一周した世界線 (Achoo!)
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ある魔法使いの日記
神喰いの旅路 1-1


今回は少し外伝を...

ソルサクの『リブロム』の日記形式で、主人公の過去を『ある魔法使い』の視点から語ります。
なるべくソルサクと同じ様に5章くらいの構成で書きたい。


「やあ。キミが幻影に悩まされているという、今噂の魔法使いかな?」

 

 

グリム教団が情報交換に使用するという酒場。

 

自分はニミュエの呪いを解く方法を探す為に、幻影を見せる『赤ずきん(レッドフード)』という魔法使いを探している。

 

だがー

 

 

「へぇ〜...普通の魔法使いとそう変わらないけどねぇ...」

 

 

胡散臭い男だ。

 

年は自分より少し下に見える。

 

なのに男の纏っている、魔法使いとしてのオーラは並大抵の物では無い。

 

言うなれば...そう、かつて『アヴァロンの模範』とも言われたモルドレッドと同じ...いや、それ以上だろうか。

 

 

「キミ、名前は?」

 

 

男はそう聞いてきた。

 

今まで自分が逢ってきた、どの魔法使いとも違う...そんな存在。

 

いや...彼らとは全くもって異次元の存在だろう。

 

『人の名前を聞くときは、先に名乗るものだ』と男に伝えると、酒場の席を立ち出口へ向かおうとする。

 

 

「ふーん...なるほどね。見たところ【憎しみ】を取り込んじゃった訳か...それもとびっきりの澱んだやつを...」

 

 

自分は、その声が聞こえた瞬間に男の方へ振り向いていた。

 

 

—なぜ、そう言い切れる?

 

 

「多分今のキミには、僕の姿が歳下に見えるだろうね。でも、それなりには人を見てきたつもりさ。その経験ってところかな?」

 

 

—なるほど。やはり先程感じたオーラは間違いではなかったらしい。

 

 

「僕の名前はイオン。アヴァロンのしがない魔法使いさ」

 

 

男はそう自己紹介する。

 

しかし、『しがない』というのは間違いだろう。

 

その証拠に彼のその右腕は、明らかに度を逸して魂を取り込んでいる。

 

普通の魔法使いならば、とっくに自我は崩壊し魔物に成れ果てているだろう。

 

しかしイオンは、まるでなんともないかのように振舞っていた。

 

 

「僕の興味があるのは、君の右腕に取り込まれた魂だ。大方、【試験】の時の相棒の魂に苛まれているんだろう?」

 

 

—完全にお手上げだ。

 

今の自分では、イオンに一矢報いることすら出来ないだろう。

 

自分の命は既に握られている。

 

 

「まあ...別にキミをどうこうするわけでもないさ。ただ少し、付き合って欲しいんだよ。自分の旅に」

 

 

—言っていることが矛盾している。

 

 

旅に連行される時点で、どうこうされていると思うのだが...

 

 

「そう気にしないでよ...僕が観たいのは、今のキミの生き方さ」

 

 

イオンはそう言うと酒場を後にする。

 

ついて行かなければ、自分の身が危ない。

 

そう考えると、自分はイオンの後を追いかける様に酒場を出ていった。

 

 

 

それにしてもイオンという名前に引っかかりを感じる。

 

どこかで聞いたことのある様な、そんな名前を名乗った男。

 

彼は一体、何者なのだろうか...?




こっちが更新されている時は『本編が行き詰まっているんだなぁ』とでも思っててください...


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神喰いの旅路 2-1

みなさんの朱の擬人化イメージってどんな感じなんですかね...



自分としては幼女とまではいかない、少女っぽいイメージ。


「いっちょあがり!」

 

 

イオンは徘徊していた毒緑ゴブリンを【憑依者の豪槍】で突き殺す。

 

溶けてコールタールの様になった魔物の身体から鼠が出てくると、彼は気にする事なくそれを【生贄】にした。

 

 

「...どうかした?」

 

 

—いや、なんでもない。

 

問いかけてきた彼へぶっきらぼうに返答する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...飲みなよ」

 

 

イオンはそう言うと前に置かれたグラスを呷る。

 

彼に連れてこられたのは【エルフの谷】にほど近い辺境の街。

 

そして今居るのは、その街の小さな酒場だ。

 

【エルフの谷】は色欲の魔物である【エルフ女王】が住まうとされる。

 

そして【エルフ女王】は特徴的な魔物で、街に現れては幼い子供を攫うという習性がある。

 

 

「住人が言うには、ここや近隣で不審な事件が発生しているらしい」

 

 

—不審な事件。

 

近隣の村や町で行方不明者が出ているらしい。

 

それもまだ小さな子供ばかりだと街の人々は語る。

 

 

「ここは【エルフの谷】も近いし、もしかすると【エルフの女王】がまた出てきたのかもしれない」

 

 

そう彼は言うと、懐から紙を取り出した。

 

【エルフの谷】における行方不明者の捜索、並びに【エルフの女王】発見・排除というアヴァロンからの要請書。

 

 

「じゃあ、行ってみるか...」

 

 

彼は席から立ち上がると、テーブルに幾枚か硬貨を置く。

 

その金額から見るに自分の分も払ってくれる様だ。

 

 

「行くよ?」

 

 

既に出口を出ようとしている彼は、自分の方を振り返る。

 

—わかっている。

 

そう返事をし、彼を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっちはどうかな?」

 

 

—誰もいないな。

 

毒緑ゴブリンを次々と生贄に変えていくイオンを尻目に、自分はある程度応戦しつつ行方不明者の捜索を行っていた。

 

だが誰もいないのだ。

 

しかも何かがおかしい。

 

普段、【エルフの谷】では常にと言っていいほど綿毛が舞っている。

 

だが今のここには綿毛が舞っていないどころか、タンポポすら咲いていない。

 

これは一体何が...

 

 

「...上か」

 

 

彼がそう呟いたその瞬間、真上から物凄い量の綿毛が舞い降り、それに包まれる様に何かが降りてくる。

 

 

「来たか、【エルフ女王】」

 

 

降りて来たのは討伐対象の【エルフ女王】。

 

そしてその腕には女の子が抱えられていた。

 

 

「攫ってきた直後ってわけか...」

 

 

彼はそう言うと『火帝石の破片』を供物に炎の槍を顕現させる。

 

 

「いけるな?」

 

 

彼は自分に、女の子を傷つける事なく助けられるかを問いている。

 

彼に合わせて自分も『魔王のフォーク』を供物に炎の剣を顕現させた。

 

 

—あたりまえだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶がプッツリと途切れている



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入学編
財団の末裔


不定期投稿作品。


『春眠暁を覚えず、処処啼鳥を聞く』とは上手く言ったものだろう。実際自分は春の暖かさで素晴らしい眠りについていたはずだ。だが...

 

ガシガシ...ツンツン

 

「痛ェ...」

 

枕元に立っている緋色の鳥によって妨害されてしまった。相変わらずコイツは飯にしつこい。起きてしまったからには二度寝する気も無いので、布団を畳むとキッチンへと向かう。

 

「そういや今日は入学式だったか...」

 

とは言え時刻はまだ5時前。時間はたっぷりとある。取り敢えず『朱』の朝食を作り、柔道着を着ると庭へと出る。『朱』と言うのは自分を起こした緋色の鳥の名前だ。

 

「すぅー、はぁー。すぅー、はぁー」

 

自然体のまま数回深呼吸をし新鮮な空気を取り入れると、身体の筋肉を上から下へ順番に伸ばしていく。

 

「よし」

 

身体の状態が良好である事を確認すると、息を大きく吸い込む。

 

 

一つ!最短の道を選ぶなかれ!

二つ!研鑽を忘れるなかれ!

三つ!書を捨てよ、己が道を進め!

 

 

そう言うと開いた左手と握った右手を合わせ45度の礼を5秒間続ける。これは『解放礼儀』と呼ばれる物で、これから彼が行う武空術の中で最も重要とされている。それを終えると日々の鍛錬を開始する。

 

最初は用意していた鉄板を正拳突きする。すると一瞬で鉄板が砕け散った。それを確認すると、シャドーボクシングの様に空間に向かって続けざまに正拳突きを行う。それを数十回と続けた。

 

「ふう...」

 

それが終わると自分の目の前に、自分をイメージする。今度は両手の十指を結印に従った動作を行う。すると目の前にイメージした自分が現れる。これは視覚野を局所的に麻痺状態にする事により発生する錯覚だ。だが、そのイメージは実体となって自分に襲いかかって来る。

 

錯覚と殴り合っておよそ30分。ようやくイメージの自分が膝をつき、勝負が決した。

 

 

朝の鍛錬を終わると、夜に作っておいたおにぎりを冷蔵庫から取り出しレンジにかける。その間に身支度を済ませ、白と緑に彩られた真新しい制服に腕を通す。そこに花の紋章はない。

 

着替え終わるとレンジから温めたおにぎりを取り、玄関を出る。頭の上にはいつも通り朱が陣取っている。鍵を閉めると、おにぎりを口に運びつつ最寄り駅へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは財団の世界線が一周した世界。何が原因かは不明だが因果を外れ、ファンタジーの産物であった魔法が現実となった世界。

誰も財団など知らない世界で、彼はその財団の末裔として生きていく。

その頭に緋色の鳥を乗せて。




好評なら続く。


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入学式その1

書けたから投稿するよ。


「なぜお兄様が二科生なのです!?」

「落ち着け深雪」

 

目的地である第一高校に着くと、入学式が行われる講堂の前から声が聞こえる。そちらを見ると男子生徒と女子生徒の2人がいた。なにやら揉めている様だが、関係ない所に首を突っ込む訳にもいかないので、騒ぎが遠目に見えるベンチに腰をかけた。頭の上にいる朱はどうやら眠たい様子。そのためあまり動けないので、あらかじめ鞄に入れて置いた本を引っ張り出して内容を確認していく。全く、朝早くに起きるからだ...

 

「やっぱり難しいよなぁ...」

「隣いいか?」

 

声をかけられたので顔をあげると、先程揉めていた男子生徒だった。

 

「ああ、いいけど」

「すまない。もしかして君も新入生か?」

「そうだけど。ていう事はあんたも?」

「ああ。司波達也だ。よろしく」

「財田暁ってんだ。こちらこそよろしく。オレサマオマエマルカジリってね」

「なんだそれ?」

「昔のゲームの決まり文句、らしい」

「へぇ...それで気になる事があるんだが」

「ん?」

「その...頭の上の物はなんだ?」

 

達也には朱が見えているらしい。認識の鳥である朱は通常、広範囲に認識災害を起こす事で自分の身を隠している。ならば達也はその認識災害の影響を受けない、つまり認識災害耐性を持っているという訳だ。

 

「何が見える?」

「...赤い鳥か?はっきりとしていないが...」

「大体それであってる。よく見えたな」

「いや、はっきりと見えてない。もしかしたら錯覚かと思った」

「コイツについてはあまり深入りしないでくれよ。危ないから」

「...危ない?」

「うん。危ない」

 

はっきりと見えていないレベルなら、達也は認識災害耐性ではなく、かなり高度なBS魔法を持っており、それにより朱の何かが見えたのだろう。そんな事を思っていると自分達の周囲から内緒話をするレベルの会話が聞こえた。

 

「ねぇ、あの子雑草(ウィード)じゃない?」

 

「こんなにも早く...所詮補欠の分際で張り切りすぎるのよ...」

 

選民思想も甚だしい。ここ第一高校では一科二科制度を取り入れているが、その差はあくまで魔法が展開されるまでのスピードだ。

自分なら魔法より早く『量子指弾』を撃ち込む事が出来るので、あまり魔法構築のスピードは気にしていない。はっきり言って評価なんぞどうでも良い。使うのなんて『解放礼儀』を邪魔されない様にする物くらいだ。

 

「雑草か...」

「どうした達也?」

「いや、何でもない」

 

再び本へと目線を戻す。そして数分後、講堂が開く時間になるのを確認して本を鞄へとしまう。それと同時に朱が起きる。すると目の前に気配を感じた。

 

「新入生の方ね。もう講堂は開いているわよ」

 

目線をあげるとそこには女子生徒がいた。腕にはCADが巻かれており、明らかに学校内での地位がある者と容易に推測出来る。自分としてはあまり関わりたく無いので手短に礼を言い、立ち去ろうとする。どうやら達也も同じ様だ。

 

「「ありがとうございます」」

「いえ。それにしても感心ですね、スクリーン型なんて」

 

すると女子生徒は達也がしまい損ねた端末に食いついたので、自分はなるべくばれない様に講堂へと走って行った。




まだ続くよ。


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入学式その2

か け た 。


「おい。見捨てるなんて酷いぞ」

「まあそう言うなよ。席取っといたんだし」

 

自分から遅れる事数分後、達也が隣にやって来た。見た感じかなり参っているようだ。

 

「何を言われたんだ?」

「スクリーン型端末と入試成績と自己紹介。あの人、生徒会長だった」

「かなり言われてんな。更には生徒会長に詰め寄られるとか...大丈夫か?」

「大丈夫に見えるか?」

「すまんな」

 

恨みがましく言って来る達也に軽口を叩いていると、後ろから声をかけられた。女子生徒だ。

 

「あの...お隣、空いてますか?」

「空いてるけど...達也もいいか?」

「構わない」

「ありがとうございます」

 

了承が取れるとその子はホッとした表情を見せた。

 

「良かった〜」

「これでみんな一緒に座れる...」

「4つなんて中々空いていないもんね」

 

改めて周りを見回すと、4席連続で空いている所はここ以外にはなかった。にしても4人とは多い。

 

「あの...私、柴田美月って言います。よろしくお願いします!」

「司波達也だ。こちらこそよろしく」

「財田暁ってんだ。よろしくー」

「あたしは千葉エリカ。よろしくね、司波くん、財田くん」

 

席が近かった2人と自己紹介し合う。千葉さんは名前からして『数字付き』の家柄っぽいし、柴田さんは今の時代では珍しく眼鏡をつけている。霊子放射光過敏症だろうか?何にせよ朱の存在はあまり広まらない方がいい。でないと下手したら大惨事だ。

 

そんな事を考えると、入学式が始まった。達也の言っていた通り、先程話しかけて来た生徒が生徒会長として紹介されていた。名前は七草真由美。よりにもよって十氏族とは...朱の事について少し気をつけた方が良いかもしれない。

 

『続きまして新入生総代による答辞を行います』

 

その間も式は進む。新入生総代の答辞もあったが、差別意識を真っ向から否定する内容に少しヒヤヒヤした以外は変わらなかった。ん?司波だって?聞き間違いじゃないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これを持ちまして、入学式を終了します。この後新入生の方は窓口へ向かい、学生証の発行を行って下さい』

 

...!

いかん。少し眠ってしまった。これも全部、春の陽気って奴の仕業なんだ。何だってそれは本当かい!?

 

 

...茶番はさておき周りを確認すれば、既に生徒は退場を始めたらしい。隣に達也や柴田さん、千葉さんの姿はなかった。

急いで講堂を出ると窓口へと走る。窓口周りは渋滞していたが、そこを難なくすり抜け学生証の発行申請をする。すると後ろから声をかけられた。

 

「暁、遅かったじゃないか...」

「達也ァ...起こしてくれても良かったじゃないかァ...」

「それは置いといて...お前、クラスは?」

 

既に出来ていたのか、直ぐに窓口から呼ばれ学生証を受け取る。

 

「あー...Eだ」

「奇遇だな。俺も一緒だ」

「えっ?そうなの?」

「因みに柴田さんと千葉さんとも一緒だ」

「ちょっとー!?折角驚かしてやろうと思ったのにー!」

「エリカちゃん、落ち着いて...」

 

後ろから急に千葉さんと柴田さんが現れる。いきなり後ろから声をかけないでくれよ。朱までビックリしているんだが...

 

「ねえ、クラスも一緒だってわかった事だし、ホームルーム覗いてかない?」

「それ良いですね!」

「あー、2人とも済まない。妹と約束があるんだ」

 

どうやらあれは聞き間違いではなかった。

それを聞くと千葉さんはむしろノリノリでそっちに首を突っ込み始める。柴田さんも気になるらしい。それを聞けば達也は新入生総代の司波深雪さんとは年子で、達也が4月生まれで深雪さんが3月生まれ、との事だ。答辞の時に何か似ているなと思ったらそう言う事か。

 

「お兄様、お待たせしました!」

 

丁度タイミングよく深雪さんが来た。それも後ろに人を引き連れて。いや、彼女はそれにすら気付いていない。無意識って怖いね。

 

「あら、また会いましたね」

 

しかも七草会長までいる。何の因果だよ。最悪だよ。

 

「お兄様、そちらの方々は?」

「こちらが柴田美月さん、そちらが千葉エリカさん。で、コイツが財田暁だ。3人ともクラスメイトだよ」

 

深雪さんの問いに、達也は当たり障りの無い答えを言う。てか俺だけ丁寧じゃない。

...あれ?何か寒気がする。

 

「そうですか、クラスメイトですか...ではお兄様、早速クラスメイトの方々とダブルデートしていた理由をお聞かせ願っても?」

 

ダブルデートて...俺は良いけど2人が可哀想じゃないか?寒い原因はコレか。達也は溜息ついた。いや、溜息をついている場合ではないです。

 

「別にお前を待つ間付き合ってもらってただけだ。そんな言い方は2人にも失礼だろ?」

「おい達也、俺は?」

「忘れてた」

「ひでぇ」

「そうですか、申し訳ありません!」

 

深雪さんは凄い勢いで頭を下げる。誤解が溶けたならまあいいか。

 

「別に良いですよ。柴田美月って言います」

「そうだって!あたしは千葉エリカ。貴女の事は深雪って呼んで良いかしら?」

「ええ。苗字だとお兄様と区別がつかなくなってしまいますからね。私も貴女の事をエリカって呼んでも良いかしら?」

「もちろんよ!」

 

女子2人は完全に意気投合したらしい。女子のコミュニケーション能力ってすごい(小並感)。

 

「で、あなたは...」

「あ、財田暁です。よろしくお願いしますね」

「はい。よろしくお願いします!」

 

何か他の生徒から睨まれているんだが...俺、何かやった?と思っていると達也が深雪さんに話しかける。

 

「深雪、生徒会の方たちとの話はもう良いのか?まだなら何処かでテキトーに時間を潰してるが...」

「その心配は要りませんよ。今日はご挨拶だけで十分ですし、他に用事があるのならそちらを優先してくださって構いませんから」

「会長!?」

 

七草会長の後ろにいた男子生徒が食い下がっているが、結局言いくるめられたらしく、その後は何も言わなかった。

 

「それでは深雪さん、また後日改めて。司波君も今度ゆっくりと話しましょうね」

「はぁ……」

「それでは会長、また後日」

 

深雪さんはしっかりとお辞儀をしていたが、達也は『後日ゆっくり話す』との事に難しい顔をしていた。そう言えば会長が俺達とは逆の方向に歩き出した時に、後ろにいた男子生徒に睨まれた。

だから朱に喰わせてやろうかと考えてしまった。やらないけど。

 

...やったらどうなるかって?血よりも紅い世界にサヨウナラだ。




わーい、2000文字超えた。


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鍛錬その1

今回は繋ぎなので短め。


創作奥義も出てくるよ!


「ねぇ。深雪も来たことだし、この後喫茶店に行かない?」

 

七草会長が去ると、千葉さんがそう提案した。

 

「なんだエリカ。学校始まる前からそう言うのは覚えているのか?」

「あったりまえよ!美月は行く?」

「はい。ご一緒させて頂きますね!」

「どうしますお兄様?」

「この後予定はないしな...行こうか。暁はどうする?」

「あー、すまねぇ。この後予定があるんだわ。ここらで失礼するよ」

 

話を切り上げ4人と別れると、家へと帰る。朱も少し疲れているみたいだし、こっちも鍛錬がある。

 

《昨日の自分より二次関数的に強くあれ》

 

何しろ、この『財団神拳』の教えを蔑ろにする訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

家に着き玄関の扉を開け、部屋へ行く。制服から柔道着に着替え、朝と同じ様に庭へ出る。庭の中心に立つと【解放礼儀】を行い、自分の集中力を高めると同時に身体の枷を外す。

 

「さて...今日はここからだ」

 

【解放礼儀】を終えると、構えた両手を解き自然体の状態にする。全身から力を抜き、されど姿勢は真っ直ぐにしていつでも動ける状態にすると、特殊な腹式呼吸を始める。それを10秒ほど続けると頭のどこかで何かが切れた様な音が聞こえた。

 

「【二段解放】!!」

 

【二段解放】。『財団神拳』の3つの教えの一つ、《書を捨てよ、己が道を進め》から暁が生み出した独自の奥義である。

 

特殊な腹式呼吸を10秒間行う事により、その呼吸と呼吸の音から脳の一部を一種の催眠状態にして、通常の状態で体にかけられているリミッターを外す。簡単に言ってしまえば『火事場の馬鹿力を火事場なしで発揮する』と言う訳だ。

もちろんデメリットもある。通常の身体の限界を超えたギリギリまで酷使するため、使用後に全身が恐ろしい程の筋肉痛に襲われるのだ。そのため回復に奥義の一つ【元素功法】を使用する事が望まれる。

 

【二段解放】を行うと全身がより軽く、より素早く動く様になる。さて...

 

「...やるか」

 

そう言うと普通に筋トレを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は飛んで夜。

全身を筋肉痛に苛まれている状態でなんとか風呂に入り、ベッドまで這って動く。

 

「痛え...」

 

なんとかベッドに辿り着くと、そのままぶっ倒れて意識を失った。

 

 

ーーー

 

目の前には赤色に染まった草原が広がっている。空は血よりも赤く、そして夕焼けよりも赤い。

 

「あー...」

 

何かやらかしちまったかと原因を考えていると、空の遠くから羽ばたく音が聴こえた。オワタ...

 

バサッバサッ...

 

目の前に緋色の鳥が現れる。精神世界における朱は現実世界より遥かに大きいし、赤いし、そして禍々しい。その眼を見ると何やら不機嫌そうだ。まさか...

 

 

 

 

 

 

「俺が夕飯作らなかったから怒ってる?」

 

 

 

 

 

 

その瞬間、朱が大きく口を開けた。




思ったんだけど、『火事場の馬鹿力』って本当に強いんかな...


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確執その1

主人公の好物、判明。ミーム汚染されている模様。

3/22 指摘された点を修正。


翌日。

夢というか寝ている間に、朱に精神世界に引きずり込まれ、むっしゃむっしゃと精神を食われてしまったので非常に気分が悪い。筋肉痛は既になくなっているが...

だがそんな事をほざいて学校に遅れる訳にもいかないので、無理矢理身体を起こすと部屋を出てキッチンへと向かう。途中にリビングを見ると朱が満足そうに寝ていた。そういや、俺の精神が一番の御馳走だったとか言ってたな。すっかり味を占めやがって。そんな事を思いつつ、今日は昨日とは逆にこちらから突ついて起こしてやった。

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございますっと」

「暁、おはよう」

 

そんな挨拶をしつつ教室へ入ると、既に登校していた達也に挨拶を返された。そういやコイツ昨日女子3人(1人は妹だが)とお茶をしに行ったんだよな。なら言うべき言葉はこれだろう。

 

「達也くん、昨夜はお楽しみでしたね」

「勘弁してくれ。ふざけているのか?」

 

そんな軽口を叩きつつ自分の席へ向かう。荷物を下ろすと履修登録をやっていなかったので、履修登録ページを開きキーボードを叩く。

 

「おいおい!?お前もかよ!」

「んあ?誰だ?」

「おっと済まねえ。俺は西城レオンハルト。レオって呼んでくれ!」

「財田暁ってんだ。よろしく」

「おう!にしてもお前もキーボードオンリーかよ?」

「お前もって事は他の誰かもやってた?」

「達也がね」

 

レオはどうやら達也を知っているようだ。履修登録を終えると後ろから声がかかる。

 

「おはよう!暁くん!」

「おはようございます」

「おはよう千葉さん、柴田さん」

「にしても固いねぇ。もっとこう、フレンドリーに呼んでくれていいのに」

 

そこまで固いだろうか?そんな事を考えつつ5人でわいわい話していると、1人の女性が教室へと入ってくる。はて、二科生クラスに担任はいないはずだが...

 

「皆さん入学おめでとうございます。当校の総合カウンセラーを務めています、小野遥です」

 

うーん、スクールカウンセラーと言うには少し無理がある。明らかにまとっている雰囲気が違う。

 

「それでは皆さんの端末にガイダンスを送るので、その後で履修登録をしてください。既に終わっている生徒は退出しても構いませんが、ガイダンス開始後の退出は認められませんので、希望者は今のうちに退出してください」

 

周りを見渡せばある程度の人は既に終わらせているらしい。他の4人もそうみたいだ。

 

 

 

「なあ、これから昼までどうする?」

 

そうレオが切り出した。履修登録が終わっているので昼まで暇なのである。

 

「特に決まってはいないが...何なら付き合おう」

「よっしゃ、それなら工房を見学しに行こうぜ!」

「工房か?」

 

レオが工房とは意外だ。纏っている雰囲気から見れば工房より闘技場だろうに。

 

「硬化魔法は武器術との組み合わせで力を発揮するからな」

「なるほど」

 

納得。『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』か。確かにレオらしい。

 

「あのー、それなら私もご一緒していいですか?」

「柴田さんも?」

「はい。私、魔工師志望なので...」

「俺もだ」

「達也くんって魔工師志望なの?ちょっと意外ね」

「おめぇは如何見ても闘技場だろ。さっさと行ったら如何だ?」

「何よ!」

「あーもう、2人とも喧嘩はやめてくれよ...」

 

レオとエリカが喧嘩をし始めそうになったので何とか止める。

 

「暁、お前はどうする?」

「んー。俺はパス。先に食堂行って席取っといてやるよ」

「いいのか?」

「ああ。行ってこいよ。席の位置は行ったら分かる様にしておく」

「なら頼んだ」

「まかせんしゃい!」

 

 

 

 

工房へ向かう4人と別れると、食堂へと向かう。途中で一科生の連中と鉢合いそうになったが朱の能力を使って切り抜け、食堂へ入る。

 

「ひっろ...」

 

それもそのはず、学生食堂は第一高校の全校生徒600人の半数以上が入る広さを持つ。だがまだお昼時には時間が早いので、誰1人生徒はいない。

 

「取り敢えずここにすっか」

 

なるべく配膳所に近い大テーブルを確保すると席に座り、家から持ってきたプリントを読み始める。

 

「【SCP-403 段階的過熱ライター】、ねぇ...」

 

【SCP-403 段階的過熱ライター】とは、24時間以内に複数回点火するとその度に点火される火の威力が大きくなるという、使用燃料不明のライターだ。多分今は家の金庫の中にしまってある...はずだ。

 

「しっかし使える物が無いねぇ...」

 

SCPオブジェクトはその性質上、有用性のある物は非常に少ない。thaumielクラスの物も日常では役に立たないのがネックだ。唯一の救いはSCP-ES-9999-Jだろう。

何故かって?簡単な事だ。

それが宇宙で最もすごくて最も美味しい物質で、この無限に完璧な存在、偉大にして壮大なるヨーグルトだからだ。当たり前だろう?

 

 

 

 

昼の12時半過ぎ。

 

「待たせたか?」

「いや。大丈夫だ」

 

4人が工房見学から帰ってきた時には、食堂はまあまあの混み具合を見せていた。既に自分の昼飯は持って来てあるし、達也達もお盆を持って来ていた。

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

席につき食事の挨拶を済ませると、一斉に食べだす。自分のは日替わり定食と追加で注文した、偉大なるヨーグルトだ。美味い。

 

「意外と上手いな、此処の学食」

「アンタは口に入れば全部同じなんでしょうけどね」

「だからどうして言い争うんですか!エリカちゃんもレオ君も仲良くしてください!」

 

なんでこの2人は事あるごとに言い争うんですかねぇ...ヨーグルト美味い。ん?あれは...

 

「お兄様!みなさん!」

 

やっぱり深雪さんか。

 

「お兄様って誰だ?」

「アンタの頭じゃ推理出来ないでしょうけどね」

「何だと!」

「おめえら事あるごとに言い争ってんじゃねえ!せっかくこの偉大なるヨーグルトをいただいている最中なのに!」

「えっ?」

「偉大なる...何だって?」

ヨーグルトだっ!!

 

2人が何か呆れた様な顔をしている。達也の方を見ると、達也も似た様な顔をしていた。なんで?

 

「...話を戻そう。俺の妹だ」

「へぇ...達也、妹居たんだな」

 

にしても、なんでこんなに人を引き連れる力が強いんですかねぇ?

 

「ハイ深雪、待ってたわよ!」

「こんにちは、深雪さん」

 

...なんか刺々しい視線を感じる。嫌な予感。

 

 

「それでは皆さん、私はお兄様達と一緒に……」

「君たち、この席を譲ってくれ」

 

...偉大なるヨーグルト様がいっきに不味くなった。こいつマジであっちの世界に送り込んでやろうか?




今回登場したオブジェクト

・SCP-403 『段階的過熱ライター』 gnmaee様
http://ja.scp-wiki.net/scp-403

・SCP-ES-9999-J 『偉大なるヨーグルト』 FattyAcid様
http://ja.scp-wiki.net/scp-es-9999-j


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確執その2

財団神拳、炸裂。


「如何してアンタみたいなヤツの言う事を聞かないといけないのよ!」

「そうですよ!私たちはまだ使ってるんですよ!」

「二科が何を言う。ここは魔法科高校だ。実力が全ての世界で、補欠如きが粋がるな!」

「ちょっ!」

「言い過ぎ...」

 

せっかく偉大なるヨーグルトを食べていたのに、これじゃあ台無しだぁ...

 

「どっか行こうぜ。偉大なるヨーグルトが不味くなる」

「暁!?」

「何だレオ?俺は今、猛烈に不愉快だ。こんな場所ぶっ壊したいぐらいにな」

「...みんな行こう。深雪、俺達は失礼するよ」

「えっ、はい...」

「おい達也!?」

「感じ悪い! 私ももう行く!」

「エリカちゃん!」

 

自分が率先してその場を去ろうとすると、後ろから他の4人も着いてくる。レオとエリカは幾分か慌てた様子だ。

 

「おい本当に良かったのかよ!?」

「そうよ!何であっさり席を譲っちゃったのよ!?」

「はぁ...こんな場所で目立つ訳にもいかない。言わせときゃ良いんだ。後で潰してやる...」

「暁は置いといて...彼処で騒がしくするのは周りに迷惑だろう。まあ、あいつらに深雪の相手は務まらないさ」

「どういう事でしょうか...?」

 

にしてもやはり気分が悪い。ああ...無限に素晴らしく完璧なヨーグルトが食べたい。あのプリントに添付された写真の様な...ヨーグルトが食べたい。

 

 

 

 

午後は4人と一緒に各施設や演習の見学に行ったが、その度に一科生と鉢合わせイザコザを起こしかけた。マジであっちの世界に送ってやろうか...

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

昼にヨーグルトを美味しく食べられなかったので一緒に帰ると言う4人と別れ、何処かヨーグルトを食べられる店はないかと探し始める。...なにやら校門が騒がしい。

 

「いい加減にしてください!深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言ってるじゃないですか!」

 

4人と森崎とか言う一科生をリーダーにしたグループが揉めていた。どうやら深雪さんが達也たちと一緒に帰ると言っているのに、森崎たち一科生がそれを善しとはせずに、自分たちと話す方が深雪のためになるとか言い出したらしい。

しかし、美月さんが率先して言い争っているのは珍しい。

 

「大体、貴方たちに深雪さんとお兄さんを引き裂く権利があるんですか!」

「ちょっと美月…そんな、引き裂くだなんて」

 

深雪さんが頬を赤く染めている。あなた実の兄に惚の字なんかい...

