デート・ア・ビルド(更新休止中) (砂糖多呂鵜)
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番外編
番外編 令和記念 デート・ア・ビルド メンバー 雑談会


一同『令和記念!キャラクタートークショーッ!』

 

イェーイッ!イィーーッ!!

 

桐生「と!言うわけで………さっき平成終わったなー」

 

万丈「ああ。って、そんな締まらない始め方でいいのかよ」

 

桐生「まあ令和記念って言っても、こうやって俺らが話すだけだしねー。次回もまだ書き上がってないらしいし」

 

士道「成る程な。しっかし、この小説書き始めてから一ヶ月半くらいで平成終わるとは思わなかったな」

 

十香「うむ、時間の流れというものは早いものなのだな、シドー、セント、リューガ」

 

四糸乃「はい………短かった、です」

 

よしのん『いやー、呆気なかったねぇ』

 

琴里「意外と早いものね」

 

桐生「そうだなー。ん?ということは………」

 

万丈「どうした?」

 

桐生「これからこの小説で新ライダーが登場した場合、それは令和ライダーという括りになるわけだな」

 

士道「え?まあ……二次創作とはいえ、そうなるんじゃ、ないか…………あ」

 

十香「どうしたのだ?シドー」

 

士道「いや。俺………令和より前に変身したから、ギリ平成ライダーなんだよな。なんか、ちょっと残念っていうか……」

 

桐生「逆に考えろ。最後の平成ライダーってことだぞ、お前は」

 

士道「それなら最近ブレンって奴が来ただろ?俺結構中途半端なんだよな………」

 

万丈「良いじゃねえか。どうせ二次創作だしよ」

 

真那「それを言いやがったら、私だって結構中途半端でいやがりますよ?その上登場回数短いですし!もっと出番を多くすべきだと私は思いやがります!」

 

琴里「確かにね。この小説を始めたのが一ヶ月遅かったら、士道のアライブも真那のデモリッシュも令和ライダーになってたかもしれないわね」

 

桐生「まあ、真那に関しちゃ心配はないと思うよ。そのうち出番が来るからさ」

 

真那「えっ!ほ、本当でいやがりますか!?原作の、登場してからしばらくのあの出番の少なさが改善されるんでいやがりますか!?」

 

桐生「ああ。多分な」

 

狂三「あらあら、それは少し困りますわね。また私が殺されてしまいますわ」

 

士道「うおっ、狂三!来てたのか」

 

狂三「ええ。折角の集まりですもの。私だって参加したいですわ」

 

真那「オメーの席はねーですから帰りやがってください」

 

桐生「まあまあ落ち着きなさいって。今回くらいはそのムードを鎮めなさいっての」

 

真那「むっ………仕方ありませんね。この空間に免じて、今回は見逃してやることにしやがります」

 

狂三「うふふ、そうしていただけると助かりますわぁ。まだ私、本編で再登場していませんもの」

 

万丈「それ関係あるか?」

 

十香「それよりもシドー。鳶一折紙は来ていないのか?」

 

士道「ん?珍しいな。お前が折紙のこと気にかけるなんて」

 

十香「べ、別に気にかけてなどおらん!その、なんだ。折角のめでたい日なのだから、今日くらいはいてやってもいいかと思ってだな………」

 

折紙「問題ない」

 

士道「うわっ、お、折紙!?どこから出てきた!?」

 

折紙「ずっと士道の椅子になっていた」

 

士道「嘘をつくな嘘を!文章だけだからって出鱈目言うな!」

 

十香「や、やはりこの女、油断ならん………!」

 

四糸乃「あ、あの、戦兎さん………」

 

桐生「ん?どした四糸乃」

 

四糸乃「み、皆さん揃いましたし、そろそろ………」

 

桐生「お、そうだな。じゃあそろそろ締めの_____」

 

おぉいおい

 

「私たちのことを」

 

忘れちゃあいないかい?

 

士道「こ、この声は………」

 

クラウン&神大「『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」』

 

万丈「お前らは呼んでねえよ!」

 

クラウン『なんだよつれないなぁ。折角平成が終わって令和になったっていうのに

 

神大「そうそう。だいたい私達、あらすじ紹介でも登場していたじゃないか」

 

士道「そういう問題!?」

 

桐生「ま、まあ闖入者もいたが、とりあえず……」

 

万丈「そうだな………」

 

士道「ここらで締めるか」

 

十香「お!挨拶というやつだな!」

 

四糸乃「が、頑張ります………」

 

よしのん『んふー、よしのんも張り切っちゃうよー』

 

琴里「まあ最後だし、締めとかないとね」

 

狂三「うふふ、嬉しいですわ。こうやって集まれるなんて」

 

真那「そろそろ終わりでいやがりますか?」

 

折紙「感謝の意を示す事は必要」

 

クラウン『ま、今日くらいは締めとくかぁ〜

 

神大「私たちも感謝しなければね」

 

桐生「それじゃあみんな、せ〜のッ!」

 

 

一同『令和でも、デート・ア・ビルドをよろしくお願いしまーすッ!

 

 

 




どうでしたか?
次話が書き上がらなかったので、このようなキャラが喋るだけの番外編を書き下ろしました。

アンケートの方は琴里編が終わるまでを期間とさせていただきます。その間に応募、よろしくお願いします。

令和に入り、デートアビルドもさらなる展開を見せていきます。皆さんお待ちかねの、あのキャラクター達も出す予定ですよ!

それでは、最後に。


平成ライダー二十作。

今まで私たちに、夢と希望を与えてくれて、ありがとう。


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劇場版 デート・ア・ビルド 凛袮ワールドブレイカー 短編予告

_____士道、おはよう。………待ってたんだよ?_______ずっと。

 

 

 

「______おはよう、凛袮(りんね)

 

 

 

いつもと、変わらない日常。

 

少し不思議な、でも確かに幸せな、いつもの日々。

 

 

…………の、筈だった。

 

 

 

「_____ここが、アライブの世界か」

 

 

 

世界の破壊者ディケイド 、現る。

 

 

KAMEN RIDE-BUILD

 

 

「誰だお前!なぜ俺の力を!」

 

「通りすがりの、仮面ライダーだ」

 

 

二人のビルドが、交錯する______

 

 

「お宝は頂いたよ、士道クン?」

 

仮面ライダーディエンド 海東大樹

 

「みんなの力になりたいんだ!」

 

仮面ライダークウガ 小野寺ユウスケ

 

 

「士くんは、破壊者なんかじゃありません!」

 

仮面ライダーキバーラ 光夏海

 

 

現れる、世界を旅する、仮面ライダー達_______

 

 

「どうなってんだよ、こりゃあ………」

 

 

「俺は、前にも同じ光景を、見たことがある…………」

 

 

「時間が、巻き戻ってる………?」

 

 

 

 

綻び始める日常。

 

 

「私ね、士道が幸せなら、それだけでもう、十分なの」

 

 

士道の幼馴染、園神凛袮の想い_______

 

 

 

そして、楽園(エデン)は崩壊する______

 

 

「いくら君達が足掻こうが、もうエデンは止められない」

 

「ふざけるなッ!」

 

 

楽園に現れた謎の少年、輪堂トキ。

 

そして現れる、仮面ライダーユートピア。

 

 

「どうやらこれが、この世界で俺のやるべきことのようだ」

 

 

破滅までのカウントダウンが始まる。

 

そして_____ヒーロー達は、集う。

 

 

「絶対に、助け出す………ッ!」

 

 

仮面ライダーアライブ 五河士道

 

 

「シドーなら、きっと」

 

「戦兎さん…………!」

 

 

「例え悪魔に堕ちても、誰かの笑顔を守る。それが、俺の決意だ」

 

 

「私のおにーちゃん達が、こんなところで終わるはず無いでしょう?」

 

「あたし、信じてるから。龍我達のこと」

 

 

「今の俺は………負ける気がしねぇッ!」

 

 

仮面ライダークローズ 万丈龍我

 

 

「例えどんな危険が伴っても、そこに掛け替えのないお宝があるなら、僕は絶対に手に入れる」

 

「肯定。戦兎達なら、やれます」

 

「心火を燃やして………ぶっ潰す………ッ!」

 

 

仮面ライダーグリス 猿渡一海

 

 

「どんなに傷付いても、手を伸ばす。それが、仮面ライダーってものだろ」

 

 

「勝利の法則は_____決まったッ!」

 

 

仮面ライダービルド 桐生戦兎

 

 

『変身ッ!』

 

 

 

劇場版 デート・ア・ビルド 凛袮ワールドブレイカー

近日、公開予定

 

 

 

 

______ずっと、ずっとね?好きだったよ。士道のこと……………

 

 

 

 

_______これは、想い続けた少女が起こした、一つの愛の奇跡。

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?

予告ってどう書けばいいのかわからず、こんな感じになりました。お許しください。

というわけで、多分八舞編か美九編が終わったら投稿予定の、ディケイドコラボの劇場版、凛袮ワールドブレイカーの告知でした。

一応凛袮ユートピアを基にしていますが、多分ストーリーが某破壊者が出演する関係上だいぶ乖離すると思われます。

失踪とかせずちゃんと書きますので、ご安心下さい。とはいえ、まだストーリーの流れとか、組み上げるべきところ沢山ありますが………。

ともかくそういうわけなので、是非楽しみにしててください!

本編は今のところ明日投稿するつもりなので、そちらもどうぞ待っていてください。






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第一章 十香デッドマッチ
第1話 桐生アナザーワールド


初投稿です。よろしくお願いしまーす!!


『いい加減気付いたらどうだ?桐生戦兎は、地球にとって存在すべき人間ではなかったという事に!』

 

『お前は、俺に創られた偽りのヒーローだったんだよォッ!』

 

『今、どんな顔してるか分かるか………っ?()()()()()してんだよ………俺の顔…………』

 

『……一度しか言わねえぞ。誰がなんと言おうと………お前は俺たちのヒーローだ。だから、生きてくれ………っ!』

 

『俺がこの力を正しい事に使ってこれたのは、掛け替えのない仲間がいたからだッ!』

 

『みんなが、桐生戦兎を、仮面ライダービルドを創ってくれたんだッ!』

 

『愛と平和を胸に生きていける世界を創る!その為に、この力を使うッ!!』

 

『破壊こそ力だァッ!お前の正義など……俺が壊してやるゥッ!』

 

『思ってるさ…………俺と万丈は……!最っ高の………ッ!コンビなんだよぉッ!』

 

『勝利の法則は…………決まったッ!』

 

『これで最後だぁッ!』

 

『この俺が滅びるだとォッ!?そんなことがあってたまるかァッ!人間共がァァァァッ!!!』

 

 

 

 

『万丈おぉぉぉぉぉぉーーッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

野兎が跳ねる草原に、一人の男が倒れている。

まるで長い眠りについているように、顔はどこか穏やかそうにしていた。

 

「ん…………ん?」

 

重い瞼をこじ開ける。頰に柔らかい草の感覚が当たった。どうやら整地されていない草原のようだ。

そよ風に吹かれ、緑の匂いが鼻腔をくすぐる。

ところどころ痛む身体を起こし、辺りを見渡した。

 

どこまでも続く青い空。

 

綿飴のような白い雲。

 

そこまでは、俺の見慣れた光景。唯一違うのは、そこに世界すら両断するような、()()()()がない事。

 

()()()()()()()が、無い…………」

 

日本を三つに分断していた、あの忌まわしい壁が、完全に無くなっていた。

 

 

 

 

 

デート・ア・ビルド(DATE・A・BUILD)

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めた俺_____『桐生戦兎』は、ひとまず街へ出てみる事にした。あの場所にいても仕方無かったし、何よりまず先に確認すべきことがあった。

 

「本当にここは…………スカイウォールの無い、俺が創った『新世界』なのか?」

 

自分たちの運命を狂わせた、火星を滅ぼし、月を消滅させ、あまつさえ地球にも手をかけようとした、『地球外生命体エボルト』のいない新世界を創造(ビルド)する。戦兎の、()の、仲間の、そして父である葛城忍の願いが、叶ったかどうか。

 

街を見渡すと、そこには楽しそうに語らう親子の姿や、腕を組んで歩く恋人達の姿。そして人々が皆、それぞれの生活を営んでいた。

 

「本当に、上手くいったのか………?父さんの、夢見た世界が…………」

 

________そうみたいだね……………

 

 

頭から突如響く、()()()()()声に頷き、戦兎は語り掛ける。

 

「ああ…………本当に、実現したんだ………」

 

戦兎は嬉しそうに、自分の内側にいるもう一人の自分…………『葛城巧(かつらぎたくみ)』に話す。

 

 

_______だが、新世界にいる彼らは、前とは違う十年を過ごした事になる。君の知っている()()じゃない。

 

 

新世界を創造する_____それは、運命の分岐点となった十年前から、世界諸共全てをやり直すという事。

 

戦兎とその仲間との思い出も、戦いも。世界の人たちの記憶も。

何もかも、全てが綺麗さっぱり消える。スカイウォールの無かった世界線の記憶に、全てすり替わる。

 

そしてそこに、『桐生戦兎』という存在は、無い。

 

それはかつての世界で、葛城巧という一人の天才科学者の記憶を消し、佐藤太郎という一人の売れないバンドメンバーの顔を与えた、あの世界だからこそ生まれ出た存在。

 

____全ては、作り物だった。名前も、容姿も。何もかも。

 

 

 

_______本来なら、『桐生戦兎』は新世界に存在しない。こうして創造主として生き残っても………君を知る者は誰もいないだろう。

 

 

 

あくまでも淡々と、事実を語る葛城。

その言葉に、少し目を伏せてしまう。

 

作り物だった空っぽの器に、仲間達が『桐生戦兎』という中身を、溢れるほどに詰め込んでくれた。

そしてその事を覚えているのは、今この世界で自分だけ。

自分一人だけが、古い世界に取り残された。そんな気がした。

 

 

 

_______そろそろお別れだ。

 

 

 

そう言った途端。

葛城巧の意識が、薄れていくような感覚があった。だが、それは当たり前の事だった。

世界をやり直したということはつまり、『葛城巧』の存在も、本来あるべき形へと戻る。

即ち、新世界で過ごした、葛城巧の肉体へと、その魂は帰る。ただ、それだけだ。

 

 

_______楽しかったよ………………

 

 

 

その言葉を最後に。

 

桐生戦兎の中から、『葛城巧』という存在は消えて無くなった。

 

「……………」

 

一瞬目を伏せ、そして、上を向いた。

確かに、寂しくないといえば嘘になる。だが、後悔はしていない。

 

こうして、平和な世界を創ることができた。ヒーローなんて必要無い、望んだ世界に。

恐らく、エボルトとの戦いで死んでいった仲間も、生き返っているだろう。

 

 

仮面ライダーグリス_____猿渡一海(さわたりかずみ)

 

仮面ライダーローグ_____氷室幻徳(ひむろげんとく)

 

そして…………仮面ライダークローズ、万丈龍我(ばんじょうりゅうが)

 

 

「生きていてくれたなら…………それでいい」

 

こうして俺の気分は、最っ高、とまではいかなくても、少なくとも良かった。そう、良い筈…………だったんだ。

 

 

 

 

「最っ悪だ………………」

 

近くの公園のベンチで、頭を抱えながら最悪の気分に嫌々浸る。

 

それは自分の事を覚えている人がいなかったからでも、仲間に覚えてもらってなかったことでも、まだ万丈と再会できてない事でもなかった。

 

「ここ…………新世界じゃないのか?」

 

暗くなりながら、どうにか纏めた思考の中で、その事実を受け入れるしか無かった。

 

本来であれば新世界は、元の世界でエボルトが出現した十年前を分岐点として、『エボルトが存在せず地球にやってこない、平和な世界』を創造するはずだった。

 

つまり、少なくとも十年前までは、戦兎が元いた世界と、時間の流れ方、起きた事象などはすべて同じでなければならない。

 

が、《ビルドフォン》を使って調べても、当時既に議員であった氷室(ひむろ)首相や、その息子である氷室幻徳___げんさんの名前、東都以外の二都の首相である御堂首相や多治見首相の名前が一つ足りとも見つけられなかったのだ。

 

難波重工も見つけられなかったし、宇宙飛行士だった石動惣一(いするぎそういち)の名前、加えて______『葛城忍』、父さんの名前も、見つけることができなかったのだ。

 

「その上______何なんだよこれェ!?」

 

ベンチから立ち上がって、湖の水面まで寄り、堪らず大声を上げる。周囲から何だという視線が送られたが、そんな事気にしてられなかった。

そこにはいつも見慣れた桐生戦兎の姿_____には違いないが、以前よりも若々しい、有り体に言って仕舞えば高校生かそこら辺の歳まで容姿が若返っていたのだ。

 

当初は新世界を創造したことによる影響とも思ったが、この状況ではそれも違うだろう。

 

そして、何より決定的なのが、ネットで見つけたこのワードだ。

 

 

「『空間震(くうかんしん)』………一番の謎が、これだよ」

 

ネットを見てみても、見ない記事はないんじゃないかというくらい取り上げられる、この空間震(くうかんしん)というワード。

 

発生条件、発生時期不明、被害規模予想不可の建物爆発、振動現象、物体消失、etc………といった突発的広域災害の総称が、この空間震らしい。一部では空間の地震とも呼ばれるらしい。

それが発生した爆心地、もとい震源地には巨大なクレーターが作られ、範囲内の建物などはもれなく全てが消失。周辺も爆発によって甚大な被害をもたらす、まさに災厄の被害である。

 

これだけでもどこのSF小説かと、思わず笑ってしまいそうな内容である。

が、これがあらゆる情報で記載されている以上、これは真実なのであろう。事実街を歩いている間にも、家電量販店のテレビなどにこの空間震の警告のような映像が流れていた。

そして次に挙げられることが、この世界が戦兎の創造した新世界とは決定的に違うと、断言できる根拠だ。

 

「初めて空間震が観測されたのが…………今から、()()()前って………」

 

十年どころではない。

もしそんなものが戦兎たちの世界で起きていたとしたら、パンドラボックスやエボルトどころではない。下手すればスカイウォール出現よりも甚大な被害が出ていた可能性すらある。が、当然戦兎はそんな言葉や震災を一度として元の世界で聞いたことはないし、ましてや三十年前など最早なんの冗談かと思ってしまうほどだ。三十年前ときたらスカイウォールどころか、火星の有人着陸の『か』の字も無いような時期だ。

 

もう認めるしかない。俺こと桐生戦兎は、創造した新世界ではなく、どこか別の世界へ飛ばされてしまったのだと。最上魁星(もがみかいせい)のエニグマ、エグゼイドの件もあったので、ありえない話では無いが……………。

 

「万丈の行方も分からねえし………ああもうっ!やめだやめ!どうせ万丈の事だし、そう簡単にはくたばってない筈だ!」

 

思考を切り替え、ひとまず状況を分析することにする。まだ多少混乱しているが、さっきよりは思考がまとまった。

 

取り敢えず目下の問題は金銭だろう。持っている金は元の世界での通貨だったドルクだけだし、仕事をしようにもこの若返った身なりではどうにもならない。

となると、どこか手近な場所でアルバイトでもして稼ぐしかないか。身分証明書の問題は、最悪前と同じく記憶喪失で通せばなんとかなるだろうし。

 

寝床は………しばらく野宿だろうな、と悲しい気分になりながら、ベンチを立って移動しようとした時。

 

 

 

_______ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ________!

 

 

 

どこからともなく、不快なサイレンが響き渡った。地震や津波の警報とも違う、聞きなれない音。

 

「な、何だ?」

 

思わず周囲を呆然と見渡してしまう。サイレンに驚いたのか、鳥が何羽か電線か飛び立っていくのが見えた。

 

『_______これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します______』

 

 

_____これが、空間震!?

 

辺りを見ると、近くにいた人達が我先にと一目散に走るのが見えた。さらに言えば、付近の建物が地面に収納され、巨大な鉄板によって封鎖された。

 

「最っっっ悪だ……………っ!まだ状況も掴めてねえってのに……!」

 

思わず頭を抱えるが、ぼやいていてもしょうがない。近くの人に付いて行って、シェルターへ避難すべきだろう。と、結論を付け、戦兎は走る人達を追ってシェルターへと走った。

 

と、そんな戦兎の前を、

 

 

「…………んで、馬鹿正直に残ってやがんだよ…………っ!」

 

 

と、叫びながら、明らかにシェルターのある方向とは真逆に走る少年が横切った。どこか、鬼気迫るような表情で。

 

「お、おいっ!」

 

「っ!?」

 

思わず呼び止める。空間震がどんなものかはネットの情報でしか分からなかったが、それでも発生したらどんな被害が出るかは容易に想像が付く。嘘だとは信じたかったが、情報にはユーラシア大陸のど真ん中を一夜にして削り取ったとすら書かれている。そんな中シェルターから遠ざかるのは自殺行為だ。

 

「何してんだ!そっちは危険だぞ!」

 

声を張り上げながら、少年の方へと向かう。

すると少年は、今にも枯れそうな声で、

 

「妹がっ、まだあっちにいるんだっ………あいつ、避難しろって言ったのに、馬鹿正直に……………っ!」

 

はぁはぁ、と息も絶え絶えに少年は言う。どうやら妹を探しているようだ。本来ならここから今すぐ逃げるべきなんだろうが…………こうして聞いてしまった以上、見過ごすわけにもいかない。

 

「っ…………あぁ〜!最っっっ悪だっ!」

 

「?」

 

「俺も探すの手伝ってやるから、早く行くぞ!」

 

「えっ?」

 

少年が面食らったような顔になる。

 

「その様子を見るに、妹さんのことが大事なんだろ?だったら早く見つけなきゃ駄目だろ!」

 

「そ、それはそうだけど…………いいのか?」

 

「ああ!ほら、早く行くぞ!」

 

半ば強引に会話を切り上げ、さっきまでとは逆の進路を走る。

 

「あ、あのっ!ありがとうっ!俺、五河士道(いつかしどう)って言うんだ。君の名前はっ?」

 

桐生戦兎(きりゅうせんと)だっ!ほら、行くぞっ!」

 

とまあ、行き当たりばったりではあったものの。

 

 

ここに、桐生戦兎(きりゅうせんと)と、五河士道(いつかしどう)の、本来交わるはずの無かった二人が、出会った瞬間であった。

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ…………桐生、見つかったか!?」

 

「いや、駄目だ。赤髪にツインテールの女子中学生なんて、この辺にはいなかったぞ」

 

探し回ること数分。避難警報が出てから既にかなりの時間が経過しているが、未だに五河士道の妹______彼が言うには、五河琴里(いつかことり)という名前の中学生など、どこにも見当たらない。

赤い髪という特徴ならばすぐに見つかりそうなものだし、向こうだって迷子だったら動いているはずだ。

 

「さっきのサイレンからだいぶ時間も経ってる。もうシェルターに避難したんじゃないか?」

 

「いや、でも携帯のGPSにはまだ…………」

 

と、続きを言おうとした途中、五河がふと言葉を止めた。

 

「?どうした、五河」

 

「いや…………なんだ、あれ」

「《あれ》?」

 

五河が指差した方向を見る。すると、上空に三つか四つの、何か人影のようなものが見えた。

 

あれはなんだ?と、疑問が浮かぶよりも先に、変化が起きた。

 

「うわ…………っ!?」

 

「なんだ………ッ!?」

 

二人揃って、思わず目を覆った。

 

進行方向の街並みが、突如として眩い光に包まれたのだ。ついで、耳をつんざくような爆音と、凄まじい衝撃波が二人を襲う。

 

「んな………っ!?」

 

流石にエボルトの攻撃まではいかないものの、生身の戦兎にとっては台風のような風圧だ。ハザードレベルの補正があるとはいえ、バランスを崩し後方に転げてしまう。

 

「ってえ…………おい五河、大丈夫か!?」

 

「あ、ああ。何とか…………ッ」

 

まだ少しチカチカする目を擦りながら、服を叩きつつ身を起こす。

 

瞬間。

 

「「………………は____________?」」

 

二人の声が重なった。

 

今まで目の前にあった街並みが、目を瞑ったこの一瞬の間に______

 

跡形もなく、()()()()()いたのだから。

 

「な、なんだよ、なんだってんだよ、これは………ッ」

 

「これが…………空間震、なの、か?」

 

呆然と呟いた疑問の声に、応えるのはいない。

 

比喩でも冗談でもなく。

 

そこは隕石が落ちたような、というよりは地面が丸ごと、まるでスプーンか何かで抉り取られたように、すり鉢状に浅く削り取られていた。

 

戦兎にとってそれは、エボルトのブラックホールを想起させるような惨状であった。かつての世界で見た光景と重なり、フラッシュバックする。

 

そしてクレーターの中心部に、何やら金属の塊のような物が、聳えていた。

 

「なんだ………?」

 

「椅子………いや、玉座、みたいだな。でもなんで………」

 

遠目からではよく見えないが、中世の王宮とかにありそうな玉座らしきフォルムの物が、爆心地に聳えていたのだ。それだけでも充分に異常なのだが、何より目を引いたのが、そこに佇む______

 

 

一人の、ドレスを纏った少女だった。

 

 

 

 




デート・ア・ビルド

「お前も、私を殺しに来たのか…………」

突如現れた謎の少女!

「なんで、スマッシュが………!?」

スマッシュが現れた!?

「変身!」

戦兎、変身!

第2話 四月十日のムーンサルト





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第2話 四月十日のムーンサルト

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!地球侵略を企むエボルトとの死闘を制し、新世界を創造!したかと思いきや、目覚めた場所は、なんと全く別の異世界だった!」

万丈「どうすんだよせっかくエボルト倒したのに!お先真っ暗じゃねえか!」

桐生「まあまあ落ち着きなさいって、ほらバナナあげるから」

万丈「ウッホホーイバナナだぁ!って、俺は猿じゃねえよ!」

桐生「そんなバナナに簡単に吊られるまだ本編で出番がない馬鹿な万丈は置いておいて、突如現れた謎の美少女!果たしてこれからどうなるのか!?第2話をどうぞ!」

万丈「俺まだ出番無えのかよ!」

桐生「ツッコミが遅えんだよ」



「あの子______なんであんなところに」

 

「あんな爆発があった後で、人が無事でいられるわけがない。なのに何で…………」

 

玉座の肘掛に足を掛けるようにして立っている奇妙な少女は、格好もこれまた奇妙だった。

長い黒髪に不思議な輝きを放つドレス。どう考えても現代社会ではあまりお目にかかれない格好だ。コスプレと言った方がまだ説得力のある衣装である。

 

「ん………?」

 

すると、少女が気怠そうに首を回し、五河と戦兎の方を見た。二人に気づいた、と見るべきだろうか。

二人がその判断を下すより前に、少女は玉座の背もたれに生えた柄のようなものを握ったかと思うと、それをゆっくりと引き抜いた。

 

「……………剣だと?」

 

それは幅広の刃を持った、巨大な剣だった。

なんとも形容しがたい、しかしとても綺麗な透き通るような輝きの、不思議な刃だ。

少女は剣を振りかぶると、振り下ろすようにして______

 

 

「ッ!?危ないッ!!」

 

 

戦兎は五河を巻き込みながら、力を振り絞って横へ飛んだ。

 

すると次の瞬間には、五河と戦兎のいた場所には、真っ直ぐと刃の軌跡が刻まれ、その後方にあった家屋や店舗、街路樹などが一瞬にして真っ二つに切れた。

 

「………………マジかよ」

 

戦兎のいた世界であっても、こんな光景を見ることは無かった。そして数瞬遅れて、建物が崩れ去る音が聞こえる。

 

「じょ、冗談だろ……………っ!」

 

五河は腰が抜けて引きずるようになっていたが、無理もない。仮面ライダーとしていくつもの戦いを経験した戦兎ですら、目の前の光景に圧巻されているのだから。

 

戸惑いながらも、いざという時のために懐の()()()()()に手を伸ばそうとする。

 

だが。

 

 

「________お前らも………か」

 

「?………うおっ!?」

 

ひどく疲れ、摩耗したような声が響いたかと思うと、遠くに居たはずの少女は、いつの間にか五河と戦兎の前にいたのである。

 

「あ…………っ」

 

はっとしたように、一瞬遅れて五河が声を漏らす。

 

外見は、戦兎の目にも、とても美しく見えた。透き通る水晶のような双眸、絹のように滑らかな長い黒髪。

こういう表現は変かもしれないが、『暴力的』、という表現がしっくりとくる。それほどまでに、この女の子は美しかったのだ。

こんな絶世の美少女を、他に見たことがあるだろうか。

 

「君の、名前は…………」

 

五河の問いかけに対して、少女は物憂げそうに、心地の良い声音で話した。

 

「………名、か。………そんなものは、無い」

 

どこか悲しげに、目の前の少女は言った。戦兎の目にはその顔が、今にも泣き出しそうなものに見えた。

そしてその顔のまま、カチャリという音を立てて剣を握り直した。

 

「ちょ………、待った待った!」

 

五河が必死に声を上げていた時。

戦兎は、確かにそちらも気になっていたが、それよりも。

 

「?………なんだ、ありゃ」

 

上空から飛んでくる、複数の影が気になっていた。

鳥にしては大きすぎるし、戦闘機にしては小さい。まるで人のような大きさの…………

 

「って、人!?」

 

その姿を確認した瞬間、戦兎は好奇心と驚きに満ちた声を上げた。

奇妙な装備を付けた人間が空を飛び、あまつさえ手に持った武器で以って、こちらに攻撃してきたのだから。

 

「うおすげぇ!あれどうやってんだ!?そもそも推進器を付けずにどうやって人をあそこまで…………」

 

「何言ってんだ!伏せろっ!!」

 

五河に押さえられる形で、戦兎は身を屈めた。

が、いくら待っても、ミサイルや弾丸が飛んでくる気配がない。

 

「え………?」

 

五河が呆然と声を漏らす。

そこには、空から放たれたミサイルが、眼前の少女の上空数メートルあたりで、まるで何かに掴まれたように、ピタリと静止していたのだから。

 

「………こんなものは無駄だと、何故学習しない」

 

気怠げに声を漏らしつつ、少女は剣を握っていない左手を上へやり、グッと握る。

する、数発のミサイルが圧潰れた空き缶のようにひしゃげ、その場で爆発を起こした。その上規模も小さい。威力が内側に引っ張られているような感じだ。上空の人たちが狼狽しているのも分かる。

 

「………物体のベクトルを動かしてるのか………でも、なんであんな女の子に、そんな………」

 

目の前で起こった事象を、戦兎は冷静に分析する。だが依然、頭の中は混乱したままだった。

 

「_____ふん……………消えろ………消えろ………一切合切、消えてしまえ…………っ!!」

 

少女は今にも泣き出しそうな顔になりながら、剣を無造作に振った。

 

「ぐっ………ッ!」

 

瞬間、凄まじいまでの衝撃波が戦兎と五河の体を襲う。上空を飛行していた人たちも慌ててそれを回避した。

が、次の瞬間。

 

「ッ!」

 

先ほどとは全く別の方向から、光弾が飛んでくるのが見えた。

少女はそれを止めたものの、先ほどよりも苦しげに顔を歪ませた。

 

「な、なんなんだよ次から次へと………ッ!」

 

五河がうんざりしたように声をあげる。

そしてその光弾に、戦兎は見覚えがあった。

 

「………まさか」

 

 

______そんなはずは無い。だってあれは、この世界に存在しているはずがない。している道理がない。

 

が、そんな戦兎の考えを無慈悲に打ち砕くように、視界にその()()は姿を現した。

それは、隣の少女よりも異常であり、そして、戦兎にとっては見慣れた、見慣れてしまったものであった。

 

 

「…………スマッシュだと…………っ!?」

 

 

 

 

スマッシュ。

 

かつて戦兎のいた世界で、かつて戦兎の元であった存在_____【葛城巧】によって創り出された、人工の怪物。

スカイウォールから採取された特殊なガス、【ネビュラガス】を人体に注入することで完成する存在。

かつて戦兎は、その脅威から東都を、人々を守るため、戦っていた。…………その筈だった。

例えそれが黒幕の掌の上であったとしても、それでも信じた志を疑わず、戦って、何度も救ってきた。

 

そしてその存在は、戦兎のいる世界でしか存在し得ない物である。

 

「な、なんだよ、あの、化け物………ッ!!?」

 

五河が恐怖から後退りしようとするが、うまく動けていない。恐らく完全に力が抜けてしまっているのだろう。

 

戦兎も一瞬面食らったものの、半ば反射的に、懐にあるドライバーを取り出そうとした、その時。

 

上空から、空を飛んでいた人たちの中から、一人の人間が降下してくるのが見えた。背には大きくスラスターが付いており、手にはゴルフバッグのような武器を構えている。

 

「なんで、あんな女の子が………」

 

目の前に降り立った、機械の鎧と武器を身につけた少女に、戦兎は唖然とする。

その武装の未知のテクノロジーにも興味を惹かれるが、それより何より_____あんな女の子が、武器を持って戦っているという事実が、戦兎の心に深く突き刺さった。

 

鳶一(とびいち)______折紙(おりがみ)…………?」

 

すると、後ろの五河がそんな名前を漏らした。次いで、目の前に飛んできた銀髪の少女が反応する。

 

「五河士道…………?」

 

返答のように、五河の方を一瞥しながら呼ぶ。

名前を呼んでいたことからも分かったが、その呼び方はどこか親しげな関係性を思わせるものだった。

 

「知り合いか?」

 

「あ、ああ。今日見知ったばっかだけど、クラスメートだ。一応。ていうか、なんだよその格好_____」

 

と、五河が視線を鳶一折紙、と呼んだ少女に向けた途端、その少女はすぐさまスマッシュの方へと姿勢を向け、手に持った武器を構えた。

 

「まさか、戦う気か?おい、やめとけって」

 

「______ッ!!」

 

戦兎の忠告に反応することなく、鳶一折紙が前方へと飛び出した。いつの間にか手に持った武器には、光で構成された刃が出現していた。

 

「うおすげぇっ!エネルギーを空中で固定してるのか?というか、地表に限りなく近い状態で浮遊して、なおかつあのスピードで飛ぶなんて、どう考えても物理法則的に………」

 

「な、なんでこんな状況で平然としてんだよお前!」

 

と、五河が言い切った直後、鳶一とスマッシュが接触した。光剣を振りかざし、スマッシュへ向かって斬りかかろうとする。

だが、鳶一折紙が振るった剣は、スマッシュの両の剛腕によって止められてしまった。

 

「なら……っ!」

 

すぐさまミサイルを展開し、撃とうとする。が、それよりも先に、スマッシュが鳶一の手をつかみ、前方へ投げつけた。衝撃とともに、鳶一の身体がビルへ叩きつけられ、地面へと落下する。

 

「と、鳶一!」

 

飛ばされた折紙の方へと駆け寄ろうとする士道だが、うまく体に力が入らなかった。

 

「っ………まだ…………」

 

鳶一は起き上がろうとするが、相当に衝撃が強かったらしい。うまく力が入っていなかったようだった。

すると、その時。

 

 

「_____やれやれ。ま、ここで見過ごすわけにもいかねーしな」

 

 

戦兎がスマッシュに立ち向かうように、トレンチコートを揺らして五河と鳶一の前に立った。

 

「お、おい桐生!逃げろよ!何してんだ!」

 

「大丈夫。こいつは______俺に任せろ」

 

そういうと同時に、戦兎は懐からとある機械を取り出した。

手回しのレバーに、歯車のようなパーツと何かをはめ込む空間が設けられた機械。

 

その機械______【ビルドドライバー】を腹部にあてがうと、電子音と同時に、腰に黄色いベルト、【アジャストバインド】が巻き付く。

 

そして、服のポケットから二本のボトル______赤いウサギの柄の【ラビットフルボトル】と、青い戦車の柄の【タンクフルボトル】を取り出した。

 

 

「何、を………」

 

鳶一が息を絶え絶えにしながら呟く。それが聞こえたか聞こえなかったか、戦兎は言い放った。

 

 

 

 

「さあ________実験を始めようか」

 

 

カチャカチャカチャ_______

 

左右に持ったボトルを振り、内部成分である、【トランスジェルソリッド】を刺激、活性化させる。そして周囲には、白い数式が具現化し、辺りを漂い始めた。

 

「あれ、は……………」

 

それは五河のものか、それとも鳶一のものだったか。誰かが呟く中、戦兎は十分に成分を活性化させたボトルの上部パーツ、【シールディングキャップ】を開け、ビルドドライバーの接続部に差し込んだ。

 

 

ラビット!タンク!

 

BEST MATCH!

 

 

「らびっとに……たんく?それに、ベストマッチって………て、うわっ!?」

 

 

電子音声が流れ、待機音が流れる。ドライバー右側に備え付けられた、【ボルテックレバー】を回す。すると、エネルギー生成機関たる【ボルテックチャージャー】が、赤と青の光と共に回転した。

回転に合わせるように、フルボトル内のトランスジェルソリッドが、外部に展開した【スナップライドビルダー】を通して前後へ移動し、ラビット()の成分の赤のアーマー、タンク(戦車)の成分の青のアーマーが形成される。

 

 

Are You Ready?

 

 

覚悟は良いか?と、ベルトが語りかける。それは、戦兎にとって戦う覚悟を固める問い掛けであった。

 

そしてその答えは、いつも同じだ。

 

 

 

_______できている。

 

 

 

ファイティングポーズを決め、一言、叫ぶ。

 

 

 

変身!!

 

 

 

同時に、アーマーを形成したスナップライドビルダーが戦兎を挟む。白い蒸気とともに、赤と青のアーマーに包まれた、戦士が姿を現した。

 

 

 

鋼のムーンサルトッ!ラビットタンク!イェーイッ!!

 

 

 

ベルトに左手を添え、右手でアンテナをなぞり開く。

ポーズを決め、そして、決め台詞を叫んだ。

 

 

「勝利の法則は_____決まったッ!」

 

 

仮面ライダービルド____かつて東都の、世界の平和の為戦った戦士が、世界の枠を超え、降り立った瞬間であった。

 

 

 

 




デート・ア・ビルド

「仮面、ライダー………」

士道とビルドの出会い!

「なんで浄化済みのボトルが………」

浄化済みのフルボトル!

「ようこそ、ラタトスクへ」

謎の秘密結社、ラタトスク!

第3話 邂逅のラタトスク

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第3話 ラタトスクの邂逅

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!地球侵略を企むエボルトとの死闘を制し、新世界を想像するも!目覚めたのは見知らぬ異世界だった!そこに現れたのは、巨大な剣を持った謎の黒髪の少女!」

万丈「なんだあいつ、変な格好してんな」

桐生「ちょっと、まだ読み終わってないんだから茶々入れないの。コホン。そして、そこに現れた空を飛ぶ謎の奴らと、謎のスマッシュ!そしてそこに現れた、我らが正義のヒーロー!仮面ライダー!」

万丈「あの空飛ぶ奴ら何なんだよ!あとなんでスマッシュがいるんだ!?つーかそれ自分で言ってて恥ずかしくないのかよ」

桐生「うるさいよ。俺だって分からないことだらけなんだから。天っ才にだって分からないことはあるの。と言うことで、どうなる第3話!」

万丈「俺の出番まだかな」






俺は、目の前の光景に、圧倒されてばかりだった。

 

いきなり空間震が起きたかと思いきや、妹は避難せずにどこにもいない、震源には剣を持った女の子、そして空から来た集団にいた、クラスメート。

すでに俺の日常を、完膚なきまでに壊すほどの衝撃が、立て続けに目の前で起こった。

 

そして、今も俺の眼の前で、信じられない光景が広がっていた。

 

「な、んだよ、それ…………桐生……………」

 

先程妹を、琴里を探す道中で会った、おそらくは同年代の少年、『桐生戦兎』が、いきなり赤と青がごちゃまぜになった、変な物に()()してしまったのだから。

 

桐生はこちらを振り向くと、一言、言った。

 

 

仮面ライダービルド。愛と平和の為に戦う、正義のヒーローだ。以後、よろしく」

 

「仮面、ライダー…………」

 

それが俺の、ヒーローとの出会い。

 

そして俺の、本当の始まり。

 

 

 

 

変身した戦兎は、五河からの質問に短く答えると、スマッシュの方へと向き合った。

 

「ウォォォォ!」

 

敵のスマッシュが、巨大な腕を振りながら迫ってくる。振り下ろされた腕を、ビルドのタンクの装甲、【パンツァーチェストアーマー】が弾く。

お互いに距離を取ると、今度はビルドが仕掛ける番だ。

ラビットのアーマーの左足に搭載されたバネ、【ホップスプリンガー】が伸縮し、驚異的なジャンプ力で以ってスマッシュへと肉迫、タンクアーマーの右足、【タンクローラーシューズ】でキックをお見舞いする。キャタピラ状のパーツによって、スマッシュはより遠くまで飛ばされた。

 

「っつぅ……硬てー装甲だな。よし!」

 

装備を展開するためのスナップライドビルダーを展開し、主武器である【ドリルクラッシャー】を取り出す。

立ち上がって反撃をしてきたスマッシュに対して、ブレードモードのままドリルクラッシャーを斬り付ける。ドリルの回転とともに、スマッシュの装甲が削れる。

 

「あらよっと!これでも食らえ!」

 

スマッシュの攻撃を躱し、ラビットのアーマーのホップスプリンガーで蹴りつける。

ドリルクラッシャーを素早くガンモードへと切り替え、すかさず射撃を食らわせる。連続攻撃が効いたのか、スマッシュは地面に吹き飛ばされたまま動かなくなっていた。

 

「さてと。これでフィニッシュだ」

 

ビルドドライバーのボルテックレバーを回転させ、ボルテックチャージャーを駆動、エネルギーを生み出す。白いグラフが現れ、X軸がスマッシュを拘束した。

 

 

Ready Go!

 

 

「ちょーっと、待っててね」

 

そしてその隙に、ビルドがY軸の方向へと走り抜ける。その先でビルドが思いっきり地面を蹴ると、地面が抜けその穴にビルドが吸い込まれた。

 

だが直後にそのまま地面が盛り上がり、白いグラフのY軸に沿うようにビルドが飛び、ライダーキックを放つ必殺技_______

 

 

VOLTEX FINISH!イェーイッ!!

 

 

「ハァァァァァアアッ!!」

 

タンクローラーシューズの無限軌道により威力を強化され繰り出されたキックが、スマッシュを蹴りつけ、削り取る。

そしてそのまま膨れ上がったエネルギーは、スマッシュを勢い良く貫いた。

 

「グォォアァァァーッ!!」

 

断末魔をあげながら、スマッシュは爆発した。

 

 

 

 

「…………す、すっげぇ………本当に、勝っちまった…………」

 

半ば呆然と呟きながら、五河は目の前の光景に呆然としていた。それは上空の人間たちや、鳶一も例外ではなく、皆が倒れたスマッシュと、ビルドに注目していた。

しかし五河が周囲を見渡すと、先ほどまでいた黒髪の女の子は、いつのまにか姿を消していた。どうやら、さっきの化け物が現れたゴタゴタのうちに、姿を消していたらしい。

 

「さて、と」

 

ビルドはそれを意に介することなく、ビルドフォンから白い無地のボトル、【エンプティボトル】を取り出す。今は動けていないスマッシュだが、このままではまた動き出し、暴走する可能性がある。

そのために、スマッシュの成分をこのボトルで採取し、成分を浄化することで、スマッシュをようやく()()()、という事になるのだ。

 

「ほいっと」

 

エンプティボトルのキャップを開け、スマッシュに向ける。すると。スマッシュから粒子のようなものが溢れ、ボトルの方へと集約されていった。

全ての粒子、もとい成分がボトルに採取されると同時に、スマッシュは一人の男へと戻った。

 

「う、うぅ…………」

 

呻き声をあげ、体が少し動いているところを見ると、どうやら命に別状はないようだ。

 

「これで良しっと。にしても、なんでスマッシュがいるんだ…………ん、あれ?」

 

手元のボトルに目を落とし、ビルドは首を傾げた。

通常スマッシュから成分を採取したばかりのボトルは、【スマッシュボトル】と呼ばれるボトルに変化し、中心部が膨らみ、蜘蛛の巣状の模様が入るはずだ。そしてそのボトルを、かつての世界の仲間である石動美空(いするぎみそら)の力と、戦兎の造った浄化装置で浄化することで、スマッシュボトルは【フルボトル】へと変化する。

ところが今戦兎の手元にあったのは、蜘蛛の巣が描かれたスマッシュボトルではなく、既に浄化された状態のボトル____即ちフルボトルだったのだ。

ボトルの種類は、茶色い色とゴリラのような模様から、どれなのかは分かった。かつて使用していた、【ゴリラフルボトル】だろう。

 

「なんでボトルが浄化済みの状態になってんだ?そもそも、どうしてこの世界にもスマッシュが現れたんだ………?」

 

「動かないで」

 

一人思案に耽るビルドの背中に、ガチャリという音と共に銃口が突き付けられた。そして気がつくと、上空を飛んでいた人達が、いつのまにかビルドを包囲している。

 

「え、ええっ?」

 

「もう一度言う。動かないで」

 

「お、おい!お前ら、何してんだよ!」

 

「五河士道、安心して。危害を加えるつもりはない」

 

五河が口をつぐむ。ビルドは観念したように手を上げ、その場に立ち尽くした。

 

「まずを礼を言う。助けてくれたことには、感謝している。ありがとう」

 

「え?あ、いやいや、正義のヒーローとして、このくらいは当然ですから!」

 

上げた手を戻すと、ビルドは調子に乗った様子で言い放った。

 

「………ふざけてるの?」

 

その戦兎の態度が、彼女らを煙に巻こうとしているように見えたのか、鳶一が目つきを鋭くする。

するとビルドのふざけた様子の声が、少し真面目なものに変わった。

 

「いいや、こっちは至って真面目だよ」

 

「____そう。とにかく、助けてもらった事には礼を言う。でも、一先ずはこちらの指示に従ってもらう。さもなくば、貴方を拘束しなければならなくなる」

 

礼を言われたかと思いきや、さらに銃口を深く突き立てられる。すると、前にいたリーダー格の女性が、目の前に歩いてきた。

 

「え、ええと、貴女は?」

 

「私は陸上自衛隊、AST部隊長、日下部燎子(くさかべりょうこ)です。早速だけど、いくつか質問させてください。まず、あの化け物…………【アンノウン】について」

 

「あんのうん…………?あぁ」

 

それがスマッシュを指し示していることは、すぐに分かった。確かにこの世界の人たちにとって、あれは未知の生物、未確認生命体そのものだ。それをUnknown(アンノウン)と呼称するのも、不思議ではない。

にしても、こっちの世界では正体不明なスマッシュを、所属不明機の呼称から取るとは、中々上手いネーミングセンスの持ち主がいるようだ。

 

「見たところ、貴方はあのアンノウンに対して、慣れた様子だった。それにその妙な格好や、アンノウンから流れた粒子状の物質と、それを吸収したその容器。関連性があると見て間違い無いわね?」

 

「………ああー………」

 

言うべきか言わないべきか、少し悩んだが、この状況では素直に話さないと解放されないだろう。ビルドの能力を使えば、この状況を打開することも可能だが、得策とは言えない。何より先の説明を聞く限り、ここで話さないとこの先面倒なことになるのは目に見えた。

 

「あれは______」

 

と、口を開こうとした瞬間。

 

ビルドの身体が、謎の浮遊感に襲われた。

 

「へ?」

 

そして次の瞬間、ビルドの、桐生戦兎の姿は、そして五河士道の姿は、綺麗さっぱり消失していた。

 

 

 

 

「…………はっ!!」

 

と、戦兎は寝癖を立てながら、目を覚まし、

 

「お、気がついたか!」

 

という声を出した隣にいた少年、五河士道の存在を確認し、

 

「……ん、君も目が覚めたようだね」

 

五河士道とは違う声を聞き、軍服姿で眠そうな顔をしている謎の女性の姿を確認した。

 

「……気分はどうだい?」

 

「え?あ、はい、大丈夫です。えっと………」

 

「……ここで解析官をしている、村雨令音(むらさめれいね)だ」

 

条件反射的に敬語で返事をしたが、戦兎は未だに戸惑っていた。目の前の人が、日常生活ではあまり聞き慣れない役職を言ったことも含めて。

どこかの医療機関にでも搬送されたのか、とも思ったが、周囲を見渡して考えを改める。何故ならこの部屋には医療器具やベッドなどがあるものの、天井には鉄骨やパイプなど、おおよそ病院の病室ではお目にかかれないような物が剥き出しになって配管されていたからだ。

 

「五河、ここどこよ」

 

「いや、俺もさっき目覚めたばっかで、何が何だか…………」

 

五河もこの状況をイマイチ把握しきれていないようだった。すると、目の前の村雨令音と名乗った人物が、思い出したように言った。

 

「……ああ、ここは《フラクシナス》の医務室だ。転送した時に気絶していたので勝手に運ばせてもらった」

 

「《フラクシナス》?それに、気絶って………あっ」

 

そう言えば、あの妙な空を飛ぶ人たちに問答された時、答える寸前で変な浮遊感に襲われて、目が覚めたらここにいたんだった。

 

「まさか、あれはあんたの仕業か?」

 

ここで目覚めた件といい、さっきの《転送》というワードといい、恐らくは目の前の人の仕業だろう。でなければ説明がつかない。いつの間にか変身も解除されているし。

 

「……厳密には、私の所属している組織の仕業さ。だが、どうも私は説明下手でね。詳しい話は、()()に聞くといい」

 

「彼女?」

 

「……付いてきたまえ」

 

フラフラしながら、カーテンを開いてドアまで歩み寄る。思わず心配になってしまいそうなほどふらふらな足取りだった。困惑しながらも、ひとまず体を起こして五河とついて行く。道中で三十年寝れてなく、夥しい量の睡眠薬を躊躇いなく飲んでいた時は本気でこの人死ぬんじゃないかと思った。睡眠薬の過剰摂取は後遺症、下手すれば死ぬので、それとなく控えるよう忠告した。

 

「……ここだ。さ、入りたまえ」

 

そんなこんながありながらも着いたのは、通路の突き当たりにある小さな電子パネルの付いた扉の前だった。一瞬後に、電子パネルが軽快な音を鳴らして扉が滑らかにスライドする。

 

村雨解析官に促され中に入ると、そこは船の艦橋のような場所だった。半楕円形の空間が広がり、中心には艦長席と思しき椅子がある。そこから降りた階段の下に、コンソールを操作する数名のクルーと思しき人達が見受けられた。

 

「……連れてきたよ」

 

「ご苦労様です」

 

艦長席の横に立っていた長身の男性が軽く礼をする。ウェーブのかかった金髪に、日本人離れした鼻梁。映画か耽美小説の中にでも出てきそうな風貌の青年だった。

 

「初めまして。私はここの副司令、神無月恭平(かんなづききょうへい)と申します。以後、お見知り置きを」

 

「は、はあ……」

 

「ど、どうも」

 

二人揃って小さく礼をする。すると、目の前の神無月と言う人が艦長席に体を向け、話しかけた。

 

「司令、村雨解析官が戻りました」

 

神無月が声をかけると、こちらに背を向けていた艦長席が、ゆっくりと回転した。

 

 

「______歓迎するわ。ようこそ、《ラタトスク》へ」

 

 

『司令』なんて仰々しい呼び名からは程遠い幼い声を響かせながら、紅色の軍服を肩掛けた少女の姿が露わになった。

それは、どこからどう見ても…………

 

「(………なんで中学生がこんな所に?)」

 

と、思わずにいられないほど、どこからどう見ても普通の女子中学生だったのだ。

だが、その彼女の容姿に、戦兎はどこか引っかかるものを覚えた。

 

彼女は赤い髪で、黒いリボンで髪を留め、ツインテールにしていたのだ。

「赤い髪に、ツインテール………まさか」

 

一つの可能性に至り、思わず隣の五河に振り向く。すると、案の定彼は心底驚いた様子で、

 

「琴里………!?」

 

そう呟いた。

 

赤髪にツインテール______それは五河が先刻まで探していた妹___【五河琴里】と全く同じ特徴だったからだ。

 

 

 




デート・ア・ビルド

「あれが精霊、プリンセスよ」

黒髪の少女の正体!

「アンノウンなんて上手いこと言ったものだわ」

なぜこの世界にスマッシュが!

「あんな顔は、見たくない」

士道の決意!

「助けたいと思う気持ちに、理由なんかあるかよ」

第4話 精霊プリンセス

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第4話 精霊プリンセス

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!エボルトとの決戦を制した後、何故か創造した新世界ではなく、別の異世界に飛ばされていた!」

五河「えーと、これ読めばいいのか。その異世界で目覚めた桐生戦兎は、目覚めた直後空間震(くうかんしん)と呼ばれる現象に巻き込まれ、そこで一般人五河士道(いっぱんじんいつかしどう)と、謎の空を飛ぶ集団、そして剣を持った謎の少女、何故か現れたスマッシュに出会う…………なんか悪意を感じる肩書きだな。ってかこれここでネタバレしていいのか?」

桐生「いいんだよどうせこれ読んでる人は知ってるから。そして、スマッシュを前にした俺は!ついに!仮面ライダービルドへと変身!見事スマッシュを撃破(げきは)し、浄化に成功!と思ったら、出てきたボトルは浄化済みのゴリラボトルだった!」

五河「そして困惑顔になった後、何故か消えてしまったビルドと五河士道は、フラクシナスという船に飛ばされてしまった………どうでもいいけど、何で『空間震』とか『撃破』とかにルビ振りされてるんだ?」

桐生「それはな、その漢字を碌に読めない馬鹿な大人のために振ってあるんだ」

五河「小学生か!その人どんな漢字だったら読めるんだ?」

桐生「『最強』『筋肉』『無敵』だったら読めると思う」

五河「小学生か!ま、まあ取り敢えず、第4話をどうぞ!」





「………彼は、一体」

 

鳶一折紙は、小さな呟きを発し、頭の中でその姿を思い浮かべた。それが何と言うわけではない。ただ、ほんの少し気になっただけである。

赤色と青色の混ざった、まるで子供向け番組に出てきそうな、作り物染みたフォルム。そのくせ、あの()()()()()に対して凄まじい戦闘力で以って対抗し、挙句には勝利してみせた。まるで____()()()()のような存在。

 

 

______アンノウン。

 

 

この世界を殺す災厄とも言える存在、精霊(せいれい)の観測から数十年後に現れた、未確認生命体の総称。人間よりも頭一つ程大きい体格に、機械と生物が合わさったような歪な姿。精霊よりもランクは低いものの、これも特殊災害指定生命体として認定され、発見次第排除することが伝達されている。今回の戦闘も、指示を受けたから遂行したまでのことだ。

 

しかし、折紙としてはその命令に、今一つやる気という物を出せなかった。

本来、折紙の所属する陸上自衛隊の対精霊特殊部隊、通称ASTは、その名の通り精霊のみを破壊、殲滅対象とした部隊である。だからこそ、折紙はASTに入ったのだ。

 

しかし、いざ蓋を開けてみれば精霊にはまるで歯が立たず、精霊よりも戦闘力の劣るはずのアンノウンにすら遅れを取ってしまっている。さらにいかなる能力によってか、アンノウンはよしんば倒せても、数時間後に戦闘復帰するのである。ようはただのイタチごっこだ。

 

これでは埒があかない。自分たちは精霊だけではなく、アンノウンにすら脅威と思われていないことを、自覚する他なかった。

 

「……………っ」

 

表情を少しも動かさず、しかし折紙は、奥歯を強く噛み締めた。

 

「折紙」

 

そこに、格納庫の奥から声が響いてきた。無言でそちらを向く。

来たのは、折紙の所属するASTの隊長、日下部燎子(くさかべりょうこ)一尉だ。

 

「ご苦労さん。よくアンノウンを撃退してくれたわね。離脱した二人にはきつく言っとくわ」

 

「撃退なんて、していない。やったのは、あの男」

 

折紙は淡々という。燎子は肩をすくめた。

 

「上へはそう伝えなきゃならないのよ。精霊はおろか、未確認生命体すらろくに倒せてないってなったら、予算が降りないからね。まったく、アンノウンなんて上手いこと言ったものだわ」

 

「………」

 

「そう怖い顔しないの。まあ、あの仮面男に関しちゃ、一応の報告はしなきゃいけないけどね。あんたは実際良くやってくれてるわよ。エースが席を空けてる状況で、ここまでやってくれて。あんたがいなきゃ死んでた人間なんて、両手の指を折っても足りないわよ」

 

言って、持っていた缶コーヒーを飲み、ふうと息をつく。

 

「ただねえ」

 

燎子は一転して視線を鋭くし、折紙の頭を掴んで自分に向けさせた。

 

「あんたは少し無茶しすぎ。____そんなに死に急いでどうするのよ」

 

「…………」

 

燎子は鋭い視線を辞めずに、言葉を続けた。

 

「あんた、自分がどんな怪物相手に戦ってるのか、本当にわかってるの?その上アンノウンまで現れて、その相手もしなくちゃいけないってのに。____アンノウンはともかく、()()は正真正銘の化け物。知能を持ったハリケーンみたいなものよ。____いいこと?被害はできるだけ抑えて、出来るだけ早く殲滅する。それが私達の仕事よ。無駄な危険は犯さないで」

 

「違う」

 

折紙は真っ直ぐに見つめ返すと、小さく唇を開いた。

 

「精霊を倒すことが、ASTの役目」

 

「…………」

 

燎子が眉根を寄せる。

彼女はASTの隊長だ。その部隊の名を、誰よりも理解している。折紙よりも、ずっと。

だからこそ、彼女は言ったのだ。自分たちは、被害を抑えるしか出来ないと。

 

「____私は、精霊を殺す。それを阻むのがアンノウンや、あの男なら………それとも戦う。戦って、倒す」

 

「…………」

 

燎子は息を吐くと、折紙の頭を離した。

 

「………個人の考えに口を出すつもりはないわ。好きにしなさい。____でも、戦場で命令に背くのなら、部隊から外すわよ。今はアンノウンの相手も、ASTの仕事の一つなんだから」

 

「了解」

 

折紙は小さく答えると、そのまま歩いて行った。

その胸に、強い強さへの渇望を抱いて。

 

 

 

 

「_______それで、説明してもらえるわよね?」

 

「……ああ」

 

戦兎は閉められた個室の中で、五河の妹だという少女_____五河琴里(いつかことり)と相対していた。

その場には神無月副司令や村雨解析官、五河士道もいるので、別段緊張というものはないのだが、目の前の少女から発せられる雰囲気には、内心辟易していた。

 

村雨解析官に連れられ、この()()と呼ばれた女子中学生の前まで連れられたのだが、その後にあの戦闘や仮面ライダーについての説明を求められ_____結果、今この状況になってしまったわけである。

 

 

「どこから話せばいい?」

 

()()よ。アンノウンの事、あの妙な姿の事、そして………これの事」

 

そう言うと、五河琴里は何かを取り出した。それは戦兎の所有していた、ラビットとタンクのフルボトルだった。

 

「あっ、俺のボトル!てか、ドライバーもねえじゃねえか!」

 

「私の質問に答えてくれたら返すわよ。それにしても………おもちゃにしか見えないわね、これ」

 

「おもちゃって何だ!俺の大事な道具だぞ!」

 

「だから、それも含めて説明しろって言ってるの」

 

「…………」

 

一度答えるといってしまったとは言え、やはりいざ説明するとなると躊躇われるものがある。

ライダーシステムや元の世界の事、スマッシュ…………口外されれば危険な事は山ほどある。しかし、今の状況が八方塞がりなのも事実であり、ここで説明をしなければ解放されないのも事実であった。

 

「____条件がある」

 

「何かしら?」

 

「俺の話が終わったら、あんたらの組織について話すこと。そして、今から俺が話す事を、第三者に口外しないこと。これが条件だ」

 

「………いいわ。確かに、無闇矢鱈と話せるような話でもないでしょうしね」

 

「助かる」

 

そう短く告げると、戦兎は少しずつ語り始めた。

 

ライダーシステムの事。

スカイウォールの惨劇によって、日本が三つに分断された事。

その原因となったパンドラボックスによって、別れた三国で戦争が起きた事。

仮面ライダービルドとして、スマッシュと戦った事。

 

流石に地球外生命体のエボルトの事や、ライダーシステムの細部まではぼかしたり話さなかったりしたが、それでも一通りの事情は話した。全てを正直に話したわけではないが、とりあえずの説明にはなったはずだ。

 

話し終えた後、さっきまでは高圧的だった五河琴里も、流石に頭を抱えていた。五河士道も困惑顔で、皆の反応も似たり寄ったりだった。

 

「…………要するに、あんたは別の世界の住人で、この世界にどういうわけか飛ばされた。あのアンノウン………スマッシュっていう未確認生命体は、元々はあんたの世界で造られた、言わば改造人間。あんたが変身してた仮面ライダーってのも、あんたの世界の技術で創られたものだと」

 

「まあ、かいつまんで言えばそういう事だ」

 

「…………にわかには信じ難いですが、全てが嘘というわけでもないでしょう。現に今、アンノウンが出現しているわけですからね」

 

神無月副司令が言うと、五河琴里も「………そうね」と、多少混乱しているようではあったが、冷静に返事をした。

 

「……………」

 

しかし五河は戦兎が語ったその話に、何も言葉を出せずにいた。

 

______あまりにも、違い過ぎる。

 

普通の高校生として暮らしてきた士道とは、文字通り、生きてきた世界も、背負った覚悟も。

士道は戦争なんて教科書やテレビの記録でしか知らないし、あんな化け物は今日この目で見るまでテレビの中の絵空事だと思っていた。

そんな世界にいながら、彼は自分をヒーローと言い、笑顔を絶やさず戦ってきたと言うのだ。

 

その事実が___士道にはどこか眩しく、しかしとても、悲しく思えてしまった。

 

「それにしても、こんなボトルが……」

 

するとそんな中、琴里が立ち上がり、半信半疑と言った様子で赤いラビットフルボトルを数回振った。そして、移動してみると。

 

「うっひゃあッ!?」

 

「え?」

 

奇妙な叫び声と共に、凄まじい速度で部屋を駆けた。壁にぶつかりそうになったが、何とか踏みとどまる。

 

「し、司令!大丈夫ですか?」

 

「え、ええ………本当なのね、このボトルの力」

 

「だからそう言ったでしょー!それに、ボトルの種類はまだまだこんなもんじゃない」

 

そう楽しげに戦兎が話したが、そこで士道は先の話で、一つ引っかかることがあった。

 

「……でも、なんか可笑しくないか?そのスマッシュ?ってのは、元々桐生のいた世界で、人間が改造された、怪物なんだろ?俺だって、あの時人間に戻ったのを見た。けど、それなら誰がどうやってそれを造ったって話になるだろ」

 

士道がそう言うと、戦兎も楽しげな表情から、一気に思案顔になった。

 

「分からないのは、それだ。元々スマッシュってのは、生身の人間に、俺たちの世界のスカイウォールから採取された、【ネビュラガス】を注入して製造するものだ。けど、この世界は知っての通りスカイウォールが無い。だから、スマッシュが造られる道理が無いんだよ」

 

最初は戦兎がこの世界に来た事で、何某かの影響が出たのか、とも思った。しかし、さっきの問答でそれは無いと考えた。

 

何故なら戦兎がこの世界へ来るよりも前から、この世界では各地でスマッシュの目撃情報が入っていたという話なのだから。

 

そのスマッシュに関してはあの空を飛んでいた謎の集団_____琴里によると、【AST】とかいう奴らによって一応は鎮圧されていたらしいが、スマッシュは成分を抜き出して浄化しないと倒せない。だから、今のところまともな対抗策が無いというのが現状らしい。

 

「………今はその話をしても仕方ないわ。情報が少なすぎるもの。とにかく、あなたの話に関しては、最低限の人員にしか知らせないわ。絶対に悪用はしないし、させないと約束する」

 

「そう言ってもらえるなら、助かるよ」

 

「……では琴里、どうだろう?」

 

すると、今まで黙っていた村雨解析官が、五河琴里に向けて話した。

 

「……このスマッシュに関する事件が終わるまで、我々の元で彼を保護するというのは。聞いた限りだと、君には行く当てが無いんだろう?」

 

「それは……まあ」

 

流石に実質無一文の状態で、行く当てもないのは無謀すぎる。最悪バイトや、自分で何かしらの発明品を作って売って、その金でホテルにでも泊まろうかとも考えていたが、それもあまり長期的とは言えない。しかもそれも売れたりするまでは野宿必至だ。流石に雨風も凌げないというのはキツイ。

 

「……勿論無理にとは言わない。幸い、生活に困らない程度には物資もあるし、寝泊まりのための空き部屋もある。君がスマッシュと戦うのなら、我々もできる限りのサポートをしよう」

 

「ええ、私も同じ意見よ。____ハッキリ言って桐生、あんたをこのまま解放するのは危険よ。あの戦闘の一部始終を見ていたけど、あなた変身の様子をASTに見られていたじゃない。もしかしたら、ASTに捕まる可能性だってあるわ」

 

「………」

 

確かにそうだ。

このライダーシステムは、本来この世界にあっちゃいけないものだ。それがそのASTという組織に知られれば、悪用しようとする考えの者だっているだろう。だからと言ってこの組織をまだ完全に信用したわけではないが、五河の妹が司令と言うのなら、少なくとも悪用しようとはしないだろう。

 

「(………俺も甘いな)」

 

そう心の中で自嘲したが、性分なのだから仕方ないと割り切る。

それに考えてみれば、これは悪い話じゃない。

寝床は提供してもらえるし、スマッシュとの戦闘のサポートもしてくれる。金銭に関しても、最悪自分で稼ぐ方法があるから問題無い。ビルドとして戦っても、あの謎の転送技術で転送してもらえれば問題無い。正直この組織がどういうものなのかは分からないが、こんな規模の艦や、あんな技術力を所有している時点で、かなり大きな組織と見ていいだろう。_____こんな中学生が司令をしているので、未だに半信半疑ではあるが。

 

「……分かった。じゃあ、その条件で」

 

だいぶ考えた末の結論だったが、このままでは埒が明かない。結局、戦兎は提案を受け入れる他なかった。

 

「ええ。大丈夫、約束は違えないわ」

 

口調が高圧的ながらも、真っ直ぐと戦兎を見据えたその目には、嘘や虚言が含まれているように思えなかった。

 

「………さて、んじゃ、そろそろあんたらについても話してもらおうか」

 

とはいえ、やはりこの組織がどんなものなのか、知る必要がある。犯罪組織とかでは無さそうだが。

 

「ええ。……じゃあまずは、この映像を見てもらおうかしら。令音」

 

「……ああ」

 

五河琴里が指示を出すと、村雨解析官が手元の機器を操作して、映像を映し出した。

 

「っ!これって……」

 

そこに映し出されていたのは、先程まで戦兎達の前にいた、あの黒髪の少女だった。映像内では、あのASTという集団と、その少女が斬り合っている様子が映し出された。

 

「____あれが精霊、【プリンセス】よ」

 

 

 

 

「______という訳で士道、あんたは精霊とデートして、デレさせなさい」

 

「ファイトだ五河。頑張れ」

 

琴里の話は、纏めるとこうだった。

精霊とは、この世界とは別の異世界に住んでおり、空間震とは精霊がこの世界に現界する際に起こる現象であると。

精霊に対する対処法は二つあり、一つは武力で以ってこれを殲滅すること。しかし、精霊は戦闘力が高く、達成が困難である。

もう一つは、対話によって解決する事。そして先程いた空中の集団のASTが武力派であり、この組織____【ラタトスク】が対話派であるという事。

ここまでは混乱しながらも、一応は士道も理解できた。士道本人としても、対話によって解決する方法には大賛成だった。

しかし、問題はその後だ。その対話の手段として持ち出されたのが_____『デートして、精霊をデレさせる』という案。

この案はどうにも納得がいかない。そもそも士道には女性とデートした経験なんぞ皆無だし、個人的にあまり乗り気になれない。

しかし、それしか方法がないというのも、また事実であった。

 

「何で俺が………俺じゃなくて、それこそ桐生じゃ駄目なのか?」

 

「駄目よ。桐生にはサポートとして入ってもらうけど、精霊の対処自体は、士道にしか出来ない仕事だわ。そもそもスマッシュが現れた時、彼以外に誰が戦うってのよ」

 

「ぐっ………」

 

「覚悟決めなさいこのフライドチキン!精霊を、助けたいんじゃないの!?」

 

それを言われたらぐうの音も出ない。もはや、士道に逃げ道はなかった。

桐生も、続けるように言う。

 

「確かに、お前が嫌だって気持ちも分からなくはないよ。けど………もし誰か助けたい人がいて、そのための手が一つしかないなら………その手を選ぶべきなんじゃないのか?」

 

「…………」

 

その通りだ。

なんの力もない士道が、一人でやれることなんてたかが知れてる。そう思うのなら、手段は選んでいられない。ASTのやり方は論外だし、何より…………

 

「(………あんな顔は、見たくない)」

 

それに、戦兎にも背負っている物がある。こんな事実を知って、自分だけ何も背負わないというのは____()()()()()

 

士道は、決めた。

あんな全てに絶望したような、悲しい顔は見たくない。それしか手段がないのなら………

 

「分かったよ…………。それが俺にしかできないことなら…………それであの子が救えるなら…………デートなんか、幾らでもやってやる」

 

士道の言葉に、琴里が満足そうに微笑んだ。

 

「その答えが聞きたかったわ。大丈夫。士道のデートには、私たちも全力でサポートするわ。明日から()()開始よ」

 

「おう………って、へ、訓練?」

 

「それじゃ準備の方、お願いね」

 

「おい、訓練って何だ!?」

 

士道が悲痛な叫びを上げる中、桐生が肩に手を置いて、少し笑ってつぶやいた。

 

「………頑張れ、五河」

 

「桐生まで!?お、おい!」

 

そう短く残すと、桐生はその場を立ち去ろうとした。

 

「_____な、なあ!」

 

それを、士道の声が遮る。

 

「ん?どしたの?」

 

「その…………ありがとうな。俺のせいで巻き込んじまったのに、助けてくれて」

 

士道がそう言うと、桐生は()()()()()()()笑みを浮かべた。

 

「誰かを助けたいと思う気持ちに、理由なんかあるかよ。デート、頑張れよ?五河」

 

「っ……」

 

その言葉が、士道の胸に刺さった。

そうだ、なんで自分があの子を助けたいと思ったのか。その理由なんかない。

 

ただ、そこに悲しそうな顔の子がいたから、助けたいと思ったんだ。

 

「……士道でいい」

 

「へ?」

 

「五河ってのは、何だか他人行儀だろ?だから、士道でいい」

 

「……そっか。じゃ、俺も戦兎でいいよ。よろしくな、士道(しどう)

 

「よろしく、戦兎(せんと)

 

そう言って、二人は笑い合った。その時。

 

「っ!アンノウン、もといスマッシュの反応有り!」

 

『!?』

 

突如、コンソールを操作していたクルーから、声が上がった。同時に、モニターに表示されたマップの一点に、赤い点が浮かんだ。

 

「琴里司令、これは?」

 

「こっちでもアンノウンの情報を掴むために、先日用意したものよ。貴方の戦闘をモニタリングしてたのも、これを介して。………話は後よ。桐生、早速で悪いけど………」

 

「ああ。スマッシュの位置情報を頼「こ、これは……」」

 

すると、戦兎の発言を遮るように、先と同じクルーが戸惑いの声を上げた。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、それが………どうやらこちらのスマッシュと交戦中の存在がいるようです」

 

「交戦?ASTかしら」

 

「いえそれが、どうやら、桐生くんと似たような、()()アーマーを纏った人らしく………」

 

「っ!?」

 

青い、アーマー。

そう聞いて真っ先に浮かんだのは、戦兎のかつての相棒だった。

 

まさか。

 

「映像、出ました!モニターに写します!」

 

「っ!………これは…………!」

 

そこに映っていたのは。

 

青い龍を纏った、まごう事なき、相棒(万丈龍我)の姿だった。

 

 

 

 




セリフ詐欺になる可能性があるので次回予告をやめます。

あれ、可笑しいな。6000字くらい書いて全然物語が進行していないぞ?
それはそれとして、仮面ライダージオウでのディエンド出演が決まりましたね。戸谷公人さんおめでとうございます。そしてありがとうございます。

ネオディエンドライバー出たら多分買うと思います。ディケイドライバーはお金無くて無理だった……。

次回 『第5話 目醒めるドラゴン』、お楽しみに。


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第5話 目醒めるドラゴン

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!謎の異世界に飛ばされた後、スマッシュと遭遇!そこで仮面ライダービルドとして戦い!勝利!したかと思いきや、なんと謎の組織『ラタトスク』に拉致されてしまい、なんと五河士道の妹と思わぬ出会いを果たしてしまう!」

五河「どうしたんだ琴里、ぐれちゃったのか…………それとも反抗期か?それとも中二病なのか?カットしてるから分かりづらいかもしれないけど、あんなに口汚くなって………」

桐生「まあそう言ってやるなって。あの時期の女の子にも色々あるんだよ。それを暖かく見守るのも兄の役目だろ?」

五河「いや後半はともかく前半のパターンだったらちゃんとダメって言わないとダメだろ!?」

琴里「あんたら人のいないところで何好き勝手言ってるのよ!違うからね!?別にグレたわけじゃないからね!」

五河「ほ、ほんとか!?良かった、グレてたらどうしようかと………」

万丈「てかお前ら!俺については触れねえのかよ!折角前回のラストで登場したってのに!」

桐生「どうせ読者の皆さんは展開わかりきってんだから説明する必要ないだろ文字数勿体無い。では、ちゃっちゃと第5話、どうぞ!」

万丈「俺もう泣いていいよな?」





戦兎と士道がフラクシナスに収容され、避難命令が解除されてから約十分後。

 

「______ったく……どうなってんだよここは…………」

 

青いスカジャンを羽織った、筋肉質の茶髪の男。

戦兎のかつての相棒______万丈龍我(ばんじょうりゅうが)は公園で座っていた。

 

エボルトに取り込まれ、戦兎が決着を付けた後、目覚めた時には既にここに居たのである。身体にあった傷は塞がり、おまけに………

 

「ていうか、なんで身体が縮んでんだよ!!」

 

身体が、恐らくは十六、十七歳程度にまで若返った状態で。

しかもその後どうするか柄にもなく考えていたときに、人が誰もいなくなるわ、謎の大爆発が遠くで起こるわで、その後時間が経って人が来ても、状況が全く理解できていなかった。

 

「戦兎もいねーし………あぁ!どうすんだよクソっ!!」

 

普段なら思ったことはすぐに行動に移す万丈だが、考えが全く頭に浮かばないから実行のしようが無い。

しかもことタイミングで。

 

______グルルルルルル……………

 

と、中々に凶暴な音が腹から鳴り響いた。かれこれ目覚めるどころか、エボルトとの戦いから何も口にしていないのである。いつも食べているカップ麺とプロテインの味が恋しくなってきた。

 

「あぁ………腹減った………カップ麺食いてえ………」

 

と、腹を抑えて悲嘆にくれていたその時。

 

 

「キャァァァァァァッ!!」

 

 

「!?叫び声?」

 

悲鳴のした方を見ると、万丈はその方へと向かった。何となくだが、嫌な予感がしたのである。

果たして、その予想は的中した。

 

「お、おい!何があ…………っ!?」

 

そこで、万丈が目にした物。それは_____

 

「い、嫌っ………助けて………っ!!」

 

「や、やだっ………やだよ…………」

 

「マジ引く…………っ!!!」

 

怯えきった様子で後ずさりする女子高生三人と、

 

「嘘だろ…………っ!!」

 

「グルルルァァァ…………!!」

 

戦兎が、万丈が何度も拳を交えた相手、スマッシュだった。

大柄な体躯で、じりじりと眼前の女子高生たちへと迫っている。

 

何故ここにスマッシュがいるのか、その理由も考えず、万丈は動いた。手に、金と青と、赤のボトルを握りしめて。

 

「オラァッ!!」

 

万丈が握りしめたボトル_____【グレートドラゴンエボルボトル】の効果により、威力が増強された万丈の拳がスマッシュに響く。その攻撃に怯んだのか、スマッシュは後方へと吹っ飛んでいった。

すかさず、後ろの女子高生三人に叫んだ。

 

「早く逃げろっ!!」

 

「えっ………?」

 

「いいからっ!とっとと行け!」

 

三人はどこか困惑したような顔だったが、やがて全速力で後ろへ逃げた。

改めて、スマッシュへと向き変える。

 

 

「…………上等だ。やってやろうじゃねえか」

 

 

言いながら、万丈はスカジャンに仕込んでいたそれ_____【ビルドドライバー】を取り出し、腰に巻きつける。

 

『ギーギギーギガー!ギーギーギー!』

 

そして上空から、龍の意匠のガジェット_____【クローズドラゴン】が飛来し、シールディングキャップを外した【グレートドラゴンエボルボトル】を挿し込む。

 

瞬間、クローズドラゴンの黒いパーツが赤色に、黄色のパーツが青色に、青色のパーツが金色に変化、【グレートクローズドラゴン】へと変化する。

 

そして前部にあるボタン型のパーツ、【ウェイクアップスターター】を押し、ドライバー本体へと挿し込んだ。

 

 

覚醒ィッ!

 

グレェートクロォーズドラゴンッ!!

 

 

威勢のいい音声と共に、龍の鳴き声のような待機音が鳴る。同時に、【ボルテックレバー】を回し、【ボルテックチャージャー】でエネルギーを生成、【スナップライドビルダー】、及びドラゴンの成分のアーマーを展開する。

 

 

Are You Ready?

 

 

音声とともに、万丈は拳を手に打ち付け、ファイティングポーズを決めて力強く叫んだ。

 

 

「変身ッ!!」

 

 

瞬間、スナップライドビルダーで形成されたアーマーが万丈を挟み込み、その姿を変えた。

 

 

Wake Up CROSS-Z!!ゲット グゥレィートドォラァァゴンッッ!!

 

イェェェエーイィィッ!!

 

 

_______仮面ライダーグレートクローズ。

 

 

東都の、世界の為に戦ったもう一人の仮面ライダーが、降り立った瞬間であった。

 

「今の俺は……………負ける気がしねぇッ!!」

 

 

 

 

変身したクローズは、スマッシュめがけて拳を打ち出した。蒼炎迸る拳はスマッシュの腹部にヒットし、大きく吹き飛ばす。

 

「オラオラァッ!!」

 

その隙を逃さず、即座に相手に詰め寄り、右の拳と左の拳を交互に打ち出す。【GCZアンリミテッドスーツ】によって支えられた運動能力によって、通常形態のクローズを上回る攻撃が、連続してスマッシュへ襲いかかる。

しかしスマッシュも負けず、腕に生えた羽のようなパーツを飛ばし、当ててくる。

 

「うわっちょ痛ててててっ!!くそ、痛えじゃねーかっ!!」

 

スマッシュの蹴りによる追撃をいなし、回し蹴りを叩き込む。だがスマッシュも吹き飛ばされるだけではない。腕から羽状のパーツを高速で射出し、クローズめがけて放った。

 

「やべっ!くぅっ!」

 

何本かはヒットしたものの、殆どは【GCZブレイズチェストアーマー】によって弾かれた。

 

 

【BEAT CROSS-ZER!】

 

 

スナップライドビルダーから、専用武器である【ビートクローザー 】を取り出す。

 

 

【ヒッパレーッ!ヒッパレーッ!】

 

【MILLION HIT!!】

 

 

「オラァッ!」

 

グリップエンド部を二度引っ張り、刀身から衝撃波を飛ばし連続で当てる。スマッシュは怯み、攻撃で地に膝をついた。

 

「これで終わりだ!オラオラオラァッ!!」

 

勢いよくボルテックレバーを回し、ボトル内の成分をより活性化させる。

同時にクローズの右足に蒼炎が宿り、空中へとジャンプした。

 

 

Ready Go!

 

 

瞬間、クローズの周囲にエネルギー体、【クローズドラゴン・ブレイズ】が渦を巻くように現れ、飛翔する。

そこから空中で体を捻ってムーンサルトを決め、クローズドラゴン・ブレイズの放った蒼炎放射を背に受ける。

その勢いのまま、敵へボレーキックを叩き込む必殺技______

 

 

 

グゥレェェートドラゴニック!フィニィィィィイシュッッ!!!

 

 

 

「オラァァァァーーーーッ!!!」

 

「グァァァァァッ!!!」

 

グレードドラゴニックフィニッシュを受けたスマッシュは、断末魔を上げて爆散した。

 

 

 

 

「よっし、終わったな」

 

一息つくと、ドライバーからクローズドラゴンを抜き、変身を解除した。

すると突然、クローズドラゴンからグレートドラゴンエボルボトルが勢い良く抜かれ、万丈の手のひらに収まった。

 

「うわっと!?何だって………はあっ!?」

 

瞬間、万丈の手の上にあったボトルが、粒子となって消滅していった。

 

「あれ?おい、何でだよ!ちょっとー!どこ行ったのー!?」

 

突如ボトルが消えたことに困惑し、その場で忙しなくバタバタしてしまう。ポケットの中なども探ったが、案の定ボトルの影も形もなかった。

と、その時。

 

 

「なーに馬鹿っぽい動きしてんだよ」

 

 

という声とともに、目の前で倒れていたスマッシュから粒子が流れ、やがて元の人間に戻った。その声は、いつも聴き慣れた、相棒の声だった。

 

 

「戦兎!?…………だよな?」

 

 

一瞬疑問符を浮かべたのは、戦兎の姿が普段見慣れたそれではなく、それよりも幾らか若返っていたからだ。一瞬別人か、という疑念を抱いたが、次の瞬間にはそんな疑問も消え失せた。

 

 

「当ったり前でしょーが。俺の顔を忘れるとは、いよいよ脳みそまで筋肉に侵食されたか?あ、それは元からか」

 

「うるせぇっ。無事だったんなら、連絡くらいよこせ……っ!」

 

 

と、互いに軽口を叩きながらも、戦兎と万丈の顔には自然と笑みがこぼれた。

 

「その様子だと、お前も身体が若返ったみたいだな」

 

「ああ。どうなってんだほんと……………つかそれより戦兎、ここどこなんだ?さっきでけえ爆発があったし……本当に新世界なのか?」

 

「………いや、それがどうも違うみたいなんだ。ま、細かい事情は後で話すよ。取り敢えず付いて来いバナナやるから」

 

「ウッキーバナナだぁ!って、猿扱いすんな!てか、付いて来いってどこにだよ」

 

「船に」

 

「は?」

 

何言ってんだこいつ、と万丈が思った瞬間、全身が謎の浮遊感に襲われた。

 

「は?」

 

 

 

 

万丈達が戦闘をした場所から、少し離れた建物。

 

 

………へえ、予想より少し早いな

 

 

まるで(さそり)のような意匠をしたその男は、遠目から彼らを観察していた。

 

 

………ビルドとクローズ………これで後一人………。さてさて、いつ来るかな……………

 

 

その男は楽しげに______しかし、どこか狂気を滲ませた声で呟いた。

 

 

まあ、どちらにせよ。こちらの計画に支障は無いさ。十本の天使と、十二の星座。そして………フフフ

 

 

 

 

精々、楽しませてくれよ?桐生戦兎(きりゅうせんと)万丈龍我(ばんじょうりゅうが)、そして_______五河士道(いつかしどう)

 

 

 

__________さあ、俺たちの戦争(デート)を始めようか?

 

 

その言葉を最後に、男はまるで解けて消えるかのように、その場からさっぱりといなくなった。

 

 

その姿を見たものは、いない。

 




今回短くてごめんなさい。とりあえず仮面ライダービルド本編でかなりのヒロイン力を誇る万丈龍我さんの登場フラグを回収しました。

加筆修正に伴い、グレートクローズについての描写を追加しました。以前感想で教えてくれた方、ありがとうございます。キックの描写は、龍騎のドラゴンライダーキックをイメージしていただければ。

よければ感想や高評価、お気に入り登録よろしくお願いします。

第6話 二人のニュースクール をお楽しみに


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第6話 二人のニュースクールライフ

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!謎の異世界に飛ばされ、ラタトスクという組織と接触!何故か現れたスマッシュと戦うため、行動を共にすることになる!」

万丈「ようやく俺の出番だったな!見ろ!この仮面ライダーグレートクローズの………」

桐生「はい早送りー」

万丈「おい早送りすんな!折角の俺のマジカッコいいシーンが見えねえだろうが!」

桐生「どうせ小説だし別にいいでしょ」

万丈「そういや俺が変身した後、グレートクローズのボトルが消えたんだけど、戦兎なんか知らね?」

五河「なあ、それあらすじ紹介の場で言っていいのか?前回せっかく読者さんから指摘してもらったのに?」

桐生「まあそれについては悩ましいところだったけどねー。今後ちゃんと本編でも触れるから大丈夫だと思うよ。ていうか士道。いたんだ」

五河「居たわ!いやさっきまで話してなかったけども!」

万丈「つーわけで、俺のマジかっこいい活躍が_____」

桐生「見れないビルドが主役の第6話をどうぞ!」

万丈「無えのかよ!」





「_____という訳だ。理解できたか?」

 

「………お、おう」

 

万丈がフラクシナスに転送されてから一時間後、一通りの説明が終わった。

なぜこんなに時間がかかったのかと言うと、簡単な理由で万丈が話を理解するのに時間がかかったからである。しかもただ説明したのではより時間がかかると見越して、大分簡略化して説明したのだ。 最初は琴里達が一から説明しようとしていたが、万丈相手だと朝まで掛かりそうだったので戦兎が説明役を買って出たのだ。

 

「ま、まあ要するに、その精霊ってやつをあいつが助けて、俺たちはそれをサポートする、ってこったな?」

 

「まあ有り体に言えばな」

 

と、万丈が理解したところで、向こうからあくびが聞こえてきた。転送後にこうして説明を開始してから、さっきから待機していた琴里だ。最初は琴里が説明しようとしていたのだが、ここはこの馬鹿と長い間いた自分の方がいいと、戦兎から言い出したのだ。

さっきからずっと見張りのためいたのだが、説明に時間がかかったため軽い眠気に襲われていたのである。

 

「お、終わった…?…………ねえ、彼、ほんとに二十三歳なの?」

 

「戸籍上の数値ではそうなるな。精神年齢はそれよりいいとこ十くらい下だ。猿未満チンパンジー以下のバカだ」

 

「誰がバカだ!せめて筋肉つけろ!」

 

と、いつも通りの少しズレたやり取りの後、琴里が質問をした。

 

「で、本題に入るけど………万丈と桐生は、同じ世界から来た、ってことでいいのよね?で、戦いの最中になんらかの原因で、二人揃ってこの世界に飛ばされたと」

 

「ああ。恐らくな」

 

その原因が詳しくは分からないが、恐らくはパンドラボックスで新世界を創ったときに、何かしらの要因によってこの世界に飛ばされてしまったのだろう。万丈を助け出そうとしたあの時、とてつもない暴風に襲われたのを覚えている。

どうして身体が縮んでいるのかは分からないが。

 

「それで、あんたもスマッシュの退治に協力してくれるってわけね?」

 

「ああ。ここに匿ってもらえるってんならな」

 

万丈も最初は琴里に対して戸惑っていたが、もう慣れたようだ。こういう所をあまり気にしないのは懐が大きいのか、それともただの馬鹿か………確実に後者だと、戦兎は思った。

 

「………今なんか俺のこと馬鹿にしなかったか?」

 

「気のせいでしょ」

 

「まあ、ひとまずのあんた達の待遇は決まったわね。じゃあまずは…………」

 

言うと、琴里はさも当然かのように、

 

「編入手続きと戸籍の用意、済ませちゃいましょうか」

 

「「へ?」」

 

 

 

 

次の日の、来禅高校にて。

 

士道が現実から程遠い不思議体験を済ませた翌日。戦兎の仲間だという万丈龍我に会い、その後も別室で知らないおじさんに事態の説明がなされ、さまざまな書類にサインをしてからようやく家に帰れた。

風呂に入る気力も無く、気づけば朝である。

 

 

______結局、戦兎に話そうと思っていたことも話しそびれてしまった。

 

 

気怠い感覚を強烈に覚えながらも、なんとかいつも通りに登校した、その日の朝のHRでの事である。

 

 

「今日は何と!このクラスに転入生が二人来ます!」

 

 

士道のクラスの担任、岡峰珠恵(おかみねたまえ)先生、通称タマちゃん先生が放った言葉に、クラス中が騒ついた。

 

「転入生?この時期に?」

「誰か聞いたか?転入生が来るって」

「マジ引くわー」

 

士道としても初耳である。その上二人も来るとなると……………二人?

 

「あれ?」

 

二人、というワードが、強烈に士道の脳内を反芻する。確か、自分は昨日二人の友人が出来たはずだ。しかも、本人から聞いた本来の年齢はともかく、今の外見年齢は高校生くらいの二人が。

 

「では、入って来てくださーい」

 

タマちゃん先生が促すと、ドアが開き、何故か三つの人影が入ってきた。

 

最初に入ってきた一人は、制服の上着を脱いで腰に巻き着崩した、編み込んだ茶髪が目につく男子。

 

二人目は制服の内側にブレザーを着込み、上着のボタンを外した、兎耳のような跳ねっ毛が特徴的な男子。

 

三人目は白衣のポケットにツギハギの熊のぬいぐるみを入れ、長い前髪と分厚い隈、メガネを掛けた女性。

 

 

そしてその三人に共通して言えるのは、全員昨日知り合った人たちという事で_______

 

 

「万丈龍我だ。よろしくな」

 

「初めまして。天っ才物理学者の桐生戦兎ですっ♪」

 

「……今日付けでここの副担任となった、村雨令音だ。担当教科は物理。よろしく頼む……」

 

 

その自己紹介を聞いた途端、士道はその場で思いっきり噴いた。

 

 

 

 

「どういう事だよ二人とも!」

 

休み時間。二次元について話してくる殿町を放っておいて、俺は戦兎と万丈に問い詰めていた。

 

「どう、って。簡単な事だよ。俺と万丈は転入しました。高校生になりました。士道のクラスメイトになりました。以上、証明終わり」

 

「つーかお前、あの自己紹介どうにかなんなかったのかよ。中身おっさんなのに痛えぞ」

 

「いいじゃん別に。あとお前チャック空いてる」

 

「え?マジか!?」

 

「いやそういうことじゃなくて!」

 

さっさと終わらせて、すぐに雑談に入ろうとする二人を制止する。ちなみに万丈のチャックは本当に空いてた。しかも割と目立つ感じで。

すると、戦兎もようやくちゃんと話し始めた。

 

「まあ本当のこと言うと、お前の妹から頼まれてね。俺たちの今の外見はこれだし、高校生として士道の近くにいた方が都合がいいからって。戸籍やら何やらもラタトスクがでっち上げたってさ。ま、この馬鹿の猿みたいな頭が人間並みになるなら、別に良いとは思うけど」

 

「誰が馬鹿だ!せめて筋肉つけろ筋肉を」

 

と、からかうような口調で言ったものの、戦兎も内心、満更では無い気分であった。

何故なら《葛城巧》としてはともかく、《桐生戦兎》としては初めての学校生活である。勉強云々は確かに些かつまらないものにはなりそうだが、学友達との交流や新しい生活は、戦兎としても期待したい所だった。

 

「あ、あの!」

 

と、会話の途中、万丈の後ろから声が聞こえた。士道のクラスメイトの仲良し三人組、亜衣麻衣美衣だ。

 

「ん?どうしたんだよお前ら」

 

「あ、えっと。万丈君に、ちょっと用があって。ここじゃ話しづらいから、廊下で」

 

「万丈に?」

 

「………まあ何だか分かんねえけど、ちょっと行ってくるわ」

 

「お、おう」

 

こうして万丈は、三人に連れ出されてしまった。あの三人と何か接点でもあったのだろうか?

 

 

 

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

「は?」

 

呼び出された直後、突然三人の女子に頭を下げられてしまった。なんだなんだ?

 

「ちょ、ちょっと待て!何で急に頭なんか下げんだよ!」

 

「あの時、あの化け物から庇ってくれて、お礼もせずに………」

 

「あの、怪我とかありませんでしたか!?」

 

「というか、あんなマジ引くパンチどうやって出したんですか!?」

 

と、矢継ぎ早に言葉を言われる。万丈は無い頭をフル回転させ、必死に考える。

 

「化け物……庇った……………………あっ!」

 

と、思い付いたように手を打ち、三人を指差す。

 

「お前ら、あん時スマッシュに襲われてた!」

 

ようやく合点がいった。この三人は、万丈が来た時にスマッシュに襲われてた、あの三人組だったのである。万丈は知らぬ事だが、避難命令が解除された直後に、三人はスマッシュに襲われていたのである。

 

「はい!ってスマッシュ?」

 

「あ、ああいや、何でもねえ」

 

「(あっぶね、戦兎に無闇に言わないように言われてたんだった)」

 

この世界には、スマッシュという名称は呼ばれていない。下手に情報を出したら怪しまれるし、恐怖心を煽る事にもなる。故に無闇に言わない方が良いだろうという判断だった。

 

「ていうか、お前らこそ怪我なかったか?」

 

「はい。というか、万丈くんこそ怪我しなかったの!?あんな化け物に挑んだのに!」

 

「鍛えてっからな。フンッ」

 

言って制服をたくし上げると、右腕の筋肉を強調するよう曲げる。

三人が「ほぉ〜」と感嘆の声を上げると、万丈は再び口を開いた。

 

「つーか、一応同じクラスメイトなんだし、敬語はやめてくれ。なんかムズムズするしよ」

 

「あ、そうだね。じゃあ、改めてよろしく。私は山吹亜衣」

 

「私は葉桜麻衣」

 

「藤袴美衣でーす」

 

「おう、よろしくな」

 

ちなみにこの後、この三人と万丈はよく行動を共にするようになるのだが、それはまた今後のお話である。

 

「おーい戦兎、士道、話終わったぞー」

 

と、万丈が教室に戻った時には、戦兎と士道の席がもぬけの殻だったことも付け加えておこう。

 

 

 

 

一方その頃二人は、村雨解析官、もとい村雨先生によって、東校舎四階、物理準備室にいた。(ちなみに本人から言われたため、二人とも令音さんと読んでいる)

 

「……何ですか、この部屋」

 

「東都先端研究所の研究室レベルだぞ、これ」

 

「いやそれどこだよ」

 

「元俺の職場」

 

というやり取りを挟んではいたものの、やはりそこは一般的な学校の物理準備室からは程遠い場所であった。いくつものコンピュータやディスプレイ、その他の何が何だか分からない機械で埋め尽くされていたのだから。

 

「……部屋の備品さ?」

 

「いやなんで疑問形なんですか!ていうか、ここって物理準備室でしょう?元いた先生はどうしたんですか!」

 

「うわ、これ俺の使ってたやつよりスペック高いじゃん」

 

士道が令音に訊いた時にはもう、戦兎は部屋のパソコンで一番スペックの低そうなパソコンに触れていた。それでさえかつて戦兎の使用していたパソコンよりスペックが高いのだから、いったいこの部屋にはどれほどのスーパーコンピュータがあるんだろう。

 

「……ああ、彼か。うむ」

 

戦兎がパソコンから手を離したと同時に、令音があごに手をやり、小さく頷く。

 

「「……………」」

 

「……………」

 

「「……………」」

 

「……………」

 

そのまま、数秒が過ぎた。

 

「……まあ立ち話もなんだ。座りたまえ」

 

「「うむ、の次は!?」」

 

いっそ尊敬するレベルのスルースキルだ。万丈も身につけるべきだろう。

令音は先に部屋の奥へと進み、最奥部に置かれていた椅子に腰掛けた。

 

ついで、士道と戦兎の間を通るようにして、学校見学の名目で高校に来ていた琴里が部屋に入っていく。

 

そして、慣れた様子で白いリボンで括られた髪をほどくと、ポケットから取り出した黒いリボンで髪を結び直す。

 

「_____ふぅ」

 

その瞬間、琴里を取り巻く雰囲気が変わった気がした。

気怠げに制服の首元を緩め、近くの椅子にどっと座り込む。

 

そして、琴里は持っていた鞄から小さなバインダーを取り出す。中には、綺麗に様々な種類の、琴里の好物のチュッパチャップスが並べてあった。

まさかの飴専用ホルダーである。幻聴だろうか、琴里が飴を取り出した瞬間、どこぞの世界の破壊者がカードを取り出した時のような、『ブゥン!』という音が聞こえた気がした。

取り出した飴を口に入れると、未だに部屋で立ち尽くしていた士道と戦兎、主に前者の方に見下すような視線を向けた。

 

「いつまで突っ立ってるのよ士道。もしかしてカカシ志望?やめときなさい。あなたの間抜け面じゃからすも追い払えないと思うわよ。ああ、でもあまりの気持ち悪さに人間は寄ってこないかもしれないわね」

 

「「……………」」

 

あまりの変貌っぷりに、士道と戦兎は一瞬のうちに部屋の隅まで退避した。

 

 

どうしよう戦兎!これが思春期ってやつか?兄に反抗したくなる年頃なのか……!?

 

まさかここまで綺麗に変わるとはな………さっきのあのあまりに有り得ない琴里を見たときから、おかしいとは思ってたが………

 

ど、どうすりゃいいんだよ!あれ完全に女王様じゃん!知らねーよ!俺あんな妹知りたくなかったよ!

 

大丈夫だ。まずはこれ以上道を踏み外さぬよう、俺たちがしっかりしないと…………

 

 

「あんた達さっきから丸聞こえなんだけど!グレてる訳じゃないって何度も言ってるでしょうが!刻むわよ!」

 

「「すいません………」」

 

と、一喝されたので、とりあえず座る。

 

「(………そういえば()()って、よく美空が口にしてたっけな)」

 

と、少し懐かしいような気分になる。確か一回ノコギリが飛んできたときがあったっけか。あの時は、いやあの時に限らずいつも本気で恐怖を感じた。

 

「………じゃ、早速調きょ……ゲフンゲフン、訓練を始めましょう」

 

「てめえ今調教って言おうとしたな」

 

「士道マジで大丈夫なのか?中学生がこんな口汚い言葉使って」

 

「うんやっぱもうだいぶ手遅れなんじゃないかと思い………」

 

「あんたらいい加減にしないと本気ですり潰すわよ?」

 

「「すいませ………ってえ?すり潰す?」」

 

日常生活の場においてあまり人に対して使われないであろう言葉を二人揃ってオウム返ししながら、二人揃って恐怖を覚えた。

 

「……君達の真意はどうであれ、シンとセイ、特にシンの方には最低限クリアしてほしいことがある」

 

令音が急に切り出した。ちなみにシンというのは士道の呼び名である。が、もう一つの方は聞き覚えがなかった。

 

「ええっと、()()って?」

 

「……君の事だが?」

 

「…………」

 

と、ごく当たり前であるかのように言うので、もうそれでいいと思った戦兎であった。『戦兎』の『せ』の字しか合っていないが。

 

「……まあ、それは置いておいて。クリアしてほしいことって何ですか?」

 

「……単純な話さ。女性への対応に慣れておいてもらわなければならないんだ」

 

「女性への対応……ですか」

 

「……ああ」

 

令音が頷く。なんというか、そのままコロッと眠ってしまいそうだった。

 

「……対象の警戒を解き、ひいては好意を持たせるためには、まず会話が不可欠だ。大体の行動や台詞は指示を出せるが……やはり、本人が緊張していては話にならない」

 

「女の子と会話って……流石にそれくらいは」

 

「どうかしらね」

 

と、いきなり琴里が士道の頭を押し、ぎゅっと令音の胸に押しつけた。

 

「……………ッ!?」

 

「…………ん?」

 

「はい?」

 

令音が不思議そうに声を発し、戦兎は疑問の声を発した。士道は顔を真っ赤にし、慌てて狼狽している。

 

「………ッ、な、なななななにしやがる…………ッ!」

 

「なるほど、これがラッキースケベってやつか」

 

「絶対ちげーだろ!!」

 

「はん、ダメダメね」

 

琴里が嘲るように肩をすくめる。

 

「わかったでしょ、こういう事。これくらいで心拍を乱してちゃ話にならないの」

 

「いや、これだいぶ特殊なケースだと思うぞ…………」

 

少なくとも戦兎はこんな事態フィクションでしか見たことがない。一体どういう経緯を得たら女性の胸に顔を埋めるという事態になるのか。

しかし琴里は聞く耳持たず、やれやれと首を振ってくる。

 

「こういうことも想定しておけって言ってるの。だからこそ訓練するって話なんだから」

 

言って、琴里が腕組みする。一方、戦兎は二人の説明に疑問を呈していた。

 

「ちょっと待て。精霊との対話役ってのは士道が引き受けるんだろ?俺がやったって意味がないんじゃないのか?」

 

「……スマッシュの出現が確認されていない場合は、状況にもよるが君に士道のサポートをしてもらうことになる。それに、もし万が一の場合には、君にも精霊との対話役をしてもらう必要がある」

 

「え?俺?」

 

「……ああ。君も、何故か特別だという事が先日分かってね。急遽予定を変更したんだ」

 

「………なるほど………?」

 

まだ説明を聞かなければならない事があるようだが、少なくとも一通りの説明は理解できた。今のところはそれで納得するしかないだろう。

戦兎に説明を終えると、令音がパソコンの電源を入れ、座面を操作する。

すると、画面上に何故かやけに洒落た文体の『ラタトスク』というロゴが表示され、その後ポップな音楽と、髪の色がカラフルな女の子と共に、『恋してマイ・リトル・シドー』というロゴが見えた。

 

「いや訓練ってギャルゲーかよ!」

 

「なんだこれ。ギャルゲー?」

 

「……ああ。セイは知らなかったか。まあ、君は率先してこういう物をやるとは思えないしね。簡単に言えば、恋愛シュミレーション、という奴だ。女の子と会話をしたり、デートをしたりすることで好感度を上げる、と言うものだよ」

 

「あ、あー……なんか、聞いたことはあるな」

 

確か、戦兎の世界でも流通はしていたはずだ。ただ、興味がなかっただけで。

 

「……まあ、百聞は一見にしかず、だ。君もやってみたらどうだろう?これはシンの方のソフトの開発段階で出来た試作品だが、一応の訓練にはなる筈だ」

 

そう言って機器を操作する。画面にはさっきと士道のゲームと微妙に違う画面が映し出された。

 

「はあ……」

 

まあ戦兎も、葛城巧だった時でさえ恋愛経験が全く無い。今後精霊と接触する機会があるなら、こういう経験もしておくべきだろう、と自分に言い聞かせ、マウスでスタートボタンを押した。

 

「ああ、士道の方はミスをしたらペナルティあるからね。昔書いた黒歴史の公開とか」

 

「何でっ!?」

 

隣の士道の悲鳴を聞きながら、戦兎はゲームを開始するのだった。

 

 

______これが、地獄の始まりになるとは知らず。

 

 

 

 

 




はい、どうでしたか?

グレートクローズの件、ご指摘ありがとうございました。 ついでにあんな雑なやり方で描写してすいません。今後きちんと本編でも触れますので。

デート・ア・ライブ二十巻読みました。今回も今回とて感動し、次回がとても気になる終わり方でしたね。ちなみに、この小説は、私の当初の予定通りのストーリー展開で進めます。最新刊によるストーリーの変更はありませんのでご注意下さい。

よければお気に入り登録や高評価、感想の方よろしくお願いします。

次回、第7話 デート(戦争)の始まり をお楽しみに!


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第7話 デート(戦争)の始まり

桐生「仮面ライダービルドにして…………天才、物理学者の桐生戦兎…………は…………」

万丈「いやお前どうした!目の下のクマがヤベーイ事になってんぞ!」

桐生「おう、万丈か………いや、例の訓練用のギャルゲーをやってたら頭の中が高度経済成長期に突入してはははははははは」

万丈「いや俺いなかったからわっかんねぇよ!つかまじで大丈夫か戦兎!」

士道「やばいこいつなんか深夜テンションでおかしくなってる!万丈何とかして!」

桐生「女の子、アキレス腱固め………ベストマッチ!」

士道「おい戦兎正気に戻れ!そんな女の子現実に居ねえよ!俺のゲームにもあったけどさぁ!」

万丈「だぁあーもう!あらすじ紹介が終わっちまう!どうしろってんだよ!!」

桐生「とーいうわけでぇー、ビルドが主役の第7話ぁー、どうぞーー」

士道「もうお前一度寝ろよ!!」






戦兎達が来禅高校に転入する、一日前。

【ラタトスク】所有艦、【フラクシナス】の一室では、琴里と令音が神妙な面持ちで話していた。

 

「……解析の結果が出たよ。彼にも、()が宿っていた」

 

「まさか本当に宿ってたとはね………」

 

令音が手元の機器を操作する。そこには、桐生戦兎についてのデータが記されていた。

 

「念のために調べてよかったわ。士道一人に背負わせるのは……酷だもの。だからと言って、彼を巻き込むのも本意ではないけれど」

 

「……当初の計画を変更する必要があるね。まあ、そこは私に任せてくれ」

 

「分かった。後で連絡ちょうだい」

 

言うと、琴里は席を立ち、部屋を出た。

それを確認したのち、機器を操作する令音の口から、ふと言葉が漏れた。

 

 

「……彼もやってくれるよ。おかげで、練り直しが必要となった」

 

 

その言葉の真意を知る者は………彼女以外に、誰もいないだろう。

 

「……君は何者なんだ………桐生戦兎」

 

 

 

 

そして、それから一週間くらい経った頃。その話の渦中にあった桐生戦兎はというと…………

 

「は、はは。終わった…………凄いでしょ?最っ高でしょ?天っ才でしょ………?」

 

「いやどうした戦兎!?」

 

休日の五河士道宅にて、目の下に濃いクマを作り、明らかに不健康そうな顔で疲弊しきった様子の自称天才物理学者の姿がそこにあった。第二の令音さんが目の前にいる。

ここまでの十日間。恋愛経験皆無の戦兎にとって、それは過密なスケジュールだった。

何故ならゲームだけではなく、ビルドのアイテムの修理や新武器の作成なども並行して行っていたからである。というか、戦兎としてはむしろそっちをメインで行っていた。

 

エボルトとの戦いで使用したビルドのパワーアップアイテムの殆どは、重大な欠損を抱えた状態で修理が必要な状態にあったのだ。さらに言えばビルドの武器、具体的にはホークガトリンガーや四コマ忍法刀なども、大小の差はあれど壊れていたのである。

 

今後スマッシュと戦うからには、それらのアイテムは欠かせない。付け加えるなら、最近はASTとも戦うかもしれないということで、対空戦用の装備も必要となっていたのである。

 

よって戦兎はこの一週間、授業の合間を縫っては修理や発明をし、そして琴里から渡されたゲームをやる。ついでにスマッシュの目撃情報があったのでそれとも戦う。かつて東都のため戦った戦兎にとっても、これがなかなか精神と気力を削る仕事だった。

 

五日くらい経ったあたりからパワーアップアイテムの修理をひとまず後回しにして、武器の修理及び新武装の開発、ゲームのクリアを優先した事で、なんとか成し遂げられたのだった。スマッシュの情報は比較的小規模に収まったので、肉体的な負担は軽減できた。一応フルボトルが増えたので、スマッシュの出現も悪いことばかりでは無かったが。

 

しかし、その間全く楽しみが無かったのかといえば、そうでもない。寧ろ合間でやっていたギャルゲーが、思いの外楽しかったのである。

恋愛どころかゲームすら殆どやったことの無い戦兎だが、操作方法を覚える頃には、ゲームのコツを何と無くだが理解し始めたのである。ゲームに出てくる女の子や選択肢、所謂シチュエーションについては確かに突っ込みどころがあったが、選択肢を選んでイベントを進める内に、ゲームキャラクターの性格や人物像が分かってくる過程が意外と面白い。______まあ、パンチライベントの時にアキレス腱固めをされた時には声を出して突っ込んだが。

 

「だ、大丈夫か?やっぱ、呼んで悪かったか?」

 

「いや、大丈夫だ。朝少し寝れたからな」

 

寝る時間が少なかっただけで一応の仮眠をとってコーヒー飲んできたので、取り敢えず意識は保っていた。今日、士道から話があるということで、こうして家に来たのである。

 

「それで………話ってのはなんなんだよ士道」

 

「ああ。実は………」

 

言って、士道が部屋の机の引き出しから、何かを取り出す。

 

「これ、多分お前らと関係があるんじゃないか?」

 

「えっ?」

 

士道が手渡してきたのは…………

 

 

「これ………フルボトル、か?」

 

 

朱色と灰色の、二本のフルボトルだった。

朱色のボトルには、何か炎のような意匠があり、シールディングキャップには角ばった炎の周りに歯車があるクレストが描かれていた。

灰色のボトルは、薄く何か斧のような意匠がある。シールディングキャップは白く、何も描かれていなかった。

戦兎の記憶にないフルボトルである。ロストボトルではないし、エボルトの使っていたボトルとも違う。これは一体…………。

 

「なんでお前が、これを……」

 

「俺も、よく知らないんだけどさ。両親が言うには、俺を引き取った時に持っていたものだって。………これ、フルボトル、ってやつだよな?」

 

「ああ。だけどこれは、俺の知らないボトルだ………。一体、何でこの世界にボトルが……」

 

しかも、士道は自分が養子として引き取られた時に持っていた、と言っていた。つまり少なくとも俺が来るよりもずっと前から、これはあったという事だ。

 

戦兎の頭の中には、いくつもの違和感が汚れみたいにこびりついたような、嫌な感覚が残っていた。

 

 

 

 

それから、数日後。

 

「_____士道、戦兎、万丈。早速働いてもらうわよ」

 

「「「…………」」」

 

琴里の言葉に、神妙な面持ちになる三人。事の発端は、数時間前にあった。

 

戦兎は一週間の徹夜による寝不足を、士道は様々なトラウマを植え付けられ、心身ともに疲弊しながら、なんとかギャルゲー訓練を終わらせ、戦兎は一週間ぶりに八時間以上の睡眠を取ることができた。ちなみに万丈はその間、誰も構ってくれないので、一人寂しく筋トレをしていたという。大胸筋がちょっと良くなったらしい。

 

その後は生身の女性相手との会話も必要ということで、取り敢えずは士道が担任である岡峰珠恵を口説くよう指示され、戦兎が亜衣麻衣美衣のうちの一人の亜衣を口説くよう指示された。されてしまった。

 

問題はその後、士道が担当していた岡峰先生が『結婚』というワードに目がハンターのそれとなった事でなんとか振り切り、次の相手として指示された鳶一折紙と接触した時だった。

 

間の悪いことに、そこで空間震警報が鳴ってしまったのである。それを聞いた折紙は、

 

 

『急用ができた。また』

 

 

と言って、踵を返して駆け出した。

そこで戦兎、万丈と合流し、フラクシナスへと戻り、今この状態である。

 

「安心しなさい三人共。【フラクシナス】のクルーには、頼もしい人材がいっぱいいるわ」

 

「そ、そうなのか?」

 

「本当か?」

 

士道と戦兎が疑わしげな声で聞くと、琴里がバサッと上着を翻して立ち上がった。

 

「そうね、例えば」

 

そして、艦橋かだんのクルーの一人を指差す。

 

「五度もの結婚を経験した恋愛マスター・【早過ぎた倦怠期(バッドマリッジ)】川越!」

 

「いやそれ四回は離婚してるって事だよな!?」

 

「逆に凄えな。いやでも、逆に言えば五回は結婚まで行ったってことか」

 

「夜の店のフィリピーナに絶大な人気を誇る・【社長(シャチョサン)】幹本!」

 

「それ完全に金の魅力だろ!」

 

「戦兎、ピラピーナってなんだよ」

 

「フィリピーナな?細かいところで馬鹿を露呈しないの」

 

「恋のライバルに次々と不幸が。午前二時の女・【藁人形(ネイルノッカー)】椎崎!」

 

「絶対呪いかけてるだろそれ!」

 

「安心しろ士道。呪いなんてそんな非科学的なもの存在しない………と、思うぞ?」

 

「なんで疑問形!?」

 

「百人の嫁を持つ男・【次元を超える者(ディメンションブレイカー)】中津川!」

 

「ちゃんとZ軸状にいる嫁だろうな!?」

 

「お、なんかカッコいい名前じゃねえか」

 

「全然カッコ良くねえよバカ」

 

「その愛の深さ故に、今や法律で愛する彼の半径五百メートル以内に近付けなくなった女・【保護観察処分(ディープラヴ)】箕輪!」

 

「なんでそんな奴らばっかなんだよ!」

 

「よく逮捕されずにすんだな」

 

「よく分かんねえけど、すっげえ帰りてえぞ俺」

 

「……皆、クルーとしての腕は確かなんだ。」

 

艦橋下段から、申し訳程度のフォローと言わんばかりの令音の声が聞こえてくる。

 

「いや、そう言われてもなぁ………」

 

「まともな奴がいねえし……」

 

「いいから、早いとこ行って来なさい。精霊が外に出たら、ASTが群がってくるわよ」

 

現在精霊は、校舎内にいるという事だった。それが幸いだったのか、現在ASTは迂闊に手を出せない状況らしい。

 

「それじゃまあ、グッドラック」

 

「おう」

 

ビッと親指を立てる琴里に、士道と戦兎、万丈も軽く手を挙げて返す。

士道の心臓は未だに高鳴っていたが、この機を逃すわけにいかなかった。

 

戦兎や万丈のような正義のヒーローになりたいとか、精霊を倒すとか、恋をさせるとか、世界を救うとか。

 

そんな大それたことは考えてない。

 

ただ_______またあの子と、話がしたかっただけだ。

 

 

 

 

フラクシナスに設えられている、顕現装置(リアライザ)を用いた転送機は、遮蔽物さえなければ一瞬で物質を転送、回収できるという代物らしい。最初は船で酔ったような感覚を覚えたが、数回目ともなれば多少は慣れてくる。

ちなみにその転送機を戦兎が興奮した様子で分解しようとして、全力でクルーに止められたのはまた別の話である。

 

フラクシナスから転送され、士道ら三人は学校の、もっと言うなら士道達のクラスの2年4組の前に立っていた。

 

「まさか俺たちのクラスに来るとはなぁ」

 

「運が良いんだか悪いんだか。あ、そうだ。士道」

 

「ん?何だ?」

 

戦兎は士道を呼ぶと、持ってきたカバンから何かを取り出す。すると、その取り出した何かが、士道の周りを()()()()()

 

「へっ?う、うわぁっ、なんだこれ!?」

 

『キュルッキュイーッ!』

 

「俺の、発・明・品だ。お前のお目付役、というか、護衛用のペットロボだな。名付けて、【アライブガルーダ】!」

 

そう言って指差したそのロボットは、赤い色の鳥みたいな外見をしていた。時折変な鳴き声を上げているのが少し気にかかったが、どこか愛嬌がある見た目をしている、と思う。

 

「凄いでしょ?最っ高でしょ?天っ才でしょ?………って、そんな事言ってる場合じゃなかったな。取り敢えず、そいつは持っておいてくれ。………あと、アレは持ってきたか?」

 

「え?あ、ああ。一応」

 

そう言って士道が取り出したのは、先日戦兎に見せた謎のフルボトルの一つ、朱色のボトルだった。

昨日士道が与えられた部屋の機器で解析した所、あの二本のボトルのうち、この一本からは強い反応が確認されたのだ。逆に、あの灰色のボトルはほとんど微弱な程にしか反応が出なかったのだが。

 

「もし何かあったら、そのボトルを振れ。そうすれば、ボトルの力を使うことができる」

 

「わ、分かった」

 

そのボトルがどんな効果をもたらすのかは分からないが、取り敢えず身を守る事はできるだろう。解析の結果、少なくともそのボトルを振る事で得られる効果は、ドラゴンボトルなどと同じ身体強化の類だということが分かったからだ。

 

『………今なら、引き返せるわよ』

 

最後の確認のように、インカム越しに琴里の声が聞こえる。

 

「……いや、やるさ」

 

だがその問いかけを、士道は強く断る。

 

「俺はもう、あんな顔は見たくない。だから………やってやる」

 

「………いい顔じゃないの」

 

後ろから、戦兎が笑いながら言う。万丈も同じ顔だ。

 

『それでこそ、私のお兄ちゃんよ。………二人とも。士道の事、頼んだわよ』

 

「おう!」

 

「任された」

 

戦兎と万丈も、強く答える。あの少女の為、そして_______ラブ&ピースの為に。

 

『さあ_______私たちの戦争(デート)を始めましょう』

 

その声を皮切りに、三人は教室のドアを開けた。

 

 

 

 

 




あれ?気づいたらUA4000越え………?お気に入り登録者百人………?あ、ありがとうございまぁぁぁぁあす!!!!

これからも不定期では有りますが、頑張って更新していきます。拙い文章力ではありますが、これからも応援よろしくお願いします。


次回、第8話 ベストマッチな名を を、お楽しみに!


よければ感想や高評価、お気に入り登録をよろしくお願いします!


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第8話 ベストマッチな名を

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!謎の異世界に飛ばされた後、ラタトスクという組織と邂逅、精霊という存在を聞かされる。そして俺たちに課せられた役目は、精霊をデレさせて、解決しろという物だった!」

士道「あ、戦兎。ちゃんと寝たんだ」

桐生「もうちゃーんと寝たからいつも通りの桐生戦兎です!」

士道「良かった。ところで、一つ気になったんだけどさ」

桐生「なにさ?」

士道「ビルドとかクローズの変身って、あれどうやって出来んの?レバー回してるだけじゃん」

桐生「そこはほれ、グルグルーってやってカシンカシーンってなってキュインキュインってなってAre You Ready?ってなるんだよ」

士道「いや擬音ばっかりでさっぱり分かんねえよ!最後のやつ以外全然分かんねえよ!」

桐生「一言で語れないのが天才(てぇんっさい)なの!それでは、どうなる第8話!」



教室のドアを開け、一歩踏み出す。士道はそれまで、最初にかける言葉を考えていた。

 

「(………やあ、こんばんわ、どうしたの、こんなところで)」

 

最初は、こう言って話しかけようと思った。

だが、夕日で赤く染まった教室の様子が、士道の眼に映った時。

 

「あ…………」

 

頭の中で考えてた、薄っぺらい挨拶の言葉なんて、全て消し飛んだ。

 

前から四番目、窓際から二列目_____丁度士道の机の上に、不思議なドレスの黒髪の少女が、片膝を立てるように座っていた。

幻想的な輝く瞳を物憂げな半眼にし、黒板を眺めている。

その少女の姿は、見る者の思考能力を一瞬奪うほどだった。戦兎と万丈も、一言も喋らず呆然としていた。

 

「_____ぬ?」

 

すると、少女が士道達の侵入に気付いたのか、目を見開いてこちらを見てくる。

 

「………ッ!や、やあ_____」

 

と、士道がどうにか心を落ち着けながら手を上げようとした………その時。

 

「ッ!まずい、士道!」

 

士道の身体は戦兎に押され、横へ倒れた。

それとほぼ同じタイミングで、さっきまで士道達が立っていた位置に、一条の黒い光線が通り抜けた。

 

「あ、あっぶなっ!?」

 

「お、おい!あぶねーじゃねーか!」

 

驚き、戦兎と万丈の顔が歪む。あと少し遅れていたら、間違いなく三人もろとも塵と化していただろう。恐らく士道が幾ばくか被害の大きい状態で。

 

「ちょっ………!?」

 

そして間髪入れず、叫びを上げる暇なく黒い光の塊が、少女の掌で形成された。

 

「くそっ!まともに話す気ゼロかよ!?」

 

戦兎が軽く毒づき、三人揃って壁の後ろに隠れる。そして先ほどの例に漏れず、三人がいた位置に光の奔流が駆ける。それは後者の外壁もろとも破り、外へと伸びていった。

 

その後も、連続して黒い光球が放たれ、紙一重で躱すイタチごっこが続いた。

 

「ま、待ってくれ!俺たちは敵じゃない!」

 

随分と風通しの良くなった廊下から声を上げる。すると、士道の声が通じたのか、それきり光球が放たれる事はなかった。

ゴクリと喉を鳴らして、扉の無くなった教室の入り口に立つ。

だが、

 

「_____止まれ」

 

少女が凛とした、氷のように冷たい声音を響かせるのと同時に、士道の足元を光線が灼く。

少女が、次いで口を開いた。

 

「____お前達は、何者だ」

 

「っ………ああ、俺たちは____」

 

『待ちなさい』

 

と、士道が答えようとしたところで、琴里から何故かストップがかかった。

 

 

 

 

とーうとう始まったか…………

 

士道たちがいる学校の近くにある、建物の屋上で。

黄色と濃い紫の毒々しい色をした、蠍男がそこにいた。

 

まずは一人目………さぁてさて、どうなるのかなぁ………?楽しみだ………

 

男は茶色のバイザーを輝かせ、事の結末を愉しげに見ている。

 

精々楽しませてくれよぉ?………五河士道。さて、俺はしばらくここで見守るかねぇ

 

言うと男は、手元の銃に、()()()()()を装填した。

 

 

FULL BOTTLE……ERASER

 

EFFECT SHOT

 

 

トリガー引かれた銃は、銃口から白い煙を発する。

 

そしてそこには、まるで消しゴムで消されたように、蠍男の姿はどこにも見当たらなかった。たださっきまで男がいた空間が、何処と無く不自然に揺らめいていた。

 

 

 

 

フラクシナスの艦橋スクリーンには今、精霊の少女が映し出され、その周囲には【好感度】をはじめとした各種パラメータが配置されていた。

令音が顕現装置(リアライザ)で解析、数値化した、少女の精神状態が表示されているのである。

画面中央に、ウィンドウが表示される。

 

 

①『俺は五河士道。君を救いに来た!』

 

②『通りすがりの一般人だ!覚えておけ!』

 

③『人に名を訊ねる時は自分から名乗れ』

 

 

まるでギャルゲーのような選択肢が表示された。令音が操作する解析用顕現装置(リアライザ)と連動したフラクシナスのAIが、精霊の心拍や微弱な脳波、精神状態を観測し、瞬時に行動パターンを表示するシステムだ。

 

「まずは士道からね。総員、五秒以内に選択っ!」

 

クルー達が一斉にコンソールを操作する。その結果は、すぐに琴里のディスプレイに表示された。

 

「成る程___大体、みんな私と同じ意見のようね」

 

 

 

 

「………お、おい、何だってんだよ……」

 

いきなり言葉を制止された士道は、気まずい空気で立ち尽くしていた。

 

「…………もう一度聞く。お前は、何者だ」

 

少女が苛立たしげに言い、目を尖らせる。

その時、ようやく士道の耳に琴里からの声が聞こえた。

 

『士道。聞こえる?私の言う通りに言いなさい。《人に名を訊ねる時は自分から名乗れ》』

 

「人に名を訊ねる時は自分から名乗れ______って、何言わせてんだよ!?」

 

だが、時すでに遅し。その声を聞いた途端少女は不機嫌そうに顔を歪め、今度は黒いエネルギー弾を放った。幸いにも士道から少し離れた位置に当たったが、その衝撃波で遠方に三人もろとも飛ばされた。

 

「………いってぇ………っ」

 

『あれ、おかしいな』

 

「おかしいなじゃねえ………殺す気か…………っ」

 

「お前馬鹿か!?あんなこと言ったらキレるに決まってんだろうが!」

 

「今のは俺じゃなくて琴里の差し金だ!つか万丈に馬鹿とは言われたくねえよ!」

 

「二人とも落ち着けって!今それどころじゃないから!」

 

二人の口論を戦兎が宥める。すると。

 

「_____これが最後だ。答える気が無いなら、敵と判断する」

 

士道の机の上から、少女が言ってくる。士道は慌てて口を開いた。

 

「お、俺は五河士道!ここの生徒だ!敵対する意志はない!」

 

「俺もここの生徒の桐生戦兎。で、こっちが万丈龍我だ。こっちも敵対するつもりはない」

 

士道よりかは幾ばくか落ち着いた様子で戦兎も答える。少女は訝しげにしながら、士道の机から降りた。すると、何かに気付いたように、「ぬ?」と眉をあげた。

 

「お前達、一度会ったことがあるな………?そっちのは知らんが」

 

そっち、というのはおそらく万丈の事だろう。

 

「あ、ああ。今月の、確か、十日に街中で」

 

「おお」

 

少女は得心がいったように小さく手を打つと、姿勢を元に戻した。

 

「思い出したぞ。何やらおかしな事を言っていた奴と、そっちは変な化け物に向かって、変な半分こ怪人に変身して戦っていたやつだ」

 

「ちょっ!半分こ怪人はないでしょ!仮面ライダービルド!覚えといて!」

 

戦兎が抗議の声を上げるが、少女はスルーして士道の前髪をつかみ、顔を上向きにさせられていた。

 

「士道!」

 

「………殺すつもりがない、だと?見え透いた手を。言え、何が狙いだ。油断させて後ろから襲うつもりか?それともそいつに戦わせるつもりか?」

 

「っ!てめぇ!」

 

「待ってくれ……万丈、戦兎…………」

 

万丈が掴みかかろうとするのを、士道は制止する。

 

少女に対しての恐怖とか、そんなものよりも。

 

少女が、士道の言葉を、微塵も信じられなかったというのが。

 

信じる事すら、出来ないような環境にいたという事が。

 

どうしようもなく、悲しくてたまらなかった。

 

「_____人間、は…………ッ」

 

感情に任せて、士道は声を発した。

 

「お前を殺そうとする奴らばかりじゃ………ないんだッ」

 

「____嘘だ。私が会った人間達は皆、私は死ななければならないと言っていた」

「そんな訳………あるか!」

 

「…………」

 

少女は何も言わず、士道の髪から手を離した。半眼を作って口を結び、まだ士道の事が信じ切れないという表情になる。

 

「……では聞くが。私を殺すつもりがないなら、お前達は一体何をしに現れたのだ」

 

「っ、それは、君に、会うためだ」

 

「?何のためにだ」

 

「話を、するために………っ!」

 

『士道、落ち着きなさい。私たちの指示に………』

 

「待て。_____今は、士道の好きにさせてやれ」

 

インカムから士道を諌める琴里の声が聞こえるが、戦兎がそれを制した。

 

士道に考えなんてなかった。打算なんてなかった。

少女が見せた顔は。士道の大嫌いな表情だった。

 

この世の全てに絶望したような______自分が愛されるだなんて、微塵も思っていないようなその顔。

 

その顔が嫌だったから____士道は、喉を震わせて話した。

 

「内容なんか、無くたっていい。気に入らないなら、無視してくれたって構わない。けど、一つだけわかってほしい。俺は………っ!」

 

この少女には、手を差し伸べる人間なんて、誰一人いなかった。でなれけば、こんな顔を見せるはずがない。

士道には、父がいた。母がいた。妹がいた。友達がいた。

 

けど、彼女にはそのどれか一つでも、無かったのだ。

 

だったら____今この場にいる、士道が言うしかない。

 

 

「俺は_____お前を否定しないっ!!」

 

 

士道はだん、と足を踏みしめ、力強くそう言った。

 

「………………っ」

 

少女は眉根を寄せると、士道から目を逸らした。そしてしばし黙ると、小さく唇を開く。

 

「………シドー。シドーと言ったな」

 

「____ああ」

 

「本当に、お前は私を否定しないのか?」

 

「本当だ。それに、俺だけじゃない」

 

言うと、士道は戦兎達に視線を移した。

 

「………セントに、リューガといったな。お前達も、か?」

 

「当ったり前でしょ」

 

「おう」

 

「本当か?」

 

「「「本当だ」」」

 

「本当の本当か?」

 

「「「本当の本当だ」」」

 

「本当の本当の本当か?」

 

「「「本当の本当の本当だ」」」

 

士道達が息ぴったりに、間髪入れず答えると、少女は髪をくしゃくしゃとかき、ずずっと鼻をすするような音を立てると、顔の向きを戻してきた。

 

「_____ふん。誰がそんな言葉に騙されるか。ばーかばーか」

 

「は?」

 

急に眼前の少女のボギャブラリーが小学生並みになった事に、戦兎は首を傾げた。

 

「っ、だから、俺たちは____」

 

「……だがまあ、あれだ」

 

少女は複雑そうな表情を作ったまま、続けた。

 

「どんな腹積もりがあるかは知らんが、まともに会話しようという人間は初めてだからな。……この世界の情報を得るために少しだけ利用してやる」

 

「………は、はあ?」

 

「話くらいしてやらんこともないと言っているのだ。そう、情報を得るためだからな。うむ、大事。情報超大事」

 

何やら自分に言い聞かせるように言いながらも、士道の目には、少女の表情がほんの少し和らいだ気がした。

 

「そ、そうか……」

 

「なあ、これ、上手く行ったんじゃね?」

 

「そう、みたいだな」

 

二人の目から見ても、少女の顔が少し和らいだように見えた。

とりあえず、ファーストコンタクトは成功したとみていいだろう。

 

「ただし、不審な行動を取ってみろ。お前たちの身体に風穴を開けてやる」

 

「………オーケイ、了解した」

 

「………ぬ?そういえば」

 

すると、少女が何かに気づいたように眉をひそめた。

そしてしばし考えを巡らせるように顎に手を置いた後、

 

「………そうか。会話を交わす相手がいるなら、必要だな」

 

そう頷いて。

 

「シドー、セント、リューガ。_____お前は、私をなんと呼びたい」

 

「「「………は?」」」

 

言っている一瞬理解できず、問い返す。

 

「私に名をつけろ。どうせ、お前たち以外と会話をする予定はない。問題なかろう」

 

「「「……………」」」

 

しばし沈黙し、そして。

 

 

「「「(______お、重てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!)」」」

 

 

三人揃って、心中で絶叫した。

三人共今までの人生において、人に名前を付けた経験など皆無である。いきなりぶち込まれた難題に、三人はどう答えるべきか頭を巡らせた。

 

すると、万丈のインカムから琴里の声が聞こえてくる。どうやら彼女の名前についてのようだ。

 

『そうね………彼女には古式ゆかしい名前が似合うと思うから………トメ』

 

「トメ!お前の名前はトメだ!」

 

万丈が言った瞬間、万丈の近くにあった机と椅子が光弾で消し飛んだ。どうやらよほど嫌だったらしい。

 

「あっぶね!ちょ、何すん…………ってああ!俺の机!」

 

「何故だか分からないが、無性に馬鹿にされた気がした」

 

「ごめんなー、この馬鹿が。おい万丈、冷静に考えりゃそれはないって分かるでしょうが」

 

「うるせえな!仕方ねえだろ急に言われたんだから!」

 

いや、流石にトメはねえわ。全国のトメさんには申し訳ないが、流石に現代の女の子に付ける名前じゃない。あと、自分の妹のセンスが、若干心配になった。

 

「せ、戦兎は何かないのか?」

 

「俺?うーん………………あやか?」

 

「むぅ?悪くはないが………シドーはどうだ?」

 

「お、俺?」

 

十香が士道に訊いてくる。

まあそもそも、出会い頭にいきなり名付け親になれと言われるなんて露ほども予想していなかった。心臓を押さえ込みながら、必死に考える。

名前名前名前…………知っている女性の名前が頭を掠めては消えていく。

 

困りに困った士道は、ついに口を開いた。

 

「__________と、十香(とおか)

 

「ぬ?」

 

「ん?」

 

「お?」

 

「ど、どう………かな?」

 

「……………」

 

少女はしばらく黙ると…………

 

「まあ、いい。トメよりはマシだ」

 

士道は見るからに余裕のない苦笑を浮かべて、後頭部をかいた。

 

だが、やはり()()()()に初めて出会ったから十香、というのは安直すぎただろうか。

 

「(きっと四月十日で十香、でよかったんだろうかって思ってるんだろうな………ま、別にいいか)」

 

「それで_____トーカとは、どう書くのだ?」

 

「ああ、それは____」

 

士道は黒板まで歩くと、チョークを手にとって『十香』と書いた。

 

「ふむ」

 

少女は小さく唸ると、士道の真似をするように指先で黒板をなぞる。結果、黒板は綺麗に削り取られ、『十香』の二文字が記されていた。

 

「あちゃー………」

 

「なんだ?」

 

「………いや、なんでもない」

 

「そうか」

 

少女はそう言うと、しばし自分の書いた文字をじっと見つめた。

 

「シドー、セント、リューガ」

 

「な、なんだ?」

 

「十香。私の名だ素敵だろう?」

 

「うん、いいんじゃないの?十香」

 

「だな。十香」

 

「うむ!」

 

戦兎と万丈に呼ばれると、満足げに頷く。そして十香は、士道の方へと向き帰った。

 

「シドー」

 

「と、十香………」

 

士道がその名を呼ぶと、十香は満足げに唇の端をニッと上げた。

 

「………っ」

 

心臓がドクンと跳ねる。

そういえば、今初めて、彼女の笑顔を見た。

 

初めて見た十香の笑顔は、とても素敵なものだと、そう思えた。

が、その時。

 

「えっ………?」

 

「士道、万丈、伏せろっ!」

 

突如、凄まじい爆音と振動が校舎を襲う。

戦兎に抑えられ、即座に床に伏せた。

 

次の瞬間、ガガガガガガガガガ_____と、けたたましい音と共に教室の窓ガラスが割れ、向かいの壁に幾つもの銃痕が刻まれた。

 

「な、なんだこりゃ………っ!」

 

『やられたわね………ASTが動き出したわ。恐らく精霊をいぶり出すために、校舎ごと潰して隠れ場所を無くすつもりよ』

 

士道達のインカムに、琴里の苦虫を噛み潰したような声が聞こえる。

 

「な、そ、そんな無茶苦茶っ!」

 

『今はウィザードの災害復興部隊がいるからね。顕現装置(リアライザ)を使えば、すぐに直せるわ』

 

「ちょっと待って!顕現装置(リアライザ)ってやつは、そんなのも出来るの!?」

 

「今はそれどころじゃねえだろ戦兎!」

 

すると、かつて内壁があった場所から、ASTの姿が見えた。手には重火器の様なものが見える。

 

「おめえらか!おい、危ねえじゃねえか!」

 

万丈が怒気を孕んだ声で叫ぶ。すると、ASTがこちらの存在を確認したのか、隊長格の女性が声を上げた。

 

「あなた達!そこで何をしているの!_____って、そこにいるのは、前の仮面の…………」

 

すると、女性が戦兎に視線を止めた。

 

「…………悪いことは言わないわ。今すぐそこから離れなさい」

 

女性に呼びかけられると、戦兎は一つ息を吐いて言った。

 

「俺が離れたら、十香達が狙われるんだろ?_____なぁ?鳶一さんよ?」

 

「鳶一…………何で…………!」

 

士道の疑問の声に答えず、鳶一は戦兎に答える。

 

「私たちは精霊を倒さなければならない。精霊とは災害。そこにいるだけで被害を生む、人ならざる力を持った化け物。私たちの目的は、あくまでもその精霊とアンノウン。あなた達を巻き込むのは本意ではない。だから、早く_____」

 

「ふざけんじゃねえっ!!」

 

鳶一が言い終わるより前に、万丈が堪えきれない様子で叫んだ。

 

「力を持つから化け物だ……?そんな訳ねえだろぉっ!!力を持つ事が化け物になるってんなら、俺や戦兎だって、何ならお前らだって、その化け物じゃねえのかよっ!!………俺は難しいことは分かんねえし、お前らのやってる事だって、誰かの為にやってるのかも知れねえ。けどなぁっ!自分たちと違うからって、そやって一括りに殺そうとすんのは、間違ってんじゃねえのかよっ!!」

 

「万丈………」

 

「……あの馬鹿……」

 

戦兎は苦笑しつつも、万丈の言った事に賛同していた。

 

ただ、そこにいるだけで。それだけで死んでいい人間なんて、いていいはずがない。まして、自分の名前を与えられ、こんなに喜ぶような、無垢な少女が、傷付く道理があっていいはずがない。

 

しかし鳶一は、あくまでも淡々と告げる。

 

「あなたの言っていることは詭弁でしかない。精霊が被害を生むのなら、それを排除するのがASTの使命」

 

「てめえ………」

 

万丈が一歩足を出した、その時。

 

『士道、戦兎、万丈!離れて!』

 

「何?」

 

琴里から指令が入った途端。

 

 

「グルルルァァァッ!!」

 

 

「っ!スマッシュ!?」

 

隣の壁を突き破り、スマッシュが突撃してきた。士道達には目もくれず、十香目掛けて一直線に迫ってくる。

 

「ったく、このタイミングで来るかよ普通……っ!」

 

毒づきながらも、戦兎はパワーを上げるゴリラフルボトルを握り、スマッシュを吹き飛ばす。

 

「大丈夫か?十香」

 

「う、うむ。それよりも、セントは大丈夫か?」

 

「ああ。これがあるからね」

 

言って、フルボトルを見せる。そして、万丈と共に姿勢を改めた。

 

「………スマッシュは俺に任せろ」

 

「オーケー。んじゃ、あいつらは俺が足止めするよ。これで浄化、よろしく」

 

言って、戦兎はエンプティボトルを万丈に渡す。そして、二人は懐からビルドドライバーを取り出し、腰に巻きつけた。

 

「……理解できない。何故あなたは、精霊を庇うような真似をするの。先の行動だって、精霊の戦闘力を考えれば庇う必要がなかった」

 

「そんなの、決まってるでしょ」

 

当然、と言わんばかりに、戦兎は自分の信念を言う。

 

 

愛と平和(ラブ&ピース)の為。誰もが笑えるようになる為さ

 

 

どれだけ困難になっても、戦兎が忘れたことのない、その確かな信念。そのために、戦兎は戦う。仮面ライダーとして。

 

「士道、こっちは任せて、お前は十香とちゃんと話してろよ」

 

「っ!あ、ああ!十香、続けよう!あんな奴ら、気にすんな!」

 

「う、うむ……。しかし、セントは大丈夫なのか?同胞に攻撃されて……」

 

「大丈夫さ。なんせ俺は………ナルシストで自意識過剰な、正義のヒーローだからな」

 

「正義の、ヒィロォ……?」

 

十香に向けて最後に笑いかけると、戦兎はポケットから、先日入手したボトル………【タカフルボトル】と、【ガトリングフルボトル】を取り出し、万丈は、先の戦いの後、消失してしまったグレートドラゴンエボルボトルの代わり………否、本当の万丈のボトル、【ドラゴンフルボトル】を取り出し、内部成分、【トランスジェルソリッド】を刺激、活性化させる。

 

そして、充分に活性化させたそれを、戦兎はビルドドライバーに、万丈はクローズドラゴンに挿した。

 

 

タカ!ガトリング!

 

BEST MATCH!

 

【Wake Up!CROSS-Z DRAGON!

 

 

待機音が流れると共に、【ボルテックレバー】を回し、【ボルテックチャージャー】でエネルギーを生成する。すると、戦兎達の前後に、高速ファクトリー【スナップライドビルダー】が展開した。

 

 

【【Are You Ready?】】

 

 

『変身ッ!!』

 

 

ファイティングポーズを決め、一言叫ぶ。スナップライドビルダーは二人の体を挟み込み、生成したアーマーを装着した。

 

 

【天空の暴れん坊ッ!ホークガトリング!!イェーイッ!!】《/b》

 

【Wake Up Burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!!】《/b》

 

 

変身が完了し、ビルドはASTの部隊へ、クローズはスマッシュへと向き変える。

 

「戦兎、万丈………頼む」

 

「ああ。ちゃんと、十香をデートに誘えよ?」

 

「っ!ああっ!」

 

ビルドは小声でそう呟くと、タカアーマーの装備、【ソレスタルウイング】を展開し、ASTの部隊へと飛び込んでいった。

 

 




いかがでしたか?
ネオディエンドライバーを予約しようとして回線切れて、再び戻ったら既に予約が終わっていたショックで、今回は少し長くなりました。(謎)
そういえばジオウ、ブレイド編に入りますね。ケンジャキはともかく、カリスまでオリキャスで出るとは思わなかった………オエージの時といい佐藤健の時といい、東映こういうサプライズ好きですねありがとございます。

他にも龍騎の事とかシノビの事とか話したいですが、今回はここまで。

よければ感想や高評価、お気に入り登録をよろしくお願いします!

第9話 デッドアライブ(Dead Or Alive)なデート をお楽しみに


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第9話 デッドアライブ(Dead Or Alive)なデート

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!精霊の存在を知り、士道と万丈と共に、あの精霊の少女をデレさせるため、学校へと向かい!なんとASTを敵に回して戦うこととなった!」

士道「俺これから学校で鳶一と会う時めっちゃ気まずいんだけどどうすりゃいいの?」

桐生「まあそこはあれよ。…………………がんばれ」

士道「うわ誤魔化した!」

万丈「てか感想でも言われてたけどよ、俺のグレートクローズの説明杜撰すぎんだろ!まともに触れてんのあらすじ紹介だけじゃねえか!」

桐生「馬鹿お前言わなけりゃバレなかったのに!なんで言っちゃうの!」

士道「いやもうバレてるよ!読者さんの九割にもうバレてるよ!」

万丈「感想で『グレートクローズどうしたんですか』って言われちゃってんだよ!」

桐生「だーもうっ!そこら辺今回説明するから!あらすじ紹介が終わっちまう!と、ということで、どうなる第9話!」






「………そりゃ、そうだよな。普通に考えりゃ休校だよな………」

 

士道は後頭部を掻きながら、瓦礫とかした学校の前にいた。

士道が精霊十香と会い、名を付けた次の日。

普通に考えれば昨日の惨状で休校になる事は分かるはずだったが、何となく、いつも通りに登校してしまったのである。

 

戦兎達がASTやスマッシュと戦っている間、士道は十香と存分に話すことができた。内容はなんて事のないものである。十香が知らないことを質問し、士道が答える。そんな取り留めのない会話でも、十香はとても嬉しそうに笑った。

その後はラタトスク機関員に後押し、というか、はやし立てるようなコールに後押しされて、十香とデートの約束をすることが出来た。が、その直後に十香は消えてしまった。琴里によると、消失(ロスト)と呼ばれる現象らしい。その後は時を同じくして万丈がスマッシュを倒し、戦兎がASTを撤退させたようだった。ずっと空に飛んでいたからか、戦兎が最初フラフラしていた。

その後は合流した後にフラクシナスに収容され、夜にずっと録画ビデオで反省会をさせられていた為、寝不足で思考力が落ちていたというのもあるかもしれない。

 

「やっぱ戦兎の言う通りだったか………」

 

戦兎も朝呼びに電話したのだが、「どうせ今日は休みでしょ」と言って、とっとと電話を切ってしまったのだ。何か電子音が聞こえたので、発明品を創っているのだろう。ちなみに万丈はそもそも電話に出なかった。

 

『キュルッキュルィ〜!』

 

「ちょ、お前なんだよっ」

 

すると、鞄から昨日戦兎に貰ったロボット、『アライブガルーダ』がからかうように周囲を飛び回る。昨日はなんの疑問も抱かなかったが、これ何気に凄いアイテムかもしれない。こんな小さくて自在に飛び回るロボットなんて見た事無いし。天才と自称するだけのことはあるということだろうか。

取り敢えずは、家とは違う方向へと向きを変える。ガルーダも士道に追従するように、周囲を飛んでいた。

 

「さて、どうすっか。確か、卵と牛乳切れてたよな?」

 

このまま帰るのも何なので、どこかスーパーにでも寄って帰ろうとして、しかし士道は再び足を止めた。

 

「っと、通行止めか」

 

『キュルゥ』

 

だがそんなものいらないと言わんばかりに、その道が通行できないことは容易に知れた。

アスファルトの地面は滅茶苦茶に掘り返され、ブロック塀は土塊のように崩れ、雑居ビルは模型のジオラマか何かのように崩落している。まるで戦争でもあったような有様だ。

 

「______いや、あったな。戦争みたいな事」

 

『キュル?』

 

この場所には見覚えがあった。初めて十香にあった空間震現場の一角である。

まだ復興部隊が処理をしていないのだろう。その惨状は十日前と全く同じ状態だった。

 

「…………ドー」

 

頭の中で少女の姿を思い出す。

 

______十香。昨日まで名前を持たなかった、精霊と、災厄と呼ばれる少女。

 

昨日、前よりもずっと長く話して______その予感は確信に変わった。

確かにあの少女は、普通では考えられない、人外じみた力を持っている。国家機関が危険分子と判断するのも、理解できる。今目の前にある光景が、何よりの証拠だ。

 

けど、それ以上に。

あの子が、いたずらに力を振るうような、思慮も慈悲もない、鳶一の言う化け物とは、到底思えなかった。

 

「………い、………ドー」

 

昨日、万丈が叫んだ言葉を思い出す。

 

 

_______力を持つから化け物だ………?そんな訳ねえだろぉっ!!

 

 

そうだ。力を持つから化け物になるなんてこと、ある訳がない。

そう言われて、あの少女は士道の一番嫌う、鬱々とした顔を作っている。それが悲しくて仕方なくて、どうしても許容できなかったのだ。

 

「おい、シドー」

 

………まあ、そんな事を朝から考えていたから、気づいたらこうして学校まで歩く羽目になってしまったわけなのだが。

 

『キュルッ、キュルッ』

 

「ん?どうしたんだよガルーダ」

 

すると、ガルーダが服の裾を摘んで、何かを訴えるように鳴いた。

と、その時。

 

「…………おい、無視をするなっ!」

 

「えっ?」

 

視界の奥______通行止めエリアの向こうからそんな声が響いてきて、士道は首を傾げた。

凛とした、美しい声。確か………昨日にも、同じ声を聞いたような気がする。

………今、絶対に聞こえるはずのない声。

 

「え、ええと______」

 

士道は自分の記憶と今しがた響いた声を照合しながら、その方向へ視線を向けた。瞬間、身体が硬直する。

 

視線の先の、瓦礫の山の上。

 

そこに、明らかに現代社会では似つかわしくないドレスを纏った少女が、ちょこんと屈みこんでいた。

 

「と…………十香っ!?」

 

「ようやく気づいたか。ばーかばーか」

 

そう、士道の脳か視覚に異常が無いなら、その少女は紛れもなく、昨日士道達が学校で会った少女、十香だった。

背筋が凍るほどに美しい貌を不満げな色に染めた少女は、トン、と瓦礫の山を蹴ると、かろうじて原型を残しているアスファルトの上を辿って士道の方へと進んできた。

 

「な、何してんだ、十香……」

 

「ぬ?なんだと言われてもな…………お前から誘ったのだろう?シドー。そう、()()()とやらに」

 

「なっ………」

 

『キュルキュルー!』

 

こともなげに言い放った十香に、士道は肩を震わせた。

ガルーダはまたも士道をからかうように、奇妙な鳴き声を鳴らして周囲を飛び回った。

 

 

 

 

「あー…………流石に徹夜はしんどいなぁ……………」

 

学校で精霊____『十香』と邂逅した次の日。遅めに起きた万丈は戦兎の部屋でいつも通り筋トレをして、戦兎は机の上で項垂れていた。昨日の説明の後も、戦兎は自室で強化アイテムの修理に取り掛かっていたので、大分寝不足なのである。まあそのお陰で、なんとかスパークリングは修理の目処が立ちそうなのだが。

ちなみに戦兎と万丈はそれぞれ隣の部屋に住んでおり、大抵万丈は戦兎の部屋に居座ることが多い。

 

「って、んなこと言ってる場合じゃなかった。おーい、万丈?」

 

「ん?なん、だ、よっ……ふっ」

 

戦兎が声をかけると、万丈は腕立てをやめて戦兎の方へと向き返った。

 

「お前、結局グレートクローズのボトルどうなったんだよ?」

 

「あぁ?だから言っただろ。()()()って。あったら昨日使ってるっつーの」

 

「だよなぁ」

 

言って、戦兎は所持しているボトルを並べる。

 

万丈が所持していた、【グレートドラゴンエボルボトル】。

この世界に来てから、初めてスマッシュと戦闘した後、そのボトルは綺麗さっぱりと消失してしまったのであった。

戦兎は万丈から聞いただけでその光景を見ていないのだが、どうやら光の粒子になりながら消えたらしい。

だからこそ、昨日のスマッシュとの戦闘では、通常のクローズで戦っていたのだ。

 

「つーかよ、なんでボトルが消えたんだ?」

 

「………考えられる可能性は………ここが、エボルトのいない世界だから」

 

「っ!なんだと?」

 

元々あの【グレートドラゴンエボルボトル】は、エボルトが万丈の身体に憑依した際に生成した【ドラゴンエボルボトル】を、万丈が奪って自身の思いによって変化させたボトルだ。

そしてそもそものエボルボトルは、エボルトが居たことで作られた物である。故に、ここがエボルトのいない世界だと仮定するなら、一応の辻褄は合うのだ。

 

「成る程な………まあでも、それはそれで良いじゃねえか。だって、それならエボルトがいねえってことだろ?」

 

「ああ。それはいい。けど………問題はそこじゃないんだ」

 

「?なんだよ」

 

「そもそも…………どうしてフルボトルが必要となるような…………スマッシュが現れたか、だ」

 

「………そういや、そうだな」

 

言って、戦兎はフルボトルを並べる。

いま手元にあるボトルは、【ラビットフルボトル】【タンクフルボトル】【ゴリラフルボトル】【ダイヤモンドフルボトル】【タカフルボトル】【ガトリングフルボトル】、そして昨日の戦闘で万丈が入手した、【ニンジャフルボトル】、そして万丈の持つ【ドラゴンフルボトル】を合わせて計八つ。

 

「変なのはそれだけじゃない、どうしてスマッシュを倒して成分を吸収した後、直ぐに浄化済みの状態になったか、だ」

 

「確か、浄化装置に入れて美空が居ねえとフルボトルになんなかったよな?」

 

「ああ。一体、どうして………」

 

再び考える。考えても考えても、より一層謎が増えるばかりだった。

すると、その思考を遮るように。

 

『♪♪〜〜』

 

「ん?電話?」

 

昨日の夜に新機能を追加したばかりのビルドフォンに、通話の着信音が聞こえた。『村雨令音』からだ。

 

「もしもし?」

 

『セイ、繋がってよかった。バジンはいるかい?』

 

「え?ああ、いますけど」

 

ちなみにバジンと言うのは、万丈の令音さんの呼び方だ。俺たちのと比べて二文字同じだからマシな方だろう。

 

『実は、君に頼みたいことがあってね_____』

 

 

 

 

数分後。天宮大通りのカフェにて。

 

「ほう、この本の中から食べたいものを選べばいいのだな?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「きなこパン。きなこパンは無いのか?」

 

「………や、流石に無いだろ。ていうか最初のパン屋の時食いまくってたじゃねえか」

 

「また食べたくなったのだ。一体なんだあの粉は……あの強烈な習慣性……あれが無闇に世に放たれれば大変なことになるぞ……人々は禁断症状に震え、きなこを求めて大戦が起こるに違いない」

 

「ねえよ」

 

『キュルゥ〜』

 

と、傍から見れば仲良さげな同じ学校の男女カップルと、男の肩に止まった珍妙な赤い鳥を見る、

 

「ふーん、仲好さそうじゃん。まさか、昨日の今日でとは思わなかったけど」

 

小洒落た店員姿の天才物理学者の姿があった。何故彼がこんな所でウェイターの真似事をしているのか。話は数分前にさかのぼる。

電話を受けた戦兎と万丈は、令音、及び琴里からの命令で、目の前の二人____五河士道と十香のデートを護衛するよう命じられたのだ。

護衛、といっても大したことではない。二人のデートが滞りなく進むよう計らって欲しい、との事だった。

最初は出歯亀のようで気が進まなかった戦兎も、渋々引き受けることにした。_____後で顕現装置(リアライザ)について教えるという約束を取り付けて。

ちなみに万丈は変装して外でビラ配りをしている。

 

「お?動いたか」

 

「……セイ、出番だ。それが終わったら、今度は彼らを遠目で見張っておいてくれ。バジンにも伝えておく」

 

「りょーかい」

 

後ろから令音の声が聞こえたので、レジへ向かう。ちなみにテーブルの上にある皿は、あれ払えるかと一瞬不安になる量だった。

 

「お会計お願いします」

 

と、こちらに気付いていないのか、何とはなしに財布からお金を出す士道。

 

「ほーいお預かりしまーす」

 

「…………ッ!?」

 

そこでやっと戦兎の姿を認識したのか、盛大に眉をひそめ、一度目を擦り、再び目を見開いて、一歩下がった。まあ店員が同級生だったら驚くだろうが、今その反応はされると困る。

一瞬士道を睨み付け、チョイチョイと手招きした。

 

 

↓以下、パントマイムでお送りします。

 

「(頼む、から、十香に、悟られる、なよ!)」

 

「(お前、何、してるん、だよ!」

 

「(令音さん、から、頼まれた、の!サポート、しろって!)」

 

「(デートを、続行、しろって、ことか?)」

 

「(そうだ!取り敢えず、ここは、あくまで、店員と、客、という体で、頼む!)」

 

「(………分かった)」

 

 

パントマイムによる意思疎通終了。即興で合わせてくれた士道に感謝しつつ、戦兎は何事も無かったように会計を済ませた。ちなみに十香は頭の上に疑問符を浮かべていたが、特に気にした様子はなかった。

 

「こちら、お釣りとレシートです」

 

士道に手早くレシートと釣り銭を渡し、次いでレジ下の引き出しからカラフルな一枚の紙を取り出し、士道に手渡す。

 

「こちら商店街の福引券となっております。この店を出て、えーと、右手道路沿いに行った所に福引き所がありますので、()()()()()()()()()()()()

 

うん、頼まれた通り場所を説明して後半をはっきりと伝えた。ちょっと棒読み臭くなったがいいだろう。……分かってる、わかってるから士道、そんな微妙な顔になるな。悟られるだろうが。

 

「シドー、それは何だ?」

 

すると、十香が興味津々で福引券を見てきた。よし、食いついた。

 

「行ってみるか?」

 

「シドーは行きたいのか?」

 

「………ああ、行きたくてたまんねー」

 

「では行くか!」

 

『キュルキュルー』

 

十香が大股で元気よく店から出て行き、ガルーダが追うようにヒラヒラと飛んでいく。それを士道が追いかけて出るのを見て、俺はレジから離れて服を着替えた。途中でまた士道の驚いたような声が聞こえたが、気にしないでおこう。さて、万丈にも動くよう言わないと。

 

 

 

 

「……………で、なんで初デートでいきなりホテルに直行するようなプランにした訳だ司令官さんよお?」

 

『………いけると思ったのよ』

 

「んな小学生みたいな言い訳を………」

 

さらに数分後、戦兎は自分を保護している組織の司令官に突っ込んでいた。

理由は簡単、例の福引所で当たった、というか当てさせた景品が、『ドリームランド』とかいう大人のホテルの無料ペアチケットという代物だったからだ。尾行しておいてよかった。

 

「付き合ってるわけでもない男女が初デートでいきなりホテルに行くなんて事あるか。幻さんじゃあるまいし」

 

『幻さん?』

 

「いや、何でもない」

 

紗羽さんによると初対面で『朝までホテルで語ろうか』と言い放ったというかつての仲間、氷室幻徳の事をつい思い出した。まさかこの世界に来て同じことを間接的にしようとする人がいたとは。

というかちょっと待て。先日十香の名付けの際、彼女は事もあろうに『トメ』などと言う名前を付けようとしていなかったか?

 

まさか、と不穏な考えが頭を過ったが、振り払って琴里と話す。

 

「とにかく、初デートであれば無理がある。今度はもっとまともなやつにしてくれ。こっちも身が持たん」

 

『分かってるわ。ほら、見失わないで。移動したわよ』

 

「あっ、いけね。…………本当に頼むぞ?」

 

きちんと言い含めて、通信を切る。万丈と合流した俺は、二人で尾行を再開した。ちなみにいつもの服装だとバレるので、俺は目立たないシャツにジーンズ、万丈はメガネと付け髭に紳士服という出で立ちだった。………いやちょっと待て。

 

「万丈、お前なんだよその格好」

 

「あ?変装にはメガネとつけ髭は基本だろうが」

 

「いや前から思ってたけどそれかえって怪しいだけだからな。細かなところで馬鹿を露呈しないの」

 

「馬鹿ってなんだ!筋肉つけろ筋肉」

 

と、いつものやり取りを挟みつつ、士道達の様子をうかがう。二人とも付かず離れずの距離で、士道の方はどこかぎこちなさそうにしていた。

するとその様子を見た万丈が、ため息混じりに言う。

 

「ったく情けねえな。デートっつったら男から手を引くもんだろうが」

 

「お、何だ。万丈にしちゃやけにまともなこと言うじゃないか」

 

「うっせ。………まあ、一応彼女いたしな」

 

「あ…………」

 

そうだ。万丈は既に______

 

「…………すまない」

 

「いや、気にしてねえよ」

 

そう言った万丈の目は、どこか悲しそうにも見えた。

小倉香澄………スマッシュの人体実験によって、ドラゴンフルボトルを遺して消滅してしまった万丈の恋人。今でも、彼女の事を忘れていないのだ。ずっと、心の中で留めている。

 

「(………余計な話は、するべきじゃなかったな)」

 

心の中で後悔しつつ、士道達の方を見る。士道達が手を繋いでる光景が見えた。周囲に見覚えのある人がいるあたり、おそらくラタトスクの差し金だろう。

 

『戦兎』

 

すると、耳元のインカムから琴里の声が聞こえた。

 

「ん?どうした。尾行ならちゃんとしてるぞ?」

 

『そうじゃないわ。今士道達のいる位置から近いところで、スマッシュの反応があったわ』

 

「っ!このタイミングで!?」

 

『ええ。その上、士道達の半径一キロ圏内に、ASTの反応もある………まずい事態よ』

 

確かにまずい。スマッシュが来るタイミングも最悪だし、何よりAST。恐らくはどんな手段を使ってでも、十香を精霊として始末しようとするだろう。それこそ、遠距離からスナイパーライフルか何かで狙撃すれば終わることだ。

 

「分かった。ASTの方は俺がなんとかする。万丈、スマッシュの方頼めるか?」

 

「おう、任せとけ!」

 

「という訳だ。スマッシュとASTの位置情報を教えてくれ」

 

『分かったわ。くれぐれも頼むわよ。二人の尾行は他のメンバーに頼むわ』

 

その後、二人はそれぞれ別の方向へ、駆けて行った。

 

 

 

 

時刻は十八時。

天宮駅前のビル群に、オレンジ色の夕日が染み渡る。そんな最高の絶景を一望できる高台の小さな公園を、少年と少女が二人、歩いていた。あとその側に、何やら珍妙な赤い鳥のようなナニカが一体。少年の方は問題ない。問題は、少女の方だ。

 

「_____存在一致率九十八.五パーセント。さすがに偶然とかで説明できるレベルじゃないわね」

 

精霊。

世界を殺す災厄。

三十年前この地を焦土とし、五年前にはこの町を大火に包んだ化け物。

しかし、今燎子の網膜に映るその姿は、どこからどう見てもただの可愛い女の子だったのである。

 

「狙撃許可は」

 

と、静かな声音が聞こえた。折紙だ。

燎子と同じくワイヤリングスーツにスラスターユニットを装備し、右手には自分の身長よりも長い対精霊ライフル《クライ・クライ・クライ》を携えている。

 

「……出てないわ。待機してろってさ。まだお偉い方が協議中なんでしょ」

 

「そう」

 

安堵した様子も落胆した様子も見せず、折紙が頷く。

今精霊の一キロ圏内には、燎子をはじめとするAST要員が十人、五班に分かれて待機していた。二人がいるのも、そのポイントの一つだ。公園からさらに離れた、開発中の土地だ。昼間はトラックやらクレーンが列を作って騒音を鳴らしているが、夕方ともなるともう静かなものだった。その上アンノウンの反応も感知されたこともあって、数名がその排除へと向かっている。

 

しかし、現段階ではまだ、重役達は対応を協議している途中であった。攻撃を仕掛けるか、否か。

空間震を観測できない、言わば静粛現界であったため、空間震警報は鳴っていない。つまり住民は誰一人として避難しておらず、今精霊が暴れだすと周囲に甚大な被害が出るのである。

かといって警報を鳴らせば、精霊を刺激することにもなる。この上なく嫌な状況だった。

しかし______

 

「____っ!なんですって?………了解」

 

燎子は一瞬驚くと、短く答えて交信を終了した。

 

「……驚いた、狙撃許可が下りたわ。折紙、あんたが撃ちなさい」

 

「了解」

 

その言葉に、やはり何の感慨も浮かべずに答えた。

 

「総員、実戦配備!…………?ちょっと、何があったの?誰か応答しなさい」

 

燎子は他の隊員にも交信を行なったがしかし、応える者は誰もいなかった。

 

「多分誰もこないと思うよ。今頃はスヤスヤ寝てるさ」

 

後ろから聞こえた声に、折紙と燎子は思わず振り返った。

そこに立っていたのは、先日戦闘を繰り広げた、仮面ライダービルド【ニンジャタンクフォーム】………多様性を重視した、トライアルフォームの姿だった。

 

「貴方は、昨日の……!」

 

「仮面ライダービルド。『創る』、『形成する』って意味のビルドだ。以後お見知り置きを」

 

葛城巧がビルドに変身した際の台詞を真似ながら、ビルドは自己紹介をした。手には先日修理を済ませた武器、【四コマ忍法刀】と、ガンモードの【ドリルクラッシャー】が握られている。

 

「あなたの仕業ってこと………!?」

 

「そ。念のため言っとくけど、気絶させただけだからね。何事も平和的解決が一番。だから………その物騒なもん、下げてくれると嬉しいんだけどな」

 

ビルドは言いながら、手元の四コマ忍法刀で、折紙の持ったライフルを指す。

 

「あなたの目的は何。何故、精霊を庇うの」

 

折紙は少し表情を歪ませながら、ビルドに訊いた。普段表情を滅多に変えない折紙がわずかでも歪んでいるのは、先日の戦闘でその実力をまざまざと見せつけられたからだろう。お陰で部隊は撤退にも追い込まれてしまった。死傷者がいなかったのが奇跡だ。

 

「二人のデートを邪魔しないようお節介を焼いてるだけだよ。ほら、人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやら、って言うじゃん。それに、あの子を撃ったら士道も悲しむと思うよ?………ま、そもそもそんな事、させねえけど」

 

「…………っ」

 

ビルドの挑発するような言葉に、一瞬言葉が詰まる。士道が悲しむのは、折紙としても本意ではない。

しかしその言葉を、折紙はASTに入った強い覚悟でもって跳ね除けた。

 

「嫌だと、言ったら?」

 

「まあ、ちょっと痛い目に合うかもしれないな」

 

言って、ビルドが忍法刀とドリルクラッシャーを構える。が、その瞬間。

 

「させないわよ!」

 

「え?うわっ、ちょっ!」

 

燎子が凄まじい速度で、ビルドに切り込んできた。すかさず忍法刀でガードの姿勢をとり、トリガーを三回押す。

 

 

風遁の術!竜巻斬り!

 

 

「くっ!」

 

忍法刀の剣先から、小規模な竜巻が発生する。ビルドも殺さないよう威力を調整していた。

しかし、その一瞬の隙が仇となる。

 

「今よ!折紙!」

 

「なっ!しまった!」

 

折紙はこのチャンスを逃さず、すかさず射撃体勢をとり、そして______

 

 

 

_______()()()()を、貫いた。

 

 

 

 




どうでしたか?デートってタイトルで書いたくせに、あまりデート描写が書けてなくてすいません。

戦兎の修理スピード遅くね?と思った人もいるでしょうが、序盤から強化アイテム出してもつまんねえだろという考えのもと、スパークリングあたりは結構後に登場しそうです。

次で十香デッドマッチは終わると思います。

次回、 第10話 プリンセスの笑顔 をお楽しみに。あ、ちょうど10話で終わってなんか語呂がいいな。

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これからも応援、よろしくお願いします!


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第10話 プリンセスの笑顔

桐生「精霊十香との邂逅を果たした、天っ才物理学者の桐生戦兎と!五河士道とついでに万丈龍我は!ASTとスマッシュと妨害を受けるも、何とか士道によって、デートの約束を取り付けることに成功!士道のデートの様子を、不本意ながら尾行するのだが………?」

万丈「おいついでってなんだよ!もっとマシな紹介しろよ!」

桐生「だってお前全然役に立ってなかったし、むしろ火に油注いでんじゃん」

士道「てか!前回の最後の描写には触れねえのかよ!俺撃たれてんだけど!?」

桐生「ん?って、うわぁぁぁっ!ゾンビだぁ!」

士道「んな訳あるか!とにかく、その真相が分かる、ちょっと長めの第10話をどうぞ!」

万丈「あ、最初は俺の視点からスタートな?」

士道「マジで!?」



士道が撃たれる、少し前。

 

「オリャァァッ!!」

 

「グゥォォァァッ!!」

 

戦兎がASTを足止めに行っている頃、万丈はスマッシュとの戦闘を繰り広げていた。相手は死角から攻撃を行ったりするなど攻撃方法が多彩であったが、ただのスマッシュならクローズの敵ではない。クローズが撃ち込んだ拳がスマッシュを捉え、吹き飛ばした。

 

「これで終わりだ!」

 

ボルテックレバーを握り、チャージャーを高速で回転させる。

すると、背後から蒼炎のエネルギー体、クローズドラゴン・ブレイズが現れ、足にも同じく蒼炎のエネルギーが宿る。

 

【Ready Go!】

 

機械音声が鳴ると同時に、クローズが前方へジャンプ。同時にドラゴンが火炎のブレスを吐き、その勢いのままスマッシュへとボレーキックを蹴り込む必殺技______

 

 

DRAGONIC FINISH!!

 

 

「ウォオリャァァァァァアッ!!!」

 

「グゥォォォァァアァッ!!!」

 

 

蒼炎を纏ったキックが、スマッシュの肉体に衝突する。

クローズの渾身のキックを受けたスマッシュは、断末魔をあげて爆散した。

 

「うっし。んじゃ、後はこれで………」

 

クローズエンプティボトルを取り出し、キャップを開けて成分を吸収した。粒子となって流れた成分はエンプティボトルへ行き、手元には黄色いボトル_____【コミックフルボトル】が生成された。

 

「………つーか、なんで俺も浄化できんだ?」

 

そう、戦兎と同様、万丈にもまた、ボトルの浄化能力が備わっていたのである。思えば、昨日のスマッシュとの戦闘の後、ボトルを浄化できたのも変だった。その時は深く考えなかったが。

 

「うーん…………考えてもわっかんねえ!取り敢えず戦兎と合流しねえとな………」

 

と、変身を解除するために、クローズドラゴンを抜こうとした、その時。

 

 

 

いやぁ………流石だなぁ…………

 

 

 

どこからか、粘りつくような声が聞こえた。

 

「っ!誰だっ!?」

 

慌てて周囲を警戒する。

すると、クローズの正面………さっきまでスマッシュがいた場所に、謎の影が揺らめいた。

 

そぉんなに声を荒げるなよぉ〜………怖いだろぉう?

 

気の抜けるようなひょうきんな声と共に、謎の影が姿をあらわす。

 

濃い紫色の身体に、茶色い管とアーマーと、黄色いバイザー。

そして胸にある、黄色い()のような紋章。

 

そして手には銃______まるで、トランスチームガンのような形をした銃が、握られていた。

 

「っ!てめえ、何モンだっ!!」

 

俺?俺かい?そうかそうだなぁ………何者か、と言われたら、果たして俺は何者なのか、はっきり分からないねえ…………んじゃあ、取り敢えず…………

 

一言置いて、名を言った。

 

 

_______マッドクラウン(狂った道化師)、とでも呼んでくれ。仮面ライダー、クローズ?

 

「っ、てめえ!なんで俺の事!」

 

まあまあ、細かい話はぁ?どうでもいいだろう………なぁっ!?

 

すると、いきなり目の前の男______マッドクラウンは、クローズに向かって射撃を仕掛けた。

 

「くっ………マッドだかハットだが知らねえが!とりあえずぶっ飛ばすっ!」

 

 

【BEAT CROSS-ZER!】

 

【ヒッパレーッ!】

 

【SMASH HIT!!】

 

 

ビートクローザーを取り出し、応戦する。しかし、相手はクローズの攻撃を避け、死角から攻撃を仕掛けてくる。

 

「ちっ!くそっ、当たらねえっ!」

 

ほぉらほらどうしたぁ?ぜぇんぜん当たらないぜぇ?ほいっ

 

「いってぇ!」

 

相手は余裕綽々とばかりに、クローズの頭にデコピンを打ってくる。そして、すかさず銃撃で距離を話す。

 

「のわっ!!ぐっ………」

 

これで、終わりだ

 

言うとマッドクラウンは、手元から()()()()()を取り出し、銃にセットした。

 

「っ!フルボトル!?」

 

 

【FULL BOTTLE……SHARK

 

 

【TRIGGER……】

 

 

【EFFECT BREAK】

 

 

マッドクラウンの銃が底から響くような重低音を出したかと思うと、鮫のような形をした巨大なエネルギーが、クローズめがけて放たれた。

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁぁああっ!!」

 

クローズは吹き飛ばされ、木にぶつかる。変身解除まではされなかったが、かなりの痛手を負ってしまった。

 

この程度かぁ……?んま、今日は挨拶ついでだ。精々よろしくなぁ?仮面ライダーよ………

 

「くそっ、待ちやがれっ!!」

 

言葉を残すと、マッドクラウンは身体の管から蒸気を出し、まるで溶けるかのようにその場から消えた。

 

「………くそっ!何なんだよあいつ………って、そうだ!戦兎と合流しねえ、と………」

 

また痛む身体を引きずりながら、クローズは戦兎の元へと向かった。

 

 

 

 

_____士道が撃たれる、数分前。

 

「おお、絶景だな!」

 

『キュルー!』

 

夕日に染まった高台の公園で、十香は柵から身を乗り出し、黄昏色の天宮の街並みを眺めていた。ガルーダも周囲を飛び回り、同意するように鳴き声を挙げる。

士道達はフラクシナスクルー達の巧み(?)な誘導によるルートを辿り、この見晴らしのいい公園へとたどり着いていた。

 

士道も、ここに来るのが初めてではない。寧ろ、この心安らぐ場所は、密かなお気に入りの場所でもあったのだ。

 

「____それにしても」

 

十香がうんと伸びをして、屈託のない笑顔を浮かべた。

 

「いいものだな、デェトというのは。実にその、なんだ、楽しい」

 

「…………っ」

 

不意に顔が赤くなるのを感じる。自分からは見えないが、真っ赤に染まっているのが分かる。

 

「どうした、顔が赤いぞシドー」

 

「い、いや、何でもねえよ」

 

「?そうか」

 

『キュル?』

 

士道は額に滲んだ汗を拭いながら、ちらりと十香の顔を見た。十日前、そして昨日、十香の顔に浮かんでいた鬱々とした顔は、随分と薄れていった。とても____可愛くて晴れやかな、悪くない顔をしていた。

 

「____どうだ?お前を殺そうとする奴なんて、いなかっただろ?」

 

『キュルキュル!』

 

「………うむ、みんな優しかった。正直に言えば、まだ信じられないくらいに」

 

「あ………?」

 

士道が首をひねると、十香は自嘲気味に苦笑した。

 

「あんなにも多くの人間が、私を拒絶しないなんて。私を否定しないなんて。_____あのメカメカ団、 ………ええと、なんといったか。エイ………」

 

「ASTのことか?」

 

「そう、それだ。街の人間全てが奴らの手の者で、私を欺こうとしていたと言われてたほうが真実味がある」

 

「おいおい………」

 

『キュル……』

 

流石に発想が飛躍しすぎていたが…………十香にとっては、それが普通だった。

 

否定され、され続けるのが当たり前。

 

そんなこと______あまりにも、悲し過ぎる。

 

「_____でも本当に、今日はそれくらい、有意義な一日だった。世界がこんなに優しくて、楽しくて、こんなに綺麗だなんて………思いもしなかった」

 

「そう、か____」

 

士道は、口元を綻ばせて息を吐いた。しかし、そんな士道とは対照的に、眉を歪めて苦笑した。

 

「あいつら____ASTとやらの考えも、少しだけわかったしな」

 

「え………?」

 

「私は………いつも現界する度に、こんなにも素晴らしいものを壊していたんだな」

 

「________っ!」

 

士道は、息を詰まらせた。

 

「で、でも、確かそれは、お前の意思とは無関係なんだろ………ッ!?」

 

今日のデートの時、聞いた。この世界にくるのは何かの外的要因によるもので、そこに十香の意思は介入しないと。

 

「………現界も、その時の現象も、私にはどうにもならない」

 

「なら_____」

 

「だがこの世界の住人達にしてみれば、破壊という結果は変わらない。ASTが私を殺そうとする道理が、ようやく、知れた。……リューガには悪いが、やはり私は、化け物なのだろう」

 

士道は、すぐに言葉を発せなかった。

十香の悲痛な顔に胸が張り裂けるような感覚を覚え、上手く呼吸ができなくなる。

 

「シドー。やはり私は………いない方が、いいな」

 

言って十香は_____笑った。

けどそれはさっきまで十香が見せていた、無邪気な笑みとは程遠かった。

まるで自分の死期を悟った病人のような______弱々しくて痛々しい、張り付いたような笑顔だった。

 

「そんなこと………ない。そんな訳…………あるか………ッ!」

 

士道は力を込め、グッと拳を握りしめた。

 

「だって………今日は空間震が起きてねえじゃねえか!きっといつもと何かが違うんだ…………っ!それさえ突き止めれば…………!」

 

しかし十香は、ゆっくりと首を振った。

 

「例えその方法が確立しても、不定期に存在がこちらに固着するのは止められない。現界の数は、減らないだろう」

 

「だったら…………ッ!もう、帰らなきゃいいじゃねえか!!」

 

士道が叫ぶと、十香は顔を上げて目を見開いた。そんな考えなど、全く持ち合わせてなかったように。

 

「そんなこと_____出来るわけが………」

 

「試したのか!?一度でも!」

 

「…………」

 

十香が、唇を結んで黙りこむ。確か琴里の説明では、精霊がこの世界にくる際に起こる余波が、空間震となるという話だった。

勢い余って出た言葉だが_______それが本当なら、この世界にずっといれば、それでいいのだ。

 

「で、でも。あれだぞ。私は、知らないことが多すぎるぞ」

 

「そんなもん俺がなんとかする!いや俺だけじゃない!戦兎や万丈もだ!」

 

「寝床や食べるものだって必要になる。きっと、迷惑になるだろう」

 

「それだってなんとかする!」

 

「予想外の事態が起こるかもしれない」

 

「そんなもん起きてから考えろッ!」

 

十香は少しの間黙り込んでから、やがて震えた声で、小さく唇を開いた。

 

「………本当に、私は生きてもいいのか?」

 

「当たり前だ!」

 

「この世界にいてもいいのか?」

 

「そうだ!」

 

『キュルキュル!』

 

十香の言葉に力強く答える。最後はガルーダも一緒になって答えていた。機械のくせに、やたらと感情豊かな奴だ。

 

「………そんな事を言ってくれるのは、きっとシドーやセント、リューガだけだぞ。ASTは勿論、他の人間だって、こんな危険な存在が、自分のいる空間にいたら嫌に決まっている」

 

「ASTだ……?他の人間だ………?そんなもん、知ったことかッ!!そいつらが十香!お前を否定するってんなら…………!

 

強く息を吸い、叫ぶ。

 

 

「それを超えるくらい俺がッ!お前を強く肯定してやるッ!!」

 

 

叫んで、士道は十香に手を伸ばした。十香の肩が、小さく震える。

 

「握れ!今は、それだけでいい………ッ!」

 

十香は顔をうつむかせ、数瞬の間沈黙した後、ゆっくりと顔を上げて、そろそろと手を伸ばしてきた。

 

「シドー______」

 

士道と十香の手が触れ合おうとした、その瞬間。

 

「_______」

 

士道は、とてつもない寒気を感じた。やるで、ザラザラの舌で全身を舐めまわされるような、途方もなく不快な感覚。

 

「十香!」

 

『キュル?』

 

ほぼ無意識のうちに、士道は十香の名を叫び_____

 

「…………っ」

 

思いっきり、両手で十香を突き飛ばした。

 

「_____________あ」

 

胸と腹の辺りくらいに、凄まじい衝撃を感じた。

 

「な、何をする!」

 

十香の声が聞こえる。______おかしい、よく聞こえない。

 

息が、できない。

意識と姿勢が、保っていられない。

 

途方もなく、気持ち悪い。

 

「_____シドー?」

 

十香の声が、聞こえない。

震える手を、なんとか脇腹にやってみる。

 

______あれ、おかしいな。

 

なんにも、な

 

 

 

 

「シドー………?」

 

名を呼ぶが、返事が無い。士道の身体には、十香の掌を広げたよりも大きい傷穴が、抉られたように空いていた。

意味が、わからない。

 

「シ____ドー」

 

十香は士道の隣に膝を折ると、その頰を突いた。

反応は、ない。

数瞬前まで十香に差し伸べていた手は、一分の隙なく血に塗れていた。

 

『キュルッキュルゥ………』

 

今日のデートですっかり聞き慣れた鳴き声のした方に、顔を合わせる。

そこには赤いメカ鳥____アライブガルーダが、士道の体を突いていた。そして、死んだ主人を労わるように、悲しげな鳴き声を出した。

 

「ぅ、ぁ、あ、あ________」

 

やがて、頭が理解し始める。

十香を突き飛ばした事。士道の身体に穴が空き、血が流れていること。辺りに、焦げ臭い匂いが立ち込めていること。

いつも、十香を殺そうとしてくる、ASTと言う奴らの仕業だろう。

 

「_______すま、ない」

 

『キュルッキュゥ………』

 

十香は途方もなく目眩を覚えながら、悲しげに鳴くガルーダを軽く撫で、虚空を見つめる士道の瞼を、そっと閉じてやった。

そして、着ていた制服の上着を脱ぐと、優しく士道の亡骸にかける。

 

「_______やはり、駄目だった」

 

あの時十香は、この世界でも生きられるかもしれないと思った。

士道がいてくれたのなら、なんとかなるかもしれないと思った。

きっとすごく大変で、険しくて難しいだろうけど、できるかもしれないと思った。

 

だけど_______やはり、駄目だった。

 

世界は_____やはり十香を否定した。

 

 

「______《神威霊装・十番(アドナイ・メレク)》…………ッ!」

 

 

瞬間。

世界が、啼き、空が、震えた。

 

空間が歪み、十香の身体に絡み付いて、荘厳なる霊装を創り出す。

 

そして_______災厄は、降臨した。

 

 

「ああ」

 

 

喉を、震わせる。

 

 

「あああああああああああああ」

 

 

天に響くように。

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああ_______________」

 

 

 

地に響くように。

自我が摩滅するような、焼き切れるような感覚。

 

「よくも」

 

目が、湿る。

 

「よくもよくもよくもよくもよくもよくもくよくもよくもよくもよくもよくもよくもくよくもよくも」

 

十香は剣を握る手に力を込め、その名を、叫んだ。

 

 

「《鏖殺公(サンダルフォン)》______【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】!!」

 

 

刹那、十香が足を置いていた玉座に亀裂が走り、バラバラとなって砕け散った。

そして、玉座の破片が十香の剣に纏わり付き、そのシルエットをさらに肥大化させた。全長10メートルはあろうかという、長大すぎる剣。

十香はそれを軽々と振りかぶると、士道を撃ち抜いた方向へと振り下ろした。

瞬間、凄まじい爆発が辺りを襲い、その一撃で以って、広大な台地を縦に両断した。

 

「やめろぉっ!!十香っ!!」

 

「よせ!十香!!」

 

二つの方向から声が聞こえる。後ろからは、息も絶え絶えな様子の万丈と、爆発を免れた戦兎の姿があった。その後ろには、無味な表情をした、士道を撃った女の姿もあった。

 

「セント、リューガ………すまない。私を庇ったばかりに、シドーが………」

 

「十香が悪いわけじゃない!だから、今すぐそれをやめてくれっ!お前がそんな事をするのを、士道は望んでいない!」

 

「止めてくれるなセント。あいつは私の友を…………シドーを、殺した。奴は____」

 

静かに、唇を開く。

 

「_____殺して(ころ)して(ころ)し尽くす。死んで()んで()に尽くせ」

 

十香はそれだけ言い残し、静かに狂いながら、視線の先まで距離を()()、戦兎と鳶一の前まで現れた。

 

 

 

 

「全く、男なら止めなさいよ万丈、戦兎」

 

『ぐっ………無茶な、こと、言うな!』

 

『そうだ!事前に聞かされてても、仲間が血まみれだったら動転もするわ!』

 

フラクシナス艦橋。正面モニターには身体をごっそりと削り取られた士道と、十香の攻撃を紙一重でかわしている戦兎ことビルド、十香に向かって走っている万丈ことクローズの姿が映っていた。

 

状況は、圧倒的なまでに絶望的だった。

 

ようやく空間震警報が鳴り始めたようだが、住民の避難は殆ど終わっておらず、そのまま十香とASTが交戦してしまったのである。

人が住んでいない所だったのが唯一の救いだが、十香の一撃は、そんな楽観視できるものでは無かった。何せただの一撃で、中心に底の見えない深淵を作ってしまったのだから。

 

「ま、ちょっと優雅さが足りないけど、騎士(ナイト)としては及第点かしらね。今のでお姫様(プリンセス)がやられたら目も当てられなかったわ」

 

『………おい、そういうのは無いんじゃないか?幾ら何でも、士道に失礼だ』

 

「……分かってるわ。これでも、心配はしてるんだから」

 

クルー達が、琴里に戦慄したような視線を送ってくる。

ラタトスクの最終兵器にして、戦兎と万丈の大事な仲間、琴里にとっては実の兄が、今しがた目の前で殺されたばかりなのである。

だがそんな中にあって、なせ彼らはこうも平然と会話を続けていられるのか。

しかしその直後、さらなる衝撃がクルーを襲った。

 

「し______ッ、司令!あれは………!」

 

艦橋下段にいたクルーが驚きに満ちた声を上げた。

 

「_____来たわね。士道が、これで終わりなわけがないでしょう」

 

そこに映っていたのは、公園に横たわる士道の姿。

その士道の制服が、燃え始めたのである。

それも、制服だけではない。制服が焼け落ち、綺麗にくり抜かれた士道の身体が露わになる。

 

「き、傷が………っ!」

 

その、くり抜かれた部分の傷口が、燃えている。

その炎は士道の傷を見えなくするほどに燃え上がってから、徐々にその勢いを無くしていった。

そしてその炎が舐めとった後には、完全に元の姿へ再生した士道の姿があった。

 

『__________ん?あれ?』

 

『キュ………?キュ、キュル?』

 

画面に横たわった士道が。

 

『んー……………………って熱あぁぁぁぁぁぁっ!?ちょっ、熱っ!熱いんすけどっ!?熱っ!ちょ、熱っっ!!!』

 

『キュルッキュー!』

 

と、未だに燻っていた火を見て、跳ね上がった。慌てた様子でバンバンと腹を叩き、火を消し止める。先ほどまで悲しげに鳴いていたガルーダが、喜ぶように元気に飛び回った。

 

『て______あ、あれ?俺、なんで…………』

 

艦橋内が騒然となる。

 

「な………し、司令、これは______」

 

「言ったでしょ。士道は一回くらい死んだって、すぐニューゲームできるって。にしても………万丈、あんたよく落ち着いてたわね。てっきり、十香と一緒に暴れるものだと思ってたけど」

 

『………今は、それよりもあいつを止めんのが先だ』

 

「上出来よ」

 

琴里を唇を舐めながら、クルー達へ命令した。

 

「すぐに士道を回収して。彼女を止められるのは士道だけよ」

 

 

 

 

「ふっ、ほっ、あぶねっ!?」

 

戦兎ことビルドは次々と繰り出される十香の攻撃を、なんとか紙一重で回避していた。攻撃自体はビルドを狙ったものではないが、その余波も十分な威力がある。自分が()()()()をしなければならない以上、その余波も食らってはいけない。

 

「ぁ…………私、が…………士道、を……………」

 

「何してんだ!とっとと逃げろっ!!」

 

茫然自失となっている鳶一に、ビルドが強く叫ぶ。

とはいえ、既にビルドのアーマーもボロボロだった。複眼のアンテナは先が折れ、ドリルクラッシャーや忍法刀は修理しないと使い物にならない。

よって今はあくまでも攻撃を当てずに、トライアルフォームの【ニンジャラビットフォーム】のスピードに物を言わせて回避している状態だった。ラビットドラゴンの前例がある為、有機物同士でも可能かと思いビルドアップし、なんとか成功した。

 

「セント……何故その女を庇う?その女は、シドーを殺した女だ」

 

「士道は………そんなこと、望んでない。それに……俺は、ここを退くわけにいかない」

 

「本気か?邪魔立てをするなら………セントであろうと、容赦はしないぞ」

 

言うと、十香は、剣を持ち直す。十香を取り巻く殺気が、より濃密なものになるのを感じながらも、それでもなおビルドは、戦兎は続けた。

 

「いいや、そういう訳じゃないよ。ただ_____」

 

さっきまでとは調子を変えて、ビルドはボロボロの体で、空を指差す。

 

 

「今日の主役(ヒーロー)は、俺じゃないってことだ」

 

 

「何だと?」

 

と、十香が眉を潜めた、その時。

 

 

 

「十ぉぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ___________っ!!!!」

 

 

 

 

空から、そんな叫び声が、聞こえてきた。

 

「え_____?」

 

「ったく、遅いんだよ、王子様」

 

ビルドはボロボロになりながらも、マスクの下で笑った。

十香は自分を呼ぶ声に、己の耳を疑いながらも、顔を見上げた。

 

「シ______ドー…………?」

 

まだ状況が理解できていないような声で、十香が呟く。

士道が、空中から急速で落下してくる。ラタトスクからのサポートによって、だんだんと落下速度が緩やかになっていき、十香の両肩へ手をかけた。

 

「よ、よう……十香」

 

「シドー………ほ、本物、か………?」

 

「ああ………一応本物だと思う」

 

士道がそう言うと、十香はふるふると唇を震わせた。

 

「シドー、シドー、シドー…………っ!!」

 

「ああ、なん_____」

 

と、答えかけたところで、士道の視界に、いやビルドの視界にも、凄まじい光が満ちた。

十香が振りかぶったまま空中に静止させていた剣が、あたりを夜闇に変えんばかりの黒い輝きを放っている。

 

「な、なんだこりゃ………」

 

「し、しまった………!【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】の制御を誤った………!どこかに放出するしかない…………!」

 

「ど、どこかってどこに!?」

 

「________」

 

十香は無言で、地面の方を見た、そこには、クローズの姿があった。

 

「ん?なんだ………って!おいおいなんだよそれっ!!ちょ、やめろやめろこっち撃つな!撃つなよ!絶対撃つなよ!?」

 

「な、なんだ万丈。フ、フリか?」

 

「フリじゃねーよ!てかお前もビビってんじゃねーか!」

 

地上ではビルドとクローズが、慌てた様子で上空を見据えて叫ぶ。

 

「と、十香!だ、駄目だ!あっちに撃っちゃ!」

 

「そ、そうだやめろ!あっちに万丈いるんだぞ!」

 

「で、ではどうしろと言うのだ!もう臨界状態なのだぞ!」

 

言っている間にも、十香の握った大剣はあたり一帯に黒い稲妻を撒き散らしていた。このままでは被害が拡大する一方だ。

その時、士道のインカムから琴里の声が聞こえる。

 

『ほら士道、さっき教えたお姫様を助けるたった一つの方法、実行しちゃいなさいよ』

 

「っ!で、でもあれは………!」

 

「何だ!?何かあるのかシドー!」

 

幸か不幸か、十香に聞かれてしまう。

いや、あるにはある______琴里から聞かされた、精霊を封印する唯一の方法。

正直な所、それはあまりにも支離滅裂で根拠に乏しく脈絡がないようなものだったが、もはやこの状況ではどうしようもない。

ええいままよ!と、士道は決心を固めて問いに答える。

 

「あ、あるにはある………。そ、その、あれだ!十香!俺と、キッ、キスをしよう………ッ!い、いやすまん、忘れてく___」

 

「キスとはなんだ!?」

 

「は………?」

 

「早く教えろ!」

 

「…………っ、き、キスってのは、こう、唇と唇を合わせ_____」

 

と、士道の言葉の途中で。

なんの躊躇いも無く、十香が桜色の唇を、士道の唇に押し付けてきた。

 

「____________________ッ!?」

 

力一杯に目を見開き、声にならない声をあげる。だって、もう言葉で許容出来ないほどに、十香の唇の感触が_______いや、なんて表現すればいいんだろこれ。キスはレモン味とかあれ真っ赤な嘘。十香が昼間に食ってたパフェの甘い味がした。

 

______すると、天に聳えていた剣にヒビが入り、バラバラに霧散して空に溶け消える。

次いで、十香が身にまとっていたドレスのインナーやスカートを構成する光の膜が弾けるように消失した。

 

「な____」

 

「……………ッ!?」

 

十香が狼狽に満ちた声を発し、士道がその動いた唇の感触で脳内トランス状態と化していた。

士道と十香の身体が、地面に向かって緩やかに落ちていく。逡巡しなからも、士道は十香を離すまいと強く抱いた。かなり弱々しく。おっかなびっくり。

唇と身体を合わせながら、二人が落下していく。

十香の霊装が粒子となって、軌跡を描く。

 

そして、その粒子が一つに合わさっていく。

 

それらはやがて、一つの形を形成し_______士道の手元へと、落ちていった。

 

そこにあったのは、紫色の、()()()()()

水晶色のキャップと、黄金で描かれた玉座と剣。

 

しかし、士道はそれを確認する余裕がなかった。

十香と唇を離し、次いで、真っ赤になって身体を硬直させた。

霊装がボロボロに崩れた十香の姿は、見るもいやらしい半裸姿だったのである。

 

「ち、ちちち違うんだ十香、俺は____」

 

「み、見るな、馬鹿者…………ッ!!」

 

キスの意味を知らない割に、人並みの羞恥心はあるようだった。頬を染めながら睨みつけてくる。

 

「す、すまん………っ!」

 

士道がとっさに謝罪すると、十香がより身体を密着させてきた。

 

「え____」

 

「……これで、見えまい」

 

「っ、あ、ああ………」

 

本当にこれでいいのだろうか、と思いながらも、身動きを取れず、そのまま固まる。

 

「きゃー、士道くんのえっちー」

 

すると、いつの間にか変身を解いた戦兎が、ボロボロの体で、からかうように近付いてきた。万丈も、目のやり場に困るように視線を右往左往させながら、近付いてきた。

 

「か、からかうなよ戦兎………」

 

「ハハッ。まあ、頑張ったんじゃないの?今日のヒーローの座は、お前に譲ってやるよ」

 

『キュルキュル〜!』

 

「お前まで……ちょっ、くすぐってえって!」

 

戦兎はくしゃっとした笑みを浮かべながら、士道に言った。

ガルーダも士道の頬を突きながら、鳴き声を挙げる。

 

「……シドー」

 

そんなやり取りをしていると、十香が消え入りそうな声を発してきた。

 

「なんだ?」

 

「また………、デェトに連れて行ってくれるか………?」

 

「_____ああ。そんなもん、いつだって連れて行ってやる」

 

士道は、力強く首肯した。

その答えを聞いた十香は、今まで一番のとびっきりな、くしゃっとした笑顔を見せた。

 

 

 

 

ハッピーエンド、までには、まだ遠いぜ?五河士道

 

士道達を遠目に見ながら、マッドクラウンはマスクの下でシニカルに笑った。

 

まあ、今回は良しとするか。これでまた、覚醒へと一歩進み、そして………天使のボトルが一つ、生まれた

 

視線を、士道の手元_____紫色のボトルへと向ける。

 

この調子で頼むぜぇ?俺は、お前の成長が楽しみで仕方ないんだ………

 

それだけを言い残すと、狂った道化師はまた、溶けるように消えていなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?
色々詰め込んだ結果、最終的に一万字を超えました。そして、やっと敵キャラが出せました。………今まで台詞だけ出して匂わせてたのに、誰もコメントしないんですもん。いや、いいんですけれど。

とりあえずこれで、『十香デットマッチ』は終了です。次からは四糸乃編です。なんか戦兎がメインみたいな終わり方でしたが、すいません、次回も士道がメインとなります。というか、士道をメインにしないといけない構成にしてしまったので、本当にすいません。

戦兎がメインで精霊を攻略するのは、もう少し後のお話になります。気長に待ってくれればと、思います。

それでは新章、『四糸乃チェンジング』編、

第11話 雨降る日のパペットガール を、お楽しみに。

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第二章 四糸乃チェンジング
第11話 雨降る日のパペットガール


桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!ラタトスクという組織によって、精霊十香と五河士道のデートを尾行することに!そこでなんと!五河士道が凶弾に倒れ、そして………不幸な事に…………」

士道「死んでねえから!ちゃんと生きてるからな!?」

十香「セント、これを読めばいいのか?」

桐生「そ。お願いね十香」

十香「うむ!しかし!倒れた士道はよみがえり!見事十香を封印することに成功っ!したのだ!どうだシドー、セント!ちゃんと読めたか!?」

士道「あ、ああ。大丈夫だ」

桐生「うんうん、ちゃんと読めてるし大丈夫。しかし、裏では何やら不穏な動きが………?どうなる第11話!」






士道と十香のデートから、土日を挟んで月曜日。

 

「…………ふはぁ」

 

「………くー………zzz」

 

『キュルー』

 

復興部隊によって完璧に復元された校舎は、もう相当数の生徒が集まっていた。

そんな中、士道はぼうっと天井を眺め、戦兎は寝不足からか寝癖を立てて机に突っ伏してすやすや眠り、万丈は亜衣麻衣美衣と談笑していた。心なしか顔が疲れているようにも見える。ガルーダは士道の上空をぷかぷかと飛んでいた。

 

あの日、あれからすぐ気を失った士道が眼を覚ますと、フラクシナスの医務室に寝転がされていた。

その後、施設で入念なメディカルチェックを受けさせられたのだが、それ以降十香の姿を見ていない。話をさせろと言っても、検査があるの一点張りで、結局面会すら叶わなかった。

そこからの休日は、ひたすら何もなかったので、戦兎の発明や修理の手伝いをしていたのだが、正直あまり身が入らなかった。空虚さと無力感で、死にたくなるくらいだった。加えて戦兎が何をどうやって何をしているのかが殆ど分からなかったので、それもあるかもしれない。あと、戦兎はそろそろちゃんと寝たほうがいいと思う。

 

そして一つだけ____士道の思考に引っかかったものがある。

 

あの時の、紫と金のフルボトルである。

 

なんでも十香の霊力を封印した際に、俺の手のひらにあったものらしい。その時は気付かなかったのだが、気絶した後も握りしめたままだったという。

今は戦兎に渡してあるため手元に無いが_____戦兎によると、もうすぐ解析が終わるそうだ。

 

そしてあの時______何か自分の身体に、暖かいものが流れてくるような感覚を覚えた。あれは一体、何だったのだろうか。

 

「______おーい五河、どうしたんだよ」

 

「っ、殿町。いるなら気配発してろよ」

 

話しかけてきたのは、クラスメイトの殿町宏人だ。何だかんだ、高校に入ってから仲良くしている友人である。

 

「普通にいただろ?ったく寂しいなぁ。殿町さんは寂しいと死んじゃうんだぞ?」

 

「いや知らねえよ。てか自分の席戻れよ。もうすぐホームルームだろ?」

 

「別にいいだろ?どーせタマちゃん先生、少し遅れるんだし」

 

「まあそうだけどさぁ」

 

「つか、お前と桐生、本当にどうしたんだ?そんな疲れた様子で」

 

「あ?まー、色々あったんだよ」

 

と適当に返したところで、教室のドアが開く。瞬間、教室がざわついた。

無理もないだろう。何しろあの鳶一折紙が、額やら手足やらを包帯だらけにして登校してきたのだから。

 

「………むー…………ん?ふぁぁ………何だ?こんな騒いで」

 

「あ、戦兎。起きたか」

 

「士道、一体どうした………って」

 

そこで戦兎も、折紙が包帯だらけなことに気づいたようだった。

顕現装置(リアライザ)を用いれば、大抵の怪我はすぐ治るという話だ。三日経ってあの有様ということは、相当に酷い怪我だったのだろう。

 

折紙は教室中から注目を集めながらも、おぼつかない足取りで、士道と戦兎の前まで歩いてきた。

 

『キュルゥ………』

 

ガルーダが何やら威嚇した様子で、折紙の前を飛ぶ。先日の件で、彼女を敵と認識したのだろうか。

 

「お、おう、鳶一。無事で何より_____」

 

気まずげに言いかけたところで、いきなり折紙が二人に対して深々と頭を下げていた。

 

「と、鳶一………ッ!?」

 

「______ごめんなさい。謝って済む問題ではないけれど」

 

後に聞いた話だが、あの十香を狙った射撃は、折紙によるものらしい。恐らくは、それについて詫びているのだろう。

 

「………五河、桐生、お前ら鳶一に何かしたのか………?」

 

「しとらんわ!してたら俺が謝る方だろうが!」

 

「そーそー。何もしてない。………まあ、何かはあったけど」

 

「んだよそれ気になるなぁ。つか、その赤い鳥みたいなの何?」

 

殿町がガルーダも含めて訊いてくる。

とはいえ、詳しく説明する訳にもいかない。士道は折紙に向き直った。

 

「い、いいから、取り敢えず頭を上げてくれ……」

 

「……分かった。本当に、ごめんなさい。でも_____」

 

一言区切ると、折紙は表情を変えずに、士道に顔を近づけた。

 

「浮気は、駄目」

 

「………………は?」

 

あまりにも予想していなかった台詞に、思わず目が点になる。聞き耳を立てていた生徒達も、同じような反応を示した。しかし当の折紙は意に介さず、今度は万丈の方へと歩いて行った。

 

「………お前、鳶一と付き合ってたのか?」

 

「………いや、俺の記憶が確かなら付き合ってない。と、思う」

 

「………じゃあ、浮気って?」

 

「そんなん俺が知りたいよ」

 

呆然としている間に、チャイムが鳴り、教室のドアが開いた。

 

「はーい、みなさーん。ホームルーム始めますよぉー」

 

「あ、先生来た。ガルーダ、カバン入っとけ」

 

『キュルゥ』

 

タマちゃん先生が教室に入る。クラスメイト達も自分の席に着いた。ガルーダも待機状態になって、士道のカバンの中に収まる。

すると、タマちゃん先生がやたら元気な声で、クラス全員に聞こえるように言った。

 

「そうそう、今日は出席を取る前にサプラァーイズがあるの!_____入ってきて!」

 

言って、自分が入ってきた扉の方へ声をかける。

 

「うむ!」

 

すると、それに応えるように、聞き覚えのある声がして。

一人の少女が、教室へと入ってきた。物凄くいい笑顔をして。

 

 

「今日から世話になる、夜刀神十香(やとがみとおか)だ!皆、よろしく頼む!」

 

 

と、名乗った。急すぎる展開に、士道も戦兎も万丈も折紙も、唖然とする。

十香はそんな視線など意に介さず、チョークを手にとって下手くそな字で、黒板に『十香』とだけ書いた。そして満足げに、「うむ」と頷く。

 

「お、おまえ、なんで………」

 

「………最っ高だな

 

士道が戸惑ったような声を上げ、戦兎が笑って言う。

 

「ぬ?」

 

すると、十香がこちらに気づいたのか、視線を向けてきた。

 

「おお、シドー、セント、リューガ!会いたかったぞ!」

 

大声で三人の名前を呼び、嬉しそうにぴょんと飛び跳ねた。

 

 

 

 

その後は事情が事情なので鳶一と物凄く仲が悪かったものの、おおよそ楽しそうに十香は学校生活を謳歌していた。まあ、そのとばっちりに士道が巻き込まれて、男子から嫉妬と怨嗟に満ちた視線を向けられることも少なくなかったのだが。

 

それがただの口喧嘩などで済めば良かったが、そうもいかない。

 

片や、世界を殺す災厄と呼ばれた精霊(精霊)

片や、陸上自衛隊・対精霊部隊(アンチ・スピリット・チーム)魔術師(ウィザード)

 

どちらとも人間の領域を遥かに超えた、規格外の少女である。………まあ、それを言ったら仮面ライダーも似たようなものだが。

その二人の間に、一応は一般人の士道が割り込まねばならないのだ。肉体的にも精神的にも疲労が蓄積してならない。

 

「ったく、少しは仲良くできないのかねえ……」

 

『キュルゥ?』

 

「ああいや、何でもない……」

 

言ってから、士道は自分の発言の阿呆さに思わず嘆息した。

一月前まで比喩なく命のやり取りをしていた相手だ。むしろ、仲良くしろという方が難しいだろう。

 

「ん………?」

 

溜息をつきそうになって、上を見上げた。

すると、上からポタポタと、雨が降ってきた。空もどんよりと曇ってきている。

 

「おいおい雨かよ。天気予報じゃ。晴れだったじゃんか」

 

『キュ!キュルルゥ!』

 

するとガルーダが何やら慌てた様子で、士道のカバンの中に入った。

 

「お前も雨は苦手か。そりゃそうか、機械だもんな」

 

カバンの中のガルーダに話しながら、小走りで家に帰る。しかし、雨はみるみるうちに激しさを増し、士道の制服を容赦なく濡らした。

 

「マジかよ………これ明日までに制服乾くか?」

 

と、家事を取り仕切っている家主ならではの同年代の中では少しずれた心配が口に出た。

なるべく服が濡れないよう、無駄な努力をして自宅への道を走る。

だが、丁字路を右に曲がったところで。

 

「あ………?」

 

ふと、足を止めた。前方に、気になるものを見つけたからだ。

 

「…………女の子?」

 

可愛らしい意匠の施された外套に身を包んだ、小柄な影。顔は分からない。ウサギ耳のような飾りがついた大きなフードで、顔をすっぽり覆ってしまっているからだ。

そして左手には、これまたコミカルなウサギのパペットが装着されていた。そんな目を引く格好の少女が、人気の無くなった道路で楽しげにぴょんぴょんと跳ね回っているのである。

 

「なんだ………?」

 

士道は、眉をひそめてその少女を凝視した。

 

なぜ、こんなにもあの少女のことが気になるのだろうか。

確かに、目を引く格好ではある。傘をさしていないことも、気にはなる。

 

だが______そういう事ではない。

 

何か、決定的に違う、違和感がある。

 

不思議な感覚だ。前にも、しかもつい最近にも感じたことのあるような気がしてならない。

 

そのまま、冷たい雨だれの中、軽やかに踊る少女に、目を釘付けにされ______

 

 

_______ずるべったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!

 

 

「は………?」

 

思いっきり、女の子がコケた。

顔面と腹を盛大に打ち当て、周囲に水しぶきが飛ぶ。ついでに少女の左手にあったパペットがすっぽりと抜け、前方へと飛んで行った。

そしてそのまま、動かなくなる。

 

「………お、おいッ!大丈夫か?」

 

士道が慌てて駆け寄ると、その小さい身体を抱きかかえるように仰向けにする。

そこで、初めて顔が見れた。年の頃は琴里と同じくらいだろう。髪の色は海のような青色で、ふわふわとしている。まるで人形のようにも見えた。

そこで、少女が目を見開いた。

 

「ああ、良かった。怪我はないか?」

 

士道が訊くと、少女は一目散に跳び上がり、少し距離をとって全身をカタカタと震わせた。

 

「…………こ、来ないで、ください…………っ」

 

「えっ?」

 

「いたく、しないで…………ください…………」

 

続けて、少女がそんな言葉を吐いてくる。

士道が、自分に危害を与える人間に見えたのだろうか。その様は、まるで震える小動物にも見えた。

 

反応に困った士道は、そこで地面に落ちたパペットに気がついた。

先ほど少女の手から抜けてしまったものだろう。ゆっくりと腰を折ってそれを拾い上げ、少女に近づいて示してやる。

 

「これ、君の?」

 

「…………!」

 

すると少女は目を大きく見開き、一瞬躊躇ったのち、士道の持つパペットを取り、左手に装着した。

 

だが、次の瞬間。

 

 

「ガァァァァゥァァァアッ!!!」

 

 

「…………っ!!?」

 

「なにっ!?」

 

近くから、謎の叫び声が聞こえ、次いで奥から謎の巨体が現れた。

 

間違いない、スマッシュだ。

 

「くそ、このタイミングで…………!」

 

ジリジリと迫ってくるスマッシュに、士道は冷や汗をかく。そして、ちらりと少女の方を見る。少女は怯えきった様子で、後ずさりしていた。

 

______覚悟を、決めるしかない。

 

 

「う、うぉぉぁぁぁあっ!!」

 

「…………っ!」

 

自身を奮い立たせるように大声を上げ、スマッシュへと体当たりをする。相手はビクともしなかったが、構わず後ろを振り返り叫ぶ。

 

「ッ、逃げてッ!!」

 

「…………ッ!で、でも…………」

 

「早くッ!!ぐ、ぐぁぁぁぁあっ!!」

 

そこでスマッシュの巨大な腕が振られ、思いっきり地面へ飛ばされる。身体が打ち付けられ、鈍い痛みが全身を襲う。

 

「がはっ………ぐっ………」

 

痛みが全身を支配し、出血するも、歯を食いしばって何とか立ち上がろうとする。

 

「あ………っ」

 

そこで、地面に落ちた、赤いフルボトルを見つけた。

 

士道が持っていた、謎のフルボトルだ。そこで、前に戦兎に言われた言葉を思い出す。

 

 

_____何かあった時は、そのボトルを振れ。

 

 

「試してみるか…………っ!」

 

迷う暇はなかった。こうしている間にも、スマッシュはじりじりと少女に迫っている。

勢いよくボトルを振り、握り締める。瞬間、身体中にエネルギーが漲ったような感覚に襲われた。

 

「よし、これなら…………っ!うぉぉぉぉぉぁぁあっ!!」

 

再び走り、スマッシュへ向かって思いっきり殴りつける。本来ならそれは、スマッシュの硬い皮膚によって不発に終わるはずだった。

だが_____

 

 

「アッ、ガァァァァァアッ!?」

 

 

士道が振ったボトルの力によって、スマッシュは大きく後方へと吹き飛ばされる。瞬間、殴りつけた拳に鈍痛が走る。骨の一本くらいは折れたのではないかと思うくらい。

 

「ぐっ…………、よ、し………」

 

痛いことには変わりないが、スマッシュは何とか遠ざけられた。これなら。

 

「今の内だッ!早く逃げてッ!!」

 

「…………ッ!」

 

まだ腰が抜けていたらしい少女に、思いっきり叫ぶ。すると、少女は一瞬躊躇いながらも、踵を返して走っていった。

 

「よ、よし………ぐっ………」

 

安堵しかけるが、再び拳と全身の痛みが襲ってくる。その上、スマッシュが起き上がってこちらへ迫ってきた。先ほどのようにジリジリ迫るのではなく、こちらへ向かって走ってくる。

咄嗟の痛みによって回避が出来ず、派手に身体を殴られてしまった。

 

「ウァガァァァアアアッ!!」

 

「あっ、がぁぁぁぁ…………っ!」

 

しかし、先ほどよりは痛みが少ない。恐らくは、このボトルのおかげだろう。

だが痛いことには変わりなく、加えて恐怖や緊張感からか、さっきのようにうまく拳に力が入らない。

 

「あっ…………くっ、う…………」

 

思わず、怯えるような声が出る。

 

こうして相対して、初めて分かった。

 

戦兎は、万丈は、こんな化け物といつも戦っていたのだと。

あの二人は、なんて強いのだろう。きっと、途方も無い苦労があったのだろう。

 

それに比べて自分は______なんて無力なのだろうか。

 

腰が抜けることはなかったが、拳に力が入らず、手からボトルが落ちる。

 

もう駄目か、と、そう思った時。

 

 

 

【VOLTEX BREAK!!】

 

 

 

遠くから電子音と共に、巨大な拳のようなエネルギー体が、スマッシュめがけて繰り出された。その衝撃にスマッシュは耐えきれず、その場で爆散し、倒れた。

 

「え……………っ?」

 

「大丈夫か?士道」

 

遠くから、赤と青の姿をした、見慣れた仮面男____ビルドがやってきた。間違いない、戦兎だ。

 

「うわっ、酷い怪我だな。送ってってやるよ。ちょっと待ってろ」

 

士道にそう言うと、戦兎はボトルを取り出し、スマッシュに向けた。その後、スマッシュの体から粒子のような物が流れ、ボトルへ吸収されていく。やがてそれは、黄緑色のボトルへと変化した。

 

「おっ、電車ボトルじゃん!」

 

戦兎は喜ぶような声を出し、しまって士道に手を伸ばした。

 

「大丈夫かよ?おい。血が出てるじゃんか」

 

「あ、ああ……何とか………これのおかげで」

 

「ん?お、それ使ったのか」

赤のボトルを拾い上げ、見せる。幸いどこか動かないところもないし、奇跡的に骨などは折れていないようだった。

 

「あとでちゃんと治しとけよ?ほら、乗れよ」

 

「………ああ」

 

差し出されたヘルメットをかぶり、戦兎のバイクの後ろに跨る。

 

バイクで走る家までの道のりで、士道の胸中はずっと、悔しさと無力さでいっぱいだった。

 

 

 

「…………」

 

その姿を、ひとりの少女とパペットが、影から見つめていた。

 

 

 

 

 




どうでしたか?と言うわけで新章突入です。
これからも不定期ですが、応援してくれると嬉しいです。

あと、ジオウでアギト編が来るそうですね。賀集さんが出たら泣く自信がある。(通りすがりのアギトファン)

それでは 第12話 一つ屋根のボーイミーツガール をお楽しみに。タイトルがふざけた感じですが結構シリアスになると思います。

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第12話 一つ屋根のボーイミーツガール

桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎は!精霊十香の封印に成功した後も!仮面ライダービルドとして戦っていた!そんな最中、士道が雨の中、謎の少女と、そしてスマッシュと遭遇する!」

万丈「おい、俺の紹介は無えのかよ!ただでさえ最近出番すくねえのに!」

十香「おお!ビルドがスマッシュを吹き飛ばしたぞ!これは戦兎なのだろう?」

桐生「そ!俺の天才(てぇんさい)な科学技術が詰まった!発・明・品!の力だ!」

十香「ほお………かがくのちからとはすごいのだなぁ………!」

桐生「そこは俺の頭脳が凄いと言って欲しかったなぁー」

万丈「おい無視すんなよ!」

桐生「さて、そんな万丈がいなくても全然問題ない第12話をどうぞ!」




「ただいま………」

 

戦兎に家まで送ってもらった士道は、ずっと浮かない顔をしていた。

戦兎はまたしてもスマッシュの目撃情報があったとのことで、急いでそこへ向かっていた。万丈が先に向かっている、とも言っていた。

 

この時士道が、なぜ浮かない顔をしていたのか。

雨で濡れたこともあるし、十香と折紙の喧嘩に巻き込まれたこともあるだろう。さっき怪我を負ったのもある。

しかし、それ以上に…………

 

「(………結局、足手纏いだった)」

 

凄まじい無力感が、士道の胸中を包んでいた。

あの時、あのボトルを振ったら、もしかしたらと思った。

 

もしかしたら、戦兎みたいに戦えるのかもしれない、と思った。

 

けど______甘かった。

 

結局少し抵抗ができただけで、何も変わらなかった。あの時何もしなくても、戦兎が来て倒してくれていた。

 

あの少女の怖がる顔を_______やめさせることが出来なかった。

 

戦兎のように、誰かを笑顔にするなんてこと、出来なかった。

 

それに比べて戦兎や万丈達はどうだ。

ああやって雨の中でも、スマッシュを倒すために向かい、退治している。

 

「………俺は、お前が羨ましいよ」

 

ふと、そんな呟きが溢れた。

そう思ってしまった自分に思わず嫌気がさして、溜息を吐く。

 

「って、そういや風呂に入らねえとな」

 

改めて自分の姿を見ると、酷い有様だった。雨でずぶ濡れだし、泥まみれだ。怪我は回復し、痛みはとっくに引いたが。

 

「琴里?先風呂入るからな」

 

雨で濡れた靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾を捲り上げて廊下を歩く。

と、廊下の先からテレビの音が漏れ聞こえてきた。きっと、琴里がリビングにいるのだろう。

それを確認してから、再び風呂場へと歩く。風呂から出た後、ゆっくり話し合えばいいだろう。主にひと月前からの、現実と思えないようなさまざまな出来事について。

 

士道は鞄と靴下を持って、脱衣所の扉を慣れた調子で開けた。すると。

 

「___________ッ!?」

 

瞬間、士道は身を凍らせた。

 

________そこには、本来ここにいるはずのない、十香の姿があったのだ。

 

それも、一糸纏わぬ生まれたままの姿で。

 

「と、十香………?」

 

「な…………っ、し、シドーッ!?」

 

そこでようやく、十香が肩をビクッと震わせ、顔をこちらに向けてきた。

 

「!あ、や、ち、違うんだ!これは_______」

 

何が違うのかわからないが、一先ず弁解を試みたものの________

 

「いッ、いいから出て行けっ!」

 

「ぐぇふっっ!?」

 

見事すぎる右ストレートを叩き込み、十香はそのまま脱衣所の扉を閉めた。

 

 

 

 

…………今日のは、ちょっとした挨拶代わりだぁ………

 

少し前、バイクで家まで戻る士道の様子を遠巻きから見ていたサソリ男_______マッドクラウンは、笑って一人呟いた。

 

にしても…………まさか、これほどだとはなぁ…………

 

そう、少し意外げに言って、すぐに堪えきれない様子で笑い出した。

 

あれからたった一ヶ月で、2.4だと………?最っ高だなぁ……!

