デュエル・メモリーズーデュエル・マスターズ戦記ー (置き物)
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Ep1 暴走と少年

置き物です。今回は以前からやりたかったデュエル・マスターズの小説となります。連載といっても数話ぐらいで終わる予定です。拙い文章ですが、読んで頂けると有難いです。


話をしよう。どこかの宇宙、超獣(クリーチャー)が居る世界を。謎の爆発と文明による戦争から始まったその物語は今なお続き、彼らの魂はデュエル・マスターズのカードに宿っている。

君達、プレイヤーはその魂と共に闘っているのだ。そして、君達が忘れない限りその闘いの想いや記憶をクリーチャーは覚えている。

今回はその記憶から外れてしまったクリーチャーと一人の少年の出来事を語ろう。

 

 

「超獣世界 戦国武道会異常なし」

 

「こちらドラゴン・サーガ異常なし」

 

モニターを操作しながらオペレーター達が超獣世界を見守る。ここは『観測世界』と呼ばれる超獣世界のどこの歴史にも属さない世界。

あらゆる超獣世界の歴史を見守る為に現れた『世界』なのだ。

 

「よし、今日も異常ないようだな。結構結構」

 

サングラスをかけ、迷彩服を着た奇妙な男が感心しながら観測室を見て回る。

 

「バルト所長お疲れ様です」

 

「お疲れ様。休憩はちゃんと取ってくれよ?」

 

バルトと呼ばれた男はオペレーターの挨拶に対し、フレンドリーに接する。格好こそ奇妙ではあるが、この観測所『クリスタル・メモリーズ』で世界を見守る最高責任者がこのバルトである。

すると、後ろの扉から一人の女性オペレーターが現れた。

 

「おはようございます、所長」

 

「おはよう、アリス君。今日も超獣世界は平和だねぇ」

 

「平和な訳ないですよ、超獣世界はあの爆発が起きてからどの時代も争ってばかりいるんですから」

 

「歴史が()()()()って意味で言ったんだけどなぁ言葉って難しいもんだね…」

 

苦笑いしながらバルトは答える。アリスと呼ばれたオペレーター。

その正体は観測世界が彼女の優秀な頭脳を見込んで、エピソード3の歴史から呼び出したクリーチャーである。

 

「はぁ…しっかりしてくださ…」

 

アリスが溜息をつきながら答えようとした時、観測室にサイレンが鳴り響いた。

 

「エピソード1!大規模な歴史変動を確認ー!この反応は…暴走です!」

 

「ほう…暴走ときたか。この事態は『暗黒の騎士』以来だな!総員、転移プログラム構築開始!並行してクリーチャー種の特定急げ!」

 

必死なオペレーターに対し、バルトは冷静に判断し、指示を下す。

その指示を受けて、オペレーター達はプログラムを構築し始める。

 

「アリス君、悪いが彼を呼んで来てもらえるかな。暴走超獣(オーバーロードクリーチャー)といえば、彼はすぐ来ると思うがね」

 

「もう来てますよ、バルト所長」

 

アリスの声にバルトは振り返る。そこにはやや幼げさを感じさせる少年が立っていた。彼の名はシン。暴走超獣と闘う観測室メンバーの一人である。

 

「所長、その暴走したクリーチャーがいる世界はどこだ」

 

「まったく、君はせっかちだな。エピソード1だ。かなり危険な奴みたいだが…行くかね?」

 

「当たり前だ。暴走超獣は俺が止める…」

 

何かに取り憑かれたようにシンの表情が変わる。先程までの子供らしさは薄れ、何かに怒っているような事を感じさせた。

その表情に見慣れたバルト所長はシンの肩を叩く。

 

「ああ、君が奴を止めたい理由は分かってるさ。だがもうちょっと待ってくれるか?まだ転移プログラムとクリーチャー特定が出来てなくてね」

 

「…分かった」

 

少しして、シンの表情から怒りの色が消える。

バルトの言葉で若干ではあるものの冷静さを取り戻したようである。

 

「バルト所長!種族特定出来ました!エイリアンです!」

 

「よぉし!そのまま個体種特定まで持ち込め!転移プログラムは何%まで構築出来ている?」

 

「80%まで出来てます!」

 

オペレーター達は順調に事態へ対処する。しかし、それを乱すかのように異変が起きる。

 

「なっ!?特定システムが壊された!?」

 

「馬鹿な!あれにはステルスプログラムが搭載されているはずだぞ…!」

 

クリーチャーの特定は特定システムを搭載した小型マシンが暴走超獣を観測することで始まる。観測している状態であれば、種族まで判明できる。

しかし個体種、つまりクリーチャーの名称までは特定システムが直に触れ、解析するまでは分からない。それを解消する為に姿を消すステルスプログラムが搭載されている。

だが、見えないはずのそれ(マシン)が破壊されたとなると驚きを隠せない。

 

「特定システム帰還しますっ…!」

 

オペレーターの声とほぼ同時に特定システムが観測室に帰ってきた。その姿はあまりにも無残なものであった。

 

「…見せてくれるかしら」

 

「は、はいっ…!」

 

オペレーターはアリスに特定システムであったものを手渡す。アリスはあらゆる角度からそれを見詰め、自身のモニターで分析する。

 

「…ステルスプログラムの存在を知ってるって事は、高度な知能を持つ水文明ね。恐らくだけど、サイバーロード。この種族とエイリアンを併せ持つクリーチャーを過去のデータと照合してみるわ」

 

「流石だね、アリス君。正体に繋がる情報をもう見つけるとは」

 

「このくらい出来ないと世界に呼ばれたオペレーターとして働けませんよ」

 

バルトの褒め言葉を受けながらも、アリスは淡々と解析を開始していた。

 

「所長、転移プログラム構築完了しました!」

 

「ご苦労!じゃあ、シン。後は頼んだぞ」

 

「…任せろ。そいつは俺が救ってやる」

 

そういったシンの表情は先程とは変わらなかったものの、目には『怒り』の感情が宿っていた。彼の目に圧倒され恐怖を覚える職員もいる。

その怒りの矛先が向けられている対象が誰であるかを知る人物は数人しか居ない。バルトやアリスも数少ない者の一人なのだ。

 

「シンさん、こちらへ。転移を開始します」

 

「ああ。ーデッキ準備(セット)

 

シンが呟くと空間が歪み、そこから40枚のカードの束『デッキ』が現れた。それをデッキケースにセットする。

闘いへ赴く準備は完了した。

 

「シン、絶対帰ってきてよね」

 

「分かってるさ。必ず戻ってくる」

 

シンはアリスとの約束を交わす。生きては帰ってこられないかもしれない任務だが、それでも彼は帰ってくるとアリスに誓った。

 

「転移開始ー!」

 

そのオペレーターの声と共に、シンの身体が転移プログラムの粒子に包まれる。数秒後、彼の姿はこの世界から消えていた。

 

 

エピソード1の世界。

暴走超獣は何者かが来ることを感じていた。

 

「来るか。我を監視していた者よ」

 

異形と化したモノの口が大きく開いたー。

 




今回はここまでです。次回からデュエルパートに入る予定ですので、読んで頂けれると嬉しいです。


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Ep2 Xの復讐者

第2話になります。
エピソード1の世界で少年・シンを待ち受ける存在とはー!?
それではどうぞ!


「ここか…エピソード1の世界は」

 

エピソード1。超次元の奥・『パンドラ・スペース』からZ一族を影から操っていた存在『エイリアン』による世界への侵略。

そして、エイリアンの攻撃により新たな力を得た『ハンター』との争いが起こった世界である。

 

「アリス。聞こえるか?」

 

「ええ、無事に着いたようね。フィオナの森に」

 

フィオナの森。デュエル・マスターズの歴史が始まった頃から存在する自然文明の象徴ともいえる場所である。

この森は何度も闇文明の侵攻を受けながらも、自然を取り戻してきた森である。

もっともエピソード1では再び闇文明のエイリアン『悪魔神ザビ・リブラ』の指示によって攻撃されてしまうのだが。

 

「しかし、本当にここがフィオナの森なのか…?」

 

「間違いないはずよ、暴走超獣の反応もそこから出てる」

 

「じゃあ見てみるか?これが森と呼べる場所なのかを」

 

シンはデッキケースの通信機能を通話からビデオ電話へと変更する。そして、フィオナの森の惨状が観測室に届けられる。

 

「嘘…」

 

「オイオイ…マジか?確かにこれを見れば、誰もがここが森だっていうことを信用しないだろうさ」

 

バルト達、観測室に映し出されたのは彼らが知るフィオナの森とはあまりにも違いすぎるものだった。

巨大な世界樹をはじめ、そこに出来ていた美しかった森は消え、豊かな緑は何一つ残っていなかった。

 

「この惨劇はフィオナの涙と同じ…いや、場合によってはそれ以上か…見れたもんじゃない」

 

バルトは呟く。かつて過去に発掘された魔導具(クロスギア)によって巻き起こされた『転生』の世界があった。

その世界ではユニバースと呼ばれる存在によってフィオナの森はかつてないほど消滅した。

そして、僅かに残った場所が『フィオナの涙』と呼ばれるようになった。その後、何かがきっかけで再び森の姿を取り戻したらしいが。

 

