短編 仮面ライダービルド 聖なるハザードナイトクリスマス!! (げむおば)
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短編 仮面ライダービルド 聖なるハザードナイトクリスマス!!

 日本を三つに分けた都市のひとつ、東都。その東都にひっそりと建つ、カフェnasita。

 

 そこには、東都を代表して戦い、東都を守る「仮面ライダー」がいた。

 

 「サイコーだ!!」

 

 そう言ってくしゃくしゃと自身の髪をもみくちゃにする男。

 

 彼は桐生 戦兎。東都の仮面ライダーの一人、仮面ライダービルドである。

  

 「・・・今度はどうしたんだよ?こんな切羽詰まってる時に。」

 

 戦兎の顔を覗き込む、威勢のいい男。彼は万丈 龍我。彼も東都の仮面ライダー、仮面ライダークローズである。

 

 「西都との代表戦まであんまり時間ないぞ。あんまり無駄なことすんじゃねぇ戦兎。」

 

 ・・・と言いながら、過去のみーたんの配信をスクリーンショットして画像をつくる作業をしている男。彼は猿渡 一海。彼は元北都の仮面ライダーであった仮面ライダーグリス。今は東都の一員である。

 

 その時、チーン!と音が鳴り、部屋の奥にあった謎の多い機械が何かを生み出した。

 

 そして、その機械の扉から、一人の少女が現れた。

 

 「・・・なんか頼まれたから浄化してみたし。眠いし。・・・ケーキ食べたいし。寝るし。」

 

 出てきた流れからまっすぐ部屋を出てベッドに飛び込んで爆睡する彼女は、みーたんこと石動 美空。仮面ライダーではない。しかし、不思議な力で戦兎たちをサポートしている。

 

 その機械の扉の隣の、煙を出しながら開いている小さな扉に向かって、かなりのハイテンションで戦兎が駆けつけた。

 

 「ヒャッホイ!!・・・ほほー!これは・・・ん?なんのフルボトルだ?」

 

 そこに、横から覗き込む龍我。

 

 「なんか笑ってるように見えるな・・・ん?サンタじゃねーかこれ?」

 

 さらに、反対の横から覗き込む一海。

 

 「で、こっちがケーキってわけか。ローソクたってるし。」

 

 「だー!お前ら狭いっ!・・・でも今回は一度、お前達に実験を手伝ってもらいたいんだ。こ・れ・で!」

 

 シャカシャカと新しく出来たフルボトル二本を振る戦兎。

 

 万丈と一海は、お互いに顔を見合わせ、あまり気乗りしないような雰囲気でうなづいた。

 

 そんな中、コツコツと階段を降りる音がして、部屋に一人の女性が入ってきた。

 

 「・・・あれ!取り込み中?なんか近くのお店で安くチキン買えたから、差し入れ買ってきたよ〜!」

 

 「おっ!サンキュー紗羽さん!しかもチキン!空気が読める!サイコーだ!」

 

 彼女は滝川 紗羽。訳あって戦兎たちのサポートに尽力する仲間である。

 

 「あぁ、何か知らないけど良かった!・・・これからなにかするの?」

 

 戦兎はうなづいて指を鳴らし、ご機嫌な様子で答える。

 

 「そう!実験だよ実験!!面白いことになりそーな!」

 

 その様子を見て、一海が龍我の肩を叩く。

 

 「・・・あいつ、普段あんなんなのか?」

 

 「・・・あぁ、なんかフルボトルのことだとあんな感じだな。」

 

 「・・・面白いからいいか。俺らも実験に付き合ってやるか。」

 

 三人は、それぞれチキンを持ってまとまって外へ歩いていった。

 

 紗羽がその後ろで部屋に残り、手を振って見送った。

 

 「いってらっしゃーい・・・?」

 

 

 

 

 

 移動した先は、拓けた空き地だった。

 

 「さぁ、実験を始めようか。」

 

 キリッとキメる戦兎。しかし、口元はニヤケていてどこか決まらない。

 

 「てゆーか、まず説明しろよ!なにすんだよ?」

 

 龍我が指を指して講義する。すると戦兎は右ポケットからあるものを取り出した。

 

 「じゃあ説明するぞ。今日使うのはまずこれ、いつものやばいの。ハザードトリガー。」

 

 「うわ!それ使うのかよ!ヤベー!」

 

 驚く龍我に笑顔を向け、次に左ポケットから二つ、フルボトルを取り出した。

 

 「そして、これ。今日美空に浄化してもらったフルボトル。どうやらものすごい特殊なヤツらしい。サンタとケーキだな。」

 

 「なんかどーにも、強そうに見えねーな。それでなにすんだ?まぁこれだろうけどな」

 

 だるそうに笑う一海。右手には彼の変身アイテム、スクラッシュドライバーが握られていた。

 

 「理解が早くて助かる。まぁ、簡単に言うと、ハザードトリガーで暴走したビルドのデータが取りたいっていう事だ。

 

 ・・・それも、できる限り長く、極限の状態のな。」

 

 「マジかよ・・・」

 

 突如不安そうな表情になる龍我を察して肩を殴る一海。

 

 「まぁ、できる限りやんぞ。むしろ、そのくらい強ぇ相手の方が、俺らもハザードレベルが高まるだろうしな。」

 

 一海と龍我が目を合わせると、龍我も気合の入った表情になり、同じくスクラッシュドライバーを手に取る。

 

 「・・・そうだな!二対一なら負ける気がしねぇ!かかってこい!戦兎ォ!」

 

 そんな二人を目の前に、フフン、と微かに笑う戦兎。

 

 「それともう一つ説明しておきたいことがある。

 

 このサンタとケーキのフルボトル。これは俺がスタークをタコのフォームで打ち破った日にマスターの金で出前したとき、なぜか頼んでもいないケーキと一緒に着いてきたナゾのフルボトルを浄化してもらったやつなんだ。」

 

 「はぁ?そんなのあったか?」

 