 

そう言うと、クラウンは座っていた場所から降り、パンパンと手を叩いた。

 

……次の試練で、奴は恐らく覚醒するだろう…………その時は………俺の出番だなぁ………

 

クラウンは大仰に手を上げ、その後起こる未来の出来事に、歓喜の笑みを浮かべた。

 

マスクの下で隠されたその顔はまるで、人形を手元で弄ぶ、道化師の笑みにも見えただろう。

 

 

 

 

「………十香がうちに住む、って事はまあ分かった。その精神状態を安定させる、ってのもな」

 

先ほどのお風呂場アクシデントから数分後。着替えを済ませた士道は琴里と、既に家にいた令音から、十香がしばらく家に住むという旨の話をされた。ちなみにガルーダは既に待機状態から戻り、今は家の中に設けられたスペースで休んでいる。

当然、士道としてはそんな話、納得できるはずもない。ただでさえ、この間から空き部屋には戦兎達が住んでいるというのに。余談だが、戦兎と万丈は通学の関係で、この間から二階の空き部屋に住んでいる。最近では頻繁に夜中うっすらと機械音が聞こえてくるのだが、そこは置いておこう。

 

まず一つ目の理由としては、十香のアフターケア。実は十香はフラクシナスにいる間、学校にいる時と比べるとストレスの蓄積が激しい、との事である。どうやらまだ士道や戦兎たちといる時以外では、人間を完全に信じきれないらしい。

それはラタトスク側としても望ましくない事態らしく、最悪の場合士道に封印された霊力が逆流する恐れもある、との事だった。そこで、そろそろフラクシナス外部に十香の住居を移すという事になり、それができるまでの間だけ、十香をうちに住まわせる、と言う事である。

 

その理由については、十香の力の危険性を知っている士道にとっても納得できるものだった。どうやら戦兎達にも既に話は通されているらしい。________何故、自分にだけ伝えられなかったのだろうか。と、その点だけはそこはかとなく納得いかなかったのだが。

 

士道が気になる点は、二つ目の理由_____『士道や戦兎達の訓練』のため、という所である。

 

どうやら精霊というのは、何も十香一人という訳ではないらしい。その他にも、数種類の精霊が確認されており、また士道や戦兎達に任務にあたってもらう_______即ち、精霊をデレさせる必要があるということが分かった。

 

「冗談じゃねえよ、またあんな_____」

 

「_______嫌なの?士道」

 

士道が抗議したところで、高圧的な雰囲気が琴里から発せられる。見覚えがあった。今の琴里は、()()()モードだ。

 

「あ、当たり前だ!」

 

士道がそう言うと、琴里は軽く身体を反らしてあごをあげながら唇を開いた。

 

「なら、お終いね。_______空間震によって世界がボロボロになっていくのを黙って眺めるか、それともASTに精霊が殺されるなんてラッキーイベントを待つか。どっちかになるでしょうね。それとも______戦兎一人に背負わせる気かしら?スマッシュと戦う彼を」

 

「ッ!!」

 

その言葉に、身体が強張る。

 

失念していた訳ではない。だが、改めてその事実を口に出されると、心臓がチクチクと痛んだ。

隣界と呼ばれる異空間に存在する精霊は、

 

自分が知らぬ間に背負わされた責任と、仮面ライダーとして戦う戦兎へのプレッシャー。その二つの重さで、胸が苦しくなる。

それに、今となってはスマッシュも人類の脅威となっている。それと戦う戦兎に、無理を強いたくはない。

 

_______だが、そもそもの前提として。

 

士道にはひとつ、確かめねばならないことがあった。

 

「______琴里」

 

「何かしら?」

 

「………まず、聞かせてくれないか。《ラタトスク》ってのは、一体何なんだ?お前はいつ、そんな組織に入ったんだ?それに_____俺や戦兎のこの力ってのは、一体何なんだ?」

 

士道がずっと訊こうと思っていたことは、これだった。

琴里が家を空けていた、故に聞き出せなかった問い。

そして、その静寂を破るように。

 

「____たっだいまー。ん?どうしたの、みんな揃って」

 

「つっかれたー。あん?お前ら何か話してたのか?」

 

スマッシュとの戦いを終えたらしい戦兎達が帰ってきた。変身したまま帰宅したのか、服が濡れている様子はない。

_____一瞬、戦兎を見た時に、少し目を伏せてしまった。

 

「_____戦兎達も来たことだし、丁度良いわね。私たちについて、簡単に話しておくわ」

 

そう言って、琴里はチュッパチャプスを口にくわえると、ラタトスク機関について話し始めた。

 

 

 

 

「______これが、私に説明できる事よ。とりあえず重要なのは、『士道と戦兎には、精霊をどうにかする力がある』、て事だけ覚えておいて」

 

「_____琴里、それって辻褄が合わなくないか?その年から考えると、当時のお前はまだ八歳かそこらだろう?」

 

「そ、そうだ。おかしいじゃねえか!」

 

「実際に指揮を取り出したのはここ最近よ。それまではずっと研修のようなもの」

 

「いや、研修って」

 

「そんなアルバイトみたいな感じで……」

 

琴里の話を聞くと、戦兎は寝癖を立てて頭を掻き、士道は苦悶の顔を浮かべ、万丈は分かっているとも分かっていないとも取れない微妙な表情をしていた。十中八九分かっていないだろう。

そしてガルーダだが、万丈が帰ってきてからはクローズドラゴンと一緒に家の中をゆらりと飛び回っていた。さっき士道はその様子を見て、まるで兄弟のようだ、と思った。鳥と龍で全然違うが。

 

そして確かに今の話によって、分かったことも多かった。しかし同時に、謎が深まった事も多かったのである。

 

まず、ラタトスク機関の存在理由とは、《精霊を保護し、幸福な生活を送らせる事》、らしい。まあ、この点については一枚岩でもないと、琴里は言っていたが。

そして組織の転機となる、キスによって精霊の力を封印できる少年が発見される出来事が起こった。それが士道であり、つい最近現れた戦兎もまた、それに当てはまるのだという。

それによってラタトスクは、積極的に精霊を保護する方針にシフトする、という流れになったのだそうだ。______なぜそんな力があるのか聞かれた時、士道の時だけはぐらかされたのが気になったが。

 

「とにかく、よ」

 

琴里はひとつ咳払いをすると、士道にビシッと指を突き立ててきた。

 

「______その事を念頭に置いた上で、選んで頂戴。_____これからも、精霊を口説き落としてくれるかどうか」

 

「…………っ」

 

士道は、苦々しく唇を引き結んだ。

 

士道達がやらねば、精霊は______士道が救いたいと思った十香と同じ存在達は、こちらの世界へ来るたびにASTに災厄と断じられ、命を狙われてしまう。

 

自分の意思で、世界の破壊者となることを望んだわけでもないのに。

 

それに、空間震だってある。いつまた、ユーラシア大空災のような大災害が来るとも分からない。

士道は頭を伏せ、一つ息を吐いた。

 

「…………少し、考えさせてくれ」

 

「_______まあ、今はそれでいいわ」

 

琴里は、ふうと息を吐いてそう言った。

 

「____話が終わったなら、士道。ちょっと俺の部屋に来てくれるか?」

 

「え?どうかしたのか?」

 

急に戦兎が立ち上がり、士道に部屋へ行くよう促した。

 

「例のボトルの解析が終わったんだ。もう令音さんとかには話したけどさ、お前にはまだだったろ?」

 

「あ_____そうか」

 

士道が十香を封印した際に現れたボトルを、戦兎は解析していた。確かに、もう終わった頃だとは思っていたが。

言われた士道は、戦兎についていく形で部屋へと向かった。

 

 

 

 

「悪いな、散らかってて」

 

散らかってる、と言う割には、戦兎の部屋は拍子抜けするほど綺麗だった。道具やらが大量に置かれているが、ちゃんと整頓されている。確かに机周りは書類やら発明品やらが雑多に置かれているが、床などには特に物が落ちている形跡がない。

 

「こっちに来てくれ。解析の結果だ」

 

パソコンを操作しながら、士道にモニタを見るよう促した。モニタの側には電極のようなもので繋がれた、件の紫色のボトルが置かれていた。

モニタにはボトルの図と、よくわからないデータのような物が記載されていた。

 

「それで………何が分かったんだ?」

 

「ああ。解析して分かったんだが………そのボトルには」

 

視線をボトルへと移し、手に取る。

 

 

「______お前が封印した十香の()()が、成分として詰められていた」

 

 

「え…………?」

 

その返答に、思わず声が漏れる。

 

「れ、霊力だって?それって、俺の体内に封印されてるんじゃ………?」

 

「ああ。確かにお前の体にも霊力は封印されてる。けど詳しく解析して、そのボトル_____『エンジェルフルボトル』にも、間違い無く十香の霊力が詰められていた」

 

「………………」

 

戦兎の手から渡され、ボトルを手に取り振ってみる。振ると、まるで剣のような金属音が鳴った。ボトル本体には、金で施された玉座と、それに突き刺さった剣のエンブレム。

まるで、十香の持っていた武器____巨大な剣と玉座を現しているように思えた。

 

「ま、例の封印能力に何かしらの力が働いて、それが出来たって事なんじゃないか?取り敢えず、そのボトルはお前が持っとけ」

 

「え?い、いいのか?」

 

「お前が封印した十香の力だろ?だったら、お前が持っとくべきだ」

 

「…………」

 

しばらくそのボトルを見つめ、そして再び握り締めた。

 

_____改めて、自分に特殊な力があることを、自覚した。その力を使わなければ、世界が救えないことも。

 

______確かめたい、事があった。

 

「戦兎は、さ」

 

「ん?」

 

「どうして_____そこまで戦えるんだよ。自分のこと、ヒーローだ、って言って。怖く、ないのか?」

 

世界を救うために、精霊達をデレさせ、霊力を封印する。

言葉だけなら荒唐無稽な話の、その重責に、士道は少し前押しつぶされそうにもなった。

 

しかし戦兎は、前の世界でも今の世界でも、同じく世界を脅かすスマッシュと戦い続けている。

それなのに、普段の戦兎は笑顔を絶やさずに、クラスのみんなや士道達と接している。

戦う事への悩みや不満、恐怖なんか、一切口に出さず。

 

戦兎も何となく士道の質問の意図するところを察したのか、一瞬顎に手を当て、そして変わらず、かつて相棒に言ったように、笑顔で言った。

 

 

「_____自分の力で誰かを守れたり、誰かの力になれたら、心の底から嬉しくなって、()()()()()なるんだよ。俺の顔」

 

 

マスクの下で見えねえけど。と、最後に付け加えた。そして、指摘するように言う。

 

「_____お前さ、さっき酷い顔してたぞ」

 

「えっ?」

 

「まあ、あんなにボロボロにされたらしょうがないと思うけどさ。_____本当にお前は、十香と同じ境遇の精霊達を助けたいと思っているのか?」

 

「……………」

 

その言葉が、胸に突き刺さった。

 

まったくその通りだった。士道は助けたいと思っていながら、その為に取れるたった一つの手段に対して渋っていたのである。確かに、ラタトスクや琴里に関してはまだまだ分からないことも多い。

けど、それでも目の前にまた、十香のような悲しい顔をした精霊が現れたとして。

 

その時も、士道に迷う時間なんて、あるのだろうか。

 

 

「…………」

 

「______ま、今は考える時間があるんだし、すぐに結論を出さなくてもいいんじゃないか?それに、お前はお前が思ってるほど、弱くないと思うぞ」

 

「えっ………?」

 

「だって、最後に十香を助けたのは、俺や万丈のライダーの力でも、琴里達フラクシナスの命令でもない、お前自身の言葉じゃないか」

 

「それは………」

 

まだ言いたげな士道に、戦兎が今度は厳しそうな目で言う。

 

 

「でも、これだけは言っておく。_______見返りを期待したら、それは()()とは言わねえぞ」

 

 

「っ!」

 

 

______全て、お見通しってわけか。

 

そう心の中で思いながらも、士道は少し肩の荷が軽くなった気がした。

 

戦兎が士道に向けて言った、かつて万丈にも放った、その言葉。

 

その言葉が、その後士道の迷いの霧を晴らす事となる。

 

 




どうでしたか?
基本的に章ごとの1話1話の展開は、序盤短く後半長い、というスタンスになると思います。変わる可能性がなきにしもあらずですが。

今回、あまり物語が進んでいない気がしますが、これも全てゴルゴムのディケイドに変身する乾巧って奴の仕業なんだ…………嘘です筆者の力量不足です。ごめんなさい。

それでは次回、『第13話 ドキドキ?同棲クライシス!』をお楽しみに。

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第13話 ときめき?同棲クライシス!

桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎は!精霊十香を封印した後も、正義のヒーローとして戦っていた!」

士道「なあ、一つ思ったんだが、仮面ライダークローズって、何でその名前になったんだ?」

万丈「あ、それ俺も気になった。なんでクローズ、なんて名前なんだよ」

桐生「そりゃ、単純にガジェットの『クローズドラゴン』からでしょ」

万丈「じゃあなんでそれクローズドラゴンなんて名前になったんだ?」

桐生「ボトル一個で完結する、閉じるから、『クローズ』なんだよ。他にも、ベストマッチの組み合わせがロックフルボトルだから、とかかな」

万丈「へえ、結構色々考えてたんだな」

桐生「まあ、単細胞の筋肉バカで三度の飯よりプロテインが好きなどこかの万丈さんと違って、俺は年中頭使ってるからねー」

万丈「もっとまともな肩書きの言い方出来ねえのかよ!」

桐生「じゃあお前が考えろよ」

万丈「えっ?うーん………」

士道「はいはいそこまで。あらすじ紹介終わっちまうから。コホン、と言うわけで、どうなる第13話!」







「…………で、訓練って実際に何やるんだ?俺に何をやらせようってんだよ」

 

『キュルゥ?』

 

『ギーギガギ?』

 

戦兎の部屋での一件から、おおよそ三時間後。

前よりも多い人数で夕食を済ませ、リビングのソファに腰掛けた琴里に問うてみた。アライブガルーダとクローズドラゴンも、疑問符を浮かべたように首を傾げて鳴き声を上げる。

今五河家のリビングにいるのは、士道と琴里の二人に、ガルーダとドラゴンの二匹だけである。令音はあの後すぐフラクシナスに帰り、戦兎は作業の続きがあると言って部屋に戻り、万丈は風呂掃除を買って出て、十香は客間で荷解きをしていた。そういえばここ最近、戦兎の部屋での作業時間が増えている気がする。

 

「別に、何もしなくていいわよ」

 

黒いリボンで髪を括った琴里が、食後のチュッパチャプスを咥えながら唇を動かしてくる。

 

「は?どういうこった?あれだけ訓練訓練言ってたのに」

 

「んー、正確に言うと、普段通りの生活を送ることが今回の課題……かしらね」

 

「あ?」

 

「基本的に士道の訓練は、これから何人もの精霊とデートすることになった事態を想定して、女の子と緊張することなく話せるようになることを目的としているわけよ。要するに………」

 

そこで一つ間をあけて、琴里が言った。

 

「士道は十香との同居期間中、どんなラッキースケベイベントが起こっても、焦らず対応してくれればそれでいいわ」

 

「なっ……、なんだそりゃ………」

 

『キュルル?』

 

『ギーギー』

 

普段あまり聞き慣れない単語に、盛大に眉をひそめる。ガルーダとドラゴンも互いに顔を向け、何が何だかわからないと言った様子になる。こうして首を傾げたりしている姿を見ると、こいつらが本当に機械なのか、たまに分からなくなる時がある。

 

「おーい、風呂掃除終わったぞー」

 

『ギーギー!』

 

「お、なんだなんだ」

 

とここで、風呂掃除を終えた万丈がリビングに戻ってきた。主人が帰ってきたのを見てか、ドラゴンがそちらに飛んでいく。

 

「まあ、百聞は一見にしかずよ………万丈、悪いんだけど、トイレの電球を取り替えてくれない?さっき行ったら切れてたのよね。予備の電球ならそこにあるから」

 

「ん?おお、別に構わないぞ」

 

『ギギーガ』

 

特に疑問を感じることなく、近くの戸棚から予備の電球を探って取り、丸椅子を手に取ってトイレへと向かう万丈と、それに着いて行くドラゴン。

 

「琴里、トイレの電球切れてんなら、なんで俺に言わないんだよ。万丈より俺の方がよく知ってるだろ」

 

「言ったでしょ?百聞は一見にしかずって。まあ、しばらく廊下の方を見ていなさい。」

 

「はあ?何を言ってるんだよ…………」

 

『キュル?』

 

と、ますます困惑した士道だったが、取り敢えずは言われた通りに廊下を覗き込む。

そして、それとほぼ同じタイミングで。

 

 

「は、早く閉めんかっ!」

 

「のぅわぁぁぁぁーーッ!!?」

 

『ギギギーー!!?』

 

 

十香の声と共に、凄まじい勢いで万丈とドラゴンがトイレから吹き飛んで宙を舞った。万丈は顔面にトイレットペーパーを思いっ切りぶち当てられて。

というか、今普通にトイレの電球付いてなかったか?

 

「なっ!?お、おい琴里、どういう事だよ!」

 

「こう言うことよ。これから十香がうちにいる間、こうやって遭遇しても平常心を乱さずにいればクリアよ。ちなみに失敗したらペナルティとして、士道が中学時代に書いた詩を公共ラジオで流すから」

 

「おいちょっと待て!なんか前よりグレードアップしてねえかそれ!?」

 

「訓練だからって気楽にやられちゃ困るからね。大丈夫よ。全部失敗でもしない限り、作者名を流すような事にはならないから」

 

「それ全部失敗したら流すって言ってるようなもんじゃねえか!」

 

「いいからお前ら説明しろぉっ!!」

 

『ギギギー!!』

 

五河家の廊下に、女子中学生一人と男子高校生二人、機械龍一匹の声が響き渡った。

とここで、士道がある事を思い出す。

 

「って、そういえば。戦兎はどうなるんだよ!あいつにもなんかペナルティがあるのか?」

 

「戦兎は仮面ライダーとして戦う仕事があるでしょ」

 

「納得いかねぇぇぇえーっ!!」

 

とここで、またしても疑問が浮かぶ。

 

「って、そういや戦兎はどうしたんだ?部屋から全然出てこないし、機械音も聞こえないけど」

 

「……そう言えばそうね。戦兎にもまだ説明してないことがあったし、この際だから部屋に行きましょうか」

 

という事で士道達は、戦兎の部屋へと向かうことにした。

 

 

 

 

「おーい戦兎、入るぞー?」

 

コンコン、とノックをして、部屋に入ろうとした、その時。

 

 

_______カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……………

 

 

何かを打ち出すような音が、凄まじい速度で聞こえた。

パソコンで作業しているのだろうか。それにしてもこの速度はおかしい気がする。

 

すると琴里が士道をどかして、部屋に入る。ドアに鍵はないので、簡単に入れた。

 

 

「戦兎、ちょっと話があるから、入るわよ…………って、何これ!?」

 

 

瞬間、琴里が困惑の声を上げた。

次いで士道と万丈が中を覗く。

 

「うわっ!なんじゃこりゃ!」

 

「あいつまたなんかやってんな…………」

 

『キュルル!?』

 

『ギギーガガ!?』

 

士道が驚愕の声を漏らし、万丈が見慣れたとばかりに呆れた様子で頭を掻く。ガルーダとドラゴンは互いに驚きの鳴き声をあげた。

 

戦兎の部屋には今、膨大な量の用紙と、それにびっしりと書かれた数式が並んでいた。その奥に、ひたすら作業に打ち込む戦兎の姿が見える。長年相棒として見てきた万丈は察しがつくところがあるようで、深く溜息を吐いた。

 

「もう少しだ…………もう少しで…………ッ!!」

 

何か鬼気迫る様子で笑いながら一心不乱にキーボードを打ち込む姿は、一周回って恐怖すら感じた。他の人で同じ光景を見たら過労死を心配するレベルである。

 

「ん?なんだありゃ」

 

パソコンの横を見ると、ケーブルに何かが繋げられているのが見えた。

一見するとそれは、戦兎達がいつも使っているビルドドライバーにも見える。しかし、戦兎達のビルドドライバーは二つとも横に置かれているし、それはよくよく見ると細部の形状が少し違っていた。

ビルドドライバーの下段にあった、銀色のチューブみたいなパーツが大分少なくなってるし、全体的な大きさも、若干ではあるが小さくなったようにも見える。

エネルギーを作り出す丸状のパーツ、確か、【ボルテックチャージャー】だったか。とか、ボトルを挿す部分などに相違点は見られない。

などと、士道が思っていると。

 

戦兎が見ていたモニターに、【COMPLETE 100/100】というテキストが表示された。

 

「っ!遂に………キターーーーーッ!!!」

 

寝癖を立てて、感極まったように立ち上がり両手を挙げる。そこで後ろを振り返り、士道達の存在に気づいたようだ。

 

「あっ!ちょうどいい所に!見てくれよこれ!」

 

そうはしゃぎながら、戦兎はパソコンに繋がれていた、ビルドドライバーに似た何かを取り出す。

 

「この前令音さんに教えてもらったこの世界の顕現装置(リアライザ)の技術を応用して創り出した、次世代型ビルドドライバーッ!その名も、【リビルドライバー】!変身する為に必要なハザードレベルはビルドドライバーと同じだけど、変身後のスペックが格段に向上して、武装の取り出しにかかる速度が従来のビルドドライバーよりもよりスマートに行えるようになった!俺と万丈のビルドドライバーに同じ機能を試験的に搭載して、スマッシュとの戦闘で実験を繰り返して、今日ようやく新機種が完成した!ね、凄いでしょ!?最っ高でしょ!?天っ才でしょーーーオォッフォォォウッッッ!!!!」

 

「あ、そういや最近ベルトの調子いいと思ったら、これの実験のせいか!」

 

と、矢継ぎ早に自慢するよう掲げる戦兎に、一同がキョトンとした顔になる。唯一万丈だけ得心がいったようにポンと手を打ってたが。

実際、士道達にはどのくらい凄いのかがいまいちピンとこないため、実感しかねないのだ。あと、ほんと発明がらみになるといつもとテンションが違いすぎてついて行けなくなる。

ここで、琴里が咳払いをして、戦兎に言う。

 

「………それについては後でじっくり聞くから、取り敢えず今は、戦兎の訓練について説明させてほしいわ。リビングまで来て」

 

「え〜、まだ俺の発明品について小一時間は話したいんだけど〜」

 

「駄々っ子か!早く来なさい!」

 

「はぁ〜、分かりました〜。はぁ〜…………」

 

まるで学校の宿題をやるよる親に言われた子供のような調子で、戦兎は部屋から出て行った。それに続くように、万丈も部屋から出て行く。

その時。

 

「…………」

 

俺の視線はしばらく、戦兎が置いてあったドライバーに集中していた。

 

 

 

 

______それから、士道達の訓練は、当人にとっては正に地獄とも言うべき物となった。その場にマッドクラウンがいたら、爆笑していただろう。

 

「おーう五河、桐生、万丈…………って、お前らどうした」

 

朝、三人揃って重たい足を引きずって教室に入るなりかけられたのは、殿町の怪訝そうな声だった。

身体中あちこちに湿布を貼り付けている上、足取りは今にも倒れそうなほどフラフラである。唯一万丈のみ、格闘家として鍛えたからか少し余裕そうだったが。尚ガルーダとドラゴンは訓練に参加していないのに、主人と一緒にいた為に飛び火してしまった。フラフラと調子が悪そうに飛んでいる。

 

「………ああ、ちょっとな」

 

「そーそー。折角の発明品も殆ど試せなくって。その上朝士道のとばっちり食らっちゃってさー。こいつ朝十香の胸にモゴォッ?」

 

「い、いや。ほんとに、何でもないんだ。ちょっと家で色々あってな」

 

「そ、そうか。大変、だったな」

 

余計な事を口走りそうになった戦兎の口を塞ぐと、殿町はなにかを察したように乾いた笑いを浮かべた。

 

「あ、ああそういえば。お前らに聞きたいんだが____ナースと、巫女と、メイド。お前らどっちがいい?」

 

「「「………は?」」」

 

予想外の言葉に、三人揃って間の抜けた声を発する。すると、殿町は手にしていた雑誌を取り出す。殿町が見せたページには、漫画のキャラクターと思われる美少女のイラストが映っていた。

 

「読者投票で、来月号のカラーイラストのコスチュームが決まるんだが………三人の意見が聞きたくてな」

 

「……ああ、そう」

 

「つれないなぁおい。ま、それでだ。お前はどれがいいと思う?俺はどっちもいいんだが……」

 

笑いながらそう言うので、何となく考えてみる。

 

「うーんそうだなぁ…………メイド?」

 

「ほお!五河はメイド好きなのか!それで、桐生と万丈はどうだ?」

 

今度は戦兎達二人に向かって、聞いてきた。二人は少し困った様子で返す。

 

「どう、って言われてもなぁ。俺、コスプレとかは特に興味ないし」

 

「俺もなぁ。そういうのよく知らねえし」

 

「そうかそうか。なら、後学のためにこいつは貸しておこう。ちゃんと読んどけよ?」

 

そう言うと、殿町はおもむろに応募用紙を切り取って、雑誌を戦兎達に手渡し自分の席へ歩いて行った。

 

「……なんだ?あいつ」

 

「まあ、いつもあんな感じだし、気にすんな」

 

万丈の言葉にそう返すと、士道達は自分の席へと向かい、鞄を置いた。

その際、既に士道の隣の席に着き、分厚い技術書を読んでいた折紙が、目を向けてくる。

 

「メイド?」

 

どうやらさっきのやり取りを聞いていたらしい。抑揚のない声で聞いてくるので、慌てて手を振る。

 

「い、いや、気にしないでくれ」

 

「そう」

 

そう短く言うと、再び書面に視線を戻した。

その後は十香が入ってきたが、特に何と言うわけもなく、軽く会話をして自分の席へと向かった。

 

「………そういえばあの時、十香が変なこと言ってたな」

 

ふと、先の十香との会話を思い出す。

確か、「とても髪が長い先生とすれ違った」、だっけ。そんな先生、うちの学校にいたっけかなぁ。

 

 

 

 

その頃。

 

「…………」

 

一応来禅高校の教師である村雨令音は、物理準備室での用事を終えた後、職員室へと向かっていた。怪しまれないためにも、ある程度は顔を見せておいたほうがいいという事で、こうしている。まあ、既に立ち入り禁止エリアとなっている物理準備室に出入りしている噂がたっている時点で、一部生徒からはだいぶ怪しまれているのだが。

 

「………っ」

 

「おっと」

 

そこで、よそ見でもしていたのだろうか。

先生の一人とぶつかってしまった。床に倒れてしまう。

 

「______大丈夫ですか?申し訳ありません。私の不注意でした」

 

「……いいえ。私こそ、前を見ていませんでした」

 

互いに謝罪をしながら、前方の先生から差し出された手を取り立ち上がる。

そこで、ふと疑問が浮かんだ。

 

「……?」

 

「どうかされましたか?」

 

令音の記憶が確かなら、こんな教師を来禅高校で見かけたことがない。

容姿は中性的で、男性のようだが、服装がスーツ姿でなければ女性と間違われてもおかしくない外見だ。

髪はとても長く、膝上程度にまで伸びている。瞳の色は紫色で、髪で少し隠れた左目の下には手術跡のように、横線で何かで縫った痕跡が見られる。

 

いつもあまり物理準備室から動かないが、それでも不測の事態が起こった時のために、ある程度の教師の顔やデータは把握している筈だ。しかし、こんな教師はデータベースで見かけた覚えがない。

 

「……失礼ですが、貴方は?」

 

「ん?ああ、これは失礼しました」

 

目の前の人が失念していたように苦笑して、紹介をした。

 

「今日から来禅高校で教鞭を取ることになりました、神大針魏(かみひろしんぎ)と申します。どうぞ、よろしくお願いします。確か、村雨先生、でしたよね」

 

「……ああ。そうでしたか。ええ、合っていますよ。よろしくお願いします」

 

社交辞令に挨拶をして、神代針魏はその場から立ち去った。

状況だけを見るなら、別段怪しいことなどない。

 

「…………」

 

しかし、妙だ。

生徒であれ教師であれ、この学園に新しく人が来ることになった場合は、ラタトスク側が情報を入手しているはずだというのに。精霊十香が学園にいる以上、そういった細かな変化も見逃すわけにはいかないのだ。

 

しかしフラクシナスで見たデータベースにも、『神大針魏』という名前は見覚えがない。見落としたとも思えないし、もしかしたらラタトスク側がデータの入手を怠ってしまった、ということもあり得るが_____

 

「……少し、探りを入れたほうがよさそうかもね」

 

一つ言い残すと、令音はその場を立ち去った。

 

この時既に、接触は果たされていた。

 

 

 

 

四時限目の授業終了のチャイムが校舎に鳴り響き、昼休み開始が示される。

それと同時に、

 

「シドー!セント、リューガ!昼餉だ!」

 

『キュル!』

 

「…………」

 

士道の机に、左右からがっしゃーん!と、机がドッキングされた。

無論、右は十香、左は折紙、上はガルーダである。

ちなみに十香に呼ばれた戦兎と万丈は、亜衣麻衣美衣と五人で食べていた。あいつらいつの間に仲良くなったんだ。そしてその上空を、ドラゴンが飛んでいた。

 

「むう、セントとリューガは他のものと食べているのか…………む」

 

十香が戦兎と万丈の方を見て少し残念そうに呟いた後、折紙の方を睨む。

 

「……なんだ貴様。邪魔だぞ」

 

「それはこちらの台詞」

 

『キュルル!』

 

士道を挟んで、上と左右から猛禽類もかくやという鋭い視線が向けられた。

 

「ま、まあ………落ち着けって。みんなで食えばいいだろ?」

 

そう言うと、渋々といった様子ではあったが、二人は大人しく席に着いた。

ちらりと、戦兎達の方を見る。

 

 

「へぇー!じゃあこのドラゴンって、桐生くんが作ったんだー!」

 

「すっごーい!本当に生き物みたい」

 

「マジ引くわー」

 

「ほらね!どうよ、俺の、発・明・品!」

 

「生き生きしてんなぁオイ」

 

『ギギーガ!』

 

 

何仲良く話してんだ正義のヒーロー。

と、思わずカチンときたが、今更どうしようもない。

溜息を吐きながら、鞄から弁当箱を取り出す。十香もまた弁当箱を取り出すと、二人揃って蓋を開けた。ちなみに戦兎の弁当は自分で作ってみたい料理があると言っていたので、俺の弁当とはメニューが若干異なる。

そして。

 

「……………」

 

折紙がほんの少しだけ目を見開くのを見て、自分の判断を呪った。今なら思う_______何故、戦兎に十香の弁当を作るよう頼まなかったのか。

 

「……………」

 

折紙が冷たい視線を、士道と十香の弁当箱の中身に交互に這わせる。

_______まったく同じメニューで揃えられた、二人の弁当に。

 

「ぬ、な、なんだ?そんな目で見てもやらんぞ?」

 

事の重大さに気づいていないのか、十香が怪訝そうな眼差しを向ける。十香。違う、そうじゃない。

 

「どういう、こと?」

 

「こ、これはだな………」

 

折紙から問われ、士道は顔中に粘っこい汗を噴き出しながら目を泳がせた。

ちらりと、戦兎達の方を見る。

 

 

「え!?これでもまだ足りないの?」

 

「うん。母さんの卵焼きは、これよりもっと甘かったと思う」

 

「ほぇー……やっぱ、頭使ってると糖分が欲しくなるのかなぁ」

 

「まじ引くわー」

 

「まあそこは、天っ才物理学者ですから!どこかの誰かさんと違って、いつも頭はフル回転ですからね!」

 

「おい、何だよそれ!その誰かさんって俺のことだろおい!」

 

『ギギーギガー!』

 

 

なに人がピンチに陥ってる前で楽しく笑いあってんだ!!

駄目だ。この様子じゃ戦兎達の助力は望むべくもない。取り敢えず適当な嘘で誤魔化すか………

 

「じ、実はあれだ。朝、弁当屋で買ったんだ、これ。そこで、偶然十香も…………」

 

「嘘」

 

せめて最後まで聞けや!と、士道は心の中で叫んだ。

 

「これは今から154日前、あなたが駅前のディスカウントショップにて1580円で購入したのち、使用し続けてる物。弁当屋のものではない」

 

「そ、それは…………いやちょっと待て。なんでそんなこと知ってんだ」

 

「それは今重要ではない」

 

いや大分重要だと思うのだが。大丈夫この人、警察の御用になるような事してないよね?

 

「むう、さっきから二人で何を話しているのだ!仲間外れにするな!」

 

『キュルキュー!』

 

横から、不満げに頰を膨らませた十香とガルーダが声を上げてくる。

と、その時。

 

 

ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ______________

 

 

街中に、けたたましい警報が鳴り響いた。

瞬間、ざわついていた教室内が静まり返る。

 

_______空間震警報だ。

 

「…………」

 

折紙は一瞬逡巡のようなものを見せながらも、即座に席を立ち、あっという間に教室から出て行った。

士道は複雑な心境で、その背を目で追うしかなかった。また、彼女は陸上自衛隊ASTとして、戦場へ向かうのだろう。________十香のような、精霊を殺すために。

 

と、そこで教室の入り口から、ぼうっとした様子の声が響いてきた。

 

「……皆、警報だ。すぐに地下シェルターに避難してくれ」

 

白衣を纏った村雨令音が、廊下の方へ指を向ける。

生徒達はゴクリと唾液を飲み下した後、次々と廊下に出て行った。

 

「ぬ?シドー、一体皆どこへ行くのだ?」

 

十香がクラスメート達の様子を見て首を傾げてくる。

 

「あ、ああ。シェルターだよ。学校の地下にあるんだ」

 

「シェルター?」

 

「ああ。とりあえず説明は後だ。俺たちも行くぞ、十香」

 

『キュルルッ!』

 

「ぬ、ぬう」

 

十香は弁当に名残惜しそうな視線を残しながらも、士道の指示で立ち上がる。

そして、戦兎や万丈達の後について廊下に出ようとしたところで。

 

「……シン、セイ、バジン。君たちはこっちだ」

 

「っ、れ、令音さん?こっちって………」

 

「……決まっているだろう、フラクシナスだ」

 

士道と戦兎、万丈の首根っこを掴むと、令音は声を潜めながら言ってきた。

 

「……昨日の今日で、シンは結論が出ていないのかもしれない。だが………いや、だからこそ、君には見ておいてほしい。精霊と、それを取り巻く現状を」

 

士道は渇いた喉を唾液で湿らせると、小さく拳を握った。

 

「……分かりました。行きます」

 

「俺たちも行きます。実際のとこ、精霊がどんな現状にあるのか、まだ詳しくは知らないから」

 

「おう!………って、そういや十香は連れてかないのか?」

 

万丈が他のクラスメートの様子を眺めている十香の様子を見て問いかける。

 

「……ああ、そのことか。うむ、十香は皆と一緒にシェルターに避難させてしまおう」

 

「え?それでいいんですか?」

 

「……ああ。力を封印された状態の十香は人間とそう変わらない。それに、精霊とASTの戦いを見て、自分の事を思い出されても困ってしまう。言っただろう?ラタトスク側としては、十香のストレスはできるだけ少ない方が望ましい」

 

「………分かりました。行くぞ、士道、万丈。ほら、お前らも」

 

『キュルッキュー!』

 

『ギーギギガ!』

 

「おう」

 

「いや、でも………」

 

戦兎達とは対照的に、まだ不安気な様子を見せる士道。とそこへ、士道達の担任のタマちゃん先生が、焦った様子で避難を促す。どうやら、迷っている時間は無さそうだった。

 

「………岡峰先生、十香をよろしくお願いします!」

 

「ふぇ?え?、あ、は、はい、それはもちろん」

 

「シドー、セント、リューガ………?」

 

十香が、不安そうに眉を歪めてくる。

 

「十香。いいか?先生と一緒に、シェルターに避難していてくれ」

 

「シドー達は、シドー達はどうするのだ?」

 

「あー……俺たちは、ちょっと大事な用があるんだ。先に行っててくれ。な?」

 

「と、言うわけで、ドロン!」

 

「!あっ……!」

 

「五河くんに、桐生くんに万丈くん、村雨先生まで!?一体どこへ!?」

 

心配そうな二人の声を背に聞きながら、四人は校舎の外へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 




はい、どうでしたかね?
新アイテム、新キャラ登場です。その割に見せ方が下手なのは、まあ、すいません。初心者なもので。

それで、少し予定を変更したいと思います。
沢山の読者から、『戦兎のヒロインは四糸乃がいい』という意見を頂いたので、士道にとって重要なエピソードにする路線は変えず、四糸乃は戦兎のヒロインにしたいと思います。
今まで散々四糸乃は戦兎のヒロインにしないと言っておきながら、すいません。
ですが、自分も考えてみたら四糸乃はウサギがイメージで、戦兎もウサギがイメージなので、確かにベストマッチと思いました。原作の方のエピソードがとても良かったので、あまり崩したくはなかったのですが。

それでは次回、『第14話 儚きハーミットとマッドな道化師』をお楽しみに。

………もっと評価つけてくれても、良いんですよ?(チラッチラッ


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第14話 儚きハーミットとマッドな道化師

桐生「異世界から来た天才物理学者、桐生戦兎は、仮面ライダーである!」

万丈「どうしたいきなり。いつもと始まり方ちょっと違うじゃねえか」

桐生「いや、毎回このあらすじ紹介って始まり方がワンパターンじゃん?だから、ちょっと変えてみたんだよ」

万丈「ふーん。あ、俺の新しい肩書き!ようやく考えたぜ!」

桐生「へー」

万丈「ちょっとは興味持てよ!丸一日考えたんだからなー………ゴホン。ズバリ、『プロテインの貴公子』!どうだ!俺が一日掛けて考えた肩書き!」

桐生「そんなものに一日かけた事を少しは恥ずかしがって?さて、そんなボキャブラリーの少ない万丈は置いておいて、どうなる第14話!」





「ああ、来たわね四人共。もうすぐ精霊が出現するわ。令音は用意をお願い」

 

「……ああ」

 

士道と戦兎と万丈、令音がフラクシナス艦橋に着くなり、琴里からそんな言葉が飛んできた。

令音が小さく頷き、艦橋下段にあるコンソールの前に座り込む。

 

「______さて」

 

と、士道が無言でいると、琴里が首を傾げるようにしながら問うてきた。

 

「あまり時間をあげられなくて悪いのだけれど。腹は決まったのかしら、士道」

 

「………っ」

 

息を詰まらせる。が、そこで突然、環境内にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

 

「な………なんだ?」

 

「おい、なんだよこの音!」

 

「非常に強い霊波反応を確認!来ます!」

 

士道達が狼狽に目を丸くすると同時、艦橋下段から、男性クルーの叫び声が発せられた。

 

「オーケイ。メインモニタを出現予測地点の映像に、切り替えてちょうだい」

 

琴里が指示を発すると、メインモニタに街の映像が俯瞰で映し出された。

いくつもの店が立ち並ぶ大通りだが、そこに当然人の姿は無い。

 

そんな映像の中心が、ぐわんっ、と撓む。

 

「え………?」

 

一瞬、映像を映し出している画面の方に問題があるかと思ったが、違う。

 

何もないはずの、空間に。

 

水面に石を投げたような波紋が、広がっていた。

 

「な、なんだこりゃ………」

 

「おい!何がどうなってんだよ!」

 

『キュル!?』

 

『ギギーガ?』

 

「あら?三人とも見るのは初めてだっけ?」

 

琴里がそう言うのと同時に、空間の歪みがより大きくなっていき________

 

画面に光が生まれたかと思った瞬間、爆音と共に画面が真っ白になった。

 

「「「______っ!」」」」

 

画面内の出来事だとわかっているはずなのに、三人とも思わず腕で顔面を覆ってしまう。

そしてその後目を開くと、画面には、今までと全く違う光景があった。

 

街に、穴が空いている。

 

ついさっきまで多くの建物があったはずの通りの一部が、浅くすり鉢のように削り取られている。コンクリートで舗装されていた街路は下の土が剥き出しになり、その周囲もまるで大型台風が直撃したかのような酷い有様となっている。

 

その様は、およそひと月前に十香と初めて会った時と酷似していた。

 

即ち、今のが______

 

「空間震………っ」

 

「………起こる瞬間は初めて見たけど、こうして見ると凄いな」

 

「なんだよ…………これ…………」

 

廃墟を見たことは何度もあったが、爆発が起こる瞬間を目撃したのは初めてだった。

頭では分かっていた事象が、ようやく実感として理解できた気がした。人々の生活空間が、一瞬で全て破壊されてしまう、その恐ろしさを。

 

「ま、でも今回の爆発は小規模ね」

 

「そのようですね」

 

と、琴里とその後ろに控えていた副司令、神無月が声を発する。

 

「小規模……これでかよ!?」

 

すると、万丈が困惑するように言葉を発し、戦兎がそれを宥める。

 

「よく考えろよ。ユーラシア大空災程ではないにしろ、最近じゃ街一つ消し飛ぶレベルの空間震がいくつも起こってるって説明したろ?そう考えりゃ、これが小規模なのは当然だ。…………ま、だからってそう簡単に納得できるものでもねえけどな」

 

「…………」

 

戦兎の発した言葉に、万丈が黙り込む。戦兎も口調は冷静であったものの、そこにはどうしようもない割り切れなさが残っていた。彼にも思うところがあるのだろう。

 

「僥倖、と言いたい所ですが、《ハーミット》ならばこんなものでしょう」

 

「まあ、そうね。精霊の中でも気性の大人しいタイプだし」

 

「ハーミット?」

 

琴里達の会話の中に、聞きなれない単語が交ざり、疑問符が浮かぶ。

 

「それって、何の事だよ」

 

「ああ、今現れた精霊のコードネームよ。ちょっと待って。画面拡大できる?」

 

するとすぐに映像がズームし、街にできたクレーターへと寄っていった。と、それに合わせるように、画面内にも変化が訪れる。

 

「ん?おい、雨なんて降ってたか?戦兎」

 

「………いや、降ってなかったと思うぞ」

 

『キュルルゥ……』

 

万丈達が呟く。そう、ふっと画面が暗くなったかと思うと、ぽつ、ぽつと雨が降り始めたのである。ガルーダがこの前雨に濡れたのを思い出してか、鳴き声のトーンが少し下がった。

だが、そんな変化も気にしていられなくなった。

 

クレーターの中心に、小さな少女の姿が確認できたからだ。

 

「……………あれは………っ!」

 

その少女の姿を確認した瞬間、士道の全身を衝撃が駆け抜ける。と同時に、忘れかけていた焦燥感の様なものが、胸の内に込み上げてきた。

 

ウサギ耳の付いたフードを被った、青い髪の少女。

歳の頃は琴里と近く、インナーを着て左手にウサギのパペットを装着している。

士道の目に狂いがなければ、間違いない。

 

あれは________士道が昨日、学校帰りに遭遇した、女の子だった。

 

スマッシュから______庇った女の子だ。

 

「ん?どうしたんだ士道」

 

「俺、あの子と、会ったことが、ある………」

 

「なんですって?一体いつの話よ」

 

「つい昨日だ………学校から、帰る途中に…………」

 

「それって、お前がスマッシュと遭遇した時か?」

 

「ああ。あの子を、庇って………………」

 

 

_______そのまま、何も出来ずに倒された。

 

という一言をぐっと押し込み、昨日合った出来事を簡潔に話した。

 

「女の子庇ってスマッシュに立ち向かうなんて………なんだ、やるじゃないの、士道」

 

「………どうもな」

 

「?」

 

少し棘のある口調で、士道が返す。戦兎は疑問符を浮かべながらも、特に気にしない様子でモニターに視線を移した。

と同時に、けたたましい音がスピーカーから轟いてきた。

 

「………ASTか」

 

「ええ。精霊が現れたんだもの。仕事を始めるのは私たちだけじゃないって事」

 

画面に目をやると、今し方《ハーミット》と呼ばれた少女の精霊がいた場所に、煙が渦巻いた。恐らくは、ミサイルか何かを撃ち込まれたのだろう。

その周囲を、物々しい機械の鎧に身を包んだ人間______ASTの部隊が、浮遊していた。

煙の中からハーミットが飛び出し、AST隊員達の間を抜けるように身を捻り、空に躍った。

しかし、ASTはそれを確認すると、一斉にハーミットを追跡し、身体中の武装から夥しい量の弾薬を発射する。

 

「っ!あいつら、あんな小さい奴にも見境なしかよ!」

 

万丈の憤った声に、しかし琴里が冷静に言う。

 

「十香の時にも分かってるでしょう?ASTにとって、精霊は精霊。排除すべき存在で、それ以上でもそれ以下でもないの。姿形なんて、関係ないわ」

 

「っ!だからってよ!」

 

万丈が口を開いた瞬間、煙の中から再び少女が空に躍る。だが、《ハーミット》は決して反撃しようとはせず、逃げ回るばかりだった。

 

「あの子………反撃しないのか?」

 

「ええ。いつもの事よ。彼女は精霊の中でも、極めて大人しいタイプ。だからこそ、隠者(ハーミット)っていう識別名が付けられた訳だししね」

 

「なら………っ!」

 

「ASTに情けを求めるなら無駄よ、士道。彼女が、精霊である限りね」

 

「……………っ」

 

にべもない答えに、士道は唇を噛んだ。

分かっていたはずなのだ。彼女がどういう性格で、どういう気性かなんて、ASTには関係ない。

彼女達にとっては、この世に害なす敵を討っているだけでしかないのだから。

 

「_____三人とも、転送の準備をするわ。総員、第一級攻略準備!」

 

『はッ!』

 

クルー達が一斉にコンソールを操作し始める。

 

「士道たちも準備しなさい。………迷ってる時間は、無いわよ」

 

最後にそう言い残して、琴里はメインモニタに視線を移した。

 

 

 

 

「ふぅ、ここでいいのか?」

 

『ええ。精霊も建物内に入ったわ。ファーストコンタクトを間違わないようにね』

 

「………了解」

 

「了解」

 

「おう」

 

三人で返事をして、インカムから手を離した。

どうやらハーミットは比較的出現回数が多い精霊らしく、その行動パターンの統計と、令音の思考解析を組み合わせれば、おおよその進路に目星がつくのだという。

また、ASTの主要装備であるCRユニットは屋内戦闘に不向きであるらしく、建物を破壊してこない限りは、ASTからの襲撃は警戒しなくても良いのだそうだ。

しかし、その時間はもって数分か数十分といった所。その僅かな時間が、戦場で士道達が精霊と話をするための貴重な時間なのであった。

 

「………スマッシュの反応は?」

 

『今のところ無いわ。確認できたら、随時知らせるから大丈夫よ』

 

「分かった」

 

しかし、問題はスマッシュだ。スマッシュはASTと違って所構わず暴れてくるため、その襲撃については常に警戒せねばならない。最悪の場合、対話役を士道一人に押し付けなければならないからだ。

 

『______三人共。《ハーミット》の反応がフロア内に入ったわ』

 

「…………!」

 

「………いよいよか」

 

不意に響いた琴里の声に、士道達は身体を緊張させた。

そのまま、ゆっくりと進んでいく。

 

すると、通路の向こうで。

 

「ん?おい、あいつじゃねえか?」

 

万丈が、何かを見つけたように指を指した。

その方向を見ると、たしかにフードと青い髪の女の子が見える。

 

『ええ。間違い無いわ。ハーミットよ。そのまま接近して』

 

琴里からの指示が聞こえ、その場へ向かおうとする。

 

と、その時。

 

 

おおっと、そうはいかねえなぁ

 

 

どこからか、粘つくような声が響いた。

 

「っ!この声は………!」

 

万丈が反応し、次いで、インカムから声が上がる。

 

『っ!三人とも、緊急事態よ。正面に謎の反応を確認………スマッシュに酷似しているけど、見覚えのない周波数ね………』

 

その声が響いた瞬間、正面の空間が歪む。

まるで鉛筆で紙の窪みをなぞった時のように、その場に姿が見えてくる。

 

 

どうも初めまして、かなぁ?ああ、クローズの方は、お久しぶり、だったなぁ……

 

 

「っ、てめえは!」

 

「……まさか、あいつが?」

 

「ああ……間違いねえ」

 

戦兎達が話してるうちに、とうとうその姿の全貌が見えてくる。

闇に溶け込むような、濃い紫色の身体。

胸元から伸びる茶色い管。

 

鋭利な黄色いバイザーに、同じく黄色い胸元の、サソリのような光るマーク。

 

どぉーもどぉ〜も。みぃ〜んな大好きマッドクラウンでぇすよぉ〜

 

まるで子供番組のようなひょうきんな声で言う、男。

その姿に、士道は言い知れない恐怖を覚えた。

 

まるで、全身が拒否反応を起こして総毛立っているような、そんな感覚。

 

「な………んだよ、お前………っ!」

 

通りすがりの道化師、って言ったところさ。覚えておいてくれよぉ?()()()()

 

「っ!なんで、俺の名前を………っ!」

 

知っているともさぁ。ず〜っとずぅっとずぅ〜っと前からねぇ?

 

「っ………あっ………あぁ…………っ」

 

その言葉一つ一つに、恐怖を覚える。

 

ホラー映画とかの恐怖とは根本から違う、本能的な恐怖。

自分の人間としての、生き物としての本能が告げている。

 

この男は、自分にとって()()そのものであると。

 

「………お前か。前万丈が言っていた男は」

 

んん?おぉ!仮面ライダー、ビルドかぁ!こんな所で会えるたぁ、運命、感じちゃう?

 

「……御託はいい。何故俺たちのことを知っている。それに、その姿。何故この世界にボトルのシステムがある」

 

おっ!これの事も知ってるたぁ、さっすが正義のヒーローだぁ!どんな悪も見逃さないってか!

 

まるで囃し立てるように笑う、眼前の道化師。

それを戦兎は鋭い視線を向けながら、言葉を発した。

 

「……そこを退いてくれ。俺たちにはやらなきゃいけない事があるんだ」

 

ハーミットの事だろぅ?知ってるぜぇ?

 

「……精霊の事も知っているのか」

 

まぁな。でも、今行っても無駄だ。俺が眠らせたからな。今頃はスヤスヤ寝てんだろぉ

 

「っ!何だと?」

 

その言葉に、戦兎をはじめ、士道も少なからず動揺していた。

 

精霊とは、人間をはるかに凌駕する力を持った存在である。それこそ、出現するだけでその余波で周囲が吹き飛ぶくらいに。

それを、眠らせたと言うのか。

 

……この男は、一体どれほどの力を持っているのだろうか。

 

先ほどよりも幾らか冷静になった頭で、士道は考えた。

 

あぁ、助けを求めようとしても無駄だぜ?俺が電波妨害をしたからな。お前らに指示してる奴からの通信も来ないだろぅ

 

「っ!」

 

そう言えば、先ほどから琴里の声が聞こえていなかった気がする。

試しにインカムを軽く突いてみても、ノイズのような音が出るだけだ。

 

ま、ここを退く気は無いけどな。俺にもやる事があるんでねぇ

 

「……だったら、力づくで行くまでだ」

 

「ああ。来い、ドラゴン!」

 

『ギーギギーギガ!ギーギーギーッ!』

 

そう言うと、戦兎と万丈はビルドドライバーを取り出し、腰に巻きつける。そして万丈は手にクローズドラゴンを収め、変形させた。

そしてボトルを取り出して振り、戦兎はドライバーに、万丈はクローズドラゴンへと挿し込んだ。

 

 

ゴリラ!ダイヤモンド!

 

 

BEST MATCH!

 

 

【Wake Up!CROSS-Z DRAGON!

 

 

【【Are You Ready?】】

 

 

「「変身ッ!」」

 

 

【輝きのデストロイヤーッ!ゴリラモンド!!イェイ……!】

 

【Wake Up Burning!Get CROSS-Z DRAGON!!Yeah!!】

 

 

変身が完了するや、ビルドとクローズがマッドクラウン目掛けて攻撃を仕掛けた。

 

おぉーおぉー、血気盛んだねぇ!けど………

 

マッドクラウンも銃撃で応戦し、寄せ付けようとしない。

 

戦いの火蓋が、落とされた。

 

 

 




どうでしたか?
今回ちょっと区切りが悪く短かったんですが、文章が続かなかったので一区切り入れさせてもらいました。

ちなみにこの四糸乃編ですが、原作にある十香とのすれ違いイベントは起こらず、代わりにビルド本編で言う所の万丈の変身までの流れのようなパートが入ります。

ええ、もう大体の読者が察しているでしょうが、ぶっちゃけます。隠そうと思ってましたが、ぶっちゃけちゃいます。


この章で、士道が仮面ライダーに変身します。


士道が初変身するくせになんで戦兎が攻略するんだよとかツッコミどころがあると思いますが、この章くらいにしか士道の初変身を突っ込めそうなところが無かったんです。あと当初は変わらず士道が攻略する流れにしていたので。

なので、多少不自然な流れになってしまっても、大目に見ていただけると幸いです。

それでは次回、『第15話 覚醒と白兎のザドキエル』、をお楽しみに

あ、前回沢山の感想や評価、ありがとうございます!

励みになるので、今後ともぜひよろしくお願いします!


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第15話 覚醒と白兎のザドキエル

桐生「仮面ライダービルド、桐生戦兎は、天っ才物理学者である!謎の怪人スマッシュの脅威に立ち上がるべく、仮面ライダーとして蘇ったのだ!」

万丈「前回に引き続きまた変えたのか。てか蘇ったも何も、お前死んでねえだろ」

桐生「細かい事はいいんだよ。こういうのは掴みが大事なんだよ掴みが」

士道「ていうか、前回の最後からこの始まり方ってどうなんだ?もうちょいあるだろ他に」

桐生「苦情はこの台本作った人に言って?俺もあらすじ紹介の台本渡されてちょっとこれでいいのかって不安なんだから」

万丈「まあ別にいいんじゃね?つーわけで、第15話をどうぞ!」

桐生「ああっ!俺が言おうとしてたのに!」






【ヒッパレーッ!】

 

【SMASH HIT!!】

 

ビルドがゴリラアーマーの【サドンデストロイヤー】で、クローズがビートクローザーで攻撃を仕掛ける。

しかし、マッドクラウンも応戦するように、手元からブレード型の武装を取り出す。

 

おいおい、いきなり攻撃なんて酷いじゃぁないかぁ

 

「うるせえっ!とっととそのマスク剥いで正体暴いてやるッ!」

 

クローズと剣を交えながら、しかしビルドへの警戒も忘れない。ビルドが迫ってきた方向へ、銃撃を叩き込んだ。

 

「うわっ、くそっ、抜け目ねえやつだな………!」

 

ハッハァーッ、褒め言葉として受け取っておくよぉ〜!

 

軽口を叩きながらも、クラウンは容赦なく反撃をしてくる。右手のブレードでクローズとの距離を離し、左手の銃でビルドに攻撃をする。

 

「くそっ、だったら………これで!」

 

ゴリラモンドのフォームでは不利と悟ったビルドが、別のフルボトルを取り出し、振ってドライバーに挿した。

 

 

ニンジャ!コミック!

 

BEST MATCH!

 

【Are You Ready?】

 

「ビルドアップ!」

 

掛け声と共に、ビルドのアーマーが切り替わった。

 

 

【忍びのエンターテイナーッ!ニンニンコミック!イェーイッ!!】

 

 

パワー重視のゴリラモンドに対しての、スピード重視のベストマッチフォーム、【ニンニンコミック】フォームである。専用武器の四コマ忍法刀を取り出し、トリガーを一度引く。

 

 

【分身の術!】

 

 

瞬間、ビルドの身体が複数体に増え、一斉に攻撃を仕掛けようとする。

 

しかし、マッドクラウンはさして驚く様子もなく、フルボトルを取り出した。

 

「っ!フルボトルっ!?」

 

フルボトルを持っているのは、お前らだけじゃないってことさぁ

 

そしてフルボトルを、銃に装填し、本体上部にあるパーツを二度引いた。

 

 

【FULLBOTTLE……ROSE

 

【TRIGGER……】

 

【EFFECT BREAK】

 

 

音声が鳴ると同時に、銃口から蔓のようなエネルギーが舞い、ビルドの分身体を一気に攻撃した。

しかしその手応えに、クラウンは首をかしげる。

 

んぅ?手応えがねえなぁ………本体は、あっちか

 

そう言って横に振り向くと、既にドリルクラッシャーを構えて攻撃体制となったビルドの姿があった。

 

 

【Ready Go!VOLTEX BREAK!!】

 

 

「はぁぁぁぁーッ!!」

 

ちぃっ!

 

そのままニンジャアーマーのスピードで以って急接近し、装填したダイヤモンドフルボトルのエネルギーをぶつける。クラウンはその衝撃に耐えきれず、地面へ倒れる。

すかさず、ビルドが呆然としていた士道に叫ぶ。

 

「士道、今だ!ハーミットをっ!!」

 

「っ!わ……分かったッ!」

 

『キュルゥッ!』

 

その言葉に反応し、覚束ないながらもハーミットの元へ駆け寄ろうとする士道。

しかし、クラウンはすぐに立ち上がり、手元のブレードにあるスイッチ状のパーツを操作した。

 

そぉぅはいかねぇなぁ

 

 

【SMASH……REALIZE】

 

 

低い電子音が聞こえたと同時に、ブレードの先端から液体が流れ、士道とクローズの目の前で収束する。

それらはやがて肉体を形作って行き、二体のスマッシュを生み出した。

 

「っ、スマッ、シュ………っ!」

 

どぉうだぁ?このリキッドスマッシュは。普通の奴よりちいと強いぜぇ?

 

「くっそ、俺も行かせねえつもりかよ!」

 

クローズが毒付きながらも、ビートクローザーを構えて応戦する。

しかし、敵のリキッドスマッシュは、身体をスライムのように崩して、攻撃をぬるりと躱した。

 

「なっ、うっそだろっ!?」

 

ま液体だからなぁ。溶けて動いて避けられるんだよぉ。ここ、テストに出るから覚えてろよぉ〜?

 

「くっそ、舐めやがって!」

 

「万丈っ!クソッ!」

 

ビルドと交戦しながら、軽口を叩くクラウン。

一方の士道は目の前に現れたスマッシュに怯えつつも、ポケットの中にある朱色のボトル______戦兎命名、【スピリットフルボトル】を振り、硬く握り締めた。

 

「や、やってやる…………スマッシュが、なんだ………っ!」

 

身体が震えるのを感じながらも、歯を食いしばってスマッシュと対峙する。

やがて、スマッシュが動いた。

 

「ァァァァァグッゥアアアッ!!!」

 

「がぁっ!ぐっ………!」

 

「士道ッ!」

 

反撃がかなわず、一撃をもろに受けてしまう。

遠くへ吹き飛ばされ、腹から打ち付ける。身体中を鈍い痛みが襲うがしかし、前回とは決定的に違う何かの違和感に、その時気付いた。

 

「(前より………痛くない?)」

 

そう、痛いことは確かなのだが、なんか、前よりもそれが軽くなっている気がするのだ。

ボトルの影響か、それともスマッシュの攻撃自体が前のやつより弱かったのかは分からないが、とにかく立ち上がれるだけの力は残っていた。

 

「やられる………このままじゃ、死ぬ………っ!」

 

切ってしまったのか、口から血が流れる。それを手で拭き、もう一度スマッシュと対峙した。

 

「ァァァァァゥグルァァァァアッ!!」

 

そして、今出来る精一杯の力で、向かってくるスマッシュに、拳を据える。

 

「うぅっ………だぁぁぁぁぁぁーーッ!!」

 

そして、あらん限りの力を込め、叫び、思いっきりスマッシュへ殴り付ける。

その瞬間、信じられないような光景が広がった。

 

先程の万丈の攻撃は、液化した避けたはずのスマッシュが。

 

その体を粘土のように歪ませ、思いっきり後方へ吹っ飛んで行ったのだ。

 

「えっ……!?」

 

「なっ、あいつ………」

 

………なんだとぉ?

 

三人から、戸惑いの声が上がる。

そして、自分の拳を見て、確認する。

 

「はぁっ………はあっ…………痛くない………これならっ!」

 

もう一度拳を握り、スマッシュへと向かっていく。

不思議と、先ほどよりも身体が軽い気がした。

 

「ふっ!!はッ!だぁッ!!」

 

「ぅグゥォォォォッ!!」

 

士道が立ち上がるスマッシュに、渾身の攻撃を繰り出す。蹴っては殴り、蹴っては殴る。型もクソも無い、素人丸出しの、必死な攻撃。

相手もそう簡単には倒れないが、確実に手応えがあった。度々液化して躱してくるが、それでも攻撃が当たった時は数歩後ろへ下がり、痛がる様子をする。

 

五河士道………この短期間のうちに、ハザードレベルがどんどんと………!ハッ、ハハッ

 

そんなクラウンの声すらも気にせず、目の前の敵に立ち向かう。

スマッシュからの攻撃を受けるがそれも厭わず、ただ、ひたすら殴りつける。外傷は、あの不思議な炎がかき消してくれた。痛みそのものが消えるわけではないが、大規模な怪我は心配せず戦える。

 

凄い………凄いぞ………2.7、2.8、2.9…………!

 

「さっきから、何を言っているんだお前はっ!」

 

感謝するよぉビルドォッ!君達のおかげで…………ついにっ………!

 

そんな会話が、聞こえる。

しかし、気にしない。あの子を、助ける為に、目の前の敵を倒す。

 

そして、士道が放った、その一撃が。

 

「がぁぁぁぁぁあああっ!!!」

 

「ゥッ!!?」

 

ボトルの力を込めた、その一撃が。

 

ついに、目の前のスマッシュを、爆散させた。

 

「なっ!」

 

「やりやがった!?」

 

「はぁっ………はぁっ………はぁっ…………!」

その後には、なにか水跡のようなものが残った。どうやらリキッドスマッシュは、倒された後はそのまま水のような物質になるらしい。

 

凄まじい倦怠感が、身体を蝕む。

全身の鈍痛と、何度も打ち付けた拳の痛みが、よりそれを加速させた。

 

ふと、スマッシュを呼び出した本人であるマッドクラウンへ向き変える。

 

悔しがっているのか、と、淡い期待を向けて見たそこには。

 

くっ………くくっ………フフッ………ハハッ…………!

 

「な………に…………?」

 

笑いを堪えきれない様子で、腹を抑える道化師の姿があった。

そして。

 

 

フッハハハハハハハッ!!ハハハハハハッ!!

 

 

「「「!?」」」

 

ついには顔を見上げ、手を広げて大きく笑った。

 

「何が…………おかしいん、だ………!」

 

おかしい!可笑しいだって!?まさか!寧ろこれ以上ない感謝だよぉっ!!ああっ、狂おしいッ!(じぃつ)に狂おしいッ!!

 

「どういう事だ……!」

 

ビルドがそう言うと同時に、クラウンがその名の通りの狂ったような口調で語りだす。

 

 

ハザードレベル3.0…………とうとう、とうとう、とうとうッ!!覚醒したかァッ!五河(いぃつか)士道(しぃどう)ゥッ!!

 

 

「っ、なんだって!?」

 

その言葉を聞き、ビルドが動揺したような口調になる。

士道はその言葉を聞いても、何の事だかさっぱり分からなかった。そういえばリビルドライバーについて話した時、戦兎がそんな単語を言ってたっけな、という事くらいしか、朦朧と思い出せなかった。

その後、クラウンは信じられない一言を発した。

 

気が変わったよぉ〜!この場はぁ、引き上げる事にするぅっ!ありがとうゥッ!

 

「なん……だと………っ!?」

 

先ほどまでは通さないと言っていたにも関わらず、あっさりと手のひらを返したようにそう言った。

そして、手元のブレードを操作し、クローズと交戦していたリキッドスマッシュを元に戻す。

 

「オリャァッ!って、アレ?どこいった?」

 

精々ハーミットとの対話をぉ、楽しんだらいいんじゃなぁーい?んじゃ、まったなぁ〜っ!

 

「待てっ!………お前は、何が目的だ。何故俺たちのことを知っていた」

 

翻って手を振り、その場を去ろうとするクラウンを、ビルドが引き留める。クラウンはその場で立ち止まって肩を竦め、一度こちらに振り向いた。

そして大仰に手を挙げ、芝居掛かった仕草で答える。

 

俺はただの引き立て役さぁ。舞台を盛り上げ、観客を笑わせるための道化師(クラウン)。その舞台でどうするのかは、お前達の自由だよぉ

 

「……どういう意味だ」

 

そのうち分かるさぁ。それじゃ今度こそ、バァイナラァ〜!

 

もう一度手を振ると、銃を取り出し水蒸気を発射する。

それが晴れた後には、マッドクラウンの姿はどこにも無かった。

 

それを確認すると、ビルドとクローズは変身を解除する。

 

「………………」

 

そして、士道は。

 

「…ん?士道、おい、士道っ!?」

 

 

_______バタン。

 

 

糸の切れた人形(マリオネット)のように、力無く、その場で倒れた。

 

 

「おいっ、大丈夫か士道!?しっかりしろ、士道!」

 

『キュルッ!?キュルルゥッ!』

 

戦兎が駆け寄り、ガルーダも心配そうに鳴き声をあげ、士道の顔を突く。

すると突然耳元のインカムから、ノイズ混じりに音が聞こえてきた。やがてノイズが除かれ、声が鮮明になってくる。

 

『……っ!通信、繋がってるっ!?今どういう状況なの!?応答して!』

 

「っ、琴里か!」

 

どうやらマッドクラウンが去ったと同時に、通信妨害も解除されたらしい。琴里の声がインカムから聞こえてきた。

 

「今しがた敵と交戦していた。ハーミットは眠らされて、士道は気絶してる!」

 

『っ!……分かったわ。士道はこちらで回収する。戦兎たちは、作戦を続行して。まだ、ハーミットの反応は消えてないわ』

 

「………分かった、頼む」

 

そう言って通信を切った戦兎は、士道の身体を地面に寝かせた。するとガルーダが士道に寄り添うように、その場で着地する。

そして、呟く。先ほど、クラウンが放った一言が、戦兎の胸に痛烈に残っていた。

 

 

「………ハザードレベル、3.0だと………士道が……………」

 

 

その数値は、仮面ライダーに変身できる________普通に暮らしていたら、まず到達し得ない数値だった。

 

 

 

 

士道とガルーダが転送されるのを見届けた後、戦兎と万丈はハーミットの元へと向かった。幸い少し強く眠らされていただけのようで、何か攻撃を受けたような後は見えない。

 

「おい、大丈夫か?おい」

 

気遣いながら、少し強めに肩を揺する。大きいフードが揺れる事数十秒、ようやくハーミットが目を開け、そして肩を震わせた。

 

「あっ…………う……………」

 

「あ、俺は、桐生戦兎。こっちは、万丈龍我だ」

 

「おう」

 

『ギーギガー!ギギー!』

 

「………で、こいつがクローズドラゴンだ」

 

と、軽く自己紹介をする。ドラゴンも『俺も俺も!』と主張するように鳴き声をあげたので、万丈が補足するように指差して紹介する。この世界に来てから、やけにこのドラゴンも感情豊かになったものだ。

すると突如、ハーミットの声とは少し違う声音が聞こえてきた。

 

『_____君たちも、よしのんをいじめに来たのかなぁ?』

 

見ると、ハーミットの左手に装着されたパペットが、パクパクと口を動かしていた。

 

『って、よく見たら、君、昨日の変身したおにーさんじゃない』

 

「昨日?っていうと、あのスマッシュをやっつけた時か……見てたのか?」

 

『うん!ばっちりねぇ〜!しっかし驚いたよぉ〜。まるで、正義のヒーローみたいだったね!』

 

「おっ、なんだ分かってるじゃん!でも、あれは他人には秘密な?」

 

『うんうん!そこは()()()()の口の固さを信じてもらっていいよ!』

 

そう言うと、パペットが両手を広げて笑う仕草をする。片手でやっているとは思えないほど自然な動きに、戦兎も思わず驚いた。

しかし、何故だろう。何処と無く違和感を感じる。

 

「……なぁ、戦兎。なんか、イメージしてたのと違くね?」

 

『随分とまあ、陽気な精霊ね』

 

万丈と琴里も同じような感想を言ってくる。パペットでの演技とはいえ、なんだか見た目とのギャップが激しい。

と、ここでハーミットとの会話の中に気になる単語が混じった。

 

「なあ、よしのん、ってのは何なんだ?君の名前?」

 

『そうそう!よしのんはよしのんのナ・マ・エ!ねっ?凄いでしょ?最っ高でしょ?可愛いでしょ?』

 

「あっ、それ俺の台詞……まあ、いい名前だな」

 

『ギーギガー!』

 

『あ、君もそう思う?話が分かるドラゴンじゃなーい!』

 

「え、お前こいつの言葉分かるの?」

 

と、万丈がよしのんとドラゴンの会話が成立した事実に突っ込む。

とそこで戦兎は、この子は十香と違って名前がちゃんとあるんだな、と心の中で思った。

『十香』は、士道が名付けた名前だ。

 

「あ、そうだ。おい、よしのん」

 

『はいはーぃ、何かなー?えーっと、龍我くん?』

 

すると万丈が何かを思いついたように、よしのんに質問をしてくる。

 

「いや、大した事じゃないんだけどよ。よしのんってのは、その人形じゃなくて、お前の名前なんだよな?」

 

本当に他意は無いように言いながら、少女の方へと目を向ける。

 

「?」

 

瞬間、戦兎は違和感に気付いた。

さっきまで陽気に話していたパペットが、急に黙りこくったのである。

次いで、戦兎と万丈のインカム越しに、ビーッ!ビーッ!という警報音が聞こえてくる。

 

『______っ、戦兎、万丈。機嫌の数値が一気に下がってるわ。万丈、あなた一体何を話したの?』

 

「あ?いや俺はただ、なんでずっと腹話術でしか話さねえのかなと思ってよ」

 

万丈が素直に口にすると、パペットが万丈にゆらりと顔を近づけてきた。

 

『______龍我くんの言ってることが分からないなぁ……。腹話術ってなんのこと?』

 

口調は穏やかだが、明らかに纏う雰囲気が、違う気がした。

慌てて戦兎は万丈の口を塞ぎ、笑って唇を動かした。

 

「いやー、やっぱよしのんはよしのんだよな!ごめんなー、このバカが適当なこと言ってよー!」

 

「モガッ、モゴッ!」

 

いいからちょっと黙ってろ

 

すると。

 

『ぅうんっ、もー、龍我くんったらお茶目さんなんだからー』

 

さっきまでの凄味が嘘のように霧散して、パペットが甲高い声を上げた。

 

「………ぷはっ、何すんだよいきなり!」

 

「お前は余計なこと言わないの。下手なトラブルになったらどうすんのよ」

 

と、戦兎が万丈を諌めていると。

 

 

『____ッ、戦兎、万丈、今すぐそこから離れて!』

 

インカムから、琴里の声が聞こえてきた。

 

「ん?どうした?」

 

『ASTが動き出したわ。壁を破って来るつもりよ!いいから早く!』

 

「っ!万丈!」

 

「ああ!」

 

聞くや否や、戦兎は少女の手を取り、大急ぎでそこから離れようとする。

が、少し遅かった。

 

 

 

________ドガァァァァァアーーンッ!!

 

 

 

「「っ!?」」

 

けたたましい爆音と共に、戦兎達の正面の外壁が破られる。

爆風に煽られ、後方へと飛ばされてしまう。なんとか受け身の姿勢をとり、少女を抱えて地面に着地する。

 

「けほっ……けほっ………、大丈夫か、万丈」

 

「ああ、何とかな……あいつは?ハーミットは?」

 

「え、あ、ああ。大丈夫みたい………ん?どうした?」

 

「あっ………………あぁっ…………………」

 

少女が、怯えたような声を出しながら、なにかを探すように前へと歩く。

様子がおかしいと思った戦兎は、視線をこらす。そこで、あることに気が付いた。

 

「………あれ?………()()

 

そう、先程まで少女が身につけていたパペットが、()()()()()()()()()()()()()

 

______と、気付いた時には、もう遅かった。

 

「っ、寒っ!?」

 

『ギ、ギギッ!?』

 

「これは………っ!?」

 

どこからか、血液ごと凍るかのような冷気が発せられると同時に。

 

 

 

 

「____________氷結傀儡(ザドキエル)……………ッ!!」

 

 

 

 

 

全てを凍てつかせる、絶対氷結の白兎が、姿を現した。

 

 

 

 

 




どうでしたか?
最後の方雑になってしまいましたが、申し訳ありません
とここで、ちょこっとオリジナルスマッシュ解説。


・リキッドスマッシュ

マッドクラウンがブレードから生成したスマッシュ。通常スマッシュより幾らか強い。肉体が液体で作られており、スライム状に変化させて攻撃をかわすことができる。しかし、広範囲攻撃に弱く、また避けやすい分打たれ弱いという欠点も持つ。
撃破した後は液体になり、その後自然と蒸発するので、ボトルで成分を回収する必要はない。というか出来ない。


と、こんな感じです。今後もうちょっと物語が進んだら設定集を出すので、その時にもう少し詳しく解説できたらなと思います。マットクラウンの変身システムも含めて。

次回はもうちょっと丁寧にやりますので、よろしくお願いします。

それでは次回、『第16話 ヒーローへの条件』を、お楽しみに。

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします。





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第16話 ヒーローへの条件

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!第二の精霊、ハーミットの攻略作戦へと向かい、その道中、マッドクラウンに襲撃を食らってしまう!」

万丈「またあいつが出てくるとはな………つーか、なんかあいつ、エボルトに似てね?」

桐生「うん、変なテンションなんかはそっくりだよね。俺も思った。誰なんだろあいつ」

士道「……な、なあ、俺については触れないのか?前回スマッシュ吹っ飛ばして、気絶して終わっただろ?」

桐生「そんな古いネタに構ってられないの。ネタは鮮度が大事なんだから」

万丈「なんか俺、前にも似たような台詞聞いたぞオイ」

士道「ネタの使い回しってしらけるからやめといたほうがいいぞ」

桐生「これはネタじゃないからセーフ!というわけで、どうなる第16話!」





「なん、だよっ………あれは…………!」

 

「これは……………っ!」

 

二人の目の前に映ったもの。それは、巨大な人形だった。

 

 

全長三メートルはあろうかと言う、ずんぐりとしたぬいぐるみのようなフォルム。体表は金属のように滑らかで、所々に白い文様が刻まれていた。

そして、その頭部と思しき場所には、ウサギのような耳が見受けられる。

 

そして何よりも________その全身から発せられる、液体窒素から発せられる空気のような、全てを凍てつかせるかのような煙が、他を寄せ付けぬ存在感を放っていた。

 

『_______このタイミングで()使()を顕現………!?戦兎、万丈、まずいわ!逃げなさい!』

 

「あぁ!?天使ってなんだよ!?」

 

突然響いた声に、万丈が大声を出す。

 

『目の前に現れたものよ!精霊の最強の矛!精霊を精霊たらしめる、形を持った奇跡よ!十香の鏖殺公(サンダルフォン)を忘れたの!?』

 

「あー!よく分かんねえけど、前の十香のやつと同じでいいんだな!?」

 

「それでいいんだ!とにかく、この場は逃げるぞ!」

 

すると、『よしのん』が小さく手を引いたかと思うと、人形______【氷結傀儡(ザドキエル)】が低い咆哮と共に身を反らした。

 

瞬間、デパート側面部のガラスが次々と割れ、フロア内部に雨が、まるで弾丸のように入ってくる。

しかしそれはどちらかと言うと、入ってきた、ではなく、叩き割って来た、という方が正しかった。

 

「うっそだろ!?」

 

『ギギッ!?』

 

「お前服ん中隠れてろ!」

 

万丈がスカジャンを開くと、すかさずその中にクローズドラゴンが入り込み、待機状態になった。

 

「雨だと………っ!?」

 

戦兎も急いで身を翻し、床に倒れこむ。

雨は周囲の商品棚を穿った後、床へ落ちていった。

 

とそこで、よしのんの駆る【氷結傀儡(ザドキエル)】が動いた。

鈍重な見た目に似合わぬ、まるでウサギのような俊敏な動きで地を蹴ると、先ほどまで戦兎達のいた位置を通り抜け、そのまま割れた窓から屋外へと飛び出して行ってしまった。

 

「………た、助かった、のか?」

 

「……反応は、どうなった」

 

『……ええ。反応は完全に消失(ロスト)したわ。命拾いしたわね、二人とも』

 

通信を聞き届け、思わずその場に座り込む。

さっきまで外で降っていた雨は、すでに止んでいた。

 

 

 

 

「んぅっ…………つっ…………」

 

士道は激しい倦怠感と、全身を巡る鈍痛で目を覚ました。

まだ重い瞼を開き、天井を見上げる。

 

「ここ、は……………」

 

「……ああ、気がついたか」

 

『キュルッキュルゥ!』

 

すると、隣から聞き覚えのある声と鳴き声が聞こえた。

令音とガルーダだ。令音はいつも通りの不健康そうな顔で、こちらを見ている。ガルーダは主人の目が覚めたのを喜んでいるのか、調子良さそうに鳴き声をあげて飛び回った。

体を持ち上げ、なんとか起きようとする。

 

「令音さん………俺……っつぅ……!?」

 

「……まだ無理はしないほうがいい。傷が治っているとはいえ、痛みまで消えるわけじゃないからね」

 

「傷……?あっ…………」

 

そこで、思い出した。

 

先程まで士道は、ハーミットと対話をするためにデパートまで向かい、その道中、あの紫色のサソリ男______マッドクラウンに襲撃されたのだ。

そこで男が呼び出したスマッシュと戦闘になり_______その後、どういう経緯かスマッシュを倒し、気絶したのだった。

 

「……………」

 

拳を、ぐっと握る。

いずれにせよ、酷い状態だったのだろう。事実、目立つ所に外傷は殆ど見受けられないが、全身の痛みはまだ残ったままだ。

 

「あの後………どうなったんですか?戦兎達は…………」

 

「……彼らは無事だ。今は、君の代わりに作戦を遂行している」

 

「………」

 

無事と聞き、一先ずホッとする。

しかし同時に、最近ずっと感じていた、どうしようもない無力感が、身体中を蝕んだ。

 

「……私は、用があるので席を外す。何かあったら、知らせてくれ」

 

そう言い残すと、令音は席を立ち、医務室を後にした。

 

「……………っ」

 

空になった部屋で、一人拳を握りしめる。

 

 

______結局俺は、足手纏いだった。

 

 

よしんばスマッシュを倒せても、その後倒れたんじゃ意味が無い。

結局、俺はいつまで経っても、戦兎達の陰で守られるだけなのだろうか…………。

 

「………俺は、力が欲しい。戦兎達みたいに、戦える力が………………」

 

誰ともなく発せられた呟きは、虚しく部屋にこだまするだけだった。

 

 

 

「おーい、シドー?」

 

『キュルゥ?』

 

十香がコンコン、と扉をノックする。

 

『………十香か。悪い、ちょっと、一人にさせてくれ………』

 

しかし、中からは暗い声が聞こえてくるだけだった。

先日の作戦以降、士道は自室に篭もってばっかりだった。

出てくる時といえば食事や風呂、家事をするときだけで、終わらせるととっとと部屋へ戻り、誰とも会話を交わそうとしなかった。

普段一緒にいるガルーダすら、部屋から締め出されている有様である。

 

「……十香、どうだった?」

 

「駄目だったのだ。まったく、取り合おうとしない。…………士道に、一体何があったのだ?」

 

『キュルルゥ………』

 

よしのんが隣界へと消失してから一日経った、土曜日。

戦兎達がフラクシナスに回収され、士道共々五河家に戻ってこられたのはいいが………家に帰ったっきり、士道はずっとこんな調子なのである。いつもの調子からは程遠い、酷く陰鬱とした雰囲気なのだ。

 

「………士道、ちょっと良いか?」

 

『……戦兎か?……悪いな。ちょっと、話せそうに無い』

 

「いいから、話を聞けって………」

 

と、そこで、ノックをする戦兎の手を、誰かが遮った。

 

「万丈?」

 

「ここは、俺が話をする。お前は買い物にでも行って来い。さっき冷蔵庫見たら、材料ギリギリだったからよ」

 

「……大丈夫なのか?」

 

「おう。任せとけ」

 

そう言うと、万丈は部屋へと入っていった。

 

 

 

 

「………万丈か?ノックくらいしろよ」

 

「ノックしたって、どうせ出ねえだろ。……バナナ食うか?」

 

「………いらねえよ」

 

短いやり取りを経て、万丈は士道の隣に座り込んだ。部屋は電気が落ちており、士道は部屋の壁に体育座りをしていた。

 

「お前、どうしたんだよ昨日から。全然元気ねえじゃねえか」

 

「………別に。ちょっと、自己嫌悪になってさ」

 

「……?」

 

そう言うと、士道は少し顔を上げて、ぽつぽつと話し始めた。

 

「………昨日さ。俺、スマッシュに襲われて、戦った時。すっげー痛かったんだ。でも、それでも戦って、結局勝った。………でも、それもギリギリでさ。その後倒れて、全部お前らに押し付けちまって。………それで、結局俺はお前らと違って、力が無いんだな、て思っちまってさ………それで……」

 

一つ区切ると、士道は自分の拳を握り、見つめた。

 

 

「………俺は、力が欲しいんだ。戦兎や万丈みたいに、誰にも頼らずに、戦える力が。誰にも、守られずに戦える力が………」

 

 

そういった士道の目は、虚ろだがしかし、しっかりとした意思を持っているように見えた。

 

「…………」

 

それを聞いた万丈は、士道に尋ねる。

 

「_____お前、()()()()()()になりたいのか?」

 

「………っ!」

 

その言葉に、士道は虚をつかれたような表情をしていた。まるで、そう思っているのを知っていながら、無意識のうちに目を逸らしていた事を言われたような、そんな顔だった。

 

「それは…………いや、そうなのかもな。……ああ、そうだ。俺は、その力が欲しい。そうすれば、誰かの陰で守られずに、俺も、戦うことができる」

 

得心したように、苦笑しながら士道は言う。

だが、しかし。

 

 

「……………士道。今のお前じゃ、多分無理だ」

 

 

その言葉を、万丈は否定する。

 

「えっ………?」

 

「お前、戦兎が誰かに一度も頼らずに、戦えてると思ってるのか?だとしたら、お前、俺以上の()鹿()だな。あいつ、普段は余裕綽々なのに、いざ一人になったら何にもできねえからな。いっつも誰かに頼ってんだよ、あいつは」

 

「っ………………」

 

笑いながら、万丈は言う。そして上を見上げて、何かを思い出すように語り出した。

 

「_____俺も、前はそうだった。戦う為の力が欲しくて、その為にライダーになろうとした。……でも、最初はなれなかった。定まってなかったんだ。これっぽっちも、()()ってやつがさ」

 

「………っ!」

 

「戦兎にも言われたよ。生半可な覚悟で、力は手に入らねえってな。自分しか見えてなかったら、力は使えねえってさ」

 

「……………」

 

万丈の言葉が、士道の胸に刺さる。

 

「そんで覚悟を決めて、いざ変身しても、次は何で戦うんだって話になってさ。それで思った。自分は、何の為に戦ってたんだ、ってな」

 

言い終わると、万丈は士道の方へと顔を向ける。

 

「お前は、何のために力を手に入れて、戦おうとしてたんだ?」

 

「…………………」

 

その問いかけに、答えが出せない。

 

結局自分は、何のために力が欲しかったのだろう。

ただ力が欲しいからか?…………違う。誰にも頼らず戦うため?…………今思えば、それも違う気がする。

 

なら、何のために…………。

 

「…………万丈は………」

 

「ん?」

 

気がつくと、士道はどこか縋るような声で、万丈に問いかけていた。

 

「万丈は………何の為に、戦うんだよ。戦兎みたいに、愛と平和(ラブ&ピース)のためか?」

 

「まさか」

 

また笑って、否定する。

 

「それ一つのために、命かけて俺は戦えねえよ。だから______だからあいつは、正義のヒーローなんだよ」

 

「えっ?」

 

それまで笑っていた万丈の顔が、真剣なものになった。

 

「例え自分が傷付いても、誰かの力になりたくて。誰かを守りたくて、あんな必死になって戦ってる。誰に感謝されるためでも無く、顔も知れねえ誰かの事も、俺らの事も、全部守りてえって。そんな事、他の誰にも出来ねえよ。だから、桐生戦兎は_____仮面ライダービルドは、正義のヒーローなんだよ」

 

「…………」

 

士道に向けて言ったであろうその言葉は、まるで自分自信に言い聞かせるようなものにも、士道は思った。

 

「その為に戦えんのは、桐生戦兎だけだ。俺は______俺の為に戦う。俺を信じてくれた奴の為に、戦ってんだ」

 

「……………」

 

「お前は、どうなんだ?」

 

______戦兎も、万丈も。

 

それぞれ、自分の持つ正義と、覚悟の元に、戦っていた。

 

誰にも頼らず、自分の為だけになんて戦ってなかった。

 

支え合いながら、確かに正義のために、戦っている。

 

どんなに傷付いても、誰かの為に、戦っている。

 

それに比べて自分は______なんて、ちっぽけなものの為に力を欲したんだろう。

 

「………俺から言ってやれるのは、これだけだ。後は、自分で答えを出せよ」

 

そう言うと、万丈は立ち上がって、部屋を後にした。

一人になった部屋で、士道は座ったまま、しかし、さっきとは確かに違う表情をしていた。

 

その時、再びドアが開く。

 

「…………シドー?」

 

「十香………」

 

『キュルゥ……』

 

「お前も……」

 

心配そうな眼差しをした十香と、十香の手に乗ったガルーダがそこにいた。

 

______ああ、そうだ。なんで、忘れていたんだろう。

 

俺は、どうして十香を、救いたいと思った。

 

どうして、あんな危険に傷付いても、救おうと思ったのか。

 

簡単だ_____十香が、助けて欲しいって、顔をしてたからだ。

 

そして_____自分を信じてくれた十香を、心から、助けたいと思った。

 

 

「(_____見返りを期待したら、それは正義とは言わねえぞ)」

 

 

戦兎に言われた言葉が、脳裏をよぎる。

 

そうだ。自分はさっきまで、本当に誰かの為、戦おうと思っていたのか?

 

 

「……どうしたのだ?最近、元気が無いぞ、シドー………」

 

「………ごめん、十香。心配かけて。お前も、最近構ってやれなくてごめんな」

 

『キュルゥ?』

 

一言言うと、士道は立ち上がって、十香に歩み寄り、ガルーダの頭をチョンと撫でてやる。毎度だが、ガルーダは機械とは思えないような仕草で、首を傾げて疑問符を浮かべていた。

 

「し、シドー?」

 

「……ありがとう。お陰で、答えが出せた気がする。十香の、お陰だ」

 

「う、うむ?よく分からんが…………シドーが元気になったのなら、何よりだ!」

 

『キュルルゥッ!』

 

十香は、疑問符を浮かべながらも、いつものように、屈託のない元気な笑顔を浮かべた。ガルーダも十香の手を離れ、嬉しげに宙を飛び回る。

その笑顔を見て、再び思い、そして、決心した。

 

_____ああ、そうだ。………………ずっと前から、決まってる。

 

 

 

 

「………万丈に任せて、大丈夫だったか……?」

 

不安に駆られながらも、戦兎は商店街へとバイクを走らせていた。冷蔵庫を念のため確認したら確かに材料が少なかったので、士道の代わりに買い物へ向かったのだった。

 

まあ、普段どういう材料を使ってるかとかはあまり分からないが、大体買うものは分かるだろう_____と思いながら、バイクを走らせる事数分。

 

「ん?…………なっ」

 

道の途中、見覚えのある後ろ姿を見て、戦兎はバイクを止めて降りた。

その、ウサギ耳の付いた緑色のフードを見つけて。

 

「よ、よしのんか?」

 

眉をひそめて、その名を口にする。すると、フードがぴくりと動き出し、こちらに振り向いた。

 

「ひっ………い……………」

 

そして、今にも泣き出しそうな顔を作り、右手をバッと高く掲げる。

あの動作には見覚えがある。昨日『よしのん』が、巨大な人形を顕現させた時のものだ。

 

「お、おい落ち着けって!昨日あっただろ?桐生戦兎だ」

 

「………っ!」

 

すると、何かを思い出したように、よしのんがハッとした顔になる。

そして、恐る恐る右手を元の位置に戻し、戦兎の様子を伺い始めた。

 

「よう。今日はどうしたんだ?」

 

「……………」

 

「うわ、すごい雨だな。傘も刺さずに大丈夫か?」

 

「……………」

 

しかし、何も返してこない。ただ、怯えながらも警戒するように、睨んでくるだけだ。

 

「うーん、どうしたもんかね、これは。いくら天才でも分かんな………」

 

と、言いかけたところで、戦兎の視線がある一点に留まった。

よしのんの左手である。昨日までは付けていたはずの、ウサギのパペットが、見当たらなかったのである。

 

「………もしかして、パペットを探してるのか?」

 

「………!」

 

戦兎が尋ねると、よしのんが目を見開き、戦兎の元へと歩み寄って、コクコクと頷いてきた。

 

「やっぱりか………もしかして、昨日のAST………えっと、あの空を飛んでた奴らとの戦いで失くしたのか?」

 

「……………っは………ぃっ……………」

 

上ずった声でそう言うと、よしのんはヘナヘナとその場へ倒れこみ、嗚咽を漏らし始めた。

戦兎は少し考え、ポンと手を突く。

そして、俯いたよしのんに話しかける。

 

「よし!じゃあ俺が一緒に探してやる!」

 

「………………ぇっ………!?」

 

戦兎が言うと、『よしのん』が驚いたように目を見開いた。

そして数秒の後、初めて顔を明るくし、うんうんと力強く首を縦に振り、ようやく濡れた地面から腰を上げた。

 

「よし、じゃあ探すか。よしのん」

 

「………!」

 

よしのんが首肯し______しばし口をもごもごさせてから、声を発してくる。

 

「わ、たし………は、」

 

「ん?」

 

「私………は、よしのん、じゃなくて………四糸乃(よしの)。よしのんは………私の、友達………」

 

「四糸乃………?まあ、なんでもいいか。あ、そうだ」

 

戦兎が言うと、一度マシンビルダーまで戻り、操作する。そして内部ストレージから、傘を一本取り出し、四糸乃の元へと戻った。

 

「ほら、これ使えよ。もう濡れてっかもしれないけど、無いよりかはマシだろ?」

 

「…………!…………!」

 

傘を開き、四糸乃に持たせてやる。すると四糸乃が興奮気味に、傘を持ってない方の手をパタパタと動かした。余程気に入ったようだ。こうして見ると、とても精霊だとは思えない。どこにでもいる小さな女の子だ。

 

「はは、気に入ったんなら良かった」

 

すると、四糸乃が戦兎に問いかけるような視線を向けてきた。

 

「ん?俺はだいじょーぶだから、使いなさいって」

 

四糸乃はしばし逡巡するように傘と戦兎を交互に見たのち、ぺこりとお辞儀をして礼を言った。

 

「ぁ………り、が………ぅ………」

 

「いいっていいって。早く探そうぜ?大事なんだろ?」

 

「……………!」

 

戦兎が言うと、二人はパペットの捜索へと戻っていき、戦兎は耳元のインカムを操作した。

 

 

 




どうでしたか?
一つ言っておきましょう。四糸乃のパペットは、原作通りに折紙は持っていません。

今回、描写にすげー苦労しました。結局戦兎達のハザードレベルについても触れられてないし…………。
あと、多分ですが第2章の四糸乃編、第1章の十香編よりちょっと短く終わりそうです。あの十香とのすれ違いを引き抜いたが故の結果なのか、それとも私の文章力が無いのか………?

あ、関係ないですが、皆さんライダータイム龍騎見ましたか?私が見た感想は…………(ネタバレ注意)




………何で、何で裏切ったんや手塚………………



という感想です。流石井上敏樹さん。1話から早くもえげつなかったです。

それでは次回、『第17話 酷く歪なテンダーネス』を、お楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!




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第17話 酷く歪なテンダーネス

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!マッドクラウンの妨害を受け、予想外の天使の出現などに見舞われながらも、もう一度精霊、よしのん改め四糸乃と会うことに成功する!」

万丈「二十六歳のおっさんがちっちゃい女の子に話しかけるってどうなんだ?お前もしかしてロリコン?」

桐生「な訳ねえだろ。大体葛城巧だった時でさえ恋愛を全くしたことがない俺だぞ?そんな特殊な性癖に目覚めるわけないっての」

万丈「あーそうかー!いっつもイケメンぶってるナルシストな自称天才物理学者さんは彼女の一人もできた事ないんだーwww!!」

桐生「うわうぜえ。ていうか、お前も今いないでしょうが」

万丈「あっ……………そうだな……………………………」

桐生「…………なんか、ごめんな?」

万丈「い、いや、いいんだ。ははは、は、はぁ……………んじゃ、第17話、どうぞー」








「_____どうだ?パペットは見つかったか?」

 

『………駄目ね。さっきから解析を続けてるけど、全然見当たらないわ』

 

パペット捜索を続けてから、おおよそ二時間。

戦兎は雨に濡れた髪を掻き上げながら、インカムで琴里と通信を行なった。さっきからフラクシナスクルーの面々にも協力を仰いでいるのだが、一向に見つかる気配がないのだ。

雨の中の作業ということもあり、流石に疲労も溜まってきた。身体も雨に打たれ、すっかり冷え切っている。

すると、その時。

 

_______きゅるるるるる。

 

「ん?四糸乃?」

 

「……………!」

 

隣で、パペットを探す四糸乃の方を見た。

何やら、やたらと可愛らしい音が聞こえた気がする。

 

「………腹、減ったのか?」

 

戦兎が訊くと、四糸乃は顔を真っ赤にしてブンブンと首を横に振った。

しかし、そのタイミングでまたも音が鳴る。

 

「……………っ!」

 

四糸乃はその場にうずくまると、フードを引っ張って顔を完全に隠してしまった。

精霊でもお腹は空くのか、と考えてから、戦兎は四糸乃の方へと振り向いた。

 

「一度休憩しようぜ。腹が減ってはなんとやら、って言うだろ?」

 

「……………」

 

四糸乃は少し考えを巡らせると、躊躇いがちに首肯した。

 

「よし。つっても、このなりじゃ店には入れないだろうしなぁ………」

 

今の戦兎の格好は、雨でびしょ濡れの状態である。財布は一応持ってるが、こんなにびしょ濡れでは店には入れないだろう。戦兎は暫く考えてから、インカムを小突いた。

 

「琴里、これから休憩するんだが、お前らの家でも大丈夫か?この格好じゃ店に入れそうもない」

 

『ん、分かったわ。士道達には私から通信しておく。大丈夫よ』

 

「サンキュー」

 

短く返事をすると、四糸乃に声を掛けた。

 

「よし、行くか。………乗ってくか?」

 

「…………!」

 

バイクに乗るよう促すと、四糸乃は躊躇いがちに頷いた。

 

 

 

 

「えーっと、ご飯は、余ってるな。………あとは卵と………鶏肉か。卵焼きと………鶏丼で良いか。俺、料理あんまりできねえし」

 

慣れない手つきで冷蔵庫のものを取り出し、自分で作れそうな物に当たりをつけて調理を始める。そして、ちらりとリビングの方を見た。

そこにはソファに座りながら、物珍しそうに辺りを見回す四糸乃の姿があった。戦兎は帰ってからすぐ着替えたのだが、四糸乃はさっきと変わらない服装だった。恐らく雨水も乾いたのだろう。霊装と言う奴は結構便利な代物である。

 

「すぐ作るから、ちょっと待っててくれ」

 

四糸乃に待つよう言いながら、覚束ない手つきで料理を作る。卵焼きは簡単に終わり、鶏肉を調味料と一緒に炒めて、ご飯を盛った丼に盛り付ける。

簡単な物だが、戦兎の料理の腕では凝っても逆に美味しくなくなるだろう。改めて、毎日ご飯を作る士道の腕に感服した。

 

「ほら、簡単なもので悪いな。しっかり食って、早くよしのん見つけようぜ。いただきますっと」

 

戦兎が手を合わせて言うと、四糸乃も仕草を真似るようにぺこりと頭を下げた。

そして、慣れない手で箸を取り、戦兎特製の卵焼きを一口、口に運ぶ。

 

「………!…………!」

 

すると四糸乃は目を見開いて、テーブルをぺしぺしと叩いた。

 

「ん?どした」

 

そのまま、何かを伝えたいが言葉を発するのが恥ずかしい、という表情を作ってから、ぐっ、とサムズアップしてきた。

 

「お、卵焼き美味しかったか!良かった、共感してくれる人がいて。これ、みんな甘すぎるって言うんだよなぁ」

 

言いながら、戦兎も卵焼きを口に入れる。

 

「(やっぱ、まだ母さんの卵焼きよりも甘くないよなぁ……)」

 

という感想が戦兎には浮かんだが、四糸乃はこの味がお気に召したらしい。小さい口を目一杯広げて、卵焼きと鶏丼をすぐに平らげた。

 

「お気に召したなら何よりだ」

 

笑いながら言うと、そのタイミングを見計らったように、琴里から通信が入る。

 

『まだ少し休憩するでしょう?できるだけ精霊の情報が欲しいわ。ちょうどいい機会だし、いくつか質問をしてみてくれない?』

 

「質問?……あ、そうか。よし、分かった」

 

何となく察せたのか、戦兎が了解するように返事をし、満足そうに息を吐く四糸乃に目を向けた。

 

「なあ、四糸乃。あのパペット、随分大事にしてるみたいだけど、あの______よしのんって、お前にとってどう言う存在なんだ?」

 

戦兎が聞くと、四糸乃は恐る恐る、と言った調子でたどたどしく唇を開いた。

 

「よしのん、は……友だち……です。そして………()()()()、です」

 

「ヒーロー?」

 

戦兎にとって言い聞き慣れたそのワードに、ふと聞き返す。

 

「よしのんは……私の、理想……憧れの、自分……です。私、みたいに……弱くなくて、私……みたいに、うじうじしない……強くて、格好いい……」

 

「理想の自分、か………あくまで、俺の感想だけど……」

 

戦兎が頭をかいて、デパートで始めて四糸乃と会った時のことを思い出した。

確かにあの時パペット越しに話した四糸乃とは話しやすいし、好感も持てたが_____

 

「俺は今の四糸乃の方が、好感持てるけどなぁ」

 

なんというか、どこまで本当でどこまでが冗談か分からなかったが………こう言っちゃ悪いが、なんか、あの嘘みたいに陽気な感じが、何となくエボルトを思い出してしまった。ついでに、最近会ったあのイカレ道化師野郎も。

 

多少言葉がたどたどしくても、誠実に答えようとする今の四糸乃の方が、戦兎にとっては良い。

 

だが戦兎がそう言った途端、四糸乃は顔をボンっ!と真っ赤に染め、背を丸めながらフードで顔を覆い隠してしまった。

 

「ん?おい、どうしたー?」

 

戦兎が声をかけると、四糸乃がそろそろと顔を上げた。

 

「(…………傍から見たら、これ高校生が幼い女の子泣かせてる図にしか見えねえよなぁ。しかも俺、一応は二十六歳の…………お、おじさんだし)」

 

と、認め難い現実を心中で苦々しく呟く。

これで元の世界のなりのままだったら、いい歳こいた大人が幼い子を虐めてる、という図にしか見えない。どう考えても救えない人種だ。

その思考をぐっと呑み込んで、四糸乃の顔を見る。

 

「……そ、んなこと、言われた……初め………った、から……」

 

「……そうなのか?……いや、そうか」

 

四糸乃は精霊だ。人と接する機会が、そもそも無かったのだろう。そんな事を言われるのが初めてなのも、納得できた。

 

『……戦兎、あんたロリコンなの?』

 

「な訳ねえだろ。二十六でロリコンとかいよいよ救えねえぞ」

 

戦兎が返すと、琴里がくすくすとからかうように笑った。

 

『冗談よ。にしても………今の計算だったら凄いわね』

 

「計算?」

 

『……いや、何でもないわ』

 

よく分からないことを言う司令官だ。

 

『取り敢えず、もう少し質問を続けてみて』

 

「ん、分かった」

 

返事をして、四糸乃へと向き直り、再び質問をした。

 

「それで、えっと。四糸乃、お前ASTに襲われても、殆ど反撃しないみたいじゃんか。どうしてだ?」

 

訊くと、四糸乃はまたも顔を俯かせ、消え入りそうな声を出した。

 

「………わ、たしは………いたいのが、きらいです。こわいのも………きらいです。きっと、あの人たちも………いたいのや、こわいのは、いやだと………思います。だから、私、は…………」

 

油断していれば、聞き逃しそうなほどに小さく、掠れた声。

 

けど。戦兎はその言葉に、まるで心臓を握り潰されるかのような衝撃を覚えた。

 

 

「っ………!?」

 

 

この子は。

 

自分の嫌な感情を、他人に感じて欲しくないから。

 

ただ、それだけの為に、他者を傷つける事を、良しとしなかった。例え、自分がどれ程憎まれ、蔑まれ、痛めつけられても。

 

_______それはきっと、相手も感じるのが嫌だろうからと。

 

 

四糸乃はなおも、全身を小刻みに震わせて、言葉を続けてきた。

 

「でも……私、は………弱くて、こわがり、だから………。一人だと………だめ、です。いたくて………こわくて、どうしようも、なくなると………頭の中が、ぐちゃぐちゃに…………なって……………きっと、みんなに………ひどい、事を、しちゃい、ます」

 

最後は、もう涙声だった。

鼻をすするようにしてから、さらに続けてくる。

 

 

「だ、から………よしのんは…………私の、ヒーロー………何です。よしのんは………私が、こわく、なっても………大丈夫って、言って…………くれます。そした、ら………本当に、大丈夫に………なるんです。だから………だ、から………」

 

「………………っ」

 

 

戦兎は、無意識のうちに唇を噛んでいた。両手は、もはや血が出るのでないかと言うくらいに、強く握り締められていた。

 

そうでもしないと_______とても、耐えられそうになかった。

 

 

この子は_______とても、優しいのだろう。きっと、こんなに優しい子は、世界中探したって、いやしない。

 

けど、だからこそ_________あまりにも、悲しい。

 

『いたい』や、『こわい』は。きっと嫌だろうからと。

 

数えるのも億劫なほど自分に敵意を、悪意を、殺意を向けてくる相手を、何度も何度も慮り、傷つけないようにする。

 

それが、一体どれほど困難で、どれほど勇気ある事か。

 

四糸乃が_____()()

 

そんな訳、あるか。

 

この子は、戦兎よりも、万丈よりも、士道よりも。きっと、ある意味では誰よりも強い子だ。

 

嗚呼、でも、その優しさは。

 

酷く、歪な_______あまりにも悲しい、慈悲だ。

 

「________俺が」

 

気がつけば、戦兎は席を立っていた。

テーブルを迂回し、四糸乃の隣に腰を下ろし、そのまま、四糸乃の頭を撫でた。

 

「俺が…………お前を救う。必ず」

 

「…………っ?」

 

言うと、四糸乃が目を丸くする。構わず、戦兎は続けた。

 

「絶対に、よしのんは見つけ出す。そして、お前の元へと返す。………もう、よしのんに守ってもらう必要なんか、無くしてやる。『いたい』ことや、『こわい』ことは、俺が全部遠ざける。俺が_______お前の、ヒーローになる」

 

フード越しに頭を撫でて、戦兎は言う。

 

四糸乃の優しさには、重大な欠落がある。

 

その、聖人のような優しさが、一つ足りとも自分に向けられていないのだ。

 

先日戦兎は、四糸乃の流した涙を見た。

 

あんな涙を流しても、少女はその優しさを、他人にしか与えないのだ。

 

自分一人が『いたく』て、『こわく』ても、誰かにそれを与えさせない。そう信じてる。

 

 

それは四糸乃にとって______なんという理不尽、なんという悲劇か。

 

 

四糸乃に。こんな、あまりにも優しすぎる少女に。

なんの救いもないなんて。そんな事が、あって良いはずがない。

そんな理不尽のために、この少女が流していい涙なんか。感じていい痛さや怖さなんか。一つもあっていいはずがない。

絶対に、そんな事は許されない。

 

ならば______自分のすべきことは決まっている。

 

四糸乃はしばしの間目を白黒させていたが、やがて、小さく唇を開いてきた。

 

「………あ、りがとう、ございま…………す」

 

「当然だ。何せ俺は………愛と平和のヒーロー、正義の味方、仮面ライダーだからな」

 

「……仮面…………ライダー……………?」

 

「ああ。みんなを守る正義のヒーローだ。お前一人のヒーローになんか、いくらでもなってやる」

 

「…………は…………ぃっ…………!」

 

「おう」

 

四糸乃が、素直にそう言ってくれたことが、無性に嬉しくて。

 

戦兎は、くしゃっと笑みを浮かべた。

 

すると、ポケットに入っていたビルドフォンから、着信音が鳴った。

 

「…………!」

 

「ん?ああいや、大丈夫だ。ちょっと待っててくれ」

 

驚いた様子の四糸乃を落ち着け、ビルドフォンを取り出す。

『非通知』_____登録されてない番号だ。訝しみながらも、廊下に出て電話に出る。

 

「もしもし?」

 

やぁやぁ、元気してたかぁーい?ビルドぉ?

 

「ッ!マッドクラウン…………っ!」

 

電話から聞こえてきた声は、例のイカレ道化師野郎_______マッドクラウンの物だった。

慎重に、電話に応える。

 

「………何の用だ」

 

いやいやぁ、大した用じゃあないよう。あ、今の駄洒落ちょっと面白くなかった?偶然の産物だねぇ

 

「御託はいい。とっとと答えろ」

 

おぉーおぉー怖い怖いってぇ〜。そんな急かすなよ。多分お前さんの()()()()()()を、今俺が持ってるんだからさぁ〜

 

「っ!なんだと………?」

 

 

 

数分後。

戦兎は、五河家近くの公園に来ていた。マッドクラウンに、呼びつけられたのである。

 

おっ、ちゃぁんと来たな。感心感心

 

「………本当に、あるんだろうな」

 

だぁからそう慌てんなって。慌てる乞食は貰いが少ないって言うだろぉ?

 

そう言って、クラウンは後ろから持っていた物________()()()()()()()()を取り出した。

 

「っ!やっぱりお前が………!」

 

腕尽くでも取り返すとばかりに、戦兎はビルドドライバーを取り出そうとする。が、それをクラウンが制した。

 

おぉっと待ちなぁ!戦う前に、ちょいと俺とお話をしようじゃあないか

 

「……なんだと?」

 

そこで、一瞬手を止める。確かに見てみると、マッドクラウンには武器の類が一切見えなかったのである。だからと言って警戒を解かない訳ではないが、少なくとも今すぐ事を構えようとする気配はない。

 

オーケー。ま、他愛も無い話だよぉ

 

そう言って一つ区切ると、マッドクラウンは近くのベンチに腰を下ろした。

 

 

________お前さんら、自分のしてる事が、本当に正しいと言い切れるのかぁ?

 

 

「っ…………」

 

先程までとは打って変わって、疑問を投げかけるような口調になるクラウン。言葉を続ける。

 

精霊を保護して、霊力を封印。そのまま、幸福な生活を送らせる…………だったか。お前さんら『ラタトスク』の理念とやらは

 

「っ…………どうしてそれを」

 

今はどうだっていいだろぅ?ま、ご立派な理念だな。確かに、そいつぁ幸せになれる奴だっているし、それで得をする奴もいるだろうさ。けど…………

 

チッチッ、と指を振って、クラウンは立ち上がった。

 

精霊ってのは、本来空間震を引き起こす、地球の………言い方が悪いが、病原菌や、厄災みてえなもんだ。爆弾なんだよ、爆弾

 

「っ、お前!」

 

構わず、クラウンは言葉を続ける。

 

お前らのやってることってのは、その爆弾を起爆させずに手元に置くってことだ。地球や地球に住む人にとっちゃ、不安で不安で仕方ねえようなもんなんだよ。その時は被害が出なくても、またいつ起爆するかも分からねえ………そぉんな感じだ

 

「…………っ」

 

その点、ASTってなぁ合理的だよなぁ。その場で爆発させちまってから、爆弾を一つ一つ無くそうとしてんだからよぉ。いや、ご立派なこった

 

一見、ASTを擁護するかのようなその台詞は、どこかASTの存在を、皮肉ってるようにも聞こえた。

 

「………お前は、何が言いたいんだ」

 

んぁ?大した事じゃねえよ。ただ………お前さんらのしてる事ってなぁ、お前さんの言う、愛と平和(ラブ&ピース)ってのに反してるんじゃねえか、と思ってな。お前らのやってる、(大勢の人)を切り捨て(少数の精霊)を助けるって行為には、愛があっても、平和はねえんじゃねえか?

 

「…………」

 

確かに、そうだ。マッドクラウンの言っていることは、確かに正しいんだろう。

寧ろ、どちらかと言えば間違っているのは、戦兎達の方かもしれない。

 

けど______納得は、できない。出来るわけが、無い。

 

ま、今のは俺の、他愛ない言葉だ。気まぐれな道化師の独り言だとでも思って、忘れてくれて構わない。ほらよっ

 

ぽい、と戦兎に何かが投げ渡された。四糸乃のパペットだ。

 

ま、どぉ〜するかはお前らが決める事だ。言った通り、俺は舞台を盛り上げるだけ。そこで何をするかは、お前らの自由。RPGで例えるなら………お前らはプレイヤーで、俺はゲームのNPCやナレーションみたいなもんだ

 

そう言い残すと、マッドクラウンは踵を返した。

 

また近いうちに会おうぜぇ〜?バァイナラァ〜

 

手をひらひらと振って言い残すと、マッドクラウンはまた、蒸散したようにその場から立ち消えた。

そして、そのタイミングで。

 

 

ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ________

 

 

「っ、空間震警報だと………?」

 

空間震警報が、街中に鳴り響いた。そして、一つの可能性に思い当たる。

 

「……まさか、四糸乃_______?」

 

鼓膜を震わせる警報に眉をひそめ______懐にパペットをしまい、持ってきた缶の形のアイテムが、あるのを確認する。

 

そして、そのまま逸る気持ちを抑えて、バイクを走らせた。

 

 

 

 




どうでしたか?
今回は完全に戦兎視線のみでした。士道の出番もっと増やせ!と思ってるそこのあなた。

安心してください。次回、遂に……………?

それは置いておきまして。今回は珍しく早く書きあがったので、いつもよりちょっと早く投稿しました。

ここ最近ライダー関連のニュースが多くてとても嬉しいです。仮面ライダーブレンとか、CSMデルタギアとか。まさか三、四年くらい前のエイプリルフールネタを実現させるとは思わなかった…………。

それでは次回、『第18話 燃やせスピリット』を、お楽しみに!

今回のこの終わり方からアレですが、次回は多分士道メインになると思います。

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第18話 燃やせスピリット

桐生「はぁっ、はぁっ………あ、今日は、バイクに乗りながら、あらすじ紹介、です!天っ才物理学者の桐生戦兎は、精霊四糸乃と邂逅するも、パペットを失った影響によって、四糸乃は暴走、して、しまう!さっ、寒っ!……コホン。戦兎は急いで、四糸乃の元へと向かうのだが………?」

士道「あ、今回は俺がメインだから、戦兎出番ないよ」

桐生「マジで!?つかなんでお前ここにいんだよ」

士道「そこは…………ご都合主義ってやつじゃない?この空間限定の」

桐生「お前がそれ言うとはな。ま、まあと言うわけで、第18話をどうぞ!ハックショイッ!寒い…………」




「………っ!?」

 

目を開け、四糸乃は狼狽に身を震わせた。

闇の中で微睡むような感覚が搔き消えると同時に、ひんやりとした空気が頬を撫で、視界に街の景色が流れ込んできたのである。

 

「ぇ…………、ぁ……………っ」

 

辺りを見渡した。

どこか知らない街の真ん中。四糸乃の周りだけ、爆発が起きたように消し飛んでいる。

そして空からは、冷たい、雨。

 

何度も、飽きる程に経験した、現界の感触。

 

ただ違いがあるなら_______その左手に、四糸乃の無二の友達がいない事だろう。

 

そして、空を見上げる。

 

そこには______四糸乃の予想通りに、機械の鎧を纏った幾人もの人間が浮遊していた。

 

「_______目標を確認。総員、攻撃開始。逃すんじゃないわよ!」

 

『はっ!』

 

そんな会話の後、人間たちの手足から、 幾つもの弾が放たれる。

 

「……………っ」

 

四糸乃は息を詰まらせると、地面を蹴って空に舞った。

そのまま人間達の攻撃を避けるように、複雑な軌道を描きながら逃げていく。

 

それぞれが致死の力を持つ、必殺の一撃。霊装が無かったら、四糸乃を100回殺しても足りないほどの、悪意と殺意の化身。

 

「………!………!」

 

四糸乃は錯乱気味に空を舞いながら、声にならない叫びを上げた。

 

動機が激しい。お腹が痛い。目がぐるぐる回る。

 

頭がぐちゃぐちゃになって、訳が分からなくなる。

 

いつもなら_____左手に、よしのんがいてくれた。

 

そして、よしのんはとても強くて頼りになるから、こんな攻撃は物ともしない。だから四糸乃も平気だった。みんなを傷つけずにいられた。

 

でも今は_______いない。

 

 

どうしようもない恐怖感が、四糸乃の心に広がっていく。

 

ガチガチと歯が鳴って。

 

ガタガタと足が震えて。

 

グラグラと視界が揺れる。

 

自分じゃ抑えきれないくらい、頭の中がグシャグシャになってしまう。

 

「ぅ、ぁ、ぁ……………」

 

雨が、より強くなった。

 

「よし、このまま一気に行くわよ!」

 

リーダー格の女が言うと同時に、人間達の禍々しい武器が、一斉に四糸乃に向けられる。

今までで一番の殺意が、形となって降り注ぐ。

 

それらが着弾する瞬間。四糸乃は、天高く右手を上げていた。

 

 

______そして。

 

 

 

 

「………《氷結傀儡(ザドキエル)》………ッ!!」

 

 

 

災厄の名を、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「な…………っ、なんだよ、こりゃあ………っ」

 

「全部、凍ってやがんのか……………っ?」

 

自宅にいた士道と万丈は、外へ出て目の前へと広がる光景に目を見開いた。

 

見慣れた街の景色が、一面銀世界へと変貌していたのである。

 

それも、大雪が積もったとか、そう言う話ではない。純粋に、街が凍りついているのである。

 

『_______警報が聞こえたでしょう?ハーミット_____四糸乃よ』

 

「よ、よしの?それが、あいつの名前なのか?」

 

『ええ。あまり悠長に構えていられる事態じゃないわ。本来なら排水される雨水まで凍ってしまっているから。このままだと、地盤や地下シェルターの方にまで深刻な影響が出る可能性があるわ。その上_____』

 

そこで一つ区切り、苦虫を噛み潰したような声を発した。

 

『______先日、戦兎達が交戦したっていう………マッドクラウン、だったかしら。そいつの反応が、近くで確認されているわ。おまけに、街全体が凍結した後で、未確認周波数のスマッシュがそいつの周りに数体』

 

恐らく、この間クラウンが出していた、リキッドスマッシュ、とか言うやつだろう。何故液体でできてたのに凍っていないのかは謎だったが、恐らくそこは何かしらの力が加わっているのだろう。

 

『万丈、今すぐ現場に急行して。_____士道は悪いけど、今の貴方じゃやれる事はないわ。回収も難しいから、近くのシェルターに向かって』

 

「分かった。来い、ドラゴン!」

 

『ギーギギーギガ!ギーギーギー!』

 

万丈は返事をすると、ビルドドライバーを取り出し、ドラゴンフルボトルを振る。

そして、どこか固い動作でやって来たクローズドラゴンにボトルを挿し、ビルドドライバーへ装填した。

 

 

【Wake Up! CROSS-Z DRAGON!Are You Ready?】

 

 

「変身ッ!」

 

 

【Get CROSS-Z DRAGON!! Yeah!!】

 

 

「おっしゃぁっ!」

 

いつもよりも早く変身を済ませ、琴里の通信を頼りに現場へと向かう万丈。

 

「………………俺は」

 

その背中を見送った士道は、その場へ立ち尽くし、自分にできる事を考えた。

 

『士道、何をしているの。早く逃げなさい!』

 

琴里から諌める声が聞こえる。きっとこの場で士道が取るべき選択は、シェルターへと逃げる事なのだろう。

 

だが_____少しの逡巡を後で、士道は顔を上げ、インカムに手を伸ばした。

 

 

「悪いな琴里………ちょっと、行ってくる」

 

 

『は?何を言っているの!?士道!士道!』

 

インカムを耳から引き抜く。その時。

 

 

『キュルッキュルゥ!キュルッキュルゥ!』

 

 

するとガルーダが、何かを訴えるように鳴き声を鳴らして、士道の元へと飛んできた。

 

「お前………」

 

『キュルッキュル!キュルッキュイーッ!』

 

ガルーダは士道の周りを勢い良く飛び回り、『自分に任せろ!』と訴えているようだった。

 

「ごめんな……ちょっと、付き合ってくれ」

 

『キュルッキュルゥッ!』

 

首肯するように小さな首を曲げると、士道の手元に収まる。

 

それを持った士道は、自宅へと戻り、大急ぎで、()()の部屋へと向かった。

 

 

 

 

あぁ〜ららぁ。ついに始まっちゃったぁ〜……ん?

 

「はぁっ、はぁっ……見つけたぞテメエ!」

 

おぉやおやぁ、クローズじゃぁないか。わざわざ寒い中ご苦労だったなぁ

 

「うっせえ!」

 

凍てつくような寒さの中、マッドクラウンはリキッドスマッシュと共に商店街にいた。と言っても、既に店は凍りつくし、もはや商店街としての機能を果たせそうにもないが。

 

 

【BEAT CROSS-ZER!】

 

 

「ウォォォオォオーッ!!」

 

その姿を確認したクローズは、ビートクローザーを取り出し、マッドクラウンとスマッシュに向かう。

 

う〜ん、今は、お前とやる気分じゃないしなぁ………行け

 

「ゥゥゥゥゥゥゥウァァァァァア!!」

 

マッドクラウンは顎に手を当ててから、近くのリキッドスマッシュに指示した。数体のスマッシュが、クローズめがけて襲いかかる。対してのクローズは短期決戦で決めるために、ビートクローザーに先日入手したロックフルボトルを装填、グリップエンドを力任せに思いっきり引いた。

 

 

【SPECIAL TUNE!!】

 

 

【ヒッパレーッ!ヒッパレーッ!】

 

 

【MILLION SLASH!!】

 

 

「オォーラァァッ!!」

 

ビートクローザーを振るうと同時に、刀身から蒼炎のエネルギーが放たれる。

攻撃を受けたスマッシュは数体が爆散し、残り数体はまた、クローズへと向かって行った。

 

それを迎え撃つように、クローズは再びビートクローザーを構えた。

 

 

 

 

「あ_____あれは…………っ!」

 

凍り付いた街を走っていた十香は、視界の先に見えた光景に戦慄した。

開けた道路の先に、スマッシュとか言う怪物と戦う、万丈ことクローズと、そのスマッシュを引き連れていると思われる紫色のサソリ男、さらにその奥では、先日見た青い髪の少女、それにASTの姿が確認できたのである。

 

「________あっ」

 

十香は、そのサソリ男を見たとき、恐怖を覚えた。

 

ASTと対峙した時とは、決定的に違う、何か恐ろしいもの。

 

何故だろうか。本能とか、そういうレベルでしか語りようがないが_______あれは、とても危険な物だ。

 

そして、その奥にいる、人形を駆る少女。それが後退し、周囲の大気を吸い込むように人形を仰け反らせる。

 

「…………っ!?」

 

十香は、腹の底がぞくっと冷えるのを感じた。

 

あれも_______サソリ男とは違うが、よくないものだ。間違いない。

 

言語化しづらいのだが、そう。例えるとするなら、十香が【鏖殺公(サンダルフォン)】で渾身の一撃を放とうとする寸前と、非常によく似ているのである。

 

「…………っ、シドー、セント、リューガ!」

 

その安否を憂い、思わず三人の名前を叫んでしまう。万丈はともかく、ほか二人は今この場にもいないのだ。意味の無い事は分かりきっている。

 

十香は、咄嗟に踵を地面に突き立てた。

 

「【鏖殺公(サンダルフォン)】…………ッ!」

 

十香の最強の矛の、その名を呼ぶ。しかし、何も起こらない。

 

「くっ……………!」

 

一応、琴里達から説明は受けていた。その過程で、自身の存在についてや、その力が士道の身体と、あの戦兎達が使っていたボトルに、封印されたと言うことも、聞いていた。

 

不安が無かったわけではない。今まであった力が突然無くなるのは、誰だって不安になる事だ。

 

しかし次第に、それが士道や戦兎達と過ごすうちに、それが人間として暮らす上で必要な事だと理解できた。

十香は、今の生活が楽しくて仕方ない。

 

折紙は未だに鼻持ちならないし、琴里や令音も、完全に信用に足る訳ではない。もしかしたら戦兎と万丈ですら、心の中では信用し切れていないのかもしれない。

 

_____だが。

 

鏖殺公(サンダルフォン)………鏖殺公(サンダルフォン)ッ!鏖殺公(サンダルフォン)………ッ!」

 

今、彼らを救う為、そのいらないはずの力を求めなければならなかった。

 

幾度も幾度も地面に踵を突き立てる。だが、何度試しても鏖殺公(サンダルフォン)は顕現しない。

 

「くっ………頼む………出てくれ、鏖殺公(サンダルフォン)…………っ!」

 

泣きそうな思いで、地面を蹴り続ける。

 

頭の中で、士道が凶弾に倒れた光景が鮮明に浮かぶ。

 

戦兎達が、みんなとくしゃっと笑っている光景が浮かぶ。

 

前者は、もう絶対に見たくない、経験したくない光景だ。

 

後者は、絶対に失ってはいけない光景だ。士道と、戦兎と、万丈と、みんなと笑っているときは、心の底から幸せを感じられた。

 

「…………っ!」

 

ゆらゆら、ぐらぐらと、十香の精神状態が、不安定になる。意識が飛んでしまいそうになる。それほどのストレスが、十香の頭の中を蹂躙する。

 

 

「く_________ぁ、ぁぁあああああああああああああああああッ!!!」

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ…………ぐぅっ!!」

 

息も絶え絶えになりながら、クローズは戦い続けていた。

敵の攻撃がある程度弱まった所でボルテックレバーを回し、エネルギーを充填する。

 

 

【Ready Go!!】

 

 

DRAGONIC FINISH!!

 

 

 

「オォォォォォリャァァァァーッ!!」

 

渾身のキックを放ち、最後のリキッドスマッシュを葬り去る。

しかし、クローズの体力は限界に近かった。ただでさえ通常スマッシュよりも強力なリキッドスマッシュ。それを数体一気に相手取ることは、幾ら歴戦のクローズといえど、苦行であった。

 

その上_____

 

「(なんか俺…………前より、弱くなってねえか?………)」

 

ふと、頭にそんな考えが浮かぶ。

そう。この世界で戦ってきてから、ずっとそんな考えが頭の中にあった。スマッシュと戦っているときも、何故だろうか。最後に戦った時より、だいぶ強く感じたのである。

 

否、正確に言うなら_____自分の力が、弱まったというべき。

 

だが、今は戦場の真ん中だ。

 

その疑問を横へ投げ、再び姿勢を整える。

 

そして正面の道化師野郎_____マッドクラウンを見据える。

 

おぉ〜おぉ〜、こりゃあ凄い!まぁさか本当に倒しちまうとはなぁ。で、も………そんななりで大丈夫かぁ?

 

「うるっ……せぇ!」

 

強気に言うがしかし、クローズの身体はほぼ満身創痍であった。全身の疲労がかさみ、痛みが襲う。

それを奥歯を噛み締め堪えて、マッドクラウンへと向かっていく。

 

「うぉぉぉーーッ!!」

 

ふん

 

しかし、それをクラウンは難なく避け、取り出したブレードでクローズを地に伏せさせた。

 

「ぐはぁっ!?」

 

終わりだ

 

言うと、クラウンは銃を取り出し、持ち手を回転させ、ブレードを銃口へと取り付け、大型ブレードへと変形させた。

そしてフルボトルを取り出し、セットする。

 

 

【BLADE……FULL BOTTLE……JET

 

 

【EFFECT SLASH】

 

 

音声が鳴ると同時に、刀身にジェット機の様な形のエネルギーが纏われる。

 

ほぉ〜らよっ!

 

妙に間の抜けた声とともに、刺突のフォームで構えたブレードを突き出す。

その後、ブレードからジェット機のエネルギーが放出され、そのままクローズへと向けて放たれる。

 

____だが、しかし。

 

 

「………はっ?」

 

何だとぉ?

 

 

______クローズとクラウンの間に入るように、人影が降り立ち、そのエネルギー弾を、 手に持った巨大な剣で以って、打ち消していたのだから。

 

「と、十香…………?」

 

「無事か!?リューガ!」

 

「あ、ああ………何とかな」

 

立ち上がり、十香のそばに立つクローズ。ちなみに、何故霊力を封印された十香が霊装姿になっているかとかは、聞かなかった。単純に考えてなかったのである。

 

ほぉ〜、プリンセスかぁ〜。こりゃ驚いた!

 

「………貴様か。シドーを苦しめた敵というのは」

 

そぉんな怖い顔すんなって。綺麗なお顔が台無しだよぉ〜?っと!

 

 

【SMASH……REALIZE】

 

 

瞬間、クラウンが再びブレードのスイッチを操作し、先端部からスマッシュを二体生成した。数の不利を悟ってか、数的優位を作り出すためである。

 

「なっ、テメエ!卑怯だぞまた出すなんて!」

 

ハッハー!残念ながら俺ぁ、卑怯もラッキョも大好きなんだよぉ〜

 

と、クラウンの高笑いが響いた、その時。

 

 

「____待てッ!」

 

 

後ろから、息も絶え絶えに走ってくる、士道の姿があった。

 

「なっ、し、シドー!?」

 

「お前!シェルターに避難しろって言われてただろうが!」

 

十香と万丈の声を聞かず、士道はボトルを握りしめ、スマッシュへと向かっていく。

 

「うぉぉおーーーッ!!」

 

「ッ!?」

 

スマッシュへと向けられたその拳は、スマッシュの鳩尾をとらえ、吹き飛ばした。

 

「なっ!?」

 

なぁに?

 

戸惑いの声が上がる。そして、士道は息も絶え絶えに告げた。

 

 

「万丈、決めたよ。_____俺は、戦うッ!!」

 

 

その力強い声とともに、また、スマッシュへと向かっていく。その目には、朝の何かに取り憑かれていたような、妄執にも似た何かが完全に取り払われ、代わりに、大きな決意を宿したようにも、見えた。

 

 

「俺はもう、迷わないッ!!迷ってるうちに、十香が、みんなが、悲しむくらいなら…………ッ!」

 

 

それはきっと、茨の道なのだろう。

 

挫ける時も、傷付く時も、きっと数え切れないくらいにあるのだろう。

 

だけど______その苦難を乗り越えた先に、誰かの笑顔が………十香達の笑顔が、守れるのなら。

 

 

「俺は………みんなの笑顔を、救って、守ってみせるッ!これ以上、誰かの絶望を見たくないんだ!!」

 

「士道………」

 

 

まだ見ぬ、どこかで苦しむ精霊達が、救えるのなら。

 

 

_______その為に、力を使おう。

 

 

「だから………見ててくれッ!!俺の………戦いッ!!」

 

 

その、強い決意と共に。

 

士道は懐から、さっき持ってきた、()()を取り出した。

 

「ッ!そいつは、戦兎の………!」

 

「……戦兎に、悪いって伝えといてくれ」

 

それは、戦兎が開発した新型のドライバー_______リビルドライバーだった。

 

それを腰にあてがうと、銀色の【アジャストバインド】が巻き付く。

 

そして、ポケットから自身のボトル______【スピリットフルボトル】を取り出す。

 

 

『キュルッキュルゥッ!!』

 

 

すると上空から______【アライブガルーダ】が舞い降り、士道の手元へと変形して収まる。

 

「力を、貸してくれ」

 

短く言うと、士道は右手に持ったガルーダに、左手で勢いよく振ったボトルを挿しこむ。

 

そして、ガルーダに付けられたボタン型パーツ、【アウェイクンスターター】を勢いよく押し、リビルドライバーへと挿し込んだ。

 

 

【Get Up! 】

 

 

ALIVE-SPIRT!!

 

 

電子音声とともに、炎の燃え盛るような音と、鳥の鳴き声が混ざったような待機音が流れる。

それが聞こえたと同時に、【ボルテックレバー】を勢い良く回し、【ボルテックチャージャー】からエネルギーを生成、リビルドライバー内部に接続された、変身用顕現装置(リアライザ)が臨界駆動を始める。

 

そのまま、士道の前後に高速ファクトリー、【スナップリアライズビルダー】が展開される。前後には朱色のボディ、横にはさながら不死鳥のような形をした、チェストアーマーパーツが生成された。

 

 

 

 

【Are You Ready?】

 

 

 

 

_______覚悟はいいか、と、ベルトが問い掛ける。

 

しかし今の士道にとっては、そんな質問は無意味だった。

 

戦う覚悟や、背負う覚悟など_______とっくのとうに、出来ている。

 

だからこそ、決意を抱き、自分を変えるための、その言葉を叫ぶ。

 

 

 

「変身ッ!!」

 

 

その声とともに、生成された【スピリットアーマー】が士道を挟み込み、頭部の【バーニングスピリッター】と、胸部ボディアーマー、【スピリッションフレーマー】が装着される。

 

 

【Get Up Strike! Dead Or ALIVE-SPIRIT!!イェーイッ!!】

 

 

魂のボトルの力で、本当に覚醒した、もう一人の、炎の仮面ライダー。

 

強い決意を胸に秘め、マッドクラウンの前へと立ち上がった。

 

 

「………あいつ、やりやがった………っ!」

 

「し、シドーが………仮面ライダァーーっ!?」

 

 

万丈から感嘆の、十香からは驚愕の声が上がる。

 

「俺は………戦う。笑顔を、守るために。精霊を…………救う為に!」

 

 

士道は叫ぶ。拳を握り締め、自らの、その名を________

 

 

「俺は仮面ライダー…………!アライブだぁぁぁあッ!!!」

 

 

この日、五河士道は………仮面ライダーに、覚醒した。

 

 




どうでしたか?
遂に、士道が仮面ライダーとして覚醒しました。その名も、仮面ライダーアライブ!

………重ね重ね思う。やっぱ違和感が残ってしまった。ま、まあそこは、次回の戦兎の活躍を増し増しにする事で手を打ちましょう!次回、士道の初戦闘シーンからだけど………。

あ、士道の変身に対するラタトスクやASTの反応については、次回描写します。スマッシュ戦闘多めでしたが、後ろでは依然四糸乃が暴れてる状態ですからね。

それでは次回。『第19話 きっと誰かのヒーロー』を、お楽しみに!

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第19話 きっと誰かのヒーロー

桐生「暴走した四糸乃を止めるため、仮面ライダービルドの桐生戦兎と、万丈龍我は向かった。だがその先で、万丈はマッドクラウンの足止めを食らってしまう」

士道「もうダメか………と、諦めたその時!ついに現れたニューヒーロー!その名も、仮面ライダーアライブ!」

万丈「ったくちゃっかり見せ場持って行きやがってよー!かっこいいじゃねえかちくしょー!」

桐生「と言うわけで、今回は我らが元祖ヒーロー、ビルドが大活躍!クローズがいなくても問題ない、第19話をどうぞ!」

万丈「もっと俺に出番くれよーっ!」





ラタトスク空中艦【フラクシナス】の司令官、五河琴里は。

 

モニターの前で、唖然としていた。

 

「司令、これは…………!」

 

「何で………どう言う事なの………?士道…………!」

 

彼女に限った事ではない。

フラクシナスの、クルーのほぼ全員が、大なり小なり驚愕の表情をしていた。

 

なぜなら、彼らの目の前には________

 

 

朱色の炎の仮面ライダーに変身した、五河士道の姿が映っていたからだ。

 

 

 

 

くっ……ふはっ、フッハハハハハッ!!まぁさか、まさかまさかまぁさかぁッ!!仮面ライダァに、変身するとはなァッ!!五河(いぃつか)士道(しぃどう)ゥッ!!

 

「マッドクラウン………俺たちの戦争(デート)を、始めようか………!」

 

アライブへと変身した士道は、マッドクラウンとその配下のリキッドスマッシュを見据える。

 

 

燃える炎のような両目の複眼と、全身のアーマー。

 

まるで不死鳥のような、銀色が混じった意匠の頭部。

 

 

魂を震わせるほどの力の奔流を感じながら、士道は拳を握りしめた。

 

まぁずは小手調べだ。……やれ

 

『ァァァァァァァァアァァアァァァアッ!!!』

 

近くにいたリキッドスマッシュ二体に、クラウンが攻撃を命令する。

二体のリキッドスマッシュが、その戦闘能力の高さで以って、アライブを攻撃しようとしていた。

 

「シドー………っ!」

 

「大丈夫だ」

 

十香の心配する声を、クローズが遮る。

事実、今の士道_____否、アライブにとって、そのような思慮は皮算用であった。

 

 

「ウォォォォォラァァアーッ!!」

 

 

「ゥギィッ!?」

 

「ァグゥァ!?」

 

その右手の拳で、一体目のスマッシュの鳩尾を捉え、次いで二体目のスマッシュに、足蹴りをかました。炎のような衝撃波とともに、二体のスマッシュが前方に吹き飛ばされる。

烈火の如く繰り出される猛攻撃に、スマッシュ達も怯み、攻撃の手を緩めた。

 

「ハァァァァ………ッ!!」

 

その隙を逃さず、ボルテックレバーを一度回し、チャージャーにエネルギーを溜める。戦兎が搭載した変身戦闘用顕現装置(リアライザ)の補助によって、生成されたボトルのエネルギーがアライブの拳へと速やかに、しかし十全に送られる。

 

 

【Ready Go!!】

 

 

そのまま拳を据え、右足を踏みしめる。そして右拳に螺旋形に収束した炎のエネルギーを、正拳突きで敵に叩き込む必殺のパンチ技_______

 

 

SPIRIT BREAK!!

 

 

「ダァァァァァアーッ!!」

 

『ァァァァアアガァウァァァァアーーッ!!!』

 

 

地獄の業火の如しエネルギーが篭ったそれは、リキッドスマッシュ二体を、その一撃のみによって爆散させた。

 

 

一撃、だと…………フッハハハハハハッ!!ますます面白ぉいッ!!ならばこの俺が直々に、相手をしてやろうッ!!

 

 

その光景を見たマッドクラウンは高笑いをしながらも、大型ブレードを構えてアライブへと向かっていった。

ブレードを上段に構え、振り下ろす。

 

「ハァッ!」

 

……何?

 

それを、アライブは両腕をクロスさせ、防御する。両腕に備えられた、防御にも転用可能な鋭い装備、【ファイアークロウラー】によって受け止め、そのままブレードを押し返す。

 

………中々やるねぇ

 

「ハァッ!オリャァッ!!」

 

そのまま、空いた隙を突き、裂帛の勢いで連打を繰り出す。全身の追加アーマーに搭載された銀の飾り、【フレイアップライザー】によって、攻撃力が更に上昇しているのだ。炎がそのまま拳の形となって放たれたような攻撃に、クラウンも油断を突かれた。

 

まさか、これ程とはなぁ………っ!

 

「どうだ…?強いだろ……ッ!!ハァッ!」

 

そしてパンチとキックを交互に繰り出し、一気にクラウンを押し込む。そのまま、ボルテックレバーを勢い良く回す。チャージャーによって造られたエネルギーが、今度はアライブの両足へと流される。

 

 

【Ready Go!!】

 

 

 

電子音と共にファイティングポーズを決める。瞬間、背後にクローズの【クローズドラゴン・ブレイズ】に当たるエネルギー体、【アライブガルーダ・ライジング】が出現する。

そして背面からは赤く光る翼、【ソレスタルファイアーウイング】が出現した。

 

さながら神話の鳥のように輝くガルーダと共に、アライブが背中のウイングによって空高く飛翔する。

 

「はぁぁぁあーーーッ!!」

 

そして、アライブガルーダ・ライジングが敵目掛けて急降下し、そのエネルギーの奔流に乗ってアライブもまた急降下する。そして、両足に溜められたエネルギーを燃やし、敵にドロップキックを放つ必殺技_______

 

 

SPIRIT FINISH!!

 

 

「オリャァァァァアーーッ!!!」

 

 

ぐっ、ヌゥゥゥゥゥウ…………ッ!!?

 

 

その火弾の如きドロップキックは、クラウンを正面から捉える。そしてアライブは、クラウンの腹部を踏み台代わりにして、一回転を決め着地を決める。

地面へと着地したアライブを尻目に、【アライブガルーダ・ライジング】はその勢いのままクラウンへと体当たりの如く攻撃を加える。

 

こ………の………っ!

 

しかし、クラウンはそれを大型ブレードでもって弾き返し、霧散させた。

だが、それでもダメージは相当なものだろう。地に足を突かせ、息苦しそうに肩を上下させている。

 

………想定外だったぜぇ……?まさか、これ程とはなぁ…………。俺は、ここら辺でお暇させてもらうよぉ……。バァイナラ〜………

 

「あっ、ま、待て!」

 

口調は崩さぬまま、しかし苦しげに手をヒラヒラとさせてその場から消えるクラウン。

 

「…………」

 

その姿を見て一つ息を吐くと、アライブはドライバーからガルーダを抜き、変身を解除した。

 

『キュルッキュルゥ!!』

 

ドライバーから離れたガルーダが、えっへんと胸を張るように士道の前で飛び回る。それを見て、士道も表情が綻ぶ。

 

「………ありがとな。お前のお陰だ」

 

『キュルゥッ!』

 

士道が礼を言うと、ガルーダも嬉しげにその場を一回転してみせた。まったく、調子のいい奴め。

すると。

 

「シドーッ!!」

 

後ろから、十香が手を振りながら元気いっぱいに駆け寄ってきた。その後ろには、笑みを浮かべる万丈の姿も。

 

「ったく、まさか、本当にやっちまうとはな………」

 

「凄かったなシドー!とてもカッコ良かったぞ!!」

 

「万丈、十香…………」

 

『キュルッキュルー!』

 

「うむ、お前もな!」

 

十香が興奮気味に士道に駆け寄り、ガルーダを撫でる。万丈も士道を見ると、ふっと安心したような顔付きになり、口を開いた。

 

「……その様子じゃ、もう心配いらねえみてえだな」

 

「ああ。………サンキューな。色々と」

 

「おう、気にすんな」

 

「む、二人で何を話しているのだ!私も混ぜろ!」

 

『キュルーッ!』

 

と、十香とガルーダが拗ねたようにこちらを向いてくる。

 

「あ、ああすまん。十香も、有難うな」

 

「!……うむ、シドーが元気になったなら、何よりだ!」

 

三人と一匹で、そう笑いあっていた、その時。

 

 

_____ゴォォォォォォォォォオ…………!!!!

 

 

「っ、シドー、リューガ!!」

 

『っ!』

 

周囲から、先ほどまでとは比べ物にならない、全てを凍てつかせるかのような、凄まじい吹雪が吹き荒れた。

 

先程のクラウン撤退によって忘れかけていたが、ここは戦場のど真ん中である。

十香によってなんとか助かったものの_____次に見えた光景に、三人は目を疑った。

 

 

「なっ…………!?」

 

「んだよ、あれ…………!」

 

『キュルッ!?』

 

「あれはなんだ!?シドー、リューガ!」

 

 

三人と一匹が揃って、困惑の声をあげる。しかし、無理もないだろう。

 

何故なら彼らから視認できるものの、距離的には程遠い場所に_______吹雪が渦巻いて、まるでドームのように綺麗な半球形が形作られていたのだから。その周囲には、ASTの姿も見える。

 

「なんだよ、ありゃ……!」

 

『……四糸乃が構築した、結界だね』

 

「!れ、令音さん!」

 

すると、万丈のインカムから令音の声が聞こえてくる。先ほどまでは戦闘中だったこともあって音声が拾えなかったが、ちゃんと繋がったようだ。

 

『……すまないが、シンにインカムを付けるよう言ってくれないかい?』

 

「あ、ああ。……士道、インカム付けろってさ」

 

「え?………あ、そうだった」

 

さっき自宅に向かう際、インカムを外したままだった事を忘れていた。急いで、着用する。

 

「……琴里、聞こえるか?」

 

『聞こえるか、じゃないわよ!」

 

付けるや否や、耳元から妹の怒声が鼓膜に響いてきた。

 

『いきなり通信は途切れるし、仮面ライダーに変身してるし………どう言うことよ!』

 

「わ、悪い………説明なら、後で幾らでもする」

 

『………そうね。今は、戦場のど真ん中だもの』

 

琴里も落ち着いた様子で、ひとまず返す。

 

「それで、琴里………ありゃ、一体何なんだよ………」

 

『令音の言った通りよ。あれは、四糸乃が生み出した結界。吹雪で覆われてるから、迂闊に近づけないわ。あの中に生身で突入したら、恐らく10秒と経たずに全身が血まみれになるでしょうね』

 

「マジかよ………くそっ、どうすりゃいいんだ…………」

 

と、そこで前方の光景に変化が現れた。

 

折紙が空中に浮遊したかと思うと、なんと近くのビルの先端部をむしり取り、四糸乃の結界の上空へと運んでいったのである。

 

「な………っ」

 

「嘘ーん…………」

 

『キュルール…………』

 

『ち、あれで結界を霧散させようって腹?随分と思い切った真似してくれるわね……ん?』

 

すると、そこで琴里が戸惑ったような声を上げた。

 

『なっ………これ、戦兎……っ!?』

 

「えっ?戦兎が、どうかしたのか?」

 

「どうしたんだ?戦兎に何があったんだよ!?」

 

戦兎の名前を言って、動揺した様子を見せる琴里。問い詰めると、困惑した様子で返答してきた。

 

『あの馬鹿ヒーロー…………四糸乃の結界に向かって、真っ直ぐに向かってるわ…………!』

 

「なっ……!?」

 

「なんだとっ!?」

 

その言葉に、士道と万丈は混乱した。

 

 

 

 

「待っていろ………四糸乃………!」

 

パペットを持った戦兎は、マシンビルダーを走らせながら、目の前に見える半球形の吹雪へと直進していた。無論、変身済みの状態である。

あれが四糸乃の作り出したものだという事は、想像に難くない。先程まで、遠くから巨大なウサギが大暴れしていたのも見ていたからだ。

 

『___戦兎、聞こえる?戦兎!』

 

すると、今まで沈黙を保っていたインカムから、突然琴里の声が聞こえた。

 

「よ、元気そうだな」

 

聞こえてきた声に、至極明るく答える。

 

『何を呑気に言ってるの!あなた、自分が何しようとしているか分かっているの!?あの結界の中を進むことが、どれほど______』

 

「分かってるよ。あの中は猛吹雪だ。生身の人間が進んだら、ミキサーかけられたみたく粉々に吹っ飛ぶだろうな」

 

『なら、どうして______』

 

「でも_____今の俺なら可能だ。変身して、全身をアーマーに包んだ状態ならな」

 

強がっで行って見せたが、これも半分賭けだ。

いくらビルドドライバーが創り出す装甲でも、あの中に突っ込めばいずれ砕け散るだろう。一回の必殺技を食らうのとは訳が違う。銃弾の雨が降り注ぐ中で、ろくな回避もしないまま突っ込むようなものだ。挙句あればただの吹雪ではなく、精霊の霊力によって創られたもの。このままではいくらなんでも無謀過ぎるだろう。

 

______今のまま、なら。

 

『っ!でも、それにしたって無謀すぎるわ!吹雪が吹き荒れている領域は、結界内の外周五メートルよ!その距離を進むなんて、いくらライダーシステムでも_____』

 

「それでも!俺が………救わなきゃならねえんだよ。約束したんだ。あいつの、ヒーローになるって。………正義のヒーローが、仮面ライダーが…………そんな事で諦めてたまるかよ。こんなとこで諦めて、愛と平和(ラブ&ピース)が語れるかってんだ」

 

『戦兎…………』

 

強い意志を込めて、戦兎は、ビルドは言う。琴里の指摘は全くその通りだ。

だが、それでも戦兎は、行かなければならない。

 

仮面ライダービルドとして。

 

そして_______四糸乃の、ヒーローとして。

 

「大丈夫だ。それに、奥の手もある。この天っ才ヒーローを信じなさいって!」

 

『戦兎…………分かったわ。どうせ、止めても聞かないんでしょう?周りのASTは、何とかするわ。戦兎は、四糸乃に集中しなさい』

 

「何とか……?」

 

その言葉に、引っ掛かりを覚えた、次の瞬間。

 

 

『オォーーラァッ!!』

 

 

上空から、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「っ、万丈!それに………」

 

そこにいたのは、ビートクローザーで応戦するクローズと、ビルの屋上で鳶一折紙を相手取る、何故か霊装状態となった十香、そして………。

 

「あれは………まさか、士道か!?あの姿………」

 

背面から赤い翼を生やしてASTを相手にする、朱色の見慣れない仮面ライダーが見た。

 

普通なら見えないが、マスクアイによって強化された視界で、その腰に身につけられたもの、装填された物から、誰が変身者か見当がついた。

 

「ったくあいつ……人の発明品勝手に持ち出して……」

 

悪態をつきながらも、マスクの下で苦笑する戦兎。すると、インカムから通信が聞こえる。

 

 

『戦兎ぉ!こっちは俺たちに任せろぉっ!お前はお前のやる事に集中しろっ!!』

 

『戦兎、ドライバー勝手に使っちまって悪い!でも、ここは任せとけ!』

 

 

万丈と士道からだ。どうやらフラクシナスを介して通信を繋いだようである。そして、また通信が切り替わる。

 

『……言った通りだ。ASTは二人と十香が足止めをする。セイは、四糸乃を頼む。_____それから、もう一つ。時間がないから、簡潔に伝えよう。四糸乃は______』

 

令音が、最後に戦兎に、短く伝えてくる。

 

「………っ」

 

それを聞いた瞬間、心臓が締め付けられるかのような感覚が、戦兎の身体を通り抜けた。

 

だが_____不思議と、驚きはない。

 

 

あるのは、ああ、四糸乃ならきっとそうだろう、と言う納得と______

 

ならばこそ、何としてでも彼女を救わなければならないと言う、確信だけだった。

 

「………分かった。何としてでも、四糸乃を助け出す。俺は_____」

 

『……ナルシストで自意識過剰な正義のヒーローだから、だろう?』

 

「ちょ、俺のセリフ取んないで下さいよ!」

 

そんなやり取りを交わしながらも、ついに結界が目前まで迫る。

 

そこまで来たところで、戦兎はマシンビルダーを乗り捨て、ラビットアーマーの脚部、【ポップスプリンガー】によって、一気に近くのビルの屋上まで飛び上がる。

 

そして、結界を正面に見据えながら、戦兎は持ってきた()()を、取り出した。

 

それは_____一見すると炭酸飲料にも見える、ビルドの強化アイテム______【ラビットタンクスパークリング】であった。

 

 

 

「______さあ、実験を始めようか」

 

 

 

______シュワシュワシュワシュワ

 

 

台詞を言いながら、ボトルを振り、内部の成分を活性化させる。

そして、十分に活性化したその容器のプルタブ状のパーツを開き、ビルドドライバーにセットした。

 

 

RABBIT TANK SPARKLING!!】

 

 

音声が流れ、ボルテックレバーを回し、エネルギーを生成する。

 

その後、生成したエネルギーが、ライダーズクレスト状の【スナップライドビルダー】を形成し、パンドラボックスの残留物質【ベストマッチリキッド】を内包したアーマーが形成される。

 

 

 

【Are You Ready?】

 

 

 

「ビルドアップッ!」

 

 

その声とともに、前後のアーマーが流れ、ラビットタンクアーマーから切り替わる。アーマーが切り替わる合図であるように、ビルドのアーマーからは、炭酸が溢れ、流れ出た。

 

 

【シュワっと弾けるッ!ラビットタンクスパークリングッ!!イェイイェーイッ!!】

 

 

「勝利の法則は_____決まったッ!!」

 

決め台詞とともに、すかさずボルテックレバーを回し、エネルギーを装填する。そして、そのまま空中へと高く舞い上がった。

 

 

【Ready Go!!】

 

 

機械音声とともに、ビルドの前方にワームホール型の図形が形成される。瞬間、結界を取り巻いていた吹雪が、ワームホールへと集中していった。

そう、戦兎の考えた突破方法。それはこの技によって、結界を正面突破することであった。

だが、それでも無謀に過ぎる作戦である。だが今の戦兎にとって、最早そんなことはどうでも良かった。

 

四糸乃を救う。

 

その為なら、どんな無茶無謀もやり遂げてみせる、その覚悟があった。

 

 

先刻、令音に言われた言葉を思い出す。

 

 

 

『……セイ。調べて分かったことだが、あの子はパペットをつけている時だけ、もう一つの人格が存在している。そして………その発生原因についても』

 

『発生原因?……やっぱり、ASTか。怖いから?』

 

『……いいや。____なんとも信じ難いことに、この少女は自分ではなく、他者を傷つけまいとするために、自分の力を抑えてくれる人格____『よしのん』を生み出した可能性がある』

 

『_________っ!』

 

『……セイ。きっと、彼女を救ってあげてくれ。こんなにも優しい少女が救われないなんて………そんな悲しい話、嘘だろう』

 

 

 

「_____ああ、そうだ」

 

そんな不条理が、許されるはずがない。

 

_____だから俺が、ヒーローにならなきゃ、四糸乃を救わなきゃならないんだ。

 

 

 

SPARKLING FINISH!!

 

 

 

「ウォォォォオオオーーッ!!!」

 

無数の泡と共に、猛吹雪目掛けてキックを繰り出すビルド。

 

「_____四糸乃ォーーーッ!!!」

 

その後の戦兎の耳と視界には、凄まじい吹雪しか存在しなかった。

 

 

 

 

「ぅ、ぇ………っ、ぇ…………っ」

 

結界の中心部で、四糸乃は氷結傀儡(ザドキエル)の背にうずくまり、一人泣いていた。

外で氷弾が吹き荒れているとは思えないほどに、内部は静かな空間だった。ただただ、四糸乃の嗚咽と鼻をすする音だけが、いやに大きく反響するだけである。

 

外には、怖くてとても出られない。でもここは______この上なく、寂しかった。

 

「よ、し、のん…………っ…………」

 

涙に濡れた声で、友だちの名前を呼ぶ。

答えてくれるはずがないのは、四糸乃も分かっていた。それでも、呼ばずにはいられなかった。

 

『は・あ・い』

 

「……………ッ!?」

 

四糸乃はビクッと肩を震わせると、バッと顔を上げて辺りを見回した。

 

「_______!」

 

そして、涙を拭って目を見開いた。

なぜなら結界中心部と外縁部のちょうど境目に、見慣れたパペット_____『よしのん』が確認できたからである。

 

「!よしのん…………っ!?」

 

四糸乃は叫ぶと、氷結傀儡(ザドキエル)の背から飛び降り、そちらにパタパタと走っていった。見間違えるはずがない。

 

だが______

 

「…………ひっ…………!」

 

バタン!と。

 

『よしのん』の後ろから、誰かが倒れこんできて、四糸乃は思わず足を止めてしまった。

 

否、正確に言うなら、よしのんを手につけた人が、倒れこんできたようだった。

 

容貌は、はっきり言うと異常だった。

 

赤と青の体に、所々トゲトゲのような意匠がある。その身体はすでにボロボロで、何故か割れ目のようなものも入っていた。

 

「…………っ!?」

 

すると、いきなりその人が仰向けに回転し、大の字になった。

 

そして、赤と青の体_____否、正確には身に纏っていたものが、粒子になって消えた。

 

そして、仮面に覆われていた、その容貌が見て取れるようになる。

 

「…………!?戦兎さ…………っ」

 

四糸乃は、驚愕に染まった声を発した。

 

マスクの下もボロボロで、所々から血が流れ、それでも笑顔を浮かべたその人間は、あの桐生戦兎だったのである。

 

その場で寝ながら、ふぅぅぅぅ………と、深ぁく息を吐き出した。

 

「っあーーっ!疲れたぁーーっ!!ほんっとに死ぬかと思った…………!!」

 

 

あの後、戦兎の放ったスパークリングフィニッシュは、結界内部ギリギリのところまで行き、その効力を無くした。そのまま傷だらけのアーマーで、内部へと到達したのである。お陰ですっかりドライバーも、ついでに生身もボロボロになってしまった。帰ったらメンテナンス必至である。

 

外部はさながら機銃掃射のようだったのに、中心部は実に静かだった。なんとも奇妙な空間である。ここまで音を遮断するとは。

 

「_____四糸乃」

 

戦兎は名前を呼ぶと、ウサギのパペットを掲げるように立ち上がった。

 

「約束通り、お前を助けに来たぜ………痛ってて………」

 

まだ痛む身体を押さえていると、四糸乃は目を丸くした後、

 

「う、ぇ、ぇぇぇぇ…………」

 

目に涙を溜め、泣き出してしまった。

 

「えっ?ちょ、泣くなって!なんか俺、ダメだったか………?」

 

戦兎が慌てると、四糸乃がふるふると首を振った。

 

「違………ます、嬉し………て………来て………くれ、て…………っ」

 

そう言って、再び泣き出してしまう。

そんな様子に苦笑しながら、右手で四糸乃の頭を優しく撫でる。

そして、左手のパペットをピコピコの動かしてみた。

 

『やっほー、元気だったかい?お久しぶりー』

 

などと、口をもごもごさせて見よう見まねで腹話術をする。

拙過ぎる芸だったけど、四糸乃は嬉しそうに首を何度も前に倒した。

 

「ありが、とう………ござ、ます……」

 

「え?」

 

「………よしのんを、助けて、くれて」

 

戦兎は一瞬を頰をかき、くしゃっと笑って「ああ」と頷いた。

 

「今度は_____お前を助ける番だ」

 

「え………?」

 

四糸乃が、不思議そうに返してくる。戦兎は四糸乃と合わせるように、その場に膝をついた。

 

インカムからは何も聞こえてこない。大方、結界を通る際にマスクも欠損してしまったから、その際に一緒に壊れてしまったのだろう。

しかし_____いざ自分がするとなると、緊張してくる。

ただでさえ実年齢二十六だと言うのに、そこで幼い女の子とキスをすると言う行為が_____なんと言うか、とてつもなくいけないことにしか思えないのである。

しかし、やるしかないのだ。腹を決める。

パペットを失った時の四糸乃との触れ合いと、今この会話で。四糸乃が戦兎に最低限の信頼を得ていると信じて。

 

「ええと、それでだな。四糸乃。お前を助けるには、その_______キスを、しなきゃいけないんだ」

 

「キス………?」

 

四糸乃が不思議そうに聞いてくる。キスの意味を知らないのだろうか。

頭を掻きむしってから、改めて四糸乃に向き帰り、説明をする。

 

「あー、キスってのはな。こうやって、唇と唇を近づけて_______」

 

と、戦兎が説明を始めた途端。

 

 

 

「_________は?」

 

 

 

四糸乃が、ふっと目を伏せ、戦兎の唇にちゅっ、てと口づけをした。

 

瞬間、身体の中に、何か温かいものが流れる感覚がする。これが、前に士道が言っていた事だろうか。

 

「よ、四糸乃………お前…………っ?」

 

「違い………ました、か…………?」

 

「い、いや………合って、るぞ?」

 

戦兎が言うと、四糸乃がコクリと首肯した。

 

「戦兎、さんの………言う事なら、信じます」

 

と、その瞬間_____四糸乃の後ろに佇んでいた氷結傀儡(ザドキエル)やー彼女の纏っていたインナーが、光の粒となって解け消えていく。

そして、その解け消えた光の粒子が、戦兎の手のひらで一点に集まり______やがて、一本のボトルを生み出した。

 

ボトルの色は水色で、白いウサギが描かれたボトルだ。手に握ると、しんと冷たさが伝わった。

 

「これは_____」

 

そして……戦兎と四糸乃を囲っていた吹雪の結界もまた、急激に勢いをなくして掻き消えていった。

四糸乃の肩が、驚いたようにビクッと震える。

 

「………………っ、せ、戦兎さ…………、これ_______」

 

四糸乃は何が何だか分からないといった様子で、目をぐるぐると回した。そして、半裸になった自分の身体を隠すように、身をかがめる。

 

「あー、えっと、その、なんだ。と、とりあえずは、これ着とけ」

 

「は、はい………」

 

目のやり場に困った戦兎が、上に着ていたトレンチコートを渡し、顔が真っ赤になった四糸乃にかける。さっきの猛吹雪のせいでボロボロだが、無いよりかはマシだろう。

 

と、そこで。

 

「ん………」

 

四糸乃が、眩しそうに目を細めた。雲の切れ目から_____太陽と光が、注いで来ていた。

 

「暖か______い」

 

「………青空を見たのは、初めてか?」

 

「はい………………」

 

「そっか。_____綺麗だろ?」

 

「はい。とても………きれい、です…………」

 

ぼうっと、呟くように。

 

四糸乃が、天を見上げて言う。

 

戦兎も、それにつられて顔を上にやった。

 

そして、四糸乃が見ていたものを見つける。

 

 

灰色の雨雲が掻き消えた空には______この上なく綺麗な、虹がかかっていた。

 

 




どうでしたか?
今回で第二章『四糸乃チェンジング編』は終了です。
士道の初変身だったり、戦兎の初攻略だったり、路線変更だったり、個人的にだいぶゴタゴタして難しかった印象のある章ですが、だいぶ楽しくやれました。

さて、次回からはいよいよ、あの問題の精霊と、ナイトメア絶対殺すウーマンが現れます!
そして_____次回、最初も最初から原作改変が起こります。
仮面ライダービルドが来たからこそ、起こる改変とも言えますね。次回をお楽しみに。

それでは____『第3章 狂三デモリッシュ』『第20話 転校生はナイトメアにやって来る』、をお楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!

あ、狂三は変わらず士道攻略路線で行きます!ここは変更しません!




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第三章 狂三デモリッシュ
第20話 転校生はナイトメアにやって来る


桐生「仮面ライダービルドであり、天っ才物理学者の桐生戦兎は!暴走した四糸乃の元へ駆けつけ、見事救出し、霊力を封印することに成功するのだった!」

万丈「まあ傍からみりゃ中身二十六のおっさんが幼女の服脱がせたってだけなんだけどな」

桐生「それを言うんじゃないよ!まるで俺が犯罪者みたいじゃん!」

万丈「いや、俺ら元の世界じゃ指名手配されてたし、どっちにしたって同じだろ」

桐生「全然ちげーよ!つか、お前だけ実害ねえじゃねえか!」

万丈「そりゃー俺関わってねーしな」

士道「て、いうか!俺の話題には触れねえのかよ!前回のカッコいい戦闘シーン!」

桐生「人の発明品勝手に持って行った件でノーカンとさせていただきます」

士道「嘘〜ん!?」

桐生「なんかデジャブだなその驚き方………と、言うわけで!新章突入の第二十話をどうぞ!」





唇を舐めると、汗の味がした。

身体に展開された随意領域(テリトリー)は、重力や温度、湿度も自在にコントロールできる。故に僅かでも汗をかいていると言うことは、そんな外的条件以外の原因があるということだ。

 

過度の運動か、重度の疾患か、あるいは_______異様な緊張感か。

 

間違いなく後者だろう_____と、折紙は断言できる。

 

呼吸を整えながら、手にした高出力レーザーブレード、【ノーペイン】をぐっと握り直す。

折紙が纏うCRユニットは、現代の魔術師(ウィザード)が魔性の業を使うための、機械仕掛けの鎧だ。これを身に纏った者は、正しく超人と言えるだろう。______あの、仮面ライダー程ではないのが、悔しいところだが。

 

しかし、今。その折紙は、徹底的なまでに追い詰められていた。

 

『う、うわぁぁぁあああぁぁぁあっ!!?』

 

「っ………」

 

ヘッドセットから悲鳴が聞こえる。これで、九人目だ。

即ち______折紙以外の味方は全て倒されてしまったことになる。

 

「…………く」

 

折紙は障害物に身を潜むと、脳内に指令を発する。瞬間、搭載された顕現装置(リアライザ)が、周囲に展開した随意結界(テリトリー)内部の光を屈折させ、建物越しに向こう側の景色を映させる。

 

その、景色の中心に。

 

 

_______白い仮面の少女が、悠然と佇んでいた。

 

 

その身には、白と水色のアーマーが纏われ、その上からCRユニットの武装が取り付けられている。仮面の複眼は、青色に鈍く光っている。

そして腰には_____まるで、注射器の類を思わせるシルエットの、バックルとベルト。

 

 

それは姿だけを見るのなら_______間違いなく、()()()()()()であると言えた。

 

 

_____少女の名は、崇宮真那。

 

 

歳の頃は、十四、五といったところだろう。先程見た、今は仮面に隠れた素顔は、年相応のあどけなさが残っていた。

 

だがその小さな体躯を包むのは、少女にはまるで似つかわしくない、白と水色のアーマーと、その上にある、CR-ユニットだった。

どういうわけか手に入れている、ASTの要注意対象______仮面ライダーの技術と、そのアーマーのハードポイントに装着された、盾のような兵装。CR-ユニットは折紙たちよりも一世代新しく、仮面ライダーのアーマーについては完全な試作品という話である。_____最も、仮面ライダーの技術については、深く詮索をするなとの警告がされていたが。

 

そして結果は______見ての通りである。

 

開始から十分と経たずに、九名が既に無力化され、折紙もまた、近接用レイザーブレード以外の装備を失っていた。

これが相手がCR-ユニットのみであったなら、また違った経過になったのかもしれない。だが、結末は同じだ。

 

このまま隠れていても仕方ない。折紙は身体を浮遊させ、真那の前に姿を現した。

 

「_____お。ようやく腹が決まりやがりましたか?」

 

「…………」

 

背中のスラスターを駆動させ、ブレードを持ち直す。どのみち接近戦しか、折紙に道は残されていない。身体を前傾させ、凄まじいスピードで空を駆ける。

 

「潔し。嫌いじゃねーです、そういうの」

 

真那は仮面の下で唇の端を挙げると、左肩のユニットを可変させ腕に装着し、次いで右手に持った武装を展開した。

 

「【ムラクモ単刃形態(ダガースタイル)、【デュアルスレイヤー】、ブレイクモード」

 

 

【MODE:BREAK】

 

 

次の瞬間、盾の先端部と、右手の武装の円筒部から巨大な光刃が姿を現す。

しかし構わず、《ノーペイン》を振りかぶってスピードを上げる。

 

だが、このまま突貫しても返り討ちに遭うことは目に見えている。

 

「_____今」

 

故に、自分と真那の随意領域(テリトリー)が触れる瞬間、自身の随意領域(テリトリー)を一気に十分の一にまで収縮させる。

そのまま、ワイヤリングスーツとスラスターの接続を解除すると、光の刃を消した《ノーペイン》を抱き込むようにして身体を丸め、真那の脇をすり抜けた。

 

だが。

 

「あめーです」

 

至極落ち着いた様子で、右手に持った銃型ブレード、【デュアルブレイカー】を振りかざし、スラスターを両断した。

そのまま、バックルから何かを取り出し、ブレイカーに接続する。

 

「_____っ!」

 

折紙はそのまま、ノーペインの刃を再度出現させ、真那の背中に切っ先を向ける。

しかし、真那にその攻撃が当たる事は、無かった。

 

 

【STAND BY】

 

 

「な………っ」

 

どこからか機械音が流れ、真那が手に持ったデュアルブレイカーが、白い輝きを増し、エネルギーを増幅させる。

次の瞬間、折紙が見たのは_______

 

 

WOLF BREAK】

 

 

まるで狼のような、巨大なエネルギーの奔流だった。

そのエネルギーの奔流は、折紙の随意領域(テリトリー)ギリギリを掠め、数メートル先の建物を軒並み破壊していった。

 

「残念、詰み(チェック)です」

 

「……………っ」

 

負けを認める他なかった。今のは、彼女があえて外したのだ。それが当たれば、折紙の随意領域(テリトリー)でも防ぎきれない事を知って。

 

演習終了(セット)。崇宮真那三尉の勝利です』

 

「ふう、終わりでいやがりますか」

 

音声が流れるとともに、崇宮真那はバックルから、何か小さな試験管のような形をした、()()()を抜いて変身を解除した。

 

 

 

 

「んじゃ、行ってきまーす」

 

「行ってくるぜー」

 

「行ってらっしゃい。あ、士道は残りなさい。話があるから」

 

「へ?俺?」

 

五河家のリビングにて。

戦兎、万丈、士道の三人が登校しようとしたところ、士道のみが呼び止められる。

ちなみに今の琴里のリボンは黒______即ち『司令官モード』だ。恐らく士道はこれから苦労する事だろう。

 

「ま、まあ。二人は先行っててくれ。後から行くからさ」

 

「ん、そうか?……じゃあ、先行ってる」

 

士道の言葉に甘えて、万丈と二人で家を出る。もうすっかり学校に登校するのも慣れた。東都先端研究所に通勤してた時と同じ感覚だ。とは言え通勤してた期間は、そう長い間では無かったが。

 

今日は六月五日。

もう梅雨の季節だと言うのに、ここ最近は非常に天気に恵まれている。洗濯物が干しやすくなったと、前に士道が呟いていた。

 

「……先月、雨を使い切ったからだろうなー」

 

「ん?どうしたんだよ急に」

 

『ギギー?』

 

「いや、別に何も」

 

普通なら雲に遮られているであろう日光が激しく地面に照りつけ、気温が上昇している。さしもの暑さに耐えかね、三人揃って制服が夏服になっていた。普段着のトレンチコートも、今はクローゼットの中だ。万丈の周囲を舞っているクローズドラゴンも、心なしか動きが重い。

 

と、そこで。

 

「ん?」

 

「おい、あれって………」

 

陽光の中、五河家の真ん中に立っていた人影を目にして、思わず目を見開いた。

そこにいたのは、琴里とほぼ同年齢の女の子だった。

薄手のワンピースと白の麦わら帽子の涼しげな服装に、青い髪とサファイアのような瞳が見える。

そして特徴的なのが、その左手に装着された、コミカルなウサギのパペットだ。

 

そんな個性的な風貌の少女を、忘れるわけがない。

 

「四糸乃じゃん!久しぶり」

 

戦兎は四糸乃を見つけると、足を進めた。

 

『やっはー、戦兎くん、龍我くん、ドラゴンくん、ひっさしぶりだねー!』

 

『ギーギギー!』

 

と、四糸乃の左手に装着されていたウサギのパペットが、口をパクパクさせてくる。それに応えるように、先ほどまで重い動きだったクローズドラゴンが、軽快に飛び回って鳴き声を鳴らす。

 

「よう。久しぶりだな、よしのん」

 

小さく頷いて、パペット____よしのんの方へと返す。

 

「どうしたんだよ。もう検査は終わったのか?」

 

『んー、検査自体は結構前に終わってたんだけどねー。ちょーっと練習をしてたのさー』

 

「練習?もしかして、筋トレか!?」

 

「お前基準にすんな筋肉馬鹿」

 

万丈にツッコむ。こいつの中で練習とは、筋トレのことのみを指すのだろう。

だがそれはそれとして、何を練習していたのかは気になるところだ、と、戦兎がそう考えてると。

 

「…………っ」

 

四糸乃が、怯えるように肩を揺らす。

そして、震える唇を開いた。

 

「お………っ、おはよう、ございます、戦兎さん…………っ!」

 

先月よりも少しはっきりした声音で、四糸乃が言ってきた。

 

「おおっ!」

 

戦兎は感心したように声を漏らした。

 

恥ずかしがり屋な四糸乃は、基本的によしのんに対外的な反応を任せている。少なくとも、戦兎はこんなに大きな四糸乃の声を聞いたのは初めてだった。

 

「凄いじゃないか四糸乃。ちゃんと挨拶できて!」

 

戦兎がそう褒めると、四糸乃は恥ずかしげに帽子のつばを下げ、しかし口元を嬉しそうに動かした。

 

「なんだ、戦兎だけなのか?」

 

「ま、今はこれでも十分だろ」

 

万丈が言ってくるが、四糸乃は恥ずかしげにしている。どうやら戦兎以外では、まだ少し恥ずかしいようだ。

しかし、その後も震えながらも、言葉を紡ぐ。

 

「あっ、あの………学校、がんばって、くださ………っ!」

 

と、そこで言葉が途切れ、帽子で顔を隠す。ちらりと見ると、顔が真っ赤になっていた。

 

『あちゃー。四糸乃ったらまーた恥ずかしがっちゃって。ごめんねー、戦兎くん、龍我くん』

 

「いや、気にすんな」

 

「ああ。……サンキューな四糸乃。わざわざ来てくれて」

 

「…………っ!」

 

戦兎がそう言うと、四糸乃は尚も恥ずかしそうにしながら、しかしコクコクと首を動かした。

 

「さて。じゃあそろそろ行くか。またな、四糸乃、よしのん」

 

「じゃあな。元気にしてろよ!」

 

『ギーギガー!』

 

『おぉーっと、ちょっと待ってよ戦兎くん。四糸乃の格好について、何か言うことがあるんじゃなーい?』

 

「っ!よ、よしのん………っ!」

 

「格好?」

 

四糸乃が赤くなりながら、よしのんを押さえようとする。戦兎はちらりと四糸乃の方を見て、最後に会った時と違う点を見つけた。

 

「そういや四糸乃。今日は麦わら帽子なんだな」

 

「………っ、……は、はいっ」

 

四糸乃が一瞬よしのんの陰に隠れようとして踏みとどまり、小さく頷いた。

 

「今日は……暑いからって、その、令音さんが………それで…………」

 

「あ、そう言うことか。似合ってる、可愛いと思うぞ」

 

「……………っ!」

 

戦兎が言うと四糸乃は顔をボンっ!と、赤くして俯いてしまった。

照れ屋なところはまだ変わっていないようで、思わず苦笑してしまった。

 

「……お前、やっぱロリコンか?」

 

「だから違うって。その視線やめろ」

 

隣の万丈が何処か冷めた視線を送ってくる。

とはいえ、戦兎が向けている視線はそういうものではなく、どちらかというと妹に向けるような感じであるため、大丈夫であろう。

 

「って、そろそろ行かねーとな」

 

「そうだな。そういや士道は来てねえのか?」

 

「まあ後から来るし、先行って待ってよーぜ」

 

戦兎がそう言うのとほぼ同時に、四糸乃がペコリと頭を下げた。

 

「きょ………今日は、これで………失礼、します。いってらっしゃい………戦兎さん、龍我さん、ドラゴンさんー

 

「おう。行ってくる」

 

「ああ、また来いよ」

 

『ギガガー!』

 

戦兎と万丈が軽く手を振る。四糸乃はもう一度お辞儀をすると、とてとてと道の向こうへ走って行った。

 

 

 

 

「ん?遅かったな士道、と………十香か」

 

「何かあったのか?お前ら」

 

「い、いや………ちょっとな」

 

『キュルゥ』

 

結局士道が来たのは、戦兎達が学校に着いてから二十分くらい経ってからだった。朝のホームルームが始まる十分前だ。心なしか士道の表情がげんなりしているように見える。

 

「よっ、五河。いつもより遅いと思ったら十香ちゃんと一緒か?妬けるなぁこのこの」

 

すると、士道たちの元にクラスメイトの殿町が目を向けてきた。

 

「からかうなよ殿町」

 

「む、むう。一緒に学校に来るのは駄目だったのか………?知らなかったぞ………」

 

すると、殿町が若干焦った様子で手を振る。

 

「い、いやいや。冗談だって。ちょっと揶揄っただけだしさ。だから、そんなピュアな視線向けてこないで……?」

 

「もう気を付けとけよ?十香が本気にするからさ」

 

「あ、ああ。気をつけるよ」

 

士道が注意すると、殿町が少し冷や汗をかいて席に戻っていった。

すると、そこでスピーカーからチャイムが鳴り響いた。

 

「お、ホームルームか。十香、席に着いとけ」

 

「うむ」

 

「ガルーダも、ほら、鞄に」

 

『キュルゥ』

 

十香が士道に従って席に着き、ガルーダが士道のカバンの中へと収まっていく。

周囲に散らばっていたクラスメイト達も次々と着席していき、程なくして担任のタマちゃん先生が入ってきた。

 

「はい、みなさんおはよぉごさいます。あ、今日はみんなにお知らせがあるんでした」

 

と、いつもの如くホワホワした挨拶をしてからタマちゃん教諭が言って、教室がざわめく。

 

「ふふ、なんとねえ、このクラスに、転校生が来るのです!」

 

ビシッ、とポーズを決めながらタマちゃんが叫ぶ。すると教室内から、地鳴りのような声が響いた。まあ転校生といえば、学校生活でもあるかないか分からない、大きなイベントだ。実際、戦兎達や十香が来た時にも多かれ少なかれ皆が浮かれていた。

だがしかし、戦兎は首を捻る。

 

「(この短期間で転校生……?このクラスは十香が二ヶ月前に来たばっかだし、人数が不足しているわけでもない。なんか、変だぞ……?)」

 

「ん?どうしたんだよ戦兎」

 

「ん?ああいや、別に」

 

万丈に軽く応答してから、扉の方に顔を向ける。

流石に考えすぎか、と戦兎が不毛な考えを結論付けた時。

 

ゆっくりと扉が開き、転校生が教室に入ってくる。瞬間、教室は水を打ったように静まり返った。

 

姿を現したのは、一人の少女だった。この暑い中で冬服のブレザーを着込み、黒のタイツを穿いている。漆黒の髪色で、長い前髪は顔の左半分を覆い隠しており、右目しか窺い知れなかった。

 

しかしその少女が、十香に勝るとも劣らない魅力を備えていることは確かで、今もクラスの皆が唾液を飲み込む音が聞こえてきた。

 

「さ、じゃあ自己紹介をお願いしますね」

 

「ええ」

 

先生が促すと、少女は優美な仕草で頷き、チョークを手に取った。

そして黒板に、美しい字で『時崎狂三』の名を記す。

 

時崎(ときさき)狂三(くるみ)と申しますわ」

 

そして、そのよく響く声で、少女はこう続けた。

 

 

「私_______()()ですのよ」

 

 

 

『________ッ!?』

 

その一言に、士道達は心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。

心なしかその少女の視線は、士道に向けられているような気がした。

 

 

 

 

天宮駐屯敷地内の一角。南関東全域の霊波情報を統括する観測室で。

 

「まさか………間違いないの?これは」

 

「残念ながら。ここの観測機の精度は、国内でも最高クラスです」

 

「………そうよね」

 

画面上に表示された数値を視線でなぞり、困惑をため息に変えて吐き出す。

 

画面上には、とある人物のスキャニングデータが表示されていた。否、人物というには、少し語弊があるだろう。

 

なぜならその数値は、対象が世界を破壊する災厄である事を記していたのだから。

 

「………高校に、精霊が転入?笑えないジョークね」

 

今日の九時頃、折紙から基地に通信が入ったのである。

自分のクラスに精霊を名乗る少女が転入してきたため、確認求む、と。

 

「まさか、本当だったとはね………」

 

「隊長?どうかしやがりましたか?」

 

と、そこで後ろから奇妙な単語が聞こえてくる。

そんな言葉遣いをする隊員は一人しか心当たりがない。ちらりと目をやると、予想通りに崇宮真那が立っていた。

 

「………ん?」

 

真那は画面に目をやると、忌々しげに眉をひそめた。

 

「これは………なるほど、やはり出やがりましたか、【ナイトメア】」

 

「【ナイトメア】………?」

 

怪訝そうに問う。すると真那が、心底忌々しげに息を吐いた。

 

「識別名【ナイトメア】。______私が追っている、()()()()()です」

 

「最悪の、精霊………」

 

燎子が反芻すると、真那はその概要を簡単に説明した。

そしてその説明だけで、その呼び名の所以が知れた。

 

曰く_______直接その手で、一万人以上の人間を手にかけたと。

 

 

それが、人間だろうと精霊だろうと、どんなに恐ろしいことか。ことAST隊員なら、それが十分に理解できた。

 

「……さ、早速準備をしましょうか」

 

「え?」

 

「精霊が現れやがったんです。であれば、ぶっ殺す以外にやる事はねーです」

 

「そりゃあそうだけど………市民はみんな避難していないのよ?そんな中で一体____」

 

「心配無用。私に任せやがってください。あれは私の専門です。それに_____私には、これがあります」

 

言って、真那は懐からそれを取り出す。

 

一見すると大きい注射器にも見えるそれは、名を【リバースドライバー】という。先日の演習において、真那が使用していた____仮面ライダーの、力だ。

 

燎子に限らず、多くのAST隊員が疑問に思っていた事。それは、そのドライバーの存在だった。

 

なぜ、突如として現れた謎の存在、【仮面ライダー】の技術を、彼女が所持しているのか。

 

しかしそれについて詮索する事を、隊員は真那から、さらには上層部からも固く言われている。

確かにその力は、凄まじいものがある。AST隊員十人を相手取って、完封してみせたのは真那自身の常人離れした実力もあるが、そのドライバーの力もまた大きかった。

 

しかし燎子にはその力が______酷く、危険なものにも思えて仕方なかった。まるで、一つ間違えれば命を簡単に落としてしまうほどの。

 

「………まず、説明しなさい。隊長は私よ。勝手な行動は許さないわ」

 

真那はしばし思案を巡らせるように黙った後、小さく手を上げ、ドライバーを引っ込めた。

 

「了解、従います」

 

しかし、すぐに燎子を値踏みするような視線を向けてくる。

 

「でも、くれぐれも忘れねーでください。私は『()()』からの出向です。その気になれば陸幕長の公認付きで行動を起こすことも出来ますので」

 

「……分かってるわよ」

 

燎子は面白くなさそうに顔を歪めると、真那の手を離した。

 

 

 




どうでしたか?
その第3章の狂三編ですが、書くのが難しい章なので、投稿が若干遅くなる可能性があります。
もし遅くなった場合は、気長に待っていただけると幸いです。

さてさて!という事で改変その一。

崇宮真那さん、仮面ライダーになりました。

おっと、そこで設定崩壊とか言って低評価を押そうとしているそこの君。少し待ちなさい。いや待ってくださいお願いします。(切実)

これが後々重要になってくるので、どうして彼女がライダーになったか、適当に考察してて下さい。

それでは次回、『第21話 悪夢はデートの誘いに微笑む』を、お楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!アドバイスとかは随時受け付けております!




