我が心と行動に一点の曇り無し!……多分! (☆桜椛★)
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No.1 “無個性”

俺の名前は星宮(ほしみや) (じん)。今年で3年生になる大学生だ。趣味は漫画やアニメ、後は手品なんかをしている。

 

そんな俺はある日、大学からの帰り道の途中に突然落ちて来た巨大な看板に押し潰されて死んだ筈なのだが、気付けば真っ暗な空間にいる。

 

 

(………え?何で?)

 

 

いやホント意味分からん。なんだここ?まるで温かいゴム製の袋の様だけど、俺確実に死んだ筈だよな?だってメッチャ痛かったし、今だってあの時の衝撃がショック過ぎて一周回って冷静に今の状況を確認してるぐらいだからね?

 

 

(しかもなんか体が思うように動かないし……これってアレか?俗に言う“転生”とか“死後の世界”的なイダダダダダダダダダッ!!?)

 

 

なんか急に空間が更に狭くなって押し潰されそうになっていやちょっと待ってマジで痛い!何!?何なの!?メッチャ痛いんですけど!?しかも何か滅茶苦茶息苦しくなって来たんだけどどうなってんの!?

 

 

(イデデデデデいやマジで死ぬ!死んだ後すぐまた押し潰されて死ぬのは洒落になってねぇーから!)

 

 

そんな痛みがしばらく続くと、突然凄まじい光が辺りを満たした。非常に眩し過ぎて目を開けられなかったが、同時に息苦しさが消え、締め付けられる様な痛みは消えた。

 

 

オギャァァァァーーーッ!!(助かったぁぁぁぁぁぁ!!)

 

 

・・・・・オギャー?

 

 

 

 

 

 

はい、あの出来事から早くも4年が経過しました。あの暗い空間は母親のお腹の中だった様です。多分前世でも今でも母親のお腹の中にいる時の記憶あるのは俺だけなんじゃあないだろうか?

 

ま、そんな事より今の俺の話をするとしよう。

 

今の俺の名前は狭間奪(はざまだ) 幽義(ゆうぎ)。結構珍しい名前だと思うが、この世界ではこんな感じが普通だ。そしてこの世界だが、どうやら俺が生きていた前世の世界とはまた別の世界の様だ。

 

この世界には“個性”と呼ばれる特異体質……簡単に言えば前世で言う所の“超能力”を持つ人間が大勢いる。例えば口から火を吹ける奴、手足を刃物に変形出来る奴、物を触れずに浮かせられる奴、他にも見た目が完全にゴリラみたいな奴もいる。

まぁ、こんな超能力者的な人間が大勢いればそれを犯罪に利用しようと考える連中が現れる訳で、この世界は前世より犯罪率が高い。この世界ではそんな自分の“個性”を犯罪に利用する者は『(ヴィラン)』と呼ばれている。

また、逆にそんな彼等を取り締まる為に自分の“個性”を使って立ち向かう者達もいる。それが今この世界で1番注目されている職業(・・)、『ヒーロー』だ。

 

まぁ、ぶっちゃけヒーローとかには全く興味はないが、“個性”には大いに興味が湧いた。だって簡単に言えば“超能力”が使えるかも知れないんだぜ?アニメや漫画好きの人なら今の俺の気持ち分かるんじゃあないか?

 

因みに今の俺の両親も“個性”は持っている。

今の父親である狭間奪 白蛇(はくじゃ)の“個性”は【白蛇】。手足や体全体を白い蛇に変える事が出来る“個性”。

母親の狭間奪 間純(ますみ)の“個性”は【隙間】。ほんの1mmの隙間さえあればどんな所でも摺り抜けられる“個性”だ。

 

目の前で実際に見たがホントに不思議なものだった。特に母親……いや、母さんの“個性”は「どうなってんの?」と真顔で聞いてしまうぐらいには凄く不思議なものだった。聞いた話によると“個性”の発現は4歳まで……つまりもうそろそろ俺にも“個性”が発現する頃だ。“個性”によってはこの犯罪発生率が異常なこの世界の自衛手段に使えるので早く発現して欲しいものだ。

 

 

「幽義〜〜!そろそろ病院に行くわよぉ〜?」

 

「あ、うん。分かった。今行く」

 

 

おっと、母さんに呼ばれた。そういや今日病院行くって言われてたな。何故だろうか?まぁいいや!

 

 

 

数時間後…

 

 

 

「あぁ〜〜……小指に関節が2つあるね。この子“無個性”ですわ。なんの“個性”も持たない今ではそれなりに珍しい型だよ」

 

 

なんか俺の足のレントゲン写真を見ながらゴーグルみたいなのを付けた医者がそう言った。そっかぁ“無個性”ねぇ………。

 

 

(………え?マジ?)

 

 

えー、悲報。俺“無個性”でした。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……“無個性”かぁ〜。ちょっとだけどんな“個性”が発現するのか楽しみにしてたんだけどなぁ〜」

 

 

個性診断を終えて数時間後、俺は自分の部屋のベッドに寝転がってボンヤリと天井を見上げていた。

こうして“転生”したならもしかして……なんて思ってたんだけどなぁ。

 

 

「はぁ………ん?」

 

 

ふと視線の様なものを感じたので部屋の中を見回すが、部屋にいるのは俺以外に誰もいない。

あれ?おかしいな。確かに2人分の視線を感じたと思ったんだけど………気の所為か?

 

 

「ま、いいか。早く寝よ……」

 

 

深く考える必要もないと思い、俺は自分のベッドに潜り込んで眠りについた。

 

 

『『……………』』

 

 

だがその時、寝息を立て始めた俺を見下ろす2つの人影に、俺は気付く事はなかった。



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No.2 通学路

俺が“無個性”だと判明してから一気に飛んで7年、俺は小学5年生になった。

あん?一気に飛び過ぎ?済まないが幼稚園や小学校1、2、3年生くらいの頃の説明するのはちょっと泣きたくなるから勘弁してくれ………。

 

 

「あ、狭間奪。おはよう」

 

「ん?あぁ、耳郎か。おはよう」

 

 

朝、いつも通り学校への通学路を歩いていると、耳たぶがイヤホンのプラグの様になっている黒髪の女の子が俺に挨拶して来た。

 

彼女の名前は耳郎(じろう) 響香(きょうか)。幼稚園の頃からの付き合いになるロックが好きな俺の親友だ。

彼女の“個性”は【イヤホンジャック】。耳たぶのプラグを壁や地面に刺すと微細な音を聞き取る上に、逆に自分の心音を大音量で放つ事も出来るらしい。

 

因みに彼女以外に親友どころか友人と呼べる奴はいない。俺が“無個性”だと判明した日から、“個性”が発現した奴等は俺とあまり関わらなくなったからだ。

特に強い“個性”を発現させたグループは自分がこの中で1番強いと思い込んで偉そうにしている。

耳郎はそんな中でも俺に関わって来た。なんでもいつも1人でいるから気になったんだと。

 

 

 

「…ッ!………はぁ、またか」

 

「え?………もしかして、また視線を感じたの?」

 

 

耳郎が俺が見た方向に目を向けながらそう聞いてくるので、俺は「あぁ」と小さく頷いて答える。

実はあの個性診断の日からずっと誰かの視線を感じるようになったのだ。常に視線を感じている訳ではないが、密室だろうがプールの水の中だろうが、文字通り場所を問わずに視線を感じる。

勿論この事は両親にも相談したが、今の様に解決は出来ていない。医者や警察、果てには一応探知系の“個性”を持ったヒーローに調査を依頼してもらったが、原因は不明のままだ。救いなのは、決して悪意や害意がある視線ではないとなんとなくだが分かる事だな。

 

 

「…………はぁ、ダメ。やっぱり近くに誰もいないっぽい」

 

「まぁ耳郎の“個性”で解決出来たなら、今頃この視線を気にする事さえなかっただろうしな」

 

 

耳郎は地面のアスファルトと近くの家の塀にプラグを刺して音を探知しようとしたが、やはりというか…何も聞こえないらしい。ホント、なんなんだこの視線は?

 

 

「……ごめん、狭間奪」

 

「気にしてんじゃあねぇ。プロヒーローでも解決出来なかったんだ。ガキの俺達じゃどうにもならねぇーよ」

 

 

耳郎が申し訳なさそうに謝って来たが、ホントに彼女が気にする事じゃあない。ヒーローや警察の中には俺の頭がおかしくなったんじゃないかとか失礼な事言って来た奴等もいた。俺からしたら信じてくれているだけで有難い。

 

 

「それより、あまり“個性”を人前で使わない方がいいぞ?警察にでも見られたら面倒だしな」

 

 

“個性”は身体能力の一部だと言われているが、基本的に公共の場での“個性”の無断使用は違法とされている。当然傷つけるなどは論外だ。耳郎がやるとは思っていないが、“個性”は身体能力の一部とは言え簡単に人を殺せる力だ。だから法律で厳しく取り締まられている。

まぁ、それを守らずに(ヴィラン)になる者も多いのがこの世界なんだけどな……。

 

 

「んじゃ、早いとこ学校行こうぜ。遅刻したら先生がうるせぇ〜からな」

 

「うん。分かった」

 

 

その後は特に何事も無く現在通っている小学校に到着した。それからは普通に学校の授業を受け、学校が終わるのを待つ。前世では大学生だったので、小学校の勉強はかなり楽だ。

そして数時間後、下校の時刻を迎える。

 

 

「狭間奪、一緒に帰んない?」

 

「あぁ、別にいいぞ」

 

 

今日も耳郎に誘われて一緒に下校する。まぁこいつの家は俺の家の近所だからな。途中までは通学路が一緒なのだ。

今朝歩いて来た通学路を耳郎と一緒に話をしながら戻って行く。

 

 

「……あ?………ッ!!?」

 

 

その途中、俺達が進む先から1人の4本の丸太の様な腕を持った“異形型”と呼ばれる系統の“個性”の男性がふらふらとした足取りで歩いて来るのが目に入った。それだけならまだいい。この道は滅多に人は通らないが、通る時は通るからな。

 

だが、こいつは明らかに異常だ!

 

口から泡吹いてるし、目は血走って焦点が合ってないし、なんかブツブツ言いながら歩いてるんだぜ?

普通に考えてヤバいと思うだろ!?

 

 

「ね、ねぇ……何?あの人……」

 

「さ、さぁな。俺には違法薬物かなんかやってて正気を失った奴に見えるが…?」

 

 

多分俺の答えは正解だと思う……じゃねぇーわ!!どうすんだこの状況!あれが攻撃してこない可能性は限りなく低い!だって何かこっち見ながら飢えた肉食獣みたいな唸り声上げてるんだぞ!?

 

 

「………耳郎、この近くに確かヒーロー事務所あったよな?お前はそこまで全速力で走って助けを呼んで来い」

 

「お、お前はって……狭間奪はどうすんの!?」

 

「俺はちょっとだけ野郎の相手を……ッ!?ヤバッ!!」

 

 

男は近くにあった道路標識を引っこ抜きながら俺達に接近し、それを俺達に向かって振り下ろして来た。俺は耳郎を引っ張ってなんとかこれを躱したが、俺達が立っていた場所には道路標識がめり込んでいた。

 

 

「耳郎!早く逃げろ!こいつはマジにヤバい!」

 

「で、でも……!!」

 

いいから早く行けェ!!そんでもって、ヒーローや警察にこの事を伝えろ!!

 

「ーーーッ!!」

 

 

ちょいと強く言い過ぎた気もしなくもないが、涙を浮かべながらも耳郎はヒーロー事務所がある方向へ走り出した。男は逃げる耳郎に目を向けるが、俺に狙いを定めたのかすぐに俺に向き直る。

 

 

(さてと、耳郎をここから逃がせたのはラッキーだが……コレ、どうしたもんかなぁ?)

 

 

俺は目の前の殺る気満々の野郎を見ながら冷や汗を流し、この後どうするか考えるのであった。



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No.3 “Dirty Deeds Done Dirt Cheap”

ガアァァァァァァァ!!!

 

「ウワッ!?っと、取り敢えず逃げるしかねぇーか!」

 

 

横薙ぎに振るわれた道路標識をしゃがんで回避し、野郎の脇を抜けて走る。正面から戦うのは“無個性”の俺にはパワー的に無理がある。道路標識を引っこ抜いて武器にする様な奴だからな。

 

 

(とにかく耳郎がヒーローと警察を連れて来るまでの時間を稼がねぇーとな。しかし俺、生き残れっかな?)

 

 

俺は奇声を上げながら追って来る奴をチラッと見る。正直滅茶苦茶怖い。だが幸い奴は足がふらついてあまり早く走れねぇーのか、すぐに追い付かれるなんて事はない。普段から体鍛えといて良かったぜ。

 

 

「……ッ!うおッ!!?」

 

 

嫌な予感がして少し頭を下げると、奴が投げたと思われる道路標識が俺の髪を少し擦りながら頭上を猛スピードで通過して行った。もし頭を下げてなかったら俺確実に死んでた!

 

 

(冗談じゃあねぇーぞこのカ○リキー擬き野郎!テメェマジで俺を殺す気じゃあねぇーか!)

 

 

どうする!?何か物でもぶつけるか?だがランドセルの中には教科書と筆箱ぐらいしか入ってねぇーし、例えそれ等を投げたとしても奴のあの太い4本の腕に簡単に防がれちまうのがオチだ!

やっぱ今はこのまま走って時間を稼ぐしかねぇ!このまま人があまり通らない道を通りながら耳郎と別れた場所に戻って、そこから耳郎が通った道を辿れば耳郎が呼んだ助けに出会える筈だしな!……多分………きっと。

 

 

ガシッ!!

