最弱少女のハンター生活 (3DS大将)
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一話 厳しい現実

元温泉料理人のゆっくり実況の小説です。

物語としてはアンゼリカさんがアマツマガツチを倒して
村に戻らなかったパラレルワールドという話です。




伝説のハンター、アンゼリカーーー

 

この名前を知らない人はこの世界にはいないと言ってもいい。何故ならこの人は世界を救ったからだ。多くのハンターが挑む事すらできなかったあの嵐龍アマツマガツチの暴走を止め、世界に平穏をもたらした伝説のハンター。姿や性別、居場所は一切不明だけど、世界中の人々がアンゼリカというハンターに救われた事実は、ギルドや国の機関からもそういった声明が出されており、世界の英雄って呼ばれても

過言ではないだろう。

 

でも本人はアマツマガツチを討伐した際に行方不明になってしまったらしく、ギルドが全力を尽くして捜索にあたっている。なぜアマツマガツチを討伐した日にいきなりいなくなってしまったのは誰にも分からない。そりゃあそうだろう、ギルドが全力で探しているのにアンゼリカさんの足取りが一切掴めてない。しかも足跡も見つける事も出来なかったようだ。英雄的な活躍をしたのに、世界から姿を消した事からアンゼリカさんを天から送られた戦女神と呼ぶ人も現れた。現にアンゼリカ教というアンゼリカさんを崇める勢力も出てきた。

 

世界からいなくなってもアンゼリカさんの影響力は凄まじい。

 

私が生きてる今でもアンゼリカさんは世界の記憶に残っている。でもアンゼリカさんが活躍していた時代と違う所もある。それは…

 

 

「おらぁ!なにモタモタしたんだ!クソガキ!ボーッとしてんなら報酬金は0だぞ!」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

治安の維持ができなくなった所だ。

 

私の名前はアルト。今年で11歳になるかな?最近は忙しくて自分の誕生日も忘れてきた。私は今、クエストを受注中だ。比較的安全なクエストをね、でもそのかわり重労働だし、報酬金も討伐クエストと比べるとかなり安い。

 

私の受けてるクエストは鉱山で取れた鉱石を村に運ぶ運搬クエだ。

 

簡単そうに見えるだろう。実際簡単だ。・・・普通のハンターさんなら・・・

 

「はぁはぁ…あっ!」

 

「あ!てめぇ!何大事な鉱石を落としてんだ!」

 

10歳の少女に8kgの鉱石は少し重すぎる。 ましてやこの鉱石を12km先の村に運ぶなんて辛すぎる

 

「この役立たずが!」

 

依頼人はアルトの顔を思っきり蹴り、追い討ちをかけるように

腹を蹴った。

 

「ぐはぁ!………い、痛いよぉ…」

 

いけない!思わずちょっと涙が…

 

「さっさと鉱石を持て!出発するぞ!」

 

ふぅ…実は殴られたり蹴られたりされるのはまだ優しい方だ。少しでも泣いた所を見られたり愚痴をこぼしてしまったら報酬金を0にされてしまうからだ。

 

「あ、待ってください!」

 

これが私の毎日。仕事は重労働。正直こんな生活やめたい、でもこの生活をやめるためにはお金がどうしても必要だ…ユクモ村に行くために

 

私はユクモ村に行く希望でなんとか重労働のクエストを受けている。他のハンターから見れば安全なクエストばかり選ぶチキン野郎と見られているが、実際の所本当だから言い返す気はない。今の私はジャギイにも勝てない。

 

そして身を削ってやっと目的の村に到着した。

 

 

「はぁはぁ…やっと……着いた…」

 

ここで尻餅をついてはいけない。鉱石を地面に落としたら報酬金が0にされてしまう。

 

「お、ご苦労ご苦労、ほら約束の2000zだ」

 

「え?」

 

「あ?なんか文句あるのか?」

 

「いえ、契約内容は6000zとなっていましたけど…」

 

「は?お前あんな働きで6000もらえると思ってんのか?何?まだ2000もらえるだけでいいと思うけど?」

 

この男、クエストの減額をする気だ

 

「し、しかし…報酬金の減額は法で禁止されていて…」

 

「うるせぇぇぇぇぇよ!!!!!!」

 

男は大きな怒声を上げ、アルトを殴り飛ばした。

そして倒れたアルトの体に馬乗りになり、何発も何発も殴り

ながら責め続ける

 

「てめぇみたいな役立たずに報酬金のどうのこうのケチつけるんじゃねぇよ!…俺はまだ優しい方だぜ?本当なら0zにする所を2000も払ってあげるなんて優しいだろ?」

 

「・・・・」

 

「優しいよなぁぁぁ!!!おい!!!!」

 

男はアルトの耳を握り締め、耳元で大きな声でアルトを責める

 

「や、優しいです…報酬金、ありがとうございます…」

 

「けっ!」

 

ーーもうこんなやり取りはもう慣れた。私が少女という見た目でこんな報酬金の減額なんていつもの事だ。

 

…アンゼリカさんがアマツマガツチを討伐した後、

確かに世界に平穏は訪れた。と同時に新たな問題も出てきた。

 

それはアマツマガツチが死んだことにより多くのモンスターが解放されたことが原因だ。事件解決後、突如モンスターの数が急激に増えたのだ。大型、小型にもかかわらず全てのモンスターの数が10倍近く増えたのだ。この事により、ハンターの需要はもちろん上がった。モンスターが増えれば多くの問題も出てくるし、クエスト依頼も溢れるほどくる。

 

ハンターにとってはいい事づくめだろう。

 

今は正真正銘、ハンターの時代だ。ぶっちゃけ商売するより、10年体鍛えてハンターに転職した方が儲かる。

 

アンゼリカさんの活躍はハンターに大きな利益をもたらし、依頼がこなかったハンターを一切に救った。

 

ハンターの職は不滅だ、モンスターの数は増えていっているし、ハンターの需要もぐんぐん上がり続けている。

 

でも私みたいなハンターもどきは大して影響はないけど。

 

 

 

「はぁただいまぁ…」

 

私は孤児院に住んでる。両親はハンターでそれなりに強かったらしい。でもジンオウガの狩猟で命を落としてしまった。詳しくはわからない。ただわかることは両親はジンオウガに殺された事だけだ。

両親がいなくなるとすぐに私は孤児院に収容された。

 

「…誰もいないか…」

 

薄暗い部屋の中で1人寂しくベッドに潜る。また明日クエストに行かないといけないから。

 

 

孤児院は私と同じような子はたくさんいる。でも大半は0歳か1歳の赤ちゃんだ。10歳はもう私だけ。孤児院の人も私より赤ちゃんの育児に手一杯で、私はもういないも同然だ。ご飯も与えられなくなったし。

顔を合わせても私を無視する。

 

私がハンター生活を送っている事も知ってる。でも辞めさせようとはしてこない。私に興味がないとかじゃない、ただ1日でも早く死んでもらいたいんだと思う。私が死んだら一部屋空くから…

 

 

孤児院は…私の家じゃない

 

1日でも早くユクモ村に行って、アイルー達と農業をやりたい。心が安らぐ所が欲しい、こんな怖い都会に居たくない。

 

大人達はどうして私に厳しいんだろ

 

まだ私が10歳だから?戦う力がないから?

 

 

大人なんて、ハンターなんて死ねばいいのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アマヅチカヅチの別名完全に間違ってました。マジですいませんでした…


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二話 味方でいてくれる人

アルトはパジックという国に住んでいて、ユクモ村はさほど遠くありませんが昔と違い、一般人は地方行き来に制限がかかっていて、十分なお金を払わないと国を出ることすら許されない背景があります。


「ん、うーん…あっもう朝か」

 

疲れていたせいか、昨日はぐっすり眠れたけど、あんまり疲れは取れてない。疲れているより痛みに近い。

 

重労働だったせいもあるけど、重いものをずっと持ってたり、殴られたり蹴られたりで筋肉痛と怪我が結構痛い

この身体じゃあ、採取クエストもこなせないや

 

「今日は休むか…」

 

その方がいい。無理に動くとかえって治りを遅くしちゃう

でも今日休むとなると、明日は数倍働かないといけないな。昨日の

2000zは食事代と治療代で半分ほど使っちゃうから……全然貯金

できないじゃん!!

 

これじゃダメだ、このペースだと成人するまでに十分なお金がたまらない。

討伐クエストに挑んだ方がいいかな?

 

 

やめとこ、私の実力じゃあ小型モンスターに食べられて死ぬだけだ。

でも報酬金は狩猟の方がはるかに高いし、成人する前に十分なお金が溜まる。…結構悩むなぁ

 

「いらっしゃいませ、どうぞお入り下さい」

 

…ん?なんか聞こえる。せっかくの休みなのに孤児院の連中の

声なんか聞きたくないんだけど

 

アルトの部屋の下は孤児院の客室であるため、孤児院の人とその客人の会話は嫌でも聞こえてくる、この孤児院は昔からあるため壁は

空気を普通に通すため、階は違くても声は筒抜けだった。

 

 

「では、話の通りこの子達でよろしいのですね?」

 

「あぁ、頼む」

 

この話の内容からどうやら子供の受け取り先が決まったな、これで新しい家族に引き取られ、幸せな人生を送るだろう…とはこの孤児院ではそう限らない。私より赤ちゃんの方が希望はあるが、それは引き取られる確率の方だ。実際、この赤ちゃん達より私の方がかなり恵まれてる

 

「他に男の子は?」

 

「あいにくの所、もう他の人から予約済みでして」

 

この男の声、間違いない…ハンター国家訓練施設長だ。

 

前にアルトは狩猟クエストに受けるための訓練を受けたいと、今来ているハンター国家訓練施設長に願い申し上げたが、もう10歳という事もあり門前払いされた

 

ハンター国家訓練施設、私はあの時はこの施設事を詳しく知らないで

いたけど、今思えばあんな所で訓練受けなくて良かったと思う

 

あそこに引き受けられたら最後、子供達は成人するまで戦いしか

教わらない…ひたすら厳しく訓練されその中からエリートハンターを

育成するための狂った教育機関だ。

 

ハンターは強ければ強いほど評価される。それは昔と変わらない。でも昔と大きく変わったのが報酬だ。モンスターが日々問題を起こす世の中で強いハンターは誰もが欲しがる人材だ。昔と今じゃ報酬金は

格段に違う、エリートハンター達の中でも随一の強さを誇る筆頭ハンター達は国家予算並みの財産を持ってるし、上位のハンターは国家予算ほど持っていないが、富豪と呼べるほどお金持ちだ。

 

つまり人格を問わず強さだけで評価され、大金をもらえるというわけだ。

 

私はこんなハンター業界は好きじゃない

 

けど強いハンターさん達が暴れるモンスターを退治して人々を助けてるのは紛れも無い事実だ

 

どんな形であれ多くの人のために動いているし、モンスターに殺される人も年々減ってる

 

でも私が本当に許せないのは今の政治家達だアンゼリカさんがアマヅチカヅチを倒してからハンターの報酬金が国を揺るがすお金にまで値することを知ると、報酬金を抑えるのではなく、ハンター業界をビジネス化していった。

 

ハンターを使ってお金稼ぎを始めたのはパジックという国だ

 

パジックはハンターを使った金稼ぎが国に大きな利益を出す事をいち早く気づいた。パジックはハンター達を各国に送り、利益拡大を目指した。この政策は国に大きな利益をもたらし、大国に匹敵するほどの経済力をつけた。

 

しかしパジックは満足することなく利益を求め続けた。

利益を上げるためパジックは強いハンターを増やしたいと考え、そこで思いついたのがハンター国家訓練施設だ

 

ハンター国家訓練施設は昔からあった施設だが、当時の人達はこの施設はハンター業界に必要のないものとして封印していた。

 

しかし今の人達は利益を欲しがるあまり、なんの躊躇もなくハンター訓練施設を作り直した。

 

ハンター訓練施設は元々は初心者ハンターを育成するために作った施設だったらしい。でもその施設は他の組織がすでにやっていた事と同じだった為、解体したらしいが今のハンター訓練施設はただ強いハンターを生み出す機関になってしまっている。当時の使い方より飛躍しすぎてしまっている。

 

だが、この施設生まれのハンターは普通のハンターとは別格の強さを誇る

 

しかしそのかわり強さに必要ない感情は闘争心を除いて失われる。

今の施設は最新鋭の技術を使われ、人間の感情をコントロールできる程にまで進化をしてしまっている。施設の訓練を受けたハンターはひたすら国のために戦い続ける。自由を奪われ感情を失い、戦いこそ生きがいとなったハンターはもう国の人間兵器だ。

 

こんな事……こんなこと人間がしていいことじゃないのに…結果は出てしまっている。

 

この施設によりパジックは世界一の経済大国になった。

 

そして他の国はパジックの経済力に勝つためハンター訓練施設を増やし、利益拡大を目指して子供達をハンターにしている。

 

今の人達はどうかしている。利益のためなら人間を使い潰す事も構わないほど人情がない。人情があるのならあんな施設がこの世に存在してるわけがない

 

政治家達なんか集まったお金を貧困層に渡した事なんて一回もない。

もしも貧困層に渡していたら反ギルド軍なんてできていなかったろうに…

 

こんな現状、アンゼリカさんは望んでいただろうか…

 

アンゼリカさんが救った未来を今の人達は自分達で敵を増やしてる。まさかモンスターとじゃなくて、人間同士で殺し合う時代がきてるなんてアンゼリカさんは思ってもいなかっただろう

 

…私は人間兵器じゃない、弱いけど、弱いけど人の心を持ってる。

心のない人間はモンスターと同じだ。

 

私はモンスターじゃない。

 

 

「あ、いけない…」

 

そうだった、休んでる場合じゃないや、クエストの予約しとかないと。

 

アルトは疲れた身体を無理矢理起こし、孤児院を抜け出してクエストボードに向かった。孤児院からクエストボードは結構近い。歩いて2分ぐらいの近さのため疲れている身体でも問題ない距離だ

 

「何かいいクエストは……あ、採取クエストあるじゃん」

 

アルトはハンターだが、狩猟は危なくてやったことがない。採取クエストや運搬クエストしかやらない、ていうよりやれない。しかし他のハンターはアルトをチキン野郎とバカにして、見下しているためか、アルト以外のハンターはあまり狩猟以外のクエストは選ばないため、アルトはクエストに困ったことがない。人との競争が苦手なアルトにとっては都合が良かった

 

「あの、この依頼引き受けたいんですけど…」

 

アルトはクエストカウンターにいる看板娘の人に依頼者を渡そうと

した。

 

「はーい!クエストの依頼ですね!……ってアルトさん!」

 

看板娘の人はカウンターから飛び出してアルトの近くに急いで駆けつけてきた

 

「昨日のクエストで怪我をしたんですよね!?大丈夫ですか!?手当してないじゃないですか!!い、今すぐ薬をお持ちしますから少し待って下さい」

 

この人は他のハンター達と違い、私の事をチキンと呼ばないし、見下したりしない、むしろ私の味方でいてくれる優しい人だ。

 

「あ、待ってそれよりもこの依頼を受けたいんだけど…」

 

「え?クエストの依頼を?そんな身体で…ダメです。そんな身体で行くとアルトさんの身が持ちません」

 

そう言うと看板娘の人はアルトの依頼書を返却し、後ろの戸棚にある

救急箱を取り出した

 

「あ、あの違うの…今日はただクエストの予約をしにきただけで今日クエストはやるつもりはないの」

 

「……予約するだけですよ?」

 

「うん」

 

「今日は身体を休めてくれますか?」

 

「言う通りにする」

 

アルトがそう返事すると看板娘は優しい笑顔をして、アルトの頭を撫でた

 

「アルトさん、怪我を治すのでこっちにきて下さい」

 

看板娘はアルトの手を優しく握り、別室に連れていった

 

「まったく…怪我をしてるのに治療しないでいるなんて、怪我の悪化を招きますよ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

看板娘の人は元々ユクモ村でクエストカウンターの受付をしていたらしく、ユクモ村の事は詳しい

 

「そんなに大した傷ではないですね、でもほっぺはなんでこんな

腫れてるんですか?」

 

「そ、それは…ちょっと、クエスト中にミスを…」

 

「…殴られたんですか?」

 

「・・・・」

 

「・・言いたくないならいいです。薬つけるので、顔をこっちに」

 

私がユクモ村の事を聞いたのがきっかけで、仲良くなっていっぱいユクモ村の事を聞かしてくれた。

 

「っ!いた!」

 

「我慢してください、ちゃんと塗らないと治りませんよ?」

 

ユクモ村だけじゃなく、このパジックについてもいっぱい聞かしてくれたおかげで、私はこの国の事を知ることができた

 

「次は腕です、包帯巻くのでじっとしてて下さいね?」

 

「擦り傷だから、やらなくても…」

 

「ダメです、どんな傷でも放っとくのは身体のためになりません」

 

「は、はーい」

 

この看板娘の人はすごい人だ。あのアンゼリカさんと顔見知りで、アンゼリカさんの手助けをした人でもある

 

英雄と面識があるってカッコイイよね

 

「…終わりました、後は身体を安静にして今日は休んで下さい…そして、ちゃんと怪我の治療はすること!いいですね?」

 

「は、はい…」

 

看板娘はアルトの治療が終わると念を押すように厳しめな声でアルトに言い聞かせた

 

「・・・明日の採取クエスト頑張ってくださいね」

 

「うん…頑張ります」

 

この人だけなんだよな…私に優しくしてくれるのは

 

 

 

 

 

 

 



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三話 採取クエストも楽じゃない

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

私はアルト。10歳ながらにしてハンター生活を送っている何もかもが新米ハンターの少女。

 

「この……クエスト……」

 

現在私はクエストの中でも簡単な部類に入る採取クエストを受注中だ。

 

「辛すぎる………」

 

そう、マジで辛い。おとといの鉱石運搬クエストよりは楽な方だが、こっちのクエストは重労働ではないけど精神的にやられるクエストだ

 

「アオキノコ120個って集まりっこないよぉ……」

 

あの時の私は肉体労働に疲れすぎていたのかまともな思考ができなかったようだ。重労働のクエストから逃げたいがためにクエスト内容も見ずに採取クエストを選んでしまった。

 

過ちの例をあげるとしたら腹筋が苦手な子が腕立て伏せに逃げたけど、腕立ても腕立てでかなり苦しい筋トレだったみたいな……………

 

「まだ半分も集まってないのにお昼過ぎちゃった…」

 

私が集めたアオキノコはまだ40個程度だ。このペースだとクエスト時間内に終わるはずがない。1日で雇い主に納品しないと集めたアオキノコだけ取られて報酬金が0になる。

 

実質ただ働きになる

 

まぁその時は取れたキノコは2個ぐらいでしたとか言って取った分

お金に変えた方が儲かるんだけどね。

 

「・・・ペース上げるか」

 

アルトはこのクエストにかける情熱は生きていた中で、相当なものだった。確かにこのクエストはむやみに雇い主に集めたアオキノコを伝えなくても集めたキノコをお金に変えた方が十分儲かる。

 

しかしこのクエストは違った。採取クエストの割に報酬金が高いのだった。おとといのクエストの報酬金が6000zなのに対しこっちのクエストの報酬金は破格の50000zだ

 

どうしてもお金が必要なアルトにとってどうしてもこなしたいクエストのため気合いが全然違う。

 

「あぁもうダメ!全然見つかんない!!」

 

クエストに気合いを入れたところで、このクエストは採取クエスト。狩猟クエストと違って納品物の出現場所、根性、視野の広さを求められる。

 

「この辺りはほとんど取っちゃったしなぁ…場所を変えるって言ってもこれ以上進んだらモンスターがいる危険地帯だし…」

 

どうしようかな…わざわざ危険なところに行くよりまだ安全なエリアを探索した方がいいかもしれないけど、アオキノコが生えてそうな場所はほとんど取ったし、このまま探し続けても時間の無駄のような気が気がするし、悩みどころだよね

 

アルトは危険な森の方を見て思考を巡らした。危険を冒してアオキノコ納品に進むか、安全なエリアを探索して保身に走るか…どっちも

利益と不利益が生じるためアルトは選べずにいた

 

「まぁそんなにモンスターに遭う事はないでしょう…」

 

アルトは50000zを取った

 

そして危険な森に入り、アオキノコ採取に取り掛かる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グルルルルルルルル……」

 

(あかん!!)

 

 

アルトはアオキノコ採取をしているうちに森のかなり深くまできてしまっていた、森は深く入るほど危険度が増す。

 

案の定ジャギィ達の群れに襲われていた

 

(どうしよう………!!!!!せっかく120個集まりそうなのに…!ここにきて命の危険がもう!!)

 

アルトは全体的に安全なクエストしかやらないため戦闘能力はお察しだ……安全なクエストを通して得た戦闘系の経験は逃げ足ぐらいしかない。

 

「ガウ!ガウガウ、ガァァァァァァ!!」

 

(もう!何!このジャギィ達様子おかしくない?目赤いし、口から変な息出てるし!)

 

頼みの逃げ足もジャギィの包囲網では無力だ。今のアルトではジャギィ1匹にも勝てない。例え逃げたとしてもキノコの重さスピードが落ちるため、ジャギィ達から逃げるのは容易なことではない

 

(早くなんとかしないと…!ドスジャギィにこられたら逃げるなんて夢のまた夢だよ…)

 

アルトが警戒しているのは群れのリーダーであるドスジャギィだ。巧みな統率力で相手を追い込み、喰い殺す。

 

普通のハンターなら2人ほど集まっていればジャギィの群れは問題なく対処はできるだろうが、ドスジャギィが入るとなれば話は違ってくる。いかにハンターといえど数十匹のジャギィ達を操るドスジャギィは脅威だ。

 

他のモンスターと比べると危険度は低い方だが、それはギルドの見解であり、筆頭ハンターでもドスジャギィを決して軽視しない。

 

危険度が低かろうがドスジャギィの作戦に殺されたハンターは少なくない。弱いと侮って返り討ちにされることなどこの世界ではザラだ。

 

見た目だけで判断するギルドとは違い、実戦で戦うハンターがつける危険度のほうが正しいといえる

 

「グギャアァァァァ!!!!!!!」

 

1匹のジャギィがアルトに目掛けて襲う。

 

(あ、終わった)

 

ズドンッ

 

 

一発の銃声が聞こえた

 

「え?今のは?……っ!」

 

アルトが見たのはさっき勢いよく殺しにきたジャギィの死体だった。頭部を撃ち抜かれていて即死だった

 

 

「グルルルル……ギャオオオオ!!」

 

1匹のジャギィが突然鳴き声を上げた。すると途端に包囲してらいたジャギィ達は逃げていった

 

 

「おっと、逃げられたか」

 

そう言って1人のハンターがアルトに近づいてくる。

 

「ありがとうございっ…!!!」

 

アルトは助けてくれた礼を言おうとしたが、助けたハンターを顔を観るとジャギィ達に襲われているよりも顔が青ざめた

 

なぜならこの男は…

 

「なーんだっ、アルトか…弱虫がここになんでいるんだ?」

 

いつも私をいじめてくるハンターだから

 

「あの、それは、その…」

 

「ん?そのキノコは?」

 

と、1人の女性が質問してくる。この男のチームは男2人女1人ので構成されている。あとは

 

「あ!おいしそうなアオキノコにゃ!」

 

かわいいどんぐり装備のアイルーちゃんも

 

「確かに美味そうなアオキノコだ……半分くらい分けてくれよ?」

 

とチームリーダーの男は言い寄ってくる。

 

(言いわけないでしょ!このキノコ集めるのにどんだけ苦労したかこの男は知るはずないでしょうけど!!)

 

「やめなゲター、チキンが取ったキノコなんて食べたら毒よ」

 

女ハンターの人はアルトに敵意むき出しの目で見て、チームリーダーの男を止めた

 

「そっすね、リーダー、このクソガキの取ったキノコより、ババコンガの糞の方がまだ食べれそうですよ」

 

とチームリーダーの取り巻きみたいな男がすごい失礼な物言いで、ゲターを静止する

 

「わかった、わかったよ、ストング、ツマガ…」

 

ゲターは素直に聞き入れ、アオキノコから手を引く。

 

ちなみに女ほうがツマガで取り巻きがストングだ……いつもいじめてくるからもう名前ぐらいは覚えてる。確かアイルーちゃんの方は

 

「えー!!ご主人!僕もアオキノコ食べたいですにゃ!」

 

「やめろ、アカトラ。ハンター業界の面汚しのアオキノコなんて食えたもんじゃない」

 

「そうよ、今日もどうせ採取クエストを受けているんでしょう?まったく反吐が出る」

 

そうそう、アカトラちゃんだ。猫なのにトラってところが普通と違ってて可愛い

 

だが、2人の私に対するコメントは私のメンタルを崩してくる…でも別に今更罵倒や、暴力はどうという事はない…問題はこいつらの私に持ちかけてくる迷惑な誘いだ…

 

「そーうだアルト〜ちょうどいいところであったなぁー…これも何かの縁て所で、俺たちと付き合えよ…」

 

ほらこうゆうとこ・・・

 

「いや…でも…」

 

「なんだ!?チキンのクセにゲターさんの誘いを断るのか!?」

 

ストングはアルトの胸ぐらを掴んで脅してくる

 

「そう…じゃなくて…私、まだクエストの受注でして…」

 

「採取クエストなんかすぐ終わるって、だからさ?ね?」

 

本当にもうすぐ終わる所で出会ってしまった。これが一難去ってまた一難か…

 

「ふん、あなた採取クエストばかりで身体が鈍ってるでしょ、戦闘経験を積むいい機会でしょ」

 

ちがう…この人達の誘いを何回も承諾していったが…こいつらの頼みの内容のほとんどが囮だ。

 

前はパシリや、お金を取られるとかのまだ優しい方のいじめだったが最近は違う…最近になってこいつらはメイン武器をボウガンにするらしく、ボウガンの練習をしており、それに私は巻き込まれるようになった。なるべく自分達に注意がいかないように私にモンスターの囮をしてほしいというむちゃくちゃな願いだ。

 

ツマガは戦闘経験になるとか言ってるが、今の私を見る通り、鍛えれたのは逃げ足だ。

 

「っ!何ニヤニヤしてんだ!てめぇ!!」

 

「い、いや!!す、すいません!!」

 

モンスターの囮なんてもちろん嫌だが、もう2つほど不満がある。危険な仕事をした私に見返りを一切払わない所だ。

 

もう一つはこいつらのボウガンにおけるセンスは壊滅的だ……三人で一斉射撃して、当たったのが2発といういわゆるクソエイムってやつだ。当然のように誤射はするし、囮をする私とアカトラちゃんに当たりそうになったのは数えきれないほどある。実際被弾して余計な治療費も払うことになるし、こいつらに構っていい思いをした覚えがない。

 

殺しかけた私に対する謝罪はされた覚えがないし、治療費は自己負担を強いられる。

 

「わ、わかりました、囮…します、囮やりますから…」

 

「おや、わかってんじゃねぇか…最初っからそういやぁいいんだよ」

 

ストングはアルトを下ろした(雑に)

 

雑に下されたことでアルトはうっかり尻餅をついてしまった

 

「あ、痛っ!」

 

「何やってんだ、ついてこい」

 

…こいつらがかける迷惑は私だけじゃない、私の身体案じて囮をさせるのをやめるよう看板娘の人は言ったが、もちろんやめる気はなく、むしろこいつらが取った行動は看板娘の人を押し倒し、三人でリンチをした。生意気だ、て…

 

私はともかく看板娘の人は殴られる理由なんてなかった。私が泣きつかなかったらあの人は痛い思いをせずに済んだ…

 

あの人のためにも、私はこいつらの言う事を聞くしかない。たとえ死にそうな無茶な要求をしてきても看板娘の人に迷惑をかけるわけにはいかない

 

 

「あのー今日はどのモンスターがターゲットなんですか?」

 

「へ、気合い入ってんなぁ…まぁ今日は小物だ」

 

別に入ってないし…

 

「今日の獲物はドスジャギィよ、私達のボウガンの練習になるのにいい練習相手だと思わない?」

 

「そ、そうですね…」

 

偉そうに言ってるけど、頑張るのはアカトラちゃんなんだよなぁー…私はただ泣き喚いて逃げるだけだけどアカトラちゃんは正面から戦っている。ゲター達がボウガンでモンスターを倒してるのではなく、アカトラちゃんがゲター達が倒したように見えるようにモンスターを弱らせてるだけだ

 

主人と違っていい子で優秀なオトモだよ。この子はもっといいご主人に出会えたのにもったいない子だ

 

アルトがゲター達への不満を心の中で愚痴りながらドスジャギィの住処に移動する。そして…

 

 

「いました!ゲターさん!ドスジャギィです!」

 

ストングがドスジャギィに向かって指を指す

 

「よし、ターゲット発見!さぁ、アルト、アカトラ出番だぞ」

 

そう言いながらゲターはアルトの背中を蹴る。

 

「うっ…わかりました…頑張ろうね…アカトラちゃん」

 

「わかったにゃ!アルトちゃんも頑張るにゃ!」

 

狩猟中の心の支えはアカトラちゃんだけだ…私のことをハンターだと認めてくれる優しい子だし、狩猟中にもアカトラちゃんに助けられた数も多い。あぁ私もオトモアイルー欲しい…

 

「アルトちゃん…運良くドスジャギィは後ろを向いてるすきに僕が攻撃するからそれと同時に投げてくれにゃ…」

 

「うん、わかった…」

 

私は護身用のナイフでアカトラちゃんと共にドスジャギイの背後に迫る。取り巻きのジャギィ達がこないうちに早く済ませないと

 

「あとご主人の弾に気をつけながら戦ってくれにゃ…」

 

「了解…!……っぷぷ」

 

やっぱりゲター達…アカトラちゃんに信用してもらってなかったわ。そりゃあそうか、少なからずアカトラちゃんもゲターに殺さかけたもんね

 

私とアカトラちゃんは息を殺し、足音を立てず、ゆっくりとドスジャギイに近づく。後ろではゲター達が弾の装填にもたついている。ボウガンの装填くらい上手にやらないのかな?

 

(あと少し、あと少し、あと少し)

 

アカトラちゃんはドスジャギィを奇襲できる距離まで接近すると、背中に携えているどんぐり槍を抜いた。

 

しかしその時だった

 

「グッ……ぐぎぎぎぎ、グガガガガッガッガッ!ガッ!!」

 

いきなりドスジャギィが苦しそうな鳴き声を発し、身体を縮こまらす。私はそんなドスジャギィの背中が何故が黒く見えた。

 

(え、一体何が…)

 

「アガカガゴガゴグギギギギゴガギッギッ!ギャァぁぁ」

 

「っ!」

 

(この、鳴き声…!ボク…ニガテ…ニャア)

 

ドスジャギィはいびつな鳴き声を発し続ける。大きな声ではないが聞いてると思わず耳を塞ぎたくなるほど不快な声だ。

 

私とアカトラちゃんは耳を塞ぐのに精一杯で、狩猟どころじゃなかった…

 

しかしドスジャギィの鳴き声を聞いているととんでもないワードがアルトの耳に入った

 

「ガッガッガア!!グガガガガギヒヒヒヒヒヒ…ワ、ワタシハ…」

 

「っ!!!!!!!!!!!」

 

い、今!!ドスジャギィが!!アカトラちゃん!

 

「・・・」

 

ダメだ、アカトラちゃんは耳を塞ぐのに必死で聞いてなかったようだ。

 

でも、なんでドスジャギィが…

 

アルトはドスジャギィの発した人語に興味を持った…このままにしておくと他に何か喋ってくれるかもしれない…そう思った矢先だった

 

「おい!何耳を塞いだんだ!さっさとドスジャギイを呼んでこいよ!!」

 

ストングが大きな声でアルト達に向かって急かすような言葉をかける。向こうにはドスジャギィの声は聞こえていなかったようで、アカトラとアルトがただ手を引いているように見えたのか、アルトとアカトラに怒声をあびせる

 

(っ!ばか!)

 

(今、声を出しちゃいけないにゃ!)

 

「グルッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・グキィィィ」

 

 

「・・・ゴッゴッゴ・・ア・・マ、マ、ママママママッママァ!!

がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああい!!!!!!!」

 

ドスジャギィはいきなり大きな鳴き声をあげると、近くてにいるアルト達に目もくれず、ゲター達のいる方に猛進撃していった

 

「ひぃ!!お、おい!!ドスジャギィがこっちくるぞ!ストング!ツマガ!早く撃て!」

 

「あたしもまだなんだよ!!あぁ、クソ!クソ!」

 

「早く早く弾入れないと…!!」

 

どうやらまだ装填が終わってなかったようだ…しかもドスジャギィが

迫ってきてるせいで、まともな思考ができてないのか弾をジャラジャラさせてるだけだった

 

「グギャアァァァァァ!!!」

 

ドスジャギィは赤い目を光らせ、手前にいるストングを襲った

 

 

「ギャァァァァァァァァァ!!!!」

 

「あ、ああああああ!!や、やめろ!!くるな!!!」

 

ドスジャギィはストングに飛びつき、押し倒すストングは仰向けの体制でドスジャギィに拘束されてしまった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!やめて!!!助けてぇぇぇ!!

ゲターさん!ゲターさぁぁぁぁん!!、!」

 

肝心のゲターは目の前で仲間が襲われているのにもかかわらず、明らかに絶望した顔で襲われているストングをただ見ていただけだった。

 

でツマガの方は怯えてこそいるもののまだボウガンの装填をしていた。

 

腰に携えているナイフで助けてやりゃあいいのに…

 

 

「ガァァァァァァァ!!!」

 

「ひぃ!やめ、やっ!!」

 

2人がもたついている間。ドスジャギィはストングの喉元を噛み切った。ストングは喉を噛み切られた事に気付いていないのか、もがき続けたが、徐々に弱っていき、力尽きた

 

「クソ!ストング!化け物め!こっち向け!」

 

やっと装填が終わったのかツマガがドスジャギィに照準を合わせた

 

「くらえ!」

 

引き金を引き、貫通弾がドスジャギィに向かって発射される。ドスジャギィとツマガの距離はかなり近い、流石のツマガでも当たる距離だが

 

「っ!何!」

 

ドスジャギィは貫通弾を高くジャンプして避けた。人の指先をみて、ツマガが引き金を引く寸前に回避に移っていたのだ

 

「グシャァァァァォ!!」

 

高く飛び上がった姿勢からドスジャギィはツマガ目掛けて着地する。

 

「…く、なっなんだと!」

 

あっさりと拘束されてしまった

 

 

「クソ野郎が!!離しやがれ!!」

 

ツマガは激しく抵抗するも、時すでに遅くドスジャギィにストング同様、喉元を噛み切られてしまった。

 

 

「あっ…あっ…ジ、ジャギ…のくせっに…」

 

そう言い残して、ツマガは事切れてしまった。

 

 

「も、もういやだぁぁぁぁ…あぁぁぁぁぁぁ!!!誰かぁぁぁ!!

誰かぁぁぁ!!!!」

 

一気に2人も仲間が殺され、次は自分の番と思ったのかゲターはズボンを濡らしながら、アカトラを置いて泣き喚いて逃げた。

 

「グギャアァァァァァ!!!アガァァァァァ!!」

 

逃すまいとドスジャギィは追うが

 

「ご主人!!」

 

アカトラの槍がドスジャギイに刺さる

 

「グルルルルルル、ガァァ!」

 

「にゃっ!!!?」

 

「ア、アカトラちゃん!」

 

しかし軽く振り払われ、アカトラは吹っ飛ばされた

 

ゲターはアカトラの事は目もくれず一人で逃げ出した。

 

「アカトラちゃん!大丈夫!?」

 

「ボ、ボクは大丈夫だ、ニャ」

 

「な、なんであんな奴のために?」

 

「オトモアイルーはご主人を見捨てたりしないニャ!」

 

な、なんていい子なんだろう…!感激!!

 

 

いやいやそんな事より…どうする…ドスジャギィを相手に…

 

 

 

 

 

 

 




誤字、脱字がひどくなってました。すいませんでした


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四話 狂ったドスジャギィ戦

・・・・

 

・・・・

 

どうする…

 

現在私はドスジャギィと交戦中だ、ゲター達に無理矢理連れてこれられて、ドスジャギィの狩猟に手を貸す事になった。

 

だけど様子がおかしすぎるドスジャギイに翻弄され、ストングとツマガが死んで、ゲターは逃げ出し、アカトラちゃんはドスジャギィの攻撃をくらって動けずにいる。

 

そして私は無事だけど、戦闘能力は雑魚同然、アカトラちゃんの協力無しにドスジャギィを倒すなんてまず無理だ

 

「グルルルルルル……」

 

「・・・・・・・くっ!」

 

ドスジャギィはゆっくりとこっちに向かって詰め寄ってくる。アルトはドスジャギィの目をすらさず、倒れているアカトラちゃんの所まで後ずさりをした。

 

(仮にアカトラちゃんを抱える事に成功したとしてもこの距離でドスジャギィから逃げるのはかなりキツイ…でも一人で逃げるわけにはいかないし)

 

時間を1秒でも稼ぐためドスジャギィを刺激しないよう、細心の注意をするが、時間を稼げた所で絶望的状況は変わらない。時間の延長もドスジャギィの方がはるかに分がある。

 

「・・・・・・・・ギギギギガガガガガガギガギガギ」

 

ドスジャギィはいびつな鳴き声を発しながらアルトに近づく……アルトの後ろにいる弱ってるアカトラだけを見つめ、アカトラを喰うタイミングを狙っている

 

(やばい…すごい怖い……誰か……)

 

アルトは他のハンターの助けがくるまで耐える作戦を思いついたが、

実行に移すことは踏みとどまった。ハンター達に危険を知らせる救援弾を撃つのはドスジャギィを刺激する事になる。なら希望は逃げたゲターだが、ゲターが自分とアカトラのために助けを呼ぶはずがないと判断した。

 

(今、私が装備してるのはナイフ一本…ドスジャギィの体に傷をつけれるかわかんない……でも二人とも助かるには私がなんとかしないと)

 

一人でなんとかするしかない……アルトはドスジャギィに内心ビビりながらも、頭をフル回転してこの場の打開策を考えた

 

「グギギギギ………ガグガグガグガグガグギギギギガガガガゴゴゴゴゴゴコアアァァァァアアアア!!!!!!」

 

ドスジャギイはアルトに向かって大きな鳴き声をあびせた。その鳴き声はまるで怒りに満ち溢れているような、苦しみを訴えているような…

 

(あぁ!!もう!ダメだ!!)

 

ドスジャギィはアカトラを食べたくてたまらないようだ。口からよだれが滝のようにたれている。押さえつけられた欲望が開放されたような大きな鳴き声をあげた。もう我慢の限界なのだろう。

 

アルトはドスジャギィが鳴き声を鳴いている内にアカトラを背負い、

全速力でドスジャギィから逃げた。

 

だが、弱い獲物を易々と逃げさせてもらえるはずもなく、ドスジャギィは狂ったようにアルトを追いかけてきた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

森を抜ける際、木などの森にある障害物を利用してドスジャギィとの距離をかせぐが、徐々に距離を詰められつつあった

 

(ダメだ…あまり激しく動くと体力の消耗が激しい…これじゃあ、村に着くまで息がもたない…)

 

アルトは逃げ足だけなら他のハンターと張り合えるほど足が速い。しかし体力面では10歳にしては鍛えている方だが、それでも十分間走れるかどうか…他のハンターとは身体能力の差は歴然だった…

 

「グシャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

「うわ!危ない!!」

 

アルトはなんとか間一髪でドスジャギィの一噛みを避けた。ドスジャギィはもうすぐそばまでアルトに迫っていた

 

 

思ってたより距離詰められてた!村までまだ3分の1も進んでないのに!

 

「ガァァァァァ!!!」

 

ドスジャギィはもう一度アルトに向かって噛み付いてきた。

 

「ちっ!」

 

アルトはなんとか避けることができたが、避けた際、体のバランスが崩れてしまい、転んでしまった。

 

(っ!しまった!アカトラちゃん!!)

 

転んだ際、背負っていたアカトラを地面に落としてしまった。ドスジャギィはそのチャンスを逃すはずもなく、アカトラを襲った

 

「ギシャァぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!ガガガガガガガ!!!!!!!」

 

「あぶない!!」

 

もう少しで喰われてしまう所でギリギリアカトラの回収に成功した。だが、あと少しという所で獲物をお預けされた事にキレたのか、ドスジャギィはより一層アルトに殺意をむき出しに見つめ、どす黒い息を口から吹きだした

 

「んっんーー…アルトちゃん…??」

 

「アカトラちゃん!」

 

ここにきてアカトラの目が覚めたようだ。しかし意識が戻った所でとても戦える状態ではないのは一目瞭然だった

 

「アカトラちゃん…大丈夫…私がなんとか切り抜けるから……!

し、心配しないで…安心して…!」

 

アルトはアカトラを安心させる言葉をかけるが、賢いアカトラはアルトが無理をして自分を守ってくれている事に早く気づいた

 

「アルト…ちゃん…」

 

そして自分が足手まといになってる事も早く気づいた。

 

「グルルルルルル…!!!」

 

「く、くるな!」

 

アルトはナイフをドスジャギイに向け、牽制するが狂ったドスジャギイには無意味だった。アルトの持ってるナイフは目もくれずアルトを襲う

 

「なっ!くるなら…こっ?わぁぁぁぁ!!」

 

思わず後ずさりした際、後ろが崖とは思っていなかったのか、アルトはアカトラと共に落下してしまう

 

「ーーーーーー!!がはっ!」

 

幸い死ぬような高さでもなかったが。アカトラの方はアルトがアカトラを庇い、落下したためアカトラに怪我はなかった

 

(うっ…このままじゃ…二人とも死ぬ…)

 

アルトは落下の衝撃の痛みに耐えながらこの状況の打開策をもう一度考えた

 

(あのドスジャギイに真正面から戦うのは自殺行為だ…でももう交戦は避けられない…今逃げたとしても村まで走りきる体力は私にはもうない…)

 

ドスジャギィが来る前になんとかしないと…!私の行動次第でアカトラちゃんは助かる…

 

実はアルトは一つの作戦を思いついていた。しかしその作戦は成功する確率は1%もない、賭けにかけた作戦だった

 

(でも、もうこれしか…)

 

逃げることができない、アカトラは戦えない、自分にはドスジャギィを倒せる戦闘能力はない、何しろもう体力が限界…せめて、アカトラちゃんだけでも…

 

「アカトラちゃん!!」

 

「何にゃ?」

 

「ねぇ!走ることはできる?いや、走れなくても歩く事はできる!?」

 

アルトはアカトラに向かって質問をする

 

「だっ…大丈夫にゃ…ボクはちゃんと走れるにゃよ」

 

よし…!!もうこれで十分だ…

 

「アカトラちゃん!私今から救援弾を撃つからアカトラちゃんは今すぐここから離れて、救援にきたハンターをこっちに呼んできて!!」

 

「で、でもそれじゃ、アルトちゃんが…」

 

「私は大丈夫!逃げ足には自信あるから!私はなるべくアカトラちゃんに注意がいかないよう、ドスジャギィを引きつけるから、アカトラちゃんはハンターを呼んで!お願い!」

 

この作戦は一件成功しやすいと思うが成功率は限りなく低い。アルトは救援弾を撃って、助けにきたハンターを呼んでもらうようにアカトラに言ったが、それはアカトラを逃がすための嘘であり、実際のところ、さっき確認した救援弾はしばらく使ってなかったせいか、既に壊れており、とても使えるとは言えない

 

一番の希望は近くを通ってくれるハンターだが、アルトは自分が助かるより、アカトラの避難を最優先にした

 

「……わかったにゃ!アルトちゃん……待ってて!」

 

アカトラは自分が残ってもかえってアルトの邪魔になる事を判断し、アルトの指示に従い、この場から離れた

 

「ばいばい…アカトラちゃん」

 

アカトラが離れたと同時にドスジャギィが追いついてきた

 

「ギギャォァァァォァァァォォォァォ!!!!!!!」

 

な、なんていう執念…

 

「グッグッグ!!ゴゴゴゴゴゴゴゴガゴガゴガゴガゴァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

奇声を上げ、ドスジャギィはアルトに向かって噛み付いてくる

 

「やっぱりそうくるよね!」

 

もう3度目なので、アルトはドスジャギィの動きはある程度見切る事はできた。ドスジャギィの動きを読み、ドスジャギィの噛みつきをかわす、

 

(お、思ってたより上手くかわせた!)

 

内心かわせたと思ってなかったから少し嬉しい

 

「ガァァァァ!!」

 

ひと息もつかせてくれないか…!!

 

ドスジャギイはもうアカトラのことなんてどうでもよかった。すでにドスジャギイの獲物は自分の狩りの邪魔をしたアルトだ。

 

「グシャァァァァォ!!」

 

「あっぶない!」

 

アルトが視界に入ると手当たり次第に攻撃をするほどキレており、ドスジャギィはアルトを全力で殺しにきている

 

「このナイフを目に当てたら上出来…」

 

このまま避け続けても、体力勝負ではモンスター相手に勝ち目はない…いずれ私の体力が切れてドスジャギィの餌になる。

 

「なら今の私はに残されてるのは目潰しくらいだ!」

 

しかしアルトはドスジャギィの激しい猛攻にナイフを当てるタイミングを見出せずにらいた…

 

「グァァァァァァァァアアアアア!!」

 

「あれだけ暴れて全然、疲れてない…動きもだんだん素早くなってるし」

 

ダメだ、いちいちタイミング狙ってちゃ、時間がいくつあっても足りない!

 

「っ!ここだぁ!」

 

アルトはドスジャギイの攻撃をかわし、ナイフを投げつける

 

「・・・・」

 

しかしドスジャギイに高くジャンプされてかわされてしまった

だがアルトの方は追い詰められた素振りは見せず、むしろこの時を待っていたかのような顔をしていた

 

「……空中ならかわせるものもかわせないでしょ!」

 

アルトはそういうと懐からアカトラのどんぐり槍を取り出した

 

逃げている際、どっかの場面で使えると思ってアカトラからくすねていたのだった

 

「おっしゃ今度こそ!!くらぇぇぇぇ!!」

 

アルトは思いっきりどんぐり槍をドスジャギィの目に向かって投げる。

 

(お願い…!当たって!)

 

狙いは外れていない…このコースだと目に当たらなくても致命傷にはなる!

 

 

 

 

「・・・・はっ?」

 

ドスジャギイは迫ってくるどんぐり槍を頭部を横に振り、かわした

 

「そ、そんな…わっ!」

 

そしてドスジャギィに仰向けの姿勢で拘束されてしまった

 

「グギギギギギギ・・・・・」

 

あ、あぁぁぁ…

 

 

だ、ダメだ…

 

 

アルトの脳裏にはストングとツマガがドスジャギィに首を噛み切られ殺された記憶が頭をよぎった。

 

アルトは恐怖で涙を流し、静かに目を閉じた

 

 

「アオォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

 

ダメだ喰われる…

 

 

私もあの人たちのように……

 

 

 

 

死ぬ………

 

 

 

終わる………

 

 

ごめんなさい…

 

 

 

 

 

リュウさんごめん・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

(あれ?…なんで食ってこないの?)

 

 

アルトはのしかかられている重さはあるのにドスジャギィが未だ自分を食ってこない事に違和感を感じた

 

そしてアルトは恐怖で閉じていた目をゆっくりと開ける

 

 

「えっ!!」

 

すると目の前に見えるのは頭部をデカイ大剣で貫かれているドスジャギィの姿だった

 

 

「キキキキ……ク…キャア………」

 

ドスジャギィは弱々しい声を上げながら、その場に倒れてしまった

 

 

「・・・一体何が・・・・?」

 

アルトは自分の身に何が起こったのか認識ができなかった。自分が助かったことすらわかっていない

 

するとそこに

 

 

 

 

 

「…大丈夫?」

 

一人の女性が倒れたアルトの顔を覗き込む

 

 

 

「っ!!……誰!?」

 

 

え・・・この人…

 

 

 

ユアミ…鳥頭?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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五話 アンゼリカ

アマツ様の名前を間違えて表記していました。

読んでる方に大変ご迷惑をおかけしました。

申し訳ありませんでした


「・・・・・・・むにゃむにゃ・・・・」

 

アルトはドスジャギィとの戦いに勝利した、ていうより助けられた。しかもアルトは助けてくれたハンターの顔を見た後、気が緩んだのか気絶してしまい、謎のハンターに小屋に運ばれ、またお世話になっている最中である

 

 

 

 

「・・・・いつまで寝てるのこの子は」

 

謎のハンターはアルトをあのまま放っておくわけにもいかず、連れてきたのはいいものの、10時間も経っているのになかなか起きる気配がないため、少し困っていた

 

「生きて…はいるよね?」

 

謎のハンターは確認がてらアルトのほっぺをつねる

 

「・・・・ぐぅ・・・・・・」

 

アルトは深い眠りにいるためか、全く動じない

 

 

「おっ、なかなか柔らかいね〜」

 

謎のハンターはアルトの柔らかいほっぺで遊びはじめた

 

「あははっ、すごいぷにぷにしてる!」

 

謎のハンターは面白くなったのかアルトのほっぺを楽しそうに弄ぶ。つねる力もだんだん強くなってることに気付かず、アルトのほっぺをあらゆる方向に伸ばして遊ぶ

 

「・・・・いひゃい・・・・」

 

アルトは熟睡していながらも、ほっぺから伝わる痛みを感じつつあった

 

「これどこまで伸びんのかな?…これめっちゃ楽しいっ・・!」

 

謎のハンターはアルトのつぶやきは耳に入っておらず、ほっぺを限界にまで伸ばしたり、ねじって遊び続ける

 

「・・・・ん・・いたい・・」

 

「おーすごい伸びる!!きゃははっ!」

 

「・・ん?・・・い、痛い!・・ねっちょっ!」

 

「これ限界までねじったら何重巻きになるかな?」

 

「や、やめて!痛い!」

 

「10回くらい巻いてみようか」

 

「痛いってば!!!!!!」

 

謎のハンターは目が覚めたアルトに思いっきり蹴られた。

 

「あたっ、あ……ご、ごめん…つい…ほっぺ大丈夫?」

 

アルトに蹴られた刺激で我に返り、謎のハンターはアルトのほっぺに優しく手をあて、アルトのほっぺの具合を確かめる

 

「大丈夫なわけないでしょう!!なんで私寝てる最中にほっぺつねられなきゃいけないんですか!!」

 

「そ、それはごもっともです…」

 

アルトは赤く腫れたほっぺをおさえながら謎のハンターに対して怒りをあらわにする。ハンターの方は申し訳なさそうに頭を下げ、謝る

 

「謝るんだったら最初っからやらないでください!!だいたい!私のほっぺつねって何が楽しいんですか!」

 

「だから、ごめんて…謝るよ」

 

「もうやらないでくださいね!」

 

「はい…」

 

「じゃあ私はもう一眠りしますので、起こさないでくださいね!」

 

「ハイハイ、わかりました」

 

アルトはほっぺをつねらないことを約束させ、体を横にする

 

 

「・・・ん?」

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

「えーーーーー!!!!あなた誰ですかぁぁぁぁ!!!??」

 

「えーーーーー!!!!今さらぁぁぁぁ!!!??」

 

 

アルトは目の前にいる謎のハンターに驚き、謎のハンターはアルトの今更の質問に驚いた

 

 

「な、ななななんで!!こ、ここここんな場所にぃぃぃ!!??」

 

「ちょっと落ち着いて…!別にあんたに何かするつもりはないよ」

 

謎のハンターはアルトをなだめるが

 

「う、うそだ!!だって、さっきほっぺつねって殺そうとしたじゃないですか!!」

 

「いや、あれは痛かっただろうけど殺そうとしたわけじゃ…」

 

アルトは寝起きで頭が錯乱しており、目の前の女性ハンターはただの恐怖の対象としか見えていないのだ

 

「と、とにかく!!私は!!あやしい者じゃない!!」

 

これじゃ話にならないと判断した女性ハンターは弁明しようとするも納得がいく答えが出せなかった

 

「どこからどう見てもあやしいでしょう!!なんで鳥帽子とバスタオル巻いてる状態でそんなセリフ吐けるんですか!」

 

「いやこれバスタオルじゃないから!れっきとしたユアミ装備だよぉこれ!」

 

「そんなふざけた装備ありませんよ!!と、ととととりあえず私から離れてください!!私美味しくありませんから!!」

 

「私はモンスターじゃないんだからそんなことしないよ!ほら…もう落ち着いて…」

 

女性ハンターはそう言いながらアルトに近づいていく

 

「…!!あ、あぁぁぁ!!こっちこないで!!た、助けて!!」

 

「・・・ダメだ…!混乱してる」

 

女性ハンターはアルトの側にゆっくりと距離をつめる

 

 

「っ!!あ……あぁ!!あ、あっ…!」

 

アルトはすっかり腰が抜けてしまい、逃げようにも逃げることができない状態だった。錯乱した頭では女性ハンターが味方と認識することは難しく、怖いという感情がアルトの身体を支配していた

 

 

「・・・・・・」

 

女性ハンターは一歩ずつアルトに近づく…そしてアルトの側に寄り、アルトの身体を自分の元に引き寄せる

 

 

「い、いやぁぁぁぁぁ!!!やめて!!やめてぇぇぇぇ!!!」

 

アルトは激しく抵抗し、女性ハンターの腹部や脇のあたりを殴ったりする。しまいには腕を噛んだりして抵抗する

 

「……おいで」

 

女性ハンターは一方的に殴られたり噛まれたりするものの、アルトを抑え込むような事はせず、アルトの頭を自分の胸元に抱え込み、優しく抱きしめる。

 

「・・・・っ!!!・・・・・・」

 

「落ち着いて…大丈夫だから…」

 

女性ハンターはかえって怖がらせてしまうと懸念していたが、アルトの方は嫌がる素振りを見せず、むしろ女性ハンターに抱きついていた

 

「…よしよし…」

 

他に落ち着かせる手が思いつかなかったため思いつきで、やった事だが、間違ってはいないようで徐々にアルトの身体から震えが消えていた。

 

「・・・・ん、・・・」

 

(結構柔らかい…)

 

アルトはもう正気を取り戻し、恐怖の感情はなくなっていた。

 

しかし

 

 

 

 

(ど、どどどどうしようこの状況!!)

 

ドスジャギィから助けてもらい、寝床で休ませてもらい、寝起きとは言え恩人のハンターを殴る行為をし、しかも今自分が殴った相手に慰められている事にアルトは恥ずかしい気持ちと情けない気持ちでいっぱいになった

 

 

 

あーーーどうしよう!どうしよう!私…失礼な事言ったよね!?怪我させてないかな……恩人になんて事を…!!

 

(やばいー…この人怒ってるだろうなぁ…今こうして抱いてくれてるけど内心私の事恨んでそう…)

 

「・・・どう?落ち着いた?」

 

(っ!!!あ、質問された!でもどう返そう…このまま寝たフリしようかな……ダメだ!罪に罪を重ねてどうするアルト!)

 

で、でもここはとりあえず…

 

「…………はい…」

 

アルトは女性ハンターの胸の中でコクリと頷いた

 

「ふぅ・・・良かった」

 

そう言って女性ハンターはアルトから離れた

 

「・・・あ!」

 

「え?」

 

「っ!!い、いえ!なんでも!!」

 

(なんでだろう…この人の側にいるとなんだが温かい気持ちになる)

 

「…怪我は大丈夫?自分の名前言える?」

 

「え、あ!はい!…お、おかげさまで怪我はバッチリ!」

 

「そうか…なら安心した」

 

「あ、あの!さっきから大変ご迷惑をおかけしてしまいました…本当にすいませんでした…私…私を助けてくれたのに…私はあなたに危害を加えたり暴言を吐いたり失礼な事ばかりしかしてない…ごめんなさい…!!」

 

アルトは罪悪感に耐えきれず、女性に土下座する

 

「い、いや私そんな気にしてないから…!むしろ誤解を生んだのは私の方っていうか…」

 

「で、でも私…!!」

 

「ああ、もう気にしなくていいって…ほらもう立って」

 

女性ハンターは土下座をしているアルトを立たせ、アルトの涙を拭いた

 

「あーあ、泣いちゃって…」

 

「うぅ…すいません」

 

「謝ることはないよ…私にも非はあるから」

 

ぎ、逆に謝られるとは…ものすごい罪悪感が…

 

「それより、いきなりで悪いんだけどキミ、名前は?」

 

「あ、はい!私!アルトっていいます!ドスジャギィの時と言い、さっきと言い、ありがとうございます!」

 

「へぇ、アルトっていうんだ、いい名前だね」

 

「あの!よろしければあなたの名前を教えてもらっても!」

 

 

「ああ、私はねアンゼリカって言うの・・・・・・・!!!」

 

 

へぇ!この人アンゼリカっていうんだ!なんかすごい身近な感じがする!

 

 

 

 

・・・はぇ?アンゼリカ?

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

2人の間に沈黙が流れる。さっき仲良くなった雰囲気が一気に気まずくなった

 

 

「え!えええ!!!!アンゼリカぁぁぁぁぁ!!!!??????あの伝説の!!!!??」

 

「・・・・・・やっば」

 

女性ハンターのまさかのカミングアウトにアルトは驚きを隠せなかった。まさかこの人があの伝説のハンターって…なんて

 

 

「あはははっ…アンゼリカって軽いジョークですよね!まさかあの英雄が私なんかの目の前にいるわけないじゃないですかぁ!!」

 

「そ、そうよ!ジョーダンよ、ジョーダン!」

 

そうだよね、まさかあの伝説のハンターが私の目の前にね……

 

 

看板娘のお姉さんの言うアンゼリカさんの容姿って、赤い瞳で髪が黄色くて、いつも元気でそうで、かわいい鳥の帽子を被ってて、ふざけた装備でクエストに行く変わった女性って言ってたし…

 

 

 

「この人と似ても似つか……」

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

「全部当てはまってるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」

 

「・・・・・・・・」

 

私の目の前にいる人赤い瞳と黄色い髪だし、元気そうだし、鳥の帽子被ってるし、何よりふざけた装備してるし!!!

 

 

「じゃ、じゃあ!ほ、ほほほほほほほほほ本物おおおお!!!!!!」

 

「・・・・・・・」

 

私はなんて幸せ者なんだ!まさか世界を救ったアンゼリカさんに会えるなんて!!!!!

 

 

「キャーーーー!!!!!サイン!サインください!!」

 

「・・・・・・」

 

あれ?なんかアンゼリカさん顔が沈んでる…ていうよりなんかすごく怖い顔してるっていうかなんていうか

 

「アルトって…言ったっけ?」

 

「あ!はいー!!!アルトです!!!!」

 

あ、あのアンゼリカさんな名前で呼んでもらっちゃった!こ、これは一生の思い出!消えぬ私の宝!

 

「・・・・ん?アンゼリカさん?」

 

アンゼリカは無言でアルトの元に近づいてくる。

 

「どうしました?」

 

アルトの質問に答えず、険しい顔をしたアンゼリカがアルトの元に歩み寄る

 

そしてアルトの側に寄ると、アルトの肩に手をのせ

 

「……ごめんね」

 

「え?・・・・・・・・がっ!!!はっ!!!!!」

 

アンゼリカはいきなり渾身の右ストレートをアルトのみぞにくらわせる。

 

「な…なん…で……ど……して……」

 

アルトは予想もしなかった攻撃に耐えきれず、そのまま気絶してしまった

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

アンゼリカはアルトの問いに答えることはしなかった。

 

何を考えているのか、気絶させたアルトを持ち上げどこかに連れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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六話 探す者達

今回はアルトは出てきません。今回は懐かしのあのキャラの現在の姿の話です。

あと今回は会話が大半です


ユクモ村の集会所にて、青髪の男がなにやら落ち着きなく、同じ場所を行ったり来たりして、何を思いつめているのか時には、同じ書類を何度も見直したり、いきなりスクワットをすれば、依頼書でガーグァを折ったり、床掃除をしたり、意味不明な行動をしていた。

 

今現在、男は依頼書でガーグァを折ってる最中だ。もう男の周りにはができるほど、折り紙ガーグァが散乱していた

 

 

「・・・リュウ様、一体なにをしてるんですか?」

 

1人の衛兵が依頼書で折り紙をしている青髪の男に質問する

 

「あぁ、いや、別に…ただこの依頼書でガーグァを折ってるだけだ…」

 

青髪の男は手慣れた手つきで着々と依頼書でガーグァを作っている。

 

「はぁ……リュウ様……それで何枚目ですか?倉庫にはもう1548枚の折り紙ガーグァが溜まってるんですよ?ていうより依頼書で遊ばないで下さい」

 

「心配するな、この依頼書はすでに解決された依頼だ。折り紙にしようが、ガーグァにしようが、ギルドに苦情がくることはない、安心しろ」

 

 

「いえ、私が申し上げたいのはそこではなくてですね…」

 

ただ無表情にガーグァを折り続けるこの青髪の男は、リュウ・ジョーンズワート。昔、ユクモ村に異変を起こしたアマツマガツチをかの英雄、アンゼリカと協力し、倒さんとしたユクモ村のギルドナイトだ。

 

リュウは直接アマツマガツチと戦ったわけではないが、アンゼリカがアマツマガツチを討伐する架け橋となる情報を入手する活躍をした。

 

そして現在、ユクモ村のギルドマスター亡き今、リュウがギルドマスターを受け継いでいた。

 

しかし、アンゼリカがアマツマガツチを討伐したにもかかわらず、姿を消して以来、ギルドマスターの権限を使い、あらゆる手段の捜索をするものの、有力な手がかりが見つけられない状態が続いていた。

 

「俺が何を折ってようがどうでもいいことだ…今俺にできることは、待つことのみ…あの時のようにな」

 

「リュウ様…」

 

衛兵とリュウが会話をしている最中で、扉から受付嬢が入ってきた

 

「ギルドマスター。キリサメ様が到着しました。ご案内しても?」

 

「やっときたか…あぁ頼む通してくれ」

 

「かしこまりました」

 

「あとお前も、キリサメが来るから下がっててくれないか?」

 

「り、了解です!」

 

リュウは衛兵と受付嬢を集会所から退出させた

 

そして到着したキリサメを集会所に迎える

 

 

「よう、ギルドのガキ。いや、今はギルドマスターだったな…」

 

「普通にリュウって言え、まぁよくきてくれた。座ってくれ」

 

リュウとキリサメは固い握手をし、お互い向き合う形で席に座った。

 

「・・・・・・・」

 

キリサメはリュウが折った大量の折り紙ガーグァに目がいった。

 

「・・・また増えたな、鳥」

 

「そりゃ毎日作ってるからぜな」

 

キリサメは床に散らかってる大量の折り紙ガーグァの一つを手に持ち、しばらく眺めた後

 

「・・・・・」

 

無言無表情で折り紙ガーグァを握り潰した

 

 

「おいおい、それ、中々の力作だったんだぞ?」

 

リュウは握り潰された折り紙ガーグァを見て抗議するが、顔は少し笑っていた

 

「別に何個もあるからいいだろ…」

 

キリサメは握り潰した折り紙ガーグァを床に捨て、リュウと再び向かい合う

 

だが、リュウの方は自分の方から呼び出した目のキリサメに気にすることなく、折り紙ガーグァを作っていく、自分で呼び出したのにもかかわらずキリサメはもはや視界外だ

 

その様子を見たキリサメはリュウに対し

 

「そんなもの作ったところで、アンは戻ってこないぞ…」

 

「・・・・・」

 

キリサメの一言でリュウの手はピタッとすぐに止まり、リュウは我を取り戻したように、いきなり席を立ってほうきを取り出し、床に散乱してる折り紙ガーグァの掃除に取り掛かった

 

「別にそんな願いを込めて作ってるわけじゃない…俺は…ただ…」

 

折り紙ガーグァの掃除をしながらリュウはキリサメの的確な指摘に対し、反論をしようとしていたが図星だったようで、言い返そうにも言い返せず、途中から何も喋らなくなった

 

「・・・ふん」

 

キリサメは席を立ち、解決済みの依頼書に手を出した。そして無言で依頼書を折っていくと

 

「あいつが好きなのはこれだろ?」

 

さっきの言葉で口も手も動かないリュウに依頼書で折ったアイルーを渡した

 

 

「……キリサメお前……」

 

「リュウ、お前は少しギルドマスターであることに自覚を持て。ユクモ村の連中は皆お前を信頼している。今のお前は折り紙を作ることじゃなく、村の連中の信頼に応えることができる働きをすることだ」

 

キリサメはリュウを睨み、厳しい強めの口調で村のために自分が何をすべきか、ギルドマスターとしてのあり方の助言をする

 

「確かにそうだが、3年前まで俺はギルドナイトだったんだぞ?今の俺の能力で村のみんなの信頼に応えられるわけが…」

 

「3年もあれば十分だろ」

 

「逆に3年も経ってるのに俺は…!俺は未だみんなの役に立ててない…

キリサメ、俺は前の代のギルドマスターの後を継いで良かったと思うか?みんなは俺がギルドマスターになる事に誰も反対しなかった。今だって俺が折り紙作ってようが床の掃除をしてようが、誰もギルドマスターの座から引きずり出そうともしない。村の人達は俺のことを信用してるんだ。でも俺は…その信用を3年もギルドマスターをしているのに応えれずにいる。俺は無能だ。アマヅチカヅチの時から全く変わってない…」

 

自身を前のギルドマスターと比べて、過小評価するリュウをキリサメは小さくため息をついた後、集会所に飾ってあるアンゼリカの写真を眺め、リュウに対し

 

「お前はわからないのか?村の奴らがお前を信じ続ける理由を」

 

「え?」

 

何か悪口を言ってくるのかと思っていたのか、リュウは間抜けな声を漏らす

 

「・・・あいつがアマツマガツチを倒して消えた後、ユクモ村は深い悲しみと後悔で包まれた。誰もが最後まで他人任せだった自分を責めたんだ」

 

キリサメはアンゼリカの失踪後の村の様子を語っていく

 

「でもこの村は強い。希望を捨てなかったんだ。アンゼリカの死体が発見されなかったことからギルドはこれ以上ない大捜索を始めたが、アンゼリカに関する手がかりが一向につかめない状態が続き、結果はたった2ヶ月で捜索を切り上げてしまった」

 

「あぁ、あの時のギルドの奴らは絶対に見つけると息巻いてたくせに飽きたのか知らんがどういうわけか、何の理由もなく捜索をやめたんだよなぁ」

 

 

「そうだ、あれだけユクモ村の奴らに期待させといて平然と捜索を中止した。村の連中はもう顔から笑顔は出てこないし、村長は病に倒れ明日も生きられるかどうかの窮地に陥っていって、ユクモ村はあらゆる光を失ったんだ…それなのに他国の連中…特にパジック王国はアンゼリカが救った世界を自国がのし上がるためにハンター達を利用して、金稼ぎに走った。自国の利益のために平然と人間を使い潰し、人としての情は捨てていった。しまいにはつまらん国同士のいがみ合いで人間が殺し合う、"戦争"なんてもんが始まった。今の時代の奴らは自分達が何をしようとしているのか全く理解してない」

 

「キリサメ?」

 

「…!悪いな…」

 

キリサメは昔話を続けていくうちに自分が怒りにあまり、今の時代の異質さの話に脱線していたことに気づき、話を戻す

 

「つまり俺が言いたいことはな………お礼だ…」

 

「えぇ!?」

 

リュウはかなり驚いた。あのキリサメが自分に対してこんないい笑顔で礼を言ってくるのだから。こいつは人前でとても笑顔を見せるような奴じゃないと思い込んでいたこともあり、リュウは心臓を取られたような驚きを隠せなかった

 

「何を驚いている…?だってそうだろう、アンゼリカがいなくなったあの日以来、俺は村を飛び出し、怒りに身を任せてモンスターを狩りまくった。俺はモンスターを狩り続けることでアンゼリカに報いることができると思っていた…だがそれは大きな間違いだった。今思えばそれはただの自己満足に過ぎなかった。村長の病もリュウがギルドマスターになるまで気付かなった。ユクモ村が暗くなっていってるのに俺は4年間、モンスターを殺し続けただけだった

 

 

俺はユクモ村に何もしなかった…」

 

「・・・・」

 

リュウは何も言えなかった。絶句とか唖然をしたわけではなく、あのキリサメがこんなにも自分を責めるのが意外で、ユクモ村に罪悪感を抱いていたなんて思ってもいなかった

 

「だが、リュウ…お前は違う…お前は、ギルドマスターが死んだ後、すぐさまギルドマスターに昇格し、アンゼリカの捜索を再開させることで、村に希望を持たせた…今がどんな形であれ、あの時からもうお前はユクモ村のギルドマスターだ」

 

「……」

 

キリサメがまさか自分を励ましてくれるとは思わず、内心疑っていたが、実際のところ、普通にただただ嬉しかった

 

「ありがとな…キリサメ…俺は………本当はギルドマスターになった

のはみんなのためじゃない…自分のためだったんだ」

 

「どういうことだ?」

 

「俺がギルドマスターになったのはアンゼリカの捜索を再開させることのみだ。でも捜索は長期化して、いつのまにか3年も続けていたし、しまいにはアンゼリカに一歩も近づけなかった」

 

「村の力じゃそんなもんだ…気にすることはない」

 

「はは…まぁ初めからユクモ村だけでどうにかなる問題じゃないもんなぁ…はぁ……」

 

リュウは脱力して近くの席に腰を下ろす…そして机に上半身をのっけてくつろぐ…そしてリュウは何か大事なことがあったようなかったような、そんなうやむやな気持ちでいっぱいになった…しかし突然起き出して、キリサメのもとに走りだした

 

「そうだった!!俺こんな昔のことに浸ってる場合じゃなかった!!キリサメ!すまん!話変えるぞ!」

 

「めんどうな奴だな…お前の方から呼び出したのにわざわざギルドマスターを辞職する相談のために呼び出したのか?」

 

「悪かったって!ギルドマスターになるとその分ストレスも溜まるからさ……いきなりで悪いが…今日も新しい情報よろしくな!」

 

リュウはキリサメに向かってグッドポーズをする

 

キリサメはあきれたような顔して頭を抱えるが、気を取り直してリュウと顔を合わした

 

「まぁユクモ村のためだ…リュウ、いろいろ長くなるぞ」

 

「いくら長くなってもかまわないさ」

 

「そうか?じゃあまず、身近な話題からだ。お前は聞いたと思うが、パジック王国のマガラ王16世が死んだのは知ってるか?」

 

「知ってるぞ、ユクモ村のみんなもその話題で持ちきりだ」

 

「世界中で話題になってるからな、その程度の情報は分かってるとは思ってたけどな」

 

リュウはキリサメの一言でずっこけそうになった

 

「だったらなんでそんなみんなが知ってる情報を伝えるんだよ…」

 

「話を最後まで聞け」

 

キリサメは少しキレ気味に言う

 

「お前はマガラ王16世が死んだのは知ってるだろうが、死因は知らないだろ」

 

「あっ!」

 

「現在、パジックはマガラ王17世の指導のもとに鎖国政策を進めている、この鎖国は世界経済を停滞させ、パジックとの貿易に依存していた国々を破算させていった。パジックも破算した国同士で手を組んだ連合軍と戦争状態に突入したし、パジックにとっても都合がいい結果とは言えない」

 

「じゃあなんで鎖国をしたんだ?」

 

「マガラ王16世の死が暗殺だからだ」

 

「…っ!」

 

リュウは息を呑んだ。パジック王国のマガラ王の暮らしている城は難攻不落の要塞同然のため、暗殺されたのがとても信じられなかったのだ

 

「マジかよ…じ、じゃあどこのどいつなんだ!?あの要塞に侵入してマガラ王を殺すのに50万人が攻め込んでも成功する確率が5%もないといわれてるんだぞ!?」

 

「落ち着け…マガラ王16世が暗殺されたのはパジック王国の黒歴史だ…まさかたった1人に落とされるとはな」

 

「たった…1人?」

 

「この暗殺は反ギルド軍がやった犯行だとパジックの上層部は判断してるが、野蛮集団の塊みたいな奴らの中にこの暗殺は不可能だ」

 

「じゃあ誰が…」

 

「分からん…この暗殺が成功する可能性のある奴は俺の知る限り1人もいない」

 

「そうか…でもなんでマガラ王の死因を俺に伝えるんだ?」

 

「・・・」

 

キリサメはリュウの質問に対し、口が止まるが、一呼吸をして再び口を開いた

 

「犯人がアンゼリカかもしれないからだ」

 

「っ!!!!????」

 

リュウは冷や汗をかき、驚きのあまり席から落ちてしまった

 

「…何してんだ?」

 

キリサメは冷たい目で席から落ちたリュウを見る

 

「いやいやいやなんで!なな、…おかしいだろ!なんで行方不明のアンゼリカがマガラ王殺すんだよ!?なんの根拠でそんな…」

 

「最後まで聞けって…あの事件から数日経ったあと、マガラ王を殺したと思われる人物をみたという奴が出てきてな…そいつの証言が、ユアミ装備を着て、鳥帽子を被った女だったって言ってる」

 

「で、でもそれは犯人の仲間がアンゼリカに罪を着せようとしてるだけかも知れないだろ!?」

 

リュウはあわてて席に戻った

 

「そうだ、その可能性もあるが証言した奴にはアンゼリカの容姿について違う証言をしているんだ」

 

「違う証言?」

 

「ああ、証言をした人はマガラ王を殺した犯人の髪の色は黒色と言っていたそうだ。初めからアンゼリカに罪を着せるならなんで髪の色を変える必要がある?それアンゼリカの容姿を知ってる奴なんてパジックにはあの受付嬢しかいないんだぞ?」

 

「じゃあお前はアンがやったと思うのか?」

 

話を聞いていくうちにリュウはキリサメに鋭い視線をあて、攻めた口調でキリサメに問う

 

「…俺はあいつが人殺しに手を染める奴だとは思っていない」

 

「そう…か…」

 

リュウは気張っていた体の力を抜き、座っている席で脱力した。

 

「でももし、アンゼリカがやったとしたらこれはアンゼリカを見つける好機じゃないか?やってなかったにしろ俺は今の捜索を進めるよりマガラ王を暗殺した奴の跡を追った方がアンゼリカに近づけると思うんだ」

 

「…じゃあキリサメはパジックに誰か潜入させた方がいいと思うのか?」

 

リュウは途中まで期待の目を向けていたが、大国に危険を冒して誰か送るとなるのが頭を横切ると力のない声でキリサメに質問をする

 

「まぁ、そうだな」

 

「やっぱりなぁ〜」

 

リュウは頭を抱えた。確かにキリサメの言う通り今の捜索を続けるより、アンゼリカに似た容姿をした暗殺者を追った方がはるかにアンゼリカが見つかる可能性があるし、有力な情報も手に入る。しかし、相手は大国で入国の検査も厳しく、ましてや暗殺者が潜伏している所に仲間を潜入させるのはしたくなかった

 

「追い討ちをかけるわけじゃないが、行かせるとしたら1人だな」

 

「余計に選択に悩むんだが…」

 

リュウはキリサメの一言(余計)で思い悩んだ。キリサメは他にやってもらいたい事があるし行かせるわけにもいかない。自分自身は潜入のスキルはないし行っても死ぬだけ。

 

しかしリュウには任せられる人がいないことはなかった

 

「リュウ…そろそろいいんじゃないか?あいつを行かせても」

 

「あいつか…でもこの仕事は危険だ…あいつ一人に背負わせるのは責任が重すぎないか?」

 

「リュウ…他に頼れる奴がいない…あいつは言われたらやる女だ。それに柔軟な対応に長けているしこの任務であいつ以外に適任な奴はいない…」

 

「・・・確かにそうだ」

 

リュウはそう言うものの、まだ不安はあった。もし失敗したら潜入させた人は処刑されるのは間違いない。ユクモ村も滅ぼされてしまう可能性もある。

 

だがリュウはもうアンゼリカを見つける最適な手段はこれしかないことはわかっていた。わかっていたからこそ辛かった。

 

だがリュウは決心した

 

「衛兵!!」

 

「お呼びですか!ギルドマスター!」

 

リュウの呼び出しに1人の衛兵が勢いよく入口から駆け込んでくる

 

「仕事だ…とても重要な仕事を任せたい奴がいる」

 

「と、言いますと?」

 

衛兵の質問に対しリュウは

 

「緊急だ・・・ハクレイを呼べ」

 

 

 

 

 

 



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七話 弱いけど、強くなりたい

「ーーー!!」

 

聞こえる…

 

 

「ーーーーっ!!」

 

誰の声だろう…

 

 

「ーーっご主人ー!」

 

3人?……いや、3匹?…違う…

 

 

「ーーーーー離れて!!」

 

 

1人と、2匹だ

 

何をしてるんだろう…超でかい蛇と戦ってる…

 

あれは生物なの?規格外の大きさだ

 

3人の横にある龍みたいな生物の死体も気になるけど、なんでこの3人はボロボロなの…

 

「っ!?あぶない!」

 

アルトは深い闇に沈んでる中、無理矢理見せられるように目の前に激しい戦いの夢を見た。しかし自分は傍観しているだけなのに伝わる絶望、焦り、緊張はとても夢とは思えない

 

(実際の戦い?)

