とある科学で世界最強(超不定期) (茶々猫®︎)
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僕のヒーローアカデミア
ここまでのあらすじ&入学初日


 
 大本のISはいつか書きます
 
 書きます詐欺にならないといいけど(ボソッ)


 

 

 「かーくぅん!」

 「どうした束?」

 「何も聞かずにこのボタンを押してみて」

 「え、やだ」

 「じゃあ私が押すね!ポチッとな!」

 「結局押すのかよ。で、ナニコレ」

 「転移装置ver.7.5!」

 「おい待てそ──」

 

 俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 次に俺が目を覚ました時、知らない天井……って天井ないし。外じゃん。

 酔っ払いのおじさんみたく路地裏のゴミ置場に寝ていた俺は転移の影響を確認する為服や手持ち、格納庫の中を確認した。

 

 「問題ないな。転移で能力切ってたから服が少し汚れたくらいか」

 

 でもそれも能力を使い、汚れを分離させて綺麗にする。

 ゴミ置場は今の俺にとってありがたい情報の宝庫だ。積み上げた新聞は日本語で日付も書かれており、最近の時事を教えてくれる。そしてそこに見慣れない言葉を見つけた。

 

 『個性』だ。

 

 加えてヒーローランキングや指名手配のヴィラン。その顔の中に異形の化物としか言いようがない姿もある。それが世界規模での話。

 

 要するに、とあるの能力が全世界の人間に発現しており、それを悪用したり取り締まる為に個性に関する法律まで規定されている、らしい。

 ヴィランやランキングトップ勢のヒーローの名前と顔は覚えた。個性は千差万別で分類すら難しい物も多いが、俺の超能力が無効化されたり互いに影響を与えるかもしれない。なので社会的不利になろうが情報収集には無個性か、洗脳系の個性と伝えた方がいいだろう。

 最悪、改竄で戸籍作れなかったら見た目の年齢弄って捨て子でもいいか。そう考えていたのだが……。

 

 「もう大丈夫!私が来た!」

 

 平和の象徴(オールマイト)とその他大勢のヒーローと出会い、まあ……色々とあったが俺自身は無事に戸籍と個性届を手に入れて児童施設の最年長として雄英高校に通うことができている。

 それにしても思い切ったと思う。受験票を見つめながら自分の個性を思い出す。

 

 俺こと篠ノ之解の個性は『科学』。透視他諸々世間一般的な超能力を科学的に再現できるのがこの個性だ。説明は大雑把だが、事実俺にできないことは過去に戻ることと死者を蘇らせること、そして世界を超えることくらい。

 ついでに言えば『超能力』と個性は相互作用することが実験でわかり、しかし個性ではないので『幻想殺し』とは違い個性を消すだったり無力化したりするピンポイントな個性の対象にはなり得ない。

 俺の知り合いの個性を発動させないヒーローの個性は効かなかったからな。実証済みだ。

 

 というのは、個性届で提出した内容で本当はとあるの能力をバリバリ使ってるんだけど。催眠とかも『心理掌握』を使っただけだし。デフォルトで『窒素装甲』と『超電磁砲』の電磁波でレーダーを張っているからいつも通りだと思ってくれていい。

 で、個性を使うには車と同じ免許が必要だ。ヒーロー行為を行う為の資格がないと個性を使えないのは矛盾しているようだが、一般人が無闇矢鱈に個性を悪用しない為の処置だから仕方ないな。

 で、俺はというと今個性の免許が取得できる教育機関、雄英高校に入学していた。

 

 推薦枠四人の内の一人に選ばれ内密だがその内の一人は推薦を蹴って士傑高校に行った。が、別に脅威ではないから放っておいた。むしろライバルが減るのは好都合だろう。

 張り出された各クラス名簿と指示に従いA組のクラスに入る。孤児院の保母さん達に急かされてこんなに早く来てしまったが、既に何人かの生徒がいて思い思いに過ごしていた。

 

 「おはよう!時間前行動とは感心だな!黒板に席順が張り出されている!担任の先生が来る前に座りたまえ!」

 「……ああ、だがまだ時間はある。同じクラスになったんだ、仲間と友好を深めるのも悪くはないだろう」

 「む、そうだな!ボ……俺の名前は飯田天哉!よろしく!」

 「篠ノ之解だ。こちらこそ」

 

 がたいは良いと思っていたがそれなりに鍛えてはいるか。握手した手は固かった。そこでまた他の生徒が入って来て飯田はそちらに向かっていった。

 さて、席順は五十音順か。男女混合で丁度真ん中、一番後の右から二番目の席だな。

 席に殆ど何も入っていない鞄を置く。持ち物は蔵かホドキの格納庫に入っている。勿論着替えから何もかも。物欲もなくよく保母さんからプレゼントは何がいいか?欲しい物はないか催促されていたな。今はもう諦めているが、懐かしい。

 

 「あ、あのごきげんよう」

 「ごきげんよう、lady」

 「まぁ!綺麗な発音とお辞儀ですわね」

 「いや少し執事の真似事をした事がある程度だ」

 

 左の席を一つ飛ばして窓際の席に座る女子生徒が話しかけて来た。なんかこういうのデジャヴを感じる。しかも金髪ではないが明らかにお嬢様だ。

 

 「俺は篠ノ之解。これから三年間よろしく頼む」

 「申し遅れましたわ。私、八百万百と申します。こちらこそ宜しくお願いしますわ」

 

 八百万と言えば、世界的に有名な玩具会社の令嬢か。確か同じ推薦枠に名前があった。もう一人は轟焦凍。よく知るトップヒーローの二番手、炎熱系最強のエンデヴァー。その息子か。面白そうだ。

 

 「ところで篠ノ之さんは推薦で?」

 「ああ、よくわかったな」

 「いえ、お父様が調べて下さいましたの。私以外の方は皆男性ということでしたので」

 親バカかよ。

 「なるほどな。ま、別に調べられて痛いものは何もないから大丈夫だ。八百万もあまり気にするな」

 「!ええ、お気遣いありがとうございます。よ、宜しければ、その……お、お友達に」

 「いいぞ」

 「なってって……はい?い、いいんですの!?」

 「ああ、というか同じクラスの仲間だろ?勝手ながらもう友達と思っていたんだかな。迷惑だったか?」

 「いえそんな!ありがとうございます!やりましたわ!初めて男性のご友人ができましたわ」

 

 八百万のその言葉に、あこれ失敗したかな?と少し不安になる。

 この歳まで異性の友人がいないのと親バカという情報で、完全に八百万家当主に目を付けられたかもしれない。いや、確実にターゲットにされたな。

 

 「おっはよー!私芦戸三奈!結田付中学校出身!AB型だよ〜!よろしくね二人とも!」

 「おはようございます」「おはよう」

 「ねーねー二人って昔からの知り合いだったりするの?なんかもう既に仲良さそーなフインキだったし」

 

 軽快な動きで挨拶して来た元気枠の異形型個性を持つだろう芦戸が表情を変え、ニヤニヤしたままそう聞いてきた。彼女の声を聞いた他の生徒も何やら聞き耳を立てている。

 

 「いや、初対面だ。八百万は既に知ってたみたいだけど」

 「お名前だけですわ。ですがお話ししてよくわかりました。まるでお父様やお祖父様と話しているような包み込む優しさを感じましたの。篠ノ之さんは好ましい紳士的な男性とお見受けいたしますわ!」

 

 「お、おう。なんか既にいいフインキ。しかも八百万さんの好感度がぶっ壊れてない?」

 「別に大したことはしてないはずなんだが。そうだ芦戸。俺は篠ノ之解。別に名前で呼んでもいいぞ」

 「お、さらっと言えるのがイイね!じゃあ私も三奈ちゃんでいいよー!よろしくね解!」

 「おう三奈ちゃん」

 「ゔ、やっぱ三奈でいい……」

 「そうか?三奈、よろしくな」

 「うわ、この顔面凶器……ちょっと俺様入ってるのずるいって」

 「すまんわざとだ」

 「うわーん!八百万さーん!解に弄ばれたー!」

 「え、え?篠ノ之さん?私、お二人の方が仲が宜しい様で羨ましいですわ」

 「うわすご、柔らか……」

 「おい三奈、セクハラは辞めとけ」

 「へへーん羨ましいだろ〜!」

 「いや別に」

 「なん……だと……!?」

 

 なんて、アホな会話をしていれば嫉妬の視線を向けられた。そちらに顔を向ければ今にも血涙を流しそうな小さいあたしンちの母親みたいな髪と悔しさをハンカチ噛んで表現するチャラそうな金髪の二人がいた。

 

 「羨ましい……!峰田俺はアイツが羨ましい!」

 「絶許……あのオッパイを独り占めしておいて……そうだろ上鳴ィ!」

 「何でしょうかあの方々……ゾッとしますわ」

 「関わらない方が正解だ。三奈、そろそろ放してやれ」

 「はーい、あ〜堪能した」

 「そりゃよかったな。それにだいぶ増えてきたな。女子も何人か来たし八百万も三奈と一緒に行って来い」

 

 交友関係を広げる為に二人を送り出すと芦戸が後ろを振り返り黒い反転目をパチリとウインクする。

 どういう意図があるかわかったが、それに返事を返すことなくフッとニヒルに笑う。芦戸の表情に喜色が浮かんだので正解だった様だ。

 

 「オッス俺瀬呂範太!よろしくな」

 「俺は切島鋭児郎!好きなヒーローは漢気ヒーロー『紅頼雄斗(クリムゾンライオット)』だ!よろしくな!」

 「俺上鳴電気な!さっきの見てたぜ!」

 「おうよろしく。上鳴どうした?」

 

 唐突な自己紹介ラッシュの中、背後から肩に手を回して来た男子、上鳴は急に黙って正面に直り綺麗に九十度で腰を折った。

 

 「女の子と仲良くなる方法を教えてくださいっ!」

 「上鳴ぃぃい!裏切ったなオメェ!」

 「ブレねぇなお前ら。っと後ろ来てるぞ」

 「おおすまん。ってすげーイケメン来た!」

 

 切島達が道を開ければスタスタと歩いて席に着く。俺の隣の席。ということは彼が最後の推薦枠、轟焦凍か。

 

 「よろしくな轟」

 「……ああ」

 

 目線を向けただけマシか。声をかけて返ってきたのは一瞬の視線とぶっきらぼうな生返事だけ。トップヒーローの親を持つ彼のお家事情は知らないが、少なくともあまり良くはなさそうだ。

 No.2ヒーローエンデヴァーが言うにはそれ程には感じなかったのに。親子のすれ違いか……。

 

 それから切島が無理矢理引っ張ってきた爆豪や女子は芦戸達が連れて来たロックな耳郎響香、蛙みたいな蛙吹梅雨、全身透け透けの葉隠透。他男子数名と互いに挨拶した。

 

 「おい峰田。それ以上膝を折るなら俺が逆向きに折ってやろうか?」

 「ヒィ!?」

 「あ、ありがとっ。えーっと」

 「篠ノ之解だ。葉隠、その個性は生まれつきか?」

 「んーん。違うよ。確か三歳くらいからかな?個性が出てだんだん見えなくなったの」

 「……そうか。見えてるならそれでいい」

 「んー?」

 

 昔のB級映画だったか?実験で透明人間になった男の話は。あの時から眼も透明なのにどうやって見えてるんだ?って疑問が尽きなかったな。

 雄英、日本の二大ヒーロー育成機関というだけあって面白い個性ばかりだ。退屈はしなさそうだな。

 それはそうと知り合いが一人もいないのは少し味気ないな。ここにいないと言うのならB組というだけだし、クラス対抗戦では容赦なく行かせてもらおう。

 女子の輪から戻ってきた八百万や上鳴に多少のアドバイスをしていればもう時間だ。

 集まっていた数人に席に戻る様に言えば、廊下の出入口からキューピーのたらこ?の格好をした無精髭の男が跳ねながら移動していた。

 

 「……はい、皆が静かになるまで8秒かかりました。君達は合理性に欠くね」

 担任かよ、何してんだイレイザー……。

 

 「早速君達にはこれを着てグラウンドに出てもらう。急げよ」

 「先生!ご質問がッ」

 「却下だ」

 

 そして飯田、すげなく流される。だが堪えた様子はない様で言われた通りテキパキと着替え始めた。まだ女子がいるんだがなぁ。

 

 「八百万、着替えは更衣室を使えよ。場所わかるか?」

 「いえ」

 「雄英は広いからな各施設に男女別の更衣室があるが、校舎のは一階の食堂に向かう通路があるだろ?そこの手前にある。これ鍵な」

 「ありがたいけど……何で持ってんの?」

 「さっきの寝袋先生とは知り合いでな。出て行く時に渡して来た。真面目な奴はもう着替えてるし、上鳴はともかく峰田もいるから別の場所で着替えたいだろ?」

 「ふーん、信じるけど、あいつらとは違って紳士っぽいし」

 

 耳郎の問いに対して色々とぼかしながら答え、何とか納得してくれたようだ。そりゃ俺の席は一番後だし、寝袋着てるから手足出てないし普通渡せない。

 俺の能力を使わなければ、の話だが。

 

 女子達を送り出して俺もさっさと着替える。こういう時ホドキがいて助かる。格納庫から直接出し入れすることで瞬時に着替えることができるからだ。怠けそうだけど。

 

 




 
 本日の解説。(四捨五入で約五千字)
 
 ギャグ時空よろしくの雑さで天災科学者の餌食となってしまった双子の弟、篠ノ之解。
 さてさて、今回はどんな世界に行くのかな?
 波乱万丈、奇々怪界、次回の投稿はいつになるのやら……


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リアルチュートリアル&なお、最下位は除籍(するとは言ってない)

 
 何も書くことがない┌(_Д_┌ )┐


 

 

 グラウンドに名前の順で男女別れて並ぶ。さっきのタイムを意識したのか、皆声を出さず静かだ。

 

 「んじゃこれから行うのは個性把握テストだ」

 「「「個性把握テスト!?」」」

 「入学式は?」

 「ガイダンスは!」

 

 「うるさいぞ。俺はお前達をたった三年間で立派なプロヒーローに育てなきゃならない。入学式とかそんなものを悠長にやってる時間はないぞ」

 徹底した合理主義。それが相澤消太の根幹だ。効率的とも言えるがその言動からジャンルもアングラーヒーローとなっている。

 

 科学者でもある俺としては理に適っており好ましい人物だが、他の生徒から見ればどうだろうか?少なくとも、普通の感性を持つ親は彼の元に子供を預けようとは思わないだろう。

 何故か?

 

 「文科省は未だに個性を禁じた画一的な記録を行なっているが、怠慢だな。これから行う体力テストは各々の個性を解禁して記録する」

 「個性解禁!?」

 「個性を使っていいの!」

 「黙れ。身体を壊すのは自重しろ。それを踏まえて今の自分の限界を知れ。わかったな!」

 「「「はい!」」」

 

 懐からタブレットを取り出して何か操作すると雄英の敷地内に何台もいる警備ロボが大量のボールを運んできた。

 

 「爆豪、中学の時のボール投げの記録は?」

 「67m」

 「ではこれを個性を使って全力で投げろ。遠慮するなグラウンドから出ても回収できる。あと円から出なければ何をしてもいい。意味がわかったらさっさと投げろ」

 「じゃあ……死ねえぇぇ!」

 「「「……しね?」」」

 

 投げる直前に掌を爆破させて飛距離を伸ばすか。アイデアとしては単純だが、それ故に強力だ。相澤先生の持つタブレットから無機質な音声で記録が読み上げられる。

 

 ピピッ『記録、705.2m』

 

 普通じゃ絶対に出ない記録にクラスが浮き足立つ。今まで外で個性を禁じられ抑制されていた欲求が爆発した瞬間だった。

 

 「スゲー!才能マンかよ!」

 「ホントに個性が使えるんだ!」

 「ナンダコレ!『面白そう』!」

 

 だが、それも長くは続かない。

 

 「『面白そう』、か。この三年間をそんな腹づもりで過ごす気か?……よし、では成績最下位者には見込みなしと判断して除籍処分としよう」

 「「「えぇぇぇぇ!?」」」

 「そうすれば君達も本気を出さざるを得ない。実に合理的だ」

 

 生徒からのブーイングも物ともせずにピシャリと言い放った先生はもう既に最初の種目の準備に取り掛かっている。

 さて、本気を出せと言われたがどこまで出せばいいんだろうか?そんなことを考えていれば八百万率いる女子達が集まっていた。

 

 「除籍って本気だと思う?」

 「いえ、嘘に決まってますわ。ですが最初から見込みなしと判断されては困ります。私は常に上位を狙いますわよ……ですので、あの、個性を使うので少し壁になってもらえませんか?」

 「いいよー!」

 「葉隠、お前透明だから全然隠れてないだろ。八百万、隠せるものがいるなら光学迷彩のマントがあるが、使うか?」

 「お借りしますわ」

 「……なんてもん持ってんのよ。というか今どっから出した!?」

 

 耳郎のツッコミにキレが掛かるがスルー。そういうものだと思ってくれ、と曖昧に説明すれば個性と勘違いされた。歴とした科学なんだがな。

 マントで隠しつつどうやら上を脱いだようだ。何をするのかと興味深しく見ていれば背中の部分からいきなりスクーターが生えてきた。その他にもテストに使う為の道具が色々出て来る。

 

 「これは……凄まじい個性だな」

 

 そして危険だ。運用方法を間違えれば彼女一人で世界を敵にできる。発動と物の制限はなさそうだが、あったとして大したものじゃないだろう。

 

 「ありがとうございます。ですが構造や構成物質を把握しなければ創造することができませんの」

 

 それが本当なら逆に言えばどんな物質でも設計図さえわかっていれば創り出せるという訳だ。これは俺の『未元物質』に匹敵する万能性がある。いや、それ以上だ。

 それに八百万自身気づいている様子はない、いや家ぐるみでそう教育されているのか。危険な思想を持たないように。そういう訳なら俺が口出しするのはお節介か。

 

 「だが、学校でスクーターなんて乗れるのか?」

 「あ……つい」

 

 どうやらこのお嬢様は天然らしい。種目が始まる前に先生に確認しに行き、俺のアドバイスで「本当に必要なのはテクニックです」と言ったら受理された。まじかー。

 八百万は大抵の乗り物の操縦技術を持ってるらしいからスクーターを運転しても問題ないんだろう。持久走辺りで使うのだろうか?

 っとそうこうしてる内に俺の番か。

 

 「次っ、砂藤、篠ノ之!」

 「っはい」

 「今行きます」

 

 二人一組に測る50m走。隣は名前からして甘そうな大男の砂藤だ。その体型からパワー系であることは一目瞭然だから普通にやっても俺とは勝負にもならないだろう。

 

 今更だが『心理掌握』による個性の把握はやってない。

 個性を知っている矛盾をなくす為もあるが、初めから知っていては面白くないからだ。だが常にリモコンは持ち歩いているし、その気になれば指を鳴らして意識を奪うこともできる。

 

 「はじめ!」

 合図があり、演算を簡略化する為にゴール地点にいるイレイザーの隣に座標を設定する。

 

 ヒュン。

 

 風切り音が鼓膜を振動させ、思い通りに飛べたのを確信した。ちゃんとゴール地点の線の上に立っている。

 

 ピピッ『0.14秒』

 お、前より速くなったな。

 

 「「「うわぁああああああ!!?」」」

 「「「速ぇええええ!?」」」

 

 クラスの全員が驚愕といった顔で砂藤のみがまだ驚きつつも懸命に記録を縮めようと走っていた。何故皆がこうもオーバーに驚いているかというと、俺の前に出た最速記録がどう見てもこの種目に有利な『エンジン』という脹脛にマフラーを付けた飯田の記録、3.04秒だと思われていたからだ。

 

 その所為で何人からは強い敵愾心を向けられている。元々ノーマークだった奴がこんな記録出せばそうなるか。その視線の中にあの推薦組の轟のもあった。八百万は……普通に賞賛だな。あの子らしい。

 だがこれで俺の個性は『瞬間移動』系に勘違いしただろう。同じクラスと言えども試験ではライバル同士、探り合い位は普通にする。光学迷彩のマントを見せた耳郎辺りには物を瞬時に移動させる『テレポート』に思われてそうだ。

 砂藤もゴールして待ち時間に皆の元に戻る。案の定キラキラした目で興奮している連中に囲まれた。

 

 「オイ篠ノ之!お前ヤベー奴だったんだな!」

 「俺は最初から只者じゃないって思ってたぜ!」

 「すごいよ篠ノ之君っ!」

 「すごいな完敗だ篠ノ之君!ぼ、俺ももっと精進しないといけないな!」

 「オイコラクソオールバック!テメェ調子乗ってんなよ!」

 「マジで才能マンじゃんか!」

 「さっきの消える布といい覗き放題じゃねーか!羨ましいぞ!」

 「ホンマすごいねぇ」

 「あの飯田君のスピードを上回る記録……超スピード?いや速さだと空気抵抗で……テレポートか!ならその距離と転送できる重量は……ブツブツ」

 

 なんかあそこだけブツブツ言ってて不気味なんだが……。

 実験が煮詰まった時の束みたいなもんだと思っとこ。束なら俺の知識でインスピレーションが湧いたり活路を見出したりするが、彼はそこまで天才肌とは言えないしさっきも言った通り同じクラスメイトでもライバルだ。

 どんな個性か知らないが、わからないからこそ慢心せず油断なく対処できる。

 

 「お疲れ様でしたわ」

 「おう、ただいま」

 「うわ、何今の熟練夫婦みたいな会話」

 「ふうっ……!?」

 「おい三奈、あんまり苛めてやるな。八百万も揶揄われただけだからそんなに反応するな」

 俺も混ざりたくなるだろうが。

 

 「そ、そうですわよね!オホホ!わ、わかってましたわ!」

 「およよ、ごめんねーヤオモモ〜」

 「や、やおもも?」

 

 三奈は八百万に渾名を付けて会話を繋げている。思った以上に個性に関する詮索は少ないな。まあ、普段から個性使用の抑制やマナーがあるのだろう。

 体力テストの個性解禁で皆それぞれの個性を創意工夫して挑んでいく。俺も錯乱目的で個性を乱用する。一応担任から本気を出せと指示が出てるし問題ない。

 

 握力は『念動能力』で一位。

 

 立ち幅跳びは『一方通行』の風を使い二者同率一位。ちなみにもう一人は爆豪だ。

 

 続いて反復横跳びは二位。峰田の個性が面白すぎる。あれは俺にはできない芸当だ。

 

 上体起こしは『正体不明』の能力で肉体を強化して全力……は支えている奴らが吹っ飛ぶので個性ありきの常識的な範囲でやった。具体的には一秒に三回のペースで。勿論一位だった。

 

 長座体前屈はまた『念動能力』で測りを押し続けた。最終的に針金を出し続けた八百万と同率一位。

 

 持久走で八百万があのスクーターに乗っていたが、俺は『座標移動』で移動を繰り返し二位の八百万と大差をつけてゴール。

 

 次が最後の種目、最初に爆豪が投げたボール投げ。

 目覚しい記録は麗日の∞だな。触れたものを無重力にする個性で空気抵抗以外無くなったボールは落ちることなく肉眼で見えなくなった。落ちて記録もないのでこの結果なのだろう。今も空を漂っているようだ。

 

 俺の番。先程同様円の中なら何をしてもいいらしいから最後だし大盤振る舞いだ。まず麗日の『無重力』を越える為『一方通行』で重力やら空気抵抗やらで起こるベクトルを反転、全て投げた方向に向けて『噴出球体』で秒速2000mまで内部加速させた風の球体で推進力をあげる。そして駄目押しとばかりに『絶対等速』をボールにかけて壊れない限り同じ方向に同じ速度で進み続ける能力を使った。

 投げる瞬間に風を解放させれば指向性のある暴風に乗せられたボールが目で終えない速度で空の彼方へ消えていった。音速を超えて第二宇宙速度に達したはずだから今頃宇宙に進出しているだろう。

 

 二投目を投げる必要もなく円から出た。皆の表情はお察しだ。もうこの短時間で見慣れたな。ただ棒立ちの状態から音を超えた時の爆音を轟かせて腕だけで投げたからな。もう化物認定は避けら、

 

 「素晴らしいですわ篠ノ之さん!全ての競技において上位を維持されるなんて!」

 そう。この種目で麗日と同じ∞を出した時点で総合成績一位は確定した。

 「ありがとう八百万」

 「……あの、失礼ですが篠ノ之さんの個性は一体何なのでしょうか?」

 

 やはり個性の詮索はマナー違反か。それを承知で聞いてきた八百万、にあわよくばと出歯亀を決め込む近くのクラスメイト。

 ここで嘘をついてもいい、八百万の個性はそれ程脅威だ。敵対しても負けることはないが簡単に軍隊を作ることができる優れた個性であることに変わりはない。

 だがそれ故に俺は彼女がどこまで成長するのかが見たくなった。

 

 「いいぞ」

 

 俺と八百万を囲んで空気の振動を反射する。いつもとは違い周囲へ音が漏れないようにした。

 

 「俺の個性は『科学』だ」

 「科学?学舎で習うあの?」

 「そうだ。俺は自然科学で解明された事象を個性で再現できるって訳。理解したか?」

 「そ、それは素晴らしいですわ……同じ推薦生でも私の個性は」

 何故か八百万が悲観しているようだが、それは違うと首を振る。

 「八百万、お前の個性はすごいぞ。確かに知識がなければ無用の長物だが、お前の家は金持ちだ。殆ど何だって手に入る。手に入るという事はそれを知る機会がある」

 「……」

 「お前はまだまだ伸びるよ。お前の知識と家柄はお前の個性の一端だ。上手く使えば俺よりもヒーローとして活躍する。必ずな」

 

 どの口が言うんだろう。俺はヒーローになる為にここに入学した訳でもないのにな。個性を使うのに資格が必要で、俺のは個性ではないが誰も知ることはない。

 

 「わかりましたわ。篠ノ之さん」

 「何だ?」

 「貴方の教えに感銘を受け生まれ変わったような気持ちですわ。先程の非礼な振る舞い、申し訳ありませんでした」

 「気にしちゃいない。それに、いつかバレることだ。お前が悪戯に広めなければ構わない」

 「寛大なる処置に感謝を。そして可能ならばこれからも手解きをして頂きたいのですが……」

 

 まさか八百万の方から言ってくるとはな。嬉しい誤算だ。俺はそれを快諾してそろそろ順番だからと彼女を見送る。反射膜は解いておいた。

 

 「ねーねー、さっきヤオモモと何話してたの?」

 「俺の個性を羨ましがってたんでな。少し背中を押しただけだ」

 「かっくいー。で、それ私も聞いて大丈夫?」

 「残念だったな先着一名様に限る」

 「ちぇー」

 「それはそうと葉隠。盗み聞きはよくないな」

 見えないはずの彼女の頭をぐわしと掴んだ。

 「え、あっいた!イタタ!流石握力一位ッイ"」

 「おいたが過ぎるぞ。ったく気になるなら直接聞きに来い。教えてやるかは別だが」

 「それじゃあ意味ないじゃん!あー、痛かったぁ」

 「次やったらもっと痛いぞ。これに懲りたらもうやめろよ」

 「やだー」

 

 それはどっちのやだなのか。透明だからバレてないと思ったか、少し涙目の彼女の顔は確かに笑みを浮かべていて今のように気兼ねしない方が付き合いとしては正解なのだろう。

 

 「あ、八百万さん終わったみたいだよ」

 「なら後は成績発表か。ほらいくぞ」

 「はーい」

 

 

 

 当然の結果として、複数の種目でトップをもぎ取った俺が総合一位になった。八百万や轟も二位、三位をキープしており推薦生の威厳を保つことはできただろう。

 意外とこっちの対策できる個性はないんだろう、データバンクにアクセスして得た入試結果とその詳細で首席だった爆豪も四位に収まっている。

 だが誰もそれ以上はなかった。全て事前に知っていた通りの結果だ。入学通知が来てから何も変わっていない。それに今はテストだからいいものの実地なら対応できるのか?……無理だろうな。

 

 「あ、ちなみに除籍は嘘な。君達の能力を測れる合理的虚偽」

 

 誰もが最下位の冴えない少年に同情と安堵の表情を浮かべていた中しれっとこぼした担任の言葉に生徒一同驚愕のあまり変顔を披露する羽目になる。

 俺も多少驚いていた。イレイザーがこの手の冗談を言わないし撤回することも中々ない。だからこそ、あの緑谷という少年に見込みを感じたということ。

 そう思わせるだけの信頼があった。

 

 ま、それもそれでもう何度目かの高校生活に面白みができたというものだ。

 

 




 
 本日の解説。
 
 オリ主の記録がぶっちぎりすぎ。
 そりゃあまあ能力を存分に使ってるからね。ちかたないね。
 それに加えて諸事情により篠ノ之君の身体能力は束と同等。あるいはそれ以上だと思っていただければ。


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初戦闘妖怪経験値置いてけ&戦闘訓練はホームでアローン (前編)

 
 
 ネタだよ(私が来た!)