 「マスターが追加で頼んでたっぽい。万丈はケーキ来る頃には歯磨きしてたからな。要するに、これはスタークからのプレゼントだ。

 

 ・・・でも、美空いわく、これは戦闘に使えるようなものじゃないっぽい。」

 

 「そんなもんフツーならポイだな。」

 

 普通な顔をして言う一海だったが、隣で万丈はすこし吹き出していた。

 

 「そこで!この凶悪なハザードトリガーで、戦闘に使えるようなものじゃないフルボトルを使うとどうなるか!っていう実験なわけ。俺の予想通りなら、安全なフォームで暴走状態になれて、充分なデータが取れる!ってこと!」

 

 フンー!と鼻息を吐き、テンションが上がって高揚した瞳を向けながら、戦兎が解説を終えた。

 

 「・・・それでも、一応危ねー場合もあるってことだな。オッケー任せとけ!」

 

 意気込む龍我に負けじと、一海も肩を回して一呼吸ついた。

 

 「ハザードレベル上げるには、足りねぇかもしれねーが、実験に付き合ってやるか。」

 

 二人は一斉にスクラッシュドライバーを腰にあてがった。

 

 それを見て戦兎も、腰にまいていた彼の変身アイテム、ビルドドライバーを露出させ、両手のアイテムを準備した。

 

 

 

 

 

 「行くぞォ!」

 

 万丈の掛け声の後、万丈と猿渡が同時にスクラッシュドライバーにそれぞれのスクラッシュゼリーを叩き入れた。

 

 ードラゴンゼリー!!

 ーロボットゼリー!!

 

 そして、それをレンチのような部位を捻って潰す。

 

 ガァン!!

 

 と金属を叩くような音が鳴り、二人が瓶のようなエリアに囲まれ、それぞれ青、茶色の液体で満たされる。

 

 そして、二人の姿は変化し、体からオーラのようにそれぞれの液体が飛び出し、形を形成しだした。

 

 ー潰れる! 流れる! 溢れ出る!

 

 ードラゴンインクローズチャージ!!ブラァ!!

 ーロボットイングリス!!ブラァ!!

 

 液体が弾け飛び、二人が仮面ライダーの姿に変身した。

 

 龍我は銀と青の色の仮面ライダークローズチャージへ、一海は金と銅の色の仮面ライダーグリスになった。

 

 「・・・心火を燃やして、ぶっ潰す!」

 

 「いやいや、潰しちゃダメだろ!!・・・ダメじゃないかもしれないけど」

 

 二人が変身したのを確認し、戦兎はハザードトリガーのボタンを押す。

 

 《ーHazard ON!》

 

 戦兎もビルドドライバーにハザードトリガーをセットし、電撃が走るような音を鳴らす。

 

 「・・・さぁ、実験を始めようか。」

 

 シャカシャカとフルボトルを振り、一つずつフルボトルを装填した。

 

 《サンタクロース!!》《ケーキ!!》

 

 《SUPER BEST MATCH!!》

 

 「おっ!やっぱりベストマッチ!!」

 

 《Don Den Gang!!Don Den Gang!!》

 

 威圧感のある待機音を鳴らすビルドドライバーに怯まず、戦兎はレバーを回して成分をかき混ぜた。

 

 《ガタガタゴットンズッタンズタン!!ガタガタゴットンズッタンズタン!!》

 

 《Are You Ready!?》

 

 「ビルドアップ!!」

 

 シュバッ!とキレよくファイティングポーズをとったあと、出現した黒い金型に合わせてポーズを取ると、戦兎は一瞬で挟まれた。

 

 開かれると、黒いオーラを放出しながら、たたずむ黒い仮面ライダーが姿を現した。

 

 《〜♪Un Controll Switch! Black Hazard!YABEEEEI!!!!》

 

 軽快かつ禍々しい音声を鳴らしながら登場した黒いライダーは、仮面ライダービルド、メリークリスマスハザードフォームである。

 

 目に当たる部分は、右眼がいちごのショートケーキのようになっていて、左眼がサンタ帽のようなものになっている。

 

 

 彼の登場に身構える龍我と一海。

 

 「・・・戦兎、攻撃すんのか?」

 

 龍我が聞くと、戦兎はまず自分の両手をまじまじと見ていた。

 

 「本当に、平和なフォームだ。これは逆に凄いぞ。」

 

 すると、戦兎の身体から徐々にクリスマスの雰囲気の曲が流れ始めた。

 

 「・・・おい?戦兎?」「おいビルド?」

 

 二人が戸惑い始めた中、戦兎は甘い匂いを撒き散らしながら、どこからかカラフルな光を放出して踊り始めた。

 

 「メリーーーーーーークリスマーーーース!!!イェイイェイ!!イェーーーイ!!」

 

 「おい、戦兎ォ!?大丈夫かよ!?」

 

 龍我が心配して駆け寄ると、戦兎の身体から突然オーブンの焼き上がる音がして、どこからか骨付きチキンとプレゼントの箱を取り出した。

 

 「ほら万丈!!チキン食って筋肉つけろよ!」

 

 「いやさっきチキン食っただろ!!てかどっから出したんだこのプレゼントとチキン!!」

 

 押し付けられて半ば強引に受け取らされる龍我。戦兎はプレゼントに指をさす。

 

 「ほら開けてみな!お前の欲しいものが入ってるぞ!!」

 

 「・・・なんだよ戦兎、ノリおかしいぞ・・・。」

 

 プレゼント箱を開けると、中にはプロテインのドリンクが入っていた。

 

 「筋肉鍛えろ!!」

 

 マッスルポーズをする戦兎に龍我はツッコミを入れる。

 

 「なんでプレゼントがプロテインなんだよ!?使うけど!!」

 

 そこに、一海がモノ欲しげに近寄る。

 

 「・・・おい、ビルド。その能力、ほほほ、欲しいものが手に入るのか?」

 

 戦兎は一海に顔を向けて頷く。

 

 「そうみたいだ。そいつの考えてる欲しいプレゼントを具現化する能力・・・なのかな?」

 