 

アルトはいきなり目の前に現れたハンターとデカすぎる蛇の戦いの夢に困惑した

 

本当に起こった戦いのようで、でも実際は夢。けどこれが夢とは思えない気持ち悪い感覚で酔いそうだ

 

「ありがとう!マミさん!」

 

・・・・マミさん?

 

「ご主人!ここは退却するしかないですニャ!今この怪物と戦っても3人とも死ぬだけですニャ!」

 

「でもミコさん!この蛇を野放しにしていたらユクモ村のみんなが全員殺されちゃう…!」

 

・・・・・ミコ…さん?

 

「アンゼリカちゃん…いくら数多の危険な妖を倒してきた儂等でもこの蛇は対策のしようがない…かと言ってこやつを野放しにはできんしのう…どうしたものか」

 

アン…ゼリカ?

 

誰だっけ…その人…

 

「…とにかくやるっきゃない…この異変は絶対に終わらせる!」

 

「ふふ、折れた槍でよく言うのう…」

 

なんでこの人達はこんな呑気なの?あんな…あんな怖すぎる怪物を相手にどこにそんな余裕が…

 

「もうこれは…どうしようもニャいですニャね…」

 

1匹のアイルーが武器を落とし、地面に座り込む。早々に諦めてしまったように見える。でも手には小さい樽みたいなものを持っていた。それも一つじゃない。複数の樽を紐で結んで一つの樽にしている

 

「ご主人…いくら硬い敵とはいえ…中からの爆発には弱いはず…これで…」

 

「ダメっ!絶対ダメ!誰も死なさない!まだ…何か…まだ…」

 

自爆を提案するアイルーにアンゼリカは反対した。アイルーが持っていた樽を取り上げ、崖の底に捨てた

 

すると突然、でかい蛇が3人を襲う…かと思いきや

 

 

「アワレダナ……ギギギギ…ヒヒヒヒヒ…」

 

いきなり話しかけてきた…って

 

この蛇…喋ってる…モンスターが人の言葉を…なんで…

 

でも…変だな…私これ前にもあったような…

 

 

「ほう…人語を操る妖もおるとは…この世界はつくづく不思議じゃのう」

 

「オマエ…ラハ…ムダダッタ…サンカイ…グギギギギギギ…ヨ…ヨミガ…ガガガガガガ…」

 

 

無駄?サンカイ?よみが?この蛇は一体なにを言ってるの?

 

何よりこのふざけたコメントでなんでこの3人の顔が死んでるんだろう…

 

「みんな…すまないのう…もうそっちには帰れそうにないわい…」

 

マミさんって人?猫?いや狸かな…そんな人が蛇の前へ出て、意味不明な事を言い出した

 

「マミさん……?…何を…」

 

アンゼリカの問いかけにマミさんというアイルー?は何も答えない。ただ一定の速さで巨大な蛇に近寄る。アイルー?の顔は何か吹っ切れたような、いや何か腹を決めた様子で蛇に近づく

 

「アンゼリカちゃん…ありがとうのう…」

 

すると途端…マミさんというアイルーの両手から謎の球体が生成された。はじめは豆ほどの大きさだが、秒単位でむくむくと大きくなっていく。それと同時にその球体からはとてつもないエネルギーがたまっているのか大きくなるにつれてどんよりとした雲が晴れていく

 

「マミさん!待って!!」

 

アンゼリカという人はマミさんの元に走り出す、しかし球体から放たれる強風に吹き飛ばされる。

 

そして

 

「…さらばじゃ…」

 

マミさんというアイルーの一言であたり一帯が白い光で包まれる。ただ見ていた私の視界もまばゆい光に照らされ、以降は何も見えなかった。

 

ただあのアイルー…笑ってたな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

「・・・・いひゃい・・・」

 

 

「ほっへぇ…が…」

 

 

 

 

 

「いっっっっっっったぁぁぁぁぁぁい!!!!」

 

「わっ!?」

 

私はあの光が消えたと同時に意識が戻ったようだ。しかし意識が戻ったのはいいものの、いきなりほっぺからくる謎の激痛に悲鳴を上げた

 

 

「いっ…たたた…」

 

「やっと起きたか…」

 

あっ…アンゼリカさんだ…いたたた…でもなんだろう…このデジャヴ感は…

 

「うぅ…アンゼリカさん?」

 

「アルト!おっはよー!どう?二度寝。気持ちよかったでしょ?」

 

アンゼリカさんは私に元気よく朝?の挨拶をしてくれた。

 

「お、おはようございます…あの…なんで私ここにいるのか…」

 

確か私…森にいたよね?そこでアンゼリカさんと出会って、色々お話しをして…どこら辺で私寝落ちしたっけ?

 

木々で生い茂ってる場所からいきなり薄暗い洞窟みたいな場所にいるし、寝床もなんかチクチクする

 

「あれ?知らない?アルトは…ええと…寝落ち…あ、寝落ちしたんだよ寝落ち!」

 

「え?本当ですか?じゃあここまで運んでくれたのアンゼリカさんですよね?また…またご迷惑を…」

 

「いやいや…」

 

…なんか違う。本当に寝てたのになんだろう…腹からくるこの痛み…

 

私変なもの食べてないし…お腹壊すものは何も…

 

「ちがっーーーーーう!!!」

 

「うぉ!?」

 

あ、いきなり大きな声出しちゃった…!ご、ごめ、じゃない!何この人寝落ちって嘘ついてるの!?てか寝落ちっていう時めっちゃオドオドしてたし嘘下手すぎ!

 

「私アンゼリカさんにお腹殴られてここにいるんですけど!なんで嘘ついて私が寝落ちしたみたいに言ってるんですか!?」

 

「チッ、感のいい奴め」

 

え、マジでこの作戦でいこうとしてたの…

 

「仕方ない…」

 

「アンゼリカさん!!なんでいきなり私のお腹殴るんですか!?思いっきりみぞに入ってましたし痛かったんですよ!!」

 

アルトの抗議を無視してアンゼリカは洞窟の奥に入っていき、10秒かそれくらいで戻ってきた

 

「え、え?ええ!?」

 

アルトはゾッとした。アンゼリカの手にあるのは血だらけの大剣。そして何よりもアンゼリカの顔は無表情。赤い目とマッチしていてアルトはわけのわからない恐怖で動けなくなった

 

「あ、あの?アンゼリカさん?一体なにを?」

 

もしかしたらちょっとしたいたづらかも…そう思い、いや願って質問してみる

 

「キミは私の正体を知った…生かしておけない…」

 

っ!!!え!!うそぉぉぉぉ!!ーーー!

 

ななななんで唐突にそんな怖いこと言い出すのこの人はぁぁ!!

 

それに!バラしたのアンゼリカさんだし!

 

「まっ、待ってください!話せばわかーー」

 

「問答無用!そいや!」

 

アンゼリカはアルトの説得に一切耳を貸さず、血みどろの大剣を振り下ろす。

 

「ーーーーーーっ!?」

 

突然きた死にアルトはもう叫ぶ気力もなくなった。ただ涙を流して剣が自分の頭を真っ二つになるのをただ待つだけ

 

あ、あぁ…死んだ…なんで…なんでアンゼリカさんが…こんなことぉ

 

 

「ふふっ」

 

アンゼリカが笑った

 

「・・・?」

 

大剣が頭を切る寸前でアンゼリカの手は止まった。

 

アルトは切る時といい、やめる時といい、理解に苦しんだ

 

するとアンゼリカは大剣を地面に捨て、寝ているアルトの隣に来て、

 

「あはははっ!ごめん、ごめん!驚いた?」

 

は?

 

「いやーさ…気絶させたとは言いんだけど、あんた全然起きないし、暇だからほっぺとかつねってたんだけどそれじゃあ足んなくて……」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

「…ごめんね?」

 

 

 

 

 

「う、ううぅぅ…」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

「うぅ…うぇ…ひぐっ……」

 

 

 

「え?、嘘…マジ泣き!?」

 

 

 

いけない…涙が…でも…止まらないよぉ

 

 

「わぁぁ!ごめんごめん!」

 

 

さっきまでふざけてアルトのほっぺをいじってたアンゼリカだったが、アルトが急に泣きだすと慌てて自分の手で涙を拭う

 

 

「……う、うぅ…」

 

「ごめん!これはさすがにやりすぎた……ほんとにごめん」

 

「…………ひっ…く…うぇ…ぇぇぇん……」

 

 

「な、泣き止んでよぉ…おーよしよしよし」

 

アンゼリカはアルトの頭を撫でる

 

しかしアルトは一向に泣き止まず、アンゼリカは頭を悩ます

 

「どうしよう…全然泣き止んでくれないよ」

 

ダメだ…アンゼリカさん…アンゼリカさんを困らしちゃ…でも…涙が…我慢しても溢れてくる…声も…ごめんなさい…!

 

「ううぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」

 

 

「あぁ!やばい!本当にやらかした!」

 

アルトがついに大声で泣きだすと、アンゼリカはすぐに耳を手で押さるが、自分が泣かせた少女を泣きっぱなしにさせておくわけにもいかないため、アルトを落ち着かせようとするが

 

 

「あああぁぁぁぁぁぁんーー!わぁぁぁぁぁん!!」

 

(こりゃダメだ…)

 

 

いくらなだめても泣き止む気配すら感じない、それどころか永遠泣くんじゃないかと思うくらい流す涙が多くなってきてるし、アルトも泣き続けてるうちに過呼吸になってきてるし、泣かせたままにしておくのはかわいそう

 

 

「はぁ…まぁ私が悪いしね…アルト…」

 

アンゼリカはそう言い、アルトを自身の体に引き寄せる、一度目の要領でアルトを抱きしめ落ち着かせる

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーむぐぅ!?」

 

つもりだったが、いきおいあまって強めに引き寄せアルトの顔がアンゼリカの胸に沈む

 

「やっば!ごめ、ごめん…?」

 

「・・・・・」

 

再び泣かれると思ったがそんなことはなく、涙は流すものの泣き止んではくれた。

 

「………あれ?」

 

アンゼリカは苦しめに抱きしめてしまったと思ったが、アルトの方は胸にしがみつき身体は震えているが徐々に落ち着きが見えてきて、涙も止まっていた

 

「・・・・・・」

 

アンゼリカはほんのちょっとだけ自分の体とアルトを引き離し、アルトの表情を確認して機嫌を取り戻してくれてるかどうか確認する。

 

確認した所、くしゃくしゃになっていた顔は元に戻っており、顔が赤くなっていただけだった。でも何故かアルトは満足気な顔をしていた

 

(…なんだろうこのデジャヴ感)

 

アルトはアンゼリカに抱かれながら身体から緊張を吐き出すように息を吐く。そしてまたアンゼリカの胸に埋もれるように抱きつく

 

(この感覚…なんだろ…抱きしめられてるだけで心が落ち着く…)

 

「…………怖かったね」

 

アンゼリカは優しくアルトの頭を撫でて、背中をさする。顔は見えないが身体の震えが止まっているところからもう大丈夫なのだろうと自身の身体からアルトを引き離そうとすると

 

「っ!ーーいや!」

 

「…………??」

 

 

アルトは引き離されそうになると大きめの声と同時にアンゼリカの胸に強くしがみつき、アンゼリカから離れるのを拒んだ。アンゼリカは少し困惑したが、アルトを突き飛ばすような事はせず、無言で抱き返した

 

 

(あぁ私ーーなんて失礼なことを…)

 

アルトはアンゼリカに抱きつきながら自分が思わず放った一言にものすごい罪悪感に襲われた

 

 

(あああああ!!どうしよう!!私結構、強引に引き寄せたよね!?もうー私って無意識の内にいつもとんでもないことするんだよぉ!)

 

ア、アンゼリカさん…怒ってないかな?

 

いや元は私悪くないんだけど、世界を救った英雄に2度も慰められるなんて私贅沢すぎ!私から抱きついてなんだけどこれそろそろ離れた方がいいよね?いくらアンゼリカさんでも私なんかに…

 

「・・・・」

 

アルトは少し上目でアンゼリカの顔を伺う

 

「…あ!」

 

「ーーーーーっ!!!」

 

バッチリ目があった。しかも私、アンゼリカさんから目そらしちゃった…なんて無礼すぎる行為をしゃってんの私…

 

アルトは先程の無礼のことでアンゼリカに謝ろうとするが、口が詰まったようにうまく声に出せなかった。ただアンゼリカに口をパクパクさせた所を見られただけだった

 

 

(ちょーーーーー!!私なにやってんのぉぉぉ!!)

 

これ私、なめてるなんて誤解されたら…

 

「身体チクチクすんの?」

 

「はえ?」

 

アンゼリカはアルトを両手で持ち上げ、自分の膝の上にアルトのお尻をのっけた。

 

「あ、あの…」

 

「あーあやっぱり…モンスターの巣だったこともあるけど結構刺さっちゃてるね…少し痛むよ」

 

アンゼリカはそう言うとアルトのお尻に刺さっているトゲを抜く

 

「ーーーーーーー痛った!?」

 

アルトは予想外の傷みに思わず声を漏らしてしまった。正直、アンゼリカに抱きしめられてからずっとお尻にトゲが刺さってるなんて思いもしなかったためか、また涙まで流してしまった

 

「だ、大丈夫!?」

 

「大丈夫です…痛くないですよぅ…」

 

ダメだ…平気なフリしようとしても痛いものは痛すぎる…

 

「やめてほしかったら、すぐに言って…」

 

「はい…」

 

アンゼリカはアルトに刺さっているトゲ抜きを再開した。痛かったら言ってくれと言ったもののアルトはそんなことアンゼリカに言うつもりはなく、アンゼリカもアルトが無理して我慢することはわかっていた

 

そのため痛みが最小限に抑えるよう早めに抜くようにする。じりじり抜くより、この形状のトゲはすばやく抜いた方が負担は少ないが、痛いのは変わりない

 

「ーーーーっ!!!」

 

一本一本すばやく抜いていく、しかしそれに伴い、アルトは痛みと戦っていた。アンゼリカもトゲを抜くたびアルトが強くしがみつくため、自分に迷惑をかけまいと我慢してるのはバレバレだった。でもそんな所が少しかわいく見えていた

 

(痛い!痛い!)

 

アルトは無意識にアンゼリカに抱きついていることに全然気づいていなかった。トゲを抜くたび半泣きで自分の指を噛み、なんとか耐えようとする

 

 

「あと2本くらい…頑張れ」

 

「・・・・・は、はい!」

 

違うことを考えたり、指を噛むより、アンゼリカに励まされた方がアルトにとっては不思議と痛みは感じなかった。

 

アンゼリカはアルト刺さっている残り2本のトゲを摘み、同時に抜いた。最後は強引だったが、アルトに刺さっているトゲを抜くことはできた

 

「・・・・・・」

 

い、痛かったぁぁ…でも、1人だともっと苦しかったよね…

 

「ごめん…痛かった?」

 

「いえ!そんなことは!痛っ!?」

 

あ、気が緩んで…

 

「はぁ……ふふっ」

 

「え、ちょなんで笑うんですか!」

 

「いや、別にぃ?……」

 

「アンゼリカさん?…もしかして…私…ほかに変なことを…!」

 

「アルト、余計なこと考えなくていいよ、私別にされても気にしないし…」

 

「されても気にしなっ…!余計気になるんですよ!」

 

「ぷっ…あんた少し面白いね」

 

 

アンゼリカさんのおかげで私は緊張がほぐれ、お尻に刺さっていたトゲを抜いてくれた。しかもいつの間にかドスジャギィとの戦いでの傷も治療してくれていた

 

「…アンゼリカさん…すいません…何度もお世話になって…」

 

本当に自分が情けない…助けてもらう分際でアンゼリカさんに迷惑をかけてしまった

 

「いいって…私が好き好んでやってることだから…」

 

「・・・・・・」

 

アルトは未だにアンゼリカから離れずにいた。離れようと思って手から力を抜こうとしても急に不安や恐怖が襲ってきて、アンゼリカに迷惑をかけたくないと思っても、なかなか行動に移せなかった

 

「……アンゼリカさん…あの、ここはどこですか?なんか少し臭いし、どこから鳴いてる声かわからないのがたくさん聞こえるんですけど…」

 

ずっと黙るのもあれだから、今思った疑問をぶつけてみる。どんな場所でもアンゼリカさんが居てくれると安心だけど、この洞窟、パジックにある洞窟とは雰囲気というかとにかく全部が違う…

 

「ここ?ここはね元々リオレイアが使ってた巣だよ」

 

「え?洞窟全体が?」

 

「そ、この洞窟には生き物がたくさんいるし、ちょっと奥に行けば魚も手に入るし、外敵からも隠れられるし、リオレイアからしたらこれ以上ない、いい子育て環境だったんだ」

 

 

「へぇーー…?リオレイアって子育てするんですか?」

 

「そりゃするよ、あのおっかない主婦だってちゃんと母性はあるんだから」

 

言われたら…確かに…ん?

 

 

「じ、じゃあ!今!リオレイアはどこに!?もうすぐ巣に帰ってくるんじゃないんですか!?」

 

そうだよ!ここがリオレイアの巣からいつ帰ってきてもおかしくない!見つかったらすぐ焼かれて死んじゃう!てか食べられる!

 

「……もういないよ」

 

アンゼリカさんはなぜか悲しげに答えた。

 

「え?なぜですか?」

 

願ってもいない答えだったけど、アンゼリカさんの表情が気になる。

 

 

「………巣に入ってきたイビルジョーに殺された、親子共々ね」

 

え、嘘

 

「………そんな…」

 

 

「私がこの洞窟のに来た時はもうダメだった…アルトが言う変な匂いはそこに転がってるリオレイアとその子供達の死体の匂いだ」

 

「ーーーっ!」

 

私は思わずアンゼリカさんの胸に強く抱きついた。でも…アンゼリカさんの話を聞いた後に洞窟の周りを見渡すと、所々ヒビが入ってたりしてる。リオレイアは必死に対抗したんだろう。子供を守るために

 

 

「……モンスターの世界は弱肉強食だけど、これは私でも見てられないよ…いくら相手が悪いとは言え、命を落としても守ろうとした子供がこんな無残に喰い殺されるのはね」

 

「……イビルジョーは?」

 

「もうどっか行ったと思う…私を見ても普通に無視してどっか行ったけど、これを見たときは駆除してやろうかと思っちゃったけどね」

 

「…アンゼリカさん」

 

 

「…でもハンターはモンスターの生存競争に私情で首を突っ込んじゃいけない…このルールは守らなきゃ…辛いけど」

 

…私も少しイビルジョーが許せないと思ったけど、イビルジョーも生きるためには仕方ないことだよね…実際リオレイアも別の生物をおそってるわけだし

 

でも辛いな…命を張って守ったのに、その努力が無駄と言わんばかりに子供達の醜い死体が転がっている。それどころかもうリオレイアの形ですらない

 

「さて、こんなくらいお話は終わり!アルト、あんたをここに連れて

のはちゃんと理由があるんだ」

 

(い、いきなり…!?)

 

アンゼリカは沈んだ雰囲気を壊すように明るい表情で次の話題に移る

 

「理由…?」

 

わざわざ気絶させてまでなんでこんな人気の少ない所に…

 

 

「私、もうアルトを生かしちゃいけないって言ったでしょ?」

 

「はい、え、ま、まさかーー!!」

 

気が変わって、本当に殺すつもりなんじゃ!

 

「襲うわけないでしょ!2人で話し合いたいからここに連れてきたの!」

 

な、なーんだ…よかった…秘密を知ったからにはみたいな理由で処刑されるかと思った。でも殺すつもりだったら別にあんなことしてくれないもんね

 

 

「…えっと…話し合い?」

 

「そ、まぁ私からのお願いみたいなもんだよ」

 

お願い?アンゼリカさんが私みたいな最下級の人間になんの願いが…

 

 

「あの戦いからもう7年経ってる。私は都市や町なんか行かないから今の世界がどう変わったのか全くわからない、ハンターの装備をした子供の死体が増えてるわ、人同士で狩りあってるわで一体あれから何が起きたのか知らないの…」

 

あの戦い?あぁ、世界を救った、あの戦いか…

 

 

「へぇーじゃあアンゼリカさんはアマツマガツチとの戦いの後に世界の変化は本当に何一つ知らないんですか?」

 

「うん」

 

即答。アンゼリカさん、都市や町に行かないって言ってるけど森や村に住んでても自然と情報は入ると思うけど…

 

最近は村に近代技術が入ってきてるし、何一つ知らないのは変だな

 

「あのーアンゼリカさん。アンゼリカさんはあの戦いの後どこで姿を消してたんですか?」

 

ギルドが総力を上げて探してたのに見つかったんだよね…どこで身を隠してたんだろ

 

「姿を消すって…私は隠れてなんかないよ」

 

隠れてない…隠れてなかったらなんで今の今までなんで見つからなかったんだ、話になるよね、まぁ世界中から探されてるのに全然見つからない原因もわからないけど

 

「そう言いますけど、アンゼリカさん、正直に答えてください、一体どこに隠れていたんですか?」

 

 

「え、シナト村だけど」

 

あ、シナト村、ふーん

 

 

え?

 

 

「シナト村ぁぁぁぁぁああああ!?」

 

「何!?もう!急に大声出さないで!」

 

いやいやいやしれっと言ってるけど、シナト村って常人が行けるところじゃないよ!

 

 

「アンゼリカさん!嘘つかないでください!シナト村って普通にいけないんですよ!」

 

「え?でも普通に行けたけど…」

 

何を言ってるんだかこの人は…まずシナト村は行けなくはない…でも行くためには相当な準備と覚悟がいる。シナト村は行くだけでも命を落としかねないほど危険だ…なぜなら飛行船で行ったとして、問題点としてシナト村付近に生息する飛竜種だ…シナト村に近づいたら真っ先に狙われて落とされる。昔は天候とかの理由だったけど、今はシンプルにモンスターが邪魔をしてくる。空中では腕の立つハンターでも対処は難しい…でもアンゼリカさんなら何かのつながりで飛行船を譲ってもらえるだろうし、空のモンスターとかなんとかなりそう

 

「アンゼリカさん、行って戻ってきて飛行船はどこに隠したんですか?」

 

「飛行船?そんなもの使ってないけど?」

 

・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

 

も、もしかして…

 

 

「ーーーまさか歩き!?」

 

「歩いた」

 

 

「うそぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ええええええ!!ありえない!シナト村ってそもそも島国だから…

 

泳いだの!水泳!?

 

 

「泳ぎは……まぁ、見て覚えた感じね」

 

何を!?何を見たの!アンゼリカさん!?

 

いやいやそんなことより

 

 

「う、嘘だ!信じられない!水中にもちゃんとモンスターいるんですよ!!中にはとびきり危険なモンスターもいるはずですし、いくらアンゼリカさんでも…」

 

「えーでも私ヒコーセンっ?なんてもの私使い方知らないし」

 

「ーーーっ…!」

 

うっ、色々ツッコミたいけど…アンゼリカさんの様子を見るに…本当に知らないみたいだ…でもシナト村で自分の足で行くって…絶対嘘だと思うけど、アンゼリカさんが見つからなかった理由とこの世界がいくら進歩したのかわからない理由も全部シナト村に行ってたことなら納得がいく

 

「ははっ…やっぱり伝説はすごいや…」

 

「アルト、そんなこともうどうだっていいでしょ、早くこの世界のこと少しでも理解しとかないと」

 

そ、そんなことって…

 

「あぁ…そうでした…じゃあアンゼリカさん、私の知ってる限りですがいいですか?」

 

 

「ちょっと待って」

 

アンゼリカさんは私の口をおさえる

 

「ひっふぁいふぁいほ?(一体何を?)」

 

「私のお願いを一方的に押しつけるのは気が引けるし、アルト、私もあんたのいうことなんでもしてあげるってのはどう?」

 

「ーー!」

 

私はアンゼリカさんの提案に心を踊らせ、押さえてる手をどける

 

「じ、じゃあ!本当に何でも!」

 

「だって私、今何にも持ってないし、してあげられるのは言うこと聞くらいしかないからね」

 

 

いやいや!私にとっては破格の提案すぎる!あの伝説のハンターにな、なんでもしてくれるって!

 

頼むことは一つ!………

 

 

「・・・・・・」

 

 

「アルト?どうかした?」

 

 

いや…やめとこ…私には無理だ…私なんかが…

 

 

「……アンゼリカさん…」

 

強くなれるわけ…

 

 

「…あの!これはお願いと別の質問なんですけどー!」

 

「ん?」

 

でも…あきらめたく

 

 

「私…アンゼリカさんみたいな強い人になれますか?」

 

「無理」

 

・・・・・・・

 

 

…いや、分かってた答えだ…私は、どこまで図々しい女だ…私が…この方のような…この方のような人になれるわけない…分かってたけど…分かってたのに

 

この感情……もしかして私、怒ってる?いや悔しんでるの?…いずれにしても私がこんな感情を抱くのは贅沢だ…

 

「そ、そうですよね…あの、素直に言ってくださり…あの…あ…ああ……ありがとうございます…」

 

 

「・・・・・・・」

 

本当に私何聞いたんだろ…いくらなんでも希望持ちすぎた。

 

 

 

「…ふふっ、そんな悲しい顔すんなって」

 

アンゼリカさんが真顔から急に、にこっと笑い、私の頭を撫でる

 

 

「…え?」

 

 

「あんた…強くなりたいの?」

 

 

「え、あの…」

 

 

「どっち?」

 

「・・・・・っ!」

 

私はいきなり聞かれて声が出ず、顔を上下に激しく振った

 

 

「……よし、じゃああんたは今日から私の弟子ね」

 

 

「…え…?」

 

アンゼリカさんの唐突な弟子入りを認められ、頭が回らない

 

 

「?、もしかして嫌だった?」

 

 

「っ!そんなこと!」

 

そんなことない…そんなこと…私なんかが…あの、アンゼリカさんの……

 

 

「・・・・・・・・ありがとうございます」

 

 

「いいよ」

 

私…今日…いくらなんでも恵まれすぎてるよぉ…

 

 

「……う、うぅ……」

 

アルトは嬉しさのあまり、涙を我慢できず、静かに涙を流した。頬に涙が流れるのが伝わると、不意に涙が溢れてしまい、声も漏れてしまう。

 

「えっ!?わ、私!何か泣かせること…!」

 

アンゼリカはいきなり泣き出したアルトに驚き、自分が泣かしたかどうかわからないまま、アルトの側に駆け寄る

 

(違う!違うのぉ!)

 

 

私、また困らして……でも…

 

 

幸せすぎる…!

 

 

 

 

 

 



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八話 振り返り

この前の回とあんまり時間経ってません。


え?なんで区切ったか?…睡魔に負けましたすいません


「へぇーなるほどねぇ」

 

私は今の世界がどうなってるかアンゼリカさんに自分が知ってるだけ話した。まぁ私が知ってるのはほとんど看板娘のお姉さんから聞いたのが大半なんだけどね…

 

 

「いやー私が7年いない間変わりすぎでしょ…ハンターが国家絡みのビジネスになったのはもろちん驚いたけど、人同士が狩り合う…なんていうんだっけ…?せ、せいそう?」

 

「戦争です」

 

 

「戦争、そうだ…新しい単語も出てきて難しいな。私勉強嫌いなんだけど…」

 

 

アンゼリカさんは頭をかきながら私の話を紙切れにメモしていく。見た目によらず結構勉強熱心なんだな

 

「アンゼリカさん、全部丸分かりしようとしても、定着しませんし、時間経ったらすぐ忘れますよ、とりあえず、今の時代はモンスターだけが脅威じゃ無くなった。それだけでも覚えといてください」

 

「モンスターだけが脅威じゃないか…情けないな…教官がいつか人同士で狩り合う日が来るかもしれないって言ってたけどまさか現実になるなんて……いや、それ以前にここ7年で今の人達は利益求めすぎ、いくらなんでも子供を無理矢理ハンターにしなくてもいいのに…」

 

アンゼリカさんは右手の拳を強く握り締め、顔も私の話を聞いていくうちに呆れたような、そんな顔になっていた

 

やっぱり、アンゼリカさんも今の現状はよく思ってないみたいだ。

 

それはそうだ。なんせ今の人達はアンゼリカさんが救った世界を自分達で壊していってる。利益のためならなんでもしていい思想がどこの国でも侵食していってる。アンゼリカさんにモンスターだけが危険じゃなくなったって言ってもあまり理解してもらえてなかった。

 

アンゼリカさんもさすがに人間同士が殺し合うなんて思ってなかっただろうに…

 

「ねぇ、アルト、個人的にめっちゃ気になる事があるだけど…」

 

「…?なんですか?」

 

「アンゼリカ教って何?」

 

 

・・・・あ、

 

「やっぱ気になります?」

 

 

「うーん…」

 

これはあまり説明しない方がいいかも…でもアンゼリカさん私がアンゼリカ教の単語発したら目開いて顔がおかしなことになってたし…

 

知ったら知ったで苦しむのはアンゼリカさんだし…けどアンゼリカ教のことうやむやにしてると他の話聞いてくれないのは困る

 

「見た方が早いですね」

 

「できればアルトの口から説明してほしいし、本能的にその宗教は私見ない方がいいと思うんだけど…」

 

やっぱ目にしたくないか…

 

「ん〜まぁ大丈夫ですよ、ハイ、じゃあアンゼリカさん私はこれで、約束通り、私の家で会いましょ」

 

アルトは話そうとは思ったが、やめといた。この場は見たら早いで済ませて、アンゼリカ教のことは時間をかけて忘れさせようと考えた。自分の口で語るのも実際に見せるのもアルトはアンゼリカを辱めるのと同じ行為だった

 

そして話をうやむやにして帰宅しようとした

 

「ちょっと待って!なんで話さないの!」

 

「アンゼリカさん…世の中知らない方がいいこともあるんですよ…では…」

 

アルトは強引に話を終わらして、洞窟を出ようとする

 

「なんでそんな話を終わらそうとすんの!?その言い方だと私、絶対アンゼリカ教室に関わるじゃん!知らないままで終わらないよ!この話の終わり方だと!」

 

「アンゼリカさん、この話はまた明日にしましょ」

 

「明日って、そうか、もう夜遅いし」

 

アンゼリカはアルトに聞きたいことが山ほどあるが、夜に動くモンスターは危険な奴ばっかなのでアルトの身の安全と家族の心配を考え、引き止めるのはやめることにした

 

「アルト、今日は悪かったね、2日も野宿させちゃって」

 

「いえ、そんなこと…私、アンゼリカさんに会えただけでも最高の1日でした!」

 

 

「いやーそんなこと言われると照れるなぁ、お世辞うまいね」

 

「お世辞じゃありませんよ!……?」

 

 

(え、アンゼリカさんなんて…)

 

 

(アルト、今なんて…)

 

「1日?」

 

「2日?」

 

「アンゼリカさん?私、何日過ごしました?」

 

アルトは、震える声でアンゼリカに質問した

 

「えーと、2日ってほど過ごしてないけど、1日泊まって、2日の夜だから、1日半ぐらいかな?」

 

「・・・・・・・・」

 

(やっっっっばい!!どどどどどどどうし…あわわわわわ!!)

 

アルトの顔は真っ青になった。絶叫をあげる声の力は出でこず、心の中で焦りに焦りまくった。

 

 

「アルト?どうした?生という何かが抜けたような顔して」

 

「・・・・・・・・」

 

アンゼリカはキョトンとした顔でアルトに質問するがアルトは何も答えずただ指を咥えて縮こまるだけだった

 

「アルト?」

 

「アンゼリカさぁん…」

 

「え、どしたの?」

 

うぅ…なんで今日はついてないんだ…

 

 

「アンゼリカさぁん…ごめんなさい…もう都市にいけないっていうか、この国に住めません…」

 

「え、なんで、どうして?」

 

アンゼリカは何故が半泣きのアルトの言葉に動揺する

 

「昔と違ってクエスト時間内に戻らないと…」

 

「戻らないと?」

 

アルトはこみ上げてくる涙を我慢して、事の重大さをアンゼリカに伝えようとする。

 

「実は…」

 

「あ!報酬金減らされるとか!」

 

違う

 

「あのですね、実は…」

 

 

「わかった!家に卵を投げつけられる!」

 

違う

 

「……実は…」

 

 

「首切られるとか?」

 

合ってるけど!違う!

 

「もう!ちゃんと聞いてくださいよぉ!」

 

 

「はは、ごめんごめん、でもちゃんと声でるじゃん」

 

・・・あ

 

ホントだ

 

い、いやとにかく言わないと!

 

 

「実は…クエスト時間内に戻らないと国から逃げたと認識されて、捕まったら見せしめに闘技場に送られて、モンスターの餌にされるんです」

 

「え、それやばくね?」

 

アンゼリカさん、素でビビってる!

 

さっきの余裕はどこに!

 

「マジでやばいですよ!私このまま戻ったらモンスターの餌にされちゃいますよ!」

 

 

「いくらなんでも厳しくないかな…別に殺さなくても…」

 

「今、パジックは戦争中で国の行き来に制限があるんですよ!わぁぁぁぁ!!どうしよ!どうしよう!」

 

ホントにやばい!国から刺客送られてくるかも!それ以前にまず家にユクモ村に行くためにの貯金が…

 

 

「まぁ、アルト、そんなに慌てても事態は良くならない」

 

あ、たしかに…今慌ててもどうしようもない、ここはとにかくこの場から離れないと

 

「ほれ、お茶でも飲みな」

 

アンゼリカは水筒から暖かいお茶を出した

 

「飲んでる場合じゃありませんよ!」

 

アルトはアンゼリカから水筒を取り上げ、飲み干し、アンゼリカの服を掴み、洞窟から出ようとする

 

「あ、アルト!?落ち着け、ちょ、服引っ張んないで…これ脱がされたら私のボディが…」

 

「落ち着いてなんかいられません!早く国から離れないと!パジックはこういうとこ容赦ないんですから!」

 

「わかった、わかったから!服を!服引っ張って…!マジでそんな事したら破け…やめ、やめろー!」

 

アンゼリカは無理矢理連れ出そうとするアルトに抵抗するが、無理に動くと服が変な方向に動いて破けてしまうため、力を入れて反抗することができなかった

 

「別に・・いいじゃないですか・・!痴女みたいな格好したんですから・・!もう隠すことなんて・・・・!」

 

アルトは目的を忘れてアンゼリカの服を引っ張る

 

 

「何をぉ・・・!誰か・・痴女…だってぇ!・・師匠を敬いな…さい!」

 

 

「敬ってますよ・・!とにかく抵抗しないでください!7年そんな格好なら…全裸になっても大丈夫でしょ…!」

 

「お、お前・・!私にだって羞恥心ぐらいあるわ…ボケェ!」

 

アルトは目がおかしくなっており、目的を完全に忘れてしまっていた。連れ出すから何故か脱がすに変わっていた

 

「アルト!わかった!わかったからもう離して…!」

 

「いや・・離したら済む話なんですけど…なんか今離したら後悔しそうな…」

 

「なんの後悔!?いいから離せぇ!」

 

なんだろ…やばい身体止まんない

 

 

「アンゼリカさん!諦めてください!」

 

 

「だから何が!あんたが離せばいいでしょ!」

 

 

「アンゼリカさんが抵抗しなきゃいいんですよ!乳首見えてますし!」

 

 

「え!?嘘!」

 

「嘘です!!うぉぉぉぉぉぉぉーー」

 

「あんた!やめろぉぉぉぉぉーー」

 

 

お互いあと一歩の接戦であり、なかなか終わる兆しが見えない

 

 

この2人の攻防?は結構長い時間まで続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその頃

 

 

1人の中年の男性と黒髪の若い女性がパジックのある場所にて、何やら怪しい計画を立てていた。

 

中年の男性は上機嫌な様子でずっと高笑いを続けていて、それを無表情に女性はただ聞いて立っていた

 

「アンゼリカ!さすが私の娘だ!」

 

 

「・・・・・ありがとうございます」

 

「ふふふ、私は満足だぞ!まさかあの要塞と呼ばれるマガラ王の根城の警備をかいくぐり、マガラ王を仕留めるとは!はははは!」

 

アンゼリカと呼ばれる黒髪の女性はマガラ王を殺し、パジックを騒がせている暗殺者だった。黒髪の女性のその目は赤く、容姿もアンゼリカと瓜二つだった。

 

父親に褒められている間も決して表情を変えず、感情などは全く感じられない。腰に携えている刀と着ている服は血まみれであるが、それを気にせず一方的にアンゼリカ?を褒め続ける父親も狂気じみていた。

 

「お父様のご命令ならば、100人の首もとってまいります」

 

 

「言うじゃないかアンゼリカ!お前は偉いぞ!私の言うことをよく聞いてくれる…!」

 

アンゼリカ?は父親に頭を撫でらている間も表情を崩さず、自身に染み付いた血を指で拭き取り、刀を少し抜いて、血がついた指で刀に塗る。塗られた刀は血を飲むように床に血を一滴も落とさず吸収する

 

そんな奇怪な行動をする娘を前にしても父親は何も言わず、アンゼリカ?の頭を撫で、マガラ王を仕留めた事を褒め続ける

 

「アンゼリカ…実はな、まだお前に頼みたい仕事があるんだ…」

 

父親はそう呟くとゆっくり自分の席に座る

 

 

「問題ありません…お父様のためならば…」

 

「ふはははは!言うと思ったぞ!私のかわいい娘よ!」

 

父親はアンゼリカ?の一言で高笑いをし、席から立ち上がり、アンゼリカ?の肩に手を乗せる

 

「ふふ、お前に頼みたいのはな…アンゼリカの始末だ…」

 

父親は先程まで上機嫌な声がいきなり、図太く、低い声で小さめにアンゼリカ?の耳元で話す

 

「では、首を切ります」

 

アンゼリカは胸元から取り出したナイフで首元を刺そうとする

 

「いやいや、可愛いお前のことじゃないんだよ」

 

父親はアンゼリカ?のナイフを奪い取る

 

「お父さんが殺してほしいアンゼリカはな、この私の誘いを断ったあの憎きアンゼリカのことだっ!!あの小娘め!私があいつのためにいくら払ったと思ってるんだ!!」

 

 

「お父様、アンゼリカの居場所はどこに?」

 

アンゼリカ?は地団駄を踏む父親に動じず、暗殺対象について質問する

 

 

「今探してるところだ!見つかり次第呼び出すから、お前はどこかに消えろ!」

 

父親はいきなりキレだし、アンゼリカ?にも八つ当たりをしてきた

 

「わかりましたお父様」

 

父親の自分勝手な物言いにも従順に従い、アンゼリカは父親に対し、頭を下げて部屋を出る

 

 

 

 

「アンゼリカ…偽物…殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の紹介とかするの忘れてました。

アルトは髪の色が赤で緑のコートを着ていて、服は上が黒いタンクトップで下は短パンですね。


武器は今のところナイフです。狩猟クエストは基本的にやらないですからね




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九話 パジックが誇る筆頭ハンター

パジック領、首都 アギラグァム内、ギルド本部にて、ギルドマスター及び4人の男達、筆頭ハンターが会議をしていた。内容はドスジャギィの異変もそうだが、会話の中にはアルトの事も含まれており、ギルドマスターはこれらの処分に悩まされていた

 

 

「うーむ…」

 

「ギルドマスター!これは一大事ですよ!例え少女でも今のパジックの現状を漏らされたりしたら!」

 

ギルドマスターの決断の長さに1人の若い片手剣使いの筆頭ハンターがイライラしながらギルドマスターに決断を迫る。

 

内容は脱走(と思われている)したアルトのことだ

 

 

「いやしかし、ルイスよ、たった1人の少女に捜索隊を差し出すのも他の国に勘付かれてしまうじゃろ。それに今思えばたかが少女じゃ、別にほっといてもいいじゃろ」

 

「いいわけないでしょう!」

 

片手剣使いの筆頭ハンター、ルイスはギルドマスターの座ってる机に自身の右手を強く打ち付ける

 

「あなたは事の重大さがわかってない!その甘さで何回パジックの内情漏れてるか分かってるのですか!」

 

「わかっておる…だがドスジャギィの方も2人ハンターが殺されているわけだし…」

 

ルイスは必死にギルドマスターに怒りを露わに抗議する、だがそんなのに動じず、ギルドマスターは顔を下に向き、再び悩み始めた

 

「うーんどうしようかのう…」

 

「ギルドマスター…」

 

ギルドマスターはまた悩み続ける。腕を組み、余計なことを考えず、事態がどう収拾がつくかを考えている

 

 

「・・・・・・」

 

「…ギルドマスター?」

 

ルイスは急に黙り込んだギルドマスターに声をかける、身体をゆすったりするが、息はあるだけで返事がない、もしやと思い、ギルドマスターの顔を確認すると

 

 

「・・・・ぐぅ・・・・」

 

「ーーーーっ!!」

 

なんと、余裕の居眠り。しかもこんな短時間で。

 

「…っ!この!」

 

ルイスは頭に血が上り、ギルドマスターに殴りかかる

 

すると他3人同様、ギルドマスターとルイスのやり取りを見ていた筆頭リーダーの太刀使いの男がルイスの拳を右手で受けとめる。

 

「サウスさん!!」

 

「おい、ルイス、少し外で頭を冷やせ」

 

筆頭リーダーのサウスはルイスの手を離し、ルイスを会議室の出口に送ろうとする

 

「サウスさん!なぜです!今、手を打たないとパジックは余計な被害を受けることになります!」

 

「バファ、ルイスをつまみ出せ」

 

サウスに指名された途端、ハンマー使いの筆頭ハンターのバファはルイスの鎧の隙間を掴み、出口の方まで持っていく

 

「ちょっと!バファさんまで!サウスさぁぁん!」

 

「・・・・・・」

 

サウスは最後までルイスの抗議に耳を貸さず、ギルドマスターの元に寄り、肩を優しくゆする

 

 

「ギルドマスター、ルイスは出ていきました、目をお開けください」

 

「お、すまんのうサウス」

 

ギルドマスターはサウスからルイスが出ていった事を聞くと、さっきまで寝てたとは思えない、素早い動きで、会議室の机に乗っかる

 

ルイスの話に飽きたのか、狸寝入りをしていたのだった

 

「わしの芝居を一目で判断し、それに合わしてくれとはのう、お前さんは本当に気がきく奴じゃのう」

 

 

「いえ、そんなことは、先程は我々のルイスが大変失礼な事を…」

 

サウスはギルドマスターに対し、頭を下げる

 

「気にするでない、筆頭ハンターは実力だけで見られる所があるし、精神的にも余裕がない者が1人いてもおかしくないからのう」

 

 

そう、筆頭ハンターは人格と能力共に優秀な者に与えられる称号なのだが、現在はモンスターの単独での狩猟数、ギルドや国への貢献度で決められるようになり、人格や精神面の評価はないに等しかった。

 

しかし評価の仕方が変わっても、筆頭ハンターにふさわしいハンターもいるのは変わらないが、ルイスのように精神面に問題があるハンターがいるのも事実である

 

「申し訳ありません」

 

サウスは再度頭をさげる

 

「サウスが謝ることはない、ほれほれ顔を上げい……」

 

ギルドマスターはサウスに頭を下げられる中、その様子をただ見続ける他のハンターと比べ、小柄、いや少年筆頭ハンターに目を向ける

 

「・・・そのちっこいのはまだ声が出ないのか?」

 

「はい、未だ回復の見込みはないと言われてます」

 

「・・・・・・・・」

 

 

「そうか…そうじゃろうなぁ…なんせ生まれがハンター国家訓練施設なんじゃからな…いくら歴代最高傑作と称されても人と喋る事はできん、嬉しさ悲しさ悔しさなどの人間の感情は強さを求める感情だけ残して捨てられ、挙句には人間兵器とも呼ばれる…こんな子供に…なんていうことだ……」

 

ギルドマスターは少年ハンターの元に歩み寄り、少年ハンターの希望のない目を見て、目に涙を浮かべる

 

「ギルドマスター、あまりあの施設への批判は避けた方が…それにジスターの前であまりこういった話はしないでください。喋れなくてもちゃんと耳は聞こえますから」

 

「…すまんのう…」

 

ギルドマスターは沈んだ顔で再び自分の席に腰をかける。

 

「ギルドマスター、ジスターの件はまた別の機会に…今は少女の逃亡とドスジャギィの異変について話し合わなければ」

 

「そうじゃな…ジスターよ…すまぬのう…」

 

子供でありながら筆頭ハンターの称号を持つ少年、ジスターはギルドマスターの話も問いかけにも何も答えず、表情も変えず一点を見つめて立ち続ける

 

「・・・サウスよ、ドスジャギィの事から片付けるとしよう」

 

「もうお決まりに?」

 

ずっと悩み続けた事件の優先度に早く区切りをつけたギルドマスターにサウスは本当にそれでいいか確認をする

 

「うむ、サウス…ドスジャギィの異変についてだが、口からはどす黒い息を吐いており、動きは通常のドスジャギィと桁違いだということじゃが…この情報は正しいのかのう?」

 

「はい、その情報はドスジャギィと交戦し、生き残ったハンターとアイルーからの情報です」

 

 

「…またこの情報か…これで何件目じゃ…」

 

ギルドマスターは身体から力を抜き、腰に携えている酒を手に飲み始める

 

「中には人語を発したモンスターがいたという情報も入るし、一体モンスターに何が起こってるんじゃ?」

 

サウスはギルドマスターの話を聞いて、ある紙を手にする

 

「どす黒い息とかの情報までなら原因はゴア・マガラにあるとなりますがもうそのモンスターは討伐され、死体も焼き払われてると思いますが、人語を話すモンスターも現れるとなると、お手上げですね」

 

ゴア・マガラの絵を見てギルドマスターはある推測をする

 

「もしかしたら、子孫が…」

 

「その可能性はありますが、ゴア・マガラの活動で人語を発するモンスターの出現は見られません」

 

「・・・・こうなったら、ドスジャギィを生け捕りにするしかあるまい」

 

 

「捕獲ですか」

 

ギルドマスターは自分達で考えるよりも似た症状を持つモンスターを生け捕りにして調べた方がいいと考えた。まだ他のモンスターと比べると危険度が低いドスジャギィに異変が起こってる内に調べるのが最適だった。

 

「では、我々が…」

 

「まて、サウス」

 

ギルドマスターはドスジャギィの捕獲に赴くサウスを呼び止める

 

「おぬしら筆頭ハンターには反ギルド軍の調査をしてもらいたいんじゃが」

 

反ギルド軍のワードを聞いたサウスはすぐ足が止まり、ギルドマスターの方へ身体を向ける。反ギルド軍はギルドが排除するべき勢力なのだ。

 

「構いませんが、マガラ王の暗殺と反ギルド軍は関係ないとギルドマスター自身、判断されてましたが…」

 

「そうじゃ、だがサウス達に頼みたいのはマガラ王暗殺の事ではない」

 

「ではどのような?」

 

「フレデリック・ストーンエッジが動いた」

 

「・・・・・・・」

 

フレデリック・ストーンエッジ。反ギルド軍のリーダーであり、殺人、強奪、破壊工作などの犯罪行為でパジックだけでなく、世界中から指名手配されている危険人物。アンゼリカ失踪から反ギルド軍を作ったのも彼であり、すでにハンターおよび兵士が多数殺害されている。

 

フレデリック・ストーンエッジの名前を聞いてサウスは何かよからぬことが起きると分かっていた。反ギルド軍の構成員は大したことはないが、フレデリックが動くとなると話は変わる。

 

 

フレデリック・ストーンエッジが動くと誰も止められない。ドンドルマに筆頭ハンターの殺害予告をして、ドンドルマは万全の準備で反撃をしようとしたが、結果は惨敗

 

たった1人を相手に皆殺しにされた

 

サウスは反ギルド軍を侮りはしないが警戒などはしなかった。反ギルド軍は統制の取れない弱小の軍隊だ。しかしフレデリックを相手となるとサウスでも命の危険は感じられずにはいられない。

 

「ではその対処を我々に?」

 

「いや、フレデリックを刺激するな顔を確認するだけでもいい」

 

フレデリックはアンゼリカと違い、目撃者が1人もいない。フレデリックという名前は捕縛した構成員が拷問の末に言った名前であり、本名かどうかすらわからない。他の情報は構成員をいくら拷問しても名前しか吐かないあたり、構成員にもリーダーのことはわからないらしく、性別は強さから男と勝手にパジックは判断してるだけであり、実際、フレデリックについて何一つ情報をつかめてない。

 

しかもフレデリックを危険視するのは国の上層部とギルドだけであり、国民からは絶対的な支持を得ている。

 

理由は国民には一切の危害を加えない、不当に利益を得ているハンターや社長を抹殺し、暴力的解決だが、ハンター達の腐敗を抑制しているのはフレデリックの存在が大きいため、告発や通報でフレデリックを捕まえることは不可能であるため、フレデリックを追うのがやっとである。

 

結果、今に至るまでフレデリックに負け続けている

 

「…顔だけでも…ですか…」

 

「フレデリックは1日でも早く捕まえねば、細かい情報でも今の我々にとっては宝じゃ、フレデリックにモンスター狩猟の邪魔をされておるし、何しろハンターの殺害をされるんじゃ狩猟どころじゃないわい」

 

「なるほど、ではすぐにとりかかります。ジスター、バファとルイスを連れてこい」

 

サウスに命令され、ジスターは頷き、出口の扉に手をかける

 

「ジスター待ってくれ」

 

ギルドマスターは急いでジスターの元に駆け寄り、扉を握る手を優しく引き離す

 

「サウス、これは隠密作戦じゃ、人数はなるべく絞った方がいい、それにルイスの性格じゃとフレデリックを捕まえようとするに違いない」

 

「…たしかに…人数を絞るのはともかく、ルイスは置いていった方がいいですね」

 

サウスはギルドマスターの意見を素直に受け入れた。ルイスの性格だと確かにフレデリックを捕まえようとするだろう。しかしルイスは人を制圧するスキルを持ち合わせていなく、返り討ちにされるのは目に見えていた。

 

「では、私とジスターの2人で調査に…」

 

「っ?バファはどうする?」

 

「ルイスを見てもらいます。後々追われたらめんどうなので」

 

ルイスは筆頭ハンターと呼ばれるほどの実力者であるのは間違いなく、出ていったとしても、すぐ追いついてしまうのだ

 

「それではギルドマスター、失礼します」

 

「頼んだぞ、サウス」

 

サウスはギルドマスターに一礼をしてジスターを連れて部屋を出て、外に出た。

 

「・・・・?おや?」

 

サウスは外に出るなり疑問に思った。

 

バファとルイスがいない

 

「あいつらどこに行ったんだ?」

 

サウスは辺りを見渡すが、見えるのは大通りを通る人々達か、仕事を手伝うアイルー達のみ

 

「・・・・・・」

 

ジスターは2人を探そうと人混みの中に入ろうとするサウスの裾を掴み、無言でサウスの顔を見つめ、フレデリックの捜索エリアの方向に指を指す

 

「ジスター・・そうだな、今は任務が優先だ」

 

サウスはジスターの手を握り、任務に赴く。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ルイスとバファは

 

 

「クソクソクソクソクソクソォォォォォォ!!」

 

ギルド本部の近くの料理店でルイスはやけ食いをしていた。周りには小皿や大きな茶碗や皿が散乱しており、周りの客はルイスに注目せず、なるべく関わらないようにしていた

 

「おいおいルイス、その辺にしとけ」

 

「うっせぇ!サウスさんはともかくあのクソジジィが!!」

 

ルイスは持ってこられたタコ料理を丸呑みする

 

「おい、そんな食べ方すると喉に詰まるぞ」

 

 

「んぐ…あぐ…あぐ…」

 

案の定なかなか噛みきれず、口の中でモゴモゴしているだけだった

 

そして喉に詰まり、胸のあたりを苦しそうに思いっきり殴り始めた

 

「はぁ…ほら言ったろ」

 

バファは呆れた様子でルイスに水入りの大きいグラスを渡す

 

そしてルイスは喉に詰まったタコ料理を無理矢理流し込む

 

「・・・・ぷはぁ…ありがとうバファさん」

 

ルイスは落ち着いた表情で席でくつろぐ

 

「全く、お前はすぐに熱くなりすぎだ、口調も悪くなるし、筆頭ハンターは強ければいいもんじゃないぞ」

 

「分かってますよ…でもあのギルドマスターは何も分かっちゃいない」

 

「分かってないって…何をだ?」

 

「・・・裏切りの恐ろしさをですよ」

 

「分かってるような言い方だな」

 

バファの指摘にルイスは机の上で顔をつけて休む…そして少しすねた口調で話し続ける

 

「パジックはマガラ王を暗殺された理由がわかりますか?」

 

「さぁな」

 

「マガラ王の住んでる城の警備兵の脱走をそのままにしたからですよ、全くなんで上はこんな無能なんだろう、自分達さえよければいいのか、国のトップが死んだのに」

 

「でもそれがマガラ王が死んだ理由にはならんだろ、いずれにせよいつも通りの警備でマガラ王を守れたんだ。暗殺された理由は相手が悪かった、これに尽きる」

 

「・・・・・・」

 

ルイスはバファの指摘に反論せず、お腹を抑えて黙り込む

 

「・・・なぁルイス、お前何かあったのか?」

 

ルイスのちょっとした変化にバファは疑問に思い、質問をする

 

「いやーさぁ何がデショーネ」

 

ルイスは何か隠したいのかバファの質問を適当な返事でかわす

 

「お前いつもなら机叩き壊すまでネチネチ愚痴を言い続けるだろ、一体何があったんだ?」

 

「ウーンサァ?ドウデショウ?」

 

ルイスは警戒しているのか一向に口を開かない

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・」

 

バファは聞くのはやめて、ルイスのことで思い当たることを考えて、苦労してルイスの謎を明かそうとする

 

「お前、受付の姉ちゃんに振られたろ」

 

「え!ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

バファは思考を巡らせることはせず、別に考えなくてもバファはルイスの元気がないのは最初っからわかっていた

 

「なんで!なんで分かったのぉ!」

 

ルイスはバファのするどい推理?に言い訳もせずただ顔を真っ赤にしてバファの口を塞ごうとする

 

「お前分かりやすいんだよ、バレたくなかったら少し自然に振る舞え」

 

「バファさん!分かってたら今ここで言わなくても!」

 

「あの姉ちゃん、可愛かったもんなぁ〜お前が一目惚れするのも分かる…振られたけど」

 

「バファさぁぁぁぁぁん!!!」

 

ルイスは頑張ってバファの口を塞ごうとするが、力でバファに敵うはずもなく、腕を掴まれて足をバタバタしながら騒いでいた

 

すると料理店の店長らしき人が突然

 

「あのーお客様、こういったことは当店では遠慮していただきたいのですが…」

 

「あ、すいませーん、今、こいつ失恋でして、慰めてる最中だったんですよー」

 

「あ、そういうことですか」

 

「バファァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

ついにルイスはマジギレして、先輩でたるバファも呼び捨てになって乱暴な口調になる

 

バファは暴れるルイスを取り押さえ、会計を済まして外に出る

 

「はぁ…はぁ…」

 

「全く、冗談だよ、熱くなるなよ〜」

 

バファは軽い口調でルイスをなだめるが、ルイスはバファに完全に敵意むき出しの状態でいつ殴りかかられてもおかしくない状態だった

 

「クソォォォォォォ!なんで今日は2回もつまみ出されなきゃいけないんだ!」

 

「お前は細かいことですぐヒートアップするからな」

 

「料理店のは普通に恥ずいですよ!」

 

「いいじゃない、どうせ振られるのは分かってたんだから、お前、根っから女に嫌われてっだから」

 

「・・・・・ぶはぁ!!」

 

バファの一言でルイスは膝から崩れ落ち、口からゲロを吐きながら地面に頭が突き刺さる感じで静止して黙り込んでしまった

 

「え!なんでこんな姿勢になんの!?ルイス!しっかりしろ!」

 

ルイスはバファに担がれ近くの病院に連れていかれた。苦しそうな表情を浮かべ、白目をむき、今にも死にそうな勢いで、どんどん容態は悪化していった

 

「ルイス!死ぬな!ルイスゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

バファは全速力で病院に駆け込む、弱っていく戦友を助けるため、バファは走った(100mくらい)。

 

そしてルイスの容態を医者に診てもらった

 

結果

 

 

 

ただの消化不良だった

 

 

 

 



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十話 自信

(・・・・ほっぺ痛い)

 

アルトはアオキノコの採取クエストを受け、森に入り、アオキノコを大量に入手するために危険エリアに行くが、いつもいじめてくるハンター、ゲターに絡まれ、様子のおかしいドスジャギィに襲われた挙句、折角集めたアオキノコを紛失し、そのうえ色々いい意味と悪い意味も合わせて予想外の事が起き、クエスト時間内に街か村に帰還しなかったため、国から追われることになった

 

「・・・・・・・」

 

アンゼリカはアルトに背を向け、胸のあたりの服を裁縫する。

 

「・・・・あの、すいません……」

 

アルトはほっぺを抑えながらアンゼリカに深く頭を下げる。

 

アルトはあの引っ張り合いでアンゼリカの服を破ってしまい、しかも一番女性がさらけ出してはいけない部位の部分を破ってしまったため、アンゼリカに強めのビンタをくらって今に至る

 

「・・・・・・・・」

 

アンゼリカはアルトに見向きもせず、破れた所を縫い合わせようとする。

 

(私…なんてことを)

 

いけそうでいけなかったからつい力が入って…でもまさかあんな風に破けるとは…けど意外だったな…裸とかになっても全然気にしない人と思ってたけど案外そういうところは気にする人だったんだ。

 

でも今はとにかく謝らないと、私が悪いことしたんだから

 

「許されないとは分かってます…私…ずっと助けられてばかりなのにアンゼリカさんになんのお返しもせず迷惑かけてばかりで…」

 

「・・・・・」

 

「あの、すいません…縫い合わせそうですか?」

 

「・・・・・・・」

 

(む、無視…相当怒ってる…)

 

 

アルトはなるべくアンゼリカの正面で土下座して謝るが、アンゼリカは目も合わせてくれず、服の裁縫に取り組んでいた

 

「アンゼリカさん・・・」

 

と、とりあえず替えの服…は私持ってないし、辺り見渡しても武器とか肉しかないし、もしかしたら1着しかないのかな?じゃなきゃあんな熱心に服を縫い合わせようとしないか

 

私のコートを破いてもまず色が違うから不自然だし、裁縫の手伝いをしたとして、アンゼリカさんの胸の部分縫えたとしても服全体めっちゃ縮んで非常に危なすぎる服になる。

 

解決作は同じ服を買う、ユアミ装備は今の時代そんな高くないから私の貯金でも余裕で買える。

 

でも売ってるのはパジック国内だし、そもそも貯金があそこに…

 

ええい、仕方ない、ここは弟子を見せるぞアルト!

 

「アンゼリカさん!私今からアンゼリカさんの装備を買い直してきます!少し日数はかかりますが…待っていてください!すぐ戻りますから!」

 

「・・・・・・・え?」

 

アルトはそう言い残して、洞窟から出て行く

 

「ちょちょちょアルト!?」

 

アンゼリカの呼び止めにも応じず、アルトは森を駆け抜けて、パジックを目指す

 

 

(これはちょっとした試練だ…アンゼリカさんに少しでも恩返ししないと)

 

 

アルトは洞窟を抜けて、川を渡り、何度か崖から落ちそうになるも、パジックを目指しただ走り続ける

 

 

なんだろう…この高揚感!人のために走ったり、今から大きなことをするみたいでワクワクする!よーし!!

 

アルトはペースを上げ、猛スピードで走った。アンゼリカに何か恩返しをしたいと思っていたため、不思議と疲れず、重労働をほぼ毎日しているためか体力にも余裕があった

 

やっと恩返しができる、その気持ちがアルトを鼓舞する

 

 

 

「アンゼリカさん!待っていてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グルルルルルルル…!」

 

(やっばい………)

 

 

「ガァァァァァァァァ!!」

 

(ホントにやばい!!)

