戻ってきた。

 

 

「貰ったぁ!」

「げひぃ!?」

 

 

乱馬が爺さんをエルボーで沈めると秘伝書を奪い返した。よくやった乱馬……あれ……なんかクラクラして……

 

 

「ムース?ムース!?」

「おい、大丈夫か!?」

「ちょっとムース!?」

「ムース兄様!?」

 

 

皆が俺を呼ぶけど意識が遠のく……もう……だめ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くしてから目を覚ましたのだが、俺は温泉で体が温まったのと、シャンプーに抱き付かれて興奮したのが原因でのぼせたらしい。あの後、事情を話して俺を温泉から引き上げた後、温泉から離れた地点にテントを張り秘伝書の解読をしていたらしい。

シャンプーに抱き付かれて、暴れりゃそりゃのぼせるわな。全神経が背中に集中してたし。

つーか、シャンプーが今までにないほどに積極的だった気がする。原作の乱馬も同じ気持ちだったのだろうか……

 



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幻の八宝大華輪を探せ!②

今回の話は書いては消してを繰り返してました。
結果、長くダラダラな感じになったのでシンプルに仕上げる形になりました。


温泉で、のぼせたと言うかシャンプーにのぼせさせられた……あのボディを無遠慮に押し付けるのは反則だよ。いや、マジで。

 

 

「さて……俺が気絶してからどうなった?」

「うん、結局お爺ちゃんの秘伝書が解読できなくて、お爺ちゃんを捕まえて解読させようって乱馬やお父さん達は言ってるんだけど……」

 

 

野宿をして、宿には泊まらなかったのでテントで目覚めた俺は、テントから出た所であかねに会ったので話を聞いていた。確か漫画だと爺さんに秘伝書を解読させようとするんだけど、秘伝書を書いた爺さん自体が読めず思わず、破いてしまう。そして流れるままに、らんまにセクハラをした爺さんはぶっ飛ばされるのだが、そこで頭に火花が散り、奥義の『八宝大華輪』を思い出す。

と、まあ……こんな流れだったな。

 

 

「爺さん捕まえて解読させようとするのは良いが……どうやってだ?仮に解読方法があったとしても、それを解読させる為には爺さんが秘伝書見ないとだろ?」

「そうなんだけど、乱馬もお父さん達もその事を考えてないみたいで……」

 

 

俺があかねに問うと、あかねもため息混じりに答える。やっぱり、そうなったか。いや……ちょっと待て、このパターンだと俺が囮に使われるんじゃ……

 

 

「あ、起きたかムース。ジジイを捕まえるのを手伝ってくれ!」

「俺、貧血気味だから遠慮するわ」

 

 

乱馬がテニスウェアを手にしながら来たので、俺は回れ右をしてテントに戻ろうとしたがガシッと肩を掴まれる。

 

 

「頼む、ムース君!」

「ワシ等の平和の為にもだ!」

「また、このパターンですか!?」

 

 

逃げようとしたら玄馬さんと早雲さんに捕まれる。めっちゃデジャブ。猫飯店の時と同じパターンじゃねぇか!

 

 

「ジジイを誘き寄せるには美少女しかない!あかねやシャンプーを囮に使いたくないから俺達でするしかない!」

「シャンプーやあかねを巻き込まないように配慮出来るようになったのは嬉しいが、もうちっとマシな作戦は無かったのか?」

 

 

力説する乱馬に俺は呆れつつも、女の子に気遣いが多少なり出来るようになった事が少し嬉しかったりする。

 

 

「だが、ムース君。お師匠様を捕まえるにはこれが一番効果的なんだ!」

「そうかもしれませんが……冷たっ!?」

 

 

早雲さんの説得の最中に水を掛けられる。振り返るとシャンプーがバケツを持っていた。

 

 

「あ、あのシャンプー……?」

「ムースの可愛い姿を見させてもらうネ。あかねも着替えるヨロシ」

「準備万端ですよ」

「え、囮は乱馬とムースがやるんじゃ?」

 

 

ニコニコとしているシャンプー。隣にはテニスウェアとラケットを持つリンス。あかねも囮は俺と乱馬がやると思ってたから首を傾げている。

 

 

「囮もやるけど、テニスやった事がないから楽しみネ!」

「楽しそうですね!」

「そっか……女傑族の村に居た頃はテニスなんかした事は無かったな」

 

 

何処か浮かれた様子のシャンプーとリンスに村での娯楽は少なく、テニスなんかした事が無かったと思い出す。やれやれ、仕方ないな。

 

 

「乱馬、囮役は引き受けてやる。あかねも協力してくれ」

「お、おう……」

「ムースってシャンプーとリンスちゃんが絡むと甘くなるわよね」

 

 

嫌がっていた囮役を受けると乱馬は戸惑い気味に返事をして、あかねは微笑ましい物を見る目で俺を見ていた。シャンプーとリンスに甘い自覚はあるから、ほっとけ。

 

この後の展開はほぼ原作通りだった。

囮役の女になった乱馬に爺さんが釣られ、捕まえた爺さんに秘伝書を解読させようとしたが、やはり秘伝書を書いた爺さん自体が読めず思わず、破いてしまう。そして流れるままに、乱馬にセクハラをした爺さんはぶっ飛ばされるのだが、そこで頭に火花が散り、奥義の『八宝大華輪』を思い出す。と言っても様は威力高めな花火な訳だが。