 「ええっ!?俺プロテインのこと考えてたの!?」

  

 「いや、プロテインは俺の偏見」

 

 「んに野郎!!」

 

 それを聞いた一海はドン!と地面を踏みつけ、震えながらガッツポーズをした。

 

 「ッッッッうおおお!!アアア!!マジか!!!!今すぐ頼んます!!!!!」

 

 一海はいきり立って龍我を横に突き飛ばし、戦兎の前にしゃがみこんだ。

 

 戦兎は一海をじーっと見る。

 

 「・・・おぉ、み、みーたんか・・・。」

 

 「当たり前だ!!みーたんのためなら、俺は心火を燃やして・・・」

 

 その時、戦兎の脳裏に電撃が走った。

 

 「うっ・・・!?」

 

 突如頭を抑える戦兎。異変に気づいて焦る一海。

 

 「えっおい、ビルド!?いや、戦兎!!!まだ行くな!!それより今やるべき事があるだろォォ!!」

 

 「・・・あ、あたまが・・・。」

 

 ぐらぐらと揺れながら力が抜けていく戦兎。それをさらに揺さぶって気を保たせようとする一海。

 

 「戻ってこい!!おい戦兎!!桐生ゥ戦兎ぉ!!お願いします!!」

 

 だが、無情にも戦兎の脳に到達するハザード。がくりと全身の力が抜ける。

 

 そして、一海もまた肩を落としてしょんぼりとしながら距離をとった。龍我はその一海の背中をポンポンと叩いて励ました。

 

 次の瞬間、黒いオーラを放出しながら桃白と赤の眼のハザードが覚醒し、おもむろにハザードトリガーのボタンを押した。

 

 ()()》》

 

 《MAX Hazard ON》

 

 

 

 

 

 ビルドドライバーから待機音が鳴る。さらにレバーを回転させる。

 

 《ガタガタゴットンズッタンズタン!!ガタガタゴットンズッタンズタン!!》

 

 《READY GO!》《OVER FLOW!》

 

 「やべぇ!来るぞ!一海ィ!」

 

 「フン、カズミンって呼びな!」

 

 「だれが呼ぶか!」

 

 「おもしれぇ!俺との代表戦の続きといこうじゃねぇか!!ビルドォ!!!」

 

 二人は受け手の構えをとると、黒いビルドはゆらりと二人を見た。

 

 《YABEEEEI!!!!》

 

 ドライバーから音が鳴り終わると同時に、黒いビルドが自身から吹き出した雪に白く包まれ、辺り一面に雪を降らせた。

 

 「はっ!?なんだ!?雪!?寒っ!」

 

 その次の瞬間、凄まじい速度で踏み込み、あっという間に二人の間合いに入り込んだ。

 

 「速ぇ!!・・・ッラァ!」

 

 龍我と一海は反射的に黒いビルドに殴りかかるが、サッとかわされ左脚で強烈な回し蹴りを浴びせられた。

 

 「ぐわぁ!」「ぐっ!」

 

 その脚部は熱を帯びていて、蹴られた箇所は熱で煙を出している。

 

 「あっちー・・・あっ!?どこいった!?戦兎・・・!?」

 

 吹き飛ばされた二人は雪景色の中黒いビルドを見失ってしまった。

 

 その次の瞬間、彼らの顔面に向けて一つずつデコレーションケーキが投げつけられた。

 

 「うごおお!見えねえ!前が・・・」

 

 《ガタガタゴットンズッタンズタン!!ガタガタゴットンズッタンズタン!!》

 

 「「!!」」

 

 二人がその恐怖の音を察し、急いでケーキを振り払うと、雪景色が拓けてレール状の方程式が二人を終着点にして引かれていた。

 

 《Hazard Finish!!》

 

 「まずい!なんとかして勢い止めんぞ!万丈!!」

 

 「あ、ああ!!」

 

 空から雪をかき分けるように、ソリに乗って駆け下りる黒いビルド。

 

 二人は手刀を振り下ろすようにスクラッシュドライバーのレバーを捻ると、ガァン!と金属音が鳴り、力が溜まっていく。

 

 ースクラップブレイク!!!

 ースクラップフィニッシュ!!!

 

 「「うおおおおおおお!!!!」」

 

 二人が拳をソリに重ねると、ソリはそのまま滑走し、黒いビルドはソリの進行方向とは反対側に飛び上がり、滑走したレールの上を、黒いビルドが両足を揃えて単体で滑走する。

 

 ソリは当然二人の力で破壊されたが、その先の黒いビルドは黒いオーラを纏った両足で二人を蹴飛ばした。

 

 「「ぐああああ!!!」」

 

 二人は吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

 「・・・つええじゃねぇか!!戦兎のやつ、なにが平和なフォームだよ!」

 

 「・・・へへ、エンジンがかかってきたァ!こっからだァ!!行くぞビルドォ!」

 

 二人がもう一度立ち上がり、立ち向かおうとすると、またも顔面にケーキが飛んでくる。

 

 「同じ手は喰わねぇ!」

 

 一海は腕のツインブレイカーに消しゴムフルボトルをセットし、ビームモードに変えた。

 

 ービームモード!シングルフィニッシュ!!