 

アルトは出だしは良かった。しかしアルトは洞窟を出る際、致命的なミスを犯してしまっていたのだ

 

 

(パジック…どこ?)

 

 

アルトはまだドスジャギィと交戦したあの森の範囲なら問題なくパジックに帰還できたが、なにせアンゼリカに気絶させられ、見知らぬ洞窟に連れていかれたため、当然知らない場所から家に戻れるはずがない。アンゼリカに連れていかれる時に気絶していたのも災いし、アルトはパジックの帰り道が分からなかったのだ。

 

つまりアルトは今、迷子である

 

「グルル…」

 

「あわわわわ…」

 

 

しかもアルトは迷っただけでなく運悪くアオアシラに遭遇していまい、命の危機の真っ最中である

 

「・・・・」

 

ゆ、ゆっくりこっちくる!怖い!クマってハチミツしか食べないんじゃなかったの!?

 

やばい今すぐアンゼリカさんの所に帰りたい…でもこいつを引き連れていくわけには…

 

「ガァァァァァァァ!」

 

「ギャァァぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

アオアシラはアルトに猛突進してくる、アルトはパニックになりながらもシンプルなら横に避ける

 

「ぐるる…」

 

しかしアオアシラもバカではない、かわしたアルトを目で離さず鋭い爪で襲いかかった

 

「わぁ!…ちょ!?」

 

アルトはアオアシラの追撃に怯むが、すぐに態勢を整えて、正確に避ける

 

「クソ!これでもくらえ!」

 

アルトは避けた隙を突き、その辺の石を投げる

 

「グゥ…?…ガァァァァァァァ!!」

 

しかしそんな物はアオアシラに効くはずがなく、余計に怒らしただけであった

 

怒り狂うようにアルトを攻撃していき、鋭い爪で木を薙ぎ倒しながら逃げるアルトを追いかける

 

「ひぃぃぃ!!しつこすぎる!!」

 

アルトは全速力で逃げ回るが、スピードもパワーもアオアシラに負けており、すぐに距離を詰められ

 

「ガァァァァァァァァァァァァー!」

 

「がはぁっ!」

 

アオアシラの突進に吹き飛ばされてしまい、倒れ伏せてしまう

 

「い、痛い…」

 

アオアシラはすぐ振り返り、アルトに向かって再度襲ってくる

 

アオアシラは倒れているアルトにのしかかるように覆いかぶさろうとしてきた

 

(って、痛がってる場合じゃない!)

 

 

アルトは身体を無理にでも動かし、アオアシラの攻撃を避ける

 

防戦一方の戦いで、だんだんアルトの体力は削がれていった。ずっと走りっぱなしだったこともあり、息が切れて足もパンパンになっていた

 

しかし止まるわけにもいかず、自分がパジックに行けてるかどうかなんて気にしている余裕はなく、アオアシラから逃げるのに精一杯だ

 

「はぁ…はぁ…横っ腹が…」

 

走り続けているうちに横っ腹に痛みを感じてきた。ただでさえ今のペースで危ないのに、速度落ちたら確実に殺される…

 

ドスジャギィの時と違ってアオアシラは硬いしその力もバカみたいに強い…

 

「・・・・・グァァァァァアアア!」

 

「ーーっ!」

 

(もうこんな近くに!?)

 

アオアシラはアルトに追いつき、勢いよく鋭い爪でアルトに切りかかるが、ジャンプして避けられてしまい、バランスが崩れてそのまま転んでしまった

 

 

「今だ!」

 

アルトはアオアシラが転けた隙を見計らい、アオアシラから距離を伸ばす。アオアシラに見つからないように草むらに隠れて息を潜める。

 

また走れるように呼吸を整えて、草むらで少し休むことにした

 

 

(……撒いたかな?)

 

アルトはアオアシラが自分を見つける前に姿を消すため、その辺の草むらに隠れたものの、そんなにアオアシラと距離はさほど遠いわけではないので、においとかで見つかってしまわないか、かなり心配だった

 

「・・・・・」

 

 

 

・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

 

(やり過ごしたかな?)

 

 

物音も息も聞こえない…足音なんて聞こえもしないし本当にどっかいったのかな?でもいくらなんでも静かすぎる。

 

元々静かなの森だけどなんでこんな嫌な予感がするんだろう

 

 

「・・・・グルル」

 

「ーーーーーっ!!!え!」

 

真後ろ!しまった!

 

 

「ガァァァァァァ!!」

 

アオアシラはいつのまにかアルトの後ろに迫っており、鋭く尖った爪をたてて、アルトの背中を引っ掻く

 

 

「あ"ァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

背中の傷から燃え上がるような痛みに耐えられず、アルトは力なく倒れる

 

(そ、そんな…なんでこんな近くに…)

 

アオアシラはすかさず、アルトを両手で器用に掴みあげ、地面に思いっきり投げ捨てる

 

そして仰向けに背中を削るように地面に落ち、アルトは痛みに耐える。

 

 

 

「ぐっ!!」

 

なんで…食べないの…?あのままなら私の頭を噛み砕くこともできたのに

 

 

・・・こいつまさか

 

遊んでるつもりか…

 

「ガァァァァァァ!!!」

 

アオアシラは投げ捨てたアルトにゆっくりと近づいていく

 

「…ふざるな…うぅ…」

 

アルトは背中からの激痛に耐えながらゆっくりと立ち上がるが、足はフラフラで立つのがやっとだった。

 

近づいてくるアオアシラから逃げることも出来ず、あっさりと押し倒されてしまった

 

 

(また…またこんな…)

 

アオアシラに押し倒されてしまった瞬間、ふとドスジャギィと戦い、絶体絶命の時を思い出した。

 

 

(確かあの時は怖いなんて感じなくて、もう死ぬんだって感じだったな…死にたくないってよりも、もう早く殺してって気持ちの方が強かった…)

 

アオアシラは押し倒したアルトをもう一度掴みあげ、口を大きく開き、アルトの頭を自身の口にもっていく。

 

今度は噛み砕くようだ。口からよだれが出ていて、舌も伸びきっていた

 

(アオアシラって、人も食べるんだ…はは、初めて知った)

 

どうしよう…私…死にたくない、アンゼリカさんとまだ一緒にいたい…

 

 

「まだ……死なない!!」

 

 

アルトがそう言い放った瞬間だった。

 

突如どこからか飛んできた大きな大剣がアオアシラの両腕を切断し、アルトは地面に落ちた

 

「ガア"ァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

アオアシラはそのまま後ろに倒れ、倒れた後も大きな鳴き声を上げ続けた

 

 

「え?ええ?一体何が…」

 

アオアシラの硬い両腕をあんなスパッと切り落とすなんて…

 

 

アルトはアオアシラの両腕を切断した大剣に目を向ける

 

「これ…ドスジャギィに刺さってた…っ!もしかして!」

 

 

「アルトっ!」

 

やっぱり……!!

 

 

「助かった…」

 

 

アルトを助け出したのは胸を押さえながら駆けつけたアンゼリカだった。アルトは背中の激痛に耐えるが、アンゼリカの顔を見ると少しずつ意識が薄れていく…

 

 

「アルト!しっかりしな!アルト!」

 

アルトはここで眠るとアンゼリカの負担が増えると思うとなんとか意識を保つことができた

 

 

「っ!この傷……すぐ止血する…ちょっとまってて!」

 

アンゼリカはアルトの背中の傷を見ると、その場から立ち去り、洞窟に入っていく

 

 

(洞窟…??)

 

もしかして…

 

「アルト!背中見せて、応急処置するから!」

 

アンゼリカは洞窟から救急箱を持って負傷したアルトに駆けつけた。

 

「…あ、アンゼリカ…さん…あの、この洞窟って…」

 

「喋るな!…うわ…これはひどい」

 

やっぱり、私とアンゼリカさんがいた洞窟だ。外から見たことはないけど入口が真正面からだと全然見えないし、アオアシラから逃げてる最中で隠れる場所を探したけどこんな近くに洞窟があるなんて全然わかんなかった…

 

私…知らないうちに戻ってたんだ

 

「ーーっ!痛い!」

 

「我慢しな、止血中だから」

 

ただでさえ傷口が風に当たるだけでも意識を失いそうな痛みに薬や包帯が背中に触れると、感じる痛みは予想以上だ。

 

爪噛んで我慢しようとしても気が緩んだら本当に落ちちゃう…

 

「アンゼリカさん…ありがとう」

 

「無理に喋んなくていいって…」

 

かなり痛いけど、だんだん慣れてきた…包帯巻いてくれて風に当たらなくなってきたし、薬を塗ってくれたのか足元に流れる血が少なくなってる

 

また、助けられたな…

 

 

 

 

「ゥゥゥヴヴヴヴッッッッ!!!」

 

え、

 

 

「ガァァァァァァァァァァ!!!!!!ァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

死んだんじゃ…

 

 

「もう起き上がってる!」

 

「なんだって!?…クソ!」

 

アオアシラは両腕から血を大量に流しながらも、二本足で立ち上がり、治療中の2人に殺気立つ目を向け、特に後ろにいるの両腕を奪った

アンゼリカを見つけると、大きな鳴き声を上げ、二本足で走って襲いかかる。

 

「クソ、意外とタフなクマさんだな…」

 

アンゼリカは背中の鞘に手をかけるが…

 

「・・・あれ?」

 

すでに大剣はアルトを助け出す際に投げており、早めに応急処置をしなければならなかったことから、回収をし忘れていた。

 

そして落ちてる所はちょうどアオアシラの真後ろ。

 

取りに行ってる余裕はない

 

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

アオアシラは慣れない二本足での移動にこけたりするものの、怒り狂ったアオアシラは身体を地面に擦り削りながら、2人を殺そうと、血が出ていても構わず、進み続ける

 

「く、くる…」

 

アルトはアオアシラの進撃に怯んだ。あの突進よりも遅いが、目の前の殺気立つオーラで、牙を向けながら殺そうと襲いかかるアオアシラに圧倒された

 

 

「アルト、下がってな…」

 

アンゼリカはアルトを自分の背中の後ろに隠れさせた

 

「でも…アンゼリカさん、武器がないんじゃどうしようも…!」

 

「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

しかしもう武器を取る時間はない。アオアシラはすぐそばにきたのだった。今よければアルトが喰われる。アンゼリカは離れるわけにはいかなかった

 

 

「ゥゥゥヴヴヴヴ!!ガァァァァァァァー!」

 

アオアシラは目の前にいるアンゼリカに飛びかかる、自分の腕を切り落としたあの剣はない、丸腰状態の人間は格好の餌だ。

 

だが、アンゼリカは身構えて…

 

 

「……おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

「ヴァァ!!!!」

 

襲いくるアオアシラの顔面を渾身の蹴りでふっ飛ばした。

 

「……うそ…すごい…」

 

あの巨体を…どうやって…どこにあんな力が

 

 

アオアシラは蹴られて、数メートル先に吹っ飛ばされ、気絶までとはいかないものの、上半身の背中の硬い鎧は砕け、頭蓋骨も丸見えの状態だった。

 

 

「すごいです!アンゼリカさん!さすがです!」

 

「イタタ…」

 

「っ!アンゼリカさん!」

 

アンゼリカは蹴った右脚を抑え、そのまま倒れる

 

「やっぱ、硬いわアオアシラは…いたたた…」

 

「アンゼリカさん!」

 

さすがのアンゼリカでもアオアシラの頭部の一部と鎧を砕いたとなるとその分の足のダメージは相当だった。

 

アンゼリカは立てなくなり、四つん這いになる

 

「はは…ごめんアルト、アンタの治療まだ終わってないのに」

 

「別にいいですよ私の事なんて!とにかく、洞窟に戻って何か冷やすものを…」

 

 

「ガァァァァァァヴゥァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

「っ!」

 

「なんで…なんで生きてんの!」

 

アオアシラはまたも立ち上がり、2人に向かって進み始める。

 

頭蓋骨が丸見えの奇形な姿で、弱々しく襲いかかる。

 

「やっぱり、クマさんはタッッフだなぁ…」

 

「モンスターの生命力どうなってんの!あんな状態じゃ、死んでもおかしくないのに!」

 

 

アンゼリカさんの状態じゃ、まともに戦えない…かろうじて動けるのは私だけ…でも私はモンスターを一人で倒した事なんてないし、

 

武器だって

 

「こんな短いナイフ一本…」

 

無理だ、刺しても仕留めきれなかったら私が食べられる…

 

でも私がやらなきゃ…私が撒いた種だもん…

 

けど狙うならどこ?露出してる頭蓋骨?心臓の部分?どうしよう…

 

せめてあとナイフが数センチ長かったら頭蓋骨を刺してるんだけど

 

「アルト…」

 

「アンゼリカさん…やばい…怖い…」

 

アルトは強がるものの、頭蓋骨をさらけ出し、大量の血を滝のように流し続け、それでもなお襲いくるアオアシラに怯えきってしまった。

 

ナイフを持ってる手は震え、足はなんの怪我もしてないが、恐怖で足がすくんでしまっていた

 

「アルト…落ち着きな…大丈夫、あんたならやれるって」

 

「何を根拠にそんな勝手な…私…小型モンスターに殺されかけるほど弱いんですよ…こんなナイフじゃあ、私…喰われて…」

 

「何も刺しにいかなくてもいいでしょ!あんた、投げるのは得意でしょ?」

 

「え、まぁ…」

 

「そのナイフをアオアシラの鼻のあたりにぶっ刺しな!」

 

「えぇぇ!あんな小さい所に!?無理無理無理ですぅ!」

 

「無理じゃない!!なんでそんなすぐ諦めるのあんた!」

 

「私…だってジャギィにも勝てないし…投げナイフなんて、たまたま当たってるだけで…」

 

「違う!そう思い込んでるだけだよ!そんなに自分が信じられないの!」

 

「信じられないですよ!自分の弱さと慢心でどんなに人に迷惑をかけたことか!私のせいで死人まで出たんですよ!」

 

「アルト…」

 

「こんな私が…あんな怪物に…勝てるわけ…」

 

アルトはポロポロと涙を流す

 

「泣くな!!」

 

「っ!」

 

アンゼリカの怒声で、アルトはシャキッと背筋を伸ばし、いつのまにか涙も止まっていた

 

「何かと理由をつけて挑戦もしない、自分はダメな奴と思い込んで過小評価する、そんな奴が強くなるわけないだろ!」

 

「アンゼリカさん…」

 

「あんたは逃げてない…私を置いて逃げないで、戦おうとして私の前に立ってる!」

 

「・・・・」

 

「自分の力を信じろ!アルト!」

 

 

「っ!!」

 

 

そうだ…自分を信じないで戦っても自分に裏切られるだけ…

 

ドスジャギィと戦ってる時もまぐれじゃない、ちゃんと自信を持って戦えていた

 

なのに私は今、自分で自分を落としている

 

バカだ私…

 

 

「アンゼリカさん…見ていてください…」

 

「ガァァァァァァァ!!」

 

「それしか叫ばないの?想像力がないね」

 

手負いでもあの速度、二本足での走り方が上手くなってる。

 

モンスターの学習能力は舐めちゃいけないな

 

「ガァァァァァァァ!!」

 

小さいな…あれに当てれるかな…いや当てる!私ならできる!

 

「グァァァァァァァァアアアアア!!」

 

絶対当てる!!

 

 

「…っ!!」

 

アルトは無言でアオアシラの鼻に目掛けてナイフを投げる。

 

そして

 

 

「・・・・」

 

ナイフは鼻にぶっ刺さり、アオアシラは声を出さず、うつ伏せになり、倒れ伏せる

 

「あたった?」

 

アルトは倒れたアオアシラの身体をちょんちょんと触るが、身体はピクリとも動かない

 

目を開ける気配もない

 

 

「や、やっっったぁ……」

 

「よしっ!」

 

 

もう…やばい…外したと思ったぁぁ良かったぁぁ!!

 

あ、体から力が抜けて

 

「あ!アルト!」

 

アルトは強張っていた身体から緊張が抜けて、仰向けに倒れる

 

「あーあ、せっかく決まってたのに…もったいない」

 

「いえ、私はアンゼリカさんの手柄を持っていったにすぎません」

 

「でも最後にトドメを刺したのはアルトでしょ?」

 

「そ、そうですけど…」

 

「初狩猟、おめでと!」

 

アンゼリカは荒くアルトの頭を撫でる

 

「アンゼリカさん!ちょっと痛いです!」

 

「ちょっとぉ、私の方が痛いんだけど」

 

あ、そうだった!アンゼリカさん足が!

 

「すみません!アンゼリカさん!すぐに何か!何か応急処置を!」

 

「なーんて、冗談だよ!」

 

アンゼリカはそう言うと怪我したと思われる足で問題なく、普通に立ち上がった

 

「え!?なんで!あんな赤く腫れてたのに!」

 

「ふっふっふ…伝説のハンター様は回復力もえげつないのだ!」

 

いやいやいやあの怪我は回復力とかでなんとかなる怪我じゃ…

 

ん?

 

「じゃあ歩けないのは演技だったんですか!」

 

「ギク!?そんなわけないでしょ…ホホホ」

 

「何ですかホホホって!」

 

しかもなんかギクって聞こえたぞ!まさか歩けないフリして…

 

「アンゼリカさん!正直に言ってください!足を痛めたのは嘘なんですか!」

 

「ほんとだって…今だって足いたいもん」

 

「嘘だぁ!だったらなんでこんなスタスタ逃げるんですか!」

 

「逃げてない、これは痛みに耐えての精神力で無理して動いてるわけで」

 

 

「じゃあダメじゃないですか!無理して動かないでください!」

 

「これも修行の一環、お師匠は日々修行に明け暮れているのだ」

 

「そう言って問題なく走りまわってる!!やっぱり嘘だったんですね!・・・・あ」

 

 

アンゼリカさん…

 

 

「・・・?どうしたのアルト?」

 

 

「・・・見えてます」

 

 

アルトは顔を下に向け、アンゼリカの胸に指を指し

 

 

「・・・・丸見えですよ…」

 

「!!?」

 

アンゼリカはアルトの指を指す所に視線を向けると、人に見せてはいけない所がフルオープンになっていた

 

そして顔を赤らめながら急いで胸を両手で覆い隠す

 

「・・・アンゼリカさん?」

 

「何も言わないで…だって…時間なかったんだもん…」

 

 

「あのー…はは、すいません…」

 

「え、なんでちょっと吹き出してんの!?」

 

「い、いえ…ふふ」

 

結構おっちょこちょいな人なんだな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十一話 泣くのは自由

アオアシラを倒して、私とアンゼリカさんは傷を癒すため、1日休むことにした。私の背中の傷は出血がひどかっただけで、傷自体はあまり大したことはなかった。

 

アンゼリカに連れてこられた洞窟も、ドスジャギィの死体から少し離れた場所にあって、パジックに行くのはそんなに苦労しない。アオアシラから逃げてる時には分からなかったけど今思えば同じ所をぐるぐる回ってるだけだった。

 

道に迷って背中を怪我しただけのマヌケな結果になってしまった。

 

しまいにはパジックに行くのも1日遅れた

 

「アルト、怪我の具合は?」

 

「もう痛みも感じないほど治ってきました!」

 

 

アオアシラを倒したものの、また私は寝床で一人休む結果になった。

 

アンゼリカさんに出会ってからずっと寝てばっかで、申し訳ない気持ちがおさまらない。アンゼリカさんは気にするなっていってくれるけど、やっぱり意識しちゃう

 

「アンゼリカさん、私、大丈夫ですので…もうパジックの方角もわかりましたし、そろそろ出発してもいいですか?」

 

「ダメ、ちゃんと休んでからじゃないと、傷治っても体力は回復してないでしょ?」

 

「そ、そうですけど…」

 

休めって言われてもここ数日は寝て過ごしてるから眠気なんてしないし、もう傷から痛みも感じない。体力もそのうちもどってくる

 

でも何より

 

「アンゼリカさんをそんな姿のままにしておくわけにはいきません、私がバカやってこんな恥ずかしい姿にしたのにのこのこ寝てるわけには!」

 

アオアシラを倒してからも、アンゼリカさんの胸の部分は露出したまんまだ。私を助けた時に激しく動いたからか、破れた部分が広がって、ヘソが見えそうになるぐらいまでにひどくなっている

 

「責任感が強い子だなぁ〜明日パジックに買いに行くんだからいいでしょ?」

 

違う、そこじゃない

 

「明日じゃなくて、今!」

 

「今はいいよ、私もちょっと疲れてるし」

 

…絶対嘘だ

 

「アンゼリカさん!」

 

「うるさい!子供は寝る!」

 

「わぁ!?」

 

アルトはアンゼリカにおでこを指で押されて、寝床で横になる,アルトはすぐに起き上がろうとするが、素早く頭とお腹を押さえつけられて身動きが全くとれない

 

「こらこらジタバタすんな、傷がひどくなっちゃうぞー」

 

「ーっ!!」

 

アルトは勢いよく起き上がろうとするがアンゼリカの押さえつけられる力に敵わず、それでもなおまだ起き上がろうとするが抜け出せず、

 

「・・・・・」

 

「あれ〜?もう終わりー?」

 

アルトらどうしようもないと諦め、寝床でおとなしく横になる。アンゼリカはそんなアルトを煽るようにほっぺをつついてくる

 

(・・・イラッ)

 

 

アルトは機嫌を損ねてアンゼリカの手をはらい、アンゼリカに背を見せるように寝っ転がる

 

「あーあ、怒っちゃった」

 

アンゼリカは楽しげに言うと、散らかってる武器や荷物を整理していく

 

 

「・・・・アンゼリカさんも行くんですか?」

 

「もちろん」

 

アンゼリカは即答した

 

「なに?私についてきてほしくないの?」

 

アンゼリカは少し意地悪に質問して、アルトの耳を弄ぶ

 

「そんなわけじゃ…」

 

できればアンゼリカさんはついてきてほしい。また他のハンター達にいじめられるのは嫌だけどアンゼリカさんに私のことを知られるのはもっと嫌だ

 

「…アンゼリカさんは…あの、人数は少ない方がいいので…」

 

「2人も1人も変わらないと思うけど?」

 

「うっ…そうですね…でも、アンゼリカさんは英雄ですし、他の人達に見られると大騒ぎになる可能性が!」

 

「私の顔はユクモ村のみんな以外知らないと思うよ、写真だってあんま撮ってないし」

 

ダメだ、意地でもついていく気だ。アンゼリカ教の事がやっぱり気になるのかな?うやむやにしとくんじゃなかったぁぁクソォ…でまもう仕方ない…私の貯金とアンゼリカさんの服を購入してさっさとおさらばすればいいや

 

「…アンゼリカさん…ついてきてくれるのであれば、私の言うことを聞いてください…パジックはたとえ村でも複雑な地形で構成されているので迷ってしまうことにならないようにしたいんです。生意気なことを言いましたが、どうか協力を」

 

「いいよ」

 

アンゼリカは笑顔でアルトの提案に承諾し、荷物をまとめていく。そしてアルトは布団の中でガッツポーズを決めた

 

「…ありがとうございます…では…おやすみなさい」

 

「うん、おやすみ〜」

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

でも眠れないや…

 

あんだけ寝てたら眠気なんて全然こないし、今日は夜更かしだな…

 

アンゼリカさんが眠った頃に外で体操でもしとこうかな

 

 

「・・・・・・・・」

 

アルトは目を閉じて、アンゼリカが眠りにつくまで気を長くして待つことにした。眠たくないのに目を閉じているだけの状態は退屈すぎてかなり辛い。傷からヒリヒリした感覚も邪魔してきてとても寝られる状況じゃない。

 

呼吸も一定の感覚で行い、狸寝入りを続けること約2時間

 

 

「ふっふふっふーん…」

 

 

(全然眠ってくれない!)

 

音が静かになったことから荷物は全部整理したのだろう、しかしアンゼリカは一向に眠る気配を見せず、余裕で武器の手入れをしていた

 

鼻歌までしており、そのまま朝まで起きてそうだ

 

(アンゼリカさん武器いくつ持ってんの!?手入れにどれくらい時間かけてんの!もう音から30種類手入れしてるよ!)

 

アルトは全く寝るつもりがないアンゼリカに驚かされ、あとどれくらい武器が残ってるのか確認するため、アンゼリカの方へ寝返りを装って身体を向けて、目を半開きにする

 

(え、嘘!)

 

アルトは驚愕した。アンゼリカの周りにあるのは片手剣と大剣の2本のみだった

 

(まさか、ずっとあの2本だけを…)

 

アルトは少し疑ったが、ピカピカになった武器を見て本当に2時間の間磨いたり研いだりしていることを知り、かなり驚いた

 

(なんであんなに磨いて…別に明日でもいいのに)

 

でもあんだけ武器を大切にしてるんだからあんな切れ味がすごいのだろう…アンゼリカさんが使ってる武器は初心者ハンターに配布される安い大剣なのにあの切れ味が黄色レベルとは思えない

 

まさか自力で切れ味のレベルを上げたんじゃ…

 

もう加工屋にでもなんでもなれそうだなぁ

 

私も武器がナイフだけだと結構こころもとないんだよね。投げナイフ専門のハンターとか弱そうだし、まず投げナイフだけでモンスターを狩猟できるはずがないし、私もそろそろ武器買わなきゃ。でも買ったところで武器を扱うほどの筋肉がないからうまく扱えなくてアンゼリカさんの迷惑になる

 

(私、大丈夫かなぁ〜)

 

アルトはゆっくりと目を閉じて、気長にアンゼリカが寝るのを待ち、再び狸寝入りの姿勢に入ったその時だった

 

 

 

 

「・・・・まだ起きてるの・・」

 

「ーーーーーっ!!」

 

アンゼリカは急に武器の手入れを中断して、自身の背中を見つめるアルトに話しかける

 

 

(なんで!?なんでわかんの!?)

 

だが、アルトはすぐに冷静になり、狸寝入りをやめなかった。もしかしたらなんとなく呟いた一言だろうと思い、アルトは起きることはなかった。

 

「ねぇ…アルト」

 

アンゼリカは立ち上がり、寝たふりをしているアルトに近づいてくる

 

(やばいマジだった!)

 

アルトは本当に疑われてることを知り、かなり焦った。今起きて楽になるか狸寝入りをして、やり過ごすかを決めてるうちにアンゼリカはアルトの元により、耳を優しく引っ張る

 

(えぇ!本当に気づいてんじゃん!後ろ向いてるのになんでわかるの!)

 

アルトは寝たふりを続けるが限界がきていた。予想外のことが起て、同時に耳をいじられていると、身体中がくすぐったくなってきて汗もかいてきた。

 

不意に笑い出しそうにもなるし、そろそろ本当に限界だ。

 

逃げ道をふさがれながら追い詰められて、もう降参だ

 

「………ごめんなさい」

 

とりあえず謝る

 

「もう、寝たふりはすぐバレんだから」

 

いやいやアンゼリカさん私の方見てないのに気づいてたよね!?

 

「ごめんなさい…」

 

「別に悪いことしたわけじゃないのに謝らなくていいって」

 

アンゼリカはアルトの頭を優しく撫でて、アルトのすぐそばで向かい合う形で寝っ転がった

 

「…アンゼリカさん!?」

 

いわゆる添い寝ってやつだ

 

「なんでそんな驚いてんの?」

 

「い、いや…」

 

アンゼリカさんと一緒に寝るのは全然嫌じゃないし、むしろ幸せだ。でもこう優しくされるとなんか申し訳ない気持ちが出てきて気まずくなる…!てか!

 

「・・・・っ!」

 

アルトはアンゼリカの胸元を見て、丸見えになってる部分を直視してしまい、急いで目を閉じる

 

「どうしたの?」

 

「イヤ、ナンデモナイデス」

 

アルトは顔が赤くなり、アンゼリカに狸寝入りがバレた時より、冷や汗がすごく出てきた。露出した部分を見て頭がぐるぐるになり、体温も上がってきた

 

「ちょ、アルトどうしたの!?」

 

アンゼリカは心配して、声をかける

 

「大丈夫ですよ…ちょっと熱くなってきて…はは」

 

「布団そんな温いかな?結構薄めのはずだけど…」

 

布団のせいじゃない。本当の理由なんて言えるはずない

 

「アンゼリカさん…あの…もう私…寝ます!」

 

「寝るって…あんた眠くないんでしょ?」

 

「そうですけど…」

 

やっぱり気づかれてた。伝説のハンターの目は簡単には誤魔化せない。でもなぜかアンゼリカさんはニヤッとして私に話しかけてきた

 

「じゃあおしゃべりしない?私も眠くないし、2人でおしゃべりしてたらそのうち眠くなるよ」

 

「そうですね…じゃあ…何を話したら…」

 

うーん…うーん…こういう時に限ってろくな話しか出てこない。最近洒落にならないことが多すぎてとてもアンゼリカさんに言えるはずがない。ガーグァの卵を盗もうとして返り討ちにされたとか笑いにもならないし、他は重労働とハンターからいじめられる話題しかない。

 

「え、ええと…」

 

アルトが困った顔で何か面白い話題を思い出そうとする

 

「……ん〜」

 

ダメだ全然人に言えたような話がない…働いて、貯金しての繰り返しだから面白い話題なんてあるわけない

 

「…アンゼリカさんからどうぞ…」

 

「そう?うーん…私もあまりアルトが興味ある話って思い当たらないんだよなぁ」

 

「私はアンゼリカさんの話ならなんでもいいですよ」

 

「なんでもいいかぁ………私さ突然だけど、ちょっと気になったことでもいい?」

 

「なんです?」

 

「えっとね…そのね…」

 

アンゼリカさんは口が止まり、言葉を選んでるのか私から視線をそらした

 

「アンゼリカさん?」

 

「あ、ごめん…普通に言った方がいいや…」

 

「 ? 」

 

「あのさ…」

 

アンゼリカさんは私の目を見て質問する

 

「リュウとアイルーが結婚したって噂っていうか…情報ってない?」

 

・・・・

 

・・・・

 

 

・・・・

 

 

「……いいえ」

 

 

「よかっっったぁぁぁ!」

 

アンゼリカはアルトの一言に安心して、ガッツポーズをしてアルトに抱きつく

 

 

「あ!ちょっ!」

 

(胸!胸が私の顔に!あわわわ…)

 

アルトはいきなりアンゼリカに胸に顔を沈める形で抱きつかれ、露出した胸に触れると、頭が燃えるように熱くなって身体も動かなくなった

 

 

「…っ!!ーーっ!」

 

アンゼリカはアルトが興奮してるのなんて知ったてるはずもなく、抱き続け、次第にアルトを締め付けるほどの力で抱きつき、窒息死させてしまう寸前だった。アルトは死ぬと思いながらも全く抵抗せず、胸に顔を沈めたまま動かなかった…が流石に苦しいのかアンゼリカの胸で叫んでいた

 

 

「あ、ごめんごめん」

 

やっと気づき、自身の胸からアルトを話す

 

「はぁ…はぁ…」

 

「いやぁ…つい嬉しくて…」

 

アンゼリカはアルトにペロッと舌をだして、軽い口調で謝る

 

「はぁ…いや、私はなんともないんでいいですけど…」

 

アルトからしたら人の胸で死にかけるのなんてさほど気にすることではなかった。それよりもっと気になる事があったからだ

 

「なんでリュウさんとアイルーが結婚するんですか…」

 

アンゼリカさんが聞いた質問が分からなすぎる…なんで人とアイルーの結婚を聞いてくるんだろう…

 

「リュウさん?アルト、リュウを知ってるの?」

 

「そこから!?知ってるも何も有名なギルドナイト様ですよ!しかも初心者ハンターにいろんなアドバイスをくれたりして、私も助けられたんです」

 

「へーそーなんだー」

 

……興味なさそうだな

 

「でももうリュウさんはパジックにいません」

 

「なんで?」

 

「さぁ?急に帰っちゃったんですよ」

 

「まさか恋敵め…ミコさんと夜逃げしたか…」

 

「なんでそうなるんですか!」

 

(え…ミコさん?)

 

アルトはアンゼリカの一言にあらゆる思考が止まった。以前自分が聞いたことあるような、そんな気持ちがひっかかった

 

「アルト?」

 

「あのーアンゼリカさん…ミコさんって?」

 

とりあえず聞いてみる。一人でもやもやするのも難だし、聞いた方が早い時もある

 

「っ!あ、ごめん説明してなかったね…ミコさんは私の嫁…」

 

「嫁!?」

 

「じゃなくて!彼女」

 

「彼女!?」

 

「ああもう!違う違う!ええと…ね!えと、オトモアイルー…かな?」

 

「オトモアイルー!?・・は普通か」

 

オトモアイルー?なんか引っかかる。本当にどこかみたような

 

「ミコさんはね、私にとっての癒しであり、仲間でもあるの、狩猟の時でも大分助けられた」

 

「へぇー…結構すごいアイルーですね」

 

「そう!なんせ今では筆頭オトモアイルーの教官だからね」

 

「筆頭オトモアイルーの教官!?」

 

オトモアイルーから筆頭オトモアイルーの教官に就くってどんなスペック持ってんだ…筆頭オトモアイルーの教官って人間でもなるのは難しかったような…

 

でも

 

「なんでアンゼリカさんそんなことを知ってるんですか?」

 

シナト村で過ごしていたんなら連絡のしようがない。なんでそんな情報持ってるんだろうか

 

 

「知らないよ」

 

「ええ!?なんで知ってるような言い方で言ったんですか!?」

 

興奮気味に私に教えてきたけどまさか作り話?

 

「アマツ様倒す前に筆頭オトモアイルーの育成をしたいって言ってたからね」

 

「いやでも今はどうなってるかわからないでしょう!」

 

「なってるよ、だってミコさんだもん」

 

「・・・・」

 

どこからくるのその信頼…でもアンゼリカさんにそう言わせるほどすごいアイルーなんだろう…

 

「アンゼリカがそう言うなら本当になってそうですけどね」

 

「なってるって!だってミコさんだよ?」

 

「すごい自信ですね…」

 

不安とか疑いとか持たずに本気でなってると信じてるみたいだ

 

「…私もオトモ雇いたいなぁ…」

 

アンゼリカさんの話を聞いてるとアカトラちゃんとか運搬業のアイルーさんとか思い出して私もオトモを雇いたいと思ってしまった

 

「雇えば?」

 

「・・・」

 

アンゼリカは何気ない気持ちで答えるがアルトはアンゼリカの一言に驚愕した

 

「アンゼリカさん…本気で言ってます?」

 

「 うん」

 

「ーーっ!!あ、でも時代が違うか…」

 

アンゼリカさんは知らないのか…まぁ7年も雲隠れしてたら価値観の違いは生まれるか…

 

「今の時代…オトモアイルーはものすごく高いんですよ、ハンターの需要が上ると同時にオトモアイルーの需要も上がって、ビジネス化したんですよ」

 

「またビジネスか…」

 

「今だと…安くて30万zですね」

 

「さ、30万!?」

 

アンゼリカは驚きのあまり、意識がとびかけた。

 

「高くて1億ですね」

 

「いち、お…」

 

その金額を聞いてアンゼリカはドン引きした。いくらなんでもアイルーの値段が高すぎるからだ

 

「強い方が儲かりますからね、今のハンターは強くて忠実なオトモを好みますからね」

 

「なんか嫌なこと聞いた気分…」

 

アンゼリカさんはどんな原理か髪の毛がボサボサになってない?

 

7年前と比べて高すぎるのかな?

 

「そりゃあアルトじゃ買えないね…」

 

「はい、本当は家だと1人ですし、アイルーがほしいんです…」

 

「家で1人?」

 

「はい、私、両親いないんで…」

 

「ーーっ!?ご、ごめん!」

 

アンゼリカはアルトに辛い事を言わせたと思い、思わず謝ってしまった

 

「いえ、私が物心つく頃には死んでたので…謝らないでください」

 

「・・・・」

 

アルトはそう言うが、アンゼリカ自身は自分のせいで辛い事を思い出させたと後悔の気持ちでいっぱいだった。

 

「でもひとりぼっちは辛いものです…どうしても寂しさは時間が経っても慣れたもんじゃありません…自分でも時々もしも家族がいてくれたらなって思ってしまう時があるんです」

 

「…アルト」

 

「だから…私嬉しかったんです…アンゼリカさんが私を拾ってくれた事」

 

「…っ!」

 

「みんな私を馬鹿にしたり暴力をふったりしてくる人ばかりで…私は人が怖かったんです…私が視界に入るだけでも殴られたり蹴られたり、唾をかけられたりで人として見てくれなかった……でもアンゼリカさんは私を助けてくれた…私は嬉しくてたまらないんです…」

 

「でも…私は…」

 

・・・

 

 

・・・

 

 

 

「アンゼリカさん、正直私はあなたを恨んでました…」

 

「・・・」

 

「1人で過ごしているうちに社会が私を必要としてないことに気づいた時は苦しくて、悔しかった。自分が弱すぎることを憎みました。でも私は時間が経てば経つほど間違った認識をしていきました。アンゼリカさんは悪くないのに…むしろ平和にしてくれた人なのに…ハンター時代を作ったアンゼリカさんを恨んでしまいました…あの時救ってくれるまでずっと今の自分は全部アンゼリカさんのせいにしていたんです。ハンター時代を作って1人逃げ出した奴だって勝手に思い込んでいました。でも、心の中で分かっていて、人のせいにして生きてる自分が許せなくて…でもやっぱり憎くて…もう嫌になったんです」

 

「・・・」

 

アンゼリカは何も言わなかった。何も言えなかった。何にも口を挟まず、アルトの話をおとなしく聞いていた

 

 

「だから…私…死のうと思ったんです…」

 

「!!!」

 

「でもできなかった…いざ死ぬとなると怖くて…ナイフが肌に触れると勝手に手が突然動いてナイフを捨てたんです…そんなことを2年繰り返しているうちに…アンゼリカさんに出会いました.」

 

「・・・」

 

「私は自分勝手な女です…死にたい死にたいって思っておきながら死ぬことを何回も拒みました。他の人達の言う通り…私はチキンです」

 

 

「アルト…」

 

「アンゼリカさん…ごめんなさい…私は…こんな…こんな女なんです…あれだけ優しくされたのに…こんなに優しい人なのに…私はなんで今まであなたの事を…」

 

アルトは下を向き、涙を流し始める

 

 

「あ!…っ!」

 

アルトはすぐさま自分の手で涙を拭くが、拭いても拭いても涙が止まることはなかった。そしてどんどん溢れ出てくる涙に負け始め、声も漏れてきた

 

「アルト…ごめんね」

 

アンゼリカはアルトを優しく自分の身体に引き寄せる

 

「…やめてください…今…あなたに謝られたら…」

 

抑えていた涙目から流れ落ちる、昨日もいっぱい泣いたのに…でもダメだった、アンゼリカさんの手が触れるだけでもう我慢ができなかった

 

「うっうう…あああ…」

 

「・・・」

 

アルトは顔を手でおさえ、子供のように顔を歪めて泣いた。そんなアルトをアンゼリカは包み込むように抱き、背中をさする

 

 

「・・ごめん…な…さ…うぅ…」

 

「気にしないで…」

 

アルトはしばらく泣き続けた後、心の底で思いつめていたことを吐き出して楽になったのか、泣き疲れて眠ってしまった。目を何度か開こうと頑張ってはいたが、睡魔に勝てなかったらしく、静かに目を閉じて眠った

 

 

 

 

 

(私のせい…か…)

 

アンゼリカはアルトが眠った後、アルトが言った言葉に1人心を痛めていた

 

 

(……アルトの言うことは間違ってない…私は…逃げ出した…あいつから…みんなからも…それで今の人達に迷惑をかけている………もう…やめよう…逃げるのは…私らしくない)

 

 

 

 

 

 




次回はミコさんの現在の姿を書く予定です。


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十二話 ミコと奇形児

ある隔離された孤島にて、多くのアイルー達が訓練に取り組んでいた。持久走、実戦訓練などシンプルで過酷な訓練を受けている。

 

この孤島は筆頭オトモアイルー訓練施設。長いのでオトモ島という通称で呼ばれる。その名の通り、オトモアイルーを育てる施設だが、他の施設とは違う所がある

 

それは普通のオトモアイルーを育成するのではなく、''筆頭"オトモアイルーを育成する所と、もう一つ決定的な違いがある

 

「こら!待つニャ!」

 

「ちっ、しつこいんだよ!」

 

教官はなんとアイルーという点だ。アイルーにアイルーが教えるのは普通だと思われがちだが、今の時代は利益重視の風潮が蔓延し、即戦力を求めるハンターが増加した。アイルーが教えるより、腕の立つハンターが教えた方が効率がよく、高い戦闘力をもったアイルーを送り出すことができる。しかしこのオトモ島は違った。

 

「ギラ!逃げるな!」

 

「うっせぇよ俺の勝手だろうが!」

 

教官は英雄アンゼリカと共に戦ったオトモアイルーのミコだ。ミコはあの戦いが終わった一年後、アイルーでありながらオトモ島教官に就任した。アイルーが教官になるのは極めて異例であり、当初はギルドからの反対の意見が殺到した。世論もミコを批判し、誰もがミコが教官になる事を否定した。しかし現代は結果が全て。教官になるための資格は問題なく取得し、他の人間の教官よりも優れた才能を見せた。

 

ミコの能力は国が口を挟まないほど完璧であった。教官に種族の制限がない事もあり、たった一年でミコはオトモ島の教官になった。

 

「クソ、離せよクソ猫が!!」

 

「みんな訓練をまじめに受けてる!自分だけ逃げちゃダメニャ!」

 

ミコは1匹のアイルーを取り押さえる

 

「ギラ!!」

 

「黙れよミコ!」

 

しかしギラというアイルーは取り押さえられるも、激しく抵抗するが、手と足を拘束され全く身動きがとれない

 

「ちっくしょ!離れろぉ…!」

 

「・・・・」

 

ミコは念願の筆頭オトモアイルーの教官に就任し、自身の経験と能力を活かして、ハイスペックのオトモアイルーを世界各地に送り出し、その実績は過去に送り出されたアイルーと比べると桁違いだ

 

しかし大事な地位だけあって苦労はつきもの

 

このギラと呼ばれるアイルーはミコのあらゆる悩みのタネだ

 

「ギラ!そんな口調だとどこも受け入れてくれいないニャよ!」

 

「いいんだよ!俺は!ハンター共に媚びても俺は意味ねぇんだよ!」

 

「ーーっ!」

 

ギラは容姿から他のアイルーと違った

 

胴体はアイルーと同じだが、牙は非常に鋭く尖っていて、顔の半分は酷い火傷を負っており、手の部分は人間と同じ形になっており、両足はすでになくなっていて、義足をつけており、とてもアイルーとは思えない奇形の姿をしていた

 

尻尾も長く、全体的にトゲトゲしていて非常に危ない

 

話し方も他のアイルーとは違い、決してニャンと言わない

 

ギラは姿も中身もすべてがアイルーと違った

 

「そ、そんなこと…そんなことないニャ!ちゃんと礼儀から学んで、乱暴な口調も直せば…」

 

「ニャアニャアニャアうるせぇんだよ!」

 

ギラは馬乗りになってるミコを突き飛ばし、拘束から抜け出す

 

「大体、お前は語尾にニャアってつけなくても普通に喋れるだろうが!」

 

「まぁ…そうだけど」

 

ミコはギラに指摘された後、口調をギラに合わせる

 

「ちっ、猫みてぇな喋り方しやがって、ここの連中は気持ち悪い奴らばかりだな」

 

「だってボク達は猫みたいなもんだし…」

 

「俺は猫とも思われないがな」

 

「・・・」

 

 

「…ふん」

 

ギラはミコを無視してひとり建物の中に入っていく

 

「あっ!ちょっとギラ!」

 

「こっちくんな!しつけぇな!」

 

ギラの手を掴み引っ張るミコだが、ギラに振り払われ、尻餅をつく

 

「…もう、話はまだ済んでないよ」

 

「俺はおわった」

 

「ギラ…」

 

「教官殿は訓練をしてくれればそれでいいんだろ?だったら今してくるからお前はあっち行ったろ」

 

「っ!違ー!」

 

ミコはすぐに立ち上がり、自分の元から去っていく教え子の手を再度掴む

 

「なんだよ!てめぇ!!」

 

「ーーぐっ!?」

 

ついにキレだしたギラはミコの顔面を殴り飛ばした。殴られたミコは地面に倒れ伏せ、口から少量の血が出てきていた。ミコは殴られても言い返しはせず、去っていくギラの背を黙って見ていた

 

「ギラ……」

 

ミコはギラが建物に入った後、もう一度説得を試みようとしたが今行ってもストレスを与えるだけと考えたため、会うことは諦めた。

 

そして他のアイルー達がいるグラウンドに向かう

 

「・・・」

 

グラウンドでは訓練を受けているアイルー達がおり、それぞれ自分に合った訓練を受けて日々成長している。辛そうな表情が見えるが、誰もが希望が溢れる目をしていた

 

「・・・」

 

ミコは何か一生懸命に努力しているアイルーを見るのが、1日の楽しみでも合ったため、このグラウンドが一番気に入っている。

 

 

「……ギラも昔はあんなに輝いていたのに」

 

ミコが心に思ったことを呟いた時だった

 

「あれ?ミコ教官殿じゃないですかニャ?」

 

1匹のアイルーがグラウンドを眺めるミコに話しかけてきた

 

「あ、シャビ…」

 

「何してるですかニャ?」

 

「いや、別に…」

 

「・・・?あぁ…訓練生を見てるのですニャね、ミコ教官グラウンド好きですからニァ」

 

このシャビと言うアイルーはこのオトモ島の訓練生であり、ギラと同期である。そしてあと数日で筆頭オトモとしてオトモ島を出て行くミコの教え子でもある

 

「!な、なんで知ってるの!?」

 

「だってー教官とギラが初めて会った場所じゃないですかニャ〜」

 

「み、見てたの…」

 

ミコは自分の隠れた楽しみがバレ、その理由も知られ、シャビから一歩か引き下がる

 

「他にも〜あのグラウンドにはボクとギラの思い出が詰まった場所でもあるじゃないですかニャ〜」

 

「う…うん…」

 

そう、シャビの言う通りこのグラウンドはミコにとって一番思い出が詰まった場所であり、ギラと最初に出会ったのもグラウンドである

 

同時に忘れたい記憶もあった

 

「ミコ教官?」

 

シャビは顔が沈んでいるミコの顔の様子をみる

 

「…何かボクが気に触るようなことを言ってたら謝りますニャ、ごめんニャさい…」

 

「う、ううん!大丈夫だよ!」

 

ミコは深く頭を下げるシャビに対し、優しく対応する

 

「…よかったニャ……でもなんでそんな元気ないですかニャ?悩み事なら聞きますニャ!」

 

「・・・それはね…」

 

ミコは一瞬話すのをためらうがギラと唯一の友達であるシャビなら力を貸してくれると思い、話すことにした

 

そしてギラが日に日に荒れていくこと、自尊心が低くなっていってることをシャビに話す

 

「そうですかニャ…あいつ、そんなことを…」

 

「うん…ギラの能力は戦闘面だと優秀だけど、どうしても容姿を見ると、どこのハンターも選んでくれなくて…」

 

「うーん…でもギラは元々人当たりが良くないところもありますし…そこが問題じゃないですかニャ?」

 

「うん…そうだけど…あんなにひどくは…」

 

ミコは自室にシャビを連れ、ベッドに腰をかける

 

「なんで…ギラ…あんなに優しかったのに…」

 

ミコの顔が次第に暗くなる

 

「うーん…やっぱり自分の姿が関係してますニャね…」

 

「・・・そうだよね…それでどこも引き取ってくれないんだから…」

 

シャビの一言でミコはギラが自身の姿に苦しんでる記憶が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーうわ!なんニャ!その手!?

 

 

ーーーひどい顔してるニャ!こっちによるニャ!

 

 

ーーーこいつ喋り方もなんかおかしいニャ!

 

 

ーーーーお前はアイルーじゃないニャ!一緒にするニャ!

 

 

ーーーーーも、モンスターニャ!!

 

 

 

 

ーーーーみんな…なんでだよぉ…

 

 

 

「・・・・・」

 

ミコはギラが他のアイルー達からいじめを受けている記憶が突然蘇り、反射的に頭を振った

 

あの時はミコがいじめに気づき、ギラをいじめたアイルー達をこっぴどく叱り、ギラをいじめるアイルーはいなくなったが、ギラが受けた心の傷は深く、そこから性格が変わってしまった

 

訓練はまじめに受けてくれたが、他のアイルーに傷を負わしたり盗みをしたり、ミコにも反発するようになっていった

 

時にはアイルーを殺しかねない事件を起こし、殺処分の一歩手前まできた時もある

 

それでもミコはギラを見捨てなかった。本当はいい奴なのに容姿のせいで心が荒んでるのを理解しているからだ

 

しかし分かっているのに今に至るまで何もできなかった

 

「・・・ご主人ならどうしてるのかな」

 

ミコはギラがどうしたら昔のように心を開いてくれるのか考えてる中で、ふと思ったことが漏れる

 

「…ご主人ニャ?」

 

「っ!ううん!なんでもない!」

 

シャビの問いかけをごまかす

 

「で、でもギラは悪い奴じゃない、あの姿だってギラが好きでなったわけじゃないし…大事な教え子のひとりだから見捨てるわけにはいかない」

 

「教官…でもこの件はギラ自身が動かないとどうしようもないニャ」

 

「…うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボク…少しギラと話してみる…」

 

「ニャ?行ってもまた殴られるだけニャ、行かない方がいいんじゃないですかニャ?」

 

シャビはミコを遠回しに引き止めようとするが、ミコは無視してギラのいる部屋に向かう

 

「あーあ…行っちゃったニャ……」

 

 

 

 

ギラの部屋にて、ギラは自室の床で寝っ転がり、天井を見上げながら何にも考えずボーッと見ていた

 

天井を見上げてる中でつい瞼が重くなり、自然に眠りそうになってきた。目を閉じる時間も長くなり、ギラは今にも寝そうだった

 

(…寝るか…)

 

ギラは眠くなってきたので目を閉じて眠ることにした

 

 

「……ギラ?」

 

(うるせぇな…)

 

 

「ギラ?」

 

(・・・・)

 

「ギラってば!!」

 

「あーー!!なんだようるせぇハエが!!」

 

体を揺らされ、耳元で自分の名前を呼ばれ続けて、地味に眠れそうで眠れないもどかしさに腹が立ち、床から怒声を上げて立ち上がる

 

「喧嘩なら買う…ミコ!?」

 

「ギラ、お願い…もう一度…もう一度ボクにチャンスがほしい」

 

「いきなり何言ってんだ、出てけ」

 

ギラは無理矢理ミコを部屋から出そうとする

 

 

「ギラ!あのいじめの件はボクに責任がある!ギラに心の傷を負わしたの無能なボクのせいだ!だから…だからもう一度ボクにの言うことを聞いて…」

 

「……あのいじめは俺の問題だ、俺がカタをつける」

 

「そうじゃなくて!…ギラ!本当にいいの!?」

 

ミコは無理矢理部屋の外に出そうとするギラの手を掴む

 

「っ!何がだよ…!」

 

「このまま他のハンターに引き取られない日が続いたら本当に殺処分だ、他のアイルーは次々と島を出ていくし、シャビも出ていく、もうギラしか残ってない…ボクはギラを死なせなくない…」

 

「・・・放っておいてくれ、どうせ俺は死ぬんだ」

 

「っ!まだ希望は!」

 

「ねぇよ!」

 

ギラはその辺に落ちてる辞書をミコの頭に思いっきり殴った。ミコはダイレクトにくらってしまい、頭をおさえながら床に手をついた

 

 

「……いたたた…」

 

「どうだ?人間の手だとこんな幅広い本を持つことができるんだ、あと尻尾でお前なんかすぐに殺せる」

 

「ギラ…」

 

「戦闘は得意なんだ、モンスターの唯一の特徴だしな」

 

「そ、そんなこと…!ぐっ!?」

 

ギラは立ち上がろうとするミコの腹を部屋の外に蹴り飛ばす

 

「…けほっ…けほっ!ぎ…ギラ…」

 

「本気ださねぇと怪我する一方だぜ?教官殿」

 

「・・・」

 

「知ってんだよ、あのあんたがこんな簡単に殴られるわけねぇ…俺の拳なんか遅く見えてんだろ?」

 

「・・・」

 

「図星かよ、英雄さんが俺程度に苦戦するわけねぇもんな」

 

「・・・」

 

「…なんだその目、ナルガのじじいと同じ目をしやがって!」

 

「!?」

 

「チッ、もういい」

 

ギラはドアノブに手をかけて扉を閉める

 

「ギラ!待っーー!」

 

ミコの言葉に耳を貸さずギラは扉を閉めて鍵までかけた

 

「・・・」

 

ミコはもう一度ギラと話し合いをしようと試みようとするがギラが自分の姿に触れて発言されると言葉が詰まり、話がうまくできないため今日は引き返すことにした

 

 

(ご主人……ボクは一体どうしたら…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十三話 出発

あれから1日…私とアンゼリカさんは寝すぎてしまった。

 

2人とも疲れていたのか日をまたいでぐっすり寝てしまっていた。でもここまで寝過ごすと割とどうでもいいっていうかもういいやっていう感情が勝った。

 

私とアンゼリカさんはあまり急ぐことなくパジックに向かった

 

 

「アルト、出発するよ」

 

「あ!待ってください!」

 

いまの時間はざっと正午くらい。朝早朝に行く予定だったけど夜じゃないだけまだマシなの方だ。夜だと店が閉まっちゃうからね。私はアンゼリカさんと一緒にここから1番近いセル村に向かう

 

「アンゼリカさん、セル村行ったことあるんですか?」

 

「うーん…どうかな…?少し忍び込んだ時はあるけど」

 

「忍び…ちゃんと門から入らないと問答無用で牢獄行きですよ」

 

「分かってるよ、でも大丈夫かな…」

 

アンゼリカは右手で隠してる胸の部分に目線を向ける

 

「……ちょっとまずいですね…」

 

アンゼリカさん…昨日よりも破けてるところがまた広がっちゃってる…今の姿は捕まっても言い訳できないほど露出しちゃってる

 

「アンゼリカさん…やっぱ私だけで行ったらよくないですか?」

 

「却下」

 

「…ハイ」

 

私は何度か止めてるけどアンゼリカさんは自分の意思を曲げるつもりはないらしい…道だけ教えてくれたら私だけセル村に行って服買って戻る算段だったけどアンゼリカさんはどうしてもついていきたいらしい

 

「でもその格好だと門兵に捕まりますよ」

 

「大丈夫、その時はアルトおいて逃げるから」

 

「はい!?」

 

「嘘嘘♩ジョークだよん」

 

ジョ、ジョークって…

 

「安心しなちゃんと対策はしてるから」

 

「対策ですか…」

 

流石にその格好で無対策なわけないか…アンゼリカさんのことだからうまく切り抜けてくれるかも

 

でもやっぱりわたし1人で行った方がよくない?正直アンゼリカさんの格好は話聞いてくれる以前の問題かも

 

…やっぱアンゼリカ教が気になるのかな

 

「あのアンゼリカさん…対策って…一体何を…」

 

一応聞いとこう…万が一のためどんな対策に乗り出すのか知っといた方がいい

 

「ふっふっふ…行ってからのお楽しみ!」

 

むっちゃ心配!!本当に大丈夫!?

 

「なんだよぉ〜その目、私を疑ってんの〜??」

 

「ち、違います違いますよ!疑ってなんかいませんよ!」

 

でも正直、ちょっと疑ってる…いや心配の方が強いかな…アンゼリカさん何しでかすか分かんないし

 

今更待ってくださいって言っても聞かないだろうなぁ…実際聞いてくれないわけだし

 

「でもアンゼリカさん、名前とか伏せてくださいね」

 

「分かってるって!私そんなバカじゃないから」

 

アンゼリカは余裕の笑みを浮かべセル村に向かって歩き続ける

 

「…まぁ大丈夫か」

 

アルトは余計な考えを消すように頭を横に振るとアンゼリカの後をついていく。そしてアンゼリカに話す話題がなくなり、2人とも会話がないままセル村まで歩き続ける…が

 

 

 

洞窟を出て15分後…

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

アルトは出発して最初の方までは問題なく歩き続けていた。がしかし途中からアンゼリカのペースについていけず、無理についていこうとギリギリまで踏ん張ったものの身体能力の差は一目瞭然であり、息が切れてきて、足も次第に動かなくなった

 

(は…速すぎ…歩くスピードじゃない…)

 

最初は超余裕だったのにいつのまにか体からすごい疲労感が…なんでか分からないけどいきなり疲れてきて汗も出てきた

 

今だからわかるけどこのスピードはとても歩きじゃない、気づけば普通に走ってる速度だった。

 

私はアンゼリカさんのペースに合わせようとしても無駄な努力だった。頑張ってついていってもやせ我慢に過ぎず、体力の限界もすぐそこまできていた

 

(はぁ…はぁ…このままだとやばいな…アンゼリカさんに言った方が)

 

でも私にはそんな余裕もなかった

 

目眩がしてきて、足も思うように動かせなくなり

 

 

「あ!…あた!」

 

「ん?アルト?」

 

頑張ってアンゼリカさんについていこうとしたけ私なんかがついていけるレベルじゃなかった。急に目の前が暗くなって、無理に動かしてた身体もいきなりスイッチが切れたように全身に力が入らなくなり、地面を踏み外してこけてしまった

 

「ちょっと!大丈夫?」

 

アンゼリカさんが心配して倒れた私に声をかけてくれた。そして私を起き上がらせて、服についた泥や砂をはらう

 

「はぁ…はぁ…ちょっ…と…速すぎ…」

 

「そう?私はいつもこのペースだけど」

 

「いつもって…私とアンゼリカさんの体力は全然違うんですから…」

 

「それはそうだけど、この速さはハンターなら基本の速さだけど」

 

え…あの速さで基本!?昔からハンターは超人だったのか…

 

でもリュウさんは一人前のハンターになるには最低でも50分走り続けれる体力がないと無理って言ってたな…

 

確か他にも…武器の熟練度、筋肉、健康管理、調合、洞察力…もう!頭痛くなってきた

 

今見るとアンゼリカさん…全然疲れてない…やっぱ住む世界が違うなぁ

 

「はぁ…はぁ…」

 

「…それにしても体力ないなぁ…ドスジャギィと戦ってた時は結構走れてたじゃん」

 

「あの時は…命の危険があって…」

 

え…なんでアンゼリカさんそのこと知って…

 

 

「げほっ!げほっ!!」

 

「っ!大丈夫!?」

 

息が整ってないのに喋りすぎたか、途中でアルトはむせてしまう。アンゼリカは辛そうに呼吸をするアルトこ背中をさする

 

「かほっ!けほっ!…けほっ!」

 

「全く、辛いなら途中でペース下げてって言えば良かったのに…」

 

「げほげほっ!!……うぇ…なんか鉄の味がする…」

 

「…鉄の味ってなんか分かる気がしなくはないね」

 

おぇぇ…なんか喉がヒリヒリする…息は整ってきたけどなんか体力が回復した気がしない

 

「すみません、時間を無駄にしました…」

 

「別に謝らんでも…」

 

「ううっ…もっと持久力つけなきゃ…あと筋肉も…」

 

「持久力はいるけど、筋肉は……いる人はいるけど…あんまりなぁ…」

 

「普通に筋肉はいると思いますけど」

 

「でも私からはさほど必要じゃないね」

 

「…?…あ!」

 

今見てみると…アンゼリカさん…アオアシラ吹っ飛ばす力あるのに…あんなでかい大剣軽々しく持ってるのに…

 

「き、筋肉が…ついて…ない!?」

 

「???」

 

あ、ありえない…あれほどの馬鹿力を持っていて筋肉ついてないなんて!!そういえばアンゼリカさん…普通にスタイルいいな…

 

「でも…常識的に考えるとやっぱありえない!なんで!?なんでついてないの!?」

 

「ど、どうしたの…そんな驚くこと?」

 

「い、いやもしかしたら光のパワー的な力をものにして操っているのか…ううん触ってるようで触ってないとか!!」

 

「あんたは何言ってんの、私は普通の人間で能力なんてもんは持ってないの!」

 

だとしてもあのパワーでこのスタイルはなんかおかしい!

 

別に悪くはないんだけど、悪くないんだけど!納得がいかないっていうか、なんというか…

 

 

「アンゼリカさんって筋トレとかしてないんですが?」

 

「したことはあるけど、ゆうて10回くらいかな、筋トレ嫌いだし」

 

え、えぇ…じゃあ一体何が力の源なんだろ…

 

アオアシラ蹴ってもまだ余裕が残ってたみたいだし色々謎が多すぎる

 

「じゃあアンゼリカさんは何をして強くなったんですか?」

 

「さぁ?戦ってたら強くなってた。経験っていうのかな?」

 

(ダメだ、理解しようとするほど複雑になってく、そもそも英雄の強さをわかろうとするのが無茶だった)

 

「へぇ…そんなんですか…はは…」

 

あまりに理由にならない答えばかりでアルトは気力が抜けて、雑に返事をしたあと重い身体を起こして立ち上がるとフラフラで不安定な足を再び動かした

 

「そんな足で大丈夫か?」

 

「大丈夫です問題ないです、これでも採取クエで鍛えてるんですから…ぶぇぅ!」

 

「・・・」

 

アンゼリカが言ってるそばから地面を踏みはずしてまたもこけてしまった

 

「イタタ…」

 

「・・・・」

 

…あまり後ろを振り向けない

 

後ろからくる冷たい視線か分からないけどものすごいプレッシャーが私を襲う。こけただけだけど…

 

「お、お見苦しいところをお見せしました…ではいき…あびゃあ!!」

 

ズテンッ

 

 

平らな土の上で何かにつまづいたわけでもなくまたもこけてしまった

。2度ならず3度目もこけてしまい、私を見る視線がより一層強く、鋭くなり、私を追い詰める

 

こけただけだけど

 

でも…

 

(は…恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃ!!)

 

有名な人の前では普段気にしない小さな失態でも恥ずかしさはかなり倍増する。呆れられたのか何にも声をかけてくれないし、後ろ振り向けないからわかんないけどアンゼリカさん少し困惑してんのかな…だったら余計に恥ずかしい!

 

嫌だよこんなマヌケな姿見られるのは!

 

てかなんで私こんなこけて…

 

「…あ!」

 

試しにアルトはふくらはぎを触ってみると、少し触れただけでしみる痛さがふくらはぎから全身に駆け巡った

 

「〜っ!」

 

同時になんかくすぐったいような…そんな分からない痛さが私の行動の邪魔をしてくる。少なくともこの足じゃ立てない

 

「………はぁ…ほら」

 

私がどうしても立てないと分かったかのようにさっきまで黙って見ていたアンゼリカさんは私の前で背を向けて腰を下ろした

 

「はえ?」

 

「ほら何してんの早くつかまりなよ」

 

アンゼリカさんが急かしてくるけど…これ…おんぶだよね?

 

い、いいのかな…

 

「歩けないんでしょ?おぶってやるから、ほら」

 

「え、えと…は、はい」

 

自力でなんとか歩こうとは思ったけどこの足だ。歩けてもかなり速度が落ちてセル村に着くのが遅れてしまう。変な意地を見せるよりここはアンゼリカさんに甘えた方がアンゼリカさんのためになるよね

 

アルトはアンゼリカの背にしがみついた

 

「よいしょ…あんた軽いなぁ〜ちゃんと食べてるの?」

 

「いえ…最近は野菜しか…」

 

「え!?野菜だけ!?その言い方だとあんましお腹いっぱい食べてないな?」

 

「収入があまり安定しないので、あまり贅沢はできないんですよ」

 

「えー!そりゃあそうだろうけど、ちゃんと食べなきゃ力でないよ?」

 

「でも…私が力を出したところで…」

 

「こら、ネガティブアルトが出ちゃってるよ」

 

「っ!す、すいません!」

 

いけない!あの時アンゼリカさんが言ったこと忘れかけてた

 

「あん時の私の見事な名言を忘れかけてたなぁ〜?」

 

「い、いえ…め、めいげん?」

 

「そこは聞き返すなよ!」

 

「すいません!」

 

 

それにしても本当に柔らかいな…全然硬さがないし本当に筋トレはあまりしてないみたい。あんな馬鹿力出しといて筋肉をつけないでどうこのスタイルを保っているのだろうか…まさか本当に経験だけで強くなったんじゃ…いやそんなはずは…

 

ダメだ…どうしてもアンゼリカさんなら実現しかねない

 

失敗する未来が見えないのも英雄の風格というものだろうか。抱かれた時もそうだけどすごく心が落ち着くというか安心を与えられているような。英雄って強いだけじゃないんだ。

 

なんだかアンゼリカ教ができたのも納得してきたウンウン…

 

ん?

 

 

私がおんぶされている事は…

 

アンゼリカさんは両手離してるわけで…

 

 

つまりおさえてる部分は……

 

 

ノーガード!?

 

 

(これ言った方がいいかな!?ここからだと見えないけど正面からだと絶対見えるよこれ!)

 

「あのーアンゼリカさん?」

 

「なに?」

 

「……いえなんでもないです」

 

「そう?」

 

アルトはアンゼリカに言おうとはしたが、このままどこまで気づかないのだろうかという好奇心に負けた

 

内心またビンタされると分かっていながら止めることはせず、とりあえず適当に返事をして、いつ気づくか待つことにした

 

(…うーん…言わない方がいいかな…)

 

 

 

 

 

 

 

 



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十四話 アンゼリカさんの作戦

(…ほっぺがヒリヒリする…)

 

「・・・」

 

アンゼリカさんに運んでもらってからの出来事だ。

 

私とアンゼリカさんは普通なら1日かかるかそんぐらいの距離をたった1時間でセル村に到着することができた。私が少し眠そうになった瞬間にはセル村の門が見え始めていて思ったよりだいぶ早くついてしまった。

 

よく考えれば身体能力が低いお荷物の私の速さに合わせて歩く必要がなくなって、行く時間が短縮されるのはあたりまえの事だ。

 

にしても速すぎる…

 

早く着く事は極めていい事だけど今の私にとっては不運と幸運が同時にきたような状況だ

 

歩けなくなった私をおんぶしてくれたアンゼリカさんだが、私をおんぶした際女の子が隠すべき場所が思いっきり見えてる状態だったのを私は気づいたが自分の興味を優先して気づいてくれるまで黙ってしまったのだ。その時の私はセル村までまだまだ距離があると思い、黙っていたのだがまさかこんな短時間で、まさか未だに胸が露出していることに全く気づいてないとは知らなかった

 

危うく門に着く一歩手前で起きることができて、胸のことで指摘することができたが、その事を気づいていながら隠していた自分に自業自得なことが起こった

 

ビンタされちゃった

 

「ーーーーッ!!!」

 

赤面したアンゼリカさんは露出した部分を手で押さえて目に見えない速さで草むらに隠れた。

 

「アンゼリカさん…」

 

私はもう歩ける程度までは回復していて草むらに隠れたアンゼリカさんに歩み寄る

 

「あのーすいません、黙っていて…」

 

「バカ!バカバカバカ!!バカ!!」

 

あちゃーすごっごい怒ってる…

 

「アルトのバカ!なんでこんな大事なこと黙ってんの!?おんぶした時点で気づいたなら早めに言ってよぉ!」

 

アンゼリカさんは涙目で子供みたいに文句を言ってくるけど悪いのは本当に私だから頭を下げることしかできない

 

「ごめんなさい…セル村に着きそうになったら言おうと思ってて…」

 

「門の手前で言うバカがどこにいんの!早めにいいなさい!」

 

正直なところアンゼリカがセル村についても自分の状態を把握していなかったこともかなり予想外だった。身体面ではずば抜けて優れてる人だけど、どこかしら抜けてるところがあるからな…この人

 

「言おうと思ってました…入ってから…」

 

「だからもうそこで遅いんだってば!」

 

「すいません!」

 

「もーう!ここまで心臓がドキッとしたの久しぶりだよ!」

 

 

 

「すいません…あともう少しで門番に捕まるところまで来てしまって…」

 

「本当だよ!あのままいったら私が痴女だと思われちゃうでしょ!」

 

「…え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「と、とにかく!こういうことは早めに!わかった!?」

 

「は、はい!」

 

案外許してくれた。よかっっったぁぁ!またビンタされると思った。

 

でも今の問題はどう中に入るかだよね…アンゼリカさんの服も危ないくらいに…っ!

 

(うっそ!!)