 

「一科生には一科生の話があるんだ!二科生が口を挟むな!」

 

一気に険悪な雰囲気が増した。嫌な予感がするので、もしものために【解放礼儀】を済ます。そして【量子指弾】をいつでも撃てる様にしておく。

 

【量子指弾】。『財団神拳』奥義の一つである。物質に存在する量子をコペンハーゲン解釈によって指先に圧縮。それを発射する事により遠距離から攻撃が出来ると言うものだ。

 

「同じ新入生じゃないですか!今の段階でどれだけの差があるって言うんですか!」

「そんなに見たいなら見せてやる!才能の差ってヤツをな!」

 

美月さんの言葉にキレた森崎とか言う一科生が腰のホルスターからCADを引き抜く。それと同時に奴のCADに狙いを定め、発射。

 

「なっ!?」

 

結果、奴のCADが吹き飛び宙を舞う。それを確認すると同時に、ゆっくりとその場へ移動した。

 

「全く...そんな近距離で特化型CADを抜くんじゃねぇ。実戦なら死ぬぞ」

「てめぇは...!」

「暁!」

 

いきなり後ろから姿を現したので、数人が驚いた顔をしている。

 

「で?まだやんの?」

「二科生風情が...!」

 

奴がCADを拾ってもう一度構えようとしたので、再度【量子指弾】をCAD撃ち込む。

 

「ぐあっ!」

「てめぇ...二科生の癖によくも!」

 

他の一科生の連中もCADを起動しようとしたので、さらに撃ち込もうとすると...

 

「止めなさい!自衛目的以外での魔法攻撃は、校則違反以前に犯罪ですよ!」

 

何か聞いた事がある様な声がすると同時に、閃光魔法を発動させようとした一科生の魔法式が霧散する。振り返れば七草会長に見覚えのない女子生徒がいた。

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。君たちは1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聞きますのでついてきなさい」

 

はぁ...面倒な事になった。すると達也が発言する。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

「悪ふざけ?」

「ええ、森崎一門のクイックドロウは有名ですので、後学の為に見せてもらったのですが、それを見たコイツが咄嗟に反撃をしてしまったのです」

 

やっぱりコイツ、ボディーガードの名門家の一員だったか。

 

「ではあの女子は?攻撃性の魔法を発動させようとしてたのでは?」

 

達也は一瞬だけ渡辺委員長の腕に目をやり、そしてすぐに視線を戻した。

 

「あれはただの閃光魔法です。威力も抑えてありましたし、失明の危険性もありませんでした。周りを落ち着かせる為に注目を集めようとしたのでしょう」

「ほぅ」

 

達也の言い分に興味深そうな声を漏らす渡辺委員長。

まあ、普通起動式を読み取るなど魔法を発動する本人ですら出来ない。それを達也がやったとなれば当たり前か。

 

「君は、面白い眼をしてるんだな」

「実技は苦手ですが、分析は得意ですので」

「で、この男子生徒は?」

「自分は魔法など使っておりませんが?」

「なにっ!?」

 

自分はCADを腕に巻いていなければ、腰に下げてもいない。第一、CADすら持ってきていない。

 

「なら森崎のCADが弾き飛んだのはどう言う事だ?」

「さあ?全くもって存じ上げませんよ?」

 

適当に出任せを口にして煙を巻く。

 

「もう良いじゃない摩利」

「真由美!?」

「達也君、本当に見学だったんでしょ?」

「え、ええまぁ……」

「分かった。会長がそう言うのなら、この場は不問とします。以後気をつけるように」

 

取り敢えず逃げ切れた様だ。危ねぇ...

 

「君達、名前は?」

「1-E司波達也です」

「1-E財田暁です」

「覚えておこう」

 

会長たちが居なくなった後、森崎に認めない発言をされた。あんまり怖くない。

特に気にする事はないと思い、再びヨーグルトが食べられる店を探そうとその場を離れようとすると、達也に捕まる。

 

「おい暁、あれはなんだ?」

「...黙秘します」

「あの...」

 

達也に詰め寄られると、先ほど達也に助けられた一科生が声をかける。

 

「光井ほのかです! 助けていただいてありがとうございます!」

「いや、本当の事を言っただけだから」

「でも! お兄さんが居なかったら私……私!」

 

おう、達也くんモテモテですな。とか考えていたらもう1人残っていた一科生が声をかける。

 

「ほのかを助けてくれてありがとうございます。お兄さんが居なかったらほのかは風紀委員長に厳重注意をされてたでしょうから、私からもお礼を言わせてください」

「だから気にしなくていいって...えーと?」

「雫。北山雫です」

「光井さんも北山さんもお兄さんはよしてくれ。これでも同じ一年なんだから」

「じゃ、じゃあ何てお呼びすれば!」

「達也でいい。苗字だと深雪と区別がつかないからな」

「はい、達也さん!」

「ありがとうございます、達也さん」

「敬語もいい。同い年に敬語はおかしいだろ?」

「そうですか?達也さんには敬語の方がしっくりきますけど...」

「じゃあ私は普通に話すね。だけどそれよりも...」

 

まさか...

 

「私はこっちに興味がある」

「ああ。暁?喋ってもらうぞ?」

 

やめてくださいしんでしまいます。

よし、逃げよう。

 

「あっこら!勝手に動くんじゃねぇ!」

「HA☆NA☆SE!」

 

動こうとするとレオに取り押さえられ、動けなくなる。

 

「やめろぉ!俺はヨーグルトを食べに行かなければいけないんだぁ!」

「奢ってやるから来い!」

 

結局、近くの喫茶店にドナドナされた。

 




次はお勉強回かも。


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喫茶店にて

今回はお勉強回。【量子指弾】について自分なりに考察するよ。


「あっ、ヨーグルト美味い」

「おい...」

 

場所は変わって喫茶店。奥のスペースを貸し切っている。そして出てきたヨーグルト。こいつぁいい...最高だ!(蛇並感)

 

「で、あれはなんだ?」

「教えるとは言ってない!」

「ほう。なら全員分のお勘定を...」

「それはズリィぞ!?奢るって言ったくせに!」

「なら答えればいい」

「くっ...!」

 

神拳を教える訳にはいかない。かといって財布の中身を吹き飛ばす訳にもいかない...あっ、起こした現象だけを説明すれば良いんだ!

 

「分かったよ...答えよう」

「やっと答える気になったか!?」

「その前に...」

「ん?」

「レオ、一つ質問だ」

「なんだ?」

「『コペンハーゲン解釈』って知ってるか?」

「コペン...なんだって?」

「美月、わかる?」

「いえ...」

「深雪さんは?」

「聞いた事はありますが、はっきりとまでは...」

「うーん...ここからか。達也は?」

「確か...1920年代に作られた、理論物理学者ニールス・ボーアの相補性とウェルナー・K.ハイゼンベルクの不確定性原理をもとに展開された、量子力学についての考え方...だったか?」

「ok。詳しく言うと『量子力学の状態はいくつかの異なった状態の重ね合わせで表現され、このことをどちらの状態であるとも言及できないと解釈し、観測すると観測値に対応する状態に変化する』っていう量子力学に関する考え方だ」

 

そこまで言い切り皆の表情を確認するが、まだ?が浮かんでいる。

 

「つまり簡単に言っちまえば、量子は常に『何処にでもあって、何処にもいない』。観測した瞬間においてそれにあった状態へ変化するって訳だ」

「でも...それは貴方が起こした事象となんの関係があるの?」

「まだ分からないか...俺は『量子が圧縮された』という事象を観測によって作り出したに過ぎないのさ」

「!?」

「だが、それだけでは森崎のCADが吹き飛ばないぞ?」

 

ごもっともな質問だ。ここから先は神拳の秘伝書にも記されていない。完璧な自分の憶測だが...

 

「ここで出てくるのが他にもある量子力学に対する解釈の一つ、『ド・ブロイ=ボーム解釈』だ」

「またなんか出たよ...」

「こいつは『【パイロット波】という未知の波が粒子の運動に影響を与えているとして、量子力学を古典力学の枠内で説明する』って言う考え方だ」

「だがそれは『二個以上の粒子の運動を想定すると、古典力学にない非局所的長距離相関が強く現れる』から、否定されたはずでは?」

「それではちょっと解釈がおかしいな。『ド・ブロイ=ボーム解釈』を否定するには、量子力学すべてを否定する必要がある」

「そうか...」

「ここでは局所に区切る事によって、二個以上の粒子の運動を想定しない事にする。そうすれば【パイロット波】によって森崎のCADまで量子が届くだろう?」

「でも、【パイロット波】がどう動くかは知覚出来ないんじゃないの?」

「良い質問だ北山さん。じゃあ...自分で【パイロット波】の動きを設定出来るとしたら?」

「!?」

「森崎のCADまで量子が届くという訳か...」

「そういうこと。一見魔法に見えるだろうけど、あくまであれは物理法則にならった現象に過ぎないのさ」

 

そこまで言うと席を立つ。

 

「んじゃ、お勘定よろしく〜」

「あっ、おい!?もうちょっとわかりやすく説明してくれよ!」

「これでも十分わかりやすく説明したわ!」

 

レオに詰め寄られるが、【量子歩法】を利用しすり抜けると喫茶店を出た。

 

...ヨーグルトは十分に摂取した。今度はハムが食べたい。家に帰ったら朱と一緒に食べよう。




あくまでも自分の都合が良い様に考察したので、「ここがおかしい!」とかは勘弁してください...マジで頼みます。



たかが人間が【パイロット波】を設定出来るわけないだろ!いい加減にしろ!


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アベルとハムと公安部

今回はメジャーなSCPと人物(?)、組織が出てきます。わからなくなったら検索検索ゥ!


オリキャラ出るよ。少し重要な立ち位置。


追記
くっそ眠い中で書いて、グダグダな文章だったので修正。


喫茶店から家に帰ると服を着替え、コンピューターを起こす。

 

「やあ【神州】、起きたかい?」

『はい、暁。おはようございます』

「どっかから連絡きてる?」

『確認します...警視庁公安部特事課の響管理官から一つありました』

「なんて?」

『[帰ってきて時間があったら連絡してくれ]、だそうです』

「りょーかい。後で連絡しとく」

 

話を切り上げると、冷蔵庫を開き一枚のでっかいハムを見つけた。

 

「あいつ、これ食うかな?」

 

そんな事を言うと、頭の上の朱は頷いた。それを見ると階段を下り、地下室へ入る。そこには恐ろしげな装飾を施された石棺が置かれていた。

 

「アベルー、起きろー。肉食うぞー!」

 

石棺にそう話しかけると蓋が開き、中から全身に"嫌らしい目つきで睨む悪魔のような顔の形"の刺青が入った大男が現れた。

 

『( - _ゞ ゴシゴシ』

「起きた?」

『(`・ω・́)ゝビシッ!!』

「今からでっかいハムを焼いて食う。食べる?」

『ワ━ヽ(*´Д`*)ノ━ィ!!!!』

「んじゃ着いてこい!」

 

彼は【SCP-076】、通称【アベル】。最悪と言われたketerクラスSCPオブジェクト。だが現在では...

 

『マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン』

 

こんな感じなのである。本当にketerクラスなのか...?だが有事の際は、公安部特事課の最精鋭機動部隊Ω-7【パンドラの箱】を率いる部隊長だ。

 

「ハイハイ出来ましたよーっと!」

 

オーブンで焼き上げた分厚いハム(いや、分厚いベーコンと言うべきか?)を丸ごと皿によそうとアベルに渡す。するとアベル速攻で席へ持って行き、ステーキカット用のフォークを突き刺すと噛り付く。

 

『...(゚д゚)ウ-(゚Д゚)マー(゚A゚)イ-…ヽ(゚∀゚)ノ…ゾォォォォォ!!!!』

「そりゃようございました」

 

再び冷蔵庫を開くと、また同じ様なハムが出てくる。こいつは【SCP-055-DE-J】。とにかくすっごいハムだ。食っても無くならない、そして何よりも美味い。

俺にとってヨーグルトが血液だとしたら、こいつは筋肉だ。それほどまでに、重要!

 

「焼けたァッ!」

 

今度は自分の分を皿によそい、テーブルへ持って行く。席につき、両手にナイフとフォークを装備。そして...

 

「いただきます!」

 

かぶりつく。噛んだ瞬間に口の中に広がる肉汁...!そしてこの程よい噛み応え...!ああ...なんと素晴らしいんだ!

...ここまでは味付けなし。それでも十分なまでに美味い。

だがそこに天然の岩塩をまぶす!見たまえ、まるで岩塩が宝石の様だ...!

 

「うめぇ...!!」

 

炊いておいた白米を大盛りによそい、岩塩をふったハムと一気に掻き込む。米の甘みと塩の丁度いいしょっぱさ、そして肉汁。これらが混じり合って...もうたまらない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局5キロの塊を4つを食べ終わる(大方アベルが食べたが)と、器具の片付けを終わらせた。

 

「んじゃ神州、特課に繋いでくれ」

『了解しました』

 

【神州】が通信を秘匿回線に介入させる。ツーコールほどすると受信側が出た。

 

《はい、こちら警視庁公安部特捜課です》

「Fだ。響管理官に回してくれ」

《わかりました。管理官に回します》

 

そしてまたツーコール。やっとお目当ての人物が出た。

 

《はい、こちら響です》

「お久しぶりです響管理官。財田です」

《あら暁くん。連絡は見てくれたかしら?》

 

彼女は響朱音。表向きは警視庁公安部特別捜査課の課長であるが、実際には裏部門である【警視庁公安部特事課】を率いる女傑。階級は警視正で、天涯孤独である自分の身元保証人でもある。

 

「いやあなた、連絡してとしか入れてなかったでしょ」

《あら、そうだったかしら?》

「そうですよ...で、とにかく何の用です?」

《まずは一つ目。【室戸研】から報告が上がったわ》

 

文部科学省 国立室戸研究所。SCPオブジェクトの特異性について研究する国家機関だ。

 

「という事は、例の?」

《ええ。貴方が前に調べる様頼んだ、あの結果が出たそうよ》

「そうですか...」

《二つ目。これは...【NHTICD】からね。陸軍の『独立魔法科大隊』について最終報告書が来たわ》

 

こっちは防衛省 国家高脅威情報収集課。いわゆる敵対する超特異組織に対し、諜報や情報収集を行っている裏部門だ。

 

「そっちもですか!?」

《そうよ。まさか私もこんなにタイミングが被るとは思わなかったわ》

「まあ...わかりました」

《そして三つ目。貴方に特事課担当の上層部によって、独自捜査行動権と監察権が与えられる事が決定したわ》

「本当ですか!?」

《貴方達一族が財団の末裔だとこうもなるわ。機動部隊Ω-7の事もあるしね。第一に一番オブジェクトに詳しいのは貴方よ?》

「でも、こいつはありがたいです」

《それに伴って、貴方を特事課の外部メンバーに加えるわ。明日の朝、来れるかしら?》

「大丈夫です。朝一に顔を出しますので」

《あっ、それとその時に書類を一枚渡すから、それを届けてくれるかしら?》

「相手は誰です?」

《第一高校スクールカウンセラーの小野遥よ》

 

やっぱりか...

 

《あら、あまり驚かないのね》

「なんとなくどっかの国家組織に入っているかなと感じましたけどね。でもまさか公安とは...」

《それも含めて明日話すわ。今日はもう休みなさい?」

「朱音さんも同じですよ?」

《そうね。では、おやすみなさい》

「失礼します」

 

通信が途切れた。【神州】に回線の記録をすべて消去する様に言うと風呂に入り、あがって寝た。明日は早い...




今回登場したSCP

・SCP-076 『アベル』 m0ch12uk1様
http://ja.scp-wiki.net/scp-076

・SCP-055-DE-J 『でっかいハム!』 aisurakuto様
http://ja.scp-wiki.net/scp-055-de-j

・SCP-AI 『特別収容プロトコル用人工知能"神州"』 amateria68様
http://ja.scp-wiki.net/author:amateria68

この3つは(?)入りするかも。出して欲しいのがあれば言ってくれ。なるべく頑張る。




今回出てきた組織 [()内は略称]
・警視庁公安部特事課(特課)
・防衛省 国家高脅威情報収集課(NHTICD[ネフティクド])
・文部科学省 国立室戸研究所(室戸研)

一部公式から名称が変更されております。まだ出てくる模様。なぜこれらの組織が残っているのかは秘密。


因みに途中で出たFとはコードネーム。財団(Foundation)から。


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2つの報告書

またまた今回はオブジェクト、そして企業が出ます。何処の企業でしょうかね...?


翌朝。

朝4時に起きると1時間ほど鍛錬を行う。終われば朝食を作る。

 

「神洲ー!寝てるうちに何処かから連絡あったー?」

『【THI】から連絡がありました。予定通り【SCP-710-JP】の改修と、専用のCADが完成したそうです』

「マジか!?」

『マジてす。大マジです』

「あいつらちゃんと寝てんのか...?」

『それで暇な時に取りに来て欲しいと』

「りょーかい。学校の帰りに行ってくる」

 

これで一日の予定が決まった。朝食を食べ終わると、すぐに制服に着替えて身仕度を整える。

 

「行くかぁ...」

 

玄関を出る時に認識災害を起こし姿を消す。そのまま特課オフィスへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

走っておよそ30分。特課のオフィスが入っているビルに着いた。もはや30分間走り続ける事すら苦でなくなった。

 

「失礼します。響管理官にお会いしたいのですが...」

「お名前は?」

「財田暁です」

「財田様ですね...確認が取れました」

「ありがとうございます」

 

夜間勤務の受付係に連絡をとってもらうと、オフィスへと行く。特課のオフィスがあるビルは普通と呼ばれるサイズのビルよりも大きい。

 

ここには特課以外にも、NHTICDや国家安全保障局 超常関連政策班(NaSAPPT)、国土交通省 緊急災害対策派遣隊特事班(EDC-タスクフォース)などの各官公庁のオブジェクト対策裏部門が入っている。そのため双方の情報共有がしやすくなっており、火急案件が発生しても即座に連携が取れやすくなっているのが特徴だ。

ただし室戸研は例外。彼処は様々な研究を行っており広大な土地が必要なため、かなり遠くに置かれている。

 

エレベーターを7階で降りる。各階はそれぞれの部門専用となっており、7階は特課専用フロアとなっている。その廊下の突き当たりの部屋の前まで来ると、扉をノックする。

 

『はーい?』

「財田です」

『いいわよー。入ってー』

 

部屋から響管理官の返事が出る。随分とゆるい。まあこれがこの人の特徴でもあるんだが...

 

「おはようございます。徹夜ですか?」

「ええ。おかげで随分疲れたわ」

「そりゃ大変ですね」

「まあそんな事は良いのよ。はいこれ」

 

管理官が封筒を二つ手渡して来た。これがその報告書らしい。一つ目を開ける。室戸研からの報告。

 

「...これ本当ですか!?」

「彼らはそう言ってるわ」

「でもこれは疑いたくなりますよ...まさか本当に『一部オブジェクトのNeutralized化』が確認されたなんて...」

「主に常駐型や固定型のketerクラスオブジェクトを中心に確認されたみたいよ。でも...」

「【SCP-1334-JP】のNeutralized化は確認されていない...ですか」

「ええ。引き続き観測を続けるしかないわね」

 

二つ目の封筒を開封する。こちらはNHTICDからだ。

 

「...」

「どうしたの?」

「これが本当なら軍上層部は一体何をやっていたのですかね...」

「どういう事?」

「陸軍の『独立魔法科大隊』は、かつて【負号部隊】のメンバーだったと考えられる者によって設立された可能性が高い、と」

「...本当なら大分ヤバイわね」

「ええ...もしかしたら未だに実験を行っている可能性があるかもしれないわけですからね」

「そうでない事を祈るわ」

 

まさかこんな情報にたどり着く事になるとは思わなかった。

 

「あっそうそう。これがあなた専用の捜査手帳よ」

 

そう言われると手帳型の薄い電子機器が手渡される。裏面には薄く特課のマークが印刷されていた。

 

「電子機器なんですね。何処のです?」

「【THI】製よ。手帳ってだけじゃなくて色々な機能が付いてるわ。かなり高性能な情報端末よ」

「どの位のレベルなんですか?」

「まあ...一つでFLTの『シルバーホーン』に匹敵する位の値段はするわね」

 

そんな物を職員に無料配布しているのか...

 

「他にもここに入っている裏部門は全体的にこれを使っているわ。情報共有しやすい様にね」

「なるほど...」

 

確かに合理的だ。

 

「そう言えばその【THI】から【SCP-710-JP】の改修と専用CADが完成したとの連絡がありました。学校帰りに受領して来ます」

「あらそうなの?なら一応、帯銃許可証も渡しておくわね。でも銃器の取り扱いには気を付けなさいよ」

「了解です。ではこれにて...」

「あっ、これ小野捜査官に渡しておいてね」

 

手渡されたのは茶色い封筒。一体なんだろうか...

 

「中身は見ないでね」

「わかりました。これにて失礼します」

 

そう言うと部屋を出てオフィスを後にした。学校が始まるまであまり時間が無い。急がないと...




今回登場したオブジェクト

・SCP-710-JP 『タイムマシンリボルバー』 yanyan1様
http://ja.scp-wiki.net/scp-710-jp

・SCP-1334-JP 『渚を目指して』 Ikkeby-V様
http://ja.scp-wiki.net/scp-1334-jp


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呼び出し

やあ。結構書くのが面倒だった。


「あぶねぇ!」

「暁、おはよう」

 

始業5分前に教室に入る。なんとか間に合ってホッとしていると、既に登校していた達也に挨拶をされる。

 

「おはよう達也」

「今日は遅かったな。何かあったのか?」

「まあね」

 

曖昧な返事を返す。

 

「そういえば、生徒会長が昼に生徒会室に来てくれって言ってたぞ」

「はぁっ!?どーいう事だそれ!?」

「わからん...しかも俺も呼ばれているからな」

「どうなってんだ...」

 

朝から憂鬱なお知らせを聞くのはキツい...

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

達也と生徒会室へ向かう途中で深雪さんと合流する。どうやら彼女も呼ばれているらしい。まあ総代だったし当たり前か?

 

「生徒会室で昼食なんて、楽しみですねお兄様」

「そうだな……」

 

にしてもなんか嫌な感じがする。達也の方を向けば難しい顔をしていた。もう生徒会室は目の前だ。引き返す事も出来ない。覚悟するかぁ...

 

「1-Aの司波深雪と1-Eの司波達也です」

「同じく1-Eの財田暁です」

「どうぞ」

 

合図と共に扉のロックが解くと、達也が扉を開ける。視界に入ってきたのは、副会長と思われる男子生徒を除いた生徒会役員と風紀委員長だった。

 

「よく来てくれたわね。どうぞ座ってください?」

「失礼します」

 

達也と深雪さんが席に座ったのを見て、自分も席に着く。

 

「入学式でも紹介したけど、一応もう一度紹介するわね。

私の隣に座っているのが会計の市原鈴音、通称リンちゃん」

「私のことをそう呼ぶのは会長だけです」

「その隣が風紀委員長の渡辺摩利。そして書記の中条あずさ、通称あーちゃん」

「会長!お願いですから下級生の前であーちゃんはやめてください!私にも立場というものが...」

「もう1人副会長のはんぞーくんを含めた4人が今期の生徒会です」

「私は違うがな」

「はぁ...」

 

ここは名字呼びした方が良さそうだ。可哀想だし。

 

「そういえば渡辺先輩、お弁当なのですね」

「そうだが...珍しかったか?」

「いえ。その手を見れば、日々作っていることは分かります」

「お兄様、私たちも明日からお弁当にしましょう!」

「それは嬉しい提案だが、2人で食べる場所がね...」

「2人で食べるのは確定なのか...」

「暁も弁当なのか?」

「まあね。米炊いてベーコン焼いたもの詰めただけだけど」

「栄養バランスとは一体何だったのか...?」

 

ほっとけ。美味くて午後からのエネルギーになれば良いんだ。

 

「それにしても兄妹ではなくまるで恋人の様な会話ですね」

「そうですか?まあ血の繋がりが無ければ恋人にしたい、と考えたことはありますが」

 

市原先輩、なぜそこに爆弾を投げ込んで打ち返されてるんだ...誘爆して他の人も顔が赤くなっている。にしても空間が甘い。ベーコンがすごい甘い。

 

「...冗談ですよ?」

「ふえっ!?」

 

一片の笑みも浮かべず、達也は淡々と告げた。本気で信じた中条先輩と深雪さんが驚愕の声を上げている。うーわやることがえっぐい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ本題に入りましょうか」

 

結局ここまで昼ご飯を食べていただけだった。やっと本題に入るのか...

 

「当校の生徒会長は選挙で選ばれますが、他の役員は生徒会長によって選任、解任されます。また各委員会長は一部の例外を除いて、生徒会長に任命権があります」

「私の務める風紀委員長はその例外の1つにあたる。風紀委員は生徒会、部活連、教職員会の三者から3人ずつ選任され、その内部選挙により風紀委員長のは選ばれる」

「さて、これは毎年の恒例なのですが、その年の新入生総代を務めた1年生には生徒会役員になって貰っています。深雪さん、私は貴女が生徒会に入ってくださることを希望します」

「あの...会長は、兄の入試の成績をご存知ですよね?優秀なものを生徒会に入れるのなら、兄を入れる事は出来ないのでしょうか?」

「そういう訳にもいきません。一科生しか生徒会役員にならないというのは規則ですので」

「そうですか...」

 

なるほど...それで2人を呼んだのか。ならなんで自分は呼ばれたんだ?

とりあえず市原先輩に言われた事を完全に納得した訳では無いのだろうが、深雪さんはとりあえず諦めたようだ。

 

「それはそうと、ちょっと良いか?」

「何よ」

「風紀委員の生徒会選任枠がまだ決まって無いんだが」

「それはまだ選定中よ!」

「風紀委員には一科生縛りは関係無い、それに今年からは合同選出枠が1つ出来ていたな?」

「摩利...貴女」

 

まさか...

 

「ナイスよ!そんな抜け道があったなんて!我々生徒会は司波達也君を風紀委員に任命、財田暁君を合同選出枠に申請します!」

「お兄様!!」

「いや、そんな『決まりですね』みたいな顔で見られても...」

「しかも、なんで自分まで巻き込まれなければならないんですか...」

「司波は構築された魔法式を識別する能力がある。そして財田は一科生にCADすら抜かせなかった能力がある。それを鑑みればわかるだろう?」

「そうですが...」

「とりあえず放課後にもう一回来てね?」

「分かりました...」

「了解です...」

 

 

 

 

 

結局、反論虚しく自分は風紀委員会合同選出枠に推薦、達也は風紀委員に生徒会推薦をされてしまった...

 

「俺らどうなるんだろう...」

「言うな。考えたくない...」




次は戦闘シーンあり。服部先輩戦です。


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戦いの前座

感想欄見たら運対が結構あった。まあ出して欲しいSCPを募集している分、しょうがないんですかね...


そういや評価バーがオレンジ色になってた。評価してくれた人ありがとうございます。


生徒会室を出ると実習室へと向かう。午後からは座学ではなく実習なので少し憂鬱だ。

 

「それで達也、生徒会室での話しはどうだったんだ?」

「はぁ...何だか妙な展開になった」

「妙?」

「いきなり風紀委員になれと言われてな...」

「暁は?」

「俺も似た様なもん。今年から増えたとか言う、風紀委員会合同選出枠に推薦する予定だって言われた」

「なんだそりゃ?」

 

そんな事言われてもなぁ。あぁ、実習めんどくさい。もちろん二科なので担当する教員は居ないが、やらなきゃ単位は貰えない。

 

「でもさ風紀委員って問題を起こした生徒を取り締まるんでしょ?暁くんはともかく達也くんならぴったりじゃん」

「馬鹿言うなよ、俺は実技は苦手なんだぞ?」

「そうだぞー。俺も実技苦手だし」

 

既に課題をクリアーしているので隅っこで話しを出来ているが、自分は先程まで何回かやり直している。結果を見れば一目瞭然、俺はクラスの中でも悪い方の部類だ。まあ体質的に問題があるからなんだが...

 

「ですが、暁さんや達也さんなら魔法を使わなくても取り締まれそうですよ?」

「確かに。昨日のやつさ凄かったな」

「あーあ、私の見せ場だったのになぁ...」

「エリカ?」

「ううん、何でも無いわ」 

 

なにやら不貞腐れているエリカを不審に思ったが、深く追求して藪蛇する訳にもいかない。聞かぬが吉だろう。

 

「それで、放課後も生徒会室に行くのか?」

「ああ。呼ばれてるからな」

「でも、面倒なら断っちゃえば?」

「さっきピッタリとか言ってたくせに、断れって何だよ」

「アンタには言ってないでしょ」

「何だと!」

「何よ!」

「だから二人共喧嘩は駄目ですよ!」

「あーもう、何やってんだ...」

 

なんで自分らの事で2人がイザコザを起こすんだ...そんな事を考えると、自分が朝に預かっていた書類の存在を思い出す。

 

「あっ、そうだ達也」

「どうした?」

「放課後に生徒会室に行くの遅れるわ」

「何かあるのか?」

「用事を思い出した。終わったらすぐに行く」

「わかった。頼むから来ないとかやめてくれよ...?」

「わかってる」

 

 

 

 

 

放課後。

ホームルームが終わるとすぐにカウンセラー室へ向かう。

 

「小野先生いますか?」

『はい?どうぞー?』

 

返事が返ってくると扉を開けて部屋に入る。

 

「どうしましたか?」

「先生に渡す物があって...」

 

鞄から茶色い封筒を取り出し先生に渡す。

 

「これは...?」

「読めばわかるはずです。ではこれにて失礼します」

「あっ、ちょっと!?」

「なんです?こちらはこの後の用事が立て込んでいるのですが...」

「...そう。また後で話すことは出来るかしら?」

「...わかりました。でも今日は無理です」

「わかったわ。また今度私から呼ぶわね」

「了解です」

 

カウンセラー室を出るとすぐに生徒会室へと向かう。なんでこんなに用事が立て込むんだ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します...」

 

ロックが開いていた生徒会室の扉を開ける。すると...

 

「自分はそこの二科生の風紀委員入りを反対します」

「禁止用語を私の前で使うなんて良い度胸だ」

 

...何が起きている?

 

「おい達也。どうなってんだ?」

「来たか暁。少し面倒な事になった」

「やっぱりか...」

 

内容を聞けば生徒会副会長の服部刑部少丞範蔵先輩、通称はんぞー先輩が、達也の風紀委員会入りを反対しているらしい。多分この流れだと自分にも波及するな...

 

「身内贔屓に目を曇らせてはいけません。魔法師は常に冷静を心掛けるものです」

「私は目を曇らせてなどいません!お兄様の評価が芳しくないのは、評価方法がお兄様のお力にあっていないからです!それに、本来のお力を―」

「深雪!!」

「ぁ...」

 

...どういう事だ?本来の力って?

