翼、鍵、最愛。 (よに)
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夢にまで見た

作者にとってガーリー・エアフォースという作品、ひいては慧とグリペンの関係は「救い」であり「理想」です。


目の前の少女が、先の方から徐々に薄れゆく。

最愛にして最高のパートナー、JAS39D‐ANMグリペンは涙ながらに笑みを浮かべこちらを向いていた。

俺も微笑み返す、互いに手を握りながら。

「大好きだから」

「ああ」

俺もだよグリペン。

「ずっとずっと大好きだから」

「ああ、ああ」

ずっと、これからもお前と一緒に空を飛んでやる。あのときの願いを、約束を果たそう。

「私たちはいつまでも貴方と一緒だから」

そう言う間にも、彼女の体は最早胴体までも消えかかっていた。

これで今生の別れというわけではない。俺はこのザイの消滅する世界で、人類の新しい可能性を見つけるために空を駆る。お前に意思を込めて、操縦桿を握りしめて。

 

_____新たな 時代を(ノヴァ エラ)________

 

真っ白な光が辺りを強く照らしている中、俺たちは最後の最後まで手を離さなかった。

 

 

 

 

 

目を開けるとそこは知らない天井だった__というわけでもなく、キャノピーに座していた。

マップを見ると、JAS39はベラヤ基地への帰路を辿っていた。予め自動操縦にしていたため一定の速度で飛んでいたみたいだ。

もう後方の操縦席には愛しい人の姿はない。だがはっきりとわかる。

「さあ、急いで帰ろうかグリペン。皆が祝賀会の準備をして待っているだろう。豪勢な食べ物もたくさん用意されているかもな」

独り言気味に話しかけると、目の前のモニターが明滅する。やっぱり食欲には勝てないらしい。そもそもこの姿でどうやって食べるというのか。

_____そう、彼女は肉体こそ失ったものの、JAS39の機体にその魂を残し、俺の翼に、矛になった。

大丈夫、大事なのは体ではなく魂で繋がっているかどうか。

グリペンと永遠に愛し合い、いつまでも隣に寄り添いあうと決めた。だからまずは。

「帰ろう、八代通さんの、技本の人たちの所へ」

あと各国のお偉いさんもな。

あたかも恋人同士が愛しさを込めて手を握り合うかのように、しっかりと操縦桿を握りしめた。

 

 

 

 

 

ベラヤへと帰り着くとき、たくさんの人たちが外に出ているのが小さく見えた。無線で予め作戦成功の旨は伝えていたので、今頃は熱気と喜びで満ち溢れているだろう。こういうのってキャノピーから降りた瞬間に寄ってたかられて胴上げでもされるのだろうか。もみくちゃにされないことを祈ろう。

なんてことを考えていたら、不意に無線に不規則で大きめのノイズが入った。はっとすると

、もう着陸準備をしなければならない距離であった。危ない、ここに来て着陸できず墜落となるとコントもいいところだ。

「すまん、この後のことを考えてた。警告してくれてありがとうな」

全く、慧はもう少し緊張を保つべき。

そう言うかの如く機体が唸る。面目ない。

ギリギリとはいえど、今のグリペンはただの有人戦闘機。速度も通常のそれと同じくらいだ。スムーズに着陸準備を整えて、無事滑走路にランディング。問題なく着陸した。

「お疲れ様、グリペン」

機体から長い唸りが発せられた。

「……おかしいな、さっきまでの人だかりは何だったんだ?よもや俺の見間違いか?」

先ほどまで見えていた黒山は、着陸を終える頃にはまるで幻覚だったかのようにさっぱりと消えていた。

そのままエプロンに誘導されて、ようやっと止まる。次いでキャノピーを開けると。

「よう、お疲れさん!JAS39(こいつ)は整備に回しとくからお前さんは基地内の執務スペースに向かってくれ」

「あ、あれ…?」

迎えてくれたのは舟戸を中心とするいつもの技本整備員の人たちであった。

おかしい。外に見えなかったから、中で待機してた大勢が一斉にわあっと駆け寄ってくるのかと思ってたのに。

「あの、外の皆は?」

「ああ、あれはお前さんの帰りを待ってた人たちだ。機体のシルエットを見るなり大急ぎで準備しに行ったよ」

「準備?」

とそのとき、グリペンが急かすようにエンジンを咆哮させる。こいつもしかしてお腹空いてるんじゃないのか。

「落ち着けグリペン。まずは無事に帰還できたことを喜ぼうぜ」

そういって計器を撫でてやる。すると瞬く間に騒音は音を小さくしていく。なんとかおとなしくしてくれたようだ。

「フナさん、こいつを早く整備してやってください。流石に疲れが来たみたいです」

「お、おう。そいつぁもちろんだが……」

フナさんは軽く戸惑っているようだ。無理もない、JAS39が撫でられておとなしくなるという、まるで人間のような挙動をしたからだろう。今説明するのもぐだぐだしそうだし、ごまかすか。

