料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」 (昼猫)
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第一章 どんな天然ジゴロにも下地は必要である
第1話 神時代へ


 原作開始11年前からです。
 肉体年齢は全盛期から14歳にまで戻っています。使える能力はそのままで。


 天界に存在する神々は暇を持て余していた。

 役割がある神はまだ良かった。毎日毎年延々と同じ作業はしても暇すぎると言う事は無かった。神によっては暇と言う概念すら湧かずに自神(じしん)の役目に誇りを持ち続ける柱さえいたぐらいだ。

 だがしかし、それ以外の神々にとっては退屈な日々でしかなかった。

 強弱など関係ない。変化のない永遠の恒久的楽園世界に神々は飽き飽きしていたのだ。

 そんな永遠の中で誰かが呟いたのだ。

 

 『いつまでも天界(此処)にいるよりも下界の方が楽しいんじゃないか?』

 

 その意見に多くの神々が反応した。

 今の自分達の在り方に疑問を呈し、話し合った結果、多くの神々が下界に下った。

 少なくとも今よりは良い変化になるだろうと言う希望的観測に従って。

 そこから先は本来交わらない筈の人と神が同居する世界()――――眷属の物語(ファミリア・ミィス)の始まりだった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 多くの神々(同胞・同族)が下界に降りてから気の遠くなるほどの日々を、一切変わらずに過ごしていた“ある神”がいた。

 彼の柱は生真面目で下界に興味関心すら抱かなかったが、ある原因により最近では暇になってきた。それこそ自分でなくとも自神の役目を果たせるほどに。

 ある時の事、不本意ながら天界に強制送還された知己の神が自分に提案してきた。

 

 『貴方の役目を暫く私に預けて、下界に降りてみては?』

 

 その提案に確かに気晴らしに良いかと、軽い調子で役目を知己に預けて降りてみた。

 だがしかし運が悪かった。

 “ある神”は下界の降下地点を適当に決めた結果、ダンジョンではないにしても地上のモンスターのある縄張りの中心地降りてしまったのだ。

 いきなり現れた存在にモンスターたちは一瞬驚くも、無粋な縄張りの侵入者に容赦するはずもなく襲い掛かった。

 けれども“ある神”は零能になったにもかかわらず、自分に迫りくるモンスターたちに他人事のようにしか感じていなかった。

 

 『あぁ、一瞬で気晴らしが終わったな』と。

 

 だがしかし、その結末はもう1人の侵入者の手によって変えられた。

 

 「ッオオオオオオオオオオ!!」

 

 突如としてモンスターたちと“ある神”の間に入るように現れた赤銅色の髪の少年が、両手に持っていた白と黒の剣をモンスターたちにめがけて振りぬくように切り裂いていった。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 それは強者が弱者を圧倒する一方的な蹂躙だ。

 だが“ある神”にとっては舞い散る様な美しい光景に見えた。

 少年の刀剣によって切り裂かれて行くモンスターたちの血はさながら多くの咲き乱れる花びらの様。

 致命傷に至ると灰となって消える様は花びらをより際立たせる風の様。

 意外と見れる演武だったが、それもモンスターたちが全滅した事で終わりを迎える。

 全滅させた少年は初めて私に向き直り怪我をしていないかなどの心配して来た。

 私は大丈夫だと答えると本当に安心した様に笑顔を浮かべる。

 

 「間に合って良かったです。本当に・・・」

 

 初対面の見ず知らずの私に、嘘偽りのなく言ってくる少年に対して興味深くなり、つい聞いてしまう。

 

 「名前を・・・君の名前を教えてくれないか」

 

 少年は私の質問に対して一瞬きょとんとしてから直ぐに元の表情に戻してから、

 

 「士郎・・・・・・衛宮士郎といいます」

 「衛宮士郎・・・・・・エミヤ・士郎・・・」

 

 なぞる様に名乗られた言葉を口にする。何度も何度も紡いでいくように。

 

 「名乗ったから・・・・・・と言う訳ではありませんが。差し支えなければ貴方の名前も教えてはくれませんか?」

 「・・・・・・」

 

 確かに名前を先に尋ねたのは自分だ。ならば名乗り返す事に異論は無かった。

 

 「我・・・・・・」

 

 名乗ろうとしたが一旦止める。

 確かにこの身は神なれど、今のこの身は零能。

 そして此処は天界に非ず下界である。

 郷に入っては郷に従え。

 ならば相応の言葉で返そう。

 

 「名は・・・私の名は――――」

 

 

 -Interlude-

 

 

 時は、あれから一年後。

 あの後士郎達は近くの町に行き、一息ついてから町の現状を知った。

 そこから先は短くも長かった。町の廃れて行く原因の近辺のモンスターを悉く根絶やしにし、復興に協力して交易にも力を貸して廃れた以前以上の活気をこの町に齎した。

 それほどの多くをこの町に齎した1人と1柱は、町の出入り口の一つに近い小高い丘に来ていた。

 

 「――――こうして2人きりになるのも久しぶりだな」

 

 士郎達は多くをこの町に齎した結果、常日頃から身の回りに慕って来る人々が絶える日は無かった。

 迷惑だと思った事は無かったが、のんびりできない一年間だった事は確かだ。

 

 「そうですね。最後と言う事でみんな気を使ってくれたんでしょうけど」

 

 最後――――と言うのは、士郎がこの町を出ると言う事だ。

 この町に多大に貢献した士郎だが、周囲近辺には一匹残らずモンスターはおらず、街の活気も士郎がもはや手を放そうとも劣る事は無い。廃れる事は無いのだ。

 つまりこの町にもう、士郎の力は特に必要とされてはいない。

 誤解されるかもしれないが、この町に士郎の居場所がないと言う事は無い。寧ろ町を少しでも歩けば士郎を慕う人々から元気よく声をかけられ、過剰な者であれば黄色い悲鳴を上げてくる事もしばしばあるくらいだ。

 だが士郎を眷属にした主神はよく知っていた。

 士郎がこの町の人々から慕われる態度や言葉に笑顔になれても、疼きを無理矢理押さえ込んで我慢していることを。

 主神は士郎を理解していた。

 正義の味方に至れなかった半端者と時折自嘲するが、今でも多くを助けたがっている。具体的には世界の悲願と言われているらしい五大冒険者依頼の内、未だに達成されていない三つを達成して世界の破滅の要因を取り除いたりだろう。

 多くを救うには相応の強さが必要とされる。だがこの町にとどまっているようでは士郎は高みに至れない。

 ならばどうするか。決まっている。更なる飛躍できる場所を求めて、町を出るしかない。

 その方針で本人を含めた話し合いの場を設けて、町の各代表者に相談した。

 勿論最初は即座に反対された。全員に反対された。当然だ。この町にとってエミヤ・士郎は英雄だ。町民にとってかけがえのない縋り頼ってきた精神的支柱だ。

 それでも諦めず、根気よく幾度も話し合いを重ねて行った結果、なんとか理解を得られたわけだ。子離れ親離れと同じだ。自分達も英雄離れしなければと。

 そうしてこの別れの日、町民全員と涙の別れを繰り返して行き、今此処に辿り着いたのだ。

 

 「神にとって十年や百年なぞ一瞬だ。一年など言うまでもない――――のだが、お前と共に過ごしてきたこの一年は今までの幾星霜にも勝った心地よい時間だった」

 「それなら良かったです。俺も貴方と過ごした時間は忘れられません」

 「そうか・・・」

 

 士郎の言葉に何か思う所があるのか、神は何とも微妙に呟いた。

 

 「こうして最後に2人きりになったのだからもっと語り合うべきなのだろうが・・・」

 「そうですね。俺達はもう話し合う事が無いくらい見識を交換し合いましたからね」

 

 だからこれ以上に語り合うことなぞ特にないと、揃ってこの事実を認めあう。

 そうして士郎はバッグを背負い、神から少し離れた所で立ち止まってから向き合う。

 

 「貴方と会えてよかったです。如何かいつまでもお元気で」

 「ああ、お前の方こそ達者でな」

 

 お互いの目と目を合わせての言葉にそれ以上は必要なかった。

 まるで儀式を終える様に背を向けて歩きだす士郎。

 それに対して最後にと、背を向いたままの士郎に言葉を贈る。

 

 「お前が世界の何所に居ようと、何者になろうと私はお前を何時までも愛している」

 「――――」

 

 背中越しに投げかけられた言葉を噛みしめて、振り返らずに歩みを止めなかった。

 少しづつ小さくなって完全に士郎の後ろ姿が見えなくなってから独白のように呟く。

 

 「お前を何所までも愛している。――――たとえ私が何者になろうとも」

 

 

 -Interlude-

 

 

 此処は迷宮都市オラリオ。

 ダンジョン探索の恩恵により、世界の中心とも呼ばれる地。

 そのオラリオで鍛冶最大派閥のヘファイストス・ファミリアのホームの執務室で、書類仕事をする時に使う椅子に腰かけてテーブルの上に置いた刀剣を興味深そうに時々楽しそうに触れている主神ヘファイストスの姿が在った。

 

 「フフ・・・・・・」

 

 そこへ雑なノックの音が響く。しかも主神ヘファイストスがいいと返事する前に扉を開ける無遠慮さがその女性には有った。

 

 「主神様よ~。例の件で話したい事があるのだが・・・・・・って、何をしておられるか」

 

 無遠慮に入室して来た女性は、極東出身のヒューマンとドワーフの間に生まれたハーフドワーフで単眼の鍛冶師(キュクロプス)の二つ名を持つ椿・コルブランドだ。

 ちなみに本人は自身の二つ名を気に入っていない。

 

 「ん?んー、そうね。椿はこの刀剣類をどう見るかしら」

 「むむ?刀剣?では失礼して」

 

 主神ヘファイストスに促され、机の上に置かれている刀剣類を適当に掴み取る。

 

 「むぅ~?ほぉ~?これはこれは中々どうしていい仕事をする!だが主神様が作ったモノではあるまい?神ゴブニュの方でも無い。拵え方が違う。製法が違う。手前の知らない創りをしている。独特ではあるが合理的でありながら美しさも兼ね備えている。こんな奴オラリオに居ったのか?主神様よ」

 「いいえ。恐らくは都市外の鍛冶師よ。刀剣類(これら)が売り出されていたのが昨日来たばかりの外の業者の店だったから」

 「外の?ほぉ~~~~!?」

 

 心底楽しそうに両手で掴んでいる刀剣をいろんな角度から見やっている。

 

 「それで貴方の目からして、これらをいくらぐらいの値段をつける?」

 「むむ?ん~?そうさな~・・・・・・・・・一番低くて6000万ヴァリス~高くて9000万ヴァリスといったところか」

 

 椿の鑑識眼は確かである。鍛冶を司る神々を除けば、人の子では椿の鑑識眼は刀剣類に限り、間違いなくオラリオで随一だろう。

 だが彼女の主神は否と言う。

 

 「貴方の目は正しい。私も同意見よ。けれどこれらを買った値段は違ったわ。それもあなたの想定の上を行くわ」

 「なに?これを売っていた者の鑑識眼()は未熟なのか?」

 

 眷属の疑問に答える事も無くありのまま見てきた現実を言う。

 

 「なんとたったの3万~5万ヴァリスよ?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 さしもの椿も度肝を抜かれたのか、何を言われたのか反応を返せなかった。だがそれも直に済んだ。

 

 「は、はぁああ!?なんぞそれは!適当にも程がある!これの値打ちをつけた鍛冶師は、どんなうつけ者なのだ!?」

 「フフフ、本当にね」

 

 一体どんな子が鍛ったのか、予想出来ない未知を楽しんでしまう辺り私もやっぱり神なのねと感じてしまう。

 

 「会える機会が在るのなら、いずれ話をしてみたいものね」

 

 触れるだけでも伝わってくる、この刀剣類を鍛った際に込められた魂と情熱を。

 そのいずれ来る日に備えるためにと、通常モードに頭を切り替えるのだった。




 三大クエストから五大クエストにしました。


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第2話 邂逅、紅髪の鍛冶神

 


 「此処が世界の中心地――――迷宮都市オラリオか」

 

 エミヤ・士郎は両手を天に着き上げるように体を伸ばす。漸くの想いでオラリオに到着したのだから。

 

 「此処に辿り着くまで長かった。特に、まだ五歳にも満たない子供にハーレムは男のロマンだとか情熱的に語るあの爺さんは変神だった。ベルの奴、大丈夫かな?」

 

 変な情操教育をすると言う一点のみだけで言えば宝石翁(はっちゃけ爺さん)AUO(金ぴか)といい勝負をしていた事を思い出して、二ヵ月ほど共に暮らした兎の様な特徴を持った少年に対して心配してしまうのも仕方がないだろう。

 ちなみに、その時ほぼ初対面だったベル少年の里親のお爺さんに対して思わず殴ってしまったのは完全に余談である。

 

 「まあ、根は決して悪い神じゃないし、変な風に育つ事は無いだろう・・・・・・・・・多分」

 

 そも、自分はずっとベルの事を見守ってやれるわけじゃないのだからと、だからこそ今このオラリオに来ているのだからと、気持ちを切り替えた。

 

 「さて、まずは改宗(コンバージョン)先のファミリアを探すか」

 

 そこでまず大前提から始めようとした時に悲鳴が鳴り響く。

 

 『闇派閥(イヴィルス)が出たぞーーっ!?』

 

 悲鳴が上がった先を見ると冒険者同士が剣や槍を交えて殺り合っている。

 

 「噂通り、今のオラリオは抗争が絶えないと言うのは本当だったか」

 

 どちら側が闇派閥(イヴィルス)の冒険者は表情を見ればすぐに見分けがつく。

 お節介かもしれないが参戦するかと考えた所で真逆の路地を全速力で駆けて行く眼帯をしていた女性を見た。少し遅れて複数の冒険者が先を行く女性を追いかけている所も。

 女性の方は必至そうだったのに対して、追跡していた冒険者たちは口角を吊り上げてその眼は常軌を逸していた。

 これもまた、どちらが虐げられようとしているのか分かりやすかった。

 であるならやる事は一つだけ。この正義の味方に至れなかった半端者にも出来る事はまだあるのだから――――と。

 

 

 -Interlude-

 

 

 迂闊だったと、神ヘファイストスは今更ながらに嘆いていた。

 護衛も付けずに支店周りしていた途中で、こんな真昼間から闇派閥(イヴィルス)が活動しているとは予想がつかずに見事にエンカウントしてしまった。

 故に彼女は闇派閥(イヴィルス)の構成員から逃げている。だがこのままでは直に追いつかれる。

 神の力(アルカナム)を使えない今の自分は零能。対して彼方はレベルが高かろうがが低かろうが恩恵持ち。優勢が彼方に傾きつつあるのは当然と言える。

 何度も角を曲がって行き、最後に曲がった角で物陰に伏せるように隠れる神ヘファイストスは逡巡する。

 椿は相変わらず自分の工房に引きこもり、他の子にも迷惑を掛けられない。と言うか、今この場で自分の眷属に伝える手段を神ヘファイストスは持ち合わせていなかった。

 

 「どうすれば・・・」

 「――――どうする必要もないでしょう?」

 「っ!?」

 

 周囲の警戒を怠った為に前方から来る敵に気付けなかった。

 直ぐに立ち上がって左へ逃げようとしたら別の構成員が近づいて来た。真逆である右を見ても同じだ。そして背後は壁。完全に取り囲まれてしまったのだ。

 逃げ道無し。出来る唯一の事は、自神を囲う敵を睨み付けるだけだった。

 

 「そう殺気だたなくてもよいではありませんか?神ヘファイストス」

 「我々は貴方様が率いるファミリアに協力して欲しいだけなのですから」

 「協力?あの闇派閥(イヴィルス)が?」

 「ヤレヤレ、我々も嫌われたものです」

 

 わざとらしい反応は女神のいら立ちを募らせるだけ。

 

 「ですが我々は決して一枚岩では無いですから、疑われる気持ちも解ります」

 「オラリオを混乱させてやりたい放題をするのが貴方達の共通の方針じゃないの?」

 「確かにファミリアによっては主神眷属共々暴れたいだけの下賤なファミリアもありますが、少なくとも――――」

 

 神に人の子の嘘は通じない。

 何やら高説なお題目を並べて自己弁護に走っている様子だが、この状況下で何を信じろと言うのか。

 

 「――――と言うのが我らの志なのです。ですから神ヘファイストス。貴方様の英断を以て我らにご協力をお願いできますでしょうか?」

 「答えは――――NOよ!」

 「・・・・・・・・・・・・そうですか。残念ですよ神ヘファイストス」

 「であれば、不本意ながら実力行使に訴え出るしかありませんね」

 

 リーダー格の敵冒険者が私に向けて手を伸ばして来る。だけど、その手が私に到達することはなかった。

 

 「っ!?」

 「「「は!?」」」

 「フッ!」

 「がっ!?」

 

 赤銅色の髪の少年が突如、私の眼前に現れるやいなや呆けているリーダー格の敵冒険者の顎を右足で蹴り上げて怯ませた。

 

 「グオッ!!?」

 「がふっ!!?」

 

 続けて直ぐに他の2人が現状把握する前に右の敵の喉に正拳を突き刺して無力化させて、左の敵の鳩尾に腕を回転させ捻じれるように見える突きを見舞ってこれも無力化。

 最後に敵リーダーは怯んでおぼつかない足取りだが、まだ立っている。

 

 「テメッ!」

 

 顎に衝撃を受けつつも、漸く現状を把握できたらしく殺意剥き出しにして少年に剣を振り降ろそうとしていた。

 それを少年は剣の柄を蹴り上げて無理矢理相手から武器を手放させる。更に落ちて来た剣を奪ってボディーアーマーに切り裂くように叩き付ける。

 

 「ぐっ!?」

 「(なまくら)使ってるな」

 

 指摘したのは奪った剣とボディーアーマーの両方ともだ。叩き付けるよう使った剣は見事に刀身のみが砕け散り、ボディーアーマーの方も砕け散り壊れた。

 互いにこれで無手になったかと思えばそうではなく、少年は握っていた柄を逆に持って、柄の底で敵の顔面に突き刺すように殴った。

 

 「ぎぺっ!?」ぐぎっ!

 

 殴られた敵はうめき声と共に鼻の骨が潰された音が響いた。しかし少年は容赦しなかった。

 間接部や急所ばかりを同じように柄の底で殴り続けた。当然殴られるたびに敵の悲鳴と共に嫌な音も響いて行く。

 そして最後に胸に蹴りを突き刺す。

 

 「フンッ」

 「ゴハッッ!!」

 

 あまりの衝撃に強烈な痛みと共に吹き飛ばされて行く敵は、二転ほど跳ねた所で壁に当たってボロ雑巾の倒れて気絶した。

 その光景をただ見ているしなかった神ヘファイストス。

 自分を窮地から救ってくれた背を向けていた少年が、踵を返して体ごと自分に向いて来た。そして手を差し伸べて来る。

 

 「お怪我はありませんか?名も知らぬ女神さま」

 

 これが神ヘファイトスとエミヤ・士郎との初めての邂逅であった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 「早いモノね?貴方と出会ってからもう一年か」

 「急になんです?ヘファイストス様」

 

 あれから一年経過した現在。

 神ヘファイストスは助けて貰えた恩に報いる為、お礼できないかと相談したところで自身の事情説明をした後に当然の流れの様に彼女の眷属達が集まる鍛冶最大派閥のヘファイストス・ファミリアに招かれてそのまま眷属となった。

 ちなみに今現在は主神の側で料理中だ。

 此処は士郎の家でそれなりの広さもあり、鍛冶部屋である工房も当然備わっている。

 神ヘファイストスの恩人とは言え、最初こそは最低限の日常生活を熟せるほどの広さプラス最低限の鍛冶部屋だけだったが、鍛冶師としての腕のよさ(実力)でたった一年でファミリア内でのし上がって今の広々とした空間を手に入れるに至った。

 その空間にはどう考えても一般家庭では持て余す厨房が備わっている。

 何故そのような厨房が備わっているかと言えば、士郎の料理人としての好奇心を満たす為である。

 ちなみに言うと士郎本人が作った。

 

 「好奇心を満たすためとはいえ、そのおこぼれで美味しい料理をご馳走になっている私としては得した気分だわ」

 「お褒めに与り恐悦至極。お口に合ったのでしたら幸いです」

 「私は特にお味噌汁と納豆がお気に入りよ。椿以外の子は何故か納豆の方を忌避するのよね」

 

 士郎の家の隅には味噌や納豆を製造するために醗酵などをしておく保管室がある。極東独自の食品は、このオラリオでは滅多に手に入らないので自分で作る事にしたのだ。

 ちなみに、周囲への匂い対策は万全だ。

 

 「納豆を忌避する人は完全に嫌う傾向にある筈ですよ。同じ極東の人も嫌いな人は確かにいますから」

 「へぇ~、やっぱりこういうのは聞いてみないと判らないモノね~。あらこれ美味しい」

 

 今の自分が奉る、主神ヘファイストスの素直な感想に思わず口元が緩む。やはり自分の作った料理を人に美味しいと褒めてもらうのは嬉しいモノだ。

 

 「それにしてもこの一年で貴方の規格外ぶりには驚かされてばかりだわ」

 

 食事を終えた神ヘファイストスが最初に口にしたのはそんな言葉だった。

 

 「Lv3の上級鍛冶師(ハイ・スミス)なのに最上級鍛冶師(マスター・スミス)の仕事をこなすし、作る料理はこんなに美味しくて家事も万能。戦闘技術の駆け引きは第一級冒険者のも勝らずとも劣らない程。その上、たった一年間でダンジョンの到達階層が20階層だったかしら?」

 「いえ、28階層です」

 「あら、もう下層に食い込んでるのね・・・・・・って、ちょっと待ちなさい!二ヵ月前までは確かに20階層だったのにどうしてそこまでの変化があるのかしら。しかも未だに貴方ソロでしょう?」

 

 士郎は主神からの追及に目を泳がして視線を逸らす。

 以前から現在のLvでは上層までなら兎も角、中層からはソロでの探索は自殺行為だと注意して来たのにこれだ。

 ヘファイストスは士郎に溜息をつく。

 

 「・・・・・・・・・貴方に何かしらの考えがあるのは分かっているわよ。けどね、私も心配なのよ?そこは理解して頂戴」

 「・・・・・・はい」

 「返事だけはちゃんとしているわね」

 「うぐっ」

 

 主神ヘファイストスのジト目にただ声を詰まらせるだけだった。

 そこへ荒々しく入ってくる足音が聞こえた。誰かと思えば椿だ。

 

 「腹が減っては鍛冶は出来ぬ!注文していた品はどこぞ?手前はもうはらぺこじゃ!」

 

 何所までもマイペースで空気を読まない現団長のおかげで、主神と新入り眷属のひとときに終わりが告げられた。

 



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第3話 麗しき正義の使徒達

 アストレア・ファミリアの団員達、詳しい得物とか載っていないのとかは勝手に作りました。


 アストレア・ファミリア。

 正義を司る女神アストレアが主神となって奉られている探索系ファミリーの一つ。

 通常のダンジョン探索の他にも、都市内のパトロールや賞金首の討伐などもしている。

 特に今は闇派閥(イヴィルス)が油断ならない事もあって一般人からも頼られている。

 だが団長・副団長含めてLv2が7人、Lv1が4人と言う構成なのでそこまで上位に位置している訳では無い。

 だからこそ、自分達が掲げる正義を貫くためにも力をつける必要があり、ダンジョンにも足をよく運んでいる。

 今日も団員全員でダンジョンに来ていた。

 ただ今日は力をつける為だけでは無く、賞金首を討伐するためだ。

 何も賞金首はブラックリスト入りした冒険者だけでは無い。ダンジョン内で稀に表れる『強化種』が多くの被害を出すと討伐冒険者依頼(クエスト)が組まれる事もあるのだ。

 今回のアストレア・ファミリアの団員達の目的の一つも『強化種』の討伐にある。

 討伐対象は16階層に現れると言うヘルハウンドの強化種だ。火力と俊敏性が通常種よりも上がり、隠密性を持つ。攻撃を防いだとしてもあまりの逃げ足と隠密性で反撃・捕捉が困難と言う一撃離脱型の厄介な存在だ。

 だが情報収集や調査を重ねて作戦を立て、万全の体制で上手くいく――――筈だった。

 

 「くっそ、完全に囲まれてる!」

 「ハイポーションも残り少ないわよ!」

 「意味わかんない・・・・・・意味わかんないよ・・・」

 「まったくさ!ヘルハウンドの強化種一匹だけだった筈なのに、どうして四匹に増えてんのよ!」

 

 このヘルハウンドの強化種は見た目も通常種とは異なり、全身の毛色にやや赤みが増して、牙は大虎(ライガーファング)の様な凶悪なまでに太くなっていた。

 しかも隠密性と逃げ足の速さを生かした一撃離脱型に特化しているので作戦を立てて罠に嵌めなければ補足は難しい筈だったのに、距離を開けているとは言え彼女達の前に普通に姿を現していた。

 ただし、不定期に遠吠えをしながら。

 

 「しかも次から次へと・・・・!」

 「切り殺しても刺殺してもキリが在りません」

 

 ヘルハウンドの強化種らは、遠吠えをする事でこの広間(ルーム)の壁や此処に繋がる道からヘルハウンドの通常種を際限なく呼びよせている。正直、怪物の祭り(モンスター・パーティー)の規模が可愛いくらいに数を現在進行形で膨らませていた。

 

 「弱音を吐くなお前達!どれだけ受け入れがたい現実だろうと、乗り越えなければ全滅するだけだ!」

 

 副団長である輝夜による叱咤に気を引き締め直す。

 その緊迫した状況で唯一冷静そうに見える団長のアリーゼだが、内心では彼女も焦っている。

 

 ――――不味いわね。ノインとセルティは気絶しているし、皆も息が上がってる。こうなったら・・・・・・!

 

 向かって来るヘルハウンドらを切り伏せながら周囲を見回して比較的に一番群勢の薄い箇所を探り当てる。

 

 「皆!こうなったら一点突破よ!リオンとリャーネは威力の一番高い魔法で4時の方向へ砲撃!詠唱時間は私達が稼ぐから」

 

 団長からの決断に、即座に応じて詠唱を開始する魔法剣士と魔導士。

 

 「ライラは周囲の警戒を厳に!アスタとネーゼは気を失っている2人を守って!道が出来たら2人を担いで!」

 

 反論することなく2人も指示通りに動く。

 

 「輝夜、イスカ、マリュー!貴方達は私と一緒に時間を稼いで貰うわよ!いいわね!」

 「了解!」

 「あいよ!」

 「任されました!」

 

 アリーゼの指示により、彼女を含めた4人は7人の盾であり矛となる為に四方に散らばる。

 輝夜は太刀と小太刀の二刀を煌めかせ、イスカは自慢のナックルを突き出して構えを取る。マリューは愛槍を振り回してモンスターを怯ませる。最後に団長たるアリーゼは――――。

 

 「アガリス・アルヴェンシス!」

 

 全身から得物である長剣に至るまで炎の鎧を纏わせる、アリーゼの強力な付与魔法(エンチャント)

 

 「さあ、行くわよ!」

 

 その声が開戦となり、背水の陣を敷いて来た冒険者たちに向かって様子見をしていたモンスターたちの最前列が雄たけびを上げながら彼女たちに跳びかかって来た。

 アリーゼは剣戟と蹴りで応戦し、輝夜は舞う様に切り結ぶ。イスカは自分目掛けて突っ込んで来るヘルハウンドの群れを倒しきれずともひたすらにゴリ押しの殴打の連続攻撃を続けて行く。マリューは長槍で薙ぎ払いながら、時折突き出していく。

 多勢に無勢ではあるが、ギリギリのラインでの攻防。4人の攻勢から漏れそうになったモンスターをライラが直に察知して指示を飛ばす。

 それでも漏れ出た場合、アスタの盾とネーゼの爪、それにライラの特性爆弾で気絶している2人と詠唱中の2人の計4人をモンスターたちから必死に守る。

 

 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 16階層の死闘を観察し続ける“誰か”がそこにいた。

 重厚な革製の鎧にボロい外套に身を包み、まるで古いおとぎ話に出て来る魔王の威容を誇るヘルムをつけた奇人だ。

 そうしてしばらく観察を続けて興味が失せたように途中で去って行くのだった。死闘を続ける彼女たちを野放しにして。

 

 

 -Interlude-

 

 

 生き残るために死地にて活を見出そうとしているアストレア・ファミリア。

 

 「皆!2人の魔法が完成しそうだ!」

 

 本来ならばライラが伝えなくても解りやすそうなものだが、一瞬の判断ミスで全滅しかねない状況だからこその伝達だ。

 これに応えるように集まる、或いは射線上の道を開けた。

 

 『――――ルミノス・ウィンド』

 『――――ブロック・ブレイズ』

 

 

 『『『『『グォオオオオオオオオオッッ!!?』』』』』

 

 瞬間、作戦通りの方向に光の風と鋭利な岩の杭が放たれて、射線上と近辺だけのヘルハウンドが一掃された。

 

 「今よ!」

 

 アリーゼの指示に続く様に、魔法の威光が消え去った直後にまたヘルハウンドで壁が出来ない内にその場からの撤退が開始された。

 計算通り直には襲ってこなかった通常種の群れだが、四匹の内の一匹の強化種がノインを担いだアスタごと噛みちぎる様に跳びかかって来た。

 

 『ルォオオオオッ!』

 「炎華(アルヴェリア)!!」

 

 仲間に跳びかかられる前に、一番最後尾にいたアリーゼが強化種のどてっぱらに剣を突き刺してからの爆発させるスペルキーを口にした直後、雄たけびにもならない獣声じみた悲鳴が強化種の口から上がると同時に体内から爆散した。

 

 「止まらないで!走って!」

 

 今の爆発によりヘルハウンドの群れはさらに怯んだ事により、彼女達全員窮地を脱する事に成功したのだ。ひとまずは、だが。

 

 「団長、これから如何するんだ?」

 

 アリーゼの真横に並走して聞く小人族(パルゥム)のライラ。

 当然だが全員走っている。

 

 「18階層のリヴィラの町に行くわ。話はそれからよ」

 「だけどその前の『嘆きの大壁』はどうする?」

 「もうすぐ次産間隔(インターバル)が終わる筈だから、正直賭けだな」

 「それでもよ!直追いつかれるし、このままじゃ嬲り殺しに合ってアストレア・ファミリア(うち)は全滅よ」

 「どちらにせよ背水の陣に変わりはありません。アリーゼの案に乗りましょう」

 

 これにより彼女たちの方針は決定された。だがしかし現実は非情なモノ。幾つものヘルハウンドの遠吠えが聞こえて来たのだ。つまり少しづつだが確実に追いつかれつつある証拠。

 

 「ぐっ、もう追い付いてきたのか!?」

 「しつこいっ!」

 

 ヘルハウンドの追撃に焦る少女達。

 そんな中で腹を括った少女が1人―――――アリーゼである。

 

 「こうなったら殿は私に任せて、皆は行きなさい!」

 

 突如1里止まっての発言に、団員達は悲鳴に近い反論をした。けれどアリーゼの気持ちは変わらない。

 

 「誰かが足止めしなければならないの。だからその役目は私が請け負うわ」

 「でしたら私が!団長の身代わりなら既に覚悟の上だ!」

 「いいから言うことを聞きなさい!」

 『『っ!!?』』

 

 怒気を込めて声を荒げるアリーゼに全員固まる。

 

 「私だって死にたい訳じゃない。そして殿として残った上で生き残れる可能性が一番高いのはこの私よ。これは理屈の問題なの。いいわね?」

 『『っ』』

 

 理屈の問題でもなんでもない。所詮は後付けだ。言い返したい。だが時間をかければかける程――――。

 そこで次に腹を括ったのは副団長たる輝夜だ。

 

 「行くぞお前達」

 

 それは団長の指示に従うと言う決断だった。

 だがそれに真っ先に反論するのはリオンと呼ばれた覆面姿の魔法剣士。

 

 「輝夜!」

 「黙れリオン!これは団長からの厳命であり私の決断だ!理想主義の下っ端如きが口出しするなッ。文句なら危機を脱した後、幾らでも聞いてやる・・・!」

 「っ!」

 

 リオンと言う少女を黙らせた輝夜は他の団員達にも割り切らせてアリーゼに背を向ける。

 

 「ありがとう輝夜・・・!」

 「・・・・・・ご武運を」

 

 そうしてアリーゼを置いて去って行くアストレア・ファミリア。

 

 「さて、と。死ぬ気は無いって豪語して見たけど厳しいわよね?」

 

 群れの足音が近づいて来るのが分かる。対して、改めて腹を括り直してから再びアガリス・アルヴェンシスを纏う。

 

 「・・・・・・・・・・・・っ!!」

 

 自分達が逃げて来た道を真正面から見据えて構える。

 しかし彼女は見誤っていた。殿を務める責任感などで視野狭窄に陥ってしまった。

 自分達を追って来るモンスターは正面から来ると確信するのは良いが、その周囲でモンスターが新たに生まれ落ちないとは限らないからだ。

 自分を覆う様に背後から影が延びて来るのが分かった。気付くのが遅すぎたが。

 

 『『『ォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』』』

 「ミノタウっ!?」

 

 雄たけびでミノタウロスだと気づいたアリーゼが振り向くと、二本の剛腕が振り下ろされてくる直前だった。

 

 「ぐあっ!?」

 『ブモォオオオオッ!?』

 

 痛撃によって地面に叩き付けられるアリーゼ。

 遅れて、あと先構わずアリーゼを叩きつけたミノタウロスの両腕が燃え盛っており、苦痛にのたうち回っている。

 その隙に立ち上がろうとするも、別の二頭の内の一頭に体を踏みつけられて起き上がれないでいる。

 

 『ォオオオオオオオオッ!!』

 

 さらにもう一頭の咆哮(ハウル)で意識が飛ばしに掛けられている。

 

 ――――駄、目。このまま、意識、失・・・たら・・・。

 

 殺されるのは必然であり、殿の役目も全うできない。

 だが彼女の意思とは反対に意識はだんだん薄らいでいく。

 もうダメかと薄らいでいく意識の片隅で一陣のそよ風が吹いた気がした。直後、ミノタウロスの悲鳴らしき獣声も聞こえた気がした。

 そうして自分を押さえつけていた圧迫感が無くなった代わりに、自分の体が誰かに持ち上げられたように感じる。

 

 「・・・・・・・・・誰・・・?」

 「――――もう大丈夫だ」

 

 疑問に対する正しい答えではない。けれど、声音が優しかったから、言葉に暖かみを感じたからか、私は思わず安心して意識を手放してしまった。



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第4話 戦う鍛冶師

 リミテッド/ゼロオーバーの士郎、早く着こんでくれんかね?
 此処では、その衣装にしようとしてるんじゃがの。


 「はっ、はっ、はっ、はっ・・・・っ!」

 

 輝夜は頭から血を流しながら肩で息をしていた。

 太刀を地面に突き刺しながら体にむつ打つように立ち上がる。

 団長の思いを無駄にしない為に。残された者としての、副団長としての責務を果たす為に。

 

 「・・・・・・!」

 

 アリーゼを抜いたアストレア・ファミリアの団員達が現在いる場所は17階層の最奥。嘆きの大壁と呼ばれる最初の階層主がいる広間だ。

 そこで彼女達は苦戦を強いられていた。階層主、ゴライアスによって。

 

 『オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 彼女たちは賭けに負けたのだ。次産間隔(インターバル)にまんまと間に合わずに。

 

 「くそっ」

 

 アストレア・ファミリアは、今までは自分たちだけでゴライアスを倒した経験は二度ほどあった。勿論、楽では無かったが。

 十全にそろえた装備、事前に聞いた情報を元にした連携、そして何よりファミリア内で絶大な信頼を寄せた団長たるアリーゼの指揮の下での戦いがあってこそだった。

 だが今は――――。

 

 「ぐあっ!?」

 「アスタっ」

 

 前衛のアスタがゴライアスの強烈な蹴りにに対して盾で防ぐも、力負けして吹っ飛んだ。

 今までならタイミングに合わせて魔法で攻撃するなりして、ゴライアスの攻撃威力を減退させてきたが他のモンスターの相手も他がしなければならない現状、最低限の人数で相手にしなければならないと言う窮地に追い詰められていた。

 

 「リオン!アスタの回復をっ・・・・・・!?」

 

 だが彼女の目線の先には覆面姿のリオンが、気絶したライラを庇いながら他のモンスターらに必死の抵抗を見せていた。

 他も似たような現実。

 このままでは全滅。

 そんな不吉な言葉が今も戦い続けている少女たちの脳裏に否応にも浮かんだ。

 

 「「輝夜っ!!」」

 「っ」

 

 周囲を見過ぎて自分に攻撃してくるゴライアスへの反応が遅れた輝夜は、振り下ろされて来る拳に対して太刀と小太刀で防ぐように前に出して後ろへ跳んだ。だが直撃こそ防いだが地面を叩いた時の衝撃波はモロに受けてしまって吹っ飛ぶ。

 

 「ガハッ!」

 

 吹っ飛んだ輝夜の行き先は、破り捨てるように現れたゴライアスの大壁の瓦礫の山。

 

 「ぐっ、っっ・・・・・・ごばっ!?」

 

 瓦礫の山から抜け出した直後、内臓にダメージでも受けたからか吐血した。

 

 「ゼぇ、ゼぇ、ゼぇ、ゼェ・・・・・・」

 

 口元から血を流しながらも不屈の闘志を見せる輝夜。

 理解しているのだ。自分が折れれば全滅は確実だと。

 であればこそ、折れるわけにはいかない。屈するわけにはいかない。ここが正念場だと無理矢理に自分を奮い立たせる。

 だがしかし、窮地にも気丈に戦う不屈の少女達を嘲笑う様に追撃とばかりの咆哮が放たれる。

 

 『ォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 「「「「「「っっ!!?」」」」」」

 

 人間には出来ず、強力なモンスターのみに許された恐嚇(うた)

 心の弱いモノや耐性の低い者を強制的に行動を停止させる。

 それは今の彼女たちには致命的過ぎる程の隙を作る事になった。

 

 ノインとセルティを守るイスカとマリューに数頭のライガーファングの凶悪な牙が眼前に迫っている。防御は間に合わない。

 ライラを庇いながら奮闘していた覆面の少女のリオンに2人まとめて食い千切ろうと周囲を囲う様にヘルハウンドの群れが跳びかかるように迫っている。迎撃はもう間に合わない。

 アスタを背にして拳を振るい続けていたネーゼの隙をついてミノタウロスらの剛腕が迫っている。回避する訳にもいかずに、怪我を追っている両腕で防御しようとしてもそれは悪手過ぎた。

 魔法で援護し続けていたリャーナの周囲には誰も居らず、ワームの撒きつき殺そうとするさまに体を縮みこらせる。最早少し先の未来は確定。

 そして――――。

 体に鞭打ち何とか立っているだけの状態だった輝夜に咆哮は不味すぎた。誰よりも長く行動を強制停止させられる時間が長すぎて、目を開けた先に合ったのは――――死。

 死、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死――――死。

 眼前には文字通りゴライアスの蹴りによる足の指先が迫っている。

 迎撃も、回避も、防御すら間に合わない。

 確定された死に抗う術は無い。

 そんな中彼女が思うのは自身の脆弱惰弱な不甲斐なさ――――そして悔しさである。

 

 ――――ああ、私の物語(みち)は此処までなのか。

 

 逃れること叶わぬ死。もしこの状況で生き残れるとしたら、それこそおとぎ話に出てくるような英雄が駆けつけて来るだけだろうからな。

 だがそんなものはない。このオラリオにそんな物好きがそうそう現れるはず――――。

 

 「え」

 

 それは誰の呟きだったろうか。

 直後にそれは起きた。

 リオンとライラに跳びかかって来たヘルハウンドの中心辺りに目にもとまらぬ速度で“何か”が来たかと思うや、突如爆発して空中にて悉く爆散させた。

 

 「っ!?」

 

 ノインとセルティを守るイスカとマリューに襲い掛かって来たライガーファングの数頭にも“何か”が飛来、ぶつかったと思うや先程と同じように爆散した。

 

 「「えっ!?」」  

 

 リャーナを撒きつき殺そうとしていたワームの魔石を貫き、灰へと霧散させたものが在った。

 “何か”の正体――――変哲のないロングソード、剣だった。

 

 「け、剣・・・?」

 

 アスタを守るネーゼに剛腕を振り降ろそうとしていたミノタウロス数頭にも剣が飛来、首に突き刺さってから爆発。蹂躙した。

 

 「ぬあっ!?」

 

 そして――――。

 輝夜の眼前に迫っていたゴライアスの足の指先が遠ざかっていく。

 輝夜の無意識的な回避行動が間に合った――――訳では無い。

 ゴライアスに感情が生まれて慈悲を以て辞めた――――訳は無いし、有りえない。

 答えは一つ。

 

 「!」

 

 輝夜の視線の先に見えたのはアストレア・ファミリア(自分達)以外の冒険者だった。

 

 メリメリメリメリッッ!