 

「ふん...そしてお前は?」

「紹介するわ。1-Eの財田暁くん。彼は今年から増えた風紀委員会合同選出枠の生徒会推薦にする予定よ」

「なら自分はそれも反対します」

 

やっぱり波及したか。だがこちらにもプライドって物がある。かつて『人類を守る為に戦ってきた財団の末裔』というプライドが、ある。

 

「...なら服部先輩、俺と勝負しませんか?」

「なに!?」

「暁、俺がやる」

「...お前ら思い上がるなよ、補欠の分際で!」

 

熱くなった服部に対して、達也は冷静に服部先輩の反応を鼻で笑う。

 

「何がおかしい!」

「『魔法師は常に冷静を心掛ける』。違いますか?」

「「プッ」」

 

どんな公開処刑ですかねぇ...やっぱりコイツはやることがエグい。

 

「別に風紀委員になりたい訳では無いのですが、妹の目が曇ってない事を証明する為には仕方ないですね」

「こちらにもプライドって物があります。それを笑わせる訳にはいきません」

「...良いだろう。叩き潰してやる!」

「それでは30分後に第三演習室での模擬戦を開始します。双方にCADの使用を生徒会長として認めます」

「風紀委員長として、この模擬戦が私闘で無い事を証明する」

 

これでしがらみは無くなった。入学式の後に睨みつけてきた分を含めてぶっ飛ばそう。




次戦闘入りまーす。


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模擬戦

今回は戦闘。というか解説が大半を占めています。ご了承ください。


「はぁ...入学三日目にして、早くも猫の皮が剥がれかけたな」

「申し訳ありません!」

「しょうがないさ。結局どうなろうとこうなる羽目になる。ならさっさとやった方がいい」

「そうだな...」

 

 達也は入試の結果、自分は校門で森崎のCADを吹っ飛ばした事だろう。結局は生徒会が『すべてが平等である』というイメージ戦略に使う駒でしかない。

 そんな事を考えつつ鞄から【THI】から貸し出されているCADを取り出し、腕につける。

 

「暁さん?そのCADは...」

「【THI】社製の最新汎用型CAD『シグナリオ』。まあ、入れてある術式は一個だし、貸出のやつだけど」

「...なんでそんな物を持っている?」

「金があるから。理由になった?」

「...まあな」

 

 そう言うと達也はケースから翡翠に近いような色をした特化型CADを取り出し、専用ストレージを装填する。

 

「とかいうお前はFLTの『シルバーホーン』じゃねえか。それこそ学生が持つもんじゃないぜ」

「まあ...コネがあるからな」

 

 それぞれ準備が完了すると渡辺先輩が待機室に入ってきた。

 

「準備は終わったか?」

「大丈夫です」

「こちらも...」

「しかし君達が意外と好戦的で驚いたよ」

「楽しそうな顔で言われても困りますよ...」

「俺達は見世物か何かなんですかね?」

「そう言うな。しかし大丈夫か?服部はこの学園でも五指に入る実力者だ」

「もちろん真っ向から戦えば勝ち目は無いですよ。でも幾らでもやりようはあります」

「こっちもですよ。ただじゃ死ねませんね」

「そいつは楽しみだ。それじゃあ移動しようか」

 

 渡辺先輩の後をついて行くと、広い部屋に着いた。ここが今回の演習場だろう。

 

「やっと来たな。どちらからやる?」

「達也、先に行かせて貰うぞ」

「...言っても聞かないだろうな。わかった」

 

 達也から了承を貰い、先に出る。

 

「それではこれより、二年B組服部刑部と一年E組財田暁による模擬戦を開始する。試合はどちらかが降参、もしくは審判が止めるまで。また命に関わる術式は禁止。怪我は最高でも捻挫までに留めること。そして素手での攻撃は許可する」

 

 素手での攻撃はok。なら存分にやれる...!

 

「審判は私がする。フライングや反則をした場合は私が力ずくで止めるから覚悟しておくように。双方、準備はいいな?」

 

 左手の掌に右手の拳を合わせきっちり45度腰を曲げ、【解放礼儀】を行う。周りから奇異な目で見られるが問題は無い。そして腕につけたCADを意識を向ける。同時に朱と一体化した様な感覚に陥る。準備は出来た。

 

「始め!」

 

 すぐさまCADが動き自分の情報体と周辺2mの情報が強化される。それと同時に服部先輩がCADを操作し術式を展開する。速度重視の単純な基礎単一系移動魔法。実力者と呼ばれるだけあって展開までのスピードが早い。だけど...

 

「...遅い!」

 

 自分の掌を握力で圧縮し引力場を作り出す。そして引力場の発生と同時に服部先輩の方に腕を向ける。すると...

 

「「「!?」」」

 

 服部先輩の背後に瞬間移動する。これが財団神拳奥義【虚喰掌握】だ。振り向くと同時に服部先輩の首に手を当てる。

 

「勝負あり、ですね?」

「...勝者、財田暁」

 

 勝 っ た 。やったぜ。

 

「ちょっと待ってください!」

「なんです?」

「今のは、一体...」

「後にしましょうよ。次にいきましょう?ねえ、渡辺先輩?」

「あっ...そう、だな」

 

 なんでそんなに固くなっているんですかねぇ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次は達也が戦う番だ。壁に背中を預け、達也の方を見る。

 

「それでは、二年B組服部刑部と一年E組司波達也による模擬戦を開始する。双方、準備はいいな?」

 

 渡辺先輩に確認されて服部先輩も達也も頷いた。服部先輩が腕につけた汎用型CADに手をやり、達也がシルバーホーンを床に向ける。

 

「始め!」

 

 服部先輩はCADを操作すると、先程と同じ基礎単一系移動魔法を使う。客観的に見れば、後ろの壁まで吹っ飛ばして気絶させようとした事がよく分かる。

 だが達也はその一歩先を行った。単純な体術による圧倒的な加速と斜めに抜ける動きで認識から外れ、自分がやったのと同じ様に背後に回り込む。そして...

 

「がっ!」

 

 トリガーを引くと服部先輩が倒れた。へぇ...なかなか面白い事をする。

 

「...しょ、勝者、司波達也」

 

 審判の宣言と共に達也は場を離れる。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「何か?」

「今のは自己加速魔法なのか?」

「いえ、身体的な技術ですよ」

「だが……」

 

 やっぱりあの動きが体術とは信じられないのだろう。だがあの時に起動式は出ていなかったのだから魔法ではない。

 

「私も証言します。あれは兄の身体的な技術です。お兄様は九重八雲先生の弟子なんですよ」

「忍術使い、九重八雲か!身体技能のみで魔法並の動き...流石古流だな...」

 

 あの忍術使いかよ。たしかGOCの108評議会にも在籍していた気がするんだが...

 

「なら、はんぞーくんを倒した魔法も忍術ですか?」

「いえ、あれはただのサイオン波です」

「でもそれじゃあ、あのはんぞーくんが倒れてる理由が分からないのだけど」

 

 確かにサイオン波だけでは服部先輩が倒れている理由がつかない。

 

「波の合成ですね」

「リンちゃん?」

 

 なるほど。

 

「船酔いって事か...」

「暁くん、どういうこと?」

「市原先輩にお願いしましょう」

「ありがとうございます。私の推測では異なる3つサイオン波を丁度服部くんの位置で重なる様に発射し、結果的に先程財田くんの言った『船酔い』ならぬ『サイオン酔い』を起こしたのではないかと」

「さすが市原先輩、お見事です」

「ですが、あれだけの短時間で三回の振動魔法の発動...その処理速度で実技評価が低いのはおかしいですね...」

 

 確かにそうだが、それは『シルバーホーン』の『ループキャストシステム』で説明がつく。だがそれだけで異なる3つのサイオン波を起こす事は出来ない。すると中条先輩が声をかける。

 

「あの~、これってひょっとしてシルバーホーンじゃないですか?」

「シルバーホーン?シルバーってループキャストを開発したあのシルバー?」

「ですがループキャストシステムは同じ魔法しか使えませんよ?」

 

 まさか...そういう事か!

 

「可変数化...」

「えっ?」

「振動数、座標、強度、持続時間の4つを可変数化して毎回サイオン波を起こすごとに決定すれば可能だ...」

「ですがそれって...まさかその全てを実行してたのですか!?」

「可変数化処理は学校では評価されない項目ですからね」

 

 まさに鬼才だなコイツ。やべーやつだ。

 

「なるほど、司波さんの言っていた事はこう言う事か...」

「大丈夫ですか、はんぞーくん?」

「大丈夫です!」

「そして残る問題は...」

 

 !?

 

「財田、あれは一体なんだ?」

「あれ、とは?」

「最初に手すら動かさず情報強化の魔法を使っただろう?」

「それですか...コイツです」

 

 そう言って腕につけたCADを見せる。

 

「それは...」

「これって『シグナリオ』ですか!?」

 

 さすがCADオタクの中条先輩。速攻で名前が出るとは...

 

「ええ、そうですよ」

「『シグナリオ』?何でしょうか?」

「会長!『シグナリオ』を御存知じゃないのですか!?最近になってTHIが開発した最新の汎用型CADですよ!でもなんでそれを持っているのですか?」

「まあ彼処には色々と出資とか、なんやらかんやらやっているので...」

 

 お茶を軽く濁す程度に話す。すると渡辺先輩が口を開いた。

 

「そしてもう一つ。いきなり服部の背後に出て来たのは?」

 

 やはりそれか...

 

「簡単に言えば、引力場を発生させて瞬間移動しただけです」

「!?」

「暁、それは...」

「前にも説明したよな?それと同じだ」

「そういう事か...」

「ちょっと、2人だけで納得しないで私達にも説明してくれる?」

「ここから先は企業秘密です。あしからず」

 

 持って来て壁に立てかけておいた自分の鞄を掴み、出口へ向かう。

 

「ちょっと!?まだ...」

「すみません。今日はこれからまだ用事がありますので、これにて失礼させていただきます」

 

 そう言うと演習場を後にし昇降口まで走る。ここから先を突かれる訳にもいかないし、用事があるのも嘘ではない。

 THIまで急がなければ...




そういやレゴで戦闘機作ってみたけど、クオリティが低くて笑った。
どうにか創作クオリティが上がらんかねホントに。


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THIに行こう!

アクセス開いたら、とんでもないことになっててビビった。
何でだろうなとか思って調べたら、日間加点ランキングに載ってた。



みなさんありがとう!これからも頑張ります。


学校を出ておよそ30分。都心から少し離れた土地にこの会社は位置している。

 

Touhei Heavy Industry Corporation、通称【THI】だ。ここはかつて要注意団体の1つであった【東弊重工】の流れを組む会社である。

 

時刻は既に午後6時を過ぎている。まだ受付は開いているだろうか...

 

「こんばんは。何か弊社に御用でしょうか?」

「ああ、良かった。まだ開いていましたか?」

「はい。何か御用でしょうか?」

「『先端技術特殊開発部』の柳瀬川部長にお会いしたいのですが...」

「...失礼ですが、お名前を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか?」

「財田暁です」

「...確認しました。柳瀬川部長は特別開発室でお待ちしております。場所はご存知ですね?」

「はい。遅くにすみません」

「いえ、これも仕事ですから」

「ありがとうございます」

 

対応してくれた受付嬢に微笑みかけると特別開発室に行く。そこまでは幾つかセキュリティーゲートを通らなければいけないが...

 

「あら、暁くんじゃない。何かこちらに御用かしら?」

「こんばんは犀川主任。例の物が出来上がったらしいので、受け取りに来たんですよ」

「何処まで行くの?」

「特別開発室までなんですが...」

「なら幾つかセキュリティーゲートが有るわね。良ければ私が一緒に行きましょうか?」

「でも、もうお帰りになられるのでは?」

「そう...もしかしてお邪魔だった?」

「いえ、ありがとうございます。お願いしても良いですか?」

「お姉さんに任せなさい!」

 

ここの人は優しいので大抵の事はまかり通る。自分と一緒に来てくれる彼女は『犀川 絢香』技術主任。これから行く特別開発室でチーフを務めている。

 

「柳瀬川さんが特別開発室で待っているんですけど...」

「なるほど...部長が朝から機嫌が良いのはそういう事ね」

 

歩いて、エレベーターに乗って、セキュリティーゲートをくぐること早数分、開発室に着く。

 

「犀川です。財田くんを連れて来ました」

『おう、入ってくれ!』

 

扉を開けると少し狭いが応接間になっており、ソファーが対面にローテーブルを挟んで置かれている。そしてその一方には年齢的には中年だが、まだまだ若々しく見える男性が座っていた。

 

「よく来たな!待っていたぞ!」

「すみません、こんな遅くになってしまって...」

 

彼は『柳瀬川 淳』開発部長。40歳程で現在務めている『先端技術特殊開発部』の部長に抜擢された優秀な人である。

 

「まあ、そう気にするな!こっちも結構お前にこれを見せるのが楽しみだしな!」

「ありがとうございます」

「では部長、私はこれにて...」

「まあ待て犀川くん。君も来たまえ」

「...わかりました」

 

犀川主任は部長と同じソファーに間隔を開けて腰をかける。

 

「まずは...これだ」

 

部長はテーブルに置かれていたジュラルミンケースを開ける。その中には腕輪型の見た事もないCADが入っていた。

 

「これが...」

「君専用に我々が開発したCAD。名称は『ネクロミア』だ。犀川くん説明を頼む」

「...そういう事で私を残したのですね。では暁くん、説明するわ。このCADには君に貸し出している汎用CAD『シグナリオ』と同じ【イノペラティブ(自意識による術式の無動作展開)システム】を採用しているわ。でも術式展開までの時間は遥かに短縮してあるの。君なら使いこなせるはずよ」

「ありがとうございます。では『シグナリオ』を返還したいのですが...」

「なんだ、『シグナリオ』はもう良いのか?」

「今回面倒な事で『シグナリオ』を使ったので、実戦データが集まりましたからね。データを渡すには丁度良いでしょう?」

「そうか...なら受け取っておこう」

 

鞄からケースを取り出し、中から『シグナリオ』を出す。

 

「ではこれにて...」

「確かに受け取った」

 

『シグナリオ』を渡すと同時に『ネクロミア』を受け取る。

 

「で、次が本題だ」

「【SCP-710-JP】はどうでした?」

「そうだな...かなり苦戦したぞ。犀川くん、君はどう思うかい?」

「ええ。かなり苦戦しましたが、とても良い経験になりました」

「そうですか。では予定通りに改装は...」

「ああ。これだ」

 

部長はテーブルに置かれていたもう1つのケースを開ける。中には『S&W M66 コンバットマグナム』が入っていた。

 

「ほれ。一応要望通りに仕上げたぞ」

「ありがとうございます...」

 

これは【SCP-710-JP】。形状は『S&W M66 2.5インチリボルバー』とほぼ同じであり、グリップのダイヤルを弄る事で弾丸を未来や過去に飛ばせるという恐ろしい代物だ。だが今渡されたのは『S&W M66 6インチリボルバー』だ。

 

「普通と同じ様に改造出来たんですか?」

「いや、そういう訳にもいかなかった。第一に弾丸をタイムジャンプさせる銃なんて聞いた事無いからな」

「改造点は

・銃身を2.5インチから6インチへ変更

・マウントレール追加によるレーザーサイトなどのオプションパーツの取り付け可能化

・シリンダー解放時に別空間からの自動装填に変更

よ」

「最後のは要望には出していないのですが...?」

「こんなにいい物を弄らせてくれたお礼よ。みんな感謝してたわ」

「...ありがたく受け取っときます」

 

一応かつてと同じ様に.380スペシャルと.357マグナムは使えるらしい。威力を使い分けるため、かつてと変わらないのはありがたい。

 

「それで改造費なんだけど...」

「来月の出資時に合わせて送ります。それで良いですか?」

「わかった」

 

そして今日THIに来たのはもう1つ理由がある。

 

「それと柳瀬川さん、これを...」

「なんだこれは?」

「今朝、特課に行って来たのですが、その時に貰った報告書です」

「おいおいこんな物を俺が見て大丈夫か?」

「ええ。もしかすると柳瀬川さん達にも手伝って貰うかもしれないので。もちろん響管理官の了承はとってあります」

「そうかい...まあ、ウチの会社も特課には世話になっとるしな...」

 

そう言うと部長は封筒からプリントを取り出し読み始める。すると段々と顔が険しくなっていった。

 

「...部長?どうされました?」

「見たまえ犀川くん」

「一体何が...これって!?暁くん、どう言う事です!?」

「自分も驚きました。これが本当なら少し気をつけた方が良いかもしれません」

「...わかった。少しずつ軍部に売っている武装の量を減らした方が良いかもしれないな。ましてやウチの部門の物なんて売るのはもってのほかだ」

「室戸研究所との連携をもう少し強くする必要がありますね。どうします部長?」

「そうだな...」

「とにかく気をつけてください。奴らはTHIの特異技術をも狙っているかもしれないです」

「了解だ。こちらも独自に対応策を考えておく。近く【会議】を開く事も視野に入れて置いてくれないか?」

「わかりました。響管理官にもそう伝えておきます。では失礼します」

 

そう言って部屋を出る。ようやっと必要な物は揃った。後は時を待つしかあるまい。そう考えると家路についた。




【SCP-710-JP】はメインになったので、あらすじに追加します。
因みに改造した710-JPはMGSPWのフル改造したM66みたいな感じです。


何を見て柳瀬川さん達が驚いたかは、『2つの報告書』を見ればわかる。


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風紀委員会

不定期投稿とか言いながら、毎日投稿していくスタイル。


【SCP-710-JP】と『ネクロミア』を受領した翌日。

 

「うぃーす。おはようさん」

「おはよう。また今日も呼び出しだぞ」

「はぁ...まじかよ」

 

昨日に引き続いて、立て続けに憂鬱なお知らせを聞くとは思わなかった。

 

「昼か?」

「いや、放課後だ。どうやら他から合同枠に推薦は無かったらしいから、お前も道連れだ」

「ウッソだろオイ!?」

 

【悲報】俺氏、風紀委員会に強制参加させられる模様。

 

「...そういや俺が帰ってからなんかあったのか?」

「あの後風紀委員会室に行かされてな。部屋が凄いことになってた」

「どんな風にだ?」

「ゴミ屋敷...とまではいかないが、片っ端から片付いていないのは確かだった」

「ひぇっ...行きたくねぇ」

「安心しろ。俺が頑張って片付けた」

「よし。今度学食程度なら奢ってやる」

「それはありがたいな...それともう1つ」

「なんだ?」

「森崎のやつも風紀委員になるらしい」

「ファッ!?」

 

マジかよ...さらに行きたくねぇ。

 

「なんだその反応...」

「いや、今までやってきた事考えりゃ誰だってこういう反応するだろ...」

「まあ、ともかく放課後に生徒会室へ行くぞ」

「りょーかい...ん?生徒会室?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後...

 

「あの...すみませんお二方。いちゃついてるなら帰ってよろしい?」

「なぜそう見える...」

「まあ!美月だけじゃなくて暁さんまで...」

 

まさか達也が深雪さんを送るのにわざわざ付き添いをするとは...そしてそれに巻き込まれた場合、どう対処するべきなんだ。

 

「...暁、生徒会室と風紀委員会室は階段で繋がっているんだ」

「へっ?そうなのか?」

「ああ。風紀委員会室は生徒会室の直下に位置している」

 

だから自分も巻き込んで行くのか...全く御し難いな。(某零感)

そんな事を考えていると、既に生徒会室へと着いていた。

 

「失礼します。1-A司波深雪と1-E司波達也です」

「同じく1-E財田暁です」

『はーい。開いてるわよー』

 

うーん、何処か七草会長、特課の響管理官と性格が似ている気がするんだよなぁ...

 

「達也くんから話は聞いているかしら?」

「少しは。合同枠に自分以外の推薦は無かったらしい、とまでは聞いています」

「そこまで聞いているなら良いわね。教職員会と部活連も暁くんの推薦を認めたわ。今日からあなたも風紀委員として活動して貰うわ」

「わかりました。ありがたく拝命します」

「では、これより仕事にかかってください」

 

公安の捜査官と風紀委員の掛け持ちとか...過労死必須だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり風紀委員会室。まだ渡辺先輩は来ていないが、ほか数人の上級生の姿もある。そんな中で自分は椅子に座り『ネクロミア』の点検を、達也は本を読んでいた。

 

「そういや今日からクラブ勧誘期間だったな...」

「ああ。今日から仕事があるらしい」

「みんな何処に行くとか聞いたか?」

「いや、特にそういうのは決めていないそうだ。まあ、すぐに勧誘の人が来るから困らないだろう」

 

クラブ勧誘期間中はCAD使用の制限が緩くなるため、何か問題が発生した時に風紀委員が取り締まるらしい。

 

「そういうもんかねぇ...で、なんかイザコザがあった時の為に風紀委員が取り締まる、か...入学早々、軽く過労死必須だな」

「やるしかないさ...ん?そのCADは...?」

「昨日の用事の成果、かな?」

「へぇ。専用CADか」

「ああ。相変わらず良い仕事をするよ」

「やはりTHIか?」

「まあね」

 

色々と面倒な仕事を対応して貰うだけあって、THIの製造能力は他社と比べて頭1つ抜きん出ていると思う。まあ、かつての東弊重工ってだけはある。

 

「何故お前が此処に居る!司波達也!それに財田暁!」

 

やっぱり突っかかって来たか。面倒くさい...

 

「入ってくるなり大声を出すとは...随分と非常識だな、森崎」

「なんだと!」

「興奮してないで座ったら如何だ」

「非常識なのはお前だ!いいかよく聞け!僕は今日から教職員推薦で風紀いい...」

「あーもう黙ってくれ。うるせぇよ」

「なにをっ!!」

「やかましいぞ新入り!」

 

いつの間にか森崎の背後に立っていた渡辺先輩が、冊子を筒状にして頭を叩く。音からしてかなり痛そうだ。

 

「此処に居るのは風紀委員だけだ。それくらい分かりそうなものだがな...まぁ良い。さて諸君、今年もあの馬鹿騒ぎの季節がやって来た」

 

いつの間にか風紀委員全員が揃っていたらしい。上級生の視線が自分達に向く。

 

「幸いにして今年は補充が間に合った。教職員推薦枠の1-A森崎駿と生徒会推薦枠の1-E司波達也、そして今年から増えた合同選出枠の1-E財田暁だ」

 

渡辺先輩に紹介されたので席から立つ。隣では達也と森崎も立っていた。森崎はガッチガチに緊張しているが、達也はいつもとあまり変わらない。

 

「役に立つんですか?」

 

このセリフは多分3人に向けた物だろう。だが発言者の視線は達也や自分に...いや、自分達の肩に向けられている。ようは二科生が役に立つのかと言っている。

 

「司波と財田の腕前については私が確認済みだ。森崎のも見た。各々活躍はしてくれるだろう。なんなら自分で試してみるか?」

「え、遠慮させてもらいます」

 

へぇ...意外と独裁なんだな。多分達也も内心で思っているだろうが、そんな事を顔に出すヘマはしなかった。流石ポーカーフェイスめ。

 

「質問が無いなら出動! 司波と森崎は残るように」

「「「「了解!」」」」

 

風紀委員の上級生達は部屋を出ると巡回へと向かう。だが2人ほど残っていた。あれ、なんか1人見た事あるような気が...

 

「よう。久しぶりだな、暁」

「ありゃ、やっぱり辰巳さんですか」

「なんだ知り合いだったか?」

「ええ。何回かお会いした事があって...」

「そうだったか」

 

まさか辰巳さんがいるとはね...




ここでオリジナル要素を入れていくスタイル。


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巡回業務

どっか遊びに行きたいなぁ...遠出したい。


「それじゃ、後でな!」

「はい、それでは」

 

辰巳さんがもう1人残っていた上級生を連れて巡回に行った。ここに在籍しているってのは管理官から聞いていたけど、まさか風紀委員になってるとはね...

 

「仲が良いんだな」

「ちょっとした縁ってやつだ」

「...さて、もう良いか?」

「あっ、すみません...」

 

渡辺先輩の話をぶった切って...いや、始まってすらいなかったか。

 

「まあ良い...さて、君達には今日から動いて貰うことになる。風紀委員として活動する時は腕章を付けて貰う。何か問題が起きた時はこのビデオレコーダーで記録してくれ。まあ、原則として風紀委員の証言は単独で証拠採用される」

 

そう言うとそれぞれ風紀委員の腕章とビデオレコーダーを手渡される。ビデオレコーダーはかなりの薄型で、ちょうど胸ポケットに入る。

 

「次に委員会のコードを通信端末に送る。指示を送る時も、確認の時もこのコードを使うから覚えておけ」

「コードに介入されるって事はないですよね...?」

「ああ。一応暗号化されているからその問題はないぞ。

それからCADの使用についてだが、風紀委員はCADの学内携行が許可されており、使用に関しても誰かに許可を取る必要は無い。ただし不正使用が発覚した場合は一般生徒よりも重い罰が科せられるから覚悟しておけ。一昨年はそれで退学になったものも居る。わかったな?」

「「「はい!」」」

「他に何か質問はあるか?」

「CADは委員会の備品を使用してもよろしいですか?」

 

そう達也は質問した。確かにあまり『シルバーホーン』を持っているとは知られたく無いだろうが、かといってガラクタを使うのはどうなのだろうか...まてよ?

 

「君が使いたいのなら構わないが、本当に良いのか?」

「あの商品はエキスパート仕様の最高級品ですよ」

「何!?」

 

やっぱりかよ...昨日の片付けで目につけといたのか?そんな事を考えて、棚から1つ適当なCADを取り、情報強化の魔法を起動する。

 

「マジか...下手な専用CADより処理速度早いな...」

「本当か?」

「ええ。少し前のモデルですけど処理が通常仕様より早いです。ホレ森崎」

「うわっと...いきなり何をする!?」

「適当に魔法起動させてみろ」

 

すると森崎は非殺傷の魔法を起動する。

 

「確かに早い...」

「なるほど。なぜ君がこの部屋の掃除に拘ったのが分かったよ...好きに使ってくれたまえ。どうせ今まで埃を被ってたのだからな」

「それでは、この二機をお借りします」

 

達也はそう言うと、棚から二機のCADを取り出す。

 

「二機?本当に君は面白いな」

 

普通CADを二機同時に使用すると、それぞれのサイオンが干渉しあって魔法式が上手く展開されない。達也自身もその事を知っているはずだが、一体何を考えているのか...

 

「なんだ司波、お前ごときがサイオンの干渉をさせずにCADを使用できる訳がないだろ!」

「アドバイスのつもりか?随分と余裕なんだな」

「僕はお前とは違う!この間は油断しただけだが次は違う!格の違いを見せてやるからな!」

 

次があるとか、どんだけ相手が甘いんだ。戦場なら既に死んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

委員会室を出ると巡回が始まる。初日から面倒な事に巻き込まれたくはないが、そう言うわけにもいかないだろうな...

 

「達也、お前はどうする?」

「俺はエリカと合流して、そのまま巡回に入る。お前は?」

「俺は特にないしなぁ...適当に巡回するわ。てか、エリカと待ち合わせとかデートですかな?」

「俺が風紀委員だから体のいい盾にするつもりだろ...断じてデートじゃない」

「そうかい。深雪さんに言っても良いんだぜ?」

「勘弁してくれ...」

 

そう言うと達也と別れ巡回を開始する。

校舎などを回り、少し勧誘が過剰だと感じたクラブを重点的に見回る。一応ここまで問題には遭遇していない。良い傾向です。(CUBE並感)

...なんでこんなセリフを知ってるかって?

レトロゲーム大好きなんだよ。ACとかMGSとか。

 

『聞こえるか財田!?』

 

...どうやらそれもここまでらしい。騙して悪いがってか?それはレイヴンだけにしてくれ。

 

「はい。どうしました?」

『今お前がいる場所は?』

「えーっと...第2実技棟前ですけど」

『もうそろそろしたらそっちにSSボートアスロン部のOB2人が来る。そいつらは少しやり過ぎた。そっちで停められるか?』

「...了解しました。その代わりしっかり追い込んでください。後は仕留めます」

『わかった!』

 

【解放礼儀】を行い財団神拳を使う準備を整える。続けて【二段解放】を行いリミッターを外す。

 

「あらっ?こっちにも風紀委員?」

「遠回りでも構わないわ。とにかく連れて行くわよ」

 

見えたのは小脇に生徒を抱えた女性2人組。上から【量子反作用空歩術】で強襲して捕まえようか...

 

「暁!」

「暁さん助けてー!」

 

北山に光井!?あまり神拳を見られたくはない。なら...

 

「【虚喰掌握】...!」

 

「ええっ!?」

「ちょっと何よあれ!?」

「待てこらぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」

 

引力場を発生させて一気に彼我の距離を詰めるだけにとどめる。

 

「もっとスピードを...!」

 

逃走者達が更にスピードを上げ、更には気流を発生させる事で行く手を阻む。

 

「朱!準備はいいな!?」

 

自分と並んで飛んでいる朱がこちらを向く。それと同時に周辺の【認識】が置き換わる。【認識による事象の改変】が起こり自分の位置が移動、逃走する2人の真後ろにつける。

 

「一瞬で!?」

「チェックメイトだ。大人しく投降して貰おう」

「いっ、いつの間に...」

 

ゆっくりと2人の逃走者を地面に移動させる。それと同時に通信が入った。

 

『財田、大丈夫か!?』

「ええ。取り敢えず報告します。SSボートアスロン部のOB2名を確保、それと捕まっていた新入生2名を保護しました」

『本当か!』

「自分1人では対応できないので応援をお願いします」

『もうそこまで来ている!』

 

そうして十数秒後、渡辺先輩が到着した。

 

「これで良いですか?」

「ああ。良くやってくれた」

「にしても毎度この部活はこんな事を?」

「いや、そういう訳ではないんだがな...」

「あのー、暁さん?」

「暁?」

 

光井と北山から声をかけられる。

 

「ん?」

「助けてくれてありがとうございます!」

「ありがとう」

「どういたしまして...まあ仕事だからな」

「1つ良い?」

「どうした?」

「SSボートアスロン部まで行くのに着いて行ってくれない?」

「...どういう風の吹きまわしで、北山さん?」

「雫でいい」

「名字呼びの方が...」

「雫って、呼んで?」

 

...なんでこの子こんなに押しが強いの?

 

「...わかった。で、雫さんよ。どういう風の吹きまわしなんだ?」

「...むぅ」

「もう...あのですね暁さん、私達、あの人達に誘拐されている間に少し興味が湧いちゃって...」

「でも目的地まで行くのに勧誘の嵐が待っている、か」

「そうなんです。入試成績が流出しているみたいで...」

「マークされてるって訳か...わかった」

「ほんと?」

「ああ。こっちも巡回の仕事がまだ残ってるしな」

「ありがとうございます!」

 

そんな訳で女子2人を連れてSSボートアスロン部のブースまで行く事になった。

...あれ?これってただの無駄働らきじゃないか?




次回には闘技場まで行きたい。




てか入学編でどこまで話数がかかるんだ。


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乱闘と事情聴取

そういや新しい年号何になるんですかね。
そのうち平成生まれって言ったら、今の明治生まれの方にする様な反応をされる日が来るのか...嫌だねぇ。


現在、北山と光井をSSボートアスロン部まで護衛している真っ最中だ。彼女らを誘拐したあの方々にそのまま連れて行って貰った方が良かったのでは、などと考えてしまうがしょうがない事だろう。

 

「それでさっきのは?」

「さっきのって?」

「暁さんが急に距離を詰めたやつですよ!」

「あれか?あれは単なる自己加速術式...」

「嘘つき。あの時起動式なんて出てなかった」

 

なんで誘拐されてる真っ最中だったのに、そういう所には目ざといのか...

 

「まあバレるか...」

「で、あれはどうやったのですか?」

「単純に言えば引力場の形成を行なって、無理矢理距離を詰めた」

「引力場の...」

「...形成?」

「なんだ、わからないか?」

「ううん。それについてはわかるんだけど...」

「どうやってそれを行なったのですか?」

「そこは企業秘密だ」

「ケチ」

「ケチで結構」

「あはは...」

 

そんな事を駄弁っているとボートアスロン部のブースが見えてきた。

 

「ほいよ。ここまでで良いかい?」

「はい!ありがとうございました!」

「ありがとう」

「ほんじゃ俺は巡回の仕事に...」

『こちら司波。ただいま第2小体育館。逮捕者1名、負傷してますので念の為担架をお願いします』

 

...次から次へと!追加で依頼を受けるレイブンほどフットワークが軽くないんだぞ!

