十六夜一族 (‪α‬ラッブ)
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満月の少女

拙い文章ですがよろしくお願いします。


  幻想郷・・・そこは忘れ去られた者達の楽園。

  紅魔館・・・それは幻想郷にそびえ立つ吸血鬼の住まう場所。スカーレット家の一族が住んでいるとされている。

 

 

  紅い目の紫髪をした幼女の姿の吸血鬼、紅魔館に住まうスカーレット家の姉で紅魔館の主、レミリア・スカーレットと、この物語の鍵となる少女、十六夜 咲夜の物語である。

 十六夜咲夜は紅魔館のメイド長で、人間。

 ただし、この紅魔館へと来た際に忠誠心と労働を捧げる代わりにレミリア・スカーレットの血を受けた。

 その紅魔の血による身体能力と生まれ持った恐るべき能力で、紅魔館の随一戦闘能力を誇る。

 まず、彼女は紅魔館に仕える前の記憶が一切無い。それは産まれも育ちも、自分の名前すらも・・・。

 彼女が持つ最も古い記憶はたったの2年前まで。

 彼女自身も分からないが、恐らくそれは当時16歳の頃だ。

 

 それは紅魔館が幻想郷に移る前の話。

 

 

 ふと目を覚ますと、赤レンガの壁にもたれかかっていた。

「こんな夜中に大丈夫っすか?」

 前メイド長の紅美鈴(ほん めいりん)と言う赤髪の女性だ。

「?」

 名の無い頃の咲夜に優しく話し掛ける。

「えーっと・・・大丈夫?」

 と、ようやく名無しの少女は話し掛けられた事に気づく。

「・・・?。あ、ああ、はい。多分?」

 所々痛みがあるし、動けないが、驚いてそう答えてしまう。

「良かった。でも動けないみたいだし、ちょっとここで待っててね?すぐ戻って来るから。」

「あ、はい。」

 その赤髪の女性が大きい門の奥へ走って行くと、お嬢様!お嬢様!と大きい声で誰かに呼び掛けながら更に奥へ走って行った。

 ドアの閉まる音がすると、静かになったので、名無しの少女は何故自分は倒れているのか、自分の名前は何なのかと言う自分に関する記憶が一切ない事に動揺した。

 数分後、先程の赤髪の女性が戻ってきて、

「失礼しますよーっと。」

 と、名無しの少女を抱きかかえて門の中へと連れていった。

 連れて行かれた所に羽の生えた幼女が座っていた。

「お嬢様、連れて来ました。」

 と、赤髪の女性が羽の生えた幼女に報告する。

「ありがとう、美鈴。後でこの子の世話をお願いしてもいいかしら?

 じゃあ1分後にここへまた来て頂戴。」

 美鈴と呼ばれた赤髪の女性がはいと短く答えて部屋を出て行った。

 幼女は名無しの少女を見つめてこう切り出した。

「フフフ・・・ふーん、面白いわね。貴方、名前は?」

 名無しの少女は小さく首を横に振った。

「そう、動けない様だけれど、何をしたのかしら?」

「覚えてない。」

「じゃあ、最後の質問よ。貴方に帰るべき所はあるかしら?」

「分からない・・・けど、私には何も無い・・・気がする。」

「分かったわ。」

 幼女は少し考えると、よし、と小声で言い、

「貴方に居場所と名前をあげる。」

「え?」

 と言う事はここに住まわせてくれると言う事だろうか。

「では貴方に名を与えます。今日は満月だし丁度良いわ。今日から貴方は、十六夜 咲夜。文字はこう書くの。ここではきちんと働くのよ?

 あ、丁度いい所に来た。美鈴、この子をメイドにする事にしたわ。世話をお願い。」

 レミリアがそう言うと、美鈴が

「わかりました。

 行きましょう、咲夜さん。」

 そうして自身の名前すら知らない少女、十六夜咲夜は紅魔館にてメイドになった。




ここまで読んで下さってありがとうございました。


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時の支配

 十六夜 咲夜。

 それが名無しの少女に名ずけられた名だ。

 彼女は紅魔館のメイドとなった。

 彼女がレミリアと来たのは紅魔館の中に存在するヴワル魔法大図書館と言う所だ。

 真ん中の通路を進むと、紫の服と髪をした女が居た。

「あら、パチェ大丈夫?」

 レミリアがパチェと呼んだ女はのそっと起き上がり、

「あらレミィ、大丈夫よ。それで、その子は新しいメイドか何か?」

「ええそうよ。咲夜、彼女はパチュリー・ノーレッジ。私の友人よ。

 そしてパチェ。彼女は十六夜 咲夜。彼女、面白そうだったからメイドにしてみたんだけれど、どうかしら?」

 パチュリーは、咲夜をじっと見つめて 、

「ふーん、面白そうだったからメイドするのもどうかと思うけど、確かに彼女・・・咲夜ちゃんだったかしら?

 確かに面白いわね。

 咲夜ちゃん、ちょっとこっちいらっしゃい?」

「は、はい。わかりました。」

 咲夜は呼ばれた通り、パチュリーの元へ行った。

 パチュリーは咲夜の頭に手をかざし、無詠唱で何かの魔法を使った。

「レミィ。この子とんでもない能力持ってるわ。

 どこで拾って来たのよこんな逸材。」

 パチュリーは心底驚いていた様子だった。

「美鈴が拾って来たのよ。

 それで記憶が無いみたいだったから私が名ずけたの。

 で、どんな能力なのかしら?」

 驚いた表情から一転キリッとして咲夜の方へ向き直り、

「いい?咲夜ちゃん、よく聞いて。

 貴方の能力はまさに世界を支配する程の力を持つ能力なのよ。」

 世界を支配する程の能力とはどういう物なのかと視線はパチュリーに釘ずけになっていた。

「世界を支配する程?」

「ええ、そうよ。

 まあ、ある意味世界を支配する程の、だけどね?」

「パチェ、前置きはいいわ。」

「そうね。咲夜ちゃんは、時を操る事が出来るのよ。

 まあ、タイムスリップは流石に無理だけどね?未来なら5秒程度どうにでもなるわ。あと、時止めとかね。」

「咲夜ちゃん、能力を使って貰って良いかしら。」

 咲夜は何故かは分からないが、使わなかった。

「あら、どうしたのかしら。」

「あの・・・私分かりません、使い方。」

「そう・・・、パチェ?名前を付けてあげて。」

 パチュリーはそう言われると、少し考えて、小声で「ええ、そうね。それが良いわ。」と呟き、こう続けた。

「決めたわ。貴方の能力、それは自分だけの世界を作り出すの。そう、時の流れる事の無い世界を。

 だから[私の世界(ザ・ワールド)]そう呼びなさい。」

 咲夜は「ありがとうございます。」と静かに、言ってこう続ける。

「分かりました。[私の世界(ザ・ワールド)]ですね。良い響きです。

[私の世界(ザ・ワールド)]!!」

 すると周りの色は反転し、自分以外の全てが静止した。

「これが・・・私の・・・能力?」

 でも[私の世界(ザ・ワールド)]を解除する方法が分からないと、考えていると

「そして時は動き出す。」

 と、無意識に言うと、時は動き出した。

 咲夜が自分の能力に驚いて呆然と立っていると、レミリアがこう言った。

「あら?能力を使って頂戴?」

「あの・・・使いました。」

「そうよね。時を止められたら流石に私でも分からないものね。」

 レミリアとパチュリーは納得し、美鈴に預けた。

 




ここまで読んで下さってありがとうございました。


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捨てられた少女

今回からオリキャラの登場です。


 ある日、母親が若くして子を産んで行方不明になった。

 その子は当時5歳であった。

 通り掛かったおばあさんがその子を拾った。

「貴方、名前は?」

 少女は深く考え込むと、おばあさんの方を向いてこう言った。

「えーっと・・・私・・・の名前?」

「ええ、そうよ。」

 少女は困惑気味に

「忘れた・・・ずっと・・・呼ばれてない。」

「あらそう。じゃあ、私が貴方の育ての親になってあげる。」

「・・・?」

 おばあさんは

「いらっしゃい、今日から私が貴方の帰るべき所よ。」

 と言い、少女の手を引いた。

 おばあさんの家は山の奥にあった。

 おばあさんは彼女を成華と名ずけた。

 

 育ての親のおばあさんは、彼女に口癖のようにこう告げる。

「成華、私はね、貴方の本当のお母さんではないの。私が死んだら、本当のお母さんを探しておいで、苗字はその人から貰いなさい。

 でもね、それまでは貴方のお母さんで居させてね?」

 そうして彼女は生きる為に必要な事を覚えていった。

 しかも、彼女は頭が良く、更に物覚えが良かったので家事・戦闘など、を生きる為に必要な事を卒無くこなせるまでになっていた。

 彼女はおばあさんが何故ここまでしてくれるのか理解しているつもりだったが、どうしてここまでしてくれるのかをやっぱり聞きたくなった。

「おばあさん。」

 彼女は優しく笑い、おばあさんに質問をする。

「なんだい?」

「何故、ここまで教えてくれるの?」

 おばあさんも優しく笑い、こう続ける。

「ふふっ。私がそうしたいから、貴方にそうして欲しいからよ。」

「そう。ありがとう、おばあさん。」

「ふふっ、どういたしまして」

 現時点で成華は8歳である。

 