 

 その冒険者はゴライアスの腹に強烈な蹴りを入れている。

 今現在鳴り響いている擬音は冒険者の足がゴライアスの腹に蹴りによる強大に圧をかけている音だ。

 

 「ラァッッッ!!」

 『ォオオオオオオオオオッッ!!?』

 「「「「「「・・・・・・っ!!?」」」」」」

 

 今の光景を見ていた6人は全員我が目を疑った。謎の冒険者に蹴りを入れられたゴライアスの巨体が宙を飛んで吹っ飛んだのだから。

 吹っ飛んだゴライアスは自分が破り捨てるように現れた嘆きの大壁に突っ込んで壁を盛大に破壊した。

 今の信じがたい光景を成した謎の冒険者が地面に着地した。外見は赤銅色の髪に和洋折衷の衣服に身を包んだ細身の男だと背中越しからでも分かった。背中には槍に見紛う荒々しい剣に棍棒を背負っている。

 その男性の冒険者が振り返ってきた。

 

 「君!いや、君達もだが大丈夫か?」

 「え、あっ、いや……っと!?だ」

 「「「「団長!?」」」」「アリーゼ!!?」

 

 こんな状況なのでいきなりの質問に答えに戸惑っていると、冒険者の腕の中には自身を犠牲にして殿の為に1人途中で残ったアリーゼの姿が在った。ただし気絶している様だが。

 

 「団長・・・と言う事は、君たちの仲間か?」

 「だ、団長は・・・」

 「気絶している事なら心配するな。ミノタウロスに襲われて怪我もしていたが回復させた」

 「ミノタウロス・・・?ヘルハウンドの群れじゃなくて・・・?」

 「ヘルハウンドの群れなら彼女を助けている途中で来たぞ?全部殲滅して来たが」

 「「「「「「!!」」」」」」

 

 この冒険者には驚きの連続だ。

 あの残りの強化種三頭に加えたヘルハウンドの群れをたった1人で殲滅したと言うのだ。勿論この男の言葉には何の証拠もない。しかし先ほど見せたゴライアスを蹴り飛ばすという離れ業を見た後では充分に信憑性が高かった。此処までの常識はずれの強さを持つという事は、まさか探索系の二大派閥のロキ・ファミリアか、フレイヤ・ファミリア所属の冒険者ではないだろうか。

 

 「彼女は返す、それから――――」

 

 そこまで考えたところで自分達の窮地を救うように現れた常識はずれの冒険者は、団長を私に預けるように地面に寝かせて背を向けた。

 

 「話の続きはゴライアスを討伐した後にしよう」

 

 直後、未だ倒れた状態のままのゴライアスが咆える。

 

 『ォオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 巨人の咆えに呼び出される様に、再びその他のモンスターが召喚される。

 しかしそれを許しはしないのが常識外れの冒険者だ。

 

 「フッ」

 

 輝夜は見た。彼が背を向けたまま自身の背後側に召喚されたモンスターたちに向けて、両手から幾つもの“何か”を投擲したのを。

 投擲された“何か”は取りあえず小さいことは判った。その投擲物はモンスターたちの核である魔石に狂いなく着弾して砕け散り、体を保てず灰となる。

 

 「「「「「「!?」」」」」」

 

 如何なる原理かは分からないが、投擲されたものは全て男性冒険者の手元に戻って行き、再度投擲する。それを再び召喚されたモンスターたちが殲滅されるまで続いた。その間わずか十秒行くかどうかだ。

 

 『ォオオオオオオオオアアアアアアアアッッ!!』

 

 その事実が気に入らずに何時の間に這い出て来たゴライアスが、瓦礫の岩を冒険者目掛けて無造作に投げて来た。

 

 「返すっ」

 

 それを男性冒険者は回し蹴りの如く迎撃して、ゴライアスの顔面目掛けて岩を蹴り返した。

 岩は見事に目標に着弾。当てられた本人――――本モンスターは短く鳴くが、直にその眼に怒りを滲ませて襲い掛かろうと睨もうとすると。

 

 「あああっ!」

 『ゴアッ!?』

 

 標的の男性冒険者はいつの間にか自分の眼前に迫って来た直後に、自身の右頬を棍棒で思い切り殴って来たのだ。

 だがゴライアスに対する男性冒険者の攻撃はそれだけでは終わらない。

 

 「おおおおおおおおおおああああああっっ!!」

 『グォオオオオオオオオオアアアアアアアアッッ!!?』

 

 強力な棍棒と明らかに業物な剣での連続攻撃。

 

 殴る。切る。殴る。切る。殴る、切る、殴る切る殴る切る殴る切る殴る切る殴る切る殴る切る殴る切る殴る切る砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬――――――――ッッッ!!!

 

 ゴライアスの体中をひたすらに砕く様に殴り、切り刻んで行く。

 しかも殴る箇所も切る箇所も適当では無く、効果に見合った箇所への冷酷な程の蹂躙戦法。

 

 「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」

 

 立ち尽くしてみているだけの輝夜達は、いっそどちらが強者でどちらが弱者か判らなくなるほどの一方的な戦いだった。それこそ自分達を苦しめるいたゴライアスに対して、僅かながらの憐れみを向けてしまうほどに。

 

 『ガッアアアアアアアアアアアアッッ!??』

 

 自身の体に無数の深い切り傷と砕けて行く傷の痛みに悶絶するゴライアス。だが彼の苦しみも長くは続かなかった。

 

 「フッ!」

 『グォオオオオオッ!??』

 

 ゴライアスの眼前に再び迫る冒険者は今度は棍棒ではなく剣を真横に振り抜いた。しかも両目に。

 これに、切られた両目を両手で抑えるゴライアスは胴体が完全にがら空き。

 先程までどれだけ殴られようが切られようが、胴体――――というより胸板を守り抜いていたのだが、これによって完全に晒していた。それを逃す程この男性冒険者は甘くない。

 

 「ハァアアッ!」

 『ッ!?』

 

 剣で胸を思いっきり切り裂く。

 

 「ラァアアッッ!!」

 『!!?』

 

 曝された魔石を棍棒で叩き砕いた。

 これに体を維持できなくなったゴライアスは呆気なく灰となって霧散した。

 それを見送ったのは、途中から立ち尽くしていただけの少女6人。

 そして彼女たちの視線の先に居るのは、自分達の窮地に英雄の様に颯爽と駆けつけて、英雄の様にいとも容易く助けてくれた男性冒険者の背中だった。



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第5話 至れなかった者と目指す者達

 途中で分ければよかったと後悔した。


 此処は安全階層(セーフティポイント)。18階層のリヴィラの町。

 そこではアストレア・ファミリアの団員達が気絶している仲間を担いで宿を取って休もうと来たのだが――――。

 

 「足らないだと・・・!」

 

 輝夜は声を荒げながら店主に圧を掛ける様に詰め寄った。

 

 「そんな筈はないだろう!?此処はこの額で足りるはずだ!」

 「それが昨日変わったばかりなんですよ~?仕方がないでしょう?」

 「っ!」

 

 ふざけた態度に輝夜の眼光の鋭さが増す。分かっているのだ。この宿屋の店主は私達の今の状態と出せる額の限度を察して足元を見てきている事を。

 

 「何ですかぁ、その態度~?なんでしたら他の宿に行けばいいじゃないですか~?」

 「それは・・・」

 

 何とも運の悪い事に、今日に限ってこの宿屋の部屋以外全て満室だった。だからこそ、唯一空きがある宿の店主とも言い合っているのだ。

 

 「とは言えおいらも鬼じゃありません。そうですな~。足らない分は体で払ってもらうと言うのは如何でしょう?」

 「貴様、始めから・・・っ!」

 

 受け付けの始めから下卑た視線に不愉快さしか感じなかったが、それが本音とは今すぐその三枚舌を切り裂きたい衝動に駆られる。しかし目の前の下衆は動じることはない。

 

 「おや?いいんですかい、そんな態度で?お連れさん方々の状態は休ませないと不味い方もいるのでは?」

 「っ」

 

 指摘されることが腸煮えくり返る思いだった。

 あの後、結果的に一番重傷だった私に残りのポーションと回復魔法が施され、それ以外は宿を取ってからと言う事になった。だというのに・・・!

 そこへまるで私を嘲笑う様にこの町の長であるボールスが来た。

 ――――俺のモノは俺のモノ、お前のモノも当然俺のモノと、憚らないやつなので出来るだけ関わりたい奴では無いと言うのに、この状況で追撃を掛ける様に来るとは今日は厄日だ。

 

 「やけに騒がしいじゃねぇか」

 「おっ、ボールスさん聞いてくれよ~」

 

 まるで自分の主張が正しいと言わんばかりにボールスへ説明する下衆店主。

 それをつまらなさそうに聞き終えたボールスの言葉に私は耳を疑った。

 

 「最初の値段は足りてるんだろ?だったら泊まらせてやれよ」

 「「は?」」

 「あ?なんだその態度は・・・」

 「まっ、待ってくれよボールスさん!此処は俺の店なんだぜ?幾らアンタにもそこまで指図される謂れは――――」

 

 予想外の言葉に狼狽える下衆店主。私も予想の斜め上をいく展開に口を挟めずにいる。

 

 「謂われだぁ?此処は俺の町なんだぜ。そもそもゲッテン、テメエ俺にデカイ借りがあったよな。だったら今のうちに小分けにして、少しずつ返した方が良いとは思わねぇか?――――それこそ、なんかでやばい橋渡らされる事にならないうちによ・・・!」

 「っ!?」

 

 含みを持たせた言葉に下衆店主(ゲッテン)は激しく動揺する。

 

 「・・・・・・チッ!わかった、わかったよっ!泊めさせてやればいいんだろう!」

 

 言って、ヤケクソ気味に輝夜の手から宿泊費をぶんどって去っていく。

 だが泊まれて良かったね、ということでは終わらない。

 

 「言っとくが、同情なんかじゃねぇぞ」

 

 私の視線に気づいたボールスが先回りしてきた言葉。

 それに対して非情だとは思わない。そもそもボールスが同情を施してくるなんて事がまず考えられない。

 

 「・・・・・・分かっているとも。貴様も私の体狙いか」

 

 一刻も早く団長含む仲間達を休ませたかった私はヤケクソ気味に言った。だがそれをボールスは鼻で笑ってきた。

 

 「ハッ!俺をあのゲッテン(ロリコン野郎)と一緒にしてんじゃねぇぞ。外見と体に自信があるんだか知らねぇが、せめてあと10年経ってから出直して来いナルシー女・・・!」

 「なっ!?」

 「テメェらを助けたのは、俺自身も借りを返す為なんだよ。だから自惚れてんじゃねぇぞ」

 「っ・・・・・・・・・誰に頼まれた」

 

 借りを返す――――と言う理由で助けたのであれば、私達の便宜を図るように頼んだ奴がいる筈だ。必然的に今度は私達がソイツに借りを作った事になるからこそ、気になるのも当然だ。

 

 「テメェらと一緒に来た奴だ。それとこれは奴からの差し入れの回復薬だとよ」

 

 ポーションなどが入った袋を乱暴に渡される。

 

 「これで俺の用事も仕舞いだ。後は勝手にしやがれ」

 

 借りを返す為とは言え使いっぱしりにされたからか、ボールスは苛つきながら戻ろうとする。

 それに輝夜が待ったをかける。

 

 「んだぁ!?俺だって暇じゃねぇんだっ。さっさと言いやがれ」

 「彼の泊まっている部屋を教えてくれ」

 

 対して今度はくだらなそうに鼻をならす。

 

 「フンッ、今日は生憎満室だっつったろ?アイツなら水辺の方で野宿だとよ」

 「!?」

 

 お前ら泊められるように根回しして自分は野宿かよ、と胡散臭いと吐き捨てながら今度こそボールスは自分の店に戻って行った。

 

 

 -Interlude-

 

 

 助けてくれた冒険者の謎の厚意で宿でやっと休めることが出来たアストレア・ファミリアの少女達は、一息つきながら怪我の治療をしていた。そこで1人の覚醒の兆候があった。

 

 「・・・ん・・・・・・此処は・・・?」

 「団長!?お目覚めですか!」

 

 アリーゼが気がついたことで手を離せる者達が彼女に駆け寄った。

 

 「団長!良かった!」

 「団長!?」

 「気が付きましたか、アリーゼ・・・!」

 「皆・・・?」

 

 愛する仲間達に見下ろされていたので、ゆっくりと身を起こす。見回すと横になっている仲間もいたが、全員確かに揃っていた。

 

 「全員無事で何よりだけど、あれから今までの状況の説明お願いしていい?」

 「勿論。まず――――」

 

 そうして全て話し終える。

 

 「――――と言う事なんだ」

 

 輝夜の説明に終始黙って聞いていたアリーゼ。その後に一度頷く。

 

 「冒険者同士は基本的に不干渉。だから今回私達を助けてくれた彼に何か裏があるんじゃないかと怪しむ貴方の気持ちも客観的に言えば解るわ」

 「アリーゼ!?」

 

 まさかの言葉に信じられないと叫ぶリオン。しかし続きが在った。

 

 「でもね。此処までしてくれたのだからまずは感謝の気持ちを伝えなければでしょ?」

 「それは・・・」

 「輝夜の経験から考えれば疑いたくなる気持ちも解るけど、まずはその人に接してみないと」

 「まさか・・・」

 「うん。だから私、これから彼に会って来るわ。水辺の方に居るのよね?」

 「ああ・・・・」

 「なら皆はここで待っていて、信義を確かめる為にも話をしてくるわ」

 

 勿論その前にお礼もね、とウインクする。

 けれど、そんな前向きな団長に対しても意見するのが輝夜だ。

 

 「団長!幾らなんでも1人だけで行くと言うのは・・・!」

 「護衛をつけろと?でも貴女は駄目よ。自分で思っている以上に疲弊してるじゃない?」

 「む・・・」

 「では、私がアリーゼに同行しましょう」

 

 輝夜の代わりと言う気は毛頭ないにしてもと、自分がと、リオンが言う。

 

 「リオン?いいの?男性よ?」

 「構いません。寧ろ、助けられておきながら素顔も晒さなかった無礼もありますので、謝罪も含めて同行させてください」

 「うん。実力的にも護衛として問題ないし、良いわね輝夜」

 「・・・・・・・・・」

 

 対して、良いとは言わないが反論もしない輝夜。

 

 「そう言えば“彼”の名前はなんていうの?」

 「名前・・・・・・」

 「・・・切羽詰まっていたにせよ、恩人の名前を聞いていなかったのね」

 

 相手の真意を疑う以前の問題だと非難したかったが、気絶していた自分にもその権利はないことに気づいてなにも言わないことにした。代わりに呆れた態度は隠さなかった。

 

 「むぅ」

 輝夜も自分の迂闊さに何も言えずに不甲斐無く反省する。

 

 「それも含めて行ってくるわ。貴方も相当気疲れしてるでしょうし、大人しく留守番してて頂戴ね」

 

 輝夜を諭すように言いつけたアリーゼはリオンを引き連れて水辺に向かうべく、宿を後にした。

 

 

 -Interlude-

 

 

 アリーゼとリオンは水辺に向かうと、大して労せずに探し人を見つけることができた。

 探し人は胡座をかいて何をするでもなくじっとしていた。

 何故そんなことをと考えたアリーゼとリオンだったが、気にすることなく声を掛けようとすると、

 

 「どうやら気がついたんだな」

 

 あちらが先に気付いて立ち上げり振り向いて来た。

 自分の髪の色に似ている赤銅色の髪のヒューマンの男性の落ち着いた雰囲気に一瞬見惚れてしまったが、直ぐに調子を取り戻す。

 

 「ええ、おかげ様で」

 「そうか。ええと・・・・・・」

 

 恐らくは何と呼べばいいのかと、困っているのだろうと察する。

 

 「ああ!私達、お互いの名前を知らなかったわよね?アストレア様が立ち上げたファミリアの団長を務めてるアリーゼ・ローヴェルよ。好きに呼んでくれて構わないわ、よろしくね!」

 「こちらこそエミヤ・士郎という。俺の方も好きに呼んでくれて構わない。大して面白味の無い男だが、よろしくやってほしい」

 

 アリーゼとは違い士郎の自己紹介は何処か他人事の様だ。だがその他人事の様とは別の個所でアリーゼはムッとした。

 

 「あんまり自分を下卑するような言葉は感心しないわ」

 「む」

 「士郎って呼ばせてもらうけど、貴方は私達の窮地をたった1人で救ってくれた恩人なのよ。救われた側の我儘かもしれないけど、そんな人にはもっと堂々としていて欲しい」

 「そうか。すまな・・・・・・・・・いや、ありがとう」

 

 謝罪では無く感謝の言葉に変えた事にアリーゼは気を良くする。

 

 「アリーゼ、そろそろいいでしょうか?」

 

 後ろからの声に振り向くアリーゼ。勿論忘れていた訳ではないが、ごめんなさいねと謝ってから横にずれる。

 

 「先に、別れ際に素顔を晒さなかった非礼、お詫びします」

 

 フードをとって鼻先までかけていたマスクも下にずらす様に取ると、そこには金髪の美少女の素顔が露わになった。しかもフードを取って初めてわかったが、耳の先がとても長い。つまりリオンと呼ばれた少女はエルフか、ハーフエルフかもであった。

 

 「私の名はリュー・リオンと申します・・・・・・どうかしましたか?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 士郎は目を大きく見開いて露骨な程に驚きを見せている。それこそ、流石にアリーゼでも訝しむくらいには。

 

 「もしかしてリオンに惚れちゃったとか?」

 「・・・・・・」

 

 エルフは男女ともに見目麗しい。体型や怪我などの問題が無い限り、エルフと言う種族は外見の良さだけでも異性として好意を寄せる者が非常に多い。

 その事実はリュー・リオン自身も自覚があるので、アリーゼの指摘に嫌な顔をした。

 そこで我に帰り、自分の反応が彼女たちに不快な思いを抱かせたことに狼狽えて謝罪する。

 

 「いや、すまない。今は亡き俺の知人にあまりに似ていたものだから驚いてしまった。不躾な視線を送って本当にすまなかった」

 「そう言う事でしたか。であるのならば別に構いません。こちらこそ変に勘ぐってしまって申し訳ありませんでした」

 「いや、俺のほうこそ――――」

 「いえ、私のほうこそ――――」

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 謝り返し続ける2人にアリーゼは軽く苛立つ。このままではエンドレスに移行しそうだからだ。

 

 「あのさ。話を先に進めていい?延々と謝り返し続けるのやめてくれる?」

 

 アリーゼからの注意喚起に顔を見合わせてから数秒ほど硬直後、素直に従う2人。それに溜息を吐く。

 

 「――――それじゃあ、改めて。士郎、貴方のおかげで私含むアストレア・ファミリア全団員は命からがら救われました。本当にありがとう」

 「単なる巡り会わせだ。たまたま近くにいて余力もあったし、助けたいから助けただけだ」

 「それでもあなたの施しに我々は救われました。この御恩、いずれ必ずやお返しします」

 「そんな借りに思わなくていいのにな。それとも和服姿の君たちの仲間が疑っているとかか?」

 「む、鋭いわね。観察眼も相当なもの。でも貴方、私たちの体とか要求しないでしょ?」

 「当たり前だろっ。初対面だから信じられないだろうが、見損なってくれるな。それとも信じられないか?」

 

 問いに、笑顔を崩さないまま首を横に振るアリーゼ。

 

 「いいえ、信じさせてもらうわ。さっきまでのやり取りで士郎はそんな男じゃないって分かったから」

 

 信頼の証とばかりにアリーゼの方から握手を求めるように右手を差し出す。しかも満面の笑顔で。

 対して、ここで引けば男が廃る――――と考えたかは定かではないが、士郎は遠慮せずに自分も手を差し出して握手に応じた。

 やり取りを見ていたエルフのリューは神妙な顔をしていた。そして意外なアクションをする。

 

 「年上なのでエミヤさんと呼ばせてもらいます。エミヤさん、私とも握手をいいですか?」

 「勿論いいとも。身に余る光栄だ」

 

 キザったらしいセリフの割りにはにこやかに握手が成立した。

 これに驚くアリーゼ。

 

 「どうしたのリオン。エルフの中でも特に潔癖性の高いアンタが自分から握手をしに行くなんて」

 

 アリーゼの驚きに追従する様に、士郎はそうなのかと疑問を投げかけるような顔をした。

 

 「分かりません。しかし握手をしたくなったとしか・・・」

 「私は別に責めてないわよ。直感的に動くのも時には大事な事。心に嘘ついても仕方ないじゃない?」

 

 アリーゼとリオンのやり取りは自然と微笑ましくなるものだ。

 そんな美少女達をまとめて視線をやる士郎。それに気づく2人。

 

 「どうかした?」

 「いや、2人の名前なんだが・・・」

 「私達の名前に何か・・・?」

 「いや・・・・・・そうだな。――――まずリューは澄みきった青空に吹く優しいそよ風の様でとても綺麗な名前だな。――――それにアリーゼは情熱的で誰も彼もを惹きつける花の色化を感じさせるのに反面で何所かホッとさせてくれる可愛さのある名前だな」

 「ッッ!!?」

 「ちょっと、何言ってるのっ!?」

 

 名前に対する士郎の感じた言葉に2人は激しく動揺を見せる。だがそんな反応をされるとは予想外だった士郎としてはすぐに謝罪する。

 

 「すまない。褒めたくなったから口にしただけなんだが、もしかして今のってセクハラか?」

 「・・・・・・い、いえ」

 

 ――――優しいそよ風・・・ですか。その様に名前を評された事は無かった。

 

 「えっ・・・・・・ち、違うわ。う、うん。褒めてくれたのよね?・・・・・・ありがとう」

 

 ――――情熱的な花の様って評してくれたのにホッとするって何よ?矛盾してない?べ、別に嫌とは感じなかったけど・・・。

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 セクハラでは無いと否定してくれた様だが変な空気にしてしまったのは確かだ。このままでは男として情けない。ならばどうするか。――――そうだ、体で返そう。

 

 「ところでアストレア・ファミリアは泊まって行くのか?」

 「・・・・・・えっ、えっと、ううん。まだ意識を失っている仲間がいるならそうしようとも考えているけど、日を跨いでまで潜る事はアストレア様に伝えてないから心配させて心痛を起こして欲しくは無いし、闇派閥(イヴィルス)の暴走も気になりから出来るなら帰還したいとも考えてるけど・・・」

 「装備もボロボロの上にマインドも大して回復していないので一泊する事は覚悟しています」

 

 本来であればアストレア・ファミリアの団員達のレベルを考慮すれば今からでも帰還できなくもない。しかし事前情報が正しくない異常事態が起きて自分達が追い詰められた事を思い出せば、装備は兎も角としてもマインドの回復は全快にしておきたいのが本音だ。だからこそ断腸の想いで今日は一泊すると考えてる様だ。

 それを察した士郎が提案する。

 

 「なら俺が同行して、地上まで送ろうか?」

 「は?」「え?」

 

 士郎の提案に2人は顔を見合わせて目を丸くするのだった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 妙な事になってんなぁ。それがアタシが目覚めてからの最初の感想だった。

 アタシは小人族(パルゥム)のライラ。がらじゃないが、正義の派閥なんてものにいる冒険者だ。

 そんなアタシのいるアストレア・ファミリアが今現在妙な事になっている。

 アタシが気を失っている間に、もう二度と会えないと思っていた団長は生きているし、アタシら全員を救ったのは団長と同い年の男の冒険者だった。

 名前はエミヤ・士郎。副団長と同じ国出身らしいけど、輝夜と違って相当な物好きだ。

 冒険者のパーティーは基本的に他所のパーティーに干渉しないのが通例にも拘らず、窮地に陥ったアストレア・ファミリア(うちら)を干渉して助ける辺りが相当な物好き(それ)を物語っている。

 輝夜は疑っていた――――たぶん今も疑っているだろうが、エミヤはアタシらを助けた事に多分裏は無い。副団長程じゃないにしてもアタシも基本的にまず他人は疑ってかかる口だが、エミヤのやったことはリスクとリターンが見合わなすぎる。普通、窮地に陥っているパーティーをソロの冒険者が助けるなんて、まず無い事だ。ヘルハウンドの群れと強化種三匹、それにトドメは階層主のゴライアスだ。これを余力があるから助けたとか、言い訳としておかしい。確実に団長やリオン以上にお人好しだと確信してる。

 

 そんなお人好しの(ソロの)凄腕冒険者はアタシらに同行してダンジョンを上り、地上を目指している。

 何故そうなったかの流れは先の説明に加えて、アタシが目を覚ますまでにエミヤの名前自体と真意を聞いて来た団長とリオン。そして信用されて招かれて来たエミヤが護衛と言う形で同行する事になったのだ。気絶していたアタシらも目が覚めて仲間の怪我も全員治したからだ。

 ん?よく疑り深い輝夜が納得した或いは割り切ったなだと?いや、そこは解決してない。解決してないが実は輝夜だけが今度は意識を手放してしまったのだ。団長と別れて宿に全員揃った形になるまで、誰よりも気を張り続けた輝夜の緊張が緩んで気疲れから寝てしまったのだ。

 副団長の負荷のかかった精神上を踏まえた上で、意識を呼び戻させるのは酷だと判断しようとした所で衛宮が提案したんだ。

 

 『地上に戻るまで俺が担いでいくよ』と。

 

 この大胆不敵すぎる提案に、もうだいぶ信頼している団長が当人の許可なくエミヤの提案を了承・決定してしまったのだ。

 だから現在、エミヤは輝夜をお姫様抱っこ状態で抱えたまま私達に同行・護衛してくれている。

 ん?そんな状態では護衛できないんじゃないかって?これがそうでもない。

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 先程からモンスターが生まれては私達――――正確にはエミヤに恐れをなして、ほとんどが逃走を選択しているのだ。

 モンスター共はアタシら人と違って、知能はあるが知性は無い。そして本能の部分がアタシらよりも色濃い。

 その当たりを刺激して恐れさせて逃亡させると言う理屈を実践している。殺気を周囲にばら撒くと言う形で。行っているのは勿論エミヤだ。

 

 「士郎。貴方って言う人はそんな事出来るのね?」

 「ん?まあ、必要に駆られてだよ。冒険者になる前から荒事には慣れてるからな」

 「スキルじゃなくて技術ってところかしら?」

 「正解だ」

 

 エミヤは基本的には必要以上にしゃべらないらしい。だがこちらから話を振るなりすれば、適当な相槌などではなく、興味関心を持って話に付き合ってくれる。まあ、この状況でお喋りしたがる奴なんて居ないのだが。

 

 「フッ!」

 『グボッ!?』

 

 例の殺気も万能では無いらしい。ダンジョンを下るにつれて、通じるモンスター達にも限界が出て来るし、上層や中層のモンスターでも恐れつつも向かって来るモンスターもいるらしい。

 今丁度先頭側にいたミノタウロスに向かってエミヤが輝夜を抱きかかえたまま跳躍し、即座に真後ろに入り込んだ直後に腿裏と脹脛でミノタウロスの首を挟み込むようにして、そのまま強引にへし折った。

 アタシは見てねぇけど、ゴライアスを蹴り飛ばした時と言い、外見からは想像できねぇほどの脚力を持っているみたいだな。いや、まあ、冒険者なんてそんなもんか。レベルが高ければ華奢な見た目からでも剛腕ぶりを発揮できるみたいに。

 だけど今のさりげなくスゲェ所は大して輝夜に負荷を与えずに済ませたところだ。実際今もまだ輝夜はエミヤの腕の中で眠ったままだ。

 結局大して襲われずにアタシらは5階層まで上ってこれた。そこで漸く我らがアストレア・ファミリアの唯一の眠り姫を現在進行形で行っていた副団長が目を覚ましそうになる。

 

 「ん・・・?」

 「む?起きたか」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 意識が朦朧とする中で何とか状況把握に努める輝夜。

 周囲を見て今自分がいる空間はダンジョン内、そして何故か視界いっぱいに広がるのは胡散臭いくらいに自分達に施しを与えて来た男の冒険屋だった。その事実だけで彼女の意識は放蕩の海から完全に覚醒させるには十分過ぎる位の情報だった。

 

 「っ!貴さ・・・!」

 「待て!暴れるな!直降ろすから」

 

 宣言通り抱きかかえられた体勢から降ろされた輝夜は、直後に小太刀を抜いて士郎に切っ先を突き付けようとした――――が、その腕をアリーゼに掴まれて行動を強制的に制止させられた。

 

 「な、なにをするのですか団長!?」

 「輝夜、そこから先に行動はアストレア・ファミリアの団長、アリーゼ・ローヴェルとして許さないわ」

 「何故です!」

 「落ち着きなさい。事情はちゃんと説明するから」

 

 そうして説明し終えると、

 

 「~~~~~~ッッッ!!?」

 

 説明を聞き終えた輝夜はただただ後悔した。

 

 ――――ああぁ・・・。

 

 どうしてこの男、エミヤ・士郎の下へ真意を問いに行く過程を団長に任せてしまったのか。彼女の性格を考えればこの結末に至る――――いや、堕ちてしまうのは予想出来ていた事だろう。

 そうでなければ、男の腕の中で眠り続ける(こんな)事には成らなかったのだ!

 

 ――――ああああ・・・。

 

 しかも仲間達が言うには、私は寝相でこの男の首に何度か自ら腕を絡めに行ったとか。

 

 ――――ああああああああ・・・。

 

 さらには顔もこの男の胸に埋めに行ったとか。

 

 ――――ああああああああああああああああ。

 

 羞恥にも程がある。

 今も団長からの生暖かい視線が私を苛んでいく。

 

 ――――あああああああああああああああああああっっ。

 

 『これからはどこで睡眠仮眠をとろうとも、輝夜の横で寝るのは気をつけた方がいいですね』

 

 リオンの奴から、そんな皮肉めいた言葉に最大限の屈辱を感じて歯ぎしりを止められない。

 

 ――――あ゛あ゛あああああああああああああああああああっっっ。

 

 一生の不覚とはまさにこの事だ。

 出来る事なら、この目の前の男の存在全てを抹消してから自決したい。だがそれらも団長から禁止されている。何と言う生き恥。間違いなく今日此処に、私の最大級の黒歴史として刻まれるだろう。

 

 あ゛あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!

 

 声に出して最悪の気分を衝動任せに叫び続けたいが、していい状況でもないので心の中だけで叫んでいる。

 頭を押さえて蹲りたい。穴が在ったら入りたいとは正にこの事。誰か、誰か武士の情けを・・・・・・!

 あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああッッッ!!!―――――いっそ殺せッッッ!!!!