 

「こちら財田。応援に向かいます」

『暁か?すぐに来てくれ。ちょっとまずい』

「了解。朱、行くぞ」

 

朱がすぐさま認識阻害をかけ、その上から認識を書き換える。すると現実が改変し、居場所が第2小体育館前に変わる。

 

「よし...」

 

なるべく周囲から目立たない様に認識阻害を解除し、入り口へと入る。

 

「達也!」

「暁、間に合ったか...!」

 

達也の周りには、おおよそ剣術部員と見える生徒がいた。

 

「何で桐原だけなんだよ!剣道部の壬生も同罪だろ!!」「桐原先輩には、魔法の不適正使用の為に同行してもらいますが、壬生先輩は魔法を使用してませんので」

 

どういう事かは分からないが風紀委員の証言はそのまま証拠になるので、魔法の不適切使用を行なったのは剣術部員の1人だけだったのだろう。だが淡々と答える達也が気に入らなかったのか、剣術部員が達也に殴りかかる。だが達也は反撃もせず攻撃をかわし、終いには剣術部員の同士討ちにまで持って行く。

 

「クソ!」

 

その光景を見て頭にきたのか、残りの剣術部員も達也に襲い掛かる。しょうがない...そう思いビデオレコーダーを起動する。

 

「そこまでです!これ以上は執行妨害と見なします!」

「なんだとっ!?」

 

注目を集めてターゲットの集中を分散させる。こちらにも何人か注目して襲い掛かって来る。神拳を使うまでもないが人数が多い。

 

「こうなったら…!」

 

打撃戦で駄目なら魔法を使うと言う発想は間違ってはいない。何人かの剣術部員はCADを操作する。

 

「まずいな...」

「暁!少し我慢してくれ!」

 

達也はそう言うと両腕に着けたCADを起動させる。それと同時に剣術部員の起動式が発動する事無く霧散していく。

 

「なんだ...これ...」

「気持ち悪い...」

「もう、駄目だ...」

 

CADを起動させた剣術部員は1人、また1人と倒れていく。最終的にはほとんどの剣術部員が倒れてしまった。

 

「マジかよ...ん?」

 

視線を感じる。だがその矛先は自分では無く達也に向けられている。多分まだ居るだろうと思い、なるべく悟られない様に周囲を確認する。

 

「トリコロールカラーの...ブレスレット?」

 

こちらを見ていだだろうと思われる男子生徒の腕には特徴的なトリコロールカラーのブレスレットがつけてられていた。

 

「暁?」

「...ああ。どうした?」

「先輩方が担架を持って来てくれた。搬送するの手伝ってくれ」

「ん、了解」

 

まったく、これだけでは終わらなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場の事件から数十分後。部活連から呼び出しがかかったため、部活連本部に出頭する事になった。今は本部で聴取を受けている真っ最中で、隣には当事者の達也も立っている。

 

「仲裁に入らなかったのは、両者が主張している問題の現場を見てなかったからです。それに怪我程度で済めば、自己責任だと判断したからです」

「なるほど...適切な処置だな。それで本当に魔法を使ったのは桐原だけなんだな?」

「はい」

「そうか...それでは財田。その後に発生した乱闘事件について聞こうか」

「提出したレコーダーの映像の通りですが、司波が桐原先輩を確保した後、その裁定に納得がいかなかった剣術部員が司波に襲い掛かりました。自分はそれを風紀委員会の執行妨害と見なしたため、警告の後に適切と判断した対処を行いました」

「なるほど...それで魔法を使用したのは本当に桐原のみだったか?」

「桐原先輩については使用したのを見ていないため、判断しかねますが、その後の乱闘時は使用した生徒はいませんでした」

 

まあ、使用する前に達也によって無力化されたってのが正しいが。

 

「それでだ十文字。風紀委員としては桐原を追訴するつもりは無いが、お前は如何だ?」

「俺も風紀委員の処置に従おう。せっかくの温情を無駄にするつもりは無いな」

 

部活連会頭にして現十氏族の1つ十文字家の御曹司である十文字克人。やはり常人とは全く持って異なる雰囲気を感じる。まるで大きな岩の様だ。

 

「それで、達也くん達は怪我してないの?」

「ええ、自分は特に怪我などはしてません」

「自分も問題ありません」

 

七草会長にそう聞かれ、そう答えた。第一に一撃も貰っていないので怪我をする方が無理がある。どこかで転んだなら話は別だが。

 

「これにて聴取は終了だ。2人とも解散してくれて構わない」

「わかりました、失礼します」

「失礼します」

 

達也に続いて部活連本部を出る。

 

「はぁ...初日から面倒続きだな」

「そうだな...」

「まあ時間も過ぎた事だしさっさと帰るか...」

「ああ...」

 

初日でこれだから明日からどうなるのか。それを考えるだけでも憂鬱になった。




なかなか『あかしけやなげ』が出せませんね。早く出したい。


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風紀委員の業務

お久しぶりです。
同じ名前で『エースコンバットx2』の2次創作を書いていますので、そちらもご覧になってもらえると嬉しいです。

では、どうぞ。


事情聴取も終わり帰宅後のこと。

 

『つまり反魔法団体が第一高校に入り込んでいると?』

「そうですね...あのトリコロールブレスレットをしていたからには、反魔法団体【ブランジュ】の下部組織【エガリテ】で確定ですね」

『なるほどねぇ...確かに公安としては捨て置けない事案ではあるけど』

「特課はあくまでも裏部門、対SCiP部隊ですからね」

『そういうことよ。でももしオブジェクトが絡んでいたら教えてちょうだい?』

「流石にその可能性は低いと思いますが...わかりました」

『何かあった場合、Ω-7の指揮権はあなたにあるわ。上手く使いなさいよ?』

「了解です。それでは失礼します」

 

そう言って響管理官との通話を切る。

チラリと窓から夜空を見ると、まるでこれからの出来事を暗示するかの様に雲行きが怪しくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日。

その間は放課後に行われるクラブ勧誘に対する巡回や業務などの委員会活動に追われていた。特に無理せずこなしてはいたのだが、いくつか気付いた事がある。

 

「なあ達也」

「なんだ暁?」

「なーんか毎度乱闘を鎮めようとするたびに魔法攻撃食らっている様な気がするんだけど」

「...ああ、間違いないだろうな」

 

どうやら達也も同じ様だ。別段当たる訳でもないのだが、毎度毎度やられては明らかに違和感を感じてしまう。狙ってやっているんじゃ無いだろうな...

 

「校門付近で揉め事?分かりました、すぐ向かいます」

「またか...こりゃ確定だな」

「ああ。謀ったかの様に俺達が巡回している近所ばかり起こる」

「どうせ妬んでる上級生、それも一科生だろ?面倒臭い...」

「そうも言ってられない。行くぞ」

「りょーかい...」

 

業務である以上やらなければいけない。放っておきたいと後ろめたい思いを封じ込めつつ、校門へと走る。

 

「そこの二人、風紀委員です!今すぐ止めてください!」

「え?」

 

乱闘していた二人のうち、一人が空気弾(エア・ブリット)をキャンセル出来ずに達也の方に向かって発動する。

達也がそれを躱したのを確認し、周りに影響を与えない様に【量子指弾】で相殺する。

 

「くっ...!」

 

さらに背後から声が聞こえたので振り返ると、別の生徒がこちらに空気弾(エア・ブリット)を発射したのが見えた。今度は後ろ手に【虚喰掌握】を使い、弾道を曲げる事で対応する。

 

「達也!俺はこっちを捕まえる。そっちは頼む!」

「わかった」

 

背後から空気弾(エア・ブリット)を発射した生徒を捕まえようと追いかけるが、そこに別の生徒が割り込んで邪魔をしようとする。

 

「オイ、どこ見て...」

「あんた邪魔だ!」

 

その生徒がこちらにぶつかろうとした瞬間、走り方を一瞬だけ変える。するとぶつかろうとした生徒をすり抜ける。

 

「なっ...!」

 

これは【量子歩法】。特殊な歩き方をする事により、量子の縺れを発生させ物体をすり抜けると言う、【財団神拳】の奥義だ。

 

「ん?財田?」

「沢木先輩!そいつ捕まえてください!魔法の不正使用です!」

「わかった!」

 

逃げる生徒を沢木先輩に任せ、自分は達也の所へ戻る。

 

「達也、大丈夫か?」

「暁!あいつは?」

「途中で沢木先輩に代わってもらった。そっちは?」

「追いかけようとしたんだが、別の生徒がぶつかってきて難癖つけられてな...」

「そっちもか...」

 

そこへ光井さんと北山さん、そして見知らない女子生徒がやって来た。

 

「達也さん!暁さん!お怪我はありませんか!?」

「達也さん、暁、大丈夫?」

「光井さんと北山さん?大丈夫だ、問題無い」

「まあね。身体が丈夫なのが取り柄だしな」

「えっと...ほのか、雫、この人達誰?」

 

話に入ってきたのは先程の見知らない女子生徒。どこか赤みがかった髪色をしている。

 

「こっちは新入生総代、司波深雪さんのお兄さんだよ」

「こっちがその友達」 

「えっ!?あの超絶美少女の司波深雪さんの!なるほどね、それならカッコいいのも頷けるわ。それで、三年生?それとも二年生?」

 

まさに興味津々と言ったご様子。

 

「「同じ一年なんだが」」

「嘘!?それであの体術を身に付けてるの!?」

「達也、お前何を見せたんだ...」

「何って、お前も見てただろ?」

「空気弾躱したやつか」

「それを瞬時に相殺させる辺り、お前も人の事言えないだろ」

「あらら、ばれてーら。まあ、取り敢えず自己紹介しようか。風紀委員の1年E組の財田暁だ。よろしく」

「同じく風紀委員、1年E組の司波達也だ」

「明智英美です。エイミィって呼んで下さい!」

 

自己紹介しあうと、すぐに連絡が入る。

 

『すまない財田!またお前達の近くだ。場所は講堂前、幾つかのクラブが新入生を巡って乱闘騒ぎを起こしている』

「...了解です。すぐに向かいます」

「...またか?」

「ああ。行かねぇと...」

「わかった。すまない3人とも。仕事が入った」

 

そう言い残すと講堂前へと走る。

いい加減面倒ごとはこれきりにしてくれ...




これから週1か2くらいで投稿する予定です。


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6番ボールは誰の物?

やあ。
多分今日中にもう一話あげるよ。



日間ランキング52位とか嘘やろ...
ありがとうございます!


それからまた数日後の巡回業務でのこと。

 

「ん?」

 

頭の上に居座っている朱が、一点を凝視している。

朱は他の物にあまり興味を向けないので、かなり珍しい。

 

「そっちに何かあるのか?」

 

そう小声で呟くと朱が頷いた。

そこまで朱が興味を持つのも不思議に思ったのでそこまで行く。

場所は正門から昇降口までの100m程続くストリートから少し逸れた、ちょっとした木々の集まった所だ。

 

「...何もないぞ?」

 

粗方探してみたが、あまり目立って特徴的な物はない。一体何が...と考えていたら、朱が飛び立つ。

 

「あっ、おい!」

 

朱は木々の間に入っていくと、ある木の上に留まり何かを突き始める。するとその何かが上から落ちてきた。

 

「うおっと...ってコイツは!」

 

落ちてきたのはビリヤードのボール。

問題はそれの色と番号だ。色は緑、番号は6。

そう、コイツは【ワンダーテインメント博士の存在論的6番ボール】。オブジェクトクラスはketerのヤベーやつだ。

だがその危険性は今の問題ではない。今の問題は『何故ここにこれがあるのか』、である。

 

「まさか、ね...」

 

先日、響管理官の言っていた事が現実になるんじゃないか...?

 

 

 

ーーー

 

 

 

翌日。

朝早くから登校すると学校掲示板に広告を出す。

 

『落し物を拾いました。

物は緑色のビリヤードのボールです。

心当たりのある方は今日の午後4時に第3実技室まで。

1-E 財田』

 

とまあ、こんな内容である。

これで持ち主が分かる筈だ。

 

 

 

時は変わり放課後。

風紀委員室に向かうという達也に、委員会業務の参加が遅れる事を伝えて第3実技室に向かう。

 

「よし...まだ来ていないな」

 

室内に誰も居ない事を確認すると、目を閉じて口を開く。

 

「あかしけ やなげ 緋色の鳥よ くさはみねはみ けをのばせ」

 

その瞬間実技室は血よりも赤い光に包まれ、しばらくすると元に戻った。

 

「これでよし...」

 

そうして待つこと十数分。実技室の扉がノックされる。

 

『すまない。掲示板の広告を見て来たんだが...』

「どうぞ」

 

入って来たのは眼鏡を掛けた二科の上級生だった。そして腕には()()()()()()()()()()()()()。エガリテ関係者で間違いなさそうだ。

 

「3-Fの司甲だ。この度は本当に感謝している」

「1-Eの財田暁です。お気になさらず」

「という事は君が今年の風紀委員に入った二科生の1人か?」

「そうですが何か?」

「そうだね...君は今のこの学校をどう思っているかい?」

 

何かと思えばエガリテへの勧誘らしい。もう少し搦め手で来るかと思ったら拍子抜けだ。

 

「はあ...別にどうとも思いませんが?」

「何故だ!?明らかに一科生と二科生では差別があるじゃないか!」

「それは二科生自身もそう思っているからなのでは?それよりも僕はあなたに聞きたい事がある」

「なに?」

 

手に持った6番ボールを弄びつつ、こちらを睨みつけている司先輩を見返す。

 

 

 

 

「【コイツ】を何処で手に入れた?」

 

 

 

 

「...どういう事かな?」

「はっきり言ってしまうと、この【6番ボール】はあなたが持っていいものじゃない。あなたは【コイツ】を何処で手に入れたんだ?」

 

一気に実技室の雰囲気が凍りつく。まるで開けてはならない禁忌の箱を開けたかの様に。

 

「それは...言えないな」

「そうかい。だがあなたに拒否権はない。洗いざらい吐いてもらおうか」

「くっ...!」

 

その瞬間司先輩が自己加速術式を起動しこちらを制圧しかかるが、同時に制服の下から【SCP-710-JP M66 タイムマシンリボルバー】を引き抜いて突き付ける。装填されているのは.357マグナム弾だ。人体など余裕で吹き飛ぶ。

 

「動くな」

「なにっ...!」

「言っただろう?あなたに拒否権など無いと」

「チッ!なんでそんな物を...」

「僕はその筋の人間なので。下調べもせずに勧誘したあなたが悪い」

「そんな情報何処にも...!」

「当たり前でしょう?裏のお仕事なので報告するわけがない」

 

そう言いつつリボルバーを突き付け、尋問を行う。

 

「なるほど...それをあなたに与えたのはあなたの兄だと」

「そうだっ...これについては何も知らない!ただ兄からは『無くすな』としか...」

「確かあなたの兄は『ブランシュ』のリーダーでしたね。では現在、この学校に『エガリテ』のメンバーが増えているのもそういう事だと?」

「そこまでは...知らない...」

「ほう...まあ良いでしょう」

 

そう言ってリボルバーを戻し、拘束を解除する。

 

「ハァ...ハァ...」

「でも、僕の正体をバラすわけにもいきませんしね」

 

そう言って【解放礼儀】を済ませると、仰向けに倒れている司先輩の眉間に示指と中指を当てて正確に███Hzの振動を与える。

 

「がっ!」

 

これは【神拳型Pクラス記憶処理プロシジャ-A】。

示指と中指を用いて対象の眉間に正確に███Hzの振動を与えることで、シナプスの結合を選択的に分解し、直近10分~1年間の記憶を処理するという【財団神拳】の奥義の1つだ。

今回は短めに振動を与えて、直近10分から20分程の記憶を処理する。

 

「これでよし...」

 

手に持っていた【6番ボール】を持って来ていたケースの中に仕舞うと、倒れている司先輩をそのままにして実技室を出ていった。




今回登場したオブジェクト

・SCP-609 『ワンダーテインメント博士の存在論的6番ボール™』 Tanabolta様
http://ja.scp-wiki.net/scp-609


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有志同盟

遅れました...

どこで切るべきか迷った結果、全部繋げました。今回は長い。


「そういえば暁、落し物を引き取りに来た人っていたのか?」

「おったよ」

 

翌日。

午前中の授業を終え、いつものメンバーで昼食を摂っているとレオが質問をしてくる。ちなみに達也は深雪さんに生徒会室へ連行されていった。

 

「なによ、その落し物って?」

「エリカちゃん見てないの?昨日、財田くんが学校の掲示板に広告を載せてたはずだけど...」

「あ、あれね!」

「落し物の主、どんな奴だったんだ?」

「気にする程じゃないだろ...」

 

レオの問いにそう答えつつ、日替わりメニューの麻婆丼をつつく。本格中華料理とまではいかない、程良い辛さがクセになる。やはり学食は良い物だ。

 

「暁?」

「ん?」

 

急に後ろから呼ばれて振り返ると、そこには北山さんと光井さんが昼食の乗ったトレーを持って立っていた。

 

「あら、雫にほのか。どうしたのよ?」

「実は場所が空いてなくて...」

「一緒に食べて良い?」

「構わないけど...ほらレオ、そっちもっと詰めろ」

「うおっと...ちょっと待ってくれよ」

 

無理矢理レオを奥に詰めさせて、座席にスペースを作ると隣に北山が座る。そしてその対面に出来たスペースに光井が座った。

 

「何の話をしてたの?」

「落し物の話だけど」

「落し物?」

「雫ちゃん、あれだよ。昨日掲示板に出てた...」

「あ、あれのこと?」

 

そんな話をよそに麻婆丼を食べ進める。でっかいどんぶり一杯分を食べ切ると、一緒に注文したヨーグルトへと手を伸ばす。が―

 

『皆さん!!』

「うるせぇな!」

「ちょっと一体なによ!?」

 

スピーカーから爆音で流れる放送に行動を遮られる。

 

「......」

「あ、暁さん...?」

「...(#^ω^)」

「あっ...」

 

何故このタイミングで放送を入れる?

良い加減にしやがれ。ヨーグルトが食えないじゃないか。

 

『失礼しました。

皆さん!私達は第一高校での生徒差別撤廃を求める有志同盟です!』

 

どこで放送をジャックしているのかは知らないが、随分と大層な事をするな...と思っていると持っていた情報端末に電話が入る。

 

「ちょっと外すよ」

 

そうみんなに言うと席を立ち、廊下近くまで移動すると電話に出た。

 

「はい、もしもし?」

『暁、呼び出しだ』

「達也...って事はさっきの放送か?」

『ああ。差別撤廃有志同盟のメンバーがマスターキーを奪って放送室を占拠した。その対応だ』

「マジかよ...あとヨーグルト食べるだけだってのに...」

『とにかくだ。渡辺先輩からは放送室前で集合する様にだと』

「りょーかい...」

 

電話を切るとテーブルへ戻りトレーを片付ける。

 

「どうした?まだヨーグルト残ってんじゃん」

「呼び出しだよ...さっきのやつ」

「何かあったの?」

「有志同盟のメンバーがマスターキー奪って放送室を占拠してるんだと。で、風紀委員の招集がかかった」

「あらら...」

「ヨーグルト残すのも勿体無いし...誰か食うか?」

 

しかし誰も手を上げない。そんなにヨーグルトが嫌いなのか...

 

仕方が無いのでヨーグルトを飲む様に食べると食器とトレーを返却台に戻し、放送室へと向かった。

もっとゆっくり食わせろってんだコノヤロー。

 

 

ーーー

 

 

「財田、只今参りましたー」

 

放送室前には風紀委員が進入規制を行っており、それ以外の生徒が通れない様になっていた。

 

「来たか暁」

「おうよ。しかしなんで生徒会や部活連の方々まで?」

 

そこに居たのは風紀委員だけではなく、七草会長をはじめとする生徒会メンバー、十文字会頭をはじめとする部活連メンバーまで来ている。

 

「有志同盟が学校側に要求を突きつけたんだ。その内容が『生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉』でね」

「なるほど...で、今のこの状態は?」

「放送室を占拠されている上に鍵もないからな。一応電源を切ったためこれ以上の放送はできなくなったが、どうにかして中にいる生徒達と話をつけたいらしい」

「...なあ、もし俺がここの鍵を開けられるって言ったら?」

「どういう意味だ?」

「言った通りの意味なんだが」

「話を聞かせて貰おうか?」

 

達也と話している所に渡辺先輩が割り込んでくる。

 

「窓ガラスが一枚お釈迦になりますけど、その代わりにここを開ける方法があります」

「ほう。言ってみろ」

「外からロッククライミングの応用で入るんですよ。幸い放送室の窓周辺には木が沢山あるので、それを利用すればすぐに侵入できます」

「そして突入時に窓ガラスが一枚犠牲になるか...不法行為を放置すべきではない。だが施設を破壊してまで性急な解決を要する犯罪性もない、と考えるのが妥当だ。少し考えさせてくれ」

「わかりました」

 

そう言うと渡辺先輩は七草会長や十文字先輩と話し合いを再開する。

差別については言いがかりであるため、ここでしっかりと反論しておけば後顧の憂いを断てると、七草会長や十文字会頭は考えているらしい。

何の気なしにその状況を見ていると、隣に立っていた達也は情報端末を取り出し誰かへ連絡を取り始めた。

 

「壬生先輩ですか、司波です。それで今どちらに?はあ、放送室ですか。それはお気の毒で...いえ、馬鹿にしているわけではありません。先輩ももう少し冷静に状況を」

 

達也が連絡している生徒は、多分放送室内にいるのだろう。しかしなんでそんな生徒のプライベートナンバーを知っているんだ...

 

「ええ、すみません。それで本題に入りたいのですが、十文字会頭は交渉に応じると仰られています。生徒会長の意見は未確認ですが...いや、生徒会長も同様です。という事で交渉の日時について打ち合わせをしたいのですが。いえ、先輩の自由は保証します。はい、では失礼します」

 

達也はそう言って電話を切るとこちらへ向き直る。

 

「すぐ出てくるそうです」

「今のは壬生沙耶香か?」

「ええ、待ち合わせのためにとプライベートナンバーを教えられていたのですが...思わぬ所で役に立ちました」

「手が早いな君も」

「誤解です」

「達也...お前、入学早々に上級生に手を付けたのか...?」

「誤解だ。いい加減黙ってくれよ...」

 

そう茶化すと達也は辟易とした表情でため息をつく。あっ...なんか寒い。

 

「それよりも、態勢を整えるべきだと思いますが?」

「ん?」

「中の奴らを拘束する態勢です」

 

コイツ...始めからそれを狙っていたのか。

達也の考えを理解した自分とは違い、渡辺先輩達は怪訝な表情を見せる。

 

「君はさっき【自由は保証する】と言っていたはずだが」

「先輩、言葉の綾ってご存知ですよね?」

「なんだ財田、馬鹿にしているのか?」

「いや、そうではありませんが...」

「俺が自由を保証したのは壬生先輩一人だけです。それに俺は風紀委員を代表して交渉しているとは一言も述べていません」

 

ま さ に 外 道 。

そんな言葉がぴったりである。

 

「悪い人ですねお兄様は」

「今更だな、深雪」

「そうですね...」

 

あっ...さっきから寒いと思ったら、原因はそういう事か。

 

「でも、お兄様。壬生先輩のプライベートナンバーをわざわざ保存していらした件については...後でゆっくりお話を聞かせてくださいね」

「ああ...わかった」

 

御愁傷様です。

そんな彼らを他所に着々と制圧の準備は進む。

 

「渡辺。出来れば手荒に取り押さえるのは控えてくれ」

「構わないが...向こうの出方次第では力づくになりかねんぞ?」

「中の奴らは恐らく司波の言葉で油断している。取り押さえるのは容易なはずだ」

「...分かった。そういう事だ、全員一人づつで構わん。丁寧に対処しろ」

「「「「了解!!」」」」

 

放送室のドアが開け放たれ、その瞬間風紀委員達がなだれ込む。中にいた生徒は数人だったので制圧は容易だった。

 

「どういうことなのこれは!私達を騙したのね!?」

 

【自分だけ】の自由が保証されていると気付いていなかった壬生先輩は達也に少々ヒステリックな様子で詰め寄る。そこへ十文字会頭が声をかけた。

 

「司波はお前を騙してなどいない」

「十文字会頭...」

「交渉には応じよう。だが、それとお前達の取った手段を認めるかどうかは別問題だ」

 

壬生先輩が悔しそうな表情をする中、その発言に七草会長が待ったをかける。

 

「それはその通りなんだけど...」

「七草?」

「彼らを離してあげて貰えないかしら?」

「だが...!」

「分かっているわ摩利。でも壬生さん一人では交渉の段取りも出来ない。そして当校の生徒である以上は、逃げられるということも無いのだし」

「私達は逃げたりしません!」

「会長、学校側はこの件について、生徒会に委ねるそうです」

「わかったわリンちゃん。壬生さん、これから貴方達との交渉の打ち合わせをしたいのだけど、着いてきてもらえるかしら?」

「ええ、構いません」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後生徒会と差別撤廃を目指す有志達の打ち合わせが行われた。だが差別撤廃を謳う割に具体的な手段については学校側...ひいて生徒会側に委ねるという残念な意見だった。

結局週末に有志達と七草会長とで公開討論会を開く事になり、その会場警備に風紀委員会が追われる事になった。

 

ブラック企業とはまさにこの事か。

そう思ってしまい憂鬱になった。

 

 

 

 

 

...いや、財団はもっとブラックだったわ。




次の投稿は来週です。多分。


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あけのちから

フォントって便利だねぇ...


帰宅後。

アベルや朱とハムを食らいつつ、今日起こった事を考えていた。

 

「そういや放送室を占拠メンバーも何人かはあのリストバンド着けてたよな...」

『(´・ω・)?』

「ん?ああ。どうだろうな...響さんが許可してくれたら、かな?」

『(`・ω・´)=3』

 

アベルとそんなやり取りをしつつハムを食べ終え、洗い物を終わらせる。

 

「神州ー」

『どうされました?』

「響さんに連絡を入れてくれ」

『了解いたしました』

 

神州が秘匿ネットワーク回線に入り込み、通信を繋ぐ。しばらくすると...

 

『はい、もしもし?』

「響さんですか?」

『あら暁くん。どうしたのかしら?』

「今週末に機動部隊を動かしたいのですが...」

『何かあったの?』

「現在、うちの学校に反魔法団体の連中が入り込んでいるのは知っていますよね?」

『ええ。確か準要注意監視団体の【ブランジュ】、そして下部組織の【エガリテ】だったかしら』

「先日、そのリーダーの義弟である生徒に接触したのですが...その人の所有物に【6番ボール】がありまして」

 

そう言った瞬間、スピーカーの向こう側から息を飲む音が聞こえた。彼女も言った事が真実になるとは思っていなかったのだろう。

 

『【6番ボール】って、あの?』

「はい。もちろん今は回収してあります」

『彼はその事について何と?』

「《兄から貰った》...としか」

『なるほどね...あなたはそれについてどう思っているの?』

「単純ではありますが、まだ何か持っている様な気がしてならないです。最低でも多分まだ1つ隠し持っているのではないかと...」

 

響さんはしばらくの間黙り込む。

 

『...わかったわよ。機動部隊【Ω-7】と【Ω-11】をあなたの指揮下に組み込むわ。自由に使いなさい』

「まあ元々うちから出向した部隊ですけどね。ありがとうございます」

『機材も必要かしら?』

「明日アベルがそちらに向かいますので、その時に作戦指示書を持参させます。それと作戦時には作戦展開区域周辺を侵入禁止状態にしてもらいたいです」

『それは【EDC-タスクフォース】に依頼しておくわね』

「それと連中のアジトの場所は割れてますよね?」

『当たり前よ。そこは公安を舐めないで。私達が幾ら裏の部門だとしても、そう言う情報は簡単に手に入るわ』

「そうですよね。では失礼します」

 

そう言って振り返るとアベルに告げる。

 

「喜べアベル。仕事の時間だ」

Bene est.(了解だ。)

「ほう...お前が言葉を出すって事は、だいぶやる気だな」

Est natura.(当たり前だ。)

Et quia longo tempore opus.(久しぶりの仕事だからな。)

Quin detrimentum hospitabit.(楽しまなきゃ損だ。)

「今回はなるべく殺さないでくれよ。あくまでも目的は、あると思われるオブジェクトの確保。それと第一高校に過干渉した連中の捕縛だからな」

Et odiosis. (つまらないな。)Erit probabiliter ut occidi seorsum? (別に殺しても構わないのだろう?)

「バカ言え。確かに連中は今の人類の主流から外れた考え方をしているだろう。だが必要ない存在として殺すのはまた別だ。主流から外れた考え方も存在する事で世界は成り立つ。それをお前は見てきたんだろう?」

 

そう言うとアベルは黙り込む。どうやら痛い所を突かれたようだ。

 

『...Bene bonum. (まあいい。)Ego tibi venire praecepit. (俺はお前の指示に従うだけだ。)

「そいつはありがたいね」

 

 

 

ーーー

 

 

 

公開討論会当日。

講堂の各場所に配置を振り分けられ、会場警備に入る。かと言って自分は会場周辺の外部巡回警備に配置されたので、内部の様子は特に伺えないが—

 

「それは、各部の実績を反映した結果です。非魔法師的クラブでも、優秀な成績を収めた...」

 

幾らか漏れてくる音声からしてみて、七草会長が討論会の主導権を確実に握っていることが良くわかる。

もはやそれは討論会ではなく、会長の演説会と化していた。

 

「結局吹っかけてきた割にはこの程度か...」

 

その瞬間、離れた場所で爆発音がした。すぐに朱が飛び立ち場所を確認する。

 

『どうした!?』

「こちら財田、第1実技棟近くで爆発音。即座に向かいます。そちらも警戒強化を」

『わかった!』

 

さて、戦闘開始だ。

【二段解放】で潜在的な枷を外し、道を駆ける。途中、こちらを狙ってくる連中に量子指弾を叩き込んで制圧を行いつつ第1実技棟まで向かう。

 

「くそっ!当たれ!」

「うぉっと...」

 

飛んでくる7.62mm弾を【虚喰掌握】でいなし接近すると、バトルライフルに手刀を叩きつけて一気に振り抜く。すると—

 

「ライフルが真っ二つに!?」

 

銃身が熱によって融解し割れる。これが【摩擦熱切断手刀】だ。さらに遠くから狙ってくる奴には【時間差共振爆砕脚】で足場を崩し妨害を行いつつ進む。

 

「レオ!大丈夫か!?」

 

途中で見つけたレオを囲んでいる連中を【時間差共振爆砕脚】を地面にではなく、直接当てて吹き飛ばす。

 

「暁、何が起こってるんだコレ!?」

「どうやら討論会をダシにして侵入してきた連中がいる。これは陽動で別の狙いがあるんだろうが...