「ところでフナさん、準備とは?」

「あ、ああ。休憩スペースでプチ祝賀会を開くことになっててよ、それの準備らしい。まだ時間はかかるだろうから、先に室長に顔見せてやりな。執務スペースにいるだろうさ」

舟戸は思い出したように言う。しかしまだ戸惑いの色は残っている。まあここは素直に従っておこう。

「フナさんたちは準備には参加しないんですか?」

「ああ、俺たちは待っててくれと言われたんだ。だから軽く機体を見てやろうと思ってな」

一応技本は主賓扱いなのだろうか。まあ、この作戦の要だったからそうと言われればそうかもしれないが。

「分かりました。じゃ、グリペン。行ってくるな」

艦首に触れながらそう告げて、エプロンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

執務スペースへとたどり着く。

コン、コン。

「八代通さん。俺です、鳴谷です」

『入りたまえ』

許可をもらい、扉を開ける。八代通は椅子に座ってこちらを向いていた。

「……作戦、無事成功しました。ザイはもう現れません。俺たちは勝ったんです」

「ああ、そうみたいだな。おめでとう、君は対ザイ戦の英雄だ………して、アニマたちは」

「はい。皆消えていきました。」

「そうみたいだな。君以外の機体も自動操縦でここに帰ってきた。アニマの固有色も消え、ただの戦闘機になっていたのが無事に完了した何よりの証だろう」

八代通の顔はいつも通り不遜さをにじませていたが、今は若干安堵の色が見えていた。

「しかし我々の戦いは終わらない。むしろここからが本番だろう。これからどう生きるか、何をすればより良い人類の生活に改善できるのか。君もこれから忙しくなるぞ、英雄君」

「……グリペンは『新しい時代を(ノヴァエラ)』と言ってました。俺たちも使いませんか?」

「新しい時代を、か……いい言葉じゃないか」

八代通が立ち上がり、こちらに手を差し出してきた。

「新しい時代を」

彼の手を強く握る。

「新しい時代を」

数秒ののちお互いに手を離した。そのまま八代通は椅子に座り直し、煙草を一本取りだして吸い始めた。

「ま、何はともあれ人類の未来が開けたのをまずは祝福しないとな。君、祝賀会の話は聞いているかね?」

適当な椅子に腰をかける。

「はい、ここに来る前にフナさんから。プチって言ってましたがまた後日やるんですか?」

「当たり前だろう。ここベラヤ基地には本来大人数でパーティをするような食糧や施設は存在していない。それでも先に祝わずにはいられないのだろうよ。いずれ各国のお偉いさんを正式に招待し、生中継ありインタビューありの壮大な式典になるだろうな」

「……あの、その式典に俺は」

途端に嫌な予感が背中を駆け上がる。

「もちろん参加してもらうつもりだ、というか君が参加しないでどうする。アニマたちが消えた今、ザイを倒したのは事実上君一人なのだぞ。当然主賓扱いだ。メディアに露出することも十分あり得る」

「……やっぱそうですよねぇ」

そうなると明華にバレてしまう。それは非常にまずい。なんせ最後までザイと戦っていることを言えないまま離れ離れになってしまったのだ。それが突然幼馴染がテレビに出演したと思ったら「ザイを退けた英雄、鳴谷慧さんです」なんて紹介されたら彼女はどう思うだろう。

「なんだ、なにかまずいことでもあるのかね」

「いえ、まずいことと言いますか……」

もう終わったことだから、明華や家族に今までザイと戦っていることを隠していたことを八代通に伝えた。

「まあ、そういうわけで明華に顔向けできないというか…そんな感じです」

すべて話し終えると、八代通は呆れた顔を浮かべた。

「…はぁ、よくも今まで隠し通したものだな。逆になぜ言わなかったのだ」

「それは……パイロットになるのは明華から反対されてて。危ないからって」

「明華さんももうシンガポールなんだろう。だったら君の自由にしていいのではないか?君の功績ならパイロットへの推薦なんかもあり得る」

「まぁ…そうですよね」

明華とはずっと一緒にいたからこそ守り守られの関係が意味をなしていたが、もう彼女とは離れ離れになってしまったため今なら誰にも反対されないだろう。

……それに。

「俺、グリペンと約束したんです。ずっと一緒にいよう、一緒に空を飛び続けようって。だからやっぱりライセンスは取らないと」

「グリペンと?彼女は他と同じように消えたはずでは」

八代通が怪訝な視線を送ってきたので、今のJAS39にグリペンの魂が宿っていることを説明した。

 

・・・・・・

 

「なるほど、グリペンの精神が機体に、か」

「はい。証拠も現実味もありませんが、ちゃんと操縦桿を握れば答えてくれるんです」

「オカルトの類は信じないタイプなんだがな、グリペンと何十回も前から繋がっている君の言葉だ、調べてみる価値はある」

そう言うと八代通は加えていた煙草を灰皿に押し付け立ち上がった。

「何はともあれ、だ。君はこれから忙しくなるぞ。しっかり頑張ってくれたまえ」

「……はい!」

 