 

 自分のしでかしたことに暗いオーラを僅かに纏わせて、頭を垂れながら最後尾を歩く輝夜。

 

 『今の私に誰も構ってくれるな』

 

 全身から仲間達に、そう訴えかけている様だ。

 本人の意思を汲んで、ダンジョン内なので最低限に気に掛ける程度の扱いにする事にしたアストレア・ファミリア+αの一行。

 そこで漸く両腕が解放された士郎は、再び嘆きの大壁で見せたゴライアスの他のモンスター再召喚時に現れたのを悉く蹂躙した時に見せた、腕の裾から出した小さな“何か”を射出。あの時とは違い、モンスターの頭等を撃ち抜いて魔石採取が出来るように図る。

 

 『『オオッ!』』

 

 未だにその原理は不明だが、悉くのモンスターを蹂躙していく光景に、アストレア・ファミリアの団員達のほとんどが自分達の戦いをしながらも目を奪われてしまう様だ。

 

 「あああっっ!!!」

 

 一方で士郎の戦いにも目もくれず、輝夜は自分に襲い掛かって来るウォーシャドウを小太刀で切り刻んで行く。

 

 「うわあああっっ!!」

 

 その鬼気迫る戦いぶりは仲間すらも怯えさせるが違うのだ。

 

 「ウッガァアアアッッ!!」

 

 つい先ほど最大級の黒歴史を自身に刻んだ輝夜は頭を掻き毟りたくなるほどの衝動の捌け口をどこに向ければ良いかと、苛立っていた。

 自分達を助けたエミヤ・士郎に向けても駄目。自決も赦されない。となればどこにと苛立つ果てに自分の眼前に現れたのがモンスターだった。

 

 「アッハハハハハッッ!!!」

 

 都合良く現れてくれたウォーシャドウらに輝夜は歓喜した。いつ爆発させかねないこの苛立ちを破壊衝動に換えて、二刀の小太刀を振るう振るう振るい続ける。切り刻むと言うよりも力任せに振るう様は砕きへし折るという表現が適当かもしれない。

 

 『『・・・・・・・・・・・・・・・』』

 

 平常時だろうが戦闘時だろうがあんな狂喜じみた笑顔と笑い声を見た事が無い団員達は、何と声を掛けたモノかと困惑する側と今は放置した方がいいと考える側の二派に分れている。

 そしておそらくは自分が原因の一因となっていると推測している士郎も、声を掛ける事に戸惑っている様だ。

 

 「ハハハ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ウォーシャドウを全て灰に変えた後に苛立ちを解消出来たかは不明だが、輝夜は二刀の小太刀を鞘には戻さずそのままに再び頭を垂れている体勢に戻る。大和撫子を彷彿させていた黒の長髪は前側に集まっており、結果表情が見えずに感情も読み取れていない。

 幾度も背中を任せてきた仲間達から見ても超怖い。超怖かった。なので窮地に陥らない限りは放置と言う事がアイコンタクトで決定された。

 地上まで残り百メートルも無いところで、気になって気になって仕方がなかったのか、アリーゼが士郎に問う。

 

 「ねぇ士郎、さっきまで使っていた腕の裾から出してる武器は何なの?」

 「ん?ああ、これか。これは特殊武装(スペリオルズ)回帰属性(ブーメラン)だ」

 

 質問されたので片腕の裾から五つの銀色の玉を取り出して見せる様に出した。

 

 「ブーメランって、への字の投擲物の狩りとか遊び道具で使うあの?」

 「ああ、ブーメランの性質を特殊武装(スペリオルズ)として組み込んだ武器だ」

 「なるほど。だから貴方の手元に自動で戻ってくるのね」

 

 漸く得心がいった様子のアリーゼだか、そこでハッとする。

 

 「でも待って、その武器の特殊武装(スペリオルズ)が自動で帰って来るモノだけなら、背を向けたままモンスターたちの急所を貫いたのは如何やったの?」

 「特別な事は何も。今まで何度も足を運んだ階層の何度も倒してきたモンスターのみ気配察知で感知して、推測・把握して射ぬいているだけだからな」

 『『!』』

 

 なんでもないかの様に士郎は言うが、それをこのオラリオの他の冒険者で誰が出来ると言うのだろうか。

 しかし余計に疑問も沸く。これ程の術理や凄まじい使い手ならば確実に名の知れた冒険者だろうに、未だに思い出せない。闇派閥(イヴィルス)の冒険者であろうと通常の冒険者だろうと名の知れた者達の名前は二つ名も含めて記憶した筈なのにだ。

 とは言え、思い出せないモノは仕方がないので質問の続きをする。

 

 「それにしても回帰属性(ブーメラン)特殊武装(スペリオルズ)の武器があるなんて初めて聞いたわ!興味があるから教えてくれない?やっぱり有名どころの神ゴブニュ様の所か神ヘファイストス様の所かしら」

 

 初めてだからこそ押さえておきたい。大抵の知識は覚えれば力にはなっても重荷にはならない筈だから。仲間を守る為、ひいては自分達の目指す正義を貫くためにこそ。

 

 だがアリーゼの質問内容に今度の士郎は首を傾げる。

 

 「ん~・・・・・・?どう、だろうな。俺も聞いた事ないし、多分どこにも売って無いんじゃないか?」

 「?それってつまりは専用武器(オーダーメイド)の依頼したってこと?」

 「ん?あぁ、違う違う。アレは俺が鍛ったんだ。これでも鍛冶師だからな」

 『『へ?』』

 「鍛冶師?」

 

 言われた言葉に聞いていないとばかりにおうむ返しのように訪ねてしまう輝夜を除くアストレア・ファミリア団員一同。

 それに言ってなかったっけ?と、言いたそうな視線で彼女達を見た。

 ちなみに丁度よくダンジョン入口に着き、地上に帰ってこれた。

 

 「なら改めて名乗っておくか。鍛冶大派閥ヘファイストス・ファミリアの新入り眷属でLv3の上級鍛冶師(ハイ・スミス)、諸事情により二つ名は無い。よろしくな、アストレア・ファミリアが誇る麗しき正義の使徒達」

 『『えぇええ~~~~~~~!!?』』

 

 あまりの予想外な事に驚きを隠せない一同。

 その後、士郎と別れた少女たちの半分以上は自分達よりもLvが僅かに上とは言え、鍛冶師に助けられたことにショックを受けながらホームへと帰還した。



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第6話 新たなる恐怖!爆誕、紅蓮の魔神!!

 別に戦闘とかないです。


 私の名前はアリーゼ・ローヴェル。アストレア・ファミリアを率いる団長を務めているわ!

 アストレア様の掲げる正義の翼に見惚れたのが始まりね。私もアストレア様みたいに何時かどう堂々とした正義を貫き語りたいわ、なんて最初の内は言ってたっけ。

 でもまだまだ私は弱い。事実、事前の情報とは違い場面に遭遇したとはいえ、先日私は危うく自分も含めた仲間達を守り切れずに全滅するところだった。それを通りすがりの――――実は鍛冶師だった――――冒険者に救われた。助けられたことに感謝しつつ自分の不甲斐なさに腹が立つ。

 だけど私は挫けない。いつか“彼”の様な誰も彼もをまとめて救えるような正義の味方に至るために・・・!

 

 そんな今の私はアスタと共に、我らが気高き主神アストレア様の護衛としてある場所に向かっている。

 ある場所とは鍛冶最大派閥のヘファイストス・ファミリアの主神ヘファイストス様との会談場所に向かっているの。

 会談場所と言っても何か重大な話がある訳では無く、先日私達を全滅の危機から救ってくれたのがヘファイストス・ファミリアの戦う鍛冶師だった事の説明をアストレア様に聞かせると、感動して是非自分からもお礼がしたいと言う事になったのよ。

 だけど神ヘファイストス様も大変忙しい方なので、先方の都合の付く日に合わせて会談を行う事になり、それが今日これから行われるから道中の護衛と、改めて団長である私からも主神であらせられるヘファイストス様に感謝の意を伝える事になったのよ。

 

 そう言えば肝心の私達を救ってくれた人の事を言って無かったわね?

 名前はエミヤ・士郎。輝夜と同じ出身地で私と同い年の戦う鍛冶師。

 接していた時間は少なかったけど、そんな短時間だけでも彼の人となりはある程度知ることが出来た。士郎は凄く良い人で何より強い。まるで私が目指している正義の味方の理想像そのもの。

 その思いを昨夕、偶然に出くわした士郎に挨拶の流れでぶつけてみた。そしたら面を喰らったように驚いた表情をしてから数秒で一旦落ち着いて、笑顔で感謝の言葉を向けられたわ。けれどとても寂しそうな笑顔だったことが印象的過ぎて、胸を締め付けられる思いだった。

 如何してそんな顔をするの?貴方の何がそんな顔をさせるの?と、問い詰めたかったが何故か口に出来なかった。もしかしたら口にしたくなかったのかもしれない。よく判らない。あの時のモヤモヤした感情が私には分からなかった。

 

 「どうかしたの、アリーゼ?」

 

 そんな私の心情に気付いたか否かは分からないけれど、私の顔を覗きこむようにアストレア様が心配そうに慮って下さった。

 

 「いえ、大丈夫です」

 「・・・・・・そう?無理はしないでね」

 

 この御方に余計な心痛を与えるのは本意じゃない。だから私は無理矢理切り替えて護衛に専念することにした。

 

 

 -Interlude-

 

 

 私達はヘファイストス・ファミリアが持つ取引相手との交渉などで使われるゲストルームに案内された。

 豪華絢爛な装飾や置物に場違いさを感じてどうしても委縮してしまう私。

 輝夜なら慣れてるんだろうなぁと考えていた時に、左目を眼帯で覆い隠した私の髪以上に紅蓮の色に極めて近い短髪に男装の麗人然とした女神ヘファイストス様入って来られた。

 

 「ごめんなさいね。約束の時間に遅れてしまって」

 「たかが数分です。それに時間に融通が利く私と違い貴女が日頃から忙しくしていることは知っていますので。寧ろ会う時間を作ってくれてありがとうございます。ヘファイストス」

 「あら、別に。友神に会うくらいの時間作るくらい訳ないわ」

 

 直後に日常会話が始まったので、挨拶もできなかったことに慌てて気づいてアスタと共に立ち上がる。

 

 「あ、あの!?」

 「そんな慌てる事は無いわよ?アストレアの子よね?焦らずにしてくれて良いわ」

 

 ヘファイストス様の御言葉に緊張気味だった私は何とか頭を冷静に戻すことが出来た。

 

 「では改めまして。アストレア様の最初の眷属にして団長を務めさせて頂いています、アリーゼ・ローヴェルです。まだ大して有名な名前ではありませんが、御記憶くださいましたら至上の喜びです!」

 「え、ええ・・・。よろしくお願いするわね、アリーゼ・ローヴェル」

 

 少々堅苦しい挨拶にヘファイストスは心中で苦笑する。

 けれどアリーゼは自分が畏まり過ぎたことに気付いき、後悔しても後の祭り。

 

 「同じく、アストレア様の眷属のアスタです。如何かよろしくお願いします」

 「ええ、よろしくね」

 

 アリーゼとは違いあっさりとした挨拶にヘファイストスも楽に受け止めた。

 

 「むぅ」

 

 アスタと自分の違いに唸るアリーゼ。

 ドワーフは種族的に全体的に見て胆がすわっていて落ち着いており、誰に対してもあまり心乱すことなく対応できるものが多い。悪く言えばマイペースな者も多い。

 故にそれが例え神といえども気後れする者も少ない。その態度を気に食わないと断ずる神もいるようだが、少なくともヘファイストスはアスタの応対の姿勢には良好な態度を見せていた。

 まあ、結果論だが。

 そんな2人の人の子らの内心を見透かしたように2柱の女神は視線を合わせて今度こそ露骨に苦笑した。

 

 「さて、自己紹介も済んだところで本題に移らせてもらえる?アストレア達はどんな用で会いに来たのかしら?」

 「はい、別段特別な事はありません。先日ダンジョンにて、私の眷族(子供)達がヘファイストス(貴女)眷族()に危ないところを助けられたという説明を受けたので、私からも是非お礼の言葉を贈りたかったのです」

 「え?用件って、もしかしてそれだけ?」

 

 想像していた内容とはかけ離れていた事に、ヘファイストスは目を丸くした。

 今だ終わりを見せない闇派閥(イヴィルス)との戦いにむけての刀剣類の交渉かと思っていたのだが、蓋を開けてみればただ感謝だけをしに来ただけとは・・・。

 そんな友神の反応に動揺する女神アストレア。

 

 「あれ?い、いけませんでしたか?」

 「うん?いや、いけないと言う事は無いわよ。それに何というか、義理堅く真面目な貴方らしい反応よね」

 

 褒められたのか貶されたのか微妙な反応に居心地が悪そうに軽く身じろぐアストレア。

 だが彼女にそうさせた本人のヘファイストスは気にせずに考えている。

 

 「アストレアの子を助けたうちの子か・・・・・・・・・・・・って、考えるまでも無かったわね・・・。アリーゼ・ローヴェル」

 「は、はい!」

 「貴方達を助けたうちの子の名前はエミヤ・士郎じゃない?」

 「あ、は、はい!神ヘファイストス様のファミリアのし・・・エミヤ氏に私達は救われました!本当に感謝の念は今も絶えません・・・!」

 

 相変わらず堅苦しい対応してくるアリーゼにこれは時間の解決に任せるしかないかと諦めて、とある点を指摘する。

 

 「感謝は素直に受け入れるけど、士郎(あの子)のこと、そんなぎこちない呼称使わなくていいのよ?」

 「は、はい・・・」

 「それにしても士郎にねぇ~・・・・・・」

 

 片手を顎につけて何かを考え出した神ヘファイストス様。

 

 「「ッッ!!?」」

 「?」

 

 少ししてから何故か剣呑な神威を少しばかり解放したことに私とアスタは驚き、アストレア様は首を傾げた。

 

 「あ、あの、どうかなさったんでしょうか?」

 「ううん。いいえ、何でもないのよ」

 「「!!」」

 

 アリーゼの質問に対してヘファイストスは満面の笑顔で何となしに答えるが、彼女たちは恐れた。先ほどの剣呑とした空気に僅かながらの神威の解放。アレの後では寧ろ笑顔の方が戦慄を際立たせる結果となった。

 

 「そう言えば3人にはお茶請けどころかお茶も出していなかったわね。ごめんなさいね?もうすぐ来ると思うから」

 「いえ」

 「お、お構いなく!」

 

 そこへタイミングを合わせたようにノック音が響いた。

 それに待ってましたと言わんばかりに入室の許可を出すヘファイストス様。だが私は見逃さなかった――――正確に言えば見てしまった。入室の許可を出す直前に一瞬だけ口角が僅かに吊り上がったのを。まるでネギをしょったカモが自ら来た事に歓喜した狩人を連想させる獰猛さを。

 正直止めるべきだと思う。しかし何を?どうすれば!?どう行動すればヘファイストス様の企みを阻止できるのだろうか。

 結局何もできずに押し黙るしかない私。そんな私の意表を突く出来事が起きた。それは――――。

 

 「――――失礼しま・・・・・・って、アスタにアリーゼじゃないか」

 「「士郎・・・・・・っ!?」」

 

 入室して来たのがまさかの士郎とはと驚いたがそれ以上に彼の服装に意表を突かれた。執事服だ。

 

 「何なのその服装?」

 「ヘファイストス様に着る様に強制されたんだ」

 「だって士郎なら似合う気がしたんだもの。実際完璧に着こなしてるじゃない?」

 「と言う事だ。別に不満も無いしな。それよりどうしたんだ2人共?確かに今日はお客が来るから手が空いていたら(・・・・・・・・)もてなしの手を貸してほしいと頼まれたが、まさか二人だ・・・とは・・・・・・」

 

 士郎の視線の先には自分が仕える女神とは別の女神が立ち上がっていた。

 

 「士郎・・・・・・と呼ばれていたと言う事は貴方が私の子供たちを助けてくれたヘファイストスの子でしょうか?」

 「お初にお目にかかります、女神アストレア様。ただ一度貴女様の御子の方々に入らぬ施しをした程度のこの雑排の名を御記憶にとどめて頂いた此度の事、誠に光え」

 「変な紹介なんてしなくていいのよ。そう、この子が士郎よ」

 

 明らかなわざとらしい畏まった紹介をぶった切るヘファイトス。

 

 「フフ、やはりですか。今回の事は本当にありがとうございました。これからもうちの子達を宜しくお願いしますね」

 「そん」

 「わざとらしい返事しなくていいから、早く持ってきた紅茶と洋菓子配膳してくれない?」

 

 なおも抵抗を貫こうとする我が子に呆れ果てたヘファイストスは身も蓋もなく配膳を強制させた。

 士郎本人はそんな気もなかったが、主神が言うのであればと大した不満も憶えずに言われた通りに仕事をする。

 そんな1人と1柱の砕けた態度にアストレア達は口を挟まずに見ているだけ。

 ファミリアによっては神と眷属の間には、感情を挟まずにお互いを自分の利益とする道具程度に思っていない所もしばしばある。

 だが目の前の関係は中々砕けており、まるで信頼し合う家族の様なモノに彼女たちには映っている様だ。

 

 「フフ、美味しいですね」

 

 その後、用意が終わってから漸く落ち着いた日常会話に花を咲かせながら紅茶と洋菓子に舌鼓を打っていた。

 

 「ええ、本当に!」

 「マリューの淹れてくれる紅茶より美味しい。士郎、随分紅茶の淹れ方上手いんだなぁ」

 「と言うよりも、その洋菓子を作ったのも士郎なのよ?」

 

 悪戯っぽく言ったヘファイストスの言葉にアリーゼとアスタはぎょっとする。

 

 「士郎っ、貴方そんな事出来たの!?」

 「まあ、最初は必要に駆られてだが」

 「でもだんだん趣味に転じて何でも作れるようになったらしいのよ。そうよね?」

 

 ヘファイストスからの確認に士郎は頷いた。

 これに自分の中で何かが崩壊しそうな幻聴を聞いたアリーゼ。それでも耐える。だがトドメはすぐに訪れた。

 

 「それに加えて家事も万能でね。強制はしてないけれど忙しい時とか本当に何時も助かっているわ」

 「そん・・・な・・・」

 

 男は仕事、女は家庭。そんな古い体制が世界中で未だに蔓延っているのは知っている。

 だが現代はその逆もあるのだ。

 その上で女性は家事が出来て当然と言う概念はセクハラと言えるだろう。だが、やはり家事スキルの修得は女にとっての一種の防波堤とも言えると考える人も少なくは無い。

 アリーゼもその例には漏れずにいるのだ。その上で思う。

 

 ――――家事も万能で料理の腕もすごい上に鍛冶師としても腕が良く、その上私達よりもLvが上でおまけに強い(・・・・・・・・・・・・・・・)なんて、どんな怪物よッ・・・・・・!

 

 そこなのだ。自分には士郎に何一つとして敵うモノが無い。女の専売特許も奪われている。これでは矜持など保てない。

 心の中で自身の矜持がへし折れる音を確かに聞いたアリーゼだった。

 しかしこれは意外にもアスタも同じだった。

 彼女は女を捨てた覚えはないが、同時にあまり女らしくないと言う自覚くらいはあった。だがアリーゼの心情に偶然にも共通して全てにおいて上をいかれた事に、軽いショックを受けている。

 

 「「・・・・・・・・・・・・」」

 「?」

 

 2人の心情など察せられない士郎は首を傾げる。

 

 「あらら?」

 「・・・・・・」

 

 男は仕事、女は家庭――――の概念は神たちの間には無いが、下界に来てから一知識として修めているので2柱の女神たちは子供たちの反応にそれぞれの想いに従って違う反応を見せていた。

 

 「ところでアリーゼ・ローヴェル、聞きたい事があるのだけれどいいかしら?」

 

 変な空気になってしまったからそのお詫びに――――というのもあるが、ヘファイストスにとっての企みはここからが本題だった。

 

 「・・・?・・・・・・っ、は、はい!」

 

 一方で、自身の深い部分へ埋没しようとしていたところに急遽名前を呼ばれた事で、条件反射で浮上・強制起動してヘファイストスに体全体を全速力で彼女に向けるアリーゼ。

 だがアリーゼは条件反射とは言え後悔した。直感で気づいたのだ。あの時士郎の入室の許可の直前に見せた獰猛な狩人の如き企みの嗤いを。それを顕現させようと言う神意を。

 そしてもう1人直感を働かせたものもいた。他ならぬ士郎だ。

 一部の特化した部分以外は基本的には凡才の士郎にはどれだけ鍛え上げても天性の直感など宿る事は無かったが、神との契約の恩恵を切っ掛けに嫌な予感だけに関して第六感が冴える様になったのだ。勿論明確な詳細までは分からないが。

 だが今の士郎には情報が足らな過ぎて何を如何すれば嫌な予感からの回避が可能なのか分からずに動けない。

 そんな動けぬ木偶共を嘲笑う様にヘファイストスの口が開く。

 

 「士郎が貴方達を助けた事は聞いたけれど、詳細は聞いてないのよね~?」

 「ッッ!?」

 「・・・・・・?」

 「「?」」

 

 これに嫌な予感の正体について明確に感じ取りだした士郎。

 未だに何を聞きたいのか分からないが探るような目を止めないアリーゼ。

 さらにヘファイストスの神意に全く気付いていないアストレアとショックから抜け出したアスタ。

 故に、4人の中で唯一最早一刻の猶予は無いと感じた士郎だけが動く。

 

 「俺ちょっと急用を思い出し」

 「私が神である事を解って言ってるのかしらね~?士郎?」

 「っ!」

 

 神時代の常識。『人の子の嘘は神には通じない』

 

 「如何してそんな嘘つくのかしら~?それとも嘘をついてでもこの場から逃げ出したい事があるのかしらね~?士郎?」

 「そ、そそそそんな訳無いじゃないですか!」

 

 ヘファイストスと士郎のやり取りに未だに状況に付いて行けないアストレアとアスタ。

 それはアリーゼも同じだが士郎の慌てぶりから情報を掬い取るが、未だにその一つ一つの繋ぎ方すらままならないので、現実的にがアストレア達と状態はほぼ変わらない。

 

 「なら此処に居て頂戴。――――イイワネ?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 

 長い沈黙の後に一言と。その沈黙の中で士郎は覚悟を決めた様だ――――多分。

 

 「じゃあ、改めて聞きたいのだけれど、アリーゼ・ローヴェル。貴方達を助けた士郎は“1人”だったかしら?」

 「え、あっ・・・・・・・・・」

 

 アリーゼはヘファイストスの神意が未だ何所を目指しているのか分からなかったから直に答えようとしたのだが、彼女の背後で処刑台に上がる死刑囚の様な面持ちをしていた士郎から縋るような視線を受けて口を噤んだ。

 その視線を受けても未だに答えを出す事は出来ずにいるアリーゼだが、その先を答えないでほしいと言う意思だけは汲み取れた。

 故に答えられない。答えるわけにはいかない。士郎は恩ある人だ。そんな彼から縋るような目で見られたら口を噤んでも仕方がないだろう。

 だがそんな2人の意思を汲み取れない――――よく言えば楽天家、悪く言えば能天気――――のアスタが動いた。

 

 ――――何故団長は答えないのだろう?これは失礼に当たるんじゃないだろうか。

 

 神ヘファイストスへの敬意も先行して、アスタはよく考えずに代わりにと答える。

 

 「ヘファイストス様、はい。私と団長はリヴィラの町で気が付いてから仲間に詳細を聞きましたけれども、そこから地上までの帰還まで確かに1人でした」

 「ちょっ!?」

 「アスッ!?」 

 「そう。教えてくれてありがとうね。アスタ」

 

 アスタにお礼を言ってから直に士郎に向いて、彼の肩に手をヤサシク置いた。

 

 「ねぇ、士郎?貴方私と約束したわよね?上層よりも下の階層にソロで探索しないって」

 

 ヘファイストスの声音はとても蕩けてしまうほどに余ったらしいが、左目には憤激が宿っている。

 これに士郎は震え上がりながらも抵抗を試みる。

 

 「そ、そそそそそそそんなや、ややややや約束しししししてませんんんんっ!たたたたたた単にちゅちゅちゅちゅちゅちゅ中層からのソロたたたた探索ははははじじじじじ自殺行為だとあっ!?」

 

 そこで自身の失敗に気づく。誘導されていたのだと。

 

 「認めるわ。約束はしていなかったわね?そして貴方の言う通り中層からのソロでの探索は自殺行為だから注意もしたわよね?その上で聞きたいのだけれど、どうしてまた誰ともパーティー組まずにソロで潜ったのかしら?」

 

 ((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

 

 恐怖のあまり悲鳴も叫べずに戦慄し続ける士郎。

 

 「ウフフフフ♪本当にお馬鹿な子ね?何度言えば理解できるのかしら。ねぇ、士郎しろうシロウ士郎シロウしろうシロウしろう士郎士郎しろうシロウしろう士郎しろうしろうシロウ士郎しろうしろう士郎シロウ士郎シロウシロウ士郎しろう士郎士郎しろうシロウシロウ――――()()()♡」

 

 殺気じみた神威を解放し、器用に士郎のみにそれを向けている。満面の笑顔で開いている左目には劫火を灯したまま。

 

 ((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブルガクガクブルブル

 

 士郎の体感している戦慄は凄まじい。

 士郎はアカイアクマやクロイアクマ、イニシエのアカキリュウやキンイロのマオウに逆鱗時に変貌する女性達と巡りあってきたが、神は初めてだった。

 今、士郎の眼前に在るのは瞳に劫火を灯し、灼熱を彷彿させる髪を靡かせて、あらゆるモノを灰燼と帰す様にも見える神威を向けて来る――――そう、言うなれば“紅蓮の魔神”とも評せる存在として顕現していた。

 

 「紅蓮の魔神?面白いこと考えるわね。私貴方に優しくしてたけど、色々な意味で甘やかしてたのかしら?」

 

 ――――虚偽を見分けるなら兎も角、どうして口にもしてない事が分かったんですかっ!!?

 

 口にしたいがそれでは認めるも同然。故に心の中で悲鳴だけでなんとか堪えた。

 

 「いくら恩人でも()となったからにはちゃんと調き――――調教しないとね」

 

 ――――言い直そうとしたのに、結局言い切るのですかっ!!?

 ――――それに調教って!?

 

 心の中でアリーゼとアスタが悲鳴を上げる。勿論言われている士郎も悲鳴を上げたくなる勢いだが、それ以上に顔を蒼白とさせていた。残りの女神アストレアも我が子達の恩人と言う事でヘファイストスを窘める事を試みる。

 

 「ヘ」

 「ごめんなさいねアストレア。私これから今すぐ愚かな子への調教(やる事)できちゃったから、今日はもういいわよね!」

 

 先回りされて言葉を封じて笑顔で圧を掛けて来る友神ヘファイストスに、かつて無いほどに恐怖を感じた私は思わず反射的に頷いてしまう。

 

 「分かりました・・・・・・・・・あっ」

 

 ――――アストレア様ぁああああッッ!!?

 

 士郎は心の中で大絶叫!しかも直後に首根っこを掴まれた。勿論誰が誰を掴んだなど言うまでもない。

 

 「観念しなさい。貴方の為を想って私、心を鬼にするわ。愛の鞭十二割増しで」

 「十二てっ!!?あ、いや、それよりも!どうか、慈悲をっっ!!」

 「だが断る♡」

 「ヒィイイイイイイイイイイッッ!!!?」

 

 その言葉を最後に扉を閉めてこの部屋から出て行ってしまった1柱と1人。

 

 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 それを正義の女神とその使徒たちは、ただ見送るしかなかった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 「あがっ・・・・・・がっ・・・がっ・・・」

 

 あの後たっぷりお仕置を受けた士郎は、とある一室のベットの上で白目を剥き口元からは僅かに液体を零しうつ伏せで気絶していた。

 あのままなので執事服のままだ。ただし下だけ。

 上は完全に半裸を晒していて、とても16歳とは思えぬほどの細身ながら筋肉の鎧を着た様な肉体美を晒していた。だが自分で脱いだのではなく、気絶した後に主神の手によって剥かれたのだ。

 士郎を半裸にした張本人のヘファイストスは、本人の許可なくステータスを更新して目覚めた後見せる為に書いた概要を記した羊皮紙を見て溜息を吐いている。

 

 エミヤ・士郎

 Lv3

 力:D554→597 耐久:C631→689 器用:C624→658 敏捷:B751→774

 魔力:A821→849

 鍛冶:C 神秘:F

 

 「たった一ヶ月でトータル約200アップ・・・・・・か。ホント何所で何すればこんな風になるのよ」

 

 心当たりに全くないワケでも無かった。その理由の一因には士郎のスキルにある。

 

 【守護者(ガーディアン)

 ・ステータス熟練速度、中速~高速。

 ・戦闘時のみ効果発揮。 ・守護対象の数で効果向上。 ・守護対象が親しい者や愛する者で在る程、効果向上の上乗せ。

 

 【熱され鍛れ続ける剣(トゥルー・ブラックスミス)

 ・火炎攻撃、または火炎魔法系統を受けると各ステータス一時的に上昇。 ・火炎攻撃、または火炎魔法系統では負傷しない。 ・鍛錬後に僅かにステータス向上。 

 

 【贋作者(フェイカー)

 ・人格を宿した物や生物以外の物を見るだけで構造を解析し、複製品を作成可能とする。

 

 この三つの内の一つである守護者が士郎のステータスを今までの冒険者としての歴史を覆すように馬鹿みたいに向上させている原因だった。

 本来であればステータスの向上が速いのは喜ぶべき事だが士郎の場合は別だとヘファイストスは考えていた。

 これではシロウの無茶な行動を肯定している様で、ヘファイストスは()として素直に喜べなかった。つまるところ放っておけないのだ。

 この感情は親だから――――の筈だが、断言できないでいる。

 さらには寂しさも感じている。

 理由として、まず大前提にステータスの更新時、如何なる魔法が使えるかどうかも記されるのだが、何所にも魔法名が記されていない事から士郎には一切の魔法が使えない――――筈だった。

 なのに士郎が虚空から剣を出すと言う異端であろうとも魔法としか思えない現象を一度だけ見たことがある。けれどその魔法について士郎から説明を受けた覚えはない。その事実を隠されている事が溜まらなく寂しいのだ。

 放っておけない。寂しい。これらの感情が親だからと言う理由だけで成り立っているのかは未だに判って無い。

 しかし心配なのは確かだ。事実、お仕置中に結局ソロでの探索を止めると明言させることが叶わなかったから。

 

 「本当に貴方って子は、一体何なのよ?」

 

 どこまでも意地っ張りで不器用だけれど可愛い子。

 漸く表情が落ち着いた愛しい子の頭をヘファイトスは暫く撫で続けるのだった。




 士郎のスキルの守護者と熱され鍛れ続ける剣の効果内容、結構考えた末にこうしましたけど変えるかも。
 ベルのスキルの憧憬一途がぶっ壊れ性能なだけで、守護者も十分に良いレアスキルです。


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第7話 夜に瞬く星

 長くなりそうなので二つに分けます。


 士郎の家の玄関。そこでは一組の男女が向かい合っていた。

 女性が知人の男の家に態々訪ねて来る。これだけ聞けば何かしら色っぽい理由があるのではと疑いたくなるが違う様だ。

 

 「えっと・・・・・・用があって訪ねて来たと思うんだが・・・・・・・・・とりあえず俺は何を謝ったらいいんだ?」

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 訪問者はゴジョウノ・輝夜。アストレア・ファミリアの副団長を任されている極東出身ヒューマンだ。

 そんな彼女は今現在士郎から疑問に覚えられるくらいに、剣呑な空気を纏っていた。さらには親の仇の如くの形相で士郎を睨み付けていた。

 

 ――――どうして、どうしてこんな事になった・・・・・・ッ!

 

 輝夜はそうして何故こんな事になったのかを思い出す。

 

 

 -Interlude-

 

 

 私達は今、闇派閥(イヴィルス)の下っ端達との戦闘の真っ最中。

 私は二刀の小太刀で相手の懐に入っての超近距離攻撃での連続斬撃で数人を屠って行く。

 

 「止めッ・・・てっ無っ!?」

 

 私は右の腰に携えている――――正確には少し前まで携えていた刀がそこに無かった。

 理由は以前ファミリア全滅の危機に陥った際に太刀の刀身に多大な負荷がかかり、その日を契機にその後も使い続けていたら刀身のみがものの見事に木っ端微塵に砕け散ったのだ。それはもう折れた刀を鍛ち直す事が不可能なほどに。さらに輝夜は新しい太刀を求める事を忙しい事を理由に拒否していたのだ。

 だが、今はそれが原因で大きな隙を作り、敵に反撃を許しそうな体勢でいた。

 

 「「「輝夜っ!?」」」

 「フッ!」

 

 敵冒険者の槍が正確に輝夜の心臓位置を捉えて、あと1秒後には彼女は心臓を貫かれて死ぬ未来が団員達の頭によぎったが、ギリギリ間に合う距離に居たリオンが間に入り込んでから槍を防ぎ、得物を敵の首を横から薙ぐ様に叩きつけた。

 

 「がっ!?」

 

 思わぬ好機からの油断とリオンからの急襲により、まともに攻撃を受けて意識を刈り取れた下っ端のリーダー。

 これによってアリーゼ達が相手にしていた闇派閥(イヴィルス)を全員戦闘不能にしたのだった。

 それからギルドに闇派閥(イヴィルス)の下っ端全員の身柄を引き渡してからホームに帰還後、アリーゼから注意を受ける輝夜。

 

 「輝夜。今日のはもう見過ごせないわ」

 「・・・・・・・・・」

 

 言われている事が何のことか判り切っているので反論する気のない輝夜。

 

 「あの太刀が輝夜にとってどれほどのモノかは私には分からないわ。けれど、いえだからこそ、それが原因で貴方自身や仲間の命が脅かされる事態は到底看過できない」

 「・・・・・・っ」

 「それでも今の状態のままを選ぶと言うのなら言わせてもらうわ。――――納得の行く次の刀を見繕ってきなさい。それまでアストレア・ファミリアの副団長の立場を一時的に退いてもらうわ。勿論団員としてのパトロールや戦闘に参加することも許さない」

 「だ、団長!?」

 「アストレア・ファミリアの団長としての命令よ。拒否は許さないわ」

 

 団長命令と言われれば拒否などできずに従うしかない輝夜はホームを出る。

 そこからは嫌々ながらも武器店を回ったがどれも納得できるモノもなく、規模関係なく鍛冶師ファミリアを回って太刀の制作を注文しようとしたが、まるで今の輝夜の本音を応援する様に丁度他の依頼を受けて何処もかしこも鋳造に臨めるには一月先まで掛かると言われた。その内の一つのゴブニュ・ファミリアにも依頼したが他と同じ理由に付け加えて、こんな事も言われた。

 

 「言葉とは裏腹に本当に作って欲しいと思っておるのか?」

 

 神ゴブニュに自分の本音を見事に指摘された。

 だが、事実である筈なのに自分の中での何かが痛く感じたのは何故だろうか?

 それでも取りあえず大義名分を得た私はホームに戻り、事情を説明した。これならば団長にも許しを貰えるだろうと。だが彼女はそれを受け入れてはくれなかった、その上で――――。

 

 「だったら最近私が使い始めた鍛冶師を紹介するわ。腕も確かだから信頼できるし仕事も速い。何より確か昨日当たりに受注した分は全て作り終えたとか言ってたから、私の紹介と言えば決して悪くはしないで貰えるでしょ」

 

 だからまた行って来なさいと言う言葉でホームから追いやられた。そして嫌々向かった先と言うのが――――。

 

 ――――あの質問してからかれこれ30分(四半刻)たったな。

 

 エミヤ・士郎の自宅兼鍛冶場だった。

 士郎が心の中で考える通り、訪問して来たので出迎えたら即座に親の仇の如くの眼で見られて疑問を呈し、かれこれ四半刻ほど経過している。しかもその状態のままでだ。

 

 だが俺も暇では無い。冷徹な事だが、何も言わないならお引き取り願おう。

 

 「用が無いなら帰ってくれ。鍛冶師としての仕事以外にも俺にはやる事があるからな」

 

 そうやって踵を返そうとすると輝夜から焦った声での制止がかかる。

 

 「ッ、ま、待て!」

 「何を待てと?用があるなら早く言ってくれ」

 

 士郎からの冷たい態度に唇を噛みしめて口元から微かに血を流す。

 腸煮えくり返る激情を抑え込んだ輝夜は、深い溜息をついてから眼光を鋭くしたまま士郎に用件を伝える。

 

 「だ、団長からの紹介だ。太刀を鍛って欲しい」

 「断る」

 「なっ!?」

 

 即断された事に輝夜は素で驚いた。

 

 「何故だ!」

 「それは自分がよく解ってるだろ?ゴジョウノ、君の太刀が木っ端微塵に砕け散った事は前にアリーゼから聞いた。けれどどんな事情があるかは知らないが、君は代わりの太刀を心から欲していない。ただここで俺に断られて帰る大義名分が欲しいだけ。違うか?」

 「っ」

 「けど、アリーゼからの紹介だからな。俺が今鍛冶師の受注が終わっている事は彼女も知っているだろうし、断られたと説明しても大義名分として認められるかは怪しいところだな」

 「ぐぅ・・・っ」

 

 次々と言い当てられて屈辱に顔を歪ませる輝夜。だが精神的に窮地に陥っている少女を好き好んで嬲る事は士郎の本意でも無い。

 

 「だけどこのままじゃ君も八方塞がりだろうし、しょうがないから作ってやる(・・・・・・・・・・・・・)。」

 「~~~ッッッッッ!!?」

 

 士郎からの上から目線に先程までの屈辱が可愛く思える程の激情が輝夜の心を一瞬だけ支配する。

 だがそれもなんとか抑え込み、憤激で全身を震わせながらも血反吐を吐く思いで感謝の言葉を口にする。

 

 「す、まな・・・いッッッ!!!」

 「全然申し訳なさそうじゃないんだが?」

 「グッッ!!――――――――――――――お・・・・・・・・・お願いします・・・・・・(ッッッッッ!!!!!!)」

 

 あらゆる激情を完全に抑え込んで頼む輝夜。内心は地獄の溶岩の如き赤き沼程にも煮えくり返っているが。

 

 「了解した。なら俺も鍛冶師として依頼通りの太刀を鍛とう。詳しい話も聞きたいから中に入ってくれ」

 

 俺が背を向けてて招き入れると、後ろから歯ぎしりが聞こえて来る。流石にこれ以上揶揄うのは命の危険を伴うので、告げた通りあくまで仕事人として徹するとしよう。

 

 

 -Interlude-

 

 

 恩恵有りの鍛冶師と無しの鍛冶師との差を一つ上げるならば、それは“時間”だ。

 神々も恩恵とは促進剤の一種と語る様に、恩恵が有ると無しでは何においても熟する時間の差が歴然。

 技術を習得するまでの時間もそうだが、その後に続いていく鍛冶において刀剣一振り一振りを完成させていくまでにかける時間も大幅に短縮された。だがそれも鍛冶師の腕一つで個別ばらばらで、神ゴブニュや神ヘファイストス等を除いてトップクラスで速いのは3時間(一刻半)から6時間(三刻)までには完成させられるだろう。専用武器(オーダーメイド)やその上での特殊武装(スペリオルズ)も付け加えるとさらに時間が必要かもしれなくなる。

 話が少々逸れてしまったが何を言いたいかと言うと、士郎は恩恵有りの鍛冶師の中でもトップクラスの一人と言う事だ。

 

 「・・・・・・・・・」

 

 太刀の素材とする金属を鍛つ音が鳴り響いて行く。

 輝夜の依頼したのは以前と同じ尺の太刀であり、それ以外は士郎に任されている。

 依頼された士郎は仕事着に身を包み、今も鍛冶場で一人で黙々と仕事に励んでいる。

 それを熱が届かずかつ作業風景が見える様に士郎が改造した隣の部屋で見学している輝夜の姿が在った。

 新たな太刀を見繕うまで帰って来るなとアリーゼから言われている輝夜としては、帰還したくとも帰還できないから仕方なく――――と言う理由だけでは無い様だ。

 輝夜の視線の先にあるのは黙々と仕事を続ける士郎の背中だ。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 如何して今も自分は此処に居るんだろうと考える。

 確かに太刀が出来上がるまで時間もかかると言われたし、アリーゼからも帰還を許されてはいない。だがやる事なら他にいくらでも思いつくだろうに。

 単独行動は危険ではあるが、一人でパトロールなりダンジョンに潜って経験値稼ぎ兼金稼ぎのために魔石集めやドロップを狙う事も出来るはずだ。なのに何故・・・・・・。

 思考の海から浮上して再びあの男の背中を注視する。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 そもそも私はどうしてあそこまであの男に反感を抱いたのだろうか。もはや私以外のアストレア・ファミリアの全員がコイツと親しくしているのに、アストレア様もコイツに一目置いている様なのに。

 た、確かに・・・・・・自分の不覚故にこいつに対して大失態を犯したが――――それだけとは到底思えない。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 なんだ?今の私は冷静である筈なのに、どうして此処までこの男を嫌悪(・・)する?

