闇が消えて、眩しい場所が見える (コッコ@真っ姫患者)
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闇が消えて、眩しい場所が見える
また、この作品が初投稿となるため拙い点は多々あるかと思われます。
一応、主人公は男性とも女性とも取れるような台詞としておりますが、私の拙い語彙では男性寄りの視点になってしまっています。その点も踏まえて読んでいただけると幸いです。
この作品を読んで頂く方の中の「真姫ちゃん像」と私の中の「真姫ちゃん像」に違いはあるかも知れませんが(と言うよりも同じ方はいないだろうと思っております)その点もご了承ください。
「あっ、これ多分ヤバいやつだな。」と感じたら早めに出た方が良いのかも……知れません。
まだ桜は咲いていないが、確実に春が近寄ってきている、三月の初旬を少し過ぎた頃。
受験には尽く敗れ、残すは国公立後期の試験のみとなっていた。
ここで落ちれば浪人生となる。親にも経済的な負担をこれ以上かけたくないので、極力浪人にはならないつもりでいる。
第一志望の大学に落ちていたのはさしてショックにならなかった(というよりは、ショックを受けていないと自分で自分を誤魔化していただけなのかも知れない)が、流石に今まで落ちてきた数を振り返ると積もりに積もったものはある。
人通りの多い通りから1本脇道へと入って、少し歩くと小さな公園がある。
普段ならこの道を通ることは無いが、今日はこの道に引き寄せられた。
一番最後に来たのはいつ頃だろうか。恐らく……予備校の夏期講習の帰りに寄った時だろう。少なくとも半年は経過しているはずだ。
「どうする?何か飲む?」
「そうね……缶のトマトジュースで良いかしら。」
「わかった。……ん」
「ありがと。」
公園の入口にある車止めに二人揃って寄りかかる。
「それで……今のところは私大も全部ダメで、残りは後期だけなのよね?」
「そうなんだよね……。センターリサーチでもA判定は出ていたし流石に1つは受かっていると思ったんだけどね。まさかここまで追い詰められるとは思ってもなかったよ……。」
「文科省が入学者数の厳格化を図った影響……なのかしらね。」
「例年通りなら受かってたのかな……。今さら気にしても意味は無いんだけどね。」
「まっ、私は進学先が決まってるから気が楽だけど、あなたは残り数日が1番大変な時ね。
ふぅ、ご馳走様。近くにゴミ箱は…あったわ。」
「ここで巻き返せないと……だからね。取り敢えず頑張るよ。」
「あら、結局缶とペットボトルの分別が意味無いタイプのゴミ箱ね……。しっかりやんなさいよ?
………………今なら、私がちょっとだけ……元気分けてあげても良い…わよ。」
「……ありがと……それじゃあ、ちょこっとだけお言葉に甘えさせてもらうね……。」
と言うと、車止めに寄りかかろうとせず、目の前まで歩いてきた。
「あの…………元気分けてくれるってど
最後まで言おうとしたが、言い切れなかった。
「えっと……その…………真姫…サン?」
いきなり抱き締められて、言葉は全て吹き飛んでしまった。
いつもよりも近くから声が聞こえる。普段は聞こえもしない息遣いまでもが意識される。
「言ったじゃない。……元気、分けてあげるって。」
今まで、全てを溜めていた堰が壊れた。
涙を流すまいとはしていたが、心の奥底では不安を打ち消して欲しかった。認めて欲しかった。
──安心で満たされたかった。
そんな、醜くも切実な願いが溢れ出してきた。
もしかしたら、その願いが叶うとしたら今この時しか無いのかも知れない。
そんな風に思っていた。
「……ありがとう……ありがとう…………大好き……大好き…だよ……」
「ちょっとねぇ、大好きって言ってくれるのは嬉しいけど……どうして、そんなに縋るような"大好き"なのよ……ポジティブな言葉なんだから、もうちょっとポジティブな感じで言いなさいよ。」
「……ごめん……今まで溜まってたものが全部……自分でも良く分からなくて……」
「まだ、何もかもが終わった訳じゃ無いのよ?それならこんな所でクヨクヨしている暇は無いわよ。」
「そう……なんだけど、ここまで来ると、本当に自分なんかが受かれるのか……それこそ、この先どうなるのかも不安になって……」