 

 

 

 

 

 

プチ祝賀会はプチとは思えないほど豪勢に開かれた。

ある人には肩を組まれ、ある人には食べ物をたんと取って持ってこられて、果てにはかつてテレビで見たシャンパンの噴出までさせられる始末。

流石に疲れが来て、人混みを抜けて壁にもたれかかる。

今はみんな羽目を外して楽しんでいるが、今となっては、限られた資源を使い尽くす今の人間社会の縮図を見ているようで、このパーティがどうしようもなく無駄なものに感じられた。確かにザイが消えたのは喜ばしいことだ。しかしそれは、これからもこのままでいいということとイコールにはならない。

自分たち人間は考えなければならない。今の状況を抜け出さなければならない。

「はぁ……この調子だとまだまだ指針を固められるのは先になりそうだな……」

人間というものはどうしてこうも愚かなのだろう。

「……グリペン」

今は無き想い人の姿を隣に幻視する。もし彼女が今存在したならば、このパーティも大いに楽しめたのだろうか。

「……やめだやめだ」

そのままつつがなくパーティを楽しんで、頃合いを見て自室に戻ろう。今日は肉体よりも精神が大きく疲弊した。戻って早く寝るとするか。

 

 

 

 

 

 

 

気付けば、目の前には雄大な景色が広がっていた。

見えるのは忘れもしない、かつて蛍橋三尉が、自分が、グリペンと見た小松のもの。二人が結ばれた思い出の地だ。

だが今はベラヤにいたはずでは。寝ている間にベラヤからここまで運ばれた、なんてことは間違ってもないだろう。

「て、ことはここは夢の中かな」

夢に見るほど、グリペンが隣にいないことが堪えたのだろうか。そう言われればそうかもしれない。いくら翼になってくれているとはいえ、あの手の温もりも、もう感じられはしない。彼女は〈本質〉へと還元されてしまったのだから。

「……ここにいても仕方がない。せっかくの夢の中だ、気分転換にどこか行こうか」

そう呟いて、後ろを振り向こうとした瞬間。

 

「……慧?」

 

「………え?」

 

 

本来聞こえるはずのない声。もう聞けないと思っていた声。願わくばもう一度聞きたいと思っていた声。

今しがた耳にしたものは余りに現実離れしていた。恐る恐る後ろを振り向く。

 

「……っ、グリペン…」

「慧…?慧なの……?」

 

ペールピンクの艶やかな長髪、灰色のガラス玉のような瞳、白いポンチョブラウス。

つい先ほど、永遠の別れとなったはずの最愛、グリペンが驚愕した表情で佇んでいた。

「………あ、ああ」

どうしてここに。〈本質〉へと還元されたはずでは。

溢れ出る数々の疑問を全て押し込んで、自然と足が動く。いつの間にか目には堪えきれない涙が浮かんでいた。走れ、走れ、彼女のもとへ!

 

「……グリペンっ!」

「……慧!」

 

 

ギュッと強く、その体を抱きしめた。お互いの存在を確かめるように、もう二度と離すまいと。二人の間にもはや言葉は必要なかった。

「グリペン……グリペン!」

「慧………慧っ……!」

ガラス玉の瞳を見つめる。彼女もまた泣いていた。顔をつたってとめどなく流れていく涙。目の前の愛しの存在は泣きながらこの状況に困惑して、なおかつ喜んでいるような表情を浮かべていた、案外自分も似たような表情をしているのかもしれない。

「……んっ」

気付けば、どちらからともなく唇を重ねていた。すぐに離したが、まだまだ物足りなくなって、もう一度。

 

 

 

 

二人が身を離すのは、それからかなり後になってからだった。

 

 



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夢は夢でも

かなり無茶ですがどうしても逢わせたかったので許してください。


「それで、どうしてお前が俺の夢に出てきてるんだ。というかなんで会話出来る」

ひとしきり再会の接吻を交わして、まだ顔の赤みが引いていない二人。そのままに、先ほど抑えられていた疑問をグリペンに聞いたのだが。

「夢?慧の言ってることがわからない。ここは概念世界、アンフィジカルレイヤーのはず」

「……は?」

言ってることがわからないってこっちの台詞なんだが。

彼女も彼女でふざけているような雰囲気ではない。どうやら本気でアンフィジカルレイヤーだと思っているみたいだ。どういうことなんだ…

「……??」

「……??」

互いに互いの目を見つめる。

「ちょっと待ってくれ。整理しよう」

「私もこんがらがっている。そうする」

すー、はー。

二人揃って深呼吸。

改めてグリペンの顔を見据える。先ほどよりかは幾分か落ち着いた様子だった。

「まず、俺たちはあの後普通にベラヤ基地に帰ってきた。それは大丈夫か」

「大丈夫。しっかりと覚えている」

よし。

「で、グリペンと離れた後、俺は八代通さんのところへ向かったんだ。それから少し話をして、次に基地にいた人たちが開いたプチ祝賀会に参加した」

「整備の人が言ってた」

「そう、まあそれはいいとして」

本題はここからだ。

「その祝賀会を途中で抜けて、俺は自分の部屋に戻ったんだ。そしてそのまま寝てしまった。んで、気が付いたらここにいたんだよ。アンフィジカルレイヤーになんか潜っていないぞ」