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第21話 悪夢はデートの誘いに微笑む

桐生「仮面ライダービルドであり、天っ才物理学者の桐生戦兎は!第二の精霊四糸乃を封印した後も、仮面ライダーとして活躍していた!そんな戦兎達の元に、自らを精霊と名乗る、謎の少女、時崎狂三が転校してくる」

万丈「ただ自分のことを精霊だって言う、厨二病患者とかじゃないのか?」

士道「………」

桐生「いやー流石にそれは無いでしょ。いい歳した高校生がそんな風に自己紹介しちゃ、クラスで孤立しちゃうよ」

万丈「だよな!そんな訳ねえよな………って、それはそれで一大事じゃねえかよ!」

士道「…………」

桐生「お、万丈にしちゃあやけに察しがいいじゃねえか。こりゃ今日は雪でも降るか?」

万丈「おい!幾ら何でも馬鹿にしすぎだろ!俺が本気出したらアレだぞ!ネプソン並みだからな!」

桐生「んー?もしかしてエジソンの事を言いたいのかなー?そーんなことも分からないなんて馬鹿だなー万丈はー!………ところで、さっきから何で士道黙ってるんだ?」

琴里「そっとしといてあげなさい。自分の黒歴史に精神が病んでしまったのよ………。と言うわけで、第21話をどうぞ」

桐生「お前がそれ言うの!?」





自らを精霊と名乗った少女、時崎狂三が転校してきた日の、帰りのホームルームにて。

 

「連絡事項はこんな所ですかね。_____あ、それと。最近この近辺で、妙な失踪事件が頻発しているそうです。皆さん、できるだけ複数人で、暗くなる前にお家に帰るようにしてくださいね」

 

「…………ん?」

 

タマちゃん教諭のその言葉に、士道は小さく唸った。

そういえば、朝のニュースでそんな事を言っていた気がする。何でも、市内で最近妙な事件が多発しているとか。高校生くらいの男女が失踪したり、老人の死体の血が抜かれていたり、夜中に笑い声が聞こえたり_____と、どれも小規模なニュースであったものの、そのどれにも『天宮市』の名前が出ていたので、意識の端に引っかかっていたのだ。

 

士道や戦兎、万丈はともかくとして、琴里には気を付けさせておかねばならないだろう。………まあ、あの妹様の場合、杞憂となる可能性の方が高いだろうけど。

 

その後は起立の号令とともに、クラスメイト達は下校の準備をしたり、談笑をしたりする光景が見えてきた。

 

時間は既に下校時刻である。だが、士道達にはまだ仕事が残っていた。

 

「………士道」

 

「ああ……」

 

士道と戦兎と万丈はポケットから小さなインカムを取り出し、右耳に付ける。

 

『_____時間ね。用意はいい?士道、 戦兎、万丈。にしても……………』

 

琴里から呆れたような、驚いたような声が聞こえてくる。きっと今頃はフラクシナスのクルーが、精霊攻略の準備を整えている事だろう。

 

『まさか、本当に精霊だったなんてね。てっきり士道の妄言かと思ったわ』

 

「おいおい……」

 

琴里の言葉に、半顔を作る。

だが、それも無理からぬ事だろう。実際、士道と戦兎とて半信半疑だったのだ。まさか、精霊が堂々と転入生としてくるだなんて。

琴里に依頼していた狂三の観測結果は、昼休みに士道達の携帯電話へと送られた。そして結果から言うと、彼女は本当に精霊であった。

 

『まあでも、かえって好都合だわ。向こうからお誘いをかけてくれるなんてね。警報が鳴ってない以上、ASTも迂闊にちょっかいはかけられないでしょうし、願ったり叶ったりじゃない。今のうちに好感度上げて、デレさせちゃいなさい』

 

「随分あっさり言うなー」

 

「まあ、でも………そう、だよな」

 

士道は歯切れ悪く言うと、頰を掻いた。

しかし、戦兎の胸中には、言い知れぬ不安感が募っていた。狂三がこの学校に転入してきた、その意図が見えてこなかったのである。その為今の戦兎には、何かモヤモヤとした、心では表せない蟠りのようなものがあったのである。

 

『_____どうやら、あんまりのんびりしている暇もなさそうよ』

 

「へ?」

 

士道が声を発すると同時、その肩がちょんちょん、とつつかれた。

 

「士道さん、士道さん」

 

「うぉ……っ!?」

 

「ごめんなさい、驚かせてしまいましたか?」

 

突然のことに驚いてしまう。

そこに立っていた、狂三が申し訳なさそうに言ってくる。

 

「と、時崎………」

 

「うふふ、狂三で構いませんわ。戦兎さんも龍我さんも」

 

「あ、ああ……じゃあ、狂三」

 

「よろしくな、狂三」

 

「おう、狂三」

 

『キュルゥ!』

 

「あら?この子は………」

 

すると、士道の鞄からガルーダが飛び上がり、狂三の周囲を回って挨拶がわりの様に鳴き声を鳴らす。

 

「おいガルーダ……あーこの鳥は俺の……ペットみたいなものだ」

 

「あら、可愛らしい鳥さんがいらっしゃるのですね。こんにちは」

 

『キュルキュルゥ!』

 

ガルーダが返答がわりに鳴くと、狂三は嬉しげに微笑んでから言葉を続けてきた。

 

「学校を案内して下さるのでしょう?よろしくお願いしますわ」

 

「……おう」

 

士道は返事をして、顔がほんの少し赤くなってしまった事を自覚しながら、戦兎達と一緒に狂三を案内することにした。

 

 

 

 

「……しかし、まさか彼女の方から、接触するとは」

 

来禅高校内にある、人気の無い教室。

そこに、ひとりの白衣の男性がいた。紫色の眼に、膝上程度にまで伸びた黒い長髪。中性的な見た目も相まって、初見では女性と間違われるかもしれない容姿。

 

先月に来禅高校へと赴任してきた、神大(かみひろ)針魏(しんぎ)教諭である。最初こそその常人離れした容姿から物珍しそうにも見られた彼だったが、一ヶ月もする頃には落ち着いていた。

 

「やれやれ、こうも目立つ自分の見た目が煩わしいよ」

 

だったら髪を切るなりなんなりすりゃあ良いじゃねえか

 

そこに、底冷えするような、常人であれば震えてしまうような声が聞こえる。

そして針魏がいる後ろの空間が、突如として歪む。そのまま、歪みは一つの形となり、紫色の道化師____マッドクラウンの姿を生み出した。

しかし針魏は特に動揺する様子もなく、小さく笑って応えた。

 

「なんだ、いるならいるって言いなよ、クラウン」

 

言ったってお前が反応した試しがねえじゃねえかよぉ

 

揶揄うような楽しげな口調の針魏に、クラウンもまた楽しげに返す。

会話の内容を聞くだけなら、日常生活でもありそうな会話である。

 

しかしその声と、纏う雰囲気は______明らかに、日常生活のそれではなかった。

 

「いやぁ〜、これはもう私のアイデンティティーみたいなものだし、それはちょっと違うかなぁーって」

 

めんどくせえ奴だなぁ……。あ、そういや、あのベルトはどうなった?

 

クラウンが何かを思い出したように、話を持ちかけてくる。すると針魏も慣れた様子でパソコンを開き、操作した。

 

「うーん、まだ試作だから何ともねぇ……ま、あの娘での実験結果は、今のところいい数字だけどね」

 

ほぉー、ま、こんなもんか。にしても……恐ろしいベルトだねぇ……

 

クラウンが心底面白いように、言葉を吐く。

 

クラウンが目にしたウィンドウには、様々な数値やデータが記載されていた。

それがどんな恐ろしい意味を示しているのかを、クラウンは理解し、そして尚、面白いと笑った。

 

そのデータには_______【被験体012:崇宮真那】の名称が記載されていた。

 

 

 

 

その後の狂三とのデート、もとい学校案内は、トラブルこそ起こったものの、概ねいい感じで事が進んだ。途中、琴里の誤指示で士道がパンツがどうのこうのとか言ってしまったので、慌てて戦兎が口を塞いだが。

 

その後は十香や折紙の介入などもあったが、戦兎達がスマッシュの反応を受け現場に向かった事と、折紙が急にどこかへ向かってしまった事などもあって、どうにかやり過ごせた。

 

そして、今は午後六時。

学校案内を終え、夕日に照らされた道を歩いて帰宅していた。十香も付いてきて。

十香がいたこともあって、屋上や保健室へ行ってもそこまでロマンチックな空気にならずに済んだのだ。ちなみに戦兎達は本来なら、そのポイントへ行く前に何か理由をつけて離脱する予定だったらしい。スマッシュが現れたのは、不幸中の幸いというべきか。

 

「まあ、大体あんなところだ。わかったか?」

 

「ええ。感謝いたしますわ。……途中で戦兎さん達が抜けてしまったのが、残念ではありますが」

 

「あ、ああ。まあな」

 

『キュルルゥ』

 

冗談めかして言ってくる狂三に苦笑で返す。

いや、精霊の好感度を上げるのなら、十香達がいたことは憂慮するべきなのだろうが……なんというか、狂三と二人きりでムード満点の場所に放り込まれたら、そのまま取って喰われて砕け散って……みたいな感じになりそうだったのである。

例えるなら_____見る者を虜にし、自らへ寄ってきた虫達を食う、食虫植物のような。

 

「いやいや……」

 

『キュルゥ?』

 

士道は自分の思考に小さく首を振る。流石にそんな表現は、女の子に向かって失礼過ぎるというものだ。

すると。

 

「それでは士道さん、十香さん、わたくしはここで失礼いたしますわ。戦兎さん達にも、よろしく伝えておいてください」

 

「え?お、おう……」

 

「む、そうか。ではまた明日だ」

 

士道と十香が小さく手を振ると、狂三は夕日の中に消えていった。

 

 

 

 

それから、数分の後。

 

「…………あら?」

 

狂三は()()を終えた後、不意に全身を襲った感覚に、眉をピクリと動かした。

全身を無遠慮に撫で回されるような感触。巨大生物に咀嚼もされぬまま、胃袋へ丸呑みされたとしたら、こんな感覚なのかもしれない。

 

この感覚は、初めて感じるものではなかった。

現代の魔術師(ウィザード)顕現装置(リアライザ)とかいう機械を使って作り出した結界、随意領域(テリトリー)

その中でも特別で、とても濃い気配_______間違い無く、あの女。

 

「_____ち、一足遅かったですか」

 

それを裏付けるかのように、狂三の眼の前に一人の少女が姿を現した。

髪を一括りにした、中学生くらいの女の子である。装いはパーカーにキュロットスカートとラフなものだったが、その身に纏った空気は、獲物を見つけた猛禽類さながらに鋭かった。

 

「また派手に食い散らかしてくれたようですね。【ナイトメア】」

 

「あらあら、あなたは………崇宮真那さん、でしたかしら?」

 

狂三が小さく首を傾げながら言うと、真那は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「私の名を覚えてやがった事は褒めてやります。ですが…………気安く呼ばれるのは、反吐が出やがりますね」

 

そう言うや、真那は懐から、注射器のような形をしたバックル______【リバースドライバー】を取り出し、腰にあてがった。銀色の【フィクセスバインダ】が巻きつく。

 

「あら、これは失礼いたしました。ですが____わたくしも【ナイトメア(悪夢)】なんて呼ばれるのは悲しいですわ。名前とは大事でしてよ」

 

「大事だから、貴様には呼んで欲しくねーんです。大事だから、貴様は呼んでやらねーんです」

 

会話を続けながら、真那は手にした、手のひらサイズの試験管のような形をしたボトル_____【ウルフオルタナティブフルボトル】を取り出し、二回ほど振って内部成分、【トランリバースリキッド】を活性化させる。それをバックルの左側部へと挿し込み、右側部にあるハンドルレバー、【アブソーブチャージャー】を引く。

 

 

WOLF ALTERNATIVE】

 

 

無機質な音声とともに、重低の待機音が鳴り響く。

そのまま真那は、軽くファイティングポーズを取り、言い放つ。

 

 

 

「______変身」

 

 

 

そして、アブソーブチャージャーを押し込む。オルタナティブボトル内の成分が、エネルギー変換装置【アブソーブリアクター】へと送られ、変身用顕現装置(リアライザ)が臨界駆動を始まった。

 

 

ABSORB CHANGE

 

 

またも無機質な音声が流れ、真那の周囲にはフラスコ瓶状の高速ファクトリー【ボトルリバーストランサー】が展開され、内部に成分が充填される。

 

「……………っ」

 

その成分に浸かりながら、真那に全身の細胞が入れ替わるかのような苦痛が一瞬襲う。

 

否_____実際に、入れ替わっているのだが。

 

その一瞬の苦痛の後、全身にアーマー、【ウルフェンアウトアーマー】が生成され、装着する。

その後に真那を覆っていたフラスコ瓶が割れ、内部成分が真那へと集約し、フルフェイスマスクと胸部追加アーマーを生成する。

 

 

 

WOLF IN DEMOLISH

 

 

 

_____そこにいたのは、狼のライダーだった。

 

 

青く光る、まるで獲物を探し出すことのみに特化したような複眼。

 

マスクに刻まれた、狼の牙の意匠。

 

全身至る所に配置された、牙や爪のような鋭い刃。

 

 

全身が白く、そして凶暴なシルエットを持ったその姿は、ゆっくりと狂三へ歩み寄って行った。

 

「ふふ、難しいお方」

 

「黙ってろよ、クズ精霊」

 

真那______否、仮面ライダーデモリッシュが、その青い複眼をより一層光らせる。

 

夕日に照らされ、路地裏で複眼のみが青く光り、黒く影に覆われた、そのシルエットを見て。

 

 

STAND BY

 

 

狂三は、肌の表面が散り吐くのを感じた。

 

 

DEMOLISHON FINISH

 

 

最後に聞こえた、低く無機質なその機械音を最後に。

路地裏から音が消えた。

 

 

 

 

狂三と別れた後、士道は十香を伴い、近所のスーパーで買い物を済ませていた。ちなみに戦兎達は既に家へ帰宅しているらしく、先程メールが来た。どうやらまた新しくベストマッチの組み合わせのボトルが手に入ったらしく、メールの文面がテンションマックスだった。

 

ずしりと重いビニール袋を右手に引っ提げ、だいぶ暗くなってしまった道を歩く。スーパーに来たタイミングで丁度タイムセールが始まり、三割引の合挽肉が大量に手に入ったのだ。

 

「シドー!今日の夕飯はなんだ?ハンバーグか?」

 

十香も最近は材料からメニューを察する力がついてきたらしい。興奮気味に聞いてきた。

 

『あ、私もそれに一票。………あ、今日の夕飯の話よ』

 

と、まだ通信の繋がっていた琴里からも聞こえてくる。後ろは誰に向かって言ったのだろうか。

すると、ケータイからピロリン♪とメールの着信音が鳴った。

メールを開くと、戦兎からだった。

 

『ハンバーグでよろ。』

 

 

どうやら戦兎に晩飯について聞いていたと言っていたようだ。

 

「分かった。んじゃ今日はハンバーグで_____」

 

と、言おうとしたところで。

前方から、ざっ、とスニーカーの底でアスファルトの道を擦るような音が聞こえてきて、士道はふと顔をそちらに向けた。

 

「ん?」

 

そこには、ポニーテールに泣き黒子が特徴的な、琴里と同年代くらいの女の子が、驚愕に目を見開きながら立っていた。

 

「………?」

 

見知らぬ顔…………の、はずなのだが、士道は小さく首を捻った。

何だろう、妙に既視感があるというか…………どこかで、会ったことのあるような気がしてならなかった。

 

「!?……っつ………」

 

と、そこで急に頭がキーン!と痛くなり、一瞬頭を伏せてしまう。と言っても痛みは一瞬で、すぐに収まったが。

 

「む?シドー、どうしたのだ?」

 

「い、いや。大丈夫」

 

とそこで、少女が士道達のいる方向をジッと見つめてきていることに気づく。

後ろを振り返ってみるが、ゴミ捨て場や電柱くらいしか見受けられない。

あとは、少女の視線の先にあるものといえば士道くらいで______

 

と、そこまで士道が考えを巡らせたところで。

 

「に」

 

少女が、震えながら唇を動かした。

 

「に?」

 

士道が思わず聞き返すも、少女は答えなかった。

そしてそのまま、その場から駆け出し士道の胸元へ飛び込んできた。

 

「なっ………!?」

 

そのまま身体に手を回し、感極まったようにぎゅぅぅ、と抱きついてくる。

そしてそのまま、少女はこう言ってのけた。

 

「______兄様…………ッ!!」

 

『は…………はぁっ!!??』

 

 

その瞬間、路上とフラクシナスの艦橋で、五河兄妹の声がベストマッチに噛み合った。

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?
全然戦兎が目立たなかった事については申し訳ありません。これも全てゴルゴムのディケイドに変身する乾巧って奴の仕業なんだ。(責任転嫁)

はい、と言うわけで、真那のライダー名が判明しました。ちなみにドライバーの待機音については、Undertaleの『Undyne』ってBGMの前奏がリピートしてる感じだと思っていただければ。分からない人はようつべで『Undertale Undyne』で検索したら出てくると思います。

そして第2章でちょろっと出てきたオリキャラが、再登場してきました。今後はガッツリ本編に関わってきます。え?こんなキャラ知らないだって?第13話にちょろっと登場してるから、見てきて、どうぞ。(露骨な宣伝)

それでは次回、『第22話 シスターの帰還』をお楽しみに。

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第22話 シスターの帰還

士道「仮面ライダービルドで、天才物理学者の桐生戦兎は、第二の精霊四糸乃を封印した後も、仮面ライダーとして活躍していた。その後、士道の実妹を名乗る謎の少女が現れて_____」

桐生「ちょちょちょちょっと!何勝手に読み始めちゃってんの!」

士道「いや、だって前回お前全然出番なかったじゃん。だから俺が読もうと思って」

桐生「出番が少なかったからこそ、こうしてあらすじ紹介でアピールしなきゃいけないんでしょうが。まったく」

万丈「ちったあ俺の気持ちがわかったかよ」

士道「しかし二人は知らない。この小説の真の主役は、桐生戦兎でも万丈龍我でもない、この俺、五河士道だと言う事を………っ!」

万丈「えっ?マジで!?」

士道「マジの嘘の嘘の嘘のそのまた嘘のホントの嘘」

万丈「マジの嘘の嘘の………ってどっちだよ!」

桐生「どっちでもいいよ!ていうか!主役は俺だから!そこんとこ勘違いしないでよね!あらすじ紹介終わっちゃうから!どうなる第22話!」








「おお、ここが兄様の今のお家でいやがりますか!」

 

五河家に辿り着くなり、少女が短いポニーテールをブンブンと振りながら、敬語になっているんだかなっていないんだかよく分からない言葉を弾ませた。

 

自称・士道の妹。名前は崇宮真那というらしい。

 

胡散臭い事この上なかったが、路上で突然士道に抱きついた後その場にへたり込んで、目に涙を浮かべながら自分がどれだけ士道に会いたかったかを語り始めたため、仕方なしにここへ連れてきたという事である。

 

無論、琴里には許可を取っている。というか、ここへ連れて来いと言ったのは、他ならない琴里だったのだ。ちなみに、戦兎達に伝え忘れると言うポカをここでしているが、それはまた後のお話である。

 

「しかし驚いたぞ。まさかシドーにもう一人妹がいるとは……」

 

「いや……そんな記憶はないんだけどな」

 

「そうなのか?シドーによく似ていると思うのだが……」

 

「当然です!妹でいやがりますから!」

 

真那が自信満々といった様子で腕組みする。

すると、階段を降りる音と共に、リビングに誰かが入ってきた。

 

「_____おかえり、()()()()()()

 

リビングに来たのは琴里(黒リボンフォームのまま)だった。妙に『おにーちゃん』の部分を強調して挨拶してきた。

 

「あ、ああ。ただいま」

 

士道は言い知れないプレッシャーに汗を滲ませながらも、小さく手を上げて返した。すると、またしても音が聞こえた。

 

「おお士道。お帰り」

 

「ん?士道、誰だそいつ」

 

先に帰ってきていた戦兎と万丈だった。万丈が真那を指して尋ねる。

 

「あ、ああ………ちょっとそこで出会ってな。なんでも______」

 

と、士道の言葉の途中で、真那が前に進み出て、戦兎と万丈と琴里の周りをぐるぐると回ってから、満面の笑みを浮かべた。

 

「お家の方でいらっしゃいやがりますか!?うちの兄様がお世話になっていやがります!」

 

半ば無理やりに琴里と戦兎達の手を取り交互にわっしゃわっしゃと握手を交わす。戦兎は「お、おう……」と困った反応を示し、万丈は頭に疑問符を浮かべながら握手に応じ、琴里は珍しく辟易したような表情を見せた。

 

「兄様?士道が?」

 

「はい!私、崇宮真那と申します!兄様の妹です!」

 

自信満々にそう言う真那。

すると、戦兎達が士道を手招きし、三人で丸まって小声で話し合いを始めた。

 

 

ちょっと、どーいう事だよ士道。なんで妹一人増えてんだよ

 

分かんねーよ………俺だっていきなり妹なんて言われてビックリしたんだから………

 

おい、なんで妹なのにお前と名字違うんだよ

 

だから知らねーって…………

 

取り敢えずあの子………真那、て言ったっけ。その子から話を聞かないとな

 

 

「____さて、と。じゃあ話を聞きたいんだけど」

 

「はい!」

 

三人がコソコソ話した後、真那が琴里と向き合う形で椅子に座る。ちなみに十香は、琴里が現在の住居のマンションへと返した。今晩の夕食のハンバーグに、目玉焼きも乗せると取り付けて。

 

「真那、って言ったかしら。あなたは………自分が士道の妹だっていうのよね?」

 

「その通りです」

 

迷いも躊躇いも一切合切なく、深々と頷き返答する。琴里はチュッパチャップスの棒をピンと立てながら、真那の反応を窺うように言葉を続けた。

 

「私は五河琴里。____私も、士道の妹なのだけれど」

 

「………?はっ…………!」

 

琴里の言葉に真那は一瞬首を傾げながらも、やがて何か答えを見出したようにピンとした。

 

「と言うことはまさか………姉様っ!?」

 

「違うわ!」

 

「あっと、これは失礼。______ごめんね琴里。お姉ちゃんてっきり」

 

「妹でもないわよ!?」

 

琴里が、司令官モードにしては珍しく大声を発する。士道達が驚くと、琴里はこほんと咳払いをした。

すると、今度は真那が戦兎達の方を見る。

 

「するとこっちは、まさか…………」

 

「ん?どした」

 

戦兎はなにか察したような表情を見せ、万丈は首を傾げながら訊く。

 

「______生き別れた、もう二人の兄様でいやがりますか!?」

 

「ちゃうわ」

 

「な訳ねえだろ」

 

二人揃って返答する。

 

「そ、そうですか______。いやはや、すいません。てっきり私の記憶にねー兄妹がいやがるのかと思いました。しかし_____」

 

すると、真那が今度は疑問を投げかけるような視線を、戦兎と万丈に向ける。

 

「____お二方、以前、どこかで会いやがりましたか?」

 

「はっ?戦兎、知ってるか?」

 

「知らないよ。今初めて会ったんだから」

 

今度も否定の意を言う。すると、真那は首を傾げながらも、頭を掻いて苦笑いした。

 

「そうでいやがりますか…………たはは、すいません。どっかで見たことあると思っていやがったんですが、気のせいだったみてーです」

 

「?そうか」

 

「妹、ねえ…………」

 

戦兎達とやりとりしている間にも、琴里は半眼で真奈を睨みつけていた。

 

普通に考えれば、突然『私はあなたの妹』だ、なんて言われても信じられない話である。

だが、士道に関しては、絶対にないと言い切れない事情があったのだ。

 

戦兎達には以前話したが、実は士道は五河家の実子ではない。

幼少期に母親に捨てられて以来この家に引き取られ、今日まで五河家の子として育てられたのだ。

そのため、引き取られる前に士道に妹がいた可能性も、無いわけではない。

まあ、士道さえ記憶の曖昧な幼少期に離れ離れになったとて、それを琴里と同年代の真那が覚えていると言うのも、にわかには信じがたい話であったが。

 

「ええと………真那。ちょっと質問いいか?」

 

「はい!何でしょう、兄様!」

 

士道が声をかけると、真那は心底嬉しそうに、跳び上がらんばかりの勢いで答えた。琴里が何故か不機嫌そうに、フンと鼻を鳴らす。

 

「その、すまん。俺は君の事を覚えてないんだ…………」

 

「無理もねーです」

 

真那がうんうんと頷く。

士道は唾液を飲み下すと、最も気になっている事を口に出した。

 

「一つ訊きたいんだがが………君のお母さんって、今は」

 

そう。もし真那が本当に士道の妹なら、それを知っているはずなのである。

士道を捨てた、実の母親。

しかし_____

 

「さあ」

 

真那は首を傾げると、あっけらかんとした調子でそう言った。

 

「え………?」

 

「実は私_____昔の記憶がすぱっとねーんです」

 

「………なんですって?」

 

その言葉に、琴里が不審そうに眉をひそめた。

 

「記憶喪失、って事か?」

 

「はい、有り体に言えば」

 

真那の発言に、元記憶喪失者の戦兎が訊ねる。

 

「ここ二、三年の事は覚えてるんですが、それ以前となるとちょっと」

 

「なら………なんで士道が自分の兄だなんて分かるのよ」

 

琴里が問うと、真那が胸元から銀色のロケットを取り出し、中に収められたやたらと色あせた写真を見せてくる。そこには、幼い姿の士道と真那の姿があった。

 

「これ……俺か……!?」

 

士道が驚きの声をあげる。しかし、琴里は怪訝そうな顔を作る。

 

「ちょっと待ってよ。これ、士道十歳くらいじゃない?その頃には、もううちに来てるはずよ」

 

「あ………そういえば。不思議なこともあるもんですねぇ」

 

言われて、真那が頰を掻いた。

 

「(それに………)」

 

戦兎は口にこそ出さなかったが、もう一つの不審な点も発見していた。

写真の色褪せ具合である。

いくら、仮に士道がまだ引き取られていなかった十年ほど前に撮った写真だったとしても、この色褪せ方はおかしい。それがこの写真に写っている士道が、十歳くらいだったとしたら尚更である。この写真の色褪せ方はまるで、それこそ二十年とか三十年くらい前に撮られた、と言われた方が余程信じられるレベルだ。

 

まあ、直射日光などに当たって、写真が褪せるということもある。これだけでおかしいと決めつけるのは尚早だろう。

 

しかし、琴里は疑念を隠せずにいた。

 

「……他人の空似なんじゃないの?確かに結構………というか、かなり似ているけれども」

 

「いえ、間違いねーです。兄様は兄様です」

 

「………なんでそう言い切れるのよ」

 

琴里が問うと、真那は自信満々に胸をドンと叩いた。

 

「兄妹の絆に違えねーです!!」

 

「………」

 

琴里は話にならないといった調子で肩をすくめ、息を吐いた。なぜだか、少し安心しているようにも見える。

しかし真那は、感慨深げに目を伏せ言葉を続けた。

 

「いや、自分でも驚いていやがるのです。本当にびっくりしましたよ。兄様を見たとき、こう、ビビィッ!と、自分の脳裏に、そう、ベストマッチ!したのです」

 

「え?」

 

真那の発した単語に、戦兎が思わず声を漏らしてしまう。しかし、どうやら意識している様子も無い。ただ言っただけのようだ。

 

「何よそれ。安い一目惚れでもあるまいし」

 

「はっ!これは一目惚れでしたか…………琴里さん、お兄さんを私にください!」

 

「やるかッ!」

 

琴里は反射的に叫んだ後、ハッとした様子でわざとらしく咳払いした。

 

「とにかく、よ。そんな根拠の薄い事で、妹だなんて言われても困るわ。第一、士道はもううちの家族なの。それを今更連れて行こうだなんて_____」

 

「そんなつもりはねーですよ?」

 

「え?」

 

あっけらかんと答えた真那に、琴里が目を丸くする。

 

「兄様を家族として受け入れてくれやがったこの家の方々には、感謝の言葉もねーです。兄様が幸せに暮らしているのなら、それだけで真那は満足です」

 

言って、真那がテーブルを越えて琴里の手を取る。

 

「……ふ、ふん、何よ。一応分かってはいるみたいじゃない」

 

「ええ。ぼんやりした記憶ではありますが、兄様がどこかへ行ってしまった事だけは覚えています。確かに寂しかったですが、それ以上に兄様が、ちゃんと元気でいるかどうかが不安でした。だから、今兄様がきちんと生活できていることが分かってとても嬉しいです。こんなに可愛らしい義妹(いもうと)さんや、友達もいやがるようですし」

 

言って、真那がにっと笑う。琴里は顔を赤らめ、戦兎と万丈は満更でもなさそうに苦笑した。

 

「な、何よ。そんなこと言ったって_____」

 

「まあ、もちろん」

 

と、真那が琴里の言葉の途中で口を開く。

 

「実の妹には敵わねーですけども」

 

「………」

 

瞬間。今まで穏やかだった空気が、ピキッと、音を立てて崩れたような、気がした。

 

「へ、へえ………そうかしら?」

 

「いや、そりゃーそうでしょう。血に勝る縁はねーですから」

 

「でも、遠い親戚より近くの他人、とも言うわよね」

 

琴里が言った瞬間、今度は終始にこやかだった真那のこめかみがピクリと動いた。

そして一拍置いた後、掴んでいた手を離す。

 

「いやっはっは。……でもまあほら?やっぱり最後の最後には、血を分けた妹に落ち着きやがると言うか。三つ子の魂百までって言いやがりますし」

 

「……ぐ。ふ、ふん。でもあれよね。義理であろうと、なんだかんだで一緒の時間を長く過ごしてるのって大きいわよね」

 

だんだんと剣呑な雰囲気になっていく。士道は狼狽し、戦兎は頬杖をつき、万丈は何やら考えていた。

 

「え〜っと、こういう時、なんて言うんだっけか。知ってる、知ってるぞ。えーっと………分かった!サラダ!」

 

「…………」

 

「いや…………お台場」

 

「『修羅場』な?修羅場」

 

「修羅場」

 

「うん」

 

と、二人がミニコントをしているのを他所に、妹論争はデッドヒートしていく。

 

「血縁血縁って、もっと他に言う事ないの?義理だろうがなんだろうが、こちとら十年以上妹やってんのよ!舐めるんじゃないわよ!」

 

「笑止!幼い頃に引き裂かれた生き別れの兄妹が、十年の時を超え再会する!感動的じゃねーですか!真の絆の前には、時間なんてナンセンス!空っぽなら時間をゼロから始めるんですよ!過ごした時間は塗り替えるものでいやがりますよ!」

 

「うっさい!血縁がなんぼのもんよ!だいたい、実妹じゃ結婚だってできないじゃない!」

 

『『えっ?』』

 

士道と真那と、ついでに戦兎達の声がハモる。何か、おかしい事を聞いた気がする。

琴里はハッと目を見開くと、頰を真っ赤に染め、誤魔化すようにテーブルを叩いた。

 

「と、とにかくよ!今の妹は私なの!」

 

「何を!実の妹の方がつえーに決まっていやがります!」

 

「強いってなによ!妹関係ないじゃない!」

 

「お、おい落ち着けって、二人とも」

 

士道が汗を滲ませながら二人をなだめようとすると、琴里と真那は同時にバッと士道に顔を向けてきた。

 

「士道、あなたは!」

 

「実妹、義妹、どっち派でいやがるのですか!?」

 

「え、ええッ!?」

 

「じつ米?ぎ米?おい戦兎、俺は米の種類にこだわりはねえぞ」

 

「うん、お前これまでの会話の流れ分かってた?」

 

予想外の問いに、士道が狼狽する。その隣ではまた寸劇が繰り広げられていたのだが。

 

「え、えっと………」

 

『…………』

 

琴里と真那がじーっと見つめてくる。どちらを選んでもこの先ろくなことにならなそうなので、どうにか話題を転換しようと試みた。

 

「!そ、そうだ真那!お前、今どこに住んでるんだ?」

 

「はい?」

 

ポンと手を打って声をかけると、真那がキョトンとした様子で首を傾げた。

 

「家族と暮らしてるって訳でもないんだろ?もしお世話になった人がいるなら、俺も挨拶するべきかと思ってさ」

 

「あー………えーっと………」

 

と、そこで初めて、ハキハキ受け答えをしていた真那が口を濁した。

 

「ま、まあちょっと、色々ありやがるんです」

 

「いろいろ……?」

 

「えーっと、ですね。こう、特殊な全寮制の職場で働いてるというか………」

 

「職場?………真那、お前歳は琴里と同じくらいだよな?学校はどうしたんだ?」

 

まあ琴里も秘密組織の司令官なんていうものをやっているわけだが、それでもきちんと学校に通っている。

真那は気まずそうに目を泳がせた。

 

「そ、その……えーと………ま、またお邪魔します!」

 

「へ………?、ちょ、待っ_______」

 

真那はそう言い残すと、脱兎の如く去っていった。

 

「な、なんだったんだ、一体………」

 

「……………」

 

真那の去っていった扉を呆然と見つめる。

戦兎はそこで、彼女の言った『職場』、という単語が引っかかっていた。

 

あの時の発言はあの狼狽した様子から、でまかせで言った、と言うよりは本当の事をうっかり話してしまった、という印象を受けた。

 

あれくらいの歳の少女が、入れそうな職場……………

 

「…………いや、まさかな」

 

ふと一つ思い当たる節があったが、まさかと思い頭を振る。

流石に中学生くらいの少女を起用するほどではないだろう。それに、あの子がそう言う事をするようにも思えない。

きっと人に言えない何かがあるのだろう、と、深入りするのは避けることにした戦兎だった。

 

そんな戦兎達の横で、席から立った琴里が、真那の使っていたティーカップを回収していた。

 

 

 

 

「いやー………危なかったです。危うくバレてしまうとこでした」

 

五河家から逃げてきた真那は、ほど近い公園で息を吐いていた。

 

「………兄様に、知られるわけにいきませんからね」

 

言って、懐からドライバーを取り出す。これを知られたら、きっと士道はやめさせようとするだろう。実の妹がこんな得体の知れないものを持っているのを、士道が黙っているはずがない。

 

と、その時。

 

 

 

「____感動の再会は、どうだった?真那クン?」

 

 

 

「……………」

 

後ろから、声が聞こえた。だいぶ前から聞いてきたが、未だに苦手な声だ。

 

「……何の用でいやがりますか?神大さん」

 

「それはないでしょ真那クン。折角の兄妹の再会なんだから、もっと喜ばなきゃ」

 

来たのは、白衣を羽織った長髪の男、神大針魏である。

口元にニヒルな笑いを浮かべながら、真那と遠からず近からずの位置へと歩く。

 

「それならさっき済ませました。あなたが来たと言うことは、何か指示がありやがりましたね?」

 

真那がどこかうんざりした様子で訊くと、針魏は「やれやれ」と肩を竦めながら、いつも通りの口調で告げた。

 

 

「_____()()と、()()()()からだよ。ライダー同士の実戦データが欲しいから、ビルド、もしくはクローズと接触、戦闘して欲しいってさ」

 

 

「………あの男からもでいやがりますか」

 

針魏から発せられた道化師(クラウン)の名を聞き、さらに苦い顔になる。

 

「と、いうか………それ、あなたからも、でいやがりますよね?」

 

「アッハハ!ばれたかー。ま、それもあるけどね」

 

愉快そうに笑って、両手をわざとらしく広げてみせる。こう言う仕草が真那にとって苦手だ。科学者という人種は、みんなこう言う人なのだろうか。

 

「試してみたいのさ。()()()()()()()()()()()()()と、オリジナルのライダーシステム。どちらが勝るのかを……ね」

 

「………ほんと、自分本位でいやがりますね」

 

思わず嘆息する。正直なところ、このライダーシステムというものを、真那自身もそれほど多く知っているわけではない。

 

だが、別に知りたいと思わないし、知る必要もない、と思った。

 

 

_______あのクソ(ナイトメア)を殺しきれる力を手に入れた。

 

 

それだけで十分だ。その力を与えてくれた目の前の男に、多少なりとも感謝の気持ちだってある。

 

「まあ、取り敢えずはやってみますよ。ビルドが現れるのって、アンノウンが出現する時ですよね?」

 

アンノウンの名称がスマッシュであることを、まだ真那は知らない。そして、その目的のビルドもクローズとも、今日五河家で会っていたことも知らない。

 

「……ああ。タイミングはこちらで指示する。君はいつも通りやってくれればいいさ…………じゃ、グッバイ」

 

そう言うと、針魏は白衣を翻して去っていった。

それを程々に見送りながら、手元のドライバーに目を落とす。

 

 

「……………絶対に、アレは私が倒す。それだけが、私の使命でいやがりますから」

 

 

______彼女は、知らない。その、力の代償を。

 

その力を得た末に、自身がどんな存在になったのかを、まだ、彼女は知らない。

 

 

 

 




どうでしたか?
今回の戦兎と万丈のやり取りは、できる限り本編のそれに近づけるよう書いたつもりでしたが、どうでしょうか?

活動報告にも書きましたが、今後は投稿も遅くなってしまうかと思われます。この場合は、気長に待っていただけると幸いです。

それでは次回、『第23話 ビルド(創造者)デモリッシュ(破壊者)と出会い、折紙は時と出会う』。多分今までで一番長いタイトルですね。お楽しみに。

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第23話 ビルド(創造者)デモリッシュ(破壊者)と出会い、折紙は時と出会う

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!自らを精霊と名乗る謎の少女、時崎狂三と出会う!そんな時、自らを士道の妹と名乗る、崇宮真那という少女が現れて………?」

士道「少女しか出てきてねえじゃねえか」

桐生「仕方ないでしょーが。そういう小説なんだから」

万丈「おい、仮面ライダーデモリッシュって何だよ」

桐生「知らないよ。多分これからの本編で明らかになるでしょうよ」

士道「そんな適当でいいの!?」

桐生「ここで俺らが知ってたらネタバレになるでしょーが。と言うわけで、多分今までで一番タイトルの長い第23話を、どうぞ!」





天宮市にある林の中。

 

「よし、これで終わりっと」

 

真那の一件から翌日。戦兎は早朝から、スマッシュの反応を受け現場へと向かい、そして勝利したのであった。いつも通りにボトルを取り出し、いつも通りに成分を抽出する。

 

「それにしても、こうやってスマッシュ倒してても、元の世界に戻る手がかりが全然無いんだよな………」

 

ボトルをスマッシュに向けながら、独りごちる。

もうこの世界に来てから半月近くが経とうとしているが、未だに元の世界へと戻る糸口が見えてこない。

スマッシュの出現場所はバラバラだし、それらしい証拠もない。手詰まりというやつだ。

 

「いや………一つだけ、あるか」

 

そこで、一つの証拠に思い当たる。

 

 

______マッドクラウンだ。

 

 

どういうわけかボトルのシステム_____恐らくは、トランスチームシステムか、それに類似したシステム______を持ち、何度も戦兎達の前に現れては邪魔をしてきた、イカレ道化師。

あの男にはできる事なら会いたくないが、今のところ戦兎達の元の世界への鍵を握っているのも男だけであるのもまた事実。何故ならボトルのシステムは、戦兎達のいた世界でなければ実現不可能なのだから。それこそ、この世界にパンドラボックスでも無い限りは。

 

「まあ、今更全てほっぽり出して、元の世界に戻るって訳にもいかないけどなぁ。ふぁ〜………お、ボトル出来た………」

 

欠伸をしながら、浄化済みのボトルを見る。

今回のボトルはハリネズミフルボトルだ。元の世界では割と早く手に入ったが、今回は少し遅く手に入ったな。

 

「さて、帰って学校に行く準備しないと。あぁ〜、眠い………」

 

変身を解除しようとした、その瞬間。

 

 

______ガガガガガガッ!!

 

 

 

「ッ!誰だッ!?」

 

ビルドの足元に、無数の弾丸が浴びせられる。咄嗟に回避行動をとり、ドリルスマッシャーを構えて弾丸の飛んで来た方向を神妙に睨む。

 

『……外しましたか。流石でいやがりますね』

 

すると、向こう側からどこか音割れしたような声が聞こえてきた。その声の特徴に、どこか引っかかるものを覚えたものの、ひとまずはそれを置いておく。

そして、銃を構えたその姿が映る。

 

「ッ!まさか________!」

 

その姿を見て。ビルドは、戦慄した。

 

 

青い複眼と、まるで狼のようなマスク。

 

全身の、それそのものが武器であるかのように鋭利に尖った、アーマー。

 

そして何より______その腰に巻かれた、ベルト。

 

 

「______()()()()()()だと…………っ!?」

 

 

創造者(ビルド)破壊者(デモリッシュ)

 

異なる世界の、大元は同じ技術で以って生まれた二人の仮面ライダーが、出会った瞬間であった。

 

 

『____悪いですが、こっちも仕事でいやがるんです。上からの命令で、あなたと戦わなきゃいけねーことになりました』

 

MODE:BREAK

 

「くっ………」

 

口調が丁寧なんだか汚いんだか分からない、変な喋り方をしながらも、白のライダーはゆっくりと迫ってくる。手に持った銃を変形させ、光刃を出現させる。

 

対してのビルドも、ドリルクラッシャーを構え、臨戦態勢に入った。

 

 

一瞬の緊張感。

 

 

そして、その次には、二つの影が交差していた。

 

 

「っ!速いッ!?」

 

『あめーです』

 

敵の光刃を受け流し、第一撃を阻止する。が、すぐさま相手は右足で蹴り上げ、守りを崩そうとしてくる。

 

「くそっ……!」

 

それをラビットアーマーの【ホップスプリンガー】で飛び避け、すぐさまボトルを装填し直す。ラビットタンクのままで、あの相手には不利だからだ。

 

ニンジャ!ガトリング!

 

Are You Ready?

 

「ビルドアップ!」

 

掛け声とともに、ビルドの姿がトライアルフォーム、【ニンジャガトリング】フォームへと変化する。

武器をドリルクラッシャーから四コマ忍法刀、ホークガトリンガーに変え、牽制をしつつ接近する。

 

『むっ、さっきより速えーですね。姿が変わるってのは本当でいやがりましたか』

 

相手が厄介そうな声を出しながらも、ホークガトリンガーの攻撃を躱し、あるいは剣で弾いていく。

 

「っ………!」

 

凄まじい反応速度だ。誰かは分からないが、驚嘆に値する。

しかし、ビルドもやられてばかりではない。すぐさま四コマ忍法刀のトリガーを引く。

 

 

風遁の術!竜巻斬りッ!

 

 

「はぁッ!」

 

『くっ……!【ムラクモ】、盾形態(シールドスタイル)

 

四コマ忍法刀から、竜巻の斬撃が繰り出される。しかし相手は肩に設置された謎の武装を展開すると、竜巻斬りを防ごうと試みた。

 

『うわっぷ!?』

 

しかし、どうやら全ては防ぎきれなかったらしい。幾ばくかはどこかへ飛んでいき、一部は周辺の木を斬り倒したが、残り一部はアーマーへと当たった。その衝撃で、少し後ろへと下がってしまう。

 

「よし、今だ!アバヨ!」

 

隠れ身の術!ドロンッ!

 

これ以上の交戦は望ましくないと判断し、すぐさま忍法刀のトリガーを四回素早く引いて、煙幕とともに撤退する。

その時ビルドは、白のライダーと同じような口調を、何処かで聞いたような気がしていた。

 

 

 

 

『あっ………ちっ、逃げられちまいましたか。まあ、大体のデータは取れたでしょう』

 

ビルドの去った後。

白のライダー______デモリッシュは毒づきながら、バックルからボトルを取り出し変身を解除する。アーマーが粒子となり、各ハードポイントに接続されていたCR-ユニットが収納された。

 

「ッ…………相変わらず、慣れねーですね………」

 

その瞬間、一瞬全身を激痛が襲う。

そのベルトの使用後に、いつも起こる現象だ。まるで()()()()()()()()()()()かのように、痛覚が発生するのである。

とは言え一瞬なのでそこまででもないのだが、戦闘後の疲労や実際の痛みが割と馬鹿にできないレベルであるため、()()()()()()()()()のように慣れることはできない。

 

「まあ、それでこんだけ戦えるなら、いいんですけどね」

 

先のビルドとの戦闘にしても、先日の模擬戦やナイトメアとの戦いにしても、CR-ユニットのみでは負担を強いられていた場面がいくつかある。それがこのドライバーを使用してから、大分軽減されてきたのだ。

 

「しっかし、こんなボトル一本とドライバーで変身出来るなんて、ほんと信じらんねーです」

 

言いながら、手に持った小さい試験管状のボトルを手に取る。それはビルドが使用していたものと、些か形状などが異なっていた。

あの神大針魏は【擬似ボトル】とかなんとか言っていたが、真那にはよく分からなかった。

 

「さてと。やる事も終えたし、私も帰りますかね」

 

ボトルとドライバーをしまい、ポケットに手を入れて翻る。

と、そこで一瞬足を止めた。

 

「………そういえば、ビルドの声…………どっかで、聞いたような気がしなくもねーんですが…………」

 

妙に頭に引っかかるビルドの声を数秒反芻して、しかし考えるのをやめて真那は歩いて行った。

 

 

 

「_____見た事ねえライダーに襲撃された?」

 

五河家へ帰宅後、学校へと向かった戦兎は、万丈に廊下でその話をした。

 

「まっさか。お前の見間違いとかじゃねーか?俺たち以外にライダーがいるかっての」

 

「いや。間違いなく見たことのないライダーだった。それにそれを言うなら、マッドクラウンの例だってある」

 

それを言うと、万丈も押し黙り、難しい表情になった。

 

「なら………何だ?俺たち見てーに、その、この世界に便意してきた奴がいるのか?」

 

「いや便意じゃなくて転移な?折角のシリアスムードなんだから台無しにしないでよ」

 

「それお前が言うことかよ。…………で、結局の所どうなんだ?」

 

「ああ。……確かにその可能性もある。けど、あまりに情報が少なすぎる。そもそも、俺ですら知らないライダーシステムを、どうやってこの世界で創り出したか、だ」

 

「そこはほら、ウィーンウィーンのガシャンガシャーンって、やったんじゃねえの?」

 

「あのな。ライダーシステムってのはネビュラガスやパンドラボックスがなきゃそもそも創られなかった代物だぞ?………いや、創ったの俺と父さんだけれどさ」

 

正確には元人格の葛城巧や、父の葛城忍が、であるが。

 

「………けどそう考えると、これまでのスマッシュの出現も何か裏があるとみて間違い無いな」

 

「ん?どうしてだよ」

 

「思い出せよ。あのマッドクラウン、ブレードから新型のスマッシュを作り出してたろ?」

 

「………あ、そうか。えーっと…………何だっけ、薪ッドスマッシュ?」

 

「リキッドスマッシュ」

 

ポンと手を叩いて言った万丈に突っ込む戦兎。

あのスマッシュにしても、戦兎に覚えのない物だ。それを創り出した奴がいるのだろう。

 

「つまり………今日俺が会ったライダーと、クラウン。スマッシュの出現を関連付けて紐解いていけば…………俺たちの元の世界への帰り方も分かるかもしれない!」

 

「はぁ!?お、おい!マジかよ!」

 

「ああ。つっても、まだ全然手がかりがないのが現状だけどさ。取り敢えずの希望は見えてきたって事だ」

 

ライダーシステムやその類似品があると言うことは、それも戦兎達の世界から少なからず持ち込まれたものである可能性が高い。即ち、それが戦兎達の帰り方にも繋がっている可能性があるのだ。

 

 

______キーンコーン、カーンコーン

 

 

と、ここでチャイムが鳴る。予鈴だ。

 

「おっと。この話はまた後でだな。取り敢えず教室戻るぞ」

 

「あ、ちょっと待ってくれ!」

 

教室に戻ろうとしたところを、万丈が肩を掴んで止める。

 

「何だよ」

 

「………仮に元の世界に戻れるとしてよ………士道や十香、それにお前が封印した四糸乃は、どうすんだよ」

 

「…………」

 

そう。士道たちとて、最早無関係で済まされない。

既に戦兎達の身の上を知っているし、士道に至っては仮面ライダーとして変身しているのだ。四糸乃も戦兎が封印しているのである。

まだ戦兎達が必要される場面もあるだろうし、四糸乃たちを放って帰るのはあまりに無責任だ。

 

しかし、戦兎達が仮に戻る場合_______彼らと別れるのもまた、道理であった。

 

「……別に、今すぐってわけじゃない。少なくとも、あいつらをこのまま放っておいて、帰るなんて真似はしないよ」

 

「……そうだな」

 

その返答に万丈も納得したのか、手を離してともに教室へと向かう。

その答えは或いは、やがて訪れる事への逃げなのかもしれなかった。

 

 

 

 

結局戦兎達はホームルームの開始ギリギリに教室へ辿り着き、なんとか間に合った。

 

「あれ?そういや狂三は?」

 

そこで、士道が小さく首を傾げた。

チャイムが鳴ったのに、狂三の姿が見えなかったのである。

 

「ん?そういや、いないな」

 

「むう、転校二日目で遅刻とは」

 

と、戦兎と十香がそう言うと。

 

「_____来ない」

 

士道たちの左隣から、そんな声が聞こえてきた。

折紙だ。視線のみを十香に向けて唇を開いている。

 

「ぬ?どう言う意味だ?」

 

「そのままの意味。時崎狂三はもう、学校に来ない」

 

「え?それってどういう______」

 

「はい、皆さんおはようございまーす」

 

とそこで、担任のタマちゃん教諭が入ってきた。すぐさま学級委員が起立と礼の号令をかける。

折紙の言っていたことも気になったが、取り敢えずは礼をして席に着いた。

 

「じゃあ、出席を取りますね」

 

タマちゃんが出席簿を開き、生徒の名前を順に読み上げていく。

 

「時崎さーん。あれ?時崎さん?」

 

そして時崎の順番になったが、返事がなかった。

 

「あれ?時崎さんお休みですか?もうっ、欠席の時はちゃんと連絡入れてくださいって言っておいたのに」

 

タマちゃんがぷんすか!と頬を膨らませながら、出席簿へとペンを伸ばした、その時。

 

 

「____はい」

 

 

「狂三?」

 

教室の後方から、よく響く声が聞こえた。そこに立っていたのは、紛れもなく時崎狂三だった。

 

「もう、時崎さん。遅刻ですよ」

 

「申し訳ありませんわ。登校中に少し気分が悪くなってしまいましたの」

 

「え?だ、大丈夫ですか?保健室行きます……?」

 

「いえ、親切な先生がここまで送ってくださりましたし、今はもう大丈夫ですわ。ご心配をかけてすみません」

 

狂三はぺこりと頭を下げると、軽やかな足取りで自分の席へと戻って行った。

 

「なんだ、ちゃんと来たじゃないか」

 

ほうと息を吐き、何やら不穏な事を言っていた折紙に視線を向ける。

 

「え………?折紙?」

 

しかし当の折紙は、その狂三を凝視していた。

表情にそこまで変化があるわけではないが、明らかにそれは驚愕のものだった。

 

「…………ん?」

 

その時、戦兎はふと、狂三が入ってきた半開きのドアの向こうを見た。

そこには、長い髪を揺らしながら、一人の男性教諭が、歩いて行った。

 

前に聞いた名前は確か______神大(かみひろ)針魏(しんぎ)、だっただろうか。

親切な先生とは、きっと彼の事だろう。

 

 

 

 

そして、昼休み。

 

「………それで、用件ってのは何だ?」

 

「おい戦兎、なんだよこの部屋」

 

「そういや万丈は初めてだっけか」

 

「早くして。時間が惜しいわ」

 

いつもの物理準備室に、士道たちは呼び出されていた。琴里から急にインカムに通信が入り、急いで来るよう言われたのである。

 

「……ん、来たね。シン、セイ、バジン」

 

部屋の最奥部の椅子には、ラタトスク解析官兼来禅高校物理教諭の村雨令音が座っていた。

令音の隣にある長椅子に座るよう促し、三人で座る。万丈は初めて来たからか、物珍しそうに部屋を見渡していた。

 

「それで、見せたいものってのは何ですか?」

 

士道が聞くと、琴里が机の上のディスプレイを示した。

そこには、二つのウィンドウにカラフルな髪の色をした美少女たちがそれぞれ映し出され、一つには【恋してマイ・リトル・シドー 〜接吻編〜】。もう一つには、【愛してマイ・ジーニアス・セント 〜発情編〜】のタイトルが映し出された。

 

「続編、だと…………ッ!?」

 

「ちょっと待て!今さらりと俺の正式バージョン無かったか!?」

 

しかもサブタイトルがなんか成人向けのそれっぽかった気がする。いや、興味が無いためあまりというか全然知らないが。

 

「……あ、間違えた。こっちだ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!何ですか今の!」

 

「もう嫌だ!アキレス腱決められてゲームオーバーになるゲームは嫌だ!」

 

「お、おい落ち着け戦兎!何があった!」

 

「はいはい落ち着きなさい。細かい事を気にしてるとハゲるわよ」

 

「えマジで?」

 

「おい反応すんな実年齢二十六歳」

 

と、そこで士道たちも押し黙った。暗転した画面に、別の映像が映し出されていたのである。

 

______狭い路地裏に、狂三と…………

 

 

「ッ!これ、今日俺が会った!」

 

………今日の朝、戦兎が出会った白のライダーが映し出されていた。

 

そしてその次の瞬間、狂三がバッと手を広げると、足元の影が狂三に纏わりつき、ドレスを形成していった。

 

頭部のヘッドドレスに、胴部をきつく締め上げるコルセット。装飾の多いフリルとレースのスカート。それら全てが、深い闇を思わせる黒と、血のように赤い光膜で彩られる。そして最後に、左右不均等に髪が括られた。

 

「霊、装…………」

 

士道が、呆然と呟いた。

狂三が、右手を頭上に掲げる。すると影が再び彼女の身体を這い上がり、右手に収束していった。

 

だが、そこで。狂三の身体が宙を舞った。

 

「え_______?」

 

「これは…………!」

 

士道よりも冷静な戦兎が、画面をよく見る。

そこにはエネルギーを纏った拳で、狂三の腹を打ち穿いた白のライダーの姿があった。

 

そのまま、ライダーは腰のドライバーを操作し、狂三へと近づく。

 

そこからは、一瞬だった。

 

苦しがる狂三の前まで来た瞬間、ライダーは狂三の髪を無造作に掴み、そのまま宙に放り投げ、エネルギーの篭った回し蹴りをその場で、地に足を付かせたまま繰り出した。

 

その次に、さして広くもない路地に、真っ赤な血が撒かれた。

 

そして、地面に仰向けに横たわり、完全に動かなくなった狂三の首に、ライダーが手に持った光刃を突き立てる。

一切の抵抗も許さず。

狂三の命は、摘み取られた。

 

「………ッ!!」

 

瞬間、手元の机を、ガン!と叩く戦兎の姿があった。その顔には、許しがたい蛮行を見たような、怒りの表情が見えた。

 

「………戦兎?」

 

「いや………何でもない」

 

しかし士道が声を掛けると、戦兎は落ち着いた様子で画面に視線を戻した。

 

「………問題なのは、ここからよ」

 

琴里が言うと、画面に変化があった。

白のライダーがドライバーに手を伸ばし、そこから何か小さな物体を取り出す。

瞬間、ライダーのアーマーが粒子となり、その素顔が見えた。

 

「え………………?」

 

その、素顔を見て。

 

「なっ……………!」

 

士道は、戦兎は、万丈は。

 

「どういう、ことだ…………?」

 

戦慄した。

 

そこに映った、白のライダーは_______士道の妹の、()()()()だった。

 

 

 

 

一方、ほぼ同時刻。

 

「ええと………何か、ご用ですの?わたくし、まだお昼を食べていないのですけれど………」

 

狂三は、折紙に呼び出されていた。困惑した様子で、折紙に聞いてくる。

 

「あなたは、なぜ生きているの」

 

「え…………?」

 

しかし折紙はそんな様子に表情をピクリとも動かさず、応じた。

 

「_____あなたは昨日、殺されたはず」

 

そう。昨日折紙は確かに、この目で見た。

狂三が真那の変身したライダー_____デモリッシュによって、腹を穿たれ四肢を断たれ頭を潰され、完全に絶命されたのを。

 

真那としては不服だったそうだが、燎子の命令によって万が一仕留め損なった場合に備え、折紙含む数名のAST隊員が固めていたのである。

 

そして狂三は折紙の質問に、ぴくりと眉の端を動かした。

 

そして。

 

 

「_____ああ、ああ。あなた。あなた。昨日真那さんと一緒にいらっしゃった方ですの」

 

「…………!」

 

狂三がそう言った瞬間、折紙はその場から飛び退いた。

ただ、根拠の無い得体の知れない何かが、脳内に危険信号を発してきたのだ。

 

「きひひ、ひひ。駄ァ目ですわよぅ。逃げようとしても無駄ですわ」

 

その様子に、狂三が、笑う。

見やると、いつの間にか折紙の足元には狂三の影が伸び、そこから白く細い二本の手が、生えていた。

しかし影はじわじわと面積を増やしながら、どんどん手の数を増やし、壁まで登って、折紙を拘束した。

 

「くっ…………」

 

もがこうとするも、拘束した細い腕は折紙を離そうとしない。

 

「きひっ、きひひひひ」

 

数刻前の狂三からは想像できないような歪んだ笑みを貼り付け、聞いているだけで腹の底から冷たくなるような声を発しながら。

 

「昨日はお世話になりましたわね。きちんと片付けて下さいまして?わたくしのカ・ラ・ダ」

 

狂三が折紙に近づく。

一瞬、前髪に隠された左目が見えた。おおよそ生物器官とは思えない、無機質な金色と、十二の文字と二つの針。まるで_____時計のようにも見える。

 

「わたくしのことを知りながら、一人で接触を図ろうとは、少々迂闊なのではございませんこと?しかもわざわざ、人目のつかない場所まで用意して下さって」

 

「…………っ」

 

確かにその通りだ。昨日の幕切れを見たからか分からないが、心の何処かに油断があった。いずれにせよ、折紙のミスである。

 

「あなた、は………何が、目的」

 

喉を締め付けられながら、声を発する。

 

「うふふ、一度学校というものに通ってみたかった、というのも嘘ではございませんよ?でも、そうですわね。目的は_____」

 

そして一拍置いてから、息がかかるくらいの距離まで顔を近づけてくる。

 

「_____士道さん、ですわね」

 

「_______ッ!!」

 

士道の名を出されて、折紙は声を詰まらせた。

その様子を見て、狂三が堪らなそうに笑みを濃くする。

 

「彼は素敵ですわ。彼は最高ですわ。彼は本当に____()()()()()ですわ。しかも最近に、より美味しさを増しましたわ。ああ、ああ、焦がれますわ。焦がれますわ。わたくしは彼が欲しい。彼の力が欲しい。彼を手に入れるため、彼と一つになるために、この学校に来たのですわ」

 

_____戦慄。まさか精霊が、特定の一個人を狙って現れるなんて、予想だにしていなかった。

しかし、そこで疑問が生まれた。

狂三が発した、彼の()とは一体_____

 

「…………っ」

 

その思考は、狂三によって妨害された。

 

「折紙さん。鳶一、折紙さん。あなたも、とても、()()ですわよ。すごく、美味しそうですわ。ああ、たまりませんわ。たまりませんわ。今すぐにでも食べてしまいたい」

 

頰を上気させ、息遣いを荒くしながら、左手を胸元に這わせ、右手で足をなぞって、スカートの中をまさぐるようにしてくる。

と、その時。

 

 

おぉいおい、そこらへんにしときなって。これ以上は良い子に見せられないぜぇ〜?

 

 

まるで全身にへばりつくかのような、声が聞こえた。

 

「あぁらあら、そう言うあなたこそ、わたくしと折紙さんの逢瀬を邪魔するなんて無粋ではありまして?」

 

おぉってこりゃあ失礼。でも、このままだとR18展開になりそうだったしなぁ

 

「あなた、は……っ」

 

折紙は少し霞んだ目で、その男を見つめた。

まるでサソリのような意匠の、奇妙な男だ。まるで、仮面ライダーのような______

 

お楽しみってなぁ最後に取っとくもんだろぉ?清楚なイメージが台無しだぜぇ?

 

「うふふ、それもそうですわね」

 

狂三が唇に手を当てながら笑うと、折紙の拘束が解かれた。

狂三は大仰に首を振ると、折紙の首筋に口づけを残し、去っていった。

 

「あなたは、士道さんのあとに。_____もっと、もっと美味しくなっていてください」

 

おぉーおぉー怖いねぇ〜、女ってなぁ。んじゃ、嬢ちゃんも元気でなぁ?バァイナラ〜

 

そのまま狂三は去って行き、男も、まるで溶けるかのようにその場からいなくなった。

 

「………っ、けほっ、けほっ」

 

床にうずくまるような格好で咳き込む。

廊下に広がった影は、すっかりいなくなっていた。

 

「士、道_____」

 

何故かは知らないが、狂三は、士道を狙っている。

そして、あの謎の男。あいつも、恐らく。

 

早く本部に知らせないといけない。例えそうしたとしても、信じてもらえるかは分からなかった。

 

_____もしその時は、私が、士道を守らなければ。

 

折紙は奥歯を噛み締め、くっと拳を握った。

 

 

 

 

 




どうでしたか?
ちなみに朝の戦闘では、戦兎も真那も互いの正体を分かっていない状態です。真那サイドは声にノイズが走ったような加工音声になっているので。
ちなみに折紙は士道が仮面ライダーと知ってません。四糸乃戦では遠い位置にいたので。

さて、何気にクラウン出したの久しぶりな気がする。ただ、お陰で謎が多くなった気がする。

今回だいぶ勢いで書いたので、例のごとく誤字があるかもしれませんが、ご容赦ください。

それでは次回、『第24話 トリニティデート始めました!』を、お楽しみに!

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第24話 トリニティデート始めました!

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!第三の精霊時崎狂三と出会い、そして謎の白のライダー、仮面ライダーデモリッシュと遭遇する!」

士道「いやちょっと待て。なんだよこのタイトル」

桐生「ん?何もおかしいとこないよ?」

士道「いやおかしいだろ!なんでちょっと『冷やし中華始めました』みたいな感じでタイトルにしてんだよ!」

桐生「その文句は元ネタの方に言ってくれよ。ていうか、お前今回大丈夫なの?なんか三人とデートするってあったけど」

士道「ああ、それなら作者が、『どーせここ原作で読んでる人多いやろしカットしてもええやろ』とか言ってバッサリカットしてたぞ。あと全部書くと文字数かさむからって」

桐生「そんな裏の事情聞きたくなかったなぁ………まあ取り敢えず、第24話をどうぞ。あ、一応はデートしてるからね?」






「……むぅ」

 

十香は椅子に座ったまま顔を上げ、黒板の上にある時計を見やった。もう少しで昼休みが終わってしまう。

朝ごはん以来食べ物を口にしていないので、健啖家の十香はもう目眩がするくらいお腹がペコペコだった。

 

でも、弁当はまだ開けていない。士道は先に食べていろと言ったが、士道たちと一緒に食べるご飯の美味しさを知ってしまった十香は、どうもそういう気になれなかったのである。

 

「シドー………」

 

教室の扉を見る。士道はおろか、戦兎や万丈の姿も見えなかった。

 

「う、う……………」

 

何故だろうか。目がじんわりと熱くなって、鼻で呼吸をするのが苦しくなってくる。ずずっと洟をすすって、目元を拭う。服の袖が、少し濡れた。

と、そこに。

 

「あれ?どしたの十香ちゃん」

 

「何、まだご飯食べてないの?」

 

「マジ引くわー」

 

外で昼食を摂っていたらしい、よく十香を構ってくれる亜衣麻衣美衣の三人がやってきた。どうやら似たような名前が縁で仲良くなったようだ。

 

「ってうわ!どーしたのよ十香ちゃん!泣いてんじゃん!」

 

「うちの十香ちゃんに手ぇ出したんわどこのどいつじゃぁッ!!」

 

「マジ引くわー!」

 

見事なコンビネーションで三人が十香を囲む。

 

「ち、違うぞ!別に何もされていないぞ!」

 

十香が慌てて手を振り、三人に訴えかけた。

 

「ええ?そうなの?」

 

「じゃあどうしたのよ」

 

「マジ引くわー」

 

三人が訊くと、十香は震えた唇を開いた。

 

「シドー達がな、戻ってこないのだ。……それで、今日は、あまりシドーと話せていないなぁと思ってしまって、そうしたら、なぜか、こう……」

 

それを口に出すと、目からポロポロと大粒の涙が溢れた。

 

「あぁっ!十香ちゃん!これ以上言わなくていいのよ!」

 

「五河君め!こんな健気で良い子を泣かせるなんて!」

 

「マジ引くわー!」

 

三人がやたらと高いテンションで叫ぶ。十香は再びあわあわと制止した。

 

「し、シドーは悪くないのだ!ただ、私が………」

 

十香は乏しい語彙から言葉を掻き集め、士道には非がないこと、十香が少し士道に依存気味であった事が原因なのだと説明した。

 

「ふぅむ。つまり十香ちゃん的には、五河君とお話しできて、ご飯とか食べちゃって、あまつさえ遊んだりできたらスーパーハッピーなわけね?」

 

十香はその言葉にコクコクと頷いた。

 

「くぅッ、なんて純真無垢で良い子なの。よし、分かった!十香ちゃんのためなら一肌脱ぐよ私は!」

 

と、亜衣が言うと、自分の鞄から紙切れを二枚持ってきた。

 

「あ、亜衣、あんたそれは………!」

 

「そう、天宮クインテットの水族館のチケットよ………ッ!確か明日は開校記念日で休みでしょ?十香ちゃん!これあげるから、明日五河君と行ってらっしゃい!」

 

「亜衣!それはあんたが万丈君と______」

 

麻衣が言いかけるのを、亜衣が制する。

 

「それ以上言うんじゃあねぇ!十香ちゃんが遠慮しちまうだろぃ………」

 

「む?リューガに何か用があるのか?」

 

「だ、大丈夫よ!十香ちゃん………五河くんと………幸せに…………ね」

 

「ぬ、ぬぅ………?」

 

十香は戸惑いながらも、肩を掴みながら震えた手で渡してくる亜衣から、大人しくチケットを貰った。

するとその瞬間、亜衣がその場に崩れ落ちる。

 

「あ、亜衣ぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」

 

「おい、よしてよ………嘘でしょ………ねぇ、目ぇ覚ましてよ亜衣!亜衣!亜衣!亜衣ぃぃぃぃいッ!!」

 

「………!?………!?」

 

十香は目を白黒させキョロキョロと首を回すと、何がいけない事をしたのではないかと思い、亜衣の手にチケットを戻した。

 

「私は帰ってきたぁぁぁっ!!」

 

すると、亜衣が復活した。

 

「亜衣!」

 

「奇跡よ!」

 

「って、いやいや」

 

急に冷静になった亜衣ぁ、十香にチケットを渡し直してくる。

 

「返しちゃ駄目でしょ十香ちゃん。これ持って、五河君にお誘いかけてみなさいって」

 

「お、おさそい………?」

 

「そ。明日デートしてらっしゃいって言ってんの。デート」

 

「………!」

 

言われて、十香は目を見開いた。士道と、デート。

 

______嗚呼、それは、とてもいい。

 

 

 

 

そして、その日の夜。

 

「………………それで?」

 

「…………狂三と、十香と、折紙の三人とデートする事になりました」

 

何故か、士道がそう独白してきた。

今日の放課後、狂三攻略の為放課後に明日デートしようと誘いを掛けた。それ自体は上手くいったのだが、問題はその後起きた。

その後家へ着くと、十香が何故か凄くイケナイ雰囲気でデートに誘ってきて、そのままなし崩し的に承諾。というか、承諾しないと駄目な感じだった。

さらに息もつかせず、折紙から電話が届き、士道に喋らせる事なく明日デートの誘いを受け、行く流れになった、と言う事だ。

琴里には既に話したのだが、当日どうしたらいいかアドバイスを聞くため、現在戦兎の部屋へと出向いていた、という訳だ。

 

「………まったく。少しは断るってものを身につけなさいよ」

 

「し、仕方ないだろ!受けちまったもんは!」

 

「ま、そりゃそうだけどさ。あ、そうだ」

 

すると戦兎が何かを思い出したように、机の上から何かを取り出し、士道に放ってきた。

 

「おっと………!あれ、これって……」

 

渡されたのは、士道がアライブへの変身に用いるリビルドライバーだった。

 

「この前変身した時は、動作チェックもせずいきなりだったろ?だから、不具合がないかと思って、メンテナンスしといた。これで当分持つだろ」

 

「あ、そうか………いや、悪いな。ありがとう」

 

「気にすんなって。取り敢えずは、明日のデートについてだろ?」

 

「……そうだな」

 

リビルドライバーを懐にしまい、話を戻す。

 

「まあぶっちゃけデートプランについては、琴里とか令音さんが何とかしてくれるだろ。正直、俺から言ってやれることなんてなぁ」

 

「そんなこと言うなよ、正直不安で…………つか、何作ってんだお前」

 

戦兎は会話をしながらも、視線と手先は机の上に集中していた。覗いてみると、何か武器のようにも見える。

 

「アライブの武器だよ。クローズにもビートクローザーがあるしな。流石に何もないってのはあれだし」

 

「え?マジか。ていうか、ドライバーのメンテナンスまでやってそれもやって、大丈夫なのか?」

 

「モノを作ってる時の方が、何もしないより気が休まるんだよ。とりあえずお前は、明日に向けて休んどけ。明日は、お前がやれるようにやればいい。………つっても、アドバイスになるかは分からないけどな」

 

「………いや。サンキューな。俺、部屋戻るよ」

 

「ん。じゃ、おやすみ」

 

「ああ。おやすみ」

 

言うと、士道は戦兎の部屋を出て行き、自分の部屋へ戻った。

士道を見送ると、戦兎は作業を続けた。正直なところ、このアライブの武器、【アライブラスター】については大体仕上がっているのである。あとは各種機能の動作チェックをすれば、そのまま使えるのだ。

 

「あとは…………」

 

戦兎は、机の隅に置かれた、()()()を見つめる。

そこには、水色の本体に、金色のレンチが取り付けられた、壊れたドライバーが置かれていた。

 

「………こいつも、直さねえとなぁ」

 

それは万丈がかつて使っていた、もう一つのドライバー_______【スクラッシュドライバー】であった。

それを見てふと、かつての仲間の一人______仮面ライダーグリス、猿渡一海(さわたりかずみ)を思い出す。もしかしたら、一海もこの世界に来ているかもしれない、と、思ったがしかし、すぐにその思考を振り払う。

 

「………いや、仮面ライダーは、既にネットでも都市伝説として出回ってる。それなのに一向に接触してくる様子がないってのは…………そう言う事なんだろ」

 

その沈んだ気持ちを誤魔化すように、戦兎は手元の作業を続けた。全て終わったのは、深夜の二時だった。

 

 

 

 

天宮市オフィス街にある、とあるビルの屋上。

 

「うふ、うふふふふ」

 

なんだぁ?やけにご機嫌じゃあねえか。お嬢ちゃん

 

紅と黒のドレスを着込み、黒髪をツインテールに纏めた少女______時崎狂三と、サソリのような仮面の男______マッドクラウンが、話をしていた。そこから発せられる空気は、とても禍々しかった。

 

「えぇ、えぇ。実はですね、明日、士道さんとデートをすることになりまして」

 

ほぉ。そいつぁ良かったじゃあねえか。………そんで、ただそれだけの事で喜んでんのかい?

 

「あら?どう言う意味ですの?」

 

狂三が惚けた様子で訊くと、クラウンはさもおかしいという様子で、笑いながら言った。

 

惚けんなよ悪女さぁん。猫かぶった演技の上手いお前さんが、ただデートってだけで、こんな喜ぶ訳ねえだろ。年頃の生娘じゃああるまいし

 

「あらあら。そんな風に思われてたのですか?悲しいですわ。それにわたくし、こんなに美しいですのよ?」

 

見た目は、な。それに………嘘を吐くのも得意なようだ

 

またもおかしいと言った様子で笑う。狂三は上品に、うふふ、と笑うと、天宮市の街並みへと視線を映した。

 

「あぁ、あぁ。楽しみですわ、嬉しいですわ。士道さんを_____食べられるまたとない機会ですわ。偶然、必然、運命ですわね」

 

あぁ………そいつぁ最善の運命(Fate)じゃあなくて、最悪の運命(Doom)だろうな、きっと

 

クラウンは少し同情するような_____しかし、隠しきれない愉悦が混ざった声音でそう言うと、夜の闇へと消えていった。

狂三はそれに気付いたが、特に気に留める事もなく、夜の街を見上げ、月を見つめた。

 

「待っていてくださいね………、士道さん」

 

その顔はきっと、愉快で歪な顔になっていただろう。

 

 

 

 

______その日の士道のデートは、きっと本人にとっても忘れられない物だっただろう。主に悪い意味で。

 

三人とデートし、尚且つそれを悟られないようにするために、士道には超過密の鬼の如しスケジュールが課せられた。

まずは十香と合流して水族館へ行き、途中で抜け出し狂三と合流。その後十一時に駅前広場へ行って折紙と合流する。その間のタイムラグを少なくしつつフォローして、空白時間を埋めるよう調整すると言う、いっそスマッシュと戦った方が何倍も楽であろう指令が下されたのだ。

 

とはいえ、これは成功させなければならない。そうしなければ、狂三を封印できないからだ。そもそもは士道にも原因がある訳だし。

 

さらに士道の周辺は、ガルーダがバレないようにうまくやりながら周囲を飛び回って監視している。鳴き声は戦兎が泣く泣くオフにした。そうでもしないと気付かれるからだ。

 

「お、士道順調そうじゃん」

 

「また見張らなきゃいけねえのかよ」

 

ちなみに戦兎達も例のごとく、ブラブラと歩くふりをしながら士道の動向を見張っている。今回は比較的人も多いので、気づかれにくいのだ。そのため、二人とも今回は普通の服装である。

 

「ねーママ〜、あのおにーさんたち変だよー?」

 

「見てはいけません」

 

……まあ、二人とも電柱の陰に隠れて二人を見ている状態なので、側から見たら完全に不審者なのだが。

 

「万丈」

 

「あ?」

 

「言われてんぞ」

 

「俺だけかよ!」

 

「あ、待て。動き出したぞ」

 

と、小ボケを挟みながらも、二人で追跡する。二人の後を追い、辿り着いたのは_______

 

「ブッ!」

 

「おい戦兎。なんであいつら下着見に行ってんだ?」

 

 

______駅ビルにある、ランジェリーショップだった。

 

 

「…………おい琴里。どう言う事だ」

 

『仕方ないじゃない。映画館やショッピングだと、十香と鉢合わせる可能性があったし、彼女も絶対断るとは思えなかったから』

 

「だからってもっとあるだろ?………はぁ、最悪だ………」

 

と、戦兎がフラクシナスクルー達の腕に今更ながら不安を覚えていると。

 

「ん?あれは桐生くんと………万丈くん!?」

 

「二人してお出かけかな?」

 

「マジ引くわー」

 

遠くから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

士道や戦兎たちのクラスメイトの、亜衣麻衣美衣の三人だ。しかし、今この状況ではまずい。

 

「………琴里」

 

『……ええ。今あの三人と士道たちを合わせたらまずいわ。作戦行動の障害になる』

 

三人の進行方向は、まさに今士道たちの入って行ったランジェリーショップだったのだ。

今士道達と合わせると、色々と拗れる事が起きてしまう可能性が高い。

 

『とにかく。何とか三人の意識を別の方へ持って行って』

 

「……分かった。おーい、万じょ____」

 

と、戦兎が声を掛けるより前に。

 

「お、何だ!お前らも来てたのか?」

 

「う、うん。その……万丈君たちは、どうして?」

 

「まさか………男同士の、禁断の密会………!?」

 

「マジ引くわー」

 

「何言ってっかさっぱり分かんねえけど、ちょっとな」

 

 

なんか普通に話してた。とそこで、戦兎はあることに気付いた。

なんか、亜衣のほうが妙にモジモジしている。その上ほんのり頰を赤らめ、どこか緊張した様子で話している。

 

「…………まさか」

 

まさか、とは思うが、そうとしか思えない。しかし、そうなら逆にチャンスだ。

とっさにプランを考えた戦兎は、急いで四人の元へと駆け寄った。

 

「よっ!奇遇だなこんなところで会うなんて!」

 

「あ、桐生くん」

 

「おはよー」

 

「おはよう」

 

「あ、おい戦兎。早く行かねえとあいつらがムグゥッ!?」

 

余計な事を口走りそうになった、万丈の口を塞いで。

 

 

「そういや亜衣!万丈がお前とデートしたいってさ!」

 

 

作戦を実行した。かつて美空に行ったやつとほぼ同じ奴。

 

「へ……………えぇぇぇぇぇえええええーーっ!!!!?」

 

「な!?」

 

「ぬ!?」

 

「はぁぁっ!?」

 

四人、特に亜衣から驚きの声が上がった。亜衣は顔を真っ赤にし、麻衣と美衣は好奇の視線を向け、万丈は抗議の視線を送ってくる。

 

「で、デデデ、デート……!?デートって、その、デートの事?私と、万丈くんが……!?」

 

「良かったじゃん亜衣!ほらっ、イッテイーヨ!」

 

「いーじゃん!いーじゃん!スゲーじゃん!」

 

「でっ、でも、その、色々と…………」

 

「おい、そんな事一言も_____」

 

またも余計な事を口走りそうになった万丈をつかみ、連れて行く。

 

 

↓以下、パントマイムでお送りします。

 

「(いいから・黙って・デート・して来い!)」

 

「(なんで・俺が・行かなきゃ・ならねえんだよ!)」

 

「(そう・言うなよ!・後で・バナナ・やるから!)」

 

「(ウキキウキキ!・俺・バナナ・大好き!・って、俺は・猿じゃ・ねえよ!)」

 

「(プロテインと・カップ麺も・付けるから!)」

 

「(…………・分かった(グッ))」

 

 

パントマイムによる買収、もとい意思疎通完了。前回と同じく、驚くほどに買収は簡単だった。数百円で済むのだから安いものである。

瞬時に万丈は亜衣の元へと行き、肩を掴んだ。

 

「亜衣!」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

 

「……デートしよう」

 

「はぅあッ!?」

 

亜衣が顔を真っ赤にし、万丈が少々強引に手を掴んで歩いていく。

 

「ほら、行くぞ」

 

「こ、心の準備がぁぁ〜……っ!!」

 

と、最初はなっていたが、しばらくすると一緒に歩いて行った。

 

「……さて。これでOKか?」

 

『……ええ。上出来よ。それにしても、よく咄嗟にやれたわね、あれ』

 

「経験則ってやつさ」

 

インカムからの通信に答えると、戦兎は麻衣と美衣の方へと向き返った。

 

「さて。……ここでこうしてるのも何だし、俺らもお茶でもするか?」

 

「あ、うん。それはいいんだけど……その、ありがとうね。亜衣と、万丈君のこと………」

 

「ああ、分かってるから大丈夫。まああいつなら、泣かせるような真似はしないでしょ」

 

今現在、知られたら弱冠二名の女子を泣かせるような事をしている仲間を尾行している最中なのだが。

それを心の中に仕舞い、戦兎たちは万丈たちの後を追った。

 

「(………グッドラック、士道)」

 

一瞬振り返り、戦兎は士道のいる方へサムズアップした。

 

______その後士道に襲いかかるのが幸運(グッドラック)ではなく、不幸(バッドラック)であるとは思わず。

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?
今回は少し雑になってしまいました。タイトルも十全に回収されてませんし、物語も全然進んでないし、やめたらこの仕事?(憤怒)

と、それは置いておきまして。次回こそは!次回こそは内容濃くするので、許して下さい!何でもしますから!(ノンケなのでマジで)

最近学校も忙しくなって、オリ文章考えるのもだんだん話が進むごとに難しくなってきて、回数書いてるのに話の組み立て方や構成や地の文会話文が雑になっていくと言う珍現象が発生してしまいます。どうしたらいいのでしょうか?誰か教えてください。
ちなみにこの亜衣と万丈の絡みは本編にそこまで干渉しないレベルでこれからも書くつもりなので、楽しみな人は楽しみにしててください。

次回、『第25話 時の破壊者と枯れたハート』、をお楽しみに!

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第25話 時の破壊者と枯れたハート

桐生「と、言うわけで!天っ才物理学者を自称する自意識過剰ナルシストな桐生戦兎は………って!誰だよ台詞書き換えた奴!」

クラウン『俺だァッ!

万丈「お前かよ!なんでお前があらすじ紹介にいんだよ!」

クラウン『細けえ事は気にすんなよ!こほん、第三の精霊、時崎狂三と出会った桐生戦兎と愉快な仲間たちは、霊力を封印するため攻略することになり、彼女をデートに誘う!しかぁーし!そこで驚愕の事実が発覚しぃー!?

桐生「ちょいちょいちょい!なんで全部言うつもりで流れ進めてんだよ!」

クラウン『ハッハァー!どうだぁ俺のアドリブ演技!今度役者やろうと思っててよ〜

万丈「勝手にやってろよ!」

クラウン『と!言うわけで、気になるやつは第25話を見ろぉっ!

桐生「ああっ!結局全部言われた!」






「ふぅ………士道さんたら、せっかくのデートですのに、今日は随分と忙しないですわね」

 

公園のベンチに腰掛けながら、狂三は小さく息を吐き出した。

時刻は三時三十分。士道が通算で三十度目のトイレに立った後である。デートを始めてからかれこれ五時間は経っているが、一緒にいたのはその三分の一程度だった。

 

「____まあ、でも、いいですわ」

 

狂三は手の平に顎を置いて、ふふ、と微笑んだ。

そんな事は些細な問題だ。全ては過程であって、それが目的ではない。

 

「どうせ最後は_____私の物になるんですもの」

 

人差し指で頬をトントンと叩きながら、鼻歌を口ずさむ。

ふと目を閉じると、自然と士道の顔が浮かんだ。

 

それが恋なのかどうかは_____狂三には、判断しきれなかった。

 

「_____ふふ」

 

それがまたたまらなく愛おしくなって、さらに笑みを濃くした。

 

 

 

 

士道は十香と分かれたあと、すぐさま狂三の元へと向かっていた。かなりの回数席を立ってしまったが、弱音を吐いては居られない。

とはいえ、かなりの体力を消耗したのも事実。十香と狂三と折紙の間を三十週。もうスマッシュなんて目じゃない。

と、そこで。

 

「キャァァァーーッ!!」

 

「ッ!?」

 

遠くから、悲鳴のようなものが聞こえ、次に、呻き声が聞こえた。

いつも聴き慣れた呻き声に、士道は急いでその場へ向かった。

 

「アゥグルァァァァァア!!!」

 

「ママーっ!」

 

「っ、スマッシュ!」

 

そこには、呆然と腰を抜かした様子の親子と、それに迫ってくるスマッシュの姿が見えた。

居てもたっても居られなくなり、その場へと走り抜ける。

 

『ちょっと士道!単独行動はやめなさい!』

 

「黙って見過ごすわけにもいかねえだろ!」

 

琴里からの通信を投げやりに返し、そのままスマッシュへと向かっていく。

 

「オリャーーッ!!」

 

「グゥッ!?」

 

スマッシュに思いっきり体当たりを食らわせ、親子と距離を離す。その隙に士道は後ろへ行き、親子に避難を促した。

 

「逃げて下さい!早く!」

 

「あ、ありがとうございます………!」

 

親子は戸惑いながらも、母親は子供を抱えるようにしてその場から逃げた。

そして、そのままスマッシュへと向きかえる。

 

「ガルーダ!」

 

『キュルッキュイーッ!』

 

士道が呼ぶと、その場に赤い鳥型ガジェット、【アライブガルーダ】が飛翔し、そのまま組み込まれた変身プロセスによって手のひらへと収まる。

そしてドライバーを装着し、投げやりにボトルを振ると、勢いよくガルーダへと差し込んだ。

 

Get Up!ALIVE-SPIRIT!

 

そのままレバーを回し、高速ファクトリー【スナップリアライズビルダー】を展開、朱色の【スピリットアーマー】を形成させる。

 

 

Are You Ready?

 

 

「変身ッ!」

 

 

力強く叫ぶと、生成されたアーマーが士道を挟み込んだ。

 

Get Up Strike!Dead Or ALIVE-SPRIT!!イェーイッ!!

 

「ウォォォーーッ!!」

 

変身を終え、アライブとなった士道は、そのままスマッシュへと向かっていく。

腕部の【ファイアークロウラー】により強化された攻撃力でもって、スマッシュの巨体へと連続攻撃を決め込む。

 

「ウグゥ!ウゥァァァァアッ!!」

 

しかし、スマッシュも負けていない。

前屈の姿勢になると、そのままアライブへと突進攻撃を仕掛けてきた。

 

「なっ!?」

 

不意をつかれたアライブは、そのまま攻撃をもろに受け、吹き飛ばされてしまう。

 

「くそっ………」

 

かなり吹き飛ばされてしまったため、衝撃が全身を伝わる。痛みはないが、動きが止まってしまった。

そのまま、相手が変わらぬ超スピードで以って、こちらへ向かってくる。

 

「あっ………そういや、アレ、完成したとか、言ってたよな………」

 

その時、アライブの脳裏に今朝戦兎に言われたある報告が頭をよぎる。

 

「一か八か………!」

 

アライブが立ち上がった瞬間。

【スナップリアライズビルダー】が、一つの武器をアライブの目の前に形成した。

 

 

ALIVE LASTER!

 

 

目の前に現れたそれは、一見するとアサルトライフル程の大きさの、光線銃型の武器だった。

しかしその本体のカラーや、銃口の形状、銃身下部のブレード状パーツ、ボトルを差し込む為に設けられたと思しきパーツから、それがアライブの専用武器であると分かった。

 

「これなら……!」

 

現れた武器、【アライブラスター】のグリップを持ち、構える。

そして突進してくるスマッシュ目掛けて、一瞬躊躇いながらも引き金を引いた。

 

「ゥグルゥッ!?」

 

瞬間、銃口から光線が放たれ、スマッシュへ直撃する。それはスマッシュの突進を止めるのには十分な威力だったらしい。スマッシュは突進を中止させられ、地面へと転がった。

 

「よし!これならいける!」

 

そのまま、銃身に取り付けられたボタンを押す。

 

SLASH VERSION!!

 

すると、ドライバーと同じ音声と共に、ブラスターが変形、光刃のブレードへと変化を遂げた。

 

「おお……!よし!」

 

「ウグゥァァァァーーッ!!」

 

そのままブレードを構えると、立ち上がって尚も向かってくるスマッシュの方を向く。そして、グリップ部のトリガーを押す。

 

 

オシコーメッ!

 

ONE SLASH!!

 

 

音声とともに、ブレードを覆うように朱炎のエネルギーが現れる。

 

「ハァーーッ!!」

 

そのままブレードを勢いよく振ると、エネルギーを伴ったままブレードはスマッシュへ直撃し、衝撃波を生みながら吹き飛ばした。

 

「ウグゥゥッ!?」

 

その隙を逃さず、ドライバーのボトルを引き抜き、ブラスターへとセットする。そのままトリガーを今度は二度押した。

 

 

FEVER TIME!オシコーメッ!オシコーメッ!

 

TWO BURST!!

 

 

エレキギターのような待機音とともに、炎雷の如しエネルギーが巨大なブレードを生み出す。そのまま一歩踏み出し、構えると、アライブはそれを_____

 

 

「ハァァーーーーーオリャーーーーッ!!!!」

 

「ゥグルゥゥゥァァァーーッ!!!」

 

 

スマッシュ目掛けて、思いっきりぶつけた。瞬間、スマッシュは爆散し、ブラスターのエネルギーも掻き消えた。

 

「ハァッ………ハァッ………」

 

激しい疲労感を伴いながら、地に伏せ耳に手を当てる。ただでさえ消耗した状態で、その上スマッシュと戦ったのだ。ハザードレベル3.0でも、その疲労は今まで士道が感じたことのない程の物だった。仮面の下で汗が流れ、全身の筋肉が悲鳴をあげているのがわかる。

 

「ハァッ、ハァッ………琴里、聞こえるか?戦兎に………スマッシュの浄化、頼んでくれ………ッ」

 

『………分かったわ。それで、悪いけれど…………』

 

「………分かってるさ。今から、狂三のもとに………」

 

と、士道が言った瞬間。

 

『し、司令!微弱ですが、付近に霊波反応が………!』

 

不意にインカムの向こうから、別のクルーと思しき男性の声が響いてきた。

 

『どこ?』

 

『公園東出口の路地裏です!この反応は_____間違いありません。時崎狂三です!』

 

「…………っ!?」

 

アライブは肩を揺らしてバッと顔を上げる。その公園は、今まさにアライブから数メートルのすぐの距離にあったのだ。

 

『………何かあったのかしら。士道、向かってみてくれる?一応、変身は解除しないでおいて。何が起こるか分からないわ。気付かれないように近付いて』

 

「あ、ああ………!」

 

不穏な言葉に緊張感が走り、全身の倦怠感に耐えながら、アライブは公園へと向かって行った。

フラクシナスからの誘導に従い、自動販売機の脇を通って、狭い路地を走っていく。

そして。

 

 

「________は?」

 

 

目的の場所に着いた瞬間。

アライブは、否、士道は、呆然と目を見開き、その場に立ち尽くした。

 

 

マスク越しの視界を埋め尽くしたのは_______沢山の、赤だった。

 

 

灰色の塀や地面の上に、夥しい量の赤がぶちまけられている。まるで、バケツに入れた赤絵の具をそこら一帯にぶちまけたようだった。

 

そして所々に、歪な形をした大きな塊が三つ、浮かんでいた。

 

あまりに馴染みないその光景に、士道は一瞬、状況が理解できなかった。

 

否______一瞬を超え、数瞬を超え、数秒を超え。

 

それが何かを薄々分かり始めながら、しかし脳内はその事実を拒絶しようとした。

 

だって、そんなの、有り得るはずがない。

 

こんな街中で、こんな日常の中で。

 

 

 

______人が、死んでいるだなんて。

 

 

 

「あ、あぁ…………うわぁぁぁぁぁあああああぁぁぁッ!!!?」

 

 

 

士道は、狂ったような、悲鳴染みた叫び声を発した。

 

『士道!落ち着きなさい、士道!』

 

「あぁっ!ああ!あぁぁぁぁああぁッ!!??」

 

琴里の声が聞こえたが、そんなものは意味を成さなかった。

脳が事実を認識した瞬間、士道に途方も無い嘔吐感が襲った。食物が胃の中からせり上がってくる感覚に抗おうと、思わず口元を覆う。

 

「_____あら?」

 

その声に、視線を上げる。その、赤い海の上に、彼女は立っていた。

 

「………そのお姿……うふふ。分かります、分かっていますよ?士道さん」

 

赤と黒の霊装を纏い、古式の短銃を構えた時崎狂三が、振り返りながら言ってきた。

そして、そこで士道はあるものを捉えた。

 

路地裏の奥に、男が一人、全身をガタガタと震わせながらへたり込んでいた。

若い男である。なぜか腹部に、血で同心円が三つ描かれており、まるで的当てのようだった。

 

「ひ______ッ、ひ_______ッ。た………ッ、助け、て…………ッ」

 

「あらあら」

 

狂三は顔を男の方に戻すと、手に握った銃を向けた。

 

「ッ!やめろ、狂三ッ!!」

 

それが何をしようとしているかを察した士道は、なけなしの勇気を振り絞って狂三の方へと向かっていった。

 

「あらあら、駄目ですわよ士道さん。_______覚悟も定まらず、ただ闇雲に向かっては。ふふふ」

 

「ッ………!?」

 

その微笑に、士道は恐怖を覚えた。そして、その足が弱々しく止まり、やがて腰抜けたように地面へとぶつかる。

いつものような、可愛らしい微笑なんてものじゃない。聞くだけで歯の根が鳴るような、不気味な笑いだった。

そのまま、狂三は向きを変えずに、男へ銃の引き金を抜いた。

 

瞬間、銃口から影を濃く固めたような漆黒の銃弾が、真っ黒い軌跡を描きながら、男の腹に描かれていた的の中央に吸い込まれていった。

 

「ひぐ_____ッ」

 

男の身体がビクンと跳ねる。それきり、男は何も声を発さなくなった。

 

「百点、ですわね。さて………お待たせしましたわ士道さん。恥ずかしいところを見られてしまいましたわね」

 

狂三が、笑いながら士道へと向かってくる。

 

『____道!士道!逃げなさい!すぐに!』

 

そこで士道は、琴里がインカムから叫びを上げていることに気づいた。どうにか立ち上がると、ガタガタと震える足を制して逃げようとする。

が、手遅れだった。

 

「うふふ、駄ぁ目、ですわよ」

 

「うわ………っ!?なんだ、これ………!」

 

後方から狂三の声が聞こえてきたと思うと、士道は急に足を取られ、地面に拘束された。アーマーによって痛みは無いが、完全に身動きが取れない。

 

「ふふ、捕まえましたわ。士道さん。………いえ、そのお姿の時は、仮面ライダーアライブ、と呼んだ方がいいでしょうか?」

 

言ってニッコリと笑い、士道に近づいてくる。

 

「…………っ」

 

心臓が締め付けられたように痛む。だがそれは______純粋な、恐怖からだった。

 

そう。士道は人間として、ライダーとして、初めて______狂三に、精霊に恐怖していた。

 

世界を殺す災厄。人類の仇敵。

 

言葉だけなら、何度も耳にしていたその台詞。

 

それが今、初めて実感となって士道の脳髄へと染み込んできた。

 

「………っ、…………っ」

 

逃げようとした。抵抗しようともした。

 

でも、できなかった。まるで全身の細胞が麻痺しているかのように、身体は全く動かなかった。

狂三が、笑いながら士道に顔を近づけてくる。

それはキスと言うよりは、首筋に噛み付こうとしているようで______

 

と、次の瞬間。

 

「っ________」

 

短い息を伴って、光とともに狂三の身体が軽々と後方へ吹き飛んだ。

コンクリートの塀に華奢な肢体が叩き付けられ、細かなヒビが入る。

 

「な_____」

 

 

『_____懲りずに出やがりましたね、【ナイトメア】』

 

 

ノイズが走ったような声とともに、その姿が現れる。

その、白い鋭利な姿は、昨日映像で見た______

 

「真………那……………」

 

掠れたような声が漏れる。

そう。昨日真那が変身していた、白のライダーだった。

手に銃を構え、鋭い青の複眼を輝かせている。

 

『おや、あんたは………ああ、確か、アライブとか言いやがりましたっけ。貴方にも戦闘命令が出ていやがるんですが………目下の敵は、こいつです』

 

真那が、まるでこちらの正体に気づいていない様子で話す。どうやらこちらの声がうまく聞こえていないみたいだ。

 

『………巻き込まれたくなかったら、下がっててください』

 

真那は短く言うと、そのままその白い身体を走らせ、狂三へと向かっていった。

 

「っ、あらあら、私達の逢瀬を邪魔するなんて、マナー違反が過ぎませんこと?」

 

『うるせーです。とっとと消えろよこのゴミ屑』

 

「………っ!?」

 

以前の真那の様子からは想像もできないような口汚い罵倒が飛び出し、さらに攻撃が続けられる。

戦況は明らかに狂三が不利だった。距離を取ろうとしても肩の装備で攻撃され、近づけば接近戦に持ち込まれる。

 

「幾ら何でも一方的すぎるだろ…………ちょっと待てよ!」

 

居てもたっても居られず、いつのまにか拘束が解かれていた士道はなんとか立ち上がり、真那を止めようとする。

 

「やめろ!殺す気か!」

 

『ッ!何を、しやがるんですか!』

 

「ガハッ!?」

 

真那はアライブの接近に気付くと、士道だと言うことには気づかない様子で、容赦無くパンチとキックを繰り出した。

そして、腰のドライバーのハンドルを操作し、拳にエネルギーを貯める。

 

 

STAND BY

 

 

『………悪く思わねーでください。近くにいた、あんたが悪いです』

 

 

DEMOLISHON FINISH

 

 

その無機質な音声が聞こえるとともに、真那の拳から白く、しかしそれでいて何処か禍々しいエネルギーが放出され、アライブを直撃した。

 

「ガハッ…………がっ………」

 

アライブはその衝撃によって吹き飛ばされると木に激突。

そのまま地面へ落下し、変身が解除されてしまった。そこで、初めて士道の素顔が明らかになる。

 

「あぐっ………ぐぅっ……………」

 

 

『え_______兄、様……………?』

 

 

真那が、呆けたような声を出し、呆然と立ち尽くす。そして、自分の拳を力なく見つめる。

 

『あ、あぁ……………』

 

その様子を見た狂三は、どこか可笑しそうに笑った。

 

「あらあら?知らなかったんですの?仮面ライダーアライブが士道さんだと。それにしても………真那さんと士道さんはご兄妹でいらっしゃいますの?」

 

『ッ!………貴様には、関係ねーですッ!!』

 

その一言が琴線に触れたか、今までよりも苛烈に、真那が狂三を攻撃する。距離を取られれば光線で蜂の巣に、近づけばブレードで滅多斬りに。

 

「ぎゅ…………ッ」

 

両足が、腹部が、両手が光線に貫かれ、腹部がブレードによって切り刻まれる。狂三が奇妙な悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。どく、どくと、赤い血が地面に広がっていく。

 

「…………っ」

 

あまりにも凄惨な光景に、士道は眉をひそめた。

 

「手間を、かけさせるんじゃ、ねーです。化物、風情が」

 

しかし真那は動揺した様子なく、狂三の首を掴む。そこには、どこか遣る瀬無い感情を狂三にぶつけているようにも見えた。

そして、腰のドライバーのハンドルを操作しようとする。

あれには見覚えがある。あれは必殺技を撃つ時の操作だ。今の状態で、あれを喰らったら…………

 

「真、那………ッ!」

 

思わず、士道は声を発していた。

 

「……兄様。大丈夫、です。すぐに片付けます。……詳しい話は、そこで」

 

「駄目だ………!殺しちゃ_____!それは、そんな事のために振るう力じゃない…………ッ!」

 

「………力の使い方は、人それぞれでしょう。それに、これは間違いなく善い事のためです」

 

真那が不思議そうに目を見開き、そしてかぶりを振ってくる。

 

「……ああ、そういえばこの女、兄様のクラスに人間として転校してきやがったのでしたね。____兄様。詳しい事は言えねーですが、この女の事は忘れやがってください。この女は、人間じゃありません。生きてはいけない、存在しちゃいけねー存在なのです」

 

そう言って、再びドライバーへ手を伸ばす。

 

「………ッ!そう言う問題じゃないッ!やめろ!頼む、やめてくれ…………ッ!」

 

士道が懇願すると、狂三が、喉からひゅうひゅうという息を漏らしながら、消え入りそうな声で発してきた。

 

「………ふ、ふ………やっぱ、り、士道さん、は、優しい………お方」

 

 

STAND BY

 

 

「ッ!やめろぉーーーーーッ!!!」

 

 

DEMOLISHON FINISH

 

 

無慈悲に、エネルギーを伴った回し蹴りが、繰り出される。

白い軌跡を描きながら、そのキックは狂三の身体を爆散させた。

 

最早そこには、何も残らなかった。

 

「ふぅ」

 

真那が軽く右手を振りながら、ドライバーからボトルを抜き、変身を解除する。アーマーが粒子となって消え、普通の服装に戻っていた。

 

「なん………で」

 

そんな真那の背に、士道は震える声を投げた。

真那は小さく息を吐きながら士道に向き直した。

 

「………色々聞きてえことはありますが、取り敢えず。………今日の事は、悪い夢だとでも思って、忘れやがってください。あの女の死に心を痛めては駄目です。アレは死んで当然の、存在してはいけないモノなのです」

 

真那の言葉に、士道は思わず血が出そうになる程拳を握っていた。

 

「っ、ASTの言い分も分かる………!今、助けてもらった事にも礼を言う!襲われた事は気にしてねえ………!でも………でも、精霊だからって、そんな言い方は、無いだろ…………っ!」

 

「………先の件といい、兄様は、どこでそれを?」

 

「っ、………」

 

士道は微かに眉を動かした。そういえばさっき襲ってきた件といい、真那は士道が仮面ライダーである事も、精霊やASTの事を知っている事を知らなかったのだ。

 

「……まさか、あのビルドと連んでいやがるですか?まあ、それなら納得は出来ますが。にしても………あんまり褒められたもんじゃないですね」

 

「え………?」

 

「こっちの話です。でもまあ、それなら話がはえーです。どこまで知っているかは存じねーですが、つまりは、そういうことです」

 

真那が何の感慨もなく言ってくる。

そんな様子に、士道は怒りよりも先に、戦慄した。

 

「なんで………お前は、そこまで平然としていられるんだよ!お前は、今、人……を、」

 

その言葉を発する事を躊躇い、喉が痛んだ。

 

「人を………殺したんだぞ…………ッ!」

 

「人ではねーです。精霊です」

 

「それでもだ………!なんで、そんなにあっさりと______」

 

「慣れていやがりますから」

 

「…………っ」

 

そう言った真那の言葉が、あまりに冷たくて。士道は、息を詰まらせた。

 

「ナイトメア______時崎狂三は、特別なんですよ。()()()()()です」

 

「え………?」

 

「何度殺そうと、どんなに殺そうと。あの女は何も無かったように、必ずまたどこかに出現して、何度も何度も人を殺しやがるんです」

 

「…………っ!?な、なんだよ、それ………」

 

言いながらも、それはすぐ腑に落ちた。士道が昨日見た映像と全て合致したのだ。

 

「___だから。私は殺し続けてるんです。あの女を。ナイトメアを。時崎狂三を。それだけが、私の存在理由。それが、私の生きる目的」

 

疲れたように、真那が続ける。士道は顔を歪めた。

 

「違う………ッ!」

 

「え?」

 

「それは、慣れてるって言うんじゃない。心が、磨り減ってるだけだッ!」

 

士道が言うと、真那が小さく眉を揺らした。

 

「何を………言ってやがるんですか、兄様」

 

「もう、止めてくれ、真那………お前は、俺の妹なんだろ?なら………一つだけでいい。俺の頼みを聞いてくれ………っ」

 

士道は祈るように喉を絞った。

妄想でもなんでもない。心は負担をかけると磨り減り続けて_____それがずっと続くと、やがて人の心を失って、ついには元に戻らなくなるほど摩滅してしまうのだ。

 

 

_____母に捨てられた士道が、そうなりかけたように。

 

_____敵意と殺意を向けられ続けた十香が、そうなりかけていたように。

 

 

「………無理ですよ、兄様」

 

しかし真那は、自嘲気味に言った。

 

「ナイトメアが生き返る限り、そして人を殺し続ける限り、私はあの女を殺さなきゃならねーんです。___だから私は、この力を手に入れたんです」

 

「……………ッ」

 

「この力さえあれば、私はあの女を殺し続けられる。これさえ、あれば…………」

 

力無き声で言って、真那はドライバーとボトルを取り出す。

 

 

______違う。それは、その力は。そんな事のために、使うものじゃない。

 

それに方法は_____それだけではない。

 

 

が、士道がそれを言うより早く、真那に異変が起きた。

 

「ッ!うぐっ…………」

 

「真那……!?」

 

突然苦渋の表情を浮かべたかと思うと、いきなり胸をつかみ、苦しみだしたのだ。

 

「……悪いっ、ですが、兄様………今日は、ここまでです。また、会いましょう」

 

苦しみながら苦笑すると、真那は指をピンと立てた。瞬間、士道の身体がふわりと浮かんだ。

 

「っ、これは………!」

 

間違いない。これはASTが顕現装置(リアライザ)で展開する随意領域(テリトリー)だった。

 

「今度は、もっと時間に余裕を持って」

 

「待っ______」

 

言葉の途中で士道の身体は路地の外まで飛ばされ、優しく着地させられた。

 

「っ、士道!」

 

「士道!」

 

すると、向こうから声が聞こえ、その方向を向く。

戦兎と万丈だ。どうやら通信を受けて、ここまで来たらしい。

 

「士道、大丈夫か!?」

 

「おい、一体何があった!」

 

「っ………」

 

「あっ、お、おい!」

 

二人の身体を引き剥がし、士道はすぐに路地へ引き返そうとした。

だが、不可能だった。路地の入り口には見えない壁が張られ、先に進めなくなっていたのだ。きっと、真那の仕業だろう。

 

「………クソッ!!」

 

士道はその場に膝をつくと、血が出んばかりに地面に拳を叩きつけた。

士道が握っていたスピリットボトルが、僅かに小さく光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?
原作より真那が容赦なく見えるのは、ドライバーの所為です。恐らくですがこのリバースドライバー、みなさんが想像しているよりもヤベーイ代物となっております。今後をお楽しみに。

それにしても、アライブが今回不遇に見えるのは気のせいだろうか。せっかく新武器も出したのに、どうも不遇感が否めない。これも全て乾巧って奴の(以下略)

それでは次回、『第26話 なぜ彼はライダーとなったのか』、をお楽しみに。

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第26話 なぜ彼はライダーとなったのか

士道「えーっと、イケメンぶった自称天才物理学者の桐生戦兎は、仮面ライダービルドとしてスマッシュと、時にASTと戦いながら、精霊を救うためラタトスクと行動を共にしていた」

桐生「ちょちょちょちょっと!前回に引き続きなんかおかしくねその台本!誰だ用意した奴………っておい琴里!何キョドッてんだよ!お前か?お前だな!」

万丈「まーた騒がしくしてんなー。士道、台本貸してくれ」

士道「ん?ほい」

万丈「おほん!えー、その後、第三の精霊と邂逅した、五河士道と愉快な仲間たちは、彼女をデレさせるためデートを敢行する………」

桐生「なんか主役まで変わってる気がするし!主人公は俺だから!………つか士道、お前デートどうなったの?主に十香と鳶一」

士道「…………あ」




「っつ………こんなの、ただのルーチンワークでしかねーですのに」

 

どうにか()()()()()()()()()の痛みが治まると、真那はくしゃくしゃと髪を掻きむしった。

色々と余計な事を話してしまった気がする。これでは折紙の事も言えない。

だが、何故だろうか。士道には、聞いて欲しかったのだ。

 

 

「_____随分とヒステリックだったねぇ、真那クン?」

 

 

ふと、近くの茂みから声が聞こえ、白衣の男が姿を現す。

 

「……覗き見とは、あんまりいい趣味じゃねーですね」

 

「いやぁ。たまたま近くを寄ったら、君がいたものでね」

 

「たまたま、ですか………よくも言えたもんですね」

 

真那にドライバーを与えた張本人たる、神大神魏だ。長い髪を揺らしながら、悪戯じみた笑みを浮かべる。

 

「それで………何しに来やがったんです?」

 

「いや、ここに来たのはただの私用さ。ちょっと君に聞きたいことがあってね」

 

「聞きたい事?」

 

「感想さ。どうだい?私のリバースドライバーの感想は」

 

先ほどとは一転して、無邪気な子供のような笑みを浮かべながら聞いてくる。

いっそ清々しさすら感じるその笑みに、真那は嘆息しながらも答えた。そうでもしないと、このまま小一時間は居座るのが目に見えているからである。

 

「……まあ、それについちゃ本当にすげーです。これが量産されたら、そりゃー恐ろしいことになりやがるでしょうね。変身した後の鈍痛は、たまに傷でいやがりますが」

 

「ふむふむ。変身後の副作用が問題アリ、と。これは今後の課題だな。ありがとう!お礼にこれを。私からの餞別だ」

 

そう言って針魏が取り出したのは、変身に使用する【ウルフオルタナティブフルボトル】と、もう一本、見慣れないボトルだった。

真那が変身に使用するこのオルタナティブフルボトルは、出力が高いことがメリットなのだが、欠点として、何度も使用すると壊れてしまうのだ。真那が今使用しているのも三本目。今貰った分を含めると通算四個目である。

 

「……こっちは分かりますけど、このボトルは?」

 

オルタナティブボトルは分かる。丁度そろそろ壊れる頃合いかと思っていたからだ。

もう一本手渡されたのは、何か黒く濁った、まるでライオンのような意匠の奇妙なボトルだった。

 

「今度、ドライバーに挿して使ってみたまえ。きっと、君の望む物が手に入るさ。じゃあ、私はこれで」

 

そう笑いながら言って、針魏は去って行った。

残された真那はそのボトルをしばらく見つめると、ポケットにしまった。

と、その時。

 

「ん?」

 

真那は、先程士道が倒れていた地面の下に不思議なものを見つけた。

 

「これは………インカム、ですかね?」

 

それは、耳に装着するタイプの小型通信機のようだった。

 

「何でこんなものが……」

 

真那は首を捻ると、何とはなしにそれを右耳に近づけてみた。すると、

 

『_____士道!応答しなさい、士道!一旦フラクシナスで拾うわ!移動して!』

 

「………………っ?」

 

どこかで聞いたような声が、真那の兄の名を呼んでいるのが聞こえてきた。

 

 

 

 

「……………そんな、事があったのか」

 

「………………」

 

近くの公園のベンチまで来た後、士道は戦兎達に先ほど起きた出来事を話した。

 

 

狂三が人を殺した事。

 

真那が狂三を殺した事。

 

 

頭の中では、分かっていたはずだった。

それこそ十香や折紙だって、極論すればそんな関係だった事に。

 

ただ、十香にその気がなくて、折紙にその力がなかっただけで。

 

一歩間違えれば、士道はもっと早くにその光景を見ていた可能性すらあった。

 

「戦兎、万丈。俺………心の何処かで、甘えてたんだ。口先で危険だって言いながら、精霊はみんないい奴に違いないって。………ASTに、精霊を殺せる力なんて無いって、都合の良いように思ってた。いざとなったら、自分が戦えばいいって、思い込んでた…………ッ!」

 

再び拳に力を込める。

きっと、それは自身がライダーになった事も、少なからず影響しているのだろう。

精霊が殺されるようなことになったら、自分が代わりに戦えばいいって。自分はその力を手に入れたんだと、そう思ってた。

 

それがどうだ。

いざ目の前でその光景を目にした時。自分は、動こうとすら思えなかったではないか。

 

結局自分は、与えれられた玩具を自慢げに掲げていただけの、子供に過ぎなかったのだろうか。

 

すると次の瞬間。

士道達は、奇妙な浮遊感に包まれるのを感じた。

 

「………っ、これは_____」

 

覚えがある。フラクシナスの転送装置だ。士道達の視界は、人影の無い公園の一角から、フラクシナスの内部へと変貌していた。

 

「_____無事で何よりよ」

 

と、士道の背に、そんな声が掛けられる。振り向くと、そこには真紅の軍服を着た琴里が立っていた。

 

「………琴里」

 

「まったく。何度も呼びかけたのだけれど?」

 

言われて士道は右耳に手をやり、力なくつぶやいた。

 

「………インカム、ねえや」

 

そこには、いつも任務中に付けていたインカムが無かった。どこかに落としてしまったらしい。______恐らくは、真那によって吹き飛ばされた時に外れたのだろう。

 

「………あれ、十香と折紙は?」

 

「十香は後でフラクシナスで拾って、簡単に事情を説明するわ。折紙はまあ____明日学校でフォローすれば、大丈夫でしょう」

 

「そ、か………」

 

士道は力無く答えると、そのまま歩み始めた。

 

「あ、ちょっと、士道!」

 

「……悪いな。ちょっと、一人にさせてくれ」

 

士道は制止の声を振り切ると、フラクシナスの自室へと向かった。

 

 

 

 

天宮市の何処かにある、建物の中。

 

……お前さん、あのボトルを嬢ちゃんに渡したのか?

 

「あれ、気付いちゃった?」

 

とある研究室で、二人の男______マッドクラウンと、神大針魏が話していた。クラウンは机に腰かけ、針魏は悪戯じみた笑みを浮かべながら、手元で何かを作っていた。

 

「いやあ、目の前に可能性があったら、試したくなるのが研究者ってものでしょ。もしかして、怒った?」

 

いぃや。寧ろ感謝してるんだぜぇ?これで()()に早めに近づくってもんだ

 

愉快そうに笑いながら、クラウンは机から降りた。その様子を見て、針魏も笑いながら手元のパソコンを操作し、とあるデータを引っ張り出してくる。

そして愉悦を滲ませながら、神妙そうな声で呟いた。

 

「………ハザードレベル6().()5()。これだけあれば、試す価値はあるんじゃない?その上あの魔術改造措置。これで駄目ならそれこそ神か仏に祈るしかないんじゃないか?」

 

……研究者ってなぁ神サマは信じねえタチと聞いたがな

 

「ハッハッハ!とんでもない。寧ろこの私ほど神を信じる者はいないさ!この才能がそれを示しているのだからね!」

 

突如今までと打って変わって、高いテンションで笑う針魏。しかしクラウンはさして気にする様子もなく、パソコンのディスプレイに目を向けていた。

 

いやぁ〜、俺が言えたことじゃあねえが………こいつぁ、相当マッドってヤツだぜぇ?

 

「ハッハ!君がそれを言うとはね。しかし………可能性とは試すからこそ可能性なんだ。手を伸ばさなきゃただの机上の空論でしかないよ」

 

そう言って一通り笑い終わった針魏は、また椅子に座りなおして作業を再開した。

そこには無数の、武器の意匠が凝らされたボトルが置かれていた。

 

 

 

 

「………入るぞ、士道」

 

「……戦兎か」

 

あれから数十分後。

戦兎は士道の部屋へと出向いた。何時ぞやのように部屋の明かりは落とされていなかったが、士道は仮眠用のベッドに腰掛け、明らかに意気消沈した様子で項垂れていた。

戦兎はそれを見やると、一つ溜息をついて士道の隣に腰掛けた。

 

「……なあ、戦兎」

 

「ん?」

 

士道は、戦兎の肩に声をかけた。

 

「俺たちのしてる事って_____本当に正しい事なのかな」

 

士道のその言葉に、戦兎は視線を向けた。

 

「………どう言う事だ?」

 

「……俺は、精霊が………自分の意思とは関係無く空間震を起こしちまう存在が、理不尽に襲われるのが許せなくて………だから、ラタトスクに協力してるし、こうして、仮面ライダーにもなった」

 

話しながら視線を落とし、手に持ったスピリットフルボトルを見つめる。

 

「………ああ、そうだな」

 

「でも……狂三は、人を______」

 

人を、殺していた。空間震ではなく、自分の手で。自分の意思で。

それがどうしようもなく怖くて、悲しくて、恐ろしかった。

 

「何が言いたいんだよ」

 

「もういい…………俺には………無理なんだ…………」

 

士道は_____ついにその言葉を吐き出した。

 

「今まで上手く行ってたのは、十香達がいいやつで、戦兎達がいてくれたからなんだよ…………。ライダーになったって、俺はあの時何も出来なかった。狂三が殺されて、真那が狂三を殺すのを、ただ黙って見てるしか出来なかった。………結局、俺には、何にも______」

 

と、そこで士道は言葉を止めた。_____正確には、止めさせられた。

戦兎が鋭い視線を向けながら、士道の襟首を掴んでいたからだ。

 

「え、あ………」

 

「何がいいんだよ…………いいわけねえだろッ!」

 

士道が呆然としていると、戦兎が顔をしかめて言った。その後に続いた言葉は、士道だけではなく、自身に向けられた言葉にも思えた。

 

「お前がそんな腑抜けて諦めてたんじゃ、狂三はもっと人を殺し続ける!真那はもっと自分の心を殺し続ける!それでいいのか……?それでいいと思ってんのかッ!お前は()()()()ライダーになったんだ!誰かの笑顔を、精霊を、守る為じゃ無かったのかッ!?これ以上誰かを悲しませないために、ライダーになったんじゃないのかッ!?」

 

「…………っ!」

 

言われて、士道はごくりと唾液を飲み込んだ。

 

そうだ。それこそが、士道がライダーになった_____いや、もっと根本的な物。士道が、精霊を救いたいと思った理由、そのものだ。

 

「そう、だ………俺は………」

 

「なら決まってんだろ……!?救うんだろ、あいつらをッ!狂三の殺戮を止める事が!真那の心を取り戻すことが!お前のやるべき事なんじゃないのか!?お前にしか出来ない事なんじゃないのかッ!?」

 

「………………ッ!!」

 

その言葉の全てが、速やかに脳髄に染み渡って行った。

そう。殺しても死なない狂三が人を殺し、その度に真那が狂三を殺す。

その度に_____真那の、狂三の、誰かの笑顔が、消えていくのだろう。誰かの悲しみが、増えていくのだろう。

 

そして、それはこれからもずっと繰り返されるのだろう。_____狂三が、精霊である限り。

 

そして、それを止めることができるのは、士道しかいなかった。

 

「………そうだな」

 

言って、ふらふらする足取りで先に進んでいく。

 

「……答えは、出たかよ」

 

「………ああ。これ以上、狂三に人は殺させない。真那の心を、奪わせない。そしてそれは………俺がやるしかないんだ。……それが、仮面ライダー、ってものだろ?」

 

「……もう、大丈夫みてえだな」

 

戦兎は少し笑ってそう言うと、立ち上がって共に部屋を出た。

 

そして、その向こう側で。

「……………お兄ちゃん」

 

琴里が、不安げに士道を見つめていたのを、士道自身は知らない。

 

 

 

 

その日の夜。士道はリビングのソファで横になり、ぐるぐると思案を巡らせていた。

 

「……………」

 

白熱灯の輝きをぼんやりと眺めながら、細く長い息を吐き出す。

恐らく、明日も狂三は登校してくるだろう。

そうしたならば、後は仕事の再開だ。

好感度を上げて、キスをして、力を封印する。

それで全てが解決だ。ライダーの力も使う事なく、全てが終わる。

 

狂三が人を殺さなくなるし、真那も狂三を殺す必要がなくなる。唯一のハッピーエンドだ。

_____しかし。

 

「……………」

 

重りが乗っているかように、全身が重く気怠い。

上に持ち上げたスピリットボトルを見つめながら、士道は陰鬱な空気を肺から絞り出した。

とそこで、廊下の向こうから玄関が開く音が聞こえてくる。

 

「ん?」

 

士道は重い身体を持ち上げ、玄関まで向かおうとした。

するとリビングの扉が開き、十香がおずおずと出てきた。

 

「十香………?」

 

「……うむ。入っていいか?」

 

「あ、ああ。もちろん」

 

既に家に入っているだろう、というツッコミはひとまず置いておいて、士道は十香をリビングに入るよう促した。

すると十香は士道の元まで駆け寄り、ソファと士道の間に入り込んだ。

 

「何してんだ………?」

 

「いいから、少し黙っていろ」

 

十香はそう言うと、士道の身体に手を回し、後方からぎゅうー、と抱きしめてきた。

 

「と、十香?い、一体何を……」

 

「………ん。寂しい時や怖い時は、こうするのがいいとテレビで言っていた。………確か、『おかあさまといっしょ』、という番組だったかな」

 

「…………」

 

比類なきまでに幼児番組だった。思わず苦笑する。

だけど、その言は正しかったようだ。確かに、少し落ち着いた気がする。

不意に、十香が唇を開いた。

 

「………令音とセントにな、話を聞いた」

 

「話、って」

 

「狂三と、真那の話だ。今日、士道はどこか浮かない様子をしていたからな。理由を聞いたら、話してくれた」

 

「………っ、そう、か」

 

「………シドー。私がこの家に厄介になっていた時言った事を覚えているか?」

 

「え……?」

 

士道が訊き返すと、十香が続けてきた。

 

「私と同じような精霊が現れた時は………きっと救ってやって欲しい」

 

「ああ_____」

 

士道は小さく頷いた。それは、よく覚えている。

その言葉に、士道は応と答えた。その気持ちに偽りは無いし、その決意は今も変わらない。

 

「でも、狂三は」

 

「_____変わらない。私と」

 

「え?」

 

十香が士道の背中に顔を押し付けてくる。

 

「………私にはシドーが、セントが、リューガがいてくれた。シドーが私を救ってくれた。シドーやセント達が、私に生きる喜びを与えてくれた。_____でも、狂三には誰もいなかった。私よりもずっと長く、誰からも手を差し伸べられずにいたのだ」

 

痛いくらいに、十香が腕に力を入れる。

 

「もしシドー達がいなくて、私が二ヶ月前のあの状態のまま、ずっとずっと殺意と敵意だけに晒され続けていたなら_____私は、狂三のようになっていたかもしれない」

 

「………それは」

 

言いかけて、言葉を止めた。

今から二ヶ月前の十香は、今では想像もつかない程に荒んでいた。絶望し、憔悴し、疲弊し、心が摩滅する寸前だった。

 

「本当に、もう救いようがない程に狂三が悪い精霊だったなら、私がシドーを守る。シドーが誰かの笑顔を守るなら、私は_____シドーの笑顔を守るだけだ」

 

「え………?」

 

「だから………シドー。お願いだ。狂三のことを、もう一度見てやってくれ。狂三に、もう、人を殺させないでくれ。これ以上、心を擦り減らさせないでくれ………」

 

「…………っ」

 

言われて。士道は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

十香が、続けて言う。

 

「………真那の、事もだ。シドー。…………()()()って事は、()()()()って事だと思うのだ」

 

「え?」

 

急に、十香がそんな話をする。突拍子もなくて、つい間抜けな声が出てしまった。

 

「きなこパンを食べたり、シドーの手料理を食べたり……いや、きっと何もしなくても美味しい。何をしなくても、生きるって事は、それだけで凄く嬉しくて、楽しい事なのだ。ああやって心を押し殺して、擦り減らしていたら………不味くなってしまう。それを、分かって欲しいのだ」

 

「……………っ」

 

______ああ、ようやく理解した。

 

士道は、狂三が人を殺すのがたまらなく嫌だった。

真那が、ライダーの力を振るって、狂三を殺す事が絶対に許容出来なかった。

その輪廻を終わらせる為に、狂三を止めるのだと、そう決意していた。

 

だけど、それには重要なピースが一つ欠けていたのだ。

 

「………ありがとう、十香」

 

「む………ぬ?な、何故だ?私は礼を言われるような事は_____」

 

そう。

狂三にキスをして力を封印しないといけないのに、士道が考えていたのは狂三に殺される人や、真那の事ばかりだったのだ。

あまりにも凄惨な光景を見てしまったがために、『狂三を救う』という当たり前のことが、頭から抜け落ちていたのだ。

確かに、狂三は何人もの人間を殺した。それは、決して許されることではない。

 

でも。

 

十香の力を封印するとき。士道は、心から十香を救おうと思っていた。

 

仮面ライダーに初めて変身した時。士道は、十香達の笑顔を守ろうと心から思った。

 

だから、士道は動き出せた。

 

確かに士道は、人智を超えた回復力と、精霊の力を封印できる力を持っている。

 

だが、戦兎のような頭脳を持っているわけでもなければ、万丈のような体格と筋力を持ったわけでもない普通の男子高校生が、血反吐を吐きながらも手を伸ばすことができたのは、その一心があったからなのだ。

 

狂三を、救う。

 

殺しの連鎖と輪廻に囚われた少女を、救い出す。

 

そして_____真那も。

 

自らの妹だというあの少女にも、もう狂三は殺させない。これ以上、誤った力の使い方をさせない。あれ以上、心を摩滅させはしない。

妄想だろうが。空想だろうが構わない。

 

それが出来ると信じなければ、手を伸ばすことなどできないからだ。

 

そしてそれを現実にするのが______仮面ライダーという、ヒーローのやるべき事なのだ。

 

戦兎達の背中を少しでも追いかけた士道が見つけた、それは一つの答えだった。

 

 

 

 

 




どうでしたか?
今回は他作品の個人的名セリフを織り交ぜてみました。個人的な見解ですが、十香とアギトの翔一くんって、結構似通った点があると思うんですよね。前向きな所とか、ポジティブさとか。いや、二つとも同じようなものか。

それはそれとして、ライダータイム龍騎とシノビ、完結しましたね!

龍騎については…………すごく面白かったんですが、あれをテレビ版のラスト以降の話だと思うと、少し複雑な気分です。描写的に、既にライダーバトルで死んだ世界線の死人のライダー達が集められた感じではありましたが。あと木村ベルデ、とても良いキャラでした。あのキャラを見れただけでも観た価値はあったと思います。

シノビはあれ、もう本気で2022年に本編やるつもりじゃないですか?あんなにラストで続きを匂わせる終わり方して。期待するなって方が無理ですよ!東映さんお願いですからやって下さい!まあやるにしても流石にスーツとかベルトとか諸々変更になるとは思いますが。

あと今後のスピンオフでクイズとキカイ、欲を言えばディケイドをやる事を期待しておきます。………役者さんの負担が…………!

それでは次回、『第27話 チクタク進む危険信号』、をお楽しみに。

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第27話 チクタク進む危険信号

桐生「仮面ライダービルドであり!天っ才物理学者の桐生戦兎は!第三の精霊、時崎狂三と士道のデートを守るため、二人のデートを尾行する!」

万丈「言ってることとやってたことただのストーカーだけどな、俺ら」

桐生「それは言わない約束でしょ。ほら、俺らの知らない間に士道、とんでもないことに巻き込まれてたみたいだし」

万丈「うわ〜、いつぞやの誰かさんみたいに落ち込んでんな、これ。………チラッ」

桐生「おい、なんでこっち見るんだよ」

士道「チラッ」

琴里「チラッ」

十香「チラッ、なのだ」

四糸乃「チラッ……です……」

桐生「お前らもかよ!つかいきなり全員集合で出てくるんじゃないよ。言っとくけど、こんな風には落ち込んでないからな!」

万丈「よく言うぜ。前にお前が…………」

桐生「はいそれじゃあ第27話をどうぞ!(食い気味)」

一同『誤魔化したよ…………』







「令音?真那がどうかしたの?」

 

「………!」

 

フラクシナス艦橋にて。

琴里は艦長席から比較的近い位置に座っていた令音の名を呼び、首を傾げた。令音のディスプレイには、何故か真那の顔が、画面一杯に拡大されていたのだ。

令音も集中していたようで、今ようやく琴里の存在を認識したようだ。

 

「……琴里か。いや、少しね………ああ、そうだ。頼まれていた解析が終わったよ」

 

令音の言葉に、琴里はぴくりと眉を動かした。

先日入手した真那の毛髪と唾液を渡し、令音にDNA鑑定を依頼していたのである。_____真那が、本当に士道の妹であるかどうか。

 

「で…………どうだったの?」

 

「……ん、結果から言って、真那はシンの実の妹と見て間違いない」

 

「っ、そ、そう………」

 

結果を聞き、少し胸の鼓動が早くなる。

予想していなかったわけではないが………やはり、少し胸がざわついた。

 

「本当の妹、か………。そんな子が、どうしてASTに入って、その上ライダーシステムを………」

 

「……いや、少し調べてみたが、正確には違う」

 

琴里の言葉を遮るように、令音が言う。

 

「どういうこと?」

 

「……彼女はもともと自衛隊員ではなく、DEMインダストリーからの出向社員だ」

 

「_____っ、D(デウス)E(エクス)M(マキナ)社………?」

 

DEMインダストリー社。

イギリスに本社を構える世界屈指の大企業であり、ラタトスク母体のアスガルド社を除けば、世界で唯一顕現装置(リアライザ)を製造できる会社である。ASTのみならず、世界中の軍隊や警察に秘密裏に配備されている顕現装置(リアライザ)は、全てこのDEM社製と考えていいだろう。

精霊を狩ることにも非常に積極的であり、ラタトスクとは商売敵と言う事でもある。

無論、同社にはCR-ユニットを扱う魔術師(ウィザード)も在籍しているのだが______その練度は、国内の特殊部隊員を上回ると言われている。

 

「ちょっと待ってよ。余計意味が分からないわ。士道の妹がDEMにいるのも変だし、それにどうしてDEMがライダーシステムなんて持ってるのよ」

 

「……それはまだ分からない。だが………」

 

令音は言葉を切ると、ギリと奥歯を噛み、怒りに震えるように拳を握った。

琴里は眉をひそめた。長い付き合いだが、こんな令音は初めて見る。

 

「一体何があったの?」

 

「……これを見てくれ」

 

言って令音がコンソールを操作すると、そこには真那の写真と、二つの数値が表示された。

 

「この数値は?」

 

「……真那の【ハザードレベル】だ」

 

その単語に、琴里は眉をひそめる。

ハザードレベルという単語は知っている。もちろん、それが何を指すのかも。

戦兎達の元いた世界にあった、ネビュラガスという、スカイウォールから漏れ出したガスに対する、人間の耐久値を示した指標、だったか。

 

「……それがどうしたってのよ」

 

「……念の為、セイにも確認を取ったが………今ここに、【5().()0()】という数値と、【6().()5()】という数値が表示されているだろう?」

 

「ええ」

 

「……本来、人間のハザードレベルの限界値というのは、この5.0が限界らしくてね。その上、一歩でも間違えれば消滅_____即ち、死のリスクすらあると言うんだ」

 

「ッ!」

 

その言葉に、琴里は戦慄した。

ライダーに変身できるとはいえ、そんな危険な状態で、何故真那は平然としていられたのか。

 

「なら……この、6.5、って数は何なのよ」

 

「……それは彼女が、あのドライバーを使用した際に上昇した、ハザードレベルの数値だ」

 

「でも、それっておかしいじゃない……!だって、それならもうとっくに真那は………」

 

「……これを」

 

またも琴里の言葉を遮るように、令音がコンソールを操作してウィンドウを切り替える。そこには、細かな数値が表示されていた。

 

「っ……これは_____」

 

「……ああ、全身に特殊な魔力処置が施されている。彼女の異常な強さと、ハザードレベルの限界を超えている理由はここだ。………消滅のリスクは無いようだが、同時に代償も大きい。……消滅するしないに関わらず、五年…………仮に体内のネビュラガスを浄化したとしても、あと十年ほどしか生きられないだろう」

 

「______っ、何よ、それ______!」

 

琴里は忌々しげに呻いた。

そもそもとして、DEM社製顕現装置(リアライザ)は完璧ではない。未だ演算核(コア)の処理能力が追いついていないため、人間の脳でそれを補わなければならないのだ。

そのための措置として、AST隊員などの顕現装置(リアライザ)使用者には、外科手術で小さな部品を埋め込むことが必要とされている。

 

 

だが______真那の身体は、そんなレベルを遥かに超えていた。

 

 

それこそ、身体の数割が精霊と言っても良い程だ。しかもそれは、顕現装置(リアライザ)制御に関する物だけである。

そこにハザードレベルの上限引き上げや、消滅のリスク回避の為の措置まで施されていたとしたら______それはもう、到底人の身体ではない。

 

「……彼女がどんな決意でこれを受け入れたかはわからない。だが……シンには明かさないほうが……いいだろう」

 

令音が、重々しい口調で言った。

 

「……戦兎は、どんな様子だったのよ」

 

「……怒っていたさ。これまで、見たこともないほどに」

 

琴里はごくりと唾液を飲み込み、唇を噛んだ。

 

 

 

 

「……………」

 

「おい、戦兎?」

 

踏むたびに嫌な音を発する階段を登りながら、戦兎の心境は、これ以上ない憤りと悲しみで覆われていた。

昨日、令音から見せてもらった、崇宮真那に関するデータ…………そのどれもが、目を疑うかのような、非人道的な物だったのだ。それを見た瞬間の戦兎は、酷い様子であったという。

 

あれからしばらく経って、怒りはいくらか収まったが………それでも、この遣る瀬無い気持ちは、胸の中にずっとしこりのように残り続けていた。

 

「………真那の、事か」

 

「…………ああ。……あれが、人のやる事なのか………!?」

 

最早外道という言葉すら生温い。

人道も、正義も、科学者としての矜持も、何もかもを侮辱したとしか思えない、あの、凄惨極まる真那の身体に施された、無数の改造痕。

 

まさしくあの有様こそ_____悪魔の所業、としか言いようがなかった。

 

「………おい、着いたぜ」

 

「………ここか」

 

万丈に言われ、戦兎は前を見る。

今日、学校を休んで戦兎達が訪れていたのは、天宮市の南に位置する廃ビルの一つだった。

今日、学校を休んでまでここに来たのには、理由があった。

 

「………」

 

重々しくドアを開ける。錆びついたドアは剥がれた塗装をパラパラと落としながら、耳障りな音を上げた。

 

 

「_____やあ、待っていたよ。桐生クン、万丈クン」

 

 

そこに、この雰囲気とは場違いな程に明るい声が聞こえてくる。

 

戦兎達が来た屋上に、既に居た者、それは_______

 

 

「____わざわざこんな所に呼び出して、何の用ですか。______神大先生」

 

 

そう。戦兎達の通う、来禅高校に先月やってきた新任教師、神大神魏だった。

今日の朝戦兎と万丈が家を出ると、玄関に、時刻と場所が書かれた紙が貼ってあったのである。

 

「おいあんた!俺たちをここに呼んで、何の用だってんだー!?」

 

「まあまあ、そう急かさないことだよ。今日は君たちに、大事な話があってきたんだからさ。_____()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の君たちにね」

 

『!?』

 

針魏がさも当たり前のように、戦兎たちの正体を言い当てた。

 

「何故それを………!」

 

「知っているさぁ。ライダーシステムの事も、精霊の事も。そして______崇宮真那の事も、よーく、ね……」

 

「ッ!まさか、真那にライダーシステムを渡したのは!」

 

「んー惜しいッ!もう一言ッ!」

 

「……………ッ!!」

 

 

そこで、戦兎の中で全てがつながった。

 

もし、戦兎の仮説が正しいなら______ライダーシステムを渡したどころではない。

 

本当なら………この男が_______

 

 

「________真那に改造手術を施したのも、あんたなのか」

 

 

核心に迫る、その問いを投げかける。

 

針魏は屈託のない笑みを浮かべると、当たり前のように言ってのけた。

 

 

That's Right(その通りさ)!!そう、私だよッ!正解だぁっ!!

 

 

両人差し指を戦兎達に向け、子供のように笑いながらそう言う。

その時、戦兎と万丈の中で、何かが切れた。

 

 

「ッテッ…………メェーーーーーッ!!!!」

 

「この、クソ野郎がぁーーーーーッ!!!」

 

 

ラビット!タンク! BEST MATCH!

 

Wake Up!CROSS-DRAGON!

 

【【Are You Ready?】】

 

 

『変身ッ!!』

 

 

ラビットタンク!!イェーイッ!!

 

Get CROSS-Z DRAGON!! Yeah!!

 

 

怒りのまま変身を終えたビルドとクローズは、針魏へと殴りかかろうとした。

 

「やれやれ、正義のヒーローも短気だねぇ」

 

しかし、その拳は空を切る。

針魏は軽やかな身のこなしで空中ジャンプをすると、鉄柵の上へと立った。

 

「まあ、私の役目は()()()()だしね。このくらいでいいだろう」

 

「ッ、何の事だ………ッ!」

 

と、戦兎が言いかけた瞬間、耳元のインカムから通信が聞こえてくる。

 

『……セイ、バジン。緊急事態だ。来禅高校から、凄まじい霊力反応が検出されている。………狂三だ』

 

「何だと………ッ!」

 

「このタイミングでかよ………ッ!」

 

戦兎はちらりと鉄柵の方を見る。すると、そこにはもう針魏の姿は無かった。

 

「ッ_______クソッ!!」

 

戦兎は踵を返すと、大急ぎで来禅高校へと向かった。

 

 

 

 

「なんだよ、これ…………っ」

 

士道は、辺りを襲った異変に眉をひそめていた。

狂三に会うため、呼び出した屋上へと向かっていたのだが、その途中に周囲が暗くなったかと思うと、全身に途方も無い倦怠感と虚脱感が襲ったのである。

 

「こ、れ、は…………」

 

その場に膝を突きそうになるのをどうにか堪え、姿勢を保つ。

周囲に残っていた生徒たちが、次々と苦しげなうめき声を発し、その場に崩れ落ちていく。あまりにも異様な光景だった。

 

「令音さん、これは………っ!?」

 

『……高校を中心とした一帯に、強力な霊波反応が確認された。この反応は間違いない。狂三の仕業だ。広域結界……範囲内にいる人間を衰弱させる類のものだ』

 

「なんで、そんなことを………」

 

『……それは、本人に訊いた方がいいだろう』

 

確かにその通りだった。

士道は深呼吸をすると、その場から歩き出した。少し動きづらいが、倒れないだけまだマシだ。

 

「あれ……そういえば、俺はなんで………」

 

『……シン、自覚はないかもしれないが、君の体内には十香の霊力が封印されている。加えて、ハザードレベルが上がっていることで、肉体も強化がされている。今の君なら十分動けるだろう』

 

「そう、ですか………」

 

呟くように言ってから、士道はハッと目を見開いた。

先ほど出てきたばかりの扉を開き、叫ぶように声をあげる。

 

「十香ッ!」

 

教室にはまだ十香が残っていたのだ。先に帰るよう言ったのだが、士道が来るまで待つと言って聞かなかったのだ。

 

「おお、シドー……」

 

教室にいた全員が倒れている中、十香だけが頭を抑えながらも声を返してきた。封印されたとは言えやはり精霊。それなりの耐性はあったようだ。

 

「十香、大丈夫か!」

 

「うむ……。だが、どうにも身体が重い……どうしたのだ、これは………」

 

まるで高熱にうなされたかの様な調子でうめき、気だるそうにしている。

 

『……シン』

 

インカムから、令音の呼び声が聞こえた。

 

「っ、十香、ここで休んでろ。すぐに、何とかしてやるからな……!」

 

「シ、ドー………?」

 

「大丈夫だ。俺が_____必ず助ける」

 

士道は十香の頭を軽く撫でてから、意を決して廊下へと出て行った。

 

屋上まで続く道を、重くまとわりつくような空気を割きながら進んでいく。やたらと疲労する手足に鞭打ちながら、どうにか屋上まで続く扉の前まで辿り着いた。

 

扉に、鍵はかかっていない。否、正確にはドアノブの下辺りが、銃で撃ち込まれたかのようにボロボロになっていたのだ。十中八九狂三の仕業だろう。

士道は深呼吸をしてからドアノブを握り、扉を開けた。

 

「く………」

 

顔をしかめる。屋上へ出ても、ドロリとした空気は晴れなかった。否、それどころかもっと強くなった気さえする。

左右に目をやる。背の高いフェンスに囲まれた、殺風景な空間。

 

その、中心部で。

 

 

「________ようこそ。お待ちしておりましたわ、士道さん」

 

狂三がフリルに飾られた霊装の裾を摘み上げ、微かに足を縮めてみせた。

 

 

 




どうでしたか?
いつもより短い上に序盤の展開が少し雑になってしまいました。この回で取り敢えず真那の状況とDEMに触れるのと、針魏との邂逅を書きたかったんだ。申し訳ないです。

と言うわけで、また少し先の話ですが、DEMとの戦いに、戦兎たちは苦しめられることになります。そして神大の、クラウンの目的やいかに!つかクラウン最近出てないな。

それでは次回、『第28話 時を喰う城とキバの目覚め』、をお楽しみに!

………もっと評価くれても、ええんやで?チラッチラッ(露骨な誘導)




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第28話 時を喰う城とキバの目覚め

桐生「謎の男『マッドクラウン』と、謎の物理学者『神大針魏』によって、崇宮真那が改造人間であることを知ってしまった桐生戦兎と万丈龍我。翌日二人は、謎の手紙によって呼び出される。そこにいたのは崇宮真那を改造した張本人、神大針魏だった」

万丈「まさかあの先生が一枚噛んでたとはな………って、腕組みながら考えてる風に言うと頭良さそうに見えるって本当か戦兎?」

桐生「そうやって自ら頭の悪さを公開しないの。こっちも恥ずかしいから」

万丈「うるせえな!いいだろ別に!ほら、なんか知らねえ間に士道達大変な目に遭ってるじゃねえか!」

桐生「うわ本当だ!ていうか今ちらっと見たけど今回文章長えな!ま、まあ取り敢えず、第28話をどうぞ!」





「狂三………お前、一体何をしたんだ!何だよ、この結界は………!」

 

士道は、狂三に問いかけた。狂三はそんな士道の様子が楽しくて仕方ない様子で、さらに笑みを濃くする。

 

「うふふ、素敵でしょう?これは【時喰(ときは)みの城】。私の影を踏んでいる方の『時間』を吸い上げる結界ですわ」

 

「時間を、吸い上げる…………?」

 

士道が怪訝そうに聞くと、狂三はくすくす笑いながら歩み寄り、優雅な仕草で髪をかきあげた。髪で常に隠された左目が、露わになる。

 

「な…………」

 

そこには、無機質な金色の、時計があった。

その上その時計は、おかしなことにその針をくるくると逆方向に回転していたのだ。

 

「ふふ、これはわたくしの『時間』ですの。命______寿命と言った方がよろしいですわね」

 

言いながら、狂三がその場でくるりと回る。

 

「わたくしの()使()は、それはそれは素晴らしい力を持っているのですけれど……その代わりに、ひどく代償が大きいのですわ。一度力を使うたびに、膨大なわたくしの『時間』を喰らっていきますの。だから、時折こうして、外から補充することにしておりますのよ」

 

「な………っ」

 

狂三のその言葉に、士道は戦慄した。

もしそれが本当だとするのなら、今結界内で倒れている人たちは、狂三に残りの寿命を吸い上げられていることになる。

狂三はそんな士道の顔を見て、何故か少し寂しそうにしながら、しかしすぐに凄絶な笑みを浮かべた。

 

「精霊と人間の関係性なんて、そんなものですのよ。皆さん、哀れで可愛い私の餌。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」

 

士道を挑発するように続ける。

 

「ああ_____でも、でも、士道さん。あなただけは別ですわ。あなただけは特別ですわ」

 

「………俺が?」

 

「ええ、ええ。あなたは最高ですわ。あなたと一つになるために、わたくしはこんな所まで来たのですもの」

 

「何だって………?どういうことだ」

 

士道は眉をひそめた。

 

「そのままの意味ですわ。あなたは殺したりなんてしませんわ。それでは意味がありませんもの。______わたくしが、直接あなたを()()()差し上げるのですわ」

 

その『食べる』という表現が言葉通りの意味か、それとも比喩表現かは判別がつかなかったが、士道はその言葉に底冷えた何かを感じた。

しかし、そんなことで怯んでいられない。

 

「俺が目的だっていうなら、俺だけを狙えばいいだろ!なんでこんな______!」

 

士道が叫ぶと、狂三が愉快そうに言葉を続けてくる。

 

「うふふ、そろそろ時間を補充しておかねばなりませんでしたし_____それに」

 

狂三はふっと、鋭い視線で士道を射抜いてきた。

 

「_____あなたを食べる前に、今朝方の発言を取り消していただかないとなりませんもの」

 

「何………?」

 

「ええ。______わたくしを、()()なんて世迷言を」

 

「…………っ」

 

狂三のあまりの視線の冷たさに、士道は息を呑んだ。

『狂三を救う』_______それは士道が、意思表示として狂三に今朝宣言した言葉であった。

 

「______ねえ、士道さん。そんな理由で、こんなことをするわたくしは恐ろしいでしょう?関係のない方々を巻き込む私が憎いでしょう?救う、だなんて言葉をかける相手でない事は明白でしょう?」

 

狂三が、役者のように大仰に手振りをする。

 

「だから、あの言葉を撤回してくださいまし。もう。口にする事はないと。そうすれば、この結界を解いて差し上げても構いませんわよ?元々わたくしの目的は、士道さん一人なのですもの」

 

「な………」

 

目を見開く。その条件はあまりにも簡単だった。あまりにも拍子抜けしすぎて、思わず唖然とした。

 

「きひひ、ひひ。さあ、早く止めなければなりませんわねぇ。急がないと手遅れになってしまう方もいらっしゃるかもしれませんわよォ?それともぉ………変身してでも、止めに来ますかぁ?」

 

狂三が、挑発するように言う。しかし士道は、確固たる意志を持って言い放った。

 

「………俺のこの力は、お前たちと戦うためのものじゃない。お前を、精霊を………救う為にあるんだ」

 

例えどんな事があろうと、捻じ曲げない士道のプライド。

ライダーの力を、精霊と戦うことに使うのは、なによりも士道自身が許さなかった。

 

「……いい台詞ですわ、感動的ですわねぇ。でも………無意味ですわ。あなたが戦うか、言葉を撤回するかしない限り、この結界は解かれませんわよ?」

 

「…………っ」

 

士道は、狂三と目を合わせた。

戦うか、言葉を撤回するか。

間違い無く、後者の方が圧倒的に簡単だろう。たったそれだけで多くの人の命が助かる。何も難しいことはない。

そして、狂三と戦うことは士道の望むところではない。

選択の余地は、無かった。

 

「……結界を、解いてくれ」

 

狂三が、まるで安堵したかの様に息を吐く。

 

「なら、言ってくださいまし。もうわたくしを救うだなんて言わないこと」

 

士道は深呼吸をしてから、言葉を続けた。

 

 

「それは……できない」

 

 

「は_________?」

 

士道が言った瞬間、狂三は今まで見たことがないほど瞼と口を開け、ポカンとした様子を見せた。

 

「あら?あら?あら?聞こえませんでしたの?それを撤回しない限り、私は結界を解きませんわよ?」

 

「……それは解いてくれ、今すぐ。………でも、俺は言葉を撤回しない。一度でもそうしたら…………お前はもう、後戻りできなくなる!」

 

士道は叫び、首を振った。

だって、それを撤回してしまったら、何も変わらない。

伸ばす手も無くなって、狂三も、士道も、もう後戻りできなくなる。

 

「____わたくしは、それを望みました。聞き分けのない方は、嫌いでしてよ…………ッ!」

 

狂三はそう叫ぶと、士道と距離を取り、右手をバッと頭上に掲げる。

 

_____瞬間。

 

 

 

ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ_________

 

 

 

けたたましい音が、街全体に鳴り響いた。

 

「っ、空間震警報…………ッ!?」

 

顔を戦慄に染め、呻く。嫌という程聞き慣れたそれは、空間震の発生を知らせるものであった。

 

まさか狂三は______意図的に空間震を引き起こそうとでもしているのか。

 

そんな事が出来るだなんて、聞いたことがない。

だが、今この状況が、全てを物語っていた。

 

 

「きひ、きひひ、きひひひひひひひひひひッ!さぁさ、どォうしますの?今この場で空間震が起こったら、結界内にいる人々はどうなるでしょうねぇ」

 

「………!」

 

 

言われて、士道は言葉を失った。

今この状態では、避難などできるはずもない。もし空間震が起きた時、どれほどの死者がでるか_______

 

が、そこで。ふと、士道の頭に一つの疑問が浮かんだ。

 

何故、狂三はここまでして士道に言葉を撤回させたいのだろうか。

いくら癪に触ったとはいえ、所詮は言葉一つ。狂三の目的が士道なら、言葉に構わずとっとと煮るなり焼くなり、言葉通り食うなりすればいいだけだ。

それなのに、なぜ、そこまで気にするのか。

 

その疑問が士道の頭を埋め尽くし、士道を自分でも信じられないほど冷静にさせていた。

 

『……シン』

 

と、そこで令音からの通信が聞こえる。

 

『……狂三の精神状態が変化している。まるで君を……恐れているかのような数値だ』

 

「ぇ………?」

 

士道はかすかに眉をひそめ_____そして、すぐに納得した。

 

「ああ_____そう、か」

 

士道は細く息を吐き、狂三を見直した。

怖くて恐ろしくて仕方ない、精霊。

 

だけれど______

 

「_____令音さん、一つ、確認したいんですが」

 

士道は、小声で令音に話しかけた。

 

「_________ても、助かりますかね?」

 

『……?ああ、君の回復能力とハザードレベルなら、余程のことがない限りは大丈夫だと思うが………一体何をするつもりだい?』

 

「そうですか」

 

短く通信を終えると、士道はその場から駆け出し、背の高いフェンスへと向かって登り始めた。そしてその頂上に足をかけ、狂三の方へと顔をやる。

 

「………っ、何のつもりですの?」

 

「おい狂三!お前、確か俺を食べるのが目的とか言ってたよなぁ!?」

 

「え、ええ!そうでしてよ!殺したりしたら、意味がありませんもの」

 

「………そっか!」

 

その一言で、確信を持った。

 

「狂三!今すぐ空間震を止めろ!さもないと______」

 

ビッと、校庭の方を指差す。

 

 

「俺は、ここから落ちて死んでやる!」

 

「は………はぁ…………っ!?」

 

 

狂三が、素っ頓狂な声を上げた。

 

 

 

 

「おいっ、まだ着かねえのかよ!」

 

「もう少しだっ!」

 

ビルドとクローズは、来禅高校までの道を、マシンビルダーで駆け抜けていた。法定速度を無視し、最高速で学校まで向かう。

先程から聞こえている空間震警報と言い、狂三の霊波反応といい、どうも嫌な予感がする。

その予感を胸に押し込めながら、ビルドはひたすらバイクを走らせた。

 

「っ!見えたぞ!」

 

そこでクローズが身を乗り出し正面を指差す。正面方向には確かに、来禅高校が見えていた。この速度であれば、もう目と鼻の先である。

 

「よし!しっかり掴まってろよっ!舌噛むぞ!」

 

「おう______ってぁぁぁぁああぁああッ!?ヒャブッ!?」

 

そこからさらにスピードを上げる。後ろから悲鳴と変な音が聞こえたが、多分風切り音だろう。バイクの速度が速いから、きっと石でも轢いてしまったのだろう。

 

と、心の中で強引に結論付け、なんとか学校まで数メートルの距離まで辿り着いた____その時。

 

「ん?あれ………士道か?」

 

強化されたマスクアイによって、学校の屋上から身を乗り出している士道の姿があった。校庭の方を指差して、何かを叫んでいるようである。

そして、その向こうには狂三が。

 

「っ!何をする気だ、あいつ_______っ!!」

 

士道の性格を知ってしまったが故に、戦兎には士道がきっとまともでない事をやろうとしているのが容易に想像できた。

そして、その悪い予感は的中した。

 

 

_______士道はそのまま、身体をフェンスの向こうへと投げ出したのだった。

 

 

「ッ、士道ッ!?」

 

「あの馬鹿_______ッ!!」

 

困惑した声を上げるクローズをよそに、ビルドはバイクに乗ったまま、校舎の壁へと走らせ、そして壁を走っていった。

そしてさらに、信じられない光景を目にする。

 

「っ!何……………!?」

 

士道の身体は、地面に落下しなかった。

 

______校舎の壁の影から、狂三が上半身を現して士道を抱きとめていたからだ。

 

 

 

 

「あー……」

 

狂三によって救出され、乱雑に屋上へと放られた士道は、大きく息を吐いた。

 

「死ぬかと思った……」

 

「あっ………たり前ですわ………ッ!」

 

すると狂三が、興奮した様子で声を荒げてきた。

 

「信じられませんわ!何を考えていますの!?私がいなかったら、本当に死んでいましたわよ!?」

 

「あー……その、なんだ。ありがとう」

 

士道はその場に立ち上がると、狂三に向かって声をあげる。

 

「狂三。お前、なんで俺を助けてくれたんだ?」

 

「…………っ、それは_____あなたに死なれると、わたくしの目的が達せなくなるから…………」

 

「そっか。てことは、やっぱ俺には人質としての価値があるって事だな」

 

「………っ」

 

士道は、狂三にビッと指を突きつけた。

 

「さーて!じゃあ空間震を止めてもらおうか!ついでにこの結界も解除してもらう!さもないと今度は舌を噛み切って死ぬぞ!」

 

「そ、そんな脅しが______」

 

「脅しと思うか?」

 

「ぐっ…………」

 

狂三は一瞬悔しげな顔を作った後、パチンと指を鳴らした。瞬間、あたりに響いていた耳鳴りのような音と、重い空気が消えていった。

 

「ま、まあ、構いませんわ。私の狙いはもとより士道さんだけですもの。何も問題ありませんわ。何も問題ありませんわっ!」

 

狂三が自分に言い聞かせるように言うと、バッと両手を開いて士道の方を向いた。

だが、ここで終わりじゃない。

 

「じゃあもう一つ_____聞いてもらおうか」

 

「こ、この期に及んでまだありますの………っ!?」

 

狂三が困惑したように言う。

 

「ああ。____一度でいい。狂三。お前に一度だけ、やり直す機会を与えさせてくれないか」

 

「え………?」

 

狂三が驚いたように目を見開く。

 

「まだそれを言いますの?いい加減にしてくださいまし。ありがた迷惑でしてよ。私は殺すのも殺されるのも、大ッ好きですの!あなたにとやかく言われる筋合いはありませんわ!」

 

士道を拒絶するように狂三が叫んでいる。

しかし間髪入れずに、士道が言葉を続ける。

 

「狂三、お前さ。誰も殺さず、命を狙われずに生活した事って………あるか?」

 

「………っ、それは………」

 

「だったら分かんねえだろ。殺して殺されるだけの生活がいいだなんて。もしかしたら、そんな穏やかな暮らしを、お前も好きになれるかも知れねえじゃねえか………っ!」

 

「でも、そんなこと_____」

 

「できるんだよ!俺になら!」

 

士道が叫ぶと、狂三は気圧されたように息を詰まらせた。

 

「お前がやってきたことは許されることじゃねえよ。一生かけて償わなきゃならねえ!でもな………ッ!お前がどんなに間違っていようが、狂三!それは俺がお前を救っちゃいけない理由にはならないッ!」

 

「っ______」

 

狂三が、数歩後ずさった。

そして、困惑したように言う。

 

「どうして、ですの…………どうして、私に、そこまで…………」

 

「俺がそうしたいからだ。______誰かが苦しんでて、手が届く距離にいるのに、手を伸ばさなかったら、きっと死ぬほど後悔する。だから手を伸ばすんだ。それは狂三、お前だって同じだ!」

 

そう言って、士道は手を伸ばす。

 

「わ、わたくし……わたくしは…………」

 

狂三が混乱したように目をぐるぐると泳がせ、声を発する。

 

「士道さん、わたくしは…………本当に…………っ______」

 

と_____狂三が何かを言おうとした瞬間。

 

 

 

______駄目だろぅ?お嬢さん。そぉーんな甘い言葉に惑わされちゃあよぉ〜

 

 

 

何処からともなく、そんな声が響いた。

 

「ぎ…………ッ!?」

 

すると、前方に立っていた狂三が、奇妙な声を喉から漏らした。

 

「狂三…………?」

 

士道がそちらに目をやった、その瞬間。

 

 

「ぃ、あ、ぁ…………」

 

 

狂三が、前方にばたりと倒れた。

 

「え…………」

 

「士、道、さん……………」

 

そして、そのまま狂三の身体が紫色に変色したかと思うと、黒い粒子と化して消滅した。

よくよく目を凝らすと、狂三の背中があった場所には、黄色い針がついた関節が伸びている。

 

_____これでいいのかい?お嬢さんよぉ

 

 

「_____ええ、わざわざ手を煩わせてしまい、申し訳ありませんわ」

 

 

「な……………」

 

士道は、戦慄した。身体が、動かなかった。

だって、今しがた消滅した狂三の後ろに立っていたのは。

 

「あら、あら。如何致しましたの、士道さん?顔色が優れないようですけれど」

 

 

_______時崎狂三、その人だったのだから。

 

 

「く、るみ………?それに、マッド、クラウン…………は?なんで………」

 

 

士道は、新たに現れた狂三と、その隣で立っているクラウンを交互に見やって、混乱に満ちた声を漏らした。

 

それは、間違いなく狂三であった。顔も、声も、姿形も、今までと同じだ。

 

ただその表情は_____今までと違う、余裕に満ちた妖しい微笑であった。

 

「まったく、あの子にも困ったものですわね。_____まだ、()()()()()()()()は若すぎたのかもしれませんわね」

 

「な、何、が………」

 

起こって、いるのだろうか。

意味が分からない。思考が、目の前の光景に追いつかない。

 

「さあ、さあ。もう間怠っこしいのはやめにいたしましょう」

 

狂三がそう言うと、士道の足元から手が生え、両足をがっちりとホールドした。

 

「うわっ…………!?」

 

「「士道!」」

 

その時、向こうから声が聞こえ、同時にバイクの走行音が聞こえる。

ビルドとクローズに変身した、戦兎と万丈だ。

 

「戦兎、万丈……………ッ!!」

 

「あらあら。お邪魔が入りましたわね。_____クラウンさん、申し訳ありませんが……」

 

へぇへぇ。分かりましたよお嬢さん………と、言うわけだ。悪いな、二人とも

 

「ッ、マッドクラウン………ッ!」

 

「やっぱりてめえも一枚噛んでやがったかッ!!」

 

クラウンが狂三の指示を受け、ビルドとクローズへと迫る。

その間にも、士道の目の前には狂三が迫ってきていた。

 

「あなたの力……… いただきますわよ、士道さん」

 

言いながら狂三が、士道に右手を伸ばしてくる。

そして、ひんやりと冷たい手が士道の頬を撫でた瞬間。

 

「ぎ………っ」

 

狂三が、そんな声を発した。

天から光線が降ってきたかと思うと、士道に触れていた狂三の右手が落とされ、地面へと落ちたのである。

 

「_____あら、あら」

 

痛みに耐えるように眉をひそめながら、狂三は後方へ飛び退く。

そして次の瞬間に、士道と狂三の間にもう一人の人間が立っているのが確認できた。

 

「真那………!」

 

「_____あぶねーところでしたね」

 

手に何か光剣のような武器を持ち、ワイヤリングスーツを装着した真那が、ちらりと士道の方を向いた。そして、その向こうにいる、ビルドとクローズ、そしてクラウンの姿を認識する。

 

「…………色々言いてえことはありますが、後回しです。取り敢えず、今はこいつを」

 

そして、真那は懐からベルト____【リバースドライバー】を取り出すと、腰にあてがった。

そして取り出した、【ウルフオルタナティブフルボトル】を振り、ドライバーに装填する。

 

 

WOLF ALTERNATIVE

 

 

「______変身」

 

 

ABSORB CHANGE

 

その音声とともに、真那の周囲にフラスコ瓶状の【ボトルリバーストランサー】が展開され、内部成分が()()()()という人間の細胞を作り変え、アーマーを形成する。

 

 

WOLF IN DEMOLISH

 

 

仮面ライダーデモリッシュへの変身を終えた真那は、その青く鋭い複眼でもって狂三を睨みつけた。手に持った光刃____【デュアルスレイヤー】を持ち直す。

 

「随分と派手にやってくれやがったようですね、ナイトメア」

 

「____く、ひひ、ひひ、いつもながら、流石ですわね。わたくしの【神威霊装・三番(エロヒム)】をこうも簡単に斬り裂かれるなんて。しかも、未変身の状態で」

 

「悪りーですが、そんな霊装は私の前では無意味。大人しく______」

 

と、真那が言いかけたところで、狂三が大仰に手を挙げ、その場でくるりと旋回した。

 

そして、ステップを踏むように両足を地面に打ち付ける。

 

 

「さあ、さあ、御出でなさい_______【刻々帝(ザアアアアアフキエエエエエル)】ッ!!」

 

 

 

瞬間_____狂三の背後から、ゆっくりと、巨大な時計が現れた。

狂三の身の丈の倍はあろうかという、巨大な文字盤だ。

 

「あれは…………っ!」

 

「なんだよ、あのバカでけえ時計!」

 

おっ!とぉーうとうおっぱじめたなぁ?お嬢さん

 

遠くで交戦していたビルドとクローズからは驚きの声が、そしてクラウンからは驚嘆したような声が上がった。

 

「これは…………天使…………っ!?」

 

「うふふ………」

 

狂三が笑うと、巨大な時計の文字盤から、短針の役割を担っていた銃が外れ、狂三の手に収まった。

 

 

「【刻々帝(ザフキエル)】_______【四の弾(ダレット)】」

 

 

狂三がそう唱えると、時計に刻まれた【Ⅳ】の数字が、じわりと影のようなものを出し、狂三の短銃の銃口へと吸い込まれた。

 

「な…………」

 

真那の怪訝そうな声が、士道の耳に届く。マスクの下で真那の顔を窺い知ることはできなかったが、おそらく士道と同じような顔になっていることだろう。

 

狂三が、左手に持った銃の銃口を、自分の顎に押し当てていたのである。

 

「一体何を_____」

 

真那の言葉の途中で、狂三はニヤッと笑って躊躇いなく引き金を引いた。

 

ドン!と言う音ともに狂三の頭が揺れる。誰がどう見たって自殺にしか見えない、その光景。

 

しかし、次の瞬間。

 

 

「は…………?」

 

 

士道は、途方もない阿呆面を自らが晒しているのがわかった。

だが無理もあるまい。何故なら狂三が銃で自らを撃った瞬間、地面に転がっていた狂三の右手が、まるで映像を巻き戻したかのように宙へ浮き上がり、狂三の元へ飛んで行ったのである。

そしてその右手はそのまま狂三の右腕に触れると、まるで何事もなかったかのように綺麗に復元された。

 

「うふふ、良い子ですわ、刻々帝(ザフキエル)

 

「嘘……だろ……ぐわッ!」

 

余所見をする暇があるのかぁ?

 

ビルドからも驚きの声が上がるが、クラウンの攻撃に遮られる。士道がビルドとクローズの方を見ると、二人はクラウンと彼が呼び出したと思しきリキッドスマッシュ数体相手に、苦戦している様子だった。

 

「_____ああ、ああ。真那さん、真那さん。今日ばかりは、勝たせていただきますわ」

 

言いながら、狂三が右手を高く掲げ、刻々帝(ザフキエル)に残っていた長針に当たる歩兵銃を持ち、構えた。

 

_____まるで、時間を示すかのように。

 

「さあ、さあ。始めましょう。破壊と殺戮の行進(パジェント)を」

 

「_____ふん、上等です。またいつものように殺してやりましょう」

 

真那は言うと、すぐさまドライバーに手をかけ、狂三に向かって走り出した。レバーを操作し、エネルギーを充填する。

 

「ふ……ッ!」

 

その勢いのまま、狂三へとボレーキックを繰り出した。

 

 

STAND BY DEMOLISHON FINISH

 

 

_______しかし、その攻撃が当たる事はなかった。

 

 

「【刻々帝(ザフキエル)】______【一の弾(アレフ)】」

 

狂三が左手の短銃を掲げ、先ほどと同じように影を集める。そしてその銃口を自分の顎にあて、引き金を引いた。

 

瞬間。

 

「ぐ…………ッ!?」

 

その場から狂三の姿が消え、それと同時に真那が横へと吹き飛ばされた。

 

「あッはははははははははははははッ!!見・え・ま・せんでしたかしらァ!?」

 

「っ、この_________!」

 

真那は攻撃を中止、空中で方向転換すると、虚空を蹴るように狂三の方へと猛進した。

だが狂三の身体がまた霞のように消え去ると、次の瞬間には真那の後方に出てその背に踵を振り下ろす。

 

「あめー、ですね………ッ!」

 

しかしその攻撃は、途中で止まった。恐らくは随意領域(テリトリー)で狂三を捉えたのだろう。

 

 

STAND BY WOLF BREAK

 

 

そしてすかさずドライバーからボトルを抜き、デュアルスレイヤーに挿す。そして技を放ち、狂三の脇腹を両断するように滑らせた。だが狂三はすんでのところで身をかわすと、給水塔の上に着地した。

 

「ふふッ!さすがですわっ!もう()()()()()()()()わたくしの動きに対応するだなんて!」

 

「ふん……確かに面白えですが、あいにくと私には相性が悪ーんじゃねーですか?随意領域(テリトリー)を持つこっちは、知覚さえすれば貴様の動きを捉えられます。その上このライダーシステム______勝負は明白です」

 

「ああ、ああ、そうでしたわねぇ。じゃあ______」

 

再び、狂三が目にも留まらぬスピードで真那に向かっていく。

 

 

「【刻々帝(ザフキエル)】______【七の弾(ザイン)】!!」

 

 

次の瞬間、文字盤の【Ⅶ】から滲み出した影が歩兵銃へと吸い込まれ、その銃口を即座に真那に向けて放つ。

 

「ふん、無駄と言っているでしょう………ッ!」

 

随意領域(テリトリー)に加え、ライダーシステムの恩恵を受けた真那にその程度の銃弾が通るわけがない。

だが_____

 

「な…………!?」

 

士道は、呆然と声を発した。

 

_____真那の身体が、空中に飛び立った状態で完全に静止していたのである。

 

「真那ッ!!」

 

呼びかけるが、真那は動かない。反応も示さない。まるで、その場で真那の()()()()()()()ように。

 

「くそっ、何が起きやがった!?」

 

おーおー!やる事が派手だねぇ!

 

クローズとクラウンから声が発されるが、当然それにも真那は反応を示さない。

 

「あァ、はァ」

 

狂三が笑い、真那の身体_____否、アーマーの構造上脆い箇所に何発も銃弾を撃ち込んでいく。

狂三が握っているのは、どれも単発式の古式銃だ。しかし狂三の足元から滲み出た影が、矢継ぎ早に銃口へと弾となって装填されていったのだ。

そして数秒の後、狂三が地面に降り立つ。それと同時に、

 

「が_____ああぁあっ!?………ぁっ………」

 

その身に何発もの弾丸を受けた真那が、全身から血を、アーマーから火花を散らして地面に落ちていった。

 

「きひひひひひひひひひ!あぁらあら、どうかしましたのォ?」

 

「今の、は……………クソ______」

 

「真那!」

 

士道が叫ぶと、真那はそれに構わずに立ち上がった。

 

「まだ………です______私は、あいつを、殺さなきゃいけねーんです。あいつを、殺さなきゃ_______その為なら______私の命なんて________」

 

そんな言葉を言うと、真那は手元から何か、()()()()()を取り出した。

 

「ッ、真那!何をするつもりだ!」

 

「兄、様は______離れやがってください………私にも、どうなるか分かりませんから…………」

 

そう言うと、真那はドライバーに、その黒いボトルを躊躇い無く差し込んだ。

そして、右側部のハンドルレバー、【アブソーブチャージャー】を操作する。

 

 

 

 

 

OVER FLOW

 

 

 

 

 

瞬間、真那の肉体に電流が走った。

 

 

「ッ!ガァァァァアアァァァアァアアアアアッッッ!!!???」

 

 

「ッ!?真那ッ!!」

 

尋常ならざる叫びとともに、真那の肉体から電流が迸る。

 

「っ、真那!」

 

ッ!フッ、フハハハハハハハハハッ!!

 

すると、ビルド達と交戦中だったクラウンが突如として高笑いをはじめ、大仰に手を振りかざす。

 

 

つぃにぃ〜ッ!遂に遂に遂にぃぃぃーーッ!!覚醒したかァッ!!

 

 

その声がこだまするのと、真那のアーマーが砕けたのはほぼ同時だった。

 

「ッ!なんだよ、それ…………っ!」

 

そして次の瞬間、士道は戦慄した。

 

何しろアーマーの下の真那の肉体は、身体のあちこちが金属や機械のようになり、まるでSF映画のアンドロイドがもっと生物的になったような_______強いて言うならば、()b()()()()()()()()/()b()》のような肉体となっていたのだから。

 

「アァッ!アァ、ァガァァァァアアアアッ!!」

 

さらにその肉体が、どんどんと変化していく。全身から黒と白の煙を噴き出させ、生々しくその肉体が変化していく。

 

「ッ、テメエッ!アイツに何しやがったァッ!!」

 

クローズが怒り狂ったようにクラウンへと駆けるが、その進行はリキッドスマッシュによって阻まれる。

 

「何が、起きていますの………?」

 

この現象は狂三ですら知らなかったらしい。先ほどまで余裕だった表情が少し崩れ、混乱を隠しきれない様子になっている。

 

 

よぉーく見てなぁッ!遂にご開帳だぁ………ッ!!

 

 

そして、クラウンがそう高らかに放った瞬間。

 

 

「アガゥッ…………ぁッ……………」

 

 

______真那の肉体が、完全に変化を遂げた。

 

 

細身の全身から刃が生えたかのような、鋭利な体躯。

 

まるで狼をさらに凶暴にしたかのような、鋭い眼光。

 

 

腰に巻かれたドライバーをそのままに、そこには、崇宮真那ではない()()が、存在していた。

 

「な、んだよ…………あれ…………!!」

 

士道が、震えた声でそう呟く。

その呟きに答えるかのように、クラウンが高らかに言い放った。

 

 

記念すべき第一号だ、崇宮真那_______いぃやっ!!ファングオーバースマッシュゥッ!!!

 

 

物言わぬ、その真那だったものは、ゆらりとその顔を上げた。

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?
今回はタイトル回収をしようとしたら自然と文章量が多くなってしまいました。そのためまた誤字とか矛盾とかがあるかもしれませんが、感想欄や誤字報告で伝えてくださると幸いです。

そして真那がスマッシュと化しましたが______安心して下さい!ちゃんと生存しますよ!(読者の不安を消してくれる作者の鏡にしてネタバレを食らわす人間の屑)

そして、次回、クローズが遂に…………?

それでは、『第29話 物言わぬ牙と溢れるチャージ』、をお楽しみに!

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第29話 物言わぬ牙と溢れるチャージ

桐生「時崎狂三を止めるため、そして救うために、士道は、狂三の元へと向かう。しかし、そこで待ち受けていた結末は____狂三がクラウンに殺され、クラウンは狂三と手を組んでいたと言う真実だった………!」

万丈「おいややこしいぞその説明!さっぱりわかんねえよ!」

桐生「いやだって俺もどう説明すりゃいいかわかんねえよ!いまあらすじ紹介の原稿渡されて戸惑ってるんだから!」

十香「セント!狂三がやられたとはどういう事なのだ!?」

桐生「だから俺に聞くなっての!ほら!知らない間に真那が大変なことになってっから!尺も無いし、早く本編に行って!第29話、どうぞ!」



さぁ________行け、ファングオーバースマッシュ

 

 

『_______Y_____s_______ir_______』

 

 

 クラウンのその呼び声に、聞き取れない声で呼応した真那_____ファングオーバースマッシュは、そのままビルド達へと襲いかかった。

 

「ぐあッ!おい、どうしたんだ真那ッ!!」

 

 ビルドが懸命に訴えかけるも、真那は何の反応も示さない。ただ牙を振るい、爪を振るい、持てる破壊の力を全て相手へとぶつけていた。

 

さてと。あとはこいつに任せて、俺はお暇しようかねぇ

 

 するとクラウンが、間の抜けた様子で銃を取り出した。

 

「ッ、待て!」

 

待たない☆バァーイナラァ

 

 そう言うと、クラウンはまたも溶けるようにいなくなった。

 士道が歯噛みするも、その後ろでは依然、ビルドとクローズが、ファングオーバースマッシュを止めようと必死だった。

 

「やめろ、真那ッ!!」

 

 士道が堪らずそこへ飛び出す。リビルドライバーを装着し、アライブガルーダとスピリットボトルを握る。

 

 

Get Up!ALIVE-SPIRIT! Are You Ready?

 

 

「変身ッ!」

 

 

Dead Or ALIVE-SPIRIT!!イェーイッ!!

 

 

 アライブへの変身が完了すると同時に、ファングオーバースマッシュを羽交い締めにする。

 

「やめろ!どうしちまったんだ真那ッ!おい、真那ッ!!」

 

『_______A_______d_____te』

 

 しかし目の前のファングオーバースマッシュは、短く断片的な単語を口にするだけだった。

 アライブの拘束を解除し、すぐさま連続攻撃を決めてくる。

 

「ぐはぁッ!!ぐぅっ…………」

 

 扉の方向へ吹き飛ばされ、地面に膝をつく。

 と、そこでアライブの後方から、バン!と扉を開け放つ音が響き______

 

「シドー!」

 

「_____士道」

 

 士道を呼ぶ声が二つ、屋上に現れた。

 

「十香、折紙………!?」

 

 振り向き、名を呼ぶ。

 なぜ結界内で動けたのかと思ったが、十香は霊装を、折紙はワイヤリングスーツを身に纏っていた。

 そしてアライブの姿を見た瞬間、折紙が怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「………士道?どうして、あなたが…………」

 

 折紙は士道がライダーになっている事に、戸惑っているようだった。しかし、それも無理からぬだろう。折紙は士道の変身した場面を見ておらず、アライブに関しても要注意対象となった、三人目のライダーという認識でしかなかった。

 そのライダーに、自らが大事と思っている士道が変身していたら、混乱もするだろう。

 

「話は後だ………とにかく、今は………」

 

 と、士道が言ったところで、二人とも目の前にいたファングオーバースマッシュと、交戦状態にあるビルドとクローズに気がついたようだった。

 

「な、なんなのだアレは………」

 

「アンノウン……………なら」

 

 十香は戸惑いながら眉をひそめ、折紙はスマッシュ目掛けて攻撃を仕掛けようとした。

 それをアライブが、慌てて制止する。

 

「ッ!やめろ折紙!あれは真那なんだ!!」

 

「っ………どういう事?」

 

 折紙が聞き返した後、すぐに別の笑い声が聞こえてくる。

 

「あら、あら、あら。皆さんお揃いで」

 

 先程から静観をしていた狂三だ。十香と折紙が、ほぼ同時に口を開く。

 

「狂三…………!いきなり逃げたと思ったら、こんなところにいたか!」

 

「あなたの行動は不可解。一体何の真似」

 

「えっ?」

 

 アライブはマスクの下で眉をひそめた。一体二人は何を言っているのだ。

 

「狂三が邪魔をしに現れたのだが………先ほどの爆発の後、どこかへ逃げていったのだ」

 

「それはおかしい。時崎狂三は、私と交戦していた」

 

「何だと?」

 

 二人が噛み合っていない様子で話をする。しかしすぐに首を振ると、二人揃って狂三に視線を向けた。

 

「……残念だ、狂三。だがお前がシドー達に危害を加えようとする以上、容赦はしないぞ」

 

「一部にだけ同意する」

 

 狂三が、またも楽しげに身体を回転させた。

 

「うふふ、ふふ。ああ、ああ。怖いですわ、恐ろしいですわ。こんなにもか弱いわたくしを相手に、こんな多勢で襲いかかろうだなんて」

 

 微塵もそんな事は思っていない様子で、くすくす、くすくすと笑う。

 

「シドー!ここは私たちに任せろ!」

 

「あなたは早く、崇宮真那を」

 

「お前ら………でも……」

 

「いいから早くッ!」

 

 十香が強く念押しする。その声に後押しされ、アライブは立ち上がり、翻った。

 

「すまない………頼むッ!」

 

 アライブはそのまま、暴れ続けるファングオーバースマッシュへと向かった。

 

「あら、あら。士道さんが行ってしまわれましたか。残念ですわ」

 

「大人しく観念しろ!狂三!」

 

「これ以上抵抗するなら、容赦なく破壊する」

 

 十香が鏖殺公(サンダルフォン)を、折紙がレイザーブレードを向け狂三に言う。

 

「あらあら、怖いですわね______でも、今日はわたくしも、本気ですの」

 

 そう言うと、狂三は後ろを向いた。

 

 

 

「______ねえ、そうでしょう?()()()()()()

 

 

 

『な…………っ!?』

 

 

 その瞬間、屋上を覆っていた狂三の影から_______無数の狂三が、姿を現した。

 

 

 ◆

 

 

「はぁぁぁーーッ!!」

 

 ファングオーバースマッシュの元へと戻り、交戦を続けるアライブ、ビルド、クローズ。

 ビルドは【ニンジャガトリング】フォームとなり、四コマ忍法刀とホークガトリンガーによる近遠距離攻撃を仕掛けている。

 クローズはビートクローザーで攻撃し、アライブは肉弾戦で戦っていた。

 

 だが。

 

『_______A________!!!』

 

 ファングオーバースマッシュの、右拳がビルドの胸を打ち据え。

 

 脚がクローズの腹を蹴り。

 

 左爪がアライブの顔面を引っ掻いた。

 

「ぐあッ!!」

 

「ガハッ………!」

 

「ぐッ………!」

 

 三人揃って、距離を取ってしまう。そしてクローズはその一撃が決定打となってしまったのか、壁に激突して変身が解除されてしまった。

 

「クッ、ソ……………」

 

「万丈!くぅっ………!」

 

 ビルドが万丈を見やるも、立て続けに繰り出される攻撃に、倒れた万丈を気遣う余裕がない。攻撃を仕掛けようにも相手からの追撃が激しく、防御か回避に徹する他手段が無くなっていたのだ。

 

「オーリャァーーッ!!」

 

 そこで、アライブから大声が出た。

 見ると、オーバースマッシュの背中を狙って、炎のエネルギーを纏った拳が繰り出されようとしている。今のうちに、少しでもダメージを与えようとしているのだろう。

 

 あと数センチの距離まで、その拳が届きそうになった、その時。

 

 

『____兄______様________ッ!』

 

 

「ッ!」

 

 アライブの脳裏に、助けを乞うかのような、真那の悲痛な声が響いた。

 その瞬間、アライブの拳が止まる。

 

『______Ga______a______』

 

 その隙に、オーバースマッシュがビルドの防御をかわし、後ろにいたアライブを殴り付ける。

 

「ガハッ………!」

 

 そのまま後方へと吹き飛ばされるアライブ。

 

「どう、して…………」

 

 そんな呟きが、ふと漏れる。

 

 本当は、分かっているのだ。

 

 

 ______自分に、アレを倒すことはできないと。

 

 

 何せ相手は姿形が変わったとはいえ、真那だ。

 自分を兄と慕い、悲しすぎる宿命を背負わされてしまった、救わなければならない相手なのだ。

 

 そんな相手に、必殺の拳を放つなど______アライブには、士道には出来なかった。

 

 

 ◆

 

 

「士道!くそっ…………」

 

 ビルドは先の攻撃によって吹き飛ばされたものの、なんとか立ち上がり、オーバースマッシュへと攻撃を続ける。

 しかしその攻撃を相手は物ともせず、そのまま淡々と攻撃を続ける。

 

「グハァッ!ぐッ…………」

 

 鳩尾に攻撃をくらいかけるも、どうにか防ぐ。しかし衝撃までは殺しきれず、アーマー越しに多大な負荷が戦兎の肉体を襲う。

 

「くそっ、どうすればいい…………」

 

 攻撃を受け止めながら、ビルドは必死に考える。この状況を打開する策を。

 

 相手は真那なのだから、殺してはならない。ならば殺さずに、動きを止める方法。

 

 ______動きを、止める?

 

「!…………そういえば、さっきからの攻撃といい、淡々としている感じといい…………」

 

 

 ______似ている。ハザードフォームと。

 

 

 ハザードフォーム。

 

 

 ビルドドライバーに機能拡張用強化アイテム、【ハザードトリガー】を挿し込むことで変身可能になる、ビルドの形態の一つだ。

 そのスペックはラビットタンクスパークリングをも上回り、能力の高さには息を呑むものがある。

 

 

 しかし、そのフォームには致命的な欠点が一つ、備わっていた。

 

 

 それはトリガーに装填された万能強化剤、【プログレスヴェイパー】が装着者の身体を侵食し、戦闘開始後一定時間が経過することで、脳が負担に耐えきれなくなり自我の一切を失うという物だ。

 

 その状態になった瞬間、目に映るもの全てを敵とみなし、周りに居るもの全てを破壊し尽くす殺戮マシーンと化してしまうのだ。

 

 事実その機能によって戦兎はかつての仲間、猿渡一海をカシラと慕っていた_____青羽を殺めてしまっている。

 

 二度とその悲劇を生まぬよう、その後戦兎は制御装置を開発することになるのだが、ここで本題となるのは前述にあったデメリット、【()()()()()()()()()()()()()()()()()】、という点だ。

 

 今の真那の暴走ぶりは、まさしくハザードフォームの暴走状態そのものと言っても過言では無い。目に映るもの全てを破壊対象と認識し、ただ淡々と敵を倒す感じになっている。

 

 そしてハザードトリガーは、本体を攻撃することでその動きを停止することができた。つまり______

 

 

「そうかッ!______士道、万丈ッ!!」

 

 

 一つの結論に至ったビルドは、二人に聞こえるように大声を出す。

 

 

()()()()()だ!ドライバーを狙え!そうすれば、少なくとも動きは止まる筈だ!」

 

 

 そう。ビルドが出した結論。

 それは本体を狙うのでは無く、その腰に巻かれたままのドライバーを狙うと言うものだった。

 

 もし仮に今の状態がドライバー_____もっと言うなら、先ほど装填したあの黒いボトルによるものだとしたら、ドライバー本体を破壊すれば、その機能を停止できるのではと踏んだのである。

 

 無論、リスクが無いわけではない。しかし今の状態では、それ以外に正解が考えられなかった。

 

 アライブと万丈も納得したように、立ち上がって頷いた。

 

「分かった!」

 

ALIVE LASTER!!

 

SLASH VERSION!!

 

 アライブはそう返事をし、専用武器であるアライブラスターをブレードモードで呼び出す。そのままオーバースマッシュへと進んでいった。

 

 そして、万丈は______

 

 

「………分かった。戦兎ォッ!!」

 

 

 威勢良くビルドを呼びかけると万丈は、懐から()()を取り出した。

 

「これ、使わせて貰うぞッ!」

 

「ッ!………ああッ!!」

 

 ビルドからの返事が返ってくると、万丈はソレを、腰に巻きつけた。

 

 

 

 

スクラァァッシュドォライバァー!!

 

 

 

 それは、戦兎が先日修理を終えた、万丈のもう一つのドライバー_____【スクラッシュドライバー】だった。

 今日、家を出る前に戦兎から託されたものである。かつての戦いによって破損状態だったものを、戦兎が修理したものだ。

 

 そして万丈は取り出したゼリーパック状のアイテム_____【ドラゴンスクラッシュゼリー】を、スクラッシュドライバーへとセットした。

 

 

 ドラゴンジュゥエリィー!!

 

 

 やたら威勢のいい音とともに、蒸気のような待機音声が鳴り響く。万丈はファイティングポーズを取ると、勢いよくドライバーの【アクティベイトレンチ】を押し下げた。

 

 

 「変身ッ!!」

 

 

 レンチが押されると同時に、容器が()()、内部のスクラッシュゼリーがドライバー右側の【ゼリータンク】に()()()。瞬間、万丈の周囲にビーカー状の小型ファクトリーが形成され、ゼリー状の物質で内部を満たした。

 

 

 潰れるゥッ!流れるゥッ!!溢れ出るゥッ!!!

 

 

 音声とともに、内部成分が【CXCエンハンスメントスーツ】を生成する。

 そして、頭部からゼリー状の物質、【ヴァリュアブルゼリー】が()()()()

 

 

 ドラゴン・イン・クロォーズチャァージィィッ!!ブルルルルゥゥゥラァァァアッ!!!

 

 

 溢れ出た成分が、スーツの上から半透明な水色のアーマーである【CZCヴァリュアブルチェストアーマー】、ゼリーパック状の肩アーマーである【ドラゴパックショルダー】などの装甲、【クロスアーマー】を生成した。

 

 

 「今の俺は______負ける気がしねぇッ!!」

 

 

 ______仮面ライダークローズチャージ。

 

 クローズの強化形態たるライダーが、再び降り立った瞬間だった。

 

 

ツインブレイカァーッ!

 

 変身を終えたクローズチャージは、右手に専用武器であるツインブレイカーを出現させ、ファングオーバースマッシュへと向かっていった。

 

「オラ!オリャァッ!!」

 

『______G______a______!?』

 

 先程までとは戦闘力の違うクローズに、僅かに戸惑う様子を見せるオーバースマッシュ。そんな様子に構わず、クローズはドライバーを狙いながらも動きを止めるため、オーバースマッシュへと攻撃を仕掛けていった。

 

「はぁッ!」

 

「オリャァッ!」

 

 そこで、ビルドとアライブも加勢に入る。攻撃は防がれるも、ビルドとアライブは必死に声を出した。

 

「待ってろ…………ッ!」

 

「真那………っ!絶対に助け出す!」

 

『ッ!______A_______Lll(助_____けて)!!!』

 

 オーバースマッシュは先ほどとは違う、どこか懇願するかのような声を上げ、ビルドとアライブの攻撃を退けた。

 しかし。

 

「ッ、今だ、万丈!」

 

 ビルドが声をかけると同時に、クローズチャージがツインブレイカーにクローズドラゴンを装填する。

 

 

レディグォォッ!!

 

 

 音声と共に、クローズチャージの後ろにクローズドラゴン・ブレイズが出現する。そのエネルギーを溜めたまま、クローズチャージはツインブレイカーの【レイジングパイル】を突き出した。

 

 

レェェェッツブゥレイクゥゥッ!!

 

 

「オーーーーリャァァァアアッ!!」

 

『ッ!_______aa______aaa!!!』

 

 

 クローズドラゴン・ブレイズが、オーバースマッシュめがけて襲いかかる。それをもろに受けたオーバースマッシュだが、まだドライバーは破壊されていなかった。

 

「くそ、頼む!戦兎、士道!」

 

「おう!」

 

「任せろ!」

 

 クローズチャージの声に応え、ビルドとアライブが出る。

 

 

BLAST VERSION!!

 

 

 アライブはアライブラスターをブレード形態からブラスター形態へと変形させ、スロットにスピリットフルボトルを装填した。

 

FEVER TIME!!

 

 そしてブラスターの銃身に搭載されたギター弦状のパーツ、【ビートストリンガー】を思いっきり弾き鳴らす。弾き鳴らすと、まるで本物のエレキギターのように、軽快な音が聞こえる。

 

 

ONE BEAT!TWO BEAT!!THREE BEAT!!!

 

 

 三回弾き鳴らすと、アライブの後ろにはエネルギー体のアライブガルーダ・ライジングが現れた。

 その間にビルドはドリルクラッシャーにハリネズミフルボトルを装填し、ブレードモードに差し替えた。

 待機音が流れ、二人揃ってドライバーの一点を狙い構える。

 

 そして。

 

 

HERMONICS BURST!!

 

 

VOLTEC BREAK!!

 

 

 アライブラスターの銃口から、炎雷のエネルギー弾と共にアライブガルーダ・ライジングが。

 ドリルクラッシャーからは一点を研ぎ澄ました針のようなエネルギーが、リバースドライバーへと向かった。

 

 

「ハァァァーーッ!!」

 

「ダァァァーーッ!!」

 

『aaaaaaa_____aa___a_______!!!』

 

 

 二発放たれたエネルギーは、消耗したオーバースマッシュのドライバーに撃たれ、そして_______

 

 

 

『aaaaa_________あっ……………」

 

 

 

 ______ドライバーは破壊され、オーバースマッシュの肉体が元に戻っていく。

 

 そして、姿が元に戻った、まごう事なき士道の妹_____崇宮真那の姿が、そこにあった。

 

「真那ッ!」

 

 変身を解除し、急いで士道達が駆け寄る。

 真那は顔中に汗を滲ませながら、苦しげに笑った。

 

「ご迷惑………かけ、ちまいましたね。兄、様………戦兎さん………万丈さん…………助けて、くれ、て…………」

 

 そう言うと、真那は眠ったように目を閉じた。

 一瞬死んだか、とも思ってしまったが、胸が上下している。どうやら眠りについてしまったようだ。

 

「真那…………そうだ、十香達は!」

 

 真那の身体を横たわらせ、十香達の元へ向かおうとした、その時。

 

 

「な______」

 

「嘘、だろ…………」

 

「なんだよ、あれは……………」

 

 

 士道たちは、戦慄した。顔が、酷く歪む。

 しかし、他の誰がこの光景を見ても、同じように歪んでいただろう。

 

 ______何故なら、そこでは大量の狂三が、十香達に襲いかかっていたのだから。

 

 

 ◆

 

 

 

「くすくす」       「あら、あら」     「うふふ」

 

      「あらあらあら」      「驚きまして?」

 

「さあ、どうしますのォ?」       「あはははははははッ」

 

   「いひひひひ」     「美味しそうですわねえ」

 

         「さあ、さあ」      「遊びましょう?」

 

    「如何でして?」     「ふふっ」     「ひひひ」

 

 

無数の狂三が、思い思いと笑いを、声を発する。

 

「これは、なんだ………っ」

 

「くっ、これは…………」

 

無数の狂三に囲まれた十香と折紙が、困惑の声を発する。

 

「十香!」

 

「ッ!シドー、セント、リューガッ!」

 

「くそっ、どうなってんだよ戦兎!」

 

「お、俺に聞くなよっ!」

 

士道達がその場へと向かうも、十香達の元までの道は、無数の狂三が阻んでいて向かえそうもない。

 

「あらあら、士道さん達_____うふふ、ふふ。如何でして?美しいでしょう?これはわたくしの過去。わたくしの履歴。様々な時間軸のわたくしの姿達ですわ」

 

「な______」

 

「うふふ____とはいえあくまでこの()()()()()()は、わたくしの写し身、再現体に過ぎませんわ。()()()()ほどの力は持っておりませんので、ご安心くださいまし」

 

「______っ」

 

その場の全員が、息を詰まらせた。

 

十香も、折紙も、士道も、戦兎も、万丈も。

 

狂三が、くるりと回って笑う。

 

 

「さあ______終わりに、いたしましょう」

 

 

その声とともに、無数の狂三が十香を、折紙を、士道達を襲いかかる。

 

「十香______!」

 

「くそ、こうなったら____うぉわっ!!」

 

「ちょっ、何しやがるっ……離れろってうわッ!?」

 

士道達は声をあげ、思わずドライバーに手を伸ばしそうになるも、もはやどうにもならなかった。

 

無数の狂三によって、交戦していた十香と折紙はとっくに抑えられていた。

 

士道や戦兎、万丈もドライバーを取り上げられ、左右から取り囲まれて両手両足を拘束される。なんとか抵抗を試みたが、数に差があり過ぎた。

そうなってしまったら、もう士道達に為す術はなかった。時間にして、オーバースマッシュとの戦闘終了から僅かに三分と経たず、士道達は制圧された。

 

「十香____折紙!」

 

両腕を取られ、地面に押さえつけられながら、士道はなんとか言葉を発した。

 

「くっ、くそ………」

 

「この、離せ、よっ…………!!」

 

近くには、戦兎や万丈、十香たちも取り押さえられている。全員身体の至る所に傷を作り、苦しげに呼吸を漏らしていた。ただでさえ戦兎達は先程苦しい戦いを終えたばかりなのだ。その状態ではまともに脱出もできない。

 

「うふふ、ふふ」

 

その中にあって、狂三は悠然と微笑みながら、銃を握って士道に近づいてきた。

 

「ああ、ああ、長かったですわ。途中邪魔も入りましたが____ようやく、士道さんをいただくことができますのね」

 

「や………っ、やめろ狂三!シドーに近づくな!」

 

「………っ、放して____!」

 

「士道………ぐっ………!」

 

「やめろぉッ!狂三………ガフッ………!」

 

十香達がもがくも、拘束から逃れることは叶わなかった。

と、そこで狂三はなにかを思い出したように眉をピクリと動かした。

 

「ふふ、そうですわ」

 

言って、左手に銃を預け、右手を掲げる。

すると先ほどと同じように、空間震警報が街に鳴り響いた。

 

「な………っ、狂三、お前何を_____」

 

「うふふ、ふふ。先ほどできなかったことをして差し上げますわ。まだ皆さん目覚めておられないでしょうし_____うふふ、きっとたくさん死んでしまいますわねえ」

 

「や、やめろ………ッ!そんなことしやがったら俺、舌噛んで_____ふぐ…………ッ!?」

 

そう言いかけた瞬間、士道を押さえつけていた狂三達が、左右から士道の口に指を入れ、顎と舌を押さえつけた。

 

「舌を………どうするんですの?」

 

狂三が笑い、右手を握る。すると先ほどのように、耳障りな高音が響き始めた。

 

「ふふ、ひひひ、ひひひひひひひひッ!!さぁ、もう二度とわたくしを誑かせないよう、絶望を刻み込んで差し上げますわ!」

 

やめろ(やえお)ぉぉぉぉぉーーーーッ!!!!」

 

「くそッ…………!!!」

 

「てめえ、待ちやがれ…………ッ!!」

 

狂三はそんな懇願を無視し、右手を振り下ろした。

 

狂三が、笑う。まるで、死神のように。

 

 

 

「あ__________ッははははははははははははははははははははははは________ッ!!!」

 

 

 

______だが。

 

「あ_____はァ?」

 

数秒の後、その笑い声は疑問符に取って代わった。

 

狂三が、怪訝そうに辺りを見回す。

 

それもそうだろう。確かに、空が震えたような嫌な音が続いた。近くで爆弾が爆発したかのように、空間も震えた。

 

だが____それだけだったのだ。

 

「…………?」

 

「ん…………?」

 

「…あ?………おい、何も起きてねーぞー?」

 

その場にいた全員が、眉をひそめた。

 

来禅高校の周辺には、空間震が起きた跡など見受けられず______いつもと変わらぬ、街並みが広がっていた。

 

「これは………どう言うことですの?」

 

狂三が不審そうに眉を歪める。すると。

 

 

「____知らなかった?空間震はね、発生と同時に同規模の空間の揺らぎをぶつけることで相殺できるのよ」

 

 

頭上から、凛とした声が響いた。

 

「っ、何者ですの?」

 

狂三が頰をピクリと動かし、右手に銃を握り直して顔を上に向ける。

 

そして士道達も同様に顔を見上げ______揃って目を見開いた。

 

 

空が、赤い。

 

屋上の、さらに上。士道達の頭上に、巨大な炎の塊が浮遊していた。

 

そして_____その炎の中に、一人の少女の姿があった。

 

和装のような格好をした女の子である。風になびいている袂は半ばから炎と同化しているように揺らめき、腕や腰に絡みつく炎の帯は、さながら天女の羽衣のようだった。

 

そしてその頭部には、角が二本生えている。その様はお姫様のようであり______そして、鬼のようでもあった。

 

だが、士道達が目を奪われた理由は、それだけではなかった。

 

 

「どういう………」

 

「事、だよ……………」

 

()()()………………!?」

 

 

そう。士道の妹にして、《ラタトスク》司令官。

 

炎を纏った少女の姿は______五河琴里にしか見えなかったのである。

 

琴里が、徐々に高度を下げ、士道の方にちらりと視線を落とし、なにかを取り出す。

 

「______()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え…………?」

 

琴里の言った意味がわからず、眉をひそめる。

 

「………っ、あ、れは_____」

 

と、何故だろうか。折紙が、士道も見たことがないくらい顔を驚愕に染めていた。

 

そして、琴里が取り出したもの_____士道が持っていたもう一本のボトル、灰色のボトルを取り出し、振った。

 

 

______パキッ、パキッ、パキッ……………

 

 

まるで燻った火種のような音が、徐々に徐々に大きくなっていく。そして振られたボトルもまた、何かヒビが入ったようになっていく。

 

 

______ボウッ、ボウッ、ボゥゥウウ_______

 

 

そのまま、ヒビは大きくなっていき_______ボトルの表面を覆っていた、灰色を割った。

 

 

そしてそこから現れたのは、真紅のボトルだった。

 

燃え盛る炎のような真紅の色の、大砲と斧が描かれたボトル。

 

 

琴里はそのボトルの、水晶のキャップを回すと、ボトルが突如光った。

 

 

 

カマエル

 

 

 

「____焦がせ、【灼爛殲鬼(カマエル)】」

 

 

ボトルから聞こえたと思しき絵 声とともに、琴里がその名を口にする。

すると再び彼女の周囲に炎が生まれ、巨大な棍のような円柱形を形作った。

 

そして、琴里がその棍を手に取った瞬間、その側部から真っ赤な刃が出現する。

 

それは、あまりに大きな戦斧だった。まるで、先の真紅のボトルに刻まれていた物のような。

 

 

士道達が言葉を失っていると、琴里がその斧を軽々と振り、狂三に向けた。

 

 

「さあ_____私たちの戦争(デート)を始めましょう」

 

 

 

 

 




どうでしたか?
この作品は基本原作準拠なので、今回で第三章 狂三デモリッシュ編は終了となります。

そして次回から第四章の琴里編です!そして次章は、かなりオリ要素多目になると思います。予定は未定ですが(保険)
と言うのも、原作通りの内容で進めてしまうとどうしても戦兎達を主役として絡めづらくなってしまうのです。ここ大事。

まあどうなるかはまだ分かりませんが、楽しみにしていてください!