「でもこれっておかしくないかしら?エピソード1では確かにエイリアンの侵略を受けて、森が燃やされたけれども、草木が一本も生えないぐらいの荒野になるなんて記録に残ってないわ」

 

「ああ。だからこれは暴走超獣の仕業…っー!」

 

その瞬間。シンは何かに突き飛ばされた。デッキケースから警報音が鳴る。暴走超獣が近くに居る時に作動する物だ。

これが鳴るという事は標的(ターゲット)が自分を狙ってきたという事だ。

 

「がっ…!」

 

不意に受けた一撃。その衝撃の強さに、口の中が切れて出血する。シンは血を無理やり飲み込んで、押し留める。

 

「シン!大丈夫!?」

 

「…何とかな」

 

「今、暴走超獣のデータを送るわ!」

 

アリスは即座にシンへデータを転送する。一刻の猶予も許されない状況である為か、モニターの操作が早まる。

シンは荒れ果てた地面に手をつけ、起き上がる。

その視線の先にソレは居た。

 

「お出ましのようだな」

 

「ようやく来たか。我を見ていた者よ」

 

「…お前が暴走超獣か」

 

シンの前に暴走超獣が立ち塞がる。その姿は種族の中でも異形であるエイリアンといえども、それを超える禍々しい容貌であった。

シンはアリスから転送されたデータと暴走超獣の姿を照らし合わせる。

 

「そこまで変貌していたとはな、エンペラー・セブ・マルコX(エックス)

 

シンは目の前のクリーチャーの名前を告げる。

エンペラー・セブ・マルコX。進化サイバーロードのエンペラー・マルコがエイリアン化した姿だといわれている。

その際エイリアンが持つグロデスク要素、そして左手に刻まれたXのマークが本家マルコとはまた違う一面が現れたクリーチャーであった。

しかし、目の前にいるソレは本来の姿とはあまりにもかけ離れ過ぎていた。

無数に生えた手と口。やや緑がかった身体は漆黒の色へと変色しており、彼本来の姿を感じさせるものは刻まれたXのマークだけである。

 

「変貌?何をいうかと思えば。これは我の進化だ」

 

「進化だと?」

 

「そうだ。復讐を誓った我に与えられた新しき力。この力を使えば、我を忘れたプレイヤー共に復讐出来る…!」

 

無数の口から吐息が漏れる。立ち上る湯気にはマルコXの怒りが現れていた。

 

「それで世界を乱す事にした。我は知っておるぞ、ここが『分岐点』である事を」

 

その一言にシンだけではなく、観測室のメンバーまで驚く。

『分岐点』。デュエル・マスターズの歴史において大きな影響を与える重大なポイントである。

 

「どこでそれを知った…!」

 

「我に力を与えた男が言っていた。

『ハンターとエイリアンが和平の宴を行う時

空から惑星が舞い降り、新たな世界を作る』

とな。」

 

エピソード1の歴史終盤。エイリアンの王女プリンプリン救出によってエイリアンとハンター両陣営は誤解が解け、和平する。

その和平記念にエイリアン城で開かれた宴の最中、アンノウンと呼ばれる存在によって惑星が落とされた。この惑星落としによって、パンドラ・スペースの奥にパラレルワールドが発生した。

後に『ドラゴン・サーガ』と呼ばれる世界の誕生である。

しかし、分岐点によって誕生した『ドラゴン・サーガ』をエピソード1の世界に住むエンペラー・セブ・マルコXが知るはずがない。

 

「この世界を我が乱せば、新たな世界とやらは生まれない。そうなればプレイヤー達からその世界の記憶は無くなる。その為にエイリアンの王女が逃げてきたフィオナの森を()()()()()()()()。愉快な事ではないか」

 

その言葉にこの世界に来るまで目に秘められていた、シンの怒りが再び湧き上がる。

 

「記憶を消すなんて事…させるものか!」

 

「威勢が良いのは褒めてやる。だが、貴様のような少年が我とどう戦うつもりだ?」

 

この暴走超獣の言う通り、少年(シン)は生身で戦えるとは思っていない。だから、デッキを取り出す。シンの想いに答え、デッキケースが光り輝く。

 

「『真のデュエル』だ…これでお前を倒す。世界を取り戻して、プレイヤーから記憶を消す事なんてさせるかー!」

 

少年の言葉を聞くと、マルコXの口が大きく開き笑い声を上げる。

 

「ハハハハ!面白いー!貴様、デュエルマスターの力を持っているとはな!いいだろう、相手をしてやる!我が名はXの進化の先!エンペラー・セブ・マルコXX(ダブルエックス)なるぞ!」

 

「デュエル・フィールド展開ー!」

 

その言葉と共に、エピソード1の世界からシンとエンペラー・セブ・マルコXXの姿が消える。

 

命を賭けたデュエマが始まる。

 




結局デュエルパートに入れませんでした…(汗)
3話から突入したいと思いますので、良ければ次回もご覧下さい!


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Ep3 真のデュエル

初デュエルパートとなります。
また、この回にはオリジナルカードが登場しますので、その点よろしくお願いします。
シンvsマルコXX、決着やいかにー?
それではどうぞ!


真のデュエル。暴走超獣と戦う唯一の手段。

異空間・『デュエル・フィールド』でデュエマが行われる。

だが、そこで行われるデュエマは普通のものでは無い。

クリーチャーの攻撃は実体化し、身を守るシールドがブレイクされる度その衝撃で身体にダメージが与えられる。

そして、身を守るシールドが無くなり、クリーチャーのダイレクトアタックを受ければ無事では済まない。

文字通り、命を賭けたデュエマなのだ。

 

「先攻は我が貰おう。チャージ。ターンエンドだ」

 

「俺のターン。ドロー、チャージしてターンエンド」

 

お互い1ターン目は動かない。そして、マルコXXはシンのマナゾーンを見る。

 

「貴様のクリーチャー…初めて見るな。長い間生きてはいたが、このようなクリーチャーが存在するとは」

 

「御託はいい。お前のターンだ」

 

「そんなにも死に急ぎたいか。まぁ良い。ドロー。チャージ。2マナを支払い《霞み妖精ジャスミン》を召喚する」

 

現れるのは髪で目が隠れた小さな妖精。彼女達、スノーフェアリーの得意分野はデュエマに使われるエネルギー、『マナ』を増やすこと。

当然、ジャスミンもマナを増やすのは得意である。最も、彼女の場合はー。

 

「ジャスミンよ、我の力となるがいい」

マルコXXの言葉に従い、ジャスミンは()()した。

砕けった身体からエネルギーが生み出される。

彼女は自己を犠牲にマナを生み出すのだ。

 

「我はジャスミンの能力により、山札の上から一枚をマナゾーンに置く。ターンエンドだ。」

 

「俺のターン。ドロー。チャージ。…俺は《ブレイズザウルスα》を召喚」

 

シンのバトルゾーンに溶岩で形成された恐竜のようなクリーチャーが咆哮と共に召喚される。

 

「ターンエンドだ。」

 

「ドロー。チャージ。ゆくぞ、《躍動するジオ・ホーン》を召喚。ジオ・ホーンの能力発動!このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、山札からエイリアンを一体選び、手札に加える。我は過去の我《エンペラー・セブ・マルコX》を手札にし、ターンエンド。」

 

マルコXXの準備が進む。次のターンには《エンペラー・セブ・マルコX》の効果によって三枚ドローされる事は確定している。だが、シンも止まる訳にはいかなかった。

 

「俺のターン。見せてやる絆の力を…!俺は《猛毒モクレンβ》を召喚!」

 

現れたツリーフォークのクリーチャー。

そして、バトルゾーンにいる《ブレイズザウルス‪α‬》と共鳴を始めた。

 

「何だこれは…?」

 

「サバイバー。苛酷な環境で生きてきたコイツらは仲間同士で力を分け合い、助け合う能力がある。今、サバイバーは全ての能力を『共有』している」

 

「こしゃくな…そんなもの叩き伏せてくれる」

 

「行くぞ、《ブレイズザウルスα》シールドをブレイク!攻撃時の効果発動ー!」

 

「ふん、たかがパワーを1000上げた程度で…」

 

攻撃の瞬間、マルコXXはシンの山札の上から一枚がマナゾーンに置かれるのを見た。

 

「何…?」

 

「言っただろ。サバイバーの能力は『共有』されると。《猛毒モクレンβ》のアタック時効果を得ているからな。その効果でマナブーストさせてもらった」

 

そのまま《ブレイズザウルスα》はシールドを叩き割る。ブレイク時の衝撃がマルコXXを襲ったが、彼はビクともしなかった。

 

「サバイバー…その力には驚いたが、この程度はかすり傷よ」

 

「俺はターンエンド」

 

「我のターン。こちらも仕掛けさせて貰おうか。5マナを払い、ジオ・ホーンから進化。いでよ!《エンペラー・セブ・マルコX》!」

 

