Q.ひとは自分の同人誌が売られたい、という理由でヒーローになれるか答えよ (ピコッピコ)
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なお、本人の予想とは違って見られる様子

処女作に興奮する方

 

お待たせ致しました。完全に処女作です。

 

 

勘違い系に飢えてる方

 

本格的に動くのは5話からです。おそらく。

 

 

軽い下ネタがお好きな方

 

作者もです。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

北条 なぎさ(わたし)がソレに目覚めたのは、とある夏の暑い日のことだった。

 

 

 

その日、私は友達の花子(はなこ)ちゃん、健太郎(けんたろう)君、楽譜(メロディ)ちゃんの、私含めた4人で魔法少女ごっこをして遊んでいた。

いつも通り、自分が1番好きな魔法少女の変身台詞を叫んでいると、ある変化が訪れた。

 

突如私の体の中心から力が湧いてくる。

美味しいケーキを目の前にした時のようなハイな気分より、エナジードリンクを飲んだ時の高揚感よりも大きな興奮。

 

全身が淡く黄金色に輝きだす。

その輝きに、3人は思わず目を瞑った。

 

───そう、変身である。

 

露出した小麦色の肌が、身勝手に生地を纏わり、ビーサンは華やかなローヒールへと変貌を遂げる。胸元にはリボンが咲き、中心には見知らぬコンパクトが胡座をかいていた。

 

黄金が静まるころには、北条の姿は華やかなドレスを身にまとった美少女(プリンセス)へと変わっていた。

 

 

 

 

 

 

花子(はなこ)は輝き残る髪の美しさに見惚れ

 

健太郎(けんたろう)は違和感の無い桃色の瞳に唖然とし

 

楽譜(メロディー)

 

「ほ、本物の魔法少女みたい……」

 

その光景に感じた既視感を呟いて、ため息をついた。

 

 

 

 

 

三者三様の反応。しかし皆一様に頬を赤らめ、自身に釘付けになる光景。

 

それに北条はえも言えぬ感覚を覚えた。

胸から広がる熱、全身が軽く圧迫されるような感覚、息が若干荒くなる。幼い子供には経験の浅い感覚。

 

──興奮したのだ。

 

熱烈な幸福感。胃の奥からせり上がる、なんとも言えぬ"熱さ"。

 

これが、【北条 なぎさ】がこの世で1番愛されると思ってる存在(ヒーロー)を目指したきっかけだった。

 

 

 

 

 

それから約10年……

 

 

北条は受験を迎えていた。

全国有数のヒーロー育成高校、雄英高校に。

 

強い意志、鍛えられた肉体、研ぎ澄まされた知力。そして、ヒーローになるという絶対の目標。

 

これらの鋼の決意を作りあげたものは、ただ一つ。

 

──モテたい。エッチな目で見られたい。という欲望に。

 

 

気づけば彼氏・彼女いない歴=年齢!!

肥大した自尊心!拗らせた癖!

 

何があったか!北条は「自分はとても可愛い」「作らないだけでモテる」などという根拠の無いひねくれた童貞みたいな考えを持っていたァ!!!

 

これは大真面目にモテる為に全力でヒーローを目指す、脳内ピンクのド変態変身系少女の超絶バカで下らない物語である!!!

 

 

 



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雄英高校入試試験
2 最終的にファンが増えた。




雄英に変人奇人が集まるのではない、変人奇人が集まるから雄英なのだ。


 

小麦色の健康的な肌色、少し明るいセミロング、色つきのリップクリーム。ちょっと着崩した制服。可愛らしい髪留め。

 

倍率70倍な化け物高校、雄英高等学校に1人の少女が挑む。

 

 

 

 

 

 

北条 なぎさは、3758番の番号札を握りしめ、 ヴォイスヒーロー プレゼントマイクの説明を聞いていた。

 

なお、途中から肩肘を付きながら聞いていたが……やる気がない訳では無い。

深夜までヒーローになった時の決めゼリフを、一生懸命練習していた為、少し寝不足になってしまった。寧ろやる気がありすぎる。

 

 

「そして肩肘をついているそこの君!」

 

 

丁度、北条の席から後ろの2列目に座っていた。

0ポイントについて質問をしていた少年が言う。

無論、そこの君!というのは北条のことだ。

 

日本最高峰たる雄英の試験説明で、そう何人も肩肘を付いている人間が居て溜まるものか。

 

 

「先程からずっとボゥとして…ろくに説明も聞いていなかっただろう!!やる気がないなら、即刻ここから去り給へ!」

 

 

ド正論である。

ここに集まっているのは、理由は問わず大概は真剣に、中には命を削るかの如き誠意を抱いた者ばかり。

重要な試験説明の際に、肩肘をついて唯ボーッとしているなど、許される筈が無いのだ。よく言った。

 

さて、肝心の北条。

 

彼女は少年の言葉を、脳内で噛み砕いて解釈していた。

そのまま解釈しろよ。

 

意識が外へ言っていたこともあり、言っていた言葉を聞き取れていなかった。

 

この近さで。

 

そして驚くべき答えにありつく。

 

──もしや私が体調不良だと心配してるのでは。

……と。

 

 

 

誤解。曲解。超解釈。

 

なんと信じられないことに、辛うじて聞き取れた

【ボゥとしていて説明を聞いていなかった】

【即刻去れ】

という単語で

「ボゥとしてたし、体調不良が悪いなら帰って休んでも良いんだよ。」

という風に解釈をしたのだ。

 

明らかに怒っていたのにも関わらず、そう謎の解釈をした北条は、何か返事をしなくてはと考える。愛読書(バイブル)の内容を思い出す。

 

【明るく元気に、感謝を忘れずに。】

 

 

「ありがとう!……でも大丈夫だよ!!」

 

 

……少年の眉間のシワが濃くなったのは言うまでもない。

なんなら、会場が凍った。

 

今にも少年が怒りだしそうなその時!天の助けが舞い降りた!!

それは…………

 

「オーケー、オーケー。受験番号7111番、クールなお便りセンキューな。」

 

───ヴォイスヒーロー プレゼント・マイク

 

彼は陽気な声で少年を宥め、落ち着かせると説明を始めた。

 

「説明すると、4体目は各会場に配置された、0ポイントのいわゆるお邪魔虫。倒しても良いし、倒さなくとも良い。倒した所でポイントは入らない。」

 

いわく、邪魔するだけだから放置おk。ということらしい。

その説明に納得した少年は「ありがとうございます!」と言って座った。

 

「かの英雄、ナポレオン・ボナパルドは言った! 【真の英雄とは、自身の不幸を乗り越えて行く者】と!【Plus Ultra(さらに向こうへ)】!!」

 

 

「それでは皆、良い受難を」

 

 



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3 なお、それも叶わない様子


作者は純粋なので、実は下ネタとか書き慣れてないので、少なく感じたのなら申し訳ございません。




 

試験会場Dにて、北条は若干の焦りを感じていた。

 

 

北条はタイムロス(変身シーン)を取り返す為、必死にポイントを稼いでいた。

ロボを倒すだけでなく、何か困っている人が居たら助けたりしてアピールもする。

ここまでは順調だった。

 

……ただ、必死だった故か問題が起きた。

 

──ロボのポイントを間違えてた。

 

そう、北条は説明でボーッっとしていたのもあり、なんと2ポイントと3ポイントを逆に認識していたのだ。

 

気づいた時には後の祭り。

残り時間はあと僅か、このままでは、ポイント不足で落ちてしまうだろう。自業自得だ。

 

──もう他の奴らを潰すしか……

 

という危険思考の刹那。

 

それは、現れた。

 

 

「な、なんだありゃあ!!」

 

 

鉄の巨体は、1歩歩けば地面が揺れ、見あげれば首が落ちかける。

 

言うまでもない、0ポイント(おじゃまむし)である。

 

 

「ケロ……リボンが……」

「やめとけ!あんなに巻き込まれたら一溜りも無いだろ!!」

「キャ!」

「大丈夫か………え、どこ?」

「やべぇって……雄英半端ねぇって、そんなん出来ひんやん普通…」

 

 

受験者は勝ち目がないと逃げ惑う。

 

そんな中、防御力皆無な服を身に纏った少女は、唯一ロボに向かって走り始めた

 

 

 

 

──あれが、4ポイントか

 

違う。

 

「……しょうがないな。」

 

 

──怖いけど、ポイントは命に変えられない。

 

いや、優先すべきは命だ。

 

北条は怯える心を叱責し、北条は走り出した。

必要の無い勇気である。

 

だが…悲しいかな、北条はビルを足場に、合間を縫うように跳んで加速する。

 

ロボは大量の瓦礫に近づいている。

 

高度とスピードはぐんぐんと上昇。あっという間のロボの頭上に到達する。

 

ロボが瓦礫を踏み潰そうとする。

 

そして、ロボを加速により増幅したパワーで蹴る。

 

硬い。だが──確かな手応えがあった。

 

「はぁぁぁああああああッ!!!」

 

10、20、30、50、80……100!

 

連打、連打、連打、連打!!!

 

最初こそ無傷だった頭はみるみるうちに潰れていき、最終的には

 

「はああああああッ、はぁ!!!」

 

ゴォン!!

 

頭は半分に潰れていた

 

北条が地面に降り立った刹那、ロボがゆっくりと倒れる。

 

ダアァアアン!

 

会場に強い衝撃音が響き渡った。

 

瓦礫が舞い、ナイフにも似た破片が頬を撫で、大きな瓦礫が頭上を飛ぶ。

 

ビイイイイイイイイイーー!!!!

 

 

実技試験が、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験を終えた北条は、確かな手応えと満足感を感じながら雄英を歩いていた。

 

実技試験の際に、深緑のリボンを拾ったので、職員室へ届けようとしているのだ。

受験者のリボンなら、届ける意味は無さそうだが……なんてことはない、裏に丁寧な字で名前が記入されていた。

もし、持ち主が探しに来たとき、直ぐに見つかるようにしてあげよう、という善意だ。

 

職員室への廊下の曲がり角を曲がろうとした瞬間

 

 

「うわっ!」

「キャッ!」

 

 

何かにぶつかった。

 

 

「いったたた……ご、ごめん!だいじょうぶ!?」

「だ、大丈夫!」

 

 

茶髪のボブに、少し丸顔なのが愛嬌がある可愛らしい少女が慌て言葉をかけてきた。

それに北条も慌てて返す。

 

──あ、可愛い。

 

北条はアワアワと謝るのを見て、自然とそう思った。

少女より背が高いから、上目遣いになっているのもあるのだろう。

 

 

「ウチ前見てへんかったん。ほんまにごめん!」

「わ、私もごめんね!前見てなかったから…ごめんね。」

「いやいや、ウチが急いでたから……」

 

謝り合戦の開催である。

日本人あるあるの第3位くらいにランクインするであろう、最早恒例行事。

 

 

何処と無く気まずい空気感になる。

 

 

「あー……それより君は大丈夫?何だか急いでたみたいだけど………邪魔しちゃったね。」

 

 

友達なんて以ての外。

何故かクラスメイトに避けられ、録に話すことも無かった北条は、素早く話題を移しにかかった。

 

 

「あ!そうやった!早く帰らなきゃいけへんやったわ!ごめんね!」

「なら直ぐに行かなきゃ、さよなら!」

「サヨナラ!」

 

 

怒涛の勢い、今度は早歩きで去って行った。

 

ポツン、と1人になった。胸が少し、空いている。

さっきと同じなのに、さっきと比べると、肌に触れる空気が冷たく感じた。

 

……ジャージを着ていた少女も、私と同じ受験生だろう。

 

そう考えた北条は、前よりも少し強く、合格へ期待と不安を抱く。

 

──友達に成れたら、嬉しいな。

 

確率としては、余りにも低い。

それに先程初めて会っただけだ。

 

だが、北条は何故かそれが叶うと良い。という願いが、じんわりと心に広がった。

 

knock knock

 

 

「失礼します。あの、受験者の──」

 

 

 

 





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4 恋愛ゲームも真っ青な好感度底辺


この小説は勘違いものです。


 

雄英教師視点

 

 

 

 

 

 

雄英職員会議にて

雄英入試試験の実技を、モニタリングした部屋で、現役ヒーローの教員らは会議を進めていた。

 

大きなモニター。

資金を惜しみなく使ったであろう画質の良い画面に移るのは、少し明るいセミロングで、健康的な小麦色の肌の、色つきリップクリームを付けた少女。

 

北条 なぎさ。受験番号8007番

【個性】 変身魔法少女

 

この会議室では、少女について話ていた。

 

 

「彼女……どうしましょうか。」

 

「0ポイント仮想敵の頭部を粉々に……」

 

「無事なビル群を巻き込んで加速か……」

 

「困った人を助けるのはヒーローの勤め、とは言いますが……」

 

「あれは流石に危険すぎる。下手すりゃ瓦礫が当たって大怪我さね。」

 

 

それは、その少女を雄英に合格させるか否か。

 

基準以上を満たし、たが、ヒーローにさせるには些か向いていないような少女を、果たして、我が校の門を通すか、否か。

皆が一様に、このように悩むには、ちゃんと深い訳がある。

 

北条の0ポイントの仮想敵ヴィランの、破壊方法だ。

 

北条 なぎさの破壊法は、至ってシンプル。

 

頭上から真っ直ぐ、ほぼほぼ垂直に蹴りを連打する。

 

以上。

 

一見、特に問題なさそうに見えるコレ。

たが、考えて欲しい。

 

蹴りを、何度も何度も繰り返すことにより、ロボからは大量の瓦礫が発生し、地面へ降りかかる。

 

もし下に人が居たのなら………考えたくもない。

 

加えて、北条は信じられないことに、地面に降り立った。瓦礫の雨が何時当たってもおかしくない状況にも関わらず。

 

そんな奴落とせよ、と思っただろう。実際、教師陣は何度もそう考えた。

 

たが……その考えは下されることは無かった。

 

 

そうさせたのは、紛れもない北条である。

 

 

「…………受験生のリボンを拾う為だけに、ゼロポイントの仮想敵を破壊………」

 

 

0ポイント仮想敵が破壊され、倒された後。

北条は、緑色のリボンを拾い、職員室へ届けに来た。

そして、それは他の受験生の落し物であることが判明。

 

恐らく………その受験生の落し物を確保しようと、0ポイントヴィランに立ち向かったであろう。

 

そう判断され、北条の評価は大きく揺らいだ。

 

ただの命知らず、では無く、危険を犯し

を助けた者として(の大切な物)を守った者として。

 

方法こそ問題あるが、その行動は正しくヒーロー然としたもの。

 

 

「……彼女の行動は、ヒーローとして立派だ。方法こそ問題だが、それはここで学んでいけば良い。」

 

 

ネズミか、猫か、熊か、どれとも判別しにくい動物らしき者がそう言った。

 

 

「合格させよう。彼女は、きっと素晴らしいヒーローになるだろうね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……さて、突然だし、こんないい感じの流れに言うのも野暮な物だろう。

 

だが、言わせてもらう。

 

 

 

 

 

───リボン拾ったの、まぐれ

 

 

 

 

北条が0ポイント仮想敵を潰したのは、アレを4ポイントの仮想敵だと勘違いしたから。

 

リボンの発見は偶然の産物。

 

なんなら、リボンを失って戸惑う人のことなど、まっっっっったく気がついていない。

 

 

 

 

 

 

そんな真実を知るものは居らず、1部の教師から謎の期待と好感。

 

そしてもう1部の教師からは、

然るべき速度でマイナスへ下がった好感度と、

悪い意味での期待。

 

 

 

 

 

 

 

北条は!!!!