 

 ケーキにビームが当たると、ケーキが瞬く間に消えたが、そのケーキの先にいた黒いビルドはとてつもない速さで残像を残しながらゼロ距離に接近した。

 

 「なんて動きだよこいつは・・・」

 

 一海は目の前の黒いビルドに拳を振るが、背後に回り込まれてワンテンポ置いてから蹴り飛ばされた。

 

 「ぐぉあ!」

 

 その次に流れるように黒いビルドは立ち上がる途中の龍我の元へ向かい、背後を取った。

 

 「あっおい、万丈!危ねぇ!!」

 

 しかし、黒いビルドは攻撃してはいなかった。

 「・・・なんだこれ」

 

 龍我は、気づくとクローズチャージの姿のままエプロン姿にさせられていた。

 

 「どういう事だ・・・?あいつ、ハザードトリガーは目の前に移るやつ全部を破壊するんじゃないのかよ」

 

 「おい一海!お前もエプロン付けられてんぞ」

 

 一海もまた、グリスの姿のままエプロンを付けられていた。

 

 「舐めたようなことしやがって・・・。お料理でもする気か?」

 

 起き上がった一海があたりを見回し見たものは、驚く光景だった。

 

 「・・・する気かよ」

 

 黒いビルドは、スポンジケーキにクリームを塗りながら、いつの間にか出現したキャンプ用キッチン用品&テーブルで華やかにケーキを作っていた。

 

 それを見た一海は、はぁ、とため息を吐いて黒いビルドに近寄った。

 

 「興ざめだ。もう充分だろ。さっさとそのヤベー部品取っちまうか。」

 

 すると、その後から龍我が一海の手を止め、一海と並んで立った。

 

 「待てよ!あいつ、出来るだけ長くって言ってただろ!あの様子なら、あんまり攻撃してこねぇだろ!」

 

 黒いビルドはスポンジケーキにクリームを塗り終わり、ホイップを絞っている。攻撃してくる様子はない。

 

 「・・・まぁ、戦ったらあんだけつええんだ。もう少し待ってみるか」

 

 二人は変身を解除し、雪が降る中、座って黒いビルドの様子を見ることにした。

 

 ーその30分後

 

 「って、作りすぎだろ!!!!」

 

 龍我がツッコミの声を上げるのもそのはず。

 

 黒いビルドは、ケーキの入った箱を大量に積み上げていた。

 

 一海が黒いビルドの隣で呟く。

 

 「・・・まぁ、なんか流れで俺達もケーキ作らされてたけどな。」

 

 「鼻にクリーム付いてんぞ。てかなんで手伝っちまったんだろうな」

 

 黒いビルドはケーキの入った箱を大きな箱に箱詰めしはじめる。それに気づいた万丈と一海も一緒に行う。

 

 「おうおう、俺たちの作ったやつも紛れてんだ。もっとみーたんみたいに大切に扱え戦兎ォ」

 

 「お前例えみーたんしかねーのかよ!」

 

 「るせーエビフライ」

 

 「もっと俺も大切に扱えよ!」

 

 「エビフライの何がわりーんだよ」

 

 「・・・おおう、わ、悪くねーよ!・・・いや悪りーよ!」

 

 そんなことで騒いでいる間に、黒いビルドは音も気配もなく・・・

 

 「・・・ん?あっ!?おい天ぷら頭ァ!戦兎居なくなってんぞ!」

 

 「だれが天ぷら・・・ァア!?戦兎ぉ!?ヤベーだろこれ!!仮にもハザードトリガーだぞ!?・・・あぁもうとにかく二手に別れんぞ!!」

 

 「・・・これであいつに暴れられたら代表戦どころじゃねーな。急いで見つけんぞ!!」

 

 「あぁ!!」

 

 二人はそれぞれ反対の方向へ走り出した。

 

 その空には、トナカイ付きのソリのシルエットが飛んでいた・・・。

 

 

 

 

 

 その数十分後、龍我と一海は息を切らしながら元の場所で合流した。

 

 「なぁ一海・・・ちょっとでもみつかったか?戦兎・・・」

 

 「ちょっとでもって・・・バラバラになるわけでもねーだろ・・・。もしかしたら

 ナシタに戻ってるかもしれねぇ、戻ってみるか」

 

 「あのなぁ、戻ってたら連絡来るだろ・・・あっ」

 

 万丈は、初めて戦兎がハザードフォームに変身した時の殺意、そして恐怖を思い出して顔を青ざめさせた。

 

 「・・・やべぇかもな。一応戻るぞ!!」

 

 

 

 

 「「・・・というわけ・・・です。」」

 

 カフェnasitaに戻った龍我と一海は、美空と紗羽の前に正座していた。

 

 「やばいでしょ!!!あんまり危なくないっていってもふたりが止められなかったなら、戦兎、もしかしたら東都をめちゃくちゃにするかもしれないじゃん!」

 

 「ヤベーイ・・・」

 

 「ヤベーな一海・・・どうする、また探すか・・・」

 

 三人が頭を抱える中、紗羽が立ち上がり閃いたように手を挙げた。

 

 「ねえ、どこに行ったか分からないなら、捜索願い、テレビで流してもらえたら良いんじゃないかな。首相に頼んで。」

 

 「おいおいそれ戦兎と俺達のとんでもねぇ不祥事がばらまかれるだろ・・・」

 

 「それでもあいつがなにかして被害を出すよりマシだ。それに、同じ東都の仮面ライダーのお前が止めれば、東都のやつらもすこしは納得するんじゃねぇか?」

 

 「・・・仕方ねぇ、また借りが増えたぞ、戦兎ォ。」

 

 奮い立つ龍我と、その隣でうなづく一海。それを見て紗羽は笑顔で返し、東都政府首相、氷室泰山に電話をかけた。[newpage]「もしもし、首相、お疲れ様です。仮面ライダーのサポートをしている滝川 紗羽です。今大丈夫ですか?」

 

 電話の向こうで泰山は弁当を食べて昼の休憩をしていた。

 

 「おお、大丈夫だ。何かあったか・・・何!?ビルドが!?・・・わかった、至急テレビ局に協力を依頼しよう。」

 

 泰山が電話を切ると、腰を上げてせわしなく動き出した。

 

 

 

 紗羽は電話をしまうと、三人に目を向けてため息をひとつはいた。

 

 「いやーオオゴトになっちゃったね。とにかく、私も探してみるから、万丈はここでいつでも駆けつけれるように待機!カズミンも行こう!」

 

 「おっ、紗羽さん、いいじゃんか。よし!カズミン頑張っちゃうぞ。みーたん!行ってきますッ!・・・万丈、正直ふたりきりのお留守番とか羨ましいけど、ソッコー見つけて帰ってきてやる!」