 分からない。判らない。解らない。何故こんなにも――――。

 ――――それにしてもコイツの背中、(のぼる)に似てッッッ!!?

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!」

 

 声にならない悲鳴だった。およそ人間が発するような言葉とは思えないほどに輝夜は取り乱し、突如として泣き喚いて咆哮する。

 原因は輝夜の奥底で眠っていた――――否、無意識的に封印した“毒”だ。

 物理的な肉体を蝕む毒では無い。彼女の心を乱して犯す(トラウマ)

 先日に自らの失態で打ち立てた黒歴史など比では無い。

 輝夜は士郎への謎の嫌悪を分析するために、無意識的にパンドラの箱を僅かに開けてしまったのだ。

 もうこうなれば自力でそれを閉じるのは不可能だ。少なくとも意識してでは。

 

 「ど、どうした!?」

 

 集中するあまりにと、防音の為に気付くのが遅れていた士郎が漸く鍛冶場から駆けつけた。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!!」

 

 あまりの半狂乱ぶりの輝夜の姿にこのままでは自傷行為も時間の問題だろうと考えた士郎は、後で恨まれても良いと覚悟して彼女の隙を突き、丹田に拳を突き刺して気絶させた。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 気絶した事により漸く無意識の中で呼吸を徐々に整えて行く。

 対して、この場所では輝夜を十全に休ませる事が出来ないと判断した士郎は、再びお姫様抱っこでおぶって客室に連れて行くことにした。

 

 

 -Interlude-

 

 

 ――――これは夢か?

 

 自分がいつの間にか寝ていた事に疑問を感じる。

 意識を閉ざす前に何をしていたのか思い出そうとしても出来ないでいる。

 思い出せないのであれば仕方ないと直に切り捨てて眼前を見ると、そこには自分の過去の姿と風景が広がっていた。

 

 「輝夜様、程なくオオエド様が屋敷にご到着されると言伝が入りました」

 「分かりました。(わたくし)も直に出迎えの準備に出ます。貴方達は先に降りていなさい」

 「失礼します」

 

 輝夜の指示に従う様に給仕が退室する。

 それを少し見送ってから、輝夜は綺麗に正座していたにも拘らず崩して胡坐をかいた。

 

 「はぁ、めんどくさい。今からあのデブ親子の相手をしなきゃならんとか、憂鬱にも程がある」

 

 腹の探り合いならまだいい。そんなものは権謀術数が日常茶飯事のこの世界でいくらでもしてきた。それこそ、息するくらいに当たり前な程。

 だがオオエドの豚息子、畜生のくせに私を色目で見て来るところが本気で切り殺したくなる。

 

 私は大和の国の高貴の女の嗜みとして、幼少の頃からゴジョウノ流剣術を習い鍛え上げて来た。だがそれは家の方針だからでは無い。

 最初こそは方針ではあるが、要求されたのはあくまでも嗜む程度。本来であれば必要以上に鍛え上げて行く必要もなかったが、目的の為に日夜懸命に励んできた。

 最低限の目的は家を出て一人で生きていける様になる事。最大限の目的はオラリオで取りあえず冒険者になる事だ。

 理由は単純明快。高貴な一族の責務やら義務やらしがらみやらと、権謀術数の世界に飽き飽きしているからだ。

 先に権謀術数の方がマシだと言ったが、それは慣れているだけで嫌気が差していない訳では無い。朝から晩まで世間体を気にする仮面をかぶる世界は私にとって窮屈過ぎるモノだ。

 花や蝶を愛でるくらいなら、手段として鍛え続けている剣術に時間を使った方が遥かに良い。綺麗な所作で過ごすくらいなら胡坐を書いてだらけていた方が良い。

 私の人格性に合わないこんな下らない世界からの脱出こそが私の最低限の目的だ。

 最大限の目的が何故オラリオなのか。それは比較の問題ではあるが、様々な国と地を調べた結果、あの地こそが私の性に合っていると思えるからだ。

 あの地に向かう者の多くが野心を叶える為ではあるが、生まれた時から嫌でも全て揃って整えられていた環境で過ごしてきた私に野心の色は薄い。

 だが野心は薄くとも、オラリオには様々な種族が集まり価値観や文化も集まる。何よりどんな出自も問われずに済むのだ。

 どんな職に就こうが、冒険者となり弱かろうが強かろうが最低限のルールさえ守れば自分らしく(・・・・・)生きていける。

 天の国の様でもあり、地獄の様な地ともいえる弱肉強食の理想郷(・・・・・・・・)。そんな世界を私は切実に求めている。

 だがまだ足らない。そこに向かう為には力と技を鍛え上げなくては。

 神時代が始まる以前までの人は恩恵無しでモンスターと戦い、時に倒されもしたが時に駆逐して来たと言う。

 オラリオに向かうまでの道中、多かれ少なかれモンスター達に遭遇する事は避けられないだろう。だからこそ一番弱いモンスターを数匹程度までなら恩恵無しで倒せている程度で満足していてはならない。だからこそまだまだ鍛える。

 私は周囲に悟られぬ様に多くの備え続ける。来るべき日に向けて。

 そんな日々を続けて行く中で私は出会ってしまった。フジヤマ・(のぼる)と言う男に。



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第8話 穢れた女

 また分けます。終わらせる気だったのに。此処まで長くなる予定は無かったのに。


 っ、はぁぁぁ~~~~・・・。

 

 輝夜は内心で溜息をついたが、これは何時もの事。

 表面的にはにこやかな挨拶から始まり楽しい談話に移行するが、互いが互いに常に腹の探り合いをしつつ如何に自らの権益に加えられる情報やらを入手できるかの老獪な会合に飽き飽きしている。そんな下らない行事に輝夜は何時も溜息で始まり溜息で終わるのだ。

 だが今日に限っては何時もと違った。

 

 「・・・・・・?」

 

 今僅かに会場となっているこの館が揺れた事に疑問を覚えたにもつかの間、外から人間の発するモノとは違う怒声が響き渡って来た。

 

 「何?」

 「何事かね!?」

 

 外からの騒ぎに途端に動揺する無駄に立派な着物に身を包んだ華族達。

 そこへ彼らの疑問に答える様に、今日の警備を担当している領土系ファミリアの眷属の警備兵が慌てて入って来た。

 

 「皆様!今すぐ避難の準備をお願いします!」

 「避難だと!?」

 「我々を誰だと思ってる!?何所の賊が襲撃して来たか知らんが、守り通さんか!」

 

 警備兵の頼みにも一顧だにしないで何所までも強気で反論する華族の豚共。

 その態度のままで居たければ好きなだけいればいい。

 

 「御父様」

 「輝夜?」

 

 私はすぐに父親の下に足を進めて近づいた。

 

 「今日の護衛に来ている警備兵たちはそこらのファミリアの眷属達では無いでしょう。その彼らが避難を頼んできたのです。周囲の事は気にせず私達だけでも避難しませんか?」

 「うむ?だがそれでは他家から今後、どの様な目で見られるか」

 「状況をよくお考え下さい。この館は警備兵の頼み通りあまりもたないでしょう。そうなれば巻き添えを食い最悪命にかかわります。それでも残りますか?」

 

 本音としてはこの父親が何時何所でくたばろうが私にとっては如何でもよかった。

 この父親が私の事を道具ぐらいにしか考えていないのは、物心ついてから少しして気付いた事だ。だから私もその日からこの男を私を生んで血の繋がりがある他人ぐらいにしか見ていない。或いはも目的遂行までの使い捨てに道具。

 だが、だからこそ今死なれたら困る。このタイミングで死なれたら出家計画が難しくなるし最悪実行できなくなる恐れが在るからだ。

 

 「っ、そ、そうだな。お前の言う通り非難するべきだな」

 

 流石は保身に長けた我が父親、命の危機への不安を仰いでやればこの通りチョロイ。

 しかし私の行動は遅すぎた様で、警備兵が入って来た入り口から悲鳴が聞こえた。

 

 「っ」

 「ひっ!?」

 

 何事かと見やると、そこには先程入って来た警備兵が腹部・胸襟・顔面の中心に爪を生やしていた。

 正確にはその三か所を串刺しとされて絶命していた。警備兵を串刺しにしたのは何所ぞの賊では無い。バグベアよりもはるかに大きい凶悪な爪を生やした巨大な右手は今も警備兵を串刺しにしている。もう片方の左手も同じように見える。その両腕以外の全身は外国の衣服に身を包み、顔と頭には外国風の仮面と帽子をつけた大男ぐらいにしか見えない。後は返り血だろうか、ほぼ全身が血の色で真っ赤に染まっている。

 いや、だからこそ異常に見える(・・・・・・・・・・・)

 両腕はとても作り物には見えないほど両肩と繋がっている様に見えるからだ。

 アレは本当に人なのか(・・・・・・・・・・)

 いや、そんな冷静に観察してる場合では無い。今はとにかく逃げなければ!

 

 『――――――――オ゛オ゛オオオオォオオオェエエエエォオオオオッッ!!!」

 「っ!?」

 

 大男もどきの怪物は突如咆哮。

 あまりの五月蠅さにホスト・ゲスト合わせた華族とその親族ら、それに給仕たちは堪らず耳を押さえながら蹲った。

 

 「ぐっ!」

 

 私も耳を押さえはしたが、なんとか跪く事だけは耐える。

 しかしその判断がいけなかったのか、怪物は串刺しにしていた元警備員の肉塊を投げ捨てながらその巨体に見合わぬ跳躍で一気に私のほぼ目の前に着て左手の鋭利な爪で引き裂こうとしていた。

 

 ――――ああぁ・・・。

 

 目的の為に強くあろうと鍛錬し続けたから解る。

 なんとしても生き残りたいと言う反面、目の前の現実(理不尽)からは最早逃げ出し躱す事が不可能であると。

 こんな処で終わるのか・・・?

 

 「諦めるな!」

 

 声と共に一陣の風が吹いた。

 風が止んだ時、私の目の前にいたのは黒髪短髪の偉丈夫の背中だった。

 

 「ギャァアアアアアアォオオオァアアアアアオオオオアアアアアアアア!!?』

 

 直に耳を打つは先ほどまで私の目の前にいた筈の怪物の悲鳴。

 体を横に傾けて見ると、怪物の異形の左腕が切り落とされていて肩口から出血していた。

 この悲鳴は怪物の痛みに耐えかねる苦悶の叫びなのだろう。

 

 『ア゛ア゛アアアアォォォオオオアアアアッッ!!」

 

 肩口から血をまき散らしながら右手を振り降ろして来る怪物。

 しかしそれを許さない偉丈夫は自分の得物の太刀で首を体から泣き別れするように一文字切りで切り裂いた。

 これにより怪物は絶命。先程までの聴覚を滅茶苦茶にする咆哮はまるで聞こえなくなった。

 

 「大丈夫か?」

 

 服装から私が華族の親族だという事くらい察しているだろうに、ぶっきらぼうに振り向いて来た偉丈夫の冒険者。

 これが私とフジヤマ・陽の出会いだった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 此処は士郎の自宅にある客室の一つ。

 室内のベットには気絶させて寝かされている輝夜の姿が在り、近くには輝夜の件で呼び出されたアリーゼのみが椅子に座って見守っている。

 

 「・・・・・・輝夜」

 

 そこでふと思い出した。ベットで寝かせている輝夜をこのままにしておくか、連れて帰るか決めたら声を掛けて欲しいと士郎に言われてたなと。

 

 仲間の安定した様子を見守ってから客室を出るアリーゼは、決めた事を士郎に伝える為に二階から一階に降りてリビングに入ると。

 

 「ん?」

 「っ!?」

 

 何故か上半身のみ裸体を晒したまま何かの飲み物を一気飲みしている士郎と遭遇したアリーゼは、思わず赤面して顔を背けた。

 

 「アリーゼ?」

 「き、決めたこと伝えに来たんだけれど、その前に上を着て」

 「む、これは失敬」

 

 後ろ側で衣服を取って着用しようとする音が聞こえる。それが何故か色っぽく感じて、さらに顔が熱くなることを自覚する。

 冒険者が多くいるこのオラリオでも、男性の上半身の全体や一部だけの裸姿など今まで嫌と言うほど見てきて慣れた筈なのに、如何して士郎のは直視できないの、私!?

 

 「上着たぞアリーゼ」

 「そ、そう・・・」

 

 ならばと振り返って士郎へ顔を向ける。

 

 「どうしたんだ顔赤くして?」

 「な、なんでもないっ」

 「わ、わかった・・・。それで連れて帰るって言うんなら俺がまたおぶっていくが?」

 「ううん、し、士郎が迷惑じゃなければもう少しあのまま寝かせてあげて」

 「構わないがアリーゼはどうする?もう夜も遅いし、送っていくか?」

 

 士郎は一体何を言ってるんだろうか?確かに私は士郎よりもレベルが低いが、それでも冒険者だ。どこぞの馬の骨に遅れる取る気は無い。

 

 「俺の自宅からとは言え送り狼になる気は無いし、こういうのは男としてエスコートするのが義務みたいなもんだろう?」

 「・・・・・・私がアストレア・ファミリアの団長だってこと忘れてない?」

 「それ以前に一人の女の子だろう?」

 「っ」

 

 士郎ってばどうしてそんな言葉を次から次へと口にするのだろうか。

 

 「どうした?」

 「・・・・・・なんでもない。それよりも私、やっぱりホームに帰るから。送らなくていいわ」

 「む、そうか。そこまで言うんなら仕方ない」

 「代わりに輝夜の事、しっかりお願いね」

 

 任されたと言う返事に納得してアリーゼは士郎宅を後にした。

 今だ顔から抜けない僅かな熱を冷ます為に全力疾走を出してホームへ戻ったという。

 

 

 -Interlude-

 

 

 あの日、陽に助けられた日から偶然にもあの後も何度か会う機会が訪れた。

 陽はあの日警備していたファミリアとは別口で、この国――――いや、迷宮都市オラリオ以外の地域でも僅しかいないLv3の凄腕だ。

 義に厚く、周囲から頼られて正義を追い求める好漢、と言う評判を聞いた。

 そんな男を見て私は気づいた。

 義に厚いという事は自分の回りを綺麗にしたいという偽善であり、周囲から頼られるというこ事は他者の願いを叶えるだけの奴隷であり、正義を追い求める間は夢見る乙女の様に盲目的に生きていける愚か者。私は陽をこの様に皮肉な評価をしたが、結局はそんな批評をする程ひねくれており、飽き飽きするほど嫌気が差している華族の世界に根っこの部分まで浸かっている自分がいる事に今更ながらに気付いた。

 その批評と自分はいけ好かない華族当主達と同類と言う自虐的な事を陽に話すと、思い切り苦笑された。その上で。

 

 『生まれた時から今もずっとその世界に居るんだから仕方ないだろう。それにこれからいくらでも変わりようはあるだろうさ』

 

 あっさり笑って許してくれた。

 確かに私の考えは後ろ向き過ぎだったかもしれないと反省すると。

 

 『それに周囲からどんな目で見られようが、俺は自分の守りたいモノと貫きたいモノがあるから毎日がむしゃらにやって来ただけだ』

 

 数年前から、オラリオだけにあるダンジョン以外の地上のモンスターも一部地域で凶暴化した。

 それらの厄災から守るために頑張って来ただけで、Lv3へのランクアップは後からついて来ただけの結果に過ぎないらしい。

 そうは言うが手の届く範囲なら誰であろうと助ける陽に器の大きさを感じると同時に、自分の矮小さに気付かされる。単に彼が年上かつ大人で、私が子供なだけだったのかもだが。

 思えば私はあの頃から惹かれ始めていたのかもしれない、フジヤマ・陽と言う少々暑苦しいのが玉に瑕のでかい男に。

 だが初恋とは叶わぬモノとは誰のセリフだったか。少なくとも私の初恋はあっさりと終わりを告げる。

 告白する・フる・フラれる以前の問題で、既に陽には恋人がいた。私と違い朗らか女性。同じファミリアの副団長で彼女も彼女で多くから頼られ信頼を集めていた。

 

 「・・・・・・」

 

 ああ、あんなにも仲睦まじい組み合わせがあるだろうか。アレは勝てない。アレには負ける。二人の近くにいればいるほどよくわかる。あまりにも眩しい。今の私には。

 だが人を好きになるというのは容易に道徳心など吹っ飛ばすのか、はたまた私が病んでいるだけか、あまりに醜い嫉妬で彼女をノロッタ。

 

 『あの陽の恋人()死ねばいいのに・・・』

 

 なんて悍ましい女だろうか、私は!

 だがまるで天が私に呪詛を聞き届けたかのように、その日が来てしまう。そして、フジヤマ・陽が変貌する切っ掛けともなるのだった。




 襲撃して来た外見はバイオハザードのタイラントみたいなもんです。


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第9話 罪過に塗れて

 輝夜編まだ続く。後諸事情で第7・8話のサブタイも変更します。


 私の知る私が焦がれた陽に最後に会ったのはダイダラボッチ・ファミリアの本拠地突入の前日だった。

 

 ここ最近、華族の催しの会場や各華族の本邸を襲撃される事件が起こっており、その度に輝夜も殺されそうになったあの例の新種の人型のモンスターが確認されていた。

 その事に周辺地域の領主とその主神からの依頼を受けて、幾つものファミリアの捜査にひた走っていた。

 そして、捜査の甲斐あって浮上したのが、この国の裏社会に蔓延っている犯罪シンジゲート系ファミリアの一つであるダイダラボッチ・ファミリアだ。少なくともあのモンスターに関係しているのは確定との事。

 そこから先は早かった。ダイダラボッチ・ファミリアの拠点を幾つも潰して炙りだすように構成員を捕まえて尋問し、漸く本拠地を把握。突入作戦が練られて決行される事になった。

 この作戦にはフジヤマ・陽も籍を置いているキビツヒコノミコト・ファミリアも加わっている。

 そうして当日、作戦決行。全ての入口、抜け口。さらには搬入口に至るまで調べ尽していたので、それぞれ侵入して突入していく。

 

 「そらっ」

 「がっ!?」

 「図にっ!」

 「のってるのは貴様らだ、犯罪者共がっ」

 「ぎゃっ!」

 

 当初の予想通り構成員からの反撃を受けるも、互いを庇い合う連携や鍛え抜かれた技で各個撃破していく各ファミリアの突入部隊。

 いとも容易く撃破されて行くの原因は物量差もあるが、矢張り何よりも経験の差だろうか。

 犯罪系ファミリアゆえ、ほぼ全構成員がそれなりの場数は踏んでいるものの、利益重視の為にどうしても必要以上のリスクを回避する体制なので、日々モンスター相手にや訓練で鍛え続ける突入部隊には敵う筈もなかった。

 

 「一階制圧!」

 「二階制圧!」

 

 次々に各部屋、各フロアを制圧していく突入部隊。

 少しは出来る敵もいたらしく、数人ほど後退する者も出たが順調に進んでいた。正直、気味が悪いくらいに。

 当初、作戦を練る段階で現れるであろうと予想していた例の新種のモンスターが一体たりとも出てこない。

 これは一体如何いう事なのかと?もしやここまだ大規模な突入作戦を行っておいて我ら全員ガセネタを掴まされたかと一抹の不安が各ファミリアの団長たちの頭を掠める。

 

 「団長、此処が地下の最後の部屋です」

 「ああ・・・」

 

 陽の近くに居るのはキビツヒコノミコト・ファミリアのNo.3の団員だ。

 本来この位置には彼の恋人兼副団長のビワ・霞がいるのだが、途中で敵の中に出来る猛者が1人だけいて、その戦いで霞が陽を庇った際に負傷して後退させたので彼が代わりに補佐の役目を担っていた。

 

 「・・・・・・中に誰かいますね?」

 

 彼の言う通り外からでも怒声が聞こえる。

 内容を確かめるべくドアの隙間から覗く、或いは聞き耳を立てると。

 

 『・・・・・・・・・・・・キサ、これは一体どういう事だ!』

 

 声を張り上げて怒り切っているのは、調査した時に絵として描いたのによく酷似してる姿は神ダイダラボッチである。

 対するは、重厚な革製の鎧にボロい外套に身を包み、魔王の威容を彷彿させるヘルムを被った奇人だ。感情は読み取れないが、冷静に神ダイダラボッチの怒気を受け止めているようだ。

 

 「落ち着け。全て予定通りだと言うのに何を怒っている?」

 「眷族の幹部達(上位のガキ共)を新しい別の拠点に移しただけだろうがっ。それに侵入者達も此処に何時来るかも分からんのに、貴様こそどうして落ち着いていられる!?」

 

 情報を引き出したい為にもう少し盗み聞いていたいが、何時例の新種のモンスターの投入がされるかも気が気じゃないので、ドアを蹴破って突入する。

 

 「もう1人は知らないが、神ダイダラボッチだな?我らの主神様がご到着するまで大人しくしてもらおうか」

 

 何時でも抜刀体勢のままで警告する陽。

 その侵入者達に歯噛みしてから、またもう1人へと怒気を向ける神ダイダラボッチ。

 

 「ほら見ろっ、もう来ただろうが!この責任どうしてくれるっ」

 「落ち着け、そろそろ辿り着くはずだが・・・」

 

 直後、上から轟音と悲鳴が鳴り響く。

 つられて全員天井を見ると同時に遠くからの咆哮も聞こえた。

 これに何事かと戸惑う陽達を置いて自分たちが突入してきた入り口から何時か見た。あるいは各地を襲撃時に姿を現してきた新種のモンスターが来た。

 

 「ここで来たかっ」

 

 右腕は以前遭遇したのと同じだが、左腕は人間の腕がそのまま肥大化したような異常ぶりで胴体は今までのよりは細身。そして頭全体を覆い隠すようなマスクをつけている。

 初めて遭遇した時と各地の襲撃時の話を聞いた時、そして今もだが相変わらず何故顔を隠すようなマスクやら仮面やらを付けているのか分からない。

 所々が血に染まっているのは此処まで来るのに同志達と戦闘して来たからに違いない。

 

 『――――ォオオオジィイイイレェエエエエ!!』

 「がはっ!?」

 「咢!」

 

 肥大化した左腕に薙ぎ払われた倒れた仲間を庇う様に前に出る陽。

 

 「フッ!」

 

 以前の様に首を横一文字切りで絶命させようと太刀を振るったが、右手の頑丈かつ鋭く長い爪に阻まれて斬れずに終わる。

 

 「このっ」

 『ォォロジレェエエエエ!!!』

 

 激しくぶつかり合う陽と怪物。

 陽は訝しむ。今までのこの新種のモンスター達は膂力はあるが技が成っておらず、レベルの低い者達でも事前情報と複数でかかれば決して倒せない相手では無かった。

 しかし如何だこの目の前の怪物は。

 鍛え上げた技を繰り出しても火花散る程頑丈な爪でつばぜり合いで対抗してくる。虚を混ぜた戦術に切り換えても左腕を鞭の様に撓らせて対応してくる。

 ここまで来れば嫌でも分かる。目の前の新種は今までのどれとも一線を画す個体だ。

 だがそれでもまだ疑問が残る。目の前の新種、まるで俺の戦法を把握して熟知しているかの様な動きだ。一体何なんだコイツは。

 

 『ォオオオオジィイイイテェエエエエエエエッッ!!』

 「っ!」

 

 それに、さっきから変わったこの咆哮。ますます謎の怪物だな。

 

 『ロジレェエエエエエッッ!――――ゴロジデェ(・・・・・)エエエエエエエエエエッッ!!』

 「!?」

 

 今この怪物なんて言った(・・・・・・)

 聞き間違いか・・・。言葉を喋った?しかも『殺して』だと?死を望んでいる・・・?本当に一体何なんだこのモンスターは!?

 そこへ捕縛対象の神ダイダラボッチからの怒声が耳を打つ。

 

 「敵1人に何を手こずっているっ。そこで転がっているのも含めて、とっとと仕留めろ!」

 

 そのお陰で新種に隙が出来た。

 

 「一刀両断!」

 『っ」

 

 唐竹割りよろしく、頭の頂点からたたっ斬ろうとしたが寸での所で躱される。いや、切っ先だけマスクに当たっていた様で、正面側だけ剥がれて落ちた。

 

 「・・・・・・・・・」

 

 それを直視した陽は目の前の事が理解できなかった。

 右半分の顔は間違いなく異形だ。五つもの赤い瞳が陽と目を合わせていた。だがもう左半分は。

 

 「か、霞・・・・・・?」

 

 もう左半分はヒューマンの女性の顔だった。陽の疑問視通り、ビワ・霞の顔そのものだ。表情をグシャグシャに歪ませて瞳からは血涙を流し続けている。

 

 『ミ――――ミ゛ナ゛イ゛デェエエエエエエエッッ!!!」

 「クッ!?」

 

 顔が左半分だけ霞の顔をした異形の怪物の鋭利な爪が振り抜かれた。陽は困惑しながらも咄嗟に太刀で防ぐ。

 

 「ミ゛ナ゛イ゛デェエエエエエエエエエエ!!ゴロジデェエエエエエエエエエエッッ!!!』

 「ぐぅぅっ!」

 

 陽は困惑の一途をたどる。

 

 何なんだこの状況は。目の前の怪物が霞の顔をしていて死を望んでいる!?

 訳が分からない!たまに空気の読めない仲間の言うブラックジョークがまだ可愛く思える状況だ。

 いや、待て。落ち着け俺!新種とは言えこんなモンスター聞いた事もないが、俺達人を動揺させる擬態の可能性も・・・・・・。

 

 自分の心を守るために都合のいい方に解釈しようとする陽へ残酷な現実を口にするモノが現れる。神ダイダラボッチと共に居る奇人だ。

 

 「なくは無いが、目を逸らしてはいけないよフジヤマ・陽君」

 「っ!?」

 

 未だ戦闘中な為に耳を傾けるのが精いっぱいの陽だが、名前を呼ばれた事に嫌でも意識してしまう。頭の中では聞いてはいけないと警鐘を何度も鳴らしているのに。

 

 「直截に言おう。その怪物は君のファミリアの副団長兼君の恋人であるビワ・霞君本人だとも」

 「っ!?」

 「何故言い切れるのか?と言う事なら私が個人的に日雇いした傭兵を君たち作戦部隊の後方支援組に紛れ込ませたからさ」

 「っ!」

 「彼女は君を庇って負傷したろう?それから後方に下がらせた霞君に回復薬だと偽って、傭兵が彼女に渡した薬が今そんな醜悪極まる怪物に変貌させてる訳だ」

 「え・・・・・・」

 「まあ、その薬を作っているのは私の眷族()なんだがね。何もそんな怪物を作る事を目的とした薬では無いのだよ」

 「まえ・・・っ」

 「とある魔道具(マジック・アイテム)を完成させるには、どうしても相応のデータが必要になるものだから試作品での実験台も必要になるのさ」

 「お前っ!」

 「だから霞君には大変申し訳ないが実験台兼使い捨ての一掃役に仕立てさせた貰った訳だ。悪いね、フジヤマ・陽君」

 「おっ前ええッッ!」

 

 陽は激昂するが、切り伏せたい相手の前に異形の怪物へとほぼ成り果てた愛する少女が立ちはだかる。

 

 「ミナイッデェエエエエエエエエエエッッ!!!』

 「グッ!」

 「あ~?そう言えば言い忘れていた。霞君は元には戻せない。解毒剤が無い上に変貌してから半刻程で自然消滅する様に仕込まれているからね。いや、本当に悪いね」

 「――――っあああああああ!」

 

 怒気と殺意は最高潮。しかし心の半分は冷徹となり、この土壇場で腕の力を脱力させて霞もどきの相手をやめて横を通りすぎ、駿足にて奇人へと迫ろうとする。だが。

 

 『ゴロジデェエエエエエッッ!」

 

 鞭のように撓らせた左腕で陽の足を凪ぎ払いにかかる。

 それを振り向かないままジャンプで躱す陽。ついでにおっとと、奇人も躱す。

 

 「ひっ!・・・・・・あ?」

 

 ギリギリの辺りで交わし損ねた神ダイダラボッチは本当に僅かに当たり、その衝撃で後ろの転がり。

 

 「あぁああああああああああぁああああああああああ――――!!?」

 

 底の深いダストシュートに落ちていった。

 

 「なんと不運な奴。この高さからでは助からんな。勿体無い(・・・・)

 

 奇人はダストシュートへ落下した神ダイダラボッチにそんな感想を口にしてから、自分に殺意を向けているが霞もどきに阻まれて一向に太刀の切っ先も突き付けられない陽に注意喚起を促す。

 

 「あ~、陽君。君たちの真下がダストシュートの底に繋がっているから早く退いた方が良い。さもなければ神の天界への強制送還(跳ぶ)光の柱(アルカナム)に巻き込まれるぞ?」

 

 直後、下から物音が聞こえた。

 ほぼ同時に、これは故意か偶然か。

 

 『オオああああッッ!」

 「ぐあっ!」

 

 戦法を変えたか、はたまた奇人の言葉を十全に理解した上で自由の利かない体を一瞬だけ動かして、陽をその場から追い出したかのように体当たりを仕掛けたのだ。

 これに見ごとにモロに受けた陽は衝撃も相まって軽く吹っ飛び転がった。

 直後。

 

 ズンッッ!!!

 

 ダイダラボッチの自分の死を否定するが故の唯一の手段、天界への帰還。下界における零能の肉体は霧散してアルカナムそのものとなり天へと昇るのだ。

 

 「かす・・・・・・っ!?」

 

 慌てて霞を見た先に在ったのはアルカナムの光の柱に飲まれて消滅していく姿だった。

 

 「あああっっ!」

 

 あれほどぐしゃぐしゃに歪ませていた顔は穏やかとなり、最後の言葉を陽は聞いた――――気がした。

 

 ――――陽が無事で良かった

 

 「ああああああああッッ!!」

 

 あれほど親密で将来を誓い合った愛しい少女が光の柱に呑み込まれて消えていく。

 その絶望的な光景をまざまざに見せつけられた陽は喉が裂ける程叫んだ。

 

 「ああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああ――――っっ!!!」

 

 悲劇ともいえる光景にただ1人、奇人だけが冷静に天井を見上げている。

 

 「ふむ。流石にこのままでは二次被害の落盤で此処も危ないな」

 

 言って、陽と咢の2人を見下ろす。

 

 「ずいぶん霞君は役立ってくれたし最後の行動も中々感動的だった。ならば少しは報いを与えるのも悪くないな。――――おひねりだ」

 

 手に持っていた赤い目玉を使う。

 

 「サタンアイズ術式展開――――転移」

 

 奇人の言葉で3人共その場から瞬間移動。

 

 「――――そして気が付いた時にはダイダラボッチ・ファミリアのアジトの入り口付近にいた事で気づいたんです。これが僕が話せる全てです」

 「・・・・・・・・・」

 

 咢視点での話は輝夜に放心させるには十分な威力を秘めたモノだった。

 そして陽もあれからホームに戻らず行方不明。

 この事実に輝夜は意気消沈した。

 

 

 -Interlude-

 

 

 ハァ・・・。

 

 パーティーである。

 そして何時も通り輝夜は溜息をついているが、今迄の質とは異なる様だ。

 華族達の襲撃犯たちの壊滅が一応成ったと言う事で、自粛していたのもあって遂に解禁された様だ。

 だが保身に長けた輝夜の父親は不安をまだ拭えておらず、だからと言って出席しないと言うのは周囲に弱みを見せる事になる。その為に、たまにはお前ひとりで我が家の代表として立つのも勉強だぞと言う表面的な理由で、輝夜だけが出席させられていた。

 だが輝夜の溜息の内容はそこでは無い。

 陽達の件である。

 

 「私は・・・・・・」

 「おや、輝夜君。顔色が優れない様だがどうかしたのかね?」

 

 今だ意気消沈中の輝夜に近寄って来たのは、以前輝夜が豚親子と誰もいない所で一人罵った相手の親の方――――オオエド・濡木だ。

 

 「っ。い、いえ、なんでもありません」

 「何でもない事は無いだろう。いいから話してみなさい。気が楽になるかもしれないよ?」

 

 華族間はにこやかな笑顔のまま腹の読み合いが日常茶飯事で、本来であれば腹黒い他家に弱味を見せる・胸の内を明かすなど出来る筈もない。

 

 ――――だと言うのに何故だ?何故私はこんなにも気持ちを吐露したがっている?

 

 オオエド・濡木の態度に結局堪えきれず意気消沈している理由を明かす輝夜。

 

 「――――と言う事です」

 「なるほど。確かにそれは心配だ。早く行方が判明すると良いね」

 「っ、は、はい」

 

 オオエドの当たり障りのない反応に輝夜は頷いた。頷くしかなかった。

 その反応に対してオオエドは目聡い。

 

 「なに、今はまだその女性が亡くなって混乱しているだけさ。それが収まれば今度こそ(・・・・)君の下へ帰って来るだろう。君の望み通り(・・・・・・)

 「え・・・・・・?」

 「何を呆けているんだい?折角叶ったんじゃないか、今の状況が。もう少し喜んでもいいじゃないか?」

 「な・・・にを言ってるんです・・・」

 

 理解できないのか理解したくないのか判別できないが、オオエドの言葉に激しく動揺する輝夜。

 

 「ハハハ、自分に嘘をつくのはよろしくないな輝夜君。君が落ち込んでいるのは霞君が死んで陽君が錯乱して行方不明になった事に心痛めている事では無く、最初の女が死んだのに陽君が自分の元に来ない事だろう?」

 「っ!?」

 「最初の女こそとっとと消えてしまえば、陽君の隣を独占できる勝機は十分にあると踏んでいたんじゃないか?」

 

 オオエドの言葉を強く否定したいのに出来ないでいる輝夜。そして次の言葉こそ信じられないモノだった。

 

 「ヤレヤレ、辛気臭い顔をして。折角君の願いを聞き届けて叶えて上げたモノを(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

 何を言われたのか分からなかった輝夜は呆ける。

 それから何となく頭が追いついて行き、漸くどういう意味かと口にしようとした時。

 外から轟音と雄たけび、それに悲鳴が聞こえて来た。

 

 「っ、こ、これって・・・」

 「以前に焼き回しと言いたいのだろう?ふむ、本質的には合っているだろうさ。――――思ってたよりも遅かったな」

 

 私は慌てて窓に駆け寄ると、外では警備兵達と人の襲撃犯達が館の周囲でつばぜり斬り合っている。

 不幸中の幸い、今回は新種のモンスター――――正確には特殊な薬を投入されて変貌した(もと)人間はいないようだった。

 ひとまず安堵するが何か喚いている襲撃犯の動機が気になり、窓を開けると。

 

 「奴を探せーー!」

 「俺達を裏切ったオオエド・濡木の野郎をだ!」

 

 この言葉を聞いた輝夜含むパーティー出席者達は耳を疑った。まさかオオエド家が犯罪者達と裏で繋がっていることに。それにこの襲撃の形がダイダラボッチ・ファミリアによるつい最近までの襲撃事件に非常に似ていることにも。

 輝夜は即座に先程までの自分と会話をしていた濡木へ振り向くが、いつの間にかいなくなっていた。

 

 「逃げた・・・?」

 

 そこへ、入り口から悲鳴が上がったので振り向くと、襲撃者達の一部が流れ込んできたのだ。

 慌てつつも直に迎撃する護衛達。

 

 「此処からは通さん!」

 「俺達には時間が無ぇんだっ、邪魔するな!」

 

 襲撃犯達は明らかに焦っている。一体何を?