 

そんな(悪い意味での)期待を背負い!!!!

 

雄英の門を叩く!!

 

 

これはァ!!!!!!!

 

自身をモデルにした同人誌が出ることが夢な!!!!

 

ちやほやモテたいが為に!!!

 

ヒーローを目指す少女が!!!!!

 

何故か意に反した感じで周りに尊敬の念を抱かれ!!!

 

なんやかんやで最ッ高のヒーローになる話である!!!!!!

 

 

 

 

 

………入る前から心配でしかない

 

 

 

 

 






そりゃ下がりますわ


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5 医者は呆れてものも言えなかった


タグにオリ主変態って、入れるべきか悩んでます。


 

 

 

とある昼下がり。

 

チヨチヨ、小鳥のさえずりが、暖かな日と共にカーテンを揺らす。

机の椅子に座り、本を瀟洒に読む北条の足元に、日光が覆い被さっている。

 

題名は【幸せな恋愛をする方法】という、過去累計70万部を売り上げたベストセラーの…所謂自己啓発本だ。北条のバイブルでもある。

 

 

そんな優雅な昼下がり。

 

 

カタン、と部屋の扉が開いた。

 

 

「なぎさちゃーん、紅茶入れたの。がんばったよー!」

 

 

 

フヨフヨ浮きながら、入ってきたのは、ちょっと大きなぬいぐるみのような、ファンシーな生き物。ピンクっぽい色で、大きな耳。

少し舌足らずで、間延びした、子供よりも高く、それでいて幼稚さを感じさせる声。

 

器用にも、その小さな腕でトレイを持ってきた。

お盆には湯気たったティーカップと、小皿に四角い砂糖が盛られていた。

 

この小さな生物は、北条の実の父親の個性である。名前はポフレ。

 

 

「美味しそう!入れてくれたんだ!」

 

「ふふ、凄いでしょ!頑張ったんだよー!」

 

「……美味しい!すっごい美味しいよこれ!」

 

「やったー!!これで、おべんきょ、もーーっと頑張れるねっ!」

 

 

なんだかマスコットキャラみたいな愛くるしい見た目とは裏腹、実は元サイドキックの父とタッグを組んでヒーローをしていた。

ぶっちゃけ俺より強い、とは父の談。

 

 

「あ、そういえばねー、なぎさちゃんにお手紙きてたよ〜」

 

 

はいどーぞ〜、と渡されたのは白い封筒。赤い蝋で封されて、なんだか舞踏会からの招待状のような、特別感を醸し出していた。

 

 

「雄英から……か。」

 

 

溜息を漏らした。

洗練された動き、加減された吐く息の量、揺れる瞳。まるで妖狐が誰かを誑し込む策を練っているかのような、危なげな香りする。完璧に計算され尽くした所作であった。

 

マから始まりラで終わるモノを疼かせる為、何年も研究を重ねた北条が、辿り着いた技の一つだ。なにやってんだよ。

 

 

「わぁ!じゃあ合格通知だね〜。ポフレ、大介とリビングで待ってる〜!」

 

 

だが、目の前の人物(個性)に意味は無い。

 

気を効かせたポフレが、部屋から出ていくと、北条はゆっくりと封を切った。

 

中には案内通知と、押した爆発します、と言われても疑わない赤いスイッチ。

 

北条は何の躊躇無くボタンを押した。

 

 

「私が投影されたァ!」

「ほあ!?」

 

 

筋骨隆々を地で行く、剛勇な肉体が。

大昔に流行ったとされている、アメコミに登場しそうな大男が投影される。

 

 

「初めまして北条 なぎさ君!私はオールマイトだ!」

 

 

唖然とオールマイトを見上げた。

 

なぜ、雄英からの通知にオールマイトが映っているのだろうか。

 

 

「なぜ私が雄英の合格通知に投影されたのか、って?HAHA!!それは私が、この春から雄英に教師として勤めるからさ!」

 

 

ガンッと衝撃を受けた。

 

まさか、あの、あの平和の象徴が、まさか教師になるだなんて!!考えもしなかった!!!!

 

突然の登場に唖然とする北条を置いて、オールマイトは話を進める。

 

 

「さぁ!早速君の合否を発表しよう!」

 

 

ゴクリ、唾を飲み込む音が。

バライティなどでお約束のドラムロール、マジシャンが声援と共に受けるような、ライトアップがオールマイトに向けられた。

 

まるで、これからショーでも始まるかのような雰囲気のオールマイトを、北条は食い入るように見つめる。

 

 

「おめでとう!合格だ!!」

 

 

無言でガッツポーズをした。

 

いや、無言ではない。

ただ、出してる声が

「セイ”ッ!!しゃおらッセイ!!」

という、鳴き声みたいな物だったので……まぁ、実質無言だ。

 

 

「筆記は問題無く!実技試験は65ポイント!気がついていただろうが、先の実技入試!受験生に与えられるポイントは仮想敵ポイントだけに非ず!審査制の救助活動ポイントも存在していた!」

 

 

──え?そうなん?

 

 

「北条 なぎさ君、仮想敵ポイント45ポイント、救助活動点20点!!あのリボンに付いては不確かだと審議されたが……多数決により、ポイントとして加算された!文句無しの合格だよ。」

 

 

リボン、というのは試験終了後に届けた、あのリボンのことだろう。

 

やはりは最高峰のヒーロー育成学校か。

試験終了後は見せかけ、続いていたのだろう。

 

気を緩めず、ヒーローを志す精神よ強くあれ

 

ということか。人知れず北条は戦慄した。

 

──終わった後でも気を緩めるな、吟味はまだ続いているぞ……ってことか。…全く恐ろしい限りだわ。

 

 

「改めておめでとう、北条少女!雄英で待っているぞ!」

 

 

投影された映像が消えた。

 

 

 

 

 

 

北条は、扉を蹴破らんと勢いで部屋を飛び出し、ポフレに抱きついた。

 

近くで茶を啜ってた父は寂しそうであった。

 

ポフレは北条が合格したことに、いたく喜び、2人?で喜びを分かち合った。

 

混ぜてもらえぬ父は、いじけていた。

 

もちろん、北条は父の存在を忘れてはいない。

ただ、余りの喜びに失念していただけだ。

 

北条は抱きついた。約5年ぶりだった。

 

それに父は異常に喜び、北条を脇に手を入れて持ち上げる、赤ちゃんキャッキャ抱っこをした。

 

翌日、父親は腰痛で病院に駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

北条 なぎさ、15歳。

 

彼女が最ッ高のヒーローになる物語の幕が、今上がった!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

北条 大介

 

有名ヒーローの元サイドキック。

 

 

ポフレ

 

父親の個性。強い。

紅茶を入れるのを頑張った。MVP。

 

 

母親

 

大介とポフレの浮気を疑って離婚した。

どうして。

 

 

 





 大介<アッカーーン

 

 



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雄英高校、新学期開始
6 自由にも限度がある



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──世の中、良いことばかりとは限らない。

 

北条は、少し視界を滲ませ

北条は心から、そう思った。

 

 

 

試験終了後、職員室前で出会った可愛らしい少女。仲良くなれたら良いなと思った彼女。

 

──あの子に忘れられていた。

 

当たり前だ。

普通に考えて片手で数えられる数分しか話をしなかったというのに、覚えているというのが可笑しな話だろう。

 

だが、悲しい事なのは事実。

よって冒頭の言葉に繋がる。

 

北条は沈んだ気持ちの中、今まで話したことの無いようなキラキラとした、俗に言う陽キャとの会話に四苦八苦。

まだ入学式すら済ませていないのになんだか非常に疲れていた。休みたいとすら思う。

 

だと言うのに、今日は休めそうにない。

 

「これから、個性把握テストを行う。」

「えぇ!?入学式は!ガイダンスは!?」

「ヒーローになるなら、そんな悠長な時間は無い。」

 

1-Aの担任、相澤消太先生は、挨拶もそこそこにクラスメイト全員に体育着を着て校庭に出ることを命じ、現在に至る。

因みに登場にはかなり戦慄した。

 

入学式も無しに突然テストということもあり、クラスメイトの皆は、かなりの大慌て…いや、そうでもないか?とにかく、ざわめいていた。

 

「雄英は自由な校風が売り文句。そして、それは先生側もまた然り。」

 

生徒たちを無視して、先生は話を続ける。

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座前屈。中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。……全く合理的じゃない。」

 

個性禁止の体力テスト、と聞き北条は頭が痛くなった。何せ、いい思い出が無い。

 

前にも言ったが、北条はずっとボッチ(エターナル・ボッチ)だった。そして、北条の中学の体力テストは2人組を作り行うもの……目も当てられない有様だった。

 

「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何メートルだった?」

「67メートル。」

「じゃあ、個性使っても良いから使ってやってみろ。はよ。思いっきりな。」

 

因みに、60mは凡そビル20階分である。

そして、男子の平均は24mだ。

 

そんな超高校級の身体能力を持ち合わせた爆豪は、軽いストレッチをすると大きく振りかぶった。

 

「死ねぇ!!」

 

BOOOOON!!

 

目を覆い隠す爆煙が舞い、ボールは驚く程の速度で投げ飛ばされて…否、吹き飛ばされていた。

甘いニトロっぽい香りが鼻を掠めた。

 

「まずは自分の最大限を知る。それが、ヒーローの素地を形成する合理的手段。」

 

705.2M

 

相澤先生が持つ液晶に、いま彼が叩き出した驚異的な記録が表示された。

 

掛け声が死ねはダメだろ。なんて思いが、奥底に沈められる程の超記録(ハイスコア)

 

「なんだこれ!スゲー面白そう!」

「705.2メートルってマジかよ!?」

「個性思いっきり使えるんだ!!流石ヒーロー科!」

 

個性を使える機会など極稀。だからなのか、皆は珍しく思いっきり使える機会に興奮した。

 

だが、それはヒーローに成るには不適切だ。

ヒーローというのは命懸けなんて当たり前の、トンデモナイ職業なのだから……こんな風にキャッキャとするのは、危険だという認識が足りてない。

この調子で居るなら、ヒーローに成るのは止めた方が良いだろう。

 

……いや、北条について言われたら何も言えないが。あれはちょっとタイプが違すぎる。

 

「─面白そう……か。」

 

只でさえ鋭い目の相澤先生は、皆の言葉に更に視線を厳しくする。声には少しの怒りを感じられた。

因みに、北条は自身の決め台詞について考えていた為、その雰囲気の豹変について気づかなかった。

 

「ヒーローになる為の3年間、そんな腹積もりで過ごすつもりか?

 

───よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう。」

 

しん、と場が静まり返り、痛ましい程の沈黙が数秒流れ

 

「はあああああああ!!??」

 

生徒の悲鳴にも似た怒号が校庭に響いた。

 

──あ、ありえない。だって、まだ初日なのに。

 

「生徒の如何は先生(俺たち)の自由。」

 

混乱、動揺に揺れる生徒たちに追い打ちをかけるように先生は言う。

 

 

 

 

「──ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ。」

 

 

 

 

相澤先生は髪を掻き上げ、笑みを浮かべた。

 

 

 

──この学校、やばくね?

 

今更のことである。

 

 

 



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7 一方その頃、ポフレは昼寝をしていた

──Plus ultra(更に向こうへ)じゃないよ。ちょっとトキメイちゃったじゃん。

 

北条は相澤先生の言葉を思い出しながら、髪留めに触れた。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、梅雨ちゃんの個性ってどういうのなの?」

「蛙っぽいことなら大体出来るわ。」

「何でも?」

「舌を伸ばしたり……毒液を出したりよ。」

「え、凄いね。じゃあ壁に張り付いたりとか出来たりする?」

「もちろんよ。」

「本当に凄いね…めっちゃカッコイイ。」

「ケロケロ!」

 

大きな丸い眼。艶とボリュームのあるロングの黒髪。猫背気味の女の子。ケロケロ、と蛙っぽさある口癖も可愛らしい。

 

北条は、蛙吹 梅雨と仲良くなろうとしていた。

 

コミュ障の北条は、全身全霊を込めて、この可愛らしい少女に話しかけ、見事話を続けている。

しかも、梅雨ちゃんと呼んでと言われたことで、北条は有頂天だった。単純である。

 

「行ってくるね。」

「応援してるわ、なぎさちゃん。」

「ありがとう」

 

北条は教科書通りのフォームで投げた。

球は綺麗な弧を描いて飛んでいき、地に落ちた。

 

53M

 

女子としては中々な数字だが、やはり低い。

 

「北条、お前まだ個性使ってないだろ。」

「すみません。ボールの感じを確認したかったので。」

 

北条は脊髄反射が如く勢いで返答した。

鋭い目付きで睨まれ、萎縮した内心を隠すのはお手の物。

実際はそんな理由などでは無い。

 

「…なるほどな。じゃあ、どんだけ時間かかっても良いから次は全力でやれ。」

「わかりました。」

 

北条は有無を言わせぬ圧力に屈した。

だが、これは北条にとっても悪い話ではない。

 

北条は落ち着く為に息を着くと、子供の頃から身につけている髪留めに触れた。

 

古ぼけた赤いリボン。錆びて塗装の剥げた金具。幼い子供が身につけていそうな小さな髪留め。

ボロボロなソレは、垢抜けた印象の北条には不釣り合いな物だ。

 

北条は髪留めを取ると静かに呟いた。

 

「………変身。」

 

突如北条の体が光に包まれる。

魅了されるように美しく、優しく、それでいて強烈な光。

皆は目を奪われ釘付けにされ、短略化された変身シーン(約15秒)の全てに惹き付けられる。

 

光が収まり、少しずつ北条の姿が現れた。

 

変身の名残か、北条はクルクルと周り、クリーム色のフワフワなツインテールが風に流され、太陽の光で爛々と黄金に輝く。

長い睫毛が揺れ、瞼が上がる。野に咲く花々を思わせる桃色の瞳が顔を出した。

 

突然姿が様変わりしたからか、はたまた、それが余りにも美しい少女だったからか。

皆一様に目を見開き、唖然と口を開けた。

 

中には頬を染め、目の行き場を失ったようにキョロキョロと挙動不審に動揺する者も居る。

 

──これだよコレ!!最ッッ高

 

ゾクゾク、と腰から走り抜け、脳が蕩けそうな程の快楽。

 

皆の瞬きがシャッターの様で、余りの素晴らしさに思わず、胸にせり上げる熱さを吐き出してしまいそうになる。食欲にも似た感動に涎が溢れそうだった。達しないか心配になる。

 

だが、それを行動に、それを現す程、北条は愚かでは無い。

完璧な可愛らしい微笑(ポーカーフェイス)を繕える程度には、北条は慣れている。

 

北条はボールを握りしめ、今度は自己流でフォームで投げた。

 

突如巻き起こるのは旋風にも似た暴風。北条が全力で投げた球は、壊れる1歩手前までの抵抗を受けながらも懸命に風を切っていき

 

697.8M

 

その距離、前回の約14倍。

爆豪勝己に比べれば、やや劣る結果だが、いやいやそれでも、とんでもない数字。

 

北条は変身を解くと、その場を後にした。

 

「……次は君だよ。」

「ヘッ?!あ、はい、すすすみません!!」

 

顔を真っ赤にした少年は、オドオドした様子で逃げるように去っていった。

 

──あ゛ぁ…これなのよ…!