ジオ・ホーンの姿が水に包まれ、姿がホーン・ビーストからサイバーロードへと変わる。

その水をXが刻まれた左手が払い除け、現れる。

 

「我の効果は知っておろう?3枚ドローさせてもらう」

 

手札差(ハンドアドバンテージ)を稼がれたか…」

 

「ふん。そのセリフは聞き飽きたわ…過去の我で貴様の《ブレイズザウルスα》を攻撃!」

 

サバイバーは能力を共有する特性故に場にサバイバーが多ければ多いほど有利となる。

反対に少なくなれば、能力が使えるクリーチャーが狭まり、真価を発揮しづらくなってしまうのだ。

今、《ブレイズザウルスα》を守る手段は無く、破壊されるしかなかった。

 

「我はターンエンドだ」

 

「…すまない《ブレイズザウルスα》。だが、お前が増やしてくれたマナのおかげで次に進める。俺のターン」

 

マナゾーンに新たなサバイバーを置く。

その時、マルコXXの様子が一変した。

 

「貴様も…赤青緑(シータ)か!あの忌々しいΛ(ラムダ)のようにぃ!」

 

激昴するマルコXX。その怒りの咆哮は空間をも歪めるものだった。

 

「…なんのことだ?」

 

「とぼけるなァ!我の存在を忘れさせた元凶の色を使いおって…万死に値する!」

 

シンは復讐鬼と化したマルコXXの言うことは分からなかったが、原因はΛと呼ばれるクリーチャーであるという事は理解していた。

 

(奴が何故Λというクリーチャーを憎んでいるかは分からない…それを知るには一つ。この真のデュエルに勝つしかないー!)

 

「2マナを払い、《モリノオウジャタケα》。更に残った3マナで《トリトーンβ》を召喚。」

 

《猛毒モクレンβ》の隣に《モリノオウジャダケα》、続いて《トリトーンβ》が現れ、共鳴する。

 

「行け!《猛毒モクレンβ》でシールドを攻撃!アタック時効果発動!」

 

《猛毒モクレンβ》、そして共有されている《トリトーンβ》の能力が発動される。

 

「1ブースト&1ドローさせてもらうぞ」

 

シールドがブレイクされる。再び起こる衝撃に、マルコXXは微動だにしない。

 

「小賢しい…!我のターン!《緑銅の鎧》《ジオ・ブロンズ・アーム・トライブ》を召喚。」

 

新たなエイリアンが召喚される。

青銅の鎧《ブロンズ・アーム・トライブ》がエイリアンとなった姿でもマナを増やす能力は変わらない。

 

「能力により、山札から《エンペラー・セブ・マルコXX》をマナゾーンに置く!」

 

そう言って置かれるのは、マルコXX自身のカード。だが、そのカードは漆黒の色に包まれ、テキストを見ることは出来ない。

 

「これが奴自身のカード…!」

 

「続いてそのサバイバー、《猛毒モクレンβ》をマルコXで攻撃!」

 

またもやサバイバーが命を散らす。

それでも、シンはモクレンがマナを生み出してくれた事に感謝する。

 

「我の降臨の時が貴様の死だ…!ターンエンド!」

 

「俺のターン。ドロー!来てくれたか…《シェル・ファクトリーγ》を召喚する!コイツの能力で山札からサバイバーを手札に加える。俺は2枚目の《シェル・ファクトリーγ》を選び、加える。ターンエンドだ。」

 

「それもサバイバー能力か。厄介な奴め…」

 

《シェル・ファクトリーγ》の能力は後続のサバイバーにも共有される。

つまり、召喚される度にサバイバーをサーチされてしまう。加えて、2枚目の《シェル・ファクトリーγ》となれば芋づる式にサバイバーが補充される。マルコXXが厄介と判断したのは正しい。

 

「だが、サバイバーの絆とやらも終わる…!見せてやろう、我が力を。ドロー。良きところに来てくれた…」

 

無数の口に浮かぶ不気味な笑み。それはサバイバー達の絆を嘲笑うかの様だった。

 

「3マナを支払い、呪文《母なる星域》ー!」

 

《母なる星域》。バトルゾーンから進化ではないクリーチャーを1体マナに送る事で、マナゾーンのカードの枚数以下のコストを持つ進化クリーチャーを1体出すことが出来る。

先程召喚された《緑銅の鎧》の能力によって、マナゾーンにマルコXXは仕込まれている。

さらに、クリーチャーである為、母なる星域に必要なコストになる事が出来る。

これが1コスト軽い呪文である《神秘の宝箱》とは違う所なのだ。

 

「《緑銅の鎧》をマナゾーンに送り、君臨せよ、我自身!究極進化ー《エンペラー・セブ・マルコXX》!」

 

「究極進化だと…!?」

 

究極進化。オリジンと呼ばれる存在に対抗すべく生み出された、進化を超えた「進化」。かつての神羅と呼ばれた超獣達が手に入れた力である。

その力をマルコXXは手に入れた。

《緑銅の鎧》の姿が消え、《エンペラー・セブ・マルコX》が黒い霧に包まれる。

漆黒の色に染まる身体。そして、そこから無数の手と口が生まれ、デュエル・フィールドを揺るがす程の衝撃を発生させた。

 

「我の能力を発動させて貰うぞ。消えろ、サバイバー共!」

 

先程の衝撃がシンのサバイバー達を束縛する。

次の瞬間ー。

 

「ふんっ!」

 

無数の手がサバイバー達を襲う。為す術なく、サバイバー達が破壊されてしまう。

 

「ーっ!一体何をした!」

 

「言っただろう。我の能力だ。貴様にも見せてやろう」

 

カードを包んでいた漆黒の霧が消える。今、隠されていたマルコXXのテキストが明らかになる。

 

「我の場に出た時の能力!それは自身の手札の枚数、相手クリーチャーを好きなだけ破壊できる」

 

マルコXXの手札は3枚を超えていた。

まだ場に並び始めたばかりのサバイバーはいとも容易く破壊されてしまった。

 

「更にこの能力で破壊した枚数ドロー出来る。我は3枚ドロー。そしてここからが我の真骨頂よ」

 

マルコXXの姿が肥大化する。

 

「手札の1枚につき、我のブレイク数を追加する。今の我は貴様のシールドなんぞ容易く粉砕出来る」

 

復讐の化身となったマルコXXがシンへと近づいて行く。

 

「絆の力とやらも生かせぬまま…死ねィ!」

 

全てのシールドがブレイクされる。5枚同時に割られた衝撃がシンを襲う。その衝撃はあまりにも強く、デュエル・フィールドの壁に叩きつけられてしまった。

 

「が…っ!」

 

口から大量に出血し、額からも血が滴り落ちる。

シンは必死に立ち上がろうとするが力が入らない。意識も朦朧とし、シールド・トリガーのチェックを行うのも困難になっている。

 

「諦めろ、少年。弱った身体で何が出来る。このまま我の攻撃で死ぬ事が楽になれるぞ」

 

「でも…そ…でも…!」

 

「這いつくばっでも生き長らえようとするか…愚かな」

 

「それでも…!俺は…!」

 

重症の身体で立ち上がる。力が入らないはずの足で弱々しくも歩く。トリガーチェックを行う為に彼は進み続ける。

 

「馬鹿な…!」

 

「あの人が覚えていた世界を…記憶を…壊させるものかぁぁー!」

 

シールド・トリガーが起動する。

 

「俺はトリガー宣言を3枚行う!」

 

「何ー!?」

 

「1枚目!呪文・《インフェルノ・サイン》!墓地から《シェル・ファクトリーγ》をバトルゾーンに!」

 

「なっ…闇だと!?」

 

赤青緑色(シータカラー)であると思い込んでいたマルコXXは驚愕する。

 

「2枚目!クリーチャー!!《モリノオウジャタケ‪α‬》を召喚!」

 

バトルゾーンに《モリノオウジャタケ‪α‬》の姿が再び見える。

 

「3枚目!クリーチャー!《瞬速のアタカマイトβ》を召喚!」

 

トリガーの処理で場に3体のサバイバーが並ぶ。

闇の呪文だけではなく、光の力を宿したサバイバーも現れる。

 

「そして、《シェル・ファクトリーγ》が場に出た時の能力を解決!俺は《ブレイズザウルスα》を手札に加える!」

 

新たに仲間のサバイバーが手札に加わる。

そして《シェル・ファクトリーγ》に続き、2体のサバイバーが共鳴する。

 

「更に俺は《死縛虫グレイブ・ワームγ》、《シグマ・トゥレイト》を加える!」

 

仲間が倒されてもその度に立ち上がり、新たな仲間が駆けつける。

これが終わる事なき、サバイバーの絆。

 

「我はターンエンド…!」

 

「俺のターン。決めさせて貰うぞ!ニマナで《ブレイズザウルスα‬》。そして、進化ー」

 

サバイバーの共鳴した力が《ブレイズザウルスα‬》に注がれる。その力は炎となり、サバイバーを進化させる。

 

「来い!《シグマ・トゥレイト》!」

 

業火を纏い、仲間の想いを背負うクリーチャーがバトルゾーンに現れる。

 