そしてテニスを楽しんでいた俺達の所に爺さんが乗り込んでくるが、投げてくる八宝大華輪をラケットで打ち返したり、受け止めて投げ返したりと種が割れれば対処は容易い。

 

この後、怒った爺さんが人よりも大きな八宝大華輪の上に乗った状態で転がり迫る。早雲さんが咄嗟に女性の下着を投げ込み、それに釣られた爺さんは自ら八宝大華輪の前に飛び込んだ。

そのまま押し潰されるかと思われたが腐っても達人。なんと爺さんは指一本で巨大な八宝大華輪を止めたのだ。まあ、それも乱馬に蹴り押され、崖下へと落とされ、そのまま爆破した八宝大華輪に巻き込まれて大輪の花火を夜空に打ち上げた。

 

 

「たーまやー」

「これで世の中、平和になるな」

 

 

その花火を見て、乱馬と玄馬さんが呟く。作ったのと打ち上げたのは邪悪の権化だが花火は綺麗なもんだ。

 

この後、俺達は夜営したテントを回収し、あかね、シャンプー、リンス達と一緒に帰った。途中でリンスが寝てしまったので俺がおんぶして帰ったが。やれやれ、爺さん絡みの話でもわりと平和に終わったな今回は……と思ってたんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムースよ、今日から夜の乱馬を見張るのじゃ」

「……………はい?」

 

 

この数週間後、猫飯店で仕込みをしていたら婆さんから、そんな事を言われた。

 

 

 



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乱馬を襲う恐怖のタタリ①

 

 

 

 

婆さんに言われて夜に乱馬の監視をする事、はや三日。暇人を観察している俺は何人なのだろう……

 

 

「く……ふぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

木の上で乱馬の部屋を監視している俺は欠伸が止まらない。昼間は猫飯店で仕事して、夜は乱馬の監視してれば眠くもなる。これって、なんかのエピソードであったっけな……いかん、眠くて頭が回らない。

 

 

「乱馬を監視してどーしろってんだか……つーか、いつまで続くんだこれは……って、ん?」

 

 

暇だし、無意味な監視は辞めて帰ろうかと思った、その時だった。乱馬と玄馬さんの部屋から薄ぼんやりと光が見える。

 

 

「妙だな……さっき、明かりは消した筈だが……」

 

 

部屋の電気を消したのに部屋が僅かに明るく見えるとは何事?俺は木から天道家の屋根に飛び移り、音を立てないように、そーっと中を覗いた。

 

 

「…………っ!?」

 

 

中で見た物に驚愕しながらも、咄嗟に息を殺し、叫ばなかった自分を褒めたい。俺は気配を殺しながら気取られぬ様に再度、窓から部屋の中を見た。

そこには男の乱馬とおさげをほどいた女の乱馬が寄り添っていた。有り得ない光景に驚きながらも俺は必死に記憶を辿る……これは確か、アニメのエピソードで『乱馬を襲う恐怖のタタリ』だった筈。

 

爺さんの秘術……って言うか呪いのお香「肉体分離の術」をかけられ、分離してしまった男の乱馬と女の乱馬。二人に分離した乱馬は互いに恋におちてしまうってストーリーだ。

 

だが、このエピソードはそんな簡単な話じゃない。分離した女の乱馬は邪悪の権化として生まれた存在で、男の乱馬が女の乱馬を求めると女の乱馬は男の乱馬の生気を吸い取っていくって話だった……ヤバイな。いや、マジで。

婆さんはこれを察知してたから俺に乱馬を監視しろって言ってたんだな。

 

 

「………いっそのこと、今の内に隔離しちまうか?」

 

 

俺は袖から暗器を取り出して男の乱馬に狙いを定める。男の乱馬を気絶させて猫飯店に連れて行って、婆さんに診て貰えば万事解決な気がしてきた。

 

でも……エピソードを変えて大丈夫なんだろうか?いや、しかし、このタイミングで男の乱馬を助ければアニメの時みたいにミイラみたいにガリガリにならないで済むし……

 

 

「うーむ……どうすっかな……」

「あら、どうするんですか?」

 

 

悩んでいると背後から声が聞こえる。振り返ると窓から透けた体で体を半分外に出して此方を見ている女の乱馬……って、バレてる!?

 

 

「ら、らん……あ……」

 

 

女の乱馬に驚いた俺は足を踏み外して屋根から落ちた!やっべぇ!?