 

 それから成華が10歳になった頃、おばあさんが倒れ、口癖を今までより言う様になった。

「成華、私はね、貴方の本当のお母さんではないの。私が死んだら、本当のお母さんを探しておいで、苗字はその人から貰いなさい。

 でもね、それまでは貴方のお母さんで居させてね?」

 ベッドに寝たきりになりながらもおばあさんはこの言葉は忘れなかった。

「ええ、いつまでも貴方は私の誇るべき母よ。

  」

 成華は涙を堪えながらそう返した。

 

 数ヶ月後、おばあさんの起きている時間が短くなってきた。

 ここまで来ると心の整理がついてきて、おばあさんにこう言った。

「おばあさん。今日、おばあさんの誕生日でしょ?」

「ああ、そうだったわね。」

「だから、おばあさんにプレゼントがあるの。

 はい、どう?」

 そう言って彼女が取り出した物は美しい花柄のペンダント。

「この花、綺麗ね。この花は何の花なのかしら?」

 おばあさんはその美しい花に目を奪われた。

「分からない。気づいたらこの花が出来てたの。凄く綺麗だったからおばあさんにプレゼントしようと思って。」

 数時間後、彼女が料理を作ろうとすると、おばあさんに呼ばれた。

「成華。」

「何?おばあさん。」

 おばあさんは虚ろな目で成華に話しかける。

「成華、私眠くなってきたの。」

 おばあさんの言う眠いが、どういう意味かを察した成華は、涙を堪えながら優しくこう返した。

「そうね。おやすみなさい。」

「成華。私、貴方の良い母親になれた?」

「ええ、とっても良い母親だったわ。

 ・・・おばあさん。私は次どうしたらいい?」

 涙目で成華が言うと、おばあさんは優しく笑い、

「そうね。まず、旅に出なさい。貴方の本当のお母さんを探す旅にね。

 貴方なら出来るわ。

 私、眠くなって来ちゃった。」

「分かった。ありがとう、『お母さん』。

 おやすみなさい。」

 成華は今にも零れ落ちそうな涙を必死に堪え、できる限り優しく笑い、最後の言葉を告げた。

 すると、おばあさんはふふっと笑い、静かに目を閉じた。

 少女はおばあさんの死体を家の庭に埋め、その上に墓標を立てた。

 彼女はおばあさんの言っていた通り、本当の母を探す旅に出る事にした。

 荷物をまとめ、今まで自分を育ててくれた家に別れと、再会の言葉を告げ、その場を去った。




ここまで読んで下さってありがとうございました。
次回もお楽しみに


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幻想入り

 目が覚めると、見知らぬ空間に居た。

 その空間は大量の目があちこちに浮いている。

「ここは・・・どこ・・・」

 独り言をつぶやくと、何処からともなく声が聞こえた。

「成華・・・だったわね?」

 突然聞こえた女の声に驚き、拳を構える。

「ここはどこですか?」

 声の主が見えないので

「・・・秘密。」

 姿を見せないので怪しく思い、こう言う。

「姿を表して下さい。」

「ごめんなさい。それは出来ないの。

 フフッ、そのうち会えるわ。」

 ()は微笑し、続けてこう言った。

「いらっしゃい。幻想郷へ。」

「幻想郷?なんですかそれは。

 あと貴方は誰ですか?」

「私?私はゆかり。八雲紫。

 そんな事はどうでもいいの・・・

 さあ、行きましょう?幻想郷へ。」

 幻想郷という所を聞いた事がない成華は幻想郷とは何かを聞こうとした瞬間、

「幻想郷は全てを受け入れる。それが悪であろうとね・・・。」

 

「それと、貴方のお母さんも幻想郷に居るわ。」

「・・・そうですか。ありがとうございます。」

 すると、視界は一変し、出て行ったはずの家に居た。

 ちゃんと荷物も両脇にあった。

「なんでここに・・・」

 外に出ると、見知らぬ空があった。

「ここが幻想郷?しかし家はここにある。」

 考えても仕方がないので外に出ることにした。

 何度見ても知らぬ空がそこにあった。

「家ごと転移したということでしょうか?

 まあ、あの人の言うことが正しいのならばそう言う事になる・・・。

 当分はそう考える事にしましょう。」

 外で家の方に向き直すと、

「おばあさん、またお世話になります。」

 と家に告げた。

 世界が変わったとて、家の居心地はかわらなっかった。

 数日後、朝起きて窓の外を眺めると、空が紅く染まっていた。

「何でしょう。

 これも幻想郷の自然現象でしょうか。」

 この紅い霧は後に紅霧異変と呼ばれる紅魔館勢が起こした異変であることを彼女は後に知る。

 紅い空が青くなって数週間後・・・

「あの紅い空はあの時の特異的なものだったのでしょうか。

 そんな事は置いといて、今日は下に降りましょう。」

 この家は小さい山のてっぺんにあるが、実は幻想郷に移動してからまだ降りた事がないのだ。

 成華はこの幻想郷で今までに使用していたお金が使えるか悩んだ結果、とりあえず持って行くことにした。

「このお金は使えるか分かりませんが、とりあえず持っていきましょう。

 さて、幻想郷はどのような場所なのでしょうか・・・楽しみです。」

 彼女は家を出て、山を降りて林の中を歩きだした。

 すると、水色の髪をした羽の様なものを生やした少女と緑髪で羽の生えている少女が歩いて来て、成華を見てこう言った。

「おいお前!!」

「何でしょうか。」

「失礼だよチルノちゃん。

 すみません。チルノちゃんが。」

「いえ。貴方達は?」

 このチルノと呼ばれた少女は性格が良くないのか頭が良くないのか分からないが、元気のいい子供だと彼女は思った。

「あっ・・・すみません。

 この子はチルノちゃんで私は大妖精です。大ちゃんとお呼び下さい。」

「そうですか。ありがとうございます。

 私の名前は成華。苗字はまだありません。」

 それを聞いて疑問に思った大妖精がこう切り出した。

「苗字がまだないってどう言う事ですか?

 私達ならともかく人間達とか妖怪とかでも苗字がありますけど・・・」

「私は自分のお母さんがこの幻想郷という所に居るらしいのです。

 その方を探して、その方から苗字を探そうと思っています。」

「あたいがそのお母さんとやらを探してあげる!!

 お母さんの名前は?」

 最初、成華に何かを言おうとしていたチルノがそう提案した。

「それはありがたいです。手伝って欲しい時には話しますよ。」

 と、笑ってそう返すと、チルノが自慢げな表情を見せてこう言った。

「任せろ!!なんてったってあたいはさいきょーだからね!!」

「フフッ・・・そういえば成華さん。」

「何でしょうか。」

「成華さん、幻想郷じゃ見ない顔ですけど、外から来たんですか?」

「外・・・ですか?」

 この大妖精はまだ幻想郷を理解していない成華にとって気になることを言った。

「はい。幻想郷は博麗大結界という大結界で世界から隔離された場所なんです。

 幻想郷に来るのは世界から忘れられた者や幻想郷を作った中の一人の八雲紫が連れて来た人だったり妖怪だったりが来る場所なんです。」

 成華は八雲紫と名乗る人物に連れて来られた中の一人であった。

「そうですか・・・。ありがとうございます。

 ではまた。」

「あっ・・・成華さん。」

 大妖精が呼び止める。

「はい、何でしょうか。」

「博麗神社という所に案内します。」

「博麗神社?

 もしかして先程の博麗大結界の?」

「はい。」

「お?大ちゃん博麗神社に行くのか?」

「うん。チルノちゃんも来る?」

「当たり前じゃん!!

 なんてったってあたいはさいきょーだからね!!」




ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回もお楽しみに。


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博麗の巫女

遅くなりました。ごめんなさい。


「妖精……ですか」

「はい。私とチルノちゃんと他にも居るんですけど、皆優しいですよ」

 博麗神社へと向かう間、大妖精の話を聞いていた。

「ではその羽も?」

 成華は大妖精の背中を指す。

 大妖精とチルノの背中には羽が生えていた。

 チルノの羽はどちらかと言うと羽とは形容し難い形をしていた。

 それはクリスタルのようなものが彼女の背中に左右で3つづつ、計6本浮いているだけだった。

「はい、飾りじゃないです。動きますよ。ほら」

 大妖精がそう言うと、彼女の羽が羽ばたく様に動いた。

 川沿いを歩いていると、チルノは魚が氷漬けにして遊んでいた。

 それを大妖精が見ると、急いで駆け寄った。

「あっ……もう!! チルノちゃん、魚が、可哀想だよ」

 しかし、成華にはチルノが川で遊んでいる背中しか見なかったのでチルノが魚を氷漬けにしているのは知らなかった。

 数分後、

 大妖精とチルノに連れられてたどり着いたのは質素で小綺麗な神社だった。

「ここが博麗神社ですか?」

 と質問し、大妖精とチルノが、

「はい、そうです」

「そうよ!! あたいに感謝するが良いわ!!」

 と答えるのと同時に別の声が響いた。

「ええそうよ」

 そこには紅白の巫女服を着た少女がいる。

 その女性は可愛いらしくもあり、凛々しい出で立ちの少女で、女である成華でも見惚れる程だ。

「貴方は?」

「博麗霊夢。この神社の巫女よ。

 貴方の名前も聞いてもいい? 