一通り話し終えると、グリペンは更に困惑した表情を浮かべていた。こめかみに手まで当てている。

「……私は、あの後何もない空間にいた。私はJAS39という《本質》に還元されて慧の翼になったはず……だった」

「だったって、もしかして失敗したってのか!?」

一瞬驚いて、しかしすぐにそれはないと否定した。なぜなら、目の前でドーターもろともザイが消え去っていくのを見たからだ。だから失敗したとは考えにくい。

「それは違う。違うと思うけど、正確なことは私にもわからない」

わからないって……怖いこと言うな。けど口ぶりからするに本当に自身でも把握できているわけではないのだろう。

すると、グリペンがこめかみに当てていた右手を離し、次いでそのままこちらの頬に……って。

「グリペン…?」

そうして目の前の少女は優しく微笑んだ。

「分からないけど、私の目の前にいる慧が正真正銘の本物、私の愛した鳴谷慧という人物であることは分かる。仮令ここがアンフィジカルレイヤーだったとしてもそれは、それだけは確か」

…ああ、ダメだ。抑えられない。

 

 

・・・・・・・・

 

 

「やっぱり、俺とグリペンがどうしてアンフィジカルレイヤーでこうして逢えているのか不思議でたまらないな」

そこにあったベンチに座って、彼女を正面から抱きしめたまま呟いた。ほとんど無意識だった。つい長めにしてしまっているが後悔はない。心なしかグリペンも嬉しそうだし。

「考えられる理由、というより要因はいくつかある」

「そうなのか?」

驚いて彼女の顔を見やると、灰色の瞳もまたこちらを見ていた。恥ずかしくなって顔を少しだけ逸らす。しかし彼女は視線を固定したままでいるのでどうにも。

「そう。まずは慧自身がアンフィジカルレイヤーを経験していること」

「……ああ、そういえば」

言われてみれば心当たりはある。シャルル・ド・ゴールの件だ。常熟の懐かしい家、ファントムのパラレル・マインズの十二番目〈トゥエルブ〉の実体化。あのとき経験した摩訶不思議な事象は今でも鮮明に覚えている。アンフィジカルレイヤーだった可能性のあるものを入れると、パクファ救出なんかもそうだろう。

「あのときは私もループの記憶に囚われて必死だった。慧には来ないでって言ったのに、結局二回も来たし」

うん?

「あのときっていつだよ。シャルル・ド・ゴールの件は仕方なかっただろ」

「違う、別にもう一つ。ちょうど上海奪還作戦の前のときくらいに慧はこっちに来た。慧にとっては夢を見る感覚だったのかもしれないけど」

「え」

ちょっと待て、そんなの初耳……いや待て、何かあのとき「夢」という単語に妙に引っかかりを覚えていたような…まさか本当に?え、そうなの?知らないうちに?大丈夫だったのか…?

衝撃の事実に激しく動揺していると、グリペンがまた口を開く。

「そして次に、慧と私が魂で繋がっていること。これはもう何も言わない」

「ああ」

何十回と繰り返された時間遡行。抜け出せない時の牢獄。その全てが鳴谷慧という存在ただ一人のためだけのものだった。二人の間にある絆は世界で最も深いものだろう。

「次いで、慧がアニマ(私達)と長く濃く接触していたことも考えられる。これもループの影響が大きく響く」

「なるほど」

自分たち人間とは似て非なる存在、アニマ。ザイの圧倒的戦闘力に対抗するために、ザイの部品から作られた無人戦闘機。概念エネルギーから作られたザイを流用して作られた彼女たちにもまた用いられている。その超次元的存在と心を通わせ力を合わせ、ザイを退けてきたのだ。

軽く走馬燈のような感覚に陥る。

「それから」

グリペンが続ける。

「それから……」

…おや?