 

 

「なん……のがっ!?」

「ムースさんっ!?」

 

 

なんとか体勢を整えて庭に着地した俺だが、屋根から足を踏み外した際に瓦も外れてしまった様で屋根から外れた瓦は俺の頭を直撃した。

薄れいていく意識の中で俺が見たのは涙目で俺の方に来る女の乱馬の泣きそうな顔だった。



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乱馬を襲う恐怖のタタリ②

 

 

 

 

「と……痛てて……」

「あら、大丈夫?」

 

 

目が覚めれば見覚えのある天井……天道家の天井だった。起き上がると、かすみさんが氷嚢を俺の頭に当ててくれていた。

 

 

「大丈夫?うちの庭で倒れていたのよ」

「あ、そっか……あの時……」

 

 

かすみさんの説明に気絶した理由を思い出す。疲れていた上に寝不足で不意打ち気味に頭に衝撃が来たから意識が飛んだんだった。

 

 

「起きたか、ムースよ」

「婆さん……あ、そうだ!乱馬は!?」

 

 

何故か、天道家の居間で茶を飲んで居た婆さんに気付くと、俺は乱馬に起こっている異常事態を思い出した。

 

 

「乱馬君なら学校よ。でも、少し体調が悪かったみたいだけど……」

「げ、だったら……あ、いや……そうですか」

 

 

かすみさんが乱馬は既に学校に行っていると言う発言に俺はあの時、気絶した事を悔やむ。

 

 

「かすみよ、ムースが世話をかけたな。ムース、一先ず、帰るとしようか」

「かすみさん、お世話になりました」

「ええ、また来てください。ムース君は無理しないでね」

 

 

婆さんは視線で他言無用と語っていたので俺は押し黙る。かすみさんには何も告げずに一先ず、帰る事に。俺を心配してくれるかすみさん、マジ聖母。

 

 

「ムースよ、お主が気絶していた理由を話せ。何があった?」

「ああ、三日間徹夜の眠気も吹っ飛ぶ事態があったよ」

 

 

俺は簡単にだが気絶した経緯を話した。

 

 

「なるほどのぅ……少し無理をさせ過ぎたか」

「これが少しと言い切る婆さんも大概だよ。で、乱馬の方はどうするんだ?」

 

 

三日間徹夜で働きづめの俺にそれを言うか。んで、肝心の乱馬はどうするんだか。

 

 

「ふむ……一先ず、帰るとしよう。昼間の段階では、もう一人の乱馬は姿を現さん。お主も一度、しっかり眠るべきじゃからの」

「そーするわ、寝た……って、言うか気絶してたけど寝足りないし」

 

 

正直、寝不足で体がダルい。夕方くらいに起きて、そっから対策を練らなきゃか。

 

 

◆◇◆◇

 

 

時刻は夕方。本日の猫飯店は臨時休業となり、俺は改めて婆さんとシャンプーに乱馬の事を話した。因みにリンスは学校の宿題をしている為に不在。それに割りとホラーな話だから聞かせたくないし。

 

俺は三日、乱馬を監視していた時の事と昨夜見た、乱馬が男と女に分離していた時の事。そして、気絶してしまった経緯を話した。

 

 

「ふむ……胸騒ぎがして四日前に乱馬の様子を見に行ったのは間違いではなさそうじゃな」

「四日って事は俺が監視を始めた前の日に見に行ってたのか」

 

 

理由も聞かされずに乱馬を監視しろと言われて、三日も徹夜したせいで頭が回らなかったが、早めにこのエピソードである事に気付くべきだった。

 

 

「うむ、乱馬の部屋に肉体分離香の臭いがしたからの。ワシの取り越し苦労であれば良いと思っておったが……ムースの話から察するに間違い無さそうじゃ」

「俺も半信半疑だったけど、目の前で二人の乱馬を見てしまったからな」

「乱馬が二人になったら、どうなるアルか?」

 

 

肉体分離香の事を知らないシャンプーが首を傾げる。

 

 

「人は元々、善の心と悪の心がある。肉体分離香で二人の別れた者は元の心と悪の心で分離してしまう。まして乱馬は呪泉郷で溺れた者……肉体分離香の効果もより強くなったんじゃろう」

「それでいくと、俺達は肉体分離香を嗅いだら危ないって事だよな」

「ムースや乱馬は兎も角、私は猫と分離してしまうネ」

 

 

婆さんの説明に俺とシャンプーは身近に分離してしまうと危ない連中が多いと思ってしまう。俺は乱馬と同じく、女と分離してしまうだろうし、シャンプーは猫。良牙は豚。玄馬さんはパンダと……じゃなくて。

 

 

「肉体分離香の恐ろしさは邪悪な心と分離する事にある。二つの肉体に別れた者達は互いを求め合い、邪悪な心の方が元の肉体の生気を吸いとってしまうのじゃ」

「え、じゃあ乱馬は……」

「俺もそれを阻止しようとしたんだが、寝不足と油断から気絶しちまってな」

 

 

婆さんの説明にシャンプーが青い顔になる。身近な人間がドラキュラみたいに生気を取られてると知れば、そりゃそうか。でも、俺は思い出した。あの時、見た女乱馬の顔。

 

 

「なあ、婆さん……分離した方は邪悪な心だって言ってたよな」

「ああ……間違いない筈じゃ。何故、そんな事を聞くムースよ?」

 

 

俺の疑問に婆さんは眉を顰める。

 

 

「その……分離した方の女乱馬と少しだけ話した……と言うか、接触したんだけど……悪い奴には見えなかったんだ」

「ふむ……うーむ……肉体分離香で別れた者は例外なく、邪悪な心で分離していたと聞くが……」

「乱馬は例外アルか?」

 

 

俺は昨晩の事を思い出しながら女乱馬の様子を説明した。あの時、見た女乱馬の顔……あれは完全に俺を心配していた顔だ。あれが邪悪の権化とは思いづらい。

 

 

