東国戦遊志~紅~(東国幻想郷シリーズ) (JAFW500/ma183(関ケ原雅之))
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東国戦遊志~紅~ #0 運命の兄弟

【注意】
この作品は2次創作です。
このシリーズでも、本編同様に「オリジナルキャラクター」・「大幅のオリジナル設定」が出ます。
今回は、一番最初になるため9割5分ラディッツの昔話になります。
また、ドラゴンボールZ本編のラディッツとは「別の道」を歩んだ「このラディッツ」の過去となりますので、新鮮な気持ちで見てもらえると嬉しいです。
今回の舞台は、悟空達のいる地球。
不良品栽培マンの自爆を受け、記憶喪失となってしまったラディッツの過去を、1話でざっくり振り返ります。
それでは始めましょう。



惑星ベジータの爆発によりサイヤ人はほぼ全滅した。ラディッツは、数少ないサイヤ人の生き残りだった。フリーザのお気に入りだったベジータと共に行動していたので生き残っていたのだ。

彼は、ベジータたちとチームを組みいろんな星を征圧しに向かった。もちろんそのほとんどはその星の住民との殺し合いだった。そして、20数年後ある「使命」を負って地球に向かった。弟の孫悟空を自分のチームの仲間にするという使命を背負って。

「やはり、この星の奴らは生きていたか…。カカロットの奴め…。」

うんざりしながらも辺りを見回すラディッツ。

ふと、一台の軽トラックが近づき止まると、中から人が出てきた。

「な、なにもんだおめえ!!!」

銃を向け、大声で騒いでいるようだった。

「ほう…、どれほど強いか少し測ってやる…。」

ラディッツはスカウターをはめると早速スイッチを押した。

ピピッ!!

「戦闘力たったの5か…、ゴミめ…。」

驚くほど低かった。まあ、こんな辺境の星ではこんなものかと思っていた。

「ウォーミングアップだ…。痛くないよう一気に葬ってやるぜ!!!」

ラディッツは男にめがけて手を振り上げた。

 

ピ――――っ!!

 

「!!」

急にスカウターに反応が現れた。

 

「大きなパワーを持った奴がいる…。距離4880…。カカロットか!!」

ラディッツは気分がよかった。もう少し時間がかかると思っていたが、すぐに見つかったからだ。

「はっ!!!!」

ラディッツは勢いよく地面をけり、反応のする方へ向かった。

あのおっさんは運良く助かったのだ。

 

 

「く…、くそお…。」

「ふん、こんなんじゃあオレの相手にはなれんな。」

意外な結末になった。

自分の力を過信していたラディッツ。しかし、思った以上に相手は強かった。戦闘力1450。ほぼ自分と互角だったのだ。

「ちいっ、戦闘民族であるこのオレが…。」

肩をおさえるラディッツ。肩が赤く染まっていた。ピッコロに追撃を仕掛けようとした瞬間。彼の魔貫光殺法が肩を貫いたのだ。完全に油断していたそんな中での大きい一撃のカウンターだった。

「だが、なかなかやるな。せっかく孫の野郎をぶっ殺すためのとっておきだったんだが…。まあいい。貴様のような野郎相手にも十分効くことが分かったからな。さて、どうする!このまま逃げるか…。もっとも、深手を負った今の貴様を逃がすほどオレはお人好しじゃあないがな…。」

「ふん…。貴様相手に簡単にくたばるほどオレは甘くはない。」

そう、言い切るとラディッツは戦闘服から小さな玉の入った瓶を取り出した。そして、中に残っていた数粒を取り出し地面に植えたのだ。

「ぎえゃ――――っ!!」

「ぬうお!何だこいつら!?」

「サイバイマンさ。」

「さ、サイバイマンだと…。」

栽培マン。土に種を埋めて液体をかけると土から出てくる緑色の生物で、小柄だがそこそこの戦闘力を持つ生物兵器で、その強さは土によって左右される。今、ラディッツが放ったサイバイマンは3体。戦闘力は1000とラディッツに比べればまだまだ劣るが、それでもピッコロを苦しめるには十分なほどみたいだ。

「へっへ…。気を付けろよ、こいつらは見た目以上に凶悪だぜ!!」

「ギギイ――――っ!!」

3体のサイバイマンがピッコロに襲い掛かった。

 

 

「うあっ…。くそっ…。やりやがるぜ…。」

ラディッツが差し向けたサイバイマン達は驚異的な戦闘能力を発揮し、ピッコロと互角近くの戦いを繰り広げた。一帯は倒されてしまったが、十分な活躍ぶりだった。

「ふははは…。どうだ、見たかこいつらの驚異的なパワーを。」

「ちっ…。うんっ!?」

ピッコロが何かに気づいたらしい。

「貴様のような奴がサイヤ人であるこのオレに敵うわけないのだ――――っ!!」

「ギイヤ――――っ!!」

「な、なにぃ!?」

突如、二体のサイバイマンがラディッツに襲い掴み掛かった。

「ギッ、ギィィィ…。ギギィっ!!!」

「ま、待てえ!!!!」

 

 

ラディッツの体がまぶしい光に包まれる。

     自爆したのだ。

 

「ク…。クソォ…、不良品なんか掴ませやがって…。」

幸運なことに、サイバイマンの自爆によってラディッツは倒れ気を失うだけで済んだ。

だが、ラディッツの意識は朦朧とし始め、そのまま深い底に沈んでいった。

 

 

【遠き思い出】

「おい、ラディッツ!!いつまで寝てやがる!!」

ガツン!!

「痛った~~~!!」

懐かしい日々が蘇った。惑星ベジータがまだあったころラディッツは父バーダックと母ギネの二人に育てられていた。

「おい、バーダック。やりすぎだって!」

「ふん。」

父親は、下級戦士でありながら10000近くの戦闘力を持つ名の知れた戦士だった。だが、

「こんなだらしねえ戦士で、この先、生きていけるかよ。」

鬼のように厳しかった。特に、自分が格下相手に負けたときは一層厳しく、12時間近く特訓に連れていかれたことだってあった。

「うっ…。くっ…。」

いろんな感情がラディッツを包み込んだ。怒りのような、悲しみのような言葉で表せないものだった。

「ふん!」

父はラディッツに背を向けるとどこかへ行ってしまった。

そして、ラディッツの抑え込んだ感情が爆発した。

「くっそお!!!!」

ラディッツは思いっきりやかをたたいた。叩いた彼の手から血がにじんできた。

「オレは弱虫なんかじゃないんだ!!オレは、泣いてなんかいねえんだ!!」

ラディッツの嘆きが辺りに響く。

ふと、彼の肩に手が置かれた。

「…?」

「ラディッツ。」

振り返るラディッツ。

「そんなに落ち込むなって。」

彼の母ギネだった。

 

「オレは、このまま弱虫のままなのかよ…。」

夕日を背にうなだれるラディッツ。彼は自信を無くしていた。自分は、エリートであるベジータやナッパと組まされているのに相変わらず弱虫のままでいるのか。そんなことを考えていた。

「!?」

ふと、頭に温かい手が置かれた。

「ラディッツ、たしかにまだまだあんたは弱いさ。でも、

 

    急がなくてもいいからゆっくり大きくなりなさい。」

 

ラディッツの目には涙があふれていた。でも、さっきまでの者とは違った。温かく、そしてやさしい。そんな涙だった。

 

 

「ぬう…。どこだ…、ここは一体…。」

深い闇の中を漂っていたラディッツ。何か光のようなものに導かれ目を覚ましたのだ。

「…。」

辺りを見渡す。しかし、どこなのか思い出せなかった。

「お、オレは何を…。」

さっきの自爆に巻き込まれたためか、ラディッツは名前以外の記憶を忘れてしまったのだ。

「く、クソッ!!」

地面を蹴り空へと飛び上がる。

彼は、何かを思い出そうと地球を巡ることにしたのだ。

 

「!!この大きな感じは!!」

 

ラディッツは気配のする方へ向かった。

 

 

「おおっ!お、親父…!!」

「え!?」

「お、おやじ…?ご、悟空が!?」

ピッコロ戦以来、久しぶりに仲間との再会を楽しむ悟空達の前に現れたラディッツ。彼は、悟空の顔に父バーダックの面影を見たのだ。

「貴様、まだ生きてやがったか。」

気配を追いかけて来たピッコロまでこっちに来た。

「ぴ、ピッコロ!?」

さっきの戦闘でラディッツの死を確認し忘れていたピッコロは、とどめを刺すため戻ってきたのだ。

「ひいっ!!た、助けてくれ~~~!!!」

叫ぶラディッツ。さっきまでの記憶は残ってないのだが、彼の何かしらの恐怖が出てきているらしい。

「弱いものイジメはやめろピッコロ!!こいつ、怯えてんじゃねえか!!」

「ふん愚か者め、いいだろう。貴様らまとめてこの場で始末してやる!!」

 

 

「くっ…。さっきの傷が…。」

深手を負っていたピッコロに、悟空とラディッツ相手では分が悪かった。

「ピッコロ、またいつでも相手をしてやる。」

「覚えておけよ孫悟空…。いつか必ず、貴様をぶっ殺してやる!!」

そう言い捨てると、ピッコロは空の彼方へと消えていった。

「おい、大丈夫か…?悪い奴はオラが追っ払ってやったぞ!」

「ば、バーダック…。」

「お、おい悟空…。こいつ、記憶がないんじゃないか?」

「お、オレは…。」

「まあ、いいさ。ここでゆっくり休ましてもらって思い出せばいいじゃねえか。」

こうして、ラディッツはカメハウスでしばらく静養を取ることになった。亀仙人のじっちゃんこと武天老師様も快く引き受けてくれたらしい。

 

 

「し、信じられない…。オレにこんな力が…。」

ラディッツは悟空とその息子孫悟飯と一緒に修行をしていた。あれから数か月。ラディッツは、戦闘力のコントロールやより精度の高い技など大きく成長していたのだ。

「へへっ…。これでどんなに強い相手が来てもおめえのパワーでぶっ飛ばしてやれっぞ!」

「は…はは…、そ、そうかな…!」

ラディッツは、ちょっとうれしかった。弱虫として生きてきた自分が成長できたことがうれしかったのだ。

「貴様ら!」

「「「!?」」」

そこに、ピッコロが現れた。リベンジをしに来たようだった。

「今度こそぶっ殺してやる!!」

「うっ…。」

「ビビることはねえ!今のおめえならできる!もう弱虫なんかじゃねえんだぞ!!」

悟空の喝が入った。

 

 

「そうだ…。オレは、弱虫ラディッツじゃねえ!!」

 

 

ピッコロとの一騎打ちが始まった。

 

 

「はあっ、はあっ…。やったぞ…、やったぞカカロット!!オレはついにこいつに勝ったんだ――――っ!!」

「だからよぉ、孫悟空だって…。」

ついに、ピッコロを倒したラディッツ。彼はやっと自分の壁を乗り越えたのだ。

「そ、そうだ…。こいつにとどめを…。」

「待て、ラディッツ!!」

「!?」

とどめを刺そうとしたラディッツを悟空が制した。

「無駄に命を奪うことはねえ。」

「なぜだ、このままやらねばやられてしまうんだぞ!!」

「バカ野郎!そんなんじゃあ、おめえもその辺の悪い奴と変わらねえじゃねえか!!」

ラディッツは、しばらく無言のままだった。そして、

「そうだな、ソンゴクウの言うとおりだ…。オレは、あいつらとは違う…。」

「それで、いいんだラディッツ…。」

こうして、ラディッツは気高い戦士としての心構えを一つ習得したのだった。

 

 

あれから数週間後のある日、孫悟空の息子の孫悟飯と共に修行をしていた。

「ようし、悟飯。今日もしっかりやっていくぞ。」

「ようし!ところで、おじさん。」

「うん?どうした?」

「ラディッツのおじさんにも尻尾があるんだね…。僕とおんなじだ!」

「そ、そうだな…。」

「あのね、おとうさんにも昔はあったんだって。なんか、僕たち似てるね…。ふふふ…。」

「ほう、あのカカロットが…。!!なんだ…。なにか『思い出せ』そうなんだが…。」

「お、おじさん。大丈夫…?」

「あ、あぁ…、大丈夫だ。続きを始めるぞ悟飯…。」

ラディッツは、軽くめまいのする中悟飯と修行を始めた。しかし、

「うあっ!!」

記憶の断片がラディッツの頭をよぎり、ついきつい一撃を悟飯に入れてしまったのだ。

「はあっ!し、しまった…。」

悟飯のもとに駆け寄った。

「だ、大丈夫か悟飯…。」

「うっ…。ぐっ…。」

「すまない、つい力が…。」

「だ、大丈夫…。ちゃんとおとうさんとおじさんに鍛えられているから…。」

「そ、そうだな…。おれもカカロットもゴハンも…。」

「おじさん…?」

ラディッツの口が止まった。彼はすべて思い出した、なぜこの地球にいるのか、どんな使命を背負ってここに来たのか、そして自分が何者であったのか…。

「そうか…、おれは…。

            『サイヤ人、ラディッツ』…。」

 

 

 

その後、ラディッツは悟空にすべてを打ち明けた。自分の「使命」を…。

「オラとおめえが兄弟で…。サイヤ人だっちゅうことは分かった。でもよお、

罪もない人を殺して地球人を支配しようってまね、オラ、死んでもヤダっ!!!」

「そうか、ならば仕方がない…。力づくでも従ってもらうしかないなっ!!!」

ラディッツは、サイヤ人として生きることを心に誓っていた。力こそがすべて、支配する側とされる側のどっちかしかない。それが、彼が心に持ったサイヤ人としての生きかたなのだ。

 

 

「うっ…。く、くそお…。」

ラディッツは強かった。スピードの強弱、流れるような連続のパンチのコンボ、相手の攻撃を紙一重でかわす鮮やかな身のこなし、彼は悟空を完全に圧倒した。あとは、とどめを刺すだけになった。

「カカロット…。」

ラディッツは、倒れ伏す悟空に向かって右手を構えた。

「(もうだめか…。)」

「とどめだ――――っ、うっ!!」

ふとラディッツの頭に記憶が蘇った。これまで悟空達と修行してきた楽しい日々が駆け巡ったのだ。

「ぐう…、なぜだ…。宇宙一の強戦士族のサイヤ人であるこのオレが…。」

「はあっ、はあ…。おめえはもう悪人じゃねえ…。オラと悟飯には…よくわかる…。」

「だ、黙れ!!」

「ひ、人殺しの戦いに意味なんかねえ!いまのおめえには分かるはずだ!!」

「え~いっ、黙れぇ!このオレは『サイヤ人』だ、安っぽい情に流されたりはしないのだ!!」

ラディッツは構えていた右手を下ろした。

そして、

「くそっ!!」

そう、吐き捨てるとどこかへ行ってしまった。

彼は、悟空たちと過ごすうちに深まった感情に阻まれたのだ。かつての彼には眠ったままであった優しい心、それが悟空達と過ごすうちに芽生えてしまったのだ。ラディッツは、返す言葉が見つからず立ち去ったのだ。

 

 

月の光が荒野を照らす。辺り一面には強い風が吹き誰の声も届かないほどだった。

「…バーダックよぉ、ギネよぉ…。オレは、どこに向かっていけばいいんだ…。」

十六夜の月に向かって、想いを綴った。しかし、何も帰っては来ず、かげりのない月の光がラディッツを照らしているだけだった。

ザザッ!!

ふと、ラディッツのスカウターに通信が入る。

「こ、この声は…。ベジータか…。」

ベジータとナッパの通信だった。

ラディッツは耳を澄ませ通信を聞き取った。

「し、しまった…。」

ラディッツは焦った。これまでの数か月間の会話が筒抜けだったのだ。

そして、彼らの目的、それは。ドラゴンボールだった。

「あの二人が、地球へやってくるのか…。」

ラディッツには、戻るべき道も既になかった。彼らとまた会ったとしても、おそらく殺されるだろう。あれから数か月とはいえナッパは超えたであろうが、ベジータにはとても勝てる見込みがない。

「見つけたぞ!!」

後ろから声が聞こえた。

「て、てめえは…。」

白いマントに、白いターバン。ピッコロだ。

「今度こそ貴様を倒し、孫悟空も殺してやる。」

「執念深い奴め…。」

「ほう、記憶が戻ったらしいな。」

気持ちの整理が整わない中ピッコロと戦うことになった。

 

 

一方的だった。たとえ、気持ちが整わないとはいえそれでもラディッツは十分強かったのだ。

「き、貴様。手を抜いてやがるな…。」

ピッコロも気づいていたらしい。

「ケッ、貴様のようなゴミのような命など奪う価値もない…。ただそれだけだ…。」

「貴様も孫悟空におかしくされたか…。」

しばらくの沈黙。そして、ラディッツが口を開いた。

「この程度の強さでは奴らには勝てんぞ…。」

「奴らだと…。」

それから、ラディッツは残りの二人のサイヤ人がこの星の侵略のためここに向かっていることを伝えた。そして、彼らがドラゴンボールを狙っていることも…。ラディッツの腹は決まったらしい。

「カカロットにも伝えておけ…。この地球を侵略するとな…。」

そう言い残すとラディッツは夜明けの方に向かっていった。

 

その後、地球侵略のため何度も破壊活動を繰り返すラディッツ。だが、悟空たちはあきらめない。今度は当時敵対していたピッコロと手を組みまた上がったのだ。

「ふん、また懲りずに来たか…。」

「ラディッツ、オラたちは負けねえ。何度でもおめえと戦ってやる!!」

「気に食わん奴だが…。貴様に勝つにはこいつらと組むしかなさそうだ…。」

「い、いくら悟空の兄貴でも。地球侵略は許さないぞっ!!」

3対1。いくらラディッツでも3人相手には無理がありそうだが、

「それでいい…。何度でも返り討ちにしてやる――――っ!!」

互いにそれぞれのプライドをかけ、白昼の中戦いが始まった。

 

 

度重なる戦闘を繰り広げた、そしてついに悟空たちの結束力がラディッツを追い詰めた。

「ぐ…う…。」

度重なる技を受け、ラディッツの体はボロボロになった。

「はあっ、はぁ…。観念しろラディッツ!!」

悟空の鋭い声が貫く。

「ま…、まだだ…。この程度でベジータたちに勝てると思うなっ!!!」

危うくなったラディッツは、今度は悟飯を人質に取り逃走した。

そして、深手を負いつつも何とかある島に身を潜めた。

「ぬ…、ふっふっふ…。よくぞここまで成長したもんだ…。あいつめ…。」

傷口を抑えながらラディッツは座り込んだ。すでに、夕日が差し込む時間になっていた。

「おじさん…。」

ふと、人質にしていた悟飯が呼び掛けてきた。

「どうしてこんなことするの?おじさんは、悪い人じゃないよ。僕にはわかるよ…。」

まだ何も知らないような純粋な問いかけだった。

ラディッツは答えた。

「はっはっは…。『サイヤ人』だからさ…。今更、過去の罪は償いきれんよ…。」

半分自分への皮肉の混じったような声だった。

「ラディッツ!!」

そこへ、彼の気を探り当てた悟空が追いついた。

「この野郎…。もう逃がさねえぞ!!」

互いに体力は限界だった。次の一戦で勝負は決まる。

「こい…、カカロットよ!」

 

 

「フッ…フッ…フフ…。よくやった…。カカロット…。」

決着はついた。

悟空の怒りの一撃がラディッツの試練の一撃を破ったのだ。

「ラディッツ…。」

「力こそ…。全て…。オレはそう思って生きてきた。だが…、それだけでは、真の強者とは呼べん…。弱きもの、愛するもの、守りたいもの…。そのために戦う…。それが大切なもう一つのこと…。そうだろう…、カカロット…。」

「おめえ、まさか…。」

悟空もやっとラディッツのこれまでの行動を理解できた。

「カカロット。奴らは強い…。そして、その背後に潜む強大な悪魔も…。オレの故郷惑星ベジータも、サイヤ人も、オレとお前の父バーダックも母ギネも既に滅ぼされてしまった…。カカロットよ、オレたちサイヤ人を超えろ…。そして…。サイヤ人の誇りを守ってくれ…。後は頼んだぞ…。」

「ら、ラディッツ!!」

そう言い残すと、ラディッツはその場を立ち去り、遠隔操作で宇宙ポッドで地球を脱出した。

 

そして、迫りくるベジータたちの宇宙船と接触した後、眩い閃光と共に宇宙の彼方に消えた…。

最期まで果敢に立ち向かった彼の姿は、弟、悟空(カカロット)に対して兄としてできる最後の愛情だったのかもしれない。

 

 

まぶしい閃光に包まれる中、ラディッツは在りし日の家族の日々と悟空達との楽しい日々を思い返していた。

「親父よ…、おふくろよ…。オレは、サイヤ人として失格だな…。また奴らに下級戦士だの弱虫ラディッツだのバカにされちまったぜ…。」

「バカ野郎!おめえ、それでも俺のガキか!!!」

ふと目を開きなおすとそこには亡き父バーダックと母ギネの姿があった。

「ああ…。バーダック、ギネ…。懐かしいな…。」

「おい、ギネ。」

「分かったよ。」

母ギネが二人の間に立ち、開始の合図をするみたいだ。

「準備はいい…?それじゃ、始め!!」

「冥土の土産に一戦相手をしてやる!ラディッツ、かかってこい!!」

悪魔のように見えた父の顔があたたかかった。

それがラディッツが最期に見た温かい夢だった。

 

 

「う…ん…。」

ラディッツは意識を取り戻した。

「ここは…。」

辺りを見回すが一面の霧で何も見えない。

だが、水の香りがしていた。

「こっちか…?」

まだ頭がボーっとする中歩き始めた。

しばらく進むと花畑が見えた、今までに見たことのないような美しくかわいらしい花々が一面に広がっている。

「そうか…、オレは死んだのか…。」

ラディッツは、思い出した。

あれから、ベジータたちと衝突し戦闘になった。ナッパの方はなんとかできたが、やはりベジータは強く、ギャリック砲を受け宇宙の塵になったのだ。

これから先、どうするべきか何も見つからないまま道なりに進む。辺りを見回すが人らしき姿は見えなかった。そして、

「ここは…。」

目の前に大きくそびえたつ門があった。大きい文字で「裁判所」と書かれているらしい。

「なんなんだ一体…。うおっ!!」

突然、大きな扉が開き中へと引きずり込まれた。

 

 

「くそう…。やっぱり、いい予感はしねえもんか…。」

辺りは一面暗く何も見えない。だが、気配が3つあることだけは分かった。

「だ、誰だ。誰かそこにいるんだろう!!」

ガチャン!!

「うっ!!!」

いきなり、まぶしい光が差し込み辺りを照らす。

カツン、カツン…。

後ろの方から足音が一つ聞こえた。

「あなた…。」

「!!」

「ラディッツさんで間違いないですね。」

ショートヘアーに片側だけ少し長くなっている特徴的な緑色の髪、そして紅白のリボンのついた冠。

「ああ…。一応察しが付くが聞こう、誰なんだお前は…。」

 

「四季映姫・ヤマザナドゥ。この楽園の『裁判長』です。」

 

「さいばんちょーって…。」

「わかりやすく言います。『閻魔様』です。」

「な…。」

ラディッツは驚いた。目の前にいる彼女が、閻魔なのだ。

さすがに、『差』というものがあった。しかし、彼女からかすかににじみ出る強烈な威圧感のようなものがあり、気は緩めれなかった。

ラディッツはわれを取り戻し続ける。

「えっと、それで用というのは一体なんでしょうか…。」

気を抜かず敬語口調で話すラディッツ。

「そう畏まらなくても大丈夫です、ただ用というのは、

 

             あなたの過去を裁きに来た

                          

                      ただそれだけです。」

 



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東国戦遊志~紅~ #1 千年の孤独

自らを犠牲に弟の孫悟空たちを守ったラディッツ(if)、不思議な流れに導かれ彼がたどり着いた場所は幻想郷の『あの世』、裁ききれない罪を背負いつつ彼は新たな道を行く。
今回の舞台は、迷いの森の近くにあるらしい迷いの竹林。
ラディッツは引き受けた仕事とどう向き合うのか。
そして、慧音は親友を救うことが出来るのか。
それでは、新たな幻想郷の物語をはじめよう。

【注意】
この作品は『ドラゴンボール』、『東方プロジェクト』の二つの作品を主に元ネタとしたクロスオーバーものです。
今回の時間はバーダックが来る数年前となります。
このシリーズでも、本編同様に「オリジナルキャラクター」・「大幅のオリジナル設定」が出ます。
ラディッツの仕事は、毎回違うため、彼の行動範囲は広く、いろんな場所へ行きます。
今回は、ラディッツにとって一番最初の仕事になります。
また、ドラゴンボールZ本編のラディッツとは「別の道」を歩んだ「このラディッツ」の過去は『紅の#0話』となりますので、新鮮な気持ちで見てもらえると嬉しいです。
最後に、どこかでこのシリーズは動画化まで行けるかはまだわかりませんが、動画版のお便りこコーナーやこの話に彼やその仲間たちが出たときは、是非頑張っている彼らを応援してもらえると嬉しいです。

覚悟はいいか、俺たちはできている!

という方はこのままどうぞ!