「それ、から……」

……………

「何があると思う?」

「俺に聞いちゃうのか」

やっぱりポンコツなところは変わらなかった。思わず苦笑。しかし困った様子のグリペンをほうっておけるはずもなく、倣って要因を考え始める。

「そうだな……アンフィジカルレイヤーかどうかは分からないが、ベルクトのときにグリペン共々混ざったことがあっただろう。それも関係してるんじゃないか」

「…それも、ある、かも。あそこで会った男の人もこっち側になっていたから十分にあり得る」

ヤリックのことだ。ベルクトの中であった彼は自分のことを「記憶の残滓」だと言っていたが、そうには見えなかった。彼は「アニマと恋人の関係にある」ところで共通性がある。そこも可能性としては考えられるだろう。

「あとは……」

「私が人の形を失っても、私を駆っていること」

「…それ関係あるか?」

あんまり影響するような要素ではないと思うが。グリペンは今ただの戦闘機なわけだし。

「ある。もし、万が一、仮に慧が私に乗らなくなっていたら、私と慧の繋がりは薄れていた。けれどそうじゃない、私は慧と約束した」

「俺の翼、俺の矛」

上海奪還作戦の前に誓った言葉。今でもはっきりと覚えている。

「JAS39グリペンは貴方の意思を叶えるために生まれた。それは永遠不変、変わらない事実。そのJAS39が、私と慧がこうしてまた逢えるきっかけ、鍵になった……と、思う」

「………なるほどな」

 

 

つまりはこうだ。

・鳴谷慧はアンフィジカルレイヤーを経験済

・鳴谷慧とグリペンは魂で繋がれている

・鳴谷慧はアニマ・ドーターと深く関わっていた

・鳴谷慧がずっとJAS39に乗っている

 

 

改めて整理してみると、本当に奇跡みたいな偶然だ……いや。

「全ては自分で決めたこと。自分の意志で選択した結果、だったよな」

グリペンにかつて「自分とグリペンの出会いは運命だったのか」という問いをしたときに彼女が放った「運命が邪魔したらあなたを見つけられなかった。それは受け入れがたい」という言葉。それはつまりそういうことなのだ。時間遡行も逃避行もしない、本当にザイを消滅させた今の現実。自分で切り開いた未来。それも全て自分たちの行動の結果なのだ。今ならはっきりとその言葉が理解できる。

「あ、あともう一つあったぞ」

「なに?」

怪訝な視線を送ってくるグリペンに、胸を張って答える。

「俺の《本質》の一部に『グリペンを愛すること』が存在していて、グリペンの《本質》にも『鳴谷慧を愛すること』が一部在る、みたいな。ほら、グリペンが本当に《本質》に還元されてたなら、グリペンが今人形を取れている理由が見つからない。先まで上げた要因は全部俺が主体だっただろう。じゃあグリペン側には何もないのかと言われたら、俺はそうじゃないと思っている。互いの《本質》が『互いを愛すること』になっていると考えたら、俺がここにいることも、こうして同じ空間で繋がれたのもうまく説明できそうじゃないか?」

自分で言っておきながらかなり苦しい理論だ。《本質》がどうなっているかなんで確かめる術はないし、第一今の状況がどうなっているか、正確なことは何もわからない。それでもなんとなく、本当になんとなくの直感だがそんな気がする。確証はない。

今のトンデモ理論を聞いてグリペンは呆れたような、それでいて仕方ないなあというような顔をしていた。

「慧、やっぱり言ってることがめちゃくちゃ」

「それが俺だからな」

「でもその考え方、いいかも」

「だろう?せっかく逢えたんだから楽しいように考えたらいい。この考えなら俺たちはずっと一緒にいられる。良いことづくめだ」

「……ふふっ」

「ははっ」

互いに笑い合う。ここに来て初めて、心から笑ったような気がした。心の澱みがとけて消えていく感覚。不安はない。

が。

「あれ……?なんか足の感覚が…って消えてる?」

突如として自身の足が、つま先から薄れていっている。地面に立つ感覚もなくなり、自身の存在が薄れゆく心地がする。ああ、これはおそらく。

「もうすぐ夢が終わる。グリペンとはここで一旦お別れか」

「そうみたい。でも待ってる、私はまたすぐに逢えると思う」

「俺もだ」

「じゃあ」

「おう」

 

そうして意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……朝か」

目が覚めると、ベラヤの自室にいた。どうやら現実世界へと帰ってこれたらしい。

時計は午前7時を指していた。いつもと同じくらいの時間なので、どうやら寝過ごしたなんてことはなさそうだ。そもそも今日のスケジュールもわかっていないのだが。

「……グリペン」

先ほどまで触れ合っていた、魂の片割れとも言える存在。こうして目が覚めると急に記憶が虚構性を帯びてくるが、まあ多分夢見るごとに現実になるだろう。ここだけ抜くとおかしな話に聞こえる。

「うーん、どうなんだろうな」

先ほどは割と希望的観測な理論を言ってみせたが、正直それで合っているのか怖くて仕方がない。どこかのライブイベントみたいに、一夜限りの特別演出だった、なんて分かったらせっかく持ち直した精神状態が今度は奈落にまで落ちかねない。それは是非とも避けたいところである。

「というかもうこれから学校に通える機会が少なくなるんじゃなかろうか……」

主に対ザイ戦の英雄として各地に引っ張りだこになりそう。そのときはグリペンに乗っていきたいものだ。まあライセンス持ってないから無理だけど。八代通さんとかに頼み込めば行けるだろうか…。