 

 

 その日すっぽかした入学式はともかく、申し訳程度のガイダンスを受けて下校。日本一の名門校ならその日の内に講義あるものと勝手に思っていたのだが、拍子抜けもいいとこだ。IS学園の方がもっときっちりしていたぞ?

 何はともあれ、自由時間ができたならそれに越したことはない。雄英のヒーロー科必修科目にはヒーロー基礎学がある。その授業を受けるに当たりコスチュームを身につける必要がある。

 

 他のヒーロー科の生徒は各伝手や雄英スポンサーの企業が一人一人の要望に合わせたそれを作成してくれる。

 俺も異端だが科学者だ。何より誰かの作ったそれより自分で作った物を着た方が安心感がある。

 なので俺は入学が決まってから練っていたコスチューム案をさらに改良することにした。

 

 「まぁ、でも……作るのは一発だがな」

 

 背中から三対六枚の純白の翼が広がり操作する。

 

 「能力も付与する効果も決まってる」

 

 原材料は純正『この世に存在しない素粒子を生み出し、操作する』能力によって作られた『この世に存在しない素粒子』。つまり、『未元物質(ダークマター)』だ。

 その特性から望んだ効果を生み出せる訳ではないが、物質の系統や法則さえわかればどうとでもなる。

 見た目は俺の一張羅でもある和服にしよう。あとは補助にゴーグル型の多機能眼鏡と……武器がいるな。

 

 ヒーローの資格に含まれ国からの許可がいるが銃刀の所持もいいとされている。警察でいう銃や警棒と同じ扱いだ。審査が入るが、殺傷能力で言えば俺の能力の方が高い。所詮手加減用の玩具に過ぎないが、必要だろう。

 ひたすら頑丈に、硬く作られ刃を潰してあるそれを手に取る。

 

 「よし重いな。これくらいならオールマイトのような超怪力の個性ぐらいしか持ち上がらないだろう」

 

 さらにその個性を持っていたとしても盗難防止用に認識機能も付けて致死量一歩手前の電気ショックも備え付けた。解除は可能だが、まず貸すことはないだろう。重過ぎるからな。

 他の装備もホドキの量子格納庫に収めておけば咄嗟の時にも対応できるだろう。少し試運転しておくとするか。

 現在地から円状に知覚範囲を広げていく。様々な情報が湧いてくるが取捨選択してヴィランのみに絞る。

 

 ……いた。

 奴の個性はアンダー。目が合った人物のトラウマを読み取りその姿に変身するって個性だ。俺のトラウマにも興味はあるが、この装備には少し役不足かもな。

 

 「ヨォ。お前ヴィランだろ?」

 「チッ!だったらなんだオラァ!」

 「ちょいとサンドバッグになってくれ」

 「ハッ!俺に話しかけたのが運の尽きだったなあ!」

 

 奴の輪郭がブレて次第にその姿を変えていく。

 

 「!?」

 「その顔が見たかったぜぇ!お前こんな女がトラウマなのか?ぎゃははは!」

 

 俺の目の前に現れた奴の姿はアリスドレスに身を包んだ実の姉である篠ノ之束そっくりだった。予想外の出来事に俺は武器を構えるのも忘れて少し放心してしまった。

 その隙を狙い束の姿のまま前傾姿勢で距離を詰めてくる。スピードも束のままだ。

 

 「っ!ぐ……」

 「にしても、何だこれ?増強系の個性か?なんかすげー体が軽ぃな。……それに、胸もこんなにデケェしよ」

 

 見た目束だが、中身は歴とした男。誰かも知らない輩に虚像とはいえ体を好き勝手させるわけがないだろうが。

 装備の試し斬りも忘れて個性(能力)を発動させた。直後、胸まであと数cmといったところで奴の手が、体がガチガチに固まったように動かなくなる。

 

 「なっ!?なんで、手が……お、お前!何の個性を……」

 「確かにそれは俺の急所、トラウマなんだろうが……テメェは触れちゃいけないもんに触れた」

 

 なぁに心配するな死にはしない。そう言って得物をゆっくりとした速度で振り上げた。

 「ちょっと顔がイケメンになるかもな」

 それは奴の個性が解除されるまで続き、路地から出て来た頃にはもう夕陽も傾いていて装備の確認もしていないことを思い出し、明日のヒーロー基礎学はぶっつけ本番になるのを悟ってがくりと肩を落とした。

 

 

 

 翌日の朝、平和の象徴と謳われるNo.1ヒーローのオールマイトが講師で件のヒーロー基礎学を教えるらしい。

 俺からすれば彼にはヒーロー業に専念してもらい、特別講師として体験談を聞く程度が適当だと思うのだが……。まあ、学校や彼にも何かしらの思惑があるのだろう。

 まさか、彼がヒーローを引退して後継の育成とか?平和の象徴も所詮はただの人か。

 そう思えば新米教師のやりそうなぐだぐだ感が浮き彫りになる。

 

 「篠ノ之さんのコスチューム、よく似合ってますわ」

 「ありがとう八百万。これ自作だから嬉しいよ」

 「え!自作っ!?この袴もコートも刀も!?」

 「おう。俺の個性だと自分の要望通りに作れるから手軽だし材料費もほぼタダだぞ」

 

 個性のギャップに驚かれるが、そもそも俺のは個性ではないし、俺のよりも八百万の方が応用力があるのは昨日も確認した。

 

 「え、あれだけ凄い個性なのに物を作る個性?だとすると複合型?でもそれだと一体どんな個性がブツブツブツブツ……」

 「あー、相変わらずだな緑谷は……」

 「デク君ちょっと怖いよ?大丈夫?」

 「ヒョッ!?あ、ああ!麗日さん!?そのコスチューム似合ってるねっ」

 

 麗日お茶子のコスチュームは、何というかピッチピチのライダースーツを無理矢理宇宙服っぽくしたってのが印象的だ。

 大方サイズの申請を間違えてこうなったんだろうが、見るからに女子と話すのを緊張している彼に言っても無駄なことだろう。

 そっとその場を離れる。

 

 「篠ノ之!お前のコスチュームかっこいいな!」

 「切島か、八百万もそうだが露出が多くないか?」

 「あー、俺の個性だとこっちの方が都合がいいんだ」

 

 そう言ってガキンっと片腕の肘から先を岩みたいに硬化させる。切島の個性は硬化か。単純に体の表面組織を硬くするだけみたいだが関節部分はどうだ?

 

 「なるほど、柔らかい生地だと簡単に破けるから最初から服を着ないと」

 「そういうこった。それにこっちの方が俺の憧れのヒーロー『紅頼雄斗』と同じで漢らしいからよ!」

 

 昨日も測定時に思ったが、言動通り熱血漢らしい。それに彼の言う漢気ヒーローは少し古く、彼らの親世代が子供の頃活躍したらしい。所謂ツッパリという奴だ。

 

 「確かにお前は漢らしいよ切島。個性もステゴロにピッタリじゃねぇか」

 「お!やっぱわかるか!……ただよぉヒーローってやっぱ人気商売みたいなとこがあるだろ?俺の『硬化』は地味だからよ」

 「俺はそうは思わねぇが、そうだな。『硬化』って言うぐらいだから、切島は皆の先頭に立って皆を守れるよう個性を鍛えればいいんじゃないか?」

 矢面に立ってその背中で仲間を鼓舞するのも乙だよな?

 

 切島の眼の輝きが先程とは比べ物にならないくらいキラキラと輝く。彼の性格だとこう言えば食い付くとは思ったが予想通りだな。

 

 「っだよなぁ!何だよそれ超カッケェ!やっぱ篠ノ之お前漢だなぁ!話がわかるぜ」

 「それ程でもねぇ。今度オススメの漫画貸してやるよ」

 「お、期待してるぜ」

 「何だ何だ?何の話だ?」

 「篠ノ之って漫画読むのか!?」

 「おいそれよりエロ本交換しようぜ」

 

 随分と騒がしくなってきた頃、漸く小さなカンペを持ったオールマイトが声を張り上げて注目を集めた。

 

 「さあ!有精卵共!──戦闘訓練の時間だ!内容は屋内の対人戦闘さ」

 「まだ基礎も習っていませんのに、いきなり戦闘ですか?」

 「その基礎を見る為にさ。まず自分がどこまでできるのかを把握するのも大切だぜ」

 

 八百万の疑問にオールマイトはそう返す。確かにそれも一理あるが、屋内戦闘で対人……些かレベルが高いと思うがあの倍率を勝ち残った奴らだから大丈夫か?

 彼曰く、昨今の凶悪敵の出現確率は屋内が高く、それに近い状況を想定したヒーローvsヴィランのチーム戦を行うとのこと。

 

 ルールは簡単、制限時間内に敵が保有する核兵器を確保し敵を全員捕縛すればヒーローが勝利し、逆に核兵器を守りきりヒーローを全員倒せばヴィランの勝利。

 場所は廃ビルを使い、他の生徒には映像のみモニターで観戦できる。戦闘後に反省会も行うと……。

 

 「では早速チームを決めようか!皆一人一枚ずつクジを引いてくれ!」

 「適当なのですか!?」

 「敵側はどうか知らんが、ヒーローは近くにいた相手と即興で組むことがあるだろ。それのアドリブ力も見てるんだろ」

 「な、成程!先生にも意図があったのか。しかしそれに気付く篠ノ之君もやるな!」

 

 適当に言ったけどな。

 

 「さて、俺は何かなぁ……と」

 引いた紙を広げるとそこに書かれていたのは『I』。

 「篠ノ之さんはIでしたか。私はCでしたわ」

 「あ、私はEだね!」

 「俺はJか。ま、仲間とか敵とか関係ねー!気合いだ!」

 「あ、私Iだ。やったね推薦組が仲間だと安心するよっ」

 

 俺のペアは葉隠みたいだな。

 ペアができるとオールマイトがそれぞれ二枚引いて、どちらかの陣営かを決める。

 彼が先ず引いたのはAとD。Aがヒーロー、Dがヴィランだな。

 

 

 結果から言えばヒーローチームが勝利した。が、最後モニターに映っていたのは倒れている緑谷と麗日と呆然と立つ爆豪と飯田の姿。

 緑谷と暴走した爆豪がタイマンで戦ってる隙に麗日が個性を使って飯田に接近。ここまでは順調だったんだが爆豪がタメ技でビルを半壊させたり、麗日が飛礫で核ごと狙って油断した隙に強奪したと思ったら自分を浮かせると嘔吐感があるらしくキラキラを吐いたりなどぐだぐだだった。

 

 確かに爆豪を誘き出しては抑えて無事核を確保できたから緑谷の作戦勝ち、になるがこれが実戦なら核は何度暴発して被害が出たかわからない。

 既に怪我で保健室に行った緑谷を除いて三人が帰還しており、八百万が評価を話して結論は訓練による甘えの勝利だと辛口に断言している。

 誰もあの映像を見た後では八百万に同意した。だが勝ちは勝ち。緑谷にいいように翻弄された爆豪はただ一人悔しそうに下を向いていた。

 

 授業は進み、遂に俺と葉隠の出番が来た。

 相手はヒーローチームのB。轟と障子のペアだ。恐らく両者推薦生による今日一番の試合になるだろう。全員がそう予測した。

 

 

 ビルは爆豪が爆破で半壊させた為場所を移して行われる。

 

 「さて、敵チームの俺らだが、チーム戦というのがミソか」

 「ハイハーイ!私の個性は『透明』ね!本気になると全裸になって背後から奇襲ができるよ!」

 「おう知ってる。つか見たらわかるぞ」

 「じゃあ私が説明したから次は篠ノ之君の番ね!さあ、どんな個性なのか教えてちょうだいな!」

 

 意気揚々と聞かなくてもわかることをわざわざ説明したのは、それが理由だろうな。

 

 「まあいいか。どうせ何時かはバレる訳だし。一回しか言わないからよく聞いとけよ」

 

 数分であまり中身のない作戦会議を終えて、俺は『透視』と『座標移動』を併用してビルのあちこちに玩具の様な罠を仕掛けておく。

 

 「もうすぐ始まるね!」

 「そうだな、葉隠」

 「なーに?」

 「お前ただでさえ裸なんだから、ブーツもグローブも取るなよ」

 「え?どうして?」

 

 シュッシュッ!とふわふわ浮いているグローブだけがシャドーボクシングをしていた様に見えるが、透視をしている俺には裸で、しかも変態みたいな格好の葉隠の方を極力見ない様にしつつ注意すると素っ頓狂な返事が返ってくる。

 

 「お前なぁ、いくら見えないからってマッパで来る奴がいるかよ。後で迷彩のコスチューム作ってやるからそれで我慢しろ」

 「驚いた。篠ノ之君って絶対お前はさっさと全部脱いで捕縛テープ巻きに行けくらい言うのかと」

 「視界の端でうろちょろされる方が厄介だ。それにもう罠は仕掛けてある。ないと思うが味方が罠にかかる間抜けは犯したくないからな」

 「嘘っ!何時の間に!?」

 「さっき」

 

 訓練は既に始まっており、左半身が雪男みたく氷漬けの轟が個性でこのビル全体を凍らせようとする。が、四階のビルは最上階のここを残して凍り付く。

 

 「「「!?」」」

 「やっぱそう来たか。だが生憎対策はしっかり取ってある。じゃあ葉隠、後は高みの見物と行こうか」

 

 

 「轟」

 「わかってる」

 

 ビル全体を覆う氷を作ったはずが最上階には全く効かず、氷というより個性そのものを無効化された様な感覚に轟は戸惑いつつも、直前の考えを変えて障子と協力することにした。

 とりあえず凍っている場所は大丈夫と踏んで中へ侵入する。時間を無駄に浪費するのは得策ではないからだ。

 

 「!轟っ!」

 「くっ」

 

 障子の助けで素早く伏せた彼の頭上を何か鋭利な物が通り過ぎる。

 コンクリの床を転がりその場を離れて壁に突き刺さったそれを見るとなんと弩の矢だった。刺さった箇所が少しひび割れているのを見るに威力は充分殺傷能力があると見ていい。

 

 『おっと流石に避けたか。まあ障子の目や耳があればそれぐらいは対応して貰わないとな』

 「篠ノ之!」

 「まだ来るぞ!」

 

 曲がり角の突き当たりから先程と同じ弩の矢が絶えず飛んでくる。

 雄英の保健室にリカバリーガールがいるとは言え、当たると怪我では済まない。

 轟は氷で通路を塞ぎ矢の攻撃を凌いだ。だが安心するのはまだ早い。罠がこれだけだと二人は到底思えなかったからだ。

 腰を低く隠れながら上への道を目指す。

 

 『どうしたヒーロー?時間がないぞ?それともギブアップか?』

 「ちっ!何処だ!出て来やがれ!」

 

 轟が何処からともなく聞こえる挑発に声を上げる。だが俺はそこにはいない。ずっと最上階の核の前で座っていた。

 

 『ヴィランが正々堂々戦うと思ってたのか?残念だったな。俺と戦いたけりゃ罠を突破して最上階に来てみな。ま、その前にタイムアップだろうがな』

 

 悪役ロールでヒーロー二人を思いっきり挑発する。ヴィランを演じるならこれぐらい狡猾でもいいだろう。なんてったって轟は未だに個性の半分も使わない舐めプで挑んで来たんだからな。

 正直言って少ーしイラッときたんだよ。家庭の事情か何だか知らないが、俺相手に手加減して勝とうなんて百年早ぇよ。

 

 「篠ノ之君、今どんな状況?」

 「監視カメラ全部凍ったからな。口頭でいいか?」

 「全然オッケー」

 「まずビル全体を凍らせようとして──」

 

 そこからはおちょくり目的で罠を仕掛けまくった場所を勢いに任せて強引に進むもんだからほぼ全部に引っ掛かっている。

 登ろうとして二人乗れば重さで滑り台に変わる階段。一人ずつならOK。

 超古典的で王道な落とし穴。コンクリの足場を廃材に変えておいただけだが、また一階からとなると精神的にくるよな。

 

 矢はもう使ったから強力接着剤の弾や大量の虫の玩具が降って来たり、扉を開けると天井に扮した層が落ちて来たり、階段前を通れば横から巨大なハンマーで窓から外に放り出される。あ、着地にクッションマットを敷いてあるから大丈夫だぞ。

 結局、ツルツルの階段や粘着床からの足つぼ、正しい道を選ばないと電磁バリアで進めないとか他にも色々あったのに三階にすら到達せずに時間切れとなってしまった。

 

 

 




 
 本日の解説。
 
 作者は洋画好き。最近はマーベルヒーローとか色々観てますが。
 初めて観たのはダースベイダー、次点でホームアローン。
 あの子供が活躍する映画は頭空っぽにして観れるのでお気に入り。
 
 それと似顔絵メーカーでヒーローコスチュームのイメージを作りました。
 
【挿絵表示】

 


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戦闘訓練はホームでアローン&自分的個性独自考察注意 (後編)

 
 
 今回はほんの少し少なめ


 

 

 「「「篠ノ之が鬼畜過ぎる……」」」

 

 一方モニターの前で観戦する他のクラスメイトはヴィランも真っ青な悪戯グッズの外道コンボを目の当たりにして篠ノ之に対する認識は一致していた。

 彼らの中で報復を恐れた者達は絶対彼を怒らせないようにしようと誓う程だ。

 

 「うぅん、確かにこれはやり過ぎかもしれないな」

 「激しく同意」

 「アイツ頭おかしいわ」

 「よくこんな恐ろしいこと思いつくよね?」

 

 なんて事はない。有名な洋画の悪戯を参考にしただけである。確かに嗜虐心を満たす為に趣味の範囲ではあるが、俺の考えは舐めプするクソガキをフルボッコにして絶妙な匙加減で煽りまくってストレス発散することだけだ。

 確かにこれでは屑認定も納得する。

 最初の殺傷性の高い矢を使ったら、後はひたすら妨害や足止めが目的の非殺傷性の罠ばかりで精神的に苦痛を与える。怒りのボルテージを急上昇させればそれだけ視野も狭まり、思考も単純化されていく。

 ここまでくればわざわざ此方から誘導せずとも勝手に泥濘に嵌っていく。

 

 「あ、また」

 「もう残り時間も少ないし、これで終わりじゃね?」

 

 一人の言葉通り、結局俺達とヒーローチームは顔を合わせることなく訓練を終えた。

 モニタの前に戻り、かなり消沈した轟と障子が見える。うん、障子に関してはほんと申し訳ない。謝らないけど。

 

 「お帰り諸君。あー……評価、聞くかい?」

 「いや、いい……」

 「だよネ」

 「それはそうと篠ノ之少年。これは訓練だ、もう少し加減を」

 

 オールマイトの言いたいことはわかる。だが俺はどちらかと言うと担任の肩を持つんだよ。

 

 「先生、練習で出来ないことが本番でできると思いで?窮地に個性や隠れた才能を発揮すると本気で思ってますか?世の中どうしようもない現実ってもんがあるんですよ。良かったじゃないですか。プロの貴方がそう思うなら現場のヴィランは俺程鬼畜じゃないみたいですし」

 「篠ノ之さん、やり過ぎです」

 「だがな八百万」

 「でももすともございませんわ!後で反省会です!」

 「あーはいはい」

 「「「猛獣使いだ……」」」

 

 クラスの意見が一致した瞬間だった。何故か八百万には甘いな俺、束達とは似ても似つかないと思うが、まあ考えても仕方ないか。どうせくだらない理由だろうし。

 俺にとってはその程度の認識だったが周りの反応は違い、後で俺の世話係に八百万が任命された。誠に遺憾だ。

 

 「では篠ノ之さん。何故あのような不粋なことをしたのか弁解はありますの?」

 「弁解ねぇ、ムカついたから?」

 「……それだけですか?」

 

 八百万は素直に話すのとその理由が意外だという表情を隠さずに問いかけてきた。

 

 「ああ、オールマイトにはああ言ったがあの時轟は俺や葉隠、同じチームの障子すら見ていなかった。正面からお前達は眼中にないって態度が明け透けだったからな」

 「それって八つ当たりでは?」

 「いや、本人に返ってるから正確にはやり返したんだよ。轟が俺達を下に見たのと同じ、俺もあいつを全力で下に見てやった」

 「大人気ないですわ」

 「子供だからな」

 「そうでしたわね。篠ノ之さんは周りの殿方とは違って理性的だと思っていたのですが……フフ」

 

 幻滅したか?と思ったら口元を隠して小さく笑いだした。何だ?今の一瞬で何があった?

 

 「し、失礼しました。ふぅ。大変好ましいと思いましたの。冷静なのは長所ですが人間味がありませんでしたの。まるで人形や玩具を相手にしているようで」

 「……」

 「あ、すみません。悪気があった訳では」

 

 面と向かって相手に人形というのは確かに失礼かもしれないが、俺には事実だからな。寧ろ八百万の直感に驚いたくらいだ。

 

 「いや、今回は俺のやり過ぎだな。素直に反省するよ。轟はともかくとばっちりの障子には謝っておく」

 「そうですわね。それがよろしいかと」

 「んじゃ反省終わり。ところで八百万の方はどうだ?俺の罠は参考になったか?」

 「ご冗談を、とても参考にできませんわ」

 だろうな。八百万が嫌悪感を抱くような意地の悪いのばかり選んだし、知識として知っていればいい。

 

 その後で上鳴や切島が放課後にファミレスで反省会をしようと言い出し、飯田や八百万、緑谷がそれに乗っかって寄り道をすることにした。

 ヒーロー基礎学の模擬戦で幼馴染に負けた爆豪だけは不参加らしい。轟は終始俺を睨んでいたが、授業中解説役を買って出ていた八百万を隣に座らせておく。同じ推薦組でお互い触発されることがあるだろう。

 轟、八百万、緑谷の順に長椅子は三人ずつ座っていく。そこのテーブルから背中合わせの位置に座った。

 

 「緑谷さん?顔色がよろしくないようですが……?」

 「はひっ!?いやあのこの顔は元々ですからっ」

 

 女子にあまり免疫がない彼が狼狽している様が面白く、見ていたくもあり彼には尊い犠牲になってもらおうか?

 

 「でさ、あ、篠ノ之お前も何かない?」

 「何が?」

 

 名前を呼ばれ、振り返ると向かいに座る上鳴、峰田、尾白と隣の蛙吹と耳郎が俺の方をジッと見ていた。

 

 「だからぁ、今日の反省はいいから皆の個性でアイデアを出そうって話になったんだ。篠ノ之はどうだ?」

 「そうだなあ……」

 

 一通りぐるりと視て、彼らの個性を分析する。

 

 上鳴は『帯電』。生体電気や体外から取り込んだ静電気を増幅させて体表に纏う個性。利点は元が静電気ならウール系の服を着ていれば充電が可能ということ。難点はあくまで電気を纏うだけで耐性はあるが自分が火傷する場合や電池切れになると頭がショートしてアホになることか。

 なら電源を携帯して対策し、放電時の電流に避雷針や鉄線などで指向性を持たせればいい。

 

 峰田は『もぎもぎ』。聞いただけでは理解しにくいがあたしンちの母の頭みたいな球体を無限に捥ぎれる。紫の球体の特性としては吸着性に優れ長ければ一日取れず、峰田本人にはかなりの反発性を発揮する。ただし捥ぎり過ぎると出血してしまう。

 吸着性は敵の拘束にはうってつけだな。そして相手の動きを封じた上で自分は圧倒的な機動性が得られる。課題は配置と瞬間的な移動経路を確保する判断力。こればかりは場数をこなすしかない。

 

 尾白の個性は『尻尾』。シンプル故にこの雄英では上位に位置する実力と努力家だろうな。頑丈な尻尾を取り込んだ体術を身に付けているようだし、あとは熟練度を上げて自分の弱点を把握することか。フィールドによっては無双できるぞ。今度俺と組手しようか。

 以上のことを伝えてみれば興奮気味に感謝された。今のは誰にでも、それこそ自分の個性ならいつかは辿り着いた答えでしかないが……役に立ったのなら別にいい。

 

 「篠ノ之君、組手の話こちらからもお願いするよ」

 「ああ」

 「ねぇ私達は何かない?」

 「あたしも聞いていいかしら?」

 

 女子からも個性についてのアイデアを催促された。

 

 「耳郎は……そうだな。範囲は半径6mだったよな?それで先端で刺した先に心音を増幅させた音波攻撃で破壊する個性か。直接刺さる場合はいいが強度を上げたり指向性スピーカーに接続したらどうだ?」

 「ブーツのスピーカーはもうしてるよ」

 「お、流石。ならスピーカーを増やすか。今のはブーツの前方だけだろ?比較的自由の効く手だったり、無人機とかから遠隔で攻撃できるといいな。種類が増えれば指向性でも個人を狙うか大勢を狙うかで違うからな。あとは

確かに広範囲の相手に爆音をぶつけるなら普通のでも問題ない。指向性を推すのはその方向にしか音が届かないから威力が減衰せず敵をピンポイントで撃退できる。さらに離れた仲間だけに声を届けることができる。こう言った使い分けができるならなおいいぞ」

 「ふーん。確かにそうだね。ありがとう参考になった」

 

 嬉しいのかによによと頬が抑えきれず微妙に上がっている。それを微笑ましく見る皆。耳郎が気付くことはなかった。

 

 「蛙吹は『蛙』か。難しいな」

 「ケロケロ、何でもいいわよ?それと梅雨ちゃんと呼んで」

 「OK梅雨ちゃん……梅雨ちゃんの個性は応用力が高い。なら長所を伸ばすより弱点を減らす方が良いか。寒いのがダメなんだよな?」

 「そうね。どうしても寒いのは辛いわ」

 「成程。だとしたら任意で防寒できる装備が必要か」

 「「「今さらっと名前で呼んだ……!?」」」

 他の皆が驚いているが特に反応せず熟考する。

 

 「だったら丁度いいのがある」

 

 量子格納庫から低周波振動治療器を取り出す。外見は湿布の様な電極だ。何もない場所から物を出して初めて見た者は驚くが軽く流して蛙吹に渡す。

 

 「使い方は背中と肩に貼って電源を入れるだけ。元は電流を流してストレスを軽減するマッサージ機なんだが、感電防止に防水加工をして音波で振動を与えるタイプだ。体温を上げる効果もあるから使ってくれ。今はこれくらいしかできないが」

 「充分過ぎるわ。嬉しい、ありがとうね篠ノ之ちゃん」

 「それはあくまで体温を上げるだけだからな。本気で対策するなら専用のコスチュームが必要だろう。学校に変更届を出しとくといい」

 

 普段から余り表情の変化が乏しい蛙吹だが、今だけは誰が見てもわかるくらい喜んでいるのがわかる。寧ろ他の皆にはかなりアイデアを出せたが、ほぼ弱点がなく便利な個性の彼女には根本的な解決策を出せなかった。

 だのにお礼を言われてはこちらが申し訳なくなる。

 

 「しっかし凄えな篠ノ之は!アイデアがスラスラ出てくるしよ!」

 「凄く頭いいのがわかるよ。それに身体能力も高い」

 「何だよ超勝ち組じゃんか!イケメン死すべし!」

 「ケロケロ。これ大切に使わせてもらうわね」

 「私のスピーカーもアイデア活かしてみるよ」

 

 皆の声で他のテーブルにいた級友達も何だ何だとこっちを注目する。勿論後の席からも視線がバンバン向けられていた。

 振り返らずとも八百万が何故か誇らしげにうんうん頷いていて緑谷がブツブツ言いながら大学ノートにメモして、轟が俺の後頭部を穴が開く程睨んでいるのがわかる。

 

 「それでさ!次は篠ノ之だよな?篠ノ之の個性って何なんだ?」

 「それ私も思った」

 「テストでは発動型の増強系か移動系かと思ったんだけど、轟君みたいな複合系になるのかな?」

 

 峰田、耳郎、尾白が声に出して此方を食い入る様に見てくる。いや、三人だけじゃないここにいるA組全員が耳を澄ませていたり俺の個性に対して敏感になり、少し静寂が支配する。

 

 「まあ、別にいいか。俺の個性は──『科学』だ」

 

 本質的には一方通行と同じ『自身が観測した現象から逆算して、限りなく本物に近い推論を導き出す』個性と言える。

 俺は特典通りとあるに登場する能力を全て扱えるが、あくまで『一方通行』の派生、又は再現した能力ということになる。だから例外的に『未元物質(第二位)』や『幻想殺し(神浄の討魔)』も使用できている。

 昨日八百万に話した同じ内容を説明すると「このチートがぁあ!」と叫ぶ峰田以外の男子はその応用性に驚嘆しつつも賞賛し、女子も理解力があり二度目の説明を受けた八百万や葉隠は改めてその規格外さに言葉を失い、理解が及ばずただただ凄いと言う。

 

 「じゃあ何もない所から物を出すのも?」

 「ああ、それは個性じゃなくてただの発明品」

 

 「「「は?……はぁぁぁあああ!?」」」

 

 「お客様っ!他のお客様のご迷惑になります!」

 「「「す、すいませんっ」」」

 

 再度店員に注意されるなど紆余曲折あったが本来の目的通りに各々の個性の改善点や訓練での反省会を終えることができた。

 

 

 




 
 本日の解説。
 
 後で調べたら耳郎のスピーカー元々指向性だった……
 orz
 
 修正しました


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初めてのアンチ&委員長は不良生徒?