「は?…ヒデブッ!!?

 

 

俺は顔から地面に転んでしまった。幸い鼻血は出てないが、メッチャ痛い!てか誰だよ今俺の足を掴んでんのは!?

俺は鼻を抑えながら自分の足を見て、固まった。何故なら俺の足を掴んでいたのは奴の腕だったからだ。

 

 

(な、なんで奴の腕が俺の足を掴んでんだ!?野郎と俺の間は少なくとも5m以上(・・・・)はあった筈………ん?)

 

 

改めてよく見てみると、奴の腕が俺の足を掴んでいる理由が理解出来た。

奴の腕が伸びてやがった(・・・・・・・・)!奴の方をみると4本あった腕が俺の足を掴んでる右腕1本のみになっている。つまり、奴の“個性”は……!

 

 

「(4本の腕を減らすほどその分残りの腕の長さを伸ばせる“個性”って事かよ!?)ぐっ!?うおおおおぉぉぉぉぉ!!?」

 

 

俺はそのまま足を引っ張られ、一度上に上昇してからそのまま地面に叩き付けられた。激しい痛みに動けずにいると、奴が俺に拳を振り下ろして来た。俺は防ぎ切れないと分かっていながらも腕を顔の前に持って来て防御の構えを取り、襲ってくる痛みと衝撃に備えた。

 

 

ドゴン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

 

凄まじい音がしたのに痛みや衝撃が全く襲って来る気配がない事に疑問を抱きながら俺は防御の構えを解き、体を起こして周囲を見回すが、どこにも奴の姿は無い。

 

 

「み、見逃された?……訳ねぇーよな。最後のパンチは完全に俺を殺す気で打ってたと思うし、だとしたらあいつどこ行った?」

 

 

突然奴が消えた事に疑問を抱いていると、背後から驚いた様な声が聞こえて来た。

 

 

「…は?え!?どういう事だ!?」

 

「あ?……はぁ!?

 

 

振り返ると俺も目を見開いて驚いた。てか驚くしか無い。なんせ俺の背後にいたのは……。

 

 

「「なんで俺が2人いるんだ!?」」

 

「え!?狭間奪が2人!?どうなってんの!?」

 

 

驚いた表情で俺を見ているもう1人の俺と耳郎(・・・・・・・・・)だったからだ。

 

 

(……いや、待って!ホント待って!?意味が分からん!なんで俺がもう1人いるんだ!?耳郎はヒーロー事務所に向かったんじゃないのか!?)

 

 

様々な疑問が次々と浮かんで来るが、答えを得る事が出来ない。ちょっとしたパニックに陥っていると、背後からまたあの視線を感じた。紛れも無い、いつも感じているあの誰のものかも分からない視線だ。俺は反射的に振り返ると、そこにはちゃんと視線の主がいた。

 

 

「な!?お、お前は………!?」

 

『……………』

 

 

 

 

 

 

4本の腕を持つ男…四肢寺(ししでら) 縮伸(しゅくしん)は自分が殴った場所と自身の腕を交互に見ながら首を傾げていた。違法薬物の乱用によって錯乱状態にある彼はたった今、捕らえた小学生の男の子…狭間奪 幽義を殺すつもりで拳を振り下ろしたのである。

しかし殴った瞬間、狭間奪の姿はまるで最初からいなかったかの様に綺麗サッパリ消えて(・・・)しまったのだ。

 

 

「フゥー…!?フゥー…!?」

 

 

何処だ?何処へ行った?と四肢寺は息を荒くして周囲をキョロキョロ見回す。だがどこにも狭間奪の姿どころか人影1つ無かった。やがて狭間奪を見つけるのを断念し、歩き出した。

 

 

「フゥー…!フゥー…!………?」

 

 

その時、道端にあったものに彼の目が止まる。それは誰かが捨てた新聞紙だった。錯乱状態で自分が何をしているのかも分かっていない彼は、何故かその新聞紙が気になってジッと見つめる。

 

その時………。

 

 

「ドジャアア〜〜〜ン……」

 

「……ッ!?!?!?」

 

 

突然新聞紙の下から(・・・)狭間奪がそんな声を上げながら現れ、四肢寺はそれに驚いて飛び退いた。

 

 

「よお?また会ったなこの野郎。借りを返しに来たぜ」

 

 

狭間奪は先程と違って余裕そうな笑みを浮かべながら四肢寺を睨んだ。四肢寺は突然現れた事に驚きはしたが、次の瞬間にはやっと見つけた狭間奪に殴り掛かっていた。

 

 

「ガァッ!!?」

 

 

だがその腕は狭間奪から約2m手前で止まってしまった。まるで見えない何者か(・・・・・・・)に受け止められたかのように。

 

 

「どうした?殴って来ねぇーのか?ならこっちから行かせてもらうぜ!!“D4C”

 

「グペッ!!?」

 

 

狭間奪がそう叫ぶと、四肢寺は体中に凄まじい衝撃を受けて吹っ飛ばされた!そのまま彼は近くに設置されていた自動販売機に激突すると、完全に気を失ってしまった。

 

 

「“Dirty Deeds Done Dirt Cheap(いともたやすく行われるえげつない行為)”……これがテメェーをぶっ飛ばした俺の“能力”の名前だ」

 

 

狭間奪はそう言うと、「ふぅ…」と小さく息を吐いて壁に背を預けるように座り込んだ。

数分後、耳郎に通報されて駆け付けたヒーローと警察達によって狭間奪は保護され、気を失った四肢寺は無事……ではないが逮捕された。



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No.4 “ホワイトスネイク”

「はぁ〜……とんだ1日になっちまったなぁ」

 

 

カイ○キー擬き野郎をぶっ飛ばしてから数時間後、事情聴取や怪我の治療その他諸々を終えて漸く家に帰って来れた俺は、自室のベッドに座りながら深い溜息を吐いた。

 

 

「さてと……“D4C”」

 

 

俺がそう呟くと、俺の目の前に巨大な2本の角がウサギの耳のように生えた頭部と全身にある縫い目状の模様が特徴的な白い人型が出現した。

 

幽波紋(スタンド)

 

俺が前世で好きだった漫画、【ジョジョの奇妙な冒険】に登場する特殊な能力を持ったパワーある(ヴィジョン)…まぁ簡単に言えば特殊な能力を持った守護霊の様なものだ。

 

そして俺の目の前にいるウサギの耳の様な角を持つこのスタンドの名前は、“Dirty Deeds Done Dirt Cheap”。日本語に訳すと『いともたやすく行われるえげつない行為』だ。ご覧の通り名前が長いので、英文の頭文字を略して

D4C(ディー・フォー・シー)”と呼ばれている。

 

この“D4C”は第7部『スティール・ボール・ラン』に登場するラスボス…ファニー・ヴァレンタイン大統領のスタンドだ。

そしてこいつは、物体に挟まれる事で、“平行世界”を自由に行ったり来たり出来る能力を持っている。

 

 

「……いや、なんで俺が使えんの?」

 

 

お前前世の漫画の中の能力だろーが。明らかにジョジョと全く関係ないこの世界に存在してていいのか?

まぁ、俺の好きな漫画の能力だし、漫画読んでてついポーズ真似してスタンドの名前を言ったりするぐらいにはスタンドは好きだけどさぁ?

 

 

「ひょっとして、転生したから神様がサービスしてくれたとか?いや、それ以外にあり得ないな」

 

 

実際に会った訳じゃあないけどありがとう神様。これでもし今日みてぇーに(ヴィラン)に襲われてもなんとかなりそうだ。

 

 

「でも本音を言えばもっと早く能力発現してて欲しかったがな。毎日誰のものかも分からない視線を受けてた所為で、今じゃ視線に敏感になって………あん?待てよ?」

 

 

俺は毎日何処に居ても必ず2人分(・・・)の視線を感じていた。確かに2人分の視線だった。間違いない。

そして、内の1つがこの“D4C”だったとして………。

 

 

「…………じゃあ」

 

 

もう1つの視線(・・・・・)は誰の視線だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時よ止まれぇ!“ザ・ワールド”ォ!!!

 

 

狭間奪は前世の漫画やアニメで見た第3部のラスボス吸血鬼のポーズを頑張って真似しながらそいつのスタンドの名前を叫んでみた。

 

・・・しかし、何も起こらなかった。

 

 

「…………恥っず!!何やってんだ俺?」

 

 

バカか俺!?バカ俺は!?“D4C”が発現してる俺が“ザ・ワールド”なんか使える訳が無いだろうが。スタンドは1人に1体!これがスタンドの基本ルールだろぉーが!

 

 

「じゃあ、あのもう1つの視線は誰の視線だ?俺はてっきりもう1体スタンドを持っていると思ったんだが……」

 

『……ハイ、ソレデ間違ッテオリマセン』

 

うおぉい!!?

 

 

俺は突如背後から声が聞こえたので、ビックリして座っていたベッドから飛び退いた。慌てて俺が座っていたベッドを見ると、そこには塩基配列の描かれた包帯状のラインが全身に走り、 顔の上半分や腰の辺りなどが紫色の装飾品で覆われている人型のスタンドが俺を見下ろしていた。

そいつを見て俺は目を見開いた。何故ならそいつは“D4C”と同じく、ラスボスが持っていたスタンドだったからだ。

 

 

ホ、“ホワイトスネイク”!!?

 

 

“ホワイトスネイク”。第6部『ストーンオーシャン』のラスボスであるエンリコ・プッチ神父のスタンドだ。

こいつの能力はかなり強力で、“ホワイトスネイク”が対象に触れる事で、そいつの記憶やスタンド能力をDISCとして抜き出す事が出来、それを他者へ挿入する事で、DISCの中にある記憶やスタンド能力さえも与える事が出来る。

 

神様、“D4C”はまだいいとして、“ホワイトスネイク”まで俺に与えるのは流石にやり過ぎではありませんか?俺は別にラスボスになりたい訳じゃあないんだけど?

 

 

「てかお前、自我があるのか?」

 

『ハイ、自我ハアリマス。御主人様…』

 

「ご、御主人様……責めて名前で呼んでくれ」

 

『デハ、幽義様ト……』

 

 

第6部のラスボスのスタンドに『御主人様』って呼ばれるのはなんか複雑な感じがする。つーか俺マジでスタンドを2体も持っているのか?しかもチート能力のスタンドを……?

 

 

『ハイ、幽義様ニハ、私ト“D4C”…2体ノ スタンド ヲ持ッテオリマス』

 

「あ、俺の考えてる事分かっちゃう感じ?」

 

『私ハ、貴方ノ スタンド トナッテオリマスカラ……』

 

 

そういうもんなのか?いやスタンド持つ事自体初めてだからそこら辺は知らないけどよ。

 

 

「……ん?なぁ“ホワイトスネイク”。お前の能力は人の記憶やスタンドをDISCとして抜き出す事出来たよな?この世界にはスタンドじゃあなく“個性”って力を持ってる奴が殆どなんだが…“個性”はDISCとして抜き出せるのか?」

 

 

もし可能ならこの世界ではほぼ無敵の能力だ。どんなに強い“個性”を持っていたとしても、“ホワイトスネイク”が触れるだけで“個性”はDISCとして抜き出され、相手は“無個性”になるんだからな。

すると“ホワイトスネイク”は首を横に振って俺の質問に答えた。

 

 

『不可能デス。私ニ出来ルノハ、対象ノ記憶ト スタンド ヲ抜キ取ル事ダケデス。ツマリ私ノ能力ハ、精神ニ影響ヲ与エルトイウ ジャンル ノ能力。ナノデ、精神ガ強ク影響スル スタンド シカ抜キ取レマセン』

 

「ですよね〜………」

 

 

ていうか、今思えばそもそも“個性”はどちらかと言えば身体能力だしな。“個性”まで奪えたら完璧チート能力だし。

 

 

『デスガ、命令ヲ書キ込ンダDISCヲ挿入スレバ、一時的ニ“個性”ヲ封ジル事ハ可能デス』

 

「前言撤回、やっぱり“ホワイトスネイク”はチート能力だ」

 

 

つまりどれだけ強い“個性”を持っていたとしても、『“個性”の使用を禁ずる』なんて命令を書き込んだDISCを挿入さえすれば、そいつは一時的とは言え“無個性”同然になるって事だからな。

 

 

「ま、これからよろしく頼むぜ?“ホワイトスネイク”、“D4C”」

 

『畏マリマシタ。幽義様…』

 

 

こうして俺はチートなスタンドを2体も手に入れてしまいました。



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No.5 スタンドDISC

お知らせ。

仕事の都合で、今後投稿ペースが有り得ない程下がります。誠に申し訳ありません。


俺がスタンド使いになってから数年の月日が経過し、現在俺は中学2年生になった。今は辺須瓶(べすびん)中学校に通っている。

 

 

「幽義、一緒に帰んない?」

 

「あぁ、いいぜ」

 

 

今日も全ての授業を終え、帰る用意を済ませて下駄箱で靴を履き替えていると、響香に誘われて一緒に下校する。あの事件の日から、響香との仲は更に良くなった。今ではこんな風に互いに名前で呼び合うくらいには仲が良くなっている。

 

 

「あ、そうだ幽義。今DISC(・・・・)は何枚集まったの?」

 

 

いつも通り通学路を歩いている途中、響香がそう聞いてきた。彼女には俺のスタンド能力について話している。俺のスタンド能力について知っているのはこの世界で響香と俺の両親だけだ。

因みにこのスタンド能力は書類上では、“個性”【守護霊】となっている。

 

そして響香の言っているDISCとは、もちろん俺の“ホワイトスネイク”の能力の事だ。俺はこの数年間、ずっと“D4C”と“ホワイトスネイク”とは違う(・・)スタンド能力のDISCを集めている。

一応言っておくが、この世界では未だにスタンド使いに会った事はない。ならどうやってスタンドのDISCを手に入れているのか?