「だが進化した所で…我にはまだシールドがある…!」

 

シールドは残り三枚。しかし、今までトリガーが出ていない事を考えるとシールドにまだ残っている可能性は高い。

 

「《シグマ・トゥレイト》、シールドをブレイクだ!」

 

「何だと!?」

 

己の守りたい物を守る為、シンは止まらない。

 

「《シグマ・トゥレイト》には能力がある。それはクルー・ブレイカー。俺の場のサバイバーの枚数ブレイク数を追加する!」

 

残りのシールドがブレイクされる。

先程の小型サバイバーとは比べ物にならない程の衝撃がマルコXXを襲う。

 

「がっ…!なんだこの力は…!?」

 

己の力のみを高めた《エンペラー・セブ・マルコXX》。

仲間達の想いを力に変える《シグマ・トゥレイト》。

仲間の想いを背負って戦うサバイバーの力は、自身の欲望の為に得た力とは『重み』が違う。

その想いの力が、大きな力となる。

 

「我のトリガーチェック…!」

 

追い詰められたマルコXXは、必死にシールドを確認する。

 

「…シールド・トリガー。《デーモン・ハンド》

貴様の《瞬速のアタカマイトβ》を破壊する…」

 

悪魔の手が現れ、《瞬速のアタカマイトβ》を握り潰す。

だが、1体破壊したところで残りの攻撃を止められない。

 

「《モリノオウジャタケ‪α‬》でダイレクトアタック…!」

 

「ええい!ニンジャ・ストライク!《光牙忍ハヤブサマル》!我を守れい!」

 

異次元からシノビが現れ、自身にブロッカーを付与する。そのクリーチャーは身を呈して、《モリノオウジャタケ‪α‬》の攻撃を防いだ。

それでも、残る一体のサバイバーの攻撃は防ぎきれそうになかった。

 

「…《シェル・ファクトリーγ》でダイレクトアタック」

 

巨大な昆虫が止め刺すべく、マルコXXに迫る。

山を優に超え、大陸を渡り歩くその脚が振り下ろされた。

 

「我が…こんな子供にぃぃぃぃ!」

 

シールドを失い、攻撃を直に受ける。クリーチャーであろうとダイレクトアタックを受ければ、無事では済まない。激痛と共に、身体が崩れる。

その断末魔は彼の咆哮同様、デュエル・フィールドを歪ませるものだった。

 

「貴様…貴様さえいなければぁぁ…!」

 

肉体が崩壊し、それでも邪悪な精神だけが残り続けていた。シンはマルコXXだったモノに近づいていく。

 

「見せてもらうぞ…お前の()()を」

 

シンは漆黒の塊に手を伸ばし、触れる。

触れた箇所から記憶の欠片である『クリスタル・メモリー』が現れた。

彼はソレを手に取り、呟く。

 

記憶解放(メモリー・オープン)

 

クリスタル・メモリーが眩しく光る。

今、エンペラー・セブ・マルコXであった頃の記憶が明らかになろうとしていた。

 




初デュエルパートでしたのでどこかにミスがあるかもしれません(汗)
プレイミス等ありました報告して頂けると有難いです!


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Ep4 Xの記憶

色々ありまして久しぶりの更新となります。
今回の話にはヘイトシーンがあり、読んでいる方は気分を害するかもしれません。予めご了承下さい。
それではどうぞ!


「《エンペラー・マルコ》を召喚!効果でカードを3枚引くよ!」

 

「3ドロー!?強ぇーっ!しかも進化クリーチャーだからそのターン攻撃できるのかよ!」

 

楽しげに遊ぶ少年達。帽子を被った少年が出した彼の切り札《エンペラー・マルコ》に場が盛り上がっていた。

 

(これは奴の記憶か?それにしては…)

 

シンが感じた違和感。

なぜなら彼が見ているのはエイリアンとなる前の《エンペラー・マルコ》であった頃の記憶であるからだ。

 

「よしっ!《エンペラー・マルコ》でダイレクトアタック!」

 

「うわーっ!負けた!直人そいつ手に入れてから強くなったよなぁ〜」

 

「へへっ!だってこれは僕の切り札だもん!」

 

直人と呼ばれた少年は自慢げに《エンペラー・マルコ》を見せる。その少年は万遍の笑みを浮かべていた。

 

そして、場面が切り替わる。ある店の公認大会。そこでは決勝戦が行われていた。

 

「《クゥリャン》から進化。《エンペラー・マルコ》を召喚します。能力で3枚ドローします。そして、《エンペラー・マルコ》でシールドをW・ブレイク!」

 

「くっ…!シールド・トリガー《デーモン・ハンド》!これで《エンペラー・マルコ》を破壊!」

 

「更に幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)で最後のシールドをブレイク!」

 

「トリガーはない…」

 

「ターンエンドです。さぁ、貴方のターンですよ」

 

眼鏡をかけたプレイヤーが追い詰められる。先程のブレイクで手札は増えたものの、シールドは無い。

 

「俺のターン…ドロー。4マナを支払い《解体人形ジェニー》を召喚。手札を見て、一枚捨てさせる」

 

手札を確認するも、その中には《ボルシャック・大和・ドラゴン》と《大勇者「ふたつ牙」》のカード。片方を捨てたとしても、次のターンには即座に殴れるアタッカーが場に出てしまう。

 

「《大勇者「ふたつ牙」》を捨ててくれ…」

 

次にターンに《ボルシャック・大和・ドラゴン》が出てきてしまうが、それでも《「ふたつ牙」》による2マナブーストは阻止しておきたかった。

 

「他に何も出来ないか…ターンエンド」

 

「僕のターンですね。ドロー。チャージ。6マナで《ボルシャック・大和・ドラゴン》を召喚。」

 

召喚されるのは荒々しい武者の鎧を纏った赤きドラゴン。彼の手に持つ剣は、あらゆる敵を真っ二つに両断する。《ボルシャック・ドラゴン》が今、バトルゾーンに帰って来た。

 

「行きますよ…!《ボルシャック・大和・ドラゴン》でダイレクトアタック!」

 

「…俺の負けだ」

 

「優勝はカドヤさん!おめでとうございます!」

 

眼鏡の男が負けを認め、決着がつく。決勝戦を制したのはカドヤと呼ばれたプレイヤーだった。彼の使用したデッキ。

《幻緑の双月》などのマナブーストから《クゥリャン》といった軽量サイバーロードを展開。

そしてサイバーロードを《エンペラー・マルコ》に進化させることによってドローしつつ、アタッカーを増やす。

攻めの火文明。ドローの水文明。マナブーストの自然文明。

かつての【ボルバルブルー】を彷彿とさせる赤青緑3色で組まれたそれは【マルコビート】と呼ばれ、戦国編までビートダウンの王道と言われるようになった。

 

「そうだ…私は皆に愛されていたのだ…」

 

マルコXの声が聴こえる。その声と共に記憶がパズルのピースの様に分割され、広がる。

そこに映っていたのは《エンペラー・マルコ》を切り札とし、デュエマを楽しんでいたプレイヤー達の姿だった。

 

「後に環境が変化し、赤青緑の【マルコビート】は不利になった。しかし私は新たに現れたシノビと合わさり、デッキタイプが【黒マルコ】へと姿を変えながらもプレイヤー達に使ってもらっていたのだ」

 

マルコは語る。自分が多くのプレイヤーに使われ、愛されていた事を。

そして、()()()()()()()()事も。

時の流れが加速する。先程まで戦国編だった記憶の世界が移り変わり、数年後の2011年・エピソード1の開始から四か月。季節は秋になっていた。

 

「直人!カードショップへ行こうぜ!」

 

「おう!アレを手に入れるんだな?楽しみだったんだよな~」

 

(あれはさっき奴の記憶の中に居た…)

 

直人と呼ばれた少年。当時小学生だった彼は中学生となっていた。身長は伸びたものの、その笑顔には彼が小学生であった時の面影を感じさせる。

 

「来たぜこの日を…!」

 

カードショップに入った直人は新発売のパックを探す。

 

「『フルホイルパック リバイバル・ヒーローズ・エイリアン』!待ってたぜ!」

 

少年は興奮を抑えきれずに、パックを開ける。

光り輝くフルホイルの仕様。種族にエイリアンが追加され、リメイクされたクリーチャー達。

そして、直人は再びマルコと出逢う。

 

「キターッ!《エンペラー・セブ・マルコX》!俺の切り札のエイリアン版かぁー!使いてぇ〜!」

 

そう。彼がこのパックで一番欲しかったカード。

それが《エンペラー・セブ・マルコX》。効果はマルコと変わらない。だが種族がエイリアンになった事により水文明に縛られること無く、他文明のエイリアンから進化出来るメリットがあるのだ。

少年は更にパックを開けていく。

 

「出た!《躍動するジオ・ホーン》!コイツでこのセブ・マルコXを手札に加えれば次のターンにそのまま進化出来る…!コイツもデッキに入れるぜ!」

 

続いて、手に取ったのは《鳴動するギガ・ホーン》のリメイクカード。山札からエイリアンをサーチする能力を持っている。

 

(このカード…真のデュエルで…)

 

シンの思った通り、このカードはマルコXXが実際に使用していたカードである。マルコXとジオ・ホーン。この2枚を見た彼はある事を確信する。

そして、再び()()()()が目に宿っていた。

 

「そう…私は嬉しかった。種族がエイリアンとなろうとも、私を覚えていてくれたプレイヤー達がそこには居た。もう一度使ってくれるプレイヤーが居るのだと。そう信じていた」

 

マルコXとなった彼がその言葉を終えた瞬間。

無数に増えていた記憶が弾け、消えていった。

 

(…!!)