 

 一海はロボットスクラッシュゼリーをスクラッシュドライバーに装填し、出入口に走り出した。

 

 「紗羽さん、俺は空から探す!!なんか見つけたらこまめに連絡くれ!」

 

 「うん、わかった!!じゃ、いってくる!!」

 

 二人が急いでカフェを出ると、グリスの変身する音とヘリコプターの音が鳴り響いた。

 

 龍我は不機嫌そうな顔で腕立て伏せを始めた。

 

 「・・・ったく戦兎、世話が焼けるぜ。この騒動終わったらあいつに強化アイテムの一つや二つ、作ってもらわなきゃな。・・・ふん、ふん」

 

 美空は椅子から降りてやかんに水を入れ、お湯を沸かし始めた。

 

 「ねえ?・・・お腹減ったよねー万丈。とりあえずあの戦兎だし。手ごわいだろうし。腹が減っては戦ができぬ。だろうし。万丈もカップ麺食べるしょ?」

 

 「・・・あぁ。食うわ。一応テレビ見ようぜ。なんかあったら俺もすぐ動かなきゃならないわけだしな。」

 

 「そう思うなら腕立て伏せやる前にテレビつけてよ万丈。」

 

 「あっわりぃわりぃ・・・」

 

 龍我は立ち上がり、タブレット端末をワンセグモードにしてテーブルに立て掛けた。

 

 タブレット端末のテレビ画面には、東都TVのバラエティ番組が流れていた。

 

 

するとバラエティ番組の画面が突如狭まり、できた空間に東都速報ニュースが流れ始めた。

 

 それの流れる字を龍我は追いかけて急かすように読み始める。

 

 「おっきたきた。はやいな!えーと、東都の仮面ライダー、ビルドに似た、黒いか め ん ラ イ ダ ー・・・が」

 

 「万丈、そんなリアルタイムで追っかけて読んだらわかんないよ」

 

 そう言って隣にカップ麺タイマーを持ちながら美空がやってくる。

 

 「えーと、東都の仮面ライダービルドに似た黒い仮面ライダーが東都に出現して暴れています。・・・えーと、見かけたらすぐに逃げてこちらの電話番号まで連絡を下さい。なーるほどビルドって言わずに~!頭いいじゃん首相さん!!」

 

 「あー、たしかになぁ。それが戦兎だって言わなきゃ、あ、あれ違うんだってみんな思うもんな!・・・でも、見つかったやつそう簡単に戦兎から逃げれんのか・・・?」

 

 「・・・それもそうだよね。あの黒いビルド・・・本当にやばいし・・・」

 

 うーん、とうなだれる二人。すると、カップ麺のタイマーがピピピッ!!ピピピッ!!と小刻みに鳴り出した。

 

 「おわわっ!万丈カップ麺できた」「こうしちゃいられねぇ!俺も戦兎探すぞ!!美空!ケータイ持ってくから何かあったら連絡してくれ!!」

 

 「ええっ!?万丈カップ麺は!!?」

 

 龍我はそれを無視し、スクラッシュドライバーを手に持って腰にあてがいつつドアを開けようとしたが、ドアは勝手に開いて龍我にぶつかった。

 

 「うお痛って!」

 

 龍我はドアの横にバタン!と倒れる。

 

 ドアが遮って誰が入ってきたか見えない龍我をよそに、美空はカップ麺片手に驚いた顔を見せる。

 

 

 

 「あっ・・・帰ってきたの?」

 

 

 

美空の視線の先が気になり、龍我も飛び上がるように起き上がった。

 

 「あぁっ!?戦兎か!?てめぇ心配かけさせて・・・」

 

 「あっ・・・ごめん俺だ。ケータイ忘れたから取りに来た」

 

 ドアを開けた先に居たのは、グリスのままの姿の一海だった。

 

 ずっこける龍我を尻目に、一海は「ケータイケータイ・・・」と呟きながらケータイを探し、カウンター席に置いてあるのを見つけて手に取った。

 

 「・・・一海かよ!戦兎帰ってきたかと思ったぞ!」

 

 一海はポーンポーンとケータイを空中に放りつつ手に取り、龍我の元へ行く。

 

 「まぁそう焦んな。・・・お前まさか戦兎探すから出てくって言い出したんじゃねぇだろうな。

 

 お留守番は任せたって言ってんだ。みーたん一人置いて暴れまくる戦兎何とかなるって思うかァ?」

 

 一海は龍我の肩に置いた手を伸ばして突き飛ばし、ドアにぶつけてドアを閉めた。

 

 「今日探すのは俺達が引き受けたって言ってんだ。お前とみーたんはあいつが帰ってきたら、止めるか、おかえりの一言でも言ってやれェ。筋肉バカでもそれくらい出来んだろ。

 

 ・・・居場所ってのはそーゆーモンだろ。

 

 じゃ、俺は行くぞ。みーたんお手製のカップ麺伸びる前に食って、備えとけ。」

 

 一海はドアを開け直し、フルボトルを振りながら外に出た。

 

 〈ツブレナァーイ!〉

 

 ドアの奥から聞こえるグリスの地面を蹴る跳躍音とスクラッシュドライバーの音と、ヘリコプターの音。

 

 それを背に龍我は、ゆっくりと机にスクラッシュドライバーを置き、美空の元へ歩いていった。

 

 「・・・カップ麺。食うか。」

 

 「そうだよ。私たちがいないと、戦兎が帰れないでしょ。

 

 それじゃ、食べよっか!」

 

 美空は龍我にカップ麺を手渡してキッチンに戻る美空。

 

 龍我はカップ麺のフタを剥がし、割り箸を持って手を合わせた。

 

 「・・・よし!いただきます!!」

 

 タブレットのテレビ放送画面を見ながらがっつき始める龍我。

 

 美空はもう一つのカップ麺とケータイを手にしながら、龍我の隣にぱたぱたと走っていった。

 

 「力つけて、戦兎のこと止めなきゃね・・・ととと、あっ、あっ、わーーーっ!!」

 

 ふらついた足に椅子が引っかかり、カップ麺とケータイが宙を舞う。

 

 ガン!バシャアン!