 

アルトはアンゼリカの服の状況を見て驚いた。破れてる部分がさらに拡がり、もう裸に見えなくもないそんな状態だった。

 

「アンゼリカさん!本当にやばいです!せめて服買うまではここにいてください!」

 

「なんで?」

 

「なんでって…それじゃあ捕まりますよ!」

 

いや待てよ…この人もしかして…胸隠したらいいっと思ってるんじゃ…まさか裸でもいけない部分が隠せたらそれでいいタイプ!?羞恥心が感じる人と思ってたけどここでずれてるとは…

 

 

やばい!難易度上がった!アンゼリカさんを説得するのは無理だしアンゼリカさんを問題なく中に入らせる方法……

 

 

・・・・

 

 

 

・・・・

 

 

ない!あるわけない!絶対捕まる!

 

私が先に買いに行けば済む話なのになんでこんな難しいの!

 

「うーん…どうしよう…アンゼリカさんを中に入らせるいい方法…」

 

「ん?それならいい方法があるよ」

 

アンゼリカが悩むアルトの肩に手を乗せて一つの案を出してきた

 

「どんな方法ですか?」

 

「それはね……」

 

 

うんうん…なるほど…

 

 

 

「つまり私とアンゼリカさんがものすごく貧乏でかわいそうな親子という設定で門番の人に同情を誘うと」

 

「そういうこと、辛くも苦しくもしぶとく生きて、希望を捨てず、でもやはりくじけそうになる…でも子供に励まされてようやくこの村にたどり着いた…我ながら素晴らしい設定じゃん!」

 

「なるほど!(て、無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィ!)」

 

アンゼリカさん自身満々に言ってるけど絶対無理!今時そんな親子胡散臭くて信じてもらえませんよ!でもアンゼリカさん…

 

「でしょ!アルト!」

 

ダメだこんな自信に満ち溢れた顔を潰すことはできない。

 

でもほんとのことを言った方がいいような…あぁもうどうしよう!

 

「よし!アルト作戦決行!」

 

「あぁ!ちょっと!待ってください!」

 

アンゼリカさんは私の苦悩を知らずに門まで突っ走った。私は急いでアンゼリカさんの後を追った

 

 

ああ!本気で成功すると思ってるよぉ〜!こんなことならいっそ早めに言っておくべきだった!

 

「アンゼリカさん止まってください!この作戦無理がありますって!」

 

「大丈夫!演技は得意だから!」

 

「そういうところじゃありません!演技とかそういう以前に首切られるますよ!止まってください!」

 

アンゼリカさんを追いかけているうちになんとすぐ門まできてしまった。もう門兵の人に見られたし後戻りなんてできない

 

私に残された選択肢はアンゼリカさんの演技についていくことしかない…お願い!アンゼリカさん!せめてセリフが出やすいのにして!

 

「おい止まれ!そこの2人の女!」

 

門が開き、2人の門兵が出てきてアンゼリカさんと私を呼び止める

 

(やばいかなり警戒してる…!)

 

「なっ!?」

 

門兵はアルトはともかくアンゼリカの服装を見て驚愕した。いきなり裸みたいな格好をした女性が目の前にいたらそりゃあびっくりするだろう。門兵はすぐに剣を抜き2人を警戒する

 

「なんだこのふざけた格好は!そんな格好で我々を誘惑しているのか!」

 

あぁ!やっぱりこの作戦は無理があったか!でもアンゼリカさんはやるつもりだし…私も合わせなきゃ!

 

アンゼリカさん!どうか得意な演技を見せて下さい!

 

「ワ、ワタシアヤシイモノジャアーリマセーン」

 

(演技下手くそ!)

 

「そんな言葉が信じられるか!この淫乱女が!」

 

「ホントデスッテヤダナァーホホホ」

 

(演技下手くそ!)

 

「クソ!おい!お前は一体何者なんだ!なぜここに!」

 

「えーと私と娘は…え、えと…えーと……田舎からきた…ハチミツ業者です…」

 

(設定は!?)

 

「ハチミツ業者?ハチミツはどこだ?」

 

「え、えとその…食べ…食べちゃいました」

 

「「「食べた!?」」」

 

「いえ、食べてません私は!」

 

「私は?じゃあ誰が食べたんだ?」

 

「え!?いや…その…娘が食べてしまって…」

 

「ちょっとアンゼリカさん!?」

 

「いや!娘も食べてない…えーとその…」

 

アンゼリカさんテンパりすぎ!落ち着いて!設定が可哀想な親子から食いしん坊の親子に変わってますよ!

 

(アンゼリカさんアンゼリカさん!)

 

アルトはアンゼリカの裾を引っ張り、耳元で囁く

 

(私たちは貧乏で可哀想な親子の設定だったでしょう!)

 

(そうだった!ありがとうアルト!)

 

アンゼリカは小さく頷き、門兵と正面を向いて話し始める

 

 

「正直に言います!私たちはハチミツ業者じゃありません!」

 

「何?」

 

「へ?」

 

(アンゼリカさん…今度は何を…)

 

「私たちは可哀想な親子です!」

 

「は?」

 

(えええええええええええええええええええ!!!)

 

無理矢理感がすごい!

 

「お前何言ってるんだ?とりあえず取り調べ室で話聞くから」

 

「とりしらべ?」

 

(やばいこのままだと捕まる!)

 

門兵は、腰に携えていたロープを片手にアンゼリカさんと私に近寄ってきた

 

「ーッ!」

 

危機を察知したのかアンゼリカさんの目が本気になった

 

「やはりこの手しかなかったか…ちょっと眠っててもらうよ!」

 

アンゼリカさんがアオアシラを吹っ飛ばした構えをするが、その構えをした瞬間

 

「あ…」

 

「「「あ…」」」

 

今まで手でおさえていた胸がさらけ出してしまい、見えてはいけない部分がノーガードで丸見えになってしまった

 

「キャアァァァァ!!」

 

「アンゼリカさん!」

 

「「うっしょぉぉぉぉぉぉおおおお!」」

 

全員が思いもしなかった展開。アンゼリカさんはすぐさま胸を手で覆い隠し私も自分のコートを脱いでアンゼリカさんの胸を隠す

 

捕まったと確信した私だったが門兵の方を見ると思いがけないことが起こっていた

 

「・・・・」

 

そこにはなんと2人の門兵が鼻血を吹き出して気絶していた。顔には幸せそうな顔をしており、これ以上ない笑顔で気絶している。

 

「え、えぇ…」

 

あまりにも予想外の展開で困惑してしまった。本来なら喜ぶべき結果だが、まさかこんな形で成功するとは思わなかった。

 

アンゼリカさんの服で悩んでアンゼリカさんの服で解決するとは…

 

「あぁぁぁぁもう!ひと思いに襲え!罰しろぉぉ!」

 

アンゼリカさんは胸を隠して何か言っているがとりあえずセル村に入れることは言っておかないと

 

「アンゼリカさんセル村に入れますよ、一緒に服買いましょ」

 

「アルト…あれ?なんで門兵さん鼻から血が出てんの?」

 

「さ、さぁ?とりあえず起き上がる前に入りましょうよ!ようやく服買えるんですよ!」

 

「そ、そうね…行きましょ!アルト!」

 

アンゼリカさんはさっきまでの焦りが嘘のように元気よく私の手を握ってセル村に入る。アンゼリカさんのおかげで入れることになったのに鈍感な人だなぁ…

 

門兵さんたちのことは…言わないでおくか

 

「アンゼリカさんそんな強く…!あ!ちょっと!」

 

 

 

 

 



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十五話 新品のユアミ装備

「うわぁ!ひっっろ!」

 

私はアンゼリカさんの作戦が功を成してセル村に入ることができた。ちょうどアンゼリカさんの服がやばめだったのでセル村に入ることができるのはかなりうれしい。

 

しかもセル村は村とは思えないほどとにかく広かった。広いだけではない、パジックの首都並みに店が多いし、近代技術を取り入れて活気的になっていて7年前とはえらい違いだ

 

「え、なにここ?別世界?」

 

アンゼリカさんはセル村のあまりの変わりように喜ぶとか興奮というより体が固まって一人で呆然と立ち尽くしていた

 

まぁそりゃあ7年でこんな変わったらそうなるか

 

「別世界じゃありません。ちゃんとこれが現実ですよ」

 

「エ、ダッテ…ダッテ…コワイ兵士サンガイルヨ?」

 

「あぁ…あれは重装歩兵ですね」

 

「ヘンナマルイノデウゴイテルヤツガアル(変な丸いので動いてるやつがある)」

 

「あれは車です」

 

「ヒトリデブツブツシカクニムカッテシャベッテルヒトガイル(1人でブツブツ四角いに向かって喋ってる人がいる)」

 

「あれは無線って言って特定の人と離れて喋る事ができるんですよ」

 

「えぇ…すごいなぁ…私、200年後にタイムスリップした感じだわ」

 

「科学の進歩ってすごいんですよ、ほらそんなことより服買いましょ」

 

まだ何かブツブツ言ってるアンゼリカさんを引っ張って私はとにかく服屋さんの所を探す。周りの人がジロジロアンゼリカさんを見るから早く買ってあげないと

 

「えーと加工屋加工屋…」

 

アンゼリカさんも探してはくれているが…

 

「アンゼリカさん、なんで加工屋探してるんですか?」

 

「装備といえば加工屋でしょ?」

 

「そうですけどアンゼリカさんの装備はもう服屋にしか売ってないんですよ」

 

「え!?何で!?」

 

「だってユアミ装備が防具の役割してないんですもん!だからもうあれは服屋が作ることにしたんです!」

 

「マジかー変わるもんだねぇ…」

 

やっぱり7年の空白は驚くことばかりらしい。急に発展したせいもあるが7年も経てば価値観や物のあり方も変わってくる。今の時代にアンゼリカさんがついていけないのはわかる

 

「服屋…服屋…あった!」

 

探すのにあまり苦労しなかった。すぐ服屋は見つかった。これでようやくアンゼリカさんの服が買える。

 

2人は服屋の中に入っていき

 

「いらっしゃいませ!っ!!おぉこれはいいオシャレですね…」

 

店員さんがアンゼリカさんを見て少し顔を赤くして目線をそらしながら褒めたような言葉を発する

 

「オシャレ??」

 

「気にしないでください、すみません、ユアミ装備って売ってますか?」

 

「え、あぁ売ってますよ」

 

よかった。正直もうないと思ってた。服としても装備としても今の時代の人は買いたがらないかなね

 

「じゃあこの人のサイズで1着ください」

 

「かしこまりました」

 

店員はアルトの要望を聞き入れて、1人店の奥深くへ入っていった

 

「ねぇねぇアルト」

 

アンゼリカさんが私の肩をツンツンとつついて質問してきた

 

「何ですか?」

 

「オシャレって何?」

 

「アンゼリカさんとは縁のない話をです」

 

「???」

 

「おまたせしました」

 

店員さんが注文した服を持ってきて2人の前にくる

 

「ありがとうございます、いくらですか?」

 

「200zになります」

 

「「やっす!?」」

 

「え?安!安くない!?」

 

私とアンゼリカさんは口を揃えてあまりにも安い値段に驚いた。私はともかくアンゼリカさんからしたらこの値段は破格といえるほど安いのだろう。

 

「えーまぁ…人気ないですからね」

 

「でも、もしかしたら品質が悪くてその値段じゃないの?」

 

「まーさかぁ!!これは最高品質で200zなんです!質の悪いやつでしたらタダで持っていってもらってもかまいませんよ!」

 

店員さんには悪いけど思った値段より大分安かったからちょっと疑っちゃった

 

まぁいいや

 

「アンゼリカさん!ユアミ装備の質が悪いやつなら無料でくれるって言いましたけどどうしましょう?」

 

私は大声でアンゼリカさんに質問するが

 

「ほぉー今の時代こんな服が流行ってんの?」

 

「はい♫特にこの商品は今若い女性に人気なんですよ!」

 

ダメだ…向こうで女の店員さんと流行りの服を物色しちゃってる。あれじゃ話聞いてくれないなぁ。お金には余裕あるし気に入った服を買ってあげることにしよ。ずっとユアミ装備ってのもあれだしね

 

「…とりまこの最高品質のユアミ装備をください」

 

「はい…」

 

私がユアミ装備を購入するが店員さんの顔が暗く目が犯罪者を見るような目でジロジロ見てくる

 

「あ…あの…なんですか?」

 

ジロジロ見られるのはあまりいい気分じゃない。なんでこっち見てくんのかな?

 

「いえ…あなたさっきアンゼリカって言いませんでしたか?」

 

「っ!!」

 

し、しまった!!そういやアンゼリカさんは顔が知られてないだけで名前自体はめちゃくちゃ有名だった!

 

「え…とそれは聞き間違いでは?」

 

「そうでしょうか…ちなみにあの姉様方はどうゆう名前で?」

 

「ーっ!」

 

偽名なんて考えてないよぉぉぉぉ!!

 

どうしよう!早く答えないと作った名前と思われる!

 

どの名前にしよう!?

 

 

ポチ、だめだ

 

ティガレックスは長い!

 

テオなんちゃら…ダメ!

 

アンゼリカ…は禁句だし!

 

はなこ…は普通すぎて逆に疑われる!

 

 

せめてアンゼリカさんの特徴から…えーと…もう!いいや!

 

この人はこれから会う人じゃないんだし適当で!

 

「トリアタマです」

 

「え?」

 

「トリアタマです」

 

「すいません…あの人の名前ですよ?」

 

「だから…トリアタマです」

 

「トリアタマ!?」

 

やばい…少し名前が独特すぎた…

 

「…はは…へぇ〜そうですか…ではお買い上げありがとうございます…」

 

店員はユアミ装備を私に押し付ける感じで渡して、すぐに私から距離を置くように下がった

 

これ以上問いただされるよりはマシか、さっさとトンズラしちゃった方がいいよね

 

「アン…!じゃなかった…トリアタ!ぷぷ…」

 

ダメだ…今思い出すと笑える名前だ

 

「ん?アルト?どうしたの?」

 

「いえ…何も…ぷぷ…」

 

「???」

 

「あ、そうだ…何着か服買いましょう、アン…違う…トリ…くふふ…!」

 

「ど、どうしたのホントに?」

 

「い、いえ!とりあえずさっき見てたの持ってきてください、買いますんで」

 

「え?別にいいのに」

 

「ダメですよ、1着ぐらい普通の服買わないと、私買ってきますんで更衣室で着替えてください…それに見えてますし…」

 

「ーっ!なッ!?」

 

「嘘です」

 

「コラ!」

 

私はすぐにアンゼリカさんの見ていた服をカウンターに持っていって服を買った。店員さんは全然こっちを見てくれないけどまぁ気にするほどでもない

 

目線をそらして早めに終わらそうとしてくる店員だが早く終わりたいのはこっちも同じだ。早く会計を済ましてアンゼリカさんが着替えている更衣室に向かう

 

「あのーもう着替えましたか?」

 

「うん、着替えたよ」

 

そう言ってアンゼリカさんはカーテンを開けて新しいユアミ装備で私の前に現れた

 

「おお…」

 

ユアミ装備をこんな着こなす人はじめて見た。最初に会った時よりもなんか神々しさが感じられる

 

「どう?似合ってる?」

 

「はい!とてもよく似合ってます!」

 

「そう?へっへーん!」

 

自信満々に胸を張るアンゼリカさんだけど…私としたら前の破れた服の方が良かったなぁー…アンゼリカさんの乙女みたいな声がレアだったからあれが聞かなくなるのは悲しい

 

「じゃ、アルト他の所いこっか」

 

私のホントの感想なんて伝わるわけなくアンゼリカさんは更衣室から出て私の手を握って店の出口に向かう

 

「はい!」

 

アンゼリカさんの呼びかけで後に続くように店を出た

 

ここまでは計画どおり…でも

 

 

「服買ったし、どこ行きましょうか?」

 

「あぁそれね…服買う以外やること考えてなかったわ」

 

あのままの格好じゃ流石にまずいからセル村にきて服を買うことばかり考えていたから2人ともこれからどこで何するのかは何も考えてなかった。

 

「…なんかお腹空いちゃったな…」

 

「まぁ…もうご飯時ですからね…」

 

「じゃあ考えるなしにして今はご飯食べよう!」

 

「それ大賛成です!」

 

「よし、じゃあ食堂探さないと…」

 

私とアンゼリカさんはとりあえず空腹を満たすこど優先して食堂を探し始めた

 

「セル村広いなぁ、食堂も見つけられないのーもう」

 

「7年前はこんな複雑じゃなかったんですけどね」

 

セル村って広さの割には食堂とかがさほど多くない。周りに見えるのは野菜とかお肉売ってる店か武器屋ぐらいだった

 

「早く倒れる前に探さないと」

 

「アンゼリカさん、空腹で倒れるんですか?」

 

「まぁね、ぶっちゃけモンスターと戦ってる時は攻撃よりも空腹が天敵だったかな」

 

「何ですかその余裕…」

 

今の私にとっては結構贅沢な悩みで羨ましい…私もモンスターと戦ってる間とか他事気にして戦えるようになりたいなぁ〜

 

「…ん?なにこれ?」

 

食堂を探して間もない頃、アンゼリカさんがふと武器屋の前に貼ってある賞金首の紙に目を通す

 

「っ!こいつ!3200億zもかけられてんじゃん!一体何したのこいつ!?」

 

アンゼリカさんが賞金首の報酬を見てびっくりするが私に取ってはその破格の賞金の値段で誰かはすぐわかった

 

「その人はフレデリック・ストーンエッジって言う人です。世界最強の犯罪者で、反ギルド軍のリーダーなんですよ」

 

「へぇ〜そんなすごい人なんだぁ〜にしてもこの懸賞金はちょっと高すぎない?」

 

「仕方ありませんよ、だってこの人もうパジック国の要人を40名以上殺してるんですから」

 

「え!?そんな殺人鬼だったの!?」

 

「はい、パジックだけじゃなくて他の国にもフレデリックの被害を受けたって報告がありますしなんせどんな対策をとっても未だに捕まらないんですよ」

 

「大国の追跡を逃れるって逃走なれしてんだね…国も捕まえることに執着しなくていいんと思うんだけど…」

 

「ええ…だから捕まえることは諦めて全力でフレデリックを始末する方針の対策にしたんです。手始めに反ギルド軍の本拠地を総攻撃したんですけど…」

 

「けど?」

 

「討伐に向かった部隊は隊長を除いて全滅。反ギルド軍側の損害一切なしの完敗です」

「・・・マジか」

 

「国が本気を出しても殺せなかった失態は大きくて反ギルド軍の勢いを増してしまったんです…そこから今までなかった"戦争"ってのが出てきちゃって今でも紛争が絶えないんです」

 

「ホント7年で変わりすぎだよ…私がいない間だけいろんな人が出てくるし頭が追いつかないよ」

 

「アンゼリカさんがいなかったからですよ」

 

「へ?」

 

私の一言にアンゼリカさんは間抜けな表情で間抜けな声を上げた

 

「アンゼリカさん…つまり英雄がいなくなった、もしくは死んだと勘違いした人達が腐敗しつつあるギルドを倒そうと結成したのが反ギルド軍なんですよ」

 

「???」

 

私の説明にイマイチピンときてくれないようだ。なんの反応をしてくれないことから分かってないねこりゃ

 

「いやおかしいでしょ、私が伝説って呼ばれ始めたの私が消えた後だよね?」

 

まぁそんなんだけどこの話は少しズレてて…

 

「アンゼリカさんの存在はうやむやにされていたから…あまり明かされてなかったからこその抑止力になってたんですよ。要するにアンゼリカさんは目に見えない守護神的な役割になってたんですよ」

 

「え?私守護神?やだなぁ〜そんなたいそうなもんじゃありませんって〜」

 

何言ってるんだこの人…呑気な人だなぁ…ちょっと力抜けちゃう

 

「でもどこからかアンゼリカさんが死んだ噂が広まってきて、この好機にフレデリックが率いる反ギルド軍が出てきちゃったんですよ」

 

 

・・・あ…やっべ…

 

 

「・・・・」

 

私の言葉の意味がわかってきたのかアンゼリカさんの顔が暗く沈んできて、冷や汗までもかいていた

 

「じゃあ…私がいなかったから…人同士で殺し合いを?」

 

「・・・・」

 

正直アンゼリカさんをこんな形で責めるつもりは毛頭なかった。フレデリックの説明から反ギルド軍のできた経緯を説明していたが、反ギルド軍ができた理由はアンゼリカさんが消えたことに直結することは知っていてなるべく言わないようにはしていたが、つい口がすべってしまった…

 

もうアンゼリカさんから質問されたら答えるしかない

 

「まぁ…そうなりますね…」

 

「そんな…」

 

しまった…自分のせいで多くの人が死んでることの事実はかなり辛い。今更ながら口がすべってしまった自分が憎らしい

 

「あ、アンゼリカさん…いずれにせよ人が殺し合う時代はくるって言われてたんですから…」

 

「…でもあの時の自分の判断がこんなバカな人間の考えを助長させる結果になってたんなんて…」

 

 

「いや…でも私が言うのも難ですけどアンゼリカさんだけが悪いってわけがありません…アンゼリカさんに甘えていた私たち側にも責任はありますし、そんな背負わなくて大丈夫ですよ」

 

私はなるべくショックを和らげるような言葉をかけるが、アンゼリカだけが悪いのは大きな間違いだ。実際アンゼリカさんがいないだけで勝手に誤解したバカな人達がギルドに反旗を出したのが最初だ。

 

アンゼリカさんはどちらかというと責任の押し付けをされてる側だ

 

「いや…私がいたら死ななかった人もいるわけでしょ?なのに私の都合でこんな異常事態を発生させるなんて…伝説が聞いて呆れるよ…」

 

「…そんなこと…」

 

私ってなんで話を悪い方向に持っていくんだろう…故意じゃなかったにしろさっきまで良かったムードが台無しだ。

 

「…まぁ戦争の元凶なら全部フレデリックのせいなんですけどね…これだけは…」

 

「どゆこと?」

 

「実は反ギルド軍自体は強くないんですよ、ほとんど野蛮な素人集団なんで…だから普通に戦ってたらもう戦争は終わってるんですよ」

 

「普通に戦ってなかったってこと?」

 

うっ…先に言われた

 

「…はい…普通に戦ってたら反ギルド軍が負けて当たり前なんですけど、フレデリックが戦争に介入すると必ず反ギルド軍側が圧勝するんですよ」

 

「え、なにそれチートじゃん!」

 

「ちーと?わかりませんが、何故かフレデリックがいると討伐隊は確実に負けますし、下手をすれば全滅しちゃうです。いくらあの人でも1人で戦局を変えることなんてさすがに無理でしょうし…なんでですかね?」

 

「いや、それを私に聞かれても…」

 

アンゼリカさんが私の振りに少し戸惑って顔をプイッと空を見上げる。

 

「いやーまぁ…フレデリックはまだ謎が多い人物ですし…いくら考察してもキリがないんですよね〜前まではアンゼリカさんが正体じゃないのかって」

 

「んなこと私がするはずないでしょ!」

 

「…ひぇ!こわいこわい…私はもう分かってますけど他の人達はアンゼリカさんがフレデリックの正体だと本気で信じてる人が案外多くて…だから店員さんにアンゼリカさんのことを聞かれたらまずかったんですよ」

 

「あ…そんな背景があったのね…」

 

アンゼリカさんはそう納得してくれているが実はウソ、フレデリックの正体がアンゼリカさん説が有力なのは本当だけど店員さんの件は単なる後付けだ。

 

店員さんがアンゼリカ説を信じてるこどうかわかんないし

 

「じゃあ、偽名使った方がいいね…アンゼリカって名前は有名になりすぎちゃったし」

 

「まぁ…そうですねぇ…ぷぷ…」

 

あ…ついアンゼリカさんの即席の偽名を思い出した、トリアタマって…そのままじゃん…ぷぷ…

 

「アルト?どうしたの私の帽子を見て…」

 

「いいえ…特には…」

 

「ん?そう?んーじゃあどんな名前にしよっかなぁ?」

 

「どうせならカッコいい名前にしたらどうです?」

 

「私はそのつもりだけど、あんまカッコいい名前って思い浮かばないんだよね…アルト、何かない?」

 

「えーと…じゃあ…トリアタッ…ゲフンゲフン!!」

 

「ん?」

 

「い、いえなんでもありません!…うーん…」

 

こ、これはまじめに考えなきゃ…ご本人にふさわしい偽名…

 

やばいどうしてもトリアタマしか思い浮かばないんだけど!

 

ここにきてトリアタマにすごい腹が立つ!

 

アンゼリカさんにふさわしい名前…って言ってもアンゼリカさんって名前がアンゼリカらしさを出してるってか…なんていうか…それよりも私なんかが名前を決める立場でいいのだろうか?

 

「いやー…すいません思い浮かばないです」

 

「そっか…どうしようかな…」

 

名前決めるってけっこう難しいよね…でも考えたらたかが偽名だとは思う。でもこんな真剣に考えるアンゼリカさんの邪魔をしたくない

 

 

したくないんだけど

 

 

グゥ〜

 

「ん?今の音…」

 

「・・・」

 

「……アルトもしかして」

 

「すいません…お腹空いちゃっててもう我慢が…」

 

お腹空きすぎてお腹なっちゃった。お腹空くと本当になるんだな…

 

「そうだった…私たち食堂探してたんだったね」

 

「そうですよぉ〜でも私が話題を変えたんですけどね」

 

「はは…じゃあ考えるのやめてなんか食べよ」

 

「はい!」

 

私とアンゼリカは再び食堂探しを続けた

 

腹は減っては戦ができぬっていうからね。でもなんでこんな食堂が見つからないんだろう…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十六話 お腹すいた

 

パジックの集会所にて。パジックのギルドマスターはドスジャギィの資料をうまくまとめた後であり、あとはサウスとジスターが反ギルド軍の対策した結果が気になっていた。

 

集会所の真ん中で何やらそわそわした様子でサウス達の帰りを待っているその時だった

 

「ギルドマスター、ただいま戻りました」

 

「おお!サウス!」

 

サウスは入り口から帰ってきて、ギルドマスターに一礼をする

 

「・・・・」

 

ジスターもサウスの後に続くように礼をする

 

「ジスターも…よう帰ってきてくれた」

 

「あのー俺たちもいますけど?」

 

サウスとジスターの間を取るようにバファとルイスまでも集会所に顔を出してきた

 

「おや?お前さんたちも行っていたのか?」

 

「いえ、たまたま下で合流しただけです」

 

ギルドマスターの問いにバファは答える

 

「そうそう、サウスさん達は一体どこに行ってたんですか?」

 

ルイスはいきなり話題を変えるような言葉を放つ。話の空気を読まないルイスに一同は冷たい目を向ける中、サウスが対応する

 

「反ギルド軍の事でちょっと出かけてただけだ」

 

「そっすか…えぇ!?なんで俺は連れて行ってくれなかったんですか!?」

 

反ギルド軍をかなり敵対視しているルイスから言わせてみればなんの相談もなしに勝手に反ギルド軍に赴かれては筆頭ハンターのプライドが許さなかった

 

「で?サウスよ、どうじゃった?」

 

ギルドマスターはルイスの事は完全なスルーをしてサウスの結果報告を問いただす

 

「やはりダメでした。フレデリックのガードはなかなかでしたね」

 

「えぇ!あのフレデリックもいたんですか!?なんで連れて行ってくれなかったんですか!1人だけハブるなんてなしっすよ!」

 

世界最強の犯罪者の名前を聞いて余計にルイスは1人ハブられたことを思いっきり抗議するが

 

「ギルドマスター、ドスジャギィの件はどうなりました?」

 

「うむ、ハンター達を何人か向かわせたのじゃがな…」

 

「ちょっとぉ!」

 

またもやスルーされてしまい、今のルイスは話の外にいる状態だ

 

「ドスジャギィのいた場所に着いてみたらそこには何者かにすでに討伐された後があってだな…」

 

「ほう…すでにドスジャギィは死んでいたと…」

 

「なんで無視すんの?ねぇ!俺も一応筆頭ハンターなんですよ!」

 

「死体は一旦回収したのじゃが…あまり情報は期待できないのぉ…」

 

「そうですか…」

 

「ねぇ!てば!」

 

「うるさい!」

 

「ごはぁっ!」

 

質問責めしてくるルイスがうっとうしくなってきたバファが渾身のチョップ攻撃をルイスの頭に思いっきり振り落とす。そしてその衝撃に耐えられずそのままルイスは床でのびてしまった

 

「ご苦労様だバファ」

 

「礼はいい」

 

そう言ってバファは気絶したルイスを担いで集会所から退室した

 

「…さてうるさいのがいなくなったことですし…では話の続きを…結果から私もギルドマスターもなんの情報が得られずじまいという結果に終わってしまったって感じですね」

 

「情けないことにそういうことじゃ」

 

サウスとギルドマスターは席にすわり、話し合いを続ける

 

「じゃがなサウス、ワシの方は得た情報がないわけではない」

 

「…じゃあなにかあのドスジャギィについて分かったことがあるんですか?」

 

「いやドスジャギィの事ではない、ドスジャギィを倒したハンターの情報じゃ」

 

ギルドマスターの一言にサウスは落胆した様子でため息をついて

 

「倒したハンターの情報が分かってどうするっていうんですか…」

 

「いや…そんなんじゃがな…一つ気になることがあって…」

 

ギルドマスターは話が止まり、少し黙った後に再び口を開いた

 

「ドスジャギィの傷口に何か見覚えがあってじゃな…確かユクモ村のギルドマスターが見せてくれたモンスターの死体と何故か傷口が似ててのう…ドスジャギィを倒したハンターはもしかしたら知ってるかもしれんと思ってじゃな…」

 

「傷口だけで何が分かると言うんです、それより私からはあなたに言わなければいけないことがあるんですよ」

 

サウスはギルドマスターの話を無理矢理流すように話題を切り替えてきた。するとサウスはポケットから一枚の紙を取り出した

 

「これは?」

 

ギルドマスターはサウスに渡された紙を手に持った

 

「あなたに殺害予告が出ています」

 

「ーっ!」

 

サウスの一言にギルドマスターは紙を落として、体が固まってしまった

 

「紙の内容は、今日パジックのギルドマスターを殺します、それだけです」

 

「な…なんじゃと…!?」

 

思いもしなかったいきなりの殺害予告にギルドマスターはかなり戸惑ってしまう

 

「ギルドマスター、何者かがあなたの命を狙っています。これからはなるべく外出を控えてこの集会所の警備を強化してください」

 

「いや…しかしサウス…」

 

サウスの提案に何も受け答えができない。突然に自分が殺されてしまうという事実が受け入れられず、ギルドマスターはしどろもどろに答えてしまった

 

「これはあなたの生死に関わることです。今日あなたは確実にだれかに殺されます。そうならないためにもここは私の意見をのんでください」

 

「…わ、わかった…」

 

思考が追いつかないギルドマスターはサウスの提案を何にも考えず承諾する。

 

「では私は衛兵に掛け合って警備の強化をさせてきます」

 

そう言うとサウスは席から立ち上がる

 

「サウス…頼んだぞ…」

 

「お任せを…」

 

サウスが一礼をして部屋から退室するべく、ドアノブに手をかけて後ろに引いた直後だった

 

「ーなっ!?」

 

ドアを開く瞬間に何者かがドアを反対側から押し開いてサウスを押しのけてギルドマスターに一直線で襲いかかった

 

「ギルドマスター!危ない!」

 

「な…こ…これは…」

 

サウスはギルドマスターに危険を知らせるが

 

「………!」

 

時すでに遅く、ギルドマスターは間者に首をはねられてしまい、間者は窓ガラスを割って逃げられてしまった

 

「…クソ」

 

(まさかこんなに早く行動に出るとは…)

 

「サウスさん!」

 

騒ぎに駆けつけたルイスとバファが数十名の警備兵を連れて集会所に入ってくる

 

「っ!ギルドマスター!」

 

1人の警備兵が倒れたギルドマスターに寄るが

 

「放っておけ!ギルドマスターの事はあとだ!今は間者を捕まえるのが先だ!ルイスと警備兵達は急いで間者を追え!」

 

「…!は、はい!」

 

「バファ!ジスター!ついてこい!」

 

「了解!」

 

「………」

 

ルイスと数名の警備兵はサウスの指示通り窓から逃げた間者を追跡する

 

「絶対逃がさねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セル村にて、アルトとアンゼリカはまだ食堂を探している頃だった

 

 

 

あれからずっと食堂探して、全然見つからないからわざわざセル村の集会所に行って食堂の場所を聞いてみたら…

 

 

「この村には食堂がないっておかしくないですか!?」

 

ありえない!こんな人が大勢いるのに食堂がないってありえなさすぎる!ご飯を食べるところが何一つないってサービスどうなってんのよ!全く!

 

「まぁ…田舎だもんね…元は…」

 

「元は田舎でもこんな発展していたら食堂はできるでしょう!あーもう…お腹すいた!」

 

食堂がないって分かるとお腹の減り具合がひどくなってきた。お腹が何か食べ物をくらって騒いでいる…と思う

 

「お腹のすいた!お腹すいた!」

 

「うるさいなぁ…我慢しな!」

 

「うぅ…でもぉ…」

 

「お腹減ってんのは私も同じなんだから!文句言わない!」

 

「は、はぁい…」

 

叱られちゃった…

 

でも本当にどうしよ…セル村に食堂がないとするとどこで食べたらいいか…うーん…

 

「アルト、セル村以外で食堂ある場所わかる?」

 

アンゼリカさんが私にセル村以外の場所を聞いてくるけど私首都出身であまりほかの村のことについて知らないんだよね…

 

「いえ…首都しかしらないです…」

 

「うわーマジかー…」

 

こりゃあ結構困った。2人とも知らないんじゃお手上げだね…こりゃ

 

「しょうがない、このまま2人で心中するか」

 

「え、えぇ!?」

 

「嘘だって、すぐ信じちゃうんだからこの乙女さん」

 

「乙女さん!?」

 

アンゼリカさんが縁起でもないこと言うからでしょう!てか乙女って、服破れてたアンゼリカさんの方がすごく乙女ぽかったですし!

 

「私嫌ですよ餓死すんのは!アンゼリカさん何とかしてください!」

 

「何とかって言われてもなぁー私あんまここらへん知らないし…」

 

アンゼリカさんは頭をぽりぽりとかいて辺りを見渡す

 

「私がもともと知ってる場所でもないからパジックの交通機関とかどうなってるも知らないし、困ったもんだよねぇ〜」

 

ホントに困ったもんすよ…もとを言えばセル村に食堂をおいてくれたら済む話なんですけどね…伝説のハンター様でもこの時代を瞬時に理解することは流石に無理かぁ…ん?

 

 

交通機関?

 

 

「あ!そうだ!」

 

「な、何が?」

 

アルトは大きな声を上げてアンゼリカの手を握る

 

「交通機関!アイルー運搬!アイルーさんに首都に送ってもらえればいいんですよ!」

 

「あぁ!その手があったか!てかまだアイルーさんの運搬業あったんだ…」

 

「ありますよ!ありますけど…」

 

アイルーの運搬業は残っているけど…まぁいいや安いし、首都まで送ってくれるならなんでも

 

「とりあえず行きましょう!もうお腹すいてやばいんすよ私!」

 

「あ、ちょっと!待ちな!」

 

アルトはアイルー運搬業の場所がわからないのに突っ走ってしまい、アンゼリカにすぐに追いつかれて拘束される

 

「そんな急いでも首都とセル村がどんくらい離れてるからわかんないとあんたの腹がもたないでしょ?」

 

「うーん…離してください…!もう止まってられないんです…!」

 

「いや道わからないのに走り回っても余計お腹すくだけでしょ」

 

「・・・・・」

 

た、確かに…いきなりの正論に目が覚めた。アンゼリカさん脳筋な考えな人と思ってたけど結構考えて進む人なんだ…私も見習わないと

 

「…たく、お腹すいてんなら後で私はモンスター狩ってきて料理作ってやるから」

 

「あ、アンゼリカさん…!」

 

いやもうコンガの肉でもなんでもいいから食べたい気分。イビルジョーって自分の尻尾食べてしまうらしいけど今の私なら気持ちめっちゃわかる。今の私なら腕を取って食べれる自信あるもん

 

「えーと…何してんのかなお嬢ちゃん達…」

 

私とアンゼリカさんのやりとりを見ていた1人の若い男性が話しかけてきた

 

「え?あーはい…私達お腹すいちゃって…それで食堂探してたんですけど…無くて…」

 

アンゼリカさんが私の代わりに受け答えをしてくれた

 

「あーじゃあ食堂探してるんですね?」

 

「まぁそうですね」

 

「じゃあアギラグァムに行ってくれたら食堂ありますよ、こっからそうかかりませんし」

 

「へぇーそうなんですかー!」

 

「え?アギラグァム?」

 

アギラグァムって私が住んでた…てことは首都じゃん!

 

セル村とアギラグァムってそんな近かったの!?

 

「よかったねアルト、これで食べれるね!」

 

「は、はい…」

 

でもアンゼリカさんの料理は食べたかった気持ちはある

 

私は嬉しさとがっかりした気持ちが交差しながら親切に教えてくれた男性にお礼をしてアンゼリカさんと一緒にパジック国の首都アギラグァムに向かうことにした

 

 

 

 

 

 

 

 



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十七話 危険な料理

今現在、私とアンゼリカさんは首都アギラグァムに着いたばっかり。

 

マジでセル村とアギラグァムは繋がってて、歩いて五分程度ですぐ着いた。

 

「いやーまさかこんな近かったとは…全然気づかなかったです…」

 

「あんたここで住んでたんでしょ?セル村知ってんならなんでこんな近くにあったこと知らないの」

 

…ごもっともな質問ですね

 

「いやー毎日生きるのに精一杯で近道とか地名とかあんまし覚えてなかったんですよねーてへっ」

 

「てへっ…って全くこの子は」

 

アンゼリカは苦笑いをしてアルトのほっぺを少し強めにつねった

 

「いひゃひゃ!」

 

「ほら行くよ、首都なら道知ってるでしょ」

 

「はぁーい、こっちですよ」

 

アルトはつねられたほっぺをおさえながらアンゼリカの手を引っ張って食堂に向かう

 

アギラグァムはパジック国の首都というだけあってかなりの人々が行き来しており、ろくに歩いて動けないほど人が多く密集している。人が1番集まる場所であるため多くの会社がアギラグァムに本社を置いてるため、ただでさえ人口が多い都市により多くの人を各地から呼び寄せる環境になってしまっている。

 

人がたくさん集まる場所はどんな組織も大きな利益を上げる夢の場所だ

 

 

「パジックの道を歩く者達を聞くがいい!」

 

変な黒い服装をした男性達が道の中心を陣取って何やら演説を始めた

 

 

「え、あれは?」

 

アンゼリカが人混みの中で変な服装をした一団に指をさす

 

「あれはですね…ってあれは!」

 

あの黒い服装とダサいハット帽子…まちがいない

 

(アンゼリカ教だ…)

 

アルトはすぐにアンゼリカの手を強く引っ張って一団から離れようとするが

 

「・・・」

 

アンゼリカはアルトの手を離して一団に近づいていく

 

「あ!ちょっと!」

 

アルトは急いでアンゼリカを追いかけるが人混みの中で走ることなどできるはずもなく、アルトの体格では道を歩く人にぶつかるたびによろけてしまうほど打たれ弱く、アンゼリカとの距離は長くなるばかりだ

 

「離れちゃまずいですよ!アンゼリカさん!」

 

私はアンゼリカさんを止めようとするも全然進めない。私は一人でジタバタしてるうちにもうアンゼリカさんはアンゼリカ教団の近くにいる

 

「この時代の人は全員病気にかかっている!物体的な病気ではない!欲という病に人は日々犯されているのだ!我々はそんな人々を浄化するべく今ここにいる!」

 

「・・・」

 

教団の司教らしき人が演説をしている中でアンゼリカさんはその人ばかり見つめて呆然と立ち尽くしている

 

「しかぁし!我々だけではあなた方達を救うことはできない!今こそ!アンゼリカ様をこの地に呼び戻し!この世の人々を救っていただくしかないのだ!我々はアンゼリカ様を呼び戻す!アンゼリカ様こそ救いの神なのだ!」

 

「・・・」

 

「どいて…どいてください!」

 

私は人混みを押しのけてアンゼリカさんに近づいていく

 

「おお…アンゼリカ様よ…我が神よ…我々を…世界をお救いください!」

 

司教がそう言った時、教団は空に向かって土下座をし始めた。そして司教も教団全員が土下座をした同時に土下座をしてアンゼリカさんを崇める。

 

空に願わなくても実際に近くにいるんだけどね…

 

「アンゼリカ…さん!」

 

私はなんとかアンゼリカさんに追いつき、アンゼリカさんの手を強引に引っ張って一団から距離を置く

 

不思議と力を入れなくてもアンゼリカさんは動いてくれた

 

教団から離れて人混みを避けるため、人がいない路地裏に入って一旦休憩することにする

 

「・・・・アルト」

 

「…なんです?」

 

演説の時からずっと黙っていたアンゼリカさんが口を開いた

 

「私…わたし…」

 

手から伝わってくる体温がどんどん上がっていくのが感じられる。アンゼリカさんの顔も赤くなっていき

 

「何あれ!?めっっっちゃ恥ずかしいぃぃぃぃぃ!!」

 

アンゼリカさんが床に伏せて大声を出した

 

「なんなのあれ!?怖すぎるわ!なんで7年いなくなっただけで見たらわかるやばい宗教団体に私が崇められてんのよ!」

 

…やっぱりこうなるか…いやならない方が少ないと思うよね、だって見ず知らずの人達にあんな扱いされてたらさすがのアンゼリカさんでも耐えられなかったか…

 

「まぁ…アンゼリカさんは実績が世界を救ったことですから神さま的な扱いされてもおかしくないとは思いますね…別にいいじゃないですか、この時代アンゼリカさんの恩を仇で返してる人が多いですし」

 

「だからと言ってあのやばい奴らに神様って呼ばれるのは嫌だ!」

 

それは共感できます

 

「え…ええ!アルトからアンゼリカ教って聞いてから嫌な雰囲気漂わせてたけど思ってたより斜め上をいってたよ!」

 

「やばいやばいって言ってますけど別にそんなアンゼリカ教はこれといって無害ですよ。迷惑な宗教活動とかしてませんし、私から見たらいるかどうかもわからない神様を信じてる人達の方がよっぽどやばいと思いますけど」

 

「あんたはそう思うけど私は嫌なの!考えてみなさいよ!アマツ様倒して7年経って街に来たら大勢の知らない人に神として崇められてんのよ!?」

 

…考えてみたら結構怖い

 

「でしょ!!久々にビビったわ!私今まで怖かったのモンスターじゃなくてあいつらかもしんない…」

 

いやそれは言い過ぎでしょう…

 

「世の中あの人達よりやばい人はいますよ、私が見てきたなかではあの宗教団体は怖くない方ですよ」

 

「私にとってはあいつらの方が怖いの!!」

 

「もうー人間にビビってどうするんですか…アンゼリカ…様?」

 

「あんたもそっち側にならなくていいの!」

 

「だって…私だってアンゼリカ様って言ってみたかったし…」

 

「アルトは今の呼び方でいい!何も変わらないで!」

 

すごい涙目で言われるとこっちがいじめてるみたいでなんか気がひけるや…

 

私は身体が震えてるアンゼリカさんの背中を優しくさすった

 

「やばい…涙出てくるかも…」

 

「そんな怖いんですか?」

 

「最初は寒気がしてきて、アンゼリカ様って言われたあたりから心臓が殴られたような感じがしてさ…身体がなぜか動かなかったし、ホント久々だよぉ〜この感じは初めてモンスターと戦った時だなぁ」

 

「マジでビビってるじゃないですか…何に怖がるのは人それぞれですけど相手は人間。慣れてください。アンゼリカ教はどこにでもいるんですから」

 

「えぇ…他のところにもいんのぉ〜」

 

アンゼリカさんが嫌そうな顔をして床に転がる

 

「こっちから何かしない限り大丈夫ですよ、怖がることはありません」

 

「…でもさぁ」

 

「私が付いてますんで大丈夫ですってば」

 

「えー!余計頼りないなぁ!」

 

「ち、ちょっとぉ!そこは嘘でもありがとうって言ってください!」

 

「はいはい、すいませんでした」

 

あー!絶対この人信じてない!一応私だって身を守る方法があるんですよ!…初心者級の奴…それも1日でとれるやつ…

 

「・・・」

 

グゥ〜

 

「あら?」

 

「っ!はは…」

 

いっけない、またお腹鳴っちゃった

 

「そうだった、まだ何も食べてなかったんだ…悪いねアルト」

 

「い、いいえ…」

 

アンゼリカはアルトの頭を軽く撫でた後、すぐに立ち上がった

 

「あーお腹すいた!行こっか!」

 

「は、はい!」

 

 

私とアンゼリカ様…じゃなかったアンゼリカさんは路地裏から出て食堂を目指した。アギラグァムは私の住んでる所なので知らない場所はほぼない。ここの食堂の場所なんて知り尽くしている。

 

こっから近い場所だと安いけど料理がイマイチの店しか…ダメだ背に腹は変えられないや。とにかくお腹空きすぎて死にそう。

 

 

「アンゼリカさん!ここです!」

 

私はイマイチ食堂を指差してアンゼリカさんを連れてくる

 

「へぇ〜食堂にしてはなかなか凝ってんね〜」

 

アンゼリカさんの目が店の看板の方に向き

 

「食欲の神…店名も他と違うなぁ〜」

 

食欲の神って店名だけどここの店はあまり食欲は湧かない。この店の看板名に騙されてきた客によって成り立つある意味すごい店だ。

 

食欲の神とか言ってるけどこの店が生き残ってる理由なんて安い所ぐらいしかない。特に毎日通ってる常連客なんて見たことがないけどお金節約のためにはまぁこの店でいっか

 

「アンゼリカさ…」

 

てもういない…先入っちゃったか

 

私もすぐに扉を開けて店内に入る

 

「アンゼリカさん先行かないでくださいよ」

 

「おぉ!すごい!人がいっぱいいんじゃん!」

 

店内には多くのハンターと労働者で賑わっており、パーティで楽しむ人もいれば、酒で酔いつぶれてカウンターで寝ている人もいた

 

「安いだけでこんな繁盛してんだこの店…」

 

食欲の神って店の評価低いはずだけど…値段って大事なんだね

 

私とアンゼリカさんは目の前のカウンター席に座って、テーブルに置いてあるメニュー本に目を通した

 

「色々あるね…」

 

「メニュー豊富なんですやこの店」

 

むしろ豊富すぎてページ数がえげつないほど多い。もうこれじゃ辞書だよ

 

「・・・アルト、何かオススメあるなら言って」

 

アンゼリカさんはそう言って辞書(メニュー本)を私に押し付けてきた。

 

「ちょっとは見てくださいよ!」

 

でもここにある美味しい方のメニューは知ってるちゃ知ってる。

 

アンゼリカさんの好みは知らないけど…適当にあげてみるか

 

「アンゼリカさん、このアプト丼はどうですか?歯ごたえがあって美味しいですよ」

 

「今かたいの食べる気はないなぁ〜」

 

「そうですか?じゃあこの手我絡酢うどんはどうでしょう?」

 

「これ見た目やばすぎ…あんま口にしたくない…」

 

色が緑と黒で構成されてる料理ですからね…仕方ないか…

 

「次はリオレイアの息吹っていう激辛ラーメンですけど」

 

「私辛いの無理」

 

へぇー!これは意外!辛いのでも毒入ってるのでも食べちゃう系の人かと思ってたのだけど…

 

「ゲロスシチューはどうです?見た目アレですけど」

 

「これは…毒入ってるんじゃないの?」

 

材料が毒抜きしたゲリョスの材料ですからね…

 

 

「うーん…じゃあこのガーグァの手羽先はいかがですか?個人的に私これ1番美味しいと思います」

 

「鳥は食わん!」

 

なんで!?てかアンゼリカさん一体何なら食べてくれるの…

 

「じゃあーアンゼリカさんは何が食べたいんですか?」

 

「 肉 」

 

即答…いや迷われるよりかは断然いいんだけどね、肉料理か…それなら結構な種類あるけどどれがいいかな?

 

「この王者のエリマキ焼きはどうです?」

 

「お!それ美味しそう!それにしよ!」

 

さすがはアンゼリカさん…ドスジャギィのエリマキを武器の材料にする人が多いですけどこのエリマキは料理面でも大活躍します。

 

そのまま煮込んで食べてもいい、焼いて食べるのも美味しい。

 

どんな料理でもこのエリマキのおいしさを潰すことはできないのだ

 

「で、アルトは何食べんの?」

 

「私ですか?私はですね〜ふっふっふ」

 

アルトは鼻で笑いアンゼリカの顔の前で指を鳴らして上に飾ってあるメニュー板に指をさした

 

「私が食すのは!世界の絶品中の絶品!テオ・カラ・ファイア希少種級です!」

 

「テオ…カラ?」

 

アンゼリカは聞いたことない料理名と絶品のワードとアルトの気迫に圧倒される

 

「そうです!このテオ・カラ・ファイアはどこの店にもある人気の料理!世界の絶品に数えられるほどのおいしさは本物です!料理のくせに料理ではない…料理のくせに人間を追い詰めてくる…この攻撃的な味が絶品と呼ばれる所以!しかし!ただの絶品ではありません!」

「へ…へぇ…そうなんだ…」

 

「この美味しさは私を一瞬で虜にしました!あの絶妙な味加減と舌に残るヒリヒリ感が私を支配してくるのです…料理に身体を奪われかけるほどのうまさ!何よりも!これほどのおいしさを誇っておきながら値段も500zと破格の中の破格!」

 

「あ…アルト?ちょっと落ち着きなさいよ…」

 

今まで見たことないアルトのハイテンションにアンゼリカは困惑しするが、そんなことを気にも止めずアルトはまだ語る

 

「いやー!この料理は貧乏人をも救うのか!素晴らしすぎます!」

 

「は…はぁ…」

 

「でも実際見てもらわないと話になりませんね…はいはい!注文!40番と999番の料理をお願いしまーす!」

 

「ヘェイ!了解!」

 

アルトはカウンターの奥にいる店員に注文した

 

「アンゼリカさんは他に何か食べますか?」

 

「うーん…エリマキ食べてから考えようかな」

 

あ、私もエリマキ食べ…いやいやいやあの量からエリマキにいくのは相当なチャレンジャーじゃないと死ぬレベルだ。

 

「いやぁ!楽しみですね!」

 

「たしかに…気になるかも」

 

「へい!お待ち!」

 

アンゼリカさんがそう言った瞬間だった。1人の店員が注文した王者のエリマキ焼きをアンゼリカさんの前にドンと置いた

 

「え?もう!?」

 

あんまり2分も経ってないからアンゼリカさんは驚くだろう。この店は安く早くがうりなのだ。むしろこの長所がなかったら今頃潰れてる

 

「……エリマキのまんまじゃん」

 

エリマキ焼きはその名前の通りエリマキを焼いただけ。だから2分もかからずすぐに客に届く。

 

「熱いうちに食べてみてくださいよ」

 

「うん」

 

アンゼリカさんはフォークをエリマキ焼きにぶっ刺してエリマキ全体を口に運んでそのまま丸呑みしてしまった

 

「まさかの一口!!」

 

「もぐもぐ…んぐ…おいしい♩」

 

お、いい笑顔

 

「他なんか頼も、なんでもいいからなんか注文して」

 

「え?はいはい」

 

なんでもって…困るなぁ〜とりあえず肉料理にしとこう。量が多いやつの方がいっか、並みの大きさだとまた一口で食べられるからね

 

もうここはコースでいこう。レイアコースなら量も味もいい。これは4人分だけど…多分アンゼリカさんならいけるでしょ

 

「すいま…」

 

「へいお待ち!」

 

アルトが注文しようとした瞬間に店員はアルトが頼んだ料理を目の前に荒く置いた

 

「っ!待ってましたぁぁぁぁ!!」

 

アルトは置かれた料理に目を輝かせ、笑みがこぼれるほどの喜びを感じ、割り箸をわった

 

「ん?」

 

アルトの喜びように違和感を感じたアンゼリカは必然的にアルトが頼んだ料理を覗き込んだ

 

「っ!?っ!!!!!!!」

 

アンゼリカは絶句した

 

アルトが頼んだテオ・カラ・ファイア希少種級は見た目からまずおかしかった。茶碗からは紅色のブクブクとした謎の泡とこの世にあるとは思えない醜い生物の手足のようなものが茶碗からはみ出ていた

 

臭いもモンスターの死体の臭いと大差がなく、死体で作ったような料理とも言える

 

まさにマグマに焼かれていく生物をモデルにした料理のようだった。

 

「うま!うまい!」

 

何よりもおかしかったのはその狂気の物体を美味しそうに食していくアルトだった。この料理の臭いや見た目を気にせずに割り箸とレンゲを器用に使って食べていくアルトにアンゼリカはただ唖然とするだけだった

 

「おいひい!」

 

(えっーーーーーーーーーーーーー!!)

 

しかもアルトは当然のように唐辛子と一味を料理に大量にぶっかけた。辛さのうえに辛さをのせる行為はアンゼリカにとって信じられない行動だ

 

(この子…辛いもの好きだったとは…だとしても味覚がおかしすぎでしょ!なんでこの料理を普通に食べてんの!)

 

「……♫」

 

しかしアンゼリカには止める理由も権利もない。それにアルトの幸せそうな笑顔を壊すことなんてアンゼリカにはできなかった

 

「…うっ!」

 

でもやはりこの料理には勝てない。臭いで気分が悪くなってきた

 

「どうしたんですか?」

 

「いや…なんでもないよ…」

 

そう言って誤魔化すがアンゼリカは料理の異臭に耐えられず鼻をつまんで横を向いてしまった。

 

(ダメだ今ここを離れたら料理のせいで私が逃げたと思われる…)

 

アルトの気分を損ねないように振る舞うが料理の異臭は相当で、アンゼリカでも耐えられないほどであり、周りの客もアルトから距離を置いていた

 

「…???」

 

さすがのアルトも違和感を感じたのかアンゼリカの顔をみる

 

「アンゼリカさん…」

アルトはちょっと涙目で自分の方を見てきて、今の状況を分かったようなそんな目で見つめてきた

 

「アルト…気にしなくていいから…さっさと食べちゃいなさい」

 

「アンゼリカさんも食べたいんですか?」

 

「え?」

 

アルトの一言にアンゼリカはキョトンとした。

 

「はい、あーん」

 

アルトはレンゲで料理の一部をすくってアンゼリカの口へ運んでいく

 

「・・・・・ななななななななな何を!?」

 

ようやくことの現状が把握したのかアンゼリカの顔は青ざめて、狂気の料理をレンゲにのせて近づいてくるアルトに距離をとる

 

「何って?食べたいなら言ってくださいよぉ〜アンゼリカさぁん〜」

 

アルトは後ずさるアンゼリカを気にすることなく距離をつめてくる

 

「ひぃっ!、やめ、やめろ!」

 

何の悪気もないアルトに圧倒されて、席から落ちてしまった。しかしそんなことなんてアルトには関係ない

 

「何してるんですか〜?早く口を開けてくださいよ〜」

 

「アルト!何を…ちょちょ待って!」

 

アンゼリカの呼びかけは届かず、アルトは食べさせようとアンゼリカに近づいてくる

 

「ほら〜冷めちゃいますよ〜」

 

「うっ!や…やめろぉ!」

 

逃げようとするが腰に力が入らない。それどころか近づいてくる爆薬(テオ・カラ・ファイア希少種級)の臭いで気絶しかけてしまう

 

「アンゼリカさん〜はい、あーん〜」

 

「・・・・・」

 

全てを悟ったか、アンゼリカは目をつぶって遠慮しがちに口を小さく開いた

 

周りの客は汗をかいて見つめる人や手で目を覆っている人などが緊迫した表情でまるで今から処刑される人を目に焼き付けていた

 

 

「・・・・」

 

 

あと少しでアンゼリカの口に入るその時だった

 

「はー今日も暑い…お邪魔しまーす!」

「お嬢ちゃんいらっしゃい!」

 

1人の女性が店に入ってきた

 

「ん?」

 

「あれは…」

 

あの人…どこかで…

 

 

「あれ?アルトさんじゃないですか!」

 

「あ!」

 

この人!看板のお姉さんだ!なんでこんなところに!

 

「どうしてこんなところで…あ!アルトさん!何してんですか!」

 

看板のお姉さんは私をどけて倒れているアンゼリカさんを立ち上がられせる

 

「あのー大丈夫ですか?」

 

「…私死んだ?」

 

「大丈夫そうですね…」

 

看板のお姉さんはアンゼリカさんを立ち上がらせた後、私達が座っていたカウンター席に目を向けた

 

「また…あの料理を食べたんですか…」

 

「べ、別にいいでしょ!美味しいんだもん!」

 

「え!?あれが?」

 

アンゼリカさんはすごく青ざめた表情で怪物を見る目で私を見てきた

 

「なんでそんなドン引きしてんすか!アンゼリカさんだって食べたいって言ってたじゃないですか!」

 

「言ってないよ!私は見てただけで食べたいなんて一言も言ってない!」

 

え…まじか…すごいこっち見てたから食べたいかと思ってた…

 

 

しかし一方でアンゼリカとアルトのやりとりをキョトンと見ていた看板娘が何か言いたそうにこっちを見ていた。

 

「…アンゼリカ?」

 

「・・・・・・・・・あ」

 

しまった

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

まずい…そうだった…お姉さんはアンゼリカさんとユクモ村からの付き合いだった…!

 

「あなたやっぱり!」

 

「っ!まずい!」

 

アンゼリカさんもようやくお姉さんが7年前のユクモ村の受付係と理解したのか驚いた表情で受付係から離れる

 

「なんで…どうしてここにいるんですか!あなたは一体どこで何してたんですか!?みんな心配してたんですよ!どうしてこんの所で食事をしてるんですか!アルトさんとはどんな関係何ですか!答えて!」

 

お姉さんはアンゼリカさんの腕を掴んで今までつもりに積もった疑問をぶつけてきた

 

「お姉さん…落ち着いて…」

 

「アルトさん!なんでアンゼリカさんと一緒にいるんですか?」

 

「え!えーと…それは…その…」

 

まさかこっちに質問してくるとは思わなくて私は思った言葉をうまく伝えられない。それどころか自分でも何言ってんのかよくわからない

 

「アルト!!」

 

「え?」

 

突然アンゼリカさんが私の手を握って店の扉を壊して外に出た

 

「ちょ!何して…ちょっと!」

 

「アンゼリカさん!待って!」

 

そして私を担いでアンゼリカさんは猛スピードで店から離れた

 

「うわ!はっや!」

 

このスピードは正直いって車の速さと同じくらいかそんぐらいだ。

 

さっきまでいた店があんなに遠く…

 

「じゃない!アンゼリカさん!止まって!まだお金払ってないです!」

 

しかし止まらない。アンゼリカさんは私の言葉は届いてないみたいだった。

 

いやでもさすがに無銭飲食はダメでしょう!

 

「アンゼリカさん!アンゼリカさん!」

 

アルトはジタバタ暴れてアンゼリカの顔をペチペチと叩く

 

「あぁもう!何!?」

 

「アンゼリカさん!前!」

 

「え?」

 

アンゼリカさんの目の前に人が!このままだとぶつかる!

 

「アンゼリカさん!止まって!」

 

「えぇ!ちょ!無理!」

 

やばいぶつかる!

 

 

「そこの人!気をつけてください!」

 

「え?」

 

もうダメだ!

 

「「「ギャァァァァァァァァァァ!!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十八話 アンゼリカVSルイス&ジスター

「いてて…」

 

やばい頭がぐらぐらする〜私どんなこけ方したんだろ…頭も身体も全部痛い…

 

そういえばなんでこんなことになったんだっけ?

 

・・・

 

「あ!そうだった!ちょっ!ぶつかった人!どこ!」

 

アルトはハッと我に返って辺りを見渡して被害者を探すが見つからなかった

 

「え…たしかに誰かにぶつかったはずなんだけど…」

 

どこに行ったんだろう…ぶつかったのは私とアンゼリカさんなのになんで逃げ出したりしたんだろ…

 

あ、そうだ

 

「アンゼリカさん!アンゼリカさん!」

 

「ん?」

 

アルトはすぐ横でのびているアンゼリカを叩き起こした

 

「起きましたか…ちゃんと前見て走ってくださいよ」

 

「…あ、そうじゃん!私ぶつかって!…あれ?いなくね?」

 

「それが逃げちゃったらしいんですよ…私達が加害者なのになんで逃げる必要があるのかは疑問ですけど」

 

「きっとトイレか何かでしょ」

 

「そんな理由で!?」

ぶつかったのアンゼリカさんなのになんでこの人はこう余裕なんだ、

 

「あっちから逃げたなら追いかけるのも酷でしょ、だからこういう解決が両者とも幸せなの」

 

「まぁ…そうですけど…」

 

「そ、ほら早く移動する…ん?」

 

アンゼリカさんが私の押しのけて遠くを見つめる

 

「どうしたんですか?」

 

アルトは質問するがアンゼリカはまだ目を細めて街の方を見つめる

 

「いや…なんかこっちに向かってくるような…」

 

「え?」

 

アンゼリカさんの見つめる方に自然に私も目がいった。

 

「あ、ほんとだなんかこっちに向かってきますね…」

 

私とアンゼリカが見てる方向から何十人の兵士たちがこっちに向かってくる…何故か武器を抜いてるし目も怖いしまるで追いかけてるような…

 

確かめるか…

 

「アンゼリカさんこっちに…」

 

私はアンゼリカさんを右に引っ張る

 

兵士も右に寄ってきた

 

次は私はアンゼリカさんを左に引っ張る

 

そしたら兵士は左による

 

「…これ…アンゼリカさん…」

 

「うん…」

 

「いたぞ!捕まえろぉ!」

 

やっぱり!捕まえようとしてる!やばい!

 

どうして!?なんでいきなり追いかけられるようなこと…

 

「え、な、なんで…!?」

 

「なにボーッとしてんの!早くこっちに!」

 

「わぁ!?」

 

アンゼリカさんは私の腕を掴んで猛スピードで走った

 

「は、早!?」

 

「とばすよ!」

 

「っ!?絶対逃すなぁ!ギルドマスターの仇をとるんだ!」

「イェッサー!」

 

げっ!今気づいたけど兵士を率いて追ってきてるリーダーみたいな人…よく見たらパジック国筆頭ハンターのルイス・ウッドライドじゃん!!

 

「アンゼリカさん!まずいです!相手が悪いです!」

 

「なーにぃ!私を見くびってんの?」

 

「そんなんじゃありません!けどほんとに!速度上げてください!」

 

まずいよあれ…いくらアンゼリカさんでもあいつはダメだ…

 

「速度上げろって…これでも十分…っ!?」

 

「え?」

 

次の瞬間、アンゼリカさんは体勢を崩してしまい、私とアンゼリカさんは転んでしまった

 

気づくと私は地面に倒れていて、アンゼリカさんはルイスに手錠で拘束されていた

 

「な…なっ!?」

 

「なめてもらっては困るぜ?」

 

やっぱり…ダメだったか

 

「クソ!離せ!ぐぬぬ…」

 

アンゼリカは手錠の解除が不可能と分かると手に力を入れて手錠を壊そうとする

 

「無駄無駄!その手錠がどんな材料でできてるかわかるか?その手錠はあの鎧竜グラビ…んん?」

 

ぶちっ

 

「あ、壊れた…」

 

「え?うそぉぉぉぉぉぉ!?」

 

ルイスが動揺している隙をついてアンゼリカはルイスを蹴飛ばして、立ち尽くしているだけのアルトの腕を掴んで再び走り出した

 

「アルト!しっかりしな!」

 

「わかってます…わかってますよ!」

 

今のうちに距離を離さないと…明らかに冤罪だけどとにかく捕まるのは回避しなきゃ

 

「おらぁぁぁぁぁ!まてぇぇぇぇぇ!」

 

げっ!?もう追いついてきた!

 

「チッ、しつこい子ね…」

 

「俺の俊足を!なめるなぁぁぉぁぁぁ!!」

 

ルイスはアンゼリカよりもずっと速い速度でどんどん距離を縮めてきた。そして腰に携えている片手剣に手をあてて

 

「今から引導を渡してくれるわ!死ねぇぇ!」

 

「アルト!さっき行ってな!」

 

アンゼリカさんはルイスの片手剣の攻撃を大剣で防いで、私を背中をポンと押した

 

「っ!!ダメです!いくらなんでも筆頭ハンターを相手にするなんて!」

 

「安心しな!私だってベテランのハンタ…」

「よそ見をしていいのかな?」

 

「アンゼリカさん!」

ダメだ!殺される…

 

だが私の心配は見事に外れた

 

ルイスの目に見えないほどの高速の一撃をアンゼリカさんは難なく素手で受けて止めていた

 

しかもルイスの方じゃなくて私の方を見ながらで…まるで未来の攻撃がわかっているような対処方法だった

 

「は?え…え?おま…どこむいて…え?」

 

アンゼリカさんの驚異的な反射神経に流石のルイスも驚きが隠せなかった。私も一瞬何が起きたのかわからなかったがルイスの反応を見たら感じだとアンゼリカさんの方が上手のようだ

 

「この武器は…人に使うようなもんじゃありません!それ、アンちゃんパンチ」

 

「ぐほぇあ!?」

 

アンゼリカさんの強烈な右ストレートでルイスは綺麗に吹っ飛んだ。

 

後ろにいる部下たちにあたって、ボーリングでも見てるかのようだよ

 

「決まった…よし行くよ!アルト!」

 

「はい!」

 

思ってたより早く抜けれた…ルイスは人間離れした脚力の持ち主で彼から逃げるのはモンスターでも難しい

 

「なんか思ってたより大した人ではないのかな?」

 

「でもあの速さは私勝てる気がしないわ…でも速さで攻めてくる敵の対処なんて私なら簡単!簡単!」

 

「・・・」

 

こりゃあ経験の差だね…気の毒だなルイス…

 

 

「・・っ?アンゼリカさん前に…」

 

「あれは?」

 

「・・・」

 

私とアンゼリカさんが走る先には1人の小さい男の子が道を塞いでいた

 

「どうしましょう…」

 

「うーん…さすがに殴り飛ばすわけにもいかないし、ここはシンプルに横通っていきましょか」

 

そりゃあ…大の大人が子供相手に殴るのは絵面的にも最悪ですしね

 

アンゼリカの言う通り、私とアンゼリカさんは小さい男の子の横を通ろうと横にずれて歩くと

 

「・・・」

 

「…アルト、止まりな」

 

「え?」

 

アンゼリカさんは何かを警戒したのか少年に近づく前に私を止めた。

 

同時にアンゼリカさんは背中に装備している大剣にゆっくりと手を伸ばす

 

「どうしたんですか…?」

 

私はアンゼリカさんの行動が理解できなかった。そのまま通ればいいのに私を静止して、少年から一歩ずつ後ろに下がった

 

男の子の方は後ずさる私達に歩いて近づいてきて、アンゼリカさんの警戒も強まっていく

 

「え、え?何してるんですか?」

「…なんだろう…この感じ…」

 

アンゼリカさんは私の一言に目が覚めたように身体をビクつかせてからハッと我に返り、胸にそっと手を当てる

 

「別の道を探そう。あの子と戦闘は避けたい…っ!?アルト!下がれ!」

 

アンゼリカさんは私に何か言おうとしたがすぐになんらかの危険を察知し、私を後ろに強く蹴飛ばした

 

「ぶへ!?」

 

私はマヌケな声を出してゴロゴロ転がりるが、アンゼリカさんのいた場所から大きな爆発音と砂煙が上がっており、蹴られた所からの痛みがすぐ吹っ飛ぶほど大きかった

 

「っ!?アンゼリカさん!」

 

多少の耳鳴りは我慢してアンゼリカさんの安否を確認する。しかし、砂煙が濃くて全然見えない。

 

「・・・」

 

砂煙から微かに見える影は小さかった。あれはさっきの男の子だろう

 

しかし肝心のアンゼリカさんはどこにも見当たらなかった

 

「けほっ!けほっ!…アンゼリカさん?」

 

ようやく砂煙が晴れてきて周りがよく見えるようになると、そこには信じられないアンゼリカさんの姿が見えた

 

「嘘でしょ…」

 

私は思わず言葉をこぼした。アンゼリカさんはさっきの男の子に頭を地面に叩きつけられた後であり、その衝撃に耐えられなかったのか、少年の足元で気絶していた

 

「…どういうこと?」

 

なんで…アンゼリカさんが…あんな小さい子に…

 

「…おまえ!アンゼリカさんに何やってんの!」

 

「・・・」

 

私の問いかけには答えない。でも目線は私の方に向けている。

 

「…な、なに…」

 

「・・・」

 

男の子は気絶しているアンゼリカさんから離れて、ゆっくりと私の方に近づいてきた。今更だけど、アンゼリカさんを仕留めた奴に喧嘩ふっかけるのは命を捨てたも同然の判断だ

 

「やばい…死ぬ…」

 

なんの表情も変えず近寄ってくる男の子にすごい恐怖が与えられる。今の私はあの男の子が子供だとはとても思えないほどの覇気が感じられる。

 

「・・・」

 

「っ!く…くる…なら…き…て…」

 

なにしてんだ私!…相手は子供!なにも恐れることはない!