 

「だが奴が…奴が出た事で私は忘れられたのだ!」

 

彼の登場から2ヶ月の時が過ぎた。エピソード1期3番目のパック『ガイアール・ビクトリー』。新たな覚醒リンク持ちのクリーチャーや《ドンドン吸い込むナウ》が代表的なナウサイクル等が収録されたパックである。この中に彼が怨む存在(ソレ)が居た。

 

「憎き《超電磁コスモ・セブ・Λ(ラムダ)》…!」

 

マルコX、最後の記憶。

それは直人がとある公認大会に出場していた時の事である。友人とのデュエマに熱中するうちに、彼は楽しむデュエマをする事から勝つデュエマへとスタイルが変わりつつあった。

それでも直人は自分の相棒であるカード《マルコX》をデッキから抜くような事はしなかった。

このカードがあるから自分は今まで勝つ事が出来たと信じていたからだ。

 

「よしっ!《エンペラー・セブ・マルコX》でダイレクトアタック!」

 

「ま、負けました…」

 

準決勝 直人は《マルコX》を使いこなし、見事勝利した。今まで何度か大会に出場してきた彼であったが、決勝はおろか準決勝まで来たことはなかった。直人にはもしかしたら優勝出来るかもしれないという思いが現れ、始めていた。

 

「決勝戦を行います。右の席にNAOTOさん、左の席にシュウヤさん。お願いします」

 

店員の声と共に、呼ばれた2人が席に移動する。

そしてお互いにデッキをカット&シャッフルし、シールドと手札を準備する。

その後、ジャンケンで勝利した直人が先行となった。

 

「それでは…デュエマ・スタート!」

 

対戦が始まる。初めての決勝戦という大舞台に立ち、直人は緊張していた。対する相手のシュウヤは淡々と手馴れた手つきでゲームを進めていく。

 

「4マナで、《躍動するジオ・ホーン》を召喚します。効果で《エンペラー・セブ・マルコX》を手札に加えます」

 

手札にマルコXが加わったその時ー。

 

「フン…そんなカードか」

 

シュウヤは小声でカードを馬鹿にするような発言をした。

 

「えっ…?」

 

先程の声は近くにいる直人にしか聞こえていなかったようだ。

 

「あ?ターン終わったのか?」

 

「は、はい。ターン終了です」

 

その眼光に威圧され、慌ててターン終了を宣言する。

 

「4コス《ジオ・ホーン》」

 

召喚されるのは直人も使ったジオ・ホーン。その能力で新たなエイリアンが手札に加わる。

 

「じゃ、《Λ》サーチで。エンド」

 

彼が手札に加えたカード《超電磁コスモ・セブΛ》。種族にエイリアンを持つクリーチャーの為、当然《ジオ・ホーン》でサーチできる。

 

(なんだろうあのカード…だけど俺には《マルコX》が居るー!)

 

「俺は5マナ支払って、《ジオ・ホーンを《マルコX》に進化!」

 

現れる直人の魂のカード。エンペラー・マルコの頃から愛用し続けている彼にとって、勝利をもたらすカードなのだ。

 

「《マルコX》の能力で3枚ドロー!そして、このままW・ブレイク!」

 

シュウヤのシールドチェック。シールドを確認するが、トリガーがなかったのか舌打ちと共に手札に加える。

 

「ターンエンドです」

 

(増えた手札もあるしこのままいける…!)

 

自らの切り札《エンペラー・セブ・マルコX》を出した事で、試合の流れが自分に来ていると感じている直人。

しかし、その希望は打ち砕かれる。

 

「俺のターンを5コスト。《ジオ・ホーン》を《Λ》に進化」

 

現れる水文明の進化エイリアン。直人は見た事も無いクリーチャーに少し動揺する。

 

「《Λ》で《マルコX》攻撃 。メテオバーン。このクリーチャーが殴る時下のカード墓地に送って《3枚ドロー》」

 

「えっ!?」

 

直人は思わず驚愕してしまう。自身の切り札である《マルコX》の召喚時能力を攻撃するだけで使ってしまったのだ。

 

「《Λ》の方がパワーが1000上だ。《マルコX》は破壊される。ターンエンド」

 

確認の為にΛのカードを見る直人。シュウヤの言う通り、パワーがマルコXを1000上回っていた。更に、カードを確認した際直人は驚きが隠せなくなるものを見てしまった。

 

(進化元のクリーチャーが()()()()()()()()()()()…!?しかも、手札からクリーチャーを入れればメテオバーンがまた使える!?)

 

この時直人は感じてしまった。

今まで相棒として使ってきた《マルコ》よりもこの《コスモ・セブΛ》の方が強いのでは無いかと。

だが、それを認めてしまえば今まで彼がマルコを使い続けた思いが簡単に崩れ去ってしまう。

その為には何としてもこのデュエマに勝つ必要があった。

 

(負けてたまるか…!僕の《マルコ》は…《マルコX》は決して弱くはないんだって…!)

 

その思いを胸に直人は自身の手札で常に最善手と思えるプレイをした。何度Λで手札差を付けられようとも、直人は決して最後の最後まで諦める事はしなかった。

だがー。

 

「…トリガーはありません」

 

「じゃあ《コスモ・セブΛ》でダイレクト。俺の勝ちで」

 

「負けました…」

 

必死のプレイも虚しく、直人は決勝戦で敗れた。

彼の内心は準優勝という結果に喜ぶ事よりも、《マルコX》が弱くは無いということを証明出来なかった事への悔しさで埋まっていた。

 

「優勝はシュウヤ選手!おめでとうございます!」

 

周りから拍手がシュウヤと直人に贈られる。

しかし、その拍手は悔しさを抱えている直人の慰めになる事はなかった。

そして、彼の心はこの大会で崩れ去ることになる。

 

「おい。確かNAOTOとか言ったな?」

 

悔しさで落ち込む直人にシュウヤが近づく。

優勝した彼が敗者である自分に何の用があるのかと疑問に思っていた。

 

「アンタなんでそんな弱いカードを入れてんの?」

 

「えっ…?」

 

「あの《エンペラー・セブ・マルコX》とか言う奴?あれ《Λ》の下位互換っしょ。ジオ・ホーン入れてんなら《Λ》の方が強いのによ」

 

止まることの無い《マルコX》への罵倒。

シュウヤの口から言葉が発せられる度に直人の心から『何か』が失われていく。

その言葉に直人な顔を上げることすら出来なかった。

 

「まぁ、《マルコX》じゃなくて《Λ》だったら俺に勝てたかもな。俺は優勝賞品貰って帰っか」

 

シュウヤが何気なく言い放った言葉。

だが、その言葉はまるで呪いのように直人の心に染み込んでいった。

 

(俺が負けたのは…《マルコX(コイツ)》のせい…?《マルコX》を使()()()()()()勝てた…?)

 

先程までの悔しさが憎しみへと変わる。

このカードが悪いのだ。自分は悪くない。

負けを認めたくないと思う気持ちが現れ始める。

自分は勝つ為にデュエマをやっているのだ。

今の直人にはその想いしかなかった。

 

「そうだ…俺も《Λ》を使えばいいんだ。そうすれば俺は勝てる」

 

そう呟きながら店のカードファイルを手に取り見る。そこにはあの《超電磁コスモ・セブΛ》のカードがあった。

 

「これで俺も…」

 

そのままレジへと進み、Λのカードを購入する。

そして、席へと戻った彼は淡々とデッキを取り出し、《マルコX》のカードを抜いた。

 

「じゃあな。二度と使う事はないだろうけど」

 

「ちょっと君ー!カード忘れてるよー!」

 

店員の声にも耳を傾けず、彼は魂のカードであった《エンペラー・セブ・マルコX》を机に置き去りにし、店を去った。

 

直人だけではない。多くのプレイヤーが【マルコビート】から【Λ《ラムダ》ビート】へと乗り換えつつあった。

かつてプレイヤー達に《エンペラー・マルコ》を思い出させた存在である《エンペラー・セブ・マルコX》すらも使われなくなってしまう。

その使われなくなるという事は人々の記憶から消えるという事。プレイヤーから忘れられてしまう度に、超獣世界の彼らは力を失ってしまう。

 

「私は…このまま消えてしまうのか…」

 

悲痛な訴えもプレイヤー達には届かない。記憶し続けてもらうにはプレイヤーの力が必要だが、クリーチャーから彼らに思いを伝える事は不可能なのである。

力が消える度に自身の消滅を覚悟するマルコX。

その時、彼の背後に何かが現れた。

 

「まだ消えたくないのだろう?」

 

「ー!!」

 

マルコXが振り返ると、そこには黒いフードを被った男が立っていた。

 

「私が君を救って上げよう」

 

そう言うと、フードの男は持っている本から漆黒のオーラを生み出した。得体の知れない物に警戒するマルコXであったが。

 

「この力を手に入れれば君は忘れられる事はない。欲しいか?」

 

その言葉に惹かれるように、マルコは今にも消滅しそうな体で男の方へと向かっていく。先程の警戒心が無かったかのようにそのオーラを求め始めた。

 

「君は正直なクリーチャーだ。よかろう、受けとるがよい」

 

漆黒のオーラがマルコXに流れ込み、激痛が走る。

 

「がぁぁ…!」

 

「さぁ!思い出せ!お前が受けてきた行為を!一つのデッキタイプを築き上げたクリーチャーでありながら、他のクリーチャーに主役を奪われた怒りを!下位互換と批難され、捨てられた悲しみを!そして、魂のカードであった彼に捨てられた怨みを!全てはそう!《超電磁コスモ・セブΛ》が奪い去った事を!」

 

男が高らかに声を挙げる度にマルコXは激痛が快楽に変わる悦びを覚えた。

 

(私、いや我は…!あのΛよりも強い!)