 

北条は脳髄がかすかな痺れを感じているのがわかった。口を閉じなければ喘いでしまいそうな快楽だ……

 

もうこいつ退学にしろ

 

 



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8 一方その頃、北条はクシャミを堪えていた。


Q.北条が届けたリボンの持ち主はだ〜れだ?





 

 

 

 

個性把握テストが終わり、みんな帰路に着き始めた頃。

北条も例に漏れず、蛙吹梅雨と共に帰路に着いていた。

 

北条のみが乗る予定の駅前で、北条と蛙吹梅雨……距離を感じるから蛙吹で良いか。

蛙吹は北条を呼び止めた。

 

なんでも話したいことがあるらしい。

 

蛙吹は口元に指を当て、少し考え込んでは話そうとする…ということを何度か繰り返した。

 

少し顔が赤く、それでいて何だかモジモジしているように見えた。

 

──ま、まさか…こ、告白…か!?

 

北条はそんな答えに辿り着く。

思春期の男子高校生かよ。

 

──私の個性での可愛さとか、強さとか、私自身の有り余る魅力とか、そういうのに色々トキメイちゃったんだろうな……ヤダ、私ってば罪深っ……

 

北条はこれでも動揺していた。

 

いずれ、クラスメイト等から告白はされるだろうと考えていたが……まさかこんな早々にされるだなんて、思っても見なかったからだ。

まだ告白だと決まってないだろ。

 

──い、いやいや!でも、こんな、直ぐにはダメだよ。もっと時間経ってからじゃないと!!

 

北条は、こんな変態ではあるが、同時にとても初心(ピュア)でもあった。あんな変態ではあるが。

 

お付き合いするなら、相手を良く知ってから。

北条は脳内ピンクの、個性把握テストで善がっていた人間だとは思えない程誠実な人間だった。

 

「……あ、あのね。私、貴方に──」

「シー」

 

ついに話を切り出した蛙吹に、北条は自身の口に人差し指をかざす。

 

話を遮られたからか、北条の突然の行動に戸惑ったからなのか、その両方か。

蛙吹は動きを止めた。そこをすかさず追撃する。

 

「わかってる。ありがとう。でも…ごめんね……私、梅雨ちゃんと普通の友達で居たいの…ごめんね。」

 

蛙吹は、ポカン、と口を開いて困惑していた。

表情が出にくいらしい彼女は、何を考えているか細かくは分からない。

 

「ケロ……わかったわ、なぎさちゃん。」

 

ただ、その声色は悲しそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛙吹梅雨は思い出していた。

 

 

 

入試試験で0ポイントが現れた時、颯爽と立ち向かった少女。

 

弟妹たちがお小遣いを貯めて、初めてプレゼントしてくれた、大切なリボンを届けてくれた、優しい人(ヒーロー)

 

北条 なぎさという、新しい学校で出来た、新しい友達。

 

 

蛙吹梅雨は、少しだけでも良いからお礼を言いたかった。

あのままでは、リボンはダメになっていただろうから。

 

ありがとう、と言いたかった。

 

だが、それは当の本人に拒まれた。

 

──…嫌がられちゃったわね。

 

蛙吹梅雨は、北条なぎさの表情を思い出す。

 

とても悲痛で、泣きそうな表情だった。

 

──もしかしたら……彼女は、私が離れてしまうと思ったのかしら。

 

そんな積もりではなかったのに、離れてしまう、と。友達では無くなってしまう、とそう思ったのだろうか。

そうなら……昔にも、同じようなことがあったのだろうか。

 

人は助けてくれた恩人のことを、何故か対等には見れない事がある。尊敬して、敬ってしまう。

 

彼女はきっと、対等な友達が欲しかったのだろうか。

 

私と同じように、友達が欲しかったのかもしれない。だから、恩人だと、ヒーローだと言われたくなかった。

友達だと肩を並べて笑いたかったから。

 

──あんな風に立ち向かえる人だもの、もしかしたら、そんな風に立ち向かって……一人ぼっちになってしまったのかもしれないわね。

 

手を振って改札を通った彼女を思い出した。

 

私は、彼女の友達で居たい。

対等に、肩を並べて戦えるような、そんなヒーローに成りたい。

 

そして、叶うなら伝えたい。

 

──ありがとう、なぎさちゃん。

 

……と。

 

 





A.蛙吹梅雨



キャラ崩壊していたら言ってください、泣きます。


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9 いっぱいの方が、可愛いもんね。と呟いた。

「わーたーしーが!!!………普通にドアから来た!!!」

 

豪勇な肉体の、大昔に流行っていたとされるアメコミという漫画に出てきそうな大男。

 

オールマイトが、普通にドアから入ってきた。

 

「オールマイトだ!すげぇや、本当に先生やってんだな……!!」

銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームだ…!」

「画風違いすぎて鳥肌が立ってきた……」

 

──本当にやってるんだ…教師…

 

北条は珍しく、純粋な方で興奮していた。

 

北条もヒーローを目指す卵の端くれ、現No.1ヒーローであるオールマイトは、勿論憧れであった。

故に、キラキラと輝く瞳でオールマイトを見つめる。常にこうであって欲しい。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地を作るため様々な訓練を行う科目だ!早速だが、今日はコレ!戦闘訓練!!」

 

──ヒーロー基礎学……燃えてきた。

 

やめろ燃えるな、冷めろ。

 

北条は、よっぽど心理学等に精通した者でも気づくことすら出来ないような程、僅かに恍惚の表情を浮かべた。純粋は続かなかった。

 

「そして、ソイツに伴って…こちら!入学前に送ってもらった【個性届】と【要望】に沿って誂えた………戦闘服!!」

「うおおおおおおおお!!」

 

北条含めクラスメイトは、大いに盛り上がる。

 

何せ、コスチュームだ。

 

ヒーローにとって、無くてはならぬ物。

それはヒーローのコスチューム!!

あのヒーロー誰だっけ?と名前は忘れても…コスチュームは忘れない!!

 

そのヒーローを象徴とするのが、ヒーローが身につけてるコスチューム。

ここに居るのはヒーローを目指す卵たち、そんな子達が盛り上がるのは仕方の無いことだ。

 

「着替えたら順次、グラウンド・βに集まるんだ!」

「はーーい!!」

 

「格好から入るってのも重要な事だぜ、少年少女!自覚するのだ!今日から自分は─ヒーローなんだと!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北条は、女子更衣室にて着替えていた。

 

 

 

「お茶子ちゃんのコスチューム…めっちゃ可愛いね。」

「え!ほんま?ありがとう!なぎさちゃんのコスチュームも…シンプルで可愛ええよ!」

「ふふ、ありがとう。」

 

ピチッ、とした白と黒のスーツ。

彼女の個性を意識してるのか、宇宙服っぽさを少々感じられる。

北条は純粋に可愛いと思った。あと、体のラインが多く出る所が良いと思った。ふとももとか特に。

 

──みんな、すっごい可愛いし、凝ってる。

 

サイケデリック、ロック、キュート。

それぞれの個性に合った、特徴的であり可愛らしい、他に類を見ぬ、コスチューム(一点物)を見に纏う。

 

対する北条。

 

北条は、別にコスチュームに拘りは無かった。

 

なにせ、個性が個性。

個性自体がコスチュームみたいな物な為、特にコスチュームに数寄を凝らす必要は感じられなかったのだ。

 

黄色のニットワンピースと、黒いくるぶしより上ほどの長さなズボン。

ニットには沢山の同系色のリボンがあしらわれている。

 

いや、割とこだわってるだろ。

そう思われるだろうが、いや、こだわって無いのだ。……北条は。

 

当初はもっと地味だった。全体的に暗く、一目見ても印象には残らないようなデザインであった。

 

それに小鼻を膨らませたのは、ポフレである。

 

地味なコスチュームは、自分の娘のように思っている、親バカ気質なポフレにとっては我慢ならない物。

 

せめて、もっと可愛く!とポフレは口を極めて説得をした。極めすぎて最早洗脳に近かった。

 

よって、出来上がったのが此方になります。

 

目立つ訳でも、目立たない訳でもなく、普通にとても可愛いコスチュームが出来上がった。

 

「なぎさちゃん、早く行かないと遅れちゃうよ!」

「えっ、あ、ホントだ!ごめん、今行く!」

 

 

 

 



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10 言わぬが花もある

作者としては際どいバニー服よりも、着物の方が好きです。



 

──は??……は???何あの胸、デカ…っていうか何あのスタイル!!?有り得ないでしょ!なんで、あんなデカいのに腰ほっっそいのよ!!??羨ま…ってか本当に何事よ!?

 

このクズな事を言っているのは北条である。

北条は荒れていた。

 

胸元のパックリ空いたレオタード。腰にはベルトを巻かれている。なんとも扇情的なコスチューム。

 

北条は修羅を燃やし、八百万百に熱い視線を送くる。醜いものである。

 

北条は、もう無理見てられない!と心が限界を迎える前に視線を逸らす。

 

「…あ、切島くん。」

「お、北条か。そのコスチューム…シンプルですっげーイカしてるぜ!」

「ほんと?ありがと。切島さんのコスチュームも、すっごく男らしくってカッコイイよ。」

 

赤い髪。右目に小さな切り傷。ギザ歯が特徴的なクラスメイト、切島鋭児郎に北条は話しかけた。

八百万百と同じように露出多めなコスチュームの彼に…北条は動揺していた。

 

──こっちもか!?セクシーな人ばっかり!なんなのヒーロー科!!?みんなしてセクシーなコスチューム着ちゃってさ!!みんな私みたいな事考えてるっていうの?!

 

コイツは何を言ってるんだ。

残念な事に、この愚にもつかない事を考えている人間は、ヒーロー科を目指す…しかも将来有望な卵である。世も末とはこの事か。

 

「さて、全員揃ったことだし始めようか有精卵共!!戦闘訓練の時間だ!」

「もう始まっちゃう。じゃあね切島くん。」

「おう、じゃあな!」

 

北条は先生の話に集中したかった。入試試験のような間違いをしたくなかったのだ。

 

あの仮想敵が0ポイントだったと知った時の絶望感たるや……北条にとっては、思い出したくも無い。

 

「基礎訓練もなしに?」

「その基礎を知る為の訓練さ!ただし、今回はブッ壊せばOK(オーケー)じゃないのがミソだ。」

 

入試試験は、単純な個性の強さとコントロール能力。今回からは本人その者の技術、という訳だ。

 

そう考えると……相澤先生の言うように、入試試験はあまり合理的ではない。

そこで強いだけの者を落とすのが、相澤先生なのだろう。

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?!」

「いいや、もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!」

 

 

 

「君らにはこれから【ヴィラン()組】と【ヒーロー組】に分かれて、二対二の屋内戦を行ってもらう!!」

 

 

 

 

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

「ブッ飛ばしてもイイんすか?」

「相澤先生みたいに除籍処分とかありますか……?」

「別れるとはどのように別れるのですか?!」

「オールマイト先生。2人組だと1人余ってしまいます。」

「このマント、ヤバくない?」

「ンンン〜〜聖徳太子ィィ〜〜!!!」

 

──なんだか…オールマイト先生ってイメージと違うな。

 

北条が人知れず謎の親近感を感じてる中、オールマイトはいいかい!?と話を続ける。

 

「状況設定は、(ヴィラン)がアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている!【ヒーロー】は制限時間内に(ヴィラン)を捕まえるか、核兵器を回収すること。(ヴィラン)は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえること!!!!」

 

ここまで一息。カンペ読みだ。

 

「コンビ及び対戦相手はくじだ!余った1人は……北条少女だ!!君には…そうだな、Bチームに入ってもらおう!!」

「えっ」

 

余りをどうするか聞いたからだろう。

動揺する北条を置いて話はドンドン進んでいく。

 

「適当なのですか!!?」

「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いし、そういう事じゃないかな……」

「そうか…!先を見据えた計らい…失礼致しました!!」

「いいよ!早くやろ!!!」

 

──えっ?????

 

北条が混乱したまま、くじ引きは進んでいった。

 

 

 

 

 

 



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11 ポフレは風邪かしら、と呟いた

今回で終わりです


──寒い。

 

北条はコスチュームを長袖にしていて良かった、と心底思いながら、氷漬けにされたビルに入っていく、轟焦凍を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人組だと1人余る、と言及してしまった北条は、特別にくじが免除された。

北条が入るチームはBチーム。ヒーロー側だ。

 

メンバーは轟焦凍と、障子目蔵という二人。

 

いくら秋波を送ろうが靡かないであろうイケメン2人に、北条はウキウキしていた。何せ、イケメンである。

 

「よろしくね。 障子くん、轟くん。」

「よろしく。」

 

逞しく大柄な肉体。口全体を覆った青い布。

障子目蔵。彼は、恐らく異形型の個性だろうか。

 

威圧的で、少し怖い容姿とは反し、なんだか優しげな声と態度で、北条は安堵した。

 

「はいはい!提案があるの、先ず最初に障子くんが複製腕で──」

「必要ない。」

 

──えっ????

 

我ながら名案だ!と意気込んで語ろうとした計画、それは轟焦凍に切り捨てられた。

 

「轟、それは何故だ?」

「俺だけで勝てる。」

 

お前達など要らない、そういうことだろう。

 

自信満々、にしては何だか味気ない。そんな轟焦凍の言葉に、北条は首を傾げた。

障子目蔵は轟焦凍の言葉自体に首を傾げる。

 

──轟くんに任せるだけで大丈夫そう。

 

北条は面倒くさくなってきていた。

轟焦凍が個性把握テストで上位だったのもあり、北条には何かいけんじゃね?という自信が出来る。ダメだったらどうするつもりだ。

 

「それは──」

 

障子目蔵が轟焦凍に説得を試みようとした時、オールマイトの声が響く。

 

障子目蔵は早かった。

素早く耳の複製を作り出し、ビルの中の尾白猿夫と葉隠透、二人の居場所を突き止めた。素晴らしい手腕である。複製腕だけに。

 

そして、轟焦凍は黙ってビルに触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──いや、ありえない。ありえないから。

 

「ね、ねぇ、障子くん。私、夢見てる訳じゃないよね…」

「……信じられないだろうが、現実だ。」

「だ、だよねー…………マジかぁ…」

 

ヒーローチームの勝利だというのに、北条は浮かない気持ちだった。

 

他のチームの戦いをモニタで眺めながら、先程の戦い…いや戦いと言うには一方的。

それこそ、蹂躙という言葉が似合う出来事を思い出していた。

 

轟焦凍、彼の個性は余りに強力すぎた。

下手なプロヒーローよりも強いことは確かで

 

「ひょっとしたら……ポフレより強いかも…」

「ポフレ?……聞いた事ある気がするな。」

「私のお父さんの個性だよ。お父さん、元サイドキックだから…その関係かな。」

 

北条は何故か障子目蔵と仲良くなり始めていた。

 

「そういえば、障子くんって何で青い布なんて付けてるの?イケメンなのに勿体なくない?」

 

きゅるるん!