 

答えは『“平行世界”の俺から能力を貰っている』だ。

 

漫画の中ではヴァレンタイン大統領が、本来のスタンドとは全く違うスタンド能力を持った人物を“平行世界”から連れて来た場面がある。この事から、“平行世界”には“基本世界”とは違う能力を持った自分も存在する可能性があると俺は考え、その日から幾つもの“平行世界”を移動して別のスタンドを持った自分を捜し始めた。

 

 

そして約2ヶ月後、遂に俺は別のスタンド能力を持ったもう1人の俺に出会った。

………が、ついでに人生最大の恐怖を味わった

 

その世界の俺は“ザ・ワールド”を持っていたんだが、性格や強さ、更には殺気などなどまで全てDIOみたいになっていた上、その世界を既に完全支配して闇の帝王の如く好き勝手やってたんだよな。だからいきなり殺気満々で背後から話しかけられた時は生きた心地がしなかったぜ。

なんとか“基本世界”に逃げ帰れたが、あれ以来どんな事にもビビッたり怯えたりしなくなっちまったよ。今なら凶悪な連続殺人犯が全力の殺気放ちながら殺しに掛かって来ても、鼻で笑ってから“D4C”で殴り飛ばすくらい簡単に出来るだろうよ。

 

まぁ取り敢えず他のスタンドを持った俺がいるって事は分かったから、その後はスタンドのDISC集めを開始した。“ホワイトスネイク”によれば普通は無理だが俺なら複数のスタンドを持つ事が可能らしいからな。

因みにスタンド能力を抜き取っているのは、スタンド能力を悪用している俺からだけだ。会う確率は非常に低いし普通に強いが、あの“ザ・ワールド”の俺に比べたらどうって事なかったので、なんとか倒してDISCを回収した。

 

 

「今はまだ3枚だけだ。やっぱスタンド能力を悪用している俺を見つけるのは難しくてなぁ……戦闘時に協力してくれる奴なら12人は見つかったが」

 

「へぇ〜?やっぱり幽義は別の世界でもいい奴の方が多いんだね」

 

 

響香はどこか嬉しそうな表情でそう言ってくれたが、俺としてはスタンドDISCは出来るだけ集めたい。自分が色んなスタンドを使ってみたいってのももちろんあるが、もしもの時の手札は出来るだけ増やしておきたい。

 

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけどよぉ〜?DISCが全然集まらないのはなぁ」

 

「でも協力者が出来たのはいい事じゃない?それにスタンド使いなら、ここ(・・)にも1人いるでしょ?」

 

 

響香がそう言うと、彼女の背後にダイバーの様にアクアラング・シュノケールを装備し、体中のあらゆる所に『D』の文字がデザインされている人型が現れた。

 

“ダイバー・ダウン”。第6部『ストーンオーシャン』に登場するナルシソ・アナスイのスタンドだ。人や物の中に潜り込む能力を持っており、内部から操ったり組み替えたり力を解き放ったりする事で攻撃する事が出来る。

響香はヒーローを目指しているんだが、彼女の“個性”はあまり近接戦闘に向いていなかったので、“平行世界”で銀行から金を盗みまくっていた俺から回収した近距離パワー型の“ダイバー・ダウン”のDISCをプレゼントした。

因みに俺も彼女と同じくヒーローを目指していたりする。

 

 

「まぁ、響香もそいつの操作には慣れて来たみたいだしな。だが“平行世界”の俺はいつでも呼べる訳じゃあない。あいつ等はあいつ等で自分の生活があるからな」

 

「あ、そっか。あくまで別の世界の幽義だもんね」

 

「あぁ………っと、着いたな」

 

 

話をしている内に響香の家の前に着いた。彼女も気付いていなかったのか、少し驚いた表情をしている。

 

 

「うっわ!話し込んでて全然気付かなかった」

 

「んじゃ、また明日学校で会おうぜ」

 

「うん、また明日。あんまり無茶しないでよ?」

 

「善処するよ……」

 

 

俺はそう言うと響香と別れて自分の家を目指した。

 

 

 

 

 

 

俺の家から少し離れた場所に、とあるそこそこ広い公園がある。数年前まではそれなりに人がやって来る公園だったが、ある日を境に公園のあちこちで血が飛び散っていたり、時々誰かの苦しげな声が聞こえて来たり、いきなり目の前に落ちていた物の下から人の手がにょっきり出て来たりなどなど……その様な噂が広まって皆が気味悪がり、誰も寄り付かなくなった。

だが、俺はこの公園には今も通っている。それも毎日だ。

 

何故って?

 

 

 

 

 

 

 

 

噂の原因、全部俺だから。

 

血は俺が今持っている3枚のスタンドDISCを回収する際に俺が負った怪我によるもの。苦しげな声は同じく怪我した時の俺の声。最後のはもちろん“D4C”の能力で“基本世界”に戻って来た時に偶々通行人が見た俺の手。

 

いやぁ……まさかこうなるとは思わなかった。最初は申し訳なく感じてすぐに真実を打ち明けようとしたが、その時既に人が寄り付かなくなり、ネットでは悪霊が出る公園で有名になってしまっていたので諦めた。

今では俺が“平行世界”へ行く時に利用している。

 

 

「……はぁ。またハズレだった」

 

 

そして俺は今日もまた、公園に落ちていた古新聞と地面の間から“平行世界”から帰って来た。

別のスタンドを持った俺がいる世界見つけるのは難しく、更にそこまで遠い世界へ行くにはかなりの時間とエネルギーが必要になる。だから何度も連続で探しに行かないのが欠点だ。一度行った世界へ次からは1発で行けるってのはラッキーだったがな。

 

 

「ふぅ……少し休憩してからもう1回だけ行くとするか。…………あん?」

 

 

ふと視線を感じたので振り返ってみると、水色の捻れたロングヘアが特徴的な美人の女性がなんかキラキラした目でこっちを見てた。

 

・・・え?誰?



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No.6 3人目のスタンド使い

「ねぇねぇ!今貴方、そこの古新聞の下から出て来たよね?どうやって出て来たの?それって貴方の“個性”?とっても不思議!ひょっとして“個性”の練習をしてたの?あ、じゃあこの公園に出る幽霊ってもしかして貴方の事?ねぇねぇ答えて!私気になる!」

 

 

水色のロングヘアーの彼女は一気に俺に近づいて来て次から次へと質問を投げかけて来た。

 

 

「近い近い近い!!そんなにグイグイ迫って来るんじゃあねぇー!!つーかお前誰だ?」

 

「え?……あ、そっか。自己紹介をしてなかったね。私は波動(はどう) ねじれ!雄英高校の1年生だよ」

 

「あんた雄英の生徒だったのかよ……あー、俺は狭間奪 幽義。中学2年生だ」

 

 

俺は彼女が雄英高校の生徒だという事に少し驚きながらも、自分の名前を名乗り、彼女が投げかけて来た質問に1つずつ答えていった。スタンド能力については“個性”【守護霊】として話して構わない部分だけ話した。

代わりにこっちも色々話を聞いた。彼女は偶々この近くに用事があって、その用事を終えて帰える途中、ネットで知った公園の幽霊の話を思い出し、気になってここに来たらしい。だが幾ら探してもお目当ての幽霊が見つからず、諦めて帰ろうとした所に俺が“平行世界”から帰って来たのを見たらしい。どうやらかなり好奇心旺盛な性格の様だ。

 

 

「それにしても色々な能力を持った守護霊を操る“個性”かぁ〜。使う能力によってはとっても強くて応用の効く“個性”だね!幽義くんはもしかしてヒーロー志望?」

 

「あぁ、一応親友と一緒に先輩のいる雄英高を狙ってる所だ。再来年には雄英の学校で会えるかもな」

 

 

まぁ、雄英高校のヒーロー科は日本中の中学生が狙っているから、ちゃんと受かるかどうかは分からねぇーがな。

だが、ヒーローになるって決めたからには、全力で合格を狙うつもりだ。

 

 

「へぇ〜〜!じゃあさ、私と一緒にトレーニングしてみない?」

 

「あ?あんたと?」

 

「うん!私これでも結構強いし、戦い方や体の動かし方とか色々教えられると思うの。それに貴方は不思議な事がいっぱいだから、面白そうだし!」

 

 

確かに彼女はあの雄英高校の1年生だ。そこらの高校生よりはずっとヒーローになる為に必要な知識や技術を持っているだろう。俺は既に“平行世界”でスタンド能力を悪用する俺と何度か戦っているが、殆どスタンド能力任せの戦い方だ。近接戦闘が苦手って訳じゃあねぇーが、1人でトレーニングするより2人でやった方が互いに動きの悪い癖とかに気付けるだろう。雄英を狙っている俺からしたら乗ってもいい話だ。

………面白いかどうかはしらねぇーがな。

 

 

「………じゃあ、よろしく頼むぜ。波動先輩」

 

 

 

 

 

 

その日から俺は、例の公園で波動先輩と一緒にトレーニングをする様になった。“平行世界”へスタンド使いを探しに行く回数は激減したが、得られたものは多かった。

お陰で自分で気付いていなかった戦闘の際の動きの癖やパターン化などの改善に成功し、スタンドを悪用していた“平行世界”の俺に苦戦する事なく勝てた上にDISCを何枚か回収出来た。内1枚は波動先輩にスタンド使いになれる素質があったのでプレゼントした。

 

与えたスタンドの名前は“スパイス・ガール”。第5部『黄金の風』に登場したトリッシュ・ウナのスタンドだ。その能力は触れた物体を柔らかくする能力。鋼鉄だろうがガラスだろうが、“スパイス・ガール”が触れればゴムの様に弾力を持たせるくらいから、原形が無くなる程にまで柔らかくする事が出来る。

この世界で3人目のスタンド使いになったという事で、中学3年生になる頃には響香にも波動先輩を紹介した。最初は何故今まで黙っていたんだと怒られたが、波動先輩とはちょっとトイレに行っている間に仲良くなっており、そっからは響香も一緒にトレーニングをする様になった。次いでに波動先輩にもスタンドの事について説明はした。

 

そして今日は、雄英高校の試験の前日。俺達3人は今日の分のトレーニングを終え、すっかり俺達のトレーニング場と化した公園こベンチに座って休んでいた。

 

 

「いよいよ明日は試験だね〜」

 

「そうだな。筆記の後に実技があるらしいが……いったい何をやらされるのやら」

 

「でも、幽義なら簡単にやってのけそうだけどね」

 

 

隣に座っていた響香の言葉に波動先輩が「確かにそうだね」なんて言いながら頷いた。

 

 

「確かに俺にはスタンド能力があるが、出来ない事も多いんだぞ?」

 

「でも“平行世界”から別の能力を持った自分を連れて来れるだけでもチート過ぎるでしょ?それにスタンドを複数持てるし……」

 

「幽義くんが受からなかったら、多分今年の合格者は0人になる気がするなぁ〜」

 

「んな訳あるかよ。まだまだ俺は弱いっての……………おい、なんだその目は?」

 

 

なんでそんな『本気で言ってる?』とでも言いたげな目で俺を見たんだよお前等?

 

 

「「それ、本気で言ってる?」」

 

「口に出しやがったなお前等…」

 

 

実際まだまだ強い俺が“平行世界”には沢山いるんだぞ?“ザ・ワールド”の俺とか、“パープル・ヘイズ”の俺とか、“グリーン・デイ”の俺とか………あ、後既に俺が死んでいた世界にいた暴走中の“ノトーリアス・B・I・G”とかな。あの“ノトーリアス・B・I・G”、力が強くなり過ぎていた所為か知らねぇーが、DISCに出来なかったし。

 

 

「まぁ、幽義が常識知らず「おい」なのは置いといて……2人共明日の試験、絶対受かってね!」

 

「あぁ、勿論だぜ!」

 

「絶対に受かってみせる!」

 

 

そして、いよいよ試験の日がやって来た。



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No.7 実技試験開始

今日は試験当日。筆記試験を終えた俺と響香は、講堂で“ボイスヒーロー”プレゼント・マイクによる次の実技試験の説明を聞いていた。

 

 

受験生のリスナー!今日は俺のライブによーこそー!!エヴィバディセイ!ヘイ!!

 

 

だが、説明してくれているヒーローが滅茶苦茶うるさい。しかも誰も返事を返していない。多分緊張を解そうとしてくれているんだろーが………流石に試験の説明時に返すのはな。

 

実技試験の内容は至ってシンプルだった。それぞれ指定された会場へ移動し、そこに多数配置されている3種類のロボット…仮想敵(かそうヴィラン)を行動不能にして、それに割り振られているポイントを稼ぐというものだった。

そして各会場に1体ずつ“0P”の仮想敵が配置されており、所狭しと大暴れしているらしい。こいつはギミックとして配置していると説明されたが、俺の勘が何かがあると訴えて来る。こいつには注意した方が良さそうだ。

因みに俺の試験会場はDで、響香の試験会場はCだった。同じ学校や友人同士で協力させないつもりらしい。

 

 

『俺からは以上だ。最後にリスナーへ、我が校の校訓をプレゼントしよう!かの英雄…ナポレオン・ボナパルトは言った!“真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていくもの”と!!

更に向こうへ………

 

Puls Ultra!!!