それでは『第四章 琴里アヴェンジャー』 『第30話 地獄のファイアは燃え尽きない』、をお楽しみに!

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第四章 琴里アヴェンジャー
第30話 地獄のファイアは燃え尽きない


今回はあらすじ紹介無しです。
楽しみにしてくれてる人がいたら、ごめんなさい。
手抜きだー!と言って低評価を押そうとしているそこのあなた、まあ待ちなさい。いや待ってくださいお願いします。
まあ前回の最後がアレで、今回から新章なので、あらすじ紹介無しのスタンスにしました。

次回からちゃんとやりますので、あしからず。


来禅高校の屋上は、影に覆われていた。

 

何の比喩もなく、時刻は十七時でまだ周囲は明るいと言うのに、士道達のいるその空間だけが、隔絶されたように薄暗かったのである。

そして今、士道と戦兎、万丈達は、幾人もの少女_____狂三に手足を拘束され、地べたに押さえつけられているのだ。口の中にも指を詰められ、顎と舌までも拘束されている。

 

明らかに異様な光景。

 

同じ顔をした少女が幾人も、十香を、折紙を、士道を、戦兎を、万丈を拘束している。士道の位置からは見えないが、真那も恐らく狂三の壁の向こうで倒れたままのはずである。

 

______しかし。

 

「ぁ………」

 

その状況の中で、士道達は全く別のものに目を奪われていた。

 

身体の周囲に焔を纏わせ、空に立つ少女。

 

天女の羽衣のような、火焔のように燃える和装。

 

側頭部から伸びた二本の角。

 

そしてその、精霊としか思えない姿をした少女の名を、士道達は、よく知っていた。

 

(ほお)()…………」

 

「なんで、琴里が精霊に………」

 

「一体、何がどうなってやがんだよ…………!?」

 

五河琴里。

士道が何年もの歳月を共に過ごした少女であり、ラタトスクの司令官たる少女。

 

そしてその姿を見た時_______士道は、頭の中に電流が流れるような感覚を覚えた。

 

______頭の片隅で覚えてる。俺は、前にも一度見た事がある__________

 

「……どォなたですのォ?」

 

と、そんな士道の思考を遮るように、不意に前方から声が響いた。

巨大な時計を背にして、両手に銃を握った狂三が、不機嫌そうに琴里を睨んでいた。

 

「邪魔をしないでいただきませんこと?折角いいところでしたのに」

 

「悪いけれど、そういうわけにもいかないわね。あなたは少しやりすぎたわ。_____跪きなさい、愛のお仕置きタイムよ」

 

右手に出現させた巨大な戦斧を肩に担ぐようにしてから、琴里が鼻を鳴らす。

狂三はしばしキョトンと目を丸くしながらも、すぐに堪え切れないといった様子で哄笑を漏らした。

 

「く、くひひひ、ひひひひひひひひッ…………面白い方ですわねぇ。お仕置き、ですの?あなたが、わたくしをォ?」

 

「ええ。お尻ペンペンされたくなかったら、分身体と天使を収めて大人しくしなさい」

 

琴里が言うと、狂三はさらに可笑しそうに笑った。

 

「ひひひ、ひひ。随分とご自分の力に自信がお有りのようですけれど、過信は身を滅ぼしますわよォ?私の刻々帝(ザフキエル)は____」

 

「御託はいいから早く来なさい黒豚」

 

琴里が面倒くさそうに言うと、笑っていた狂三の頰がピクリと動いた。同時に屋上にいた無数の狂三が、一斉に琴里を睨んでくる。

そして同時に、前方から苦悶の声が響いてきた。どうやら十香と折紙が延髄を打たれて気絶させられたらしい。

 

「上等ですわ。一瞬で喰らい尽くして______差し上げましてよォッ!」

 

狂三が喉を震わせる。瞬間、屋上を埋め尽くしていた狂三の分身体が一斉に空高く跳躍して琴里に迫った。

 

圧倒的な数の暴力。それはただの突進とか突撃とは違う、無慈悲な機銃掃射や散弾銃の連射のようにも思えた。

 

「_______ふん」

 

しかし琴里は鬱陶しげに鼻を鳴らすと、担いでいた戦斧をゆっくりと持ち上げた。

漆黒の棍の先端に空気を焦がすような焔が蟠り、刃を形作っている。それは琴里の動作に合わせて赤い軌跡を残しながら、さらにその輝きを増した。

 

 

「_______【灼爛殲鬼(カマエル)】」

 

 

そして狂三の大群が目の前に迫った瞬間、琴里は静かに言葉を発し、焔の戦斧を凄まじい勢いで前方に振り抜いた。風を薙ぐ音が士道のところにまで響いてくる。

 

「あッはははははは!無ゥ駄ですわよゥ!」

 

それに応ずるように、狂三も哄笑を上げた。

如何に戦斧が大きくとも、全方位からの攻撃には対応できない。前方の数体を屠ったとて、一瞬後にはその他の狂三に噛みつかれることは容易に想像できた。

だが。

 

「きひひ_____ひィ………?」

 

不意に、狂三の笑みが歪んだ。

琴里が灼爛殲鬼(カマエル)を振り抜いた瞬間、その先端の焔の刃が揺らめき_____同時に琴里に迫っていた無数の狂三の首が、腕が、上半身が、一斉に宙に踊った。

 

『ぁ、ぇ…………?』

 

幾人もの狂三が切り離された自分の部品を見つめ、呆然と声を発する。次の瞬間にはそれら全てが炎に包まれ、地に触れる前に燃え尽きた。

 

そして琴里が無言で視線を士道や戦兎達の方へと戻し、もう一度灼爛殲鬼(カマエル)を振る。すると焔が蛇のようにのたうちまわり、士道に群がっていた狂三達の身体を切り裂いていった。凄まじい断末魔と共に、身体にかかっていた負荷が消え去る。

 

「っつ、かはっ、かはっ………」

 

「やっと解放された……」

 

士道と戦兎、万丈がその場で立ち上がり、士道が幾度か咳き込む。

 

「って熱あっ!?ちょっ、熱いんすけど!熱っつって!?」

 

すると、万丈が狂三の身体を包んでいた炎に当たってしまい、その場でジタバタする。見ると、士道達の制服にも火の粉がかかっていた。

 

「うおっ、熱っつ………」

 

「おーい万丈、大丈夫かー?」

 

「熱っつぅ………おい士道、何がどうなってんだよ?あれ、琴里だよな?なんであんな炎に包まれてんだよ」

 

「いや………俺にも、何が何だか…………」

 

と、そんな士道達の前に、琴里が空からゆっくりと降り立った。灼爛殲鬼(カマエル)を構えて、士道達を守るように立つ。

 

「おい琴里、これは一体……」

 

「大人しくしてなさい、士道。可能なら狂三の隙をついて三人でこの場から逃げて。今のあなたは_____簡単に死んじゃうんだから」

 

「は…………?それってどういう………」

 

しかし士道の問いは、前方から響いた狂三の声でかき消えた。

 

「ひひ、ひひひひひひひひ………ッ!やるじゃあありませんの。でェもォ、まさかこれで終わりだなんて思ってはおられませんわよねえ?」

 

言って、狂三が二丁の銃を構える。狂三にはまだ______時を操る刻々帝(ザフキエル)がある。

 

「琴里、気をつけろ!あれは…………!」

 

「ふふッ、士道さん。無粋ですわ_____よッ!」

 

言うと狂三は、刻々帝(ザフキエル)の『Ⅰ』の文字盤の影を装填した短銃で、自身のこめかみを撃った。

瞬間、狂三の姿が搔き消える。と同時に、琴里が灼爛殲鬼(カマエル)を頭上にやった。すぐに、その位置から甲高い音ともに灼爛殲鬼(カマエル)が震える。

先刻の戦いで見た光景だ。刻々帝(ザフキエル)一の弾(アレフ)】。撃った対象の動きを早める弾である。

凄まじい速度で狂三が琴里に猛攻撃を仕掛けてくる。しかし琴里の灼爛殲鬼(カマエル)は焔の刃を俊敏に蠢かせると、その目にも留まらぬ攻撃を悉く防いだ。

 

「あッははははは!素晴らしいですわ!素晴らしいですわ!さすがは天使を顕現させた精霊______ッ!高鳴りますわ、高鳴りますわッ!」

 

「ふん、鬱陶しいわね。レディなら少しは落ち着きを持ったらどう?」

 

棍を薙ぐように振り抜き、琴里が言う。空中に躍った狂三は不安定な姿勢のままケタケタ笑うと、銃を構えた。

 

「では、ご要望に応えして淑やかに殺らせていただくとしましょう。刻々帝(ザフキエル)______【七の弾(ザイン)】!」

 

すると刻々帝(ザフキエル)の『Ⅶ』から影が飛び出し、狂三の銃口に吸い込まれた。

そして狂三が引き金を引くのと同時に、漆黒の弾丸が琴里に迫った。

 

「ッ!琴里、それは_____!」

 

士道の制止を聞かず、琴里がその凄まじい速度の弾丸を灼爛殲鬼(カマエル)で引き落とした。

しかし、防ごうが落とそうが関係ない。なぜならその弾は、対象に触れた時点で_______

 

「ふふ、あははははははははッ!」

 

狂三の笑い声とともに、琴里の身体がピクリとも動かなくなった。

手足どころか和装や髪の毛の先、戦斧に纏っていた焔もその場で静止している。

 

「ふふふッ、如何に強大な力を持っていようと、止めて仕舞えば無意味ですわよねェ?」

 

狂三が言うと同時に、周囲にいた無数の狂三が一斉に銃を構え、琴里に向かって引き金を引いた。

 

「やめ_______」

 

士道の制止が間に合うはずもなく、狂三の放った弾丸が無慈悲に琴里へと吸い込まれていき、弾痕が刻まれていく。

 

「それでは、ごきげんよう」

 

そして最後に、【七の弾(ザイン)】を放った狂三が琴里の前に立ち、琴里の眉間へ何の逡巡も無く引き金を引いた。

次の瞬間、琴里の身体が動き出す。

 

「…………ッ!」

 

琴里の全身の傷から一斉に血が噴き出し、眉間に撃たれた最後の一撃によって、反応する暇すら与えられずに体をその場に倒した。

 

「琴里………ッ!」

 

「てっめぇ…………ッ!!」

 

「…………ッ!」

 

士道が駆け寄ろうとし、万丈が憤った声を出す。戦兎も歯を食いしばり怒りを堪えていた。

 

「うふふ、ふふふふふふッ、ああ、ああ、終わってしまいましたわ。折角見えた強敵でしたのに。無情ですわ。無常ですわ」

 

狂三が芝居掛かった調子でくるくると回りながら、可笑しそうに嗤う。

 

「さあ、さあ、今度こそ士道さんの番ですわ。わたくしに_______」

 

と、そこで狂三は言葉を止め、訝しげに琴里の方を見つめた。士道達もまた、琴里に対して目を見開いていた。

 

「これは_____」

 

呆然と声を漏らす。琴里の身体に刻まれた無数の弾痕から焔が噴き出し、全身を舐めるように広がっていたのである。

 

「これ、士道の______」

 

「まさか………」

 

その光景を、戦兎と万丈は見たことがあった。そして士道は、体感したことがあった。

 

「……まったく、派手にやってくれたわね」

 

琴里が事も無げに身を起こす。そこには傷も、血痕も、霊装の綻びも一切が無くなっていた。今しがた攻撃を受けたことが嘘のようにすら思えてしまう。

 

「な_____」

 

流石にこれには驚いたらしい。狂三が一歩後ずさった。

 

「私としては、このままあなたが恐れおののいて戦意を喪失してくれるのがベストなのだけれど」

 

「………ふん、戯れないでくださいまし______【一の弾(アレフ)】!」

 

狂三は叫ぶと、両手の銃の引き金を連続で引き絞った。屋上に残った狂三達に弾が吸い込まれる。その数十発の【一の弾(アレフ)】を撃ったのち、狂三は自らに銃口を押し当て引き金を引いた。

 

「ッ、まずい。万丈、士道!」

 

戦兎が危険を察知したように声をあげ、二人を連れて後方へと飛びのく。

 

「おい、何が____」

 

士道がその声を最後まで吐くことはできなかった。

何せ、恐ろしい速度で何人もの狂三達が、琴里を囲うようにびゅんびゅんと飛び回り、拳打を、脚蹴を、弾丸を浴びせかけていたからだ。

 

「切り裂け______灼爛殲鬼(カマエル)ッ!」

 

琴里が吼えると、灼爛殲鬼(カマエル)はその刃を何倍にも膨れ上がらせ、さらに広範囲へと伸ばした。

次々と無数の狂三が焔の刃に薙がれ、裂かれ、貫かれ。その体を灰と化された。狂三本体も攻撃がヒットしたらしく、あちこちに火傷のような切り傷のような、奇妙な傷跡が出来ていた。

 

「一体、なんなんですの………あなたはァッ!」

 

「通りすがりの精霊よ_____覚えときなさい………。とでも言えばいいかしら?」

 

琴里がそう言うや、狂三がすぐに短銃を掲げ叫ぶ。

 

刻々帝(ザフキエル)______【四の弾(ダレット)】!」

 

刻々帝(ザフキエル)の『Ⅳ』の文字盤から狂三の銃へ影が放たれ、収束する。

そして狂三が自らに向かって引き金を引くと、時間が巻き戻ったように、狂三の身体の傷が消える。

しかし同時に、琴里の周囲を飛び交っていた狂三の分身体が、悉く燃やされ、灰になって風に消える。

 

「あら、もう打ち止めかしら?案外少なかったわね。もう少し本気を出してもいいのよ?」

 

琴里が戦斧を担ぎながら、ふふんと鼻を鳴らす。

その物言いに狂三は顔を凄絶に歪ませ、歯をかみしめた。

 

「その言葉_____後悔させてあげますわッ!刻々帝(ザアアアアアアフキエエエエル)…………ッ!!!」

 

瞬間、狂三の左眼が、先程よりも速く回り始めた。

 

「ッ!させるかっての………!」

 

その不穏な様子に、琴里が灼爛殲鬼(カマエル)を振りかぶる。だが______

 

「_______ぁ」

 

小さな、本当に小さな声を喉から発して、その場に膝をついた。

灼爛殲鬼(カマエル)を杖代わりにして身体を支えながら、苦しげに頭を押さえる。

 

「く………こ、これは…………」

 

「こ、琴里!?」

 

「おい、大丈夫かよ!?」

 

一体何が起こったかは分からないが、琴里が窮地にある事は理解できた。思わず、叫んでしまう。

 

「あッはははははははははははは!悪運尽きましたわ・ねェ!」

 

狂三が高らかに笑い、刻々帝(ザフキエル)の弾が込められた銃を琴里に向ける。

 

「おい、琴里!」

 

士道が叫び、やむなく盾になろうか、と、駆け寄ろうとした瞬間。

 

「…………」

 

琴里が、すっとその場に立ち上がった。

 

静かに_______爛々と光る真っ赤な瞳で、狂三をジッと睨みつける。

 

見慣れたはずのその顔は、なぜだろうか、全く士道達の知らない少女に見えた。

 

「琴、里………?」

 

「お、おい、どうしたんだよ、あいつ…………」

 

琴里は灼爛殲鬼(カマエル)を天高く掲げ、叫んだ。

 

 

「灼爛殲鬼《カマエル》________【(メギド)】!」

 

琴里の声に応えるように、戦斧が刃を失い棍のみとなる。

灼爛殲鬼(カマエル)が蠢動し、柄の部分が本体に収納され、琴里の右手を包み込むように着装される。

琴里はそれを構えると、先端を狂三に定めた。その姿はまるで、巨大戦艦の大砲を思わせた。

 

灼爛殲鬼(カマエル)がその体表を展開させ、赤い光を放つ。

 

そして琴里の周囲に纏わりついていた焔が、先端へと吸い込まれていった。

 

「___________!?」

 

その様子を見て、狂三が恐怖と戦慄に染まった、今までに見たことのない表情をした。

 

()()()()()()!!」

 

狂三が叫ぶと同時に、狂三の分身体が這い出てきた。

琴里が、静かに口を開く。

 

「_____灰燼と化せ、灼爛殲鬼(カマエル)

 

その声は、戦兎も万丈も、そして何年も共に暮らしてきた士道ですら一度も聞いたことがないような、冷たく平坦なものだった。

 

次の瞬間、琴里の構えた灼爛殲鬼(カマエル)から、凄まじい炎熱の奔流が放たれた。

大火山の噴火を数十センチの範囲に凝縮させたような圧倒的な熱量が、一本の線を引く。辺りが一瞬、一足早い夕日に彩られたかのように赤く染まった。

 

「ぐ………」

 

「うおっ………」

 

「くぅっ………」

 

士道と戦兎、万丈は思わず腕で顔を覆った。わずかに空気を吸っただけでも、焼け付くような熱気が容赦なく呼吸を阻害する。琴里の背後にいるにも関わらず、肌が炙られたようにちりつき、目を開けられなくなった。

 

そして数秒後______炎熱の光線は段々と小さくなり、ついに消滅した。

 

「けほ……っ、けほ………っ」

 

軽く咳き込んでから視線を上げる。

視界を覆う煙が晴れ______見えた光景に、三人は絶句した。

床やフェンスが凄まじい熱によって融かされ、砲が通った後には何も残らなかったが_____そこには、未だ狂三と刻々帝(ザフキエル)の姿があった。

だが先まで狂三を守るように展開していた分身体は一人残らず灰燼と化し、狂三自身もまた。左腕を失っていた。恐ろしい熱量であったためか、傷口は黒ずみのように煤けて、血一つ流れていなかった。

また背後に浮遊していた刻々帝(ザフキエル)も、その巨大な文字盤の四半を貫かれており、『Ⅰ』『Ⅱ』『Ⅲ』の数字があった場所が綺麗に抉り取られていた。

 

「く______ぁ………」

 

狂三が絞り出すように息を吐き、その場にがくりと膝をつく。

誰がどう見ようと、戦闘続行は不可能な状態。

しかし。

 

「……銃を取りなさい」

 

琴里が、低い声で唱えながら、再び大砲の灼爛殲鬼(カマエル)を狂三に向けた。

 

「まだ闘争は終わっていないわ。まだ戦争は終わっていないわ。さあ、もっと殺し合いましょう、狂三。あなたの望んだ戦いよ。あなたの望んだ争いよ。______もう銃口を向けられないというのなら、今ここでその命、天に返しなさい」

 

「琴里………?」

 

「お、おい、あいつ何言ってんだ………?それ以上やったら、本当に死んじまうぞ!」

 

戦兎と万丈が疑惑の声を上げ、士道もまた琴里の元へと駆け寄り、その肩を掴んだ。

 

「おい!どうしたんだよ琴里!精霊を殺さず問題を解決するのが、ラタトスクじゃなかったのかよ!?」

 

しかし、琴里は士道の言葉に聞く耳を持たず、再び灼爛殲鬼(カマエル)の砲門へと焔を引き込んだ。

 

「………!お、おい、琴里!」

 

士道は琴里の前に回り_____息を詰まらせた。

 

「な………」

 

冷たく歪んだ双眸に、怪しく光る紅玉(ルビー)の眼。そして口元に浮かんだ______嗜虐と愉悦、恍惚に満ちたような笑み。

それを見て、士道は確信した。

 

 

______違う。これは、いつもの、自分の知っている琴里では無い。

 

 

瞬間、士道は駆け出していた。_____力なく膝をついた狂三の元へと。

 

「狂三!」

 

「士______道、さん………?」

 

「おい、士道!」

 

「何してんだ!巻き込まれるぞ!」

 

狂三を連れて逃げられる状況ではない。ならば、せめて少しでも狂三のダメージを減らそうと、狂三の前にバッと立ちはだかった。

 

「ッ、士道!」

 

「クソッ、どうとでもなりやがれッ!」

 

戦兎と万丈が駆け寄るのと同時に、灼爛殲鬼(カマエル)から、再び万象を焼き尽くす紅蓮の咆哮が放たれた。

瞬間______

 

「っ!」

 

灼爛殲鬼(カマエル)を構えた琴里が、ハッと目を見開いた。

 

「避けて、おにーちゃんッ!」

 

叫び、灼爛殲鬼(カマエル)を上空へと向ける。

しかし、その軌道は完全には変えきれず______

 

「うおわぁッ!?」

 

「ぐぅッ!?」

 

戦兎と万丈が、その爆風によって背後へ吹き飛び_______

 

「ぁ____________」

 

士道は、視界が真っ赤に染まったところで、意識が途絶えた。

 

 

 

 

あれから数時間後、誰もいなくなった屋上で。

 

「おーおー、どんな戦争跡地だよ、これ」

 

白衣を着た長髪の男______神大針魏が、呆れたような楽しそうな声を発して現れた。

針魏は現場を一通り見ると、何かを探すように視線をあちこちに移した。

 

「しっかし残ってるかな………ん?」

 

とそこで、針魏の視線がある一点に留まる。

そこは数時間前、真那が倒れていた場所。

 

そこに、一本のボトルが、いくつか壊れたパーツとともに、置かれていた。

 

「お、あったあった……っと」

 

針魏はそのボトルを手に取り、ボトルに着いた汚れを手で払う。

 

そこには、色がどこか明るい色に滲んだ獅子と、十六個の小さな点が、線を結びながら小さく光っていた。

 

「んー、まあ、これなら大丈夫かな。あとはこっちでやれば………」

 

と呟きながら、針魏はそのボトルを白衣のポケットに仕舞い、懐からタブレットを取り出した。

タブレットのパネルを操作し、十二個の項目が書かれた画面へと飛ぶ。

 

そして、その中の一項目に、チェックを入れた。

 

「これで、あと十一か………思いの外、早く集まりそうだねぇ………あ、と、は………」

 

針魏はくつくつと笑いながら、まるでマグマに焼かれたような焼け跡を見つめる。

 

「あの少年次第、ってとこかなぁ………ま、それなりに期待しとくかね。それに………」

 

そこで一つ区切って、針魏は懐からあるものを取り出す。

 

それは、()だった。

 

そしてタブレットを仕舞い、ポケットから黄色い試験官の形をしたボトル______【オルタナティブボトル】を取り出し、しばし見つめた。

 

 

「……そろそろ、私も動く頃合いだね」

 

 

針魏は不気味な笑みを浮かべながら、その場を立ち去った。

 

 

 

 




どうでしたか?
ほぼ原作まんまの展開になってしまったのは、すいません。まあ、今回は前座みたいなものですので。
次回からは原作の琴里の話などについては、大幅にカットさせていただきます。分からない!って人のために簡単に纏めはしますが。
そしてカットした部分で、オリジナルを入れていきます。琴里編と書いてありますが、新章はだいぶビルドやクローズ、たまにアライブの戦闘シーン多目のバトルものになるかと思われます。未定ですが。

ビルドのフォームチェンジも色々したり、デートもしたりする予定(あくまで予定と保険を打っておく)ですので、過度な期待はせずに楽しみにしていてください。

それでは次回、『第31話 そのベルトが告げるもの』、をお楽しみに!

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第31話 そのベルトが告げるもの

桐生「仮面ライダービルドであり、天っ才物理学者の桐生戦兎は!第三の精霊、時崎狂三を攻略しようとする士道に協力するものの、なんとそこでとんでもないアクシデントが発生!なんと、真那が謎のフルボトルの力によって、スマッシュと化してしまう」

真那「いやー、改めて見るとほんとおっかねーですね私。ありがとうございます。倒してくれやがって」

万丈「おい、なんでこいついんだよ。今倒れてる途中だろ?」

真那「そこはほら、御都合主義と言いやがりますか、なんと言いやがりますか」

士道「というか前から思っていたんだが、真那何だよその変な喋り方」

真那「私のアイデンティティーでいやがりますよ兄様!これがなきゃ私もう兄様のそっくり妹キャラってだけで、琴里さんにお株をとられやがるじゃねーですか!」

士道「自己評価割と低いな!そんな事ないから!」

万丈「というか、俺の活躍には触れねーのか?クローズチャージ、マジ強かっただろ!?」

真那「まあ口ではなんとでも言えやがりますよね」

万丈「んだと!お前俺が嘘ついてるとでも思ってんかよ!」

真那「キャア!襲われやがりますー!」

桐生「あーもうちょっとは落ち着きなさいって!はあ、と言うわけで、第31話、どうぞ!」





「んぅ………?」

 

そのベッドの上で、桐生戦兎は目覚めた。いつもと同じ兎耳のような寝癖を立てながら、寝起きの調子で起き上がろうとする。が。

 

「いってて………」

 

起き上がろうとした瞬間、身体の節々が痛む。

すると視界の端に、奇妙な影が見えた。

 

『おー、戦兎くん。やぁ〜っと目覚めたのぉ〜?』

 

「戦兎さん……無事で、良かったです…………」

 

そこにいたのは小さな女の子と、その左手に嵌められた奇妙なウサギのパペットだった。

おおよそ自然には生まれ得ぬであろうブルーの髪とサファイアの瞳を、つばの広い麦わら帽子で隠した少女____四糸乃である。コミカルな意匠のパペットは、そんな四糸乃の親友、よしのんだった。

 

「四糸乃に、よしのん…………どうしたんだ、お前ら」

 

「……ん、目覚めたようだね」

 

とそこで、栗鼠色の軍服を着た女性が眠そうな声で戦兎に言ってきた。ラタトスク解析官の村雨令音だ。

そこで、大体の経緯が察せた。

 

「令音さん………大方、あの戦闘の後で搬送された、ってとこですか?」

 

「……ああ。昨日の狂三との交戦後に、気絶した君とシンと、バジン達をここに搬入してね」

 

「っ、そうだ、万丈と士道は!?あと、十香と折紙も!」

 

「……二人とも平気だ。今はベッドで寝ている。軽い怪我で済んでいて何よりだ。十香はシンの看病で、鳶一折紙はAST隊員に回収された。多分無事だろう」

 

「そうですか……まあ、あの筋肉バカとアイツがそう簡単にくたばる筈ありませんしね」

 

その言葉に、ひとまず安堵し、笑みがこぼれる。

 

「……信頼しているね、二人のことを」

 

「まあ、ね………あ、そうだ!狂三と真那はどうなったんですか!?死んだりしてないですよね……?」

 

「……ああ。崇宮真那も鳶一折紙と同様、ASTに回収された。死人も出ていない。狂三は、隙をついて逃げたよ」

 

「………そう、ですか……」

 

その報告を聞き終えたと同時にどっと疲れが蘇り、ベットに再び倒れこむ。

 

昨日の戦闘______琴里の精霊化も気になったが、それよりも。

 

戦兎には一つ、見逃せない現象が起きていた。

 

「……ああ、そうだセイ」

 

と、そこで令音が思い出したように手を打ち、ベッド脇の引き出しから何かを取り出す。

 

「……これは君を搬入した際に、持っていたものだが………」

 

そう言って、令音はベッドの上に、少し黒ずみ、壊れかけたソレを置く。

 

それは、崇宮真那が使用していた_____リバースドライバーだった。

 

あの時、ビルドのボルテックブレイク、クローズのレッツブレイク、そしてアライブのハーモニクスバーストによって攻撃を受けたドライバーは、なんと驚くべきことにその筐体の殆どを残してまだあったのだ。それに気づいた戦兎が、十香たちの元へ救援に向かう前、こっそり回収していたのであった。

流石に一部が溶けていたり、内部機器がいくつ故障しているかは見当もつかないが、それでもこの耐久性は驚異の代物である。

 

「……これを、どうするつもりだい?」

 

「とりあえず修復してから、解析します。_____調べなきゃいけないことが、増えましたからね」

 

そう。戦兎がこのドライバーを持ち出した理由______それは、あの戦闘時真那に起きた、あのスマッシュ化の現象について調べるためだ。

 

あの黒いボトルは回収できなかったが、運良く残ったドライバーだけでも回収すれば、あとはある程度の修復をして解析をして、あの現象について分かることもあるはずである。やる価値は十分に思えた。

 

「……そうか」

 

「ええ。ありがとうございました。俺、もう行きます……ってて」

 

ベットから起き上がって立ち上がるが、やはりまだ身体が痛む。思わずよろけてしまった。

 

「………!」

 

と、そこで令音の脇から四糸乃が駆け寄り、戦兎の身体を支えてくれた。

 

「お、悪い。サンキューな、四糸乃」

 

「い、いえ………」

 

苦笑しながら戦兎が言うと、四糸乃がどこか恥ずかしそうに顔をうつ向けた。よしのんが『ひゅー』だなんてわざとらしい口笛を吹く。………どうやって鳴らしてるんだそれ。

 

「……大丈夫かい?もう少し休んでいた方が____」

 

「いや、大丈夫だ。こいつを早く解析しないと………また、きっと被害者が増える」

 

令音は戦兎の様子を見るように目を細めたが、すぐに小さく息を吐き、

 

「……そうか。私はここでシン達の様子を見ることにするよ」

 

言って、戦兎の隣の、カーテンで仕切られたベットの方へと向かった。戦兎はそれを見やると、ドライバーを片手に進もうとした。

と、四糸乃が戦兎の腰元を支えたまま、一緒に歩くようにしてくる。

 

「おい四糸乃、もう大丈夫だぞ?」

 

「…………っ、あ、はい………でも、その、あぶない、ですから」

 

四糸乃が労わるように言う。

その優しさに苦笑しながら、「……じゃあ、お願いするよ」と言って、共に歩みを進めていった。なぜかよしのんが器用にニヤニヤしていたが、まあいつものことなのでさして気に留めなかった。

 

四糸乃に伴われながら、フラクシナスの通路に足音を響かせていく。

そして戦兎の部屋の前に来たところで、戦兎が足を止めた。

 

「ありがとな四糸乃。もう大丈夫だ。お前は士道や万丈の面倒を見ていてくれ」

 

感謝の言葉を述べながら、四糸乃の頭を優しく撫でる。

 

「はい……。その、お大事に………」

 

『それじゃぁねぇー、戦兎くん。また身体壊しちゃいやよぉ〜ん?』

 

「ああ、気をつけるよ。それじゃあな」

 

四糸乃達に手を振ると、戦兎は部屋へと入った。

そこには五河家には持ち込めない機材などが積まれており、五河家にいるよりも作業効率は良かった。

 

「さて、と……」

 

椅子に座り、ドライバーを机の上に置く。最近使用していなかったためか、五河家よりも小綺麗だった。

そして、しばしドライバーを見つめる。

 

「……………」

 

改めて見て、やはり記憶にない形状のドライバーだと思う。

注射器を模したような形で、ボトルは側面から挿すタイプ。中心部付近にスクラッシュドライバーのゼリータンクのような構造があり、ここに成分を貯めるのだろう。

 

一通り現段階で残ったパーツと、修復しないといけない構造を把握したところで、戦兎は作業に取り掛かった。

そこからしばらく、部屋には電子音が聞こえ、またそこから、しばらくはパソコンのタイピング音が聞こえたと言う。

 

 

 

 

それから、数時間後の事。

 

「……琴里を、デレさせろ………って」

 

士道はフラクシナスの通路を歩きながら、一人呟いた。

先ほど、個室で琴里と二人、話してきたのである。先の戦いで起こった出来事、琴里が何者なのかを。

 

結論から言うと、琴里は精霊だった。否______正確に言うのなら、()()()()()()()()()()人間だった。

 

五年前、天宮市を襲った、大火災。

 

その日に琴里は、何者かによって精霊にされ、その際、士道に霊力を封印されたのだと言う。

 

何者か、とはっきりしないのは、その何者かが誰なのかわからず、また当時のことを、士道はおろか当事者の琴里も覚えていないからなのである。

しかし、そんな重要な事を、二人揃って忘れるなど有り得ない、と言うのが二人の見解だった。その為、誰かが記憶を操作した可能性もあるのだと、琴里は言っていた。

また、琴里の精霊の力は、時折強力な破壊衝動をもたらすらしく、今はどうにか抑えている状況なのだと言う。

 

そしてそれを阻止するために、士道がする事_______それが、琴里の霊力の再封印。

 

その為に、琴里とデートして、デレさせる必要がある_____そう言う事だった。

 

そしてその期限が、二日後。………あと二日しか、琴里は自らの霊力に耐えられないという事だった。

 

それについては、了解できた。しかし、あの苛烈で強気な五河琴里をデレさせるという言葉が、なんとも難易度の高い作戦に思えて仕方なかったのだ。

 

と、そこで

 

「と、そういや戦兎、ここにいるって言ってたな………」

 

戦兎の部屋を通りがかった際に、戦兎が自室にいると令音から聞いたのを思い出した。

しかし、普段なら電子音やタイピング音が聞こえてくる部屋からは、何の音も聞こえてこない。

 

「おーい、戦兎ー?」

 

ノックをしてみるが、反応が無い。

引き返そうとした、瞬間。

 

_______ガンッッ!!!

 

 

「ッ!?」

 

扉の向こうから、何かを勢いよく叩きつけるかのような音が聞こえてきた。

思わず心配になり、ドアを開けようとする。ドアのロックは開いており、入ることができた。

 

確かに、中に戦兎はいた。パソコンのモニターを見つめながら、拳を机に叩きつけて、何かに憤るように震えていた。

 

「お、おい、戦兎………?」

 

「……………るな

 

「え?」

 

「ふざ、けるな……………ッ!」

 

戦兎のただならぬ様子に、士道は思わず駆け寄り、パソコンのモニターを覗く。

 

そこには、真那が使用していたベルト、リバースドライバーの詳細なデータと思しき文字列と図式が、表示されていた。

 

 

 

 

_______リバースドライバー。

 

真那が所有していたそのドライバーを可能な限り修復し、データを復元しようと、戦兎は試みた。

そして、幸いにも内部データが奇跡的に残っていたため、復元後は比較的容易くデータを覗くことができた。

 

しかし、それを見た瞬間_______戦兎の胸中には、怒りの感情でいっぱいだった。

 

 

リバースドライバーは、言わずもがな変身用のドライバーである。

どうやらフルボトルではなく、それを模して作られた、『擬似ボトル』とでも言うべきボトルを装填して、変身するようである。変身すると、理論上はビルドドライバーによる変身者の能力を大幅に上回る戦闘力を手に入れ、スクラッシュドライバーのライダーすらも凌ぐとすら思えるスペックを誇る。

 

しかし問題は、その変身者に課せられるデメリットにあった。

 

まず、変身中に装着者は、肉体の表細胞を変質させられる。それも_____スマッシュと言っても差し支えないほどに。

これにより基礎能力が底上げされるのだが、同時に副作用として、肉体の細胞が劣化し、所謂肉体の早期老化が懸念されるのだ。さらにその細胞劣化は回数を重ねるごとに進行速度が早くなり、最悪の場合死に至る可能性もある。

また、ドライバーの連続使用による依存性、精神の汚染。またスクラッシュドライバーと同じく、好戦的な気質を剥き出しにされるというデメリットもある。

 

しかし、これほどのデメリットがあっては、いざ使えても早死にするだけである。

そのためこのドライバーの使用には、適合するための改造手術が必要となる。

ハザードレベルを最低でも4.5にまで引き上げた上で、肉体のハザードレベル上限を7.0まで耐えられるよう、魔術的措置を施す。

 

さらにこのドライバーの使用には、CR-ユニットとの併用も想定しているために脳波のコントロールも必要とされ、頭部には頭蓋骨を切り開いてから脳内に制御チップも埋め込まなければならないのだ。

 

こうする事で、少なくとも細胞劣化は防ぐことができ、継続的に戦闘が可能となる。______自らの寿命を、何十年と犠牲、否、ドライバーの使用料として先払いすることで。

 

 

しかしこの手術を施してすら、あくまでも適合が出来たら使える、というレベルなのである。

 

 

不適合者とみなされたものは、変身こそできるものの_____その副作用を一気に受けてしまい、結果として早死にする、という事だった。

 

 

 

「そん、な…………」

 

落ち着きを取り戻した戦兎の説明を聞き、士道は戦慄した。

 

そのあまりにも、人の道から外れたとしか思えないような、非人道的なシステムが、目の前に存在すると言う事実に。

 

そのシステムを、自らの妹が何度も使用していた、という事実に。

 

「………これ、を。真那が、使ってた、ってのか?はは、じょ、冗談、だろ………?」

 

「……………」

 

「冗談って、言ってくれよ…………!なぁ、戦兎…………ッ!!」

 

震えた声で言いながら、戦兎の肩を掴む。

しかし顔を上げると、戦兎もまた、怒りに染まった表情をしていた。いつもの、飄々とした掴み所のない様子などでは無く、目の前で見た、非人道的な所業の代物に、明確な怒りを持った様子だった。

 

「………俺だって、冗談だって思いてえよ……!こんなものが、あるって事実も……………こんなもんを、作ったやつがいるって事実も…………ッ!!」

 

そう言って、再び拳を振りかざし、リバースドライバーを叩き飛ばした。壁に当たって、ドライバーが床に転がる。

 

「………俺は、こいつを作ったやつの正体を突き止める。……いや、もう大方、検討はついてるんだけどな」

 

そう言って顔を上げた戦兎の顔は、決意に満ちた表情をしていた。

 

「お前は、琴里とのデートに集中しろ。………今回は、お前がやらなきゃ駄目だ」

 

「………ああ、そうだな。でも、お前は______!」

 

「俺の事は気にすんな。_______もう、あんな物を生み出させちゃいけない」

 

そこにあったのは、愛と平和の為に戦う正義のヒーローと_______平和を願う、科学者の矜持を持った者だった。

 

 

 

 

都内のビルにある、広い一室で。

 

男が、銃を持ってそこに立っていた。近くには、紫色のサソリ男_____マッドクラウンの姿があった。

 

「さてと______実験を、始めるとしようか」

 

そう言って、男は手元の銃______【リバースチームガン】を右手に構え、左手に握った黄色のボトルを、スロットに装填した。

 

 

BEE ALTERNATIVE………

 

 

「______凝装(ぎょうそう)

 

 

声とともに、その引き金を引く。

 

 

LIQUID MATCH………

 

低くくぐもった音声とともに、銃口から蒸気が放たれ、まるで凝結するかのように、男の身体に収束し、装着される。

 

 

BEE……NASTY……BEE

 

 

蜂の羽音のような不快音と共に、その蒸気が晴れ、姿が露わになろうとする。

 

 

REBIRTH!!

 

 

最後に蒸気が霧散して、その姿が現れる。

 

蜂の目のような複眼と、流体状のアーマー。

 

胸元から伸びたパイプのような管と、右腕部にある蜂の針。

 

 

よし、こんなものかな……?

 

 

不気味な声で、男が自らの身体を確認しながら言う。

 

この時既に、戦いの火蓋は落とされていた。

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?
最近雑になってきてる気がして、申し訳なく思います。ただでさえこの章はオリジナル要素が多くて、しかも設定の矛盾とかないか調べながら書かなきゃいけないし、最近高校が忙しくなってきたし、疲れるしで、これからも投稿ペースが落ちる可能性があります。あと、クオリティの方も、保証できるとは言い難いです。

それでも皆さんの応援とモチベーションがある限りは、続けるつもりです!もしふらっと更新が途絶えても、多分またふらっと帰ってくるので安心してください。

あと、そろそろ息抜きがわりの作品を一つ(原作は未定)、そして仮面ライダー龍騎×ダンガンロンパの小説を書こうかな、と考えています。
投稿する時になったら活動報告にて報告させていただきますので、よければチェックの方よろしくお願いします!

それでは次回、『第32話 その真相へのチェイス』、をお楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録よろしくお願いします!




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第32話 その真相へのチェイス

桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎と愉快な仲間達は!士道の妹である琴里が精霊であると言う、驚愕の事実を知ってしまう」

万丈「まさか琴里が精霊だったとはな………つか、あれ熱くねーのかな?」

桐生「それはほら、炎の精霊って言うくらいだし、なんとかなってるんじゃない?」

万丈「仮にも自称天才物理学者がそんなほわほわした感じでいいのかよ」

桐生「自称ってなんだよ!れっきとした天!才!物理学者ですから!」

万丈「だったらあれ説明してみろよ!」

桐生「いーよ説明してやるよ!いいかまずは______」

士道「だぁーもう後にしろ!あらすじ紹介終わるから!と、言うわけで!第32話、どうぞ!」





「ここ………でいいんだよな」

 

「ああ、多分マップだとここで合ってる」

 

 戦兎達と共に、士道はスマホのマップと目の前の大きな建物とを見比べながら、小さく呟いた。門には『自衛隊天宮病院』と記されている。どうやらここで間違いなさそうだった。

 

「あいつ………無事だといいけど」

 

「………あのスマッシュになったことで、後遺症とかが残ってなきゃいいけどな」

 

「ま、大丈夫だろ」

 

「お前な、そんな気楽に言うけどよー」

 

 一昨日の戦闘で、真那は正体不明のスマッシュとなり、その時に大きくダメージを受けていたのだ。搬入されるのなら直近の自衛隊病院だろうと踏んで、様子を見に来たのである。

 と、三人で病院に入ろうとしたその時、戦兎のスマホからアラームが鳴った。

 

「……こんなタイミングでスマッシュかよ。……悪いな士道。先行っててくれ」

 

「あ、ああ。大丈夫か?」

 

「当ったり前でしょ。どこかの新参者と違って、こっちはベテランよ?ベテラン」

 

「…………」

 

 士道を軽い調子で煽れるくらいには、大丈夫そうだった。ヘルメットを被りなおして、バイクにまたがる。

 

「ほら、行くよ万丈。士道、妹さんの事、ちゃんと見舞ってやれよ?」

 

「ああ。じゃあ、また後で」

 

「おう」

 

 軽く返すと、戦兎は万丈を後方に乗せてバイクで駆けて行った。

 そして俺は再び向き返すと、病院の門を潜った。

 

 

 ◆

 

 

ライオン!電車!

 

Are You Ready?

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

 ライオン電車フォームにビルドアップしたビルドは、専用武器である【カイゾクハッシャー】を取り出して、眼前のスマッシュに狙いを定めた。電車型攻撃ユニットである【ビルドアロー号】を海賊船型攻撃ユニットである【ビルドオーシャン号】から引き絞り、エネルギーをチャージする。

 

 

各駅電車ー!急行電車ー!快速電車ー!海賊電車ー!

 

 

 

 音声とともに、カイゾクハッシャーの先端部に電車状のエネルギーが充填される。海賊レッシャー状態だと緑と青のエネルギーが、今回はライオンの黄色と電車の緑のエネルギーになっていた。

 

 

発車ーッ!

 

 

「ハァッ!」

 

「アガァァァアーーッ!!?」

 

 そしてビルドアロー号を離し、エネルギー弾を離す。エネルギーは縦横無尽にスマッシュを攻撃し、その身体を爆散させた。

 

「よしっと。万丈ー、そっちはどうだー?」

 

「おー!こっちも終わったぞー!」

 

 エンプティボトルで成分を回収しながら、先程まで二体目のスマッシュを相手取っていたクローズチャージに問う。どうやら向こうも終わらせたようで、近くには爆散したスマッシュと、ツインブレイカーを掲げたクローズチャージの姿があった。

 

「よし、んじゃ早く、病院戻って………」

 

 ボトルの成分を抜き終わり、そう言おうとした瞬間。

 

 

 _______ガガガガッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 何処からか、無数の銃弾が飛んでくる。それを紙一重で回避し、ビルドはカイゾクハッシャーを構え直す。クローズチャージも気づいたのか、ツインブレイカーを再び握り直した。

 

「誰だ!?」

 

 

______ああ、流石に当たってはくれないよねぇ

 

 

 ノイズが掛かったような声とともに、その姿が現れた。

 

 

 まるで()のような複眼と、無数の導線が敷かれたマスク。

 

 額部と胸部から伸びる、先端が細く尖ったパイプ管。

 

 そして、胸部の蜂の模様と、右手に備えられた鋭く太い針。

 

 

 右手には銃_____リバースチームガンが握られ、全身から水蒸気のようなものを発していた。

 

 

「お前____誰だ」

 

 ビルドが警戒を緩めることなく、武器を構えながら眼前の蜂男に問う。

 

 

私かい?そうだねぇ…………まあ適当に、ナスティシーカー(不快な探求者)、とでも呼んでくれたまえ

 

 

 大仰に手を挙げそう言った後、眼前の男______ナスティシーカーは右手に持ったリバースチームガンを構えた。

 

「ッ、来るぞ万丈」

 

「ああ」

 

フフッ、実験を始めようか

 

 芝命めいた口調でそう言うと、ナスティシーカーは引き金を引いて銃撃を繰り出した。ビルドとクローズチャージはそれを回避し、得物を構え攻撃を仕掛ける。

 

「ハァッ!」

 

「オリャァッ!」

 

 ビルドがカイゾクハッシャーから持ち替えたドリルクラッシャーで、クローズチャージが右手のツインブレイカーで攻撃を仕掛ける。しかしナスティシーカーはそれらを右手のリバースチームガンと、左手に握ったブレード_____【ミストブレード】でそれぞれ受け止め、また弾き返した。

 

「ぐあッ!?」

 

「何ッ……!?」

 

おっと、すまない。戦いには不慣れなものでねぇ、どうも力加減が分からないんだ

 

 軽い調子でそう言うと、シーカーはミストブレードをリバースチームガンにセットし、大型ブレード、【バスターモード】へと変形させた。

 

「野郎………ッ!」

 

 クローズチャージが立ち上がり、ツインブレイカーにドラゴンフルボトルとドラゴンスクラッシュゼリーを装填する。

 

 

シングルッ!ツインッ!

 

ツインブゥレイクゥッ!

 

 

「オーリャァッ!!」

 

 突き出したパイルの先端に、エネルギーが集中する。一点集中させたそのエネルギーを、高速回転させながらシーカーへと叩き込んだ。

 しかし、シーカーはさして驚いた様子も無く、手元のブレードを操作し、軽く構えた。

 

POISON MIST……CHARGE

 

 低い音とともに、ブレードから紫色の毒気を帯びたような液状エネルギーが放出される。それはツインブレイカーのエネルギーとぶつかり、その攻撃を相殺させた。

 

「な、嘘だろッ!?」

 

驚くのはまだ早いよ

 

「何………ウッ!?」

 

 シーカーが言い終わるのと同時に、クローズチャージが苦しんだ様子で胸元を抑える。

 

「万丈!?お前………ッ!」

 

 その様子を見たビルドが、シーカーへと攻撃を再開しようとする。ドライバーのボトルを入れ替えた。

 

 

ライオン!掃除機!

 

BEST MATCH!

 

Are You Ready?

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

(たてがみ)サイクロンッ!ライオンクリーナーッ!イェアッ!!

 

 

 ライオンクリーナーフォームへとビルドアップを完了させ、シーカーからブレードを分解させて繰り出される銃撃を、左腕の【ロングレンジクリーナー】で吸い込みつつ右腕の【ライオメタルクロー】で接近戦を仕掛ける。

 

「お前………一体何者だ……ッ!」

 

もう君達が知っている者だよ………あ、そういえ、ば!

 

 そこで何かを思い出したようにいい、ライオメタルクローの攻撃を銃撃で遠ざける。幸い当たったのはライオンアーマーの方であり、武器による物理攻撃をほぼ通さないためダメージは入らなかった。

 そこで、シーカーがビルドに問いかける。

 

君たちさ、()()()()の事、気にかけてるだろう?

 

 その質問をされた時、ビルドの胸にふつふつと怒りが蘇ってきた。

 

「ッ!やっぱり、お前は………!」

 

まあまあ、落ち着きなさい。それにしても………君、彼女を本当に人間だと思っているのかい?

 

「何………?」

 

 心底不思議そうな声音で、シーカーが問いかける。そして、そのまま言葉を続けた。

 

だって、そうだろう?彼女はあのドライバーの装着者になるために改造手術を受け、ネビュラガスを投与され、あまつさえオーバースマッシュに覚醒した。………その時点で、彼女はもう人間じゃあない

 

「ッ……黙れッ!」

 

 立ち上がり、その言葉を続けさせまいと攻撃を仕掛ける。しかしシーカーはそれをミストブレードで受け止め、言葉を続けた。

 

仮面ライダービルド、クローズ………君たちとて同じ穴の(むじな)だろう?ネビュラガスの人体実験を受け、兵器となった存在だ。そう考えれば彼女とて………兵器が少し強くなったと割り切れば、ほら、どうということはないだろう?

 

「ふざけるなッ!元はと言えば、お前達がやった事だろうッ!こんな………人を弄ぶような真似をッ!」

 

私が行ったのは意義あることだ!手が伸ばせる空論を可能性にし!現実へと昇華させた!君とてそうだろう!?桐生戦兎ォッ!目の前に可能性があるならば試す………それが例え、兵器であろうが戦争であろうがッ!科学者とは、そう言う生き物だッ!

 

「違うッ!科学者は兵器を生み出す存在じゃない!人々の幸せを願って、平和利用のために力尽くすのが科学者だッ!」

 

それは君の綺麗に過ぎる価値観でしかない!自らの才能をどんなことであれ試したいと思う欲求に、一体、何の間違いを見出せようか!?

 

 そう言い切ると、シーカーはビルドの攻撃を跳ね返した。ビルドが後方へ吹き飛ばされるのと同時に、シーカーは変身を解除する。

 

 

 ______そこに現れた姿は、神大針魏、その人だった。

 

 

「まあ、いいさ。君の言う綺麗事が、どこまで通用するか………少し気になるところではある」

 

「やっぱり………お前だったか………ッ!」

 

「てめえ………ッ!一回ぶん殴らせろやァッ!」

 

 変身を解除され、既にクローズドラゴンによって毒を中和された万丈が堪えきれない様子で、神大へと向かう。

 だが針魏はスチームガンを構え、こう言った。

 

「まあ、精々足掻くがいいさ。真に正しいのがどちらか…………決着をいずれ」

 

 そう言い残すと、針魏はスチームガンの引き金を引き、蒸気を発して消えていった。

 

「待ちやがれッ!………くそッ!」

 

 万丈が地団駄を踏み、近くの木に拳を打ち付ける。

 しかし変身を解除した戦兎は、今までと違う、落ち着き払った表情をしていた。

 

 かつての戦兎であれば、打ちのめされていたかもしれない、針魏の、もといシーカーの言葉。

 

 しかし戦兎は先の言葉によって、より闘志を燃やしていた。

 

 針魏とは、決着をつけなければならない。

 

 

 ひとりの科学者として。仮面ライダーとして。

 

 この時、互いの矜持をかけた、二人の科学者の戦いの、火蓋が落とされた。

 

 

 ◆

 

 

 士道は、絶句していた。たった今目の前で、鳶一折紙が話した、その言葉に。

 

 当初予定していた真那との面会は、断られてしまった。何でも特殊な機械を使うとか何とかで、無理だと言ってきたのだ。食い下がろうとした時、現れたのが折紙だった。

 折紙も搬送されていた為、いるのは勿論なのかもしれないが、その後なし崩し的に、折紙の病室まで行く事になったのだ。その途中途中でハプニング(もとい、折紙からの精神的疲労を伴う接触)があったものの、一先ずは落ち着いた、ところだった。

 

 問題は、その後に折紙から聞かれた、『炎の精霊』______即ち、琴里についての詳細な話だった。

 

 当然士道もぼかして話したのだが、その後に彼女が、こう告げたのだ。

 

 

 

 _______()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なのだと。

 

 

  そして、現在に至る。

 折紙は一切の逡巡もなく、そう言葉にして言い切ったのだ。それを聞いた瞬間に、士道の動悸が激しくなって、息が苦しくなるのを感じた。

 

 

「_____ずっと、ずっと探してきた。ずっと、ずっと探し続けてきた」

 

 士道の狼狽に気付かぬ様子で、折紙が続ける。

 

 

 

「やっと見つけた。ようやく見つけた。

 殺す。殺す。絶対に殺す。私が、この手で。

 私の五年間はこの為に、その瞬間のためだけにあった。

 この瞬間のために、ASTに入った。

 この瞬間のために、顕現装置(リアライザ)を手に入れた。

 この瞬間のために、業を、技能を身につけた。

 全ては、犯人を倒すために。

 全ては、炎の精霊をうつために。

 全ては、【イフリート】を殺すために」

 

 

 

いつもの様子からは考え付かないほどに雄弁に、呪いの言葉を並べ立てる。

表情は無味、声は平坦。クラウンのように大仰に身振りをしているわけでもない。なのにその言葉は、聞いているものの心臓を締め付ける途方も無いほどの怨嗟が籠っていた。

 

その後、折紙はその精霊____【イフリート】について、五年前に起きたことを、ぽつぽつと語り始めた。

 

両親が、火災に巻き込まれた事。その両親も、最初は生きていたこと。しかしすぐに精霊が現れ、両親を目の前で殺したこと。朦朧とする意識と霞んだ視界によって、その姿を正確には見取れなかったこと。後に、その火災の原因となったのがその精霊_____イフリートだと知ったこと。

五年前の出来事のはずなのに、彼女は一切の淀みなく言い切った。まるで、つい先日にその出来事を経験したかのように。

 

「_____こんなところ」

 

折紙が締めくくった時、士道は自分の心臓が、やたらうるさかったと思った。

士道が求めていた情報______その精霊と、琴里の決定的な相違点は、結局聞き出せなかった。琴里が折紙の両親を殺しただなんてこと、信じられなかったのである。

 

士道が縋るように一歩足を踏み出した、その時。

 

『_____ご面会中の皆様におしらせします。本日の面会時間は終了しました。院内におられる方は、速やかにお帰りいただきますようお願いします。繰り返します______』

 

廊下からそんなアナウンスが響いてきて、士道の思考は遮られた。

 

「どうしたの?」

 

折紙が首を傾げてくるが、士道は静かに首を振った。

 

「い、いや_____何でもない。お大事にな、折紙」

 

折紙がこくんと頷いてくる。士道は逃げるようにそそくさと病室から出た。

 

 

______きっと、怖かったのだろう。

 

______折紙の口から、五年前の精霊が琴里であるという証拠が出てしまうのを。

 

 

「……………」

 

出来るだけ音を立てないよう扉を閉め、廊下に視線を落として歩きだし、病院を出た。

 

すると、そこで。

 

 

「____気付いちゃいましたぁ?五年前の精霊が、妹さんだってことに」

 

 

今の士道にとっては不愉快極まりない、声が響いてきた。

戦兎から既に話は聞いた。その声は、学校で何度か聞いたことのある声だった。

 

「神大、針魏………ッ!」

 

名を呼ばれたその男は、長髪を揺らして士道の方へ振り向いた。

 

「やぁやぁ士道クン。真那クンの見舞いはいいのかい?彼女、大変なことになっているんだろう?」

 

「誰のせいだと思っているんだ…………ッ!」

 

戦兎から、それも全て聞いた。目の前の男が、真那に改造手術を施したと言うことも。

 

そして_____おそらくこの男が、リバースドライバーを作り出し、真那に渡した男であるという事も。

 

 

針魏はしばらく顎に手を当て、「んー?」と唸ったのち、士道に寄ってきた。

 

 

「真那クンが倒れたのは、オーバースマッシュになったことが原・因で………」

 

 

何かを思い出すかのような素振りをしながら、士道の周りを回る。

 

 

「それは彼女がリバースドライバーを使った所為だ・か・ら…………」

 

 

そして士道の前に立ち、軽く胸をタッチする。

 

 

「つまり!彼女にドライバーの適合手術を施した所為………ハッ!」

 

 

そこでパチンと手を叩き、士道に指を指した。

 

 

全部私の所為だ!ハハハハハッ!士道クン、全部私の所為だ!

 

 

「ッ!」

 

その言葉に、士道は衝動的にボトルを握り拳を振りかぶっていた。

 

「おっと、危ない危ない」

 

針魏はその拳をひらりと躱すも、士道は唸るような声を上げた。

 

「お前………ッ!」

 

「野蛮だねえ、君も。殴られたら痛いし、私はここでお暇するよ。それじゃあね」

 

針魏はそう言うと、手をヒラリと振ってその場を後にした。

士道はしばらく黙った後、その場に崩れ落ちた。

 

「俺は…………どうすればいいんだ…………っ」

 

 

 

 

 




どうでしたか?
突然ですが、スピリットフルボトルを描いてみました。拙さ全開ですが、参考程度にどうぞ。


【挿絵表示】


お目汚しになったのなら申し訳ありません。まあ大体こんな感じです。描けたらエンジェルフルボトルとかも描ける範囲で描きます。

戦極遼馬のあの台詞を、針魏に言わせたかったので、後半にねじ込みました。一応意味がないわけではないので、文字数稼ぎではありませんよ決して。

それでは次回、『第33話 戦争(デート)へのエクスペクト』、をお楽しみに!

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第33話 戦争(デート)へのエクスペクト

桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎は!精霊である事が判明した士道の妹、琴里を救うために行動を開始する。しかしその最中、ナスティシーカーという、もう一人の謎の男が現れ、俺たちを襲撃した。その正体はなんと……神大針魏だった」

真那「いやー、まさかあの人がシーカーだったとは……。にしても、登場回でいきなり正体を現すのって、どうなんでいやがりますか?」

士道「まあ分かりやすくていいんじゃないか?つーか真那、またここにいるんだな」

桐生「もしかしてこのままあらすじ紹介のレギュラーに入ろうとしてる?」

真那「あ、バレやがりましたか?いやーこの後本編での出番が少なくなりそうでいやがりますので、せめてあらすじ紹介だけでもと思いましてー」

万丈「どうする戦兎ぉ?」

桐生「まあ準レギュラーくらいだったらいいけどねー。どうなるかは読者さん次第かなー」

士道「そこで読者に媚びるのかよ」

桐生「ほらやっぱ需要と供給は大事にしないとじゃん?」

万丈「そうだぞ。供養と給食は大事にしねーとな」

桐生「需要と供給な?さて、そんな言い間違えるバカな万丈は置いておいて、日常回?な第33話をどうぞ!」







六月二十一日は水曜日。にも関わらず、士道達の通う来禅高校は今日、臨時休校となっていた。しかし、それも無理からぬことである。何しろ学校にいる生徒、職員全員が倒れ、意識不明状態に陥っていたのだから。

幸い症状の重い生徒はいなかったものの、学校側がガス管などの検査のために、今週いっぱいは臨時休校になったらしい。

 

そして今日、士道達は琴里とのデートに向けて、訓練を兼ねて準備のために街へと向かっていたのであった。

 

明日行く場所はオーシャンパークという、プール施設なので、水着を調達しに行く、という訳だ。

 

士道と戦兎と万丈、十香と四糸乃、よしのん、そして何故か鳶一折紙も付いたメンバーで、ツインビルにある水着売り場まで行った。道中の十香と折紙はそれはもう険悪なムードだったが____よくよく考えれば普段の学校生活とそう変わらなかった。

 

「そういえば、シドー、セント、リューガ」

 

「ん?どうした」

 

「水着とは、一体何なのだ?」

 

「え?」

 

三人揃って目を丸くした。が、そういえば学校でもまだプールは始まっていないため、知らないのも仕方ないことかもしれなかった。

 

「………ほら万丈、説明してやりなさいって」

 

「なんで俺なんだよ。士道やれよ士道」

 

「え、俺?」

 

改めて女の子に水着のことを説明する、という事が気恥ずかしい為か、三人で説明のなすり付け合いが始まろうとする。とはいえ説明しないと駄目なので、士道が唇を開いた。

 

「ん、そうだな、水着っていうのは______」

 

「_____Mi-Zu-Gi。新型の対精霊用殲滅兵装の一つ。発動と同時に搭載された顕現装置(リアライザ)が臨界駆動を開始、弾頭を分子レベルに分解、放出し、霊装をも容易く通り抜け、対象の体組織を復元不可能なレベルにまでズタズタに破壊し灰化させる。その際の苦しみは筆舌にし難く、その非人道さから、対人使用は国際法で禁じられている」

 

と、折紙がつらつらと言葉を並べ立て、十香が「ひっ」と息を詰まらせた。

 

「な………ほ、本当かシドー………!?」

 

「いや、そんなわけないだろ」

 

「おい戦兎………本当なのか?」

 

「お前まで騙されてどうするんだ万丈バカ」

 

再び折紙が言葉を続ける。

 

「本当。まさか彼らが、Mi-Zu-Giの存在を知っているとは思わなかった」

 

「な、なぜシドー達はそんな物を………」

 

「それは至極明快かつ単純な理由。対精霊殲滅兵装は、精霊に向ける他ない。きっとあなた達二人が油断したところで、二人掛かりで後ろから奇襲を仕掛ける算段」

 

『………っ』

 

十香が顔を青くして身を固くし、折紙から隠れるように戦兎の陰に立っていた四糸乃が小さく息を詰まらせる。

 

「う、嘘を吐くな!シドー達がそんなことをするはずがない!」

 

「………っ、わ、たしも………そう、思い、ます………」

 

十香が叫び、滅多に声を上げない四糸乃もまた、そう言ってきた。

 

「そ、そうだろうシドー、セント」

 

士道と戦兎が首肯しようとしたところで、折紙が鼻をつまみ、唇を動かした。

 

『いや、折紙の言う通りだ。いつお前らを殺してやろうかと思っていたのだー』

 

「ま、まさかシドー、本当に………!?」

 

「いや全然似てねえだろ騙されんなよ!」

 

『当然だ。この正義のヒーローが巨悪を見逃すわけがないだろう?』

 

「戦兎!まさかお前、そういう腹積もりだったってのか!」

 

「いやだからお前まで騙されてどうするんだよ!」

 

士道が叫ぶと十香がハッと肩を揺らし、戦兎が頭を小突くと万丈が同じようにハッと肩を揺らした。どうやらようやく騙されたことに気付いたらしい。十香はともかくなぜ万丈まで騙されたのか。そうか万丈(馬鹿)だからか。

 

「「おのれ卑劣な!」」

 

「何のことかわからない」

 

「お前ら店内では静かになー」

 

言い合いを始めたいつもの二人+万丈を何とか二人で宥めすかし、はあと息を吐く。慣れてるといってもやはり、疲れるものは疲れるのだった。

 

「水着ってのは名前の通り、水に入るときに着る服だよ」

 

「水に………?それだけのためにわざわざ着替えるのか」

 

「ああ。水に濡れたら服がビショビショになって気持ち悪いだろ?」

 

「おお、なるほど!シドー、さてはお前天っ才だな?」

 

「いや俺が考えたわけじゃねえけども」

 

「ガタッ」

 

「お前じゃねーよ」

 

士道が頰を掻きながら苦笑し、戦兎が天才のワードにつられて反応し、万丈がそれに突っ込んだ。

エレベーターから降りるとすぐに、カラフルな水着が陳列されたスペースが視界に入り込んできた。もう六月も後半である。水着を売るには丁度いいシーズンなのかも知れない。

 

水着売り場に足を踏み入れると、「いらっしゃいませー」という店員の甲高い声がどこからか響いてくる。

まず駆け出したのは十香だった。不思議そうに店内を見回し、首をかしげる。

 

「それで、シドー。水着というのはどれのことなのだ?」

 

「ん、そこら中にかかってるのが全部そうだよ」

 

「!な、なんだと………?」

 

士道が言うと、十香は目を剥いて両手をわななかせた。

恐る恐るワンピースタイプの水着を手にとって眺め回し、手触りを確かめてから、何かに気付いたようにハッと顔を上げてくる。

 

「なるほど、そうか。これの上に何か着るのだな?」

 

「いや、それだけだ」

 

戦兎が言うと、十香は戦慄に染まった顔を向けてきた。

 

「こ、これでは隠し切れないぞ!なぜこんなに面積が小さいのだ………!?」

 

「まあ、その方が動きやすいからだな。水中だと抵抗が強いから、寧ろその方がいいんだよ」

 

「ぬ、ぬう……確かにそうかも知れんが、これではまるで鳶一折紙のナントカスーツではないか………流石に少し恥ずかしいぞ」

 

「……………」

 

戦兎の説明を聞いた十香の言葉に、折紙がじとっとした視線を送る。何を言ったわけでもないが、何となく憮然としている感じがした。

 

「(まあ普段着てるやつを恥ずかしいもの呼ばわりされたからな〜。流石に気には触るか)」

 

「じ、じゃあ、とりあえずどれか気に入ったのを試着してみてくれ」

 

士道が言うと、折紙が即座にこくんと頷き、四糸乃も恥ずかしそうに首肯した。二人の様子を見てか、十香も頰を染めながら「特別だぞ……」と唇を動かす。

そしてぐっと拳を握り、四糸乃に向かってファイティングポーズを取ってみせた。

 

「よし………では頑張るぞ!四糸乃!」

 

「は、はい………えと、頑張り、ましょう………!」

 

そんな二人のやりとりを見て、士道と戦兎が首を傾げた。

 

「二人ともどうかしたのか?」

 

「なんかやるのか?」

 

「うむ。今日私がシドーを、四糸乃がセントをドキドキさせたら、それぞれデェトをする権利をくれるらしいのだ」

 

「な………!?」

 

「に?」

 

士道が目を剥き、戦兎が呆けた顔になる。士道がインカムを小突くと、こちらをラタトスクからモニタリングしている令音の眠そうな声が聞こえてきた。

 

『……ん、どうせなら少し難易度を上げておこうと思ってね』

 

「そ、そんな____」

 

「ところでシドー、セント!」

 

と、途中で十香が声を上げてきて、士道達の会話を中断させた。

 

「な、なんだ、十香」

 

「シドー達は一体どうやったらドキドキするのだ?走るのか?いっぱい走るのか?」

 

「……それは、うん、ドキドキしそうだなあ」

 

「……まあ、うん。ドキドキはするな」

 

士道達が苦笑して答えると、四糸乃の左手のよしのんがカラカラと笑い声をあげる。

 

『あーはは、違うよー。男の子をドキドキさせるって言ったら、一つしかないじゃない』

 

「ぬ?ではどうするのだ?」

 

『んーとね、十香ちゃん。ちょっとこっち来たんさい』

 

言って、よしのんが手招きをする。そして十香が顔を寄せると、士道達に聞こえないくらいの小さな声で、何かひそひそと話をした。そして。

 

「な………ッ!?」

 

話が終わるのと同時に、十香の顔がボンッ!と赤くなった。

 

『ほいじゃ、せいぜいがーんばってねー』

 

『よしのん』が、四糸乃を引っ張って店の奥へと歩いていく。十香は呆然とした様子でその背を見送っていた。

 

「お、おい十香?一体何を______」

 

「はふん!」

 

士道が肩に手を触れると、十香がへんちくりんな叫びを上げて身体を震わせた。

 

「と、十香?」

 

「ぬ………いやすまん。何でもないぞ。しかし……困ったな。シドーはああしないとドキドキしてくれないのか……」

 

「いや、だから何を聞いたんだよ!」

 

と、士道が叫んでいると、背後から音もなく折紙が現れた。

 

「____ルールは把握した。士道とのデート権は私が貰う」

 

「な………っ!き、貴様は関係ないだろう!」

 

十香が顔を険しくして折紙を睨みつけるも、折紙は意に介すことなく水着を数着持ってそそくさと試着室に入っていった。

 

「ぐ………あ、あの女にだけはデェト権を渡すわけにはいかん………ッ!」

 

十香は拳を握ると、手近にあった水着を手にとって折紙の隣の試着室に入っていった。

 

「………ええと」

 

なんだか勝手に話が進んでしまい、士道はぽりぽりと頬をかいた。

と、そこで万丈が何かに気づいたように、ポンと手を打った。

 

「あ、そういや戦兎。俺たちの水着どうすんだよ」

 

「え?」

 

「プール行くってんなら必要だろ?でも、俺たちそんなん持ってねえだろ」

 

「あー、確かにな。折角だし買ってくか」

 

戦兎達が思い出したように会話する。そういえば忘れかけていたが、戦兎達は元々違う世界から来たのだ。水着を所持していなくても仕方ないだろう。

 

「というわけだから士道。俺たちちょっと水着見てくるわ。すぐ帰ってくるから、ちょっと待っててくれ」

 

「え?ああ、うん………ってちょっと待て。俺一人でこの場を乗り切れと?」

 

「じゃあそういう訳で!」

 

「あとよろしくなー!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

 

士道の悲痛な叫びは届かず、戦兎達は逃げるように男性用の水着売り場へと駆けて行った。

 

 

 

 

水着売り場に着いた戦兎達は、適当に水着を物色していた。が、なまじ種類は豊富にあったため、年甲斐もなく(見た目は高校生だが)少しテンションが上がってしまった。

 

「こう見ると色んな種類あるんだなー。お、これちょっとかっこいいかも」

 

「お!戦兎、これどうだ!?」

 

そう言って万丈が取り出した水着には、後ろにでっかく厳つい字体で『マッスルフィーバーッ!』と印刷されていた。

 

「………悪いことは言わねえからやめとけ。つかどこから引っ張り出したんだそんなもん」

 

「えーそうかぁ?んじゃ………」

 

戦兎があまりに露骨に嫌そうな顔をしたためか、それとも私服のセンスが致命的だった幻さんを思い出したためか、万丈は持っていた水着を戻して別の物を探し始めた。

戦兎も移動して、どれにするか悩んでいると。

 

「んー、悩むねぇ」

 

「そうだなー」

 

と、横から話しかけられた。水着を見ながら、適当に相槌を打つ。

 

「私としてはどれでもいいんだけどね。なまじ種類が多くて困るよ」

 

「あー、それ同感だ。俺も適当に選ぶはずだったのに、結構熱中しちまってさ」

 

「そうか。君とは意見が合いそうだねぇ」

 

ハハハハ、と顔を合わせずに会話をする。そこで相手の声に聞き覚えがある気がしたので、思わず相手の顔を見た。

 

膝までかかりそうな長い長髪に、半袖半ズボン、トドメにクロックスのラフな格好。

気のせいだろうか。その容姿はまるで、先日遭遇したばかりの_______

 

「って、神大………ッ!?」

 

「ん?おお、誰かと思えば、戦兎クンじゃあないか」

 

そう。戦兎達にとっては因縁の相手とも言える、神大針魏だった。何故か長い髪で、ラフな格好をして水着売り場にいた。

表情を険しくて、針魏を睨みつける。

 

「………何しに来た」

 

「何って………水着を買いに来たんだが?」

 

至極当然、何を今更、とでも言わんばかりの表情でそういう針魏。

言っていること自体は真っ当なのだが、相手が彼だと違和感この上無い。

少し調子を崩されたものの、警戒心を解くことなく質問を続ける。

 

「それだけじゃないだろう。偶然だなんて言わせないぞ」

 

「ハハハ、運命感じちゃったかい?………と、冗談は置いておこうか」

 

と、笑った顔は変わらず、しかし纏う雰囲気を変え、針魏が立ち上がった。

そして唇を開き、戦兎に話しかける。

 

 

「_____君達に一つ、警告をしておこうと思ってね。【鳶一折紙】には、気をつけた方がいいよ?」

 

 

「ッ、警告?鳶一だと?」

 

思わぬワードに、戦兎は眉をひそめる。

 

「彼女は親を精霊に殺されていてねぇ。その所為で精霊に、かなり恨みを持っちゃっているのさ。特に_____()()にね」

 

「……何の事だ」

 

「………こっちの話だよ。ま、とにかく。彼女には気をつけておいたほうがいいよ、ってことさ。もしかしたら、何かの間違いで彼女が君の仲間達をうっかり殺しちゃう〜、なぁんて事になるかも知れないからねぇ」

 

「ッ!お前………!」

 

「無いと言い切れるのかい?そもそも彼女は精霊の排除を目的とするAST所属だ。ああやって彼女達と水着を選んでいること自体が、そもそもにして異常だと思わないかい?」

 

「………」

 

確かに、その通りだ。

彼女はそもそもAST隊員であり、精霊を排除しようとするのは至極当然のことだ。ある程度の警戒は、本来しておくべきなのだろう。彼女が十香を、執拗なまでに毛嫌いする理由の一端も、彼の発言で少し分かった。

 

しかし同時に、ある疑問も浮かんだ。

 

「……どういうつもりだ。俺たちに、そんな情報を流して、警告なんかして。何が目的だ」

 

そもそもとして針魏は、今のところ戦兎達と敵対しているのである。さらには真那にリバースドライバーを渡したり、まだ明らかにはなっていないが、マッドクラウンも精霊との邂逅を妨害したりと、AST側に肩入れしているのだ。それが何故、敵に塩を送るような真似をするのか。

 

「大した理由は無いさ。ただ、君たちに今死なれちゃうと、こちらとしても望ましくなくてね。だからこうして、水着を買いにくがてら、君たちにお節介を焼きに来たというわけさ」

 

そこで一つ言葉を区切り、「……まあ」と、小さく呟いた。

 

______あの少年なら、あるいは

 

「?あの少年?」

 

「何でもないさ。お、これいいね。うん、これにしよう」

 

と、手に取った水着を選び、手に持ってその場を去ろうとした。

 

「それじゃあね、戦兎クン。君の仲間達にも、よろしく伝えておいてくれたまえ」

 

手をヒラヒラと振り、カウンターまで歩いていく。その様子を見やりながら、戦兎は思考を振り払うように頭を振った。

そして、近くにかけられていた水着を選ぶと、万丈の元へと向かったのであった。

 

 

 

 

数分後。水着を買い終えた戦兎達の目の前には。

 

「戦兎、万丈!助けてくれ!こいつら止めてくれ早く!」

 

「早く!早く私でドキドキしてくれ、シドー!」

 

「先の話についての説明を求める。どういう事、士道」

 

眼前には、黒髪の女の子とその胸を揉む(というか無理やり揉まされている)男子高校生、それに詰め寄る銀髪の女の子という、非常にシュールな光景が広がっていた。

 

「……………士道、俺たち、外で待ってるから」

 

「……………じゃ、そういう訳だから」

 

「放置!?ちょっと待って!置いてかないで!」

 

面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだと、心の中で士道に詫びながらその場を立ち去ろうとした、その時。

 

「戦兎………さ______ん………!」

 

蚊の鳴くような声が、どこからか響いてきた。

 

「え………?」

 

「今の声って……」

 

十香と折紙も気づいたらしく、ピタリと動きを止めて、怪訝そうに眉をひそめた。

 

「む………今の声は」

 

「………」

 

「四糸乃、だよな」

 

士道と戦兎が耳を澄ますと、再び小さな声が聞こえてきた。

 

「戦………兎さん…………!た、たす………けて………ください…………っ」

 

どうやらそれは、三つ目の更衣室から聞こえてきているもののようだった。

 

______たすけて。その言葉を認識した瞬間、戦兎は急いでそちらに駆け寄り、カーテンに手をかけていた。

 

「………っ、四糸乃!大丈夫か!?開けるぞ!」

 

勢いよくカーテンを開け放つ。と_____そこには。

 

「せ、戦兎さん…………」

 

服がはだけ、半裸状態になった四糸乃が、ビキニタイプの水着に腕を通した状態で、胸元を押さえながら涙目になっていた。

何と言うのだろうか。その様は、四糸乃の小さな肢体と相まって、戦兎にアブノーマルな禁断の性癖を______

 

「(いやいやちょっと待て!俺はいつからロリコンになった!俺はノーマルだ!)」

 

と、心の中で即座に言い訳を放つと、四糸乃が弱々しく言ってきた。

 

「か、片手だと………上手く、着られません……………」

 

「…………」

 

戦兎は黙って、四糸乃の着替えを手伝ってやった。

そしてその時、耳元でブザーが鳴った。四糸乃が、戦兎と一日デート権を獲得した瞬間であった。

 

ちなみにこの件で万丈から、しばらくロリコンと弄られたのは後の話である。

 




どうでしたか?
今回は割と平和です。次回はちょっと不穏なスタートからです。
ところで、あらすじ紹介でも書きましたが、あらすじ紹介のレギュラー枠で真那さんは、どうでしょうか?読者さんからの意見待ってます。

それでは次回、『第34話 その胸に宿り続けるトゥルース』、をお楽しみに。

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それでは、良いゴールデンウィークを。私は二日から名古屋に行ってきます。



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第34話 その胸に宿り続けるトゥルース

桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎は!精霊であることが判明した琴里を助ける為、デートへの準備を進める事になる」

万丈「てか、前回なんで神大のやつ水着買いに行ってたんだよ」

神大「おや、私を呼んだかい?」

桐生「うわぁビックリしたぁっ!なんでこっち来てるのさ」

神大「まあいいじゃないか。そういう空間なんだし」

真那「そういう話題やめやがってくださいこのマットサイエンティスト」

神大「おや、私は真那クンに随分嫌われてしまったようだね?まあ、そこらは今後の本編で話すとして、私はここで何を話すべきかな?」

万丈「そういやあんたどんな水着選んだんだ?」

神大「これだが?」

前回のマッスルフィーバーと同じフォントで→『ブルルルラァァァッ!!』

一同『なんでそのチョイスにした!?』

神大「私の趣味だ。いいだろう?と、言うわけで、第34話をどうぞ見てくれたまえ」

桐生「ああ!また言われた!」





「_____ああ、ありました。これですね」

 

 水着騒動の後、士道は神無月と共に、フラクシナスのブリーフィングルームへとやって来ていた。

 

 事の発端はつい先程、休憩スペースで起こったことである。

 士道が一息ついていたときに、ふと、考えたのだ。

 

 _____五年前の精霊が、本当に琴里であるのかどうかを。

 

 あんな大火災を起こした精霊が琴里であるとは、士道にはどうしても思えなかったのだ。手前贔屓と言われればそれまでかもしれないが、それでも兄として、士道は琴里を信じたかったのだ。

 

 さらに厄介なことに、五年前の記憶を手繰ろうとしても、てんで駄目だったのだ。まるで、糸の先端を掴んだら、すぐに途切れて残りの糸を全く引き寄せられない、ような感覚。

 

 そんな折に、偶然立ち寄った神無月副司令にこの旨を話したところ、五年前の天宮市大火災の映像を見せてくれる、と言ってくれたため、飛びついてきてしまったのだ。

 

「すいませんね、手間取って。副艦長室の端末でしたら、もう少しスムーズにいけたのですが」

 

「いや、それは構いませんけど………ここにその映像が保管されているんですか?」

 

「いえ、映像そのものはフラクシナスには保管されていません。今し方、本部のデータベースにアクセスしたところです。副艦長室の端末は画面がそこまで大きくありませんから、ここの方が、細かな映像を見るには適しているんです_____と、来ましたよ。画面を」

 

 神無月が言うと同時、円卓の中央に設えられていたモニターに、映像が映し出された。

 街の一区画を空撮で捉えた映像である。しかし、画面一杯に広がった真っ赤な炎の絨毯は、いっそガス田か火山の火口とでも言った方が適切と思えるほどの有様だった。とても数時間前まで人が生活していたとは思えないような、まさに地獄である。スピーカーからはヘリの駆動音とレポーターの男性の声、そして時折混じる凄まじい爆発音が聞こえてきており、画面が微かに揺れた。

 

「………く」

 

 士道はその想像以上の光景に、思わず眉根を寄せた。よもやあの大火災が、ここまでの物とは思っていなかったのである。

 

「_____さ、もうすぐです」

 

 と、神無月が静かな声で言ってくる。

 ヘリが旋回し、徐々に高度を落としていく。それと同時に画面がズームアップし、滲んだようにぼやけていった。少しずつピントが調整されていく。

 

「______、あれ、は」

 

 そして次の瞬間、画面端に映ったものを見て、士道は喉を震わせた。

 

 街の中心部。

 

 他の場所とは決定的に違う、そこにあったはずの家々が完全に燃やし尽くされ、焦土と化した場所に、見覚えのあるシルエットを見つけたのである。

 

 古い映像である上に、様々な悪条件が重なったことで非常に解像度が粗くなっている。だが、士道がそれを見間違えるはずがなかった。

 

「琴里………」

 

 そう。これは一昨日来禅高校の屋上で目の当たりにした、霊装を纏った姿の琴里だった。

 その足元に、小さな影が倒れている。

 

「あれは_____俺?」

 

 そして。

 

「_________え?」

 

 士道は、そんな小さな声を発した。

 ()()()、琴里と士道の前に居た。否、在った、というべきかもしれない。

 

 二人の前に、『何か』が存在していた。

 

 普通であれば、ただ画面に入ったノイズか何かとしか思わないだろう。

 

 だけど、違う。あれは、あの影は______

 

「…………ッ」

 

 瞬間、士道は両手で頭を抑え、その場に跪いていた。

 ()()を見た瞬間に、士道の頭の中の記憶の糸が、ぐちゃぐちゃに絡まって引っ張り合い、それが激痛となって襲いかかってきたのだ。

 

「士道くん?どうかしましたか?」

 

 神無月の問いに答えず、士道は画面を凝視し、唇を開いた。

 

()()()()()…………誰なんだ………」

 

「誰って………どれのことですか?」

 

「これ、です。琴里と、俺の前にいる………」

 

 そこで、士道は初めて気が付いた。

 

 _____何故自分は、このノイズとしか思えない影を、人だと認識したのか。

 

 そして次の瞬間、更なる衝撃を全身が襲った。

 

 そんなノイズと、向かい合うようにして。

 

「あ________」

 

 何かの煙か影のような()()が、不自然な動きで人の形を形作っていったのだ。

 

 そしてそれを見た瞬間_______士道の頭の中に、ナニカの奔流が凄まじい勢いで流れ込んできた。

 

 

     

こ_____か?

                な_____を       お_____には______い_______だ

 

   ______は________ない       今______に_______るゥ?

 

 

             ハハハハハハハハハハァァァァァアッ!!!!

 

 

「アアアアアアアアアァァァアァ__________ッ!!」

 

士道はその声が響いた瞬間、耳がつんざくような悲鳴を上げ_______

 

「あ_______」

 

「士道君!?士道君ッ!」

 

その場で倒れ、気絶した。

 

 

 

 

「折紙!?あんた、退院したなら早く連絡しなさいよ」

 

士道達と別れてから、自宅へ戻る前に天宮駐屯地のCR-ユニット格納庫に顔を出すと、AST隊長である日下部燎子がそんな声を上げてきた。どうやら何かしらの搬入チェックをしていたらしい、作業ズボンと黒のタンクトップに、クリップボードとペンを握っていた。

 

「非常に重要な案件に巻き込まれていた」

 

「重要な案件?ていうか何よそれ」

 

燎子が眉を撥ね上げ、折紙が右手に持っていた紙袋を指してくる。それを持ち上げると、折紙は静かに唇を開いた。

 

「これは千金に値する贈り物であり_____同時に、敗北の苦渋を刻んだ忌まわしき物」

 

「は………?な、何よそれ」

 

燎子が怪訝そうに折紙の持った紙袋を凝視してくる。まあ中身は士道に買ってもらった水着なのだが。

 

「私はプリンセスを許さない」

 

「いや、なんでそこでプリンセスが出てくるのよ」

 

燎子が頰に汗を垂らしながら言ったところで、無骨な搬入車両が、巨大な装備を引いてゆっくりと近づいてきた。

 

「おっと。ほら折紙、あんたもちょっと避けなさい」

 

折紙が燎子の方へと歩く。その際に、ちらりと搬入された装備に目をやると、保護用のシートが被せられた、全長五メートルはあろうかという巨大なユニットだった。

 

「これは?」

 

「んー、新しく配備された実験機よ。DW-029・討滅兵装【ホワイト・リコリス】。大型レーザーブレード【クリーヴリーフ】二本に、五〇.五cm魔力砲【ブラスターク】二門、換装可能な大容量ウェポンコンテナ【ルートボックス】を八基。AST一個中隊の火力を一個人にぶっ込んだような頭イかれたユニットよ」

 

説明が終わると、さらに燎子がその近くからアタッシュケースを持ち上げた。

 

「それは?」

 

「……これも送られてきた装備の一つ。真那が使っていた、あの仮面ライダーのドライバー。あれの量産タイプの試作品だって。こっちは詳しい概要が不明なんだけどね」

 

「…………」

 

折紙は無言で、その巨大すぎる兵装とそのドライバーを交互に見やった。

 

「これらを使えば、【イフリート】を倒すことが可能?」

 

「は?何言ってんの。これらはあんたには扱えないわよ。権利的にも、技術的にもね。DEM社から直接送られた、実験機の試作品だもの。ま、一応理論上ではこのユニット一つで精霊を倒せるレベル。ドライバーと併用すればそれはもう恐ろしい事になるらしいけど………DEMの専属魔術師(ウィザード)が、全装備フル稼働三十分で廃人化したって話よ。悪いことは言わないわ。やめときなさい」

 

「………そんな代物が、何故ここに」

 

「ん、どうやらDEMのお偉いさんが、もしかしたら真那だったら扱えるかもしれないって寄越したらしいわ。ドライバーも、真那に性能チェックをして欲しいからだって。ま、肝心の真那がおねむじゃあ宝の持ち腐れよね」

 

「そう」

 

「ていうか、イフリート?五年前に現れたっていう炎の精霊がどうかしたの?五年前に一度確認されてから現れてないん______」

 

と、不意に燎子が言葉を止め、何かを思い出したようにパチンと指を鳴らした。

 

「ああ、そうか。あれが【イフリート】か」

 

「………っ、どういうこと?」

 

「一昨日、あんたと真那が高校の屋上で、【ナイトメア】と戦ってた時現れたのが、その【イフリート】なんじゃないの?炎の精霊なんでしょ?」

 

「_______っ!」

 

折紙は息を詰まらせると、燎子にずいと顔を寄せた。

 

「なぜ一昨日、炎の精霊が現れたことを知っているの」

 

「なぜってそりゃ………映像で見たから」

 

「…………!」

 

目を見開く。まさかこんなにも近くに、【イフリート】の手がかりがあったとは。

 

「日下部一尉」

 

「な、何よ」

 

「お願い。その映像を見せて____今すぐに」

 

 

 

 

五河家にある、居候中の万丈の部屋にて。

 

「出来たーッ!おいおい万丈万丈!」

 

「はいはい万丈だよ………で、何が出来たってんだよ」

 

「何って、決まってるでしょうが!俺の、発・明・品!」

 

強引にドアをこじ開け、いつにも増してハイテンションな戦兎が取り出したのは、四角い筐体に、何やら爪のような部品が取り付けられた、白と水色の物体だった。

 

「ビルドの新武器!その名も、【アイスボックロー】ッ!クローモードとチェーンソーモードと、ガンモードの三種類に変形可能な、このハイテク武器!ねッ!?凄いでしょ!最っ高でしょっ!?天っ才でしょッ!?」

 

「だーもう分かったからうるせえよ!」

 

「早く試してぇーなぁーッ!」

 

「ッ!」

 

瞬間、万丈が距離を取った。新武器を開発した後になると、この男は何をしでかすか分からない。流石の万丈と言えども、付き合いが長ければ大体察しがつくようになっていた。

そしてその予想通り、戦兎は万丈の方に目を向けると、アイスボックローを構えながらにじり寄ってきた。

 

「試したい…………早く試したい………!」

 

「試すな試すな!つか、そんなんやってていいのかよ。明日琴里と士道のデートをサポートしなきゃいけねーのに」

 

「それと俺の発明どっちが大事か言ってみろ!」

 

「ぜってえサポートの方だろうがっ!」

 

普段は突っ込まれる側の万丈が、戦兎に突っ込むというあまりお目にかかれない光景。しかし戦兎がこういう感じで暴走した時は、わりかし珍しくもない光景なのである。

すると戦兎も多少落ち着いたのか、一つ息を吐いてからアイスボックローを仕舞った。

 

「はあ、分かったよ。ま、それに関しちゃ別に心配してないけどね」

 

「あ?どうしてだよ」

 

「仮にも十何年も一緒に過ごしてきた妹だぞ?琴里の趣味趣向は、士道が一番分かってるんだし、俺たちの出る幕はないだろ」

 

「………まぁ、確かに」

 

言われてみればその通りである。寧ろ、余程のことがない限りは戦兎達が足を引っ張るかもしれない。それに基本的には令音からの指示もあるので、それほど戦兎達が準備する程のことは無かったのである。

そう、デート()()()()には、何の問題もない。

 

「問題は………」

 

外部からの妨害だろう。

 

マッドクラウンや神大_____もといナスティシーカーからの妨害や、鳶一らAST。いざという時の実働隊員である戦兎達が目を光らせるべきところは、そういった外部からの妨害工作である。

特に注意すべきなのは前者だろう。ASTはともかくとして、クラウンや神大からの妨害は戦兎達でなければ食い止め切れない。琴里とのデート中は士道は変身できないため、戦兎達がそれらを引き受けなければならないのだ。

 

しかし、今の戦兎達の戦力で、果たしてクラウンやシーカー相手にどれだけ立ち回れるか_____その懸念があったからこそ、こうして新型武器を作ったわけなのだが。

 

「いざとなったら………」

 

______奥の手を使うしかない。

 

そう思って戦兎は、ポケットの中に入れた、白と水色のウサギのボトルを握り締めた。握ると、仄かな冷たさが手に伝わってくるようだった。

 

 

 

 




どうでしたか?
今回は準備回的な感じなので短めです。あとビルドの新武器はゲイツリバイブのジカンジャックローが名前のモチーフですが、見た目は別物です。

次回は士道のデートは原作とほぼ同じになるので、戦闘場面を入れるかもしれません。もしかしたらオリジナルのデート部分も入るかも分かりませんが。

最近は二日に一回のペースで安定しかけていますが、もしかしたらずっとこのままかもしれません。毎日投稿ができなくなる可能性があるので、ご了承のほどよろしくお願いします。

それでは次回、『第35話 ラストデートの始まり』、をお楽しみに。

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第35話 ラストデートの始まり

桐生「と!言うわけで、今日で平成も終わるわけだけど!令和になっても、このデート・ア・ビルドを応援してくれよな!」

士道「いやいやいや待て待て待て!今日五月一日だぞ!今日からだぞ令和!もう昨日に平成終わったぞ!」

桐生「バカお前言わなきゃ気づかれなかったのに!」

士道「いやでも気づくわ!」

万丈「まあ実際は作者が時間なくて書ききれなかったからあの雑談会でお茶を濁したらしいけどな」

桐生「マジで?しっかりしてよねー作者。折角みんなでパーっと祝おうと思ってたのに。ていうか、こういう時って大体、全員集合ーっ!って感じで集まるんじゃないの?」

万丈「ああ、十香たちなら新元号になったお祝いだーって言って、なんか温泉旅行行くってよ」

桐生「え何それ聞いてないんだけど!士道なんか聞いてる?」

士道「いや知らん。家主の俺も知らん」

万丈「つまり俺たちは置き去りにされたってわけか」

一同『ハッハッハッハッハッハッハッハッハ!』

一同『………………』

一同『俺たちも温泉行きたーいッ!!』

桐生「よしお前らすぐ行くぞ!万丈場所聞いたか!?」

万丈「おうあいつらメモ書き残してたぞ!これで行ける!」

士道「オッケー!あ、第35話どうぞ!いざ行くぞ温泉ーッ!」





六月二十二日。

士道達は先日購入した水着やバスタオルなどを詰めた鞄を背負って、天宮市から少し離れた場所にあるテーマパーク、オーシャンパークへと来ていた。

本来であれば今日は、士道と琴里が二人でデートをし、戦兎達が陰でそれをサポート………という流れになるはずだったのだが、十香と四糸乃と共に、戦兎達も参加した方が今回は都合が良いとの事で、同行することになった。

 

オーシャンパークは屋内アトラクションのウォーターエリアと屋外遊園地のアミューズエリアの二つで構成されており、夏休みでは遠方からも沢山の家族連れやカップルが訪れる人気スポットだった。

とはいえ今は六月半ばであるため、人の入りはピーク時のそれよりも明らかに少なかった。まあ、その方がこちらとしては好都合であるのだが。

 

そんな事を考えつつ、士道達は着替えを終え、屋内プールへと移動した。ちなみに万丈の水着はちゃんとした水着である。

まだ女性陣は着替え中のようで、士道達は辺りをぐるりと一望した。

 

「うぉーっ!凄っげーッ!」

 

「おお………結構凄いな」

 

「ああ。こういうとこ来たことなかったけど、結構楽しそうじゃんか」

 

戦兎がそんな風に言う。そう言えば、記憶喪失だったんだっけ。それなら、寧ろこうして連れてこれたのは良かったかもしれない。かく言う士道も、広大なプールや岩山のようなウォータースライダーなどが見え、冒険心をくすぐられていた。

 

『はしゃぐのも結構ですが、司令のことを忘れないでくださいよ?』

 

と、窘めるように神無月の声が響いてくる。

 

「わ、分かってますって。ていうかこのインカム、水は大丈夫なんですか?」

 

『……ああ。完全防水仕様だ。耳から外れないようにだけ気をつけてくれたまえ』

 

と、令音が答えたのと同時に、士道達の背に元気な声がかけられた。

 

「シドー、セント、リューガ!待たせたな!」

 

士道達が振り返るとそこには、着替えを終えた十香と四糸乃、そして琴里の姿があった。

十香と四糸乃は、先日士道と戦兎が買ってやった水着を着ていて、予想通りの装いだった。二人とも同じ格好の人が大勢いるからか、以前と違って恥ずかしがる様子もなく士道達の方へと近づいてきた。

 

「お、おう」

 

「来たな。似合ってるじゃんか」

 

士道が小さく手を上げて返し、戦兎が二人の格好を褒める。

十香も四糸乃も、それぞれ『絶世』だの『傾国』だのついてもおかしくない美少女なので、危うく琴里そっちのけで見惚れていたかもしれない。一方の戦兎は確かに少し赤くはなっていたものの、特にどうということはなく二人と接していた。こういう時彼が実年齢大人なのが羨ましく思えてしまう。

 

と、そんな様子など露知らず、十香が大きく声を上げた。

 

「おおお!凄いなこれは!建物の中に湖と山があるぞ!」

 

それに次いで四糸乃が、珍しく興奮気味にふんふんと鼻息を荒くし、頰を紅潮させた。左手のよしのんもパタパタと手を動かしている。

 

「み、水がいっぱいです………!」

 

『はー!テンション上がるねこりゃー!』

 

「シドー、あの湖には入っていいのか!?」

 

「ああ。ていうか、それがメインの楽しみ方だしな」

 

十香の問いに答えると、十香が目を更にキラキラと輝かせ、声を上げる____その前に。

 

「よっしゃ!行くぞお前ら!」

 

「おおーッ!」

 

万丈が、十香と張り合うくらいにテンションを上げて一緒にプールへ駆け出していった。

 

「ったくあいつ、子供じゃないんだから」

 

その背中を見て、戦兎が苦笑する。まあ、最近は神大やクラウン、狂三の件も重なって疲労が溜まっていた頃だ。偶にはいいだろう。と、戦兎が思っていると。

 

「あ、あの………」

 

「ん?」

 

戦兎の水着の裾を、四糸乃がチョイチョイと引っ張っていた。

 

「どした、四糸乃」

 

「あ、その………せ、戦兎さんも、一緒に遊びませんか………?この前の約束の…………デート、です………」

 

四糸乃が恥ずかしげにしながらも、戦兎に言ってくる。恥ずかしがり屋の四糸乃の事だ。きっと、緊張して声をかけてきたのだろう。それに、約束は守らないといけない。

 

「………分かったよ。じゃあ、俺も今日は目一杯楽しむかな!」

 

「!……はい………!」

 

戦兎が笑って言うと、四糸乃も笑って、プールへ行くように促して来た。

 

「悪いな、士道。何かあったら連絡してくれ」

 

「……ああ。そっちも気をつけろよ?」

 

士道に伝えると、戦兎も四糸乃達の後を追ってプールの方へと向かった。そういえば『葛城巧』はいざ知らず、『桐生戦兎』としては初めてのプールである。戦兎にとっても、少なからずテンションが上がった。

 

そして後ろでは、士道と琴里が話していた。あの様子なら大丈夫だろう。

そう思って戦兎は、サポート役という役目を忘れないようにしつつ、目一杯プールを楽しもうとした______

 

 

 

 

その、三十分後の事である。

 

 

「………で、よしのんが流れるプールに流されて、慌ててしまったと」

 

戦兎達がプールで遊び始めてから十数分後。四人で遊んでいるうちに、四糸乃が流れるプールに興味を持ち、遊びたいと言ってきたのだ。そこで戦兎がオーケーをして、先に四糸乃を行かせたのが間違いだった。

 

その後に目に入り込んできたのは、スケートリンクのように凍ったプールサイドと、その余波に巻き込まれて全身を冷やされた万丈(ギャグ補正により死にはしなかった)、その中心でわんわんと泣く四糸乃の姿だった。

 

その後に事件は収束し、プールも先程までの賑わいを取り戻しているものの、四糸乃はしょんぼりと肩を落とし、十香は背を丸くして、万丈は椅子に体育座りになって丸くなり、バスタオルに包まってガタガタと震えていた。

 

「ご、ごめん……な、さい………」

 

「むう……面目ない。私が付いていながら………」

 

「気にすんなって。元はと言えば、俺が先に行かせたのが原因なわけだしな」

 

ば、ばあでったい、そでが、げういんだよだ(ま、まあ絶対、それが、原因だよな)。ハ、ハックショイッ!さ、さぶい(寒い)…………」

 

「………哀れね」

 

「大丈夫か万丈?ほら、コーヒー飲めって」

 

戦兎が二人に声を掛けると、すっかり冷え切って歯をガタガタ鳴らしながら万丈が言葉を零し、琴里が哀れみの視線を送り、隣に座っていた士道が自販機で買ってきたコーヒーを取り出した。戦兎はそれを見て、石動が出したコーヒーを飲まずに缶コーヒーを飲んで石動がカウンターの隅で凹んでいた光景を思い出した。

ちなみに戦兎は先程から、四糸乃の左手に装着されたよしのんにドライヤーの温風を送って乾かしている。

 

「よし、そろそろ乾いただろ。大丈夫か、よしのん」

 

戦兎が言ってよしのんの頭をかくと、よしのんは犬のようにブルブルっと全身を震わせ、手を胸元においてハァハァと息を荒くした。

 

『や、やー………奇妙な冒険をしてしまったねー。死ぬかと思ったよー』

 

「ごめんね……よしのん」

 

『ああ、大丈夫大丈夫。また無事に会えたんだし、結果オーライよ四ー糸乃』

 

「うん………」

 

よしのんに頭を撫でられ、四糸乃がこくりと頷く。そんな様子を見て、琴里が肩を竦めた。

 

「……ま、勝手がわからないのも無理はないわ。確かあっちに浮き輪をレンタルしてるカウンターがあったから借りてきましょうか」

 

「?うきわ?」

 

「百聞は一見に如かずよ。直接見た方が早いわ。行くわよ」

 

言って琴里が歩き出すと、十香と四糸乃、戦兎が後をついて立ち上がった。

 

「っと、待てってば」

 

士道がドライヤーを仕舞って歩こうとした、その時。

 

「え?」

 

万丈が震えながら士道の手を掴んでいた。ちなみに士道があげたコーヒーは、もう片方の手で大事そうに持っている。

 

「ど、ドライヤーを………」

 

「え?」

 

「ドライヤーを………貸して………くれ」

 

「…………」

 

そう言って震える万丈の姿が、あまりにも不憫だったため、士道はしまったドライヤーを手渡し、その場を後にした。

 

 

 

 

「おう士道、来たか…………どうして鳩尾を押さえている?」

 

「き、気にすんな。ちょっと持病の偶発性鳩尾ズキズキ症候群が発症しただけだ」

 

「………深くは追求しないでおく」

 

道中琴里と一悶着ありながらも、三人は既に浮き輪やビーチボートの並んだカウンターの前におり、貸し出しの手続きをしていた。

 

「あれ、そういや万丈は?」

 

「あ、ああ、アイツなら………」

 

と、士道が指差した方角には。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

万丈がコーヒー片手に、全身にドライヤーをかけて暖を取ろうとしている光景が映し出された。

 

「………哀れだ」

 

「………哀れだな」

 

思わず二人揃って口に出す。まあ顔色も良くなっているし、しばらくしたら復活するだろう。そう結論付けて、二人は方向転換した。と、そこでフラクシナスからの通信が入り、士道と戦兎の鼓膜を震わせた。

 

『……シン、セイ、ストップだ。既にそちらにはラタトスクの機関員が多数紛れ込んでいる。試しに少し、仕掛けて見ようじゃないか』

 

「仕掛ける、って言うと?」

 

『……そうだね。ベタだが、ナンパ集団に絡まれたところにヒーローが颯爽と登場、っていうパターンなんてどうだろう』

 

「……それ逆に相手が返り討ちに遭わないか?」

 

令音からの提案に、戦兎が思わず言った。あの戦闘力が振るわれた暁には、ナンパ集団が漏れなく病院送りになるだろう。そこまでの反撃はしないと思うが。

すると、神無月が自信満々といった調子で返してきた。

 

『大丈夫ですよ。女の子はどんなに気丈に振舞っていても、心のどこかでは白馬の王子さまを待っているものなんです。私もよく分かります』

 

「神無月さん男じゃないっすか」

 

『たまに女装しますので』

 

「…………」

 

何やら妙なカミングアウトを耳にした気がするが、戦兎は全力で聞かなかったことにして琴里達の方を向いた。すると、そこに三人の男集団が近づいてきた。脱色された髪に小麦色の肌、見るからに遊び慣れた容貌の集団である。

 

「こんにちはー。ねえねえ君達、どこから来たの?」

 

「三人だけ?勿体無いなぁ」

 

「もし良かったら、ちょっと俺たちと遊ばない?」

 

などと、古代文献レベルの典型的なナンパ文句を並べ立ててくる。

 

「む。なんだ貴様ら」

 

「………っ、そ、の………」

 

男達の登場に、十香が不審そうに眉をひそめ、四糸乃が十香の陰に身を隠す。

まあ急に知らない人に話しかけられれば、そんな反応にもなるだろう。むしろ、琴里のように冷めた目で男達を見ている方が珍しい。

 

『……さ、シン、セイ。出番だ』

 

「は、はあ……」

 

と、令音が言ったところで、一人の男が手を士道達の方に回し、ちょいちょいと手招きをしていた。早く止めに来い、ということだろう。

 

「っ、仕方ねえ、行くぞ、士道」

 

「お、おう。______おい、悪いけどそいつらは______」

 

と、士道が声を上げた、その瞬間。

 

「______淡島文雄三等執務官、手代木良治三等官、川西孝史三等官」

 

「え______」

 

琴里が、男達の顔を見てそう言い、男がビクッと肩を揺らした。しかし琴里はさして得意げな顔もせず、続けた。

 

「悪くない変装よ。及第点を上げるわ。ただセリフがいまいちね。台本は誰?」

 

琴里が半眼を作りながら言うと、男達が顔中汗を浮かべて後ずさった。

 

「な、なんで俺たちみたいな末端の_____」

 

「末端?何それ。ラタトスクに在籍してわたしの部隊にいる以上、それは家族も同然よ。子供の顔を忘れる親がいてたまるものですか」

 

『…………っ!!』

 

琴里の言葉に、男達はその場に膝をつき、涙を流し始めた。

 

『し、司令………っ』

 

「暑苦しいわね。下がりなさい」

 

『はっ!』

 

琴里がひらひらと手を動かすと、三人は先ほどのいい加減さからは考えられないくらい綺麗な敬礼をして、もと来た方向へ戻っていった。

十香と四糸乃が、不思議そうに首を傾げる。

 

「むう。何だったのだ、今のは」

 

「琴里さん……凄い、です」

 

琴里は気にしないで、という風に小さく首を振った。

 

「………え、ええと」

 

「………まあ、言っても機関員だしな」

 

と、士道と戦兎は反応に困り、気まずげに頬をかいた。

 

「(しっかし……いくら自分の隊員だからって、こんなに細かく覚えてるものなのか?)」

 

戦兎は頭の隅でそんなことを考え、琴里に少し敬意を表した。

 

 

 

 

その光景を、遠目で眺めている、人影が一つあった。

 

「ふぅん……面白そうな事になっているねぇ」

 

その男はこの時期にとっては暑苦しいことこの上ない長髪に、サングラスと麦わら帽子、そして半袖のジージャンに、何故か厳ついフォントで『ブルルルラァァァ!』と文字が印刷された水着を着て、ビーチチェアに座りながらクリームソーダを飲んでいた。完全に夏を楽しんでいるスタイルである。

 

「プリンセスにハーミットに、イフリート………ASTが見たら卒倒しそうな光景だねえ、これは」

 

しかしその口にした単語が、彼がただプールを楽しみに来た客でないことを証明させる。男______神大針魏はサングラスを少しずらすと、彼らのいる方をじっと見据えた。

 

「……まあ、後で仕掛ければいいか。私ももう少し休みたいしねぇ。……それに、放っておいてもクラウンが見逃すはずもないしね」

 

そう独りごちると、神大は再びサングラスをかけ直し、チェアに横になってクリームソーダに口をつけ、雑誌を読み進めた。

 

 

 

 

あれからしばらく経って、時刻は二時十分。

士道は席を立ち、トイレへと向かっていた。

先程まで遅めの昼食を摂っていたのだが、その前後から、琴里の機嫌が異様に悪かったのである。士道は妹だから他の精霊より御し易い、という自分の考えを呪った。どこが御し易いものか。寧ろ、ラタトスクからのサポートがあることが筒抜けなので、好感度が冷めきっているようである。

 

そして琴里がトイレで席を立った後、十香達から自分が緊張していると指摘され、いてもたってもいられずにその場から立ち去ってしまった、と言うわけである。

なお余談だが、万丈はすでにある程度回復し、今はテーブルでカップ麺(マッチョラーメン下龍という商品名)を啜っている。

 

「………俺、そんなに緊張してたのかな」

 

言いながら、わしわしと頭をかく。なんとも情けなかった。

 

「令音さん、精神状態のモニタリングって、俺の方もやってるんですか?だったら、数値教えて欲しいんですけど………」

 

インカムに向かって問うが、何故か言葉が返ってこず、代わりに別の声が聞こえてきた。

 

『ああ、士道くん。申し訳ありませんが、村雨解析官は少し席を外しています』

 

「あ、そうなんですか」

 

どこに行くかと聞こうとしたが、先程その件で琴里に咎められたことを思い出し、すんでで言葉を止めた。

仕方なく、そのままトイレの方へと向かった。すると、その道中で士道は足を止めた。

 

「ん………?」

 

トイレの手前にある自動販売機、その後ろから、何やら話し声のようなものが聞こえてきた気がするのである。耳を凝らしてみると、その声の中に、なにやら聞き慣れたものが混じっている気がした。

 

「なんだ………?」

 

不審に思い、足を向けてみる。するとまるで士道の行動を止めるように、神無月の声が響いてきた。

 

『士道くん、そこは_____』

 

だが、神無月が制止するよりも早く、士道はそこを覗き込んでしまった。

 

「________」

 

そして、言葉を失う。

 

自販機の裏にできた、ポケットのような空間。そこに、二人の人間がいた。

 

一人は、ビキニに白衣というプールに似つかわしくない格好でその場に膝をつき、傍に黒い鞄を携えた、村雨令音。

 

そしてもう一人は_______壁にもたれかかるようにして地面にへたり込み、苦しげに頭を押さえる琴里だった。

 

「……大丈夫かい、琴里」

 

「ええ………なんとかね。でも、危なかったわ。_____お願い」

 

琴里が片腕を令音に差し出す。しかし令音は、躊躇うように唇を噛んだ。

 

「……今朝の時点でもう既に、通常の五十倍もの量を投与しているんだ。これ以上は命に関わる恐れがある」

 

「ふふ……精霊化した今の私なら、薬程度で死にはしないわよ」

 

令音が渋面を作る。しかし琴里は、荒い呼吸の合間を縫うように口を開いた。

 

「……お願い。士道との………おにーちゃんとの、デートなの」

 

「………っ」

 

それを耳にして。士道は、息を詰まらせた。

 

今までの緊張なんか一笑に付されるくらい、心臓が早鐘のように打ち付け、鼓動を刻む。痛いほどに。軋むように。

 

唾液を飲み下すと、いつのまにか渇ききっていた喉がぱりぱりと悲鳴をあげた。指先が震え、足が震える。全身が凍えるかのように微細に震えていく。

 

知っていたはずだ。聞いてもいた。覚悟だってしていた。

 

霊力を取り戻した琴里が、押し寄せる破壊衝動と戦っていること。司令官の琴里が、艦内の厳重な隔離エリアに一人軟禁されていることを。

 

琴里が耐え切れるのが、今夜までであるという事実を。

 

士道は、教えられていたはずなのに。

 

「ぁ………」

 

思わず、声が漏れる。それは極々小さなものだったが_______内部から自身の脳を叩くには十分だった。

 

知って、聞いて、覚悟した。その筈なのに。

士道の心の内には、確実に、どこか油断が、甘さがあったのだ。

 

いつものように悠然と、傲岸に、不敵に士道を翻弄してみせる黒いリボンの妹に、心のどこかで安心していたのだ。

 

こんなに強い琴里が、精霊の力に呑まれる筈がないと。

 

何の根拠もなく、思ってしまったのだ………!

 

「_____ね、お願い。もしかしたら、これが最後かもしれないの。もし失敗したなら、今日で、私は私で無くなる。____その前に、おにーちゃんとのデートを、最後まで」

 

「…………」

 

令音はしばし目を潜め、逡巡のようなものを見せたが、小さく息を吐くと同時に、傍の鞄の口を開け、中から注射器を取り出した。

 

「……ありがとう。恩にきるわ」

 

「……いや。しかし、これが最後だよ」

 

言いながら、令音が琴里の左腕を取り、注射針を刺す。すると数巡後、琴里が大きく息を吐き、だんだんと呼吸が落ち着き、顔色も良くなっていった。

 

「悪いわね。……助かったわ」

 

言って琴里が立ち上がろうとし、再びその場に尻餅を突いてしまう。

 

「……無理はいけない。少し休むべきだ」

 

「大丈夫よ。早く戻らないと、デリカシーのない士道に変な詮索をされちゃうわ」

 

「……駄目だ。少し待っていたまえ。水を買ってくる」

 

「はいはい……わかったわよ」

 

令音が立ち上がり、こちらに歩いてくる。士道は慌ててその場から立ち去ろうとしたが、そこで令音と目が合ってしまった。

 

「……ぁ_____」

 

令音がピクリと眉を動かすと、そのまま自然な動作で士道の肩を掴み、自販機の表側に引っ張っていった。

そして士道に顔を近づけ、琴里に聞こえないくらいの声量で話しかけた。

 

「……どの辺りから聞いていたんだい?」

 

「や、えと。多分、最初から」

 

令音が無言になる。士道は一瞬開けて言葉を開いた。

 

「令音さん。……琴里は、いつからあんな状態だったんですか?」

 

士道が問うと、令音は数秒の間逡巡してから返してきた。

 

「……霊力を取り戻した瞬間からだ」

 

令音の言葉に、士道は下唇を噛んだ。

予想できていなかった訳ではない。だが、それがはっきりと明示されると、やはり動機は一層強く速くなっていった。

 

「なら、なんで」

 

「……琴里の希望だ。シン達には話さないで欲しいと。本来なら、今日がタイムリミットだという事も明かさないで欲しいと言われたのだがね」

 

「なんで……そんな」

 

士道が震える声で問うと、令音は息を吐いてから言ってきた。

 

「……君に、同情や憐憫でデートをして欲しくなかったんだろう」

 

「___________」

 

歯を噛みしめる。歯茎から出血したのか、僅かに血の味がした。

 

「……だから、頼む。今のは見なかったことにしておいてくれ。_____琴里のためにも」

 

「………」

 

「……シン」

 

「……分かりました」

 

士道が大きく深呼吸をし、踵を返して十香たちの方へと舞い戻った。

そして、令音がどこへともなく口を開く。

 

「……盗み聞きはいい趣味じゃないよ、セイ」

 

「…………」

 

するとトイレのすぐそばの物陰から、戦兎が出てきた。その顔には、苦しげな表情が浮かんでいる。

 

「……そういう、事だったのか」

 

「……ああ。セイ、君もこの事は_____」

 

「言わないですよ。偶然、トイレに行こうとしたら、何か話してるのを聞いたってだけで、どういう内容かまでは聞き取れませんでしたからねー」

 

と、明らかに演技と分かる調子で言葉を発する。

 

「……ありがとう」

 

令音は短く礼を言うと、琴里の方へと戻っていった。戦兎もフードコートへ戻り、十香たちの元へと向かった。

 

 




ごめんなさい。
平成最後の投稿にするつもりが、令和最初の本編の投稿になり、前回が平成最後となってしまいました。

というか、アンケート開始してから一日くらいしか経ってないのに、もう大分投票してくれて、ありがとうございます!
そして圧倒的な万丈率………やはりあのネタでいくのは少し反則技だったか。

それでは次回、『第36話 五年前のアヴェンジャー』を、お楽しみに!

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第36話 五年前のアヴェンジャー

桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎は!士道と琴里のデートをサポートするため、天宮オーシャンパークへと出向いていた!」

万丈「しっかし琴里のやつ、やっぱ何か素っ気ねえよなー。つーか、俺前回寒がってただけじゃねえか!」

桐生「まあまあ、それを喜ぶ人もいるんだし、良いんじゃないの?」

万丈「良くねえよ!もっと俺に活躍くれよ!俺に活躍くれたらあれだぞ!アレ並みだからな!えーっと………」

桐生「ド忘れしてる時点でたかが知れてるけどな」

万丈「だぁーもううるっせえよ!自分一人だけ堪能しやがってよー!」

桐生「また今度行きんしゃい。と、言うわけで!久しぶりの第36話?、どうぞ!」





「ちょっと、何があったの?」

 

陸上自衛隊天宮駐屯地のCR-ユニット格納庫に作業服姿で足を踏み入れた燎子は、庫内の騒然とした様子に怪訝そうな声を発し、近くにいた整備士に話しかけた。

 

「何だよ、後にしてくれ!今はそれどころじゃ______て、隊長!」

 

鬱陶しげに眉をひそめた後、それが燎子だと確認した整備士は敬礼を示した。

 

「敬礼はいいから。何があったか教えてちょうだい」

 

「その…………【ホワイト・リコリス】と【リバースドライバー】が、ありったけの弾薬と一緒に丸ごと無くなってるんです」

 

「なんですって!?」

 

燎子は目を見開くと、顔を右方に向けた。

整備士の言っていた通り、大型討滅兵装【ホワイト・リコリス】が、安置されていた箇所から消え、試作量産型の【リバースドライバー】諸共無くなっていた。

 

「誰かが持ち出したっていうの………?」

 

「さ、さあ………詳しいことは私も」

 

燎子は庫内の様子を見回した。詳しく調べなければ分からないが、他に変わった様子は見受けられない。扉を破った後も、搬入車を動かした形跡もなかった。

要するに、犯人はあの巨大な兵装を、搬入車無しで動かしたということである。

燎子は暫し黙ると、再度整備士に話しかけた。

 

「_____今、緊急着装デバイスの保管状況はどうなってる?」

 

「緊急着装デバイス……ですか?ちょっとお待ちください」

 

言って、整備士が手に持っていた小型端末を弄り始める。

緊急着装デバイスは、一時的に随意領域(テリトリー)を展開させ、一瞬でワイヤリングスーツを装着するための装置である。AST隊員が使えば、正規の着装許可無しに、魔術師(ウィザード)の力を得ることができる。故にその管理はパーソナルコードによって行われ、誰がいつ持ち出し、いつどこで着装を行ったかが、自動的に記録されるようになっているのである。

 

これは一つの可能性であり、疑念に過ぎなかった。

心の中で、該当コードが出ないよう祈りながら、整備士の言葉を待つ。

 

_____だが。端末からピー、という音が発されると同時、整備士が声を詰まらせた。

 

「隊長、ひ、一人、デバイスを携行している隊員がいます」

 

「………っ、誰?」

 

燎子が問うと、整備士は震える声を発してきた。

 

「と、鳶一折紙(とびいちおりがみ)一曹です………」

 

 

 

 

「よっしゃぁぁッ!琴里!次は何に乗る!?」

 

あの一件から数十分か一時間程経過した後。

士道は琴里を連れ回し、アミューズエリアの絶叫アトラクションを堪能していた。

 

「ちょ……ちょっと待ちなさいよ!」

 

「ん、どうした琴里」

 

「どうしたじゃないわよ………っ!ちゃんと説明しなさい、説明を!」

 

琴里が興奮した様子で叫びを上げてくる。

まあ、無理もないだろう。何せ士道は着替え終わった琴里をアミューズエリアに連れて来るなり、有無を言わさずにアトラクションへと吶喊したのだから。

 

「説明?さっきしただろ。お兄ちゃんは実は遊園地大好きなのです」

 

「説明になってないわよ!そんな理由で私連れ回してるっての!?」

 

「ばっかお前、そんな理由とか言うんじゃねえよ。高校生にもなるとな、男は遊園地なんてそうそう行けるもんじゃないんだぞ?家族連れだと気恥ずかしいし、男友達だけだと悲しい。結局遊園地に行けるのなんて、彼女持ちくらいなんだよ!遊園地に来たくても来られない男子高校生が何万人いると思ってんだ!」

 

「知るかッ!だいたい_____」

 

すると、琴里が言葉の途中で何かに気づいたように声を窄ませた。

 

「か、かのじょ_____」

 

何やら小声でボソボソ呟きながら、顔を赤くする。

 

「ん?どうした琴里。______あ、もしかしてお前」

 

「!な、なんでもないわよ!気に______」

 

「フリーフォールが怖かったのか?何だよ、先に言ってくれればいいのに」

 

口元を押さえて笑うと、琴里が顔を真っ赤にして手を振り回してきた。

 

「いたたっ、や、やめろって」

 

「るさいッ!くぬっ、くぬッ!」

 

士道が何とかそれから逃れると、今度はジェットコースターの方を指差した。

 

「よし、琴里。今度はあれ乗ろうぜ」

 

「だから、人の話聞きなさいよ!」

 

「あ、そうか。琴里の身長じゃ乗せてもらえないかー」

 

士道がニヤニヤしながら言うと、琴里が再び顔を真っ赤にしてきた。

 

「馬鹿にすんじゃないわよ!流石にそんな小さくないっての!」

 

「ええー?でも怖いんだろー?」

 

「舐めるんじゃないわよ!むしろ士道の方がおしっこ漏らさないか心配ね!」

 

「言ったな?じゃあどっちが怖がるか勝負しようじゃねえか」

 

「望むところよ!」

 

琴里が鼻息荒く頷くと、士道と共に搭乗口に上っていった。

 

琴里が「は………っ」と士道の口車に乗せられたことに気づいたのは、ジェットコースターの安全バーが下がってきた時だった。

 

 

 

 

そして、そのジェットコースターからほど近い休憩エリアにて。

 

「ほい、風船だぞー」

 

「わー!ありがとう!」

 

と、にこやかに風船を子供に配るピエロと、

 

「むぎゅー!」

 

『…………』

 

子供に抱きつかれる無言の熊の着ぐるみがいた。

やがて子供達が去った後、着ぐるみが無言で頭を外し、ピエロが風船を近くの留め具に掛けて腕を振る。

 

「……っはーッ!暑っつ!」

 

「ずっと立ちっぱなしも辛いな。万丈、なんか飲み物買ってきてくれ」

 

「いや俺だろそれ言うの!さっきからずっと暑いんだぞこれ!」

 

「だったらお前もピエロでいいだろ!前散々着てたんだから!」

 

ピエロに扮した戦兎と、熊の着ぐるみを着込んだ万丈である。

口論を終えた戦兎は双眼鏡を取り出すと、ジェットコースターの方を見つめた。見つめた先には、絶賛ジェットコースターで降下中の士道と、涙目になっている琴里の姿が見えた。

 

「よしよし、二人は順調そうだな」

 

「つか大丈夫なのか?あいつら置いてきちまって」

 

「まあジャングルクルーズから戻るまでに帰れば、大丈夫でしょ」

 

「………でも四糸乃、すっげえ残念そうだったぞ」

 

「………それを言うな。後でまた埋め合わせをするって言ったから、大丈夫のはずだ」

 

戦兎たちが心に深い罪悪感(主に戦兎)を背負ってまでここに来た理由。

それは士道と琴里のデートが上手くいくかどうかのため、外部からの妨害に対応するためである。要はいつもとやっている事は同じである。

とはいえそのままの服装では、士道たちに悟られる可能性がある。今回は琴里の心情も考慮して、士道たちに気づかれないことが好ましいのだ。そのために戦兎達はラタトスクの手引きのもと、遊園地にあった服を拝借して今ここにいるのだが、万丈が選んだのは着ぐるみであったため_____

 

「ママ〜!あの熊さん頭が無いよ〜っ!」

 

「見てはいけません!」

 

と、万丈、もとい頭のない熊さんを見た子供が泣きかけているのだが。

 

「うわっ、おい万丈頭付けろ早く!」

 

「あ?ってうわっ!やっべぇ!」

 

「早くやんないとあの子供泣き出しちゃうから!ハリーハリー!」

 

「ちょっと、待てって……!よし、これでどうだ!」

 

と、万丈が頭をつけた瞬間。

 

「ビェェェエーーッ!!」

 

子供が盛大に泣き出した。_______前後逆になった、熊の頭部をみて。

 

「おい馬鹿!前後逆だ!直せ早く!」

 

『へ?うわ本当だ!道理で前が見えねえと思った!』

 

_____などと、士道たちのデートの背後で、このような寸劇が繰り広げられていたことを、士道たちは知らない。

 

 

 

 

「はふぅ………っ」

 

そんな息を吐いて、琴里が中央広場のベンチの上に身体を投げ出す。時刻は既に五時を回っていた。

 

あの後ジェットコースターを終えた士道と琴里は、お化け屋敷やゴーカート、その他アミューズエリアのアトラクション全てを制覇する勢いでとにかく遊んで遊んで遊びまくった。お陰で二人とも疲れたのも無理はなかった。

 

「あー……ちょっとやべえわ。遊園地舐めてた。超楽しかったわ」

 

「ふん、子供なんだから。高校卒業までにはおしめが取れるといいわね」

 

「スプラッシュコースターではしゃいでたお前に言われたかねえ」

 

「な、なんですって!?」

 

琴里は不満気に声を上げたが、すぐに吐息をして姿勢を元に戻した。

 

「ふん……いいわ、疲れたし。それに……まあ、つまらなくはなかったし」

 

「ん、そか」

 

士道は目を伏せると、もう一度大きく身体を伸ばした。

 

「しっかし……遊園地なんて来たのどれくらいぶりだったっけか。父さんも母さんも殆ど家にいないから、随分……」

 

「五年前よ」

 

「え?」

 

即座に琴里が答えてきたため、素っ頓狂な声を発してしまう。琴里は一瞬ハッとした様子になったが、言ったものはしょうがないといった様子で言葉を続けた。

 

「家族みんなで遊園地に行ったのは、五年前が最後。それからは一度も行ってないわ」

 

「よく覚えてるな。そっか……もう、五年も前になるのか」

 

士道はその言葉を口にしながら、頰を掻いた。

 

五年前。ここ最近の間に、随分とその単語を耳にした気がする。

 

五河家が最後に遊園地に行った年。琴里が精霊になった年。士道によってそれが封印された年。そして______折紙の両親が、死んだ年。

 

士道は無言でベンチを立つと、隣に座った琴里と向かい合う位置に足を落ち着けた。

一昨日、士道は思い出した。五年前の天宮市で起こった火災の日の出来事を。

 

その顔を覚えている。霊装を纏った琴里が、泣きながら自分を呼んでいる姿を。

 

だからこそ、その疑問は士道の胸の底に澱のように蟠っていた。

 

______折紙の両親を殺したのは、本当に琴里なのだろうか、と。

 

「………何?」

 

琴里が小首を傾げてくるが、数秒の後に何か気付いたように肩を小さく揺らし、何を考えたか頰を赤く染め、目をキョロキョロと動かした。

 

「え、あの、その……もしかして」

 

「琴里」

 

「ふぁ、ふぁい………っ!」

 

士道が静かに名前を呼ぶと、琴里が間の抜けた声で返答してきた。

 

「し、士道………?その、うん、まあ確かにそろそろ頃合いだとは思うんだけど………その、せ、せめてもう少し、ひとけの無い場所に行かない?」

 

「………?なんでだ?」

 

「な、なんでって………」

 

琴里が辺りを見回すように首を動かす。確かに辺りには数名の人が見受けられたが、話が聞こえるような距離ではない。そこまで気にすることではないと思うのだが。

 

「別にいいだろ、ここで」

 

「………っ!」

 

士道が言うと、琴里がまた更に顔を赤くして、声にならない叫びをあげた。

そんな琴里を不思議そうに眺めながら、小さく口を開く。

 

「そのだな、琴里」

 

「…………!な、なに……?」

 

「訊きたいことが………あるんだ」

 

「!き、キスしたいとかそんなはっきり……て、え?」

 

「え?」

 

士道と琴里は、キョトンと目を見合わせた。

 

「え、えっと?悪い、琴里は今______」

 

「う、うるしゃい!気にするな!何よ、訊きたいことって。早く言いなさいよ!」

 

「え?あ、ああ……」

 

琴里に圧され、士道は一歩後ずさった。琴里の用件も気になったが、まあそこまで言うのならこちらから訊ねよう。

 

士道は咳払いをしてから、琴里の目をジッと見つめ直した。

 

「あのだな、琴里。お前は、五年前______」

 

と、言いかけた瞬間。

 

士道は周りの音が、どこか遠くなるのを感じた。

 

そして気付く。士道の周りには今、目に見えない壁か膜のような物が張られていた。まるで、ASTが使う随意領域(テリトリー)のような______

 

「え_____?」

 

次いで、上方から前方______琴里のいる場所に、何かが落ちてくるのが見えた。

そして次の瞬間、凄まじい爆発音とともに、周囲に展開した景色が炎に包まれる。

 

「な…………」

 

一瞬、目の前で起こったことが理解できず、しばしの間身体が硬直する。

士道には傷一つ付いていなかった。周囲に展開された壁が爆風を完全に遮断していたのだ。

 

しかし、琴里がいた外側の景色は、一瞬前とは全くの別物へと変貌していた。

煙に包まれた外に出ようと足を踏み出すが、見えない壁は生身の士道の力ではビクともしなかった。

 

「琴里!」

 

叫び_____士道は上方からの視線に気付いた。

 

士道はバッと顔を上げ______そこにいたモノを見て、またも息を詰まらせた。

 

黒と白のボディに、まるで兵隊のような、バイザーマスク。そして腰には______鈍銀色の、注射器のようなベルト。

 

そしてその身体を包み込むような形の、巨大なユニット。背には幾つものミサイルポッドやコンテナのようなパーツがずらりと備え付けられ、そこから延びた両腕パーツから、巨大な光刃を顕現させた大型レーザーブレードが、そしてさらにその外側に戦艦の主砲のような巨大な砲門が二門、見受けられた。

 

そしてやがて、眼前のソレから、声が聞こえてくる。

 

 

『______士道。ここは危険。離れていて』

 

 

「っ………まさか…………」

 

それは、多少加工されてはいたものの。

 

今の士道にとって、判別するには十分すぎる材料だった。

 

「折、紙…………っ!?」

 

______間違いない。今琴里を撃ったのは、この折紙だった。

 

 

 

 

『う______わぁぁぁぁぁあぁぁッ!?』

 

「おい、どうしたんだよあれ!」

 

一方その頃。戦兎達がいた近くのエリアでも、先の爆発によって、周囲の客がバタバタと逃げ去っていた。

 

「ッ……あそこにいるのは………!」

 

そこで戦兎が、爆心地の近くで浮遊する、一つの巨大な物体を見据えた。まるでロボットアニメにでも出てきそうな巨大な武装ユニットだ。あんなものを浮かせられるその技術力に興味が湧いたが______戦兎が注目したのは、それに乗った者が、身につけていた物だった。

 

「あれは………!」

 

間違い無い。それと同じ物を、戦兎は先日に何度も目撃し、昨日もその目で間近に見た。

 

リバースドライバー………!」

 

そう。

かつて崇宮真那を異形のスマッシュへと変貌させ、戦兎達を苦しめた、まさしく【悪魔のドライバー】。

 

そこで、インカムから通信が入ってくる。

 

『……セイ、バジン。至急現場へ向かってくれ。あの爆心地に、シンと琴里がいる』

 

「ッ、何ですって!?」

 

『……しかも、敵の狙いは琴里のようだ。今行かないとまずい状況になる』

 

インカム越しに、令音のどこか悲痛な声が響く。

 

「……分かりました。行くぞ万丈!」

 

「おうッ!」

 

そして戦兎達は、互いにピエロ姿のまま、現場へ向かおうとした。

 

その、まさにその時。

 

 

「おおっと!ここから先は、行かせないよ」

 

悪いなぁ!

 

 

前方に人影が現れると同時に、足元に無数の光弾が飛んできた。

 

「うわっちょ、いたたた!」

 

どうやら万丈の靴に数発当たったらしい。右足を押さえて跳ねた。

 

そして、その弾を撃った、現れた人物______神大針魏と、マッドクラウンに、戦兎は鋭い視線を向けた。

 

「………お前ら、また邪魔をしに来たのか……!」

 

戦兎は胸の中で燻る激しい怒りを堪えきれずに、憤った声音で二人を睨みつける。

 

「おぉーおぉー、怖いなぁ。ま、その通りなんだけどね。君たちに今行かれたら、困るのでね」

 

そう言って神大は、ポケットから蜂の意匠のボトル_____【ビーオルタナティブフルボトル】を取り出し、数度振った。

 

そして、成分を活性化させたそれを、右手の銃_____【リバースチームガン】へとセットする。

 

 

BEE ALTERNATIVE……

 

 

凝装(ぎょうそう)

 

 

LIQUID MATCH……

 

 

音声とともに、銃口から水蒸気のような成分が噴出される。それらは神大の周囲へと()縮していき、やがて全身を回ってアーマーとなって()着していった。

 

 

BEE……NASTY……BEE……

 

 

やがて蜂の羽音と共に、その姿を現した。

 

 

REBIRTH!!

 

______ナスティシーカー。

 

前にビルド、クローズチャージと戦い、そして追い詰めてみせた、宿敵とも言える相手だった。

 

「……行くぞ、万丈」

 

「ああ……上等だ」

 

その姿を確認すると、戦兎はビルドドライバーを、万丈はスクラッシュドライバーをセットする。

 

そして戦兎はフルボトルを取り出し、振って成分を活性化させ、ドライバーに挿入した。

 

 

ハリネズミ!消防車!

 

BEST MATCH!

 

 

そして万丈はスクラッシュゼリーを取り出し、ドライバーへとセットした。

 

 

ドラゴンジュゥエリィー!!

 

 

それぞれの待機音が流れ、二人でファイティングポーズをとる。

 

 

Are You Ready?

 

 

「「変身ッ!」」

 

 

レスキュー剣山ッ!ファイヤーヘッジホッグ!!イェイッ!!

 

潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥ!!!ドラゴン・イン・クロォーズチャァージィッ!!ブルルルルゥゥゥラァァァアッ!!!

 

 

ビルド ファイヤーヘッジホッグフォームと、クローズチャージ。

 

二人のヒーローと、二人の悪が、今衝突した。

 

 

 

 

 




更新遅れてすいません!
諸事情で一週間ほど投稿できませんでした!
すいません許してください!何でもしますから!(なんでもするとは言っていない)
そして待たせたくせして、クオリティが低いのも許してください!次回ちゃんと面白くしますから!するよう努力しますから!

と、謝罪を済ませたところで。(オイ)

これからまたペースが戻っていくと思いますので、安心していただけると幸いです。

あ、あとこれ、ザドキエルエンジェルフルボトルのイメージです。一緒に作ったコブラ、バットのブラックロストフルボトルとキルバススパイダーフルボトルを添えて。



【挿絵表示】



このボトルの上の人参の部分が雪の結晶になって、キャップ部分が水晶色、上下のカバーパーツが白銀色になったやつが、完全なザドキエルフルボトルになります。イメージしていただければと。自分の技術ではこれが限界でした。

それでは次回、『第37話 硝煙と白兎のスノーフィールド』、をお楽しみに!

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第37話 硝煙と白兎のスノーフィールド

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!士道と琴里のデートをサポートするべく、彼らを尾行するのだが、そこに現れたのは、憎っくきあいつら、クラウンと神大針魏の二人だった!」

万丈「こいつらもしつけえよなぁ。なんかエボルトのやつ思い出しちまうぞ」

桐生「あ、それ分かる。なんかスッゲーエボルトに雰囲気似てるんだよな、あいつ」

士道「なあ、エボルト、ってなんだ?」

真那「エボルタ?」

桐生「エボルトだよ、エボルト。ていうか真那来たんだ」

真那「はい!まあ私、一応このコーナーじゃ準レギュラーみたいな感じでいやがりますからねー!」

万丈「その割には最近出てなかったよな?」

真那「………そ、そんなことねえでいやがりますよ!忘れられてたとか、そんなわけあるはずねーじゃねーですか!」

一同『忘れられてたんだな』

真那「う……うぅーーッ!!もう、知らねーですよッ!ハイ!というわけで、第37話、どうぞ見やがってください!ふん!」

士道「あっ、おい待てよ!」





「はぁッ!」

 

ふん

 

ビルドが消防車アーマーの左腕、【マルチデリュージガン】から放水させ、ナスティシーカーに牽制を行う。しかし相手はそれをかわし、ビルドに接近しようとする。

こちらではビルドとナスティシーカーとの戦闘が行われ、そしてその一方で。

 

 

ツインブレイカーッ!アァタックモードォッ!

 

「オラァッ!」

 

おぉっと、危ない危ない

 

 

こちらではクローズチャージとマッドクラウンが交戦状態に突入していた。クローズチャージが出したツインブレイカーのパイルの先端が、クラウンへと向かって進む。が、クラウンはそれを器用にブレードで下段から弾き、リバースチームガンの銃撃を食らわせる。

 

「おわっ!くっそ……!」

 

そんなんじゃあ、俺には勝てないぜぇ?

 

「野郎………ッ!」

 

クラウンの煽るような台詞に、クローズチャージが立ち上がって再び攻撃を仕掛ける。

 

BEAT CROSS-ZER!

 

ビィームモードォッ!

 

ビートクローザーを構え、左腕に握り直したツインブレイカーをビームモードに切り替え、牽制しつつ接近する。二連装のレイジングビーマーからビームが放たれ、クラウンの動きを抑制する。

 

くっ………!

 

「もらったぁッ!」

 

ヒッパレーッ!SMASH HIT!!

 

そして充分接近したところで、クローズチャージがビートクローザーのグリップエンドを引っ張り、エネルギーを装填。蒼炎を纏った斬撃が、クラウンへと襲いかかる。

 

甘え………よッ!

 

「なっ!?」

 

だがその斬撃を、クラウンは両手持ちで支えたブレードでもって受け止めた。しかしかなりの衝撃があったためか、クラウンの足場のコンクリートはヒビ割れている。

 

まだまだ、だぜぇ?

 

「てっめえ………!」

 

クラウンの挑発する声に、クローズチャージは再び攻撃を仕掛けるのだった。

 

 

 

 

「はっ!おらっ!」

 

クローズチャージとクラウンの戦闘地点から少し離れた場所で。

ビルドとナスティシーカーは、互いに一進一退の攻防を続けていた。ビルドがハリネズミアーマーの右腕、【BLDスパインナックル】の針で攻撃を仕掛け、シーカーはそれらを紙一重で躱し、防御の合間を縫って銃撃を叩き込んできた。

 

しかし、ビルドもただでは食らわない。左腕に持ったドリルクラッシャーでそれを器用に、時に大雑把に防御し、被ダメージを最低限に、与ダメージをなるべく多くするように戦闘を仕掛けていた。

 

ふぅむ、やはり、戦闘では君の方が一枚上手、ということかな?

 

シーカーはそう言ったものの、ビルドはマスクの下で苦々しげに顔を歪ませた。

 

「よく言うぜ………さっきから、全然攻撃を食らってねえじゃねえか、よ!」

 

まあ、私とて何の用意もなく、戦いに来たわけではないからねぇ

 

シーカーもビルドの攻撃に対応し、避けては当て、防御して、を繰り返している。

これでは埒があかない。ビルドはマルチデリュージガンの放水で距離を取り、取り出した新しいボトルを振り、ドライバーに装填し直した。

 

 

オクトパス!ライト!

 

BEST MATCH!Are You Ready?

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

稲妻テクニシャンッ!オクトパスライト!イェイーッ!!

 

 

フォームをチェンジし、搦め手に長けた【オクトパスライト】フォームになる。ライトアーマーの左肩に搭載された【BLDライトバルブショルダー】を起動させ、発光させる。

 

くっ………

 

急激に現れた強力に光により、ナスティシーカーは視界を奪われ思わず目を覆った。その隙をついて、オクトパスアーマーの触手、【フューリーオクトパス】が稼働し、シーカーに向けてそれぞれ連打攻撃を叩き込む。

 

ぐっ……くあっ………ッ!

 

いかに回避に優れたシーカーといえど、視界を奪われては元も子もない。何とか攻撃を躱そうと身体を曲げるが、やはり避けきれずにフューリーオクトパスの鋭い攻撃がシーカーのアーマーを損耗させる。

 

やる、ねぇ………!

 

攻撃の衝撃で距離を取られたシーカーは姿勢を直し、スチームガンを構え直してビルドへと銃撃を仕掛ける。ビルドは立ち止まり、銃撃をフューリーオクトパスの触手を巧みに動かして銃弾を防ぐ。

が 、立ち止まったその隙を突いて、シーカーが立ち上がってブレードを構え、ビルドへと迫る。

 

「ッ!」

 

ビルドは触手を引っ込め、ドリルクラッシャーでブレードを受け止める。両者が向かい合わせになり、互いに拮抗した状態が続く。

そして次の瞬間に、シーカーがマスクの下で口を開いた。

 

 

……君達は本当に、自分のしている事が正しいと言い切れるのかい?

 

「……何?」

 

 

言葉を区切り、ブレードを押して距離をとる。そして、再び言葉が響く。

 

クラウンからも、前に訊かれたんじゃあないかい?君達のしている事は、平和の為でも、何でもない、ってね

 

「………ッ!お前達が、言えた事かッ!」

 

ビルドはその言葉に反論し、ドリルクラッシャーを構えて再びシーカーへと攻撃する。

 

「身勝手な事ばっか言って、真那をあんな体にしたのも………全部、お前らだろうがッ!」

 

だが結果として、それは()()()()()たる精霊を、退ける力となった。精霊を匿う君達よりは、よっぽどマシだと思うがねぇ!?

 

シーカーは心底不思議そうに言って、ブレードを弾きビルドを斬り刻む。

 

「ぐあッ!!」

 

何を言おうが無駄だ。認めるんだな。どう言い繕うが………君達のしていることは、無駄だと、ね。醜悪な綺麗事を並べて、人々の不安を煽る、ヒーローもどき、だと

 

そう言って、シーカーがマスクの下で笑う。そしてブレードの攻撃が、ビルドを地に伏せさせた。

 

「…………ッ」

 

シーカーの言っていることは、ある意味では正しかっただろう。

 

 

確かに、精霊は出現するだけで世界を滅ぼす存在かもしれない。

 

その力は、人の手に余るものだろう。それを匿う事も、間違っているのかもしれない。

 

 

だが______ビルドは。桐生戦兎は。絶対にそれを許容できなかった。

 

「…………違う………!」

 

はい?

 

ビルドは力を振り絞って立ち上がり、言葉を紡ぐ。それは自分にも言い聞かせるような、口調であった。

 

「……確かに、精霊は強大な力を持っている。それが、人類の脅威になり得る事に、なるかもしれない………ッ!」

 

 

_______でも。

 

 

「でも、それは……………あいつらの幸せを守る事を、諦めていい理由に、ならない………ッ!」

 

力は、あくまで力だ。

 

それは振るう物によって良い方向にも、悪い方向にも傾く。

 

 

その力を、ただ人より多く持っている。

 

 

ただそれだけで、十香が、四糸乃が、琴里が、そして______狂三も。

 

 

彼女達が、人としての生を諦めるなんて、絶対にあっていい事じゃない。

 

 

それは戦兎の、単なる自己満足や思い上がりなのかもしれない。

 

だがそれでも。桐生戦兎として、仮面ライダーとして。

 

彼女達を救う事を諦めるという選択肢は、戦兎に、仮面ライダービルドに、存在し得ない。

 

 

戦兎が言い切ると、シーカーは呆れたように首を振り、一つ息をついた。

 

……やれやれ、正義の仮面ライダーが聞いて呆れるねぇ。人々の幸せを、君は願っていたんじゃないのかい?その幸せを、摘み取ろうとでも?

 

シーカーの問いかけに、ビルドは意志を持って答えた。

 

「確かに、俺はみんなの幸せを願ってるさ。でもそれは………精霊だって同じことだ。人々の幸せを、精霊達を守る。それが愛と平和(ラブ&ピース)ってもんだ。………人を守るためにライダーになったんだ。なら、精霊を守ったって良い!」

 

自分がするべき事、貫くべき意思を、戦兎は今、ハッキリと見出した。

 

 

()と変わらない。

 

誰かを助け、救って、笑顔を守って、心に触れて、愛と平和を届け、伝える。

 

 

それこそが、戦兎のヒーローとしての、仮面ライダービルドとしての、在り方だ。

 

 

そしてビルドはその決意を胸に、二本のボトルを取り出した。

 

一本はビルドの使い慣れた、赤のラビットフルボトル。

そして、もう一本は______

 

……そのボトルは………

 

まるで氷のように輝く、青白のウサギのボトル______四糸乃の霊力が詰まった、【ザドキエルエンジェルフルボトル】である。

これこそが、戦兎が持った、切り札だった。

 

 

「さあ____実験を始めようか」

 

 

______シンシン、シンシン、シンシン_________

 

ザドキエルボトルから、まるで雪がまばらに降るような、優しい音が聞こえる。同時に空中に白の図式が、冷気を伴って現れた。

そして充分に成分を活性化させたそれを、ビルドドライバーへとセットする。

 

 

ラビット!ザドキエル!

 

 

SPECIAL MATCH!

 

 

そして、ドライバーからまるで雪国を彷彿とさせる、凍えるかのような待機音声が流れる。

ボルテックレバーを回し、チャージャーにエネルギーを装填する。そしてビルドの前後にスナップライドビルダーが形成される。赤と水白のアーマーが形成され、最後には二つとも、急速に氷漬けになった。

 

 

Are You Ready?

 

 

「ビルドアップ!」

 

掛け声とともに、氷漬けになった鋭利なアーマーが、ビルドを挟む。

 

挟まれた瞬間にも氷が発生、その氷が割れるように拡散し、内部から赤と水白のアーマーを身につけた、ビルドが現れた。

 

 

瞬足のスノーファイターッ!ラビットザドキエルッ!!イェイイェーイッ!!バッキィィーンッ!!

 

 

ビルド、 【ラビットザドキエル】フォーム。

 

 

戦兎の、ビルドの力と、四糸乃の力が詰まった、ビルドの新たなフォームであった。

 

その姿は………

 

「行くぞ………神大ォッ!」

 

大声とともに、ビルドが足を踏み出す。

瞬間、ラビットアーマーの強化装甲、【アイシクルラビットアーマー】の左脚に搭載された、【スケイトホップスプリンガー】のバネが駆動し、氷片を飛ばしながら高速で低空ジャンプ、一気にシーカーとの距離を詰める。

 

その勢いのまま、【アイシクルザドキエルアーマー】の、ウサギの頭部を模したナックル、【スノウラビットブレイカー】が、握られた五指を凍らせ、さながら氷のドリルのような鋭利な形状を生み出す。

そしてそのナックルを、シーカーの胸アーマーへと殴り付け、後方へと吹き飛ばす。

 

ガハァ…………ッ!?この力は………ハーミットの………!ぐっ………

 

しかし、相手もしぶとく立ち上がり、リバースチームガンで攻撃を行う。が、ビルドはそれを容易く回避する。アイシクルザドキエルアーマーの右脚に搭載された【フリーザーアイスシューズ】から、多量の冷気と水蒸気が放出される。精霊ザドキエルの力が宿ったそれは、一瞬でビルドの周囲を凍らせ、スケイトホップスプリンガーに備えられたスケートブレードが展開、氷の上を淀みなく滑り、銃弾をいっそ華麗な程に全て避け切った。

 

そしてそのまま接近し、拳で連打をかます。それらは既に手負いだったシーカーに全てヒットし、再び地面を転がった。

 

ぐ………ッ、まさか、これほど、とは………!

 

「これが正義の力______四糸乃と、俺の力だッ!」

 

そして更にスナップライドビルダーから、ビルドが武器を展開する。

戦兎が先日作成した武器、【アイスボックロー】だ。それをアイシクルラビットアーマーの右手に装着し、モードを爪の【クローモード】へと変形させる。

 

クローモードッ!

 

そして後部に設けられたフルボトル用差し込みスロットに、ザドキエルフルボトルを差し込んだ。

 

ANGEL MATCH BOTTLE!コオールゥッ!

 

音声と共に、アイスボックローの爪の先端部に雪氷のエネルギーが充填される。それぞれ渦を巻きながら二本の爪にチャージされ、そのエネルギーは二本の鋭い刃となった。

 

「ハァァァーーーーッ!!」

 

FREEZE CLAW BREAK!!カッチィーンッ!!

 

そしてそのエネルギーを、シーカーへと放つ。十分すぎるほどに溜まったそのエネルギーは、消耗したナスティシーカーを捉え、凶暴な兎の爪のように斬り裂いた。

 

ぐっ…………ぬぁ…ッ!!

 

それでもシーカーは倒れず、堪える。そして攻撃をしようと、リバースチームガンを構え、銃撃する。

 

 

【チェーンソーモードッ!】

 

 

だが、そこでビルドはモードを変更。爪が集約され、内側から幅広のチェーンソーが回転して出現する。幅広の刃は銃弾を弾き、或いは斬り、攻撃を寄せ付けない。

 

そしてビルドは最後の攻撃に出る。ボルテックレバーを回し、エネルギーを溜めた。

 

Ready Go!

 

充填された氷の、水のエネルギーが、拳へ、脚へ、集約される。

 

「ハァッ!」

 

まず左腕のスノウラビットブレイカーに溜まったエネルギーを放出。放出されたエネルギーはシーカーの胸部に当たり、氷の結晶のような模様を作った。それはまるで、()のようにも見えた。

 

そしてそこへ目掛けて、スケイトホップスプリンガーのバネの反発力で以って、氷の軌跡を描きながら上空へとジャンプする。

そして、フリーズアイスシューズの冷気が、その右脚を冷却させ、氷塊を作り出し、結晶の的目掛けて、雪氷のライダーキックをお見舞いした。

 

 

HERMIT FINISH!!イェイイェーイッ!!

 

 

「ハァァァアーーーーッ!!!」

 

氷の結晶の中心に吸い寄せられるように、ビルドのキックが決まる。螺旋にエネルギーが放出されたキックはシーカーへと直撃し、大きく吹き飛ばした。

 

ガハッ………ぐっ………

 

地べたへと転がったシーカーは、ダメージが許容量を超え、アーマーが粒子化し変身解除を余儀なくされる。

神大針魏へと戻った彼は、腕を抑えながらこちらを睨む。

 

ビルドもボトルを抜き、桐生戦兎へと戻った。

 

「はっ、はは…………なかなか、やるじゃないか…………正直、驚いたよ…………まさか、あのボトルにこれほどの力があったとはね………」

 

眼をこちらを睨みながら、しかし口元はそれと反比例するように面白くて仕方ないような笑みを作る。まるで相反するいくつもの感情がミキサーにかけられたようにごちゃ混ぜになったような、歪な表情をしていた。

しかし戦兎は神大を睨む眼をやめずに、声を出した。

 

「………あんたには、聞きたいことが山ほどある。俺たちと来てもらうぞ」

 

「いや………ごめんだね。もう今日は満足したし、見ての通り私は手負いだ…………暫く、お暇させてもらうとするよ………」

 

そう言い、神大はリバースチームガンを取り出し、トリガーを引く。霧散し溶けるように、彼の姿はそこから消えた。

 

「ッ、待て………ッ!?」

 

と、そこで戦兎は、身体がぐらつく様な感覚を覚えた。

 

まるで身体が急激に疲れたような________そんな感覚だ。

 

どうにか倒れずに、頭を抑えて近くの木に手を付けて姿勢を直す。

 

「………あのボトルのせいか?………早く、万丈のとこに行かねえとな…………!」

 

戦兎は未だに倦怠感が凄まじい身体を引きずり、万丈の元へと向かった。

 

 

 

 

ディスチャァージボォトルゥッ!ディスチャァージクラッシュゥッ!!

 

ALTERNATIVE BREAK……SCORPION……!!

 

戦兎達が戦いを終えた、少し前。

 

クローズチャージとマッドクラウンは、未だ激しい戦いを続けていた。今はクローズチャージがロックフルボトルを使ったディスチャージクラッシュを、クラウンが必殺技のオルタナティブブレイクを発動し、相殺したところである。

両者の戦いは、一見すると互角に見えた。

 

だが、相手の技能か、それともハザードレベルの差か。クローズチャージが息遣い荒く地に膝を付き、クラウンも少し息が乱れていたものの、余裕そうにクローズチャージを見下していた。

 

「くっ………」

 

はっは………劣勢ってやつだなぁ?クロォーズチャージ

 

「うる………っせェッ!」

 

地に膝をついていたクローズチャージが立ち上がり、アクティベイトレンチを勢いよく下げ、ドラゴンスクラッシュゼリーを強く潰した。

 

スクラップゥブゥレイクゥッ!!

 

威勢のいい音声とともに、飛び上がったクローズチャージの右脚にドラゴン型のエネルギーが纏われる。そのままクラウンめがけて、上空から飛び蹴りを放った。

 

「オォーーラァッ!!!」

 

ほぉ………まだそこまで戦えたか。が………

 

クラウンは少し感心したように言うと、リバースチームガンにミストブレードをセット。大型ブレードへと変形させ、ボトルをセットした。

 

 

FULL BOTTLE……BAT……MISTIC ATTACK……!

 

 

瞬間、大型ブレードの刃に蝙蝠のような霧状のエネルギーが溜まり、クローズチャージのスクラップフィニッシュとぶつかる。

 

「ウ、ォォォーーーーッ!!」

 

ちぃ………ッ!

 

しかし、パワーで言えば当然、クローズチャージの攻撃の方が上だ。当然、クラウンが押される形となった。

 

が、先の戦いでクローズチャージは大きく消耗し、そのパワーをかなり削がれてしまっている。対してのクラウンは多少の消耗があったものの、基本的に優位に立っていた。結果として、本来であればクローズチャージが上であるはずの両者のパワーが互角かクラウンが僅かにリードする形となってしまったのだ。

 

「ぐあッ!?」

 

くぅ………ッ!

 

結果、クローズチャージはキックが失敗してクラウンの攻撃に多少ダメージを受け、クラウンもキックのエネルギーを相殺しきれず、傷を負う形になった。一見すれば痛み分けだが、クローズチャージは変身を解除され地面へと倒れてしまい、苦しげに呻いている。

 

が、対してのクラウンは立ち上がり、多少の余裕があるようにも見える。それは誰の目から見ても、異常としか言えない程の力であった。

 

こっちも、だいぶ削られちまったが…………どうやら、俺の勝ちみたいだ、なぁ?

 

「くっ、そ……………」

 

生身の状態で、苦しげに呻く万丈。

クラウンはそれに歩み寄ると、万丈の首元を掴み、持ち上げた。

 

「ガゥ…………ッ!?何、を………する気だ、テメェ………ッ!」

 

殺しはしない。お前の隠された力ってやつを、解き放つだけだぁ

 

そう言ってクラウンは、左手を万丈の胸に当てた。

 

 

 

 

「万丈!」

 

戦兎が万丈の元へと駆けつけたとき。

 

おっと、遅かったじゃあねえか

 

「クラウン…………ッ!」

 

戦兎の眼に映ったのは、倒れた万丈と、その側に立つクラウンだった。万丈は地面へと目を閉じて倒れ、クラウンは右手を少し上げている。

 

「万丈!」

 

安心しな、死んじゃいねえよ。そんじゃ、バァイナラァ

 

「ッ、待て!」

 

戦兎の制止も聞かずに、クラウンはその場から消え去る。

戦兎は歯噛みしながらも、倒れた万丈へと駆け寄った。

 

「万丈!?おいどうした!返事しろ万丈!」

 

『…………、やっと通信が繋がったね』

 

「令音さん!」

 

とそこで、インカムから久方ぶりに令音の声が聞こえてくる。最初にノイズのような音が走ったのを聞く限り、どうやら通信妨害の類を受けていたようだ。

 

「令音さん、万丈をフラクシナスに転送してください!クラウンにやられました!」

 

『……分かった。そこに置いていてくれ。すぐに転送する。セイは、シンの元へ向かってくれ。非常にまずい事態だ』

 

「ッ、分かりました。すぐ行きます!」

 

万丈をひとまずはその場に置き、戦兎は重い身体を引きずって駆け出す。

先の爆発から、既にだいぶ時間が経過してしまっている。もしかすると____と、悪い予想が頭をよぎる。

 

「ッ、な訳、あるか………!」

 

 

それを振り切り、戦兎が爆発地へと向かい、たどり着いた時。

 

「ッ、これは…………」

 

そこにあったのは。

 

 

 

「やめろ………折紙!」

 

『そこを退いて。士道』

 

 

 

巨大なユニットを装備した謎のライダーと、アライブラスターを構え、荒く息をしながらも琴里を庇うように立つ、アライブの姿だった。

 

 

 




どうでしたか?
更新がまたちょっと遅れてすいません。

と言うわけで、ビルドの新フォーム、ラビットザドキエルの初登場回でした。………スパークリングどうしよう。
あ、変身音の『バッキィィーンッ!』とかの部分は、若本ボイスで再生して欲しいです。

次回はちゃんと士道と折紙のやり取りを書きますので、安心してください。
それと、リバースチームガンを描いてみました。


【挿絵表示】


これで大分イメージしやすいかと思います。下手くそだったらゴメンね。

それでは次回、『第38話 乱闘エスカレーション』、をお楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!最近感想少なくてちょっと寂しいです………



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第38話 乱闘エスカレーション

桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎は!士道と琴里のデートを成功させる為、二人の尾行を進めるのだが、道中、マッドサイエンティストこと神大針魏とマッドクラウンに遭遇してしまう!」

万丈「ハット………何つった?」

桐生「マッドサイエンティストね?狂ってる科学者って意味」

万丈「うーん…………あ!お前のことか!」

桐生「おいちょっと待てどういう事だよそれ!言っとくけど俺は天っ才物理学者ですから!あんな趣味悪いやつと一緒にしないでほしいね!」

万丈「人が寝てる時に刀ぶっ刺そうとしたり辺り構わず武器振り回そうとする奴なんてどう考えてもイかれてんだろ!」

桐生「失礼な!ちゃんと試したい〜って許可をとったじゃん!」

士道「いや、それ許可とは言わないと思うぞ?ほら、知らない間に俺凄いことになってるから!というわけで!第38話、どうぞ!」





「やめろ______折紙!」

 

『そこを退いて、士道』

 

硝煙が渦巻く遊園地の一角で、仮面ライダーアライブ_____五河士道と、鳶一折紙______デウストルーパーが、互いに対峙していた。

 

先刻、折紙が放った攻撃により、周囲の人々は皆避難しており、今この場には、士道と折紙、そして琴里しかいなかった。琴里が初撃を防いだとわかるや否や、折紙はさらに無数の銃口を琴里に向け、一斉に鉄の礫の雨を降らせた。

 

幸い士道が即座に変身して攻撃を防いだ事で琴里に実害は無かったものの、初撃を防いだ際に、琴里が霊力を解放してしまったのである。ただでさえ危険な状態なのに、その上霊力を解放してしまったらどうなるか______想像に、難くなかった。

 

『ようやく見つけた_____私の、仇。邪魔を、しないで…………ッ!』

 

「嫌だ______琴里が殺されるのも、お前が琴里を殺すのも、嫌だッ!だから_____俺が、お前を止めてみせるッ!」

 

そう言い、再びアライブラスターを構え直す。

が、それよりも先に______

 

「うわッ!?」

 

折紙が腕を軽く振ると、アライブの身体は芝生の上へと転がされて行ってしまった。

そして次の瞬間、アライブが立っていた位置から、凄まじい爆風と爆音、強烈な振動と衝撃波が辺りに撒き散らされた。

 

「やめろッ!折紙!」

 

懇願するように叫びながら、ブラスターモードのアライブラスターを折紙の方に、躊躇いながらも撃つ。

 

「なっ………!?」

 

が、当たらない。折紙の周囲に張られた随意領域(テリトリー)が、アライブの銃撃を全く通さないのだ。

 

そしてその間にも、爆風は絶えず吹き抜ける。

 

地上の物を討滅し尽くす絶対的な意思で固められた爆砕の使徒は、一瞬のうちに遊園地の一角を壊滅させた。まるで空間震が起きたかのように抉れ、何も無くなってしまっている。

 

あまりにも凄まじい威力。今まで何度もASTの戦闘を見てきたが_____これほどまでの破壊力を持つユニットは、見たことがなかった。

 

「琴里!」

 

思わず、名を呼ぶ。

が、そんな士道の懸念を振り払うように、上空から小さな声が聞こえてきた。

 

「ふん……随分と行儀の悪い武器ね」

 

そこには、傷一つない琴里が、悠然と浮遊していた。

 

『く______指向性随意領域(テリトリー)・展開!(二二三・四三九・三六)………ッ!』

 

折紙がマスクの下で苦々しげな息を吐き、再び声をあげ、ミサイルを発射する。

 

だが、それらを撃ち抜くように。

 

『な______』

 

無数の光線が、向こう側から放たれた。

折紙が振り向き、アライブもその方向を向く。

 

すると。そこには。

 

 

「_____よう。クライマックスには間に合ったみてーだな」

 

 

「戦兎!」

 

『桐生、戦兎…………』

 

ビルドに変身し、右手にホークガトリンガーを持った、桐生戦兎の姿があった。

心なしかどこか疲れたような様子だが、すぐに折紙の方へと顔を向けた。

 

『はぁ……っ、はぁ………っ、はぁ………っ』

 

余程脳を酷使したのだろう。マスク越しに、荒い息が聞こえてきた。瞬間、ビルドが折紙の腰に取り付けられたベルトを見て、戦慄したように声をあげる。

 

「ッ!おい!今すぐそのベルトを外せッ!そのベルトは危険なんだッ!」

 

『邪魔を……しないで………!』

 

だが、そんなビルドの忠告に聞く耳を持たず、折紙は再びミサイルで攻撃を仕掛けようとする。しかも、今度はそれだけではない。

 

『_____指向性随意領域(テリトリー)・展開!(二二三・四三九・三六)………ッ!』

折紙がその文言を唱えると同時に、琴里の周囲に球状の結界が形作られた。

 

「ん_______?」

 

琴里が眉をひそめる。アライブの視点から、すぐにそれは知れた。あれは先程、アライブを庇ったような結界では無い。

ビルドもまたその知識が、今琴里に張られた結界がどんな代物かが大体予想できた。

 

「ッ、させるかっての………!」

 

そしてミサイルが放たれる。

ビルドがホークガトリンガーで迎え撃とうとするが、驚くべきことに、ミサイルが全てガトリンガーの弾丸をすり抜けるように軌道を描き、結界の方へと向かっていった。

 

「マジでっ!?」

 

ビルドも驚愕の声をあげる。そして同時に、それがどれほど恐ろしいことかも分かった。

あの銃弾の雨の中、ミサイルを一発も被弾させることなく飛ばすのは、殆ど不可能だ。特にガトリングのように、無数の弾丸が一斉に射出される武器で迎え打たれては。

 

それこそ_____ミサイルの弾道をリアルタイムで調整でもしない限りは。

 

「まさか、あいつ______」

 

だが、そんなビルドの声を遮るように、ミサイルが琴里の周囲の結界を通り抜け、その全てを被弾させた。

 

今度は二人とも、顔を覆わずに済んだ。理由は単純。球状の結界内で全ての弾丸が炸裂し、その爆風を範囲外に一切漏らさなかったからだ。

だがそれだけに、中がどんな様子なのかは、想像に難くなかった。あれだけのミサイルを受けるだけでも相当なダメージだというのに、その爆風を狭い範囲内で幾重にも浴びたらどうなるか。ライダーシステムはおろか、精霊でもただでは済むまい。

 

『ぐっ………うぁっ………』

 

折紙が再び苦悶の声をあげ、頭を押さえるようにする。同時に琴里の周囲の結界が空気に溶け、中に蟠っていた濃密な空気が細く消えていった。

だがその煙が掻き消えたところで、折紙がカッと目を見開いた。

 

無理も無いだろう。何しろ煙が消えた場所に、真っ赤な焔の塊が浮遊しており______

 

「ぷはっ」

 

小さな吐息と共に、身体のあちこちを煤けさせた琴里が顔を出したのだから。

 

「やってくれるじゃない。見たことない機体ね。新型かしら?」

 

言いながら琴里が軽く手を振り、全身から炎を這わせて傷を回復させていく。

だが______その瞬間。

 

「…………っ、あ_______」

 

急に琴里が顔を歪めると、側頭部を押さえながら苦しげな声を発する。

 

「く………力を、使い、過ぎ………」

 

「ッ、琴里!」

 

その症状には、見覚えがあった。

 

一度目は、一昨日の学校の屋上で。

 

二度目は______つい先ほど、ウォーターエリアの片隅で。

 

押し寄せる破壊衝動に意識を喰われる琴里の姿である。

命の取り合いをしているこの状況において、それはあまりにも大きな隙であった。そしてその好機を、折紙が見逃すはずもない。

 

「【クリーヴリーフ】_____解除・展開!」

 

折紙が叫ぶと同時に、レイザーブレードの刃が本体から射出され、光の帯となって琴里に絡みつく。

 

「ぐ………」

 

「指向性随意領域(テリトリー)_____展開!」

 

折紙が再び唱えると、またもや琴里の周囲に球状の結界が生成される。だが、今度放たれるのはミサイルではなかった。折紙は身をよじりながらドライバーを操作し、ウェポンコンテナの両端に備えられた巨大な砲門を琴里に向け_____

 

STAND BY

 

「討滅せよ_______【ブラスターク】!」

 

 

ARMED ATTACK

 

 

その声と、電子音と共に、至近距離から魔力光の奔流が放たれた。兵器や武器に詳しくないアライブにも、それがどんなに恐ろしい威力を持つかが容易に知れた。

ビルドにも、その攻撃の規模、熱量、その他情報から、それがどれ程の代物かを、一瞬で理解した。

 

その光が琴里の周囲に張られたバリアに触れ、それにヒビが入る。

 

地面に光が触れた瞬間、凄まじい爆発が起こり、小さなクレーターを作った。

 

「琴里_______!」

 

アライブが喉を潰さんばかりに絶叫を上げる。だがその魔力光が、全てを掻き消した。

 

『………っ、………っ、ぐぅ……………っ』

 

折紙が憔悴した様子で砲を下ろし、胸を押さえる。一方的に攻めているのは折紙なのに、ダメージを受けているのは寧ろ折紙の方のようである。

 

だが_____その瞬間に、折紙の背後に灼爛殲鬼(カマエル)を振り上げた琴里が現れた。

 

「な_______」

 

折紙が驚愕に顔を歪め、応戦しようとブレードを構えるが、遅い。

 

「______【灼爛殲鬼(カマエル)】」

 

焔の刃が蠢動し、折紙を襲う。

 

『きゃ………ッ』

 

押し殺すような悲鳴と共に、折紙がアーマーを斬られ、巨大なユニットごと地面に叩きつけられる。琴里はその様子を冷たい眼差しで見下ろすと、右手に握った灼爛殲鬼(カマエル)を片手で軽々と振り抜いた。焔の刃が折紙に揺らめく。

 

『く………防性随意領域(テリトリー)、展開!』

 

折紙が奥歯を噛み締めて言うと、折紙の周囲に展開されていた随意領域(テリトリー)がその面積を減らし、折紙とユニットに張り付くような格好となった。

次の瞬間、灼爛殲鬼(カマエル)の刃が、その表面に打ち付けられる。

 

『く、ぁ______っ!』

 

どうにか攻撃は防いだものの、折紙の脳には既に強大な負荷がかかっているようだった。苦しげに眉根を寄せ、呻き声を上げる。

だが、琴里は攻撃の手を緩めることなく、何度も何度も、焔の刃を燃え上がらせ、鞭で打ち付けるように戦斧を振り続ける。

 

「あらあら?さっきまでの威勢はどうしたの?私を倒すんでしょう?私を討つんでしょう?なら早く飛びなさい。切っ先を、銃口を、私に向けなさい。じゃないと_____ふふふ、あなたが死んじゃうわよ?」

 

「………ッ!琴里!」

 

「やめろっ!」

 

琴里の言葉に、アライブは悲鳴じみた声をあげ、ビルドは琴里を止めようと、二人がいる方へと駆けて行った。

_____が。

 

 

「______ふん、邪魔よ」

 

 

琴里が凄絶な笑みを浮かべたかと思うと、その焔の戦斧を大きく振り上げ、ビルドへと切っ先を向けた。

 

「ッ、ガ、ハァッ…………ッ!」

 

その攻撃はビルドのアーマーを容易く削り、戦兎は地面に打ち付けられ変身を解除されてしまった。浅く切られた胸や腕から、血が流れ出ているのが分かる。

 

「っ、戦兎ッ!」

 

アライブが戦兎の元へ駆け寄るが、琴里はすぐに視線を戻して、折紙へと攻撃を加える。幾度も幾度も、折紙の随意領域(テリトリー)に焔の刃を打ち当てていく。

 

『…………っ、か、は______』

 

そして何度目の斬撃だっただろうか、遂に折紙の随意領域(テリトリー)が破られ、折紙が纏うアーマーと、巨大ユニットのアンテナ部に浅く傷が付いた。

 

「………あら、もう終わり?つまんないの」

 

琴里が冷めた声でそう言うと、手に持った戦斧を離し、そして、

 

「【灼爛殲鬼(カマエル)】_____【(メギド)】」

 

巨大な戦斧から刃が霧散し、巨大な砲へとその姿を変える。

そして琴里は、折紙に向けてその砲門を突きつけた。

 

「あなた、殺すけどいいわよね?_____答えは聞かないけど」

 

「琴里ッ!止めろ!琴里ッ!………くそっ!」

 

「っ、士道、だめだ………っ、ぐ………!」

 

喉を潰さんばかりに叫びながら、戦兎の制止を振り払って琴里と折紙の間に割って入ろうとする。

 

 

BLAST VERSION!

 

 

アライブラスターを変形させ、ブラスターモードへと切り替える。しかし幾ら最大出力で放ったとしても、あの砲が撃つそれには叶わないだろう。だが、少なくとも折紙が逃げるくらいの時間稼ぎはできるはずだ。

 

だが、折紙は苦しげに肩で息をしながらも、怯えることなく琴里を憎々しげに睨みつけていた。

 

『【イフ_____リート】………ッ!』

 

折紙が言うと、琴里は不機嫌そうに表情を歪めた。

 

「………嫌な名前を知ってるわね。どこで調べたのかしら」

 

しかし折紙は苛烈な語勢を直すことなく、続けた。

 

「そうやって………殺したの?五年前………私の、お父さんとお母さんを_____ッ!」

 

「え________」

 

琴里が、今までと明らかに温度の違う声を発した。

 

 

 

 

「……良かった、容体が安定した」

 

フラクシナス艦内医務室。

 

ベッドに横たわり、静かに息を立てている万丈を横目に、彼のデータを観測していた令音は、一つ息をついた。

先ほど戦闘後に気を失った万丈をフラクシナスで回収した後、すぐにこの医務室へ運ばれ、令音がその面倒を見ていたのだ。

幸いにも身体に何らかの悪影響などは見受けられず、ダメージが入っているため治療は必要だが、それほどの時間は要さない程度だった。

 

「………それにしても」

 

しかし令音はそれらのデータから視線を外し、ある項目を凝視した。

 

それは恐らくフラクシナス、いや、それどころかラタトスクでも_____彼女にしか分からない、あるデータだった。

 

「……まさか、バジンまでとは、ね…………」

 

そのデータを目にした瞬間、令音はある種の気怠さや憤りを感じたような溜息を吐き、やがて思案顔になった。

 

「……彼らは………一体、何者なんだ。精霊の事を知っていた件といい_______」

 

 

_______()()を、図ってきた件といい。

 

 

令音はしばし考えてから、やがて後で考えようと思考を放棄した。今の状態では、あまりにも分かることが少なすぎた。

 

ただ一つ言えるのは______彼らは令音にとって、敵であるという事だった。

 

 

 

琴里は、呆然と声を発していた。

 

「何、を______」

 

言いながら、頭痛を堪えるように左手で頭を押さえる。その声とその顔は、士道たちの知る琴里のものだった。

 

『五年前。今から五年前。天宮市南甲町に住んでいた私の両親は、炎の精霊______あなたの手で殺された。あなたは、私の眼の前で、二人を灼いた………ッ!忘れるものか。絶対に、忘れるものか。だから殺す………駆逐する。私が、この手で、あなたを殺すッ!イフリートッ!』

 

裂帛の気合と共に、琴里の身体が吹き飛ばされる。それは折紙の力が増したというよりは、琴里の身体から力が抜けているような様子だった。

 

「琴里………っ!」

 

士道が、アライブが名を呼ぶも、反応は無い。地面に叩きつけられた琴里は、ただ呆然と目を見開き、カタカタと歯を鳴らすだけだった。

 

「そん、な………私、は______」

 

折紙は即座に随意領域(テリトリー)を再展開、体勢を立て直すと、琴里に向けて大型レーザーブレードを振るった。光の刃が、琴里をがっしりと拘束する。

 

『今度は、外さない。______指向性随意領域(テリトリー)・展開!』

 

折紙の言葉と共に、琴里の周りを結界が取り囲む。

守る為の物でなく、閉じ込め、致死の攻撃を与えるための殺意の檻。

 

「…………ッ!」

 

「ッ、おい、士道っ!」

 

士道は思わず駆け出した。幾らライダーシステムでも、あの光線は防げない。さらに琴里の力を失った今の状態では、致命傷を食らっても再生することさえ叶わない。きっと琴里の前に身を晒しても、共に撃ち抜かれるのが落ちだろう。

だが、足を止めることはできなかった。理由なんか単純だ。たった一つのシンプルな答え。

 

可愛い妹が危機に瀕している。たったそれだけでお兄ちゃんが、仮面ライダーアライブが駆けつけるには、十分すぎる理由となった。

 

『【ホワイト・リコリス】、臨界駆動………ッ!』

 

折紙が、巨砲を琴里へと向ける。だがアライブは構わず、ブラスターモードのアライブラスターを構え、琴里を守るように仁王立ちになった。

 

「折紙!止めろ!止めてくれッ!」

 

『っ、邪魔をしないでと、言ったはず。士道』

 

「そんな訳にいくかよッ!」

 

アライブが叫ぶと、折紙がギリと奥歯を噛み、マスクの複眼を鋭く光らせた。

 

 

「_____はぁ、最っ悪だ」

 

 

そしてそこへ身体を押さえながらも、戦兎がやってくる。

 

「戦兎!お前、身体………」

 

「こんくらいどうって事ないって」

 

そう言いながらも戦兎は腕を押さえ、苦しげな表情を浮かべていた。

 

『桐生、戦兎………ッ!』

 

「………まあ俺も、大事な仲間を傷つけられたく無いし、それに______お前が琴里を殺すのなんて、そんな事させないし、見たくもない」

 

戦兎は折紙を鋭く見据えながら、言い放つ。

 

『………士道には、言ったはず。私は両親の仇を討つために今まで生きてきた。五年前、あの炎の街を抜けてから、私の人生はそのためだけにあった。私の命はそのためだけにあった。イフリートを_____五河琴里を殺す事こそが、今の私の存在理由』

 

「…………ッ」

 

そう言う折紙の声を聞いて。士道の脳裏に、とある少女の台詞がぐるぐると渦巻いた。

 

 

(慣れていやがりますから)

 

 

崇宮真那。自称、士道の実の妹。

 

 

(だから、私は殺し続けるんです。あの女を。ナイトメアを。時崎狂三を。それだけが、私の存在理由。それが、私の生きる目的)

 

 

幾度も幾度も精霊_____狂三を殺し、もう元に戻らないほどに身体も、心も擦り減らしてしまった少女。彼女が見せた、疲れ切った表情と声音、そして暗く淀んだ瞳を思い出して、士道は唾液を飲み込んだ。

 

何故今真那を思い出したか_____それも単純だった。

 

目の前の仮面の少女が、それと重なって見えたからだ。

 

「駄目、だ………」

 

アライブが、士道がポツリと言う。

 

「駄目なんだ…………お前は、殺しちゃあ………!一つでも命を奪ったら…………その引き金を引いたら______お前はもう、後戻りできなくなる………!」

 

そのたった一度で、折紙は、真那になってしまう。

 

心が摩滅して、もう二度と元に戻らなくなる。

 

人の絶望に敏感な士道だからこそ、分かる。今折紙が指をかけたその引き金が、最後の鍵であることを。

 

「俺は____そんなお前を、見たくない………!」

 

しかし折紙は砲を下さず、依然としてその仮面の下で鋭い視線を向ける。

 

『……っ、例えそれでも、構わない。私の手で、イフリートが討てるなら………!』

 

「く_____」

 

アライブは爪が食い込まんばかりに拳を握りしめた。

だがそれと同時に、脳裏に一つの引っ掛かりが生まれた。

 

炎の精霊、【イフリート】。折紙が言った、その呼称に。

 

「_______、ぁ………」

 

詭弁にも近い言動。くだらない言葉遊びと言われても反論できまい。だが、それは小さくても、一つの可能性だった。どんなに細くても士道の目の前にある一本の糸だった。

 

「折紙………一つ聞かせてくれ」

 

「………士道?」

 

折紙は答えない。だがその沈黙を肯定と受け取り、アライブは続けた。

 

「お前が仇と狙うのは______【イフリート】、なんだよな?」

 

『そう』

 

「焔を操り、全てを焼き尽くし、死の淵からさえ蘇る………炎の精霊なんだよな!?」

 

『そう』

 

「俺の妹_____五河琴里じゃあなく、炎の精霊イフリートなんだな!?」

 

『………何を言っているの?』

 

「ッ、お前まさかッ!」

 

折紙がマスクの下で眉を歪め、戦兎がアライブの質問の意図に気づいたように、声をあげる。

 

『イフリートと五河琴里は同一の存在のはず。貴方は何を_______』

 

「いいから答えろ!お前の仇は炎の精霊イフリートで、人間である五河琴里じゃないんだな!?」

 

アライブが叫ぶと、折紙はしばし押し黙ってから声を返してきた。

 

『_____あなたの言うことは不可解。確かに私の仇は炎の精霊イフリート。人間ではない。でも、五河琴里は精霊。その条件は成立し得ない』

 

折紙が静かに言う。士道は、ごくりと唾液を飲み込んだ。

 

『そこを退いて、士道』

 

「駄目だ………それはできない。今のお前の言葉を聞いたら、尚更な」

 

『………どういうこと?』

 

アライブの言葉に、折紙がしかめた様子で返す。

 

「頼む。少しでいい。俺と琴里に時間をくれ。そうしたら______」

 

『認められない。今が、イフリートを討つ最大の好機…………!退かないのなら________」

 

折紙が、砲門を構え直す。士道を、戦兎を貫き、琴里を消し尽くすように。

 

「く_____」

 

折紙の言葉が、分からないわけではない。寧ろ、間違っているのは士道の方なのだろう。

大切な人が殺されたのなら、その相手を恨むのは至極当然の事だ。

 

それこそ______自分の手で殺したいと思うくらい。

 

きっと折紙が今ここで琴里を殺したなら、士道は折紙が琴里に抱いたのと同じ感情を心の中に抱き続けることになるだろう。

 

どれだけ口で許すと言おうが、どれほど上部を取り繕うが、自分の意思とは関係なく、きっと心の一番奥で、冷たい怨嗟がこびりついてしまう。

 

だからこれは、綺麗事だ。

 

でも_____例え偽善と言われようが、自分勝手と言われようが、道理に合わぬと言われようが、それでもアライブには、士道には、口をつぐむことが出来なかった。

 

 

「両親を殺されたお前にこんなこと言っても、綺麗事と取られるかもしれない。きっと俺だって、父さんや母さんや琴里が殺されたなら、きっと相手を死ぬほど憎むと思う。矛盾してるって事は分かってる!でも俺は………それでも、俺は………!可愛い妹が目の前で殺されようとしてるのを無視なんてできないし、友達が絶望に浸るのを、黙って見ることもできねえんだよ…………ッ!」

 

 

『……………っ』

 

折紙が、どこか苦しげな唸りを上げた。

だが一瞬顔を伏せたかと思うと、再び顔を上げてきた。

 

『それでも………私は______!』

 

折紙が言うと同時、士道達の周囲に、見えない壁が生成された。

 

「!こ、れは_____」

 

随意領域(テリトリー)……!くそっ、またかっ!」

 

アライブと戦兎が顔を歪めて声を上げた。先程士道に対して展開されたものと同じ、つまりは衝撃から対象を守るための結界である。

 

その意図を理解して、士道は喉を潰れんばかりに震わせた。

 

「止めろ、折紙ィィィィィィィィィィ______ッ!!!」

 

「止めろォォォォォォォォッ!!」

 

『う、あ、ああぁぁぁああぁぁぁぁ________!!!』

 

折紙が、二人の声を搔き消すように叫びを上げ、砲の照準を琴里に合わせた。

 

だが、その時。

 

 

 

「______させるかッ!」

 

 

 

上空からそんな声とともに______折紙の構えた二門のうち、右側の一門が綺麗に切断された。

 

『…………!?』

 

折紙が困惑したようにマスクを震わせる。

そして戦兎たちが上空を見上げると、そこには。

 

「十香!」

 

「うむ、無事か。シドー、セント、琴里」

 

水着の上に淡く光る光のドレスを纏い、大きな一振りの剣を握った十香だった。

 

 

 




どうでしたか?

また遅くなった上に原作そのママみたいになってしまった______最近スランプ気味です。
今更なんですが、原作琴里編のラストって、構成上戦兎達を絡ませづらいんですよね。だからオリジナル要素が少なくなる、けど物語を進ませなきゃいけない。だから原作と同じ部分が多くなってしまう。それをどうにかしようとして結局そのままになって、結果投稿が遅れる。というジレンマが発生しています。

八舞編はオリジナル部分多くなると思いますので、ご了承お願いします。多分次回で琴里編終わりですが、相当原作と似た感じになると思います。低クオリティで申し訳ない_____

申し訳程度の要素ですが、こちら、ラビットザドキエルのイメージ画像です。


【挿絵表示】


拙い手書きですが、取り敢えずはこんな感じということで。

あ、あと最近Twitter始めたので、そちらもよろしくお願いします。

https://mobile.twitter.com/Ym4NGK2mqk8BnPD

それでは次回、『第39話 兄妹アイが止まらない』、をお楽しみに!

よければ感想や高評価、お気に入り登録をよろしくお願いします!



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第39話 兄妹アイが止まらない

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!琴里の霊力を封印するため、士道と琴里のデートに同行する!が、途中現れたマッドクラウン達の妨害を受けてしまう」

万丈「ていうか!俺の出番あれで終わりかよ!もっとあるだろ他に!」

桐生「しょうがないでしょーが。お前真っ先にやられて気絶しちまうんだからさぁ」

万丈「しょーがねーだろ!強かったんだから!」

桐生「もっと根性を見せろ根性を。ほら、いよいよこの第四章もラストだから!第39話、どうぞ!」




『っ、夜刀神、十香…………!』

 

折紙が襲撃者______十香の正体に気付いた瞬間、忌々しげに唇を歪ませる。マスクの下で視線を研ぎ澄ますと、背に負ったウェポンコンテナを展開させた。あれだけの数を撃っても、まだ弾薬は尽きていないようである。

 

『邪魔を_______』

 

しかし、折紙がそれらを射出するよりも先に、右方から折紙に向けて、光線が放たれた。

 

『く………』

 

上空に飛び立ち、すんでのところで攻撃を避ける。

それと同時に折紙の集中が途切れたのだろう。アライブと戦兎を覆っていた不可視の壁が消え失せた。

そこで気付く。今放たれたそれは光線ではなかった。それが通った地面が、一瞬にしてパリパリと音を立てて凍てついたのである。

 

「これは………」

 

この力には、見覚えがあった。戦兎に至っては、つい先程にその力を使っていた。

 

「大丈夫……ですか、士道さん、戦兎さん、琴里さん………」

 

攻撃のあった方から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。見やると、そこには前見た時よりも幾分小さなウサギの人形と、水着の周囲にぼんやりとした輝きを放つドレスを纏った四糸乃が張り付いていた。

 

「四糸乃!」

 

「はい」

 

戦兎が名を叫ぶと、四糸乃がこくりと頷いた。

 

「その姿………それに、氷結傀儡(ザドキエル)………まさか」

 

「は……い。令音さんから、危ないって連絡を受けて、こっちに来たんですけど………三人を助けなきゃって思ったら、心がざわって………」

 

と、そこで四糸乃が言葉を切り、戦兎の身体を見て戦慄した。

 

「っ、せ、戦兎さん、怪我を………!」

 

「ん、ああ、これくらい、どうって事ないよ。安心しろって。……それよりも、今は______」

 

瞬間、十香と四糸乃目掛けて、幾発ものミサイルが降り注いだ。

 

「ぐ_____!」

 

「きゃ………!」

 

二人が苦悶の声を漏らす。十香は剣で、四糸乃は氷の壁によって砲撃を退けたものの、双方その衝撃を全て殺しきることは叶わなかったらしい。

いかに【鏖殺公(サンダルフォン)】と【氷結傀儡(ザドキエル)】とはいえ、今その力は恐らく全力の十分の一も出せていない状態である。流石に精霊とはいえ分が悪すぎた。

しかし十香は顔を苦しげに歪ませながらも、士道に向かって叫びを発してきた。

 

「シドー!ここは私たちに任せて、早く逃げろ!」

 

「と、十香……四糸乃」

 

「いいから早くするのだ!」

 

「そんなに……長くは、保ちません………っ!」

 

折紙が忌々しげに十香を、四糸乃をマスク越しに睨みつける。

 

『ッ………!邪魔を………するなッ!』

 

「_____ふん、琴里はシドーやセントと同じく、我らの恩人だ。貴様には決して討たせぬぞ」

 

「……です!」

 

十香が折紙を睨み返しながら言い、四糸乃が続くように言う。

折紙は細く息を吐くと、レーザーブレードを握る手に力を込めた。

 

『なら_____消えろッ!』

 

普段の折紙からは想像できない荒々しい口調とともに、ウェポンユニットを展開させようとする。

が、そこに戦兎が、ドライバーを巻いて飛び出してきた。

 

「させるかよッ!」

 

飛び出すや否や、懐から缶状の強化アイテム_____ラビットタンクスパークリングを振り、プルタブを開けてドライバーにセットした。

 

 

RABBIT TANK SPARKLING!!

 

 

ボルテックチャージャーを回し、エネルギーを生成する。スナップライドビルダーが前後に形成され、ベストマッチリキッドを内包した強化アーマーが形成された。

 

 

Are You Ready?

 

 

「変身ッ!」

 

 

シュワっと弾けるッ!ラビットタンクスパークリングッ!!イェイイェーイッ!!

 

 

ラビットタンクスパークリングへと変身した戦兎は、そのままドリルクラッシャー(ガンモード)と、ホークガトリンガーを取り出し、ミサイルを撃ち落とした。落とし損じたミサイルは、十香の斬撃によってその場で爆発した。

 

「セント!身体は、大丈夫なのか!?」

 

「ああ。時間を稼ぐくらいなら、出来る」

 

ビルドが短く答えると、そのまま士道の方を一瞥した。

 

「(早く_____逃げろ)」

 

ビルドのその思いが伝わったのか、士道は一瞬逡巡した後。

 

「く_____すまない………っ!」

 

奥歯を噛み締めながら、琴里を抱えてその場から走り出した。

今士道がやるべき事は、彼らを案じてここに留まることでなく、戦兎達の思いをくんで、琴里をここから遠ざけることだった。

 

『仮面ライダー……ビルド………ッ!』

 

「悪いな。ここを通すわけには、いかないんだ!」

 

そう言うや、戦兎はビルドフォンを操作し、先日入手した【ヘリコプターフルボトル】を挿した。

 

 

BUIlD CHANGE!

 

 

音声と共に、ビルドフォンがビルドの手を離れ変形する。

それは一瞬バイクの形を象ったが、やがて前後輪のタイヤが変形し、まるでホバークラフトのような形状の、奇妙なマシンへと変わった。

これこそがビルドフォンに搭載された新形態、【フライトモード】である。

 

対AST戦を想定し、ホークガトリング以外での空中戦を可能とするために開発したものだ。

 

「よっし、行くぞ!」

 

早速乗り込み、ハンドルを回す。

するとタイヤ部分が回転、宙に浮き上がり、折紙と巨大ユニットへと向かっていった。

 

『何………ッ!』

 

「どうよ!俺の、発明品ッ!」

 

そんな口を叩きながらも、ビルドと折紙は、交戦を開始した。

 

片や、復讐を遂げる為に。

 

片や、大事なものを守る為に。

 

 

 

「し、ど………う………」

 

顔を青くしながら、琴里が士道の名を呼ぶ。

 

「大丈夫だ______すぐに、なんとかしてやる………ッ!」

 

走りながら、既に変身を解除した士道が言うと、琴里は少しだけ安心したように小さく頷いた。

後ろから爆発音が聞こえてくる。ビルドと十香と四糸乃は善戦しているが______いくら三対一とはいえ、ビルドは手負いの状態で、十香と四糸乃も霊力が完全に戻ったわけではない。あの巨大な兵装とライダーシステムによって強化された折紙を相手取るのは、流石に分が悪い。それこそ、最悪殺されることだってあり得た。

 

そして、琴里にももはや猶予が無い。このままでは琴里の意識は破壊衝動に呑み込まれ、また暴れてしまうだろう。

 

 

_____そう。士道は、ただ逃げるだけでは駄目なのだ。

 

 

琴里に、折紙に、戦兎に、十香に、四糸乃。全員無事でなければ、意味が無い。

そしてその為の伸ばす腕を_____士道は確かに、持っていた。

 

「よし……………!」

 

士道は誰もいなくなったアトラクションの陰に身を隠し、抱きかかえていた琴里を地面に下ろす。それだけの動作で、琴里は辛そうに身を捩った。

 

「大丈夫か、琴里!」

 

「っ、ええ………なんとか、ね」

 

琴里はアトラクションに背を預けるようにして、力無く言った。

やはりもう時間は無い。士道は口を開いた。

琴里の肩に手を置き、吐息がかかるくらいの距離でジッと目を見据える。

 

「琴里」

 

「は………っ、はい」

 

琴里が強張った面持ちで返事を返してくる。

 

士道に残された、琴里を救う為の唯一の方法。それを_____今から、実行に移すのである。

 

「くぁ………ッ!?」

 

「ぐっ…………」

 

と、背後から十香とビルドの苦悶が聞こえると同時、折紙のユニットの駆動音が一層大きく聞こえてきた。

 

『見つけ、た………ッ!』

 

そのまま凄まじいスピードで、折紙がこちらに迫ってくる。

 

「く_______!」

 

士道は息を詰まらせ、琴里に顔を近づける。

そして口づけをする_____その前に、口を開いた。

 

「琴里!」

 

急に大声を出したものだから、琴里がびっくりしたように目を丸くする。

だが士道は構わず続けた。あまりにも稚拙な、しかし心からの、確かな思いを。

 

 

「琴里、琴里。お前は俺の可愛い妹だ。この世で一番最っ高の、自慢の妹だ!もうどうしようもないくらい…………大好きだ!愛してる!」

 

 

「ふ………ッ、ふぇーーーッ!?」

 

琴里が顔を真っ赤に染める。士道は同じような顔をしながら、言葉を続けた。

 

「琴里………ッ!お前は、俺のこと好きか!?」

 

「そ、そんな、急に言われても_____!」

 

と、その瞬間、後方から鉄の礫が飛んできて、士道たちの隠れているアトラクションに着弾し、火花を散らした。

 

「琴里!」

 

「あ、ああっ………もうッ!」

 

琴里が混乱したようにぐるぐると視線を巡らせ、叫ぶように言ってくる。

 

 

「好き!私も大好きよ!おにーちゃん大好き!世界で一番愛してる!」

 

 

「…………!」

 

それを聞き届け______士道は、意を決して琴里の唇に、自分の唇を触れさせた。

何年も共に過ごした妹とキスをすると言う、背徳感にも似た感覚が肺腑を満たし、得も言われぬ恍惚となって抜き出ていく。

 

そして士道は唇を介して、自分に暖かいものが流れるのを感じた。

 

十香の時にも経験した、精霊の力が自分の中に封印される感覚。

 

が、それと同時に_____

 

「……………?」

 

頭の中に、ぼんやりとした記憶が流れ込んできて、士道は小さく眉を動かした。

 

 

 

 

眼前には______炎が、広がっていた。

 

(あ、あ、あ………)

 

琴里の大好きな家が、公園が、街が、燃えていく。

 

それが、自分の手によるものであることは明らかだった。琴里の身体に巻きついた帯が、視界にあるもの全てを燃やし尽くしているのである。

 

(や、めて………やめて………っ!)

 

懇願しても、焔の勢いは衰えず、それどころか琴里の意思を無視するようにその体積をどんどんと増やしていく。琴里は顔を歪め、目から大粒の涙を零した。

 

(お……にーちゃん………!おにーちゃん………ッ!)

 

(琴里!)

 

と。

そんな琴里の鼓膜を、聞き慣れた声が震わせた。

 

琴里が今、一番聞きたかった声。_____大好きな、おにーちゃんの声。

 

顔を向けると、そこには士道の姿があった。手にした荷物をその場に放り、琴里の名を叫びながらこちらに走ってくる。

 

(ぅ、ぁ、ぁ、お、おにぃちゃん………っ、おにーちゃん、おにーちゃん………ッ!)

 

涙でぐしゃぐしゃの顔を両手で拭いながら、士道の名を呼び返す。

 

だが、そんな二人を遮るように、謎の影がその瞬間、現れた。

 

 

おぉっと、感動の再会に水差すようで悪いが、ちいと良いか?

 

 

(なっ、なんだよ、お前っ!)