「それの確認の為にも今夜、乱馬の監視をせねばならんな」

「それは良いアルけど、リンスはどうするネ?」

「ホラーとか苦手だし、連れてくのは論外だな。まあ、その時間ならリンスは寝てる時間だし……でも、一人きりにさせるのも心配だが」

 

 

婆さんは今夜も乱馬の監視をせねばならないと言うが、俺、シャンプー、婆さんが出掛けるとリンスが一人きりになってしまう。かと言ってホラーが苦手なリンスを連れていくのも心配だし……

 

 

「だったら私とリンスが、あかねの所に泊まりに行けば良いネ。そうすれば乱馬の監視も出来るネ」

「それが妥当か」

「うむ。では、シャンプーとリンスがあかねと共に居れば監視になるじゃろう。ワシとムースは外で監視じゃな」

 

 

シャンプーの提案に俺と婆さんは頷く。やれやれ、今日も木の上が確定か……つーか、アニメと既に話が変わってきてるけど……大丈夫なのだろうか?

 



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乱馬を襲う恐怖のタタリ③

 

 

 

 

俺達は女らんまの分身を捕えるべく天道道場へと、お邪魔していた。表向き……と言うかリンス、かすみさん、なびきには単なるお泊まりと伝えてあるが、本当は分身女らんまを捕え、乱馬の中へと戻す為だ。何言ってんだか、ややこしくなってくるな。

 

乱馬と玄馬さんの部屋に結界の札を貼り、乱馬自身にも憑依出来ないように、デコにお札を貼ってある。更にあかね、早雲さん、玄馬さん、シャンプー、婆さんは部屋の中で乱馬の監視をしていた。リンスはかすみさんとなびきに任せてある。さて、そんな中、俺は外で爺さんと分身女らんまを待ち構えていた。

 

 

「まったく……なんでワシがこんな目に……」

「全部、アンタが招いた災いだろ。たまには善行を積むんだな」

 

 

俺と爺さんは分身香で分裂した分身を消滅させるお札を手にしている。本来なら責任を取る形で爺さんにやらせる所だが、アニメの話同様に女らんまに騙されて結界の札を剥がしてしまいそうだから、俺が同伴して外で待機となった。

 

 

『乱馬さん……』

「む、来たか!」

「確かに……俺が前に見た女らんまだ……」

 

 

すると、何処からともなく女の子の声が聞こえ、爺さんと俺は辺りを見回す。天道道場の屋根の上に女らんまが立っていた。

 

 

 

『こんばんは。ムースさん、お爺ちゃん』

「ああ……こんばんは」

 

 

ニコリと笑みを浮かべた女らんまに少しだがドキッとしてしまう。いや、普通に可愛いんだもんよ。

 

 

「な、なんじゃ……邪悪な分身の片割れではないのか?」

『ごめんなさい。私、乱馬さんと少し触れ合いたかったんです。こんなご迷惑をお掛けするつもりは……』

「そっか……んで、乱馬に何の用だったんだ?」

 

 

爺さんが動揺していると女らんまが頭を下げて謝る。本当に良い子っぽいんだけど。俺が問い掛けると女らんまは少々顔を赤らめていた。

 

 

『そ、その……私は以前、乱馬さんが頭を打った際に生まれてしまった人格なんです。あの時、私は再び、頭を打って、そのまま消える筈だったんですが……』

「どういう訳だか人格が残った……と」

 

 

何となくだが得心が行った。あの晩に俺が見て分身した女らんまが邪悪な分身の片割れに思えなかったのは、それが理由だったんだ。あの時見た『花をも恥じらう、らんま』だったんだ。

 

 

 

『でも、私の意識は殆ど無かったんです。その時でした、お爺ちゃんの肉体分離香で分裂した乱馬さんと私は、それぞれ別の人格になりました……乱馬さんが日々、窶れているのは分かっていました。でも……なんだか、その……』

「止め時を見失ったって訳か……んじゃ今晩を最後にして貰えるか?流石に、乱馬が限界なんでな」

 

 

女らんまの説明に俺は納得したし、理解もしたが、このまま会わせるのはリスクが高すぎる。アニメの時みたいにミイラみたいにガリガリにはなっていないが、目の下に隈が出来て不健康なのは間違いなかった。

 

 

『はい……ご迷惑お掛けしました』

「それは乱馬に言うんだな。ほら、これで行けるだろ?」

「ちょっと、ムース!?」

 

 

頭を下げた女らんまに俺は害が無いだろうと判断した上で窓のお札を剥がし、結界を解いた上で窓を開ける。あかねから抗議の声が上がるが、俺は大丈夫だろうと感じていた。

 

 

「何をしているんじゃ、ムースよ!このままでは乱馬は……」

「乱馬、女らんまが話があるってよ」

『ムースさん、ありがとうございます』

「あ、ああ……」

 

 

 

婆さんも慌てた声を出すが俺は乱馬を呼ぶ。女らんまは俺に頭を下げてから部屋の中に入った。乱馬はどうして良いのか分からずに狼狽していた。

 

 

「な、なあムース。本当に大丈夫なのか?」

「信じてやれよ。お前から出てきた人格なんだから」

『……乱馬さん』

 

 

不安そうな乱馬が俺が声を掛けるが俺は信じてやれとしか言えない。すると女らんまが乱馬に抱き付いた。

 

 

「え、あ、ちょっ……」

「何、自分自身にドキドキしてんのよ……」

「妙な光景ネ」

 