 

それでは皆!良い受難を……』

 

 

 

 

 

 

…って事で、響香と別れて試験会場に来たんだがよぉ。

 

 

「これ、ホントに学校が用意した試験会場かぁ?明らかに試験会場っつーか……町じゃあねぇーか」

 

 

高いビルは建ち並び、舗装された道路に街灯や街路樹、更にはデパートやコンビニ、電柱なんかまである。波動先輩から普段の授業ではあらゆる場面を想定して作られた演習場が敷地内に沢山あるって聞いていたが、予想の斜め上どころか真上を行っちまったぜ。どんだけ金持ってんだこの学校はよぉ?

 

 

『はいスタートォォ!!!』

 

「ッ!?」

 

 

会場を観察していた俺の耳にプレゼント・マイクによる開始の合図が入って来たので、俺は反射的に会場内に向かって走り出した。他の受験生達は皆、突然の合図に理解が追いついていないのか、まだその場を動かない。

 

 

『どーした!!?実戦にカウントなんざねぇーんだよ!!走れ走れ!!賽は投げられてんぞぉ!!?』

 

 

その言葉を聞いてやっと他の受験生達も動き出した。正直俺も危なかった。まさか試験でカウントがないなんてな。だが確かに実戦ではカウントなんざ存在しないし、この試験はヒーローを目指している者の試験だからな。少し油断し過ぎていた。

 

 

「んじゃ……こっからは本気で合格を狙うぜ!!

“D4C”!!」

 

 

俺は一度立ち止まって側に“D4C”を出し、自分が着ていたコートを空中に投げた。そして落ちて来るコートと地面に挟まれて“平行世界”へ行き、服装と髪型が違う4人(・・)の俺を連れて戻って来た。

 

 

「んで?呼び出されたはいいが、試験の内容を説明してくんねぇ〜か?」

 

「そぉ〜だなぁ。俺達はみんな、試験が明日(・・・・・)なんだからよぉ」

 

 

オレンジ色の髪に両脇腹部分に穴が開いている薄いピンク色のシャツを着た俺と、黄緑色の髪に二の腕部分がやたらトゲトゲしている白い服を着た俺が試験の内容の説明を求めて来る。彼等は全員、試験のある日が明日(・・)になっている“平行世界”から連れて来たので、誰も今行っている試験の内容を知らないのだ。

 

 

「あぁ、簡単に纏めると、この町みてぇーな試験会場に多数配置されている仮想敵っつーロボットをブッ壊して、ポイントを稼ぐ感じだ」

 

「成る程……つまりより多くのポイントを稼げばいいんだな?この俺のスタンドにピッタリな試験じゃあねぇーか」

 

「それなら俺のスタンドも一緒だろ?相手が生き物じゃないなら俺もやり易い」

 

 

俺の説明を理解した金髪に肩に『兆』と文字が書かれた改造学ランを着た俺と、白髪で『ENIGMA』という文字が書かれたコートを着た俺がニヤリと笑う。確かに2人のスタンドはこの試験ではかなり有利かも知れないな。

そう思っていると、ちょうど2P仮想敵が少し先の角から現れ、俺達5人の姿を捉えた。

 

 

『標的捕捉、ブッ殺ス!!』

 

「ふん!随分口の悪いロボットじゃあねぇーか。ちょうどいい、“バッド・カンパニー”!!」

ザッ!!

 

 

改造学ラン姿の俺がそう叫ぶと、彼を中心に小さな軍隊が出現した。

 

“バッド・カンパニー”。第4部『ダイヤモンドは砕けない』に登場する虹村(にじむら) 形兆(けいちょう)の武装した歩兵60人、M1エイブラムスと呼ばれる戦車7輌、AH-64 アパッチと呼ばれる戦闘ヘリ4機で構成されたミニチュア軍隊のスタンドだ。攻撃による怪我は本物の兵器より小さいが、その威力は本物。更に射程距離が長く、群体型のスタンドの為、歩兵が1人2人倒されても本体にはダメージは及ばない。

 

 

「目標、正面の仮想敵!全部隊、一斉射撃よ〜〜い!

………ファイア!!」

 

 

“バッド・カンパニー”はその号令通り、仮想敵に向けて無数の銃弾、砲弾、ミサイルが放たれた。目標だった2P仮想敵はその攻撃によって徹底的に破壊され、バラバラになって道路に転がった。

 

 

「見た目より装甲は薄い様だな。これならアパッチ1機でも事足りそうだ」

 

 

成る程…つまり戦闘向きじゃない“個性”の連中の為に壊れ易く作られているのか。

 

 

「そうか……ならバラバラに行動した方が良さそうだな。そろそろ他の受験生も仮想敵と戦い始めただろぉーから、急ぐぞお前等」

 

「了解だぜ!」

 

「任せな!」

 

「やってやんよ!」

 

「腕がなるぜぇ!!」

 

 

連れて来た“平行世界”の俺達はそのまま別れて仮想敵を破壊しに向かった。後でジュースでも奢ってから元の世界に返すとするか。

 

 

「んじゃ、俺も行くか!」

 

 

そして俺も仮想敵をブッ壊す為に走り出した。

試験はまだ、始まったばかりだぜ!!



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No.8 試験終了

ここは、各実技試験会場の様子を観察出来るモニター室。巨大なモニターの前には多数の椅子が設置されており、そこに試験官及び雄英高校の教師勢が各試験会場の様子をモニターで観察していた。

だが、今このモニター室にいる教師や試験官達はある1人の少年……狭間奪 幽義に注目していた。

 

 

「このD試験会場の子、いったいどんな“個性”なんですか?」

 

「コートの下に消えたかと思えば、服装こそ違うが全く同じ顔の人間を4人も連れて再びコートの下から現れて、別々に行動しだした。分身の類の“個性”なのか?」

 

 

巨大なモニターには現在、“基本世界”の幽義と、“平行世界”から連れて来られた4人の幽義達が映し出されている。皆それぞれ自分のスタンドを使って仮想敵をブッ壊しまくっているが、スタンドはカメラに映っていないので、教師達は幽義が破壊している事は理解出来ているが、どうやっているかが分かっていない。

 

 

「確認取れました。彼の“個性”は【守護霊】。特殊な能力を持った守護霊を操る事が出来るそうです」

 

「特殊な能力……という事は、この分身?みたいなのもその守護霊の能力って事になりそうね」

 

「うん、しかもこの分身達もそれぞれ別の守護霊を持っているようだね」

 

 

最前列のど真ん中にチョコンと座っていた真っ白な毛並みの服を着た犬…いや、ネズミ?が興味深そうに5人の幽義達の映像を見る。

 

 

「本体らしき1番の映像の彼は近付く仮想敵をおそらく守護霊に殴らせたりしているんだろうけど、この2番の映像の彼は仮想敵の腕や足を止める…いや、この場合は固定する(・・・・)が正しいかな?そうして動きを止めてから1番と同じ様な攻撃をしている。3番の彼は仮想敵を空気が抜けた風船みたいにしているし、4番の彼は他の映像の彼等より一度に多くの仮想敵を粉々に破壊している。5番の彼は仮想敵を()に閉じ込めているみたいだね」

 

「なんと…ッ!?では彼は複数の“個性”を持っていると言っても過言ではないではないですか!!」

 

 

ネズミ…雄英高校の校長、根津(ねず)校長の言葉を聞いて、モニター室にいる全員が驚き、幽義達に視線を向ける。

 

 

「うん。それにスタートの合図に反応出来た2人(・・)の内の1人……それにおそらく分身同士で戦う訓練をしているのか、戦い慣れている感じがするね」

 

「だとすると、今年はかなりの豊作になりそうじゃない?」

 

「いや、まだ分からんよ?」

 

 

そう言ったのは根津校長の隣の席に座っている金髪のミイラの様な男性教師だった。彼は映像を見ながら目の前にあるボタンに手を置き、そのボタンを押した。

 

 

「真価が問われるのは、これからさ」

 

 

 

 

 

 

ズズンッ!!!

 

「ッ!?なんだ……?」

 

 

“D4C”で視界に入った仮想敵を片っ端からブッ壊し続けていると、突然地響きと共に巨大な粉塵が上がった。“D4C”を側に戻してその粉塵を警戒していると、粉塵の中から試験会場の建物よりも高い巨大な仮想敵が現れた!

 

 

「こ、こいつは……まさか0P敵か!?デカ過ぎだろ!!」

 

 

俺はあまりのデカさに驚いた。だが俺の周りにいた受験生達は全員、その巨大な仮想敵がこちらに向かってくるのを見て、身の危険を感じて一目散に逃げ出した。

 

 

「や、やべぇ!逃げろ!」

 

「0Pであのデカさ!あんなのに構ってられっか!」

 

(おいおい、将来ヒーローになりたいからこの雄英のヒーロー科を受験しに来たんじゃあねぇーのかよお前等?……待てよ?)

 

 

俺は走り去って行く他の受験生達の後ろ姿を見ながらやれやれと頭を振るが、ふとある事に気付いた。

 

 

「(もしかして、あの0P敵はこの為(・・・)に用意されているのか?圧倒的脅威に対して、俺達受験生がどう行動するのかを見る為に)………なら、アレはこの場でブッ壊す!」

 

 

俺はそう決めると周囲を見回す。流石にあのデカ物をブッ壊すのに“D4C”のパワーだけだと時間が掛かる。残り時間も少ない今では一撃で仕留めるのが望ましいからな。

しばらく周囲を見回していると、近くの建物の屋上に設置されている巨大な看板を見つけた。そうだ!アレを使えば1発で終わる!0P敵もちょうどその看板がある建物の真下に差し掛かった!やるなら………今だ!!

 

 

“エアロスミス”!!

 

 

俺がそう叫ぶと、俺の体からラジコンくらいの大きさの1機のプロペラ戦闘機が飛び立った!

 

“エアロスミス”。第5部『黄金の風』に登場するナランチャ・ギルガのプロペラ戦闘機と本体の片目に追従するレーダーの2つで1つの遠隔操作型のスタンドだ。二酸化炭素を探知する事が出来、両翼に搭載されている機銃での攻撃は勿論、真下に搭載されている爆弾による強力な攻撃が可能だ。

こいつは“平行世界”で暴れていた俺を倒して回収したスタンドで、こいつの他に現在俺が使えるスタンドは“D4C”と“ホワイトスネイク”を含めて6体にもなる。

 

 

「行け!!“エアロスミス”」

 

 

俺は“エアロスミス”を操作して、巨大な看板を支えている柱を“エアロスミス”の機銃で破壊させる。支えを失った看板はゆっくりと0P敵に向かって倒れ始め、やがて0P敵の真上に落下した。

そして、“エアロスミス”を戻した俺は同じく落ちて来る看板の下に向かって“D4C”を出して能力を発動させた!

 

 

「光栄に思うがいい!!」

 

 

看板と地面に挟まれて俺と0P敵は隣の世界へやって来た。そしてそこで暴れ回っている“平行世界”の0P敵と、引き摺り込んだ“基本世界”の0P敵が出会い、世界は同じ場所に同じ存在が2つ存在している事を認識した!

 

 

「この“隣の場所”に自由に入って来れるのは、この俺の能力だけだ…!!」

 

 

2つの0P敵は互いに磁石な引き合う様に重なり合い、ボディが千切れたメンガーのスポンジの様にバラバラになって行く。

“D4C”の能力にはあるルールがある。それは、『同じ存在が同じ世界に2つ存在する事は出来ず、その2つが出会うと消滅する』というものだ。

 

 

「ゆっくり味わえ……」

 

 

俺は0P敵が完全に消滅するのを見届けてから近くに落ちていた仮想敵の破片を使って“基本世界”に帰還した。俺が帰還したと同時にプレゼント・マイクによる試験終了の合図が会場全体に鳴り響いた。



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No.9 合格通知

俺は試験が終わった後、“平行世界”から連れて来た俺達をジュースを奢ってから元の世界へ帰し、試験中に怪我をした他の受験生の治療を行った。

その時俺が使っていたスタンドの名は“クリーム・スターター”。第7部『スティール・ボール・ラン』に登場するホット・パンツのスプレー型のスタンドだ。こいつは自分もしくは他人の肉体を搾り取って放射する能力を持っていて、俺はその能力で転んだり、落ちて来た瓦礫などで怪我を負った受験生達の治療を行った。骨を折っちまった奴等は雄英が用意していた治癒系の“個性”を持った婆さんに治してもらった。物や怪我、エネルギーなどを直す能力を持った“クレイジー・ダイヤモンド”があれば骨折なんかも治せたんだが、生憎俺はまだそいつを持った俺に出会った事がないんだよなぁ〜?

 

ま、そんな風に怪我人の治療を終えてから家に帰って、そっから1週間ぐらい経過した。んで、今日雄英からの試験結果について書かれた書類が届く筈なんだが………夜になったってのに未だに合格通知が来ねぇ。

 

 

(ま、まさか“平行世界”の俺を連れて来たのがマズかったのか?やっぱ“平行世界”の自分とは言え、この世界の試験を受けていない俺を連れて来るのはダメだったのか?)