 

士道の前に現れたそれは、突然士道の身体へと纏わりつき、士道を縛りつけるようにした。

 

(は、離せ、よ!俺は琴里のとこに行かなきゃいけないんだッ!)

 

士道が必死に叫ぶも、影は離れようとしない。

 

(おにーちゃんっ?おにーちゃんっ!)

 

琴里が士道の名を呼んだ、その時。

琴里の身体に纏わりついていた焔が、急に大きく膨れ上がった。

 

(………っ!)

 

琴里は身を固くした。

これは______駄目だ。このままでは______

 

(おにーぢゃん!避けてぇぇぇぇぇぇぇっ!!)

 

(えっ?)

 

おおっと

 

士道が、呆然と声を発する。

しかしその時にはもう、士道の身体の影は消え、琴里と焔によって吹き飛ばされていた。

 

(おにーちゃん………っ!)

 

琴里は痛む足をどうにか動かし、士道の元へと駆け寄った。

 

倒れた士道の有様は、酷いものだった。全身が灼け爛れ、肩から腹にかけて肉を抉られたような大きな傷跡が這っている。どう見ても、助かるような状態には思えない。

 

(おにーちゃん………おにーちゃん!おにーちゃん………ッ!)

 

何度も呼びかけるが、返事は無い。やがて、士道はうっすらと開けていた瞼を閉じ_____

 

 

______ねえ、彼を助けたい?

 

 

その瞬間。

 

さっき聞いたことのある声が、琴里の頭上から聞こえてきた。

 

(…………ッ!?)

 

弾かれるように顔を上げると、そこには『何か』が______琴里にこの力を与えた、『何か』が立っていた。

 

(あなた、は______)

 

琴里はわなわなと身体を震わせながら、『何か』を見上げた。

 

(わ、私の身体に………何をしたの!?私、要らないっ、こんな力………要らないっ!)

 

琴里が言うと、『何か』は静かに返した。

 

【そう。でもそれじゃあ、彼はこのまま死んでしまうけれど、それでもいい?】

 

(…………っ!)

 

ひっ、と喉を痙攣させるように息を途切れさせ、琴里は士道の方へと視線を戻した。

 

(おにーちゃんを、助ける方法が………あるの?)

 

【ええ】

 

そして『何か』は、その『方法』とやらを、静かに語り始めた。こんな状況で言うには、あまりにも馬鹿馬鹿しい方法。だけど琴里には、他に選択肢など無かった。

この『何か』が信用に値しないことは承知している。けどこのままでは士道が死んでしまうのも、また事実であった。

琴里は小さく深呼吸をすると、『何か』の言った『方法』を実行した。

 

ゆっくりと士道に顔を近づけ____その唇に、自分の唇を押し当てる。すると、

 

(___________!)

 

琴里の身体に纏わりついていた白い和装が一瞬淡く輝き、徐々に士道の手元へと集まっていく。

 

そしてその粒子は、一本の黒ずんだ、ボトルのような物を生み出した。

 

そしてそれと同時に、士道の身体に炎が這っていく。

だがそれは、士道の身体を灼くものではなかった。

 

炎が這った跡から、凄惨な傷跡が消えていったのである。

 

(お……にーちゃ………)

 

そして、程なくして。

 

(あ______、………)

 

士道が、ゆっくりと目を開けた。

 

(お、にーちゃん……おにーちゃん、おにーちゃん………っ!)

 

琴里は自分が半裸になっているのにも構わず、士道に抱きついた。

 

(……琴里。まだ、泣いて、るのか………)

 

(だって……だっで………)

 

言いながら、琴里はずずっと鼻を啜った。

すると士道は困ったように苦笑して、ゆっくりと身を起こした。程なくして、手に握ったボトルのようなものを見て怪訝そうな顔になる。

 

(なんだこりゃ。_____って、ああ、そうだ)

 

士道はボトルを無造作にポケットに突っ込んで、先ほどまで自分のいた位置まで這っていった。

そして琴里に駆け寄る前に放った鞄を拾うと、再び琴里のもとに戻ってくる。

 

士道は鞄を開け、中から綺麗にラッピングされた小さい紙袋を取り出した。

 

(お誕生日、おめでとう……琴里)

 

(え_____)

 

琴里は目を丸くしてぽかんと口を開けた。今の今までそんなことすっかり忘れていたし_____泣き虫で注意されてばかりの琴里の誕生日なんて、士道は気にしてないと思っていたから。

 

士道はそんな琴里のアクションに苦笑しながら、それを手渡してくる。

 

琴里はキョトンと、士道の顔と紙袋を交互に見てから、それを開け_____中から、琴里の趣味よりも少しだけ大人びた、黒のリボンを取り出した。

 

(リボン______)

 

士道はああ、と頷くと、そのリボンを手に取り、琴里の髪を二つに括った。

慣れない作業の上に、今しがた死の際を彷徨っていた状況である。琴里のあたまはなんとも不格好な様相になってしまう。

 

だけど琴里は、そこで初めて、弱々しくではあるが、唇を笑みの形にした。

 

それを見て、士道も微笑む。

 

(ん……やっぱ俺、笑ってる琴里の方が好きだぞ)

 

(ほんとう………?)

 

(ああ。____だから、兄ちゃんと約束できるか?最初は………それを着けてる間だけでいい。それを着けてるときは、琴里は………()()()だ)

 

(強い………子)

 

琴里は、二つに結われた髪を撫でながら呟いた。そして、手で目をごしごしと擦り、鼻を真っ赤にしながら、先ほどよりも強い笑顔を作って見せた。

 

(………うん、分かった。おにーちゃんが、言ってくれるなら、私は、強い子になる)

 

あの『何か』がくれた力でさえ、琴里は強くなれなかった。

 

でも_____士道がくれたこのリボンでなら、少しだけ、強くなれる気がした。

 

すると、そこで。

 

【_____治ったんだね。何よりよ】

 

『何か』が、三たび琴里の目の前に現れた。

 

(な…………)

 

士道が琴里を自分の身体の陰に隠す。そんな様子を見て、『何か』は小さく笑った。

 

【安心していいよ。私は君たちに危害を加えるつもりはない。_____まあ、余計な事をしてくれた誰かさんには、その限りではないけどね】

 

(何を………言って)

 

しかし『何か』は琴里の問いに答えずに、ゆらり、と二人の頭に手を伸ばしてきた。

 

(………っ!)

 

本能的な恐怖を感じ、今すぐここから逃げ出そうと士道の身体を引っ張るも______まるで射竦められたように、その場から動くことができなかった。

 

ゆっくりと、『何か』の手が近づいてくる。

 

【_____でも、君たちはまだ、私のことを知らなくていい。少し、忘れていてもらうよ。それから______これを】

 

そして、『何か』の右手が琴里の額に触れ、左手が何かを持ったまま士道に触れた瞬間。

 

______世界が、暗転した。

 

 

 

 

「今の____は」

 

額に手を当てながら、士道は顔を歪めた。

琴里とキスをした瞬間、精霊の力と共に流れてきた、記憶。

 

士道ではなく、琴里の目から見た、五年前の記憶。それが、経路(パス)を通って士道と共有されたのである。

 

「思い………出した。あの時………私は______あの、『何か』に______」

 

琴里もまた、呆然と声を発する。その瞬間、琴里の身体を包んでいた羽衣や帯が光の粒子となって士道の掌に集まり_____一本の、真紅のボトルを生み出した。

 

前に見た、灰色のボトルと、描かれた柄は同じ。でも、そこに込められた力が、炎が、明らかに違っていた。

 

そのボトルが生成されたと同時に、琴里の白い肌が露わとなり、気を失ってしまう。

 

「_______」

 

その光景に、やはり一瞬、言葉を失ってしまう。

 

霊装が搔き消える際の光に包まれた琴里の裸身は、ぞっとするほどに美しかった。

 

が、そんな思考はすぐに放逐されることになった。

 

「士道、避けろッ!!」

 

「…………ッ!」

 

ビルドの叫び声と共に、小型のミサイルが迫っていたのである。

ビルドが撃ち落そうとするが、間に合わない。士道は琴里の身体を抱くと、その場から飛び退いた。

 

「………………ッ!」

 

瞬間、琴里がいた場所にミサイルが着弾し、凄まじい爆風が士道を襲った。

 

「士道ッ!」

 

灼けるような痛みが背に広がり、そのまま倒れ込んでしまう。琴里はどうにか無事だったようだが、士道の背中は直視するにも躊躇われるほどの惨状になっていた。

 

「ぁ_______」

 

『………!士道………!』

 

士道の名を呼ぶ声は、折紙のものだった。すぐさま折紙が士道の傍に降り立ってくる。

 

『何故_____、く、医療用ではないけれど、なんとか処置を………』

 

言いかけて、折紙は目を見開いた。

それもそうだろう。何しろ士道の身体に焔が這い、その傷を治癒させていったのだから。

 

「っ、ぁ…………」

 

士道は背に手をやり、そこに肌がある事を確認すると、ゆっくりと身を起こした。

そして、顔を驚愕に染める折紙に視線をやる。

 

『な………今のは_____』

 

「_____そう。折紙。お前はさっき、言ったよな。自分の仇は炎の精霊【イフリート】であって、人間の五河琴里じゃないって」

 

言いながら、その場に立ち上がる。

 

「もう、琴里を殺したって意味がない。琴里は………俺の妹は、人間だ………!お前が殺したいのは、【イフリート】なんだろう?なら____俺とこれを狙え!今は俺とこいつが、【イフリート】だ!」

 

士道が叫びながら、手にした真紅のボトルを突き出す。

 

『な、に………が、一体、これは………』

 

折紙は、狼狽も露わに喉を震わせる。

だがそれも仕方のない事だった。いきなり精霊の力が、士道に移ったというのだから。

 

「でも_____」

 

と、士道は言葉を続けた。つい今し方思い出した記憶。そこにあった真実を。

 

「その前に、俺の話を聞いてくれ。____やっと思い出したんだ。五年前のことを。あの時俺が何をしていたか。あの時、琴里が何をしていたか………!」

 

『………っ、五年前、【イフリート】は______私の両親を_____』

 

士道は、静かに首を振った。

 

「琴里が、精霊の力を得てからそれが封印されるまでの間、あたりには俺ともう二人しかいなかった!確かに火事が起こったのは【イフリート】の力が原因だ。でも、街に炎が撒かれたのは、琴里の意思じゃない…………!まして琴里は、自分の手で人を殺すことなんて、してなかったんだよ………!」

 

『なに………を、言っている、の…………』

 

士道が言うと、折紙は呆然と声を発した。

 

『そんなはず………ない!あれは間違いなく精霊の姿だった______!』

 

「そう………きっと見たんだろう。だけど、それは本当に琴里だったのか………?」

 

士道が言うと、折紙は怪訝そうに言った。

 

『………っ、ならあれは、なんだったというの?あの日、私の両親を殺したのは_____』

 

「居たんだよ………!あの場には!琴里をこんな目に遭わせた精霊が………ッ!」

 

『な…………』

 

そう____士道の記憶の中には、士道の近くにいたあの影ともう一人_____人ならざる者の姿があったのである。

折紙にその精霊の事を説明すると、折紙は一層怪訝そうにした。

 

『そんな言葉を………信じろというの?』

 

「………ああ」

 

士道は頷いた。もう、士道から言える情報は無い。あとはそれを_____折紙に信じてもらう他なかった。

 

しかし折紙は、下げかけていたレーザーブレードを再びまっすぐに突きつけ、マスクの複眼を鋭く光らせた。

 

『……本当は信じたい。でも、信じられるはずが____ない。そんな精霊の存在なんて。あなたが【イフリート】を、五河琴里を守るために嘘をついているとしか思えない………!』

 

だが士道とて、ここで引くわけにいかなかった。再びその場に膝をつき、頭を下げる。

 

「_____頼む。信じてくれ。もうどうしても信じられないなら、その時は【イフリート】を_____この俺を討ってくれ。琴里は関係無い。あいつはもう、ただの人間なんだ…………!」

 

『そんな………こと_____』

 

「折紙。お前、俺に言ってくれたよな。____もう、自分と同じ思いをする人は作らせないって。そのために、ASTに入ったって」

 

『………っ、それ、は…………』

 

顔を上げ、折紙を見つめる。

 

『ッ!ぅ、ぐぅ………っ!?』

 

その瞬間_____折紙が胸元に手を当て、顔を苦悶に歪めたかと思うと、光の刃や身に纏っていたアーマー、マスクにノイズが走り、背負っていたウェポンコンテナや砲門が、重さを取り戻したように地面に落ち、折紙の変身が解除された。

 

「く………活動、限界?そんな、こんなところで____」

 

「折紙_____お願いだ………!俺から、琴里を奪わないでくれ。あいつは、俺を救ってくれた。俺の明日を、救ってくれた!頼む………!生涯最後でも構わない!俺を____信じてくれ…………ッ!」

 

「……………」

 

数瞬の間、折紙は逡巡のようなものを見せ_____力無く、その場に倒れこんだ。

 

 

 

 

あれからすぐ、琴里はフラクシナスに収容された。どうやら、異常は無かったらしい。

先に収容されていた万丈も、既に意識は回復しており、いつも通りの馬鹿っぽい顔(戦兎の談)でいたらしい。戦兎も治療用顕現装置(リアライザ)による治療で、すぐに回復した。ちなみにその横では四糸乃が健気にずっと看病していたが、令音が先に家に帰した。

 

折紙については______令音によると、ASTを退役させられ、二度と顕現装置(リアライザ)に触れられないかもしれない、という事だった。

 

とはいえ、それは仕方ないことだった。理由があったとはいえ、最高機密を衆目に晒し、市民を危険に晒したのである。到底許される行為ではないだろう。

 

まあ、今ここでそれを考えても詮無い事である。それよりも戦兎が気になったのは_____

 

「(………あのドライバー……)」

 

折紙が、リバースドライバーを所持している事だった。

真那も持っていたことから可能性としては有り得たが、それでも考えずにはいられなかった。その上、あの時解析で出たデメリットが、あまりあの時の折紙には見受けられなかったのだ。

今後の検査などで異常が無いことを祈る_____そう思い、戦兎は一度思考をやめた。

 

「じゃあ……俺たちはそろそろ帰ります。十香と四糸乃も万丈も腹空かしてるだろうし」

 

「だな。調べることも増えたし」

 

言って、人差し指で床____要は、その先にあるであろう五河家を指す。

あの時助けてくれた十香と四糸乃は、フラクシナスで簡単な検査を受け、今は五河家で待機しているのである。万丈も同様だ。

琴里の無事も確認できたし、そろそろ夕飯時だ。一度戻る方がいいだろう。

 

「……ん。そうだね。彼女らも心配をしているだろうし、安心させてやりたまえ。特に四糸乃は、セイの事をずっと心配してたよ?」

 

「あはは………そうですね」

 

「じゃあ、琴里のこと、頼みます」

 

「……ああ、任せておいてくれ。____と、そうだ、セイ、シン」

 

と、士道達が出ようとしたところで、令音が声をかけてきた。そのまま、深々と頭を下げてくる。

 

「……すまなかった」

 

「え……?」

 

「ど、どうしたんすか、急に」

 

あまりに急すぎて、士道も戦兎も困惑した声を上げた。

 

「……今回の件に関しては、完全に私の判断ミスだ。要らぬ気を回して、結果的に君たちを危険に晒してしまった。……本当にすまない」

 

「や、そんな………」

 

「そうですよ。判断ミスって………あ」

 

そこで戦兎が、一つの可能性に思い当たった。

 

「もしかして、十香と四糸乃達をデートに同行させたやつですか?まあでも、あれで結果的に俺も士道も助けられましたし………」

 

戦兎が苦笑しながら言うと、令音はふっと首を横に振った。

 

「……確かにそれもある。____が、私が致命的に読み違えたのは、もっと前のことだ」

 

「え?」

 

「もっと前?」

 

予想外の言葉に、目を丸くする。令音がコンソールを操作しながら続けた。

 

「……本来であれば、そもそも今日のデート自体するべきでなかったんだ。一昨日_____シンが目覚めた時点でキスをしてしまった方が、安全に琴里の力を封印できた。………ただ、琴里があまりにも今日のデートを楽しみにしていたものだから、言い出すことができなかったんだ。………本当に、すまない」

 

「は……?い、いや、そんなの無理でしょ?まずは好感度を上げないと_____」

 

「ん?」

 

士道が困惑したように言い、戦兎が首を傾げ、思案顔になる。

 

とそこでモニタに、奇妙な画面が映し出される。見覚えのある画面ではある。精霊の好感度の推移を時間ごとに表した折れ線グラフだ。

 

だがそこには、今好感度を示す線が描かれていなかった。

 

否、正確には、線は、描かれている。

 

 

______画面の一番上に沿うように、真っ直ぐに。

 

 

「これは………」

 

「……琴里の、シンに対する好感度の推移さ。この二日間。その間、好感度数値は全く変化していてなかったんだ。()()()()()()()()()()で………一度もね」

 

「………なるほど、そういうことか」

 

令音の言葉に、戦兎が得心したようにニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「そ、それって………つまり」

 

「ほら、あん時大声で言ってたじゃん」

 

士道の言葉に、戦兎が愉しげに笑いながら言う。

 

「琴里は、おにーちゃんが大好きだって」

 

「え………」

 

士道が、ポカンと口を開けて目を見開______

 

 

「う………ッ、うがあああああああああああああああッ!」

 

 

「グフッ!?」

 

こうとしたところで、戦兎が背後から琴里に蹴りを入れられ、艦橋の床に思いっきり頭をぶつける。

 

「せ、戦兎!?大丈夫か!?」

 

「最………悪だ…………」

 

 

そう言い切ると、戦兎は気絶した様子で目を閉じた。

 

 




どうでしたか?

やっと中間考査が終わり、琴里編最後の話も投稿できました。最後雑でしたが、すいません許してください。考査終わりで疲れたんです。(見苦しい言い訳)
最近ビルド要素が薄れてきた感じがするので、次章ではもっとビルド要素を増やしたいと思います!

とここで、アンケート結果発表です!

まあ、皆さん知っての通り_______万丈が、士道に倍以上の大差をつけて圧勝したので、耶倶矢は万丈のヒロインとなります!この章で理由付けもできましたし。
まああれに関してはこちらの出題の仕方が悪かった気もしますが。そこは少し反省です。まあ、原作通りばっかってのも面白くないですからね。これ書くとき一番つまらないのって原作の文をなぞる時だから。

そして次章、遂に、あのキャラが登場します………!

と言うわけで、『第五章 八舞ベストマッチ』『第40話 嵐を呼ぶトラベル』、をお楽しみに!

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第五章 八舞ベストマッチ
第40話 嵐を呼ぶトラベル


桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!ラタトスク機関と共に、世界から拒まれた少女たち、『精霊』を助ける為、そして元の世界への手がかりを探るために、元気に正義のヒーローをしていた!」

万丈「元気に正義のヒーローしてたって何だよ、聞かねえぞそんなの」

桐生「細かい事は気にすんなって、ハゲるぞ」

万丈「はぁ!?は、禿げてねえし!は、はげっ、ハゲてなんかねーし!」

士道「んな露骨に反応するなって………ていうか、例によって前回の事には触れないスタイルなのな」

桐生「そりゃ今回から新章アンド第二期突入だから!過去は振り返らない主義なのさ………!」

万丈「そのセリフ、お前が言うとすげーダメな感じするぞ」

士道「ああ。よく分かんねーけど、何か『キャラ崩壊』って五文字が頭に浮かんだ」

桐生「うるさいよ!……コホン。と、言うわけで!第40話を、どうぞ!」





「全くもう……余計なことは言うものじゃないわよ」

 

「……………」

 

自衛隊天宮駐屯地を、二人の影が歩いていた。

一人は、鳶一折紙一曹。そしてもう一人は彼女の上司、日下部燎子である。

 

「あんたね、下手なこと言って、また懲戒処分になったらどうするのよ」

 

「……困る」

 

折紙が言うと、燎子は頭をくしゃくしゃとかいてはぁと息を吐いた。

 

つい先程まで二人がいた場所では、先日の折紙の不祥事に対する査問が行われていたのだ。

 

そして最初に出た処分は、懲戒____即ち、隊を除隊し、二度と顕現装置(リアライザ)に触れる事が出来ないというものだった。

とはいえそれは、当然の判決とも言えた。

 

秘匿技術の結晶たるDEM社の実験機と、次期量産予定の新型兵器を無断使用し、多くの一般人に目撃されてしまったのだ。事の重大さを考えれば、それが至極当然の結論である。

折紙とてそれに異論は無かったし、それを覚悟の上で行ったのだ。

 

だがその時______一人の男が介入した事で、事態は思わぬ方向へと動いた。

 

なんと折紙は懲戒処分を撤回され、二ヶ月の謹慎処分のみで済んだのだ。

折紙のした事から考えるなら、信じられない程甘い処分である。

 

折紙は異議を唱えようとしたのだが、燎子が慌てて連れ去られて、現在に至るのであった。

 

「いいじゃないの。偶然でも何でも。神様が強面のエンジェルでも遣わしてくれたとでも思っときなさい。………親御さんの仇、取るんでしょ?」

 

「…………」

 

燎子の言葉に、折紙は拳を握って頷いた。

燎子が頬を緩ませ、応ずるように首を前に倒す。

すると。

 

廊下の先から、二人分の靴音が響いてくる。

 

視線をそちらに向けると、漆黒のスーツの男と、サングラスをかけた少女の姿が確認できた。

 

男の名を、サー・アイザック・レイ・ペラム・ウェストコットという。

 

世界中に顕現装置(リアライザ)を供給し、かつ唯一製造が出来る世界的大企業、D(デウス)E(エクス)M(マキナ)の、実質的なトップにいる存在である。

歳はせいぜい三十代半ば程だが、その雰囲気はどこか歳を経た老練さを感じさせた。

 

そして先の査問にて、折紙を謹慎処分に済むよう場を流したのも_____この男である。

 

「………」

 

二人で、ぺこり、と頭を下げる。

 

「____ああ」

 

ウェストコットはこちらに気付いたように眉を動かすと、折紙の脇を通る瞬間、その肩にポン、と手を置いた。

 

「期待しているよ、若き魔術師(ウィザード)。君ならきっと、精霊を討ち滅ぼせる」

 

「…………っ………!」

 

折紙は、ごくりと唾液を飲み下した。

 

敵意を感じるわけでも、殺意を感じる訳でも無い。だが、折紙の心臓は、普段からは考えられないくらいに、激しく収縮していた。胸中が謎の緊張感に支配されるのが分かる。

まるで_____今しがた隣を通り過ぎた男に、得体の知れない恐怖を感じているかのように。

 

「ああ、どうぞ」

 

ウェストコットが胸ポケットから小さな紙を取り出すと、それを折紙に手渡してきた。

無言でそれを受け取る。そこには『I.R.PWestcott』の名と、電話番号と思しき数字の羅列、そしてメールアドレスが書かれていた。

 

「何か困ったことがあれば、いつでも言ってくれたまえ。_____デウス・エクス・マキナは、君への()()を惜しまない」

 

「……感謝します」

 

名刺を受け取り、静かな声で返す。だが結局、その目を見返すことはできなかった。

そんな様子に気づいているのかいないのか、ウェストコットは小さな笑みを浮かべてから、秘書を伴って歩み去っていった。

 

手の平に残された名刺。そこに書かれた数字と文字の羅列を睨むように見つめ______折紙は、もう一度喉を唾液で湿らせた。

 

 

 

 

ウェストコットがカツカツと廊下を歩いていた最中、目の前に一つの影が現れた。

 

早速ツバ付けかい?Mr.ウェストコット?

 

「やあクラウン。君も相変わらず急に現れるね」

 

急に現れた男_____マッドクラウンと、まるで偶然会った友人と話すような感覚で、ウェストコットが会釈する。しかしウェストコットの隣に控えていた少女_____エレンは、少し不機嫌そうな顔になった。どうやら彼女は、クラウンの事をあまり好意的に思っていないようである。

 

お前さんがそんな風に動くたぁ、ひっさしぶりだな。気に入っちゃった?あの子の事

 

「はは、それもそうだね。____誰も彼も、事の重大さに気づいていないんだ。そんな無能者が雁首を揃えて、天才を糾弾している。これ程嘆かわしく、可笑しい事は無いだろう?」

 

ウェストコットが肩を竦めながら言う。

 

そうだなぁ。神大のやつも驚いてたぜぇ?量産タイプの代物とはいえ、改造手術なしでリバースドライバーを起動させて、あまつさえお宅んとこのホワイト………えぇっと、何だったか?

 

「……リコリスです」

 

おお!それだ!そのリコリスを動かしたってんだから、大したもんだよなぁ。サンキュー、お嬢ちゃん

 

「その呼び方はやめてください」

 

クラウンが上機嫌に言うと、エレンは益々不機嫌そうな様子で言った。クラウンはそれを見ると肩を竦めて、ウェストコットの方を向く。

 

あらら、嫌われちったかぁ?

 

「はは、すまないね。_____それにしても、彼女をASTに残してしまうのは、少し惜しかったかもしれないな。キリタニが折れてくれなかったら、我が社に迎え入れても良かったかもしれない」

 

「DEMに、ですか」

 

ウェストコットの発言に、エレンが聞き直す。

 

「ああ。丁寧に魔力処理、及び改造手術を施せば、マナやアルテミシア………それこそ、世界最強の魔術師(ウィザード)、エレン・メイザースをも超える魔術師(ウィザード)になるかもしれない」

 

「…………」

 

ウェストコットがそう言うと、世界最強の魔術師(ウィザード)はしばらく押し黙り、ただでさえ不機嫌だった彼女は完全にへそを曲げた様子になった。

その様子を見て、クラウンがまたからかう。

 

おぉやぁ?ジェラシー感じちゃったかぁ?

 

「……感じてません」

 

まぁたまたぁ、ハハハッ。………っと、そういやあんたらに、一つ良いこと教えてやるよ

 

と、クラウンの雰囲気が、先程までとは一変した。

愉しげな調子はそのままに、彼を中心に取り巻く雰囲気が、一瞬にして冷たくなったかのようだった。

 

____日本の、都立来禅高校に、【プリンセス】が現れた。今は華の女子高生として、元気に通ってるぜ

 

「何?……どういうことだ」

 

クラウンが放ったその一言に、ウェストコットが眉をひそめる。

 

ほらよ

 

そう言ってクラウンが放った写真には、折紙と同じデザインの制服を身に纏う、美しい少女が写っていた。

 

間違えない、間違えようがない。

 

それは、精霊・【プリンセス】だった。

 

 

 

 

「終わったー………」

 

聞き慣れたチャイムが校内に鳴り響くと同時に、五河士道は力を使い果たしたように机に突っ伏した。多分頭から煙が立っててもおかしくないだろう。事実、近くの席に座っている万丈は、まるで生気が抜かれたように机に横たわり、本当に頭から煙を立てていた。

だが、それも仕方ない事だ。何しろ士道たちは今、学校生活における難敵の一つ、期末試験を終えたばかりなのだから。

 

生徒達はゾンビのような挙動で身を起こすと、順にテストを前の席へと送っていった。

いつもよりクラスメートのゾンビ率が高い気がしたが、それも当然だろう。

 

ただでさえ範囲の広い期末考査だというのに、つい数日前に起こった、生徒・職員一斉昏睡事件によって、生徒達は集団で病院送りになっていたのである。

徹底的なガス管や建材、ガスを発する異物等の検査の末、休校は解除されたものの………無慈悲な事に、期末試験の日程は一日も動かなかったのである。

 

「なんだよ、情けないなぁ二人とも」

 

と、そんな士道と万丈に、他のクラスメートの面々と違い余裕そうな様子の戦兎が話しかけてきた。

 

「戦兎……お前、よくそんな元気だな」

 

「そこはほれ、天っ才物理学者ですから!テストなんか朝飯前ってやつだよ」

 

自信満々に胸を張る戦兎。若干イラっとくるが、実際それほどの頭脳なので何も言い返せない。

 

「………ん?」

 

と、ふと横を向いた際に、右隣に座った十香の姿が目に入った。一瞬前の士道と、現在進行形の万丈と同じように、机にびたー、と突っ伏している。

 

「十香、大丈夫か?」

 

「う、うむ……」

 

士道が話しかけると、十香がゆらりと顔を上げた。

 

「どうだった?」

 

「む ………むう、まあまあだ。セントが勉強を教えてくれたしな」

 

十香が疲れ果てた様子でひらひらと手を振ってくる。

 

前の中間試験では答案用紙に落書きしていただけ(点数は令音が赤点にならぬよう手を回していた)の彼女だったが、士道達にテストの意味を聞いてからは、自分でも勉強を頑張ろうと、始めていたのだった。

 

十香の行動はラタトスクとしても望むところらしく、テスト前に戦兎が勉強を教えてくれたのだが………分かりやすいとはいえ、やはり慣れない勉強は相当に彼女の体力を奪っていたようだった。実際、十香は、勉強会を始めて一時間で熱を出し、ついでに万丈は国語の問題で熱を出し、数学の問題で吐き気を催してトイレに駆け込んでいた。戦兎が頭を抱えていたのは言うまでもないことである。

 

「はい、ではこれで、一学期末テストは全教科終了です。皆さんお疲れ様でした」

 

タマちゃんが声を上げると、教室中から歓声と放念の息が漏れた。

 

「でも、今日はまだ決めることが残ってますから、帰っちゃだめですよぉ?」

 

タマちゃんが念押しするように言うと、答案の束を整え、教室を出て行った。

と、それに合わせるように、カッサカサになった十香と万丈がゆらゆらと椅子から立ち上がる。

 

「シドー、セント………少し、水を飲んでくる」

 

「あ、俺も………」

 

「お、おう。大丈夫か?」

 

「うむ………心配するな」

 

「あ、ああ……ちと、疲れただけだ」

 

言うと、十香と万丈はフラフラした足取りで教室を横切り、扉を開けて廊下へと出て行った。

 

「はは……まあ、頑張ったもんな」

 

「まあ十香はともかく、一応大の大人(精神年齢)のあいつがダレてんのもどうかと思うけど」

 

「そこはほら、万丈だし」

 

「それもそうだな」

 

はははは、と二人で笑う。

そのまま士道は椅子の背もたれに身を預け____ようとしたところで、ぴくりと眉を動かした。

理由は単純。視界の端に、左隣に座った女子生徒の姿が映り込んだからだ。

 

鳶一折紙。士道のクラスメートにして、精霊を狩るASTの隊員である。

 

「………ぅ」

 

「ん?士道、どうかしたか?」

 

「いや、少しな……」

 

戦兎との話を区切ると、士道は席を立った。

先月の一件以来、士道は折紙と一度も会話を交わしていなかったのだ。

なんとなく、この機会を逃すとまた話すチャンスを逸してしまう気がしたので、意を決して唇を開く。

 

「お、折紙」

 

「_____なに」

 

士道が名を呼ぶと、折紙は一瞬肩をピクリと動かしてから、いつものように抑揚のない声音で言ってきた。

士道は、あの一件について話を聞こうと思った。だが、この教室内でそんな話をするわけにもいくまい。帰りのホームルームまでには少し時間があるし、十香も席を外している。戦兎達には、後から事情を説明すればいいだろう。

士道は一瞬の沈黙の後、再び口を開いた。

 

「折紙、ちょっと、二人きりになれる場所に行かないか?」

 

「…………っ」

 

士道がそう言ったところで、折紙が眉を動かした。

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

そして何故か、一言ずつ区切るように言ってくる。

 

「ああ。ほら、前話をした階段の上とかでも____」

 

「_____来て」

 

折紙はすっくと立ち上がると、そのまま士道の手をむんずと掴んで歩いて行った。

 

「お、おい、折紙?」

 

「し、士道?」

 

「わ、悪い戦兎!ちょっと、後でな!」

 

「お、おう……」

 

戦兎の少し引きつった表情を見ながら、士道は折紙に連行されて廊下へと出て行った。

 

 

 

 

「何だったんだ……?」

 

戦兎は士道達が去っていった廊下の方を少しの間見つめてから、やがて何かを思い出したように、ビルドフォンを開いた。

 

「そういえば東都のフルボトルは、もうコンプリートしたんだよな」

 

ビルドフォンに映し出された画面には、二十個のフルボトルと、その種類が記載されていた。ラビットフルボトルを始めとして、元の世界で東都が所持していたボトルはほぼ全てが戦兎達の手の元にある。これでビルドの強みとも言える、ハザードレベルでは測れない強さ、即ち戦略の幅や引き出しの多さがある程度は盤石になったと言えるだろう。

しかし画面を移動させると、戦兎の表情が少し曇る。

 

「……とはいえ、西都と北都のフルボトルはほっとんどゲット出来てねーんだよなぁ」

 

そう。

これまでのスマッシュとの戦いで、東都のボトルはゲットできた。そう、()()のボトルは。

西都と北都のボトルは、狙ってるんじゃないかと思うくらい、殆ど入手できていないのである。これまでの戦闘から、ある程度はあのクラウンが持っているようだが。

確かにボトルの本数自体は多いが、同じものばかりを使っていれば、いずれ対策もされる。やはりまだ、安心できるとは言い難い状況だ。

 

「エンジェルフルボトルもなー……使うとスッゲー疲れるし、相変わらず出来る原理が不明だし………ここまで分からないなんて、最っ悪だ………」

 

これまで士道と戦兎が生成したエンジェルフルボトルは、合わせて三つ。

 

一つは十香の霊力が込められた、玉座と剣が施された【サンダルフォンエンジェルフルボトル】

 

もう一つは四糸乃の霊力が込められた、白兎と雪の、【ザドキエルエンジェルフルボトル】

 

最後に、先月士道が生成した、琴里の霊力が込められた、戦斧と炎の【カマエルエンジェルフルボトル】

 

これらのボトルは、どれも解析した結果恐ろしい力を秘めていることが分かったが、同時に欠点もあった。

 

まず第一に、使用する際の消耗が激しいという事。

これは実際に戦兎も経験した事だが、エンジェルフルボトルを使用して変身すると、通常のベストマッチフォームや強化アイテムでの変身など比にならない程の体力の消耗が発生するのだ。現に先月のあの戦いの後、戦兎は無理がたたってあえなく医務室のベッドに放り込まれてしまった。

 

そしてもう一つが、応用性が低いという事だ。

調べた所、あのエンジェルフルボトルには相性の良い組み合わせ_____例えば【ザドキエルエンジェルフルボトル】なら、【ラビットフルボトル】と相性がいい_____と言うような、組み合わせが存在するのだ。

しかしその組み合わせ以外で変身した場合、そのエネルギーを制御出来ずに変身が解除されてしまう。実際に試してはいないが、シュミレーターに繋げて観測した結果、そのデータが出てきた。

 

要するに組み合わせが決まってる上に、消耗が激しくおいそれと使うことも出来ない。しかし代わりにパワーは強力、という、言ってしまえば諸刃の剣のような代物なのだ。

今後も使用には留意するべきだろう。取り敢えず、余程の状況でもない限り、使用を自粛するべきだ。

 

そう思いながら、戦兎はポケットから先日入手した、数少ない北都のフルボトル______【ロボットフルボトル】を取り出し、士道達が戻ってくるまでの間、見つめていた。

 

 

 

 

それから、暫く時間が経った頃___七月の半ば。

 

伊豆諸島と小笠原諸島の中間に位置する、或美島という島。

 

その島の一端の、ある海岸で。

 

 

「…………………」

 

 

ボロボロの服、海水に濡れた肌、そして______赤、黄色、青のドッグタグを手に持った、一人の男が、静かに倒れていた。

 

 

 

 




どうでしたか?
また更新遅れてすいません。ついでにタイトル詐欺してすいません。
ディケイドコラボの構想、というか脚本?を考えてたら遅くなりました。八舞編や美九編が終わったら、アンコールと同時に冬映画的な立ち位置で書くと思います。

今回から八舞編がスタート、アニメで言うところの二期が始まりました!
そしてすいませんが、原作序盤にあった、真那の下りは次回冒頭で語らせていただきます。

そして_____あの男の登場フラグが立ちました。皆さんご存知、世界一カッコいいドルヲタのアイツです。

それでは次回、『第41話 テンペストと再会、友よ』、をお楽しみに!

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第41話 テンペストと再会、友よ

桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎は!今日も今日とて地球の愛と平和を守るため、スマッシュと日夜激闘を繰り広げているのであった!」

万丈「なーにが激闘だよ。全っ然分かんねえじゃねえか」

桐生「そこはほらー、尺の都合って言うの?ほら文章的に書ききれないしさー」

士道「開始数秒でメタ発言するのそろそろやめようぜ?」

真那「そうでいやがりますよ。折角の読者さんが離れちまうっすよ?」

桐生「ちょ、恐ろしいこと言うなって!ただでさえ最近投稿ペース下がってきて離れないか心配なんだから!」

士道「そういうところな?」

万丈「ていうか、前回の最後!なんだよアレ。気になって仕方ねえよ」

桐生「っと、そうだった。と、言うわけで!第41話をどうぞ!」




短く息を吐いて、崇宮真那はゆっくりと目を開けた。

長い間目を使っていなかったからか、モザイクがかかったように視界がぼやけ、身体にも力が入らずに、全身が鈍く痛んだ。

 

「ここ……は………」

 

一瞬、自分の喉から発された声が、誰のものか分からなかった。

数分かけて真那は身体の感覚を取り戻し、自分の置かれている状況を確認した。

白い部屋と、大きいベッド。身体中に包帯が巻かれ、左手には点滴、口元には酸素マスク、胸元には電極が取り付けられている。

真那は思わず苦笑した。どこからどう見ても重体患者のそれである。

 

「なんで、私は、こんな………」

 

そこまで言って、真那は目を見開いた。酸素マスクをむしり取り、痛む身体を無理矢理起こす。そして首を回し、棚の上に置かれたデジタル時計に目をやった。

 

_____14:00 7/12 WED

 

「七月……十ニ日……!?」

 

そこに記された日付を見て、真那は息を詰まらせた。

 

それは真那が【ナイトメア】_______時崎狂三と来禅高校の屋上で戦い_____あの謎のボトルの力で、暴走してしまった日から、一月と一週間が経過していたのである。

 

そう。あの時真那は天使を顕現させた()()の狂三の前に敗れ去り、どうしようもなくなり、神大針魏から渡された、あの黒いボトルをドライバーに挿し_____

 

「化け物、に、なりやがったんですよね…………」

 

そこまで思い出し、思わず自分の腕を眺める。

 

今ここにある自分の身体は、既に人のものではなくなっているかも知れない。

 

その考えが頭の隅にちらついた時、真那はどうしようもない不快感を覚えた。これではまるで、あの時崎狂三と同じではないか。自分が討ち滅ぼそうとしていた存在と似たような存在になるなど、これ以上ない皮肉だ。

 

そしてそこでようやく、真那は初歩的な事に気が付いた。

 

「なんて………私、死んでねーんでしょう…………」

 

確かに体は痛むし、目は霞む。全身の感覚器は本調子どころか、鈍りすぎてベッドの上にいる感覚すら希薄だ。

 

だが_____生きている。

 

あの人喰い【ナイトメア】の前に敗れ、あんな名状し難い異形の存在に成り果ててもなお、真那は人間の姿で生存していた。

だとすると、余計に訳が分からなくなる。真那が暴走した時点で、戦況は最悪だった。高校の屋上には狂三の分身体が溢れ、その最奥には、彼女の天使と、側に_______

 

「………あれ、誰、でしたっけ……………」

 

目覚めたばかりで記憶が混濁しているのかもしれない。

確かに狂三の側に、誰かがいた気がするのだが、それが何だったのか、()()()()()()

 

真那は痛む頭に手を置いた。真那が生存していると言うことは、あの状況がひっくり返されるような何かがあったということである。もしや、途中で来た、ビルドとクローズが_______

 

「………え?」

 

と、思案わ巡らせていた真那は、不意に声を発して眉をひそめた。

病院の扉が開き、黒のスーツ姿の人間が数名、入ってきたからだ。

 

「_____崇宮真那だな」

 

「……何者でいやがりますか、あなたたちは。医者や看護師にしては(くれ)ーですね」

 

真那が視線を鋭くするも、黒服の男たちは微塵も動じなかった。

 

「一緒に来てもらおう。手荒な真似はしたくないが、抵抗するならその限りではない」

 

「………ああ?」

 

真那は顔を不機嫌そうに歪めると、言葉を発した男を睨みつけた。

 

「誰に口を利いているのか分かっていやがるのですか?手荒な真似?この私に?ハッ、出来るものならしてみやがれってんです」

 

言って、真那はその場に立ち上がり、身体を鳴らすように右手をスナップした。

 

数秒後、病室から無機質な、何かの射出音が聞こえた。

 

 

 

 

七月十七日、月曜日。飛行機に揺られることおよそ三時間。士道達来禅高校二年生一行は、太平洋に浮かぶ島に到着していた。

 

「お、おお………!」

 

空港から外に出た十香が、目をまん丸にして両手をプルプルと震わせた。だが、それも仕方ないかもしれない。何しろ今彼女の視界には、首を動かさないと把握しきれないような絶景が広がってきたのだから。

大海原が広がり、天と地を分かつように水平線が伸びている。空は快晴。太陽が燦々と降り注ぎ、海を美しいグラデーションで彩っていた。

 

「こ、これが………海か!」

 

叫び、その大きさを測るかのように、両手をバッと広げてみせる。

しかし当然その小さい両腕に収まるはずもなく、さらに興奮した様子で小さく肩を震わせながら身体を反らす。

 

「はは、元気だな」

 

「ま、多分初めて見た海だろうしね」

 

士道と戦兎が、十香の所作に苦笑しながら肩をすくめる。

 

士道達、来禅高校二年生は今、この或美島という島に、修学旅行へと来ていた。

当初は沖縄行きの予定だったのだが、急に行き先が変更になったのだ。詳しい事は生徒である士道達には分からないが、まあ海が無くならなかっただけ良しとしよう。

 

ちなみに、その部屋割りや、行く途中の飛行機で十香の折紙との間で一悶着合ったことや、飛行機で偶然万丈の近くの席になった亜衣が、話しかけようとして出来ずに悶々としていたり、士道の鞄からアライブガルーダが抜け出して亜衣麻衣美衣の玩具にされていたりと途中で色々あったのだが、完全な余談である。閑話休題。

 

十香程で無いにしろ、士道や戦兎とてこんな絶景を前にして何も感じないほど感受性は乏しくない。景色を見渡し、深呼吸して身体を伸ばす。

 

「んー……」

 

「しっかし、立派な海だなぁー………考えてみりゃ、俺もほっとんど海見た事ねえなぁ」

 

元の世界で起こったスカイウォールの惨劇によって、そんな暇も無かったのだ。恐らくその事件の前や、【葛城巧】だった頃にもあまり無いだろう。あっても子供の頃くらいだろうか。

 

「ふぁ……ぁ」

 

とそこで、あくびが一つ溢れた。

集合時間が朝早かったのもあるがそれ以上に、戦兎はまたも前日寝ずに作業していたので、睡眠が取れていないのだ。

なので飛行機の中で寝ようとしたのだが、例によって十香と折紙で一悶着あり、その喧騒が少し離れた戦兎達の席まで聞こえてきたので、寝るに寝れなかったのだ。あと、そんな状況でスヤスヤ寝てた万丈のいびきで寝れなかったのもある。

 

「ん………?」

 

と、そこで近くにいた万丈が、妙な声を出して辺りをキョロキョロと見回した。

 

「ん、どした、万丈」

 

「……いや何つーか、誰かに見られてるような気がしたんだ」

 

「はい?」

 

と、戦兎が首を傾げた瞬間、カシャリという音が、後方から聞こえてきた。

 

「わっ!?」

 

突然の事で、思わず顔を覆ってしまう。どうやら士道と十香も同じようで、顔を覆っていた。チカチカする目を細めながら光の方向を見ると、そこに大きいカメラを構えた女性が立っていることが知れた。

淡い色の金髪を風になびかせた少女である。明らかに東洋人とは違う発揮とした目鼻立ちと、白い肌が特徴的だった。

 

「えっと……あなたは?」

 

戦兎が困惑しながら訊ねると、少女がカメラを下げて視線を向けてきた。

 

「失敬。クロストラベルから派遣されて参りました随行カメラマンの、エレン・メイザースと申します。今日より三日間、皆さんの旅行記録を付けさせて頂きます。無遠慮な撮影、申し訳ありません。気分を害されたようでしたら謝罪させていただきます」

 

「あ、いや、別にそんな」

 

そういえば、旅行写真を撮るためにカメラマンが随行すると言われていた気がする。まさか外国人で、しかも戦兎達と(少なくとも外見上)そう歳の変わらない少女とは思わなかったが。

 

「お邪魔をしました。では」

 

と、四人が物珍しそうにその容貌を見ていると、エレンがもう一度ぺこりとお辞儀をして、皆の方へと歩いて行った。

 

「シドー、何だったのだ、あやつは」

 

「さぁ……?」

 

十香が腕組みをしながら、士道に尋ねる。

 

「ま、これでお前の言う見られてる気がするってのは、正解だったわけだ」

 

「あ?お、おう………」

 

戦兎の声に万丈は歯切れ悪く答え、再び首を左右に振った。

 

「……まーだ視線が残ってる気がすんだよなぁ………」

 

「え?………はぁ、まったく自意識過剰も大概にしなさいよ」

 

「おい、何だよそれ!」

 

と、戦兎と万丈がいつものやり取りをする。_____四人は、その時気づかなかった。

 

彼らの視線の、反対側で。

 

雲が、空が、見えない腕に攪拌されたように、渦を巻いていたからだ。

 

 

 

 

「ああもう、置いていかれちまったじゃねーか。ほら、急ぐぞ万丈」

 

戦兎は足早になりながら後方を振り返り、未だに首を傾げている万丈に声を投げた。

あの後も万丈が気になると言って辺りを探っていたところ、いつの間にやら学校のみんなが移動してしまっていたのである。士道と十香には先に行くよう言ってある。

 

「わ、悪い。でも、マジで誰かに見られた気がしたんだよなー……」

 

万丈が小走りしながら、すまなそうに言ってくる。戦兎はやれやれと息を吐いた。

 

「そりゃあんだけ騒いでりゃ嫌でも見られるってもんだろ?」

 

「まあ、そういうもんか………」

 

万丈が一先ずは納得したように言って、押し黙る。

 

「全く、自意識過剰も程々にしとけよ?」

 

「だからちげーよ!つか、それ言ったらお前の方がよっぽどそうじゃねえかよ!」

 

「ああ?んだとぉ?」

 

「いっつも自分のこと天才とか何とか言ってよ!」

 

と、そこでまたいつものやり取りが始まった。

 

「俺はマジで天っ才だから!あと()()じゃなくて()()()だから!」

 

「どっちでも同じだろこのナルシスト発明馬鹿!」

 

「んだとこの筋肉プロテイン馬鹿!」

 

互いにメンチを切って睨み合う。互いに硬い表情の中、

 

「あ………?」

 

不意に万丈が怪訝そうに声を上げ、戦兎の顔を押しのけた。

 

「おい!何すんだ____」

 

「なあ、おい、あそこ」

 

「なんだよ」

 

「あれ………人じゃねえか?」

 

「え?」

 

そう言って万丈が指差した方向。

そこには、うつ伏せの状態で全身ボロボロになった、ひとりの男が倒れていた。波に打たれ、全身海水でびしょ濡れになっている。さらには出血しているのだろうか、砂の一部が赤く見える。

 

「っ、まずい!万丈!」

 

「お、おう!」

 

戦兎は万丈に呼びかけ、急いで男の側へと駆ける。

あのまま放置していたら大変な事になるのは目に見えていたし、何よりあのまま放置するのは、戦兎自身が許さなかった。

 

「おい、大丈夫か!万丈、腕貸せ!」

 

「わ、分かった!」

 

必死に呼びかけながら、ひとまず波の届かないところまで運ぼうとする。どうやらまだ体温はそこまで低下していないようで、身体は比較的暖かかった。

だがこの暑さだ。脱水症状の危険性もある。一先ずは近くにある戦兎達が泊まる宿に連れて行き、そこから島の病院に運べばいいだろう。

そう結論付け、戦兎達が身体をひっくり返した、その瞬間。

 

「………っ!?」

 

「な…………!?」

 

衝撃が、戦兎を、万丈を襲った。

 

 

何かに痛められたわけではない。ただ、言葉では形容できない何かが、衝撃となって戦兎達の心に、記憶に、叩き込まれたのだ。

 

 

その手に掛けられた、赤、黄色、青の、三つのドッグタグを見て。

 

 

そのボロボロになった、茶色い服を見て。

 

 

そして_____その、ひどく見覚えのある、もう見ることはついぞ無いだろうと思っていた、顔を、見て。

 

 

「_________一海(かずみ)……………!?」

 

「______()()()()………何で………!?」

 

 

____猿渡一海(さわたりかずみ)

 

かつて戦兎達と共に戦いそして______散っていった、仲間だった。

 

 

______だが、疑問が口から出るよりも前に、今度は肉体に衝撃が走った。

 

「ッ、なんだ、これ………ッ!」

 

「う、うお………ッ!?」

 

戦兎達の身体を、いきなり途轍も無い勢いの疾風が襲ったのだ。

そして段々と、驚くべき速さで辺りの様子が、様変わりしていく。

 

青い空は灰色に曇り、凪は烈風と化す。穏やかな水面は荒れ狂う大波へと変わり、砂埃が舞った。

 

時間にして恐らく一分と経たずに、周囲の光景は一変した。

地鳴りのような風音と、辺りの木々をバサバサと揺らす、台風もかくやという暴風。

 

そして今戦兎達がいるのは、浅瀬とはいえ海だ。今の大波が荒れている海に、生身のままいるのは非常に危険である。

 

「ッ、万丈、行くぞ!ここにいるのは、まずい!」

 

「わ、分かった!しっかりしてろよ、バカずみん………ッ!」

 

万丈が一海を背負い、姿勢を低くして進む。そうでもしなければ、風に煽られ転倒しかねないからだ。しかも万丈は背中に一海を背負っているため、負担がある。下手すれば飛ばされるかもしれない。

 

「最っ悪だ………!天気予報じゃ、快晴じゃなかったのかよ………っ!」

 

戦兎が恨み言を吐く。天気予報では、少なくとも修学旅行中の天気は三日間とも晴れだったはずである。無論それが百パーセント的中するとは思っていないが、幾ら何でもこれは可笑しい。

いっそ変身してやろうか、とも思いながら、戦兎達は最初に向かう資料館へと歩を進めた。

 

 

______そして、どれくらい歩いた頃だろうか。

 

 

「あ………?」

 

「おい、なんだ………あれ」

 

戦兎と万丈は、不意に眉をひそめた。

荒れ狂う空の中心。

 

_____そこに、二つの人影が見えたからだ。

 

「あれは………」

 

戦兎達は、ハッと息を詰まらせた。

 

空を飛ぶ人影など、二通りしか心当たりがない。

 

つまりは_____精霊と、ASTの魔術師(ウィザード)

 

 

「まさか、戦ってるのか!?」

 

「………いや、空間震警報が鳴ってない以上、ASTは来ないはずだ…………多分な」

 

空を飛ぶタイプのスマッシュか、とも思ったが、いくらスマッシュでもこの暴風の中では空中で姿勢を保てないだろう。

 

もしあの人影が精霊だとするなら、放ってはおけない。だがその確証は無いし、何より今は一海を避難させ、応急処置を施すのが先決だった。

 

「とりあえず後だ。今は先を急ぐぞ」

 

「お、おう」

 

万丈にそう言い、資料館へと向かっていく。

 

だが。

 

『_______!』

 

 

戦兎達は、息を詰まらせた。上空で幾度と無く激突を繰り返していた二つの影が、一際大きな衝撃波を伴ってぶつかり合った瞬間、今までと比較にならないほどの凄まじい風が吹き荒れたのである。

 

「う、うわ………ッ!!」

 

「やべ、飛ばされる………ッ!」

 

吹き飛ばされぬよう二人で足を踏ん張り、身体を丸めるような姿勢になる。

と、上空で激突した二つの影は、互いに弾き飛ばされるように地面へと落下した。

丁度、戦兎と万丈を挟んで左右に。

 

するとその瞬間、辺りに吹き荒れていた大嵐がふっと弱まった。

 

「え…………?」

 

「あん…………?」

 

否、止んだというのは語弊があるだろう。正確に言い表すのなら、戦兎と万丈の周囲______もっと言うなら、地上に落ちてきた二つの影の周りだけが、台風の目のように穏やかな無風状態だったのである。

 

 

「く、くくくくく……………」

 

 

やがて右手から声が聞こえ、そして、二つの声が聞こえてきた。

 

 

「_____やるではないか夕弦(ゆづる)。流石は我が半身と言っておこう。だがな、最後に勝つのは我だ」

 

「_____反論。最後に勝つのは、耶倶矢(かぐや)ではなく夕弦です」

 

 

_____二つの台風(テンペスト)が、戦兎達の前に、現れた瞬間だった。

 

 

 




どうでしたか?
一応補足しておくと、ハザードーベルの上がったはずの真那が普通にやられたのは、麻酔銃撃たれたからです。肉弾戦じゃ多分誰も勝てないですからね。

そして………ついに登場しました!かずみん、又の名をカシラこと、猿渡一海です!

ですが彼が変身するのは、ちょっと後になりそうです。八舞編中には変身しますが。

それともうTwitterにはあげましたが、こちら十香の、サンダルフォンエンジェルフルボトルです。


【挿絵表示】


あくまでもイメージはこんな感じ、というものです。作るの自体は簡単でした。

それでは次回、『第42話 二人で一人のダブルタイフーン』、をお楽しみに!

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第42話 二人で一人のダブルタイフーン

桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎は!今日も今日とて街の平和を守るため、悪のスマッシュとの戦いの日々を送っていた!そんな時、修学旅行で訪れた或美島で、かつての仲間、猿渡一海と再開する…………!」

万丈「まさかかずみんがいるとはな………つーか、あいついつからあそこに居たんだよ。ずっと海にいて、寒くなかったんかな?」

桐生「そこはほら、気絶してたし」

士道「ていうかいい加減この導入もワンパターン化してきたな。変えねえのか?」

桐生「うーん、変えようとは思うんだけどねー。つか士道、一海が誰なのかについては触れないのな」

士道「え?いやだって、ここで触れたらアレだろ。なんかほら、本編の展開的にダメなんだろ」

桐生「急にメタい話挟まないでよー。まあそれもそうだけどー」

万丈「そうなのかよ!」

桐生「というわけで、波乱万丈から始まる第42話を、どうぞ!」

万丈「え!?俺から始まんのか!?」

士道「ねーよ」






戦兎達の目の前に現れた少女たちの出で立ちは、ハッキリ言って異常だった。

二人に共通しているのは、橙色の髪と、水銀色の瞳。

 

「く、くくくくくく…………」

 

そして右側、万丈の居る方向にいた少女は、長い髪を結い、不敵に笑いながら歩み出てくる。整った造作の面は、しかし今嘲笑めいた笑みの形に歪められていた。

そして特徴的なのは、その装いである。暗色の外套を纏い、身体の各所を、ベルトのようなもので締め付けている。さらには右手右足と首に錠が施され、そこから先の引き千切られた鎖が伸びているときた。

まるで途方も無い大罪を犯した咎人か、あるいは、猟奇的な被虐快楽者(マゾヒスト)のようである。

 

かたや左側、戦兎の側にいる少女は、長い髪を三つ編みに括っていた。

耶倶矢、と呼ばれた右側の少女と瓜二つの顔。しかしその表情は、どこか気怠げな半眼に彩られていた。

こちらの夕弦と呼ばれた少女も少しデザインは違うものの、耶倶矢と似たような拘束具を身につけていた。違うのは、錠が掛けられた位置が、左右逆である点だろう。

 

「ふ、ほざきおるわ。我に勝つだと?いい加減、真なる八舞(やまい)に相応しき精霊は我だと認めたらどうだ?」

 

「否定。生き残るのは夕弦です。耶倶矢に八舞の名は相応しくありません」

 

「ふ……無駄な足掻きよ。我が未来視(さきよみ)の魔眼にはとうに見えておるのだ。次の一撃で、我が颶風を司りし漆黒の魔槍(シュトゥルム・ランツェ)に刺し穿たれし貴様の姿がな!」

 

「指摘。耶倶矢の魔眼は当たった例しがありません」

 

夕弦が言うと、耶倶矢は口籠もり、先ほどまでの大仰というか、芝居掛かった調子を忘れたように叫んだ。

 

「う、うるさいっ!当たったことあるし!馬鹿にすんなし!」

 

「要求。夕弦は耶倶矢に具体的な事例の呈示を求めます」

 

「くく……それは、あれだ。ほら………次の日の天気とか当てたことあるし」

 

「嘲笑。下駄の裏表と変わらない魔眼(笑)の効果に失笑を禁じ得ません」

 

「わ、笑うでないっ!我が魔性の瞳術を愚弄するとは、万死に値するぞ!我を怒らせた代償、身を以て思いすりぇッ!」

 

と、耶倶矢は構えを取って叫んだが、語尾を噛んでいた為あまり格好つかなかった。夕弦はそんな耶倶矢など意に介さず、くすくすと手を口元に当て笑っている。

 

「…………」

 

「…………」

 

そしてその様子を見ている戦兎と万丈は、物凄く微妙そうな、『これ俺らどうすればいいの?』という表情になっていた。

 

「なあ、戦兎」

 

「何」

 

「あいつら何してんだ?」

 

「……姉妹喧嘩とかじゃないか?」

 

と、何処か気の抜けたような返事をする戦兎。だがこの外で嵐吹き荒れる状況の中、どこか痛々しい話し方の少女と、瓜二つな容姿の気だるげな少女の姉妹喧嘩風コントのような光景を見せられては、こうもなるだろう。

 

だが、次の瞬間。

 

「漆黒に沈め!はぁぁッ!」

 

「突進。えいやー」

 

裂帛の気合と、気の抜けた声と共に、二人が同時に地を蹴った。

 

「く………」

 

「まっず………!」

 

二人で息を詰まらせる。精霊二人の激突に、こんな至近距離で、生身の状態で巻き込まれたらひとたまりも無いだろう。戦兎達には士道のような回復能力は無いし、何より今は一海がいる。もしこのまま二人がぶつかれば、三人ともどうなるかは想像に難くない。

 

そうこう考えてる間に、二人は凄まじいスピードで戦兎と万丈の眼前まで迫っていた。

 

すると万丈が、一切の躊躇い無く大きく息を吸い込み、そして_____

 

「ちょっ、と待てぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

『…………!?』

 

万丈の叫びによって、二人がその場に停止する。

 

「何、今の声。……ええと、そう、絶対地獄(インフェルノ)のそこより響く溶岩竜の咆哮にも似た………」

 

「報告。耶倶矢、あれを見てください」

 

夕弦が戦兎達を指差し、耶倶矢が眉をひそめる。どうやら本当に今の今まで、戦兎と万丈、一海の存在に気づいていなかったらしい。

 

「人間、だと?まさか、我らの戦場に脚を踏み入れるとは、何者だ?」

 

「驚嘆。驚きを禁じ得ません」

 

言って、怪訝そうな視線を浴びせてくる。

 

「あ、いやー、その………」

 

「この馬鹿!下手に大声出して!逆に警戒されちまったでしょーが!」

 

「なっ、じゃあどうすりゃ良かったんだよ!あのままじゃ俺らお陀仏だったぞ!」

 

「確かにそうだけど、迂闊すぎんだよ!大体いつもお前は_______」

 

と、二人で口論になってしまう。

そんな彼らの様子を、遠くの茂みから、怪しい光が覗いていた。

 

 

 

 

_____ほォう?まぁさか、【ベルセルク】が揃い踏みとはなぁ…………

 

茂みから覗いていた光_____その正体は、マッドクラウンだった。戦兎達の様子を伺いながら、愉しげな笑みをマスクの下で浮かべる。

 

ここから逃げられても、俺の計画が遅くなるだけ。そのためには…………

 

そう言い、視線を耶倶矢と夕弦から、戦兎と万丈、そして______背負われた、猿渡一海へと向ける。

 

まァさか、あいつまで来るたぁなぁ。これも奇跡ってやつか?フッハハハ!

 

そう愉しげに笑った後、クラウンはブレードを取り出し、スイッチ状パーツを操作した。______リキッドスマッシュを生み出す、その操作を。

 

 

SMASH……REALIZE

 

 

ちょォいと、発破かけてみるか。あいつらには、とことん協力してもらうからなァ

 

重低音とともに、ブレードから流れた液体から、無数のリキッドスマッシュが生み出される。それらはやがて茂みの向こう側にいる二人の精霊と、三人の人間を見つけると、そこへ向かって飛び出して行った。

 

 

 

 

その気配にいち早く気づいたのは、戦兎だった。

 

「ッ、危ない、後ろッ!」

 

「っ?」

 

戦兎が大声を上げると、耶倶矢と夕弦は怪訝そうにしながら後ろを振り向く。

 

すると次の瞬間、耶倶矢と夕弦の背後から、無数の光弾が襲い掛かった。

 

「っ、夕弦!」

 

「っ、回避。せやっ」

 

当たりはしなかったものの、その攻撃に二人は面食らった様だった。耶倶矢がすぐさま表情をキッと鋭くし、声をあげる。

 

「こやつらに続き、またもや我等の神聖なる決闘を邪魔する不埒者が現れたか!コソコソ隠れず、出てきたらどうだ!?」

 

そしてその声に呼応するように、茂みから無数の怪物_____リキッドスマッシュが、現れた。

 

「また邪魔者か……!?」

 

「困惑。何なのですか、あの化け物は」

 

耶倶矢が困惑した様子の声音をあげ、夕弦も声こそ平坦だったものの、その表情は戸惑いと驚きが入り混じった物だった。

 

「おい戦兎、アレって……!」

 

「ああ………クラウンが呼び出していた、あの液体スマッシュだ」

 

戦兎達の脳裏に、クラウンとの戦闘の記憶が走る。あのブレードから呼び出されたその液体のスマッシュは、攻撃を溶けるように避け、悉く躱す厄介な存在だった。そして、それが今いるという事は…………

 

「今、どっかにクラウンがいるって事かよ!?」

 

「恐らくな………でも今は、あいつらを倒すことが先決だ」

 

『ァゥァァアアッ!!!』

 

戦兎の視線の先では、既にスマッシュが耶倶矢達へと迫っていた。戦兎が真っ先に飛び出し、続けて一海を背負った万丈が、少し遅れて飛び出す。拳に戦兎はゴリラボトルを、万丈はドラゴンボトルを握り、生身の戦闘能力を上げる。

 

「ハァッ!」

 

「おりゃあッ!」

 

それぞれ筋力などが大幅に上がった状態で、リキッドスマッシュを大きく殴り付ける。いつものようにぬるりと躱されてしまったが、二人から遠ざけることには成功した。

 

「っ、何?」

 

「驚嘆。どういう事ですか?」

 

戦兎と万丈の加勢に、耶倶矢と夕弦が戸惑ったような声を出す。

戦兎と万丈は二人の方向に向き変えると、万丈が背負っていた一海を下ろし、二人の前へと置いた。

 

「悪いが少しの間、こいつの側に居てくれ」

 

「危ねえからな」

 

「む?何故そのようなことを」

 

「疑念。何をするつもりなのですか」

 

耶倶矢と夕弦が、疑念の目を向ける。しかし戦兎はそれに、笑いながら答えた。

 

 

「まあ______一つ、()()をするからさ」

 

 

そう言い終わると、二人で向きを変え、リキッドスマッシュの方に向く。

そして懐からビルドドライバーを取り出し、腰に当てがう。アジャストバインドが巻きつき、位置を固定した。

 

そして戦兎は先ほどまで握っていたゴリラフルボトルをしまい、ポケットから使い慣れた二本のボトル、ラビットフルボトルと、タンクフルボトルを取り出した。

 

万丈は持っていたドラゴンボトルを持ち直してそのまま…………

 

 

 

______シャカシャカシャカシャカ…………

 

 

 

シャカシャカと、振った。ボトル内の成分、トランスジェルソリッドが活性化され、同時に空中から、白い数式が浮かび上がる。

 

「呆然。これは………」

 

後ろから、夕弦の戸惑うような声が聞こえてくる。

 

そして、十分に成分を活性化させたボトルのキャップを閉める。

 

戦兎は二本のボトルをそのままドライバーへ。万丈は手元に降りてきたガジェット、クローズドラゴンへと差し込んだ。

 

 

ラビット!タンク!

 

 

BEST MATCH!

 

 

Wake Up!CROSS-Z DRAGON!!

 

 

読み上げる音と共に、まるで工場のような機械音と、龍の咆哮のような音が聞こえてくる。

その音とともにボルテックレバーを回し、ボルテックチャージャーへとエネルギーを充填する。そのエネルギーにより、戦兎達の前後に、高速ファクトリー、スナップライドビルダーが形成された。

 

「うわわっ!?」

 

後ろから、耶倶矢の驚く声が聞こえる。多分真後ろにいた為、驚いて急いで避けたのだろう。

 

 

 

Are You Ready?

 

 

 

『変身ッ!』

 

 

 

ファイティングポーズを決め、自らを変える為の言葉を叫ぶ。瞬間、スナップライドビルダーにより形成されたアーマーが、戦兎達を挟み込んだ。

 

 

 

鋼のムーンサルトッ!ラビットタンク!!イェーイッ!!

 

 

Wake Up Burning!Get CROSS-Z DRAGON!!Yeah!!

 

 

 

「っしゃぁっ!」

 

「ハァッ!」

 

BEAT CROSS-ZER!

 

変身が完了したビルドとクローズは、それぞれ自分の得物、ドリルクラッシャーとビートクローザーを構え、そのまま眼前のスマッシュへと向かっていった。

 

「ハッ!オリャアッ!」

 

『ァァアゥッ!!』

 

だが、やはり回避力に優れたリキッドスマッシュには、そう簡単に攻撃が当たらない。ビルドもクローズも、殆どの攻撃を躱されてしまった。

 

「くそッ、スライムかよ、ちょこまか躱しやがって!」

 

ビルドは毒付きながら、懐からさらに二本のボトルを取り出した。_____まだ二本しか手に入れていない、北都のボトルを。

 

 

フェニックス!ロボット!

 

 

BESTMATCH!

 

 

【Are You Ready?】

 

 

『ァァウウッア!!』

 

「ビルドアップ!」

 

 

リキッドスマッシュの攻撃を避け、ポーズをとる。瞬間、再び生成されたスナップライドビルダーが、赤と黒のアーマーを形成、ビルドを挟み込んだ。

 

 

【不死身の兵器ッ!フェニックスロボ!!イェイ………ッ!!】

 

 

破壊を象徴するかのような【ロボットハーフボディ】と、創造を象徴する【フェニックスハーフボディ】の、スクラップ&ビルドを体現したフォームとも言える、ビルド フェニックスロボフォーム。

かつては最上魁星が変身するカイザーとの戦いにおいても使用された、強力なフォームである。

 

「ハッ!」

 

そのままリキッドスマッシュへと走り、ロボットハーフボディのアーム状の左腕、【ディストラクティブアーム】を叩き込む。左手のパワーアーム、【デモリッションワン】によって強化されたパワー重視のその腕撃は、避けきれなかったリキッドスマッシュの肉体を、容易く粉砕した。

 

『ァァァウゥッ!?』

 

奇声をあげながら、リキッドスマッシュが爆散する。生身の人間からでなく、特殊な液体から作られたリキッドスマッシュは、そのまま蒸発し、空気へ溶けていった。

 

「今度は、こっちだ!」

 

ビルドはすぐさま、二体目、三体目のリキッドスマッシュへと攻撃をする。フェニックスハーフボディの背部に搭載された【エンパイリアルウィング】が、炎の翼を展開して空中へとその身体を飛ばせる。

 

「ハァッ!」

 

そしてそのまま上空から、火炎弾を射出。

水を蒸発させる要領で、次々と落としていく。その猛攻には、いくら水で出来たリキッドスマッシュと言えども耐えきれず、二体目が爆散、三体目も吹き飛ばされた。

 

「よし、これでフィニッシュだ」

 

地面へと着地したビルドは、そのままボルテックチャージャーを回す。

 

【Ready Go!!】

 

再びエンパイリアルウィングを展開し、デモリッションワンから生成した巨大なエネルギーアームで、リキッドスマッシュを拘束する。それを空中へと放り、相手めがけて炎を纏いながら、強烈な体当たりを仕掛けた。

 

 

【VOLTEX FINISH!!イェーイッ!!】

 

 

「ハァァァーーッ!!」

 

『ァァゥィゥァアアッ!?』

 

 

ビルドが最後の体当たりを仕掛けた途端、スマッシュは奇声を上げ爆散した。先ほどと同じく、水蒸気となって空中へと消えていく。

 

 

SPECIAL TUNE!!ヒッパレーッ!

 

SMASH SLASH!!

 

 

「オォーラァァッ!!」

 

『ァウゥアァーッ!?』

 

一方のクローズも、ロックフルボトルを装填し、蒼炎のエネルギーを纏わせたスマッシュスラッシュによって、リキッドスマッシュを葬り去った。

「ふぅ………」

 

「これで終わりか?」

 

ビルドも地面に着地し、辺りを見回す。そして、もうスマッシュがいないことを確認したら、二人揃って変身を解除した。アーマーが粒子に消え、制服姿の戦兎と万丈が露わになる。

 

「にしても………この島に、クラウンがいるって、マジかよ………」

 

「シーカーって可能性もあるけどな。まあとにかく、警戒はしとかねえと。………っと、そういや!」

 

と、そこで戦兎が思い出したように手を打ち、耶倶矢と夕弦と、二人に預けた一海の元へと向かった。

 

「おい、大丈夫だったか!?怪我は…………」

 

と、そこで戦兎は言葉を区切った。正確には、区切らざるを得なかった。

 

何故なら、そこで立っていた耶倶矢と夕弦が________

 

 

「に、人間よ!あ、あれはなんだ!?あの蒼き龍の騎士(ブラウ・ドラッヘ・リッター)は!?」

 

「請願。説明を求めます。あの、あなたが変身した赤と青の半分こは、何なのですか?」

 

 

物凄い好奇心と興奮に満ち溢れた、子供のようにキラキラした純真無垢な目を向けてきたからだ。

 

 

 

 

移動の最中に突如吹き荒れた強風は、瞬く間にその規模を増し、激しい嵐となった。

こうなっていては悠長に歩けず、来禅高校二年生の面々は、教諭達の指示の下、空港から程近い資料館へと避難していた。____だが。

 

「戦兎、万丈………。あいつら、どうしたんだよ………!」

 

分厚いガラス窓を軋ませる凄まじい風に、士道は不安で胸中を満たしながら声を発した。

館中に避難した生徒の中に、戦兎と万丈の姿が無かったのである。恐らく道中どこかで逸れ、外に取り残されてしまったに違いない。

十香も不安と焦りに満ちた表情で、士道に問うてくる。

 

「シドー!セント達は、どうしてしまったのだ!?ぶ、無事なのか!?」

 

「分からない……変身できるし、最悪、死んではいないと思うけど…………」

 

それでも強風で吹き飛ばされれば、どこかへ遭難してしまうかもしれない。

無論捜索しに行こうとしたのだが、すんでのところで教諭や、折紙に止められてしまった。

 

しかしどの道この強風の中では、最悪変身して外に出ても、まともに歩くことすら叶わないだろう。

 

「くそっ………」

 

今の士道には、戦兎達の無事を祈るしかない。無力感が遣り場のない焦燥感となって身体中を支配する。

 

「……おい、なんだか、空が晴れてきてないか?」

 

すると、近くの窓際にいた男子生徒が、不意にそんな言葉を発した。わらわらと生徒たちが群がり、空を見上げ始める。

 

「し、シドー!空が晴れてきてるぞ!」

 

十香も窓の空を指差し見上げる。見やると、確かに空は先程のどんよりとした曇り空から、確かな青空へと変わりつつあった。

 

「っ!」

 

「あっ!し、シドー!?」

 

士道は居てもたってもいられなくなり、生徒達の間を縫うように出入り口へと走っていく。十香も士道の後を追うように、出入り口まで向かった。

 

「あ………!い、五河くん!夜刀神さん!まだ危険ですよぉ!」

 

タマちゃん教諭の制止を振り切り、扉を開ける。そのまま外へ出よう____と、したところで。

 

「へ?」

 

士道は足を止めた。

資料館の前に、既に士道が探していた人物達の姿があったのである。

 

「おお!セント、リューガ!無事だったか!心配したのだぞ!」

 

「お、おう」

 

「わ、悪いな、心配かけちまって」

 

十香と士道に気付いたらしく、戦兎と万丈が口を開いてくる。風のせいだろう。髪や服は乱れており、所々に小さい傷が見えた。

 

だが士道は安堵した次の瞬間、眉をひそめて疑問符を浮かべた。

 

戦兎達の様子がおかしい………というか、戦兎達に変なオプションが付いていたのである。

 

まず万丈の背中に、全身びしょ濡れの人が背負われていた。見たところ、若い()()()()のようだ。

これにも十分驚いたのだが、問題はその次に見た光景だった。

 

 

「どうだ龍我。我は魅力的であろう?我を好きと言えば、我の身体の好きな場所に契約の口づけをさせてやるぞ?そして、あの竜騎士の謎を我に話すのだ!」

 

「誘惑。戦兎、夕弦に好きと言ってください。良いことをしてあげます。もうすんごいです。きっと蕩けること間違い無しです。そしてあの、ビルド、という戦士について、一から十まで話してもらいます」

 

 

左右にそれぞれ瓜二つの姿をした制服姿の少女が立ち、それぞれ戦兎と万丈を、やたらと誘惑している事だった。

 

 

「「…………最っ悪だ……………」」

 

「…………何があったんだ?」

 

 

 

 




どうでしたか?
フェニックスロボをカッコいいと思ってるのは、きっと私だけじゃ無いはず。スパークリングやラビットザドキエルなどでましたが、ちゃんと普通のベストマッチ、トライアルフォームも出していきますので、楽しみにしててください!本編未登場フォームも出す予定ですよー!

そしてこの八舞編での攻略ですが、当然原作と違う点も多いと思います。そこはご了承下さい。多分この章、色々とてんこ盛りな内容になると思いますので、退屈するということはないと思います。話数は十話から増えるか分かりませんが。

それでは次回、『第43話 心火・ウェイクアップ』を、お楽しみに!

あ、こんなタイトルですが、ちゃんと八舞の攻略もメインになりますので、ご安心ください。

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第43話 心火・ウェイクアップ

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!修学旅行で訪れた島、或美島で、謎の精霊、耶倶矢と夕弦、そしてかつての仲間、猿渡一海との再会を果たす!」

耶倶矢「くっくっく、我ら八舞の前に平伏せ!人間どもよ!」

桐生「うわぁびっくりしたぁ!ていうか急に出てくるんじゃないよ」

夕弦「謝罪。申し訳ありません戦兎。耶倶矢がどうしてもあらすじ紹介に出たいと泣きながら駄々をごねるもので」

耶倶矢「ちょ、泣いてないし!ていうか、駄々もこねてないし!」

夕弦「嘆息。『私もあらすじ紹介にでーたーいー!!』と、龍我に子供のようにひっついていたのはどこの耶倶矢ですか」

耶倶矢「ち、違うから!あ、あれは!ああすれば、龍我があの竜騎士の秘密を暴露してくれると思ったから…………か、勘違いしないでよねっ!」

戦兎「わっかりやすいツンデレセリフだなぁ……。万丈今いねえけど」

夕弦「解説。それでは、私達が出演する、第43話を、どうぞよろしく見てください」

戦兎、耶倶矢「「ああ!言われた!」」







戦兎と万丈は絶望的な居心地で、全身に注がれる生徒達の視線を一身に浴びながら、十分程前の出来事を思い出していた。

 

「………なあ、戦兎」

 

「………何だ、万丈」

 

「……………どうして、こうなったんだ?」

 

「……………俺が一番訊きてえよ」

 

戦兎と万丈は左右にくっ付いた二人の美少女_____耶倶矢と夕弦を見やりながら、もう一度遠い目をして深く溜息をつき、肩を落とした。

 

 

 

 

「_______さあ、さあ、我に話すが良い!貴様が変身したあの竜騎士は、如何なる存在か!この颶風の巫女たる耶倶矢に包み隠さず曝け出すのだ!」

 

「い、いやー、それはだなー………」

 

「質問。教えて下さい。あの半分こ仮面は何なのですか?途中姿が変わったことにも、興味があります」

 

「半分こ仮面ってなんだよ、あれは______」

 

リキッドスマッシュとの戦闘後、戦兎たちを襲ったのは、耶倶矢と夕弦からの質問攻めだった。どうやら耶倶矢はクローズを、夕弦はビルドに物凄い興味を持ったらしく、先程からこうして身を乗り出して聞いてくるのだ。

最初ははぐらかそうとしたのだが、一歩も引く気配がなく、しまいには自分が変身しようとすらしたため、仕方なく話そうとした、その時。

 

 

「_____いや、待て夕弦」

 

 

耶倶矢が急に質問をやめ、夕弦を片手で制した。

 

「質問。何でしょうか、耶倶矢」

 

「くく………夕弦よ。我はあの竜騎士(ドラゴンナイト)が、夕弦はあの赤青騎士(レッドブルーナイト)が、非常に気になるのであろう?だが、この人間共…………そういえば貴様ら、名を何と申す?」

 

「へ?桐生戦兎だけど…………」

 

「万丈、龍我だ………」

 

「ほう、戦兎に、龍我か。贄にしては中々勇ましい名ではないか。………と、それはさておき。この二人、あの装束の秘密を、頑として話そうとはせぬではないか。このままでは埒が開かん」

 

「肯定。確かにそうです。このまま質問責めを続けても、口を割りそうにありません」

 

夕弦が耶倶矢の意見に同調し、戦兎の方を見やる。

 

「そこで、だ。夕弦よ。我と貴様は様々な勝負をしてきた。それこそ、もう思い当たる勝負が無くなるほどにな」

 

歌劇でも演ずるかのように大仰な身振りをしながら、耶倶矢が続ける。

 

「だが………まだ、勝敗を決していないものがあるとは思わぬか?」

 

「疑問。勝敗を決していないもの、とは?」

 

夕弦が首を傾げると、耶倶矢はくくく、と含み笑いを漏らし、戦兎と万丈を一瞥した。

 

「へ?」

 

「はい?」

 

そして、再び夕弦の方へと身体の向きを戻す。

 

「______それ即ち………『魅力』!」

 

バッとカッコいいポーズを決めながら、耶倶矢が高らかに宣言した。

 

「真の精霊、颶風の巫女・八舞には、力や頭脳だけでなく、森羅万象をも嫉妬させるほどの美が、色香が、必要とは思わぬか?」

 

「思案。………確かに、一理あります」

 

夕弦が一瞬押し黙り、答える。

 

「疑問。ですがそれは、彼らの正体を暴く事と、どう関係があるのですか?」

 

「くくく。想像力(イマジネーション)が少ないようではいかんぞ?夕弦」

 

「反論。耶倶矢は想像力しか脳がないではありませんか」

 

「う、うっさいし!そんな事言ってられるのも今のうちだけだ………。よく考えてもみよ、夕弦」

 

一瞬口調を乱しながらも、耶倶矢はまたも大仰な身振りで、戦兎と万丈を交互に指差す。

 

「この者ら………戦兎と万丈が、それぞれ我らに魅了されれば…………身も心も委ね、あの装束の秘密もポロっと話すと………そうは思わんか?」

 

耶倶矢が、これ以上の名案はない、とばかりの得意げな表情で、そう言い切った。

 

「得心。なるほど、耶倶矢にしてはよく考えてますね」

 

「くくく、そうであろう、そうであろう?我らの神聖なる決闘を再開し、なおかつ勝者には求める真実が約束される。まさしく一石二鳥、というやつだ。_____戦兎、龍我よ」

 

「へ?あはい」

 

「お、おう」

 

「貴様らを、今より裁定役に任ずる」

 

「ああ、うん…………て、え?」

 

「あん?何わけわかんねえこと言ってんだよお前」

 

戦兎は思わず聞き返し、万丈は言ってる意味どころか言葉の意味すら理解していなような顔で目を点にする。

だが耶倶矢には二人の意思などどうでも良いらしく、嘲るように顎を上げ、挑発するような口調で続ける。

 

「どうだ夕弦。この勝負、応ずる勇気が貴様にあるか?くく、まあ万象一切をひれ伏せさせる我の魅力を以ってすれば、勝敗など見えたようなもの。今尻尾を巻いたとて、卑怯者の謗りを受ける事などあるまいよ」

 

「否定。そんな事などはあり得ません。耶倶矢が勝つ道理はありません。夕弦の方がずっと魅力的です。男なんてイチコロです」

 

「くく、威勢だけは一人前よ」

 

「宣言。夕弦の方が可愛いです。耶倶矢はぶっちゃけ下の上くらいです」

 

「んだとこらぁぁぁぁぁぁッ!」

 

耶倶矢が芝居掛かった調子を一瞬で忘却の彼方へ放り去り、物凄い剣幕で叫ぶ。ちなみに戦兎達の主観ではあるが、耶倶矢は普通に相当美人な部類に入るだろう。

 

「……これで下の上なら、世の女性たちはさぞ苦しい戦いになるだろうなぁ」

 

「あ?何の話してんだよ戦兎」

 

「いや、何でもない」

 

と、そこで戦兎達が居ることを思い出したらしい。耶倶矢がハッと肩を揺らして、コホンと咳払いをする。

 

「と、とにかくだ!そこまで言うのなら異論はあるまい!」

 

耶倶矢はビッと夕弦に指を突きつけた。

 

「_____これが最後の決闘だ!この勝負の勝者こそが、相手を取り込み真の八舞となる!勝負の方法は単純明快!この我、耶倶矢が万丈龍我を。夕弦が桐生戦兎を_______相手より、()()()()()()方の勝ちだ!」

 

「承諾。______その勝負、受けて立ちます」

 

「「いやちょっと待てぇぇぇぇッ!!」」

 

 

 

 

………そして現在に至る。

 

 

「………ああ、思い出した。こんな経緯だったな」

 

「………そういやそうだったな。………かずみんのやつ、大丈夫かな?令音さんに預けてきたけど」

 

「後で様子見に行こうぜ」

 

「………そうだな。あの馬鹿には一度キッチリ話してやらねえと」

 

 

ハハハハ、と二人で仲良く現実逃避をして、そして再び深い溜息をつく。あの後、令音との協議の結果、一海はフラクシナスの機材が持ち込まれたホテルの一室で、応急的にではあるが治療をし、二人については無理に突っぱねるのも危険ということで連れてきたのだが………やはり、学友達の視線が痛かった。

 

「ば、万丈、くん?そ、その子、どちら様、なの?な、なんかやけに、仲好さそう、だけど………」

 

「いけない!亜衣の霊圧が急激に下がっていく!」

 

「気を確かにして亜衣!まだ決まったわけじゃないわ!」

 

ざわざわざわと、生徒達がどよめき出す。何故か亜衣麻衣美衣の亜衣が、死にそうな顔で万丈の方を見ていた。だがそれも当然だろう。何しろ、はぐれたはずの戦兎と万丈が、いきなりそれぞれ女の子を連れて帰って来たのだから。

 

ちなみに令音の指示で、二人は霊装を解除し、来禅高校の夏服を着てもらっている。十香の時のように、視認情報で衣服を生成してもらったのだ。ただでさえ異常事態なのに、先ほどのような拘束具を着られたままでは、二人揃って特殊な性癖があると誤解されかねない。

 

すると、クラスの面々を掻い潜るように前に来た士道が、パントマイムで二人に意思疎通を図った。

 

 

↓以下、パントマイムでお送りします。

 

「(なあ・その子達・もしかして)」

 

「(想像の・通り・精霊・だよ!)」

 

「(なんで・連れて・来るんだよ!)」

 

「(仕方・ねえだろ!・くっついて・来たんだから!)」

 

「(これから・どうすんだよ!)」

 

「(どうも・こうも・ねえよ!ノープラン・だよ!・ノープラン!)」

 

「(てか・さっき・連れてきた・あの人・誰!?)」

 

 

すると、そんな三人の意思疎通をストップさせるように、後方から眠たげな声が響き渡った。

 

「……ああ、待っていたよ。()()()の八舞耶倶矢に八舞夕弦……だね」

 

そこには二年四組の副担任・村雨令音が、ゆらゆらと頭を揺らしながら立っていた。

 

「転入生?」

 

「……ああ。本来なら休み明けに転入してくるはずだったのだが、ぜひ修学旅行に参加したいというものでね、現地で合流する手筈になっていたんだ。先程空港に到着したと連絡があったので、彼らに迎えに行ってもらっていたのさ」

 

そんな令音の言葉に、隣に立っていた珠恵がキョトンと目を丸くする。

 

「え?て、転入生?村雨先生、私そんなの聞いてないんですけど………」

 

「……急な話でしたから、きっと連絡が間に合わなかったのでしょう」

 

「は、はぁ………」

 

珠恵が困惑した顔を作りながら引き下がる。まあ副担任の方が先に転入生の事を知らされていたなら、そんな反応にもなるだろう。

 

「そ、そうなんだよ!いやー風が強くてさぁ、空港行くまで大変だったぜ。なぁ万丈?」

 

「お、おう!全くもってその通りだな!」

 

戦兎と万丈も慌てて言い繕う。すると、それに合わせるように、戦兎と万丈にピトッと張り付いた耶倶矢と夕弦が首肯した。

 

「くく………その通りだ。颶風の御子たる我を迎えられる事を光栄に思えよ、人間」

 

「肯定。彼らの言っていることに間違いはありません」

 

一応ここに来るまでに、戦兎と万丈が決闘とやらの裁定に協力する条件として、話を合わせるように言い含めてあった。

生徒たちはまだどこか訝しんでいたものの、教諭と当人達に肯定されてはそうと受け取るしかない。一先ずは納得した様子で、疎らに散っていった。亜衣も多少ダメージが回復したのか、未だにちょっと沈痛そうな面持ちではあったが、立ち上がって歩いて行った。

 

 

 

 

令音に案内され、資料館奥の事務室に入った戦兎と万丈は、ソファに深く座り込み、ふうと息を吐いた。士道には後で令音から話をつけるようである。

 

「すんません。一海の事といい、助かりました」

 

「……いや、構わないよ。それより______」

 

言って、令音は戦兎と万丈______正確には、その腕にそれぞれ絡みついた二人の少女に目を向けた。

 

「さあ龍我よ。貴様はただ、我に身を委ねればいい。この八舞耶倶矢に忠誠を誓い、その身その心、その秘密までも捧げると言えばそれで良いのだ」

 

「誘惑。戦兎、この夕弦に全て捧げれば良いのです。その身に秘めた事も全て、夕弦に話せば良いのです。そうすればきっと、貴方にとって最上の悦びになるでしょう」

 

令音など眼中にないように、二人してそれぞれ戦兎と万丈の耳元に息を吹きかける。その度に戦兎は顔に脂汗を流し、万丈は顔を強張らせた。

 

「……厄介な事になったようだね」

 

「…………はい」

 

「全くその通りだ」

 

重苦しい声で首肯する。令音はぽりぽりと頰を掻いた。

 

「くく……むしろ役得であろう?我に見初められ、僅かとはいえこの我の寵愛を一身に受けられるのだ。幸運に咽び泣きこそすれ、嘆く必要などあるまい」

 

「懐疑。夕弦はまだしも、耶倶矢に言い寄られて喜ぶ男性がいるのでしょうか」

 

「ふ、ふん………いくら斯様な挑発をしようと無駄だぞ。全ては決闘の決着を見れば明らかになる。さあ龍我よ、言うが良い。我を愛していると。そして我にかの竜騎士の全てを、話すが良いのだ」

 

「質問。夕弦は可愛いですか?戦兎」

 

二人がそれぞれ戦兎と万丈に迫ってくる。万丈はただひたすら顔を強張らせ、戦兎は二人を宥めるように手を振りながら言った。

 

「二人ともちょっと待ってくれ。気になったんだが、さっきから言ってる、その決闘ってのはそもそも何なんだ?」

 

「………ん?ああ、言ってなかったか」

 

戦兎が問うと、耶倶矢が大仰に顎を上にやり、話し始めた。

 

 

_____そもそも耶倶矢と夕弦は、元々は【八舞】という一人の精霊であり、幾度目かの現界の際に、今の二人へと分かれてしまったのだという。理由は二人にもよく分からないようだが。

そして二人は互いの顔を見た瞬間、やがて一つに戻ることが分かったのだという。否、正確に言うのなら、知っていた、と言うべきか。存在が分かれた瞬間、自分たちの身体がどうなるのかを、本能的に理解したのだという。

 

しかし、既に本来の八舞の人格は失われており、一つになった際、主人格となれる、即ち、()()()()()()()()()()()()()という事なのである。

 

そこで始まったのが、八舞の主人格の座をかけた、果てなき決闘だった。耶倶矢によれば現段階では九十九戦を終え、戦績は二十五勝二十五敗四十九分け。そしてちょうど100戦目となるのが、先刻のあの戦いであったという事である。そこに予想外の闖入が入った事で、この決闘へと変わったのだという。

 

「_____と、言うわけだ。最初こそアレだったがな、今は寧ろ感謝しているぞ。貴様らのお陰で今までにない戦いをする事ができるのだからな」

 

「肯定。確かに最後の決着が、今まで何度も引き分けてきた殴り合いというのもどうかと思っていました。この勝負であれば異存はありません」

 

言って、二人して戦兎と万丈を誘惑するように腕に絡みついてくる。

 

「いや、んな事言われても…………」

 

「急に言われたってよ………」

 

戦兎達は困惑するのを感じながら、令音に助け舟を求めるよう視線を送り、そしてポンと手を打った。

 

「そ、そういや令音さん。一海の容体、どうなったんですか?」

 

ひとまず今は宿泊予定の旅館の、万が一の事態になった際の治療用機材が持ち込まれた一室にて、安静にしているという報告だったが。

 

「……ああ、君たちが連れてきた彼か。大丈夫だ、容体は安定した。じきに眼を覚ますと思う」

 

「そ、そうですか………良かった」

 

海岸に倒れ、傷も負っていたのでもしかしたら、と思ったが、大丈夫なようだった。しかし令音はそんな彼らとは対照的に、難しげな表情でふうむと唸っていた。

 

「……しかし、困った事もある。フラクシナスとの通信が、途絶えているんだ」

 

「え?フラクシナスとの通信が?」

 

「そんなん今まで無かっただろ?」

 

「……ああ。現状では理由が不明だ。少し調べてみるよ」

 

言ってから端末を閉じ、椅子から再び立ち上がる。そして二人に迫る耶倶矢と夕弦をジッと見つめた後、静かに唇を動かした。

 

「……耶倶矢と夕弦、と言ったね。君達は、己が真の精霊・八舞となるため、セイとバジンをどちらが先に落とすか勝負をしている。………そうだったね?」

 

令音がそう言うと、耶倶矢と夕弦が初めて令音に目を向けた。

 

「ああ、その通りだ。見物は構わぬが、邪魔立てをするようなら容赦はせぬぞ」

 

「質問。あなたは?」

 

「……ただの学校の先生さ」

 

令音は適当に誤魔化すよう言った後、くるりと踵を返し、一枚のメモ用紙を戦兎達に手渡した。

 

「……セイ、バジン。君達は先に戻っていてくれたまえ。______耶倶矢、夕弦。君たちに少し話がある。付いてきてくれ」

 

「っ、おい、令音さん」

 

危険だ、という意思を込めて令音に視線を送る。仮にも二人は精霊だ。

しかし令音は、問題ない、というように手を上げてきた。

 

「くく……何を言うかと思えば。何故この我が、人間風情の言葉に従わねばならぬのだ」

 

「拒否。夕弦は戦兎と一緒にいます」

 

だが二人は頑として動こうとしない。しかし令音はそれすらも予想のうちとばかりに肩をすくめると、思わせぶりに言った。

 

「……セイとバジンは見かけによらず難物だ。話を聞いて損は無いと思うがね」

 

「何………?」

 

「……彼らの反応を見れば一目瞭然だろう?私の目から見ても、君たちは非常に可愛らしく、魅力的に少女だ。だというのに彼らは、未だ君達に心を寄せていないように見える」

 

『…………』

 

耶倶矢と夕弦が、目を丸くして顔を見合わせる。

 

「……どうするかね?私としては、別にどちらでも構わないのだが」

 

言って、事務室の扉を開ける。

二人は再び顔を見合わせると、名残惜しそうに戦兎と万丈から手を離し、令音の後を付いていった。

 

 

 

 

時は過ぎ、十八時五十分。

日も落ち、日中の茹だるような暑さが改善され、響いていた蝉の声がキリギリスのそれに変わっていく。

あの後旅館へと移動した一行は、部屋に荷物を運び込み、夕食を済ませて自由時間を満喫していた。

 

そう____戦兎と万丈以外は。

 

「ここ、だったか?かずみんがいる部屋」

 

「ああ。令音さんの言う通りだったら、ここだな」

 

戦兎と万丈は、旅館のとある一室の前に来ていた。そこは令音の話の通りならば、()がいる部屋であった。

一度ノックをしてから、部屋の扉を開ける。

 

そこには、身体を起き上がらせ、こちらを見やる______

 

 

 

「_______戦兎………、龍我……………!?」

 

 

 

猿渡一海の、姿があった。

 

 

 

 




どうでしたか?
ごめんなさい、最後のシーンで一海とのやりとりも入れたらだいぶ長くなってしまうので、次回に持ち越させていただきます。
ま、まあでも一応、ウェイクアップ(目覚める)したし、タイトル回収はしたしいいよね………?(震え声)

そういえば仮面ライダーグリスの同時上映でドルヲタ、推しと付き合うってよ、が上映決定しましたね。あれほんと驚きました。絶対劇場で観に行きます。

それでは次回、『第44話 気まぐれなベルセルク』、をお楽しみに!

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第44話 気まぐれなベルセルク

一海「仮面ライダーグリスことこの俺、猿渡一海(二十九歳)は、推しであるみーたんに看取って貰った後、何故か海に転がって気絶していた。気が付けば知らない旅館で目覚め、何故か身体が縮んだ戦兎と龍我と再会する。なんか色々と大変そうだが、それより俺には大事なことがある。それは………」

桐生「おいおいおい!何主役の俺を差し置いて勝手にあらすじ紹介してんだよ!」

一海「あ?そりゃお前、折角のこの俺、かずみん復活回だぞ?俺があらすじ紹介すんのは当然だろうがよ。と!言うわけで、【デート・ア・ビルド】・完!今回から俺が主役の新作、【ドルヲタ、推しと付き合うってよ。2nd Season】が______」

桐生「始まんないから!それ前も言ってただろ………まだまだこの俺ビルドが主役の第44話をどうぞ!」

一海「あ!仮面ライダーグリスと同時上映の【劇場版 ドルヲタ、推しと付き合うってよ】!絶対見てくれよな!」

桐生「最後に露骨な宣伝挟むんじゃないの」


「一海!」

 

「かずみん!」

 

一海の様子に、戦兎と万丈が駆け寄る。すると一海が身体を乗り出し、二人の肩を掴んできた。

 

「ここはどこだ?エボルトは!?パンドラタワーは、スカイウォールはどうなった!?みーたんは!?ここは新世界かってのわっ!?」

 

まだ治りきっていない身体で無理やり身体を乗り出したからだろう。寝ていたのは布団なのに、転んだ様にその場に倒れこんだ。

 

「………落ち着け。今から俺らの知ってる限りの事を説明するから」

 

戦兎が一海の肩に手を置き、位置を戻して、これまでの一連の出来事についての説明を始めた。

 

 

エボルトとの戦いを制した事。

 

目覚めたこの世界が、新世界ではないかもしれないという事。

 

この世界に、未知のライダーシステム、敵の存在があるかもしれないという事。

 

 

など、戦兎達に説明できることは可能な限り話した。ラタトスクと精霊の件については、上手くぼかして話した。

一海はその説明を聞くと、しばし押し黙り______

 

「………そっか。勝ったんだな、お前ら」

 

一言、そう紡いだ。

 

「ああ。_______けどな」

 

「?」

 

戦兎はそう言うと、ほんの少し体を上げた。そして_______

 

 

「この______馬鹿野郎がッ!!」

 

「ぐッ!?」

 

 

思い切り、一海の顔をぶん殴った。当然、一海の身体は後方へと下がる。

 

「痛ってぇ………おい!何すんだ______」

 

一海が頰をさすりながら、抗議の声を上げようとするも、それよりも前に、戦兎が一海の胸倉を掴んで、顔を近づけた。

 

「お、おい!戦兎!?」

 

「何、すんだよ…………」

 

万丈が困惑したような声をあげ、一海が困惑の声をあげる。

そして戦兎はそのまま、絞り出すように声を上げた。

 

 

「何で……………何であの時、ブリザードに変身したッ!?あの時のお前が変身したらどうなるか、あれ程警告しただろうがッ!!」

 

 

「ッ………………!」

 

戦兎が怒りに震えた、しかし、確かな後悔の念を込めた声に、一海は押し黙った。

 

 

_______かつて、地球の存亡をかけた、パンドラタワーでの闘い。

 

 

その戦いで一海は、かつて自らを『カシラ』と慕った、三人の仲間達と____正確にはエボルトが作り出した偽物だが_______戦うことになった。

 

 

赤羽(あかば)大山勝(おおやままさる)

 

青羽(あおば)相河修也(あいかわしゅうや)

 

黄羽(きば)三原聖吉(みはらしょうきち)

 

 

三人の擬態ロストスマッシュとの戦いにおいて、一海は、グリスは彼らの卑劣な戦法により、追い詰められてしまった。

そこで彼が取り出したのは、かつて戦兎の父である、葛城忍が使用していたビルドドライバー、そして______グリスブリザードナックル だった。

 

元々戦兎が一海の使用を想定して作ったそれは、専用の『ノースブリザードフルボトル』をセットし、ビルドドライバーに挿す事で変身ができるアイテムだった。

だがその変身は、二度もネビュラガスを注入された一海にとって危険すぎるものだった。だからこそ、戦兎はナックルをあくまでも武器として使うよう、忠告していたのだ。

 

だが________

 

 

 

Are You Ready?

 

 

『出来てるよ……………!』

 

 

 

 

その忠告を破り、一海はグリスブリザードへと変身を遂げた。

その結果として一海は_______戦兎達の元へ辿り着くことなく、その命を、散らせてしまったのだ。

 

「あの時………俺たちが、どんな思いで…………ッ!」

 

「戦兎……………」

 

震える手で胸ぐらを掴みながら、戦兎が少し顔を伏せて言葉を吐き出す。

一海は気まずげに視線を逸らしながら、呟いた。

 

「………すまねえ。約束、破っちまって。……ああでもしなきゃ…………」

 

「…………」

 

一海が拳を握り締めながら言い紡いだその言葉に、戦兎は掴んでいた手の力を緩めた。

 

「………もういい。………生きていてくれたなら、十分だ」

 

「戦兎…………」

 

それは戦兎の、紛れも無い本心だった。

正直なところ、不安だったのだ。もし新世界が創造できていたとして、一海達は生き返っていないのではないかと。もう二度と、会う事もないのかもしれないと。

 

だがこうして、違う世界ではあれども、再会できた。

 

それだけで、今は十分だった。

 

「………そうだな。ったく、今度はもう勝手にいなくなんじゃねえ。バカずみんが」

 

「龍我………お前ら………」

 

万丈の続けた言葉に、一海が一瞬呆けた様子になり、そして、くしゃっと笑った。

 

すると次の瞬間、一海が何かに気づいたように、怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「………つーかお前ら、なんでそんな縮んでんだ?」

 

その言葉は、戦兎と万丈の身体を指したものだった。どういうわけかかつて大人のそれであった二人の体は、一般的な高校生と変わらない体格となっている。

だが、しかし_____

 

「いや、逆になんでお前は縮んでねえんだよ」

 

「逆になんで縮んでんだよお前ら」

 

「あ?」

 

「お?」

 

「ハイハイ、落ち着きなさいって」

 

戦兎が二人を宥める。

 

そう。この世界で目覚めた際、戦兎と万丈の身体が縮んだのに対して、一海は元の世界と同じ_____二十九歳の身体と全く同じ肉体だったのだ。

いや、本来であれば一海の状態が正しいのだろうが、二人揃って若返った為、どうも一海の方がおかしいと感じてしまうのだ。戦兎も細かい事情は分からないと説明し、今は高校生として過ごしていることを告げた。

 

「成る程。………にしても、戦兎はともかく、こいつが高校生かよ」

 

一海が万丈へと視線をやり、馬鹿にしたような目を向ける。

 

「あぁ?なんか文句あるのかよ」

 

「いやだってお前、馬鹿だろ」

 

「馬鹿ってなんだよ!」

 

「馬鹿以外の何者でもねえだろ」

 

「ふざけんな!俺だって足し算と引き算くらい分かりますぅー!」

 

「そんなの分かる分からない以前の問題だろこのエビフライヘッド」

 

「エビフライの何処が悪いんだよ!」

 

「いや悪かねえけどお前そろそろタルタルすっぞこの野郎」

 

「タルタルするってなんだよ!」

 

「ソースぶっかけるって意味だよ」

 

と、何処かで見覚えのあるやり取りをする万丈と一海を制止するように。

 

 

「……ああ。もう目覚めたか」

 

 

聞き覚えのある気怠げな声が、扉の前から聞こえてきた。

 

「令音さん」

 

「あん?おい戦兎、誰だこの人」

 

「……来禅高校教師、及び空中艦【フラクシナス】の解析官、村雨令音だ」

 

「っ、令音さん、それは………」

 

令音が語った肩書きに、思わず声を出してしまう。フラクシナス_____即ち、ラタトスクに関する情報は無闇矢鱈と話すべきでない事は、戦兎は勿論、令音が誰よりも理解している筈だった。

だが令音は問題無い、とばかりに戦兎を手で制止すると、一海の前に出てきた。

 

「空中艦?フラクシナス?おい万じ……戦兎。こいつ何言ってんだ?」

 

「おい、何で俺じゃなくて戦兎に訊くんだよ!」

 

「お前が説明するといいとこ猿までしか理解できねえからだよ」

 

「ウキ?」

 

「まあ一海の言う通りだな」

 

「何納得してんだよ!」

 

「……私から説明しよう。猿渡一海」

 

令音は一海の前まで来ると、こう切り出し始めた。

 

 

「……単刀直入に言おう。______君に、ラタトスクへ加入して欲しい」

 

 

「は?」

 

 

 

 

令音が一海に語ったのは、精霊の存在に関する情報。及びラタトスク機関、ASTなどの、精霊を取り巻く組織についての概要。

そして、ラタトスク____【フラクシナス】への加入の打診だった。

一海がライダーとして戦えば、戦兎や士道達が、精霊の攻略中にスマッシュとの戦闘へ参加せず、安全に攻略を行うことが出来る、との事だ。

 

「……セイに聞いた話では、君もライダーだったという。____このような形で申し訳無いが、どうか我々に、力を貸して欲しい」

 

「…………」

 

令音からの説明に、一海はしばし静まった。

そして、口を開く。

 

「………正直、まだ信じた訳じゃねえ。戦兎や龍我がいるつっても、あまりに胡散臭え話だ。それに、また新しい敵がいるって話じゃねえか」

 

「………」

 

まあ、それはそうだろう。戦兎とて、まだラタトスクという組織には不可解な点があると思っている。しかしそれでも、精霊を救うという目的のもと、行動を共にしているのだ。それに______戦兎がここにきてからの間で見たフラクシナスクルーは、少なくとも悪い奴らには、見えなかった。

 

だが初めて説明された一海が、はいそうですかと頷ける話でもない。当然リスクも伴うし、簡単には承諾できないだろう。

 

 

「……けどまあ、他に行く当てもねえしな」

 

 

しかし一海は不承不承、といった様子で、そう呟いた。

 

「っ、協力してくれるのか?」

 

「……ほんとだったら、もうちっと悩んでんだけどな…………あんな話、されたらな」

 

あんな話、というのは精霊のことだろう。

世界の災厄として、殺意に、憎しみに晒され続ける存在。

 

自分の意思に関係なく、世界を破壊してしまう、悲しい存在。

 

一海にとってもそれは、気分の良い話では無かった。

 

「……あーくっそ、お前らのせいで、俺もすっかり毒されちまったみてえだな」

 

そう言って、よっこらせ、と一海が立ち上がる。

そして、順に令音を、戦兎を、万丈へ視線を向けた。

 

「………いいぜ、協力してやるよ。少なくとも、この世界にいる間はな」

 

一海はそう言って、不敵な笑みを浮かべた。

 

「……感謝するよ。名目上、君はセイやバジンたちと同じく、保護という名目で我々の元に置くことになる。だが生活に不自由な事はないだろうし、寝床もある。安心してくれ」

 

「ああ、それなら安心だな。_____戦兎、龍我」

 

令音から向き変え、戦兎と万丈の方を向く。

戦兎と万丈も立ち上がり、一海の方を向いた。

 

 

「……色々あったけどよ。………改めて、よろしくな」

 

「………ああ」

 

「おう」

 

言い、笑いあって_____三人は、拳を突き合わせた。

 

だが次の瞬間。

 

「………はっ!」

 

一海は、何かに気付いたような様子で、戦兎の肩を縋るように掴んだ。

 

「はっ?お、おい、どうしたんだよ…………」

 

「…………は、どこだ

 

「は?」

 

もう一度聞くと、一海は、一際大きな声で叫んだ。

 

 

「………みーたんは!どこだァッ!!」

 

 

「…………は?」

 

「…………あ?」

 

「?」

 

三人の困惑した様子にも気付かない様子で、一海が戦兎の肩を揺らしながら畳み掛ける。

 

「みーたんは………み、みーたんは、いるのか!?いるんだよな!?いるんだよなッ!?」

 

「………あ、あぁ〜…………」

 

戦兎が、思い出したような声と顔になる。

 

そう、この猿渡一海という男_______ネットアイドルだったかつての仲間、【石動美空(いするぎみそら)】の大のファン、所謂、ドルヲタだったのだ。

しかし、どうしたものか。この様子では、いると答えない限り収まらないだろう。どうやってこの場を____

 

 

「あん?美空ならいねえぞ?」

 

 

_______鎮める、鶴の一声ならぬ、馬鹿の一声。

 

 

「…………………………………………」

 

「か、一海?」

 

たっぷり数秒、石像のように硬直した後、ギギギ、と油の抜けた機械のような動作でこちらを向く。

そして、震えながらガタガタと膝を落とし、この世の終わりのような形相で口を開いた。

 

 

「う、嘘だ……………みぃぃぃぃたぁぁぁーーんーーーっ!!!」

 

 

或美島のとある旅館に、一人の哀しいドルヲタの号哭が、響き渡った。

 

 

 

 

「………一海のやつ、放っといて大丈夫なのかよ」

 

「まぁいずれ治るだろ」

 

この世の全てが終わったような顔で嘆き続ける一海を宥めること数分、少し落ち着いたところで、令音に一海を任せて二人は出て行ってしまった。

今二人が向かっているのは、士道のもとだった。一海の件や、今後の方針について、令音から伝えるよう言われていたのである。

だが、戦兎は丁字路に差し掛かったところで足を止めた。

 

「あん?どうした戦兎」

 

万丈が戦兎に問うが、戦兎はそれを無視してちらりと前を見る。

 

「………隠れてないで出てこいよ、耶倶矢、夕弦」

 

………左右の通路の両側から、頭がちょこんと飛び出、戦兎と万丈にジーッと視線を送り続けているのに気付いたのである。

 

「くく……我が気配に気づくとはやりおるわ。流石、蒼炎の竜騎士と言うべきか」

 

「指摘。隠れ方がお粗末だっただけでは」

 

「………っ!ゆ、夕弦に言われたくないし!あんたよりは上手く隠れてたし!」

 

「反論。耶倶矢が夕弦よりも上手く隠れられる道理がありません」

 

………戦兎から言わせれば、どっちも等しくバレバレだったのだが、それは口に出さずに置く。

 

「いや、どっちもどっちだったぞ?」

 

「っ。驚愕。そんな訳ありません」

 

「ほーら!夕弦だって全然駄目じゃん!」

 

ほら、戦兎が口に出さずとも、万丈(バカ)がすぐ口に出す。

 

「………それで、二人とも何してたんだよ」

 

戦兎が嘆息しながら問うと、二人は目を合わせ、こほんと咳払いしてから視線を二人に戻してきた。

 

「ふ……教えてやろう。来るがいい」

 

「確保。どうぞ、こちらへ」

 

そして全く同じタイミングで、耶倶矢が万丈の、夕弦が戦兎の両腕を引っ張ってくる。

 

「な、なんだよ………」

 

「どうしたんだよ、お前ら………?」

 

困惑気味になりながらも、二人はズルズルと引きずられ____程なくして、とある場所にたどり着いた。

 

「………風呂、だよな?」

 

「………風呂、だな」

 

二つの隣り合った入り口に赤と青の暖簾がかけられ、それぞれ大きな字で『男』『女』と書かれている。誰がどう見ても風呂だ。

 

「くく……貴様らの身体は常闇の穢れを蓄積し過ぎた。その身を浄化することを許す」

 

「は?」

 

「通訳。お風呂に入って汗でも流してください、と言っています」

 

「あ、ああ。そういう事か。つっても、まだ入浴時間まで大分時間あるだろ。タオルも着替えも無いし、それに今、行かなきゃいけないとこがあるしな」

 

「ああ。つーわけで、悪いな」

 

言って二人で踵を返そうとすると、両腕がさらにがっしと掴まれた。

 

「いって!おい、なにすんだよ」

 

「貴様らに選択肢などあると思うてか?四の五の言わずにその穢れを祓うが良い」

 

「請願。お願いします。入用の準備はこちらで整えておきました」

 

夕弦が視線を下に落とす。そこにはきっちり二人分、バスタオルとタオル、そして浴衣が折り畳まれていた。

 

「な、何を企んでやがる………」

 

「ふ……我が崇高にして玄妙なる思考は、常人には到底理解し得ないものなのだ」

 

「提言。誰もいない大浴場というのもいいものです」

 

「…………おい、どうする?」

 

「…………まあ、このままじゃ解放してくれそうにないし………」

 

まあ士道には、後で説明すればいいだろう。訝しげな目で二人を交互に見たのち、はぁと大きなため息をついた。

 

「………分かった。じゃあ先に入るさ。行くぜ、万丈」

 

「あ?ちょ、おい!」

 

「くく……解れば良いのだ」

 

「賞賛。戦兎の決断に敬意を表します」

 

今ひとつ二人の真意が読めないが、まあ今のうちに一風呂浴びるのも悪くないだろう。というか、さっきの戦闘でいろいろ疲れたので、汗とか諸々を流したいのも事実であった。

用意されたタオルなどを手に持ち、男湯の方へと入っていく。

 

特に何と言うわけでもなく脱衣所で服を脱ぐと、タオルを携えて曇った引き戸を開けた。

 

「おお………!」

 

「こりゃ、凄えな……………」

 

目の前に広がった光景に、思わず感嘆の声を漏らす。

岩で形作った浴槽に、微かに褐色がかった湯が満たされ、湯気が立ち上っている。浴槽のすぐ側には海が広がり、静かなさざ波が響いていた。

まだ入浴時間ではないため、戦兎と万丈以外に人はいない。なるほど、これは夕弦の言う通りに最高のロケーションかもしれない。

 

「よっし、早く入ろうぜ戦兎!」

 

「おい、急ぐと滑るぞー」

 

と、戦兎も口では言いつつも、手早く身体を洗って、タオルを頭に乗せ、そそくさと身体を湯に沈み込ませた。

 

「「あぁー……………」」

 

などと、二人揃って年寄り臭い声が喉から漏れた。両手両足を伸ばすと、少し熱いくらいの湯が全身に染み渡ってきた。日頃スマッシュと戦い、精霊を攻略する激務の日々を送る戦兎と万丈には、今これ以上の至福は無いと思えた。

すると、その時。ガラリと音が鳴り、浴場の引き戸が開いたのである。

 

「ん?誰だ?」

 

「一海か?」

 

二人は入り口に目をやり______絶句した。

 

「な…………」

 

「ちょ……………」

 

それもそうだろう。何しろ、先程廊下で別れたはずの耶倶矢と夕弦が、身体にバスタオル一枚を巻き付けた状態でそこに立っていたのだから。

 

「お、お前らぁぁッ!何してんの!そんな格好でッ!?」

 

「ここ男湯だぞ!?」

 

堪らず戦兎と万丈が叫ぶも、二人はそのまま湯船に足を浸し、耶倶矢は万丈の、夕弦は戦兎の隣まで歩いてきた。

薄いバスタオルが湯気で身体に張り付き、肢体のシルエットがくっきりと浮かび上がっている。二人とも慌てて目を逸らし、身体を深く湯に沈ませた。

そんな二人の様子を見てか、耶倶矢が頬を赤く染めながら腕組みする。

 

「く、くくく…………ど、どうだ。流石の貴様も我が色香の前にはひれ伏さざるを得まい」

 

その言葉に、対面するような格好で立っていた夕弦が嘆息した。

 

「嘲笑。色香(笑)。耶倶矢にそんなものが備わっていたとは初耳です」

 

「……ふん、すぐに吠え面かかせてくれるわ。そこな龍我を我が魅力の虜にしてな!」

 

「応戦。望むところです。この夕弦が耶倶矢より先に、戦兎を落として見せましょう」

 

言って、二人はそのままゆっくりと足を折り、戦兎と万丈を挟むように湯船に入ってきた。

 

「…………ッ」

 

「お、おい………」

 

バスタオルを巻いたまま入浴した事を咎める暇もなく、戦兎は思わず目を瞑った。

 

「くく……覚悟するがいいぞ龍我。もう我無しでは生きられぬ身体にしてくれよう」

 

「覚悟。戦兎には夕弦の肉体の虜になってもらいます」

 

「い、一体何を…………」

 

「する気だ……………!?」

 

二人の言葉に、戦兎と万丈はさらに身を固くした。嗚呼、一体何をされてしまうんだ。ああ駄目だ、俺は二十六。こんな子に手ぇ出しちゃいけない。未知への恐怖と理性との戦いで、ぐるぐると頭の中が渦巻く。

 

だが。

 

「…………ん?」

 

しばらく経っても、何も起こらない。戦兎と万丈はゆっくりと目を開けた。

戦兎と万丈を挟むように左右に陣取った二人は、挑発し合うように視線を交じらせているだけだった。

 

「ふ………っ、せめてもの情けだ。夕弦よ、貴様から先にやる事を許す」

 

「否定。不要です。むしろハンデが必要なのは耶倶矢の方です。先制権くらい譲ります」

 

「かか、分からぬ奴よの。我が手を下した瞬間に龍我の目は我に釘付けぞ。貴様にも機会を与えてやろうという、我の配慮を解さぬか」

 

「懐疑。本当は何をすれば良いのか分からないのではないですか?」

 

夕弦が言うと、耶倶矢がビクッと肩を揺らした。

 

「そ、そんな訳ないし!超エロッエロだし!な、なーに言ってんのかねこいつは!あんたなんか考えもしないような大人のテクニックをいーっぱい持ってるんだから!」

 

「疑念。では、見せてください」

 

「な………っ、ふ、ふん!いいわ、見てなさい!」

 

「お、おお…………」

 

耶倶矢がその場に立ち上がると、万丈の方を見ながら右手を頭に、左手を腰に当て、

 

「………う、うふーん」

 

などと、旬が過ぎたグラビアアイドルでもしないようなポーズをとった。戦兎達は行った事ないが、多分場末のキャバ嬢でもやらないだろう。

夕弦がその様子を見て、プークスクス、の口に手を当てながら息を漏らす。

 

「…………………は?」

 

万丈は何をしてるか分からないような様子で目をパチクリさせ、戦兎はどこか居た堪れない様子で頭をかいた。

いや、別に色っぽくない、と言うわけではないのだ。確かに見た感じ耶倶矢のスタイルは良いし、バスタオルが肌に張り付いた様子は確かにセクシーと言われればセクシーである。

 

だが…………それよりも先に、何か哀れみにも似たいたたまれなさが、戦兎の胸中を包んだのだった。実際に受けたのは万丈なのに、不思議である。

そんな三人の様子に、耶倶矢は顔を真っ赤に染めて湯船に再ダイブした。

 

「な、何よ三人して!」

 

「嘲笑。流石耶倶矢の色香(笑)は違います」

 

「な、何ですって!?っ、ていうかあれなんじゃないの?あんたの方こそ、実は何していいのかわかんないんでしょ!」

 

耶倶矢がビッ!と指を突き付けながら言うと、夕弦がピクリと眉の端を動かした。

 

「……否定。そんな訳ありません」

 

「はっ、どーだか!じゃあやって見せなさいよ!」

 

「了承。……いいでしょう」

 

夕弦はそう言うと、戦兎の方へと向き直り、

 

「悩殺。ちゅっ」

 

と、一昔前のアイドルのような仕草で投げキッスを放ってきた。

 

「………お、おう」

 

またもリアクションに困り、戦兎は真顔で答えた。

 

「おい戦兎、こいつら何してんだ?」

 

「ごめん、ちょっと黙っててくれ」

 

遂に万丈が真顔で言い始めたので、片手で顔を覆いながら制止する。

夕弦のそれを見て、耶倶矢が腹を抱えて笑い出した。

 

「きゃははははは!なんだそれ、なーんだそれ!それで悩殺してるつもりなの?」

 

「憮然。耶倶矢には言われたくありません」

 

「はん、お互い様でしょーが!」

 

「否定。そもそも耶倶矢の幼児体型では、誘惑にすらなっていません」

 

「だ、誰が幼児体型よ!」

 

と、またも二人で言い合いを始める。と______

 

「「………っ!?」」

 

戦兎と万丈は肩を揺らした。再び戸を開く音がし、誰かがこちらに入ってきたのである。

 

「お、おい、これ誰か入ってきたんじゃねえか………?」

 

「あ、ああ。おい二人とも。早く隠れないとまずいぞ」

 

ここは男湯である。無論、新たな闖入者は男子生徒か一海のどちらか二択である。

しかし耶倶矢と夕弦は平然とした様子で言ってきた。

 

「くく……何を言っておるのだ、戦兎、龍我」

 

「否定。大丈夫です。心配要りません」

 

「は………?」

 

「何言ってんだ?」

 

二人の言っている意味が分からず、揃って首を傾げる。と、

 

「とりゃー!」

 

元気の良い声と共に、新たな入浴客が勢いよく湯船に飛び込んできた。

そして、先に入っていた戦兎、万丈と目が合う。

 

聞き覚えのある声音に、夜色の長い髪。男とはかけ離れた、美しい曲線のボディライン。そう、その姿は_____

 

紛れもなく、夜刀神十香のものだった。

 

「ん?」

 

そこで十香も先客に気付いたらしい。キョトンとした様子で戦兎と万丈を見てくる。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

そして。

 

 

「ギャーーーーーーーーッ!?」

 

「イヤーーーーーーーーッ!?」

 

「ハァーーーーーーーーッ!?」

 

 

三人揃って、全く違う悲鳴を上げた。

 

 

 

 

一方その頃、とある部屋にて。

 

「おーい五河、そろそろ風呂入りに行こうぜ?」

 

「わ、悪い。ちょっと、先行っててくれ」

 

「ん?忘れもんか?じゃ、先行って待ってるからな」

 

「あ、ああ」

 

士道は同じ部屋のクラスメイト達が去っていくのを見届けた後、急いで鞄の中を漁った。

無い。無い。無い。

 

どこに、あるんだ。

 

 

「…………ガルーダどこ行ったんだ?おーい」

 

 

飛行機の時と同じく、士道の鞄からガルーダが消え失せていた。

 

 

 

 

 




どうでしたか?
また投稿が遅れてすいませんでした。
最初のかずみんぶん殴るシーン、戦兎にするか万丈にするかで迷ったんですが、結局戦兎にしました。戦友ポジの万丈にやらせるのもいいかと思ったんですが、本編でその事を戦兎に問い詰めてたので。

突然ですがこの小説って、本編ビルドのようなギャグの掛け合いちゃんと出来てますかね?最近他の方のビルド小説も見るのですが、再現率が高くて驚いてます。本編ビルド見返さなきゃ……………

あ、こちら劇場版限定ライダー、ユートピアです。


【挿絵表示】


参考程度に、よろしければ。

それでは次回、『第45話 ベルセルクと呼ばれた姉妹』、をお楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!


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第45話 ベルセルクと呼ばれた姉妹

十香「仮面ライダービルドにして、天……才?物理学者の桐生戦兎は………おーいシドー、ここはなんと読めばいいのだ?」

士道「え?ああここはこう読めば………」

十香「おお!なるほど!」

戦兎「『なるほど!』じゃないよ!どうして十香があらすじ紹介してるんだよ」

士道「大人気ないこと言うなよ天才?物理学者」

桐生「『天っ才物理学者』だから!疑問符を挟まないで!」

十香「む、むう………駄目だったか?セント………」

琴里「あー。中身おっさんの高校生が十香を泣かせたー」

桐生「ちょ!そんな言い方やめて!分かった分かったから!十香、続けて!」

十香「ッ!うむ、分かったのだ!しかし………もう殆ど時間がないぞ?」

桐生「あ、しまった!じゃあ後半の方を少し読んでくれればいいから!」

十香「そ、そうか?なら………絶体絶命のピンチに見舞われた、セントとリューガは果たしてどうなるか!第45話、是非見てくれ!」




三人揃ってたっぷり混乱し、十香が慌てて胸元と下腹部を覆い隠す。

 

「な、なななななななななななぜこんなところにいるのだ!セント、リューガ!」

 

「い、いやいやお前こそなんでここ入ってるんだよ!」

 

「こ、ここここ男湯だぞ!」

 

「何を言っている!ちゃんと皆に教わった通り、赤い方に入ったぞ!」

 

「は……!?」

 

「何言ってんだよ!」

 

そこで戦兎はハッと身体を揺らした。嫌な予感が全身を通り抜ける。

 

「まさか、お前ら……………」

 

言って左右に目をやると、耶倶矢と夕弦がキョトンとした様子で返してきた。

 

「うむ、戦兎と龍我が入る前に暖簾(のれん)を変えておいた。さすが我。策士よの」

 

「質問。何か問題でもありましたか?」

 

「最っ悪だぁぁぁぁぁぁあ………ッ!」

 

戦兎は盛大に頭を抱え、二人を怨嗟の篭った目で睨みつけた。

恨み言の一つでも吐きたいところだが、今はそれどころではない。万丈の頭をつかみ、十香に向かって湯船に下げるような勢いで頭を下げる。

 

「すまん、十香!信じてくれ!俺たちは誓ってこんなことするつもりじゃなかったんだ!」

 

「ゴボッ、ゴボ、ゴビ、ゴボブバンバヨゼンボ(おい、どうしたんだよ戦兎)!」

 

「お、おお…………!?」

 

戦兎達が必死に訴えかけると(約一名は湯に頭が浸かった状態で)、十香は面食らったような顔になった。

 

「で、では何故こんな所にいるのだ………?」

 

「騙されたんだよ!すまん、すぐ出てくから!ほら、行くぞ万丈!」

 

「ゴボァッ!ケホッ、ケホッ、おいちょ、説明しろよ戦兎!」

 

「あ………セント、リューガ!」

 

戦兎が万丈の頭を強引に掴み、なるべく十香の身体を見ないようにして湯船から上がろうとすると、不意に十香が手を取ってきた。

 

「ど、どうした十香」

 

「いや………そちらはまずいと思うぞ」

 

「へ?」

 

「あん?」

 

戦兎と万丈が目を点にすると同時、またも引き戸が開き、女子の御一行様が入ってきた。

 

「っ、まずい_____」

 

「あ?おい、なゴボァッ!?」

 

慌てて万丈を引きずりながら湯船に身を沈め、岩陰に隠れる。

よく考えれば当然の事だ。入浴時間になって十香が入ってきたという事は、他の女子達も一斉に入ってきたという事である。

 

「やー、広いじゃなーい!」

 

「あ、転入生さん、もう入ってたんだ。ハヤイーッ!」

 

「海すぐそこじゃーん!いーじゃーん!いーじゃんスゲーじゃん!」

 

女子達の甲高い声が聞こえてくる。戦兎の脳内にさながらハザードトリガーのような、ドンテンカンな危険信号が聞こえてきた。

 

「さ、最っ悪だ…………!ど、どうすりゃいいんだこれ…………!考えろ、考えろォォォ……!!」

 

かつて見舞われたことのないピンチに、戦兎は盛大に頭を抱えた。脳内で『ヤベーイッ!』という警告音が何度もリピート再生される。

それでもどうにか自身の天才としての頭脳をフル回転させるが、極限状態の今ではネガティブな未来のイメージだけが無駄に克明に映し出される。

 

もしこんな所に潜んでいるのがバレた時には、間違いなく袋叩きにされるだろう。いや、それだけならまだいい。いや良くはないが。

最悪の場合二十六歳のおっさんが十六、七歳の女子高生の風呂に白昼堂々忍び込んだと大々的に報道され一生消えることのない性犯罪者のレッテルを貼られた挙句に残りの高校生活がまるで指名手配犯だった頃のような逃亡生活になり、変態とか性欲の塊とかロリコンとか言われ続けながら残りの人生を過ごしていくんだ。ああさようなら俺の第二の人生________

 

と、戦兎が半ば悟りを開いたような状態でガタガタ震えたところで、十香が戦兎達の陰を隠すように移動してきた。

 

「と、十香………!」

 

「セント達が悪いのではないのだろう………?なら、私の陰に隠れて早く逃げるのだ」

 

「…………!す、すまん。この借りは必ず返す………!」

 

幸い湯気と赤褐色の湯のお陰で、戦兎達の陰は見えづらくなっている。十香という隠れ蓑があれば、女湯の外くらいには逃げ出せるかもしれなかった。

 

「よし………では行くぞ」

 

「あ、ああ。良いな?万丈」

 

「は?お、おう!」

 

万丈は一瞬戸惑ったようだが、何となくの状況は察したらしく頷いた。こういう時は察しのいい奴である。

十香が湯船に浸かりながら、ゆっくりとカニ歩きを始める。その陰に隠れながら、二人で湯の中を進んでいく。

こんな時に消しゴムボトルがあればな、と心中思っていた、その時。

 

「あー!十香ちゃんはっけーん!」

 

「どしたの?そんな端っこで」

 

「ていうかうっわ、肌キレー。揉ませろコラー!」

 

十香の前方に、亜衣麻衣美衣トリニティが現れた。戦兎の脳内の警告音がマックスハザードオンになる。

 

「ひ………っ」

 

「い、いや、何でもないぞ!気にするな!」

 

十香がそう言うも、亜衣麻衣美衣は興味津々の様子だった。このままでは、十香の背後にいる戦兎と万丈にも気づかれてしまうだろう。

 

と、そこで。

 

 

『キュルッキュイーッ!キュルッキュルゥ!』

 

 

頭上から、聞き覚えのある鳥のような鳴き声が聞こえた。

 

「あ!飛行機の時の鳥ちゃん!」

 

「こんなところまで来たのねー!」

 

「マジ引くわー」

 

アライブガルーダだ。鳴き声を鳴らしながら、右往左往して飛んでいる。見たところ、迷い子のようだ。

しかしその鳴き声によって、三人の意識が逸れる。

 

よし、今だ万丈!

 

「は?って、うわぁぁぁぁぁぁあ……………ッ!?」

 

その一瞬の隙を逃さず、戦兎はハザードレベルに任せて万丈を担ぎ上げると、岩縁から海へとダイブした。

 

 

 

 

一方その頃、旅館の一室では。

 

 

「ガルーダどこだよーッ!?」

 

 

士道が部屋中のカバンを漁って、ガルーダを探していた。

なお数分後、窓の外から無事(何故か所々濡れた状態で)発見できたようである。

 

 

 

 

「…………ん?」

 

「あん?」

 

部屋で小型端末を操作していた令音と、座椅子に座りながらケータイを弄っていた一海は、不意に首を捻った。扉の外から二人分の、ペタペタという足音が聞こえてきたのである。

次いでその音が部屋の前で止まったかと思うと、コンコン、と扉がノックされた。

 

「おう、誰だー?」

 

一海が立ち上がって出ると、扉がゆっくりと開き、タオル一枚を腰に巻きつけただけの戦兎と万丈が、全身びしょ濡れで肩を抱いてガタガタ震えていた。

 

「なっ!?ちょ、お前らなんだよその格好!」

 

「ど、ドライヤーを、もじぐば、ドライヤーボドルを…………」

 

「べ、べや、上がらぜて…………」

 

「うおいちょこっち来んなおいやめろ濡れてっからあーッ!あー!!」

 

戦兎と万丈が何か縋るような様子で一海に近づき、一海が全力でそれを引き剥がそうとする。

令音はその様子を見て、数秒考えを張り巡らせ_____ポンと手を打った。

 

「……夜這いには、少し早いのではないかな?」

 

 

 

 

どうにか海から上がって令音の部屋まで辿り着き、予備の浴衣を借りた戦兎と万丈は、湯呑みに注がれたお茶を飲み干して大きくため息をついた。

 

「すいません、助かりました………」

 

「ったく、本当に死ぬかと思ったぜ………」

 

「……いや。災難だったようだね」

 

「全身びしょ濡れでくっから何かと思ったじゃねーか」

 

言って、令音と一海が肩をすくめる。

 

「_____それで、【フラクシナス】との通信は回復したんですか?」

 

戦兎が訊くと、令音が無言で首を振った。

 

「……いや、駄目だ」

 

「そうっすか………じゃああの二人______耶倶矢と夕弦は何なんですか?」

 

令音か。小さく首肯し、テーブルの上に置かれた小型のノートパソコンを操作する。すると画面に、望遠で撮影された、風の中に踊る二つの人影と、細かな数値や文字列が表示される。

この画像では人相までは判別できないが______

 

「これ、耶倶矢と夕弦ですか?」

 

「……ああ、恐らくね」

 

戦兎が画面を指さすと、令音は小さく首肯した。

 

「……実は、彼女らは我々の間ではちょっとした有名人でね。風の中で二人組の精霊を見たと聞いた瞬間から、何となく目星は付いてたんだ」

 

「有名人………て、いうと?」

 

「そりゃお前、テレビとかに出てるって事だろ」

 

「いや違ぇーだろ」

 

万丈の言葉に、一海が反論する。

 

「あ?じゃあ何だってんだよ」

 

「へっ、想像力の乏しい人間はこれだからよー。いいかぁ?こいつらはこうやって目立って現れてる。ご丁寧にこんな台風まで伴ってな。つまり、こいつらは誰かに自分を見てもらいたい……………即ち、アイドル志望って事だ!」

 

一海がさも名推理と言わんばかりの調子で言い、万丈と「イェーイ!」と手を叩いた。

 

「な訳ねえだろ」

 

しかし戦兎がその手を小突き、「ガーン!」と二人が突っ伏する。………なんか、美空がベルナージュに意識乗っ取られた時にも似たような光景を見たような。

すると令音がさして気にする様子もなく、説明を始めた。

 

「……彼女らは【ベルセルク】と呼ばれている。君達も見た通り、風を伴う精霊だ」

 

「【ベルセルク】…………」

 

「……ああ。世界各地で現界が確認されている二人組の精霊だ。こちらに現れては、常に二人でじゃれ合っているだけなのだが………その規模が問題でね」

 

「………なるほど」

 

戦兎は頭を掻きながら昼間の事を思い出した。木々を薙ぎ海を荒らす凄まじいほどの大嵐。あれを何度も起こされては堪ったものではない。

 

「……各地で起きている突発性暴風雨の何割かは、彼女らのせいだろう。その上目撃情報が非常に多いときている。アメリカではゴシップ誌に写真が撮られ、天使かUFOか、はたまた空飛ぶスパゲッティ・モンスターかでちょっとした議論になっているらしい」

 

「目撃………って、そういうことか」

 

「………なあかずみん。スパゲッティモンスターって何だ?」

 

「あぁ?そりゃお前、スパゲッティモンスターなんだからスパゲッティのモンスターだろ」

 

「いやスパゲッティのモンスターってなんだよ。訳わかんねーよ」

 

「いやだからよ、こう、スパゲッティがあるだろ?そこからこう、腕とか脚がだな」

 

と、一海と万丈がスパゲッティモンスター*1について話している傍で、戦兎が気付いた。

そう言えば、あんな近くに精霊が現れたというのに、空間震警報が鳴っていなかったのである。

 

「まさか、あの二人は静粛現界を?」

 

戦兎が訊くと、令音が首を横に振った。

 

「……いや、予兆は確認されていたようだ。______太平洋沖の遥か上空で、だがね」

 

戦兎は思わず目を丸くした。

 

「太平洋沖の上空、ですか?」

 

「……ああ。【ベルセルク】の二人の空間震規模はAランク………十香たちとは比べ物にならない大爆発だ。だがどういうわけかその多くは、何もない空中で確認されている」

 

「という事は______この島まで、空中から移動してきた、という事ですか?」

 

「……流石に勘がいいね、その通りだ。空中で現界した後に、まるで移動性大気圧のように二人で組んず解れつしながら、数百キロという距離を、僅か数分で移動してきたのさ」

 

「……マジかよ………」

 

「……世界を悩ませる意思ある台風さ。人間への明確な敵対行動を取るわけでも、世界を憎むでもなく、二人で争う余波だけで山河や街を壊滅させる。気まぐれな狂戦士だ」

 

令音がそう言いながら、キーボードを叩く。すると画面には、滅茶苦茶に破壊された街の様子が映し出された。

 

「……彼女達による被害は甚大だ。加えてその姿を衆目に晒しているというのも、精霊の存在を秘匿しておきたい組織にとっては悩みの種だ。故に耶倶矢と夕弦は、ラタトスクからもASTも、優先目標に入っている。……だが、今まで彼女らに接触できたものはいない」

 

「いない?………そうか!移動範囲と速度が………」

 

「……そう。速すぎるのさ。現界してからでは、誰も彼女たちに追いつけない。だからこそ君たちが二人に接触出来たのは、僥倖中の僥倖とも言える」

 

「なるほど………」

 

令音は頭をゆらりと動かし、続けてきた。

 

「……確かに今はフラクシナスとの連絡が途絶え、ラタトスクからのサポートが受けられない状況だ。私も今手元にある機材では、十分な解析は行えない。今までのように、スマッシュやマッドクラウンなどからの妨害を受ける可能性もある。このまま攻略を行うのはリスキーだろう。だが____悪いことばかりではない」

 

「と言うと………」

 

「……彼女らは今、向こうから君たちの気を引こうとしているじゃないか」

 

「ああ………」

 

戦兎は頬に汗を掻いた。そのせいで先程はえらい目に遭ったのだ。

 

「……てか万丈、お前も聞いとけよ。今回はお前も関係ある話だからな」

 

「いやだからそこは醤油じゃなくて味噌バターでって、戦兎?どうした?」

 

「どうしたじゃないよ。いつまで訳の分からない話してるの」

 

一海とずっと話していた万丈をこちらに向けさせ、話を再開する。

 

「……極めて遭遇率の低いベルセルク相手に、これは願ってもないチャンスだ。この機を逃すと、何の冗談でもなく、耶倶矢と夕弦にはもう二度と会うことができないかもしれない。だからこそ、二人の気が変わらないうちに封印を施してしまいたいんだ」

 

「てことはラタトスクのサポート無しで、攻略するって事か…………」

 

言ってから、戦兎はほんの少しの緊張感を感じた。

戦兎自身封印能力を持ってはいるものの、自分で攻略した精霊は、今のところ四糸乃一人である。ラタトスクによるバックアップ無しで、果たしてどこまでやれるか、と言うところだ。

 

「……そうなるね。これがシンだけでの攻略だったら、問題が生じていたが………幸いと言うべきか、二人はセイとバジンを、それぞれ気を引かせようとしている」

 

「あん?ちょっと待ってくれ令音さん。聞いた話じゃその霊力を封印する力ってのは、その五河士道ってやつと、戦兎しか持っていなかったんじゃないか?」

 

一海が疑問を問いかけると、令音は小さく首を振った。

 

「……ああ。その通りだ。_____つい先月までは、ね」

 

「あ?どういう事だよ」

 

「……備わっているのさ。______バジンにも、精霊の霊力を封印する力が」

 

「…………」

 

令音がそう言うと、万丈はほんの少し視線を逸らした。戦兎はそんな万丈を、黙って見つめている。

 

先の琴里の一件で起こった、マッドクラウンとナスティシーカーとの戦い。

 

あの戦闘に於いて、万丈はクローズチャージに変身して、マッドクラウンと戦ったのだが____戦兎が発見した時には既に変身が解除され、気絶した状態だったのだ。

それからフラクシナスに搬送され、精密検査を受けたところ______大きなダメージなどはなく、特に問題はないかと思われた。

 

_____だがしかし、その代わりに万丈の身体に、一つの変化が確認されたのだ。

 

 

それこそが、霊力の封印能力。まるで眠っていない力が覚めたように、突如として確認されたのだ。

令音ですらも想定していなかったようで、当然フラクシナスでは騒ぎになった。その後は万丈も攻略する事態に備え、一応訓練はして来たのだが_______

 

「………」

 

万丈の顔は、どこか浮かない様子だった。

 

「あ?おい龍我、どうしたんだよ」

 

「………別に、何でもねえ」

 

「なんだ、緊張してんのか?」

 

「…………まあ、そんなとこだ」

 

万丈がいつもより何処か投げやり気味に返事をする。その顔は事態を理解はしていても、どこか割り切れなさを感じているような、そんな表情だった。

 

「………まさか」

 

思い当たる節があった戦兎は、ハッとしたように顔を上げる。

しかし令音は三人を少し見やると、再び説明を始めた。

 

「……それでは、当面の予定だが_______」

 

 

 

 

「_____ふッ、はッ!」

 

その夜。

万丈は夜の海岸で、一人パンチングの練習をしていた。先ほどまでは砂浜で座っていたのだが、居ても経ってもいられずに、身体を動かし始めたのである。

しかしこうして身体を動かしていても、万丈の胸中にあるモヤモヤは晴れなかった。それどころか、どんどんと増しているような気がする。

 

「____あー、くっそ」

 

やがて拳を止め、その場に座り込む。どんなに動かしていても、身が入らないのだ。

先程令音に言われた言葉が、ずっと頭の中で繰り返されているのである。

 

 

「(………今回、セイは夕弦を、バジンは耶倶矢を相手にすることになる。バジンは今回が初めてだが、私としても精一杯のサポートをするつもりだ)」

 

 

精霊とデートをして、デレさせる。

 

言葉にすれば阿呆らしいそれは、世界を救うための数少ない方法だ。

 

その事の重大さや責任が分からぬほど、万丈は馬鹿ではない。彼とてその目で今までも十香や四糸乃など、多くの精霊達を______世界から拒絶され、自身の意思に関係なく世界を破壊してしまう彼女らを、何度も見てきた。

 

だが________

 

 

 

「『あぁ、こんな事になっちまったか。でも、困ったなぁ。攻略やデートをすると言っても、俺には最愛の彼女が_____』」

 

「………後ろで人の気持ちを捏造してナレーションしてんじゃねえよ」

 

 

万丈が投げやり気味に声をかけると、後ろの木の陰から戦兎がひょっこりと出てきた。

 

「………見てたのかよ」

 

「まあな。あの後お前、ずっと浮かねえ顔してたからな。伊達に付き合い長いわけじゃねえよ」

 

戦兎が隣に座り、「バナナ食うか?」と聞いて、どこからかバナナを取り出す。

いらない、と答えると、戦兎はもう一度聞いた。

 

 

「_______お前の恋人の事で、何か思うところがあるんじゃないのか?」

 

 

「…………っ!」

 

戦兎の核心を突く質問に、万丈は分かりやすく動揺した。

その様子を見て、戦兎がやはり、と言わんばかりの表情になる。

 

「やっぱりな。お前はすーぐ顔に出る。だから分かりやすいんだよ」

 

「……うるせぇ」

 

指摘されたことが何となく悔しかったのか、万丈が地面の砂を掴んで遠くに投げる。砂は潮風に煽られ、遠くへ霧散していった。するとその砂つぶの一つが、万丈の顔元に来たのか、万丈がむず痒そうな顔になり、「ハックショイッ!」と大きくくしゃみを出した。

 

「………バカだな」

 

「クシュンッ………うっせえよ」

 

万丈は鼻を擦ると、真面目そうな顔になり、口を開いた。

 

 

「_______俺と戦兎がやんなきゃ、あいつらも、世界も、何も救えねえのは分かってる。俺のこの気持ちが、只の我が儘だって事もな」

 

 

けどよ、と、まるで抑え込んでいたものを吐露するように、再び言葉を紡いだ。

 

 

「______デレさせて、キスするって方法が…………いまいち、乗り気になれねえ。なんつーかよ…………香澄(かすみ)を、香澄を大事に想ってた、自分の気持ちを裏切るようで、嫌なんだよ…………ッ」

 

 

そう言い、再び砂を掴み投げる。その答えを聞いた戦兎は、考えていた通り、という様子で顔を伏せた。

 

 

_____小倉香澄(おぐらかすみ)

 

かつて元の世界で死んだ、万丈の、最愛の恋人。

悪の組織、ファウストによって捕らえられ、スマッシュへと変えられ、その身体の病弱さ故に倒さざるを得なかった存在。

 

 

『______私と出会わなければ………もっと…幸せな人生が有ったはずなのに…………ごめんね………』

 

『ふざけるな………ッ!これ以上の人生が有ってたまるかよ!俺は………お前に会えて…………最高に、幸せだった…………ッ!』

 

『_____ありが、とう……………』

 

 

_____共に見ると約束した、桜の花を見ることすら許されず、その手の中で消えていった感触を、万丈は忘れたことがない。

 

そしてその後悔は、助けられなかった戦兎にも残っていた。責任を感じ、戦兎も目を伏せてしまう。

 

 

「…………万丈、俺は______」

 

「………いや、それはもういいんだ。あん時お前がいなかったら、香澄に別れを告げる事も出来なかったからな。それは、感謝してもし切れねえよ」

 

万丈はそれだけ告げると立ち上がり、砂を叩いた。

 

「………悪いな。俺の愚痴に付き合わせちまってよ。明日は早えんだろ?早く寝ないとなー」

 

と、わざとらしく言い、旅館の方へ戻っていく。

戦兎はその後ろ姿を、しばし見つめ、やがて自身も旅館へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

*1
アメリカ合衆国のボビー・ヘンダーソンという人が作った宗教と、そのシンボルのモンスターの総称。見た目はカタツムリみたいな目とミートボールみたいな物体が二つあり、その周囲に白い触手が生えているらしい。(Wiki参照)




どうでしたか?
また…………また更新が遅れた……………すまない…………すまない…………。

申し訳程度ですが、こちらアライブのイメージイラストです。第五章にしてようやくお見せできました。


【挿絵表示】


まあこんなもんです。…………誰が支援絵描いてくれないかな?チラッチラッ。(読者にわざとらしく媚びる作者の屑。ほんとすんません)
次回はもっと早く更新したいです……

それでは次回、『第46話 デレさせなければ生き残れない!』をお楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!


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第46話 デレさせなければ生き残れない!

桐生「どーも久し振りーっ!!仮面ライダービルドにして、誰もが羨む天っ才物理学者の、桐生戦兎でぇーすっ!!」

万丈「いきなりテンション高えよ!でも、本当に久しぶりだな」

桐生「まあ告知してたとはいえ、これだけ多くの読者を待たせてしまったわけなんだよ!だからこそ、最初はテンション高めで行った方がいーじゃん!いーじゃんすげーじゃん!」

士道「ほんっとうにテンション高えな………あ元からか。まあ何はともかく、これから更新を再開していくから、よろしくな!」

桐生「さぁーてそれじゃ、そろそろ本編の方、イッテイーヨッ!」

士道「イッテイイ、ってさ」

万丈「それじゃあ、第46話をよろしくな!」





日が明けて、修学旅行二日目。

戦兎達は、或美島北端部に位置する赤流海岸に来ていた。

 

本来であれば観光客で賑わうはずのその海岸にはしかし、一人も人影が見当たらなかった。

だが、それも当然だろう。戦兎と万丈、そして士道は更衣室に向かう所を令音に呼び止められ、一海が乗っていたレンタカーでこのプライベートビーチにまで連れてこられたのである。

なんでも()()()()()()()()をする上でクラスメートが邪魔になる可能性が高いとかで、昨日のうちにわざわざ手配していたらしい。

 

「はぁー、凄いなこりゃ」

 

「でっけえなぁ………」

 

空は快晴。強烈な太陽が海を照りつけ二人の目を細めさせた。

しかし中身は大人の二人は、恐らく一般的な海水浴場で遊んでいるであろう活気溢れる若人達とは違い、何とも老人のような口調でそう言った。最近の激務プラス昨日の風呂場での一件で、精神的にはまだ疲れが残っている事もあるのだろう。身体的な部分は持ち前のハザードレベル(若干低下してはいるが)と、十分な休息をとったので普通に元気だった。

 

「……なあ万丈知ってるか?海って塩分が多いと人が浮く事もあるんだぜ」

 

「へぇ、マジか」

 

などと、これからの事を憂いて気分転換の為に、何とはなしに話題を振る。万丈も興味半分に聞いているようだ。

 

「ああ。アルキメデスの法則っつてな、塩分が水の密度より高いと………って、お前に言っても分かんねえか。悪いな、万丈」

 

「おい!何だよそれ!まるで俺が馬鹿みてえな言い方じゃねえかよ!」

 

「そのものズバリでしょうが」

 

「俺にだって分かるぞ!その………アルミメールの法則!」

 

「うーん惜しい!三文字惜しい!奮闘したな、万丈」

 

「おいおい、褒めんなよ」

 

「皮肉ってんだよ馬鹿」

 

「誰が馬鹿だ!せめて筋肉をつけろ!」

 

「それ毎回聞いてるけどあんま意味変わんねえからな」

 

と、いつも通りのバカな会話をする。相変わらず乗せられやすい性格だ。そのうち人を(おだ)てて物を買わせる詐欺かなんかに引っかかるんじゃなかろうか。

すると、二人の右耳のインカムから、眠たげな声が響いてきた。

 

『……セイ、バジン。耶倶矢と夕弦が着替えを終えたようだ。準備はいいかい?』

 

その声に、ふざけていた二人の空気が引き締まる。深呼吸をして、応答をした。

 

『……昨日説明した通り、二人にはインカムを渡してある。一海とシンは、君たちのデートに支障がないよう、護衛とサポートを任せているから、安心して望んでくれ』

 

「り、了解」

 

「………おう」

 

そのような説明をされても、正直安心するどころか不安しかなかった。これがただの攻略ならそこまで緊張しなかったろうが、昨日最後に令音から、このような説明があったのだ。

 

 

曰く、今回のデートは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という、ややこしい上に不安要素しかない作戦を説明されたのだ。

令音が言うには、今回は今までと状況が違うため、今までとやり方を変えるのだという。そして期間は明後日______つまり、修学旅行の最終日までに、二人の霊力を封印するという。

昨日の昼にも令音と二人の間で取り決めが交わされたらしく、明後日までには必ずどちらかが相手を落とす、という事になったのだ。

 

 

『……彼女らへのアドバイスと君たちとの会話が混線するのを防ぐ為、一度回線を閉じる事になる。……バジンは今回が初だが、大丈夫かい?』

 

「………まあ、なんとかやるさ」

 

令音からの問いに、万丈が答える。昨日の夜から変わらず、やはり万丈はあまり乗り気では無いようだった。

重要な任務ではあるが、こればかりは簡単に割り切れるというものではない事は、戦兎にも分かった。ちなみに令音には昨日のうちに、戦兎が話を通してある。

 

『……君には君の思いがある事も分かるが、今だけは我々に協力してくれ。昨日は大変だったようだが、今日はこちらからある程度セーブするよ。では、作戦開始だ。彼女らの水着姿を褒めるのを忘れずにね』

 

その言葉を最後に、令音からの通信が途絶える。

すると同時に、後ろから二人分の声が聞こえてきた。

 

「くく……こんなところに隠れていたか。龍我よ」

 

「発見。見つけました、戦兎」

 

確認するまでもなく、それが誰か分かった。二人でゆっくりと振り向く。

そこには予想通り、耶倶矢と夕弦が立っていた。耶倶矢は山吹色のレースに飾られた濃い青のビキニ、夕弦は濃い赤地に青のレースのついた、兎のワンポイントが付いたビキニを身につけている。______クローズとラビットタンクの色をイメージしたのだろうか。

 

しかし双方とも、確かに良く似合っていた。こんな少女二人が浜辺を歩いていたら、思わず声をかける男も少なくないだろう。

 

「お、おう。似合ってるじゃんか。それ、クローズとビルドをイメージしたのか?」

 

「ま、まあ、良いんじゃねえか?」

 

令音に言われた通り戦兎と万丈が水着姿を褒めると、耶倶矢が驚いた様子で顔を赤くして目を見開き、夕弦がキョトンとした様子で自分の装いを見下ろした。

だがすぐにハッとした様子で、耶倶矢がうでくみしてくる。

 

「く、くくく…………そ、そうであろうそうであろう。よく気がついたな。だが勘違いするなよ。このような衣服なぞ、我の魅力の前には霞も等しいわ」

 

「謝辞。ありがとうございます。とても嬉しいですね。ですが、こうも簡単に見抜かれると、少し悔しいです」

 

次いで、夕弦が首肯しつつ、少し悔しそうに言ってくる。

すると今度は耶倶矢が、万丈を見て顔を赤らめる。

 

「ん?どうした耶倶矢」

 

「へっ!?あーいや、その………く、くく。流石は龍騎士。その肉体もまた、壮健に鍛え抜かれていたという訳か………」

 

「翻訳。耶倶矢は龍我の筋肉を見て照れているんです」

 

「ちょっ、夕弦!何言って……何を言うか!」

 

夕弦に言われて、若干話し方がブレながらも反論する。それを聞いて戦兎も、改めて万丈の身体に注目する。

成る程、確かに万丈の筋肉は、普段から鍛えてるだけあってかなりの物だ。腹筋は割れているし、彼の良く自慢する大胸筋も硬く引き締まっている。若返った事で多少のダウンはしているだろうが、それでも凄まじい筋肉だ。普段は半ば馬鹿にしているが、思わず感心してしまった。

と、そこで。

 

「……ん?」

 

「確認。はい」

 

不意に耶倶矢と夕弦が眉を動かしたかと思うと、二人がそれぞれ耳に手を当てる。よく見ると、彼女らの耳には戦兎たちのものと同種類のインカムが見受けられた。

 

「くく………成る程、承知した」

 

「了承。理解しました」

 

戦兎は思わず苦笑してしまった。慣れない動作だからだろうか、二人してインカムに気を取られているのが、なんとも可笑しい光景だったのである。

程なくして、耶倶矢と夕弦がインカムから手を離し、戦兎と万丈に向き直ってきた。

 

「龍我よ。常闇に身を置く我には、この天よりの光(ゾンネンシャイン)は少々堪える。我が身に、聖光を阻む瘴気の加護を施す事を許すぞ」

 

「は?」

 

「通訳。日焼け止めを塗ってください、と言っています」

 

「ああ………そういう事かよ」

 

夕弦の言葉を聞き、万丈も理解したようだ。

すると、今度は夕弦が戦兎の方へと向き直る。

 

「請願。戦兎、夕弦にもどうか、塗って頂けませんか?」

 

「へ?お、俺?」

 

夕弦からの言葉に、思わず聞き返してしまう。

だってそうだろう。日焼け止めを塗るということは、つまり______

 

「ふ………では頼んだぞ、龍我。我の背中は貴様に預ける」

 

耶倶矢が、なんか明らかに使う場面を履き違えている言葉を吐きながら、日焼け止めローションを万丈に手渡してくる。次いで、夕弦も同じように渡し、言ってきた。

 

「依頼。お願いしますね」

 

一体どこからこんな物を、と思ったが、戦兎たちのすぐ近くにパラソルやらレジャーシートなどが置かれた休憩スペースが設営されているのが見えた。多分用意したのは令音だろう。

 

二人は視線を交じらせると、パラソルの陰にうつ伏せに寝そべった。そしてトップスのホックを外し、その白い背中を戦兎と万丈に晒す。

 

「えー、あー…………」

 

「おい戦兎、どうすんだよ」

 

隣り合わせで寝転んだ二人の背中を見やり、戦兎と万丈は視線を交えた。

これを塗るという事は、直接少女の肌に手を這わせねばならないという事だ。いくら作戦とはいえ、流石に躊躇われる。

 

すると焦れたのか、耶倶矢と夕弦がインカムに触れて小さな声を発し始めた。

 

「おい、龍我が乗って来ぬぞ。話が違うのではないか?」

 

「質問。何がいけないのでしょうか」

 

「………っ、やべっ」

 

戦兎は眉をひそめた。万丈はまだどうするべきか決めあぐねているようだ。

今日の狙いは、令音のアドバイスに信憑性を持たせる事にあるのだ。ここで二人が二の足を踏んでいては、作戦が破綻してしまう。

 

「よ、よし、じゃあ塗るぞ!……………万丈が」

 

「は?おい、なんで俺が先なんだよ!」

 

最初の役を投げてきた戦兎に、万丈が抗議の声をあげる。

すると、戦兎が万丈に詰め寄った。

 

 

↓以下、パントマイムでお送りします。

 

(後で・バナナと・プロテイン・やるから・話・合わせて!・お前・経験者・だろうが!)

 

(もう・引っかかんねえよ!・同じ手に!)

 

(だったら・後で・追加で・カップ麺の・特上サイズ・奢って・やるから!)

 

(………分かった!)

 

 

 

意思疎通終了。

このやり取りをする度に買収料が増えている気がするがそれは置いておき、万丈の快い同意もあって、まずは耶倶矢の方に塗る事になった。

 

「よ、よーし。今から塗っからな………」

 

「くく…………さあ、早くせよ。我に瘴気の加護を!」

 

「……瘴気だか障子だか分かんねえけど、取り敢えず………」

 

万丈はその場に跪くと、手にローションを適量取り、耶倶矢の背中に触れた。瞬間______

 

「っ、ふぁ………っ」

 

なんて今までにない甘い声を出しながら、耶倶矢が全身をビクッと震わせた。

 

「!わ、悪い。冷たかったか?」

 

「だ、大丈夫だ。早く、しろ…………」

 

「お、おう………ったく、やりずれえったらありゃしねえな」

 

万丈はやはりどこか割り切れないような表情で、しかしちゃんと手を動かした。

だが万丈が手を動かすたびに、耶倶矢がくすぐったそうに身を捩りながら、「あ……っ」だの「んん……っ」だのと、やたら官能的な声を響かせてくる。

 

隣にいた夕弦もまた、耶倶矢のそんな様子を見て「おお……」と感嘆の声を発していた。が、すぐにハッとした様子で眉を動かし、戦兎の方へ顔を向けた。

 

「請願。戦兎、夕弦にも早く、お願いします」

 

「へっ?あ、ああ………」

 

戦兎もハッとなり、ローションを手で取って夕弦の背に塗り始めた。今までこういった事をしたことが無いからか、動きはどこかぎこちなかった。

 

「痙、攣。う………ぁ、っ」

 

すると夕弦が、小刻みに鼻から息を吐きながら、押し殺したような声を発してくる。

そして戦兎が少しずつ慣れ始めた手つきで、背筋に沿うように手を動かす。やはりそこは大人だからか、だんだんと戦兎にも少しではあるが、余裕のようなものが出てきた。

そして手を動かしていくと、遂に耐えきれなくなった夕弦が身体をビクンと跳ねさせた。

 

「あ、悪い……」

 

「驚……嘆、とても、上手です………戦兎」

 

「り、龍我だって、凄いんだからね!ほら、早く!」

 

「あ?お、おう………」

 

ようやく呼吸を整えたらしい耶倶矢が反論し、万丈に続きを促す。

 

結局この後、耶倶矢と夕弦は息も絶え絶えの状態に、戦兎と万丈は精神を削られた状態になりながらも、なんとかローションを塗り終えることができた。

 

ようやく耶倶矢と夕弦の呼吸が整った頃、二人のインカムから通信が入ったらしい。同時にインカムを押さえ、小さく頷き始めた。

 

「ふ、ふむ、次は………スイカ割り………?二人に目隠しをさせて…………?」

 

「確……認。フラフラにした後、ぶつからないように進行方向上に待機して………?」

 

「ちょっと待て!何しようとしてんだ!つーか通信内容言ってる時点でこっちにモロバレだからな!?」

 

たまらず戦兎が叫びを上げようとした時_____ピクリと眉を動かした。

二人のそれとは別に、どこからか声が聞こえた気がしたのである。

すると万丈が、戦兎を指で突いた。

 

「おい戦兎、アレって………」

 

「え?」

 

万丈が指した方向は、海だった。そしてそこに____

 

「_____セント!リューガ!」

 

「って、十香!?」

 

「どんなスピードで泳いでんだよ!」

 

そこには、物凄いスピードで滅茶苦茶なフォームになりながら、水しぶきを立ててこちらに泳いでくる十香の姿が見えた。

 

 

 

 

十香と戦兎達が遭遇する、少し前の事。

海辺の彼らの様子を見つめる、二人の人影があった。

 

「_____ちっくしょー、あいつらだけいい思いしやがってよー………俺もみーたんと海で遊びてぇ………」

 

「し、仕方ないですよ。ていうか、みーたんって誰?」

 

双眼鏡片手にいたのは、一海と士道だった。

士道は水着と上着、一海はアロハシャツに短パン、麦わら帽子にサングラスと、完全に旅行を楽しんでいる観光客の格好である。だがこれらの衣装を用意したのは、勿論彼らではなく、令音である。万が一に備えての、一応の変装だ。

 

「ったくよぉー、こんな格好用意させといて、遊ばせねえってのも酷だよなぁ………」

 

「あ、あはは………」

 

一海は愚痴をこぼしながらも、彼らの周囲に邪魔がないか、確認している。

今回耶倶矢と夕弦を攻略するにあたって、士道と一海に与えられた役目は、ビーチの見回りである。最近のスマッシュ関連の騒動により、令音一人では不測の事態に対処しきれない可能性が出てきたのだ。

そこで、今二人を攻略している戦兎、万丈の代わりに、ライダーに変身できる二人がこの役目を預かった、というわけである。

 

しかし士道としてはこの任務、少々気まずい思いがあった。

 

かつて戦兎達の仲間だったというこの男、猿渡一海。

悪い人ではないのは分かるが、やはり年上という事もあってか、どうにも緊張してしまう。そのせいか初めて会ったときから、あまり会話が交わせていないのである。

 

しかし、ここでこうしていては拉致があかない。士道は思い切って、口を開いた。

 

「………あの、少しいいですか?」

 

「あん?どうした」

 

一海が視線を海岸に向けながら、応答してくる。

 

「………その、猿渡さん」

 

「…あー、苗字でさん付けってのは、ちっと慣れねえな。名前で呼び捨てで構わないぜ。もしくはかずみん」

 

「は……?あ、じゃあえっと、一海、さん」

 

「まださん付けかよ。戦兎達のことは呼び捨てじゃねえか」

 

「ぐっ……そ、それはほら、見た目がアレだから、というか………」

 

そう言えばそうだ。最近忘れかけていたが、戦兎達はアレでもちゃんとした大人である。ついフランクな感じで話していたが、気をつけないといけないのだろうか。

まあ、本人たちは特に気にした様子もないし、大丈夫だろう………多分。

 

と、心の中で結論付けて、本題に入る。

 

「それで………一海さんも、仮面ライダー、なんですよね?」

 

「あー?まあ、戦兎達とはドライバーが違うけどな。………つーか」

 

と、そこで一海が、視線を士道に向けた。

 

「お前もじゃんかよ。最近入った新入ライダー」

 

「そんな入社したての会社員みたいな……」

 

「細けえ事は気にすんな。確か、アライブ、だったか?お前のライダー名」

 

そう言うと、一海は士道に向ける視線を、替えた。

まるで相手を値踏みするかのような、そんな目だ。そんな視線を当てられたからか、思わず身体に緊張感が走ってしまう。

 

「………なあ、士道」

 

「な、何ですか?」

 

「……お前、何のためにライダーになったんだ?」

 

「えっ?」

 

「あるだろ。ライダーになったからには、戦う理由の一つや二つくらいよ」

 

「………」

 

その言葉とともに、一海の視線がより一層深まったものになる。士道を試しているのだろうか。

しかしその問いに対する答えを、今の士道は持ち合わせていた。

 

 

初めて変身した時。

 

狂三の一件で、戦兎に叱責された時。

 

そして_____十香の言葉。

 

 

それらの度に、心の中で定め続けた事だ。

そして気づけば、言葉が勝手に口から出てきた。

 

「………俺、許せなかったんです」

 

「何がだ?精霊に対してか?確か、現れるたびに世界を破壊する、とかなんとか言ってたな」

 

その言葉に、思わず語気を強くして言う。

 

「____それは、彼女たちの意思じゃないッ!………だから、なんです」

 

「あん?」

 

「………精霊は、自分から世界を破壊することを望んでないのに、ASTとかから、攻撃されて………憎しみばかりを浴びせられて、その度に絶望するのが………見過ごせなかったんです」

 

「…………」

 

その言葉を、一海は視線を士道に向けたまま、ただ、黙って聞いていた。

そして士道は視線を落とし、軽く握った拳に向ける。

 

「それで、もう、絶望させないように………彼女達の笑顔を守りたいって、そう思ったんです。その為の力が、欲しいって」

 

「…………」

 

「だから、俺は十香……精霊の少女です。その子や、他の精霊を救いたい。そして、その笑顔を守りたい。………これが、俺の戦う理由です」

 

「………成る程な」

 

聞き終わると、一海は視線をフッと緩め、士道の肩に手を置いて、口を開いた。

 

「………見失うんじゃねえぞ、その覚悟をよ」

 

「えっ……」

 

「お前が言った、その覚悟。それがある限り、お前は確かに仮面ライダー(ヒーロー)だ。けどな、一度でもそれを見失ったら、そいつはただの兵器と同じだ。ただ闇雲に力をぶつけるだけの、殺戮マシーンになっちまう。お前が守りてえと思ったものを見失わねえ限り、お前は、()()()()()()()()()()だ」

 

「…………」

 

その言葉が、ストンと胸の中に入った。

 

 

守りたいものがあるから、力を使う。

その覚悟があるから、仮面ライダーでいられる。

 

これを、忘れちゃいけない。

そう胸に決め、士道はギュッと、拳を握った。

 

「……ありがとう、ございます」

 

「気にすんなよ。ただのお節介だ」

 

「………一海さんは、あるんですか?戦う、理由」

 

ふと、気になった。というか、最初にそれを聞こうと思っていたのだ。

それを聞くと、一海さんはどこか懐かしそうな、しかし悲しげな瞳を見せながら、言った。

 

「……ああ、あるよ。今も昔も変わらねえ、戦う理由がな」

 

そう言うと、一海は再び海岸へと目を向けた。

ポケットの中に突っ込んだその手のひらには、三つのドッグタグが握り締められていた。

 

 

 




お待たせして、本当にすいませんでした!

今回からまた投稿を再開していくので、よろしくお願いします!
なんか数週間書かないだけで、こうも文章力下がるんだなぁって痛感いたしました。徐々に回復させていくので、どうかご容赦下さい。

それでは次回、『第47話 ハートに火を点けて』、をお楽しみください!

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第47話 ハートに火を点けて

桐生「デート・ア・ビルド!これまでの三つの出来事!」

万丈「ひとーつ!修学旅行に来た俺たちは、二人の精霊、耶倶矢と夕弦に遭遇する!」

士道「ふたーつ!そして戦兎達はその最中、かつての仲間である、猿渡一海と再会を果たす!」

桐生「そして三つ!なんだかんだで耶倶矢と夕弦を攻略する事になった俺と万丈は、デートに挑むのだった!」

万丈「なあ、なんかいつもとあらすじ紹介が違うくね?」

桐生「気分だよ気分。いっつも同じ挨拶じゃつまんないだろ?」

士道「あれ、戦兎この前『いつものやり方だとネタが無くなる』ってぼやいてなかった?」

桐生「ちょ、そういう裏の話を表でするんじゃないの!と、というわけで、第47話をどうぞ!」







「………ま、まったく、酷い目に遭いました………」

 

来禅高校修学旅行のカメラマン____もとい、DEM社第二執行部部長兼、代表取締役秘書の、エレン・メイザースは、辟易した様子で、海岸近くの林の影にいた。

本来であれば()()()()()捕獲のために行動するだったはずが、とある三人の女子高生たちの手によって、どういうわけか砂の中へ頭だけを出して生き埋めにされるという事態になってしまったのだ。

その後、小一時間の格闘の末にどうにかこうにか砂の中から這い出し、息も絶え絶えになりながら、ここまで避難したというわけである。

 

 

「………随分と面白い事になってたようだねぇ。エレン・メイザースくん」

 

 

とその時木の上から、この苛立たしい精神の琴線に思いっきり触れてくるような声が、響いてきた。

声の主は誰だか分かりきっている。エレンは込み上げてくる苛立ちをどうにか抑えて、声の主に話しかけた。

 

「……何の用ですか?プロフェッサー・シンギ」

 

「あらら、怒り心頭と言ったところかな?その声音は」

 

相変わらず物腰丁寧に嫌な口調で話しかけてきた相手____神大針魏は、肩をすくめると座っていた木から、地面に降りた。

 

「いやぁ、最強の魔術師(ウィザード)とも謳われた君が砂まみれになってたら、気にもなるさ。まあでも、大方あの女子高生にやられたんだと推測はできるね。ねえ、もやしっこー部長?」

 

「っ!待ってください。その不愉快なあだ名は誰から聞いたんですか!?」

 

その言葉を聞いた途端、エレンが物凄い形相で、神大の襟元を掴んでくる。あまりに必死すぎる様子に、珍しく神大も面食らった顔になった。

 

「こらこら、服に皺が付くだろう?それにそんなに怒ってたら、君の顔にも皺が付く」

 

「………大きなお世話です………!というか、何ですかこのふざけた服装は」

 

「ふざけただって?心外だな。これは私の趣味だよ」

 

そう言われた神大の服装は、ハイビスカスの花がプリントされた半袖シャツに、『ブルルラァッ!!』と厳ついフォントで書かれた水着、そしてサングラスにキャップ、極め付けは袖が切られた白衣という、どこからどう見ても胡散臭い服装だった。白衣さえなければギリギリ辛うじて普通の観光客にも見えたかもしれないが、その長い黒髪が全て台無しにしていた。

 

これ以上は藪蛇だと思ったエレンは深く追求せずに溜息をつき、再び口を開いた。

 

「………それで、本当の用件はなんです?」

 

「おっと、そうだった。学校を辞めてしまったから、ここに来るまで割と苦労したんだ。用件を済ませないと、苦労が水の泡になっちゃうね」

 

そう言って半袖の白衣の襟を直すと、さっきまで上に座っていた木の下へ行き、何か銀色に光る物を取り出した。

よく見るとそれは、銀色のアタッシュケースだった。パッと見た限りは、普通のケースに見える。

 

「____以前から依頼されていたものが、完成したよ」

 

神大はそれを持ち上げると、エレンの元まで持って行き、ケースを開けた。

 

「っ、これは………」

 

そこに入ったものを見て、エレンは小さく息を漏らした。

そして神大はその反応を見て、ニヤリ、と、まるで()()のような笑みを浮かべた。

 

 

「____君専用に調整した専用のリバースドライバーと、擬似ボトルだ。CRユニットとの並列稼働も可能にしている。ドライバーの副作用を君のために排する事に成功した、私の功績を褒めてもらいたいね」

 

 

そこに入っていたのは、黒光りする注射器型のベルト、リバースドライバーそのものだった。その横にはそのドライバーに装填するための、試験官のような形をしたボトルが収められていた。

 

「………」

 

エレンはそのドライバーを手に取ると、少しの間、それを見つめた。

無駄な装飾のない、洗練されたフォルム。人を超人足らしめるための、まさに悪魔の道具である。エレン自身、何度かこのベルトを使用した事があるし、実際に訓練も行なった。

当然の結果として訓練の結果は他を圧倒し、寄せ付けないほどだった。彼女自身の、最強と呼ぶに伊達ではない強さと、そのベルトの性能が、彼女をさらに強化したのだ。

 

「………今回の君の任務は、確か『プリンセス』の確保、だったかな。………そのベルトを使うには、もってこいの舞台だと思わないかい?」

 

「……なるほど、そういう事ですか」

 

その意図を察したエレンは、不敵な笑みを浮かべて応じた。

それを見た神大も、満足そうに笑い、踵を返した。

 

「では、私はこれで失礼するよ。他にやる事もあるしねぇ」

 

ヒラヒラと手を振り、姿を消す神大。

エレンはそれを見やることもなく、再び行動を開始したのだった。

 

______それから十分もしないうちに、再び女子高生達の毒牙にかかって砂の中に埋められたのは、また別の話である。

 

 

 

 

十香が来た後、戦兎達は当初の予定を変更し、ビーチバレーをする運びになった。

十香が来たから、というのもあるが、一緒のチームで戦う事により、結束や仲間意識を高めよう、という魂胆らしい。

ちなみにチーム分けは、

 

 

Aチーム……耶倶矢、夕弦、戦兎。

 

Bチーム……十香、万丈、令音。

 

 

耶倶矢と夕弦が不満を残すチーム編成ではあったが、令音の『勝ったチームにはシンやセイ、バジンの誰にも知られたくない秘密を教えよう』という一言のもとに、試合は開始された。戦兎と万丈は冗談じゃないと抗議したが、無慈悲にも受け入れられなかった。

 

「よし!では行くぞ!」

 

そして十香の威勢の良い声と共に、試合は開始された。

が______

 

「いッ!?」

 

ボヒュゥッ!!という音と共に、ボールがネットを容易く突き破り、そのまま弾丸のごとく伸びてくる。戦兎は咄嗟に身体を横に移動させた。

ボールはさっきまで戦兎がいた場所を刺し穿つと、ギャギャギャギャァッ!と浜辺上でベーゴマのように踊ってようやく停止した。

 

「令音!今のは何点だ!?」

 

「……0点だ」

 

「むう、技術点は追加されないのか……」

 

「十香、多分だけどお前、なんか別の競技と勘違いしてるぞ。あと殺す気か!?」

 

そんな十香の一撃を見てか、耶倶矢が低い笑い声を上げた。

 

「くく……やるではないか。どうやら我も本気を_____」

 

「出さんでいい出さんでいい!」

 

こんな球の応酬をされては、命とハザードレベルがいくつあっても足りない。戦兎は全力で首を横に振った。

 

「ふん、まあいい。次は我々のサーブだな」

 

言って、耶倶矢がボールに手を伸ばし、存外綺麗なフォームでもって、相手のコートにボールを放った。

 

「おお、来たぞ!」

 

十香が声をあげ、ボールをレシーブする。

するとその後方に立っていた令音が、綺麗なトスを上げた。その時に令音の胸が上下に揺れ、一瞬だけ目が移ってしまう。

 

「警告。危険です」

 

「やべっ!」

 

夕弦に言われ、ハッと気づく。すると目の前には、ネットを超える勢いでジャンプした万丈の姿があった。

 

「オーラァッ!!」

 

裂帛の気合と共に、万丈がボールを手のひらに叩きつける。普段から筋肉筋肉言うほどの力はあるのだろう、その威力は確かに凄まじかった。

 

「くっそ、舐めんなッ!」

 

しかし、ここでタダでやられる戦兎ではない。

素早く後方にジャンプし、耶倶矢と夕弦の方向に、ボールを受け流す。

 

「よっし、今だ!」

 

「心得た!」

 

「同意。行きます」

 

戦兎がボールを受け流した方向に、耶倶矢と夕弦が滑り込む。

だが、二人同時に同じ位置に走り込んだためか、二人は頭をゴツンとぶつけてその場に倒れ込んでしまった。その間に、ボールはコート内でバウンドし、コロコロと砂の上を転がっていった。

 

「くあっ!な、何をしているのだ夕弦!」

 

「反論。こちらの台詞です。邪魔をしないでください」

 

耶倶矢と夕弦が額を押さえながら睨み合う。

 

「……十香。今のようにコートに入れれば、一点だ」

 

「おお、なるほど!やったな、リューガ!」

 

対して、反対のコートは賑やかだった。十香と令音、万丈がハイタッチをする。すると万丈が戦兎の方を向き、

 

 

「(悪いな、秘密を暴かれるのは、お前だ)」

 

 

と、ドヤ顔で戦兎に意思を伝えてきた。

 

「……あンっの野郎、後で絶対泣かせてやる」

 

と、戦兎がカチンときたが、それに構わず二人は言い合いを続ける。

 

「今のはどう見ても我の領分ぞ。出過ぎた真似をするでない!」

 

「反論。うすのろな耶倶矢では間に合わないと思いました」

 

「な、なんだと貴様!」

 

「応戦。何ですかこのやろー」

 

「って、おい落ち着け二人とも」

 

と、戦兎が間に入るのと同時に、向こうのコートで令音が、十香に耳打ちをした。

すると、

 

「_____ほう、そういうものなのか」

 

なんて言いながら、十香が踏ん反り返るように耶倶矢と夕弦を見下ろしてくる。

 

「ふっ、なんだ。耶倶矢と夕弦も大したことがないな!」

 

『………!』

 

「あ?急に何言ってんだ十香?」

 

見え透いた挑発に、しかし耶倶矢と夕弦はピクリと反応した。

万丈は何を言ってるんだか分からない様子で、首を傾げた。

 

と、令音がまたもひそひそと十香に耳打ちする。

 

「耶倶矢は弱虫で夕弦はへたっぴなのだ!二人揃ってへっぽこぴーだな!」

 

『…………』

 

やたら幼稚な悪口だったが、十香のその煽りに、耶倶矢と夕弦は静かに目を細くした。

 

「……ねえ夕弦」

 

「返答。何でしょう」

 

「……やっちゃう?」

 

「同調。やっちゃいます」

 

二人が、ちらと視線を交じらせ合う。

次のサーバーである令音はボールを手に取ると、ちゃんとしたフォームでコートの隅にボールを放ってきた。

 

「夕弦!」

 

「返答。わかっています」

 

だが、夕弦がすんでのところで滑り込み、そのサーブをレシーブする。

そしてそのボールを、耶倶矢が打ち上げる。先ほどの醜態が嘘かと思えるほどの連携プレーである。

 

「くっ、令音!」

 

「……ああ、分かっている」

 

すると次いで、令音がそのボールをトン、と軽やかにトスした。すると、今度は十香が高く飛び上がるのが見えた。

 

「おおッ!」

 

叫び、はるか上空から鋭いアタックを放ってくる。

 

「戦兎、止めろ!」

 

耶倶矢の声が響き、戦兎も慌てながら十香の一撃に備えた。

が、ボールは戦兎の手ではなく、一直線に顔面に突き刺さり、そのまま激しくバウンドして天高く舞い上がった。凄まじい衝撃と共に、視界がチカチカと眩む。

 

「ぐはァッ!?」

 

「す、すまんセント!狙いを見誤った!」

 

「賞賛。ナイスです戦兎」

 

しかし朦朧とする意識の中で、夕弦が声をかけてきた。

 

「設営。耶倶矢」

 

「おうとも!くく、後は知らないぞ!」

 

夕弦がその場に片膝をつき、両手を組み合わせて手のひらを上に向ける。そして走ってきた耶倶矢がそこに片足を乗せると同時、夕弦が耶倶矢の体を軽々と天高く放り投げた。

 

「な………!」

 

「うっそだろ!?」

 

十香と万丈の声が、敵コートから聞こえてくる。次の瞬間______

 

「______ハァァァァァァッ!!」

 

天高く舞い上がった耶倶矢が、上空のボールを矢の如しスピードで叩き落とし_______

 

 

「_______ン何でッ!?」

 

 

______軌道上にいた、万丈の顔面にクリーンヒットした。そのままボールはバウンドし、砂浜の上を転がっていった。

 

後に残ったのは、ひとしきり二人で喜んだ後に啀み合う双子の姿と、砂浜に倒れる二人の野郎、それを気遣う二人の女性という、なんともおかしな光景だった。

 

 

 

 

見回りを続けること、かれこれ十数分。

現在士道と一海は、別行動を取っていた。周辺を回っていたのだが、二手に別れた方が良いと判断したのだ。

 

「戦兎たち、上手くやってるかな……」

 

思わず、不安になってしまう。いや、戦兎に関しては、そこまでではない。

不安なのは、万丈の方だ。今回が初めて、と言うのもあるが、戦兎の話では、万丈にはどうやら複雑な事情があるらしい。敢えて踏み込まなかったが、大丈夫だろうか。

 

「……いや、信じなくてどうする、俺」

 

そんな弱気な考えを、頭から振り切る。

今の自分が考えていても、どうにもならない事だ。確かに心配だし、不安ではある。が、それを無闇に掘り返すのは、精霊たちにしている事とはまた違うだろう。

今の士道に出来るのは、二人を信じて、自分の仕事をやる事だけだ。

 

「………て言ってもなぁ。ここら辺回ったら、また元の場所に戻って______」

 

 

「おやおや、久し振りだねぇ、士道クン」

 

 

その時、聞き慣れた、慣れてしまった、嫌な声が聞こえた。

 

「………ッ、お前は、神大…………!」

 

神大______数週間前に来禅高校を去った、士道達の_____敵だ。

 

 

「どうやら君の仲間の戦兎クンや万丈クンが、面白いことになってるようだったからねぇ。少しばかり、引っ掻き回そうと思ってさ」

 

そう言うと、神大は懐から銃_____リバースチームガンを取り出した。

 

「ッ、戦兎たちの邪魔はさせない!ガルーダ!」

 

手を上に掲げ叫ぶと、上空に赤い鳥型ガジェット______【アライブガルーダ】がやってきた。上空で変形し、士道の手中へと収まる。

そして握りしめたボトル_____スピリットフルボトルを振り、成分を活性化させた。活性化させたそれを、変形したガルーダへと挿し込む。そしてそのまま、装着した【リビルドライバー】に装填した。

 

一方の神大も、取り出したビーオルタナティブフルボトルを取り出し、軽く振り、リバースチームガンへと装填する。

 

 

【Get Up!ALIVE-SPIRIT!!】

 

 

BEE ALTERNATIVE………】

 

 

互いに待機音声が鳴り、神大は銃を顔の横へ持っていき構える。士道は【ボルテックチャージャー】を回して、エネルギーを充填し、自身の前後に高速ファクトリー、【スナップリアライズビルダー】を展開した。

 

 

【Are You Ready?】

 

 

「変身ッ!」

 

「凝装」

 

 

【LIQUID MATCH………

 

 

声と共に、神大は引き金を引き、士道はファイティングポーズを取り、アーマーを纏った。

 

 

【Get Up Strike!Dead Or ALIVE-SPIRIT!!イェーイッ!!

 

 

BEE……NASTY……BEE REBIRTH!!

 

 

仮面ライダーアライブと、ナスティシーカー。

二人は相対すると、その場で構えた。

 

【ALIVE LASTER!】

 

【SLASH VERSION!】

 

「ハァッ!」

 

アライブラスターを取り出し、アライブがナスティシーカーへと迫る。

 

ふん……

 

【SMASH……REALIZE】

 

しかし、シーカーはミストブレードを取り出すと、スイッチを操作し、リキッドスマッシュを呼び出した。アライブの行方を阻むように、数体が立ちはだかる。

 

「クッソ……!」

 

さぁて、どうする?

 

シーカーの煽るような言葉を無視し、アライブラスターで敵を切り裂く。しかしリキッドスマッシュの特性により、斬りつけても透けて避けられ、簡単にダメージを通すことができない。

 

「だったら………」

 

_____透けて避けきれないほどの、ダメージを与えればいい。

 

アライブはブラスターを地面に刺すと、ボルテックチャージャーを軽く回し、エネルギーを溜めた。

そして中腰になり、拳に力を込める。

 

「ハァァァア…………ッ!」

 

【Ready Go!】

 

瞬間、拳に熱を伴ったエネルギーが循環し、拳諸共炎の塊と化す。

 

 

【SPIRIT BREAK!!】

 

 

「オリャァーッ!!」

 

『ァグァグァァァァー…………ッ!!』

 

そのまま突き刺すように拳を打ち、エネルギーを前方へと飛ばす。

巨大な炎柱状のエネルギーは、前方にいたリキッドスマッシュ数体を巻き込み、消失、或いは深手を負わせることに成功した。

 

しかし。

 

『アグァゥゥ………』

 

「くっ、まだこんなに…………」

 

周囲のリキッドスマッシュは、依然数を増やしている。奥にいるシーカーが、ミストブレードから消失分を増加させているからだ。

地面からアライブラスターを引き抜き、再び構える。

と、次の瞬間。

 

 

「______オラァッ!」

 

 

突然横から出てきた人影が、リキッドスマッシュの一体を殴りつけた。

 

「痛ってえ………これ絶対折れてるってぇ…………と思ったら、折れてねえ」

 

拳を抑えながらそう言い、顔を上げたのは______一海だった。

 

「一海さん!?」

 

何?

 

突然の登場に、アライブもシーカーも、動揺した様子を見せる。

一海は周囲を見回すと、鋭い目を向け、口を開いた。

 

 

「_____よぉ、俺に内緒で何楽しんでんだ」

 

 

そう言い、一海はサングラスを外し、地面へ放った。

そして右手に持った水色のベルト_______【スクラッシュドライバー】を腰にあてがう。

 

 

 

【スクラァァッシュドォライバァー!!】

 

 

 

「_______()()…………心火だ」

 

 

そして_____右手に持ったのは、ゼリーパック状の、万丈が持っていたものと、形は同じだが絵柄が違うアイテム_____【ロボットスクラッシュゼリー】だった。

 

 

「_____心火燃やして………てめえらを、ぶっ潰す」

 

 

口元に、僅かな愉しさを滲ませながら、一海がそう言う。そして手に持ったゼリーを、スクラッシュドライバーへと挿し込んだ。

 

 

ロボットジュゥエリィー!!

 

 

蒸気のような待機音が鳴り響くと共に、一海が人差し指を前方へと向ける。そしてそのまま指を上へ向けると同時に、【アクティベイトレンチ】を勢いよく下げ、ゼリーが()()()

 

 

「_____変身!」

 

 

レンチが押されると同時に、ドライバー右側のゼリータンクへ、スクラッシュゼリーが()()()

一海の周囲にビーカー状のファクトリーが形成され、内部を黒と金が混ざったゼリー状の______まるで機械潤滑油(グリス)のような液体で満たした。

 

 

【潰れるゥッ!流れるゥッ!!溢れ出るゥッ!!!】

 

 

音声と共にビーカーが一海へと集中し、黄金のスーツを生成する。

そして頭部から()()()()【ヴァリアブルゼリー】が全身にかかり、頭部、胸部、両肩部アーマー、【クロスアーマー】を形成した。

 

 

 

ロォボット・イィン・グゥリィスゥゥッ!!ブルルルルゥゥゥラァァァアッ!!!】

 

 

 

______仮面ライダーグリス

 

 

かつて、仮面ライダービルドらと共に、世界を救うため戦った、黄金のライダーが蘇った瞬間。

 

その瞬間は_____

 

 

「______さぁ、闘い(祭り)の始まりだ」

 

 

_____祭り(闘い)が始まる、瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 




ライドウォッチ風に

・仮面ライダーアライブ

『アライブ!』

『魂を燃やせ!精霊の力で戦う、炎のライダーは………アライブだ』

『アーマータイムッ!!Get Up Strike!アラーイブッ!!』

『スピリット!ターイムブレークッ!!』


・ビルド ラビットザドキエル

『ラビットザドキエル!』

『スペシャルマッチ!吹雪の力と超スピードッ!ビルド!ラビットザドキエル!』

『アーマータイムッ!!バッキィーンッ!!ラビットザドキエールッ!!』

『ハーミット!ターイムブレークッ!!』


・仮面ライダーデモリッシュ

『デモリッシュ!』

『災厄を殺す者!ナイトメアを追うライダーは………デモリッシュだ』

『アーマータイムッ!!WOLF ALTERNATIVE デモリーッシュッ!!』

『デモリッション!ターイムバーストッ!!』

ふと思い付いたので。
これからもやるかもしれません。
また一週間くらい遅れてすいませんでした。

それでは次回、『第48話 生かすことと戦うこと、ジレンマは終わらない』を、お楽しみください!

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第48話 生かすことと戦うこと、ジレンマは終わらない

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎と愉快な仲間達は!修学旅行で訪れた或美島で、謎の精霊、耶倶矢と夕弦と出会い、デートをすることになる!」

万丈「おい!なんだよその雑な括り!もっと丁寧に説明しろよ!」

桐生「気にすんなって元からこんなもんだし」

万丈「そんな訳ねーだろ!せめて名前出すとかよー!」

桐生「えー、じゃあ、筋肉バカ?」

万丈「ちげえよ!そこはプロテインの貴公子だろ!」

桐生「文句が多いなぁ。というわけで、こんな万丈がいなくても全然問題ない、第48話をどうぞ!」

万丈「大有りだわ!俺ほんとに泣いちゃうからね?」









「______仮面ライダーグリス、ここに、再誕………!」

 

 

変身した一海______仮面ライダーグリスは、悠然と構え、前方のシーカー、リキッドスマッシュらを見据えた。

 

「一海、さん…………」

 

「ん?よぉ。なかなかイカしてんじゃねえか、アライブってやつ」

 

軽い口調で言いながら、前方へ向かい、構える。

そして右手を握ると、装甲からゼリー状の物質が噴き出し、腕の甲に纏わり付いた。

 

 

ツインブレイカーッ!

 

 

スクラッシュドライバー専用武器、【ツインブレイカー】である。杭状の【ライジングパイル】が突き出た【アタックモード】となり、左手を添えるようにパイルへ置く。

 

………ほう、面白い

 

「何処の誰かは知らねえが…………こっちは久し振りの祭りでウズウズしてんだ」

 

ツインブレイカーを突き出すように構え、さながら獲物を狩る獣のような眼光を、マスク越しに光らせる。

 

 

「_______俺を、満たせろよ………… !」

 

 

短く、しかし力強く言い、グリスは、敵へと向かった。

 

「オラアァッ!!」

 

突き出したパイルでアッパーカットを決め、相手を潰し、向かってくる敵を、蹴り、殴る。

液体の体を持つリキッドスマッシュは、その身体をまるで粘土のように歪ませ、その場に四散、蒸発した。

 

「足りねェなァ…………全然足りねェぞォォッ!!!」

 

稲妻のように鋭く、獣のように貪欲に、重く、早く、貪るように討つ。

まるで飢えた肉食獣のように、満たされない欲を満たすように、グリスは敵へと向かう。パイルで穿ち、拳で打ち、脚で蹴り砕く。

 

アライブも交戦するが、グリスはさらに圧倒的だった。

経験が違うのもあるが、グリスは今、久しぶりの祭り(戦い)に_____心が踊り滾っていたのである。

 

「誰が俺を………満たしてくれンだよォォォッ!!!」

 

シングルッ!シングルブゥレイクゥッ!!

 

ロボットゼリーをツインブレイカーに装填し、鋭角なゼリー状のエネルギーを前方へと飛ばす。リキッドスマッシュはエネルギーに突き刺され、三体が纏めて爆散した。

 

「ハァァ………ッ!」

 

Ready Go!

 

一方のアライブも負けじと、ボルテックチャージャーを強く回し、エネルギーを両脚へと溜める。そして後方に現れたエネルギー体、【アライブガルーダ・ライジング】を纏い、空中からドロップキックを放った。

 

 

SPIRIT FINISH!!

 

 

「オリャァァァーーッ!!」

 

『ァグゥァアァィイァァ………!』

 

アライブのキックを受けたスマッシュが、爆散し蒸発する。

そしてアライブは向きを変えると、シーカーの方へと向いた。。

 

「ハァッ!」

 

アライブラスターを構え、アライブがシーカーへと迫る。

シーカーは構えたミストブレードで刃を受け止め、互いに向かい合う形になった。

 

おっと、野蛮だなぁ

 

「お前……一体何が目的なんだ!」

 

いずれ分かる事さ。それより一つ……気になることがあるねぇ

 

「何っ?くっ……!」

 

ブレードを跳ね返されたが、再度距離を詰め、シーカー目掛けて斬りつけようとする。

 

____ガキィッ!!

 

再びブレードが交差し、睨み合う形となる。

その時、シーカーが言葉を発した。

 

 

_____君、本当に()()かい?

 

 

突然、そんな事を聞いてきた。

 

「何………!?」

 

余りに突拍子のない質問に、アライブが混乱する。シーカーはブレードを構えたまま、続けた。

 

元々人体実験を受けていた、桐生戦兎や万丈龍我は兎も角……少し前までただの高校生だった君に、何故精霊を封印する力、ライダーシステムを扱う力があるのか………疑問は沢山あるねぇ

 

「ッ、それは………!」

 

その問いに、アライブは言葉を詰まらせた。

考えてみれば疑問は幾つもあった。これまでにも疑問に思ったことはあったが、それを本気で考えようとはしなかった。だからこそ今、こうして相手から言われて初めて、思わず、考えてしまったのだ。

 

 

______自分は、何者なのだろうかと。

 

 

そして先日、修学旅行へ行く前に、折紙を呼び出した際にから言われた言葉が、脳裏をよぎった。

 

 

 

『____士道、あなたは、人間?』

 

 

 

あの時は人間だ、と言った。その時の折紙の質問の意図は、士道が持つ再生能力の事について疑問に思っていたからだったのだ。

しかしその再生能力とて、元は士道の持つ封印能力によるものである。

その力はどこから来たものなのか、そして何故、人体実験でネビュラガスを投与されていない、投与され得ない自分が、ライダーシステムを扱えたのか。

 

その答えは、戦闘の最中には見つけられなかった。

 

 

「ッ、しま………!」

 

フフ、油断したねぇ

 

 

その答えを考えるより先に、シーカーがブレードを跳ね、斬りつけてきたからだ。

 

「ぐあッ!?」

 

勢いに負け、後方へと吹き飛ばされてしまう。ブレードを構えたシーカーが、こちらへとにじり寄ってきた、その時。

 

ぐっ………何?