 

北条と障子目蔵の身長差を考慮した表情、目線、仕草。

愛らしく、しかしくどくない。そう愛玩動物じみた可愛らしさではない、思わずキュンっと来てしまう人間のそれ。

 

完璧だった。

 

「……そ、うか?」

「絶対そうだって。」

「……ありがとう。」

 

──落ち……たか?

 

純情な少年の心を弄ぶな

 

 

 

 




障子!!俺だーーー!!結婚してくれえええええ!!!!


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12 

USJ編は長くなりましたら、章にしてまとめます。


 

 

「何喋ってっかわかんなかったけどアツかったぜおめー!!」

「よく避けたよー!!!」

「一戦目であんなのやられたから俺らも力入っちまったぜ…」

「俺ァ切島鋭児郎。今みんなで訓練の反省会してたんだ!」

「私、芦戸三奈!よく避けたよー!」

「蛙吸梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで。」

「俺、砂藤!」

 

ガラリと開いた扉から入ってきた、1人の人物に皆は興奮した様子で詰め寄って行った。

北条もその1人。

 

「私は北条なぎさ。さっきの戦い……すっごい良かった!貴方すごい人だよ!」

「あ、ありがとう…ございます…!」

 

北条は緑谷出久に手を差し出す。

それを手に取った緑谷出久に、畳み掛けるようにもう片方の手を重ねた。

 

「よろしくね。」

「うああああああ……」

 

北条の行動によって、緑谷出久は朱を注がれた。

 

脚が震えた。

気を抜いたら、へたり込んでしまいそうになる。へそより下に何か詰め物をしたような、なのに何処か心地良いような感覚。

 

だが、そこは北条(ベテランの変態)

そんなモノはおくびにも出さない。

 

北条は可愛く笑みを浮かべるのみ。

 

──フ、落ちた……な。

 

何故それだけでそう思えた。

 

「って、あれ?!デクくん怪我、治してもらえなかったの!?」

「あ、いや、これは僕の体力のアレで…あの、麗日さん…それより、かっちゃんって……」

 

──かっちゃん?……あ、爆豪ツキ

 

「爆豪くんなら、先に帰ったよ。皆で止めたんだけどさ……」

「うん…さっき黙って帰っちゃったよ…」

 

麗日お茶子は申し訳なさげに言った。…原因でも無いのに。優しい子なのだろう。

 

「そっか……!ありがとう、麗日さん、北条さん!!」

 

緑谷出久は何かに急かされるように、走って行ってしまった。

 

「…緑谷くん、爆豪くんに会いにいくのかな?」

「男のインネン……ってやつだね!

 

 

 

 

 

 

 

 

──委員会…立候補するだけしといたけど、もし選ばれたら……ヤバいな。面倒だけど嬉しい。

 

そんな風に考えていた、委員会決め。

北条には1票のみ票が入れられていた。北条にである。

 

終わり昼食。

 

「あーー!!なぎさちゃんってあの時の!!?」

 

北条は小躍りしたくなっていた。

そういえば〜と軽い感じで話たが、実の所はずっと気になっていた事だったのだ。

 

「覚えてたんだ〜!嬉しいよ。……ねぇ、お茶子ちゃん、一緒にご飯食べない?」

 

だが、表には出さない。

あくまで、そういえば〜という体のため、ひどく喜ぶ様子など出せなかった。出せよ。

 

「うん!一緒に食べよ!あ、デク君と飯田君も一緒だけど良い?」

「もちろんだよ!寧ろ一緒に食べてみたかったんだ。」

 

北条はニコニコ笑いながら、麗日お茶子と歩いていった。

 

 

 

 

 




因みにタイトルは思いつきませんでした。


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13 一方、ポフレはご飯を食べていた。

感想を頂けると嬉しさの余り舞い上がってしまうので、ちゃんと返信を出来ているのか常に心配。


一家が1家になっているのは、見やすいようにする為の仕様です。誤字報告ありがとうございます!





 

 

 

「え"っ?!マスコミ来てたの!!??」

 

北条は思わず声を荒らげた。

無理もない。

北条は目立つことに命を掛けている。マスメディアなんて、頬も落ちる絶品の餌だ。

 

「う、うん。校門の前でオールマイトについて聞いてたよ。」

「麗日君や、俺も聞かれたな。」

「マジか。」

 

──早く来なければ良かった!!!

 

「…そうえば、人すごいね。」

 

北条は無理やり話を逸らした。

これ以上話していたら心が折れそうだった。

 

北条の中学校にも食堂は有った。

有ったが、雄英はそんな物比じゃない程の大きさ。

 

「ヒーロー科の他に、サポート科や経営科の生徒も一同に会するからな。」

「米が上手い!」

 

飯田天哉が丁寧に教えてくれた。

入試説明会の時の彼である。

 

…また会見えた際には若干嫌な顔をされた物だ。

されたが、北条は「緊張してたのと集中しようとしてて、ついつい」と説明したことにより和解した。

 

北条は麗日お茶子に、オカズを分けてあげた。

麗日お茶子は喜んでいる。

 

「いざ、委員長やるとなると務まるか不安だよ……」

「ツトマル」

「大丈夫でしょ。」

「大丈夫さ。緑谷くんのここぞという時の胆力や、判断力は【多】を牽引するに値する。だから君に投票したのさ。」

 

──緑谷くん、真面目そうだし大丈夫だと思うけどな。

 

北条は、又もや麗日お茶子にメインのハンバーグを人かけあげた。麗日お茶子は遠慮しつつ、それを頬張った。

余程美味しかったらしく、相好を崩す。

もはや餌付けである。

 

「でも、飯田君も委員長やりたかったんじゃないの?…メガネだし!」

「やりたい、と相応しいか否かは別の話…僕は、僕の正しいと思う判断をしたまでだ。」

「あ、飯田くん今ボクって言った。」

 

目敏い。

北条は、飯田天哉が割と良い話をしていたというのに、目敏くソレを見つけた。

 

「ほんまや!ちょっと思ってたけど…飯田君って、もしかして坊ちゃん?」

「………………そう言われるのが嫌で一人称を変えてたんだが……あぁ、俺の家は代々ヒーロー1家なんだ。俺はその次男だよ。」

「…マジか。ヒーロー1家とか…マジか。」

「えぇ!!すっごーーー!!!」

 

ヒーロー1家となると、正真正銘のエリート1家になる。

なにせ、ヒーローは世知辛い。

人気など一瞬に消え、歩合制のため、高い実力が必要不可欠なのだ。

 

「ターボーヒーロー・インゲニウムは知ってるかい?」

「もちろんだよ!!東京の事務所に65人もの相棒を雇ってる、大人気ヒーローじゃないか!!………!まさか……!」

「詳しい……。それが僕の兄だ。」

「あからさま!!すごいや!」

「飯田くんのお兄さん凄い人だね…」

 

実は、北条の父…細かく言えばポフレは、インゲニウムと縁深いのだが……北条は忘れている。

 

「規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー!!俺はそんな兄に憧れ、ヒーローを志した。人を導く立場は、まだ俺には早いのだと思う。上手の緑谷くんが就任するのが正しい!!!」

 

正しく力説。

飯田天哉は、初めての笑顔を見せた。

 

「なんか……初めて笑ったかもね、飯田君。」

「笑った方が良いよ、飯田くん。」

「え、そうだったか!?笑うぞ俺は!!」

 

北条は、ひどく幸福であった。

友達と学食で、こんなに賑やかに話ながら昼食を楽しむ。そんな事が、北条には酷く幸せに感じられた。

 

北条は又もや麗日お茶子にオカズを別け──

 

ウゥーーーーーーーーー

 

耳を劈くような甲高いサイレン。

それは、分けようとしたオカズを、机に落としてしまう程に突然の出来事だった。

 

「何これ……!」

「警報……!?」

 

〔セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは、速やかに屋外へ避難して下さい]

 

「すみません、セキュリティ3とはどういう事ですか。」

「誰か校舎内に侵入してきたってことだよ!三年間でこんなの初めてだ…!君らも早く!!」

 

ここは雄英。

セキュリティなど、簡単に敗れる訳がない。

そんなこと周知の事実。

 

そう、()()()()()()()()

 

そんなセキュリティが破られる程のヴィラン……並大抵な者では無いのは明らかであった。

 

 

「いたっ!!急に何!!?」

「さすが最高峰!!危機への対応が迅速だ!!」

「迅速過ぎてパニックに……って、どわーーーしまったーー!!」

「デクくん!!」

「緑谷くーーん!!」

「ちょ、緑谷く……キャアッ!」

「なぎさちゃん!!」

「北条君!」

 

あっという間の出来事であった。

 

みんな人混みに一瞬で流され、もう北条の目には3人は1人も写っていない。

 

「あ、危ないなぁ…」

 

奇跡的に北条は壁の方に追いやられ、北条はこれ以上遠くへ持っていかれる事は無かった。

 

──どうしよう……取り敢えず状況を把握しなきゃ。

 

状況を整理しようと、辺りを見ようと首を回した時。近くに1人の少女居ることに気がついた。

北条は、咄嗟にその子を庇う。

 

壁に両手を付き、鼻の付きそうな程近い距離……俗的に言えば、【壁ドン】である。

 

「いッきなり、ご、めんね!大丈夫ッ?

 

 

…百ちゃん。」

 

 

 




ポイント入れてもらった時は飛び跳ねて小指を打ち付けました。


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14 駅前で、友達に手を振った。


ヤオモモが書けたので……もう…未練はありません……(淡い光となって消えていく)


八百万百は、人混みに流されていた。

 

 

 

 

 

食堂の近くを通った際にサイレンが鳴り、あっという間にギュウギュウ詰めになってしまう。

 

それに加えて

 

──ッむ、胸を……!

 

人混みに紛れて胸に人の手や腕を感じていた。

 

得も言えぬ不快感を感じながら、八百万百は耐え忍ぶ。

 

八百万百にはこの様なことは何度もあった。

 

整った顔立ちに、高校生離れしたグラマラスな肉体。

 

八百万百は、良く【そういう目】で見られていた。

それを不快に思いながら、どこか諦めていた。

 

男性からは不躾な目を。

女性からは嫉妬の目を。

 

八百万百は、お嬢様である事も相まり、関わってくる人大概の人は金目当てか、八百万百の容姿からの物だった。

勿論、違う人も居る。だが…割合的には、そちらの方が多かった。

 

北条なぎさ、という同級生に睨まれた時、八百万百は改めてそう思った。

 

皆と仲良くはなれない。

そんな事、聡明な八百万百は解っていた。

でも…仲良くなりたかった。

 

でも、向けられる目は、友好的でないものばかり。

 

──彼女も、きっと……そうなのね。

 

そう思っていた。

 

「いッきなり、ご、めんね!大丈夫ッ?…百ちゃん。」

 

──どうして。

 

「たぶん、もうッすぐだと思うから!いってぇ…」

 

ドンドン、北条なぎさの背中を人混みは殴っていく。足を踏付ける。髪を引っ張る。

だというのに、笑って私を安心させようとしていた。

 

──どうして、私を…

 

「どうして、私を助けて下さったのですか…?」

 

気づけば、八百万百は喋っていた。

 

八百万百は先程から嫌なことばかりだった。

それによって思考は酷くネガティブになってしまう。

 

「え、ど、どうしてって……………」

「貴方は……私のことを快く思っていないようでしたわ。なのに、何故私を助けてくださるのですか。」

 

──あぁ、私、何を言っているのかしら。

 

そう思っても…言葉は溢れるばかりで、気づけば八百万百は、泣きそうになっていた。

 

「…私ッ、百ちゃんのこと、睨んじゃってたか……私、百ちゃんと友達になりたくって…」

「……え?」

 

サラリと嘘偽りを感じさせない言葉が、北条なぎさから零れた。

 

八百万百は目を見開く。

その拍子に八百万百の瞳から1粒の雫が流れた。

 

それを見て、北条なぎさは酷く申し訳なさそうに、優しく微笑んだ。

 

「庇ったのはね、ッ百ちゃんが、何だか困ってたから。……ヒーローに、助ける理由なんて要らないでしょ?」

 

北条 なぎさは人混みに揉まれてボロボロだった。

でも、決して八百万百から離れない。

 

「………そうですわね。ヒーローに、助ける理由など要りませんわ。」

 

 

 

「大丈ーー夫!!」

 

 

 

 

「えっ、飯田くん…!?」

 

出口の上で、張り付いているのは飯田天哉。

非常口マークにピッタリ張り付き、大声を上げた飯田天哉は、言うまでもなく視線を集めた。

 

 

「ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません。大丈ーー夫!!ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

 

 

その言葉に、人混みは落ち着いていく。

 

すごいね、と北条なぎさは八百万百に笑いかけた。

 

「ねぇ、百ちゃん。私と、友達に…なってくれない?」

「………えぇ、勿論ですわ……!」

 

八百万百は今日、嫌なことばかりで、昔の嫌なことを思い出してネガティブになっていた。

 

嫉妬の目。不躾な目。心無い言葉。

 

今日、八百万百は、それらが少し、軽くなったような…そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北条は心が傷んでいた。

 

 

女の子1人を泣かせてしまったのだ。

死刑ものである。

 

 

八百万百。

彼女の胸が触られているのを見た時、北条は思わず彼女の手を引いた。

助けたいという気持ちと、そしてもう1つ。

 

嫉妬したのだ。

 

北条は超ド級の変態(ルナティック・ポーヴァ)

 

エッチな目で見られたいが為、死に物狂いで行動しているような人間だ。

まぁ、触られたら下着がダメになっていただろうからされなくて正解だろう。

 

──後で、もう1回謝ろう。百ちゃんとは、もっと友達でいたいもんね。キチンと謝ろう。

 

友達増えちゃったな〜、なんて考えると、北条の心はポカポカと暖かく、不思議と幸せな気持ちになっていった。

 

──…さっきの状況が羨ましかったとは……うん、絶対にバレないようにしよう。

 

北条は、委員長が飯田天哉に代わる瞬間へ拍手を送りながら、そんなことを決意した。

 

 





エッチな人だ!!