 

「・・・」

 

そう子供だ!

 

「・・・」

 

子供のはず!

 

「・・・」

 

子供に違いない

 

「・・・」

 

……??

 

「あ、アンゼリカさ…」

 

「アルト!早く逃げな!」

 

「!!!」

 

さっきまで気絶していたアンゼリカさんはいつのまにか男の子の背後に迫っており、男の子の頭を抑えて私に逃げるよう促してきた

 

「アンゼリカさん!無事だった…」

 

「うるさい!いいから早く逃げな!っ!?」

 

アンゼリカに抑えてつけられている子供は地面に向かって力一杯殴り、その反動で空中に浮いて、そのまま地面に着地してアンゼリカと向かい合う

 

「あの子の体重どうなってんの…」

 

「いや、体重じゃない」

 

アンゼリカは大剣を抜いて男の子と対峙する

 

「あの子供の身体能力は普通じゃない…あのパワーとスピードは子供どころか、モンスターレベルだよ…さっき攻撃されてわかったけどあの子はかなりの強者。全く反応できなかった」

 

「そんな…」

 

じゃあアンゼリカさんより強いんじゃ…

 

「バーカ、私が負けると思ってんの?ほら、早く行って」

 

「で、でも…わかりました…」

 

ここにいてもアンゼリカさんの足手まといにすぎない。むしろいない方がアンゼリカさんが思う存分戦える

 

私はアンゼリカさんに従ってその場を離れた

 

「…ふぅ…さーて…さっきはよーくもいきなり攻撃してくれたねぇ」

 

「・・・」

 

「 まったく、女の子をいきなり殴りかかるって容赦ないなぁ…でも子供にしてはなかなか痛かったよ」

 

「・・・」

 

「あんた名前は?」

 

「・・・」

 

アンゼリカの質問には男の子は何一つ答えなかったが無視している素ぶりは見られず、むしろ口をパクパクして何か伝えようとしているのが見られた

 

「…もしかして喋れないの?」

 

「・・・」

 

・・・

 

・・・

 

あれ?なんでいきなり黙りこんだの?私もしかして触れてはいけない所に触れちゃった?…しまったなぁ〜これアルトにも同じような事したような…

 

いや、このパターンって

 

「おっと!!」

 

不意をつくように男の子は目に見えない速度でアンゼリカに殴りかかるが、なんとか大剣で防ぐことができた

 

「お?なかなか力強いね」

 

「・・・」

 

男の子はパンチが防がれてもなおアンゼリカに攻撃し続けた。単純で普通のパンチだが、威力はかなり強く、大剣で防ぐことができても、パンチを通した衝撃でアンゼリカを消耗させる

 

「ぐ…これは…」

 

「・・・」

 

力頼みの攻撃から一転して、即座に男の子はアンゼリカの背後をとり、殴りかかる

 

「チッ!」

 

難なくすぐ防いだアンゼリカだが

 

「がぁ!?」

 

どこからの攻撃なのか、急に腹を殴られ、アンゼリカはバランスを崩した

 

その隙を逃さず、男の子はアンゼリカを追撃する

 

「…お、なかなかやる…あだ!?」

 

男の子の追撃をかわしたアンゼリカだが、またどこからの攻撃なのかつぎは思いっきり顔面を殴られた

 

「いってぇ…あぶな?…ぐぅ!?」

 

またもすぐに殴られ、多少は避けれるのに避けた後から次から次へと謎の攻撃がアンゼリカを襲う。かわした後に攻撃されるのはわかっているのに防げない。そんなじれったい感情が湧いてきてだんだん冷静さが失ってきた

 

(あぁ!クソ!一体どこから!まさか狙撃手が…)

 

「こんにゃろ!」

 

「・・・」

 

「ぐはぁ!」

 

男の子が止まった先に大剣を振り下ろそうとするが、相手が子供ということもあり、少し躊躇したところの隙をつかれてカウンターを許してしまい、男の子の拳がアンゼリカの腹に直撃した

 

「けほっ!けほっ!…ちょ!?」

 

腹を殴られてよろめくアンゼリカだが、男の子は情け容赦なく攻撃を続ける

 

「まったく女の子に容赦ないんだから!」

 

「・・・」

 

武器が重い大剣ということもあり、男の子のアクロバティックな動きにアンゼリカはついていけない。むしろ翻弄されて次第に男の子の姿が見えなくなり、反射神経に頼った戦いになっておりますますアンゼリカが不利になっていく

 

「ぐほっ!?…くっ!」

 

(ダメだ…死角に回り込まれてる。大剣じゃ、この子とは相性が最悪だ…このまま長引いたら私の身体も耐えられないかも)

 

「・・・」

 

「そこか!」

 

アンゼリカは男の子に向かって大剣を振り回すが避けられ、間合いを詰められてパンチを受けてしまう

 

「痛いなぁ…」

 

「・・・」

 

・・・

 

いっけね…ちょっとなめてたな…やっぱり7年のブランクは長かったか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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十九話 赤い男

一方アルトはジスターとアンゼリカの対決に自分は邪魔になるだけと考え、アンゼリカの言う通り逃げてる真っ最中である

 

 

 

 

 

 

大丈夫かなぁアンゼリカさん…あの時は足手まといだと思って逃げたけど実際アンゼリカさんから離れると心細いな。でも今戻っても私にやれることはない。自分の無力さが改めて実感させられる

 

「…ほんと私何もできないな…」

 

早く強くなりたい…私は一層深く考えた

 

アンゼリカさん1人だけ残して逃げる罪悪感は距離が離れるほど強くなっていく。足は疲れてないのにだんだん重くなっていってるし、疲れてないはずなのに急な疲労感が私を襲った

 

やっぱり置いて逃げる事はできない。でも行っても邪魔になるだけ。

 

本当にどうすればよいかがわからなかった

 

「・・・」

 

考えているうちに私は足が止まり、アンゼリカさんが戦ってる場所に目を向けた

 

「大丈夫かな…」

 

少年の底知れない要素があり、アンゼリカさんが勝てるかどうか不安になった。でもあの人の事だからなんとかなりそう

 

「…ん?」

 

こんなこと考えているうちに私は目の前の倒れているルイスを発見した

 

こんな所にルイスが倒れてるってことは…

 

「あーっ!私また道間違えた!」

 

パジックから出る東門はこことは全くの別方向だ。私はむやみやたらに走っていたら案の定また道を間違えたってことだ

 

「…ううぅ」

 

「っ!?」

 

私の声に反応したようにルイスはよろよろと立ち上がり始めた

 

(ま、まずい!)

 

今この人がアンゼリカさんの所にいったら…ダメだ!この人の速さは危険すぎる!

 

で、でも…どうしたら…あ!そうだ

 

私は壁に立てかけてあるシャベルを勝手に持ち出して

 

「おりゃ!」

 

「あたっ!?」

 

ルイスの頭にフルパワーで振り下ろし、ルイスはまた気絶した

 

「ふぅ…あぶないあぶない」

 

安心してるのもつかの間。複数の足音が私の方向に向かって進んできた

 

「ルイス様!」

 

足音の正体は分かりきっていたが10人ほどの憲兵隊だった。アンゼリカさんがルイスボーリングアタックで倒したはずなんだけど起きてしまったらしい

 

私としたらこんな事考えている暇なんてない

 

「っ!?ルイス様!」

 

憲兵の目の前でルイスをシャベルで殴ったのだ。ただで済むはずがない。このまま拘束されて牢獄いきだ…

 

「…ルイス様…まさかそんな!」

 

憲兵隊の隊長は私を睨み

 

「お前…まさか…」

 

やっべ…終わった…

 

「ひぃ!やばい!やばいぞこいつは!」

 

しかし憲兵は私を捕まえようとせず、腰を抜かして私から逃げようとみんな弱腰になっていた

 

「こんな子供に!?しかし…これは脅威だ…」

 

「やめろ…怖い…」

 

「あのシャベルできっとルイス様を撲殺したんだ!…次は俺たちの番だ…」

 

「い、いやだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

1人は私に絶望し、1人は私を見て泣き出した

 

もしかしてこの人達、私がルイスを倒したって勘違いしてんのかな?

 

ただ起き上がる所を殴っただけなんだけど…

 

いや、これはチャンスだ

 

「貴様ら…何を見ている?」

 

私はこの状況を上手く利用するため作り声で強キャラっぽい雰囲気を出して憲兵達を牽制する

 

「っ!、いいいいいいいいいえ?いえぇぇえ!!いえ!」

 

無茶苦茶動揺して足をドタバタして下がる憲兵を見てやはり私がルイスを倒したと勘違いしてるらしい。

 

…あーあみっともない。治安を守る兵士達が少女相手に土下座してるなんて…こんな姿マガラ王に見られたら10人まとめて処刑台送りだよ

 

でもそれより今の私が怖いってことならさっさとすませよう

 

「兵士達よ!よく聞け!」

 

「っ!」

 

憲兵が私に対してきちんと正座をして話を聞く態勢になった

 

「私はお前らに危害を与えるつもりはない!だが今だけだ!私の気が変わるうちにさっさと消え失せろ!」

 

「ひぃぃぃぃ!!」

 

…恥ずかしい

 

「あわわ…」

 

ちょっと脅しすぎたのだろうか…全員散り散りに逃げ出すと思っていたのにどの人も腰が抜けて私から逃げようとしない

 

(うわー困ったなぁ…)

 

早く逃げてくれないとハッタリがバレてしまう

 

「ええぃ!聞こえんのかぁ!どこかに消えやがれ!」

 

「わぁぁ!ご、ごめいなさぁいぃぃぃぃ!!」

 

って言ってるけど全然私から離れてないし。泣いて喚いてるだけでさっきから何も変わらない。

 

脅す行為でどうにかなるもんじゃないね

 

「…いてて一体何が…」

 

あ、起きた

 

憲兵が泣き喚くもんだからルイスが起きちゃったじゃん

 

「…あれ?お前ら何して…ごはぁ!?」

 

「はいはい眠ってください」

 

私はルイスの頭にもう一度シャベルで殴る

 

そしてルイスまた気絶をして、地面に倒れ伏せた

 

「ふぅ…ん?」

 

私はさっきより静かになった…ていようより音沙汰一切なしになった憲兵達のほうを見ると

 

「・・・・」

 

「!?」

 

口から泡吹いてぶっ倒れていた

 

頼みの綱のルイスをシャベルで殴られたのがショックだったのだろうか…でも無力化してくれたのならラッキー

 

「さーて、最近私は運がいいぞぉ!…あ、そうだ…どうせなら孤児院の貯金持って帰ろう」

 

そいいや私そもそも貯金取りにきたのもあったんだった。

 

いやいやアンゼリカさんが襲われてんのに私なにお金取りにいってんの…てかここから孤児院に行くとなるとアンゼリカさんが戦ってる場所を突っ切って行かなきゃいけないし…

 

 

 

どうしよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

一方アンゼリカは…

 

 

「・・・」

 

「あぁ!クソ!」

 

ジスターは依然として地形や自身の俊敏な動きでアンゼリカを翻弄しており、アンゼリカを苦戦させていた

 

(爪でちまちま攻撃してくるのが非常にイラつく!)

 

「いい加減に…」

 

アンゼリカはジスターが一瞬止まった隙をつき

 

「しろ!」

 

大剣を振り回す。しかしその攻撃を難なくかわしたジスターはアンゼリカの懐に入り、自身の爪でアンゼリカの横っ腹を切り裂いた

 

「いっっっで!?…ごはぁ!」

 

その後も殴ったり蹴ったりしてアンゼリカに休憩を与えず、ジスターは絶えずアンゼリカに攻撃し続ける

 

(動きが全然見えない…)

 

アンゼリカは態勢を整え、ジスターの攻撃を防御していくが、重武器ということもあり、ジスターの俊敏な動きに攻撃のチャンスなどなく、徐々に追い詰められていく

 

(こいつ…さっきの男よりも大分強いじゃん!本当に子供なの!?)

 

「・・・」

 

「っ!速い!」

 

さらに身体が非常に小さいこともあり、ジスター相手に大剣は分が悪く一向に防戦一方な状況は変わらない

 

(このままじゃラチがあかない…)

 

撤退すればいいとは思うがアンゼリカはしなかった

 

「・・」

 

「いっったい!もう!爪は痛いって!」

 

普通にプライドが許さなかった

 

「おらぁ!」

 

「・・・」

 

ジスターの動きに翻弄され、爪で傷を負いながらも大剣を振り回す。

 

その大剣を軽々と避け、ジスターはアンゼリカにダメージを蓄積させていく

 

「・・・」

 

何にも学習しない戦い方にジスターは困惑し、突っ込むばかりのアンゼリカの戦いや気迫に押されていた

 

「どうした!攻撃止まってるよ!」

 

「!!」

 

その隙をついてアンゼリカはジスターを蹴り飛ばした

 

「あれ?」

 

蹴り飛ばされたジスターは周囲の建物を破壊しながら吹っ飛ばされる。アンゼリカは予測しなかった状況にやっべ…と思うほど力加減を間違えた

 

「あーっ!そうだ!あの子は子供だった!」

 

アンゼリカは焦って吹っ飛ばしたジスターのほうに走っていき

 

「ねぇ!ちょっとぉ!大丈夫!?」

 

建物の瓦礫を避け、砂埃で見えない所をアンゼリカは目を凝らしてジスターを探した

 

(やばい…これはさすがにやりすぎた…これ下手したら死んでるかも)

 

爪でちまちま攻撃され、腹がたっていたこともあり、無意識にジスターを本気で蹴ってしまったことを後悔しながらもアンゼリカは壊れた建物を通っていく

 

 

「おーい!ちょ…なっ!?」

 

煙の向こうから妙な殺気を感じとり、不吉に思いながら進んでいた矢先、2つの赤い光が見えた次の瞬間、赤い光はヒュンとアンゼリカ目掛けて飛んできた

 

「うぉ!?」

 

早めに避けれたから良いもの、赤い光はアンゼリカの背後の建物をぶっ壊して次々と廃墟にしていく

 

「なんて破壊力…」

 

赤い光に当たった建物は見るも無残な廃墟に変わり果てており、アンゼリカはあと少し避けるのが遅かったらと考えてしまい背筋が凍ってしまった

 

「・・・・」

 

「いやいや冗談でしょ…?」

 

煙の中から子供が目を赤くしながらゆっくりとこっちに歩いてくる。

 

アンゼリカからしたらもう誰かはわかっている

 

さっき戦ってた子供だ

 

「子供にしては…ちょっと人間離れしすぎじゃない?」

「・・・」

 

アンゼリカの言葉など耳を貸さず、ジスターは目からさっき建物を消し飛ばした赤い光を放った

 

「わぁっ!!」

 

アンゼリカはジスターの不意打ちを避けたが、建物が破壊された衝撃で地面が揺れてバランスを崩してしまう

 

「・・・」

 

その隙を突くようにジスターは猛スピードでアンゼリカに詰め寄り、豪快なパンチを繰り出した

 

「くっ!」

 

パンチを大剣で受け止めるものの、ジスターの拳は想像以上の威力であり、アンゼリカは大剣ごとふっとばされた

 

「いたた…」

 

ふっとばされた所が果物などの食べ物を売ってる店であったことから、アンゼリカに大した衝撃はなかった

 

「目から物騒なもん出しやがって!何?今流行りの目からビー…っ!?」

 

ジスターはアンゼリカを見るなり躊躇なく赤いビームを放った

 

しかしまたもアンゼリカは間一髪で避けることができた

 

「もう!それ禁止!それで暴れたら町が壊滅しちゃうでしょ!」

 

「・・・」

 

ジスターの目に赤い光が蓄積していく…

 

「あ、そんなの気にしない方ですか」

 

ジスターの目からヒュンと赤いビームが放出され、周囲の建物をいとも簡単に跡形もなく消しとばし、避け続けるアンゼリカを狙い、赤いビームを発射する

 

「だからやめろってそれ!」

 

「・・・」

 

「…いいよ、なら!」

 

アンゼリカは逃げるのをやめ、ジスターに向かって走り出した

 

「!!?」

 

ジスターは反転してこっちに向かってくるアンゼリカに驚いた表情で動揺する

 

「子供は…」

 

「??…??!?」

 

「目から…」

 

「!!!」

 

「ビームを!」

 

アンゼリカは一瞬にしてジスターの懐に入り、大剣を捨て、右手の拳を固く握り締め

 

「出すなぁァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

「!????」

 

そして思いっきりジスターの顔面を豪快に殴り倒した

 

殴られたジスターは強く地面に叩きつけられるようにめり込み、その衝撃で地面はクレーターみたいな大きな穴ができ、辺りには衝撃波が発生して辺りの建物の窓を割っていく

 

「・・・・これで大人しくなったか」

 

アンゼリカは地面にめり込みながら気絶しているジスターを掘り起こして平らな所で寝かした

 

「この子は一体なんだったの…身体能力は子供とは思えないし、何より目から出たあの…」

 

 

「とんだバケモノね…」

 

アンゼリカは気絶しているジスターの顔を見てふと言葉をこぼした時だった

 

 

「まぁそりゃあバケモノとして作られたからな」

 

「っ!?」

不意をつくようにアンゼリカの後ろからジスターの代わりに返事をした男の声にアンゼリカはすぐ声のするほうへ身体を向けた

 

「・・・」

 

「よ、元気してるか?」

 

話しかけてきた男は赤い鎧を纏っており、背中には通常の太刀とは一回り大きい太刀を装備していてた。しかも結構高身長。

 

だがとにかく目がいくのは男の頭にのってる鳥だ…

 

 

「ジスターは強かったろ?」

 

「ジスター?あぁこの子の名前か…って!あんた誰よ!」

 

 

「……え?あ、俺?あぁすまん、自己紹介がまだだったな」

 

竜人族の男は襟を正してアンゼリカの前に立ち

 

「俺は筆頭ハンターのリーダー。名はサウスだ。よろしく」

 

「う、うんよろしく…」

 

アンゼリカは渋々サウスと握手を交わした

 

「いやーやっぱりお前さんはすごいな。ジスターを気絶させるなんて俺でも手こずるほどだぞ?だが少し子供に対して大人げがない戦い方だったんじゃないか」

 

「はぁ!?じゃあ言わせてもらうけど!目から建物を一瞬で破壊できるビームを撃たれながらどうしろって言うのよ!」

 

「そう怒るな。お前さんの戦い方にケチをつける気はない。ただジスターを相手にここまでやれるとは思ってなかったんだ」

 

「まぁ私としても無力化できたのは驚いてるよ。何度か死にかけたし」

 

「そりゃあ俺が殺せって命令したからな」

 

「・・・・・は?」

 

サウスの口から何の悪気もない一言にアンゼリカは遅れて反応する

 

「じゃなきゃ今あんたがどのくらいの実力があるのかわからないからな。こっちとしても死なれるのは困るが、実力がわからないのも面倒だし…と考えた末結論に至ったのは、お前さんならできるできる!」

 

「あんたねぇ………」

 

完全な精神論にアンゼリカは静かにサウスに対し怒りをあらわにする

 

「おぉ…怖い怖い、でもいいじゃないか。生きてたんだし」

 

そう言ってサウスはアンゼリカの肩をポンポン叩く

 

「・・・はぁ…もういいよ…許す」

 

今更怒っても別にとかするわけでもないと考えたアンゼリカは無理矢理怒りを抑えた

 

「・・・」

 

アンゼリカは無言でサウスの頭にのってる鳥をじーっと見つめる

 

「どうした?そんなに俺は色男かい?」

 

「っ!んなわけないでしょ!ちょっと鳥が気になっただけ…」

 

「鳥?俺の頭にのってる鳥のことか」

 

「うん」

 

サウスは鳥のことを指摘されると頭にのってる鳥に餌をやり

 

「ほれどっかいけ」

 

鳥をつまんで空へ逃がした

 

「あれ?逃がしちゃうの?」

 

アンゼリカは飛んで行った鳥を指差してサウスに質問した

 

「あの鳥は別に飼ってるわけじゃないからな。ただな、ちょいと昔は仲良くしてた鳥がいてな…肩に乗せたりして旅してた時期もあったなぁ〜」

 

サウスは飛んで行った鳥を見ながら昔を思い出すようにアンゼリカに語る

 

「俺、旅行に出かけた方がいいかな?」

 

「いやそんぐらい勝手にしなよ」

 

アンゼリカはそう言って投げ捨てた大剣を取りにいった

 

「結構はっきりと物を言うな」

 

「自分の人生は自分の勝手でしょ、どこに行くのも自分で決めたらいいじゃん…うわっいっけね、結構奥まで刺さってんな…」

 

投げ捨てた大剣がどういうわけか地面の奥深くまで刺さり、アンゼリカは取り出すのに苦戦する

 

「…その大剣、初心者ハンターに支給される安い武器じゃないか」

 

「それが何か?ぐぬぬ…」

 

「なるほど、あえて弱い武器を使うことにより自分に制限をかけるということか。ジスターとの戦いも修行の一環といわけか…さすがだ」

 

「いや…これは私の弟子にあげる予定の…」

 

「我々も舐められたものだな。しかし一回の敗北。勝者を認めず勝者になれるわけないな」

 

サウスの一方的な解釈にアンゼリカはめんどくさいからあえて指摘しないで刺さってしまった大剣を力任せに抜こうとする

 

「なんで…抜け…ない…のよ!」

 

こりゃあどっか引っ掛かってんなぁ〜だり〜

 

「ん?…弟子?…あんたさっき弟子って言ったのか?」

 

サウスはアンゼリカの一言にピクッとして少々驚いた顔で質問した

 

「そうだけど。それが何か?」

 

アンゼリカは何気なく適当に返事をした

 

「・・・ほう・・弟子か・・」

 

「そうよ」

 

アンゼリカの返事からサウスはしばらくの間近くのベンチに再び座り込んで黙り込んだ

 

 

「…え、え?私なんかまずいこと言ったの!?」

 

おしゃべりな人がいきなり黙り込んで不吉に感じ、大剣を抜くのをやめ、さっきの発言にどこか問題があったのか疑問に思った

 

「いやいやいやお前さんはなんにもまずいことは言ってない…ちょっと昔を思い出しただけだ、気にすんな」

 

そう言ってサウスは顔の前で手を横に振る

 

「なーんだ…でもあんたその言い草だと昔に弟子がいたの?」

 

「弟子では…ないな…今じゃ仲間だったって言った方がいいな。でも俺はそいつに色々教えたりしたりしたから…弟子って言った方がいいのか?いや、あいつからしたら俺はお荷物だったからな!はっはっは!」

 

「なんじゃそりゃ」

 

アンゼリカは少しクスッと笑い、再び大剣に手をかける

 

「お前さんの弟子はどういう人だ?」

 

「私の弟子は…とったばかりだからよくわからないけど、結構どんくさい子ね」

 

「ほう…あんたならもっと優秀な人材を育てると思っていたが、そこはこだわらないのだな」

 

「こだわるって…弟子に求めるものなんてあんの?」

 

「だってできりゃあ、教えるの楽したいじゃん」

 

「いや、そこは師匠なら楽しちゃ…いやあんた師匠じゃないのか」

 

「こらこら、俺だって一応教えたったちゃ教えた側だからな」

 

「例えば?」

 

「………アンゼリカ、そこどけ」

 

サウスは街の時計台を見てから、ベンチから立ち上がって大剣からアンゼリカをどける

 

「何よ、もう…ん?今あんた私の名前…」

 

アンゼリカの問いかけに無視してサウスは大剣を手に握り

 

「よいしょ」

 

片手で無理矢理アンゼリカが苦戦した大剣を引き抜いた

 

「おー!すごいじゃーん!さすが筆頭なんちゃらっていうだけある!」

 

アンゼリカはサウスの隣で手をパチパチする

 

「筆頭リーダーだ。ほらよ」

 

そう言ってサウスはアンゼリカに引き抜いた大剣を渡した

 

「ありが…うん?」

 

渡された大剣をアンゼリカは顔をしかめてよく見る

 

「うわ…ちょっと曲がってる」

 

大剣を無理に引き抜いたせいか、75度くらいまで曲がっていた

 

「礼はいいぞ?」

 

「じゃあ言わない」

 

「…あ、言ってくれないのか」

 

サウスはアンゼリカに大剣を渡したあと、再び街の時計台に視線をあてる

 

「でもこんぐらいなら直せる。ありがとうサウス」

 

「礼は言わないんじゃないのか?」

 

「曲がってんのは…ねぇ?」

 

「でも、礼をするなら俺の方だ。ありがとな、ジスターの遊び相手になってもらって」

 

「遊びって…私は殺されかけたんだけど…」

 

「だが…まだ遊び足りないらしいな、でもいいか、まだ時間はある」

 

「え?」

 

サウスはいきなり何を言ってるのだろうか…

 

「さっきの戦いがあれぐらいで終わったとなると…もう一回いけるな」

 

「ねぇちょっとあんた何言ってんの?」

 

「何って決まってるだろ」

 

サウスの一言に目覚めたようにジスターが急に起き上がり

 

「なっ!?」

 

「第2ラウンドだ」

 

そしてジスターはアンゼリカに向かって殴りかかる

 

 

 

 

 



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二十話 スレイブドローン

アルトの方では…

 

 

 

 

「…あれ?ここのはずだけど…」

 

私は孤児院に戻り、ユクモ村に行くための貯金を探していた。

 

孤児院に行くにはアンゼリカさんと男の子が戦ってる場所をどうしても通らねばならないのだが、どういうわけかアンゼリカさんがいた場所がほとんど廃墟になってて邪魔な建物とかが全部なくなっていたからすぐ孤児院につくことができた

 

あの場になんでアンゼリカさんがいなかったのかは分からないがおそらくもう決着がついて先にパジックから出ていったんだろう。

 

じゃあ早く私もこれからのためこのお金は持っていかないと。

 

まぁこの孤児院の連中に私の貯金がとられたくないっていう自分の都合もあるんだけどね

 

「…あ!あった!」

 

昔遊んでたおもちゃに埋もれてて見つけるのに苦労した…

 

「じゃあこれを持ってアンゼリカさんの所にいかないと」

 

アルトは貯金箱をバックに詰めて孤児院の玄関口に向かった

 

「…ん?」

 

私が玄関の方に行ってみると出口に1人の孤児院のママが出口を塞いでいた

 

「・・・」

 

何らかの危険を察知したアルトはすぐに身を隠した

 

 

(なになに?何よ!もう!普段なら玄関に人すらこないのに今日に限ってあいつがいんの!?)

 

玄関なんていうけど私は生まれて初めてここ通るんだよね。なんせこの玄関って街の方じゃなくて本来行く意味すらないマフィアの村に繋がってるから玄関から外に出るのはマフィアに捕まるようなもんだよ

 

…じゃあなんでそんな場所から外に出ようとしたのかって?

 

だっていつも行き来してるルートがもうすでに孤児院の人間に封鎖されていたんだもん

 

もしかして私のことを捕まえようとしてるんじゃ…?

 

(いやいや私なんかあいつらにとっちゃあその辺の石ころみたいな存在だし、私を捕まえるなんて無意味なことするわけないじゃん)

 

アルトは内心ビビりながらも理屈をつけて震える自分を落ち着かせようとする

 

そして物陰から孤児院の人間の方をチラ見してみる

 

「・・・・」

 

うわ、目がマジ…

 

ありゃあモンスターを追うハンターの目だよ

 

「…?あれは何?何を手に持ってるの?」

 

アルトは道を塞いでるマザーの右手が持ってる大きめの紙に目がいった。

 

紙は見た目だとかなり綺麗だ。

 

でもその紙にはなんか写真みたいなのがついているけど…ダメだ、マザーが紙を握りしめてるせいで紙の内容がわからない

 

(うぅ…どうしよう…アンゼリカさんの所に行きたいのにあいつらが邪魔すぎるよ。なんでこう居場所を見つけた矢先にこんな意味不明なトラブルが出てくるのかな)

 

こうなったらもう強行突破するしかないな…

 

強行突破するなら玄関は除外だ。仮に行けたとしてもその後が地獄。

 

ならもう私が孤児院を行き来してる裏口だ。あそこならアンゼリカさんのいるかもしれない場所に直行できる。

 

相手は1人。警戒はしてるけどこっちから先制できるのはありがたい。

 

普段は私に興味ないくせに今日に限って私を邪魔してくる変な不運にも腹が立ってきた所なんだよね

 

「・・・・」

 

なかなかどっか向いてくれないな。正面衝突は避けないと

 

「えぇい…どっか向け!特に後ろ!」

 

私は必死に念じるがマザーはピクリとも動かない。そりゃそうだ

 

「…ハックシュン!」

 

あ!くしゃみした!今だ!

 

アルトはくしゃみをした一瞬の隙をついて行動を開始した次の瞬間だった

 

「おーい。どうだ?帰ってきたか?」

 

「あ、バファ様。まだ帰ってないですね」

 

「!!?」

 

アルトは予想外の出来事にびっくりしながら急いでさっきまで隠れていた所に戻った。

 

(うわっ!あっぶな!あぶなすぎたよ、誰!もう!)

 

 

あと少しで、マザーの横をすり抜けれたはずなのに今日は本当に運が悪い。あのタイミングでもう1人くるとは…

 

アルトは物陰から途中からやってきた大男の顔を確認すると

 

「え?あ、あれはぁぁぁぁぁぁ!」

 

あの大男…!パジックの筆頭ハンターのバファじゃん!

 

なんでこんなところに!

 

「おかしいな…確かにサウスの推測だとあいつは貯金を取りに必ずここに戻ってくると聞いたんだがな」

 

(げっ!?)

 

「私達も中を探したんですけど…でもとりあえず逃げ道は塞いでいるので大丈夫だとは思います」

 

(チクショーーーーーー!!)

 

やっぱり私を捕まえるのが目的だったのか!でもなんで…

 

「それはともかくちゃんと見張っとけ。アルトがいつくるか分からんぞ」

 

「大丈夫ですよ!私達があの大金を逃すわけないじゃないですか!」

 

へ?大金?

 

マザーの一言の意味がわからないがおそらく今私が持ってる貯金のことを言ってるんだと思う。

 

確かに今持ってるお金は大金だけど…そんな必死に警備網はるほど価値あるお金ではないよ?

 

ましてやあのバファなんてお金持ちなのになんで私の貯金狙ってんの?

 

「こちらとしてもアルトは生け捕りにしろと命令されてる。懸賞金を全部やるんだからちゃんと働けよ」

 

「わかってますよ」

 

・・・・懸賞金?

 

「アルト・スレイブドローンは凶悪犯罪者だ。何かあったらまず俺に知らせろ」

 

凶悪犯罪者!?

 

はぁ!?意味わかんない!なんで私が犯罪者呼ばわりされてんの?あ、でも人違いとか…いやいやいやあのスレイブドローンは私の姓だから完全に私じゃん!

 

はっ!もしかしてあの紙!

 

アルトは目を必死に凝らしてマザーが持ってる紙を見る

 

そしてその紙の内容は…

 

懸賞金5000万z

 

人名:アルト・スレイブドローン

 

容疑:要人の殺害

 

協力を求む

 

(ご、ごごごご5000万!?私に5000万!?)

 

ふざけんな!いやふざけるのレベルじゃないよ!なんで私が殺人罪の罪を背負わなきゃいけないの!?誰も殺してないよ!

 

…まさか!もしかしてツマガとストング殺したの私だと思われてんの?でも紙の内容は要人の殺害って書いてあるし…

 

でも要人の殺害で追われてるわりには懸賞金が少ない気が…

 

いーや!とにかくわけわからんけどもうパジックにいられない!

 

早くここから逃げなきゃ!でも迂闊に行動できないし

 

「しかしまぁ…驚きました…まさかあの臆病な子がこんな大犯罪を犯すなんて…」

 

(だからやってないって!)

 

「スレイブドローンの姓は厄災そのものだからな。この犯罪がなくてもいずれにせよ、なんらかの理由で殺されていただろうからな」

 

(…私の姓ってそんなばちあたりだったの)

 

そういえば周りの大人とか私を見るとやけに人を恨むような顔で見るからやっぱりこの名前が原因だったのかな…

 

でもだとしたらなんで看板のお姉さんは私と普通に接してくれたんだろう

 

てか私やってないにしろ殺されてたの!?

 

「やはりスレイブドローンってどっかで聞いたよう気がしたんですが…」

 

「あまりその姓を口にするな。ありもしない理由でお前も消されるぞ」

 

バファの指摘でマザーは急いで手で自分の口を塞いだ

 

そのやり取りを見ていたアルトはより一層自分の姓の疑問がふくれ上がる

 

(パジックの政治方針にも口出しできる権利を持つ筆頭ハンターの言うことだからあの話はマジだ。理由がどうあれ今の私は殺人罪で追われてるんだ。捕まったら即アウト。弁護なんかしてくれずそのまま闘技場のモンスターの餌にされる…早く逃げなきゃ!)

 

アルトは焦り、物陰に隠れ続けるのがじれったくなってきた。このまま時間が長引けば警備が固くなると根拠のない思い込みが余計にアルトを焦らせる

 

「………そこか」

 

バファは一言呟く

 

(早く早く早く…逃げないと…殺される…!このまま…このままだと私!)

 

完全に自分の世界に入ってるアルトは周りの音は聞こえず、ましてやバファの言葉など聞こえるはずもなかった

 

そして…

 

 

「おら!!出て来い!!」

 

「え!?わぁ!!」

 

バファはアルトが隠れている壁を右手で破壊し、アルトの首を掴んで自身の足下に投げ捨てた

 

 

「あわわ!!何っ!?なんで…!」

 

「バカな奴だ。姿を隠せば見つからないと思っていたか?呼吸音がダダ漏れだったぞ?」

 

「え?そんなん聞こえましたっけ?」

 

マザーには聞こえなかったが、バファは仕事上音には敏感なため、アルトが恐怖や焦りによる呼吸の乱れにすぐ反応して近くに隠れているアルトを引っ張り出すことができた

 

「そんな…呼吸音だけで…?」

 

やはり歴戦の狩人なだけあって普通の人と同じだと思ったのが失敗だった!

 

…いやそんなことよりも

 

「わーいバファ様すごーい」

 

「当然の結果だ」

 

「私惚れちゃいました」

 

「そうか」

 

「尊敬します」

 

「ありがとう」

 

「では私はこれで」

 

「待て」

 

アルトは自然な流れ?でその場を離れようとしたがすぐバファにつまみ上げられてしまった

 

「うわぁぁぁ!?はなしてぇぇぇ!!」

 

「お前一体何を期待して行動したんだよ」

 

「お世辞を言ったら見逃してくれると思ったんです!」

 

「お前のお世辞のバリエーション少なすぎるだろ!基本を詰め込んだらいいっと思ってる初心者かよ!」

 

バファにつまみ上げられながらもジタバタ暴れるアルトだが無意味な抵抗に等しかった。

 

いくら抵抗してもバファにはなんの影響もない

 

「ふふ、これで5000万はいただきね」

 

マザーがいきなり割り込んで私の顔を覗き込んでくる

 

「うぅ…」

 

「ありがとうアルト。初めてあなたは孤児院のためになってくれたわ」

 

クッッッソ!あんた一度も私の名前を呼んだことないくせに!

 

「クソババァが!お前らのためにお金が回るなんて死んでもごめんだよ!」

 

「なら早く豚箱に行ってモンスターの餌になっちゃいなさい。あ、懸賞金はもらうけど」

 

「ふざけんな!だったら…」

 

アルトは暴れるのをやめ、大人しくなった後。徐々に顔が険しくなっていく

 

「・・・えー…アルト?何してんだ?」

 

つまみ上げてるバファがアルトに質問する

 

「決ま…てん…じゃん…息…と…め…てん…す…よ…」

 

く、苦しい!なんか涙も出てきて…!痛みとかそんなんじゃなくて割とやばいかも!無意識に呼吸をしちゃう!

 

「なるほど。死んでしまえば懸賞金はゼロになるからな」

 

「っ!、アルト!何してんの!早く息をしなさい!」

 

アルトが息を止めて死のうとするところを見ても止めようとしなかったマザーだが、バファから懸賞金がゼロになると聞くと急いでアルトに息をさせようとしてくる

 

「・・・思ったんだが」

 

「なんですか!バファ様!この子に早く呼吸をさせないと!」

 

「誰が懸賞金を払うと言った?」

 

「…?っ!?」

 

バファはマザーに一言言った後に左脚でマザーの腹部を蹴り上げた

 

「っ!!」

 

言葉にならない痛みでマザーは地面に倒れ、さほど時間が経つことなく身体が動かなくなった

 

「え?えぇ!?」

 

いきなりの出来事に私は驚き、普通に呼吸が戻っていた

 

「安心しろ、殺してはいない」

 

バファはそう言ってつまみ上げてるアルトを静かに下ろした

 

「一体何を…」

 

「・・・・・」

 

バファと私との間で微妙な空間が漂う。どうして助けてくれたような状況になっているのか私はさっぱり理解できないまま話は進む

 

「お前じゃないんだろう?」

 

「え?」

 

「だから、お前は誰も殺してないんだろう?」

 

さっきまで私のことを凶悪犯罪者って呼んでたバファの手のひら返しで私は頭がこんがらがる

 

「…殺してないですよ!」

 

でもとりあえず私は身の潔白を証明できるチャンスは逃したくなかった

 

「やはりな、サウスの言う事に間違いはなかった。てかそもそもこんな弱そうなガキに殺しはできないだろうな、はははは!」

 

…ムカ

 

「サウス?サウスって筆頭ハンターですよね?そもそも何の用事でここにきたんですか!捕まえるのが目的じゃないんなら行かしてもらいます」

 

「そう急ぐな、大事な時こそ冷静に」

 

そう言ってバファは私の足を払い、私は地面に向かって顔からかけてしまった

 

「あだっ!?」

 

いったーい!止め方が荒すぎる!

 

「せっかくパジックの有名人に会ったんだぞ?握手とか質問とか色々し放題のチャンスを逃すのか?」

 

「いてて…別に私はあなたのファンじゃありませんし、これから大事な用事があるんです!失礼します!」

 

アルトは泥を手で払いその場を離れようとすると

 

「ちょい待ち」

 

「ぎゃっ!?」

 

バファはまたもアルトの足を払い、アルトを転ばせた

 

「っもう!なんで転ばせるんですか!」

 

「じゃなきゃ止まってくれないだろう。それに、今あの有名なバファが目の前にいるのにすぐどっか行こうとするんだ?」

 

あんたに構ってる暇がないからだよ!

 

「私は待たせている人がいるんです!だからもう行かしてもらいますからね!」

 

「あ!だから待てって!」

(サウスの野郎!全然話と違うじゃねぇか!)

 

「なんですか?」

 

「いやー…特にないんだけど」

 

「じゃあそれでは」

 

「いやいやいや待て待て待て待て」

 

「あぁっ!もうっ!しつこい!」

 

アルトはバファの手を振り払い

 

「有名人でおしてきますけど私が会う人はあなたよりも超有名人なアンゼリカさんなんですからもうどっかいってください!だいたいあなたは………あ」

 

露骨に帰ろうするアルトを何度も止めてくるバファにアルトはついイラついてアンゼリカの名前を口に出してしまった

 

「アンゼリカ?」

 

(しまっったぁぁぁぁ!!)

 

「さ、さすがは歴戦の狩人…私の口からアンゼリカさんの名前を自白させるとは…」

 

「お前から言い出したんだろ!」

 

でも今更アンゼリカさんの名前が出たところで周りには誰もいないしこの人はハンターの中でもお偉いさんだから知ったところで騒ぐような人じゃない

 

「だがお前の口からその名前が出るとはやはり伝説は存在していたんだな…できることならサインとか貰いたいなぁ」

 

「あ!私もサインしてもらうの忘れてた!」

 

「何やってんだよ、せっかくアンゼリカの弟子になったのにサインすらもらってないのか」

 

うっ…色々とあってサインとかおねだりできる場面がなかったの!

 

「ていうかなんで私とアンゼリカさんの関係を知ってるんですか!?」

 

「サウスから聞いた」

 

「人から聞いた情報なの!?」

 

バファさんの言うサウスって人…私の孤児院の場所といいなんで人に言ってないようなことをこんな知ってるんだろう

 

「だが流石のサウスでもアンゼリカの弟子がスレイブドローンの一族だとは思わなかっただろうな」

 

「え?スレイブドローンの何がいけないんですか?」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

私の質問にさっきまでしつこかったバファさんが凍りついたように全く反応せず、黙り込んでしまった

 

「え?なになに?」

 

「アルトよ…お前一応聞くけど、自分の父親の名前。知ってるか?」

 

「??」

 

なんだそりゃ。知ってるに決まってますよ

 

「オルド・スレイブドローンですけど…」

 

「最低限、名前は教えてるんだな」

 

最低限って…もうなに

 

「じゃあ、少しきつめの質問だが、お父さんの死因は知ってるか?」

 

人の死因なんて聞くもんじゃないよ…

 

 

「…私の父親は…ジンオウガに殺されたんですよ…」

 

「・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

私の一言でバファさんと私との間で重たく苦しい沈黙の時間が流れる

 

 

と思いきや

 

 

「ふっ…あの男のことだからまさかとは思ったがここまでとは」

 

バファは私の話を聞いた後小さく笑い、私の顔から視線を逸らしてボソボソと喋った

 

「…なにが!なにがおかしいんですか!」

 

「いや悪いな。人間というものは死んでも見栄を張るとは思わなくてな」

 

死んでも見栄を張る?お父さんが見栄を張ったってこと?

 

「お父さんがジンオウガに殺されたのがそんなにおかしいんですか!?」

 

「・・・」

 

私の一言にバファさんは私に冷たい視線を向けてくる。私は思わず後ろに下がってしまい、身体もビクつかせてしまった

 

「本当に死因はジンオウガなのかな?」

 

「・・・どういう意味ですか?」

 

 

「いや、今これを教えるのはもったいないな…この話はあんたのお師匠さんに会ってからにしようか」

 

「・・・」

 

クッッソ!腹立つ!この男!変なチラつかせてやっぱ教えないくだりが回りくどくて頭にくる!

 

「じゃあもういいです!」

 

「え?」

 

父親の死に方くらい自分で探せる!

 

「失礼します」

 

「え!ちょ!」

 

まさかアルトが父親の死に興味がない反応をするなんて思っていなかったのかバファは冷静な態度を崩し、急いでアルトの肩を掴む

 

「なんですか!?」

 

「ちょちょちょ待って?え…と…俺今すげぇお前にとって大事な情報持ってるよ?それも家族関係のだよ?」

 

「いえ、もう興味ないんで」

 

「待てって!なんで家族のことに無関心なんだよ!鬼かお前!」

 

…だって私を一人ぼっちにして今の今まで助けてもらったことなんて一度もなかったし

 

「私の姓のことは少々気になるけど、これから生きてく上で別に必要ではありませんし、知れたら知るぐらいのレベルですからね」

 

アルトはバファの手を払ってスタスタと歩き始める

 

「あー!待って!待ってアルト君!教える!いや君のお父さんの死因は喋れないけど!」

 

「じゃあサヨナラ」

 

「待って?」

 

「あだっ!?」

 

バファはアルトの頭を鷲掴みして無理矢理歩みを止めさせる

 

「ほんとマジで君に止まってくれないとこっちは身の危険を感じさせられるんだよ!だから待って!」

 

(うっ…うっぜぇぇぇぇぇぇぇ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十一話 東門の異変

アンゼリカの方では…

 

 

 

一旦アンゼリカとジスターの戦いはアンゼリカの勝利で終わったと思いきや、ジスターが起きたことによりアンゼリカはもう一回戦うことになってしまった

 

 

 

「ぐはっ!」

 

ジスターの一発。アンゼリカはガードが遅れ、腹部にあたってしまい、地面を削りながら吹っ飛ばされた。

 

「・・・」

 

その中でもジスターは目から赤い光を凝縮させ、アンゼリカに向かってビームを発射する

 

「やっばい!」

 

アンゼリカは急いで大剣を地面に突き刺して、無理矢理速度を落とし、ビームが目の前できた所でアンゼリカは頭を伏せてギリギリ避けることができた

 

「1回目戦ってたよりも完全に殺しにかかってんじゃん…?」

 

アンゼリカは避けた後も頭の方に違和感があった

 

「っ!あぁぁぁぁ!私の帽子が!」

 

アンゼリカは避けることができたが帽子の方まではうまく避けることができなかった。しかし帽子の損害は頂点が少し焦げたぐらいだ

 

だがアンゼリカは

 

「こ、このガキンチョ!後で絶対この事後悔するまでお尻ペンペンしてやるからな!

半泣きで憤慨するアンゼリカに、高みの見物をしていたサウスがアンゼリカに話しかけてきた

 

「お前さんはあまり人の悪口を言わない方がいいな」

 

「なんでよっ!」

 

「悪口にセンスがない…」

 

「うっさいわね!」

 

アンゼリカは帽子をかぶり、ジスターの方を見てみるが

 

「…あれ?」

 

ジスターがいない…どこにいったんだ?

 

「・・・」

 

 

 

アンゼリカが無言で探してる間、アンゼリカの足元の地面にヒビが割れ

 

「なっ!まさか!」

 

察したアンゼリカはすぐ大剣でガード態勢に入った

 

「・・・」

 

そして地面から勢いよく出てきたジスターはアンゼリカに向かって殴りかかる。だが、さっきよりもジスターの拳は黒く膨れ上がり、血管も浮き出ていた

 

「…?」

 

あれ?この子の腕…さっきよりなんかでかくね?

 

そう考えるのもつかの間。ジスターはアンゼリカの大剣に思いっきり殴りかかった

 

「うぐっ!?ぐはぁぁぁぁぁ!」

 

(さっきよりも威力が桁違いすぎる!)

 

ジスターの拳の威力を見誤り、アンゼリカは時計台に向かってぶっ飛ばされてしまった

 

「い"っっっっで!?」

 

アンゼリカは時計台にぶつかり、時計台の頂上あたりで止まることができた

 

「…何よ…さっきの拳は…!」

 

アンゼリカは態勢を立て直すため、一旦立ち上がった時、武器を持っている右手を見ると絶句した

 

「武器が…!」

 

ジスターの一発により、大剣は粉々に砕かれ、使い物にならなくなってしまった

 

「おーい大丈夫かぁー!」

 

下の方からサウスが呼びかけてきた

 

「大丈夫だけど!…ちょっと問題が」

 

アンゼリカは時計台の下にいるサウスに返事をした

 

「どうしたんだ?」

 

「大剣がさっきの一撃で消し飛んじゃった…」

 

そう言ってアンゼリカはもはや持つところしか残ってない大剣の残骸をサウスに見せた

 

するとそれを見たサウスが

 

「砥石で研いだらいいだろ」

 

「どこを研ぐんだよ!大剣が消し飛んだって言ったでしょ!」

 

「・・・・・」

 

サウスは腕組みして頭を下に下げた。なんか考えてるのか?

 

「まぁ…お前さんならできるだろ」

 

「ふぇ?…まさか素手で戦えと?」

 

「あ、間違えた。お前さんならできるできる!」

 

お前その言葉好きだな!

 

「言い直す必要がないだろ!」

 

サウスとアンゼリカの間でも構わず、ジスターは容赦ない赤いビームをアンゼリカに向かって発射する

 

「ぬぁっ!とっ!」

 

アンゼリカは赤いビームがくると、時計台を飛び降り、華麗に地面に着地した

 

「んじゃ、また」

 

そしてその場から逃げ出す

 

「・・・っておい!何逃げ出してんだ!」

 

「サウス!じゃあな!」

 

「じゃあなって、お前今、大人が子供から逃げるって絵面が最悪だぞ!」

 

「いくら私でも素手でやり合うのは無理!さらば!」

 

そしてアンゼリカは猛スピードで走り去っていく

 

「待てっ…てあいつ早ッ!」

 

サウスは一瞬にしてアンゼリカとの距離が引き離された

 

「…話すことがまだあったんだがな」

 

(行ってしまったなら仕方ない、そのうちまた会えるだろう)

 

 

 

「ジスター、行くぞ」

 

そう言ってサウスはその場から離れようとするが

 

「…ん?あいつは?」

 

横にジスターがいない。周りを見てもジスターらしきものは見当たらない

 

・・・・

 

・・・・

 

 

「あいつッ!もしかして追いかけたのか!?」

 

 

サウスはアンゼリカが逃げた方向へ猛スピードで走り出した

 

(どういうことだ?あいつが俺の言うことを無視したことはないぞ?)

 

 

(ていうかルイスはいったいどこにいったんだ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でアルトは…

 

 

「でさぁ、筆頭ハンターって他のハンターと違うのは給与だけであんまり人に自慢できるほどいいものじゃないんだ」

 

「そ、そうですか」

 

私は引き止めてくるバファさんの熱意(しつこさ)に負け、東門に歩きながら雑談をしている

 

最初はそれなりの真面目な内容の話をていたけど、聞いてる側も話してる側もいい思いはしないから次第にどうでもいい話になっていった

 

私としても今の世の中辛いことばかりだからなんの得も損もしない話は嫌いじゃない

 

 

「だから全然モテない。正直金目当ての女が集まるぐらいだな。筆頭ハンターも辛いよ」

 

「辛いって…普段命かけてる生活の方が辛くないですか?」

 

「死ぬのはあんま怖くないからなぁ〜、あ、だから俺この仕事続けられるのか?」

 

「それはご立派ですね。まず筆頭ハンターになっただけでもすごいのに」

 

私なんてハンターになる以前の問題だからね…

 

「そんなに筆頭ハンターをすごいみたいに言うな。筆頭ハンターになるのはそんなに難しくことじゃないぞ?日々の向上心、相手に立ち向かう勇気、死んでもいい覚悟さえあれば誰でもなれる」

 

その条件結構人が限られることない?

 

「だが俺は一人だけ向上心だけで筆頭ハンターになった奴を知ってる」

 

「へぇ〜誰ですか?その人」

 

向上心だけって要するにやる気だけで強くなったってことだ。根性がすごい人なんだろうなぁ

 

「お前が知ってるとおり、ルイスってやつなんだが…」

 

「っ!?ルイス!?筆頭ハンターの!?」

 

え?あの人が?

 

「あぁ、でもあいつ面白いぞ?サウスとジスターはルイスに対して冷たいが…俺はそんな嫌いじゃない」

 

「…はは…はぁ…」

 

やっばい…私少し前にシャベルで殴ったんだよね…それも2回

 

「ルイスはモテたい一心で強くなったんだ。くく…もうこれで笑える…」

 

「え…今どこに笑える所が?」

 

「あいつ元々裕福な家庭に育ってんのに勉強とか放ったらかして遊んでいたらしくてな…その中にも親の金で女遊びもしてたんだ」

 

なにその話…私ちょっとだけシャベルで殴った罪悪感が薄れたよ

 

「だがなルイスは現実を思い知らされた。遊んでくれる女は自分が好きだからではない、ただお金持ちだから遊んでくれるのだと」

 

「それは可哀想な話ですね」

 

「そしてルイスはモテたいと思うようになった。金ではなく自分の力でモテたいと」

 

なんかそこだけカッコいいな

 

「で、手っ取り早いのは今流行りのハンターだ。そこからモテるためどんな修行もしたり、手術したりしたんだ」

 

「そうなんですか…?」

 

え?手術?

 

「でもさっき俺が言った通り、筆頭ハンターって別にそんなモテない。強い男に憧れるのは男だけで今の女が男に求めるのは違うらしい…アルト、女って男になに求めてんの?

 

「そ、それは個人によります!」

 

「じゃあアルトは男に何を求める?」

 

「え?」

 

なんで私に聞いてどうすんの!たしかにわたし女だけど!

 

「私は…そうですね…優しい人…ですかねぇ」

 

「何だお前もか。やっぱり優しさを求める人が多いな、それ以外で」

 

「…特に無いです」

 

「つまんないガキだ」

 

はぁ!?失礼な人だな!

 

「でもお前みたいな奴が多いんだよ。よう分からんな…今の若い女は…」

 

「でも優しさを求める人ばかりではないでしょう?ルイスさんは強いから強くて守ってくれる人を求める人ならいけそうですけど」

 

守ってくれる人なら筆頭ハンターで事足りるでしょ、てか十分。

 

逆に筆頭ハンターで結婚できない人っているのかな

 

「あー無理。あいつ性格悪いから」

 

「あーそりゃモテませんね」

 

「ぷッ、でもなアルト…あいついい感じまでいったことあるんだぞ。くく…」

 

バファさんが笑いを抑えながら私の肩をポンポン叩いてきた

 

「え、性格悪いのに?」

 

性格悪かったら誰もやってくれないよ

 

「ルイスさ、筆頭ハンターになってから色々気のある彼女とかもうアタックしまくってるんだけどいつも空振りでさ」

 

「うん」

 

「あいつは元々女に好かれない要素がありすぎる。誰もがルイスは一生独身だろうと思った矢先」

 

お、矢先?

 

「ようやく52人目で付き合いに成功したんだよ…プッ」

 

ご、52人目ってアタックしすぎ…てな喜ばしいことなのになんで吹いてるの?

 

「でさ…ルイスも相手にガチ恋しちゃってさ…くくっ…付き合っているうちにとうとう告白したんだよ…」

 

「っ!」

 

うぉぉぉぉぉぉ!やったじゃん!すごいです!

 

これからの花嫁がこういった過程で出会うとはロマンチックですね〜

 

「でもなその女はな…」

 

バファさんは私の耳元で囁く

 

「男だったんだよ」

 

「ぷぷ…いや…それは…ふふ…」

 

な、何それめっちゃ悲しすぎる展開!!でも今の私ものすごく性格悪いけど笑いがこみ上げてくる!

 

「ぷはははっ!このはな…話をサウスにしたらな!いつもクールなサウスでも口元が歪んでんだよ!すげぇ笑えるだろ!」

 

「くッ…ふふふ…いや…その話はひどいですよ…プフフッ」

 

「お前!笑ってるじゃねぇか!あはははっ!」

 

「バファさん!ちょっと笑わないで!…くすくすッ!」

 

もう笑っちゃうよこれぇ…!

 

 

「それがわかったルイスはな、あまりのショックにその場から2時間も離れられなくて、挙句には40度の熱出して寝込んでな…めっちゃ気の毒だが、告白する前に俺達に「もう俺、誰にも独身と呼ばせねぇ!見てろよ、これが神速のルイスだ!」とか言ってて…」

 

「もうやめて…!そんな話されたら笑いが…あはははははっ!」

 

バファとアルトは歩きながら雑談をし、東門に向かっていく

 

 

 

 

 

「ヘッーーーーーークシュンっ!」

 

一方でルイスはようやく目を覚まして、サウスを探して放浪していた

 

 

「誰かだか分からんが俺の恥ずかしい話をしてるな…」

 

…気のせいか、いやそんなことより!

 

 

「俺の自慢のスピードを見切った上に、別の方向を向きながらまるで俺のことを雑魚が出しそうな必殺パンチで殴ったあのビッチを抹殺しなければ…余計にモテなくなってしまう…!」

 

もうわけわからん…確か俺顔面殴られたはずなのになんか後頭部とか頭のてっぺんあたりも痛みが感じる…誰か殴ったのか?

 

しかも俺が目覚めた時なんて周りには泡吹いた兵士がゴロゴロ転がっていたし…なにこれ怪奇現象?

 

「これもどれも!全部アンゼリカのせいだ!あのクソ女…絶対ぶっ殺してやる!…ん?」

 

 

ルイスは愚痴をこぼしながらも東門に到着した後、門の向こう側がやけに騒がしかった

 

 

「なんかうるさいな…一体なんだ?」

 

普段なら固く閉じてる東門が開門してる…何故だ?この扉が開くのは出入りする時だけだぞ?

 

 

「ていうかなんで扉自体ないんだ?」

 

ルイスは本来門にあって当たり前の扉が東門についてないのに気がついた

 

「…あれ?なんか焦げてね?」

 

東門の扉が付いていたところに何故か焦げた跡が見られる

 

「もしかして…扉自体壊して…いやだったらなんでこんな焦げた跡があるんだよ…てかそもそも門兵どこにいったんだ?まだ交代の時間じゃないだろ」

 

ルイスは色々疑問に持ちながらも東門の向こう側の騒音の原因を突き止めるため門の外側に出た

 

「酔っ払いどもが暴れてんのか?全く、こちとら治安の維持をする側にもなって…っ!?」

 

ルイスは門の外の状況に唖然とした

 

 

な、なんだあれ!?

 

…と、とにかく!サウスさんに知らせないと…!

 

「さ、サウスさん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十二話 意味ない犠牲

「ん?」

 

「どうしたんですかバファさん?」

 

バファさんが急に立ち止まり、背中に装備しているハンマーに手をかけた。

 

なにやら良からぬことを察したのかな?

 

「何かくるぞ…」

 

そう言ってバファさんは静かにハンマーを手にしてさっきまで明るい顔をしていたのが嘘みたいに怖い顔に変わっていた

 

「・・・」

 

私は不自然すぎる静けさに息をのんだ。辺りは廃墟になっているとはいえ本当になんの音も聞こえなかった。

 

 

バファさんが警戒してから数十秒経ったくらいから私は緊張が少し和らぎ、一呼吸してリラックスした

 

………が

 

「おいっ!伏せろっ!」

「え、いきなりどうし…」

 

バファさんに顔面を鷲掴みにされた私は近くの建物の中に投げ入れられた

 

「うがぁっ!」

 

綺麗に建物の中に入ったが、壁にぶつかった衝撃に身体中に電撃が走ったような痛さに襲われた

 

だがその痛みを感じてる暇などなく、外では私を投げたバファさんに謎の赤いのが当たった所を見た瞬間、大きな爆発と爆音に襲われた。

 

私は距離が離れていたから数メートル吹き飛ばされただけで済んだが…

 

「…今…のは…?」

 

何も聞こえない

 

身体が思うように動かない

 

キーンとした音しか聞こえず、砂埃が特にひどい。

 

私はヨロヨロと歩きながらバファさんのところに行き

 

「バ…ファさん…大…じょう…けほっ!げほっ!」

 

喋るたんびに砂が口に入ってくる。一体何が起きたんだ?

 

外の状況が気になる私は建物の外に出て、ハンカチで口元を抑えて外の様子を確認する

 

(なんにも見えないや)

 

…なんにも見えないけどなんか私とバファさんが歩いてきたところからなんかすごいのが近づいてくる

 

すごいっていうのは単に所々の音が大きい…てかこれ爆発音じゃん。

 

爆発音がこっちに近づいてくるような…

 

「・・・」

 

「しつこいなぁ!おっと!」

 

「え?何あれっ!?」

 

一人の女性がめちゃくちゃ怖い顔した子供に変なビーム乱射されながら追いかけ回されてんだけど!?何あれ怖すぎる!

 

てかあの女性…

 

「あ、アンゼリカさん!?」

 

「アルト!…なんでここに!?」

 

それはこっちのセリフ!…ってことはじゃあ後ろにいる子供は…あのすごい強いあの子か!?

 

目がすごい純血しながら目から変なの出してるし…なんか人間やめてる攻撃してんだけど…

 

「あぶなっ!クソ、だんだん射撃が上手くなってる…」

 

「・・・」

 

アンゼリカさんは男の子に撃たれながらも、回避し続けるが、次第にギリギリで当たるところまできており、追い詰められているのが感じ取れる

 

「あっ!そうだ!バファさん!」

 

あの時は分からなかったけどバファさんは赤いビームから私を守ってくれたんだ。砂埃が晴れた今…

 

「バファさん!早くここから…っ!?」

 

砂埃が晴れて、私が思った通り、なんの声もしないからもしやとは思っていたがバファさんはその場に倒れていた

 

それも血だらけで…

 

「そんな…」

 

間に合わなかった…いや、そもそも私を庇うようなことをしなければ助かっていた。確実に…

 

私が殺したに等しい状況に私はバファさんの死体を見ながら呆然と立っていた…

 

ーバファ 死亡ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きとるわっ!!勝手に殺すな!」

 

「ぬわっ!い、生きてたんですか!?」

 

バファさんはいきなり地面からジャンプして立ち上がった。

 

血だらけの状態でもすごい元気に準備体操してるし…どんだけタフなの…

 

「あのな…人が血だらけで倒れてるからって死んだと思うなよ…」

 

「いやー…良かったです!…よかったぁ…」

 

安心して少し涙を流しちゃったけど、ちゃんとお礼はしないと

 

「あ、あの!バファさん!さっきはありが…」

 

「っ!アルト!」

 

バファさんは私の前に立つと、危険な赤いビームから身を挺して私を守ってくれた

 

「ぐっ!?…がはっ!?」

 

バファさんは口から少量の血を吐き、腹を抑えて地面に背中から倒れてしまった

 

「直撃…!これは…もう…」

 

助からない…私を2度も助けてくれたのに…こんな…

 

 

ーバファ 死亡ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから死んでないって!勝手に判断するな!」

 

「うわぁっ!?い、生きてるんですか!?」

 

バファさんは再び元気よく立ち上がってキレ気味に抗議してきた

 

「てか逆になんであれくらってピンピンしてるんですか!あの場面は完全に人が死ぬシーンでしょう!」

 

「なんでお前がキレてんの!?」

 

この時間はつかのま。アンゼリカさんが走ってこっちに近づいてきて

 

「何してんのそこの二人っ!早く逃げないと!」

 

アンゼリカさんはこっちに逃げてきて、あの男の子を連れてきながら避難を促してきた。

 

本音を言うと狙われてる状態でこっちにこないで!

 

 

「バファさん!逃げましょう!」

 

「お…おう!」

 

逃げることに不満なのかなんか乗り気ではないのか知らないけどバファさんは男の子の方を見ながら私と一緒に逃げる

 

「・・・」

 

「やばいやばいっ!だんだん早くなってる!」

 

アンゼリカさんはスピードを上げて男の子から逃げるが、男の子の方も逃すまいと走りながら赤いビームを乱射する

 

乱射した先は逃げてる私とバファさんがいるから当然ビームの脅威に晒される

 

「あの女どっか行ってくんねぇかなぁ!」

 

「本音出ちゃってますよ…」

 

バファさんは逃げながらアンゼリカさんに聞こえるように大きめの声で心に思ったことを言った

 

「あぶなっ!」

 

私の真横で赤いビームが通る。背筋が凍るってこういう事なんだな…

 

「これ当たるの時間の問題ですよ!バファさん筆頭ハンターなんですからなんかいい考えないんですか!?」

 

「俺は考えるのは苦手だ。脳筋だから」

 

「うん!見たらわかる!」

 

バファさんが言った通りアンゼリカさんがどっか行ってくれたら済むと思うけど、お世話になっている人だから悪く言えない…

 

「てかっ!バファさん治安維持も仕事なんですから!あれ止めてくださいよ!」

 

筆頭ハンターはモンスターを討伐する以外にも治安維持という仕事がパジックにはあるのだ。だから筆頭ハンターのバファさんなら当然この事態を収拾つけるため戦うはず…

 

「無理っ、だってあの子供俺と同じ筆頭ハンターだもん」

 

「あ、あの子筆頭ハンターなんですか…それなら仕方な…」

 

うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?

 

「え?マジっ!?あの子が!?」

 

「あぁ、マジだ。あいつは仲間のジスターっていうんだ。仲良くしてやってくれ」

 

「仲良くできる場合じゃないよ!仲間なら暴走止めてよ!」

 

「何言ってる!あいつは俺の仲間だ!そんな事できるわけないだろ!」

 

(さっきその仲間に2回殺されかけましたよね?)

 

「でもおっかしいなぁ…確かジスターはサウスがいる限り突然暴れたりすることなんてしないはずなんだが…」

 

「じゃあ!サウスさんがいれば暴走が収まるんですか!?」

 

「そうだな。ジスターはサウスの言うことしか聞かないんだ」

 

ならバファさんが止めようとしても無駄か…まずサウスって人がいないと話にならないのか…

 

 

「そこ遅いっ!早く進んで!」

 

「うぉっ!アンゼリカさんもうっ!?」

 

アンゼリカさんがいつのまにか真後ろに!

 

…てことは

 

「・・・」

 

「わぁぁぁっ!やっぱりっ!」

 

ジスターって子もオマケで付いてきた!死ぬ死ぬ!

 

「アンゼリカさん!せめて撒いてから来てくださいよ!」

 

「しょうがないでしょ!2、30回撒いてんのに居場所がバレて追いか回されんの!」

 

「ジスターは嗅覚も鋭いからなぁ…」

 

それもう人間じゃないよね?

 

「もう!…私っ!…息が…」

 

このジスターって子マジでしつこすぎる!息が切れてもう走れ…

 

「アルト!止まっちゃダメ!」

 

私の状態を見越してアンゼリカさんは私を担いでくれた

 

「アンゼリカさん…ごめんなさい」

 

「…バファって人!」

 

「なんだ?」

 

アンゼリカさんは走りながらバファさんに話しかけた

 

「サウスがいなくてもあいつを止める方法!ある?」

 

「止まるのかは保証できないが…なくはない」

 

「じゃあ教えて!何したら止まるの!」

 

「辛い物だ」

 

「え?」

 

「辛い食べ物だ!ジスターは辛い食べ物を食べると落ち着くんだ!」

 

「辛い食べ物…食堂を探したらあるか?」

 

「いやダメだ、あいつは辛いの好きだから激辛味とかそんなレベルだと止まらない!」

 

「激辛よりも辛い食べ物…あ」

 

アンゼリカはすぐ担いでるアルトのポケットを探り始めた

 

「ち、ちょっと!アンゼリカさん!何してるんですか!?」

 

「……あった!…何この四角いの?」

 

アンゼリカはアルトのポケットから袋に入ってる謎の菓子を取り出した

 

「そ、それはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

そのお菓子!私が楽しみにとっておいた超炎王せんべい!

 

それだけはダメ!

 

「お、そのせんべい!それなら辛さは十分だ!早くジスターの口に放り込め!」

 

「え?」

 

「よし!バファ!アルトをお願い!」

 

「だ、ダメですよ!」

 

アンゼリカさんは私をバファさんに託してせんべいを手に追いかけてくるジスターの方に走っていった

 

「あぁぁぁ!食後の楽しみが!」

 

「我慢しろ!おとこだ…」

 

「女です!」

 

 

「・・・」

 

ジスターはいきなり反転してこっちに向かってくる動作で動揺してしまい、敗北したことは学んでおり、躊躇なくビームをアンゼリカに向かって発射するが

 

「遅い!遅い!」

 

「?…??!」

 

さっきまでの射撃は当たらずとも確実にアンゼリカを追い詰めていたが、今はいとも簡単に避けられて距離を詰められてしまっている状況にジスターは理解が追いつかない

 

「どうしたの!目が乾いちゃったのかな!」

 

「・・・」

 

冷静に狙って当てようとするが全然あたらない。まずアンゼリカに目を合わせようとする前に避けられているのだ。

 

先読みされている屈辱。初めて味わう焦りでジスターは調子を崩していく

 

「よし、いいぞ。ジスターの動きが極端に鈍くなっている」

 

アンゼリカさんとジスターの戦いを見ていたバファさんが口を挟んだ

 

「で、でもついさっきまで苦戦していたのになんでアンゼリカさんはこんな簡単に避けれるんですかね?」

 

「行動パターンを予測してるんだろう。あいつはかなりのベテランだからな。こんだけ相手の動きを見れば動きを見切ることなんて容易いだろうな」

 

もう相手の動きを知り尽くしてるってことなのか…アンゼリカさんの学習能力高すぎる…でもこのままいけば!