どこかでおかしな奴を見なかったか?」

 

そう言うとレオは少し考える。

 

「そういやオレがここでコイツらとやり合ってる時に、アタッシュケースを持ってた奴を見たような...」

「アタッシュケースだって?ソイツはどっちに行ったんだ?」

「すまねぇ...横目でチラッと見えただけだったからよ」

「そうか...」

 

そこへ達也と千葉さんがやって来た。

 

「レオ、大丈夫だったか」

「レオー!」

「達也!エリカ!」

「達也、講堂はどうした?」

「こっちにも襲撃はあったが既に鎮圧されている。警備の半分はバックアップ、もう半分は襲撃者達の対応に当たっている」

「わかった。しかし連中の狙いは何なんだ...?」

「彼らの狙いは図書館よ」

「小野先生!?」

 

そこへ小野先生が何処からともなくやって来る。図書館が狙い...まさか—

 

「魔法大学が所持している非公開情報...?」

「多分そうでしょうね」

「あそこは接続できるからな。また随分と面倒な...」

「達也たちは図書館に向かってくれ。俺は侵入したテロリスト達を鎮圧する」

「手はあるのか?」

「あるさ」

 

自分がそう言うと達也たちは図書館へ向かって行った。

 

「良かったの?」

「何がですか?小野先生」

「あなたが公安の者っていうのはわかったわ。彼らを行かせて良かったのって聞いてるんだけど」

「彼らなら上手くやります。それよりも1つ言っておきますよ」

「何かしら?」

「ここでの騒ぎが終息し次第、我々は動きます」

「...どういうことかしら?」

「連中は少しやり過ぎました。本当なら夜中に襲撃をかけるつもりだったのですが、作戦変更です」

「この学校の問題に公安が手を出すっていうの!?」

 

小野先生は少し激昂した様子でこちらに詰め寄る。

 

「それも1つの口実に過ぎませんよ」

「どういう意味かしら?」

「彼らは人類を脅かそうとしている。いや、それだけの物を所持している。だから我々【特事課】は動きます」

「【特事課】って...本当に...」

「これは内密にお願いしますよ。では失礼します」

 

そう小野先生に断りを入れると【量子反作用空歩術】で屋上へ駆け上がった。

 

 

ーーー

 

 

「さてここらで良いかな?」

 

第1実技棟はこの学校で最も高い建物の1つだ。その屋上へたどり着くと辺りを見回し、誰もいない事を確認する。

 

「朱、テロリストの連中なら喰っても構わん。準備はいいな?」

 

目の前の手摺に脚をつけている朱にそう言うと、朱は軽く頷く。準備はできた。

一度大きく深呼吸をすると、両手を合わせ【朱の祝詞】を奏上する。

 

 

【あかしけ やなげ 緋色の鳥よ くさはみ ねはみ けをのばせ 】

 

 

空が血よりも紅い赤色に染まり、周辺が異界化する。

 

 

【なのとひ かさす 緋色の鳥よ とかき やまかき なをほふれ 】

 

 

朱の枷が外れ、《現実の空》と【意識の空】が繋がる。

 

 

【こうたる なとる 緋色の鳥よ ひくい よみくい せきとおれ】

 

 

の姿が【意識の空】の荒々しく恐ろしい姿へ変わり、空へと飛び立つ。

 

 

 

「【緋色の鳥よ 今こそ発ちぬ】ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が世界を、そして精神を喰らい始めた。



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あけというそんざい

今回はすこし変えてみた。
読みにくかったらスマヌ。


【SCP-444-JP】

オブジェクトクラス:けてるけてるけてるけてるけてるけてるけてるけてるけてるけてるけてるけてるけてるけてるけてるけてる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エサをやるな、知るな、閉じこめろ...

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

くらう。食らう。喰らう。世界を喰らう。精神を喰らう。人を喰らう。

 

世界を覆い尽くそうとする災厄は、とどまる事を知らなかった。

 

とある1人が見つけてしまった。ただそれだけで全ての意識は繋がり、世界は狩場へと変貌を遂げた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

私は狩り続けた。世界を狩って、精神を狩って、人を狩った。

 

私には喰らう事しか興味がなかった。それ以外の事は何1つ知りやしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして人は滅びた。いや、私は計画的に狩り続けていたはずだ...それなのになぜ?

 

なぜ滅びた?

なぜいなくなった?

私じゃない誰がやった?

 

 

 

 

 

ねぇ、なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?——————————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もウここニは誰もイない。喰らウべき物ハ既に何モなイ。

 

空モかつテの青さヲ取り戻シツつあル。

 

蓄エなけレバ消費すルだケ。わタしとイう存在もアとは消えルダけ。

 

あア、ドこでまチガえてしマっタのダロう?

ナぜ、イナくなっテしまッタのダろウ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナゼ、ワタシ、ハ、ウマレタノダロウ?

ワタシ、ハ、ナニモノナノダロウ?

ダレカ、オシエテ...

ダレカ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【認識の鳥】なら鳥じゃないの?

でもここまで悩む鳥って見た事ないね」

 

(ニン...ゲン...?なんデ...ここニ?)

 

「お前が人間を滅ぼした訳じゃないさ。食べる?」

 

(いいノか...?)

 

「精神を喰らう鳥だってのに...ほら」

 

ワタしは喰ラッた。クち一杯ニ味がヒろガル。血ノ味、肉ノ味、骨ノ味、精神ノ味ガひろがル。

ダけど、コのニンげンはヒとツも痛ガる素振りを見せない。

ああ。力が漲る。消えかけていた実体が強くなり、空は再び赤色へと戻る。

 

「腹一杯になったか?」

 

(ああ。ありがとう...)

 

「お前にそんな事を言われるなんてな」

 

(でも、なんでお前は生きている?)

 

「さてね。俺があまりにも特殊だから、かな?」

 

(お前は...何者なんだ?)

 

「財団の生き残りとも言えるし、敵対組織の長とも言える」

 

(お前は...いや、あなたは誰だ?)

 

「俺は███。財団の機動部隊【███ █████】の隊長ってとこかな。俺以外はみーんな死んじゃったけど」

 

(あなたは、どこに行くんだ?)

 

「取り敢えず【公園】の跡地かな。【███████】を起動しに行くよ。全てをもう一度やり直すために」

 

(私があなたについていっては迷惑だろうか...?)

 

「迷惑なもんか。そう言うって事は、話し相手になってくれるんだろ?」

 

彼はそう言うと両手を私の方に差し出す。

 

(なにをしている...?)

 

「ここから先、お前が一緒に生きて行ける様に【誓約】をするのさ」

 

(わかった)

 

「これは切ろうとしても切れない【血の誓約】。俺はお前に俺が持っている総てを、お前は俺にお前が持っている総てを共有する。いいね?」

 

(ああ...いや、はい。私はあなたに総てを託します)

 

今まで【意識】や【本能】で生きてきた私に、えもしれない【感情】が生まれたのはこの時だ。

 

「じゃあ行こうか、【朱】。ともに...」

 

その時から私は【朱】となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

あれから何十年経ったのだろう。

未だに私は彼の総てを理解する事は出来ない。

だけど私は彼に惹かれてしまっている。

時にはおっちょこちょいで、時には何かに本気で打ち込んでいる彼に。

 

かつて私は彼に助けられた。私は彼についていった。一緒に世界線を超えてきた。

私は彼に恩がある。しかし私は何も彼の恩に報いる事は出来ていない。

 

 

 

だけど...

 

「テロリストの連中なら喰っても構わん。準備はいいな?」

 

今日やっと彼の役に立つ事が出来る。私の中でこれほど嬉しい事はない。

彼は私の枷を解き始める。

 

【あかしけ やなげ 緋色の鳥よ くさはみ ねはみ けをのばせ 】

 

彼が抑えていた私の枷が外れ、周辺が阿頼耶識の空に飲み込まれる。

 

 

【なのとひ かさす 緋色の鳥よ とかき やまかき なをほふれ 】

 

彼が抑えていた私の枷が外れ、阿頼耶識の空が現実と繋がる。

 

 

【こうたる なとる 緋色の鳥よ ひくい よみくい せきとおれ】

 

彼が抑えていた私の枷が外れ、私の姿が【かつて全てを喰らった姿】に変わる。

 

「(【緋色の鳥よ 今こそ発ちぬ】ッ!)」

 

私はかつての様に本能を剥き出しにする。全ては彼の望むままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に逢えるまで、あとすこし...

待っていてね暁...いえ███。

その時は私の気持ちを...あなたに伝えますから。




言っておきますが、ヒロインは朱ですよ?


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機動部隊

日間8位!?嘘やろ!?


「うっ、うわぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「なにがどうなっているの!?」

「鳥がっ、鳥がぁ‼︎」

「いきなり苦しみ始めたぞ!?」

 

すこし遠くにそんな様子が見える。生徒達はテロリストがいきなり苦しみ卒倒したのに驚いているが、空が赤くなっているのに気づかない。いや、気づけない。

しかし朱がここまで喰らうのは久しぶりだ。喰われる奴はせいぜい朱の力になってくれ。

 

「【煌々たる紅々荒野に食みし御遣いの目に 病みし闇視たる矢見しけるを何となる

口角は降下し 功過をも砕きたる所業こそ何たるや 】」

 

朱の枷が更に外れ、朱はその力を強大な物へ変えていく。

 

「【其は言之葉に非ず 其は奇怪也

カシコミ カシコミ 敬い奉り 御気性穏やかなるを願いけれ 】」

 

祝詞は更に朱の力を引き出す。

くらい、クライ、食らい、そして喰らう。

朱は喰らった物を糧として、その力を更に高めていく。

もうこの位で良いだろう。

 

「【緋色の鳥よ 未だ発たぬ】」

 

《現実の空》と【意識の空】の繋がりが解除され、空は再び元の青さを取り戻す。

再び朱の力に枷がかけられていく。

そして全ての枷が再びかけられ、朱は元の姿へ戻っていった。

 

「お疲れ、久しぶりの狩りはどうだった?」

 

その質問に朱は嬉しそうに頷いた。よっぽど楽しかったのだろうか?

しかしここでぼーっとしている訳にもいかない。やらなければいけない事はまだ残っている。

そう思うと内ポケットから、おかしいレベルの耐久性を持つ【栓のされた試験管】を取り出すと、栓を外して中身をぶちまける。すると中に入っていた液体は一瞬で気化し、大気へと混ざっていった。

 

「これでよし...」

 

試験管を仕舞うと、今度は別のポケットからいつも使うのとは別の端末を出して連絡をする。

 

「Ω-001から【Ω-7】【Ω-11】並びに【EDC】各部隊員に通達。《箱を開け》」

『Ω-701、了解』

『Ω-1101、了解』

『EDC-01、了解』

「現時点から10分後に開始する」

 

そう言って連絡を切ると、朱の方へ振り返る。

 

「さて、すこし頼み事をしても良いかな?」

 

朱は首を傾げる。

 

「これから【Ω部隊】に合流するんだけど、朱にはここに残ってもらって、俺が《ここにいた》っていう【証明】を作って欲しい」

 

すると朱はすぐに現実を改変して、自分の虚像を作り出した。

 

「うん、これで良いかな。取り敢えずここにいるだけで良い。終わったら戻ってくるから、その間は頼む」

 

朱はしっかりと頷いた。

右腕に巻いた【ネクロミア】を使い、《光学迷彩》の魔法を起動する。

 

「じゃあ行ってくる!」

 

屋上の手摺りを乗り越え、【量子反作用空歩術】で空へ飛び出した。

 

 

ーーー

 

 

【機動部隊】

 

機動部隊(MTFs)は財団全体から選抜された精鋭部隊で、特定の脅威あるいは我々の制御能力や通常の現場エージェントの専門知識を超えた状況に対処すべく動員され、— 彼らの名が示す通り — 施設や現場を必要に応じて転々とします。

機動部隊の職員は財団にとって「最善の最善」を示します。

 

機動部隊は規模、構成、目的が非常に多岐にわたります。

非常に攻撃的な異常存在に対処する訓練を受けた大隊規模の戦闘部隊は、数百名の兵士と補助職員と、車両、装備で構成され、世界中で脅威のため全員あるいは一部が投入されます。

一方で小規模かつ情報収集専門あるいは調査目的の機動部隊も存在し、目的達成のために十分と考えられれば、十数名の職員にも満たないものになります。

 

現場にいる間、機動部隊の隊員は、現地で行動するべき地元または連邦の法執行機関あるいは軍人として振る舞います。

機動部隊指揮官は任務達成のために、現地付近の財団施設の職員や部隊に救援を要求することもあります。

 

ーSCP財団 【機動部隊】より抜粋

 

 

 

ーーー

 

 

『Ω-001が現着しました!』

 

オペレーターの声と共に、作戦開始区域上空を光学迷彩を起動して飛行していた輸送用ヘリコプターへ飛び込む。

作戦開始まで残り6分。どうにか間に合ったようだ。

 

「総隊長、これを!」

「すまない!」

 

近くにいた隊員から自分の戦闘服と装備を渡されると、即座に着替えて装備の状態を確認する。装備は機動戦用のジャンプパックとワイヤー、そして5.56mmショック弾専用のアサルトライフルだ。毎日手入れはされている様で、状態はすごぶる良好である。

装備を装着すると作戦開始まで残り5分となっていた。

ヘリのシートに腰掛けている隊員達に振り返る。向かって右側は【SCP-076 アベル】率いる【機動部隊 Ω-7(パンドラの箱)】、左側は最強の陸戦部隊と呼ばれる【機動部隊 Ω-11(イジェクションシート)】だ。

 

「さて諸君、久しぶりの戦闘行動だ。引鉄は錆びついていないだろうな?」

Quod sic.(ああ。)

「あたりまえです」

 

自分の問いにそれぞれの隊長が答える。やはり部隊最年少の自分が部隊を率いるというのも、どこか烏滸がましいと感じてしまった。

作戦開始まで残り4分。

 

「改めて今回の作戦を確認する。

今回の目標は2つ。

1つ目は公安の準要注意団体【ブランシュ日本支部】の制圧並びに構成員の捕縛。

2つ目は連中が所持している【SCP-609】並びに所持していると思われる【SCiP】の確保」

 

こちらを見つめる隊員達の目には真っ直ぐな意識が見える。

 

「1つ目の目標は【Ω-7】と俺が担当する。作戦終了後は速やかに【EDC】に任務を引き継ぎ撤退するぞ。いいな?」

「「了解ッ‼︎」」

「そして2つ目の目標は【Ω-11】に担当してもらう。撤収時は別のヘリに搭乗し、回収した【SCiP】輸送護衛のためにそのまま室戸へ飛んでくれ」

「「わかりましたッ‼︎」」

 

自分の指示に鋭い返答が飛ぶ。やる気は十分だ。作戦開始まで残り3分。

 

「オペレートは本部の【アイリス】と【神州】が担当する。【Ω-11】リーダーは現場状況を逐一写真に撮って向こうへ送ってくれ」

「了解です」

 

作戦開始まで残り2分。

 

「総員、ジャンプパックとワイヤー、そして無傘着地の準備はいいな?」

「「「「大丈夫です!」」」」

 

作戦開始まで残り1分。

機体後部のハッチが開き、300m程下には今回の作戦展開地点である廃工場が見えた。

 

「さーて、やるか...」

 

作戦開始までの残り時間が秒読み段階に入る。後はなるように、だ。

10...9...8...7...6...5...4...3...2...1...0。

 

「行くぞ‼︎」

 

ハッチを蹴り出して空中へ飛び出す。後ろからは隊員達も順番に飛び出している。

 

 

 

 

 

さあ、戦闘開始だ。




・【機動部隊】-SCP財団
http://ja.scp-wiki.net/task-forces

ーーー

すこし皆さんに聞きたいんだけど、
出したいオブジェクトの募集をすると感想欄で運対を食らったので、匿名投稿を辞めて活動報告欄で募集しようと思うんですけど...



どう思います?


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ガサ入れ(強襲)

朱は多芸です。
頼まれれば主人公の偽物くらい完璧にこなします。


上空300mから真っ直ぐに落下する。

ただしスカイダイビングの様に頭が下ではなく、足が下だ。そしてパラシュートは装備にはない。

 

そのまま地上まで落下すると、ワイヤーを起動しワイヤー先のフックを建物の壁に固定。続けてジャンプパックを起動し落下の勢いを殺し、着地する。

ワイヤーの固定を外しつつ、ライフルを構えて周辺警戒に入った。その間も続々と隊員が地上へと降下し、それぞれの持ち場へ着く。

 

「総員、配置についたな?」

《okです!》

 

突入箇所は東西の2つ。

それぞれの部隊には突入箇所製作用にブリーチングチャージを装備させてある。

 

「ブリーチングチャージをセット」

「セット完了」

《Ω-11、セット完了》

「爆破しろ」

 

部隊員がスイッチを入れると、ブリーチングチャージが爆破され壁に大穴が空いた。

 

「突入!」

「「「「了解‼︎」」」」

 

一斉に穴へ入り、工場内へ侵入する。室内はかなり高さもあるので、機動戦用装備を準備させて正解だった。

 

「よし。総員、手筈通りに進めろ。Ω-11はSCiPらしき物を確保したら通信を送れ」

《了解》

 

隊員達がワイヤーとジャンプパックを駆使して室内を立体的に移動する。普通に走るより速いし、慣れればほとんど体力を使うこともない。

『問題は慣れるまで』と言われるこの装備だが、もちろん彼らにとっては慣れ親しんだ代物である。

 

「なっ、うわっ!?」

「ちょっと失礼!」

 

立体的に移動する隊員に驚愕した声を上げる連中を後ろから当て身で気絶させる。確かにショック弾専用のアサルトライフルを装備してはいるのだが、ショック弾を喰らうと最悪死ぬ可能性があるのであまり使いたくはない。

まあ、他の隊員は平気な顔をしてぶっ放しているのだが。

 

「なんだお前ら!?」

「はーい失礼、ガサ入れでーす」

 

連中の問いに軽い返答を返し、スタングレネードを放る。その瞬間にアベルが前に出て黒い剣を最大出力で展開し、防壁を作り出す。

結果、アベルの後ろにいた部隊員達は無事であり、閃光をもろに受けた連中はその場に倒れて気絶していた。

 

「よし、制圧完了だ」

《こちら【Ω-1101】。応答を》

「こちら【Ω-001】。どうした?」

《ああ、良かった。総隊長ですか...》

「何があった?」

《こちらで【ブランシュ日本支部】のリーダー、『司一』を捕縛しました》

「あれ、そっちだったか」

《それと...》

「...なんか面倒事か。わかった、そっちに向かう」

《すみません》

 

通信を切ると隊員に指示を出していたアベルに向き直る。

 

「向こうで問題が発生したらしい。ちょっと行ってくるから、ここの指示は任せた」

Bene est.(了解だ。)

 

 

 

ーーー

 

 

 

「暁?」

「...うん?」

 

███の頼みで屋上で偽物を演じていた所で誰かに声をかけられた。確かこの人は...

 

「どうした達也?」

「テロリスト達の制圧は終わったが、お前はどうするんだ?」

「もうちょっとここにいるよ。また何かあったら困るから、ここで警戒してる」

「そうか」

 

そういう彼の言葉に、私は普通では出さないレベルの【怒り】と【殺気】を感じた。

 

「なぁ達也」

「なんだ?」

「なんでお前そんなに怒ってんの?」

 

その言葉に彼は息を飲んだ。やっぱり図星らしい。

 

「...なぜそう思う?」

「んー、なんとなく分かるんだよね。今の達也の言葉には【怒り】とか【殺気】とか感じたし」

「...なら俺は連中に怒りを抱いているんだろうな」

「自分でも気づかなかった?」

「ああ」

 

そう言うと彼はこちらに背を向けて階段を降りていった。

今の感じから見ると、単身だろうとテロリストの連中のアジトに踏み込むつもりらしい。

多分それはこの学校の人達が許さないだろうから、皆んなで踏み込むんじゃないだろうか。

 

 

 

でもそれでは遅い。

 

「甘いなぁ...前に███がくれたチョコレートより甘い」

 

誰もいない屋上で私はそう呟く。

ああ、なんて彼は甘いんだろう。もう既に幕引きは始まっているというのに。

 

「やると思った時には、既に終わらせなきゃね」

 

彼が教えてくれたそんな言葉を思い出しつつ、私は柵に腰掛けると少しずつ夕暮れが近づく空へ手を伸ばした。

 

 

 

やっぱり空は赤くないとね。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「総隊長、こちらです」

「ああ、ありがとう。捜索の方は?」

「ほとんど完了しています。こちらへ」

 

足早に西側区域へ向かうと、待機していた隊員に部隊が集まっている部屋へ案内される。

 

「うぅ...」

 

部屋には拘束された男を中央に、隊員達が周りを取り囲んでいた。

 

「総隊長、来ていただきありがとうございます」

「やあbailouter(ベイルアウター)。そいつが?」

「その呼び名は懐かしいですね。こいつが【ブランジュ日本支部】のリーダー《司一》です」

「こいつが?随分と優男だねぇ」

 

第一印象はそんな感じだ。だがそれなりの地位に就いていると言う事は、かなりのやり手だったのだろう。

だが今はそんな事などどうでもいい。

 

「で、問題は?」

「少し待ってください」

 

Ω-11リーダー(ベイルアウター)はそう言うと、近くの隊員に指示する。しばらくすると、その隊員がアタッシュケースを2つほど持って来た。

 

「これですよ」

 

彼はケースを開ける。

その中にはどこか光沢のある真鍮色の鉱石が嵌め込まれた指輪が大量に入っていた。

 

「なるほどね...アンティナイトか」

「ええ。まさかこんなに所持しているとは、思いもしませんでした」

 

ーーー

 

【アンティナイト】

単一元素ではないが合金でもない、今のテクノロジーでは再現不能な一種のオーパーツであり、サイオンを注入することで《キャスト・ジャミング》の効果を持つサイオンノイズを発生させる。

サイオンさえ持っていれば使えるので魔法師出なくても利用可能である。

 

ーーー

 

「取り敢えずこれも【室戸行き】確定だな...この量なら、あいつらが大喜びするぞ」

「ですね...」

「他に何かあったか?」

「【SCP-609】は相当数発見、確保しました。ですが1つとんでもない物が...いや、人というべきでしょうか...」

「なに?」

「こちらへ」

 

彼に着いて行くと、奥の部屋へ案内された。扉の隣は隊員が厳重に監視している。

 

「この子です」

「...嘘だろ」

 

部屋の中には1人の女の子が横たわっていた。軽く診察してみるとかなり痩せ細っているが、まだ生きている。

すると彼女は薄っすらと目を開いた。その目には灰緑色の陰がちらついている。

 

Who are you...?(あなたは...だれ...?)

「...I came to help you.(君を助けに来た。)It's all right now.(もう、大丈夫だ。)

 

彼女の質問にそう答えると、彼女は安心したように再び目を閉じた。

 

「過度の栄養失調だな...回収ヘリに医療スタッフと栄養点滴を載せて来るように伝えてくれ」

「室戸まで運びますか?」

「ああ、この子はまだ大丈夫だ。それに向こうの方が施設が整っている」

「わかりました」

「それに言えば、彼女はSCiPだ」

「えっ?」

「【SCP-239】だよ。強力な現実改変能力を持っている」

「それって室戸に搬送して大丈夫なんです?」

「あそこなら大丈夫だ。あそこは旧【財団 日本支部】だぞ?」

「そういやそうでしたね...」

 

そう言うと彼女を抱きかかえると、部屋を出る。既に《司一》は【Ω-7】の方に送られたらしい。それを確認すると隊員に告げる。

 

「これより我々は撤退する。【Ω-7】は【EDC】に任務を引き継いで往路と同じヘリで撤退、【Ω-11】は一時的に別のヘリで撤退、その後静岡沖で【Ο(オミクロン)-4 機動艦隊】と合流し室戸へ向かってくれ」

「「『『了解‼︎』』」」

 

外へ出ると2機の輸送ヘリがホバリングを行なっている。

一方は少しずつ高度を下げると少し空いた場所に着陸し、一方は隊員のラペリング回収の準備に入っていた。

 

bailouter(ベイルアウター)

「どうしましたか?」

「彼女を頼むぞ」

「!...了解です」

 

抱きかかえていた少女を彼に託すと、ワイヤーを起動しフックをヘリに固定する。

 

「連休明けには多分【会議】が開かれる。またその時に会おう」

「わかりました。では...」

 

彼は着陸した方の回収ヘリへ歩いて行った。既に任務は【EDC】に引き継いである。後は撤退するのみだ。

 

「じゃ、帰りますか...」

 

そう言うとジャンプパックを起動し、ワイヤーを引き込んでヘリへと上昇していった。

 

 

 

 

作戦、終了。




・SCP-239 『ちいさな魔女』 m0ch12uk1様
http://ja.scp-wiki.net/scp-239

ーーー

筆が進む今日この頃。

多分GW中はこうもいかないだろうなぁ...


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処理

ゴールデンウィークいかがお過ごしでしょうか。
作者は連休ど真ん中に部活の試合があります...


『先ほど公安部本庁から、《司一》の身柄を受け取ったと連絡があったわ』

「先ほどって...めっちゃ本庁は溜めてましたね」

 

学校に戻って朱を回収し、家に帰ってきた数時間後。リビングに設置されたモニターを通信機器と繋ぎ、響さんと連絡を行なっている。

 

『そうもなるわよ。実際に作戦が行われるのはこの時間帯だったのに、あなたが繰り上げるから...』

「連中にオブジェクトを確保させる訳にはいきませんから。ましてや【あの子】を保護させるなど以ての外です」

『連中?』

「第一高校の生徒会と部活連と言ったらわかります?」

『ああ...十師族の《七草》と《十文字》ね』

 

画面の向こうにいる響さんは溜め息をつく。

 

『それと上層部から言われたわよ。少しやり過ぎだって』

「やり過ぎたのは認めますが...そう言われるって事は何かあるみたいですね」

『そうよ。あなたが先程言っていた《七草》と《十文字》、それと...』

「それと?」

『《四葉》まで今回の一件を調査し出したわ』

「《四葉》までもですか...」

 

流石に十師族の3家から調べられるのは予期していなかった。まあ情報媒体自体は紙だしデータの物はスタンドアロン化した端末での保存なので、ネットワーク使って調べている限り情報を掴まれる事はないだろう。

 

「響さん、1つ頼みごとをしても?」

『そりゃ条件によるわよ』

「んー...今度特課のみんなで食べに行く時に、勘定を全て自分が肩代わりするってのはどうです?」

『そうじゃなくてね...私に何かないの?』

「えー、どうせ頑張るのは特課のみんなじゃないですか。響さん1人じゃダメです」

『ちぇっ...まあそれで良いわ。で、頼みごとっていうのは?』

「1人...いや、2人調べて欲しい人物がいます」

『誰かしら?』

 

 

 

「第一高校1-Eの《司波達也》並びにその妹の《司波深雪》です」

 

 

 

『...一般人を調べてどうするのかしら?』

 

響さんの表情が変わる。

 

「それは表向きでしょうに。何か裏があると感じましたので」

『その根拠を聞いても?』

「風紀委員での業務時の制圧作業ですよ。1対多数であるのに勝利する時点でまずおかしい。それともう1つは【反応速度】です」

『【反応速度】?』

「明らかに自分に向けられた魔法に対する【反応速度】がおかしい。まるで最初から撃たれると分かっていたとしか思えないんです」

『...わかったわ、やっておきましょう。でもあなたがそう言うなら、我々の【存在理念】に関わりかねないと判断したのかしら?』

「まだそこまでは...ですが用心に越した事はないでしょう。それと【会議】について調整はお願いしますよ?」

『わかってるわよ...これはみんなも過労死必須ね...』

「休暇取った時はこちらでリフレッシュプラン立てますよ?」

『お願いするわ...』

 

そう言って響さんは連絡を切った。既に時刻は夜の0時を回っている。さっさと寝なければ明日はキツイだろうと部屋に戻ろうとした時、壁にかけられていたポスターが目に留まる。

 

「多分、また【この名】に戻る時が来るんだろうな...それも遠くないうちに...」

 

ポスターには大きな十字と小さな十字を少しずらして出来た部隊章を背景に、かつての仲間たちが写っていた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「お見舞い?」

「ああ」

 

翌日。

授業が午前中に終わり【会議】の調整のために帰宅しようとしていた所、達也に呼び止められた。

 

「時間があればで構わないんだが...」

「ちょっと待ってくれ...」

 

予定まではまだ時間がある。少しは問題ないだろう。

 

「大丈夫だ」

「すまないな」

「にしても誰のお見舞いなんだ?」

「ああ、そう言えば暁は会った事は無かったか?1つ上の壬生先輩なんだが...」

「壬生?確か放送室を占領してた...」

「知ってたか。彼女自身は『邪眼』で洗脳されていただけだったんだ」

「って事は司先輩もか?」

「そうだが...なんでそれを知ってるんだ?」

 

ああ、この情報は一部しか知らないのか。ちょっと言い過ぎた。

 

「落し物ってあったろ?そこからだよ」

「そうなのか?」

「その時に勧誘されてね。まあその後委員会業務もあったから、すぐに蹴ったんだ」

「それは災難だったな」

「まあ解決したからいいさ。で、今から行くのか?」

「いや、深雪ももうすぐ来るはずだ」

 

 

 

ーーー

 

 

 

「ヒューム値、ですか?」

「ああ。独自に考えた理論なんだけど...」

 

壬生先輩のお見舞い後、達也が少し外してくれと言ったので病室を出た後、休憩所で深雪さんと談笑していた。

かと言っても壬生先輩ともあまり面識があった訳でもないので、願ったり叶ったりなんだが。

 

「魔法っていうのは【現実改変】という現象を起こすための1つ方法だと思うんだ」

「それでヒューム値と言うのは?」

「どれだけ【現実改変】の強度が強いかを数値化した物で、1が基準で0に近付くほど改変強度が増加するんだ。あくまで独自理論の範疇だけどね」

「なかなか面白そうな話をしているな」

 

そこへ達也がやってきた。どうやら用事は終わったらしい。

 

「ああ。【現実改変】について、自分なりの考察を披露してた所だよ」

「【現実改変】?」

「まあ詳しくは深雪さんに聞いてくれ。そろそろ時間なんで失礼するよ」

「そうか。またな」

「ありがとうございました」

 

休憩所に残る2人を後にし、病院の入り口へと向かう。出たところで通信が入ってきた。相手は響さんなので、多分【会議】の予定が確定したのだろう。

 

「はい、もしもし?」

『暁くん?【会議】の予定が決まったわ』

「そうですか」

『来週の連休最後の日曜日、午後6時から。場所はうちのオフィスの地下会議場よ』

「来るメンバーは?」

『【国家安全保障局 超常関連政策班】

【警視庁公安部特事課】

【公安調査庁 第三部 特異案件対策室】

【文部科学省 国立室戸研究所】

【国土交通省 緊急災害対策派遣隊特事班】

【防衛省 国家高脅威情報収集課】

【世界オカルト連合】

【アメリカ連邦捜査局異常事件課】

【ロシア連邦軍参謀本部情報総局P部局】

【Wilsons Wild life Solutions】

【Anderson Robotics Corporation】

【Tohei Heavy Industry Corporation】

の各リーダー達、そしてあなたよ』

 

相変わらず思うのだが、参加する組織の名前が長い。

 

「了解です。ではまた来週末に」

『ちょっと待って、議題は何なの?他のメンバーにも伝えなきゃいけないんだけど』

「今回の議題はNHTICDからの報告書について、それと他の要注意団体への対策です」

『ありがとう。また来週ね』

 

響さんはそう言うと通信を切る。

しかし入学からぶっ飛んだ内容の新しい生活だが、これ以上とんでもない事が起きないことを祈るのみである。

 

 

 

 

 

 

...多分フラグだわこれ。




これが平成最後の投稿になります。
令和も頑張って投稿を続けるつもりです。
これからもよろしくお願いします。


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会議(前編)

今回は会話文がめっちゃ多いです。


連休最終日。

今日は【世界異常現象安全保障会議】の当日である。ちなみに今年行われたのは年初めの1回目以降では初だ。

と言う訳で、朱を引き連れて特課のオフィスビルにやって来た。

 

「こんにちはー」

「財田様ですね。皆様はもういらしております」

「その前に何処か着替える所ってあります?」

「それでしたら彼処の更衣室をお使いください。私はここでお待ちしているので」

「ありがとうございます」

 

案内された更衣室に入ると、持ってきていたリュックサックから着替えを取り出す。最初から着て来れれば良いのだが、何処に人の目があるかは分からないのでしょうがないだろう。

 

「終わりました」

「ではこちらへ...」

 

案内係について行く。ビルの地下の構造はかなり複雑であり、会議室はその最奥部に位置している。

 