的なことを書かれていたので、そういう関係で嫌なことは多かっただろうなと思ったので……

つまりは作者の趣味です。



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Dead or Alive
15 隣で溜息をつく音がした


USJ編突入します。


 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった。」

「ハーイ!何するんですか?!」

「災害・水難・なんでもござれ、人命救助訓練だ!」

 

──3人体制……豪華だな。ヒーロー3人から…イイ……!!

 

やましい意味では無い。

 

「レスキュー…今回も大変そうだな。」

「ねー!」

「バカおめー、これこそヒーローの本分だぜ?!鳴るぜ!腕が!」

「水難なら私の土壇場。ケロケロ!」

「おい、まだ途中。」

 

クラスメイト皆が、期待とワクワクを胸に盛り上がっていく。

北条も人命救助、というのはヒーローを目指す者として何か感じるらしく、ソワソワと落ち着きがない。

 

「今回、コスチュームの着用は各自判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗っていく。以上。準備開始。」

 

説明が終わると、生徒は席を外していく。

 

「ケロケロ。なぎさちゃん、一緒に着替えに行きましょう。」

「オッケー。今日のヒーロー基礎学、ドキドキしちゃうね……」

「私もよ、なぎさちゃん。お互い頑張りましょうね。」

「うん!頑張ろうね、梅雨ちゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こういうタイプだったかくそゥ!!」

「意味なかったなー。」

 

──私も前に座りたかったなーー!!!

 

北条は、割と悲痛な声を心で響かせる。

隣に座るのは、非常に整った顔立ちの少年。

 

そう、轟焦凍である。

 

一匹狼らしい轟焦凍は、北条からすると中々手難しい相手であった。

話しても、生返事のみ。それ所か返事すら帰ってこないこともしばしば。

それでも北条は懸命に話しかけていた。

 

「好きな食べ物ってなに?」とか

「特技ってある?」とか

「いい天気だね。」とか

 

全く成果など得られなかった。

 

よって北条は話すことを諦めた。

 

流れる時間は、最早虚無。

 

北条が唯一出来る暇つぶしは、前の席に座って談笑するクラスメイトを羨ましげに見つめるのみだった。

 

「派手でつえぇっつったら、やっぱ轟と爆豪だな!」

「ケッ」

「爆豪ちゃんは、キレてばっかり人気でなさそ。」

「んだとコ"ラ!!出すわクソ!!」

「あと、なぎさちゃんの個性も派手だと思うわ。」

 

能力じゃない方の個性のぶつかり合いだ。

 

半分ほど夢の世界へ飛び立っていた北条。

いきなり自分の名前が出された事に驚き、爆豪勝己のキレッキレのキレに怯えていた。

もっと強くなれよ。

 

「確かに!いきなり変身した時ビックリしたー!」

「そう考えると北条の個性も派手だな!」

「性格良いから爆豪より人気でそう…」

「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるって、すげえよ。」

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ!殺すぞ!!」

 

──え、怖……

 

「え、怖……」

「ほら、なぎさちゃんが怖がっちゃったじゃんか!」

「こん程度で怯む奴のことなんか気にすっかよ!!」

「かっちゃんがイジられてる…!信じられない光景だ、流石雄英……!!」

 

 

「もう着くぞ。いい加減にしとけよ……」

 

「ハイ!!」

 

 

 

 

 

 

 




評価一覧が小指打たせに来てるゥーー!!!


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16 これは唯の序章である

 

 

「すっげー!!!USJかよ!!?」

 

──訓練場っていうより、テーマパークっぽいな。

 

大きなジェットスライダーのような建物や、波の経つプールのような水辺。まるでリゾートの様な大きな建物。

 

バスから降りた皆を待ち受けていたのは、豪華で遊び心を感じられる訓練場であった。

 

余談だが、北条は遊園地等のテーマパークへ行ったことが無い。

だから、北条にとってのテーマパークはテレビで見た物だ。

 

なので、この様な大きくて、子供心を擽るような建物達には何とも……耐性というか、慣れというか、そういうものが無い。

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc.あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も……ウソ(U)災害(S)事故(J)ルーム!!」

 

──う、え、あ、じゅ、13号さんだ…!

 

この限界を迎えているのは北条である。

 

最早言うまでもなかろう、北条は13号先生のファンなのだ。

 

フワフワしたコスチューム。全体的に丸くて、思わず抱きつきたくなる。紳士的で、カッコイイ。

 

北条は邪な気持ちは一切なく、13号先生が好きだった。

なんなら、今すぐサインを貰いたい。

 

「わー!!私好きなの13号!」

「わ、私も!」

「ほんま?!なぎさちゃんも好きなん13号?」

「うん!すっっっごい好きなの!!!」

 

マジかー!と北条は浮かれながら、麗日お茶子と手を繋いでピョンピョン跳ねる。うさぎか何かか。

 

…北条がフワフワ気分で浮かれる中。

13号先生と相澤先生は何やら話し込んでいた。

13号先生が何かを伝えると、相澤先生の眉間のシワが更に深く濃くなった。

 

……そういえば、オールマイトは何処だろうか。

 

「えー、始める前に、お小言を一つ、二つ…三つ四つ。」

 

──小言増えるなぁ…でも13号さんのそういう所、好き。

 

その純粋さを常に持っていてくれ。

ぽやぽや顔で、手を両頬に当てた幸せ気分な北条は、13号先生の話を聞き逃さないように耳を澄ます。

 

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性は、【ブラックホール】。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます。」

「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

何度も動画で見たことがある。

吸い上げた瓦礫が、指に吸い込まれチリに変わるのを。

それを見る度、なんだか薄ら寒くなる思いであった。

 

「ええ……しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう。」

 

──ポフレとか、良い例よね。

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば、容易に人を殺せる【いきすぎた個性】を、個々が持っていることを忘れないで下さい。」

 

北条が中学生ぐらいの頃、夜の公園で個性を使っていた時、うっかりビームを放ち、危うく公園の遊具を消し去りそうになったことがある。

 

ポフレに謝り倒して、すぐさま直してもらったが……あれは思い出したくはない。

 

温厚な人間……いや個性だが、そういう者が怒るのは、金棒を持った鬼よりも恐ろしい。

今でも身震いする様な記憶だ。

 

……あれを人に向けてたなら……考えたくもない。

 

「相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。」

 

………余談だが、100年くらい前には個性は無かったらしい。

……どういった世界だったんだろうか。

 

「この授業では……心機一転!」

 

先程までの、何だが重苦しい、暗い雰囲気から一変。

いつも通りの、明るい13号先生に戻る。

 

「人命の為に、個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は、人を傷つける為にあるのではない、助ける為にあるのだと、心得て帰って下さいな。以上!ご静聴ありがとうございました。」

「ステキー!」

「ブラボー、ブラボー!」

 

──カッコイイ…はぁ…やっぱ13号先生最高だわ……

 

北条は精一杯の拍手を送りながら、そう思った。

好きすぎるだろ。

 

北条は拍手を送りながら、そう思った。

 

「そんじゃあ先ずは……」

 

相澤先生はピタリと言葉を止める。

目は会場の方を凝視しており、それは何だか不自然にも感じられた。

 

北条も習って、下にある会場を覗く。

 

──モヤモヤ?

 

なんだろう、と北条は小首を傾げる。

黒い霧っぽいモヤが、広場に広がって言っていた。

さっきまで、あんなものは無かった筈。

 

「一塊になって動くな!!!」

 

相澤先生が、そう叫んだ。

 

 

 

 




いつも誤字報告ありがとうございます。


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17 それは希望か絶望か



なんでDead or Aliveにしたんだろう……


 

「まさか…こんな所にワープさせられるなんて…」

 

セントラル広場に突如と現れたヴィラン。

 

相澤先生が自身の個性【抹消】で足止めをし、北条達は13号先生先導の元その隙に逃げ出そうとした。

 

だが、それはワープ系の個性を持った者に阻まれ。

 

気づけば、炎が布を焦がすUSJ内の火災ゾーンに飛ばされていた。

 

クラスの算を乱され、互いに行方知れず。

 

そんな状況にも関わらず、意外にも、北条は冷静であった。

 

──あのモヤの人は…そこまで遠い所に飛ばせないのかな。

 

できるのだったら、粉砕機の上にでも送る筈だ。

 

「にしても…弱いのばっかり。チンピラの寄せ集め?」

 

北条は、地に伏せたヴィランを眺めながら呟く。

 

降りた瞬間に変身をした北条。

瞬きをする程度の刹那。花弁が地に落ちるよりも圧倒的な速さで北条は敵を片付けた。

 

伏せた(ヴィラン)の数に、北条は自分のことだが感動した。目頭が、炎の性ではなく熱くなり、思わず押さえる。

 

昔は酷かった。

 

変身した直後に高熱で倒れたり、

相手の目を見て頭痛で倒れたり、

ビームを撃って死にかけたり。

 

とにかく死にかけていた。

 

諦めた方が良いと、もっと他の夢を見つけろと、何度も諭され。

それでも諦めず、ずっとずっと自身を追い込み続けた。

 

それが、ついに実を結んだのが雄英高校合格である。

 

そして現在。

昔だったら有り得ない程に強力になった個性に、感激しない方が可笑しい話だ。

 

全ては「R指定の同人誌を発売されたい」という夢を叶える為の努力。性欲は物事を超えるのだ。

 

余談だが、最近NTR(ネトラレ)とかやられるのも良いんじゃないか、とか思い始めてる。因みにNTR(ネトラレ)される側だ。ドMか?

 

──こんなに弱いなら、みんなも大丈夫だよね。

 

最初に感じた不安は杞憂だったらしい。

いとも簡単に倒せた敵に、北条は安堵した。

 

この程度の敵しか送ってこないのだ、なら、リーダー側もさしたものでは無いだろう。そう考える。

 

そして、一つの作戦を立てた。

 

題するなら…そう、

 

 

 

ドキドキ!☆先生助太刀大作戦!

 

 

 

これほど弱くとも、数多ければ中々面倒だ。

それを助太刀しにいき、アピールしよう。

という物。

 

勿論、心配の気持ちもある。

あるには有るが、どうにも、ここまで弱ければ大丈夫だろうと思えた。

 

…どんな相手にも油断するな、と口を酸っぱく言れていた筈なのだが。

ポフレが聞いたら怒髪天を衝くこと間違いなしだろう。

 

──それに、先生でなくともクラスの人達にアピールできる!……もし、私の勇姿に憧れなんかしたら……

 

北条は脳が、ジュワジュワ呑まれそうな液で満たされた器であるように思えた。

背筋を液が垂れ、痛みなく溶かされるような感覚に、北条は思わず笑みを浮かべた。

 

それが普通の、純粋な少女の笑みだったのだから手に負えない。

 

思い立ったが天赦日。

事程左様に、北条は全力疾走で広場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北条は数分前に戻れるなら、間違いなく自分を殴ってでも止めることだろう。

 

 

─なんなの…あれ……

 

異形系の個性か。脳の露出した、正しく人間離れした体。大きく、真っ黒で、見るのも憚られる姿。

 

それが、相澤先生の腕を折った。

それが、相澤先生の頭を打ち付けた。

それが、相澤先生を痛めつけている。

 

手を体中に貼り付けた、不気味な男。

 

その男が相澤先生の肘を砕いた…否、崩壊させた。

 

怖気を震う余りにも悍ましい光景に、北条はへたりこむ。

 

広場の近くのジェットスライダーの上で観察していた北条の手は震え、目からは雫が垂れていく。

 

無意識に北条は、コンパクトを掴み、まるで小鹿のように震え上がった。

 

………ふと、目が、あった。

 

──あ…

 

北条の鼓膜の後ろで警鈴が鳴り響く。

このままでは、殺される。

 

露出した脳ミソに沈んだ、ギョロリと死んだ魚のような眼球と、目が合った。

 

──あの人、生きてない

 

合ってしまった(わかってしまった)

 

「ショットォ!!!!!!」

 

反射的に北条は手をかざした。

 

その手の平は少し赤く光ると、赤色の輝く球が飛び出す。

淡く、鮮烈な光が猛烈な速さで光の玉は、悍ましいソレに直撃した。

 

「──は?」

 

その光の球にさしたる攻撃力は無い。

だが、隙を作るには十分であった。

 

手のひらに光が集まり、肥大化していく。

 

「レーザアアアアアア!!!!」

 

苛烈で激甚な眩しい光は、1本の線となり、やがて北条の腕程の大きさとなり、放たれた。

 

光の球……【ライトショット】は大した攻撃力では無いが、2回連続となると流石に堪える筈だ。

 

こうなれば、もう後には引けない。

 

戦えば死、ここに居ても死。

なら、戦って散華したい。

 

そう思うのは、魔法少女を冠する個性を自称する者としての、プライドだった。

 

北条は自慢の脚力で、ウォータースライダーを駆け下り……ウォータースライダーの上から飛び降りると、素早く相澤先生の前に、悍ましいソレと不気味な男に立ちはだかる。

 

「……おまえ…何して…」

「その状態で、喋って体力を消耗するなんて…合理的ではありませんよ。イレイザーヘッド先生。」

 

酷い怪我の相澤先生に、北条は笑いかけた。

まるで花に笑いかけるような、優しい、自然な笑み。

こんな危機的状況。まだ生徒でしかない。その笑顔は何故か、とても安心出来るように感じられた。

 

──飛び出したのは叱られるよなーー!!

 

北条はそう心の中で叫びながら、目の前の2人を睨みつけた。

 

「はぁ……何なんだよ……!!何奴も此奴も…!ヒーローはいっつもそうだ…!……【脳無】。」

 

男の命令に瞬時に【脳無】は反応した。

一瞬にして間合いを詰められ、筋肉質な右手を腹に喰らわせようと拳を捻る。

 

「ッ!ショット!!!!」

 

北条はそれを間一髪で回避し、脳にショットを打ち込み、相澤先生と共に間合いを開いた。

 

──余りにも速い…それにアノ感じ……まさか

 

「効いてない……?」

 

唖然と呟く。

 

「ソイツは対平和の象徴、怪人脳無だ。」

「…オールマイトのことだよね。なんで貴方たちはオールマイトを殺そうとするの。」

「憎いからだよ、オールマイトが。……だから殺す。それだけさ。」

 

──説得は無理。隙を稼ぐのも難しそう。

 

恨み骨髄に徹す敵には、説得など通じない。

オールマイト(平和の象徴)への恨みは、世間への恨みに直結している部分がある。

 

そんな者が、対話などする気がしない。

ましてや……こんな…不気味で、悍ましい者だ。

 

──こんな奴を相手するだなんて、絶対に

 

「………辛いよね。」

「……は」

 

この先起こるかも知れない、グロテスクで悍ましい想像に、北条は身震いをした。

 

絶対にコイツら道連れにしてやる。

そう決心し、拳を握る。

 

ふざけんなよ…!なにが辛いよねだ……決めつけやがって……これだからヒーロー志望は嫌なんだ…これだからヒーロー(偽善者)は!!!!やれ、脳無!!!!!