罪がとがめられなくなる日はいつかはくるだろう。では、自分の中に生き続ける罪はいつになったら消えるのか…。

「へえ、なかなか興味深い話だねぇ…。」

「この俺も甘くなっちまったもんだ…。以前の俺なら何のためらいもなく殺していただろうけどなぁ…。」

遠くに見える街の明かりを目指しゆっくりと三途の川を船は進む。

「まあでも、弟さんたちもいい兄貴を持ったんじゃないかい?」

「そ、そうか…?」

すこし目をそらすのは先日入ってきた新人ラディッツ、今回初めての仕事で現世の方へ向かっているらしい。

「でも…、こうして振り返ってみるとそこ以外…。ヘタレた人生送ってきたんだねぇ…。」

「だ、黙れ!エリートと王子が相手なんだぞ!立場が弱いのも仕方ないだろう…。」

「まあまあ落ち着いた。どうせ先は長いんだから…。さあ続きを聞かせておくれ…。」

しょんぼり小さくなっているラディッツをなだめるのは、三途の水先案内人。三途の川は距離がその日や人によって変わるため、船で行くのが原則らしい。

「…なかなか泣かせる話じゃないか。弟のために命を懸けて守ってやるなんて…。」

「ふん、所詮俺たち程度の力じゃあ奴らには勝てん。俺の命一つで守れるものなら安いものだ…。」

あの時、ラディッツは悟空達相手に戦った後、ベジータたちとの接触地点で自爆した。弟を守るためにラディッツは仲間を裏切り、白い閃光の中に消えていったのだった。

「さて、あれからずいぶん時間がたつがまだ着かないのか?」

「いや、もうそろそろさ。」

それまで流れ一つない静かな川だったが、白い花びらが徐々にその水面に浮かんできていた。

 

 

<中有の道>

中有の道、本来死者が三途の川を目指していく道なのだが…、最近では生きている者や地獄になかなか堕ちない者も来始めているらしい。

「やはりこの街といいお前たちといい、死後の世界とは思っていたものとはずいぶん違うのだな…。」

「へえ、どんな感じのを思っていたんだい?」

「まあそうだな…。」

「赤い顔をした巨漢の閻魔のおっちゃんとか…、大きい金棒振り回してボコボコに叩きに来る鬼とか…。」

「あはははは!いや、間違っちゃいないけどそれは別の所のお話だよ。」

「どういうことだ…。」

「うちはうち、他所はよそってことさ…。」

どうやら、あの世というものは他の世界にもあるらしい。ラディッツは、肩の力を少し緩めてそのまま歩き続ける。

「しかし、想像していたのよりは随分可愛いものだな。」

「可愛いだなんて、照れるねえ。あんたと話していると気分がいいよ。」

「そりゃどうも。」

どうやら、なかなか話の合う者同士らしい。

「さて、やっと着いた。」

「ここが…。」

ラディッツ達の前に一軒の使われていない木造の宿舎がそびえている。どうやら、人が去って数年ほどたっているがまだまだ使える感じらしい。

「んじゃ仕事頑張りな新人、こっちも仕事に戻るんで…。」

「待った!」

仕事場にゆっくり戻っていく彼女の背中にラディッツの声が通った。

「自己紹介がまだだったんでな…。俺は、ラディッツ。生まれは惑星ベジータ、誇り高き強戦士族サイヤ人だ。」

しばらく間を開け、彼女は振り返りこう答えた。

「あたいは、三途の水先案内人をやっている小野塚小町さ、また今度一杯どうだい?」

一瞬、けれども確かに、互いに新たなコンビの盃が交わされた瞬間だった。

 

 

<石焼ラーメンヴォルケイノ>

「なるほど…それに手伝いに来たわけか…。」

人気がまだまばらな店に夕日が一筋差し込んでいる。ラディッツの向かいに座っている女性が今回の依頼者、上白沢慧音。里に住む者で寺子屋をやっているとのことだった。朝に会ったので、ある程度打ち解けていた。

「まあ、そういうことだ…。ところで、何を手伝えばいいんだ。」

ラディッツが聞くと、その手に持っていた水を置き真剣な話に入った。

「この人間の里の外に迷いの竹林と森がある。静かで不気味な感じの場所なんだが、最近そこから夜に火の玉が出始めているって話が出てしまってな…。話が大きくならないうちに私たちで調査しようといういうことなんだ。」

ラディッツは手に持っていた水を一気に飲み干すと、

「なるほど、面白い話じゃねえか。」

と答えた。

「決まりだな。」

こうして、時季外れの肝試しが始まることになった。

慧音は勘定を払うと早速準備をしに先に戻っていった。残るラディッツは、手元にある石焼野菜超味噌ラーメンを眺めつつ考えていた。

「トチギか…。どんな国か一度行ってみたいもんだな。」

 

<迷いの竹林>

「ここで合っているのか?」

「ああ、間違いない。」

ラディッツ達の前にそびえたつ黒い影。どうやらこれが迷いの竹林らしい。

「ったく、気味が悪いぜ…。」

そびえ立つ影の向こうから風が吹きつけている。それだけではない、低く唸るような獣の鳴き声、かさかさと乾いた竹の葉の音、月にかかっている雲。侵入者を追い出しているような感じだった。

「どうした、帰るか?」

その一言がラディッツの肝に点火した。

「うるせぇ!オレは強戦士族サイヤ人だ、この程度どうってことないわ!!」

「あ、おい待てって!!」

慧音の制止を聞かず暗闇の中に、一人その足を向けて行った。

 

「くそっ!一体どうなってやがる…。」

どうやら、一人で突っ込んで行ったのは無謀以外の何物でもなく、ラディッツは完全に道を失ってしまった。

「さっきから、出口が見つからねえじゃねえか…。」

ラディッツは、いざとなれば飛んで出れると思っていたが甘かった。上に飛んでも竹林を抜け出すことはできず、前に進もうにも竹が邪魔でまっすぐ進めない。完全に迷子になってしまったのだ。

「さてどうするか…。」

策を考えながら足を進めるラディッツ。

「うおっ!?」

バランスを崩し前に倒れた。

なにか、足が引っかかってしまったらしい。

「ったく、シャレにならない肝試し―。」

言いかけたその時、ふと後ろから温かい風が吹いていることに気が付いた。

そして、満月にかかっていた雲が消えかけていった。

「肝試しか…。随分と面白そうだな…。」

「き、貴様いつから!?」

ラディッツの顔に汗が出始めている。そして、声のする後ろの方を振り向くとそこには二つの火の玉があった。

「だが場所が悪いな、ここだと肝試しで終わりそうもない。早く帰ってくれ、その道を行けば戻れるから。」

全く、生気のない声だった。しかし、ラディッツは道を戻らず、振り返って言い放った。

「俺はラディッツ。生まれは遠き星惑星ベジータ、誇り高き強戦士族のサイヤ人だ。この道戦い続けて20年、俺に敵う者などないのだ!!」

ラディッツには自信がある。これまで幾千もの戦いを勝ち抜いてきた誇り、それに勝る者はいないはずだった。

「ふふふ…。」

「何がおかしい…。」

ラディッツは余計に気分が悪くなった。それは、誇りをはるかに超えたものを闇の向こうに感じているからだろうか。

「お前は…、これまで何年生きてきた…。」

唐突な質問だった。

「20年ちょっとだ…。」

「20年ねえ…。」

しかし、ラディッツは変な感じがした。普通、年齢を聞くだろうか。その疑問が頭の中に広まり、不気味に思えているのだ。

「だ、だからなんだ!!」

それでも、ラディッツは聞き返す。

そして、闇の中から炎が広がり辺りを覆い尽くした。

「…。人間50年、その生涯は儚い…。けれども、死なない者はだれ一人いない。だが、私は破ってしまった人間として超えてはならない一線を、もう、戻れない道を…。」

「お前一体…。」

「1300年…。それが、私が生きてしまった年だよ。」

白い髪に、光を失った赤い瞳。ラディッツは直感で認識した、こいつが慧音の言っていた奴だと。

「どうも話し合いじゃあ帰ってもらえそうにないか…。」

向こうもラディッツの目を見て分かったらしい。

「この俺は退かん、貴様のような相手でも容赦せんぞ!たとえ、1300年だろうがこの俺には通じんのだ!」

ラディッツは、弱いものをイジメる気はない。だがこいつは違う、自分より格上なのは間違いないが、ここで退いてはいけないような気をラディッツは感じているのだ。

そして、その少女はラディッツを鬼の目でにらみつけると言い放った。

「いいだろう…。1300年の孤独と苦しみをお前も味わうがいい!!」

 

 

「なんだよ。もう終わりか…。まだ本気の1/10しか出してないっていうのに…。」

「う…ぐ…ぐ…。」

動けないラディッツをゴミ同然に見下ろす妹紅。ラディッツの攻撃はほとんど通じず、赤子同然にひねり倒されてしまった。そして、来ていた戦闘服もボロボロになり、上半身のところはもはや原型が残ってない。

「く…。くそ…、あれだけやって10%かよ…。(今日は満月だというのに…、ついてねえな…。)」

今日は満月である。しかし、ラディッツの尻尾は反応せず、とっておきも使えなかった。

 

ふいに、妹紅はラディッツに背を向けた。

「?どういうつもりだ…。」

「…やめだ。もうこれ以上お前のような弱虫と戦う気なんざない、早く消えな。」

呆れを通り越して憐れんでいるような声だった。だが、ラディッツには一つ聞き捨てならない言葉があった。

「…貴様、今『弱虫』っていいやがったな…。」

その言葉は、ラディッツにとってかつての仲間と自分の影を思い出させるものだったのだ。

だが、妹紅は、そんなことはつゆ知らず、そのまま言い返した。

「そうだ、お前の20年がこっちの1000年に勝つことなんてどだい無理な話なんだよ。分かったら消えろ…。」

「この野郎!!」

ラディッツはとうとうメーターが振り切れたらしく、妹紅に向かって仕掛けるが、

「ふんっ!」

妹紅は、ラディッツの回し蹴りを紙一重でかわし、横蹴りを鋭く彼の腹に決めた。

「…ぉ。」

悶絶するラディッツ。みぞおちに入ったらしく気も遠くなっている。

そして、腹を抱えたままうずくまるようにして気を失った。

 

 

「やれたれ…。」

一段落して、妹紅がため息をついた。その時、

「ぐっ!?」

妹紅の胴に衝撃が走る。彼女に何かが体当たりしたのだ。

「ラディッツ!!」

相手は、一目散に横たわっている彼の方へ駆け寄った。彼の仲間らしい。

「先に仕掛けてきたのはそいつだよ。こっちは忠告したっていうのに…。」

「お前…、なにも気絶させなくても…。」

静かな怒りの混じった声だった。そして、その女は立ち上がり、妹紅の目を見て言った。

「私は上白沢慧音だ。お前…、名前を言ってみろ…。」

「名前なんて、とっくの昔に置いてきた…。」

妹紅は、名前などどうでもよかった。また、過去を振り返ることになるのだから…。

「…。」

その女は目をしばらくつぶると、妹紅の前に歩み出た。

「…やる気か…。」

「ああ…そのつもりだ。」

その瞳にはあの男と同じものがあった。

「そうか…、じゃあ好きにしろよ…。」

「ああ、そうさせてもらおう!!!」

 

 

「いい加減に分かれ…。お前がこれ以上戦っても無駄だ…。」

倒れ伏す慧音を見下ろし妹紅はこぶしを握り締めていた。

「…いや、それは無理だな…。」

慧音は、また立ち上がった。

「ならここで…眠ってもらおうか!!」

妹紅は鋭く彼女のみぞおちに一撃を入れようとする。

が、

「!!」

彼女はその手を掴み、うすい青からしずかな緑色に変わった。

そして、

「うぉあ!!」

妹紅の眉間に強烈な頭突きが一発入った。

 

「…人間じゃないな…。」

妹紅はずきずきと痛むアタマを抑えつつ、返した。

「ワーハクタク、それが私の力だ。お前は…、人間だろう…。」

「人間か…、懐かしい言葉だな…。」

妹紅は、揺れていたアタマを戻し、もう一度彼女の方を向き直した。

「お前…、一体何者だ…。」

「人間はとっくに捨てた…。不老不死の蓬莱人、それが今の私だよ…。」

「一体何があったというんだ…。」

妹紅は、目を鋭くして返す。

「もう話すつもりはない…。遊びはやめにしてやる…、来い。」

 

 

「…。」

「お前どういうつもりだ…。」

慧音はボロボロになって座り込んでいる妹紅に問い詰めた。

「どういうことだよ…。」

「今の攻撃、十分避けられたはずだ…。だがお前…、自分から当たりに行っただろう…。」

「だったらなんだ…。別に命の一つや二つ削っただけだろう…、何も変わらな――」

 

              バシイっ!!!!!

 

地面を蹴り、振り上げた慧音の右手が妹紅の頬を叩いた。

「…痛いじゃないか…。」

「ふざけるなァ!!何があってそうなったかはしらんが、例え不老不死でも命を軽く見る奴がいるか!それじゃあまるで自殺者となにも変わらないじゃないか!!!」

「黙れェ!!!」

耐えきれなくなっていた。

「お前に私の何がわかるっていうんだよ!いくら命を削ってもあの時の償いには届かない、結局自分の命なんて無に等しいもんだろうが!!!」

妹紅は、自身でもよくわからない感情が押し寄せた。

そして、握り締めた拳で慧音の左頬を殴った。

が、予想外の事が起こる。

「…。」

慧音は泣きも、喚きもしなかったのだ。

妹紅は呆然としていた。そして、さっと血の気が引き始めたとき慧音の両手が肩を掴み、

猛然と一発、妹紅の額に頭突きが入った。

 

 

ラディッツは弟が生まれる前、一人っ子として育てられていた。生まれながらにしてエリートクラスの戦闘力を持つラディッツは普通の家なら大切に育て上げられるはずだった。

「おいラディッツ、いつまで倒れてやがる。そんな弱虫で生きていけると思っているのか!!」

毎日朝起きてから夜遅くまで軍の施設の練習場でトレーニング、ラディッツに休日と呼ばれる日はあまりなかった。

「…くそっ…。」

彼の父親は戦闘に行っていることが多くラディッツの部屋に来ることはあまりないが、ラディッツと基地の練習場で会うことはよくあった。しかし父親は厳しく、子供であるラディッツに対して一切手を抜くことは無い。1時間以上休みなく戦うことが多く、彼にとって鬼にも等しかった。

「今日はここまでにしてやる、さっさと戻れ。」

ラディッツは、今日もズタボロになり家に帰った。

「…。」

ラディッツは一人、暗い部屋の中で考え込んでいた。どれだけ練習を重ねてもてもなかなか上がらない戦闘力、エリート集団の肩書だけになっていくような感じ、終わりのない壁が続いている気分だった。

「オレはどうしたら明日が来るんだ…。」

その時、ちょうどドアのチャイムが鳴った。

「ラディッツ、いつまで寝ているのさ。」

聞き覚えのある声だった。

「か…母ちゃん。」

ラディッツの母ギネは、配給所で働いているためあまり会うことは無かった。けれども、

「また、迷っているのかい?」

ラディッツにとっては唯一ちゃんと話の出来る相手だった。暗い部屋の外にいる母に向かって、ラディッツは重い口を開ける。

「俺は、いつになったらエリートになれるんだよ…。」

しばらくの沈黙の後、母は一つだけ言葉を残した。

「ラディッツ、戦闘力だけじゃあ見えない世界だってあるんだ。自分をしっかり見つめて自分の納得のいったやり方を見つけてみなよ…。」

それが、ラディッツにとって最後に母から受け取った言葉だった。

 

 

<慧音の家>

「悪いな、服を買わせちまって…。」

「いいんだ。巻き込んだのはこっちだからな…。」

ラディッツはボロボロになってしまった戦闘服の代わりに、新しい服を買ってもらっていた。色は紺色ベースの和服らしい。

「ところで、あいつ…。どうするんだ…。」

夕日が差し込む中、ラディッツが切り出した。あれからラディッツは、気絶していた間のことを慧音から聞いたのだった。

「…やはり、放っておくわけにはいかない。たとえ不老不死になったとはいえ間違いなく彼女は人間だ。」

慧音はここで退いてはいけないと強く感じていた。

「…やはりそう思うか…。」

「せめて、今日が満月だったら…。」

慧音は、そらに薄っすらと昇る十六夜月を見ている。

「満月だとなにかいいことがあるのか?」

「そうか…、まだ言ってなかったな。」

「まあな…。」

ラディッツは自分が遠い星にいた人間であることは伝えたが、慧音の力についてまだ聞いてはいなかった。

「分かった、教えよう…。」

 

ワーハクタク。彼女は人間でありながら妖怪の力を持ったいわゆるハーフ人種のようなものである。普段は満月の夜になると角と尻尾が生え、容姿の色も青から緑へと変わる。彼女はもともと人間であるのだが、何かしらの影響でそうなったらしい。

 

「そうか…。」

「だが、私がしたいのはそれじゃないんだ…。」

「?どういうことだ…。」

 

慧音の持つその力の真価は歴史を創りかえるところにある。『歴史の改ざん』というのが近いだろう。歴史は、実際に起こった事実とは違い、誰かにある事柄が知られ、広がり書き記されて初めて歴史になる。事実は、客観的かつ不可逆変化なもの、歴史は、主観的かつ可逆変化なものである。ドラゴンボールで起こる歴史改変は事実改変なのだ。

 例えば、ラディッツ達サイヤ人がいた。ということは間違いない事実である。しかし、フリーザがサイヤ人を滅ぼした今、サイヤ人に関わる話が書き記されて広まることがなければ、『サイヤ人』という歴史は無いことになるのだ。

上白沢慧音は、二つの能力がある、一つはこの人間である時の力で、歴史を隠す能力である。例えば、明治維新というのがかつて起こった事を、我々は書き残されたものから『歴史』として学んでいる。しかし、慧音が力を発動し、隠した場合、その事実があったことに間違いはないのだが、『歴史』からは完全に消え去ってしまう。こうして、社会で明治維新を習ったはずなのにどこにも残ってないという事態が我々の間で起こるのだ

もう一つの能力は、歴史を創る能力。あの姿になることで慧音は歴史を創り変えることができるのだ。例えば、明治維新というのがかつて起こった事を、学んでいる。しかし、慧音があの姿で力を発動し、明治維新を太平洋戦争にした場合、その事実があったことに間違いはないのだが、『歴史』は完全に書き変わってしまう。こうして、社会で明治維新を習ったはずなのに太平洋戦争で明治時代になったという事態が我々の間で起こるのだ。

 

慧音は後者の力を使う際、対象となるものの過去を見ることができる。それを利用して、妹紅の過去を見れないかと思っているのだ。

 

「なるほど…、その力であいつの過去を…。」

慧音はタイミングが悪かった。あの力は、満月のときでないとなれない。

「そう…。だが、昨日が満月だった…。この力はあと一か月はかかるだろう…。」

いつもは満月から解放されるのがうれしい彼女だが、今回ばかりは解放されてしまったことを悔やんだ。

「…。」

ラディッツは腕を組みしばらく黙り込んだ。そして、

「方法ならあるかもしれん。」

その手には、かつて母からもらい、忘れかけていたあの言葉が浮かんでいた。

 

 

「よし、この辺でいいだろう…。」

ラディッツは、慧音を連れて里から少し外れたある丘に向かった。すでに、日没から二刻。あたりは月の光と虫の優しい声に包まれていた。

「何をする気なんだ…。」

「まあ見ていろ…。」

ラディッツはその左手に力をこめると白い光の玉を浮き上がらせた。

「それは一体…。」

「簡単に言うと人口の月ってやつだ。」

 

サイヤ人にとって満月は一番本領の発揮できるものだった。月の光は満月が跳ね返ったもの、その光線の中に含まれるブルーツ波という光が満月の時に限りある一定以上の強さになり、それを目から吸収することで彼らは大猿に変わることができる。そして、限られたサイヤ人にのみパワーボールという特殊な球を生み出すことができ、人工的に月を作り上げることができる、ラディッツもその力を持っていたのだ。

 

「す、すごいこんな力が…。」

「準備はいいな。」

ラディッツは香霖堂で買ってもらったサングラスをかけ、慧音の方を向いた。彼女が小さくうなずくとラディッツは左手を大きく振りかぶって空へその球を投げた。

「はじけて、混ざれぇ!!!!!」

 

 

 

平安時代初期、大化の改新から約二百年。遣唐使は停止となり、まさに日本独自の文化の礎が築かれようとしていた。藤原一族が頂点に向かおうとしている中、妹紅は藤原一族の中心として生まれることができた。

「父は元気か…。」

「はい、最近は新しい律令のまとめをなさっておりますと…。」

「そうか…。」

庫持皇子、それが彼女の父である。妹紅は皇室に生きる者として国民の幸せを守りつつ政治に大きくかかわっていく重要な存在になるのは明白だった。

しかし、生きていくうえで絶対という安全な言葉が崩れるというのは今も昔も変わらないことである。

「姫っ!!」

「どうしたのですか…。」

「こ、これを…。」

 

それは、庫持皇子の失踪を告げるものだった。

 

それ以降、妹紅の政治上の地位は下がり始めていった。政治上、敵対していたグループからの皮肉の混じった手紙が幾度となく手元に届けられ、さらに父がいないのでこれまで支えていた人々からの支援も手薄くなっていった。そして数か月後、父が戻ってくることは無く妹紅は皇室を離れ、宮中を去ることになってしまった。

妹紅はそれ以来藤原を名乗ることはなくなり、数人の侍女と共に仏に使える身として働くことになった。だが、政治の世界で得てしまった歪みはなかなか取れるものでもなかった。

「どちらへ行かれるのです…。」

「ちょっと、外に行ってくる。」

妹紅は、そう言い残すと暗くなりゆく中、その仇の家に向かった。

「ちょっと、いきなりなんだ貴様。」

妹紅は、家の警備についていた者と争いになっていた。眠っていた翁の服を掴んで脅し、姫の寝室まで向かっていったのだ。

「うるさい!そこにいるんだろう、早く出てきたらどうなんだ、なよ竹のかぐや!!」

妹紅を止める兵の後ろにある簾の先に仇はいる。しかし、これ以上妹紅が踏み入ることは許されず、応援に駆け付けられた兵たちによって取り押さえられ、そのまま門の外に放り投げられてしまった。

「く…、くそぉ…。」

妹紅は言い表せないほどに膨れ上がった怒りを地面に叩きつけた。しかし、怒りは収まらず湯水のように湧き上がっていく。

「何か、お困りですか…。体冷えますよ…。」

ふと背後から声がした。しかしその服を見た瞬間、妹紅の怒りは堰を切って流れ始めた。

「てめえ!!よくも父と私をこんな目に遭わせやがって!!今ここでぶっ殺してやるぅ!!!」

妹紅はその首を掴もうとしただが、次の瞬間そこにあったはずの首はなく、手がむなしく宙を舞った。

「何か、勘違いをなさっているようですね…。藤原妹紅。」

妹紅は大きく見開いた。捨てたはずの藤原という言葉を耳にしたのだ。

「お前…、一体…。」

妹紅のあふれていた怒りが徐々に別の物に変わっていった。

「それ以上はいけません…、もうあなたも分かったはずです…。」

そう言い残すと、その少女は光を纏って消えていった。

「…。」

妹紅は、自分が一生かけても越えられない壁を感じ悔やんだ。しかし、このまま何もやれず引き下がりたくないと妹紅は強く思った。

 

それから数年後、あいつが月へ戻ったという話が広まった。そして、受け取った手紙とあるものを燃やしに東の国にある天に近い山へ向かうという情報が皇室の中で流れ、妹紅にもその情報が秘密裏に伝えられた。

「本当に行かれるのですか…。」

「ああ…。」

「やはり、考え直すのがよろしいのでは…。」

「…。」

妹紅は仕えていた侍女一人を残し、その山を目指した。そして、移動すること2週間。彼女は、目的の山に着いたが準備が甘かった。

 

「…はあっ…。はあっ…。」

妹紅は岩陰に隠れつつ数名の一行を追う。しかし、樹海という巨大な迷路を相手に大苦戦し、風が強く険しい道の続く山登りですでに限界に達していた。そして、もう一つ致命的なことがあった。

「く…そぉ…。岩が小せえ…。」

隠れられる岩もなくなりつつあった。

「ちくしょう…。」

とうとう妹紅は尾行を断念し、座り込んだ。

もうこれ以上打てる策もなく、体力も限界。諦める以外どうしようもないのだが。

「?」

ふと、一行の足が止まった。

そして、一人の男がこっちに引き返して歩いてきたのだ。

「とうとうばれちまったか…。」

妹紅は、年貢の納め時だと思った。

だが、その男の右手には小さな竹筒が握られていた。

そして、妹紅の目をしっかり見つめ。

「ここまでよく頑張った。頂上まで一緒に来い、ここで立ち止まっても凍え死ぬだけだ。」

妹紅は、一瞬時が止まった。その男は、妹紅がつけてきていることに気づきつつも妹紅に救いの手を差し伸べたのだ。妹紅は、何か心の奥底からこみ上げてくるものを感じつつも黙ってその一行と共に頂上に向かって歩み続けた。

途中、何度か立ち止まりそうになるも共に励ましあって乗り越え、出発から1か月。ついにその山頂に着くことができた。

そして、妹紅は岩笠と名乗る者に一つ聞いた。

「私は、山賊であなた達を付けていたがとんだ失態を見せてしまった…。」

それを聞いて兵士たちはみな笑っていた。妹紅ひとりでは敵うわけはないと思っていたのだろう。だが、岩笠は違っていた妹紅を黙って見つめていたのだ。

「だが、一つ聞きたい。お前たちは何のためにこの山を登っているのだ…。」

岩笠は、しばらく目をつぶると一言だけ返した。

「勅命だ…。」

その後、岩笠は兵士たちに命じ壺にひもを括り付けた。妹紅が近くにいる兵士に聞くとこの壺を火口に入れて燃やすとのことだった。そして、紐を括り付けた壺を火口に投げ入れようとしたその時、明るい光と共に一人のこの世の者とは思えないほど美しい姿の女性が現れた。

「あ、貴方様は…。」

妹紅には一つ思い当たることがあった。そして、次の言葉で確信に変わった。

「私はサクヤ姫。この山の噴火を鎮める女神です。」

一気に全員の目が変わった。突然の出来事を前に動揺する者、反射的にひれ伏す者も現れた。そして、サクヤ姫は目をつぶると優しく儚い顔を一変し、真剣な表情で岩笠の方を向き、次の言葉で流れを変えた。

「その壺をこの山で焼こうとしてはなりません。」

岩笠は、一瞬黙り込んだが返す。

「私はこの壺を最も点に近いこの霊験あらたかなる神の火で焼かなければならない。これが帝の勅命でございます。」

その言葉を聞いて、サクヤ姫は一つため息をつくと岩笠に向かって言った。

「その壺をこちらで焼かれますと、火山が活発になり私の力では負えなくなってしまうでしょう。その力は神である私の力を上回ります。貴方たちはその壺に入っている物がどのようなものか分かっているのでしょうか…。」