 

アライブよりも後ろから、無数の光線がシーカーを撃った。

 

「よォ。俺を放ったらかしにして、随分楽しそうじゃねえか?」

 

グリスだった。

残っていたスマッシュを一掃し、ビームモードへと切り替えたツインブレイカーを構え、アライブの救援に来たのだ。_____どちらかというと、次にやり合う相手を探したようにも見えたが。

 

あの数をもう片付けたのか。流石に、もうエネルギーも少ない_____

 

シーカーはブレードを一瞬見ると、ブレードをしまい、リバースチームガンを取り出した。

 

今のところは引いておこうかな。二対一では流石に分が悪い

 

「ッ、待て!」

 

それでは、See You Next Time

 

そう言い残すと、シーカーは引き金を引き、その場から消えていなくなった。

グリスとアライブのみになり、二人はそれぞれゼリーとボトルを引き抜き、変身を解除した。アライブの変身解除と同時に、ガルーダが何処かへと飛んでいく。

 

「ったく、何なんだ?あいつ………」

 

「……………」

 

一海が胡散臭げに呟き、士道はただ黙って、シーカーに問われた事の答えを、考えていた。

 

 

 

 

「痛ってえ………ちっくしょ、ちったあ手加減しろっての………」

 

万丈は頭にできたたんこぶをさすりながら、海辺に設営されたトイレへと向かっていた。ちなみにバレーは戦兎達のチームの勝利に終わり、戦兎がいい気味だと言わんばかりに煽ってきたのだ。

ちなみにその後、耶倶矢が気絶してたのにトイレなんて危ないと手伝おうとしてきたので、強引に振り払ってきた。

 

『……大丈夫かい、バジン』

 

と、右耳に令音の声が聞こえてくる。万丈は疲れた様子で、口を開いた。

 

「まあな………そっちは、どうなんだ?」

 

『……正直、まだ何とも言えないな。あとは二人の対抗心をどれほど______』

 

と、令音が不意に言葉を切った。

 

「令音さん?おーい、バグってんのか?」

 

眉をひそめてインカムを小突くが、何の反応もない。

するとその直後に、トイレの脇から耶倶矢が顔を出してきた。

 

「耶倶矢………?お前、なんでこんなとこいんだよ」

 

「くく………愚問だな」

 

「あぁ?愚問だかクモンだか知らねえけど、早くみんなのところ…………」

 

そう言ったところで、万丈はハッとなり叫んだ。

 

「だ、だから手伝いはいらねえって言ったじゃねえかよ!」

 

「は………?」

 

耶倶矢は一瞬キョトンとした後、顔を真っ赤に染めた。

 

「な、あ、あんなのその場のノリで言っただけに決まってんじゃん!本気にすんじゃねーし!バカなんじゃないの!」

 

「バカってなんだよ!お前が言い出したんじゃねーか!あとせめて筋肉つけろよ!」

 

「何それ、意味分かんないし!な、なんで私があんたの………その………」

 

耶倶矢がそこで顔を俯かせ、言葉を詰まらせる。

 

「とッ!とにかく、用件は別にあるの!」

 

「な、何だよ………つーか」

 

そこで万丈は、一つ気になっていたことを思い出し、耶倶矢に訊いた。

 

「お前、その喋り方のままでいいのか?」

 

「あ」

 

耶倶矢はしまった、という顔を作り、すぐさま咳払いをして、格好いいポーズを取ってみせた。

 

「くく………我が道化芝居に謀られたな。我が手のひらで踊る龍の姿は非常に滑稽であったぞ」

 

「…………」

 

「………なーによ、その目は」

 

耶倶矢がぶー、と唇を尖らせてくる。万丈は疑問符を浮かべながら頭を掻いた。

 

「いや、なんでわざわざ無理してそんな訳わかんねえ喋り方してんのかなと思ってよ」

 

「無理してないし!てか、訳わかんなくないし!龍我が理解できてないだけだし!」

 

「はぁ!?おい、どういう事だよそれ!てか、戻ってんじゃねえか!」

 

「は…………っ!」

 

耶倶矢は愕然とした表情を作ると、はあと息を吐き、小声で呟いてきた。

 

「………だって、あれじゃん。私、精霊だし。こう、超凄いじゃん?だったらやっぱそれなりの威厳というかさ、そういうのが必要なわけじゃん?」

 

「………別に、要らねえと思うけど」

 

万丈は眉根を寄せてうむむと唸った。正直あの喋り方は、威厳云々より何を言ってるのか分からなかったのだが。

 

「要るわよ。せっかくこんな格好いい出自と、悲劇的な環境が用意されてるのよ?やっぱそれなりの人物像じゃないと」

 

「思いっきり間違えてる気がするけどまあ……お前が良いならいいんじゃね?それで、用件ってのは何だよ」

 

万丈が言うと、耶倶矢は首肯してから続けてきた。

 

「なんかめんどくさいからこのまま続けるけどさ、今、私があんた、夕弦が戦兎を、どっちが先に落とすかでバトルしてるわけじゃん?それで、明日までにはその決着も着く」

 

「確か、そうだったな………て、お前、まさかズルしようってんじゃ………」

 

耶倶矢が自分に根回しをしに来たのかと思い、眉をひそめる。

_____だが耶倶矢は、全く予想外の台詞を吐いた。

 

 

「________龍我。あんた明日_____私のこと、盛大に()()()()()()()

 

 

「………は?」

 

全く想像してなかった言葉に、口を開けて固まる。

 

「は、じゃないでしょ。何その間抜けな顔」

 

耶倶矢が可笑しそうに笑いながら、肩をすくめて続ける。

 

「だって、悩むことなんかないでしょ。夕弦、超可愛いじゃん。確かに愛想はちょっと無いかもしれないけど、従順だし、胸大きいし、もう男の理想とベストマッチ!したような超萌えキャラじゃん。戦兎だってきっともう落ちてるよ。あんただってきっと私より、あいつの方がお似合いでしょ。だからあんたが私をフれば____」

 

「ちょ、ちょっと待てよ!何言ってんだかさっぱりだ。ちと整理させてくれ」

 

万丈は混乱する頭をどうにか整理して、耶倶矢を制止した。彼女の言っていることが分からない。

否、言葉の内容は、多少は理解できるし、フる、という事がどういう事かも分かる。だがそれは____

 

「お前ら確か………この勝負に勝った方が生き残れる、とか言ってたよな」

 

「うん。正確に言うなら、勝った方が八舞の主人格になって、もう片方の人格は消えるって話なんだけどね」

 

「だったら、なんでだよ………」

 

万丈が喉を絞るように言うと、耶倶矢は頭を掻きながら困ったように笑った。

 

「………そりゃ、私だって消えたくない。あんたの秘密だって、全然暴けてないし。けど、それ以上に_____私は、夕弦に生きて欲しいの。もっと色んなものを見て、もっといろんな世界を見て、思いっきり楽しんで欲しいの」

 

「………っ、お前」

 

万丈が苦しげに呻くも、耶倶矢は構わずに言葉を続けた。

 

「っていうか、あんたらが乱入してこなかったら、あの時全て解決してたんだからね。あそこで私が怪物に単身挑んで、『やーらーれーたー』ってダウンして、っていう流れだって出来たのに」

 

耶倶矢がビッ、と万丈に指を突きつけながら言ってくる。

 

「っ、だったら、俺たちのどっちかを先に落とした方が勝ちってのは………」

 

「ああ、あれ?そりゃ戦兎は落ちるでしょ。夕弦と方が可愛いし、惚れないわけない。この勝負だったら、まず間違いなく夕弦が勝てるでしょ?………それに」

 

そう言うと、耶倶矢が少しだけ申し訳なさそうに言った。

 

「………聞いちゃったからさ。龍我って、恋人いたんでしょ?」

 

「はっ?な、なんで、それ………」

 

「令音から、さっきのバレー勝負の景品でね。やむなく別れたって話だけど、今でも凄い大切に想ってるそうじゃない」

 

どうやらあのバレー勝負の後、令音が細部を誤魔化して耶倶矢に伝えたようだ。

 

「………それは」

 

「だからそんなあんたを私が取っちゃったら、彼女さんにも申し訳ないしねー。ていうか」

 

すると耶倶矢が一瞬で万丈の目の前まで移動し、万丈の唇を塞ぐように人差し指を立ててきた。

 

「別に龍我の意見は求めてないし。あんたはただ明日、耶倶矢なんかいらない、大っ嫌いです。もう近寄らないでくださーいって言えばいいのよ。…………でないと、この島ごとあんたの友達や仲間、全員吹き飛ばしてやるんだから」

 

言葉の途中で耶倶矢が目を細くし、声を低くして喉を鳴らしてくる。

万丈はごくりと息を飲み、緊張でその場に立ち竦んだ。

耶倶矢がふっと表情を緩め、足を引いた。そして身体の向きをくるりと変え、やたらと格好いいポーズをとる。

 

「くく………ではさらばだ、蒼き龍騎士(仮面ライダークローズ)よ。此度交わせしは血の盟約ぞ。違えれば其の身の髄まで煉獄の焔(フェーゲフォイア・メレン)に灼かれると知れ!」

 

言って、耶倶矢が去っていく。

万丈はその場に立ち尽くして、硬く拳を握りしめた。

 

あの時耶倶矢は笑って、夕弦に生きていてほしいと、そう言った。

 

______だったら、何で。

 

 

「………あんなに、泣きそうな顔で笑ってんだよ。こちとらそんな顔見るために、仮面ライダーやってるわけじゃねえんだよ…………ッ!」

 

 

その、自分を殺してでも夕弦を生かそうとする、耶倶矢の悲壮なまでの覚悟が_____重く、万丈の心にのし掛かった。

 

 

 

 

「万丈のやつ、遅っせえなぁ。まだトイレ籠ってんのか?」

 

一方の戦兎は、海岸の自販機で、飲み物を買っていた。先ほどのビーチバレーに勝利したはずなのだが、不思議と勝った実感が無い。恐らく後半の記憶がないからだろう。とりあえず万丈の事は煽っておいた。

アイスコーヒーの缶を買い、戻ろうとしたその時。

 

「制止。戦兎、止まってください」

 

「ん?」

 

背後から話しかけられ、戦兎は後ろを向いた。

夕弦の声だった。いつの間にか自販機の側で、戦兎の背後に立っていた。

 

「どうしたんだ?みんなのところ行かないのか?」

 

「応答。戦兎に少し話があって来ました。……耶倶矢はいないですね?」

 

「ん?ああ、そういや耶倶矢もどっか行ったな。………て、おいおい、まさかズルしようってのか?正義のヒーローはそんな頼み事は引き受けられないぞー?」

 

「否定。違います。明日、私達の勝負の決着の件で、お願いがあります」

 

「お願い?」

 

缶コーヒーを開けて飲みながら、戦兎が訊く。

 

「肯定。その通りです。………単刀直入に言います」

 

夕弦は深く首肯すると、まるで何という事もないように、言葉を続けた。

 

 

「請願。戦兎、この勝負で、私の事を()()()()()()()

 

 

「________え?」

 

その、あまりに突拍子も無い言葉に、頭の中がひどく混乱した。手にした缶コーヒーが地面に落ち、液体が砂に溢れて染みる。

 

「どういう、ことだよ、それ………」

 

「要求。どうもこうもありません。それよりも、お願いします。明日絶対に、私のことを盛大にフッて、耶倶矢を勝たせてあげて下さい。約束です」

 

夕弦が頭を下げ、懇願してくる。それよりも戦兎の頭の中は、まるで絡まった糸のように、ぐちゃぐちゃに混乱していた。

 

「なんでそんな事………だってお前ら、どっちかが負けたら____」

 

「応答。負けた方が消え、勝った方が生き残る。簡単なルールです。それならば勝者は、耶倶矢を置いて他にいないでしょう。悩む余地はありません。耶倶矢の可愛らしさは、戦兎だってよく分かってるはずです。多少強がりなところはありますが、一途ですし、面倒見は良いですし、触れれば折れそうな華奢な肢体をぎゅっと抱きしめた時の快感はもう天国としか言いようがありません。きっと耶倶矢が龍我の恋人になれば、きっと幸せになれるはずです」

 

「……お前、まさか」

 

戦兎が言うと、夕弦は目を伏せて頷いた。戦兎が考えている事は、もう何度も熟考したと言わんばかりに。

 

「耶倶矢こそ、真の八舞に相応しい精霊です。龍我もこの一日でよく分かった事だと思います。耶倶矢は私なんか足元に及ばないほど魅力的です。選ばない道理なんかありません」

 

「でもお前ら、あんなに競って…………」

 

「解説。耶倶矢はああ見えて、恥ずかしがり屋です。ああでもして焚き付けないと、自分からあんなアピールはできません」

 

「……………」

 

戦兎が無言になると、夕弦は戦兎に歩みを寄せ、耳元に囁くようにして言ってきた。

 

「念押。明日、私を嫌うといってください。さもなくば、戦兎の友人や仲間たちに不幸が訪れることになるでしょう」

 

そんな脅し文句まで残して、夕弦は去って行った。

戦兎はただその場で、立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 




どうでしたか?

仮面ライダーゼロワンが発表され、とても楽しみです。ゼロワンドライバーは発売日に買います。

京アニの件は………怒りを通り越して、悔しいという他ありません。Twitterでも呟きましたが、犯人は死ぬまで罪を償うべきだと思います。そして被害者の方々やその親族の方々、重ねてお悔やみ申し上げます。
こうやって書くことしかできませんが、いつかまた立ち上がって、素晴らしい作品を作ってくれることを、いつまでも心から待っています。

それから無いとは思いますが、感想欄で京アニの件についての書き込みは、なるべくやめてほしいです。これはあくまで私が個人的な思いを書いただけだし、感想欄はあくまでも作品の感想を書くところですので、お願いします。
意見があればTwitterの方で、お願いします。

それでは次回、『第49話 たった一度与えられた、命はチャンスだから』

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第49話 たった一度与えられた、命はチャンスだから

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!双子の精霊耶倶矢と夕弦を攻略するため、万丈とともにデートに臨む。しかしその最中で、耶倶矢と夕弦はそれぞれ互いに互いを生かすため、自らを負けさせるように言ってくる」

士道「なんか、大変なことになってるんだな………こっちも大分凹んでるけど」

桐生「というか士道、なんか心折れる機会が多くね?」

士道「な!?そ、そんな事ないだろ!ていうか、それを言ったら戦兎だって元の世界じゃめちゃくちゃ心折れてたって聞いたぞ!なんかいつも泣いてたって!」

桐生「おい、誰からそれ聞いた!?」

士道「万丈から」

桐生「よし後でシバく。それじゃ、万丈の処遇が決まったところで、第49話をどうぞ!」





「…………」

 

その日の夜、万丈は砂浜に一人佇んでいた。

その日の夕食は、味がしなかった。というか、喉を通らなかった。

誰とも会話を交わさずに食事を済ませた後、ぼんやりと考えていたら、気づけばここに足を運んでいた。

日中、耶倶矢に言われた言葉が、未だに頭の中を渦巻いていた。

 

 

____もう一人の自分を生かすために、自分の死を選ぶ。

 

 

それを聞いた時は一瞬、バカか、と思った。

 

だが、例えば。

 

もし万丈が命を投げ出さねば、戦兎や一海や士道達が、死んでしまうとしたら。

 

昔ならいざ知らず、今の万丈であれば………間違い無く、応と首を振るだろう。

 

自己犠牲がどうとか、そんな難しい事は頭にない。

 

ただ、それしかないなら、そうする他ないだろうと、思うだけ。

選択肢ですらないと、この単純な頭が判断してしまうだけだ。

 

 

「_____よお、万丈」

 

 

その時、後ろから声が聞こえた。

いつも聴き慣れた、それは相棒の声だった。

 

「………戦兎」

 

「何だよ、しけたツラしてんな」

 

「うるせえよ」

 

戦兎がいつものようにおちょくりながら、万丈の隣まで歩み寄ってくる。

その時ふと、気になった。

そして気がついたら、口にしていた。

 

「…………なあ、戦兎」

 

「ん?どうした」

 

「もし、例えばの話だけどよ。………お前が死ななきゃ、仲間が死んじまうってなった時………お前だったら、どうするんだ?」

 

「…………っ」

 

その質問を聞いた途端、戦兎の顔が一瞬驚愕に染まり、しかしすぐに顔を戻して、口を開いた。

 

「_____そうだなぁ。多分、そうなったら俺は、迷わずに死んじまうだろうな。それしか方法が無いなら、の話だけど」

 

でも、と、戦兎はひとつ区切り、どこか懐かしむように、夜空を見上げた。

 

 

「______前に、美空に説教されちまったからなぁ。もっと自分を大切にしろ、残された奴の気持ちも考えろ、って」

 

 

「……っ!それは……」

 

「ほら、北都と戦争になった時にさ。言われちまったんだよ。だから………」

 

そこで再び言葉を区切り、少しだけ下を向いた。

 

 

「______俺と仲間の両方が助かる方法を、最後まで探す。本当に最後の瞬間までな。それで見つからなかったらもう諦めだ。俺が死んで、仲間を助ける」

 

 

その答えを聞き、万丈は予想していた通りだ、とでも言わんばかりの顔で、少し笑いながら言った。

 

「………そう、だよな。お前なら、そう言うと思った」

 

すると戦兎が表情を少し硬くして、再び口を開いた。

 

「______耶倶矢と夕弦の事で、なんか言われたのか?」

 

「………っ!」

 

図星だった。思わず身体がビクッと震え、冷や汗をかく。

 

「ほらな。お前はすぐ反応が出る。分かりやすいんだよ」

 

「う、うるせえっ…………実はよ」

 

それから万丈は話した。

 

耶倶矢が夕弦を生かすために、自分を敗北させろという、話をしてきたことを。

 

その話を聞くと戦兎は、やはり、と言わんばかりの顔になり、そして驚きの言葉を発してきた。

 

「………そっか、そっちもそう言われたんだな」

 

「ッ!まさか、お前も………」

 

「……ああ。夕弦に同じようなこと言われたよ。脅し文句までそっくりだった」

 

ほんとそっくりだよな、と戦兎が明らかに無理をしている笑い顔で、そう言う。

そして数秒後に、神妙な面持ちで口を動かし始めた。

 

 

「なあ、万丈。俺は______」

 

 

と、その瞬間。後方から地面を踏みしめるような音が響いて、万丈は顔を上げた。

そしてその数瞬後に、違う方から足音が聞こえ、戦兎が顔を向けた。

 

そこに立っていたのは________

 

 

「か、耶倶矢、なんで…………」

 

「夕弦、お前…………」

 

 

そう。耶倶矢と、夕弦だった。

 

 

「今の………何?」

 

「復唱_____要求。耶倶矢が………夕弦を生かすと、そう言ったのですか?」

 

 

戦兎と万丈には目もくれず、二人は静かな_____しかし激しい憤怒に彩られた、声音を発してきた。

 

そして_______

 

 

()()()()()…………ッ!』

 

 

_______嵐が、吹き荒れた。

 

 

 

 

時は、少し遡る。

 

士道は食事を済ませた後、どこか浮かない表情をして、旅館の廊下をのろのろと歩いていた。

日中の戦闘で、シーカーに言われた言葉。

そして、先日折紙から聞かれた事が、未だに脳裏を渦巻いていたのだ。

 

 

君………本当に人間かい?

 

『士道。あなたは………人間?』

 

 

「ッ!俺は………」

 

そんな心の声に、思わず反応してしまう。

自分は人間だと、言うのは簡単だ。

しかし実際はどうだ。精霊を封印する力、ライダーシステムが使えるようになった訳。

 

自分が本当に人間であるのかという馬鹿馬鹿しい疑問が、馬鹿馬鹿しいものでないと思ってしまう。

 

「______ドー」

 

こんな、口から出たでまかせかもしれない事でいちいち悩むのも、それこそ馬鹿馬鹿しいと思う。けどそれでも、考えずにはいられないのだ。

 

「シドー」

 

本当は自分がどういう存在なのか。

小さい頃の記憶すらあやふやだと言うのに、それで自分が本当に_____

 

「おい、シドー!」

 

「っ!?」

 

耳元で大声を発され、士道はハッと目を見開いた。

 

「まったく、ようやく気付いたかシドー」

 

言って、いつのまにかそこにいた浴衣姿の十香がぷくー、と頰を膨らます。

 

「と、十香………いつからそこにいたんだ?」

 

「随分前から隣を歩いていたぞ」

 

士道が言うと、十香はジッと士道の顔を見つめてきた。

 

「ん………何だ?」

 

「いや」

 

十香はふっと視線をそらすと、小さく唇の端を上げ、士道の手をぎゅっと握った。

 

「シドー、よかったら、少し外へ行かないか?」

 

「え?」

 

「夜の海をな、見てみたいのだ」

 

言って、士道の手を引いてくる。

 

「あ、おい、ちょっと……」

 

士道は慌てて足を踏ん張り、十香の進行を止めた。

 

「いや、まずいだろ勝手に外出たら。そろそろ先生も見回りに来るだろうし………」

 

すると十香は唇を突き出すようにしながら、ほうと息を吐いた。

 

「………すまん、シドー。少し嘘を吐いた」

 

「え?」

 

「その、なんだ。シドーが少し元気が無いようだったし、あまり話せてないと思ってな。だから_____シドーと二人で話しがしたかったのだ」

 

「………っ」

 

「駄目、だろうか……」

 

言って、上目遣いになりながら士道を見てくる。

 

「………いや、そんな、ことは」

 

これで駄目だと言える男がいるなら、是非一度お目にかかりたいものだ。次の瞬間士道は、満面の笑みを浮かべた十香に引っ張られていった。

 

 

 

 

「____はぁっ、はぁっ」

 

旅館の壁に張り付くようにしながら、エレンは荒い息を整えるように深呼吸をした。

すると。

 

「ははは、最強の魔術師(ウィザード)も、花の女子高校生の前には形無しかな?」

 

「………今、貴方の声は一番聞きたくありませんでしたね」

 

旅館の窓に腰掛けた白衣の男、神大針魏が愉快そうに笑いながら話しかけてきた。

 

「……まあ。何はともあれチャンスです。プロフェッサー・シンギ、近くに人の気配は?」

 

「大丈夫、私が見張っておくよ。ああ、それと____」

 

神大は窓から降りて旅館の廊下に立つと、エレンに一つ告げた。

 

 

「_____彼らに一つ連絡を頼まれてくれるかな?()()の準備をするように」

 

 

「ッ、もう完成したのですか?」

 

神大の言った、アレ____その意味に気付いたエレンは、僅かな驚きを滲ませながら、訊き直した。

 

「まだ少しだけどね。折角今、この島に四人_____いや、()()かな?仮面ライダーがいるんだ。テストをするには、もってこいだと思うけどね。まあ一人は、使()()()だけど」

 

そう言うと、神大は何か含みを持った視線を、エレンに向けた。

 

「……なるほど。了解しました」

 

エレンは一つ頷き、インカムに手を伸ばした。

そしてそれを見た神大は______まるで、()()のような笑みを浮かべた。

 

「さあ_____実験を、始めようかな?」

 

 

 

 

夜の浜辺は静かで、日中の喧騒が嘘のようだった。

まあ士道達がいたビーチは、元から静かだったのだが。

 

士道と十香はゆったりとした歩調で海岸沿いの防波堤付近を歩きながら、何くれとない会話を交わしていた。

 

「_____でな、昨日の夜は亜衣、麻衣、美衣たちと枕投げをしていたのだ」

 

「はは、そんな事してたのかよ」

 

「うむ。途中からつい熱くなってしまってな。互いに疲れて眠るまでやってしまった」

 

「そうか、楽しそうだったな」

 

士道は笑って、十香の話を聞いた。

なんと言うのだろうか、さして意味の無い会話を交わしているだけだというのに、何となく気分が楽になってきていた。

と、少しばかり歩みを進めたところで、不意に十香が振り返ってくる。

 

「それで_____シドー、どうしたのだ?」

 

言われて、士道はどきんと心臓が跳ねるのを感じた。

 

「……っ、ど、どうしたって、何が」

 

「いや、具体的には分からないのだが………何か、あるのだろう?」

 

「な、なんでそう思うんだ?」

 

士道が問うと、十香が「んー……」と人差し指を顎に触れさせた。

 

「なんとなくだが、士道が何かに悩んでいる、という事は分かったぞ。そうだ_____ええと、あのとき、士道が四糸乃のときに、凄く落ち込んでいただろう?あの時と少しだけ似たような感じがしたのだ」

 

小さく頷きながら十香が言ってくる。士道は目を見開いた。

 

「いや、何もないならいいのだ。もしかしたら、私の思い過ごしかもしれないしな」

 

「…………」

 

十香の言葉に、士道は大きく吐息した。

 

「もしかして、十香。そのために俺を連れ出してくれたのか?」

 

「む………まあ、その、なんだ。いや、私がシドーと話をしたかったのも本当だぞ?」

 

十香がほんのりと頰を染めながら言ってくる。そんな仕草がたまらなく可愛らしくて_____そしてありがたくて、士道は思わず頬を緩めた。

 

「……ありがとう、十香。少し、聞いてくれるか?いや、本当にくだらないなと、自分でも思うんだけどさ」

 

「む?うむ、何でも聞くぞ」

 

十香が頷いてくる。士道は首肯しながら、ゆっくりと話し始めた。

 

自分がどういう存在なのか、本当に人間なのか、分からなくなってしまったと。

 

細部はぼかしながらも、大まかに自分が悩んでいたことを、十香に打ち明けた。

 

「むう………」

 

十香はそれを聞くと、しばらく唸って考えている様子だった。

 

「いや、本当に大したことじゃないんだ!悪いな、こんな下らない愚痴に付き合わせちまって」

 

「いや、そんな事はないぞ!………なあ、シドー」

 

すると十香は小さく首を振り、口を開いた。

 

「私も、シドーと出会うまでは、同じだった」

 

「え……?」

 

「自分が何者なのかも分からずに、どうしようもなく苦しんだし、少しは悩んだ。けど____それを、シドーが変えてくれたのだ。何でも無かった私を、『夜刀神十香』という存在に、変えてくれたのだ」

 

言うと十香は、ほんの少し頬を緩めて、嬉しそうに口を開いた。

 

「____それから私は、生きたいと思ったのだ。人間とか、精霊とか、そういうのではなく、私は、私として。そして自分の事を、『夜刀神十香』なんだと、強く思ったのだ。____ええとつまり、私が何を言いたいかというとだな………」

 

それから十香はむう、と唸ってから、再び口を開いた。

 

 

「____シドーは、シドーだ!」

 

 

「え?」

 

「他の人からどう言われようと、私の知っているシドーは………人間で、とても強くて、ご飯が美味しくて、暖かくて、私を救ってくれた_____私のヒーローの、シドーだぞ!」

 

自信満々に、とてもハツラツとした笑みを浮かべて、十香は言い切った。

 

それを聞いた士道は_____自然と、笑みが零れた。

 

「はっ、ははは…………」

 

本当の本当に_____なんて馬鹿馬鹿しいことに悩んでいたのかと、心底可笑しくなって、笑いが止まらなかった。

 

「はは、ははははッ!」

 

「む、むうっ?ど、どうしたのだシドー!?」

 

「ははは………いや、何でもないよ。有難うな、十香」

 

「む、むう?」

 

それを見た十香は、しばし何が何だか分からないような顔をして____そしてもう一度、くしゃっと笑った。

 

「よくわからないが____シドーが元気になったなら、何よりだぞ!」

 

その顔を見て、士道もまた、笑みを浮かべた。

 

______その時。

 

 

 

______ゴォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

 

「うわ………ッ!?」

 

「な、なんだッ!?」

 

突然吹き荒れた凄まじい風に、背から地面に叩きつけられてしまった。どうにか近くの防波堤にしがみつき、身を起こす。

そして風が吹いた方向を見て_____愕然とした。

 

「なッ、なんだよ、あれ………!?」

 

そこには______天災が、吹き荒れていた。

 

 

 

 

その嵐が吹き荒れる中で_____戦兎と万丈は、呆気に取られていた。

 

 

 

「【颶風騎士(ラファエル)】______【穿つ者(エル・レエム)】!!」

 

「呼応。【颶風騎士(ラファエル)】______【縛める者(エル・ナハシュ)】!!」

 

 

 

耶倶矢が槍を構え、夕弦がペンデュラムの刃を宙に浮かせる。

二人が顕現させたそれは、間違いなく『天使』だった。精霊が誇る最強の武器である。

 

二人の脳裏に、一瞬で様々な思考が頭の中を駆け巡る。

 

『ふざけるな』。二人が発したその言葉の意味。それは二人の秘密を漏らした戦兎と万丈に向けられたものなのか_______だが正解は、そうではなかった。

 

耶倶矢は夕弦を、夕弦は耶倶矢を刺すような視線で睨み付け、忌々しげに口を開く。

 

「………ふざけた事してくれんじゃないの、夕弦。私を選べですって?」

 

「反論。耶倶矢こそ、何のつもりですか。夕弦はそんな事、頼んだ覚えはありません」

 

その言葉と共に、辺りに渦巻く風がさらに強くなっていく。

 

「_____駄目ね、やっぱり駄目。この方法なら順当に決着が付くと思ったけど、あんたの阿呆さを計算に入れるのを忘れてたわ」

 

「同意。耶倶矢の馬鹿さ加減には愛想が尽きます。_____結局、こうなるのです。二人で始めた闘いを、誰かの手で終わらせてもらおうだなんて、虫が良すぎたのです」

 

言って、二人が槍を、ペンデュラムを構える。

 

「そうね。やっぱり、最後は私たち二人でやるしかないみたいね。ちょうどいいわ、今私、生涯でクライマックスにあんたにむかっ腹立ってるし」

 

「応戦。夕弦もです。耶倶矢の浅慮さに怒りを隠し切れません」

 

「______決闘方法は」

 

「当然。知れたことです」

 

耶倶矢と夕弦は、再び同時に口を開いた。

 

 

 

『_____倒れた方が、()()

 

 

 

それが示すはただ一つ。

 

闘わなければ生き残れない、どちらかが倒れるまで止まない______果てなき闘争。

 

「やめろ________」

 

「耶倶矢、夕弦______」

 

戦兎と万丈の制止の声も聞かず、二人は凄まじい風圧を伴って激突した。

 

 

 

 

突然、ゴゴゴ______と、まるで地鳴りのような風の音が外から響き渡ったかと思うと、旅館の外壁がギシギシと軋み始めた。

 

旅館内の生徒達の反応は様々だったが、無論風の吹き荒れる旅館の外に出ようとする者はいなかった。

 

_____鳶一折紙、ただ一人を除いては。

 

「…………」

 

無言で靴を履き、旅館の扉に手を掛ける。

理由は単純明快、士道を探していたところ、亜衣から十香が士道を連れて外へ行くのを見たとの情報を得たのである。

 

そこからの行動は速やかだった。トランプに誘う亜衣を振り切り、途中の珠恵の制止を振り切り、旅館の出入り口まで走ってきたのである。嵐程度では士道のチェイサーである折紙の足を止める事は出来なかった。

十香と二人きりというのも気に入らないが、それ以前にこんな嵐の中、海から程近い旅館の外にいるだけでも危険である。早く連れ戻さねばならないだろう。

風は強かったが、歩けないほどでは無い。折紙は外へ歩いて行き_______

 

「………ッ!?」

 

背後に気配を感じ、咄嗟にその場から飛び退いた。

瞬間、折紙が今までいた場所から、ガシャン、という金属音が聞こえてくる。

 

「な…………」

 

そこには______人の形をした、酷く歪な機械が立っていた。

 

 

 

 

「_____前ッから思ってたのよ!あんたは自分一人で抱え込んで処理しようとして!結局自分が損ばっかして!」

 

叫びながら耶倶矢が巨大な槍を突き出すと、槍の先端部がドリルのように回転し、竜巻を生み出した。

 

「反論。その言葉、熨斗とリボンで過剰包装して耶倶矢に突き返します…………!」

 

しかし夕弦はそんな破壊的な暴風に動じず、手を複雑に動かした。すると握っていたペンデュラムが、まるで意思を持ったかのように蠢き、夕弦の前に方陣のようなものを組んで竜巻を難なく防いだ。

 

「あんたは優しすぎんのよ!せっかく私が主人格の座を譲ってあげようってんだから、大人しく受け取っとけばいいの!」

 

「拒否。夕弦は初めから、主人格になる気などありませんでした」

 

「ッ、今までの勝負で私が上手く負けるのにどんだけ苦労したと思ってんのよ!」

 

「反論。それは夕弦も同じです。せっかく黒星を稼ごうとしても、耶倶矢が攻めてこなくて焦れたのは一度や二度ではありません」

 

「八舞は万象薙伏せる颶風の王!それに相応しいのはあんたしかいないじゃない!」

 

「否定。それは違います。真の八舞の名は、耶倶矢こそが得るべきです」

 

「っ、私より飛ぶの速いくせに!」

 

「否定。夕弦より耶倶矢の方が力が強いです」

 

「私よりスタイルいいくせに!」

 

「否定。耶倶矢の方が肌が綺麗です」

 

「私より可愛いくせに!」

 

「反論。それは譲れません。夕弦より耶倶矢の方が可愛いに決まってます」

 

口喧嘩のような、そうでないような言葉を交わしながら、高速回転する耶倶矢の槍と、剣のように編まれた夕弦の鎖が打ち合わされる。威力は全くの互角。衝撃の瞬間、周囲に風が荒れ狂い、戦兎と万丈に襲いかかってきた。

 

「うおっ………!」

 

「く…………!」

 

足で力強く踏ん張りながら、どうにかそれに耐える。

ハザードレベルと精霊の加護が無ければ、今頃は二人ともこの風に吹き飛ばされていただろう。そう確信できるほどに、二人の戦いは____正確に言えば、それによって巻き起こされる被害は凄まじいものだった。

 

だが、それよりも。

 

「なんでだよ…………なんで、こうなるんだよ…………ッ!」

 

万丈は耐えきれないと言った様子で、喉をつぶさんばかりに叫びをあげた。

 

「もういい……もういいだろォッ!お前らッ!お前ら、お互いのことが、大好きなんじゃねえのかよッ!!」

 

叫んでも、声は届かない。

耶倶矢は夕弦に生き残って欲しくて、夕弦は耶倶矢に生き残って欲しい。

 

二人とも、互いを大事に想っている。

 

それなのに何故______こんなにも、すれ違うのだろう。

 

万丈は、そして戦兎は。それが____堪らなく、悲しくて仕方なかった。

 

 

「_____戦兎、万丈ッ!」

 

 

その時、不意に後方から、声が聞こえた。

振り返ると、声の主は士道だった。隣には十香の姿も見える。

 

「士道、十香!お前ら、こんな状況で何してんだ!」

 

「いや………それより、これは一体どういう事なんだ!?」

 

「セント、リューガ、一体、何が起こって______」

 

と、十香が訊こうとしたが、何かを見つけたように言葉を途切れさせ_____

 

「三人共!気を付けろ!何かがいるぞ!」

 

声を響かせた。その声に、三人は小さく肩を揺らす。

 

「な…………」

 

「何だよ、こいつら………!」

 

その目には______四人を取り囲むように、二十体程の人影が立ち並んでいたのである。

 

否_____違う。その内の十体は身体に頭と手足が付いているのは変わらないが、それは明らかに人間とは異なる形をしていた。

フルフェイスヘルメットのように滑らかな頭部に細身のボディ、逆関節の脚部が地面を踏みしめている。対して腕部は大きく、どこかアンバランスな印象があった。

 

そしてもう十体は、確かに人間だった。だがこちらも、おおよそまともな物とは言い難かった。

鈍色に光るマスクと、滑らかに磨き上げられた金属のアーマー。そして____

 

「な…………!?」

 

その腰につけられた物を見て_____戦兎は、戦慄した。

それもそうだろう。何故ならそれは、人を人から遠ざける、悪魔の______

 

 

「______()()()()()()()()()だと…………!?」

 

 

悪魔のドライバー、【リバースドライバー】だったのだから。

それも一つや二つではない、その十体全ての腰部に、全く同じ物が装着されていたのだから。

じりじりと距離を詰めてくる一団に対して構えながらも、困惑が隠せなかった。

 

「なんで、こんなに………!?」

 

 

「量産したからさ。実に簡単な回答だろう」

 

 

その戦兎の問いに答えるように、一つの声が上がり、二人の人影が歩み出てきた。

 

「ッ、神大………ッ!」

 

一人は、神大針魏。

そして、もう一人は_______随行カメラマンの、エレン・メイザースであった。

 

「な……!エレン………さん?」

 

「ぬ、お前は………」

 

「なんで、あんたが………」

 

士道と十香、万丈が同時に声を発すると、エレンは大仰に首肯した。

 

「ようやく人気のないところに来てくれましたね、十香さん。しかしまさか、仮面ライダーの三人が一緒とは____まあ、いいでしょう」

 

言って士道と戦兎、万丈の方を一瞥する。

すると神大が笑みを浮かべ、四人に訊いてくる。

 

「それよりどうだい?バンダースナッチと、私の量産ドライバーによる兵隊ライダー______デウストルーパーの感想は?」

 

「ッ、やっぱりお前が………!」

 

「プロフェッサー・シンギ。余計なお喋りは慎んでください」

 

エレンが窘め、神大は肩をすくめて首肯する。

 

「しかし、驚きました。まさかあの二人が精霊だったとは。_____しかも優先目標の【ベルセルク】ときたものです。積もり積もった不運の代償としてはお釣りが来ますね」

 

「な…………」

 

思わず眉をひそめる。今この少女は、耶倶矢と夕弦を【ベルセルク】と呼んだのだ。

 

「あんた、何者だ。ASTか?」

 

「ほう………」

 

戦兎が鋭い視線を向けながら訊くと、エレンは少しだけ戦兎に興味を示したように眉を動かした。

 

「流石に何度も戦っているだけあって、陸自の対精霊部隊くらいはご存知でしたか。____しかし、残念ながら外れです」

 

言ってエレンが手を掲げると、それに合わせるようにして、【バンダースナッチ】と呼ばれた人形と、【デウストルーパー】と呼ばれた兵隊ライダー達が、一斉に襲いかかってきた。

 

「く_____」

 

三人は咄嗟の事に思わず息を詰まらせた。一瞬で、ボトルを構えて迎撃の準備をする。

が、それよりも先に_____

 

「む……大丈夫か、三人とも」

 

浴衣の周囲に限定霊装を顕現させ、その手に光り輝く剣【鏖殺公(サンダルフォン)】を握った十香の姿と_____

 

「___よお、俺に内緒で何楽しんでんだ」

 

「一海!」

 

「かずみん!」

 

右手にボトルを握った、一海の姿があった。そして鋭い視線で、周囲を見渡す。

すると、十香の姿を見て、エレンが少しだけ興奮気味に目を見開いた。

 

「_____【プリンセス】。やはり本物でしたか」

 

「っ、十香の識別名まで………」

 

士道は眉根をひそめ、戦兎と万丈は焦った。一刻も早く耶倶矢と夕弦を止めねばならないのに、こんな所で敵が来るとは。

しかしエレンはそんな彼らの思考など御構い無しに、十香に向かって手を差し伸べるようにしてきた。

 

「十香さん。私と共に来てはくださいませんか。最高の待遇をお約束します」

 

「ほざけッ!」

 

十香は裂帛の気合と共にそう叫ぶと、エレンに向かって鏖殺公(サンダルフォン)の切っ先を向けた。

 

「お、おい十香。いくらなんでも生身の人間に____」

 

「違う」

 

「え………?」

 

士道が問い返すと、十香は緊張に満ちた面持ちでエレンを睨みつけながら言葉を続けた。

 

「こうして向かい合って初めて気付いた。_____あの女、物凄く嫌な感じがする。そう………ASTやスマッシュの気配を極限まで濃くした感じだ」

 

「………俺もだ。よく分かんねえけど………あいつは、危険だ」

 

野生の勘と言うべきか、万丈も十香に呼応して睨みつける。

と、その言葉に合わせるように、エレンが初めて唇の端に笑みらしきものを浮かべた。

 

「面白い表現をしますね。______来ないと言うなら、やむを得ません」

 

言いながらエレンが、黒光りする()()()()()を取り出した。

 

「ッ、リバースドライバー……お前もか………!?」

 

戦兎の困惑した声を意に介さず、腰にあてがい、銀色の帯、【フィクセスバインダ】を巻く。

そして______

 

「ッ、()()()()の、ボトル………!?」

 

取り出したのは_______黒いドラゴンの意匠が施された、【ドラゴンオルタナティブフルボトル】それを軽く振り、【トランリバースリキッド】を活性化させる。

そしてバックルの左側部へと挿し、【アブソーブチャージャー】を引く。

 

 

DRAGON ALTERNATIVE

 

 

無機質な音声と、重低音の待機音が鳴る。

 

 

「______変身」

 

 

言い、アブソーブチャージャーを押し込む。オルタナティブボトルの成分が【アブソーブリアクター】へ送られ、変身用顕現装置(リアライザ)が臨界駆動を起こす。

 

 

ABSORB CHANGE

 

 

エレンの周囲をフラスコ瓶状の高速ファクトリー、【ボトルリバーストランサー】が展開し、内部に成分を充填する。

そしてフラスコ瓶が割れ、その全身にアーマー、【ドラゴンアウトアーマー】を生成し、装着した。

 

 

DRAGON IN MIGHTY

 

 

_____黒い、ドラゴン。

 

そう形容するのが最もしっくりくる、禍々しいライダーが、そこにいた。

西洋の龍のようなマスク、アーマー。

 

その黒いシルエットは一歩踏み出すと、大仰な仕草を取り、言った。

 

『どうです?_____名前は、仮面ライダーマイティ

 

彼女がその名_____仮面ライダーの名を出した途端_____戦兎と万丈が、そして士道が視線を鋭くし、前へと進んだ。

 

「ふざけるなよ…………!仮面ライダーは正義のヒーローなんだ。お前らみたいな奴が、名乗っていい名前じゃねえんだよ……ッ!」

 

『精霊は世界の災厄。それと戦うのですから、間違ってはいないでしょう?』

 

「お前…………ッ!」

 

あくまでも淡々と言うエレンに、士道は怒りを隠しきれないようだった。

 

「………嬉しい事言ってくれんじゃないの、士道」

 

「戦兎………」

 

戦兎が笑いながら、士道の肩にポン、と手を置く。

そして、万丈、一海、十香が、それぞれ円を作り、敵と相対した。

 

「………こいつらは俺らに任せろ。戦兎と龍我は、あいつらを助けてやんな」

 

「……助かる。____行くぞ、みんな」

 

戦兎の呼びかけと同時に、十香を除いた全員が、ベルトを装着した。

 

そして、戦兎はラビットタンクスパークリングを、万丈はドラゴンスクラッシュゼリーを、士道はアライブガルーダとスピリットボトル、一海はロボットスクラッシュゼリーを、ベルトへと挿し込んだ。

 

 

RABBIT TANK SPARKLING!!

 

 

ドラゴンジュゥエリィー!!

 

 

Get Up! ALIVE-SPIRT!!

 

 

ロボットジュゥエリィー!!

 

 

彼らの前後に高速ファクトリーが形成され、各々がファイティングポーズをとる。

 

 

Are You Ready?

 

 

そして、戦兎のビルドドライバーと、士道のリビルドライバーから聞こえた音を合図に、全員が一斉に叫んだ。

 

 

「「「「変身ッ!」」」」

 

 

戦兎と士道の身体をアーマーが挟み、万丈と一海の周囲のフラスコが割れ、溢れたゼリーがアーマーを形成する。

 

 

ラビットタンクスパークリングッ!!イェイイェーイッ!!

 

 

ドラゴン・イン・クロォーズチャァージィィッ!!ブルルルルゥゥゥラァァァアッ!!!

 

 

Dead Or ALIVE-SPIRIT!!イェーイッ!!

 

 

ロォボット・イィン・グゥリィスゥゥッ!!ブルルルルゥゥゥラァァァアッ!!!

 

 

四人____否、五人のライダーが、集まった瞬間に、闘いは始まった。

 

 

 




どうでしたか?
今日のアクア登場+エターナル克己登場決定でテンションが上がりまくりで書き上げました!
今回ちょっと長いです。すんまへん。

ということで、新ダークライダー、エレンさんが変身する【仮面ライダーマイティ】が登場しました。
名前の由来は、あの人作中で最強最強言ってるので。
あと何故ドラゴンなのか、というところですが、彼女が原作で使用するCRユニットの名前が【ペンドラゴン】なのと、最強が好きな彼女ならドラゴンは気にいるだろう、という事で決めました。クローズとの対決も、今回はありませんが、今後させる予定です。

そして_____次回か次々回で、士道、もといアライブが遂に………!?

それでは次回、『第50話 真夜中のライダーバトル』をお楽しみに!

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第50話 真夜中のライダーバトル

桐生「互いに互いを生き残らせようとする精霊、耶倶矢と夕弦は、その思いのすれ違いから、結局二人で戦いを始めてしまう。止めようとしたその時、俺たちの行方を阻んだのは、機械人形のバンダースナッチと、リバースドライバーによる兵隊ライダーのデウストルーパー、そして神大針魏と____自らを最強の魔術師(ウィザード)と名乗る、エレン・メイザース、もとい仮面ライダーマイティだった」

万丈「まさかあのドライバーが量産されてるとはな………これからどうすんだよ」

桐生「そりゃあ決まってるでしょ。どんなに強い敵が来ても、この俺が倒すだけだ!万丈は眺めてるだけでいいよ」

万丈「おい、何だよそれ!」

桐生「ヒーローの座はそう簡単に譲らねえよ。お前は隅っこで震えながらママ〜って泣いてればいいのさ」

万丈「馬鹿にすんじゃねえよ!俺の強さはアレだぞ、え〜っと、一騎父さんだぞ!」

桐生「ん〜?一騎当千の事かなぁ?またまた間違えるとは馬鹿だなぁー!?」

万丈「バカってなんだよ!せめて筋肉つけろよ!」

桐生「さて、こんな万丈がいなくても全く問題のない、第50話をどうぞ!」

士道「あっ戦兎」

桐生「なんだ?」

士道「今回は俺がメインになるっぽいから、そこんとこよろしく」

桐生「えっ?」






真夜中の深い森の中。

 

そこには今、明らかに異常な光景が広がっていた。

 

兵隊のような姿をしたライダー【デウストルーパー】と、歪な人型の兵器【バンダースナッチ】が、計二十体。

 

そしてそれと交戦している、赤と青のライダー【ビルド ラビットタンクスパークリング】、水色のドラゴンライダー【クローズチャージ】、金色のロボットライダー【グリス】。

 

そして______

 

 

『______プロフェッサー・シンギ。あなたはあの金のライダーの相手でもしていてください。私は____この赤いライダー、アライブと、プリンセスを』

 

「分かったよ。最強の魔術師(ウィザード)さん?」

 

 

______赤のライダー【アライブ】と、精霊【夜刀神十香】、そしてそれと相対する、黒いドラゴンライダー【マイティ】だった。

マイティの側に控えていた科学者【神大針魏】は、マイティの指示を受けると、肩をすくめながら立ち去った。

 

そしてマイティが、十香を庇うようにして立つアライブの方へと向き直り、歩み寄ってきた。

 

「…………ッ!」

 

アライブが交戦の構えを取る。

そしてマイティは一度立ち止まると、少しの間顎に手を当て何かを考えた。そして手を離すと、その手を顔の前まで持って行き、四本の指を立てた。

 

「っ?」

 

『____宣言しましょう』

 

 

『_____貴方は、四手で詰みます。仮面ライダー、アライブ』

 

 

 

 

「オラァッ!どうしたァッ!」

 

グリスは押し寄せるデウストルーパー隊五人を相手に、孤軍奮闘していた。

相手の方が圧倒的に数は上だが、しかしグリスは怯まず、寧ろ闘争心を一層滾らせ、敵を迎え撃っていた。

 

「こんなんじゃァ……全然足りねェぞォッ!」

 

チャァージボォトルッ!

 

そこでグリスが取り出したのは、戦闘の寸前に戦兎から託されたボトル____【フェニックスフルボトル】を取り出し、スクラッシュドライバーへセット、レンチを下げた。

 

潰れなーいィッ!チャァージクラッシュゥッ!!

 

「オリャァッ!」

 

フェニックスボトルの成分から生成された炎弾が、グリスの右腕から射出される。勢い良く発射されたそれらはトルーパーの群れに直撃し、うち三人を変身解除へと追い込んだ。

 

「くっ…………」

 

「どうしたぁ?こんなもんかぁ?」

 

怯むデウストルーパー隊の残る二人を前に、グリスが挑発しながら言う。流石にこの惨状を見せられた後では、DEMのトルーパー隊でも思わず怯んでしまった。

すると。

 

 

君たちは下がりたまえ。私が相手をしよう

 

 

木々の間から、銃を構えた男____【ナスティシーカー】が現れた。

 

「てめえは………確か、あん時の………」

 

やあやあさっきぶりだねぇ、猿渡一海。いや……仮面ライダーグリス

 

「ッ?何?」

 

グリスが訝しげな声を上げるが、それを無視し、銃撃をしながら接近してきた。

 

「くっ……」

 

まずは挨拶がわりだ!どうも、ナスティシーカーとでも呼んでくれ

 

「へっ、何だよ……ッ!楽しめそうじゃねえか………ッ!」

 

ツインブレイカーッ!ビィームモードッ!

 

ツインブレイカーを取り出し、こちらもビームモードで射撃をしつつ、接近する。

ナスティシーカーとグリスの戦闘が、開始された。

 

 

 

 

「四手だと………?」

 

マイティと対峙したアライブは、その突然の宣言に、戸惑いを隠せなかった。

 

『ええ。あなたを試すのなら、この程度でしょう』

 

と、あくまでも不遜に、冷淡に告げる。

そしてアライブを誘うように、くい、と左手の指を曲げてみせた。

 

「っ、舐めるな……ッ!」

 

その言葉に、アライブも黙ってはいられない。

 

ALIVE LASTER!SLASH VERSION!

 

「ハァッ!」

 

「ッ、士道!」

 

十香の制止を無視し、アライブラスターを構え、マイティへと向かう。

マイティはあくまでも落ち着き払った様子で、避けようともせずにアライブの正面へと立つ。そして、上段から振り下ろされたアライブラスターの斬撃を______

 

「なっ……!?」

 

『____カウントスタート』

 

低くかがみ、持ち手の部分を抑え、軌道をずらして躱した。

そしてカウントスタートの声とともに、アライブの腹部目掛けて、強烈な拳打を打ち込んだ。

 

「ガハッ………!?」

 

『_____一手

 

そしてアライブが怯んだ隙を、マイティは逃さない。

そのまま姿勢を戻し、前屈みになったアライブの顎めがけて_____

 

「ガァ……ッ!」

 

『___二手目

 

ハイキックをお見舞いし、アライブへ宙へと蹴り上げた。

ドライバーの出力によるためか、素のキックでアライブは結構高く蹴り上げられてしまった。

 

「ぐっ………!」

 

BLAST VERSION!

 

しかしアライブは腹部と顎の痛みに耐えながら、手に持っていたアライブラスターをブラスター形態へと変形させ、地上のマイティへと銃撃をした。

が_____

 

『ふん______』

 

マイティはつまらなそうに鼻を鳴らし、背に装着された巨大な剣を抜き、簡単に弾いた。

 

「だったら………っ!」

 

SLASH VERSION!

 

「ハァッ!」

 

落下の勢いも利用し、ブレード形態へ変形させたブラスターで、マイティめがけて切り込む。

しかしマイティは動じず、冷静に剣を構え、ブレードを防いだ。

 

「これならどうだ……ッ!」

 

FEVER TIME!

 

そして地面に着地しつつ、スピリットフルボトルを素早くブラスターへ装填し、グリップのトリガーを引く。

 

オシコーメッ!ONE BURST!!

 

「オリャァッ!」

 

炎のエネルギーを纏った刀身を、力任せに押し込む。

しかしそれでもなお、マイティは動じず_____

 

『_____こんなものですか』

 

「なッ!?」

 

なんと必殺技を発動した状態のアライブラスターを押し返し、剰えそのまま反撃の斬撃を叩き込んだ。

 

「グァァッ!!」

 

三手目。_____次で最後です。興醒めでしたね』

 

マイティはブレードを下ろしながら、腰のリバースドライバーを操作し、アブソーブチャージャーを一度引いた。

 

 

STAND BY

 

 

「ぐっ………くぅ………っ!」

 

「シドー!危ない!シドーッ!くっ、邪魔をするなッ!」

 

苦しむアライブに十香が叫び、助けに行こうとするが、バンダースナッチ隊に行く手を遮られ、向かうことが出来ない。

そしてマイティはアライブの下まで辿り着くと、首根っこを掴み持ち上げた。

 

「くあっ……あ………!」

 

『これで四手目_______チェックメイトです

 

そして手に持ったレーザーブレードを一度地面に突き刺し、空いた右手で、リバースドライバーのチャージャーを押し込んだ。

瞬間、アライブを放り投げ、黒いエネルギーがこもった右脚を突き出し______

 

 

MIGHTY FINISH

 

 

「ぐっ、ぁぁぁぁあッ!?」

 

アライブを蹴り付け、後方へと吹き飛ばした。

そして数度地面を転がった後、アーマーが粒子と化して変身が解除される。

 

「シドーッ!?」

 

「ガハッ………ぐッ…………!?」

 

「ッ、よくもォォッ!!」

 

その様を目の当たりにした十香は怒りのままに、バンダースナッチ隊を退け、マイティへと向かっていく。

鏖殺公(サンダルフォン)を振りかぶりながら、目にも留まらぬ速さでマイティの脳天へと叩き付ける。

 

だが_____マイティはそれを、地面から抜いた剣で、易々と受け止めた。

 

『おや、そんなものですか?』

 

「く………ッ!」

 

苦悶じみた声を発し、十香が連続の斬撃を振るう。

しかしそれらの攻撃は全て防がれ、マイティのアーマーには傷一つ付いていなかった。

 

「はぁッ!」

 

『……………こんなものですか』

 

「な____なんだと!?」

 

幾度目かの剣戟を受け止め、マイティが小さなため息を吐く。

 

『カウントをするまでもありませんね。終わりにしましょう』

 

言って、マイティが巨大なレーザーブレードを十香に向かって振り下ろす。

 

「く_____」

 

十香がその一撃を受け止めようと、鏖殺公(サンダルフォン)を構える。が_____

 

「え…………?」

 

次の瞬間、呆然とした声が、士道と十香の喉から同時に漏れた。

 

しかしそれも当然だろう。何故なら、エレンの斬撃を受けた瞬間______十香の構えていた鏖殺公(サンダルフォン)の刀身が、いとも容易く()()()()()しまったのだから。

 

「なん、だと………」

 

短い苦悶の一瞬後、マイティの攻撃は十香の身体を軽々と吹き飛ばした。

 

「くぁ………っ!」

 

そして数度身体を地面に擦り、十香がうつ伏せに倒れ伏す。それから一拍遅れて、砕かれた鏖殺公(サンダルフォン)が、光の粒子となって消えた。

 

「十、香………ッ!くそっ、動け、よ………ッ!」

 

士道は必死の思いで叫ぶと、十香の元へと向かおうとした。

だが_____身体は、全く動かなかった。指一本程しか、士道の身体は言うことを聞かなかったのだ。恐らくは先のマイティの攻撃によるものだろう。まるで全身が麻痺したように、力が全く入らない。

 

しかも士道の進行方向上に二体のバンダースナッチが現れ、道を塞いでいた。倒れた十香の方にも、幾多ものバンダースナッチが群がり始めていた。

 

『興醒めです。早く昏倒させて、 空中艦【アルバテル】へと運び込んでしまってください』

 

言うと、マイティは十香にも興味を無くしたように、指を鳴らし顔を背けて、腕組みをする。

そして倒れ伏したままの十香の両腕を、左右から二機のバンダースナッチが掴み、その身体を持ち上げる。そしてぐったりとした十香の方にもう一体の人形が歩み出たかと思うと、その額に爪の生えた手を近づけていった。

 

「ぐ______ぁ………ッ_____」

 

十香が、苦しそうな声を発して身を捩る。

 

「十、香……ッ!くそッ………やめろ………ッ!」

 

必死の思いで叫ぼうが、人形達は動きをやめない。そうこうしている間に、十香の喉からは悲鳴と苦悶が混じり合ったような、痛々しい声が響いてきた。

 

 

「______なんで、だよ…………ッ!」

 

 

目の前で十香が、あんなにも苦しんでいるのに。

 

目の前で、蹂躙されているのに。

 

 

「なんで…………身体が動かねえんだよ_____ッ!なんで、立ち上がれねえんだよ________ッ!」

 

 

士道はその悔しさに、拳を握った。爪が食い込み、血が溢れ出る。

途方も無い無力感と、絶望感が、頭の中を蹂躙する。

 

このまま、黙ってみているしかないのか_______

 

 

 

「_______そんな、訳…………ッ!」

 

 

 

そんな訳、あるか。

 

十香の言葉が、いつも士道を励ました。

 

十香がいたから、立ち上がってこれた。

 

十香が_______士道の明日を、創ってくれた。

 

 

 

 

『私を救ってくれた_______私のヒーローの、シドーだぞ!』

 

 

 

ついさっき十香が言った言葉と、浮かべた笑顔が、脳裏に浮かぶ。

 

そうだ。俺は、十香のヒーローに、ならなきゃいけない。そう、十香が信じてくれた。

 

だからこそ______

 

 

「こんな、ところで_______倒れていい訳、無えだろ…………ッ!!」

 

 

身を裂くような思いで、全身に力を込める。

 

 

「十香_______!」

 

 

立ち上がれ!立ち上がれッ!

 

今、この一瞬だけで良い。生涯一度でも構わない。

 

この言うことの効かない木偶の坊の身体に、立ち上がれるだけの力を_______

 

 

十香を、救う力を________!

 

 

「十香ぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ______ッ!」

 

 

_____その時。

 

 

 

士道の中で、何かが、燃えた。

 

 

 

________ブォォォォォォォオォォォオッ!!!

 

 

 

「_____ッ!?」

 

『何?』

 

 

その瞬間、士道を中心として、周囲に、熱風が吹き荒れた。

士道と十香を囲っていた人形が、その熱風によって吹き飛び、火の粉が落ちた葉へと燃え移る。

 

 

「ぐっ………おぉ………ッ!」

 

 

そして、その中心部にいる存在_____士道は、立ち上がった。

 

全身がボロボロで、血に塗れながらも______それでも、立ち上がった。

 

前を見据えた、その顔には______

 

 

『ッ、何!?』

 

 

まるで血管か何かの回路のような模様の紅い線が走り、その双眸は、炎のように紅く染まっていた。

 

そして士道の目の前に_____一本のボトルが、現れた。

 

 

紅いカラーに、戦斧の意匠が施された、妹の_______琴里の力が内包された、【カマエルエンジェルフルボトル】だった。

 

目の前に現れたそれを、勢い良く掴む。

 

 

『キュルッキュイーッ!』

 

 

そして手元へ収まったアライブガルーダを持ち、カマエルエンジェルフルボトルを、勢いよく振った。

まるで炎が燃え盛るような音が鳴り、キャップを閉める時に、一際大きく燃えた。

 

そのままボトルを、ガジェット形態へ移行したアライブガルーダへと挿しこみ、【アウェイクンスターター】を押した。

 

 

 

【激焦ゥッ!】

 

 

 

威勢の良い音が聞こえたと同時に、リビルドライバーへセットした。

 

 

 

アライブカマエルッ!

 

 

煉獄の炎のような燃え盛る音と、鳥の鳴き声が混ざった待機音が流れる。それと同時に【ボルテックレバー】を回し、エネルギーを溜めた。

そのまま士道の前後に高速ファクトリー、【スナップリアライズビルダー】が展開され、燃え盛る炎を纏ったアーマーが形成される。

 

 

 

【Are You Ready?】

 

 

 

「変身ッ!!」

 

 

 

覚悟を込めたその一言とともに、燃え盛るアーマーが士道を挟み込み、上部から燃え盛る鳥状の追加装甲が装着された。

 

 

 

【Get Up Flame!!Dead Or ALIVE-KAMAEL!!イェイイェーイィッ!!ブゥアアァァッ!!】

 

 

 

 

「______ハァァァアァァーーーッ!!」

 

 

______そこにあったのは、まさに炎の化身だった。

 

 

燃え盛る火焔のような赤と、焦げたような黒。

 

そして羽衣のように靡く、肩と腰から伸びた帯。

 

そして右手に持った______炎熱を纏った、巨大な戦斧。

 

 

その名を______仮面ライダー、アライブカマエルと呼んだ。

 

 

「シ、ドー………?な、なぜ、琴里の天使を、シドーが………!?」

 

十香が驚いた様子で、アライブカマエルの方を見てきている。

しかしそれも無理からぬ事だろう。何しろ突如熱風が吹き荒れたかと思うと、アライブが姿を変え、その手に琴里の天使、灼爛殲鬼(カマエル)を持っていたのだから。

 

『天使………?【イフリート】の物と同じ………?何故、あなたがそんなものを_______』

 

マイティが困惑と好奇の入り混じった声音で呟く。

同時に、先の熱風によって倒れ伏していたバンダースナッチの内四体が起き上がり、アライブへと向かってきた。

 

「ッ、シドー、危ないッ!」

 

十香が叫ぶ。

しかし今のアライブにとって、その警告は皮算用だった。

 

「_____ハァッ!!」

 

裂帛の気合いで叫び、手に持った灼爛殲鬼(カマエル)を横薙ぎに振るう。

火焔を纏ったその刃は、向かってきたバンダースナッチ全てを、纏めて斬り裂き、焼いた。

 

『まさか、バンダースナッチを一撃で………』

 

それを見たマイティが、アライブの方を見つめてくる。

 

『五河士道_____仮面ライダーアライブ。あなたは一体何者です』

 

「ただの______人間だッ!ハァッ!」

 

そう答えると、灼爛殲鬼(カマエル)を両手で持ち、凄まじいスピードでマイティへと迫った。刃に纏った火焔の火の粉が、風に舞う。

マイティはアライブの攻撃をレーザーブレードで防ぐが、その威力に、苦悶の声を漏らす。

 

『くっ_____この、パワーは………ッ!』

 

「ハァァァ………ッ!!」

 

アライブが気合を入れて叫びながら、灼爛殲鬼(カマエル)を振り、レーザーブレードを振り払う。

そして一度距離を取り、まるで自身の身体の一部であるかのように、軽々と灼爛殲鬼(カマエル)による連撃を繰り広げる。

マイティもブレードを構えるが、防御が追いつかず、数発程アーマーに喰らった。

 

『____この私に、触れるなど………ッ!残ったバンダースナッチ隊、彼を捕らえなさい!』

 

マイティが手を掲げ、アライブに向かって振り下ろす。

残ったバンダースナッチ六体が、一斉にアライブに襲いかかってきた。

 

「この…………ッ!」

 

アライブは灼爛殲鬼(カマエル)を構え直し、そこでグリップエンド部に増設された、ボトルの装填部を見つけた。

急いでガルーダからカマエルボトルを引き抜き、グリップエンド部に装填する。

 

 

ENGEL MATCH!Ready Go!

 

 

「ハァァア………ッ!」

 

灼爛殲鬼(カマエル)の刃に、より一層巨大な火焔が発生する。

纏った炎は、刃の周りでまるで竜巻のように渦巻いた。

 

 

KAMAEL BREAK!!

 

 

「ダァァアッ!!!」

 

 

そのまま回転し、バンダースナッチ隊の半分を斬り裂き、爆散させた。

しかしその攻撃を掻い潜った残り半分の三体が、アライブの右手へと腕を伸ばし_____

瞬間。

 

「え………?」

 

突如、バチっという音が鳴ったかと思うと、頭部から火花を散らして、身を捩った。

 

「なんだってんだ………?」

 

マスクの下で訝しげに眉をひそめる。今まで滑らかに駆動していた機械人形が、突然電池の切れかけた玩具のように不恰好な挙動を始めたのである。

それを見て、マイティが何かに気づいたように、耳に手を当てて唇を動かした。

 

『バンダースナッチ隊の反応が乱れています。何かありましたか?』

 

そして、呻くように喉を震わせる。

 

『_____遠隔制御室(コントロールルーム)に被弾?どういう事ですか。…………ッ、空中艦と戦闘?そんな指示を出した覚えは______』

 

「ッ、今だッ!」

 

この機を逃すわけにいかない。

アライブは灼爛殲鬼(カマエル)を放り投げると、ボルテックレバーを思いっきり回した。

 

 

Ready Go!

 

 

『っ、しまっ_____』

 

その音に気付いたマイティが回避の構えを取るが、もう遅い。

 

「ハァァアァア………ッ!」

 

キックの構えを取ったアライブの右脚に、無数の炎のリング【イフリートリング】、そして背後にはエネルギー体の【アライブガルーダ・ライジング】が現れ、高らかに鳴き声を鳴らした。

 

「ハァッ!」

 

そして飛び上がり、右足の炎のリングを射出、キックの軌道上に一直線に並んだ。

そのまま空高くに飛翔したまま、アライブガルーダ・ライジングの勢いと共に、【イフリートリング】を通りながら、ドロップキックを放った。

 

 

EFREET FINISH!!

 

 

 

「オリャァァァァッ!!!」

 

 

『ぐっ、くぅ………ッ!』

 

防御の姿勢をとったマイティに、正面から渾身の一撃を放つ。

ある程度押し切り、地面へと着地する。そのままイフリートリングによってより燃え盛ったアライブガルーダ・ライジングが、マイティを捉えたまま吹き飛ばした。

 

『ぐぁッ!』

 

「十香!今だ、逃げるぞ!」

 

「む、むう!?よく分からんが、分かった!」

 

言って、十香を抱えて森の方へと走っていく。

 

『!逃しては、いけません。追ってください!』

 

後方からマイティが声を発すると同時に、残った活動可能のバンダースナッチが向かおうと頭部を向けてくる。が、すぐに壊れたマリオネットのように手足を出鱈目に動かすと、その場に倒れ伏した。

 

『く……何を、しているのですか……っ!』

 

マイティは焦れるように舌打ちをすると、傷ついた身体を引きずるように走り出す。

が、そこで。

 

『うぐっ!?』

 

地面に開いていた穴に足を取られ、その場にすてーん!と転んでしまった。同時に戦闘のダメージがドライバーの許容量をオーバーしたからか、変身が解除される。

 

「な、何故こんなところに落とし穴が………!?っ、まさか、例の女子高生たちの、高速穴掘り術の______」

 

さらにその際、一体のバンダースナッチがエレンの方にもたれ掛かるように倒れこむ。

 

「え、う、うわっ!?」

 

変身が解除されてしまった事が災いし、エレンは不意打ちを受けるような格好で重そうな機械人形の下敷きになり、

 

「こ、こんな馬鹿な………わ、私は最強の………魔術(ウィザ)_____むきゅう………」

 

珍妙は声を上げて、それきり動かなくなった。

 

 

 

 

「____はぁっ、はぁっ…………」

 

それからしばらく進み、アライブと十香はようやく遠く離れた安全地帯へと逃げられた。

十香を下ろし、自身も変身を解除する。

 

「大丈夫か、十香………」

 

「う、うむ。私は大丈夫だ……。それより、シドーは?」

 

十香が何故か僅かに顔を赤くしながら、大丈夫かと訊いてくる。

 

「ああ、俺なら______」

 

大丈夫、と答えようとして、言葉が途絶えた。

突如、身体が鉛のように重くなり、意識が海の底に落ちたように曖昧になる。

全身がぐらつき、足元が覚束なくなる。

 

「ぁ……………」

 

「シドー?シドーッ!?おい、しっかりしろ、シドー_______!」

 

そんな十香の声が耳に届くと同時に_______

 

士道は、意識を手放し、その場に倒れ伏した。

 

 

 

 

その頃、耶倶矢と夕弦の元へと向かっていた、ビルドとクローズチャージは_____

 

「ハァッ!」

 

「オリャァッ!!」

 

妨害をしてきたデウストルーパーを相手取り、戦っていた。

ビルドはドリルクラッシャーを、クローズはビートクローザーとツインブレイカーを構え、敵を斬り、撃ち、蹴り倒していった。

 

「邪魔、するなよッ!」

 

 

Ready Go!VOLTEX BREAK!!

 

ヒッパレーッ!ヒッパレーッ!MILLION SLASH!!

 

 

ダイヤモンドフルボトルを装填したドリルクラッシャーと、ビートクローザーの必殺技で、デウストルーパーを三人吹き飛ばす。

 

『ぐあッ!?』

 

デウストルーパー隊が苦悶の声をあげながら地面を転がり、変身を解除される。

これで敵は全て倒した。後は、耶倶矢と夕弦の元へと向かうだけ。

 

「よし、行くぞ万丈!」

 

「おう!」

 

_____その時。

 

 

『…………ッ!』

 

 

「何?」

 

「あん?」

 

変身を解除されずに倒れていたデウストルーパー隊の一人が、突如立ち上がり、二人の前に立ちはだかった。

そして______一本の黒いボトルを、取り出す。

 

「………ッ、まさか!」

 

そのボトルを見た瞬間、ビルドはハッとなった。

まさか、あれは_______

 

そのトルーパーは取り出したボトルを、リバースドライバーへと挿しこみ、そして________

 

 

 

 

【OVER FLOW】

 

 

 

「ッ、おい戦兎、これって………!」

 

かつて一度だけ聞いたその音声を聴き、クローズも何かを察したようだった。

 

「ああ、恐らくな……………ッ!」

 

ビルドが身構えながら、相手を見据える。

 

 

『ァ、アァ…………アゥァ………………』

 

 

相手のトルーパーは全身から火花を散らし、やがてその全身が異形の姿へと変化していく。

 

全身のアーマーが砕け、筋肉が盛り上がり、その体表は硬くゴツゴツした_____甲殻類に似た物に置き換わり。

 

白と黒の煙を全身から吹き上げながら全身を生々しく変化させていくその様は_____かつて、崇宮真那に起こった現象と、()()()()()()()

 

 

______そして、完全に変化を遂げた、その姿は。

 

 

 

顔からは丸く巨大な眼が突き出、肥大化した肉体の表面は、ゴツゴツとした突起がついた、硬い甲殻に覆われ。

 

背中からは無数の手足のような突起が生え、両腕は_____まるで()のような巨大な(ハサミ)へと置き換わっていた。

 

その姿を認識した瞬間、ビルドは何かに悔しがるように言った。

 

 

「………オーバースマッシュ………ッ!」

 

 

「嘘だろ………ッ!?」

 

 

ビルドとクローズの目の前に、二体目のオーバースマッシュ_______クラブオーバースマッシュが、現れた。

 

 

 




どうでしたか?
今回はアライブメインになっちゃいましたね。
次回ちゃんと、戦兎と万丈の活躍を書きますので!

とまあそれは置いといて。

遂に!アライブの強化形態、アライブカマエルが登場しました!
十香の力の強化形態は、近いうちに登場しますので、お待ちください。あ、変身の時に現れた赤い血管みたい、と書かれている模様は、漫画版仮面ライダーの本郷猛の手術痕や、エグゼイドの宝生永夢がパックマンの映画のラストで浮かび上がらせていたやつと似たような奴と思ってくれればいいです。

アライブカマエルの姿は、こんな感じです!


【挿絵表示】


所々に赤いインクの跡がありますが、気にしないでいただけると嬉しいです。
ガルーダのカラーリングは変わらない感じです。

あ、マイティさんはカマエルの初登場補正でやられただけで、今後は強大な敵として立ちはだかり続ける予定ですので、ご期待ください。
素のアライブは第45話の後書きに載ってありますので、よろしければご参照下さい。

そして現れました二体目のオーバースマッシュ、クラブオーバースマッシュです!次回はこいつと戦兎、万丈が戦います!

それでは次回、『第51話 アシタノ絆を投げ出さないから』を、お楽しみください!

最近感想少なくて寂しい…………もっと感想くれても、ええんやで?




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第51話 アシタの絆を投げ出さないから

桐生「互いに互いを生き残らせようとする精霊、耶倶矢と夕弦は、その思いのすれ違いから、結局二人で戦いを始めてしまう。エレン・メイザースこと仮面ライダーマイティや、神大針魏、そして、彼ら率いるデウストルーパー、バンダースナッチ隊の妨害を受けながらも、俺たちは先へ進む。しかし、最後の砦となって襲いかかってきたのは、二体目のオーバースマッシュである、クラブオーバースマッシュだった」

万丈「なあ、こいつカニだよな?なんで黒いんだ?普通赤だろ」

一海「あぁ?そりゃお前、全てのカニが赤なんてことはねえだろ。黒いカニくらいいるって」

万丈「そういうもんか……食えんのかなぁ?」

一海「いややめとけやめとけ。絶対不味いだろこの色!絶対炭みたいな味するって!」

万丈「炭みたいな味!?そりゃ食いたくねえなぁ……」

桐生「ちょっとお前ら!あらすじ紹介そっちのけで何話してんだよ!人型の黒いカニは食べられません!はい、じゃあ第51話をどうぞ!今回はちょっと長めだぞ!」





ビルドとクローズは、突如として現れた敵_____クラブオーバースマッシュと対峙していた。

 

「おい戦兎………あれ、真那のやつと同じ………」

 

「ああ……オーバースマッシュだ。今回は、どうやらカニみたいだけどな」

 

『_________ッ!』

 

そして目の前のクラブオーバースマッシュが突然目を光らせ、鈍色に光るハサミを二人へ向けて襲い掛かってきた。

 

「ッ、避けろ万丈ッ!」

 

「分かってらぁっ!」

 

咄嗟に回避し、それぞれドリルクラッシャーとツインブレイカーを構える。

 

「これでも喰らえッ!」

 

ドリルクラッシャーをガンモードへと切り替え、連続で銃弾を撃ち込む。

銃弾は全てクラブオーバースマッシュへと命中し、その殻にぶつかり爆発した。

 

が_______

 

「なっ………嘘だろ………」

 

『__________』

 

相手のクラブオーバースマッシュは、まるで何ともないようにピンピンしていた。それどころか銃弾の当たったと思われる箇所には、何一つ弾痕や、僅かな傷すら入っていなかったのだ。

 

「っ、そうか、カニだから…………!

 

しかしそれは、考えれば分かることだった。

カニの硬い殻を模したその皮膚が、一切のダメージを無効化していたのだ。

 

「万丈、遠距離攻撃じゃダメージは通らない!直接攻撃するんだ!」

 

「分かった!だったら………!」

 

シングルッ!シングルブゥレイクゥッ!

 

クローズがツインブレイカーにドラゴンフルボトルを装填し、エネルギーを充填したパイルで殴り付ける。

いくら硬い甲殻でも、近距離から攻撃すれば通ると踏んだのだ。

だが。

 

______ガキィッ!

 

 

「な、マジかよっ!?」

 

『__________』

 

ツインブレイカーのシングルブレイクすら、鈍い音を鳴らして小さい跡を残しただけで、ダメージどころか、その甲殻に傷一つ付けられなかったのだ。

そして甲殻に当たった状態で止まったクローズをハサミで挟み、遠くへと力任せに放った。

 

「ぐあッ!?くっ……………」

 

「万丈ッ!くそっ、だったら……」

 

クローズのやられた様を見たビルドは、ドリルクラッシャーを一度投げ、ボルテックチャージャーを回した。

 

 

Ready Go!

 

 

そのまま高く跳び上がり、ビルドの前方にワームホール型の図形が形成され、オーバースマッシュを閉じ込める。

そしてオーバースマッシュが閉じ込められたワームホールの中心点目掛けて、ライダーキックを繰り出した。

 

 

SPARKLING FINISH!!

 

 

「ハァァァーーーッ!!」

 

無数の炭酸の泡と共に、落下の勢いも利用したキックを繰り出す。

そのキックはオーバースマッシュへ直撃し、勢いも相まり敵を後方へと大きく吹き飛ばした。

 

「はぁっ、はぁっ………やったか………?」

 

地面へ着地し荒く呼吸をしながら、敵が飛ばされた方向を見やる。

その方向は土煙が立っていたが、しかし。

 

『_________a______u_________』

 

「最っ悪だ……………ピンピンしてるじゃねえか…………」

 

オーバースマッシュは倒れていたもののすぐに立ち上がり、こちらへと歩み寄ってきた。

胸部の甲殻にはキックの跡が付いていたが、ヒビ一つ入っておらず、依然その堅牢さを感じさせていた。

 

「戦兎………どうすんだよ、これ………」

 

「やっぱ、ドライバーを狙うしかないな………」

 

そう言いビルドが見据えた方向には、オーバースマッシュの腰に、変身前と変わらず巻かれたリバースドライバーがあった。

前回のファングオーバースマッシュの時、ドライバーを破壊した事で活動が止まった事から考えれば、今回も同じくドライバーを破壊、もしくは機能を停止させることで倒せるはずなのである。

 

「よし万丈、連携だ。どうにか隙を作って、その一瞬に二人でドライバーに同時攻撃を叩き込む。いくら殻が硬くったって、大元をやられりゃ関係ない」

 

「……分かった。行くぞ!」

 

作戦を説明し、同時に地を蹴り、オーバースマッシュへ向かう。

ビルドはドリルクラッシャーをブレードモードへと切り替え、クローズがツインブレイカーを構えながら、二方向に攻撃を加える。

 

『__________!__________u______a』

 

しかしオーバースマッシュは瞬時に二人を見やると、的確な動きで二人の攻撃を捌き、急所を狙い反撃してきた。

 

「ガハッ……くそっ、悉く避けやがって………!」

 

鳩尾を軽く打たれたクローズが毒突き、再び攻撃を開始する。

 

ビィームモードッ!

 

一度距離を取り、ツインブレイカーを変形、ビームモードへと切り替えた。ハサミによる攻撃を間一髪で交わし、素早く移動する。

 

「オラオラオラァッ!」

 

そしてオーバースマッシュの後方に回り、連続でビーム攻撃を打ち込んだ。相手には無論ダメージが入った様子がないが、しかし一瞬とはいえ向こうの意識はクローズへ向いた。

 

「今だ戦兎ォッ!」

 

「ナイスッ!バッチリだぜ万丈ッ!」

 

クローズからの指示を受け、その隙を逃さずにビルドが接近し、ドリルクラッシャーにボトルを装填する。

 

 

Ready Go!

 

 

音声と共に、ブレード部のドリルが高速回転する。

その勢いのまま、隙の生まれたオーバースマッシュ目掛けて______

 

 

VOLTEX BREAK!!

 

 

「ハァッ!!」

 

ボトルのエネルギーを込めた一撃を、ドライバーに放った。

そしてドリルの回転により、継続的なダメージがドライバーへと集中して与えられ続ける。

 

『________a!_______ua_____ッ!』

 

クラブオーバースマッシュはここに来て、初めてダメージを食らった様子を見せ、動きが硬直する。

 

しかし直ぐにビルドの方を見ると、ハサミを持ち上げ_____

 

「ガァッ!?」

 

『__________!』

 

ビルドの胴体を挟み、攻撃を中止させた。

そのまま一度ハサミを外し、刃を閉じてビルドの腹部へと叩き込んだ。

 

「ガハッ………っ!」

 

ビルドはそのまま後方へと吹き飛ばされ、木にぶつかって地を数度転がる。ドリルクラッシャーはそこから少し離れた場所へ転がり、やがてドリルの回転が土埃をあげながら収まった。

 

「戦兎ッ!くそっ………!」

 

アァタックモードッ!

 

その様子を見たクローズが叫び、アタックモードへと変形させオーバースマッシュへ攻撃を仕掛けようとする。

が、それより先にオーバースマッシュがクローズの方へと向き、ツインブレイカーを左手のハサミで封じ込め、残った右手のハサミで胴体を掴み、ビルドと同じ方向へと投げ飛ばした。

 

「のわァァッ!?ガッ………!」

 

数度地を転がり、ビルドと近い距離まで飛ばされる。

 

「万丈ッ………!」

 

ビルドがクローズを気遣うがしかし、そんな余裕はなさそうだった。

相手が二人の方向へ、ハサミを光らせながら迫ってきているのである。このままでは、二人揃ってやられるのがオチだ。

 

「……くそ………っ!」

 

とそこで、クローズが立ち上がった。全身ボロボロだが、何とか立ち上がる。

そして喉を震わせながら、言葉を紡ぐ。

 

「………やらなきゃ、いけねえんだよ………。俺が、あいつを、止めなきゃいけねえんだよ…………ッ!_____ウォォオッ!」

 

そして叫びながら、オーバースマッシュへと向かっていく。

が、やけくその攻撃が当たるはずもなく、いとも簡単に躱され、再び後方へと吹き飛ばされてしまう。

 

「ガァッ………くそッ…………!」

 

それでもなお、立ち上がり、喉を震わせながら、吐き出すような思いで言う。

 

「こんな、とこで………やられるわけにゃ、いかねえんだよ…………!耶倶矢を、止められんのは………俺しか、いねえ………!どっちかが死ななきゃいけねえなんて……そんな事、あってたまるかよ…………!だから、俺が…………」

 

そして拳を硬く、強く握り、叫んだ。

 

 

 

「俺が_____あいつを、救ってみせるッ!!」

 

 

 

「………万丈。ったく、まるでヒーローみてえによ…………ちったあ、マシな顔になったじゃねえか。マスクで分かんねーけど」

 

「戦兎………」

 

その叫びを聞き、ビルドが立ち上がる。

そしてクローズの横へと並び立ち、マスクの下で不敵な笑みを浮かべた。

 

()()、じゃなくて。()()()()、だろ?ヒーローの座はそう簡単に譲らねえよ」

 

ビルドも、思いは同じだ。

 

二人を止めて、二人とも救う。

 

どれか一人の明日を投げ出すなんて選択肢は、この二人には、初めから存在しない。

 

「______頼む。力を、貸してくれ」

 

「……あったり前でしょーが。さっさとこいつ片付けて、あの面倒くさい姉妹喧嘩をやめさせようぜ」

 

そう軽い口調で言いながら、ビルドはラビットタンクスパークリングを外し、【ラビットフルボトル】と、水色のボトル_____【ザドキエルエンジェルフルボトル】を取り出し、振った。

 

「ッ、お前それ………」

 

クローズが、懸念するように呟く。

かつてエンジェルフルボトルを使用した際に、戦兎は重度の疲労症状が現れたのだ。その事をクローズは聞いてしかいないが、少し不安だった。

だがビルドは、何でもなさそうに軽く言った。

 

「出し惜しみしてる場合じゃねえだろ。あいつらを救うまでは、へばらねえよ」

 

そしてキャップを閉じ、ドライバーに、セットした。

 

 

ラビット!ザドキエル!

 

 

SPECIAL MATCH!

 

 

音声とともに、凍えるような待機音声が流れる。

ボルテックレバーを回すと、ビルドの前後には氷漬けになった赤と白のアーマーが形成された。

 

 

Are You Ready?

 

 

「ビルドアップ!」

 

叫ぶと、氷漬けになったアーマーがビルドを挟み、挟まれた瞬間にアーマーの氷が砕け、拡散した。

 

 

瞬足のスノーファイターッ!ラビットザドキエルッ!!イェイイェーイッ!!バッキィィーンッ!!

 

 

「勝利の法則は_____決まったッ!」

 

ファイティングポーズを決め、ビルド ラビットザドキエルフォームが姿を現す。

アイスボックローを取り出し、クローズと共に構え、クラブオーバースマッシュを見据えた。

 

『__________a』

 

「ハァッ!」

 

「行くぜッ!」

 

BEAT CROSS-ZER!

 

二人で地を駆け、オーバースマッシュへと向かう。

ビルドがアイスボックローのクローモードとドリルクラッシャー、クローズがビートクローザーとツインブレイカーのフル武装で、オーバースマッシュへと集中攻撃を浴びせる。

しかしやはり必殺技を完封しきる程の硬さを誇る甲殻、そう簡単には攻撃が通らない。それどころか、やはり攻撃をハサミによって封じられ、先と同じように飛ばされようとする。

 

だが。

 

「_____まだだッ!」

 

FULL MATCH BOTTLE!ディスチャージッ!

 

アイスボックローにエンジェルボトルではなく、通常のフルボトル、【ダイヤモンドフルボトル】を装填し、ダイヤモンドの成分の硬度をクローに発生させる。

 

「ハァッ!」

 

FULL CLAW BREAK!!

 

『_________ッ!』

 

ダイヤモンドのエネルギーを装填したクローによる連撃で、相手のハサミから免れる。そしてすかさず、

 

ガンモードッ!

 

クローからガンモードへと切り変え、再びフルボトルを装填し、接近しつつ銃口を向ける。

 

FULL MATCH BOTTLE!チャージッ!

 

FULL GUN BREAK!!

 

今度はタカボトルを装填し、橙色のエネルギーを銃口へと装填し、エネルギー弾として射出する。

鷹の羽のように無数に分裂した弾丸は分散せず、クラブオーバースマッシュの甲殻の一点、先程スパークリングフィニッシュによるキックを放った胸部へと集中して放たれた。

 

そして、

 

『_______ッ!a______o_______!?』

 

遂にクラブオーバースマッシュの甲殻の一部に、ヒビが入った。さしもの硬い装甲でも、ダメージの入った箇所を一点集中して狙えばヒビの一つは入る。

そしてその攻撃により怯んだことで生まれた隙を、クローズが突く。

 

ヒッパレーッ!SMASH HIT!!

 

「オリャァーッ!!」

 

オーバースマッシュに、ビートクローザーの一撃で深く斬り込む。そしてそのまま、ドラゴンボトルとロックフルボトルをツインブレイカーへと装填した。

 

シングルッ!ツインッ!ツインブゥレイクゥッ!!

 

「行けェッ!!」

 

『_____a____o_____!?』

 

さらに斬り込んだ箇所を、ツインブレイクでさらに突く。

強大なエネルギーを伴って放たれた一撃は、オーバースマッシュに大きくダメージを入れ、腹部の甲殻にいくつものヒビと破片を飛び散らせ、後方へと大きく吹き飛ばした。

 

「行くぞ万丈。同時攻撃でドライバーへ一点集中攻撃だ!」

 

「おうッ!」

 

得物を一度放り、ビルドはボルテックチャージャーを回しボトルのエネルギーを充填させ、クローズはアクティベイトレンチを下げ、スクラッシュゼリーを潰した。

 

 

Ready Go!

 

 

「ハァッ!」

 

「フッ!」

 

ビルドが左腕のスノウラビットブレイカーから氷結エネルギーを放出し、雪の結晶のエネルギー体をスマッシュへぶつけ、的のようにする。

そのままビルドとクローズが同時に飛び上がり、上空から同時に、ライダーキックを繰り出した。

 

 

HERMIT FINISH!!

 

スクラップブゥレイクゥッ!!

 

 

「ダァァァアァッ!!」

 

「ハァァァァアァッ!!」

 

『________ッ!?』

 

氷とドラゴンのライダーダブルキックは、クラブオーバースマッシュのドライバーを見事にピンポイントで蹴り抜き、破壊し爆散させた。

 

「くっ、うぅ………………」

 

そしてスマッシュが地面を転がり、やがて元の肉体へと戻っていく。

ドライバーは完全に破壊されたようだ。

 

「ハァッ、ハァッ………」

 

「よし………なんとか、倒せた…………っ」

 

二人で荒く呼吸を整えながら、武器を拾って先へと進む。

 

「行くぜ、万丈………」

 

「ああ………」

 

まだ疲労と痛みの残る身体に鞭打ち、耶倶矢と夕弦のいる方へと向かう。

 

この時の二人は気づかなかった。

 

 

ふふふ………ご苦労さん

 

 

_______蠍のような道化師が、蟹の意匠が施されたボトルを拾いながら、不吉な笑みを浮かべていた事を。

 

 

 

 

一方その頃。

 

「ハァッ!オリャァ!」

 

成る程、なかなかやるねぇ

 

ほぼ全てのトルーパーを蹴散らしたグリスは、依然ナスティシーカーと交戦状態にあった。

グリスも強いが、相手のシーカーも攻撃を躱し、隙あらば反撃を加え、なかなかの曲者だった。

 

「んだよ………結構楽しめんじゃねェかァ………ッ!」

 

やれやれ、バトルジャンキーというものは怖い、ねぇっ!

 

グリスのツインブレイカーによる突きの攻撃を、ミストブレードでどうにか受け流す。シーカーも攻撃を躱し続けているが、グリスの方が場数は上。やはりその攻撃の重さは、一筋縄ではいかなかった。

 

全く骨が折れるよ、猿渡一海。もう少し手加減してくれても、いいんじゃないかな?

 

「へッ……戦いに手加減なんかあっか………つーかよッ!」

 

何度目か分からないツインブレイカーの攻撃を仕掛けながら、グリスがふと問いかけた。

 

 

「てめェ………一体どこで()()()()を知りやがった?名乗った覚えは、ねェぞッ!」

 

ふん。そんなもの_______

 

 

答えながら攻撃をしようとして_______止まった。

 

ふと、シーカーは疑問に思った。

 

 

_______自分はどこで、『猿渡一海』という名前を知った?

 

 

確かに相手は仮面ライダーグリスとは名乗ったが、本名は言っていない。猿渡一海は今日初めて遭遇した、言うなればイレギュラーな存在。それなのに何故自分は、彼の名前を知り得た?

 

頭が軋むような感覚。

 

まるで記憶を強引に揺さぶるような気持ち悪い感覚をシーカーは、神大は感じた。

 

 

くっ…………鬱陶しいッ!!

 

 

その痛みを振り払おうとして、やけくそ染みた銃撃を行う。が、グリスには当たらず、当然のごとく躱された。

 

「あん?……なんだか知らねえが、これで終いだ!」

 

グリスはそんなシーカーの様子を疑問に思いながらも、長い時間続いた戦闘を終わらせるチャンスを、逃すわけにはいかなかった。

アクティベイトレンチを勢いよく下げ、肩部装甲からゼリー状のエネルギー物質を放出し、空高く飛び上がる。

そのまま黒金のエネルギーを纏いながら、強力なキックを放った。

 

 

スクラップフィィニッシュゥッ!!

 

 

「オリャァアッ!!」

 

ッ!?グアッ!?

 

 

シーカーはそれをもろに喰らい、後方へ大きく吹き飛ばされる。

そのまま数度地面を転がり、変身が解除された。頭を押さえながら、顔を上げ歪める。

 

「くっ_____今日のところは、引いておこうかな…………!」

 

頭の痛みを未だに覚えながらも、神大はリバースチームガンの引き金を引き、その場から消えていった。

 

「………ようやく、終わったか」

 

グリスはそれを追おうとせず、ゼリーを抜いて変身を解除した。

そしておもむろに地面へ寝転がり、大きく手足を広げ、叫んだ。

 

 

「______あーーッ!!疲れたーーーーッ!!ちっくしょぉ、こんな時にみーたんの抱き枕があればなぁ………」

 

ドルヲタはそれから数分後に立ち上がり、倒れた士道と側にいた十香を連れて、旅館へと戻っていったという。

 

 

 

 

ビルドとクローズがオーバースマッシュを倒してから、どれほど道を進んだだろうか。

 

「っ、おい!」

 

「………!あれは____」

 

併走していたビルドとクローズは、同時に喉を震わせた。

そう。木々が放射状に薙ぎ倒された森の上空に、激突を繰り返す耶倶矢と夕弦の姿を見つけたのである。

 

「耶倶矢ッ!」

 

「夕弦ッ!」

 

二人は叫び、足を止めた。

今ここで二人を止めねば、きっそ二人の間で決着がついてしまう。

 

そしてそれが意味することは______どちらか片方の、死。

 

もし万が一それが成されなくとも、二人が消失(ロスト)してしまえば同じこと。

 

ならばこそ二人を共に救うためには、今ここで、彼らが封印を施す他ないのだ。

 

「二人ともやめろっ!今すぐ戦いをやめるんだッ!」

 

「二人とも生き残れる道があるんだっ!話を聞いてくれッ!」

 

叫ぶが、二人とも聞こえていないようだった。二人を覆うように渦巻く風の壁が、外からの音をシャットアウトしてしまっているのだ。

 

「くそッ、どうすりゃいいんだよ!」

 

「なんとかして、あの風を退かせれば…………」

 

言いかけて、戦兎は自身とクローズの両手に握られた武器を見て、閃いた。

 

そして逡巡の躊躇いの後_____唾を飲み込んで、クローズに問うた。

 

「おい、万丈」

 

「あ?なんだよこんな時に!」

 

「_____あいつと、耶倶矢とキスする、覚悟は出来てるか?」

 

「は_____はァッ!?」

 

突然の問いかけに、クローズが大きく戸惑う。が、構わずに続けた。

 

「出来てるか出来てないかって聞いてんだ!いいか、あいつらを救うには、俺らがあいつらにキスして、霊力を封印するしかない!これは分かってるだろ!?お前だって救うって、さっき啖呵切ったじゃねえか!……今ばっかりはお前の恋人の事は関係ねえ!出来るか出来ないか、言え!」

 

「出来るか出来ないかって…………だぁーもうっ!分かったよ!あいつを救うためだったら、それくらいしてやるっ!」

 

クローズも少し強引感が否めないが、覚悟を決めたようだった。

その返答を聞き頷いたビルドは、作戦を説明した。

 

「いいか、俺らがあいつらを助けるにはまず、あの風をどうにかしなきゃいけない。だから、今から俺らの出せる最大火力の必殺技で、あの風を切り裂く」

 

「はぁっ!?いや、それしかダメなのかも知んねえけど………下手すりゃ、あいつらが巻き添えを食らうじゃねぇか!」

 

「二人が離れた瞬間を狙う!下手すりゃぶっ倒れるだけじゃ済まねえけど、覚悟は出来てんだろッ!?俺はもう出来てるッ!」

 

「ッ!」

 

そのビルドの叫びを聞き、クローズは改めて、上空を見据えた。

 

未だに空では二人の精霊が、容赦も手加減もない()()()()()を続けている。

 

口々に互いを讃えながら。

 

一挙手一投足相手を慮りながら。

 

一撃毎に愛を伝えながら。

 

どうしようもなく互いが大好きで、どうしようもない不器用者たちの、どうしようもない歪な戦いが、続いている。

 

______自分自身を殺して、相手の明日を繋げるために。

 

 

______そんなことは、到底許容できない。

 

 

「ああ………やってみる。いや………やってやるッ!」

 

「その意気だ。……気ィ入れろよッ!」

 

ビルドとクローズは互いに拳を当て、そして_____上空で馬鹿騒ぎを続ける不器用者どもを視界にとらえた。

 

 

Ready Go!

 

Ready Go!

 

チェーンソーモードッ!ENGEL MATCH BOTTLE!ヒエールッ!

 

 

SPECIAL TUNE!!ヒッパレーッ!ヒッパレーッ!ヒッパレーッ!

 

レディグォォーッ!!

 

 

ビルドはボルテックチャージャーを回し、ドリルクラッシャーにラビットボトル、アイスボックローをチェーンソーモードで、ザドキエルエンジェルボトルを装填し、エネルギーを溜める。

 

クローズはアクティベイトレンチを下げ、ビートクローザーにロックボトルを装填してグリップエンドを三度引き、ツインブレイカーにドラゴンボトルをセットしたクローズドラゴンを装填した。

 

「ッ!くっ………こいつは………ッ!」

 

「まだだ………ッ!まだ、速えッ!」

 

しかしその膨大なエネルギーの奔流が、徐々にビルドとクローズの身体を蝕む。

特にビルドは、ただでさえ負担の大きいエンジェルフォームで、その上長時間変身したままなのだ。もし仮に成功しても、気絶するだけで済むかどうか。

 

しかし、そんな事は今、彼らの頭の中には無かった。

 

身体を震わすエネルギーの暴流も、鼓膜を揺らす風鳴りも思考の埒外に置き、ただ一つのことだけを心に描く。

 

耶倶矢と、夕弦。偶然か必然か、二つに分かれてしまった精霊。

 

生まれた瞬間から、どちらかが消えることを運命付けられた存在。

 

しかしそれを認識してなお_____二人は今、互いを生かそうと、最愛の半身を相手に戦っている。

 

戦兎は、ギリと奥歯を噛み締めた。

 

「______そんなこと、させて、たまるかよッ!」

 

そう。あんなにも、馬鹿みたいに優しい二人を、どちらか消してしまうなんて、どちらかの明日が消えるなんて、そんなことあってはならない。

だからこそ、二人の決着が付く前に。

 

二人の崇高な決闘とやらをぶち壊す、絶対的な瞬間を_____

 

「ッ!!今だッ!!」

 

その瞬間を、ビルドは見逃さなかった。二人が離れた、これ以上ないチャンス。この機を逃したら、もう次はない______ッ!!

 

 

「万丈ォッ!!!」

 

「よっしゃァッ!!」

 

 

そして、溜まりに溜まった一撃必殺のエネルギーを、全身全霊を込めて________

 

 

 

HERMIT FINISH!!

 

VOLTEX BREAK!!

 

FREEZE CHAIN BREAK!!ガッキィーンッ!!

 

 

スクラップブゥレイクゥッ!!

 

MEGA SLASH!!

 

レェッツブゥレイクゥッ!!

 

 

 

「「ウォォォォォォォォォッ!!!!」」

 

 

 

裂帛の気合いとともに、渾身の一撃を空目掛けて振り下ろした。

瞬間、凄まじいエネルギーの、暴力的なまでの奔流が溢れ、龍の咆哮を上げながら空へ向かって伸びていった。

 

そしてそのエネルギーは上空に吹き荒れていた風の城を容易く切り裂き、耶倶矢と夕弦の間を通るようにして空へと抜けていった。渦巻いていた雲が真っ二つに分かれ、今まで隠れていた月が顔を出す。

 

すると辺りに吹いていた風が嘘のようにピタリと止み、狼狽に満ちた声が聞こえてきた。

 

「な______」

 

「焦燥。これは………」

 

互いに槍とペンデュラムを向け合っていた耶倶矢と夕弦が目を丸くし、今の斬撃の出所を探ってか、下方へと目を向けてくる。

 

そして二人はそこにビルドとクローズの姿を認めると、途端に眉をひそめた。

 

「龍我、戦兎………!?もしかして、今のあんた達が………?」

 

「驚愕。凄まじいエネルギーでした」

 

ビルドとクローズは手の力が抜け、両手に握った武器を地面へ落とした。今にも倒れそうな身体を歯を食いしばって立ち上がらせ、二人の問いに応ずるように口を開いた。

 

「耶倶矢______!」

 

「夕弦………ッ!」

 

これまでの戦いと、今の渾身の一撃により、全身が軋むように痛んだ。だが、今を逃しては二人に声を届かせることなどできない。喉よつぶれよと言わんばかりに、大声を張り上げる。

 

「頼む………!戦いを、止めてくれッ!」

 

「これ以上………お前らが傷つき合う必要なんか、無えんだッ!」

 

しかし二人が訴えかけると、耶倶矢と夕弦は不機嫌そうに顔を歪めた。

 

「……あんたら、聞いてなかったの?私と夕弦は、どちらかがどちらかを取り込まないと存在出来なくなっちゃうの」

 

「同調。その通りです。邪魔をしないでください。今この分からず屋に、耶倶矢がどれだけ優れた精霊かを教え込んでいるのです」

 

「っ、まだ言うか………!私なんかが生き残ったって仕方ないって言ってるでしょ!?なんで分かんないのよこの馬鹿ッ!夕弦、あんたが生きるべきなのッ!」

 

「否定。そうは思いません。耶倶矢こそ大馬鹿です。耶倶矢こそが生きるべきです」

 

「あんたは………!」

 

「激昂。耶倶矢こそ______」

 

「______いい加減にしろッ!テメエらァッ!!」

 

「「!?」」

 

耶倶矢と夕弦の口論を遮るように、クローズが声を張り上げて叫んだ。

その気迫に、耶倶矢と夕弦が一瞬押し黙る。

 

「さっきから聞いてりゃあよ…………!俺から言わせれば、お前ら二人とも大馬鹿野郎だッ!!自分が消えればいいなんて、そんな事軽々しく言うんじゃねえッ!!お前ら、お互いの事が大好きなんだろ……!?だったら、生かされる奴の気持ちを、ほんの少しでも考えたのかよッ!?」

 

「「………ッ」」

 

「例えお前らどっちかが生き残ったってなぁッ!残された奴は相手を死なせたことを、ずっと心ん中で後悔し続ける!それでいいのかよ………!?お前らは、誰よりも大好きな奴が死んだ世界で、楽しく生きられんのかよッ!?」

 

クローズがまるで自分自身にも向けるかのように、裂帛の気合いで叫ぶ。

 

「………ったく万丈、馬鹿が馬鹿って言ったって、説得力ねえぞ?」

 

「うるせえよ!馬鹿って言うなよ!せめて筋肉つけろ!」

 

「その通りだろ!俺の言いたいこと全部言いやがって!」

 

「んだと!?」

 

こんな状況でもいつもの調子で喧嘩をする。

しかしその言葉の通り、クローズが今放った言葉は、ビルドが言おうとしていたことだった。

 

しかしその言葉を聞いた耶倶矢は何かを吐き出すように口を開き、夕弦は半眼を作った。

 

「……知った風な口を利かないでよ………ッ!あんたなんかに、私達の何が______」

 

「分かるさ。この馬鹿にも、俺にも。お前らより先に知ってることが一つだけな!」

 

「……質問。それは?」

 

夕弦の問いに、二人で答える。

 

「夕弦は、耶倶矢の事を思う気持ちが耶倶矢自身よりずっと強くて_______」

 

「耶倶矢は、夕弦の事を夕弦自身よりもずっと大切にしてるって事だッ!」

 

「_____っ、それは」

 

「……………」

 

二人が言葉を失ったように黙りこくる。ビルドとクローズは今にも倒れそうな身体に活を入れ、全身の力を振り絞った。

 

「耶倶矢、夕弦ッ!お前らには今、三つの選択肢があるッ!」

 

ビルドが最初に叫び、クローズが指を一本、ビルドが指を二本だす。

 

「一つ!耶倶矢が夕弦を取り込んで、真の八舞とやらになる!」

 

「二つ!夕弦が耶倶矢を取り込み、真の八舞になる!」

 

ビルドとクローズの言葉を聞いた二人は、答えなど決まりきっている、という顔を浮かべながらも答えようとして_____それより先に、二人が同時に叫んだ。

 

『三つ!精霊の力を失う代わりに、()()()()()()()ッ!』

 

『………ッ!?』

 

二人が言い放った瞬間、耶倶矢と夕弦は目を丸くした。

 

「は………?何ですって?」

 

「要求。今、なんと」

 

「ッ、ガハッ、ガハ………」

 

「っ、おい戦兎……!?」

 

「大丈夫だ………」

 

ビルドがマスクの下で激しく咳き込み、クローズが心配そうに声をかける。

口元に、ぬめりとした感覚があり、舌先が鉄のような味を覚える。恐らくは吐血したのだろう。

だが、ここで止める訳にはいかない。血を飲み込んで、声を絞り出す。

 

「_____今の俺達にはどう頑張っても、これ以外の選択肢が見当たらねえ。でも悪いな、俺たち仮面ライダーには、諦めるなんて選択肢、ハナっから無いもんでな」

 

「何を……言ってるの?そんなこと、出来るはずがないじゃない」

 

「疑念。そうです。そんなの、聞いたことがありません」

 

耶倶矢と夕弦が、疑わしげな目を向けてくる。当然だ。いきなりこんなことを言われても、信じられるはずがないだろう。

だがそれでも、続けて叫んだ。

 

「出来るんだよッ!俺とこいつなら!お前ら二人の明日を、繋げることがッ!頼む!一度だけでいい!お前ら二人を救う、チャンスをくれ!もし失敗なんかしたら、煮るなり焼くなり、なんなら殺してくれたって構わない!だから………!」

 

「………できる訳がない……そんな、こと……あり得ない……!」

 

「あり得ないことをあり得るようにするのが、ヒーローの、仮面ライダーの仕事だ!現に今、お前ら自慢の暴風を割ってみせただろ!」

 

「っ………」

 

「思案。…………」

 

耶倶矢と夕弦が言葉を失い、目を見合わせる。言葉の真意を探っているというよりは、急な事態に混乱している様子だった。

 

「だから____やめろっ!もうお前らが、争う必要なんか無いんだよっ!どっちかが死ぬ、必要、なんて…………」

 

言葉の途中で、戦兎は激しい目眩を感じ、その場に倒れ込んでしまった。同時に変身が解除され、アーマーが粒子となって消える。

 

「戦兎!おいしっかりしろ、戦兎っ!」

 

クローズが心配そうな声を発し、肩を揺する。だが、それに答えることはできなかった。

一応意識はあるのだが、ひゅうひゅうと喉から空気が漏れるばかりで、声を発することができない。さらには全身激しい倦怠感と痛みに出血、吐血と来たものである。どうやら______戦兎の身体は、とうに限界を超えていたらしい。

 

「………………」

 

「………………」

 

上空では、耶倶矢と夕弦がジッと見つめ合っていた。

 

_______耶倶矢が、静かに口を開く。

 

「………だってさ。どう思う?夕弦」

 

「不信。信じられません。いくら彼らが強くても、精霊から力を奪うなんて聞いたことがありません」

 

「だよねー……私も同意見」

 

「ッ、お前ら………!ぐっ………」

 

クローズが反論しようとするがしかし、言葉は続かなかった。

変身が解除され、全身を激しい痛みと倦怠感が襲い、その場に倒れこむ。

 

「くそ………っ、俺もかよ………っ………」

 

悔しげに吐き捨てながらも、抗えずに地面へと倒れる。

戦兎はそれを見やり、二人の言葉を聞くと、視界が滲むのを感じた。

 

 

______止めろ、止めろ。俺には、俺たちには、お前らを救える力があるのに。手を伸ばせば届くのに、掴めるのに。

 

 

しかし、戦兎の声にならない声は空に届くことはなかった。耶倶矢と夕弦が、万丈が倒れる様子を見やった後、互いの目を見据えながら言葉を続ける。

 

「………龍我もぶっ倒れちゃった。まったく二人にも困ったもんね。二度も邪魔してくれちゃって」

 

「同意。まったくです。せっかく耶倶矢を倒せるところだったのに」

 

「何言ってんの。私こそ今必殺の一撃を放つとこだったし」

 

「嘲笑。シュトゥルム・ランツェ(笑)ですか」

 

「うッ、うるさい。もう一度言ったらマジで怒るかんね」

 

「応戦。どうぞ好きにしてください。どうせ勝つのは夕弦です。夕弦が、耶倶矢を生き残らせてみせます」

 

「そうはいかないもんね。私が勝つわよ。あんたは、生き残らなきゃなんないの」

 

「反論。耶倶矢こそ」

 

耶倶矢が槍を、夕弦がペンデュラムを構える。辺りに、再び風が吹き始めた。

 

______だが。

 

「………ねえ、夕弦」

 

「応答。何でしょう」

 

「あくまでもしもの話。イフの話。可能性の話だけどさ。_______もし二人の言うことが本当だったら、どう思う?」

 

「請願。考える時間を下さいますか?」

 

「認める。ただし三十秒」

 

「……………………」

 

「はい、終わり。どう?」

 

「応答。…………とても、素敵だと思いました」

 

「………ふうん。案外ロマンチストなのね」

 

「憮然。そういう耶倶矢はどうなのですか?」

 

「………奇遇ね、私も同じこと考えてた」

 

「質問。もし二人とも生き残れたら、耶倶矢は何がしたいですか?」

 

「私?そうねえ………あ、十香が言ってた、きなこパンっての食べてみたいかも。何でも至高の美味らしいし」

 

「同意。それは美味しそうです」

 

「夕弦は?」

 

「回答。______夕弦は、学校に通ってみたいです」

 

「ああ………いいわね。あはは、夕弦ならきっと学校中の男たちの憧れの的よ」

 

「否定。それはないと思います」

 

「へ?なんで?」

 

「応答。だって、耶倶矢も一緒だからです。きっと耶倶矢の方が人気が出ます」

 

「は、は………私も一緒?」

 

「肯定。だって、もしもの話です。制限を与えられた覚えはありません」

 

「ああ………そうだっけ。そうね、じゃあ放課後は街をぶらつこっか」

 

「同意。それは素敵です。喫茶店に入ってみたいです」

 

「はいはい分かってるわよ。でもちゃんと割り勘だかんね?」

 

「否定。それは不平等です。耶倶矢の方がいっぱい食べます」

 

「そ、そんなに変わんないし」

 

「疑問。そうでしょうか」

 

「………………」

 

「………………」

 

その言葉を最後に、二人がしばしの間無言になる。

風鳴りの中、声を再開させたのは、耶倶矢の方だった。

 

「………ねえ、夕弦」

 

「応答。なんでしょうか」

 

「ごめん、私、嘘ついてた。………私、」

 

耶倶矢の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

 

「私、死にたく、ない………生きたい。夕弦と、もっと一緒にいたいよ………!」

 

「応と________、」

 

次いで夕弦の頰に、涙が一筋伝った。

 

「夕弦も………です。消えたく、ありません。耶倶矢と、生きていたいです………!」

 

「夕弦………!」

 

「耶倶矢………!」

 

二人が視線を合わせ、同時に唇を動かす。

 

『_________』

 

だが、二人の喉から発された声は、互いに届くことはなかった。

 

「何………?」

 

「注視。あれは_______」

 

耶倶矢と夕弦が空を仰ぎ見る。

そこには後部から黒煙を噴いた、巨大な黒い戦艦が浮遊していた。

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?
色々詰め込んだ結果、今回は長くなってしまいました。
原作のフラクシナスとアルバテルの艦隊戦は、書いても原作コピーになるのでカットさせていただきました。気になる方は原作5巻を読んでみてください。一応次回に事のあらましを簡単に書きますが。

さて、次回でようやく八舞編も終わります。それで前に告知した劇場版編ですが、美九編の後に書こうかと思います。
理由といたしましては、時系列的に結構ややこしくなるのと、そっちの方が何かとストーリーとかが組み立てやすいってのがあります。もう少しだけお待ちください。

明日はいよいよジオウの映画ですね。朝一で見に行きます!

それでは次回、『第52話 ベストマッチな二人』をお楽しみに!

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第52話 ベストマッチな二人

今回はメイン三人がストーリーの都合でぶっ倒れてるので、あらすじ紹介は無しでいきたいと思います。決して手抜きとかじゃないですから!(必死)

投稿間隔の振り幅が大きかった八舞編も、いよいよこれでラストです!

それでは、どうぞ!


「艦長!これ以上高度を下げては危険です!不可視迷彩(インビジブル)を張っていない状態では、住民に気づかれる恐れが______!」

 

「黙れェ!」

 

_____冗談ではないッ!

 

DEM空中艦【アルバテル】の艦長パディントンは、苛立ちを堪えきれずに一喝した。

 

今回の作戦、アルバテルやバンダースナッチ、そしてデウストルーパー、エレン・メイザースの能力を以ってすれば、成功以外あり得なかったのだ。

それが今ここまで失態を重ねた理由______全ては、あの忌々しい【ラタトスク機関】の所為だ。

 

精霊を懐柔し、空間震を解決させようなどという酔狂な集団にしてやられたという事実など、パディントンにとってこれ以上無い失態だ。

それを帳消しにするならば、それを補って余りある成果が必要になる。

パディントンは、画面上に映し出された二人の少女を睨み付けた。

 

先程通信が途切れる直前にもたらされた情報によれば、あれが彼の精霊【ベルセルク】であるという事だった。

 

遠隔制御室(コントロールルーム)の消火は済んだな!?艦に残っているバンダースナッチを全て発進させろ!なんとしても【ベルセルク】と【プリンセス】を拿捕するのだ!」

 

「し、しかし!」

 

「いいからやれッ!」

 

パディントンの怒号から一拍おいて、クルーが奥歯を噛みながらコンソールを叩いた。

 

 

 

 

「_____何よ、あれは」

 

「同意。空気を読んで欲しいです」

 

耶倶矢と夕弦は上空に現れた巨大な鉄の塊を見上げながら、不機嫌そうに声を発した。

せっかく最愛の半身と和解し合えたというのに、絶妙なタイミングでそれを邪魔されてしまったのである。

 

その上、戦艦の下部のハッチらしき部分が開いたかと思うと、そこからバラバラと、手足や背に様々な武器を積んだ人形が落ちてきたのである。

しかもその人形達は、空中で背のウイングを広げると、存外軽やかに空中を旋回し、耶倶矢と夕弦を取り囲むように飛び始めた。

そして次の瞬間、その人形達が、右手に備えた筒のようなものを二人に向け、そこから光線を発してくる。

 

「うおっ!?」

 

「…………!」

 

耶倶矢と夕弦はすんでのところでそれを躱すと、キッと人形を睨み付けた。

が、すぐに他の人形たちもそれに追随するように砲を構え、耶倶矢たちに攻撃を仕掛けてくる。

 

「く、なんだこの人形たちは!」

 

「攻撃。鬱陶しいです」

 

耶倶矢と夕弦はそれぞれ槍とペンデュラムを構え、周囲の人形達を吹き飛ばしていく。

が、吹き飛ばされた人形たちは、何事もなかったように姿勢を直すと、再び二人に向かってきた。

耶倶矢と夕弦は不快そうに眉を歪めた。

 

「む………気味の悪い輩よ」

 

「同意。正直触りたくありません」

 

耶倶矢と夕弦は再び人形を吹き飛ばすと、再び上空を仰ぎ見た。

まだ人形は打ち止めでは無かったらしい。またもバラバラと、巨大な艦から人形が投下される。

 

二人はそれを見てうんざりと眉を歪めると、全く同時に口を開いた。

 

「あのさ、夕弦」

 

「提案。耶倶矢」

 

声が綺麗に重なる。耶倶矢と夕弦はキョトンと目を丸くすると、顔を見合わせた。そして何処からともなく、「ふふっ」と声が漏れる。

 

「やっちゃう?」

 

「肯定。やっちゃいます」

 

二人は小さく頷き合うと、耶倶矢が左手を、夕弦が右手を差し出し、ぴたり、と合わせた。

 

すると二人の霊装と天使が光り輝き_____耶倶矢の右肩に生えていた羽と、夕弦の左肩に生えていた羽が合わさって、弓のような形状を作った。

次いで夕弦のペンデュラムが弦となって羽と羽とを結び_____耶倶矢の槍が、矢となってそれに番えられる。

 

今度は、耶倶矢が右手で、夕弦が左手で。

 

霊装の鎧に包まれた手で以って、左右から同時にその弦を引いた。

最大まで引いた弓を、上空の戦艦へと向ける。

そして。

 

 

 

『【颶風騎士(ラファエル)】_________【天を駆ける者(エル・カナフ)】!!』

 

 

 

二人が、全く同時に手を離し、その巨大な矢を、天高く打ち上げた。

瞬間、これまでが比べ物にならない程の風圧が、周囲を襲う。

 

彼女らの直下にいた戦兎と万丈はまだ良かったが、二人に飛びかかろうとした人形は、その余波だけで吹き飛ばされ、残った木々は薙ぎ倒されて、森が波打つようにざわめいていく。

 

風の加護を持った矢の進行を止められるものなど、この世界に存在しない。

 

絶対にして無敵の一点集中攻撃。

 

八舞たる二人、耶倶矢と夕弦______()()()()()()な二人が一つになって初めて放たれる、最強の矢。

 

人間の産物の戦艦に、それを防げる道理などあるはずがなかった。

 

巨大な戦艦は瞬く間に颶風騎士(ラファエル)の矢に貫かれ、それの纏った風圧により内部を滅茶苦茶に破壊され_____巨大な爆発を伴って夜空を赤く染めた。

 

 

 

 

「………く、ぁ……」

 

呻きのような声とともに、折紙はうっすらと目を開けた。

視界に映るのは、四角い照明に照らされた旅館の一室の天井であった。脇腹に鈍い痛みが走る。

顔をしかめながら胸元に触れてみると、湿布と包帯で手当が施されている事が分かった。

 

「一体、何が…………」

 

「……ああ、目覚めたかい」

 

と、枕元から、眠たげな声が聞こえてきた。副担任の村雨令音だ。

 

「先生……ここは」

 

「……私の部屋だ。外で君が倒れていたのでね、悪いが運ばせてもらったよ。他の生徒に見つかっては騒ぎになってしまうだろうからね」

 

「あの………人形は____」

 

「人形……?ああ、あれか。君の倒れていた近くで、固まっていたよ」

 

「______そう」

 

折紙は短く言うと、軋む体をどうにか起こした。

 

「……無理をしない方がいい。今日は大人しくしていたまえ」

 

「この治療は、先生が?」

 

「……ああ。有り合わせで悪いがね」

 

「いえ。………感謝します」

 

「……どういたしまして、かな」

 

言って、令音が肩をすくめる。折紙は声を続けた。

 

「先生、その、人形のことは」

 

「……誰にも言わないさ。その方がいいんだろう?」

 

「…………」

 

折紙は無言で令音の顔を見返した。

 

………この村雨教諭、倒れた所を運んだようだが、あの人形を目の当たりにしていながら、妙に落ち着いている気がした。その上で冷静に折紙に手当を施し、それを誰にも話していないと来たものだ。

確かに折紙としても、あの件を無闇矢鱈と広めて欲しくなかったのだが……何と言うのだろうか、少々優秀すぎる気がしないでもなかった。

 

だが、折紙はそんな思考を中断し、もっと大事なことを訊いた。

 

「_____士道」

 

「………ん?」

 

「士道は、どこ」

 

「………ああ、無事だよ。もう旅館にいる。ただ少しばかり怪我をしたようでね、別室で寝かせているところだ」

 

「………っ!」

 

怪我をした、という言葉を聞き、折紙は布団から這い出る。

しかしその場に立ち上がった瞬間、腹部に鈍い痛みが走り、折紙は膝をついてしまった。

 

「う………っ」

 

「……だから言っただろう。無理はいけない。なに、大丈夫さ」

 

「……………く」

 

折紙はその場に四つん這いになったまま、畳に拳を突き立てた。その衝撃でまたも腹部に軽い痛みが走るが、構わずもう一度畳を殴る。

 

ただの一撃。武器を使ったわけでもないただの一撃で、これである。

 

あまりにも、無力で、あまりにも弱い。

折紙は自分の脆弱さを呪い、ぎりと奥歯を噛んだ。微かに血の味がした。

 

「_______たい」

 

「……うん?」

 

自分に言い聞かせるように、折紙が唱える。

 

「強く……なりたい。何にも頼らず………士道を、守れる………くらいに……ッ」

 

「…………」

 

その言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか_____令音は、静かに目を伏せて折紙の肩に、優しく上着を掛けた。

 

 

 

 

「くっ………うぅ………」

 

「ッ、シドー!」

 

士道は全身に激しい倦怠感を覚えながら、うっすらと目を開けた。

 

「気がついたか、シドー!」

 

「ようやく目ぇ覚ましたか」

 

「……一海、さん………十香………ここは……」

 

「旅館だ。突然倒れたシドーを、かずみんがここまで運んでくれたのだぞ」

 

「倒れた……?っ」

 

十香の言葉に、ハッとなる。

確か自分は、マイティと戦って、それから________琴里の力を使って、その場から逃げた、筈だ。

 

「ッ、そうだ、戦兎…………ッ」

 

立ち上がろうとするも、力が入らず、その場で転がってしまった。

 

「ぐ………っ」

 

「無理すんな。なんでもお前、凄かったらしいな。今日はもう休んどけ。戦兎達なら戻ってくるさ」

 

「一海さん………」

 

一海がやれやれといった感じで笑いながら、布団を掛け直す。

そして再び、口を開いた。

 

「………けどまぁ。お前の覚悟は、貫き通せたんじゃねえか?」

 

「………そう、ですね………」

 

一海さんが言った、その言葉を聞き、士道は少し笑って____再び、眠りについた。

 

 

 

 

「………アルバテルは沈んだか。まあ、予想通りといえば予想通り、かな?」

 

或美島の森で、神大は端末を操作しながら呟いた。バンダースナッチが機能を停止した事からも間違いないだろう。

それを確認した神大は、端末を閉じた後、思い出したように不快な表情になった。

 

「それにしても………あれは一体、何だったんだ」

 

もう一度頭をさすり、先の出来事を思い出す。

 

あの瞬間______確かに激しい頭痛と、記憶が揺さぶられるような現象が起こった。

今まで味わったことの無い、自分の手の届かない所を痛めつけられるような、この上なく気持ち悪く、嫌な感覚。

 

あれが何なのか______考えようとしても、霧がかかったように思考が纏まらず、糸が絡まったようにぐちゃぐちゃになった。

 

「全く、もうこんな事は無いようになって欲しいものだねぇ………」

 

神大は不快そうな表情を隠し切れずに、再び、森の中を歩き始めた。

 

______その痛みが、自分の運命を歪める事になるなど、この時は考えもせずに。

 

 

 

 

「______おい、龍我よ。そろそろ起きんか」

 

「______呼掛。戦兎、起きてください」

 

意識の遠いところから、声が聞こえる。

 

「う………んぅ?」

 

「ぁ………あぁ?」

 

戦兎と万丈は、混濁した意識をどうにか立ち上げ、うっすらと目を開けた。

視界に映ったのは、自分を見上げる、耶倶矢と夕弦の姿だった。

 

「む、ようやく起きたか。この寝坊助め」

 

「同調。膝が疲れました」

 

戦兎達が目を開けたところを見て、耶倶矢と夕弦が呆れたような、しかし嬉しげな笑みを浮かべて話す。

 

「…………は?」

 

「…………ん?」

 

思わず唖然とし、そこでようやく自分が、何やら柔らかい物に頭を預けている事に気づく。

視界に映る顔とその感覚から、自分たちが膝枕をされているという事実にようやく気付いた。

 

「うっ、うわっ、悪い!今すぐどくから………いっ!?」

 

「あ?どうしたんだ………うっ!?」

 

二人が退こうとするも、身体に上手く力が入らず、さらには激しい痛みが全身を襲う。

しかしどうにか力を振り絞って起き上がり、周囲を見渡す。耶倶矢と夕弦が正座をしながら笑っている姿と、薙ぎ倒された木々、日が昇りかけている夜空が目に映った。

 

「無理をするでない。あれ程の怪我だ、仕方あるまい」

 

「同意。無理をしないでください」

 

「いや………大丈夫だ。お前らが、助けてくれたのか?」

 

「ああ。くく、砂浜で無様に倒れていたからな。こうして我らが直々に膝枕をしてあげた、という訳だ」

 

「解説。膝枕をすると言い出したのは耶倶矢ですが、すぐに赤くなって照れていましたよ」

 

「なっ!?て、照れてないし!夕弦、適当言うなし!」

 

夕弦の冷静な言葉に、耶倶矢が顔を真っ赤にして反論する。

その様子を見て、戦兎と万丈が顔を見合わせ、互いにくしゃっと笑った。

 

「む……?何がおかしいのだ」

 

「同意。どうしたのですか?」

 

「いや………そんな風に二人で笑い合えるようになって、本当に良かった」

 

「ああ。………もう、生かし合わなくて済むな」

 

二人がそう言い、再び笑う。これまでの様子からは考えられないくらいの、仲直り振りだったのだ。

すると耶倶矢と夕弦がキョトンとし、二人に顔を合わせた。

 

「まだだぞ。龍我よ」

 

「同調。その通りです、戦兎」

 

「え?」

 

「あん?」

 

()()だ。龍我よ、早く我らの力を封印して見せよ」

 

「同意。まだ時間はありますが、早いほうがいいです」

 

「「あ」」

 

耶倶矢と夕弦のその言葉に、ハッとなる。

今までぶっ倒れていて忘れかけていたが、まだ二人には封印を施していない。

 

戦兎と万丈は顔を見合わせると、気まずげに視線を逸らした。

 

「あー、それはほら………万丈、やれよ」

 

「はぁ!?なんで俺が先なんだよ!お前からやれよ経験者だしよ!」

 

「経験者とか言うなよ!なんか言い方に悪意あっから!」

 

二人が言い合うのを見て、耶倶矢と夕弦が不満げに漏らす。

 

「なんだ、我らの力を封印するというのは嘘だったのか?もしこの颶風の御子に虚言など吐いたなら、その骨すら残らぬと思え」

 

「私刑。ぼこぼこです」

 

「は!い、いや、嘘じゃねえよ。なあ、万丈?」

 

「あ?お、おう!その通りだぜ!」

 

二人で思わず肩を組み、笑ってサムズアップしてみせる。

 

『……………』

 

二人は疑わしそうな目で戦兎と万丈を見た後、小さく息を吐いた。

 

「くく……まあ良いだろう、信じてやる。……と、そうだ」

 

「想起。大事な事を忘れていました」

 

二人がポンと手を打ち、口を開く。

 

「………戦兎、龍我。まあ、なんというか、ありがとうね。いろいろと」

 

「多謝。二人のおかげで、耶倶矢と争わずに済みました」

 

「いや、んなこと………」

 

「気にすんなって」

 

急にしおらしくなられ、少し面食らう。万丈は顔を逸らして頰を掻き、戦兎は困ったように苦笑した。

と、耶倶矢と夕弦は互いに目配せしてから、二人に視線を戻してきた。

 

「だから、まあ、つまんないものだけど、お礼にと思って」

 

「請願。目を閉じていてください」

 

「は?目って、なんだよ」

 

「い、いいから!少しの間だけ、目を閉じているがいい!」

 

耶倶矢に押し切られ、万丈が観念したように目を閉じる。

 

「請願。戦兎も」

 

「へ?あ、うん」

 

戦兎も慌てて目を閉じ、大人しくする。

すると_____

 

「「…………!?」」

 

戦兎の唇と万丈の唇に、同時に柔らかい感触が生まれ、二人とも目を白黒させた。

そう。耶倶矢が万丈に、夕弦が戦兎にそれぞれ同時に口付けてきたのである。

 

「な、な…………!?」

 

「お前ら、何を______」

 

「だ、だから言ったでしょ、お礼代わりって。私と夕弦なんて超絶美少女のファーストキスよ?喜び舞い踊るならまだしも、その反応はなんなのよ」

 

「謝罪。ご迷惑でしたか」

 

耶倶矢が顔を赤くして腕組みし、夕弦がすまなそうに顔を俯かせる。と______

 

「な…………」

 

「驚愕。これは_______」

 

耶倶矢と夕弦は喉から狼狽に満ちた声を発した。だが無理もあるまい。

何しろ彼女らの身に纏っていた拘束衣と鎖が光の粒子となって消え、戦兎と万丈の手の平に収束していったのだから。

 

「おい戦兎、これって………」

 

万丈が確認するように訊くと、万丈の手のひらの光の粒子は、紫色の槍と、右向きの銀の翼の意匠が施された橙色のボトルへと変化した。

戦兎の方は、青色のペンデュラムと、左を向いた銀の翼の意匠が施された、万丈のそれと同じ橙色のボトルに変化した。

 

「う、うきゃぁぁぁッ!?」

 

「狼狽。えっちです」

 

すると二人が揃って胸元を覆い隠し、その場にうずくまる。戦兎と万丈は慌ててフォローに回った。

 

「お、落ち着いてくれ!実は、今のキスが霊力の封印に必要な事だったんだ」

 

「と、とりあえずこれ着とけ!」

 

万丈が顔を赤くして目を逸らしながら、慌てて腰に巻いたスカジャンを耶倶矢に被せ、戦兎もワイシャツを脱いで夕弦に掛ける。

 

「うわっぷ!?……うぅ、こんなのなんて、聞いてないし…………」

 

「憤怒。こうなるならちゃんと説明してください。ぷんすかです」

 

耶倶矢と夕弦が掛けられた服を縋るよう掴みながら、涙目で抗議してくる。

戦兎と万丈はそれを見ると困ったような顔になり、全身の痛みに耐えながら、二人を慌てて宥めた。

 

 

 

 

嵐が吹き荒れた夜が明け、翌日。

旅館から出発した戦兎達は、天宮市に帰るため空港にやってきていた。

着替えなどを纏めた荷物を預け、幾つかの注意事項を説明された後、飛行機の出航まで待機するよう言われた生徒たちは、お土産を漁ったりフードコートで空港グルメを食べたりしていた。

 

「………若さっていいなぁ」

 

「………何年寄り臭い事言ってんだよ」

 

「………実際この三日間で、ちと年取った気がするなぁ」

 

戦兎と万丈と士道はぐったりとロビーの椅子に腰掛けながら、遠い目をして生徒たちを見ていた。

 

「ならお前も混ざってくるか?」

 

「……やめとく。つか混ざったら死ぬわ」

 

「はは…………。まあ、色々あったもんなぁ」

 

万丈が肩をコキコキと回しながら言い、士道が力なく笑う。

 

「いやー、なんだかんだで一瞬だったなー」

 

と、三人の隣で快活に笑いながら、殿町が言ってきた。

 

「ああ……そうだな」

 

「んだよー、ノリ悪いなー。………つか、桐生と万丈のその怪我、どうしたんだ?」

 

「ああ………気にすんな」

 

「おう………ちと、沖縄のカニに絡まれてな」

 

「そ、そうか………」

 

三人が枯れ果てた老木のような調子でそう答えた。

昨晩の一件以降、三人揃って全身を凄まじい虚脱感が襲っていたのだが______一晩眠ってからは、その上さらに強烈な筋肉痛が加算されていたのである。

まあ、あれ程の激闘を繰り広げた二人と、天使の力を顕現させた士道なら、代償としても頷けるだろう。

そして、耶倶矢と夕弦が救えたなら、この程度安いものなのかもしれないが。

 

なお、旅館を出た後から、耶倶矢と夕弦の姿はなかった。

二人と、ついでに一海はフラクシナスに転送されていたのである。二人は検査で、一海はフラクシナスクルーへの紹介も兼ねてそのまま連れて行くらしい。多分耶倶矢と夕弦に会うのは、全ての検査が終わってから、天宮市に戻ってからになるだろう。

 

「そういえば五河、鳶一はどうしたんだ?今日姿が見えねえけど」

 

「折紙、か………」

 

「そういや見てないな。戦兎、なんか知らねえか?」

 

「あー?いや知らないよ。ずっと寝てたから。ふぁ〜………あぁ、まだ寝足りねえ」

 

士道は頰を掻き、戦兎は欠伸をしながら答えた。

折紙もまた、今朝から姿を見ていないのである。令音の話によれば、嵐が止むのを待ってから近くの病院に搬送されたため、天宮市に帰るのが遅くなるかもしれないとのことだった。

なんでも例のバンダースナッチに襲撃を受けたとのことだったが、大丈夫だろうか。

ちなみに戦兎達は戻ったのが遅かったため、止むを得ず一度天宮市に戻ってから、フラクシナスで再度治療を受ける運びになっている。骨折などは見受けられなかったのが、せめてもの幸いか。

 

すると、遠くの方からタマちゃん先生の声が聞こえてきた。

 

「はーい、皆さーん、そろそろ時間ですので、集まってくださーい!」

 

「お……もうそんな時間か。殿町、お前土産とかはもういいのか?」

 

「ん?ああ、大丈夫だ。すっげえ土産をもう手に入れたからな」

 

「?……まあ、それならいっか」

 

殿町がどこか含みのある笑みを浮かべていたのが気になったが、特に追求しなかった。

 

「さて、俺たちも行くか……」

 

「だな。よっこらせ……と」

 

「いってて………」

 

と、三人がよろめく足に力を入れてどうにか立ち上がると、それに合わせるようにバタバタッという足音が聞こえてくる。

 

「シドー、セント、リューガ!たくさんお菓子を買ったぞ!」

 

言って、両手に土産物屋の袋を下げた十香が、ニッコニコしながら走ってくる。

こちらは昨日あんな事があったというのに、元気百倍全力少女だった。

 

「おいおい、ちょっと買いすぎじゃないか」

 

「そんなことは無いぞ!見ろ、限定味のチュッパチャップスだ。琴里も喜ぶぞ!」

 

心底嬉しそうに屈託のない笑みを浮かべられると、士道は何も言えずにポンポンと頭を撫でて、ゆっくりと集合場所に歩いて行った。戦兎と万丈もそれを見て肩をすくめながら、後に続くように歩いて行った。

 

「はいはい、全員集まりましたかぁ?では、これから飛行機に乗り込みますので、順番に並んでくださぁい」

 

タマちゃん先生がロビーに集まった生徒たちを見渡しながら声を響かせる。

 

「シドー、帰りは私が窓の方でいいか?」

 

「ああ、別に_____」

 

「______それは認められない」

 

「へ?」

 

「うん?」

 

「おい、あれ……」

 

士道の声を遮るように響いた声音に、三人が反応する。

見ると、後ろには身体の各所に包帯を巻いて松葉杖を突いた折紙の姿があった。

 

「お、折紙!?なんでここに!?ていうかその怪我………大丈夫なのか?」

 

「問題ない」

 

折紙は平然と言うと、士道の側にぴとっと寄り添い、再び十香との喧嘩になった。

 

「お、おい!お前ら落ち着けって………」

 

「ハハッ。じゃあ士道、俺ら先行ってるな」

 

「頑張れよー」

 

「ち、ちょっと待てよー!」

 

士道達の痴話喧嘩を冷やかしながら、戦兎達が先に向かう。

すると。

 

 

「____くく………遅かったな、龍我よ」

 

「同意。待っていましたよ、戦兎」

 

 

「え……?」

 

「は……?」

 

前方から聞こえた声に、二人揃って唖然とした。

 

何しろそこには_____昨晩フラクシナスに収容されたはずの、耶倶矢と夕弦の姿があったからだ。

 

「夕弦!?」

 

「耶倶矢!?お前ら、何で………」

 

その背後には令音の姿もあり、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「……どうしてもセイとバジンと一緒に飛行機に乗ると聞かなくてね。状態も安定していたから、特別に許可を出したんだ。本格的な検査は天宮市に帰った後で行う」

 

「………なるほど」

 

「お前ら………」

 

そこで耶倶矢が万丈の、夕弦が戦兎の腕に絡みついてくる。

 

「くく………光栄に思えよ龍我。最初はただの興味の対象と、決闘の贄に過ぎなかったが………我は貴様を気に入った」

 

「寵愛。夕弦もです。戦兎のこと、もっともっと知りたくなりました。所謂ぞっこんです」

 

「そこで、だ。戦兎、龍我。貴様らはそれぞれ、我らの財産とすることが決定した」

 

「同意。そういう事です。朝のおはようから夜のおやすみまで、思うさま愛してあげます」

 

「は……はぁッ!?」

 

「お、お前ら何勝手なこと言ってんだ!?」

 

戦兎と万丈が堪らず叫ぶと、二人がしたり顔で言い放った。

 

「ふふ……覚悟しておれよ?我の寵愛を受けるなど、この世で至上の幸福なのだからな」

 

「同意。戦兎、これからはずっと一緒です。覚悟してくださいね?」

 

二人が言うと、二人は顔を見合わせて、困ったような笑みを浮かべて言った。

 

「最っ悪だ………」

 

「でも………最っ高だ」

 

二人がこうして、互いに死なずに今、存在している。

 

二人の明日を繋げたことが………戦兎と万丈は、堪らなく嬉しかった。

 

 

________ただ、自分たちの明日はこれからどうなるのか、一抹の不安がよぎった。

 

 

 




どうでしたか?
これにて八舞編、ようやく完結です!
いやー、これまでの章より長めになっちゃいましたね。個人的に八舞姉妹と戦兎達の絡みは、これから大事に書いていきたいので、どうか注目していてください!

そして次回、いよいよ新章突入です。

学園祭、DEMとの戦い、そして新たなる真相_____色々詰め込む予定ですので、どうか楽しみに、待ち刻んでてください!

それでは新章、『第6章 美九ヒーローズ』『第53話 ヒーロー達の新たな日々』、をお楽しみに!

次回は戦兎達の新しい日常や、説明的な回になるかと思われます。本格的に始まるのは次々回からですね。

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第六章 美九ヒーローズ
第53話 ヒーロー達の新たな日々


桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎は!或美島で二人の精霊、耶倶矢と夕弦を救い出し、また少し忙しい日常へと戻っていたー!」

万丈「最近あっついなぁ………なあ戦兎、アイス奢ってくんね?」

桐生「はぁ?嫌だよ。自分で買ってきなさいよ。あとついでに俺の分も買ってきて。スイカバーでいいから」

万丈「はぁ、分かった………って!さらっとパシリにしてんじゃねえよ!」

桐生「くっそバレたか。万丈のくせに鋭い」

万丈「しっかしほんとあっちいなぁ………昆虫症になりそうだ」

桐生「熱中症な?そんなウジャウジャしてそうな症状トラウマになりそうで嫌だわ。さて、みんなはこんなバカにならないよう、熱中症に気をつけてな!」

万丈「おい!どういう事だよそれ!」

桐生「そんじゃ、第53話をどうぞ!」

万丈「話聞けよ!」






 或美島修学旅行から、そろそろ一ヶ月が経とうかという日の朝。

 夏休みも終わりが近づき、多くの学生は残りの休みを堪能しようと躍起になるか、溜まった課題の消化に涙している頃だろう。

 

 そんな中で、修学旅行で散々体力を削られた自称天才物理学者はというと_______

 

 

「…………zzz………だぁから、大事なのは砂糖の割合だって………んゅ…………」

 

 

 爆睡していた。それはもう、見ている方が眠くなるほどに、スヤスヤと。

 夏休みも開発やら修理やらスマッシュやら外出やら何やらがあり、あまり身体を休めていなかったのである。

 ようやく開発と修理がひと段落つき、ここ最近はスマッシュの目撃情報が少なくなったので、久し振りにこれ幸いと惰眠を貪っていたのである。

 

「………んぅ…………あ、暑い……………」

 

 が、そんな至福のひと時は、体に感じた寝苦しさにより終わった。

 身体を起こそうとして、戦兎は左腕にかかった重さと、掛け布団の左側の不自然な膨らみに気付いた。

 

「………ッ!」

 

 嫌な予感がして布団をひっぺがえすと、そこにはすやすやと幸せそうな寝顔で戦兎の左腕に絡みながら寝る、つい先日に検査を終えた八舞夕弦の姿があった。

 

「ま、マジで…………?」

 

 その姿を確認すると、戦兎は一瞬驚いた後、盛大に頭を抱えて溜息を吐いた。

  どうしてここでこんな状態で夕弦が寝ているのかは知らないが、無闇に騒いで起こすのも良くない。

戦兎はベッドから出ようとして、左腕を抜こうとしたが_____

 

「ぬ、抜けない………!?」

 

 とても強い力で、左腕はガッチリとホールドされていた。

 それもそのはずである。何せ、ホールドして寝ていたはずの夕弦は______

 

「挨拶。おはようございます、戦兎」

 

 バッチリと目を開けて、ガッチリと左腕を掴んで離していなかったからだ。

 

「ゆ、夕弦………お前、何してんの?」

 

「回答。戦兎を起こそうとしたのですが、あんまりぐっすりと寝ていたので、添い寝をしていました」

 

「そ、添い寝………?」

 

「肯定。以前言った通りです。朝のおはようから、夜のおやすみまでと」

 

「…………」

 

 さもそれが当たり前であるかのように言うので、何も言い返せず顔が引き攣る。

 

 包み隠さず正直に言うなら、夕弦は贔屓目なしに言ってもかなりの美人の部類に入るだろう。そんな彼女にこんな風に添い寝をされる事に、正直悪い気はしない。

 しかし忘れてはいけない。今の戦兎は見た目こそ高校生だが、実年齢は既に二十代の折り返しに来ている大人だ。

 

 だからこそ戦兎もそれを理解し、理性がストップをかける。四糸乃と同じく、そういう目で見てはいけない、と。

 

 仕方ないとはいえキスをした相手に何を言ってるんだ、と言われればそれまでだが、一応戦兎にも大人としての自覚と責任がある。流されるままでは駄目なのだ。

 

 しかし夕弦は当然そんな事を知る由などない。だからここは、あくまでもやんわりと______

 

「……いやまあ、嬉しいっちゃ嬉しいけどさ。ほら、もう起きたし、そろそろ出ようかなと、思ってるんだけど_____」

 

「拒否。もう少しゆっくりしましょう。まだ龍我達も寝ていますよ」

 

「でもな、年頃の女子高校生が、こんな風に______」

 

 と、注意しようとした、その時。

 

 

_______チーンッ!

 

 

 

「?疑問。何ですか、今の音は」

 

 電子レンジのような音が部屋に響き、夕弦がそちらに意識を向け、疑問符を浮かべる。

 

 そして戦兎はこの音を聴くや______

 

「ッ!出来た!」

 

 ウサギ耳のような癖っ毛を立て、拘束が緩んだ夕弦の手を振り払い、大急ぎでベッドから起き上がって、音が鳴った方向______先日創った発明品の、試作型ボトル精製機へと小走りで向かった。

 

 ある物を作る為に、試験的に前の世界で使っていた浄化装置を参考に制作したのだが______その『ある物』の試作サンプルが、ようやく出来上がったのだ。

 

「おおッ!」

 

 そしてドアが開かれ、蒸気が漂う容器の中から、一本のボトルを掴み取り、まじまじと見た後、頭をゴシゴシと掻いて、満面の笑みを作った。

 

「最っ高だ!」

 

「質問。戦兎、それはなんなのですか?見た所、ラビットフルボトル……でしたか。それのようですが」

 

 後から付いてきた夕弦が、戦兎の手元を覗き込み、訊いてくる。

 

 彼女の言う通り、戦兎が手に持っていたボトルは、ぱっと見はいつも戦兎が変身に使っている、ラビットフルボトルにそっくりだった。しかしよくよく見ると、ボトルの上部と下部のパーツの色が黒から青色に変わり、またキャップ部分に描かれているクレストも、そのボトルの成分を表すイニシャルが無く、歯車のみとなっていた。

 

「ああ、今丁度新しいベルト作ってて、それに使うボトルのサンプルなんだよ。ねっ、凄いでしょ!最っ高でしょ!天っ才でしょ!」

 

「賞賛。おー」

 

 戦兎が興奮した様子で言うと、夕弦が分かったような分かってないような表情で、パチパチと手を叩いた。

 

 思わず胸を張ったところで、気付く。

 

 

 ________あれ?これチャンスじゃね?

 

 

 ベッドから起き上がって、夕弦の拘束も逃れた今がチャンス。

 

「そ、それじゃ、先行ってるなー!」

 

「応答。はい…………ハッ!」

 

 天啓を得たとばかりに戦兎は、その名の通りウサギのようにタッタと扉を開け、急ぎ足で部屋を後にした。

 

 

 

 

「おはようー!」

 

「おう、おはよう戦兎……どうしたんだ?そんな急いだ様子で」

 

「いや、ちょっとベッドの侵略者が………」

 

「そ、そうか…………あ、丁度朝飯作り終わったからさ、運ぶの手伝ってくれ」

 

「ん、わかった」

 

 リビングまで降りると、士道が丁度全員分の朝食を作り終えたところだった。精霊たちはマンションに引っ越したとはいえ、だいたいご飯の時はいつも五河家まで来るのである。

 見ると、精霊達ほぼ全員の姿が見受けられた。

 

「おおセント!おはようなのだ!」

 

「戦兎さん……おはよう、ございます」

 

『おっはよー!戦兎くん!』

 

「おはよーだぞ、戦兎おにーちゃん………」

 

 十香、四糸乃、よしのん、琴里が、それぞれ挨拶してくる。琴里の方はまだ起き立てだったようで、少し眠そうだった。

 

 

「よお、戦兎」

 

「ああ一海、おはよ………って、何してんだよお前」

 

「ああ?見りゃわかんだろ。朝飯作ってんだよ」

 

 

 そして士道と同じく厨房に立っていたのは、猿渡一海だった。

現在はラタトスクの機関員という扱いになっており、フラクシナスと五河家を半々で過ごしているのだが、大体食事の時は五河家まで来ている。

 しかしなんと言うのだろうか、一海がエプロンを着けて包丁を握っている姿は、なんとなくしっくり来た。

 

 全員におはよう、と返し、朝食の準備を手伝う。すると廊下の方から、約三人分の足音が聞こえてきた。

 

「おはよぉ〜……」

 

「挨拶。おはようございます」

 

 どうやら起きたばかりらしい万丈と、後から来た夕弦だった。万丈の方はまだ寝巻き姿で、顔は洗ったようだが髪はまだ寝癖が残っていた。

 

「よお龍我。ほら、暇してんならこっち手伝え」

 

「分かってるよ……」

 

 一海が呼びかけると、万丈も眠たげながらも食器を運び始めた。

 すると万丈が、何かを思い出したように戦兎に尋ねる。

 

「ああそういや戦兎、俺のドライバー知らね?」

 

「え?お前の……ビルドドライバーか?」

 

「ああ。部屋探したけど見つからねえんだよ………誰か心当たりのあるやついねえ?」

 

 万丈がその場にいる全員に訊くが、皆知らない様子だった。

 とそこで、万丈が何かに気付く。

 

「あん?そういや……耶倶矢はどうした?」

 

「………そういや見てねえな。夕弦、何か知らね?」

 

「否定。何も知りませんよ?」

 

 戦兎が双子の夕弦に訊いても、何も知らないようだった。

 すると______

 

 

「くくく………!我を呼んだか!」

 

 

 そんな声と共に、耶倶矢がドン!という効果音が出そうな雰囲気で、やたらと格好いいポーズを取って現れた。

 

「耶倶矢!お前どこ行ってたんだよ。あ、そういや、俺の______」

 

「ドライバーは____これであろう?」

 

 万丈の質問を遮り、耶倶矢が取り出したのは、万丈のビルドドライバーだった。

 

「あ!俺のドライバー!勝手に持ち出すなよ!」

 

「くく、まあ待て。勝手に持ち出したことは詫びよう。だが…………少しばかり、興味が湧いてな」

 

「………おい、まさか」

 

 そんな格好いいセリフとは裏腹に、耶倶矢の目は新しいオモチャを与えられた純真無垢な子供のように、キラッキラに輝いていた。

 そしてドライバーを腰にあてがい、アジャストバインドを巻き付かせる。

 

「驚愕。まさか、耶倶矢_______」

 

「くく、その通りよ夕弦…………我も変身するのだ!」

 

 耶倶矢がまたもバン!という効果音が出そうな勢いで、格好良いポーズを取りながら、ドラゴンボトルを取り出す。

 すると耶倶矢の上空にクローズドラゴンが飛び回り、手のひらに収まった。

 

「リュ、リューガ!大丈夫なのか?耶倶矢が変身するぞ!」

 

 十香が興奮したような、心配したような表情で万丈達の方を見る。

 てっきり怒るものと十香は思っていたが、万丈達の表情は寧ろ、少し心配気だった。

 

「あー………やめとけやめとけ。お前じゃ無理だ」

 

「そうだな。やめといた方がいいぞ?」

 

 ドライバーを取られたことに対して怒るというよりは、これから起こる事に対して心配しているようにも見えた。

 

「むっ、なにおう!今に見ておれ!さあ行くぞ!_____えーっと確か、これをこうして………」

 

 格好いいポーズを取り、ぎこちない動作でボトルを振り、ドラゴンへと差す。

 

 

Wake Up!

 

 

 そしてドラゴンを両手で構え、不敵な笑みを浮かべた。

 

「さあ、我の様を見るがいい!変身ッ!」

 

 そして勢い良く、ドラゴンをドライバーへセットした瞬間______

 

 

ERROR

 

 

「きゃッ!?」

 

 そんな電子音声と共に、ドライバーからバチバチと電流が走り、耶倶矢は後方へ飛ばされ、ドライバーとドラゴンが床に散らばった。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 万丈が耶倶矢の元へと駆け寄り、その場にいた全員も駆け寄る。

 

「いってて………」

 

「だから言っただろ?やめとけって。ほら」

 

「おう、サンキュー」

 

 戦兎がやれやれ、と言った様子で近寄り、ベルトとドラゴンを拾って万丈へと渡す。

 

「ほら、立てるか?」

 

「だ、大丈夫………」

 

 万丈が耶倶矢の手を取り、立たせる。耶倶矢は尻をさすりながら、少し悔しそうな顔になった。

 

「むぅ………なんで変身できなかったの?」

 

「そういえば、そうだな。どうして耶倶矢は変身出来なかったのだ?」

 

 耶倶矢と十香が訊いてくる。

 

「簡単に言えば、ハザードレベルが足りない、ってこったな」

 

「「「「はざーどれべる?」」」」

 

『何なのさそれー?』

 

 琴里を除いた精霊四人とよしのんが、一同に首を傾げる。

 その様子を見て戦兎が、そういえば話してなかったか、と手を打った。

 

「それじゃ話す………と、言いたいとこだけど、先に飯食ってからな。折角士道が作ってくれたんだし」

 

 戦兎のその言葉で、その場の全員が席に着き、朝食の時間と相成った。いつもより早く食べ終わったのは、言うまでもない。

 

 

 

 

「______と、言うわけだ。分かったか?」

 

 朝食後、戦兎はざっと、話せる範囲でハザードレベルについての話を琴里を除く精霊たちに話した。

 ネビュラガスという成分に対する耐性を示す、病原菌の抗体のようなものであることを始め、話してもそこまで問題のないものを。

 

 まあガスを注入したら普通の人間はだいたい死ぬ、という辺りは、主に四糸乃あたりが怖がりそうだったので、オブラートに包んで話したが。

 あと、ビルドドライバーでの変身にはハザードレベルが三以上必要、とかはぼかして、一定値必要、とだけ話した。正直に話したら上げたいと言い出す子が出るかもしれない、という事で。(主に耶倶矢とか)

 

 すると暫く唸っていた十香が、戦兎に訊いた。

 

「なるほど………ならセント。私達のハザードレベルは幾つなのだ?」

 

「え?」

 

「あ……私も、気になります」

 などなど、他にも琴里や耶倶矢、夕弦なども知りたい、と言ってきたのだ。

 確かに、知るだけならばそれほど大きな問題ではない。それに、戦兎としても気になることがある。

 

「……分かった。じゃあ、ちょっと待ってろ。えーっと、確か………」

 

 そう言い戦兎は部屋へ戻り、中程度の大きさの機器を運び、ビルドフォンと繋いだ。すると繋がれた機器のプロジェクターから、人体が映された立体画面が流れ、その光景をみて精霊たちがおお〜、という声を出す。

 

「おい戦兎、こいつは?」

 

「解析用顕現装置(リアライザ)を応用した、簡単なハザードレベル計測用の装置だ。これを使えば、おおよそのハザードレベルを測ることができる。……ちょっと気になることがあって、作ってたんだよ」

 

「何だよそれ!すげー便利だな」

 

 一海の質問に答えながら計測器を操作し、はしゃぐ万丈の方を向いた。

 

「よし、とりあえず万丈、そこら辺に立ってろ」

 

「え?お、おう」

 

 万丈は一瞬戸惑いながらも、言われた通りの位置に立つ。すると戦兎が計測器を操作し、万丈の身体に赤色の光が当てられ、立体映像の画面内にパーセント表示が現れた。

 

「な、なんだこれ!何してんだ!?」

 

「落ち着きなさいって。今それでお前のハザードレベル測ってっから」

 

 いきなりの事に驚く万丈をいつもの調子で窘め、画面を眺める。

 すると表示が『100%』になり、次いで画面上にいくつかのウィンドウと、中央に『4.6』という数値が映し出された。

 

「よし、計測完了。今出てる数値が、万丈の今の段階でのハザードレベルってこったな」

 

 戦兎がそう言うと、精霊たちは再びおおー、という声を出し、士道も「こういう感じか」、と感心していた。

 しかし万丈と一海はその数値を見て驚きと、どこか納得したような、複雑な表情を浮かべた。

 

「……なあ、戦兎。やっぱ________」

 

「待て。……言いたいことは分かるけど、それは後でだ」

 

「……分かった」

 

「……一海も」

 

「……了解だ」

 

「三人とも、なんの話をしているのだ?」

 

「………いや、何でもない。じゃ、十香から測ってくか。そこ立ってくれ」

 

 戦兎は小声で二人に伝え、次に十香に測るよう告げる。

 十香はそれを聞くと少し首を傾げながらも、素直にそこに立って計測を行った。

 

 その後も四糸乃、琴里、耶倶矢、夕弦、一海、士道、最後に戦兎自身を測って、全ての計測が終わったのだった。

 

 

 ◆

 

 

 DEM社日本支部。

 その名の通り、全世界に支部を持つDEMが、日本に建てた支部である。

 

 その第一社屋の一室で、二人の男が話していた。

 

「______それで、どうだ?ライダーシステムの様子は」

 

「ああ、上々だよ。キミとプロフェッサー・シンギには感謝しなくてはならないね。アレは私の目的に、大いに役に立ってくれる事だろう」

 

「ハッハ、アンタにそう言ってもらえたんなら、こっちとしても嬉しい限りだ」

 

 一人は黒のスーツに身を包んだ、白髪の男。DEMインダストリーの社長である、アイザック・ウェストコットだ。

 

 そしてもう一人は、おおよそこの場において、あまり相応しくない様相をしていた。

 

 まずその服装______恐らくはどこかの高校であろう、その制服を身につけており、歳の頃も十六か十七といったところ。まずこうして話している光景が、そもそも異常であると言えるだろう。

 

 

 しかし、その少年を取り巻く空気は_____明らかに、異質だった。

 

 

 ウェストコットのそれとは似通っていて、しかし決定的に違う、ともすれば人外とも言えるその雰囲気。

 

 

 恐ろしさ、狂気、冷酷_______あらゆる負の面を、全て詰め込んだかのような、濃密な空気。

 

 

 

 とてもただの高校生が、出せる空気ではなかった。そしてその空気をものともしないウェストコットもまた、同様に異常であると言えた。

 

 その少年は会話の後、ああ、と思い出したように言った。

 

「そういえばお宅んとこのお嬢ちゃん、この前【プリンセス】を逃しちゃったんだって?」

 

「ああ。何でもライダー達に妨害された、との事でね。気に病んだかい?」

 

「いいやぁ。寧ろそっちの方なんじゃないか?折角のご馳走をみすみす逃しちまったんだからさ」

 

「ハハ、確かにそうだね。でも、悪い事ばかりじゃあない。………先日のお礼だ。私から君に、一つ良い事を教えてあげよう」

 

「良い事?」

 

「ああ。君が言っていた件の少年______五河士道、だったかな?私も彼の顔や、実際の様子を見たわけではないが_____」

 

 ウェストコットは一度置くと、目を細め、とても面白そうに、少年へ話した。

 

 

「______彼が、()()()()の一端を解放したらしいよ。エレンとの戦いでね」

 

 

「ッ!…………ハハ、ハハハッ!」

 

 それを訊くと少年は、可笑しくて堪らないとばかりに、大声をあげて笑った。

 しかしその表情は純粋無垢で、まるで自分のプレイしているゲームのキャラクターが、長い時間をかけて強くなった時のような、そんな雰囲気だった。

 

「なぁるほど成る程ッ!そいつぁ傑作だッ!確かに良いなァ!これ以上無くッ!ハハハハハッ!」

 

 少年は愉快な()()()のように高笑いを続け、やがてウェストコットへと向きかえり、邪悪な笑みを浮かべた。

 

「ハハハ、いやぁ、良いもんを訊かせてもらったよ。それで………これで終わるつもりはないんだろう?Mr.ウェストコット」

 

「当然さ。………私の目的のためにも、必ず【プリンセス】は手に入れる」

 

 ウェストコットはそう言うと、こちらもニッコリ、と邪悪な笑みを浮かべた。

 少年はそれを見ると、肩をすくめて言った。

 

「お前さんの目的のために、こちとら()()()待ってやったんだ。しっかりやってくれよぉ?」

 

「ああ。勿論だとも。_______が開く日も、近いかもしれないねぇ?」

 

「違いねえ」

 

 二人はそう言うと、再び笑い合った。

 

 そこには、他の誰も立ち入る事を許されない________そんな、恐怖と邪悪で満ちていた。

 

 

 

 

 ハザードレベルの計測後。

 戦兎は自室に戻り、端末で先の結果を見て、顎に手を当て、疑問符を浮かべた。

 

「これは………どういう事だ?」

 

 そこに表示された数値。一覧はこうだ。

 

 

十香………2.5

四糸乃………2.5

琴里………2.5

耶倶矢………2.5

夕弦………2.5

一海………4.4

士道………4.6

万丈………4.6

戦兎………4.6

 

 

 これが現段階での、全員分のハザードレベルだ。

 

「どういう事って………どこが可笑しいんだよ、戦兎」

 

 万丈が同じくビルドフォンの数値を見て、尋ねる。

 それに戦兎は、神妙な表情で答えた。

 

「精霊達の数値だよ。見てみろ。全員、2().()5()で固定されてる」

 

「っ、そういや………」

 

 戦兎が疑問に思っていたのは、精霊たちのハザードレベルだ。

 本来ハザードレベルは、ネビュラガスの人体実験を受けない限り、殆どの人間は1.0か、2.0であるはずなのだ。ごく稀に2.0以上の耐久力を持つ者もいるが、それでもここまで均一になるのだろうか。

 

 するとそこで、ある一つの考えが戦兎の脳裏に浮かんだ。

 

「そうか……!霊力だ!」

 

「あ?霊力って確か………十香とかの力の源、とか言ってた、あの霊力か?」

 

 万丈が尋ねると、戦兎はウサギのようなアンテナを立てて頷いた。

 

「ああ。恐らく、精霊の持っている霊力が、ハザードレベルを擬似的に引き上げているんだ。……つまり、封印状態での精霊のハザードレベルは、2.5ってことか。……ネビュラガスのガスを注入してないのに、ここまでのレベルだったってのは、そういう事か」

 

「成る程な。………でもよ、ガスを注入してないってんなら、士道もおかしくねえか?」

 

「……そう、なんだよな」

 

 それは、戦兎としてもずっと気になっていた事だった。

 確かに精霊のハザードレベルも気になるが………士道のハザードレベルの数値、『4.6』というのも気になった。現段階で、戦兎や万丈とタメを張っている。

 確かにハザードレベルは、レベルの大小はあれど誰にも備わっているものだ。確かに戦闘経験を積む事である程度の成長は出来るが、ここまでとなると、少量でもネビュラガスを取り込まないとほぼ不可能な筈なのだ。

 

 さらに言うなら、士道は戦兎達と会うまではただの高校生だった。加えてそこから、変身が可能になるまでのスパンが早すぎる。エボルトの遺伝子と人体実験によってネビュラガスを取り込んだ万丈はともかく、ただの人間であるはずの士道が、ここまで成長したのは何故か。

 確かにハザードレベルは精神などによっても左右されるものだが______ただの特異体質か、それとも________

 

「まさか………これも、霊力のせいか?」

 

「は?どういう事だよ」

 

「………俺とお前もだけど、士道は十香と琴里、二人の精霊の霊力を封印してる。十香たちの例を考えるなら、封印した霊力が擬似的にハザードレベルを上げてるってのも、納得できる話だ」

 

 万丈はその話を聞くと、しばらくウンウンと頷き。

 

「…………何言ってんだかサッパリ分かんねえ」

 

「………要するに、士道は霊力を封印してるから、その影響でハザードレベルを上げたんじゃねえか、って事」

 

「ああ、成る程!最初っからそう言えよ戦兎!」

 

「最初っからそう言ってるでしょうがこの馬鹿」

 

「なっ、馬鹿ってなんだよ!せめて筋肉かプロテインって付けろ!」

 

「ワード一つ増えたな」

 

「………っつーかそれも気になるけどよ!俺たちのハザードレベルもどうなってんだよ!前より全然下がってるじゃねえかよ!」

 

「………それはー………」

 

 万丈がした当然の指摘に、戦兎は知ったかぶった雰囲気で、話した。

 

「…………若返ったから?」

 

「だったらかずみんも下がってるのはどうしてだよ」

 

「…………一度死んで蘇ったから?」

 

「………そういうもんなのか?」

 

 誤魔化す感じも多分に含まれていたが、戦兎達の低下したハザードレベルについては、今のところこれくらいしか、納得のいく説明がないのも事実だった。

 そもそもどうしてこの世界へ飛ばされたのか。なんで戦兎と万丈のみ若返ったのか。それら全てが未だに謎なのだ。

 

 その鍵を握っていると思われるのは_______例のマッドクラウンと、神大針魏という男。

 

「………あの二人から話を聞き出さない限りは、どうにもならないなぁ。とりあえずは、新世界を創るときに、謎のエネルギーで飛ばされて、若返った、て感じにしとくか」

 

「………そういうもんか。ていうか、戦兎」

 

 万丈は戦兎の話を聞き終わると、神妙な面持ちになって、口を開いた。

 

「………いつになったら、あいつらに言うんだよ。俺たちが、違う世界の人間って事」

 

「……………」

 

 それは、当然の疑問だった。

 士道と琴里、フラクシナスクルー以外の、十香達全員は、戦兎達が違う世界の住人である事を知らない。ライダーシステムについても、戦兎が作った、という事くらいしか知らないはずだ。

 

「いつまでも話さねえわけには、いかねえだろ。つか、何であいつらには黙ってるんだよ」

 

「………今余計な事言って、あいつら混乱させるわけにもいかねえだろ。その内話すさ。それまでは、お前も話すなよ?」

 

「………分かったよ」

 

 万丈も不承不承、といった様子ではあったが、頷いた。

 

 そう言った戦兎の言葉には______どこか逃げているような、何かに怖がっているような感情がこもっているような気がした。

 

 

 

 




どうでしたか?
学校の文化祭で出す冊子の原稿に追われてました。

今回の話、今度出す予定の短編集に乗せて番外編にしようかとも思いましたが、一応現在の戦兎達のハザードレベルや、精霊達のハザードレベルに関する事、そして後々の伏線(?)的なエピソードもあるので、一応本編として今回載せました。

ちなみに士道のハザードレベルについてもきちんと理由がありますが、それは後々。

そして、ウェストコットと話していた、少年の正体とは一体…………!?

次回からいよいよ、美九編本格始動です!

戦兎と万丈と士道、そしてかずみんの活躍や、新たなる秘密も明らかになります!楽しみにしててください。

あ、あと美九編は原作の都合上、どうしてもこれまでより長くなると思うので、投稿間隔が空く可能性もありますので、そん時は、ゴメン。
失踪だけはしませんので、安心してください。

それでは次回、『第54話 フェスティバルが始まる前に』を、お楽しみに!

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第54話 フェスティバルが始まる前に

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!相も変わらず正義のヒーロー、仮面ライダーとして、今日も今日とて悪と戦っていた!」

十香「みんなは夏休み、楽しんだか!?私はシドー達と祭りに行ったぞ!」

万丈「ああ、あれか。なんか戦兎と四糸乃が………」

桐生「いきなり関係無い話挟むんじゃないよ。てかそれ今度出す予定の短編で書く話!」

士道「みんなは今頃まだ夏休み満喫してんだろうけど、もう俺らの時系列じゃ夏休み終わっちまったしなぁ」

桐生「そういうメタな事言うんじゃないの。今度短編で載せるから我慢しなさい。ほら、今回から第6章本格スタートだから。第54話、どうぞー!」







 夏休みが明けた、九月八日。夏の暑さがまだ抜け切らない日の午後。

 来禅高校の体育館は今、異様な雰囲気に包まれていた。

 

『今から丁度一年前………我らは多くのことを学ぶこととなった』

 

 壇上に立ったクラスメイトの山吹亜衣が、拳を握りながらマイク越しに声を絞り出す。

 その両脇には彼女の親友である麻衣と美衣が、どこぞの親衛隊かボディガードよろしく『休め』の姿勢で立っており、ついでに左右に来禅高校の校旗まで立てかけてある。その様相は、さながら戦時中に演説を行う一国の元首にも見える。

 

『苦汁の赤い血と、屈辱の涙を………這い蹲られた地の冷たさを』

 

 拳を震わせながら憎々しげに言っていた亜衣が、バッと顔を上げる。

 

『さあ諸君。見るも哀れなる敗残兵諸君。我々は一度の敗北を経た。しかし、これは永遠の敗北を意味するのか?』

 

 ダン!と亜衣が拳を演台に叩き付ける。マイクのハウリング音が辺りに響き渡った。

 

『否!これは始まりなのだ!彼奴等に比べ、我が来禅の力は大きく劣る。にも関わらず、今日まで生き抜いてきたのは何故か!?諸君!それは我らの悲願の為だ!この時のため、我々は牙を研ぎ続けてきた!あの悲しみも怒りも忘れてはならない!我々は今、この怒りを結集し、彼奴等に叩きつけて、初めて真の勝利を得ることができる!国民よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ国民!来禅に栄光あれ!我らが渾身の一撃を以って、彼奴らの喉元を噛み千切らんッ!いざ!出陣ッ!』

 

『エイ・エイ・オオオオオォォォォォッ!!』

 

 どこぞの公国の総帥のような演説が終わり、それに呼応するように、体育館にひしめいていた生徒達が一斉に声を上げる。体育館の窓ガラスが微かに揺れ、幾重にも反響した凄まじい音量が鼓膜を痛いほどに震わせてくる。

 

「はは、気合い入ってんな」

 

「みんな元気だなぁ」

 

 士道と戦兎は苦笑しながら、壇上で演説ぶるクラスメートを眺めていた。

 

「シドー、セント、亜衣は一体何を言っているのだ?どこかと戦争でも始めるのか………?」

 

 と、十香が右方から怪訝そうな声を響かせる。普段の美しい表情は、今なんとも難しげな困惑の色に染まっていた。

 ちなみに万丈も同様で、何やってんだあいつ、と頭の上に疑問符を浮かばせていた。

 

 まあ、それはそうだろう。何も知らない者が今の演説を目にしたなら、さぞ混乱するに違いない。今の亜衣はどう見てもどっかの宇宙の独立戦争の英雄か、自己啓発セミナーの講師である。

 

「今月はあれだ、天央祭があるんだよ」

 

「天央祭?なんだそれは」

 

「確か、他の高校と合同でやる、でかい文化祭だったよな?」

 

 戦兎が言うと、十香が目をキラキラと輝かせた。

 

「文化祭………おお、テレビで見たことがあるぞ。学校に食べ物屋が並ぶ夢のような祭りだ!」

 

「ん、まあ間違っちゃいないが」

 

「ま、十香らしいっちゃ十香らしいけど」

 

「おお、そうか、文化祭をやるのか!それはあれだ、うん、いいと思うぞ!」

 

 十香が言って恍惚とした表情を浮かべ、万丈が首を捻りながら訊いてくる。

 

「ん?だったらなんで、こんな演説みたいな事すんだよ」

 

「だから言っただろ?他の高校と合同でやるって。えーっと士道、いくつくらいだったか?」

 

「十校だな。天宮市内の高校十校が、合同でやるんだ」

 

「十校で、合同?」

 

 十香が目を丸くする。士道はああ、と頷いた。

 士道達の住む天宮市は昔、空間震の被害によって地域面積や施設の充実度に比べて住民数が非常に少ないというアンバランスな時期があり、その時に行われていたのが、天央祭と呼ばれる合同文化祭なのだ。

 

「まあ要するに、当時は学校も生徒も少なかったから、一緒にやって盛り上がろうって企画だったらしい。それが、住民数が増えた今でも続いてんだよ」

 

「はぁー、それは知らなかったな」

 

「までも、そういうもんか」

 

 士道が苦笑しながら肩をすくめ、戦兎と万丈が納得したように頷く。

 当初は過疎地域の高校が肩を寄せ合って開催していたささやかな祭典が、今や天宮スクエア大展示場を借り切って三日間行われる一大イベントとなっている。

 何しろ毎年テレビ局の取材などが入り、市外からの観光客も多い上、天央祭を見て志望校を決める中学生も少なからずいるというのだ。もはや高校の文化祭には収まりきらない経済効果である。

 

 だが、最初は各校が手を取り合って文化祭を盛り上げましょうという理念の元始まったイベントは、参加校が増えるにつれて別の意味を持つようになった。

 

 要するに_________

 

『今年こそ!今年こそは、我が来禅が王者の栄冠を手にするのだ!』

 

 壇上の亜衣が高らかに叫び、生徒達が呼応する。

 

 そう。天央祭では模擬店部門、展示部門、ステージ部門などの優秀校を投票により決し、最優秀賞に選ばれた学校は、以後一年王者として君臨することになるのである。

 そのような各校対抗システムがある以上、普段眠る皆の闘争心と愛校心が煽られるのは必然と言えよう。日頃サッカーに微塵も興味を示さない人が、ワールドカップになったら夢中で日の丸の旗を振るのと同じようなものかもしれない。

 

 と、士道が十香達に説明をしていると、背後から何やら声が聞こえてきた。

 

 

「くく……なるほど、亜衣達が奮起している理由がようやく知れたわ」

 

「納得。そういう事であれば負けるわけにはいきません」

 

 

 見やると、そこにはいつの間にか瓜二つの少女二人_______八舞耶倶矢と、八舞夕弦がいた。

 

「おお、耶倶矢、夕弦」

 

「お前ら、列どうしたんだよ。クラス毎で並んでるはずだろ?」

 

 万丈が問う。彼女らは士道や戦兎達と違い、()()()()に転入したのだから。

 当初は彼女らも同じクラスに転入する予定だったらしいが、士道と一緒にいなければ不安がる十香と違い、二人揃っていれば多少の下降はあれど十分に精神状態が安定するため、隣のクラスへの編入が決められたのだという。

 

 その為、集会中の今はクラス毎に整列しているため、八舞姉妹も三組の方にいるはずだった。

 

 しかし、理由はすぐに知れた。興奮状態の生徒達は『ジーク・来禅!ジーク・来禅!』などと叫んでおり、クラスの列などとうに意味をなしていなかったのである。

 

「ふ、とはいえまあ、我ら八舞姉妹がいる以上、来禅の勝ちは揺らぐまいて」

 

「同意。夕弦と耶倶矢のコンビは最強、これ以上無いベストマッチです。どんな相手が来ようとハイパームテキです」

 

「くく、そういう事だ。何しろ夕弦と来たら何をしても完璧にこなしてしまうからな」

 

「肯定。しかもその夕弦以上にパーフェクトな耶倶矢もいるのです。負ける道理がありません」

 

「いゃふふ……このー、なんだー、むず痒いぞ夕弦ー。つんつん」

 

「微笑。耶倶矢こそ。つんつん」

 

 なんて、楽しげに微笑みながらお互いの二の腕を突き合う。

 

「……はは」

 

 そんな二人を見て、戦兎は思わず笑みを作った。

 二月前には至り一帯を巻き込む大喧嘩をしていた二人が、今では付き合って一週間目くらいのでろ甘カップルみたいな仲睦まじさを披露しているのが、二人はようやく分かり合えたのだと思い、嬉しくなった。

 

 と、そこで夕弦が何かを思い出したように、戦兎に視線を移してきた。

 

「請願。戦兎、そういえば一つ、お願いがあります」

 

「ん?どしたの」

 

「要求。_____今度の天央祭、夕弦と一緒に回ってはくれませんか?」

 

「え?」

 

「駄目、でしょうか……」

 

 夕弦が意を決したような様相で言い、戦兎も少し戸惑う。

 だが、どうせ当日は誰と回る宛てもなかったし、この天央祭にも少し興味がある。それに、こんな風にお願いされて、断るというのも気が引けた。

 

「まあ……夕弦が良いなら、俺は構わないけど」

 

「ッ!感謝。ありがとうございます、戦兎」

 

 戦兎が了承すると、夕弦は笑顔を見せて礼をして去った。

 その笑顔を見て、戦兎もなんだか嬉しくなり、同じく笑顔で返した。まあ、たまにはこんな風に過ごしたって、神様は許してくれるだろう。それに『桐生戦兎』にとっては、初めての高校の文化祭だ。年甲斐も無く、心の中で楽しみにしている自分がいる事に気付いた。

 

 するとその様子を見ていた耶倶矢が、しばらく考えた様子を見せた後、意を決した様子で万丈の方へと近付いた。心なしか、頰がほんのりと赤くなっているようにも見える。

 

「り、龍我よ」

 

「あん?なんだ」

 

「い、いやなに。斯様に愉快な祭りだ。龍我も我と共に享楽に耽りたいと思うてな。えーと、その………」

 

「?何言ってんだ?」

 

 耶倶矢が少しどもりながらいつもの口調で話すが、万丈は頭に疑問符を浮かべている。

 緊張しているのだろうか、耶倶矢が上手く話せない様子でいた為、万丈が痺れを切らしたように言う。

 

「おい、いい加減ちゃんと言ってくれねえと分かんねえよ」

 

「ッ、だ、だから!わ、私と………天央祭、回ってくれないかなって…………」

 

 耶倶矢が中二口調を忘れ、赤くなりながら言う。

 万丈はそれを聞くと、キョトンとした様子になる。

 

「なんだ、そんな事か。別に構わねえよ」

 

「い、良いの!?」

 

「ああ。一緒に回るだけだろ?何緊張してんだよ」

 

「ッ!く、くく、龍我よ。これよりは我と交わせし誓約ぞ。もし反故にすればその命、神に返す事になるからな?努努忘れるでないぞ!」

 

「………よく分かんねえけど、分かったよ」

 

「や、約束だからな!……えへへ」

 

 耶倶矢が万丈から離れ、嬉しさを隠しきれない様子で夕弦の元へと向かっていった。

 

「……何だったんだ?あいつ」

 

「……お前も鈍感だよなぁ」

 

「は?どういう事だよ」

 

「別に。一途で良いんじゃない?」

 

「だから、どういう事だよ」

 

 戦兎が少し呆れつつも、万丈に言う。まあ万丈にとっては、友人と回るような感覚なのだろう。

 

 万丈は今でも昔の恋人______香澄の事を想っている。

 だからこそ、無意識のうちにそういう感覚になるのだろう。まあ、それを戦兎がとやかく言うのは違うし、それは万丈と耶倶矢の問題だ。

 

「(………頑張りなよ)」

 

 心の中で耶倶矢にエールを送りながら、再び壇上の方へと視線を移す。

 とそこで、体育館を包んでいた熱狂に微かな変化が現れた。

 

『静粛に、諸君。諸君らの思いはしかと受け取った。_____そこで、一つ願いがある』

 

 言って亜衣がマイクを手に取り、続ける。

 

『親愛なる同胞、桐崎生徒会長以下数名が、志半ばで英霊となられた。そこで、会長らの理念を継いでくれる同志を募りたい。我こそはという者があらば名乗りを上げてくれ!』

 

 生徒達がざわつき出す。多分、皆言っている意味がよく分からなかったのだろう。

 程なくして、前の方に立っていた生徒が手を挙げる。

 

「えーと、つまりどういう事ですか?」

 

 亜衣はぽりぽりと頭をかくと、今までの芝居がかった調子を忘れたように続けた。

 

『うーん……まあぶっちゃけると、会長達がみんなストレスと過労でぶっ倒れちゃったから、代役を決めないといけないのよ。誰か天央祭の実行委員やってくんない?』

 

 瞬間________

 

 つい数瞬前まで地鳴りのような声を響かせていた生徒達が、一斉に静まり返った。

 これはまずいと思ったのか、亜衣が身振りしながらフォローを入れてくる。

 

『いや、って言ってももう大体の仕事は終わってるのよ?ホントホント。会議の時座ってくれるだけでいいからさ!マジもう超アットホームな委員会だから!スキルアップに繋がるから!』

 

 なんだか後半はブラック企業のアルバイト募集の誘い文句みたいになっていた。

 先ほどまであれほど熱狂していた生徒達の熱が、急激に冷めていくのが分かる。皆壇上の亜衣たちと目を合わせないよう、視線を逸らし始めた。

 

「実行委員ねぇ……。なあ士道、どうす_______」

 

 戦兎が士道の方に視線を移すと、そこには_______

 

 

「どうだ!これであいこだ!」

 

「左手で行う指切りは絶縁を意味し、もう二度とその人に関わらないことを示す」

 

「な、何!?し、シドー!違うのだ、私はそんなつもりでは………!」

 

「いや、そんなの聞いたことないからな!?」

 

 

 _____絶賛修羅場発生中だった。

 

 何やら士道の両手の指をかけて、十香と折紙が争っている。______状況から察するに、大方文化祭を一緒に回るか、みたいな話で揉めてるのだろう。

 

 すると二人が士道の両手の小指をそれぞれ引っ張ってきた。

 

「あたたたたたたッ!やめろ、やめろって!あ、戦兎、万丈!助けてくれ!」

 

 すると士道が戦兎を見つけ、これ幸いにと助け舟を要請する。

 戦兎と万丈は気まずげな表情になり、申し訳なさげに言った。

 

「いやー、助けたいのは山々なんだけど、俺も巻き込まれんの嫌だしさぁ。ほら、鳶一が今にも殺しそうな視線でこっち見てくるし」

 

「邪魔立てするなら、容赦はしない」

 

 そしてさらにギリギリと、士道の両手が引っ張られる。

 

「ギャァァァァァアッ!?」

 

「この…………っ!シドーが痛がっているではないか!離さんか!」

 

「それはこちらの台詞。一刻も早く彼を解放すべき」

 

「ちょ、お前らそろそろ士道がやばそうだぞ!?」

 

「てか静かになったせいで、お前らだいぶ注目集めちゃってるけど」

 

「えぇ?………あ」

 

 そう。先ほどと異なり周囲が静かになったものだから、先程から士道達はやたらと生徒達から注目を集めてしまっていた。男子生徒がギリギリと歯ぎしりしながら鋭い視線を寄越し、女子生徒たちがヒソヒソと話し始める。

 すると、その光景を面白そうに眺めていたクラスメイト、殿町宏人が、くるりと身体の向きを変えて、大声を発しながら手を高く上げた。

 

「議長ー!」

 

『はい、殿町くん』

 

「天央祭の実行委員に、五河士道くんを推薦しまーす!」

 

「な……………っ!」

 

 急な友人の発言に目を見開く。

 

「て、てめぇ殿町っ!」

 

「いやぁ、五河が困ってるようだったから、助け舟を出してやっただけだぞ?」

 

「嬉しいけど嬉しくねぇーッ!………あたたたたたたたッ!?」

 

 左右からの強烈なウィンチによって、抗議の声は遮られた。

 そうこうしている間にも、殿町に賛同した男子達が次々と声をあげる。

 

「賛成!頼んだよ五河くん!」

 

「賛成!俺たちの意志を継いでくれるのは五河しかいない!」

 

「賛成!精々こき使われて病院送りになりやがれドチクショウ!」

 

「おい最後本音出やがったな!?」

 

 こうなったら、と士道が最後の足掻きと言わんばかりに、大声を発した。

 ふと、戦兎の背筋に、ぞくりと冷たいものが走った気がした。

 

「だったら!その補佐役として、桐生戦兎を推薦する!」

 

「はぁっ!?ちょおい!なんで俺まで!」

 

 突然の裏切りに、戦兎が目を見開き反論する。

 

「うるせえ!お前も同じ苦しみを味わうがいい!」

 

「完全に八つ当たりじゃねえか!?」

 

 しかし時すでに遅し。

 士道のその言葉にも、多くの人間が賛同した。

 

「よし!ならば桐生くん!五河くんの補佐、頼んだよ!」

 

「頑張れ桐生!」

 

「やったれ戦兎!お前なら出来るって!」

 

「おい万丈!お前自分は安全だと思って同調してんじゃねえよ!」

 

 叫ぶも、五河コールと桐生コールは鳴り止まなかった。男子と女子も混ざって、コールが体育館中に鳴り響く。

 

『静粛に!』

 

 と、それを制すように亜衣が壇上から声を響かせた。

 一瞬、亜衣が宥めてくれるのかと思ったが………どっこい、現実はそんなに甘くなかった。

 

『諸君らの声、しかと受け取ったぁッ!他薦・推薦多数により、二年四組五河士道くん、並びに桐生戦兎くんを、天央祭実行委員に任命しまッす!』

 

「ちょ…………ッ!」

 

「待て!?」

 

『おおおおおおおおおおおおおおッ!!』

 

 二人の声は、体育館を揺るがす大歓声に呑み込まれた。

 

 

 

 

 すっかり日も落ちた十九時三十分。戦兎と士道は通学鞄と買い物袋を提げながらバイクに乗り、自宅まで帰っていた。

 

「疲れた………」

 

「なんかバタバタしちまったなぁ」

 

 結局あの後、数の暴力に抗うこともできず、正式に天央祭実行委員に任命されてしまった二人は、半ば強制的に仕事の引き継ぎに付き合わされていたのである。

 ブース設営から始まり、予算配分に各種伝達事項その他諸々の情報を一気に詰め込まれた為、士道は身体の疲労よりも頭と精神の疲弊が深刻だった。

 

「あんな量処理してたら、そりゃストレスで倒れたりもするわな………つか、戦兎はよく平気だったな」

 

「そりゃあまあ、天っ才ですから?………それに」

 

 戦兎はいつもの調子で言った後、少しだけ嬉しげに語った。

 

「………こういうの、初めてだしさ」

 

「え?」

 

「ほら、俺記憶喪失って言ったじゃない?だからかな。あんな風に集まって仕事やるの、確かにちょっとキツかったけど、それ以上になんだか、楽しくなっちまってさ。………って、大の大人が何言ってんだって話だけど」

 

「いや……良いんじゃないか?」

 

 戦兎が苦笑しながらも言う。

 士道もその境遇を簡単に同情することはできないが、それでも少し_____羨ましいと、そう感じてしまった。

 

「ん?ちょい止めるぞ」

 

「え?あ、ああ」

 

 戦兎がバイクを止めると、前方の街頭に照らされた道の上に、小さな人影が見受けられた。

 つばの広い麦わら帽子に、淡い色のワンピースを纏った、青髪と左手のパペットが印象的な小柄な少女である。

 

「四糸乃?」

 

「…………!」

 

 ヘルメットを外した戦兎が名を呼ぶと、少女_____四糸乃はぴくりと肩を揺らして二人の方に視線を向けてきた。

 

「あ………戦兎、さん。士道、さん」

 

『おー、見ぃーつーけたー』

 

 四糸乃が小さな声を発し、パペットの『よしのん』が甲高い声を上げる。

 

「どうしたんだよこんな所で。もう暗くなってるぞ?」

 

「あ、あの………私、士道さんのおうちに、お邪魔してたんです。けど………戦兎さんと、士道さんの帰りが遅くて、琴里さんが心配してたから、その…………」

 

 どうやら様子を見に来てくれたらしい。二人は顔を見合わせて苦笑した。

 

「そっか。でももう暗いぞ。二人だけで出て来たのは感心しないな」

 

 士道が言うと、四糸乃は申し訳なさそうに肩をすぼませた。

 

「あ、あぅぅ……」

 

『怒らないであげてよー。四糸乃にも悪気はないのよー。二人とも心配だったんだからー』

 

「分かってる。ごめんな心配かけて。サンキュー、四糸乃」

 

「は、はい…………!」

 

 戦兎が言うと、四糸乃が大きく頷く。大きい麦わら帽子のせいか、二人の位置からだと顔が見えなくなってしまっていた。

 

「夕飯まだだろ?ちょっと遅くなっちまうけど、食べてけよ」

 

「はい………ありがとうございます。それと、えっと、一つ訊きたいんですけど………」

 

 と、四糸乃がそろそろと右手の人差し指を、今しがた見ていたポスターの方に向けた。

 

「これって、一体………」

 

「ん?ああ、天央祭だよ」

 

 戦兎が小さく頷くと、簡単に説明をしてやった。

 すると、四糸乃が何やら興味深げになる。

 

「そんなのが……あるんですか………」

 

『はー、楽しそうだねー』

 

「ああ、きっと楽しいぞ」

 

「そうだ。良かったら四糸乃たちも来いよ」

 

 言うと、四糸乃が驚いたように目を丸くした。

 

「!い、いいん……ですか…………?」

 

「もちろんだ。うちも色々出展するそうだから、遊んで行ってくれよ」

 

『あっらー、よかったねー、四ー糸乃』

 

「う、うん………!」

 

 『よしのん』がぷにぷにと四糸乃の頬をつつき、四糸乃が嬉しそうに首肯する。

 そんなに喜んでもらえるなら、こっちまでなんだか嬉しくなってしまう。二人はなんだか明るい気持ちになり、戦兎はバイクをスマホ形態に戻して、四人で歩いて家まで帰った。

 

「_____ただいまー」

 

「………おかえりなさい。随分と遅かったじゃない?」

 

 士道が声を張り上げると、廊下に黒いリボンで髪を括った妹____琴里が不機嫌さを隠そうともせずに仁王立ちで立っていた。

 その様子を見た二人は気まずげな様子になり、士道が口を開いた。

 

「悪いな。突然文化祭実行委員にされちまったんだ」

 

「知ってる。先に帰った万丈から聞いたから。それでも、遅くなるなら一本くらい連絡寄越しなさい」

 

 口ではそう言ったものの、琴里はそれを聞くと、なぜか、ほうと息を吐いた。

 

「……一応確認しておくけど、体調が悪かったりとか、そういう事は無いのね?」

 

「え?」

 

「……何でもないわ。それより、早くご飯にしましょ。一海がハンバーグ作ってくれてるから」

 

「え?……マジかぁ」

 

 琴里はそう言うと、フンと鼻を鳴らしてリビングの方へと歩いて行った。

 今日の買い物にあまり意味が無くなってしまったが、まあ、これは明日の分にでも回そう。

 

「……何だったんだ?」

 

「さあな。それより、早く上がろうぜ」

 

 戦兎がそう言い、四糸乃を伴って靴を脱ぐ。

 士道も後を追うようにしてから、ふうむと唸った。

 

 何故だろうか、修学旅行から帰ってきた辺りから、なにやら琴里の様子がおかしい気がする。別に普段はあまり変わらないのだが、士道が少し気怠そうにしていると、何故か妙に落ち着かない様子になるのである。

 

 士道はぽりぽりと頭を掻いてその場から歩きだし、リビングのドアを開けた。

 

 見ると、琴里はソファにダイブしており、隣のマンションで着替えを済ませた十香が、テレビの前でゲームのコントローラを握っていた。士道達の仕事が終わるまで待っていると言って聞かなかったのだが、流石に遅くなりそうだったので、先に帰らせていたのである。

 ちなみにプレイしているゲームは、今人気のRPGゲームで、タイトルは『タドルクエスト』。………どこかで聞いた事がある気がするタイトルだなと、戦兎は思った。

 その隣では万丈が同じくコントローラを握って、十香とゲームをしていた。

 

「おおシドー、セント、おかえりだ!ああリューガ!そこでバーンとしてズカッとしてビューンだ!」

 

「マジかよっ!オッケー!あ、お帰り、二人ともッ!ちょっ、これでどうだ!」

 

 今ので通じるのか。

 二人とも画面に合わせて身体を左右に動かしながら叫ぶ。四糸乃はソファに座り、ゲーム画面と二人の様子を交互に見ていた。

 

「よお、遅かったな二人とも。手ぇ空いてんならちと手伝ってくれ」

 

 キッチンには一海がエプロン姿になりながら、全員分のハンバーグを焼いていた。______人数のせいか、子沢山のシングルファザー臭が凄い。

 

「ああ、分かったー」

 

「何やればいいんだ?」

 

「サラダ盛り付けといてくれ。野菜はそこにあっから」

 

 二人は鞄を適当に放って手洗いうがいを済ませてから、背もたれのエプロンに手を伸ばし、手伝いに入った。

 最近は一海がこうして家事をしてくれている事も多く、士道としては申し訳ないと思いつつ、地味にありがたみを感じていた。

 

 と、士道がキャベツを切り始めた所で、ソファに突っ伏していた琴里が不意に顔を上げ、声をかけてきた。

 

「………ねえ、士道。本当に何にもないのよね?」

 

「んー?なんだー、心配してくれてんのかー?」

 

「ち、違うわよ!そう……十香よ!士道に何かあったら十香の精神状態が崩れて大変になるんだから!ちゃんと体調管理しなさいよねって言ってるのよ!戦兎も!」

 

「え、俺も?」

 

「俺も、じゃないわよ!ずっと発明ばっかやって!たまにはちゃんと睡眠とりなさい!最近また徹夜してばっかじゃない!」

 

「いや、今ちょっと立て込んでてさ。大きい奴はもう少しで完成なんだよ」

 

「知らないわよ!はぁ………」

 

 ひとしきり言うと、琴里はぶすっとした様子で視線を送ってきた。

 名を呼ばれたことに気づいたらしい十香が「なんだ!?」と声を上げてきたが、どうやらその瞬間ボスキャラが出現したらしい。すぐにゲームの方に戻っていく。

 琴里が再び嘆息し、ソファの背もたれに身体を預け、十香達に聞こえないくらいの音量で言葉を続けてきた。

 

「………でも、本当に気を付けて。色々と厄介な状況になってきたし」

 

「厄介な状況?」

 

「と言うと?クラウンとか、神大の件とかか?」

 

 問うと、琴里は「まあ、それもあるけれど」と頷いた。

 

「でも、その他にもいくつかあるけど………さしあたっては、【ファントム】ね」

 

「【ファントム】?なんだそりゃ。精霊の識別名かなんかか?」

 

「ええ。五年前、私と士道の前に現れた『何か』の事よ。いつまでも『何か』のままじゃ不便だしね。この前の会議で便宜的に識別名が付けられたの」

 

「ああ、あの」

 

 五年前に琴里に精霊の力を与え、士道と琴里の記憶を封印した、精霊であるかどうかさえも分からない、正体不明の存在。

 確かにあの存在は懸案事項だった。未だその実像や目的など、一切が謎に包まれていると言うのだから、尚更に。

 

「そしてもう一つはさっき戦兎が言ってたのも含まれる_____例の会社ね」

 

「DEM、か………」

 

 戦兎が呟くと、琴里が首を前に倒すのが見えた。

 

「DEMって言うと………確か、前の島の時に、襲撃してきた奴ら、だったよな」

 

 とそこで一海が、フライ返し片手に話に参加してくる。その発言に、琴里が「ええ」と頷いた。

 先月の修学旅行での襲撃事件_____あの事件の犯人が、DEM、デウス・エクス・マキナ・インダストリーであると言うのだ。

 

 様々な分野に進出している会社ではあるが、元を辿れば軍需産業で急成長したという話である。非公開ではあるが、ASTが用いている顕現装置(リアライザ)も製造しているらしい。

 

「でも、これである程度話が繋がったな」

 

「え?」

 

「この前の襲撃事件で、少なくとも神大はDEMに付いてるってことが分かった。て事は、これまでにあった一連のスマッシュの出現。これらにも、DEMが絡んでると見てまず間違いない」

 

 まだこれまでに街を襲っているスマッシュと、神大やクラウンとの因果関係は確定ではないが、リキッドやオーバースマッシュの件から見て、ほぼ間違い無いだろう

 

「相変わらず、倫理観のない外道どもね。そいつらの所為で、真那も…………」

 

「ッ!」

 

 琴里が不意に言ったその言葉に、士道は拳を硬く握った。

 琴里がしまった、という顔を作ったが、士道は既にリバースドライバーの件で、真那の身体に起こったことを知っている。だからこそ、彼らの非道な行いに、激しい憤りを感じていた。

 

 すると。

 

 

 _______________ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ____________

 

 

 

「…………!な、これって……」

 

 リビングの窓ガラスを微かに震わせ、街中に空間震警報が鳴り響く。

 刹那、琴里が立ち上がり、スカートを翻して走り去っていく。

 

「あ、おい!」

 

「話は後よ!士道、戦兎、万丈、それに………一海も準備をして。仕事よ」

 

 そう言って、琴里はチュッパチャップスを一本取り出し、一瞬で包装を解いて口に放り込んだ。

 




どうでしたか?
いよいよ本格始動、美九編です。

さて今回の章ですが、ちょっとだけネタバラシ。


既存キャラクターが、新ライダーへと変身します!


と言っても、内容的には割と後の方なんですけどね。
あ、一応補足しておくと、デアラ世界はこれまでの平成ライダー達の世界や、ビルドの世界とは繋がっておりません。

それとあらすじ紹介で行っていた通り、夏休み中にデート・ア・ビルドの短編集、『デート・ア・ビルド とらいあるっ!』を出したいと思います。本編で言うところのアンコールですね。
お楽しみに。

それでは次回、『第55話 リリィな歌姫』をお楽しみに!

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第55話 リリィな歌姫

桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は、今日も今日とて愛と平和のために戦い続けていた!そんな中、迫る天央祭によって、なんと士道に巻き添えを食らう形で、実行委員に任命されてしまう」

万丈「大丈夫なのかよ。実行委員なんてやった事ねえだろ」

桐生「どこかのお馬鹿さんと違って、こちとら天っ才ですから!実行委員だろうがなんだろうが、この俺にかかればパパっとしてサッ!なもんですよ」

士道「どうでもいいけど擬音の語呂悪いな」

桐生「あ!出たな諸悪の根源め!お前のせいで実行委員に任命されちゃったじゃん!」

士道「わ、悪い……ていうか、お前結構楽しそうだったじゃんか!」

桐生「そ、それは………ちょっとやる気出してやろうかなーって思っただけだから……か、勘違いすんなよな!」

士道「ツンデレ?」

琴里「男のツンデレは需要ないわよ」

桐生「うるさいなぁ!ツンデレじゃないよ!ていうか琴里急に出てきたな」

琴里「最近あらすじ紹介じゃ出てなかったしね。とゆーわけで、第55話、どうぞー」

桐生「あ、言われたっ!?」




時は少し遡り、陸上自衛隊天宮駐屯地。

 

「_______鳶一折紙一等陸曹。今日付で君に課せられていた謹慎は解除となる。ASTの一般任務、及び訓練に復帰してもらうよ」

 

「は」

 

基地の一室で上官に告げられた言葉に、折紙は敬礼を以て返した。

六月の致命的な不祥事の件で課せられていた、顕現装置(リアライザ)の使用及び陸自での活動禁止が、今日で解除となったのである。

 

無論その間も基礎トレーニングを欠かすことは無かったが、顕現装置(リアライザ)が無いのでは精霊に対する訓練などしようがない。この二ヶ月間、折紙は言い知れぬ焦燥感と無力感に苛まれながら過ごしてきたのである。

 

とはいえ、本来であれば懲戒免職の上に刑事罰が適用されてもおかしくなかった状況。こうして復帰できるだけでも奇跡のようなものだろう。

 

「次は無いぞ。もしまた同じことがあれば、二度と復帰はないと肝に銘じたまえ」

 

「承知しています」

 

と、折紙が短く答えたところで、部屋の扉がノックもなく開かれた。

 

「………日下部一尉?」

 

折紙がその犯人の姿______ASTの隊長、日下部燎子の姿を認めると、怪訝そうに眉をひそめた。苛立たしげにのしのしと歩を進めると、上官の机に手にしていた書類束を叩きつけた。

 

「これはどういう事ですか!?」

 

「な、なんだね、一体………」

 

塚本三佐も剣幕に押され、非礼を注意することもせずに身を逸らした。

 

「どうかしたの?」

 

問うと、燎子はようやく折紙の存在に気付いたらしかった。

 

「ああ……折紙。そういえば今日で復隊か。______丁度いいわ。これ、どう思う?」

 

言って、今し方叩きつけた書類束を放ってくる。折紙は紙面に視線を落とした。

 

「これは…………」

 

そこに記されていた信じ難い内容に、眉根を寄せた。

 

「こんな編成無茶苦茶過ぎます!外国籍隊員を十名………しかもその独立分隊に非常時における特別裁量権を付与………!?一体上層部は何を考えているんですか!」

 

言って再び燎子が机をバン!と叩き、塚本三佐がビクッと肩を震わせた。

その書類に書かれていたのは、ASTへの補充要員の情報だった。

それ自体には、別にそこまで問題がある訳ではない。

 

問題は、その補充要員が十名にも渡り_______剰えその全てがDEMインダストリー社の出向社員、しかも全員が外国人であると言うことだった。こうなると話は変わってくる。

その上、必要に応じて隊長の指揮下から自由に外れることが出来る権限を有するというのである。こんなもの、株を買い占められて会社が乗っ取られるようなものだ。

 

「ASTは野球チームじゃないんですよ!?外国籍の人間が入隊できるはずがないでしょう!?その上こんな権限を与えるなんてどうかしているとしか思えません!」

 

「そ、それは………」

 

塚本が口籠もる。燎子は焦れたように頭を掻くと、話にならないとばかりに踵を返そうとした。

するとそこで再び、部屋の扉がゆっくりと開かれる。

そして_______十名程の外国人が次々と部屋の中に入ってきた。

 

「______あラ?」

 

と、先頭にいた赤毛の女が燎子と折紙の姿を見て、唇を歪めてくる。歳は燎子と同じくらいだろうか。釣り目の双眸が、どことなく狐を思い起こさせた。

 

「資料で見た顔ネ。ASTの隊長さんに_______そう、トビイチオリガミだったかしラ?」

 

独特のイントネーションでそう言い、さらに笑みを濃くする。

 

「………あんたは?」

 

「今日付でASTに配属になったジェシカ・ベイリーでス。以後よろしク」

 

「………ふん」

 

燎子は不快そうに顔を歪めると、手を弾くように押し付け、握手を交わした。

 

「一体あんたらがここに何しに来たのか知らないけど、ここで好き勝手な真似はさせないわよ。ASTに所属する以上、私の命令に従ってもらうわ」

 

言うとジェシカは目を丸くし、背後の部下達と目を見合わせてから肩を竦めた。

 

「あなたの命令に従えば、精霊は倒せるのかしラ?」

 

「なんですって?」

 

AST(あなたたち)の事は色々聞いてるワ。ここ数年、空間震が最も多い地域の精霊の対精霊部隊でありながら、未だに一体の精霊も狩れてないオママゴトチームってネ」

 

「な______」

 

ジェシカが眉を歪める燎子から、折紙の方に視線を移してくる。

 

「アナタのことも聞いてるわヨ?何でも勝手に精霊を殺しに行って、謹慎を食らったそうじゃなイ。あはは、アナタは少しだけ私達に近いかもネ。そういうの、嫌いじゃないワ」

 

折紙が無言でいると、ジェシカがずいっと顔を寄せてくる。

 

「でも、駄目ヨ。お話にならないわ。【ホワイト・リコリス】なんて欠陥品を無理に使って、あまつさえライダーシステムを適合手術無しで使おうとして、結局何の成果も上げられなかったんでしょウ?ふふ、無様ねェ」

 

ジェシカがニヤニヤしながら言うと、後方の隊員達が含み笑いを漏らし始めた。

 

「隊長、いくらなんでも可哀想ですよォ」

 

「極東の木っ端隊員を、私達の基準で測っちゃいけませんってばァ」

 

「そうですよ。彼女だって好きで弱いわけじゃないんですから」

 

「それにこっちのただのCRユニットと、ライダーシステムを併用した最新のユニットじゃ、レベルが違いますってェ」

 

四人の隊員が、順に嘲るように言う。折紙は表情を変えぬままギリと奥歯を噛み締めた。

 

「あら、怒っちゃっタ?きゃはは、怒ったらどうするノ?精霊すらまともに倒せないのに、ライダーシステムという新しい力を得た、私達DEMのアダプタス・ナンバーに敵うとでも?」

 

「………ちょっと、あんた大概に_______」

 

と、燎子がジェシカを止めようとしたところで。

辺りに、甲高い警報が鳴り響いた。

 

「………!折紙、出動準備よ!腕は鈍ってないでしょうね!?」

 

「当然」

 

折紙が答えて駆け出そうとすると、またもジェシカ達が笑みを浮かべてきた。

 

「鈍っていようがいまいが、精霊を殺せないのであれば同じ事なんじゃないノ?」

 

「……………」

 

「やめなさい折紙。今はそんな場合じゃないでしょ。私達は出動するわ。この街を守らなきゃいけないものでね。………あんた達はどうするのよ」

 

「ああ、私たチ?そうねェ………いいわ、丁度いいタイミングだし、私達も出撃しましョ。戦い方を、教えてあげるワ」

 

そう言ってジェシカが取り出したのは、黒光りする、注射器を模したベルト_______【リバースドライバー】だった。

 

「ッ、それは真那の………ライダーシステムって、まさか………」

 

「そんなに驚く事かしラ?まあ、あなた達にとっては珍しい物かもねェ。ああ、それと______」

 

ジェシカが指を一本立ててから、言葉を続けてくる。

 

「私達は特別な任務を帯びてるノ。場合によってはそちらを優先させてもらうワ」

 

「………特別、任務?」

 

折紙は言いながら眉を歪めた。

何故だろうか、その言葉から、不穏な響きを感じ取ってしまったのである。

 

 

 

 

その場にいる四人_____順に士道、万丈、戦兎、一海は、仄暗い艦内から夜の街へと変貌した大地を踏みしめた。

フラクシナスの移動装置によって、半ば瞬間移動のような転送をしたのだ。酩酊する意識をどうにか保ちながら、四人は改めて周囲を見回す。

 

四人が降り立ったのは、天宮アリーナが最寄りにある、天宮市南部の立浪駅前広場だった。ライブやイベントがある日などは人で埋め尽くされる場所であるが、今は人の姿が全く見受けられなかった。

 

それもその筈である。四人の視界に広がる景色は、その大部分がすり鉢状に抉られ、クレーターと化していたのである。

 

「これが空間震ってやつか………初めて見たけど、凄えなこりゃ」

 

一海がその光景を見て、息を呑む。

元の世界の戦争で見た光景とはまた違う、人類を蝕む突発性災害である。

 

『無事現場に着いたみたいね』

 

ラタトスク司令官の琴里は、フラクシナスから四人の様子をモニタリングしている筈だった。

 

『精霊の反応は空間震発生地点から南の方に移動しているわ。急いで向かってちょうだい』

 

「了解。……あ、そうだ」

 

戦兎が答えた後、何かを思い出したようにトレンチコートのポケットを探る。中から四角い物体を取り出し、万丈へと放った。

 

「ほれ」

 

「へ?うわっ……これ、ビルドフォンか?」

 

万丈に渡されたそれは、戦兎がいつも使っているスマートフォン兼移動手段の【ビルドフォン】に似たものだった。

しかし、カラーリングが青く、他にも何処と無く形状が異なって見える。

 

「お前用のバイクだよ。俺のだけじゃ何かと不便でしょうが。そこにドラゴンボトルかロックボトル挿してみ?」

 

「マジか!よっしゃ……!」

 

聞いた万丈はドラゴンボトルを取り出し、装填用のコネクタに挿し込んだ。

 

 

CROSS-Z CHANGE!