 あ、チルノと大妖精は帰って良いわ。

 この人をここに連れて来てくれたのは感謝してるけどお賽銭は入れて行ってよね」

 そこに立っているチルノと大妖精はそう言われると、それぞれ5円づつ賽銭箱に投げ入れて成華に別れを告げ、帰って行った。

「あ、霊夢さん。お願いします」

「霊夢!! あたいに感謝するが良いわ!!」

「……。あー、はいはい。ありがと」

 霊夢と名乗ったその少女はやけに上から目線のチルノを適当にあしらい、成華に向き直してこう言った。

「改めて、私は博麗霊夢。

 霊夢で良いわ。貴方は?」

「わかりました。霊夢さん。そうですね。私も名乗りましょう。

 私の名前は成華、それだけです」

 大妖精に聞いた話では、博麗霊夢は結界の管理と異状事態の対応……もとい異変解決の仕事を請け負っているのだとか。

 だからなのか成華は博麗霊夢と名乗ったその少女から圧倒的な力を感じていた。

「霊夢さん、貴方から見た目で判断するべきではない力を感じます」

 霊夢はそう言われると、少し感心した表情を見せ、

「まあ、私の程度の能力は弱いからね。

 だから霊力と筋力を鍛え抜いたわ」

「程度の能力……ですか?」

 成華は幻想郷のシステムについてしか知らなかったため、程度の能力を知らなかった。

「あ……そう。知らなかったのね。ごめんね」

 霊夢は申し訳無さそうな表情を見せた。

「いえ、謝らないでください」

「そう。じゃあ程度の能力について説明するわ」

 彼女は優しい表情に戻り、成華は黙って耳を傾ける。

「程度の能力って言うのは簡単にいえば外の世界で言うところの超能力ってやつの類かしら。

 たまに程度の能力が発現する人がいるのよ」

 成華は少し納得し、こう質問した。

「成程、ありがとうございます。

 その、程度の能力を霊夢さんも持っているんですか?」

 彼女は

「ええ、持ってるわ」

 と答え、宙に浮きだした。

「これが私の能力よ。

 名前は宙に浮く程度の能力」

「凄いですね。宙に浮くなんて初めて見ました」

 霊夢は浮きながら、成華の顔ををじっと見つめはじめた。

「? ……。どうしました?」

 霊夢は溜め息を吐いた。

「……はぁ……。

 幻想郷の実力者なら大体飛べるわよ。

 それより成華だっけ? 多分程度の能力、貴方にもあるわ。結構前からあるっぽいわよ。

 能力自体はわからないけど」

 そう言うと、霊夢は「魔理沙に調べて貰おうかしら」と呟き、成華をどこかへ連れて行った。

「成華、ちょっと時間あるかしら」

 

 

 数分後、霊夢と成華は【霧雨魔法店】という看板の店に来た。

 どこからともなく濃いきのこの香りが漂っている。

「やっぱりきのこ臭いわね」

 霊夢がきのこ臭さからか顔をしかめると、何かを思いとどまった後にドアを強めに叩いて、

「ねぇ!! 魔理沙、居る?」

 と叫ぶと、中から声がした。

「あぁん? ……霊夢か。今日はやけにノック小ぃせぇな。

 そんなんじゃ聞こえないぞ?」

 ガチャ。という音と同時にドアが開くと、白黒の魔法使いの格好をした金髪ロングの少女が出てきた。

「どうした霊夢。私になんか用か? ……誰だてめー……じゃなかった」

 その白黒の魔法使いの格好をした金髪ロングの少女は咳ばらいをして言い直し、

「ンンッ……まずはコチラから名乗るべきだったな。

 私の名は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ」




ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回もお楽しみに。


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普通の魔法使い

おまたせしました。


「どうした霊夢。私になんか用か? ……誰だてめー……じゃなかった」

 その白黒の魔法使いの格好をした金髪ロングの少女は咳ばらいをして言い直し、

「ンンッ……まずはコチラから名乗るべきだったな。

 私の名は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ。

 魔理沙と呼んでくれ」

 そう言いながら出てきたのは白黒の魔法使いの服を着た金髪ロングの少女だった。

 成華は彼女に名乗った。

「分かりました。ではこちらも名乗りましょう。

 どうも、初めまして魔理沙さん。

 私の名前は成華。外から来ました」

「外から来たって事は……お前外来人か、ふーん。

 それで霊夢、何しに来たんだ?」

 突然話題を振られた霊夢は一瞬固まったあと、答えた。

「……え? ああ、そうね。

 魔理沙、成華から程度の能力の様な力を感じない?」

 魔理沙は睨み付ける様に成華をじーっと見つめ、

「確かに何かを感じるな。でも程度の能力というよりかは何か迸るような、こう……みなぎる生命力というか、程度の能力にしては何か変だな……まさかそれを調べろってか?」

 魔理沙は霊夢を睨んだ。

 それに対して霊夢は勝ち誇った表情でこう言った。

「貴方なら分かるでしょ? 魔理沙」

「はあ……わかったよ」

 と、魔理沙は

「成華だったか? じっとしとけよ?」

 忠告をされて成華は石化でもしたかのように静止する。

「今から、[鑑定]つって相手の筋力とか体力とかその他諸々を数値化したり、そいつの年齢やらなんやら見る魔法を使うんだが、ズレたらやり直さないといけないから面倒なんだ。

 ま、私がこの魔法苦手なだけだけどな」

 そんな魔法を魔理沙は展開し、……何故か彼女は数秒後に爆笑した。

「あははははははっ……ウッソだろお前!? 

 ふふっ」

 そんな魔理沙を見て不審に思った霊夢がその魔法を覗き込もうとするが、霊夢は魔法が使えないので何を書いてあるのか読むことが出来ない。

「はぁ、まったく、人の情報見て笑うなんて最低ね」

 霊夢のからかう様なその言葉に、込み上げてくる笑いを抑えながら返した。

「霊夢、笑うなよ?」

 霊夢は不服そうな表情で、

「もちろんよ。当たり前じゃない」

 それを聞いても疑う魔理沙。

「……よし。成華、お前……ほんとに10歳か?」

「ええ、そうですよ?」

 予想の遥か上を行った魔理沙の質問と成華の回答に霊夢は吹き出す 。

 が、その笑いをギリギリ抑える。

「ブッ……そ、それ本当?」

「ええ、事実です。

 それより、魔理沙さん」

 そう短く答えて魔理沙に振る。

「笑ったろ、霊夢。

 で、何だ成華」

 霊夢は「笑ってない」と反論して2人の話を聞く。

「先程、お2人が言っていた程度の能力というものは霊夢さんに教えて頂いたので分かります。

 それで、魔理沙さんの程度の能力は何です?」

 と、魔理沙に問う。

 すると、魔理沙は「おっ」と言い質問に答えた。

「そうだった、忘れてた。

 私の程度の能力は魔法を使う程度の能力だ」

 と、自慢げに八角柱の何かを取り出し、成華に見せつけた。

 しかし、成華にはそれが何か分かっていなかった。

「魔理沙さん、それ何です?」

「これか?」

「はい」

 魔理沙はその持っているものに目を向ける。

 そしてニィ、と笑うと、

「これはな、ミニ八卦炉って言うんだが……

 成華、お前戦えるか? 

 その方が分かりやすいだろ」

 




ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回もお楽しみに!!


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程度の能力

 成華には魔理沙が持っている八角柱のものがどういう使い方をするのかわからなかった。

「これはな、ミニ八卦炉って言うんだが……

 成華、お前戦えるか? 

 その方が分かりやすいだろ? これの性能も、お前の実力も」

 そして魔理沙がにぃと笑うと、霊夢がため息をついた。

「はぁ……ねぇ魔理沙」

「なんだ? 霊夢」

 霊夢はもう一度ため息をついてこう言った。

「はぁ……あのね、私はこの子の程度の能力を調べに来たの。

 あと、怪我させたらどうするのよ」

 魔理沙は得意げな表情で

「なーに、怪我なんてさせねーって」

 そしてミニ八卦炉を空中に放り投げ、正面でキャッチして叫ぶ。

「避けろよ? 