兵士達は皆沈黙した。誰一人何が入っているのか知らされていないようだ。しかし、岩笠は血の気が引き始めていった。

「その壺に入っている物は…。」

「それを言ってはならぬ!!!」

「いいえ、ここまで担いできた彼らには知る権利があります。」

そして、次の言葉で岩笠と兵士たち、そして妹紅の運命は変わってしまった。

「不老不死の薬…ですよ…。」

時が止まった。そして、岩笠は地面に手をついた。その瞳には先ほどまであった灯が消えてしまっていた。

「この山の北西の先に八ヶ岳という山があります。そこに住む私の姉なら供養できる。姉は不死不変を扱う神ですから供養してもらうには丁度良いでしょう。」

「しかし、その山では高さが足りないのでは…。」

岩笠は何とか気を立て直したらしく、話をつづけた。

「いいえ、昔あの山は私の山より高かったのですよ。」

「その話は初めて聞くが…。」

「その昔、あの山とちょっと喧嘩がありまして…。とにかく、山の格としては十分です。月までの距離もある意味あちらの方が上ですから、周りが不幸にならないうちに一刻も、一刻も早くそちらに向かいなさい。」

「そうか…。それではさっそく下山し八ヶ岳へ向かおう。迷惑をかけてすまなかった。」

岩笠は震える声でそう言うと、サクヤ姫は安心し火口へと姿を消した。

「岩笠殿一体あの薬は…。」

兵士たちは動揺を残しつつも岩笠に迫った。そして、岩笠は観念したらしく勅命の内容を打ち明けた。

 

あれから二日、妹紅たち一行は富士山の麓で夜を迎えることになった。あれ以来不死の薬は全員の真ん中に置かれ、そして誰も信用できなくなったのか常に二人以上順番に壺を見張るようになっていた。

しかし、その二日目の夜に事件は起こってしまった。

「…。」

妹紅は気を失っているように眠り続けた。しかし、何かの光に導かれれるように目を開けた。

しかし、目を開けたその時、妹紅は壮絶な光景を前に絶句してしまった。

一面の血の海、ボロボロになった兵たちの衣服、焼失している髪、焼け爛れきって誰が誰だか分からなくなった顔、マネキンのように硬直しきった体、そして顔面を覆うように当てられた両手。妹紅にとって彼らの最期の苦しみという地獄絵図を想像させるには十分であった。

絶句している妹紅を前に岩笠も目を覚ました。岩笠はその光景の壮絶さのショックのあまり言葉を失い、回復後、もう勅命を遂行することはできないと悟っていた。その後、彼は壺を担ぐと妹紅を連れて夜明けの近づく中、妹紅を後ろに山を下りて行った。

互いに話を交わすこともなく、変化のない急な坂道を歩いて行く。妹紅は、岩笠の背負っている壺と足場を交互に見ていた。

妹紅は、迷った。本来の自分の目的と岩笠から受けた恩の狭間で。妹紅の目的は壺を奪うこと、しかし奪うにはこの岩笠という男を殺さないといけない。だが、岩笠には何の恨みもない。それどころか、助けてくれた上に見捨てることなく山頂まで連れて行ってくれた…。

崖に差し掛かった。

妹紅は、意を決すると岩笠に向かって蹴りを入れようとする。

が、急に岩笠がしゃがみこんでしまい妹紅の足が空を切った。

そして、勢いをつけすぎてしまった妹紅はバランスを崩しそのまま崖の方に滑落しそうになってしまった。

「し…、しまった…。」

妹紅の体が宙に差し掛かる。ふとその時、妹紅の肩を何かが掴むと同時に妹紅は一気に後ろに向かって引っ張られた。

 

「…。」

妹紅は辺りを見回すとそこには壺が置いてあった。周りには誰もいない。

「これが不老不死の…。」

頭がズキズキと痛むが、その壺を覆っていた包みを開け、中に入っていた白い粉を見つめた。そして、頭の痛みが引いたころ、その薬は空になった。

「やっと、あいつに報いたのか私は…。」

実感はなかった。髪の色も変わることは無く、着ている服も変わっていない。だが、一つ妹紅はあることに気づいた。

「そうだ…、岩笠…。」

妹紅は崖下を覗き込みそして、完全に血の気が引ききってしまった。

「…。」

そこには、変わり果ててしまった、人だったものの姿があった。

 

あれから数か月後、妹紅は寺で仏道修行に励んでいたが。

「げほっ…。」

都で流行している天然痘にかかってしまったのだ。一緒に連れてきた侍女はそれにかかって亡くなってしまい、そして、妹紅も彼女と同じように病状は悪化し、もはや助かる見込みはなくなってしまった。そんな中、祈祷をするべくあるお坊さんが妹紅のそばで経を読み始めたその時、妹紅の体が光に包まれた。

「な、何事ぞ!?」

一体何が起きているのか訳が分からなくなっている彼の前に炎が現れた。そして、その炎から変わり果てた妹紅が出てきた。

「ひ、ひえ~~~~っ!!!!!」

あの薬の呪いがはっきりと表れた瞬間だった。

「一体なにが…。」

鏡に映る変わり果てた姿を前に妹紅は呆然とするしかなかった。髪は黒から城に変わり、黒かった瞳も赤くなってしまった。

「これが…、結末か…。」

それから数日後、妹紅は寺から追い出されることになった。変わり切ってしまった彼女は、誰からも受け入れてもらえることは無く、人の少ない山の方に逃げるしか方法は無かった。

そして、妹紅は自分が犯してしまった罪をもう一度認識することになった。あの時、崖から彼を突き落とそうとして崖から落ちかけた彼女を岩笠は自分の命と引き換えに救い、彼女の恩は彼の命を奪うことになった。

妹紅の未来は終わった。

妹紅は、人間本来の道を外れただけでなく、自分の行動が原因で人を死なせたという皇室に生きた者として下ろすことのできない十字架を背負い、そらに、かつて自分が幸せを願って働いていたはずの国民から見捨てられるという終わりのないらせん階段を下り続け、彼女の心は幾重にもかけられた鎖の中に埋もれていった。そして、不死になって1200年、妹紅はこの幻想郷に流れ着いていた。

 

 

 

「…。」

妹紅は傷だらけのまま星を眺めている。決して戻れぬ過去を見つめても変わらないことには変わりないが、いつからか夜、一人で考え事をし始める癖がついていた。皆同じ夜を生きているはずなのに、私の夜は彷徨っているような…。

「誰だ…。」

一つの足音が妹紅の前で止まった。

「星が綺麗ね…。」

「………。」

「このたくさんの星も一つ一つの輝きは弱いけれども、耐えることなく輝いている。妹紅、お前が犯した罪は償い切れるものじゃない…。でも、心を閉ざしてはいけない。」

彼女は、その右手を差し出すとこう残した。。

「私と一緒に来い、過去に縛られたまま一人で生きるな…。」

 

「これでよかったのか…?」

朝日が昇りゆく空を見つめつつラディッツは後ろにいる慧音に問いかけた。

「これでよかったんだ…。きっと彼女もまた『生きる』意味を見つけ出すはずだ…。」

「『生きる』意味か…。」

慧音のその声は優しく、どこか温かいものがあった。

「いろいろとありがとう…。」

「別に、俺はちょっと手伝っただけだ。」

ラディッツの声には昨日までと違い、なにか新しいものを目指そうとするものがあった。

「また時間があったらこっちに来てくれ、またどこか美味しいところへ連れて行こう。」

「そうか…、それじゃあまたいいところ教えてくれよ。」

そう言い残すとラディッツは地面を蹴り、明け行く空へと飛んでいった。

 



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東国戦遊志~紅~ #2 心は何処へ

【注意】
この作品は『ドラゴンボール』、『東方プロジェクト』の二つの作品を主に元ネタとしたクロスオーバーものです。
今回の時間もバーダックが来る数年前で、旧作終了直前となります。
このシリーズでも、本編同様に「オリジナルキャラクター」・「大幅のオリジナル設定」が出ます。
いろいろと思い切った独自解釈まみれの幻想郷となっています。
また、ドラゴンボールZ本編のラディッツとは「別の道」を歩んだ「このラディッツ」の過去は『紅の第零話、第壱話』にありますので、新鮮な気持ちで見てもらえると嬉しいです。



「へえ、『生きる意味』ねぇ…。」

「まあ、そういうことだ。いろいろ考えさせられたがな…。」

ラディッツは小町と一緒に中有の道にある居酒屋で昼の休憩をしていた。

「まあ、生きる意味ってのは人それぞれさ…。ゆっくり考えるといいんじゃないか、ほれもう一杯どうだい?」

「ああ、すまねえな…。」

ラディッツが小町に酒を注いでもらおうとしたその時、

「小町、ラディッツ!!!」

「い”!?」

「きゃん!」

いきなり後ろの扉から雷のような一声が走った。

彼らのボス、四季映姫が厳しい表情でこっちを見ている。そして、ラディッツの後ろに移動すると静かな声で問い詰めた。

「ラディッツ…、さっきから連絡しているのに…何昼間から飲んでいるんですか…。」

「い…、いや…、ちょっと息抜きを…。」

「飲んでる場合ですかァ!!!」

一喝と共に、彼女の持つ悔悟棒の一撃がラディッツの頭に直撃した。

「う…ぎぃ…。」

初めてくらった一撃だが、想像以上にラディッツの奥底まで染み入り、酔いが完全にさめた。

「それから小町…、貴方にはラディッツに仕事の内容の書かれた紙渡すように言ったはずですよね…。何こんなところで一緒になって酒飲んでいるんですか!!仕事をしなさい仕事を!!!!」

「はっ、はいっ~~~~~~~!!!」

小町はラディッツに仕事を伝えるために来ていたが、せっかくの昼休みなので飲みながら伝えようとしていたが忘れてしまっていた。

「ラディッツ、これが仕事だよ…。」

悔悟棒で叩かれたところをさすりながら小町はラディッツに持ってきた手紙を渡した。

「…博麗神社だと…。」

「そうです。どうも最近里の方で妙に強い妖怪が現れて困りだしたようです…。」

それは、妖怪退治の手伝いの助っ人を依頼する内容だった。

「しかし、この仕事…。ラディッツにまで回ってくるものですか…?」

小町は疑問に思った。人間の里には、最強組と呼ばれる者がおり、普段こういったものは彼女たちの専門分野のはずなのだ。

「どうやら最近魔界へ行っているらしく、人手不足なんだそうです…。とにかく、ラディッツすぐに支度して向かいなさい…。」

額に手を当てつつ閻魔様はため息をついた。

「しょうがねえ…、行くか…。」

ラディッツは席を立ち、外へと向かった。

「それじゃあ、あたいも行こうかねぇ…。」

それに続いて小町も後を追って向かうが、

「小 町 さ ん …?どこに行くんですか…。」

閻魔様の力のこもった右手が肩に置かれた。

「い…、いやぁ…。ちょっと仕事に戻ろうかなって…。」

「そっちは現世ですよ…。貴方のハウス(職場)はあっちです…。」

徐々に右手が食い込んでいく。

「ワ…ワカリマシタ…。」

「素直でよろしい…。」

小町はとうとう観念すると方向を変え、三途の川の方へと戻っていった。

そして、映姫は大きなため息をついた。

「ああ…、小町も最初に見たときは真面目な奴だと思っていたのに…。」

 

 

赤く燃える夕日を背に、ラディッツは飛び続ける。

「あ~くそっ…。やっと楽になったぜ…。」

ラディッツは途中、香霖堂に寄り二日酔いの薬を買った。

「しかし…、あれを買って出ていくときに『君はここをどっかの薬局と勘違いしていると思うけど…。』って言ったのは何だったんだ…。」

そんなことを考えている内に目的の場所に着いた。

<博麗神社>

「で、今回助っ人として来てくれたと…。」

「まあ、そういうことだ。」

今回の依頼相手は、博麗の巫女をやっていた者、博麗レイムからだった。

「…。」

彼女は、ラディッツの目と手を見ると、

「まあいいわ、とりあえずこれを付けて待っていなさい。」

と言って彼に二つの物を渡した。

[chapter:人食い妖怪]

<妖怪の森>

人間の里から大きく離れた山の麓に存在する妖怪の森、かつて人間と争った時は多くの妖怪で栄えていたが戦争が終わるとそこに住んでいた者はそれぞれあるべき場所へ戻っていった。しかし、ある妖怪だけは依然としてそこに住んでいた。

自身が喰らった人間たちの屍と共に。

「忠告?」

白黒の洋服を身につけ、長いスカートと金色の髪の妖怪は言った。

「そう、古き友人としての忠告よ。」

相手は、幻想郷を創った賢者の一人、八雲紫。今、この幻想郷で生きる妖怪の中で最古参に入る者である。

彼女は笑顔で答えた後、真剣な顔で一つ言い放った。

 

「これ以上人を食おうと考えるのをよしなさい…。」

 

その言葉を聞いた妖怪は、一瞬呆然としたが、

「…ふふふ…、あははははは!!人食い妖怪になってしまった私に向かってそれを言うのか!?」

そのおかしな話を笑っていた。

彼女は、人食い妖怪として生きている。あの戦争の引き金になった張本人で、数えきれないほど人間を食い殺し、彼らの持つ闇を喰らって生きたのだ。

「そうね…でも…。」

もちろん、紫もそのことは知っている。しかし、紫は持っていた扇子を閉じると、

 

「あなたの場合、ちょっと食べすぎていたんじゃあないのかしら。」

 

ルーミアの後ろに重なっている屍の山を指して言った。

「あなたのせいでただでさえ少なくなってしまった里の人たちをまた食べ尽くす気?いくらなんでも度が過ぎているんじゃないかしら?」

「…。」

「里の人たちもあなたを恐れている…。このまま食べるのをやめてひっそり生きるか、人食い妖怪として死ぬか…。選ぶことね。」

しばらく重い沈黙が漂う。

「満たされないのよ…。」

そして、ルーミアは手元に転がっている骨だけになった頭を手に持つと語り掛けるように言い始めた。

「食べても食べても、いくら食べてもどうしてもこの復讐心は満たされない…。」

「…。」

「ねえ、紫…。私が人を喰らうをやめたら…。」

 

「どうして私は幻想郷(ここ)に居続けることができるの…?」

 

それは、ルーミアにとって一番の壁だった。彼女は、あの戦争以来人食い妖怪として変わってしまった。以前の宵闇の妖怪に戻るには一度闇を全て引き抜き、代わりになる闇を入れなければならない。

「…とにかく、人を襲うのは控えなさい。私は帰るわ…。」

紫は彼女の方から振り返ると暗い森に向かって足を向けた。

「…。」

「あ、そうそう。あなたのさっきの答えはこれから来る人が答えてくれると思うわ…。」

そう一言残すと、暗い森の中に消えていった。

「そんな奴がいるわけないだろう…。」

ルーミアがため息をついてから数分後。

「………?」

二つの足音が彼女の前で止まった。

「へえ……、なるほど…。」

その妖怪は笑みを浮かべると登っていた屍の山から下りた。

「あなた達が紫の言っていた人かしら…。でも、一人じゃないのね……。」

そして、現れた二人の前に立つと、仮面の隙間から見える瞳を見つめてそれぞれの正体を探った。

「なるほど、片方はあの伝説の博麗の巫女か…。でも…。」

次の瞬間、もう一人の目を覗き込むように近づいた。

「あなた…知らない顔ね…。それにこの尻尾…、新種の妖怪かしら…。でも、別にいいわ、これからあなたも食べることに変わりないから…。ただ…。」

その顔を離すと右手を顔まで上げ、

「食い殺す前に、その仮面を外してもらおうかしら!!!」

 

その仮面に一つの深い切れ込みが入った。

 

「ああ…、やっとすっきりしたぜ…。」

仮面の右半分は割れて地面に落ち、一つの瞳が覗いている。

「…人間かしら…。」

意外な顔をする妖怪を前にその男は残った左の仮面を外し、名乗りを上げた。

「人間ではない…俺は、地球人の心を持った強戦士族サイヤ人の末裔だ。」

その言葉を聞くとその妖怪は狂気に満ちた笑みを浮かべ、

「強戦士族か…美味しそうね。いいわ私も限界だったの、あいつらと同じように食べ尽くしてやるわ!!!!!」

一気にラディッツに襲い掛かた。

 

 

「うおあ!!」

ラディッツの振りかっぶた正拳の一撃が彼女を彼方の森に吹っ飛ばした。

「…。(紙一重でかわして拳を入れる動き、攻撃の受け止め方…やはり武術の類を受けたことがあるか…。)」

腕を組みながらレイムは彼の動きを見ていた。最初に遭った時、彼の目と拳に残っていた傷を見て彼がかなりの戦闘経験者であることを見抜いたのだ。

「さあ、いい加減人を食うのをやめるんだな…。今の貴様をこれ以上ぶちのめすのは、この俺にとって心がいたいものだ。ここで、降伏して従うことを勧めるぞ…。」

ラディッツは、その妖怪が吹っ飛ばされた森に向かって言い放った。だが、

「…確かにこの数百年いろんな人間を襲ったけど…、あなたほど強い心を持つ人間は久しぶりに見たわ…。やはり…、『気に入った』…あなたの骨の髄まで残さず綺麗に食べ尽くしてやるわ…。」

その妖怪はラディッツをしたたかに酔ったような目でなめるように見ている。

「やはり…、技だけじゃ無理か…もっと力を入れんとだめか…。」

ラディッツの攻撃は技においては良かった。しかし、あの妖怪が纏う闇のせいで威力が体にそのまま伝わらずいまいち効いてない。

そして、あの妖怪は目をつぶると告げた。

「…力で倒すねぇ…、あなたにできるのかしら…。」

「どういうことだ…。」

そして、次の一言で状況は変わる。

「いつ私が本気で戦っているといったのかしら…。」

「なっ…。」

次の瞬間ラディッツの目の前まで迫っていた。

そして、

 

ラディッツの右肩に彼女の出した闇が突き刺さった。

 

「ぬ……ぁ…。」

ラディッツは目をつぶり呻きながらも刺さったそれを手で折ろうとするが、

「ぎいやあああぁ!!」

触った右手に激痛が走ったのだ。

「ふふふ……馬鹿ねぇ…。」

あの妖怪は騒ぎ立てるラディッツを楽しむような目で見ている。

「ち…、ちくしょおおお……!!!!」

ラディッツは気力を振り絞り、残った左手で彼女の右頬を狙うが、

「前を見ててもいいのかしら……?」

すでに本体は後ろに回り込んでいた。

そして、ラディッツの肩に大きい一撃が落ちた。

 

「気を失っちゃった…情けないわね…。」

地面に倒れ伏しているラディッツを足で転がすと、その妖怪は残る巫女の方を向いた。

「あなたも戦うのかしら…。」

「…どうやら私の方まで順番が来てしまったらしいからね…。まあ、彼に点数をつけるとしたら25点といったとこらかしら…。」

そう言うと、巫女は被っていた仮面を外した。

「あら…仮面外すのね…。」

「もうこれは要らない…そう思ったのよ…。」

さっきまで笑みを浮かべていたその妖怪の表情は雲に隠れ、暗くなりよく見えなくなった。

「博麗の巫女…。かつて八雲紫と戦って痛み分けに終わったと聞いていたから硬い感じの顔だと思っていたけど…意外ね…。」

「…。」

「その綺麗な顔…。ちょっと食べるのがもったいない気がするけど…。」

そして、雲に隠れた月の光が差し込むと

「その分きっとおいしいそうね…。しっかり食べ尽くしてあげるわ。」

その笑みは一層深いものになっていた。

 

 

<博麗神社>

「ええい、くそぉ!!」

ラディッツは、近くにあった小石を暗い森の方に投げつけた。

「またこの様か…、俺は…一体いつまで弱虫のままでいるんだ!!」

ラディッツは、やり場のない怒りがこみ上げていた。これまでの仕事の中で、一度も指をくわえてその行く末を見届けなければならない立場にいた。寄り添うことでしか力を貸すことができなかったのだ。

「親父…、俺はサイヤ人として失格なのかよ…。」

ラディッツが、重い足を引きずったまま寝かされていた寝室に戻ろうとした時。

「っておい、なんなんだよこれはッ!!」

誰かが、叫んだ声がした。

「?さっきの奴か…まだ暴れていやがるのか…?」

ラディッツは玄関の扉を開けた。

「うるさいわね、悪い子にはお仕置きでしょう。反省するまでそこに縛り付けておくわ。」

「はぁ!?」

ラディッツはその光景に唖然とするしかなかった。あの人食い妖怪があの巫女によって頭に札を貼られ、木に縛り付けられているのだ。

「おい、レイム。これは一体どういうことだ…。」

「見ての通り『退治』よ。」

「これが、『退治』か…。」

ラディッツは今までこんな解決の仕方を見たことはなかったが、ここが幻想郷であることを思い出し、これまで持っていた自分の世界観で測るのは良くないと思いその言葉を納得した。

「やれやれ、これで一件落着ね…。ラディッツお茶を入れてきてもらえるかしら。」

「分かった。」

「ちょっ、こらッ、ほどけぇッ!!」

 

 

「ああそうか…、そんなことが…。」

「まあ、久しぶりにいい運動になったわ。」

ラディッツとレイムは、温かい緑茶をすすっている。ラディッツにとってお茶は初めて飲むものだが、いい感じに混ざり合う甘みと渋みという感じに心地よさを見出した。

「ところで…。」

ラディッツは持っていた湯呑を置くとレイムに尋ねた。

「俺の点数が25点ってどういうことだ…。」

さっきの話で出てきた彼の戦い方に疑問があった。あのころと比べて戦闘力はかなり上がっただろう…。しかし、その実力に合わない結果ばかり出しているような気がしてならないのだ。

「そうね…。」

レイムは近くに置いてあったジェンガを持ってくるとその問いに答え始めた。

「まだパワーに偏っている気がするの。足りない者は二つ、一つ一つの技のキレと自分の中から出てくる恐怖ってところかしら…。」

「キレと恐怖か…。」

「そう、あんたの場合この積み木の一部分が空洞になっているのと同じ、これも穴があるとどれだけ積み上げても簡単に崩れてしまう。あんたもこのまま修行とかで力を上げようとしてもそれに見合わない結果になるのがオチでしょうね…。」

崩れた積み木を見て、ラディッツは少し考え込んだ。そして、

 

あぐらをかき、両手をついて頭を下げた。

 

「頼む、俺のためにしばらく修行を付けてくれ…。」

ラディッツは、エリート集団に属していたので人から教わることには抵抗があったが、このままあがいても一生井の中の蛙で終わってしまう気がした。彼は、今そのエリートという帽子を脱ぎ、弟のカカロットと修行した時のように初心に戻り教えを乞うことを決意したのだ。

「…わかったわ…。あんたの技のキレを磨いてあげる、その代わりちょっと高くつくわよ。」

「わかった……………………ありがとう…。」

それは、ラディッツが初めて直接感謝の言葉を口に出した瞬間だった。

 

 

<博麗神社付近にある河原>

翌朝

「よし、それじゃあ始めるわ。」

「始めるのはいいが…、こいつもつれてきたのか…。」

「…ふんッ…。」

レイムは昨日戦った妖怪を縄でつなぎながらここに連れてきていた。

「しょうがないでしょ神社空けているんだから。それに…、勝手に逃げられたら困るから。」

「…。」

レイムと木に縛られているその妖怪がにらみ合う。この時、ラディッツは改めて怒らせると怖いのは男だけではないことを察した。

 

「さて、まずは正拳からね。」

「パンチの事か。」

「まずはその石でやってみなさい。」

そう言うと彼女は河原に落ちていた大きめの石をラディッツに渡した。

「ようし…。」

「はあっ!!」

ラディッツが思いっきりその石に向かって拳を放つとその石は粉々に割れた。

「まあ、こんな感じだぞ…。」

「なるほど…。」

少し離れてみていたレイムはその場に落ちている石を持って、ラディッツの前に出るとその石を大きな岩の上に置いた。

「よく見てなさい。」

彼女は、振り上げたこぶしを一気に振り下ろした。

「はあっ!!!!!!」

すると、持ってきた石は綺麗に真っ二つに割れ、岩にも少しではあるが綺麗なひびが入っていた。しかし、ラディッツは一つコツをつかんだ。

「そうか、拳を当てるとき人差し指と中指の面で撃っていたのか…。」

「そのとおり…。なかなかいい眼をしているわ。あんたは、拳全体で撃とうとしているけどそれだと力はうまく伝わらない、そして硬い相手と戦った時骨折するかもしれない…。」

するとレイムは中指と人差し指を立てた。

「今から二日でこれを習得してもらうわ。」

「二日か…。」

「但し、一回一回しっかり意識して、撃った後の石をよく見ること。正しいやり方で身に着けることが目的だから焦らないこと…。いい…?」

「分かった。」

そう言い残すと、彼女は来た道を戻っていった。

 

 

<三途の川>

ラディッツが出発して二日目、小町は三途の川を往来している。

「ふう、今日はよく働いたな。これだけ働けば今日の夜には帰れるだろう。」

「どこがよく働いたですか。」

「きゃん!」

彼女のボス、閻魔様と一緒に。

「まだ10人のうち5人しか来てないじゃないの。」

「あ、あー、いや、頑張ってはいるんですが…霊が…。」

「霊が…?」

「霊が――、そう、生前の未練がなかなか断てず、川幅が広くなってしまっているのです。」

すると、映姫は浄玻璃の鏡に映るものを小町に差し向けた。

「い”!?」

そこには死者の霊と楽しそうに会話をして全然前に進んでいない小町たちが映っている。

「小町、貴方が仕事をしているのはいいことです…が、いつも貴方は平均20キロ、約2時間で運んでいます。ただでさえ遅いというのに…、あなたの今日の所要時間は5時間、漕いだ距離は5キロですよ…単純に計算して1時間1キロですよ!!歩くのより遅いってどういうことですか!!」