 

 ケータイは龍我の頭部に当たり、食べていたカップ麺に頭を突っ込んだ上に、サンドするように真上からもカップ麺が挟み込む。

 

 「・・・ごめん、万丈!」

 

 謝る美空。龍我はその瞬間、脳裏に〈チーン!〉とレンジのような音が鳴り、飛び上がった。

 

 「アーチ!!アチャチャ!!!ヤベェ!!ああーっ!!」

 

 カフェnasitaからは、龍我のヤベェーーイ叫び声が響くのだった。

 

 

 その頃、東都に存在するバーバー桐生という床屋の屋根の上。

 

 一人の細身の中年男性、石動 惣一が携帯端末でテレビ放送を眺めていた。

 

 「・・・へぇ〜。戦兎がねぇ・・・。まっ、こんなことするってことはハザードレベルを上げるか暴走状態に入ったデータをとりたいっていう実・験!ってやつか。

 

 でもまぁ、暴走してもハザードレベルは一時的にしか上昇しないだろうけどなぁ。戦兎のやつ、わかってんのかね。

 

 ・・・しっかし」

 

 惣一はゆらりと立ち上がると、ポケットから禍々しい薄紫色に光るコブラフルボトルを取り出し、もう片手に持つ小銃型のアイテム、ネビュラスチームガンに取り付けた。

 

 《コブラ》

 

 「代表戦はどちらかと言うと出てもらいたいんだよねぇ。

 

 人と人が争うのは醜く、そして面白い。

 

 ・・・蒸血」

 

 《Mist much・・・》

 

 《CO・COBRA・CO・COBRA》

 

 《FIRE!!》

 

 全身に霧状の煙を纏いつつ、身体から花火のように火花を散らせながら、真紅の外見に謎を秘める、ビルドの宿敵こと、ブラッドスタークに変身した。

 

 「・・・ふ〜っと。さて、何とかして奴を止めてやらないとな。まずどうしたものか・・・」

 

 ボイスチェンジャーがかかったように声質が変わる惣一。

 

 ヤクザ座りのように屈んでだるそうにあたりを見回す。

 

 「オイ!」

 

 「ん?・・・ちっ」

 

 惣一が急に聞こえた声に導かれて空を見上げると、そこにはヘリコプターフルボトルで飛ぶ金色の仮面ライダー、グリスが飛んでいた。

 

 

 「石動 惣一・・・こんな所で何してやがる?」

 

 一海が同じ屋根の上に着地すると、惣一は立ち上がって向かい合った。

 

 「何って、日向ぼっこだよ。お前こそ西都との決戦を前にパトロールとは、呑気なもんだねぇ。

 

 ・・・それとも、決戦の前の追い込みトレーニングよりも重要なパトロールってわけか?」

 

 「はっ!それほど心配なら丁度いいな!俺のトレーニングついでにテメーをぶっ潰してやる!俺達の北都を裏切ったことは許しはしねぇ!オラァ!」

 

 一海の拳が勢いよく惣一に襲いかかるが、惣一はそれを左手で受け止め、外側に向けて放り投げて受け流す。

 

 「・・・凍てつけ。」

 

 もたれ掛かるようにふらつく一海をタックルして起こしつつ、右手のスチームブレードのハンドルを回して冷気を纏わせる。

 

 「なにっ!?惣一てめぇ・・・」

 

 一海が体勢を立て直してツインブレイカービームモードを構えるが、惣一は潜り込むような低姿勢で高速接近し、二、三回と切りつけた。

 

 切りつけられた部分は黒い不純物混じりの氷で覆われ、周りから火花を散らす。

 

 「それじゃ西都には勝てない。軍事力に長けた北都のエースがそんな程度じゃあ・・・お話にならないねぇ」

 

 「ハッ!まっまだおわったわけじゃあねぇ・・・ウッ!?」

 

 無理やり立ち上がろうとする一海だが、不純物混じりの氷が透き通るクリアな氷に変わると、倒れ込んで変身を解除した。

 

 「ウッ・・・ウッ・・・なっ、なにしやがった・・・」

 

 「それは自然に治る毒だ。痺れて苦しくて、どうだ。動けないだろ。俺の特製ブレンドだからな。悪いが休んでてもらおうか。・・・チャオ。」

 

 惣一がそう言うと、スチームブレードから暗黒の煙を放出して姿を消してしまった。

 

 「くっ・・・くそ・・・ウッ・・・」

 

 一海は地面を震える手で殴ると、顔を伏せて苦しんだ。

 

 

 

 その一海に忍び寄る、黒い影。しかし、一海は気付くことなく眠りに落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 ーグ・・・ス・・・リス・・・グリス・・・グリス!!

 

 なんだこの可愛い声は・・・これは・・・これは・・・

 

 「みぃいたん!?」

 

 ガバッと突然起き上がる一海。

 

 そこはカフェnasitaのカフェテリアスペースだった。

 

 「とっ、突然起きあがんなよ!ビビるだろ!」

 

 そこには驚く龍我と紗羽、そして愛しのみーたんが。

 

 「みーたん!俺を心配してくれた!?俺、嬉しいです!」

 

 「それよりまず、なんでここで寝てたのか説明してよ!」

 

 「・・・はい?」

 

 一海が落ち着いて辺りを見回す。そして頭をポリポリと掻き、腕を組んで考えると、あっ、と思い出す。

 

 「あぁ、俺、気絶して・・・なんか毒がどうたらっていって・・・あれ?何がどうなってんだ」

 

 カウンターに向かい、座って缶コーヒーをすする龍我がそれにこたえる。

 

 「なんか、地下で物音がしたから俺と美空で地下に見に行って、何も無いから戻ってきたら寝っ転がってたんだよ。いつもの寝言もねーから心配したんだぞ」

 

 「いつものってなんだ、俺なんか言ってんのか」

 