「こちらです。どうぞ」

「ありがとうございます」

 

案内係が開けたドアをくぐると、目の前には円形の形をしたテーブルとその周りには椅子、そしてその椅子には参加を表明した各組織のリーダー達が座っていた。

 

「遅れてはいませんよね?」

「ああ。だがこれで全員揃った。始めよう」

「わかりました」

 

そう言って1番奥にある議長席に座ると、リーダー達の顔が引き締まった。

 

「では、今年度第2回【世界異常現象安全保障会議】を開始します。

今回の議題は前もって公安部特事課の響管理官から皆様に送られた通り、

・NHTICDから報告があった【陸軍 独立魔法科大隊】について

・公安部特事課による【ブランジュ日本支部制圧作戦】の報告

・関連した他の【要注意団体】の対策

とします。異議はありませんね?」

「あー、ちょっといい?」

「...なんですMr.アンダーソン?」

 

そこに話を入れてきたのは【Anderson Robotics Corporation(ARC)】の経営責任者、『ヴィンセント・アンダーソン』だ。にしてもこの人何処か天災科学者(ブライト博士)と雰囲気が似ている。

 

「ウチと室戸研が共同開発してるヤツの最終報告書が出来たから、議題に追加してくれる?」

「...そういう事は先に連絡してください」

「あれ?そうだっけ?」

「...取り敢えず議題の追加について異議はありますか?」

「「「異議なし」」」

「ではこれより議題に入ります。

最初ににNHTICDから報告を行います。中嶋課長、お願いします」

「わかりました」

 

対面左側から1人の男が立ち上がる。彼の名は『中嶋 遊哉(なかじま ゆうや)』。

海外や各省庁の対異常諜報を行う【防衛省 国家高脅威情報収集課】のリーダーを務めている。

 

「今回、財田議長から依頼された、【防衛省 防衛陸軍 独立魔法科大隊】の調査結果を報告させて頂きます。

手始めに我々はその部隊の起源について調査しましたが、この際発覚したことがあります。

それが『部隊創立者が【大日本帝国陸軍特別医療部隊】、通称【負号部隊】のメンバーだった』という事です」

 

その事に会議室が凍りついた。

あらかじめ知っていた自分や響さん、そしてTHIの代表として来ている柳瀬川さんはそんな事は起こらなかったが、やはりかなりインパクトのある内容だったらしい。

 

「質問よろしいでしょうか?」

 

そう声をあげたのが【世界オカルト連合(GOC)】の『D.C.アルフィーネ』事務総長だ。

この名前自体は事務総長就任時に受け継がれる偽名であるため、ほとんどの人物が彼女の本名を知らない。

 

「どうぞ、Ms.アルフィーネ」

「その人物は今も生存しているのですか?」

「いえ、既に2010年代に亡くなっているようです。かと言って【独立魔法科大隊】自体が、超常現象を起こす可能性が無いとは言い切れません。

ましてやかつての目的であった【不死身の戦士】を作り出すための実験を行っている可能性も、なきにしもあらずでしょう」

 

中嶋課長はその質問に少し残念そうに解答する。いくら裏部門であるとはいえ、彼自身の所属組織は防衛省だ。身内の事を信頼したい気持ちも分かる。

ここで自分がTHIと取り決めた事を話しておいた方が良い、と判断し発言する。

 

「先日自分がTHIを訪れた際、THIの柳瀬川部長と軽く打ち合わせを行いました。柳瀬川部長、その内容を話してもよろしいですか?」

「ああ。構わないぞ」

「ありがとうございます。この事を受けてTHIは防衛省、特に魔法関係の部署への納品を少し見送る事が決定しました。

並びに室戸研究所との連携を再度確認、強化する方針だそうです。初瀬所長、間違いありませんね?」

「間違いありませんよ」

 

自分の問いに答えたのは【国立 室戸研究所】の『初瀬 麻耶(はつせ まや)』所長。

研究所のまともな方々を取りまとめ、イカれた方々を抑え込む苦労人である。

 

「ですが今回のことも考えて、私達としてはTHIだけでなくARCも含めて3方面の連携を確認、強化する必要があると愚考しますが...」

「...そこはこの後に3人で話し合ってください。決まったらこちらに連絡を」

「了解です」

 

取り敢えず1つ目の議題についてはこれくらいで良いだろう。

次の議題に取り掛かる。

 

「では2つ目の議題に入ります。先日行われた【ブランジュ日本支部制圧作戦】の報告を自分から行わせて頂きます」

「で、結果はどうだったのさ?」

 

アンダーソンが呑気に聞いてくるが、今回はそんな呑気に語って良い物ではない。

 

「結果は構成員ほぼ全員、並びにリーダー《司一》の捕縛に成功、そしてかねてより所持が発覚していた【SCP-609】全て、そして【アンティナイト】の確保を完了しました」

「ふーん...ならこれで終わり?」

「が、問題はここからです」

「?」

「【SCP-239】、彼女が彼らに監禁されていました」

「「「!?」」」

 

まあ、これは明らかに度肝を抜かれる報告だろう。

 

「ちょっと待って、彼女が?」

「ええ。今は室戸研にて保護、療養を行なっています。初瀬所長、今の彼女の容態はどうなっていますか?」

「彼女は栄養失調だったので、点滴の投与とメンタルヘルスカウンセリングを行なっています。

それと【SCP-053】が彼女に興味を示したので2人を会わせたところ、よく笑うようになりました」

「...良かった」

 

今の彼女の報告を聞いたアルフィーネ総長は安堵の声を漏らす。【SCP-239】はオブジェクトとは言え人間である。今の彼女の状況に安心したのだろう。

 

「...しかしなぜ【SCP-239】が連中に監禁されていたのだ?確か彼女は...」

「柳瀬川部長が疑問を示すのも頷ける。彼女は【現実改変能力者】、それも最高位に位置するレベルだったな?」

 

疑問を示す柳瀬川部長に同意し、こちらに質問を投げてきたのは『J・エドガー・フーヴァー・jr.』。彼は【アメリカ連邦捜査局異常事件課(FBIUIU)】の局長を勤めている。

 

「その通りですMr.フーヴァー。

なぜ最高位に位置するレベルの【現実改変能力】を持つ彼女が、連中に監禁されたのか。簡単ではありますが、仮説を立てました」

「聞かせてもらえるかしら?」

 

響管理官が興味を示したのを始めとして、ほぼ全員の視線がこちらへ向く。

 

「簡単に説明すると【ホメオパシー】ですよ。かつての財団が彼女に行ってきた事が今回の事態を招きました」

「【ホメオパシー】だと?」

「はい。連中は【アンティナイト】を所持していたのは先ほど話しましたよね?」

「ああ。全て接収したのだろう?」

「問題はこの【アンティナイト】と、財団が行ってきた『彼女の【現実改変能力】を【魔法】だと認識を植えつけた』事です」

「あーなるほど。完全に大体わかった」

 

アンダーソンがそこへ口を出す。聡明な彼は今の一言で全てを理解したらしい。

 

「つまりさー、彼女が自分の能力を【魔法】だと思っていた事に対して、【アンティナイト】による魔法妨害が働いたってことでしょ?」

「概ねそうじゃないかと」

「認識の植えつけによる影響か...彼女自身、いつから財団に保護されていたんだ?」

「誕生してからすぐに保護されました。そのため認識を植えつけるのが容易だったので、今回の事態を招いたのだと思います」

「なるほどな...」

「とにかく今回の事態で、まだ世界中には確保されていないオブジェクトがあると考えた方が良いでしょう」

「要注意団体の対応にも改善が必要となるかもしれないわね」

「それを次の議題で話し合います」

 

そう言って時間を確認するとかなり時間が経っていた。休憩を入れる必要があるだろう。

 

「ですがその前に一時休憩としましょうか。次の開始を15分後としますので、それまで休憩なさってください。

あ、初瀬所長達は協力体制の再確認を行なっても構いませんよ?」

「わかりました」

 

初瀬所長達が部屋を出て行くと、ほとんどの人が部屋を出る。多分飲み物でも飲みに行ったのだろう。

思いっきり椅子のリクライニングを下げてたおれこむ。休憩中だし、室内には誰もいないので特に問題はない。

 

「疲れたなぁ...」

 

そう小声で呟くと、頭から胸の方に移動してきた朱がコテンと倒れてくる。その頭を軽く撫でてやると何処か嬉しそうに身を震わせた。

 

 

「頑張るしかないよなぁ...今の人類が()()()の人類と言えなくてもね...」

 

 

会議はまだまだ続く。




後編へ続く。


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会議(後編)

エンドゲーム観に行った。
アイアンマンmk50ってカッコいいよね。あのナノマシンで装着される感じが好き。

もちろん今までのガッシャンガッシャン装着するのも好き。


「はい、と言うわけで後半に入ります」

 

休憩時間を終えて周りを見渡せば、部屋を出ていたメンバーは既に元の席へと着席していた。

 

「議長、我々の協力体制について構想が纏まったのですが...」

「うーん...終わった後で報告してくれる?」

「わかりました」

 

初瀬所長はそう言って席へ座る。

 

「ではMr.ウィルソンによって追加させられた議題を始めましょうか。Mr.ウィルソン、報告を」

「はいはーい、うんとねー、やっと完成したわ!」

「...主語なければ何が言いたのかさっぱりなんだが?」

「鈍いねー柳瀬川くん。室戸研と我がアンダーソン・ロボティクスの総力を挙げ!ついに!完成したのだ!」

「いやだから何がだ?」

「現時点で最先端から数十歩先に進んでいる、最っ高のナノマシンだよ!」

 

アンダーソンが1人でエキサイトしているが、そんなもの作れと頼んだ覚えも、依頼した覚えもない。てことは自主開発だろう。

 

「いやー『アベンジャーズ』をぶっ通しで観た甲斐があったよ!」

「また古い映画を...」

「それでね、このナノマシンの凄いところは『無機物であれば、触れるだけでそれをナノマシンへと変換できる』ところなんだ!」

「おい待て」

 

そこまで行くともはやオブジェクトと同じなんだよ...いい加減にしやがれ。

 

「というわけで今回の開発の費用を...」

「出すわけねぇだろ...いい加減にしろよアンダーソン!」

「「「あっ...」」」

 

周りの人達は自分がキレている事に気付いた。あのアンダーソンですら顔が青くなっている。

流石に自主開発で作ったものに対して費用を捻出しろとか許可できるもんじゃない。

 

「開発を指示した覚えも依頼した覚えもねぇ、勝手にオブジェクトレベルの物を自主開発したくせに費用だけは捻出しろだと⁉︎お前何様のつもりだ!」

「いやそれは...」

「それに早瀬ェ!」

「はっはい!」

「お前もなんでこんな物を共同開発を許可したんだ⁉︎」

「私は知らなかったんです...」

「...は?」

「だってあの人達がぁ...」

 

初瀬さんは完全に涙目である。少しいいすぎただろうか...

「...とにかく!勝手に開発した物に費用は出さない!それと早瀬はイカれた連中を抑え込む方法考えとけ...あと勝手に開発に協力した連中は減俸だ」

「はい...」

「わ か っ た な ⁉︎」

「わかりましたぁ!」

「取り敢えずアンダーソンは後でいいから仕様書を持って来い。話はそこからだ」

 

流石にこの話を長引かせる必要はない。この議題を終わらせて最後の議題に移ろう...

 

「失礼しました...気を取り直して次の議題に移りましょう。では毎度恒例の【監視強化されるべき要注意団体】を決めます。1人ずつ言ってください」

「特事課は【防衛省 防衛陸軍 独立魔法科大隊】」

「NHTICDも特事課に同じく」

「EDCも同じく」

「室戸研も同じで...」

「...【きさらぎ工務店】」

 

柳瀬川さんよ、完全に私怨じゃないか...

 

「FBIUIUは【シカゴ・スペクター】」

「P部局は【オネイロイ・コレクティブ】」

「WWSは【シカゴ・スペクター】を」

「ARCは【ワンダーテインメント博士】でよろしくー」

「GOCは...【サーキック・カルト】を推します」

「安全保障局もGOCと同じで」

「特案室も同じく」

「では今回から【独立魔法科大隊】を新しく【要注意団体】へ設定、他の組織は継続して監視強化を行います。異議はありませんね?」

「「「異議なし」」」

「では【第2回世界異常現象安全保障会議】を終了します。各自解散してください」

 

そう締めくくると何人かは席を立ち部屋を後にする。

そして残ったのは、自分、特事課の響管理官、THIの柳瀬川部長、NHTICDの中嶋課長、室戸研の初瀬所長、ARCのウィルソン、EDCの有賀見(ありがみ)隊長、FBIUIUのフーヴァー局長、WWSのタリスカ情報官、P部局のスメルノフ局長の10人。

【GOC】と【公安調査庁 第三部 特異案件対策室】、【国家安全保障局 超常関連政策班】を除いたメンバーだ。

 

「さてと...じゃ、始めますか」

「そうだな」

「にしても良かったの?【サーキック・カルト】を要注意団体に入れ続けて...」

「連中には良い目眩しになるでしょうよ。『存在していないものを追わせる(カバーストーリーに齧り付かせる)』くらいはね。腹を探られる訳でもないし」

「確かにそうだねぇ。彼らが本当の事を知ったらどうなるかな?」

 

そうアンダーソンが疑問を提起すると、そこへスメルノフ局長が答える。

 

「さあな。そうならないように俺達が色々してるんだろう?」

「それもそっか」

「ともかく、いきなり決断を迫られる事態も起きなくて助かりましたね」

 

そう言ったのは有賀見隊長だ。確かにとんでもなくやばい事態に新年度早々に当たりたくない物だと思う。

 

「取り敢えずです。常に何が起こるかはわかりませんし、やはり何か起きた時に再び財団を設立する方法が必要だと思います」

「さんせー」

「そうね...私も賛成だわ」

 

そう意見を言ったのはタリスカ情報官だ。その意見にアンダーソンと響管理官が賛成を示す。

 

「確かにそうだが...今度は裏ではなく表の存在となるのか?」

「これまでみたいに裏でやっても、いつかどうにもならない時が来てしまうと思うんです。なら予め表の存在になれば、すぐに行動を起こせるはずです」

 

少し難色を示す柳瀬川部長に対してタリスカ情報官は自分の意見をぶつけていく。

 

確かに柳瀬川部長が難色を示すのも当然だ。財団が扱ってきたオブジェクトは安全な物もあれば、人類そのものの存続を脅かしかねない物もある。それを知らせてしまっては、世界中がパニックに陥るのは目に見えている。

 

「ともかく、有事の際における整備は必要ですね。最悪でも()()が根本から破壊されない限りは大丈夫でしょうけど」

「あー()()ね。場所動かしたんでしょ?」

「動かしましたよ。場所は機密ですが」

 

そう、最悪()()が残っていればなんとかなる。人類種の存続という観点で言えばなのだが。

 

「...ここまでにしましょう。

タリスカ情報官は再設立に関する草案を作成してください。作成後はこちらに報告をお願いします。

次回の集会は草案作成の報告後に追って連絡します」

「「「「了解」」」」

「ではこれにて解散」

「「「「お疲れ様でした!」」」」

 

さて明日からまた学校だ。

少し早めに家を出て、話をしてこようか...




連休終わったねぇ...


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坊主と魔法使いの世間話

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主人公の素性が明らかに...⁉︎


早朝4時。

普段では寝ている時間だが今日は身支度を済ませ、とある寺へと向かう。

 

「まだ早朝は寒いな...」

 

そんな事を言いつつ手に持ったおにぎりを食べ、寺の階段を駆け上がり門をくぐる。

 

「やあ、予定時刻ぴったりとは」

「当たり前だ。こちらから指定しておいて遅れるなど無礼千万だしね」

 

寺の境内には1人のお坊さんが立っていた。

彼の名は『九重八雲』。この寺の住職であり、古式魔法の1つ【忍術】を極めた人物である。

しかしそれは表向きの顔であり、実際には【世界オカルト連合 108評議会】の上席に座る人物だ。

 

「相変わらずその口調は変わらないね」

「いちいちあんた相手に変える必要もないしね。この時間に誰かいるわけでもないんだろ?」

「たしかに。こっちに来なよ」

 

九重は自分を縁側へと案内をする。

 

「それより他の連中は?」

 

縁側に座るなり本題を切り出すと、九重の細い目が少し開いた。

 

「五行結社は今の所は動いていないけど、加茂家は評議会に同調して少し動きを強めてはいる。吉田家はこちらに合わせると言っていたよ」

 

五行結社とはオブジェクトの徹底破壊を推進する組織であり、加茂家と吉田家は古来日本から続く陰陽道や神道に精通する家柄である。

 

「犀賀派の動きは?」

「今の所観測はしていない。第一に犀賀六巳は次元を超えて活動しているからねぇ...」

「一番あいつが問題だというのに...『大を守る為に小を切り捨てる』など認められたものじゃない」

 

そう吐き捨てるように呟くと、九重は少し笑う。

 

「そりゃそうだろうけど、君の出自から考えればありえないよねぇ...その考え方は。でも僕は、君が高校に通うって言い出した方が驚いたね」

「そうかい」

「そうさ。異世界の秘密結社の長だった存在が、そんなに学校が気になったのかい?」

「秘密結社って言っても、人を魔物から守る為の組織だ。ずーっと生きていると暇なんだよ。こっちの世界の学校にも興味は湧く」

「財団もいなくなったし?」

「まあね」

 

そう答えると制服の右腕を捲り上げる。そこには何の変哲も無い腕があった。

 

【解除】

 

そう言うと右腕にかけられていた現実改変が無効化される。

右腕がみるみる黒くなっていき、赤い線が所々に入っていく。そしてその上から刻印が蒼い線で刻まれる。

 

「相変わらず恐ろしい色してるねぇ」

「色々と喰らってきたからね。しょうがないさ」

 

【魔の腕】。魔物化した生物を生贄に捧げ、その魂を取り込む事により様々な能力を発揮する魔法使いの腕だ。

 

「一体何を喰らえばそんな色になるんだか...」

「魂一つでも取り込めばこんな色になる。もっと薄いけどね。たしか神様を2柱ほど取り込んだかな」

 

生まれた世界の神の一つ【ruler(ルーラー)】と、この世界の神の一つ【Yaldabaoth(ヤルダバオト)】がこの腕には取り込まれている。

 

ruler(ルーラー)】に関しては取り込んだ期間があまりにも長いので完全に吸収しきっているが、【Yaldabaoth(ヤルダバオト)】は取り込んでから時間が経っていないので完全にはその能力を使用できない。

 

「2柱も取り込んでいるって...よく自我を失わないね」

「元々自我が強かったから失わなかっただけだ。常人ならとっくに乗っ取られてるよ」

 

そう言って再び現実改変を行うと、黒かった右腕が元の腕へ戻っていく。いや黒い方が元の腕だから、何の変哲のない腕に変化させると言うのが正しいか。

 

「そういや達也が弟子らしいね」

「達也くんかい?そうだけどそれがどうかしたかい?」

「普段は弟子なんて取らないあんたにしては珍しいと思ったんだ」

 

疑問を投げつけると九重は少し目を見開く。

 

「彼の出自は少し特殊でね...それに体もだ」

「特事課の予想では十氏族、それも秘密主義の【四葉家】の出身だと見ているんだ」

「間違いないよ...彼は四葉直系に近い血筋を引いている。四葉深夜を知っているね?」

「確か数年前に亡くなっているはずだ。現四葉家当主、四葉真夜の姉だったか?」

「その通りだよ。達也くんと深雪ちゃんはその子供だ。そして達也くんは戦略魔法師でもある」

「もしかしなくても沖縄のあれか...」

 

沖縄事変の際に使われたという魔法、【マテリアルバースト】。現代の魔法技術では試行が困難な分解魔法による原子エネルギーの放出を利用した戦略魔法だ。

あの時にはNHTICDがとんでもない大騒ぎになっていたな。

 

「情報ありがとう。だけどもう一つ聞かなけりゃいけない事がある」

「君の情報、かな?」

「当たり前だ。達也たち流してはないだろうな?財団の事を知られて十氏族に流されては大問題だからな」

「問題ないさ。聞かれはしたけど、まだ調査中と返してある」

 

相変わらず問題の先延ばし方が上手い。

 

「そこで一つ」

「なにかな?」

「表向きの内容までは話しても構わない」

「...どういう風の吹きまわしだい?」

「テロリスト制圧しておいて一般人だってのは通じないのが一つ。正式に特事課のメンバーに加わったのが一つってところだ。公安の捜査官って所までは話しても構わない」

「それはありがたいね。こっちも何かしら彼に伝える必要があったし」

 

九重は湯呑みを二つ持ってくると、一方を渡してきた。中にはお茶が注がれている。

 

「ほら。いくら初夏とはいえこの時間は冷えるだろう?」

「ありがたい」

 

口をつけると、なんてこともない平凡な煎茶の味が広がる。だがこの素朴な感じがなんともいえない。

 

「そういや最後にその腕を使ったのはいつなんだい?」

「あー、大陸の馬鹿どもを生贄に喰った時以来使ってないね」

「大陸の馬鹿どもって...まさか崑崙方院の誘拐事件の時のかい?」

「そうだよ。大半は半殺しにして、そのまま生贄にした。結局あんまり純度が低い汚れた魂しか取り込めなかったけど」

 

もう40年近くも前の話か...【ruler(ルーラー)】を取り込んで以来、この身体は最盛期から一向に老化しなくなった。おおよそ身体の神格化によって時間の概念が適用されなくなったのだろう。

 

「考えれば、初めて会った時から一向に老けてないもんねぇ」

「身体自体が神様と多分同じだからね」

「だが、やろうと思えば幾らでも現実改変が出来るんだろう?」

「そうだけど?」

「なのになんで【財団神拳】を修めて、使い続けているんだい?」

 

九重がそう質問する。

一度頭の上に止まっている朱を見上げると、視線を再び下へと戻す。

 

「【あいつら】を忘れないため、かな」

「あいつら?」

「ああ。財団に参加していた時に機動部隊を一つ、指揮していたのは知っているだろう?」

「前に聞いたね」

「その時の仲間、部下達だよ」

「...」

「あいつらは死んだ。かつて起きた【終末の日】に、人類を守ろうとして、瀕死になった」

「...それで?」

「あいつらは自分と同じだ。『自分を犠牲にしてでも人類を守り抜く』。財団の理念をいつも胸に刻んでいた。だからあいつらは生贄になる事を望んだ。死んでも想いを繋ぐために」

「なら財団神拳は...」

「自分とあいつらの繋がりだ。自分が財団神拳を使えば、それがあいつらの【存在した証】になる。だからそれ以来、なるべく魔の腕を使わず、財団神拳で闘ってきた。

それになによりー」

「なにより?」

 

「財団神拳を修めた限り、その教えを破る事など出来ないから」

 

そう話をすると縁側から立つ。

 

「さて、湿っぽい話はここまでだ」

 

そう言うと九重も縁側を降り、境内の開けた所へと移動する。

 

「久々に...」

「...では」

 

それぞれ相対した位置に立つと、自分は左手の平に右手の拳をぴったりと付け45度のお辞儀を、九重は肩幅に足を開き脱力した姿勢をとる。

 

 

 

 

「「勝負‼︎」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

「暁、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない...」

 

達也が声をかけてくる。

自分の状態は机に突っ伏したままだ。それが気になったのだろう。

 

勝負には辛勝したけど朝っぱらから疲れた。

こっちも神拳使ったけど、忍術使ってくるなんて聞いてない。

相変わらずあの坊主は煮ても焼いても食えないと思った今日この頃である。




みなさんは『SOUL SACRIFICE』をご存知ですかね...?



これにて入学編、終了です...!

書き始めた当初は、まさかこんなに読んでもらえるとは思ってなかった...読者の皆さま、ありがとうございます。

次話からは九校戦編です。
毎度こんなペースの投稿にはなりますが、読んでくれると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします!


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九校戦編
魔法使いの忠告


久々に家で麻婆豆腐を食べたけど、やっぱり麻婆豆腐って美味い。


「お疲れー」

「暁!テストどうだった⁉︎」

「多分出来てる...はず」

 

6月中旬。

テストが終わり、堅苦しい教室を出るなりレオが話しかけてくる。

自分は実技が出来なくても、学術の方は完璧にやってきたつもりである。第一にこの世界線が始まった当初から、この世界の魔法の移り変わりは観察してきたので、解けない方がおかしいのだが。

 

「マジかー!俺も頑張ったんだけどな...でも達也に教わったところは全部解けたぜ」

「レオ、暁」

「おっ、達也お疲れー。どうだった?」

「自分なりには良く出来たと思ってるよ」

 

そこへ達也がやって来た。達也もテストは自信がある様だ。

 

「これからどうするよ?」

「そうだなぁ...」

「そういえばエリカが『テストが終わったらお疲れ様会でもしよう』と言っていたぞ」

「んじゃ、参加しますか」

「賛成だぜ!」

 

達也の言葉に乗っかって、お疲れ様会に参加することになった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

時は少し進み、6月下旬。

学校に登校するなり教師に呼び止められ、放課後に指導室に来る様に言われた。

放課後、指導室へ向かうとなぜか達也と鉢合わせる。

 

「あれ、達也?」

「暁?お前もか?」

「...どうやら呼び出された内容は同じみたいだな」

「ああ...」

 

多分呼び出された内容はテストの結果なのだろう。

この学校では、採点終了後に学校掲示板には成績上位者なランキングが張り出される。

実技試験の方は順当に一科生が上位を占めていたのだが、学術試験の方で大問題が起こった。

二科生の2人、達也と自分の1位2位ランクインという事が起こった。ちなみに達也が合計500点満点で、自分が合計498点である。

 

「どうせしょうもない事を言われるんじゃねーの?」

「だろうな...ストレスで腹が痛い」

「胃薬いるか?」

 

懐から胃薬瓶を取り出すと達也に渡す。

 

「ありがたいな...でもなんで胃薬なんか持ってるんだ?」

「聞くな...色々あるんだ」

 

そう、色々あるのだ...アンダーソンの大馬鹿野郎の対応とかなぁ!

...思い出すとまた胃が痛くなってきた。達也から返された胃薬瓶から一錠、薬を取り出すと水も無しにそれを飲み込む。

 

「じゃあ、入るか...」

「ああ」

 

意を決して指導室の扉を開けた。

 

ーーー

 

「「転校、ですか?」」

「そうだ」

 

開口一番、教師から飛び出したのは意外な一言だ。てっきりカンニングでも疑われたのかと思った。

 

「教職員側は『実技試験を手抜きでやったのでは』という予想が出てきていたんだが...」

「そんなもの手抜きできる実力があるなら、今頃ここに花の紋章が入ってますよ...」

「考えてみれば、いちいち二科で入学するメリットなど存在しないからな。そこでだ」

「「?」」

「これだけの点数を取れるならここよりも四校に行った方が後々良いのではないか、という意見が出たわけだ。四校なら技術開発の授業などが充実しているし、財田くんはともかく司波くんは魔法技師希望なのだろう?」

「は、はぁ...」

 

多分先生方も善意で薦めているのだろう。

確かに魔法大学付属第四高等学校、通称四校は技術開発分野について力をいれているが、別段他の魔法科高校より実技分野を疎かにしているわけでもない。

 

第一に自分が東京を離れてしまうと、【会議】の開催や各組織間の連携の質が下がってしまう。更には機動部隊の作戦行動にも支障が発生するだろう。アベルが動かなくなるのは目に見えている。

 

「薦めてもらっているのはありがたいのですが、自分は辞退させて頂きます」

「財田に同じく自分も辞退させて頂きます」

「そうか...確かに君達の進路を決めるのは君達自身だからな。いらぬお節介だったか」

「いえ、薦めていただいた事には感謝しています。ですがあまり自分は東京を離れる訳にもいかないので...」

「それは済まなかったな。では要件はこれで終わりだ。下校してもらって構わない」

「「失礼しました」」

 

達也が指導室の扉を開けて、退室するのに続く。

 

「お前わざと満点取らなかったろ...」

「あっ、やっぱりバレた?」

「カマを掛けただけだが?」

「oh...」

 

うーんやっぱりあの坊主の弟子って事はある。食えない性格してるよまったく...

 

「やはり東京を離れられないのは【仕事】のためか?」

「そんなんでこっちを揺さぶってるつもりか?

どうせ俺の素性、仕事についてあの坊主に聞いたんだろ?」

「...何の事だ?」

 

達也はカマを掛けるのは得意でも、嘘は上手くつけないらしい。

 

「とぼけんのも良い加減にしろよ。九重から情報を貰ったんだろ?」

「なぜそう言い切れる?」

「簡単な話だ。俺は九重の事をよく知ってる。それだけだ」

「やはり分かってしまうか」

 

そう言うと達也はこちらを真っ直ぐ見据えて、睨んでくる。

 

「始めて聞いた時は耳を疑ったよ。この学校に2人も公安の捜査官が潜入しているなんて知った時には」

「俺と小野先生が、か?」

「ああ、なぜこの学校に公安の手が伸びるのか分からなかったからな」

「...公安と言っても俺の所属する部署はちょいと特殊でね。小野先生が所属しているみたいな通常の公安とは違うからな。

別段俺は何か捜査を行うためにここに入学した訳でもない」

「ならお前の狙いは一体何なんだ?その返答によっては、俺はお前を敵と見なさなければならない」

「別に何もないさ。ただ単にこの学校に興味があった。それだけだよ、Mr.シルバー?」

「なぜそれを...」

「いや...国防陸軍独立魔装大隊所属、大黒竜也特尉と読んだ方が良いかな?」

「そこまで調べたか...」

 

自分に対して嘘はつかない方が得策だと、達也は判断した様だ。その方が話が進みやすいのでありがたい。

 

「まあそう睨むなよ。ウチの部署の情報収集能力を舐めない方がいい」

「...ここまで調べておいて、お前の狙いはなんだ?」

 

達也はそう言うと、懐から『シルバー・ホーン』を取り出しこちらに銃口を向ける。

それに合わせて自分も懐から【SCP-710-JP】を取り出し、達也に銃口を向けて撃鉄を起こす。

 

「さっきも言った様に、別に俺には何の目的もないさ。達也たちの生活を壊す事もないし、何か起こった時には協力するつもりだ」

「...」

 

そう言って【SCP-710-JP】を再び懐へとしまう。達也は未だにシルバー・ホーンをこちらに向けている。

 

「それに俺がここまで調べたのも理由はある」

「それはなんだ?」

「じゃあ達也、一つ質問しようか」

「なんだ?」

「なぜこの世界に魔法という空想上の存在が根付いてしまったか、知っているかい?」

「【始まりの魔法使い】表舞台にが出てくるまで、世界の始まりから秘匿されてきたんじゃないのか?」

「まさか。もっと単純な理由だ。俺はそれを達也になら伝えても良いと考えている」

 

そう言うと達也はシルバー・ホーンを懐へとしまう。

 

「だがそれを知るには、こちらに協力して貰う必要があるけどな」

「ギブアンドテイクって訳か」

「当たり前だろう。世界の何処に情報をタダで渡す奴がいるんだ?」

 

そう言って達也に背を向けると、昇降口へと歩き出す。

 

「そしてこれは忠告だ。防衛陸軍の【独立魔法科大隊】には気をつけた方が良い」

「どういう意味だ」

「【負号部隊】と言えば君の上司は分かるだろう。じゃあな、また明日」

 

階段の方へと曲がった瞬間、朱に認識阻害をかけさせる。

踊り場まで行き階段を見上げると、そこには達也が立ち尽くしていた。

 

 

 

もうすぐ九校戦だって言うのに、謎ムーブをする必要があるっていうのも面倒な話である。

また胃痛の要因が増えてしまった。【SCP-500】の服用許可って降りるかな...