 

 「ああ、彼らはもうじき人ではなくなるからだよ」

 「っ!?」

 

 聞き覚えのある声と振り替えれば、逃亡したと思われたオオエドが戻ってきていた。

 

 「私は逃げたわけではないよ。ただ、空気を読んで一時的に姿を消していただけさ」

 

 輝夜達、華族の疑問に答えるような言葉。

 それにオオエドを見つけた襲撃犯達は怒声を浴びせる。

 

 「オオエドォオオオオオオッッ!」

 「解毒剤寄越せぇええええッッ!」

 「早くしねぇと、早くしねぇと・・・!」

 

 彼らの鬼気迫る必死ぶりに、一体何をすれば此処までの事をしでかすのかと疑問が尽きない。

 

 「例の人間を怪物に変貌させる薬の遅延型を彼らに注入したモノだから、解毒剤欲しさに此処に襲撃しに来たのだろう」

 『なっ!?』

 「因みに言うと彼らは全員今はもう天に召された神ダイダラボッチの元ファミリアの上位の団員だよ」

 

 何故そこまで知っているのかと考えれば、そして襲撃犯達がオオエドを裏切り者扱いしていたことから十分な推測が出来ると言うモノだ。

 警備兵達からの避難誘導を受けている最中の華族の出席者の数人から、今までの襲撃はお前の指示によるものかと罵倒同然に怒鳴る。

 

 「いやいや、指示はしていないが意図はあるかな。あの襲撃してきた元人間の怪物達の狙いは私だろうからね。他の家が襲撃されたのは単に私の邸宅を知らなかっただけだろう」

 

 そんな事実に近い推測が出来るのに、全く反省のない態度に、プライドの高い華族の出席者たちは誰もが頭に血が上ったように顔を赤くして怒りを露わにしていた。

 そして今もオオエド・濡木へ押しかけようとしている襲撃犯達と護衛兵の戦いは続いている。

 その光景にも一顧だにしないオオエド・濡木。

 

 「さて、話はこれで十分かな?」

 「――――ああ、十分過ぎるくらいにな」

 

 何所からともなく聞こえてくる第三者の声。

 それと同時に異変が起きた。

 その異変を見ていた誰もが目を剥いた。護衛兵も。警備兵も。給仕も。出席者も。襲撃犯も。勿論輝夜すらも。

 そのすべての視線がオオエド・濡木の腹に視線が集中している。

 異変の正体は剣だ。オオエド・濡木の腹に剣が生えたのだ。いや、正確には刺されている。いつのまにか彼の背後に迫っていた何者か凶剣によって。

 

 「陽!」

 

 輝夜の言う通り、オオエド・濡木を背後から剣で刺したのは行方不明だったフジヤマ・陽だ。ただ、髪型はぼさぼさで服もボロボロ。目は血走り今もなお剣呑な空気を纏うほど殺気に満ち満ちている。以前の彼を知るモノが要れば見る影もないと評するだろう。

 

 「やっと、やっとだ。お前こそが霞の仇ぃいいいいっ!!」

 

 そのまま突き刺した剣を横に切り裂く。当然血飛沫が宙を舞う。切り裂かれたオオエド・濡木は断末魔を上げる事もなく、崩れ落ちて倒れ込む。そして切り裂かれた傷口からの血の海に沈んで行く。

 一部始終を見てしまった出席者たちから給仕まで悲鳴を上げて逃げて行く。それを慌てて追って行く警備兵にと護衛兵。

 残ったのはオオエド・濡木を殺した張本人のフジヤマ・陽とゴジョウノ・輝夜。そして呆然としてる襲撃犯達。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 「の、陽・・・」

 「来るなっ、来ないでくれぇ・・・」

 「ど、どうして・・・?」

 「い、今の俺は以前の俺じゃない。血と泥にまみれて、それでも憎い相手を殺したかっただけの日陰者だ」

 「そ、そんな事・・・・・・・・・ん?」

 

 そこでふと横向きで絶命状態のオオエド・濡木の死体を視界に入れるが、おかしなことに気付く。

 腹を中心とした大きな傷口にもかかわらず血だまりが出来る程の血液は出ても、内臓の一つもこぼれ出ない事に。

 これは確かにおかしいと、平静状態でも無い陽も気づいた。

 しかし二人にそれ以上の疑問の追及は許されなかった。

 

 「手前ぇええ!なんてことしてくれたんだ!」

 「これじゃあ解毒剤が何所にあるのか聞きだせねぇじゃねぇか!」

 

 怪物への変貌化に恐れる襲撃犯達。当然それを解毒できる可能性を持つものを殺されたのだ。怒りと殺意を向けられて当然だろう。感情論的には。

 

 「っ、駄目だ。来る来る来ちまう!」

 「嫌ドォオオオアアアアアアアっっ!!』

 

 恐怖して、泣き叫びながら次々と怪物へと変貌していく襲撃犯達。

 変貌していくさ過程自体は初めて見る輝夜もこれには息をのむ。

 そうして彼ら元人間の怪物は、特殊な方法で指示でもしない限り変貌前の強烈な感情に従って怒りと憎しみを以て殺しにかかる。

 彼ら怪物の恨み辛みの最後の対象は死んだオオエドから陽に移っていたので、一斉に陽に狙いを定める。

 流石の元人間達の雄たけびは相当効くので、流石の輝夜も怯える。

 

 「わるい輝夜、こんな事になったんだから責任は持つ・・・!」

 

 陽は輝夜をも庇う体勢で向かって来る元人間の怪物たちへ、太刀を振りかざしていった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 今この空間にあるのは、太刀によって切り殺された元人間の怪物らの死骸とオオエド・濡木の死体。

 そして部屋中は幾つもの血の海が出来ており、殺伐としていた。

 そんな中で足をつき立っているモノは陽と輝夜の2人のみだ。

 陽は呼吸を乱して肩で息を整えている。疲労困憊状態。

 その陽を心配そうにしているのが輝夜だ。

 

 「の、陽・・・?」

 「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・・・・すまん、こんな事に巻き込んで」

 「そんな事は良い。それよりもお前は今後どうするつもりだ?勿論帰って来るのだろう?」

 

 だがそこで沈黙が降りる。帰れるわけがないと。どの面下げて帰れと。

 

 「それでも神キビツヒコノミコト様もファミリアの皆もお前を心配していたぞ?勿論私だって・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 「帰ろう陽。お前は霞の惨たらしい死に方に今も困り果てて混乱してるだけだ。暫く休養を取ればいいさ」

 「輝夜、お、俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!」

 

 そこで陽は気付いた。まだ殺しきれていなかった元人間の怪物の一体が血まみれのまま僅かに立ち上がったかと思うと、一瞬で輝夜の背後に迫ろうとしていた事に。

 

 「どけっ!」

 「きゃっ」

 

 輝夜を突き飛ばして無理矢理どかせる。同時に太刀による一突で瀕死の怪物へ迫った。

 

 ズン!

 

 随分と重く響く音だった。何の音かと見上げる輝夜の視線の先には。陽の太刀は怪物の心臓位置を貫き、怪物の爪も陽の丹田を中心とした腹に突き刺さっていた。

 

 「がふっ!」

 「陽っ」

 

 慌てて立ち上がり陽へ駆け寄る輝夜。

 元々千切れかかっていたのか、怪物の右手は怪物が今度こそ死に倒れてると同時に千切れた。陽の腹に突き刺さったまま。

 

 「陽っ!くそ、くそくそくそくそ!誰かっ、誰か居ないのか!」

 「が、ぐや・・・・・・もう、じい」

 「いい訳あるか!私は絶対に諦めんぞ!」

 

 何とかして陽を救おうとする輝夜。対して陽は諦めているように笑っている。口から夥しく血を流しながら。

 

 「お゛れ゛・・・・・・ぶぐ、じゅう・・・・・・はだでだがら・・・もう・・・じいんだ」

 「ふざるけるな!何満ち足りた顔して逝こうとしている!――――頼むから死なないでくれ・・・・・・!」

 

 縋りつくような言葉だった。

 だがそう簡単に死んでもいいのかと言う同意をした声が上がる。

 

 「――――そうとも。君にはまだ果たすべき復讐相手が残っているだろう?」

 

 輝夜は振り返り一瞬訝しむも突如現れたこの奇人に覚えが在った。

 咢の話の中に出て来たビワ・霞の真の仇。

 これには陽も死にかけて閉じようとしていた瞳を力一杯に開いて活力が戻った。憎悪と言う名の活力が。同時に困惑もしている。霞の仇の奇人の正体はオオエド・濡木と踏んでいたからだ。

 

 「どうした?君の復讐相手はまだ私が(此処に)居るぞ。さあ――――」

 

 奇人に促され終える前に陽は動いていた。

 

 「悪魔め(ゴロジてやる)っ・・・・・・悪人め(ゴロジデらる)っ・・・・・・クソッタレ野郎め(ゴロジデやる)・・・!」

 

 力を握り締め、歯を食いしばりながらも奇人に憎悪をぶつける為にふらつきながらも歩く。しかしそれも長くは続かず、倒れる。

 当然だ。心臓は刺されていなくともそれ以外の急所含む腹を何本も差されているのだから。腰と足に力を入れられず倒れるのは道理だ。

 だがそれでもと、瞳から血涙を流しながらも、這いずる様に奇人へと近づいて行く。

 

 「畜生め(ゴロジデやる)・・・外道め(ゴロジデやる)・・・ゴロジ・・・で・・・や・・・ぅ――――」

 

 残り数(メルド)で遂に息絶えるフジヤマ・陽。その顔には今も憎悪が宿ったままだった。

 

 「あらら、私を殺せたかは兎も角、あとちょっとで届いただろうに。――――可哀想な子だ」

 

 瞬間、輝夜は飛び出していた。

 

 「――――ああああああああっっ!!」

 

 目の前で愛しい男の非業な死を見て、遂に感情が爆発。陽の持っていた太刀を拾って奇人目掛けて切り裂いて行く。しかしそれを奇人に容易に刀身を掴み、受け止められる。

 

 「ぐぅぅっっ!!」

 「膂力不足だな。技は出来ていても、恩恵無しの君程度の刀。容易に受け止められるぞ」

 「がっ!」

 

 刀ごと押し返されて突き飛ばされる輝夜。

 

 「それにしても君には彼の為に怒る権利などあるのかな?」

 「どういう意味だっ!」

 「オオエド・濡木を介して君にさっき言ったじゃないか。折角君の願いを聞き届けて叶えて挙げたのに(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 その言葉で一気に感情が冷めて動揺する輝夜。

 

 「な、にを・・・」

 「ふむ。まずは説明をしようか。そこのオオエド・濡木はもうずいぶん前から死体だったのさ。私が傀儡として使っていた」

 「!?」

 「となればもう判るね?正しく私こそが君とさっきまで話していた本人だと。それから君の願いは霞が死にフジヤマ・陽の横を独占する事だったんだろう?」

 「・・・・・・」

 「だからその君の醜いまでの呪詛を聞き届けて上げたのさ。特別にね。霞君に死んでほしかったんだろう?」

 「違う・・・」

 「だが君の稚拙な予想はあっさりと覆され、彼は復讐に走り今此処で非業の死を遂げた」

 「ち、違う・・・・・・!」

 

 倒れて瞳から感情と言う色が徐々に失われて行く輝夜の下へ近づき、囁くように続きを言う。

 

 「分かるかね?君が彼らに関わったせいで2人はこのような末路を辿ったんだ」

 

 なんという責任転嫁。どう考えても責任全てこの奇人にあると言うのに、よりのもよって罪の在処を輝夜に押し付けた。

 しかも輝夜は強い衝撃を受けて、パーティー開始時よりも意気消沈して心に暗く重い影を落とした。

 

 「陽達が死んだのは・・・・・・私のせい・・・?」

 「そうとも。君は罪人だ。君は彼らに贖罪するべき義務がある」

 「自殺・・・しろと?」

 「違うな。君は彼らの分までこれから多くを救わねばならない。それこそ君自身が2人以上の非業の死を遂げるまでズタボロになるまでずっとずっと」

 

 なんと救いのない言葉か。

 だが今の輝夜はその言葉が正しいと思うまでに追い詰められていた。

 

 「救い給え。彼の残した遺志を胸に。自分がいかに罪人であるかを意識し続ける為にその太刀を使って」

 

 私は言われた通り太刀を握り直す。

 だが同時に思う。お前も私と同じく罪人である筈だと。

 

 「フフ、私は逃げも隠れもするが、今は世界の中心地で主に動いている。私に罪を突き付けたければ追って来るがいい」

 

 私が立ち上がろうとする前に奴は消えた。

 この時に、私に最大のトラウマを植え付けて。



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第10話 輝きをもう一度

 あの日の後の事を私はよく覚えていない。

 

 いつの間にか異国の地に来ていたから。どうやって家を、故郷を後にしたか今でも全く思い出せない。

 だが、過去を振り返るなど、もうどうでもいい事だ。

 私は罪人だ。私は贖罪の道を征かねばならない。陽と霞の二人の分まで多くを救わなければ。

 それから私はただただ救い続けた。被害出すのが犯罪者であろうと、モンスターであろうと、思い上がった冒険者であろうと。

 ダンジョンの恩恵を受けていないオラリオ以外のモンスターや冒険者は幸いレベルや強さが低いので、技が出来上がっている私でも駆け引き含めればなんとかなった。ただの犯罪者は語るまでもない。

 しかしこの身は一つだけ、救い続けてどうにもならない事がある事も知った。それは割合だ。

 救うべき対象が僅かならばいい。だが数が多ければ?全てを救おうとすると一割は必然的であり、二割三割と次々にこの両手から零れ落ちて行く。最悪四割五割と零れ落ちて行くこともあった。

 だから私は割り切った。この身は罪人故に全てを救う義務があると最初に課したにもかかわらず、自分一人では限界があるから出来るだけ多くを救えれば良いと言う名の大義名分で自分を誤魔化した。

 最初から一割二割を切り捨てる或いは諦める方向で救い上げようとすれば、今まで以上よりも上手く行った。

 ならばと、大を生かす為に小を切り捨てるを全力で実行していった。

 それからだ。私は効率よく確実に助けて行けるようになったのは。

 

 助ける。救う。助ける、救う、助ける救う助ける救う助ける救う助ける救う助ける救う助ける救う助ける救う助ける救う――――。

 

 ただ繰り返して行くが、それでも体への負担は徐々に蓄積されていき、しまいには各部位から悲鳴が上がるようになったがそれでも無視して体を動かし続けた。

 そして私は着いたのだ。世界の中心、迷宮都市オラリオに。

 意図したものでは無い。故郷を飛び出した時と同じく何時の間にか来ていた。

 だが同時に体の限界も来た。無理し続けたツケが私を襲い、路地裏で倒れた。

 

 ――――ああ、此処が私の死地か。

 

 身も心もズタボロ。奴の言う非業の死とはかけ離れているが、私に相応しい無様な末路。

 そうして意識を失い死ぬだろうと思った直前、赤い髪の少女と金髪の女性が私を見下ろしている様に見えた。そして意識を今度こそ手放した。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 暖かな空気が覚醒の兆候として促していく。

 

 「――――んぅ・・・?」

 

 私は目を見開いた。そこに広がる景色は地獄では無く、簡素な部屋の空間。そこで私はベットの上で寝ていて事を把握した。

 

 「此処は・・・・・・?」

 「――――目覚めたのですね。フフ、良かったです」

 

 私に声を掛けて来たのはナチュラルゴールドのロングヘアの美女。おっとりとした佇まいでありながら凛々しさを兼ね備え、ある一つ芯を軸とする麗しき方。それが私の第一印象だ。

 と言うかこれ程の存在感を私は知っている。

 

 「神・・・様・・・?」

 「ええ、合っていますよ。神アストレアです。貴方のお名前を聞いても良いですか?」

 「・・・・・・ゴジョウノ・・・輝夜・・・です」

 「フフフ、良いお名前ですね」

 

 そこへ、最低限の互いの自己紹介を終えたタイミングよく偶然にも赤毛のポニーテールの少女が入って来た。

 

 「アストレア様、どうですかって、もう起きてるじゃないですか!教えてくれてもいいのに!」

 「彼女は今起きたばかりですよ、アリーゼ」

 

 アリーゼと呼ばれた赤毛の少女が神アストレア様の話に納得してから私に対して怒涛の勢いで近づいて来た。

 

 「私の名前はアリーゼ・ローヴェル。宜しくね!」

 

 これが私とアストレア様とアリーゼの最初の出会いだった。

 その後、私の体調が良くなるまで看病してくれた上に、動けるようになってから自分達のファミリアに誘われた。

 だが私は罪人だ。こんな眩しく見える二人に私がかかわっては迷惑がかかる。この思いから逃げない為に断ろうとすると、アストレア様から断罪の光を浴びせかけられる様に懺悔を促されて話してしまった。

 あの日からの全てを告解すると、妬みからの呪詛は悪しきことだが、その程度であれば人の子も神であろうとも誰もが一度は脳裏によぎり考える事。真の意味で私に咎は無いと断じて下さった。それでも罪の意識が消えないと言うのであれば、私のファミリアに成りませんかと誘ってくださった。

 このオラリオには野心や夢を叶える為に世界中から多くの人が種族関係なく集まるが、今は闇派閥(イヴィルス)の台頭で秩序が乱れ、無辜の人々が無意味に犠牲を受ける理不尽が横行しているらしい。その理不尽から守るためにも多くの正義の御旗を掲げる使者が必要との事。

 贖罪の道の途中だと言う事が分かった上での誘いの私は悩んだ末に――――応じた。

 神アストレアの眷属の一人として契約し、恩恵を得たのだ。

 

 そこから先は駆け続けるような日々だった。

 

 一日でも早く多くの無辜の人々を守れるようにと、鍛錬鍛錬また鍛錬。ダンジョンに潜って経験値上げに懸命に勤しみ続ける。そんな日々にも変化が訪れる。

 アストレア様の信義に同調して仲間が増えて行く。私が入ってからはアリーゼとの二人だけだったが、仲間が増えて行くのは嬉しいモノだった。

 ドワーフのアスタに猫人(キャットピープル)のネーゼ、アマゾネスのイスカなど見事に同性ばかりだが、だからこそ視線など気にせずにいられる。最近は器用な小人族(パルゥム)のライラ戦うことしか取り柄の無いポンコツエルフのリオンも入団した。

 あまりに急激に彩られて行く日々に私の心は踊った。

 それこそ自分は罪人なれど、どんな罪を犯したのか忘れるくらいに。

 

 恐らくは此処で無意識に封印したのだろう。自分の罪の詳細とフジヤマ・陽の存在を。

 

 だがゴジョウノ・輝夜、お前は罪人だ。お前に幸せになる権利など無いと突き付けられるような事件が起きた。

 団員の半分以上がレベル2へとランクアップしてから数ヶ月経過した頃、ダンジョン内の賞金首の強化種のモンスターの討伐で想定外が連続した。仲間が気絶し、アリーゼが殿と言う名の犠牲となり、私達はゴライアスによってあわや全滅寸前まで追い込まれた。

 だがそれも1人の男――――エミヤ・士郎によって全て救われた。

 殿の役目を請け負い、高い可能性でもう二度と会えないと思った団長(アリーゼ)も自分の手では届かなかった仲間も全て。

 

 救われた仲間は全員、エミヤ・士郎に感謝したが私だけは違った。

 

 仲間を助けてくれたことは感謝している。アリーゼすらも救ってくれて恩に感じなくもない。

 だがどうして!どうして私を死なせてくれなかった(救った)

 此処で終わっていれば近い将来振りかかるだろう悪夢を見ずに済んだかもしれないのに!

 予感だ。

 歪んだ昔の記憶からの推測とも言える。思い出せるのは私に罪を擦り付けて苦悩を植え付けた奇人。

 明言は避けていたが、奴は世界の中心で主に活動していると言った。つまりこのオラリオでだ。

 奴を見つけなければと思う反面、遭いたくないと言うのが本心でもある。今のこの彩られた日常を破壊されるのではないかと言う恐怖だ。だからこそ死にたかったのに!

 そしてもう一つ。それは悉くを救った事だ。

 仲間を救ってくれたことは何度も言うが感謝している。だがその結果を見ると、まるでいとも容易く成し遂げられたようで、私としては苛立ちを抑えられない。

 まるで今までの私の苦悩や努力、覚悟と決断を嘲笑われた様で不愉快極まりなかった。

 最後にもう一つ。それはあの時、ゴライアスの前に立ちはだかる様に見せた大きな背中だ。

 その背中が誰かの背中とかぶる。思い出さなければならないと思う反面、思い出したくないと言う忌避感が生じる。葛藤の末に胃が歪み、吐きそうになる。

 

 だからこそ私はエミヤ・士郎を嫌悪する。

 あの時、お前との巡り会わせが無ければ――――死ねた(救われた)のにっ、報われたろうにっ!逃げ切れたろうにッッ!!――――どうしてくれる?責任も取る気もないだろうに!!私は心底楽になれたのにッッ!!

 

 これが今までの私の記憶。

 だが今この意識と無意識の狭間で漂いながら強く思う。なんて情けなく無様だろうか。

 罪を忘れ、日常に溺れ、人生(物語)から逃げようとした。剰え、不本意ながらにしても恩人の男に理不尽な八つ当たり同然の激情を向けて嫌悪するなどと、私は本当に。

 

 

 -Interlude-

 

 

 「――――醜いな」

 「ん?」

 

 狭間から意識を覚醒させた私は呟いた。気配であの男、エミヤ・士郎が居ると気づいていながら。

 

 「大丈夫か?」

 「ああ。すまないな迷惑を掛けて」

 「困った時はお互い様だと思うが・・・本当に大丈夫なのか」

 

 私の身を心から案じて来るエミヤ・士郎の態度からは今までの私の無礼な対応に気にした素振りは見受けられない。恐らくは餓鬼の癇癪程度にと、受け流されていたのだろう。

 この事実であるとほぼ確信できる推測に私は余計に自己嫌悪に陥る。だが何時までも気にしたままではいられない。念押しの確認に大丈夫だと返してから今までの事について謝罪する。

 

 「今まですまなかった」

 「む?」

 「謝罪しておいて詳細は省かせてもらうが、私はお前に身勝手に八つ当たりをしていた。助けてくれておいて実に理不尽な事だとは今は自覚している。勿論この程度の謝罪で済むわけもないと理解している。私の出来る事の範囲であればどんなことも受け入れるつもりだ」

 

 垂れていた頭を戻して真正面から士郎と向き合う輝夜。自分がどれだけ本気なのかを理解してもらう為らしい。

 対して士郎は輝夜の本気の顔をただ見つめ返す。そしてあっけらかんと言う。

 

 「いや、別に何も」

 「な、何!?」

 「正直その手の理不尽くらいは経験上慣れているし、輝夜くらいのモノであれば可愛いモノだ」

 

 どうやら矢張り自分の八つ当たりは餓鬼の癇癪・駄々程度に受け取られていたらしいと勝手に解釈する輝夜は、今迄の自分の行動を改めて恥じる。

 だが士郎の言葉には続きがある様だ。

 

 「でもそうだな、敢えて言わせてもらえば」

 「・・・・・・」

 

 どんな要求でも受け入れる気である輝夜は士郎の次の言葉を待つ。

 

 「光栄だったかな」

 「は?」

 「これは俺の持論だが、八つ当たりとは気の許した者にしか行わない甘えの一種だと捉えている。だとすればこの短期間でゴジョウノみたいな美人から気を許された上に甘えられるなんて、光栄以外の何物でもない」

 「っ!?」

 

 コイツは何を言っている?この男は一体何を言っているんだ!?八つ当たりが気を許した者への一種の甘えだと!?コイツは頭が狂ってないか?どんな生き方をすれば、そんな持論が出来上がるんだ!

 しかも美人だと!?確かに自分の容姿には一定以上の自信はあるが、この男あんなキザな台詞をサラッと言いやがった。その上照れもせずにあっさりと。

 

 「ど、どうかしたか?」

 

 まるで自分は何もおかしな事は言っていないとばかりの態度に、また腹立たしく思えて来る。だが抑えろ、私!此処でまた怒鳴り付けたら、昔の事をしっかりと思い出して向き直れた上で謝罪した事の全てが無為となる。

 

 「なんでもない。取りあえず謝罪を受け入れてくれたことは感謝する」

 「そんな大げさな・・・」

 「い・い・ん・だ!」

 「う・・・わ、わかった」

 

 結局最後に言葉を強くしてしまったが今のは是非もないとする。

 

 「あとはすまないが、太刀の件は無かった事にしてくれ。受け取る資格が無い」

 「む?」

 「勿論代金は払う。迷惑料も兼ねて」

 

 本音であり、これが筋と言うモノだろう。亡き陽の太刀の“暁”の代わりを用意するのは簡単ではないが仕方ない。自業自得だ。

 

 「何言ってる。迷惑だと思うのなら直の事受け取ってくれ」

 「ぬ、しかし・・・」

 「アリーゼの紹介で元々来たのなら、渡せなかったら俺が怒られる。――――何よりも受け取ってもらわないと困る(・・・・・・・・・・・・・)

 「?」

 

 困ると言う箇所に首を傾げる思いをしながら、輝夜は渋々依頼していた太刀を鞘ごと受け取る。

 

 「確認してみてくれ」

 

 促されたので鞘からゆっくりと刀身が徐々に見える様に抜く。

 

 「!」

 

 抜き放った刀身の煌めきに思わず唸る。これ程鋭くかつ、輝いて見える刀身は見た事が無かったからだ。此処までのモノを仕上げるには鍛冶師として相当な腕が必要だと察して、自分と同い年で有名となったとされるエミヤ・士郎に失礼ながら初めて感心する。

 

 「一応、銘は“星彩”と名付けたんだが・・・・・・ゴジョウノが気に入らないなら好きに改名してくれていい」

 

 輝夜は思わずムッとした。

 これ程綺羅びやかな太刀は見た事が無い。この刀を一目で見惚れた上に銘も中々響きが良いと感じれたと言うのに・・・・・・。

 

 「ならば、代金を払えば私の物。どの銘で呼ぼうが私の勝手と言う事で良いな?」

 「もちろん」

 「だったらこの太刀の銘は星彩。異論は受け付けん!」

 

 自分目掛けて力強く答える輝夜に心なしか頬が緩む。

 

 「む、そこまで気に入ってくれたのか。何と言うか、面映ゆいな」

 「クッ・・・・・・それにしても、星彩を銘にした理由は?」

 「もちろんゴジョウノの個人名を勝手ながら参考にさせてもらった。良い名前だよな」

 「フン、皮肉にしか聞こえんぞ?どうせ私には不釣り合いな名だ」

 「何所がだ?闇夜に浮かぶ凛々しい輝きは多くの人を照らして導く。ゴジョウノにピッタリじゃないか」

 「ッッ!」

 

 コイツ、またそんなキザなセリフを何の臆面もなく・・・!

 

 「正直、ゴジョウノの名前には及ばない熟語を銘にしたが、気に入ってくれたのなら何よりだ」

 「お前・・・・・・!」

 

 なんか腹が立って逆らいたくなるところだが、先程異論は認めないと言ったのも私だ。チクショウ!

 

 「ど、どうした?」

 「なんでもない!」

 

 怒りを抑えられずに叫んでしまったが仕方ないだろう!?エミヤ(・・・)がさっきから私の心をかき乱すのが悪い!

 

 「むぅ、何やら機嫌が悪そうなところ申し訳ないが、もう一つ言わなきゃならない事がある」

 「今度はどんなキザなセリフだ!」

 「キザて・・・・・・いや、なんでさ。そうじゃなくて、代金を少し安くする代わりに全く新しいモノを“星彩”に組み込んでおいたんだ」

 「は?」

 

 キザなセリフを警戒していたものだから、予想外の言葉に輝夜は間の抜けた声を漏らした。

 

 

 -Interlude-

 

 

 此処はダンジョンとは完全に別のオラリオの地下施設の下水路。その無数にある区画の一角。

 そこには十人にも満たない負傷した冒険者たちが仰向けやうつ伏せの違いあれど、倒れていた。

 

 「クソ、クソッ、チクショウ!」

 「痛ぇ、痛ぇよぉお・・・!」

 「血が、出血が止まらねぇ!」

 「死にたくない。死にたくねぇよぉ!」

 

 傷のほどは軽傷から重傷の者達だが、そんな中全く動かずにいる者もいた。

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 どうやら死んではいない様だが、動かないのではなく動けないらしい。両足首が切断こそされてはいないが、傷深く歩けないほどに見える。腕や上着が相当汚れているところから察するに、此処まで這いずって辿り着いたようだ。

 

 ――――フン、分かってはいたがクズばかりだな。冒険者になるなら死を覚悟してから成れと言うのに、全く・・・。

 

 彼らの傷はモンスターによって攻撃で受けた事により出来た傷では無い。同じ冒険者の敵派閥との戦いで負った傷だ。

 今のオラリオは闇派閥(イヴィルス)の出現により、通常の派閥抗争はほぼほぼ起きないと言っていい。やるとしたらそれこそオラリオの平穏を乱す闇派閥(イヴィルス)との戦闘だけだ。

 そして此処で呻いている彼らは全員ギルドから邪神指定された闇派閥(イヴィルス)の神々の眷属達だ。つまり彼らの傷は十中八九通常の派閥との戦闘で受けた傷と言う事になるだろう。

 やりたい放題するために暴れまわり、冒険者でも無い罪なき無辜の人々も躊躇なく襲う故にこの末路は因果応報・自業自得と言われても仕方ないだろう。

 

 死ぬことならあの神と契約してから既に覚悟済みだからいい。だがこのままアイツ(・・・)に一矢も報えないのは嫌だ。屈辱だ・・・!

 

 「猛者(オッタル)・・・・・・あのクソ猪がっ・・・・・・!!」

 

 如何やら彼はフレイヤ・ファミリアの若き団長と戦い、敗れて命からがら此処まで逃げ延びた様だ。

 そしてこのままでは出血量も多い為、死ぬのも時間の問題。傷を癒す回復魔法の使い手もいない。アイテムも使い切っている。

 

 このまま屈辱の血だまりの中で死ぬのかと苛立っている所に誰かがすっと現れた。

 

 「私が手を貸そうか?」

 「誰だ!?」

 

 フレイヤ・ファミリアの追撃かと思ったが、見たこともない奇人だった。

 

 彼は知る由もないが、この奇人はアストレア・ファミリアの副団長の輝夜の故郷を荒し、多くの犠牲者を産み出した黒幕本人だ。

 

 「諸君らが契約している邪神達全員には既に自己紹介は済ませたが、まだその眷族一人一人とは終わらせていないから私の事を知らなくても無理はない。よし、君たちにも名乗っておこう」

 

 このままでは遅かれ早かれ死ぬことを避けられなかった彼らからすれば救いの神であろうが、その姿は真逆のお伽噺に登場する魔王そのもの。

 

 「私は神――――いや、邪神トライヘキサだ」

 



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第11話 新たなる職場へ

 「フゥ」

 「どうかしたのですか」

 

 士郎を切っ掛けとした邂逅により、以前よりも交流が増えた神ヘファイトススと神アストレア。

 二柱は本日、たまたま空いた時間が重なったので少々遅めの昼食を共にしていた。

 ちなみにヘファイストスは単独で、アストレアはアリーゼ同伴である。

 

 「ごめんなさい、変なため息ついてしまって。大した問題じゃないから気にしないで」

 「そうは言っても・・・・・・また、彼・・・士郎の事ですか?」

 

 アストレアは最初こそ士郎の呼称を君付けしていたが、本人の好きに呼んでくれて構いませんと言う言葉と自分の眷族(子供)達と士郎の交流を見て、今では呼び捨てする様になった。

 

 「あら?分かる?実はそうなのよ。あの子ったらもぉ~」

 「・・・・・・」

 

 あくまでも自分はアストレア様の護衛だと言う事で御伴していたアリーゼだが、士郎の話題となったのでつい意識と耳を僅かにヘファイストスの言葉へと向けた。

 

 「あの子のダンジョンの到達階層数、31階層まで行ったのよ」

 「それはそれは・・・・・・1人でと言う事ですよね?」

 「ええ、また性懲りもなくね」

 「確かに危険ではありますが、もちろんお説教はしたのでしょう?」

 「え?してないわよ。折檻ならしたけれどね」

 「そ、そうですか」

 

 黒いオーラを携えて満面の笑顔で言ってきたヘファイストスに若干引くアストレア。それに心の中で合掌するアリーゼ。

 

 「ただ問題はこれで終わりじゃないのよ。あの子がさらに先に行かずに帰ってきた理由は何だと思う?」

 「それ以上は1人での探索が困難になって来たからでは無いんですか?」

 「いいえ。その時点で帰らないと鍛冶師としての仕事に支障をきたすから、ですって・・・」

 

 呆れた態度を隠そうともしないヘファイストス。アストレアは友神の言葉の含むところにあっと気づく。

 

 「逆に言えば、仕事に支障をきたさなければ、そのままさらに奥へと突き進んでいた事に呆れているのですか?」

 「・・・・・・そうなのよ。あの馬鹿・・・!」

 

 まるで吐き捨てるような言葉だったが、顔色はあまり良いとは言い難くて不安そうにもしている。

 

 「あの子を見てるとね。何だか生き急いでいるみたいに思えて()として心配になってしまうのよ」

 「ヘファイストス・・・」

 

 友神の心情を察して慰め様とする言葉を探すアストレアだが、どうやら見つけられずに悲しげな視線を送るだけにとどめてしまう。

 アリーゼはアストレアとは違い、士郎が生き急いでいると言う言葉に心を痛ませる。それが友人としてか、はたまた別の理由かは定かではないが。

 友神達の視線に気づいたヘファイストスは軽く謝る。

 

 「昼食時にする話題では無かったわね。うちの問題だから忘れて?」

 

 ヘファイストスはこうは言うが、矢張り友神として何とかできないかと悩むアストレア。

 それに二柱の神々の間に割って入る様にアリーゼが提案する。

 

 「でしたら私に任せてもらえませんか!」

 

 アリーゼのいきなりの提案に二柱はキョトンと顔を見合わせた。

 

 

 -Interlude-

 

 

 「――――と言う事だから今日こそ年貢の納め時よ、士郎!」

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 アストレア・ファミリアを率いてやって来たアリーゼは、ダンジョンの入り口があるバベルの近くにいた士郎を捕まえての開口一番が今の一言である。

 

 何なんだと思ってアリーゼの後ろ側に居るアストレア・ファミリアの先頭に居る輝夜にアイコンタクトで尋ねると、彼女は大げさに解らんと言うポーズで応えた。

 

 「ちょっと、私と話してるんだから後ろの輝夜と目と目で通じ合うの止めなさい!」

 「誤解を招く発言には断固として抗議させてもらうぞ、団長。私とエミヤはそんな関係では無い」

 「そうだぞ。俺と輝夜の関係はアリーゼと同じく鍛冶師としての契約であって、そんな良い仲じゃない。そもそも、俺なんかと輝夜が釣り合うわけないだろ?」

 

 士郎としては輝夜のフォローをしたつもりだったのだが。

 

 ブチッ。

 

 途端に輝夜の機嫌が急激に悪くなる。

 

 「うふふふふ♪ええ、ええ!確かに確かに仰られる通り私とエミヤ様との関係は鍛冶師の専属契約を結んだだけのモノですから。そんな仲が良いなどといった関係ではありませんわ♪」

 

 急に剣呑なオーラを漂わせながらも丁寧な口調に仕草に変わった輝夜に動揺する士郎。

 

 「か、輝夜・・・・・・?」

 「あら?あらあらあら?あのエミヤ様が私の名を呼び捨てして下さるなんて光栄の極みですわ。専属契約の関係でしかありませんのに。あまりに嬉しすぎて私、貴方様を――――切り刻んでやろうか?」

 「っ!?」

 

 あれだけ丁寧だったのに口調を戻して露骨に怒気を見せる輝夜の態度に士郎は気付いた。彼女の今の姿はあの遠坂凛に非常に被る。猫を被る所も怒りに震えるところも。

 だが遠坂凛の時もそうだが、士郎は彼女たちの怒りを露わにしている理由までは今も直分からずにいた。

 

 そんな2人のやり取りに、アストレア・ファミリアの麗しき使徒達で目聡い者はある事に気付き、鈍い者は気付かずに輝夜の理不尽な態度にリュー・リオンのみ(憤慨する者)もいた。

 そしてアリーゼはと言うと。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 彼女にしては珍しく苛立っていた。自分の発言が切っ掛けとは言え話を中断された上に目の前でイチャイチャとされては堪った者じゃ無かった。実際にはメンチ切った輝夜に士郎が追い詰められてるだけなのだが、少なくともアリーゼにはイチャついているかの様に見えたからだ。

 

 「そろそろ本題に入っていいかし、らっ!」

 

 ついに耐えかねたアリーゼは二人の間に割って入る様に会話を中断させる。

 あまりに新鮮かつ初めてのアリーゼからのアクションに二人共面を喰らって黙った。

 二人を黙らせたアリーゼが漸く本題を切り出す――――筈だった。

 

 「なんだアリーゼ。そんなにイライラしてるなら糖分補給すればいいぞ。俺が丁度持ってた新作のケーキでも食べて落ち着いてくれ」

 

 などと言って所持していた手提げ袋から箱を取り出し、さらに箱の中からその場で食べられるタイプのケーキを取り出してアリーゼに渡す。

 

 「あら?何時も悪いわね。有り難く頂くわ!士郎の作るモノはどれも美味しいし」

 「それなら良かった。それじゃ」

 「ええ!」

 

 言って士郎がアリーゼの視界から外れようとした所で。

 

 「――――って、違うわよ!」

 「む?」

 「何勝手に話終わらせてるの!まだ本題も話していないのに!そもそも何なのよこのケーキは!私は食いしん坊キャラじゃないわよ!」

 「・・・・・・・・・・・・・・・違うのか?」

 

 士郎からのまさかの一言で一時停止するアリーゼ。だがそれも一瞬の事。

 

 「ちょっと待ちなさい。まさか今まで私の事そんな風に見てたの?」

 

 何とも言えない空気に縋りつくような質問。

 これに士郎は空気を読んだ。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そんな訳無いだろ」

 「・・・・・・ッッ!!」

 

 目を泳がせて視線を合わせない態度で空気を読んだ言葉も全て台無し。

 確かな精神的ダメージを受けるアリーゼだが、彼女はこの程度では屈しない。

 