 「自覚なかったのかよ・・・みーたんみーたん言ってんぞ。」

 

 「俺・・・流石だな。俺ほどのみーたん推しはいないんじゃないのか?」

 

 紗羽がはぁ、とため息をついてテーブル席に座る。

 

 「・・・その様子なら元気で大丈夫そうね。心配して損したなぁ。

 戦兎くんの捜索はもう暗くなるから断念してる。東都のガーディアンは各地を見回ってるみたいなんだけどね・・・。なにかわかれば連絡が来るって。」

 

 「まぁ、まだ日がある。明日見つければ充分間に合うだろ。・・・でも、あの黒い状態のままずっとだろ。アイツ、こっち側に戻ってこれんのか。」

 

 それを聞いて顔色を悪くするメンバー。龍我は頭を掻きむしると、スクラッシュドライバーを手にして立ち上がった。

 

 「居てもたってもいられねぇ。やっぱり俺も探しに行く。ダメそうだったら戻ってくるから心配すんな。」

 

 「やめとけ・・・俺はなんかちょっと痺れてうまく動けねぇし、一人じゃボコボコにされんぞ。」

 

 「・・・るせぇ。本気出せば止めれんだよ。気合いだ気合い。」

 

 龍我は静止を振り切り、外へ出ていった。

 

 紗羽も美空も、戦兎の心配もあってか強く止めはしなかった。

 

 

 龍我は外へ出るなりすぐにスクラッシュドライバーにドラゴンゼリーを装填し、クローズチャージへ変身する。

 

 ードラゴンゼリー!

 

 「いつこの暗い中襲ってくるかわかんねぇからな・・・変身!」

 

 ー潰れる!流れる!溢れ出る!ドラゴンインクローズチャージ!ブラァ!!

 

 クローズチャージの姿に変身した龍我は一瞬何かを探す素振りをしたが、諦めて走り出した。

 

 「あぁ!戦兎ォ!こういう時に空飛べるように羽根欲しいって言ったんだよ!!」

 

 龍我は戦兎の元にあるタカフルボトルを惜しく思う。しかし、一海に空を飛べるボトルを借りるのも何かをまだ抵抗がある。

 

 「うおお!どこだ戦兎おぉ!!」

 

 龍我は仕方なく走り回って探すことにした。

 

 

 

 

 ・・・そのカフェnasitaの屋根の上、静かに佇む黒いビルドの姿があった。

 

 彼は龍我との入れ違いで玄関前に着地し、右手で持って背負った大きな黒い袋から何かを取り出そうとした。

 

 「ここに来ると思ってたよ。戦兎。」

 

 黒いビルドは声の方向、龍我が走っていった方向とは逆の場所に顔を向けた。

 

 その死角から現れたのはブラッドスタークであった。

 

 

 「もう充分漬けられただろ。俺がハザードレベルを測ってやる。かかってこい!」

 

 スタークはスチームショットを放ち、黒いビルドを挑発した。

 

 すると、黒いビルドは避けるでもなくスラリと立ち上がり、ジリジリとスタークに近寄る。

 

 一瞬たじろぐスタークだったが、スチームブレードを構え、その場に留まる。

 

 しかし、ビルドが目の前で立ち止まり、いつまで経っても攻撃してこない様子を見て、スタークは首を傾げる。

 

 「・・・なんだ?脳に異常を来たしたか?」

 

 その直後、チーン!!と音が鳴り、ビルドは体内から香ばしい焼きたてのチキンを取り出した。

 

 驚くスタークにチキンを手渡そうとすると、スタークはチキンを蹴り飛ばし、スチームブレードをビルドの首元に当てがった。

 

 「戦え。その衝動を呼び起こす力がそのトリガーにはあるだろ。そんな行動が取れるってことはまだ意思があるんだろ。強くなった桐生戦兎の力を俺に見せてみろ。」

 

 すると、ビルドはゆっくりとビルドドライバーの取っ手を掴み、回し始めた。

 

『ガタガタゴットンズッタンズタン!!ガタガタゴットンズッタンズタン!!』

 

 スタークはその様子を見て嬉しそうにスチームブレードをくるりと回して持ち直し、身構える。

 

 「そうだ・・・それでいい」

 

『READY GO!!』

 

 《Hazard finish!!》

 

 おぞましい機械音声のあと、すぐに黒いビルドは右腕から明るい光を放ちながらアッパーカットをスタークに浴びせる。ズドン!!と大きな音がしてスタークは空中に浮かされた。

 

 「がぁは!!」

 

 スタークは空中で半回転しつつ身構えようとする。

 

 黒いビルドの背後からどこからともなく現れたソリが急上昇のグラフを滑走し、ビルドはそれに乗ってスタークを跳ねた。

 

 さらにソリから飛び降り、プレゼントの沢山入った白い袋で真下にたたき落とすように殴りつけた。

 

 「うがあぁあ!!」

 

 地面にヒビを作り叩きつけられたスタークはたまらず変身を解除し、起き上がろうとしながら呟く。

 

 「はぁ・・・はぁ・・・ハハッ、ハザードレベルがもう人間の敷居を超えそうな勢いだな・・・。」

 

 目の前に着地した黒いビルドは、赤い目を光らせるとじっと惣一を見る。

 

 すると、黒いビルドは何を思ったのかベルトに刺さったサンタフルボトルとケーキフルボトルを引き抜き、惣一に投げ渡した。

 

 「・・・ん?」

 

 惣一は不思議に思うが、黒いビルドはバリバリと赤黒い電気を帯びながらも変身を解除し、桐生 戦兎に戻って後ろに倒れ込んだ。

 

 「・・・なるほどねぇ。サンタとケーキ。俺の欲しいものをスキャンして、俺に寄越したってわけか。

 バカげたベストマッチだ。変身を解除して気を失うリスクすら意に介さず、他人の欲しいものを優先する・・・。

 理解が追いつかないね。」

 

 惣一はゆらゆらと立ち上がると、トランスチームガンを手にした。

 

 その時、曲がり角からクローズチャージの姿の龍我が走って戻ってきた。

 

 「なんだ今の音ォ!?・・・あっ!戦兎!