 

「……くっ」

 

アンゼリカはジスターとの距離を縮め、追い詰めるが、ジスターの周りを動き回るだけで何もしない

 

「え?何してるんですか?アンゼリカさん…」

 

もうあんだけ近いのにどうして…

 

「ジスターが口を開けないからだろ」

 

「え?」

 

「口と目はお隣だ。むやみに突っ込めば、アンゼリカの身体に風穴が開くぞ?」

 

「じゃあ!どうするんですか!ジスターがこのことに気づいたら一向に戦いが終わりませんよ!?」

 

「落ち着け、アンゼリカならなんとかするさ。…それになんとかならなくても長時間ここに留まることはない」

 

え…それどういう…

 

「ーっ!」

 

「・・・」

 

(ダメだ、これ以上近づけない…今は簡単に避けることができるけど、私の動きに対応されるのは時間の問題…)

 

「決着は今つけるしかない!」

 

「!!?」

 

アンゼリカはせんべいを袋から取り出してジスターの元に走り出した

 

「あいつ!強行突破する気か!?」

 

「え!?無茶ですよアンゼリカさん!

 

アルトらの言葉に耳を貸さず、アンゼリカはジスターに突っ込む

 

「っ!!」

 

「当たらないよ!」

 

赤いビームを避け続け…

 

「大したことないおチビちゃんね、このろくでなし♫」

 

ちょ、アンゼリカさん!なんで刺激してるんですか!

 

「!!!!!!」

 

アンゼリカの一言にブチ切れて、ジスターは一気にビームの出力を上げ、アンゼリカに向かって最大火力を放出した

 

「っ!」

 

無論アンゼリカは簡単に避けるが、

 

「わぁぁぁ!何この威力はっ!」

 

「あ、アンゼリカぁぁぁぁぁ!」

 

バファとアルトの方にそのままビームは発射され、2人は直撃はしない位置にはいたが、ビームが地面にあたった瞬間に生じた爆風に吹き飛ばされた

 

「…………??」

 

ビームを発射した後、ジスターは弱々しく膝から崩れて、地面に座り込んだ

 

いきなりきた脱力感にジスターは困惑する

 

「あんた今動けないでしょ」

 

「!?」

 

アンゼリカの一言にジスターはビクッとする

 

「あの赤いのは確かに強力な威力がある。しかも乱射も可能だし、威力もいじれるみたいね。でもメリットにはデメリットが存在する」

 

座り込んで動けないジスターにアンゼリカはゆっくりと歩み寄る

 

「高威力…その反面消耗が激しいんでしょ?最初戦った時より動きがかなり遅くなってたよ。ずっと射撃に頼ってたあたりからわかっていたことだけど」

 

「・・・」

 

「あんたの敗因は自分の体力管理ができていなかったことと、想定外の動きに対応する能力がなかったこと。高い身体能力を持っているのにとんだドジね」

 

「・・・」

 

アンゼリカの指摘にジスターはシュンとして、地面にうつ伏せで倒れこむが、ジスターはアンゼリカに抱き上げられてしまう

 

「ーーー!!」

 

暴れようとするが、体力が残っておらず、抵抗する力がない

 

「あーこらこら、大丈夫だって。あんたに危害を加えるつもりがないから安心しな」

 

「!!!ーーー!!」

 

ダメだこりゃ…全然大人しくなんない…まぁ暴れようとしてるだけで実際にはダランとしてて、大人しいんだけどね…

 

「…あ、そうだった」

 

アンゼリカは手に持っているせんべいをジスターの口に持っていく

 

「確か、辛いの好きなんだっけ?」

 

「・・・・・っ!!」

 

ジスターは口元に近づいてくるせんべいの匂いを嗅いだあと、それがとびきり辛いのだと分かると一口でせんべいにかぶりついた

 

「あ、ぶないなぁ〜もう少しで私の手が食べられるところだったよ」

 

「・・・」

 

ジスターはアンゼリカを無視してバリバリと音を立てながらせんべいを食べる

 

そして、さっきまでの警戒は冷めて、アンゼリカに抱かれながら眠ってしまった

 

「……え?ちょっと!寝てくれた方がいいか…」

 

 

「・・・バファさん」

 

アンゼリカとジスターの戦いを見ていたアルトが口を開いた

 

「・・・どうした」

 

 

「これ…私のせんべい使った意味ありますか?」

 

「ないな」

 

 

 

 

 

 



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二十三話 襲撃

「おめでとうアンゼリカ」

 

「え?」

 

手をパチパチと叩きながらこっちにくる赤い男にアルトは怖くなってアンゼリカの後ろに隠れる

 

「…誰ですかあの人…」

 

「サウス…」

 

アンゼリカさんはこっちにくる赤い男を睨みつけながらボソッと呟く

 

「おぉ!サウス!」

 

それに対してバファさんは赤い男を見た途端に笑いながらハグをした

 

てか…この人がサウス!?

 

 

「お前一体何していたんだよ!さっきまでジスターが暴れて大変だったんだぞ?」

 

そう言ってバファはアンゼリカに抱っこされているジスターの方に指を指す

 

「知ってる、だがよく止めたくれたなバファ、アンゼリカ、それに…」

 

「・・・」

 

サウスはアルトの顔を見るなり、何やら険しい表情を浮かべて、何も言わずにアルトを無視して、アンゼリカが抱えるジスターの方に顔を寄せる

 

「女に抱っこか…こりゃあルイスが見たら発狂するな」

「あいつ振られたばかりだからな」

 

「やっぱりか…」

 

む…無視?…私、サウスさんに何かしたっけ?

 

「ちょっとサウス!あんた私に何か言うことあるんじゃないの?」

 

アンゼリカはサウスに対して怒りを抑えながら無理矢理、顔を笑顔にしてサウスに遠回しに謝罪を要求するが

 

「何か言うこと?そうだな」

 

サウスは頷いて、アンゼリカに近づくと、軽く咳払いをして

 

「動きにキレがない、強いて言うなら無駄な動きが以前のお前より多くなっている。7年のブランクがあったとはいえ、子供のジスターに苦戦するのはどうかな?英雄と呼ばれる実力があるならちゃんとそれを見せてくれ、てかお前少し大人っぽくなったな?いや胸が多少デカくなっただけか、だが頭を使った戦い方をするようになっのは評価するぞ?」

 

「・・・は?」

 

アンゼリカはキョトンとした顔でサウスを見つめ…

 

「はぁ!?」

 

怒声を上げて片手でサウスの胸ぐらを掴んで、サウスを持ち上げる

 

「何するんだアンゼリカ」

 

「もう一度聞くけど…あんた私に言うことあるよね…?」

 

「だから、動きにキレがない、強いて言うなら無駄な動きが…」

 

「ちーがーうーでーしょっ!!ジスターを私に襲わせた事謝りなさいよ!!」

 

え、この人が?

 

「サウス…そういうことだったのか…全く無茶なことを、万が一アンゼリカが死んだらどうするつもりだったんだ?」

 

アンゼリカさんとサウスさんのやりとりをかげで笑っていたバファさんが持ち上げられているサウスさんの隣で話しかける

 

「仕方ないだろ?この辺のモンスターじゃ、アンゼリカの相手にすらならない、勝負にならない戦いがアンゼリカの準備運動になるのか?」

 

「たしかに、この辺のモンスターじゃ…」

 

バファさんは依然としてサウスさんの胸ぐらを掴んでいるアンゼリカさんの方を見る

 

「無理だろうな」

 

バファさんはため息をついてアンゼリカさんの手を握った

 

「アンゼリカ、やり方があれだったとはいえサウスを責めないでやってくれ、俺達はただあんたに昔の勘を取り戻して欲しかっただけなんだ」

 

 

なるほど、だからこの地域でアンゼリカさんを苦戦させることができるジスターを戦わせてアンゼリカさんのブランクを解消させようとしてのか…やり方は強引だけど、その方が手っ取り早いよね

 

「アンゼリカさん、本気で殺す気は無かったみたいですし、許してあげて下さいよ」

 

「…アルトが言うなら私はいいけど」

 

アンゼリカは掴んでいた手を緩めてサウスを下ろす

 

「どうも、礼を言うよ…スレイブドローン」

 

「っ!」

 

アルトはサウスがスレイブドローンの言葉を口にした瞬間、身体中に渦が巻いてような感覚に囚われ、即座にアンゼリカの背中の後ろに隠れた

 

(何っ!何この人…)

 

「アルト?どうしたの?そんな怯えて」

 

「べ…別に何も…ない…です」

 

「 ? 」

 

「俺、こいつがスレイブドローンの一族って言ってなかったはずだが…やっぱ気づくか」

 

「当然だ。なんせあいつらは"元凶"だ、顔なんて見なくてもすぐわかる」

 

「あんたら何言ってるの?てか何?すれいぶどろーんって?」

 

2人の会話にアンゼリカが口を挟む

 

「…今のお前は知らなくて大丈夫だ」

 

「そういうのなしっ!今教えて」

 

「今教えなくても、いづれ分かる。そんなことより、お前には新大陸に行ってもらうんだからスレイブドローンのことは知らなくていい」

 

「はぁ?何よそれ!一言でまとめて説明すりゃいいでしょ!」

 

「アンゼリカさん!相手は筆頭ハンターなんですから落ち着いて!」

 

アルトは憤慨するアンゼリカを背中からしがみついて抑えようとするが、勝てるわけなく、ずるずると引きずられていく中、アルトはふと気づいた

 

「はぇ?新大陸?」

 

新大陸…ってここから離れた場所にある未探索区域だったはず…

 

「アルト、新大陸のことについて何か知ってるの?」

 

「いえ、詳しくは知らないんです。でも既に腕利きのハンター達が派遣されて調査中の場所らしいんですよ」

 

「…あ、そうか。私なら並みのハンターよりも強いから調査の手伝いをしろってことでしょ、ねぇサウス?」

 

「全然違う」

 

アンゼリカさんの考えがバッサリ切られた…

 

「新大陸に行ってもらいたいのは本心だが…理由はまた別にあるんだ」

 

「別の?なんの理由があるの?」

 

「…お前はここにはいられない」

 

「いられない?なんで?」

 

「命狙われてるから」

 

「はぁ?」

 

質問をすればするほど分からなくなる。サウスの言ってることに納得がいかず、アンゼリカは余計に頭を悩ます

 

「でもアンゼリカさんは世界を救った英雄ですよ!?なんで命を狙われるんですか!」

 

「世界を救った英雄に生きててもらっては困る。それがマガラ王の考えだ。今の人達はマガラ王ではない。お前を求めている。この国が大国でいられるのなんてお前が厄介者を倒して消えてくれたお陰だ。じゃあ人から求められる英雄が生きてると知ったらそりゃあ誰もがお前に従うだろうな」

 

「・・・」

 

アンゼリカさんがアマツガツチを倒して失踪したからパジックは強くなったのか…あんな王様よりアンゼリカさんが生きてたらみんなアンゼリカさんを支持しちゃうからね

 

「自分の権力を脅かす英雄を受け入れるわけないだろう?アンゼリカ。お前はマガラ王にとって邪魔者でしかない。ここに長居すればいずれ殺されるぞ。そこの子供と一緒にな」

 

「・・・」

 

アンゼリカはサウスの話を聞いた後、ジスターをバファに渡してアルトの手を握った

 

「アンゼリカさん・・・」

 

「サウス、新大陸の方角は?すぐ出発する」

 

「東門から出て、西に進んでいけばいい。だがここからだと船を使わないと新大陸にたどり着けないぞ」

 

「…クソ、じゃあ船を買う必要があるね」

 

「買う必要はない。アテがあるんだ」

 

そう言ってサウスは懐から地図を取り出してアンゼリカに見せた

 

「東門を出て、この森を抜けるとすぐナグリ村がある。そこに族長にバンガードから頼みで船を作ってくれと言え、そしたらタダで船を作ってくれる」

 

「バンガード?何それ?」

 

「バンガード・サウス。俺の名前だ」

 

「あんた最初に会った時から名乗ってよ…てかその名前言ったぐらいで本当にタダで船を作ってくれるの?」

 

「地方で俺の名前を知ってるのはナグリ村の村長だけだ。それに俺と村長は昔からの付き合いだ。後で俺達も行くから先に村に行って船を作ってもらうんだ」

 

「えーと…ここがナグリ村?」

 

「違う、どこ指差してんだここだ!ここ!森抜けて地図通り進めば着く」

 

…大丈夫かな

 

「あーもう!もう一回説明して!」

 

いやサウスさん結構短く分かりやすく説明してると思うんですけど…

 

「だからナグリ村の場所はな…」

 

「サウスさん!」

 

アンゼリカさんとサウスさんが話してる所に猛スピードで走ってくる謎のハンターがサウスさんの横で止まって、なにやら焦った様子でサウスさんに話し出した

 

「ひ、東門に!…っあれ?お前あの時俺を殴った奴!」

 

あ、この人

 

「ん?あんた…私に手錠かけてきた人じゃない?」

 

ルイスだ!やばい!私この人を二回シャベルで殴ったんだけど!

 

「ここで会ったがお前の運の尽き!真っ向勝負ならまだしも気絶してる所を二回も追い討ちしたのは許さん!!」

 

ルイスは片手剣を手に取り、構えた

 

「え?追い討ち?なんの話してんの?」

 

あ、やっば

 

「ルイス、話の邪魔をしてまで何を伝えようとしたんだ?」

 

バファさんがルイスの首を掴んで止めてくれた

 

「ぐふぅ!?バ、バファさん!ちょ!降ろして!」

 

「ほら、英雄の前なんだからシャキッとしろ」

 

「英雄?誰がですか?」

 

バファは首を掴んでいる手を離してルイスを解放する

 

「…あっ!そうだ!サウスさん!東門で!」

 

 

ーードカン

 

「何!今の音!」

 

この音…大砲?

 

アルトは突然の爆発音に反応して、辺りを見回した後、爆発音に続くようにドガガガッと聞こえたり、まるで銃声の音が辺り一面に広がった

 

他にも、数々の足音が聞こえ、大きく聞こえてくる足音はこっちに近づいてくることが伺える、アルトの恐怖心は次第に大きくなり、身体が震え始めた

 

「…ルイス、東門で何が起きた?」

 

銃声のした方向を見つめながらサウスはルイスに質問する

 

「奴らです……反ギルド軍が攻めてきたんですよ!」

 

「何!?」

 

「!!!」

人間を察知したジスターが突然目を覚まして、地面に足をつけ、迎撃の態勢に入る

 

 

「ウォォォォォォォォォ!!1人残らず殺せぇぇぇ!」

 

1人の男が銃を乱射しながら数百人の兵士を連れてこっちに突撃してきた

 

「なんでこんな時に!門は!?東門は固く閉じてろと言っておいたはずだ!」

 

「わかんないっすよ!俺が東門に行ってみたらそもそも門自体が焦げて無くなっていたんですよ!」

 

「門が無い…?」

 

サウスは迎撃態勢に入って、血の気が立っているジスターをチラ見する

 

「・・・」

 

「よそ見してんなぁ!殺す!!」

 

建物の屋根の上から2人の男が剣を手にサウスに襲いかかった

 

「!!っサウスさん!危ない!……?」

 

私は2人の男に気付いてサウスさんに伝えたが、伝える前に、2人の男は胴体が切断され、上半身と下半身が分かれた死体が既に地面に転がっていた

 

「さすがですサウスさん!」

ルイスが少々嫌味な顔をしてお世辞を言う

 

「まだ人数は多い!バファ、ルイス、ジスター!暴れるぞ!」

 

「おらぁぁぁぁ!筆頭ハンターどもぉぉ!4人揃ってぶっ殺してやる!」

 

「やってみろ」

 

サウスは3人を引き連れて約100人はいる部隊に突っ込んでいく

 

「アルト!ここを離れるよ!…アルト?」

 

アンゼリカはアルトに駆け寄る。しかしアルトは2人の死体を見つめ、身体を震わせながら、ビクビクとただ立っているだけだった

 

「こ…殺した…人を…」

 

「アルト……行くよ」

 

アンゼリカは放心状態のアルトを担いで、東門から離れて、西門に向かって走っていく

 

 

 

 

 

 



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二十四話 人の屍

アンゼリカはパジック国の指導者、マガラ王に命を狙われている事をサウスから知り、このままパジックにいれば殺されると分かり、サウスから紹介された新大陸に向かうためナグリ村で船を作ってもらう事にした。

 

しかしナグリ村の場所を聞いている間、消滅した東門から反ギルド軍が攻めてきてしまった。

 

 

「あ…アンゼリカさん…私なんか吐き気が…!」

 

さっき見慣れない生々しい死体を見てしまった上に上下の振動がすごい今の態勢で私は少し酔い気味。もう一回死体をみたら絶対吐く自信がある

 

「えぇ!我慢しな!ここを出たらゲロでもなんでも吐いてもいいから!」

 

「ゲロって言わないでください…!余計に吐き気が…!」

 

もう吐く事に関してのキーワードでもダメな気がしてきた…

 

アンゼリカさんに運んでもらって悪いけどこの態勢…結構酔う

 

「あの女…!ハンターか?殺せぇぇぇ!」

 

「しまっ!」

 

西門に向かって走っていた道中に別働隊に遭遇してしまった。

 

人数は2人、アンゼリカなら対処できるが、アルトを担いでいるハンデもあり、逃げる以外選択肢がなかった

 

「急がないと…!アルト、速度上げるよ!」

 

「え!まっー」

 

最後まで言わせてもらえず、アンゼリカさんはさっきよりも早く走り出した。そのかわり上下の振動が早くなって私は一層吐き気が酷くなった

 

「なんだこの女速いぞ!?」

 

2人の男を一気に引き離した。2人は追ってくる気は無く、こっちをただみてるだけだ

 

「やりましたね…アンゼリカさん…」

 

ちょっと安心して、身体が楽になってきたが、

 

「きたか…撃ち殺せ!」

 

「なっ!」

 

なんと前からも反ギルド軍の別働隊が回り込んできていた。しかも今度の相手はボウガンを装備しており、およそ10人で横一列で並んでいる

 

「撃て!」

 

「まずい!」

 

ーードガガガ

 

一斉射撃。アンゼリカは咄嗟に近くの瓦礫に隠れ、銃弾から回避する事ができたが、さっきの銃弾により、盾になっていた瓦礫は既にボロボロ。次もう一回一斉射撃されたら弾が貫通してあの世にお陀仏だ

 

(10人…)

 

アンゼリカは腰に装備している双剣に手をあてるが、すぐ納刀してアルトを瓦礫の後ろに置いたら素手で反ギルド軍に突っ込んでいった

 

「ちょっと!アンゼリカさん!」

 

「アルトはそこにいて!」

 

「おい!なんでこんな速いんだ!?まだ装填が…ぐぇ!」

 

アンゼリカは次の装填時間に間に合わないのを計算して反ギルド軍の兵士に殴りかかった

 

「クソっ!」

 

となりにいた兵士がナイフを取り出してアンゼリカに襲いかかる

 

「遅い!」

 

「ぐはっ!?」

 

ナイフを持っている手を蹴られ、ナイフを落とした瞬間、顔に拳があたり、兵士はその場で倒れて気絶する

 

「な…なっ!」

 

他の8人はナイフを装備して迎撃する態勢に入るが、次々と片付けられていく仲間を目にして固まって動けなくなっていた

 

「何にもしてなくても眠っててもらうよ!」

 

銃口の先なぞ気にしないと言わんばかりに無謀な特攻をするアンゼリカを目の前に兵士はなぎ倒されていく

 

「ひ…ひけ…退け!」

 

「なんだこの女…なんだよこいつ!」

 

30秒もかからない内に8人も仲間が倒されて、2人はアンゼリカから逃げ出していった

 

「あ、ちょっと!仲間置いていくの!?おーい!」

 

(別に殺してないんだけどなぁ〜)

 

アンゼリカも流石に人を殺す事はできず、倒れている兵士も素手で気絶させただけなのだが、逃げていく兵士はまるでモンスターを前に逃げ出している様に見えた

 

「全く…そんな怖がらなくてもいいのに」

 

そう言ってアンゼリカが瓦礫に隠れさせたアルトの方を見るが…

 

「っ!?」

 

「…アンゼリカさん」

 

そこには2人組の男に拘束されているアルトがいた。気分が悪くなっているアルトは髪を掴まれているだけで手足は自由なのだが、酔っている事と恐怖により身体が思うように動かない

 

「アルト!」

 

「おい、止まれよ」

 

髪を掴んでいる男は腰から拳銃を取り出してアンゼリカに見せるようにアルトの頭に銃口を向ける

 

「・・・」

 

「言わなくてもわかるよな?」

 

「……アルト」

 

アンゼリカはその話止まり、男を睨みつつ両手を上げて地面に膝をついた

 

「いだだ…アンゼリカさん!私はいいですからこのバカ達をさっきみたいに殴ってください!」

 

「クソガキが…先に殺してもいいんだぞ?」

 

そう言って男はアルトを持ち上げて、銃口をアルトの口にねじ込んだ

 

「ーーっ!ーーっ!」

 

「やめろ!子供になんてことするの!」

 

「うるせぇな!テメェ今の状況わかってんのか!?」

 

髪を掴んでいる男は別の男がアンゼリカに近づいて拳銃を突きつける

 

「・・・」

 

「あははは!あんな強え女が見ろよ!ガキ一匹に死にかけたらぁ!」

 

(アンゼリカさん…私のせいで…)

 

こんなことならナイフを買っておけばよかった…私のせいでまたアンゼリカさんがひどい目に…

 

「アルト…」

 

「この女なんか俺の好みだな…殺すのはもったいねぇ!」

 

「くっ…」

 

そう言って男はアンゼリカさんを押し倒して、馬乗りの姿勢になると、アンゼリカの顔に自身の唇を近づける

 

「はぁ!?あ、あいつ何してんの!?」

アルトは目の前の出来事を前にジタバタと抵抗するが、拘束からは抜け出せない

 

「おいおい…俺の手柄だぞ?」

 

「うるせぇ!早いもん勝ちだ!」

 

アンゼリカは嫌がる素振りを見せるが、アルトを見ると無抵抗になる

。それを理解した上で男はアンゼリカを襲う

 

「お前ら!アンゼリカさんにそんな汚い身体で触んな!」

 

「こいつほんと生意気だな…もう殺すか?」

 

「まだよせ、この女を堕としてからそこのガキをどうするか考える」

 

「…私があんたの物になると思ってんの?」

 

「いひひ…いいねぇその顔」

 

男はアンゼリカさんの胸まで触り出した。こいつ本当にあぶない…

 

「やめろ!やめろ!」

 

「うるさい…もう殺す」

 

そう言って男は引き金に手をあてる

 

「あ、死ぬかも」

 

この男の目と体から臭う鉄の匂いから完全に私を殺す気だ…

 

「ガキ…目をつぶってろ…終わらせてやる」

 

ぐぅ〜!格好つけて決め台詞を言いやがってぇぇぇ!

 

「あ!アルト!」

 

せめて私も名言残して死にたかった…

 

 

 

 

 

 

「じゃあお前は後ろを向いて見ろ」

 

「…あん?」

 

もう1人の男の声が私の男の背後から聞こえる。男は後ろを振り向くと

 

「なっ!」

 

そこには血だらけのバファさんがいた。男はすぐ拳銃をバファさんに向けるが…

 

「撃たせるかよ」

 

バファさんは男が引き金を引く前にハンマーを男に振り下ろして、男の頭蓋骨をかち割る

 

「嘘だろ…」

 

男は既に無くなった頭部を触りながらその場に倒れ、地面には早くも大量の血海ができていた

 

「決め台詞は終わってから言うもんだ」

 

「バファさん!」

 

よ…良かった!バファさんが来てくれた!

 

「ようアルト、来てよかった。なかなか……色々危なすぎるピンチだったな」

 

そう言ってバファはアンゼリカに乗っかっている男を睨む

 

「ひぃ…!?わかった!わかった!」

 

男はアンゼリカから離れて、両手を上げて降参する

 

「ありがとうバファ……え?、バファ!?あんたなんでここに…サウス達は?」

 

アンゼリカは乱れた服を整えながら自然にバファに礼を言うが、東門で足止めしてるはずのバファがここにいる事に驚いた

 

「アンゼリカさん!」

 

アルトはバファを押しのけてアンゼリカに駆けつける

 

「ご…ごめんなさい…私のせいで…」

 

「アルト…気にしないで。元々は勝手に離れた私が悪いんだから…」

 

そう言うと、アンゼリカはアルトを優しく抱きしめる

 

「…でも…今回は私がー」

 

「もういいよ、済んだことだから」

 

アルトが謝ろうとするとアンゼリカは指をアルトの口元にあてて、震えながら泣き出そうになるアルトを落ち着かせる

 

「・・・」

 

その中、バファは降参している男に血だらけのハンマーを持ちながら歩み寄る

 

「あ…あぁ!やめろ!やめてくれ!」

 

男は両手を既に下ろして、バファから離れようするが腰に力が入らない

 

「ば…バファさん?」

 

「・・・バファ」

 

話していた時のバファさんとは険しい表情に私は動揺した。さっきと雰囲気がまるで違う

 

「やめて!殺さないで!ごめんなさい!俺が…!俺が悪かった!」

 

必死に命乞いをする男に情けをかけたのかバファは振り上げたハンマーを止める

 

「…アンゼリカ。アルトの耳塞いで目を隠してくれ」

 

バファはそう言った後、止めたハンマーに力を入れて男を睨む

 

「あああ!?なんで!なんでだよぉ!やめてぇ!やめてぇぇぇ!」

 

再び命の危険を感じた男は泣きじゃくるが、そんなこと御構い無しにバファはハンマーを勢いよく振り下ろした

 

「っ!!」

 

アンゼリカは素早くバファに言われた通りアルトの耳を両手で塞いでアルトの顔を自身の胸にあて、視界を遮った

 

ーーーバキッ

 

この音と共に男の泣き叫ぶ声は聞こえなくなった

 

アンゼリカもまた目を閉じていたため男がどのように死んだのかは分からない。しかしあの男は腐っても自分と同じ人間。アンゼリカは自分を守ってくれたとはいえバファのした行為に疑問を感じせずにはいられなかった

 

「…終わった。もう目を開けていいぞアンゼリカ」

 

「うん…」

 

アンゼリカは静かに閉じていた目を開ける。

 

「あの兵士は?」

 

「死体は俺の後ろだ。…見ない方がいいだろ?」

 

バファはアンゼリカの体を死体と逆向きにしてなるべく死体を見せないように気を使う

 

「アルトにはショックが大きい。さっきだって吐きそうだったもの。早くここから離れよう」

 

「そうだが、アルトはどこに行った?」

 

「え?」

 

バファの指摘にアンゼリカは抱きしめていたアルトを探す

 

「あ!」

 

「・・・・・」

 

なんとアルトは死体のすぐそばにいた。さっきアンゼリカが気が緩んだ時に抜け出してしまっていたのだ。

 

そして案の定アルトは人間の無惨な死体を目に言葉も出てこない

 

「あ、アルト!」

アンゼリカは急いでアルトの方に駆け寄るが…

 

「・・・・」

 

アルトは白目をむきながらバタンと後ろから倒れて気絶してしまった

 

「やっぱりショックが強かったな…お前ちゃんと捕まえとけよ」

 

「アルト!しっかり!」

 

アンゼリカはアルトを揺するがアルトは起きる気配がない

 

「このまま寝かしといてやれ、起こしてもここを出るまで二、三回は同じ光景を見る事になるからな」

 

「・・・」

 

アンゼリカはアルトを担ぎ上げてバファが殺した2人の兵士の死体に視線を向けてバファに話しだす

 

「別に殺さなくても…」

 

「…お前襲われたのによくその言葉が出てくるよな、強者の余裕ってやつかい?」

 

「違うけど、相手は人なんだよ?」

 

「いやそうだけど!……そうだな…人…なんだよな…」

 

バファは少し悲しげな表情でアルトを見つめると、冷たくなった空気を感じとりながらもアンゼリカに話しかける

 

「アンゼリカ。ここを出る邪魔をする反ギルド軍の奴らは躊躇なく殺すつもりだ、あと数十分もすれば援軍がくるが、その援軍が問題だ。本隊がお前を見つけると絶対アルト共々処刑台送りだ。悪いが時間短縮のためにも殺生はさせてもらうぞ」

 

「……わかった」

 

変に無犠牲にこだわって捕まるのは元も子もない。とにかくここを出ることを優先したアンゼリカは渋々頷いた

 

「よし、なら行くぞ。こっちだ、付いてきてくれ」

 

そう言うとバファはアンゼリカを先導して前に出た

 

 

 

 

 

そしてサウス達の方はというと

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!30人ががりとか卑怯だろお前らぁぁぁぁ!」

 

ルイスは得意の速さを生かして反ギルド軍達を相手していたが、バファがいなくなったことにより、負担する人数が倍増して苦戦を余儀なくされていた

 

「筆頭ハンター!討ち取ったり!!」

 

集団の中から飛び出てきた反ギルド軍の兵士が苦戦してるルイスの腹部に向かって突進してくる

 

「ぬぉぉぉ!甘い!」

 

ルイスは土壇場の精神で抑えてくる集団を退かせて突進してくる兵士を蹴飛ばした

 

「どぅわぁ!?こいつ!弱そうなくせに!」

 

「んだとてめぇ!?殺すぞ!」

 

「死ねぇ!ルイス!」

 

「クソ!新手か!」

 

雑談なんてしてる暇などなく、次々と兵士はルイスを殺しにかかる

 

「てめぇらど素人に殺される俺じゃねぇぇぇ!!」

 

目に止まらぬ速さで兵士を翻弄し、次々と兵士を倒していく

 

「なんだこいつ!?本当に人間か!?」

 

「だったらなんだ!」

 

「!?」

 

動揺してる隙をついて、兵士たちを倒していき、30人ほどいた兵士が数える程しか残っていない

 

「ふぅ…あと一息だな…」

 

そう言って片手剣を構えるルイスだが…

 

(くそ…思ったより数が多かったな…俺の速さじゃなきゃ対応できない数だ。サウスさんとジスターは大丈夫なのか?さっきから静かだし…まさかやられたのか!いやあの2人に限ってそれはないだろう…

 

てかバファさんどこ行ったの!?)

 

ルイスら心の中で心配する気持ちが膨れ上がって戦いの最中だというのに思わずサウスとジスターの方を確認してしまう

 

 

 

「ジスター。お前何人ぐらいやっつけた?」

 

「・・・」

 

サウスの質問にジスターは右手の指五本を立てた後、もう一度三本立てて、左手の指を一本立てた

 

「81人か、ギリギリ勝った。俺は85人だよ」

 

雑談する2人の周りには多くの反ギルド軍の屍が倒れており、ちゃっかり反ギルド軍の援軍を壊滅させていた

 

「もう終わってるぅぅぅぅぅぅぅえええええええええ!?」

 

「どこ見てる?もらっーっ」

 

「なんで!?速すぎるだろ!」

 

ルイスは隙をついてきた兵士を秒殺した後にサウスとジスターに向かって抗議し始めた

 

「何騒いでるんだ?ルイス」

 

「何って!もう終わったんならこっち手伝ってくださいよ!」

 

「お前の分だろ。ちゃんと自分で片付けろ」

 

「バファさんの分もあるんすよ!!」

 

「ならバファの分もやれ」

 

「えええええええええ!!理不尽んんんんん!!」

 

 

「今だ!全員でかかれ!」

 

兵士達はいつのまにか増えており、約50人がルイスに襲いかかる

 

「なんでお前らも俺ばかり狙ってくるんだよ!」

 

「お前のことが好きなんじゃないのか?」

サウスがジスターと一緒にルイスを他人事のように見ながら口を挟む

 

「うっさいすよ!」

 

「お前女にはあれなのに男には好かれるもんな。なぁジスター?」

 

「・・・」

 

ジスターは頷く

 

「いっそのこと反ギルド軍に転職するか?」

 

「サウスさんは黙っててください!うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

そしてルイスは半泣きになりながら片手剣を構え、反ギルド軍に向かって突っ込んでいった

 

 

 

 

 

 



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二十五話 希望の出発

「ふんっ!」

 

「っ!?」

 

バファの一振りにまた1人頭を粉砕され、膝から崩れ落ちていく。アンゼリカ護衛のためバファは行く手を阻む反ギルド軍の兵士に対し、情け容赦なく始末していく

 

「ば…バファだ!」

 

「撃ち殺せ!」

 

2人の兵士がバファを見つけて襲いかかるが

 

「頭は守っておけよ」

 

「え?…おまっ!いつのまー」

 

いつの間に距離を詰められ、反応が遅れた兵士は焦ることすらできず、頭をハンマーで割られてしまった

 

「お、おい!」

もう1人の兵士がバファに向かって照準を合わせる

 

「チィッ!」

 

「あがぁ!?………」

 

引き金を引かせまいとバファはさっきより素早くハンマーを振り、兵士はさっきの兵士と同様に頭をかち割られてしまった

 

「…終わったな。だがなんでこうも先回りされるんだ?」

 

「バファ!あんたもっと綺麗な戦いをしてよ!さっきから返り血がたりそうなんだけど!」

 

バファの一撃は強烈で、破壊力があるため人の頭ぐらいなら粉砕することは簡単なのだが、殴られた側は粉々になるため返り血の量が異常に多くなってしまう

 

「守ってやってんだから文句言うな!」

 

「あんたこの返り血をアルトが見たらどうしてくれんの!」

 

「あ、確かに。アルトが見たら気絶するな…じゃあどうすればいい?」

 

「ハンマー振るの止めようか」

 

「却下だ」

 

バファは道を開きつつ、アンゼリカとアルトがパジックを出るために西門に向かっている。しかしアンゼリカはバファの道案内に素直に従ってる間に違和感を感じた

 

「ねぇバファ!私の勘違いかもしんないけど!あんた西からも離れてない?全然扉らしいものが見当たらないんだけど!」

 

西に向かっているのに依然として門らしきものが見当たらない。それどころか東門から攻めてきた兵士に先回りされ続けるのにも疑問が膨らむ

 

「そりゃあ西門に向かってないからな」

 

バファはさも当然のように返答する

 

「西門に向かってないのかならしょうがない。ってふざけんな!なんであんた西に進んでないの!?」

 

「西門はダメだ。他の道にする」

 

「他のって…西からの方がナグリ村に行くのに都合がいいんでしょ?」

 

「そうだが…ダメだ。西門には行けない」

 

「なんで!?」

 

「ダメなもんはダメだ!」

 

西門に行くことを頑なに拒否するバファに呆れながらもアンゼリカはバファについて行く

 

「…確か」

 

「おっと!?」

 

バファが急に立ち止まり、アンゼリカはぶつかりそうになるも、なんとか堪えた

 

「なんで急に止まんの?」

 

「ちょっと待ってろ…」

 

そう言ってバファは足元の地面をハンマーで優しくコンコンと叩き、隅々まで調べていく

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・ここだな。ふんっ!」

 

バファは次の瞬間ハンマーを地面に思いっきり振り下ろし、その衝撃にアンゼリカは少々ぐらついてしまう

 

「おっとと…ん?」

バファが叩いた地面にはヒビが入っているだけで何も変わった様子はなかった

 

「……上手くいかないな、ならもう一回!」

 

バファはもう一度地面をハンマーで強く殴った瞬間

 

ーピギッ

 

その音が聞こえた後、地面は中央から崩れていき、底なしの大きな穴が出来上がった。そしてその上にいたバファは

 

「嘘だろぉぉぉぉぉ!?お、落ちるぅぅぅ!!!」

 

そのまま穴に落ちてしまった

 

「バファ!!」

 

アンゼリカは急いで落ちていったバファを探すが、底は暗く、何も見えない。水の流れる音が少々聞こえるぐらいだった

 

「あ…アンゼリカ…」

 

「あ!いた!」

 

落ちたバファはハンマーが穴の側面に引っかかっており、見えない位置でぶら下がっていた

 

「おーい持ち上げておくれーい」

 

「死にかけてんのになにその余裕」

 

そう言いつつアンゼリカはハンマーを持ち上げて、バファを引き上げた

 

「九死に一生を得た……」

 

「いや正確に言うなら自滅でしょ」

 

「まさか自分の強さで死にかけるとは、自分恐るべし」

 

「バッカだなぁ…てかなんでいきなり地面割ったの?」

 

「そりゃあお前達の逃げ道を作ってやらないとな」

 

「え?」

 

アンゼリカはバファの一瞬の一言が引っかかる

 

「ほら早く入れ」

バファはアンゼリカに対し、穴の方に指を指す

 

「ごめん。あんた何言ってんの?」

 

「下水道からお帰りください」

 

「あんたマジ何言ってんの!?」

 

「西門と東門行けないならもう下水道しか行く道ないだろ」

 

いや…その理論はおかしい

 

「アンゼリカ、安全に行くなら下水道の方がいい。アルトを担いだままだとちょっと限界があるからな」

 

「え?私担がれたままだといけないんですか?」

バファの言葉にアルトはピクッと反応した

 

「そうそうお前を担いだままだと色々めんどくさいんだ」

 

「でも私そんな体重ないですよ?」

 

「いや体重とか関係ないから。アルトだって軽い荷物でも多いのは嫌だろ?」

 

「あぁそれ分かりますバファさん」

 

 

 

 

 

「・・・・・アルト!?」

 

バファは驚いて反射的にアルトから距離を離してしまう

 

「お前!いつから起きてた!?」

 

「アンゼリカさんがバファさんと一緒に走り出した時からですね」

 

(結構最初の方じゃねぇか!)

 

「全く。狸寝入りしてたの?」

 

アンゼリカはアルトを下ろして自身と顔を向き合わさせる

 

「いえそんなつもりはなかったんですけど……途中からなんか兵士達の断末魔や聞いたことない痛々しい音が聴こえてきて目を開けづらかったこともあって…」

(まぁアンゼリカさんに抱かれるのが心地よかったのもあるけど…)

 

 

「・・・・」

 

アンゼリカはアルトの頭を撫でながらバファを強く睨んだ

 

「はは…まぁ起きてしまったものは仕方ない!ほら!早く飛び込んで!」

 

「え?飛び込むってどこに?」

 

「はいはいアルト、早く早く」

 

えなんでアンゼリカさんも背中押してきてんの!?

 

「早く入れ!時間がないんだ!」

 

「えぇぇ!?なんで私が底なしの穴に落ちなきゃなんないんですか!」

 

押してくるバファさんに私は無茶苦茶抵抗するがずるずると穴の方にずらされていく

 

「ほらほら、自分から行かないと怖いぞ?」

 

「じゃあ押さないでよ!」

 

「じゃあ自分でいけ」

 

そう言ってバファさんは押すのをやめてくれた

 

私はすぐに穴に向かって飛び込もうとする。押されて入るのはごめんだ。早く自分のタイミングでいかないと

 

「・・・・」

 

「早くいけ」

 

「・・・・・・」

 

「何してる?早くいけノロマ」

 

「・・・・・」

 

「おいウスノロ」

 

「・・・・・」

 

「どうした?アルトロス」

 

「・・・・・」

 

「どうしたんだ?ロアルトロス」

 

「・・・・」

 

「止まるんじゃない、後がいるんだアルトファンゴ」

 

「うーるーさい!!静かにしててよぉ!」

 

今飛び込もうって時にぃぃ!!てかアルトファンゴってなに!?

 

 

「お前が全然飛び込まんからだろ」

 

「何が好きで下水道に流されなきゃいけないんですか!」

 

「あーもうじれったいなぁ」

 

一向に飛ぶ気配がないアルトをみたアンゼリカはアルトの背に近づいて

 

「ほれ」

 

アルトの背中を軽く蹴った

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

この叫び声と共にアルトは下水道に落ちていった

 

「……お前鬼か?」

 

「別に死ぬわけじゃないでしょ、じゃあ私も行くから後でバファも入ってきて」

 

「待て」

 

アルトに続くように穴に飛び込もうとするアンゼリカを静止させる

 

「あぁ!?…ちょっと!何すんの!」

 

「悪い…だがお前らが行く前に言っておきたいことがあってだな」

 

「ん?」

 

バファは妙に改まって話し始める

 

「お前がさっき見た通り今じゃ人と人が殺し合うなんて当たり前になってる。俺がやったことなんて昔じゃ考えられないだろ?…でも自分の身は自分で守るためなら相手が人であっても容赦をしてはならないんだ…」

 

「バファ?」

 

「つまりだなアンゼリカ……何があっても絶対に人を殺すな」

 

バファの表情が険しくなる

 

「これからの旅の敵はモンスターだけじゃないだろう。反ギルド軍みたいなイカれた連中がお前の命を狙ってくる可能性もある。たとえお前がその気じゃなくても人を殺さなければならない状況がある。しかしお前はその手を人の血で染めてはならない。ずっとお前の帰りを待っていた人達がいるのならなおさらだ」

 

「……わかった」

 

アンゼリカはバファと目線をしっかり合わせ、強く頷いた

 

「頼むぞ」

 

「…じゃあナグリ村で」

 

そう言ってアンゼリカは穴に向かうが…

 

「あ!ちょっと待った!質問!質問!」

 

さっきまでの険しい表情がどこにいったのか、バファが突然思い出したようにアンゼリカを引き止めた

 

「はぁ〜今度はなに?」

アンゼリカはため息をついてバファの方に振り返る

 

「なんでアルトなんだ?」

 

「え?」

 

「だからなんで自分の弟子をアルトにしたんだ?お前ならもっと伸びしろのある子供を引き取ればいい弟子になるだろ?」

 

「それは…そうだけど…」

 

「アルトは弱い。あいつは見たところハンターの素質なんて皆無だ。けどお前はアルトを弟子にした。アルトを弟子にする事が一体何がお前の利益になる?」

 

「…利益なんて関係ないよ。誰を弟子にするかなんて私の自由。そうでしょ?」

 

「……人を育てるのは簡単じゃないぞ」

 

「分かってる。ちゃんと責任を持って強くしてみせるよ。心配しなくていいよ、バファ」

 

「英雄がお師匠になるとはね、世の中は分からんなぁー」

 

「はいはい、ほんじゃ私はこれで、」

 

アンゼリカは穴にの方に向かう

 

「気をつけていけよ」

 

バファはアンゼリカを見送る

 

「…あれ?あんたはこないの?」

 

「だって俺カナヅチだし」

 

「あぁ…なるほど…ね?」

 

アンゼリカは少し苦笑いをした

 

「ほら、早くいけ。じゃないとまた邪魔がーーーうがぁぁ!?」

 

「バファ!?」

 

バファは後ろからいきなり背中を撃たれ、アンゼリカの目の前で膝をついてしまう

 

「バファ!しっかり!」

 

「来るな!早く行け!」

 

バファは咄嗟に自分を攻撃してきた方向に身体を向けて

 

「一体誰だ!!ぐっ!?」

 

しかし身体を向けた瞬間に身体を撃ち抜かれてしまい、撃たれた箇所から出血してしまう

 

「ぐほっ!?…げほ!…いけ!…アンゼリカ!」

 

「でも!あんたその怪我…!」

 

「俺はいい…!傷口が痛むから早く行ってくれ!ぐぉぉ!」

 

バファは駆けつけたアンゼリカが標的になっていることを読み、アンゼリカの前に出て、身代わりとなる形で被弾した

 

「バファ!」

 

「クソ!痛ってぇ!敵の場所が分からん!もう行け!…!!」

 

バファはまた撃たれ、生きてるのが不思議なくらいな出血の量だ

 

「…ごめんバファ!」

 

アンゼリカはバファの言うことを聞かず、バファを撃ってくる敵を倒そうと飛び出してきてしまった

 

「お前…!何してる!」

 

「私の代わりに撃たれたのに黙ってるわけないでしょ!」

 

アンゼリカは敵の目をバファから逸らすため撃った方向にあえて突っ込んでいく

 

「おい!無茶だ死ぬぞ!」

 

「あんたは黙って止血して!」

 

アンゼリカの思惑通り、バファを撃った敵はアンゼリカに狙いを定めて、射撃した

 

「っ!危ないなぁ!」

 

弾は当たらなかった。しかしあとほんの少しでもズレていたら間違いなく当たっていた距離だ

 

「アンゼリカ!……ダメだ!…奴はプロだ」

 

「うぉっと!なんでプロってわかんの!?てか早く応急処置を済ませて寝てて!」

 

アンゼリカは敵の位置が分からないため動き回ることしかできない。しかし今のアンゼリカはとにかく敵の目をバファから逸らすことしか考えてない

 

「クソぉぉぉ!あの野郎!」

 

「あの野郎?…おっと!いけない!止まってたら当たる!」

 

バファの怪我も気になるし…なによりもこのままずっと狙撃手の場所が分からなかったらろくに動けない…

 

それにバファが空けた穴はマークされているからあいつをまずどうにかしない限りここから出られない…

 

「それにあいつ!とにかく射撃が上手い!」

 

アンゼリカは咄嗟に建物の裏に隠れて銃弾から身を隠す

 

「アンゼリカ!そこから動くな!あいつはもうお前を外さないぞ!」

 

傷口を抑え、物陰に身を潜めていたバファがアンゼリカに話しかける

 

「撃ってくる奴そんなに上手いの?」

 

「そりゃあ…俺達と並ぶ筆頭ハンターで射撃の名手だからな…」

 

バファの話し方からもう応急処置は終わったようだ…ならこれからあの狙撃手をどうするかだね

 

「シシドの野郎…ずっと下水道の位置に張り付いてやがったな…」

 

「シシド?もしかしてあいつの名前?」

 

「お前知らないのか?奴はサウスに並ぶ筆頭ハンターだぞ?」

 

「いやだから私引退してからもう結構経つんだよ?」

 

「なぁーにバカを言ってる!まだ若いだろ!」

 

「どこにキレてんのよあんた!…!?」

 

また撃ってきた。牽制のつもりで撃ってるにしてもとてもプロとは言えない乱射って言うか、運任せの射撃ていうか…

 

「動くなよ、顔を出したりしたら死ぬぞ」

 

「でも既にバファは何発かくらってるんだけど…」

 

でもどうしようか…人数では勝ってるけど、何しろ位置が分からない。しかもバファは止血は終わったにしろ負傷してるからまともに戦えない、かと言ってずっとこのまま留まるわけにはいかない

 

「全然進めないじゃん!あぁ!じれったい!もう行く!」

 

「正気か!?死ぬぞ!!」

 

「…ぬわぁ!?」

 

アンゼリカが障害物から出るわずかな時間に相手から弾が飛んできた。咄嗟に障害物に戻ることができたが、完全にマークされている

 

「位置バレしてるうえにこっちは相手の場所を知らない、時間はあっちの方が有利。こりゃあやばいな」

 

なに悠長に状況説明してんの!…でもそうだ。実質ここに閉じ込められている以上射殺されるか、集まってくる憲兵達に捕まるかの二択しかない…

 

どっちもごめんだ…でも一体どうしたら…

 

 

「よいしょ…よいしょ…」

 

完全マークされている2人の悩みを吹っ飛ばす程の新しいトラブルがやってきた

 

「あぁ〜疲れた…アンゼリカさん!なんで飛び込んで来ないんですか!!」

 

「っ!?アルト!?」

 

「あのバカ!?」

 

なんとアルトが下水道に空けた穴を登ってきてしまったのだ

 

すると狙撃手は当然アルトに照準を合わせ

 

「あれだけ人に言っといて!なんで自分がこないんー」

 

「アルト!伏せろ!」

 

バファは咄嗟にアルトを庇い

 

「がぁぁぁぁ!!」

 

「え?…バファさん!?」

 

アルトの代わりに撃たれてしまった

 

「そんな…!しっかりして!」

 

「大丈夫だ…もう引っ込んでろ…」

 

「バファ!アルト!」

 

アンゼリカはシシドが装填する時間を突いてバファとアルトを担いで近くの障害物に隠れた

 

「なんで…なんでバファさんが撃たれてるんですか!」

 

アルトはバファの傷口を手で抑えてアンゼリカを問いただす

 

「裏切り者の始末って感じかな…プロ級のボウガン使いを呼んでまでよくやるね…」

 

「まさかシシド!?どうしよう!みんな殺されちゃう!」

 

シシドの名前を聞いてアルトは半泣きになりながら焦り出す

 

「でも…さっきの一発で場所は特定したよ」

 

「な、なに!?」

 

アンゼリカの一言で弱っていたバファが目覚めたよう上半身を起き上がらせた

 

「場所はどこだ?」

 

「ここの建物から北に方向に数えて4個目の所の二階の窓から撃ってる。でも周りは平らな地形だから行く前に撃たれるんでしょうけど」

 

「いや、それは別にかまわん」

 

バファは無理やり身体を起こして立ち上がる

 

「場所さえ分かれば始末できる」

 

「でもバファさん…血が…」

 

出血がひどい…やばいよこれは!

 

「アルト、お前は邪魔だ。早く穴ん中に戻れ」

 

「でも!シシドにマークされて飛び出したら頭撃ち抜かれますよ!」

 

「大丈夫だ、俺が守ってやる」

 

バファはそう言って建物の壁を無理やり剥がして即席の盾を作った

 

「俺が壁になるからその間に逃げろ」

 

バファはアルトの意見も聞かずに乗り出してしまった

 

「あぁ!」

 

「ほら行くよ」

 

アンゼリカとアルトはバファの盾の後ろについて移動する。穴までの距離はたいして離れていないからすぐに着くことができる

 

「ぐっ!威力はあるな…早く入れ!」

 

「え…でもバファさん…」

 

「早くいけ!」

 

「うわぁぁぁ!」

 

アルトはバファに蹴られ、下水道の穴の中に落ちていった

 

「じゃあバファ。このまま注意を引いてて。私がシシドってやつを倒してくるから」

 

アンゼリカはバファに言った瞬間に盾から離れようとするが

 

「おい待て」

 

「なっ!」

 

バファが片手でアンゼリカの腕を捕まえた

 

「なにすんの!」

 

「ここからは俺1人でやれる。お前も行け!」

 

「なに言ってるのその怪我で!バカ言ってないで私も!」

 

「うるさい!黙って逃げてろ!」

 

「ぬわ!?」

 

バファはアンゼリカを穴の中に投げ入れた

 

「バファ!」

 

「あとは任せとけ!」

 

アンゼリカはバファの自信に満ち溢れた笑みを見届けた後、アルトと共に下水道に落ちていった

 

「よし…任務完了だ。サウス…がはっ!?」

 

即席で作った盾の耐久力は高いはずなく、脆くなった部分から銃弾がバファの下腹部に命中する

 

「がほっ!がほっ!…希望の出発だ…誰にも邪魔させん」

 

バファは盾を投げ捨て、背中に携えていたハンマーを持ち、シシドに立ち向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十六話 水獣

サウスの名前についてですがバンガード・サウスのサウスはパジックの南を守る者という事で与えられた称号みたいなものです。

なのでサウスはファミリーネームでもなんでもないです。

この事は作中で語るほどではないなと思って明記しときました






バファの助けもあり下水道からパジックを出ることに成功したアンゼリカとアルト。

 

しかしパジックの筆頭ハンターのシシドに致命傷を負わされたバファを残す形で下水道に流されることになった…

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!水が!水がすごいぃぃぃぃわぁぁぉ!!」

 

や…やばい!激流すぎるわ!こんなん!

 

「落ち着け!…うわっ!」

 

実は私さっき落ちた時にはこんな流れは強くなかった。

 

むしろ水が溜まってる状態で波なんかなかったからさっき下水道から登る事ができたんだけど今は私の時とは違って波がアホみたいにすごく強い。あのアンゼリカさんでさえまともに泳ぐことができない

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!アンゼリカさん!助けてぇぇぇ!」

 

アルトは状況の変化に戸惑い、身体が素早く流されてることによってパニックに陥ってしまい水の中で無謀に暴れまわる

 

「落ち着けって!暴れると余計に溺れるよ!」

 

アンゼリカは急いでアルトに近づこうとするが波が強くて1ミリも近づくこともままならない

 

「アルト!」

 

「わぁぁぁぁぁ!」

 

アルトは無謀にも暴れ続けるため身体が沈みつつある。アンゼリカもアルトの姿を見て焦って冷静さを欠いていく

 

(まだ流れる距離はある…アルトが溺死するのに十分…本当にマズイ!早く捕まえないと!)

 

「アルト!早くこっちに!…?」

 

アンゼリカはアルトの方に泳ごうとしたときに水の中から何かの影を発見した

 

「何…あれ?」

 

一瞬だけ見えた影だったがアンゼリカにとっては嫌な予感がしてならなかった。何より水の中に映った影が溺れているアルトの方に行ってるように見え、アンゼリカは波をかき分けてアルトの方へ泳ぐ

 

「何かやな予感がする!アルト逃げて!」

 

「え!アンゼリカさん…な、なんて!?」

 

アルトはやっとアンゼリカの声に反応し、知っている人の声を聞いたことにより落ち着きを取り戻して冷静になりつつあった

 

「ぶはっ!…ちょ!やばい溺れ…!」

 

しかし元は泳げないので溺死する危険性はまだあった

 

「アンゼリカさ…!なん…て!」

 

「水の中に!うわ!」

 

アンゼリカはアルトの方に向かうものの波に身体がのまれてしまう

 

「え…み…水の…?」

 

アルトはアンゼリカの言う通りに水の中に潜り、水中の中を確認する

 

(やばい濁ってて全然見えない)

 

アルトはそれでも必死で目を凝らす

 

(ん?……)

 

水の濁りが途端に消え、裸眼でも水の中が十分見えるようになった

 

下水道の中は青い壁で覆われ、一見綺麗な所だ。

 

他にも色々なマークもあって案外面白くてあきない。

 

そして目の前にはスポンジ状の鬣が特徴的な怪物が私をずっと追ってきててすごく怖い

 

 

…え?

 

「ぶぼばばばばばばば!!(ギャァァァァァァ!!)」

 

いきなり目の前に現れたモンスターに私は思わず水中から飛び出すが泳げないので体をジタバタしてパニックになるだけだった

 

「ギギギギギ」

 

水中からなんか聞こえる!怖いよぉぉぉ!!!

 

「アンゼリカさん!助けッ!」

 

アンゼリカさんに助けを求めようとした次の瞬間だった

 

「グギャァァァァァ!!!!!!」

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

水中の中にいるモンスターはその鳴き声とともに私を自身の黄色い鬣で持ち上げ、空中に投げ飛ばした

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!なにこれぇ!」

 

モンスターもまた空中に身体を出しており、全体でなくても頭部から胸部と見られる部分までは見ることができた

 

そしてその一連を見ていたアンゼリカがアルトを助けるためにモンスターの方へ泳いでいく

 

「っ!あれはロアルドロス!なんでこんな下水道の中に!?」

 

(いや、考えるのは後!)

 

早くこっちにあいつの注意を引かないと!

 

「おらぁぁぁぁこのスポンジ怪獣!!アルトから離れろ!」

 

アンゼリカは腰に装備していた双剣を手に、ロアルドロスの方へ切り込んでいく

 

「わぁぁぁ!くるな!くるな!」

 

「ギャォォォォ!!」

 

ロアルドロスはアンゼリカに目もくれずアルトを集中して狙う。

 

しかし後ろからの殺気に感づき、体を華やかにくねらせて尻尾を器用に使って後ろから迫り来るアンゼリカを弾き飛ばす

 

「ぐあぁ!?」

 

「あ、アンゼリカさん!」

 

「ギャァァァァァァ!!!」

 

邪魔者を始末したロアルドロスは再びアルトをターゲットに変える。水中に潜り、アルトにどんどん距離を詰める

 

「やだやだやだ!こないで!こないでよぉ!!」

 

大きな影がアルトの真下に移動する

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「アルト!」

 

アルトのピンチにアンゼリカはすぐさま水中に潜り、ロアルドロスに泳いで近づく

 

(こいつやっぱりアルトで遊んでるな…アルトの反応を楽しんでる…私が見てきたロアルドロスの中でも一番性格悪いよ)

 

ロアルドロスが油断している隙をついてアンゼリカは双剣をロアルドロスの鬣に向かって突き刺した

 

「!!!!!」

 

いきなり感じた痛みにロアルドロスは暴れ出した。アンゼリカはロアルドロスに跳ね飛ばされてしまう

 

「ぶはぁ!」

 

アンゼリカは怯むもののロアルドロスを自らの目線から逃さず、再びもう一度ロアルドロスの方へ泳ぎだす

 

「ギィ…」

 

ロアルドロスはアンゼリカをまず始末することを優先し、体を急旋回してアンゼリカに襲いかかる

 

「っ!アンゼリカさん!化け物がそっちに行きました!」

 

「ギャァァァァァァ!」

 

(遅い!)

 

アンゼリカを食い殺す勢いで突進してきたロアルドロスだが、アンゼリカに避けられたうえ下水道の壁に激突して頭を怯ます

 

(今だ!)

 

アンゼリカはすぐにロアルドロスにしがみついて自身の双剣でロアルドロスの鬣を中心にグサグサと刺していく

 

「ギィ…ガァ!!」

 

ロアルドロスは身体を回し、アンゼリカを自分の体から離す

 

(チィ…やっぱり水中だと鬣が膨らんでうまく身体に刺さらない…)

 

さすがは水獣、地上だとめちゃくちゃ弱いくせに。

 

「ギャァァ!」

 

(やっぱり突進してくるか!)

 

ロアルドロスはアンゼリカに向かって嚙み殺そうと速度を落としてアンゼリカに接近する

 

(鬣とかの破壊にこだわる必要はない、水分を含んで鬣が膨らんで双剣なんかじゃ身体にダメージは期待できない。なら危険を冒しても頭しか狙うところはない)

 

ロアルドロスはアンゼリカとの距離が詰まると自身の牙でアンゼリカを食い殺そうとする

 

(動きは単純!)

 

アンゼリカは難なく避け、右手の剣でロアルドロスの頭部にめがけて突き刺した

 

「ギィィィィァァァァァァ!!!!!!」

 

悲痛な声を上げてロアルドロスは頭を横に振ってアンゼリカを引き離そうとする

 

(効いてる…あともう一回!)

 

左手の剣でもう一度刺そうとするアンゼリカだったが

 

「ギシャァァァ!」

 

ロアルドロスが頭にしがみつくアンゼリカを下水道の壁にぶつけさせた

 

「ぶはぁぁぁ!」

 

アンゼリカは壁にぶつけさせられた衝撃で身体全体が痺れる

 

(て…敵ながらアッパレ…)

 

「ガァァァァァァァ!!」

 

ロアルドロスはアンゼリカが怯んだ所で噛み付いてくる

 

「!!?」

 

アンゼリカは態勢を立て直し、水中の中で一回転をして噛み付いてくるロアルドロスの頭を蹴飛ばした

 

そして両手に持つ感を握りしめて再度ロアルドロスの側面に移動し

 

ロアルドロスを滅多斬りにして着々と体力を減らす

 

「グッ!!!!!!ガァァァァァァァ!!」

 

(これじゃあ倒すまでかなり時間がかかっちゃうなぁ…)

 

アルトは…よし、まだここから遠い所で流されてる

 

「ガァァァァァァァ!!」

 

にしてもこいつ戦ってきた中でのロアルドロスよりもよく叫ぶな…下水道生活にストレスが溜まってたのかな?

 

「ギシャァァァァァ!!!!」

 

(なんて悠長なこと言ってる場合じゃない!)

 

アンゼリカは抵抗するロアルドロスに振り回させるものの鬣から離れはしなかった。抵抗のタイミングを見計らい、ロアルドロスの頭部に移動していき、ロアルドロスの頭部に向かって剣を刺した

 

「グァォァァォァァァァ!!!!」

 

頭を何十回も刺され続けられ、ロアルドロスは水中で血を流しながら下水道の壁に身体をぶつける

 

アンゼリカは壁にぶつけさせられる前に移動し、ロアルドロスの動きを読み、的確に追い詰めていく

 

(頭は流石に効いたか、あと少し…)

 

暴れるロアルドロスを物ともせず頭を重点的に刺しまくる。明らかに手数で押す戦法だが、相手の傷は深まっていき、ロアルドロスの動きも鈍っていく

 

「ガァ…ガァァァァ!!」

 

大量に血を流し、辺りの水を血で赤く染めるロアルドロスだが、決して逃げようともせず、身体をくねらせたり、牙をアンゼリカに向けて不利な状況であるにも未だに逃げ出す気はない

 

(まだ戦う気?もう両目も刺しまくって顔面が血だらけだっていうのに…王のプライドか…)

 

ロアルドロスの気迫に押されて一瞬手を止めた

 

「ガァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

手を止めた一瞬。ロアルドロスは暴れ、アンゼリカを引き離し、再度アンゼリカを食い殺そうとアンゼリカに噛み付いてくる

 

(でも読めるんだよね…)

 

襲いかかるロアルドロスの頭上を華麗に泳ぎ、その上から自身の双剣に力を込めて

 

(これで終わり!)

 

ロアルドロスの頭部に思いっきりぶっ刺した

 

 

「ギィィ……ガ…ァ…」

 

刺された瞬間、アンゼリカをじっと見つめる…アンゼリカを黄色い瞳で睨み続け、時間が経つにつれ、ロアルドロスは水中の底に沈んでいった

 

水中に沈んでいく間も決してアンゼリカから視線を逸らすことはしなかった。水中を赤く染めながら緩やかに水中の底に沈んでいくロアルドロスをアンゼリカは見えなくなるまで見届けた

 

 

「・・・・・・・」

 

アンゼリカはロアルドロスを倒しても何かの達成感など感じず、アルトの安否を気にして急いで下水道の出口の方は泳いでいく

 

 

ロアルドロスと戦っていた時だろうか、さっきまで泳ぐことすら困難だったあの激流がうそみたいに静まっていた

 

途中から泳ぎやすくなって戦いやすかったと思ったらこんなカラクリが…

 

 

「あ、アンゼリカさん」

 

アルトは泳いでくるアンゼリカに手を振った

 

見たところロアルドロスが暴れた時に割れた壁につかまっていたらしく、アンゼリカの助けがなくても溺死はしなかったようだ

 

「アルト…ふぅ…良かったぁ…」

 

アンゼリカはアルトがつかまっている壁の一部にぐったりと倒れた

 

「あぁ!気を抜かないで!まだあの化け物が!」

 

「大丈夫…ちゃんとやっつけたから…」

 

アンゼリカがそわそわと落ち着かない様子で辺りを見回すアルトを笑顔で優しく撫でる

 

「え?もう!?まだ3分も経ってな…なんかぐったりしてますけど大丈夫ですか!怪我してません!?」

 

「もう…心配しすぎ…」

 

なんかホントに体調悪そう!

 

「本当に大丈夫なんですか!しっかりしてください!」

 

「大丈夫だって…息止めながら戦ってたから身体が疲れを感じてるだけ…少しだけ休んだらすぐ復活するから」

 

「……アンゼリカさんが言うと説得力ありますね」

 

「なぁーにそれ、でもこの壁いいねぇ…ちょうどいい」

 

「あ、これですか?気づいたら私の隣にプカプカと浮いてきたんですよ」

 

「へー…そう…」

 

(やっぱり久しぶりの水中戦でものすごく疲れたんじゃ…)

 

アンゼリカさんは私の頭を撫でながら静かに目をつぶっていった。そして撫でていた手も動かなくなって眠りについてしまった

 

「え…えぇ!?…ってよく考えたらアンゼリカさん結構動いてるし、仕方ないよね…」

 

 

生きてくれているだけでまだマシ…今だから心配する余裕がある。

 

 

 

 

バファさん大丈夫かな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆アンゼリカとアルトを逃して数分経った後。バファは下水道の穴の近くで大量の血を背に倒れていた

 

 

 

 

 

 

(俺は死んだか…?)

 

 

いや、死んでるならこんな痛い感覚はないだろう…じゃあまだ生きてんのか俺は…しぶとくなったなぁ俺も。

 

いや…そんなことはどうでもいい、アンゼリカは?アルトは?