 

 

だとしたら俺、合格出来ないんじゃあねぇ〜か?マズイなぁ〜……もし合格しなかったら響香や波動先輩にどやされるぞ。響香の奴は今日の昼に結果が届いて、合格したらしいしなぁ……これでスタンドをあげた俺が合格出来てなかったら格好悪いぜぇ〜……。

 

 

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ幽義!!!」

 

ぬわぁ!!?か、母さん!!いきなり“個性”使って部屋に入って来るんじゃあねぇー!!」

 

 

すると突然俺の部屋のドアの隙間から滅茶苦茶慌てた様子の母さんがスルリと現れた。合格出来ているのかと心配になっていた俺は驚いて座っていた椅子から落ちた。メッチャ痛い……。

 

 

「いつつ………ったく!いったいどうしたんだよ母さん!そんなに慌ててよぉ〜!」

 

「と、届いたの!ゆ、ゆゆ、雄英からの試験結果!!」

 

「な、何ぃ〜〜ッ!!?」

 

 

母さんが差し出して来た封筒を受け取って確認すると、確かに雄英高校から送られたものだった。母さんは俺に封筒を渡すと、「あ、後で結果を教えてね」と言って“個性”を使って部屋のドアの隙間から出て行った。どうやら1人で見させてくれる様だ。俺自身は別に一緒に見てくれても構わないんだが、今は早く結果が知りたいので1人で見ることにする。

 

 

「……………あん?こりゃ〜なんだ?なんか妙なもんが入っているぞ?」

 

 

封筒を開けて中を確認すると、中に入っていたのは1枚の折り畳まれた紙と、薄くて丸い機械だった。どうするのか分からなかったんで、取り敢えず適当に弄っていると、その機械から空中に映像が投影された。

 

 

私が投影されたぁ!!!

 

「は?オ、オールマイト??」

 

 

しかも何故か映像にはあのNo.1ヒーローのオールマイトが映っていた。何やってんだこの人?テレビ出演やヒーロー活動だけじゃなく、これからは母校で教師活動でもしようってのか?

 

 

『 HA〜HAHAHA!!今、何故私が投影されているんだって思ったよね?実は私、今年から雄英で教師を務めることになったのだよ!』

 

 

・・・あ、マジで教師活動するんだ。

 

 

『……え?何?……巻きで?後が支えてる?あぁ〜そうだったね。分かったOK!えぇ〜、じゃあ、試験の結果を伝えよう!!』

 

 

いよいよか……合格してっといいんだがなぁ。

 

 

『筆記については十分合格ラインをクリアしている。と言うか、今年の受験生の中で2位の高得点だ!凄いな君!』

 

 

いよっしゃあ!!必死に勉強しといた甲斐があったぜ!!まぁ、まさか2位になるとは思わなかったがな。

 

 

『そして実技試験!こっちは分身した君の得点も含め、(ヴィラン)ポイントは……85ポイント!!堂々の1位だ!おめでとう!!』

 

 

おぉ!!マジか!?俺達そんなに稼いでたのかよ!?取り敢えず目に入った仮想敵を片っ端からブッ壊してただけなんだがなぁ……ま、いいか。

 

 

『だがこれだけじゃあない!実は先日の入試、観ていたのは敵ポイントのみにあらず!!救助(レスキュー)ポイント!しかも審査制!君はあの巨大な0P敵に立ち向かっただけでなく、試験が終わった後も怪我を負った受験生達の治療をずっと行なっていた。結果は64ポイント!これにより、狭間奪 幽義!合計149ポイント!歴代最高記録だ!!』

 

 

やっぱりあの巨大な0P敵には意味があったのか。しかしまさか試験後の治療行為も採点されてるとは思っても見なかったぜ。

 

 

『来いよ、狭間奪少年!ここが君の…………ヒーローアカデミアだ!!!

 

 

映像はそこで終わった。俺はすぐさまスマホを手に取り、響香と波動先輩に合格した事を伝えた。2人共俺が合格する事は分かっていたと言ってはいたが、入試1位になったとまでは思わなかったようでかなり驚いていた。

………なんか、スッとしたぜぇ♪

 

 

 

 

 

 

そして、入学初日がやって来た。俺は雄英高校の制服に身を包み、家の玄関で靴を履いている。

 

 

「幽義!ちゃんとティッシュは持った?ハンカチは?生徒手帳は?忘れ物とかない?」

 

「うるせぇ〜なぁ〜!母さん!心配してくれてるのは有り難いんだがよぉ!流石に同じ質問を20回もするのは止めてくんねぇ〜かなぁ!?」

 

 

流石に20回は言い過ぎだと俺は思う。つーかどんだけ俺は忘れ物の心配されてんだよ!?俺はそこまで物忘れは酷くねぇーし!今日は入学式くらいしかやらないから先ず必要なものも少ないっての!

 

 

「はぁ……んじゃ、行って来るぜ。母さん」

 

「……うん、行ってらっしゃい」

 

 

玄関のドアを開けて家を出ると、家の前で女性用の雄英の制服を着た響香が待っていた。

 

 

「あ、遅かったね幽義。さ、早く行こ?」

 

「あぁ、遅れて悪い。んじゃ、行くとするか!」

 

 

そして俺達は、雄英高校に向かって歩き出した。



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No.10 “個性”把握テスト

雄英高校へやって来たまではいいが、俺と響香は早くもある問題に直面した。

 

 

「ったくどんだけ広いんだよこの学校はよぉ!?1-Aのクラスはどこにあるってんだぁ!?」

 

「落ち着きなよ幽義。確かに広過ぎて現在進行形で迷っちゃってるけどさ……」

 

 

この学校、滅茶苦茶広かった。響香と同じクラスだったのはラッキーだったが、このままだと入学初日から遅刻しちまいそうだ。

 

 

「誰だよこんな複雑で広い学校に設計した奴はよぉ?もし会ったら絶対文句言って………あん?」

 

 

文句を言いながら1-Aのクラスを探していると、廊下の隅をモゾモゾしながら進んで行くデカい芋虫みてぇーな物体を発見した。

 

 

「なぁ響香……あの芋虫みてぇーなのはいったいなんだ?」

 

「いや、ウチに聞かれても……」

 

「……ん?なんだお前等?こんな所で何してる?」

 

「「うわっ!?喋った!!?」」

 

 

いきなり喋り出したからビックリしてつい響香と揃ってスタンドを出してしまった。攻撃はしてねぇーがな。

……って、よく見たら芋虫じゃなくて寝袋に入った人間だった。しかも駅のホームとかにいればホームレスと間違えちまいそうな風貌をした小汚い黒髪長髪の男だ。

 

 

「えぇ〜っと…俺達は今日この学校に入学した者なんだがよぉ。広過ぎて1-Aのクラスがどこにあんのか分からねぇ〜からずっと探してたら、廊下の隅をモゾモゾ進んでるあんたを見つけたんだよ」

 

「あぁ〜そう言う事か。結構居るんだよな、この学校広いから……俺は君達の担任になる相澤(あいざわ) 消太(しょうた)だ。よろしくね」

 

((担任かよ!!?))

 

 

全然見えねぇー!!いや、ここは雄英のヒーロー科だ。教師は全員ヒーローだから、普段はヒーローのコスチュームで過ごしているんだろう。………少なくとも俺は寝袋に入ってモゾモゾ動くヒーローなんて聞いた事ないがな!!

 

 

「じゃ、さっさと教室に向かうから。2人共付いて来い」

 

「え?あ、ちょっと……」

 

「そのままの状態で行くのかよ……」

 

 

俺と響香は廊下をモゾモゾ進んで行く担任に続いて、自分達のクラスに向かった。

 

 

 

 

 

 

((ドアでっか……))

 

 

教室に着いて先ず俺達が思い浮かんだ言葉はそれだった。多分図体がデカい“個性”持ちの為に考えられて作られたんだろうな。ドアは開けっ放しになってるが、入口付近で茶髪でなんかふわっとしている少女と緑色の縮毛の少年と、眼鏡を掛けた委員長っぽい雰囲気の少年が話していて入らない。

 

 

「おい、お前等。話し合ってるとこ悪いが、通してもらえねぇ〜かなぁ?通行の邪魔になってるぜ?」

 

「む!?こ、これは済まない!」

 

「え?あ!!ご、ごめん!」

 

「わ!ホンマや!ごめんな……」

 

 

3人が退いてくれたので、俺と響香は教室に入り、自分の席を探して座った。それと同時に廊下にいた相澤先生が話し出した。

 

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ……」

 

 

相澤先生は寝袋に入ったまま立ち上がり、ファスナーを開けて寝袋から出た。ほぼ全身真っ黒なコスチュームで、首にはマフラーの様な布が何重にも巻かれている。

 

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました、時間は有限、君たちは合理性に欠くね。担任の相澤消太だ。よろしくね。早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」

 

 

そう言うと相澤先生は自分が入っていた寝袋から雄英の体操服を取り出してみんなに配り始めた。どっから出してんだよ。

 

 

・・・・・え?体操服着てグラウンド?

 

 

 

 

 

 

「「「「「“個性”把握テストォ!!?」」」」」

 

 

体操服に着替えてからグラウンドに出て、待っていた相澤先生にいきなり言われたのはこれから“個性”把握テストってヤツをやるというものだった。

 

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事、出る時間無いよ…」

 

 

いやまあ確かにそうだけども!?グラウンドに俺達しかいないって事は、少なくとも隣の1-Bとかは入学式に出てるよなぁ!?

 

 

「雄英は自由な校訓が売り文句。そしてそれは教師側もまた然り……お前達も中学の時にやってるだろ?“個性”使用禁止の体力テスト。国は、未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。合理的じゃない…まぁ文部科学省の、怠慢だな。実技入試成績のトップは狭間奪だったな?狭間奪、中学の時、ソフトボール投げ何mだった?」

 

「あん?確か最後に測った時は……74mだったな」

 

 

俺は中学の時に測った最後の記録を相澤先生に伝える。なんか髪が紅白の奴と、金髪で爆発した様なトゲトゲの頭をした不良みたいな奴が敵意みたいなものを含めた視線を向けて来るが気にしない。面倒だからな。

そう思っていると、相澤先生は何やら機械が埋め込まれたボールを投げ渡して来た。

 

 

「んじゃ、“個性”を使ってやってみろ。円から出なけりゃ何をしてもいい。投げろ。思いっきりな」

 

「………ホントに何やってもいいんだな?」

 

 

改めて確認すると先生はコクリと頷いた。それを確認した俺は体操服の上のジャージを脱ぎ、空中に投げる。響香とおそらく先生以外はこれが何を意味するか分からず首を傾げる。

 

 

「“D4C”!!」

 

 

俺は体操服と地面に挟まれて“平行世界”へ行き、入試の時にも連れて着た脇腹に穴がある薄いピンク色のシャツを着た俺を連れて戻って来た。

 

 

「え!?えぇ!?き、消えたと思ったら増えた!?」

 

「いったいどんな“個性”なんだ?」

 

「なんだか騒がしいな……で?今度はなんの用で呼んだんだ?」

 

 

連れて来た俺は騒ぐ生徒達をチラッと見てから俺に何故呼んだのか聞いて来た。

 

 

「今“個性”使った体力テストみてぇーなヤツをやっててな。これからやるのがソフトボール投げなんだよ。ここまで言えば分かるよな?」

 

「……成る程な、理解した」

 

「んじゃ……やるぜぇ!!“D4C”!」

 

「“クラフト・ワーク”!」

 

 

俺は円の中心でボールを真上に放った。そしてそのボールを連れて来た俺から現れた歯を食いしばった緑色のエイリアンの様な見た目をした人型のスタンドが触れると、ボールはその場で固定(・・)された。

 

“クラフト・ワーク”。第5部『黄金の風』に登場したサーレーのスタンドだ。触れたものをその場に固定する能力を持っており、固定されたものに衝撃を蓄積させ、能力解除時に一気に解放させる事が出来る。

俺は“クラフト・ワーク”が固定したボールを“D4C”のパワーで斜め上方向に殴り続けた。殴ると狙いが正確じゃあなくなるが、今は正確な狙いは必要ないからなぁ!

 

 

「よし!いいぞ!」

 

「“クラフト・ワーク”!能力を解除しろ!」

 

 

ボールにかけられた固定の能力が解除されると、殴られた衝撃が一気に解放され、ボールはまるでぶっ放された大砲の弾みてぇーなスピードで空の彼方へ消えていった。

 

 

「………ボールが耐え切れずブッ壊れたか。……先ず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 

相澤先生が持ったスマホの様な機械には、『測定不能』と書かれていた。それを見た生徒達は騒ぎ出す。

 

 

「何だこれ!!すげー面白そう!」

 

「測定不能ってマジかよ!今何やったんだ!?」

 

「個性を思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」

 

 

『面白そう』と言う単語を聞いて相澤先生が眉をピクッと動かした。雰囲気もさっきのホームレス的なものからガラリと変わった。

………なんか、嫌な予感がする。

 

 

「………面白そう…か。ヒーローになる為の3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?…よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

 

 

 

 

 

・・・は?

 

 

「「「「「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」」



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No.11 合理的虚偽

入学初日からマズイ事になった。まさかのテスト最下位が除籍処分。自由な校訓が売り文句と言っていたが、流石に自由過ぎる気がするのは俺だけじゃあない筈だ。

それにあの顔はマジだ。最下位で見込み無しと判断された奴を、この先生はマジに除籍処分にする気だ。

てな訳で、除籍処分にならない為に、クラス全員は全力でこの“個性”把握テストに挑んだ。当然、俺と響香もな。

 

 

 

【第1種目:50m走】

 

(“ザ・ワールド”の俺からDISCを回収出来たら楽だったんだがなぁ……)

 

 

“ザ・ワールド”なら4秒も時を止めれば後はスタンドのパワーで1秒以内には完走出来るだろうな。

そう思っていると、響香の番がやって来た。

 

 

『位置ニ着イテ、用意……《パァン!》』

 

「“ダイバー・ダウン”!!」

 

 

響香はスタートの合図と共に地面に潜った“ダイバー・ダウン”に敢えて出させた腕に捕まってそのまま一気にゴールまで“ダイバー・ダウン”を潜行させた。

響香の奴、考えたな。俺の“D4C”と“ダイバー・ダウン”のスピードは同じ『A』だが、潜行している“ダイバー・ダウン”のスピードは俺の“D4C”のスピードを超える。

で?結果は………?