「すみません!すみません!!」

「いい?私たちは生前の罪を裁く者。罪を裁く者は常に公明正大に身を正していなければならない。そう…あなたは怠けすぎている…。」

この一言で小町は裁かれる運命にこれからなることを悟った。

「このままでは、貴方を首にしないと示しがつかない…。貴方を放っておくこと自体が、私の公明正大に傷をつける。」

「すみません!もうしません!まじめに働きますから!!」

しかし、閻魔様は恐ろしいほどやさしい表情で続けた。

「一度私の裁きを受けてみる?そうすれば、少しはあなたも裁きの恐怖を感じられるでしょう。」

「すみません、許してください、なんとかしますから~~~~!」

こうして、逃げられない密室の客船で恐怖の裁きが始まるのだった。

 

 

<博麗神社付近にある河原>

「うおあ!!!」

ラディッツの気合のこもった一撃が遂に石を真っ二つにした。

「はあっ…、はあっ…。やっとコツがつかめて来たぞ…。」

あれからもう何百回繰り返しただろうか、彼の両手に巻かれたテーピングも真っ赤に染まり切っている。

「…もう夕方か…。」

ラディッツは暮れ行く西の空を見つめる。彼が弟と一緒に修行した時もこんなことが多く、よくカメハウスで一緒にご飯を食べたことがあった。

「そういえば、昼飯まだだったな…。」

ラディッツはあの巫女が去っていく際に置いていった竹皮の包みを開けた。

「おにぎり5つと沢庵か…。」

もうすでに冷め切ってはいたが、なにかあたたかい温もりのようなものがあった。

「…。」

何を思ったのかラディッツはそれをもう一度包むと、立ち上がり、ある方に向かって言った。

「…なんだよ…。この前の仕返しか…。」

昨日戦った妖怪のもとだった。

「…。」

「やるならやれよ!!たとえ、お前のような人間があがいたところで妖怪が消えることは決して――――」

 

そのとき、ラディッツの仕返しは終わっていた。

 

「ほらよ…。」

そこには、さっき持って行ったおにぎりの入った包みが置いてあった。

「…どういうつもりだ…。」

その妖怪はラディッツに怒りに似た顔を向けた。

「別に貴様に言わなくても分かるだろう…。」

「…違うッ!!的に飯を送る奴がいるかッ!!どういうつもりだ!!」

「知るか…。お前を見ていたらカカロットのガキの顔がちらついた…。ただそれだけだ。じゃあな。」

ラディッツはまた修行を続けに戻っていく。

「なんなんだよ…。なんなんだよお前はッ!!!!!」

ラディッツは振り返ることはなかった。けれども、一つの言葉を残した。

 

「俺は、サイヤ人だったのかもしれん…。」

 

 

<三途の川>

ラディッツが仕事に出かけて3日後、彼岸ではいつもと変わらぬときが流れている。

「なるほど、だからラディッツを…。」

小町は、あの時ラディッツを雇ったもう一つの理由を聞いた。

「そういうことです。って、あの時あなたもいたでしょう…。」

一つは、彼が数えきれないほどの命を奪い続けた罪を、どれだけの時間がかかるかわからないが、仕事を含めて償いきること。

そして、もう一つが彼にとって大切なことなのだが…。

「いや~、ちょっと不覚にもうたたねを…。」

あの時、彼女もラディッツに下された裁きの瞬間を見たのだが。重要なところで、寝ていたのだ。

「もう一回、やりますか。」

「もうしません…。」

小町はあれから閻魔様の裁きを受け、痛烈な一撃を心と体に染み込まされた。やはり、相当堪えたらしく翌日、顔が死んでしまったらしい。

「まあ…、正直に言ったことだけは認めてあげましょう。」

「ところで四季様。」

「どうしました、小町?」

「なんで、『今日も』一緒に乗っているのでしょうか…?」

小町には一つ嫌な予感がしていた。あの日、小町の裁きは終わったので閻魔様は裁判所に戻っていたのだが、今日どういうわけか、また一緒に乗っているのだ。

「あの時、貴方があまりにも遅すぎるのでこの船の上で裁判をします。滅多に見られることじゃないですよ。」

どうやら、閻魔様はしばらくの間、常に小町を監視する必要があると思っていたらしい。

「な…なにもそこまで頑張らなくても…。」

「それに、ここならあなた達も逃げ場がない…。まさに、説教を受ける方にもいい場所ですから…。」

「や…、やっぱりもうちょっと真面目にやっていればよかった…。」

「もう遅いです。さて、始めましょうか。」

それから2週間、小町は映姫様のありがたい説教を毎日聞くという裁きの日々が続いたのだとか…。

 

 

<博麗神社付近にある河原>

「や…やっと身につけたぞ…。」

「まさか…。ここまでのみ込みが早いとはね…。」

あれから十日余り、ラディッツは技の基本である突き、受け、手刀、蹴りを一通りマスターすることができた。

「まあ、伊達にエリートを名乗っているわけじゃあないからな…。これぐらいなんとかなるものだ…。」

ラディッツの拳と足のテーピングからは血がにじみ出ているが、彼の瞳はまた一段と締りのあるものになった。それを見ると、レイムは

「それじゃあ、明日から実践に入るから先に戻っていなさい。」

と修行で疲れ切った彼に言った。

「わかった…。悪いな…。」

そう言い残すと、ラディッツは夕日がわずかに差し込む中、神社のある森に向かって消えていった。

「さてと…。」

レイムは腰につけていた狐のような仮面をかぶるとその妖怪のところに立った。

「気分はどうかしら。『人食い妖怪』さん…。」

「…。」

その妖怪は、うつむいたまま黙ったままだった。

「いい加減…決めたらどうかしら。」

レイムが封印の札を取り出した瞬間。

「ああ…、決めたぜ…。」

 

その妖怪は、口角を大きく吊り上げ、縛られていたロープを一気に切った。

 

「伸びた爪で縄を切ったのね…。」

「そうだ!!やっとこれで自由になれた…。やはり私は妖怪として生き続けてやるぅッ!!」

暮れかかっていた空は完全に闇に包まれ、すでにあの妖怪の本領発揮の時間になってしまった。

「そのボロボロ体で、やれるのかしら…。」

あの巫女は、一歩も退かずに彼女の前に立っている。

「ヤってやる…。お前を…、ここで倒してッ!!!」

 

 

<博麗神社>

「な…なにぃ!?逃げられただと!!」

「ええ…。ちょっと吹っ飛ばした隙に。」

レイムは、ちょっと気まずそうに言うしかなかった。あの後、強烈な正拳を入れたのは良かったのだが、思いっきり吹っ飛ばしすぎてそのまま逃げられてしまったのだ。

「オイオイ…。大丈夫なのか…?」

「まあ、安心して…、あの妖怪に札は貼れたから。」

「札って…なんの札だ…。」

「人間を襲おうとすると『おすわり』になっちゃう札かしら…。」

あの時、彼女が取り出した封印の札のことだった。

「おすわりか…。(犬みたいになるのか…。)」

おすわりとはなにかラディッツが考えていたその時。

「はあ…、つかれた…。」

いきなり玄関の扉が開いて、小さな子供二人と亀が一匹入ってきた。

「…。」

ラディッツは、一体何が起ころうとしているのか分からず顔のパーツが行方不明になった。

「さてとお邪魔するぜ…。」

「ちょと待てい!」

ラディッツは、行方不明になった顔のパーツを戻し、回復した。

「なによ…。」

「なによ?じゃないの!貴様いきなり現れやがって今何時だと――――。」

ラディッツがツッコミを入れようとしたその時、

「あら、霊夢と魔理沙じゃないの…。」

「あれ…?お母さん…。」

「これは、先代殿お久しぶりでございます。」

「…。」

ラディッツは雷に打たれた。さっきまで修行を付けてもらっていたあの元巫女がこの子のお母さんであることに。

 

「紹介するわ。こっちが私の娘の霊夢、隣が魔理沙、そして端にいるのが玄爺。えっと…空飛ぶ亀よ。」

「よろしく!」

「よろしく。」

「どうぞよろしくお願いします。」

「俺は、戦闘民族サイヤ人の生き残りのラディッツだ。こちらこそよろしくお願いします。」

あれから、しばらくラディッツの電源がOFFになりかけていたが、なんとかONにして話を整理することができた。

「ところで、さっきから見え始めたのだがこの変な白いのは何だ?」

ラディッツの肩にまとわりつくように白いどんよりしたものが乗っている。

「魔物よ。」

レイムが答えた。

「これがねえ…。」

ラディッツはもっと凶悪なものだと思っていたがそうでもないことにちょっと拍子抜けした。

「そう、その溢れ出した魔物をなんとかするために魔界に行っているらしいんだけど…。」

 

「霊夢殿…、まだ半分ちょっとまでしか行ってませんよ。あと半分、がんばりましょう…。」

「分かっているわよそれくらい…、でも二人は厳しいわよ!ふつう一対一でしょう!!」

霊夢と玄爺が言い合っている。

「霊夢、ここは違う方を先に倒したらどうよ。」

そこで、魔理沙がいいアドバイスをしたのだが。

「もう怒った!!あのユキとかいう方を最後に倒して終わりにしてやるんだから!!!」

いばらの道を行くことを決心してしまった霊夢だった。

 

 

「それじゃあ、行ってくるわ~!」

「行ってきます。」

「それでは、私たちはこれで…。」

「行ってらっしゃい。」

朝日が昇りゆく中、霊夢たちは魔界へ旅立つのだった。

彼女たちを見送った後、レイムは神社へ戻った。

「さて、ラディッツ。あんたも修行行くわよ。」

「ようし…、だが二つ聞かせてくれ。」

ラディッツには、疑問があった。

「まず、この修行あとどれぐらいかかるんだ…。」

ラディッツが出発して十日、昨日閻魔様からあとどれぐらいかかるのかの手紙が来てしまったのだ。

「そうね…、最低であと3日は欲しいわね。」

「3日か…。ならなんとか伸ばしてもらえるかもしれんな。」

ラディッツにとってそれぐらいの日数はどうということはないらしい。

「それで、あとひとつは何かしら…。」

「それは…。」

ラディッツは、ちょっと気まずかった。母は答えてくれたのだが、ナッパの母に聞いた瞬間恐ろしい目にあったからだ。だが、今回は聞かずにはいられないことだった。ラディッツの覚悟は決まった。そして、真剣な瞳を以てその問いを投げ掛けた。

 

「お前、一体いくつなんだ…。」

 

そう、彼が疑問に思っていたのが年齢だった。容姿からしたらまだ20くらいなのだが、子供がいる以上その年齢はあり得ないのだ。そして、レイムはその口を開いた。

 

「50よ。」

 

ラディッツの時が止まった。彼は、30ちょっとだと思っていたのだがそれをはるかに上回っていたのだ。

「そんなに驚くことかしら?」

本人はあまり気にしてないらしい。

「お前のその『博麗拳術』は不老か何かの術なのか…。」

ラディッツは、頭のネジがどっかへ行ってしまっていた。

「そんなわけないでしょう。さっさと行くわよ。」

こうして、新たな衝撃の中、残り3日間死に物狂いになる修行を続けるラディッツ達であった。

 

 

<人間の里から続く道>

「くそ…あの巫女の野郎…。まだ力を隠していやがって…。」

あれから、彼女は本気を出して彼女を殺しにかかろうとしたのだが…、彼女の仮面を真っ二つに割っただけにおわり、そのままカウンターの一撃をまともにくらい人間の里の彼方にまで吹っ飛ばされてしまった。

「ち…ちくしょお…。もう力が…。」

もうすでに10日余り飲まず食わずだったため空腹が限界に来ていた。

そして、足音が一つとなにか話す声が近づいている。

「こんな…人間なんかに…。」

彼女はその場に眠るように倒れてしまった。

 

妖怪は常に人間のある部分を強く映し出したものである。ルーミアもまた人間のある部分を強く映し出した妖怪である。

「あなたは、食べていい人間ね…。」

「…違う。俺は、何もやってないんだ。」

「じゃあ…。その手に持っている『人の首』は何かしら…。」

「あ…。」

「ふふ…。嘘が下手ね…。」

彼女が持つ闇は人間の持つ闇そのものでできている。罪悪感や嫉妬などの負の心から湧き出る闇の力を彼女は人間を喰らうことで得ていた。しかし、ここ最近治安が安定してしまったせいか、襲った人間でそういう心を持つ人が少なくなり、いくら食べても満たされないようになってしまったのだ。

 

「……。」

暗い海のそこからやっと明るいいつもの世界に戻った。しかし、どこか圧迫されているような感じが右手にはしる。

「これは…包帯か…。」

傷だらけの右手に包帯が巻かれていた。そして、ふと後ろを振り返ると人間の子だろうか?亀と共にどこかへ飛び去っていく姿があった。

「…。」

叫ぼうとしたが、もう自分に声を張り上げる力は残っていなかった。ただ、その子が去っていく後ろ姿を見つめる以外どうしようもなかった。

「…これは…、置いていったのか…。」

傍らに小さな竹の包みが置いてある。

中を広げてみると、そこにはあの日と同じ想いが入っていた。

「ちくしょう…、ちくしょ…。」

気づいたら、もうすでにそれを口に入れていた。

もう味が分からない。何百年、妖怪として生きている自分だったが、灼熱の荒れ果てた砂漠にバラの花が一つ咲いてしまったような感じだった。そして、次々に湧き出る水のせいでそれを止めることができない。

 

「私は妖怪なんだ…。こんなものが…、湧き上がるはずがないんだァ!!!」

 

<幻夢界(魔界と現世の狭間)>

「よろしいのですか…、ご主人様…。」

「何が?」

玄爺は背中に乗っている彼女に問いかける。

「あなたは博麗の巫女です。あまり妖怪に肩入れするのは…。」

背中の主人は、しばらく間をおいてこう答えた。

「確かに爺の言うとおりかも…。でも、今日は『退治』の依頼なんて来てないからいいんじゃない?」

玄爺は目を閉じてその言葉を聞いていたが、何かに気づかされたのかもう一度目を開け、

「やはり、これでよかったのかもしれん…。」

と呟くと、主人にしっかり捕まるように伝え、魔界まで一気に飛ばした。

 

 

<博麗神社付近にある河原>

ラディッツは目の前にある大きな岩を前に一人立っていた。そして、右手を引くと。

「はあっ!!!」

見事にその岩を綺麗に真っ二つに割った。

「やっと使いこなせるようになったわね。」

レイムは持っていた竹筒を彼に投げ渡すと、ラディッツは中に入っていた水を一気に飲み干し、腰を下ろした。

「まあな、だが驚いたぞ。まさかこれほど動きが綺麗になるとはな…。」

「これで私から教えることはとりあえずなくなったわ。あとは戦う中でその技を極めつつ新しい技をあみ出しなさい。それがあんたにとっての本当の技になるはずだから…。」

「わかった。」

そう答えるとラディッツは立ち上がり、沈みゆく夕日を眺めた。

出発から3週間、長いけど短かった時が過ぎた。閻魔様には、今日帰るという手紙を出してある。

「わるいな…、こんな3週間も手伝わせちまって。」

「いいのよ、私もいろいろと気づかされたから…。」

彼女の目は、どこか優しく温かいものがあった。

ラディッツはレイムの方を振り向くと約束を交わした。

「元気でな…、よかったらまた修行の相手をつけてくれ…。」

「いいわ…。それまでにしっかりと教えた技磨き上げなさいよ!」

こうして、また新たな仲間たちを持ったラディッツは大空へと舞い上がっていくのであった。

 

 

 

<三途の川のほとり>

同時刻、仕事を終えた小町と映姫が何か話している。

「やはり、変ですね…。」

「どうしたんですか?」

映姫は、もっていた浄玻璃の鏡を取り出すとあることを言った。

「先ほどまでに裁いた10人ですが、全員あの妖怪の仕業ではないようです…。」

そこには、白い石になって割れている姿が映し出されていた。

「ということはまだ…。」

「ええ、まだこの事件は解決していない…。」

 

 

 




意見感想等ありましたら、このコメント欄もしくは私のtwitter(@ma183681)にて受け付けております。全てに答えれるとは限りませんが、何かしらの返答はしますのでよろしくお願いします。(twitterで勝手に流れている質問箱でも対応できます。)ただ、忙しくなってしまった場合返答が遅れてしまうかもしれませんが、首を長くして待ってもらえると助かります。


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東国戦遊志~紅~ #3 不尽の業火

【注意】
この作品は『ドラゴンボール』、『東方プロジェクト』の二つの作品を主に元ネタとしたクロスオーバーものです。
今回は怪綺談終了後からバーダックが来る数年前となります。
このシリーズでも、本編同様に「オリジナルキャラクター」・「オリジナル設定」が出ます。
ドラゴンボールZ本編のラディッツとは「別の道」を歩んだ「このラディッツ」の過去は『紅の第零話』となりますので、新鮮な気持ちで見てもらえると嬉しいです。
最後に、どこかでこのシリーズは動画化まで行けるかはまだわかりませんが、動画版のお便りこコーナーやこの話に彼やその仲間たちが出たときは、是非頑張っている彼らを応援してもらえると嬉しいです。



<中有の道>

「暇だ…。」

「暇だねえ…。」

ラディッツがこの街に住み始めて約3か月、この街も賑やかになっていたはずなのだが…。

「なんで、今度はこうも人がいなくなっているんだ…。」

まだ昼前のはずなのに、霊一つすら見えないのだ。それどころか、みんな何かにおびえているかのように離れていってるのだ。

「さあね…。最近なんだかあたいの方も人が少なくなっちまっておもしろくなくなっちゃったよ。」

小町の方も最近霊が来なくなってきており、面白い話が聞けなくなっているらしい。

「とにかく…、なんとかしないとな…。ごちそうさん。」

ラディッツがお汁粉の勘定を払おうとしたその時。

「うおっ!?」

突然出した勘定の賽が激しく光り、そして

雉になってしまっていた。

 

<裁判所>

「確かに…。これはちょっと困ったことになりましたね…。」

「そうなんですよ。彼の触るものみんな動物に変わってしまいまして…どうしましょう。」

ラディッツの周りには犬、サル、雉がいるという桃太郎状態になってしまっていた。そして、霊たちが最近近寄らない理由も分かった。どうやら彼からでるオーラらしきものが苦手で皆逃げているのだ。

「このままだと、私の商売もあがったりになりますよ…。」

小町もげんなりする始末だった。

「小町にしては珍しいですね…。今日は三途の川が嵐になるのかしら…。」

「いつもと変わりませんよ!」

しかし、会話はいつも通りだった。

「とにかく、この状況をなんとかしてくれ…。」

この状況を解決するため、閻魔様は二人に次のことを命じた。

「わかりました…。ラディッツ、それから小町。貴方たちにしばらく時間をあげますからその出ているオーラをなんとかしなさい。」

「え!?私も行っていいのですか?」

「ええ、今回は認めます。」

小町、初の現世での仕事である。

「ようし!!」

「よかったな…。」

しかし、閻魔様はもう一つ付け加えた。

「但し、一つ仕事がありますから…。そっちの方もしっかり片づけてくださいね♪」

「「ああ…、やっぱりあるのか…。」」

やはり、どこへ行ってもおいしい話というのはなかなかないものらしい…。

 

 

<博麗神社近くの丘>

博麗神社、昔は参拝客多く訪れていた人間が多く、妖怪も近寄らなかった。が、博麗の巫女が霊夢に代わって以来、妖怪や魔物が日常的に訪れ、常時たむろしている場になり、博麗神社に参拝する人間は少なくなってしまった。さらにある天狗の新聞には、「ここほど落ち着く場所はない」と書かれる始末である。そして、その居心地の良さは妖怪だけでなく、悪霊にも好評のようだ。

「う~ん。やはり、月の光を浴びれるのは気持ちがいいわね。パワーがみなぎるわ…。」

「ちょっと霊夢をいじめにいこうかな~❤」

霊夢にとって、永遠のライバルの一人である魅魔にとっても。

「魅魔、元気にしてた?」

いや、この神社の妖怪神社化は霊夢以前の問題だったかもしれない。

「あれ、霊夢のお母さんと…誰…?」

「俺は、戦闘民族サイヤ人、ラディッツだ。」

「あたいは小町、三途の川の水先案内人さ。」

「う~ん、私もついに死んじゃったか…。」

「って、元から死んでいるじゃないかい…。」

「あ…、そうだった。忘れてた♡」

「なんか…、独特な奴だな…。」

察しの早いラディッツであるが、自分も独特な髪形であることを忘れてはいけない。こうして、羽を伸ばしながら解決策を考えることになった。

 

「へえ~、貴方魔法使いか何か?」

「いや…、魔法使いじゃねえ、一応人間だ…。」

「それは珍しいわね。」

その魔法使いは意外そうな表情だった。

「一体どういうことだい?」

小町やレイムも頭に?がついたままである。

「まず、その黒いオーラの正体だけど…魔力よ。」

「ま、魔力だと!?」

「普通は人間でもある程度修行するか魔界の者でないと出ないものだけど…。」

全員、ラディッツに疑惑の目向けた。

「ラディッツやっぱりあんた…。」

「魔界の者だったのね。」

「魔法使いになろうか♡」

「んなわけあるかい!!俺は正真正銘のサイヤ人だ!この尻尾が何よりの証拠だろう!!」

腰に巻いた尻尾を指でさすラディッツ、もういろいろと大変なことになりそうな予感。

「レイム、その札で何とかならないの?」

「私は専門外よ。」

「そう…、ならば方法は一つしかないわね。」

そういうと魅魔は立ち上がった。

「なんだ、何かあるのか…!!」

「まあ、コントロールぐらいなら…。」

ラディッツの心に光が差し込む。

「よしっ、やっとこれで元に戻れるぞ。」

「よかったじゃないか。」

「ただ…、ちょっと時間と研究がかかるけど…。」

魅魔はそう一言付け足した。

「気にするな、やっと神を見つけたんだ。それぐらいの時間どうってことないわ!!」

「よし決まりね。さっそく始めようか❤」

その言葉を聞いて、さらに上機嫌になる魅魔。こうして交渉は成立した。

ただ、レイムと小町はなにか分かったような顔で

「「『ちょっと』ね…。」」

とこぼした。

 

 

<アリスの家>

魔法の森、その湿気と化け物きのこの出す胞子で人間はおろか妖怪でさえ近づくのを嫌がる場所である。そして、ラディッツ達が今いるのはその森の中にある一軒家の前である。

「ここがお前の家か…。」

「まあね❤(嘘)」

「それじゃあ、おじゃまします…と。」

早速、ラディッツはそのドアを開けると

「…おかえりなさいませ…ごしゅじん…。。」

メイドが一人、迎え出ていた。

「…。」

ラディッツは、一体何なのか考えようと思ったが考えるだけ無駄だと悟り考えるのをやめた。

「ん?なんだって、よく聞こえないわよ。」

そのメイドは、顔を赤らめて投げやりに

「お 帰 り な さ い ま せ ご 主 人 様 !!!」

と言った。

「まだまだね。」

「なんで、私がこんなことしなきゃいけないのよ~~~!」

「またやるかい?」

「うえ~~ん!!」

やはり、彼女が平穏に戻れるようになるまでまだまだ時間はかかりそうである。

<魔法の森>

「しかし意外だな。お前もそういう連れがいるとはな…。」

「ま、魔界の神(神綺)にもメイドがいたからちょっと欲しくなってね。」

「そうか…。」

ラディッツは持ってきた修行用の服に着替え、準備は整った。

「それじゃあ、始めようか。」

こうして、ラディッツにとって厳しい戦いが始まるのであった。(もちろん魅魔は余裕。)

 

 

<レイムの家>

博麗神社と人間の里を結ぶ一本道の中間地点にレイムの家はある。廃屋になった小屋を改装したため一部古いところが残っているが、住むには問題ないぐらいである。

「…懐かしい話だねぇ…。」

「ちょっと恥ずかしいわ…。」

小町と霊夢は人間の里にあるそば屋に来ていた。

「でも、あんたのおかげでこの戦争は終わったんだ。少しは、自信もっていいと思うけど…。」

「いや…、私だけじゃないわ。あの時一人で戦っていた私に手を差し出してくれた人たちがいたから…、私はまた生きようって思えたのよ…。」

小町はその言葉を聞いて、あのときのことをもう一度思い出し一つ、

「その気持ちしっかり大事にしなよ。」

と返した。

「ところで、結局私たちであの仕事やっているけどいいのかしら。」

そう、ラディッツの魔力の処理と、もう一つ仕事があった。それは、この里の近くで起きている石化の件だった。あれから3か月の間にそれ関連で運ばれた魂の数は約30。本来なら、レイムで片付くことだったのだが相手が神出鬼没でなかなか捕まえられず、こうなっているのである。

「まあ、ボスにはしっかり説明したから大丈夫でしょ。」

「なら、大丈夫ね。」

今回、ラディッツがいない間は小町とレイムで、彼の修行が終わったら彼を入れて3人でやることになった。

「遅いねぇ、ラディッツの奴。もう今日で終わると聞いていたけど…。」

あれから3週間、今日が彼の修行が終わる日となっている。

「そろそろこっちに来るはずよ。」

レイムが腕を組もうとしたその時。

「待たせたな…。」

ついに、ラディッツが着いた。

「やっと終わったのかい?」

「ま…まあな…。」

ラディッツの体から出ていたオーラは引っ込んでおり、一つ仕事が終わった。

「さすが、私が教えただけのことはあるわ♡」

魅魔も一緒に来ていた。

「へえ、久しぶりに聞いたわそのセリフ。あなたが魔理沙以外その言葉を言うとはねぇ…。今日は雨が降るのかしら。」

どうやら、レイムと魅魔はかなり前からつながりがあったらしい。

「ふん、この俺だって伊達にエリートを名乗っていたわけではないのだ。」

「でも、そのボロボロの恰好じゃあねぇ…。」

小町の視線の先には、ボロボロの服とボサボサの髪になっているラディッツがあった。あれから3週間、ラディッツは毎日体を清めていたが戦うたびに破れていく服はどうしようもなかった。