「……とりあえず、外に行くか」

どうなるか予想もつかない未来にあれこれ気を遣っては疲れてしまうからな。朝の澄んだ空気でも吸ってこよう。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、慧がここに来るなんて……」

慧が消えていった後も、私はベンチに座ったままでいた。

ザイを消滅させ、《本質》となりただの戦闘機に戻ったはずなのに、気づけばこの世界にいてしかも体を持っていた。わからない。

それだけならともかく。

あるとき突然周りの景色が切り替わり、どこか見たことのある景色だと思いながら歩いていくと、なんと慧が立っていたではないか。あれだけここには来るなといったのに。どうやら彼も意図して来たわけではないらしいから余計に混乱。

だけどこの空間は普通の概念世界とは異なっていた。

慧の熱を感じ、慧の体に包まれ、慧と唇を重ねる。本当は逢えるはずもなかったのに、ここに慧がいるはずがなかったのに、ひとつひとつの動作がとても愛おしくて、もっと欲しくなる。

 

どうしてこんなにも慧への気持ちが溢れるのか、私には到底わからなかった。けれど慧は「お互いの《本質》に『お互いを愛すること』があるんじゃないか」と言ったのだ。

《本質》とはつまりそれの純粋で大元の性質。この空間がそうであるなら、慧への愛がこんなに溢れているのも納得のいく。

やはり私と慧は魂の繋がり同様相性もいい。番、比翼連理、一心同体。これがきっと名実ともにというものだろう。

慧が目を覚ますときは私みたいに徐々に消えていくみたい。普通は目が覚めたらここでの出来事はただの夢だと思うだろうけど、慧はそんなことはなく、私とまた逢えると信じてくれているし、私もそう思う。

……どれだけ信じていても、やはり最愛の人が目の前から消えるというのは少なからず不安や恐怖が押し寄せてくることを知った。その気持ちを感じたことで、私がどれだけ慧を想っているか、そしてこの世界が本当に二人の愛で出来ていることがわかった。なぜなら不安や恐怖は愛情あってこそだということを知っているから。あのとき慧もこんな気持ちだったのかと思うと、少し申し訳なくなる。

 

慧はもういない。私は戦闘機として慧の翼になるときここから離れるから、私もじきに消えるだろう。ここには時間なんてものは存在していない。だから具体的に次いつあの愛しい姿が見られるかは分からないけど、待っていよう。

 

 

 

 




誤字脱字等あれば是非感想欄にてお伝えしていただければと思います。
あと、グリペンがさんざん慧のことを愛しているとか言っているのは、まあ察していただければ。


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帰還と説明

お久しぶりです。大学の準備が忙しくてなかなか筆を進められませんでした。


もうひとつの「特休へようこそ」にも書きましたが、2作を2話ずつ投稿するスタイルになりますのでよろしくお願いします。


1月13日 小松基地

 

「久しぶりに小松に帰ってきたけど、やっぱりそうそう変わるもんじゃないな」

自分の土地へと帰還した第一声がそれだった。

人類史上最後の作戦が終わったあとゆっくりと英気を養った、一両日の後の事だった。

あの極寒であったベラヤと比べると、小松の寒さが何てことないように思えてくる。いっそ半袖でも過ごせそうな勢いだ。

「そういえばもう学校は三学期なんだっけな」

変に懐かしさを覚えたからか、あまり考えたくないことまで思い出してしまった。出席日数は足りているだろうか。これで留年なんてことになったら目も当てられない。

「まだ俺は一般人なんだ。ただでさえグリペンに乗る機会が減るのにこれ以上遅らせたら申し訳なさすぎる」

とりあえずはこれから勉強頑張るしかないか……。

「と、グリペンを休ませなくちゃな」

戦闘機といえどロシアからここまで飛ぶのは疲れただろうし、このまま整備の人たちに回しておこう。

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

あの後、八代通に「一旦家に帰ったらどうだ。長い間家を空けてご家族の方も寂しがっているだろう」との言葉をもらって実家に帰ってきていた。いくら最重要の作戦だったといえど二週間近くも家を空けていたのだ、寂しがるというより怪しまれているに違いない。

久しぶりの実家も大して様変わりすることはなかったようだ。

「……明華、そういやいなかったんだっけ」

ただし、ついこの間まで同じ屋根の下暮らしていた幼馴染がいないことを除けばの話だが。

彼女は既にシンガポールで家族三人、つつがなく幸せに暮らしているだろう。

「あいつのためにも、世界を変えないとな」

明華は一般人。自分は人類の英雄扱い。もう会えることはないだろうが、まあ、あっちはもうすぐ画面越しに自分の元気な姿を見るだろうから、今はそれでいいか。

と感傷やらなんやらに浸っていると、家の中から足音が聞こえてきた……ん?足音?