 

男の悲鳴にも似た、脳無への命令を聞いた瞬間。

北条は腹部に激烈な痛みが走った。

 

目玉が弾き出されそうな勢いと、心臓も肋骨もアバラも弾けそうな痛みに、北条は目を見開くことしか出来ず。

 

ただ判断出来たのは、その痛みと、視界が黒いもの(大きな手)に掴まれたことのみ。

 

それを脳が解析するよりも早く、北条の頭は地面に叩きつけられた。

 

鈍く血まぐさい音が北条の耳の裏、少し上から鳴った事に気がついたのは、脳無の動きが止まった時であった。

 

息を吐くことも、瞬きすら制限される程の刹那に起こった出来事。

それを視界に収めてしまっていた、3人は、凄惨な光景に息を呑んだ。

 

「ァグッ……!!」

「……脳無、ソイツの頭を潰──」

 

「死柄木弔、少し宜しいでしょうか。」

 

死柄木弔の命令が途中で止んだからか、脳無の動きは止まり少し弱まる。

 

後頭部及び脳髄にまで響く激痛。

先程とは別の、甲高い警鐘が脳裏で鳴り響く。

 

だが、地面を染める血液が脳ミソにまで浸透し、溢れ、満たす感覚が…不思議と気持ち──

 

──…あぶねぇ!!!Mに目覚める所だった!!!

 

良くは無かった。

 

北条は別の扉を見つけるという驚きと、その扉への恐怖心により、何とか脳無を突き放した。

流石にMはマズイMは。

 

──超ノーマルな私でさえも目覚めさせかける……ヴィラン、なんて恐ろしい……!!!

 

死柄木弔の命令を待つばかりの脳無。

対峙するように、北条は拳を握っていた。

 

それを横目で見やった死柄木弔には、先程の鬼気迫る勢いは無く。

何処かぼんやりとしたように北条を見つめると、直ぐに視線を黒いモヤへと戻した。

 

「……黒霧、13号はやったのか。」

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」

「…………は?……はーー……はぁーーー……」

 

ガリガリガリガリ

猫が爪を研ぐときのような音を、男は首を掻きながら出していた。

 

「黒霧おまえ……おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ。…さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。あーぁ……今回はゲームオーバーだ、帰ろっか。」

 

北条は、グラグラ揺れる視界と覚束無い足取りで立ち上がる。

だが、思考は止まず絶えず続く。

 

──帰る…かえる……変える…?……まさか!!

 

北条は死柄木弔の視線が、1人の女子生徒へ向いていることに気がつく。

 

──アイツ、梅雨ちゃんお持ち帰りするつもりかよ!!!

 

多分違う。

 

「けどもその前に、平和の象徴としての矜持を少しでも………へし折って帰ろう!」

 

北条は気がつけば走り出していた。

 

死柄木弔の手が、蛙吹梅雨の顔に触れる寸前。

北条は腕を滑り込ませる。

この距離では追いつくことで精一杯。

 

だから、北条は、自身の腕を犠牲にすることを選んだ。

 

北条は目を瞑り、次にくる痛みに備える。

 

だが、痛みなど一向にこなかった。

 

「……ほんとカッコイイぜ……お前もイレイザーヘッドも……!!!」

 

イレイザーヘッド 個性 【抹消】

 

倒れていた相澤先生の髪は逆立ち。瞳は、真っ赤に朗々と輝いて、死柄木弔を睨みつけていた。

 

──相澤先生を傷物にしただけに飽き足らず。相手の同意なく、しかも、顔を傷つけてとは………やっぱヴィランはアブノーマル!!許さんぞ死柄木弔ァ!!!!!!!!!!!

 

北条は怒りに燃えていた。

 

血の海に沈み、生きているのか、死んでいるのかも判断出来ない相澤先生。

 

顔を崩し、その体に手を付けられそうになった蛙吹。

 

乱暴、屈辱、そんなもの許せる訳が無い。

 

北条は、ヒーローとしても、梅雨の友達としても、相澤先生の生徒としても、腹だだしいこと、この上ない!!!!

 

あと北条は、自身に対してじゃないのが悔しかった。

 

「手っ……離せェ!!!!!」

 

緑谷出久は飛び出した。

 

「…脳無。」

「SMAASH!!」

 

緑谷出久は死柄木弔へ個性の殴りを御見舞…

 

「え……」

 

出来なかった。

 

緑谷出久の放った殴りは、死柄木弔の命令により、飛んできた脳無へ。

 

「いい動きをするなぁ……スマッシュって……オールマイトのフォロワーかい?まぁ、いいや、君。」

「み、緑谷!!!」

 

北条は手をかざす。

もう満身創痍に近い状態で、消費する技(ライトショット)を行うなど、馬鹿げている!!

 

北条がライトショットを放ち、気絶するまで

 

4...3...2..─

 

「もう大丈夫。……私が来た。」

 

北条はショット!と叫ぼうとし、止めた。

 

USJの扉は開け放たれた。

危機的状況なのは変わらない。死柄木弔が地に伏せたわけでも、脳無が爆裂四散し塵芥と変わった訳でもない。

 

だというのに……

 

──あぁ……助かった……!!

 

もう助かった、という絶対的な安心があった。

 

「嫌な予感がしてね…校長の話を振り切りやって来たよ。来る途中で飯田少年とすれ違って……何が起きているか、あらまし聞いた。

 

────もう大丈夫、私が来た。」

 

「オールマイトォォ!!!」

 

「あーー……コンテニューだ。」

 

 

 




2人が飛び出した時は興奮しました。

その時隣(作者姉)の部屋から壁ドン喰らいましたね。
人生初の壁ドンでした。



嘘です。姉なんて居ません。


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18 


ストックが全部消去されました。


 

 

 

「すごい………」

 

オールマイト先生の驚異的な速さと、猛烈な強さを目の当たりにした北条は、ただ唖然とオールマイトを見つめていた。

 

オールマイトが来てからは、あっという間に事が進んだ。

気がつけば相澤先生と北条は、広場からは遠い場所へ。しかも緑谷出久、蛙吹、峰田実も共に。

 

「なぎさちゃん……肩を貸すわ。」

「ありがとう梅雨ちゃん。でも大丈夫。……それより、梅雨ちゃん、緑谷くん、実くん。速く入口へ行こう。………緑谷くん?」

「っそうだね。行こうか。」

「オールマイトが来たからにはもう安心だぜ!緑谷ァ!!!早く担いで行くぞ!!!!」

 

ボロボロの北条は、首を傾げた。

 

オールマイトを見つめる緑谷出久の目が、ひどく心配そうであったからだ。

 

──あんな強いのに、なに心配してるんだろ。

 

ただの心配性か。はたまた、オールマイトについて、()()()知っているのか。

 

「何でバックドロップが爆発みてーになるんだろうな……!!やっぱダンチだぜオールマイト…!!」

「授業はカンペ見ながらの新米さんなのに。」

「ほんっとうにスゴい……格が違うよ…」

「なぎさちゃん……本当に大丈夫なの?」

「大丈夫。こう見えて私、すっごい頑丈なの。」

 

心配そうな蛙吹を見て、北条は安心させようとニコニコ笑いかける。

だが、蛙吹の不安そうな顔は全く変わらない。

 

後頭部が血濡れ、露出している腹部には痛々しい痣が大きく現れている北条。

明らかに危険であり、大怪我であるかのように見えるが……実はそうでもない

 

変身系【魔法少女】。

昔に流行ったアニメや本に描かれていた彼女たちは、こんな程度でへこたれるような者たちであったか?

 

否。この程度、爪楊枝が刺さったようなもの。

 

体力を消耗しているだけで、直ぐに治る。

こういう所は母親の個性似なのだ。

 

オールマイトがバックドロップを脳無に仕掛け、爆発のようになった後。

舞った砂埃…否、もはや砂嵐だった物が晴れた時。

 

脳無がオールマイトを掴み、自ら黒いモヤの中へ入っていた。

 

「蛙す……つ、ゆちゃん!」

 

緑谷出久が蛙吹を呼ぶ。

 

す、まで言って直したのは、蛙吹が梅雨ちゃんと呼んで欲しいからだろう。

 

「頑張ってくれてるのね。なぁに緑谷ちゃん。」

「相澤先生担ぐの変わって……!!」

「うん…けど、何で」

 

蛙吹が言い切る直前。

 

緑谷出久は飛び出した。

生き急いだように、全速力で

 

「オールマイトォ!!」

 

広場へと飛び出していった。

 

だがしかし、黒いモヤがそんな事許す訳がないのだ。すぐさまに緑谷出久を飲み込まんと広がる。

 

北条は顔色変えて緑谷出久を追いかけようとし、峰田実に止められた。具体的には足に張り付かれた。

 

っけ邪魔だ!!デク!!!」

 

BOOOOOON!!!

 

オレンジとレッドの入り交じった爆炎を纏った拳が、突如モヤの持ち主の腹を横殴りにした。

そこをすかさずと地に伏せ、押さえつける。

 

轟焦凍が現れ、オールマイトを避け、脳無の半身のみが氷漬けに。

 

「だぁー!!」

 

切島鋭児郎は、果敢に死柄木弔に殴りががかった。見事に避けられたが、その勇気は賞賛すべきものだろう。

 

「くっそ!!いいとこねー!!」

「スカしてんじゃねえぞ、モヤモブが!!!」

 

脳無の半身が凍ったことで、脳無の手が緩んだのだろう。

オールマイトは素早く抜け出した。

 

「なぎさちゃん、大丈夫よ。みんなも強いわ。……信用してあげて、みんななら大丈夫よ。」

「そんなボロボロで行った所で、どうにもなんねぇよ!!大人しく皆のとこ戻ろうぜ!?」

 

北条の再生能力等は、常人のそれを遥かに凌ぐ。

だが、所詮は学生。

あの中で足でまといにならず、動ける自信など、北条には無かった。

 

何も出来ないことの、何と歯痒いものか。

 

「………そうだね。みんなは、強いよね。」

 

北条はそう独りごちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッガアン

 

脳無が吹き飛び、USJの強固な天井ガラスを破り、何処か遠くへ飛んでいった。

 

「マジかよ…」

 

蛙吹と峰田実と相澤先生の4人で辿り着いたUSJの入口付近。

 

北条は体を休めながら呟いた。

 

脳無とオールマイトの戦いは、小さな台風の中心で行われているのかと見まごう様な物だった。

 

小細工無しの殴り合い。

 

それが、如何して台風を巻き起こすのか。

それが、如何してここまで胸を打つのだろう。

 

北条は、これが命を脅かす恐ろしい戦いであることも、先程自分がMに目覚めそうな程の激痛を食らったのも忘れ、ただ、見惚れていた。

 

──これが、トップヒーロー(愛される者)か…!

 

胸から滲む悔しさ。

海馬に染み付こうとする絶望感。

胸打つ興奮。

 

──あぁ、もし、もしも、ああ成れたなら!

 

北条は、そう考えるだけで幻覚すら見そうな程に、どうにか成りそうだった。

 

頭が沸騰して、グラグラ瞳が揺く(あゆく)

緊張すらせずに、オーガズムの紛い物を身近に感じ始めていた。

 

そんな北条は、気づく事が遅れた。

 

穏やかに眺めていた北条は、突如形相を歪め、手をヴィランに翳す。

 

緑谷出久が、黒霧に飛びかかる。

 

目にも止まらぬ速さ、これがもう少し遅ければ北条もショットを打って止める事程度なら出来ただろう。

 

これだと、間に合わない。

 

黒霧のモヤから、死柄木弔の手が現れ、緑谷出久に近づく。

 

「ショット!!」

 

北条の手のひらから、淡い光の球が作られ……消えた。技の使用制限(リミッター)である。

 

死柄木弔の手が、緑谷出久に触れようとしたその時。

 

「ごめんよ皆」

 

()()()()死柄木弔の手から、血が溢れる。

 

「遅くなったね。すぐ動ける者をかき集めてきた。」

 

優しい声が、後ろから聞こえる。

北条は振り向いた。

 

「1-Aクラス委員長、飯田天哉!!」

 

 

「ただいま戻りました!!!」

 

 

 





ストック………(´;ω;`)ブワッ


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雄英体育祭開催
19 雄英体育祭って、なぁーに?


説明しよう!!!雄英体育祭とは!

 

 

雄英が行う体育祭のことである!!

 

 

以上!!!

 

 

 

 

 

 

 

かつてはスポーツの祭典とも呼ばれたオリンピック

だがそれは個性の発覚により廃れ、今やマイナーな大会となった。

 

その【人々を熱狂させた祭典(オリンピック)】の代わりになったのが、この雄英体育祭。

いわば日本ビックイベント。

 

生放送の平均視聴率は脅威の80%

 

チケット争奪戦は苛烈極まり、開催当初は社会問題になった程。

 

雄英体育祭で目立つことは将来有望である事と同義。

 

名のあるヒーロー事務所からのスカウトも夢じゃない。

 

逆に、雄英体育祭で何かのヘマをした時、将来の道は、ほぼほぼ絶たれた様な物となる。

 

雄英体育祭は、そんな夢と希望と絶望の大会なのだ。

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

「雄英体育祭!ヒーローの卵たちが我こそはと鎬を削る年に一度の大バトル!!」

 

プレゼントマイク先生の勢い良い声が、入場口前で待機する北条達にまで届く。

 

その声に、待ってられない!と大勢の観客は沸き起こり、絶叫にも似た歓声が会場内を回った。

 

「どうせてめーらアレだろ?こいつらだろ!!?敵の襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!」

 

北条は震えていた。

手足は痙攣し、膝はガクガクと揺れ、北条は歯を食いしばり俯いて耐えていた。

 

オーガズムを迎えた訳では無いので安心して欲しい。

 

北条は、ひたすらに耐えていた。

大勢の前でダラしない顔をするのは、流石に常識が……というかプライドが押さえ込んだ。

 

このまま普通に居られれば良いのだが…

 

「ヒーロー科!1年A組だろぉおお!!?」

 

──おほあああああ!!!!