 恋符「マスタースパーク」!!」

 ものすごい魔力の塊が高速で成華を襲う。

 しかし成華は間一髪で避ける。

 それを見て魔理沙は驚いた顔をしてこう言った。

「へぇ。今のを避けるか。すげぇなお前」

 霊夢もそれを見て素直に驚いていた。

「ふーん、凄いわね貴方。

 でも魔理沙? 成華が怪我をしたらどうするつもりだったのよ」

「現に避けたんだしそんな事は考えなくてもいいぜ。

 結果オーライだ」

 霊夢はそれに対して深いため息をつきながらこう言った。

「はぁ……無鉄砲過ぎるのよ。貴方は」

「私は私の直感をいつでも信じてるぜ」

「そう言うのが無鉄砲だって言っ……」

 話を遮り、魔理沙は成華の方へ向き直した。

「成華、これでミニ八卦炉の事は大体理解できただろ? 

 で、本題に移るけどお前の程度の能力だ」

「私の、程度の能力……」

 成華は唾を飲み込む。

「そう、お前の程度の能力は、生命力を操る程度の能力だ。

 まあ恐らく、生命力とやらを与えたり奪ったりするんだろうな。

 名前を見た感じ大体そんな感じだろう。

 ま、与えた生命力をどうするのかは自分で調べてくれ」

 霊夢は不服そうな表情だったが突然納得した様な表情を見せた。

「なるほど、そう言う事ね」

「なんだ霊夢、何が分かったんだ?」

 霊夢は一呼吸置いて口を開く。

「ただの憶測だからあんまり信じ込まないでね。

 成華、貴方の生命力を操る程度の能力が、まだ10歳の貴方をここまで成長させたのかもしれ

 ないという事かもしれないのよ。

 もしかしたら貴方の母さんにも影響があったかもしれないわね」

 魔理沙はこう言った。

「そうだとしたら、探すのは思ってたよりは楽そうだな」

 霊夢はその意見に同意した。

「ええ、そうね。

 この子みたいに生命力を感じるかは分かんないけどね」

「そうですね。

 お二方 ありがとうございます。

 しかし今は暗くなって来たので家に帰ります」

 成華も同意しながらそう言った。

「魔理沙、成華送ってあげなさい。

 貴方に任せるわ。じゃあね」

 逃げるが勝ちと言わんばかりに霊夢は逃げ去った。

「お、おい。ちょっ、霊夢待て……

 はぁ、お前家どこだ? 送ってやるから」

 魔理沙も仕方なく霊夢からの仕事をこなす。

「すみません、魔理沙さん。ここから西に」

 魔理沙は箒を取り出し、それに跨った。

「成華、後ろに乗ってくれ」

 成華も真似して座る。

「飛ばすぞ成華。振り落とされるなよ?」

 と言うと箒が宙に浮び、矢の如きスピードで加速する。

 景色は瞬時に過去の物となり、過ぎ去って行く。

 すると、10分程で成華の家に着いた。

「ありがとうございます。魔理沙さん」

「ああ、これの貸しは返して貰うぜ、そのうち」

「はい」

 魔理沙は成華を手で制し、こう言った。

「いやお前じゃない。

 今日はマスパ撃ててスッキリしたしな。

 それだけで貸し借りはなしだ」

「では……」

「この借りは霊夢に返して貰う。

 利子付きでな。

 じゃあな、成華」

 と魔理沙は成華を送った時と同じく物凄いスピードで去っていった。

「霧雨魔理沙、格好良い人。

 それでいて、とても優しい人だ」

 と、成華は呟いた。




ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回もお楽しみに


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魔理沙への依頼

すみません。
遅くなりました。



 成華が朝食を食べていると、コンコンとノックの音がした。

 その後、聞き覚えのある声でドアの向こうから成華を呼ぶ声がした。

「おーい成華!! 

 居るか?」

 ガチャ、とドアを開けると、魔理沙が居た。

「ええ、居ますよ。何の御用でしょうか?」

 そう言うと、魔理沙は笑顔で

「今出かけられるか?」

 と何の要件も伝えずに出かける準備をさせる。

 

 数分後。

 いつも着ている服装に着替えて出てくる。

「おっ、来たか。概要はその場所に付いてから話す」

 そして魔理沙は箒に跨り、成華にも乗れと促す。

「成華、後ろに乗ってくれ」

「分かりました」

 また魔理沙はニッと笑い

「飛ばすから掴まっとけよ?」

 音速を超えそうな勢いで上空を突き進むこと数分。

 連れて来られたのは人里の中のとある1軒だった。

「もうすぐだ」

 と言われて今までのスピードとは打って変わってゆっくり減速し、フワッと着地した。

「よし、多分ここだ」

 ここに来ても未だに概要を知らされていない成華は魔理沙に質問した。

「魔理沙さん、概要をお願いします」

 そこで魔理沙は伝えていない事を思い出した。

「あっ、忘れてたぜ。ここに来たのは私がある依頼を受けたからだ」

「依頼、ですか?」

 すると歩き出し、魔理沙は木の戸に手をかけて振り返り、成華に

「そう、とある場所の調査依頼だ。ま、行けば分かるさ。

 手伝ってくれるよな?」

 そう言い戸を開き、依頼主の住まいと思われる家に、「こんにちはー」と挨拶しながら入って行った。

「もちろんですよ。ここまで来ましたから」

 と、魔理沙に付いて行った。

 家の中に行くと、若い女性が立っていた。

「こんにちは。魔理沙さんの手伝いに来た成華と言う者です」

 その依頼主と思われる若い女性に魔理沙が自己紹介を兼ねて話を聞いた。

「あんたが調査依頼の依頼主だろ? 

 あ、私に依頼したからには知ってるとは思うが私の名は霧雨魔理沙だぜ。

 そんで、被害は?」

「存じ上げております。私は和子と言う者です。

 霧雨さん、成華さん、来て頂きありがとうございます」

 依頼主と思われる若い女性こと和子は、怖ばった顔でゆっくり話し続けた。

「実は裏の枯れ井戸から物音がして……怖くて眠れないんです」

「はい、確認してます」

 魔理沙は少し驚いた顔をした。

「成華、お前いつその枯れ井戸見たんだ?」

「魔理沙さんの箒に跨って飛んでる時に遠目で、ですが」

 魔理沙はまた少し驚き、

「そんな遠いの見えたのか」

 すると和子は魔理沙に近寄って、

「魔理沙さん、お願いします」

 それに対し魔理沙は笑顔で返答した

「ああ、分かったぜ」

 魔理沙は踵を返すと、戸を開けてこう言った。

「さ、行こうぜ成華」

「はい」

 二人は家を出て、成華が振り返り

「ではまた後で」

 戸を閉めた。

 

 家を出て裏に回ると、それらしき井戸があった。

 その井戸の蓋をそーっと開け、井戸の口に耳を近づけた。

 静かに聴き入ると確かに足音が少し響いている。

「こりゃ、確かに物音がしない夜になったら聞こえるぜ」

 と魔理沙が言うと、ピタッと止んだ。

「静かに。足音が止みました」

 静かに成華が魔理沙に言うと、中から声がした。

「…………い?」

 2人とも何を言っているのかさっぱりわからなかった。

「だ…………かい?」

 まだ聞こえない。

「だれ……る……かい?」

 少し聞こえたがまだ聞こえない。

 足音が近づいてくると、

「誰か居るのかい?」

 誰か居るのかい? そう聞こえた。




ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回もお楽しみに


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姿の見えぬ声

遅くなりました。


「誰か居るのかい?」

 誰か居るのかい? そう聞こえた。

 静かに響いていた足音が消え、聞き覚えのない声が響いていた。

「誰だ……誰か居るのか?」

 魔理沙が声を張り上げるが、返答はない。

 2人は箒を使ってゆっくりと井戸の底へと降下する

 スタッ、という着地音だけが響き渡る。

 2人は辺りを見渡すが横穴はそこそこ暗い為、真っ直ぐ暗闇が続く事位しか分からない。

 シーン、と静まり返る。

 枯れたとはいえ井戸だったこの場所にピチャッ、と雫が滴る音も鳴らないのは不気味だ……と、魔理沙は感じていたがなにも考えずに薄暗い道のりを進む。

「姿を見せて下さい」

 突然に成華が声を張り上げる。

「「わぁっ!!」」

 魔理沙ともう1人が声を上げて驚いた。

 ドンッ、というまるで驚きのあまり尻餅をついたかのような大きな音を立て、姿の見えぬ声の主は

「いたたた……」

 と声を上げ、薄暗い横穴の中で成華はその声を眉ひとつ動かさずにその声の主を探る。

 静寂に包まれた横穴で耳をすませ、辺りを見渡し、声の主を探すが目がまだ暗闇に慣れていないのもあって、一向に見つからない。

 一拍置いて声の主は2人に問う。

「君たち、私を探しているのかい?」

「ええ、そう。私は姿を見せて下さい、と言ったの。

 3度目は言わせないでください。無駄ですから……」

 成華が答えたが、イラついているのが部分的に口調が今までとは違う所を見ると分かる。

 察した声の主は答えた。

「ああ、怒らせてしまったかい? 