何もかも抑えられなかった。
嗚咽も、不安も、自己卑下心も、何もかもを抑えられなかった。
「ほら、泣かないの……もう、仕方ないわね。」
一瞬、息が出来なくなった。
何をされているのか気付き頭を動かそうとしたが、後ろに手が添えられていてそれは敵わなかった。
それでも、今までの不安や自己卑下心が暖かさに溶けていくような感じがして、気が付けば身を委ねていた。
その後、どれくらいの時間が過ぎただろうか。
一瞬の夢幻であったような気もするが、永い間こうしていたような気もする。
「……で、どうだったの?」
「どうだったの?って……その…………幸せすぎて頭が真っ白で……」
「ほら、あなたの悩みなんてこのくらいで吹き飛ぶようなちっぽけな悩みなのよ。
……そっ…それに!私がここまで元気分けてあげたんだから受かってきなさいよ!」
途中から、ついさっきまで自分が何をしていたのかを意識し始めて、少し恥ずかしがる姿がとても愛おしい。
言われた通り、本当は私の悩みなんて小さなものだったのかも知れない。そこに、不安や色んなものが混ざりこんで大きな虚像を作り上げていただけなのかもしれない。
そんな風に考えると、気持ちは軽くなった。
まだ涙は乾き切っていないが、前を向いた。
「ありがとね。お陰で頑張れそう。……大好き…だよ。」
「ふふっ♪ ちゃ~んと、ポジティブな感じで言えたわね。」
「うん。何か、今まであった闇が消えた気分だよ。」
「それなら良かったわ。……でっ、でも、今日のことは受験が終わったらすぐに忘れること!良いわね!」
いつもはツンデレな一面を見せてくれているが、本当にどうしようも無くなった時に見せてくれる優しい一面。
出来れば、その優しい一面は出来るだけ見ないで済むに越したことは無いのかも知れない。
何はともあれ、通常運転に戻ったということは、私はどうしようもない状態を抜け出せたということなのだろう。
その後は他愛もない話をしながら駅まで向かい、そこで別れた。
振り返ってみると、私は常に与えられる側の人間だった。
いや、ここで過去形を使うのは少し違うかもしれない。今でもまだ与えられる立場に甘んじているのだから。
もしかしたら、自分は無力で愚かで何も出来やしない。そんな考え方に毒されていたのかもしれない。
そんな自分が何かをして喜ばせてあげることが出来るのか、楽しくさせてあげることが出来るのか、何かから守ってあげることが出来るのかと。
しかし、今でもこうして元気を貰って生きている。それこそ、今後も何かある度に頼りたくなるかも知れない。癒されたいと願うかもしれない。時には赦されたいとすら思うかもしれない。
ならば、何か……ほんの少しでも良いから恩を返したい。
心の闇が消えて、少し考え方が変わった。
確かに私は無力で愚かかもしれない。それでも出来ることはまだある。
それを、恩を返すために使って生きていこうと思った。
今までは、受験勉強が楽しい……と、科目によってはそう思ってすらいた。
もしかしたらそれは、受験のプレッシャーから逃げるために自分を欺いていただけなのかも知れない。
でも、今は無性に勉強をしたくなっていた。
恩を返す最初の一歩を、合格の二文字で飾るために。
そんな事を考えながら、帰宅の途に就いた。
3/15現在、私は後期試験を終えて結果発表を待っている身です。
合否の結果が出てから、少し最後の部分に加筆する予定であります。
追記(3/27)
受験の結果を真姫ちゃんに報告したりしている後日談を投稿しました。是非、そちらの方も読んで頂けると幸いです。
最後に、私の小説をここまで読んで頂き誠にありがとうございました。
以上を持ちまして、後書きを締めくくらさせて頂きます。
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闇が消えて、眩しい場所が見える 〜後日談〜
私大入試は全て落ち国公立前期も落ちて、最後の最後に残った国公立後期試験の当日朝から、真姫ちゃんに合否を伝えた少し後までを書いております。
入試の結果は作者の現実に合わせておりますが、真姫ちゃんとの会話等は相も変わらず私の妄想の産物なのであまり期待はしないで読んで頂けると幸いです。
ピロンッ!