 「と、兎に角私は健啖家じゃないから!そこのところ誤解しないでよね?」

 「うん。まあ、分かった。それでアリーゼの用件はそれだけか?」

 「そんな訳無いでしょう!本題は此処からよ」

 

 言って、互いの主神様方の話し合った事を説明してから自分が提案した事を言う。

 

 「これ以上貴方に単独行動させに為に、これから先は私達とダンジョンに潜るの!異論は認めないわ!」

 

 この考え、実はアリーゼは仲間の誰にも事前に話していなかったので、彼女の後ろに居る輝夜含めた仲間達も全員驚いていた。

 

 「・・・・・・・・・どうしてもか?拒否できないのか?」

 「異論は認めないって、言ったでしょう!それともなに?私達とダンジョンに潜るのがそんなに嫌なの~?」

 

 アリーゼは自分の提案に自信を持っていた。だから士郎の疑問に軽く苛立ちを持ちながらの揶揄うような質問をした。

 

 「ああ、当然嫌だ」

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 だからこそ士郎からこんな言葉を言われるのは完全に想定外だった。

 アリーゼは基本的に自分の心に素直な女の子だ。思った事考えた事はため込まずに即座に実行していく。それこそあと先考えずに。

 だからこそ彼女は自信のある提案を、とても親しい友人から素の拒絶を受けると。

 

 「うぅぅ・・・・・・グスッ」

 

 泣きが入る。

 

 「ど、どうしたんだアリーゼ!何で泣く?」

 

 アリーゼが何故泣き出したのか分からずに狼狽え始める士郎。まさか自分の言葉でショックを受けているとは夢にも思っていない様だ。

 

 「エミヤ。団長はお前の拒絶の言葉でショックを受けてるんだ。だが、お前の事だ。理由があるんだろう?」

 

 士郎の言葉はアリーゼのみならずアストレア・ファミリアのほぼ全員が怒りやら悲しそうにした。リューにいたっては軽蔑の視線を向けている。

 彼女たちの中で士郎の言葉を気にしていないのは二人だけ。まずはライラ。彼女は士郎もあんなことを言うんだなと意外そうにしている。

 そしてもう一人は輝夜だ。専属契約をしてから士郎への感情は相当な信頼へと傾いている。だからか、なんの意味もなく拒絶の言葉を使わないことを彼女は確信しているからこそ平常を保っているのだ。

 

 「ぬ?そう言う事か。けど嫌なモノは嫌なんだ!だって男女比率が違いすぎるだろっ」

 「へ?」「ほ?」「なに?」

 「男女比率?」

 「・・・・・・うぅ?」

 

 士郎の言葉に全員が反応した。

 

 「当然の事だが、俺とアリーゼたちがパーティー組めば女性十一人男一人になるだろ?居心地が悪いんだよ男は俺一人と言う所が!その上全員美人ぞろいと来た。目にやり場にも困るし、俺は自分以外のパーティーメンバーが全員女性で気楽に喜べるほど剛の者じゃないんだ。ホント勘弁してくれ」

 

 士郎の本音に一転してほぼ全員照れるアストレア・ファミリアの麗しき使徒達。

 軽蔑の視線を送っていたリューも。泣きが入っていたアリーゼもだ。

 唯一照れずにいるのは輝夜だ。彼女は士郎の言葉のチョイスにまたかと呆れている。

 

 「・・・・・・・・・ふ、ふ~ん?そう、士郎から見て私達全員美人に思えるんだ?」

 「ああ、だから・・・・・・」

 「だからと言って士郎の単独行動を見過ごすわけには行かないわね!ヘファイトス様も貴方の行動に心痛めているんだから」

 「そ、そんな無体な!」

 

 言葉届かず拒否を許されない士郎。

 

 「リュ、リューはどうだ?」

 「はい?」

 

 いきなり白羽の矢が立ったのが自分だったので間抜けな返事をしたリュー。

 

 「俺みたいな無神経な男とパーティー組みたくないよな?」

 「いえ、特にそんなことはありませんが」

 「何!?」

 「先のアリーゼへの拒絶の後は一瞬だけ軽蔑しましたが、先程の真意が理由なのでしたら特にこれといって異論はありません。その上アストレア様の御友神の神ヘファイトスの心労を取り除けるなら喜んでアリーゼの提案を支持します」

 「そんな・・・馬鹿な」

 

 最後の頼みの綱として当てにしていたエルフにも見捨てられて崩れ落ちる士郎。

 そんな士郎を勝ち誇ったようにアリーゼは見下ろす。

 

 「そもそも、士郎がヘファイストス様のご注意を聞き入れないのが悪いんだからね?リオンも賛成したし、これ以上の異論は今度こそ認めないわよ!」

 「がふっ」

 

 断罪の剣は落とされた。士郎には最早逃げ場は無かった。

 士郎のあまりの姿を見かねた輝夜が憐れむ様に声を掛ける。

 

 「決まってしまったものは仕方ないが、今後お前にも私達にも何かあれば変わるだろう。それまで耐え凌ぐしかあるまい」

 「ぬぅ」

 「だが今日は良いんじゃないか、団長。エミヤは今ダンジョンから上がってきた所だろうからな」

 

 輝夜の言葉を裏打ちする様に、士郎が持っているもう一つのバックの中の隙間から上層で入手できるはずのドロップアイテムが幾つか見えた。

 

 「そうね、輝夜の言う通りね。今日は勘弁してあげるけど次からダンジョンに潜る時は私達に同行を求める事。い・い・わ・ね?」

 「・・・・・・分かった」

 

 諦観の境地に至った士郎は力なくアリーゼからの命令に頷くだけだった。

 

 「さて、私達はこれからもうしばらくパトロールを続けるけど、士郎もついて来る?今後私達に慣れる為のお試し期間みたいな感じで」

 

 またも悪戯心を発揮するアリーゼだが、シロウの一言で直に撤退する事になる。

 

 「悪い。これから鍛冶師とは別の仕事が入っている」

 「鍛冶じゃない仕事・・・?」

 

 

 -Interlude-

 

 

 此処はオラリオでも冒険者では無い一般人が多く住んでいる住宅街。

 そこにはいくつもの酒場が有るが、新しくできたにしては一際の存在感を放つ店が在った。

 

 豊穣の女主人。

 ある女性ドワーフが女将を務めているのだが、この店が開店したばかりなのに存在感を強く出しているのは彼女の存在が大きく関わっている。

 何を隠そうこの女性ドワーフ、つい少し前までフレイヤ・ファミリアの団長を務めていたLv6の第一級冒険者で小巨人(デミ・ユミル)の二つ名で有名なミア・グランド本人である。

 とある理由から主神の美神フレイヤと折衝を続けて半脱退状態と言う形でファミリアから足を洗い、この酒場を構えたのだ。

 だがそんな店にも開店早々問題が在った。人手不足だ。

 営業時間は夕方から深夜にかけてと短く、客入りがそこまで多くなければなんとか回せるのだが、お客が多くなれば忙殺モノに豹変する。

 この問題には流石のミアも頭を痛めた。

 そんな時にドワーフの間でのみ繋がりで知った情報で、ヘファイストス・ファミリアのある新入りの成り上がり鍛冶師が中々の料理の腕前を持つと耳にした。これにミアは躊躇なく飛びつき、椿を介して新入り成り上がり鍛冶師の男を緊急時のみと言う条件で雇い入れる事に成功したのだ。

 そして今日は条件の緊急(ヘルプ)が入ったので出勤してきたのが士郎であった。

 

 「来たかい。今日は頼んだよエミヤ」

 「任せて下さい」

 

 料理の腕前には一定以上の自信を持っている士郎は、力強くミアの期待に応える言葉を口にしたのだった。 



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第12話 人形姫との出会い

 そろそろアリーゼとリュー以外のアストレア・ファミリアの二つ名も考えないとなとは思っているんですが、どうにもなぁ。


 「あっ、ひあっ・・・・・・ハッ、はっ・・・・・・っ!」

 

 男は傷を負いながら逃げていた。ダンジョン内で自分に反応して襲い掛かって来るモンスター達も無視してひたすらに逃げていた。どうしても邪魔なのは切り捨てていった。

 

 「おえっ・・・げはっ・・・・・・ぎゃは・・・ぎょは・・・」

 

 逃げる事だけに集中しているからか、無意識的に呼吸困難に陥りかけているにも気づかない。

 暫くして足が限界を迎えたのか、そこから一歩も歩けずに壁に手を置いて全身で呼吸を整える。

 

 「・・・こ、此処まで、来れ、びゃっっ!!?」

 

 安心したのもつかの間、男の真後ろで何かが爆発。衝撃に苦悶しながら吹き飛んでいった。

 

 「あぎゃっ!がっ・・・がっ、はっ・・・・・・ま、まじゃか・・・・・・!」

 

 壁に激突し痛みもあり、息も絶え絶え状態だと言うのに状況把握を優先する様に爆心地である土煙が舞っている場所を注視する男。

 土煙が完全に晴れる前に何かが出て来た。

 

 「見つけたぞ」

 「ぴ、ビぃイイっッ!!?」

 

 出て来たのは別の男。逃げていた男を追いかけていたのは如何やらこの男の様だ。

 

 「待ちぇ、待ってくりぇ!どうして俺を、俺達を襲うんだ!俺達は同じ闇派閥(イヴィルス)の仲間だろうがっ!?」

 

 悲鳴じみた懇願する男に、心底下らなそうに見下ろす男。

 

 「仲間?俺はお前らの様な死ぬことも覚悟せず、神と契約した貴様らを仲間だと思った事は一度たりとも無い。勝手にひと括りにまとめるな、愚図共が」

 「ひ、ピィィっ・・・!!」

 

 恐怖のあまり倒れたままそん場を離れようとするも背後は壁で止まる。

 

 「だが確かに、オッタル(あのクソ猪野郎)に復讐をしたいと言う意味であれば同じ志を持つ仲間――――同志と言えるかもしれん」

 「だ、だろ?だ、だから・・・!」

 「だがお前達では正直言って足手まといだ。その上忌々しい事だが、今の俺でも奴を殺すにはまだ力が足らない。その事を邪神トライヘキサに相談したら愉快な事を教えてくれた」

 

 直後、見る見るうちに男の体が変化していく。それを見せつけられる男は恐怖で顔が引きつり、怯えている。

 

 「邪神トライヘキサから貰った薬はお前らのモノと違って俺のは強力な分、意識してないと体に異常をきたして変貌してしまうらしい」

 

 邪神トライヘキサから受け取った薬と言うのは、以前輝夜の故郷で多くの冒険者を異形に変貌させたモノだ。

 彼らの話から推察するに以前のモノとは違いかなり安定している様で、どうやら何かしらの力を上げる薬の様だがあまり強力なモノでなければ体が異形へと変貌する事はない様だ。

 だが襲撃した男が貰った薬は強力な分、意識していないと体の輪郭が崩れて異形の怪物に成り果てるリスクを持つ様子だ。

 実際男は、輝夜の故郷を荒らした時に変貌した元人間達の外見以上に醜悪に成り果てた。

 

 「それでな、俺がこれ以上強くなるにはお前達が貰った薬を取り込まなきゃならない」

 「だ、だけどもう、俺、俺達もうあれは使っち」

 「ああ、ああ。理解している、承知している。みなまで言うな。だがな、お前達の薬を取り込みさえすればいいんだ(・・・・・・・・・・・・・)

 「へ・・・・・・あ、ま、まさか・・・!?」

 「お前達ごと取り込みさえすれば問題ないだろう?」

 「ヒッ!?」

 

 異形の男の凶悪な笑みに逃亡していた男は、恐らくは、そして信じがたい信じたくない未来を考えてしまい戦慄して怯える。

 

 「俺はお前達を糧として。お前達は俺の一部になってオッタルに復讐を成就させる。そうだろう?同士達よ」

 

 言って、異形の男は口を大きく大きく開ける。到底人間では開けない口の大きさはまるで蛙の様。口の中は剥き出しの鋭い歯と何もかもを飲み込むかのような舌がうねっている。まるで鰐の様。

 

 「ま、待て!よ話っ、ぎゃっあああああああああああああああぁああああああああああああああああ!!!」

 

 喉が裂ける程の苦悶と絶望を形にした悲鳴。同時に何かを噛み砕く激しい擬音と共に血飛沫が宙を舞う。

 少しの間その残虐(行為)が終わるまで、噛み砕き続ける擬音が鳴り響き続けて血飛沫も舞い続けた。

 

 「――――うぷっ。あと4人か。待っていろよオッタル・・・!」

 

 同志を取り込み終えた男は異形から正常の外見に戻り、その場を後にした。残ったのは僅かな血だまりだけ。

 

 

 -Interlude-

 

 

 「フッ!」

 

 星彩の一刀がモンスターの頭部と体を泣き別れさせた。

 アストレア・ファミリアの麗しき使徒達は、全員が今日も今日とて己の器を底上げし昇華にまで至らせる為にダンジョンに潜っていた。

 

 「皆ー!魔石拾い終えたー?」

 「はい、団長!」「勿論」「こっちも確認」

 

 アリーゼからの呼びかけに答えて、魔石拾いを終えてから移動する。

 

 「それにしても士郎の奴、あれから一回もダンジョン潜ってないんだってな?」

 「男1人だけになるのがきついからって、露骨に避けられるとかちょっと傷つくわよね?」

 「大丈夫ですか?アリーゼ」

 「なによリオン!私はショックなんて受けてない!勝手に憐れまないで!」

 

 彼女たちの会話の内容通り、士郎はあの日以来ダンジョンに一度も潜らずいる。理由も恐らくは内容通りだろう。本人は仕事が溜まっているからと言い訳しているが、品質に手を抜かずかつ早く仕上げるを信条にしている士郎にしてはとても見苦しい言い訳でしかなかった。

 だが、ともあれ士郎本人がダンジョンに行かないなら彼女たちも無理強いは出来ないと言う事だ。

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 士郎の件を話題にしている仲間たちの内容に耳だけ傾けながら星彩をじっと見る輝夜。

 この星彩は今はまだただ(・・)の名刀級の業物。だが士郎は今までの常識を破壊するような特殊武装(スペルオルズ)を組み込んでいる。発動する時が来れば、必ずや私の大きな道しるべとなるだろう。

 

 「!」

 

 その時輝夜は助けを求めている声を僅かに聞こえたと確信する。

 輝夜は故郷からオラリオに辿り着くまでの間に多くの人を助けた時の経験値のおかげで、どんなに遠くから聞こえそうで聞こえない助けを求める言葉も聞き取れる様になったのだ。

 

 「団長、助けを求める声が聞こえた」

 「何所から!?」

 

 輝夜の言葉に疑問を持たずに聞く。誰よりも早く助けを求める声を感じ取れるのは何時も輝夜だからだ。

 

 「向こうから!」

 「行くわよ皆!」

 

 輝夜の指示する方角に向けて仲間を声で引っ張り速足で駆ける。

 暫くすると輝夜以外にも助けを求める声を耳に入れることが出来た。救助者が近づいている証拠だ。

 さらに近づこうと探すと、近くから怪我を負った男が這いずる様に現れた。

 

 「ひ、人?冒険者・・・?た、助かった・・・?」

 「大丈夫!?何所をやられたの!」

 

 救助者を見つけて、保護。事情を聴く。

 仲間は恐らく全員やられて無事なのは自分だけ。恐らくと言うのは推測に近い確信。秘密裏に落ち合う場所が幾つかあったが誰も現れなかったとの事。そしてこの怪我は仲間を恐らく全員殺した奴から受けて命からがら逃走する事に成功したと言う事らしい。

 これらの話を聞いてアリーゼを始め、何となく察した少女達が訝しむ。

 

 「貴方まさか、闇派閥(イヴィルス)冒険者(構成員)?」

 「ああ、そうだ。頼むから助けてくれ!このままギルドに連行してくれてもいい!知ってる事も何でも喋る!だから・・・・・・」

 

 その程度の覚悟で闇派閥(イヴィルス)に参加した以前に冒険者をやってるのかと苛立つか何人かの少女達だが、今は拘泥している場合では無いと戒めた。

 

 「だったらまず最低限の事を此処で喋れ。ギルドへの連行はそれからだ」

 「クソ、分かったよ・・・」

 「まず始めにどんなモンスターに襲われた?」

 「モンスターじゃねぇ!俺たちの仲間――――先輩様だよっ!」

 

 この事に驚くアストレア・ファミリアの麗しき使徒達。だが裏切っての仲間殺しをするのは相応の理由がある筈だ。

 

 「その先輩とやらにお前ら何をした?」

 「何もしてねぇええよ!いきなり『お前ら雑魚は俺の糧になれば良い』とか言って襲ってきたんだよ!」

 

 声を荒げる説明に必死さから嘘では無いと判断する。

 

 「では次だ。仲間は全員やられたと言うのに、どうして貴様は生き残れた?」

 「スキルだよスキル!俺に発言した唯一のスキル!自己保存(セルフ・プレゼヴェーション)だ!」

 

 スキルの効果はこうだ。命の危機にが近づくと脳内に生存へ向けての計画書が瞬時に浮かび、同時に逃走の為に脚力が一時的に上昇し、気配も僅かに薄くなると言うものだ。

 ただ、計画書に反するアクションを取ると生存出来なくなる可能性が急激に高まる。

 なお、このスキルはその時が来たら自動で発動するのであって、任意による発動は不可能。

 また連続発動はせずに、次の計画書発動まで最低半刻のインターバルが必要。

 なお、計画書の精度は対象者のレベルで変動する。

 

 説明を聞いて何とも後ろ向きなスキルだと呆れる少女達だが、ライラだけは違った。欲しいと。アタシにピッタリのスキルじゃないか、どうしてこんな奴にと不満も抱いたそうな。

 

 「それで?この近くで助けを呼べば助けが来ると計画書にでも載っていたのか?」

 「そうだ!けどまだだ。今すぐダンジョンから出るんだ。それで助かる筈なんだ!だから早く!」

 

 懇願じみた言葉だが、アストレア・ファミリアの麗しき使徒達にはそうはいかない。

 

 「そんな危険な輩を地上においそれと上がらせるわけには行かん。此処で迎え撃つ」

 「フッざけんな!逃げるのが吉なんだよ!だから早く・・・!」

 「私達はいずれ必ず台頭するアストレア・ファミリアよ?こんのところで逃げるわけには行かないわね」

 「そんなに逃走したければ貴様だけでいくといい。別に未だ拘束していないのだ。とっとと失せろ」

 「っっっ!!?」

 

 自分の思い通りに動かない女達に苛立ち、さらに怒声を張り上げようとするが脳内に浮かんでいた筈の計画書が溶けて消えた。それはつまり。

 

 「来ちまっただろうがよぉおおおお!!?」

 

 男は怯えながら指を指す。

 指差す方向に向けて全員一斉に振り向くと、剣呑なオーラを纏わせた一人の男が到着したのだった。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 アストレア・ファミリアが男達と邂逅する少し前、士郎は今夜もヘルプとして豊穣の女主人の料理人をしていた。

 今夜のヘルプの理由はロキ・ファミリアが客としてくるために、圧倒的な人手不足になる事を見込んでの事だ。

 

 「フン・・・!」

 

 おたまを握り鍋を振るう。火の熱にも負けず汗だくになりながらも振るい続ける。同時に暇を見つけてはかまどをチェックしながら、また別の鍋を振るう。自分の手の届く範囲の調理器具を支配して、ただ一人で多くを並行処理していく。

 

 「フフ・・・!」

 

 たった一人で十人分以上の仕事をこなす士郎に満足そうに見守るミア。

 そこへ客たちが賑わいを見せていた方から物騒な物音と同時に悲鳴が彼女の耳たぶを打った。

 

 「アイツ等っっ・・・!!」

 

 穏やかな笑みから一気に苛立つ怒気へと表情を変貌させたミアが出撃する。

 少しして。

 

 「――――この、アホンダラがっぁああああああああああああああ!!!」

 

 同時に凄まじい衝撃が厨房にまで伝わって来た。

 士郎はその前兆を感じ取っていたのか、衝撃が来る直前で全ての火を消し、衝撃が失せる余韻で再び火をつける。

 直に調理の再開をしていると未だに苛つきが収まっていないミアが帰還。士郎が調理している料理の鍋の一つを使い出した。

 

 「エミヤ!アタシとこいつ等で暫く厨房はやっておくから、アンタは人形姫の様子診てやんな」

 「「「えぇええええ~~~!!?」」」

 

 今もただでさえ大変なのにこれ以上仕事を一時的でも増やされたら死んでしまうと言う正式な料理スタッフ達の悲鳴が鳴り響く。

 しかしミアは彼女たちの反応を無視して士郎を行かせる。

 背中を押されて大テーブル席に来た士郎は一人の幼女を囲う様な人集りに声をかける。

 

 「すいません」

 「ん?なんや少年?」

 

 士郎の呼びかけに答えたのはなんとも独特な衣服の女性。糸目の猫っぽさを感じられるのに圧倒的な存在感。人ならざる者。恐らくは超越者(デウスデア)――――神の一柱で、彼らの下に居ると言う事は彼女こそが主神ロキなのだろう。

 

 「ミアさんから人形姫ちゃんを診てやんなと言われて来たんですが」

 「人形姫ちゃんて・・・・・・」

 「な、なんです?」

 「此処は女将含めて全員女性だけの筈やのに、なして男の自分がおるん?」

 

 神ロキは極度の男嫌い――――と言う訳ではないが、女好きと言う事もあってこの店を将来に渡って行きつけにしようと考えていた。なのに男のスタッフが要るモノだからと、カウンターを喰らった感じで訝しんでいるのだ。

 勿論士郎は神ロキの趣向など知らないが、怪訝な顔をされたのでヘルプであり正式なスタッフじゃない事などを説明した。

 

 「成程な~、それなら納得や」

 「ご理解いただけたなら良かったです。それでそこの女の子の介抱ですが・・・」

 「この子の回復ならもう済んでいるぞ?」

 

 士郎の行動に待ったをかけたのは容姿端麗の美人だと一目で判るエルフだ。

 

 「そうですか。ですがまだ目を回しているように気絶しているのはお酒でも飲ませましたか?」

 

 士郎の質問に怯むロキ・ファミリアの面々。特に調子に乗ってアイズに酒を勧めた団員達。

 彼らも解っているのだ。幾ら恩恵の効果があるとはいえ、十歳にも満たない子供に飲酒をさせてしまった意味が。

 

 「あまりこの子ぐらいの子供に飲酒をさせるのは感心しないんですがね」

 「あ、いや・・・」

 「まあ、今はこの子の酔いを醒ますのが先決ですね。少しその子に触らせてもらっていいですか?」

 「構わないが、そんな事出来るのか?」

 

 人形姫の近くの場所を士郎に譲りながらエルフが聞いた。

 

 「ええ、まあ、そう言う事に応用できる技術は修得済みですから」

 

 言って両肩に手を置きながら説明する。

 

 「人にもこの星にも力と言うか気と言うか、エネルギーの流れと言うモノが有ります。その流れを外部からの要因によって乱れることがあります。その流れが乱れると人も土地も正常ではいられません。この子の今のケースは酒が原因ですね。ですからこのように」

 

 士郎は幼女の肩から首のつけねのツボにちょっとした魔力を流し込んだ。

 

 「・・・・・・んぅ」

 「すれば流れを正常化させて酔いから醒めると言う寸法です」

 

 徐々に幼女から覚醒の兆候が見られた。

 この結果に自分達の迂闊さに反省して、士郎に感謝するロキ・ファミリア(面々)

 

 「すまないな少年」

 「いえ、ミアさんからの指示ですし。こんな状態の子供放って置けませんから」

 「今のは魔法かスキルの類なのかい?」

 「いえ、半分以上マッサージの領域です。俺はそれに少々アレンジを加えただけですから」

 「ほぉ~?」

 

 感謝するとともにロキ・ファミリアの数人から質問され続ける士郎だが、厨房から悲鳴が上がる。

 

 『士郎早く帰って来てぇええええ!!』

 『死ぬぅうううう!!?』

 『喧しい!口じゃ無く手を動かしなッ!!』

 『『『ひぇええええええええ~~~!!?』』』

 

 これをちゃんと聞いていた士郎は苦笑して厨房に戻りますと言った。

 それに対して面々はどうぞどうぞと促す。

 

 「あっ、そうだ。この子の好きな食べ物嫌いな食べ物有ったら教えてもらいますか?」

 「?構わないが・・・・・・」

 

 士郎からの謎の質問に訝しみながらも答えて行く。その間も厨房からは悲鳴が上がる。

 

 「―――で最後だ」

 「ありがとうございます」

 「アイズの好き嫌い知って、何する気や?」

 「その子が気絶した経緯は聞きました。ですがこの豊穣の女主人はいい店ですから、この事で苦手意識を持って欲しくないんです。ですから、このお店に来れば美味しいモノが食べられるよと印象付けるために気に入りそうなのを作ってきます。みなさんがお帰りになるまでには間に合わせますので、失礼させてもらいますね」

 

 もう用は済んだのか、さっさと厨房に引っ込む士郎。

 少しして入れ替わるように出て来たのはミアだった。

 

 「なぁ、なぁ、女将」

 「なんだい。忙しいんだよ、手短に言いな」

 「さっきの少年、誰なんや?」

 「足運びと言い、一般人じゃないよね?」

 

 士郎の挙動を終始観察していた小人族(パルゥム)の団長、フィン・ディムナもロキの質問に乗っかって来た。

 対してミアは鼻を鳴らしてめんどくさそうに答える。

 

 「ヘファイストス・ファミリアの一年半目の新入り鍛冶師だよ。料理の腕が高いって噂聞いて、椿の奴を介して話をつけたのさ」

 「ほぉ~?ファイたんの・・・・・・」

 「そう言えば椿の奴から聞いたのぉ。面白そうな新入りが入ったと。既に達人鍛冶師(マスター・スミス)の腕を持つ規格外ぶりなのに、作る飯が妙に美味くて工房に暫く籠る時は保存食を作って貰うと」

 「下級冒険者の下級鍛冶師の身でマスター・スミスの腕持ちか。それに既にあの動き、彼は冒険者としても大成出来るだろうね」

 

 自分達にとって何処までも格上かつ組織の幹部の方々から、ここまで興味を持たれる先程厨房に引っ込んだ少年に嫉妬を隠せない団員達。

 

 「何勘違いしてんだい?既にエミヤはLv3だよ」

 

 ミアからのまさかの言葉にロキ・ファミリアほぼ全員が目を剥いた。

 

 「先程一年半目の新入りとか言ってませんでしたか!?」

 「オラリオに来てからの話だ、アホンダラ共。来るまでに別の神と約一年くらい契約してたらしいね。しかも契約してから僅か半年ほどでLv2にランクアップしたくらいのデタラメぶりだ。都市外でその能力を腐らせておくにはもったいないってことでオラリオ(此処)に来るのに背中押されたらしいね」

 「「「「「~~~~~~~っっっ!?!?」」」」」

 

 ミアの言葉に驚きが止まらない団員達。

 団員達程ではないが、主神一柱と幹部三人も十分驚いていた。特にロキなど下界の住人(子供)達の口にする言葉の真偽を容易に見抜けてしまうので、フィン達以下団員以上といった所だ。なので。

 

 「お、女将!その話もうちょい詳しくっ!!」

 「喧しい!アタシは忙しいって言ってんだろ!もう十分話したのに、これ以上手間かけさせるならその首引っこ抜いてやろうか」

 「ひ、ひぇええええ~~~!か、堪忍してや~!?」

 

 主神がピンチでも見向きもしないフィン達。少なくとも彼らの興味の対象は厨房に引っ込んだ士郎だけに向いていた。

 

 「椿の話の通り、規格外だね彼は」

 「本当だとしたら、な」

 

 下界の子供たちは誰一人として神に嘘は付けない。だからミアの説明には疑いはかけていない。であれば、エミヤと呼ばれた少年がミアに嘘をついた可能性はある。ミアを眼前にして嘘をつければの話だが。ガレスの疑いは単なる皮肉。ミアの言葉を素直に信じたくないガレスなりのポーズである――――と言うのはフィンもリヴェリアも見透かしていた。

 

 「む、アイズが目覚めたぞ」

 

 そこで漸く目を覚ましたアイズ。これにより宴再開。アイズはエミヤの杞憂通り、ミアを視界に入れる度にびくっと反応して恐がり、あまり楽しそうでは無くなっていった。

 そこで多くの団員が酔いによって宴を閉めようかとした所で宣言通り、士郎が厨房からデザートらしきモノを持って出て来た。

 団員達の視線が集まる中、士郎は気後れすることなくアイズの前に立つ。

 

 「あ、あの、私・・・・・・」

 「ハイ、これ」

 「?」

 

 いきなり目の前に置かれた見た事もないデザートに戸惑うアイズだが、士郎は食べてみて欲しいと言うジェスチャーで促す。

 促されて恐る恐る口に運ぶと。

 

 「っっ!!」

 

 何の味か判別できないが、兎に角甘い美味が口の中で広がり幸福感を齎して来る。その感覚を消さないためにと、次々に匙を使って口の中に投げ込む。

 

 「気に入ってくれたかな?」

 

 リヴェリアから説明を受けた私を起こしてくれた人が聞いて来るので、私は食べながら頭を数回上下に振る事で応える。

 

 「実はね、アールヴ様から」

 「様は要らないぞ少年。あと、リヴェリアでいい」

 「では、リヴェリアさんから教わった君の嫌いなモノで全部構成されているんだそのデザートは」

 「っっっ!!!?」

 

 先ほど以上の驚きを受けるアイズは思わず匙を止めて士郎を見上げて来た。

 

 「どんな食材も工夫次第で美味しくもなるし不味くもなる。態度やルールもだ。このお店のルールさえ守ってくれるならお兄ちゃんがいる時に限るけど今みたいなのや、別の美味しい料理も食べさせてあげるからこのお店を苦手にならないで貰えるかな?」

 

 よくは憶えてはいないけど、元はと言えば私が暴れてしまったのが原因だと言う事くらい分かっている――――つもりだ。だからこの人からのお願いに答える前に。

 アイズは席から離れてミアに近づいた。

 

 「なんだい」

 「えっと・・・・・・覚えていないけど暴れてごめんなさい」

 「ほお、ちゃんと謝罪するとは良い心がけじゃないか。なに、これから先うちのルールさえ守れば良いのさ」

 「は、はい」

 

 あのミアが素直に謝罪を受け入れるはと、意外感を示しつつ感心するロキ・ファミリア一堂。

 

 「それに、壊した物は全部アンタの保護者達に弁償させるから構いやしないよ!」

 

 これにロキ・ファミリア全員がうぐっ、と唸る。

 

 「何だいその反応は?まさか天下のロキ・ファミリアともあろう者達が、自分達のとこのがやった不始末のケツを自分達で拭かないつもりじゃないだろうね?」

 

 最後は言葉にドスが効いていて、幹部以外が怯み、正論故に幹部達であるフィンたちも黙った。さらには怯んだ者達の中には調子に乗ってアイズに酒を勧めた者達は誰よりも頭を垂れた。正しくこれこそ、ぐうの音も出ないと言う奴では無いだろうか?

 

 「ま、まあ、兎も角ちゃんと謝れたのは偉いぞ?」

 「は、はい」

 

 変な空気になったので誤魔化すようにアイズを撫でながら褒める士郎と、それを甘んじて受けるアイズ。

 その撫で方が凄く懐かしくて気持ちよくて、気が緩んだアイズはつい言ってしまう。

 

 「わ、私の名前はアイズっていうんだけれど、貴方のお名前は?」

 「ん?そう言えば自己紹介してなかったな。良い名前だな透き通った水面を表している様で。うん、兄ちゃんの名前は士郎って言うんだ。エミヤ・士郎。よろしくなアイズちゃん」

 「ちゃんはい、いらない。アイズで良い。そ、その・・・・・・」

 「俺の名前も好きに呼んでくれていいぞ、アイズ」

 「う、うん。士郎。起こしてくれて、美味しいデザートまでありがとう」

 「どういたしまして」

 

 言いながらもアイズの頭を撫で続ける士郎と、気持ちいのか甘んじてそれを受け続けるアイズ。

 何とも言えない空気からあの二人だけの話で士郎に話を聞くタイミングを失したフィン達。

 

 ――――それにしても。

 

 なでなで。

 ふみゅう。

 なでなで。

 ふみゅう。

 なでなで。

 ふみゅう。

 

 士郎と名乗ったあの少年、アイズを撫で過ぎではないだろうか?