 

女らんまに抱き付かれた乱馬は顔を真っ赤にしていた。あかねが乱馬を睨むが正直、無理もないと俺は思う。女らんまは小柄だが、スタイルが良い。しかもランニングシャツにトランクスと言う薄着な状態で抱き付かれればドキドキするだろう。

 

 

『ごめんなさい。乱馬さんに無理をさせてる自覚はあったんですけど少しでも一緒に居たかったんです』

「そ、そっか……」

 

 

ギューっと乱馬の背中に手を回しながら抱き締める女らんま。乱馬はドキドキしながらだから返事がお座なりになってる。

 

 

『私が生まれたのは偶然でした……でも、少しだけでも一緒に居られて幸せでした。さようなら』

「あ、おい……」

 

 

女らんまが抱き締めていた乱馬から離れると、その体が粒子の様に消えていく。その粒子は乱馬の体に向かって消えていく。

 

 

「これは……」

「分裂した肉体が一つに戻ろうとしておるのか……肉体分離香で分かれた邪悪な分身が自らの意思で戻ろうとするなぞ聞いた事がないぞ」

 

 

俺が何事かと驚いていると婆さんの解説が入る。そうか、アニメの時と違って朝日で消滅するのではなく、自らの意思で分離した自分自身を元に戻そうとしているのか。確かに邪悪な分身には見えないな。

 

 

『ありがとう……お兄ちゃん』

「お、おい……あ……」

 

 

女らんまの最後の言葉に乱馬は女らんまを抱き締めようとするが、その手は空振ってしまう。女らんまを抱き締める寸前に体が消えてしまったからだ。

乱馬は空振った手を見つめて何処か後悔している様な表情だった。

 

 

「お兄ちゃん……か。お前の分身とは思えないくらいに良い子だったな」

「……ああ。そうだな」

 

 

俺の言葉に乱馬はグッと拳を握る。乱馬はこれからは魘される事も体調不良もないだろう……だけど、乱馬の心には刺が残った。そりゃそうか。

 

 

「婆さん、これで心配は無いとは思うけど?」

「うむ……じゃが、今日は様子を見た方が良いじゃろう」

 

 

女らんまが乱馬の体に戻った事で問題が無くなったとは思っていたが、婆さんは今日くらいは様子見をした方が良いと判断したみたいだ。

 

 

「んじゃ、俺が乱馬と玄馬さんの部屋で一緒に寝るわ。其処の爺さんも心配だしな」

「ちょっと、お爺ちゃん!なんでまた肉体分離香を準備してるのよ!」

「い、いや……これを使えば、らんまちゃんに会えるじゃろう?」

 

 

俺の発言に視線が一斉に爺さんに向けられる。爺さんは肉体分離香に火を灯そうとしていた。それを、あかねに咎められると爺さんの言い訳が入る。さっきの別れを見て、その一言が出せるのかアンタ。まったく懲りてないな。

 

この後、全員で爺さんをボコボコにした後で簀巻きにして池に沈めた。ここまでしても次の日には復活してくるから、あの爺さんは恐ろしい。

 

この晩、念の為に天道道場に泊まる事になった俺達。婆さんは客間に泊まり、シャンプーとリンスはあかねの部屋に泊まり、俺は乱馬と玄馬さんの部屋で眠っていたが、夜中にふと目が覚め、乱馬を見ると乱馬は布団を頭から被っていたが中から少し音が聞こえた。

 

 

 

「………ぐすっ」

 

 

今回の件は乱馬の心に思ってた以上に傷を作ったのかもな。もしも……もしもだがアニメと違って分身が消えずに乱馬の体に戻ってしまった事で女らんまが抱いていた思いも乱馬に受け継がれてしまったのだろうか?

 



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ムースの日記⑱

 

 

 

 

 

 

□月○日

 

翌日、乱馬の様子を見に行くと見事にへこんでいた。あかねもどう励ませば良いか悩んでる様だ。こればっかりは俺にはどうしようもないな。店に来たらラーメン奢ってやるか。

 

 

□月×日

 

シャンプーの妹分のリンリンとランランが来た。アニメ同様に乱馬を襲う事はなかった。何故ならばアニメや原作と違い、シャンプーは女傑族の掟から解放されているのだ。つまり、リンリンとランランは乱馬を襲う理由がない。まあ、力試しと乱馬に戦いを挑もうとしていたので止めたのだが。

 

 

□月△日

 

出前の帰りに川辺で水を被り、Pちゃんになろうとしている良牙を発見。取り敢えず拳骨を落として阻止した。理由を聞くと「俺はこれからペットとして、あかねさんの傍に居る」と宣言。何を拗らせたんだ?と思ってから、『史上最強!?良牙とムース同盟』だと気付く。俺が原作と違い、乱馬を敵視してないから、この話には至らないと思ってたけど、良牙が勝手に思考を拗らせたらしい。今の乱馬は精神的に傷付いてるから、それどころじゃ無いっての。

良牙って真面目で誠実とは言われてるけど、考えすぎて拗らせるタイプだよな。後、目先の事に捕らわれて後悔するタイプとみた。

 

 

□月□日

 

