「――
白い世界で
ここは何も無く、何も存在せず、何もいられない場所。彼女だけが立てる場所で、彼女のための世界。
まったく不思議なことだが、どうやら彼女はいつの間にかここにいたらしい。彼女曰く「私はきっと誰かの願いにより生まれたものなのだ」と少し胸を張って言っていたがそれは定かではない。私には確かめるすべも、確かめようとする気力もないからだ。あるがままを受け入れ続けて、彼女の腰に据えられる経緯は転生やら付喪神になっていたやらどっかの第六天魔王に魔力を注ぎ込まれたやらいろいろあるのだがそんなことはまた別の話。とにかく今は、つまらなそうな顔で、つまらないものを斬ったと言った彼女についてなのだ。
私は自分が生まれて何年経ったとか実は一日も経ってないとかどうでもいのだが、私にはいわゆる前世の記憶がある。え、転生やらの話はしないんじゃないかって? 別にいいじゃないか。ともかく、私には前世の記憶があって、それを自覚し、意志を持ったときから彼女は私を振るっていた。最初は何も考えずに私を振るう彼女に、地味に私は強いのだと自信があった私は鞘もぬけないように小細工をしていたが、無心で、一人で何かを斬り続ける彼女を見て「彼女なら別にいいや」って雑に鞘から剣を抜けるようにしてやったのだ。そのときは彼女もちょっと手こずるような奴らを相手していて、いきなり鞘から抜けた私を見て彼女はマフラーに隠れた唇をのぞかせながら驚いていた。特にそんな顔をさせる気なかった私だが、場の空気で気分のよくなった私は刀身を真っ赤に光らせて演出させてやったものだ。そこからの彼女はちょっと手こずっていたやつをばったばったと倒していき、刹那も経つと敵はすべていなくなっていた。当たり前だ。私なのだから。倒したあと、彼女は目じりを下げながら私を見ていた。濡れた血を吸うように赤く光る刀身を見て彼女は一言「かっこいい……」と言った。もう一度言おう、当たり前だ。私なのだから。
そこからの彼女はいつもよりテンションが上がっていた。作業化してつまらないつまらないと繰り返したひびに少し絵の具を与えられ、私を握りしめて嬉々と斬っていく。その喜びようからたまに粛清中を誰かに見られそうになったのだが、そこはわざわざ彼女にはできない幻術をあたりにかけて誤魔化した。そんなこんなで転機を一つ迎えた私と彼女だが、もう一つ。後にも先にもこれを超えるもんねぇぞといった転機が私たちに訪れたのだ。
名前を、藤丸立夏といった。
彼女は人理保障機関カルデアのマスターらしく、ずいぶん胡散臭い新興宗教系の人間かと思ったがどうやらそういったものではなかった。本当に人理――人間の存続を守り続け、どうやら二、三年前にすでに一度滅びかけた人類を救っていたらしい。彼女は「私たちと似ているな。でもいっぱいいて楽しそうだ」と羨ましそうに眺めていた。私もそんな彼女を眺めることしかできなかった。で、藤丸立夏とあってからはあれよあれよと目まぐるしく日々が待っていた。まあ、守護者であった彼女からすればいつものことなのだが。極東の超抜級魔術炉心聖杯とかいうのが悪しき手に当たって時代そのものが改変されそうな自体に。黒幕は結局時代とかには興味なく、自分が理想とした人物に成り代わりたいとかいうとんでもない我欲で事を起こしていた。まったく迷惑な奴である。もちろん、こんなことがあれば当然彼女も動く。彼女と同じような、過去の偉人を斬って斬って斬って斬って斬って斬った。戦いはきっと今までにない激戦だった。私も刃毀れするくらいに。ちなみにそのときの傷はもうすでに自己修復済みである。綺麗好きなので。いつも通りそのときもうまく解決できて、あとはその聖杯とやらを藤丸立夏に渡すだけだった。渡して、いつも通りの世界に戻る。あの――白い世界に。そう思ったとき、彼女は口にしてしまった。
「消えたくない」
まだ、いたい。
まだ、一緒にいたい。
初めて彼女の本心を聞いた思いだった。
お互いにお互いが冗談や意味の分からない会話をする仲だったが、初めて彼女の瞳を見た。ひどく寂しやがり屋の目だった。まるで子犬である。私は彼女の瞳を見て言ってしまった。別にいいんじゃないか、と。その願いを、聖杯は叶えてしまった。誰かの願いから生まれた彼女は、ようやく彼女の願いから生まれた新しい彼女に解放されたのだ。私を握り続ける
「そのときはお前も一緒だろう?」
優しいその問いに私は曖昧な言葉を返した。煮え切らない私の態度に彼女はどうしたんだと聞いてきたが、前世の記憶もあった私は彼女に藤丸立夏の時代で私を持っていたら捕まるから出かける時くらいは置いていけと教えてあげた。驚いた様子の彼女だったが、それなら仕方ないかと言って帰ってきたらたくさん話を聞かせてやると言ってくれた。私は楽しみだと答えてあげた。
白い世界で、私たちは藤丸立夏を待っていた。長い時間は待っていない。むしろ、早かっただろう。守護者ではなくなった彼女にこの世界はもうふさわしくない。
彼女の身体が光りに包まれた。藤丸立夏が約束通り召喚に成功したのだろう。どこにいるのかも教えてないのにピンポイントで呼ぶなんて一体何者だ。わくわくする彼女の腰で私は彼女を眺めていた。すると突然彼女は私に「ありがとう」と言った。「私と戦ってくれてありがとう。私と一緒にいてくれてありがとう。これからも、よろしく」と。それに私はらしくないな、とからからと笑ってやった。
彼女の身体が目を瞑りたくなるほど輝いたあと、私はまだ白い空間にいた――いや、もう白い空間ではない。四角い箱のような世界は天井や壁が大きく開かれ、青い空が広がっている。白い雲は雄大な景色を作り出し、前世の記憶を持った私でもそれは見たことが無いほどだった。
彼女は「誰かの願いによって作り出された存在」であった。一度だけ、彼女は一度だけ「魔
彼女は、どう思っているだろうか。今は青空の世界が広がっているこの世界でしょーもないことを駄弁り続けた彼女は。正直に言えばいいんじゃないかって? そんなことできるわけないじゃないか。無駄に前世なんて知識のある私は彼女に、少女に生きていてほしかったのだ。なにも知らない、何もない空間で、何も考えずに私を振り続けた彼女。最後の最後にちょっとしたサービスなのだ。私の。
まったく。柄にもないことをしたような気がする。柄だけに、柄はあるんだけど。
『今は遥か刻の彼方
神と魔と人の祈りが紡ぎし光の欠片
無穿の大地にそれは立つ』
ま、私は彼女が幸せに生きてくれてれば良いのさ。私はただ、この青空の世界で彼女を思い出し続けるだけなのだから。あーあ。
・剣
中に前世の記憶持ちの誰かが入っている。特に話に関係することじゃない。描いて行くうちにこうした方が進めやすい、また剣の中身の状態がないことから加えられた設定。
彼女を覚え、思い出し続けるために無穿で立っている。なお、彼女は外側の「剣」は持っているが、「中身」は無穿にいるので会話できなくなった。
・彼女
沖田総司の姉?から生まれた存在らしい。
ストーリーの乖離は多いが許してください。
・その他
うさ耳終わってないだろ、なにしてんだぁ〜テメェ〜!(玉蹴り上げ青年
すいません許してください、なんでもしますから。
もしかしたら次は沖田さんのかぐや様パロ短編書くかも。
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