 
 
 タイトルが全てを物語っている系


 

 

 初めての戦闘訓練、そして学友とファミレスでの反省会をした翌日。

 今日も同じ時間に登校していると正門の前に人混みが。その手にはカメラやマイク、もうわかるだろうがマスゴミが張り込んでいた。それも人数からして複数の局から。

 少し遠目に眺めていると通りかかった生徒達が標的にされ我先にと詰め寄られている。

 インタビューでTVに映るのが嬉しいのだろう、おっかなびっくりだった表情がわかりやすくにやけている。

 その隙に横を通り抜けようとしていた生徒も捕まって……ありゃあ。

 

 「はーい、ちょっといいかな?」

 「オールマイトについて聞かせてもらえませんか!?」

 「オールマイトが先生ってどんな感じですか!?」

 「教師としてのオールマイトはどんな授業をしていますか?」

 

 揉みくちゃにされてる生徒は知り合いだった。

 見てしまったからには仕方ない。ここで見捨てて恨まれるのもなんだからな。

 穏便に済ませようと思ったがそれでは向こうが付け上がるだけだと嫌ほど理解していたので『超電磁砲』を発動してマイクやカメラ、レコーダーなど機材の一切をショートさせる。

 

 「キャアア」

 「うわっ!」

 「何だよこれ!どうすんだよ!」

 

 阿鼻叫喚となったマスゴミといきなり機材が爆発したことに状況が上手く理解できていない彼ら。

 

 「おい、いい加減遅刻するぞ」

 「え、お、おう!」

 「ありがとう篠ノ之君」

 「先行ってるね?」

 

 さて、邪魔者はいなくなった。

 

 「ちょっと君!これどうしてくれるの?弁償しなさいよ!」

 「言いがかりはよしてくれよ。雄英の敷地内ならともかく、外では個性の使用を禁止してるんだぜ?使う訳ないだろ」

 「嘘おっしゃい!とにかく弁償しなさいよ!」

 「……仕方ないな」

 

 頭かも懐から出した様に格納庫を開いてブレザーの下に札束を出す。予想外の大金に目の色が変わるマスゴミに冷めた目を向けながらそれを手渡す為に手を伸ばす。

 だが、直前で手を引っ込めた。

 

 「聞くが、何でも金で解決するヒーローってどう思う?」

 「え?そんなの、ただのクズじゃない」

 「じゃあ俺もそのクズにならない様に金は出さないでおこう」

 札束を量子化して手から消し去る。

 

 「ちょ、ちょっと話が違うじゃない!弁償しないつもり?」

 「でもお金は出せないな。だってクズなんだろう?それに、この写真がばら撒かれても良いのか?」

 

 ホドキの記録映像を現像したもの、つまりリポーターの女が俺から金を受け取ろうとした場面を取ったものだ。勿論彼女の顔もバッチリ映り込み、俺のは見切れている。

 

 「な、いつの間に!?」

 「落ち着けよ、それに誰もそんなの信じやしない」

 「それはどうかな?カメラマンのお前、この女と組んである社長のスキャンダル押さえる計画や上司の弱みに付け込んでキャスターのマドンナと」

 「おまっ!その口を閉じろ糞ガキ!」

 「さて、今の反応で俺の言ったことがほぼ事実とわかるだろう。そうだ。俺の個性は『読心』。とてもじゃないが電子機器を壊せる様な個性じゃないんだ。で、ここにさっきまでの一部始終を録音したボイスレコーダーがある。未成年にカツアゲ、恐喝、さらにお前達の計画もちゃんと、な?大人しくここで引いておけよ」

 

 「糞ヴィランめ!」

 「ククッ。これだからマスゴミは。悪を倒すのがヒーローなら汚職や不正を正すのもヒーローだと思うんだがなぁ。どう思う?他の局のは?」

 

 今の二人組の惨状を目の当たりにして、それでも記者魂を持てるならそいつはもっと他のことに才能を生かしてほしいが、流石にこの場にそんな猛者はいないらしい。

 全員が全員ぶんぶん首を縦に振っていた。従順過ぎて逆に怪しいが、まあ、いいだろう。

 

 「じゃあそこの二人には名誉毀損と恐喝罪で後ほど訴えるとして、機材がなければ仕事ができないだろう皆様にこれをお渡ししましょう。俺が壊した訳ではありませんがこれは誠意なので。……もうこんな事を考えなければ何も起こりませんから」

 

 ニッコリとアルカイックスマイルを貼り付けた顔で全員に端金を渡した。これは忠告だと念入りに刻み込みながらな。

 まあ、札に目に見えないくらいの発信機と盗聴器を付けているし、この事を記事にしたり他に漏らそうものなら『心理掌握』で記憶を消すだけだ。何も問題ない。

 マスコミ達が一人また一人と去っていくのを見届けて、最後に残った三人(・・)に一瞬目を向けて校舎へ向かう。

 

 その男の悔しげな表情を思い出し、モヤモヤしながらももうすぐHRが始まるA組の教室へ急いだ。

 

 

 

 

 教室に入れば二人が駆け足で近寄って来る。

 

 「さっきはありがとう篠ノ之」

 「助かったよー」

 

 異形型の二人、芦戸三奈と葉隠透だ。

 「ああいう手合いの対応は慣れてるから別にいい。それに外で個性を使って反省文書かされるよりマシだろ」

 「アハハ、確かにそーかもね」

 「それでもありがとね。今日はお礼に食堂で何か奢ろうか?」

 「お、気前いいねー透ちゃん」

 「戦闘訓練でも一緒だったし何かと縁があるからね。それに篠ノ之君は私のコスチュームを作ってくれるみたいだし!仲良くなって情報交換しとかないとね!」

 

 打算有りで仲良くなろうと面と向かって言われ、俺は笑い三奈は吃驚して笑みが引き攣っていた。まあ、普通はそうだろう。

 だが、俺にはそれぐらいオープンな方が好ましい。俺が能力で記憶や思考が読めるので裏表のない性格に好感が持てる。

 

 「ああ、忘れてないから安心しろ。だけどもう時間だ。続きは休憩時間にでもしような」

 「わかったよー!」

 「よかったね透ちゃん」

 

 

 

 「席つけ。おはよう諸君。早速HRを始める」

 

 言った通り、あの後すぐ教室に来たイレイザー。

 

 「昨日の戦闘訓練、お疲れ」

 

 時間きっかりに始まったHRより、シンと静まり返った教室に彼の声だけが響く。

 

 「VTRと成績を見せてもらった訳だが……爆豪」

 「ッ!」

 「お前……何やってんだ?」

 

 瞬間、イレイザーの纏っていた雰囲気が不審者然としたものから冷たいものにガラリと変わる。

 それを敏感に感じ取った生徒は皆背筋が凍る思いをしたはずだ。

 

 「お前のやらかした事は、十分除籍に匹敵する愚行だ。即刻ここから出ていけ……と言いたい所だが、オールマイト先生から、今回の件は訓練中止のタイミングを逸した自分のミスだ。という意見もあった事を鑑み、厳重注意に留めておく。だが、次はないぞ。お前の評価は0ではなく(マイナス)だという事を忘れるな」

 

 元々悪人面の彼が睨むと迫力あるな。あの爆豪が黙って頷く。だが、これであの拗らせまくったあの頑固者が改善、大人しくなるとは到底思えないが。

 

 「それと篠ノ之!」

 「はい」

 「周りが何と言おうと、俺が認めてやる。実に合理的で誰よりもヴィランに成りきったのはお前だ、篠ノ之」

 「ありがとうございます」

 「さて……」

 

 言いたいことを言い、漸くいつもの調子に戻ったイレイザーがゆっくりと俺達全員を見渡すと──。

 

 「HRの本題だ。急で悪いが、今日はお前達に……」

 

 教室全体に緊張が走りざわめきが起こる。もしや、臨時のテストが!?とクラスメイトが戦慄してい、

 

 「学級委員長を決めてもらう」

 「「「くそ学校っぽいの来た──!!!」」」

 

 少し前の静寂が嘘のように全員が全員やりたい!と次々に挙手していきアピールする。

 普通なら委員長は担任の小間使いや雑用で面倒な役割で不人気なのだが、ここは違う。

 雄英のヒーロー科としては学生の内にトップヒーローの様に集団を導く経験が鍛えられるからな。それと内申にも影響するから座学が不得手な奴は積極的に挙げていた。

 立候補する者が殺到する中、飯田が一際大きな声を出して注文を集める。

 

 「静粛にしたまえ!『多』を牽引する責任重大な仕事だぞ……! 『やりたい者』がやれるモノではないだろう!!」

 「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務! 民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!」

 

 言っていることは至極当然で真っ当な意見だと思う。だがなぁ。

 

 「聳え立ってんじゃねーか!何で発案した!?」

 瀬呂が真っ先にツッコミを入れた。

 

 「同じクラスになって日も浅いのに、信頼もクソもないわ。飯田ちゃん」

 「そんなん皆自分にいれらぁ!」

 「だからこそ、ここで複数票を獲得した者こそが、真に相応しい人間という事にならないか!?」

 

 蛙吹や切島とのやり取り。そしてイレイザーの「時間内に決まれば何でもいい」という発言から、無記名での投票が行われた。

 

 

 結果。

 緑谷出久3票

 八百万百2票

 篠ノ之解4票

 (以下略)

 

 

 いや、誰だよ俺に入れたの。てかそんな人望あったか?『心理掌握』で洗脳した訳でもないのに……。

 

 「それじゃあ男女一人ずつということで篠ノ之と八百万に決まった。投票による結果だろうと文句ないな?」

 八百万と二人教卓に立って意気込みと軽く挨拶してその場は解散となる。

 「なぁ、八百万。誰に投票した?」

 「篠ノ之さんに入れましたわ。貴方の知識と冷静さ、視界の広さは必ず多を牽引する才能だと思いましたの」

 「そうか、俺はそういう八百万に入れたんだが、ま、結果オーライってことで」

 「私に入れて下さったのですか?」

 「ああ。そんなに意外か?」

 「いえ、そうではなく……フフ、ありがとうございます」

 「?変なやつだな。ま、これからよろしく」

 その時の嬉しそうな顔を俺は忘れることはない。

 

 

 午前の授業も終わり、昼休憩。皆待ちに待った昼食の時間を好きに過ごす為食堂へランチラッシュというヒーローの激ウマ料理を食べに行く者、弁当を開く者、誰か友人を誘って場所を移動する者と様々だ。

 

 「篠ノ之さん御一緒しても?」

 「ああ、いいぞ。三奈達も一緒だがいいか?」

 「構いませんわ。お邪魔しますわね」

 「ヤオモモお弁当なんだぁ、って重箱!?」

 「よぉし行こー!」

 

 朝の二人と八百万を連れて教室から出ようとしたら後ろから声をかけられる。

 

 「おーい篠ノ之!俺達これから食堂行くんだけどさ一緒にどうだ?」

 「両手に花どころか囲まれてんじゃねーか!俺も混ぜてください!」

 「俺は別に構わないぞ。いいか?」

 「大丈夫」

 「問題ないよん」

 「篠ノ之さんが良いのでしたら」

 

 という訳で、さらに切島、上鳴、耳郎、瀬呂、尾白、蛙吹、峰田、障子とかなりの大所帯になってしまった。席が空いていればいいが。

 流石にこの人数を許容できる席はなく、一つのテーブルとその隣の片面を占領して何とか皆離れることなく席に着く。俺の隣は先に約束していた葉隠と芦戸の二人、前に八百万が座っている。

 

 

 上鳴  耳郎 | 尾白 

 瀬呂  葉隠 | 峰田 

 八百万 俺← | 

 切島  芦戸 | 

 蛙吹  障子 |

 

 

 こんな感じだな。

 ちなみに奢ってもらっていない。葉隠はああ言っていたがそこまで落ちぶれちゃいないし金も俺の方が持っている。だから気持ちだけ貰い、戦闘服の件は確約して装備をこれからの話し合いで決めていこうということになった。

 

 「なるほどな。朝にそんなことがあったのか」

 「確かに私も話しかけられたわ」

 「俺も」

 「オイラも」

 「その時は気分良かったけど、この話聞くと流石に引くぜ。マスコミって怖ぇ」

 「どうせアンタはインタビューされて有頂天になってたんでしょうが」

 

 「で、だ。神経の電気信号を読み取って任意で発動する光学迷彩がいいと思うが、何かあるか?」

 「うーん、私個性が複合型でカメラのフラッシュ?」

 「フラッシュライトか。一度完成後に問題ないか調整する。他には?」

 「えっとね」

 

 可能な限り葉隠の意見を尊重しつつ、ある一定の技術を超えないよう配慮する。個性社会になり中には物理法則に真っ向から喧嘩を売っている技術もある程この世界の科学技術は高い。

 だが、それでも超能力を前提とする学園都市の最先端技術には一部を除き遠く及ばない。だからこの世界の科学技術を悪戯に進歩させることがないよう気をつける。

 

 昨日、戦闘訓練で見たり雄英が擁するサポート科や技術者の程度に目を通しているからそこは問題ない。ただ少し他より性能が良いだけだ。

 

 「よく考えなくてもさ、推薦されるくらいスゲー万能個性持ってて、同じ推薦生を完封できる作戦を一人で考えて、さらにサポート装備や戦闘服を作れる頭、何よりイケメンって神様にどんだけ愛されてんだよ!?」

 羨っ!と背後から黒いオーラが漂ってくるのを無視している。確かにその通りなんだが、いや、何も言うまい。

 

 「でも峰田ちゃん。そこまでできるのに篠ノ之ちゃんは相当な努力をしたはずよ?」

 「だな。才能もあるだろうがそれだけではこの雄英で通じないだろう。何より現場経験があるプロヒーローが講師をしているからな。相澤先生が認めるくらい篠ノ之には努力と才能があるはずだ」

 

 まともに話したことがない障子にそう評価されていたのは意外だったな。てっきり昨日のでかなり嫌われていると思ったが、真面目でいい奴だな。

 

 「本当に凄いですわ。私も万能と呼べる個性を持っていますからわかりますがそれだけ選択肢が多いと最善を選ぶのに多少なりと時間がかかります。ですが篠ノ之さんには少しの淀みもありませんでした。効率的で轟さんや障子さんの思考を完璧に把握し終始翻弄できたのは正しい選択を選んでいたからですし」

 「へぇ、万能って強えと思ってたが意外と苦労があんだな?」

 「そうだぞ切島。強い個性はそれだけ制御が難しい。八百万のはイメージと正しい知識、俺は演算を正しく行わないと再現できない。だから怪我や妨害で役立たずになることも少なくない。対策は取ってるし常に冷静な判断が必要なんだよ」

 「なんか難しくってよくわかんない!あ、」

 「何だ?三奈」

 「おやおやおやあ?これはこれはA組の皆さんじゃーないか。皆で仲良く談笑しながらお食事かい?余裕だねー?」

 

 芦戸が見ている方を振り返れば金髪で目が腐ってんのかと思う程捻くれた性格の生徒がヘイトを撒き散らしながら立っていた。いきなり煽ってきたが、何だこいつ。

 

 「誰だ?いきなり」

 「誰だって?あーあーB組は眼中にないってことか。優秀なA組は違いますねー?調子乗り過ぎじゃない?いつか足元掬われないようにね」

 「ああ?」

 「よせ上鳴切島。いきなりご挨拶だな物間寧人」

 「!?」

 「知ってるの?」

 

 煽り耐性が低い二人を抑えて件の生徒の名前を呼ぶと全員から視線が集まり、物間も驚愕といった表情でこちらを見る。

 

 「ああ勿論。思い出すのに少し時間はかかるがヒーロー科、普通科、サポート科、経営科、教員の全員の名前と顔、登録している個性の情報は頭に入ってる」

 

 情報は生命線だ。取得方法は違法だが雄英のデータベースにハッキングしその情報を掻き集めたことがある。生徒の名簿も、言わないが他の推薦生や受験生のもある。

 

 「「「いやいやいやいや!」」」

 「つくづく規格外だと思ってたけど、ヤベーな篠ノ之」

 「ふ、ふん。A組にも少しはやる奴がいたみたいだね。だけどそんな僕凄いアピー」

 「別に特別なことはしてないぞ。まあ緑谷みたいにあからさまじゃないが、昨日皆の個性の対策やアイデアを出せたのも事前に知って、直接どのくらいできるか見たからだし。そのアイデアも誰かのオマージュだし、教師ならいつかは課題やトレーニング内容に組み込まれていただろ」

 

 「いや、その知識が凄いんだが……」

 「ていうかそれだと篠ノ之は誰が相手でも対策が取れるってことだよな?それってやばくね?」

 

 物間そっちのけで話が進んで煽ったはいいが相手にされてないのが現実になってしまい、少し震えているのが何とも言えない哀愁漂う物間。

 彼の個性は『コピー』。触れた相手の個性をコピーして五分程度使用可能。また複数の個性をストックできる。

 ただコピーしないと無個性と変わらず、実際に個性を見ないと使えない制約がある。

 個性は十分強いが、その特性から個性の持ち主がいれば事足りることが多いだろう。彼は常に誰かの複製品や代替品というレッテルを貼られていたのが簡単に予想できた。あの卑屈な言動や退廃的な雰囲気もそうだ。

 

 「物間、別にA組が絶対に上って訳じゃない。相性次第じゃ完封できる組み合わせもあるし。先輩によればA組とB組はこれから合同授業が増える。ぶつかる事も多い」

 「何が言いたいんだい?」

 「お前の煽りは別に気にしない。実力が拮抗する奴が近くにいると向上心が刺激されるからな。俺達も今のままで満足する気はさらさらない。今、ここで試してみるか?」

 

 物間の方に片手を差し出す。ただの握手だ。だが物間の個性は誰かに触れる事で真価を発揮する。俺が個性を把握しているのを、知って敢えて手を差し伸べた。

 これは挑発だ。少しだけ仕返しの意も込めているが、俺の個性(能力)をコピーしてみろってな?できたらお前をライバルと認めてやる。

 

 「ふん」

 パシッと手を弾かれる。それに反応する切島達をまた抑えて能力を発動する。

 

 「コラッ……あれ?」

 

 物間の後ろに首へ手刀を落とそうしたサイドポニーのサバサバした女子が立っていたが、その攻撃は寸での所で止められる。

 いつかのヴィランにも使った摩擦係数を弄って彼女の腕の動きを封じた。

 

 「そこまでにしといてくれ拳藤一佳。首トンは知能や意識障害の原因にもなるから。これ以上馬鹿になったら責任取れるのか?やるなら緊急時だけにしとけ」

 「え?もしかしてこれアンタか?……わかった。もうしないから早く解いて」

 

 はじめこそ腕が何かに引っ張られる感じで動かせなかったようだが、俺がやったとわかると抵抗を止める。

 物間が横に離れてから拘束を解いて、自分の腕の確認をしている。

 

 「あー、物間がごめんね。どうせわざと煽るようなこと言ったと思うけど」

 「気にしてないぞ。だから拳藤も気にするな」

 「そっか、ならいいんだ。アンタ名前は?」

 「篠ノ之解だ。これからよろしく」

 「よろしく。って物間どうした?」

 

 拳藤と挨拶をしている隣でさっきまでのが嘘みたいに温和しくなっている物間。その表情は廃退的な雰囲気も合わさり酷く血の気が失せていた。

 その様子だと何の能力も使えなかったと見ていいな。

 

 「あ、おい物間!本当ごめんな!それじゃ」

 

 心配する彼女を置いてそそくさと退散する物間を拳藤が最後に謝罪しながら追いかけて行った。

 物間の急変やら色々あり過ぎて呆然としていた皆も食事を再開していると葉隠がさっきのことを聞いてくる。

 

 「ねえ篠ノ之君。さっきの物間君に何かした?」

 「何もしてないぞ」

 「ふーん、じゃあ何であんな顔してたんだろ?」

 

 「……個性に抵触するから暈して話すが、物間の個性は誰かに触れることで発動するものだ。だから敢えて俺は握手して個性を使わせる機会を与えた」

 「でも、篠ノ之君に何ともないよね?」

 「まあな。だから物間は俺を完全に強者、実力が上だと認識したんだ。少なくとも今のままじゃ逆立ちしたって勝てないってな」

 「また意地の悪いことを」

 「そう言うなって八百万。基本的に俺から喧嘩ふっかけることはしない。売られたら買うけどな」

 

 はぁ、と苦労人がする雰囲気を漂わせながら重箱を突く八百万。彼女に同情しつつも周囲は俺に対してああも言い切れる彼女を賞賛していた。おい。

 

 そんな時だ。

 大音量で食堂にサイレンが鳴り響く。

 

 食べる手や足を止めて思わず固まる周囲を他所に俺は左眼を押さえて『鳥瞰把握』を使い、雄英を俯瞰した位置から見る。

 正門に何かの瓦礫が散乱し、そこから玄関まで朝のマスゴミが押し寄せていた。あいつらまた来たのか。ご苦労なこった。

 だがただのマスゴミにあんなことはできない。できたなら初めからやればいいんだからな。となると──ビンゴ。

 

 『透視』と併用して構内を探り、職員室に黒靄から手をいくつもつけた男が侵入するのを捉えた。

 誰かの席から何かを探している。この距離なら『心理掌握』もできるが気付かれるか。それにあの靄の得体が知れない。

 『念話能力』で……チッイレイザーとプレゼントマイクはマスゴミの相手か。他に誰か……俺が行くか。

 

 「警戒レベル三?何だ?」

 「おいお前ら早く避難しろ!レベル三はヴィランが構内に侵入したんだよ!」

 「「「!?」」」

 

 「ねえ早く逃げよ篠ノ、の?」

 「え?」

 「篠ノ之がいない!?」

 

 

 

 ホドキの量子格納庫で制服から服を一瞬で着替え『心理掌握』で俺の顔を認識できないよう操作。念の為顔を隠せる物を付ける。

 職員室に直接転移する。

 

 「!?」

 「何だお前?教師じゃねーな?」

 「……死柄木弔、黒霧、か。どっちも本名じゃないな」

 「「っ!」」

 

 靄の方は靄を飛ばして俺を攫おうとする。だがそこに俺はいない。

 

 「……お前も『ワープ』か。強個性なのにヴィランと連むか、理解に苦しむな」

 「心を読む個性とワープの個性!?どういうことだ?何で脳無みたいに二つ以」

 「それ以上はいけません死柄木!ここは引きます!」

 「チッ、嗅ぎつけんの早過ぎだろ!……まあいい目的は達成だ。じゃあなクソヒーロー」

 

 俺は何もせず、わざと見逃した。

 ここの教員じゃないし、二人の記憶は漁れたから捕まえる必要もない。それに……いや、違うな。

 俺はヒーローにもヴィランにも加担しない。何時元の世界に戻れるかわからないし少なくともSMGみたいな能力者組織を作るつもりはない。

 好き好んで追われる身になるつもりもないがな。

 

 ま、教師陣には事の経緯を話しておくか。腐ってもヒーロー育成機関。受取業務とか言われてる警察と連携もあるし授業内容が変わる程度か。

 

 「な、何だって──ヴィランと接触したぁ!?」

 「はい」

 さっきの騒動が収まり次第教室で待機を校内放送で指示されたが俺はそのまま職員室で教師を待っていた。

 そして真っ先に来たオールマイト(トゥルーフォーム)に打ち明けたらすぐに職員会議に参加させられた。

 

 ここに担任のイレイザーがいるってことはA組には一年主任のミッドナイトが行ってるのか。

 

 「それで、どんな奴だった?」

 「黒靄と体中に手のアクセをつけた痩身の男です。そして撤退方法から黒靄の個性は『ワープ』」

 「「なっ」」

 「ただでさえ強いワープの個性。対策をしても意味ないな。最悪だ。よりによってヴィラン側に居るなんてな」

 

 ヒーロー科三年の講師スナイプが腕を組み忌々しくそう漏らす。

 

 「何か話したのか?」

 「その前に俺の個性について、知っている人は?」

 

 イレイザー、オールマイト、個性公安委員会、警察はあの時の事件で俺の個性の一部を明かしてある。その万能性も。だから、俺はヒーロー科とは違い監督するヒーローや警察関係者がいる限り個性の使用を許可されている。

 今雄英にいるのは自分一人では許可されていないから自分で使えるように個性許可を取りに来ただけだ。

 

 「「「……」」」

 

 皆、黙って頷く。まあ、そりゃそうだよな。機密なんてあってないようなもの。そう確信していたからこそ一部だけを公開した。

 「まあ、いいよそれに関しては。答える内容に出し惜しみはしない。それは向こうに肩することだからな」

 

 「ヴィランと接触した時、俺の個性を発動して手形の男の記憶を洗った。読めた記憶は『狙いはオールマイト』『チンピラ集めて襲撃』『対オールマイト用兵器』そして、『先生』」

 

 以前、オールマイトの記憶を読み取った時に感じた根源的恐怖。ヴィランの象徴、『オール・フォー・ワン』。

 それが健在で敵の親玉として暗躍している。そいつの個性を把握している。

 

 

 『個性の簒奪・付与』

 

 

 なんて、強力で、自分勝手な……。

 個性黎明期から生きている悪の根源は命を弄び、悪事を働き──それがどうした?命を弄んだ?その結果が俺のこの体だ。悪事を働いた?俺は何人もの人生を壊し、殺している。同じだ。

 個性の簒奪と付与?犯罪者を攫い実験材料として能力を開発した。強度を操り抑止とした。

 倫理なんて当に捨てている。これは思考をトレースして得た擬態。まだ誰にも……いや、あいつら以外にバレたことはないから大丈夫。

 