小太刀が天道道場に嫁入りしようとしていた。乱馬自身が何もしてないのにトラブルが舞い込むのが凄い。小太刀には「乱馬は今、疲弊してるから、あんまり構うな」と告げて久能の家に送り返しておいた。後程、佐助から頭を下げられた。本当に苦労してるね、この人。

 

 

□月◆日

 

乱馬も少しずつ、いつもの調子を取り戻しつつあった。普段から強気な奴だから一度へこむと長いな。あかねも心配してたけど、これからは大丈夫かな。

実を言うと俺は婆さんから話を聞いたり、女傑族の文献調べたりして肉体分離香の安全な使い道がないか調べていた。あのまま、さよならじゃ浮かばれないと思ったからだ。しかし、婆さんが言っていた通り、肉体分離香は正しい心と邪悪な心で分かれるのみで例外は存在しなかった。その例外が乱馬だった訳だが。

 

当面、色々調べた方が良さそうだと俺は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

出前からの帰り道、何故か乱馬に突然襲われた。

 

 

「この間まで、へこんでた割には急に元気になったな。それは何よりだが、少々乱暴だな」

「……ククク」

 

 

乱馬の攻撃を避けてから話し掛けると乱馬はニヒルに笑い始める。中2病が発病したか?

 

 

「せりゃ!」

「おっと、決闘なら奇襲をせずに来たらどうだ」

 

 

乱馬の蹴りを避けた後に俺は乱馬の腹に膝を叩き込む。乱馬の体がくの字に曲がった後、首筋に手刀を落とそうかと思ったが乱馬は体を前宙して逃げる。なんだ、この違和感は?なんか、妙に乱馬の動きに違和感を感じる。悩んでた期間に体が鈍ったか?

そんな事を思っていたら、なんと乱馬は風呂敷を広げ姿を隠したと思ったら良牙に変身した。驚く俺を尻目に良牙は足下に指を突き刺した。

 

 

「爆砕点穴!」

「おわっ!?……逃げたか」

 

 

良牙は爆砕点穴で砂塵を起こし、砂塵が収まった頃には良牙の姿は無かった。なんだったんだ今の乱馬と良牙は。少なくとも本物ではなかったのだろうけど……

 

 

「途中で姿を変えたが呪泉郷にそんな泉あったかな?」

 

 

途中で姿を変える呪いなんて……あ、もしかして。

 

 

「真似っ子けんちゃん……だな」

 

 

思い出したのはアニメオリジナルエピソードの『登場!ものまね格闘技』

あの話、好きだったけど目の前で姿が変わるのは奇っ怪としか言いようがないな。

 

 

 

 

 

 



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登場!ものまね格闘技①

 

 

 

「ほう、真似っ子けんちゃんが、来たか」

「ああ……まだ不完全な真似だったのか、乱馬にも良牙にも真似しきれてなかったけどな」

 

 

猫飯店に戻った俺は婆さんに真似っ子けんちゃんの話をした。婆さんも真似っ子けんちゃんの事を知っていたのか、目がギラリと光る。

 

 

「しかし、真似っ子けんちゃんに襲われた割には無事の様じゃなムース」

「俺には化けなかったし、乱馬も良牙にも成りきれてなかったからな。多分、これから仕上げに入るんじゃないかな?ま、俺の真似をした所で返り討ちにしてやるけど」

 

 

婆さんは俺が無事だった事に疑問を感じた様だが、俺としては真似っ子けんちゃんがまだ完全に乱馬や良牙をコピー出来ていない事に安心を感じていた。あの位なら乱馬や良牙でも返り討ちに出来るだろうし。

 

 

「ふむ……お主が言うならそうなんじゃろうな。乱馬や良牙はちと不安じゃが」

「舐めて掛かって、負ける……ってのはアイツ等にはありそうな話だ」

 

 

婆さんと俺は一抹の不安を感じながらも乱馬達の武道家の力を信じるしかなかった。実際にアニメじゃ乱馬、良牙、ムース、久能兄が負けてたし。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

数日後、出前の帰り道の最中。聞き覚えのある悲鳴が聞こえたので自転車を走らせ、現場に急行した。すると、其処に居たのは二人の乱馬と、あかねだった。ゴミ箱の近くでは黒の子豚が寝っ転がっているが、恐らく戦いに敗れた良牙なのだろう。

 

 

「ほう、もう乱馬の動きをコピーしたか」

「あ、ムース!大変なの、乱馬が!」

 

 

俺の姿を見た、あかねが駆け寄ってくる。どうどう、落ち着きなさいって。

 

 

「分かってるよ、真似っ子けんちゃんだろ?しかし、数日前に見た時よりも真似の精度が上がってるな。正直、どっちが偽者か分からない位だ」

「ちょっと、そんな呑気な話をしてる場合じゃないのよ!」

 

 

あかねが俺の発言に慌てるがどうしようもないだろうに。

 

 

「手助けしようにも、どっちが本物か分からないんじゃ手助けのしようもないだろ。それに、この戦いは乱馬の為にも成る」

「そんな……」

 

 

俺が突き放すような言い方をすると、あかねはショックを受けたようだ。ぐ……少し罪悪感が……

 

 

「ムース!手助けは無用だぜ!」

「こんな物真似野郎に負けるもんか!」

「「真似すんなっての!!」」

 

 

ステレオで叫ぶ二人の乱馬に少し、頭が痛くなるが戦いは互角の戦いだった。

 