 

 

音声が鳴るとともに、携帯が万丈の手元を離れ、バイク形態へと変形する。

 

「お、おぉ〜!」

 

変形後のバイクはマシンビルダーと違い、青いドラゴンを象ったシルエットとなっていた。所々に金色のラインが入っており、クローズのカラーリングである。

 

「お前専用の、【マシンクローザー】だ。大事に使いなさいよ?作るの大変だったんだから」

 

「カッケェじゃねえか!サンキュー!」

 

万丈はひとしきりはしゃいだ後、ヘルメットを被ってバイクへと跨った。

戦兎もマシンビルダーを取り出し、同じく跨った。

 

「さて。そんじゃ士道は俺の後ろに、一海は万丈の後ろに乗り込んで。一気に飛ばすから、ちゃんと掴まってろよ」

 

二人は頷き、それぞれマシンビルダーとマシンクローザーの後ろに乗る。

エンジングリップを握り、その場から走り出した。

周囲の破片をうまく避けながら、精霊の反応を追う。

 

「うわっと!おい龍我、もっとマシに運転しろよ!」

 

「仕方ねえだろ!新車なんだから!」

 

後ろでは一海と万丈の揉めてる声が聞こえたが、それはともかく。

地面を見てみると、下にはカラフルなチラシやらうちわやらが散乱していた。一瞬マナーの悪い客かと思ったが、急に空間震警報が鳴れば、手にしたチラシなんか放って逃げざるを得ないだろう。

 

「琴里!精霊の反応はどこだ!?」

 

『ちょっと待って、今正確に位置を_____』

 

と、琴里が言いかけた瞬間。

 

「っ、おい待て!万丈も一旦バイク止めろ!」

 

戦兎は突然バイクを止め、万丈にも止めるよう促した。

そしてヘルメットを外してバイクを降り、耳を澄ませる。

 

すると士道も何かに気付いたように、続いてバイクを降りた。

 

「おい戦兎!何だってんだよいきなり」

 

「………歌、か?」

 

「は?」

 

「いやだから、向こうから歌が聞こえてこないか?」

 

そう。前方______天宮アリーナの方から、微かに、だが紛れも無い、『歌』が聞こえてきたのだ。

 

「まさかこの惨状で、一人残って歌い続けてるってのか?」

 

「………とにかく、行ってみよう」

 

「ああ」

 

「うっし」

 

四人はアリーナへと向かい、大きな扉を押し開け、中に足を踏み入れた。

そして、ステージが一望出来る位置まで歩みを進める。

 

瞬間_______士道は、身体を射られるような感覚とともに、歩みを速めた。

 

「っ、おい、士道………?」

 

戦兎の声も無視し、アリーナの中央へと目を向ける。

 

恐らく出演者やスタッフが舞台装置を放置したまま避難したのだろう、暗い会場の中、櫓のようにせり上がった舞台だけが、下方から幾つものスポットライトに照らされ、光溢れている。

 

その、真ん中に。

 

光の粒子で縫製されたかと見まごうような煌びやかな衣を纏った少女が立ち、会場中に声を響かせていた。聞きなれない言語で構成された、まるで子守唄のような静かな曲調が、四人の鼓膜を震わせる。

 

「ぁ________」

 

「………すっげぇ_____」

 

「……………」

 

「………おぉ…………」

 

意図せず、四人の口から感嘆の声が漏れる。

楽器の演奏や、マイクや拡張器を使っているわけではない。完全な無伴奏の独唱。

しかしその声のみで形作られた曲調は、まるで耳を通って脳幹に染み渡るかのような錯覚を覚えるように、圧倒的な力を有していた。

 

『あれはまさか_______【ディーヴァ】………!?』

 

「………!」

 

不意に右耳に響いた琴里の声に、四人の意識は取り戻させられる。そうだ、今は歌に聞き惚れている場合では無い。

何しろこれから、非常に困難を極める大仕事が待っているのである。

 

「【ディーヴァ】……それがあの子の識別名なのか?」

 

『ええ………半年前に一度だけ出現が確認された精霊よ。一応データベースに存在は登録されているけど、性格や気性を始め、能力や天使の詳しい情報もほぼ無いに等しいわ。十分注意しながら接触を試みてちょうだい』

 

「わ、分かった」

 

四人は顔を見合わせると、顔を再び少女に向け、足を踏み出した。

と、そこで会場内にカーン、という乾いた音が響き渡る。

 

「あ、やっべ」

 

万丈は一歩足を前に出した状態のまま、そこに固まった。三人も万丈の足元に視線を向ける。

どうやら床に放置されていた空き缶を蹴飛ばしてしまったらしい。

少女もその音に気づいたのか、不意に歌声を止める。

 

「_______あらー?」

 

そして、今まで響かせていた歌声とはまた違う、間延びしたような声音をこぼす。

 

「馬鹿、何やってんの」

 

「し、仕方ねえだろ、足元が暗くてよく………」

 

しかし、万丈が弁明の言葉を最後まで発する事なく、舞台上の少女が会場を見回すように視線を巡らせながら、言葉を継いできた。

 

「お客さんがいたんですかぁ。誰もいないと思ってましたよー」

 

優しげな、のんびりした声を響かせてくる。どうやら客席は暗い為、四人の姿を見つけられていないらしい。

 

「どこにいるんですかー?私も一人で少し退屈をしていたところなんですよぉ。もしよろしければ少しお話をしませんか?」

 

「………どうする?」

 

「どうするって………琴里」

 

『ん………どうやら、問答無用で攻撃を仕掛けてくるような精霊ではないみたいね。会話はこっちでサポートするから、直接会話が交わせるくらいの位置に行ってみてくれる?』

 

「了解。行ってみる」

 

「よし………」

 

四人は頷き合うと、舞台上に上がるための階段を上っていった。が、舞台に上がる寸前で、右耳に琴里の制止の声が聞こえてくる。

 

『ストップ。選択肢が出たわ。______ふむ、登場と同時に声をかけるパターンみたいね』

 

 

 

 

「______目標はここね。総員、突入準備」

 

燎子はライフルを構え、隊員達に命令を出した。隊員達が武装を構え、アリーナ上空を浮遊している。

すると、その中に混じった欧米人の一団_____ジェシカを始めとするDEMの出向社員達が、不敵な笑みを浮かべた。

 

「ここねェ…………それじャ、見せてあげるワ。私達の戦い方を____ネ」

 

「………どういう事?」

 

「ふふ、分かるわヨ………ねェ?」

 

ジェシカが振り返り、DEMの隊員達が同じように笑みを浮かべる。

アリーナを一度見据え、黒光りするベルト_____【リバースドライバー】を取り出し、腰に当てがった。

 

そして取り出したのは、武装の意匠が施された試験管型のボトル______【アームズオルタナティブフルボトル】である。

 

それを数回振り、内部の【トランリバースリキッド】を活性化させる。そしてキャップを閉めて_____ジェシカが告げた。

 

 

「さあ、総員________変身せヨ

 

『了解』

 

 

全員が一糸乱れぬ動作で、バックルの左側部へと挿しこみ、右側部のハンドルレバー、【アブソーブチャージャー】を引いた。

 

 

ARMS ALTERNATIVE

 

 

十人分のドライバーの重低音が鳴り響き、そのまままたも統制のとれた動きで、レバーを押し込んだ。

 

 

『変身』

 

 

オルタナティブボトルの成分が、エネルギー変換装置【アブソーブリアクター】へと送られ、顕現装置(リアライザ)が臨界駆動を始める。

 

 

ABSORB CHANGE

 

 

ジェシカを始めとした十人の周囲にはフラスコ瓶状の小型ファクトリーが展開され、内部に成分を充填、全身の細胞を()()()()、アーマーを形成した。

しかしジェシカ達は苦しむ素振りなど見せずに、余裕の笑みを浮かべながら、その顔をマスクで覆った。

 

 

ARMS IN TROOPER

 

 

「あぁ_____はァ………ッ!」

 

快楽の嬌声にも似た声をあげながら、ジェシカを始めとした十人は、兵隊ライダーたる【デウストルーパー】への変身を完了させた。

ジェシカのみ赤黒いカラーリングだが、他は黒と灰、銅色で統一された、戦闘用マシーンとも形容できる様だった。

腰に下げた武装_____【デュアルスレイカー】をライフルモードで装備し、準備を整える。

 

その様子を見たAST隊員達は、一瞬呆然としたものの、すぐさま自分達も武装し、アリーナを見据えた。

 

そしてジェシカ扮する赤黒いトルーパーが一度燎子の顔を見やり、早く行くように促す。

 

「ッ………総員、突撃ッ!」

 

燎子はそれを見て歯噛みしながらも、隊長として命令を下した。

真っ先に降下したのは、ジェシカ達十人の、トルーパー達だった。

 

 

 

 

少し時間は遡り、アリーナ内では。

 

「______え?なんでしがみついてるんですかぁ?なんで落ちてこないんですかぁ?なんで死んでないんですかぁ?可及的速やかちこのステージからこの世界からこの確率時空から消え去ってくださいよぉ」

 

「「「「………は?」」」」

 

舞台上の少女の、養豚場の豚を見るかのような視線と、石動美空や五河琴里が可愛く思えるほどの罵詈雑言を浴びながら、士道、戦兎、万丈、一海の四人は、ステージの端にしがみつきながら呆然と声を漏らした。

 

事の発端は、四人がステージに上がり、この少女に話しかけたところからだった。

 

 

『やぁ、こんばんは。盗み聞きするつもりは無かったんだが、綺麗な歌声で_______』

 

と、士道が話しかけた瞬間に、少女の好感度が株価暴落を思わせるスピードで急降下したのである。

その後も挽回しようと四人が言葉を発するだけで好感度は下がり続け、ゴキブリの方がまだ良い、というレベルにまで下がり切ってしまったのである。

 

すると眼前の少女はギロリと四人を睨みつけたかと思うと、突然。

 

 

『わッ!!』

 

 

と、凄まじい大声を発し、四人はまるで台風に見舞われたが如く吹き飛ばされ、舞台から落ちる寸前でどうにかステージの縁にしがみついた。

 

そして、現在に至る。ステージは思いの外高い位置にあり、四人のハザードレベルでは骨折とまでいかなくとも、確実に痛いだろうなぁ、というくらいは分かった。

 

だが、今はそんな事を考えるよりも先に、目の前の少女に対しての困惑が、四人の脳内を埋め尽くした。

 

「え、えと………今なんて?」

 

「何喋りかけてるんですかぁ?やめて下さいよ気持ち悪いですねぇ。声を発さないでくださいよぉ。唾液を飛ばさないでください。息をしないでください。あなた達がいるだけで周囲の大気が汚染されてるのがわからないんですかぁ?分からないんですねぇ?」

 

「「「「……………」」」」

 

その語彙力はどこから来てるんだと言わんばかりの罵詈雑言に、四人は思わず絶句した。これが無声映画ならどれほど良かっただろう。と、馬鹿げたことを考えるくらいには、キツかった。

 

「え、えっと、君は………」

 

「人の言う事を聞かない人ですねー。一刻も早く消えてくれませんかぁ?あなた達の存在が不快なんですぅ。何故私があなた達の手を踏みにじってステージから落とさないか分かりますかぁ?たとえ靴底であろうとあなた達に触れたくないからですよー?」

 

優しい雰囲気と歌のような語調。言葉と内容だけがモーニングスターだった。普段はある程度の悪口も笑って受け流す戦兎や、すぐカッとなる万丈も、流石に言葉が出てこないようだった。

 

と______その時。

 

『ッ!四人共!すぐ近くにスマッシュの反応あり!しかも________』

 

「ッ、どうした!?」

 

「!お前ら、あれ!」

 

「何喚いてるんですかぁ?気持ち悪いですね_______」

 

と、少女の言葉が出るよりも先に、アリーナの天井が一瞬ベコッとうねったかと思うと、凄まじい炸裂音と衝撃を伴って爆発し、天井の照明装置がバラバラと崩壊した。

さらに戦兎達が通ってきた入り口方向からも爆発音が聞こえ、ドアの板が吹き飛ばされて観客席の近くにまで飛んでくるのが分かる。

 

「う、うわ…………ッ!?」

 

「くそっ、こんな時に_____!」

 

「あらー?」

 

「おい戦兎!どうなってんだよこれ!」

 

「決まってんだろ!スマッシュと______ASTだ!」

 

微かな振動が伝わり、四人は振り落とされないようにステージにしがみついた。

 

そして上を見やると、そこには既に天井と呼べるものはなく、代わりに月明かりに彩られた夜空が顔を覗かせていた。

 

否_______それだけではなく、闇に紛れて、機械の鎧と、黒灰と銅の鎧を身に纏った幾人もの人間が、確認できた。

 

そして十人程度確認できる、全身アーマーの存在を、戦兎達は知っていた。

 

「あれは______デウストルーパー!?」

 

「なんでこんなとこに!?」

 

それを考える暇も与えられずに、間髪入れず奇襲しに来たものがいる。

入り口付近から湧き出てきた、歪な人型のモンスター_____スマッシュだ。

 

「マジかよ………ッ!?」

 

「何ですかぁ?あの気持ち悪いモノ?」

 

少女はその表情を歪ませ、心底嫌そうにスマッシュを見た。

そしてAST隊員達が軽やかに空を舞い、アリーナ内に舞い込み、四人とディーヴァのいるステージを囲うように展開する。

 

「あ、あいつら、室内なのに何で!?」

 

「こうも広かったら、室内もクソもあるか!こうなったら…………ふッ!」

 

「ちょ、あなた、何を_____」

 

戦兎は意を決したように腕に力を入れると、思いっきり体を跳ね上がらせ、ステージへと舞い上がり、すれ違いざまにAST隊員の一人を振り払うように、蹴りをお見舞いする。

 

「キャっ!?」

 

「ちょっと、何勝手に上がってきてるんですかぁ?早く落ちてくださいよぉ」

 

「うるせぇ!今はそんな場合じゃない!」

 

「ッ、何ですか、急に叫んで、気持ち悪い」

 

戦兎はディーヴァを守るように立ち、AST隊員達を見据えた。

 

「戦兎、俺も!」

 

「スマッシュは俺たちに任せろ。おら行くぞ龍我!」

 

「は?ちょおい、落とすなってぁぁぁぁぁぁぁ______!」

 

続けて士道も上がってきて、互いに肩を並べる。

一海はステージをつかんでいた手を離すと、万丈を引っ張って下へと降りていき、スマッシュと交戦し始めた。

 

『四人とも!ここは撤退よ!』

 

「でも!スマッシュまで出てきてる!どの道脱出は_____」

 

インカムから聞こえる琴里の声に反応し_____戦兎がそこで違和感に気付いた。

 

「おい士道____さっきから鳴ってたアラームが、止んでないか?」

 

「え?………そういえば、聞こえない」

 

そう、先ほどまで引っ切り無しに鳴っていたアラームが、ピタリと止んでいたのである。

 

「え………?」

 

不審に思い、ディーヴァを見やる。するとそこには______

 

 

「まぁ、まぁっ!」

 

 

先ほどとは打って変わり、手を組みながら目を輝かせるディーヴァの姿があった。

 

「いいじゃないですかー。素晴らしいじゃないですかー。そうですよぉ、お客様といったらこうじゃないとぉ!ああ、そうですねー、特に______」

 

と、耳鳴りのような音を残して、ディーヴァの姿がそこから消える。

次の瞬間、ディーヴァはAST隊員の一人_____折紙の背後に出現し、まるで仲睦まじい恋人のように、肩に手を置き耳元で囁いた。

 

「ああ………いい、いいですー。ねえあなた、私の歌を聞きたくないですかー?」

 

「…………ッ!」

 

折紙がハッと肩を揺らし、レイザーブレイドを振るう。

 

「ああん、いけずぅ」

 

ディーヴァが折紙の一撃を避けながら、甘ったるい声を発する。

そのリアクションが折紙の気分を害したのか、追撃をかけるように斬り付ける。だが、それらの攻撃は全てディーヴァに届く前に見えない壁のようなものに阻まれていた。

 

『あらあラ、ご苦労な事ねェ。本来なら加勢したいところだけド………』

 

すると、ステージを隔てた反対側に浮遊していた赤黒いトルーパーがそう言い、士道たちの方へと顔を向けた。

一瞬戦場に紛れ込んだ一般人を保護しようとしているのかとも思ったが______違う。

 

「ッ、避けろ士道!」

 

「………ッ!」

 

二人で左右に散る形に避け、トルーパーの攻撃を何とか躱す。

 

『あら、やるじゃなイ』

 

「くそ、何だよあいつ…………」

 

「分かんねえけど_____このままタダで帰しちゃくれねえみてえだな」

 

士道と戦兎は立ち上がり、上空に浮遊する赤黒いトルーパーと、取り巻くように現れた数体のトルーパーを睨みつける。

 

二人ともドライバーを巻き、それぞれフルボトルを取り出して振った。

 

『キュルッキュイーッ!』

 

士道の手元には赤い鳥型ガジェット、【アライブガルーダ】が変形し収まる。

そして降ったボトルをドライバー、ガルーダに装填し、ドライバーへとセットした。

 

 

フェニックス!スマホ!

 

Get Up!ALIVE-SPIRIT!!

 

 

待機音声が鳴り、ボルテックチャージャーを回す。

士道の前後には【スナップリアライズビルダー】が展開され、二人でファイティングポーズをとる。

 

 

Are You Ready?

 

 

「「変身ッ!」」

 

掛け声とともに、戦兎の体には左右から赤のフェニックスアーマー、青のスマホアーマーが装着され、士道の体は前後をアーマーが挟み、最後に鳥形の胸部装甲が包んだ。

 

Dead Or ALIVE-SPIRIT!!イェーイッ!!

 

士道はアライブに戦兎はビルド、【フェニックススマホ】のトライアルフォームへと変身し、眼前のトルーパー隊へと向かっていった。

 

 

 

 




どうでしたかね?
祖父母の家に行っていたため、更新が出来ませんでした。あと、ヒロアカにハマり始めてしまいました。

あと今回、前半と後半で書く間隔が空いてしまったため、文章に違和感があるかもしれませんが、申し訳ありません。

あと二週間ほどでゼロワンドライバーの一般販売開始ですね!自分はそもそもお金無くて応募をやめたので、せめて発売日に買いたい………!

それでは次回、『第56話 アリーナの戦い』をお楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録よろしくお願いします!


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第56話 アリーナの闘い

耶倶矢「兎と戦車の力を持った仮面の戦士ビルド、桐生戦兎は、蒼き龍戦士クローズ、赤き不死鳥の戦士アライブ、金の機械戦士グリスと共に、精霊ディーヴァとの邂逅を果たしてしまう。しかし、そこに待ち受けていたのは、背筋が震えるような邪悪を内包した_____」

戦兎「オイオイオイ!何勝手にあらすじ紹介した上にあらすじ改変してんの!なんかこの作品がスッゲーホラーな感じになっちゃってんじゃん!」

万丈「まあ夏だしいいんじゃね?」

戦兎「良くないわ!子供に悪影響が出たらどうするの!最近そういうのうるさいんだから!」

耶倶矢「悪影響とはなんだ!我好みに世界を書き換えただけだぞ!?」

戦兎「なお悪いわ!つか、今回のあらすじ紹介夕弦も一緒じゃなかったか?夕弦どこよ」

夕弦「呼掛。ここです戦兎」

戦兎「ああ、いたいた。というか前回のあの子、スッゲー怖かったんだけど。今回大丈夫かな」

万丈「ホントだな。つーかあいつ、あんなに喋って口疲れねえのかな?」

戦兎「気になる所そこ?それよりもスマッシュやら何やらで大変なことになってるから!第56話ちゃんと見て!」





「ハァッ!」

 

ALIVE-LASTFR!

 

「オリャァッ!」

 

天宮アリーナ内部。

そこでは今、ASTとスマッシュ、精霊【ディーヴァ】、そして仮面ライダー達の混戦状態になっていた。

 

ステージ下では侵入したスマッシュ相手に、グリスとクローズチャージが戦っている。数は向こうの方が多いが、今更ただのスマッシュに遅れを取る彼らでは無い。

 

「へっ、前のカニ野郎に比べたら、こんな奴ッ!」

 

シングルッ!シングルブゥレイクゥッ!!

 

「ゥグァァァァァァア________!!」

 

クローズがツインブレイカーにドラゴンボトルを装填し、エネルギーを込めたパイルでスマッシュを穿つ。スマッシュはその衝撃に耐えきれず、呻き声を上げながら爆散した。すぐさま、次のスマッシュへと向かっていく。

一方のグリスは、まだ一体目を撃破しきれていなかった。スロースターターであるために、立ち上がりきれていないのだ。

 

「こンの野郎ッ!!」

 

シングルッ!シングルフィイニッシュゥッ!!

 

ビームモードに変形したツインブレイカーにロボットゼリーを装填し、連射攻撃でスマッシュ数体を仕留める。

まだクローズ、グリス対スマッシュの戦いは続きそうだった。

 

 

一方のビルド、アライブもまた、数の不利を強いられていた。

 

「ハァッ!!」

 

『アハハッ!緩いわァッ!』

 

ビルドがフェニックスハーフボディ背部の【エンパイリアルウィング】を展開し、掌から無数の炎弾を放つ。

しかし赤いデウストルーパーはその攻撃を軽々交わし、その隙を他のデウストルーパー隊達が、【デュアルスレイヤー】のガンモードで突き、射撃する。

 

「くっそ………!」

 

毒付きながらも、スマホハーフボディの左腕に装備された【ビルドパッドシールド】で光弾をガードする。 そして身を守りながら、ドリルクラッシャーをガンモードで構えて射撃する。しかし、苦し紛れの攻撃は牽制にしかならず、一瞬射撃が止んだ後に、再び赤のデウストルーパーがこちらへ攻撃を仕掛けてきた。

 

レーザーブレードを構え、上段に斬り込んでくる。すかさずパッドシールドを頭上に構え、ブレードの一撃を辛うじて防いだ。

しかしシールドは徐々に押され、ビルド自身もウィングで姿勢を保つ事が難しくなっていた。

 

『ハハハ、流石のビルドでも、この数相手には不利かしラァ?』

 

「こいつら、この前の奴より強い………ッ!」

 

『当たり前でしょウ?私達は………アデプタスなのよォッ!!』

 

「ぐッ!」

 

そして遂に振り抜いたブレードの一撃がパッドシールドの表面にヒビを入れ、ビルドもステージの上へと叩き落とされてしまった。

 

「ッ、戦兎!クソ……!」

 

『余所見をする暇があるのかしらァ?仮面ライダーアライブゥ?』

 

アライブがビルドを見やるが、トルーパー隊は追撃の手を緩めない。

連携が取れているのもあるが、このトルーパー達は、かつて或美島で交戦したトルーパー達よりも明らかに数段強かったのだ。一人一人のスペックだけを見るならば、ビルドやアライブ達の方が確実に強いだろう。しかし彼らの知り得ぬ事だが、彼女らは【アデプタス】_____DEM内でもトップクラスの腕を持つ魔術師(ウィザード)であり、またドライバーの性能も、真那や或美島での戦闘データの解析により、さらなるスペックアップが施されている。

 

その結果が、今ビルド達が立たされている窮地だった。

 

 

 

 

「……士道ッ!く、邪魔をしないで……!」

 

「嫌ですよぉ。もっと私と遊びましょお?」

 

鳶一がアライブが窮地に立たされた光景を見て、歯噛みしながらブレードをディーヴァへ向けて振るう。向かおうとしてもディーヴァにより妨害され、思うように行けないのである。

 

そしてそれ以上に、鳶一にはある疑問があった。

確かに彼ら仮面ライダーは、AST内部でも危険視され、攻撃対象となっている。

が、しかし彼女らトルーパー隊の攻撃は、それとはどこか違う_____何か、別の目的があるように思えてならなかった。現に先程燎子から【ディーヴァ】への攻撃を優先するよう指示があったのだが誰も加勢せず、ビルドとアライブにのみ攻撃し、アンノウンはおろかディーヴァにも興味が無いようではないか。

 

「くっ………!」

 

そんな思考をしつつ、なんとかアライブの元へ行こうと、攻撃の手をやめない。

だがディーヴァは、一向に退こうとしなかった。

 

 

 

 

ONE BEAT!SWEEP ATTACK!!

 

「ハァッ!!」

 

アライブラスターを構え、炎の羽根型エネルギー弾をトルーパーへと放つ。

が、一人に命中したのみであり、すぐに他のトルーパーが攻撃を再開した。

 

「ぐあッ!くそ、どうすりゃ………!」

 

アライブはブラスターで応戦しながら、周囲を見回す。

鳶一と他のAST隊員は、ディーヴァ相手に戦っているが、ハッキリ言って弄ばれている。

 

「くっそ!」

 

「ンの野郎……ッ!」

 

クローズとグリスは出現した複数体のスマッシュと戦っており、動きにどこか疲労が見受けられる。

 

Ready Go!VOLTEX BREAK!!

 

「ハァッ!!」

 

『ぐっ……!ふ、フフ、やるじゃなイ』

 

ビルドも応戦しているが、赤のトルーパーとその指揮によって追い詰められている。

 

アライブは数秒の逡巡の後、顔を上げ決めた。

 

「こうなったら……!ハァッ!」

 

ブラスターの光弾をトルーパーに撃ち、怯ませる。

その隙にブラスターを放り、腰のフルボトルホルダーから赤のボトル______カマエルエンジェルフルボトルを取り出した。

 

ドライバーから一度ガルーダを外し、内部のスピリットフルボトルを抜く。

そしてカマエルボトルを勢いよく降り、ガルーダへと装填。そのまま力強くドライバーにセットした。

 

 

激焦ゥッ!

 

 

アライブカマエルッ!

 

 

炎の様に燃える待機音が鳴り響くや、力任せにレバーを回す。アライブの前後には、燃え盛る炎を纏ったアーマーが形成された。

 

 

Are You Ready?

 

 

「ハァッ!」

 

両手を下に広げ、アライブの前後から、アーマーが挟み込むように装着された。

 

 

Get Up Flame!!Dead Or ALIVE-KAMAEL!!イェイイェーイィッ!!ブゥアアァァッ!!

 

 

「_____ウォォォォ……ハァッ!!」

 

「ッ、士道、お前それ……っ!」

 

アライブカマエルへの強化変身を終え、灼爛殲鬼(カマエル)を手に持ちトルーパーへと向かう。ビルドがそれを見て、声を上げる。

 

「ッ、お前、分かってるだろ!?エンジェルフォームは負担が………!」

 

「分かってるけど、今はこれしかないだろッ!?ハァァァッ!!」

 

アライブが強く言い返し、カマエルを振りかざしてトルーパー達へと向かう。

横薙ぎに振るわれたカマエルは、その風圧と炎だけでトルーパー達を軽く吹き飛ばした。そして斬り込まれた刃はトルーパー達に直撃し、吹き飛ばされた奴らの一部は、変身が解除された者もいた。

 

「っ、士道、それは…………!?」

 

その光景を見た折紙が困惑の表情を浮かべたが、今のアライブにはそれに構う暇はない。

 

『くそ………何なのよ、コイツ………!』

 

『いきなり、強ク…………』

 

まだ変身解除には至っていないトルーパー達が、困惑と怒りに満ちた声を漏らす。

その中でビルドと交戦していた赤のトルーパーが、興味ありげに視線を巡らせた。

 

『あラ………確か、報告にあった【精霊の力を操る形態】、かしラ?どれほどのものか………』

 

「っ、まずい!」

 

ビルドが声をあげるも、赤のトルーパーは高速でアライブの元へと飛び、ブレードを振るった。

 

『試させてもらうわァッ!』

 

「ッ!ハァッ!」

 

赤のトルーパーがブレードを振り下ろした瞬間、アライブはカマエルで咄嗟に防御し______

 

「ぐ……………だぁぁぁぁッ!!」

 

『ッ、何!?』

 

力任せに薙ぎ、赤のトルーパーの攻撃を弾いた。

CR-ユニットによってどうにか姿勢を保ち、そこまでの飛距離は飛ばされなかったものの、その衝撃はかなり強かったらしい。

赤のトルーパーは、マスクの下で表情を歪ませた。

 

『こノ、餓鬼…………ッ!!』

 

と、更なる追撃を加えようと構えていた、その時________

 

 

「わッ!!」

 

 

『ッ!?』

 

突如、アリーナに大声が響き、全員が吹き飛ばされた。

周囲を飛び回っていたAST隊員達は勿論、アリーナにいたビルド達もアリーナ下まで飛ばされてしまったのだ。

 

「うわっ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

更にそれはスマッシュとの戦闘を終えたばかりだったクローズ達にも直撃したらしく、二人揃って耳を塞ぎながら飛ばされていた。ビルド達も思わず怯んでしまい、衝撃と爆音の余韻で目を閉じてしまう。

 

そして音が静まり、次に目を開けた時には______

 

「え……?」

 

「な………」

 

さっきまでASTと交戦していたデーヴァは、そこから姿を消していた。まるで最初から誰もいなかったように、綺麗さっぱりと。

 

消失(ロスト)………チッ、ここまでネ』

 

赤のトルーパーが舌打ちながら言うと、上空を浮遊し始めた。見ると他のAST隊員達やトルーパー隊も、次々と撤退していく。変身解除された数名は、悔しげに表情を歪ませながら、CR-ユニットを着装し直して飛び去っていった。

 

『覚えてなさイ………仮面ライダー…………!』

 

憎々しげに吐き捨てながら、赤のトルーパーも飛び去っていく。

 

「……行ったか………」

 

「ああ………」

 

やがてアリーナには四人以外誰もいなくなり、全員が変身を解除する。

その瞬間。

 

「!……ぐっ…………!?」

 

「ッ、おい士道!大丈夫か!?」

 

「はぁッ、はぁッ…………」

 

変身を解除した士道が、全身に力が入らなくなったように膝を地に着き、荒々しく呼吸をする。その顔面からは玉のような汗が吹き出ており、アリーナの床へと滴った。

 

「おい、どうしたんだよ士道!」

 

「大丈夫なのか!?」

 

その様子を見た万丈と一海も、心配そうに寄ってくる。

士道は辛そうに見上げると、無理やり笑みを作った。

 

「だ、大丈夫………ちょっと、疲れただけ、だからさ………」

 

「……エンジェルフォームは大きく体力を消耗する。これからは無闇矢鱈と使わないほうがいい。ほら」

 

戦兎が忠告と共に、手を伸ばす。士道はそれを聞くと、すまなそうに苦笑して、戦兎の手を取った。

 

「ああ………わり、サンキューな」

 

戦兎の手を借り、なんとか立ち上がる。

その後スマッシュの成分を回収した後、四人の視界はフラクシナスの艦橋へと戻っていた。

 

 

 

 

ディーヴァの姿が消えてから、およそ一時間後。

結局いつも通りに精霊を倒す事も捕まえることも出来ず逃げられ、ASTの面々は駐屯地に舞い戻っていた。

 

「………士道、あれは、一体」

 

折紙は先程見た、アライブの姿______まるで、()()()()()のような姿となった士道の事を、考えていた。

いや、ような、ではないだろう。彼の手に握られていた戦斧は、間違いなくイフリートが使っていたそれだった。

 

さらに、あの戦闘力。変身前は苦戦を強いられていたというのに、あの姿になるやたちまち形勢が逆転した。

確かに彼がイフリートこと、自身の妹である五河琴里の霊力を封印したという事を聞いたし、その力が封じ込められたというボトルも目の当たりにした。

そのボトルを使って変身したのだろうが_____折紙は、ほんの少しだけ、恐怖を感じずにいられなかった。

 

相手が人間から精霊に入れ替わったような、あの戦力差の逆転。

 

それがなんだか、士道が段々と人間から遠ざかっていくようにも思えてしまったのである。

 

だが。折紙はそんな思考を振り払うと、視線を鋭くした。

 

今はそれよりも、もっと重要な事があるのである。

 

そもそも、士道かその姿になった原因______赤のトルーパーの変身者である、ジェシカの元へと向かった。

 

「一体どういうつもり?」

 

ジェシカが片眉を上げ、折紙に視線を返してくる。

 

「どういうつもりって言うト?」

 

「とぼけないで。何故あの時士道を攻撃しようとしたの」

 

「あラ。お知り合いだったのかしラ?」

 

「答えて」

 

折紙が詰問すると、ジェシカは大仰に肩をすくめた。

 

「どうもこうモ、仮面ライダーアライブは、ASTでも危険視されているでしょう?だから攻撃しようと思っただけヨ。何か問題でモ?」

 

「精霊が出現した場合、優先すべき対象は精霊。けどあなた達はディーヴァへ向かおうともせず、仮面ライダーのみを攻撃していた」

 

「その精霊を庇おうとしているんでしょウ?彼らは。だから不安要素を排除してあげようとしただけヨ」

 

「…………」

 

折紙は射貫くような視線でジェシカを睨み付けた。それが嘘である事は明白だった。

実際、ジェシカも折紙に自分の言葉を信じて貰えるだなんて最初から思っていないのだろう。だが、そう言いさえすれば、折紙はそれ以上ジェシカを追求できないことを分かっている様子だった。

実際、仮面ライダーはAST内で危険対象である事に変わりはなく、後から交戦動機などいくらでもでっち上げられる。

 

「話は終わりヨ。消えなさイ。私たちは忙しいノ」

 

ジェシカが鼻を鳴らしながら言ってくる。しかし折紙はそのまま言葉を続けた。

 

「あなた達が帯びている特殊な任務に関係があるの?」

 

「…………」

 

折紙が言うと、ジェシカとその部下がぴくりと表情を動かした。

そして鬱陶しげに舌打ちをし、ぐいと折紙の前髪を掴んでくる。

 

「く………」

 

「______小娘ガ。今の私は気分が悪いノ。小賢しい知恵を回そうとすると、長生きできないわヨ?」

 

吐き捨てるように言って、折紙を突き飛ばす。疲労が抜け切っていない折紙は、その場に尻餅を付いてしまった。ジェシカの部下達がクスクスと笑う。

 

「あんたら!何してんのよ!」

 

そこで騒ぎに気づいた燎子が、泡を食って駆けつけてくる。

ジェシカはとぼけるように顔を逸らすと、部下を伴って歩き去って行った。

 

「ちょっと、大丈夫?折紙」

 

「………問題ない」

 

折紙は差し出された燎子の手を取って立ち上がると、小さくなるジェシカの背中を憎々しげに睨み付けた。

 

一方のジェシカも、不機嫌そうな表情を隠そうともせず、苛立たしげに吐き捨てた。

 

「………仮面ライダァー………次は、必ズ…………!」

 

 

 

 

「なんで土曜に、こんな………」

 

十香と折紙に挟まれ、士道は連行されるように歩みを進めた。その後ろには昨日入手したボトルを眺め、やたらと上機嫌な戦兎と、その付き添いで付いて来た万丈がいた。

 

先日の精霊【ディーヴァ】との遭遇、及びトルーパー隊との戦いで、士道は全身を激しい倦怠感に襲われていたのだ。

あのあとフラクシナスでは不可解な好感度低下についての会議が行われたようなのだが、士道は帰ってからすぐに寝た。だから休息は充分には取ったはずなのだが……。

 

やはり、エンジェルフォームの使用は予想以上に士道の体力を消耗していたらしく、翌日も倦怠感は拭えなかった。

さらにその日の朝に急に亜衣から電話があり、今日は天央祭の各校合同会議があるからよーろしーくねー!と告げられたのである。休むと言う暇もなく、結局行く羽目になってしまった。

 

「おい貴様。シドーに寄りすぎだぞ。今シドーは身体が辛いのだ」

 

「あなたこそ離れるべき。あなたの体臭は耐え難いレベルとなっている」

 

「な、なんだと!?」

 

「二人とも、静かにしてくれ…………全身に響く」

 

「む、す、すまないシドー。その、身体は大丈夫なのか?」

 

「ああ……大丈夫。こんなの、今日一日乗り切ればへっちゃらさ」

 

「む、むう。そうか………あまり、無理をするでないぞ?」

 

「はは、ありがとう」

 

「………」

 

十香の思いやりに、笑顔で応える。正直全然大丈夫ではなかったが、せめて十香の前くらいでは大丈夫なように振る舞おう。折紙はそれを見て、申し訳なさと恨めしさが混ざったような、複雑な視線を送っていた。

 

ちなみに今、合同会議会場に向かっているのは士道、十香、折紙、戦兎、万丈の五人のみであり、亜衣麻衣美衣の姿はない。どうやら一日目のステージ部門でバンド演奏をする予定らしく、その練習で来られないのだという。その代役として、十香と折紙がいたというわけだ。ちなみに万丈はこれと言ってやる事も無かったということで、ただの付き添いとして来ている。

 

「ボトルがこんっなに………最っ高だ!」

 

「おい、スマッシュ倒したの俺なんだから、なんか言うことあるだろ?」

 

「ちょっと太った?」

 

「違えだろ!つか太ってねえよ!寧ろちょっと痩せたわ!」

 

戦兎が両手にボトルを持ち、万丈とまたいつものやり取りをしたあたりで、合同会議の会場である学校が見えてきた。

 

赤煉瓦の荘厳な校門から鉄製の飾り格子が左右に広がり、その合間から青々とした生垣を覗かせている。

そしてそこから、これまた赤煉瓦が敷き詰められた道が一直線に伸び、その先にまるで城と見まごうかのような立派な校舎が見て取れた。天央祭準備や部活動のためか、生徒の姿も見受けられる。

 

私立竜胆寺女学院。名家の子女達も数多く通う、天宮市屈指の名門校である。

 

「すっげ……これ学校かよ」

 

「ブルジョアみてえだな」

 

万丈と戦兎も、感嘆の声を漏らす。元いた世界でもあまり目にしたことがないのだろう。

 

「おお、凄いなシドー。これも学校なのか?」

 

「ああ、そうらしいな。とりあえず入ってみようぜ」

 

「おお。行くぞーみんな」

 

「あ、ちょっと待てよっ」

 

「うむ!」

 

「……………」

 

五人で生徒手帳を見せてから、敷地内に入った。

来賓用の昇降口から校舎内へと入り、事務局で入校許可証を受け取り、目的の会場へと向かう。

 

「第二会議室はここだな」

 

戦兎が言い、扉を開ける。部屋の中には既に様々な制服の生徒達が何人も揃っていた。会議までまだ時間があるからか、席に着かずに談笑している生徒も多い。

とはいえ、昨日就任したばかりの士道と戦兎達に顔見知りがいるはずもなく、手早く自分たちの席を探して椅子に腰掛ける。

 

と、それからすぐに、コンコン、と会議室の扉がノックされた。

 

「ん?」

 

士道が首をひねっていると、部屋にいた生徒達が一斉に顔を上げた。

 

「な、なんだ、一体」

 

士道が思わず身構える。が、扉の向こうから聞こえてきたのは、拍子抜けするような優しげな声だった。

 

『失礼しまぁす』

 

そんな一言が聞こえてから、ゆっくりと扉が開いていく。

静々と入ってきたのは、濃紺のセーラー服に身を包んだ少女達の一団だった。そして、まるで大名行列を出迎えるように、二列に並んで頭を垂れていく。

 

「へー、結構な美人さん達じゃないの。竜胆寺の生徒か?」

 

「でも、なんか様子が変だぞ……?」

 

士道が訝しんでいると、その少女達が作った道の真ん中を、一人の生徒が女帝の如く悠然と歩いてきた。

 

紫紺に輝く髪を纏め、銀色の瞳を持った少女である。少女達と同じセーラー服を着ていたが、その身から放つ圧倒的な存在感が、彼女の輪郭をくっきりと浮かび上がらせていた。

 

「な………」

 

「………うっそーん………」

 

「マジかよ………」

 

「……………っ!」

 

その姿を見て、十香を除く四人は息を詰まらせた。

確かに美しい少女だった。町中でこんな美人とすれ違ったなら、誰でも思わず振り向いてしまうだろう。

だが、問題はそこじゃない。

 

「_______こんにちわー。よく来てくれましたねー、皆さん」

 

少女がのんびりとした口調でそう言って、ぺこりとお辞儀をする。

その声を聞いて、士道と戦兎は確信した。

その、少女は。

 

「竜胆寺女学院、天央祭実行委員長、誘宵美九(いざよいみく)ですぅ」

 

昨日彼らが遭遇した精霊_______【ディーヴァ】だった。

 

 




どうでしたか?
ここでちょこっと解説。

・レッドトルーパー(デウストルーパー隊長格)

変身者:ジェシカ・ベイリー
ベルト:量産型リバースドライバー(隊長用)、アームズフルボトル

デウストルーパーの隊長に相当する。
隊長用にスペックの向上した量産型のリバースドライバー(見た目は同じ)で変身する。
単純なスペックは他のデウストルーパーよりも当然高く、また隊を指揮する為、通信機能や索敵レーダーなどの性能も強化されている。
元はジェシカの趣味で赤い色になったが、後に隊長のトルーパーは全て赤いカラーリングになる。
ちなみに赤いからといって他より三倍も性能が高い訳ではない。


こんな感じです。イラストは後々。

それでは次回、『第57話 生まれ変わるジェンダー?』をお楽しみに!
ちなみにジェンダーの意味は『性別』です。そのタイトルが指すものは………?

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第57話 生まれ変わるジェンダー?

戦兎「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!ついに現れた第六、いや七、か?第七の精霊であり、人気アイドルの誘宵美九と出会い、彼女の攻略を行うことになる」

万丈「アイドルねぇ。そういやかずみん、この世界に美空の奴いねーけど、大丈夫なのか?」

一海「みーたん………みーたぁぁーーんッ!!!」

戦兎「あーこりゃ重症だなぁ……」

一海「いや、いいんだ!みーたんを危険に巻き込むわけには行かねえ!例え離れてても応援すんのがファンの役目だ!………でもやっぱ会いてえよぉ〜……みーたぁーんッ!!!」

戦兎「落ち着けって一海。ほら、誘宵美九も愛称としては、みーたんでも無理ないわけだし」

一海「るせぇっ!あんなんみーたんじゃねぇ!みーたんはなぁ、みーたんはなぁっ!」

戦兎「はい!もう第57話行って!一海が暴走してっから!」





『さー、いきますよぉー。皆さん付いてきてくださーい』

 

フラクシナス艦橋のスピーカーからそんな間延びした声が聞こえると同時に、軽快な伴奏と甲高い歓声が鳴り響いた。

正面メインモニターには今、フリルに飾られた衣装を纏ってステージで歌い踊る少女と、その前方に広がった紫色のサイリウムの絨毯が映し出されている。

映像は粗く、公式販売されているDVDなどではなさそうだった。どうやら中津川が様々なツテを駆使して手に

入れた盗撮映像らしい。

 

「「「……………」」」

 

「へぇー、上手いじゃねえか」

 

戦兎、士道、一海はその映像を黙って見つめ、万丈は素直に彼女の歌を褒めていた。

その少女は間違いなく今日顔を合わせた竜胆寺の女子生徒であり、昨日遭遇した精霊【ディーヴァ】そのものだった。

 

「誘宵美九、ね……。まさか彼女が精霊だったなんて」

 

四人の隣、艦長席に座りながら映像を眺めていた琴里が、ぽつりと呟く。

 

「彼女のこと、知ってたのか?」

 

「まあ、名前くらいはね。CMとかドラマの主題歌で曲もいくつか」

 

「そうか…………」

 

士道が頬をかく。

そこでふと戦兎が隣を見ると、一海が難しい顔をしていた。

 

「………俺はみーたん一筋、俺はみーたん一筋、俺はみーたん一筋ぃぃ………ッ!」

 

………何やら呪詛めいた口調で自分に言い聞かせていた。しばらく放っておこう。

 

しかし琴里はそんな様子を気にする事もなく、手元に置かれていたプロファイルシートに視線を落とし、難しげに眉を歪めた。

 

「……デビューは今からおよそ半年前。『聞く麻薬』とさえ言われる美声と圧倒的な歌唱力で驚異的なヒットを連発するも、テレビや雑誌には一切姿現さない謎のアイドル………って、こういうのも偶像(アイドル)っていうのかしらね?」

 

琴里のその言葉に、一海が反応した。

 

「いーや、俺は認めねーぞ!確かに歌は上手えが、そもそもアイドルってのは………」

 

「落ち着きなさいって。にしても、『聞く麻薬』とは……上手い事言ったもんだな」

 

一海を宥めすかし、戦兎が再び映像に視線を送る。確かに戦兎が聞く限りでも、今まで聞いたことがないような美しい歌声だ。そうやって呼称されるのも無理はあるまい。

 

「精霊がアイドル……しかも最低半年以上前からこっちの世界に溶け込んで生活してたっての?こんな活動しながら?はっ、狂三なんて目じゃないわね」

 

琴里が発した狂三の名に、映像を見ていた士道の頰がぴくりと動いた。

そこで士道が琴里に視線を移し、問いを投げかける。

 

「なあもしかしてさ。琴里みたいに【ファントム】に霊力を与えられた元人間って、可能性はないか?」

 

士道の言葉に、琴里がぴくりと眉を動かした。

 

「……可能性は否定できないわね。確かにそれなら、こちらの世界に留まっていることへの説明がつくわ。ただそうなると、昨日の空間震の理由が分からなくなってくるわね」

 

「あ……」

 

「確かにな。空間震ってのは、隣界から精霊が出現するときの余波だ。誘宵美九が最初からこの世界にいるなら、そもそも前提からして出来ないはずだ。………まあ狂三の時みたいに、自分の意思でやったんなら話は違うけどな」

 

士道は後頭部を掻きながら、むうと唸った。

戦兎の言う通り、美九が自分でやったのならば一応の説明はつく。しかし、こちらの世界で既に生活を営んでいる筈の美九に、そんな事をする理由があるとは思えなかった。

 

それに、最大の問題は他にある。

 

「結局まだ、好感度が急降下した理由も分かってないしなぁ………」

 

だが、そんな士道の懸念に、琴里は小さく首を振ってみせた。

 

「実はそっちについては、確実とはいかなくとも、一つの仮説が立ったの」

 

「え?そうなのか?」

 

「ええ。順を追って説明するわ。____令音」

 

「……ああ。これを見てくれ」

 

と、琴里の後方に座っていた令音が答えたかと思うと、メインモニタで上映されていた美九のライブ映像が、グラフのようなものに変わった。黙って映像を眺めていた万丈が「あっ、消えた」と、何とも間抜けそうな声を発した。

 

「これは?」

 

「……ああ、昨日の美九の精神状態を表したものだよ。真ん中くらいまでの位置が、君たちと会話していた際のものだ」

 

言われた箇所を見やる。………ジェットコースターもかくやというような急降下っぷりだった。最後の方など最早目盛りが見えなくなっている。

 

「………想像以上に嫌われてるな、俺たち」

 

「………流石にちょっと堪えるなぁ」

 

「……まあ、取り敢えず今それは置いておこう。その続きを見てくれ」

 

令音の指示に従いグラフの続きを見ると、一度は株価暴落を思わせる状態にまで落ち込んだ機嫌が、急に上昇し始めていた。

 

「これは………」

 

「……鳶一折紙に触れた瞬間だね」

 

「ええと、それって………」

 

「あー………そういう、ことかぁ………」

 

「?どういうことだよ」

 

士道が考えを巡らせ、戦兎が何となく察しがついたように溜息を吐き、万丈が頭に疑問符を浮かべていると、琴里が口から飴を取り出し、ビッと艦橋下段に向けた。

 

「中津川」

 

「はっ!」

 

名を呼ばれた中津川が直立し、説明をする。

曰く、誘宵美九は屈指の有名人だが、それこそ()()()()()()()程に、人前に姿を現さないのだという。なにせ活動といえば定期的にリリースされるCDと、一部のファンだけを集めたシークレットライブのみだと言うのだから。

 

「確かに………俺たち仮面ライダーの事も、ネット上じゃ写真付きで都市伝説として出回ってるくらいなのに、それ以上に有名な彼女に関して、写真の一つも出回ってないなんて。こりゃ、確かに異常だな………まあ、俺の推測通りなら、確かに腑に落ちるが………」

 

「推測?どういう事だよ」

 

士道の疑問に、中津川が変わるように答える。

 

「ネット界隈の情報になりますが………なんでも、美九たんは凄まじいほどの男嫌いであり、握手なんて耐えられないレベルらしいのですよ。例のシークレットライブは女性ファンしか入れないという話でござります」

 

「女性ファンしか……?」

 

士道が聞き返すと、万丈もまた疑問を口にする。

 

「ちょっと待てよ。それっておかしくねえか?だってこいつ、見た感じは男向けのアイドルなんだろ?それなのに女だけって、変だろ」

 

「そう。しかも噂によると、ライブ後にお気に入りの女性ファンをお持ち帰りしてきたこともあるそうなのですよ」

 

「そ、それって……」

 

「そう。つまり」

 

琴里かチュッパチャプスを口に戻し、ピンと指を立てる。

 

 

「誘宵美九は______女の子か大好きな、いわゆる百合(ゆり)っ子である可能性があるわ」

 

 

「…………な_______」

 

「やっぱりかー……………」

 

戦兎は予想してた通り、と言わんばかりに手を顔に当て溜息をつき、士道は絶望的な心地で喉を絞った。

 

「百合?そいつ花が好きなのか?」

 

「違えよバカ。ようするに、女が女を好きだってこった。分かったか?」

 

万丈の質問に一海が答えていたが、それに構う余裕はなかった。

 

いや、別に個人の嗜好についてどうこう言うつもりはないのだ。世の中には様々な愛の形があるし、反射的に自分と異なるものを排斥するような、幼稚な真似はしない。

 

だが、精霊が女の子にしか興味がないのはまずい。非常にまずい。

 

理由は簡単だ。士道や戦兎達は、【ラタトスク】は、精霊の力を封印して安全な状態にすることによって、空間震を防ぐと同時に精霊を保護している。

 

その際に必要なのが士道や戦兎、そして万丈の、キスを介して霊力をその身に、そしてボトルとして封印する能力なのだ。

しかも、ただ唇に触れただけでは意味がない。少なくともキスを拒まれないくらいまでに好感度を高めなければいけないのだ。

 

「そ、それじゃどうしようもないじゃねぇか………!」

 

「どーすんだよどーすんだよ!これじゃあ封印どころじゃねーじゃねーか!」

 

「いくら天才物理学者でも、生物学的な分野はお手上げだぞ………!?」

 

士道は絶望的な心地で呻き、説明を聞いた万丈は喚き、戦兎は降参だとばかりに項垂れた。今までにも攻略困難な精霊は何人もいたが、流石に今回ばかりは手の施しようがない。

 

しかしそんな三人の反応に、琴里は不思議そうに目を丸くした。

 

「何言ってるのよ。士道と戦兎は天央祭の実行委員なんでしょ?てことは、開催までは美九と会話する機会があるって事じゃない」

 

「んなこと言ったって、美九は男に興味がねえんだろ?」

 

「興味がないというより、嫌悪感を抱いていると言った方が正しいわね」

 

「余計駄目じゃねえか!」

 

士道が叫ぶと、琴里はやれやれと肩をすくめてきた。

 

「私が何の考えもなしにそんなこと言うと思ってるの?対策くらい考えてあるわ」

 

「対策……?」

 

「あるのか!?そんなの!」

 

琴里の言葉に、戦兎がガバッと顔を上げ反応する。

 

「そんなのとは失礼ね。というか戦兎、あんた仮にも自称天才なら、対策の一つくらい出しなさいよ」

 

「う、うるさいよ!ていうか、自称じゃないから!あと天才じゃなくて()()()だから!」

 

「はいはい、分かったから。_____神無月」

 

琴里が戦兎の言葉を軽く受け流し、パチンと指を鳴らす。すると、何処からともなく神無月が現れた。……何故か、ずぶ濡れの状態で。

 

「神無月さん……?なんで濡れてるんですか?」

 

「つか生臭ッ!」

 

「いやはっは、少々スイミングを」

 

あっけらかんとした調子で神無月が笑う。戦兎が鼻をつまんで離れていった。士道は頰を掻きながら話を戻した。

 

「で、対策ってのは……」

 

「これです」

 

答えたのは神無月だった。背後に回していた手をバッと士道達の方に出してくる。

 

「「「「……………」」」」

 

この手に握られたものを見て、四人はその場に凍りついた。

神無月が持っていたのは、士道達の通う来禅高校の制服二着だった。

 

 

_______ただし、女子の。

 

 

一瞬「ついにやっちまったか神無月さん……」と思った士道と、警察に電話しようと満場一致でケータイに手を伸ばした戦兎達だったが、すぐに違和感に気づいた。その制服は新品であり、随分とサイズが小さかったのである。

 

そう。丁度()()()()()()()()()()()()()()()が着たならば、ぴったりかもしれなかった。

 

「………ええと」

 

「…………」

 

何やら不穏なものを感じて、士道と戦兎は一歩後ずさった。が、そこで背中が何かに触れる。

次の瞬間、士道と戦兎はガッと両腕を拘束された。首を回して見やると、士道の背後には【早すぎた倦怠期(バッドマリッジ)】川越と【社長(シャチョサン)】幹本、戦兎の背後には【次元を超える者(ディメンションブレイカー)】中津川と屈強なクルーがいることが分かる。

 

「ちょ、な、何してるんですか………?は、離してくださいよ」

 

「い、一体何を………!?」

 

二人が顔中に脂汗を浮かばせながら言うと、今度は前方_____神無月の両サイドに、両手指に様々な化粧道具をクナイのごとく挟み込んだ【藁人形(ネイルノッカー)】椎崎、【保護観察処分(ディープラブ)】箕輪が現れた。

 

「な、何ですかそれっ!」

 

「琴里!お前……何企んで!?」

 

たまらず叫ぶ。だがそんな二人の声には構わず、神無月が二人を引き連れながらジリジリと距離を詰めてきた。

 

「大丈夫、怖くありませんよ。最初は足元がスースーするかもしれませんが、なに、そのうち快感に変わります。先輩が言うのですから間違いありません」

 

言って、ニィ、と唇を歪める。

 

「ヒッ………そ、そうだ!万丈、一海!助け、助けて!?」

 

戦兎が二人に救援を要請するが、二人は目を逸らしてそそくさと退散していった。

 

「お前らァァーーッ!?アァァァァァ……………!!」

 

戦兎が断末魔のような叫び声をあげながら、扉の向こうへと連れ去られていった。

「こ、琴里………?」

 

そんな様子を間近で見た士道は、命乞いをする敗残兵のような調子で琴里に視線を向ける。

すると琴里はにっこりと愛らしい笑みを浮かべ、

 

 

「グッドラック。________おねーちゃん

 

 

なんの躊躇いもなく死刑宣告を下し、ビッと親指を立ててきた。

 

 

 

 

それから四時間後。

 

「………お、お前は誰だ!」

 

「おーれーのなーかのおれー、じゃなくて!」

 

鏡を見ながら、戦兎と士道は思わず声を上げていた。

 

「アッハッハッハッハッ!!!!アハ、アーハッハッハッハーーーッ!!!」

 

「ちょ、お前らそれやめ………あ、アッハハハハッ!!!」

 

そんな二人を見て、一海と万丈は可笑しくて堪らないとばかりに腹を抱えて大爆笑していた。

 

それはそうだ。鏡の前で自分を見返しているのは、まるで見覚えの無い少女だったのだから。

二人揃って背をくすぐる程度に髪が伸ばされ、可愛らしい髪飾りなぞ付けている。顔にはうっすらとファンデーションが施され、マスカラとビューラーでボリュームアップされた目はもはや男のものと思えない。

ちなみに胸には詰め物をされ、ブラまで付けられている。手足は産毛に至るまで完全に脱毛されており、ツルツル美肌にされていた。

 

とはいえ、戦兎の方はまだマシな方ではあった。確かに一見すると女にしか見えないが、言われたり勘の鋭い人なら多少気づく程度には、まだ男っぽさが残っていたからだ。

一番酷いのは士道だ。元々女顔なのも相まって、もはや元が男などと言われなければ分からなかった。否、人によっては言われても冗談と笑うものもいるかもしれない。少なくとも、一目で士道と見抜けるものはそうはいないだろう。

 

「ひゅう、案外似合ってるじゃないの」

 

琴里が目を丸くしながら言ってくる。士道と戦兎は恨みがましく視線を返した。

 

「……てめぇ、覚えてろよ」

 

「最っ悪だ………」

 

「女の子はそんな言葉遣いしちゃ駄目よ。そうそう、仕上げにこれをつけてちょうだい」

 

「あ?」

 

士道は眉をひそめながら、琴里から絆創膏のようなものを受け取った。

 

「それを喉に貼り付けてみて」

 

「ん?こうか?」

 

「それがどうしたんだよ」

 

言われるがままに士道がそれを喉に貼り付ける。すると、

 

「これがどうか………って、な、なんだこの声!?」

 

「は!?ちょ、ど、どういうことだ!?」

 

士道は混乱に思わず喉を抑え、戦兎も驚きを隠せなかった。

その絆創膏を貼った瞬間、士道の声が可愛らしい女の子のそれに変化したのである。

 

「どうよ。ラタトスクの先端技術が可能にした超高性能変声機よ。数値を弄れば、某名探偵の声真似だって出来るわよ」

 

「マジかよ!こんな小さい絆創膏が………一体どんな構造なんだ……?いや、そもそもこの小さい絆創膏にどうやって……やっぱ顕現装置(リアライザ)の技術が使われて………」

 

琴里の説明を聞くと、戦兎が興味津々とばかりに顎に手を当て、士道の首元をしげしげと興味深げに観察してブツブツと呟き始めた。

 

「おい、ちょ、やめろって戦兎!落ち着けよ!」

 

「まあ、何はともあれ上出来よ。これなら少なくとも、士道を男だと思う人はいないでしょうよ」

 

琴里がふふんと鼻を鳴らす。すると戦兎は一度足を止めた。琴里の今の言葉に、一抹の違和感を覚えたからだ。

 

()()()……?俺はどうしたんだ?」

 

「ああ、言い忘れてたけど、今回美九の攻略をするのは士道だから、戦兎の出番はないわよ」

 

「は?」

 

「戦兎達は今回はサポート役だし、美九と鉢合わせになるときに備えて一応やってみただけよ」

 

「それただのとばっちりじゃねえか!!」

 

人にこんな屈辱を与えておいていけしゃあしゃあと宣う琴里にたまらず叫び、長髪のカツラを乱暴に地面に叩きつけた。

 

「ギャハハハハハッ!!ま、マジかよ戦兎………ッハハハハ!!」

 

「アハ、ギャハハハハ!やべえ超腹いてえって………ハハハハッ!!」

 

その言葉を聞いて、万丈と一海が蹲って地面を叩きながら堪らないとばかりに馬鹿笑いする。

 

「何笑ってんだよお前ら!ちょ、待ちやがれこの野郎ッ!」

 

「やっべ逃げろー!ハッ、ハハハ!!」

 

「ちょ、その格好のまま追いかけてくんな戦兎!腹、腹痛えからってアハハハハ!!!」

 

二人の笑っている様子に怒った戦兎による鬼ごっこが始まったのを尻目に、琴里が士道に説明を再開した。

 

「さ、後はこの士道を美九が気に入ってくれるかどうかだけど………士道、次に彼女と会えるのはいつ?」

 

「え?、あ、ああ……確か次の月曜から、放課後に設営準備が始まるはずだから、その時には多分……」

 

「そ。ふむ……あんまり猶予はないけど仕方ないわね。はい、そこの三馬鹿も聞きなさい!」

 

琴里はバッと身を翻すと、士道や戦兎達、そしてクルーの面々に手をかざした。ちなみに戦兎は今万丈に摑みかかろうというタイミングだった。

 

「明日一日で士道と、念の為戦兎も自分一人で女の子モードに変身できるように訓練しなさい!椎崎、箕輪はそれぞれ化粧を教えてあげて。それと、会話法と女の子らしい仕草も学ぶこと!月曜の放課後からは本格的な攻略に入るわ!」

 

そして、高らかに宣言する。

士道と戦兎は大きなため息を吐いてから、「了解……」と呟くように言った。

 

 

 

 

 

 

 




投稿めちゃくちゃ遅れてすいません!
その上話も対して進展してなくてほんとすいません!

最近高校の方が忙しかったのと、モチベーションの低下に伴い執筆速度が亀より遅くなってました。あと近々書きたいと思っているオリジナル小説の構想やらを練ってて書けませんでした!待ってくださった方々、ほんっとうに申し訳ありません!

これからまた投稿再開していくので、どうか応援よろしくお願いします!

それでは次回、『第58話 ミキシングする思惑』をお楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!


……デアラとジオウのクロスオーバー、読みたい人とかいる?


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第58話 ミキシングする思惑

今回はあらすじ紹介は無しです。
遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。遅れた理由につきましては、後書きの方に書いてありますので、そちらも良ければ読んでください。

それでは、どうぞ。


天央祭………天宮市内の十の高校が合同で行う三日間の、文化祭とは名ばかりの一大イベント

 

「それ、誰に向かって言ってるんだい?」

 

お前さん以外にいねえだろうがよぉ

 

薄暗い、如何にも科学者の研究室、といった内装の一室で、紫色のサソリ男_____【マッドクラウン】が、チラシをヒラヒラと揺らしながら、モニターに顔を向けてキーボードを叩いている白衣の男_____【神大針魏】に言った。

 

「何故、私にそんな事を言うんだい?」

 

神大はクラウンの言葉の意味を理解していたがしかし、敢えて訊いてみた。こういう風に彼が言うのは、大抵何か企んでいる時だからだ。

 

今回のこのイベント………どうやらASTが動くみてえだからなぁ。精霊の絶好の捕獲スポットになるみてえだしよぉ。お前さんも、何かしら動くんじゃないかと思ってな

 

「今回私は動かないよ。私にだってやりたい事があるんだ」

 

キーボードを叩く手とモニターに向ける視線をそのままに、彼はテーブルの脇に置かれた卵焼きを、一切れ箸でつまんで口に運ぶ。

 

「うん、美味しい。やはり糖分補給はこれに限るよ………。まあ確かに、データ収集はしたいけどねぇ。それは今じゃなくてもいいし、そもそも私の目的は精霊の確保じゃない。それは本職に任せて、私は私の分野でやるだけさ」

 

………例の、新型か?

 

そう言ってクラウンが視線を移したのは、モニターに浮かんだデータだった。

3Dモデルで映されたそれは、新たなるライダーシステムのバックルに見えたが、これまでに見たことの無い形状だった。

 

「そうさ。しかしこれが中々難儀していてねぇ。もう少しリバースドライバーでの戦闘データが欲しい。だから今回は、彼女達ASTと、本社からの出向隊員達に任せることにしたのさ」

 

なるほどぉ。ま、そういう事なら、今回は俺が出張ることにするかな

 

じゃ、と手をひらひらさせながら、クラウンは薄暗い研究室を後にした。

それを見送ると、神大は顎に手を当てながら、唇に笑みを浮かべた。

 

「まあ、向こうから動くなら………話は別だけどね」

 

 

 

 

九月十一日、月曜日。

来禅高校の廊下を、スラっと手足の長い()()一名と、長身の男子一名、ブレザーを腰に巻いた筋肉質の男子一名が、並んで廊下を歩いていた。

 

「…………死にてえ」

 

「まあまあ、頑張りなさいって。結構似合ってるから…………くふっ………」

 

「お前らはいいよなぁ!そのままで良いんだからよぉ!!」

 

「しっ、静かにしなって。周りにバレるだろ?」

 

「そうそう。つーか、普通にしてればバレねえだろ」

 

「………お前ら後で覚えてろよ」

 

戦兎が明らかに悪い笑顔で、万丈が普通の表情でそれぞれ言う。それを恨めしい視線で睨みつつ、三人は目的である、亜衣麻衣美衣の元へと向かった。

しばらく歩くと、三人が見えた。何くれとなくおしゃべりをしているようである。

士道が深呼吸をして、三人に声をかける_______

 

「よっーす!」

 

「ん?」「え?」「ほ?」

 

前に、戦兎が気軽そうに三人の背に声をかけた。

思い思いの声を発しながら、三人が振り向き、戦兎達の方を向いてきた。

 

「あ、桐生くん。よろし____って、ばばば、万丈くん!?」

 

「よっ、手伝いに来たぜ。よろしくな」

 

「う、うん!よ、よろひく!」

 

「ひく?ま、取り敢えずよろしくな」

 

万丈の姿を認識した瞬間、熟れたリンゴのように真っ赤な顔になった亜衣が、緊張した様子で万丈に返事をした。

その様子を見てニヤニヤしていた麻衣と美衣だったが、しばらくして戦兎達の後ろにいた士道の事に気付いた。

 

「ん?桐生くん、その子は?」

 

「背ぇ高っ、モデルさんみたーい」

 

どうやら士道とは気づかれてはいないらしい。とりあえずはほうと息を吐く。

 

「その、葉桜さん、藤袴さん、そこで話しているのは山吹さんですよね、天央祭実行委員の」

 

「へっ?あ、ま、まあ…………」

 

「というか、おぬし、どこでその情報を!?」

 

「まさか敵国の間者か!?」

 

と、亜衣が慌てた様子で万丈から向き帰り、麻衣と美衣が何やら変なポーズを取りながら言ってくる。とはいえ、本当に警戒してる感じではなかった。戦兎が応じるように変なポーズをとって、あとを続けた。

 

「士道から伝言なんだけど、今日の実行委員は休ませて欲しいってさ。風邪ひいたらしい」

 

「へー、珍しいこともあるもんねー」

 

「風邪言い訳にして逃げたわけじゃないよな?」

 

「まさかー、もし風邪じゃなくて来ないんだったら火炙りの刑だよ」

 

なんだか明日どこぞの魔女よろしく火炙りされそうだったが、とりあえず聞かなかったことにした。

 

「だからこの子と万丈を代わりに行かせるよう言われててさ。問題なかったら、一緒に連れていってもいいか?」

 

「え?」

 

亜衣が、キョトンと目を丸くする。

 

「んー、そりゃ私たちは構わない、っていうか、むしろ人出が増えるから助かるくらいだけど………」

 

「そもそもあなたどちら様?五河くんや桐生くんたちとはどーいうご関係?」

 

「そういえばさっき呼び捨てにしてたし、桐生くんとも親しそうだったね。やだ、もしかして十香ちゃんや夕弦ちゃんにライバル出現?」

 

と、三人がにわかに色めき立つ。士道が慌てて訂正をしようとしたら、またも戦兎が割って入った。

 

「いや、従兄弟だよ。士道の。一組の五河士織ってんだ。な?」

 

無論、今考えた適当な設定であるが、戦兎が合わせるように視線を向けてきた。

 

「へっ?あ、ええ、はい!そうです、一組の、五河士織って言います」

 

戦兎からの助け舟に感謝しつつ、慌ててそう名乗る。すると、三人はスクラムを組むように会議を始めた。

そして数秒後、ガバッと円陣を展開すると、ポンポンと馴れ馴れしく肩を叩いてくる。

 

「色々腑に落ちない気もするけど、まあいいでしょ」

 

「よろしくね士織ちゃん」

 

「いっぱい働いてもらうかんねー」

 

「は、はい……!」

 

どうやら第一関門は突破したらしい。ほっと安堵の息を吐く。戦兎達も安心した様子だった。

と、その時。背後から何やらやかましい声が聞こえてきた。

 

「どうせ貴様の仕業だろう!言え、シドー達をどこにやった!」

 

「それはこちらの台詞。隠し立てすると後悔することになる」

 

振り返るまでもなく、十香と折紙であった。まだ集合場所に現れてなかったのが不思議だったが、どうやら士道達を探していたらしい。

 

しまった、十香の存在を失念していた………!

 

戦兎が何やら後悔した様子で青ざめたが、もう遅い。

 

「お、十香ちゃーん、鳶一さーん。こっちこっちー」

 

亜衣が手を振ると、十香と折紙が視線を向けてきた。

 

「………うぬ?」

 

と。士道の姿を目にした十香が、目を丸くする。

そして何やら目を伏せ、匂いを嗅ぐようにひくひくと鼻を動かしてきた。戦兎の顔面からだらり、と冷たく嫌な汗が吹き出る。

数秒後、確信を持った状態で士道の目を見つめてくる。

 

「何をしているのだ、シ_____」

 

「………っ!」

 

「あー、ちょっとストップ十香、ドリフトストーップ」

 

「ぬ?」

 

士道が慌てて口を塞ごうとしたのを、戦兎が制して十香の前に来る。十香の口を塞ぐと、亜衣麻衣美衣に見えないようパントマイムで意思表示をした。

 

「(訳あって・今・こんな格好・してる!悪いけど・知らないふり・してくれ!)」

 

「ぬ……?」

 

「(後で・きなこパン・買ってあげるから!)」

 

「!よし、心得た!」

 

意思疎通成功。この前興味を示した十香に教えておいて正解だった。それにしても、この交渉するたびに財布が少しずつ軽くなっていくのは気のせいだろうか。

十香は戦兎の提示した報酬に力強く頷くと、やたらと大きな声を発した。

 

「うむ!よろしくだ、シドーではない女!」

 

「え?……あ、は、はい、よろしくお願いします」

 

二人して頰に汗を垂らしながらも、士道が戦兎に深い感謝の視線を送った。

三人娘は少しだけ訝しげな顔をしたが、まあいつもの十香と言う事で納得したのだろう、深くは追求しなかった。

と_____

 

「…………!?」

 

「は?」

 

士道は思わずを目を瞑り、戦兎が困惑の声を漏らした。

理由は単純。突然下方からカシャッという音と共にフラッシュが焚かれたのである。

 

「えっ、えっ?」

 

「ちょ、お前何してんだ?」

 

士道が目を白黒させ、万丈がやめさせようと手を出すと、犯人は素早く逃れて再びフラッシュを焚いた。

不審がってそちらを見ると、すぐに犯人は知れた。

 

折紙だ。どこから取り出したのか、小型のデジタルカメラを構えて、妙にカッコイイポーズで連続してシャッターを切っていたのだ。無論被写体は士道である。

いつも通りの無表情だったが、心なしか少し興奮したように息を荒くしている気がした。

 

「あ、あの………」

 

「動かないで」

 

言って、折紙がまたもシャッターを切る。右から左から、プロ顔負けの迫力で一心不乱に士道の姿を写真に収めていく。

 

「目線をこちらに」

 

「え、えっと……」

 

「いい。とてもいい。とてもナイス」

 

「その………」

 

「一枚脱いで」

 

「こ、困ります」

 

士道としてはあまりこの姿を記録に残して欲しくないのだが、それを言ったところで折紙が従うとは思えなかった。顔を背けながら折紙の気が済むのを待っていると、救いの手がやって来た。

 

「おいコラ鳶一。しど……じゃなかった、士織が困ってるだろーが。そこらへんにしとけって」

 

「邪魔をしないで桐生戦兎。今凄く良いところだから」

 

「表情変えずに目だけキラッキラさせんなや。いよいよ通報するぞお前」

 

シャッターを切る手は緩めないまま、折紙が戦兎の方を見やる。戦兎はそんな鳶一を呆れと恐怖と引きが混じった表情で静かに見据えていた。

亜衣麻衣美衣もそんな様子を見てか、ヒソヒソと話し始めた。

 

「ねーねー、鳶一さんって五河くん狙いじゃなかったの?」

 

「女の子もイケるクチ?」

 

「DNA狙い?」

 

などと好き放題言われているが、折紙は全く意に介する様子が無く、仰向けに横たわると、ぐぐっと士道の両足の間に手を滑り込ませてくる。

 

「ちょっ、何を………!」

 

たまらずスカートを押さえて後ずさるが、折紙がカメラを持っていない方の手でがしっと足を鷲掴みにしてきた。

 

「こ、この、何をしているのだ!」

 

「おい、それ以上は流石に………!こ、こいつとんでもねえ馬鹿力で………ッ!!おい万丈手伝え!」

 

「え?お、おう!」

 

流石に見兼ねたのか、十香と戦兎と途中参加の万丈が折紙の両足を掴んで、士道から引き離そうとする。端から見たらさぞシュールに違いない。

だが折紙はその細腕からは想像もつかないほどの怪力で士道の足をキープしたまま、カメラからカシャカシャカシャ……と連続した音を響かせてきた。まさかの連写である。

 

「おい、戦兎……!ダメだこいつ、止まんねえ……ッ!」

 

「万丈で止められねえって、どんだけ馬鹿力だよ、コイツ………ッ!」

 

「ちょ、まっ、い、いやぁぁぁぁああああッ!?」

 

戦兎と万丈が奮闘する中、士道は顔を赤くして、女の子より(少なくとも折紙より)女の子らしい悲鳴を上げた。

 

 

 

 

「あ"あ"〜………なんか、既に疲れたんだけど」

 

『まあドンマイ。それより、士道が美九と接触を開始するわ。ここからは士道と美九を二人きりにするから、有事になったら動いてちょうだい」

 

「りょーかい………」

 

あれから一時間後、どうにか折紙を引き剥がした後、場を抜け出した士道は戦兎と万丈とは別行動を取っていた。

行き先は勿論、誘宵美九の所である。どうやら今は一号館の竜胆寺のブースにいるようなので、女装している士道が単独で向かっているのだ。

その為今の戦兎と万丈は緊急時以外フリーなのである。万丈は終わった後すぐに、クラスの人に力仕事を任されていた。

 

「俺もクラスの手伝いに行くか……ん?」

 

とその時。ふと視界の隅に、見覚えのある人影を捉えた。

 

「あれは……殿町?」

 

クラスメイトの殿町宏人だ。何やら周囲を気にしている様子で、人気の無い廊下へと歩いて行った。

 

「あいつ何してんだ?あんな人気の無いところで」

 

別に、だからどうという事はない。

だが彼の行動にどこか引っかかる所を覚えた戦兎は、後をつけて物陰に隠れた。

殿町の方を見ると、スマホを取り出してどこかへ電話をかけていた。

 

「____ああ俺だ。こっちは順調だぜ。そっちはどうだー?」

 

何やら軽快な様子で笑いながら通話している。学外の友人か、それとも家族だろうか。見たところ、怪しい様子は特にない。親しい人と楽しく会話しているだけのようだ。

考えすぎだったか、と思い、戦兎はクラスの方へと立ち去った。

 

そして、戦兎の姿が見えなくなってから、程なくして_____

 

 

 

「______で、奴さん本気でおっ始めるって?………マジかよ、そりゃあ面白くなりそうだな。ハハハ!」

 

 

 

そう言って愉しく嗤う殿町の握った左手からは、シャカシャカと、何かを振る音が聞こえていた。

 

 

 




はい、皆さんお久しぶりです。
前回の投稿から約五ヶ月でしょうか。更新が遅れてしまい、大変申し訳ございません。

今回こんなにも投稿が遅れてしまったのには、いくつか理由があります。

一つには、まず今回の話を書くのが結構悩んだ、と言うことです。お話の構成的に、そろそろこの辺りでストーリーを大きく動かしたいというのがありまして、今回の話でも少なからず動かしたいと思った結果、続きを書くのがとても辛くなってしまいました。

無論、理由はこれだけではありません。次が一番の理由です。

去年の十二月に、兼ねてより病弱だった母親が亡くなりました。
以前から入退院を繰り返しており、その関係で続きを書くモチベーションも下がり、亡くなったことで完全に創作意欲が失せてしまいました。
気持ち的にも沈んでいまして、いっそ辞めてしまおうか、とも本気で考えました。

しかし、待っていて下さる読者の方々の為にも、気持ちの落ち着いた今、続きを出した、という訳です。
長々と語りましたが、ここまで待っていてくださった読者の方々、本当に申し訳ありませんでした。

これから不定期になるかもしれませんが、執筆の方を再開していきたいと思っております。
また予告していたディケイドコラボや日常短編集も、美九編完走後に出したいと思っております。

そして前回後書きで語っていたジオウとデアラのクロスオーバー小説ですが、デアラとは別の作品の方でクロスオーバーさせて、いつか出したいと思っております。

長々と語りましたが、ここまで待っていてくださり、本当にありがとうございます。

最後にご報告になりますが、近々この作品に、大幅な加筆修正を加えたいと思っております。
理由といたしましては、続きを書くにあたって改めて読み返したところ、当時の自分の文章の拙さが目立った為です。
物語のストーリーは基本的に変更しませんので、更新も並行してやっていきます。

それでは、ありがとうございました。

次回、『第59話 祭りへのプレリュード』を、お楽しみに!




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第59話 祭りへのプレリュード

戦兎「さーて!ひっさしぶりのあらすじ紹介だ!気合い入れていくぞー……って、原稿どこいった!?」

夕弦「音読。仮面ライダービルドにして、天才物理学者の桐生戦兎と五河士道は、第六の精霊誘宵美九攻略の為、また何かと悪巧みをしていました」

戦兎「おいなんだよその悪意のある解釈!ちゃんと原稿通り読んで!ていうか原稿返して!」

夕弦「反抗。私を放って他の女の子に現を抜かした罰です。つーんです」

戦兎「可愛い顔しても駄目。ほら早く原稿渡しなさい」

夕弦「拒絶。謝罪と今度一緒にお出かけしてくれるなら渡してあげます」

戦兎「分かった!放ってたのは謝るから!一緒にお出かけも、どこにだって付き合ってやるからお願い!もう数ヶ月ぶりだからみんなに忘れられてないか怖いんだよ!!」

龍我「数ヶ月ぶりなのにこんな情けない姿でいいのか自称天才(笑)」

士道「主人公ってか、奥さんの尻に敷かれる駄目な夫だな」

戦兎「そこ好き勝手言うなよ!よし、やっと取れ戻せた………。コホン!そして、なんやかんやあって謎の少女、【士織】として誘宵美九に接近することになった士道!そしてその裏では、何やら神大達の思惑が動いているようだった」

耶倶矢「此奴ら、毎回何かと出てきては意味深なことばっか言っておるが、本当に話を進められるのか?」

戦兎「微妙に心配な事言わないで!一応この第六章で色々進むようだから!と言うわけで久しぶりのあらすじ紹介から始まった、第59話をどうぞ!」





それから、翌日の夜。

 

「………で、相手の言動にキレて啖呵切ってステージで対決することになったって?」

 

「………まあ、そういう事に、なった」

 

戦兎の部屋で椅子に座りながら、戦兎の言葉に士道は苦虫を噛み潰すような声で応えた。

 

事の発端は今日の放課後、再び誘宵美九と会うために、士道が単身竜胆寺学園(勿論女装した状態で)に乗り込んだ時であった。

美九のハンカチを返すという体で竜胆寺に向かい、何とか美九と接触する事には成功した。その後はそのお礼という事で、一緒にお茶に誘う事にも成功するなど、ここまでは順調であった。

 

問題はここからだ。

そこで色々と話が交わされ、彼女が精霊であることが本人の口から告げられ、士道も自分の性別は隠しつつ、精霊の力を封印することが出来ると伝えたそうなのである。そして、顕現による空間震の発生は危険であると伝え、自分に封印できないかと、士道は持ちかけたようなのだ。

だが、そこで美九の放った一言が、士道の逆鱗に触れた。

 

 

 

『死んじゃったらまた代わりのお気に入りを探すのに苦労しますしねー』

 

『確かにその子が空間震で死んじゃったら悲しいですけどー。ほら、彼女私のこと大好きですしー、私の為に死ねるなら本望じゃないですかー?』

 

 

 

_____これまで数々の修羅場を潜り抜けてきた戦兎が聴いても、中々に歪んだ倫理観の持ち主だと断言できる。

 

()()()()()()()()()()、それで相手が死んでもどうでもいいと。

 

()()()()()()()()()()()、空間震を引き起こしても何の呵責も起きないと。

 

 

その言葉が心の底から出た言葉だとしたら_____彼女は、だ。そうとしか言いようがない。それが当然だと信じ、相手にとっても幸せだと心から思っている。

 

確かにそれを聴いた後には怒りだってこみ上げるし、もし万丈が聞いたなら最悪彼女に殴り掛かっていた事だろう。戦兎だって、どこまで冷静でいられたか分からない。

そしてその場で、士道は彼女にこう断言したのだという。

 

 

『_____俺は、お前、嫌いだけどな』

 

 

『世界の誰もがそんなお前を肯定しかしないなら………俺がそれの何倍も_____()()()()()()()()()()()()()()()……ッ!!』

 

 

かつて十香に言い放った言葉と真逆の言葉で以って、士道は誘宵美九に、これ以上無い程の宣戦布告を、しでかしたのだ。

 

「………確かに、お前の気持ちはよく分かる。誘宵美九が言ってることは無茶苦茶だし、倫理観なんてあったもんじゃない。けどな、それで冷静さを欠いたら駄目だ」

 

「でも………あんなの、可笑しいだろ!人を、自分の玩具か何かと勘違いしてる!だから………!」

 

「分かるけど、少し落ち着け。ただ熱いだけでも駄目だ」

 

「くっ…………」

 

「………ふふっ」

 

士道が上げた頭を、再び前に倒して項垂れる。

その時、先程までの、美九の言動に憤り熱くなっていた姿が、どうしようもなく相棒と重なって見え、少し笑みが零れた。

 

「な、何笑ってんだよ!」

 

「ふふっ、いや、悪い……。何つーか、お前と万丈って、似たもん同士だと思ってな」

 

戦兎のその発言に、士道が不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

「何だよそれ………俺が馬鹿だって、言いたいのか?」

 

「そうじゃねーよ。………あいつ(万丈)は、どこまでも真っ直ぐなんだよ。筋肉バカで、暑苦しくて。…………でも、自分が心の底から許せねえことには、いつだって本気でぶつかってる。後先なんて考えずに、自分の信じたものの為だったら、どこまでも本気になれんだ」

 

 

初めてクローズに変身した時。

 

戦兎や美空を裏切っていた、石動惣一こと、エボルトの行いに憤った時。

 

戦兎が自身の過去について語られ消沈した時。

 

自身の運命を知りながら、それでもなお立ち上がろうとした時。

 

 

いつだって万丈は、自分を信じた者の為に立ち上がり、戦い、そして励ました。

自分がどうなるかなんて考えない。後先に何が待ち構えているかなんて、そんなものは後回しで。

 

今自分が出来ることを。今自分が心から思った事を。

 

その時その時に、全力でぶつける____どこまでも馬鹿で、一直線な奴。

 

その一直線さや、向こう見ずな所が____士道と、重なって見えた。

 

 

「………つまり、どういう事だよ」

 

「お前はお前のままでいいって事だよ。……とにかく、あそこまで啖呵切ったからには、絶対勝たねえとな。士道、勝負の日は確か、天央祭の初日だったな」

 

「あ、ああ。美九が自分からステージに立つって言ってて、俺もそうしろって」

 

「………ほんと、改めて聞くと無謀な勝負だな。相手はトップアイドルで、こっちは素人が少し齧った程度ときた」

 

「……仰る通りだよ」

 

誘宵美九から提示された、ステージでの勝負。

単純な勝率なら、誰がどう見たって誘宵美九の圧勝だろう。分が悪いどころの話ではない。相手は半年もその道で生きているプロ中のプロ。対して士道側は素人の寄せ集め。ハッキリ言うと、天央祭でのステージという場でなければ、そもそも相手とは勝負するレベルにすら値しないだろう。

 

「まあ、当日は琴里達がサポートしてくれるって言うし、こっちだって中途半端な事はしないつもりだけど……」

 

「成る程………ま、お前は自分のやる事に集中しとけ。俺も協力してやるからよ」

 

「え?でも………良いのか?」

 

「可愛い後輩ライダーがピンチって時に、先輩ライダーが助けるのは当然だろ?ここはこの天っ才物理学者が、勝利の法則を導き出してみせるからよ」

 

そう言い、ポンポン、と士道の肩を叩いて立ち上がる。

んー、と首を回すと、ポキポキと小気味いい音が鳴った。帰ってからずっとパソコンや基盤と睨めっこしてたので、少しリフレッシュしたかったところだ。

 

「……そう言うなら、頼む。正直なとこ、琴里達のサポートがあっても、勝てるかどうか不安なんだ。いや、別に琴里達を疑ってるわけじゃない。でも………」

 

「分かってるよ。ま、こっちも新アイテムの開発ばっかだと息詰まるしな。丁度良かったよ」

 

「そか、それなら良いんだ。………ていうか、また何か作ってるのか。今度はなんだ?」

 

「ま、それは完成した時のお楽しみって事で。今は誘宵美九との戦いに備えようぜ」

 

「……そうだな」

 

そう言い、二人は部屋を後にした。

戦兎の雑多になった机の上には、配線に繋がれた、まるで()()を象ったようなアイテムが置かれていた。

 

 

 

「………てかさっきの話、やっぱよくよく考えると遠回しに俺も馬鹿って言ってなかったか?」

 

「………さて!明日に備えて俺はもう寝るとするか!」

 

「おい話聞け!万丈と同列扱いはいくらなんでも心外だぞ!!」

 

 

 

 

「………あんたら、本気?」

 

低く響くような声を発して、燎子が目の前に居並んだ一団を睨め付ける。

陸自天宮駐屯地のブリーフィングルームには今、二十名ほどの人間がいた。

燎子の側に座っているのは既存のAST隊員たち。そして対面に並んでいるのは、DEMインダストリーの出向社員たちである。

社員達の真ん中に立ったジェシカが、ニィ、と唇の端を上げてくる。

 

「もちろン。信じられないのなら、署名付きの書類をご用意しましょうカ?」

 

「聞き直すわ。_____正気?」

 

無礼とも取れる燎子の問いに、しかしジェシカは愉快そうに笑みを濃くした。

燎子は憮然とした様子で顔を歪めると、手元に置かれた命令書に視線を落とす。

そこに書かれていたのは、にわかには信じられない作戦内容だった。

 

 

_______精霊《プリンセス》及び、仮面ライダー捕獲作戦。

 

現在、都立来禅高校に通っている少女・夜刀神十香が精霊。そして同校に通う少年、桐生戦兎が仮面ライダービルド、万丈龍我が仮面ライダークローズ、五河士道が仮面ライダーアライブであるという事が確認されたため、これを捕獲するというのである。又、現在正体不明の金のライダー(DEM所属の科学者である神大針魏氏曰く、仮面ライダーグリスと呼称するらしい)も、同じく捕獲対象となっている。

 

とはいえ、ここまでは分からない話ではない。確かに夜刀神十香という少女が精霊【プリンセス】に酷似しているという話は前々から聞いていたし、もし霊波反応が確認されたのであれば放っておくこともできない。

仮面ライダーに関しても、今のところその行動目的やテクノロジーなど、殆どが謎に包まれている。DEMが保有するライダーシステムと同じ技術で創られたらしいという事と、精霊を守るべく行動している、またアンノウンを撃破し、謎のボトルで人に戻せるという事くらいしか、現在ASTは情報を掴めていない。もし彼らを捕獲することが出来たなら、聞き出せる情報は沢山ある。

 

「百歩譲ってここまではいいとしましょう。私たちとしても、精霊が学校に通ってるだなんて危険な状況を見逃すわけにはいかない。仮面ライダーも、知りたいことは山ほどあるしね」

 

言ってから、書類にダンと手を突く。

 

「でも、これは何?」

 

「これ、というト?」

 

「すっとぼけんじゃないわよ。_____作戦決行日、九月二十三日土曜日。場所が天宮スクエア天央祭会場………!?一体何考えてんのよこれは!顕現装置(リアライザ)な秘匿技術の筈でしょ!?こんな衆目に____いえ、それ以前に、こんなに人の集まる場所で精霊とドンパチするつもり!?あんたら、自分がどんだけ滅茶苦茶なこと言ってるか分かってんの!?」

 

燎子は悲鳴じみた声で叫んだ。

恐らく、その日最も人間が集まるであろう天央祭の会場。そこに押し入り、衆目の前で夜刀神十香と仮面ライダーを捕獲せよというのである。

しかもその実行部隊はDEM出向社員達のみで構成され、燎子ら既存のAST隊員は周辺の警戒や情報統制なぞと裏方に配置され、現場にすら近づけないのである。これでは彼女らの暴走を止める事もできはしない。

 

「意味が分からないわ!ここまでのことして、一体何のつもりよ!」

 

しかしジェシカは燎子とは対照的に静かに息を吐いてきた。

 

「これはセレモニーなのよ。我々から、親愛なる怨敵への挨拶。これから始まる戦いの前奏(プレリュード)なノ。____だから、多少のリスクを負っても、盛大にしないといけないのよ」

 

「は………?敵?挨拶?何を言って………」

 

ジェシカは燎子の言葉を最後まで聞かず、ニヤついた顔のまま席を立った。

 

「別に、納得してもらわなくても構わないワ。作戦に依存があるのであれば上へ訴えテ。もし撤回されたのであれば、我々もそれに従うワ」

 

「あ、ちょっと待ちなさい!」

 

燎子が制止すると、ジェシカは不意に足を止めた。_____が、すぐにその行動が燎子の言葉を受けてのものでないと分かった。ジェシカが、何かを思い出すようにこちらに首を回してきたからだ。

 

「______そうそう、言い忘れてたワ。今回の作戦、鳶一折紙一曹にはしらせないようにネ」

 

「折紙?一体なんでよ。あの子はASTの重要戦力よ?わざわざ外す必要は_____」

 

「今回の件においてはそれが邪魔になる可能性があるって言ってるのヨ。それに、どうせ既存の部隊の皆さんは実戦に参加しないワ。そう大した影響はないでしょウ?」

 

「っ、こっちの編成にまで口出される覚えは無いわよ」

 

「勘違いしないデ。これは私の一存ではなく上からの命令ヨ。____ではでハ。ご機嫌よウ」

 

言って、ジェシカが部屋を出て行き、他のDEM社員達もそれに続いていった。

 

「ぐ………ッ!何なのよ、一体……!」

 

燎子は悔しさと無力感を拳に込めると、一気にテーブルに叩き付けた。

その際、そこに置かれていた書類がひらひらとその場に舞い、うち数枚が床に落ちる。

 

と_____そこで。

 

『五河士道』と名の記された書類に視線を落とした燎子は、「……ん?」と眉根を寄せた。

 

「………そういえば、士道って、どこかで………」

 

行ったところで、先ほどのジェシカの言葉が思い出される。

 

「折紙が………参加禁止_____って、あ」

 

燎子は目を見開いた。

 

五河士道。それは、折紙が言っていた『恋人』の名前だった。

 

 

 




どうでしたか?
久し振りなのと次の回の繋ぎもあって、今回ちょっと短めになってしまいました。

現在第1話から第4話までが加筆修正済みです。これからも順次かけていくので、よろしくお願いします。
しかし改めて最初の頃の自分の話読んでると、文章力の無さが際立って見えますね……いや、今もあまり変わってないかもしれませんが。

それと、いよいよデアラ22巻の発売日が決まりましたね!いよいよデアラ本編も完結ですか………なんだかとても寂しいというか、感慨深いというか。
あ、デアラは終わっても、この作品は続けていくつもりですので、よろしくお願いします!


それでは次回、『第60話 歌はデートの後で』をお楽しみに!


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第60話 歌はデートの後で

戦兎「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!士道と共に、第六の精霊、誘宵美九を攻略すべく、天央祭ステージでの戦いに備えることになる。そして、それぞれの思惑が交錯する中、ついに天央祭が開催するのであった」

万丈「ついに始まったのか……頑張れよ、士道」

一海「そうだな。ファイトだ、士道」

戦兎「おい、俺への応援は?」

万丈「お前出るわけじゃねえんだし別にいいだろ」

戦兎「一応裏で色々やってるから、もっと応援してくれてもいいんじゃない?」

一海「具体的には何だよ」

戦兎「それは……後のお楽しみ?ってことで!」

万丈「誤魔化したよ………」

戦兎「誤魔化してねえよ!それにほら、もしかしたら俺がステージに立つかも知れねえだろ?」

一海「女装してか?」

一同「「「…………」」」

戦兎「………さっ!という事で、俺は女装しない第60話をどうぞ!」

二人「「強引に話進めたな」」




『______これより、第二十五回、天宮市高等学校合同文化祭、天央祭を開催いたします!』

 

天井付近に設えられたスピーカーから実行委員長の宣言が響くと同時、各展示場が拍手と歓声に包まれた。

九月二十三日、土曜日。天宮市内の高校生が待ちに待った、天央祭の始まりである。

今士道達がいるのは、主に飲食関係の模擬店が立ち並ぶ二号館である。ここは来禅高校の勝敗をも握る最重要拠点だ。

だが、そんな最重要拠点に居るはずの士道は今、地面に手をついて全身から暗い空気を発し、戦兎と万丈は腹を抱えて必死に笑いをこらえていた。

 

「おっ、おぉぉ…………」

 

「うっぇ、ひっ、くくっ……!」

 

「おま、そんな哀愁出して………えっひっ………!」

 

理由は至極単純なものである。

士道はゆらりと顔を上げ、辺りを見回した。周囲には様々な模擬店が展開されている。たこ焼きやクレープなどの定番系に始まり、その種類は多岐にわたる。

だが、士道達来禅高校の必勝策はそんな生易しいものでは無かったのだ。

士道は頭をぐりんと回し、自分の背後に聳えている看板に目を向けた。

 

メイド&執事カフェ☆RAIZEN

 

その無慈悲なる名称を頭の中で反芻しながら、視線を下にやる。そこには、

 

「おお!ひらひらだな!」

 

フリルのいっぱい付いたエプロンの裾をつまんでひらひらさせながら笑う十香や、

 

「ぷ、くく………し、士道、御主、おなごの格好もなかなか似合うではないか」

 

「不覚。失笑を禁じ得ません」

 

士道の姿を見て含み笑いを漏らす、十香と同じ装いの耶倶矢、夕弦。そして、

 

「お、お前ら、もうその辺にしとけって………!」

 

「そ、そうだぞ、ふっ、くくっ、し、士道だって、本意じゃ………!」

 

身体が垂直に曲がりそうな程腹を抱える、彼女たちとは対照的に黒を基調とした執事服に身を包んだ万丈、戦兎の姿が見受けられた。

そこまで再確認し、士道はさらに視線を下へ。自分の装いを見直した。

戦兎や万丈と同じ執事服………では無く。

 

 

______その逆、十香や八舞姉妹たちと全く同じデザインの衣服を。

 

 

濃紺と黒の中間色の色合いを持ったロングドレスの上に、やったらめったらフリルのついた純白のドレス。ついでに頭部には、これまた可愛いフリルで飾られたヘッドドレスが。

それを一言で言い表すなら、これ以上ないメイドさんスタイルだった。

 

「なんで……こんな………せめて、戦兎達と同じ執事服でいいじゃねえかよ………!」

 

「も、もう、お前それ以上喋るな………!」

 

「ば、バレるから……!やべっ、は、腹痛え………!」

 

女子制服も大概だったが、流石に士道も、人生においてメイドさんのコスプレをさせられるとは思わなかった。なんだか男の子の心の大事な部分を汚された気がして、再びがっくり肩を落とす。あと、さっきから必死に笑いこらえてる二人は後でシバく。

と、そんな士道の肩に、ポン、と優しく手が置かれる。_____亜衣(メイドさんフォーム)だ。背後には、同じ格好をした麻衣と美衣も見受けられる。

 

「どーしたのよ看板娘ぇ。ほら、そろそろお客さん来るんだからしゃんとして」

 

言ってグッとサムズアップしてくる。士道はゆらゆらとその場に立ち上がった。

 

「……あの、これ、メイド&執事カフェって」

 

「ああ。いいっしょ?竜胆寺に勝つにはこれしか無いって決めてたのよ」

 

「ほんとはメイドだけの予定だったんだけど、せっかくイケメンが二人いるんだし、裏方にするには勿体無いと思ってねー」

 

「そうそう。_____ていうか、万丈くんの執事服姿………やばい、直視できない………

 

亜衣が何やら小さく呟いて辛そうに顔を下に向けたが、そんな事より。

 

「いや、ていうか………よく許可でましたね、こんなの」

 

天央祭はその規模こそ大きいものの、あくまでも高校の文化祭である。自由そうに見えて、意外と縛りは多い。学生に相応しくないと判断されると、そもそも許可自体下りないのだ。その点こういった接客メインの店舗は微妙なラインというか、グレーゾーンすれすれの筈だ。

そういった点は重々承知しているのだろう、悪い顔をしながら肩をすくめてくる。

 

「だから印象操作に苦労したのよー。最初はキャバクラで提出したからねえ」

 

「ぶッ!?」

 

士道は思わず吹き出した。亜衣麻衣美衣がカラカラと笑う。

 

「あんときはこっぴどく怒られたよねー」

 

「うんうん。でもそのおかげで本命のメイド&執事カフェが通りやすくなったし」

 

「ほんとはもっとスカートの丈短くしたかったけどね。マジ引くわー」

 

言いながら、美衣がスカート越しに士道の太腿に線を引いてくる。士道は顔を青くしてスカートを押さえた。そんな様子を見て亜衣麻衣美衣は再び笑う。ちなみに戦兎と万丈は過呼吸気味になっていた。

 

「まあ、士織ちゃんたちステージメンバーは入り口に立って客寄せパンダしててよ。ホールスタッフにはガチで接客教え込んであるから安心して呼び込んじゃって。戦兎くん達も宣伝よろしく!」

 

「そそ。出来るだけ派手にお願いねー。もう行列作っちゃう勢いで!」

 

「うんうん。メイドの方は天真爛漫絶世美少女とタイプ別双子に、長身気弱系。男の方もクール系イケメンに筋肉ワイルド系。これで釣れない奴はもう熟女好きかオジ専か同性愛者くらいのもんよ」

 

「…………」

 

「いやぁそんな褒めるなって!それほどでもあるけどー」

 

「筋肉ワイルド……カッケェなそれ!」

 

いつの間にか気弱系にカテゴライズされていたことに複雑な心境で苦笑する。

と、そこで士道は「ん?」と首を傾げた。

 

「そういえば………折紙さんはどうしたんですか?」

 

そう。他のステージメンバーはみんな揃ってメイドさんをしているのに、折紙の姿だけそこになかったのである。

 

「んー?鳶一さん?そういや朝から見てないわねー」

 

「一応担当場所はメイドカフェのはずだけど………」

 

「あの日なんじゃないのー?」

 

美衣が言うと、三人はあははと笑った。士道はどうリアクションしていいか分からず、ぎこちない笑みを浮かべるしかなかった。

 

「戦兎、あの日ってなんだ?」

 

「………それくらい察しろデリカシーがないな」

 

「デリカシーってなんだよ」

 

「それくらい調べろ馬鹿」

 

「馬鹿じゃねえよ!俺は筋肉ワイルドだ!」

 

「アレ気に入ったのかよ!」

 

ちなみに、士道の横で二人はいつものやり取りを繰り広げていた。

 

「ま、そのうち来るでしょ。ステージに間に合えば別に文句ないわよ」

 

「そ、そうですね………」

 

士道が頰を掻きながら答えると同時、正面入り口の方から夥しい数の足音が響いてきた。どうやら、お客様……もとい『ご主人様』と『お嬢様』がやってきたらしい。

 

「さ、じゃあここはよろしくねー!」

 

「時間になったら呼ぶからさー」

 

「あーみんな、ここは士織ちゃんに任せていくから、ちゃんと指示に従ってねー」

 

言って、亜衣麻衣美衣が店の中に引っ込んでいく。すると。

 

「あ、悪い山吹。ちょっと良いか?」

 

「ん?どったの桐生くん」

 

戦兎が亜衣を引き止め、何やらコソコソと話しかけていた。

 

「んー、別にいいけど、そんなに長くできないよ?」

 

「いや、大丈夫だ。あと______」

 

そう続けながら、二人揃って歩いて行った。

 

「え………っ、ちょ______」

 

店の中に残されたのは、士道、万丈、十香、八舞姉妹、そしてその他の、各クラスから選りすぐられた客引きメイドと執事が併せて十六名程である。それら皆が、今し方客引き隊長ち任命された士道に目を向けてきていた。

 

「え、ええと………」

 

士道は困り顔で頰に汗を垂らすと、コホンと咳払いをした。

 

「その、取り敢えず、皆さん、頑張ってください」

 

『はいっ!』

 

士道の声に応え、メイドと執事達が一斉に礼をする。きちんとメイドは手を前に合わせ、執事は胸の辺りに手を当てた綺麗なお辞儀である。なんだかんだでちゃんと教育されているらしい。……まあ、中には「おー!」と手を振り上げた万丈や十香、八舞姉妹のような者もいたのだが。

ともあれ、ここに決戦の火蓋が、切って落とされたのであった。

 

 

 

 

それから間もない頃。

展示場内は開始前とは打って変わって、人と声が溢れかえる非常に活気に満ちた場となっていた。

 

「さあ、入っていくのだ!楽しいぞ!美味しいぞ!」

 

「お!おーいそこの奴!良かったら来てくれよな!」

 

「くく……ここより先は地獄の釜ぞ。常人たるぬしらに耐えられるかな?」

 

「掲示。こちらがメニューおよびシステムです」

 

「さ、お嬢様方、こちらにどうぞ」

 

カフェ入り口の右側で十香と万丈が元気よく(あまりメイドと執事っぽくはなかったが)声を上げ、左側で耶倶矢が客引きなのか客除けなのかよく分からないことを言い、夕弦がメニューの書かれたプラカードを掲げる。そして戦兎は一応執事キャラを全うしようとしているのか、丁寧な口調で爽やかな笑みを浮かべながら客を誘導していた。そんな五人の呼び込みもあってか、カフェには男女問わず多くの人が入っていった。

 

「おお……盛況じゃないか」

 

周囲の店と比べてみても、なかなかに好調な滑り出しだった。少なくとも士道の位置から窺い知れる店の中で、この店ほど人の集まっている場所は見受けられない。

と。

 

「……なかなか調子がいいみたいじゃないか、シン」

 

「よー、元気でやってるみた…………」

 

会場からどれくらい経った頃だろうか、前方から、二つの声が聞こえてきた。

 

「ああ、令音さんと一海さん。来てくれたん______」

 

と、士道は自然な調子で振り向き_____そのまま固まった。

その場にいたのは予想通り令音と一海だった。そこまでは良い。………だが、その二人が麦わら帽子を被った少女を一人連れ、一海が必死に舌を噛んで笑いを堪えている、という状況が加わったなら、話は変わってくる。

 

「あ、あの……」

 

「お、四糸乃じゃん」

 

「あ、戦兎さん……その、執事服、とってもかっこいい、です……」

 

「お!サンキュー!」

 

とその前に、麦わら帽子の少女____四糸乃に戦兎が挨拶する。四糸乃が戦兎の執事服を褒めると、礼を言いながら麦わら帽子越しに四糸乃の頭を撫でた。四糸乃は擽ったそうに、そして少し恥ずかしそうに身をよじったが、帽子のつばで表情は読み取れなかった。

そして再び、士道の方へと視線が向けられる。

 

「………それで、えっと……」

 

身体を向けた四糸乃が頬を染め、何か見てはいけないものを見てしまったような様子で視線を逸らす。

次いで彼女の左手のパペット『よしのん』が、カラカラと頭を揺らしながら甲高い笑い声を発した。

 

『やっははは、もしかして士道くん?似合うじゃなーいのー。もういっそ下取って上つけちゃいなよー。需要あるよー?』

 

「ぶっ!お、おいよしのん、やめ……うぇっく……!し、士道お前……そんな自然な感じで………ぐぅふっ!」

 

よしのんのその言葉でツボに入ったのか、最早笑いを堪え切れていない一海が指を指しながら腹を抱える。

 

「よ、四糸乃………」

 

「……き、来ちゃいました」

 

士道が掠れた声で名を呼ぶと、四糸乃がそう答えてくる。

確かに、四糸乃は先日士道と戦兎が誘っていた。何らおかしなことではない。

だが、どうやら女装の件は聞かされていなかったらしい。四糸乃は気まずそうに視線を戻し、士道の全身を上から順に眺めてくる。

 

「えっと……そ、その………可愛い、ですね」

 

言って、ぎこちない笑みを浮かべてくる。士道は後ろを向いてしゃがみ込み、メニュー表で後頭部を覆った。

 

「やめて見ないで!優しい言葉をかけないで!汚れた私を見ないでぇぇぇッ!!」

 

女言葉を止めるわけにもいかず、士道は悲鳴じみた声でそう叫んだ。

何故だろうか、十香や戦兎や万丈、折紙や一海や八舞姉妹に見られた時にはそこまででもなかったのだが、四糸乃の澄み切った双眸に見つめられると、何だか自分がとてもいけないことをしているような錯覚に襲われるのだった。

 

「あ、あのっ、私はそんな……」

 

「いいか四糸乃。誤解がないように言っとく。士道は決して、自分の趣味でやってるんじゃない。とても重要な任務に従事しているだけなんだ」

 

すかさず、戦兎がフォローを入れてくる。四糸乃がキョトンと目を丸くした。

 

「そ、そうなんですか……?」

 

「そ、そうだぞ。最近は女装にもブフッ…慣れて、グロス塗る時の仕草が、女にしか、見えねえけどうぇっふっ……断じて、士道が好きでやってる訳じゃなひぃぇっ、くくっ……!」

 

「何吹き込んでんだよお前!あと笑い堪え切れてねえからな!!」

 

「ぶぁははははははッ!!!」

 

堪らず立ち上がり叫ぶ。が、戦兎は途中で堪え切れなくなったのか少ししゃがんで手で顔を抑え、一海に至っては堪えることを放棄したのか大爆笑していた。それから少ししてヒー、ヒー、と笑いを沈めるように、二人が深呼吸を繰り返す。

………というか、いつのまにそんなに手慣れてしまっていたのだろうか。魔道に堕ちないよう注意しようと心に決めた士道だった。『仮面ライダーアライブは女装趣味』、などと囁かれた日には笑い話にもならない。

 

「入っていくんだよな?ちょっと混んでるけど、今なら並ばず入れると思うぞ?」

 

「あ……は、はい」

 

「……では、邪魔させてもらおうかな」

 

「おう。邪魔するぜ」

 

言って、令音と一海が四糸乃を連れて、メイドカフェに入っていこうとする。こうして見ると、三人家族のように見えなくもない。………父親の遺伝子が子に全く受け継がれていそうにない、という点に目を瞑ればだが。

 

「それではご主人様、お嬢様。こちらにどうぞ」

 

すると笑いのインパクトから立ち直った戦兎が、執事キャラで三人をもてなす。

 

「………お前なんだそのキャラ」

 

「仕方ねえだろ今一応執事なんだし」

 

「………なんか、気持ち悪いわ」

 

「はっ倒すぞ」

 

………何やら剣呑な空気が流れたが、一先ずはカフェへと案内する。

と、そこで四糸乃がくるりと振り返ったかと思うと、

 

「あの……ステージも、楽しみにして、ます」

 

そう言って、ぐっと右手を握ってみせた。

 

「おう、見ててくれ。俺たちのステージ。頑張るよ」

 

言って、返すように右手でぐっとサムズアップする。

四糸乃がぺこりとお辞儀をし、カフェに入っていく。士道達はその背を見送りながら小さく笑った。

思わぬところで勇気をもらってしまった。これは何が何でも勝たなくてはなるまい。

そう心に固く決心した、士道だった。

 

 

 

 

令音と一海、四糸乃がカフェ内に入ってからしばらくして。

戦兎はんー、と背伸びをすると、辺りを見渡した。

 

「だんだん行列になってきたな」

 

「ああ。でもこれなら、しばらく客には困らないだろ」

 

万丈がメニュー表で肩を叩きながら言う。確かに、十香達の呼び込みが功を奏したのか、次々と行列が大きくなっている。これならしばらくは持たせられるだろう。

戦兎は「……よし」と小さく呟くと、店に入っていった。

 

「ん?おい、戦兎ー?」

 

「あれ?どうしたんですか?」

 

万丈が声をかけると、不思議そうな顔をした士道が尋ねてきた。

 

「いや、急に戦兎が……つか、俺らの前なら女言葉じゃなくてもいいんじゃね?」

 

「いや、一応客の前なので……」

 

そう言って、士道は苦笑する。

万丈と士道が店の中を見ると、メイドと執事が四人程、店の中から出てきた。それから後に続くように、戦兎が何やら紙を持って出てくる。

 

「どうしたんだよ戦兎」

 

「万丈、これ持って耶倶矢と一緒に宣伝してこい」

 

「はぁ!?ここはどうすんだよ!」

 

「代わりの人頼んだから。じゃ、そういう訳で!」

 

戦兎が手に持ったビラを万丈に手渡し、手を振って耶倶矢の方へと向かう。

 

「えっ?………えぇっ!?」

 

耶倶矢も似たような反応で、戸惑いつつもビラを受け取る。

すると、戦兎が何やら耶倶矢の耳元で何かを囁き、瞬間、耶倶矢の顔が少し赤くなった。

 

「な……!そ、それは良いな!」

 

「だろ?ほら、行って来なさいって」

 

耶倶矢が何か天啓を得たような表情をして、戦兎に押される形で万丈の元に駆け寄ってくる。

 

「よ、よーし龍我よ!まだ何も知らぬ者達を、地獄の釜へと共に誘い(いざない)に行こうではないか!」

 

「はっ?ちょ、おい引っ張んなって!」

 

と、顔が赤い状態のまま、耶倶矢は万丈の手を掴み半ば強引に連れ立って行った。

 

「……どうしたの?」

 

「別に。ちょっとお膳立てしてやっただけさ」

 

士道が訊くと、戦兎は悪戯っぽい笑みを浮かべて、人差し指を立てて答えた。

その真意を読み取ると、士道は納得した様子で頷いた。

 

「…………あー、そういうこと」

 

「そ。ま、こういう時に後押ししてやらなきゃ、あの一途な馬鹿は落とせないよ」

 

そう。宣伝というのは方便。実際は二人の関係を応援(というより面白がっている)戦兎が、遠回しに耶倶矢に万丈を文化祭デートに連れて行け、という目的で行かせたのだ。

本人は気付いていないかも分からないが、傍目から見るととても楽しげな様子の耶倶矢と、戸惑いつつも付き合うつもりの万丈の後ろ姿を見て、戦兎はうんうんと頷いた。

すると。

 

_____クイックイッ。

 

「ん?おお夕弦。どうした?」

 

夕弦が戦兎の執事服の裾を引っ張ると、何かを主張するようにポケットへ手を入れ、先程戦兎が二人に渡していたビラを広げた。してやったり顔になると、夕弦は口を開いた。

 

「確認。戦兎、ここまでしたら分かりますね?」

 

「あー………」

 

要するに、夕弦も戦兎と回りたいという事だろう。先ほどの戦兎同様悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ほんのりと頰が赤く染まった夕弦に、戦兎は困った顔をして頭を掻いた。

確かに代わりの従業員は頼んであるし、方便とはいえ宣伝も出来る。

 

______ライブが始まるまでは、この祭りを楽しんでもバチは当たらないだろう。

 

「そうだな………ま、この前一緒に回るって約束したしな。_____行くか?」

 

「っ!応答。もちろんです」

 

戦兎が誘うと、夕弦はパアッと明るい表情になった。

 

「じゃ、早く回ろうぜ。……悪いな士道、俺と夕弦、少し抜ける」

 

「いや、代わりの人はいるし、大丈夫だ。楽しんで来いよ」

 

士道に伝えると、二人は一緒に並んで文化祭巡り_____デートへと、繰り出して行った。

 

 

 

 

それから______

 

「____お!これ美味えな!おい耶倶矢、これ食ってみろよ」

 

「む?どれどれ…………おお!中々美味ではないか!」

 

万丈と耶倶矢はメイド&執事カフェの宣伝という名目で、文化祭デートに繰り出していた。

とは言えカフェでの仕事や、士道達のステージの応援がある為そう長い時間は取れない。それでも限られた時間を楽しもうと、少なくとも耶倶矢はこのデートを楽しんでいた。

一方の万丈も、この時間が悪くないと思っている自分がいることに気付いた。最初は振り回される形で連れ出されたが、文化祭を回るというのもなかなか楽しい。 デートの時に流れるラタトスクからの通信も、今日は何故か来ないのも一因だろう。

それにこうして耶倶矢と回っていると、想い出す。

 

かつての恋人、小倉香澄との________

 

「っ………」

 

「うむ、これは夕弦の分も______む?どうかしたか、龍我よ」

 

「!……いや…別に」

 

慌てて視線を逸らし、何もない風に装う。

楽しいのは間違いないし、耶倶矢といる事が嫌というわけではない。変な口調を除けば、気兼ねなく話せる距離感も良いと思える。

 

______だからこそ、どうしても重ねてしまう自分がいた。

 

耶倶矢は香澄じゃない。耶倶矢と香澄を重ねてしまったら、香澄を、香澄への想いを、どうしようもなく裏切ってしまう気がした。

 

耶倶矢が悪い訳ではない。悪いのは自分だ。

彼女をかつての恋人に重ねてしまう、自分の馬鹿さが悪いのだ。

 

______これ以上は、いれない。

 

「あ、あー……悪い、俺ちょっと、忘れ物しちまったかもなー!ちょっと、取り行ってくるわ____」

 

そう言って、その場を離れようとした瞬間。

 

 

「____ちょっと待って!」

 

 

「っ!?」

 

強い口調で、耶倶矢が万丈の手を掴んだ。

周囲から視線が向けられるが、そんな事は知らないとばかりに、耶倶矢は手を掴む力を緩めない。

 

「おい、耶倶矢_____」

 

「_____我とのデートは、やはり不満であったか?」

 

「っ………」

 

口調を戻して、耶倶矢が先ほどとは打って変わった少し弱々しい声音で話した。

 

「_____図星だな。この我の魔眼を欺けられるとでも思うたか?ふっ、やはりお主は馬鹿者よ」

 

「っ、なんだと___!?」

 

「忘られぬのだろう?恋人の事が」

 

「ッ!」

 

耶倶矢の言葉に、万丈の身が強張る。

その様子に耶倶矢は、やはりな、と、どこか分かっていたような表情で呟いた。

 

「………龍我が、その人の事を忘れられないのは………分かってる。だから時々、様子がおかしかったんでしょ?」

 

「……それは」

 

口調が普通に戻り、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。万丈は彼女に背を向くと、申し訳無さそうな表情をした。

 

______自分のせいで、耶倶矢に無理を強いていた。

 

自分が後ろめたい気持ちで耶倶矢と居たことを、彼女はとっくに分かっていた。

それなのに、そんな様子を見せずに、純粋にデートを楽しんでいた。

そして、彼女に背を向けたまま、答える。

 

「………俺は、お前の事を嫌ってるわけじゃねえ。お前と一緒にこの文化祭を回ってる時間は、確かに楽しかった。短いけど、それこそあいつと______香澄と一緒にいた時間と、同じくらい、楽しく感じれた」

 

「…………」

 

万丈の独白を、耶倶矢は黙って聞いている。後ろを向いているため表情を見ることができないが、振り向く事は躊躇われた。

 

「………でも、だからこそ。俺はお前と、香澄を重ねちまった。それが………怖かったんだ。香澄とお前を重ねる事が、自分を裏切っちまうような気がして………!これは、俺の我儘だ」

 

「…………」

 

我ながら、酷い理由だと思う。まさにどうしようもない馬鹿の屑が言うことだ。

 

______耶倶矢が自分に、好意を寄せてくれていることは、何となく分かる。

 

正確に言うなら、分かったのはつい最近か。それともずっと、目を逸らし続けただけかもしれない。

だからこそ自分勝手な理由で、耶倶矢を遠ざけようとする自分に、どうしようもなく嫌気がさした。

 

「だから耶倶矢、俺は_______」

 

それから言葉を続けようとした、次の瞬間。

 

「ッ!お、おい!?」

 

「………!」

 

耶倶矢は、万丈の背に抱きついた。周囲の視線を気にせず、耶倶矢が口を開く。

 

「……龍我の言ってる事は、よく分かった。でもだからって______諦めたく、ない」

 

「……!」

 

「確かに、龍我の恋人____香澄って人と私じゃ、いた時間だって違うし、どっちの方が好きかなんて聞くまでもない事だと思う。でも、それでも私は______この気持ちを、捨てたくない。私と夕弦を助けてくれた。一緒に生きられるようにしてくれた。そんな、馬鹿で真っ直ぐな龍我への想いを______私は、諦めたくない」

 

「…………耶倶矢」

 

紛れも無い、耶倶矢の本心だった。

口調は普通だし、普段の強気な雰囲気もない。心の奥底からの、吐露だった。

 

「_____離さないから。龍我が離れようとしたって、私が追い付いて繫ぎ止める。龍我が振り向いてくれるまで、ずっと」

 

「…………」

 

「…………」

 

一瞬、静寂が流れる。

やがてその静寂を破るように、耶倶矢が龍我の背中から離れ、言い放った。

 

「___くく、それにな、我とて待つばかりではないぞ、龍我よ。お主が忘れられぬと言うのなら、それを上回るほどに、お主を我の魅力の虜にしてくれるわ。覚悟すると良い!」

 

そう言い締めビッ!と万丈に指を指し、すっかりいつもの調子に戻った。

 

「………ぷっ」

 

それがなんだか可笑しい______いや、いつもの耶倶矢っぽくて、堪らず吹き出してしまった。

 

「な、何故笑う!我を愚弄するか!」

 

「い、いや___なんつーか、やっぱ耶倶矢は耶倶矢だと思ってよ。話し方が普通になったかと思ったら、相変わらず訳わかんねー話し方だし」

 

「わ、訳わかんなくないし!訳分かってない龍我が馬鹿なだけだし!」

 

「馬鹿って言うなよ!せめて筋肉つけろ!」

 

「じゃあ筋肉馬鹿!超筋肉馬鹿!」

 

「んだと!?」

 

「なにおう!?」

 

何故か言い合いになり、互いに睨み合い火花を散らせる。

暫くそうした後、龍我が表情を崩しふっと吹き出す。

 

「まあでも、お前の思いは伝わったよ。____そこまで言うんなら、俺を振り向かせてみろよ」

 

万丈は不敵な笑みを浮かべると、その勝負に乗った。

 

「!くく、当然だ。寧ろ感謝するのだぞ?この我の寵愛を受けられるのだからな。まずは____」

 

そこで一つ言葉を区切り、万丈の手を取る。

そして、後ろの万丈に振り返って______

 

 

「______この宴を、思う存分楽しもうぞ!」

 

 

そう言った時の耶倶矢の笑顔は、きっと忘れないだろうと、万丈は思った。

 

 

 




どうでしたか?
タイトルのデート部分を後半に詰めた結果、文字数が一万字近くに行ってしまいました。どうしても今回万丈と耶倶矢の絡みを書きたかったんです。そのくせあまり内容進んでないし、やる気あんのお前と自分に言いたくなりました。
次回はもっと内容進めるようにするので、許してください!

それと報告ですが、今回からこの作品の投稿を、毎週日曜の0時に定期投稿にしようと思っています。

理由と致しましては、先日までの投稿の遅れなどがあったため、やはり何かしら自分で登校する決まりみたいなのを決めた方がいいかと思いまして。稀に異なる曜日で投稿する日もあるかもしれませんが、その時はご了承ください。

あと、第5話までの加筆修正が終わりました。よければ見て行ってください。

それでは次回、『第61話 歌姫・オンステージ!』をお楽しみに!

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第61話 歌姫・オンステージ!

戦兎「精霊にしてアイドルの誘宵美九と、女装少年五河士道。両者の思惑が交錯する中、ついに天央祭が開催する。そんな中、仮面ライダービルドであり、天才物理学者の桐生戦兎は………前回特に何もやってない!?おい嘘だろ!」

士道「嘘じゃねーよ。つか女装少年ってなんだよ!いや間違ってねえけど!」

美九「ていうかダーリン!何ですか前回!私メインの章の筈なのに、全然私活躍してないじゃないですかー!」

士道「ちょ、美九!今はシナリオ的に出るとややこしい事に……」

美九「何ですかシナリオって!私アイドルなのになんか影薄いじゃないですかー!前回なんて後半龍我さんと耶倶矢さんのイチャイチャを見せられただけじゃないですか私も混ぜてくださーい!」

士道「混ざるな混ざるな!ていうかそうじゃなくて!今ストーリー的に美九は男性嫌悪のままだから、それっぽい態度じゃないと……」

戦兎「まーもうここまで来たらいいだろ。なんかこいつの相手すんの疲れる」

士道「適当!?」

美九「そんなー!幾ら何でも酷いですよ戦兎さーん!」

戦兎「この後の展開お前のせいでめちゃくちゃ引っ掻き回されるんだぞ!今のあらすじ紹介ではこれくらいが妥当だ」

美九「酷いですぅ!うわーんダーリーン!!」

士道「だーもう引っ付くなー!今回のあらすじ紹介特に酷いな!色々言ってることがメタ過ぎるだろ!」

戦兎「確かに士道の言う通りだ。これ以上酷くなる前に第61話、どうぞ!それとみんな、コロナには気をつけろよ!前回間隔決めたばっかだけど、今回からしばらくは週二投稿だから、よろしくな!」





「_____よし、もういいぞ琴里」

 

『全く、急に万丈たちの通信を切ってくれなんて言った時は、どうしたんだと思ったけど………耶倶矢ったら、やるじゃない』

 

「な?俺の言った通りだったろ?さっすが俺」

 

『はいはい、流石ね』

 

万丈と耶倶矢のやり取りを影から見ていた戦兎は、耳元のインカムに手を当てると、琴里に通信をした。琴里が溜め息混じりに返答する。

最初から二人だけでデートをさせようと思っていた戦兎は、予め琴里に万丈が持っているインカムへの通信を遮断するよう根回ししていたのだ。霊力が封印されたとは言え、サポート無しの精霊とのデートは危険だが、今回はその方がいいだろうと戦兎が進言したのである。

 

「んじゃ、ステージの時は頼むな」

 

『了解』

 

そう締めると、琴里との通信を終えた。

そのまま振り向くと、そこには既に夕弦の姿があった。

 

「質問。戦兎、誰と話していたんですか?」

 

「ああ、琴里だよ。ちょっとこれからの事でな」

 

「………憤慨。むー……」

 

「ど、どうしたんだよ」

 

戦兎が夕弦に話すと、何故か夕弦は半眼を作りながら頬を膨らませた。なんだかハムスターのようである。

どこかいじけた様子の夕弦に戦兎は戸惑いつつも、その真意を理解することは無かった。

 

「まあ、あと少し楽しもうぜ。士道達のステージまで、あまり余裕も無いからな」

 

「……赦免。まあ今はいいでしょう。後でどこかの鈍感さんには、しっかり話しておく必要がありそうですが」

 

「はぁ?誰だよそれ」

 

「溜息。さて、誰でしょうね?」

 

何故か溜息を吐かれたが、夕弦もひとまずは戦兎の提案を受け入れる事にした。

並んで歩くその姿は、どこか恋人のようにも見えただろう。

 

 

 

 

それから二人は、展示場内の屋台を巡って、天央祭を満喫していた。お化け屋敷や的当てなどのアトラクション系から、食べ物の屋台など。大雑把に展示場で楽しめるものは一通り楽しめただろう。

 

「はむ……驚嘆。このメンチカツ、美味しいですね。挽肉が良いのは勿論ですが、衣もサクサクしてます」

 

「どれどれ……お、ほんとだ。文化祭ってか、普通に店でも出せるレベルだな」

 

先程屋台で買ったメンチカツを二人で頬張りながら、場内を回る。まだステージ開催の十二時までは二時間ほど間があるので、それまではブラブラと屋台を見て回っていた。

すると。

 

「思起。そういえば戦兎、以前話していた新しいベルトはどうなったのですか?」

 

「ん?ああ、あれか。昨日の夜に、取り敢えず一つ完成した。元々あったベルトの設計データを基にしたから、出来るまでそんなに時間はかかんなかったよ」

 

夕弦が聞いたそのベルトとは、以前戦兎に添い寝を仕掛けた際、同じタイミングで生成されたラビットのボトルで使用すると言っていたものだ。あのボトルを生成した時点で制作途中だったようだが、それでもこの短期間で作ってしまうのは、やはり彼の自称するように、明晰な頭脳故か。

 

「ふぁあ〜………ただ、それと並行して他のアイテムの開発修理、それにやる事もあったからなぁ……。眠気覚まし飲んでたけど、今ちょっとぶり返してきた………」

 

一つ欠伸をして、戦兎が続ける。

そして視線を戻した、その時。

 

「……ん?」

 

「?……呼掛。戦兎、どうしたのですか?」

 

「いや……あれ」

 

そう言って戦兎が指差した先には、二人組の女の子がいた。

いや、正しく言うのならそれは語弊があるだろう。何故ならその二人は戦兎がよく知る人物で______うち一人は、今諸事情で()()していたからだ。

 

そう_______五河士道……否、五河士織と、()()()()であった。

 

「懐疑。何故士道と誘宵美九が、あんなところで一緒にいるのでしょうか」

 

「さあな。でも、なんか只ならない雰囲気みたいだぞ」

 

既に食べ終わったメンチカツの包み紙を近くのゴミ箱に捨てると、二人は影に隠れて二人の様子を観察した。夕弦に至ってはどこから取り出したのか、黒いサングラスをかけている。

 

「……なんだそのサングラス」

 

「解説。知らないのですか戦兎。尾行しているときは、こうしてサングラスを付けるのが常識なのですよ」

 

「そんな常識はない。あとこの会場だと逆に目立つぞそれ」

 

そう指摘していると、何やら二人の会話が聞こえてきた。一旦黙って、耳を澄ませる。

 

 

 

「_____人間なんて簡単なものですよ。どうにだって操れるんです。士織さんも、あまり気をかけ過ぎない方がいいですよー?あれは愛玩するくらいしか使い道がないんですから」

 

「はん、人を舐めるなよ。何でも思い通りにいくと思ったら、大間違いだ」

 

「へぇー……じゃあ、試してあげましょうかー」

 

「………?どういう事だ?」

 

「うふふー、じゃあ、ちょっと名残惜しいですけど、今日のデートはここまでにしましょうか。ステージで待ってますよー。___士織さんがステージに立てたらの話ですけど」

 

 

そう言い締めると誘宵美九は、踵を返して去って行った。

 

「……疑念。一体、何だったのでしょうか」

 

「………」

 

夕弦が不安げに戦兎を見上げ、疑念の声を漏らす。

戦兎はしばらく黙っていると、夕弦の方へと向き帰った。

 

「夕弦。……耶倶矢にも伝えておいてくれ。頼みたいことがある」

 

 

 

 

「______【神威霊装・九番(シャダイ・エル・カイ)】!!」

 

その声と同時に、淡い光が美九の身体に纏わり付き、光のドレスを形作っていった。

光が死んだこの空間で、彼女だけが輝きを放っていった。

 

それ即ち、霊装。精霊を守る絶対の盾にして城。

しかしそれは、今の空間においては戦うための鎧ではなく、彼女という存在を引き立てるためのドレスであった。

そんな彼女の霊装は、どうやら観客達には大掛かりな演出と受け取られたらしい。会場を包む歓声が、より一層大きくなる。

 

 

 

「______上げていきますよー。ここからが本番です!!」

 

 

美九はマイクも無しに、会場中にその澄み切った声を響き渡らせた。

それに応えるように、再び会場中が熱狂の渦に沈む。

 

そこはもう、誘宵美九の世界だった。

 

スピーカーも無ければ照明も無い。マイクもアンプもない、ただ一人で歌うだけの行為。

 

ただそれだけで美九の演奏は、声は、その姿は、会場の隅々にまで染み渡った。

 

すべてが、誘宵美九の存在感に呑み込まれていく。

 

彼女は、完璧に、圧倒的なまでに_______【アイドル】だった。

 

 

____美九が両手を広げると同時、曲が終わる。

今までよりも一層凄まじい大歓声が、会場を包み込んだ。

 

「____ふふ、ありがとうございます」

 

額に浮かんだ汗を拭いながら、美九がぺこりとお辞儀をする。すると今度は割れんばかりの拍手が、ステージから去っていく美九を祝福した。

 

「…………」

 

「うむ、凄かったな!」

 

士道が無言で額に手を置き、十香が屈託のない感想を述べる。

 

そう。あれから数時間後、美九の言葉の真相を士道は知る事となったのである。

 

それはライブが始まる前、十二時頃の事。

ステージ裏の控え室に当たる小ホールには、各校の代表が集結し始めていた。

士道も仕事を他メンバーに引き継ぎ、控え室に足を運んでいた。しかしそこには士道と十香のみで、亜衣麻衣美衣と折紙の姿は見えなかった。

そして彼女らの電話口から聞こえてきたのは_____ステージには、出ないという意志。

 

恐らく____亜衣麻衣美衣は、美九に『お願い』されたのだ。

美九には精霊の力として、『声』によって相手を洗脳するという能力がある。その効果は絶大で、精霊の加護を持った士道でさえ意識を乱されかけた程だ。常人である三人が抗うのは不可能だろう。

また、折紙が居ないというのも気にかかる。一瞬、彼女もまた美九の毒牙にかかったかとも思ったが、それならば電話に出てもいいはずである。それに、朝から姿を消している理由も分からない。

 

ともあれ、そんな彼女の妨害に対抗して、ラタトスクもステージの設備に細工を施したのだが____美九はそれすらも利用し、自らのステージの演出とさせたのだ。

 

バンドメンバーの不在、そして相手との、圧倒的なまでの実力差。それらが士道の決意に、一抹の影を刺していたのだ。

 

「どうしたのだ、シドー。元気がないと勝てるものも勝てなくなってしまうぞ?」

 

「………そうだな」

 

力無い笑みを浮かべる。十香は今ひとつその意味が分からない様子で首を傾げた。

いや、十香の言う事は全く正しいのだ。相手がどんなに素晴らしきパフォーマンスをしたからといって、それに呑まれてしまっては、勝負以前の問題である。

だが、どんなに振り切ろうとしても嫌な予感が晴れないのだった。歌の方は口パク案があるとはいえ、琴里が言っていた()()()()が用意した、亜衣麻衣美衣と折紙の穴を埋める補充要員とやらの正体すら知れない現状では、安心のしようが_____

 

と、その瞬間。

 

 

「天才がー………普通にドアから来たぁ!!」

 

「よっ、随分暗い顔してんじゃねえか」

 

 

控え室のドアが開かれたかと思うと、士道の頭上に聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 

「おお!セントに、リューガではないか!」

 

「戦兎、万丈!お前ら、どうして………」

 

そこに立っていたのは、執事服に身を包んだ戦兎と万丈だった。

 

「お前らが困ってるって聞いたからよ、応援に駆けつけてきたぜ」

 

万丈が腕を組んでそう言う。

そして戦兎は得意のしたり顔になると、腕を組んで言った。

 

「ま、士道くんがお困りのようだったから、この天っ才が!強力な助っ人を連れて来たぜ」

 

「助っ人………?」

 

戦兎がドアの方を指差すと、向こうから二つの人影が歩み寄ってきた。そして、どこかで聞いたような声が響いてくる。

 

 

「くく、魑魅魍魎跋扈するこの地獄に、颶風の御子がここにいる!八舞耶倶矢、爆現!」

 

「到着。私、参上」

 

 

「耶倶矢!夕弦!」

 

十香が驚いたように目を丸くし、二人の名を呼ぶ。

 

「二人とも……なんでこんなところに」

 

士道が言うと、戦兎が頭のアンテナと人差し指を立ててみせた。

 

「お前と美九の会話をちろっと聞いてね。もしかしたら何かしらの妨害をしてくる可能性があると踏んで、二人に協力を要請しておいたんだ。琴里から詳細聞いたけど、頼んどいて正解だったみたいだな」

 

戦兎が得意げに話すと、耶倶矢と夕弦もぐっと二人で腕を組んで見せた。

 

「くく、話は聞かせて貰ったぞ。どうやらメンバーが足りなくて困っているようではないか」

 

「応援。もしよろしければその役、我々に任せてはいただけませんか?」

 

「え………?じ、じゃあ、琴里が言ってた補充要員って……」

 

士道が問うと、二人と、何故か戦兎までもが全く同じタイミングで頷いた。

 

「応。我ら三人のことだ」

 

「三人……?って、まさか…………!」

 

てっきり耶倶矢と夕弦の二人だけと思っていた士道は、残る一人に思い当たる人物の方へ顔を向けた。

 

「そ。俺も出る」

 

「はぁっ!?おいおい、お前マジで出んのかよ!」

 

「あったり前でしょうが。筋肉バカと違って、こっちは天っ才だからさ!」

 

「まさか、本当に女装してか?」

 

「する訳ねーだろ。普通にこの格好だよ」

 

万丈が驚いた様子で戦兎に尋ねる。どうやら万丈も今初めて聞いたようだった。

ともあれ三人とも、自信満々といった調子だった。耶倶矢と夕弦に至っては何やらよくわからないポーズも取っている。

 

「ち、ちょっと待てよ三人とも。そりゃ心遣いはありがたいけど、そんな簡単に参加しますって言われても______」

 

「ステージ部門に男子生徒は参加しちゃいけない、なんてルールは書かれてないだろ?」

 

「そ、そりゃそうだけど、本番までもう時間がないんだぞ?練習だってしてないのに______」

 

士道の言葉の途中で、三人は部屋の奥に設えられていた楽器の方に悠然と歩いて行った。

 

そして、耶倶矢がドラムス、戦兎がエレクトーンの前に座り、夕弦がベースを握る。

すると次の瞬間、三人は目を合わせると、演奏を始めた。

 

「え………!?」

 

思わず、そんな声を出してしまう。

一言で言うのなら______三人の演奏は、とんでもなく上手かったのである。

情熱的かつパワフルでありながら調和を失わず、皆を導くようにリズムを刻むドラムスに、幻想的かつ繊細な音色のエレクトーン、そして流れるような指使いによって流麗に奏でられるベースの旋律。

素人の耳にも、凄まじさが容易に理解できるほどのセッションだった。

 

「ま………こんなものか」

 

「吐息。ふう」

 

「ふぅ〜、覚えたてでちと不安だったが、上手くいったか」

 

演奏を終えた三人は歩み寄ると、イェーイとハイタッチをした。

 

「な、なんでそんなに上手いんだ、三人とも」

 

「すげーな三人共!戦兎!なんだよお前、そんなん出来るなんて聞いてねーぞ!」

 

士道が呆然と尋ね、万丈が興奮した様子で聞いてくる。

耶倶矢と夕弦がチラと一瞬目を合わせ、にっと唇の端を上げた。戦兎も同様に、得意げな表情を浮かべる。

 

「くく……舐めるでないぞ人間。斯様なもの、我らは既に勝負を済ませておるわ」

 

「確認。確か第七二試合『嵐を呼ぶドラマー対決』と、第八四試合『ベストベーシスト賞対決』です。ちなみに前者は耶倶矢が、後者は夕弦が勝利しました」

 

「ま、俺に関しては天っ才ですから?開発の合間に楽器を一つ覚える事くらいはできるってこった。それにエレクトーンは武器の待機音とか考える時にも役立つからな」

 

言われて、士道ははたと思い出した。

以前戦兎達から聞いた事だが、八舞姉妹の二人は戦兎と万丈に出会う遥か前から、二人で何度も対決を繰り返していたのだという。それも殴り合いの喧嘩だけでなく、様々なバリエーションがあると聞いていたが………まさか、こんなものまで。

戦兎に関して言うなら、もう驚く事もないという感じだった。楽器を一つ弾けたところで、「まあ戦兎だし」、と納得出来てしまう。あと武器の待機音、どうやって考えてるんだと思ったら、そういう所からか。

 

「ともあれ士道。これで役者は揃ったってわけだ。どうだ?これでもまだ不安は拭えないか?」

 

「俺はステージに立てねえけどよ、応援するくらいならいくらでもできる」

 

「うむ。士道よ、今のお主は一人ではないぞ。我らもついておる」

 

「協力。私達は仲間です。仲間なら助け合いでしょう」

 

戦兎と万丈、耶倶矢に夕弦が言ってくる。

無論、美九は難敵だ。加えて、会場は美九のファンで埋め尽くされている。完璧なパフォーマンスをしたところで、そう易々と勝ちをもぎ取れるような相手ではない。

だが____士道ばゴクリと唾液を飲み下した。

そして、力強く頷く。

 

「_____ああ………行こう、みんな!」

 

「そうだな。勝利の法則は_____」

 

「宣言。勝利の法則は決まりました」

 

戦兎の台詞を横取る形で夕弦が言い、ビルドのように手をウサギの形に開く。

 

「くく、今の我らは、負ける気がしないな!」

 

今度は耶倶矢が続けて言い、クローズを意識したのか手のひらに拳を打ち付けた。

 

「ちょっ、それ俺の決めセリフとポーズ!」

 

「俺のも取られた!」

 

二人がガーンとなり、思わず笑いが溢れる。

先程までの、暗雲が立ち込めてきた心はすっかり晴れていた。

今は____これほど頼もしいメンバーはいない、そう言い切れた。

 

 

 

 

頭の中で指令を発しながら眼球を左下の方に向けると、網膜に小さな数字が投影された。

 

14:55________作戦開始まで残り五分。

 

天宮スクエア上空に浮遊したジェシカ・ベイリーは、ペロリと唇を舐めた。

 

「さて………そろそろ時間ネ。総員、変身しなさイ」

 

了解(イエス・マム)

 

ヘッドセットから一斉に部下の声が聞こえてくる。ジェシカは満足げに頷くと、既に腰に装着したリバースドライバーに、成分を活性化させたアームズオルタナティブフルボトルを装填、チャージャーを引いた。

 

 

ARMS ALTERNATIVE

 

 

『変身』

 

 

ABSORB CHANGE

 

 

レバーを押し込み、ドライバーの変身機能を作動させる。

そしてフラスコ型ファクトリーがジェシカ達隊員の周囲に展開され、アーマーを形成、マスクで顔を覆った。

 

 

ARMS IN TROOPER

 

 

その音声を最後に、ジェシカのレッドトルーパーを筆頭としたデウストルーパー隊の変身が完了した。

今天宮スクエア上空に展開しているのは、ジェシカを含む第三戦闘分隊【デウストルーパー】十名に、遠隔操作型の戦闘人形【バンダースナッチ】二十機と錚々たるラインナップだった。

 

しかもジェシカ達はその身にライダーシステムの他にも、まだどの国にも配備されていないDEMの最新装備を纏っていたのである。如何に相手がAAAランク精霊【プリンセス】と言えど、この集中砲火を浴びてはひとたまりもあるまい。

 

そして、ブザーがヘッドセットから鳴り響く。十五時ジャスト。作戦開始時刻である。

 

「______さあ、時間よ。アデプタス4から12は所定の位置に移動。砲撃準備。【バンダースナッチ】も用意ヲ。アウター1以下二十機、突入に備えテ」

 

了解(イエス・マム)

 

先ほどと同じように応答が続き、ジェシカの指示に従ってフル装備のデウストルーパーとバンダースナッチが展開していく。

 

「さあ…………It's show time」

 

ジェシカが、レーザーカノンを天宮スクエアセントラルステージに向ける。

 

機械仕掛けの神々(デウス・エクス・マキナ)に付き従う忠実なる神の兵隊(デウストルーパー)が、今まさにその矛を、向けようとしていた。

 

 

 

 

 




どうでしたか?
あまりタイトル回収できなくてすいません。どちらかというと次回に付けるべきタイトルだったなコレ。

コロナウイルスの影響で外出できてない方も多いので、投稿間隔決めた直後で悪い?ですが、しばらくは週二投稿になります。少しでも皆さんの楽しみになれたら幸いです。

さて、戦兎もステージに立つ事になりました。女装はしないですが、前回のあらすじ紹介の伏線回収ですね。そして次回、ちょっとしたサプライズ(?)演出があります。お楽しみに!

それでは次回、『第62話 コネクトした絆の歌』をお楽しみに!

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第62話 コネクトした絆の歌

戦兎「精霊にしてアイドルの誘宵美九と、仮面ライダーアライブこと五河士ど____五河士織。両者の思惑が交錯する中、天央祭が開催する。そんな中、仮面ライダービルドの桐生戦兎は、美九に操られた亜衣麻衣美衣に変わり、八舞姉妹を引き連れて、ステージに立つこととなったのであった」

士道「おい、なんでわざわざ士織に言い直した?なあ」

一海「それにしてもまさか前々回のあらすじ紹介をここで回収するとはな。てかマジで女装しないのか?」

戦兎「する訳ねーだろ。あんな恥晒しな格好」

士道「おいそれ俺にダメージ来てるからな!」

戦兎「大丈夫お前は似合ってるから。似合いすぎてあれがデフォルトに見えるから」

士道「見えんじゃねえ!」

夕弦「興味。それよりも戦兎の女装について、詳しく聞かせてください」

戦兎「やべっ、一番聞かれたくない奴に聞かれた!」

一海「すっげえ目ぇキラッキラしてんな。それよりあのみーたんのパチモンに勝てんのかよ。歌は確かに凄かったぞ」

戦兎「パチモンとか言うなよここじゃあっちが本物なんだから。さっ、そんなステージの行方はどうなるのか!第62話をどうぞ!」





「なッ!?」

 

_____引き金を引こうとした瞬間。前方の空がカッと輝くと同時、ヘッドセットから熱源の接近を示すアラームが鳴り響き、ジェシカは緊急回避行動を取った。

一瞬前までジェシカが居た場所を、凄まじい魔力の奔流が通り抜けていく。バンダースナッチが一機巻き込まれたのか、上半身が吹き飛ばされていた。

その馬鹿げた威力に、思わず顔を青くする。

魔術師のそれより精度は低いとはいえ、バンダースナッチもその全身の周囲に随意領域(テリトリー)を張り巡らせている。その不可視の壁を紙切れのように撃ち抜くなど、常識で考えればあり得ない話だった。

 

「な、何事ダ!」

 

『ぜ、前方に高エネルギー反応あり!』

 

『精霊……ではありません。生成魔力の反応です!こ、これは……まさか______』

 

 

 

_______それは、戦車か、さもなくば城とでも形容すべき異形の兵器の姿だった。

 

巨木のような砲門を二つ備えた、あまりにも巨大な金属の塊である。その内側には、触れるものを断ち切るより先に蒸発させてしまいかねない程の高出力レーザーブレードが、後方には数多の武器を収めた無骨なウェポンコンテナが鎮座している。

 

その名を____ホワイト・リコリス(白い彼岸花)。又の名を、【最強の欠陥機】。

 

そしてその中央。まるでエンブレムのように、一人の魔術師の姿が見て取れた。

 

______陸自ASTの魔術師・鳶一折紙である。

 

「何故……貴様は、《リコリス》を動かせていル………ッ!」

 

「…………」

 

折紙は何も答えず、さらに驚くべき行動に出た。

 

そしてジェシカが彼女の腰部に視線を向けた時_____更なる驚愕が彼女を襲った。

 

「なッ………!?」

 

そう。彼女は腰に装着していた。

黒光りした、特殊な形状をしている。その、ジェシカらと全く同じ______リバースドライバーを。

 

 

______シャカシャカシャカシャカ……………

 

 

そして折紙は黒い、鳥の意匠が施されたボトルを取り出すと、数回それを振る。内部の【トランリバースリキッド】が活性化され、そのまま【フォールディングキャップ】を閉じる。

それをバックルの側部へと装填し、【アブソーブチャージャー】を引いた。

 

 

 

HAWK ALTERNATIVE】

 

 

 

「ッ!ぐっ、あァァァァァッ______!!?」

 

重低音が鳴り響いた瞬間、全身を雷に撃たれたかのような激痛が走る。

かつて【イフリート】と戦った際にも、折紙はこのベルトで変身したことがある。その際にも同じような痛みを味わった。

だが今回のそれは、その時を遥かに上回る激痛だ。普段感情を出さない折紙も、その全身を迸る激痛に苦悶の声を挙げる。

 

「………は、ハハハハ!何ヨ、所詮虚仮威しネ!適合手術も受けてない人間ガ、まともにそのベルトを扱えるわけないじゃなイ!」

 

折紙のその様子を見てか、ジェシカが余裕を取り戻して高笑いを浮かべる。

だが折紙はそんな笑いなど意に介さず、歯を食い縛って痛みに対抗した。

そして脳裏に浮かべるのは、自らの心の拠り所_____五河士道の姿。

 

両親を失った折紙が唯一、最後に心を許せた人。

 

そんな彼が今、奪われんとしている。

 

______許せない。許す訳に、いかない。

 

故に彼女は、この苦痛に抗う。

 

______全ては、彼を救おうとするが為に。

 

 

「……士、道は…………!私が………私、が…………ッ!!」

 

何故彼が仮面ライダーとなったのか。

何故彼が精霊の力を宿したのか。

 

そんな事は、どうでも良い。

 

そんな事など、今の折紙にとっては関係なかった。

 

 

「私が…………()()………ッ!!!」

 

 

ただ、その為だけに。

 

もう、何も出来なかったあの時の自分ではないと________

 

 

そして折紙は、その引き金(アブソーブチャージャー)を引いた。

 

 

「変………身…………ッ!!」

 

 

 

【ABSORB CHANGE】

 

 

 

その音声が、鳴り響き______

 

 

「なッ………!?ま、まさカ…………!?」

 

 

折紙の周囲を囲うように、フラスコ瓶状の小型ファクトリー、【ボトルリバーストランサー】が展開され、内部に成分が充填される。

 

「こうなったら______目標変更!迎撃開始!」

 

その光景を見たジェシカは金切り声を上げると、銃口を折紙に向ける。

だが、遅かった。

 

ファクトリー内部で全身を覆う、【ホークスアウトアーマー】が形成され、装着する。

次の瞬間、ファクトリーが砕け散り、内部成分が鳥の羽根のように折紙へと集約、胸部追加装甲と、フルフェイスマスクを生成した。

 

 

 

HAWK IN AVENGER】

 

 

 

「ハァッ………ハァ………ッ!」

 

 

________白い眼を光らせて、復讐者(アヴェンジャー)が獲物を見据える。

 

苦悶の声を上げながらも、黒のライダー______仮面ライダーアヴェンジャーが、誕生した。

 

「まさか、本当ニ…………!?」

 

そして間も無く、ハンターが魔力砲をジェシカに向けていた。慌ててスラスターを駆動させその場から逃れる。一拍遅れて、魔力の光がジェシカの随意領域(テリトリー)を掠めていった。

 

「な………何をしているノ!堕とすのヨ!早ク!」

 

ジェシカが叫ぶと、固まっていた部下達はようやく我に返ったようだった。アヴェンジャーを囲うように展開し、次々にミサイルやレーザーを放っていく。

 

STAND BY

 

ジェシカもデュアルスレイヤーにボトルを装填し、折紙へと銃口を向ける。先端部にパワーが収束し、巨大な弾丸状のエネルギー弾を形成していった。

 

 

ARMS BLAST

 

 

引き金を引くと、エネルギー弾が螺旋を描きながら発射された。続けて小型ミサイルが放たれ、アヴェンジャーを中心に抱えたホワイト・リコリスが、爆炎に包まれていった。

 

「撃ち方、止メ!」

 

集中砲火の後、ジェシカは声を上げた。部下のデウストルーパー隊とバンダースナッチが砲撃を止める。

ボトルのエネルギーまで上乗せした、最新型対精霊兵装の全方位攻撃である。いくら相手がホワイト・リコリスとライダーシステムの使用者とはいえ、ただで済むはずがなかった。が______

 

 

STAND BY AVENGING FINISH

 

 

「な………ッ!」

 

その無機質な音が聞こえると同時、前方から無数の黒雷が放たれ、デウストルーパー隊員やバンダースナッチに向かっていく。

トルーパー隊は何人かが変身を解除され、バンダースナッチは大破させられていった。装備から煙を噴いて地面に落ちていく。

ジェシカは網膜に映し出されたセンサーを一瞥する。どうやら生体反応は消えていないようだが、戦闘復帰は困難だろう。

 

そして黒煙が晴れ、中から白い複眼が光る。続けて黒い戦士(アヴェンジャー)を中心に据えたホワイト・リコリスが、ゆっくりとその姿を露わにしていく。

 

「何ヨ…………!何なのヨ!貴方はァァァァッ!!!」

 

有り得ない、有り得るはずがない。

だが目の前で起こった現実は、冷酷にジェシカのプライドを叩き潰そうと迫ってくる。たった一機の欠陥機と、一人のライダーの手によって、エリートであるはずの部隊が半壊させられてしまった。

 

屈辱に歪んだジェシカの顔を、アヴェンジャーは静かに見下ろしていた。

 

 

 

 

『______次は、都立来禅高校有志による、バンド演奏です』

 

ステージに設えられたスピーカーから、アナウンスが流れ始める。

それに呼応して、会場からパチパチと拍手が聞こえてきた。

 

「よ、よし、行くぞ」

 

言って、士道は足を踏み出した。戦兎、十香、耶倶矢、夕弦もそれに続いてくる。

 

「よし、頑張ってこいよ!!」

 

万丈の応援を背に受けて、薄暗い舞台袖からスポットライトの当たったステージに出ていく。

 

「…………っ」

 

士道は、思わず息を呑んだ。

美九のステージを見たときや、舞台袖で観客席を見ていた時とも異なる感覚が、士道の全身に覆い被さってきた。

 

暗い会場の中で、唯一光に溢れたステージ。埋め尽くされた観客。注がれる視線。

それら全てが一体となり、まるで重力の如く士道の手足に絡みついてきたのである。

 

「………なるほど、こりゃあ、すげえな」

 

唇をペロリと舐めると、少し塩の味がした。

本番の空気。本物の緊迫感。その威圧感が、容赦なく士道の精神に刃を突き立ててくる。

______しかし。

 

「………はは」

 

「………ふっ」

 

士道は、そして戦兎は、小さく笑った。

 

こんな大舞台に立ったのは、確かに初めてだ。

でも、自分は、自分達はこの空気を既に知っている。

 

十香と。四糸乃と。狂三と。琴里と。八舞姉妹と。

 

精霊と相対した時の、空気。

 

そしてもう一つ。

 

スマッシュや、ナスティシーカー、マッドクラウンと対峙した時の緊張感。

 

一つ選択肢を誤るだけで命を落としかねない極限状態のデート。強大な悪との、命懸けの戦い。幾度となく繰り返してきたそれは、彼らの精神を大きく鍛え上げていた。

 

それに、特に戦兎にとってはこの程度の空気感、今更どうという事はない。

そう。エボルトとの戦いに比べれば_______

 

各々が所定の位置に付き、士道の視線に返すように頷いてくる。

 

士道たちは音合わせをすると、もう一度視線を交じらせ、頷きあった。

 

 

「さぁ_____演奏(ステージ)を始めようか!」

 

 

戦兎がいつもの決め台詞を、少し弄って言うと、耶倶矢が合わせるようにカッ、カッ、とスティックを打ち鳴らす。

 

それに合わせて、戦兎がエレクトーンを弾き、続いて士道がギターを弾き始めた。そして左方からは夕弦の技巧がベースが、右方から、シャンシャンという十香のタンバリンの音が聞こえてくる。

 

歌こそプロのそれを流すものの、この演奏は士道達の物である。

弾き始めれば、後は練習通りだった。エレクトーンの音が鳴り響き、思い通りの曲調が奏でられる。全身を包む緊張感が、徐々に高揚感に変化していく。

だが_____そこで異常が起こった。

 

「………え?」

 

「………何?」

 

演奏中、士道と戦兎は眉をひそめた。

伴奏を終えても____歌が、流れてこなかったのである。

二人がそれを感じると同時、インカムから焦ったような琴里の声が聞こえてくる。

 

『二人とも!緊急事態よ!天宮スクエアの電子配線が何者かによって一部破損、用意していた音源が使えないわ!」

 

「な_____そ、それじゃ、一体」

 

『生で歌うしかないわ!今士道のマイクのスイッチを入れるから!』

 

「最っ悪だ………!」

 

「そ、そんな、いきなり言われても______」

 

一瞬マイクのハウリングが鳴り響き、士道は言葉を止めた。

だがそうこうしている間にも、演奏は進んでいってしまっていた。

 

「ぁ_______」

 

「っ、まずい、あいつ………!」

 

後ろからエレクトーンを弾いていた戦兎は、士道の様子の変化に気付いた。

大量に発汗し、顔は青ざめている。指は辛うじて弦を弾いているが、その表情には焦りが見えている。

 

 

_______()()()()()()

 

 

此処一番の大勝負で、予期せぬアクシデント。

その事実は、言葉以上に士道の心に大きく突き刺さった。

だんだんと呼吸すら荒くなり、声は少しも出なくなっていった。

 

「ぅ、あ………」

 

「士道………ッ!」

 

後ろにいる上、観客の前で士道を落ち着かせることもできない。

無力感に襲われながら、戦兎はどうにか持たせようと、耶倶矢と夕弦に視線を送り、演奏を変えた。

 

前奏部分を繰り返し演奏しているが、それでも気休め程度だ。歌が出て来なければ、意味がない。

 

その時、だった。

 

 

 

『______このまま 歩き続けてる。今夜も真っ直ぐ 一人の足跡 辿って_______』

 

 

 

どこからか。

 

「え………?」

 

「これは………」

 

歌が、聞こえた。

 

電子配線が復旧したわけでは無い。記憶にあるそれとは、声が全然異なっていた。

というか、この声は_______

 

「十………香?」

 

 

『_____果てしない だけど君だけは どこかで待ってる______』

 

 

十香が、歌っていた。

士道に右手にいた十香が、リズミカルにタンバリンを振りながら、歌を歌っていたのである。

しかも驚くべき事に、その歌は。

 

 

『_____笑顔絶やさずに There You Will………!』

 

「凄………ぇ」

 

「あいつ………!」

 

思わず聞き惚れるほどに、上手かったのである。

いや、正確に言うのなら、上手いとはまた違うのかもしれなかった。旋律に忠実に歌っているわけではない。多分にアレンジを含んだ歌い方だ。

しかし、その歌声は。歌は。聞いているものの心を、不思議と高揚させた。

 

 

『_____Be The One!Be The One!All Right!明日の地球を投げ出せないから Be The Lights!Be The Lights!All Right!強くなれるよ 愛は負けない______!』

 

 

「______」

 

そこで十香の表情を注視した士道は、思わず目を丸くした。

十香の表情には、大舞台の気負いも、美九への敵愾心も、大仕事を背負わされた義務感も、これっぽっちも感じられなかったのである。

 

ただ、楽しそうに。

 

士道や戦兎たちと一緒に演奏出来ることが、嬉しくて楽しくて堪らないといった様子で、『音』を『楽』しんでいたのだ。

 

 

『何かを助け救って抱きしめ 心に触れて届くよ 伝われ___!』

 

 

________そうだ。

 

そういえば十香は、練習の間、ずっとあんな顔をしていた。

多分、歌詞だって覚えようとして覚えたものではないだろう。士道が、折紙が歌っていたそれを、楽しんでいるうちに覚えてしまったのだ。

 

 

『Be The One!Be The Lights!メッセージ 送るよ、響くよ………!』

 

 

「………は、は、は」

 

「………最っ高だな____!」

 

自然と、笑みが溢れていた。

今の今までのし掛かってた重圧が、嘘のように消え失せている。自分でもびっくりするくらい、指が軽やかに動いた。それを意識した瞬間、士道と戦兎は今までで一番の演奏を奏でた。

 

 

______こんな楽しい歌を聴かされて、楽しくなれない人がどこにいるか____!

 

 

恐らく戦兎はともかく、士道の曲調は滅茶苦茶だろう。士道は戦兎のような天才じゃない。こんなにわか仕込みの演奏法で、完璧なアレンジなど出来るはずもなかった。

 

だが、今ならば、違う。

 

何故なら今は、一人ではないのだから_____

 

そう。急な士道達の暴走を即座に汲み取った耶倶矢と夕弦が、見事にその滅茶苦茶な演奏をフォローしてくれていたのである。そしてそんな曲調の変化を感じたのだろう、十香がチラと士道達を一瞥し、()()()()()()()輝くような笑みを向けてきた。

 

「…………!」

 

瞬間____どくん、と心臓が跳ねた。

先ほどのような嫌な緊張によるものではない。もっと違う________

そこで、士道の頭の中に、密かな欲求が現れた。

 

______十香と、歌いたい。

 

下手だろうが何だろうが関係ない。ただ、歌いたい。

十香と、このみんなと、一緒に、この演奏を_______!

 

 

『Oooh Oh……Be The One!Be The One!Be The Lights!』

 

 

二番が始まると同時、士道は十香に合わせて歌い始めた。

 

 

『何より 大事な出来事 生きてる 今夜を_____』

 

『____必ず前に進めなきゃいけない_____』

 

 

「………………!」

 

十香が、歌い続けながら驚いたように士道を見てくる。

だが、それも一瞬のこと。十香は先ほどよりももっともっと嬉しそうに、声を弾ませた。

 

 

『_____昨日より 強さと優しさ 大人になってる______』

 

『_____みんな感じてる There You Will………!』

 

 

そんな十香に置いていかれないように、喉を震わせる。先ほど全く出てこなかった歌詞は、意識せずとも唇から紡がれていった。

 

_____その歌はまるで、戦兎や、十香達との出会いを、表しているようだった_______

 

 

『_____Be The One!Be The One!We Will 必ず夜明けを願ってくるから_____!』

 

『Be The Lights!Be The Lights!We Will 未来へ繋ごう 過去を労ろう______!』

 

『今を生きよう そして忘れない____!』

 

『奇跡と偶然 太陽と月_____!』

 

 

歌っている間、士道は美九との勝負のことを全く忘れていた。

ただ、単純な一個の感情に頭が支配されていく。

 

 

楽しい!

 

____楽しい!!

 

_______楽しいッ!!

 

 

『_____Be The One!Be The One!You Will Be The One!』

 

『We'll May Go By………!』

 

 

_____気づけば、もう曲が終わっていた。

 

ハッと肩を揺らす。全身が汗で、プールにでも飛び込んだかのように濡れていた。

 

「シドー!」

 

と、十香が目も眩むような笑顔のまま走り寄ってくる。

 

「手!」

 

「お………おう!」

 

言われるがままに手をあげると、そこに十香の手がパチン!と叩きつけられた。

 

瞬間_____士道の耳を、割れんばかりの拍手と大歓声が震わせた。

 

「士道」

 

ふと、後ろを振り返る。

 

そこには戦兎がくしゃっとした笑顔を浮かべながら、グッとサムズアップしていた。

 

士道もそれに返すように、グッと親指を立てる。

 

 

今まさに_____会場(ステージ)は、一つになっていた(Be The One)_______

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?
まずは折紙さんが変身。その名も、仮面ライダーアヴェンジャー。
ボトルの成分が何故鳶ではなく鷹の『HAWK』なのかというと、彼女の苗字にある『鳶』がタカ目タカ科の鳥で、ビルドのボトル的にも鷹のほうがいいかなと思ったからです。

名前の由来はというと、まあ精霊への復讐者だから、という感じからなんですが。
しかし『Avenge』という単語は正当性のある復讐、という意味があるので、何も知らない人にとって精霊は憎むべき対象であり、それを排除しようとしている彼女は、多くの人々からすれば正当性がある、という理由もあってつけました。

そして今回のサプライズ(?)演出の、ライブでBe The Oneを歌うシーン。
これはもうこの作品書き始めた当初からやりたかったシチュエーションなので、書けて満足です。ちょっと歌は後半端折っちゃいましたが、一応やりたかった事はやれた感じですね。完全な自己満足ですが。

あとはちょこっと、解説でも。


・仮面ライダーアヴェンジャー

変身者:鳶一折紙
アイテム:量産型リバースドライバー、ホークオルタナティブフルボトル

リバースドライバーを用いて、鳶一折紙が無理やり変身した姿。
全体的にカラーリングが黒く、複眼部のみ白く光っている。
量産型の副作用、変身条件の軽減化と、前回のイフリート戦での使用による耐性、士道への思いによってどうにか変身できた。
スペック的にはデウストルーパーを上回り、又ホワイト・リコリスとの併用によってとんでもない戦闘力を発揮するが、そもそもが適合手術無しに変身したことによる無茶なケースである為、戦闘可能時間は短い。
また副作用も無くなったわけではないため、戦闘を続けるほどに折紙の肉体も細胞変質による痛みに蝕まれるため、変身者への負担も尋常では無い。
それでも彼女が戦えるのは、ひとえに士道への『愛』故にである。

こんな感じです。無理矢理感が否めませんが、ひとまずはこういう事にしておいてください。

それでは次回、『第63話 引き裂くソングと蘇る牙』をお楽しみに!

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第63話 引き裂くソングと蘇る牙

一海「精霊にしてアイドルの誘宵美九と、仮面ライダーアライブこと五河士道。両者の思惑が交錯する中、天央祭はついにステージに突入。耶倶矢、夕弦、戦兎を加えてメンバーで、士道たちはステージに臨み歌い切るのであった」

万丈「なんでかずみんがあらすじ紹介してんだよ!」

一海「戦兎達はステージに立ってる最中だろうが。ていうか問題はその後だよ。なんだよ仮面ライダーアヴェンジャーって。また新しい仮面ライダーかよ」

折紙「その通り」

一海「うわびっくりした!なんだこいつ」

折紙「ようやく私も仮面ライダー。これで士道と一緒」

万丈「一緒ってなんだよ」

一海「てかお前、変身してる時めっちゃ苦しそうだったけど大丈夫か?」

折紙「問題ない。全身骨折したような痛みと頭がガンガンするくらい」

万丈「それ全然大丈夫じゃねえだろ!」

一海「こんなとこいないで病院行け病院!」

折紙「それはできない。今私は戦闘中」

万丈「じゃあどうやってあらすじ紹介してんだよ!だーもう!なんだかよく分かんねえけど第63話どうぞ!」

一海「あ、それとあとがきに詳しいこと書いてあるが、今回からまた前と同じ不定期スタイルに戻るらしいぞ。勝手だが、そこんとこよろしくなー」




「…………」

 

今しがた撃墜した、バンダースナッチと呼ばれる機械人形の残骸が地面に落ちていくのを視界の端に捉え、息を吐く。

そしてすぐさまギリと奥歯を噛み締め、脳内で指令を発する。

 

「………士道には、指一本、触れさせない………!」

 

全て(こわ)す。目の前に立ち塞がるもの、全て。

脳に膨大なまでの情報量が、滝のように押し寄せてくる。それらを全て処理し、相手を屠る。全身を巡る痛覚も、今は感じないほどであった。

視界内のデウストルーパーとバンダースナッチに狙いを定め、定点随意領域(テリトリー)を限定展開。精度は低いものの、それでも足を止めるくらいはできる。その隙にコンテナから、雨のようにミサイルが放たれた。

 

バンダースナッチ二体の破壊を確認。デウストルーパーはギリギリで逃れたようだが、このミサイルは最初からトルーパーを堕とす事を前提としていない。

間髪入れずドライバーを操作し、レーザーカノン砲へエネルギーが贈られる。

 

 

【STAND BY AVENGING DESTOROY】

 

 

「ハァ_______ッ!」

 

レーザーカノンの砲門から、スパークを放つ、柱のような黒いエネルギーが放出される。

ミサイルを間一髪で避けたデウストルーパー隊も即座に対応しきれず、二名程が変身解除され、ユニットから黒煙を噴いて落下していった。

 

『くそッ、くそッ、一体何なのよあなたハ!』

 

バンダースナッチが、トルーパー隊が、次々と撃墜されていく。数で押そうが、全てはミサイルと黒雷に消える。

白い彼岸花と、黒の復讐者を倒す手立てが無い事にジェシカ、否、【レッドトルーパー】は苛立ち、恐怖する。

 

「破壊する………全て、破壊する………ッ!」

 

この身に付けたドライバーの影響か、アヴェンジャーとホワイト・リコリスの攻撃は弱まるどころか、熾烈さを増す一方だった。

バンダースナッチなど、最早唯の動く案山子だ。通常のCR-ユニットであれば脅威ではあるが、ホワイト・リコリスとリバースドライバーの前では物の数ではない。

 

『撃テ!撃テ!』

 

トルーパー隊がひたすらにレーザーと弾幕を展開、そしてデュアルスレイヤーによるボトル攻撃を仕掛ける。視界を埋め尽くさんばかりの攻撃が、アヴェンジャーに迫ってきた。

 

「アアアアァァァァ______ッ!!」

 

その弾幕を普段の彼女からは想像もつかないような咆哮を上げながら、左右のブレイドユニットより黒雷を発生させ、撃墜していく。

防ぎ切れなかった弾薬は、随意領域(テリトリー)を防御特化させ防ぐ。この程度なら何発食らおうと_____

 

「………っ!?」

 

そう思った瞬間、アヴェンジャーの視界がぐらりと揺れた。

一瞬随意領域(テリトリー)が乱れ、ホワイト・リコリスの装甲に何発かの弾薬が炸裂する。とはいえライダーシステムの恩恵もあってか、その衝撃は全て吸収された。

だが、次の瞬間_____

 

「ぐっ………!?あっ、がぁッ…………!!」

 

先程から全身を巡っていた鈍い痛覚が、急にその激しさを増し、アヴェンジャーの、折紙の肉体を蝕んだ。まるで、鋭利な刃物で全身の血管を切り刻まれたような激しい痛みが、折紙を襲う。

さらに全身のアーマーからは火花が散り、複眼部の『ホワイトヴィジョンアイ』から送られる映像が乱れる。

 

『……………ン?』

 

そんな折紙の様子を不審そうに見ていたレッドトルーパーが、仮面の下でピクリと眉を揺らす。

 

『あ_____はハ。はははハッ!______そろそろ、タイムアップみたいネ』

 

「そん、な…………っ!?」

 

次の瞬間、折紙の全身を包んでいた装甲が消え失せ、変身が解除された。

更にはドライバー内部のボトルが砕け散り、中の成分が液体となって滴っている。

元より耐久性の低いオルタナティブフルボトルで、更に適合手術無しの強引な変身だったのだ。ボトルにかかる負荷は相当なものだろう。

 

と、その時。目元と口元に何かぬるりとした感触が生まれ、視界が赤く染まった。

視線を敵から外さぬまま手で拭ってみる。すると、手のひらにべったりと血が付着したのが分かった。どうやら、目と鼻から血が流れていたらしい。

 

「ガハッ………!?」

 

そして続くように、口から血を咳出してしまう。思わず手で覆うと、掌は元からその色であったかのように真っ赤な血に染まった。

 

「これ、は………」

 

次いで強烈な頭痛と目眩に襲われながら、折紙は呻くように言った。

この感覚は初めてではない。______活動限界である。

このまま戦闘を続行すれば、折紙は死ぬ危険すらある。ホワイト・リコリスのみ使ったのであれば、まだ身体障害に留まったかもしれなかった。だが、ライダーシステムの無茶な仕様のツケだろう。既に全身はボロボロで、意識を保っている事すらやっとであった。

 

さらにレッドトルーパーの後方の空に、いくつものシルエットが現れた。バンダースナッチだ。

そのボディには欠損が全く見られず、どうやら折紙が撃墜したものではなく、どこからか送られた増援らしい。

 

『ふフ。さぁ形成逆転ヨ。よくもやってくれたわネ。_____ただで済むと思うなヨ』

 

「………く」

 

折紙は全身を巡る激痛と頭痛、赤く染まる視界の中、ギリと葉を噛み合わせた。

 

 

 

 

『そして、ステージ部門第一位を栄冠を手にしたのは………やはり強かった!王者・竜胆寺学院ッ!!』

 

『おおおおおおおおおおおおおおおお__________ッ!!』

 

天央祭、一日目結果発表。

天央セントラルステージは、大歓声に包まれた。

 

それもそのはずだ。今、全てのステージ、および投票の結果が発表されたのである。

そして結果として______士道達は、ステージ部門で敗れた。

 

「し、シドー……」

 

士道が放心していると、十香が。モニタに表示された順位に視線をやりながら声を発してきた。その表情は不安の色に染まり、僅かに指先も震えている。

 

「ま、負けてしまった………のか………?わ、私が、歌ったから………」

 

「!ち、違う!十香のせいなんかじゃない!」

 

士道が首を横に振るも、十香の今にも泣き出してしまいそうな表情は晴れなかった。まるで士道の言葉が聞こえていないかのようである。

 

「ふふ、ふふふふー……ほうら、ね。私の言った通りでしょう?仲間なんかに、しかも一人は男に期待しすぎるからこんな事になるんですよー」

 

「美九……」

 

未だ続く司会者のアナウンスをBGMに、美九がニヤニヤと笑いながら近づいてくる。

 

「くっ、ふふふ………ハハハハハハッ!」

 

すると今まで黙っていた戦兎が、突然笑い声を上げた。

 

「せ、戦兎………?」

 

「何ですかあなた急にー。ちょっとその臭い口を今すぐ閉じて下さいよ。今私は士織さんと話してるんですからー」

 

「い、いや、悪いな。ただ、結果ってのは最後まで聞くもんだぞ」

 

「え?」

 

と。

戦兎がそう言った瞬間、司会者が今までで一番大きな声を張り上げた。

 

『_____と、いうわけで!天央祭一日目の総合一位は、来禅高校に決定いたしましたぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

「…………へ?」

 

美九が、呆然と目を丸くする。

それは士道達も同じだった。唯一戦兎だけが、全てを分かっていたかのような顔で笑いながら、「どーもどーもー!」とか言いながら観客に向かって大手を振っている。

 

『なんとも意外な結果になりました。ステージ部門では他を寄せ付けない圧倒的なパフォーマンスで一位を掻っ攫った竜胆寺ですが、どうやら今年は展示部門や模擬店部門が振るわなかったようですね』

 

「え………?え………?」

 

美九が、意味が分からないと言った様子で顔を左右に振る。

 

『その隙を、ステージ部門二位に付けた来禅が衝いたという訳ですね。特に模擬店部門のメイド&執事カフェの得票数が凄まじい!審査の際に物議を醸したという話ですが、実行委員の熱心なプッシュが功を奏した形になりますね!』

 

「は、は………」

 

士道は力無く笑った。

まさか、こんな場面で亜衣麻衣美衣に助けられるだなんて、思いもしなかった。

 

「シドー!」

 

十香が表情をガラリと変えて飛び付いてきた。それから一拍遅れて耶倶矢と夕弦も駆け寄り、戦兎が背後から笑顔を浮かべて士道の頭に手を置く。

 

「かかか!当然だな!我らの手にかかればその程度容易いものよ!」

 

「同調。その通りです。夕弦たちが向かう所に敵無しです」

 

「ああ、俺たちが創った勝利だ」

 

そうしてもみくちゃにされる内、士道はようやく実感が胸に広がっていくのを感じた。

 

______勝った。

 

勝った、のだ。

 

美九に。竜胆寺に。

 

『______それでは、今から表彰を行います。代表者は前に出てきて下さい』

 

司会者がそう言い、三組の出演者を前方に促す。

が_______

 

「………ふざけないでください。何です、これ_____」

 

背後から、震えた美九の声が聞こえてきた。

 

「おかしいでしょう………?私が負ける訳ないじゃないですかー……」

 

美九はフラフラとした足取りで、前方へと歩いて行った。

 

「私は_____誘宵美九なんですよ?私は……私は………ッ」

 

「………美九」

 

士道は胸に手を置いてから、静かな声で呼びかけ、歩いて行った。

が、そこで美九がビクッと身体を震わせる。

 

「やめてよ………わ、私は勝ったもん………ちゃんとかったもん!あの子達が………あの子達がちゃんとしてないから!」

 

「………そんなこと言うもんじゃないぞ。竜胆寺の生徒だって、一生懸命やったはずだ」

 

「し、知らない!そんなの知らないです!私は……私は、勝ったのに……!」

 

「確かにお前は勝ったな。でもそれは、お前一人だけだ」

 

美九の言葉を遮るようにして、戦兎が歩み寄ってくる。美九は戦兎の姿を、憎々しげに見つめた。

しかし戦兎は、続ける。

 

「俺たちは、来禅は。一人で戦ってたわけじゃない。確かに一人では、お前に勝つことは無理だったかもしれない。だからこそ助け合い、一緒に支え合う相手が必要なんだ。そしてその相手を……仲間って言うんだ」

 

「……な、かま………」

 

美九が忌々しげに呟き、渋面を作る。戦兎の言葉に続けるように、士道が頷いた。

 

「ああ。俺たちは確かに、歌でお前に敵わなかった。……でも、カフェや、他の出展物を用意してくれた生徒たちが、俺たちに足りない部分を埋めてくれたんだよ」

 

「な、何よ………それ。仲間……?ははっ、人間風情が、そんな事、出来る訳………?」

 

「出来たんだよ。そんな人間風情の小さい力でも、共に創った絆で一つに繋がれば、大きな力になる。………な?人間って………面白いだろ」

 

士道がそう言って笑う。

すると、美九は、俯かせていた顔をゆっくりと上げる。

 

「………だったら、私だって、証明してあげますよ。仲間?絆?そんなもの、私の前じゃ無意味だって…………ッ!」

 

そして顔をバッと上げると、両手を大きく上げた。

 

 

 

「________破軍歌姫(ガブリエル)!!」

 

 

 

美九が会場全体に響き渡るような絶叫を上げたかと思うと、次の瞬間、美九の足元の空間に放射状の波紋が広がっていった。

 

そしてその声に呼応するように、まるで聖堂に設えられているかのような、巨大なパイプオルガンが顕現した。

周りもそれが演出の類でない事に気付いたらしく、辺りをどよめきが包んでいく。

だが美九はそれらを意に介する事なく、光り輝く鍵盤を手元に顕現させた。

 

その天使が一体どのような意図で呼び出されたのかは分からない。だがそれが、その場にいる人間にとって破滅的な状況を作り出すであろう事は容易に想像が付いた。

 

「まさか………!ッ、だとしたら、まずい…!夕弦!」

 

「えっ……?」

 

戦兎が何かに気付いた様子でハッとした表情になると、最寄りにいた夕弦の耳を、ポケットから取り出した何かで塞ぎ、抱き抱えるようにして後ろへと下がった。

 

「美九!待て!話を聞いてくれっ!」

 

士道が止めようと駆け寄ったが、遅かった。

 

 

「歌え!詠え!謳え!_____【破軍歌姫(ガブリエエエエエエル)】ッ!!!」

 

 

______その瞬間、その世界(ステージ)は、歌に包まれた。

 

 

 

 

『______基礎顕現装置(ベーシック・リアライザ)並列駆動。魔力充填開始。収束魔力砲【ミストルティン】用意。目標____天宮スクエアセントラルステージ』

 

空中艦フラクシナスは今、混沌とした空気に包まれていた。

令音が士道たちのステージを見た美九の精神状態についての解析を詳しく行いたいという連絡を受け、四糸乃を一海に任せて戻ってきたが、その時既に、艦内は異様な雰囲気と化していた。

 

 

「____あっはははは!バーカ!美九お姉様を騙した報いよ!死ね!死んじまえ!その命、神様に返しちゃいなさい!」

 

 

艦長席____ではなく、四つん這いになった神無月に腰掛けた琴里が、何かに取り憑かれたかのような様子で、モニターに向かってそんな罵詈雑言を吐く。

モニターを見ると、そこには士道や戦兎達が映されていた。側には万丈や一海の姿も見受けられる。だがよく見ると、士道達は何故か、四糸乃と耶倶矢に囲まれていた。しかもただ囲まれているだけでなく、四糸乃と耶倶矢は天使まで顕現させていた。

 

そしてステージの奥には、そんな二人に守られるように、誘宵美九の姿があった。

 

どう見ても緊急事態である。だがそんな事など知った事ではないように、クルー達は琴里と同じように中指を立てたり親指を下げたりしながら、口々に士道を罵っていた。唯一無事だったのは、令音を除いてはクルーの一人である椎崎のみだ。

 

だがその二人も、正気を失ったクルー達によって組み伏せられ、身動きが取れない状況にいた。

 

更に先ほど流れた、無機質なアナウンス。二人は同時に、コンソールに向かいながらカラカラと笑う琴里と、それに腰掛けられ恍惚とした表情を浮かべる神無月に目をやった。

二人に気付いたのか、視線を向けて、ニィ、と唇の端を歪める。

 

「_____セット完了。あとはこのボタンを押せば_____ドッカーン!」

 

爆発を表現するように両手を広げ、琴里が叫ぶ。そのあまりにも無邪気な仕草に、椎崎の顔は青ざめた。

 

「じ、冗談ですよね……?」

 

「あっはは、面白いこと言うのね椎崎。本気に決まってるじゃない」

 

冗談めかすように言って、琴里がバッと腕を高く上げる。

 

「………く」

 

令音は自身を組み伏せている箕輪を一瞥したのち、椎崎に目をやった。

このままでは_____

 

と、そんな思考を遮るように、令音の耳にとある音が聞こえてきた。

艦橋のドアが開く音。床を蹴る音。そして______

 

「ふげ………ッ!?」

 

いきなり現れた人影に鳩尾を打たれ、昏倒する琴里の声が。

その人影は倒れ込んだ琴里の身体を支えると、神無月の後頭部を踏みつけて気絶させ、面倒そうにぽりぽりと頭を掻きながら言ってきた。

 

「全く、何なんですかこのアラームは。人が折角ぐっすりスヤスヤ夢の中に居たってのに、もうちょっとくらい静かにできねーんですか?折角良いとこだったってのに」

 

いやに特徴的な口調で彩られた声で、一人の少女が立っていた。

崇宮真那_____AST三尉にしてDEMの出向社員。そして、士道の実妹を名乗る少女だ。

 

「それで。話を聞く限り、何だか琴里さんがトチ狂っていやがったようなので一発お見舞いしてやったわけでしたが………オーケイでした?」

 

「………ああ、ファインプレーだ。できれば、私たち以外のクルーも気絶させて貰えるとありがたい」

 

「そりゃまあ、構わねーですけども」

 

真那はそう言うと、琴里の身体を床に落ち着け、瞬く間に艦橋のクルー全員を昏倒させてしまった。

 

「ふぅ、いっちょ上がりです」

 

パンパン、と手を払い、真那が令音に視線を向けてくる。

 

「で………一体何があったんです?」

 

「………まだ確証はないが、精霊の攻撃によるものだ。相手の精神に干渉してくる類の物だろう。恐らくは『音』に霊力を乗せて」

 

「はー……そりゃまた厄介なものが」

 

と、辟易するように言いながらモニターに目をやった真那は、小さく息を詰まらせた。

 

「に………兄様ッ!?それに……戦兎さんと、万丈さん!?」

 

どうやら艦橋内に気を取られすぎて、モニター内の状況に気付いていなかったらしい。モニターに駆け寄り、ダンダンと地団駄を踏む。するとモニタ内で、戦兎と万丈が、ビルドとクローズに変身した。

 

「って、え、えええええええッ!!」

 

どうやら、彼ら二人がビルドやクローズの変身者とは知らなかったらしい。真那が驚愕の声を上げる。

 

「い、一体どういう事ですかこれは!なんで兄様があんな危険なところに!それにどうして兄様の友人の二人が、ビルドとクローズなんでいやがりますか!?」

 

「………落ち着きたまえ。彼らは味方だ。そして今敵対しているのが、件の音を操る精霊だ。_____こうなったら、やむを得ない」

 

そういうと令音は、艦橋での自分のいつも座っている席に向かい、足元のスペースから何かを取り出した。

銀色に光る、それなりの大きさのアタッシュケースである。それを持って真那の元へ行き、口を開いた。

 

「______君に、頼みたい事がある」

 

 

 

「はぁっ……はあっ……」

 

『はははははハ!ここまでよく凌いだわねェ。でも、もう終わりヨ!』

 

レッドトルーパーの高笑いが、激しい痛みに苛まれた脳に響く。

先程まで折紙は、デウストルーパーとバンダースナッチ相手に、手負いの状態で凌いできていた。だが、それももはや限界だ。

ホワイト・リコリスは中破状態であり、まともに使える武装はベルトのサイドに取り付けられた【デュアルスレイヤー】のみ。しかしそれもボトルが壊れた以上、決定打は望めない。

それに何より、折紙自身の肉体も限界に達していた。目、鼻、口からの出血は更に酷くなり、ついには耳からも出血が始まっている。さらに先ほどよりは和らいだとは言え、全身を継続的に襲う鈍痛が、思考を遮っていた。

 

対して敵の数は圧倒的。デウストルーパーが五人、バンダースナッチが少なく見積もっても二十。

 

圧倒的戦力差と、機体の損傷に肉体の摩耗。これ以上は本当に死ぬかもしれない。

だがここで折紙が離脱すれば、士道がDEMに拉致される事は明白であったし、何よりこのまま彼女らが素直に折紙を逃すとは考えられなかったのである。

それを示すように、折紙の周囲をデウストルーパー隊とバンダースナッチが、取り囲むように展開した。

 

『ふフ。本当はもうちょっと可愛がってあげたいとこだけど、こっちも時間が押してるのでネ。終わらせちゃいましょウ』

 

言って、折紙に指を突き付けてくる。

それに合わせて、周期に展開していたバンダースナッチが一斉に動き、右腕に携えていたレーザーカノンを向けてくる。

 

「………く」

 

回避行動を取ろうとするも、もう限界だった。肉体が悲鳴をあげ、視界は既に真っ赤に染まり切り、意識が朦朧としていく。

 

結局………自分は無力なままだった。

 

顕現装置(リアライザ)を用いても、最強装備のホワイト・リコリスを使っても、挙句には無茶をしてライダーシステムに頼っても、折紙は士道を守れなかった。

 

______私にもっと、力があれば。

 

何者をも寄せ付けぬほどの、圧倒的な力があれば。

 

「士、道………!」

 

「さあ、やっちゃっテ」

 

ジェシカの声に応じるように、バンダースナッチが引き金を絞ろうとする。

 

だが、その瞬間。

 

折紙の霞む視界を何かが通り抜けたかと思うと、レーザーカノンの砲身が、綺麗に切断された。

 

砲身に充填されていた魔力が、砲身を巻き込み爆散、金属片が撒き散らされる。

非常事態を認知してか、バンダースナッチが頭部をあちこちに向ける。

 

『な……一体何事ヨ!?』

 

しかもそれだけではなかった。

再び折紙の視界を青いシルエットが通り抜け、次の瞬間にはバンダースナッチの頭部が宙を舞っていた。

 

『な_____!』

 

レッドトルーパーの狼狽と共に、折紙を囲っていた数機のバンダースナッチが一斉に機能を停止し、バラバラと地面に落ちていく。

 

「これは………一体………」

 

折紙が朧げな声で呟く。

するとその声に応えるように、折紙の前に蒼い機械の鎧を纏った人間が現れる。

見た事のないタイプのCR-ユニットである。両手両足胸部を覆う流線型の装甲と、背に搭載された巨大なスラスターパーツ。

そしてそれを纏った人間の顔を見て、折紙は思わず息を詰まらせた。

 

「真那____?」

 

「お久しぶりですね、鳶一一曹」

 

その少女が振り向き、折紙に視線を向けてくる。

それは間違いなく、かつて折紙と共に戦った士道の妹、崇宮真那だった。

 

時崎狂三との戦いで未知のアンノウンに変身し重傷を負った後、入院先の病院から姿を消して、そのまま行方知らずと聞いていたのだが____

 

「なぜ、こんなところに。それに、それは………」

 

「細けー話は後です。今は兄様を助けるのが先決でしょう?大丈夫。あいつらは私に任せやがってください」

 

そういうと真那は何かを取り出し、顔の横に持って行った。

 

取っ手のような物が側部についた、青と銀色の、ベルトのバックルの様な物である。

どこかリバースドライバーに似ているが、全くの別物であると言えた。

 

「ビルド____戦兎さん。少し、お借りしやがりますよ」

 

そう言ってバックルを腰に持っていくと、銀色のベルトが自動で巻き付く。

 

 

 

【モデライズドライバー!】

 

 

 

『それハ………』

 

レッドトルーパーが戸惑ったような声をあげる。

真那はベルトを【ウェアードバインダー】により装着すると、今度はボトルを手にした。

ビルドか使うそれと形は同じだが、上下のパーツが青いのが違かった。

その、狼の意匠が施されたボトル_____【ウルフマテリアルフルボトル】を、数回振り、成分を活性化させる。

そしてキャップを閉じると、ベルトのレバー____【ジェネレイトチャージャー】を引く。

するとベルト上部の中心部が斜めに開き、真那はそこにボトルを差し込んだ。

 

 

 

ウルフ マテリアル!

 

 

 

軽快な音声が鳴ると、そこから狼の咆哮と疾走感のある待機音声が流れた。

そこから真那は両手を顔の前で十字にクロスさせ、叫ぶ。

 

 

「変身!!」

 

 

叫ぶと同時にクロスさせた手を下へ開き、左手で右部のチャージャーを押し込んだ。

 

 

 

【ARMOR UP!!】

 

 

 

押し込まれ、内部へとボトルの成分が送られたドライバーが、内蔵された変身用顕現装置(リアライザ)を起動させる。

瞬間、真那を中心として複数のリングが現れ、それらがまるで真那を閉じ込めた、フルボトルのような小型ファクトリー、【アームモデリングビルダー】を生成した。

 

だが、それも一瞬。内部で次々と脚、腕、胸のアーマー、【WMプロテクションアーマー】が創られる。

そして真那がアンダースーツに包まれ、それらのアーマーが順番に装着されていく。最後にマスク、【WMヘッド】が装着され、後頭部から狼の尾のようなパーツが、生えるように生成された。

 

やがてファクトリーが弾ける様に消え、その姿が露わになる。

 

 

 

【HOUNDING BEAST!!ウルフ・オブ・ファングッ!!ハァッ!!】

 

 

 

______蒼き狼の戦士が、そこにいた。

 

銀と黒に輝く、稲妻が走ったような形状アーマーに、黄色に光る少し吊り上がった、小さな涙のようなラインが入った複眼。

 

デモリッシュとは違う、新生、崇宮真那の仮面ライダー。

 

 

「……ふむ、中々良い着心地でいやがりますね。快・感って感じです。名前は………そうですね。仮面ライダー……ファング

 

 

戦兎が創り出した新たなるベルト、【モデライズドライバー】によって生まれた、全く新たな仮面ライダー、ファング。

 

 

「……私の牙は、荒っぽいですよ」

 

 

その牙が今、大事な物を守るため、眼前の敵を屠らんとしていた。

 

 

 




どうでしたか?

ということで。すいません。毎週日曜(というか月曜)の0時に投稿するって言ってたんですが、やっぱ前と同じで書きあがり次第投稿するスタイルに戻します。

理由といたしましては、自分の性格の問題もあるんでしょうが、定期にするより書き上がったらすぐに上げる方が楽だと思ったからですね。更新まで待つのが楽しみな読者さんには申し訳ないですが。
勝手ではございますが、前と同じスタイルで更新していくので、よろしくお願いします。

そして今回。
無茶して変身したので原作よりヤベーイ事になってる折紙さん。オディガヴィドカラダヴァボドボドダ!
アヴェンジャーはまた活躍がある予定ですので、よければ楽しみにしていってください。

そして、またまた出ました新ライダー、仮面ライダーファング!

これもずっと出そう出そうと思ってたライダーですね。真那さんがこれに変身した事によって、出番も原作よりかは増えると思われます。真那ファンの人もそうで無い人も楽しんでいってください!
変身エフェクトに関してはドライブのやつに近いので、ドライブの変身エフェクトで再生すると近いかと思われます。
ベルトの構造は、マッハドライバーにゴーストドライバーの取っ手をプラスした感じですね。

そしてこちらが、仮面ライダーファングのイラストになります!


【挿絵表示】


拙いのとCR-ユニットが無い事にはちょっと目を瞑って欲しいです。そこまで描けなかったんや(涙目)
あとベルトが今考えてる形と描いてた時に考えてた形とで少し違うので、今度また別でベルトのイラストは出したいと思います。

ファングの解説については次回載せたいと思います!

それでは次回『第64話 奪われたヒーロー』をお楽しみに!

最近感想少なくて寂しい………(露骨な誘導)
よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!







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第64話 奪われたヒーロー

士道「はぁっ、はぁっ……!精霊にして、アイドルのっ、誘宵美九と……!仮面ライダーアライブの、五河士道………って、なんで逃げ回りながらあらすじ紹介してんだよ!」

戦兎「仕方、ねえだろ!今色々、追い詰められてんだから!ハッ、ステージ対決の結果、来禅高校が美九率いる竜胆寺学院に、総合で勝利を収める。だが、それを納得しない美九は、天使を顕現させるのであった。そしてそんな中、崇宮真那が変身して………って、なんであいつ勝手にあのベルト使ってんだよ!俺確か令音さんに渡したよな?まさか…………いや、とりあえず第64話、どうぞ!」


「仮面ライダー………ファング………」

 

折紙は、半ば呆然と呟いた。

突如目の前に現れ、バンダースナッチを一掃した真那が、今度は見たことのないベルトで変身したのだ。そうなるのも必然であろう。

 

『一体、どういう事ヨ………タカミヤ・マナ………!?』

 

そして真那_____否、ファングの眼前にいたレッドトルーパーが、驚愕に染まった声を発する。

 

「おおその声、誰かと思えばジェシカじゃねーですか。なんで日本になんていやがるんですか?」

 

『あなた、一体なぜ、それにそのベルトは_____いえ、それよりも、今自分が何をしたのか分かっているノ!?』

 

「それはこっちの台詞です。一人相手にこの大人数なんて、しばらく見ねー間に随分とやり口がセコくなったんじゃねーですか?」

 

『そういう問題じゃないでしょウ!なぜ私たちを攻撃するノ!答えなさい、アデプタス2!』

 

レッドトルーパーが金切り声を上げて叫ぶ。ファングはやれやれと肩をすくめた。

 

「昔のコールサインで呼ぶのはやめてくれねーですか?社長に伝えといてください。______わりーですけど、私DEM辞めます。退職金は貴様の首で勘弁してやります、って」

 

『な______』

 

ファングの言葉に、レッドトルーパーと、他のデウストルーパー達が声を詰まらせる。

 

『貴方_____ウェストコット様を裏切るつもリ!?栄えあるアデプタス・ナンバーの次席に名を連ねられた貴方ガ!」

 

「まあ、有り体に言うとそういう事です」

 

ファングが右手をスナップさせる。

 

「この場は、貴方達が私に恐れをなして引いてくれやがるってのが一番理想的なパターンなんですけれども、どうですかね?」

 

『………っ!ふざけるナ!ウェストコット様の命令に背く事なんて______』

 

「まあ、そーですよね。でも」

 

そう言った瞬間、ファングの姿が稲妻のように掻き消えた。

 

「………!?」

 

 

【ファングクラッシャーッ!】

 

 

そして驚愕を隠し切れないレッドトルーパーの背後に現れると、電子音とともに右手に奇妙な、まるで狼の頭部のような形をした武器を構え、一閃する。

 

 

【エッジ・ファング!】

 

 

「この………っ!」

 

ジェシカが身をよじるも____遅い。ファングの専用武器、【ファングクラッシャー】の下部から展開されたブレード、【エッジファング】は、レッドトルーパーに装備されていたユニットとスラスターをバターのように切り裂いた。

 

どうやら刀身の表面に生成魔力で作った細かなレーザーエッジを蠢動させているようだ。見てくれは剣のそれだが、構造はチェーンソーのそれに近いようだった。

 

大きくバランスを崩されたジェシカは、しかし戦意を失う事なくベルト側部のハードポイントからデュアルスレイヤーを引き抜くと、ファングに向かって振り抜いた。

 

 

【ブラスト・ファング!】

 

 

だが悲しいかな、技量とユニット、そしてベルトの性能に差がありすぎる。

しかしベルトに関していうならば、無理からぬ事だろう。何故ならばそれは______崇宮真那がかつて使用し、今正にレッドトルーパーが装着している、【リバースドライバー】の設計データを基に開発され、性能、そして変身者への安全性を昇華させたベルト____【モデライズドライバー】なのだから。

 

ファングはレッドトルーパーの一撃を一度エッジファングで受け止めると、すぐさまモードを変更。

刀身をファングクラッシャー下部に折り畳むと、狼の頭部を模した先頭が開き、内部からエネルギーを撃ち出した。

 

『ぐ………ッ』

 

短い苦悶と共に、レッドトルーパーが下へ飛ばされ、地上との距離が近くなる。

しかしファングはそれを見逃すつもりなどないように、すぐさまドライバーを操作し、レッドトルーパーへ急降下する。

 

 

【CHARGE GO NOW!!】

 

 

「ハァァァァ______ッ!!」

 

アップテンポな音に合わせて、ファングの右脚にエネルギーが溜められる。

そしてレッドトルーパーを眼前に捉えると、背面スラスターを噴射させる。そしてその勢いのまま、敵へ空中回転キックを放つ必殺技_____

 

 

ハウンディング フィニッシュ!!

