もう一度、その笑顔を見るために (キマリスヴィダール)
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Passage:1
よろしくお願いします。
どんな人間にだって家族を持つ事が出来る。それは全ての人に与えられた平等な権利。自由に暮らしていく事を保証されている。
ただし、しっかりと仕事でもなんでも、お金を稼ぐ方法を知っていればの話。それと、人生を共に歩んで行く為の相方が必要ですけど。
一般的な所で話すのならば、一企業に務めるようなサラリーマン。銀行員だったり、社会的地位の高い公務員だったり。
世間には、様々な仕事が溢れている。
どの職業も人を求め続けてとどまることを知らない、大きな闇鍋。その中で様々な立場の人間が協力し合って、味わいを深めあっていく。
誰も一人でなんて生きていけない。
人は生きている限り一人だ。
いざ煮詰まった大釜の蓋を開けてみれば、そんな答えのないような結果しか残らなかった。
──────────────
私の家族はお父さんにお母さん、そして姉が一人と私。それと犬が一匹。まったくもって普通の家庭。
ただ、一つ例外はありますけど。
それと言うのは父さんも母さんも、バリバリの芸能人だったって事。
父さんは俳優業です。ここ最近も映画に主演として出演していて、そこに母さんも女優として活躍している。
なんとなく分かるかもしれないけど、2人の馴れ初めはドラマの共演です。冴えない主人公とそのカチカチの有能キャリアウーマンのヒロインを演じた事で、そのまま本当にゴールイン。ドラマも大流行になったらしく、『2人で全てを捨てて駆け落ちするシーン』に憧れてしまい、多くの若者達が行方不明になるという事件が多数発生してしまうほどだったといいます。
――まぁ、そんな事はどうだっていいんです。
私は双子の妹として、この家庭に生を受けました。
はい、私には姉がいます。昔はよく一緒に遊んだし、色んなことをして一緒に親に怒られたりもしました。
昨日も楽しかったし、明日もきっと楽しい事が起きる――って小さい頃の私はそう信じていました。
現実は単純じゃないんだって、思い知らされました。
私と姉さんが経験した10回目の誕生日の時。
父さんと母さんは姉さんに、習い事感覚でひとつの事を押し付けようとしていたのです。
それが『子役』、姉さんの人生はここから狂い始めていた。
『今回限りという約束』の、たった一回の仕事。母の出ているドラマ番組を構成する一つのパーツとしての役割を任せられたのです。
その時の姉さんはその誘いをなかなか引き受けようとしませんでした。両親に反抗などした事の無いような姉さんが、初めて断ったのです。それも他でもない、妹である私の為だけに。
「ごめんなさいお父さん、お母さん。私は
その時の私はどう思っていたのかな。
記憶の中で姉さんは何度もそうやって、親の提案から私を守り続けてくれた。きっと素直に嬉しかったはずだ。親の言うことを蹴ってまでも、自分との時間の方が大事だと姉さんは言ったのだ。
でも、父さんも母さんも諦めずに頼み続けて、結果としては姉さんは折れてしまった。その時だけって言っていたはずなのに、そう約束をしてた筈なのに。
姉さんは事務所に入ってしまっていて、それに伴ってだんだんと多忙な生活になってしまっていて。
私達姉妹の時間も少しずつ、少しずつ、減っていった。
それだけなら仕方ないと思えた。――いや実際、仕方ないなんて思えなかった。本当はもっと遊んで欲しかったり、色んなお話をしたりしたかった。妹っていうモノは、姉を追い掛けるのが楽しいのだから。それでも、姉さんの迷惑になるのは嫌だったから、ただ我慢していただけ。
でも、小学生になって、中学生になって、高校生になって…。
そんな頃になるともう、私の姉さんはどこか遠いところに行ってしまっている感じがして、とても知っている人とは思えなくなって。
姉さんは昔、どんな顔をして笑っていたのか。
私にとってはとても大事な事だけど、偶にそれを忘れてしまいそうになってしまう。
──────────────
最悪の気分で、一日が始まる。気持ちが悪くて、ぐらぐらと揺れ動く視点。
「───」
こんな景色も何回目だったかな。見たくも無い光景を見せられて、朝から私のテンションは地面を突き破りそうな程に下がってしまう。
嫌な、夢。
カーテンを開けば、眩しい陽の光が私の身体を照らしていく。姉さん譲りの、自慢の髪が光を受けて輝きを放つ。
たったそれだけの出来事なのに、なんだか嬉しい気持ちで一杯になる。