 フィン達の誰かが或いは全員がそう考えた時だった。

 

 「ア、アカン・・・」

 「ロキ?」

 

 人は神に嘘をつけない特性を利用して、この空気の中でも士郎と言う少年に質問するのだろうかと考えた時。

 

 「今やアイズたんはうちのカワエエカワエエ子供の一人や。そんなアイズたんの貞操喪失の危機!」

 

 いきなり何をと止めようとしたが時間が間に合わずアイズと士郎(二人)に跳びかかって行くロキ。

 

 「アイズたんの大事な操はうちが命をかけて守っ、とぶふっ(喧しい)っ!!」

 

 奇行に走ったロキを死なないようにかつ素早く強引に殴って止めたのは、他でもないミアだった。

 

 「アンタらもう帰るんだろ?壊した物品の弁償は後日で良いから、この表六玉をとっとと連れて帰りな」

 「わかった、すまんのぉ」

 

 こんな時ばかりは素直にミアの言葉にを受け入れるガレス。勿論気絶したロキを背負う。

 

 「士郎。バイバイ」

 「ああ、おやすみアイズ」

 

 そして最後にまた撫でる受け入れる。

 士郎に聞きたい事が在ったフィン達も、今日は止めてもうホームへと帰還する事にして豊穣の女主人を後にした。

 

 「全く面倒な連中だね」

 「独特な方が多いとは感じましたけど」

 「まあ、いいさ。そら、厨房に戻るよ」

 「はい」

 

 ロキ・ファミリアを見送った後、直に店内に戻る二人。

 暫くして常人やそこらの冒険者では聞き取るのは難しい距離で士郎とミアだけが気付いた。

 

 「また誰か暴れてますね?」

 「闇派閥(イヴィルス)のクソ共だね。もう片方は・・・・・・」

 

 聞き覚えがある士郎は少ししてから気付く。

 

 「まさか、アストレア・ファミリアの麗しき使徒(アリーゼ)達?」



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第13話 忍び寄る闇

 ソード・オラトリア12巻最高でした。面白かったので、もう五回も繰り返し読みました。


 ギルドの受付では何人もの冒険者が机を乱暴に叩き付けて受付嬢に怒鳴っていた。

 

 「この手配書は一体どうなってやがるっ!」

 「強化種が一体だけの筈が四体なんて聞いてねぇぞ!」

 「そ、そんな筈は・・・!?調査を依頼した別のパーティーの報告では確かに一体だけですと・・・」

 「そんな筈もあるかクソッタレ!」

 「俺のパーティーはその、そんな筈の誤情報で半壊状態なんだよっ、どうしてくれる!!?」

 

 誤情報と言う理不尽に踊らされたからの激昂状態の冒険者達と、必死に宥めるように抑える受付嬢の混沌とした光景がギルドの玄関で繰り広げられていた。その光景を秘密裏に設置してあるマジックアイテムの眼晶(オクルス)で盗み見る者達がいた。

 

 「まただなウラノス。ここ最近で何度目だ?」

 「・・・・・・・・・」

 

 ギルドの真の頂点であり、オラリオの創造神たる神ウラノス。それとこのオラリオでも極々一握りの者達にしか存在を認知されていない黒いフードに身を包んだ性別・年齢不詳の怪人で非公式の神ウラノスの私兵兼側近の魔術師(フェルズ)だ。

 

 「強化種の出現。これ自体は珍しい事ではあるが、ないわけではない。だがここ最近の事前調査の時点で判明していない強化種の増加はあまりに異常過ぎる。ウラノス、貴方はどう思う?」

 「・・・・・・・・・何者かの昏き意思、いや神意を感じる」

 「もしや、闇派閥(イヴィルス)の邪神の誰かが?」

 「或いは全員が裏で糸を引いている可能性も否めないな」

 

 僅かに沈黙が場を支配する。だがそれも一瞬の事。

 

 「危険ではあるがリド達にも動いてもらう。構わないかウラノス?」

 「・・・・・・・・・」

 

 その沈黙は肯定の意であろう。確認したフェルズはリド達に動いて貰うべく、オクルスで早速連絡を取ろうとする時にダンジョンの入り口に仕掛けていたオクルスから異常事態が見える。

 

 「あれは、冒険者――――アストレア・ファミリアが入り口付近で何者かと戦っている?」

 

 それはアストレア・ファミリアの戦闘の光景だった。彼女達はお互いを庇いながら一人の男と戦っていた。その時。

 

 「なにっ?」

 

 オクルスから見える光景には男が醜い化け物に変貌した。

 

 「ウラノス、神威はっ!」

 「破られていない、オルクス越しだが彼は人間だ。少なくともモンスターではない」

 「スキルや変身魔法・・・・・・には見えなかったが一体何が起こっている?」

 

 最初から全知の神であったウラノスにも、昔は賢者と呼ばれた生きる亡霊の五百年分の知識を治めたフェルズでさえも後手に回る事態が起きていた。

 唯一予感できるのは、今も直混沌とした時代を更なる闇がオラリオを静かにだが確実に蝕もうとしている事だけだった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 ダンジョン内で一人の男相手に総出で戦っていたアストレア・ファミリアは、ダンジョンの入り口である地上のバベル前まで後退を余儀なくされていた。

 

 「っ!?」

 

 本来であれば互いを庇い合い攻防にも鋭さを持たせたアストレア・ファミリアの連携は、目の前の敵を圧倒は出来ずとも徐々に押し返して戦いを有利にすることは出来た筈だった。

 出来ずにいる原因は主に二つ。

 一つは自分達が保護した奴が邪魔過ぎた。拘束していればと後の祭りよろしく後悔したモノだが、彼は中途半端に回復しては地上へ向けて逃げ、倒れる。暫くして回復しては逃げて倒れるの繰り返しをして彼女たちの陣形を大いに崩した。

 

 「邪魔だ、小娘共ォオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 敵の狙いはあくまでも、彼女たちが保護した厄介者であり、敵にとって彼女たちはそれを阻む路傍の石ころと言う認識でしか無い。

 

 「がはっ、ハァハァ・・・・・・」

 「輝夜っ」

 「輝夜の事は今は放っておきなさい!」

 

 そしてもう一つの原因が彼女たちの仲間で、現時点で誰よりも技の冴えが鋭い輝夜の戦闘不能状態にあった。別に敵に早々にやられて大怪我した訳では無い。事実彼女は途中まで誰よりも敵に肉薄して、膂力で負けている分は技の冴えでたった一人で敵の攻撃の六割を防ぎきっていた。あの男が醜悪な化け物に変貌するまでは。

 

 「ハァ、ハァ・・・・・・クソっ」

 

 輝夜は自分の脆弱な心が憎らしかった。肝心な時に立ち上がれず屈辱だった。立ち上がり仲間達と共に敵を打倒したくても出来ない自分を恥じた。どうしても出来ないのだ。トラウマが起きたせいで。

 ――――恐れながらも探した証が私の目の前で顕現した事で。

 胃が捻り曲がる様な幻痛が私を蝕む。なんて私は惨めなんだ。

 

 「………っ」

 

 そんな輝夜を仲間達は皆気にしながらも戦い続ける。中でも一番気にしているのは他でもないアリーゼだ。彼女と女神アストレアのみが輝夜の過去を本人の口から聞いていた為、その戦闘不能状態から目の前の敵が元凶がオラリオに来ている証であり、手がかりなのだと理解もしたのだ。出来れば生け捕りにしたいがそんな余裕もない。

 

 「フッッ!!」

 

 早くもアガリス・アルヴェンシスを発動させているアリーゼは、そのまま細剣(レイピア)で強烈な突きを喰らわせに行った。しかし。

 

 「なっ!!?」

 

 敵の隙を突くために仲間に協力してもらい、両腕の防禦が間に合わない様にした瞬間を見極めて喰らわせられる必殺――――の筈だった。相手の動作速度の催促を戦いながらも観察し続けたにも拘らず、絶対の間に合わない腕が彼女の燃え上がり続けるレイピアの切っ先を確かに掴み取っていたのだ。

 

 「あっっちいんだよぉおお!クソ女がぁああああああああああああああああ!!!」

 「ああっ!?」

 「アリーゼ!?」

 

 もう片方の腕でアリーゼを馬鹿力で突き飛ばした醜悪な敵。それを目にしていた保護されている厄介者は、またも怯えながら逃げ出した。よりにもよって一般市民の住宅や宿屋、酒場が多く在る西地区(・・・)へ。

 

 「馬鹿!?」

 「いけない!」

 「何でそっちに逃げるのよっ!!」

 「邪魔だ小娘共ぉおお!!」

 

 走る場合は醜悪な状態よりも元の姿の方が速いからか、人間の姿に戻った敵の男はアリーゼが抜けて崩れた陣形の隙をついて本来の標的を追った。

 

 「大丈夫ですか団長!」

 「私の事はいいから!追うわよ!!」

 

 アリーゼの掛け声にほぼ全員頷いて彼らを追った。唯一戦闘不能状態だった輝夜は、脆い心に鞭打ってなんとか追随したのだった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 西地区。

 

 「こんのぉ!」

 

 魔法やスキルを駆使して、追いつくどころかなんとか追い抜いた彼女たちは、今は結果的に厄介者を守る陣形になってはいるが、それを切り捨てる事にした。

 

 「此処から・・・!」

 「出て行けェええ!!」

 

 この西地区の一般住民の人命を最優先する事にしたのだ。だが。

 

 「邪魔だぁああ!!」

 「ぐっ!?」

 

 敵の体当たりでリュー・リオンは突き飛ばされた。そして倒れ込んだ場所はある酒場(・・・・・)の目の前だった。偶然にも。

 

 「今、リューの声がしたようなって・・・・・・・・・リュー!?」

 

 外が騒がしいので様子を見に、表へ出てきた士郎は彼女を直ぐに抱き寄せて介抱しようとする。

 

 「触るっ、て、エミヤ・・・さん・・・・?どうして此処に?」

 「鍛冶以外の仕事を非常勤でしてるって言ったろ?って、今はそんな事はいい!どうした・・・・・・と」

 

 事情を聞こうとした所で、辺りを見ておおむね理解する士郎。

 

 「どうだったんだいエミヤ?って、何だいその覆面?」

 

 続いて現れたのは不機嫌そうなドワーフの女店主、ミアだ。

 

 「彼女はファミリアが違いますが俺の仲間で・・・・・・」

 「ああ、いい。大体わかった。アイツかぁ・・・・・・」

 

 士郎と同じく周囲の状況から直にミアも騒ぎの元凶を目に留て理解した。

 その元凶は今まさにどこの誰か判らない、服装からして冒険者だろう男に襲い掛かろうとしていた。

 だがそれを止める者がいた。それは正義感からだろうか?いや、違う。仲間を傷つけられた怒りと、商売を邪魔してくる怒りの二つだ。

 

 「ヒィイイ!!?」

 「これで終わっ!?」

 

 食うためにまたも醜悪な化け物へと変貌しようとした直前、自分の斜め前の左右に一組の男女が突然出現した。

 

 「俺の仲間を傷つけておいて好き勝手に暴れてるんじゃねぇ――――」

 「アタシの店の近くで暴れやがって、営業妨害だ――――」

 「「――――よっっ!!」」

 

 文句が先か攻撃が先か、元凶に向けて、言うと同時に士郎は強烈な蹴りを鳩尾に突き刺すように放ち、ミアは並外れた膂力が籠った握り拳を遠慮容赦なく顔面に突き刺した。

 

 「ごぺきゅっっっ!!!?」

 

 元凶は鳩尾への蹴り技によって多大な内臓への負荷へ繋がり、その反動で血反吐を思い切り吐こうとした。だが顔面への攻撃により鼻の骨は砕け続け多くの歯も砕け散り、顔面は変形して無理矢理気道が一瞬封鎖されて、血反吐を吐く以前に呼吸すらままならくなった。が、それも一瞬の事。

 

 「ぶろろぉおおおおおおおぉおおおおおお!!!!?」

 

 士郎の蹴りとミアの拳が元凶の体から離れた。否、自分の体が衝撃で後ろの吹っ飛んでいっただけ。皮肉にもそのおかげで血反吐を吐きながら気道も確保できた。

 そうして吹っ飛んだ元凶は何度かバウンドしてから地面引きずる跡を作ってから止まり地面に沈んだ。

 

 「まったく、なんだったんだい?」

 

 下らないと吐き捨てながらミアは店の中に戻って行った。

 見送った士郎はリューを始め、アストレア・ファミリアの麗しき使徒達に手を貸す。

 

 「大丈夫かアリーゼ?」

 「私よりも敵の拘束をお願い」

 「む、わかった・・・・・・と?」

 

 アリーゼからの頼みで、吹っ飛ばした敵を拘束しようと立ち上がろうとした所で、男を包み込むように術式が展開されて。

 

 「っ」

 「消えた?」

 

 彼女たちや衆目の中、散々暴れて気絶した男は術式と共に消失した。

 

 ――――あれは転送・・・?

 

 この場で士郎だけがあの現象を正しく理解出来た。

 

 「団長こっちもです!あの男、約束破って何処かに逃走してしまったかもしれません!」

 「くっ!」

 「何の話だ?」

 

 流石にこればかりは事態の把握が出来ずに尋ねる士郎。

 

 「それが――――」

 

 

 -Interlude-

 

 

 あの後事情説明を聞いた士郎を残してアストレア・ファミリアのほぼ全員で、約束を反故にしたであろう男の捜索に駆り出ている。唯一ホームに帰還しようとしていたのは輝夜だけだ。これは団長命令であり、休むのも勤めの内だと言われては仕方がなかった。

 

 「・・・・・・惨めだ」

 

 あの話し合いが終わる前に何とか追いついたが、士郎と目が合った。アイツは私を心底心配そうに近づこうとしたが、私が目で拒んだ。今は構わないでくれと。

 士郎はそんな私の気持ちを汲んでくれた。だがそれが余計に自分はさぞ惨めだったろうと客観的に思えてしまったのだ。

 

 沈んだまま輝夜がホームの扉を開けると。

 

 「あら、お帰りなさい輝夜」

 「ア、アストレア様・・・」

 

 帰還直後、広間に居たのは彼女たちの主神アストレアだ。

 彼女はすぐに輝夜の暗い顔である程度察した。

 

 「今の貴方がすべきことは休む事ね」

 「・・・・・・はい」

 「後でホットミルクティーを持って行くから大事にしていなさい」

 「ありがとう・・・ございます」

 

 アストレアの気遣いを受けて自室に戻る輝夜。ベットに腰を掛けて俯く彼女は机の上のみ覚えのない一通の手紙に気付いた。

 

 「・・・・・・何時の間に。誰からだ・・・・・・?」

 

 立ち上がり机の傍に行き、手紙を取り中を開けてみると。

 

 『久しぶりだね輝夜君』

 

 大きく記された文字に誰からだろうと訝しむこと数秒。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま、さか!?」

 

 私のこれまでの人生で、呼称に君付けをしてきたものは一握りしかいない。まずオラリオには誰もいない。心当たりはない。とすればオラリオに来るまでの誰かだが、その中の誰もが結果的に全員既に故人だ。ある一人を除いて。

 だがこの文章だけでは判らない。手紙は蛇腹降りとなっており開けばすぐに解る。

 

 「嫌だ」

 

 開きたくない。続きを読みたくない。だが此処で手紙を破り捨てても恐らくなにも変わらない。

 塔の屋上から投身自殺する思いで手紙を全て開くと。

 

 『約束通りオラリオに来てくれて嬉しいよ。宣言した通り私は今もこのオラリオの何処かに居る。此処に来たと言う事は、私の戯れに付き合ってくれると解釈しても良いのだろうか?だとすれば是非歓迎したい、そうでなくても勝手にするがね。君のファミリア全員や友人の鍛冶師共々退屈はさせないよ、楽しみにしておいてくれ。 フジヤマ・陽の仇より』

 

 「!!」

 

 想像通り、いやそれ以上の内容だった。もう既に私の周囲を把握されている。このままだとアストレア様とアリーゼ達、その上士郎まで巻き込む事になる。ならばいっそ・・・・・・?

 

 偶然にも最後のページの裏にまだ書かれていた文章を見つけてしまった。

 

 『追伸、今君がアストレア・ファミリアから離れたとしても、君と親しくなった者達の事はずっと認識し続けるとも。それを忘れないように最善の選択をしてくれたまえ』

 

 「――――」

 

 あまりの事に足に力が入らずに崩れ落ちる輝夜。

 

 「どうすればいいんだ・・・・・・・・・私は、私は・・・・・・!」

 

 答えが返ってくる事は無く、絶望と言う名の宣告が輝夜の心を蝕んだ。




 最初はリューをメインヒロインにしたのを書こうと始めたのに、いつの間にか輝夜とアリーゼがメインヒロインっぽくなっている。何故だ。


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第14話 過去に立ち向かうために

 天界に邪神などいない。そんな概念は無い。少なくとも邪神と言う概念は下界にしかない。

 そもそも邪神とは、六年前までの約千年間、オラリオに存在していた最強の二大ファミリアの主力が隻眼の竜の討伐クエストに失敗・全滅し、弱体化した末にオラリオから追い出された事がそもそもの始まりだ。最強と言う存在が消えた事で抑圧されて来た暴力や悪・残虐と無秩序の意思が一気に表面化した。それらの昏き神意の下に集まる混沌の意思の集合を俗に闇派閥(イヴィルス)と呼ばれ、そこの主神たちをギルドが邪神と指定・認識したのだ。

 ともあれ、闇派閥(イヴィルス)の主神たちは邪神と呼べれても気にする神も居らず、寧ろ喜んで受け取る神々もいたくらいだ。

 だがこの神は前者だった。

 

 「やあ、トライヘキサ」

 「ん?タナトスか。何の様だ?」

 

 前者の邪神タナトスが自称・邪神のトライヘキサに声を掛けた。

 

 「聞いたかい?モンスターの一体がバベルを突破したらしい噂を」

 「ほお?そうなのか。しかしウラノスがいる限りそう容易く突破できるとも思わんが」

 「噂だと言っただろう?詳しい所までは知らないが、そのモンスターは子供たちに化けられるらしいよ?」

 「化けた所でウラノスの神威を突破など出来る筈もないだろう。まあ、お前は基本的に暇神だろうから、その手の話の一つでも暇つぶしにしたいと言う気持ちは判らんでもないが」

 「暇神呼ばわりは酷いな。ギルドが邪神認定解いてくれたら街に繰り出せるんだけどね~」

 

 タナトスの言う通り、闇派閥(イヴィルス)の各ファミリアの主神たちは以前のように街をぶらつけない。まず護衛無しで街に繰り出せば、即座に御用となりギルドに連行された後、天界への強制送還となるだろう。

 それほどまでに全邪神は危険視されると同時に重要視されている。それこそ、自分達の子供達の懸賞金額を超えるほどの賞金首としてギルドに認定される程に。

 

 「それにしても珍しいじゃないか?俺達闇派閥(イヴィルス)の邪神達で一番の情報通の君がこの噂を知らなかっただなんて」

 「引っかかる言い方だが、そう言う事もあるだろう。私はこれでも忙しい身なのでな」

 

 以前からタナトスは――――いや、全邪神は最初に会った時から思っていたことがある。

 

 「まあ、また何か面白い情報が入ったら知らせて欲しいな」

 「勿論、その時は満足いくまで聞かせてやろう」

 

 ――――邪神トライヘキサ(コイツ)何だ(・・)

 

 

 -Interlude-

 

 

 夜が明けても昨夜ちゃんと寝たのか寝れなかったのか定かでは無い輝夜。ハッキリ言って呆然自失状態の彼女だが、そんな事にお構いなく突撃したのはアリーゼであった。

 

 『輝夜、あの後も何が在ったのかも知らないけど皆にちゃんと話しましょう?』

 『詳・・・細は・・・・・・』

 『言いたくない箇所は伏せていいから、大切な箇所だけでも話しましょう?大丈夫、皆分かってくれるわよ!』

 

 何の根拠もないのに、いつでも明るく自信満々に言い放つアリーゼ。

 アストレア・ファミリアに入った時から、輝夜はいつだって彼女の笑顔に救われてきた。そしてそれは今回も。アリーゼの優しさと強さに背中押された私は。

 

 「――――と言う事だ」

 

 所々詳細を省いて仲間達に説明し終えた。

 

 「そんなヤバい奴に目をつけられてるのかよ、輝夜!」

 「注意する所はそこじゃないだろ、ライラ」

 「ええ、何所であろうとそんな外道を放置できません」

 「お前達・・・!」

 

 仲間たちの反応に意外感と言う訳ではないが嬉しさを感じる輝夜。ライラは伏せた情報辺りを何となく察して、揶揄う事で輝夜を元気づけようとしたのだろう。ライラらしい。

 

 「その手紙の内容通りなら探す必要は無いんじゃないのか?」

 「いやいや、人の命を何とも思わず冒険者を化物に変貌させる薬を誰彼構わず使う外道を放置するのは危険でしょう?」

 「何より、そんな相手のメッセージを鵜呑みにするのは危険ですよ?もしかしたら手紙の内容はブラフで、私達に一切の接触を持たずにこのオラリオで更なる混沌へ追い落とす可能性の方が高いんじゃないですか?」

 「むぅ」

 

 最早我がごとの様に議論する仲間達を見ていた輝夜に、アリーゼは。

 

 『ね?言ったでしょう?』

 

 みたいなドヤ顔を満面の笑みのまま向けていた。

 

 「だけどそんな外道も一応神を名乗ってるんでしょう?アストレア様は何か心当たり在りませんか?」

 「性格や神格に多少なりとも問題がある神の方が多いの現実ですが、そこまでの非道に躊躇なく実行する神となると、少なからず心当たりがありますが、下界に降りて来てファミリアを作り子供たちと触れ合う事で丸くなりましたから、それ以外は心当たりはありませんね」

 

 主神(アストレア)の言葉に残念がるのは2,3人だけ。他は最初から期待していなかったとかそういう事では無い。自分達に話す以前からアリーゼ含めて輝夜から聞いていたとすれば、少しでも心当たりがあるなら調べてきた事を信じているからである。最初の2,3人は頭がちょっと残念なだけだ。

 

 「せめて手掛かりが有ればいいんだろうけど」

 「手がかりではありませんが、新たにギルドに報告すればいいのでは?昨日バベルを突破したのはモンスターでは無いと、詰めかけた一般人の方々や商人への説明で追われている筈。冒険者を化け物へと変貌させる危険な薬を作っている者がいると報告すれば」

 「もしかすればギルドの協力を得られるかもしれないって事?」

 「悪く無いアイデアだと思うけど、あのロイマンが素直に協力してくれると思うか?」

 「疑い出したらキリがないわ!リオンの提案に乗ってギルドに報告しに行きましょう!」

 

 アリーゼの決定で何時もの様に方針が纏まる。ではすぐにでもとホームを発とうとすると、お客が来た。

 

 『すみません!ギルドの者ですが、昨夜の件でお聞きしたい事があるのですがどなたか宜しいですか?』

 

 なんと、ギルドの方から来た事に全員で顔を見合わせる。そしてならばと早速招き入れる事を決められた。

 ロイマンの出方を心配していたライラも、これならば少なくとも下手に出る必要は無いだろうと胸をなでおろしたのだった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 後日、アストレアは護衛のアリーゼを連れてヘファイストスと待ち合わせた外食店に来ていた。

 

 「ごめんなさいね、アストレア。先日貴女の子供たちが関わった件で、しばらく外食や単独行動は控えるようにって私の子供たちにお願いされてね。遅刻してしまって」

 「いいえ、構いません。今日の予定を切り出したのは此方ですから」

 

 挨拶から冗談を交えた談話をしながら昼食をとる二柱の女神。そして護衛のアリーゼと士郎。

 

 「――――今日来てもらったのは今後の事なのです」

 「・・・・・・軽く士郎から聞いてるけど、ギルドからの協力は得られなかったんですって?」

 「ええ、不明瞭な部分が多すぎるとの事で」

 

 アストレアはちらっとアリーゼを見た。アリーゼの様子はアストレアの言葉に反応して体全体を僅かに強張らせていた。表情は憤慨しているでもなく苛ついているでも無い。自分達の証言を信じて貰えずに、悲壮感を漂わせている感じだ。

 ほぼ同時にヘファイストスも自分の子供をチラ見すると、士郎はアリーゼに心配な視線を送っていた。

 

 「ギルドの中立と言うよりも日和見的な部分は今に始まった事では無いでしょう?でも、その上で何か方針があるんでしょう?」

 「はい。出来る事は限られていますが、不明瞭な部分を少しでも明確化させればギルドも協力すると言質を取りました。そこでうちの子達が地上とダンジョンの二班に分かれて調査する事に決めたのですが」

 「うちの士郎を貸してほしいって?」

 「い、いえ、彼にご助力頂ければと・・・」

 

 ヘファイストスからの悪戯的な含みのある物を扱うような言い方に、アストレアはオブラートな言葉を選んだ。

 

 「フフ、そう慌てなくてもいいわよ。いいわよ?私は別に」

 「え?」

 「今回の件は早期に解決。次善で明確な情報収集を取らないと、今まで以上の治安悪化を招く恐れが在る。それは私達ヘファイストス・ファミリアの本意では無いわ」

 

 本来であれば情勢不安や治安の悪化は商人、とくに武器商人にとっては儲かるシーズンと言ってもいいだろう。だがこのオラリオではその限りでは無い。このオラリオには世界で唯一のダンジョンがある。そのダンジョンを攻略していく冒険者にとってアイテムや武器や防具は不可欠なモノだ。だがそれらの元の素材のドロップアイテムのほとんどがダンジョンで取れるので、治安の悪化や情勢不安はそれらの供給や恩恵の妨げとなるのだ。だからこそ今の現状はヘファイストス・ファミリアは勿論、ゴブニュ・ファミリアや他の鍛冶ファミリア、また回復アイテムなどを販売する治療・製薬系統のファミリアにとっても喜ばしい事では無い。

 だからこそアストレアからの頼みにヘファイトスが応えるのは何の不思議もない事だった。

 

 「でも私の許可と士郎の意見は別よ?」

 「え?」

 「変な意味じゃ無いのよ。私は許可したけれど、士郎からの同意を得てねと言う単純な事よ」

 

 至極真っ当な話だ。勿論その流れで士郎に視線が集まる。

 

 「別に構わないぞ?」

 「へ?」

 「何だその意外そうな顔は?当然だろ?友人が困っていて助けを求めて来たんだ。即座に応えるのが本当の友人、仲間っていうモノだ。だから見損なってくれるなよ、アリーゼ?」

 「う、うん。あ、ありがとう・・・!」

 

 自分達の子供達のやり取りを微笑ましく見る女神達。それから女神たちも交えて詳しく話を詰めて行く。具体的な話がまとまったら今日はそこで解散するのだった。自分達の様子を観ていた者がいたとも知らずに。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 二柱と二人の会食を観ていたのはバベルの最上階に個人的居を構える女神だった。ロキ・ファミリアと対と為すフレイヤ・ファミリアの主神、美神とも呼ばれ魔女とも陰口を叩かれる女神フレイヤである。

 

 「またなのね」

 

 友神という程親しくは無い女神アストレアだが、彼女の子供の見る目は確かだと評価している。アストレアの子供達はまだまだ私の子供達に及ばない域だが、それでも粒揃い。将来は第一級冒険者から最低でも第二級冒険者にまで至れる程の器を持つ子供ばかりと。

 

 だがフレイヤが気にしたのはアストレア達(そちら)では無い。友神のヘファイストスの方だ。

 

 ヘファイストスの刀剣類の見る目が確かなのは言うまでもないことだけれど、子供を見る目は不確かだったみたいね。単眼の鍛冶師(キュクロプス)を始め、鍛冶師としても冒険者としても中々の子が揃っているヘファイストスのファミリアだけど、最近彼女が御伴にさせている赤銅色の髪の少年(子供)にはなに一つとして突出した才を感じない。喩えるなら路傍の石ころと言った所かしら。ヘファイストスの子供達全員に平等の愛をあげる所は敬意を向けるけど、あんな子にまで・・・。と言う以前にどうしてあんな子をファミリアに入れたのかしら?それとも私の眼を以ても見通せない“何か”があの子にあると言うの?

 

 暫く考えるフレイヤだが。

 

 「馬鹿馬鹿しい」

 

 無価値な思考であると一蹴するフレイヤ。

 

 「如何しました?」

 

 側に控えていた猪人(ボアズ)がフレイヤに尋ねた。

 彼の名はオッタル。前団長ミア・グランドが諸事情で半脱退した折、団長の座を引き継いだ若き武人だ。

 

 「いいえ、気にしないで頂戴」

 

 所詮は些末事だからと付け加えて。

 結局フレイヤは士郎を路傍の石ころと決定づけた。現時点では。

 そして気付かなかった。誰にまでは特定できずとも、誰かからと何処からだけなら士郎が見られている事に気が付いていた事に。



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第15話 始末犬との邂逅

 始末犬はこの神時代、ダンまち世界の人であって、英霊ではありません。


 本日から調査を始めるアストレア・ファミリア全員+エミヤ・士郎(α)はダンジョン入り口のバベル前に集合していた。

 

 「――――確認するぞ?輝夜自身も不明瞭な部分が多い程の相手だ。貸したそれ(・・)で定期連絡をしてくれ。勿論此方からも送る」

 

 士郎の言うアリーゼに貸したそれとは、小さな梟の形をしたマジックアイテムの【風魔】だ。ダンジョンで採れる特別な鉱石で作ったので軽い割に耐久力が高い。片手の平で乗りきれるサイズなので携帯しやすく、その上透明化することも可能で隠密性も高い。単純な命令であれば自動行動もできる上、視覚をリンクさせれば複雑な操作も可能。つまるところ、魔術師(メイジ)の使い魔的な事をコンセプトに制作したマジックアイテムだ。

 

 「手紙を預けるでも、魔力を通せば直接伝言も預かってくれる。この際だからそれは今日からアストレア・ファミリアで使ってくれていい」

 「ありがとう!けどこんなモノも作れると言うか、いつの間にかに持っていたの?」

 「先日の騒ぎが起きる少し前にな。あと緊急時はそっちを使ってくれ。あとこっちはだな・・・・・・」

 

 最初側こそは士郎の気遣いや、色々なマジックアイテムの提供や貸し出す事に感謝の念を禁じ得なかったアリーゼも、士郎の説明の長さやマジックアイテムの多さに表情から感謝と言う熱が消えて行った。

 最初の集合時に士郎が大きめのバックを背負ってきたから何かと思えば、見た事もないマジックアイテムや魔剣だった。しかも相当数。その多くを今回の事で全部貸し出す気らしい。

 現在進行形でバックから取り出しては説明し続ける士郎に、アストレア・ファミリアほぼ全員から辟易されて行く。無論士郎は気付いていない。

 

 「よし皆!調査を始めるわよ!」

 「待てアリーゼ!まだ半分も渡し終えてないぞ?それに説明も」

 「良いから行きましょう、士郎」

 

 きりがないので無理矢理に話を終わらせて調査開始する士郎以外の女性達。

 

 「なんでさ~!」

 

 士郎は引きずられて行った。

 

 

 -Interlude-

 

 

 「納得いかん」

 

 本日はアリーゼの方がダンジョン側で、士郎含む第二班が地上組だ。結局各班、士郎からのマジックアイテムは数個程で、残りの9割程は一旦士郎の家に戻ってお持ち帰りさせた。士郎はこの件で憤慨しているのだ。

 

 「持たせすぎなのよ士郎は」

 

 士郎を諫めているのは、アストレア・ファミリア+士郎(α)の中でも最年長のマリュー・グラシアだ。地上組のメンバーが個性と言う意味で尖っているので、その仲を取り持って監督できる役にと白羽の矢が立ったのが彼女だった。因みに他のメンバーは士郎を除いて、輝夜にリュー、それにライラの合計5人だ。地上の聞き込みは疎かにしていい訳ではないが、危険度だけで言えばダンジョンの方が上なので人数もそれを見越しての割り振りとなっている。

 

 「まだ言ってんのかよ士郎は?意外とねちっこい奴だったんだな」

 「酷い中傷は止してくれライラ。俺は真剣に皆の心配をしてだな・・・」

 「ねちっこいんじゃなくて、実のところは過保護だな士郎は」

 「どこがだ?」

 

 ライラの言い様が気に入らないのか、士郎は食い下がる。

 それをリューが見つめていた事にマリューが気付く。中々の関心の宿った視線の様だが、此処で下手に揶揄うなどすれば弾みで暴走妖精(ジェノサイダー・エルフ)を顕現させる可能性が有ったので見守る事にした。

 

 「――――所で、何所で情報収集にあたるのですか?」

 

 リューに聞かれたので言い淀む士郎。穢れを誰よりも嫌うこのエルフに、どう説明したモノかと躊躇っているのだ。

 

 「リオンに遠慮なんてしなくて良いんだぜ士郎?――――【モモジの穴蔵】周辺だ」

 

 【モモジの穴蔵】は酒場ではあるが、単なる酒場では無い。ゴロツキや冒険者の半端者、果ては外部から不法に侵入した傭兵や殺し屋なども出入りしている。さらには、闇派閥(イヴィルス)の構成員も拘わっていると言う噂すら流れている。

 しかしでは何故そんな場所が今も直ギルドの強制任務(ミッション)やガネーシャ・ファミリアなどによって制圧・検挙されていないかと言えば、そこが治外法権の娯楽施設の末端にあるからだ。主に都市外からやって来る各国の王族・貴族らの護衛として雇われた傭兵などが使っている場所で、末端とは言え治外法権の一部としてギルドもガネーシャ・ファミリアも手が出せないのだ。ちなみに周囲にも同じ性質と恩恵を持った酒場が複数ある。

 

 「正気ですかエミヤさん!?」

 

 そんな所に手を出せばただでは済まない。最悪士郎に加えてアストレア・ファミリア全員都市外退去処分になる可能性すらある。だが。

 

 「安心してくれ。モモジの穴蔵に周辺の酒場まで聞き取り調査をしていい許可はとってある(・・・・・・・・・・・・)

 「っ!?ど、どうやって・・・!」

 「まあ、そこは鍛冶師としてのコネってとこかな?」

 

 士郎の鍛つ刀剣類は機能性だけのモノではない。士郎本人の意思はともかく、依頼があれば美術的な綺羅びやかな刀剣類も鍛つ。そして士郎の鍛った後者の刀剣類は、今ちょっとした流行りが各国の王族・貴族の間で広まっていた。その事を直ぐに察知した娯楽施設の支配人や大物商人などは、ヘファイストス・ファミリアと直ぐに接触して士郎に流行り物を依頼したのだ。その依頼を何度か受けていった結果として、彼ら各国の王族・貴族らと間接的にコネクションを築いたと言うわけだ。治外法権の娯楽施設に顔が利くコネクションを持ったからこそ出来る力業でもある。

 

 「と言っても、あまり手荒な真似は出来ない。あくまでも任意の情報収集しか出来ないけどな」

 「それではあまり意味がないのでは?」

 「相変わらず王道しか知らないよな?リオンって」

 

 ライラからの馬鹿にするような言い方にリューは軽く苛立ちながら聞き返す。

 

 「では邪道好きのライラに手があるのですか?」

 「ああ~、王道しか考えつかないエルフ様には思い付かない方法がな・・・!」

 

 さらに挑発し返すライラにまたもリューが苛立つ。これでは一向に話が進まないと士郎が二人の間に割って入る。

 

 「俺たちがこれからするのは、釣りだ」

 「釣り・・・・・・ですか?」

 「無理に聞き出せない奴等に頼るんじゃなく、躊躇わずに聞き出す方法を選ばなくていい獲物を誘き出す、な」

 

 リューにあくまでも形だけの情報収集を説明している間に目的地につく。

 

 「さあ、始めるぞ」

 

 肩肘張らずに、薄汚れた巣窟に士郎を先頭に乗り込んでいった。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 暗い、とても薄暗い中に“彼”はいた。何をするでもなくただ一人、瞳を閉じている。この何もしなくていい時間が彼は存外嫌いではなかった。

 そこへ、静寂をかき乱すように近くでドタバタと複数人の足音や物音が彼の部屋にまで響き渡った。これではゆっくり休んでも居られないと自室を出て、ちょうどよく近づいてきた部下を捕まえる。

 

 「どうしたがか?」

 「それがマスティマ様の新たな同士、トライヘキサ様の事を御姿を描いた絵で探っている者達がモモジの穴蔵に現れたのです」

 「ちょい待たんかいっ、モモジの穴蔵は神ヒイシの下っ端共のシマだった筈じゃろ?なして追いださん?まさか奴ら・・・・・・裏切ったがか!」

 

 裏切りを何よりも嫌うこの男は激しく反応する。

 

 「いえ、その近辺の娯楽施設に顔を聞かせている様でして」

 「つまるところ、搦め手かに。メンドイのぉ」

 「どうしましょうか?」

 

 同じ主神を仰ぐ部下からの質問に腕を組んでから考えて。

 

 「トライヘキサ(客人)から貰ったのあるじゃろ。アレ(・・)を出せるだけ出しとけ。そいと、今すぐ出れる奴、かき集めんかい」

 

 ”彼“の指示に改めて動き始める構成員。彼は彼で浪人笠を被って刀を持ち、戦闘の身支度を始める。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 「まったくフィンの奴め」

 

 調査の帰りなのか。ロキ・ファミリアの幹部のガレスがぶつくさ言いながら帰途について行く。

 

 「仕方あるまい。フィンもアレで忙しい。いざという時は誰にでも頼むと言う事だ。人数が限られて少数で動かすしかないなら、お鉢が私達に回って来ても可笑しくは無い」

 

 調査と言うのは最近の闇派閥(イヴィルス)が勢力を増強させた件だ。これにより正規の各ファミリアの冒険者たちは苦戦を強いられる結果となっている。何故急に此処までの力をつけられたのかの原因と調査の為、ガレスとリヴェリアが駆り出されたのだ。

 

 「とは言っても収穫ゼロじゃからのぉ。さて、どうするか、と」

 

 曲がり角を曲がった時に5人の男女とぶつかりそうになる。

 

 「考え事しておっての、すま・・・!」

 

 その中に唯一少年で見覚えのある若者がいた。

 

 「お主は確か・・・」

 「貴方は・・・・・・それにリヴェリア・・・さん?」

 「憶えていたか少年。それにしても・・・・・・」

 

 士郎以外が少女ばかりな事に目を見張ってから、穢れたモノを見るような蔑む視線を送る。

 リヴェリアから送られる視線に軽く居心地が悪そうに身じろぎする士郎だが、そんな2人のやり取りに直に反応する者が出る。マリューだ。

 

 「すみません、ロキ・ファミリアの副団長様。彼と私達の関係については邪推です」

 

 2人の間に割って入る形をとって事情説明を行った。

 

 「ああ、少なくともアタシとマリューは、士郎の奴を仲間だとは思っても男として意識なんてしてねぇしな」

 

 ライラは補足事項を説明した。だが、これに反感する者が出る。輝夜とリューだ。

 

 「何を言っているライラ!」

 「そうです!これではまるで私と輝夜がエミヤさんをい、異性としてい、意識している様ではありませんか!」

 「ん~?別にアタシ自身とマリューが士郎を意識してないと判ってるから言っただけで、そこまで言ってないんだがな~?逆に言えばそこまで反応するって事は、士郎に対してそれなりの懸想を懐いてるって認めている様なモノ何じゃないか?」

 

 ライラの揶揄う言葉に改めて迎撃しようと反論の言葉を口にしようとする2人だが、彼女たちよりも早く反論したのは意外にも士郎だった。

 

 「滅多なことを言うなライラ。2人に対して失礼だろ?」

 「へぇー?その心は?」

 「2人共と俺なんかが釣り合うわけがない!突拍子もない事を口にするのはどうかと思うぞ?」

 「なるほどなるほど。ところでよ、士郎。うしろ振り返ってみろよ」

 「む?」

 

 ライラの推奨通りにすると、そこには覆面越しからでもわかるくらいの悲しそうなリューと露骨なまでに不機嫌ぶりを露わにしている輝夜がいた。

 

 「いや、なんでさ?」

 

 士郎は輝夜とリューの2人を庇った――――筈なのに、結果的に不況を勝手しまっている。

 そんなやり取りに発展しているため、置いてきぼりを喰らっている者達がいる。勿論ガレスとリヴェリアだ。

 

 「ん゛ん゛、良いだろうか?」

 

 軽くわざと咳をついて、自分たちを忘れないでもらいたいという意思表示をしたリヴェリア。

 これに直に我に帰り、気まずくもロキ・ファミリアの幹部2人に向き直る。士郎だけは嬉々として直に向き直った。

 

 「なんか助かりましたけど、リヴェリアさんと・・・・・・なんてお呼びしていいのでしょうか?」

 「このいけ好かないエルフが名前呼びで許可しとるんじゃぞ。儂もガレスで構わん」

 「黙れ、野蛮なドワーフ・・・!」

 

 何時もの事なのか、ガレスの嫌味に直に反論するリヴェリア。

 その当たりは空気を読んであえてスルーする一同。

 

 「ではガレスさんと」

 「うむ。それで主らは何をしておったんじゃ?」

 

 フィンと共に長く居たせいか、彼ほどではないにしてもガレスも勘が鋭くなっている。その勘が告げているのだ。この若者たちに関わるのが調査における最善だと。それはリヴェリアも同じくだ。

 

 「・・・・・・!」

 

 ――――任せてくれ。

 

 輝夜から士郎へのアイコンタクト。

 士郎は彼らの質問にどう答えるべきかと一瞬迷ったが、代わりに輝夜が一歩前に出る。引きずっていた気分から抜け出すためにとも。

 

 「発言を御許し頂けますでしょうか。ロキ・ファミリアの幹部方」

 「そんな大仰な言葉使わんでもいいぞ。聞いているのは儂らの方じゃし、遠慮せんで良い」

 

 ガレスからの了解を得たので、士郎との協力も含めた先日の件と合わせて説明する輝夜。

 全て聞き終えたガレスとリヴェリアは、聞かされた情報を吟味しながらも渋面を作った。内容が思っていたよりも凄惨で深刻だったからだ。

 

 「そんな奴が闇派閥(イヴィルス)にいる可能性があるのか」

 「私に送られてきた手紙が、たちの悪いイタズラの類いでなければですが」

 

 輝夜の返答に渋面に戻るガレス。

 

 「その試作のマジックアイテムの効果は本当にモンスターに変貌させるだけのモノなのか?」

 「と言うと?」

 「モンスターに変貌させる。これだけだと何かしらのカースだと思えるが、それだけとは到底思えん」

 

 これに思うところを感じた輝夜が考え込むように黙る。

 質問したリヴェリアは輝夜を一瞥してから士郎に視線をやる。

 

 「なんでしょう?」

 「いや、君は何かしらの気づいているんじゃないかと思ってな」

 

 リヴェリアの指摘に全員の視線が士郎に集まる。

 

 「単なる推測ですが」

 「それども聞きたいな」

 「一時的か半永久的かは分かりませんが、恐らくはステータスの強化を目的に作られているのではないかと。モンスターへの肉体の変貌は安定しない効果の副作用によるものだとも考えます」

 

 これに同じ推測を持ったリヴェリア以外の全員が驚く。

 

 「マジックアイテムでステータスの強化なんて聞いたことないぜ?」

 「そうですエミヤさん、いくらなんでも荒唐無稽なのでは?」

 「あり得ないなんて事はあり得ないさ。人の想像しうる事は起きえない現実とは言い切れないぞ?」

 

 まだ納得してなさそうなマリュー達に、どうしてその推測に至ったかを説明し始める士郎。

 その少女達から距離を離しているリヴェリアとガレス。

 

 「驚いたのぉ。あの若造、年齢不相応な程の考察力を持っておる」

 「それに未知の技術にワールドレコードを塗り替えるレベルアップの速度といい、規格外にも程がある。しかしあの者達の情報」

 「うむ、儂らが求める情報ではなかった」

 「――――どんな情報ですか?」

 

 マリュー達に説明し終えていた士郎が聞いてくる。

 

 「差し支えなければ教えてくれませんか?今は少しでも手がかりが欲しいので」

 

 士郎からの頼みにガレスがどうすると、リヴェリアに目で語り掛け、それを彼女は構わないだろうと了承する。

 

 「ふむ。儂等はフィンからの指示で闇派閥(イヴィルス)の近頃の戦力増強について調査しておったんじゃ」

 「戦力増強・・・・・・例えばどんなものですか?」

 「それは――――」

 

 ガレスからの説明中に咄嗟に気付いた士郎が動く。闇夜から放たれた銀色の凶刃の如き弓矢が漏れなくその場にいた全員目掛けて四方八方から放たれた。それを誰よりも早く気づいた士郎が両腕の裾から瞬時に繰り出して投擲した回帰属性(ブーメラン)の武器で全て迎撃する。

 僅かに遅れてガレスとリヴェリアが斧と杖をそれぞれ構えて戦闘態勢を取る。

 

 「輝夜、ライラを囲う様に卍の陣!」

 

 士郎からの指示に何事かと問わずに瞬時に応える輝夜。

 

 「マリュー!リオン!ライラを中心に集まれ!」

 

 副団長からの命令に2人は直に応える。

 

 「ライラ!お前は私達4人の中でも一番視力が良い。お前が見張り、私達を動かせ」

 「わ、分かった!」

 

 まだそこまで修羅場慣れしていないライラも勢いに押されて輝夜の指示通りに動く。次の矢の山を警戒して動こうとした時、足元のレンガの割れ目から多くの銀色の流体が流れて浮き出て来た。

 

 「何だ?」

 「主ら警戒せい!これが儂らが調査していた原因じゃ!」

 

 ガレスの警告とほぼ同時に流体が幾つものに分れた瞬間、形がうねうねと変わって行きゴライアスよりも低いがちょっとした巨人――――銀色のゴーレムへの形となった。

 

 「っ!?」

 「せい!」

 

 先手必勝とばかりに、リューがゴーレムの関節部に刺突を仕掛ける。だがしかし。

 

 「クッ!」

 「リオン!」

 

 あまりの硬さに刃の切っ先が刺さる事もない。そのアクションを狙われて弓矢がリューに迫るが、マリューの槍によって打ち払われる。攻撃は通らないが鈍いので捕まる事もない。

 

 「輝夜、9時の方向!リオンは3時、マリューはそのまま打ち払え!」

 

 だがあらゆる方向からの弓矢の狙撃で一ヶ所に留まる事を強制される為、徐々に追い詰められていく。

 それを離れた距離から苦虫を噛み潰したガレスが横目で見やる。自分が幾度も戦った経験から理解しているのだ。レベルの低いあの少女達では、このゴーレムらは荷が重いと。ガレス自身は苦戦こそしない。

 

 「ぬあああっっ!!」

 

 大戦斧にての横一文字で多くのゴーレムが無理矢理に砕かれて薙ぎ払われた。

 だが、このゴーレム達を殲滅するための魔法の詠唱中のリヴェリアを守るために、娘っ子たちの救援ができない。斧で防御し斧で攻撃しながらも悩むガレス。そこでふと気づいた。

 

 ――――あの若造は何処に行きおった?