 

彼はその自信と共に、男が持つオーラを全て吸い尽くした。そして漆黒の霧が現れ、体を覆い尽くす。その霧を振り払い、変貌した彼の姿が現れる。

 

「フハハハ!何だこれは!先程までの我ではない!強大な力を感じる!」

 

「おめでとう。君は見事進化を超える力を手に入れた。教えよう、君を捨てたプレイヤーと《Λ》に復讐する方法を」

 

こうして《エンペラー・セブ・マルコXX》が誕生した。

 

(これが奴が復讐鬼と化した一部始終か…)

 

再び周りが眩くなり、シンは記憶の世界から元いた場所へと帰ってくる。

そこには先程までの力を無くした《エンペラー・セブ・マルコX》としての彼が存在していた。

 

「…プレイヤー達は私を忘れた。だから力が欲しいと願ったのだ。忘れ去られるくらいならば世界ごと消してやろうと思ったのだ」

 

マルコXは淡々と話す。自分が消えるぐらいなら消す。彼はそれを理由にこのエピソード1の世界と後に誕生するパラレルワールドさえも消滅させようとした。

次の瞬間。その一言を聞いたシンは生身でマルコXを殴りつけた。

 

「なっ…?」

 

マルコXにほんの少しではあるが、体がボロボロであるはずの少年の拳の衝撃は届いた。

そして、仕掛けたシンの右手から血が滴り落ちる。

 

「ふざけるな…自分の復讐の為だけに世界を、記憶を消そうとしたのか?」

 

「何が悪い!私を忘れたプレイヤーなぞ…!」

 

「そこまで憎かったのか…」

 

シンは顔を伏せながら、マルコXへと近づいていく。マルコは弱々しいあの拳をまた仕掛けて来るのではないかと身構える。

 

「辛かっただろうな。悲しかっただろうな。」

 

「…何?」

 

「プレイヤー達から使われなくなって、忘れられて、自分の存在が無くなってしまうかもしれない…だから消そうとしたか…」

 

その言葉と共にシンの動きが止まり、顔を上げる。この世界から来る前に感じていた怒りとは一転して、彼の目から涙が溢れていた。

 

「確かにプレイヤー達はお前達を忘れてしまう。だけど、プレイヤー達はデュエル・マスターズを楽しんでいるんだ。それを壊すのはやめてくれ」

 

「私を消そうとしているのだぞ。プレイヤーなど信じられるかー!」

 

「だからお前を…」

 

真のデュエルで傷ついた体で歩き、マルコXの前に立つ。

 

「俺がずっと覚えておいてやるから…!」

 

「ー!!」

 

シンの手がマルコXの体に触れる。

その時、マルコXは久しぶりに感じた。

この温もりは自分を覚えていてくれたプレイヤー達の想いなのだと。

 

「私の存在が修復されてゆく…私は消えなくていいのか…?」

 

「ああ。これからもこの世界で生きれるさ」

 

「そうか…」

 

今、マルコXは再び存在を取り戻した。

彼が本来の姿を取り戻したことで焦土と化していた大地に緑が戻り、フィオナの森が再生される。

それと同時にシンの体が粒子に包まれる。

 

「シン!」

 

デッキケースから聞き覚えのある女性の声が聴こえてくる。

 

「…アリスか」

 

「貴方、大丈夫なの!?」

 

「ああ。シールドは全て割られたが何とか勝て

た」

 

「また無茶して!…無事で良かったわ。帰還プログラムが作動中よ。後30秒で帰還出来るわ」

 

通信越しでも彼女が心配している様子が伝わってくる。シンは帰るべき場所へと戻るのだ。

 

「…お別れだ。歴史が修正されるからお前からこの異変の記憶は無くなる。これからは安心して生きろよ」

 

「…最後にいいか?」

 

「後15秒だ。早くしろ」

 

「シン。私を救ってくれてありがとう」

 

マルコXは自身を救ってくれた恩人として初めて少年の名を呼ぶ。

 

「…ああ。元気でな」

 

シンは微笑を浮かべ、消えていった。

=




今回はここまでです。
ヘイトシーンがありながらも読んで頂いた方、ありがとうございます。
次回が恐らく最終回となりますので、お付き合いして頂けたら幸いです。
それではまた次回!


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Ep fin シン

皆様、遅くなりました。最終回です。最初は3回ぐらいで終わらそうと思ったんですけど予想以上に長くなりました…(汗)
遂にシンの秘密が明らかになります。
それではどうぞ!


「転移プログラム正常起動。シンさんが帰ってきます!」

 

オペレーターの声から数秒後、重症ともいえる姿でシンは観測室へと帰ってきた。

 

「シン…!」

 

暴走超獣との戦いで彼は必ずと言っていいほど傷ついていた。アリスはその姿を何度も見ているにも関わらず驚きを隠せないでいた。

 

「大丈夫なの…?」

 

「当たり前だ。俺の身体の事ぐらい知ってるだろ」

 

「けど…!」

 

「疲れたんだ。寝させてくれ」

 

シンはそう言いながらアリスの横を通り過ぎる。

傷ついた少年を見て、彼女はかつての仲間の姿を思い出してしまう。

 

(本当に似てるわ…テスタに…)

 

「待って。部屋まで私もついて行くから」

 

「…部屋までだぞ?」

 

「ええ。分かってるわ」

 

その言葉を聞いたシンは無言で歩き出していく。

するとドアが開き、バルトが現れた。

 

「シン、お疲れ様。ご苦労だったね」

 

バルトは肩に手を置き、任務終了を激励する。

 

「…疲れてるんだ。俺は寝るぞ」

 

シンはバルトを気にもとめず、呆気なく返事する。

足を引きずりながらの状態にも関わらず、少年はドアの方向へと歩き出した。

 

「まったく…。けれども休息は大事だからね。ゆっくり休むといいよ」

 

ドアが閉まる音がする。

彼はアリスと共に廊下を抜けて、自分の部屋へ向かっているだろう。

 

「所長…」

 

「ん?」

 

振り返るとそこには任務を終え、休憩中であるはずのオペレーターが立っていた。

 

「君は…確か転移プログラム構築班のサイモン君だったかな。一体どうしたんだい?」

 

「実は…シンさんについて教えて欲しいんです」

 

その言葉にバルトは多少驚いた。

オペレーター自らがシンについて聞きに来る事は今まで無かったからだ。

 

「どうしてシンの事を知りたいと思ったんだい?」

 

その問いかけにサイモンは少し言葉が詰まってしまう。

しかしその沈黙を解くかの様に唾を飲み込む。

そして、勇気を出して知りたい理由(ワケ)を話す。

 

「俺…近くに居るから毎回見るんです。シンさんの何かに怒ってる顔。最初は暴走超獣に大して怒ってるんじゃないかと思ったです。アイツら世界をめちゃくちゃにするから…」

 

「………」

 

バルトは無言で頷く。

 

「けど最近思ってきたんです。シンさん本当は悲しいんじゃないかって。今日だって帰ってきたら姿はボロボロだし、重症なのにアリスさんの力も借りずに自分で歩こうとしているし。そんな状態なのに表情が悲しそうに見えたんです。何で怒りを感じていたはずの彼が悲しさを感じているのか。それを知りたいんです!」

 

サイモンはシンの事を本当に知りたいという気持ちを必死に言葉にし、バルトに訴えてきた。

 

「君の想い伝わってきたよ。君の望み通り話そう。彼の…いや『彼達』の事を」

 

「お…お願いします」

 

サイモンは自身の想いを出し切ったからか、少し疲れが現れる。

 

「おっと、大丈夫か?この椅子に座ってくれよ」

 

「は、はい。失礼します!」

 

サイモンが椅子に座ったのを確認した後、バルトも自身がいつも座っている所長専用の椅子に座る。

 