 

 

『《ピピッ!》2秒58!』

 

「よっしゃ!自己最高記録!!」

 

 

3秒切りやがった。やるなぁ響香の奴。1番最初に3秒台出してた眼鏡の奴がショック受けて座り込んじまったぞ?

それから次々と走って行き、俺の番が回って来た。

 

 

「響香に負けてらんねぇ〜からな!“D4C”!!」

 

 

俺はスタートラインに立つと、“D4C”の足を自分の足に憑依させる。

 

 

『位置ニ着イテ、用意……《パァン!》』

 

オラァ!!!

 

 

俺は“D4C”のパワーで一気にゴールまで走り切った。さて、俺の記録は?

 

 

『《ピピッ!》3秒47!』

 

「クソッ!負けたぜ畜生!!」

 

「いや十分過ぎるだろ!!」

 

「さっきからなんなのお前の“個性”!?」

 

 

 

【第2種目:握力】

 

これは“D4C”に握力計を持たせて握らせる。響香の奴も“ダイバー・ダウン”にやらせていたので問題はない。

まぁあるとしたら、響香はこれで握力計をブッ壊したから、同じパワー『A』の“D4C”がやるとなると……。

 

 

「“D4C”!」

バキャッ!!

 

 

・・・やっぱそうなるよな。

 

 

「またブッ壊したか……測定不能ね」

 

「マジかよ!?2人目!?」

 

 

この後行われた【第3種目:立ち幅跳び】と【第4種目:反復横跳び】でもスタンド能力をフルに使った俺と響香は他者の記録より高い記録を残した。で、今は【第5種目:ボール投げ】を行なっている。俺は最初に1回投げてるので、今回投げるのも1回だけだ。

 

 

「狭間奪、今度は分身を出さずに1人でやってみろ」

 

「りょ〜かい……“D4C”!!」

 

 

俺はボールを“D4C”に持たせ、全力で流させる。記録は『723.5m』だった。響香より10m高い記録だ。

よっしゃ勝った!

 

 

「あぁ〜……やっぱり幽義には負けるかぁ」

 

「50m走はお前に負けたけどな」

 

「俺達はお前等にほぼ全て負けてんだよ!!」

 

「ホントになんの“個性”なんだよお前等!?」

 

 

なんか周りの生徒達が騒がしいが気にしない。俺が響香と話をしていると、俺の次の番であるあの緑色の縮毛の少年……確か緑谷(みどりや)って言ったな。そいつが投げる事になった。

 

 

「ねぇ、あの緑色の髪の人。さっきからなんか記録が普通過ぎない?」

 

「それは俺も思った。……もしかして、デメリットがデカいから使わないでいるとかか?」

 

 

そう思っていると、緑谷がボールを投げた。だが、結果は『46m』だ。この記録を聞いて緑谷は驚いた表情になる。どうやらようやく“個性”を使おうとしたらしいが、使えなくなったらしい。

驚いて固まっている緑谷に相澤先生が指導をしに行ったのかは知らねぇーが、何やら話をしていると、緑谷が何かハッとした表情で叫んだ。

 

 

「あのゴーグル……!そうか、見ただけで相手の“個性”を抹消する。“抹消ヒーロー”イレイザーヘッド!!」

 

 

ほぉ?見ただけで“個性”を無力化する“個性”か。“個性”に頼り切った戦い方をする連中相手にとっちゃ天敵だな。なんか首に巻いた布や髪が逆立ってるから、そうなっている間は“個性”を消せるのか?

その後相澤先生…イレイザーヘッドが緑谷と何か話をして、イレイザーヘッドが元の位置に戻った頃には、緑谷は何やら覚悟を決めた様な表情になってボールを投げた。ボールは先程とは桁違いのスピードで空高く飛んで行き、やがてイレイザーヘッドの端末に記録が出た。

 

記録は『705.3m』。

 

俺の前に投げたボンバー○ンとほぼ同じ記録だ。だが投げた手の指が1本だけ痛々しい程腫れ上がっている。あれがあいつの“個性”のデメリットか。

その後なんかボンバー○ンがブチ切れて緑谷に襲い掛かったが、イレイザーヘッドに“個性”を無力化された上に首に巻かれた布に拘束された。“個性”凄いのにドライアイって……なんか、勿体ねぇなぁ〜…イレイザーヘッド。

 

 

 

【第6種目:上体起こし】

 

これは起きる時に“D4C”に体を起こしてもらった。響香も同じだ。

 

 

 

【第7種目:長座体前屈】

 

これは自分が普通にやってから、更に“D4C”の腕を伸ばしてもらった。響香の奴は自分の“個性”【イヤホンジャック】で俺の倍以上の記録だした。個人的にそれはどうなんだと思ったが、イレイザーヘッドがOKだしたので気にしない。

 

 

 

【第8種目:持久走】

 

『位置ニ着イテ、用意……《パァン!》』

 

「“ダイバー・ダウン”!!」

 

 

スタートの合図と共に響香は50m走と同じ方法で走り?出した。他の生徒達も“個性”でバイク作ったり、両手から爆発を起こしてその力で飛んで行くなどやって走り出した。

だが、俺はまだ動かない。

 

 

「おい狭間奪。もう全員スタートしてるぞ?何やってる?」

 

「おっと、今の俺に近寄るんじゃあ〜ないぜ。危ねぇ〜からなぁ……」

 

「?何を言って……ッ!?」

 

 

お?気付いたみたいだなぁ。俺の体が一気に凍り付いて(・・・・・)行く事に。最後尾を走る緑谷も十分離れた。それを確認した俺は“平行世界”で回収したスタンド能力を発動させた!

 

 

“ホワイト・アルバム”!!

 

 

俺がそう叫ぶと、俺は白いスピードスケートのスーツの様なスタンドに身を包み、スピードスケートの選手の様にグラウンドを滑走(・・)しだした。

 

“ホワイト・アルバム”は第5部『黄金の風』に登場するギアッチョのスタンドで、自分の身に纏うタイプの珍しいスタンドだ。超低温を操る能力を持ち、この力で空気中の水分を凝結させ、装甲の様にしたのがこのスーツだ。そして足元の地面を一時的に凍らせる事で、氷じゃない道路の上などでも滑走する事が出来る。

この能力を回収するのにはかなり苦戦した。片腕を氷漬けにされた上に砕かれたからなぁ。

 

 

「うわ!?寒ッ!!」

 

「え!?え!?地面の上を滑ってる!?」

 

「ッ!?この“個性”……俺の右側と同じ!?」

 

 

漫画やアニメでもギアッチョはこの能力で車に追い付けていた。俺もかなり特訓を積んだので同じ様な事は出来る。だからただ走ってるだけの生徒達を俺は次々と追い抜いて行く。そしてやがてトップ争いをしている響香とバイクに乗った少女に追い付いた。

……バイクってありなんだな。

 

 

「ッ!?じ、地面を滑っていますの!?」

 

「ッ!ゆ、幽義!“ホワイト・アルバム”はズルくない!?」

 

「これは俺の能力だ!別に使っても問題ねぇーだろぉーがよぉー!!」

 

 

俺はそのまま2人を追い抜き、持久走で1位を取った!これで全てのテストは終わったので、全員が戻って来るのをゆっくり待つ。

あ、因みに2位はコンマ数秒でバイク少女の勝ちだった。

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」

 

 

イレイザーヘッドが持った端末から今回のテストの結果が空中に投影される。意外に最先端だなぁオイ!

因みに順位は俺が1位。響香は3位だった。

 

 

「因みに除籍は嘘な?君等の“個性”を最大限に引き出す合理的虚偽」

 

「「「「「はぁぁぁぁ!!?」」」」」

 

「あんなの嘘に決まってますわ……」

 

 

髪をポニーテールにした2位のバイク女…確か八百万(やおよろず)って名前の少女が呆れた表情でそう言っている。だがイレイザーヘッドのあの目は本気で見込みが無かった生徒を除籍処分にする気だったのが分かる。つまり除籍処分が無いって事は………。

 

 

「このクラスは見込みありって事か……」

 

 

やれやれ……どうやら俺達の担任はかなり厳しい様だぜ。



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No.12 “ヒーロー基礎学”

後半ちょっとだけ書き換えました。


最下位除籍処分が懸かった“個性”把握テストのあった日の翌日。雄英で行われた授業は教師が現役のプロヒーローである事以外は至って普通の授業だった。別に何かを求めていた訳じゃあねぇ〜が、なんか思ったより普通過ぎて拍子抜けした。

お昼は良かった。実に良かった。“クックヒーロー”ランチラッシュだったか?その人が作る一流の美味い飯が安価で食べる事が出来たからな。でもまぁ……まさか石釜で焼いた本格的なピッツァが出て来るとは思わなかったがよぉ。

まぁそれは置いといて、午後の授業。午前中の普通の授業とは打って変わって、午後からはヒーローになる為の授業……“ヒーロー基礎学”が行われる。

そしてこの教科の担当教師は……。

 

 

わ〜た〜し〜がぁ〜〜!!!………………普通にドアから来たァァァァ!!!

 

(何やってんだこの人?)

 

 

この引いてしまう程の満面の笑みが特徴的な金髪マッチョ、No.1ヒーローのオールマイトだ。そんなテレビでもよく見る有名人の登場に、教室は大盛り上がりだ。

 

 

「オールマイトだ!!!」

 

「スゲェ〜や!ホントに教師やってるんだな!!」

 

(なんか生で見ると滅茶苦茶画風違うな)

 

「幽義、あんた今変な事考えてない?」

 

 

おい響香?なんでお前俺の考えてる事分かったんだ?俺そんなスタンド能力与えてねぇ〜よな?

そんな下らない事を考えている内に、オールマイトの話はどんどん進んで行く。

 

 

「早速だが、今日はコレ!!戦闘訓練!!!そしてそいつに伴ってぇ〜!!……こちら!!」

 

 

ビシッとオールマイトが指を差した壁が動き出し、それぞれの出席番号が書かれたアタッシュケースが出て来た。なんかもうなんでもありだなこの学校はよぉ?

 

 

「入学前に送ってもらった“個性”届けと、要望に沿って誂えたコスチューム!!」

 

「「「「「おおぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

 

そういやそんなもん出したな。ちゃんと要望通りに作られているのかちょいとばかり心配だぜ。

 

 

「着替えたら順次、グラウンド・βに集合だ!!」

 

 

俺達は頷いて返事をすると、オールマイトの指示通りにそれぞれの出席番号の書かれたアタッシュケースからコスチュームを取り出し、身に纏った。

俺のコスチュームは生前やっていた【ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン】というゲームにあったヴァレンタイン大統領のスペシャルコスチュームとほぼ同じ見た目のものにしてもらった。ただ説明書みたいなものには防御力を上げる為に防弾防刃耐火耐水耐熱その他諸々の機能をブッ込んだらしい。

因みに俺の腰には大統領が使っていたものと同じ拳銃もある。こっちは普通の弾と即効性の麻酔弾が撃てるようになっているらしい。よくこんなものを用意出来たもんだ。

 

着替えたので他の生徒達と一緒にグラウンド・βに向かうと、既にオールマイトが待っていた。相変わらず引くぐらいの笑みだ。

 

 

「格好から入るってのも、大切な事だぜ!?少年少女!!自覚するのだ、今日から自分は……ヒーローなんだと!!」

 

 

オールマイトは俺達のコスチュームを見て満足そうに頷いた。

 

 

「いいじゃないか!格好いいぜ!!さぁ、始めようか!有精卵ども!!」

 

 

俺は周りにいるクラスメイトのコスチュームを観察する。皆思い思いのコスチュームを身に纏っているな。黒い外套の様なものを纏っている奴、柔道着の様な服を着ている奴、なんかごつい甲冑みたいなものを着ている奴もいる。

 

 

「あ!幽義!それが幽義のコスチューム?」

 

「あん?おぉ、響香じゃあねぇ〜か」

 

 

しばらく観察していると、コスチュームを着た響香がやって来た。黒をベースにしたパンキッシュなものに、足にはスピーカーの様なものが埋め込まれたブーツを履いている。彼女の“個性”からしてあそこから爆音を放つように出来ているんだろうな。全体的にロックな感じで、響香らしいコスチュームだ。

 

 

「似合ってるじゃあねぇ〜か。格好いいぜ響香」

 

「幽義もね!なんかどっかの国の大統領が着てそうだよ」

 

 

なんでお前はそんなピンポイントで当ててくるんだよ?