時計は午前6時半を指している。また眠くならないうちにベッドから出て、洗面台の鏡で寝癖のチェックを済ませてから朝食の準備を始める。
本来ご飯を作るはずの親は二人ともいない。あの人達はいつもそう、いつも通りの仕事。あの人達の顔も、もう1週間くらいは見ていない気がする。というかそれくらいはざらであることだから、今更気にしたりはしないけど。
お金とかの仕送りはしてくれているし、仮に無い場合でもどうにだってできる。好きじゃない両親の顔を見なくて済むのも、それはそれで最高だし。
ま、それはさておいて。
野菜室からロメインレタスとか、ベーコンとかを適当に取り出す。量もテキトー。レタスは素手で食べやすい大きさに引きちぎって、ベーコンは指の関節くらいの大きさにカットしておく。
ベーコンは油を薄くひいておいたフライパンに投入して焼き色が着いたのを確認し、キッチンペーパーの上に放る。うまく油を吸い取ったら、さっきのレタスと市販のクルトン、自作のドレッシングと一緒にボウルに入れて味が馴染むようによく混ぜる。
皿に盛り付けて、仕上げに粉末チーズとペッパーを振り掛けて完成。お好みで半熟卵でも乗っければさらに良いかもね。
他にも軽く食べられるような食事を用意して食卓に運ぶ。ソーセージにスクランブルエッグ、さっきのシーザーサラダにヨーグルト。加えて日本人の魂である白米とお味噌汁。朝ご飯にしてはそこそこボリュームのあるメニューでは無いだろうか?
これでようやく食事、という時に私の姉さんは今日もその美しい姿を私の前に現した。
私とおそろいのブロンドの長い髪をハーフアップにまとめて、それをいつもの白いリボンで結んだヘアースタイル。今日は普通の学校の日なので、そこにベージュ色の制服を着こなしている。
あぁ……!とてもベリービューティフルです、姉さん。すっごくいい匂いがします!そんな姉さんは私に向かって、ニコりと笑って一言。
「おはよう、聖來」
「うん、おはよう姉さん」
ありがとう姉さん、これで今日も頑張れます。
白鷺千聖。
それが、私の姉さんの名前。だから私も白鷺、そこに姉さんの『千聖』から一文字借り受けて『聖來』。
だから、白鷺聖來。
それのおかげかは分からないけど、私と姉さんには類似点があったりする。髪の毛の色とか、背丈とかね。
ま、それはそれ。
今日もこうやって何事も無く挨拶を交わすことが出来るだけで、私には幸せを充分に感じる事が出来ます。姉さんは今も芸能人として、仕事を続ける傍ら学校にも通っているので、私がまだ眠っている間に仕事で家を出てしまっていたり、一日家に帰ってこれないことも偶にある。
そんな姉さんの負担を少しでも減らすために、親がいないせいで滞ってしまう家事全般を全て私が引き受けているのです。芸能人として活躍する姉さんの負担に比べれば、これくらいはなんて事ないのです。
「姉さんは先に食べてていいよ、私はお弁当作らないといけないから」
「いいえ、聖來がまだ忙しいのなら私も待っているわ。一緒に食べましょう?」
「そっか。うん、分かった。じゃあさっさと作っちゃうから待っててね」
一見、普通の姉妹の会話に見えるだろうけど、私はやっぱり気に入らないところがあります。
それは、姉さんの『顔』です。姉さんは昔の頃――7〜8年くらい前、それこそ姉妹揃って遊んでいた時――は感情豊かで、表情もころころと変わる様な人でした。
でも、芸能界という闇の深い業界が私の姉さんを変えた。
変えられてしまった。
時間の流れは残酷です。共演者とのいざこざを避けるために姉さんは、親の指導によって仮面――つまりは偽物の顔――を植え付けられてしまっていた。道化を演じる事を小さい姉さんに押し付けたのです。多感な時期をそんな仮面を付けて過ごす事を余儀なくされた姉さんの顔が、歪んでいくのは必然のことでした。
幼い私はそれには気づくことが出来ずに、そのまま成長を続けてしまって。その結果として、私達は家族の筈なのに、いや家族というよりも姉妹なのに、その姉妹の私と話す時にでも。
その仮面を付けて会話をするのです。
仮面の上に現れる笑い顔、怒り顔、哀しみの顔、楽しい時の顔。
どれもこれも姉さんの高度な演技技術によって、まるで心の底からそう思っているように錯覚させるその仮面。
でも、姉さんの事を一番誰よりも知っていて、誰よりも一番近くにいた私からしてみれば、その顔をしている姉さんの事は。
……正直言って嫌いです。
どうして私にすら、その仮面が必要なんですか?血の繋がっている貴女のたった一人の妹だっていうのに…!