「なあに、心配はいらないよ。」

そういうと魅魔は何かを唱えるとラディッツの周りに魔方陣を浮かばせた。

「これが、噂に聞く魔法ってやつかい…。」

「そういうこと♡」

小町にとって初めて見るものだった。赤黒い光と紋章のようなものがラディッツを囲んでいる。

そして、次の瞬間一気に部屋中を包んだ。

「なるほど、流石一流と言ったところかしら。」

「なかなかいい感じになったじゃあないか!」

そこには、黒と赤の魔法使いの服を纏ったラディッツの姿があった。

「…新鮮で、いい気分だ…。」

彼もまた新しい感覚に浸っている。

「まあ、師が一流なら弟子も一流ってね。」

「えっ、お前弟子になったのい!?」

「まあな…。(魔理沙の次らしいが…。)」

ラディッツはどうやら魅魔の二番目の弟子になったようだ。

「まさか、弟子まで行くとわね…。」

これにはレイムも驚きだった。今まで、彼女が弟子をとったのは魔理沙一人。それ以外相手にされることすらなかったから。

「こんなにいい魔力を持った奴は久しぶりだかれね。それに面白いものも見れたし、こんなにいじめ甲斐があって教えがいがあったから❤」

「うおおおおおい!!ちょっと待てい!!貴様今いじめ甲斐があるとか言っていなかったか!?」

「そうだったかしら?」

「「(今気が付いたのかい…。)」」

すでに、小町とレイムは気づいていた。あの時の『ちょっと』という言葉と魅魔の笑みで。

「くそっ、ベジータに引き続きこいつにまでも…。」

「へえ、これはまた面白い話が聞けるわね❤」

魅魔の顔にはまた笑みが浮かんでいる。

「おいなんだそのほっこりしたような顔は…。俺は言わんぞ!!」

やはり、ベジータの時と似た扱いの運命は避けられそうにないと思ったラディッツだった。

 

 

<団子屋>

「はい、お汁粉セットですね…。」

「ああ…、悪い…。」

蕎麦屋の向かいにある団子屋。少し前までそれなりに客はあったのだが、あのそば屋ができて以来客は減り続け、多くて二桁の日が続いている。

「ところで…、今日は彼女とは一緒じゃないの?」

「ちょっと都合が合わなくてね…。」

「そうですか…。まあゆっくりしていきなさい。」

その言葉は優しく、心に沁み込むものだった。しかし、彼女の顔は明るくはならなかった。

 

<慧音の家の前>

遡ること、昨日の夜中。里の風紀を乱していた者を退治した帰りの事だった。

「なあ妹紅…。」

「なんだよ…。」

慧音は家の門を開けようとした時一つの問いを投げ掛けた。

 

「なんで、そんなに死に急ぐような戦い方をするんだ…。」

 

私からその顔は見えなかったが、どこか寂しさと哀しさの詰まった声だった。

「別に…。そんなつもりは…。」

 

「だったらなぜ!相手の振り回していた包丁に刺されに行ったんだッ!!」

「…。」

その声は厳しく、叱りつけるような口調だった。そして、私の方を振り向き言い聞かせた。

「もう、一人で生きているんじゃないんだ…。命を大切にして戦ってくれ…、お前を救った岩笠だってそう思――――。」

「黙れッ!!あれはもう昔の事だ…。今に残されたこの私に、生きる意味なんてないんだよッ!!」

気づいたらあいつの傍から逃げていた。過去を振り向けば、永遠に下ろすことのできないものが見えてしまうような気がして――――

 

「あの時、世界から消えるべきだったのはこっちだったんだよ…。」

いくら振り返ったって戻れないのにまた考えてしまっている。やはり、この呪縛から解かれることは無いのだ…。

「お待ちどおさま、お汁粉セットですね。」

「…悪いな…。」

頼んでいたお汁粉が来た、確かにおいしいのだがそれでも心が晴れることは無い。

「なにか…迷っているのですか…。」

「…分かるのか…。」

その女将は、優しく答えた。

「わかりますよ。だって、長いこと店やっているんですもの。」

ふと、あの時の記憶がちらついた。慧音と初めて会った時、彼女は傘を差さずに私の前に現れこの里に連れてきた。彼女は、きっと私のために傘を閉じたのだろう…。そして、この里の人たちも嫌な顔一つせず迎え入れてくれた。かつて、生きていた世界の人とは何かが違う…。

「一つ聞いていい…?」

「はい。」

 

「どうしてこの仕事を続けていけるんだ…。」

 

気づいたら、その言葉が出ていた。

「『どうしてか』か…。」

女将さんはしばらく考えると一つの答えを出した。

「やっぱり守りたいものがあるから、信じてくれる人がいるから…かな?」

「『今を』…。」

「そう…、私は亭主とこの店を継いでもう十年になるけど、最初は上手くいかなかったの。向かいのおそば屋さんに客を取られて大変だった…、でもここに来てくれる人たちが美味しいって言い残してくれたから…まだまだ諦めたくないってそう思えるの…。一人でも、認めてくれる人がいる限りその人の笑顔を作ってあげたいなってね。」

「認めてくれる人か…。」

「あっ、そうだ。ちょっと待っててね♪」

「…?」

すると、女将さんは奥へ戻りあるものを持ってきた。

「…それは…?」

四つのだんごが一本の串に刺さって、妹紅の前に置かれた。

「これは、みたらし団子って言ってね。この店一番人気の一品だったの。ちょっと食べてみて、サービスするから…。」

女将さんに勧められる中、妹紅はその団子を一口運んでみた。

「これは…炭火焼き…か。」

「よくわかったわね…、そうよ。」

みたらし団子は普通ガスで焼かれるのがほとんどだが、この店は手間がかかる炭火で焼いているのだ。

女将さんは、近くに置いてあった丸椅子を持ってくるとそこに座って、話を始めた。

「これまでうちではガスを使っていたの…。でも、食べてもらっても笑顔になってもらえなくってね…。そこで、初心に戻ってできるだけ昔にさかのぼって作り方をもう一回最初から考え直したの。」

「過去を見返した…。」

「かなりつらい決断だったわ…。それまで積み上げてきたやり方を捨てるんですもの。でも、おかげで新しい道が見えた。そして、大切なものが何だったのかも…。」

「…。」

「長くなったけどこれで答えになったかしら。」

妹紅は、立ち上がると一つ呟いた。

「きっと、いい店になると思うよ…。」

「その言葉、大切にするわ…。」

小さな声だったが、女将さんにはしっかり届いたようだ。

「さてと…、勘定いくらだ――――。」

その時、

「ぎゃあ――――ッ!!」

妹紅の目が一瞬で変わった。

「悪いな…。おかみさん、釣りは要らないから、そこに隠れていな!!」

「あ…、ちょっと…。」

女将さんが止める間もなく彼女はその声に導かれるように駆けていった。

 

 

<里の南側地区>

「な…なんなんだよお前らは…。」

逃げ腰の少年の前に現れた女性は柔らかい口調で語りかけた。

「悪いわねぇ、ボク…。ちょっと眠ってもらうわよ。」

女がその手を少年の前にかざした瞬間、その少年はその場に眠るように倒れてしまった。

眠ったのを確認すると、その女は飾っていた口調を外していつもの口調に戻った。

「まさか、こんなところで見つかるとはね…。」

そして、その女の背後から大きな影が一つ現れた。

「だが別に見つかったところで問題は無かろう。」

「甘いわお兄様。甘く見ている時ほど痛い目を見るのよ…。」

どうやら兄妹らしい。

「魔導師バビディか…、今度こそ消し炭にしてくれる。」

その大男が大通りに足を踏み入れようとした瞬間。

「!!」

いきなり彼の周りを日が取り囲んだ。

「どうやら…、最近暴れている妖怪はお前たちのようだな…。」

すると、その女は何かを唱えて杖を一振りし、その火を消した。

「なるほど…、その火の術…。『藤原妹紅』かしら…。」

「名乗った覚えはないはずだが…。」

「名乗らなくても、分かるのよ…あなたの過去も…。」

その女は、薄気味悪い笑みを浮かべると、彼女の前に出てきた。

「その顔の色…。ここの人間じゃあないみたいだな…。」

白い髪に薄青い肌、そして悪魔を模したような赤と黒の混ざる衣装、艶やかと怪しさが滲み出ている。

「そう…、私たちは暗黒魔界の住人…。そして…。」

「この私が、その界を統べる王だ…。」

あの大男も姿を見せた。こちらは妹とは違い、口の周りを囲む黒い髭、先のとがった大きな耳、斜めに生えた2本の角、そして大きな黄色く鋭い目に細長い黒い瞳。西洋の鬼の王を現したような容である。

「…。」

決して気を緩めていけない相手だと直感した。これまで、幾千もの妖怪と戦ってきたがその妖怪たちとは全く違い、武道と外道を入り組んだように混ぜたような相手なのだ。

「おいトワ、遠慮なく私が片付けていいのだろう。」

「もちろんですわ…。『お兄様』」

相手は一人で来るらしいが、それでも油断できない。あまり長引かせてはいけない気がしている。

「さて…、待たせたな…。さっそく始めようか…。」

 

 

得体のしれないものを相手に戦うものほど疲れるものはない。今回の戦いは想像以上に厳しく体力消耗は激しいものだった。

「はあっ!!」

「ほう…。足で剣をはじくとはな…。」

「伊達に戦っていたわけじゃあないのさ…。」

これぐらいの相手ならいつもは片付けて終わりなのだが、今回はそうもいかない。隙が大きい大技や蹴りが打ちにくいのだ。そこで隙の小さい手の方にしたのだが、なかなか決まり手がない。そして、厄介なことにこの王は、火炎放射や石化といった技を持っているのだ。火炎放射は何とかなるが、石化はまずい。おそらくかかったら石になって止まってしまうのだから。そして、おそらくあの女がいる以上、不老不死の対策ぐらい何か練っているはずだ。

「ふッ…。」

ふいにその大男が持っていた剣を天にかざすとその剣はたちまち槍に変わった。

「これで、もう貴様の蹴りは通用しない。リーチは私の方が長いからな。」

「そいつは、どうかな…。」

確かに、相手のリーチは大きくなったがその分隙ができた。槍を持っている以上一定のリーチがありこちらから一方的に仕掛けるのは難しいが、相手の攻撃は突きが主になる。その突きを利用して思いっきりカウンターを入れれば、あとは間髪入れず大技を入れてなんとかなる。

「なにか、愚かな作戦でも思いついたのかしら…?」

「まあね。」

そう返すと、思いっきり踏み込み一気に相手の間合いに入ると、地面を蹴り斜めに進路を変えた。

「無駄なことを!!」

相手は串刺しにするべく思いっきりその槍を脇腹めがけて突き出した。

「(今だ…!)」

当たる寸前にもう一度地面を蹴り、ついに懐に入った。

「なっ!?」

突然方向を変えてきた妹紅にその大男は対応ができない。そして、妹紅の一閃の拳がしっかりと眉間に入った。

「グオッ…。」

後ろにのけぞった、これで撃てる!

「『蓬莱「凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-」』!!」

至近距離から噴火のごとく凄まじい数の炎がその男を包んだ。そして、大男はたまらずその炎をかき消すように地面をのたうちまわっている。

「なんとか…一人片付けられたか…。」

約10分のことだったが妹紅にとってその戦いは1時間ぐらいのものに等しかった。

「あと…、一人だな…。」

残っている女の方を向く。

「あとは、お前だけだけどどうする…?問答無用でやり合おうって腹積もりなら受けて立つけど…。」

しかし、その女はどういうつもりか笑みを浮かべている。相変わらずつかみどころがない。妹紅は自身の不死鳥を出すといい飛ばした。

「いいや…、だったら笑ったままあの世に行きな!!」

「甘いわねッ!!」

次の瞬間、妹紅の体が前に崩れた。

「ぐっ……。」

「残念だったな…、あと一歩押しが足りなくて…。」

体が槍に貫かれていた。

「ぐはっ!!!」

口から血が溢れ出し、体が痙攣し始めている。

「お兄様、今よ。」

「ようし…。」

その大男は、地面に妹紅ごとその槍を突き立てると一気に槍ごと石化させた。

「ち…ちくしょお…。」

朦朧としながらも目の前に座っている女を睨みつけるが、空しくも、暗い海の底へと突き落とされていった。

 

 

「終わったな…。」

「なかなか危なかったわ…。あと一瞬、術が遅れていたら取り返しのつかないことになっていたわよ。」

あの技を受けるぎりぎり直前で、彼女は彼の表面に特殊な層をかぶせ、その表面だけ燃やすようにしたのだ。そして、彼の迫真の演技力と彼女のワープ術で妹紅をだますことに成功したのだ。

「まずはこれで一人か…。」

「そうね…。さて、行きましょうお兄様、こんなところで道草食っていても4回目の歴史を変えるためのキリはなかなか集まらないんだから…。」

彼女たちが動く理由はこの幻想郷の歴史改変が狙いらしい。妹紅が300年前に会うはずだった輝夜に会えなかったのも、霊夢のお母さんが生きているのも、人間と妖怪で戦争が起こったのも、彼らの行動が重なった結果だったのだ。

「そうだな――――。」

「「!?」」

 

次の場所に向かおうとした瞬間すでに足に札が張り付いており、足元が橙赤に光っていた。

 

「『神技「八方龍殺陣」』。」

その声と共に一気に、天に舞い上がる回避不能の波に包まれた。

「相手ひとり片を付けたところで油断するその甘さが命取りになるのよ。」

博麗の元巫女、レイムの一撃だった。

「すごいな…。」

「決まったか…。」

ラディッツ、小町、そして慧音も一緒に来ている。が、

「いえ、浅いわバリアーを張られた…。」

そこには、青い光に包まれて立っている二人の姿があった。

「なるほど…、博麗レイム、小野塚小町に上白沢慧音か…。なかなかいい奇襲ね、ちょっとバリアーを張るの遅れた上に、このバリアーを貫通しかけちゃったわ…。」

「貴様…、どうやらここの人間じゃないようだな、どっから来た。」

「あら…、ラディッツ、まさかあなたまでいるとは…、意外ね…。」

どうやらこの女、ラディッツのことを知っているようだ。

「知り合いかい?」

小町がラディッツに尋ねるが、

「俺は知らんぞ、こんなおっさんとお嬢ちゃんは…。」

彼は全く知らない様子だった。

「『お嬢ちゃん』ねえ…。まあ半分許してあげようかしら…。」

ちょっと嬉しいようなイライラするような感じらしい。

「おい貴様、おっさんとは失礼なッ!!!」

あの男の方はそうでもなかった。

「誰なんだ貴方たちは。」

慧音が鋭い声で問いかけると、威厳をもった声で名乗りを上げた。

「我が名は、魔界王ダーブラ、暗黒魔界を統べる者だ。」

「我が名は、トワ。魔界王ダーブラの妹で科学者。ラディッツ、貴方と同じ世界から来た暗黒魔界の使者よ。」

それを聞いた瞬間、ラディッツの目の色が変わった。

「なっ…、なんだと。じゃあまさか俺をここに連れてきたのも…。」

「あれは、予想外よ。本当はフリーザを連れて来るはずだったけど…。彼が断わったせいでおかしくなったの…。」

「フリーザだと…。じゃあカカロットやベジータはどうなっちまったんだ…。」

ラディッツは、かつてベジータがいつかフリーザを倒して宇宙を支配すると言っていたことを思い出した。彼が生きているならあのまま黙ってついていくはずがないのだ。

トワは呆れたような顔をして、衝撃の一言を言い放った。

 

「残念だけど…。貴方の生きていた世界は消されたの…。」

 

「は?」

ラディッツは言われた意味が分からなかった。世界が消されたということ自体何を言い表しているのかがわからないのだ。

「貴方が死んで数十年後の未来に何者かによって宇宙全てが消し去られたの。」

「お…、おい待て!!じゃあ、なぜフリーザが生きている!!」

「フリーザはその世界が消滅する寸前で、私が暗黒魔界に飛ばしたのよ。あそこだけ運良く残っていたから…。」

「ば、馬鹿な…孫…。」

「皮肉ね、貴方の弟さんは彼に2度も勝ったのに、結局あの世で消滅してしまった。」

いきなりのことでラディッツは整理が追い付かない。孫悟空が死んでおり、そして消滅してしまったことも実感がないのだ。

 

「ところで、キサマ…。」

「なんだ…。」

ダーブラが慧音に言った。

「仲間を放っておいていいのか…?」

「仲間…って、おい妹紅!」

慧音は、石になってしまったままの妹紅に近寄った。

「ハハハハハハハッ!!残念だったな!もう少し早く来ていれば助かったものを!!」

「そうか…お前…悩みすぎてとうとうこんな姿になってしまったのか…。」

「馬鹿め!!そいつは私の術で石になったのだ!!私を倒さん限り永遠に戻らん!!」

その言葉を聞いて、レイムは落ち込みかけているラディッツを立ち上がらせた。

「ラディッツ、今、悲しんでいる時間はないわ。せめて、目の前にいる彼らだけでも倒してきなさい。この相手じゃあ私の博麗拳術はなかなか効きそうにないから。」

「わかった…。」

ラディッツは、ちょっとふらつきながらもしっかり立ち上がり、トワの方に向かって言い放った。

「おい、貴様!このオレが相手をしてやる、広い場所に連れていけ!!」

その言葉を聞くとトワは笑みを浮かべ、

「さすがサイヤ人といったところかしら…。いいわ…望み通り広い場所へ連れて行ってあげるわ。この中から死に場所を選びなさい。」

3つの場所を映し出した。

「彼岸、魔界、旧都か…。どうする。」

「行くなら、旧都か魔界かねぇ…。」

「彼岸がいいわ、慰謝料払わずに済むから…。」

「ラディッツ、決めるのは任せたぞ。」

結局、ラディッツが戦うのだからと彼が決めることになった。

 

 

<旧都(地底)>

「で、ここ(旧都)を選んだってことかい。」

「まあ…ね…。」

レイムはかつて拳を交えた友と酒を飲み交わしている。

「あいつはあんたの教え子だねぇ、動き方に面影が見える。」

「技と動きの基本はしっかり教えたわ。あとは…。」

「心の強さってところかな。」

 

「どうした、ただ守っているだけか!!」

ダーブラのラッシュがラディッツを襲う。だが、守っているだけで終わるラディッツではない、相手のラッシュが上半身に集まり始めたのを見抜き、

「うおあ!!」

鋭いカウンターの一撃をみぞおちに入れ込んだ。

「ぐ…ぎぃ…。」

「あの動きは…。」

「レイムの動きだねぇ…。」

今の技は相手の動きを見つつ、しっかり入れ込むという見切りに近い技だ。

「バ…バカな…。貴方はそもそもサイヤ人のはず…。過去の動きからしてそんな技身に着けられるはずがないわ。」

「貴様らはタイムトラベラーのようだが、肝心なことを忘れているぞ。予測だけでわかるもんじゃあない…。俺たちサイヤ人の力はな。」

そう言い放つと、やっと呼吸の戻ったダーブラに向かって突進して行った。

「バカが…。真っ二つにしてやる!!」

次の瞬間突進したラディッツを剣が両断したが、

「!!」

「残像拳ってやつだ。」

すでにラディッツは背後に回っていた。そして、ダーブラが振り向く間もなくゼロ距離からサタデークラッシュを放った。

「ぐ…っ!!」

背後から攻撃を受けたダーブラはそのまま彼方にある壁にぶつかり崩れた。

「威張っていた割には大したことはなかったな…。」

ラディッツが、次の攻撃を仕掛けるべくその場所に向かおうとした時だった。

「待ってもらおうかしら。」

トワがゆく手を阻む。

「ふん、貴様のような奴に用はない。」

「言ってくれるわね。だけど、ここからよ…。私たちの本当の力は…!!」

「…。」

ラディッツは、ふとあることに気が付いた。さっきまで戦っていたあいつの気が大きく上がろうとしているのだ。

「私は、貴方がてっきりただのラディッツだと思っていたけど…。貴方、昔、孫悟空と一緒に修行していたラディッツね…。」

「そうだ。」

「ならば、容赦はしない、一気に片を付けてあげるわ…。」

そう言うとトワは何かを唱え始めそして、

「はっ!!」

ダーブラに向かって何かの強い魔法をかけた。

「待たせたな…。」

埃の舞上がる彼方から、一その姿は見えた。

「これが…、魔界王ターブラの本当の姿だ。」

先ほどまでと比べ物にならない威圧感が辺りを取り囲む。戦闘装束も青一色の胸が大きく開いたものから、内側は連れの奴と同じ赤と黒のインナースーツに、そして外側の衣装は黒一色の大きく胸が開いたものと肩につけられた赤いマントに変わり、目の下の黒い淵はより厚くなった。

「さっきまでのように上手くいくと思わないことね…。」

「チッ、こうなったら仕方ねえ、こっちも奥の手を使ってやる!!」

ラディッツは、スカウターを外すと小町に投げ渡した。

「奥の手って、何かあるのかい?」

「あいつ(魅魔)と編み出した技がな…。」

ラディッツは足を肩幅より少し大きく広げて構えたのだが、

「ん…あれ!?」

「どうしたんだい?」

「どういうことだ、魔力が出てこんぞ…。」

いくら頑張っても少ししか出てこないのだ。

「ちいッ!仕方ねえ、このまま戦ってやる!!」

奥の手が出ないままラディッツはその魔王に向かって一人立ち向かっていく。

 

 

「あっ…、そうだラディッツに魔力使いすぎると溜まるまで時間かかるの言うの忘れてたけど…。まあいっか♡」

その事実をラディッツが知ったのは戦いが終わった後であった。

 

 

「つあッ!!」

ラディッツの渾身の力を込めた後ろ回し蹴りがダーブラの胸の中心に入った。が、

「なかなかいい場所を狙ってくれるな…。」

「なっ…ぎぃ!!。」

当たる寸前で受け止められ、足を掴まれたまま地面に叩きつけられた。

「…やはりだめだ…。技が上手くてもスピードが足りてない…。」

あまり戦うことのない慧音でもそれは分かった。先ほどまでの蹴りと比べ彼の今の蹴りの速さが目に見えてがくんと下がっている。

「くそっ…、ぐッ!!」

ラディッツはなんとか膝をついたが、その足先からは血が垂れていた。ラディッツはこの開戦直後、相手の動きを見て攻めていこうとしたが、相手のスピードが圧倒的に速く、首を掴まれ持ち上げられてしまい、もがこうとする前に相手の持っていた槍で右足を貫かれてしまった。今、彼は舞空術で体制を保っているが、やはり地面に足がついていないため踏み込みが出来ずしっかり力が伝わってない。

「なかなかキレのある動きだったが、ここまでだな…。この本気の私が相手をすることになってしまった。そのままじっとしていろ、今楽に殺してやる。」

ダーブラは持っていた槍を剣に変え、ラディッツの前に立った。

「じっとしていろか…。そいつはできねえことだな…。」

ラディッツは、顔をゆがませながらもこぶしを握り二つの足でしっかり立ち向き合った。そして、吠えるようにその魔王に言い放った。

「サイヤ人は戦闘種族だ!!たとえどんなに強い相手だろうと一歩も退かん!!この命に代えても貴様に膝をつかせてやる!!!」

それは、親父や弟のことを改めて思い出したからであろうか、普通なら逃げ腰になってしまう彼なのだが、戻ろうとする安らぎに背を向け立ち向かっていくといういばらの道を向いて歩きだした。

「牙を抜かれた犬がキャンキャン吠えおって…。細切れにしてあの世に葬ってやる!!」

剣が高く振り上げられていく、だがこの一瞬の隙を逃すラディッツではない、感覚がなくなりつつある右足で思いっきり地面を踏み込むと一気にその懐に飛び込み、自分も吹っ飛ばされる覚悟で握りしめた気の玉をゼロ距離で爆発させた。

「ぬうあ”ッ!!」

ラディッツの体は広がっていく土煙と共に斜め前の家に背中から突っ込み、ダーブラの体は後ろに大きく、くの字に吹っ飛ばされた。

「「ラディッツ!!」」

見守っていた、慧音と小町が彼のもとに駆け寄る。

「しっかりしなよ、まだこんなところでくたばるお前さんじゃないだろう…?」

ラディッツは、ぼんやりと霞みゆく目を凝らしてその顔を見て、

「…膝…つかせた…ぜ…。あとは…頼む…。」

と一言残し安らかな顔でその目を閉じた。

「ラディッツ…。」

慧音は、被っていた帽子を脱ぐと誇りが立ち込める彼方に立つ男を睨んだ。

「さっきの一撃はかなり痛かったぞ…。」

内側に着ていたインナーはボロボロに破れ、顔にもいくつか傷がつき血が流れている。

「人間のくせに、悪あがきしやがって…。」

「いや…、こいつがあんたにしたことは悪あがきじゃあないさ…。」

当たりに立ち込めていたものが、吹き出した風と共に流れていった。

「なにぃ!?」

そこには、陰りなき満月の光に照らされた白沢の彼女の姿があった。

 

 

不老不死になって1300年、結局私は生きる意味も分からず永遠に続くらせん階段を下っていくだけだった。そして、いつからか座り込んでいた。

「あの時、サクヤ姫さえ出てこなければ――。いや、結局選んだのは自分だったのか…。」

後悔しても戻れるはずがないのに、またあの日に戻っている。何もかも忘れてただ楽しくいきたいのに…。振り返れば振り返るほど、かつて犯してしまった消えない二つの罪に飲まれていく。

「生きる意味ってなんだ…。」

生者必滅、生きとし生けるものは必ず死ぬ、それが世の定めだ。ならば、私はあの薬を飲み込んだ瞬間から生きていないのではないか。生きるために行動することは無意味ではないか。私は何を目的に生きていけばいいのか…。

「やはり、あの時死ぬべきだったのは私だった…。こんな命もあの時に消え去っていればよかったんだ!!」

「それは言ってはならん!!」

ふと、背後から威厳をもった厳しい一喝が入った。

「たとえ不老不死になろうと…、人の道を忘れてはならないものだ。…庫持の皇子の娘…、藤原妹紅。」

「…。」

その声を聴いた瞬間、永き間抑えていたものが溢れ出しそうになった。

「お前は…。」

「言わなくても…分かるでしょう…。」

その言葉には、憎しみの心は無かった。

「なぜだ…、私は貴方を殺すつもりだったのだぞ…。」

「分かっていたから…、あの時『助けた』のです…。貴方は、人の道を平気で外れるような人じゃあないと思ったから…。」

「…。」

妹紅は、言葉を失った。あの時から既に『読まれていた』。

「わたくしも正直こうして会えるとは思ってはいなかった…。けれども、貴方のことを必死で救おうとする方々がいるからここにたどり着くことができた…。」

妹紅が、その男の方を振り返るとそこにはあの魔王にボロボロになりながらも立ち向かうかの親友の姿があった。

 