 「「「……」」」

 「撤退時にカリキュラムと思しき紙を持っていた。標的であるオールマイトの科目を狙う為だな。そして対オールマイト兵器の存在は本人も詳細はよく知らなかったから誰か他の製作者がいるはずだ。そしてヴィラン集団を率いての襲撃。実技で散り散りになった生徒はチンピラが襲い分断させ、人質にでも取れば標的であるオールマイト用の兵器を使い殺す。こんなとこだな」

 

 ガリガリの彼は険しい表情で何も言わない。他の教師や校長も然り。いや、校長は正直フィーリングだが。

 

 「対策としては一授業に複数人のプロが対応、最低でも三人。次に……失礼」

 「いや、良い。続けてくれ」

 「次に複数の連絡手段の確立。予想できる妨害を全て潰すぐらいしないと、通信妨害、救援妨害、etc。そして──」

 

 職員会議と称したヴィラン対策会議は時が流れれば流れる程煮詰まり、現状すぐにできる対策から行うことになった。

 即決断し即実行。向こうに先手を取られている状況で手を拱いてる余裕はない。

 

 当たり前ながらここでの話は他言無用。箝口令が敷かれることになる。あの場で明言しなかったが密偵の存在も警戒に入れておくか。

 悪意があれば警戒できる。いつも通り『超電磁砲』の電磁レーダーと不意打ち対策で『窒素装甲』を発動しておく。何も変わらない。全世界が敵になった時と、何も。

 

 オールマイトが講師をするのはヒーロー基礎学。となると雄英の判断は襲撃のタイミングを図る為敢えてカリキュラムを変えないというものだった。

 

 「……俺個人も、調べてみるか」

 俺なら、カリキュラムの変更を人数を限定して変更して、ヴィラン側に情報が漏れていれば密偵の存在が確定。

 その判定は元々オールマイトの担当する科目だったか変更後も基礎学に合わせて来たか。

 考えたくないが生徒でもなく教員側に密偵がいる場合だ。あの場では少数精鋭で限られた人数が俺を認識した。

 

 顔を見た俺が狙われるのは当然。直接会話した感じからゲーム感覚の抜け切らない幼稚で自分勝手な言動。それだけなら良かったが先生と呼ばれる指導者がいる。

 あの黒靄……個性の所為か記憶が読めなかったが、あの男に従うような振りしてもっと上からお守りをさせられたような……カット。

 

 どう考えたって情報不足。今は足を動かすのみ。

 放課後になり、教室に置いてある鞄や荷物を取りに行く。

 イレイザーによると俺は公欠扱いになるらしい。別に無断欠勤でも何ら問題ないが甘えられるとこは甘えておく。

 ガラッと扉を開くともう誰もいないと思っていたのに、帰っているはずのA組の生徒数人が集まっていた。

 

 「おい!何があった!?大丈夫か?」

 「篠ノ之さん、ご無事でしたか……」

 「飯田から聞いたけどマスコミが侵入したんだろ?堂々とサボってたな!」

 「……?どうした?篠ノ之」

 

 俺を見て周囲を囲み詰め寄ってくる。箝口令もあるしヴィラン戦はまだ早いだろう。

 

 「別に、ただサボってただけだ」

 「ホラ言っただろ〜!おいすぐ相澤先生にバレんだから止めろよ!オイラ達も連帯責任で退学になったらどうすんだよ!この問題児!」

 「お前はセクハラで退学しとけ峰田」

 「篠ノ之さん、本当に、サボタージュを……?」

 

 「──ああ俺の勝手だ」

 

 

 パシンッ──。

 

 

 「最っ低ですわ。ゔっ……」

 

 乾いた音が教室に響き、寸前までふざけていた連中も口を開けず静寂がさっきのビンタの音を強調させる。

 下手人の八百万は、俺を避けて教室から出て行ってしまった。それも嗚咽すら堪えられない程目から涙を流して。

 真面目な彼女の期待を裏切ったことは事実。だが、話すことはできない。虫のいい話だが存外俺も、身内には甘いらしい。

 こいつらのことを気に入っているのも事実。何より俺はイレギュラー。こいつらが生き残れる術は教えてもヴィランに堕とす訳にはいかない。

 

 「お、おい篠ノ之?」

 「悪いな。芦戸、葉隠、耳郎。八百万を追ってくれ」

 「自分で行きなよ」

 「無理だ。俺が言っても逆効果。火に油注いでどうする」

 「……そんな奴だとは思わなかった」

 「篠ノ之君……」

 「……」

 

 女子が教室から出て行き、残った男子から非難と困惑の視線が向けられる。だが、無視する。

 

 「お前らも俺に関わるな」

 「何でだ!理由を言ってくれりゃ俺達も」

 「切島、悪ィが役者不足だ」

 「ぐ、ああそうかよ。行くぞ」

 「「「……」」」

 

 切島、瀬呂、峰田、上鳴、尾白が出て行く。

 これでいい。入学したての卵の殻すら剥けてないあいつらにヴィラン連合は、本物の悪意は早過ぎるんだ。

 

 

 




 
 本日の解説。
 
 勘違いタグ必要かしら?
 いや、すぐに誤解は解くつもりだけどさ
 ヤオモモのビンタは我々の業界でもご褒美です!


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ゆゆゆ、USJ!ゆゆゆ、USJ!

 
 
 すまん、ふざけた(タイトルが)


 

 黒い靄が災害救助訓練場USJの中心に溢れ出し、人が何にも通れるまで広がると、そこから手のマスクを付けた不健康な男がぞろぞろとヴィランを引き連れて這い出して来た。

 

 「一塊になって動くな!!13号、生徒を守れ!これは訓練じゃない!奴らは──(ヴィラン)だ!!」

 

 自身の個性を合理的かつ最大限に発揮する為のゴーグルを装着して捕縛用特殊合金ロープを握る。

 そして、相澤先生(イレイザーヘッド)は背後の同僚と生徒に指示を飛ばし、未だ大量のヴィランを吐き出し続ける黒靄に鋭い視線を飛ばした。

 

 

 

 時間はほんの10分程巻き戻す。

 学級委員長を選出してから丁度三日後、予てより予定していたオールマイトが講師をするヒーロー基礎学の授業が始まった。

 

 だが今朝のヒーロー活動で活動限界を迎えたどっかの脳筋は不在のまま、実技会場の『嘘の災害と事故(U S J)ルーム』に移動することに。

 上鳴はダルそうにしてるし、切島は気分を切り替えたのか「腕が鳴るぜ!」と硬化させて本当にガキンッと鳴っていた。

 蛙吹は「水難なら私の独壇場、ケロケロ」と言っている。確かに蛙吹の水棲動物の個性は強いだろうな。

 

 委員長の俺より委員長っぽい飯田の横に立ったが、各所から非難の視線は飛んで来る。相変わらず女子と切島の視線が強い。

 そこからバスに乗り移動。折角二列に並んだがバスの席が両端にあるベンチ型で意味無し。また空回りしているな、こいつ。

 言わなくてもわかるだろうが、移動中に会話無し。いや、俺の近くだけだ。

 前の方でプロとかヒーローは結局人気商売だとか話が弾んで盛り上がっていた。

 もうすぐ目的地に着く頃に漸く前の席に座っていた葉隠が話しかけてきた。

 

 「篠ノ之君。篠ノ之君が作ってくれたこのコスチューム凄い着心地いいよ!ありがとう!」

 此方を振り返り以前同様グローブが彼女の興奮を表す様にブンブン振られている。それだけ見れば以前の物と何ら変わってない様に思われる。

 

 「光学迷彩、だっけ?篠ノ之君に言われて気づいたけどいくら透明で見えないからって全裸は不味いよねー」

 「全裸!?い、今女の全裸って聞こえたけど気のせいか!?」

 

 峰田が食い入る様に葉隠をガン見するが、当然ながら今は透明なので何も見えない……はず。なのに何であいつ鼻血出してんだ?隣の八百万が引いてるぞ。

 

 「俺としては漸く年相応に羞恥心を持ってくれたかと親の気持ちで安堵してる」

 「あははーじゃあ篠ノ之君は私のパパだね!」

 「パパぁ!?ヘブッ!」

 二度目はないぞエロブドウ。

 

 「派手で強えっつったら、やっぱ轟と爆豪だな。戦闘訓練凄かったしよ」

 「その轟に勝った篠ノ之もある意味ヤベーけど」

 「何が起こったのかよくわからないのよね」

 

 残りの視線も全員集まった感じだな。

 

 「そう言えば葉隠さん。先程コスチュームを新調したと伺いましたが……篠ノ之さんが作られたので?」

 「うん、そうだよー。昨日漸く出来たってわざわざ持って来てくれたの」

 「え、昨日?」

 「それってまさか……」

 「あの日の午後、席を外してたのって」

 「先生も特に何も言わなかったし……」

 

 ん?なんか誤解されていたのがさらに誤解を招いているような?女子を中心にヒソヒソと内緒話しているのを聞き取ろうとするが、そこでイレイザーによる注意が飛び、皆一様に黙ってしまった。

 

 だが、確実に先程よりも視線が生温かいものに変わったのは言うまでもない。なんかこそばゆいぞ。

 

 実は葉隠の戦闘服はあのマスゴミと侵入事件があった日には既に完成していて、葉隠の体に合わせたり調整をするだけだった。

 そんな時に女子陣と気まずい空気になってしまい、サポート装備の開発許可証を持つパワーローダーを介して葉隠に渡してもらい着心地や機能の確認をしてもらっていた。

 それが昨日漸く完成したという訳だ。直接渡してその場で改良できれば一日で済んだんだが、自分で蒔いた種だ。仕方ない。

 

 

 

 バス移動が終わり、到着したのはドーム型の建物の訓練場。入口のガラスから向こう側が見え、中は遊園地の様なアトラクション……ではないがそう見える程度には勘違いしてしまいそうになる。

 俺達が来たのって救助訓練だよな?

 

 「スッゲー!USJかよ!?」

 

 切島は喜びから興奮しているが、俺にはとても訓練をする様な場所には思えなかった。寧ろ完全にそっちの方に寄せていったと思われ。

 ドーム型と言っても流石雄英クオリティ。全部見て回るのでも一日かかりそうな広さがある。

 

 「水難事故、土砂災害、火事……etc。あらゆる事故や災害を想定し作られた……その名も」

 

 「ウソの災害や事故(U S J)ルーム!」

 

 「「「本当にUSJだった!?」」」

 施設から出て来た宇宙服を着たスペースヒーロー。13号だ。あのマスクの下でドヤ顔をしているんだろうが全く見えないな。

 ここでヒーローオタクの緑谷による紹介が始まり、主に災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーローなんだとか。

 

 「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせのはずなんだが……」

 「先輩、それが……通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで、仮眠室で休んでます」

 「「不合理の極みだなオイ」」

 

 三日という潜伏期間。この間にヴィラン連合とやらはそこいらからチンピラを集めていたに違いない。そしてカリキュラム通りオールマイトがいるこの時間に一番襲撃の可能性がある。

 なのに肝心の標的がいないとなったら。死柄木は何をしでかすかわかったもんじゃない。それに対オールマイト兵器の詳細もない。

 

 「心得て帰って下さいな。以上、ご静聴ありがとうございました」

 

 考え事をしていたらいつの間にか13号のありがたい話が終わってしまっていた。

 彼の話は個性の危険性について。彼の個性は『ブラックホール』そのままらしく何でも吸い込み塵にする。簡単に人を殺せる個性であるが、それを戦闘ではなく災害救助に役立てている。

 

 俺の超能力だってこの世界の個性だって同じこと。使い方や人によって善にも悪にもなる。強く恐ろしい力だ。

 だからこそ超人社会は『個性』の使用を資格制にし厳しく規制する事で一見成り立っているように見える。だが一歩間違えれば容易に人を殺せる『行き過ぎた個性』を個々が持っていることを自覚しなければならない。

 その為のイレイザーの個性把握テストとオールマイトの対人戦闘訓練だったと13号は締め括った。

 

 実際にヴィラン犯罪を取り締まるよりも災害や事故の救助の方が仕事量も頻度も多い。

 勿論俺の能力は何も戦闘に特化している訳じゃない。きちんと災害時の救助が行えるものも存在する。そっちの方が精練されているのは否めないが。

 

 「そんじゃまずは……」

 

 イレイザーが何かに気づいた様にUSJの中央広場にある噴水付近に目を向ける。

 その視線の先を追うとついこの間見た黒い霧状の靄が出現し一気に拡散され人が優に入れる程度にまで広がった。

 まず出て来たのはあの時黒霧と一緒にいた手形マスクの男、それに追随して脳が剥き出しの全身が黒い大男。チンピラだろう、個性が異形となって表に影響した姿の者達がぞろぞろと靄から這い出てくる。

 敵意が、殺意がここまで伝わってくる。

 

 「一塊になって動くな!!13号、生徒を守れ!」

 

 

 ──奇しくも、命を救うはずの訓練時間に俺達の前に現れた……。

 

 

 不思議そうにその様子に気づいた者が眺めている。

 「なあ……これって入試ん時みたく、もう始まってるパターンか?」

 切島が拳を打ち鳴らして意気揚々と飛び出そうとした。

 「これは訓練じゃない!奴らは…… (ヴィラン)だ!!」

 

 

 ──プロが何と戦っているのか……。

 

 

 ──何と向き合っているのか……。

 

 

 「13号にイレイザーヘッドですか。おかしいですね。先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがいるとのことだったのですが……」

 「何処だよ、折角こんなに大勢引き連れて来たのにさ……オールマイト、平和の象徴がいないなんて」

 

 

 ──子供を殺せば来るのかな?

 

 

 途方もない悪意が俺達に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イレイザーは専用のゴーグルを装着し、鬼気迫る声を出す。それを疑う者はおらず、少数を除いて全員が指示に従い固まりながら侵入したヴィラン集団へと視線を向ける。

 

 「何でヒーローの学校にヴィランが来るんだよぉ!」

 「どっちみち馬鹿だろ!?ここは雄英だぞ!」

 

 峰田と上鳴が叫ぶが、それよりも先日のヴィラン侵入を知る俺とイレイザーが見据えるのは特徴が合致する二人。

 顔と全身に靄がかかったワープの個性と全身に手形を付けた痩身の男。

 そして、明らかに他のチンピラと一線を画す脳が剥き出しの大男。十中八九あれが先方の切札、対オールマイト兵器で間違いない。

 俺が予想できるのは近接戦闘で物理技しか持たない彼にメタを張った個性。最悪『物理無効』とかだと勝ち目無いぞ。

 

 リーダー格の男、死柄木がキョロキョロと何かを探す様に辺りを見渡して首を傾げる。

 

 「おい何処だよ、折角こんなに大衆引き連れて来たのにさ……オールマイト、平和の象徴。いないなんて……子供を殺せば来るのかな?」

 

 悪意が動き出す。

 

 「先生!侵入者用のセンサーは!?」

 「ありますが……反応しない以上、妨害されているでしょうね」

 「そういう個性持ちがいるのか。──場所、タイミング……馬鹿だがアホじゃねぇぞあいつら」

 「……」

 

 八百万、13号、轟が事態を把握する中人知れず鼠の様な不思議生物の校長に念話を送っていた。

 これで仮眠室で休んでるだろうオールマイトや他のプロヒーローを呼んでくれるはずだ。念話も妨害された時は最悪移動速度が速い飯田に走って行ってもらうつもりだったが杞憂だったな。

 

 「13号!お前は生徒達を避難させろ。上鳴と篠ノ之は学校へ連絡を試みろ!」

 「もうやってる。校長がオールマイトを初め手の空いてるプロヒーローを連れて来るぞ」

 「よくやった!あとは、それまで時間稼ぎだ」

 

 戦闘態勢を整え俺達三人に指示を出したイレイザーはヴィランが集まる広場へと飛び出そうとして、それを見たヒーローオタクの緑谷が止めようとする。

 

 「待ってください!イレイザーヘッド本来の戦い方じゃああの人数は──」

 「一芸だけではヒーローは務まらん!」

 

 緑谷の言葉を強引に遮り、教師としてヒーローとしてイレイザーは中央へ降りる階段から飛び出し、ヴィラン達との交戦が始まった。

 射撃隊の個性を消して、首に巻いた炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器で一網打尽にする。

 

 個性を消す視線はゴーグルで隠すことで連携を難しくさせ、その隙を突いて陣形を崩している。だが、彼の真価は奇襲からの短期決戦でこそ発揮される。

 故に、あれは偏に俺達生徒を守る為わざと囮を買って出たのだろう。なら──俺も参戦した方がいいな。

 

 「分析してる場合じゃない!今は早く避難を!」

 「皆さん!早く此方へ!」

 

 飯田が階段際までイレイザーの戦闘を観察していた緑谷を、13号が生徒全員の先頭に立ちUSJの出口まで誘導する。

 だが、

 

 「させませんよ?」

 

 目の前に渦を巻きながら黒靄が広がり、人型が形成された。ワープの個性を持つ黒霧、だったな。頭部と思われる部分に目の様な光の裂け目が二つ伸びる。

 

 「はじめまして……我々は敵連合と言います。──そして単刀直入に仰いますと……我々の目的はオールマイト──平和の象徴の殺害でございます」

 「「「──は?」」」

 

 全員が呆気にとられ思わず足を止めた。平和の象徴は言わばヴィランの抑止力。そのオールマイトを殺害する為に学校内へ奇襲する。

 普通に考えればそんな馬鹿なこと。考えついても実行に移そうとしてできるもんじゃない。

 

 「しかし……オールマイトはいらっしゃらない様子。仕方ありません……ならばまずは……」

 

 人型がブレて靄が肥大化する。ヴィラン達が来た時の様に、俺達を何処かへ転送させる気か。

 「させるか!」

 

 常時演算パターンを繰り返し行っている『超電磁砲』を使う。

 先制攻撃として気を失うくらいの電撃を放った。あれがただの靄なら物理攻撃は勿論、あらゆる攻撃を無効化できる無敵の個性。だが俺はそんなことないと確信してる。

 

 先日職員室に侵入した時、無敵なら俺を倒してからでも充分逃げれるはずだ。だが死柄木がいたとは言えそれをしない理由。

 どっかに本体または体があってそれを靄で隠してるんじゃないか?

 

 「ガァ!……ッゥ」

 

 案の定、まともに電撃をくらい一瞬痺れてよろけた隙に13号が個性で吸い取る手筈だったが射線に飛び込んで来る二つの影。

 

 「その前に俺達に倒されることは考えなかったのかあ!?」

 切島と爆豪だ。腕を硬化し、靄を爆破で吹き飛ばした二人だったが爆破の砂埃が晴れると黒霧は健在な姿を現す。

 

 「退きなさい二人共!」

 13号が叫び、二人もその声に振り返って彼の射線に被り攻撃を邪魔していたのに気付くが、もう遅い。

 

 「危ない危ない……流石は金の卵達。だが所詮は──卵」

 

 ──散らして!嬲り殺す!!

 

 言葉と同時に今までのは手を抜いてたのがわかるくらい爆発的に靄を広げてA組を包み込む。

 

 ……予定変更だ。そこいらのチンピラ程度なら相性次第で圧倒できる。それに向こうは俺達生徒の個性を知らないと来た。

 緑谷辺りならそのアドバンテージに気付けるだろう。

 チンピラは数を増やすだけで連合の精鋭を呼ばれていたらと危惧していたが、この位なら実戦を経験させるのも有りだな。

 

 「皆──ッ!?」

 何人かは自力で靄の範囲から脱出し、転送から逃れていた。

 

 そこにA組きっての実力者である爆豪や轟の姿はない。

 となると……電波妨害はされているから片目を隠す為に眼帯を付け『鳥瞰把握』『透視能力』『表層融解』『液化人影』を同時に使いUSJ全域を探る。この組み合わせは便利だな。

 前半二つで全体を俯瞰できる視界を確保し、後半二つを並列思考とホドキの演算補助でそれぞれ援護が必要そうな所に派遣する。

 ただこれをすると俺自身簡単な演算しかできないから無防備ににるんだよな。まあ、この程度の相手なら能力を使うまでもないか。

 

 「飯田君、貴方はあの出口から脱出し応援を呼んできて」

 「その必要はないよ13号」

 「君は……篠ノ之君」

 

 「貴方は……そうですか、あの時職員室以来ですね。あの風格からプロヒーローだと勘違いしていましたよ。まさか生徒の一人だとは」

 「「「知り合い?」」」

 「もう襲撃があったから言うけど、あのマスゴミ騒動の時カリキュラムを盗んでた現場に遭遇したんだよ」

 「え、」

 「それであの日……」

 「どうやらその様子だと平和の象徴がいないのは貴方が考えた作戦ですか?」

 「いや?まあいいだろそんなこと。お前はここで負けるんだからな」

 

 チャキ。13号よりも前に出て手にした刃を潰した刀を構える。物理攻撃が効かないとわかっていて尚且つこの行動を取るなら取るに足らない……とか思ってるんだろうが、もうお前の弱点は見つけてんだよ。

 

 ──キン。

 鍔鳴りが聞こえ、納刀した頃黒霧の靄がバラバラに崩れる。

 

 「な、があっ……なに、を!?」

 「お前の弱点、靄に隠してた実体だよ。ワープの靄になれる部分は限られてて、靄で体を隠していたなら話は早い。暫く寝てろ」

 

 露出した首元の金属部分を掴み寄せ、握力だけでヒビを入れれば意識を失ったのか目の部分だろう裂け目が消えた。

 

 「瀬呂、こいつの捕縛を。13号、俺はイレイザーの方に向かう」

 「そんな!危険です!」

 「相手はワープ。弱点がわかったとは言え相性が悪い。それに、向こうには対オールマイトを想定した切札がある。最善を考えて貴方は避難優先で」

 

 『座標移動』は使えないから歩きで中央広場まで移動するが、後ろから声がかかる。

 

 「どういうことだ篠ノ之君!君は何を知ってる!?」

 「……後で全部話す」

 

 

 広場に向かった俺の前には脳無とかいうあの大男に腕を折られ組み伏せられるイレイザー。周囲に立っているヴィランは手形マスクの男だけ。

 

 「まだ生きてるなイレイザー」

 「はぁ……はぁはぁ……勝手に、殺すな」

 

 生きていれば、どうとでもなる。最悪、ドクターの負の遺産を使ってでも。A組にはまだお前が必要だぞイレイザー。

 「黒霧が、やられた?……まさか、嘘だろ……?クソ、クソクソクソクソクソッ!どいつもこいつも役立たずめ。ああ、クソ。ゲームオーバーだ」

 「ああ、そうだ。お前も、お前の先生とやらも終わりだよ」

 「うるさい、シネ」

 

 今までイレイザーの所にいた脳無が音もなく真正面に立つ。速いな。聖人くらいの膂力が妥当か。それが個性で迫るとは、つくづく変な世界だな。

 

 「だが、所詮は木偶だ」

 『液化人影』で盗み見た限り、こいつに思考というものは存在せず、死柄木の言葉にのみ反応する。だから幾ら速くても、オールマイト並みに力があっても、動きが単調なら予測ができる。

 

 「まずは腕、膝、股下、首」

 バターでも切るかのように、スパスパと斬れるな。一応刃は潰してあるんだが。

 

 「あ?」

 確実に絶命したと思ったが、首を落としたにも関わらずまだ斬り落としてなかった反対の手足が動いている。真っ二つになった切り口が盛り上がり、筋繊維が早送りみたく伸びて形成する。

 五秒もあれば脳無は元の姿で立っていた。

 

 「ほう?随分と面白い体をしてるな?」

 「あははは!どうだ?凄いだろ俺の脳無は!こいつはな、『ショック吸収』と『超再生』の個性を持った改人なんだ!オールマイトを殺す為に作られた存在なんだ!」

 「ほーん。大方オールマイトにメタ張る為に物理耐性の『ショック吸収』とそのエネルギーを『超再生』に使ってる訳か。確かに単純で強力な組み合わせだが、それ以外だとめっぽう弱い」

 

 例えば──。

 再び掴みかかって来る左手を腰を落として躱し、刀に手をかける。

 

 「見様見真似。なんちゃって七閃!」

 瞬間、脳無が十四の肉に分割され、また再生が始まる。

 完全に再生する前に置き土産として持っていたゲームセンターの硬貨を投げ入れた。

 

 物理がダメなら、これならどうだ?

 殆ど演算を必要としないただ力任せに雷が落ちたような、空気が一気に膨張して爆発音と共に眩い雷撃をお見舞いする。

 蒸気が晴れて、全身が炭化している脳無が全容を見せる。だが、これ終わりじゃない。

 懐から能力によって予め分離させていた液体の冷媒を投げつけた。再生途中の脳無にかかった少しの衝撃で化学反応が起こり体の芯まで一瞬で凍りつく。

 グググ、それでも氷を砕きながら尚立ち上がる脳無に感心してヒュウと口笛を吹く。

 

 「何だよ、お前……何なんだよっ!?」

 

 今まで棒立ちだった死柄木ががむしゃらに走って来ては此方に向かって掌を伸ばす。

 あれの個性は『崩壊』。手に触れた物を何でも壊して塵に変えてしまう初見殺しの様な個性。時間があれば人を壊すのも簡単だ。だが俺は奴の記憶で知り、『鳥瞰把握』で一度見ている。ならば、対処可能。

 

 再び雷を脳無に落としながら、接近する死柄木に持っていた刀を鞘に納めたままぶん投げる。

 唯一の武器を敵に投げるなんて馬鹿だと思ってるんだろうが、ちゃんと意味があるから投げたんだよ。

 

 刀を手放したことに目を見開いたがすぐにニィと笑い俺に向かっていた手を刀を受け止める為に動かした。だが、それこそが俺の罠だ。

 あの刀の制作した時を覚えているだろうか?結局ヴィランに試し斬り出来ず戦闘訓練の時も使わなかったが、あれはオールマイトの様な怪力の個性持ちが漸く持ち運べる重量と盗難防止機構の致死量一歩手前まで強化した電気ショックが持っている間永続的に発動する物だ。

 

 「ぎゃあああああああ!!!」

 当然見るからに痩身の奴では腕なんかでは受け止められず、逆に吹き飛び下敷きになったことで肌と密着し盗難防止機構が作動した。

 体が震えてのたうち回りたいが重りがあってそうも出来ずに藻搔いている死柄木。

 

 その間に二、三度冷媒と雷を繰り返した脳無は再生こそするものの最初に見た時の速度とは比べ物にならない程遅くなり、溜め込んだエネルギーも枯渇しているのがわかる。心無しか動きも鈍重になってきた。

 

 「さあ、観念しろよ悪党」

 

 脳無は捕らえる為に冷媒で動きを止め、死柄木の方に歩みを進める──、

 

 

 

 

 「まだ、です!」

 

 

 

 

 死柄木を電撃と重みで押さえていたはずの刀が横から飛んで来る。死柄木を確認すると地面から黒霧の靄が渦を巻きズブズブと痺れて動かない体を沈めて行く。

 

 「待て!逃す……!?」

 

 刀を受け止めて抜刀で動きを止めるべく手をかければ、背後から氷から脱した脳無が最後の力を振り絞り俺の頭を握り潰さんと手を伸ばしていた。

 

 「邪魔だ!」

 脳無を縦に両断して斬り捨て、そのまま勢いを殺さず振り返りざまに死柄木がいた場所に刀を矢の如く投擲した。

 

 だが、後一歩のところで靄ごと死柄木の体も黒霧も逃してしてしまった。

 脳無は他人の個性という異物を無理矢理容れられた拒絶反応からか、溜めたエネルギーを全て使い尽くしたのか、冷媒と雷による劣化がとどめを刺したのかはわからないが死柄木の個性の様にサラサラと跡形もなく崩れてしまった。

 

 「糞がああああああああ!!」

 

 完っ全に出し抜かれた!最後の最後に油断したとは言えまだ動けた脳無と黒霧に、まんまとやられて敵の主犯格は取り逃がし証拠兼研究材料の脳無も壊れてしまった。

 完敗だった。水鳥は水面から飛び立つ時に場を濁すことなく飛び去るが、何の証拠も残さない様計算された上での敗北。

 

 苛立ちからの地団駄で足元が波状に砕け散る。それに怒りで能力の制御が甘くなり、『液化人影』のコンクリを溶かして俺を模っていたものが崩れそうになった。

 寸での所で冷静になり制御を取り戻し、優先順位を再確認しつつ倒れているイレイザーの元へ駆け寄る。

 

 両腕を折られ、個性を潰す為顔面を地面が陥没するまで何度も打ち付けたから頭が割れ眼窩も複雑に砕け散っている。血の流し過ぎで体温が低下し脈も弱い。

 せめてヒーローが来ればと思ったが無い物ねだりはしない。野戦病院がする様な荒療治になるがそれでもやらないと危ない状態。治療に集中する為全ての演算を一度解いて無防備になる必要がある。そうなれば一人だった火災エリアや窮地に陥っていた生徒が一気に危険になる。

 

 『液化人影』は液化した流動物を遠隔で動かしているだけなので映像がなければ的確に動かすことすらできない。逆も然りでお互いに意思疎通する術はなく、最初は生徒も俺の形をした個性でヴィランと思った奴もいるぐらいだ。

 多少はジェスチャーで意思疎通はできたし俺は読唇術で何を言ってるのかわかったから協力できたが……。

 今は一刻を争う。

 

 能力を解除していつもの様にホドキの量子格納庫ではなく本物の王の財宝を開く。黄金の波紋が無数に展開され、同時に頭の中に俺が欲しいと思う医療器具と薬がカタログみたく羅列する。

 

 「絶対に助けてやる」

 

 




 
 本日の解説。
 
 長ぁあああい! 以上!
 嘘です、ちゃんとやります。
 オリ主、完敗ですね。元の世界ならこんなミスは犯さなかったでしょう
 本日のMVPは間違いなく黒霧!