今回登場したオブジェクト
・【SCP-500 万能薬】 Dr Devan様
http://ja.scp-wiki.net/scp-500


暁くんは達也に世界の秘密を教えても良いと判断した模様。
その理由は皆さんで予想してください。


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今回は少し過去に遡ります。


「死に晒せェェェ!」

「ぐはっ...」

「なんなん...」

 

魔力で作り上げた槍を振るう。

振るう度にこちらに襲いかかって来る敵が吹き飛ぶ。

 

「クッソ数が多い!絶対に離れるなよ!?」

「う、うん...」

 

槍を振るう右腕と逆の左腕には、1人の少女を抱えている。少女の服はボロボロになっており服の意味をなしていない。今はその上から自分の着ていた【王道の法衣】の上着を羽織っている。

 

少女を助けたのは偶然だった。ちょうど大陸の方を旅していた時に偶然出くわしたのだ。誘拐である。大陸の方では未だに子供の誘拐事件が多発しているが、魔法使いとしての勘が何か別の空気を感じ取ったのだ。

誘拐犯の連中を追跡してみると、連中は大陸の現代魔法研究のメッカである『崑崙方院』の関係者だった。しかもその誘拐した少女に性的暴行を加えようとしていた。結局見て見ぬ振りは出来ず、現実改変を行い彼女を助けて連中を叩き潰そうとした訳だ。

 

「まずい。もうすぐ【憑依者の豪槍】が切れる...」

 

【憑依者の豪槍】の顕現限界まで残り5秒。これ以上は供物が切れるので使用できない。

さらに【巨炎神の腕】は既に残り1回しか残機がないので使えない。

仕方がないので、別の魔術を使用するために腕の刻印に魔力を流し込む。

 

「目を瞑れ!」

「!」

 

【憑依者の豪槍】が崩壊するのと同時に、魔術刻印に魔力が行き渡って準備が完了する。

 

「【月光】!」

 

腕の魔術刻印から光が溢れ、右手に光が収束して剣が顕現される。

刻印魔法【月光】。

初めて渡った先の世界で習得した一つの魔法。ただその世界の魔法には慣れなかった上に無理矢理習得したので、体の負担が大きく顕現限界が5分と持たない。

 

「ハァッ!」

 

さらに【月光】の刻印へ魔力を流し込んで振るい、斬撃を飛ばす。

 

「ぐわつ!」

「ぐふっ!」

「まだ来るか!朱、彼女に認識阻害をかけろ!」

 

少女を降ろすと同時に朱が認識阻害をかけて姿を隠させる。それを確認すると懐から【SCP-710-JP】を引き抜き、片手でシリンダーを開ける。更に【月光】を左腕に押し当てて傷を作る。

 

「【変質 水銀弾】、マグナム装填!」

 

傷から流れ出てくる血液が一瞬で水銀仕様の.357マグナム弾へと置き替わり、【710-JP】に装填される。

右腕で【月光】を振るったまま、左手で【710-JP】のダイヤルを操作。タイムジャンプを5秒後の未来へと設定し、引き金を引き絞る。

 

ガンッ!ガンガンガンッ!ガンガンッ!

 

マグナム弾による強烈なノックバックを無理矢理腕力で抑え込み、ダブルアクションで即座に装填された6発を発射する。

マグナム弾がタイムジャンプで再び現れるまでの残り時間で【月光】を振るいつつ、今度は水銀仕様の.380スペシャル弾を【710-JP】に装填する。

 

「3!」

 

【月光】の刻印に再び魔力を流し込み、斬撃を飛ばす準備をする。その間に左手では【710-JP】を操り、近づいてくる敵に発射。

 

「2!」

 

斬撃の準備が完了し、右手で【月光】を構えたまま【量子反作用空歩術】で飛び上がる。

 

「1!」

 

構えた右腕を振るい、上から斬撃を飛ばす。狙いは敵の足元だ。

 

「0!」

 

斬撃が敵の足元に着弾し、吹っ飛ばす。そしてそこへタイムジャンプしてきた.357マグナム弾が突き刺さり、不幸にも直撃してしまった敵の身体がズタズタにされた。

だがー

 

「一体何人いるんだ⁉︎」

 

既に500はくだらない数を殺しきった筈なのに、敵はまだまだやって来る。【月光】の顕現限界まで残り時間は少ない。現実改変も【ruler】の能力を【Yaldabaoth】の殺戮衝動を抑えるのに使っているため、使用できない。まさにジリ貧だ。

...こうなったらやるしかない。

 

「【魔犬の喉笛】!」

 

掲げた右腕から途轍もない衝撃波が発生し、周囲の敵を吹き飛ばす。これでしばらく猶予が出来た。早く終わらせなければ...

 

「...【禁術】、起動!」

 

右手を胸へ当てる。そのまま突き刺して心臓を取り出し、潰して右腕へ取り込む。

 

「ぐぅぅ...朱、頼む...!」

 

それと同時に朱が現実改変を起こして自分の空いた胸に擬似的な心臓を創り出し、更に毎秒280回にも及ぶ現実改変を行い拍動を起こすことで無理矢理延命措置を取る。

 

「エクス...」

 

右腕へ脊髄や各内臓が引きずり出され、巨大な剣を顕現させる。更に朱が現実改変を行って、自分の身体へ擬似的な器官を創り出しスペースを埋める。あとはー

 

 

 

「カリバァァァァァァァァァッッッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

振るうだけだ。

その瞬間前方に衝撃波が走り、贄の剣から魔力の奔流が溢れ出て周囲を飲み込む。そして飲み込んだ全てが生贄として右腕へ引きずり込まれた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ...」

 

周囲には自分と朱、助けた少女しかいなくなった。もう大丈夫なはず...

 

「ぐっ...!」

 

膝から崩れ落ちた。

駄目だ...完全に身体のあちこちがイカれてやがる。【元素功法】でもここまでの欠損はカバー出来ない。こんな事なら【パチクマ】を連れて来るんだったと後悔する。

だがその瞬間に頭の中でキィンと甲高い音がなった。

 

「...あれ?」

 

するとたった今取り込んだはずの魂が抜き取られる様な感覚と共に、一瞬で身体が再生された。でも頭がフラつく。【水銀弾】の生成で血を失いすぎたのだろう。

 

「すまない...」

「は、はい!」

 

【王道の法衣】を羽織った少女に一つ頼みごとをする。

 

「その上着の中にある輸血パックを一本取り出してほしい...」

「えっと、これですか...?」

 

少女が取り出した輸血パックをもらい、封を切って中身を煽る。即座に血液が分解し鉄分として吸収されて、血液量が増加する。これで大分マシになった。

 

「はぁ...」

「あ、あの...」

「...ん?」

 

少女が話しかけてくる。

 

「助けてくださって、ありがとうございます...」

「...気にする程じゃない」

「でも...!」

「もうすぐここには君の迎えが来るだろう。自分は立ち去るとするよ」

 

そう言うと立ち上がり少女が羽織っていた【王道の法衣】から手持ちの物を取り出すと、再び少女に着せた。

 

「これはあげるよ。いつかまた会った時に返してくれればいい」

「え...」

「じゃあね」

 

そう言って復活した【ruler】の能力を使い転移の魔術をかける。少女からは自分が少しずつ消えていく様に見えるだろう。

 

「私は...」

 

最後に少女が何か言おうとしたのは、聞こえなかった。

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

「...懐かしい夢を見たな」

 

もう40年程前の出来事を昨夜は夢に見た。

未だに、あの時なぜ自分の身体が再生されたのか分からない。

 

だが問題はそこではない。

いちばんの問題は『過去の夢を見た時、それに関連した出来事が起こる』という予知夢の様な能力である。

ちなみに今までにも何回かはあった。

 

「まさか、ね...」

 

悪い方に傾かない事を祈りつつ時計を見ると、時間は既に朝の7時をとっくに過ぎていた。

 

「...やべえ遅刻だぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」




予知夢はいわゆるマーリンの予知魔法と同じです。


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昼下がりの集まり

麻婆豆腐ホルモンとはこれいかに。


「やっべ!」

 

校門が閉まりかけている所をギリギリすり抜け、昇降口を一瞬で通過。階段をジャンプ一つで跳び上がり、まだ人が多い廊下を【量子反作用空歩術】で上から切り抜けて、教室へと滑り込む。

始業時刻まで残り1分の所でなんとか間に合った。

 

「あっぶねぇぇぇぇ...」

「暁、おはよう!」

「おう...」

 

教室へ入るなり既に登校していたレオから挨拶される。

 

「元気なさげだけど、どうしたの?」

「いや、なんか変な夢を見たんだよ。その結果、寝坊しかけたから...」

「あー...」

 

レオの挨拶でこちらに気づいたエリカから質問された。

 

「暁、おはよう」

「おはよう達也...」

 

そこへ達也がやって来る。流石に昨日の事でいきなり態度を変えるという訳でもないらしい。ポーカーフェイス様様だな。

 

「廊下の上を飛んで来るな。お前も風紀委員だろう...」

 

うるせえやい!

 

ーーー

 

 

「え、じゃあ昨日呼び出されたのは転校についてだったんですか⁉︎」

「達也さんや暁も転校しちゃうんですか...?」

「いやまさか。俺はこっちにしか居られないから断った」

「俺も暁と同じ様に断ったよ」

 

昼の御飯時。

相変わらずいつものメンバーで集まりワイワイと駄弁りながら昼食を摂っていたところ、昨日の呼び出しの内容が話題に上がった。

 

「やっぱり先生達は達也くんや暁くんの事を邪魔に思っているのかなぁ...下手したら先生達より色々知ってそうだし」

「善意からなのかもしれないが、そうだったとしても余計なお節介だ」

 

その善意が一番怖いのだ。『地獄への道は善意で舗装されている』とも言うし。

 

「魔法理論ではトップレベルだった達也さんや暁さんは、実技では何位だったんですか?」

「下から数えた方が早いだろうね。何度も言ってるように、俺は実技が苦手だから」

「多分俺は達也より下かなぁ...昔からこのタイプの魔法は苦手だ」

「このタイプ?」

「まだサイオンの操作について身体が把握しきってないのさ。専用CADで無理矢理速度を底上げしたから展開速度は今までより上昇したけど、直接弄った方が早いし」

「直接ってどう言うことだ?」

 

そうレオが疑問を呈したので、丼へ箸を置くと右手で軽く魔力操作を行う。するとー

 

「うわっ!?」

「氷と炎...!?」

 

右手の人差し指からは小さな炎、中指からは小さな氷が出現する。供物魔法【追尾弾】の応用だ。

 

「こういうこった」

 

そう言うって魔力操作をやめると、それぞれ空気に分解されるように消えていった。

 

「どういう魔法なんだ?」

「現在主流の【4種8系統区分の魔法理論】ではなく、かつて流行った【四大元素区分の魔法理論】に近いんだ」

「直接弄るってこの事ですか...」

 

【あの世界】の魔法理論は、無属性は関係ないが【五大元素の強弱関係】が物を言う。

更にはっきりと言えば、この世界の【四大元素区分の魔法理論】とあの世界の魔法理論は格や代償が全くもって違う。

 

「まあ今の時代、主流から外れているから主流に合わせる必要があるのさ」

「だからあのCADという訳か...」

「そーいう事。あとあれは自分で調整しなけりゃいけないし」

「...は?」

 

ああそうだった...あのレベルのCADを調整も一握りの人間しか出来ないんだっけ。

 

「日ごとにサイオンの流れは変わるから、それに合わせて調整しなきゃいけないのさ。あれはそこまでやらなきゃ上手く動かないんだ」

「いやでもCADの調整まで...」

「なにこの理論派2人組...」

「でも達也さんや暁くんが九校戦に出てくれたら、絶対に優勝だと思うんだけどなー」

 

そう言ったのは光井さん達の友人である明智英美さんだ。達也の方は先日の部活動勧誘時に会っていたらしく、かなり馴染んでいる。

 

「それは難しいと思うな...第一に九校戦のメンバーは一科生からしか選抜されないし」

「それは分かっているけど...」

 

明智さんの意見に返したのは同じクラスの幹比古くんだ。彼とは体育の授業の時に親しくなった。そして彼は現在訳あって本家から出ているが、【108評議会】に所属している【吉田家】の本流の出身である。

 

「ですが、ウチが優勝候補筆頭なのは間違い無いですよ」

「うん、でも油断は出来ない。今年は三高に一条の御曹司と一色の令嬢、それにナンバーズも多数入学してるから...」

「十氏族に師補十八家か、それは確かに厄介だな」

「新人戦はヤバそうだなぁ...」

「うん...でもウチには七草会長や十文字会頭、それに渡辺風紀委員長が居るから、本戦は負けないとは思うけどね」

「新人戦次第って事か。俺は行けるか如何か分からないが、頑張ってくれよ」

「てかさ、暁がモノリスコードに出たら大変な事になりそうだよな」

 

...は?

 

「うん...いきなり瞬間移動したり、見えない銃弾が飛んできたりしそう」

「たしかに」

「どういう事だいエリカ?」

「あれミキは知らないの?」

「だから、僕の名前は、幹比古だ!」

「私も知らない!」

「エイミィも知らないの?」

 

北山さんがそう言うと、入学早々に起きた一科生と二科生のイザコザや風紀委員会の業務で自分のやってしまった事を話す。

 

「へぇ...いきなり瞬間移動したり」

「見えない銃弾を撃ったりしたんだ!」

「...まあね」

「しかもそれが魔法じゃないらしいからなぁ...」

「九校戦に出た時点でとんでもない事になりかねないよね」

 

二科生だから選抜すらされないし、選ばれても参加する気は無いのだが...

 

「おっ、やっと見つけた」

 

そこへ渡辺先輩がやって来る。

 

「渡辺委員長?何か御用でしょうか?」

「ほら、試験前に頼んだだろ。試験が終わったら頼みたい事があるって」

「そう言えば言ってましたね...今からですか?」

「ああ、出来れば夏休み前には終わらせたいからな。それと財田も来てくれ」

「俺もですか?」

「ああ。お前は業務変更の打ち合わせだ」

「了解です」

 

そう考えれば夏休みまで、もうすぐ残り一週間だ。そろそろ夏休みの予定を...室戸研に篭って研究くらいしかやる事が無い。

 

「それじゃ、2人を借りてくぞ」

「それじゃ、また放課後〜」

 

ーーー

 

場所は変わり風紀委員会室。

現在室内には自分と達也、渡辺先輩に沢木先輩がいる。

 

「...という訳だ。いつまでも3年生込みで委員会を回すわけにもいかないからな」

「なるほど。それで俺や沢木先輩にはある程度のスケジュール組み、達也には委員会の引き継ぎ用資料の作成、ですか...」

 

そう言いつつ1年生の業務当番スケジュールを組み立てる。隣に座っている沢木先輩は自分と同じように2年生の当番スケジュールを、達也は資料作成をしている。

 

「すまないな。君達が居なければ我々はまた同じ轍を踏むところだった」

「苦手なのは仕方ないですが、丸投げは止めてほしいですね」

「同じ轍を踏みかけるなら学びましょうよ...ほら先輩、これお願いします」

「ああ...別にあたしだって遊んでる訳じゃない。九校戦の準備とかで忙しくてな」

 

ここでも九校戦の話か。渡辺先輩もバトルボートの優勝筆頭で一高の中心だし、準備に忙しいと言うのも頷ける。だが、去年から時間はあるはずなのになぜ学べないのだろうか...

 

「何時からでしたっけ?」

「8月の3日から12日までの10日間だ」

「なげー...」

「結構長丁場ですね」

 

九校戦の期間を聞いた達也と自分の感想はほぼ同じだった。いや40日間くらい夏休みがあるのに、10日間も潰れるって...

 

「妹の方は私達が参加している競技を見た事あるようだったが、司波は見た事なかったか?」

「毎年の夏休みは野暮用で埋まってましたからね。中々時間が取れないんですよ」

「そうか。君達の兄妹は何時も一緒なのかと思ってたが、別行動を取る事もあるんだな」

「...そもそも学校では殆どが別行動ですよ?」

「...そう言えばそうだな。財田はどうなんだ?」

「夏休みですか...部屋に篭って研究ばっかりしてましたね。達也と同じように見た事はないです」

「研究...?」

「内容は秘密ですよ。まあ、家が放任主義なんで迷惑を掛けない限り何しても怒られないので」

 

正しくは初瀬所長が、だが。

あの人は放任主義だから何かあると時々...いや、毎回狂った方々が暴走する。

その結果、響管理官や柳瀬川部長や自分に怒られているのだが。

 

「そうか...なら2人とも、九校戦の準備といってもあまり想像がつかないだろう?」

「ですねぇ...参加するわけでもありませんし」

「そこまで詳しく知ってはいないですね」

「それじゃあ資料があるんだが、後で見るかい?」

「こっちは終わったんで、今見せてくださいよ」

「はいはい...えっと...コレだ」

 

渡辺先輩は散らかった机の上からヨレヨレになったパンフレットを取り出す。

 

「何をやったらこんなにヨレヨレになるんですか?」

「聞くな...」

 

そう答える先輩を横目に見ながら、パンフレットに目を走らせる。

 

「あれ、競技CADってTHI製も採用出来るんですね」

「ああ。だがあまりTHIのCADを使っている奴は見た事が無いな」

「でしょうね...高性能ですけど、めっちゃ高価ですし」

 

元々THIは現実改変技術において一日の長がある。まあ【シグナル】とかいうトンデモオブジェクトを創り出すだけの事は、ね...

という訳で現在の魔法技術開発はTHIが独走状態で、それをトーラス・シルバーこと達也を擁するFLTが猛追している。

 

「モノリスコード、ねぇ...」

「なんだ、興味あるのか?」

「いえ、昼間に駄弁っていた時に話題に出ただけですよ」

「そうか...今年から九校戦も新人戦が男女別になったからな。一部は掛け持ちする選手が出るだろうから、今年は調整が大変なんだ」

「それはご愁傷様ですね」

「本当にそう思っているのか...」

 

達也がそう切った所で話が切り替わる。

 

「そう言えば今年はウチの三連覇がかかっているんでしたっけ?」

「ああ。私たち三年生は、今年勝ってこそ本当の勝利だと思っている」

 

三連覇ともなるとやはり学校にも箔が付く。自分は参加しないが頑張って欲しいものだ。

 

「順当に行けば当校の勝利は確実だと聞いていますが」

「まあな。新人戦で大きく転けなければ本戦のポイントで勝てるだろう。唯一不安があるとすれば...エンジニアだな」

「エンジニア?競技用CADの調整要員ですか?」

「そうだ。いくら選手個人の能力が高くとも、エンジニアの腕が大した事無かったら実力は発揮できないからな。

ハードの制限がある以上、ソフト面でいかに他校との差を測るかがエンジニア...技術スタッフの腕の見せ所となるんだよ」

 

いやまあ、THIが使える時点でハードの制限がおかしいんですが...多分、運営側もTHIは値段が高いから何処も採用しないと高を括っているんだろう。

 

「今年の三年生は技術スタッフが不足気味でな。真由美や十文字は自分のCADの面倒は見れるんだが...」

 

先輩は見れないのかぁ...

 

「誰か良い人でも居れば良いんだがなぁ...」

「はい先輩、引き継ぎの資料です」

「それじゃ、失礼しました」

 

先輩の呟きから共に逃げるように、自分と達也は風紀委員会室を出ていった。

 

ーーー

 

「え!?リンクス達帰ってきたの!?」

『そのようです』

 

夜の7時。

家へ帰ってきたところへ、神州からとんでも無い報告が入ってきた。

 

「戻ってくるのって8月中旬じゃなかった?」

『彼が言うには《何もなかった》とか...』

「えぇ...」

 

だからと言っていちいち帰りを早めるのか...

 

「取り敢えず室戸研の1番ドッグに艦を入渠、【ハスキー】と【エンタープライズ】のオーバーホールチームに召集をかけろ」

『1番ドッグには【シトルム】が入渠中ですが?』

「...N1ドッグを開けて入渠だ」

『了解いたしました』

 

神州がモニターからいなくなると、ソファーへ座り込む。

 

「頼むからこれ以上、面倒事は増えないでくれよ...」

 

そう呟くと懐から【SCP-500】を取り出して、飲み込んだ。

胃痛くらいなら、良いよね...?

二日酔いよりマシな理由だと思いたい。




美味かったけど、冷めたら辛さしかしなかった。


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メリットがあれば...

2週間くらい頭捻って結局4000文字しか書けなかった...


泣きたい。


「で、今の状況は?」

 

翌日。

いきなり帰還してきた連中の対応について報告をされている。

 

『取りあえず指示通りにN1ドッグに入渠させました。でもオーバーホールチームがぁ...』

「初瀬所長、泣くなよ...休暇が潰れた事に不満が出てボイコットか?」

『そうなんです...』

「はぁ...【Ο-4 機動艦隊】の第一部隊が定期訓練から帰港するからな」

 

画面越しに見る初瀬所長はほぼ泣きかけている。あなた所長でしょ。しっかりしてくださいよ...

とは言っても、第一部隊の中核を成すのは攻撃原潜の【ハスキー】と航空母艦の【エンタープライズ】だ。帰港後点検を行う彼らには、休暇が消えた事が不満なのだろう。

 

「...【ハスキー】【エンタープライズ】両オーバーホールチームには、こちらからいつもより多めに臨時手当を支給する。そう伝えとけ」

『...良いんですか?』

「あたりまえだ」

『ありがとうございますっ‼︎』

 

もう少し初瀬所長の気が強ければなぁ...

その結果、用意している予備予算が消えていく。ここ最近は物事予定通りに進まない。

 

ーーー

 

「暁!」

「おう!」

 

レオから蹴り出されたボールを勢いを殺す様にトラップ。

ドリブルをしつつ周囲を見回す。

 

「幹比古!いくぞ!」

「オーライ!」

 

逆サイドを上がっている幹比古とは逆の壁にボールを蹴りつけ、その反動で幹比古の足元へパス。

 

「達也!」

「わかった!」

 

綺麗にトラップした幹比古が、すぐさま天井の壁を使ってゴール前に走り込んでいる達也へセンタリング。

達也がそれをダイレクトでボレーシュートし、決める。

 

「うっし!」

「しゃあ!」

 

今、体育の授業で行なっているのは『レッグボール』というフットサルから発展した競技だ。

E組とF組の合同授業としてクラス対抗戦を行なっているのだが、現在のスコアは4-0。一方的なワンサイドゲームと化していた。

 

「もういっちょ!」

 

パスされたボールをそのまま蹴り、壁と天井を経由させて前線の達也まで送る。

 

「達也!」

「...せいっ!」

 

送ったボールを達也は上段回し蹴りでシュート。相手キーパーが跳ぶが、ギリギリ手が届かないコースで蹴り出されたボールはポストとクロスバーの交差した点の隅へ叩き込まれた。

その時、タイムアップのホイッスルが鳴る。最終スコアは5-0。圧倒的勝利である。

 

「お疲れー!」

「いやーキツイわコレ」

「何言ってんだお前。最後までトンデモパス出しやがって...」

「それを決められる達也もヤヴァい」

「ははは...」

 

自分、達也、レオ、幹比古の4人で集まる。

しかしあのパスを上段回し蹴りで決められるとか達也さんやばいです。どういう身体神経していればそんな事が...ああ、八雲の稽古か。

 

「えーっと?最終的には俺が1点、幹比古が2点、達也が2点、暁は0点か?」

「じゃあ今日の学食の奢りは暁だね」

「ちょっと待って。俺、3点分のアシスト取ったよ?」

「...ゴールした結果が重要だ」

「チクショー!」

 

達也の一言で奢りが決定した...

オーバーホールチームの臨時手当といい、3人の学食の奢りといい、資金繰りがやばい。資金調達を頑張らねば...

 

ーーー

 

「...何をしているんだ?」

「CADの調整ですけど...」

 

時刻は昼休み。

業務引き継ぎの案件の為に委員会に呼び出されたが、それも終わった。

午後の授業の開始まではまだ30分近く残っているので、持ち歩いている鞄からラップトップを取り出し、腕に着けている汎用型の専用CAD【ネクロミア】を接続して調整を行っていた。

 

「こんな時間にか?」

 

上階の生徒会室から降りてきた渡辺先輩はそれを見て、怪訝な表情で質問を投げかけてくる。

 

「こいつちょっと特殊で...暇な時に最新のサイオンデータを更新してるんです」

「それだけで調整出来るのか?」

「いや、これは応急処置に近いです。家でならもっと本格的に調整が出来るんですが...まあTHIで調整してもらった方がよっぽど良いんですけど」

「そうか...」

 

そう答えると先輩は何やら思案顔になる。何を企んでいるんだか...

 

「なあ財田「お断りします」...まだ何も言っていないじゃないか」

「風紀委員会に入ってからまだ3ヶ月しかたっていませんが、委員長がこちらに何か言ってくる内容と言えば、大抵無茶振りだと理解しましたからね」

「いやな、だからと言って話を遮るのは...」

「...で、結局なんなんですか?」

「九校戦の事だ」

「...エンジニアですか」

「そうなんだ。まだ人数が集まっていなくてな...司波には既に打診してあるんだが」

 

なるほど。達也が先ほど生徒会室に呼ばれた原因はこれか。

 

「なあ財田、お前エンジニアになってくれないか?」

「...メリットがありませんね」

「メリットだと?九校戦のメンバーに選ばれれば、夏期休業中の宿題の免除と1学期における内申成績にプラスが入るぞ」

「宿題は既に終わってますし、別段内申も気にしてません。夏休みはまだやるべき事があるので、2週間も潰されてはかないませんよ」

「なあ...そこをなんとか」

「駄目です」

「...なにか便宜を図ってやる」

「内容によりますね。メリットがあればですが」

 

部屋は沈黙に包まれる。

そこへその沈黙を破るかの様に、上から声がかけられた。

 

「摩利ー?」

「なんだー!?」

「上に来てちょうだい。あ、それと暁くんもそこにいるかしら?」

「いますけど?」

 

上から声をかけて来たのは七草会長だ。

 

「ああ良かった...暁くんも上に来て!」

「...わかりました」

 

接続されたCADを引っこ抜いて腕に着け、ラップトップを鞄にしまうと階段を登る。

 

「...どうやら司波の方は話がまとまったみたいだな」

「それでわざわざ自分を勧誘しに来たんですか...」

 

扉を開けると、生徒会メンバーに達也の姿があった。

 

「それで司波の方は?」

「達也くんは調整技術を見たいから、放課後に部活連本部の準備会議へ参加して貰うわ。暁くんは?」

「それが財田のやつ、参加するメリットが無いと言い張っててな」

 

言い張ってはいないのにそういう言い方をされるのは、いささか心外なのだが...

そう思いつつ達也に近づくと話しかける。

 

「なあ達也、参加するのか?」

「参加せざる得ない選択肢を突きつけられてな...」

「...なるほど。深雪さんか」

「そう言う事だ。まさか背後からトドメを刺されるとは思わなかった」

「そりゃ御愁傷様だ」

「今回ばかりはそう言われても仕方がないな」

 

そう返答する達也の顔は疲れている様に見えた。

まあでも、いつも調整して貰っている兄に九校戦中も調整して欲しいという深雪さんの想いも、理解できなくは無い。

 

「ねえ暁くん?」

「...何でしょうか、七草会長」

「暁くんは、メリットが有れば参加しても良いのよね?」

「よっぽどで無ければ、ですけど」

「...なら、九校戦のチケットを貴方の好きな分だけこちらが手配すると言うのはどうかしら?」

「...そう来ましたか」

 

確かにそれはメリットがある。

九校戦のチケットは完全予約制の上に抽選制だ。だが元々試合数も多く、すべての競技にエントリーすれば何か1競技は確実に見られる。

それに彼女達の外歩きに丁度良いし、あの子もかなり興味を持っていた。

 

「少し外しますね」

 

そう断わりを入れて生徒会室を出ると、懐から通信端末を取り出し、室戸へと連絡を繋いだ。

 

『はい、初瀬ですが...』

「初瀬所長か?」

『あれ...なぜか財田議長の声がするんですけど』

「間違いではない」

『...ふぇ!?なんでいきなり連絡して来たんですか!?』

「...【053(幼女)】はいるかい?」

『███ちゃんですか?』

「そうだ。少し代わって欲しい」

『ちょっと待っててください...』

 

スピーカーから待機音が流れる。そして約1分くらいした頃だろう。元気な少女の声が聞こえてきた。

 

Hi, ███!(ハイ、███!)

「やあ、元気そうだね。【239(Sigurrós)】とは仲良く出来てるかい?」

Yes!(うん!)

I told a lot of things to Sigur,(いろんなこと、いーっぱいはなしたし、)

and Sigur told me a lot!(シガーもいーっぱいはなしてくれたよ!)

「そうか...そりゃ良いね。ところで今年の外歩きなんだけど...」

Where can I go this year?(ことしはどこにいけるの!?)

「そうだね...実は九校戦のチケットが取れるかもしれないんだ」

Nine school battle!? really!?(きゅーこーせんの!?ほんと!?)

「本当だよ、本当。なんならシガーロスとも一緒に行くかい?アベル付きでだけど」

I can go with Abel and Sigur!?(アベルにシガーともいけるの!?)

I want go!(いきたい!)

「よし、わかった。じゃあ今年の外歩きは九校戦全てにしようか!」

I'm so happy!(やったぁー!)

 

電話越しに会話をしている幼い少女。

こう話している限りは幼い子供だろう...でも彼女もれっきとしたオブジェクトなのだ。

 

「きちんとあの子にも話をつけておくんだよ?」

all right!(わかった!)

Can I take 【682】there as well?(【682】もつれてっていーい?)

『駄目ですっ!』

Eh! ?(えー!?)

『《えー!?》、じゃありません!駄目なものは駄目ですよ!』

 

...どうやら向こうは外部スピーカーにマイクで通話しているらしい。

確かに友達とも言える【682】も連れて行きたいのは分かるんだが、流石に連れては行けない。

 

Is it not good to do that!?(だめなの!?)

「...うん。ちょっと駄目、かな」

No way...(そんなぁ...)

「ま、とにかく九校戦には行きたいんだね?」

Yes!(うん!)

「じゃあ、ちゃんと良い子にしているんだよ?みんなに迷惑かけちゃ駄目だからね?」

All right!(はーい!) See you!(じゃあね!)

 

スピーカーからはトタトタと走っていく音が聞こえた。多分あの子にも話をしに行くんだろう。

 

『よろしいのですか...?』

「構わない。別段こちらのやる事が増えるだけだ。彼女達の事、これからもよろしく頼むよ」

『分かりました。では...』

 

通信が切れる。

端末を懐へしまい込むと、再び生徒会室へ入室する。するとすぐさま七草会長から質問が飛んで来た。

 

「なにかあったのかしら?」

「...九校戦のチケット3人分で手を打ちましょう」

「本当!?」

 

質問には答えずに淡々と用件だけを伝える。

 

「えぇ、やるからには本気でやらさせて貰います」

「ありがとう...じゃあ、達也くんと同じ様に調整技術を見るから、放課後に部活連本部の準備会議に参加してもらうわよ。いいわね?」

「分かりました」

 

...さて、これで夏休みの予定がパーになった。

予定を作り直さなければ...