「聖來?どうしたの、さっきからぼーっとしているわよ?」
「えっ?あぁ、うん……大丈夫。ちょっと何作ろうかって考えてただけだから」
「そうなの?まぁ、聖來の作るものは何だって美味しいから、最近お昼の時間がもっと楽しみになって来たのよ?」
「あははっ!そう言ってくれると、作ってる私としても嬉しいかなぁ」
小さい頃の感情豊かだった姉さんを間近で見ていたおかげがどうかは知らないけど、私は人の気持ちや感情に割と敏感だ。自然とそういうのに気づけるようになっていた。
だからなんとなくだけど、姉さんが仮面の裏で考える事も大体分かったりする。そう、今姉さんが「今日のお弁当何かしら?」って考えてる事も分かるんだから。
「ふぅ……。はい完成っと」
二つの色が違う弁当箱に、具材を詰め込んでいく。ほうれん草とベーコンの炒め物だったり、有り合わせで作った簡単和風ハンバーグだとか、彩りに問題は無い。余り高カロリーなものとか、脂っこいものを姉さんは余り好まない。あと納豆。
納豆の何がいけないのだろうか!多少癖はあるけど、素早く食べられて且つ美味しい。芸能人のような多忙な生活には割とぴったりだと、あぁでも口臭が少しきつくなっちゃうか……。そりゃあダメだよねぇ……。
「聖來」
「今日はね、ほうれん草とベーコンのソテー、玉子焼きに和風ハンバーグ」
「まだ何も言っていないわ」
「弁当のコトを知りたそうな顔してた」
「いえ、まぁそうだけれど……」
「でしょ?よく見てるんだから、私はさ」
弁当箱をバンダナ位の大きさの布で包んで包装完了。そうしたら、やっと朝ご飯を食べるお時間になりました。
「待っててくれてありがとー、じゃあ食べよ!」
「ええ、そうしましょう」
「「いただきます」」
こうやって、私達姉妹の何気ない一日は今日も始まります。こんな日がずっと続けばいいのにな。
なーんて考えながら、箸で
次の更新はいつかは知りません。
書き溜めが無いって事だけは伝えておきます。
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Passage:2
今日もよろしく。
さほど強くはない日差しの下、私は姉さんと別れて学校へと向かい始める。
花咲川女学園は地域では割と偏差値の高い学校で、私の姉さんもそこに通っている。最近校舎を立て替えたお陰なのか、入学者数が増加し続けている進学校です。
そこは普通の学生から、いい所のお嬢様まで。これまでも、幅広い事情を抱えた生徒が自分の学力に物を言わせて入学してきた。
――まぁ、姉さんはある程度の学力と知名度のお陰で、推薦によって入学したので違いますけど。当然ですね、姉さんはそこらのお嬢様如きとは比べ物にならない品格ってものがありますからっ。
最初は私もそこを志望していたのだけど、私の学力には見合わないであろう事を見抜いていた。私の学力が追いつかないのではなく、むしろ逆。学校の方が低すぎてなんですけど。その点、羽丘女子学園の方は、私の学力にピッタリだと言えた。
そっちの学校に行っても良かったけれど、やっぱり姉さんと同じ学校に行きたい、という思いの方が強くて心の中ではそう決めていたのだが……。
その思いを話してみると。
「いいえ、それはダメよ。貴方は私よりも勉強が出来るのだから、それを活かしていかなければダメよ?」
って、やんわり断られてしまい、渋々高校から羽丘に入学する事を決めたのでした……。
──────────────
っていうのが、今より1年前の話。
今日も通学路の途中で姉さんとは別れて、私と同じ制服を来た生徒がたくさん歩いている坂道を登っていく。実は姉さんには話していないけれど、私は昔っから低血圧で早起きするのは正直とても辛い。その事も姉さんには内緒にしてるけど、これも姉さんの為だと思って頑張っているのです。褒めて?