「おかえり、慧。随分遅かったじゃないか」

やっぱり、祖父が来てしまったか。

なまじ心構えをし忘れていただけに、こうして面と向かっているとどこから何を話せばいいかわからない。

「た、ただいま爺さん」

「おかえり。それで、どこをほっつき歩いたら二週間も家を空けることになるんだ。もう学校は始まっているらしいじゃないか」

「や、やっぱりそうなのか」

新学期一発目から不登校だなんて、ますます問題児扱いされてしまう。それに明華がいなくなったから学校で話す人もいなくなる。いよいよ本格的に立場がなくなりそうだ。このままでは航空学生への道も危うい。

「やっぱりということはおまえ自身でも把握していたということだな」

「あ、いや、その」

まさか『ザイを倒して世界を救ってきた』なんて言えるはずもない。万が一言えたとして、到底信じてはもらえないだろう。

「ええと、その」

かと言ってそれらしい言い訳が思いつくほど頭の回るわけでもない。万事休すであった。どうする?このまま言いあぐねているか?いや、今までもさんざん怪我して怪しまれてきたのだ、もう今更何を言ったところで分かっても信じてもくれそうにない。

……どうすれば。

 

「それについては私からお答えします、鳴谷さん」

 

「……八代通、さん?」

 

突如として開かれた玄関から、見慣れた肥満男が入ってきた。

「なんだね君は」

「私は防衛省技術研究本部特別技術研究室室長の八代通という者です。この度は人類の敵であるザイを倒すため鳴谷慧くんに協力してもらっていました」

「ちょ、八代通さん何考えてるんですか!?」

どうしてここに八代通が来たのかなどという疑問を置き去りにされて勝手に秘密が曝されていく。それにしてもプライバシーという概念が欠落しているのではないだろうか、この男。

「何言ってるんだ鳴谷君、もう世界は君に救われたのだから隠す必要もないだろう。というか俺からすれば、なぜ今まで黙っていたのかねと呆れているところだが」

「待て、世界を救ったとはどういうことだ。うちの慧に何をさせていたんだ」

 

ほら、言わんこっちゃない。祖父のこの声音から察するに、おそらく相当頭に来ているだろう。

「戦闘機に乗せただけです。こちらとしてもあまり民間人に関わらせるつもりはなかったので」

……まあ、確かに振り返ってみれば、グリペンに乗ると言ったのも上海奪還作戦もベトナムでの逃走劇も全部自分の起こした事だし本当に怪我させるつもりはなかったのかもしれない。

「慧を戦闘機に?馬鹿言え、こいつはまだ資格とやらも取っていないだろう」

「はい、だから彼にはただ戦闘機に乗るようにさせました」

嘘は言ってないが、どうしてもドーターやアニマの話になるとあんまりにも現実味がなさ過ぎて一般の人には受け入れ難いだろう。その辺りも考慮していそうなぼかし方だった。

「ただ乗せただけだと?だったらあの怪我は何だったんだ。乗っているだけであんなに傷を負うとは到底思えんが」

確かに祖父の言うことは最もだ。この際、ただ乗せられただけでなく途中から操縦をし始めたことは割とどうでもいいことであるが。

「それはこちらの不手際です。予想以上にザイの侵攻が激しく、本来させてはいけないことまでやむを得ずさせてしまったのは確かです。最も我々も彼に死なれたらこまr「そうか、不手際か。ならもう御託はいい、慧には二度とそちらに関わらせない」

「んな……!!」

まさか祖父までこんなことを言い出すなんて思ってもいなかった。八代通は表情を崩さず憮然としている。まるで自分の言葉を待っているみたいだ。

そうだ、ここで祖父の言葉に従うわけにはいかない。何としてもそれだけは避けたい。

グリペンが翼になると言ってくれたから、彼女の意思となると誓ったから。

「……爺さん。俺、好きな人がいるんだ」

「はあ?お前この状況で一体何を口走っているんだ」

そう思うだろう。だが話を止めるつもりはない。これは説得であり、自分自身のこれからの決意表明でもあるからだ。

「聞いてやってください」

八代通も背中を押してくれている。今しかない。

 

 

 

「そいつはポンコツでおっちょこちょいでちょっとずれてるところもあって、目が離せないような奴だった。けどザイを倒して俺たちに生き延びてほしいという願いはすごく強くてさ、俺もたまにそいつに勇気づけられることがあったんだ。確かに今まで何度も怪我をしたし、死にかけもした。でもそれは全部あいつのためだったんだ」

甦る思い出の数々。今思えば、その一つ一つが今の鳴谷慧という人間を作ってきたのだ。冗談じゃなく何度も死にかけたけどそれもこれからのより良い世界にしていくため。

「そんなあいつと__グリペンと、約束したんだよ。あいつが俺の翼になって、俺がこの先の地球を変えていくって。それは嘘でも虚言でも見栄でもない、本当に俺がなすべきことなんだ」