 

 お前は石動 惣一!!てめぇがやったのか!!!」

 

 惣一は「はぁ・・・」とため息をつくと、2本のフルボトルを龍我に見せつけ、地面にトランスチームガンを向ける。

 

 「これは貰っていく。お前と戦う気はないよ。

 ・・・チャオ」

 

 引き金を引いてガスを撒くと、惣一は跡形もなく消えてしまった。

 

 「クソッ!!逃げられた!!・・・戦兎!しっかりしろ!戦兎!!!」

 

 龍我は変身を解除して、戦兎を抱き起こすと、ビルドドライバーに目をやった。

 

 「・・・あっ!まだこれ挿さってるままじゃねぇか!!」

 

 龍我がビルドドライバーからハザードトリガーを引き抜く。

 

 すると、戦兎はビクン!と痙攣してからゆっくりと目を開けた。

 

 

 「・・・はっ!

 ・・・万丈?お前が解除させてくれたのか?」

 

 戦兎は頭をおさえながら聞く。

 

 「あっいや・・・俺が来た時には・・・石動 惣一が・・・。」

 

 「そうか・・・スタークが・・・。って、あのフルボトルがねぇ!」

 

 「そうなんだよ、あのフルボトル手に持って見せつけて、逃げてったんだよ」

 

 戦兎はゆっくり起き上がると龍我に向かい合った。

 

 「まぁ、追えなかったか・・・仕方ない、持ってても実戦には使わなかったかもしれないし。」

 

 「追わねーよ。フルボトルより大事なモンが地面に寝っ転がってんのに追えるかよ。」

 

 「なんだそれ、告白?」

 

 「あっ、ちげーよ!!ちょっとカッコつけただけだっつーの!」

 

 戦兎はフッと笑うと、龍我とともにnasitaの扉に手をかけた。

 

 「心配かけて悪かったな。万丈。一緒に帰ろう。」

 

 「・・・ああ。みんな待ってんぞ。」

 

 扉を開けると、開口一番に二人は呟いた。

 

 「・・・ただいま!」

 

 nasitaに入ると、中にいた3人が驚いて飛び上がる。しかし、すぐに笑顔になって口を揃えて返した。

 

 「・・・おかえり!!戦兎!!」

 

 

 

 その次の日。朝から戦兎は誰よりも早起きし、ビルドドライバーから引き抜いたデータチップを解析して作業を進めていた。

 

 「・・・すごいな。半日もハザードトリガーを使用し続けたデータがある。どうりで俺もへとへとな訳だ。」

 

 その膨大なデータをパソコンで分析し、新たな道具を設計する。

 

 「このデータで、ハザードトリガーの力を最大限に引き出した状態で暴走しないアイテムを作り出す・・・。」

 

 カタカタとパソコンを操作する戦兎。その遠く、nasitaの玄関が開いた音とともにカツカツと靴音が近づいてくる。

 

 さらに冷蔵庫の扉を開けて入ってきたのは紗羽だった。

 

 「おはよう戦兎くん、大変、大変よー!」

 

 急いで戦兎に近寄る紗羽。その手にはネットニュースを開いたタブレット端末とプレゼント箱が持たれていた。

 

 「紗羽さんおはよう。どしたの?」

 

 「これ見てこれ。東都じゅうの家にプレゼント箱が配られてて、もう街中大騒ぎで・・・。しかも中身は超美味しいケーキ!」

 

 「ええ・・・でもそれやったのもしかして俺かも・・・。」

 

 「そうなの!街の中で、一人が見たって。報道されてた黒い仮面ライダーが、すごい速さで来て、丁寧に玄関の前にプレゼント箱を置いて去っていったって。

 

 しかも人数分入ってるから、本当に東都の人全員が幸せになってるの!最近物騒っていうか、東都じゅうの人が不安がってたから、黒い仮面ライダーの正体が知りたい、お礼したいって人がもうたくさん!」

 

 戦兎はニコリと笑って、とても嬉しそうにした。

 

 「ビルドドライバーは戦争のためにあるんじゃない。平和のために戦ってる。そう思ってたけど、こういう形で東都に平和をプレゼント出来たのは初めてだ。

 

 次の代表戦は絶対に負けられない。」

 

 真剣な表情でパソコンと向き合う戦兎。それに頷いて紗羽は持ってきたケーキを戦兎のデスクに置いた。

 

 「おっ、ありがとう・・・ってこれ例のケーキ?」

 

 「そう!nasitaの前にも置いてあったの!戦兎くんやつれてるから、食べて疲れとって!私に出来ることなら何でもするよ!珈琲入れる?」

 

 「あぁ、紗羽さん、ありがとう!・・・最高だ!」

 

 

 

 

 

 そうして集まったハザードトリガーのオーバーフローモードのデータが、フルフルラビットタンクボトルに利用されることになった。

 

 

 

 

 

 その頃の石動 惣一は。

 

 「・・・はぁ。興ざめだ。どういう事なのかねぇ。」

 

 手に持っているのは2本のエンプティボトル。成分は全く入っていない。

 

 「手に持って帰ってきたら中身が入ってない。その前は絶対に入ってたのにな。

 サンタさんは悪い子にはプレゼントくれないんだっけか。はーあ!

 

 なのにお前にはもらえるのか!!氷室 幻徳!!」

 

 西都でもケーキは配られていたらしく、唯一幻徳だけが今日のメンテナンスでヒゲにクリームをつけてきたことが話題になっていた。

 

 「・・・ライダーシステムが人をマトモにさせるのは本当かもしれないな。幻徳はしっかり監視しないとならないな。」

 

 

 

 

 

 

 そして、東都の信頼を得た戦兎たち、疑惑の浮かぶ幻徳を交えた西都がぶつかり合う代表戦が開催されるのだった。

 

 

 ……To be continued

 




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