 

 

ちゃんと逃げたんだろうな?じゃなきゃ俺が今倒れている意味なくなるぞ、たまにすごい威力の衝撃があるやつ受けたけどあれ絶対徹甲弾だろ…ガチでいてぇ

 

でもそれで俺生きてんのか…全く最近の装備は硬いな

 

 

「ガフッ!?」

 

バファは血を吐き、意識を取り戻す

 

「あーくそ、いて、なんで筆頭ハンターの俺がこんな目に会わなきゃいけないんだよ…いてて」

 

バファは愚痴をこぼしながら傷だらけの身体をハンマーを杖代わりに立ち上がる

 

 

「おいおいおいおい嘘だろ!?あんだけ撃ったのにまだ生きてんのか!?」

 

「…こんなときに」

 

血だらけのバファ前でボウガンを構えながら1人のハンターと思われる男性が近寄ってくる

 

「シシド・・・・・・ぶは…はぁ…」

 

「うわ、きったね、血なんか吐きやがって」

 

シシドは顔を歪ませてバファの顔をみる

 

「だったら火炎弾とか撃ってくるな…めちゃくちゃ痛かったぞ…」

 

「それで生きてるお前がイカれてんだよ」

 

バファの言葉を否定するように早口で喋って怒りをこめた弾を空中で撃ちまくる

 

「撃つなって元はと言えばお前がいけないんだぜ?"偽"の英雄を放ち、今の国を混乱に陥れようとした。許される行為ではないぞ?」

 

(偽だと…)

 

バファはシシドを睨み、口を開く

 

「少し…勘違いをしているな…俺は混乱させる気なんてない…俺は本来あるべき世界にするために奴を逃した」

 

「本来あるべき姿?今がそうだろ、本来あるべきパジックの姿だ!マガラ王の邪魔になるクソ野郎を逃しておいてなんでそんな言葉が出てくる!」

 

「偽物呼ばわりした次はクソ野郎か…シシド…お前はつく側を間違えているぞ。お前のような奴はマガラ王につくべきじゃない。騙されている…今の世界が本来あるべき世界なわけがない、少なくとも昔より酷くなっている…人同士で争って、ハンターはモンスターだけではなく人を殺し、発展のため成長のためと言って子供や若い奴を巻き込んで意味もない争いに参加させる…この言葉の意味がわかるか?言葉で簡単に説明できているが俺が言っている内容は重いぞ!シシド!なぜお前はマガラ王の操り人形になっている!」

 

「黙れよ」

 

シシドはバファに向かって引き金を引く

 

「ガァッ!?…クッ…」

 

弾はバファの胸部に命中した

 

「なんで撃たれたってのに簡単にベラベラと喋ってんだよ…クソが!」

 

シシドはバファの頭に照準を合わせる

 

「バファ!お前は終わりだ…国に歯向かった…パジックは終わらせんぞ…逃したガキと女は俺が殺す」

 

「お前…本気で言っているのか…?今の言葉もう一度言ってみろ!」

 

「あぁ…殺す…マガラ王のためにガキと女は始末する…まずはお前を殺した後でな!!」

 

シシドは不敵な笑みを浮かべてバファを頭にボウガンの先を突きつけ

 

「し・・・ね・・・」

 

そう言い残してバファを笑いながら引き金を引こうとするシシドだったが

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!いってぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!!」

 

「…は?」

 

 

しかし先に悲鳴をあげたのはバファではなくシシドの方だった。

 

シシドの身には胸のあたりに何やら大きい刀のようなものが刺さっており、シシドの顔が痛さで崩れていくようにくしゃくしゃになる

 

この刀の大きさはバファはすでに見覚えがあった

 

「バファ、立てるか?」

 

「サウス…」

 

シシドを背後で指しているのはサウスだった。サウスはバファに言葉をかけた後、すぐに刺している武器を抜き、シシドを横に蹴ってバファの元に歩み寄る

 

「あぁぁぁぁ!!!!いってぇ!!!チクショウ!!!」

 

シシドは傷口の部分を手で塞ぎ、地面で悶絶する

 

「血だらけだな…大丈夫か?」

 

「大丈夫…ではないな…いてて…」

 

「思ったより深刻そうだ。これは下手に動かさない方がいいな」

 

「あぁ…でも傷は治さないと…サウス、応急薬持ってるか?」

 

「ほらよ」

 

サウスは懐から応急薬を取り出してバファの方は投げる

 

「おっと…ありがとな、ゲホッ!ゲホッ!」

 

「ふざけんな……ふざけんなァァァァ!!」

 

シシドがボウガンの照準をサウスの方へ向ける

 

「静かにしろ」

 

「ア"ア"ア"ア"!!!!!」

 

しかしすぐに見切られ、サウスの抜刀によってシシドは右手を切断されてしまった

 

 

「バファ、どうだ?」

 

「ウマイ…瀕死の状態の応急薬は格別だ…」

 

バファはそう言って応急薬を飲み干していく

 

「あぁぁぉぁぁ!!!俺の腕がぁぁぁぁ!!!」

 

「うるさいな…って思ったらお前シシドか、悪いな大事な腕を切り落として」

 

「てめぇ…サウス…!!!なんのつもりだぁぁぁぁぁ」

 

シシドはなくなった右手を抑えて怒り狂う

 

「サウスゥゥゥ!!!貴様がなぜ俺を!!」

 

「なぜって…俺がお前を絶対攻撃しない理由ってあったか?」

 

サウスは頭をかきながらバファの方に聞く

 

「いや俺に聞くなよ…」

 

「俺と…サウスは…同じ主君に忠誠を誓った仲だろ!!なぜこんなバカのためにその太刀を振るう!?」

 

「主君に忠誠……あぁマガラのことだな、お前まだマガラの脳なしに忠誠誓ってんのか」

 

「お…お前!マガラ王を…!なんて呼び方で!!」

 

「あんなバカに忠誠を誓う気はさらさらない。それに俺はあんな奴のお守りよりやりたいことがあるんだ」

 

そう言ってサウスは太刀を納める

 

「俺はもうパジックのハンターではない。新しい希望が現れた。もう奴に従う理由なんてない」

 

「お前…まさか!やめろ!!絶対ダメだ!」

 

シシドは焦り、左手でボウガンを掴み、サウスに照準を合わせる

 

 

「ダメだ!絶対に…パジックは終わらさん!」

 

「お前マジか」

 

 

「マジだ!サウス!貴様はもうパジックの誇り高き戦士ではない!これよりお前を撃ち殺す!覚悟しッー」

 

次の瞬間。シシドの首は宙を舞った

 

シシドはサウスを撃つ前に後ろからジスターによって首を爪で切断され、サウスに対し、全てを言う暇を与えられずそのまま残された身体はバタンと地面に倒れた

 

ーシシド 死亡ー

 

 

「…おいおいジスター、ここは俺がやる場面だろう?」

 

「・・・・」

 

ジスターは知らん顔で地面に自身の爪を削る

 

「ジスターは相変わらずだな…敵に全く容赦がない…」

 

バファはシシドの亡骸を見た後、サウスに質問する

 

「おい、これどうする。こいつはあくまでも筆頭ハンターだ。それにこの綺麗な断面は俺たちだと即バレるぞ?」

 

「言い訳はいくらでもできる。それより早く傷を治せ」

 

そう言ってサウスはその辺の岩に座り、太刀を研ぎ始める

 

「で、逃したか?」

 

「あぁ…ちゃんと逃した。安心してくれ」

 

「そうか…その様子だと、ガキも一緒に逃したな」

 

サウスの指摘にバファは体をビクつかせる

 

「俺は言ったはずだ。逃すのはアンゼリカだけだ。ガキは邪魔だ」

 

「サウス…1人くらい子供が増えたところで計画に支障はない…そうだろ?」

 

「だが可能性は捨てきれない。なんせ奴はスレイブドローン。何かやらかす」

 

 

「やらかすって…あいつは子供だ、スレイブドローンなんて関係ない」

 

「…だといいんだがな」

 

サウスは太刀をしまい、岩から立ち上がる

 

「バファ、お前は少し寝てろ。ジスター。後片付けがまだだ。一緒に来い」

 

サウスの呼びかけにジスターは爪研ぎをやめてサウスの元に走り出す

 

 

「…ルイスは?」

 

1人だけ欠けていることにバファはようやく気づいた

 

そしてその質問にサウスはめんどくさそうに答える

 

「あいつは今、200人組手の最中だ。己の限界を超え、ハンターという鎖に終止符を打たんとしている」

 

「そう言って、ほんとは全部押し付けてきたんだろ…」

 

「愛のムチって言ってくれ」

 

「お前の場合ムチだけだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十七話 撃退

「サウスさーん!」

 

戦場に響く発砲音、金属が擦れる音が蔓延る中、ルイスの声が響く

 

「…ルイス」

 

バファを治療し、その場から離れたサウスはルイスと偶然にも出会ってしまった。

 

サウスからしたら結構予想外な事だった

 

「お前早くないか?まだ戦ってもおかしくないだろ」

 

筆頭ハンターと呼ばれ、その地位に立つルイスの実力は他のハンターよりかは優れている。しかしいかに筆頭ハンターといえど何百人も相手をするのは辛い

 

筆頭ハンターとしては新米のルイスがこんなに早く帰ってくるはずがなかった

 

「いや!そんなことよりもバファさんは!?死んだんですか!?」

 

ルイスはサウスとジスターを見て、1人いないバファについて質問する

 

「いきなり縁起の悪いことを言うな…」

 

サウスはルイスを連れて東門へ向かう

 

「生きてるよ、だが負傷して動けない状態にいるだけだ」

 

「なんだ…よかったぁ…」

 

緊張が解かれたのか興奮気味だったルイスが次第に落ち着いていく

 

「で、お前どうした?なんでこんな早いんだ?」

 

「え?速さとか聞いちゃいます?普通俺の安否じゃないですか?」

 

「どうでもいい、早く教えろ」

 

「俺に対して無関心すぎるだろ!」

 

そう言いつつもルイスはサウスの隣で歩きながら喋り出す

 

「実は助け船がきましてね…すごかったですよ?たった1人なのにあんなクールに反ギルド軍を始末していくあの技量、あれはまさに美の象徴!新しき芸術と呼べる…」

 

ルイスはサウスの肩に馴れ馴れしく手を乗っけて熱く語る

 

サウスはその行為に無視するも、ルイスのそのハンターに対する絶賛の声に疑問を膨らませ

 

「それノースの事だろ」

 

「ギッッッッック!?」

 

ルイスは一発かまされたような引きつった顔をした

 

「お前が美しいとか思うのは大抵女だ」

 

「うわぁ…やっぱわかっちゃうか〜」

 

女好きのルイスということがヒントとなり、一発で当てられてしまった。人を見下す傾向にあるルイスが簡単に人を評価するなどあり得ないのだ

 

 

「…だがノースがいればもう行く必要はないな。よし、ルイス。お前は俺がきた道戻ってバファを医療施設に運んでやれ」

 

サウスは目的の場所に用事がなくなったため、動けないバファを回収することにした。時間短縮のためここは一番足の速いルイスに行かせる

 

「ええええええ!めんどくさぁいなぁ!」

 

ルイスは子供のような声を上げて嫌がり、顔をしかめる

 

「おいおい、先輩の言うことが聞けないのか?不本意だがお前しか頼れない」

 

サウスは予想していた回答だったため、あまり刺激させずに物事を頼む

 

「嫌だと言ったら???」

 

「一生彼女できない顔にしてやる」

 

「い、!行ってきます!!」

 

そう言いながらルイスは準備運動をしっかりして、バファの方へ走り去っていった

 

さっきまでの煽り態勢はなくなり、逃げるように走っていく背中はさながら小物のようだ。

 

そしてその背中を見送りながらサウスは一人で考え込んだ

 

「ノースまでも出てきたか…厄介だな」

 

「・・・」

 

ジスターはサウスの足をつんつんとつついて、ルイスと真反対の方へ指をさした

 

「どうしたジスター?」

 

「・・・」

 

ジスターが指をさした方向から何十人かの兵士がこちらに走ってきた

 

「ありゃあ正規軍か…なんか今日対応が早いな」

 

(まぁどうせあの女の仕業だろうが)

 

「ジスター、まだ面倒ごとは続きそうだ」

 

「・・・」

 

「そう沈むな。お前はまだ喋れないからいいが…記者からの質問がめんどくさいだろうなぁクソ」

 

その気にならずともサウスは正規軍に向かって手を振る

 

 

 

 

 

 

「アンゼリカさん!起きて!」

 

一方アルトとアンゼリカはロアルドロスから逃げたものの

 

 

「・・・・」

 

気を抜いたアンゼリカは眠りについてしまった。陸に上がった後、アルトに引きづられてもなお全然起きる予兆を見せない

 

 

「あぁ!疲れていることはわかってるけど何もこんなタイミングで寝なくても!どうしよう…今モンスターきたら…」

 

しばらく流されてたからもう周りは森、見事に木々が生い茂っておりまする

 

でも同時にモンスターが生息している可能性は十分にある。いや100%絶対いる

 

だから今の状況はすごくやばい!

 

「起きてよぉぉ!アンゼリカさん!」

 

アルトはアンゼリカの身体を揺するが全く起きない。ほっぺをつねったり強めの刺激を与えても起きてくれない

 

「やばい全然起きてくれないじゃん!」

 

アンゼリカさんが起きてくれないと2人とも死んじゃうよ…なんせ私まだ小型のモンスターに勝てたことなんてないんだから

 

「と、とりあえず!安全そうな所でアンゼリカさんを休ませないと」

 

そう言ってアルトをアンゼリカの身体を引きずって近くの木の穴の所でアンゼリカを横にさせる

 

「はぁ…はぁ…筋トレ…しないとなぁ…」

 

アンゼリカさんを少し運んだだけで両腕が痛い。明日筋肉痛になってそうだ

 

「・・・」

 

「にしてもいい顔で寝るなぁこの人」

 

アンゼリカさんも人間だから寝るのはあたりまえか

 

でも…

 

「どうしよう…もうパジックにいられないし、ナグリ村の場所なんてわかんないよ…今この場所だって安全じゃないし…何より…」

 

アルトは腰から一本のナイフを出した

 

「これでどうしろと…はぁ…アンゼリカさんが動かなくなるだけでこんなに絶望感を感じるとは…」

 

(…あ、やばい眠気が…)

 

アルトは目をこすり、なんとか起きようとする

 

(見張りぐらいはちゃんとしないと…アンゼリカさんとはいえ奇襲されたらなすすべなくやられちゃうよ)

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

「なんか寂しい」

 

アルトはチラッとアンゼリカの寝顔を見つつ、暇つぶしで地面にあふ小石を拾い

 

「おりゃ」

 

木にぶつける

 

「はぁ…何が楽しんだが…」

 

自分の行動に自分で馬鹿らしく思ってしまう。実際いつモンスターがくるのかという不安と暇さと眠気で色々私の思考回路がショートしつつある

 

「アルト…なにしてんの?」

 

「!!!」

 

そんな私の様子を見ていたのか、アンゼリカさんが心配気味で私の肩を叩く

 

「あ、アンゼリカさん!?起きてたの!!」

 

「いや、近くの木に何かあたった音がしてつい…」

 

え、まさか寝てても近くの音に反応できんの?私見張りする必要なかったなぁ〜

 

 

「で、ここはどこ?」

 

「森の木の中です。私が運んだんですよ?」

 

「アルトが運んでくれたの?偉いねー」

 

そう言ってアンゼリカさんは私の頭を強く撫でてくれた

 

でも運んだっていうよりは引きずった方が正しいか…

 

「ということは無事脱出だね、早くナグリ村に行きたい所だけど…」

 

アンゼリカはアルトの方に視線を向けて

 

「…ふう、まぁいいか」

 

アンゼリカはため息をついて地面に寝っ転がる

 

「え、なんで私を見てため息を…」

 

「気にしない、気にしない!今は休憩時間だから静かに…ね?」

 

「ね?て……あ!」

 

アルトは何か思い出したのか地面で横になるアンゼリカの身体を揺らして聞いてきた

 

「アンゼリカさん!私を強くする話!あれどうなったんですか!」

 

「え?………あ」

 

(あーーーー!忘れてたーーーーー!!!)

 

アンゼリカは一瞬ポカーンとしたが、アルトの話の意味を読み取ると、顔が一気に真っ青になった

 

「も、もももももももちろん覚えてましたわよ、ほほほはひふへほー♩」

 

「嘘つかないでください!めっちゃ動揺してんじゃないですか!」

 

「ど…動揺なんて…ベテしゃんのはんつ…つて…覚えてたよ!」

 

動揺して噛んでる!ベテランのハンターって言えてないもん!

 

「私は別に忘れていた事を責めようなんて思ってないです!でも…私は本気で強くなりたいんです…あなたのようなハン」

 

「別に忘れてないし!覚えてたよ!」

 

「いやそこに怒るの!?」

 

「ちょっと…あれだから!疲れて忘れてただけだからんな!」

 

忘れてるって言ってる!

 

「ちょ…アンゼリカさん?なんかボケがひどくなってませんか?」

 

「余計な心配しなくていいの、ほら寝ろ!今しか寝る時間ないんだから!」

 

アンゼリカさんは私を身体を無理矢理横にして目部分を手で隠してきた

 

「いやでも言動とかな山の上の高齢師匠みたいな言い方ですもん!」

 

「ボケをする年齢じゃないよ、私まだ二十代前半真っ只中だし」

 

え?わ…若!!若すぎない!?

 

じゃああの古龍倒したの何歳の時なの!?

 

「え…20前半?…え?」

 

「なぁに?アルト?もしかして私のことおばあちゃんとかそんなこと思ってたのぉ?」

 

「い…いえそんなこと」

 

少なくとも成人してない時に世界救ったってことじゃん!

 

「まぁよく考えて私みたいなワカゾウが世界救ったっとかだーれも信じちゃくれないし、私を題材にした絵本とか全部年取った感じで描かれてるし、失礼しちゃうなぁ」

 

…確かにアンゼリカさんをおばあちゃんと思ってる人は少し失礼ですよね

 

「アンゼリカさん、一つ聞いていいですか?」

 

「ん?どうしたん?改まって」

 

「アマツマガツチ倒した時って何歳ですか?」

 

「・・・」

 

私の発言に場は凍りついた。ちょっと和んでいた空気が一気に冷たくなったのを感じられる

 

 

 

「え?私なんか失言しました!?」

 

「・・・」

 

「あ、あの!なんこすいません!ほんと!」

 

「・・・」

 

アンゼリカさんは何も喋らない

 

「ごめんなさい!よく考えたら女の子に年齢を聞くなんて私がバカでしたぁぁ!」

 

「・・・」

 

アンゼリカの身体が少し震える。実はアルトの反応を少し楽しんでいたのだった

 

「はーいはいはい、少しイジワルが過ぎました。ごめんごめん」

 

「演技とかひどいですよぉ…」

 

「なんで泣きそうになってんの…あんたホント泣き虫だよねぇ」

 

そう言いつつアンゼリカはアルトの背中を優しくさする

 

「で…一体何歳から…」

 

「それは内緒」

 

「ええ!教えてくれないの!」

 

アルトは上半身を起こし、アンゼリカの方に自らの顔を近づける

 

「私が何をいつ、何歳で倒したなんて誰もキョーミないの、昔は昔、今は今。でしょ?」

 

「そうですけど…個人的には興味が…」

 

「うっさい。寝ろ!」

 

「わぁぁぁ!?」

 

アンゼリカはアルトを強引に地面に横にさせる

 

「ねぇねぇ、アンゼリカさん!気になって眠れません」

 

「目を閉じていれば寝れる」

 

「気になって眠れません!教えてください!」

 

「あー!しつけえぇ!!」

 

アンゼリカは両手で耳を塞ぐが、アルトがしつこく身体をゆするため、長続きしなかった

 

「じゃあ…アルトが1人で大型モンスター狩れたら、なんでも教えてあげる」

 

「え?…それは…その…」

 

さっきまでしつこかったアルトだっだが、アンゼリカの提案に動揺し、次第に静かになる

 

「じゃあ…私はこれにて眠ります…」

 

「あ!ちょっと待て!」

 

アンゼリカが寝返りをしようとするアルトの身体を掴んで、行動を制限してきた

 

「アルトちゃーん?あれだけ聞いてきたんだからそれなりの努力はしないと…ねぇ?」

 

「いや…えっ…と…そ、それは…」

 

さっきまでとは違い、完全に逆転負けだ。しつこく聞いたバチが当たった…

 

「…アルト、ハンター目指すなら大型モンスターを狩猟するのは当たり前。挑む前に怖がってちゃ勝てるもんも勝てなくなるよ」

 

「で…でも私まだそのへんの小型にも勝てな…」

 

「だっから私がいるじゃん!なんのためのお師匠様だと思ってんの?」

 

「・・・」

 

アンゼリカさんから鍛えてもらえるのは光栄だ。でもよく考えて私が本当に強くなれるのかが心配になってきた

 

「…はぁ…モチベ大事だからねぇ…じゃあ、アマツ様倒した年齢だけじゃなくて、もしもアルトが大型モンスター狩れたらアルトの言うことなんでも聞いてあげる」

 

「な…なんでも?」

 

ま…また?

 

「破格の提案じゃない?伝説のアンゼリカちゃんから2度も言うこと聞いてくれるんだから」

 

「そ…それは…」

 

アルトの顔が沈む

 

「…あれ?嬉しくないの?」

 

「い、いえ…でも強くしてくれるだけでありがたいのにそれ以上アンゼリカさんに何か求めるなんて…図々しいというか…」

 

アルトの話を聞いたアンゼリカだが、少し驚いた表情を見せる

 

「…ふふ、あんたあんまし欲がないね、でも…」

 

「!!!」

 

アンゼリカは自身の両手をアルトの顔を自分と向かい合わせる

 

「もらえるもんは貰っとかないと損だよ」

 

「〜っ!!」

 

アルトの顔が赤くなっていき、自身の顔に触れているアンゼリカの手を無意識に振り払う

 

「た、たたたたおち…倒してならですよ!たお…倒し…てからまたその話をしましょう!」

 

「ぷっ、アルトも噛んでんじゃん」

 

「い、いきなりあんなことされたら噛みますよ!」

 

「え?顔近づけただけなのに?」

 

「自覚ないんですか…」

 

アルトはすっと立ち上がり、アンゼリカから離れる

 

「あれ?どうしたの」

 

「少し外の風に当たろうかなと」

 

「ほう…どれどれ」

 

アンゼリカはアルトの後につづき、木の下から外へ出た

 

「お!すっごい綺麗!」

 

アンゼリカはというと風というより空の夜景に感心を持った

 

「…てかもうこんな夜に…早いな」

 

「ずいぶんと長く流されてましたからね、アンゼリカさんは寝てたけど」

 

アルトはアンゼリカの方を強く睨んだ。

 

まだモンスターの脅威があるというのにも関わらず、1人勝手に寝てしまったアンゼリカに対して少し怒りを覚えていたのだった

 

「あ、あれはですね〜えーと…すまん」

 

「…別にいいですけど」

 

そっぽを向くアルトだが、本心ではもう怒っておらず、ほかの事に気がかりだったのだ

 

「アルト?」

 

早く勘付いたアンゼリカは1人沈むアルトに声をかけた

 

「アンゼリカさん…」

 

アルトはアンゼリカの声に反応し、アンゼリカと向かい合う

 

「私の姓、スレイブドローンって一体なんなんでしょうか?」

 

あの時は深く考えなかった。アンゼリカさんは無縁だけど。私は聞かずにはいられなかった

 

「バファさんが言ってました。私は人殺しの疑いが無くてもどのみちスライブドローンという名前だけで始末されるだろうって」

 

「アルトが?どうしてそんな…」

 

「分かりません。私も最初は嘘だろうと思い込んでました。でもサウスさんのあの目。あの発言は本気で私の事を嫌っている様子でした…今はパジックから出てもう殺されることはありませんがね」

 

アルトはアンゼリカに苦笑いをする。だがアンゼリカの方は腕を組み、アルトの相談に言葉が出なかった

 

「でも気になります。原因は絶対私の親、特に父親…世代を超えて姓だけでこんなに嫌われるなんて一体どんな事を…」

 

「…アルト、私はそのスレイブドローンについてよく知らない。だからアルトの姓を聞いても嫌がらなかった。でもそれって私がアマツを倒してから7年の間にアルトのお父さんがなにかやらかしたってことでしょ?」

 

「!」

 

(やっぱり相談してみるものだよね…)

 

アルトが静かに喜んだ。父親の真相に近づけるかもしれない。何故自分が孤児院に入れられたのか知る事ができるかもしれない。そんな期待に胸を膨らませてる時だった

 

「けど…もうあんたのお父さんには関わらない方がいい」

 

「え!」

 

まさかの一言。冗談で済まされるかと思ったけどアンゼリカさんの顔は真剣だ

 

「国が動いて消しに行くほどの嫌われようは危険すぎる。その真相を探ろうとするならなおさらだよ」

 

「え…でも!」

 

「諦めたくないのは分かる。でもこの件は人が大勢関わってる、私1人じゃ力になれない」

 

さすがのアンゼリカも国が相手となるとお手上げだ。いくら英雄といえどできる事とできない事は限られる

 

「それに加えてリスクが大きい反面得られる恩恵が少ない。危険を冒してまでも知るほどの情報ならまだしも、ただの過去に起こった犯罪を知るだけなら危険を冒す必要がない」

 

…確かに

 

「生きることが大事、なんにせよ今じゃなくてもできる事だから深く悩む必要はないよ」

 

「そうですね…後からでも」

 

今悩む必要はない。それに気づいたら少しかが楽になった

 

「話を聞いてくれてありがとうございました」

 

「うん…でもあんまり力になれなくてごめん」

 

「そんなことはないです!解決はしなくても、聞いてくれるだけでも心が軽くなりましたから」

 

「・・・」

 

アンゼリカは一瞬驚いた表情を見せ、アルトの頭を撫でる

 

「…沈んだ話は終わりだ終わり!」

 

アンゼリカはパンパンと手を叩き、その場の空気をぶち壊す

 

「わたしこんなシリアス嫌い!向いてない向いてない!」

 

「いや向いてるも向いてないも関係な…」

 

「はいアルト話を戻すのはやめよーまたくどくど気分が沈むは嫌なの!最近物騒な事が多いし!」

 

「あー確かに…て大丈夫かな…バファさん達」

 

「だから沈んだ話すんな!ほら行くよ!」

 

また気分が沈みつつあるアルトの手を無理矢理引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。

 

アルトの方はその力に抵抗することなくずるずると引きずられる

 

「あだい!いだいだい!ちょ!アンゼリカさん引っ張らないで!…どこに行くんですか?」

 

よく考えると今の時間帯からどこに行こうと言うのだろうか?

 

寝る気満々だったはずのアンゼリカの矛盾した行動にアルトは困惑する

 

「え?マジでどこに行くんですか!」

 

「何って決まってるでしょ?気分が落ち込んだ時、身体が汚れた時に行くところ、あるでしょ?」

 

え〜あったかな〜そんな場所

 

「……採取クエスト?」

 

「んなわけないでしょ!」

 

私は気分が落ち込んだら楽な採取クエを受けるんだけど…

 

「じゃあどこに?」

 

「気持ちいい所♫」

 

「……はにゃ?」

 

アンゼリカのごく自然な発言にアルトは凍りついた

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十八話 黒いアンゼリカ

太陽が沈み、すっかり暗くなった森の中で私はアンゼリカさんに手を掴まれてどこか連れて行かれる。

 

アンゼリカさん曰く「気持ちいい所」らしいが私からしたら不安で仕方ない。

 

夜に気持ちいいって…私なんかされるんじゃないかと警戒心MAXだ

 

「え…と…確かここに…」

 

アンゼリカは森の深くまで入り、何を探しているのか辺りをキョロキョロと見渡す

 

「はぁ…はぁ…」

 

アルトはアンゼリカに引っ張り回されたため汗だくになり、疲労も溜まっていった

 

「うぇ〜汗が気持ち悪い〜アンゼリカさんもう休みましょうよ」

 

「ちょっと待って」

 

来た道を戻ろうとするアルトの服を掴み、その場で静止する

 

「・・・あっちだ」

 

そう言うとアンゼリカはアルトを担ぎ上げて、大きな木々が生い茂っている所を足だけで登っていく

 

「うぉ!?」

 

「ちゃんとつかまってなよ」

 

アンゼリカさんが登っていくに連れて木は少なくなり、泥や岩だらけの地形に変わっていった。地面の角度も斜めになっていって登りにくくなっているはずなのにアンゼリカさんは私を担いで尚もスタスタと足だけで登っていく

 

「・・・」

 

そしてあっという間に頂上についてしまった。アンゼリカさんは私をやっと解放してくれた。私はただ担がれていただけなのに汗を垂らしながらその場で寝そべってしまった

 

「はぁ…はぁ…もう…満足ですか?」

 

「うーん…ここら辺のはずなんだけどなぁ」

 

私の質問に耳を貸さずアンゼリカさんはまたキョロキョロと辺りを見回す

 

「…あった」

 

アンゼリカさんはようやく何かを見つけたのかニヤリと笑い、私の方に駆け寄ってきた

 

「アルト、ほらおいで」

 

アンゼリカさんはそう言って私の服を引っ張る

 

「え…もう疲れて…」

 

「大丈夫!ほらこい!」

 

アンゼリカさんに連れられるままアンゼリカさんが見た方向に連れてこれた。

 

私は疲れていたこともあってその場流しで凌ごうと思ったおり、さほど期待はしていなかった

 

けど現実は

 

「…うわ〜!なにこれ!!すごい!!」

 

私の目に見えるのは温泉だった。しかもかなりの大規模で、辺り一面が湯気で曇っていた。湯気もまた心地よいが、その温泉の綺麗さを表しているのはやはり後ろの夜の絶景だろう。

 

月と星空が見事にマッチしていて言葉では言い表せないほどの絶景が私の目の前で広がっている

 

「どうアルト?綺麗でしょ〜」

 

「すごーいすごーい!!こんな所に温泉が湧いてるなんて知らなかった!」

 

「いや〜ちょっと煙みたいなのが上がってたからもしやとは思ってたんだけどねぇ〜。ところでアルト、やはり温泉には…」

 

「イヤッホォォォォ!!」

 

「あ!こら!」

 

アンゼリカの言葉に耳を貸さず、アルトはすぐさま服を脱いで全裸になると近くの温泉にザブンと飛び込んだ

 

「あ〜!!気持ちいい!!」

 

気持ちいい所ってこういう事だったのか…私てっきりあっち側の方かと思っちゃったよぉ〜

 

「こらアルト、温泉マナーが悪いよ?服を散らかした上に温泉に飛び込むなんて」

 

そう言いながらアンゼリカはアルトの脱ぎ散らかした服を拾い、綺麗にたたんでいく

 

「あ、アンゼリカさんも入りましょう!すっごい気持ちいいですよ!」

 

「あのね、私の話を…」

 

「わぁ!なにあれ!すごい!星が落ちてる!もしかしてあれが流れ星!?わー!!初めて見たぁぁぁぁ!」

 

「・・・ま、いっか」

 

叱ろうと思っていたアンゼリカだがアルトの喜びようを見ると、今どんよりさせるのはかわいそうと思った

 

そしてアンゼリカはそっと後ろで自身の服を脱いでいく。

 

「・・・」

 

「…何よジロジロ見て」

 

アンゼリカの指摘に構わずアルトはアンゼリカの身体をジーっと見つめる

 

「あ、もしかして私の美しき身体に見惚れてつい見ちゃ…」

「そのままで入らないんですか?」

 

アルトの一言。アンゼリカはキョトンとして反応が遅れる

 

「っ!これバスタオルじゃないから!!」

 

「いーーーだだだだだだだ!!!!」

 

アンゼリカは入浴前にアルトのほっぺを強くつねる。それも少々手首をねじっていつもと手法を変えていた。これが結構痛い

 

アルトはユアミ装備のままでも十分入れるのでないか?そう考えていただけだった

 

「たく、もう」

 

「いったぁ…絶対血出てるこれぇ」

 

アンゼリカは服を脱ぎ終え、裸になるとアルトの近くに入浴した

 

「ふぅ…いい湯だね。あー、癒されるなぁ」

 

「私のほっぺも癒されてほしいものです」

 

「それは自業自得」

 

「う…」

 

私のほっぺは赤く腫れていて、重症とは言わないものの私からしたらアオアシラの攻撃よりも痛かった。…ような感じがする

 

「…でもとてもありがたいです。こんないい温泉に案内してもらえるなんて。知ってたんですか?」

 

「さっきも言ったでしょ。湯気が上がってたからもしや…てね」

 

「でも湯気って遠くからじゃあまり見えないじゃないですか?」

 

湯気って白っぽいし薄いからいくら暗くても湯気を見つけるのはそんな容易いことじゃない

 

「そこは温泉ハンターの異能力が発動してアンゼリカちゃんの視力を劇的に上昇させたのだー!わーはっは!」

 

アンゼリカは右手を右目に合わせ、軽くピースをする

 

(なるほど。要するに自分の目で見つけたってことだね)

 

 

「あー…あとはなんかドリンクみたいなのが欲しいなぁ」

 

「ドリンク?」

 

アンゼリカさんがいきなり私には理解できない単語を発した

 

「え?もしかしてドリンク知らないの!?」

 

アンゼリカさんが驚愕の表情を見せ、私から一歩下がる。

 

つまりドン引きだ

 

「は…はい…」

 

「えーっ!!」

 

私の答えにかなりのショックを受けたのかアンゼリカさんはそのまま温泉の底に沈没した。

 

「ちょ!アンゼリカさん!?」

 

私からしたら自分の言葉におかしい所は見当たらない。いやもしかしたらその認識がそもそも間違っているのだろう。少なくともアンゼリカさんは私に対してかなり驚いていたからだ

 

「プハッ!?」

 

あ、上がってきた

 

「はぁはぁ…ごめん驚きすぎて少し沈んでた」

 

「え?いやいや」

 

驚きすぎて沈むことはないでしょうに…

 

「改めて聞くけど、アルト。本当にドリンク知らないの?」

 

「知りません」

 

「嘘でしょ!?」

 

やっぱりドリンクって単語は世界共通なのかな…この場だけ私結構浮いてる感じがする

 

「ボコボコーラって知らない?飲むとかなり美味しいやつ」

 

「うーん…知らないですねぇ」

 

「うわマジか〜絶対人生の約9割損してるよ〜アルトちゃん」

 

き…9割?私ドリンク知らないだけで人生の大半損してんの!?

 

「ま…まさかここまで言われるなんて…ドリンクとは一体何者」

 

「人じゃないよ…でもさすがにドリンク知らないのは世間知らずというか最近の若者というか」

 

アンゼリカはお湯を肩にかけながら話す。

 

(う…アンゼリカさんだって7年隠れていたくせに。てかアンゼリカさんも十分まだ若いよ!)

 

「でもドリンク知らないのはマジでないべ」

 

「わかりましたよ!!私が世間知らずでした!すいませんでした!!」

 

ドリンクを知らないことに何度も突かれたアルトは少々怒り気味

 

「おぉ…怖い怖い…」

 

アンゼリカはそれをなだめるようにアルトの身体を自分の所に寄せて頭を撫でる

 

「はいはい私が悪かったごめんごめん」

 

「なんか撫でられたら何故か自然と負の感情が消えていきます…なんででしょう…」

 

「さぁ?分かんないや。でもアルト」

 

「なんでしょうか?」

 

「さすがにドリンクを知らないのは…」

 

「もう!しつこいです!!」

 

アルトは耳を塞ぎ、そのまま温泉の底は潜ってしまった。

 

「あーらら、気分を損ねちゃったか…」

 

困惑気味のアンゼリカだったが、時間が経てば自分であがれることぐらい分かるのであせる必要はなかった。むしろアンゼリカにとっては好都合だった

 

(でもその方が都合がいい)

 

アンゼリカは笑みを浮かべ、そのまま温泉からあがる

 

「ちょっとのぼせちゃったかな…昔は長風呂できたんだけどねぇ」

 

そう言いながらユアミ装備を身に纏い、近くの木に刺しておいた双剣を腰に携え、温泉とは逆の森の暗い奥に歩いて行った。

 

「あーあ…なんでこんも面倒が次々と…」

 

ブツブツと独り言を呟きながら森に入っていく。歩いて行く先には森の中の木が切り倒されており、広い空き地みたいな空間が出来上がっていた。

 

それも丸い円形状に。モンスターが暴れた痕跡はなく、人間が意図的に切り倒していたのだ。

 

「ふふっ…なんでこうも私にとって戦いやすい地形にしてくれてんだが…妙に親切ね」

 

アンゼリカは笑いをこらえ、誰かを挑発をするように独り言を呟く

 

「いるんでしょー出てきなさーい」

 

アンゼリカは後ろに振り返って暗い森の方へ呼びかける

 

「・・・・」

 

その呼びかけに応えるように、足音を立て、暗い森の奥からアンゼリカの方へ何者かが歩み寄る

 

「せっーかくアルトと温泉を楽しんでいたのにとんだ邪魔が入ったよ本当にさぁ」

 

相手の姿は見えないが足音からして人間である事、一人でこっちに来ていることを理解していた。

 

不安要素は顔も姿も見えないことだが、アンゼリカにとって人間はさほど脅威ではないと考えていた

 

「後さぁ、あんた歩くのおっそいよねぇ、早くこっちに来てさっさと済ませてくんない?最近色々とあって私も疲れ……」

 

「・・・・」

 

 

「疲れ………て……?」

 

「・・・」

 

謎の人物は暗い森から徐々に姿を見せたいった。

 

そしてその過程で軽くおしゃべりをしていたアンゼリカだったが、相手の顔を見ると絶句してしまった。

 

 

「な……!?」

 

「・・・」

 

アンゼリカにとって信じられないことだった。

 

「私が……いる?」

 

目の前にいる人間はまさにアンゼリカと瓜二つ。髪の色は黒色と異なるものの、アンゼリカからしたら自分がもう一人いる状況だった。

 

「っ!?」

 

反射的に距離を取り、謎の女を強く警戒する。女が細い大剣らしき武器を持っていることからアンゼリカもすかざす

 

「誰よあんた!!」

 

余裕の表情から一変。アンゼリカは取り乱し、双剣を両手に持って構えた

 

「・・・・」

 

謎の女は何も言い返さない。ただアンゼリカを睨みつけ、厳しい表情を浮かべている

 

「一体私に何の用?」

 

「・・・」

 

アンゼリカは質問するが無視される。ただ武器を構え、沈黙を保ち続ける

 

「…じゃあなに?私の裸を見にきちゃったり?なーんちゃってあはは……はぁ…」

 

「・・・」

 

アンゼリカは心を落ち着かせようと明るく振る舞うが、長続きしなかった。

 

突然自分と似た人物の登場に動揺して冷や汗までかいてしまっている。

 

(誰…一体誰なのこの女は…見るたびに私にそっくりな所が怖い…それになんなのこの感じ…まるでモンスターと対峙してるような)

 

「いやぁ…私のそっくりさん、私の熱烈なファンかな?」

 

「・・・」

 

「容姿までよう似てるね…ここはお互い武器収めてちょっとしたお話を…」

 

「・・・」

 

アンゼリカ?は徐々に詰め寄る。アンゼリカは詰め寄られるたじに後ずさってしまう。

 

アンゼリカにとってその女は不気味な存在。それと感じたことがない雰囲気で身体全体に緊張がはしる

 

「私に用事があるならその口で言ってくれないかな?だんまりさせられると私も困っちゃうんだよねぇ〜ほら?ふぁんさーびす?ってやつができないからさぁ〜」

 

(身体が震える…心臓も今まで以上に働いていらっしゃる…こりゃあやばいな…こいつ間違いなく強い。今の私の装備は不得意な部類に入る双剣、疲労も溜まってる…戦闘になったら勝ち目あっかな…)

 

 

アンゼリカにとって相手は不気味だが、強敵とも感じていた。

 

時間帯は暗い夜、相手は黒い服を着ており、相手が有利。不得意な双剣、人間との戦闘経験の浅さ、相手は少なくとも決して雑魚ではない。なにより連戦で疲れているアンゼリカにとってはこの上ない不利な状況だった。

 

戦闘になれば敗北する可能性は非常に高い。アンゼリカは場を収めようにもうまくいかななかった。

 

あまりにも動揺しすぎて、冷静になれない。相手もどこかつかめない不気味な存在。

 

アンゼリカの調子は狂うばかりだ

 

「・・・」

 

「・・・」

 

お互い喋ることをせず、睨む合うばかり。

 

双方も警戒し、武器を構える

 

空気も静まり返り、警戒は増すばかりだ。

 

「・・・アンゼリカ」

 

「!?」

 

女がようやく口を開いた

 

「アンゼリカ…あんたはそう呼ばれいる…」

 

「そりゃぁ…そうよ。だって私の名前だもの」

 

(何故か名前を呼ばれた…一体なにを確認したいんだ?)

 

相手の問いかけに一瞬緊張が解けたその時だった

 

 

「アンゼリカ…殺す」

 

「へ?」

 

アンゼリカ?は武器を構え、アンゼリカに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十九話 会議

ーーパジック領内、王宮の待機室

 

サウスは今回の反ギルド軍の襲撃に最前線で戦っていたため、現場の報告として連れてこられた

 

待機室にはジスターはもちろんルイス、そしてなんと大怪我を負っているバファまでいた

 

何故か上機嫌のルイスと傷口が痛むのか少々険しい表情を見せるバファとの間で不満そうに椅子でくつろぐサウスだったが

 

「…またきてしまったか」

 

「・・??」

 

「いや、ジスター気にするな。ただの独り言だ」

 

サウスはそう言うと椅子から立ち上がり、待機室なドアノブに手を当てた

 

 

「どこに逃げるんだ?」

 

目線は傷口にいっているのにサウスのしようとしている事が分かっているようにバファが呼び止める

 

「どこにも逃げないさ…ただ半日近くここの施設以外の場所でトイレを済ませてくるだけだ」

 

「それって要するにこっから逃げるって事だよな?」

 

サウスの真意はバファの言葉が全て物語る

 

「やめておけ、今回で何度目だ?」

 

バファは自身の怪我を顧みず椅子を立ち上がり、サウスの前に立った

 

「さぁな、まぁ多くて三回だったような」

 

「いいえ、今回を合わせるとなると記念すべき30回目。筆頭ハンターの会議を合わせるともう100回は超えてますよ」

 

ここにきてルイスが口を挟んできた

 

「だからなんだ、俺がいなくても30回も続くんならお払い箱だろ?それに俺と同じ筆頭ハンターはまだいる。代役はルイスで足りるだろう、なぁジスター」

 

「・・・」

 

ジスターは首を縦に振り、サウスと同じ考えだということを表す。

 

見かねたバファがサウスを説得することにした

 

「サウス、今まではそれで通っていたが今回は別物だ。前まではモンスターの問題ばかりでなんとかなっていたが今日は人間同士の戦争だ。それも俺たちは初っ端から戦っていて、最後まで戦った。現場報告者としてサウスほど説明できる人はいない」

 

「そんなことは分かっている」

 

サウスはドアノブから手を離し、再び椅子に腰を下ろした

 

「なぁバファ、お前なら分かるだろ?意味もない時間に拘束させられる窮屈さを」

 

「…あぁ分かる。時間を無駄にしていると感じている時は結構辛い。でもなサウス、それは皆同じだ」

 

「俺は違いますけどねぇ〜いやっふぅ!!」

 

ルイスは喜びのあまり、高速で腹筋をし始めた。腹筋をする速度からルイスの周りからはホコリが舞っている

 

「なんであいつは上機嫌なんだ…」

 

「ルイスは目立つの好きだからな…」

 

明らかに4人の中で孤立していると知らず、筋トレに走るルイスを死んだ目で見ていた2人。

 

バファは気を取り直してサウスに話しかける

 

「なぁサウス、頼む。戦争が戦争だからこれ以上欠席するのは流石にマズイ。筆頭ハンターは全員席についているそうだぞ?後はお前待ちだ」

 

「…後一回程度だろう」

 

「ん?なんで一回なんだ?」

 

「お前にはもう話したろ?覚えてないのか?」

 

バファは黙り込み、過去の出来事を思い出す。

 

「あぁ!あれか!俺たちが考えだアンゼっ…ごはぁ!?」

 

思わず言葉が出てしまったバファを黙らせるようにバファの腹部に強烈なパンチが襲った。

 

「冷静になれ…バファ」

 

「いやそれはサウスさんの方だよ!!」

 

バファは口から少量の血を吐きながらも態勢を立て直した

 

「すまんサウス」

 

「なんでバファさんが謝ってんの!?」

 

目の前の突然の出来事にルイスは筋トレをすでにやめており、バファ の傷口の手当てを開始する

 

「ルイス、時間がないから治療しなくていい。」

 

「何言ってんすか!寝てなきゃいけないのに無理やり身体を動かしている身なのに」

 

「大丈夫だ。サウス、応急薬あるか?」

 

「ほら」

 

サウスはバファに向かって応急薬を投げる

 

「助かる。そんじゃ傷を治すか」

 

「いや治るわけないだろ!」

 

「馬鹿野郎、ルイス。薬は傷を治すためにあるんだ」

 

「そりゃそうだけど応急薬に即効性はないですよ!!」

 

「まぁ見てろ」

 

ガシッと応急薬をキャッチすると、応急薬の蓋をあけて、それを一気に飲み干した

 

「よし、治った。行くぞサウス」

 

「治るわけないって!寝ててください!」

 

「はぁ…行くか…」

 

ルイスは完全に空気状態。サウスは不満そうに椅子から立ち上がり、会議室へ向かう

 

「ちょっと!サウスさん!バファさんが血!血出てる!全然治ってない!!」

 

「黙ってろ若造。もうじき薬が効いてくるぜ…ごほっ!」

 

バファは歩きながら咳き込むように血を吐く。本人は歩く速度を全く落としていないが、胸のあたりから出血しており、床は血で汚れていく

 

「効いてねぇじゃねぇか!」

 

「ルイス、黙ってろ」

 

1人重症者を連れながらサウス達4人は会議室に向かって歩き続ける

 

 

ーー進むこと五分後

 

「…長くね?いや長くね?ものすごく長い」

 

ルイスは五分も歩いているのに一向に会議室らしき部屋が見つからないことに違和感を感じた。

 

サウスとバファも会議室の部屋に中々つかないことを不思議に捉えていた

 

「おいどうなっている。なぜ道なりに進んでいるのに会議室が見当たらないんだ」

「バファ、ルイス。落ち着け、ここはもう帰るしか方法がない」

 

「お前は帰りたいだけだろ!だが本当になぜ着かない…」

 

完全に迷ったサウス達。バファは頭を悩ませる。サウスは帰りたい。

 

ルイスは慌てふためく。ジスターは爪をかじる。

 

「会議室にまで嫌われちゃったんですかね?」

「バカが。無機物が感情を持つか…がは!?げほっ!!」

「あんたはもう休めよ!!」

 

辛辣な発言から一気に出血する。さすがのルイスもバファに言われた言葉よりも身体を心配する。

 

「・・・」

「ジスター、爪をかじるな。深爪は痛いぞ?」

 

中々目的地に着かないストレスからジスターもおかしな行動を起こし始める。それを鎮めるようにサウスはジスターの両手を抑える

 

「え?ジスター深爪したことあるんですか?」

 

「あぁ、一回だけ。ほとんどは自分の爪で口内を傷つけるのがほとんどだな」

 

「なんてことを…自傷行為は身体に良くないぞ?」

 

そう言ってバファはジスターの側に寄る

 

「…それバファさんが言えること?」

 

「どういう意味だルイス?ほらほらジスターその爪をかじるのはやめていい子に戻るんだ」

 

「・・・」

 

サウスの代わりに両手を抑えるバファ。ジスターは器用にかわす所をみると本気で嫌がっているようだ

 

「自傷行為はお前のためにならん。早くその爪をかじる行為をやめるまでバファさんはしつこくつきまとうぞ?」

 

「!!!」

 

「これは事案になるぞ〜ねぇサウスさん」

「お前の事案数には劣るだろうな」

 

バファは圧倒的な力でジスターを抑えるが、ジスターもまた怪力なので実力はほぼ拮抗していた

 

「ほーらほーらジスターへーい」

 

「!!」

 

ジスターはついに額から二本の角を生やして顔全体が一気に赤く染まった。完全にキレている証拠だ。

 

ジスターはバファから抜け出し、一旦距離を置いた

 

「あれ?いつの間に?てかジスター!!?なんだその顔!」

 

「うわ!?サウスさん!ジスターがすごい顔になってる!」

 

「ジスター…お前…」

 

3人は今まで見たことないジスターの変化に驚愕する。

 

そんな3人の反応に見向きをせず、ジスターは高速でバファの元に移動する

 

「ジスター速!!顔だけなくまさか身体能力も向上…ガバァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

ジスターはバファの腹部に超強烈な右ストレートをあびせる。あまりの威力にバファは吹っ飛ばされ、壁を破壊しながらどんどん奥に飛んでいった。

 

「…っておいーーーー!!!!バファさん一応怪我人なのに何してんだよ!!」

 

「・・・」

 

ジスターの顔は通常に戻り、本人はサウスの後ろに隠れる。

 

「ジスター、スッキリしたか?」

 

「・・・」

 

ジスターは縦に頷く。ご機嫌なご様子だ。

 

「バファさぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

「落ち着け、あいつはあの程度で死ぬ男じゃない」

 

サウスはぶっ飛ばされたバファの元にいこうとするルイスを静止する。落ち着けと言うサウスだが、破壊された壁の損傷具合が事の激しさを物語っており、ルイスからしたら無事であるとは思えなかった

 

「これは…死んでんじゃないの?」

 

「大丈夫だろう、あいつタフだし」

 

「タフで済ますな!ジスターの破壊力知っているでしょう!」

 

「知ってるさ。怒ってない状態でボルボロスの頭を粉砕する威力だ…怒っている状態で繰り出される拳はどんな生物も生きてはいまい」

 

「じゃあバファさん死んでるじゃねぇか!!」

 

サウスの冷静な分析な裏にはバファの生存率の低さを物語っていた。

 

「・・・・・・バファの生命力をなめるな、あいつはタフだ」

 

「あんたさっきから矛盾してるよ!」

 

4人が自分勝手に行動し始める時に1人の男性がサウス達に向かって走ってきた

 

「あ!ここに居た!サウス殿!」

 

「あれは確か…秘書だったか…?」

 

息を切らしながら走ってきた男性はパジック国の内部関係者だった

 

「サウス殿…はぁ…やっと見つけました」

 

「どうしたそんなに息を切らして」

 

「あなた達を迎えにきたんですよ!なんで同じ道をぐるぐる回ってるんですか!」

 

「同じ道…?」

 

ここは集会所。この集会所は上から見ると円形に作られており、いくら真っ直ぐに進み続けても同じ道を回り続けるため目的地には決して着かないのだ。

 

つまりサウス達は秘書の言う通り同じ道をぐるぐると何周も回っていたのだった

 

「あなた方4人は筆頭ハンターなんですから迷わないでください!……あれ?1人足りない…バファさんはどこなんです?」

 

「え……と…あっち」

 

ルイスは破壊された壁に指を指す

 

「うわ!?なんですかこれ!!ボロボロじゃないですか!」

 

「実はジスターがバファを殴ったらこうなった」

 

「えーーー!!バファさん負傷者なのに殴ったらいけませんよ!!」

 

秘書は破壊された壁を見たり、ルイスから話を聞いたりするなので驚きっぱなしだ。ごく普通に考えたら壁を破壊されることも負傷者が殴られることもありえないことなのだが

 

「っ!まさかこの向こうにバファさんが!早く医療班を呼ばないと!」

 

秘書はその場から離れようとするも、サウスに腕を掴まれてしまう

 

「待て、急ぐ必要はない。早く案内しろ」

 

「えぇぇ!?バファさんがやられたのにですか?」

 

「安心しろ。あいつはタフだ」

 

「タフでも限界超えてますよこれ!」

 

「大丈夫だ。ジスターの拳はいかなる生物も生きてはいないがバファなら大丈夫だ」

 

「なんか矛盾してる!!」

 

秘書は壊れた壁を見て真っ青になりつつも自分の本来の目的は忘れてはいなかった。サウスの発言にやつれながらもバファを除いた3人を会議室に送ることにした

 

「で…ではこちらに…来てください」

 

「ヤッホーー!やっっっっと俺も大物達が募る会議に参加できるぜ!イェェェェェイ!!」

 

「・・・」

 

「良かったなジスター。バファの犠牲は大きいがこれで目的の場所に行けるぞ」

 

(もう俺……転職しようかな…)

 

秘書は冷や汗をながしながら筆頭ハンター3人を連れて歩く。キャリア組ではあるのだが、心の片隅には実家に帰ることが人生の選択肢で入ってきた

 

 

 

 

 

 

ーーパジック領内 会議室

 

「…えーサウス殿達がようやく集まったので今回の騒動を含め、会議を始めます」

 

(おぉぉ!名前しらねぇけどなんかすごそうな人だ!!後何よりすごく可愛い!!!)

 

初めての会議出席にルイスは胸を踊らせる。その横ではサウスとジスターが並んで無感情に一切表情を変えず座っている。

 

周りには何十人もの人間が席に座って議長の話をまじめに聞いている中、ルイスはサウスに静かな声で質問する

 

(サウスさん…あのむっちゃ美人の女議長は誰なんです?全然見たことないんですけど)

 

(あいつは……ウェスタだな。名前だけ覚えとけ)

 

(え?ウェスタ?あの有名人の!?パジックからの称号をダサいと言って無理矢理変えた美人ハンターの!?)

 

(黙ってろ。国のトップが来る場所でもあるんだぞ)

 

「…ではまず、いきなりで申し訳ございませんが私からサウス殿に質問をしたいのですが」

 

「なんだ?早く聞け」

 

「いや聞く態度…公の場なんですからちゃんと敬語でお話しください」

 

ウェスタは困惑するも、気を取り直してサウスに質問する

 

「サウス殿…バファはどうしたのです?」

 

「ぶっ飛ばされた」

 

「はぁ!?」

 

サウスの一言にウェスタのみならず周囲の人達がざわつく

 

「え?なんで?なんでぶっ飛ばされたの!?確かこの建物の中までちゃんといたよね!?」

 

公の場ということを忘れてウェスタはいつもの口調でサウスを問いただす。サウスは取り乱すウェスタに冷静に極端に答え始める

 

「ジスターが殴った」

 

「嘘でしょ!?バファさん確かめっちゃ大怪我してたよね!?なんで殴ちゃったの!?」

 

「なんかムカついたらしい」

 

「理由が子供かよ! いや子供か…ってじゃあバファさんはどうなったの!?」

 

「ぶっ飛んだ」

 

「そうじゃなくて!ぶっ飛ばされた後ちゃんと生きてるのか聞いてんの!!容態も詳しく報告してよ!」

 

「それが…見てないんだ」

 

「え?」

 

サウスの重たく苦しい感じの雰囲気にウェスタは息を飲んだ。ウェスタはサウスが仲間思い(ルイスを除いて)である事を知っているためサウスの少し沈んだ表情に心が同情し始める

 

「すぐにこっちきたから」

 

「……ん?すぐにこっちきた?じゃあバファさんは?」

 

「置いてきた」

 

「えええええええええ!!!!」

 

 

ウェスタはサウスの一言に驚きを隠せず、議長席から崩れて落ちそうになる。周りの衛兵がウェスタを支え、再び議長席でサウスと向き合う

 

「お前鬼か!!…医療班は?」

 

「呼んでない」

 

「呼べよ!!よくお前会議室来たな!」

 

「お前が来いって言ったんだろ…」

 

「はぁ!?お前のその屁理屈を言う所が嫌い!そもそもなんでサウスがいながらなんでジスターが暴走してんの!」

 

ウェスタは席から立ち上がり、ジスターに指を指す。周りは怒るウェスタを抑えようにするも、激昂するウェスタが強いため誰も手をこまねいていた

 

「…ほらジスター。ごめんなさいってしなさい」

 

「・・・」

 

サウスに指示されるとジスターは机の上に乗り、ウェスタに対してぺこりと頭を下げた

 

「…ま、いいけど」

 

(いいの!?)

 

顔が赤くなったウェスタはジスターの謝罪をすんなり受け入れたため、周囲は驚いたが、ここでツッコむほど怖いもの知らずな者はいなかった

 

「ウェスタお姉さんが許してくれてよかったな、ジスター」

 

「・・・」

 

ルイスはジスターの頭を撫でようとするが、綺麗にかわされた

 

「はぁ…もう会議始まるね…」

 

「ウェスタ。敬語」

 

「うっさい!お前は黙ってろ!」

 

ウェスタはサウスを静かにさせた後、コホンと咳払いをして会議を再開する

 

「すいませんお待たせしました。それでは会議を始めます。今回の内容は主に反ギルド軍の襲撃…これまでパジックは襲われる事はあれど、こんなにも我が国が被害を被ることはありませんでした。戦死者の大半は反ギルド軍ですが、こちらの損害は少ないとは言い切れません…兵士、住人に何十人もの死者を出してしまい、挙句には我が国の筆頭ハンターであるシシド・ネッドが戦死してしまう事態になりました…」

 

「なっ!シシド様が!…!」

 

ウェスタからシシドが死んだ事実を伝えられ、臣下を中心に会議室がざわつき始める

 

「ちゃんと確かめたのか!シシド様は後衛に回っており、戦闘が激しい前衛部隊にしか戦死者はいなかったはずだぞ!」

 

「それについては謝罪を…シシドが戦死した事実は報告書が提出されて、その直後にサウスから伝えられた情報なので…」

 

1人の臣下の発言にウェスタは報告書を見せ、報告書に誤りがあった事を詫びる

 

「サウス様!本当なのですか!」

 

「本当も何も…俺が嘘をついてるとでも?」

 

「い…いえ…」

 

「…サウス殿、私もいくつか聞きたいことがあります」

 

「なんでもお聞きください、議長殿」

 

ウェスタは新しい報告書を手にサウスに質問する

 

「あなたは…シシドが死んだ所を見たんですか?」

 

「死んだ現場にはいたな」

 

「どんな殺され方でしたか?」

 

「さぁな。俺も生きるのに必死だったから殺され方までは知らん。だが知っていることは首から上が無くなっていることぐらいだな」

 

「…そうですか。でもあなたの報告もシシドの死体に少し違いがあります」

 

「…?」

 

ウェスタは懐から写真を取り出し、議長席から立ち上がってサウスにその写真を渡した

 

「…これは」

 

サウスは少し動揺した。シシドを殺したのは自分。自分は確かにシシドの首をはねた。死体は首がない状態であたりまえだ。

 

しかしその写真には焼死体が写っていた

 

(何故シシドの死体が燃えている…?)

 

「サウス、本当に見たんですか?」

 

「・・・」

 

「さ…サウスさん…」

 

ルイスは心配そうにサウスを見つめる

 

「俺が知っている死体とは少し違うな…何故シシドは燃えているんだ?」

 

「わかりません。ただ近くに火炎弾の破片が発見されていてそれを使った可能性が高い」

 

「・・・」

 

(バファの奴…証拠隠滅のつもりか…)

 

サウスが考えられるのは自分が死体から去った後、残ったのはバファだけ。他に人はおらず、バファがやった可能性が高かった

 

(人間程度なら容易く切断できるのが仇となったか…不自然に綺麗すぎる切断部分を隠すために死体を燃やしたか。俺の発言と食い違った結果にはなったが証拠隠滅にもなったな)

 

「燃やされたのは知らなかった。なんせ死体を見たらすぐに迎撃に向かったからな」

 

「じゃあ何故お前の太刀にシシドの血が付着してる?」

 

「・・・」

 

議長席の隣からサウスを追及する質問が発言された。発言したのは戦場でサウスと接触したノースだった。ノースの一言で周りの人間が騒ぎ立て、サウスに厳しい口調で責め立てる

 

「サウス!貴様がやったのか!」

 

「この同胞殺しめ!今すぐにでも首をはねてやる!」

 

「ちょ…ちょっと!静粛に!」

 

ウェスタは怒れる臣下を始めとした有力なハンター達を鎮めようと声をかけるも全く聞き入れてくれなかった

 

(全く。すぐ他人の意見に流される奴らばかり…少しはあのバカ女を見習ってほしいな)

 

騒ぐ周囲を物ともせずサウスは無視を続ける

 

「サウスさん…大丈夫です!弁護は俺に任せてください」

 

(お前あの時居なかっただろ…)

 

ルイスはサウスがシシドを殺した現場に居合わせなかったため、本当の犯人は知らなかった

 

「おい!ウェスタ殿!早くサウスを殺せ!」

 

「シシド様の敵討ちだ!殺せ!」

 

「議長って呼んでよ!静粛に!」

 

ウェスタの言葉は通らず、依然として臣下達はサウスを責め立てまくる。その状況に呆れ始めたのか、めんどくさくなったのか。ウェスタは議長席を立ち上がり、大きく息を吸って

 

「静粛にぃぃぃ!!!!今議論するんだから静かにしなきゃ始まらないだろぉぉ!!!」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

「・・・よし、じゃあノース。早く質問しちゃって」

 

ウェスタは極めて大きい怒声を上げて強引に静かにさせる。全員が静かになったことを確認すると、会議を続ける。その中でルイスは1人サウスの耳元で小さく囁いた

 

(サウスさん。任せてください。ここは俺の有名大学級弁護力を発揮してみせます)

 

(学科が違うだろ…お前まで入ってきたら余計に話がこじれるからもう喋ん…)

 

サウスはルイスの口を塞ごうとした瞬間に頭の中で何かがサウスの手を止めた。サウスは無意識に手を止め、自分の行動に疑問を持つ

 

(いや…待てよ…俺が疑われている今なら別にこじれようが曲がろうが俺に影響はない)

 

「おいそこのべっぴんハンターさん!名はノースと言ったな!」

 

ルイスは自信満々に立ち上がり、ノースの方を指を指す。その行為にサウスは少し驚いた表情を見せ、ルイスを座らせようとするが、時すでに遅かった

 

「誰かと思えばサウスの所の若造か…私に指を指すとは中々威勢のいい…貴様の行いは愚行と呼ぶべきか…」

 

「…ん?ようわからん威勢をはくのはそこまでだ!意味のわからないダメ出しでサウスさんを侮辱しやがって!」

 

(あ…こいつだめだわ)

 

内心諦めたサウスはルイスを止めることなく話を進めていく

 

「ちょっと!ルイス君!?あなたなんて口の利き方を!?」

 

「すいません議長。でも私は確かな証拠をなしに一方的にサウスさんのせいにしようとすることに許せないんですよ!」

 

「いやそこじゃなくて…」

 

ウェスタは慌ててルイスを止めようにもべらべら喋られ、自身の声をかき消されてしまう

 

「確かな証拠?…ふん…それはサウスの太刀に付着した血が証拠だ。」

 

「そこがおかしいんだ。シシドというハンターの血がサウスさんの太刀に付着しただけで何故サウスさんが疑われる!」

 

「…ん?」

 

「…ルイス君?」

 

「・・・」

 

ルイスの指摘に一同が困惑する。

 

「サウスさんはシシドと一緒に戦っていた。死んだ現場にも居合わせた。シシドがどんな殺され方は知らないが死んだ瞬間にシシドの血がサウスさんの太刀に付着した可能性もあるかもしれない!」

 

「何…言ってるんだ?」

 

「す…推測論…」

 

「・・・」

 

言葉を失うウェスタ達を置いてルイスは喋りだす

 

「つまり!ただ太刀に血が付着した程度でサウスさんを疑うことは間違っている!第1サウスさんが殺した反ギルド軍の数はもう千人超えててシシドの血がついてたなんて分かるわけないじゃないか!」

 

「まぁ間違ってはいないな。血が付着した程度でサウスがやったと断定するのは間違っている」

 

「そうだ!間違っている!…てあれもう認めちゃう感じですか?」

 

あっけとられた表情でルイスはノースの方を見ると、ノースのは不敵な笑みを浮かべて席を立ち上がった

 

「馬鹿馬鹿しい弁護だと思っていたが…なかなか核心をつくじゃないか…」

 

「の…ノース?どうしちゃったの?」

 

いきなりの豹変ぶりにウェスタは戸惑う

 

「バカな男と舐めた私自身の方が知能に欠けた…堂々とした態度。崩さない意思の表明…気に入ったぞ…ククク」

 

「え…なんかこの人気持ち悪い…」

 

「っ!?ルイス君!」

 

「落ち着けウェスタ…私の負けだ。ルイスよ…覚えたぞ」

 

ノースは表情を変えることなくその場を去り、会議室の出口に向かった。しかしその出口から1人の男が入室してきた

 

「遅れて申し訳ありません!ちょっと寝坊しちゃって…ぬわぁ!?ノースさん!!」

 

「おや?…イーストじゃないか」

 

出口から出てきたのはサウスと同格のハンターだった。イーストはノースの半笑いの表情に驚き、一旦距離を置く

 

「え?なんで笑ってるの?」

 

「気にするな。お前こそなんで出口から入ってくるんだ」

 

「…あ!ここ出口だったか…」

 

「何やってるんだ…もうそこどいてもらおうか」

 

「あ!すまんすまん」

 

そう言いながらイーストはノースに道を譲り、ノースはその場から去っていった

 

「あ〜!!もう!なんでパジックは自分勝手な人間が多いのよ!」

 

「じゃあ俺も…」

 

「サウス!あんたなに状況にのっかって逃げようとしてんの!」

 

ウェスタはどさくさに紛れて帰ろうとするサウスを止める

 

「相変わらずウェスタはピリピリしてるねぇ」

 

「うっせー!早く座れ!」

 

イーストはウェスタに言われるまま着席した。

 

「・・・はい、イーストです。よろしく。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

途中参加が災いしたのかやたらと冷たい空気になり、気まずい雰囲気が流れはじめた頃、それを打開するためにイーストはある話題を持ち出した

 

「え、えーと…どう?話進んだ?」

 

「進んだっていえば…襲撃の被害について話し合っただけかな…」

 

「え!?それだけ!?なんでそれしか進んでないの!」

 

(しょうがないでしょ!周りが必要以上に騒ぐんだから〜!!)

 

ウェスタは心の中ではガチギレし、イーストの顔面を殴りたい衝動に駆られたが、イーストの発言は客観的に見て至極当然の反応であるためなんとか堪える

 

「じゃあ…フレデリック・ストーンエッジの件は?」

 

「…まだ話し合ってない」

 

「えぇ…嘘でしょ…じゃあ例の西に生息するティガレックスの件は?」

 

「まだよ…」

 

「ダメだなぁ〜ちゃんと議長の仕事してた?」

 

(クッソォォォォォォォ!!このクソ男マジ腹立つ〜!!!)

 

ウェスタは顔が赤くなり、涙を堪えるつつイーストの質問に答えていく

 

「はぁ…じゃあアンゼリカの件は?」

 

「なによそれ…幻の英雄さんなんてもうどこにも…」

 

「何言ってんの。アンゼリカいたじゃん。襲撃の時」

 

「え!?」

 

「っ!?何!?」

 

イーストの発言に会議の場の空気が一転する。ウェスタは表情がガラリと変わり、希望に満ちた目でイーストを見つめる

 

「え?ええええええ!!あのアンゼリカ!?世界を救ったあの!!?ふざけたような防具を装備した状態で勝利を収めたあの!?」

 

「う…うん…」

 

「ふざけた防具ってあれだよ?ユアミ装備だよ!?アマツマガツチ相手に完全に防御を捨てて挑んだハンターのことだよ!わかってる!?」

 

「だ…だから…そうだって言ってんじゃん…」

 

ウェスタは目を輝かせながらイーストに詰め寄り、アンゼリカの事で質問攻めをする

 

「あーーー!!もうなんで早く言ってくんないのもう!!言ってくれたら私が早めに駆けつけて…ふがが!!!」

 

「ちょっと黙っててくれ…イーストちょっといいか?」

 

サウスはウェスタの口を塞ぐとイーストに質問する

 

「どこで見た?アンゼリカを!早く!」

 

「え…ここに来る途中でパジックの西の森らへんで見かけたけど…」

 

「嘘だろ!?西の森…安定地か!」

 

サウスはイーストがアンゼリカを目撃しただけで驚きものだが、それ以上にアンゼリカがパジックの西の森。つまり安定地と呼ばれる地域に向かったことに驚愕した

 

(おいおい…あそこはナグリ村と真反対だぞ…!!いや状況はもっとまずい…)

 

「おい!イースト!」

 

「おわ!」

 

サウスは怒声を上げながらイーストの胸ぐらを掴み、青ざめた表情でイーストに聞く

 

「お前が見たアンゼリカの容姿…いや…他に何かアイルーとかついて行ってなかったか?」

 

「いや…アンゼリカの側にアイルーは見かけなかった…でも…」

 

「でも?」

 

「こ…子供が1人…女の子がいたような…ごめん自信ない」

 

「なん…だと…?」

 

サウスはイーストを掴む手の力を緩め、イーストを解放する。そしてサウスの表情はより厳しくなる

 

(アンゼリカ本人じゃないか…あいつ本当に安定地に行きやがった…あそこはまずいぞ…あそこはだけはかなり危険だ)

 

「さ…サウスさん?どうしたんですか?」

 

「・・・ウェスタ。俺は用事が出来た。帰らせてもらう。ルイス!ジスター!こい!」

 

「 ちょっと!サウス!」

 

ウェスタの呼びかけに応じずサウスは退出し、それに続くようにジスターとルイスが退出していく

 

「サウスさん!どこに行くんですか?」

 

「安定地に向かう」

 

「安定地!?あんな所に行くんですか!なんで!?」

 

「いいからついてこい!」

 

(急がなければ…アンゼリカが《ヤツ》に殺される…)

 

 

 

 

 

 

 

 



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三十話 英雄への殺意

「…なんかのぼせてきちゃった」

 

アンゼリカさんがどっか行ってしまってから私はずっと温泉に入っていた。温度の高い温泉と湯気でだんだん身体が熱くなる

 

「あーさっぱりした。アンゼリカさん遅いなぁ…何してるんだろ」

 

アルトはタオルで身体を拭きながらアンゼリカの行った森の方に視線を向ける

 

「…あ!武器がない!」

 

この暗い時間帯に帰りが遅いとなるとだんだんと不安が募ってきた。しかも周りをよく見るとアンゼリカさんが置いてあった双剣がなくなっていた。

 

「もしかして…狩り?」

 

私は急いで元の服に着替えると護身用のナイフを片手にアンゼリカさんが向かった森の中へ入って行こう…したが

 

「あれ?ナイフがない」

 

おかしいなぁ…いつもなら持っていて当たり前の必需品なのに…でもナイフ一本でモンスター相手にできると限らないし…まぁいいか

 

「連戦が続いていたはずなのによく動ける人だ…アンゼリカさん身体大丈夫かなぁ…」

 

 

 

 

 

「・・・」

 

「うわっ!危な!」

 

黒いアンゼリカはいきなりアンゼリカに対して斬りかかったが、アンゼリカは多少反応に遅れたものの、双剣を巧みに使い、斬撃の受け流した

 

 

受け流してそれで終わらなかった。軌道を変えられた斬撃は瞬く間に周りの木々を一刀両断に切断する

 

「なっ!嘘でしょ!?」

 

(なんて綺麗な断面…あの武器の切れ味どうなってんの…)

 

「次…」

 

「くっ!」

 

黒いアンゼリカはまたアンゼリカに斬りかかる。アンゼリカはさっきと対応を変え、斬撃を避ける

 

「逃げるな…」

 

「逃げたくなるよそんな危なっかしい武器持たれたら…って!?」

 

避けた所を狙われて斬りかかられるが双剣で受け止める事ができた

 

「危ないって!死んじゃうでしょ?」

 

「首をよこせ…」

 

「さらっと物騒な事を言うな!」

 

アンゼリカは腕に力を入れて黒いアンゼリカを押し返した。だがすぐに態勢を整えられ、再びアンゼリカに襲いかかった

 

「しつこい!」

 

「・・・」

 

アンゼリカは回避に専念して黒いアンゼリカの攻撃を次々と避け続ける。黒いアンゼリカの斬撃により周りの木はスパスパと切断される。

 

「なんちゅう武器…うわぁっと!?」

 

斬撃を避け続けるアンゼリカだが、少し態勢が崩れてしまった。黒いアンゼリカが切り倒した木が地面に倒れた衝撃で足場が揺れたため、態勢が崩れてしまったのだ

 

「もらった…」

 

態勢が崩れた所に黒いアンゼリカの一太刀がアンゼリカを襲う

 

「あまいわ!」

 

しかしアンゼリカも負けてはいなかった。態勢が崩れた所を狙われる事ぐらい経験上わかっていた。攻撃されるタイミングを予測していたアンゼリカは難なく回避に成功し、相手の腹に思いっきり蹴り上げた

 

「・・チッ」

 

蹴り上げられた黒いアンゼリカは空中に吹っ飛ばされるが、すぐ受け身の態勢に入り、戦闘に復帰すると仕留めるチャンスを逃した事に舌打ちした

 

「…どう?もうやめたら?」

 

「うるさい…殺す」

 

「!?」

 

殺すと言った瞬間に黒いアンゼリカはアンゼリカのすぐ目の前に現れ、強烈な一太刀をあびせた

 

アンゼリカはすぐさま防御態勢に入ったが、今の武器ではこの判断は間違っていた

 

(あ!これ結構あぶないやつだ!ランスの癖でつい守りの方に固めてしまった…どうしよう双剣じゃ受け止められない…)

 

しかし遅かった。相手の攻撃は速く、避けるのは容易いことではない。なによりも当たる直前だった

 

(あぁ!もう!)