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USJ事件の波紋&『冥土還し』

 
 
 _| ̄|○ ほんっとうに申し訳ない。
 
 とりあえず今回でUSJ編は終わり、アニメと漫画を見直しながら体育祭編を頑張ろうと思いまふ。
 四期おめでとうございます


 

 USJ内で医療器具は用意したものの野戦病院の荒療治になったが、すぐに執刀したから一命を取りとめ経験だが後遺症もないはずだ。

 治療終了と共に正面からプロヒーロー達が扉をぶち破って突入してまもなくまんまと取り逃がした主犯格を除き、チンピラヴィラン共は鎮圧、お縄についた。

 警察も到着して怪我の酷かったイレイザー、個性の反動で指をやった緑谷の二名が救急車でリカバリーガールの病院に搬送された。

 俺達には簡単な事情聴取、質疑応答の時間があったがA組皆の頭には搬送された二人があった。

 

「大丈夫かしら? 相澤先生」

「心配か?」

「篠ノ之ちゃん……そうね、心配だわ」

「俺も出来る限りの治療はした。放課後からは自宅待機、明日も多分休校になるだろ……俺はその前に病院によってみるつもりだ。何なら容態も伝えるが?」

「じゃあ、お願いするわ」

 

 蛙吹が離れると入れ替わりに八百万がおずおずと体を小さくさせながら近寄って来た。

 その顔から勘違いからビンタしたことを後悔しているんだろうがあれは俺の態度と適当な言い訳が招いた結果だ。謝ることはない。

 

「あ、あの篠ノ之さんあの時は申し訳ありませんでした。何と謝罪すればいいか……」

「あれは俺も悪かった。それでいいだろ。それよりも放課後時間があるか?」

「何々? 先生は制服に着替えたらそのまま下校だって言ってたけど」

「あの警報の時、そして今回の襲撃の一部始終を話す。箝口令も当事者には意味ないし飯田との約束もある。だから皆も聞きたいことがあったら聞きに来い」

 

 それだけ言って先に更衣室に戻った。

 

 

 俺がA組の教室で待っていれば、全員が揃った。その中に轟や爆豪がいたことに驚きはしたが、特に気にすることなく話始める。

 

「集まったな。じゃあ誰か質問あるか?」

 

 其処彼処から手が上がる。とりあえず一番近くにいた八百万に視線で許可し質問を促した。

 

「それでは確認ですけど、あの時……マスコミの方々が侵入し警報が鳴った時、篠ノ之さんの姿はありませんでした。誰よりも早く敵の侵入を察知し現場に急行した、で間違いありませんか?」

「ああ、個性を使ってマスゴミの侵入はすぐにわかったがあいつらだけであんな事が出来る訳ないのはすぐにわかった。だから黒霧……あの靄のワープゲートが反応した場所に移動した」

 

「その時の状況は?」

「職員室に侵入した奴らの目的は教員用カリキュラムだ。今回の目的がオールマイトの殺害だったから彼が講師をする時間帯を選んだんだろう。俺は奴らの目的を探る為と時間稼ぎに少し話しただけだ」

「では、あの日のサボタージュは箝口令の為の嘘だったと?」

「それもあるが、対オールマイトの切札が来るとわかっていた俺は、お前達の手に負えないと判断した。何かあれば俺が出るつもりだったからな。

 八百万、その節はすまなかった。お前の信頼を裏切る行為だったのは間違いない。許してくれとは言わない。だからこっからもう一度信頼を取り戻してみせる」

「っ……はぃ……はいっ。これからもよろしくお願いしますわ」

 

 両手で口元を押さえて、少し上を向き涙が溢れるのを堪えている彼女に頭を下げ、他の女子に介抱されていったのを見送る。

 次に頭を上げればもう手を挙げている二人がいた。

 

「ッチ。終わったな? じゃあ俺の番だ、オールマイトをブッ殺すっつーヴィランについて教えやがれ!」

「爆豪と概ね同じだ。今回の襲撃で主犯格は捕まってない。なら再び襲撃があると考えた方がいい。その時に俺達でもどうにかできるか対策を立てておく為に情報が欲しい」

「真似すんじゃねーよ半分野郎!」

 

 ドカンドカン掌で個性を爆発させる爆豪も、その隣で澄ました顔で無視する轟も、今回の襲撃で寧ろチンピラヴィラン共を圧倒した二人だったな。

 明らかに増長してやがるな……。

 

「チンピラに勝ったくらいで調子に乗るなよ? お前ら」

「そっちこそ、自分が倒せたのはまぐれじゃないのか?」

「無視すんじゃねーよ!!」

 

 俺達三人の間で文字通り火花が散り、ピリピリと緊張感が教室を支配する。

 

「……ヴィランの個性はマスゴミも公表はしない。意味がわかるな? ここだけの話だ、誰にも口外するな。言った時点で責任問題でそいつが退学になるのは間違い無いからな……よし、主犯格の三人、手形マスク──死柄木弔は『崩壊』。掌五本指で触った物を何でも砂や塵に崩す個性だ。生物非生物問わず。あの性格からして既に人で試したことがあるだろう。気分で人を殺す、そんな奴だ」

「ワープゲート──黒霧はまんまだ。爆豪辺りはもう弱点を見つけてるだろ。奴は全身も靄に変える訳じゃない。頭部、手首から先を靄に変えて体を隠していたに過ぎない。厄介なのは範囲と同時に大量の人間を一度に移動させる実力だ。まあ厄介だよ」

「最後、実は此奴が一番ヤバイ。何がヤバイってあれは人体実験で作られた元人間だって事だ」

「「「!?」」」

 

 この事実は話すつもりがなかったが、二人の鼻を折るのにA組の皆にも話すことにする。ここで臆するのは子供なら仕方ない事だ。ヒーローを目指さず静かに暮らすのも悪くないと思ってるぞ。

 

「察しのいい奴は気付いただろうが、今後アレが更に強化されて量産される可能性があるって事だ。個性は『ショック吸収』と『超再生』」

 

 オールマイトの物理攻撃を完全に無効化する対物理個性とそのエネルギーを有効に使う為の回復力。近接戦闘しかない個性にこれほど厄介な敵は早々いない。

 

「ちなみに聞くが、轟お前ならどう倒す?」

「凍らせて動きを封じる」

「オールマイト並の速度で移動し、同等のパワーを持つ相手にか? 個性も説明しただろうが、凍ったとしても凍った部分を捥いで即再生してくるぞ。実際にそうなったしな」

 

 俺の論破にムッと睨む轟はならお前はどうしたんだと苛立ちの声を上げる。

 

「簡単だ。俺も同等の力と速度で対応した。無理だと思うだろうが事実だ。……実物を見せる」

 

 ホドキの量子格納庫から機械化した実体剣と、脳無と大体同じ大きさの駆動鎧を取り出す。

 これが俺の個性ではないと知ってる連中もそうじゃない者も驚く。何もない場所から自分よりも大きな機械が出現したのもだが、それが明らかに銃などの武器を装備していたからだ。

 剣を腰に構え、手を添える。

 

 キィン。

 

 鍔鳴りが聞こえた直後、ズズズ……と黒い駆動鎧がズレて七閃の時の半分、七つのガラクタに裁断されて崩れた。

 念の為索敵に優れる耳郎、障子に聞こえたり見えたか問うが、どちらも首を横に振った。そして轟と爆豪を見る。

 聞かずとも若干目を見開いてる二人の顔を見れば理解した。今の彼我の力量では手も足も出ず、『座標移動』で背後に移動されれば知覚する間も無く駆動鎧の様に殺されると。

 

 ガラクタと化した駆動鎧と実体剣を仕舞い、皆に向き直る。ちなみに今のは素の身体能力であり、個性もとい能力は一切使っていないことも説明しておく。

 

「これでも脳無……アレは止まらなかったからな。再生途中に硬貨を投げ入れて避雷針にした。上鳴はよく聞いとけよ。反省会で俺が言った指向性の実演だからな?」

「う、うぃ」

「硬貨を飲み込んだまま再生したアレに落雷を落として炭化させた。炭化した体が再生しないのは再生系の個性を持つ奴らじゃ常識みたいなもんだからな」

 

 脳無が凍って壊死した体を砕いていた理由でもある。再生しない部分を効率的に排除して再生の余地を作る為だ。

 

「再生途中で動きの鈍った所をこの特殊な製法で作った冷媒で凍らせ、砕いて再生するのをまた雷で炭化させる。これの繰り返しだ」

「「「うわぁ……」」」

「普通の人間に使わないから安心しろ。『液化人影』で見ていたが轟、お前敵を凍らせても砕いてはなかったな」

「当たり前だ。そんなことすれば死んじまう」

「そうだな、だから敢えて俺はそうした。再生にも色々あるが一瞬で欠損を治すレベルだと相当エネルギーが必要だ。『ショック吸収』で蓄えたエネルギーを消費させるにはそれが一番手っ取り早かった。当然、エネルギーが枯渇すれば動きも鈍くなる」

 

 もう氷すら砕けないまで弱らせたのが俺の方法だ。

 そこまで説明したが、皆絶句。大方俺を怒らせないようにしようとか考えてるんだろうな。別に怒ってもそんなことしないぞ。敵には八つ当たりするだろうが。

 

「参考にならねぇ」

「そもそも勝てると考える方が間違いだ。オールマイトにすら勝てないと無理だよ。諦めろ」

「じゃあテメェは勝てるのかよ! オールマイトによぉ!?」

「ああ、簡単じゃね?」

 

 俺を除くA組全員の顔がはぁ? と馬鹿にしたものになる。お前は何言ってるんだと向けられた目は口ほどに物を言う。

 

「お前は何言ってんだ? さっきと言ってることが逆だぞ」

 

 実際に言われてしまった。

 

「轟、お前俺が全力出して辛勝と思ってるのか?」

「違うのか?」

「全く。掠りもしてない」

 

 寧ろ上手くことが進み過ぎて油断したんだ。

 あの時の俺は既にUSJ全体に能力を使っており、『鳥瞰把握』『透視能力』『表層融解』『液化人影』の四つを同時に並列思考を用いて演算し、黒霧脳無の順に斬りつけた。

『超電磁砲』の雷撃はただ雷を発生させただけ。誘導する矛先を避雷針替わりの硬貨を使い、威力以外を度外視した簡単なものだけ。

 これだけ複数の能力の同時使用をしていれば『一方通行』の反射が使えなかった。もし仮に使えたとしても『ショック吸収』の個性で回復され長期化していただろう。

 最善手とはそういうことだ。

 

 そんな厄介な個性を持たない脳筋のオールマイト相手が相手だったなら普通に使って物理攻撃を反射させただろ。

 流石にアレに地球を砕く程の力はないだろうしな。

 

「まずオールマイトは物理攻撃のみだからな。しかも肉体一つで突っ込んでくる脳筋っぷり。ここで誤解しそうなのは肉体の強度だ」

「「「強度?」」」

「そう。例えば切島の『硬化』は単純に頑丈になる。実にシンプルでわかりやすい個性だ。だがオールマイトと似ている緑谷の個性……筋力か体力かは知らんが増強系は肉体の出力を上げるだけでそれに耐える強度は別なんだ。じゃないと緑谷の怪我の説明がつかない」

 

 首を傾げている大多数に答えあわせ。オールマイトの力は兎も角、肉体の強度はそこまで高い訳じゃない。よくて普通の人間レベルだ。紙で指は切るし小指を角にぶつければ痛い。

 

「オールマイトも個性の関係で他より頑丈にはなってるがナイフで刺せば血が出る。だったらやりようは幾らでもある」

 

 流石に池袋の自動喧嘩人形並なら多少は考えたが……記憶を見た限りこの前書類をまとめてる時に紙で指を切っていたからその線はない。

 

「まあそんなことより、緑谷以外は敵の襲撃から無事生き残った。おめでとう、そしてこの経験は俺達のアドバンテージであり他のヒーロー科でも体験できない貴重なものだ」

「「「……」」」

「まあ俺からすれば雄英にも安全な場所はなかったという落胆しかないが、なぁヒーローの卵達? 轟が言った通り今後も敵連合の襲撃は必ず起こる、必ずな」

 

『予知能力』を使うまでもない。死柄木の背後関係も含めて俺に降りかかる火の粉は全て払う。だがまあせめて自衛くらいは出来るようになっててくれよな。

 

 

 

 

 目を覚ましたらそこは真っ白な天井で視界の端にレールに吊るされた白いカーテンが三面を覆っていて、残りの一面に点滴を取り替えている最中だった看護師と目が合った。

 

「リ、リカバリーガール!! イレイザーヘッドが目を覚ました! リカバリーガァァアアル!?」

 

 病院内はお静かに。そんなマナーをドブにでも捨てたのか錯乱状態で病室から飛び出していった看護師にため息をついて顔を覆う……つもりだったが両腕を動かせば鈍い痛みがあり、顔も右半分がガーゼか包帯で覆われているのか今更ながら視界が半分しかないし距離感が掴みにくい。

 少し経ち、バタバタと走る足音が聞こえて扉が開く。

 視線だけを音の方に向ければ見知った顔があった。

 

「意識ははっきりしてるね」

「リカバリーガール……ここは貴女の病院ですか」

「そうさね。そろそろ麻酔が解けるはずだけど、痛みはあるかい?」

「……骨折したはずの両腕にジクジクと鈍い痛みが」

「他は……右眼はどうだい?」

 

 右眼……包帯で塞がれた視界に違和感はない。あの時は痛みで失神と覚醒を繰り返していたのにも関わらず。

 

「そういえば、今は何時ですか?」

「イレイザー、まだ今日だよ。生徒達も複数人の重軽傷者は出たがね。緑谷って子が指を二本やっただけさね。アンタが一番の怪我人だよ。安心しな」

「そう、ですか……」

 

 イレイザーがあの時体を張ったから主犯格が釘付けにされ俺が間に合った。

 

「結局主犯格は逃しちまったが、イレイザーには随分負担をかけたからな」

「お前は……篠ノ之、そうかお前が」

「リカバリーガール、俺は個性の治療は門外漢だ。一応診るがそっちは任せる」

「お手並み拝見かね」

「何? どういうことだ?」

 

 リカバリーは言ってなかったのか。イレイザーが搬送される前に応急処置としてカエル顔の医者の技術と能力を駆使して怪我の殆どを治療していたのを話した。

 カエル顔の医者が開発した負の遺産の一部、タンパク質を溶かして細胞分裂を意図的に増やした再生治療、止血や呼吸確保、バイタルチェック、麻酔を能力で代用しながら骨折した腕の骨を『透視能力』と『座標移動』で全摘出し分子レベルで結合、再生させた元の位置に戻す。

 眼窩の粉砕骨折も同じだがイレイザーの個性は目が重要だ。能力の様に脳が個性を発現させているのか、授業で言っていた身体能力の一部……つまり原石の様な概念なのかわからなかったが今はそちらの専門家がいる。

 あの襲撃と彼の負傷は不幸だったが、俺にとっては決して悪いことだけじゃなく棚から牡丹餅だった。

 一応『透視』で確認しながらギブスを取っていく。一度摘出した骨が体に馴染むまでのものだからもう取っても問題ない。

 

 外した端から両腕の確認をしているイレイザー。あとは目の部分だ。診た限り眼球の傷も完治しており視力の低下もないはずだが……。

 シュルシュル包帯を解くと……なんか心なしか若返った印象を抱くが、イレイザーに変わりない。何だこの違和感……。

 

「どこか違和感はあるかい?」

「……目が」

「「目が!?」」

「以前よりよく見えますし、楽です。ギブスでわからなかったが体も軽い……篠ノ之、お前何をした?」

 

 何をしたと聞かれても先程手術内容は一通り説明した……あ。

 

「あ」

「何だ! 何をした!?」

「多分肌年齢が若返ったというか細胞自体を新しいものに一新したからその所為じゃないか? それにドライアイも治ってるだろ?」

「な、何だって!? それは本当かい?」

 

 イレイザーは癖だろうが、試しにかなりの時間目を開いてもらうと明らかに個性発動の持続時間が伸びてインターバルも短い。本人も学生時代の時間に近いと言っていた。

 

「個性の確認も済んだ。イレイザーも完全復活か」

「篠ノ之と言ったね。アンタこれほどの技術、どこで」

 

 看護師は既に席を外している。ここにいるのはイレイザー、リカバリー、そして俺の三人だけ。

 病室の空気がリカバリーの言葉の後からピリッと張る。緊張感が否応なく感じさせられるが流石は年の功。戦闘系のヒーローでなくとも修羅場の数はやはり桁違い。一瞬だが気圧されそうだったよ。

 

「放浪していた医者にな。誰が言ったか知らないが『冥土還し』と呼んでいた。技術や薬品、医療に関する知識の殆どは彼から受け継いだ。それだけだよ」

「「……」」

「まあ、俺もこれを徒らに広めるつもりはない。だがイレイザー、アンタはまだA組に必要だと思ったから今回だけだ」

 

 最悪二人の記憶を消せば治療法は誰も知らない。彼の傷だけが治り執刀医が誰かわからない迷宮入りだ。だが、二人は忠告するつもりだった。つまり誰にも話すつもりはないらしい。ただ二人は校長には話すだろうが……そうなったらそこまでだ。

 

「だからまあ俺としては偽装として包帯だけ外さないでくれれば話が俺に向かわず楽なんだが、ま、無理ならいいぞ」

「篠ノ之、今更だが助かった。礼を言う」

「先に矢面に立ったのはそっちだろ。それに、生徒が先生を守っちゃいけないか? 俺達はヒーロー目指してんだ。手の届く範囲ならまた手を貸す。それじゃ俺の用事は終わったし明日は臨時休校らしいからまた明後日だな」

「ああ、気をつけて帰れよ」

 

 病室の扉が閉まる前にイレイザーの声が聞こえて振り返らず手だけ振り返した。

 パタンとスライド式の扉が閉まる。端末からイレイザーの容態が回復傾向にあることを伝えておく。これで蛙吹との約束は果たした。

 

 死柄木の奴は全身火傷で回復役がいなければ動き出そうとはしないはず。その間にアジトの場所を突き止め……いや、あんなのでもA組の経験値を稼ぐにはもってこいか。

 やはり実戦でしか体験できないことはある。それは雄英教師陣に任せるとして俺は襲撃時に本当は安全だが緊張感のあるヴィランとの実戦を経験させる。そういう方針にしようと決めた。

 

 




さて、こっからどうやって書けばいいのか……誘惑が多すぎるぜぃ


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雄英体育祭 前編


 お久しぶりです皆さん
 
 あけまして、おめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします。

 では雄英体育祭、開幕


 

 

 雄英は敵連合の襲撃があり、学校はマスゴミや対処に追われて翌日は臨時休校。生徒は勿論自宅待機だ。下手に外に出て、誘拐されて人質に取られたりしたら笑えないからな。

 

 俺はというと、姿を変え声を変えて完全に寝床と化した仮自宅を飛び出した。

 未だ俺はこの個性渦巻く世界をよく知らない。いや、個性は一つのファクターでしかなく、ヒーローとヴィランに二分されたこの世界を実際の眼で見たことがなかった。

 所詮、他人の記憶や能力による情報収集、メディアを介した断片的なものでしかない。だから誰の介在もないありのままを俺自身の眼と耳で確かめる為に。

 手っ取り早く『肉体変化』で垣根帝督の姿に変装し、都心部の敵被害が多い場所を歩く。垣根の顔や姿がまんまホストだから何度かキャッチだと思われて声をかけられたが、一夜の夢として『心理掌握』で記憶を見て趣味趣向を把握し欲望に忠実な夢を見させ、住所へ直接『座標移動』で送り飛ばした。

 そこに男女の差はない。当然黒霧の様な血の通わない頭でもない限りな。ただ単に慈悲でやった訳じゃなく一般人の不満や願望を調べていたんだが、個性の有る無しに関わらずヒーローやヴィランの話題を除けば大差ないな。

 ついでにヴィラン仲間の屯場所も特定できたし、軽い運動がてら潰してくるか。最近ストレスを発散する機会がなかったからな。

 

 ……んで、そんな降って湧いた休日を過ごした俺は二日ぶりに雄英の門を潜っていた。

 内緒でハッスルしてストレス発散した俺と違い、大体の奴らは自宅待機の鬱憤を漏らしたり、連休とは違う休日サイクルからダルさを隠そうともしていない。

 

 「どのニュースも襲撃事件の事ばっかだったよな」

 「そうそう、雄英の危機管理がどうのって」

 「相手にはワープゲートの個性もいるのに!無茶苦茶だわ!」

 「でも助かってラッキーだったよな。先生は勿論篠ノ之がいなけりゃ俺達どうなってたことか……」

 「怖ェこと言うなよ!ちびっちまうだろぉ!?」

 「黙れカスッ!!」

 

 そんな感じで俺の話題の時は少し視線を感じたが、イレイザーが来るまで寝たフリを続けていた。

 

 「皆ぁ始業の時間だ!私語を謹んで席につけ!」

 「ついてないのお前だけだと思うぞ飯田」

 「む、しまったぁ!」

 「ドン☆マイ」

 

 さて、全員が席に着いた所で漸く予鈴が鳴り、時間に厳しいイレイザーが入ってくる。

 その姿は病院で見た時と変わらない包帯でぐるぐる巻きのミイラ男スタイルだった。彼が入って来たことでクラスは騒然となる。

 

 「「「相澤先生復帰早ぇぇぇえええ!?」」」

 「相澤先生、無事だったのね良かったわ」

 「無事言うんか、あれ……」

 無事だぞ、あんなでも。イレイザーは俺が言った偽装をやっているだけで、あの下は古傷一つない赤ちゃん肌だからな。

 

 「おはよう、俺の安否はどうでもいい。何より戦いはまだ終わってねぇ」

 

 皆の前に立ったミイラ男、もといイレイザーがそう告げればクラスに緊張が走る。

 まさか敵がまた襲撃に!?と言った具合に。だが、その緊張とは関係なく、彼の続いた言葉に教室の空気がガラリと変わる。

 

 「雄英体育祭が迫ってる」

 「「「クソ学校っぽいの来た──ッ!」」」

 「いや待て待て!」

 「襲撃されたばっかなのに、大丈夫なんですか?」

 

 切島を筆頭に全員が湧き立つが、上鳴や響香の疑問で冷静になり急速に萎んでいく。

 イレイザー曰く、体育祭を開催することで雄英の警備や危機管理体制が盤石だとメディアや世間に示すのが学校側の方針だと。

 

 だが実の所、それだけじゃない。元来、雄英体育祭はオリンピックや夏の甲子園並に日本全国から注目される一大イベント。それには当然老若男女、ヒーローにヴィランと様々な人が見る。

 それ程のビッグイベント、開催する理由に個性が使えない大人のストレス発散目的もあるんじゃないか?と俺は考える。敵は兎も角世間で言えば個性はヒーローとその卵にのみに許された特別な力。強い個性なのに持て余した輩も決して少なくない。

 そんな輩にTVの向こうでも会場でも個性を使った競技を見せることで、代替行為として自分を同一視させ、ストレスの捌け口にする。

 今回敵連合の襲撃があったから、緩んだ緊張をもう一度張り直す目的としても、意識をこちらに逸らそうとしているのかもしれない。

 リスクを省みても、様々な思惑が交差しての今回の雄英体育祭の開催が決まったんだろうことがわかる。だがイレイザーや教師陣は当然、そのことを俺たちに話すつもりはないらしい。

 俺達のモチベの低下を防ぐ意味もあるんだろう、大人のストレスの捌け口にされてのメディア露出なんて、そんなの見世物と何ら変わらない。

 

 だが生徒達にとっては貴重なチャンスでもある。メディアを通して世間に見られるということは個性や人間性、実力をヒーローにアピールする機会でもある。

 雄英に限らずヒーロー科卒業後はプロのサイドキックとして事務所に入り経験値を積むのがセオリー。その為にはプロからスカウトされる必要がある。

 この体育祭の次に職場体験があり、その布石にもここで目立ちたい、勝ち残りたいと思うのはまだまだ十五の子供達からすれば当然だろう。

 

 「時間は有限、プロに見込まれればその場でヒーローへの道が開かれる。年に一回、計三回だけのチャンス、ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな!」

 「「「はい!」」」

 「HRは以上だ」

 

 イレイザーが退室する。その後ろ姿を見届け興奮を抑え切れない殆どが話を再開する。ただし話題は襲撃事件ではなく体育祭だ。

 確かに皆のモチベは上がった。火をつけたのは正しかったと思いたいが、やはり子供、祭典に対して襲撃を乗り切った事実に浮き足立って調子ついている気がする。

 

 「だから、こうなる」

 放課後、帰る時にA組の教室を大勢の生徒で囲まれて出れなくなっていた。

 

 「ナニコレェ!?」

 「出れねーじゃんか!」

 「敵情視察だろ雑魚が。んなことしても意味ねーから、退けモブ共」

 「とりあえず知らない人のことをモブって呼ぶのやめなよ!」

 

 爆豪は相も変わらず周囲にヘイト振り撒いてる。その物言いから他のクラスやA組からも不満が上がっていた。

 

 「随分と偉そうだな。ヒーロー科の奴ってこういうのばっかなのか?なんか幻滅しちゃうな」

 

 目の下に隈がある不敵な物言いで返す普通科の、誰だ?彼は敵情視察ではなく宣戦布告しに来たと。

 普通科にはヒーロー科入試で落ちた奴らが沢山いる。雄英は完全な実力主義、見込みがあればヒーロー科への編入、それに伴いヒーロー科から普通科に落とされると警告した。

 それを言うからには勝つ算段があるんだろう。彼の個性は知らないが、勝ち残った時が楽しみだ。

 

 「おうおうおうおう!隣のB組の者だけどよぉ!襲撃されたって聞いて話聞きに来たんだけどよぉ!えらく調子ついちゃってんなオイ!」

 「無視かテメェ!」

 「そこのお前、B組の誰だ?」

 「俺ぁ鉄哲徹鐡だ!何か用か!」

 「襲撃については警察や学校が箝口令を敷いてるぞ。だから俺達は詳細を言うことはできん」

 「そうか!すまん!」

 「「「あ、意外に素直……」」」

 「あと、こんなとこで油売ってる暇があるなら職員室にでも行って施設の使用許可でも貰って来い。まずは自分を鍛えてろ。話はそれからだ」

 