 それはすなまなかった。

 だけどごめんね。今は私の姿を見せる訳にはいかないんだ。

 私のことは適当に呼んでくれてもいいよ」

 成華が答えた。

「……わかりました。

 取り敢えず貴方は……」

「お前はジャックだ」

 成華が呼び名を考えようとした瞬間に魔理沙が決めた

「……は?」

 あまりに意外なネーミングにジャックと名付けられたその声の主は言葉を失った。

「魔理沙さん、なぜジャックなのですか?」

 成華が聞く。

「名前が分からない奴をジャックって呼んだりするってどこかで聞いた事があるんだ。

 だからお前はジャックだ。

 よろしくな! ジャック」

 ジャックは、「ちょっ……」と何かを言おうとするが彼女は気にせず、ジャックを"ねいてぃぶ"な感じで言いながら答えると、ジャックが溜息をついて言った。

「はぁ……なるほどね。わかったよ。わかった。

 けど男っぽくないかい? 私一応、女なんだk……」

「いいや、お前はこれからジャックだ。

 第一ジャック、お前男とか女とか言ってなかっただろ?」

 そう食い気味に魔理沙が答えると、ジャックが

「えぇー? そうだけどさぁ……」

 魔理沙は気にすることなく質問をした。

「なあジャック、こんな所で何してんだ?」

 彼女はまた、ジャックを"ねいてぃぶ"な感じで言って続けた。

 辺りを見渡すが、まだ目は慣れていない。

「……こんな暗い所で、しかも姿まで隠してさ」

 ジャックは数秒間悩む。

「……その質問には答えられない。

 企業秘密というやつかな?」

 そしてジャックはこう続けた。

 

 

 ───ここからは取引だ。




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次回もお楽しみに


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2つ目の依頼

「取引だぁ?」「取引ですか?」

 2人の声が重なって、洞穴中に響く。

 

 

「そう。取引さ」

 ジャックは自信がありそうな声で2人に問う。

「2人にやってもらいたい事があるんだ。

 それをやってくれたら幾つか願いを聞こう」

 そうすると魔理沙が、

「ん? 今なんでもするって言って」

「ないから。ついでに名前と姿を明かす以外でよろしく頼むよ」

 と呆れた様に返答すると

「でもお前さっき何でもするって言って」

「なかったからね?」

 魔理沙とジャックの2人は漫才のようなやり取りを繰り返す。

 それに対して成華は思わずクスッと笑ってしまう。

「で、ジャックさん、やってもらいたい事とは?」

 落ち着いた成華が問う。

「ああ、すまんすまん。つい熱くなってしまったよ」

 彼女は「コホン」と一息置くと、こう続けた。

「えー、君達にやってもらいたい事というのはこの先にやたらと整備された道があるんだ」

 と洞穴の奥を指さしてそう言った。

 ……が、彼女らには見えない。

 魔理沙と成華は首を傾げ、「やたらと整備された道?」「やたらと整備された道ですか?」と同時に言う。

「そう、やたらと整備された道があるんだ。そのその道をちょっと進むと、そのどこかに下りの階段があると思う。

 そこの調査をして欲しいんだ」

 そして彼女はこう続けた。

「私達の方でも調べようとしたんだが、その時君らが来たんだ。

 じゃあやってもらおうかなってことさ。

 私は私でやることがあるんだ」

 すると魔理沙は俯き、何か考える様に黙り込み、そうかと思えば顔を上げた。

「魔理沙さん? どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。

 おいジャック、行ってやるよ」

 と言って、魔理沙は彼女が指さした方向へと歩き出した。

「おや? 気が変わったのかい? 

 まあ、ともかくこの奥だよ。そこに何かが居るハズだから危険かどうかは君たちで判断してくれ」

 魔理沙は「おうよ」と右手を上げてさっさと奥へと歩いき、成華は「では」と一礼し、足早に魔理沙を追いかけて行った。

 

 歩くこと数分、ジャックに言われた通りにやたらと整備された道にたどり着き、魔理沙が

「ここか……やたらと整備された道ってのは。

 ほんとにここに何か居るのかよ」

 と言うと、何かを思い付いた成華は、そこに落ちていた石を5つ拾った。

「どうかしたのか?」

 その中の1つを右手に持って、

「いえ、大したことでは無いですが……

 魔理沙さん、私の能力について試したい事があります。ちょっと右に寄って貰えませんか?」

 魔理沙は前に進みたい気持ちもあったが、彼女の「程度の能力」についても興味があったので素直に右に寄った。

 そして成華は軽くその石ころを握り、道の奥へと放り投げる。

 魔理沙の目には、その石ころが変形して黒い何かになった様に見えたが、奥は薄暗い為、はっきりとは見えなかった。

「石なんか投げてどうしたんだ?」

 魔理沙は右に避ける程の事ではなかったのではないかと思った。

 ……が、一向に石が落ちる音がしない。

 魔理沙から見ても成華はそれほど強く投げた様には見えなかった。

 なら、日が昇り日が沈む位に当たり前な、物を投げて落ちるという動作が感じられない。

 魔理沙は少し動揺したが、すぐにある事を思い出した。

「まさか……今の……」

 すぐに成華は彼女の動揺に気付き、こう言った。

「はい。今、試したのは生命を操る程度の能力です」

 そして壁に手を添え、「よし」と呟き、また歩き出し、魔理沙もそれについて行った。

「で、生命を操る程度の能力って結局どう言う能力だったんだ?」

 と成華に問うた。

 すると成華は、

「昨日、帰ってから程度の能力について考えてみました。

 すると、ある事を思い出したんです。

 私を拾ってくれた育ての母に花をプレゼントした日がありました。

 その花は私が取ってきた訳では無いのですが、いつの間にかそこに"あった"んです」

 と少し悲しそうな表情を浮かべた様に見えたものの魔理沙から見てそんなことは無かった。

 成華は続けて、

「もしかしたらその事かと思ったんです」

 と言い、1つ持っていた石を右手に乗せ、それを軽く握った。

「昨日試してみると……」

 拳を開くと、そこには1匹のてんとう虫が居た。

「は?」

 魔理沙はさっき以上に動揺していた。

「これが恐らく、生命力を操る事だと思います」

 と成華が指を鳴らすと、飛んで言ったてんとう虫が石に戻って地面に落下した。




ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回もお楽しみに


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生命力

遅くなりました。
すみませんでした。


 成華が石に生命力を与え、石をてんとう虫に成長させ、指を鳴らして与えた生命力を奪うと、

「これが恐らく、生命力を操る事だと思います」

 飛んでたてんとう虫が石に戻って地面に落下した。

「生命力を物に与え、生き物に成長を促し、更には生命力を奪う能力。

 なぜそんな能力が私に……」

 魔理沙は驚くが、なにか不思議に思った様子で成華に質問をした。

「じゃあさっき投げた石にも生命力を与えてたのか?」

「ええ、あの石は結構な生命力な与えましたよ。

 まぁ、あのサイズだと虫が限界ですけど……」

 突然

「キャー!!」

 という悲鳴が洞窟内に鳴り響いた。

「ゴキブリぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 

 リグル何とかしてぇ!!」

 と成華が石を投げた方向からの声だと気づく。

 そして魔理沙は声の主について心当たりがある様だった。

「声質的に女の子でしょうか」

「あいつら……洞窟なんだからアイツの1匹2匹は当たり前だぜ」

 と、魔理沙と成華がボソッとつぶやく。

「洞窟なんだからGの2、3匹は……ってあれ? 

 この虫私の能力効かない」

 リグルと呼ばれた少女は虫に対する何らかの能力を持っていると成華は考察し、対して魔理沙は少々呆れ気味だった。

「はぁ……成華。

 もしかしてというか確認というか……虫ってあれか? ゴキちゃんか?」

「はい。

 ゴキブリに変化させました」

 魔理沙は呆れ顔からドン引きした顔をして成華に

「能力を解除してくれ」

 と言い成華が指を鳴らして、

「? ……解除しました。

 でも一体何を?」

 と言い、

「ムリムリムリムリム……落ちた? あれ? 石?」

 奥から混乱する声が聞こえ始めると前へ進んだ。

「危険です!! 敵の正体も掴めていn……」

「それは大丈夫だ」

 遮るように言う。

「大丈夫って何が……」

 魔理沙は奥へと進みゴキブリだった石に向かって指を指して、片方は成華にとっても聞き覚えのある名前を叫んだ。

「大妖精!! リグル!! 私達は敵じゃない!! 

 あとそいつもな」

「あれ? 魔理沙さんがどうしてここに? 