「じゃあ話を始めようか」

 

サイモンは知る事になる。

シンがどのような存在であるのか。

そして、彼の誕生をー。

 

 

 

 

 

「アリス、ここまでだ。後は俺一人でも行ける」

 

部屋に着いた瞬間の事だった。

シンはそう呟き自分だけ部屋に入ろうとする。

しかし、アリスはシンの手を離そうとしない。

 

「何言ってるの。部屋までって言ったでしょ」

 

「もう部屋だぞ。戻れ…」

 

「部屋の中()()入るわよ。」

 

シンはしばらくそこにいたが、手を離そうとしないアリスに根負けする。

 

「…勝手にしろ」

 

こうして2人でシンの部屋の中に入っていく。

 

「まったく…インテリアすら置いてないじゃない」

 

「寝れればそれで十分だ」

 

ベットとテーブルしか置かれていない部屋にアリスは呆れる。シンはそういった物に興味が無いようで、単純に寝れればよいという思考らしい。

 

「さて、俺は寝るぞ」

 

いつの間にかベットの上へと移動したシンは、アリスの事などお構い無しに眠りにつき始める。

数分後彼は眠りの世界へと誘われた。

 

「こうして見ると…普通の男の子なのね」

 

アリスが見た彼の寝顔はごく普通の少年が見せるものであり、普段の暴走超獣と戦っている時の彼とは真逆の姿がそこにあった。

 

「おやすみなさい。シン」

 

優しい声で彼に語りかけ、シンの頭をそっと撫でた。

彼女は微笑んだまま、彼の部屋から退出した。

 

 

夢を見ているのか。

いや、違う。この感覚は俺が俺である為の記憶を再び見ているだけだ。これは夢じゃない。

この記憶があるから俺は俺として存在している。

眠りにつく度に俺はこの光景を見る。

 

「出来た!俺だけのクリーチャー!」

 

一人の少年が真っ白な紙に書き上げた落書きとも呼べる絵。そこにはカードを操る少年が描かれていた。後で知ったことだが、当時人間の様なクリーチャーは珍しかったらしい。

 

「名前は…そうだ!俺の名前から付けよう!」

 

この人は突然の閃きによって名前を決めようとしている。

すぐさま別の紙に自分の名前を書き、考え始めた。

 

神や 新田(かみやあらた)っと…名前は神?うーん、これじゃないな…」

 

そうして彼は悩み続ける事30分。

彼は笑顔で顔を上げて、こう言った。

 

「新…シン!このクリーチャーの名前はシンだ!」

 

そう、俺という()()()()()()はここで生まれたんだ。

 

 

 

 

 

「シンさんが…俺達と同じクリーチャー…?」

 

バルトから告げられた事実にサイモンは驚愕せざる得なかった。あの少年がクリーチャーだと思った事が一度も無いからだ。

 

「そんな…シンさんはどう見ても人間ですよ!

真のデュエルはクリーチャーと契約した人間じゃないと出来ないはず…!」

 

そう可笑しいのだ。

確かにクリーチャーならばDW(デュエル・ウォーリアー)として真のデュエルを行うことが出来る。

しかし、デュエルマスターの力を持っているという事がサイモンに違和感を与えた。

なぜならばデュエルマスターの力はクリーチャーとマスター契約を行うことで手に入れる力だからだ。

シンがこの力を使っている以上、彼がクリーチャーである事はおかしいのだ。

クリーチャーであるならば真のデュエルは彼のDW(デュエル・ウォーリアー)権限にて行われる筈なのだから。

 

「いや…クリーチャーだとちょっと語弊があったかな。シンはね()()()()()()()()()()()()なんだよ」

 

「えっ…?」

 

再び告げられる驚愕の真実。

ー人間であり、クリーチャー。

前代未聞の存在にサイモンは混乱する。

 

「それってどういう…」

 

「シンが暴走超獣と真のデュエルして怪我をする事があるだろう。彼の場合、大抵致命傷になるまで戦っているけどね…。けれど、それだけの攻撃を受けて人間が生きてるはずがない。クリーチャーじゃなければ成しえない事さ。」

 

「それだけの致命傷なら、何で暴走超獣が現れる度に戦えるんですか!過去にありましたよね…僅か半日で再び暴走超獣が出現した事。何でシンさんは…」

 

自身が抱いた不信感にサイモンの表情は暗くなり、俯き始める。バルトはサイモンの肩を叩く。

予想外の対応に思わずサイモンは顔を上げる。

 

「それを説明するにはある少年について話しておかなきゃならないね。シンが何故人間であり、クリーチャーなのか。その答えを教えよう」

 

 

 

 

 

「よしっ!行くぞー!シン!」

 

カードに描かれた俺に向かって、あの人(あらた)は声を掛けてきた。

喋りもしないと言うのにまるでそこに居るみたいに嬉しそうに話しかけてくる。

 

「《ボルシャック・ドラゴン》を攻撃!」

 

おいおいよしてくれ。

その俺にはパワーすら書かれていないんだぞ。

勝てる訳が無い。

 

「よし!シンはカードの力で《ボルシャック・ドラゴン》を仲間にしたぞ!」

 

カードの欄には『あいてのクリーチャーを仲間にする!』って書いてある。

けど、俺にそんな能力あるわけないじゃないか。

そうは思っても口には出せない。

(シン)という存在はいても、クリーチャーとしての(シン)は存在していないからだ。

喋れるはずもない。

まだ紙の上の存在だった俺は数年の時をあの人と過ごした。ちゃんとしたデュエル・マスターズのカードが手に入ったというのにあの人は俺を捨てなかった。それどこか余計に大切にした。

彼が中学生になった時に一度こんなことがあった。彼の母親がこんな絵()に執着してるのを見て心配したらしい。それで俺を捨てるように言ってきた。

 

「新田、そんな落書きいつまでとってるの?捨てちゃいなさい」

 

「嫌だよ。これは僕の大切な思い出なんだから。これから大きくなっても僕はこの仲間も捨てやしないさ」

 

「…分かったわ。母さん捨てないであげる。ちゃんと大切にするのよ」

 

「ありがとう!」

 

この少年は俺をいつまでも大切にするだろう。

ーそう思っていた。

 

「残念ながら…」

 

「そんな!新田!新田!」

 

人間は脆かった。

俺を生み出してくれたあの人、神谷新田(かみやあらた)は交通事故に巻き込まれて死んでしまった。

これも後から知ったことなのだが、どうやらデュエル・マスターズの大会に遅れそうになって急いでいた所を急に現れた車に轢かれたそうだ。

最後までデッキと俺が描かれた紙が入ったケースを大事そうに持っていたらしい。

俺は消滅する事を覚悟した。

普通のクリーチャーの様に多くのプレイヤーに覚えて貰っている訳でもない。

ましてや、この落書き()をこの人以外が見たとしてもデュエル・マスターズのクリーチャーだとは思わないだろう。

人に覚えていて貰わなければクリーチャーは存在が()()()

例え、俺みたいなちっぽけな存在だったとしても。

ー俺は消える。そう思った時だった。

 

(僕は…忘れないよ。シンも楽しかったデュエル・マスターズも)

 

その声が聞こえた。

そして、彼と過ごしたデュエル・マスターズの記憶が流れ込んでくる。

楽しい記憶も辛い記憶もあったが、全て彼にとって大切な思い出だ。

あの人の暖かい想いが俺に伝わってくる。

 

(僕が君を覚えてあげるね…)

 

その一言を言い終えた瞬間、俺の前が真っ暗になる。

 

「待って…!」

 

目覚めた時に俺は知らない所にいた。

周囲には訳の分からない機械が並んでおり、床のひんやりとした感覚が俺の足に伝わってきた。

 

「なんだこの感覚…?」

 

俺が下を見ると、足がある。

上の方を向けば、手があった。

 

「これは…?確か俺は消えた筈…いや、そんな事じゃない。俺の姿は…?」

 

器具に映る俺の姿を見る。

どう見たってこれは人間だ。

しかも、あの人と同じ中学生ぐらいの少年の姿をしていた。

 

「君が…この観測世界に呼ばれた存在かな?」

 

俺の背後から声をかけられる。

そこには迷彩服を来たおかしな奴が、右手にコーヒーを持ちながら立っていた。

 

「誰だアンタは…」

 

「僕はバルト。この観測世界にある『観測室』の所長さ」

 

「観測世界だと…?」

 

俺が疑問に思った途端、突然この世界に関する情報が頭の中で反響した。

 

「ぐっ…!」

 

「今、観測世界から説明を受けているようだね。ここではデュエル・マスターズの歴史を見守る事を使命にしている。そして歴史に異変が起こった時、僕ら職員がそれを正すんだ」

 

「それを俺にやれと…」

 

「そのようだね。君はこの世界によって呼び出されたデュエルマスターなんだから」

 

デュエルマスター。その言葉には聞き覚えがあった。確かあの人が読んでいた漫画や見ていたアニメにも出てきた言葉だ。

 