 

「いい加減諦めたらどうだ。たとえ、妖怪に変わったところでこの私との差は埋まらん上に倒すことすらできん。たった一人の愚かな奴のためにわざわざ立ち向かうか。」

慧音は切り付けられた傷口を抑えながらダーブラに言い放った。

「この命が尽きるまで立ち向かっていくだろうな…。もし、あいつが奈落に落ちたのなら這い上がれるまで苦しみ歩む…。それが、私が今貴様に立ち向かう理由だ!!」

 

 

忘れていた…、いつからか…、私には共に行こうと手を伸ばした親友(とも)がいたじゃあないか。

妹紅は、立ち上がるとその光さす扉の方を向いた。

「…私はまた生き続けるのだろうか…。」

無意識にその言葉はこぼれていた。孤独のままなら恐れることも悲しむこともないのだから…。

男は少しの沈黙を以て頷いた。

その時、すでに妹紅の覚悟は決まった。

「罪を見つめ、許せるもの許されないものをよく見よ!振り返ることはつらいが、その罪と向き合ってこそ自分の今を見つめられるものだ。たとえ穢れていようと、汝には受け継いできたものがある。その地と誇りを以て生きる意味を見出し生き続けよ!!」

その言葉をしっかり受け止めると妹紅はその扉を開け、青い空へと飛び出した。その頬には、一縷の光が零れ落ちていた。

 

 

「はあっ…はあっ…。」

月の効果は切れ、人間に戻ってしまった。そして、肩を槍で貫かれ地面に張り付けられている。

「しまった、これだと距離が…。」

小町は距離を操ろうとしたが、あの女が術で縛っていて動けない。

「お兄様…、もうやっていいわよ…。」

その言葉を待ち望んでいた魔王は、その拳を握り剣を作り出した。

「これで…とどめだ!!」

剣が高く振り上げられた――――

「まだ決着は早いさ。」

「!?」

 

それは、上白沢慧音が心の底から待ち望んでいた者の声だった。

 

「なっ!?」

突然のことにダーブラは振り向く。が、

「遅いよ。」

すでに、火を纏った蹴りが顔面寸前まできていた。

「げへェッ!!」

防ぐ間もなくその一蹴が右頬にめり込み、斜め上にのめり込んでいく。何とか体を翻して石化をしようと思うも体が追い付かない上に紅く纏ったかぎづめが目前に迫っている。

「ハアっ!!」

腹から胸にかけて三つの閃きが突き上げ、炎が体を引き裂く。回避はおろか、防御の余地すらなかった。そして、痛みを感じる間もなく次に繰り出された横蹴りを以て彼の体は吹っ飛ばされ、背後から地面に叩きつけられた。

「お兄様!!」

妹の叫びが聞こえるが、すでに彼の意識は朦朧としている。一瞬の間をつき仕掛けてきた人間の捨て身の一撃による痛みと、恐れにも一歩も退かずに立ち向かってきたあの人間の頭突き、そして奈落の底から這いあがってきたあの不死鳥のごとき人間の連撃…。こんなことがあり得るのだろうか…、死を覚悟し最期の力を振り絞ってかかってきたあの小賢しい界王神と、凄まじい剣裁きと癪に障るほど強き心を以て立ち向かっうサイヤの誇りを持つあの地球人と、同じような心を持つ奴らがこの世界にもいるというのか。

「くっそ…。」

気づくと一歩下がっていた。恐れるはずはない…、こんなたかが3匹の虫けらどもを相手に魔王である私が自らその足を退くなどというものはあるはずがないのだ!!!

「3匹まとめて消し炭にしてやるぅッ!!」

ダーブラは、体中の魔力を取り入れた空気と共にため込み炎に変え、一気にその3人に向かって撃ち放った。

これで、消し切ってやる――――

残っていた魔力全てを使って、最大にまで引き上げた。

 

「消し切れないさ…、この炎だけは…。」

 

彼が放っていた炎がたちまち炎の風となり、大きな渦となって道を造った。その彼方から鋭い鳴き声と共に影が一つこちらに飛びこんできている。そして、渦を作っていた道は風となり、新たな生命を生み出した。金色と赤で彩られた大きな翼、幾重にも分かれた長く美しい尾、そして鷲のごとく立派に羽ばたくその姿…。

死しても再び蘇る伝説の鳥「不死鳥(フェニックス)」を。

 

フェニックス再誕 火の鳥 ――鳳翼天翔――

 

 

「これで…借りは返せたかな…。」

「十分返したじゃあないか…。」

傷ついた慧音を力強く抱きしめる妹紅。慧音も気づいたら、抱き返していた。

「…。」

小町はただ黙ってそれを優しく見守っている。それは、あの世ではなかなか見ることのできない生きていることを感じる瞬間だったからであろう。

「…。」

ラディッツは、疲れ切って目を開けることができないが、なにか重く抱えていたものがやっと降りた感じだった。

決着は終わった。あの魔王は灼熱の炎に身を包まれていたが、彼を助けようと必死でその妹が術を何度かかけなおしてやっと消えた。しかし、その男には戦う力は残っておらず彼女が何か唱えるとどこかへ消えてしまった。だが、もうこちらには戻ってくることはないだろう。去り際に『もう私たちの歴史改変は成功した。また新たな場所へ行きましょう…、お兄様…。』と言っていたのだから。

「やれやれ…、一件落着と言ったところかな…。」

小町は、ラディッツの腕をかつぎレイムの方へ行こうとしたその時。

「こっちも……一件落着したわ…よ……。」

顔を真っ赤にしてあの巫女が戻ってきていた。

「もう終わったのかい?」

「まあ…ね…。」

かなり酔いつつも意識は保っていたらしい。ラディッツ達が戦う一方で彼女もまた戦っていたのだ。鬼とどれだけきつい酒を飲めるかの勝負を。そして、彼女はわずかな差で残った。

「それじゃあ、そろったことだし行くかい?」

あの二人も、気持ちを切り替えこっちに戻ってきた。小町は、目をつぶると距離を操る力を以て博麗神社に移動させた。

 

 

<博麗神社近くの丘>

「なにぃ…、言い忘れていただと…。」

「まあね♡」

「まあね♡で済むか!あと少しで俺は死にそうになったんだぞ!!」

「まあいいじゃないの、やっと弱虫とおさらばできたんだし♡」

相変わらず、こんな調子の師匠である。

「ところで、修行を終えたらお前の弟子についてのなにか情報をくれると言っていたな。」

「そうだったかしら?」

「そうだったの!」

「しょうがないねぇ…。」

すると、魅魔はポケットからあるものを取り出した。

「何だそりゃあ…。」

エアコンのリモコンのように細長いものだった。

「最近はやっているものらしいよ、レコーダーとか言ってたっけ…。」

そういうとそれをラディッツい投げ渡した。

「これに情報があると…。」

「そういうこと❤」

何か裏があるらしいが、ラディッツは考えるのをやめ、懐にしまった。

「長かったが、世話になった。」

「いつでも挑戦しにきなさい、また逝く寸前までいじめてあげるから♡」

「ふん、俺が行くのは三途の川の手前までだ。これ以上あのボスに裁かれるのはごめんだからな。」

そう言い残すと、青く澄み切った空に向かってラディッツは思いっきり飛んでいくのであった。

 

 

<裁判所>

「やっと帰ってきましか…。」

「すみません四季様、色々ありまして…。」

片膝をつき頭を下げるラディッツ。長引いてしまったが、仕事終了の報告に参ったのだ。

「報告は聞いています。今回は良しとしましょう…。」

そう、言い渡されると、次の裁判が始まろうとしているためラディッツは外に出ていった。

「いい景色だな…。」

立ち止まってみると普段見慣れた場所も違うように見える時もある。ここ、彼岸はどこまでも花畑が続き昼も夜も季節もなく、ただ暖かく優しい光に包まれているだけだ。しかし、それはどこか時を忘れさせる場所のようにも見える。私たちは、いつも何かに追われて生きるうちに『自分』というものをどこかにしまったままにしてしまうが、時を忘れ自分を見つめたり過去を振り返ったりするとき、『自分』を自覚しまた生きていこうとする。ラディッツは罪と向き合い、償いきらない限り死ぬことは許されない、だがこの景色を見る時ラディッツはいつも思い返す。自分が生まれた故郷の事、弟のこと、そして自分を育ててくれた親父やおふくろのことを。

「さてと、それじゃあ行くか…。」

ラディッツは迎えの待つ船着き場に向かっていく。だが、その瞳には新たな明日が宿っているようだ。

 




今回で第一幕は〆となります。
次回 東国戦遊志 紅 #4 激突!サイヤ人対サイヤ人 
激闘の弐幕へ続く。


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東国戦遊志~紅~#4 激突!サイヤ人VSサイヤ人

最初の仕事から2年半、春の息吹が舞い込まんとする中、中有の道にてラディッツは喫茶店を開き、幻想郷の今を観光客に伝えるために企画したお便りコーナーの流れも決まった。あとは、待つだけ……。
 しかし、ことは一変する。突如旧地獄に開いた大きな狭間、その彼方からゆっくりと邪悪な者がこの幻想郷に近づいているのだ。さらに、不思議なことは続き、ラディッツの夢にも変化が表れ始め……。
 過去から復活した猛者を相手にラディッツはどう立ち向かうか。そして、力の四天王、勇義は立ち向かう彼を見て何を見出すのか……。そして、生き残るのはどっちだ!
 過去を見つめ、今を創れ!!

原作:東方project、ドラゴンボール(Z、超、ゲームシリーズ、映画)
参考二次原作:【東方】傍らの鬼、ブロリーでドラマCDシリーズ(ウポア)

【注意】
この「東国戦遊志シリーズ」は『ドラゴンボール』、『東方プロジェクト』の二つの作品を主に元ネタとしたクロスオーバー。
今回はバーダックが来る直前~フリーザ軍襲来後の間となります。
このシリーズでも、本編同様に「オリジナルキャラクター」・「オリジナル設定」が出ます。
ドラゴンボールZ本編のラディッツとは「別の道」を歩んだ「このラディッツ」の過去は『紅の第零話』となりますので、新鮮な気持ちで見てもらえると嬉しいです。
最後に、このシリーズは動画化まで行けるかはまだわかりませんが、動画版のお便りこコーナーやこの話に彼やその仲間たちが出たときは、是非頑張っている彼らを応援してもらえると嬉しいです。
 
 それでは、東国戦遊志シリーズ激動の第二部、今ここに開幕ッ!!


<???>

「これが旧都か…。」

その男は、手に持っていた実を口に運びつつ、ただ一人モニターを見つめている。

「まさか、この俺と同じ血を持つ者がこの世界にいるとは………。カカロットと同じ血を持つサイヤ人…ラディッツ…。」

 

 

<中有の道>

あれから2か月、ラディッツには新たに二人の部下ができた。一人は予言魚、気づいていたらこの三途の川を泳いでいたらしく、珍しく生きた魚が泳いでいるということで小町がその辺に置いてあった金魚鉢を以て捕まえて来たらしい。なかなか仕事の助けになることは無いが、通りかかる客たちの注目を集めたり、たまに重要な予言を言ったりすることがあるので一応置いている。(抽象的かつあいまいなので起こってから気づくのが殆ど。)そして、もう一人いるのだが…。

「おい貴様、いつまで掃除に時間がかかっているのだ!」

「~~~~ 」

この通り、掃除が遅い。もう初めて2時間たつというのにやっと二階の掃除が終わったというものなのだ…。

「貴様が掃除をしている間にとっくに一階は片付いてしまったぞ!なんのために掃除人をやらせていると思っているのだ!!」

「…。」

彼は見ての通り肉体のない魂だけの幽霊なので、しゃべることもできないのだが。ラディッツは言葉でなく気からそいつの考えていることを読み取っている。

「いいか、ここに毎度いらっしゃてくださる方々のために場を整え、気持ちよく迎え入れるのが貴様に与えられた仕事だ。もう一度その弛みきった心を見つめて、その緒をしっかり締め直せ、いいな!!」

「!!!」

どうやら言っていることは分かってくれたらしい…。第一回、お便りコーナーまであと2日。すでにトークの準備はできている、あとは時が過ぎゆくのを待つだけ…。

「お~~い、ラディッツ。電話かかってるぞ!」

「!ホントだ。」

さっきまで気が付かなかったが、携帯電話が鳴っている。

「はい、もしもし。喫茶、えっと……ラディオでございます…。」

「こんにちは、四季映姫・ヤマザナドゥです。」

「これはこれは閻魔様…、今日はどういった用件で…。」

「重要な仕事です。今すぐ、用意をしてこっちに来なさい、以上。」

切られた…。そして、フルネームだ…。もう嫌な予感しかしない…。

携帯を使うようになって以来の事である。ラディッツが仕事を受ける際、彼女はフルネームを言うようになった。そして、説教をするときと同じ冷たい口調で内容を伝えている。たとえ彼が酔っぱらっていても。

「ちくしょお…。せっかく羽を伸ばせると思っていたのによお…。」

「おい、ラディッツ!!」

「おん?どうした。」

「今回のお前の仕事結構厳しいぞ。それに、戻ってこれるか…。」

予言魚は、いつも『頑張れよ!』ぐらいしか言わないのだが、今日は何を見たのか厳しい顔になっている。

「おい…、どういう意味だそれは…。」

「お前の夢と関係があるが、これ以上は言わない。きっと言ったら、お前は逃げ出す。」

その言葉を聞いて、ラディッツの意思は決まった。

「この俺は、貴様の知っているラディッツではない。俺は決めた、『逃げない』とな…。」

そう言うと、ラディッツはスカウターを取り出し、着ていた服を脱ぎ、袴に変えると

「おいそこの白いの!今すぐ、俺の代わりにもう一人か二人捕まえてこい!」

「~~~~~!!!!!」

どうやら、この掃除人は無茶ぶりをされたので怒っているようだ。

「うるさい!無茶なのは承知の上だ…。だが、せめて毎度毎度集まってくれている方たちのためにもこのコーナーを簡単に休むわけにはいかんのだ!!何としても集めてこい、小町には俺から伝えておく…、いいな!!!」

そう言い残し、あの水先案内人の待つ三途の川の船着き場の方へ駆けていった。

 

<三途の川>

「浮かない顔だねぇ…。」

「…。」

ラディッツは、腕を組みじっと座っている。

「……まだ、迷いがあるようにあたいには見えるよ。」

初めて乗せてもらった時もそうだった…、あいつは『お前さんには結構迷いがあるんじゃないか』と言っていた。今更、何を迷っているのだ俺は。戻ってこない者は戻ってこんというのに…。

「最近…、夢を見始めるようになっちまった…。」

「夢…?」

「…俺が惑星ベジータにいたころの話だ…。俺は、親父とおふくろに育てられていた…。だが、サイヤ人の宿命(さだめ)か…。俺とカカロットを残して二人とも消えていっちまった。そして、数十年後カカロットは世界と共に消された…。戻ってくるはずないのによ…、最近、俺の夢の中によくその後ろ姿が表れるようになった…。もう忘れて生きようと思い始めた時になったのに…、ふとまた思い出しちまっている……。」

気が付くと、三途の川の方を見ていた。だが、ラディッツの目にはそこに立ち込める霧がいつもより深く見えていた。

「惨めだねぇ…。」

「なにぃ!?」

ラディッツは、ちょっと血が上りかけた。

「惨めだって言ったのさ!」

「この俺が惨めだったころに戻っているものか!」

「少なくともあたいが見ていたお前さんはそんな惨めな眼をしていなかったよ。人の想いを大切に生きていく…、前をしっかり見つめて生きようとする眼を持っていたあんただったッ!」

「…。」

ラディッツは言い返す言葉が見つからず黙り込むしかなかった。

「亡くなってしまった大切な者たちの想いを背負って戦ってみな…。たとえ、目に見えなくたって受け継いだものは残っているんだから。」

そう一言小町は残した。そして、同時に船は彼岸についていた。

「もう、一人で生きているんじゃないから……これ持っていきなよ。」

ラディッツの手にスキットルが一つ投げ渡された。

「酒か………。」

「その代わり、一つ約束しな。絶対に生きて戻ってくるって………。」

「………分かった。約束しよう。」

その言葉が入った餞別を受け取ると、ラディッツは裁判所に向かって走った。

絶対に生きて帰ってくるという約束をその死神と結んで。

<裁判所>

「――――ということです。」

「分かった。旧地獄にいる『古明地さとり』…。そいつに会えばなんとかなるんだな…。」

「そうです。」

ラディッツは自分の仕事を確認し外に出ていこうとしたが、

「但し!」

映姫はラディッツに一言付け加えた。

「貴方の寿命が消えているとは言っても、実質不老のまま生きている者と同じ…。死ぬことになれば、貴方は死にます…。そうなってしまったらそのまま地縛霊になりますから、それだけは覚えておいてください…。」

それは、忠告だった。彼が最初にここに来たあの時、仕事を引き受けることを条件に寿命を取り払った状態、つまり不老となることを契約した。だが、今このまま罪を返し切ってないため、死んだ場合、地獄にも天国にも冥界にも行けず永遠に地縛霊として死んだ場所に括り付けられてしまうのだ。

「分かった…。」

ラディッツは、そう一言返すと扉を開け目的地に向かった。

 

<灼熱地獄跡>

灼熱地獄跡、その名の通り、かつてこの地は灼熱地獄だった。しかし、数百年前の地獄の併合によって、今は罪人が堕とされることもなくなった場所である。だが、封鎖されているだけでそこでは今もなお煮えたぎるマグマで一面が覆われている。

「茹ってしまうぐらいに熱いな。これが、地獄といわれた場所か…。」

彼岸を出発して約半日、ラディッツは休むことなく飛び続け、ついさっき入ったばかりだった。

「それにしても…広いな。全然見つからんぞ…。」

ラディッツは、上に通じる出口を探していた。だが、一向に穴一つすら見当たらない。

仕方なく、近くにある高くそびえだった岩の上に降り立った。

「飯にするか…。」

ラディッツは、持ち出してきた木箱を開けるとそこには卵が3つ綺麗に並んでいる。

「せっかく地獄にきたのだ、これぐらいの楽しみはあってもいいのかもな…。」

そして、持ってきたアルミホイルとフルーツが入っていた空き缶を取り出すとアルミを敷き詰め、即席の鍋を作った。そして、水の入った竹筒を取り出すとその中に水を入れた。

「これでいいだろう…。」

するとその缶を岩の上に置いて沸騰させ、卵をその中に入れた。そう、地熱を利用して温泉卵を作ろうとしているのだ。

「なんとかして…ここから上に向かう道を――、!?」

ラディッツがもう一度上を向こうとした時、何か黒い点々が集まっていた。

「ガアアアアアア!!」

「…鴉か…。」

どうやら、侵入者を察知してこちらに来たらしい。

「気味が悪いが、いい目つきだな…。来いっ!!」

一斉に鴉の大群がラディッツに襲い掛かる!!が、

 

「ちょっと待ったァ!!」

 

右方向の彼方から風と共に力のこもった声が入り込んだ。

「なにぃ、まだほかにも援軍がいた……の…か………!?」

振り向いた瞬間、固まった。想像を超えるほど巨大な火の塊がこっちに襲い掛かっているのだ。

 

「その勝負私が!!もらったァ!!!!!」

 

 

「ちょ~っと、火力強すぎたかな?加減難しいんだよね。」

さっきまでラディッツのいた場所は跡形もなく消え去っていた。

「危なかったね、みんな。」

その少女は、鴉の大群の方を向く。

「私が来なかったら確実にやられていたよ。」

どうやら、その大群と会話ができるらしい。

「カアア!!」

「え?私の弾の方が怖かった…?」

 

♨ ♨ ♨ ♨ ♨ ♨ ♨ ❕

 

「あ、そっか、下手したらみんな巻き込んでいたかもしれないんだ。ごめん…、考えていなかった…。」

但し、どうも何かが足りてないようだ。

「随分派手なあいさつじゃあねえか…。」

その少女が立つ岩の上から、その声は降ってきた。

「そう?挨拶なんてこんなもんでしょ。」

どうやら手加減という言葉が辞書に載ってないようだ。

「…まあいい。さっきのことは水に流してやる。」

そう言い放つとその男は彼女の前に降りて来た。

 

「ようやく、見つけれた…。その妙な服装…貴様が地霊殿の主だな…。」

ラディッツは、直感で思った。閻魔様の言っていた『古明地さとり』は地霊殿の主、そして多くの動物を従えていると…。この鴉たちの間にいきなり入り、攻撃を仕掛けて来るとは想像以上に厄介な奴だと思ったのだ。が、

「?地霊殿の主は私じゃあないよ。」

「なにぃ!?」

ラディッツの読みは外れた。そして、彼はまた考えることになった彼女が何者であるか。確か、彼女の他にあと一人その妹がいると聞いた。情報が少なくてどんな奴かはわからないが少なくとも彼女に匹敵する力を持つと言われている。

「それから、言っておくけどこの足は、八咫烏様の力を操るのに欠かせないすごい逸品なのよ。あまり舐めていると超高温超高圧の世界で究極のエネルギーを以て跡形もなく貴方もフュージョンよ?」

「…。(何を言っているのか全然わからん、何だ暗号か?)」

ラディッツの頭は混乱している。相手の言っている言葉の後半の単語の意味が彼の辞書の言葉を超越しきっている。そして、ラディッツは察した。もうすでに、自分の心が試されていることに。

「俺は逃げも隠れもせん、この場で勝負してやる!」

ラディッツは戦闘態勢に入った。

彼女は、ある一つの予想を立てていた。この長髪の男は一体何者なのか…。まず、この男は地上からではなく地価から入ってきた。ということはもうすでにあの世とこの世を超えた存在なのは間違いない。そして、先日私に力を貸しにやってきた者も外の世界からやってきたと言っていた。二つ目に、攻撃を仕掛ける前に視界にとらえたとき彼は宙に浮いていた。そして、外の世界から来たのも宙に浮いていた…。次の問いで彼の正体がわかるかもしれない。

「勝負?いいよ…、ならばこの『スペルカード』で勝負よ!」

「『スペルカード』だと!?なんだそれは!」

「いや、スペカだって!貴方、スペカを使っての決闘を知らないの!?」

ラディッツは、相手の正体を探っていたがこれでわかった。おそらく、相手は比喩のような何か難しいもので振り回している。『古明地さとり』は心理戦に長けていると聞いた。ならば、その妹もおそらく心理戦で来るだろう。この目の前にいるこいつの正体が分かった。

「知らんぞ、だが貴様の勝負には乗ってやる。この世界に来てしまった俺なりの覚悟だ…。」

両者ともに結論は出た。

「一つ、聞いてもいいか…。」

「こっちもあなたの正体が分かったわ…。」

「ほう…、こっちも貴様の正体を掴んだぞ。」

そして、互いにその手札を切った。

「貴様!!古明地こいしだろう!」

「貴方!!神様ね!!」

 

 

「…なるほど、私の鳥(ペット)が迷惑をかけてしまったようね…。」

「…。」

「しかし、迷惑ではなかったと…。」

「まあな…。」

ラディッツは、出されているお茶を手に取ると一気に飲み干した。

「なるほど、いいバランスだ。甘いものを食べたっきりだったからな…。」

ラディッツが、出発して以来食べたものと言えばあの缶に入っていたフルーツぐらいだった。

「ところで…。」

「申し遅れました。私は、古明地さとり、この地霊殿の主です。」

ラディッツは、あれからあの少女に連れられここにたどり着いた。

「やはり、ここは…。」

「そうです、貴方が以前魔王相手に戦っていた場所と同じ層にありますよ。」

ラディッツは、2か月前ここであの二人を相手に戦っていた。そして、孫悟空のことを告げられたのもこの地だった。

「そういえば聞き忘れていたが…。」

「そうでした。彼女は霊烏路空、私のペットの一人です。」

「ならば…。」

「こいしの事ですか…。まあ、そのうち帰ってくるでしょう…。」

「…。」

ラディッツは、一歩目から読みを外していた。彼が、閻魔様から受け取った情報によると『二人』のはずだった。しかし、実際には『四人』…。そして、心理戦を繰り広げていたのは、『古明地』ではなく最近八咫烏の力を半分を得たその『地獄鴉』…。ナッパだと思って戦ったたらサイバイマンだったような、どこか空しい気持ちになっていくラディッツであった。

「そんなに気を落とすことは無いと思いますよ…。ただ読みが深く行き過ぎた…、それだけのことですから。」

「惨めに考えない方がいいよ。」

逆に、空は全く落ち込んでいなかった。

「このオレが惨めになってたまるか!それと貴様!出会い頭にいきなり撃ってくるんじゃない。こっちは死にそうな気分だったぞ。それから、なぜ(ラディッツ=神)になる…。別にバカなのが悪いとは言わんが…。」

「そりゃあ私、物覚え悪いし…、頭だって良くないよ…。でも一生懸命考えた結果だし…、八咫烏様のことだって本当だよ…。それなのにそんな馬鹿ァって言わなくてもいいじゃないの…。」

「…うっ…。」

空の目から涙が今にも零れ落ちそうになっている。そして、正論を言っているはずなのにラディッツの心が押しつぶされていく。

「私、バカじゃないもん!地獄落ちろバカぁ!!」

「……なっ…。地獄に…堕ちる……。」

ラディッツの心がぺちゃんこになった。

 