 

 

「でも、どうして互角なの?真似っ子けんちゃんは乱馬の動きを真似ているだけなんでしょ?」

「真似をしてるから互角の勝負なんだよ。真似っ子けんちゃんは乱馬の動きや技を完璧に見抜いてコピーしている。それは真似っ子けんちゃんが乱馬並みの身体能力を持ってるって事だ。それに真似が悪い事だとは思わないしな。そもそも武術の伝承とは模倣から始まるもんだ」

 

 

 

あかねは乱馬と真似っ子けんちゃんが互角の戦いをしている事に驚きを隠せていない。単なる物真似野郎と侮っていた良い証拠だな。

 

 

「あかねも最初は早雲さんから武術を学んだ時は動きを真似ていただろ?真似っ子けんちゃんのコピー格闘術はその延長にある物だ。相手の動きと技を完璧に模倣する。それだけでも十分すぎる経験値となる」

「で、でも早乙女のおじ様は真似っ子けんちゃんに破れた武道家が多いって……互角なら本人は負けない筈だわ!」

 

 

あかねは俺と会話しながらも二人の乱馬のどちらが本物か見定めようとしている。

 

 

「それがコピー格闘術の恐ろしい所だ。コピーが本物を倒してしまうんだからな」

「へ……言ってくれるなムース……だったら物真似出来ない技ならどうだ!」

「偽者なんかに負けるかよ!」

「「火中天津甘栗拳!!」」

 

 

俺の言葉を聞いていた二人の乱馬は一度距離を取ると腰を落として構えた。そして同時に火中天津甘栗拳を放つ。素早い拳が互いの体を打ちのめそうと交差して……片方の乱馬がぶっ飛ばされた。

 

 

「ふん……流石に俺の奥義までは真似、出来なかったみてーだな」

「ぐ……うう……」

「……乱馬、きゃあっ!?」

 

 

倒れた乱馬に倒した乱馬がドヤ顔をしながら見下ろす。あかねは倒した方の乱馬に歩み寄ろうとした。それと同時に倒した乱馬が、あかねに抱き付いた。

 

 

 

「あかねちゃん、可愛いねぇ!」

「アンタ、偽者の方ね!ひゃあ、何処触ってんのよ!?」

 

 

 

明らかに偽者だと分かる言動をした乱馬(偽)が、あかねに抱き付く。抱き付かれた、あかねは本物の乱馬に抱き付かれたと思って顔を赤くしていた。更に抱き付かれた拍子に触れたくない箇所を触られたのか悲鳴を上げた。

 

 

 

「へへへ、あかねちゃ……ぎゃあっ!?」

「決闘までなら見逃したけど、そこから先は見過ごせないな」

「ムース!」

 

 

あかねに抱き付いていた乱馬(偽)の顔面に一撃を与え、あかねから引き剥がす。あかねは助かった安堵からか俺の名を叫んだ。

 

 

「あかねは本物の乱馬を診てやってくれ。さっきの火中天津甘栗拳が効いて動けない筈だ」

「う、うん!」

 

 

あかねは俺の指示に従って倒れている本物の乱馬の介抱に走る。普段から、それくらい素直に心配してれば可愛げがあるだろうに。

 

 

「させるか!」

「これ以上は俺が相手だ。」

 

 

真似っ子けんちゃんが乱馬とあかねを追おうとするが俺は右手の指の間にクナイを構えると真似っ子けんちゃんの動きが止まる。

 

 

「ちっ……まだお前の動きはコピー出来ていない……だが、お前の首も狙わせてもらうからな!」

「逃げたか……ま、そっちの方が好都合だけどな。あかね、俺が乱馬を連れていくから先に天道道場に戻って手当ての準備と布団を敷いてやってくれ」

「う、うん……乱馬、すぐに戻るからね!」

 

 

真似っ子けんちゃんは俺との戦いを避けて逃げてしまう。俺は逃げた真似っ子けんちゃんは追わずに倒れている乱馬に歩み寄る。。然り気無く乱馬はあかねに膝枕をされていた。あかねも乱馬の意識が無かったりすると極端に素直だよな。

 

そんな事を思いながら俺は乱馬を担いで天道道場を目指した。帰る時にPちゃんの姿が無かったから多分、良牙も帰ったのだろう。本来なら真似っ子けんちゃんから、あかねを救うのはPちゃんだったが、俺が助けたから見せ場を失ったな。

 

 

 

 



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登場!ものまね格闘技②

 

 

 

 

乱馬を担いで天道道場に到着すると布団と手当ての準備は既に済んでいた。俺は乱馬を布団に寝かせると傷の手当てをする。深い傷は俺が担当し、浅い傷はあかねにやらせた。

 

傷の手当てをしていると同じく、乱馬の様子を見に来ていた玄馬さんが口を開く。

 

 

「そこなのじゃよ、奴の恐ろしさは……真似っ子けんちゃんに戦いを挑まれた武道家は皆、己の技で敗れておる。それが武道家にとって如何に屈辱的な事なのかは言うまでもあるまい」

「でも、技を真似されたのなら互角の筈だわ。なんで本物の乱馬が……」

「………っ」

 

 