 聞いてください魔理沙さん。

 さっきゴキブリが……」

「黒い悪魔なんてどうでも良い。

 私達はここの調査だぜ。お前達は?」

 魔理沙が半ば強引に話を進めると、大妖精は震え声で答えた。

「わ、私達はチルノちゃんを探しに来たんですけど……」

 立て続けに聞き覚えのある名前が出て来ると成華でも流石に驚く。

「チルノさんを?」

「あ、成華さんも居たんですね。昨日ぶりです。

 ……そんな事より、チルノちゃん見ませんでしたか?」

 魔理沙も成華も首を横に振り、逆に魔理沙は大妖精に

「さっきも言ったが私達はお前達が来た所が気になるんだ。

 どこかと繋がってるのか?」

 と問うた。




ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回もお楽しみに


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凍てつく殺意

遅くなりました。


「さっきも言ったが私達はお前達が来た所が気になるんだ。

 どこかと繋がってるのか?」

 魔理沙が大妖精に問うと、

「あ、はい。ここを出るとに山のふもとなんです」

「ふーん……洞窟と枯れ井戸がねぇ……」

 魔理沙が何か引っかかる事がある風に呟くと成華が、

「ええ、何かありそうですね。

 大妖精さん、この先に何かありましたか?」

 彼女は「うーん……」と心当たりを探すも、首を横に振った。

 魔理沙はそれを聞いてすぐ帰ろうとするが、

「成程。礼を言うぜ2人とも。礼は出さんけどな……

 って寒ッ!!」

 突然、尋常ではない冷気が彼女等を襲った。

 すると同時にコツ……コツ……コツ……とゆっくり歩く音が洞窟内に響き渡り、魔理沙が

「誰だ!」

 と叫ぶが、返事は無い。

 止まる事無く尚も歩き続ける足音は、着々と近付いている。

 成華も魔理沙も大妖精もリグルも緊張感に包まれ、天井から垂れた水が落ちる音でさえ邪魔に感じる程だった。

 ただ、落ちた筈の水の音はせず、コツン、と石が落ちた様な音だけがして、それを合図とする様に床、天井、壁が氷で埋め尽くさる。足も氷でがっちりと固定されて四人とも身動き一つ取れない。

 そこで魔理沙は、

「クソッ! なんだこれ。氷か? なら私の魔法で木っ端微塵だぜ!」

 と足元に軽い爆発系の魔法を打ち込み、周囲の氷を地面ごと破壊して氷の拘束を力ずくで振りほどいたが、1人気を失う者が居た。

「ちょっ……魔理沙さん!! 何してるんですか!! リグルちゃんがびっくりして気を失ってるじゃないですか!!」

 成華は大妖精らが来た道が成華達が来た道より氷が厚く、その分気温が低くなっている事に気がついた。

「魔理沙さん、大妖精さんが来た道に氷の妖精やら妖怪やら居る筈です」

 それを聞いて魔理沙は箒に跨り、

「成華!! 乗れ!! お前らはここにいとけ!!」

 成華を乗せて敵の場所へと全速前進する。

 ただ、当然凍てつく様な寒さ中を凄いスピードで動くのでその分寒くなる。

「せ、成華!! 寒いと思うが我慢だ!!」

 魔理沙も成華も当然寒さは感じているが、今は魔理沙の言う通り我慢するしか方法は無い。魔理沙の魔法は基本、力こそパワーな破壊系の魔法ばかりなので寒さを凌ぐ事は出来ず、成華も、寒い中からは生命を生み出すことは出来ず、昨日霊夢が言っていた「生命力を操る程度の能力が、まだ10歳の貴方をここまで成長させたのかもしれない」という成長を加速させる様な能力についても成華自身、自身の生命を操るという能力を完全に知っている訳でもなく

 、知っていたとしても寒さを凌げるとは思えない。

 飛んで間もなく、魔理沙が焦った口調で

「成華!! 飛び降りろ!!」

 と叫び、咄嗟に飛び降り、元居た所を見ると箒を氷が覆っていた。あと一瞬でもあの場に居れば氷漬けにされていた

 魔理沙もそれを見ており、その能力についても見覚えがあった。

「やっぱお前……でも何で……」

 と呟くと、成華は

「魔理沙さん。敵の正体が分かるんですか?」

 と聞いた。

 足音はまだコツン、コツンと鳴っている。

「ああ、自称幻想郷最強の妖精、チルノだ」

 その名前には成華にも聞き覚えがあった。

 昨日成華を神社の所へと案内してくれた元気な妖精がそのチルノであり、数分しか関わりが無かったとはいえ人を襲うような性格では無かった。

 しかし2人の前に立っている妖精は人が変わった様に殺気立っていた。

 

【挿絵表示】

 

 成華が戦闘態勢に入ると急に魔理沙はチルノに腹パンをかまし、チルノを気絶させてその場に倒れさせた。それと同時に氷も消え、倒れた妖精を見ると昨日はつけていなかった耳飾りに目が行った。

 幼い見た目のチルノには似合わない禍々しい手のデザインの耳飾りだ。

「なるほど」

 チルノは気絶しているにも関わらず不自然に動き出す。それは糸吊り人形の様な動きだった。

「魔理沙さん」

「何か思いついたのか?」

 気絶して尚も動き続け、操り人形にされた様な不自然な動き。そして昨日は付けていなかった耳飾り。彼女が人を変えた様に襲い掛かってくる理由。

「ええ」

 彼女を倒すという意味でも、彼女を助けるという意味でも考えうる方法は一つ。誰もが思い付きうる基本的な事。

 

 

 それは……

 

 




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次回もお楽しみに


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這い寄る恐怖

 操り人形にされていると思われるチルノが氷を生み出す。さっきまでの四方八方を覆う氷では無く、槍の様に細長く鋭い氷を全て成華の方へ向けられているが、まだ小さく破壊力が無さそうに見えたので魔理沙に指示を出す。

「ベタですが耳飾りです! 耳飾りを破壊して下さい!」

 チルノから発せられる奇妙な殺意が魔理沙に向いていない事を悟り、成華が叫ぶと魔理沙は

「やっぱそうだよな!」

 と声高らかに言い、拳も高く振り上げていた。

「ですが、その耳飾りに触れないでください! その耳飾りがどんな特性なのかまだ分からないんですから!」

 殴って耳飾りを破壊しようとする魔理沙を唸らせる。

「そりゃぁそうだけどさぁ……」

 チルノは成華にしか興味が無いのか、魔理沙の攻撃を避け切る自信があるのか。或いは、耳飾りが弱点では無いのか。

 いずれにせよ、魔理沙のサポートをしながら魔理沙に攻撃が行かないように立ち回らなければならない。成華の能力はその立ち回りに関して打って付けだった。

「魔理沙さん! 私がサポートするのであの耳飾りを魔法か何かで破壊することに集中してください!」

 と言っても魔理沙は耳飾りだけを破壊出来る様な器用さを持っていないと成華は見ていた。

 そんな会話をしている内にも槍はみるみると大きくなっていく。それが箒程の長さになった頃、氷の成長は終わり、ぶるぶると小刻みに震え出した。

 二人がその変化に気付く時には既に槍は発射され、成華は地面を叩いて木を生やし乗る事でギリギリ氷を避けた。

「……ッ! 速い!」

 もう少しで成華に刺さる筈だった氷は、成華が生やした木にぶつかった瞬間、脆くも崩れ去った。だが槍は幾らでも飛んでくる。床に与えた生命エネルギーを奪い、元の床に戻すと成華の頭上を氷塊が過ぎ去ってゆく。間髪入れず槍が2本、3本と弾丸の様に空中を滑って来る。それを右に左に、上へ下へと避けながら拳が届く距離まで距離を狭ながらに進む。対してチルノもチルノで少しづつ成華の方へとにじり寄っている。

「(遠距離から攻撃出来る筈なのに近付いてくる。痺れを切らしたか? 

 いや……たぶん、何かある……)」

 と、成華は持っていた石軽く握り、すべてを全力で投げつける。……が、その牽制は意味を成さずに彼女の目の前で氷漬けにされてしまう。

「掛かった!」

 と嬉嬉とした顔で言い、それは聞こえているのか、警戒して攻撃の手が止まる。瞬時に石の入った氷を成華の方へと吹き飛ばして石を遠ざけた。それを走りながらサッと屈んで避け、低姿勢のままチルノの腹を突いた。

 

【挿絵表示】

 

 その姿勢からでは腹を殴ったとしても大した威力無いが、成華にとって威力は問題では無かった。

 ちょっとだけ後ろによろめき、すぐに攻撃を開始しようとすチルノに対して成華はゆっくりと立ち上がってこう言った。

「私は貴方を殴ったんじゃない。貴方の服を殴った!」

 今のところチルノに腹パンをかました以外、何も出来ていない魔理沙も聞いてたが、成華の言っている意味が分からなかった。

「ん? 服を殴るって結局腹パンじゃ……」

「今、生命力を操る程度の能力(わたしのうりょく)は発現する!」

 そう叫びながら指を鳴らすと、チルノの着ている服が木に成長してチルノを拘束した。

「魔理沙さん、今のうちに破壊してください」

 と言うと、ポケットからミニ八卦炉を取り出しこう言った。

「ああ、分かったぜ。こういう精密な動作は柄じゃないんだが、そう言ってる場合じゃないな。

 いくぜ!」

 ミニ八卦炉を両手で構えて叫んだ。

「『ただのレーザー 』!!!!!!」

 ……が、レーザーは出なかった。

「あれぇ? この位なら普通に出るんだがなぁ……

 もう1回だ! いくぜ! 『 ただの……ってあれ?」

 魔理沙はミニ八卦炉を構え直し、もう一度撃つ。

 ……事無く、素っ頓狂な声を上げた。

「どうしたんですか?」

 成華が不思議がって魔理沙に尋ねた。

「いや、耳飾りが無いんだよ。確かにさっきまでそこにあったのに」

 魔理沙が言っている意味が分からなかった。

「いや、耳飾りならそこにありますけど……」

 と言って耳飾りがある、耳を覗き込む。

 しかし、確かにさっきまであった筈の耳飾りが無くなっていた。

「耳飾りはどこに……」

 その瞬間、呪いが解けた様にチルノが目覚めた。

「んっ……ん? 