<旧都>

「戦ってもいないのに、こんなに疲れちまった……。」

ラディッツは一人、かつて戦った場所へ来ていた。

そして、懐から小町が渡したスキットルを取り出し、中に残った酒を一気に飲み干した。

「カカロット…。お前の帰るべき場所はもうなくなっちまったが、お前のことは一生忘れん…。」

ラディッツは、懐からくしゃくしゃになった新聞紙を取り出し広げた。ここに来る途中道の傍らで季節外れに咲いていた一輪の彼岸花。その花を戦火の爪痕が残る道の脇に置いた。これが、彼の最大限にできるせめてもの償いであった。

「戻るか…。」

また来た道を戻ろうと足を出す。

「こんなところに何しにきた……、観光旅行かい?」

「!?」

突然、空から一つの大きな影が降ってきた。

「よぉ、この前はずいぶん派手に暴れてくれたねぇ。」

「まあな…。だが、お前の方もあの巫女相手に暴れたらしいじゃあないか…。」

「あれは、飲み勝負だったからねぇ…、今度は力比べといこうか。」

彼の前に現れたその鬼神の名は星熊勇儀。前回の戦いの裏で、博麗レイムともう一つの戦いを繰り広げていた。だが、勝負は時間切れで痛み分けに終わった。しかし、飲み比べだけが鬼の土俵ではない、力の四天王と呼ばれるぐらいその力は凄まじく、現実では説明のつかない尋常でない力の強さがそこにはある。

「いいだろう…、こっちも貴様と一度戦ってみようと思っていたところだ…。」

「いい覚悟だ、ついてきな!」

 

<旧都のはずれにある広場>

ちらほらと観客が集まり始めている。だが、凄まじい戦いになると思っているのか、かなり離れたところから見ている。

「それほど人間がいるわけではないらしいな…。」

「地上の奴らが降りてくることは殆どない。まあ、上がっていこうとする悪い連中はいるけどね…。」

数百年前の地獄の併合の際、賑わっていたこの街も静寂に包まれるようになった。そこで、地中に眠る怨霊たちを出てこないように鎮めるという約束でこの地に彼の鬼は移り住んだのだ。

「さて…。」

ラディッツは、来ていた上着を全て取ると袴だけになった。

「貴様のその怪力乱神とやら…、この拳を以て迎え撃たん!」

「威勢がいいのは口だけじゃあないだろうねぇ!!」

こうして、第弐幕最初の戦いが幕を開けた。

 

 

激戦の開幕は、勇儀の轟音唸る右ストレートの一撃からだった。回避することも、防御することもできる。だが、その男はどちらもしない。こぶしを握ると右足と左足を肩幅に広げ、その一撃を胸部中央にしっかりと受け切った。口からは一縷の血が垂れる。だが、その顔は苦しみで歪んでなどいない。むしろ、サイヤ人として生まれてよかったという喜びを表す笑みが浮かんでいた。そして、この一撃で彼らはこれから続く限界への挑戦を楽しみ合えることを理解した。

「今度はこっちの番だ!!」

雄叫びを上げ、ラディッツは一気に間合いを詰めた。そしてその懐に入ると、かの巫女が放つ拳打のごとく思いっきりその拳を全身に叩き込んだ。

「連撃かい…やはり…あの巫女が見込んだことはあるね…。だが、力が足りない…。かかってくるなら、これぐらいの力(りき)入れてかかってきな!!」

「ぐ……ぬう……。」

押し寄せる重い一撃に、渾身の力で耐える。だが流石『力の四天王』、頑張って踏みとどまってもその余韻が体に刻み込まれていく。なんというそこのしれない力だろうか…、この心の奥底からいつの間にか尊敬のような気が湧いて止まない。自分より格上だというのに…。だが、戦う。たとえこの足がへし折れようとも真正面から戦い抜いてみせる。それが、俺がサイヤ人の心を持って生き続けた証であり、これからの道を切り開くのに大切なことであるはずだ。

「ならば…。」  

ラディッツは、その拳を開くと紫の雷を帯びた球を出した。そして、

「こいつでどうだ!!」

思いっきり振りかぶって投げつけた。

 

「うあああああーーーッ!!!」

 

凄まじい方向が大気を揺らした。そして、ラディッツの放ったそれは爆発四散し、花火のように辺りに降り注いぐ。

「…なんだと……。」

ラディッツの十八番のサタデークラッシュが鬼の咆哮一つで花火に変えられた…。これまで普通に戦ってきたような単調なぬるいやり方では、勝てない。もっとひねりや凄みを効かせなければならないのだ。

「そんな程度じゃあ効かないのよ…。」

勇儀が天に手をかざすと盃が降ってきた。そして、どこからか投げ渡された、その酒瓶を手に取るとその盃に注ぎ、そして一気に飲み干した。

「さあて、こっちは久しぶりにに本領発揮しようか!!」

そして、その杯と酒瓶を天高く投げ上げた。

ラディッツは無意識に構ていた。なぜ構えたのかよくわからないが、多くの死戦を経験したから構えたのかもしれない。次の瞬間、彼の体は宙を舞っていた。

「――――っ!?」

地面に叩きつけられる。そして認識した、胸にはしる痛みを。

「ええい、くっそぉ!!」

ラディッツが体勢を立て直そうと起き上がった瞬間、あの鬼の腕が頭の上まで来ていた。

 

――――怪 力 乱 神――――

 

ラディッツの体は大きく地面にめり込んだ。そして、身をもって理解した。力の四天王といわれているその怪力と豪快さを。

 

 

「なんだい、もうバテちまいやがった…。」

勇儀の手には投げ上げていたさっきの杯と酒瓶がある。そして、その顔には余裕というものが浮かんでいる。

「もっと骨のある奴だと思っていたが…、こんなもんかい…。」

その言葉には、どこかしら寂しさとむなしさが詰まったものだった。幻想郷ができて間もないころ、もう一人の四天王、技の萃香は勇儀にこんな話を語った。

 

 

妖怪も恐れる人間の里って聞いたことがあるかい?もう何百年も前の話さ…。その物騒な里には鬼のような力を持った男がいたんだ。ゆえにその男は、『鬼神』と呼ばれ恐れられていた…。でも…それを聞いたらさ…、なんだか嬉しくなったんだ。その男が守る里をこの目で見たくなった。もうその男はいないよ…『約束』を果たす前に病で逝っちまった。でも私の気持ちは伝えることができた。本当に、気持ちのいい年月だったよ…。

恐怖という感情を生み出すのが人間なら恐怖に立ち向かうことができるのもまた人間…。人間は恐怖に挑む強い勇気を持っている。それは鬼にもない力なんだよ…。私はそんな人間の強さが大好きなんだ…。ひどい目に遭ったけどさぁ、勇儀…やっぱり私はまだ自分は人間が好きだと信じている。『真正面』から力であんたに勝てる人間がいたらさあ。そん時はそいつと笑いながら酒を飲み交わしてあげな…。

そいつもきっと『あの人間』と同じ瞳を持っているから。そして、きっと『約束は果たされる』からさ。

 

――――真実だけは永遠に消えない――――

 

「さて…、そろそろお開き――――。」

「待てよ…。」

「…!?」

その男は頭から血を流しつつもまた立ち上がった。その瞳には、『生き残る』という覚悟と『不屈』という灯が映っている。

「まだ、勝負はついておらんぞ…。」

「…まだ続ける気かい?」

「見せてやるッ!!このオレが死の淵からつかみ取った心と力。」

 

―――― 界 魔 神 拳 を !!!!! ――――

 

 

<地底入り口>

「いい月だねぇ…。」

「満月か…。いつ見ても素晴らしいものだな…。」

ラディッツと勇儀は同じ月を見つつ盃を交わした。

「たく…、そんな力あるならもったいぶらずに最初から出してきても良かったんじゃあないかい…?」

「それも言えるだろうな…、だが結果よりも過程というものが重要だと思うぞ。」

ラディッツは、一番最初の仕事のことを思い出していた。翼のない不死鳥の過去を一緒に見たときあいつはこう言っていた。

『たとえこんな結末になっていても、彼女が歩んだ過程というものが大切なんだ…。あのまま不老不死を選ばずにいたらこの世界を見ることもなく時の海に還っていっただろう…。たとえいつか訪れる『死』という『結末』があっても、そこまでに何をしたかという『生き方』によって全く違うんだ。』

「『過程』か…。あいつにも言ってやりたいねぇ…。」

「技の四天王、萃香の事か…。」

「さっきの戦いで私が受け取ったこの酒…。間違いなく、あいつの選んだ酒だよ…。」

「『この酒』が…か。」

「それを寄越したんだ。あいつもきっと信じているんだよ人間と一緒に杯を交わすことを…。」

「その夢はきっと叶うはずだ…、根拠はねえが、あいつらと会って俺はそう思った…。」

ラディッツは盃に残ったわずかな酒を飲み干すと立ち上がった。

「すまねえな…。加減が出来ず、その腕をへし折っちまってよ…。」

包帯の巻かれた勇儀の右腕を見る。体中あちこち痣が出来ているが、折れているのは彼の攻撃を多く受け止めた右腕だけだった。

「いいんだい、あんたは全力でかかってきた。それでもう今日は十分さ…。」

勇儀も残った酒を飲み干すとゆっくり立ち上がった。

「情報によれば、その侵入者は明日旧都に来るだろう…。見に来てもいいが、俺に戦わせてくれ…。」

「分かったよ。その代わし、またつきあってもらおうか…。」

「いいだろう、やはりこうして戦う方が俺の性に合っているからな…。」

再び杯を交わすことを約束するとそれぞれ家路に戻っていった。

 

 

「これだけ食えばもう怖いものはない…。」

その男は持っていた最後の実をかじり尽くすと立ち上がり、薄い光のさすスキマを見つめた。

「時は来た。始めようか…、どっちが本当の『サイヤ人』かを…。」

 

 

<旧都郊外>

「そろそろ正午だな…。」

ラディッツは一人、壁に現れたその狭間を見つめている。昨日見に来た時と比べて変わってないが、緊張は時がたつにつれどんどん強大なものになっていく。

「あいつらも、この戦いを見ているのか…。」

先日お世話になったあの主とそのペットたちの事だった。心理戦は得意でも肉弾戦の方はまだまだだ…。あの鴉は目を輝かせていたが、危ないからと屋敷の中から見守ることとなった。そして、あの杯を交わした鬼はその子分たちと共に屋根の上からこっちを向いて見守っている。やはり、約束を破らないところに何か感じるものがある。だが、この俺は生きて戻れるのだろうか、小町と約束をしたのだがこの狭間の奥からあふれ出てくる気が近づいてくるたびにだんだん幻想に終わる気がしてきた。

「俺には、帰る場所があるんだ…。こんなところでくたばってたまるか!」

自分に喝を入れたその時、その狭間は大きく開いた。

「なるほど…、貴様がカカロットの兄、ラディッツか…。だが、俺にはわかるぜ、やはり貴様は『サイヤ人』だ…。」

「なっ…、か…カカロット…。親父…。」

ラディッツは、それ以上言葉が出なかった。なんと、彼の弟の孫悟空、そして自分の父バーダックと顔がうり二つ、全く同じなのだ。

「フフフフフフ…、俺とカカロット、そして貴様の父バーダックと似ているのも無理はない、俺たち使い捨ての下級戦士はタイプが少ないからな…。」

完全に想定外だった。この男が死んでいった父と弟の面影を持っていたことが…。たしかに、あの予言魚 の言う通りだった、聞いていたらおそらく引き受けるのをためらったかもしれん…。だが、心は既に決まっている。どんな相手であろうと逃げだしたりはしない。それは、俺が隠していた罪の一つであり、これから生きる上できっと大切なことなのだから。

「たとえ、貴様の顔があいつら同じだからといっても容赦はせん。この幾千もの戦いで学んだ拳と心を以て、倒してくれる!!」

「サイヤ人の心を失った今のお前が、サイヤの心しかないこの俺に勝てると思うか?この俺はカカロットとは違う…、この地で貴様を葬り去ってやる!!!」

 

 

激闘の開幕は、ラディッツの一撃からだった。が、

「こ…こんなことがありえるのか…全然効いてないぞ!!」

加速をつけた彼の一撃がターレスの服を貫き腹にめり込むはずなのだが、服を破るどころかちょっとしかめり込んでいない。

「神聖樹の実を8000万個も食べ尽くしてきた…、貴様とこの俺とでは天と地ほどの差があるのだ!!」

ターレスは、その拳を振り払うと振り払った手の裏拳でがら空きになっている彼の顔面に一撃をくらわせた。

「ぐっ……ぎぃ!!」

後ろに数歩よろめくラディッツ、想像以上に相手の一撃が重い。頑張って踏みとどまることができないのだ。

「お前の力はその程度か、もう少しこの俺を楽しませてみろ!!」

相手の鋭い一喝がラディッツを貫く。どうやら、死ぬ気で立ち向かわないと彼の両手を地面につかせることはできないらしい。

「いいだろう…、こっちも死ぬ気で貴様に立ち向かおう!!」

「それでこそサイヤ人だ。来いよ、サイヤ人くずれ。貴様がサイヤ人、そしてエリートであったことを思い出させてやる!!」

 

 

地底全体を震わせるような、拳と拳の咆哮が響き渡る。放たれた衝撃は、それだけで形を持った力となり、旧都の端にも襲い掛かった。もちろん、サイヤ人たちには言うまでもなくその力を互いに受けているものだから、体への痛みは言葉で言い尽くされるものではない。

「なかなかいい攻撃だ…。だが、その程度の攻撃じゃあこの俺を倒すことはできないぜ。」

そう、言い放つとターレスは手をバチンと合わせるとその手の間にオレンジ色の雷撃が走り始め、そして大きな輪の塊となった。

「死ねぇーーーーーーッ!!!」

その咆哮と共に一気にラディッツに向けて放った。

「うああああぁぁぁーーーっ!!」

ラディッツは咆哮を上げた。その声は、かつて大猿の力を持っていた頃の面影が一瞬映る。そして、肩幅二倍まで足を前後に広げ、地面を踏切り、その輪をぎりぎりでかわし、一気にターレスとの間合いを縮め、その懐まで切り込んでいった。

「なにぃ!?」

「これで決める…。」

その手を彼の胸に押し付けると、貯めていたエネルギーを一気に解き放った。

 

「必殺…、ダブルサンデー!!!!!」

 

眩い閃光が辺りを包んだ。そして、一瞬遅れて大波がラディッツ、旧都、地霊殿を襲う。

外にいたものはみな耐えられず散り散りに彼方へ飛ばされていった。そして、勇儀もその衝撃を受けて後退し始めていく。

「…なんて…無茶苦茶な技を出しやがるんだ、あいつは…。」

鬼としてはこのまま踏みとどまりたいが、子分たちが吹っ飛ばされていくのを黙って見逃すわけにもいかず風に身を任せ、彼らの飛ばされた方へ向かった。

 

「はあっ…はあっ…。」

ラディッツの息は上がっている。そして、じわじわと昨日の戦いで久々に全力近く解き放った界魔神拳の反動で両腕に痛みがこみ上げてくる。だが、ゼロ距離から放ったサタデークラッシュの強化版の新技、ダブルサンデーの威力の手ごたえは十分にあった。間違いなくあのサイヤ人の戦闘服を貫通し、そのまま埃の舞い降りる彼方へと飛ばしたのだから。

「…雪か…。」

気が付くと肩に冷たいものがついていた。そして、果てしないその天井からゆっくりと降り下りてきている。

「いい天気だな…。」

そう思った次の瞬間、

「!?」

いきなり吹雪に変わり、前方から押し寄せてきた。そして、その風と共に舞い上がっていた埃も全て流れ去った。

「結構効いたぜ…。貴様の一撃はな…。」

その男は、立っていた。頭をはじめ数か所から血を流しているが、そんなことでサイヤ人の力は落ちたりはしない。そして、その男はつけていたスカウターを外すとラディッツに向けてこう言った。

「さっきは悪かったな…、貴様をサイヤ人くずれと言っていたが、無礼だったな。撤回しよう…、貴様は間違いなく本物のサイヤ人だ!その隠している力を含めてな…。」

ラディッツは驚いた、どういうわけかこの男、自分が力を隠していることに気づいているのだ。

「だが…、貴様だけじゃあない…。力を隠しているのはな…。貴様のようなサイヤ人と巡り会えた俺からの贈り物だ…、見せてやるサイヤ人の限界の壁の…その先の世界を!!!」

「ま…まさか…。」

相手が目をつぶると恐ろしいほど一気に気配が膨れ上がった。その男の口の端が吊り上げっていく。ラディッツは、かつてベジータたちと組んでいた時、ある噂を耳にしたことがあった。サイヤ人は普通大猿にしか変化しないが、穏やかで純粋な心を持つものが現れる時その大猿をも超える黄金に輝く戦士が現れることを…。だが、

「なっ…、なんだ色が抜け…。」

その男の髪は逆立ったが、徐々に色が抜けていき、そして薄い緑色の気がその髪に流れ始め、水に絵の具を溶かすように筋が入り始めた。そして、

「うおああああああああ!!!!!」

その咆哮と同時に、吹き付けていた吹雪が収まった。そのサイヤ人の気配はこの降り積もる雪のごとく、濁りがなく澄み切っている。ラディッツの界魔神拳が獅子であるとするならば、このサイヤ人、ターレスの今の姿は神…いや、その先に存在するであろうもの――――

「これが…、苦しみの先に辿り着いた世界…。」

 

―――― 超サイヤ人 零(ゼロ) ――――

 

白きサイヤ人と黒きサイヤ人…。

 第弐戦の開幕は、ターレスからの一撃だった。あまりの速さに回避はおろか、防御の時すらない。次に気が付いた瞬間、彼は胸に風穴があいたような衝撃によって意識を飛ばされそうになった。勇儀の時とは全く違う、風のように速く、切り裂くように鋭い。朦朧とする意識の中、ラディッツは相手の方を見つめたが既に相手はいない。

「…!?」

ふと、頭の上に何か影のようなものが覆いかぶさった。見上げる。ターレスだ、この一瞬の間に自分の上に回り込んでいたのだ。

「だあっ!!!!!」

躱しきれない拳のラッシュが雨のごとくラディッツの体に降り注ぐ。一撃一撃はあの鬼の一撃より軽いが直にめり込んできていてまずい。だが、それで攻撃は終わることは無かった。地面にめり込んだラディッツの体を持ち上げると天高く投げ飛ばした。

「……………ぐっ。」

ラディッツは、視界が暗くなる中せめて一撃でも入れようと身を返したが、それ以上動けなかった。もうすでに体が限界に達していたのだ。そして、また地底に落ちていった。徐々に街の明かりが見えていく、だが落ちる場所は街ではない、落ちる場所は投げられた場所の少し先。そして、そこには拳を構え迎え立つあのサイヤ人、ターレスの姿があった。そして、彼は後進すると、思いっきり壁を蹴り突進し、その拳を思いっきりラディッツの腹にねじ込んだ。

「ぬぅあああああああ!!!」

鬼のごとく重い一撃がその身に思いっきり入り込み、そのまま彼方にある壁にめり込んだ。何とか保っていた彼の意識はこれをもって完全に暗く没した。だが、あの男は攻撃を一切緩めない。

「ふんっ!!!!!」

彼の手から放たれた無数の気弾が容赦なく襲い掛かる。そして、接触すると同時にその弾は炎となりラディッツの体を包んでいく。そして、ターレスはそのままとどめにはいった。

「ラディッツ、貴様が死んだからには、俺がこの暗き地にしっかりとお前の墓を建ててやる。サイヤ人として最後まで戦い抜いた貴様への贈り物だ…。」

そう言い残すと、ターレスは手を合わせ、あの輪を創り出した。

「さらばだ…ラディッツ!!!!!」

とどめの一撃がその体に接触し爆散。ラディッツの体は立ち上がる爆音と共にその彼方に消えていった。そして、彼がつけていたスカウターは足元に落ちて、割れた。

 

 

「やっぱり、帰ってこないか…。」

小町は一人、そのスタジオに着いた。

「ラディッツは一緒じゃないのか?」

見慣れたあの予言魚が小町に尋ねた。

「いいや…。」

ただその言葉だけが返ってくるだけだった。

重い空気が辺りに流れる。ラディッツがいたらきっと明るくなれるだろうに…。その主役がいない。こんなにも空しいものがあるだろうか。祝うべき人のいない誕生会、亡くなった後に駆け付けた救急車、さっきまで生きていたから乗せてくれと頼みこむ遺族の声…。それに似た感情が込みあがってくる。この仕事について数百年、こんな気持ちになったのは初めてだ。

「ラディッツ…、お前さんのことは忘れないさ…。」

もう時間が迫ってきた、あと10分。もう客の列は見えないほど長く続いている。この幻想郷を見に来た者たちのためにも笑顔で迎えなければならない。

「それじゃあ、入れるか。」

小町が、ドアを開けるよう手伝いの者に伝えようとしたその時、

「ちょっと待ちな!」

背後にある勝手口から声が聞こえた。

「誰だい…?」

「まだ…、あいつの…、ラディッツの勝負は終わってないよ!」

何を言い出すのかと思ったが、よく見ると目つきは違うが、その髪型はラディッツの物と同じだった。多くの人を乗せてきたから分かるきっとこの人は――――

 

 

「ラディッツ…、貴様まだ…。」

「俺は死なん…、この俺に…帰る場所がある限り…。」

全身から血を流しつつもラディッツは生きていた。あの回避不可能の連続攻撃を受け切って死にかけたが、ぎりぎり踏みとどまりそして何かに導かれるようにまた立ち上がったのだ。

「だが貴様、もうこれ以上戦うのはやめろ。その体じゃあこの俺には勝てん。犬死にするつもりか…。」

「戦うのは止めん…。そして、この俺は死なん。絶対に『生きて帰る』という盃を交わした奴がいるからな…。」

ラディッツは、周りの音が消えゆくのを感じた。あの魅魔とあの技を見出した時もそうだった。自分の鼓動だけが妙に大きく聞こえ、辺りの音が消えゆく感覚…。

 

 

生きる力と守る力をを持つと覚悟した時強くなれるものさ。

 

亡くなってしまった大切な者たちの想いを背負って戦ってみな…。たとえ、目に見えなくたって受け継いだものは残っているんだから。

 

 

「見せてやる…。このオレの覚悟、受け継いだ心を…。」

 

―――― 極 技 界魔神拳 かいましんけん ――――

 

 

最後の開幕は、両者の覚悟を背負ったの一撃からだった。無と獅子、それぞれの生き方を現したような拳の動きである。ラディッツが攻撃を仕掛ければターレスはその攻撃を流し、一撃を入れる。だが、ラディッツはそれを受けつつも空いたもう一方の手でターレスの顔面に入れた。そして、両者間合いを取ると次の攻撃へと移っていった。

「はあっ!!!!」

ラディッツは、気合を入れると一気にその間合いを詰めた。ターレスは焦る。さっきまでのスピードと比べ物にならないほどラディッツのスピードが速いのだ。

「くっ!?」

「うぉぉあっ!!」

ラディッツの一撃が彼の戦闘服を割った。そして、鋼鉄のように硬かったその大木の表面に当たる。流れは一気にラディッツの方に向いた。

「うおああああああああ!!!!!!」

ラディッツの拳の雨がターレスの全身に打ちつける。あの巫女の放つ『夢想封印 瞬』を明らかに超える拳速であり、その一発一発の強さはあの鬼の繰り出す怪力乱神すら超える。そして、ついにターレスの体を吹っ飛ばし背中を地面につかせた。

「………っ!!」

だが、ターレスもただで終わるほど甘くはない。地面に打ち付けながらもラディッツの顔に向けて気功波を一発お返しした。そして、一回転すると体勢を立て直し、一気に地面を蹴り離れた間合いを詰め返した。

「うぁぁあ!!!!!」

スパークを帯びた一撃がラディッツの足元に襲い掛かる。が、ラディッツは一瞬で足を裁き、その攻撃をかわすとその背中に向かって正確に彼から向かって右側に気弾を5つ一斉に打ち込んだ。

「ぐはっ!!」

ターレスの背中の甲冑を貫き、見事命中。同時に、ターレスは一瞬で悟った。このまま戦ってもこいつには勝てない、そして時間切れも見込めない。次の一撃で、確実に仕留めにかかる。

「くっ!!」

ターレスは手を以て地面を押すとひねりを入れた宙がえりでラディッツの方を向いた。

「なるほど…、確かに覚悟は貴様の方が上だ……。だが…、覚悟だけじゃあ生きてはいけないのさ…。」

「………。」

ターレスは、手を合わせると先ほど彼を葬ろうとしたのと同じ輪をつくりだした。この技を相手に飛ばし、かわそうとする直前で一気に閉じる。これで、確実に当たり、あの変身は解ける。そしてそのすきを見逃さず、とどめの一撃で決着をつけてやるッ!!

「こいつを破れるものなら破ってみろ!!」

「来い!!貴様とオレの過去…このオレが破る!!」

辺りに降り注ぐ雪が吹雪に変わった。先に動いたのはターレスだ!