 

ダメだこれ。

 

遂に興奮は沸点を超え、北条は心の中で叫んだ。

 

身体の産毛が威嚇する猫のように逆立ち、電気ショックに似た感覚が目の裏まで走り抜ける。

 

胃や肺から込み上げるモノを出すまいと、北条は口を抑える。因みに、まだ限界まで達してない。

 

前に続くように、北条は脚を踏み出す。

 

一層と大きくなる歓声と比例するように、北条の興奮はグングンと高まり、緊張と混ざり合い訳の分からない事になっていた。

 

──これは………………ヤバい。

 

これ以上続けたら、大変なことになることだろう。

 

自分の体的な意味でも、社会的な意味でも。

 

北条が人知れず危機感と、その危機感による背徳に慄く

 

「……大丈夫か?」

 

全体的に真っ黒で、触り心地の良さそうな姿。鳥類的な顔立ち。北条よりも小さな少年。

 

常闇踏陰が、心配そうに北条の顔を覗いた。

 

「だ、大丈夫。……ちょ、ちょっと緊張してるだけだから。常闇君も…緊張してる?」

「無論。俺も緊張はしている……これで指名(インターン先)が決まるとなるとな。」

 

名のあるヒーロー事務所に入れば、それだけで知名度が上がる。

その為には、この雄英体育祭で目立つことが必要不可欠。

 

その緊張たるや、凄まじいもの。

 

R18禁ヒーロー、ミッドナイト先生が壇上でムチを振るう。

 

「選手宣誓!」

「18禁ヒーローなのに高校に居ていいものか。」

「いい」

「静かにしなさい!選手代表!!」

 

──バラ鞭だ。一本とか乗馬とかじゃない……ドSっぽいけど、案外甘いの使うんだ。意外…

 

極薄の肌色タイツ。コルセットから胸の合間を経由する黒いベルト。手首に付けられた手錠。

 

R18禁 ヒーロー ミッドナイト。

因みに18禁ヒーローは自分で名乗っている。

こんなアブナイ格好だが、れっきとした雄英の教師だ。

 

余談だが

 

バラ鞭は六条鞭・九尾鞭・ナインテール等の多種な呼び方がある。

 

バラ鞭と乗馬ムチは見た目に反し、さほど痛くは無い。

だから甘い、という北条の意見は間違いではないのだ。SM界隈では。

 

「1-A 爆豪勝己!」

 

同名の別人ではない。

 

正真正銘、クソを下水で煮込んだような性格の爆豪勝己のことだ。

 

他クラス(B組)のヘイトを稼いだ、あの爆豪勝己が呼ばれた事にクラスはザワついた。

 

何せ、選手宣誓は入試1位の者が行う。

だから、もう少し、なんと言うか……マトモな人間が行うと思っていたのだ。

 

あの幼馴染の緑谷出久でさえも、一瞬動揺した。

 

ミッドナイト先生の言葉に、爆豪勝己は歩き出す。

 

そして、壇上に立つ。

 

ズボンに手を入れ、大胆で、横暴さを感じさせる立ちずまいの爆豪勝己は、緊張など感じていないかのように口を開いた。

 

 

宣誓(せんせー)

 

 

「俺が1位になる」

 

 

「やると思った!!!!」

 

 

 




この作品は、老若男女問わず楽しめる健全な作品を目指しております。


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20 会場に歓声と共に、少年が入場した。


文章力上げようと頑張りました!!!!!

頑張った結果がこれだよ!!!!


 

 

 

 

 

驚愕を見せる歓声が会場を熱する。

 

今日(雄英体育祭)を当てられた幸運な観客達は、明日も昨日も忘れ、ただ1つのみに思考と感情は乗っ取られる。

 

入試試験の0ポイント(おじゃま虫)

 

1歩歩けば地面が揺れ、鉄の巨体はゆっくりと迫る。

何百回建ての高層ビルよりも高く、足が竦む威圧感を放ち、道を塞ぐ。

 

……そんな物が

 

──氷漬けかよ!!?

 

白みがかった氷漬けのロボは、歩みだした姿そのまま、グラリ、崩れた。

 

「1-A 轟!攻略と妨害を一度に!こいつァシヴィー!!ずりぃな1抜けだ!アレだな、もうなんか……ズリィな!!!」

「お、おい!誰か下敷きになったぞ!」

「死んだんじゃねぇか!?死ぬのかこの体育祭??!」

 

例の如く出遅れた北条。

多くの困惑の声。動揺に飲まれ、足を止めた参加者たちの横をすり抜けていく。

 

気づくのは、通り抜けた時の風だけで、北条は全く気づかれない。

 

横風に揺れた髪が頬を刺すのを、はて?と首を傾げた少年少女の姿は後ろ。北条は珍しく、地味に行動していた。

 

北条には作戦があった。

 

【ロボの頭上を飛び越える】

 

あんな大きなロボを飛び越える、だなんて目立つ所の話じゃない。それに、無駄な戦闘を避けるのは印象も良い。

 

ここで目立つよりも、そこで一気に目立つ方が効率的であり、莫大である。

 

北条は足に力を込め、一気に跳や─

 

「A組 爆豪!巨大ロボの頭上を行ったー!更に瀬呂と常闇も後を追う!」

 

──はああああああああ!!?

 

先を越された(アイディア被り)

 

いま北条が飛んでも【爆豪勝己のマネ】という印象が着くことは免れない。

北条は2番目……それどころか4番目。

 

そんなこと、目立つことに命を懸けている北条には到底許容できることではない!!!

 

女の子は何時だってトクベツになりたいのだ!!!

 

「借りは必ず返すよ……!!」

 

涙を呑んで足の力を走る分のみに変えた。

 

タッタッタッ、と軽快に走る北条に三体ロボが近づく。

 

入試の時のロボと同じのようだ。

だが、量は格段と多く、他の参加者たちもロボと格闘しタイムロスしているようで……つまり、引き離せるチャンス。

 

北条はロボに突っ込む程の速さで進み続ける。

 

──イチ、ニ、サンかな。

 

「ヒーローぶっこ」

「イチ。」

 

バレリーナのような健脚がロボの頭を殴る。

握れば折れそうな細い脚からは想像出来ない、重い一撃を食らったロボAは、アッサリと頭が六つに別れた。

 

「ニ。」

 

ストン、と脚が地面に着地した瞬間。

右足のつま先からを支柱し、コンパスのようにグルリ、と回った。

 

もちろん、勢いなど……いう必要も無かろう。

 

ロボAの左上に居たロボBは、頭部の…人間で言うところの、眼球と鼻を抉った。

 

活動が終わった2体。だが、もう一体。

 

「サン。ショット。」

 

北条に向かって来ていたロボC。

 

北条の手から放たれた光球はロボの腹部に当たると、消えた。

消えた刹那。

ロボCの体は痙攣すると、バタリ倒れた。

 

ため息の漏れそうな程洗練され、芸術とすら感じさせる滑らかで、常識的に考えて有り得ない動き。

 

だが出来る。

 

それがこの個性(魔法少女)なのだ。

 

──聞こえる……私に注目する人達の声が!!!

 

腰辺りに疼く興奮と、胸に込み上げる高揚感だけで喉が乾く。

 

──見てろよ轟君!私に宣戦布告しなかったの後悔させてやるんだから!!そして惚れろ!!

 

スピードは全く落とさず、それ所か早めてロボを潰して行く北条。

 

その度に衝動的渇望が疼く。うち太ももに溜まる興奮に、北条は務めて冷静沈着であり、優しげな風貌を装い進んでいった。

 

「お次は第二関門!落ちればアウト!それが嫌なら這いずり周りな!!ザ・フォーール!!」

 

底見えぬ大穴、中間地点としてなのか岩の柱が所々に設けられ、そのまでの道のりは綱渡り。

 

──これは……大チャンス!!

 

北条は足に力を込め、穴に落ちる1歩手前で跳躍した。

 

その跳躍は一気に高度と距離を上げ、穴の4分の1まで翔び、高さはビル10階に相当する。

 

見事な弧を描き回転すると、一番近くのカメラに向かって決めポーズ。

一番いい笑顔で、可愛らしさを全開した後は落ちるのみ。

 

舞踏会の作法が如き着地をした北条は、そのまま走り出す。

 

現在の順位 12位

 

このまま北条はキープできるのか……

 

会場のモニターで見ているであろう、ポフレと大介に良い所は見せられるのか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地雷は無理だよ!!!!!!」

 

 

 

北条の叫びは地雷の爆音に掻き消された。

 

 

 

 

 

 




これからも勘違いはヒートアップしていく予定です。


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21 消えた騎馬戦 ※書き直しました


修正箇所
・読みやすくしました
・説明の足りない箇所の補足をしました
・最後のオリ主とオリ主母の会話を削除しました
・〃〃オリ主と心操人使の会話を追加しました
・話の展開を少々変更しました



 

 

 

気づいたら騎馬戦が終わっていた。

 

 

 

訳が分からないだろうが、当の本人も分かっていない。

ただ分かっているのは、目の前の()()()()が異様に楽しそうなこと。

そして、この元同級生の()()が原因だということ。

 

──油断した。まさか洗脳されるなんて……

 

元同級生……心操人使 個性 洗脳

 

油断したのだ。まぁ別に大丈夫だろ、と根拠も無く。

とんだ学習能力の無さである。

 

北条は己の不甲斐なさと、洗脳への怒りに頭を抱えた。

ふつふつと湧き上がる感情の行き場など無い、ただ抑えることしかできない。

 

──どうしよう……騎馬戦………

 

それに加え、胸を占めるのは後悔。

 

歯を食いしばって涙を流したいほどの衝動に突き動かされる事も出来ないのは、最終的には決勝へ上がることが可能だったからに過ぎない。

 

もし、そうでなかったら泣いていただろう。

 

──個性使ってないんだけど!!!!!!!

 

【目立ててない】

 

そう実の所、北条は洗脳されたこと自体に対する怒りはそこまで無い。

 

何なら同人誌宜しく展開やったぜ!と浮かれ気分にノリノリだった。そういう展開には成って無いので安心して欲しい。

というか、曲がりなりにも元同級生なのだからその感想はどうかと思う。

 

怒りの矛先は、個性をつかえてないこと。

 

──目立ててない!目立ててない!!なんの為に第一種目で抑えたと思ってるのよ!!!

 

ムイーー!!と地団駄踏み暴れたい位には怒り狂っている。

残念な事に、北条は悲しい位に目立たなかった(満たされなかった)

 

現に「あの時の子何処行った?」と騒がれているのも怒りの要因の1つ。

 

怒りを沈めようと文句の1つでも言いに行くにも……

 

「ねぇ心操くん。」

「なに、なぎさちゃん。」

「……何でもないよ。」

 

話しかけた瞬間、花も綻ぶ笑顔で振り向いた心操人使に、北条は何も言えなかった。チキンか。

 

──こんなキャラじゃないでしょ!?

 

キャラ崩壊も良い所すぎる。

本来…というか、他に対してというか。何時もの心操人使はもっと刺し刺ししく、世の中への希望を捨てきれない厭世家じみた少年であった筈だ。

 

それが北条を前にしたらどうだ。

こんな幸せを体現しようと躍起になる幸せ者も目が眩む笑顔で、北条を出迎えるではないか。

 

原因は分かっている。

 

昔、北条と心操人使はヴィランに絡まれた事があった。

押し付け紛いに決められた委員会が同じで、その備品の買い出しに出かけた時のことだ。

 

心操人使と北条はヴィランに出会った。

 

ヴィランの目は心操人使を見つめており、その目は……喜色が悪いぐらい、色に沈んでいた。

 

その目を見た瞬間、北条はヴィランをぶっ飛ばしたのを覚えている。

 

──なんで私じゃないんだよ!!!!!私の方がエッチだろうが!!!!!!!

 

そうじゃないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒーローに成れる訳ないなんて誰が言ったの、充分成れそうだけどな、ヒーロー。』

 

反吐が出るほど言われてきた言葉だった。

 

無責任な甘言に、砂糖をこれでもかと掛けたような言葉。こういう人も影では言っているのだ。悪口陰口を散々と。

 

北条なぎさもその1人……その筈だった。

 

ヴィランみたいな個性。

 

等と叩かれ、しかし、本物のヴィランなど見たことも無かった心操にとって、あの出来事はあまりに鮮烈な物だった。

 

足が竦むほどの恐怖、血の匂いすら感じる程に脈動する心臓は、たかだか中学生になったばかりの心操には……一般人には馴染みない。

 

それは北条なぎさでも同じことだった。

なのに動いた。個性すらも使わずに。

 

か弱い、個性以外の強みなど無いような少女が立ち向かい、そしてヴィランを沈めた。

 

それは個性に確執のある心操に取ってしてみれば、余りにも鮮烈。余りにも苛烈で刺激的な体験であった。

 

『ヒーローになりたいんだったよね。個性で、とか何とか言ってたよね。……こんくらい強くなってから言いなさいよ。』

 

気絶するヴィランから目をそらさず放ったこの言葉を、心操は未だ忘れることが出来ずにいる。

心操は後に知ったのだが……彼女の母親はヴィランに襲われ、それを助けたのが北条なぎさであったらしい。

 

ヴィランはサイドキックである父親へ強い恨みを持っていたらしい。

そしてその事件の直後、離婚したらしい。

 

これは心操が聞いた噂の内の1つ。

 

曰く、ヴィランに恨まれ続ける事に疲れた。

曰く、ヒーローにならない事に痺れを切らした。

曰く、

 

───強すぎる娘の個性に、恐れた。

 

ヴィランになっては困る、まるで化物のような個性だ、と言われていた事に心操が気づいたのは、その一件の後。

 

そして、それを全て己の行動で黙らせた事を知ったのも。

それ故に皆が憧れ、尊敬することを知ったのも、その一件の後。

 

──カッコイイ。

 

心操は柄にも無く憧れたのだ。

その強さに、その高潔さに。

 

 

 

 

 

 

 

「……なぎさちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だよ。ごめんね、ぼーっとしちゃったの。」

「ならいいんだけど…。具合悪くなったら言えよ。一緒に保健室行くから。」

「ありがとう。」

 

──ありがたいんだけど、白米調査*1出来ないから離れて欲しい。

 

 

 

 

*1
白米にはオカズが必要





北条はエッチな目を気にしすぎて、エッチな目と純粋な好意の見分けがつくよ!

心操の好意に対しての対応はそれが原因です。純粋がすぎる。



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22 この後走って席戻った

新 年 早 々 下 ネ タ



お待たせしました


歓声が響く。

 

熱気に包まれた会場は独特の空気を持って挑戦者たちを襲う。

 

熱さにまみれて折れてしまいそうな、倒れてしまいそうな程の圧。

 

しかし、フィールドにて二人の少女は二本の足で、威風堂々と対峙していた。

まるで、二人の覚悟を示すかのように

 

開始の合図が鳴る。

 

一人の少女が……北条なぎさが、芦戸三奈に向かって走った。

 

それ見た芦戸三奈が個性を、人に害がない程度の酸を、北条をフィールドの外に押し出すために、地面に思う存分ぶちまけた。

 

酸の地面に北条が倒れ込む。

 

……それだけなら良かった。

 

異変は速急に現れる。

 

北条は芦戸三奈に立ち向かおうとガバリ、と上半身を上げた時、芦戸三奈が悲鳴を上げた。

 

北条は芦戸三奈の視線の先、自身の上半身を見やる。

 

……服が、無かった。

 

ある筈の体操着は、芦戸三奈の酸で溶け、下着が全面に露出する。

 

会場の目が集中する。

 

会場中の目が、北条を欲に──

 

「北条!北条!」

 

北条の意識が外に向く。

 

「マジでどうした?本気のマジでヤバかったよ?」

 

芦戸三奈が、ひどく心配そうな顔で、北条の顔を覗いていた。

 

北条は戦く。

 

この楽屋には誰も来るとは思っていなかったのだ。

 

だから、日課のエッチな目で見られる妄想を繰り広げていた。

 

そう、さっきのは北条の妄想である。

 

そして、目の前にいるのは、さっきの妄想の餌食になったご本人

 

「あ…三奈ちゃん…」

 

北条は、超絶気まずかった

 

「ご、ごめんね、全然気づかなくて。私……別のところ行ってるから」

「……もしかしてなんだけど」

 

北条に被せ気味に、芦戸三奈が言う

 

「いつもこうなってる…?」

 

──妄想してるのばれた!?