このままでは、人類はそう遠くない未来にまた同じ過ちを繰り返すだろう。そうさせない。

「だから爺さん」

未だこちらを厳しい目つきで見据えている彼の目の前に立ち、まっすぐと見つめ返す。

「俺は空を飛んで世界を変える。そのために航空学生になって自衛官を目指す。これが俺自身の願いだ」

誰にも邪魔させはしない。

 

しばらくして、祖父がため息をついた。

「……わかった、もう好きにしろ」

「ありがとう、爺さん。俺頑張るよ」

後ろを見ると、八代通の顔が少し綻んでいた。どうやらこの男も人への心を忘れたわけではないらしい。今まで彼が笑ったことを見たことはないので、なんだか違和感を感じるのは否めないが。

「だが慧。それと勉学とサボることは関係ない。留年なんて許さないぞ」

「ああ、わかってる。元よりそのつもりはない」

ちゃんと卒業しないと航空学生にすらなれないからな。いくら空自と繋がりがあるとはいえど、正式なライセンスがなければどうにもならないだろう。今まで一介の高校生が戦闘機に乗る事態がそもそも異例だったのだから。

「そういうわけで、明日からちゃんと学校に行くさ。まあ、学校側にも説明することになるそうだけど」

ああ、明日からどうやって今までの不足分をリカバリーしようか。明華ももういないからノートを見せてもらうことも出来ない……どうやら世界平和よりも先にどうにかしないといけないことがあるようだ。

「それじゃあ、俺は部屋に戻るよ。八代通さん、来てくれてありがとうございました」

「ふん、君にはいろいろとしてもらわねばならんことがあるからな。あと学校側にも言っておいてやる。せいぜい頑張りたまえよ」

そう残して、世界救済の一番の立役者は巨体を揺らしながら家を出て行った。

 

 

そのあと自分の部屋に戻ると、机の上に見慣れないノートが置いてあった。疑問に思って表紙を見にいくと、「慧へ」とだけ書かれていた。

「これは………」

中を開けると、裏表紙には「このノートを使って勉強頑張って!!」の文字。間違いない、明華の手書きだ。

「……ほんと、あいつは」

どこまでも自分思いの幼馴染であったのだ、彼女は。

「いつか会いに行ってやらないと」

また一つ、やるべきことが出来たな。

 

 

 

*********

 

 

 

「じゃあ、慧はパイロットになるの?」

「そういうことになるな。まあ当然のことだ」

その夜の事。夢の中で最愛のグリペンと出会うのもだんだん慣れてきていた。

いつものように彼女を膝上に乗せて抱きしめながら、今日あった出来事を話している。かわいらしい。

「お前と一緒に飛ぶって決めたからさ、今までが特殊だったんだよ」

「確かに。慧はただの高校生だったからこのままでは飛ぶことが出来ない。それは困る」

「俺もだ」

そう言いながら彼女の頭を撫でてやる。

「慧がパイロットになるのはわかった。でもいつになるかわからない」

「…もしかして寂しいのか?」

彼女の顔が少し暗い。自分の背中に回している腕にも少し力が入っているようだ。ここは互いの間に存在する愛が露出しているような空間だから、それに直結する感情も表れやすいのだろう。

まったく。

「グリペン」

「どうし…んむっ」

不意打ちの接吻。ただしいつもしているような、ソフトなものではない。

「んんっ……ちゅるっ…んふぁ…あぅ」

もっとディープなものを仕掛ける、彼女が寂しがらないように。

グリペンが目を細めてうっとりしている。どうやらちゃんと興奮だけでなくリラックスもしてくれているようだ。よしよし。

「慧………慧っ……」

それどころか自分からするようになってきている。ぶっちゃけエロ可愛い。

個人的にはもっとしていたいが、今はキスすることが目的ではないのでそろそろ止めるか。

「ぷはっ……グリペン、落ち着いたか?」

「慧……なんで止めるの?私、足りない。もっと慧が欲しい」

顔は赤く、目は潤んでいる。そんなに悩ましい顔をするなんて。

 

…これ、止める必要あるか?

 

…………

………

……

 

「……俺も、もっとお前を愛したい。お前を感じたいよ」

欲に負けたのは認める。けど、あんな顔されたらどうにも……。

もういい、こうなったらとことん愛してやる。この夢覚めるまで、グリペンを愛でよう。

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

「………はっ!」

急激に意識が覚醒する。時計は5時30分を指していた。

「……そういえば、昨日はずっとグリペンと…」

昨夜のことを思い出して急速に顔が熱くなってくる。どうやらあの空間で羞恥心やらがない代わりに、こっちに戻ってくるとついでに戻ってくるらしい。寝起きにこれは中々刺激が強いな。

「学校の用意をするか」

今日からしっかりと本腰を入れなければならないからな。グリペンは放課後にでも会いに行ってやろう。

決意を込めて布団から出る。まだまだ空気は寒いが、不思議と体は暖かかった。

 



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