俺は響香の勘の良さに顔を引き攣らせていると、オールマイトが今回の戦闘訓練の内容を説明し始めた。

 

「いいかい!?状況設定は(ヴィラン)がアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている!」

 

設定滅茶苦茶アメリカンだな。後カンペ読んでんじゃあねぇ〜よ。前もって暗記しとけオールマイト。

 

「ヒーローは制限時間内に敵を捕まえるか核兵器を回収する事。敵は核兵器を守るかヒーローを捕まえる事。2対2に別れた対人戦闘だ。コンビの設定及び対戦相手はくじだ!!」

 

「適当なのですか!?それと、クラスは21人なので1人余るのですが、残りの1人はどうすればよろしいのでしょうか?」

 

 

え!?その声もしかしてあの眼鏡……確か飯田(いいだ)って名前の奴か!?ロボかよ全然気付かなかったぜ。

 

 

「ヒーローは状況に応じてコンビを組むヒーローが変わるからね!それと残りの1人についてだが……狭間奪少年!君には最初に2対1で対戦を行なってもらいたい!」

 

「あん?俺1人で2人を相手にするのか?」

 

「君の“個性”は別々の“個性”を持った分身を作れるみたいだからね。もちろんハンデとしてヒーローチームは互いに通信するのと、開始前に互いに相談して作戦を立てる事を禁止とする。どうだい?」

 

 

成る程な。確かに“平行世界”から俺を連れて来ればこっちの方が戦力は上になる。足りない分だけ増やせばいいからな。

 

 

「俺は別に構わないぜ。で?誰が俺とやり合うんだ?」

 

「そうだな……君達の中で、彼と戦ってみたい者はいるかい?」

 

 

オールマイトが皆に聞いてみた所、3人の手が挙がった。挙げたのは俺の事をずっと見ていた金髪ヤンキーの爆豪(ばくごう)と紅白頭の(とどろき)という2人の男子生徒と響香だ。

 

 

「響香も俺とやりたいのか?」

 

「この間の模擬戦のリベンジもしたいし、何より今回は普段とは違う状況で戦えるみたいだから、ウチも参加しときたいんだ」

 

 

確かに普段俺達は公園で波動先輩と一緒にトレーニングや模擬戦をやってるから、室内戦はやった事がなかったな。

 

 

「うーん……3人だから、誰か1人は諦めてもらわないと」

 

「俺は別に構わないぜ?3人同時に相手してもよぉ…」

 

 

どうせ“平行世界”から2人連れて来れば数は同じになるからな。

 

 

「うむむ……狭間奪少年がいいなら別に構わないけど、3人はそれでもいいかい?」

 

「あぁ、ブッ潰してやんよ」

 

「俺も構わない」

 

「ウチもそれでいいッス」

 

「そうか……ならそうしよう!じゃあ他の皆はくじを引いてくれ!4人はくじが決まったらすぐに戦闘訓練を開始するから準備しといてね!」

 

 

オールマイトはそう言うと俺達4人以外の生徒にくじを引かせた。そしてチーム分けが決まり、俺達はオールマイトに連れられて訓練場内のとあるビルの前にやって来た。

 

 

「ここが今回の舞台だ。それじゃあ狭間奪少年は中に入って準備してくれ。他の3人はここで待機だ。それと、今回はほぼ実戦!怪我を恐れず、思いっきりやれよ!」

 

 

オールマイトの話を聞いた後、俺は早速ビルの中に入って準備を始めた。今回はほぼ実戦って事らしいから、いつもより本気でやりに行くとするか。



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No.13 戦闘訓練

今回は耳郎sideで書いてみました。


耳郎 響香side…

 

『狭間奪少年の準備が整ったようなので、これより屋内対人戦闘訓練を開始する!スタートの合図と共にヒーローチームのインカムは使用不能になるが、誰かが戦闘不能になった場合はこちらからインカムに連絡するぞ!』

 

 

耳に付けたインカムからオールマイトのスタートの合図が聞こえる。ウチ等3人は開始前の作戦会議は禁止されてるからそれぞれ黙って開始の合図を待っている……んだけど、なんか隣の2人の雰囲気が悪い。あまり話した事は無いけど、なんとなくチームプレイは期待出来ない事は理解出来るぐらいにはギスギスしてる。

 

 

『それでは、屋内対人戦闘訓練……スタート!!』

 

「始まったな。2人共退がってろ、俺がやる」

 

 

スタートの合図が出されると、轟がそう言って右手でビルに触れた。何をするのかは知らないけど、今の言葉に爆豪って人がキレた。

 

 

「あぁ!?テメェこの半分野郎!この俺に指図してんじゃ…ッ!!?」

 

「……ッ!!?」

 

 

すると轟が触れている部分から一瞬でビルが凍り付いた。轟は幽義の“ホワイト・アルバム”みたいな“個性”を待っているみたい。

さっきまで怒鳴っていた爆豪も今は唖然としてる。

 

 

「これで終わりだ。さっさと核見つけに行くぞ」

 

「……チッ!」

 

「あ、ちょっと待って。先にウチの“個性”で確認してから入った方が……」

 

 

ウチはビルの中に入ろうとする2人を止めようとしたけど、轟はそのままビルのドアノブを握ってドアを開けた。

 

 

「ぐあっ!!?」

 

「あん?何やってんだ半分野郎」

 

 

ドアを開けた瞬間、轟が急に握った右腕を押さえてドアから離れた。その時ウチには轟の右腕の中に入り込んでいるピンク色の糸に繋がった大きな釣針(・・)がはっきりと見えた!

 

 

「な…んだ!?ぐッ……!?」

 

「なッ!?オイ!!」

 

 

轟はそのまま壁に叩きつけられ、そのままビルの中に引き摺り込まれて行った。やっぱり幽義はまだ終わってなかったんだ!それにあの釣り糸と針には見覚えがある。前に幽義に紹介してもらった“平行世界”のちょっと頼りない感じだった幽義のスタンドだ。

名前は確か……“ビーチ・ボーイ”!!

 

 

「クソが!!何が『これで終わりだ』だぁ!?あの半分野郎が!!」

 

「ちょ!?爆豪待って!1人で行ったら……ッ!?」

 

 

1人で轟の後を追おうとする爆豪を呼び止めようとしたけど、上から聞き覚えのある重圧なプロペラ音がして上を見上げると、幽義の“エアロスミス”がこっちに向かって急降下している光景が目に入った。

 

 

ドガガガガガガガガガッ!!!

「ッ!“ダイバー・ダウン”!!」

 

 

“エアロスミス”が撃って来た弾丸を“ダイバー・ダウン”の拳で弾きながらウチはビルの中に転がり込む。爆豪は既に奥へ行ってしまったのか姿は見えない。“エアロスミス”は一度急上昇してからウチがいるビルの入口に機銃を撃ちながら向かって来た。だからウチは出来るだけ呼吸をせずにビルの奥に向かって走る。

“エアロスミス”は二酸化炭素を探知する能力があるのは知っている。幽義はウチの呼吸で出る二酸化炭素を探知してウチを攻撃してるんだ。

 

 

(“ダイバー・ダウン”!!)

 

 

ウチは“ダイバー・ダウン”をビルの壁に潜行させ、手足を階段の様に外に出させてからそこを登って息を止める。ウチの呼吸を探知出来なくなった“エアロスミス”はそのままウチの前を通り過ぎてビルの奥に飛んで行った。

普段は殺傷能力が高いからって理由で模擬戦に“エアロスミス”を使わなかった幽義がこんな使い方をするって事は、向こうも本気でこっちを潰しに来てるみたい。

 

 

『と、轟少年!リタイア!』

 

「……ッ!」

 

 

やっぱり轟はやられちゃったか。爆豪はまだ倒されてないみたいだけど、見えないし触れない攻撃が可能な幽義が相手だと分が悪いと思う。

………って言うかコレ、ウチがいなかったら皆初見で倒されちゃうんじゃない?やっぱ幽義のスタンドはズルい。

 

 

(兎に角、爆豪となんとかして合流しないと)

 

 

ウチは壁にプラグを刺して爆豪と幽義の場所を探す。耳を澄ませていると、同じ階でそう遠くない部屋の中で爆豪と幽義達3人(・・)が交戦しているのが分かった。

 

 

[死ねぇぇぇぇぇ!!《BOM!!》]

 

[さっきから死ね死ね死ね死ね……ヒーロー目指してんならまず口調をどうにかした方がいいんじゃあねぇーか?]

 

[黙れこの分身野郎!ブッ殺す!]

 

[ホントォ〜〜に口悪いなぁ、お前]

 

 

どうやら爆豪はかなり苦戦しているみたい。ウチはすぐに“ダイバー・ダウン”から降りて幽義達がいる部屋へ急ぐ。少しすると爆発音がする部屋の前に辿り着き、ドアの隙間から中を覗くと、爆豪が全身に丸い凸があるのとレイピアのような武器を持つのが特徴の人型スタンド…確か“平行世界”の幽義のスタンドの“ソフト・マシーン”に刺されたのが見えた。どうやら遅かったみたいだね。

刺されて出来た穴から空気が抜け、爆豪の体が空気の抜けた風船の様に萎んでいく。これがあのスタンドの能力。あのレイピアを突き刺した対象を空気の抜けた風船の様に萎ませる能力。側から見たら死ぬんじゃないかと思うだろうけど、あれで刺された生物は仮死状態になるだけで、能力を解除すれば意識を取り戻す。

 

 

「ク……ソが…ぁ……」

 

『ば、爆豪少年!リタイア!』

 

「これで2人目だ。さてと……そこにいるのは分かってる。入って来い」

 

 

バレてたみたいだから大人しく部屋の中に入る。中にはウチがよく知る幽義と、“平行世界”から連れて来られた釣竿を持った幽義と、やたらトゲトゲした服の幽義がいた。トゲトゲした服の幽義の手には萎んで仮死状態の轟と爆豪がいて、ご丁寧に拘束用テープも巻かれている。

 

 

「気付いてたんだ?」

 

「視線に敏感なんでな。ドアの隙間からこっち見てたのは分かったぜ」

 

 

そういえばそうだった……。

 

 

「てか、思ったより大人しく入って来たな?無視して核を探しに行くって手もあったんじゃあねぇーか?」

 

「普通ならそうするけど、“ソフト・マシーン”がいるって事は、3人の内誰かが萎ませてポケットにでも入れてるんでしょ?」

 

「…!やっぱお前の勘スゲェーな。正解だ」

 

 

この世界の幽義がポケットから折り畳んだ黒い物体を取り出した。やっぱりそうやって持ってたんだ。

 

 

「んじゃ、俺は帰るぜ。今度なんか奢れよ?」

 

「分かってるっての。あぁ、“ソフト・マシーン”の俺は悪いがもう少し残っててくれ。ただし、手は出さないでくれよ?」

 

「分かってるって、後でマ○クのバーガーセットな?」

 

「……分かったよ」

 

 

この世界の幽義は釣竿…“ビーチ・ボーイ”を持った幽義を能力で元の世界に帰す。トゲトゲした服の幽義は部屋の隅の方にあるドラム缶の上に座って傍観を決めるようだ。

 

 

「これで1対1だが、今回俺は他のスタンドも使うからよぉ、そっちも本気で来いよ?」

 

「幽義相手に手加減とか出来ないって!行くよ!“ダイバー・ダウン”!」

 

「来やがれ!“エアロスミス”!!」

 

 

そしてウチは“ダイバー・ダウン”を、幽義は“エアロスミス”を出した。“エアロスミス”の弾丸と、“ダイバー・ダウン”のラッシュが交差する。

 

 

 

 

 

 

 

そして時間にして数分後……勝負が付いた。

 

互いにコスチュームはボロボロだけど、目の前には「しまった!」と言いたげな表情の幽義がいて、ウチの手の中には、隙を見て幽義のポケットから取った折り畳まれた()がある!

 

 

「この勝負でのウチの勝利条件は、幽義を倒すか……核に触れるかなんだよね。普段はウチとどっちが一本取れるかの模擬戦だったから、そこんとこ忘れてたでしょ?」

 

「………あぁ〜〜あ、すっかり忘れてた」

 

『ヒーローチーム!!WIN!!!』



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No.14 説明

屋内対人戦闘訓練が終わり、俺と響香、そして“ソフト・マシーン”の能力を解除されて元に戻ってから一言も喋っていない轟と爆豪と一緒にオールマイトと他の皆が待機しているモニター室へやって来た。訓練中の様子は全部ここで観られているらしい。

 

 

「初戦お疲れ様!ヒーローチームは勝利おめでとう!……って言いたいんだけど、轟少年と爆豪少年は大丈夫なのかい?さっきから一言も喋っていないが…?」

 

「………あぁ」

 

「……なんともありません」

 

 

オールマイトに心配されて、2人はなんともないと言っているが、そうには見えない。まぁ仮死状態から元に戻ったばかりだから、精神的に疲れたんだろうな。

 

 

「そ、そうかい?まぁ無理はしないようにね。それと訓練が終わった後にその講評をしようと思ってたんだけど……カメラでは何が起こっているのか殆ど分からなかったから講評出来ないんだよね」

 

 

まぁ、俺と響香の使うスタンドはカメラには映らないから、ただ互いに距離をとって走り回ったり、周囲の壁や床が突然破壊されたりした様にしか見えなかっただろうから講評のしようがねぇーわな。

 

 

「そこで済まないが、狭間奪少年と耳郎少女には何があったのか説明して欲しいんだけど……頼めるかい?」

 

 

オールマイトは「あ、嫌ならいいんだよ?」と後から付け足しているが、聞きたくてしょうがないってのが雰囲気で分かる。それは待機していた他の生徒達や、表情は暗いが轟と爆豪も同じだ。

まぁ別に話しても問題ないので、説明する事にした。

 

 

「俺の“個性”は【守護霊】。スタンドと呼んでいる目には見えず触れない、そして特殊な能力を持った精神エネルギーの塊の様な存在を操る“個性”だ。だからカメラにも映らなかった」

 

「む?しかし映像では耳郎くんはそのスタンドとやらを認識していた様だが……?」

 

 

飯田が顎に手を当てながら疑問を口にすると、他の皆も確かにと頷いた。

 

 

「そりゃあそうだろうよ。なんせ響香も俺と同じくスタンドを持っているんだからな」

 

「持ってるって……そのスタンドというものは狭間奪さんの“個性”なのですわよね?何故耳郎さんが同じものを持っているのですか?」

 

「さっきも言ったが、俺の操るスタンドにはそれぞれ特殊な能力を持っている。その能力の内の1つを使って、俺は昔響香に1体のスタンドを与えたんだ。……そうだな、今響香は“個性”を2つ持っている様なものって言やぁ理解出来るか?」

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

 

俺の例えが解りやすかったのか、クラスメイト全員とオールマイトは顔を驚愕に染める。まぁ、無理もない。他人に“個性”を与える“個性”なんて聞いた事ねぇーからな。

 

 