 気圧されたのか一歩引いてる大半の生徒。爆豪の肩を持つ訳じゃないがその程度、相手にするまでもない。

 

 「ケッ。上に上がりゃ関係ねぇ」

 「うおぉ!漢らしいぜ!二人共!」

 

 切島の男泣きはスルーで、俺も結果的に煽ったからA組の方から何か言われる前に退散するか。

 

 

 体育祭まで二週間、正直言って暇だ。

 他の生徒に発破をかけるような事を言ったが、俺は自分をこれ以上すぐに高められるとは思っていない。それならUSJを襲った敵連合に報復する方法を考えた方がまだ有意義だ。

 

 あのゲーム脳な死柄木側に傷をすぐに治せる回復役がいても……まあいないのはわかってるがこの雄英体育祭は流石に襲撃しないだろうとわかる。

 脳無を俺に完封され、自身も大火傷を負った奴はオールマイトの前に俺を殺しにくる算段を企てているはず。なら俺の能力が公開されるこの体育祭に潜入はしてもあくまで情報収集に止めるだろう。怪我も治ってないし。

 だから俺も襲撃されない限り手は出さない。だがその代わり、次の襲撃では容赦なく潰させてもらう。

 

 

 過去の映像を見る限り、競技は大体三種目。

 全員参加の予選、第一試合、第二試合となっていて途中にレクリエーションがあったり昼休憩がある。大体のプログラムは同じ。

 毎年種目は違うが概ね流れは例年通り。だが今年はオールマイトが教師をしている。そこで変化がないとは言い切れないか。何が来てもやることは変わらない。

 全力は勿論出さない。本気は出すかもしれないが大人気ない結果になるだろうな。記録映像を見ながら暇潰しにそんな事を考えて、開催日までどうしたものかと頭を抱えた。

 

 

 

 

 んで、時間を進めて雄英体育祭当日。

 別に何もやってこなかった訳じゃないぞ。クラス連中から連絡網が回ってきて個人特訓に付き合ったり少しアドバイスをしたりしていた。

 連絡して来たのは尾白、耳郎、八百万、上鳴、三奈の五人。

 

 「組手の約束がある尾白はともかく、他の四人はどうした?」

 「頼む!俺達を鍛えてくれ!」

 「まあ、今上鳴が言った通りだよ」

 「押し付けがましいお願いではございますが、どうか私達に知恵を貸してください」

 

 三人は頭を下げているが、残りの一人の三奈はただニコニコしてる。

 「三奈はどうした?」

 「遊びに来た!というのは冗談。アタシも皆に負けたくないからさ!付いて来ちゃった」

 

 三奈はともかく他の四人も本気で体育祭に臨むつもりらしい。それを見込んでまずは一晩、面倒を見てやることにした。

 

 「皆に俺から二つのコースをプレゼントしよう。Aコースは、ありとあらゆる苦痛を全身で経験する悪魔も泣き叫ぶようなハードトレーニングで、しかも効果と命は保証できない」

 「Bコースは寝て起きたら俺を除く最強になってる。さあ、どっちのコースがお望みだ?」

 「「「Aコース!」」」

 「「び、Aコースで……」」

 「よく言った」

 

 とまあ、こんな感じで某フラスコ計画の妹萌え兄式トレーニングを決行。その後は個々に合わせたメニューに切り替えて一週間面倒を見てやった。

 朝から準備やらで控え室で待機していたクラスメイトを見渡す。この二週間例外なく秘密の特訓をして来たであろう顔触れの中でも面倒を見た五人は特に違う。

 別に色眼鏡で見たり贔屓してない。そのまんまだ。だが、それがこの体育祭で通用するかはまた別だ。

 

 「あー、やっぱり戦闘服着たかったなぁ」

 「公平を期す為、体操服なんだよ」

 「あー緊張してきた……」

 「予選って何すんだろうな?」

 「毎年大半がそこで落とされるもんね」

 「人人人人人人人、あむ」

 

 「緑谷」

 控え室で各々が精神統一や今日のことを話題に好き勝手している中、轟が緑谷に声をかける。

 

 「な、何?轟君」

 

 二人の動向に同じ控え室にいたA組が注目する。爆豪も気になるのか視線だけ二人の方を見ていた。俺はどうでもよく用意されているパイプ椅子に座ってる。

 

 「客観的に見ても、俺の方が実力は上だと思う」

 「え」

 「けどお前、オールマイトから目ぇかけられてるよな?そこ詮索するつもりはねぇが。お前には勝つ」

 「何だ何だ?A組トップ候補の一人が宣戦布告か!?」

 「オイ急に喧嘩腰でどうした?試合前だぞ、やめろって」

 「仲良しごっこじゃねぇんだ。いいだろ、別に。それと篠ノ之……お前にはぜってぇ負けねぇ」

 「……ま、精々頑張れ」

 

 轟の言ってる事は正しい。ここからは皆がライバル、プロの世界同様他を落として上を目指す。次の種目のことを考えても仕方ない。

 轟の宣戦布告を軽く流して手をひらひら振って返事とする。それを見た相手が苛立とうがどうしようが俺には関係ない。物理法則に縛られてる程度じゃ俺には絶対勝てないからな。

 敵に対して手の内を見せる愚行を犯す理由もなく、二週間から俺は自分に設ける制限だけ考えていた。

 

 

 雄英一年生の会場は円形のドーム型、一番上が開いているタイプ。観客席は愚か、階段部分にも立っている程満員御礼。

 歓声が止まらない。熱がこっちにも伝わってくる。

 

 『Hey!白熱しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もお前らが大好きな高校生達青春の暴れ馬!雄英体育祭が始まりエブリバディ!アーユーレディ?』

 

 一年生の入場。

 

 『どうせあれだろこいつらだろ!?敵の襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた!一年A組だろォ!?』

 

 プレゼントマイクの放送に揃ってヒーロー科、普通科、サポート科、経営科のA〜Kまでの全クラス揃い踏み。

 グラウンド中心に総勢220名の一年が集まった。そして、用意されていた指揮台の上には一年主審のミッドナイトがSMプレイ用の鞭を持って立っていた。

 

 「ミッドナイト先生なんちゅー格好を」

 「流石18禁ヒーロー」

 「18禁ヒーローなのに高校にいても」

 「いい!」

 エロの権化峰田が食い気味に肯定するが、ミッドナイトに静かにするよう注意を受けた。それすら喜んでそうだが。

 

 「選手宣誓!A組爆豪勝己!」

 「「「なっ!?」」」

 「かっちゃんなの!?」

 「そりゃあ、あんなでも入試トップだからな」

 「ヒーロー科の、入試な?」

 

 A組全員が爆豪に対してどういう印象を持っているのかがよくわかる反応だった。俺、八百万、轟は推薦だからこの場合は除外されるが、普通科の生徒からわざわざ訂正の野次を飛ばされて上鳴と緑谷はビクビクしていた。

 まあ、それも軽いもので敵の殺意に比べれば子供の癇癪に似た嫉妬の悪意なんぞ微風程度のもの。

 さて、ここで爆豪を操り模範的な優等生の宣誓をしたら、それはそれで面白いが俺個人としては、あのまま何処まで上がれるか見てみたいものだ。

 

 「せんせー、俺が一番になる」

 

 宣誓台に登ってマイクの前、いや全国放送された国民の前で両ポケットに手を入れたままのそれを、見ていた他の生徒や観客が許すはずもなく。

 

 「真面目にやれー!」

 「降りてこいヘドロ野郎!」

 「絶対やると思った!」

 

 直前の静けさなんてなかった。生徒兼選手達の怒りのボルテージはもう最高潮。

 

 「精々いい踏み台になってくれ」

 

 俺達の方を振り返れば、親指を下に出してそのまま降りて来る爆豪。あの顔は勝って当然って感じじゃない。自分を追い込む為のものか、意外と繊細なんだな。

 

 「それじゃあ早速!第一種目に移るわよ!」

 「雄英って何でも早速だよね?」

 「時間を無駄にしない合理的ってやつかな」

 「相澤先生に影響されてきてるわね」

 

 A組の中でそんな会話があったが、その間も当然話は進む。一年生徒全員の名前の前に映し出されたスクリーンに種目がデカデカと表示される。

 

 「これよ!障害物競走!」

 

 障害物と言うほどの物じゃないがな。ルートはこの会場の外周。障害のジャンルは今はまだ秘密か。先に知ってしまったが特に問題ない。

 四の五の言わずさっさと始めよう。

 生徒が並ぶが、スタート地点で既にごった返している。何せマラソン大会でもないのに全クラス参加だから軽く3桁の人数が一ヶ所に集まったんだ。それに会場を出る通路が四人横に並べば埋まるような狭いから……当然こうなる。

 

 「せっまっっっっっ!?」

 「痛っ!誰か足踏んだ!?」

 「前に、進めねぇ!」

 「ぐ、ぐるしぃ!」

 

 A組は比較的最前列にいたからもう出口に差し掛かる頃──おっと。足元に冷気が通り抜け、凍り付く直前に駆け抜け氷結を免れる。

 以前の戦闘訓練と比べると随分優しいな。轟の個性か。

 俺以外にもA組やB組、他数名が氷を抜けて再び走り始めていた。俺もそれに続く。俺は誰に強制された訳じゃないが『座標移動』は封印している。マッハ5を超える速度で連続移動なんかしたら他の生徒の見せ場がないし、障害物競走の意味もないからな。

 

 「A組の連中はともかく、思ったより抜けられたな」

 「調子に乗るなよ……半分野郎ォオ!!」

 

 爆豪は掌の爆発で空を飛ぶか。中々面白い発想だ。俺も風を操って飛行するし、ここは翼を出すか。

 

 『おおっと大多数が轟の氷で動けない中先に進んだ奴らで面白い奴がいるな!おいミイラマン!お前のとこのクラスどうなってんだ!?』

 『俺は別に何も?あいつらが勝手に火ぃ付けあってるだけだ』

 『それにしても、あの白い羽、最近若手で最有力候補のホークスを思い出すな』

 『あの三対の翼は『未元物質』。翼の形をしてるが実際はこの世に存在しない物質らしい。詳しい事は難しくて噛み砕いて説明が出来ん。翼は変幻自在で先端を伸ばしたり、羽根を飛ばしたりとほぼ万能。良い個性だ』

 

 今日、以前から厳選していた体育祭で使う能力の一覧を、予めイレイザーに渡してある。正直ハンデを設けることにイレイザーも反対していたが、俺みたいな複数の個性を持つのは普通ありえないから納得してくれた。決して怪我を治した借りを返してもらったわけじゃない。

 一度使った能力はもう使わない。二つ同時に使わない。こんなぐらいしか思いつかなかったが、これでも十分優勝は狙えると確信している。ホドキの演算で出した予測でも同じ。

 全生徒の個性と性格を把握して、連年の競技内容を統計で割り出した結果だ。まず間違いない。

 

 ヒーロー科実技試験で運用された巨大ロボ軍団がいたが、轟が凍らせ、俺が空から斬り刻む。瞬殺だ。

 残りは後続の活躍の場に残して、空を飛ぶ俺は地上を走る轟をあっさり追い越し、次の障害物に向かう、が。

 

 『先頭は入れ替え!やっぱ空を飛べる個性は強ェな!今度の関門は落ちたら終わり!フォーリンダウン!!ってあらあらぁ!篠ノ之が空を飛んで楽々通過ァ!やっぱズリィ!!』

 『まあ、意味ないよな』

 

 正直残念でならない。俺にも純粋に行事を楽しもうという気概があったとは驚きだ。だが、勝負は勝負、勝たなきゃ意味ないんだよ。

 

 「メルヘン野郎がぁあああ!俺の前に出るんじゃねー!!!」

 「なら追い付いてこい。話はそれからだ」

 

 羽ばたく必要はないがバサッと六枚の翼をそれぞれ動かして軽く暴風を作り、空を飛ぶ生徒の妨害をした。アンチヒーロー行為と気付けるのはどれくらいかな?

 

 次の関門も飛べば関係ない。音と光と少し威力が高いが怪我の心配はないというギャグみたいな代物、つまり地雷源だ。センサーは付いておらず踏んだ瞬間爆破する。

 ……失禁は人それぞれじゃないか?

 

 「わざわざ歩く必要がない。だがこのまま独走もつまらん。ハンデの使い所を間違えたか?」

 

 障害物競走と自信満々に銘打っていたからどんなものかと思えば、制限時間でなく先着人数で区切っているのか。

 教育というのは難しいな。最高を選出する為に犠牲……踏み台になる者が必要だ。

 

 「ま、それでも俺が二番手に甘んじる理由にもならないが」

 『ゴォオオオル!!まさに最速!暫定二位に圧倒的な差を見せつけ!今篠ノ之解がトップでゴールしたぁ!』

 『今回の関門全てに言えることだが、空を飛ぶ個性に対してあまりに不備があった。次回からはそれも想定しよう』

 

 会場にある大スクリーンの中継を見る。暫定二位と三位、轟と爆豪がお互いを牽制しながら地雷源を進む。その後でまごまごと進む後続、未だ入口付近で地雷を掘り返していた緑谷。

 

 ……なるほど、今からでは追い付けないと判断して地雷を推進力にしたか。今までの比にならない程のピンクの爆発が起こり、緑色の装甲板が飛んでいく。

 器用なことだ。頭の上を超えた存在に焦り、牽制を止めて走り出した二人の近くで、装甲板を叩きつけ更に爆破。

 結果、連鎖的に爆発が起こり、かなりのロスを強いられた二人を出し抜いて緑谷が二位で走破。少し遅れて轟、スロースターターが祟った爆豪がそれぞれ三着、四着となった。

 

 「くっっそがっ!」

 「ハァ……くっ」

 「ゼーハーゼーハー」

 二人はまだまだ余裕が見られたが、緑谷は全力疾走だったから倒れ込んで荒い息を必死に整えていた。

 

 そんな三人に目もくれず、残る生徒達を見にスクリーンから目を離さない。ここで俺が何を言っても無駄に消耗させるだけだ。次の競技はまだ知らないが、弱った相手じゃつまらない。戦術としては効率的で合理的なのは認めるが。

 上位先着は42名。ヒーロー科AB組入り乱れ、普通科も一人いるな。彼はあの時挑発してきた心操だったか。『心理掌握』に打ち勝てる程なら要注意だが、それ以外は期待できそうにない。

 

 個性が一人一つという半普遍的なルールがあるから、余程の初見殺しでもない限り、プロヒーローもヴィランも脅威とは言えない。

 以前の実験の検証もしたいし、早く終わらないかな。

 

 

 





 今回の能力

 『未元物質(ダークマター)
 とある魔術の禁書目録に登場する科学サイドの超能力第二位。
 背中から出す純白の翼はこの世に存在しない物質で構成されており、架空元素ともいう。
 翼を通した酸素は毒素に、光は殺人光線になど第一位の『一方通行』の演算を通り抜け攻撃を届かせた能力。そのまま伸ばして刺すことも可能。



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雄英体育祭 後編


 雄英体育祭 またまだ続くんじゃよ…

 難産でした


 

 

 

 「予選突破おめでとう。でも次はどうかしら?次の競技は……これよ!」

 モニターに映し出された次の競技、騎馬戦。

 団体戦か。ステージはこの台なら、半分に分けてここで一気に半分を脱落させるか、チームを独立させたバトルロワイヤルか。どちらも足を引っ張られるのは怖いな。

 

 「着順でそれぞれ得点が課され、上位になるほど高くなるわ!そして、一着の篠ノ之君にはボーナスとして一千万点!」

 「「「一千万!?」」」

 舞台に残った全員の視線が俺に集中する。ここで俺が敗退する可能性もあるか、騎馬戦で騎馬が作れなければそのまま。

 

 生憎『心理掌握』はリストに入れてないし、どうしようか。

 俺が予想したそんな心配を蹴っ飛ばすように、障害物上位の三人に人が群がっていた。

 

 「「「轟!」」」

 「「「爆豪!」」」

 「「「篠ノ之!」」」

 「「「俺/私と組んで!」」」

 

 緑谷はどうしたって?上位とは言ったが、個性を存分に見せた俺達とは違い、緑谷は何も見せてないからな。個性の反動もそうだが、下手に温存すると信用を得られない。

 予選競技から既に心理戦は始まっていたんだ!みたいなことを考えてるB組は同じ組同士で固まってるし、予定調和か?

 

 「お前らの個性知らねー!何だ!?」

 「爆豪、お前……他人に興味なさすぎ、同じクラスだろ」

 「篠ノ之君は生徒全員の個性を知ってるよね!?私と組んでよ〜!」

 「やばっ。てことは勝ち確じゃないか!?」

 

 前にも言ったと思うが、相性次第じゃ完封もありうるぞお互いに。しかもチーム戦だ。

 

 「俺とチームを組みたいと思う奴に言うが、今回俺は個性を一つしか使わない。イレイザーと約束だからな。絶対に勝てるとは限らないが、それでもいいなら組むぞ」

 

 これで何人か離れた。後は……。

 「意外と、いや、予想はしてた」

 「私達が残るのがわかってたの?自信過剰じゃない、か」

 「私は実質無個性だしね!篠ノ之君一択だよ!」

 「ケロ。でも私達が騎馬をしても篠ノ之ちゃんが騎手できないわ」

 「騎手に拘る理由はないぞ蛙吹。このメンバーなら近接で有利な葉隠か前は俺、左右を耳郎と蛙吹の個性でカバーだな」

 「ところで、篠ノ之ちゃんの個性は何かしら?」

 

 蛙吹からの質問は当然だ。俺は左眼を持っていた眼帯で隠しながら答える。

 

 「今回俺が使うのは『鳥瞰把握』。USJの時も使ったが、上空からの視界で全体を見る個性だ。視界は広がるが実質無個性で強化も何もないぞ」

 「「「マジ?」」」

 「マジマジ。だがこのメンバーなら十分勝てる。不安かもだが一応俺が頭脳でいいよな?」

 「「「」」」

 

 

 

 博打にも程があると思うが、予選での経験からこれくらいならかなり楽しめるはずだ。

 騎馬戦のルールは究極的に点数が多かったチームの勝利。後は騎馬が崩れても敗退ではない。時間制限は十分。

 明言しなかったが別に騎馬が鉢巻を取っても問題ない。禁止行為は御法度。十分勝ち筋がある。

 

 競技開始の合図と同時に近くにいた全チームによって包囲網が組まれた。

 

 「いきなりっ、どうする!?」

 「落ち着け耳郎。あそこだ、先制を打つぞ。個性を使え!」

 「わかったよっ!」

 

 まだ敵チームと距離がある今、蛙吹だけで周囲を牽制、斜め前の騎手に両方のプラグで先制。半径6mは便利だな。片方で爆音を流し、その隙にもう片方で鉢巻を取る。

 

 「っし。取ったよ!」

 「上出来。次はその隣だ鉢巻はまだ持ったままな」

 「了解!」

 

 包囲網に穴を開ける。まずはここを切り抜けないとな。

 プラグを伸ばしたまま作戦通り行動不能に陥った騎馬を作りつつ点数を稼ぐ。一千万を餌にするにはまだまだ点数が足りないからな。

 

 「突破するぞ」

 「ぐ、抜けさせるな!」

 「遅い、やれ蛙吹」

 「梅雨ちゃんと呼んで。ケロッ!」

 「あひん」

 蛙吹が伸ばした舌が正確無比に騎手の顎を撫で、気絶した相手の鉢巻を掻っ攫う。いともたやすく行われたえげつない行為。

 

 「流石だな、梅雨ちゃん」

 「ありがとう。油断しないでね、篠ノ之ちゃんも」

 「ああ、むしろこっからが本番だ」

 

 目の前には万年敵顔な爆豪と、鋭過ぎる眼でこちらを睨む轟の騎馬がいた。

 「氷が来る。右に動け」

 「チッ」

 「正面から爆豪。飛んで来るぞ」

 「え"」

 「メルヘン野郎オオオ!!」

 

 掌から爆発の反動で騎馬から離れ、一人で突貫して来た爆豪。驚きで三人が固まるが俺が屈むと予定した鉢巻の位置がズレて葉隠の頭上を通過していく。

 地面スレスレだが、器用に爆破して再び空中に舞い上がる。あれを見るに意図的に騎馬から離れても反則にはならないらしいな。……投げるか。

 

 「っ!?ちょっと篠ノ之君!?何か企んでない!?今背中がゾワっと嫌な感じが!」

 

 勘がいいな。まあ、最終手段に考えておこう。

 

 「後ろから爆豪、左から轟。上鳴の無差別放電が来る前に逃げるぞ。発動前に感電しないよう電熱シートが作られるはずだからな」

 それより先に爆豪だ。

 

 「耳郎、伸ばせ」

 「あいよ」

 「梅雨ちゃん」

 「わかったわ」

 

 爆豪の騎馬が近付いてるな。瀬呂のテープが回収手段か。速度的にこっちの二人も負けてない。

 爆豪が迫るが耳郎のプラグを警戒して前方に爆破しようと手を伸ばす。

 

 「止めろ!」

 「っ」

 「なっ!?」

 

 爆破のタイミングに合わせて伸ばしたプラグを引っ込め、空中で前方に爆破したことで爆豪の移動速度が著しく遅くなった。

 その瞬間を逃さず腕に蛙吹の舌が巻き付く。蛙の舌は筋肉で出来てるんだよ。蛙吹なら人一人投げ飛ばすくらい問題ない。

 

 何処に投げるかって?漁夫の利を狙ってる轟とその背後にいるB組連中の方にだ。

 

 「っ!」

 

 眼前に迫る爆豪に進路を変える必要がある轟と、その射線上には、以前A組にやたらといちゃもんをつけて来た物間がいる。奴なら爆豪にも躊躇なく挑発するだろう。

 今の間にここから離れますか。

 

 「氷の裏側に行くぞ。よく持ち堪えたな」

 「よく今のを予測できるよね。個性は使ってないんでしょ?」

 「おう、一発退場はつまらないからな。つか俺達が点数的にトップなんだ。狙われるのは必然だろ。それと注意したのは覚えてるな?」

 「「「勿論!」」」

 「近くにいるが、まだ俺達に接触する気はないみたいだな。大丈夫か?少しの間なら俺だけで支えるから休んでおけよ」

 「いや、流石にそれは……うわすご」

 「個性は使わないんじゃなかったの?」

 「使ってねーよ。鍛えただけだ。葉隠には肩に手を置いて重心を前に、そうだ」

 

 かなり時間が経過したような感覚に陥るが、まだ数分しか経ってない。予測した中でかなりハードなパターンだったから今の内に休めるなら体力を温存したい。

 目の前にB組や包囲網を形成していたA組の残党がいるが、まだ見せていない俺の個性を警戒して、手を出してこない。

 今までの俺達の戦歴を考えると遠距離からいきなり鉢巻を奪われるなら、他のチームを狙った方がまだ安全だかな。

 

 「新手だ。葉隠、鉢巻の用意をしろ。皆後ろから葡萄が来てる。逆に奴の個性を利用するぞ」

 「「「えげつない……でも賛成」」」

 「フヘヘへ、篠ノ之〜!女子に囲まれて羨ましいぞコンニャロー!」

 「嫉妬は醜いわよ、峰田ちゃん」

 「うるへー!これでもくらえ!」

 

 挑発、かは分からんが、乗った峰田のモギモギボールが蛙吹に向かって投げられる。

 

 「止まれ。今だ葉隠」

 「了解!おりゃ!」

 

 鉢巻は取れやすいように留め具が付いてる。それを外して束ねた鉢巻を葉隠がブンブン回して、飛んで来た紫色のボールを打ち返……せないのはわかってた。

 自分以外には何でもくっつく特性を利用して、一部を除いて再び鉢巻を付ける。これで皮膚を剥がすくらいしないと葉隠から鉢巻が取れなくなった。

 

 「嘘、だろっ!?」

 「へへーん。お返しだ!」

 残していた10点の鉢巻をボールの遠心力で峰田と障子がいる場所へ投げた。

 

 「ヤバッ!よ、避けてくれぇえ障子ぃ!」

 「……すまん」

 「おぉい!?」

 

 障子には貧乏クジを引いたと諦めてもらおう。ここで行動不能な峰田と障子は実質リタイアか。障子の触腕が伸ばせるとしても周囲はモギモギボールだらけで誰も近付かないだろ。

 

 後は、緑谷のチームだが……何故か氷壁の反対側で轟と一騎打ちしていた。

 

 「狭い舞台でよくやる」

 「どうしたの?」

 「轟と緑谷がぶつかって膠着状態。爆豪は物間……B組連合を蹂躙中。その他が今目の前で潰し合ってる連中だ」

 「言い方」

 「でもわかりやすいわ。じゃあ私達はどう動くの?」

 「そろそろ時間も折り返しだ。途中経過を見て、身の振り方を変える。候補は今まで通り見敵必殺、サーチアンドデストロイか」

 「何で言い直した」

 「様式美だ。逆に考えるんだ。あげちゃってもいいのさ、と。いっそ一千万を捨てるのもありだったが、くっついてるから、これは無効だな」

 「皮ごと剥ぐしかないわね」

 「怖っ!」

 「できるなら轟や緑谷、爆豪の鉢巻も取りたいが……今の状況だと難しいな」

 

 無理はいくない。欲張って返り討ちにあうのが関の山。

 

 「結局今まで通りじゃん」

 「まあそう言うなって。しっかり休憩もできたし、後半も頑張るぞ」

 

 スクリーンに映し出された順位と得点を見ればわかるが、A組は俺、轟、緑谷以外はパッとしない。爆豪は着々と順位を上げてるが、物間に取られた自分の鉢巻以外にも群がるB組連中を文字通り蹂躙しながら、執拗に獲物を狙っている。

 轟の氷壁で舞台を二分しているからこそ、俺達に被害はない。これが全体を巻き込んだ足元だけを狙ったなら俺達もただの木偶の坊だった可能性がある。蛙吹は冷却自体が鬼門だからな。今も若干眠そうだし動いた方がいいな。

 

 「梅雨ちゃん、まだ寝るな」

 「大丈夫よ、でも眠いわ」

 「ちょっと危ないね」

 「梅雨ちゃんの舌は控えめでいくしかないな。良かったな葉隠、やっとお前の出番だ」

 「上を脱いだ甲斐があったよ!戦闘服じゃないから今すっごく恥ずかしいんだからね!」

 「葉隠ちゃん、それ普通よ」

 「うちも今までの透はどうかしてたと思う……その反応でお父さん面する奴もいるし。引くな!」

 「いやぁ、葉隠も大きくなったなぁ、と」

 「コメントが完全に父親ね、篠ノ之ちゃん」

 

 擁護がない程辛辣なツッコミが来たからボケはここまでにして、と。同い年の女子を全国放送のカメラ前で剥くという鬼畜外道を見る視線が、俺の後頭部に集中していて視線に質量があれば、俺は今の瞬間円形脱毛症を患っているに違いない。

 

 「皆口を閉じろ!」

 「「「っ!」」」

 「よう……って対策済みかよ。流石ヒーロー科。いや、じゃあこいつらはそれ以下になるな」

 

 心操人使。個性は『洗脳』。返事を返した相手を強制的に催眠状態にする初見殺しな個性。弱点は……。

 

 「……」

 「それにしてもお前らも薄情だな。A組の仲間がこんなになってるのに」

 「そんなにしたのはお前でし……ょ」

 「まずい!蛙吹舌で葉隠を叩け!耳郎は尾白と俺を…… 」

 「「っ!」」

 「「「ぐはっ!?」」」

 

 一瞬視界が白く朧げになったが、すぐにこめかみに痛みと爆音が響いて正気に戻った。葉隠も向こうの尾白もどうやら二人がやってくれたみたいだな。

 

 「な、解除方法なんて教えてないのに!?」

 「洗脳でもなんでもブッ叩けば大抵治るんだよイッタ!?もうかからないから二人共止めろ!」

 「あら、返事したからまた洗脳されたのかと思ったわ」

 「うちも」

 「え、何この状況」

 「チッ、オイ!」

 「なん……」

 