 

 まさかあの娘っ子達を見捨てて逃げたのかと疑問が脳裏によぎった時、斧の刀身部分が鏡になって気づいた。自分とリヴェリアのほぼ真後ろの暗がりからボロボロの外套に浪人笠を被った凶悪な目つきに敵が刀を以て迫っていた。

 

 「クッ!」

 

 直に回り込んで迎え撃とうとするも、こんな時にゴーレムらが邪魔で思うように動けない。

 

 「リヴェリア!」

 「っ!?」

 

 ガレスに呼び掛けられたことで遅れて気づくリヴェリアだが、もう遅い。凶悪な赤い目つきに喜悦を浮かべる敵。

 

 「獲っ」

 「らせるかよっ!」

 「っ!?」

 

 いつの間にか下に潜り込んでいた士郎が、二刀一対の中華刀の片方で刀身目掛けて斬り上げてリヴェリアの窮地を救う。

 

 「チッ」

 

 闇討ちに失敗したので、即座に離れて忌々しそうに士郎を睨み付ける。

 

 「リヴェリアさん、お怪我は?」

 「君のおかげで助かった。怪我はない。それより君は何処に行っていた?」

 「至急やるべき事が出来たので、それを優先させてました。すみません」

 

 こうして戻って来たと言う事は逃げたわけでは無いと判ったが、では何故と訝しむも敵が苛立ちを言葉にして吐く。

 

 「わしを前にしてお喋りとはいい度胸じゃのぉ。それに小便臭い小僧ぉ、わしの仕事邪魔しよってからに・・・!そがいに早死にしたいんやったら望み通りにしちゃる」

 

 言って、懐から何かを取り出して口の近くまで持ち上げた。

 

 「わしじゃ!全員で赤毛の小僧を狙い撃たんかい!」

 

 これにガレスとリヴェリアは何をしているんだと怪訝さを露わにしており、士郎は特別な目を以てアレがマジックアイテムだと直に気づいた。あの灰色の結晶は通信機器をマジックアイテムで実現したモノだと。

 だがしかし。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 返事が返ってくる事は無く、代わりの弓矢の掃射も無い。

 

 「無駄だぞ。闇派閥(イヴィルス)の最大派閥、マスティマ・ファミリアの【始末犬】」

 「貴様わしの名を!?いや、無駄じゃと?」

 「俺がさっき此処を離れたのは重要な事だ。援護で二百メートル以上離れている狙撃手たちは全員

お寝んねさせたのさ」

 「何じゃと!?」

 「もしもの為の自害用の火炎石も取り上げて拘束もしてある。効果範囲がどの程度か知らないが、それ(・・)は同じものを所持している者と遠く離れた地点でも会話を可能とするマジックアイテムと見たが、いくら言っても返事は無いぞ」

 

 マジックアイテムの機能を見抜かれた事にも驚く【始末犬】と呼ばれた男――――オカダ・以蔵だか、それ以上に部下の悉くを無力化して作戦を駄目にされたことに腹をたてている。

 ガレスとリヴェリアの2人は心から驚いていた。マジックアイテムの機能を見抜いたことに加え、誰よりも先に弓矢からの全方位の奇襲に気づいたときには敵の狙撃主の居場所を全て認識・把握していた事にもだ。そうでなければこの短時間での全狙撃主の無力化など完了出来ないだろう。

 

 「小僧っっっ!」

 

 瞬時に士郎へ跳躍したオカダ・以蔵は怒気と殺意を込めた一刀を振るう。勿論士郎は中華刀の片方で防ぎ、もう片方を一旦仕舞って先程狙撃手たちから取り上げた火炎石を徹甲作用を用いた投擲で各ゴーレム達に放った。

 そして――――。

 

 ドッドッドッドッドッ――――ドンッッ!!

 

 徹甲作用により、リューの刺突を受けても傷一つ付かなかったゴーレムの胴体に深くまで食い込み、直後にその衝撃で火炎石が爆発。着弾したゴーレムの事如くが爆散した。

 

 「聞いていたな、見ていたな!もう弓矢の邪魔もないし、渡した爆弾系のマジックアイテムとライラ自身の特性爆弾を使ってゴーレムを傷つけろ!比較の問題だが外よりも中の方が脆い、少しでも傷さえつければ輝夜、マリュー、リューの3人でも何とか破壊できるだろう!」

 

 士郎からの大声に早速行動に移す4人。弓矢の邪魔が無くなったので容易にゴーレムの包囲からまずは抜け出して、仕切り直し。助言通り爆弾でゴーレムを傷つけてから。

 

 「ああああっっ!!」

 「ハッ!!」

 

 爆弾で作った破壊箇所目掛けて、輝夜とリューが左右から交差する様に切り伏せた。レベル2とは言え、アストレア・ファミリア内で一、二を争う程の戦闘経験を持つ2人だ。その2人の観察力を用いためと体の使い方なども合わせれば切り伏せられない訳が無かった。

 

 「よしっ、まず一体!」

 

 マリューの護衛を受けるライラがガッツポーズをする。この調子でと、新たに一番近くに居るゴーレム目掛けて爆弾を放り投げた。すかさず輝夜とリューが息を合わせて、或いは我先にとゴーレムへと迫る。

 

 「チッ!」

 

 士郎との切り合いを演じながら今の光景を視界に納めていたオカダ・以蔵は、舌打ちをしながら次の一刀に力を込める。

 

 「チェストぉおおおおおっっ!!」

 「――――」

 

 が、士郎は真面目に応じすに躱して距離をとる。直後。

 

 「ぬぅんっ!」

 「けっ!」

 

 ガレスからの斧の奇襲が以蔵を襲うが、身軽に跳躍。斧に飛び乗ってから一瞬で離脱する。だが。

 

 「――――クロス・グレイヴ」

 「ぬぅあっ!?」

 

 着地した周辺から岩の槍が幾つも飛び出してきた。リヴェリアの魔法だ。

 流石の以蔵も驚くがそれも一瞬の事。自分の足下にも岩の槍が勢いよく生えてくるが、一歩速く躱し、着地地点にまた岩の槍が生えてくるが再び躱しの繰り返し、最後の方の岩の槍は図ったかのように数本逃げ場など許さぬように突き出でいくが。

 

 「ちぇりゃぁああっ!」

 

 剣技にて全て破壊した。

 

 「ぬぅ、この連携をいとも容易く凌ぐとは、流石はマスティマ・ファミリアの【始末犬】と言うところか」

 「ハンッ!わしが、あないな力任せしか能のないドワーフ(ノロマ)なクソ爺にハイエルフ(行き遅れの年増)の婆ぁや小便臭い士郎(小僧)に後れを取るわけなか・・・!」

 

 以蔵の口の悪さに士郎とガレスは大した反応は見せなかったが、リヴェリアだけは気にしていることを言われたので瞳に怒気を宿らせる結果となった。

 

 「じゃが対応できとるのは、回避と防御に専念しとるからじゃろ?アストレア・ファミリアの娘っ子達も少しづつゴーレムの攻略が進んどるし、お前さんの仲間らはそこの士郎(若造)によって拘束されとる」

 「貴様だけおめおめ、負け犬の様に逃げ出すぐらいなら叶おうが、貴様の立場上でそれが許されるのかな?」

 「チッ!」

 

 図星故に舌打ちを隠せない以蔵。だがしかし直後、彼を包み込むように魔法陣が展開した。

 

 「何じゃあああああああ!?」

 「ちっ!」

 

 見覚えのある光景だったのですぐさま以蔵へ駆け寄る士郎だが、既に遅く魔法陣もろとも消えて行った。

 

 「クッ、と、まさか!」

 

 直に自分が拘束した狙撃手たちの方へ眼を向けると、以前と先ほどの魔法陣から出ていた光が発生していて直に消えた。辺りを見回すとゴーレムまで一体残らず消えていた。そこへ気になったのは輝夜の姿だ。彼女は何かを探すように首を振り、体全体を回すように周囲をくまなく探すように見回していた。

 

 「ハァ・・・ハァ・・・・・・ハァ、ハァ」

 「輝夜?」

 

 初めて見た時から私には覚えがある。顎から聞いた話に、昔の私の目の前から消えた時もそうだった。

 ――――本音は未だに会うのが怖い。

 だが仲間達も協力してくれているのに、いつまでもしり込みしてはいられない。そう、自分を叱咤して探していると。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・い、いた・・・・!」

 

 輝夜の表情と言葉に全員が同じ方を見る。彼らの視線の先には、輝夜から聞いたそのままの奇っ怪な姿の怪人が煙突のある搭の屋根の上から輝夜に向けて手を振っていた。あたかも久しぶりの知り合いに挨拶するかのように。

 が、彼女達の視界が変化する。自分達の視界から怪人を覆い隠す様に士郎がそこまでいつの間に壁を伝って跳躍。怪人を捕らえようと襲いかかる。

 

 「捕らえ――――!?」

 

 手を伸ばして捕らえようとした士郎だがすり抜けたのだ。

 

 「幻術(イリュージョン)!?」

 「士郎!あっちだ!」

 

 別の怪人の姿を視界に捉えたのはライラだった。誰よりも速く気づいて士郎に大声で叫んだ。

 

 「っ!」

 

 ライラの助言に反射的に反応して即座に屋根を蹴る。視界に捉えた怪人を今度こそ実体ありと認識する。

 

 「フフ、【ネメア・デルマ】」

 

 怪人がそう言うと、獅子の毛皮の如く光り輝き透き通った膜が何重層も怪人自身に纏うように顕現した。

 

 「っ!」

 

 怪人の口にした言葉を確かに耳にした士郎は、再び腕の裾から中華刀を取り出した。

 

 「士郎!?」

 

 全員の気持ちを代弁するかのように、刀を取り出した事に正気を疑うように誰かが叫んだ。が、士郎は無視して突き刺す様に怪人にそのまま突貫。だがしかし。

 

 「くっ!」

 「即座に素手から剣を持ち、私に襲いかかる。いい判断だ。だが悲しいかな、それでも不足だよ?エミヤ・士郎君」

 

 膜に阻まれて切り裂く事が叶わない士郎。

 

 「サタンアイズ術式展開――――イグニス」

 

 ズンッッ。

 

 指向性を持たせた魔力の暴発により、吹っ飛ばされる士郎。

 

 「士郎!?」「エミヤさん!?」

 「大丈夫だ。直前で躱した。それより――――」

 

 見上げた先には消えかかっている怪人。

 

 「それじゃあ、いずれまた」

 

 士郎たちの必死さを嘲嗤うかのように、怪人は去っていくのだった。

 



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第16話 来るべき日に近づいて

 お待ちしてくれていた方々がいらっしゃるか怪しいですが、かなり遅れまして更新しました。遅れた理由は今はFgo第二部第五章ですが、モンハンワールドアイスボーンを楽しんでいました。いや、今も飽きちゃいないんですけどね?兎に角更新しましたので何卒宜しくお願い致しますm(__)m


 「――――これが調査結果か」

 

 此処はロキ・ファミリアのホーム、黄昏の館。館というより構造的にも見た目にしても城である。そのホーム内の執務室で、調査の報告書をガレスとリヴェリアが団長のフィンに渡し終えた所だった。ちなみに主神のロキもいる。

 

 「見事に収穫ゼロやな~」

 「ゼロと言うことはないだろう。エミヤ・士郎とアストレア・ファミリアからの情報と、それを裏打ちするであろう怪人の出現は十分な成果と言えるさ」

 

 ガレス達が本来調査すべき事情から外れているが、本質的には必ずしも見当はずれでは無いとフィンは気付く。

 

 

 「アストレア・ファミリアの副団長のゴジョウノ・輝夜の故郷を荒らしに荒らした謎の怪人の出現。その怪人の作成中の謎のマジックアイテムに、エミヤ・士郎との刹那の内の戦闘で使用されたとされる、聞いたこともないマジックアイテムの数々。これはつまり――――」

 「その怪人が近頃の闇派閥(イヴィルス)の戦力増強を支えている重要人物(キーマン)の可能性が高い訳やな」

 

 可能性が高いとロキは口にしたが、この部屋に集まっているロキ含めた全員が確実だと考えている。

 

 「これからはアストレア・ファミリアと情報の共有を視野に入れてキーマンの怪人の捜索に当たろう。それが一番闇派閥(イヴィルス)壊滅の近道だろうからね」

 

 フィンの決定にガレスとリヴェリアも異論は挟まない。その代わり。

 

 「あの少年、エミヤ・士郎が敵の狙撃主の1人から情報を聞き出したのだが、そこでロキに聞きたい」

 「なんや?」

 「例の怪人は邪神と自称しているそうだが、神トライヘキサの神名()に聞き覚えはあるか?」

 

 

 -Interlude-

 

 

 「――――邪神トライヘキサ・・・・・・ねぇ?」

 

 ここはアストレア・ファミリアのホーム内。そこには主神アストレアは勿論、彼女の麗しき使徒全員にヘ男装の麗神のファイストスと士郎もいた。かく言う、士郎の口から二柱の女神への問いかけでもあった。

 

 「トライヘキサと言う神は天界でどんな神様だったのですか?アストレア様」

 

 アリーゼからの質問に二柱の女神は顔を見合わせてから数秒後、ため息を吐くように答える。

 

 「まず最初に言っておくけれど、トライヘキサと言う神は天界に存在しません」

 「では、エミヤさんは嘘の情報を掴まされたという事ですか?」

 「最後まで私達の話をちゃんと聞いてね?リュー・リオン。今さら言うまでもなく私達神は全知だけど、私達にも知らなかったことが地上にはある。それが未知よ」

 「ですから私達にとって知らない事と知っていることの二択でしかないのです。貴方達、人の子と違って、基本的にはまず曖昧な記憶というのは存在しません」

 「ですが今回の貴方達が口にしたトライヘキサと言う情報は私達に取って初めての曖昧な情報なのよ」

 「聞き覚えが有る様な、無い様な・・・。どうしても思い出せないのです」

 

 どうやら本当の様で眉間に手をあてて唸っている二柱の女神。

 

 「ともあれ、怪人の神名(名前)は置いておくとして、リヴェリアさん達の話を合わせて分析するにそのトライヘキサはどうやら最近の闇派閥(イヴィルス)の戦力増強を支えるキーマンになっている様だな」

 「もうトライヘキサ本人だけを追って行くだけでは駄目なのかしら?」

 「駄目とは言わないが、トライヘキサが闇派閥(イヴィルス)内で重要な位置に就いているなら、今回出て来たマスティマ・ファミリアの《始末犬》クラスが出張って来てもおかしくはない。調査を続けるにしても、これからはより慎重に事に当たらないとな」

 

 士郎の注意諫言にアリーゼ達全員が強く頷いた。

 

 「しかし話に聞けば、始末犬はずいぶんと稚拙な作戦に出たのだな」

 「いや、確かにごり押し戦法だっだが、士郎がいなきゃ今頃アタシ達はどうなってたか」

 「ええ、士郎サマサマだったわ」

 「ライラもマリューも褒めすぎだ」

 

 2人からの称賛に士郎は謙遜するが、他のアストレア・ファミリアの仲間達がさらに士郎の称賛で盛り上がる。まるで今後の戦いに向けての恐れや不安をかき消すように。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 「もっとだっっ、もっろっ、もっじょぉおおおおお■■■■■!!!』

 

 人語を語るケダモノがダンジョン内を駆け巡っていた。

 

 ゴキュガギュッッ。

 

 彼は元々人間で闇派閥(イヴィルス)の冒険者だったが、オッタルから受けた敗北と言う名の屈辱から復讐だけに取り憑かれたケダモノと成り果てた。

 

 「まだじゃぁあああっっっ■■■!!』

 

 今やその姿には人間だった頃の面影はなく、下半身は象の様に強靭で両腕はサーベルタイガーの様に鋭く上半身から顔にかけては年老いた蝦蟇の様に醜悪である。

 

 ガリッゴリッ!

 

 先程からの擬音はダンジョン内のモンスターを喰らい尽くしている音だ。ダンジョン内には人間でも食べても害の無い肉を始めとする食材もあるにはあるが、モンスターを食らうなど常軌を逸していると言うレベルではない。モンスターをそのままの喰らえば、毒素などでたちまち死に至る。

 しかしそこは邪神トライヘキサから注入された特殊な試作のマジックアイテムのお陰で死なずにすんでいる。と言うか。

 

 「■ッタル…!足じゃなりぃ…!もっと■ぁあああああっっっ!!』

 

 これ以上に最短で強くなるためにと教えたのは邪神トライヘキサ自神だが。正確にはモンスターの核である魔石を取り込むことによって強くなれると教えたのだが、面倒と考えたか、モンスターごと魔石を取り込むことにしたようだ。

 

 「悍ましい光景ね」

 

 彼の様子を窺い見る者がいた。某所の室内にてデカイ水晶に近い鉱石で形作られた塊巨大な板ごしから今の映像を見ている。

 今の感想にもまるで他人事である。

 

 『そりゃ元人間の化物がモンスターを貪り食い付いている光景を見れば誰もが同じような感想を抱くだろうな』

 

 巨大な板――――スクリーンに写し出された別の映像から告げてきたのは邪神トライヘキサ。どうやら此処にはおらず、別の場所からの映像通話の様だ。

 

 「まるで他人事ね。試作品を渡したのも、方法と手段を教えたのも主神様(貴方)じゃなかったかしら?」

 

 興味無さげなのに、まるで責めるような口調でトライヘキサを突く。だが当の本(にん)は嗤う。

 

 『他人事?その言葉そっくりそのまま、お前に返そう。あの試作品を作ったのもデータが欲しいと言ったのも、どちらもお前じゃないか』

 

 その通り。何を隠そう、この、紹介が遅れたがこの小人(パルゥム)の女性こそが邪神トライヘキサの眷属の一人であり、輝夜の故郷を荒らした元凶のマジックアイテム(クスリ)を作り、完成を目指すためのデータを欲したその人である。勿論データをとるためにも此処から現場の映像を見ていたが、今までの一度も理不尽や悲劇的な光景にも眉一つ動かさずにあくまでも観察に徹し続けた冷酷非道なマッドサイエンティストでもある。

 

 「そうね、認めるわ。でも仕方ないじゃない?死にそうなくらいに好奇心で溢れそうなんだもの。――――誰も見たこともない物をこの手で創造したい。世界の構造を弄り回したい。神々の構成物質を解き明かしたい。何を犠牲にしてでも真理に辿り着きたい。これだけ聞けば私は確かに冷酷非道な科学者なのかもしれないけれど、野心や悲願と言う願望を持って実現させたい為にオラリオで冒険者をしている者達と私の何処に違いがあるかしら?」

 『過程に似かよる部分はあれど、本質的には相当違うと思うがな』

 

 邪神トライヘキサは我が眷属()を説教してるわけでもしたいわけでもない。それは小人(パルゥム)の科学者も同じ。彼らの会話は何時も皮肉や含みのある雑談から始まる。

 

 「それで今日はなんの用があって連絡してきたの?貴方と違って私、暇じゃないのだけれど?」

 『暇なのはお互い様だろ?お前は忙しそうに見えて、研究のほとんどは娯楽の延長線上でしかあるまい』

 「嫌味だけならもう切るわよ?」

 『切って良いのか?お前が探していた資料の一部を見つけてきたと言うのに』

 「ッッ!?」

 

 本日初めての動揺を見せたマッドの女性パルゥム。まあ、彼女が動揺する事そのものが極めて珍しいのだが。

 

 「……相変わらず(ひと)がわるいわね。それで、譲渡の条件は?」

 

 自分から交渉のテーブルに座る辺り、どうやら彼女にとっては垂涎の代物らしいことが窺える。

 

 『いや、タダでやる』

 「………は?」

 

 我が耳を疑うように間抜けな声を漏らした。またも彼女にしては極めて珍しい反応。

 

 『そら、送ったぞ』

 

 だが彼女の復帰を待たずして、トライヘキサはサタンアイズの転送で書類を彼女の研究室の近くのテーブルに届けた。

 

 ササァ……。

 

 「……………」

 

 醜態を取り戻そうとすぐに我にかえった彼女はそのまま書類取って中身をざっと確認、本物であろうと認めてからトライヘキサを見る。

 

 「どういうつもり?」

 『どうもこうも先に告げた通りだが?』

 

 その言葉を鵜呑みにするほど彼女は暢気ではない。邪神とマッドの女性パルゥムは言うまでもなく神と眷属(親子)の関係だが、何処まで行こうと共犯者と言うのが適切で、互いに何かを求めるときは善意の無償の譲渡などあり得ない。ギブアンドテイクが基本だ。だからこそ。

 

 「馬鹿にしているの?」

 『いいから受けておけよ。無論貸しにするつもりはない』

 「今さら情けでもかけてるの?」

 『お前の方こそ馬鹿にしているのか?同情で気を引けるとは到底思えんが』

 

 何が可笑しいのか、如何にも愉快そうに語る邪神。そこに彼女は珍しいと気づく。

 

 「……表面上は愉快そうに振る舞いながら心は平静が常な貴方が、心底から愉しそうにしているなんて何かあったのかしら?」

 『フフ、ちょっとな』

 

 これで邪神の無償の譲渡の理由が解った。機嫌の良さから来る振る舞いの一種なのだと。だがそれにしても。

 

 「気持ちが悪いわね」

 『やれやれ、我が子ながら酷い言い草だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ところで邪神トライヘキサと騙ったそうね」

 『ああ。アレ(・・)から引き出した知識の中であった概念の一つを利用した。フィーリングで付けた偽名にしては気に入ってい』

 「昔から貴方にはセンスが無かったわね。古い上にダサい。その感性だけは今も現在進行形で失望しているわ」

 『なん…だ、と…!?』




 


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第17話 仕組まれた因果へ

 明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致しますm(__)m


 あれから士郎達はロキ・ファミリアと定期的にに情報共有をしながら邪神トライヘキサを追った。勿論、トライヘキサを匿う闇派閥(イヴィルス)に幾度も戦闘を繰り返した。その追走の日々からもうすぐで一月が経過しようとしていた。

 

 「――――随分と待たせてくれたものだな」

 

 今日も情報共有の為にいつもの待ち合わせ場所に来てみれば、今までの幹部と違い、それでも何度か見たことのある団員だ。激情騎士(エモーショナリーナイト)の二つ名を持つロキ・ファミリアの団員、ケイン・ラモルフが開口一番に嫌みによる口撃をしてきた。

 

 「まだ待ち合わせの時間までに小半刻はある筈ですが?」

 

 ケインからの口撃に一応の反論をする士郎。しかしその冷静な態度も気に入らなかったのか、さらなる追撃を仕掛けてきた。

 

 「鍛冶屋風情の下っ端ごときが口答えするのか?うちは大派閥、ロキ・ファミリアだぞ。大体うちはお前らが追っている件だけにかまけている暇はないんだ。その上自称邪神の件とて、本当なんだか胡散臭い。ロキ・ファミリア(うち)に少なからずのダメージを与える自作自演の画策の線もある。それを賢しいだけの調子に乗ったガキが身の程を弁えろよ…!」

 「………」

 

 随分と長い口上に士郎は一切口を挟まずに聞いていた。同時に視線をそらさずにケインの瞳を見続けた。が、もう用はないと言わんばかりに踵を返して来た道を戻ろうとする。

 

 「おい待て!何処に行こうとしている!」

 「帰ります。貴方と話は時間の無駄のようだ」

 「何だとっ、先の俺の話を聞いてなかったのか!」

 「確かにロキ・ファミリアは忙しいようだ。何時もなら幹部のお三方の何方かがお越しになるのに、今日来たのは礼儀も成っていない下っ端の貴方だ」

 

  士郎はケインに対して正しい返答ではなく判断上の意思を口にした。

 

 「貴様っ、ロキ・ファミリア(うち)を侮辱するのか!?」

 「勘違いしないで頂きたい。俺が指摘したいのは貴方の浅慮さだ。前回来たのは団長のフィン・ディムナさんだった。それが急に今回になってこの件事態を軽視すると言うのは客観的に見ても考えづらいし、俺たちを切り捨てるにしてもタイミング的に中途半端過ぎる。そんな無様をあの勇者(ブレイバー)がする筈もない。であれば先の発言は貴方個人の意志――――極めて私的な独断だと推察できます。だからこそつい先程に貴方を下っ端と言ったわけです」

 

 半身だけ振り替えって話を早々に切り上げた理由を説明した士郎。淡々とした態度が自分を見下しているようで、ケインはさらに激昂する。

 

 「余所者の分際でロキ・ファミリア(うち)を語るなっ!」

 「俺が余所者なら貴方は浅はかな裏切り者だ。貴方は私的な独断で自身のファミリアの意向をねじ曲げようとしている。それは貴方のファミリア全員への裏切り行為に他ならない」

 「ッッッッ~~~~!!」

 

 最早我慢の限界だった。どれだけ士郎の言葉が正論であろうとも、激情騎士に躊躇う理性は残されていなかった。

 

 「お前ぇ…、お前ぇええええっっ!!」

 

 躊躇なく鞘から剣を抜き去るケイン。

 彼の二つ名の由来は精神状態により全体のステータスが一時的に上下するスキルがあるのと、元々の性格によるものだ。

 感情変動幅力(メンタルアンリミテッド)。このスキルは名前の通り、昂れば昂るほどステータスが一時的に上昇し、落ち込めば落ち込むほどステータス一時的に下がるのだ。メリットとデメリットの両方を併せ持つスキルに思えるが、ケースバイケースであろうが実のところデメリットしかないスキルだとロキ・ファミリアの首脳陣は見ている。昂るほどステータスが一時的に上昇すると言うが、残念ながら高ぶりすぎたケインは戦闘上の動きが乱雑になり、駆け引きもかなり単純かつ稚拙なモノとなる。故に日頃から精神鍛練を怠らないようにと今日まで言いつけられてきたが未だ形となってはいなかった。その証拠に。

 

 「ああああっっ!!」

 

 ただ乱雑に剣を振り回して士郎目掛けて突撃するだけ。いや、普段は此処まで酷くはないのだが原因は言わずもがなであろう。だが、だからこそ。

 

 「…………」

 

 士郎は容易に回避して踊るように身を捻って回転。即座にケインの背後を取ってからの裏拳を彼の右のこめかみに食らわす。

 

 「がっ!?」

 

 前後不覚も相まって、右からの予想外の衝撃によろめくケイン。

 士郎はさらに隙をついて剣の柄を蹴りあげて剣を手放させてからの懐に入り込んでの顎目掛けてのアッパー。

 

 「ぐっぎっ!?」

 

 顎を揺さぶられたことにより脳震盪を引き起こされた。そんな隙だらけの最後のトドメは左肩を押す程度。それだけでケインは壁にもたれ掛かるように倒れた。

 

 「うぐっ……っ」

 

 倒れてもなお戦意だけは残っているのか、うまく動かせない体、朦朧とする意識の中でさえ士郎の事を今も睨み付けている。

 自分から招いた結果だと言うのにと、仲間への侮辱とも取れる発言にしてわずかな憤りがあった士郎もこれには呆れるしかなかった。

 

 「貴方に対してたいした怪我を負わせなかった俺の意図を察してほしいんですが」

 「だ…ま、れ」

 「ひとえに貴方が腐ってもロキ・ファミリアの団員だからですよ。貴方が裏切ったファミリアの庇護の恩恵で俺も手心を加えたんです」

 「だま、れ」

 「にもかかわらず、貴方は未だに私欲の結果を省みずに、まだ俺に噛みつこうと言う態度を崩さない。これではロキ・ファミリアに直接出向いてこの事実を報告するしかないですよ」

 「…チク…るの、か……この卑、怯者…め」

 「俺の主神様とファミリア。そしてアストレア・ファミリアに迷惑をかけないための正当な報告です。それでも卑怯だと言うのであっても、裏切り者より遥かにマシだと思いますけどね」

 「だっ…まれぇっ……」

 

 自分を放置してその場を離れるエミヤ・士郎(憎きガキ)の背中をケインはいつまでも睨み続けた。

 後日当然のようにお叱りを受けたケインは暫く新人たち同様の雑用扱いを受け続けることとなった。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 「ねぇ主神様。オラリオのアレ(・・)はどうなったのかしら?」

 

 マッド女性パルゥムの研究ラボに久方ぶりに寄った自称邪神が我が子からのかけられた言葉。

 

 「ん?どちら(・・・)だ?おまぇ」

 「違うに決まっているでしょう……!」

 

 今までになく眼で、声で、態度で強く否定した。彼女の滅多にない憤怒に自称邪神は仮面の下でクツクツと嗤う。

 

 「……何がおかしいのかしら?」

 「いやさ、あれだけ()にはもう興味も関心もないと、いつか言っていたあの時には嘘はなかった。だが、今では明らかな動揺があるのがついつい愉しくてね」

 「……本当に意地の悪い邪神だこと」

 「いやいや、そう褒めてくれるな。まだまだからかいたくなる…!」

 

 この邪神のからかいから逃れる方法は心を何処までも冷ますこと。彼女は直ぐに実行して主神の邪な言霊から撤退した。

 

 「それで、先の質問の答えも取引しなければならないのかしら?」

 「おや、もう終わりか。――――いーや、構わない。答えよう。例のクスリ型の試作マジックアイテム(サクリフィキウム)の最大被験者の元冒険者の成れの果てのグラビムは現在深層に近い下層にまで降りてきている」

 「へぇー、生きてたの?」

 「ああ。それほどまでの復讐心(執着心)だったと言うことだろう。お前の復讐相手は五十層にいると言い含めたからな」

 「よく信じたわね?あのオッタルが今の時期にそうそうフレイヤから離れるのは考えづらいのだけれど」

 「クク…アレにはもう、そんな判別できる理性など残ってはいないと言うことだ」

 

 彼女の前から離れて出ていこうとする邪神。

 

 「オラリオに戻るの?」

 「ああ、そろそろ(・・・・)だろうからな」

 

 去り際に邪神は仮面の下で嗤った。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 ――――低すぎる!

 

 ロキ・ファミリアの眷属の一人として約一年ほど経過した今日この頃。アイズはステータスの更新値の低さに焦りを見せていた。ロキ、フィン、リヴェリア、ガレスにはステータスの更新値は段々下がっていくものだと説明された上、レベルアップの方法もはぐらかされた様に感じた。ならばと別を当たろうとギルド本部の受付に来たのだが。

 

 「教える気はないわ」

 「なんで…!」

 「無責任にそれ教えてアンタみたいな子供死なせたら、冒険者共の死亡案件に慣れてるとはいえ流石に夢見が悪いもの」

 「っ!」

 「………」

 

 納得できる答えではなかったが、流石のアイズも約一年ほど顔を会わせてくればこの受付の人の性格を理解できるようになる。ぶっきらぼうで冷たく接してくるのはその裏返し。彼女なりの自分への優しいお節介なのだと。

 だが、だからと言って諦めきるないのがアイズである。とは言え彼女が自分が今望んでいる情報をくれることは無いだろう。ならば他を当たるしかない。踵を返してその場を後にしようとした所、でアイズは見た。

 

 「ハイハイ、私はこれでも忙しいんですからヘルメス様は即刻お帰りください!」

 「ん~?つれないな~」

 

 仕方ないと言わんばかりに胡散臭い男神(ヘルメス)はその場を後にしようとした――――ところで。

 

 「ん?」

 

 アイズと目が合う。

 

 「…………」

 「君は…?」

 

 声をかけられそうなところでアイズは瞬時にその場から離れる。

 

 「って、あれ?」

 

 予想外の反応に慌てるヘルメス。アイズはリヴェリアやロキから耳にタコができるほど聞かされてきた。知らない神に何か渡されても貰うな。話を振られても付いて行くなと。胡散臭げな神は特にと。

 アイズにとってあの男神は正しく後者。なので直ぐにでも離れることを選択したのだ。

 

 「いやいや待って」

 「…………」

 

 スタスタスタスタ―――。

 

 「やれやれ聞く耳持たずか。なら――――レベルアップの方法を教えてあげようか?」

 「!!?」

 

 思っても見なかった言葉にアイズは震える。

 

 「漸く聞く気になってくれたようだね」

 

 ――――アイズがぎこちなく振り向くよりもヘルメスがゆっくり回り込んで言葉を紡いでいく。

 

 ――――士郎は今日もアストレア・ファミリアの仲間達と共に邪神の行方を追う。

 

 ――――人間を捨てた復讐者は何もかも殴り捨てて下を目指していく。

 

 ――――機は熟したと言わんばかりに異端の邪神は仮面の下で盛大に嗤う。

 

 あらゆる流れは運命へと収束して行く。



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