「因みにスタンドにはそれぞれ名前があって、ウチが幽義に貰ったスタンドの名前は“ダイバー・ダウン”。人や物体に潜り込む能力を持っていて、内部から操ったり、構造を組み替えたり出来るよ」

 

「ッ!!もしかして昨日のテストの時に握力計を壊したり、凄いスピードで移動してたのもそのスタンドの力!?」

 

 

宙に浮いた手袋…確か透明人間の葉隠(はがくれ)って奴が昨日のテストの記録を思い出して響香に聞く。響香が頷いて肯定すると、「おぉ!!」とクラスの皆から驚きの声が上がる。

 

 

「マジか!?“個性”2つ持ちってスゲェ!」

 

「じゃあさっき轟と爆豪を空気が抜けた風船みたいにベロベロにしたのもその守護霊の能力ってヤツなの!?」

 

「つーか名前カッコイイなオイ!じゃあさ狭間奪!俺にもなんかスタンドくんね?」

 

 

なんか金髪チャラ男みたいな奴が俺にそんな事を頼んで来た。こいつに続いて次々と自分にもスタンドをくれ、もしくは貸してと頼んで来る。

お前等なぁ……スタンドDISC1枚手に入れるのがどれだけ大変なのか知らねぇーからってそんな「100円貸してくんね?」みたいなノリでスタンドをねだってんじゃあねぇーよ。

 

 

「悪いがそれは無理だ。スタンドを与えられるのは適正のある限られた人間や動物だけだからな。それに普通知り合ってまだ2日も経っていねぇー奴にスタンドをやる訳ねぇーだろーが」

 

「あ……それもそうか。なんか悪いな」

 

「分かりゃあいいんだがよ。………あん?」

 

「なんて応用力のある“個性”なんだ。しかも能力によっては戦闘から敵の拘束それにもしかしたら治療とかにも使えるかも知れない。それに姿を見る事が出来ないって事は攻撃を相手にバレる事なく仕掛ける事が出来るだろうしブツブツブツブツブツブツブツブツ…………」

 

 

なんかどっかからブツブツ声が聞こえて来たのでそっちを向くと、なんか何処となくオールマイトをモデルにした様なコスチュームの緑谷が顎に手を当ててずっとブツブツ呟いていた。

何こいつ怖ッ!!?“ザ・ワールド”の俺程じゃあねぇーがなんか別の意味で怖いぞこいつ。他の皆も心なしか距離とってる感じがするし、これもしかして子供が見たら泣くんじゃねぇーの?

 

 

「な、なぁ?あいつはいつからあの状態なんだ?なんか怖いんだけど……」

 

「幽義の説明が終わってからずっとあの調子だと思う。なんかウチもちょっと怖くなって来た」

 

 

俺達が緑谷から距離を置いて話をしていると、モニター室の壁に掛けられた時計を見たオールマイトが手を叩きながら話し出した。

 

 

「話で盛り上がっている所済まないが、そろそろ次のチームの戦闘訓練を始めるぞ!話はそこまでにして、次の対戦チームを決めよう!」

 

 

その後、次々と対戦が行われ、初めての“ヒーロー基礎学”は終わりを迎えた。なんか授業が終わった後、オールマイトが随分焦った様子で部屋を出て行ったが……具合でも悪かったのか?

まぁ、俺が気にする事じゃあねぇーか。



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No.15 リプレイ

「ねぇ、アレってなんの騒ぎ?」

 

「俺が知ってると思うか?」

 

 

屋内対人戦闘訓練が行われた次の日、俺と響香は雄英の校門の近くまでやって来たんだが、なんか校門の前に人集りが出来ていた。なんかマイクやカメラを持った奴等ばっかりで、校門を通ろうとする生徒1人1人にマイクを向けて話し掛けてるな……ってことは、アレ全部マスコミか?

 

 

「なんでマスコミがこんなにいるんだ?」

 

「あ、アレじゃない?ホラ、今年からオールマイトが教師になったから」

 

「あー……成る程、理解した」

 

 

つまりは俺達生徒にオールマイトの授業はどうだったか取材したいって事かよ?ったく、しょ〜がねぇ〜なぁ〜?

 

 

「おい響香、ちっとばかし気持ち悪いが、我慢しろよ?」

 

 

俺は響香の手を握り、“平行世界”で回収した普段は危険過ぎるのであまり使わないある“能力”を発動させ、校門に向かって歩いて行く。

マスコミ達は俺達が目の前を歩いても気付く事無く(・・・・・・)他の生徒が来ないか周囲を見回しており、俺達はそのまま校門をくぐって下駄箱の前に来ると“能力”を解除した。

 

 

「よし、さっさと教室に行くぞ……って、どうした?なんか顔が赤い様な気がするが…?」

 

「へ!?い、いや別に?なんでもない。ホラ、早く教室に行こ!」

 

 

響香はそう言うとさっさと靴を履き替えて教室に向かって走って行った。気の所為だったのか?

 

 

 

 

 

 

その後俺は教室に向かい、席に着いて暇を潰していると、イレイザーヘッド…もとい相澤先生が入ってきてホームルームが始まった。朝の挨拶から始まり、相澤先生は昨日の授業で行われた屋内対人戦闘訓練の簡単な講評をした相澤先生はさて、と本題に入った。

 

 

「ホームルームの本題だ。急で悪いが、今日は君等に……学級委員長を決めてもらう」

 

(((((学校っぽいの来た〜〜!!)))))

 

 

普通に学校でありそうな事を言った。いきなり臨時テストを入学式に参加せずにやらせた相澤先生だから、また何かしらの臨時テストをするんじゃあーねぇーかと思って、ちっとばかし身構えちまったぜ。

俺は学級委員長なんて面倒だからやる気はねぇーんだが、他の生徒達は響香も含めて自分がやりたいと手を挙げる。

ここヒーロー科では多くの人間を纏め上げる技量を培うことが出来るっつー理由から、今のように率先してやりたいと願う奴が多いって波動先輩に教えて貰ったが、まさか俺以外の全員がやりたいって言うとは思わなかった。

 

 

「静粛にしたまえ!!」

 

 

突然の飯田の声に全員がピタリと動きを止め、静かになった。

 

 

「『多』を牽引する責任重大な仕事だぞ…!やりたいものがやれるモノではないだろう!周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…!民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのならば……これは投票で決めるべき議案!!」

 

 

まぁ確かに飯田の言う事にも一理あるな。後から不平不満が出るよりは、全員で相応しい人間を最初に決めた方が後腐れがなくていいだろぉ〜しな。

だがよ…………。

 

 

「「「「「腕聳え立ってんじゃねぇーか!」」」」」

 

「何故発案した!?」

 

 

飯田の手が見事に真っ直ぐ真上に聳え立っていた。尤もらしい事言ってたが、お前も委員長をやりてぇーんだな。

まぁ、結局は飯田の発案通り投票で決める事になった。投票結果は緑谷が3票、八百万(やおよろず)ってお嬢様って感じの少女と響香が2票ずつだった。取り敢えず委員長は緑谷に決定し、副委員長はじゃんけんの結果八百万がやる事になった。

あん?俺?響香に投票したから0票だけど?

 

 

 

 

 

 

午前の授業が終わり、昼食の時間になった。俺は食堂で響香と一緒にランチラッシュが作った飯を食べていた。そういやあの人の“個性”ってなんなんだ?やっぱどんな料理でも作れる“個性”か?なんか“パール・ジャム”の適性持ってそうだな。

そんな事を考えながら注文したステーキ定食を食べていると、突然校内に警報が鳴り響いた。食事を楽しんでいた俺達生徒全員は驚いてついサイレンを鳴らす機械を見る。

 

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください。繰り返しますーーーー』

 

 

セキュリティ……そういや波動先輩が前に教えてくれたな。確か雄英高校の侵入者対策で、セキュリティ1から3まであり、3が最も厳重なシステムだって話だったな。セキュリティ1で『雄英バリアー』ってちょっとダサい名前の鉄の壁が門を封鎖するらしい。

つまり、それより上のセキュリティが突破されたって事は、誰かが態々侵入して来たって事だ。この学校に侵入する奴………敵か?

俺がそう考えていると、少し慌てた様子の響香が話し掛けて来た。周りにいた他の生徒は全員廊下に向かって走っている。

 

 

「どうする幽義!?ウチ等も避難する!?」

 

「……いや、それは辞めといた方がいい。今廊下はパニックになった生徒でごった返してるだろうからな。取り敢えず……“エアロスミス”!!」

 

 

俺は“エアロスミス”を飛ばしてレーダーを確認する。この食堂は校門に結構近い場所にある。レーダーで探知出来る範囲内にまだ侵入者が残っているかも知れないからな。

そして俺が思った通り、外に呼吸をしている人の反応があったんだが……なんだこの数!?

 

 

「5…10…ざっと見ただけで30人以上いるぞ!?テロリストでも攻めて来たってのかぁ!?」

 

「さ、30!?嘘でしょ!?」

 

 

てっきり1人2人程度だと思ってたが、想像以上に数が多い事に驚いた。だが様子がおかしい。敵の襲撃なら校舎内に強行しても変じゃあーねぇーが、何故かこの呼吸をしてる連中はその場から動いていない。それどころか暴れ回っている様子もない。

この場所なら廊下の窓から侵入者の姿を確認出来る筈だから確認したいんだが、廊下はパニックになった生徒でいっぱいで行けそうにない。………!そうだ!

 

 

「“ホワイトスネイク”!廊下に出て外の様子を確認しろ!」

 

『了解シマシタ』

 

 

“ホワイトスネイク”はそう言うと、生徒でごった返している廊下を歩いて行った。そして生徒達を擦り抜けて(・・・・・)窓の方へ向かう。“ホワイトスネイク”の射程は約20m、そしてスタンドはスタンドでしか触れない。だから“ホワイトスネイク”に見に行ってもらっているのだ。

少しすると、“ホワイトスネイク”の声が頭の中に聞こえて来た。

 

 

『幽義様、ドウヤラ侵入者ハ、マスコミ ノ様デス』

 

「マスコミだぁ?」

 

「もしかして、今朝のマスコミ達?」

 

『ソシテ、校門ガ、粉々ニ破壊サレテイマス』

 

「……何?」

 

 

校門が粉々に破壊されてる?って事はつまり、マスコミはどんな“個性”か知らねぇーが、それを使ってまで不法侵入して来たって事になる。ただのマスコミがそんな事をしようと思うか………?

 

 

「……あいつを呼んで、後でちょっと調べてみるか」

 

「幽義?どうかしたの?」

 

「あぁ、ちょっと気になる事があってな」

 

 

その後、パニックに陥っていた廊下の生徒達は飯田が文字通り体を使って落ち着かせ、侵入者騒ぎは無事収まった。次いだに言うと、緑谷の代わりに飯田が委員長を務める事になった。

 

 

 

 

 

 

午後の授業が終わって下校の時刻になった。生徒達が下校して行く中、俺は今は綺麗になっている校門の前に立つ。“ホワイトスネイク”によると、この場所に校門と『雄英バリアー』の残骸が砂利の山の様にあったそうだ。

因みに今この場にいるのは俺だけだ。響香や一緒に帰るようになった波動先輩は先に帰ってもらった。

 

 

「さてと、“D4C”!」

 

 

俺は鞄から折り畳んだ国旗を取り出し、それを使ってコートの様なものに『A』の形の金具が付いたベルトが特徴的な服装の“平行世界”の俺を呼び出した。

 

 

「おう、久しぶりだな。“基本世界”の俺。今回は何の用で呼んだんだ?」

 

「あぁ、実はお前のスタンドで、今日の昼頃にこの場所で校門を破壊した奴をリプレイ(・・・・)して欲しくてな」

 

「成る程な、了解したぜ」

 

 

そう言うと“平行世界”の俺は校門の方へ歩いて行く。そして自分のスタンドの名前を叫んだ。

 

 

“ムーディー・ブルース”!!

 

 

するとそいつが歩いた後に残像が残り、その残像が段々と姿を変え、やがて口や鼻の無い平たい顔面と、額に就いたデジタル目盛が特徴の紫が基調の色をした人型のスタンドの姿になった。

 

“ムーディー・ブルース”。第5部『黄金の風』に登場するレオーネ・アバッキオのスタンドだ。。指定した人物やスタンドの過去の行動を、その姿になってビデオの映像のようにリプレイし再生できる。指紋や脈拍、呼吸や体温まで完璧に見る事が出来、瞬間移動の様な“能力”で移動しない限り、どこまでも追跡する能力を持っている。

 

“平行世界”の俺は“ムーディー・ブルース”に指示を出した。

 

 

「“ムーディー・ブルース”!リプレイしろ!」

 

『トゥーーーーーー!!』

 

 

電話の音の様な声を出しながら“ムーディー・ブルース”は宙を滑る様に門の前に移動し、額のデジタル目盛りの数字と一緒にその姿を段々変えて行き、やがて灰色っぽい髪に全身黒い服装をした男の姿になった。

その後、リプレイでその男の行動を見たが、こいつは普通じゃあなかった。マスコミを誑かし、手で触れる様な動作をして校門と『雄英バリアー』を破壊、そしてふらりとその場から離れたかと思えば、「黒霧」と呟きそのまま追跡出来なくなっちまった。“ムーディー・ブルース”が追跡出来なくなったって事は、瞬間移動系の“個性”で何処かへ行ったって事だ。

 

 

(いったい何者なんだ?この男……?)

 

 

リプレイを一通り見終わった俺は、“ムーディー・ブルース”が変身した男について相澤先生達に報告した。しばらく説明に時間が掛かったが、大体1時間くらいで帰れた。

でもやっぱ、先生達びっくりした表情してたなぁ。



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