 こっちが被害を受けてる間に、尾白が再び洗脳されていた。騎手の葉隠は個性で無理矢理従わせてるのが許せないのか、心操を敵視している。

 

 「おい葉隠、お前の怒りは筋違いだ」

 「でも!」

 「これがヴィランなら俺も容赦しないが、俺も似たような個性を使えるからな。奴が望んだわけでもない生まれ持った個性だ。葉隠のは異形型だからと蔑むのと何ら変わらないぞ」

 「うっ……そう、だね」

 「尾白の現状は可哀想かもしれないが、戦闘経験のない普通科は俺達の力を使うのが一番勝率が高い。それにお誂え向きな個性を持っていただけだ。つか尾白の油断が招いたんだ。それに対してお前が怒るのは尾白への侮辱だと思え」

 「「「……」」」

 

 「何だ?仲間割れか?好都合だな」

 「そんな安い挑発はよせぐっ……だから耳郎、もう対策はしてるから……心操、お前が目指してるのはヒーローだろ?ヒーロー科に入りたい理由も同じだよな」

 「……それがどうした?」

 「お前のヒーロー像が誰かは知らないがはっ……随分と小者みたいだな?確かにお前の個性は強力だ。俺も一度は洗脳されかけたからな。だがよ、ば〜〜〜〜〜〜っかじゃねえの?」

 

 

 「……はぁ?」

 

 「お前はバカだって言ったんだよ。耳ついてるか?いいか?ヒーローってのはな、良いも悪いも引っ括めて救うのがヒーローなんだよ。特に今のヒーロー飽和社会、それを忘れてる奴が多過ぎる。俺からすれば平和の象徴も万年二位も同じだ!悪い奴をやっつけるのがヒーロー?綺麗事並べる前にお前達が救うべきもんがあるだろうが!子供?老人?違うな、ヴィランだよ!確かに根本的に合わない奴がいる。当たり前だ!だがそれ以外は幼少期からの環境で歪んだ奴だ!親に捨てられた奴!差別や虐待を受けた奴!家族を殺された奴!皆将来ヴィランにならないと思わないのか?バカが!ご立派にメディアを意識して中途半端なヒーロー活動してる時間があるなら、そいつらに目を向けてやれよ!」

 

 話が大きくそれたな。不幸自慢じゃないが、生まれは選べない。俺の知り合いは生まれ自体が祝福されない、自然の摂理に反するものだった。だがそれがどうしたと言えるのは強者だからだ。

 

 「心操!お前の個性は確かに敵の様に悪用されたら怖いが、そんな戯言は不幸じゃない!そんなものは勘違いだ!」

 「っ!お前に俺の何がわかるっ!」

 「いいじゃねえか!洗脳!ここにいる木っ端ヒーローに思い知らせてやれよ!人質を使って立て篭もった敵を無血開城できる個性がお前の洗脳だとな!それを食らった俺が断言してやる!お前はヒーローになれる!それを今ここで証明しろ!だが使い方を間違えるなよ!そん時は俺が引導を渡してやる!」

 

 「何様だお前!」

 「おい葉隠行くぞ!後で綺麗に治してやるから存分に殴り合え!」

 「キャラがブレブレだよぉ」

 「熱いわね、篠ノ之ちゃん」

 「いや、もう別人じゃ……」

 

 若干ヒートアップしてしまったが、心操と葉隠が真正面からの取っ組み合いを始める。つっても片方はもやしだし、葉隠は透明だしカメラ映りは最悪だ。

 果敢に攻めていた心操だが、葉隠の見えないパンチに翻弄されて被弾してから、次第に防戦一方になる。

 

 「うりゃりゃりゃりゃ!」

 「ぐっ……くそ!尾白!尻尾で援護しろ!青山はビームだ!」

 「ビーム来るぞ!右に躱せ!耳郎は尻尾に気を付けろ!」

 「庄田はあのムカつく口だけ野郎に個性を使え!俺だって、俺だってなあ!ヒーローになりたいさ!……だけどっ俺の個性はヒーロー科の試験で落ちた!諦めようとしたけど、それも嫌だ!」

 「……」

 「今までの啖呵はどうしたこの野郎!俺みたいな奴がヒーローになるにはこうするしかなかった!この体育祭で勝ち上がって呑気に遊んでるお前らの鼻っ面を折ってやろう、見返してやろうってな!それしか無いんだ!」

 「なら諦めるのか?お前、ヒーローに憧れてんだろ?ならなれよ」

 「っ……あぁ、なってやるよ!絶対に」

 

 「取ったよ!」

 葉隠の合図で耳郎が足元を爆音で破壊した。悔しげに俺を睨む心操が遠ざかる。体感ではもう時間がない。モニターを見れば各騎馬の点数が順位別に表示されていた。

 

 一千万の葉隠が独走。他は轟、爆豪、そして鉄哲……お?

 「あれだけ騒いでいたのに、その容赦の無さは好感が持てるな」

 「へ?どういうこと?」

 「もうすぐわかるよ」

 『カウントダウン入るぜェ!──5!4!3!2!いーち!TIME UP!!お疲れェ様ァア!!』

 

 プレゼントマイクの声が会場全体に響き渡る。もうマイク必要ないだろ。終了と同時に空気の振動を遮断したから被害はそうなかったが。煩過ぎる。

 

 『早速上位四チーム見てみようか!』

 騎馬を崩してプレゼントマイクの声に耳を傾ける。

 

 『一位!葉隠チーム!』

 「ヤッタァ!」

 「頑張ったわ」

 「何とかなったね。疲れたぁ」

 

 『二位!轟チーム!三位!爆豪チーム!四位!鉄て……アレェ!?オイ!心操チーム!?いつの間の逆転してたんだよオイ!』

 心操は鉄哲のB組チームのPを最後の土壇場で奪って勝ち残っていた。さっき、葉隠に言ったのはこれだ。

 

 轟チームと一騎打ちしていた緑谷チームは五位。まあ、あの猛攻をよく凌ぎ切ったと褒めてやりたい。

 

 「お互い頑張りましょ、芦戸ちゃん」

 「梅雨ちゃんもお疲れ〜。私は轟の氷対策で選ばれたから、実力が見合ってるのか分からないよ」

 「いやぁ、惜しかったぁ」

 「うゔ……いいだぐんっ頑張ってね!」

 「ああ、緑谷君や麗日君の分まで頑張るぞ!」

 「クソガァ!!」

 「チクショウ……」

 

 勝ち残った者。敗退した者。悔しさを隠し、友人を激励する者。勝利したが結果を認められない自己嫌悪に陥る者。各々が様々な感情を胸に秘め、静かにこの場から去って行く。だが『心理掌握』を持つ俺は思春期の少年少女の葛藤を、その断片を掬い取っては見て見ぬ振りをする。

 騎馬戦が終わったら次は早めの昼休憩と、レクリエーションの時間だ。

 

 「篠ノ之、早く行くよ?」

 「おう、腹減ったな。ランチラッシュのスタミナ丼とかないのか?」

 「結構食べるね、後半動けなくなるよ?」

 「そこはレクで食後の運動をするさ。……それより、八百万に伝えとけ。イレイザーは何も言ってないってな」

 「?うん、わかった。伝えれば良いんだよね?」

 「ああ一字一句間違えずにな。じゃあさっさと腹拵えに行くか」

 

 

 耳郎達と食事を済ませて、俺は残留思念を辿って轟の父親で万年二位の炎熱系ヒーローエンデヴァーの記憶を探っていた。

 轟が俺よりも緑谷に固執した理由を探っているんだが、奴の頭にはいつも父親に対する憎悪が燻っていた。だからその本人に確認してみたかったんだが、ハズレだったか。

 エンデヴァー本人は平和の象徴に多大なる劣等感を抱いているから、その渇望を息子に背負わせる、か。

 別にそれに関しちゃ俺がどうこうするつもりはない。家庭の事情に他人がでしゃばって、余計に拗れるのは火を見るより明らかだからな。

 

 そろそろ時間だし、戻るか。

 

 「……やっぱりな」

 「あ、篠ノ之さん。助言をありがとうございました」

 「いや、そこの二人の考えそうなことだ。というかまず先生に確認するようにしろよ。居場所がわからなければ、他の先生でもいいだろうしな」

 

 会場に戻れば既に幾らかの生徒や観客が戻って来ており、全員集まり次第時間前だが始めそうな熱気だった。

 そこで、八百万達にお礼を言われ、峰田と上鳴から親の仇と言わんばかりの怨みがましい視線を向けられた。

 公共の電波にチア晒すのを防いだだけだが、あくまで俺の判断。ヒーローとしての知名度を上げるには余計なお世話だったかもな。

 

 

 

 さて、レクリエーションに移る前に、『セメント』を操るセメントスが即席で作った舞台に、勝ち残った生徒が集まった。

 

 『早速!次の種目の紹介をしましょうか!次の種目は……これよ!』

 SM用の鞭を振ってドラムロールと共にモニターに競技の名前が映し出された。

 予想に違うことなく、例年通り。トーナメント制のガチンコバトルだ。

 2ブロックの16名の対戦相手をクジで決めようとした時、尾白がゆっくりと手を挙げた。

 

 

 「俺、辞退します」

 

 

 「「「えぇええ!?」」」

 「「「尾白君!?どうして!」」」

 

 公衆の面前で突然の棄権宣言に、クラス、引いてはその場にいた殆どの人物が驚きの表情を浮かべていた。

 

 「騎馬戦の記憶……終盤ギリギリまでほぼボンヤリとした記憶しかないんだ。多分、奴の個性で……」

 

 尾白が組んでいたのは心操。その個性は『洗脳』。話しかけた相手が、返事をすることがトリガーになるが、初見殺しでこの中では十分に脅威な個性だ。

 騎馬戦では情報はあっても一度かかってしまったからな。その脅威度はわかると思う。

 

 「チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするなんて愚かな事だってのも……でもさ!皆が力を出し合い争ってきた座なんだ。こんな……こんな、わけわかんないまま、そこに並ぶなんて……俺は出来ない」

 「気にしすぎだよ!本選でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」

 「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」

 「違うんだ……!俺のプライドの話さ……俺が、嫌なんだ!」

 

 尾白の真面目で正々堂々を好む性格だからこその辞退だった。

 その言葉にB組男子で共に騎馬を組んでいた庄田も同じく辞退を申し出た。

 この場合、辞退の可否は主審のミッドナイトの判断による。実況解説のイレイザー達も彼女に判断を委ねた。

 

 「そういう、青臭い話はさァ……好み!庄田、尾白の棄権を認めます!」

 鼻息が荒い。そういや青春モノが好きだったな、彼女。それにしても好みで決めて良いのか。良いんだろうなぁ。

 

 ちなみに青山は個性の副作用でトイレに篭り、辞退となった。よく我慢したが、残念だったな。

 

 四位チームの三人が辞退した為、五位から繰り上がりになるはず……だったんだが、B組の姉御肌委員長、拳藤がこれを機に直前まで四位を維持していた鉄哲チームから三人が加わり、予定通り16名でトーナメントが開かれることになった。

 

 

 

 蛙吹─┐

    ├─┐

 心操─┘ |

      ├─┐

 轟──┐ | |

    ├─┘ |

 瀬呂─┘   |

        ├─┐

 篠ノ之┐   | |

    ├─┐ | |

 上鳴─┘ | | |

      ├─┘ |

 飯田─┐ |   |

    ├─┘   |

 耳郎─┘     |

          ├─ 

 葉隠─┐     |

    ├─┐   |

 骨抜─┘ |   |

      ├─┐ |

 芦戸─┐ | | |

    ├─┘ | |

 八百万┘   | |

        ├─┘

 鉄哲─┐   |

    ├─┐ |

 切島─┘ | |

      ├─┘

 塩崎─┐ |    

    ├─┘

 爆豪─┘

 

 

 

 





 体育祭は前編後編と分けました(長かった……)
 改めて思うあの一位通過者は1000万とかふざけてますよね?
 雄英ってイジメの巣窟にならないか心配です。
 
 今回出た能力

 『鳥瞰把握(プレデター)
 実はUSJ襲撃編にも登場済。片眼を手などで覆い上空から俯瞰した眼を作成。攻撃力は皆無だが、偵察など意外と凶悪な能力。裸眼でも眼は視認可能。
 


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雄英体育祭 トーナメント予選


 連日投稿とはいきませんが、が、頑張ります

 拙いですが、自分的に全ての組み合わせで書いてみました。
 いや、そうはならんだろっという意見がある方どんどん指摘して下さい


 

 

 

 蛙吹─┐

    ├─┐

 心操─┘ |

      ├─┐

 轟──┐ | |

    ├─┘ |

 瀬呂─┘   |

        ├─┐

 篠ノ之┐   | |

    ├─┐ | |

 上鳴─┘ | | |

      ├─┘ |

 飯田─┐ |   |

    ├─┘   |

 耳郎─┘     |

          ├─

 葉隠─┐     |

    ├─┐   |

 骨抜─┘ |   |

      ├─┐ |

 芦戸─┐ | | |

    ├─┘ | |

 八百万┘   | |

        ├─┘

 鉄哲─┐   |

    ├─┐ |

 切島─┘ | |

      ├─┘

 塩崎─┐ |    

    ├─┘

 爆豪─┘

 

 

 

 さて、トーナメント表を見る限り、準決勝では轟……。決勝では……いや、それはわからんか。

 とにかく、一試合ごとに使う能力を決めなきゃいかんが、さてどうやって決めようか?

 

 初手の相手は感電必至の上鳴。電気対策じゃあ同じ系統か、絶縁効果を有する能力って事になるが。

 あぁ、絶縁と言えば『気力絶縁』があったな。だがそれだと完全に上鳴の活躍を奪う事になりかねないし、いっその事ここで切札を一つ切ってもいいかもしれない。

 次の能力が決まり、俺は観客席から他の生徒の試合を眺めていた。

 

 

 

 

 第一試合。

 梅雨ちゃんと心操の試合。これは正直わからん。

 梅雨ちゃんは心操の個性を知っていて、その対処法もわかっている。だが、それでも彼は彼女から返事を引き出す為に心ない言葉も言ってくるだろう。

 梅雨ちゃんは仲間思いで、それでいて思ったことはすぐ言ってしまう癖がある。これがどう作用するかだが……。

 両者が舞台に上がり、定位置についた。

 

 試合前から個性を発動するのは禁止されているが、何やら2人で話している。

 こりゃまずいか?

 ミッドナイトが試合開始の合図を出した。

 

 「尾白ちゃんに謝っ……」

 「「「梅雨ちゃん!」」」

 「まずいな」

 

 まんまと梅雨ちゃんが個性にかかり、停止してしまった。冷静な判断をすると思ったが梅雨ちゃんの逆鱗に触れる何かを言ったか。早速個性を使いこなしているな。

 初見殺しの『洗脳』を種明かしした後にも関わらず、個性を発動させられたのは純粋に上手いと称賛できる。

 俺の場合は強制的に洗脳できる反面、個性や装備次第では防げてしまうからな。

 

 多少の衝撃で解けてしまう程度だが、どうする?梅雨ちゃん。

 「心操の個性は自分で解くのはほぼ不可能。故に、だからこそ奴の言葉に耳を傾けるべきじゃなく、返事なんて以ての外だ」

 「じゃ、じゃあ……梅雨ちゃんは」

 「そう落ち込むな。梅雨ちゃんを見てみろ」

 

 指を刺した舞台の上、正確には舞台の上に手を突いてとある物体を嘔吐している梅雨ちゃんの姿があった。

 少なくない衝撃で解けてしまう洗脳を嘔吐感で克服したのだ。『蛙』の個性を持つ梅雨ちゃんの胃は収納可能になっていて、本人は人に見られるのを嫌っているがそれを使ってまでも洗脳から脱した。

 

 「っ!何で……!?何でそこまでする!所詮プロになるまでに蹴落とす奴らだろ!」

 「……けろっ!」

 

 舌を伸ばし、舞台の反対側にいた心操を捕まえる。

 

 「ぐっ……まだ!負けて、たまるかぁ!!おい!あいつに伝えろ!俺は絶対にヒーローになるのを諦めねぇ!」

 「ケロッ。伝えなくても聞こえてるわ」

 

 試合終了の合図が高らかに鳴り響く。

 心操は梅雨ちゃんの舌によって場外へと運ばれていた。

 

 試合としては一瞬だったが、魂のこもった最後の宣言は会場にいた全てのヒーローに届いたようで、負けてしまった彼に応援と、勧誘の声が聞こえてくる。

 

 「惜しかったぞ!」

 「次は頑張れよ!」

 「かっこよかったぞ普通科の星!」

 「よくやったな!お疲れ様!」

 「いい個性じゃないか。卒業後はうちを検討してくれないか?」

 

 などなど。要は魅せ方だ。個性なんざ使い方次第。良い様にも悪い様にも、使い手次第なんだから個性をイメージだけで片付けるのはナンセンスだ。

 

 「お疲れ、梅雨ちゃん」

 「ありがとう。ちょっと恥ずかしかったけど、勝ててよかったわ」

 

 疲れているだろうに、A組女子達に揉みくちゃにされている梅雨ちゃん……。

 だが、次の相手はそうはいかないだろうな。

 

 

 

 

 第二試合はそれこそ一瞬で終わった。

 

 「悪ぃ、加減間違えた」

 舞台どころか、客席に迫る程巨大な氷山が出現し対戦相手の瀬呂と審判のミッドナイトを巻き添えにして凍らせていた。

 

 指先まで動かせない瀬呂は降参し、轟は個性で氷を溶かし始める。観客席からはドンマイコールが響き渡った。

 先程の騎馬戦の時もそうだが、随分と焦っているな……。感情やら中身がぐちゃぐちゃだ。

 今の轟を梅雨ちゃんにぶつけるのはかなり危険か。奴は父親への恨みで氷結系の個性しか使わないから。寒暖差の激しい個性は梅雨ちゃんの天敵だからな。

 

 

 

 

 そろそろ俺の番か。控室で軽く伸びをして舞台へ続く廊下を歩いていく。

 

 「待ちたまえ、篠ノ之解」

 「……」

 

 立ち塞がったのは炎熱系最強の個性を持つ万年No.2ヒーロー、エンデヴァー。

 その名の由来はロシア語で努力。彼の表層の感情や浅い記憶からも日夜行われる過酷な鍛錬をずっと続けてきたようだ。

 

 「待てと言っている」

 無視して横を通り過ぎようとしたが腕を広げて道を塞がれてしまった。

 

 「ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだが?」

 「俺の息子が貴様と相対するのを楽しみにしている」

 「人の話を聞けよ。雄英に突き出すぞ」

 「だから貴様も手加減などせず、全力で焦凍を倒せ。勝てばそれまで、負ければまだ伸び代があるということだ」

 「……全力ね。出したら息子さん、ヒーロー辞めるんじゃない?」

 「……」

 

 ギロリ。全く表情を動かさず、だが挑発に怒気で炎の如く燃え上がる。

 そのまま横を通り過ぎて、振り返らずに手を振った。

 

 

 

 

 舞台に上がれば、先に着いていた上鳴がやや緊張した様子でこちらを見ている。それどころか、会場にいる全ての人間の関心が俺に集中している。

 

 「上鳴」

 「な、なんだよ篠ノ之」

 「一瞬だ。一瞬で片付ける」

 「ヒエ」

 

 試合開始のゴングが鳴り、俺は能力を発動させた。

 「「「は?」」」

 

 頭に咲いた巨大な花、背中を覆う色とりどりの花が咲き誇る。

 わかってる。野郎の俺にこの能力は似合わないってことくらい。

 試合直前の言葉もあり、最初っから全力の放電を伸ばした蔓や植物の根で防ぎ、上鳴を絡めとる。

 

 「グゥェェ……ウェーイ、ウェーイ……」

 「勝者!篠ノ之!!」

 

 最後に自滅とは、こいつらしいと言えばらしいが。

 能力を解除すれば、植物が体から離れ一瞬で朽ちていく。そうなるように調整したからな。

 能力を使ってからずっと視線を感じてる。観客全員から注目を浴びてるがそうじゃない。好奇心が強い視線が一つ、B組の方から。

 そういや、似たような個性がいたな。多分間違いなくその子だろう。そうとわかれば俺は興味が失せ舞台から降りて控え室に戻った。

 

 

 

 

 次の第四試合は時間ギリギリまで膠着状態が続いた。

 A組初速から最速を誇る『エンジン』の飯田と、索敵能力から内部破壊まで熟す『イヤホンジャック』の耳郎は、お互いに決定打を打てずに千日手となっていた。

 

 本来ならば、スピードで圧倒したであろう飯田に対し、目を閉じたまま索敵と迎撃を同時に行った耳郎はその精密さで接近を防いでいた。

 

 「くっ、やっぱり速いね。飯田」

 「それはこちらの台詞だ耳郎君!君の反応速度と対応には攻めきれない」

 耳郎の内部破壊は厄介で、当たれば一撃。半径6mの範囲だが、フェイントに惑わされることなく左右の二段構えで懐への侵入を防いでいる。

 対して、飯田はその守りに攻めあぐねてはいるものの、常に動き続けながら速度に緩急をつけてタイミングをずらそうと機を窺っていた。

 

 残り時間が少なくなり、焦った飯田が切り札を切ったが、舞台を破壊して壁を作った耳郎にしてやられ、発射台の如く場外まで爆走してしまったことで勝負がついた。

 

 

 

 

 ここからはBブロック。

 葉隠とB組の骨抜柔造のカードか。

 骨抜の個性は『柔化』。触れた物体を柔らかくし、再度触れることで解除する個性。

 これを素早く行えば、効果範囲にもよるが一網打尽にできる強い個性だ。だが、その方法が単体では足場を崩して固めるに限定されるのはトーナメントでは不利かも知れんな。

 

 対して葉隠には遠距離攻撃がなく、相手の懐に潜るには相当苦戦を強いられるだろう。

 だからって……全国放送で試合開始直後から真っ裸になる奴がいるか。いや、その前に俺は上半身を剥いていたな……。周りの視線が痛い。

 

 だが、いきなりの相手の奇行に戸惑い骨抜は葉隠を見失ってしまう。とりあえず周囲を個性で柔らかくして警戒しているが、A組屈指の隠密能力を誇る葉隠だ。音を消して歩くのは当たり前。それに身体能力も元々高い方で体力もある。

 あの程度の底無し沼を飛び越えるのなんて、彼女には朝飯前だ。

 赤外線で正確に葉隠の動きを把握できているからこそ、今骨抜の横っ腹にドロップキックをかました彼女を見て思わず、ヒュウと口笛を吹いた。

 

 骨抜の手が舞台から離れたが、柔化していた足場は元に戻らない。

 

 

 それを知らなかったのか、盛大に沼に葉隠が落ちた。

 

 

 暫く会場がしん……と静寂に包まれる。

 

 目に見えない彼女が骨抜をぶっ飛ばし、個性の沼にずぶずぶとハマっていくが、解除しようにも横っ腹にいいのが入った彼は少しの間痛みに悶えている。

 なんとも締まらない幕開けか。葉隠は沼から脱出が叶わず、固められて敗退。勝ったのは骨抜だった。

 

 

 

 

 Bブロック第二試合はA組同士の対決となる。

 女子一番の運動神経を持つ芦戸三奈。そして座学一位の才女、八百万百の二人だ。

 俺も正直勝負がどうなるかわからないが、八百万が特訓の成果を出せるか出せないかで決まるな。

 

 「いっくよ〜!」

 

 特殊な靴で足裏から酸を出して舞台を滑る様に進む三奈。対する八百万は酸を防ぐ大きめ盾とその盾に隠れてもう一つ創造している。

 

 八百万は既に、一度に二つの物を作ることに成功していた。単にマルチタスクの助言をしただけなんだが。特訓の成果が早速出てきたな。

 盾があるなら個性故に対人戦闘が苦手な三奈も存分に個性を使える。八百万が創造した盾に向かって酸を飛ばす。

 盾できっちり受けるが、当たった所から白い煙を上げながら溶けていった。

 

 「くっ。まだですわ!」

 

 後退しながら再び創造。盾が溶け切る前に別の腕から先程より少し小さい盾が作られる。

 的は小さくなったが、持ち前の身体能力で距離を詰めた今ならと、どんどん酸を飛ばして八百万を追い詰めていく三奈。

 

 「今です!」

 盾の下に隠していた、リモコン型のテーザー銃を取り出し、拘束用のワイヤーが射出。不意をついた三奈を拘束した。

 

 「特殊合金のワイヤーですわ。腕力だけでは外せませんわよ!」

 「こんなの溶かせばいいだけじゃん」

 「ええ、ですがその間は動けません!」

 

 今まで後退していた八百万が初めて前に出て、腕から何かを創造しながら三奈に迫る。

 

 「ちょ、ヤオモモあぶな……!」

 「大丈夫です」

 

 創造した物を翻し、体から大量の酸を出して危険だと知らせる三奈にそれを被せた。

 

 「さぁ、芦戸さん。降参してください」

 

 「へ?……っ!?」

 ピンクの肌でわかりづらいが、羞恥から真っ赤になって素早い動きで羽織っている物を体に巻く。

 それにいち早く気づいた審判のミッドナイトが芦戸の戦闘不能を告げて試合は終了した。

 

 「どういうこと?」

 「芦戸の奴なら酸で拘束解いてこっからだろ?」

 「篠ノ之君わかる?」

 

 緑谷を筆頭に俺に解説を求めてくるA組。女子の何人かは引き際の二人の様子で気づいた様で、三奈の様に若干顔を赤くしている。

 

 「俺に聞くのか……まあいいが、八百万は初めから相手の降参を狙っていた」

 「降参を?」

 「ああ、普通なら降参より戦って気絶させるなり場外に出すなりするだろうが、相性が悪い」

 

 体内の脂質を全く別の物質に変えて創造するのに対し、金属すら溶かす強酸を分泌できる三奈の個性はただ相性が最悪と言っていい程悪かった。

 だから、身体能力でも個性でも劣る三奈に接近を許さず、かつギリギリの射程範囲内まで引き付ける必要があった。

 

 「まあ、単純な話。何度も盾で酸をやり過ごしていたのは時間稼ぎで、あのワイヤーを射出する為の銃を作っていたんだよ」

 「そっか。複雑になるほど創造に時間や集中力がいるから」

 「その通り。そして上手く腕を塞ぐように拘束が成功すればもう勝ったも同然だ。ワイヤーを溶かさないならそのまま場外に、溶かすなら降参って感じにな」

 

 「だから、何でワイヤーを溶かしたら降参なんだ?」

 「切島……腕を拘束されて酸で溶かそうものなら、服も溶けるだろうが」

 「あ、……すまん」

 

 理解した途端に切島の顔が髪と同じくらい真っ赤になる。この純情ボーイめ。

 

 「だから、最後に八百万はTVで三奈が公開処刑されないよう、酸でも溶けにくい金製の羽織を被せたんだよ。金属の中で一番酸に耐性があるのは金だからな。それでも王水で溶かされちまうけど」

 

 クラスの皆が納得したところで、着替えて来た三奈が顔を見せる。まだ若干顔は赤いが、何か言われる前に適当に流して女子の方へ逃げていった。

 まあ、年頃だろうし、目の前で全裸になったとなれば恥ずかしいものか。

 

 

 

 

 

 まだまだBブロックは始まったばかりだ。

 観戦に夢中で自分の番を忘れていた切島が慌てて舞台に出て行く。そこにいたのはB組の鉄哲徹鐵。凄い名前だな。

 

 切島は言わずもがな個性『硬化』。

 対する鉄哲の個性は『スティール』。要するに鉄だ。

 

 まさかの個性だだ被り対決に両者涙を流す。

 プレゼント・マイクの紹介までだだ被りとは恐れ入った。ちゃんと仕事しろよ…。

 

 だが、全部が全部同じって訳ではなく、個性の特徴的に差別化はできそうだがな。

 単純に体を硬く鋭くする『硬化』は、対人では無敵と言える。まあ、極技だと厳しいかもしれないが。

 対して『スティール』は環境にも対応できるはずだ。金属化という属性を全身に付与するのがこの個性の強みで、熱や冷気の中でも個性さえ解けなければ活動可能だろう。炎の中は呼吸の対策をした方がいいだろうが。

 

 ひたすら暑苦しい男二人の殴り合い。最早喧嘩だ。

 どちらも避けることをしないで交互に殴り合っており、男性ヒーローからはかなり支持されているが、女性ヒーローには受けなかったようだ。

 最終的に鉄哲の鉄分不足という弱点が露出して、切島の勝ち。

 

 

 

 

 爆豪の試合だ。相手が別クラスとはいえ女子にも容赦なく挑むだろう彼の試合を、皆不安そうに見つめている。

 

 「野蛮、ですね」

 「ぶっ殺す……!」

 

 審判の合図で試合が始まり、塩崎は荊を伸ばし、爆豪は正面から両手を爆破させながら特攻。

 荊が自分を包む防壁を作り、同時に三方向から爆豪に迫る。

 荊の攻撃を持ち前のセンスで躱し、ついでとばかりに爆破で燃やして行く。だが燃えるよりも伸びる方が早く、次第に舞台は薔薇の庭園ができつつあった。

 

 「チィ!爆速ターボ!」

 

 両手の爆破で空へと避難……じゃないな。大技を出す為の距離を確保したか。というかあの飛び方アイアンマンかよ。

 

 「燃え散れ……榴弾砲着弾!!!」

 

 真上からの自分に回転を加えて溜めた大技。気づいた時には既に遅く、絡めても細い荊は熱で蒸発し、爆風によって焦げ、引き千切られる。

 そして、着弾点にいた塩崎は堪え切れずに吹き飛び、場外の芝生の上で倒れていた。

 

 爆豪の勝利は決定したが、あまりのヒールっぷりに観客席からはブーイングの嵐。

 俺は倒れている塩崎の方へ降りて容態の確認を済ませる。個性のお陰で頭は打ってないが、爆音と衝撃、光で気絶したようだ。

 

 念動力で浮かせて医務室まで運ぶ。B組の女子が心配で保健室まで来ていたから、リカバリーガールに任せて俺は退散した。

 

 

 

 これで、第一回戦が全て終了、ベスト16が決定した。

 

 

 

 




 
 飯田と耳郎の試合のラストはHUNTER×HUNTERのヒソカとゴンの試合をイメージしました。あの場面好きなんですよね。
 
 今回の能力

 『植物操作』原石
 原石といわれる天然の能力。細胞のほとんどが植物に置き換わっている植物人間。
 「接合」を凶悪に拡大し、金属だろうがプラスチックだろうが取り込んで、その性質を利用する事ができる。
平たく言うと現代兵器を取り込むことで、草花だけでミサイルやチェーンソーを構築できる。
 周囲に張り巡らせた「根」のケーブルセンサーとやらで周囲を走査、自動迎撃を行うようにしたり、縦横に組み合わせた植物の蔦で網を展開したり、植物性アルコールを燃焼させることで高速飛行を可能にしたりと、応用性の高さが伺える。
 また、植物に近い細胞故か、例え胴体を真っ二つにされても時間を掛ければ身体をほぼ無限に再生することができる。(wiki調べ)
 
 


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雄英体育祭 トーナメント優勝決定戦

 毎度お馴染み猫でございますよ。

 今回初めて多機能フォームを使ってみましたがなんか違う。コレジャナイ感が拭えません。やり方教えてプリーズ
 
 文才が欲しい今日この頃。どこかにいい文豪の手や指は落ちてないものか(呪術廻戦)
 それでは、雄英体育祭終幕でござい!