玄馬さんの説明にあかねが疑問を重ね、乱馬が悔しさから顔を背けた。

コピー格闘術は肉体的な部分よりも心理的な部分が大きい。玄馬さんはコピー格闘術の恐ろしさを理解しているから戦ったとしても玄馬さんが勝つだろう。敗れた乱馬や良牙は血気盛んだから見事に真似っ子けんちゃんの術にハマっちまってる。

 

 

「それにムースとの戦いを避けていたわ……」

「それは俺の戦闘スタイルが特殊だからだろ。俺は基本的に暗器で相手を脅して、戦意を削ぐ戦い方をする。俺自身がそれを理解しているんだ。真似っ子けんちゃんがそれをした所で意味がないだろう」

 

 

あかねの疑問に俺は右手の中指の上でヒュンヒュンと音を鳴らして手裏剣を回す。相手を脅すと分かっているのに、それにビビるってのは有り得ないからな。

 

 

「乱馬よ……敢えて言おう。お前は真似っ子けんちゃんに負けたのではない。お前はお前自身に負けたのだ」

「俺……自身に……」

 

 

玄馬さんの言葉は乱馬の心に響いたらしい。もう、大丈夫そうだな。俺は席を立つ事にした。

 

 

「ま、次は負けない様にするんだな乱馬」

「あ、待ってムース」

 

 

 

立ち上がり、帰ろうとした俺をあかねが呼び止める。何事かと振り返ると、あかねが頭を下げていた。

 

 

「ありがとうムース。あの時、私と乱馬を助けてくれて」

「気にするな。最初こそ、武道家として止めなかったが……俺達、友達だろ?」

 

 

頭を下げていたあかねの頭にポンと手を乗せる。ほんとうに普段からこれくらい素直に成ってれば乱馬と上手く行くだろうに……ふと、乱馬に視線を移せばギロッと俺を睨み付けていた。嫉妬する元気があるなら大丈夫そうだな。そう思った俺は乱馬に歩みより、耳元であかねに聞こえない様に囁く。

 

 

「乱馬……俺に嫉妬するのも間違ってはいないと思うが、お前が今、一番嫉妬の炎を燃やさなきゃいけないのは真似っ子けんちゃんだろう?奴はあかねに抱き付いたんだぞ?」

「山籠りで修行しに行く!」

 

 

俺の一言に乱馬の怒りのボルテージが一瞬でMAXになった。なんで、ここまでベタ惚れなのに、あかねに素直にならんのかね乱馬は。

やる気になっている乱馬はもう大丈夫だろうと思った俺は猫飯店に帰った。

 

猫飯店に戻った俺はシャンプー、リンス、婆さんに真似っ子けんちゃんの話をし、乱馬と良牙が敗れた事を話した。アニメだとムースと久能兄も負けていたが、恐らく、この世界でも久能兄は負けているのだろう。

 

 

「やはり負けおったか未熟者共が……」

「真似っ子けんちゃんの戦いは技術力だけじゃなくて心理戦でもあるから、乱馬達じゃ対応出来なかったんだろ。俺も種を知らなきゃ危なかっただろうし」

「心理戦アルか?」

 

 

婆さんは予想していたのか溜め息を吐く。俺もアニメで知っていなければ危なかっただろう。真似っ子けんちゃんの戦い方の中での心理戦があるのかを疑問に思っている様だ。

 

 

「真似っ子けんちゃんは相手の姿と技をコピーして戦いを挑んでくる。対して挑まれた側は『物真似野郎』『単なる猿真似』と侮って戦いに挑む。その結果、油断して戦うから本来の実力は出しきれないだろう。そうなると互角の実力だったとしても100%の偽者と80%の本物の戦いとなる。そうなれば負けるのは……」

「コピーされた本物さん……って事ですね」

 

 

俺の説明にリンスも納得した様だ。油断や慢心ってのは怖いもので本人が本気で戦っているつもりでも実力が出しきれないし、詰が甘くなる。乱馬や良牙が負けたのは正にそれが理由だ。

 

夜も遅くなり、シャンプーとリンスは早々と部屋で寝ている。俺は夕方から夜まで猫飯店を留守にしていたから後片付けは俺がやる事にしたのだ。

しかし……乱馬や良牙は心配だが、俺は俺で真似っ子けんちゃんとの戦いを考えなきゃな……まあ、戦い方は考えてはいるけど。

 

 

「乱馬達が山籠りで修行をしておるなら、ムースも行ってはどうじゃ?と言いたいがムースならば修行をせずとも真似っ子けんちゃんを倒せるじゃろうがな」

「俺は油断はしないし……いざとなったら切札で凌ぐよ」

 

 

洗い物をしていたら婆さんに話し掛けられる。俺は乱馬達の様に油断はしないし、俺には暗器とは別の切札がある。これは乱馬はおろか、シャンプーにすら秘密にしている俺の奥義の一つだ。

 

 

「ならば、お主には別の修行を課すとしよう」

「別の修行って……げっ」

 

 

洗い物を済ませ、婆さんに振り返ると婆さんが手にしていたのは以前俺が変装の時に着ていたスフレのチャイナドレス。いや、ちょっと待って!?

 

 

 

「ムースよ!久々にスフレとなり、乱馬達の修行の手助けをするのじゃ!」

 

 

 

なんかアニメ以上に、ややこしい事態になりそうなんですけどっ!?

 

 

 



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