「本来ならば人間しかなれないデュエルマスターだが、君の場合事情が異なっていてね。君は君を作り出したプレイヤーの人格と融合して、人間としての肉体を得ている。つまり人間であり、クリーチャーなんだ」

 

「俺があの人と…?」

 

困惑しながら俺は答えた。

人間とクリーチャーの融合した存在というのは前代未聞のモノだったからだ。ましてや人格まで融合しているとなると流石に驚かざる得ない。

困惑する俺を見ながら、バルトは説明を続けていた。

 

「さて本題に入ろう。この観測室の所長として君にお願いしたい。君がよければ僕達と一緒にデュエル・マスターズの歴史と記憶を守ってくれないか。」

 

「…さっき俺がこの世界に呼び出されたといったな?何故聞くんだ。呼ばれた以上俺は戦わなくてはいけないんじゃないのか?」

 

「確かに世界は君を呼んだ。けれども戦うかどうかは君の『意思』次第だよ」

 

バルトがコーヒーを口にする。

だがその顔は苦笑を浮べ、苦かったのか咳き込み始める。

 

「ゲホッ!…ちょっとブレンドを間違えたか?後でもう1回やってみよう」

 

「…いいだろう。協力してやる」

 

「おっ、いいのかい?」

 

「ああ。あの人の記憶が俺の中にある。あの人が楽しんでいた世界を、デュエル・マスターズの記憶を守れるならな」

 

「…OKだ!君を観測室の仲間として歓迎するよ」

 

俺とバルトは握手する。

握手した時の感覚は俺が初めて味わった『手』の感覚だった。

 

 

 

 

 

「こうしてシンさんと所長は出会った訳ですね。…シンさんの経緯にそんな事があったなんて」

 

「そうさ。結構ドラマチックだろう?」

 

ニヤニヤしながらバルトはサイモンの方を見る。

サイモンはどう反応すれば分からず、苦笑いを浮かべていた。

 

「さて、君も疑問も少し残っている。答えるとしよう。1つ目。何故『怒りや悲しさが彼に見えるか』だ。『怒り』はシン、『悲しさ』は彼の元になった新田君の感情さ。シンはどちらかと言うとクリーチャーの側面が強いからね。忘れ去られてしまうクリーチャーの気持ちが分かると同時に、簡単に忘れてしまうプレイヤーへの怒りもあるのさ」

 

サイモンは思い返す。

暴走超獣のほとんどはプレイヤーに対して、憎悪を抱いている存在だ。

先程の《エンペラー・セブ・マルコX》も自分を忘れたプレイヤー達への復讐だった。

どのクリーチャーも忘れられてしまえば存在が消えてしまう。

その辛さや怖さを理解しているシンだからこそ、プレイヤーに対して怒りの感情を抱くのも無理はない。

 

「逆に悲しさは新田君の人格から現れたものさ。元プレイヤーとして『自分達がもっと覚えていれば』っていう罪悪感を感じているんだろうね。」

 

「確かに…悲しいですよね。デュエル・マスターズを知っているプレイヤーだから感じてしまう罪悪感もあるでしょうし…」

 

「けれど新田君の人格があるからこそ、再び暴走超獣達はプレイヤーに覚えて貰う事が出来るのさ。新田君が覚えてくれる事で存在は消えることが無い。きっと誰かがそのクリーチャーの事を思い出してくれるさ」

 

彼の疑問を1つ解決したバルトは、疑問解消を続けていく。

 

「そして2つ目。『彼が暴走超獣と戦い続けれるワケ』。それはシンは存在を回復してるんだよ」

 

「存在を回復…?」

 

「シンは任務が終わると早々に寝ちゃうだろ?彼は睡眠をとる度、自分がどうやって生まれたかを再び見ている。そして『シン』はこういうクリーチャーだってことを新田君の人格が思い出して、シンを元通りにしているのさ。簡単に言えば()()()()()()かな」

 

バルトはあっさりと答えたがあれだけの致命傷を受けて、完治するという事にサイモンは驚かざる得なかった。

 

「彼の姿が変わらないのもそのためだよ。これ以上身体的には成長しないのも悲しいけど、本人もそれに満足してるようだ」

 

それ(2つ目の疑問)を言い終えた後、彼は立ちながらこういった。

 

「さて最後だ。『彼がどうしてデュエルマスター』なのか。新田君の人格が融合してるってさっき言ったが…アレに関係するね。最近の事だがドラゴンが消えて、新しい種族が現れた世界が誕生しただろう?」

 

「確か…ジョーカーズが生み出された世界ですね。あの世界と関係が…?」

 

「あの世界で新たに作られた『マスター・クリーチャー』と『デュエルマスター候補』の概念はこの世界にももたらされた。シンの場合、新田君の人格がシンに大してマスター契約を行っている形になっているね。だからシンにもデュエルマスターとしての力が宿ってるわけさ。どうだい?君の疑問は晴れたかな」

 

サイモンは黙り込む。様々な真実が明らかにされ、少し困惑しているようだった。

だがー。

 

「正直…驚いています。でも、何よりシンさんと一緒に戦えている事がとても嬉しく感じられるんです。やっぱりあの人は凄い人ですよ!」

 

先ほどまで困惑していた表情が誇りの満ちた明るい顔へと変わっていた。

彼はこの先もシンと一緒に戦える事を誇りに思うだろう。

一人のプレイヤーとして。そして、仲間として。

 

「それなら良かった。職員のメンタルチェックも所長の僕の仕事だからね。さて長話で疲れただろう?君もしっかり休みたまえ」

 

「は、はい!所長…ありがとうございました!」

 

サイモンがとったのは敬礼。シンの重大な秘密を教えてくれた所長に対しての彼なりの精一杯の感謝であった。

 

 

 

 

その頃。

デュエル・マスターズのプレイヤーが存在する世界では、一人の青年が引越しの為に整理をしていた。

 

「まったく…我ながらよく集めたよなぁ」

 

一人の青年は集めたカードを整理していく。

引越し先でもデュエル・マスターズを遊ぶ為だ。

プレイヤーならばカードを持っていかない理由がない。

 

「ってどわーっ!?」

 

足が引っかかり、カードの山が崩れる。

辺りにはデュエマのカードが散乱していた。

 

「うわぁ…コレ、片付けるのがしんどいぞ…」

 

そう言いながらカードを集めてゆく。

《霞み妖精ジャスミン》や《躍動するジオ・ホーン》が散らかっていた。

 

「懐かしいー!よくやってたなぁ【Λビート】!」

 

笑いながらカードを整理していく中、1枚だけ裏向きになったカードがあった。

彼は何気なくそのカードを捲り、表面にする。

 

「…えっ?」

 

そこにあったのは《エンペラー・セブ・マルコX》のカードだった。

 

「なんでこのカードがここに…。ーっ!」

 

その時、彼は思い出した。

かつてこのカードが魂のカードであり、デュエマを楽しんでいた事を。

そして、自身がこのカードを捨てた事を。

 

「うっ…!」

 

床に水が落ちてくる。その正体は彼の涙だった。

溢れでる涙を、彼は止めることは出来なかった。

 

「お前を捨てたりしてごめんな…!」

 

『直人。おかえり』

 

「へっ…?」

 

誰かに呼ばれた気がして振り返るもそこには誰も居ない。けれども彼には分かった。その声の正体が。

 

「もう一度…俺と一緒に戦ってくれ…!」

 

狭い部屋に大きな願いが響きわたった。

 

 

 

ー再び観測世界では。

 

 

「…ン!シン!」

 

その声が聞こえ、少年は目を覚ました。

 

「…アリスか。どうした?」

 

「エピソード2の世界でトライストーンの暴走超獣が暴れているの」

 

「そうか…なら俺が行くしかない。」

 

「早く観測室まで行くわよー!」

 

アリスとシンは急いで観測室まで駆け付ける。

扉の先にはバルトがオペレーターに指示を下していた。

 

「遅かったねシン。何かあったかい?」

 

「…ちょっとな。長い夢を見ていた気がする」

 

「フフ…そうか」

 

「…?何を笑っているんだ?」

 

「いや、何でも。とりあえずエピソード2までの転移プログラムはもう構築済みだ。転移開始してくれ!」

 

シンはバルトの意味不明な微笑を気にするも、誤魔化された。その真意を知るのはバルトと一人のオペレーターだけだ。

 

「シンさん、転移開始しますー!」

 

「…分かった。デッキ準備(セット)

 

いつも通りに空間からデッキを取り出し、ケースにセットする。

 

「アリス、予め行っておくが…俺は必ず帰ってくるぞ」

 

「…馬鹿。帰ってこないと許さないわよ」

 

「ああ。必ずな」

 

シンは微笑を浮かべる。

その顔には彼が滅多に出さない喜びの感情が現れていた。

そして、彼は光に包まれていく。

ー彼の新たなる戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様ここまで読んで下さりありがとうございます。
カードゲームを題材にしているのにデュエルパート1話しかなかったですね(困惑)
番外編を書くかもしれませんが、シンとクリーチャーの物語はここで終わります。
また何かの作品を書くかもしれませんのでその次の作品で会いましょう!
それでは今まで読んで下さりありがとうございました!


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