まだ朝の5時だと言うのに携帯の通知音が鳴った。
誰にも朝起こして欲しいと頼んだ覚えは無い。
既に起きていたので、特に操作にまごつくことも無くメッセージを開く。
「最後の試験、頑張るのよ!」
真姫ちゃんから、応援のメッセージだ。
わざわざ朝の5時に起きてまでメッセージを送ってくれたと考えると、羽が生えたような気分になった。
「ありがとう、行ってくるね。」
「ふふっおんぷ行ってらっしゃい」
きっと、「ふふっ♪ と打ちたかったのだろう。
寝惚けた眼で画面と向き合っている姿を想うと羽まみれになった気分になる。
おっと、これ以上は鼓動が危険に高まりそうだから止めておこう……
途中からは満員電車になり、行きだけで精神を削られた気がする。
それでもやらねばならない。
「試験始め。」
自分の集大成をぶつける時が来た。
既に自分の中のモヤモヤは消えて澄んでいる。
一切の雑念無く向き合えたような気がする。
学校や予備校に出向いて合否を報告し、祖父母等への電話での報告を終えた頃には日が沈んでいた。
結果は直接会って伝えたいという希望を聞き入れてくれて、駅で待ち合わせをしている。
「あら、その顔だと……駄目だったみたいね。そうね、来年に向けて頑張りなさいよ?」
「ここまで落としたんだから受かってないとって思ったんだよね……と言うことで、受かってました!」
今までわざと作っていた暗い顔を嘘のように笑顔に切り替えた。Vサインのオマケ付きで。
「ヴェッ?!ナニソレイミワカンナイ!!そんなイタズラをするような人の事なんて祝ってあげないわよ!」
「あぁっ、そっ、それだけはどうかご勘弁を〜……」
「……トマトの缶ジュース1本で良いわ。」
トマトの缶ジュースを買う為に、またあの公園に来た。
あの時と同じように車止めに寄りかかる。
「ひとまず、合格おめでとう。」
「ありがとね……その、元気分けたりしてくれて。」
「あっ、アレは受験が終わったら忘れなさいって言ったでしょ!早く忘れなさいよ!」
「ごめんごめん、でも改めてお礼は言っておきたくてね。あれが無かったら、最後の数日間を無為に過ごしていたかも知れなかったからね。」
「……なっ、なら!今お礼はちゃんと言ってもらったから速やかに忘れるように!良いわね!」
「……善処します。」
「『善処します』じゃないわよ!『はい』しか認めないわ!」
「は〜い……」
「何か締まらないわね……」
締まらなくとも、こんな感じの日常がずっと、ずっと続いてくれれば良いのに、と願った。
「それで……またどうしようも無くなったらちゃんと言うのよ?その時はまた元気分けてあげるから。」
「えっ……」
「……背中を、思いっっっ切り叩いてあげるわ。」
「それ、かなり痛そうだから少しは手加減してよね?」
「あら?どうしようかしら。」
あの時と同じように他愛も無い会話をしながら公園を後にした。ただ、今日は一人暮らしを始めることだったりと先の事について話すのが多かったように感じた。あの時とは違って、目の前にはしっかりと道が広がっている。
「それじゃあ、この辺で。」
「そうね、それじゃあ
トン、トンと背中を軽く叩かれた。
新生活の準備、しっかりやるのよ?」
今度は新生活への小さな不安を見抜かれていたようだ。
もしかしたら、本当は私の心を余す所なく見通しているのかも知れないと思ってしまった。
この場をお借りして受験結果の報告もさせて頂きました。
2019年春から大学生になれます。一安心です。
受験期間中、あるいは受験が終わり国公立後期の合否を待っている間と真姫ちゃんには精神的な面で支えられ続けて来ました。感謝の念しかありません。
以上を持ちまして、「闇が消えて、眩しい場所が見える」完結とさせて頂きます。
続きは、恐らく無いです。
仮に続きとなるような作品を出す際は別のタイトルにして出すつもりです。
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