 

 

 蛙吹─┐ 

    ├─┐

 轟──┘ | 

      ├─┐

 篠ノ之┐ | |

    ├─┘ |

 耳郎─┘   |

        ├─  

 骨抜─┐   |

    ├─┐ |

 八百万┘ | |

      ├─┘   

 切島─┐ |    

    ├─┘

 爆豪─┘

 

 

 第二回戦は不穏、という言葉が似合いそうな組み合わせだ。特に初戦。

 俺としては今の轟に手加減ができるとも思えず、個性の冷気がもろ弱点な梅雨ちゃんを不戦敗で棄権させた方がいいと思っている。

 

 ん な 訳 な か っ た !

 

 一回戦の瀬呂同様、瞬時に巨大な氷山とは行かなかったが、霜が降りた極寒の寒さで一番近くにいた梅雨ちゃんが冬眠寸前という自体に。

 これがドームを覆う範囲で発動されていたらと思うとゾッとする。既に舞台に近かった観客席でも個性の関係で体調不良者が何人か出ていた。

 

 「炎系のヒーローに救助要請!轟も手伝え!凍傷の危険がある最前列から確認しろ!俺は対戦者を診る!」

 

 時間が惜しい。座っていた席から拡声器の要領でヒーローの助けを乞い、自分はいち早く梅雨ちゃんの元へ『座標移動』で跳んだ。

 

 「轟、左で周囲の温度を上げてくれ」

 「ああ、わかった」

 

 様々な能力の中から『電解取引』を選択し、梅雨ちゃんの体内のイオン式を組み替えていく。

 冬眠というメカニズムにははっきりした条件が存在する。人間ではまだまだ事例が少ないが30℃前後の極度の低体温症になった後も後遺症なく回復した者がいる。

 加えて、梅雨ちゃんの個性『蛙』は元々冬眠する能力が備わっている。冬眠時は細胞膜を通して細胞内外のイオンをやり取りして細胞内のイオン濃度を調整していることがわかっている。

 ならば、直接体温を上げるよりも周囲の温度を上げ、冬眠の準備から一度進行を進めて自然に冬眠状態から目覚めるのが最善だ。

 治療は思惑通りに成功し、一度目が覚めた梅雨ちゃんが安心するよう頭を撫でて眠るように言う。

 

 体力の消耗が激しいので試合は棄権し、点滴を打ちながら保健室に運ばれていった。

 

 「篠ノ之、助かった。ありがとう」

 「まあ、氷塊に閉じ込めなかっただけ轟にとっちゃ手加減したんだろ。そこはわかってる」

 「ああ、まだ細かい調整は苦手で」

 「皆まで言うな。梅雨ちゃんは体力こそ消耗したがすぐに回復するだろう。安心しろ。それに次の相手は俺だ。遠慮なく全力を出して来い」

 「……ああ」

 

 轟はあれで大丈夫だろう。試合を中断して騒つく観客席を無視し、実況席に視線を向ける。

 

 『情報提供Thank you☆万能ボーイ!彼の迅速な対応で蛙吹梅雨は無事だ皆安心しろー!功労者の彼にClap your hands!』

 

 万雷の拍手がドーム内に響き渡る。こうなる事を想定しておいて対応はしたが防げていないから、俺にとっては皮肉の嵐なんだがな。

 軽く手を振ってどうせ次の試合は俺だし、という事でそのまま舞台に居座ることにする。

 

 

 

 

 個性で作られたコンクリート製の舞台に腰掛けて待っていると、反対側の通路から対戦相手が姿を見せた。

 

 「待たせたね」

 「いやそれ程待ってない」

 

 待ち合わせの恋人がするような会話だが、生憎俺達の関係は師弟、またはクラスメイトだ。甘酸っぱい青春はない。残念だったな。

 

 『さあお待ちかね第二試合!対戦カードは第一第二種目堂々の一位通過!ヒーロー科推薦生にして特待生!そしてそして!ついさっきのリカバリーガールお墨付の完璧かつ迅速な救助能力まで発揮した雄英創立以来の万能選手オールラウンダー!その名も〜……篠ノ之解だああああ!!!』

 説明が長い……。観客席から多少の野次はとんだが、それよりも遥かに称賛の声が大きい。

 

 『対してぇ!第二種目は篠ノ之と同じチームで一位通過!ヒーロー科のロッキンガール!耳郎響香ぁああああ!!!』

 

 「遂にここまで来たよ。特訓の成果、見せたげる」

 「更に進化してると嬉しいんだがな」

 ゴングが鳴り、耳郎が距離を縮めてくる。

 

 

 「それと……俺の今回の個性を教えてやる」

 

 

 ズボンのポケットから右手だけ出して人差し指をわざとらしく振る。

 「は……何それ?」

 「これが俺の個性『念動力』だ」

 

 バコンッ。舞台の一部が力任せに引き抜かれ、そのまま指が指す先でふわふわ浮遊していた。

 そして、その亀裂はさらに大きくなり、耳郎が足場にしていたコンクリも含めた舞台全体が宙に浮かび上がる。

 

 「代わり映えのないステージだとエンターテイナーとして地味だろう?派手に行こうぜロッキンガール」

 

 観客席最前列に合わせた高さの空中舞台で、今度はこちらから距離を詰めて行く。

 サイキックとしては一番汎用性が高くメジャーな超能力の一つ、サイコキネシス。

 その最高峰がこの『念動力』だ。

 ゼロから生み出せる力の大きさにおいて最強を誇り、最大重量は10万tを超える。

 50階以上の超高層ビルを視認できない地下の地盤ごと軽々しく持ち上げ、固体のみならず液体、気体を一滴も漏らさない精密性。

 だが、生物は対象外だったり、その出力とは反比例して操作は指先のみに限られる。だから俺の両手は埋まっている。

 

 「さあ、かかって来い」

 先程無理矢理引き抜いた舞台の一部をもう片方の手で動かし、耳郎を狙う。

 

 「く、この!」

 耳郎は慣れない高さに困惑しつつも個性の『イヤホンジャック』で瓦礫を破壊しにかかり、同時に残りの一本で俺を狙っている。

 

 手は動かせないので、足で凌ぎつつ砕かれた瓦礫を諦め、手を肩に持っていきそのまま宙を掴む。

 

 「耳郎、防御しな」

 大気を掴み、力任せに耳郎のいた場所へ叩きつけた。

 「デタラメかよ!?」

 

 広範囲で舞台が崩れ落ち、空気を手放した俺はすぐに片手の指全てを使って瓦礫を多方向から操り、再び耳郎を翻弄する。

 

 「くっ!攻撃したいのに防御に専念させられる!」

 「なら俺に近づけてやろう」

 

 舞台を浮かしていた指を少し曲げれば、耳郎側の足場が上がり、斜めに傾いた。

 「うわ、ちょ!」

 

 尻餅をついてずるずると滑り落ちてくる耳郎。それを笑いながら俺の足元に来た瞬間傾きを戻してやる。

 「よく来たな」

 「このっ」

 「おっと」

 頭上で待機させていた瓦礫を落とす。当たる前にイヤホンジャックの内部破壊で防がれる。

 

 何度かそれを繰り返していれば、もうほとんど足場がなくなってしまってお互いに動けなくなっていた。

 

 「さあ、逃げ場はないぞ」

 「くっここまで来て……!」

 

 耳郎のギリギリ射程範囲内に近づけているが、その周囲を瓦礫が旋回したり、耳郎を狙っているので手数が足りない状況だ。

 対して俺は下に落ちてる瓦礫を拾えるし、ここで終わりかな。

 

 「一か八か!」

 「策があるのか?見せてみろ」

 

 瓦礫の一つを動けない耳郎目掛けて飛ばす。絶体絶命の中、彼女が取った行動に俺を含め観客達も度肝を抜かれた。

 その場でジャンプしたかと思えば、近くで旋回していた大きめの岩に飛び移ったのだ。そして俺の支配下にある次の瓦礫へと両耳で牽制しながら近づいてくる。

 

 「おいおい、クレイジーだな」

 「このまま何もできずにやられるなんてごめんだね!くらいな!」

 

 両手が使えない俺の腕ごと拘束し、最後の足場に降り立ってジャックを刺そうとした。

 

 「詰めが甘い」

 足場だった瓦礫は制御を失って降下、いや落下を始めた。

 「マジか!?」

 「ガッツは認めるが、残念だったな」

 

 地面に叩き付けられる。耳郎が目を瞑った時、拘束が外れたのをいい事に彼女の体を横抱きに抱えて足場から上の方にあった瓦礫へと飛び移る。

 

 「よっほっと……ほらよ」

 

 足場の瓦礫が地面に落ちて揺れるが、そこは人外仕様のこの体。体幹もオーバースペックで出来ているから、抱えていた耳郎には全く揺れを感じさせない。

 固く目を瞑っていた耳郎を地面に立たせて、審判の方を見る。

 

 「耳郎響香場外!よって、勝者!篠ノ之解!」

 「あんなの反則じゃん!」

 「ルール違反はしてないぞ?それにしてもよく粘ったな」

 「当たり前。鍛えてもらったんだからここで成長を見せたかったのに……」

 「ま、これからに期待だな」

 

 

 

 

 次の第三試合、B組の骨抜と八百万の試合だが。

 正直、八百万の圧勝だろう。舞台を柔らかくしようと効果が及ぶ前に今の八百万ならいくらでも遠距離武器を創造できるからな。

 

 「ぎゃああああ!!」

 「終わりですわ」

 ほらな。

 

 

 

 

 切島と爆豪の試合をすっ飛ばし、俺は控室から出る。合わせたかのように轟の姿も反対側から見えた。

 

 「轟、はっきり言うが今のお前じゃ逆立ちしても俺には勝てない」

 「……やってみなきゃわかんねぇだろ」

 「いや、事実だ」

 

 試合開始の合図が鳴り、轟のワンパターンになった足元からの冷気が舞台に霜柱となって走る。

 俺はそれを、右手で触って冷気など無かったかのように、ガラスが割れた様な音が響いて消え去った。

 

 「何だと?」

 「これが、戦闘訓練の種明かし。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』だ」

 

 本来なら俺の右手に宿るはずがなかった理想であり、魔術師達の怯えと願いが結実したもの。

 歪んだ世界を元に戻す為の基準点。それこそがこの右手の本質だ。

 原石に含まれていたが、これはその器に収まるようなモノでもないし、本質が逆だ。

 これは長くなるからまた別の機会に話すとしよう。

 

 「俺の右手は、触れた個性を調和の取れた状態に打ち消すことができる。イレイザーの『抹消』とは違い個性を発動させない内に抑制することはできないが、事象が起こった後でもこうやってなかった事にはできる」

 だからお前は俺には勝てないと言ったんだ。

 

 俺の能力と、言葉の意味にやっと理解が及んだのか悔しげな表情を浮かべてこちらを睨む轟。

 矢継ぎ早に氷塊や冷気を出すが、尽く俺の体に届く前に右手が全てを打ち消してしまう。

 

 「手は出し尽くしたか?もう降参なのか?お前の力はこんなものか」

 「違う!」

 「なら次は何をするんだ?まだ使っていない左とやらを使うのか?それは万年二位の個性だろう。自分で使わないと言ってなかったか?」

 「ああ、そうだ……俺は左を使わずにお前に勝つ!」

 「それは無理だ」

 

 拳を握り、振り被る。一歩で距離を詰めてその火傷があった左をぶん殴った。

 「があ!?」

 

 ただ純粋な身体能力。進化の暴力とも言える人類の到達点。肉体が限界を超えた完璧な美の調和を備えた叡智の結晶。それが、俺の双子の姉とその親友のDNAで作られた体だ。

 凡百の強化系個性の追随を許さない頑健な肉体に素の力だけで車や自動販売機を持ち上げ、投げつけられる身体能力。

 手加減したとはいえ、生身の人の体など軽く吹き飛ぶ。

 

 背後に氷をいくつも作ってクッションにしたが、三つ程砕いて漸く舞台の淵で止まった。

 後一歩でも踏み出せば、場外となってそこで終わりだ。

 

 「万年二位に殴られた時はこれ程痛かったか?」

 「……」

 「なら、母親に叩かれた時は?」

 「……ぅ」

 「聞こえないぞ。所詮お前の両親はその程度だ。変化系の個性で肉体を鍛えても増強系には勝てないんだよ」

 「違う!」

 「何が違うと言うんだ?駄々を捏ねるガキみたいに吠えてないで反論しろ。もしくは行動で示してみろ」

 

 例えば、この俺に土をつけるとかな。

 

 「母さんは誰よりも優しかった!親父は誰よりもかっこよかった!俺の憧れた人達を侮辱するな!!」

 「だからどうした?現にお前は父を嫌い!母を避けている!お前の様な甘ちゃんが俺は一番大嫌いだ!」

 

 怒りに任せて轟の両側から氷と炎が天に迫らんと高く昇る。

 

 

 

 「ようやく、壁を越えたか!焦凍ぉぉぉおおおお!!!」

 

 

 

 長い腕の様にそれを俺に目掛け、合わせる。

 圧縮された氷が、高熱によって瞬時に溶かされ爆発的に膨張する。ドームの閉塞的な作りが風の逃げ場を失い中を吹き荒らした。

 

 これ以上は被害が出ると、中心部の台風の目にいた俺が、右手を爆風に触れれば何事もなかったかの様に、風は消えて轟の個性も収まっていた。

 その轟はというと、最初の爆風で吹き飛び、壁にぶつかって気絶していた。

 審判に声をかけて、寝ている彼の体を診る。

 

 「打身はあるが、他に異常はないな、リカバリーガールに頼めばすぐに回復する程度だ」

 

 何より一番酷い怪我が腫れ上がった左頬というのだから、丈夫に産んでもらえたことに感謝するといい。

 轟の寝顔は憑き物が落ちた様な、晴々としたものだった。

 

 

 

 

 準決勝第二試合。

 八百万と爆豪の試合。体育祭も大詰めに近づき、爆豪は最初っからフルスロットル。タフネスは入学当初から教師陣に褒められていたが、ここに来てまだ消耗が見られないのは素直に称賛する。

 

 八百万は言わずもがな。どちらも分析型の性格をしており、ならばパワー不足の八百万の方が少し不利か。

 彼女のマルチタスク全て動員しても、迫り来る爆豪、近距離での爆音や閃光で創造に集中できてない。いつも出している超々ジュラルミン製の盾ではなく、多少重くはなるが熱に強いタングステンを使用している。それでも爆豪の速度の前では徐々に後退するしかなく、最終的に決定打がないまま場外まで押し切られてしまった。

 

 創造の速度と集中力、そして創造物を上手く使える技術がこれからの課題だな。

 両手を収めた爆豪が不完全燃焼のまま引っ込んでいく。八百万も見てわかるほど肩を落としていた。

 

 何もできなかったことがそれほどショックだったんだろうが、ここをバネに跳ね上がって欲しいものだ。

 

 

 

 

 

 遂に、雄英体育祭トーナメント決勝戦。

 泣いても笑ってもこれが最後。と青春らしく言ってはみたが全く俺には似合わないな。そんな熱血って訳じゃないし。

 舞台に上がっていた爆豪は、ここまで見てきて一番の凶悪な顔をしており合図すら待てそうもないほど闘志に燃えている様だ。

 

 「おい」

 「ん?何だ?」

 「今まで使ってた個性全部使いやがれ」

 「それをすれば俺は失格になるが、それでもいいのか?」

 「ケッんなもん自分で課した枷だろうが、関係ねぇ」

 「そうだな。イレイザーには言っているが、これは俺自身が決めた枷。審判のミッドナイトは俺が複数の個性を同時使用しても声すら上げないだろうよ」

 「だったら」

 「だが、お前の主張も俺には関係ない。お前は俺に勝つ前提で話しているが、自惚れるなよ?」

 

 一度相対した巨悪に勝るとも劣らない、威圧感を爆豪のみに向ける。

 

 「んな!?」

 「ちっぽけな爆竹風情が、よく吠えたな?」

 

 指を空に向けて一言。

 「BANG☆」

 

 指先から高圧電流が迸り、空目掛けて一直線に飛んでいく。先程の爆豪の閃光や爆音とは桁違いの稲妻が齎した破壊は、周囲の人間の視覚と聴覚を一時的に奪っていた。

 やがて空に奔った雷は黒雲を発生させ、騒がしい風が吹き荒れる。

 

 「「「……」」」

 「来いよ、爆豪」

 「クソが!考えろ……」

 「余所見とは、余裕だな?」

 

 雷を纏って全身の反射神経と運動神経を刺激した結果、元の身体能力もあり生身でも高速で移動できる様になった。これは全身を巡る電子の操作に長けているからできるのであって、ただ体質や個性で同じ事をすればすぐさま全身が電子レンジになって爆発四散することになる。

 個性で場を支配し、力では競うまでもなく、速度で上回った。さあ、どうする?

 

 「ちょこまかと!死ねぇ!メルヘン野郎!」

 「今は違うぞ」

 

 移動する度バチバチ足元に電流が流れる。次に来るとしたらその音を頼りにしてるか、移動先を予測して爆破だろう。

 

 「ハッハァ!そこだ!」

 予想通り、電流が流れた先を次の着地点と予測して爆破してきた。その観察力をもっと他に向ければいいものを。

 

 「惜しかったな」

 「チィ!」

 

 インターバルがある訳じゃない。爆破される前に着地点を通過点としてすぐに移動しただけだ。そろそろ向こうも温まってきた頃だろ。

 

 「俺からも攻撃するぞ」

 

 手を上に翳して電子を操作する。電流から雷に、雷がさらに形を変えて大きな槍へと固定された。

 

 「個性は便利だな。万年二位は炎の個性を持つが、ただ燃えているだけじゃない。こんな風に炎を武器の形に変化させ、貫通力や破壊力を上げている」

 個性は熟練させれば応用が広がる。

 

 「その点、爆竹。お前の『爆破』はどんな経済効果がある?伸び代がある?一つ前の大爆発。あれが最大威力だろ。個性を鍛えれば威力は上がるが、工夫がないな」

 「ペラペラうるせぇ!クソナードがあああ!!」

 「ナードじゃないのは知ってるはずだが?それはさておき、威力に目を瞑ったとて個性の本質は破壊だ。そして派手さは同時に隠密行動を不得手にしている。今までそれで済む名ばかりの格下を相手にして来た奴の定型的な驕り。それが今お前を縛る焦りだ」

 

 「うるせぇってのが聞こえねぇのか!!」

 「お前の爆破の方がうるさいに決まってるだろ、バカか」

 

 それよりいいのか?喋ってる間に雷槍はどんどん増えるぞ?

 

 「行け」

 10本まで増えた槍が舞台上を縦横無尽にかけ、爆豪へ全弾着弾する。雷速だしな、避けれるはずがない。

 

 「ガアアアアアアア!!?」

 「Aは下げておいた。死にはしないが痺れるだろ?」

 「が……ぐぅ!」

 「さっきはああ言ったが、伸び代が無いわけじゃない。その才能、独学でどこまでいけるか楽しみにしてる。じゃあな」

 

 指を鳴らせば、今までの抵抗が嘘の様に大人しくなり、こてんっと意識を手放した。

 最後爆豪を強制的に気絶させたのは『超電磁砲』ではなく、『心理掌握』なんだけど。同じ電子操作系だからいいよな?

 自尊心の塊みたいな奴だから、特別にレベル6の能力を二つも使ってやったんだ。それを知る時は来ないだろうが感謝してほしいね。

 

 ミッドナイトの声で、観客もハッと意識が戻り勝敗が決したことに歓声を上げる。

 あとは表彰を残るのみ。色々とあったが、無事に雄英体育祭が終わった。

 

 

 

 

 表彰式となり、全校生徒がグラウンドに出て並んでいる。

 ベスト4に残った俺、爆豪、轟、八百万。くじ運もあるが入学当初からの推薦生と入試主席が顔を並べる結果となった。

 俺に届かなかった爆豪が狂犬にする口輪と両手を拘束された状態で、本物の犬より吠えている。

 三位の位置には轟と八百万が並んでこちらを見ていた。

 

 「爆豪、お前は静かにしてろ」

 再び指を鳴らせば抵抗虚しく気を失って静かになる。教師陣も生徒も苦笑いだ。

 

 『では!メダル授与はこの人に行ってもらいましょう!』

 

 天井が開けたドーナツ型のドームの屋根の上、太陽の光に紛れて誰かがそこから飛び降りた。

 

 メダル授与にぃぃぃい」

 「ワタシが『我らがヒーローオールマイト!!』たぁああああ!!」

 

 スタッ!綺麗に着地を決めてポーズを取るオールマイトに、マイクで音量を上げていたミッドナイトの声が重なる。

 

 「「か、被ったー……」」

 それはもう盛大にやらかした。

 

 気を取り直して、メダルを受け取ったオールマイトが三位から順番にオールマイトが首にメダルをかけていく。

 

 「おめでとう八百万少女。君の機転や作戦には驚いたよ。篠ノ之君に鍛えてもらってるんだってね。頑張るんだよ」

 「はい!」

 

 「轟少年、随分と憑き物が落ちたような顔をしているが、彼との試合は得るものがあったかい?」

 「はい、俺の原点……思い出せました」

 「それは重畳。これからも家族仲良くね」

 

 一段上がり、爆豪を起こす。

 「宣言通りとはいかなかったが、自分を鼓舞するのは良かったぞ。爆豪少年」

 「……俺はもう負けねぇ、アイツにもアンタにも」

 「うむ、だからこれは傷として取っておきなさい」

 手が塞がっている爆豪の首にそっとメダルをかけた。

 

 さらに一段。2m級の巨漢が俺の前に立つ。

 

 「さぁ、どうだ篠ノ之君。ここから見える景色は!」

 「予想通り、と言っておきます。俺はここに立つべくして立った。それだけの経験と知識と実力を持っていると自覚しています」

 「凄い自信だ。ヴィラン襲撃の時は、間に合わなくてすまなかったね。そして相澤君や生徒達を守ってくれて、ありがとう」

 「俺はできることしたまで、それに結局主犯格を取り逃がしてしまった。それだけが悔やまれますね」

 「そうだね。しんみりした話はこれで終わり!優勝おめでとう篠ノ之君!!彼に万雷の拍手を!」

 

 

 「それでは最後に皆さんご一緒に!」

 「「「Puls うる」」」

 

 「お疲れ様でしたー!!!」

 オールマイトが一人違う言葉を発して、全員から大ブーイング。言い訳をしている彼の後ろ姿が小さく見える。

 

 最後に締まらないなぁ、まだ青い空を見上げてそう独りごちる。

 

 

 何はともあれ、雄英体育祭、全工程終了。

 

 

 

 




 
 
 
 今回の能力
 今回は大量ですよ〜
 
 『座標移動』
 実質移動系最強格。視界にあるものないものを11次元から演算、観測して任意の場所に転移させる。能力の相性もあるがカメラなどを通せば認識外から分断させたり、体内に無理矢理異物を混入するのもお茶の子さいさいな万能能力。
 転移させる制限は重量と距離。本来の使い手はトラウマにより自分を移動させれなかったから、最強には一歩届かなかった。
 
 『電解取引』
 原子のイオンを操作できる能力。シャワーでマイナスイオンを補給したりできるぞ〜。この能力についてはここまで!
 
 『念動力』念能力ではないので注意
 いわゆるサイコキネシス。テレキネシスと呼ばれる念じるだけで物体を浮かせたり、曲げたり引きちぎったりする能力の総称。
 手品とかで見るスプーンやフォーク曲げを想像してくれ。詳しい原理は自分もわからん。
 
 『幻想殺し(イマジンブレイカー)
 みんな大好きカミジョーさんの男女平等パンチが轟の顔面にシュー!
 超☆エキサイティンッ!!!
 詳しい説明は本編で話した通り。ほぼwiki丸写しだが許して。
 ちなみに能力でも原石でもないが、当時は知らんかったんや……。
 
 『超電磁砲』&『心理掌握』
 まとめて登場。どちらも電子操作系最強に精神系最強の能力で同じ電子操作を特化させたもの。万能性が高過ぎて本来の使い手も精密性はあっても持て余していた節がある超能力。
 前者だけでは殺意が高過ぎて爆竹君を滅殺してしまいかねないので、例外的に無力化しました。
 使わないって言ってたじゃん!辞退しろ〜!意見は受け付けます。
 
 


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