 

北条の頭はパニックになっていた。

 

北条がやりたいのは清楚系である。

 

エッチな妄想…とはバレてなくとも、妄想でグヘヘとヨダレ垂らして峰田実みたいなことになっているのは、マセた系…というか変態系になってしまう。

 

それも良い、とは思っているが方向性が全く違う。

 

つまり、激ヤバ

 

「………………いつものことだから」

「!!それって」

 

北条は目を逸らし、片腕を垂らし、もう片方で掴む。

 

流し目がちで、顔は出来るだけ暗く、色っぽく

 

「三奈ちゃん」

 

なんか良い感じの理由あるけど触れないでのポーズである

 

「…秘密に、して」

 

芦戸三奈は息をのんだ(空気にのまれた)

 

そして、真剣な表情で、頷く。

 

「…わかった。でも!ヤバくなったら何時でも言っていいから!…頼っても、良いからね!」

「…ふふ、ありがとう。」

「ウチら仲間なんだからさ!絶対だかんね!」

 

芦戸三奈が小指を差し出す。

 

北条が小指を絡ませる

 

「ゆーびきーりげんまんうーそついたら…」

「はりせんぼんのーます!」

「「ゆびきった!」」

 

指を離して、二人が目を合わせた。

 

「ふふ」

「あっはは」

 

なぜか同時に笑ってしまった

 

──指からめるのって…なんかエッチだ

 

最悪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

芦戸三奈は、北条なぎさを気にかけていた

 

あのUSJでの一件

 

芦戸三奈が見たのは、先生でも叶わなかったヴィランに果敢に立ち向かう姿

 

そして、体がボロボロになりながらも身を呈して、みんなを守ろうとする姿

 

そして、死んだように眠る姿であった。

 

芦戸三奈にとっての北条は、「ヒーローっぽい」

 

自己犠牲も勇敢さも持っている、と判断したからこそだった。

 

体育祭の目玉、トーナメント戦が始まろうという時

 

芦戸三奈は北条が居ないことに気づいた。

 

──始まるの気づいてないのかな?

 

チョロチョロ探して、最後に辿り着いたのがあの楽屋

 

扉を開いて、最初に目に映ったのは、椅子に座った北条であった。

 

「あ!北条居た!……………北条?」

 

芦戸三奈は異変に気づく。

 

駆け出し、肩を揺らす。

 

「北条!北条、」

 

爛々と光り輝いていたその目に、光はない。

 

全身を脱力させ、北条は椅子に深く座っていた。

 

芦戸三奈は焦る。

 

クラスメイトのこんな姿は、あまりにも恐ろしかった。

 

「北条!北条!」

「………」

 

北条の目が動いて、芦戸三奈を反射した。

 

──あ、アタシこんな顔すんだ

 

北条の瞳に写る自身の姿に、どこか冷静にそう思う。

 

数秒ばかりの沈黙。

 

ぼんやりとした瞳が、急激にいつもの様に輝く。

 

そこには芦戸三奈は反射せず、致命的な焦りが浮かんでいた。

 

「あ……三奈ちゃん…」

 

どこか抜けた声の北条を、芦戸三奈は初めて見た。

 

芦戸三奈にとっての北条は、気を抜くことは無い、引き締まった人だった。

 

いつも胸を張り、前を向き、おおらかに笑う。

 

それにどこかオールマイトを思い出していたのだ。

 

「……もしかしてなんだけど」

 

無意識にそう言っていた。

 

──まさか、これ、個性の副作用なんじゃ

 

少し前まで行われていた騎馬戦、そこで北条は個性を使って見たことない技を使っていた

 

本当に目立たない、威力も脅威度も低い技

 

──あれが原因なんじゃ

 

芦戸三奈は思い至る。

 

元々あるならUSJで使っている、なら、あれは新しい技。

 

それの後遺症なのではないか、と

 

「………………いつものことだから」

「!!」

 

──まさか…新技じゃなくて、個性を使ったから!?

 

「それって」

 

危なすぎるでしょ

 

そう続けようとして、芦戸三奈は止めざるをえなかった。

 

「三奈ちゃん」

 

北条が余りにも物悲しげで、そして必死な眼差しをしていたから

 

──言われても、分かってても、止められないんだ

 

「…わかった。」

 

そう言うしかなかった。

 

それが、ヒーローを目指す芦戸三奈としての優しさ

 

そして、ヒーローを目指す北条への敬意だった。

 

「でも!ヤバくなったら何時でも言っていいから!…頼っても、良いからね!」

「…ふふ、ありがとう。」

「ウチら友達だし仲間なんだからさ!絶対だかんね!」

 

芦戸三奈は小指を差し出す

 

何故かは芦戸三奈にも分からない。

 

自身への決意だったり、北条への警告だったり、何となくだったり

 

ただ確かなのは、北条は芦戸三奈の指を絡めたという事実だけ

 

「ゆーびきーりげんまんうーそついたら…」

「はりせんぼんのーます!」

 

静かな部室に響く

 

「「ゆびきった!」」

 

顔を見合せた。

 

「ふふ」

「あっはは」

 

北条の表情に、芦戸三奈は、なぜだか安心感を持ってしまった。

 

 

 




新年1発目なんで初投稿です


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23 「ポフレ!?ポフレどこ行った!?」



解釈違いが通ります!!!地雷原を駆け抜けます!!!!

あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜轟焦凍isムズカシイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 

 

 

 

 

今日は雄英の体育祭当日。

何か失敗したら全国に放送されてデジタルタトゥーとして黒歴史が永遠に残るかもしれない日だ。

 

「なぎちゃんどこかな~」

 

そんな日に、「ポフレ」は北条を探して校内に侵入していた

なにをやっているんだ。

 

ポフレは元サイドキック北条大介の個性である。

つまり、ある程度の良識なんて持っていて当たり前なのだ。

 

そんなのが、こんな普通に大問題を起こしている理由。

 

それはただ一つ。

 

北条の母であり、ポフレの元恋人である北条みずきが「なぎさの電話が繋がらない」とポフレに連絡してきたからである。

 

この事について詳しく話したい所ではあるが、北条家の関係相関図は大変な事になっているため長くなるので端折らせてもらう。

ただ一つ言えるのは、深淵である。

 

話を戻そう。

 

今でも変わらず可愛い元恋人のため、ポフレ一皮向いて校内に不法侵入していた。

一皮剝いたので今のポフレはスモールサイズだ'。大きくはならない。

 

ふと、ポフレの目に人が写る。

ポフレは隠れようとして、足──ポフレは浮いているが────を止めた。

 

そして、()()()の青年を呼び止める。

 

「ねえねえ、ちょっとい~い?」

「・・・?」

 

轟は困惑した。

突如背後から呼びかけられ振り返れば、そこにいたのは明らかによくわからぬ生き物。

 

轟の脳裏に校長の姿がよぎる。

他の生徒か生徒の個性だろうと当たりをつけ、どうでもいいことだと持ち直した。

実際のところは不法侵入である。

 

他人にさして興味の無い轟だからこその考えだった。

 

「なぎちゃんどこか()らない?」

「知らねぇ」

 

轟はそもそも「なぎちゃん」が誰なのか分からない。

まあ、誰か分かってもどこに居るかなんて知らない。

 

それに加えて轟は北条のことを殆ど──USJのこと以外、覚えていないが。

 

轟はそれだけ答えるとそのまま進む。

 

「そっかぁ。じゃあ〜職員室(しょくいんしつ)ってどこかわかる?」

「…………」

 

着いてきた。

 

轟焦凍は苛立った。

何せ、余裕が無いのだ。

 

母親を苦しめ、ナンバーワンに固執する父親を見返す為にヒーローを目指し、生きる轟焦凍には、この可愛らしい生き物に優しくする程の余裕など無かった。

 

今日が体育祭という、今後のヒーロー生にも関わってくる行事で、父親が来ることを踏まえれば尚更だった。

 

「…知らねぇ」

「そっかぁ」

 

ポフレはそうだけ返し、轟焦凍は足早に歩を進める。

 

「きみって、エンデヴァーくんのとこの子だよね?」

「・・・だからなんだ。」

 

ポフレはド地雷を踏み抜いた。

地雷も良いところだった。

 

返ってきた声は中々のド低音。

 

だが、ポフレは妖精さん(個性)なので気にせず話を続けた。無敵か?

 

「君のお父さんとはよく知ってるよぉ〜。良いヒーローだよねぇ」

 

それを聞いて轟焦凍は腹の底が冷えるような、嘲笑う気持ちになる

 

何も知らないくせに、と。

普段の家族への行いを知る轟だからこその思いだった。

 

轟の腹の底に、胸の内に、父親への憎悪が煮えたぎる。

 

「そんな良いもんじゃねぇよ。」

「たしかに〜」

 

恨みの籠ったその声に、ポフレは軽い調子で、それでいて心底同感した。

 

「ひどいよねぇ」

 

轟は少しばかり面食らった

 

「良いヒーロー」と言うその口で、同じくその「良いヒーロー」を落とす言葉を口にしたのだから。

 

「ポフレねぇ、エンデヴァーくんとは「おともだち」なんだよっ」

「…くだんねぇな。」

「君に会いたかったんだよぉ。お話しよっ」

「いい加減にしろ。テメェと違って無駄話してる暇ねぇんだ。」

「まぁまぁ」

 

どっかへ行こうとしている轟焦凍の周りを、ポフレが飛ぶ

 

「しょうじき、さいてーでしょ?」

「当たりめぇだろ」

「だよねぇ」

 

ポフレはジィッ、と轟焦凍の顔を覗き込む。

 

何を考えているのか分からない雰囲気であった。

 

そして、ニパー可愛らしい笑顔で言った。

 

「エンデヴァーくんの言うこと聞かなくってもいいからね」

「…言われなくても、アイツの思いどおりにはならねぇ。」

 

轟焦凍は苛立った。

 

なんなんだコイツは、と。

 

轟焦凍はエンデヴァーの悲願を成し遂げるつもりは毛頭無い。

 

父親と同じ炎の個性を封じ、母親と同じ氷の個性でNO.1になる。

それは改めて言うほどのものでは無い。

 

魂に染み付ている、轟焦凍の全て。

それが生きる理由だった。

 

「ヒーローはね〜、たすけるんだから、つよいよわいを決めるためじゃないよ。」

「…………」

「少なくとも、なぎちゃんにはそう教えてるし。君もできるよぉ」

「…………くだんねぇ。」

 

轟焦凍の片眉が少しだけ痙攣する。

 

綺麗事だった。

しかし、少なくとも、少なからずとも、轟焦凍も「そう思っていた」。

 

それを自覚しているのかは、分からない。

 

「今日はもういいや〜。焦凍くん会えたし、なぎちゃんさがすのやめよぉ」

 

やめてやるな

 

ポフレは飽きたらとことん止めるタイプの個性だった。

 

「ばいばぁい」

 

轟焦凍はその言葉を無視して歩いていく。

 

ポフレも来た道を引き返した。

 

何がしたかったのか分からない

エンデヴァーの友人と名乗り、ただ自分の喋りたいことを喋った。

 

轟焦凍の時間をただ浪費し、苛立たせただけ。

本当に何がしたかったのだろうか

 

しかし、轟焦凍は何故か言葉の続きを待ってしまった。

 

無視して歩いた、でも話を止められなかった。

 

少しばかり、本当に少しばかり心情を話してしまった。

 

 

 

「エンデヴァーくんの言うこと聞かなくってもいいからね」

 

「ヒーローはね〜、たすけるんだから、つよいよわいを決めるためじゃないよ。」

 

「少なくとも、なぎちゃんにはそう教えてるし。君もできるよぉ」

 

 

 

言葉が脳裏に染み付いて離れなかった。

 

 

 

「エンデヴァーくんはねぇ、あせりすぎなのよぉ。ほんっと、やなことしちゃってね。」

 

ポプレがぼんやり言う。

 

誰もいない場所で、ぼんやり言った。

 

「ヒーローは、だれかをたすけるためにあるのにねぇ。なのにみんなわすれちゃう。」

 

ポフレは、自分たちがサイドキックになった理由を思い出す

 

ポフレは強い個性では無い。派手な個性ではない。

辛うじて吠えることが、飛ぶことが、自分の意思で話すことが出来る。

 

ヒーローとして活躍するには、2人に「とって」は足りなかった。

 

だからこそのサイドキック。

 

様々なヒーローの元で働き、手助けをする。

それだけで、助けられる数を増えた。

 

「すごくかなしいなぁ。まえは、あんな感じじゃなかったのになぁ」

 

それは、エンデヴァーへの言葉だった。

 

ポフレはエンデヴァーの行いを許すことは出来ない。

まぁ、ポフレが決めることでは無い。轟家の家族が決めることだった、

 

ポフレには叱らなくては、という意思がある。

 

友人として、かつて背中を預けた相手として。

 

「だれだって、だれかをたすけられるんだよ。

……がんばるのがぜんてーだけどねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の人生はさして凄惨さも無く、悽愴でも無かった。

しかし、幸福であるかと言うなら…男は少々運が足りなかった。そしてプライドが高かった。

 

幼少で自信を失う出来事はあった。無闇な自信を付ける出来事もあった。

だが、それは致命傷にはならなかった。

 

男の人生に色などない。

 

花の色を答えることは出来きても、それは花が何色に染まっているかしか答えられない。

 

つまるところ、男にとって男の人生は、非常につまらない物だったのだ。

 

 

 

だったのだ

 

 

 

薄暗い部屋が蛍光灯の白に染っていた。

男は()()()()()()、テーブルに散らかるスナック菓子の袋をゴミ箱に詰める。

 

せいぜいニュースを見る程度だと買われた中古のテレビに色彩が映る。

 

フワフワのツインテールが、桃色のフリルのスカートが、白手袋が空に弧を描く。

ジュエリーボックスのようなパクトが太陽でキラリと輝いた。

 

桃色の瞳が細まる。ルージュの乗った桜色な唇が開いて弧を描く。

まるで、愛を知った微笑みであった。

 

男にとって、そこに映る世界は、まるで物語のようで。

 

目が逸らせなかった。口の乾きに気づけなかった。

視界が、を垂らした水彩画のようだった。

 

ただ、世界はこんな色をしていたのか、と

 

こんなに、穏やかなキラメキを持っていたのか、と

 

灰色などでは、無かった、と

 

そう、漠然に思っていた。

 

 

 

 





ごめん


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