「死ねぇぇい!!」

あの輪がこっちに向かってくる。だがそれだけではない、あの男、先ほどラディッツの足を狙いに来たあの技の準備をしている。あれに当たればおそらくもう自分の命は無くなるだろう。もうすでに、界魔神拳を使った時点で無事に帰れる見込みなど無いのだから…。ラディッツの次の動きは決まった。

「なっ…。」

ラディッツは、前屈蹴り上げの姿勢をとるとその足指を以て地面をしっかりとらえ、その技に向かって踏み出した。そして、向かうスピードを一気に最大まで上げその輪が収縮する前に通り抜けた。ターレスが迎え撃とうとしたその時、すでに彼の必殺が撃ち込まれていた。

 

 

「界魔神拳奥義…。天破牙殺(てんぱがっさつ)。」

 

ターレスの右半身に無数の牙が撃ち込まれた。

 

 

「…くっ。」

もはや、戦うことはおろか、立ち上がることさえ出来ない。だが、彼は残った意地でなんとか膝立ちになって踏みとどまった。

「貴様…、この俺に情けをかけるか…。」

「オレにはサイヤ人だった頃の心だけではない。カカロット、そしてこの国で過ごすうちに持った新しい心がある…。ターレス、お前は純粋なサイヤ人だ。だが、ここはお前の戻るべき場所ではない。貴様にも他に戻るべき場所があるだろう…。」

ターレスは、妙にその言葉が心の奥にすっと入っていく感じがした。あのカカロットとは違う…、この男はサイヤの心を持ちつつまた別の心を受け継ぎ成長させているのだ。悔しかった…下級戦士という枠組みから抜け出せれない自分が、そして自分以上にサイヤ人の心を持った奴がいたことが…。ターレスのとるべき道は決まった。

「戻る場所か……、そんなものこの俺に残っているはずがない……。この幻想郷に入ってしまった時点でな…。だが……、最後の相手がお前がふさわしい……。これで、『サイヤ人』として『終われる』ぜ……。」

「……!!!」

ターレスは残った左手を胸の前に置いていた。

 

そして、残った力をその左手に集めると一気にその心臓を貫いた。

 

 

 

 



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東国戦遊志~紅~#5 千歳の炎

自らを犠牲に弟の孫悟空たちを守ったラディッツ(if)、不思議な流れに導かれ彼がたどり着いた場所は幻想郷の『あの世』、裁ききれない罪を背負いつつ彼は新たな道を行く。
サイヤ同士の誇りをかけた死闘は終わった。ターレスは消え、ラディッツが残った。
朦朧とする意識の中、ラディッツは限界の体のまま一人里を目指すが、途中で倒れてしまい…。
あれから1300年、妹紅はついに宿敵と会うことなく今に至った。しかし先日、止まっていたその時もまた動き出した。変わってしまった心を前にその宿敵とどう向き合うのか…。
【注意】
この作品は『ドラゴンボール』、『東方プロジェクト』の二つの作品を主に元ネタとしたクロスオーバーものです。
(注)今回は前半が、バーダックがドドリアと戦った当日の夜(レイム戦)。後半が、バーダック修行へ出発後(フリーザ戦の後)となります。
このシリーズでも、本編同様に「オリジナルキャラクター」・「オリジナル設定」が出ます。
ドラゴンボールZ本編のラディッツとは「別の道」を歩んだ「このラディッツ」の過去は『紅の第零話』となりますので、新鮮な気持ちで見てもらえると嬉しいです。
最後に、どこかでこのシリーズは動画化まで行けるかはまだわかりませんが、動画版のお便りこコーナーやこの話に彼やその仲間たちが出たときは、是非頑張っている彼らを応援してもらえると嬉しいです。



[chapter:哀しき決着]

<???>

視界がかすむ中、ラディッツは里を目指して飛び続ける。決着はついた。

「…。」

視界がかすみゆくが、どうってことは無い。目指すべき里の明かりは見え始めているのだから。だが、どこか空しさというものがこみ上げてくる。最後にあいつが残したあの言葉が。

 

 

この世界に残るのは…………この俺じゃあねぇ…、誇り高き心を受け継ぐ…………ラディッツ……貴様の……方…………だった…………。

最期にその言葉を残すと彼の体は灰に還り、吹雪と共に消えていった。

 

 

「……。」

月の光が虚しさを込み上げさせてくる。忘れかけようとしていた同じ時を生きた同胞への思い、そして去り際にあいつが気づかせたサイヤの誇り…。あの鬼と戦った時もそうだった。やはりこの俺はサイヤの血を引く者だった…。

「ぐっ!?」

突如ラディッツの体を激痛が襲った。痛みを軽くするため解かずにいた魔力が底をついてしまったのだ。

 

ラディッツは、バランスを崩しスピードがついたまま全身を強くその地に叩きつけた。

 

「ま…まだ…。」

ラディッツは、膝をつき何とか立とうとするも力が入らずまた倒れてしまう。

「……っ。」

ここで死んではならぬ。必ず生きて戻ると杯を交わしたあいつが信じて待っているのだ。

「俺は、…生…きる…………ぞ…。」

 

[chapter:過去の追憶]

あれから、どれぐらい時がたったのだろうか。気が付いた時には、見知らぬ部屋で寝かされていた。そして、体中あちこちに包帯が丁寧に巻かれている。どうやら、この処置を施した者はかなり医学系に精通した者だろう。

「……。」

まだ、ぼんやりする頭を持ち上げつつ辺りを見回す。

周りには誰もいないらしいが、足音が一つ、誰かひとりこっちに向かって来ている。

「……。」

ラディッツは、横を向いた。相手が切りかかったときすぐに迎え撃てるようにするためである。

足音がふすまの前で止まった。

「もう起きているぞ。」

あちら側にいる者に向かって言った。そして、ゆっくりとふすまが開いた。

「気分はどう?」

白衣を羽織り、眼鏡をかけた長髪の女性だった。手に持っているのは盆と水。そして白衣から漂うツンとくる薬品の香。どうやら、この方が自分が受けた傷の処置をしてくれたらしい。

「まだぼんやりするが、問題ないだろう…。」

そう答えるとラディッツはまた仰向けに戻った。

「最悪だな…。」

ふと、その言葉が流れ出てしまった。

「……?」

彼女は、不思議そうな顔でこっちを向いた。

「体調じゃねえ…。こっちの身の上話だ…。」

普通の医者ならそのまま聞き流すだろう。だがその者は、心配そうな顔をして耳を傾けた。

「顔色良くないわね…。その話、少し聞いても…?」

「まあいいだろう…。」

分かってもらえるか、微妙な話だ。だが、患者であるこの身を心配し、耳を傾けようとする者が目の前にいるのだ、ここで言わなければこの人に申し訳がないと思いその口を開いた。

「久しぶりに同じ故郷から来た奴と戦った。そいつもかつての俺と同じく帰る場所のない奴だった。最初は分かち合い、共にこの地で生きていける奴かもしれん、そう思ったがあいつは違う。あいつはかつての俺が持っていたのと同じ『純粋な心』しか持っていなかった。この幻想郷で生きていくことはできん。俺はそいつを倒し、別の場所へ行くように言った。だが、彼はどこかへ行くことを断り自分の生涯をその手で断ち切った。この俺に誇りを託してな…。」

その言葉を耳にした医師はこう返した。

「貴方は、もともとこの地上の住人ではなかった…。」

「そうだ、俺は人間でも妖怪でもない。帰るべき場所がなかった宇宙人みたいなものだ。」

「宇宙人ねぇ…。」

なぜか、ため息交じりにその言葉を返された。やはり、『宇宙人』と言ってしまったのは現実味がなかったのだろうか。だが、この尻尾がある以上『人間だ』と言うのも無理なものかもしれない。包帯が巻かれている以上もうこの尻尾も見られたはずだからだ。逆に『妖怪だ』と言ったとしてもこの場から追い出され、『退治』されるかもしれない。そもそも、『地上の住人』と言われてしまった以上バレているのかもしれない。

「貴方の正体はもうどうでもいいわ。それより、貴方、何か仕事でもやっているのかしら…?」

ラディッツは、この目の前にいる医者の鋭さに感服するしかなかった。やはり、この医者体だけでなく心まで診ているのではないだろうか。

「その通りだ…、だが仕事といっても人助けに近いのかもしれん。」

「例えば…?」

「すこし前だったが、千年近く宿敵に会えず心が死んでいた奴を助けようと立ち上がった奴に手を貸した。言葉で言い尽くせんほど悲しい奴だ…、死ぬにも死ぬことが出来ず、かつて犯した罪から逃れることもできず、そして殺してやろうと思う相手にも会う事も出来ない。だが、そんなあいつにも手を差し伸べる者が現れた。今も人間の里というところで寺子屋をやっているが、不老不死の呪いから這い上がることのできん彼女に寄り添い、その苦しみを背負ってやろうと戦っている…。結局、あいつは罪と向き合いつつ罪と戦い、『隠れずに生きる』ということを選んだ。もっとも、俺はその傍観者として、邪魔する奴を蹴散らすことしかやってないがな。」

 

ここは幻想郷、常識だけでは理解できない世界に俺たちはいる。おそらくこの目の前にいる医者もそんな感じを持っているのかもしれない。

「分かったわ…。」

「理解できたのか…。」

ちょっと驚きだった。こんな抽象的な話を信じてくれたのだから。やはり、その国に住む者がこの世界を作っているのかもしれない。

「ええ、『分からない』ことが分かったのよ。」

そんなことは無かった…。

「でもこれで一つ片付いたわ…。貴方は、体調が戻るまでそこで寝てなさい。」

そう言うと、持ってきた盆を下げ、そそくさと部屋を出ていった。

「寝るもなにも…、目が覚めてしまっただろうが…。」

さっきまでぼんやりとしていた意識が戻ってきた。ふと、光が映る障子の方を見てみる。風に揺れる葉のこすれる音、かすかに聞こえる鳥のさえずり、穏やかに照り付ける日差し。昨日と打って変わって温かい春の風が吹いている。障子は締まっているが、なんとなく心地の良い風が吹いている感じがする。よく考えれば、らしくないことばかり言ってしまった。三途の川を超えた時も、あのサイヤ人と戦うか迷っていた時も。

「……。」

気が付くと温かい一縷の涙が頬を伝っていた。純粋なサイヤ人のままならこんなものを流すはずがなかったのに、帰る場所なんて気にする必要もなかったはずのに…。孫悟空と会ってオレの全ては変わってしまった。あいつと過ごすうちに忘れかけていた『情』がまた湧き出してきた。そして、幻想郷に来て今度は『帰る場所』が出来てしまった…。もう過去の俺には戻れない。だが、オレはここまで進んできた。そして、受け継いできた『心』というものがある。

「ッ!!」

ラディッツは、しまっていた障子に手をかけると一気にそれを開いた。

「…。」

温かい春の風が部屋を満たしていく。そして、今まで背負い続けていた肩の荷が少し降りたような気がした。

「新しい季節の始まりか…。」

「私もそう思います。」

障子をあけ放った縁側の奥から綺麗な服をこしらえた少女が一人ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

「それぞれの冬を超えて新たな世界へと進む…。永遠に続く輪廻のはずなのになぜ新しく感じるのか、不思議ですねこの国は。」

「『不思議』か…、俺たちにとって見慣れた景色かもしれんが、立ち止まり視点を変えると意外なことが見えるものだ…。」

「ここは、ときを忘れ生きることのできる場所か…?」

「生きる者は皆時を刻み続ける。ときを忘れることはできても時は刻み続けるものですから…。」

その少女も外を見つめこう告げた。

「ここは、永遠亭。静かに時を過ごそうとする者たちが集まった場所です。どうか他の方には…。」

「わかった。口は堅いほうだ…。」

「ありがとうございます。それと…、一つ手紙を頼んでも…?」

「構わん、だがあまり長居はできんぞ。」

「すぐ持ってきますわ。」

ラディッツは、そう約束すると服装を整え、敷いてもらっていた布団を一か所に綺麗にまとめ出ていく準備を整えた。そして、支度が終わった頃、ラディッツは手紙とあるものを受け取った。

 

<迷いの竹林>

「私宛のお便りか。」

「そうらしいな…。」

あれから一週間後、ラディッツは一人妹紅の家を訪ねた。あの時受け取った手紙を持って。

「…………。」

妹紅は、開封されてないその封を切ると中から一つ手紙が出てきた。四つ折りになったそれを開き、ゆっくりと読んでいく。

「…………。」

最初は普通に読んでいた彼女だが読み進むにつれ徐々に厳しい顔になっていくのが見える。そして、一番下に書かれた差出人の名を以てすべて読み終わった。

「ラディッツ、正直に言ってほしい…。今日なぜここに来た。」

湧き上がるものを必死で抑え、ラディッツに問いかける妹紅。手紙にはおそらく自分のことも書かれている。本当のことを言わないと殺されるだろう。

「わかった…、知っている限りだが、すべてを話そう……。」

 

[chapter:千歳の炎]

<迷いの竹林(開けた場所)>

平安から1300年、止まっていた私の『時』はつい最近になって動き出したばかりだった。上白沢慧音、彼女は私の愚かな過去の話を受け止め、寄り添ってくれている。愚かな人間ほど、他の人間の愚かな行動を嫌うというのに…。さらに不思議なことに、手紙を持ってきた『あいつ』はまた私の所を訪れに来た。かつてコテンパンに叩きのめしてしまったというのに、恨むことも復讐しようとも思っていない。そして、先日修行に出ていったあの『流浪人』、どこかかつての『私』を見ているような気持ちだった。輝夜に対して復讐の心が強かったあの時の自分を。

 

「ここだな…。」

ラディッツは、妹紅を約束された場所に連れてきた。日没から数刻、持ってきた提灯を消し、妖術の灯に変える。

「ここから先は…分かっているね…。」

「手出しはせん。俺は一旦引く。だが、戦いが終わるころにはまた戻ってくるだろう。」

そう言い残すと、ラディッツは来た道の方へ向かい暗闇の中へ消えていった。

彼が離れたのを見切ると、妹紅は手元を照らす炎をかざし、広場の中央へ向かった。

「…。」

広場の真ん中に木が組まれて置いてあった。彼女は、持っていたその炎を投げ入れるとたちまち大きな炎が上がり辺り一面を照らす。

「1300年、待たせた。」

その炎の彼方に見える一つの影に向かって妹紅は言った。

「やっと一つ、過去の清算をする気になったのかしら。」

「ケジメってやつだ。不老不死を選んでしまった私とお前の…。」

妹紅は、ポケットからその手紙を取り出すと燃え上がる炎にくべて、その仇敵の顔をしっかりととらえた。あの時と何一つ変わらぬ顔だった。

「始めようか、殺し合いを。」

 

「何を以て〆とするの…。同じ永遠を持つ者同士じゃあ決着つかないのよ…。」

 

「夜明けが見えるまで。」

 

互いの命を懸けた死闘の開幕は、妹紅の出す炎の弾幕から始まった。容赦のない炎の雨が輝夜を襲う。だが、彼女はその炎の中に突っ込むとすれ違いざまに妹紅の首筋に線を一つつけた。

「…っ。」

妹紅の首から血がしたたり落ちる。だが、かすったぐらいだったので致命的でもない。

「…。」

輝夜は妹紅の方を向いた。今度は色鮮やかな弾幕を一斉にあたりにちりばめ、妹紅にその矛先を向けた。

妹紅に向かって一斉にその弾が襲い掛かる。よく見るとその七色に彩られた弾々は父が彼女から与えられたといわれる難題、蓬莱の玉の枝を思い出させた。だが、避けようと思っても密に組まれ、避ける幅が一切ないため全弾くらわなければならない。

「くそっ!!」

妹紅は咄嗟に炎を使い周りの弾幕を焼き払ったが、彼方から無限に迫りくる弾々を迎え撃つにはとても儚いものだった。

轟音と共に無数の弾が妹紅を貫く。耐え難い激痛にたまらず彼女は叫び声を上げた。その声は彼女が繰り出す不死鳥のようにどこか哀しく、切ないものだった。

だが、そんなことにもお構いなしに七色の弾が打ち付ける。美しいはずなのにどこか無慈悲なものが滲み出ているようにラディッツの目には映った。

 

そして、妹紅の叫び声が消えてしばらくたつと輝夜はその弾を止めた。

 

妹紅の着ている服はあちこち破れ、肩から先の部分はちぎれている。

「…。」

輝夜は、絶命している妹紅のそばに近寄り、見つめた。どこか哀しいような虚しいような目をしている。

「まだ…、勝負はついてないんじゃあないか…?」

「!?」

突然、輝夜の体が炎に包まれた。

「………くっ。」

輝夜は何とか炎を振り払おうとするも取れない。妹紅は、既に背後を取っている。目の前にあったのは抜け殻だったのだ。妹紅はすぐに何かを唱え始め、不死鳥を繰り出した。

「こっちも死んだんだ…。お前にも死んでもらう。」

そう言い切るとその不死鳥を輝夜に向かって突撃させ、一気にその身を灰へと還した。

当たりに焦げくさいにおいが立ち込める。輝夜を消し炭にした際周りの草も共に燃やしてしまったのだ。

だが、妹紅にとってそんなことはどうでもよかった。やっと長年背負い続けてきた苦しみをあの憎き相手に味合わせてやることができたのだから。だが、不老不死になって以来背負い続けたものはまだまだ尽きることが無い。

「この程度で白旗上げるなよ、輝夜。まだまだこの苦しみを味わってもらうからな。」

まだ、あいつの姿は見えてないが自分から逃げるはずはないと妹紅は考えていた。客人を招いた主が宴会の最中勝手に出ていかないのと同じように、この戦いを仕掛けた以上、彼女から退くはずがない。そして、自分が倒れてもあいつは容赦なく弾幕を打ち続けた。間違いなく命を懸けた真剣勝負をしているのだ。

「そう焦らなくても…、じっくり味わうつもりよ。」

突如、辺りをまぶしい光が包んだ。それは、離れて見ていたラディッツにも届いた。近くにあった竹の筋一つ一つがはっきりと見えてしまう程ほど明るい光なのだ。

「なら、次は前菜にしてやろうか。」

「どんな味の効いた料理を出してくれるのかしら。」

「長年味わってきた辛酸ってやつをお前にも舐めさせてやる!」

 

それからは、容赦のない技のフルコースをお見舞いし合う戦いになった。

輝夜の放つ弾はただ美しいだけではない。詫び・寂び、無常、儚さを描いた単調けれども精巧に組まれた技が繰り出されたと思えば、今度は竜宮城やかげりなき満月の月のように明るく、様々な色に満ちた豪華絢爛、煌びやかかつ華々しき無数の弾が放たれる。

妹紅もまた、ただ技を放っているだけではない。輝夜が先の技を出せば、優しい光の弾を以て返し、輝夜が後の技を出せば、不死鳥を降ろして紅き炎を一斉に放ち迎え撃つ。

命を懸けた真剣勝負でありながら、互いに『粋』を以て殺し合いをしている。そして、遠く離れてそれを見ると一つの美しい花火を次々に見ているように思われる。これまでラディッツの生きてきた世界では決して見ることのできないものであった。そして、その殺し合いを見守るうちにラディッツは、殺しあう仲のその先の世界を見出しているように感じてきた。

「なかなかやるじゃあないの、妹紅。」

「厳しい難題をまた吹っ掛けてきやがって、本当に憎らしい奴だな。」

両者とも普段ではあまり見ることのない生き生きとした顔をしている。服はボロボロになっていくのに心はますます蘇っていく。生きている世界観は違えども、同じ時を二人、それぞれ感じているのだ。

「夜明けが…。」

「近くなってきたな…。」

殺し合いが始まって数刻、東の空の彼方が青く染まりかけている。そろそろ、この殺し合いも幕を下ろさないといけない。

「ならば、次の一撃で決着をつけようか。」

「よろこんで。」

二人は互いに距離を取ると、大技を繰り出す準備をした。

そして、互いに構えたのを確かめると、同時に叫んだ。

 

凱風快晴 ――――フジヤマヴォルケイノ――――

 

蓬莱の玉の枝 ――――夢色の郷――――

 

 

「決着は…?」

「もう着いたわ。」

あれからしばらく経ち、ラディッツはさっきの場所に戻った。

「随分派手にやったものだな…。」

辺りは一面焼け野原になっていた。だが、問題ないだろう。またしばらくすれば新たな芽が出て、ここも自然へと還るはずだから。

「妹紅ったら全然容赦ないんだもの。」

一つ分かったかもしれない。やはりこの二人は殺し合いというより『殺し愛い』といったものをしていたのではないのだろうか。。

「それより、一々この俺に頼まんでも、矢かなんかで届ければいいんじゃないか?」

「私もそう思ったのよ。でも永琳がなかなか難しい顔のままで…。」

「永琳…。あの白い服を着た奴か…。」

「そう。それで、行き詰っていたところに。」

「俺が落ちてきた…。」

「最初はいろいろと大変だったわ。でも、永琳があなたの話を聞きにいったとき、この手を思いついたということなの。」

「そして、手紙を渡して妹紅を来させた。」

「永琳は、約束を守れるか心配していたわ。でも、貴方は約束を守った。」

「それぐらい当然のことだ。依頼人から来た約束を手伝うのがこの俺の仕事だからな。」

「これで、彼女も少しは貴方のことを信頼してくれると思うでしょう。」

「また何かあったら駆け付けよう。もっとも行くのは俺一人だがな。」

「お力添えの程よろしくお願いしますわ。」

「よろしく。」

「それから…。」

輝夜は一つ付け足した。

「あのウサギは、今回のお礼です。どうか、大切に預かってもらえると嬉しいのですが…。」

「いいだろう。こっちもこれぐらい可愛いのが一匹欲しかったからな。」

そう返すと、ラディッツはゆっくりと宙に浮いた。

「では、さらばだ。」

「お気をつけて。」

朝日が昇りゆく中、一気に北を目指しラディッツは戻ってゆくのであった。

 

[chapter:触媒]

<永遠亭>

「ただいま。」

少し部屋が騒がしくなりゆく中、輝夜は永遠亭に戻った。

「おかえりなさい、輝夜。」

まず初めに出迎えたのは永琳だった。

「鈴仙を通じて、確かめたわ。」

「私が言った通りでしょう。」

「今回はその通りでした。しかし、月の使者が追っている以上慎重になることにこしたことはないと思います。」

 

今回の騒動は、私にとっても永琳たちにとっても想定外の事だった。そもそもここは迷いの竹林。簡単にこの場所を見つけることはできないはずなのだ。そして、永琳が張った幾重にもわたる結界。生きる者がこの中に入ってこれるはずがないのだ。しかし、あの夜、轟音と共に何かが突っ込んできた音が聞こえた。その音を聞いて、皆飛び起き、焦った。満月から二日後のはずなのに月の民が攻めに来たと思ったのだから。

あのとき、一番焦っていたのは永琳だった。かつて起こった蓬莱の薬の一件以来、彼女は些細なことでも気を付けるようになった。この前の満月の時に張ってあった結界をもう一度かけなおすほどの慎重さである。その分、結界を突き抜けてきた彼を見た時は、何が起こったのか分からず固まっていたのだ。

二番目は鈴仙。彼女はもともと月の都で起きた戦争が始まる前にこの地上に逃げてきた。生まれ持ってのものであろう臆病さ。戦おうとする永琳とは対照的にかなり後ろの方で青くなって怯えつつもこっそり見守る方を選んでいた。

三番目はおそらく私。

そして、四番目がてゐだったと思う。

 

最初は皆、月の使者が攻めてきたと思っていたが。その疑いは一旦晴れた。普通、人間ではありえない尻尾があったこと、そして死にかけているにもかかわらず人の容貌を保っていること、そして体のあちこちから出血していること。永琳はかなり悩み一つ選択肢を取った。それは、一旦死にかけている彼を救護しつつ、自白剤を飲ませ素性を聞き出すというものだった。もし、月の使者であるならここで抹殺し、人間であるなら記憶をあいまいにさせ、ここから締め出す。

だが、ある一言ですべては変わった。『藤原妹紅』、かつて私が月から地上に流されたときに押しかけてきた庫持の皇子の娘、宿敵の名前だった。それを聞いた永琳は、一つ妙案を思いついた。この男を『触媒』にして、私と妹紅で一対一の決着をつける。それなら、私の退屈も少しは何とかなるかもしれないと思ったのだ。しかし、この男が月の民の手先である可能性がある以上そのまま信じることはできない。

ならば、その男にてゐの配下の普通のウサギを持たせ、彼が寝静まった頃にそのウサギが抜け出し、新しい仲間とこっそり変わってその情報をリレー方式で伝えるというものであった。そして、約1週間彼を監視し続けて分かった。彼は白。そして、何かあったとき何かしらの力になれることが。

「ただ――――」

僅かだが、彼女の考えが変わった瞬間だったのかもしれない。

「『触媒』として動く彼だからこそ、『月の民であった』私たちでは見えない『勘違い』の真実があるのかもしれない。」

 

「お師匠様、支度できましたよ。」

奥の方から、イナバの明るい声が聞こえる。どうやら、彼女も落ち着きを取り戻したらしい。

「わかったわ。」

「今行きます。」

永琳と共に朝食の準備ができた広間に戻る。ただ、これはまだはっきり言えないのだが、ちょっと彼らが生きている幻想郷に憧れたのかもしれない。彼らは私たちとは違い地上という世界でそれぞれ自分の道を歩んでいる気がするのだ。また今度てゐから彼らの活躍を聞いてみよう。この退屈な世界が少しでも楽しい世界になるように。

 

[chapter:おかえりなさい]

<中有の道>

ラディッツは、一人お気に入りの腰掛に座ってくつろいだ。

「この数か月でいろいろと変わるものだな。」

新しく増えた部下たちを見ているうちに、ふと、あの日の思い出がよみがえった。

 

出発から5日、ラディッツは紆余曲折を経てやっと仕事をやり切り無事戻ってくることができた。企画の日でもないのに小町をはじめ多くの人々が彼の帰りを温かく迎えてくれた。

「待たせたな。」

「「「「おかえりなさい!ラディッツ!!」」」」

長年喫茶店をやってきたが、これほど心に来た日は無かった。そして、もう一度気づいた。自分の帰るべき場所はここにある、誰だって帰りを待つ者はいるのだと。

「随分派手に戦ったんだねぇ…。」

「俺は一度死にかけた。だが、受け継いだ言葉があったからまたここに帰ってこれた…。」

「お前さんのことを待っていたんだ。最初だから、主役がいないと終われないって。私もここにいる皆もそして…。」

「久しぶり、ラディッツ。」

ラディッツは言葉を失った。そして、じわじわと心の奥底から温かいものが湧き上がっていくのを感じていた。

「第一回放送記念のサプライズとして呼んだんだ。あと、この前の酒代返してなかったはずだろう?」

その言葉を聞いた時、ラディッツはその場に倒れそうな気持ちになった。だが、情けない姿は見せまいと踏みとどまり体だけは持ちこたえる。しかし、この頬を伝わる温かいものは止めることはできず、ただ一言「ありがとう。」というのが精一杯だった。

 

「おい、ラディッツ!次の回のお便りが届いているぞ!」

予言魚の言葉ではっと我に返る。どうやら、少し顧みすぎていたようだ。

「あ…ああ、わかった。今行くから待ってろ。」

ちょっと間の抜けた返事だったが、今日はいいだろう。やっと、掛かっていた霧も晴れてきた頃だから。



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