 ここはどこ? あたいはだれ? あたいはチルノ。ってあれ? 魔理沙じゃん、あとおまえは……」

 不思議な事が連続して起こった。さっきまであった筈の耳飾りが無くなり、終いにはチルノが正気に戻った。

「あ? あれ? チルノ正気に戻ったのか?」

「そうみたいですね。ちなみに私は成華ですよ。チルノさん」

 と言いながら指をまた鳴らすと チルノに絡みついていた木が元の服へと戻った。

「そうだ! おまえ成華だ! さっすがさいきょーのあたい」

 チルノは木が服になった事は気にも留めず、あたかも成華の名前を自力で思い出した事を誇様な仕草で胸を張っていた。

「いや、最初答えられんかっただろチルノ」

 という魔理沙のツッコミを無視し、 チルノは話を続ける。

「でもあたいなしてたんだ? なんとかかんとかってやつにへんなのもらったところから記憶がないぞ?」

「なんとかかんとかって誰だよ? そこが1番大事じゃ……」

 コツン、コツン、と硬い靴で歩む音が洞窟内のどこからか聞こえていた。

 冷たい風が吹く。

 ジャックの足音では無い。

「……ッ!! 誰ですか?」

「誰だ! 何処に……」

 成華も魔理沙も今までに感じたことの無い"何か"を感じていた。

「私だよ」

 

 

 

 

 

「私だよ」

 姿も見えぬ女の一言だけで空気が180度変わった気がした。威圧的な声。強大な圧力。幾つもの異変を解決してきた魔理沙にだって感じたことの無い殺気だった。

 魔法使いとはいえ普通の人間である魔理沙でも感じ取れるものがあった。

「(この殺気は私に向けられたものじゃない!?)」

 それは何を意味する事か。今ここに居るのはチルノと成華と私だけ。つまりチルノか成華が殺されるという事だ。そんな事はあってはならない。

 ただ、どうにかしようとしているのは確かだが、身体が動くのを拒否ししている。

 

 

 

 

 コツン、コツン。反響音はさらに大きくなる。

「分かった事が二つある」

 と続けて言った。

「ええ、私も分かった事があります」

 成華が言った。額に汗が垂れる。

 2人共この洞窟に入って数分しか経っていない筈なのに、この十数秒でその数十倍も数百倍もの時間が経っている様に感じていた。

 更に女は言った。

「一つ。“十六夜”成華、お前の能力」

 チルノと魔理沙は女が成華を“十六夜”成華と呼んだ事に気がついた。もちろん成華自身も。そして成華が

「二つ、貴方は私と血縁関係にある」




ここまで読んで下さってありがとうございます!
次回もお楽しみに!


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異変の気配

 成華が言った。

「二つ、貴方は私と血縁関係にある!」

「そうだ。お前は私の娘だ」

 成華と、どこかに居る人が驚くべき事を2つ言った。

 1つ、成華の苗字。その苗字はつい最近も紅魔の城で聞き覚えがあった。ついでに声にも聞き覚えがある。

 2つ、この女と成華の血縁関係。

 そのどちらも成華が探していると言っていたものの答えだった。

「だがお前は私の娘では無い」

 誰がどう聞いても矛盾していた。

「矛盾してるぜ、それ。お前の娘が成華で成華はお前の娘では無い、なんて下手な小説でも見ないぜ。そのセリフ」

 反射的に言ってしまった。霊夢が常々言ってくる無鉄砲とはこの事なのだろう。直そうとはしているがこればっかりはどうしようもない。

「お前は私の正体に迫りうる存在。ならば……」

「何を言って……」

 背筋が凍る程の邪悪な気配。嫌な予感がして咄嗟にミニ八卦炉を……既に構えていた。

「!?」

 ミニ八卦炉を構えようとしていたら、既に構えていた。としか言えない異常な現象だった。昨夜の「時空を操る程度の能力」に似ていたが、少し……いや、全然違った。

「私の正体に迫りうる情報を少しでも持つ者は……」

「魔理沙さん! 逃げてください! 早く!」

 耳元で囁き声がした直後に成華の床を殴る音と焦り叫ぶ声が響いた。成華が殴った床からは、木が生きているかの様に蠢きながら出現し、囁き声の方向に猛スピードで生えていく。枝の伸びる先に居れば確実に体を貫く勢いに見えた。

 だが、残像がはっきりと見える程のスピードで、2・3メートルの距離を一息の間もなく詰める程のスピードは無かった筈。

 しかし枝は壁にグサリと突き刺さっていた。

 肌がチリチリと焼ける程感じた背後の巨大な殺意はそれと同時に消えていた。

「まさか……これは運命からの贈り物だったな」

 と、波の様に押し寄せる殺意を秘めた静かな声が前方から響き渡る。

 その中に驚きも伺えた。それが何かはうかがい知れないが。

「逃げて!」

 成華の叫びも聞こえるも体が震えてばかりで動こうとしない。動けない。

「早く!」

 すると木が型に流し込まれたコンクリートが固まる様に石へと変化し、更に人の手へと変貌と遂げ襟首を掴んで背後に投げ飛ばされ、

「箒を取る暇はありません! 魔理沙さん、箒なしで飛べますか?」

「あ、あたりまえだぜ。さっきより飛ばすから舌噛むなよ」

 と一応忠告して成華の手を掴み、後ろへと飛んだ。しばらく箒無しなんてやってなくて慣れないが、そんな悠長なことを言っている暇はない。やる事は一緒だが、成華を箒の後ろに乗せて飛んだようにゆっくり加速する訳にはいかない。一息の内にトップスピードで戻る。

 チルノに関しては先に成華がリグル達に合流するようにチルノに言っていたらしい。

 そのチルノ一行に

「全力で逃げろ! 理由は後だ!」

 と言い、チルノ一行も逃げさせた。

 何故か整備された道を過ぎ、ジャックが居る筈の道にも直ぐに到着し叫んだ。

「居るかは分からんがジャック! この井戸から全力で逃げろ! 理由は後だ!」

「私も異常な魔力を感知した。逃げる準備はもう出来ている!」

 と相変わらず虚空から声がする

「上出来だ!」

 とすぐそこの井戸から脱出する。

「おいジャック出たか?」

 と言うと

「ああ、出たよ」

 と、咄嗟に井戸を閉じ、更に強度は霊夢に劣るが結界を張った。井戸を出るとチルノ一行も居た。成華はチルノ一行に

「霊夢さんを呼んでください! これが異変かも知れません!」

 と言うとリグルが

「それなら既に足の早い虫達に行ってもらってる。僕達も向かう所だよ」

 と3人は飛び去って行った。

 

 

 

「魔理沙さん。ああは言いましたがこれは異変ですか?」

 と成華が言ってきた。その答えは考えるまでもなく

「ああ、いづれそうなるとしても今のところ"異変を起こしかねない危険な存在"としか言えないぜ」

 

 

 穏やかな博麗神社。霊夢は縁側でくつろいでいた。いつもなら魔理沙が来ている時間帯だ。仕事でもあるのかしら。

 ……別に待ってなんていないけど。

「魔理沙、珍しく今日は来ないけど、これまた珍しくアイツに依頼かしら。

 今日は成華について話したかったのだけれど。

 ……まあ、こんな日もあって良いわよね」

 と、寝転がったその時。なんの前触れも無く、異質で、少し前に身に覚えのあり、だが少し違った奇妙な感覚を覚えた。この前の紅霧異変の時に居たあのメイドの『時空を操る程度の能力』に多少似ていない気もしないでは無いが、明らかに違う感覚であり、だけどどこか似通っている様な気もしなくはない。恐らくこの幻想郷でも気がついた人は少なくない筈。

「何かしら……この感じ……

 それにこの気配。あのメイドとか成華に似てる気がするわね……

 だけどこの気分を逆撫でするようなこの感じ……あの2人の気配じゃないものね」

 霊夢は雲がかかってきた空を寝ながら眺めていた。

「異変の気配……かしらね」




ここまで読んでくださってありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!!