 

アンゼリカは双剣を交えてそのまま受け止める。だがやはりアンゼリカの武器では黒いアンゼリカの一太刀を受け止めきれず

 

「いったぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アンゼリカは胸のあたりを斬られてしまった。だが傷口は小さかったアンゼリカは双剣で受け止めたわずかな瞬間に回避に移行したためまともに攻撃が当たることがなかった。

 

しかし結果的に避けきれず、小さな傷とはいえその傷からはとてつもない激痛がアンゼリカを襲った

 

「あの一瞬で避けたのか…さすが英雄」

 

「避けきれてないよ!てかなにその武器!見たことない形してるし当たっただけですっっごい痛いんだけど!」

 

アンゼリカは斬られた胸を手で押さえて激痛を耐える。双剣は黒いアンゼリカの攻撃を受け止めた時に二本まとめて切断されてしまい、使い物にならなくなった

 

「お前に教える必要はない。殺すから」

 

「殺す殺すうるさいな!いてて…」

 

アンゼリカは激痛により、まともに立つことさえできなかった。同時に小さな傷からくる激痛に違和感を感じた

 

「絶対立てない…この刀に斬られたら終わり」

 

「かた…な?」

 

(どうしてそんな武器を持って…刀って結構古い武器のはず)

 

「…喋る必要はなかった…殺す」

 

黒いアンゼリカはアンゼリカの首に刀を手に振り下ろす

 

「私は…死なん!くらえ!」

 

しかしアンゼリカは持ち前の根性で立ち上がり、相手の一太刀をかわして回し蹴りをくらわせる

 

「っ!…!!」

 

蹴りをもろにくらった黒いアンゼリカは痛みに行動を制限させるが、受けたダメージに怒りを感じ、もう一度アンゼリカに斬りかかる

 

「あ!当たったら痛いやつだ!おっと!」

 

「…!待て!」

 

かわされた。それも一度だけではない。すべてかわされたのだ

 

「・・・!」

 

何度も何度もかわされる。相手は激痛で動けないはずなのに何事も無かったかのように動き回られ、驚きが隠せなかった

 

「ほらほらぁ!少し動きが大雑把になってきたんじゃない?」

 

「あ…しまっ…」

 

そう言ってアンゼリカは油断した隙をついて相手の胸に右ストレートをあびせた

 

「ぐふっ!さっきより動きが…」

 

「ふふん!…これでお互い様だね…」

 

「なぜ…武器は破壊され、無防備なはず…なのに私が…」

 

「何も作り物が武器なわけじゃないでしょ?自分の身体も武器になる。てまぁ武術を鍛えたわけじゃないけどね」

 

アンゼリカは苦笑いするが、黒いアンゼリカの受けた衝撃は強い。素手で戦うことはアンゼリカの言う通り武器にはなるが、この時代で武器なしで戦う者だとごく僅かだ。

 

いや存在するかどうかも危うい。そんな相手に二度も攻撃をあてられた屈辱は計り知れない

 

「ナめた真似を…死にたいなら…すぐ死なせる」

「私はすぐ殺されるほど弱くないよ、偽ゼリカ」

 

「に…偽ゼリカ?・・殺す!」

 

偽ゼリカの単語に困惑しつつもアンゼリカに向かって斬りかかる。アンゼリカは空に向かって高くジャンプしてかわした

 

「…相変わらず攻撃が早い…」

 

「…油断するな」

 

「っ!」

 

避けた先に黒いアンゼリカの追撃が襲い掛かる。横一閃の攻撃にジャンプして避けたのが仇となり、一気に不利な状況になった

 

「やっべ…」

 

「・・・」

 

肝心なところで油断するアンゼリカのミス。そして空中で襲いかかる斬撃の猛攻。アンゼリカは避けることすらままならない

 

「私の勝ち…」

 

「っ!まだあんたの勝ちって決まったわけ…あ"っ!だ!!」

 

斬撃を受け流していたアンゼリカだが次第に押されていき、ついには自分の肩と太ももの部分に攻撃を受けてしまう

 

「!!いっっっっっったぁぁぁぁぁ!!」

 

そして刀による傷からくる激痛に苦しめられ、アンゼリカは防御を崩してしまう

 

「…!まっ…まずい!…防御を…」

 

「もう遅い」

 

防御が緩んだところに黒いアンゼリカの強烈な斬撃が繰り出される。アンゼリカは防御が間に合わず、もろにダメージを受けてしまった

 

「ぐっっ!!!…いってぇぇぇぇぇ!!!ギャァァァァァ落ちるぅぅぅぅぅ!!!」

 

「うるさい…」

 

斬られた痛み。そこからくる激痛。空中から落ちる今の状況にアンゼリカは追い詰められていく

 

「あだっ!…うぐぐ…やられた…」

 

やがて落下してしまい、落下にともなう衝撃に身体が痛む

 

「・・・」

 

そして痛みに耐えるアンゼリカの首に刀をあてられた

 

「…いてて…ピーンチ…だよね…」

 

「ピンチもなにも…今殺す」

 

「・・・」

 

黒いアンゼリカはアンゼリカに向けて視線を送る

 

「はぁ…わかったわかった」

 

するとアンゼリカはその場で膝をつき、正座をした

 

「斬首される姿勢ってやっぱこれだよね」

 

「…うん…じゃあ…やるから」

 

黒いアンゼリカは刀を振り上げる

 

「え?ちょちょ!早い早い!まだ!まだ待って!」

 

「…何」

 

「ほら?もっと拳で語り合った仲同士の最後の会話…ってやつはしないのかなって…」

 

「…しない」

 

「ですよねー」

 

予想していた答えにアンゼリカは少し吹き出す。しかし同時に身の危険をちょっとだけ感じはじめていた

 

「…てか私…刀だし…語り合ったの」

 

「あ、語り合ったの認めちゃう感じですか」

「じゃあ終わらせる。さよなら英雄」

 

「ごめん!煽ったの謝るからちょーーとタンマ!」

 

アンゼリカが両手をあげると黒いアンゼリカはため息をついて刀の先を地面につけた

 

「…もう何」

 

「…ふう…うーん…」

 

首の皮一枚つながった状況に一息をつくとアンゼリカは黒いアンゼリカをジロジロと見る

 

「本当によーーく似てるね…私と」

 

「・・・」

 

黒いアンゼリカは見られる視線を恥ずかしがり、アンゼリカから目をそらす

 

「…お?なに恥ずかしがってんの」

 

「・・・」

 

「…??」

 

「・・・」

 

何故かさっきまでの戦いをなかったようになる勢いで辺りは静まり返った。突然きた沈黙の時間にアンゼリカは不穏な空気を感じ、黒いアンゼリカに対して警戒していた時だった

 

「ひとつ…いい?」

 

「…なにが?」

 

ものすっごく小さな声で黒いアンゼリカはアンゼリカに質問する

 

「偽ゼリカって…なに?」

 

「え?…あんたのことだけど」

 

「わ…わたし?…わたし…そんな名前じゃない…!」

 

黒いアンゼリカはさっきまでの殺気が嘘のように消え失せ、アンゼリカの胸ぐらをつかむ。しかし力は持ち上げられるほどなく、アンゼリカ自身が少し立って胸ぐらを掴まれて立たされている状況を演じてあげるなど、情けをかけるまで力がない。

 

しかしアンゼリカの首に刀をおく動作は非常に素早かった。この動作でアンゼリカの動きの大半を奪っている状態なため、満足に動けない

 

「あ、そうか…それは悪かったね。じゃあ名前教えてくれる?」

 

アンゼリカは明るい笑顔で黒いアンゼリカに質問返しをするが

 

「…それは嫌だ」

 

「へ?」

 

「お前に…教えたくない」

 

「そ…そうなんだ…じゃあ偽ゼリカで」

 

「それも嫌」

 

「えぇー!じゃあ私にどうしろっていうの」

 

「…そもそも…偽物じゃない…わたし…アンゼリカ」

 

「はい?」

 

殺す気でかかってきた態度とはうってかわっておどおどとした感じになった。アンゼリカのはきはき喋る動作に押され気味になり、ついに黙り込まれてしまった

 

「あーなるほど。名前被っちゃったのか。だからそれでアンゼリカっていうのか」

 

「いや…アンゼリカの…名前…じゃない」

 

「ずこっ!本当の名前じゃないんかい!なんでアンゼリカって名乗るの!」

 

「い…言わない」

 

「え…えぇ…分かったよもう…偽ゼリカ」

 

「偽ゼリカは…嫌」

 

「じゃあ名前教えて」

 

「…嫌」

 

「なーんだ!お前!」

 

そうこうやりとりしているうちに黒いアンゼリカは我に返ったように殺意のこもった目を復活させ、自身の刀に力を入れ、振り上げる

 

「あ…まずい!」

 

「喋り…すぎた!」

 

黒いアンゼリカはさっきまでの態度を一変し、アンゼリカに向かって斬りつける

 

「うぉ!っとっと…」

 

正座の態勢から身体を後ろへ一回転して回避した

 

「逃がさない…!」

 

そう言い、黒いアンゼリカは刀に自身の指でなぞり始めた。指先には何やら赤い液体が付着している

 

「え…何?」

 

黒いアンゼリカの持つ刀が変化した。謎の赤い線が刀全体を覆い、覆われた刀はどんどん赤色に変色していった

 

「…最近の武器はわからないなぁ…時代の流れを改めて感じさせられるよ」

 

「余裕の言葉…でもそう言えるのも今のうち…だっ」

 

喋り終えた瞬間に高速で移動し、アンゼリカを刀の攻撃範囲に収める

 

「ん?」

 

「死ね」

 

黒いアンゼリカは刀を素早く構え、アンゼリカに向かって一閃

 

「っ!」

 

装備なしの恩恵か身体が軽く、動きやすい状態のため海老反りの姿勢で回避することに成功した

 

受け止める所がなくなった斬撃はアンゼリカの後ろの木々や岩石、樹林に矛先が変わり、それらを一瞬で真っ二つに切断していった。

 

「…え」

 

自分の後ろの状態にアンゼリカは絶句した。森の木で視界が遮られるほど太く、大きかった木が一瞬で切り倒され、平地に変わってしまった。暗い森の中でもはっきりと奥側が見えるほど奥の奥まで切断されてしまったのだ

 

「ちょ…ちょっと!あんた一体…刀に何を塗ったの!」

 

アンゼリカは黒いアンゼリカが刀をにつけた赤い液体の正体に質問する

 

「あんたの血」

 

「はぁ!?」

 

黒いアンゼリカは即答した。しかし淡々とした説明でアンゼリカは理解ができなかった

 

「わ…私の血?なんで…私の血であんな力が……変な嘘つくな!」

 

「嘘じゃない…あんたの血…この刀は生物の血で強くなる」

 

黒いアンゼリカは自分の赤く染まった刀を見せつける

 

「この刀は…血を吸う…吸った血で強くなる…」

 

「血を…吸う?」

 

黒いアンゼリカの言葉に理解できない状態が続く。しかし少し説明されただけでアンゼリカは刀に対して距離を置いた

 

「あんたに説明しても…どうせ理解できない…」

 

黒いアンゼリカは再びアンゼリカの血で強化された刀を振り下ろす。しかし刀は空を切るだけで相手にあたることはなかった

 

「どこきっ…ってぇ!?」

 

振り下ろした刀から赤い斬撃が放たれ、地面を削りながら真っ直ぐアンゼリカに向かって直進してきた。アンゼリカは咄嗟に回避に行動するものの赤い斬撃の威力は凄まじく、その上速さもあるため完全に避け切るのは難しい

 

「所詮表向きの英雄…避けれるならよけてみろ」

 

「うっそでしょ!?」

 

赤い斬撃はもうすぐ目の前だ。このままでは直撃して死体も残らずあの世行きになるの一瞬で分かっていた

 

(あ…なんだろ…この斬撃がゆっくり見える。これもしかして走馬灯ってやつなんじゃ…)

 

自分に迫る危機感を抱きつつアンゼリカは思考を巡らせて今の状況を打開する方法を考える。しかしそんな時間などなく、斬撃は無慈悲にアンゼリカに迫り来る

 

(やばいやばいやばい!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三十一話 死ぬ気はない

アンゼリカの血により大幅強化された黒いアンゼリカの刀。

 

黒いアンゼリカはその力をアンゼリカに情け容赦せず、刀を振り下ろし、強力な斬撃を放った。

 

地面をえぐりつつ、数多の戦闘を経験したアンゼリカが反応に遅れるほどの速さを備えた斬撃は即座に敵の目の前に迫った

 

「……!!」

 

次の瞬間には斬撃はアンゼリカを覆うように大爆発を起こした。つまり直撃。

 

「…!チッ威力が…!?」

 

大爆発により、大抵の木なら倒してしまうほどの強風が発生し、斬撃を放った本人もその強風によりバランスを崩した所を吹き飛ばされた

 

「・・・!」

 

黒いアンゼリカは刀を地面に刺して強風に耐えることができた

 

「・・・」

 

ガタンと黒いアンゼリカの足元の地面は傾く。斬撃の衝撃により地割れまでも発生してしまったのだった。地面からは危なっかしい円錐型の岩や、四角い岩が飛び出してきてしまった

 

「ふん…」

 

飛び出した一部の岩は黒いアンゼリカに方に突き進んでいくが、早く察知していたのか、黒いアンゼリカは飛び出てくる岩に対して蹴り上げた。

 

岩は黒いアンゼリカの蹴りにより粉々に成り果て、地面にパラパラと落ちる

 

「・・・」

 

森は災害に等しい被害を受け、見る影もなく岩や泥だらけに変わり果てた。

 

森の全体とは言えないにしろ斬撃の威力は本物だった。その事実は斬撃を放った本人が内心一番驚いていた

 

(あの血で…こんなにも威力が…)

 

黒いアンゼリカはしばらく刀を見つめると、アンゼリカを葬った場所に歩み寄った

 

「…バケモノ女」

 

険しい顔を浮かべ、そう吐き捨てると黒いアンゼリカはアンゼリカが斬撃を受けた所を通り過ぎる

 

「…つ」

 

突然の右手の痛みに黒いアンゼリカは立ち止まる。刀を左手に持ち変え、右手に目線を向ける。

 

(震えてる…?)

 

黒いアンゼリカの右手は震えていた。自分の意思とは関係なく、痛みと同時にピクピクと震えている。

 

「これはまだいい方。この血はあまり多用しない方がいいか.」

 

黒いアンゼリカは左手で震える右手を力強く掴む

 

「あのビッチに…なんであんな力が……」

 

黒いアンゼリカはボソッと呟いた後、再び歩き続ける

 

⦅ 誰がビッチだよ!!》

 

「!!!」

 

黒いアンゼリカは左手で刀を持ち、警戒態勢に入る。誰もいないはずの場所に聞いたような声が頭に響く。

 

自分の声に反応したような言葉から余計に警戒心は強まり、黒いアンゼリカは周辺に目を凝らす

 

「どこにいる…」

 

探す。しかし見当たらない。人らしき物も気配も何も感じない。だが声は聞こえた。

 

黒いアンゼリカは冷静に探すが、気配すら感じない状況に不穏な空気を読み、一つの思考にたどり着いた

 

「……いや…まさか…」

 

黒いアンゼリカは1ミリも生存を期待していない場所。アンゼリカが残念に直撃した地面に目を向けた

 

「・・・」

 

黒いアンゼリカは地面に刃先を向けながら近づいた。刀を持つ左手はポタポタとアンゼリカの血が落ちる

 

いざとなったら使う気ではいた。いざとなったら…

 

ーービギッ

 

「!!!」

 

地面が少し割れる。そしてその割れた所からは少量の血が流れていた

 

「クソッ!やっぱり生きていたか!」

 

地面の割れる所を確認した瞬間黒いアンゼリカは刀を思いっきりぶっ刺した

 

(なぜ生きている…あの斬撃から…)

 

えぐい音を出しながら刀は地面に沈んでいく。地面は割れていくが血だけは一向にこ流れなかった

 

「…?…気のせい?」

 

黒いアンゼリカは謎の現象に戸惑い、身体から警戒心が抜けた

 

その時だった

 

「おっしゃぁぁぁぁ!後ろとったぁぁ!!」

 

「!!?」

 

黒いアンゼリカの後ろの地面から突然、アンゼリカが飛び出してきた。

 

「な…な!?」

 

「よし!捕まえた!」

 

アンゼリカの予想外の出現に黒いアンゼリカは反応が遅れてしまう。

 

その隙を逃さず、アンゼリカは自身の腕を黒いアンゼリカの首に回し、締め上げた

 

「ぐっ…う…うぅ…な…なぜ…」

 

「生きてるって?そりゃあそうだよね!あんな物騒なもんくらったらね!!」

 

「あ!あぐ…!!」

 

アンゼリカに強く首を絞められ、黒いアンゼリカは苦しみながらももがき続ける。しかし拘束は抜け出せずにいた

 

「無理だよ。この態勢は完全にキマってるからそう…簡単には」

 

「ぐっ!!」

 

「抜け出せないよ」

 

アンゼリカの言う通り、態勢的にはアンゼリカの方が非常に有利であり、地面に倒れたうえ、右手がまともに動かない状態である黒いアンゼリカは不利どころが勝ち目がないに等しかった

 

「や…め…!!」

 

黒いアンゼリカは抜け出そうと左手でアンゼリカの腕を掴む

 

「うっさい!ちょっと眠ってろ!」

 

「うぐっ!!」

 

(な…なんて馬鹿力…!斬撃受けて…この力…)

 

「観念しなさい!」

 

「ぐっ…う…ま…まだ…」

 

意識がもうろうとする中で黒いアンゼリカは左腕の膝の所でアンゼリカの脇に攻撃くる

 

「いッ!やったなこのぉぉぉ…!」

 

「うッ!!ぐ…ぅぅ」

 

しかし痛みを与えたことにより、アンゼリカはその痛みを踏み台にしてさっきと締め上げる力が強まっていった。黒いアンゼリカにとって文字通り自分の首を絞めた結果になってしまった

 

「……ッ!!」

 

(ま…マズイ…このままだと…気絶する…)

 

締め上げられる時間が経つにつれて黒いアンゼリカはだんだんと抵抗する力が弱まっていく。唯一動ける左手もまともに機能しなくなり、アンゼリカはこの機を逃さず、腕に力を入れる

 

「もう…わかったでしょ!あんたの負けだよ!大人しく…」

 

「…ッ…」

 

「気絶…しな…さい!」

 

「ぐっ!…ま…け…?」

 

黒いアンゼリカはアンゼリカの言葉に反応する

 

「まけ…私…が……みと…め…ない…」

 

「…?」

(もう気絶してもおかしくないのにまだ意識あるのか)

 

アンゼリカは未だ抵抗の意思を持つ相手に感心した矢先、黒いアンゼリカは身体を動かして抵抗しようとする。

 

「ちょ…あんま動かないで!」

 

「…!!」

 

この態勢では黒いアンゼリカがいくらもがこうとアンゼリカは力でねじ伏せる事が可能。しかし態勢が態勢なだけに締め上げられている側から動かれると余計に首を絞めてしまい、殺してしまう危険性もあった

 

「なにしてんの!死にたいのあんた!」

 

「……」

 

黒いアンゼリカはさっきまでの苦しそうな顔とはうって変わって、無表情だった。そしてやたらと自分を苦しめる抵抗をし続けてそれを見たアンゼリカは危険を感知する

 

「ほんッとうに死ぬぞお前!」

 

(いや…こいつ…もしかして)

 

「・・・」

 

もう少しで気絶させれる。しかし必要以上の抵抗をされる今の状況では相手を殺しかねない。アンゼリカは決め手に欠けていた

 

「もう…!やめ…ろ!」

 

 

 

「え…と…アンゼリカさん…?」

 

「…っ!その声は…!」

 

未だ状況を打開できない中で聞き覚えのある。いや最近毎日聞く少女の声がアンゼリカの耳に入ってきた

 

「あ!アルト!」

 

「え…?あ!はい!アルトです!…って!なにしてんですかこんな所で…」

 

アルトはちょっと引いた目でアンゼリカの方を見る。その視線を感じたアンゼリカは最初は理解が遅れるものの、今の状況を確認すると

 

「あ…あぁ!違う違う!アルト!これには訳が!」

 

取り乱し、あたふたとするアンゼリカを見たアルトは落ち着いた表情から少し泣き顔に移りつつ…

 

「訳ってなんですか!いきなりいなくなったと思ったらなんで女の人の首絞めてるんですか!!」

 

「ご…ごめん…!いきなり姿消したのは謝るから…」

 

「謝るって……心配したんですからね…」

 

「本当にごめん!すぐ終わらせるからちょっと待ってて!」

 

「…ッ…」

 

アンゼリカは次で気絶させようと腕に力を入れた

 

「アンゼリカさん!?」

 

「なに…?…今取り込み中…」

 

「そうじゃなくて…絞められてる方の人…もうとっくに落ちてるんじゃないかと…」

 

「え…まさか!」

 

アルトに言われる前に腕に力を入れすぎたと自覚したアンゼリカが変に物静かな黒いアンゼリカの方に視線を向けた

 

「・・・」

 

「本当だ!やばい!もしかして私殺しちゃった!?嘘でしょ!」

 

アンゼリカは黒いアンゼリカを拘束から解放すると地面に寝かせて生きてるかどうか確認するため、心臓の方に耳を傾ける

 

(やけに静かだと思ってたら…なんで気づかなかったの…)

 

ーートクン

 

(ちゃんと動いてる…ん?ちゃんと心臓が…動いてる?)

 

「アンゼリカさん…?どうしました?」

 

「い…いや…ッ!」

 

アンゼリカが気が緩んだ瞬間に黒いアンゼリカは左足で地面を蹴り、身体を僅かに空中へ浮かせると、右足で身体を横へ一回転させ、アルトとアンゼリカを蹴り上げた

 

「ぐはッ!!」

 

「いでッ!!」

 

蹴り飛ばされた2人は近くの木に叩きつけられる

 

「…いてて…アルト、大丈夫?」

 

即座に受け身をとったアンゼリカはアルトの方は駆け寄る

 

「な…なんで私まで…」

 

見た所、アルトには目立った怪我は見られなかった。黒いアンゼリカは気絶寸前だったためかアンゼリカと戦っていた時より威力が落ちていた

 

「大丈夫そうだね…良かった良かった」

 

「良くないですよ…ん!?」

 

フラフラになりながらも私は目の前にいる人物に腰を抜かしてしまった。

 

黒い装備を纏う目の前の人物。髪の色や瞳の色が違えど…

 

「あ…アンゼリカさんに…」

 

「・・・」

 

「アンゼリカさんにめっちゃそっくり!!」

 

「…あ、そうだった。まだアルトは見てないのか」

 

「ま…まさか!アンゼリカさんの生き別れた双子の姉妹!?」

 

「んなわけないでしょ!しっかりしな!」

 

 

アンゼリカさんはそう言うけど…私は目の前にいる人から全然目が離せなかった。

 

目の前にいる黒いアンゼリカさんは瞳の色や髪の色は違うけど…

 

暗い時間帯だからよく似ているからアンゼリカさんが2人いるように見えた。でも今色で識別できるようになっても尚も本当によく似ていた。

 

また微妙に似ているのも合わさって姉妹説が出ても不思議じゃないレベル

 

「すごいすごい!まさかアンゼリカさんに姉妹がいたなんて!」

 

「だーかーら!!いないって言ってんでしょうが!!」

 

「またまたぁ!こんなに似てる人なんて双子の姉妹以外にありえますか?」

 

「それは…それは私も思うけど!私に姉妹がいるはず…」

 

アルトの指摘にアンゼリカは頭を悩ませた

 

「あれ?…なんか自信なくなってきちゃった…」

 

「ほらやっぱり!!いやぁ!まさかアンゼリカさんの妹さん会えるとは思いませんでした!」

 

「・・・」

 

あれ?なんか妹の方がすごいこっち見てる。しかもめっちゃ怖い目で見てくる…私そんなマズイこと言ったかな

 

「…顔とかよく似てるもんなぁ…でも私に姉妹がいたらそれはそれで私はもっと早く気づいてるはずだし…」

 

「アンゼリカさん…妹さんがなんかすごい怖い目でこっちみてきます…」

 

「ん?…うわ本当だ。ちょっとあまり私の弟子を怖がらせないでよ」

 

「…なんで私が妹なの…」

 

「「 え?」」

 

アンゼリカとアルトは少し間抜けな声を上げてしまう

 

「アンゼリカの妹は…ヤダ。なんかアンゼリカより下にされている気分…」

 

「そんな所に不満があるの!?」

 

怖い目してた裏腹にクッソどうでもいいことでキレてたの!?

 

「別に姉も妹もどっちでもいいでしょ…」

 

「えー!でもアンゼリカさんの方がお姉ちゃんって感じがしますよ」

 

「…そうかな?」

 

「絶対…認めん…仮に姉妹だとして私がアンゼリカの妹はイヤ」

 

「…じゃあ姉がいいんですか?」

 

「…姉もイヤ」

 

どっちなんだよ!!

 

「うーん…でもバストサイズ的には…アンゼリカさんの方がまだ大き…」

 

この言葉が言い終わる前に私の首の所にすごく冷たい武器のようなものがあてられていた

 

それは…黒い方のアンゼリカさんの武器で…あった

 

「それ以上喋ったら…ミンチ」

 

「……ッ!!」

 

ヒィィ!!怖すぎる!!

 

「やめな!偽ゼリカ!」

 

「その呼び名で呼ぶな!!」

 

黒いアンゼリカはアンゼリカに斬りかかろうとするが…

 

「いっ…!」

 

突然腕が痛み、反撃から逃れるためアンゼリカとアルトから距離を離した

 

(……まだダメージが…)

 

「もしかして腕痛めてませんか?」

 

苦しそうに腕抑えてるし…ここにくるまで地面が何回揺れたことか…さっきまで何があったんだろう

 

絶対ケンカ程度の規模じゃないよね

 

「もうやめな。あの規模の斬撃で身体が無事なわけないよ」

 

「う、うるさい!、それよりも…なんであんたが無傷なの」

 

黒い方のアンゼリカさんが腕を痛めてる反面、本物のアンゼリカさんは無傷?多少切り傷はあるけど目立った負傷はしていなかった

 

「無傷?無傷なわけないでしょ…たく、あんたの斬撃のおかげでアルトが買ってくれた装備がボロボロになっちゃったよ」

 

「あ、ホントだ!」

 

私が買う前のアンゼリカさんの装備と比べるとまだ人前に出れるレベルだけど…ちょくちょく肌が裸出しているのは同じ

 

「そ…装備…?その格好で…?」

 

黒い方はアンゼリカさんの格好を見て予想範囲内の反応をする

 

「その格好とはなんだ!ちゃんとしたユクモ装備だかんな!!」

 

「アンゼリカさん落ち着いて…」

 

この人殴られたり殺されかけたりしてもあんま怒らないのにユクモ装備バカにされた途端怒るんだから。温厚なのかキレやすい人なのかわかんないや

 

「……いやどう見てもバスタオル」

 

「よしアルト、先戻ってな。こいつにユアミの怒りを思い知らせてやる」

 

怒りの気持ちを込めた笑顔で手をポキポキ鳴らす。正直今まで見たアンゼリカさんの表情で一番怖い

 

「ちょちょちょ!待って!今の状態でアンゼリカさんのマジパンチは絶対にお陀仏しかねないですよ!」

 

「大丈夫!ジスターを殴った時より威力弱めるから」

 

「いや良くない!ジスターはかろうじて人間離れした子供だからいいけど相手はまだ人間やめてない人だから!ダメですよ!」

 

「わっ!わっ!ちょ!しがみつくな!」

 

アルトはアンゼリカを止めようと背中からしがみつく。前から抑えると何事もなかったかのように振り払われるのは理解済み

 

「い、今体力が残って…わかった!わかった!やめるやめるから!」

 

アンゼリカの一言で背中から離れたアルトは再び黒いアンゼリカと対面する

 

「・・・なに?」

 

「い…いえ…特には…何も」

 

(ひぇ〜!なんかもう雰囲気含めて全部怖い!)

 

強気で対面したつもりでいても黒いアンゼリカに睨まれるとそのままその場で固まってしまう

 

「そんな敵意剥き出しの目で見なくても良いでしょうが…偽ゼリカさん」

 

「…っ!また言ったな」

 

ちょーーーと!!なんでわざわざ怒らせるような事を言うかなぁ!

 

まさか…ジスターと戦った時の事もう忘れたんじゃ…

 

「ちょ…とぉ!アンゼリカさんなんで刺激するような言葉を…!」

 

「刺激する言葉って?」

 

いや…自覚してないようだった

 

「偽ゼリカですよ!」

 

「でもアルトも今言ったよ」

 

「っ!!」

 

し、しまった!つい自分の口から!

 

「…別にいい」

 

「え?」

 

黒い方のアンゼリカさんからまさかの返答。絶対殺し合いに発展すると思ってたから私の身体からは緊張がすごい勢いで抜けていった

 

 

「首から上がなくなれば……済む話…」

 

「ひぇぇぇーーーーーー!!!」

 

そう言って黒いアンゼリカさんは刀を私に向ける。黒いアンゼリカさんとは距離があるけど、私の目から見ても殺意がすごく伝わってくる

 

 

要するに超怖い!!

 

「やばやばやばい…!首から上なくなっちゃう!」

 

「大丈夫…そこにいるビッチと一緒の世界に送ってやる」

 

全然大丈夫じゃない!むしろ被害者が増えてる!!

 

「そ…そんなことは…させ…な…」

 

怖くて口がガタガタ震えてる…私はこの人とまともに喋る事すらできないのか

 

「そんなことさせない?なら止めてみて」

 

「ひっ!」

(ウワァァァァ言う事先読みされたうえに私のお迎えが余計に早まってしまったァァァァ!!」

 

「おい!アルトは関係ないでしょうが!その刀を下ろせ!」

 

怯える私を庇うようにアンゼリカさんが前に出て黒いアンゼリカさんと向き合う

 

「……そもそもなんでそこの少女と一緒にいるの」

 

「そこはいる女の子は私の弟子だ!一緒にいて何が悪い!」

 

「……バッチリ関係あるじゃん」

 

「あ…しまった…」

 

アンゼリカは失言の後、拳を強く握り、黒いアンゼリカに対して牽制する

 

「あんまり戦いたくないけど。私だけじゃなくアルトも殺すのならお前の頭を空の旅に送ってやるよ」

 

「空の旅…飛行船で十分」

 

黒いアンゼリカは刀を構えてアンゼリカに詰め寄る

 

「おやおや。そんなにも空の旅の旅行券がほしいのかい?そんなに命を粗末したいなら2秒止まってくれたらお空を越えてあの世の旅になっちゃうかもね」

 

「……あ!」

 

アンゼリカさん…身体に震えが…これは相手が怖いんじゃない。連戦に続く連戦で身体がもう悲鳴をあげてるんだ…

 

この普段ならアンゼリカが言わない物騒な言葉もデカイ態度も全部虚勢だ…

 

今のアンゼリカさんに…戦える力は残ってないのかも

 

「…アルト」

 

(そんな顔しなくていいじゃない…でも少し疲れが感じてきたな…まぶたも重いしなにより身体が思うように動かせない。武器もないから相手の攻撃を受け止めるなんてもってのほか。正直言って…これ以上の対人戦なんて想定していなかった……人が立ち寄る事が少ない森につけば少なくとも人と戦う事は避けれると思っていた。

 

でも予想は見事に外れて、体力限界の状態でこんな手慣れた奴とワンツーマンでバトルですか…ちょっとピーンチかも)

 

「英雄の首…とらせてもらう」

 

「……元気があってなによりな事で」

 

 

(私の舌足らずな脅しなんて効くはずない。でも可能性にかけてはみたけど…やっぱりこんな結果になるか…相手やる気満々だし…せめてアルトだけでも守らないと)

 

「アンゼリカ…何をブツブツと…」

 

「さてと…久しぶりの大ピンチ…丸腰で身体すごい痛いけど、死ぬ気…ないから」

 

 

 

 

 

 



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三十二話 笑うドスファンゴ

「・・・」

 

「・・・」

 

2人とも睨み合って動かない。

 

黒いアンゼリカさんは警戒しているのだろうけれどアンゼリカさんの方はただの強がり。

 

 

人の戦いもモンスターの戦いも何も知らない私から見ても体力も武器もないアンゼリカさんじゃいくらなんでも勝ち目がなさすぎる

 

「・・・」

 

「・・・」

 

黒いアンゼリカさんが警戒しつつも一歩一歩前に出てきた。警戒だけだから間違っても撤退なんかしてくれない。

 

完全に殺す気だ。

 

アンゼリカさんが勝つ方法は黒いアンゼリカさんに実力勝ちするしかない

 

「アルト…危険だから温泉の方に行って」

 

「え…でも…」

 

「足手まとい。居てもらっても邪魔だから行きな」

 

アンゼリカさんはいつもより厳しめの声で言う。普段の私ならアンゼリカさんに従っているだろうけど

 

「い…嫌です」

 

「…っ!…え、はぁ!?」

 

「私も戦います」

 

「バカ!あんたじゃまだ無理でしょうが!」

 

「・・・」

 

アンゼリカさんは疲れてる。体力が空の状態で1対1の戦いなんて勝てるわけないよ

 

「弟子は言うこと聞け!…っ!」

 

「アンゼリカさん!?」

 

アンゼリカさんは私を怒鳴った後、足がぐらついて姿勢を崩し、手を地面につける

 

「だ…大丈夫…」

 

「・・・」

 

(やばい…あの斬撃受けてから身体の調子が…)

 

「やっぱり…アンゼリカ…あんたはもう戦う力なんてない」

 

「…!!」

 

バ…バレた!!まずい!

 

「それはあんたの錯覚…ぐっ!?」

 

「アンゼリカさん!」

 

満足に立つ力すらなくなったのかアンゼリカさんはまた地面に倒れてしまう

 

「私の斬撃…あれを避けたと思ったけど…実際は避けていない」

 

「・・・」

 

「斬撃を地面に叩きつけて受ける衝撃を軽減したにすぎない…」

 

「え?…斬撃を地面に?なんの話…?」

 

いやいやいくらアンゼリカさんでもそんな事…

 

「なんでそんな早く見抜くかなぁ…私が勝った後かっこよく全部バラす予定だったのに…」

 

「マジで!?」

 

なんの反論もせずにアンゼリカさんはよろよろと立ち上がる。てか斬撃を地面に叩きつけるなんてどうやるの…

 

「あのまま斬撃を真に受けたらさすがにタフい私でもあの世に逝っちゃうからね。即座に斬撃を殴って地面にめり込ませたわけよ。受け止めた瞬間ガチで痛すぎて気絶しかけたからね」

 

「…だからあんな大規模な地割れが」

 

だいたい斬撃が地割れを起こすことに違和感を感じてたんだけど…そういうことだったのか

 

「まぁそれでも…こんな有様だけど…」

 

「っ!しっかりしてください」

 

私はまた地面に倒れそうになるアンゼリカを支えた

 

「…ったく…威力弱めてこれかい…どんだけ容赦ないの」

 

「容赦するわけない。まず生きてる事自体おかしい。人間が原型を留めていられる威力ではないはず…」

 

「まるで人を化け物みたいに…」

 

「そう言ってる…」

 

「物事をハッキリ言うねぇ…あんた」

 

そう言ってアンゼリカさんは苦笑いを浮かべる

 

そして黒いアンゼリカは私の方に視線を向けた

 

「…子供…でも邪魔するなら…殺す」

 

「っ…!…あ…あ…あん…さん…は…こ…殺させ…ない…」

 

蛇に睨まれた蛙状態な私でもやれることはある。

 

体力的に戦えるのは私しかいない。今邪魔しないでただ見てるだけの選択をしたらアンゼリカさんを見殺しにするのと同じじゃないか

 

(私の投げナイフ技術を思い知れ!)

 

アルトはポケットを探り、投げナイフを取り出そうとする

 

「……あれ?」

 

ナイフがない…なんで?

 

・・・

 

あーーーーーーーーーっ!!

 

そういや…私…

 

ーーあれ?ナイフがない…

 

ーーまぁいいか、ナイフ一本でモンスター相手にできないし

 

 

「…なくしてたんだった!!!」

 

アルトが膝から崩れ落ち、絶望の顔をしている中、黒いアンゼリカはアンゼリカの元に歩み寄る

 

「あ!待って!…くらえ!石ころ!」

 

アルトはその辺の石を黒いアンゼリカに向かって投げた

 

「・・・」

 

身体に当たる寸前で黒いアンゼリカは姿を消した

 

「…あれ?どこに行ったの?」

 

姿を見失ったアルトはキョロキョロと辺りを見渡す

 

「アルト!後ろ!」

 

「え?」

 

「遅い」

 

アンゼリカさんが教えてくれたのにもかかわらず私はすぐ後ろにいた黒いアンゼリカさんに気づくことができなかった

 

「ぶ…っ!…かはっ!」

 

そして黒いアンゼリカさんにお腹を蹴られ、そのまま近くの木に叩きつけられる

 

「………っ!…ーーっ!!」

 

声にならない程の痛さで身動きが取れない。呼吸もまともにできない状態だ

 

「アルト…!」

 

「次は…おまえ…」

 

黒いアンゼリカはアンゼリカの前に立ち、刀を振りかざす

 

「・・・」

 

(い…いけない!アンゼリカさんが…!ピンチに…)

 

 

「ちょ…ま…てぇ…」

 

お腹痛い…蹴りの一発で身体に力が入らない

 

「…喋れるのか…ちょっと本気で蹴ったのに」

 

「そ…の…ひ…と…は…げほ!」

 

立ち上がろうとしても足に力が入らない。結果的に上半身を地面に打ち付けるだけになってしまった

 

「・・・」

 

黒いアンゼリカは私の情けない姿を見たあと、またアンゼリカさんの首に刀をあてる

 

「だ…だ…め…かぁ…」

 

アルトは痛みのあまりに気絶してしまった

 

「っ!…偽ゼリカ!」

 

「その呼び方はイヤ…」

 

アンゼリカは倒れ伏せたまま黒いアンゼリカを強く睨む。

 

「…ハンターやってて長いけど…まさか人間に…自分と同じ顔の人間に斬首される日がくるとはね…」

 

「・・・」

 

「どうした?早く私の首をちょん切っちゃえば」

 

アンゼリカを切ろうとする黒いアンゼリカは突然不思議そうに耳を澄まし、辺りをキョロキョロ見渡した。

 

「…なにしてんの」

 

その行動は挙動不審の他になかった。アンゼリカは呆れた様子で質問する

 

「…こっちくる」

 

「え?」

 

黒いアンゼリカは森の暗い所に視線を向け、指をさした

 

「・・・」

 

黒いアンゼリカの言う通り何がこっちへ来ていた

 

「あ!」

 

トコトコとこっちに来ていたのは

 

 

「・・・」

 

「ドスファンゴ…?」

 

白い鬣に左右にある特徴的な牙。間違いなくドスファンゴだった

 

「…チッ…邪魔…処分…」

 

黒いアンゼリカは不機嫌になり、刀の先をアンゼリカからドスファンゴに向けた

 

「……アルト、アルト起きな」

 

その隙を見越してアンゼリカはアルトの元に近づき、身体をゆすった

 

「ん……あれ…私…気絶しちゃって…」

 

「気がついた?…よしよし」

 

ちょっとだけ休んでもまだお腹が痛い。動けるようになっただけマシか…

 

「…ッ!…なーんだドスファンゴですか」

 

「…あれ?今回は騒がないね」

 

「いや、だって相手が相手ですし」

 

目の前にモンスターがいたらすぐにビビりまくる私でも今回は落ち着きを保っていた。

 

耐性がついたのもあると思うけど最大の理由はドスファンゴ自体そんなに脅威じゃないという事だから。

 

実はもうドスファンゴは強くない。ただ突っ込むだけの攻撃は私でもかわせるし、なんせ今じゃヘビィボウガンの見事な的。

 

子供の私が警戒心を薄めるほどにモンスターの中では軽視されている。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「あれ?どうしました?」

 

ドスファンゴと黒いアンゼリカさんの方をじっと見ていたアンゼリカさんに質問する

 

「…なんかドスファンゴの様子が違う」

 

「…?」

 

言われてみれば…

 

目の前に人がいるのに突進もしてない…鳴き声も出さない…

 

ドスファンゴにしては妙に…

 

「・・・」

 

ドスファンゴは後ろ足を地面に擦り始める

 

突進の前兆だ

 

「…邪魔をするな」

 

そんなこと眼中にない黒いアンゼリカはドスファンゴに向かって斬りかかる

 

「・・・・ヒヒッ」

 

「っ!」

 

次のドスファンゴの行動に私は背筋が凍った

 

(笑っ……た?)

 

ドスファンゴの小さな笑い声を聞いた瞬間、大きな光と強い風が黒いアンゼリカを含めて3人を襲った

 

「え?え?なになに!?」

 

突然起こった異変に私はパニックになる。…でも長く感情にまかせている暇はなかった

 

 

「ぬぅわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

驚いて間もなくアンゼリカと私は強い突風に吹き飛ばされた

 

台風かと思うぐらい強い風をくらって身体は空中へ投げ出されてしまう

 

「な!なに!!」

 

「一体何が……ぐはぁ!」

 

アルトは空中に吹っ飛ばされた際、運良く木の枝に引っかかり地面に叩きつけられるのを避けることができた

 

しかし

 

「あ、アンゼリカさん!」

 

アンゼリカはアルトと同じく突然襲った風に吹っ飛ばされ、黒いアンゼリカによって起こった割れた地面に落下してしまった

 

「うそ…」

(私だけ…助かったの…?)

 

わけがわからない…ドスファンゴと戦ってるつもりなのになんでこんな事が…

 

「あ!偽ゼリカさんは!?」

 

びっくりして忘れていた。あの人が最前線で戦ってたんだった

 

「…あ!」

 

私の目に写った光景はとても信じられるもんじゃなかった

 

 

「・・・」

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒハハハハハハハ!!!!」

 

血塗れで倒れている黒いアンゼリカの隣でまるで人間のように高笑いをしているドスファンゴがいた

 

どす黒い息を吐きながら一切笑い声を抑える所は見られない。ずっと笑ったままだ

 

「……なにあれ…本当にドスファンゴ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三十三話 大猪の快進撃

実力があまりなくてもハンターになれた人はまずドスファンゴに負ける事はない。突進だけしてくるモンスターは今時銀行モンスターに変わる。

 

アンゼリカさんや偽ゼリカさん…偽ゼリカってなんか嫌だな…黒いから…クロゼリカさんでいこう

 

クロゼリカさんは数ある中で強いハンターだ…と思う。

 

けどアンゼリカさんに至っては英雄だ。

 

2人もと余程の事が起きなければ負けない相手のはず…アンゼリカさんは吹っ飛ばされて、黒ゼリカさんは血塗れで倒れてる。

 

ドスファンゴの身に一体何が起こったのだろうか…

 

ーードシン

 

「わぁ!?」

 

アルトが登っている木が突然大きく揺れた

 

「なんで木が!?まさか!」

 

アルトは木の根本の方へ見てみると

 

「ヒャヒャヒャヒャ!!」

 

「ぎゃー!!いるぅぅぅ!!」

 

ドスファンゴが笑い声を上げながらアルトがいる木を自慢の大きな角で突いていたのだ

 

「ヒヒッ!ヒャヒャ!!」

 

「わぁ!わぁ!お、落ちる!」

 

アルトはドスファンゴに弄ばれ、体勢を崩して木から落ちかけてしまう

 

「あ!あぁ怖い!怖すぎる!!助けてぇぇ!!」

 

ドスファンゴの笑い声がアルトの精神を追い詰める。ドスファンゴなら怯えないアルトだったが、普段のドスファンゴなら決して発する事がない笑い声に恐怖心を煽られる

 

「キャハハハハハハ!!」

 

「やだやだやだやだやだぁ!!アンゼリカさん助けてぇ!!」

 

あの笑い声がどうしても空耳で「こっちにおいで」って聞こえる。強い力であんな空耳聞いたら怖くないわけない…それに今の私は腰が抜けてると思うから…

 

ほぼ100%、いや確実に惨殺される

 

「でももう無理ぃぃ!!落ちるぅ!助けてぇぇ!!」

 

「キャハハッ!」

 

アルトがもう少しで落ちる事を予期したドスファンゴは後ろへ後退り、木から距離を離していく

 

「え…次はなにすんの…?」

 

「イヒヒヒヒヒ…」

 

ドスファンゴは後ろ足でガリッガリッと地面を軽く蹴る。突進する前兆だ

 

「…突進する気!?」

 

「イヒヒ…」

 

後ろ足で3回地面を蹴った時だった

 

「ヒャッハハハ!!」

 

「え?わぁぁぁぁぁ!!」

 

ドスファンゴが突進する瞬間、姿が見えなくなり、一瞬静かに思えた時、アンゼリカとアルトを襲った強い風が再びきたのだった

 

「わぁぁぁぁ!!」

 

ドスファンゴによって木は倒れるが、突如発生した突風によって木もろともアルトは吹っ飛ばされてしまった

 

「…えぇ!!」

 

吹っ飛ばされ、宙を舞うアルト。しかし空中に投げ出されている状況で重なるように驚きの光景が映った

 

「ヒャッハハハ!!」

 

ドスファンゴは笑い声を上げながら光の速度かどうか疑うレベルのスピードで森の中を爆走していたのだ

 

「は…速いっ!?」

 

ドスファンゴの突進により、森はローラーで潰されるように平らな土地に変わり果ててしまった。風により、周りの木々も倒れていく

 

「う…うそ…ドスファンゴが…あんなに早いはず…」

 

…いやそもそもここに至るまで異変はかなりあった。

 

ドスジャギィだって普段と様子が変だった。突然ありえないほど強くなって気が狂ったように暴れだす。

 

ドスファンゴも身体に異変が起こったんだ…だって

 

突進の速度が大幅に強化されてて…もう走るだけで強烈な風が発生する始末だ。

 

肉眼じゃとても見えない…

 

「本当にどうしちゃったの…って!」

アルトは自分が置かれている状況を再認識した

 

「やばいやばい!落ちる!」

 

気づいた時にはすでに真下へ直行していた。身体も頭が下になり、即死ルートまっしぐらだ

 

「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

やばい…これ死んだかも…

 

ドスファンゴと戦って落下死とか意味不明だよぉ…

 

「受け身も間に合わない!あぁぁ!」

 

 

ーーーガシ

 

 

「…あれ?」

 

アルトは落ちる寸前、身体を担がれため直撃を避けた。

 

単純に言うなら地面に激突する前に救出されたのだった

 

「た…助かったの…?」

 

また…まただよ…私を何度も救ってくれて、何度も危険な目に遭って…自分が情けなく思う

 

「い…いけない…また涙が…」

 

アルトは担がれたまま泣き出すのを堪えて、表情を笑顔にして、アンゼリカに顔を見せる

 

「ありがとうございます!アンゼリカさ…」

 

「・・・」

 

しかし自分の前にいるのはアンゼリカと顔が似た黒髪の女性だった

 

つまり

 

「ギャァァァァ!!クロゼリカさぁぁぁん!!?」

 

「く…クロゼリカ…?」

 

アルトは暴れだし、黒いアンゼリカから離れる

 

「え…えぇ!!ななななんで!?」

 

アルトは取り乱す。黒いアンゼリカは困惑するものの、アルトの無事を確認すると、刀を手にとり、アルトに背を向けたまま歩き出した

 

「…も…もしかして…助けて…くれたんですか?」

 

「・・・」

 

私を無視してクロゼリカさんは私から離れていく。正直アンゼリカさんじゃなくてびっくりしたけど…この人が私を助けてくれたのは事実だ。なのに私は…

 

 

「ちょ…ちょっと待って!…ちょっと待ってください!」

 

アルトは急いで走り出して黒いアンゼリカの前で両手を広げて歩みを止まらせる

 

「……なに?」

 

クロゼリカはムッとした表情でアルトを見つめる

 

「なに…って…どうして私を助けたんですか?」

 

「…別に助けてない」

 

「助けてくれたでしょう!私を担いで!そんな分かりやすいところでとぼけないで下さいよ!」

 

「・・・」

 

「私は…クロゼリカさんが目の敵にしてるアンゼリカさんと一緒にいるんですよ?なのにどうして…」

 

「…じゃあ…あんたは死にたかったの?」

 

「そんなわけありません!大感謝です!ありがとうございます!助けてくれて!」

 

アルトは深々と頭を下げる

 

「………うん」

 

黒いアンゼリカはちょっとうなづき、ドスファンゴが突進した所へ歩き出した

 

「え…どこ行くんですか?」

 

「きまってる…あの豚を殺す」

 

少しさっきまで優しい目?をしていたクロゼリカさんの目が完全に人を殺す目に変わっていた。刀の刃先が光るのと同時に刃先から血が流れ落ちるのが見えて本気で殺す気満々のようだった

 

「…じゃあちょっと待っててください!すぐアンゼリカさんを呼びに行ってきますから」

 

「いい…時間の無駄」

 

私の言葉にかまわす、クロゼリカさんはスタスタ歩き出す

 

「えぇ!?まさか1人で行くつもりですか!」

 

「・・・」

 

この期に及んで冗談を言うような人じゃないのは見た目通りだ。本気で1人でドスファンゴを仕留める気なんだ

 

「ちょっと待ってくださいよ!あのドスファンゴはいつものドスファンゴとは強さの格が違うんです!あなたもさっきあの突進でやられたのを忘れたんですか!」

 

「あの時は…油断しただけ…ちゃんと殺る」

 

「そうは言っても…せめてアンゼリカさんと一緒に…」

 

「アンゼリカの手は…借りない!」

 

初めて聞いたクロゼリカさんの怒声に私は怯む

 

 

 

「私はアンゼリカよりも…アンゼリカよりも強い…証明してやる…証明してやる!」

 

そう言ってクロゼリカさんはドスファンゴの元へ走り出した

 

クロゼリカさんはずっと片言のように喋っていたからその言葉にびっくりした私はただその背中を見ているだけだった

 

「あ…あぁぁ!!行っちゃった!本当に行っちゃったよ!」

 

と、止められなかった…もっと語彙力をフルに説得していればと後悔の念にとらわれる

 

「絶対アンゼリカさんと共闘した方が勝てる見込みはあるのにもう〜!!」

 

そんなにアンゼリカさんが嫌いなのかな…

 

 

「あ!そうだよ!第一にアンゼリカさん無事なの!?」

 

私はハッと我に返り、アンゼリカさんが落下した地面に目を向ける

 

「もしかして…いやいや最悪の状況はまだ確定してない…大丈夫…大丈夫…」

 

そう自分に言い聞かせるけど不安なのは解消されない。こんな状況になっても戦える力すらない自分が腹立たしくなる

 

「と…とにかくアンゼリカさんを助けないと!」

 

アルトはアンゼリカの落下した所に向かう

 

「アンゼリカさぁぁぁん!!」

 

アンゼリカが落ちた付近の所でアルトは大きな声で叫ぶ

 

「アンゼリカさぁぁぁん!聞こえますかぁぁぁ!」

 

…返事がない

 

「多分きっと気絶してるんだ…あの高さだから…」

 

死んでるなんて思いたくない。今度は自分の手で岩を退かしてアンゼリカさんを探す

 

 

「アンゼリカさん!出てきて!」

 

効率はすごく悪い…でも他に方法が思いつかない

 

「ど…どうしよう…これじゃあまりにも時間がかかりすぎてる…」

 

 

焦る私に追い討ちをかえるように新たな恐怖が舞い込んだ

 

「キャーーーーハッハッハッハ!!」

 

「ひぃ!!」

 

聞きたくもない笑い声。あの化け物染みたドスファンゴの笑い声だ。

 

「こんなに遠くからでも聞こえるの…?」

 

ドスファンゴの笑い声から数秒経った後、地面を壊す音、ドガドガと木か岩を破壊しているような音が一斉に聞こえてきた。そしてまた大きな強い風が襲ってきた

 

「うわぁ!?」

 

距離は遠い。だから姿勢が少し崩れるぐらいで済んだ

 

「キャハハハハハハハ!!」

 

「は…はじまった…」

 

笑い声と共に大きな樹木が倒されていき、強い風も吹きまくっている。クロゼリカさんとドスファンゴが戦ってるんだ

 

「は…はやく見つけないと!」

 

アルトはアンゼリカを探すことを再開した。ドスファンゴと黒いアンゼリカが交戦し始めた事を見てアルトは余計に焦り始めた

 

(やばいよ…早く見つけないとアンゼリカさんが…)

 

アルトの懸念は戦いの最中でドスファンゴがこちらに向かってくる事だった。

 

音速の域に達しているあの速さでこの場に突進されたら英雄と呼ばれるアンゼリカでもただでは済まないと考えた

 

「アンゼリカさぁぁぁん!出てきてよぉぉ!!」

 

半泣きになりながらアルトはアンゼリカの名を呼びながら岩を退かしていく

 

「キャーーーーハッハッハッハ!!」

 

「もう…!あの声嫌い…!」

 

アルトはドスファンゴの声にびくびくと怯えながらも必死にアンゼリカを探す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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三十四話 2回目の斬撃

「キャハハハハ!!!」

 

「チッ…」

 

黒いアンゼリカはドスファンゴの突進により発生した突風に吹っ飛ばされてしまう

 

「ヒャヒャヒャヒャッ!」

 

それを感じ、ドスファンゴは急旋回して黒いアンゼリカに向かって突進してきた

 

「・・・ッ!」

 

ドスファンゴが突進することをいち早く察知した黒いアンゼリカはすぐに回避に移行するものの、音速を超えたドスファンゴの突進により発生した風にまたも吹き飛ばされる

 

「・・・風が…邪魔」

 

素早く受け身をとる

 

「フヒヒヒ」

 

「・・・」

 

ドスファンゴは黒いアンゼリカを見つけると不適に笑い、再び後ろ足を地面に擦り始める

 

「・・・」

 

一回、二回と擦り、三回地面に擦った瞬間、黒いアンゼリカはすぐ左に向かって回避した

 

「ヒャッヒャーーー!!」

 

ドスファンゴは目に止まらない速さで突進してきた。しかし既に回避していた黒いアンゼリカにあたらず、そのまま前へ突っ切っていってしまった

 

「ぐっ…!」

 

黒いアンゼリカに強風が襲う

 

「うっとうしい…」

 

突風を受け続けた黒いアンゼリカは苛立ちを感じ始め、その感情に従うように刀にアンゼリカの血が付着した指をなぞる

 

「この際…右手は…捨てる」

 

 

 

 

 

 

「アンゼリカさぁぁぁぁん」

 

アルトは未だにアンゼリカを見つけることができず、広い岩場の中で彷徨い続けていた

 

「早く出てきてくださぁぁぁぁい!」

 

…ってできるならアンゼリカさんもそうしてるか

 

「もう!見つかりっこないよぉ!これぇ!」

 

多少半泣きになりつつもアンゼリカさんを探し続ける

 

「せめて…ここだよっ!って感じで返事してくれたら探しやすいのに…!」

 

(だからできるならアンゼリカさんもしてるってのに…)

 

自分の言った言葉に自分でツッコむ始末

 

不安と軽い絶望感でだんだんと精神的に余裕がなくなってきた

 

「うぅ…どこにいるの…」

 

落胆して座り込んでしまう

 

「こんな時にドスファンゴがきたら…いやいやクロゼリカさんならワンチャン倒してくれるかも…ん?でも私が助かっても…」

 

クロゼリカさんもアンゼリカさんの命を狙ってるわけだから…

 

「アンゼリカさん助からない!どうしよう!!どっちが勝っても絶望的なのあまり変わらないよ!」

 

完全に盲点だった。敵の敵は味方というけれどクロゼリカさんは元々敵だった。

 

今の状況は都合よく敵同士が潰しあってくれているだけだ

 

「落ち込んでら場合じゃない!早くアンゼリカさんを見つけないと!」

 

立ち上がり、再びアンゼリカの捜索を開始しようとした時

 

「キャーーーーハッハッハッハ!!」

 

「え?」

 

アルトの真横をドスファンゴが突っ切った。奇跡的に直撃を避けることができたが…

 

「ぎゃぁぁぁぁ!?風ぇぇぇぇ!!」

 

発生した強風にアルトは吹っ飛ばされ、ごろごろと転がってしまう

 

「今の…って!ドスファンゴ!?」

 

「ヒャーーーハハハハ!!」

 

「ひぃぃぃ!!噂してたら戻ってきたぁぁ!!」

 

アルトは腰を抜かしてしまい、そのまま地面に座り込んでしまった

 

「ヒヒヒヒッ!」

 

アルトの声に反応したのかドスファンゴは突進したところから戻ってきてアルトと対面する

 

「キャキャキャ!!」

 

「わぁぁぁ!!後戻りも速い!!」

 

ダメだやばい死ぬ!!

 

「あ…アンゼリカさん…!」

 

「キャハハハハ!」

 

早く逃げないとと思っても足が動かない。でも絶望を感じる今の状況に光が差し込んできた

 

…物理的な方で

 

「…これは?」

 

光の元の方は視線をやると

 

「ん!?」

 

赤い斬撃が地面をえぐりながら猛スピードでこっちに向かってきていた

 

「うわっ!ちょちょちょちょ!!」

 

アルトは急いで横に避難して赤い斬撃をかわす。アルトを横切った斬撃はそのまま直進していき

 

「キャーーーーー!!!」

 

ドスファンゴに直撃し、悲鳴のような鳴き声を上げて大爆発を起こし、その衝撃でドスファンゴの巨体を7mぐらいまで吹っ飛ばした

 

「わぁぁぁぁ!!や…やったぁ!」

 

斬撃があたった衝撃でアルトも吹っ飛ばされた。しかしドスファンゴに命中した喜びが、今の状況の理解を流すのだった

 

「ついにあのドスファンゴも倒れ…たぁっ!?」

 

アルトは地面に落ち、そのままゴロゴロと転がり、岩に頭をぶつけた

 

「い〜たぁ〜っ!!」

 

頭を抑えてその場でバタつく。大きな声を上げる余裕もない痛みが頭のてっぺんから身体は流れた

 

「痛い痛い〜!でも嬉しい!…でもいたーーい!!それでも嬉しい!」

 

前後で言葉が逆転する。

 

そんな見るに耐えない私の姿を岩の上で冷たい視線で私を見てる人がいた

 

「・・・」

 

「わっ!クロゼリカさん!」

 

私が頭をぶつけた岩の上で右手を抑えながらクロゼリカさんは立っていた。

 

「・・・」

 

クロゼリカさんの視線の先には斬撃の爆発で煙だらけになった風景があった

 

「・・・」

 

「すごい威力…アンゼリカさんが動けなくなるわけだよ…ってそれよりも!」

 

ドスファンゴやっつけれて嬉しいけどそれ以前に死にかけたのを今思い出した

 

「私が斬撃の範囲内にいるのにあんなのぶっ放すのやめてくださいよ!」

 

私はクロゼリカさんのいる岩に登って抗議する

 

「…あんたを助けた」

 

「私にあたるところでしたよ!」

 

「お礼は報酬で……いたっ!」

 

黒いアンゼリカはいきなり右手を抑えて地面に膝をつく

 

「…ちょっ!大丈夫ですか!?」

さっき文句を言っていた時と雰囲気が変わり、アルトは焦って黒いアンゼリカの元に駆け寄る

 

「なんともない…離れて」

 

そう言って黒いアンゼリカはアルトを突き放す

 

「ぐっ!」

 

しかし突然の痛みが黒いアンゼリカを襲った

 

「なんともなくないじゃないですか!…あ!そもそもクロゼリカさんってアンゼリカさんと戦った時に斬撃をしていたんじゃありませんでしたっけ!?」

 

「……それが何か」

 

何かって…あの斬撃の二回目は身体の負担的にやばいよ

 

「見たまんまですよ!斬撃で手を痛めてるじゃないですか!…早く手当てしないと…」

 

アルトは膝をつく黒いアンゼリカの身体を支えて、ポケットを漁る

 

「あんた…私を助ける気?」

 

「助けるって…うーん…さっきは何の理由もなくクロゼリカさんには助けられましたし…恩返しですかね」

 

「お人好し…それとも単なるバカ…」

 

「そ…そこまで言います?クロゼリカさんだって私を助けたんですからお互い単なるバカってことになりますね」

 

「…私は違う」

 

クロゼリカはキッパリと言う

 

「じゃあなんで…」

 

「ただの気まぐれ」

 

・・・

 

・・・

 

そんだけかーーーい!!

 

「ま、まぁいいや、殺す楽しみが増えたとかサイコ的な理由じゃなくて良かった…ハハ」

 

私を助けた理由そんな深くなかった…

 

「あ、やばい」

 

アルトはポケットから1枚の絆創膏を取り出した

 

「こ…これで治るかな?」

 

「絶対無理」

 

苦笑いを浮かべるアルトはそれでも絆創膏を黒いアンゼリカの手首に貼った

 

「まぁまぁ、そう言わずに!」

 

「…効果は望めない」

 

「そんな嫌な顔しないでくださいよ」

 

「なんで貼ったの…」

 

「そりゃあおまじないですよ」

 

「おまじない?」

 

黒いアンゼリカは目を細めて聞く

 

「そうです、こうやるんですよ」

 

「???」

 

「見ててください…」

 

アルトはニッコリと笑い、絆創膏を貼った手首に手をかざした

 

「痛いの痛いの飛んでけ〜♬」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

アルトがおまじないの言葉を言った瞬間、黒いアンゼリカは黙り込んだ

 

「それだけ?」

 

「はい、これだけです」

 

「・・・」

 

そして無口になりながら手首に貼ってある絆創膏に手を出した

 

「・・・剥がす」

 

「え?ちょっとたんまぁぁぁあ!!」

 

絆創膏をガリガリ剥がそうとするクロゼリカさんの左手を抑える

 

「手首に違和感…治療できないなら剥がす」

 

「剥がさないで!それ人気シリーズ限定版の最後の1枚なんですよ!」

 

「人気シリーズ…?」

 

「知らないんですか?今結構流行ってるやつですよ?」

 

子供達の間で!

 

「今…流行ってる…」

 

黒いアンゼリカは貼られた絆創膏をじっと見つめる

 

絆創膏にはデフォルメ化されたリオレイアのキャラクターが描かれていた。吹き出しに「絶対治る」と書かれている。

 

しかしリオレイアのキャラの絵柄はお世辞にもいいとは言えず、顔の適当さと翼の部分がガタガタで見てる側としては妙に腹が立つデザインだった

 

「・・・なんでこんなもんが流行るの…」

 

「こんなもん!?」

まぁ子供受けだから仕方ないけど

 

「絶対治るは商売文句…」

 

クロゼリカさんはボソッと言った。でもその後…

 

「こんなもん買う奴は頭がでかいだけの社畜、人を疑わない世界の金づるども、判断能力が毛虫以下の薄っぺらい頭をした低脳な愚民、善悪の区別がつかない頭に花しか育てないクソ人間…後先を考えずに目先のことばかりに気を取られ、揚げ足と金をとられる鴨…とりあえず物は買う貴族、富裕層…死ぬほどダサいキャラクターデザインに気をとられ、損している事に気がつかないバカなクソガキ共…財布を気にせず、衝動買いばかりする脳なし…あとアンゼリ…」

 

「ストープ!ストープ!!」

 

変なエンジンがかかったのか口数が少なかったクロゼリカさんがものすごくゴミを見るような目で絆創膏を見つめながら暗い顔で次々とキツイ発言を繰り返した

 

「いきなり何言ってるんですか!?そんな喋る人じゃなかっでしょう!!」

 

「…!!!」

 

黒いアンゼリカは目が覚めたように目を通常より強く開いた。そして赤くなった顔をアルトの視線から逸らす

 

「・・・」

 

(あ、今のちょっと可愛かったかも)

 

「……?」

 

言葉を失っていた黒いアンゼリカは突然の疑問が蘇り、思った事を口にした

 

「アンゼリカは?」

 

「…それはぁ」

 

これ言って大丈夫かな?

 

「実は地面に埋まっちゃ…」

 

 

ーーヒヒヒヒ

 

 

「…なに笑ってんの」

 

質問に対する答えに笑い声が聞こえ、黒いアンゼリカはアルトを睨みつける

 

「わ、私じゃないです!」

 

(え…笑い声?)

 

突然の笑い声にアルトはゾッとする。思い出したくもない記憶が蘇り、アルトの身体を震わせる

 

「わ…笑い声って…」

 

「・・・」

 

両方とも察しが早いのか、いつのまにかクロゼリカさんと同じ方向を見ていた。

 

「キキキキキキッ!イヒヒヒヒヒ!!」

 

「!!!!!ッ」

 

「……死に損ない」

 

例の笑い声からドスファンゴしか予想がなかった。案の定ドスファンゴだったけど今目の前にいるのは自慢の二本の角がキレイさっぱりなくなり、顔の表面は皮膚が丸見えになっていた。

 

そしてどす黒い息を吐き続けてなおも笑い続けている

 

「ギャーーー!!生きてるぅぅ!!」

 

「ヒャッヒャッヒャ!!」

 

すっかり腰を抜かした私は地面に尻餅をついてしまった。

 

でもクロゼリカさんはこの状況でもドスファンゴの真正面に立ち、刀を抜いた

 

「だ、大丈夫ですか!?あの斬撃くらってゲラゲラ笑い続けるモンスターが相手なんですよ!」

 

「…あの斬撃は血が乾いてたせいで…威力が弱まっただけ」

 

血の濃さで威力変わるんだ…

 

「1回目のやつなら…この豚を殺せる…」

 

「豚じゃないです!ドスファンゴです!」

 

「…そんな事より…アンゼリカはどこ?」

 

「え?」

 

「あいつの血じゃないと意味がない…」

 

「あ…」

 

あぁぁぁぁぁぁ!そうかぁぁぁ!!アンゼリカさんいないとドスファンゴ倒せないじゃん!!

 

「ていうより…さっきアンゼリカの手は借りない!って叫んでませんでしたっ…」

 

私の喉元に至近距離で刀がキランと光る

 

「アンゼリカの『手』は借りない…あいつの『血』を借りるだけ…勘違いしないで」

 

「・・・・!!」

 

要するに斬撃の素材だけもらうと…なるほど

 

「だから…約束する。今はアンゼリカを殺さない。早くアンゼリカを連れてきて」

 

「いや…それは…その」

 

任せられてる感があってアンゼリカさんの居場所…って言うよりどこに埋まってるのか分からないなんて言えない…

 

でも他にも問題はあった

 

「クロゼリカさんの…腕…」

 

「・・・?」

 

アルトは黒いアンゼリカの右手を指差す

 

「完全な威力じゃないにしても…もう既に2回斬撃放ってるのに腕の状態は大丈夫なんですか?最悪右手が吹っ飛ぶ可能性も…」

 

最後はとても言い辛く、言葉を濁してしまった

 

「…最初っから右手は捨てる気でいた」

 

「はい!?」

 

「あのクソ豚を殺せるなら…右手の1つや2つくらい…」

 

なんたる殺意!…これ褒めていいのかな?

 

「…そこにいると邪魔。どっか行って」

 

「あの〜非常に言いづらいんですけど…」

 

黒いアンゼリカはアルトに構わずドスファンゴに特攻していった

 

「私の話は無視かい!!」

 

いや…感情に浸ってる場合じゃない!早くアンゼリカさんを見つけないと…

 

「キャーーーーハッハッハッハ!」

 

「五月蝿い…」

 

ドスファンゴは足がようやく立ち、身体を起こせた瞬間に黒いアンゼリカはドスファンゴの目に刀をブッ刺した

 

「ギギギ…キキキキキキ!!」

 

「…ふん!」

 

刺した刀をそのまま横一線に斬り、ドスファンゴの目から大量に血が吹き出した

 

「…!」

 

ドスファンゴの血が黒いアンゼリカに降りかかる。予想もしていなかった大量の血に黒いアンゼリカは怯んだ

 

「ヒャヒャヒャヒャ!!」

 

「・・・」

 

それを見計らってドスファンゴは首を横に振り、角で攻撃しようとするが、角は既に二本ともなくなっており、空回りするだけだった

 

「ギギ…ギギ…」

 

「・・・」

 

黒いアンゼリカはドスファンゴを数回斬った後、距離をとる。

 

 

「汚い…」

 

ドスファンゴの血により黒いアンゼリカは血塗れになってしまった。黒いアンゼリカは不快そうに全身についた血を手で拭う

 

「ギギギ…ギィ…」

 

「デカイだけのただの家畜が…絶対殺す」

 

黒いアンゼリカは殺意を露わにしてドスファンゴに斬りかかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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