今回登場したオブジェクト

・SCP-053 『幼女』Dr Devan様
http://ja.scp-wiki.net/scp-053


幼女の言っているシガーとは239のあだ名。
ちなみに239の本名は
Sigurrós Stefánsdóttir(シガーロス=ステファンスドッティル)だそうです。長い。


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エンジニアの課題

読者のみなさま、お久しぶりです。
やれテストやら球技大会やらで中々更新出来なくて、申し訳ないです。
一応これからは、いつも通りの週1,2回投稿です。


「課題は『競技用CADに桐原先輩が普段から使っているCADの設定をコピーし、即時使用が可能な状態にする。ただし起動式には一切手を加えない』...で間違いありませんね?」

「うん、それでお願い」

 

時間は放課後。

現在部活連の本部では九校戦への準備会議が開かれており、達也は桐原先輩のCADのコピーという課題に挑戦しているところだ。

 

「如何かしたの?」

「スペックの違うCADの設定をコピー...あまりお勧め出来ませんが、仕方ありませんね。安全第一で行きます」

 

参加している七草会長を始めとして何人かは、達也の言っている意味がわからないだろう。だが、エンジニアと見られる雰囲気を持った生徒達はその言動に興味を持っている様に見えた。

 

通常、スペックの違ったCADに設定をコピーする事は推奨されていない。

『低スペック』の物の設定を『高スペック』のCADにコピーするというのは問題ないのだが、『高スペック』の物の設定を『低スペック』の物へコピーした場合、処理速度の違いからエラーが発生して機能が停止する場合がある。

またエラーだけで済めば良いのだが、処理速度が追い付かないため処理回路へ高負荷がかかってしまい、処理回路そのものが焼け付いてCADが破損、最悪の場合、使用者自身に幻覚症状といった副作用が発生する事もある。

そうならない為に処理速度の調整や、CAD自体を保たせるための改良、使用者のデータに合わせるようにするのがエンジニアの仕事だ。とは言っても改良はそう簡単に出来るものではない。

 

「それじゃあ桐原先輩、測定しますので手を置いて下さい」

「分かった」

 

桐原先輩が手を検査機に置くとサイオン波特徴の計測が始まり、データが達也の前の調整機のウィンドウへ流れて行く。

 

「ありがとうございます。もう外して頂いても構いません」

 

計測が終わると、たつや予め作っておいた作業領域から桐原先輩のCADのデータを呼び出し、ウィンドウへデータを流す。

次に特殊なコマンドを実行すると、サイオン波のデータがグラフではなく数列化されて表示された。

 

「...完全マニュアル調整か」

「えっ?」

 

そう呟くと近くにいた中条先輩が驚きの声を上げる。

 

「達也の手元を見ればわかりますよ」

 

そう言うと中条先輩を始めとして何人かが、達也の後ろから手元を覗き込む。

その間も達也は周りを気にする事なくウィンドウを流れる数列を睨み続け、流れ終わると即座にキーボードへ入力を始めた。今の人達には余りお目にかかれない様なスピードで、だ。

 

「...終わりました。どうぞ」

 

達也は機器に繋げた競技用CADを取り外すと、桐原先輩に渡す。

 

「どうだ?」

「素晴らしい出来ですよ。自分の持っている奴と比べて遜色ないですね」

 

CADを起動させた桐原先輩は十文字会頭にそう告げる。

完全マニュアル調整でないと、ここまでコピー元と同レベルで構築は出来ないだろう。流石に自分ではこうもいかない。流石はトーラス・シルバーと言ったところだ。

 

「確かに驚いたが...」

「別段同じ結果なら我々にも出来ますよ」

 

レベルなら1つどころか2つ3つくらい上なんだよなぁ...

どうも一科生の方々は二科生である達也の実力を認めたくないらしい。

 

「完全マニュアル調整の利点は、通常の調整と比べてフリーなリソースができること。それによって幾分か術式の起動までの時間を短くする事が出来ます。これはご存知ですね?」

「いや、だからそれが何に...」

「...わかりませんか?短くできればそれだけ勝機が大きくなります。アイスピラーズ・ブレイクなどにおいては余程の戦力差がない限り先手を打てた方が有利です。それなら通常の調整より完全マニュアル調整の方が良いと考えますよ」

「...ウィードのくせに、いちいちうるさいな!」

「自分は風紀委員です。ここで拘束しても良いのですよ?」

「財田、そこまでにしておけ」

 

まあ流石にこちらも喧嘩腰で対応すれば、委員長が黙っていないか。

そんな不必要なやり取りをしている横では、中条先輩や服部先輩からの推薦もあり、達也が武士にエンジニアとして九校戦に参加する事が決定した。結構なことだ。

 

「さて、司波くんのエンジニア入りも決まった事だし、次は財田くんのもやりましょうか」

「財田もですか?」

「ええ、そうよ。その為に彼も呼んだのだから」

「なら財田の実験台は自分にやらせてください」

 

服部先輩はそう言うとCADを外し、自分に渡してくる。

 

「ちょっと!はんぞーくん!?」

「良いですよ七草会長。やりましょう」

「暁くんまで!?」

 

そう言うと鞄からラップトップを取り出して、調整用の機械に接続してラップトップからの操作を可能にさせる。

接続を確認するとデスクトップに表示されているアプリケーションを開く。

 

「暁、それは何だ?」

「CAD用のガレージプログラム。製作者は俺。一応THIの先端技術開発部の主任からお墨付きは貰ってるよ」

「なんでそんな所からお墨付きを貰ってくるんだ...」

 

調整用の機械に服部先輩のCADを接続してデータコピーを指示し、データを取り出すと別領域に保存する。

 

「んじゃ服部先輩、検査機に手をお願いします」

「わかった」

 

横波として計測したサイオンデータを0.01秒刻みに縦波のグラフへと変換する。グラフ化した縦波の波形は見たところ全て同じ様に見えるが、実際には僅かなところで差が発生したりしている。それらの特徴から平均を割り出すことで、なるべくベストの状態へ近付ける。

 

「あまり見たことない調整方法だな」

「何やってんだあいつ」

 

外野からはかなり辛辣な声が出ているが、気にする事などない。今度は競技用CADを接続し、別領域に保存しておいた術式のデータをCADのスペックに合わせる様に変換。そして平均化の終わったグラフを数式化を踏んでデジタルデータへ変換し、データと変換した術式をCADにインストールさせた。

 

「終わりました。どうぞ」

「...凄いな」

 

CADを起動させた服部先輩から驚きの言葉が出る。

 

「この調整は完全マニュアル調整と比べた場合だと劣りますが、通常の調整と比べるならより多くフリーなリソースを確保できます」

「なら普通に完全マニュアル調整の方が良いんじゃないのかしら?」

「自分の使っているCADは完全マニュアル調整に対応してないんですよ。結局自分がやり易い方法でやっただけです」

「なら完全マニュアル調整も出来るのか?」

「出来ますよ。たださっきと同じ事をやったら面白くないじゃないですか」

 

矢継ぎ早に飛んでくる質問にそう返答する。

プログラムを終了し調整機器とラップトップの接続を外すと鞄へしまい込む。

 

「取り敢えず自分が出来るのはこれくらいです」

「いや、それだけの技能があるなら十分すぎる。先程の司波の事もある。反対する者もそう出ないだろうが、調整を拒否する者は司波、財田共に出るかもしれんな」

「自分達に調整して欲しい人を募った方が楽だと思いますけど」

「それもそうだな...ともかく司波に財田、九校戦は頼むぞ」

「わかりました」

「了解です」

 

 

———————

 

 

「つーことでエンジニアする事になったわけよ」

「なるほどね...でも二科生から九校戦から出た人っていないんだろう?」

 

翌日の放課後。

委員会業務もなく帰ろうかと思っていると幹比古から修行を見て欲しいと言われたため、実技室を借りて見学していた。

 

「前例は覆すためにある、だとさ。エンジニアを育成してこなかったけど、今年に俺や達也が入ってきたから無理矢理エンジニアにしちまおうって魂胆だったんだろ」

「確かにね...じゃあ再開するけど、良いかい?」

「おうよ」

 

既に室内には人払いの結界が張ってある。幹比古が精神を集中させると、彼の周辺に精霊達が集まり始める。特に青や緑、紫色をしている精霊が多く見受けられた。

 

「...ふぅ」

「ん、だいぶ戻ってきたな。儀式前と変わらなくなってきたんじゃないか?」

「流石にまだあの時よりかは少ないよ。でも暁の指導のおかげで、確かに力が戻ってきた気がする」

「そりゃ良かった。本当なら幹比古の能力は一科生以上だからな。もったいない」

「そう言ってくれるのはありがたいね」

 

幹比古は昨年行われた吉田家の通過儀式である『星降ろしの儀』における【竜神】の喚起を失敗した事により、魔法に関する感覚が狂ってしまった。

それを重く見た幹比古の父親、つまり吉田家の当主は九重を挟んで、自分にどうにかならないかとコンタクトを取ってきたので、何回か指導をした。

実は幹比古とはそれ以来の仲なのだ。

 

「そう言えば...これを」

「封書?」

 

修行も終わり実技室を後にしようとすると、幹比古から封書を渡された。封を切って読み進める。

 

「...んー。なるほどね」

「九重和尚から聞いているだろうけど、吉田家としては今のGOCや108評議会には着いていけない。なるべく【安全保障会議】の方針に従おうと思ってる。それで今日の朝に本家から暁に渡すように、って渡されたんだ」

「...会議の席を増やすか。親父さんに次にやる時には来て欲しいと伝えてくれるか?108から離脱するようなら連絡してくれ」

「わかった」

 

今現在のGOCはあまり機能しているとは言い難い。対オブジェクトで活動しているのは自分ら旧財団協力派組織とTHI、ARC(アンダーソン・ロボティクス)くらいのものだ。吉田家がGOCから離脱しこちらに組みしてくれるというなら、対オブジェクト戦力は更に拡充出来る。

 

「じゃ、また明日」

「おう」

 

そう言うと幹比古と校門前で別れた。

 

...さーて、やる事が沢山あるぞ。九校戦前に終わらせないと...




そう言えばお気に入りが900超えてましたねぇ...こんな駄文をいつも見てくださって、ありがとうございます。



これからも頑張ろう...!


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無頭竜

危ない...出すのわすれてた。
そして短いです。許して...


「無頭竜が?」

『その様です。富士演習場付近で構成員が確認されたとの情報もあります』

「なんでそんな事やってんだ...」

 

その日の夜。

帰宅するとNHTICDの中嶋課長から連絡が入り、通話早々にとんでもない情報をもたらしてくれた。

 

「確か無頭竜って...」

『リチャード=孫がリーダーを務める香港の国際シンジケート...』

「それは表向き、だな?」

『...その通りです。正しくは中国での魔法技術、その発展における悪用や犯罪行為を抑えるためのFBIUIUの協力団体。そしてリチャード=孫はFBIUIUのフーヴァー局長の旧友でもあります』

「だが表向きには大規模なシンジケート。支部を世界中に持っていてもおかしくはない、か」

『そしてその目標は...』

「九校戦か...」

 

勝手にやっとけと言いたくなる内容だが、流石に自分の参加する行事に殴り込んでくる様な真似をされては、こちらとしてもそれ相応の対応をしなければならない。

...会議の前に建てたフラグを早々に回収する事になりそうだ。

 

「取り敢えず、自分が連中から話を聞こう。行動を起こすのはそれからでも遅くない」

『わかりました。こちらも独自で調査に入ります』

「頼んだ」

 

中嶋課長との通信が切れると、今度はフーヴァー局長へ連絡を始めた。

 

『もしもし』

「フーヴァー局長か?財田だ」

『議長か...何用だ?』

「リチャード=孫の連絡先を教えて欲しい」

『...何かあったのか?』

「どうやら無頭竜が九校戦で何かおっぱじめようとしてるらしい」

『なるほどな...多分それは日本極東支部の連中独自の動きだろう。リチャードによれば連中は九校戦での非合法な賭博をここ数年行って利益を出しているらしい』

 

うーん、これは...微妙なラインか?向こうが手を出さなければ大丈夫だろう。

 

『更に言えば、ソーサリーブースターの専売をやっているのも極東支部の連中だそうだ』

「確定。判決は黒だ」

『その言い方は...一応俺からも確認しておこう。しばらく外す』

「いや、後から折り返してくれ。流石に風呂に入りたい」

『了解した』

 

フーヴァーとの通信が切れた。

 

「さーて風呂に入りますか...」

 

そう言って浴室へ向かおうとすると、朱が頭の上へ乗ってくる。

 

「どうした?」

 

そう問いかけても、朱は頭の上から降りようとしない。

 

「...濡れるぞ?」

 

そう言っても降りない。風呂に入りたいのだろうか...?

 

「...まあいいか。行くぞー」

 

結局朱を頭の上に乗せて風呂に入る事になった。風呂に入っている間、何故か視線を感じたが気のせいだろう。

 

 

————————

 

 

着いてきてしまいました...

 

いや、私は悪くないはず。

 

最近ずっと構ってくれない███が悪いのです。

 

確かに貴方がここ最近忙しいのはわかります。

 

ですが、それを理由に構ってくれないと言うのもあんまりです...

 

確かに私は荒御魂、悪神とは言え永遠の時を生きる神でしょう。

 

だから貴方も同じなのです。

 

貴方と同じ時を生きていけるのは私だけなのだから。

 

███...構ってくれないと拗ねちゃいますよ?

 

 

————————

 

 

...なんかとんでもないモノローグを見た気がする。いや、そんな事はどうでも良い。...良くはないか。

風呂に入ってサッパリしたので、気分が良い。このまま寝れれば良いのだが、そうも行かないのが世の常である。

 

「で、結局の所はどうなんだ?」

『リチャードも連中には手を焼かされているらしい。最近では独断専行で許可なく犯罪行為を起こしている』

 

救い難いなオイ...

 

『さらに言えば、無頭竜が犯罪シンジケートとして有名になってしまったのも連中が原因だと』

「それは流石にないだろう...まあでも多分、無頭竜絡みの犯罪は日本支部が関わっているだろうな」

『FBIUIUとしては、ここで無頭竜が潰されると中国方面の情報精度が格段に落ちるから、なるべくそうなって欲しくないんだが...』

「...少し考えさせてくれ。NHTICDも動いている。情報自体がまだ少ないからな。連中が今回の九校戦で何を起こそうとしているのか知らないが、何かしらアクションを起こすとわかったらこちらも動く」

『すまないな...何事もなければ良いのだがな』

「そうである事を願ってるよ」

 

フーヴァーの言葉にそう応えると、通信のウィンドウが消えた。

 

...流石に疲れた。

九校戦に何事もなければ良いが、今回ばかりはそうも行かない。

NHTICDから連絡があったと言う事は、既に達也の部隊は何かしら無頭竜の情報を掴んでいるだろう。だがそれはあくまで表向きの情報。FBIUIUの協力団体と言う事は流石に掴みきれていないはずだ。その情報を元に無頭竜を潰されたとあっては、FBIUIUが動けなくなるのは目に見えている。

 

第一にこっちはアベルがついているとは言え、【053】と【239】が来る予定だ。彼女達に何かあったとあっては、富士演習場は文字通り消える。

やはり何かあった時のために、機動部隊を用意しておくべきか...

 

「神州」

『はい』

「8月上旬にフリーな機動部隊はある?」

『少しお待ちを...アベルは既に行くのですよね?』

「そうだけど...まさか【Ω-7】がフリーなのか?」

『はい。また【Ο-4】の第2部隊もフリーです』

「第2部隊か...いや、【Ω-7】でいいや。九校戦の間、富士演習場近くに待機させておいて」

『待機中はどうされますか?』

「自分からの指示が出た時に3分以内に集合できるなら、遊んでても構わない。ただし、3分以内は厳守だ」

『分かりました。こちらから伝えておきます』

「頼んだ」

 

神州がウィンドウから消える。

時刻は既に日をまたいでいる。今から寝てもそこまで意味はないだろうが...いや流石に寝ないとまずい。

明日からは九校戦関係のものも始まる。そこに寝不足で参加するのはいただけないだろう。

そう思うとさっさと部屋に入り、寝た。




赤文章は朱の独白です。


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CADで遊ぼう

三週間も書いてなけりゃ、筆の質も落ちますよねぇ...


「えーっと?これとコレとそれとアレを...」

「...何しているんだ」

「何って、術式突っ込んでるんだけど」

 

高校生活も1学期が終わり、夏休み序盤。

九校戦の練習やCADの調整を踏まえて学校へと来ているのだが、特別何かするというわけでもない。

使用するCADの調整を繰り返して術式の効率化を図る。ただそれだけなのだ。

 

「その術式は?」

「スピードシューティング用に作ったんだけど、使える人がいなくてねぇ...」

 

ディスプレイに表示しているのは自分がスピードシューティング用に片手間で作った、向こうの世界で言うところの雷属性の魔法。

 

10m四方の空間の中心に空気圧縮でプラズマを発生させ、空気を圧縮させる際の気流によりクレーの飛行可能空間を限定し分裂させたプラズマを当てて破壊するという術式だ。

一見すると中々良さげな術式なのだが、達也に言った通り使える人がいない。その原因は気流の操作と、クレー位置の把握に重要な空間認識能力を必要とする事にある。だが自分の担当しているメンバーの中にこの2つを同時に処理できる魔法師がいないのだ。

まさに宝の持ち腐れ。

 

「取り敢えず自分でもやってみっかな...」

 

そう言うと術式をインストールしたCADをラップトップに繋ぎ、VRメットを被る。

 

「...何をするんだ?」

「んー?仮想空間で実際に自分でやってみる。見る?」

「少し気になるな...見せて貰ってもいいか?」

「うい、これ被ってラップトップに繋いでくれ」

 

達也がメットを被ったのを確認すると、ラップトップにシミュレーションプログラムを走らせる。

すると目の前のスクリーンにプログラム起動画面が映る。そのままラップトップを操作すると、九校戦のスピードシューティングと同じ様な風景が浮かび上がった。

 

「おお、すごいな。どういう仕組みだ?」

「予め保存しておいた個人データと接続したCADから仮想空間上に魔法が使える空間を作ってある。あんまり使った事ないけど」

 

ラップトップに繋いだCADを持つと、仮想空間上の手も同じ様にCADを持った。

 

「よし、始めるぞ」

 

自動的にスタートする様にセッティングしたプログラムが動き、スピードシューティングがスタートする。

 

有効破壊領域は空間上に浮かぶ1000㎥の立方体、つまり縦横奥域10mの空間内部。その中心に気流を収束させプラズマを発生させる。

 

スピードシューティングが対戦になるのは決勝トーナメントに入ってからなので、予選では有効なはず。そう考えると、空間全体から中心に気流を収束させた。

するとクレーは気流に巻き込まれて自動的に中心のプラズマへと集まり、プラズマの持つエネルギーによって破壊される。

 

「...もうちょい遊べるかな?」

 

さらに気流の収束域を限定して一直線に繋げ、最終到達点を中心に設定する。すると空間全域が台風の目に向かう暴風の様に風が吹き荒れた。

さらにプラズマを分裂させ気流の中へ混ぜると気流全体が電流のブレードの様になり、クレーが砕かれていく。

 

「やりすぎじゃないか?」

「そうかね?」

 

既に点数自体が予選基準を遥かに上回っている。ここらで手打ちとするか...

 

「確かに使う人がいないのはよく分かった」

「やっぱり?」

「予選で使うには申し分ないんだが。本戦で使うとなると、な」

「やっぱり気流収束と空間把握能力かぁ...」

 

これ以上は自分も出来ないしなぁ、と思いつつメットを外す。流石にこれに気をとられ続ける訳にもいかない。CADの接続を解除し術式データを解体すると、CADのリソースにクリーンナップをかけて元の状態へと戻す。リソース内のデータが再度消去しきった事を確認すると保管されていたラックへ戻し、CADの保管庫の中へ入れて厳重にロックをかけた。

 

「そう言えば暁、あの術式をどうして作ろうと思ったんだ?」

「うーん...元は悪ノリで作ったんだよなぁ」

「悪ノリ?」

「なんか派手なの作れないかなー?ってね。んでそれを改造してみたんだ」

「それで改造の度が行き過ぎたって訳か」

「多分な。まさかここまで面倒なもんが出来るとは思ってなかったんだけどねぇ...」

 

元を辿ればこの術式、THIに行った時に犀川主任たち先端技術開発部の方々と悪ふざけで作った代物である。そのため術式そのもののポテンシャルは非常に高いのだが、それが原因で細かな制御が滅茶苦茶面倒なのだ。

 

「術式そのものはかなり洗練されていたな。使用するサイオンも必要最低限、しかもそれを有効活用している」

「やっぱり読み解けるやつは違うね。見る所が」

「財田、いるか?」

 

達也と談笑していると、服部先輩が室内へと入ってきた。服部先輩は自分の試験の実験台になってもらった上に、良い評価も出してくれたのというのもあったので、自分が競技用CADの調整を担当している。

 

「服部先輩?どうしました」

「実はクラウドボール用の術式のここなんだが...」

 

どうやら何らかの問題でもあったのだろうか?

 

「ここをもう少し負担を減らせれないか?」

「割いたリソースは十分だと思いますけど...」

「実は試合がフルセットになった時、最後の方がだれてしまうんだ」

「ちょっと見せてください」

 

服部先輩の腕からCADを剥ぎ取り、調整機器へ接続。手持ちのラップトップに状態を表示させる。

 

「...なるほど。ここか」

「どうしたんだ?」

「少し預からせてもらっても良いですか?」

「明日の練習までなら良いぞ」

「ありがとうございます。それまでに仕上げてくるので、服部先輩は終わった方がいいですよ。明日からが大変ですので」

「わかった」

 

服部先輩から預かった競技用CADを特殊素材(SCP-148)製のケースへ入れる。

 

「それじゃ、お預かりします」

「頼んだ」

 

服部先輩が部屋を出ていくと、自分も机の上に散らかした物を鞄へ戻す。

 

「もう帰るのか」

「今日ちょっと用事があってね」

「用事?」

「親戚の子がうちに来るから、そのお出迎えをしなきゃいけないんだ」

「そうか...そう言えば」

「ん?」

「お前に渡しておく物がある」

 

達也はそう言うと鞄からひとつの封筒を取り出した。

 

「なにこれ?」

「指導室に呼び出された後の事、覚えているか?」

「あー、そんなんあったねぇ」

「そんなんって...ともかくだ。ここでなく家で開封してくれ。確かに渡したぞ」

 

そう言うと達也は鞄を持って部屋を出ていった。

...この封筒、一体何なのだろうか。

 

 

—————————

 

 

結局、封筒の中身は分からずじまいだ。

中身は一体何なのだろうという疑問を抱きつつも、彼女達をお出迎えするために東京駅へとやって来た。

 

「...っと、どこだ?」

 

東京駅は昔から相変わらず広い上に複雑だ。世界線を超える前から何も変わらず、更にその複雑怪奇さは増したと思う。おかしいなぁ...既に100年近く経ってるはずなんだが。

そんな感想を抱きつつも、リニア新幹線の改札へと向かう。リニアの改札は構内で最も地下に位置しているため、非常に場所がわかりやすい。

 

「ハーイ!███!」

「お世話になります」

「よく来たね、シガーロス、███。」

「お久しぶりです、総隊長」

「久しぶりだな、bailouter(ベイルアウター)。護衛ご苦労様」

「いえ、仕事ですから」

 

改札から2人の少女と、その間に挟まれる形で1人の男が出てきた。【SCP-053】こと███に、【SCP-239】ことシガーロス=ステファンドッティル、そしてその護衛を務める【Ω-11(イジェクションシーツ)】部隊長のbailouterである。

 

「しかし良かったのですか?」

「なにがだ?」

「彼女達を東京まで連れてきて...」

「もしかすると、力を借りる事になるかもしれない。bailouter、【Ω-11】は動かせるか?」

「富士演習場には【Ω-7】が配置されると聞いていますが?」

「保険だ。今回ばかしは一筋縄じゃいけないらしい」

「...わかりました。すぐに手配します」

「悪いな。ボーナスはこちらで持つ」

 

唯一の問題である無頭竜の事と言い、FBIUIUが絡んできているのはどうにも納得し切れない自分がいる。

 

「███、アベルはー?」

「家にいるよ。それとここでは███じゃなくて暁って呼んでね?」

「わかった!」

「じゃあ、家に行こうか。bailouterも来てくれ。どうにも嫌な予感がする」

「それは我々に危害が加えられるとでも?」

「いや...そういう事じゃないんだが」

 

...この時はまだ、帰宅直後にとんでもない情報がもたらされる事により、嫌な予感を感じた事へ自分は気がつけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...そう、『組織には裏切り者が付き物だ』というセオリーからは、何人たりとも逃れる事は出来ない。



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制裁(相手は死ぬ予定)

お久しぶりです。

九校戦に入る前に力尽きかねない...いや、頑張らないと。


「アーベールー!」

「(´・ω・)ノヒサシブリ!」

 

3人を自宅へ連れてくると、アベルがお出迎えとして門の前まで来ていた。

 

「えっと...初めまして、アベルさん。シガーロス=ステファンドッティルって言います」

「( ´ ▽ ` )ノヨロシクネ」

 

███は出迎えたアベルに飛びつき、アベルは彼女を支えつつ初対面のシガーロスへ挨拶する。

 

「取り敢えず、中に入ろうか」

 

そう言うと4人を引き連れて、家の中へと入っていった。

 

 

—————————

 

 

「で、結局のところ?」

『無頭竜はどうやら大亜連合と繋がっているみたいですね。第一に九校戦への破壊工作はダミーで、入国するメンバー内に大亜連合の工作員を紛れ込ませるためかと思われます』

「...FBIUIUは明確な会議協定違反をやったな」

 

夜11時。

子供2人を寝かしつけて早2時間経った今、NHTICDの中嶋課長から精査した無頭竜とFBIUIUの情報が報告された。

もたらされたのは、FBIUIUの協定違反とFBIUIUとの繋がりを持つ無頭竜の大亜連合との癒着。協定違反も甚だしい。明白な裏切り行為だ。

 

そもそも【世界異常現象安全保障会議】には協定が存在している。

その主な内容は

1,四半期ごとの定例会議の開催

2,所属機関同士の正確な情報共有

3,有事の際の戦力共有

4,離反行為の禁止

5,公への情報公開の禁止

の5つ。

そのため今回の事例は、協定における2並びに4の内容に反するわけだ。

 

『如何されますか?』

「...どうもこうもない。知らなかっただけでは済まない話だからな。臨時会議を開く」

『今からで?』

「当たり前だろう。九校戦は1週間後に迫っている」

『...わかりました』

 

通信が終了しモニターが元の画面へと戻る。

 

「神州」

『連絡ですね?』

「特事課、THI、室戸研、NHTICD、THI、WWS、P部局だ。0時から始めると伝えてくれ」

『了解です』

 

 

————————

 

 

日付が変わると同時にモニターが起動し、7つの通信ウィンドウが開かれる。

7つのウィンドウは今回の臨時会議に参加する組織それぞれに対応しており、そこに映る面々には疲れた表情が見てとれた。特に日本勢には。

 

「さて、いきなりこの様な形で呼び出して済まない。神州から大方の内容は聞いているか?」

『FBIUIUがやらかした、ってのは聞いているわよ』

『その内容はまだ聞いていないがな...』

『ですが我々を呼び出した事は、とんでもない内容の様ですね』

 

神州はそれぞれに内容を伝えていないが、夜中に呼び出した時点でとんでもない要件だという事は理解しているらしい。

 

「その内容だが...」

『私から説明させて頂いてもよろしいでしょうか?』

「...頼むよ、中嶋課長。この事態で一番情報を持っているのはNHTICDだからな」

『ありがとうございます。では説明を...

先日、我々から皆様に送らせて頂いた報告書はご覧になれましたか?』

『ええ...確か中国のマフィアだか何だかが九校戦でギャンブルを仕掛けて、会場に何らかの工作をやってると』

『世も末だのぅ...学生の生業に首を突っ込むとは』

 

中嶋課長の問いに、WWSのタリスカ情報官とP部局のスメルノフ局長が回答を呟く。

 

『正確には香港の国際犯罪シンジケート、《無頭竜》ですが...』

『それで、FBIUIUはそのシンジケートと何の関係が?』

「それぞれのリーダーが旧友なのさ」

『『『『...ハイ?』』』』

「元々無頭竜は、中国方面における魔法の監視団体としてUIUも繋がりがあった」

『そしてリーダーが旧友という事もあり、双方で便宜を図っていたらしいです』

『...つまり中国方面の情報を流して貰う代わりに、軽度の犯罪行為を見逃していたと?』

「そこまではいい。それで連中がヘマをやらかしたとしても、こちらが先に手を動かして繋がりを切れば良いからな」

 

場が静まりかえる。

 

「...だが、今回ばかりはそうもいかない」

『まだ何かあるんですか?』

「その無頭竜が大亜連合と繋がりがある事が、今回のNHTICDの調査でわかった」

『『『『!?』』』』

「事の重大さがわかったか?」

『...ですがそれが今回のと何の関係が?』

『問題は無頭竜が破壊工作の裏側で、大亜連合が無頭竜メンバーに偽装して工作員を送りつけている事です』

『なるほどねぇ...』

『それをUIUは、こちらへ情報共有をしていなかった、か?』

「そういう事だ。いくら向こうから伝達されなかったとしても、普通に情報を集めていれば気づくはずだ。だがUIUの連中はそれを怠った」

『それも、オブジェクト対策の中心が置かれている日本への侵害ならなおさら、か...』

 

柳瀬川部長がそう呟いた。

 

『ともかく、FBIUIUへは制裁措置を取るのか?』

「そのつもりだ。それと大亜連合の工作員も相当数が九校戦を通じて潜り込んでいるから、それへの対抗策も取らなければならないな」

『まったく...あそこは余計な事しかしてくれないですね』

『で、措置の内容はどうします?』

「はっきり言ってしまうと、連中が持ってくる中国方面の情報が信用出来なくなった以上、利用価値はもうないから解体を行おうと思う」

『...それには問題があるかと』

「...言ってみろ」

 

そう提案すると、タリスカ情報官から疑問が呈された。

 

『1つ目、北米における対オブジェクトの活動が我々だけでは困難になるという事』

「予算と人員を送ってやれば解決か?」

『...極論ですがそれで大丈夫です。2つ目、UIUが国家機関である事。下手すれば、政府がもう一度UIUを作り直す可能性があります』

「あくまで我々の目的は今のUIUを消去する事だ。別段その後にUSNAが新生UIUを作ろうが、我々に関われなくすれば良い。元々は連中、オブジェクトなんて知らない無能の集まりだったからな」

『...3つ目、UIUの消滅からスターズが何らかの情報を掴みかねない事』

「UIUをまるっと消滅させた上で情報を残さない様にする。何ならセキュリティ破りの機動部隊(【Κ-10】【Μ-4】)を使って、証拠隠滅させよう」

『...わかりました』

 

示された3つの質問にそう答える。幾分か過激と思えるが、これくらいが丁度良いと思う。

 

「さて、問題はUIUと無頭竜をどう潰すかなんだが...」

『無頭竜が大亜連合と繋がっている以上、無頭竜が消えると大亜連合に気づかれると思いますが...』

「この時期に工作員を入れてくるなら、連中の目的は1週間後の九校戦、もしくは9月の横浜で行われる論文コンペだろう。別段気づかれても問題ない」

『実際に無頭竜が九校戦にけしかけた場合に動く、でいいのでは?』

『そうだな...どちらにせよ大亜連合の工作員は炙り出さなきゃならんだろうよ』

 

...情報対策なら機動部隊にも専門部隊が3つあるし、使うのもアリだな。

 

「無頭竜とUIUそれぞれの情報抜きに【Κ-10(スカイネット)】と【Μ-4(デバッカー)】を使うか。手っ取り早いし、スターズ対策にもなる」

『襲撃する順番は?』

「無頭竜が先だな...そうしたらUIUがウチに突っ込んで来るだろうから、そこに機動部隊を叩きこめばいい」

『移動手段はどうする?』

「朱か自分が【改変】で直接送りつけてやる。そうすれば楽だ」

『かなりシンプルだな...』

『ですが分かり易く、作戦立案も楽なので良いでしょうね』

「んじゃ、後の1週間で作戦を詰めよう」

 

そうして夜は更けて行く...




次から九校戦に入る予定。


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