今は5月だと言うのにまだ桜が残っていて、少しおかしな気持ちになる。例年通りのこの時期なら、そろそろ蝉がけたたましく鳴き声を響かせる頃だというのに、蝉の1匹も見かけないとは珍しいものだ。まぁずっとこのまんまでいいんだけどねー。
あー、まだ春なんだなぁ……って何となく桜を見つめていると、聞き慣れてしまった喧しい声が背後から聞こえてきた。
「ああっ!やはり君の姿は桜と相性が良いみたいだね。とても……儚く感じるよ!」
「……はぁ、薫。ホント今日も朝からうるさいって」
「おや、今日の子猫ちゃんはご機嫌斜めみたいだね?」
「『今日も』ね。あんた私が朝低血圧だって知ってるはずでしょ?」
「ああ、知っているとも。私なりに元気を分け与えたつもりだったのだけど、逆効果になってしまうとは!」
「このやり取りかれこれ何回目だと思ってんの……?」
うん、十分に伝わってるよ。事実、アンタの周りを見てご覧よ。ファンであろう人がぶっ倒れてるでしょ?ピンクっぽい髪の巨乳の子が倒れているのが見えないかな?
さて、この朝からハイテンション過ぎて喧しい人は瀬田薫さん。演劇部に入っていて、どういう事か分からないけど猫を被っている。正確には、何かしらのキャラを演じているというだけだけど。でも、そのおかげで、さっきも言った通りファンが出来ていて、学校側としては『問題児』の認定をされている二つの意味で有名な人だ。
だが女だ。
それと、私とは幼なじみって奴です。当然の事ながら姉さんとも。私は好きでも嫌いでも無いって感じだけど、姉さんの薫に対する当たりは相当強いものです。
……一度、私にもあれくらい強く罵るような目で――いいえ、何でもありません。
「それで、ハロハピの方はどうなの?」
「こころの考える事には、いつも驚かされてばかりだよ。だが、やんちゃなプリンセスを見守るのも、ナイトである私の勤め……!」
「あーはいはい、おっけーです」
「やっぱりノリが悪いなぁ……」
「低血圧だって言ってんじゃんさぁ……」
唐突に素に戻るな。役者ならちゃんと演じきりなさいっての。
そして、瀬田薫という人物を語る上でもう1つ話すべきポイントがある。
彼女は『ハロー、ハッピーワールド!』というバンドのギターを担当しているのです。さっき薫が言っていた『こころ』というのは、そのバンドのボーカルの人の事だ。私も何回か薫の紹介で会ったことがあるけど、凄く押しの強い人だったな……。こう、グイグイ?来る感じの。
何故そうなったか、という経緯は知らないけど、本人が楽しそうにしてるんだからいいんじゃないかな。
そのまま昇降口にて出会った薫と一緒に教室まで向かう途中に、この学校もう一人の『問題児』と遭遇してしまった私の不運を呪いたい。
「あーっ!聖來だー!やっほー!」
「……まためんどくさいのがっ」
「日菜、こんな所で会うなんて……、奇遇だねぇ」
「いや、教室ほぼ目の前なんだから奇遇なんかじゃないでしょ……」
「あははは!二人とも朝から元気だね〜」
「日菜もでしょ?」
氷川日菜。
世間一般で言う所の『天才』と呼ばれるような存在です。一度見たものは大抵こなす事が出来たり、参考書も一度見れば二度目は必要ない程に理解出来てしまう程、記憶力がずば抜けていたりと、才能溢れる変態。体を動かすにしても、初めての事でも常人の比にならない速度で成長していってしまう。