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ひと段落

遅くなりました!


「終わったんですか?」

 若い女性の声だ。その声は魔理沙の依頼主である和子からだった。

「ああ、たった今終わったとこだぜ。目には見えんが原因もここにいるしな」

「いやぁ、すまなかった」

 とジャック(魔理沙からのあだ名)が軽い口調で言う。それを聞き、一方は良かった、と安堵の声を漏らし、一方はその軽薄さに呆れた。依頼主の彼女は報酬を払おうとしたが、魔理沙はいや、まだだぜ、と彼女を制した。

「話はここで終わりじゃない」

 こくん、と頭を縦に振る一同。え? と首を傾げる女性1人。

「話は霊夢が来てからだぜ」

「巫女様も来る様な事態なのですか?」

 と和子が不安を口にすると、

「リグルから軽く話は聞いたわ」

 と空から話題の紅白の巫女服の声が響いた。

 砂埃を上げずにすっと着地すると、彼女は裾に腕を突っ込んだ。

「おっ、霊夢来たか」

 丁度いいタイミングだぜ、そう言いたげな表情でそう言った。

「ええ。で、貴方達の言う"それ"ってこの井戸の事かしら」

 そうだぜ、と了解を得た所で霊夢が持っているのは裾から取り出した博麗の紋が入った札。それは幻想郷の守護者とも言われる博麗が扱う御札のひとつ。

「ええ、そうです。霊夢さんはどう感じました?」

 成華が聞く。霊夢は首を横に振ると、

「直接会ったのは貴方達よ。……でも、私の率直な意見としては、放っておくとかなり危険だと思うわ」

 と言うと彼女は最後に、ただの勘だけどね、と付け足し、井戸の蓋に札を貼った。

「おいおい霊夢、相手は多分人間だぜ? 人間に札って効くのかよ」

 と魔理沙が詰め寄るとこう言った。

「効くわよ、軽い暗示くらいには。それに、もしもの時の為よ」

「もしもって何だよ。開いたらどうするんだよ」

「もしもはもしもよ」

 霊夢と魔理沙が軽い口喧嘩をしていると、

「要は開かなくすれば良いのでしょう」

 と成華が言い、

「ま、まあ、そうね」

 と返事があると、蓋に軽く触れた。

「な、何をするの?」

「ま、見とけって」

「なんで貴方が言うのよ」

 蓋に触れた手に意識を集中させてこう言った。

「生まれろ、生命よ! 新たな命よ!」

 すると、メキメキと生命の鼓動を鳴らし、蓋は太く大きい桜の木となった。春でもないのに美しく咲き誇る桜の木は何か惹き付けられる魅力があった。

 皆驚いて後ずさり、太い足を地に生やした美しい木を見上げた。

「こ、これで蓋が外れる心配はなさそうだな」

「え、ええ。一応しめ縄を締めておきましょう。似合いそうだしね。

 ……よし……これでこの木自体も大丈夫そうね」

 と、色々あった結果、近い将来神聖な場所として名を馳せるようになるのである。

「そういえばお前ら洞窟から入ってきたんだってな」

 と魔理沙が思い出したように大妖精と霊夢と一緒に帰ってきたリグルに聞く。

「あ、そうです。案内しますか?」

 と大妖精がふわりと浮く。続いて魔理沙と霊夢も続いて飛ぶ。

「ああ、よろしく頼むぜ。……そういえば成華、今私箒無いからお前を連れて飛べないんだが……

 いや正確にはお前を乗せる場所が無いっていうか……」

 成華は大木を生やして壊れた、元井戸の屋根だった大きめの残骸を1つ拾い上げた。

「……って、何してるんだ? 成華」

「これを鳥にします」

「?」

 その言葉をスイッチにしたかのように木の残骸はぐにゃぐにゃと大きく形を変え、更には毛も生やしながら怪鳥とも言うべき姿へと変貌した。その姿は太古に存在したと言われるプテラノドンと西洋の竜を足して2で割った様な姿だった。

「お、おい……成華」

「なんでしょう」

 と恐る恐る成華に聞く。

「これ絶対鳥じゃなくて竜かなんかだぜ」

「いや、鳥です。怪鳥ナントカカントカです」

 頑なにこれを鳥と主張する成華はこの鳥を怪鳥ナントカカントカと呼び、自己紹介された気になったらしい怪鳥はクカァァァ! と声高らかに咆哮した。

「魔理沙さん、折角なので一緒に乗りませんか?」

 との提案。

「う────ーん……乗る! フツーにカッコイイし」

 魔理沙が長考したので乗らないかなと諦めたが、以外に乗り気な彼女を見て驚いた。

「霊夢さんは?」

 と、成華は問うが、私は飛べるから、と断られてしまった。

「で、どう乗るんだ?」

 と魔理沙が言うと、考えてませんでした、と言わんばかりの悩ましげな顔をして、怪鳥に

「私達を運んで下さい」

 と言うと、乗りやすいように腰を低くするでもなく無視するでもなく、いきなり大きく羽ばたきだして飛んで行った。

「お、おい」

 と魔理沙が飛んで捕まえに行こうとするも

「大丈夫ですよ」

 と制止し、飛んで行った怪鳥は旋回して戻ってきた。

「おお」

 と魔理沙は感嘆の声を出し、鳥が停るのを待っているのだが、鳥のスピード話は一向に落ちない。高度は落ちてはいるのだが、停るスピードではない。

「おいおい成華! こっち向かってくるってアイツ!」

 焦る魔理沙を余所に言う。

「魔理沙さん」

「なんだよ! それどころじゃないんだって……」

 と鳥を指さす。とても焦っている。

「魔理沙さん!」

「は、はい!」

 とあまりの鬼迫に焦りも消えた。

「あまり喋ると舌かみますよ」

「えっ?」

 かはっ、とこの鳥を生み出した彼女ですら受ける強い衝撃。思考する暇もなく鳥にしては哺乳類やら爬虫類や色々混ぜた様な足についている見るからに獰猛な鉤爪で文字通り鷲掴みにされている。

「なあ、成華」

「なんでしょう」

 と怪鳥の獣脚の中で飛び交う言葉。

「この鳥な……」

「怪鳥ナントカカントカです」

 即答した。しかも食い気味に。

「なあ、成華」

「なんでしょう」

 と再び怪鳥の獣脚の中で飛び交う言葉。

「このドラゴン……」

「怪鳥ナントカカントカです」

 今度は食い気味どころか被せてきた。

「何よこの鳥。退治しようかしら」

 と霊夢が飛んでくる。

「ま、待て霊夢! 成華、こいつはお前の言うことを聞くのか?」

 成華は

「はい」

 と頷きそれ以外は何もわかりませんが、と付け足した。

「貴方が生み出したんだし……信じるわ。じゃあ行きましょう」

 と霊夢が大妖精に合図をすると、大妖精が飛んで行った。

 それを追いかけ霊夢が飛んで行き、続いて2人を乗せた(掴んだ)怪鳥が追って、あっけに取られていた者達も慌てて追いかけた。

「なあ、成華」

 大きな足に鷲掴みにされている体勢の割に落ち着いた声。

「はい、なんでしょう」

 と更に落ち着いた声。

「思ったより良いなこれ」

「また乗りませんか?」

「次は上にな」

「ええ」

 

 

 

「こんな所に洞窟なんかあったか?」

「無かったわね」

 リグルらがチルノを探しに来ていた洞窟に案内された。井戸の先の洞窟に繋がっているのは魔法の森だった。

「ってお前らさっき山のふもととか言ってなかったか? 

 てっきり妖怪の山かと思ってたが……」

 はあ、と溜息をついて呆れていた。

「……そうでしたっけ?」

「やっぱり妖精だな」

 ボソッとつぶやくと、

「何か言いました?」

「えっ? ……いや……なんでもないぜ。成華、さっきみたいに塞いでくれるか?」

 と地面を巨大な樹に変え、洞窟に封をした。

 立ち入り禁止と書いた物々しい雰囲気の看板とともに。

 

 

 これでひとまずは一連の騒動が終息したと2人は依頼主に報告をしに行った。井戸、洞窟共に封をした。ひとまず、そこからの危険は無いと言える。

『お前は私の娘だ。だがお前は私の娘では無い』

 アイツが成華に言ったセリフをふと思い出す。成華を"十六夜"成華と呼んだ謎の人物。十六夜と言ったからにはアイツもあの吸血鬼の館のメイド長と深い関係があったりするのだろうか。

 井戸と洞窟を塞いだとはいえ、奴の現在の居場所は全く分からない、奴の素顔さえも。

 その上チルノの着けていた耳飾りと、その出自も調べなければならない。

「はぁ……分からない事だらけだな」

「ええ、そうですね」

 と溜息をついたところで気になる事がもうひとつ。

「なあ、成華」

「なんでしょう」

「なんで私達はまた鳥に鷲掴みにされてるんだ?」




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