そんな彼女は薫とは違う意味で有名人である。その訳は、最近テレビに出演していたお陰で、話題沸騰になりつつあるアイドルバンド『Pastel*Palletts』のギターを務めているからである。
そしてそのバンドには何を隠そう、私の姉である白鷺千聖も所属しています。妹としては鼻が高いことと言ったら、この上ないのです。一番最初のデビューライブで盛大に失敗してから、みんなが一生懸命頑張ってきたようで、世間の見る目が段々と変わっていって、今となってはデビューライブで失敗していた事がただのデマだったのではないかというレベルまでに、評価が変わっていきました。
「ほーら日菜、聖來が困ってるでしょ〜?」
「あっ、リサちー!おはよぉー!」
「おや、これはこれはクイーン。今日もご機嫌麗しゅう」
「あははは、なにその挨拶っ!」
「おはよ、リサ。助かっちゃったよ……」
「うん、おはよ!やっぱり朝は弱いんだねぇ」
3人で駄弁っている所にみんなの良心、今井リサがやって来た。見た目こそイマドキのギャルっぽいのだけど、中身の方は友達想いで、女子力がめちゃくちゃ高くて、面倒見がとっても良いという、言ってしまえばみんなのオカン的存在です。実際、私もものすごく助かってます。
そして、他2人の例に漏れず、リサも『Roselia』というバンドでベースを担当している。どういう因果なのかね、私の周りには楽器やってる人ばっかりみたい。
「それよりも、ほら。朝のHR始まっちゃうよー、早く教室入ったら〜?」
「私に言わないでこいつらに言ってよ」
「一体今日はどんな素晴らしい事が起こるのだろう……!」
「きっとるんってする事ばっかりだよー!」
教室に入って、隣の席の友達に挨拶とかしていると、教室の前の扉を開けて担任が入ってくる。今日も号令が掛かり、いつものようにHRが始まっていく。
ところで氷川さんや。いつも思ってたけど『るんっ』って何さ?
──────────────
少し時間を飛ばして、お昼休み。
日菜と薫を連れて食堂で昼食を取るのがいつもの流れ。偶にリサだったり、リサの友達の湊さんだったりが相席になる事もある。けど、今日は違う日みたい。
「そうだ、日菜」
「ん、なーに?」
「姉さんってさ、パスパレのみんなといる時、どんな感じにしてる?」
「んーと、そーだなぁ〜」
「いや、ちょっとアバウト過ぎたね。みんなといる時は笑ったりしてる?」
「普通に笑ってる……、とは思わないなー」
片手に日替わりメニューの親子丼を持ち、かきこみながら器用にそう答える日菜。やっぱり、どうも姉さんは周りと距離を置きたがっているのかな?
「私と二人で話している時は、いつもと違って当たりが強く感じるけどね……」
「あ、そうだね。うん知ってる」
「ああ、一つ一つの言葉が私に突き刺さってくるように。まるで、私との会話を恥ずかしがっているように!」
「ないない、それは無いよ」
まぁでも、気兼ねなく喋れているという面では、薫は結構大事な役割を持っている人だって事を、改めて実感させられるね。
私も弁当の具をつまみながらそう考えてはみるものの、今のまんまじゃあ出口のない思考だと自覚したので、とりあえず頭の中からその事を追い出そうとして、ふと。
「姉さん、いま何してるかなぁ…」
いつからか、実際の距離と一緒に心まで離れていってしまった姉さんを思って、今日も弁当を摘んでいく。
明日はお休みすると思います。
だんけ。
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