 

 

「ウォォォォ______ッ!!!」

 

レッドトルーパーに、空中の位置エネルギーも利用した渾身のキックを放つ。キックを放った右脚には蒼色の狼の頭部のようなエネルギーが形成され、叩き込まれた瞬間にレッドトルーパーを噛み砕く勢いで大口を開いた。

 

『くハ…………ッ』

 

「_____言ったでしょう?私の牙は、荒っぽいと」

 

ファングが、そう捨て台詞を吐く。

レッドトルーパーは苦悶の声を上げると、地面へと落下し、下で土煙を巻き起こした。どうやら落下の衝撃は随意領域(テリトリー)とライダーシステムの恩恵によって防ぎきったようだが、ダメージは酷いようだった。随意領域(テリトリー)はその衝撃を防いだ後にすぐさま解除され、アーマーも粒子となって消え失せた。

地上に一度降り、ぐったりとしたレッドトルーパー_____ジェシカを片手で持ちながら、ファングがふうと息を吐いた。

 

「………ふむ、これがモデライズドライバーでの変身ですか______初使用にしちゃ悪くない………ていうか寧ろ、前と比べたら良すぎて癖になりそうですね」

 

次いで空中へと飛んで戻り、残った四体のデウストルーパーに目を向ける。

 

「さあ、あなたたちの親分はご覧の有様です。DEMの魔術師(ウィザード)でありトルーパーなら、今の戦いで私に_____仮面ライダーファングに勝てるかどうかくらいは分かりやがったでしょう?」

 

ファングの言葉に、トルーパー隊が緊張した様子になる。ファングは再び一瞬のうちに残ったトルーパーの背後に移動すると、気絶したジェシカの身体を乱雑に放った。

 

『わ………っ』

 

急にジェシカを預けられたトルーパーは、慌てながらも随意領域(テリトリー)を操作し、その身体を支える。

そんな様子を確認してから、ファングがさらに言葉を続けた。

 

「見逃してやるって言ってんです。これが最後の警告です。そいつを連れてとっとと消えやがりなさい」

 

しかし、そんな警告で矛を収められるほど、トルーパー隊も物分りが良くはなかったらしい。複眼を光らせ、ファングを取り囲むように展開する。

 

「やれやれ………そんなにこの牙が欲しいなら、いくらでもくれてやりますよ」

 

ファングは黄色の複眼を光らせると、ファングクラッシャーを構えてそう呟いた。

 

 

 

 

「琴里!聞こえないのか、琴里!!」

 

今士道達を取り巻く環境は、最悪と言って良いほどに逼迫していた。

士道はインカムに手を当てながら、必死にフラクシナスとの通信を試みている。だが小突いてみてもノイズが走るばかりで、一向に通信が取れない。

そしてそんな士道に______辺りの温度が急激に下がったかと思うと、氷の柱が形作られ、襲いかかってきた。

 

「このッ!」

 

だがそれを、ビルドに変身した戦兎が、ドリルクラッシャーで打ち砕いた。

そしてその氷柱を作り出した張本人_______霊装を限定解除した、四糸乃に向き合い、叫ぶ。

 

「四糸乃!しっかりしろ、目を覚ませッ!」

 

「お………お姉様は、私が……守り、ます」

 

「四糸乃……!くそっ……!」

 

しかし四糸乃はなおも冷気を発生させ、ビルドに襲いかかる。

そしてそのすぐそばでは、凄まじい風の奔流が吹き荒れていた。

 

「おい!どうしちまったんだよ!耶倶矢!」

 

「くそっ、どうなってやがんだよ一体……!」

 

そこではクローズに変身した万丈、グリスに変身した一海が、暴風に抗うように必死に耐えていた。

 

「くく………愚かな。我らが姉上様に盾突こうとは、総身に知恵が回り兼ねておると見える」

 

「くそ、刺身だか香味だが知らねえが、正気に戻れ耶倶矢!」

 

クローズが叫ぶも、相手______限定解除した霊装の拘束具に身を包んだ耶倶矢は、巨大な槍を携え軽やかに空を舞っていた。

 

「俺から_____離れないんじゃなかったのかよ!!」

 

だが、クローズが言い放ったその言葉が、耶倶矢の動きを止めた。

 

「何を………ぐっ、うぅっ…………!?」

 

何やら頭を押さえ、苦しむ様子を見せる。

 

「くっ…………面妖な、事を。その口、すぐに閉じてくれる………!」

 

すると耶倶矢が苦悶の表情を浮かべながらも、風に乗りながら槍を構えてクローズへと迫る。

あと少しで槍の穂先がクローズを貫かんとした、その時。

 

 

______ガキィンッ!!

 

 

「何……?」

 

その槍を、ペンデュラムのような武器が弾いた。

そしてクローズ達に吹いていた風とは対照の方向に風を吹かせ、耶倶矢を吹き飛ばす。

 

「く………どういうつもりだ、()()よ」

 

「呼掛。正気に戻ってください、耶倶矢!」

 

耶倶矢の半身である夕弦は今____耶倶矢に敵対するように、その風を吹かせていた。

 

 

_____事の発端は、美九があの巨大なオルガンピアノを顕現させた事だった。

 

何故あそこまで人を恐れていたのかは士道達に分からない。考える暇すらないが、少なくとも分かったのは、美九が天宮スクエアにいた全ての人間を操った事であった。

例外は、精霊の加護を持った士道、戦兎、万丈と、幸いにもイヤーモニターを両耳につけていた十香、そして______美九が以前使っていた力からその能力を推察した戦兎が、咄嗟にポケットのイヤモニを付けさせた夕弦、そして何故か一海_____ハザードレベルによる影響だろうか______のみであった。

それらを除く全ての人間は、観客として来ていた四糸乃や、共にステージにいた耶倶矢も例外なく美九の支配下となった。

 

更に最悪な事に、あの能力が発動した直後に士道の女装が美九に露呈してしまったのだ。

それにより、操られた観客が一斉に士道に迫り、美九の元へ向かおうとしても、四糸乃と耶倶矢は美九を守るように構えていた。

 

士道は十香の助けもあってキャットウォークにどうにか逃げられたが、まだ下に戦兎達が残されている。どうにか変身する事は出来たようだが、四糸乃達の容赦の無い攻撃に追い詰められている。更に戦兎達からは四糸乃達を攻撃する事など出来ない。やられ放題だ。

 

「くそっ!やめろ四糸乃!」

 

「おい耶倶矢!どうしちまったんだ!正気に戻れ!」

 

「呼掛。もうやめてください、耶倶矢!」

 

戦兎、万丈、夕弦が叫ぶも、四糸乃と耶倶矢は攻撃を止めようとしなかった。

 

「何を……言っているんですか?戦兎さんこそ……なんでお姉様に酷い事を………するんです?」

 

『そーだよー、君たちがいけないんじゃないのー。ちょーっとお灸を据えなきゃいけないでしょーこりゃー』

 

「お主らこそどうしたのだ。龍我、夕弦よ。何を酔狂な事を申しておる」

 

四糸乃と氷結傀儡(ザドキエル)と化したよしのん、そして耶倶矢が口々に言ってくる。

言動を見るに、どうやら彼女らは戦兎達の事を忘れたり、人格が変化させられた訳でもないようだ。ただ彼女らの価値観の最上位に、誘宵美九という存在が刷り込まれているといった様子だった。

 

「戦兎!万丈!一海さん!夕弦!くそっ……」

 

士道が四人に叫ぶも、観客に囲まれて身動きが取れない。

すると側にいた十香が、顕現させた鏖殺公(サンダルフォン)を握り、キャットウォークの手すりを蹴って美九に迫っていった。

 

「はぁぁぁぁぁッ!」

 

裂帛の気合と共に空中で放たれた斬撃が、美九に向かって伸びていく。

だがその一撃は美九に届く寸前で四糸乃が構築した氷壁に阻まれた。次いで、十香に向かって烈風が放たれる。

 

「く_____!」

 

咄嗟に剣で防御するも、風圧そのものを殺す事は叶わなかったらしい。十香の体が軽々と吹き飛ばされ、ステージの壁に叩きつけられた。

 

「ガハッ………!?」

 

「十香!!………もう、こうなったら…………!」

 

最後の手段______変身して止めるしかない。

懐からリビルドライバーを取り出し、腰に当てがおうとした、その瞬間______

 

「え…………?」

 

「何だ………?」

 

士道、戦兎達は眉をひそめて上空を見遣った。ステージの天井が十字に引き裂かれ、そこから、機械の鎧を纏った金髪の少女が会場内に入ってきたのである。

 

「あ、あれは_______」

 

「くそっ、このタイミングで…………!」

 

その姿には見覚えがあった。全身に白銀のCR-ユニット、そして腰には注射器のようなベルト____リバースドライバーを装備した少女______或美島で戦ったDEMの魔術師(ウィザード)にして、仮面ライダーマイティ。エレン・メイザースであった。

 

「ベイリー達は結局失敗しましたか。………まあ良いでしょう、想定の範囲内です」

 

「な………あやつがなぜこんなところに………」

 

十香も苦々しく顔を歪め、立ち上がって鏖殺公(サンダルフォン)を構える。

 

「最っ悪だ………よりによって、あいつが……」

 

「おい、あれ………前に島で俺たちを襲ったやつじゃねえか!」

 

「マジかよ………」

 

ビルドとクローズ、グリスも武装を構え、エレンに向かう。

 

「_____目標、夜刀神十香に、仮面ライダービルド、クローズ、グリス、そして____仮面ライダーアライブ変身者、五河士道………の反応がある女生徒を発見。これより捕獲に移行______と、言いたいところですが」

 

するとエレンが急に言葉を止め、誰かを探るように視線を動かした。

そしてやがて、ステージに通る声で、言う。

 

 

「_____そろそろ出てきたらどうですか…………マッドクラウン

 

 

「何………!?」

 

エレンの口から語られたその名に、士道は顔を歪ませる。

マッドクラウン。その名は嫌でも覚えている。忘れるはずがない。これまで何度も士道達の前に現れ、邪魔をしてきた、蠍男の名だ。

 

「まさか、あいつもここにいるのか………!?」

 

ビルドも戦慄したように、苦い声を発する。

 

「おい、マッドクラウンって誰だよ」

 

「………前の世界の、スタークみてえなやつだ」

 

「成る程。______要は、敵って事だな」

 

唯一マッドクラウンの事を与り知らないグリスが、クローズに質問する。

そしてクローズが応えた単純明快で分かりやすい答えに_____グリスは臨戦態勢を取った。

 

そして、皆の緊張が高まっていた、その時_______

 

 

 

「_____おいおい、そんなに期待されちゃ、かえって出づらいだろー?なぁ?()()

 

 

 

その、ステージの奥から聞こえた声に。

 

「え…………?」

 

士道は思わず、呆然とした。

それは、その声の主が、全く聞き覚えのない人間のものだから______では無い。寧ろその逆。

普段から、聞いていた声だったからだ。

 

「ぬ……?」

 

「何………?」

 

「呆然。今の、声………」

 

「おい、今の声って………」

 

そしてその声に反応を示したのは、士道だけでは無い。

十香、ビルド、夕弦、クローズも又、その声に動揺を隠せなかった。

 

そう。普段から学校で、聞いていた声________

 

 

「…………殿、町…………!?」

 

「よう! 五河、さっきのライブ見てたぜ。結構可愛いじゃんか」

 

 

そう。士道の悪友_____殿町宏人、その人だった。

いつも通りの学生服に、逆立った髪型。そして____美九の洗脳が、全くかかっていないように、いつも通りのおちゃらけた調子。

 

「どう、したんだよお前……こんなとこにいちゃ、危ないぞ……」

 

まさか。

 

そんな訳がない。

 

そう思えば思うほどに、脳内で一つの可能性が強く思わされる。

そしてそんな士道の思考を決定付けるように、殿町が何かを取り出した。

 

右手に握られた、深紫色に光る、見覚えのある銃_______リバースチームガンだった。

 

「そんな……」

 

「嘘だろ……!?」

 

ビルドとクローズが呆然と呟く。

 

そして殿町はさらに左手に何かを掴むと、シャカシャカと数回振り、その銃に装填した。

 

 

 

SCORPION ALTERNATIVE…………】

 

 

 

低い音声とともに、待機音が流れる。

殿町は手に持ったリバースチームガンを顔の横まで持っていくと、ニヤッと口元を歪め引き金を引いた。

 

 

「凝装」

 

 

【LIQUID MATCH………】

 

 

銃を自身の手前で、十字を切るように動かす。

銃口から噴出した蒸気が殿町の周囲に()縮され、全身を巡り回ってアーマーと化し()着した。

 

 

 

MAD……SCORPION……MAD………】

 

 

 

【REBIRTH!!】

 

_____毒のような瘴気と共に、その姿が露わになる。

嫌という程に見慣れた______見慣れてしまった、その姿を。

 

 

『俺が______マッドクラウン

 

 

殿町の声から_____聴き慣れてしまった、その嫌な声に変えて。

 

士道は_____残酷な真実を、突き付けられた。

 

「殿町…………お前だったのか……!?なんで、お前が…………!」

 

士道が未だに現実を受け止めきれない様子で呆然と呟く。

だが、それも無理のない事だ。ついさっきまで悪友だった人が、これまで士道達を搔き回し、暗躍し続けた敵の正体だと、眼前で突きつけられたのだから。

 

そんな士道にクラウンは、やれやれと首を振って答えた。

 

ま、よくある話だよ。今まで友人だと思ってた奴が、実は正体不明の敵の正体でした………なんて、何十年も前から使い古された設定さぁ。ゲームや漫画でも見たことあるだろう?

 

などと大仰に手を振り上げた、芝居掛かった仕草でクラウンが語る。

だが士道にとっては、到底信じられない内容だった。

 

殿町は親友とまで言えずとも、士道にとって大事な友人だった。馬鹿だけど憎めない、良い奴だった。____その筈なのに。

 

その事実は士道の心に、まるで槍のように深く突き刺さった。

 

「馬鹿な………シドーの友人が、あのサソリ男だったというのか………?」

 

「驚愕。………そんな」

 

十香と夕弦も、士道の友人が今まで自分達を襲ってきた敵の正体と知り、士道程では無いにしろ、動揺を隠せない様子だった。

 

「…………」

 

そして戦兎はその光景を見て、自身の記憶がフラッシュバックしていた。

 

 

_______かつて自分を偽りのヒーローとして仕立て上げ、裏切り続けた………ブラッドスタークを。

 

 

DRAGON IN MIGHTY

 

 

そしてクラウンの前に、マイティへの変身を済ませたエレンが来る。

 

『____クラウン。無駄なお喋りはそこまでにしてください。早く任務を終わらせますよ』

 

はいはい、分かったよぉ

 

そう言ってクラウンがブレードを構えると、美九達には目もくれず、一直線に士道と十香の方に向かってきた。

 

「シドー!!」

 

「ッ!」

 

するとそれを遮るように、十香が前に出てクラウンの攻撃を防ぐ。

 

へぇ〜、やるねぇ、十香ちゃん

 

「………シドーの友人よ。お前が本当に、今まで私達を襲ってきた敵だというのなら………もし、今までシドーを裏切って来たと言うのなら_______」

 

顔を伏せ、十香が鏖殺公(サンダルフォン)を握る手を強める。

そして顔を上げると、鋭い眼光で言い放った。

 

「私が______お前を斬るッ!!ハァッ!!」

 

言い終えるや、十香は鏖殺公(サンダルフォン)を薙ぎ払い、クラウンを詰める。

 

そんな限定解除しただけの状態で、俺に勝てると思ってるのかァ?

 

一方のクラウンもブレードをスチームガンに装備させると、十香へと迫って行った。

 

「十香ッ!」

 

『余所見は____危険ですよ』

 

「ッ!」

 

十香に駆け寄ろうとするも、その行方をマイティが塞ぐ。

漆黒の龍を象った装甲に身を包み、マイティが手に携えたレーザーブレードを振りかざさんとした、その時。

 

「ハァッ!」

 

「オーラァッ!!」

 

『ッ……!』

 

ビルドとクローズが、割り込むようにマイティに攻撃を仕掛けた。

ビルドは【ラビットタンクスパークリング】となっており、ドリルクラッシャーを回転させていた。

クローズはビートクローザーを構えており、いつでも攻撃できるよう構えていた。

 

「戦兎!万丈……!」

 

「士道。………気持ちは分かる。でも今は、変身しろ」

 

「………ッ!ガルーダ………っ!」

 

そうだ。今は敵の眼前。変身しなければ、命の保証は無い。

未だに胸に残る嫌な感覚を無視して、士道はガルーダを手に取った。スピリットフルボトルを振り、装填する。

 

 

【Get Up!ALIVE-SPIRIT!!

 

 

【Are You Ready?】

 

 

「変身…っ!」

 

 

【Dead Or ALIVE-SPIRIT!!イェーイッ!!】

 

 

アライブへの変身を完了させ、改めてマイティへと向き合う。

 

『ほう。三人がかりですか……。戦法としては、悪くないですね』

 

「うるせぇっ!てめえに褒められても……嬉しくなんてねえよッ!!」

 

『そうですか』

 

クローズが手にしたビートクローザーを振り抜き、マイティへと迫る。

マイティは短く言うと、手にしたレーザーブレードを構えて、クローズの攻撃を防いだ。

 

『成る程____聞いた通りの、短絡的思考ですね』

 

「ああっ?意味わかんねえ事言ってんじゃねえ!それに……ドラゴンっつったら、俺だろうがよ!」

 

『誰に決められたわけでもないでしょう』

 

クローズの言葉に冷静に返しつつ、マイティは周囲を確認するように視線を巡らせた。

眼前にはビルド、クローズ、アライブ。キャットウォークにはクラウンと対峙する【プリンセス】、夜刀神十香。何千という数の観客。そして、ステージ上に天使を顕現させた精霊【ディーヴァ】と、それに付き従う【ハーミット】、【ベルセルク】のうちの一体。そして残り一体と仮面ライダーグリスが、ハーミットとベルセルクの片割れに向かっている_______なんとも奇妙な光景であった。

 

これだけ揃うのは非常に稀である。ついでに何人か………という考えが頭を掠めるが、マイティはすぐに思い直して首を振った。

 

『………いえ、やめておきましょう。慢心は敵です。_____作戦が変わりましてね。プリンセスはクラウンに任せるとして_____今日用があるのは、あなた達です。仮面ライダーアライブ、五河士道。そして………()()()()()()()()()

 

「な……っ」

 

「何……!?」

 

マイティから指名されたアライブとビルドが、困惑の声を上げる。

十香を狙うのは、まだ分かる。だが何故、戦兎や士道までも狙おうとするのか、その真意が分からなかった。

するとクローズが、再びマイティに攻撃を仕掛けてきた。

 

「俺を_____無視すんじゃねえ!戦兎に、一体何の用だ!!」

 

『_____今の貴方は、これで十分です』

 

そう呟くと、マイティは腰部のデュアルスレイヤーを引き抜き、クローズの剣撃を容易く弾き、更に連続攻撃を仕掛けた。

 

「ぐっはっ………ッ!」

 

『これで詰みですね』

 

そう言うと、マイティはドライバーからボトルを引き抜き、デュアルスレイヤーに装填した。

 

 

【STAND BY DRAGON BREAK】

 

 

『ハッ___!』

 

「ガァァァアッ!!?………あっ………」

 

マイティの必殺をもろに食らったクローズは装甲から火花を散らせ、壁に吹き飛ばされた。

煙が晴れると、そこには変身を解除され、意識を失っているのか、ぐったりとした様子の万丈の姿があった。

 

「万丈ッ!!」

 

「てめえ……ッ!!」

 

ビルドとアライブが、マイティに向かっていく。

ビルドがドリルクラッシャーを振り抜き、刃のドリルを回転させた。

 

『【カレドヴルフ】』

 

しかしマイティは、一度デュアルスレイヤーを腰に仕舞うと、背に携えた大型レーザーブレードを引き抜き、ビルドに叩きつけた。

 

「何……!ぐあッ!!」

 

「戦兎!」

 

ビルドはどうにか防いだものの、その衝撃までは消せなかったらしい。地面へ叩きつけられ、土煙を巻き起こした。

 

「ッ!危険。戦兎ッ!」

 

「来ちゃダメだ!夕弦!」

 

ビルドが攻撃された事を見たのか、夕弦がこちらに向かおうとするのを、アライブが止める。

今ここにきては、夕弦まで餌食になってしまう。それこそ、一番最悪なパターンだ。

 

 

【ALIVE-LUSTER!】

 

【SLASH VERSION!】

 

 

「ハァッ!」

 

アライブラスターを構え、マイティへと向かっていく。振り抜いた剣先が、マイティ目掛けて飛んできた。

 

『甘いですね』

 

だがマイティは慌てることもなく、再び大型レーザブレードを振り抜き、アライブを斬り裂いた。閃光の刃がアライブのアーマーを引き裂き、粒子と霧散させる。

 

「ガハッ………ガァッ!?」

 

レーザーブレードの威力故か、一瞬で地面に叩きつけられ、変身解除される士道。

全身から血を流し、その傷を灼爛殲鬼(カマエル)の炎が癒さんと燃える。

 

『攻撃が直線的ですよ。先ほどのクラウンの言葉で、動揺しましたか?』

 

「ッ!……だ、まれ_____!」

 

歯を食いしばり、なおも立ち上がろうとするが、力が入らない。

それを見るとマイティは、つまらなさそうにブレードを仕舞い、ベルトに手をかけた。

 

『カウントをするまでもありませんでしたね。_____チェックメイトです』

 

 

【STAND BY】

 

 

MIGHTY FINISH】

 

 

『ハッ_____!』

 

マイティが空中に舞い上がり、右脚にエネルギーが充填される。

黒い龍の影を帯びながら、空中で回転。闇のライダーキックが、士道の眼前まで迫っていた。

 

「ッ!逃げろ士道!!」

 

「あッ………!ぐっ………」

 

ビルドが叫ぶも、先ほどのダメージによって士道は動けず、動けたとしても到底避けられない。

一撃必殺のキックが、今まさに士道を屠らんとした、その時_____

 

 

______ビルドが、士道を庇うように身を呈した。

 

 

 

「ぐっ…………!ガァァァァァッ!?」

 

 

そのキックの威力は、スパークリングで強化されていた筈のビルドの装甲を抉り、余波でマスクを破砕させるほどであった。

戦兎が苦悶の声と共にその場の地面に激突し、変身が解除される。

 

「ッ!戦兎ぉぉッ!!」

 

「がはッ………ぐっ………あっ…………」

 

士道が叫ぶも、戦兎は苦しみの声を上げるばかりで、立ち上がれそうになかった。

 

「ッ!そん、な………!」

 

そしてその光景を目撃した耶倶矢と交戦中の夕弦が、青ざめた表情をして、一直線に戦兎の元に向かう。

 

「ッ!呼掛。そんな……しっかり、しっかりしてください!戦兎!戦兎ぉっ!!」

 

「ゆ、づる………」

 

夕弦の姿を認識してか、戦兎が短く名前を呟く。

すると、その時。

 

「ぐっ………ぐぁぁぁッ!?」

 

奥から声が聞こえ、いきなり周囲の温度が下がったかと思うと、大量の氷柱と共に、変身を解除された一海が吹き飛んで来た。

 

「っ、一海さん……っ!」

 

バトルジャンキーの一海と言えども、流石に操られてしかも生身に近い状態の四糸乃や耶倶矢と、まともに戦えるはずがなかった。ほぼ一方的にやられ、吹き飛ばされたのだ。意識を失ったのか、ぐったりとしている。

 

すると、そこに。

 

おーいお嬢さん。そろそろ時間だぜぇ?戻らねえと

 

マッドクラウンが現れた。しかもその腕には______

 

「十香…………!?」

 

苦労したぜぇ。随分抵抗したからなぁ

 

霊装を解除した、十香が抱かれていた。

十香は意識を失っているのか、ぐったりとしたまま動こうとしなかった。

 

「……!十香を、返せ………ッ!」

 

やだね。そんじゃ、バイナラだ。()()

 

「ッ………!」

 

十香を取り戻そうと、士道が立ち上がったが、クラウンは十香を抱えて、霞のように消えていってしまった。

だがそれを塞ぐように、マイティが再び近付いてきた。

 

『好都合です。このまま全員、私と付いてきてもらいますよ』

 

「くっ………」

 

マイティが全員を見下ろし、冷酷に告げる。

と、その時。

 

「士、道………!これを……っ!」

 

「えっ………?」

 

戦兎が何かを取り出すと、士道の方に投げてきた。慌ててそれを受け取る。

投げ渡されたのは、何やら玉座のようにも見える、何かのガジェットだった。しかし色は塗られていないのか、鉄色のままだった。

そして戦兎が立ち上がり、夕弦の手を掴み懇願するように言う。

 

「夕弦………!あいつらを連れて、逃げろ……!こいつらは、俺が止める………!」

 

「ッ!………拒否。駄目です!それでは、戦兎が捕まります!それに、今の状態じゃ………」

 

「時間を稼ぐくらいはできる!それに、今この状況で士道達を逃がせるのは、風の精霊であるお前しかいない」

 

「っ………何言ってんだ!戦兎!」

 

戦兎が放ったその言葉に、思わず反論する。

戦兎の言った提案は、この場にいる士道達を逃す代わりに、戦兎が捕まる、言うなれば自殺行為だ。そんな事を、士道が、夕弦が、容認できる筈がない。

 

「………ッ!否定……!駄目……駄目です!戦兎!」

 

「頼むッ!!ここでお前らを守れなきゃ、愛と平和なんて語れないッ!!」

 

「ッ!」

 

戦兎が夕弦にそう言い放つと、マイティ達を見据え、ビルドドライバーを構えた。

やがて再び夕弦の方を向き、叫ぶ。

 

「………いいから行けッ!!早く逃げろッ!!」

 

「ッ……………!!!」

 

夕弦は暫く葛藤した後、振り切るように士道達の元へと向かった。

一海と万丈を抱えると、次いで竜巻を発生させ、士道の身体を浮遊させる。

 

「そんな………!戦兎ッ!」

 

「ッ、阻止。駄目です士道!」

 

「離せよ夕弦ッ!!十香も助けられちゃ………!」

 

「逃げるんだ士道ッ!!」

 

「ッ!」

 

夕弦の風から逃れようとした士道を、戦兎が一喝する。

そして一瞬こちらを向き、微笑むと、マイティ達へと顔を向けた。

 

「っ……………脱出。行きますよ、士道」

 

「そんな………戦兎ッ!戦兎ッ!!」

 

夕弦が風を操り、ステージ上空に空いた穴へと舞って行く。

士道が叫ぶも、戦兎と十香の姿は、どんどんと遠ざかっていき_____やがて建物の外へと、脱出した。

 

 

 

 

______これでいい。

 

 

一人残された戦兎は、士道達が無事脱出した事を確認すると、笑みを浮かべた。

これでどうにか、全員が捕まると云う最悪の展開だけは避けられた。

あとは十香を______

 

『賢明な判断ですね。賞賛に値します』

 

「ま、そりゃあ天才ですからね」

 

マイティの言葉に、表面上は軽口で返す。

だが、戦兎も窮地に立たされていることは間違いなかった。無論ただで捕まる為に、こんな所に残った訳じゃない。

戦兎はコートを探ると、在るものを取り出した。

 

 

______赤色に光る、禁断のトリガーを_______

 

 

『………あれは、プロフェッサー・シンギが言っていた…………』

 

戦兎が取り出したそれを見て、マイティが呟く。

そして戦兎はそのトリガーの上部に備えられた薄青いカバーを開き、警戒線で縁取られたボタンに手をかけた。

 

「後は…………知らないぞ」

 

 

 

【HAZARD ON!!】

 

 

 

_____ステージに、危険信号が鳴り響いた。

 

 

 

 

「くっ………うぅっ…………」

 

会場から夕弦の力で脱出した士道達は、近くの公園の一角に着地していた。先ほどの戦闘のダメージで、士道の全身を鈍痛が苛んでいた。

 

「………無事。どうやら、追手は来てないようです、ね…………」

 

万丈と一海を下ろし、周囲を見回した夕弦がそこまで言うと、徐々に言葉を小さくした。

 

「夕弦………?」

 

「………くっ、うぅ……………ッ!」

 

そして地面に膝をつき、両手で顔を覆う。

 

「…………戦兎っ…………戦兎がっ………………」

 

「………………くっ………………」

 

やがて夕弦の顔から、一筋の雫が落ちる。

そして天もポツポツと、雨を降らせていった。次第に雨は大きくなり、士道達の身体を、地べたを容赦なく濡らしていく。

そして士道も、先ほど起こった出来事が、次第に脳にしみ込んでいき、意識を揺さぶった。

 

 

 

_____友達だと思っていた、殿町に裏切られ。

 

_____十香をその裏切った敵に連れ去られ。

 

_____万丈と一海もやられ、意識を失い。

 

_____戦兎は自分達を逃がす為に、一人囮になった。

 

 

 

「くっ____________うあァァァァァァァァァァァっ!!!!」

 

 

_______雨が降りしきる空の下、士道の悲痛な慟哭が虚しく響く。

 

 

これ以上ない程に______士道達は、完全な敗北を喫した。

 




どうでしたか?今回ちょっと長かったですね。

というわけで、序盤はファングの初戦闘。
いやーここのシーン、書いてて楽しかったですね。必殺技のエフェクルに関しては、アサルトウルフのキックをイメージしていただけると近いと思います。

そして夕弦が戦兎の機転で洗脳されずに済みましたが、今回そんなのが瑣末なレベルでやばい事になってしまいました。(自分で言うか)

クラウンが遂に、その正体を明かしましたね。
正直ここまでの話でちょいちょい匂わせてたんで、原典での事から感づいてた読者の方も少なくないと思いますが。これも全てエボルトってやつが悪いんだ。
ただ正直言うと、殿町くんをクラウンにするっていうのは、結構当初から構想してた案でした。全く別キャラにするか、とかで悩んでたんですが、結局殿町くん案に。殿町ファンから苦情が来ますねクォレは。

そしてクラウンである以上、彼の設定もちょっと大きく変わる事になります。ある意味原作からの一番の乖離かもしれない。
今後の彼の動向にも注目していてください。

そしていよいよ次回から、原作で言うところの【美九トゥルース】に突入していきます!乞うご期待!

それでは次回、『第65話 再会のナイトメア』をお楽しみに!

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第65話 再会のナイトメア

真那「アイドルにして精霊、誘宵美九とのステージ対決に、仮面ライダーアライブこと兄様は勝つ事に成功しやがります!ですが、その結果に納得いかなかった誘宵美九は、観客を洗脳。兄様を捕らえようとしてきやがります!そんな中、仮面ライダービルドの桐生戦兎さんと、夜刀神十香さんを捕まえるために、DEMのエレンと、マッドクラウンが現れます。そして、マッドクラウンの正体はなんと!兄様のご学友である、殿町宏人さんでいやがったのであった……」

折紙「何故あなたがあらすじ紹介をしているの」

真那「だって、兄様たち今逃亡中でいやがりますし、今まともにあらすじ紹介できるの、私達くらいしかいねーじゃねーですか………って、なんでそんな悔しそうな表情なんでいやがりますか?」

折紙「不覚……。ここで私も逃げておけば、追われる主人公とヒロインという美味しい展開だったのに」

真那「いや、貴方がヒロインだと追われるの兄様一人になっちまいますから。ヒロインからも追われる身になりやがりますから」

折紙「そんな事は無い。ただ共に逃げる途中にうっかり二人のムードが高まって、うっかり既成事実を作っても、それは致し方ない……」

真那「致し方無くねーですよ!さ!この小説が18禁指定になる前に、第65話をどうぞです!」





_____それから、どれくらいの時間が経っただろうか。

 

雨が止み、夕日が沈み切り、辺りに闇が満ち始めた頃。ステージから逃げ延びた士道達は、天宮市の外れにある廃ビルの中の一室に身を潜めていた。

流石にメイド服のままでは動き辛い上に目立つため、道中広間で行われていたフリーマーケットで男物の服を購入し、着替えを済ませていた。無論、喉の変声機も外してあるため、もう完全に士道に戻っている。

 

そして身を潜めてからしばらくして万丈と一海が目覚めた為、しばらくしてから事のあらましを説明した。

 

「嘘だろ………っ!」

 

「…………くそッ!」

 

一海は拳を強く握り、万丈は行き場のない怒りをぶつけるように、柱を思いっきり殴った。

夕弦はもう流石に落ち着いたのか、窓の外を見回して追っ手が来ていないか警戒している。

 

「…………」

 

ちらと棚の上に置いた携帯に目をやる。

画面には、天宮市で起こった原因不明の大暴動を生中継で放送しているニュース番組が映し出されている。街を徘徊している市民の姿が、ヘリからの空撮映像で捉えられていた。

誰にも想像できないだろう。この数万人の人たちが、美九の命令一つによって士道達を探し回っているだけなどとは。

 

「………くそっ、さっきよりも増やしやがって………胸糞悪いな………!」

 

「…………」

 

一海が指摘した通り、画面に映る人の数は、明らかに先程より増えていた。

どうやら美九はステージの観客だけでは飽き足らず、どんどん尖兵を増やしているらしかった。【破軍歌姫(ガブリエル)】にどれだけの力があるかは分からないが、これではいつか見つかってしまうだろう。

しかもスピーカー越しでもその効果はあるらしく、暴動鎮圧のために向かった警官隊までもがその戦列に加わっていたのだ。

 

「…………っ!」

 

すると万丈が、痺れを切らしたように立ち上がり、どこかへ向かおうとした。

 

「待てよ。どこ行く気だ」

 

その万丈を、一海が制する。

 

「決まってんだろ……!戦兎を助けに行くんだよッ!!」

 

「今の状況じゃ無理だ!俺たちだって万全じゃねえ。いくら変身したって、数で押されちゃどうしようもねえだろ」

 

「………くそッ!!」

 

一海が説明すると、万丈は忌々しげに吐き捨てた。

そして士道もまた、ここで籠城してるしかない状況に怒りを覚えていた。

 

「こんなことしてる場合じゃないってのに………俺は_____ッ」

 

そう。助けなければならないのは戦兎だけではない。

マッドクラウンにどこかへ攫われてしまった十香を一刻も早く取り戻さねばならないのである。

あのDEMの仮面ライダーと連んでた以上、恐らくはDEM社へと十香は連れ去られたのだろう。精霊を殺すことを至上目的とし、各国に顕現装置(リアライザ)を提供し、あまつさえあんな危険なライダーシステムを開発した組織が、十香を丁重にもてなすとは考えられなかった。

 

さらにはラタトスクとも連絡が取れず、インカムを小突いてもノイズが聞こえるばかりだった。

 

そして士道の胸中にあったものは、それだけではなかった。

 

マッドクラウン_______殿町宏人の事である。

 

ずっと学校で連んでいた悪友が、今まで何度も士道達の邪魔をしてきた敵の正体だという事実に、まだ現実感を持てなかったのである。

あのDEMの魔術師(ウィザード)が変身した、仮面ライダーマイティと前からずっと行動を共にしていたような、会話と雰囲気。

きっと士道が考えているよりもずっと前から、DEMの手先だったのだろう。

 

そう思うと絶望感を覚えると同時に、今の今まで気付けなかった自分の阿呆さ加減に心の中で嘲笑した。

 

「………おーい、士道?」

 

「ッ、……万丈、悪い」

 

すると万丈の呼ぶ声で、現実に引き戻された。

そうだ、殿町の事だけじゃない。士道が解決すべき問題は山積みだった。

 

 

士道を狙う美九。

 

それに支配された四糸乃、耶倶矢。

 

天宮市を埋める人の群れ。

 

未だに連絡の取れないラタトスク。

 

士道達を逃がすために囮になった戦兎の安否。

 

そして、攫われた十香。

 

 

先の戦闘で傷を負った士道達には、あらゆる物が不足していた。

 

 

時間が足りない。

 

設備が足りない。

 

準備が足りない。

 

 

何よりも______士道に、力が足りない。

 

クラウンを、マイティを乗り越えて、十香を助け出せるほどの力が______

 

「俺は……」

 

奥歯を噛み締める。

 

「俺は______ッ!」

 

そして、士道が全身に蟠る無力感を声にして零した瞬間。

 

 

_______くす、くす、と。

 

 

誰かが、笑った。

 

「ひっ………お、おい、なんだ今の笑い声」

 

「だ、誰か脅かしてんのか……!?」

 

その気味の悪い声がお化けのそれにでも聞こえたのだろうか、若干怯えた様子で一海と万丈が呟く。

だが、その声の主はすぐに判明した。

 

暗い部屋の中に充満した影が蠢動したかと思うと、そこから、一人の少女が這い出てきたのである。

 

血のような紅と黒で構成されたドレスに、左右不均等に結われた黒髪。そして、左目に浮かんだ金の時計。

 

そして、作り物にしか見えない端整な貌は、愉悦とも嘲笑とも取れる生々しい笑みに彩られていた。

 

「テメェは…………っ!」

 

忘れるべくもないその顔を目にして、万丈は警戒心に彩られた声を発した。

 

「うふふ、随分と暗い顔をしていらっしゃいますのね」

 

「狂三………ッ!?」

 

 

________時崎狂三。

 

かつて士道たちの眼の前に現れた、『最悪の精霊』に他ならなかった。

 

 

 

 

「_____ご苦労だったね、エレンクン」

 

「………その気のない労いは結構です。プロフェッサー・シンギ」

 

エレン・メイザースは、横にいた男_____神大針魏の労いの言葉に、この上なく不機嫌な口調で返した。

その言葉を聞くと、神大は肩を竦めて言った。

 

「やれやれ、相当頭に来てるみたいだね。でも実際、君は良くやってくれたよ。______まさか本当に、仮面ライダービルドを捕獲して来てくれるなんてね」

 

そう言った神大の目の前には______頑丈な椅子に縛り付けられ、ぐったりとした様子の、桐生戦兎の姿があった。ついでに言うと彼らがいる部屋は様々な機械が置かれている、何かの研究室であった。

 

「本当に……?この私を、最初から疑っていたという事ですか?」

 

神大の言葉に更に機嫌を悪くしたのか、ジトッとした視線を向けてくる。

 

「別に君の腕を疑ったわけじゃあないさ。ただ、警告しておいたとは言え、()()まで持ち出されては流石の君でも勝敗が見当付かなかったからね」

 

「驚いたのは事実です。………が、所詮は少し強くなった程度でしたね。6カウントで倒れましたよ」

 

神大の言葉にエレンが返し、チラと側にあったモニターを見た。

 

そこには_______全身が真っ黒な装甲に包まれたビルドと、マイティが戦っている様子が映し出されていた。

 

「流石に自我を失うより前に、身体の限界が近かったか。まあ、まだ自我が残ってる状態だったら、君なら対処可能だったろうね」

 

「……何だか不愉快ですね。どんな状態であっても、私が負けるなどあり得ません」

 

「科学者にとって、()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。君には理解できないかもしれないがね」

 

神大のその言葉に、エレンが更に不機嫌な様子になる。

それを見て肩をすくめると、神大は手元の台からある物を取り出した。

 

それは、ビルドから抜き取った赤い引き金______ハザードトリガーだった。

 

「っ…………!?」

 

そしてそのトリガーを目にした時______ほんの少し、神大は頭に、掠めるような痛みを覚えた。

それはかつて、仮面ライダーグリスと戦った時に味わった、痛みとよく似ていた。

 

 

「またか…………何なんだ、一体。不愉快な」

 

 

その痛みはすぐに消えたものの______神大は、そこに言い知れない不快感を覚えた。

 

 

 

 

「お困りの様子ではありませんの。____ねぇ、士道さん。少し、お話をしませんこと?」

 

「時崎、狂三………っ!?」

 

影から這い出た少女____時崎狂三は、妖しく笑いながらそう言った。

士道は驚愕と狼狽に目を見開きながら、喉を絞ってその名を呼んだ。

 

狂三はその士道の言葉に、ぴくりと眉を揺らしてから肩をすくめてきた。

 

「あら、違いましたか。____四糸乃さんと耶倶矢さんを精霊に奪われ、ご学友に裏切られ、戦兎さんは行方知れずになり、挙句に十香さんをDEM社に拐かされ……為す術もなく途方に暮れているように見えたのですけれど」

 

「な_____」

 

狂三の言葉に、士道は息を詰まらせた。

彼女の言ったことは、確かに、全て正しい。だが、いや、だからこそ意味が分からない。

 

「てめぇ……なんでそんな事知ってやがる………っ」

 

「あらあら、そんなに怖い顔をしないでくださいまし、龍我さん」

 

警戒心を剥き出しにした万丈の言葉に、狂三が可愛らしい仕草で微笑む。何故だろうか、それと同時に、狂三の足元に蟠った影が微かに蠢き、小さな笑い声がいくつも聞こえた気がした。

 

とここで、先まで黙っていた一海が口を開いた。

 

「おい、勝手に話を進めんなよ。誰だこの嬢さん」

 

そう言えば、一海は狂三の事を知らなかった。

士道が説明をする。

 

「時崎狂三。………【ナイトメア(悪夢)】って呼ばれてる、精霊だ。前に俺たちと戦ったことがある」

 

「何?………て事は、敵なのか?」

 

一海もその説明に警戒心を強める。だが狂三はそんな一海達の様子を見て、愉快そうに唇を歪めた。

 

「ふふ、落ち着いてくださいまし。_____少なくとも今わたくしに、あなた方をどうこうしようというつもりはございませんわ」

 

「何………?」

 

「そんなの、信じられるわけねえだろうが!!」

 

狂三の言葉に士道は眉根を寄せ、万丈は怒号を発した。

狂三の目的は、『士道を()()』事が目的だ。現に以前来禅高校で戦った際、彼女は十香を連れ去った張本人____マッドクラウンとつるんでいたではないか。

 

「ああ。____そんな言葉を、信じろっていうのか?だいだいお前は、前に殿ま____クラウンと一緒に俺たちを襲ったじゃないか」

 

「アレはあの時偶々利害関係が一致しただけの、一時的な協力ですわ。それに、わたくしが今この場で嘘を吐く理由がございまして?」

 

「む………」

 

言われて、士道は唇を引き結んだ。

確かにその通りである。狂三がその気になれば、士道達を殺すも喰らうも思い通りなのだ。変身したとて、数の暴力で押しつぶされて終わりだろう。

生殺与奪の権を握った相手に、わざわざ虚言を吐く必要は無い。もっとも彼女の場合は、安堵に緩んだ表情が再び恐怖に引き攣るのを見たいから、なんて理由でこちらを謀ろうとしている可能性が無きにしも非ずだが。

 

「………一体、何を話そうってんだよ」

 

「ええ。ですが、その前に_____夕弦さんもこちらに呼んでいただけませんこと?」

 

「夕弦も……?………分かった」

 

「お、おい、良いのかよ士道!」

 

「龍我、今はあの女に従うのが懸命だと思うぜ。話聞く限りじゃ、命握られてんのはこっちだ」

 

流石に踏んだ場数が違うのか、一海が鋭い視線で狂三を見据え、万丈を制する。

その様子を見て、狂三がくつくつと笑う。

 

「うふふ、そちらの方____確か、猿渡一海さん、でしたか。貴方は物分りが良いようですわね」

 

「………俺の名前まで知ってやがんのか」

 

狂三の揶揄う様な言葉に不快感を募らせたように、一海が舌打ち混じりに呟く。

だが、ひとまずは狂三と話さない事には始まらない。士道は一旦その場を離れると、ビルの屋上から周囲を見回していた夕弦をこちらへ戻してきた。

 

「不信。士道、大丈夫なのですか?彼女は」

 

「ああ。_____今のところはな」

 

「あらあら、そんなに警戒されるなんて。悲しいですわ、悲しいですわ」

 

と、わざとらしい口調で言いつつ、狂三はトントンとリズミカルに靴底で床を叩き、士道たちの方に近寄ってくる。

 

「本題に入りましょう。______十香さん達を、助けたくはありませんこと?」

 

「何………?」

 

狂三の言葉に、士道は思わず怪訝そうな声を発した。

そして夕弦は、狂三の言葉に含まれた言い方に、違和感を覚えた。

 

「怪訝。十香…………()?」

 

そう。少なくとも士道達がハッキリと連れ去られたのを目撃したのは、十香だけ。もし十香のみ助けることを指しているのなら、その言い方は不自然である。

もし助ける対象が、十香のみでないのなら、つまり_______

 

「どういう、ことだ……」

 

「そのままの意味ですわ。DEMに連れ去られた十香さんと______()()()()を、この手で救い出す、という事ですわ」

 

「ッ……!」

 

「…………そん、な………」

 

薄々、分かってはいた。

いくら戦兎であっても、あの状況下で無事に逃げられる訳がないと。そもそも無事であったなら、連絡の一つくらいは寄越すだろうと。

しかし、改めて口に出されたその事実に、自身の無力さを強く実感する。

 

「それで、どうします?士道さん達は、十香さんと戦兎さんをDEMインダストリーの手から救い出したくはありませんの?」

 

「そ、そんなの当然じゃないか!相手は精霊を殺そうとしてる組織だ。そんな奴らの元に、十香を置いておけるわけがない!戦兎だって……どんな酷い目に遭うか………!」

 

「ああ。士道の言う通りだ。でもよ……なんでお前がそんな事を訊くんだ?」

 

万丈がそう言い、狂三を鋭く見据える。

その言葉に、狂三は微笑みと共に返答した。

 

「うふふ、わかりませんこと?______わたくしが、あなた方に力を貸す、という事ですわ」

 

「な………!?」

 

「んだと!?」

 

狂三が発したその信じ難い言葉に、士道達は目を見開いた。

 

 

 

「んっ………ここ、は…………」

 

ぼんやりとした意識が、徐々に鮮明になってくる。

そして身体を動かそうとすると、何かに拘束されたように動かなかった。

不審に思い視線を下ろすと、自身は今金属製の椅子に座らされ、実際に手足を拘束されていることが分かった。

「ッ、そうだ、俺は………ッ!」

 

士道たちを逃がすために、囮になって_______

 

 

「______おお、目を覚ましましたか」

 

 

と、そんな戦兎の耳に、聴き慣れぬ声が響いた。

 

「ッ、誰だッ!」

 

「そう警戒しないで下さいよ。別に私自身はあなたをどうこうするつもりはありません」

 

物腰丁寧な口調のその声は、どうやら戦兎の前方から聞こえているらしかった。

よくよく見ると、戦兎が拘束されたこの薄暗い部屋は、何かの研究室のようだった。至る所に試験管や、培養液に浸された動植物など如何にもな内装が、科学者の戦兎から見ても薄気味悪く感じた。

 

そして声の主と思しき足音が、こちらに近づいてくる。

 

色素の抜け落ちた白髪に、病的なまでの白い肌。そしてラフそうなYシャツの上に、申し訳程度の白衣を羽織っている。

 

「お前は………」

 

「どうも。初めまして………ですかね?今の君に対しては」

 

と、妙に曖昧な返答で、その男は眼前に設えられた椅子に座った。

 

 

「_____私は機島械刃(きじまかいば)ここ(DEM)で科学者をやっています。____主に、()()()()()の研究と開発の担当ですね」

 

 

そう自己紹介をすると、男______機島は、怪しげな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 




どうでしたか?
今回ちょっと遅れた上に短めですいません。狂三と士道達の会話シーンで万丈たちを介入させるのに手こずりました……。

デアラ原作がついに完結…………橘先生、お疲れ様でした!そしてありがとうございました!!
いやぁもう、読んでから満足感が凄かったですよ!あれを見るために今まで追いかけてきたと言っても過言ではないくらいの感動がありました。
まだ22巻買ってない人は、是非買って読んでみて下さい!

そして今回、新キャラが登場しました。
第二の科学者オリキャラ、機島械刃です。
彼について今は多くは書けませんが、取り敢えず彼もまた、色々と展開をかき乱してくれます。楽しみにしててください(ゲス顔)

それでは次回、『第66話 救出へのピース』をお楽しみに!

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第66話 救出へのピース

士道「アイドルにして精霊、誘宵美九とのステージ対決に勝利するも、美九の能力によって操られた観客や、突如襲ってきたエレン・メイザースこと仮面ライダーマイティ。そして、ついにその正体を現したマッドクラウン……殿町宏人に追い詰められ、仮面ライダーアライブこと俺、五河士道と夕弦、万丈、一海さんは這々の体で逃げ延びる。しかし、その代償として十香、戦兎をDEMに連れ去られてしまうのだった……」

万丈「まさか殿町のやつがクラウンだったとはな……でもなんつーか、この展開すげえ見たことある気がすんだよなぁ………」

一海「お前らんとこのマスターがスタークだった時だろ?俺はそん時いなかったけど」

万丈「あ、それだそれ!あん時も驚いたよなぁ……いや、驚いたどころじゃなかったぜ!」

士道「そっか、万丈達も似た経験が………てか、スタークってラスボスじゃ……?」

真那「一緒に暮らしてたおやっさんキャラが実はラスボスとは、中々に衝撃展開でいやがりますね………」

一海「まそれ言うならこっちも大概だけどな。悪友キャラが黒幕だったしよ。……どっかで士道が曇る展開しか見えねーなこれ」

真那「確かに……また戦うことになった時、大丈夫でいやがりますか?」

士道「言うな!俺もちょっと不安だから!と、とにかく!十香達救出に向けて、第66話をどうぞ!」






時刻は二一時。街灯と民家の明かりがぼんやりと輝く静かな住宅地に、士道達は立っていた。

 

「ここで、間違いありませんの?」

 

「ああ。確かにここだ」

 

目の前には、精緻な細工が施された背の高い鉄柵に、丁寧に手入れされた庭園。そして御伽噺にでも出てきそうな洋風建築が聳えていた。

 

「感嘆。とても綺麗な家ですね。いえ、屋敷と言った方がいいでしょうか」

「はぇー、立派なもんだな」

 

「ここが()()()の家、って事か」

 

『キュルルゥ!』

 

夕弦と万丈、一海が建物を見上げながら感心混じりに言う。

そう。ここはかつて士道が一度訪れたことのある場所_____誘宵美九の自宅である。

 

十香と戦兎を救出するにあたり、まず士道達は、美九の問題を解決する事を優先する事にした。

今は美九の操る尖兵が、士道達を血眼になって探している。こんな状態で二人を救出しに行っても、邪魔が入って難易度が跳ね上がるだけだ。

だからこそ、まずは士道が美九との対話を試みる、という事で話は落ち着いた。

 

そこで狂三から、一つの疑問が挙がる。

 

 

誘宵美九のあの歪な価値観は、果たして先天的なものなのか、と。

 

 

人間を自身の操り人形や玩具程度にしか考えていない、士道達からすれば異質過ぎる価値観。

しかし狂三はどこか、そこに違和感を覚えたと言うのだ。詳しくは口にしなかったものの、美九の持ち物などがあれば何かが分かるかもしれないと言ったため、この屋敷に赴いた、という訳なのだ。

 

「さ、では早速調べましょう」

 

そう言うと狂三は右手に、影から取り出した古式の短銃を収めた。そして何の躊躇いも無く引き金を引くと、けたたましい音を立てて門の鍵を吹き飛ばす。

 

『キュルッ!?』

 

『ギギッ!?』

 

ガルーダとドラゴンが、突然の銃声に驚いたのか、困惑した鳴き声をあげる。

 

「ちょっ、狂三!」

 

「どうかしまして?まさか、荒っぽい真似はするなだなんて仰しゃいませんわよね?」

 

「いや、それもあるけど、こんな場所で銃声なんて響かせたら、警察とか………」

 

「警察の方々は今、この暴動の対応に追われて大変なのではございません事?」

 

狂三はくすくす笑うと、ギィと重い音をさせて門を開け、士道の制止も無視して玄関の鍵を先ほどと同じように撃ち抜いた。

その様子を見た万丈が、士道に耳打ちする。

 

「…………おい、本当に大丈夫なのかよ」

 

「……正直ちょっと不安になってきたけど…………大丈夫なはず、だ」

 

すると奥に進んでいた狂三が立ち止まり、こちらにギョロリと顔を向けた。

 

「………何か、言いまして?」

 

『いえ、何も!!』

 

慌てて姿勢を正し、ぎこちなく精一杯の笑顔を浮かべる。

狂三は表情筋こそ笑顔の形を取っていたが、目は全く笑っていなかった。士道たちは思わず冷や汗を浮かべると、狂三の後に続いて家の中に入っていった。

 

 

 

 

「スマッシュの研究、だと……!?」

 

拘束された戦兎は、眼前の男_____機島械刃が語った自らの肩書きを聞いて、戦慄を覚えた。

 

「ええ。とは言え、今の私は助手の域を出ていませんがね。先輩が作った物がリバースドライバーやリバースチームガンなら、私はこれまで貴方方が相対してきた通常のスマッシュや、リキッドスマッシュを作成してきました。いやぁ、なかなかにやり甲斐のある研究ですよ、これ。あ、柿ピー要ります?」

 

物腰丁寧な口調で話しながら、どこからか取り出した柿ピーを差し出す、機島と名乗る男。

だが戦兎は、そんな事などどうでもよかった。今聞いた事が確かなら、この世界でスマッシュを生み出したのは_______

 

「_____その所為で、どれだけの犠牲者が出たと思っているんだッ!!あれは元々、この世界にあっちゃいけないものだッ!!」

 

「そう熱くならないでくださいよ。私は命じられた研究をしただけですし………凡人がどうなろうと、知った事じゃありません」

 

「何だと………?」

 

機島の淡々とした語りに、戦兎の怒りがどんどんと大きくなる。

そんな様子など露知らずに、機島は妖しい笑みを浮かべながら、続けた。

 

「取るに足らない凡人共が、ほんの少しの間とはいえ、超人になれるんですよ。寧ろ感謝して欲しいくらいですがね」

 

「ふざけるなッ!!」

 

機島のその言葉に、戦兎は怒りを露わにして叫んだ。

 

欠片足りとも悪びれた様子を見せず、嬉々として自身の研究を語る姿に、戦兎はかつての世界の悪に向けたような激しい怒りを燃やした。

 

かつての自分_____葛城巧のように、平和のために止むを得ずやっているわけじゃない。

 

 

彼もまた神大と同じ_____狂人だ。

自分の目的のためならば、平気で人を踏み躙れる、悪魔そのもの。

 

少なくとも今目の前で語ったその姿は、そう認識するに十分すぎた。

 

「さて、無駄話はこの辺にしておきましょうか。ちゃっちゃっと役割を果たさないと、神大先輩に、怒られちゃいますからね」

 

「何……!?」

 

そう言うと機島はポケットから、ピストル型の注射器を取り出した。

そして間髪入れずに、戦兎の首元に注射器を当て、内部の液体を注射させる。

 

「ぐっ…………!?」

 

思わず首元に手を当てようとした、瞬間。

 

「………ッ!これ、は…………!?」

 

全身が、強い倦怠感に襲われた。

まるで重石をつけた状態で水中を潜ったように、体が重い。そしてそれに合わせるように、戦兎の意識も深沼に沈むような感覚に襲われた。

 

「何、を…………!」

 

「一種の催眠薬ですよ。まあ、次に目覚めた時は_________」

 

その機島の言葉を聞き終えられずに_____戦兎の意識は、深い底へと沈んでいった。

 

 

 

 

「こりゃあまた……凄いな」

 

「つか、勝手に女の部屋入っていいのかよ」

 

「仕方ねえだろ、緊急なんだから」

 

『キュルッキュルー』

 

『ギーギガー』

 

美九の屋敷に侵入(?)してから、士道たちはまず美九の寝室を調べてみることにした。というのも、一度来たことのある士道が、一階の応接室には大したものは無いだろうと踏んだ為、何かあるとすれば二階の寝室あたりだろう、と目をつけたからである。

 

広さは二十畳ほどで、部屋の奥に天蓋付きのキングサイズベッドが置かれ、壁に沿うように木製のクローゼットや戸棚が置かれている。そしてベッドの正面には八十インチはあろうかという巨大なテレビが備えられていた。まるで高級ホテルの一室である。

 

『キュルッキュルルー!』

 

『ギーギギガー!ギギギー!』

 

「あ、おいお前ら、そんなにはしゃぐなって!」

 

「うふふ、相変わらず愉快な方達ですわね」

 

ガルーダとドラゴンがどこかテンションが上がっているように、室内を飛び回る。辺りには物が多く置かれているので、あまりはしゃがれたくないのだが______

 

『キュ、キュルッ!?』

 

「あ、おい!」

 

と!そこでガルーダが棚の上にあったものとぶつかり、バランスを崩して床のクッションに落下する。そしてぶつかったと思しき物品が、棚の上から落ちてきた。

 

「こら、大丈夫か?だから言っただろ。今は大人しくしてろ」

 

『キュルッキュゥ………』

 

ガルーダが凹んだ様子で首を下げる。まるで、いたずらを親に怒られた子供のようだ。

そして一海が落ちたものを拾い上げ、訝しげな声を上げた。

 

「つかなんだこれ。菓子の入れモンか?」

 

「同意。そのようですね」

 

夕弦も来て、一海の拾ったものを見る。

よくクッキーなんかが入っているような、お菓子の入れ物である。確かに小物入れなどに使うことはあるが、この豪奢な空間には、なんだかミスマッチに思えた。

一海がその缶を数回振ると、中からカラカラと音が聞こえてきた。

 

「中になんか入ってんのか?開けてみるか」

 

不思議に思ったのか、缶の蓋を開ける。

 

「ん?なんだこりゃ」

 

と、そこで一海は目を丸くした。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、これあいつのCDみたいだ。他にも何枚か入ってる」

 

一海が中に入っていたプラスチックケースを一枚取り出して、士道にも見せてくる。

士道が缶の中に入っていたケースを全て取り出すと、それらケースには全て、美九の姿が印刷されていた。どうやら、美九がリリースしたCDらしい。

 

『ギーギガー?』

 

「あいつこんなに曲出してたのか………」

 

「ああ。自分のCDをこんな缶の中に、後生大事に持ってたのかよ」

 

「………ん?おい、なんかおかしくねえか?」

 

と、そこで万丈が首を傾げた。

 

「あん?どうしたんだよ龍我」

 

「だってよ、誘宵美九って確か、謎のアイドルとか言われてたんだろ?そんな奴がこんな風に、くっきり自分の姿を映したCD出すか、と思ってよ」

 

「…………おいおい、どうした。龍我にしちゃあやけに鋭いじゃねえか」

 

「おい、どういう意味だよそれ!」

 

と、一海と万丈が言い合いをしている傍らで、士道はある事に気がついた。

 

「ん?」

 

「質問。どうしたのですか、士道」

 

「いや、この曲名の下の芸名_____『宵待月乃』って、何だ?」

 

『キュルゥ?』

 

そう。曲名の下に記された名が美九のものではなく、『宵待月乃』という全く別のものだったのである。

一瞬、美九が使用している芸名かと思ったが、クラスメイト達は美九の事を普通に誘宵美九と呼んでいた。美九の名義で活動をしているのは間違いないはずである。

それに万丈の言う通り、彼女は女性ファン限定のシークレットライブにしか姿を現さない。こんな堂々とCDジャケットを飾るなんて考えにくかった。

 

「どうなってんだ……?」

 

『キュルルゥ』

 

「どうかしましたの?」

 

「ん、ああ……」

 

『キュル』

 

士道が曖昧に頷くと、ガルーダがケースの中のCDを咥え、近くにあったオーディオでそれを再生した。頭部を器用に動かし、CDプレイヤーにCDをセット、再生する。

するとアップテンポな可愛らしい曲と共に、美九の声が流れ始めた。

 

「あらあら、可愛らしい曲ですわね」

 

「同意。良い歌声ですね」

 

『キュルゥ!』

 

『ギギーガ!』

 

言って、狂三と夕弦が指先で小さくリズムを取り、ガルーダとドラゴンが愉快そうに小さく飛び回る。

だが、士道達はその声に若干の違和感を覚えていた。

 

「美九の声、だよな?」

 

「なんつーか……青臭いっていうか、若いって感じだな」

 

そう。一海が指摘した通り、この声は今の美九より若いというか、今の美九のように脳幹を揺さぶるかのような妖しい魅力が無く、代わりに一生懸命な直向きさに溢れ、聴くものを元気づけるような不思議な魅力があった。人によっては一海のように、『青臭い』、と称する人もいるかもしれない。

 

「うーん……」

 

不審に思ったものの、何が何だかよく分からない。士道は缶の中にあったCDジャケットを順に見ていき_____最奥にあった写真立てに、痛烈な違和感を覚えた。

 

「え………?」

 

おかしい。______何かが、おかしい。

いや、写真立て自体には、別段おかしなところはない。写真も、別に変なものが写ったり、重要な情報がメモされているだとか、そんなことはない。

だがそれは。普通に考えれば存在するはずのない写真だった。

 

「ん?どうしたんだよ士道」

 

「疑問。どうしたのですか士道」

 

『キュルゥ?』

 

万丈と夕弦とガルーダ、それに続いて一海達もやって来た。

すると、脇から白い手が伸びてきて、写真をひょいと摘み取った。狂三だ。

 

「あ、お前何すんだよ!」

 

「面白そうなものがありましたわね。少し、お借りしますわ」

 

万丈の抗議の声を無視して、写真と残っていたCDを一枚重ねて持つと、空いている手をパッと掲げ、影から飛び出してきた古式短銃を持った。

 

「【刻々帝(ザフキエル)】_____【一〇の弾(ユッド)】」

 

次いで狂三が言うと、影の一部に【Ⅹ】の紋様が輝き、そこから影が漏れ出すように滲んで、短銃の銃口に吸い込まれた。

そうしてから狂三は、何故か写真とCDを側頭部に触れさせ、それに向かって短銃を構え、そして、躊躇いなく短銃の引き金を引いた。

 

「う、うおわァァッ!?お、おまっ、な、何して………ッ!?」

 

「く、狂三!?」

 

『キュルッキューッ!?』

 

狂三の力を初めて目の当たりにした一海はその狂三の突然の行動に驚愕して叫び、士道も同様に混乱したが、すぐに異常に気付いた。狂三の頭はおろか、銃弾が貫通したはずの写真やCDにも、傷ひとつ付いていなかったのである。

 

「うふふ、大丈夫ですわよ。【一〇の弾(ユッド)】の力は回顧。撃ち抜いた対象が有する過去の記憶を、わたくしに伝えてくれる弾ですわ」

 

「過去の……記憶?」

 

「……せ、精霊ってやつは、何でもありなのかよ…………?」

 

狂三が何ともなかった事に安堵した一海だったが、やはりその力に困惑してか、近くにいた万丈や夕弦を見て言う。すると二人して、イエスともノーとも言ってない顔になり、微妙な反応を返した。

その横では狂三が、写真とCDを眺めながら唇の端を上げた。

 

「なるほど______そういう事でしたの。断片的にですけれど、彼女に覚えていた違和感の正体が分かりましたわ」

 

「な、何か分かったのか!?」

 

「ええ。どうやら美九さんは_______」

 

と。狂三が言いかけたところで。

窓ガラスが微かに揺れたかと思うと、すぐに外から、凄まじい音が流れてきた。

 

「な、警報………!?」

 

「………いや違え。こいつは………!!」

 

士道はハッと目を見開いたが、万丈が野生の勘とでも言うべきか、すぐにその音の正体に気づいた。

 

_____音楽である。

 

巨大なパイプオルガンで奏でたような荘厳な音と、聴く者を虜にする美声によって紡がれた音が、街に響き渡り始めたのだ。

それを耳にした瞬間、士道と万丈、一海はこめかみの辺りを押さえて、夕弦は咄嗟に取り出した、先程戦兎が付けさせたように耳にイヤモニを付け、なんとか意識を保った。ガルーダとドラゴンも待機状態になり、じっと大人しくなる。

 

「これは、美九の………!」

 

そう。美九とその天使たる【破軍歌姫(ガブリエル)】による演奏だ。

 

「外には___何もねぇぞ……っ!?」

 

しかし万丈が窓から外を覗いたが、あの巨大かつ荘厳な天使の姿を見取る事は出来ない。恐らくは公共のスピーカーをジャックしたか、もしくは街宣車か何かを走らせたのだろう。

 

「機械越しでも操られるってのは、厄介だなクソッ………!」

 

一海が毒づく。先程警官隊たちが洗脳された事から見ても、美九の歌声が機械を通しても効果があることは立証されてしまっている。これでこの近辺の住民達も美九の熱狂的な信者(ファン)……士道達を捉えるための尖兵となるだろう。

 

「確認。あなたは、大丈夫なのですか……?」

 

「ええ。言ったでしょう、わたくしがこのような演奏に心動かされることなどないと。しかし……随分と派手にやってくれますわねぇ」

 

「ああ。着実にこっちの行動範囲を狭めて来やがる。ここだっていつまで保つか………」

 

一海が窓の外を眺めて言う。すると狂三が、仕方ないですわね、と言って続けた。

 

「お話は道中するといたしましょう。あくまでもわたくしはお手伝いをするだけ。場所は如何様にでも整えましょう。でも、その引き金を引けるのは、そう_____士道さんしかいませんわ」

 

「え…………?」

 

士道は目を丸くし______しかしすぐに狂三の意図を察してぐっと拳を握った。

 

「狂三。それに、みんな_______力を貸してくれ。あの駄々っ子と、話をつけに行く。そして、戦兎と十香も取り戻す!」

 

「喜んで」

 

「おうよ!」

 

「快諾。勿論です」

 

「あの生意気娘に、一発かましてやれ!」

 

『キュルッキュルゥッ!』

 

『ギーギーギガー!ギーギーギーッ!』

 

今この瞬間______士道達は決意を新たに、結束した。

 

 

 

 

 




どうでしたか?

あらすじにも書いた通り加筆修正ですが、第1章『十香デッドマッチ』全編と、第2章『四糸乃チェンジング』までが完了しました。
またそれに伴って、士道のメカのアライブガルーダや、クローズドラゴンをもっと作中で登場させていきます!第3章からの加筆修正や今後の本編でもそのシーンを追加していくので、楽しみにしててください!

そして新キャラの機島械刃。
今のところは神大とキャラが被っているように思われるかもしれませんが、彼はもう少し後に活躍する感じですね。今回や前回はその為の布石って感じです。勿論、活躍するまでもちょくちょく登場しますが。

それでは次回、『第67話 仲間達とのシージバトル』をお楽しみに!

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第67話 仲間達とのシージゲーム

士道「DEMに捕らえられた十香、戦兎を救出する為、アイドルにして精霊、誘宵美九と対話をする為、美九の元へと向かう、仮面ライダーアライブこと、五河士道と、万丈、夕弦、一海さん、そして狂三の五人。そして狂三は自身の力によって、誘宵美九の過去を知ったようだった……」

狂三「今回からわたくしもあらすじ紹介に参加しますわー!」

万丈「うわぁびっくりしたぁ!影から急に出てくんなよ!」

狂三「あらあら、そんな寂しいことを言わないでくださいまし、龍我さん」

一海「てか前回思ったけどよ、時間操ったり分身したり人の過去を覗き見たり……色々ズリィなお前!」

狂三「うふふ、褒め言葉として受け取って……」

「………何をしていますの、わたくし」

狂三「ぎくっ、ですわ!?」

万丈「う、うわっ!狂三が二人!」

士道「これ、どっちかが分身体………てか、後から来た方が本体だな、これ」

狂三(本体)「わたくしがご迷惑をお掛けしましたわ。ほら、戻りますわよ」

狂三(分身体)「い、良いではありませんの!わたくしだって一回くらいあらすじ紹介に出たいですわ!」

狂三(本体)「問答無用、ですわ!」

狂三(分身体)「あーれー、ですわー!?」

狂三(本体)「……それでは皆さん、御機嫌よう」

三人『…………』

一海「……何だったんだ、今の」

万丈「……さあ」

士道「……と、とりあえず、第67話、どうぞ!」





天宮市の中心に位置する、天央祭の舞台にして、天宮市大暴動の舞台、天宮スクエア。

そして今は_____誘宵美九の居城と化した場所。

 

その一室に、一連の事件の発端たる誘宵美九が、憎しみと怒りを混ぜたような様子で腕を組んでいた。

 

「あの男は……まだ見つからないんですかぁ?」

 

美九が怒気の篭った声で言うと、側に控えていた少女_____四糸乃がビクッと肩を震わせた。

 

「は、はい………その、まだ連絡は入ってきて……いません………」

 

「そうですかぁ………引き続き捜索を続けさせて______」

 

と、美九が指示を出そうとした所で、部屋の扉がバタン!と開かれ、四糸乃と同じようにメイドの姿をした三人の少女が走ってきた。

 

「失礼しまッす!お姉様!」

「緊急事態です!お姉様!」

「マジ引きます!お姉様!」

 

と、少女たちが身長順に叫んでくる。

士道と共にバンド演奏をするはずだった少女たち、亜衣麻衣美衣のトリオである。

 

「どうしたんですかぁ、そんなに慌てて」

 

美九が問うと、三人は一瞬顔を見合わせてから言葉を続けてきた。

 

「た、大変なんです!五河くん達が見つかったんですよ!」

 

「………なんですってぇ?」

 

美九はその報告に一瞬視線を鋭くし______

すぐに喉の奥からくつくつという笑いを漏らし始めた。

 

「ふふ、ふふふふふふふふふ………ッ!そうですかー、ようやく見つかりましたかー」

 

言いながら、椅子からゆらりと立ち上がる。

 

「思ったよりも粘りましたねぇ。______一体誰が発見してくれたんですかぁ?見つけたのが女の子なら、特別に可愛がってあげます。あとで部屋に呼んでください。男だったら………まあ、金平糖一粒くらい与えても良いでしょう」

 

だが、美九がそう言うと、亜衣麻衣美衣は困惑した様子で口を開いた。

 

「え、ええと………見つかったのは見つかったんですが………」

 

「その、発見者が多すぎるというか………」

 

「この近く………てか、天宮スクエアのど真ん中にいるんですけど…………ど、どうしましょうか……」

 

「………へ?」

 

美九は目を見開き、素っ頓狂な声を発した。

 

 

 

 

「______おーおー、結構なもてなしじゃねーか。だが悪いな、俺ぁみーたん以外に靡くつもりはねーんだ」

 

「……改めて見ると、すげえ数だな」

 

「同意。そうですね………」

 

「あらあら、怖気ていらっしゃるのですか?夕弦さん」

 

「否定。……これは、武者震いです」

 

「みんな、そこまでだ。………知ってたけど、あいつら本気だぞ」

 

気楽な応酬だと、正気で聞いている人は思うだろう。しかしそこにいた五人_____一部の例外を除く______は、皆汗を滲ませて平静を保つのに精一杯だった。

それもそうだろう。何せ士道達五人の周囲には、夥しい数の人々が殺意の篭った眼差しで、こちらを見据えて包囲網を張っていたのだから。筋骨隆々の男や、拳銃を持った警察官達が、半円形を作るようにして士道達ににじり寄る。スマッシュと相対する時とは毛色の違う圧に、士道は己を奮い立たせて何とか踏みとどまった。

と、そこで。

 

『_____わざわざ私のお城に戻って来るだなんて、随分と余裕があるんですねー。士織さん………いえ、五河士道………ッ』

 

天宮スクエア前に、そんな声が響き渡った。スピーカーを通して入るものの、間違いない。美九の声だ。どうやらもう、士道たちが現れたことは伝わったらしい。

 

「………美九」

 

士道は思わず美九の名を呟く。

すると美九は、声のトーンを変えることもなく言葉を続けてきた。

 

『一体何のつもりかは知りませんけどぉ、こうなった以上はもう逃げられませんよー?』

 

「………こっちだって、逃げるつもりなんかないさ」

 

再び士道は言うと、懐からベルト_____リビルドライバーを取り出し、腰にあてがった。【アジャストバインダ】が巻きつき、ベルトが固定される。

そして同じようにして、万丈と一海はスクラッシュドライバーを取り出し、装着した。夕弦は限定解除した霊装をその身に纏っており、狂三はその側で不敵に笑っている。

 

「……ガルーダ」

 

『キュルッキュイーッ!!』

 

士道が呼ぶと、ガルーダは士道の上空へと舞い戻り、ガジェットモードに変形して士道の手元へと収まる。

万丈と一海もそれぞれ【ドラゴンスクラッシュゼリー】、【ロボットスクラッシュゼリー】を取り出した。

 

『______さあさ、皆さん、捕まえちゃってください。少しくらいなら痛めつけてもいいですけどぉ、できるだけ丁重に扱ってくださいねぇ?_____でないと、私がやる分が減っちゃいますしぃ』

 

底冷えのするような声を残して、プツッ、と音声が切れる。瞬間____地面を揺るがすかのような轟声が鳴り響いた。

 

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお_______ッ!!』

 

 

そして五人が背中を合わせるようにして立ち直し、士道はボトルを、一海と万丈はスクラッシュゼリーを装填する。

 

 

【Get Up!ALIVE-SPIRIT!!

 

 

ドラゴンジュゥエリィー!!

 

 

ロボットジュゥエリィー!!

 

 

信者達が士道達に襲いかかってくるも、周囲に展開した【スナップリアライズビルダー】、【ケミカライドビルダー】によって阻まれ、後ろに吹っ飛んでいく。

 

 

【Are You Ready?】

 

 

「「「変身!!」」」

 

 

【Dead Or ALIVE-SPIRIT!!イェーイッ!!】

 

 

ドラゴン・イン・クロォーズチャァージィィッ!!ブルルルルゥゥゥラァァァアッ!!!】

 

 

ロォボット・イィン・グゥリィスゥゥッ!!ブルルルルゥゥゥラァァァアッ!!!】

 

 

変身を終えた三人は、改めて周囲の人波を見渡す。人々は変身した三人の姿に少し戸惑っている様子だったがしかし、再び雪崩のように襲いかかってくる。

するとグリスとクローズチャージは、アライブを庇うように先立ち、人々が傷を負わない程度に応戦した。

 

「民間人に手は出せねえがっ、足止めするくれえは出来る!」

 

「士道、お前は美九を!」

 

「二人とも!だ、大丈夫なのか!?」

 

囮を引き受けた二人に、アライブが声をかける。グリスとクローズチャージは振り返り、アライブに返した。

 

「へっ、俺たちを誰だと思ってやがる!」

 

「これくらい、どうって事ねえ!お前は早く行くんだ!」

 

そのような心配など無用、とばかりに、二人は人々を極力傷つけないように、アライブに近づけさせまいと奮闘していた。

二人とも前の世界では、三国の戦争やエボルトとの戦いなど、数々の死地をくぐり抜けた熟達の戦士達だ。いくら美九の声によって洗脳されているとはいえ、所詮は民間人。傷つけぬ様手加減して戦うなど、これまでに比べれば簡単なものである。なまじ全員が怪我を恐れず突撃してくる為、少々手こずる事は手こずるが。

 

「………分かった!」

 

その姿に信頼し、二人に返事をする。

そしてアライブは背面から赤い翼、【ソレスタルファイアーウイング】を生成し、天高く舞い上がった。するとそれに付いてくるように、ペンデュラムを手にした夕弦と、狂三が隣に飛んでくる。

 

「追従。お伴します、士道」

 

「さ、士道さん」

 

「夕弦、狂三……すまない、行くぞ!」

 

二人に礼を言うと、アライブは翼をはためかせ、セントラルステージへと一直線に飛んで行った。その後ろを、狂三と夕弦が追従する。

途中、上空を飛んでいたヘリが妨害しようと目の前に飛んできたが、ルートを旋回してこれを回避する。眼下に広がる人々の群れを見下ろしながら、程なくして三人はセントラルステージの入り口まで辿り着いた。背中のウイングを消し、地面に着地する。

 

「さ、士道さん」

 

「おう……!」

 

アライブは狂三が促すのに頷き、一気に扉を押し開ける。

するとその眼下には、異様な光景が広がっていた。

 

「っ、なんだ、これ…………!?」

 

セントラルステージ内部の観客席は、少女たちで埋め尽くされていた。

その時点で既に異様と言えるのだが、問題はその少女たちの様子である。その場の全員が倒れ、苦しげに呻いているのである。そして辺り一帯の地面には、ステージの暗さとは明らかに違う、黒々とした、吸い込まれそうな闇が広がっていた。

 

この光景には覚えがある。そう、今からおよそ三ヶ月前_____狂三が、高校に通っていた頃に一度だけ体験していた。

 

「戦慄。これは………!?」

 

「まさか、【時喰みの城】………!?」

 

「_____きひっ、ひひひッ。よく覚えていましたわね、士道さん。外の方は龍我さんたちに任せましたが、保険をかけておいて正解でしたわね」

 

狂三がニィと唇の端を歪め、アライブに顔を向けてくる。金色の文字盤が描かれた左目の上を、時計の針が高速で回転していた。

【時喰みの城】は、天使の能力で自分の【時間】を消費しなければならない狂三が、外部から【時間】を補充する手段である。自らの影を踏んでいる人間を昏睡状態にさせ、その【時間】______即ち寿命を吸い上げるのだ。

 

「狂三、お前………っ!」

 

「きひひ、大丈夫ですわよ。これはあくまでも保険として仕掛けて置いたものです。それに一人ひとりから頂いている時間は大したことはありませんわ。今から摂生に勤めれば十分お釣りが来るレベル_____と、お喋りしている時間は無さそうですわね」

 

狂三が会話を切り、最奥を見据える。

 

そこに、彼女はいた。

 

パイプオルガンの形をした巨大な天使を背に、煌めく霊装を身に纏った少女_____誘宵美九が、悠然と立っている。

そして彼女に付き従うように、メイド服の上に霊装を限定的に顕現させた、各々天使を携えた四糸乃と耶倶矢の姿が見て取れた。

 

「美九!」

 

アライブが名を呼ぶと同時、美九が大きく溜息を吐く。

 

「何ですかぁ、その声。汚らわしい音声で私や、私の精霊さんたちの鼓膜を汚さないでくれませんかー?本当に不愉快な人ですねぇ。無価値を通り越して害悪ですねぇ。例えその身が粉になって地に還っても、新たな生命を育む事なくその地に永遠に消えない呪いを振りまくレベルの醜悪さですねぇ。ちょっと黙ってくれませんか歩く汚物さぁん」

 

「……ぐ」

 

間延びするような口調で絶える事なく繰り出される罵詈雑言に、仮面の下で思わず眉を歪めてしまう。

そしてもう一度口を開こうとした_____その時。

美九の視線が、夕弦に注がれていた。

 

「あらー、貴方………精霊さんの一人にそっくりですねぇ。そういえば、ライブの時に一緒にいましたよねー」

 

「…………」

 

「うふふ、良いですねー。害悪と言いましたけどー、こんな可愛い子を連れて来てくれるなんて、無価値以下の害悪なりに生かした甲斐はありましたねー」

 

「美九、お前ってやつは………ッ!」

 

美九のその言葉に、再びアライブの怒りに火が付く。

自分への罵倒に対する怒りなどはどうでも良い。問題は、彼女が夕弦を自分の思い通りに動く、玩具や道具のように見ていた事だった。元からこうではなかったかもしれないとはいえ、改めて彼女の歪んだ心に憤る。

 

「ふふ、じゃあこうしましょうかー。あなたが私に心から従って、好きになってくれるなら、そこの無価値で害悪なミジンコ以下の劣等種の話も、聞いてやらなくもないですよー?」

 

「美九!ふざけんのも大概に______」

 

だが、アライブが言い終えるより先に。

 

「_______憤怒。大概にして下さい」

 

夕弦が、続けた。

それも、眼前に見据えた美九に対する、明らかな怒りを滲ませた表情をして。そしてすかさず、続けて言い紡ぐ。

 

「私の半身を______耶倶矢を奪った敵にそんな事を言われて、従うと思いましたか。それに………」

 

普段の冷静沈着な様子からは想像も付かない、憤怒の声音。

そしてその中に含めた_____確固たる決意の意志。

 

 

「______私が心から好きになったのは、桐生戦兎______私のヒーロー、ただ一人です。貴方にくれてあげるほど、安い想いではありません」

 

 

「______宣言。貴方に従うつもりはありません。貴方から耶倶矢を取り戻し、戦兎も助け出します」

 

 

夕弦が、断固たる意志を以って、その愛を、決意を表明する。

揺るぐことの無い半身への絆と、想い人への恋慕を。

 

「……あらあら、戦兎さんも幸せものですわね」

 

「そうだな。……というわけだ、美九」

 

仮面の下で視線を鋭くし、改めて美九を見据える。

すると美九は唇を噛み、我慢できないとばかりに口を開いた。

 

「______何ですか、それ………。ヒーロー?想い?ハッ、馬鹿馬鹿しい。全く、反吐が出ます…………ッ!!」

 

美九が憎しみの意思を剥き出しにして、両手をバッと広げる。

するとその手の軌跡を辿るように、虚空に光り輝く鍵盤が現れた。

 

 

「【破軍歌姫(ガブリエル)】______【行進曲(マーチ)】!!」

 

 

そして両手の指を、激しく鍵盤に走らせていく。

すると会場中にその名の通り、勇気を奮い立たせるかのような曲が響き渡った。

瞬間、ぐったりしていた観客席の少女たちが、まるで糸を引かれた人形(マリオネット)のように、急にこの場に立ち上がる。

 

「驚異。これは………!」

 

「ッ…!」

 

ふと狂三の方を見やるも、彼女が時喰みの城を解除した様子はない。即ちこれは、美九の力によるものだ。

そして美九が勝ち誇ったように笑い、さらに演奏を激しくする。

 

「さあ______もう捕まえろなんて悠長なことは言いません。私のことを好きにならない子も邪魔です!私の可愛い女の子たち!私の目の前で!その三人を殺しちゃってくださぁいっ!」

 

美九の声と共に、数千人はいようかという観客席の少女たちが一斉にアライブ達の方に顔を向ける。

 

「く……っ!」

 

アライブは身構え、もう一度ウイングを出現させようとした。

______だが、その少女たちが士道たちに襲いかかるより先に。

 

「きひひ、駄ァ目、ですわよ。そんなふうに勝ち誇ってしまっては」

 

狂三が唇を三日月型に歪めたかと思うと、影が、会場全体を真っ黒の闇に塗り潰した。

 

「だって、あなた方が今から相手取るのは_______()()()()では済みませんものねェ」

 

「な…………!?」

 

美九が狼狽の声を響かせる。だが、それも無理からぬ事だった。

美九によって支配された領域であるステージのあらゆる場所から、突如として幾人もの狂三が現れ、観客席の少女たちの手を、足を、身体を拘束していったのだから。

 

「______ッ!」

 

「狼狽。これが狂三の…………」

 

その異様な光景に、美九だけでなくアライブ、夕弦も半ば呆然としてしまった。

だが、すぐにアライブはハッとして狂三の方を向いた。

 

「狂三!」

 

「わかっていますわよ。殺しはしません」

 

狂三は、アライブが言うよりも先に、その意図を察してやれやれとかぶりを振った。

 

「な、何ですかこれはっ!一体何が…………!」

 

床から、壁から、座席から()()()幾人もの狂三たちが一斉にくすくすと笑う。

その光景は、さながら気の触れた画家が描き上げた絵画のよう______まさしく、悪夢(ナイトメア)と呼ぶに相応しい違和と不条理に溢れていた。

しかし、これで美九側の陣営を全て抑えることができたかと言えば_____決してそんな事はなかった。

 

 

「【颶風騎士(ラファエル)______【穿つ者(エル・レエム)】!」

 

 

そんな声と共に、上空から轟音と共に突風が襲いかかってくる。

 

「くっ………!」

 

アライブは圧倒的なその風圧に、全身をウイングで包み込み、力を入れる事でどうにか踏み止まった。これがもし生身であったなら、間違いなく向こうの壁に叩き付けられていただろう。

そして姿勢を戻すと、ステージ上から空に飛び上がった一人の少女を見上げる。

 

「耶倶矢………!」

 

「呼掛。耶倶矢………」

 

メイド服の上に拘束衣のような霊装を着込み、背には片翼を顕現させ、アライブを見下ろしながら巨大な槍を構えている。

 

「また性懲りもなく来よったか、赤き不死鳥の戦士(アライブ)よ!姉上様に危害を加えようとするものは、誰が相手でも容赦せぬ!煉獄に抱かれたくなくば、鳥らしく飛んで疾く去ね!」

 

耶倶矢が空中に静止しながら、アライブに鋭い視線を浴びせてくる。冗談でも悪ふざけでも無い。今の彼女はその気になれば、本気でアライブを殺しにかかるだろう。

 

「お、お姉様には……指一本、触れさせません………!」

 

同じように、ステージ上では【氷結傀儡(ザドキエル)】の背に張り付いた四糸乃が冷気の結界を張り、美九に狂三の分身体が群がるのを防いでいた。

それを見てか、顔を強張らせていた美九が再び顔に余裕を取り戻し始める。

 

「ふ、ふふ……そうですよぉ。私には今、可愛い可愛い精霊さんが二人付いているんです………!負けるはずがありません!」

 

すると、会場内の狂三が、またしても至る所からくすくす、と笑った。

木々の生い茂る森を風が吹き抜けていくかのように、そこら中から声がこだました。流石に四糸乃や耶倶矢も気味悪がってか、不快そうに顔を歪める。

狂三が___悠然と片手を挙げ、謳うようにその名を呼んだ。

 

 

「______さあ、さあ、御出でなさい、【刻々帝(ザフキエエエエエエル)】。不遜で身の程を知らない精霊さんに、少しお灸を据えて差し上げましょう」

 

 

瞬間。ステージの入り口を遮るように、地面から金色の時計が姿を現す。狂三の身の丈の倍はあろうかという巨大な文字盤の上で、古式の歩兵銃と短銃がそれぞれ時計の針のように時を指し示していた。

狂三がバッと両手を広げると、その動作と共に時計から二丁の銃が外れ、狂三の手に収まる。

そして狂三が囁くように、アライブに言葉を向けてきた。

 

「さあ、士道さん。準備はよろしいですの?」

 

「え?準備って……」

 

「今から美九さんと二人きりにして差し上げますわ。何とか説得を試みてくださいまし。改心させられるのであれば良し。それが不可能ならば、十香さんと戦兎さんの救出を邪魔したいことだけでも約束させてきてくださいまし」

 

狂三はそう言って、ウインクをしながら短銃の銃身に口づけをした。

 

「【刻々帝(ザフキエル)】_______【一の弾(アレフ)

 

狂三が言うと同時、時計の文字盤のの部分から影が滲み出て、狂三の短銃に吸い込まれていく。

そしてその引き金を、アライブの背中へ向けて引く。【一の弾(アレフ)】の力、それは______

 

「く………っ!」

 

_____撃ち込んだ対象の、時間を加速させる能力。

 

アライブはその加速した時間の中で、ウイングをはためかせ、耶倶矢の下をくぐり抜け、美九のいるステージの元へと一直線に向かった。

 

「なぬっ!?くっ、させるか!」

 

そして一瞬の隙をつかれた耶倶矢が、アライブを追撃しようとする。

 

「阻止。させません」

 

だがその耶倶矢の前に、夕弦が立ちはだかった。ペンデュラムを構え、己の半身と向かい合う。

 

「夕弦……なぜ我の邪魔をする!何故姉上様に従わぬのだ!」

 

「宣言。______耶倶矢を、取り戻す為です。その為に、ここから先へは行かせません」

 

二人の鋭い視線が交差する。

それはまるで、かつて互いを生かすために戦った時のような、そんな緊張感に溢れていた。

 

そして夕弦が耶倶矢を足止めした事により生じた隙で、アライブは既にステージ上に辿り着いていた。狂三もそれに追従するように、ステージへと舞い降りる。

 

「………!」

 

『わっ!わわっ!』

 

ステージ上に控えていた四糸乃と【氷結傀儡(ザドキエル)】も、突然の事態に慌てたようだった。いきなり目の前に現れた敵から美九を守ろうとしてか、ステージ上に氷の壁を形作っていく。

しかしその瞬間周囲から幾人もの狂三がミサイルの如く【氷結傀儡(ザドキエル)】に飛びかかった。

 

「きひひひひひひひひッ!」

 

「き、きゃっ………っ!」

 

『のわー!なんなのよさ君たちはー!』

 

四糸乃がぐいと両手を引き、【氷結傀儡(ザドキエル)】が身を反らす。それと同時に、彼女らの周囲に空気中の水分が凝結した、氷柱のような氷塊が生まれた。それらが四方八方に弾け、迫り来た狂三たちを迎撃する。

だが、それによって結界の生成に数秒のラグが発生した。氷壁が完成する寸前に、アライブが高く飛び上がり、狂三と共に目にも留まらぬ速さで美九に肉薄する。

 

そして、美九がアクションを起こすより先に、美九の足元に漆黒の影が広がり、中から飛び出した狂三の分身体が背後から美九の口を塞いだ。

 

「な…………っ!む、むぐっ!?」

 

美九が目を白黒させ、拘束から逃れようと手足をジタバタと動かす。

しかしすぐに、影から狂三たちが這い出、美九の手足を絡め取った。そしてそのまま、ゆっくりと美九を影の中に引きずり込んでいく。

 

「んぐーっ!むんんんんんんん___________っ!?」

 

必死に抵抗するも、美九に何人もの狂三に抗えるほどの膂力はないらしかった。徐々にその身体が、闇に飲み込まれていく。

 

「なっ!?く、狂三!何してるんだ!話が違うじゃ_______」

 

アライブは言葉の途中で息を詰まらせた。

狂三の前に立っていたアライブの身体もまた、ゆっくりと足元の影に沈み始めたのである。

 

「な………!狂三!?」

 

驚愕に目を見開き、なんとか逃れようともがくも、狂三の手はアライブを離そうとしなかった。いくら変身していようが、こんな大人数に掴まれては意味が無い。エレベーターのように視界が段々と下がっていく。

 

「く______あ………っ」

 

「きひひ、ひひひひひひひ」

 

狂三の甲高い笑い声を聞きながら______アライブの、士道の視界は、真っ黒に染まった。

 

 




どうでしたか?
夕弦をヒロインとしてもっと立たせたい………!という事で今回あのシーンを入れました。
ただそれによってなんか四糸乃と耶倶矢の不遇感が………だ、大丈夫!今回の章も後半で活躍する予定だから大丈夫!(自分と読者に向けて)

この七巻の範囲は後半に向けて行くにつれてどんどん書くのが楽しくなってきますね!これからどんどんと書いていきますよ!

それでは次回、『第68話 闇の中のダイアログ』をお楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!


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第68話 闇の中のダイアログ

真那「私が勤めてた悪徳企業、DEMに囚われた十香さんと戦兎さんを救う為、アイドルにして精霊の、誘宵美九との対話に挑む、兄様こと仮面ライダーアライブとその仲間たち!しかしそれを手助けしたのは、あの性悪な悪魔の精霊、ナイトメアでいやがりました………!」

龍我「お前、ほんとあいつの事嫌いなのな」

真那「当たり前じゃねーですか!あんな性悪で、人の事を舐め腐った態度で見下して、挙句兄様を誑かそうとして…………!」

夕弦「指摘。後半は貴方の想像も含んでいませんか?」

真那「含んでねーです!こうなったら、こんなことしてる場合じゃねーです!一刻も早くあの女を切り刻まなければ………!」

龍我「落ち着けって!今は戦兎達助けんのが先だろ!つーわけでこいつが暴走する前に、第68話を見てくれよな!」

夕弦「感謝。お気に入り登録者800人越え、有難うございます」

龍我「このタイミングでそれ言うか!?」




「………あれ?」

 

闇の中で、士道はぱちくりと目を瞬かせた。

今、確かに士道は狂三の影に飲まれたのだが_____少なくとも士道には未だ、意識も身体の感覚も残っている。

と、そこでふと自分の身体を見回すと、そこで初めて自分の変身が解除されているの分かった。恐らくは呑まれた時に解除されたのだろう。ベルトが装着されたままだったのは気にかかったが。

士道は眉をひそめて辺りを見回した。が、そこにはただ茫洋とした闇が広がるのみで、他にも何も見当たらなかった。

 

「ここは……狂三の影の中なのか?」

 

「ああっ、何なんですかもうーっ!ここはどこですかー」

 

と、背後から聞き覚えのある声が響いてくる。士道は振り向き、そちらに目をやった。

 

「美九!?」

 

「………むっ」

 

美九も士道の姿を認めてか、一瞬驚いたように目を丸くしてから、すぐに忌々しげな顔を作り、大声を発そうとして大きく身体を反らす。

が、その動作は寸前で止められた。辺りに溢れていた影が美九に絡みついたのである。

 

「ひ………っ!?」

 

美九が身を竦ませる。すると何処からともなく、くぐもった声が聞こえてきた。

 

『きひひ、おいたはいけませんわよ、美九さん』

 

そしてそれと同時、小さな、しかし何人もの笑い声が辺りから響き渡る。

 

『_______さぁ、一つ目の約束は果たしましたわ。あとは士道さん、あなたにお任せします。とはいえ、あまり時間はありません。お急ぎになってくださいまし。ああそうそう、変身は今解除させていただきましたが、戻る際には元どおりですわ。安心してくださいまし』

 

「は、は……」

 

士道は力無く頰をぴくつかせた。『士道と美九を二人きりにする』……確かにその約束は果たされているのだが、少々やり方が強引な気がしないでも無かった。ていうか、実行前に説明の一つでもあっても良かったのではないのだろうか。

 

だが、あの夥しい軍勢に加えて、四糸乃や耶倶矢といった精霊に守られた美九と一対一になるには、確かにこれくらいしか方法はなかっただろう。士道は気を取り直して美九に向き直った。

 

_______対話を、する為に。

 

 

 

 

_____一方その頃。

天宮アリーナ内部には、猛烈な風が吹き荒れていた。

 

「____く……っ!夕弦よ!何故だ!何故姉上様に逆らうのだ!!」

 

「耶倶矢……!」

 

裂帛の勢いで突き出される槍を、ペンデュラムで組んだ方陣のような盾で防ぐ。そして役割を終えると、ペンデュラムは再び元の鎖に戻って夕弦の手元に戻った。

耶倶矢は、夕弦が何故敵対しているのか心から分からないという様子で、夕弦に向かっていった。

 

「姉上様の寵愛を受ける事こそ、至上の祝福であるはずだ!なのに何故!」

 

「警鐘。それは誘宵美九によって、そう思い込まされているだけです!いい加減、目を覚まして下さい!耶倶矢!」

 

耶倶矢と夕弦。

お互いの得物である、高速回転する槍と、剣のように編まれた鎖が打ち合わされる。まるで、かつて互いの存在を、生死を掛けて戦った時のような、互いに一歩も引かぬ戦い。

だが______

 

「ふん、緩いわ!」

 

「くっ______!」

 

耶倶矢の槍が、夕弦より一手早く繰り出され、風圧によって吹き飛ばす。

そう。美九の洗脳によって容赦が無い耶倶矢に対し、夕弦はあくまでも耶倶矢を取り戻す為に戦っているのだ。これまでとは状況が違う。つまり、本気で戦えていないのだ。

その為どちらが今優勢かは、火を見るよりも明らかだった。壁に叩きつけられた夕弦が、ふらふらと飛び上がり、痛む腕を押さえる。

 

「どうした、夕弦よ。お主の力は、その程度ではあるまい!」

 

耶倶矢が再び槍を構え、手負いの夕弦へと突撃する。

避けようとする夕弦だが、消耗が激しいのか、満足に風を操れず、その場から動くことができない。

槍の穂先が夕弦に向かわんとした、その時_______

 

 

『_______私が心から好きになったのは、桐生戦兎_______私のヒーロー、ただ一人です。貴方にくれてあげるほど、安い想いではありません』

 

 

先ほど、美九に夕弦が言い放ったその言葉が、耶倶矢の脳裏を掠めた。

瞬間、耶倶矢の頭にズキンと、痛みが走る。

 

「くっ______なんだ、一体______」

 

「っ!耶倶矢………?」

 

突如苦しみだした耶倶矢に、夕弦が心配そうな声音で尋ねる。

しかし耶倶矢はそれに意を介せず、頭を押さえる。

先程思い出した夕弦の声に続けて、再び脳裏に声が響く。しかしそれは、夕弦の声ではない。

 

 

『______耶倶矢は、夕弦の事を夕弦自身よりもずっと大切にしてるって事だッ!』

 

『______もう、生かし合わなくて済むな』

 

『そこまで言うんなら、俺を振り向かせてみろよ』

 

『今の俺は、負ける気がしねェッ!!』

 

 

「これ、は…………っ!?」

 

まるで頭の中で反響するように、幾度となくその声が響く。

煩わしい。鬱陶しい。なのに何故か、暖かい。

 

不器用だけど、優しくて。誰よりも熱くて。

 

この声の、主は_______

 

「呼掛。耶倶矢……!」

 

と、夕弦が耶倶矢に近付こうとした、その時。

 

「よしのん…………!」

 

『オッケー!危ないよ耶倶矢ちゃーん!』

 

「ッ!」

 

突如耶倶矢と夕弦の間を破るように、地面から巨大な氷塊が突き出るように生えてきた。

そこでハッとなった耶倶矢が、夕弦から距離を置いて、再び槍を構える。

 

「懸念。四糸乃………」

 

「お、お姉様を傷つける人は、許しません……!」

 

『やっはー、危なかったね耶倶矢ちゃーん。でも、もう大丈夫だよー!』

 

「く…………!」

 

四糸乃達の到来により、形勢は不利になった事を感じ、夕弦は歯噛みした。

一方でその頃、士道の対話も進んでいた。

 

 

 

 

狂三の影の中。

今は二人きりの空間で、士道は美九との対話に臨んでいた。

士道は当初美九に対し、『天央祭一日目自分達がで勝った場合、霊力を封印させる』という約束を持ち出し、十香と戦兎の救出を邪魔させないようにした。

が、美九はそれを断固として拒否し、子供のように駄々を捏ねたのだ。

とはいえ士道も、これで美九をやり込む事が目的では無い。これ以上美九を追い詰めては、態度を硬くするだけだ。

士道は美九を落ち着けるように片手を広げた。

 

「美九、一つ取引をしよう。お前の霊力を封印するって約束を、別のものに変更してもいい」

 

「別のもの………?」

 

「ああ。______一つ、俺の言うことを聞いてくれればそれでいい」

 

士道が人差し指を立てながら言うと、美九は嫌悪感を隠すこともなく渋面を作った。

 

「何言ってるんですかぁ………?そんなの、結局何も変わらないじゃ______」

 

「______()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……………………へ?」

 

士道の言葉に、美九は目を丸くした。先まで浮かべていた拒絶と軽快に溢れた表情から一気に力が抜ける。

 

「な、なんですか、それぇ………?」

 

「………恥ずかしながら、今の俺たちで、十香と戦兎を救って脱出できるか分からない。向こうの戦力は強大で、確実とは言えないんだ。でも、お前さえいてくれれば、何とかなるかもしれない」

 

「でもぉ……あなたの目的は私の霊力を封印することだったんでしょう?何でそこまでするんですかぁ?」

 

「決まってるだろ。______それくらい、二人が大切だからだ。仲間を助けるのに、それ以上の理由なんかいらない」

 

「……………っ」

 

士道が簡潔に答えると、美九が再び顔を歪めた。まるで、士道の言葉が信じられないとでもいうように。

 

「ふん………っ!お断りですぅ!だいいち、一人は男ですよね!?そんな奴の為に私が手伝うような真似するなんて、絶っっっ対に嫌ですから!」

 

「美九……」

 

「もう嫌です!あなたの話なんて聞きたくありません!全部嘘です!裏があるんです!人間みたいな利己的な生き物が、誰かをそんなに大切にする筈が無いんです!」

 

「美九、お前………!」

 

士道はぐっと拳を握ると、苦々しげに顔を歪めた。

そう。狂三に美九の秘密を聞いて尚、分からないのはそれだったのだ。

 

「何でそんなに人間を拒絶するんだ!お前だって_______」

 

と、士道が言いかけた瞬間、深い黒に閉ざされた世界に、一筋の光が射し込んできた。

次第にその光は大きくなり、空間に亀裂が走る。すると何処からともなく、狂三の声が聞こえてきた。

 

『______ご歓談中悪いのですけれど………そろそろ時間切れですわ』

 

「え………?う、うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

瞬間、全身をいきなり引っ張り上げられるかのような浮遊感と共に、視界に黒以外の色が凄まじい勢いで入り込んできて______一瞬後には、士道と美九は、天宮スクエアのステージの上に投げ出されていた。

 

「う、うぇ………っ」

 

急に影から引き上げられたからだろうか、少し目がチカチカする。

だがすぐに目が明るさに慣れ____ステージ内の様子が見て取れるようになる。

士道を守るように幾人もの狂三が陣を成し、四糸乃や耶倶矢がそれを向き合うようにしている。さらに上空には、耶倶矢と相対するように、傷ついた夕弦が飛んでいた。

 

「配慮。大丈夫ですか、士道」

 

「夕弦、お前………」

 

「無用。これくらい、どうという事はありません」

 

夕弦は傷を隠すようにして言ったが、どう見ても無理をしている。

そこでふと自分の姿を見ると、姿がアライブのものに戻っているのがわかった。どうやら狂三が言っていたことは本当だったらしい。

 

「立てまして?士道さん」

 

「狂三………、今のは……」

 

「申した通り、時間切れですわ。影の中の人々をそのままにするには、影をその場に開いたままにしておかねばなりませんの。その影が傷つけられれば、その空間は崩れてしまいますわ。_____出来る限り時間は稼いだつもりでしたが、精霊二人を相手取っては、そう上手くいきませんわね」

 

言いながら、狂三が周囲に目をやる。

その視線を追うように周囲を見回すと、夥しい数の狂三の死体が転がっているのが分かった。随分と激しい戦いが繰り広げられていたらしい。

 

「わたくしの時間も無尽蔵ではありません。そろそろ引き上げ時ですわよ」

 

「く………っ」

 

本当なら、もう少し美九と話す時間が欲しかった。

だが、夥しく広がった狂三の死体、そして四糸乃、耶倶矢の敵意に満ちた視線。これ以上は不可能だ。その状況が分からぬほど、士道とて馬鹿では無い。

いや、以前であればもっと伸ばすよう言ったかもしれないが、今までの戦いが、士道に状況を見極める力を多少なりとも付けたのだろう。

 

「分かった。すまない_____!」

 

士道は、アライブは歯噛みして狂三に謝罪すると、背面から【ソレスタルファイアーウイング】を展開した。

 

「夕弦、行くぞ!」

 

「ッ!…………返答、分かりました」

 

夕弦はアライブの言葉に一瞬躊躇いを見せたものの、状況の不利が分かってか、了承した。

 

「【刻々帝(ザフキエル)】______【一の弾(アレフ)】」

 

そして狂三が高速化の弾を撃ち込むと、三人揃ってその場から飛び去った。

 

「にッ、逃さないで下さい………っ!」

 

「応とも!」

 

美九の声に応え、耶倶矢が後を追って外に飛び出してくる。

如何に高速化をしているとはいえ、相手は風の精霊。同じ風の精霊である夕弦はともかく、アライブ達は長期戦ともなれば追いつかれるかもしれなかった。

狂三が耶倶矢の方をチラと一瞥すると、握っていた短銃を再び掲げた。

 

「【刻々帝(ザフキエル)】______【二の弾(ベート)】」

 

その瞬間、ステージの方から高速で影がその銃口に収まり____狂三は耶倶矢に向かって引き金を引いた。

 

「ふん、物分かりの悪い女め!そんなもの我には______」

 

挑発するような声と同時、耶倶矢の動きがピタリと止まる。

否。正確に言うならば、その場に停止しているのではなく、非常に遅いスピードで前進はしている。

 

「あれは………」

 

「きひひ、【二の弾(ベート)】。撃たれたものの時間の進み方を遅くする弾ですわ。本当なら【七の弾(ザイン)】の方が確実なのですけれど、ただ逃げる分にはこれで十分ですわ」

 

狂三の言う通り、耶倶矢との距離はみるみるうちに開いていった。如何に最速を誇る風の精霊でも、あの状態では追いつけまい。

三人はそのまま夜闇を飛び、街中のビルとビルの間に着地した。

 

「ここまで来れば、大丈夫か……」

 

「ええ………と、お二方。もう少しこちらへ」

 

「え?あ、ああ」

 

変身を解除した士道と夕弦は、狂三に手を引かれてさらに路地の裏に入っていった。

次の瞬間、ごうっ、と言う音ともに、上空を凄まじい風が吹き荒れた。言うまでも無い、耶倶矢だ。どうやら士道達を探しているらしい。

 

「あらあら、意識までは奪えないとはいえ、あの速度差でわたくしたちを捉えていただなんて。恐るべき動体視力ですわね」

 

「耶倶矢………」

 

上空を見据え、夕弦がぽつりと名を呟いた。

と、その時。

 

「おーい!士道ー!」

 

「どこだー!?」

 

聞き慣れた声が聞こえ、思わず路地から身を乗り出す。

間違いない。万丈と一海だ。どうやらアリーナから飛び去った士道達の姿を見て、隙を伺い脱出したのだろう。

 

「二人とも!こっちだ!早く!」

 

士道が呼びかけると、二人とも気づいてこちらに走ってきた。

そして一応周囲を警戒し、同じく路地裏に入る。

 

「二人とも、無事だったか!」

 

『キュルッキュゥ!』

 

士道が無事を確認すると、ガルーダも飛び出してきた。二人の様子を見ても、生身の肉体に傷を負った痕跡はない。

 

「へっ、当たり前だ」

 

「ああ。ちと手こずったけどな。それに、なんか途中から動きが鈍くなってよ。まあ、向こうも同じだったが」

 

「っ、それって………」

 

一海の言葉に、士道は思わず狂三の方を見る。すると狂三は、まるで士道が考えている事を見透かしたように微笑んだ。どうやら狂三の影は、外にも影響を及ぼしていたようだった。

 

「それで、どうだったんだよ士道。あの生意気娘への説得は上手くいったのか?」

 

一海が服をはたきながら問うてくる。

士道は小さく唇を噛んでから、美九との話について話した。勿論、美九を仲間に引き入れようとした事も。

 

「……まぁ、あの様子じゃあそう上手くはいかなかったか。……にしても、お前正気かよ。あいつを仲間に引き入れようとするなんて」

 

話を聞いた万丈が、士道に言う。

 

「……あらあら士道さん。わたくしの助力では不安だと仰りたいんですの?」

 

「そ、そういうわけじゃ………」

 

ない、とは言い切れなかった。全容の知れない敵に挑むのに、今の士道達だけでは不安だったのは確かだったのだ。トルーパー隊や通常の魔術師(ウィザード)による物量、クラウンやシーカーと言った不確定要素。さらには、エレンが変身する仮面ライダーマイティという、士道達が総掛かりで行っても勝てるか分からない、最大戦力まである。狂三の助力があっても二人を助けに行けるのか、検討がつかなかったのだ。

すると一海が、狂三を宥めるように言う。

 

「その辺にしとけよ。確かに、相手の戦力が分からねえからには、仲間は多いに越した事は無え」

 

「うふふ、そうですわね。確かに、あの場で戦力を増強しようした士道さんの判断力は賞賛に値します。別にそれについて恨み言を言うつもりはありませんわ」

 

一海に同調するように、狂三が笑みを浮かべてそう言う。

と、それに合わせるようにして、狂三の足元に広がった影が蠢動し、その体積を増したかと思うと、そこから狂三がもう一人這い出てきた。

 

「うおっ」

 

「うわビックリしたっ」

 

『キュルッ!?』

 

「うおわぁっ!?」

 

狂三の能力をある程度知っていた士道と万丈、夕弦は軽く驚き、一海に至っては尻餅をついてビックリしていた。ガルーダは既に知っているだろうに、ビックリ仰天したように周囲を飛び回った。

 

「なななな、何だよコレ!」

 

「あーそっか、お前分身のやつ知らなかったか」

 

驚いた様子の一海に、万丈が納得した様子で呟く。

しかし新たに現れた狂三はそんな一海のリアクションにショックや不快感を覚えるでもなく、まるで微笑ましいものでも見るような顔を作った後、元からいた狂三に顔を近づけ、何やらヒソヒソと耳打ちをした。

 

「…ふむ、なるほど………ご苦労様。下がっていいですわよ」

 

狂三が言うと、耳打ちをしていた狂三がくるりと士道達四人の方を向いてスカートの裾を持ち上げ、優雅にお辞儀をしてから影の中に消えて行った。

 

「い、今のは?」

 

「ええ。別行動で情報を探らせていた『わたくし』ですわ」

 

「情報………って、まさか!」

 

今『情報』と言えば、一つしか思い当たらない。狂三はゆったりとした動作で以って、首を前に倒してきた。

 

「ええ。______十香さんと、戦兎さんの居場所が判明しましたわ」

 

「ほ。本当か!?」

 

「マジかよ!戦兎達の場所が分かったのか!?」

 

「確認。戦兎は、どこにいるんですか!?」

 

三人が狂三に食いつかんばかりに前のめりになって問う。

 

「おい、気持ちは分かるが落ち着けお前ら!」

 

すると一海が三人を宥めるように言葉で制する。が、当の一海本人も、逸る気持ちは同じだった。

一海の言葉に、三人は調子を戻すようにする。士道は一度咳払いすると、再度狂三に目を向けた。

 

「それで……狂三。十香と戦兎はどこに居るんだ?」

 

「………ええ」

 

言うと、狂三はゆらり、と顔を上げた。

 

 

「_______デウス・エクス・マキナ・インダストリー日本支社、第一社屋。そこに………十香さん達は幽閉されているようですわ」

 

 

 




どうでしたか?
更新遅れてすいません。以前twitterで呟いた小説のネタの設定を考えたり、絵描いたりしてたら盛大に更新遅れました。
そしてお気に入り登録者数が800人超えました!いつも応援してくださってる皆さん、本当にありがとうございます!

あと全く関係ないんですけど、水樹奈々さんの曲でExterminateとGlorious Breakっていうのがあるんですけど、(シンフォギア好きなら分かるはず)最近聴いたら歌詞の内容がデアラ原作中盤の十香と折紙にマッチしてるように思えて仕方ないんですが、誰か共感できる人いませんか?ぜひ感想欄でお聞かせ下さい。

それでは次回、『第69話 集うマイフェローズ』をお楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!



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第69話 集うマイフェローズ

士道「誘宵美九との対話に臨んだ仮面ライダーアライブこと俺、五河士道と、仲間の万丈、夕弦、一海さん、そして狂三の五人。しかし、俺と美九との対話が失敗してしまい、五人は逃げ出す羽目になってしまう。そんな中、狂三の分身体からの一報により、十香と戦兎がDEMに囚われた事を知る。DEMに囚われたた十香と戦兎を救出する為、五人はDEM社第一社屋へと向かう!」

龍我「いよいよ戦兎達を救出に行くのか!よし、腕が鳴るぜ!」

夕弦「奮起。早く助けに行きましょう!」

一海「みんなやる気だな。ま、俺もだけどよ」

龍我「にしても戦兎のやつ、今頃どうなってんのやら……」

一海「案外あいつのことだから、割とピンピンしてるかもな」

龍我「ああ、確かに!」

士道「みんな信頼してんだなぁ……ん、どうした夕弦」

夕弦「否定。みんな、希望的観測が一番危険です。きっと今頃はDEMの手によって………!」

↓以下、夕弦の妄想

『くっ……殺すんなら殺せ!』

『ふっ、そうはいかんなぁ。楽にはせん。たっぷりと楽しませてもらう……!』

『な、何をし……う、うわぁぁぁぁぁあっ!!』


夕弦「………焦燥……!戦兎が危険です!早く行かねば!」

一海「お前今何想像してた」

士道「まあ、夕弦の言い分もわかるし、第69話行くか。どうぞ!」





月とまばらな星の下、士道達は目の前に聳え立つビル群を睨め付けていた。

 

「ここに、十香と戦兎が………」

 

「如何にも、って感じだな」

 

士道達がいるのは、天宮市東方に位置するオフィス街の一角だった。時間が時間なだけに人通りの少ない道と、まばらに明かりがついた高層ビルによって、奇妙な雰囲気を放っていた。

 

「ここから先一帯は、DEMの関連施設ばかりですの。見えるビル群は、全て系列会社の社屋や事務所、研究施設などですわ。そして………」

 

狂三がそこで一度切り、中央に見える一際大きい建物を見据える。

 

「あの中央に見える大きな建物が、第一社屋ですわ。そのどこにいるかまでは、残念ながら探れませんでしたけれど」

 

「あそこに、十香達が………」

 

「戦兎……!」

 

士道と万丈が呟くと、狂三が四人に向かい、口を開いた。

 

「手筈を確認しますわよ。まずはわたくしと士道さん達が第一社屋に向かいます。そして、目的のビルに到着次第、敷地内に『わたくしたち』を呼び、他の施設を襲撃いたします」

 

「騒ぎに乗じて、敵の懐に入り込むって訳か。そして、敵の戦力も分散させて……」

 

「戦兎達の警備を手薄にする、か。なるほど、分かりやすくていいぜ」

 

万丈が不敵な笑みを浮かべて、拳と掌を打ち付ける。

狂三の作戦は単純ではあるが、効果的な手段だ。何より、敷地内に突然何千という軍勢を出現させることのできる狂三でなければ、実現不可能な作戦である。

 

「しっかしまあ、こんなトンデモな物量作戦を実行できるって、ほんと精霊ってのはインチキ染みてんな」

 

「うふふ、褒め言葉と受け取っておきますわ。それでは_____」

 

と、狂三が続けとようとし______言葉を止めた。

否、正確に言うならば、もっと大きな音に、声がかき消された。

 

 

 

__________ウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ____________

 

 

 

「動揺。これは………!」

 

「空間震警報……っ!?」

 

士道が顔をしかめながら叫ぶ。

そう。精霊が出現する前兆、空間震の発生を感知して発される広域警報だ。

 

「どういう事だ!また精霊が来んのかよ、このタイミングで!」

 

一海が冗談じゃない、とばかりに叫ぶ。

信じられないタイミングだ。ビル内にいた人々などが、一斉にシェルターへの避難を始める。

 

「いえ、そういう訳では無さそうですわね。少なくとも、空間震が発生する際の空間の揺らぎは全く感じませんわ」

 

だが。狂三が小さく目を細めながら言った。

 

「ど、どういう事だ?」

 

「恐らく、これはDEM側が鳴らしたもの。となれば_______」

 

「ッ、危ねえッ!」

 

と、そこで狂三が士道と夕弦の襟首を、一海が万丈の襟首を掴み、そのまま左右に飛び退いた。

 

そして瞬間_____先程まで士道達が立っていた場所に光の奔流が突き刺さり、爆発を起こして大穴が開いたのである。

 

「うっそぉーん…………」

 

万丈が信じられないとばかりに呟く。

 

「_____目撃者を減らして、大暴れするつもりかもしれませんわね」

 

「おいお前ら!あれ見ろ!」

 

言いながら狂三と一海が、空を仰ぐように顔を上げる。

 

それを追うように視線を上げ____三人の表情が強張った。

 

空には、月と高層ビルをバックにして、全身にCR-ユニットを纏った銀色の人形の軍団が、浮遊していたのである。

 

「【バンダースナッチ】……!?」

 

士道が言うと同時、バンダースナッチが手にしたレーザーカノンの銃口を一斉に士道達に向け、躊躇いなく引き金を引いてきた。

慌てて五人は回避行動を取り、放たれた魔力光から逃げる。

 

「【颶風騎士(ラファエル)】______【縛める者(エル・ナハシュ)】!」

 

と、限定礼装を顕現させた夕弦が、左手に握ったペンデュラムを振るい、次々と突風を巻き起こす。

すると、空を舞っていたバンダースナッチはバランスを崩し、ウイングや手足を分解させて、鉄塊となって地面を落ちていく。

 

「おお……ありがとう、夕弦!」

 

「………いえ、まだですわ。後続隊が来ますわよ」

 

狂三が油断なく敷地の奥の方を睨みながら声を発する。

すると前方の建物の入り口のみならず、可変したビルの壁面などから、先ほどとは比べ物にならない数のバンダースナッチや、デウストルーパー隊、通常の魔術師(ウィザード)達がその姿を現した。正確な数は分からないが、少なく見積もっても七〇〇は下るまい。

 

「な……!?」

 

「うっそだろ………っ!」

 

「ふざけろ………っ!」

 

士道、万丈、一海が狼狽に染まった声を上げる。予想はしていたが、まさかこれほどとは。

 

「『わたくしたち』!」

 

反応するように狂三が叫ぶと、いつの間にか真っ黒に色付いていた地面から、狂三の分身体が何人も這い出てきた。迫り来る敵を迎え撃つように、影から二丁の銃を抜き、陣形を組んでいく。

 

「よし、こうなったら俺も………!」

 

この状況を見て、黙って見ているわけにはいかない。士道達も加勢すべく、それぞれベルトを取り出し、腰にあてがう。

 

「ガルーダ!」

 

『キュルッキュイッ!』

 

士道の手元にガルーダが収まり、ボトルを挿してベルトへセットする。

 

 

【Get Up!ALIVE-SPIRIT!Are You Ready?】

 

 

「変身!」

 

 

【Dead Or ALIVE-SPIRIT!!イェーイッ!!】

 

 

アライブへ変身。万丈と一海も同じように、クローズチャージとグリスへ変身した。

そして空中戦へ加勢しようと、ウイングを展開しようとしたその時、狂三が手で制した。

 

「待ってくださいまし。人形や兵隊、魔術師(ウィザード)さんたちは『わたくしたち』に任せて、その隙に防衛ラインを抜けますわよ」

 

「わ、分かった!」

 

狂三の考えにアライブは頷き、改めてウイングを展開する。

 

 

【CROSS-Z CHANGE!】

 

 

クローズチャージもクローズフォンにフルボトルを装填し、マシンクローザーへと変形させる。

 

「ほらかずみん!お前も乗れ!」

 

「あぁ?おう」

 

そしてシートに跨ると、グリスに後ろに乗るよう促す。

グリスが乗り込んだのを確認すると、クローズがハンドルを握り込んだ。

 

「夕弦!」

 

「応答。はい!」

 

夕弦も頃合いを見て、空中から離脱。アライブ達の元へと合流した。

 

「さあ______振り切りますわよ。【刻々帝(ザフキエル)】______【一の弾(アレフ)】………!」

 

狂三が影から短銃を引き抜き、撃つ。

そして同時に、アライブと夕弦が一直線に飛び、クローズとグリスを載せたマシンクローザーが、フルスロットルで前方へと駆けた。

 

ミサイルやレーザーが飛び交う戦場の只中を、三つの飛影と一つのマシンが駆け抜ける。

弾薬を躱し、爆風を抜け、とにかく前へ、前へと飛んでいく。クローズとグリスが乗ったバイクも器用に爆風を避け、爆心地を駆け抜けていく。

やがて爆心地を抜けると、狂三が足を踏みしめて進行を停止。アライブ達もそこで停止し、一度変身を解除した。流石に先程の全速力飛行でエネルギーを消耗してしまった。危険ではあるが、一度変身を解除して、生身の状態に戻る。

 

「大丈夫ですの、士道さん」

 

「ああ、なんとかな。……時間が惜しい。行こう、みんな」

 

士道が皆へ問うと、揃って頷いた。

 

「ええ。第一社屋はこちらで_____」

 

と、狂三が進行方向へ向かおうとしたその時。狂三の身体が一瞬黒く染まり、その場から消滅した。

 

「な_____っ!?」

 

一瞬の出来事に、思わず呆然となる。

と、そこで一海が、狂三の後方へ向かい____

 

「______おい、誰だお前」

 

鋭い視線を向けて言った。

士道がその方向に顔を向けると、そこには、銀のアーマーに包まれた足が見えたのである。

 

「____何だよ、あれ………」

 

万丈が、呆然と呟くように言う。

鋭角的なフォルムに、狼を模したマスク。そして右手には、巨大な(あぎと)のような武器を構え、砲口からは硝煙が吹いていた。

そして腰に装備された、今まで見たことのない、しかし、どこか見覚えのあるシルエットのベルト。そう、それは______

 

「動揺。___仮面、ライダー…………?」

 

夕弦が言う。

そう。それは正に______士道達にとって、新たなる仮面ライダーに他ならなかった。

そのライダーは右手に構えた武器を降ろし、ベルトに手を掛けた。

 

「やれやれ_____ようやく見つけましたよ」

 

しかし、そのライダーが発したと思しき高い声を聞いて、士道と万丈はぴくりと眉を動かした。

そして変身が解除され、アーマーが粒子となって消えると、さらに視線を上____顔の方へと向けた。

 

「あん……?……女……しかも、小せえ」

 

「同意。しかも、どこか士道に似ている気がします」

 

一つに括られた髪に、気の強そうな双眸。そして、左目の下の泣き黒子。どこか士道に似た顔立ちの少女である。

 

「おい士道、あれって………」

 

「ああ……真那、か……?」

 

その顔を見て、士道と万丈は目を丸くした。

そう。それは、士道の実妹を自称する少女_____崇宮真那だったのである。

そして士道と目を合わせた瞬間、キリッとしていた顔をぐにゃっと歪め、その場に膝を突いて士道に抱き着いてきた。

 

「兄様ーッ!」

 

「わ、わっ!?」

 

士道は、突然の真那の抱擁に驚き。

 

「なっ…………に、兄様ァッ!?」

 

「驚愕。なまらびっくりです………!」

 

一海と夕弦は、真那が放った『兄様』という単語に驚いた。夕弦の方は何故か北海道訛りになっていた。

士道は一瞬面食らったものの、すぐに落ち着きを取り戻し、その肩を押さえて身体を引き剥がす。

 

「ま、真那……真那だよな!?怪我は大丈夫なのか!?」

 

「はいです!真那は全力全快に回復でいやがります!」

 

真那が力こぶを見せるように腕を曲げる。今の状況に見合わぬあまりに明るい声に、全員揃って調子を崩されてしまった。

 

「ま、真那。お前、まだDEMにいるのか?それで、俺たちを倒しに………」

 

「ああ、それならご安心を。私、DEM辞めまして」

 

「へっ?でも、それならそのベルトは……」

 

「ああ、これはビルド………戦兎さんからの借り物で、今は【ラタトスク】に世話になっていやがってます」

 

「っ、戦兎の!?それに、ラタトスクって………ええっ!?」

 

突如出てきた戦兎の名前に、士道が驚愕する。士道だけではない、万丈たち三人もだ。

しかもラタトスクに世話になっているという情報に、頭が混乱する。AST、ひいてはDEMとラタトスクは水と油、決して交わることの無い価値観の組織だ。

だが、そこで士道に、一つの可能性が思い当たった。もし、()()()を真那が知っていたとしたら_____

 

「真那。お前、まさか______」

 

士道がその可能性を口にしようとした、その時。

 

「______きひひ、相変わらず手荒な歓迎をして下さいますわね」

 

「っ、ナイトメア!」

 

ビルの壁に広がった黒い影から、歪んだ笑みを浮かべた狂三が顔を覗かせた。そしてその姿を確認するや、真那が警戒した様子で睨みつける。

 

「まさか、あのくらいでわたくしが殺れると思いまして?」

 

「これは残念ですね。もう少しでその不快極まる薄ら笑いを消してやれたのに」

 

「愉快な事を仰いますのね。わたくしの気まぐれと偶然で命を拾われたあなたが。恐怖で記憶を失ってしまいまして?」

 

「お、落ち着け二人とも!」

 

突如始まった応酬に、士道が間に入って宥める。

するとその様子を見ていた万丈を、一海と夕弦が肘で小突いた。

 

 

おい、いい加減に説明しろよ龍我。なんだあのガキっ娘。変身してたし、士道の事を兄様〜、って呼んでるし。ギャルゲーのヒロインかよ

 

同調。しかも、時崎狂三と何やら剣呑な雰囲気でした

 

ああ、あいつは真那って言って、どうも士道の妹らしい

 

ハァ?あいつの妹は五河琴里だろ。まさか、生き別れの兄妹、なんて使い古された設定言うんじゃねえよな?

 

あながち間違ってねえかもな。琴里は義理の妹だろ?で、あいつは実の妹名乗ってて、どうやらあの女を狙ってるらしい

 

疑問。それなら何故士道の妹を名乗る人物が、時崎狂三の命を狙っているのですか?

 

いやだからそれは_____

 

 

「ナイトメアと協力!?どういう事でいやがりますか兄様!」

 

と、三人の会話を遮るように、真那の声が響いた。

ふと視線を戻すと、既に狂三の姿は無く、真那に言い詰められる士道の姿があった。

 

「いや、これには深い訳があってだな……」

 

「どんな訳ですか!ふんっ。どっちにしろ、これで良かったんですよ。あの悪魔と協力なんて、代償に何を要求されるか分かったもんじゃねえです」

 

「真那、お前な……」

 

「あぁ、そんなことより!兄様、これを」

 

そこで真那が何かを思い出したようにポンと手を叩くと、腰のポーチから、小さな電子機械を差し出してきた。見ると、それは普段士道が通信に使用しているインカムだった。

真那からそれを受け取り、右耳に装着する。

 

「ああ!そこにいる皆さんも」

 

「えっ?お、おう」

 

万丈達もインカムを受け取り、装着する。するとしばらくしてから、ばつの悪そうな声が聞こえてきた。

 

『………みんな、聴こえる?』

 

「琴里!?正気に戻ったのか!」

 

「おお、琴里!」

 

『キュルッ!』

 

名を聞かずとも声で分かる。琴里だ。

琴里もまた美九の演奏を聴いてしまい、四糸乃や耶倶矢たちと同じように美九の信者となってしまっていたはずだった。

 

『ええ、何とかね。……その、悪かったわよ。死ねとか、なんとか、言ってたみたいだけど……本心じゃないから』

 

言われて、士道は「ああ」と小さく頷いた。そういえば美九に洗脳されてた時、そんなことを言っていたような気もする。

 

「分かってるよ、そんな事。それより、どうやって美九の洗脳を?」

 

士道が問うと、それに答えるように今度は令音の声が聞こえてきた。

 

『……一度気絶させた後で、真那に随意領域(テリトリー)を通して洗浄してもらったのさ。皆が操られた時に、通信機能が滅茶苦茶になってしまってね。復旧に時間がかかり、連絡が取れなかった。すまない、無事で何よりだ。そのインカムは特定域以外の音声はカットするようになっている。美九の演奏は、こちらに届かないさ』

 

「なるほど。………って、そうだ」

 

一度話を切ろうとして、思い至る。士道は先程言いかけた話を、令音に問うた。

 

「令音さん。………どうして真那が、別のライダーに変身しているんですか。真那に、()()()()()()()?」

 

「っ………」

 

士道がそれを言うと、真那が身体を強張らせる。それを見て士道は一瞬心が痛むが、それでも士道は確認したかったのだ。

 

______真那の身体は、DEMによって改造手術が施されている。

 

ハザードレベルの上限引き上げや、CR-ユニット使用に伴う魔術的措置。それにより、真那の体は五年ほどしか生きられない身体になってしまっているのだ。

その事は琴里や令音も知っているはずである。それを知った上で戦わせたなら、それは______

 

『……ああ、話したよ。彼女が自分の身体の事を知らないのは、あまりに残酷過ぎる』

 

「それは……分かります。でも、それならなんでまた____」

 

「待て」

 

と、そこで一海が話に入る。

 

「俺たちにも聞かせろ。話が追いつかねえ」

 

『……いいだろう。君たちも知っておくべきだ。時間も無いから、手短に話すが_____』

 

そこで令音は一海、そして夕弦に真那の事について話をした。

それを聞いた一海はしばらく押し黙り_______

 

「………ふざけんじゃねぇッ!」

 

ビルの壁に、思い切り拳を打ち付けた。ハザードレベルによってか、壁にヒビが入る。

一海の脳裏に浮かんだのは、かつての仲間______自らをカシラと慕っていた、三羽ガラス。

 

彼らもまた、自らの命を危険に晒すような実験を受け_____結果として、命を散らせた。

 

だが、彼らはあくまでも一海の為を思い、自らの意思で実験を受けたのだ。

しかし、話では真那は違う。望まぬ改造を受け、その事実を知ってすらいなかったのだ。

 

人を実験台としか思っていない、DEMのその所業に_____流石の一海も、怒りを堪える事は出来なかった。

 

夕弦も同じく、信じられないとばかりに口元を押さえ、蒼白な表情になっている。

と、そこで壁に背を預けていた万丈が口を開いた。

 

「でも……だったらなんで、あいつはまた変身してんだよ」

 

『……やむを得ない事情があったんだ。それに、そのベルトについてなら心配しなくていい』

 

「……どういう事ですか?」

 

『……それはリバースドライバーのデータを解析し、セイが開発したベルトだ。変身や戦闘に伴う副作用は無い。その上、彼女に蓄積された余剰なネビュラガスも少しずつ除去する効果もある。少なくとも、戦闘によって彼女が死んだり、寿命を減らされるリスクは無いだろう』

 

「……っ!」

 

令音から告げられたその言葉に、士道は安堵した。

いや、まだ安心し切れる訳では無いが、少なくともあのベルトは、使っても問題ないという事だ。無論、戦闘をさせないというのが一番だが、今の状況ではそうも言ってられない。

 

「戦兎………あいつ………っ!」

 

万丈が笑みを浮かべる。

戦兎が残した思わぬ置き土産に、士道達の決意は固くなる。だからこそ、絶対に助けださねばならない、と。

 

『……で、ここからが本題だけど』

 

すると、琴里が話を切り出した。一度咳払いをし、続ける。

 

『士道、あなたどうしてそんなところにいるの?しかも狂三と一緒になんて。それに、どうして戦兎がいないのよ』

 

「ああ、それは……」

 

士道は手短に、琴里が美九に操られてから起こった事を説明した。マッドクラウンの正体が殿町宏人であったこと。そのクラウンとエレンに、十香と戦兎が攫われてしまったこと。狂三がその救出に協力してくれたこと。そして_____二人がこの施設内に囚われているらしいことを。

それを聞いた琴里はしばらく押し黙ると、重苦しい声で告げてきた。

 

『……駄目。危険よ。認められないわ』

 

その意外な答えに、盛大に眉根を寄せる。

 

「っ、何言ってるんだよ!DEMがどんな組織か、分かってる筈だろ!そんな組織に十香と戦兎が攫われて、一体何をされるか分かんないんだぞ!」

 

『言われなくても分かってるわよ!』

 

「だったら何で!」

 

『そんな危険な組織に乗り込もうとしている兄を止めちゃいけないっていうの!?少しは自覚してよ!あなたの命の勘定には、いつも自分が入ってないのよ!』

 

「だからって、十香と戦兎を放っておけってのかよ!」

 

『そうは言ってないでしょ!でも、それはもっと準備をしてから_____』

 

「そんな眠たいこと言ってられるかよ!それに、今は何人もの狂三が足止めしてくれてる!もうこれを逃したら次は無い!それに……!」

 

そこで一度言葉を切り、万丈たちの方を向いた。

 

 

「____今の俺は、()()()()()()………ッ!」

 

『ッ………!』

 

 

そう。今は万丈、一海、夕弦、真那。そして狂三という仲間がいる。

信頼できる____仲間たちが。

 

「頼む、琴里!俺は……俺達は、絶対に十香と戦兎を助け出して見せる!狂三が作ったチャンスを、無駄にするわけにいかない!だから………!」

 

『……ああっ、もうっ!ライダーってのは、どうしてこうも分からず屋ばっかなのよ!』

 

インカム越しに、琴里が苛立たしげにガンッ!と椅子の手すりを叩く音が聞こえた。

そして、呆れと諦めを盛大に含んだ声が聞こえてくる。

 

『どうせ、言ったって聞きゃしないんでしょ……』

 

「良く分かってるじゃないか」

 

『伊達に十年も妹やってないわよ』

 

溜息を吐くと、琴里が言葉を続けてくる。

 

『恐らく、社屋内は随意領域(テリトリー)によって通信が阻害されているわ。こちらからのナビも出来ない。フラクシナスからできるのは、外部のサポートくらいよ。………それと』

 

そこで琴里が一度言葉を切る。何故だろうか、士道の脳裏には、いつも通りの強気な笑みを浮かべる妹の姿が見えた。

 

『フラクシナスから、士道にプレゼントよ』

 

「へっ?」

 

突然、そんな事を言われたかと思うと_____

 

 

『ALIVE-CHASER COMING NOW』

 

 

突如、インカムからそんな電子音が聞こえ、瞬間。

 

「う、うわっ!」

 

士道の眼前に粒子が広がり、やがてそれは一つの形を創った。

銀の差し色が走る真っ赤なボディに、鳥類を模したような鋭角なフロントカウル。中央にはフラクシナスでも見かけたラタトスクのエンブレムが描かれ、全体的にどこかスマートな印象を受ける。さらにグリップ部には様々なボタンが配置され、中央部にはモニターの様なものも配置されていた。そして後部には、ヘルメットも配置されている。

間違いない、バイクだ。それも、普通のバイクでは無い。

 

「こ、これは………」

 

『戦兎が使っていたバイクを基に、私たちラタトスクの技術部が開発した、士道もとい、仮面ライダーアライブの専用マシン。その名も、【アライブチェイサー】よ!』

 

「アライブ、チェイサー……」

 

「おお!カッケェじゃねえか!」

 

琴里が告げたその名を呆然と呟きながら、その車体に触れる。まさに新品同然といった様相で、車体も輝いて見えた。

万丈が賞賛し、一海達も感心した様子で「おぉ〜」「感嘆。かっこいいです」と賛辞を述べてくる。

 

『仮面()()()()ですもの。マシンの一つはあった方がいいでしょう?変身した後に出せる最高時速は400km。端末からの通信で、フラクシナス経由で何処から何処へでも転送可能。中型権限装置(リアライザ)を搭載して、様々な機能を用意しているわ。エネルギーもフルボトルから充填できるから、燃料要らず。ちょっとやそっとの攻撃にも傷一つつかない、スーパーマシンよ。……今私たちが出来るのは、これくらいだわ』

 

「いや……十分すぎる。悪いな、琴里」

 

『本当よ。聞き分けのない兄を持った妹同士、苦労が絶えないわね、真那』

 

琴里が言うと、真那はあははと肩を竦めた。

 

「ええ。とはいえ、ここで尻尾巻くような軟弱者、真那の兄様とは認めねーですけども」

 

真那の反応に、琴里が幾度とも知れぬため息を吐いた。

 

『……いいわね。やるからには中途半端は許さないわよ。十香と戦兎を助け出し、士道も、万丈も、一海も、夕弦も、真那も全員無事。それ以外は成功とは認めないわ』

 

皆それに答えるように、力強く頷いた。

すると琴里が、士道以外に向けて言葉を続ける。

 

『みんな、士道を____うちのバカ兄を、よろしく頼んだわよ。それと、絶対に二人を助け出すのよ』

 

「ああ………絶対に、戦兎と十香は助け出す!」

 

「あそこで高みの見物決め込んでる奴らに、一つ教えてやるさ。俺たち仮面ライダーの流儀ってやつをな」

 

「同意。勿論です。戦兎達は絶対に助け出します」

 

「任されやがりました。私も、戦兎さんには言わなきゃならねー事が出来ましたから………。それに、兄様は絶対に守ります!」

 

『キュルッキュイーッ!』

 

皆の言葉に、思わず苦笑する。………本当に、頼もしい仲間達だ。

 

早速琴里達から送られた専用マシン、アライブチェイサーに乗り込み、ヘルメットを被る。

すると琴里が、気を引き締めるように言い紡いだ。

 

『さあ____私達の』

 

「ああ____俺たちの」

 

ヘルメットのバイザーを下げながら、応ずるように続ける。

 

 

『「戦争(デート)を、始めようか(始めましょう)」』

 

 

同時にそう言い、士道はバイクのハンドルを握り込んで、第一社屋へと顔を向けた。

 

 

 

 

 




どうでしたか?
いよいよ士道達の逆転劇が始まります!

そしてついに出せました士道の専用マシン!その名もアライブチェイサー!

本当のこと言うと、もっと早くに出しとくべきだったも軽く後悔。ま、まあ色々ドタバタしてたから、開発が遅れたってことで。あと士道がバイク動かせるのかについてですが、夏休みの間に念の為、という事で免許を取得した、という設定です。その後に琴里達ラタトスクがチェイサーを開発しました。

この回のシーン原作でもすこなポイントで、書いてる時楽しかったです。

そしてすいません、次回のタイトルですが、まだ未定です……。

次回更新まで楽しみにしててください!すいません!

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第70話 進め、ライブを賭して

士道「仮面ライダーアライブこと、五河士道と、万丈、夕弦、一海さん、真那の五人は、ついにDEMへの突入を決行する。そんな中フラクシナスとの連絡が回復し、俺は琴里から専用マシン、【アライブチェイサー】を贈られたのだった」

万丈「これでお前も晴れて仮面()()()()の仲間入りだな!」

琴里「そう言う貴方だって、つい最近まで自分のマシン持ってなかったじゃない」

万丈「今持ってるから問題ねーし!」

一海「そーだぜ。俺だって自分のマシン持ってねーんだからな!」

万丈「かずみん、もしかして結構気にしてんのか?」

一海「べ、別に!強化フォーム来たのが本編終盤でその上すぐ死んだとか、ライダーのくせにマシン無いとか、そんなの全然、気にしてねーんだからな!」

琴里「思いっきり気にしてるじゃない。ていうか、本編って何?」

士道「まー、その辺は置いといて。取り敢えず、俺のカッコいいバイクアクションが見れる______」

琴里「士道の下手くそなバイクシーンを見てしまう、第70話をどうぞー」

士道「おい琴里!何だよそれ!」

万丈「あっ、それと今回で70話目だ!みんな、応援ありがとな!」




「おやおや、もうお出ましかい?思ったより早かったねぇ」

 

薄暗い研究室で、眼前のモニターに広がる映像を見て、男____神大針魏はほくそ笑んだ。

そこに映っていたのは、無数の精霊_____時崎狂三の分身体と交戦するバンダースナッチ、デウストルーパー隊、魔術師(ウィザード)隊の姿。

そして、その隙を突いてDEM第一社屋へと向かう、士道ら五人の姿。中でも士道は神大が見たことの無い、赤いオートバイに乗り込んでいた。

 

「あんなバイクまでいつの間に。しかも……あれは、真那クンかな?」

 

更に特筆すべきは、そのメンバーの中に見慣れぬCR-ユニットを装備した、崇宮真那の姿もあった事だろう。どうやらジェシカ・ベイリーの報告通り、本当にDEMを裏切ったようだ。

と、そこに。

 

 

「おっ、もうあいつら来たのか!」

 

 

やけに陽気な誰かの声が、研究室に響き渡った。

神大はその人物を声で確認すると、モニターから視線を外さないままで言った。

 

「せめて部屋に入るときはノックをしてくれ。クラウン_____いや、殿()()

 

「そいつは悪かったな。でも別にいいだろ?思春期の男子高校生じゃあるまいし」

 

「その姿の君がそれを言うのかい?」

 

そこでようやく神大がモニターから視線を外し、その人物_____マッドクラウンこと、殿町宏人の方を見る。

来禅高校の制服を着て、逆立った髪をくしゃくしゃと掻く姿は、誰がどう見ても普通のそこいらにいる、今彼が言った思春期の男子高校生に見える。

 

誰が想像できるだろう。そこにいる彼が_______今モニターに映る、五河士道達を苦しめた怨敵の正体であるとは。

 

「それで、どうするんだよ。いきなり()()を使うのか?」

 

そう言って殿町が指差したのは、椅子に座った一人の男だった。

顔を伏せられ、手足は拘束されている。ボロボロの黒い外套を着込んでおり、指一本たりとも動く気配がなかった。

 

「いや、アレは後々使うよ。今すぐに使ったら、面白くないだろう?それに………」

 

そこで一度切った神大は、キーボードを操作してモニターの映像を切り替える。

そこには、薄暗い空間に佇む、巨大な影が映されていた。その中心には、何やら人影のような物が映っているように見える。

 

「……小手調べには丁度いいのがいるからね。それを超えられてからが本当のお楽しみだ」

 

そう言う神大の言葉は、この社内に侵入される事を望んでいるとも取れる_____否、そうとしか聞こえない言葉だった。

モニターの映像を再び外のものに切り替え、机に置かれた濃色の銃、リバースチームガンを手に取る。まるで新しい玩具を与えられた子供のような顔で、スチームガンとモニターを交互に見つめた。

 

「私はもうしばらくこの戦いを見ていることにするよ。君も準備してくれ」

 

「ああ、そうさせてもらうさ」

 

そう言うと殿町はヒラヒラと手を振り、研究室を後にした。

その時通りすがった椅子に座らされた男に向けて、怪しげな微笑みを向けながら。

 

 

 

 

________ブォォォォォォォォオオオオオ_______!!!

 

 

終わらない爆撃の雨の中を、風を切り裂くマシンが爆音と共に駆け抜ける。

何度かミサイルが直撃しそうになるも、マシンの周囲に張られた随意領域(テリトリー)のバリアがそれを防ぐ。

すると、すぐ前方で爆発が起こり、視界が爆風と炎で真っ赤に染まる。

 

 

「_____変身ッ!!」

 

 

【Dead Or ALIVE-SPIRIT!!イェーイッ!!】

 

 

しかし士道はマシン_____アライブチェイサーを駆り、その爆風を飛び越えると、装着していたリビルドライバーによって変身する。

爆風を抜けると同時にアーマーが装着され、続けて青のバイクと、上空から二つの影が飛び出してくる。

 

クローズチャージとグリスが乗り込むマシンクローザーと、CR-ユニットを装備した真那、そして霊装を限定顕現させた夕弦だ。

 

上空から破壊を降り注ぐミサイル、レーザーの雨の中を、どうにかこうにか抜けることが出来た。何度かミサイルに当たっていたのだが、それらは全てアライブチェイサーに搭載された防御機能により防がれていった。

この戦場の只中をノンストップで走り切れるスピードといい、夏休みに免許を取ったばかりのアライブが扱える操作性といい………改めて、琴里達から贈られたマシンの性能に舌を巻く。

 

『____そこよ、みんな』

 

と、インカムから琴里の声が聞こえてきて、アライブ達はマシンを停止させ、顔を上げた。

そこに聳え立っていたのは、辺りの建物よりも一層巨大はビルだった。階数は少なくとも二十はあるだろう。正面入り口と思しき扉には、非常事態を察知してか頑丈そうなシャッターが下されている。

 

アライブ達はバイクから降りると、扉の前に立った。マシンクローザーは元のスマホに戻ってクローズチャージの手元に収まり、アライブチェイサーは粒子となってフラクシナスへと転送される。

 

「よし、ここは任せろ」

 

言って、グリスが腕をブンブンと回す。

そしてシャッターの前に立つと、取り出した茶色のボトル______【ゴリラフルボトル】を軽く振り、ドライバーに装填してアクティベートレンチを下げた。

 

 

チャァージボォトルッ!潰れなーいィッ!チャァージクラッシュゥッ!!

 

 

「オラよッ……と!」

 

左手をシャッターに翳し、右手で握り拳を作ると、そこにゴリラの腕の様なエネルギーが形成され、ぐっと拳が握り込まれる。

そしてシャッターに向けて殴り付けると、厚さ三十ミリはあろうかというシャッターがひしゃげた鉄塊と化し、巨大な穴と化した。

 

「おら、行くぞー」

 

「……ベルトの音声のクセがすげーですね」

 

「あ、ああ……」

 

真那の一言に苦笑し、全員がシャッターを潜ろうとするグリスの背を追う。

と、そこでアライブは、身体が奇妙な浮遊感に包まれるのを感じた。これは確か、随意領域(テリトリー)のものである。

 

「真那?どうして随意領域(テリトリー)を……」

 

アライブはその先を最後まで言う事が出来なかった。見えない手に押されるように、いきなり身体を突き飛ばされたのである。否、アライブだけでは無い。先頭に立っていたグリスを除く、クローズチャージと夕弦もだ。

 

瞬間。正面入口がぐわんっ、と歪むと同時に、視界に目映い光が満ち_____凄まじい大爆発が巻き起こった。

 

「なっ………!?」

 

「はぁっ!?」

 

「衝撃………!」

 

爆風に煽られ、ゴロゴロと地面を転がされる。

 

「真那!!」

 

「おいかずみん!無事か!?」

 

「……はいはい、大丈夫でいやがりますよ」

 

「痛ってぇ………死ぬかと思った」

 

アライブとクローズが名を呼ぶと、濃密な煙の中から真那とグリスが飛び出してきた。どうやら随意領域(テリトリー)で爆破の衝撃を押さえたらしい。グリスの方は瓦礫にぶつかったのか、マスクを押さえていたが。

その姿に一瞬安堵しかけるも、煙の中から見えた真那の表情を見てそれを改める。真那の顔に浮かんでいたのは、緊張と……微かな怒りの色だった。戦士の、表情だった。

すると辺りに充満していた濃密な煙を裂くようにして、大穴の空いた研究所の内部から、巨大な金属の塊が姿を現した。

 

「な、何だよあのデカブツ!」

 

「………っ!まさか………」

 

クローズチャージが突如現れたその巨影に、驚愕の声を上げる。

そしてその姿に、アライブはマスクの下で目を見開いた。

 

そう。その()()の姿に、アライブは見覚えがあったのである。

 

「【ホワイト・リコリス】………!?」

 

「……士道、知ってんのかアレ!」

 

そう。煙の中から姿を現したその巨体は、かつて折紙が琴里を斃す為に纏った巨大な討滅兵器であったのだ。

ただ一つ違うのは_____そのボディが雪のような白ではなく、鮮血のように赤く染め上げられている事だった。

 

「………よくご存知でいやがりますね。ですが少し違えーです。DW-029R【スカーレット・リコリス】。実験用に作られた【ホワイト・リコリス】の姉妹機です」

 

真那が吐き捨てるように言ってから、忌々しげに顔を歪めた。

 

「イメチェンですか?昼に見た時から随分と印象が変わったじゃねーですか。小憎たらしい顔が台無しですよ_____ジェシカ

 

言って、【スカーレット・リコリス】の搭乗者に視線を向ける。

そしてアライブ達も、釣られるようにその搭乗者の方へと顔を向いた。だが、その姿を認識した瞬間、彼らの脳裏に戦慄が走った。

 

「なっ………!?」

 

理由は単純で、その搭乗者である彼女は今手足、胸部、額や顔に至るまで、全身の各所に包帯を巻き、更には身体の一部がまるで枯れ木のように老化し、歪な雰囲気を漂わせていたのである。

 

 

「あはハ!マナ。マナ。タカミヤ・マナ!それトも、カメン・ライダー・ファングゥゥゥ?どウ?どォウ?私の【リコリス】ハ!これで私は負けないワ。あなたにハ。あなたなんかにハ………!」

 

 

_____もう、人として決定的な何かが、完全に壊されている。

 

全身を包帯に巻かれ、体の一部が老化し、満身創痍の身体となっても尚、ジェシカはカラカラと笑っていた。歪なる誤った力を持ちながら、それを嬉々として受け入れている。まるで、何かに取り憑かれたかのように、狂ったような笑いを浮かべていた。

 

「まさか、あれがリバースドライバーの副作用………!」

 

「……そうみてーですね。私もああなるかもしれなかったと思うと、ちょっと寒気がしやがります。……馬鹿なことを」

 

真那はそう言うと、一歩足を前に踏み出した。

 

「ジェシカ!今すぐ【リコリス】を停止させやがりなさい!分かっていやがるでしょう!?それはあなたに扱えるような代物じゃねーです!」

 

「あはははははははハ!何を言っているノ?今はとてもいい気分ヨ。だって_____」

 

ジェシカが視線を鋭くし______右手に、黒く染まった、水瓶のような意匠が施されたボトルを握りしめた。

 

「っ、まさかアレは…………!!」

 

そのボトルを目にした瞬間、アライブ、クローズチャージ、真那の表情が旋律に染まった。

 

「やめろ!そのボトルは_______!」

 

アライブが急いで止めようとするも、もう遅かった。

ジェシカは黒のボトルをリバースドライバーに装填すると、チャージャーを操作した。

 

 

 

【OVER FLOW】

 

 

 

「____アアアアアアァァァァァァァァァ________ッ!!!!」

 

 

瞬間に、ジェシカは人とも獣ともつかぬ叫びを上げる。

そして包帯に包まれた肉体が、まるで血の様に赤く染まった液体に包まれ、徐々に肉体が変化していく。

リキッドスマッシュが出現する時と似ているが、明らかに違う。

 

全身が濁流のような流体の形状に変わり、まるで全身から血を流しているかのようなラインが走っていく。

更には全身から無数の血管のような触手が伸びたかと思うと、それらは【スカーレット・リコリス】に取り付き、呑み込むように変貌させていった。

 

「そんな…………」

 

「ジェシカ………っ!」

 

 

________最早、決定的に人では無かった。

 

全身は血塊のように赤黒く染まり、血管のような触手が全身から生えている。【スカーレット・リコリス】も最早その原型を残しておらず、その表面からは肉塊で造られた彼岸花(リコリス)が不気味に咲いている。砲門やミサイルポッドも全て赤黒い生き物のような質感へと変わっており、所々に機械を残して、生々しく蠢いている。

さらにはジェシカがいる場所は、胴が膨らんだ円筒状の物へと変貌し、その上の中心に空いた空洞に収まって上半身と手のみが突き出ている状態だった。それはさながら神話に登場する、壺から現れた悪魔か。

 

その名を________アクエリオスオーバースマッシュ 変異体

 

人でも機械でも無い恐ろしい者へと変貌を遂げたジェシカ_____アクエリオスオーバースマッシュは、その悍ましい相貌を妖しげな笑みに歪ませた。

 

 

_______あナタヲ、殺seるンですモノォ…………!!

 

 

化け物のような怪声を発して、真那に視線を向けて両手から血のような粘状の液体を放出する。

その液体は地面に放たれると、人と動物が合わさったように形作って行き、複数の群体となって出現した。

 

「ッ、()()()()()…………!」

 

それはアライブ達が戦い慣れた相手_____スマッシュだ。さらに言うならば、その形状はナスティシーカーやマッドクラウンが呼び出す液体のスマッシュ_____リキッドスマッシュにそっくりである。

 

「く………厄介でいやがりますね」

 

真那は毒づくと、青と銀のベルト____モデライズドライバーを取り出した。

そして腰に持って行き、ベルトを巻き付かせる。

 

 

【モデライズドライバー!】

 

 

ギャァァァァァア!!

 

そしてアクエリオスオーバースマッシュが呼び出した【リキッドスマッシュ・スカーレット】の攻撃を交わしながら、【ウルフマテリアルフルボトル】を振り、斜めに開いたベルト上部のスロットに装填する。

 

 

ウルフ マテリアル!

 

 

そして右手を顔の横に持って行きグッと握り、叫んだ。

 

「変身!!」

 

 

【ARMOR UP!!】

 

 

真那がチャージャーを引いた瞬間、オーバースマッシュの背後の彼岸花が開き、無数の弾幕が発射される。

が、それらは真那の周囲に発生したフルボトル型ファクトリー【アームモデリングビルダー】によって全て防がれ、一瞬のうちに真那の肉体をスーツが多い、次々とアーマーが装着されていく。

最後に後頭部に狼の尾を模した【バトリングスタビライザー】が生成され、弾幕の爆炎とともに姿を現した。

 

 

【HOUNDING BEAST!!ウルフ・オブ・ファングッ!!ハァッ!!】

 

 

ファングへと変身した真那は、そのままノーモーションでオーバースマッシュに肉薄し、右手を構える。

 

 

【ファングクラッシャーッ!】

 

 

【エッジ・ファング!】

 

 

下部から展開したブレードを蠢動させ、斬りつける。

だが、相手はその行動を予想していたらしく、左手のレイザーブレードだったと思しき円筒部からエネルギー刃を出現させ、それを受け止めると同時、背面から血管状の触手を伸ばしてファングの胴に巻き付かせ、後方へと投げ飛ばした。

 

「くっ………!」

 

何とか背面のスラスターで姿勢を保つも、すぐさま取り巻きのリキッドスマッシュ・スカーレットが追撃に来る。

だが、その瞬間。

 

 

「オラァァァッ!!」

 

 

金色の影が割るように入ったかと思うと、ファングに迫って来ていたリキッドスマッシュを一撃の元に叩き伏せ、残る追撃のリキッドスマッシュを蹴り付け、遠ざける。

 

「……おい、俺を差し置いて何楽しんでんだ……コラ」

 

「……あんたは…………」

 

「よお、大丈夫か?ガキっ娘」

 

ファングを一瞥しそう言う、ロボットみたいなライダー。

グリスだ。右手にはツインブレイカーを構え、左腕を慣らすように回し、明らかな臨戦態勢を取っている。

 

するとグリスがアライブ達の方を向き、叫んだ。

 

「お前らは先に行け!ここは俺たちに任せな!」

 

「ッ!………分かった。行くぞ、みんな!」

 

アライブが一瞬の逡巡の後に応え、クローズらを引き連れてビルに走って行った。

グリスはそれを見送ると、敵に顔を向け、得物であるツインブレイカーを構えた。そして顔は敵に向けたまま、ファングに問う。

 

「行けるか?ガキっ娘の新入りライダー?」

 

「………当然でいやがります。あと、ガキっ娘は余計です!私もう十四でいやがりますよ!」

 

「何言ってやがる。充分ガキじゃねーか。俺二十九だぞ………って、んな話してる場合じゃなかったな」

 

グリスが気合いを入れるように掌に拳を打ち付けると、オーバースマッシュと取り巻きのリキッドスマッシュに顔を向ける。

そして変身時に取るポーズのように、挑発するように敵に指を指し、言う。

 

「______来いよ、ミス・ブラッドレディ。心火を燃やして、相手になってやるぜ」

 

言うと、グリスはマスクの下で不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

三人はグリスとファングにあのオーバースマッシュを任せ、滅茶苦茶に破壊されたビルの入り口に足を踏み入れた。瞬間、インカムから聞こえていた琴里の声がノイズに呑まれ、何も聞こえなくなる。

 

だが、それでも行くしかない。三人は先へ先へと進み、二階、三階、四階、五階と駆け上がっていく。

 

「令音の話が本当なら、ここのどっかに戦兎と十香が捕まってんだよな!?」

 

「ああ!その筈だ!」

 

息を荒くしながら言いながら、アライブ達はひたすら進み続ける。

 

 

_____ここに、十香がいる。

 

 

十香を救う。あの少女の無垢な笑顔を、理不尽に奪われてなるものか。

 

そして、戦兎も救い出す。今まで彼に、自分たちは助けられて来た。

だからこそ、今度は自分達が助ける番だ。

 

その想いを胸に、三人は何十階と連なるビルを進み抜けていく。

 

が、そう簡単に行く筈もない。

 

「______侵入者を確認!」

 

「おい貴様ら!何者だ!一体どこから_____!」

 

「くそっ………!」

 

「そう簡単には行かせちゃくれねえか……!」

 

「回避。ふっ______!」

 

廊下の先から、デウストルーパーと思しき二人の姿があったのである。室内であるからか、手にしていたのはハンドガンのような軽火器とレーザーブレード、そして腰に下げたデュアルスレイヤーのみである。

彼らはアライブ、クローズチャージ、夕弦の姿を認識すると、すぐに随意領域(テリトリー)を展開し、凄まじい脚力で以って三人に迫ってくる。

だが、そんな事で足を止めるわけにいかない。三人は一度顔を合わせると、すぐに敵へと向かっていった。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおお_______ッ!!!」

 

「あああぁぁあぁぁぁぁぁぁ________ッ!!!」

 

「奮起!はぁぁぁぁぁぁぁあ_____ッ!!!」

 

 

雄叫びを上げながら、走り抜けていく。

それぞれ武器を手に、眼前の敵へ決死の覚悟で立ち向かっていく。

 

大切な者を、取り戻す為に。

 

 

 

 




どうでしたか?
グリスの挑発するシーンは、役者つながりで少し音也を意識しました。あんまそれっぽく無かったかも知んないですけど……。

中途半端なところで終わってしまいましたが、次回からまた盛り上がっていくので、ご期待ください!

あの最後の方書いてて思ったけど、なんかルパパトみたいな感じになったな。最近見始めたからだろうか。
というか第六章の美九編、今までで一番長い回になったなぁ。六巻と七巻纏めてるから当然といえば当然なんですけど。

それでは次回、『第71話 悪辣なるハザード』をお楽しみに!

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第71話 悪辣なるハザード

士道「仮面ライダーアライブことこの俺五河士道と、万丈、夕弦、一海さん、真那はDEMへと突入する。しかし俺たちの前に現れたのは、変わり果てた様子で、真っ赤なオーバースマッシュに変貌したかつての真那の仲間、ジェシカ・ベイリーだった。一海さんことグリスと、真那ことファングが彼女と戦う中、俺と万丈と夕弦は、DEM社屋への潜入を開始するのだった!」

万丈「いよいよ敵のアジトに侵入だな!燃えて来たぜ!」

士道「ああ、早く十香と戦兎を助けよう!」

一海「つーか戦兎攫われてから、あいつの出番めっきり減ったよな。主役なのに」

真那「そうですよね。最早このギャグ時空であるあらすじ紹介の場にも出てませんよね。主役なのに」

士道「本編でフリーなやつしかでちゃいけないみたいな空気あるけど、今敵対してる美九とかクラウンとか、神大とかも出てたのに、戦兎だけ全っ然触れられないよな。主役なのに」

シュルシュルシュル_______スパッ。

万丈「ん?なんだこの手紙。えーと、何々…………」


『みんなへ。
オマエラ後デ覚エテロヨ。
戦兎より。』


全員『…………………』

士道「………さーて!そろそろ本編行くか!」

万丈「そ、そうだな!つーわけで、第71話を、どうぞ!」

一海「………本当に大丈夫なのか?」



「はぁぁぁぁ____ッ!!」

 

 

【ONE BEAT!SWEEP BLAST!】

 

 

アライブラスターを構え、立ち塞がるデウストルーパーに向けて炎のエネルギー弾を発射する。

 

 

「おりゃぁぁぁぁあッ!!」

 

 

【ヒッパレーッ!ヒッパレーッ!MILLION HIT!!】

 

 

ビートクローザーを振り抜き、波形のようなエネルギー波を飛ばす。それらは敵に多段ヒットすると、その衝撃で以って敵を後方へと吹き飛ばした。

 

 

「応戦。ふっ_____!」

 

 

颶風騎士(ラファエル)の風が敵を包み込むと、遥か遠くへと飛ばし、或いは風の中でドライバーを引き剥がし、変身を解除させる。

 

 

______アライブ、クローズチャージ、夕弦がビル内に侵入してから、どれほど経っただろうか。

 

 

最初にトルーパー隊と遭遇してからというもの、それからは立て続けの戦闘だった。立ち塞がる敵を斬っては倒し、撃っては倒す。その繰り返し。

そして勿論、足を止める事は許されない。一度でも足を止めれば、瞬間に数の暴力によってアライブ達は瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。だからこそ、先へと進み続ける。身体が軋みを上げようと、その魂に想いが燃え続けている限り、例え歩けなくなったとしても進み続ける。

 

「いたぞ!侵入者だ!」

 

「【ベルセルク】も一緒だ!ここで仕留めるぞ!」

 

「っ、くそが…………ッ!」

 

「ふざけろ………っ!」

 

どれだけ倒そうとも、すぐに増援が来る。

果てなき戦いにアライブは憤り、そして遂に、赤のボトル_____【カマエルエンジェルフルボトル】を取り出し、ガルーダに装填した。

 

 

【激焦ゥッ!アライブカマエルッ!

 

 

【Are You Ready?】

 

 

 

「うぉぉぉぉぉおぉおおおお_____ッ!!!」

 

 

この身に降り注ぐ弾丸の雨を真っ向から受け止め、全速力で駆け抜ける。

そして瞬間、アライブは業火に包まれる。

 

 

【Get Up Flame!Dead Or ALIVE-KAMAEL!!イェイイェーイィッ!ブゥアアァァッ!!】

 

 

アライブカマエルと化して炎の鎧を身に纏い、手には炎熱の赤き戦斧【灼爛殲鬼(カマエル)】とアライブラスターを携え、敵へ立ち向かっていく。

 

「なっ、あれは………天使!?」

 

「邪魔を_______すんじゃねぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

 

戸惑う敵にも容赦なく炎を纏った灼爛殲鬼(カマエル)を薙ぎ払い、正面突破していく。随意領域(テリトリー)が展開されようが、トルーパー諸共斬り裂き、吹き飛ばす。

 

「ぐ、ぐあ………ッ!」

 

「馬鹿な……ッ!」

 

そんな苦悶と共に、トルーパー達がビル外部へと放り出される。

だが、まだ敵は残っていた。残ったトルーパー二人がアライブに肉薄して来たかと思うと、腰からデュアルスレイヤーを抜いて斬りつけようとしてくる。

 

「______オラァッ!!」

 

しかしその攻撃は、すんでのところで割るように入ったクローズによって防がれる。ビートクローザーとツインブレイカーで以って二人のトルーパーの斬撃を受け止め、既にドラゴンが装填されていたツインブレイカーのトリガーを引く。

 

 

【レェェェッツブゥレイクゥゥッ!!】

 

 

「だぁぁぁぁあッ!!」

 

そしてブレイカーを横薙ぎ払うと、まるで鞭のようにクローズドラゴン・ブレイズが振るわれ、その二体のトルーパーも地面に倒れ伏した。

 

「ぐっ………はッ、はぁッ_______」

 

だが、クローズはその場で膝を着くと、荒い呼吸を繰り返した。やはりこれまでの連戦によって、如何な歴戦の戦士のクローズでも体力が失われていたのである。相手とて素人ではない、戦闘のプロとも言える相手だ。その消耗は計り知れないだろう。

 

「う、あ_______万丈、平気か…………?」

 

一方のアライブもクローズを気遣うも、体力の限界が近づこうとしていた。ただでさえ体力を消耗したところに、負担の大きいアライブカマエルに変身したのだ。既にマスクやスーツの下には脂汗が浮かび、灼爛殲鬼(カマエル)の治癒の炎によってどうにか持ち堪えている状態であった。

 

「別に………。ちと、張り切りすぎたな………」

 

強がるように応えて、クローズが立ち上がる。しかし、その声音からは疲労を隠し切れていなかった。

 

「思慮。二人とも………」

 

「夕弦………大丈夫だ」

 

「ああ。………先を急ごう。戦兎達が、危ねえ…………」

 

夕弦に大丈夫、と制し、戦斧を構え直す。

そしてアライブ達は、再び歩み出した。

 

 

 

 

アライブ達が、DEMのビルに侵入してからしばらく経った頃。

神大はモニターを眺めながら、愉快げに顔を歪ませていた。

 

「んー……これは少々予想外だね。よっぽど、彼等の事が大事という訳か。いやはや、素晴らしい友情だ。感動的だね」

 

モニターの一つにはアライブ、クローズ、夕弦がビル内部でトルーパー隊と、もう一つには、グリスとファングが【アクエリオスオーバースマッシュ変異体】や、その取り巻きの【リキッドスマッシュ・スカーレット】と交戦している光景が映されていた。

彼らがトルーパー隊を倒す速度は、神大の予測を大きく超えていた。彼らにはモニター越しにも疲労が見えるものの、それを差し引いてもあれは驚異的だ。

 

まったく、素晴らしい仲間意識だ。まるで仲間の為とあらば、命を捨てるとでも言わんばかりの懸命さ。仲間の為に戦う事が、自らの存在意義だとでも言わんばかりのか弱さ。

 

本当に、なんて素晴らしいんだ。感動的な話じゃないか。

 

「だが………無意味だ」

 

その言葉を言うと、神大はその笑みをより深く、猟奇的に歪ませる。

そして指をパチン、と鳴らすと、研究室の奥から一人の男がゆっくりと歩いてきた。

 

「…………」

 

全身黒の外套に身を包み、顔はフードで隠している。そして_____首元には、一点が赤く光る首輪のようなもの。

その姿を確認し、神大は口を開いた。その声に、隠しきれない愉悦を滲ませながら。

 

「侵入者を迎撃してくれ。………これを使って、ね」

 

そう言って神大は、赤く光るガジェット_______【ハザードトリガー】を渡した。

 

「…………」

 

目の前の人物はそれを一瞥して受け取ると、コートのポケットへと入れた。

そして翻ると、研究室のドアを開けて後にした。

 

「さてさて………どうなるか。………ふふっ、楽しみだ………」

 

_____彼らの戦う理由が、無に帰す事になった時、彼らはどうなるのか………ね。

 

 

 

 

「だぁぁぁぁあ______ッ!!」

 

 

KAMAEL BREAK!!

 

 

「ぐ、ぐあッ!?」

 

「何ッ!?」

 

振り下ろした灼爛殲鬼(カマエル)から炎の円刃が放たれ、前方のトルーパー二人を吹き飛ばす。

 

「ハァッ………ハァッ…………ぐっ……」

 

灼爛殲鬼(カマエル)を振り下ろした腕に、筋繊維が千切れるかのような痛みが走る。するとそれを追って、アーマー内部に炎に焼かれるような熱さが腕を襲い______斧を取り落とそうになる手の腱をすんでのところで癒していった。

 

「士道………大丈夫か………?」

 

「思慮。士道……」

 

「平気だ………これ、くらい…………」

 

灼爛殲鬼(カマエル)とアライブラスターを杖代わりにして、どうにか立ち上がる。アライブカマエルへ変身した代償が、ここに来て士道の肉体に負担を掛けていたのだ。

 

人智を超えた力を、科学の力で以って人の身で扱い、人智を超えた力で負担をねじ伏せる。

 

だが、こんな過酷なサイクルに、何度も何度も耐えきれるはずが無かった。いくらハザードレベルがあろうが、変身していようが関係ない。その上、これほどの長時間、この形態で戦ったのは初めての事態だ。だからだろうか、先程から全身の血が昂ぶったかのように身体が熱くなり、全身が痙攣している。

 

「さあ、早く行くぞ……………このままじゃ、十香達が_______ッ!」

 

と、前へ足を踏み出そうとした、その時。

 

 

 

________カツン、カツン、カツン_____________

 

 

 

 

_____誰かの足音が、聞こえた。

 

 

「っ、また敵かッ!?」

 

その足音に、三人はまた臨戦態勢を取る。

幸いにも、足音は一人分。油断はできないが、今の三人でも大丈夫だろう。

 

段々と、足音が近くなり______そして、現れた。

 

「………黒い………?」

 

「……トルーパーじゃあ、なさそうだな」

 

警戒は緩めず、相手を見据える。

 

全身を黒コートで包み、フードに隠されているその顔を窺い知ることはできない。

 

相手は俺たちの姿を確認しても臨戦態勢を取る気配も無く、ただ淡々と歩み寄ってくる。その服装と相まって、この空気の中で途方も無い不気味さを感じさせた。

 

「……不審。一体……………」

 

「…………」

 

その男は三人の少し手前まで来ると、そこで立ち止まった。

そして被ったフードに手を掛けると、目の前で外した。

 

 

「______なっ……………!?」

 

 

_____その、晒された素顔に。

 

 

「_____馬鹿な…………ッ!?」

 

 

______敵の、正体に。

 

 

「______不、信。…………そん、な……………っ」

 

 

______俺たちは、ただただ呆然となるしかなかった。

 

 

だって、その男は_________

 

 

 

「……………戦、兎…………?」

 

 

 

_______桐生戦兎、その人だったからだ。

 

 

その腰には既にビルドドライバーが装着され、何やら首輪のような物が嵌められている。

何が起きているのか、三人がまるで状況を掴めないまま、戦兎はポケットから何か、赤いガジェットを取り出した。

 

「ッ、あれはまさか________!」

 

クローズが何か思い当たる節があったのか、ふと声を漏らす。

戦兎はそのガジェットの保護カバー、【セキュリティクリアカバー】を外すと、設置されていた青のボタン、【BLDハザードスイッチ】に指を伸ばした。

 

 

 

【HAZARD ON!!】

 

 

 

まるで警告を告げるかのような、機械音声が鳴り響く。

戦兎はそのトリガーをビルドドライバーのスロット、【BLDライドポート】に接続する。

 

そしてビルドの基本形態、【ラビットタンクフォーム】に変身するための、ラビットフルボトル、タンクフルボトルを取り出し、数回振る。そして、十分に活性化させたそれを、ドライバーのスロットへと挿し込んだ。

 

 

 

ラビット!タンク!

 

 

SUPER BEST MATCH!!

 

 

 

これまで、少なくともアライブと夕弦が聞いたことのない音声が流れる。

戦兎はその音声が流れると、躊躇いなくレバーに手を掛け、ゆっくりと回す。

 

 

 

ガタガタゴットン!ズッタンズタンッ! ガタガタゴットン!ズッタンズタンッ!

 

 

 

レバーを回すと同時に、鋳型のような専用フレーム【ハザードライドビルダー】が形成される。それに表示された黒と黄色の警戒ラインから、それがどれだけ危険なものなのかは容易に想像できた。

 

 

 

【Are You Ready?】

 

 

 

「………変身」

 

 

いつもの戦兎からは想像もつかないほど抑揚の無い声でそう告げた瞬間、戦兎がハザードライドビルダーに挟まれた。

そして、電子レンジのような音と共に、ビルダーが黒煙のような瘴気を伴って開く。

 

 

 

UNCONTROLLE SWITCH!! BLACK HAZARD!!

 

 

 

【ヤベーイィッ!!】

 

 

_______現れたのは、黒のビルド。

 

色づいているのは複眼部の赤と青のみで、装甲やアンダースーツに至るまで全てが染め上げられたような漆黒。

 

その姿を見たとき、アライブは小さい頃アニメで見たような、実験で失敗して黒焦げになった科学者の姿を連想した。

 

「混、乱………。あれ、は……………」

 

「…………ビルド、ハザードフォームだ」

 

 

_________ビルド ラビットタンクハザードフォーム

 

 

かつて封印された禁断のその姿が今、アライブ達の前に最悪の敵として立ち塞がっていた。

 

「………対象を、破壊する」

 

短く呟くや、ビルドはアライブ達を捉えると_____一瞬で迫った。

 

「なっ_____!?」

 

その凄まじいスピードに対処しきれず、アライブはビルドの拳を真っ向から受けてしまい、吹き飛ばされる。

 

「う、ぐぅ______ッ!」

 

どうにか地面で踏み止まり、灼爛殲鬼(カマエル)を一応持ち直す。だがアライブの胸中は今、戦うどころの騒ぎでは無かった。しかしそんなアライブの胸中など知る由もなく、ビルドが再び殴りかからんと接近してくる。

 

「戦兎………おい、どうしたんだよ、おい!!」

 

「士道ッ!」

 

クローズがアライブを抱えてどうにか攻撃を避け、ビルドの拳は代わりに近くの壁に放たれる。

だがその拳は壁をいとも容易く破壊し、細かな瓦礫の山へと変貌させていく。

 

「………畏、怖。……何なのですか、アレは……それに、どうして戦兎が………」

 

「………あれはハザードフォーム。ハザードトリガーで変身した………禁断の姿だ」

 

恐れている様子の夕弦に、クローズが説明をする。

 

「凄えパワーを得る代わりに、時間が経つにつれて自我を失ってく。……でも、変身したばっかなのに、何で俺たちを攻撃してるんだ………!?」

 

そう言い切ると、クローズが再び立ち上がり、ビルドへと向かっていく。

 

「うぉぉぉお___ッ!!」

 

ビートクローザーを構え、上段から斬り込もうとする。

だがビルドはそれを最小限の動作で避けると、クローザーを持った手を左手で強く握り締めた。そして身動きを封じると、右の拳でクローズの顔面にブロウを決め込む。

 

「ぐふっ………!何………やってんっ、だよ……戦兎………ッ!!」

 

しかしクローズはその重い拳をどうにか耐え切り、再びビルドの顔面を見据える。

 

「…………」

 

「お前………黒いの似合わねえんだよッ!」

 

「………破壊する」

 

 

【MAX-HAZARD ON!!】

 

 

ガタガタゴットン!ズッタンズタンッ!ガタガタゴットン!ズッタンズタンッ!

 

 

 

しかし、ビルドはクローズの言葉など意に介さず、ハザードトリガーの上部ボタンを押し込む。

先程よりも一層けたたましい、警告を告げるかのような音声と共に、ビルドがレバーを回す。瞬間に、ビルドの装甲の隙間から、焼けたように黒ずんだ瘴気が漏れ出した。

 

 

 

【Ready Go!】

 

 

OVER FLOW!!ヤベェーイッ!!

 

 

 

黒の瘴気を纏い、腹部に蹴りを入れてもう一度顔を殴り付ける。その一撃一撃が繰り出されるたびに重苦しい音が鳴り響き、それがどれほどの威力を持っているのかが知れた。

 

「………ッ、これは………」

 

だがその時、万丈は何かに気づいた様子でビルドの首元を見た。だが、それをよく確認するより前に_______

 

「ぐっ、ぐはぁぁぁッ!!」

 

「万丈ッ!!」

 

腕部、脚部に搭載された【HZデッドリーグローブ】、【HZヴァニッシュエンドシューズ】の機能によって、クローズチャージのスーツ、アーマーが砕ける。元々トルーパーとの戦闘によってダメージが蓄積されたのもあるだろう。その二撃が決めとなって、吹き飛ばされたクローズチャージは変身が解除された。

 

「ぐっ____あぁ_____っ………!」

 

「万丈!おいしっかりしろ、万丈ッ!」

 

万丈の元へ、アライブが駆け付ける。

吹き飛ばされた万丈は頭から血を流し、全身も傷だらけになっていた。明らかに重傷だ。

だが万丈はそんなアライブの胸元を掴むと、必死の剣幕で叫んだ。

 

「何してんだ……ッ!俺はいいから早く戦兎を救え!!」

 

「ッ……!」

 

「さっき見て分かった………ッ!あの首輪だ!あの首輪が、戦兎を操ってんだ………ッ!」

 

「何だって………」

 

そう言って万丈が指差したのは、ビルドの首元。

そこには確かに万丈が言った通り、全体が鉄色、そして一点に赤いランプのようなものが点灯した、如何にもな首輪が取り付けられていたのだ。

 

「あれが…………」

 

「だから………早く!あれを破壊して、トリガーを外せば、きっと………ぐっ………!」

 

「万丈……!」

 

瞬間、アライブの中で葛藤が膨れ上がる。このまま、行ってしまっても良いのかと。

 

「……士道……何躊躇ってんだ!!今戦兎を助けられんのは、お前らしかいねえんだぞッ!!」

 

だがその葛藤を、万丈の言葉が吹き飛ばした。

 

_____そうだ。ここで諦めて、良い筈がない。

 

ここで戦兎を助けられなくちゃ、十香だって助けるなんて出来ない。それに……俺たちはいつも、戦兎に助けられて来た。

だから、今度は_______

 

「………共闘。私も、闘います」

 

「夕弦………」

 

そこで、夕弦も隣に立った。ペンデュラムを握り締め、黒いビルドを強い意志で見据える。

 

「……返上。戦兎は、私と耶倶矢を救ってくれました。だから………今度は、私が救う番です」

 

「夕弦……そうだよな。……俺たちが、やらないとだよな」

 

夕弦の言葉に頷くと、アライブは再び灼爛殲鬼(カマエル)と、アライブラスターを構える。

狙うのは首輪と、ベルトのハザードトリガー。難しいけど、やるしかない。いや、やらなきゃいけないんだ。そうしなきゃ、戦兎を助ける事は出来ない。

 

「…………」

 

「今、助けてやるぞ………戦兎」

 

戦兎______ビルドは静かに、ただこちらを見据えている。

 

いつでも攻撃できる体勢だ。だが、こちらも一歩も引かずに、ビルドを見据え得物を構える。

「______ハァァァァッ!!」

 

「奮起。______はぁぁぁぁぁッ!!」

 

「…………」

 

そして駆け出し、ビルドへと迫る。

 

 

______それぞれの想いを、胸に秘めて。

 

 

 

 




どうでしたか?
また投稿遅れてすいません。課題とドラクエに追われてたのと、スランプ気味に陥ったことで執筆意欲が失せてしまってました。待っていてくれた方々、大変申し訳ありません。

あと補足ですが、ビルドが「破壊する………」の台詞を言った時点では、まだハザード限界には達しておらず、マックスハザードオンになった時点で、暴走が始まった感じです。

それでは次回、【第72話 セーブした想いが掴む腕】をお楽しみに!

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第72話 セーブした想いが掴む腕

士道「仮面ライダーアライブことこの俺、五河士道は、万丈と夕弦と共に、DEMの第一社屋への侵入を試みていた。しかしその道中、俺たちの前に現れたのは、囚われたはずの桐生戦兎、その人であった。そして俺たちの前で戦兎は、真っ黒なビルド、ハザードフォームへと変身を遂げたのであった」

夕弦「思慮。戦兎と戦うのは、心苦しいです」

万丈「それでもやるしかねえだろ。あいつを助けらんなきゃ、俺たちが来た意味がねえ」

士道「……ていうか俺たち、こうしてあらすじ紹介するのすごい久しぶりな気がするなぁ」

夕弦「解説。前回の投稿から一ヶ月ほど掛かっています。これは失踪したと言われても仕方ありません」

万丈「待ってくれたみんな、すまねえ。次回からもう少し早く登校できるようにすっから、これきらも応援頼むぜ」

士道「あと、最近新作の小説、『ガールズ&パンツァー 鉄血のオルフェンズ』のノベライズも連載を始めたから、そっちもヨロシクな!」

万丈「………さっきから俺ら、何してんだろうな」

夕弦「考察。所謂宣伝という奴ではないでしょうか」

士道「ダイレクトすぎんのも良くない気がするが………まあそれはともかく、第72話、どうぞ!」






______ビルド ハザードフォームと、アライブ達との交戦は続いていた。

 

「だァッ!ハァッ!」

 

「………………」

 

アライブが繰り出す連打を、ビルドはいっそ冷酷な程に、淡々といなして行く。

そしてその隙をついて反撃を欠かさず繰り出してくる。更には、その全ての攻撃が急所を狙ったものだ。ただでさえ消耗しているアライブが、これ以上攻撃を受けようものならすぐに変身が解除されるだろう。灼爛殲鬼(カマエル)の治癒能力はあくまでも傷を回復するものであって、体力の消耗も回復するものではないからだ。

 

「くっ………ぐぅっ…………!」

 

残った集中力を振り絞って、ビルドの攻撃を交わし、アライブラスターで受け流す。

しかし、そのアライブラスターもハザードが持つ分解能力によりヒビが入るほどのダメージを受けていた。

 

「くそっ、だったら………カマエルッ!」

 

アライブラスターを放ると、アライブの掛け声とともに床に刺さっていた灼爛殲鬼(カマエル)の戦斧が手元に舞い戻ってくる。

 

「…………ッ!」

 

戦斧を構え直すと、ビルドの次の攻撃を上手く受け流した。

そして両手で横に振りかぶると、ビルド目掛けて振るった。

 

「………………」

 

だがビルドはそれをバックステップで躱すと、アライブと距離を取った。

そしてドライバーにセットされていたラビット、タンクのボトルを引き抜くと、別のボトルをホルダーから取り出して装填した。

 

 

ニンジャ!コミック!

 

 

SUPER BEST MATCH!

 

 

ガタガタゴットン!ズッタンズタンッ!

 

 

【Are You Ready?】

 

 

「ビルドアップ」

 

 

ビルドが短く呟くと、周囲に展開していたハザードライドビルダーが一瞬のうちにビルドを挟み込み、内部から複眼部が変わったハザードビルドが出現した。

 

 

UNCONTROLLE SWITCH!! BLACK HAZARD!!

 

 

【ヤベーイィッ!!】

 

 

姿を現したのは、ビルド ニンニンコミックハザード。

しかし変わったのは複眼部のみであり、その異質さがかえって不気味さを醸し出していた。

 

「ニンニンコミックのハザード………まさか!」

 

アライブはそのフォームを見て、嫌な予感が脳裏を過ぎった。

自分の読み通りなら、このフォームは________

 

そんなアライブの思考を中断させるように、眼前にいたはずのビルドは、いつの間にか姿を消していた。

 

「っ、やっぱり______ッ!ぐあ………ッ!」

 

慌てて体勢を立て直すが、遅い。

影のようにアライブの背後へと忍び寄ったビルドは、手にした四コマ忍法刀で、素早い連撃を繰り出してきたのだ。

 

 

【分身の術!】

 

 

更には四コマ忍法刀のトリガーを一度引き、自らの分身を生成すると、さらに目にも留まらぬ速さで攻撃を加えてきたのだ。

 

「ぐっ、くそっ…………!」

 

畳み掛けるように繰り出される攻撃。

どうにか急所を避けるように防御の姿勢を取るが、ハザードの能力によりアーマーにヒビが入っていく。

 

そして黒の影がアライブの首を狩らんと、その刃を向けた、その時。

 

 

「________ハァッ!」

 

 

二人の間に入るように、夕弦がペンデュラムを構え、振るった。

振るわれたペンデュラムは風に操られアライブを避けると、周囲に展開していたビルドの分身を消し、アライブに迫っていた刃を退けた。

 

「夕弦………ッ!」

 

「退避。士道、一旦下がってください。………戦兎は、私が止めてみせます」

 

「…………」

 

静かに夕弦の方へと、その仮面を向けるビルド。

夕弦は握りしめたペンデュラムを構え、風と共に駆けた。

 

「疾走。ハァァァ…………ッ!」

 

「……………」

 

風の精霊たる八舞夕弦が誇る他を寄せ付けぬスピードに、ビルドがニンニンコミックの機動力で以って追従する。

ハザードフォームは例え倒すべき対象がライダーやスマッシュでなかろうが、それこそ動物や女であろうと容赦は無い。淡々と、効率良く殺せるように、装着者を動かす。

 

ビルドの攻撃をペンデュラムでいなし、そして鎖の穂先で隙を伺い攻撃する。

しかし、ビルドは小さな動作でそれを交わすと、手にした四コマ忍法刀のトリガーを二度引いた。

 

 

【火遁の術!火炎斬り!!】

 

 

「ッ…………!」

 

忍法刀から放たれた炎の斬撃を、夕弦は霊力の風を操り一度空中で回避する。

そしてすかさずビルドへ向かって、ペンデュラムを一直線に、刺すように放つ。するとペンデュラムはまるで細長いドリルのように高速回転し、一瞬でビルドへと迫っていった。

 

「…………」

 

だがビルドはそれに動じることなく、回避しようと横へジャンプする。

 

「_____発動。今……ッ!」

 

「…………!」

 

しかし瞬間、夕弦の手から放たれたペンデュラムがまるでネットのように方陣を組んで展開した。

それらはまるで意思を持っているかのように蠢動し、ビルドを拘束するとばかりに動き出した。

 

「…………」

 

 

【分身の術!】

 

 

しかしビルドはそれすらも見切ると、忍法刀のトリガーを一度引き、分身を作り出してそれを身代わりとし、そこから逃れた。

そして再びボトルを引き抜くと、素早く新たなボトルを装填した。

 

 

タカ!ガトリング!

 

SUPER BEST MATCH!

 

ガタガタゴットン!ズッタンズタンッ!

 

【Are You Ready?】

 

BLACK HAZARD!!ヤベェーイッ!!】

 

 

今度はホークガトリングハザードに変身したビルドは、背面からソレスタル・ウイングを展開すると、夕弦を連れ去って壁を破壊し、空中へと飛び去った。

 

「焦燥。くっ………!」

 

夕弦は何とかその拘束から逃れると、自身も霊装の翼を展開した。ビルドはホークガトリンガーをドライバーから生成すると、夕弦に向けて躊躇いなく弾丸を連射する。

対して夕弦はペンデュラムを方陣のように展開すると、その弾丸を全て防ぎきった。そしてそのまま空中を飛び交い、互いにすれ違いざま、攻撃を仕掛けていく。

しかしこの空中戦、有利なのはビルドの方であった。元より、容赦の無いビルドと、無意識のうちに手加減している夕弦。その時点でどちらが優勢かは言うまでもない。

更にはハザードフォームの持つ分解能力は、限定顕現した霊装にも有効だ。現にペンデュラムは所々にヒビが入り、先端も刃こぼれが激しい。

 

「(葛藤。戦兎……貴方のやりたかったことは……こんな事では無いはずです……ッ!)」

 

ホークガトリンガーから放たれる銃撃を躱し、防ぎながら、夕弦が胸中で叫ぶ。

 

かつて耶倶矢と自分を救ってくれた、夕弦の一番のヒーロー。

それが今、自分達に牙を向けて攻撃してくる事に、夕弦は苦悩を抱えて交戦した。

 

「(愛と平和(ラブ&ピース)を願って、誰かの為に戦ってきた筈でしょう………ッ!だから、私が……っ!)」

 

「くっ、ぐっ…………!?」

 

しかし、一瞬の隙を突かれ、腹部に蹴りを入れられる。咄嗟にペンデュラムで防いだものの、代償に鎖は千切れてしまった。

さらに衝撃で身動きの取れない状態を好機と見て、ビルドがホークガトリンガーを構え、リボルマガジンを回した。

 

 

10(テン)20(トゥエンティ)30(サーティ)40(フォーティ)50(フィフティ)60(シックスティ)70(セブンティ)80(エイティ)90(ナインティ)100(ワンハンドレッド)!!】

 

 

FULL BULLET!!

 

 

最大までチャージされたガトリンガーの連続エネルギー弾が、夕弦へと放たれる。鷹の羽のようなエネルギーが、雨のように夕弦へと降り注いだ。

姿勢を崩された夕弦に、それを防ぐ術などある筈もなく_____

 

「くっ、うぁぁぁぁあああ______ッ!!」

 

夕弦はその攻撃をもろに喰らい、先程までいた空間に叩きつけられるように吹き飛ばされた。

 

「っ、夕弦っ!」

 

アライブが夕弦の方に視線を向けると、霊装で守られていた筈の夕弦の肉体は傷付き、血を流していた。そして夕弦を見下ろすように、ビルドが冷淡に佇む。

 

「……………」

 

「戦兎………。………ハァァァァァッ!!」

 

アライブは残る力を振り絞り、灼爛殲鬼(カマエル)とアライブラスターを持ってビルドへと向かっていく。

 

「戦兎!お前、何そんなもんに良いようにされてんだよッ!守るんだろッ!?救うんだろうッ!?俺たちで!お前が今まで戦って来たのは、誰かを傷つける為なのかッ!?」

 

「…………」

 

アライブの叫びに応えることもなく、ビルドは淡々と、アライブの攻撃を防ぎ、反撃する。アライブの手から、アライブラスターが後方へと跳ね返されて飛んで行った。

アーマーがひび割れていくことも厭わず、ただひたすらに叫び、訴えかける。

 

「違うだろ……そうじゃねえだろッ!!お前は、愛と平和の為に、戦って来たんだろッ!!いつだって誰かのために、立ち上がって来たんだろッ!!だから_____ぐぅッ!?」

 

瞬間、ビルドの放った貫手が、アライブの腹部を直撃する。既に満身創痍だったアライブにこの攻撃は深く刺さり____直撃した部分からアーマーがひび割れ、粒子となって消えた。

今のアライブ、士道は生身。今攻撃されれば、即ちそれは死を意味する。これ以上無い、絶望的な状況だ。

 

だが_____これでいい。

 

何故ならビルドを、戦兎を止めるのは、士道一人ではない。

 

そう。戦兎の仲間が、かつて共に戦った相棒が_____士道一人に、戦兎を助ける役目をみすみす明け渡すはずがない。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉお_____ッ!!」

 

 

その相棒______万丈は、傷ついた生身の肉体に、先程アライブの手から離れたアライブラスターを構え、一直線に走り抜けていく。

 

【FEVER TIME!】

 

 

蒼炎のドラゴンエネルギーを籠めたアライブラスターを、上段へと構える。

そして、高く飛び上がると、大きくそれを振りかぶり_______

 

 

「だから_______目ェ覚ませェッ!!バカヤロォーッ!!!

 

 

ビルドの首元の一点______赤く光る首輪に向けて、放とうとした。

 

 

「………ッ!」

 

ビルドはそれを防ごうと右手を突き出したが_____動かなかった。

 

「____今だッ!やれ、万丈ッ!!」

 

意識が途切れる寸前をギリギリで踏みとどまりながら、士道が自身の身体に残った力全てを振り絞って、ビルドの腕を掴んで離さなかった。

無論その程度で、ビルドを長く止めるなど到底できやしないだろう。できたとしても、一瞬のみ。

 

だが_____その一瞬さえあれば、届く。

 

 

「オラァァァァァァッ!!!」

 

 

【THREE BURST!!】

 

 

万丈が放った蒼炎の龍は、その首輪を嚙みちぎり、一刀のもとに叩き伏せた。

 

「…………ぐっ、あぁッ!!?」

 

壊れた首輪から火花が散り、ビルドが頭を押さえて苦しみだす。だがまだ、ビルドはハザードのままだ。

そう。まだ終わっていない。

 

この戦いを終わらせる者、それは______

 

 

「______夕弦ッ!!

 

 

「………ッ!!」

 

士道の呼び掛けに、夕弦が霊力の風を伴い、翼を広げて全速力でビルドの前へと向かっていく。既にボロボロであった翼も、その銀の羽根が欠け、空へと舞った。

そして姿勢を低くし、苦しむビルドの隙を突いて、ドライバーのハザードトリガーを掴む。

 

「_____懇願。戻ってきて、下さい………ッ!戦兎ぉッ!!」

 

その願いと共に、夕弦はハザードトリガーを、力任せに引き抜いた。

 

 

「あ……………っ?」

 

 

瞬間、ビルドを覆っていた黒が、粒子となって消え去る。

そして中から出て来たのは_____

 

「っ、戦兎ッ!!

 

宙へと放られたその手を掴み、夕弦が戦兎を強く抱き留める。

強く、優しく、決して離すことのないように。

 

「………ゅ……づ、る………?士、どぅ………万、丈………」

 

薄っすらと目を開いた戦兎が、三人の名を呟く。

それを聞き夕弦は、一層彼を抱く力を優しく、強くする。

 

「戦兎……っ。戦兎ぉ………っ」

 

「……良かった………」

 

「ああ………」

 

士道と万丈は、その場にへたり込みながら、震える手を上げて、拳を軽く打ち合う。

 

 

夕弦は_____片翼の天使は、銀の羽根が舞う瓦礫の中で、愛する男を優しく、抱き締めていた。

 

 

それはまるで、絵画に描かれた神話の一節を彷彿とさせるような______どこまでも、美しい姿だった。

 

 

 

 

その後、夕弦は戦兎を抱えてフラクシナスに一度帰還することとなった。夕弦の怪我や、戦兎の安全を考慮した結果だ。

颶風騎士(ラファエル)の翼を展開すると、夕弦は崩壊した壁から空へと上がり、フラクシナスの方へと戻っていった。

 

士道と万丈はその様子を見届けると、再び進む為に立ち上がろうとした、その時。

 

「……よし、戦兎は助けた。あとは、十香だな」

 

「ああ、早く_______かふ…………っ?」

 

士道の口元に、何やら生暖かい感覚と、鉄のような味が広がる。

触ってみて確認すると、掌にはべったりと赤黒い液体が付着していた。そしてそれを認識した瞬間、全身の感覚が覚束なくなり______

 

____士道は、その場に倒れ込んだ。

 

「士道……?士道っ!?」

 

「ぁ________っ!?」

 

万丈が必死に呼び掛けるも、掠れた声と指がかろうじて動くくらいで、士道は立ち上がるどころか、全く動くことすらできなくなっていた。先ほど口元から流れていたのは、考えるまでも無く士道の血液だ。

 

無理も無い。カマエル形態での長時間の戦闘による疲労と損耗に加え、強敵であったビルドハザードによる膨大なダメージ。それら全てを押し留めるのは、あくまでも人の身である士道にとって無理があり過ぎた。

 

全身の骨が、筋肉が、悲痛な悲鳴を上げている。視界も昏み、意識に靄がかかっていく。

 

 

「_____いたぞ!ここだ!」

 

「確実に仕留めるぞ!!」

 

 

「っ、くそ、もう来やがったかっ!」

 

「あ、が…………っ」

 

向こうから、何人かの叫び声と足音が聞こえる。恐らくは、DEMの魔術師(ウィザード)や、デウストルーパー隊だろう。だが今の状態では士道は元より、万丈も戦うことは難しい。彼もまた先の戦いによって消耗し、意識を辛うじて繋ぎ止めている状態だ。

士道の身体の傷口に、灼爛殲鬼(カマエル)の炎が纏わり付く。が、それも最早手遅れだ。

 

いつのまにか士道と万丈の周囲には、駆けつけた魔術師(ウィザード)やデウストルーパー隊によって囲まれていた。万丈がドライバーを取り出し応戦しようとするも、今の体力ではそれも叶わない。

 

「手こずらせてくれたな。だが、終いだ」

 

魔術師(ウィザード)が二人前に出て来て、士道と万丈に銃口を向ける。

 

「十、香…………こんな、ところで………俺は………ッ!!」

 

身体に力を込めようとするも、動けない。

そのまま銃の引き金が引かれようとした、その時。

 

士道達の背後からピシッ、と亀裂が入るような音が聞こえたかと思うと、廊下に並んだ窓ガラスが一気に割れ、破片が雨のように降り注いだ。

 

「な、何っ!?」

 

魔術師(ウィザード)達の狼狽が響く。

だがそれだけで終わらず、割れた窓から凄まじい風圧が襲い来て、二人の前にいた魔術師(ウィザード)達数人を軽々と吹き飛ばしたのである。

 

「な………っ!?ば、馬鹿な、随意領域(テリトリー)が_____」

 

「って、寒ッ!?ちょ、寒、寒いんすけど!?」

 

次いで、士道達は周囲の気温がぐんと下がるのを感じた。万丈もオーバーなリアクションをして反応している。

そう。まるで辺り一帯が、一瞬にして冷凍庫にでも変わってしまったかのように寒いのである。

 

しかもどうやらそれは、意識の途絶えかけた士道達が感じた幻覚ではないようだった。前方の魔術師達(ウィザード)達が、張っていた随意領域(テリトリー)諸共凍らされ、悲鳴を上げていたからだ。

 

 

「【破軍歌姫(ガブリエル)】____【鎮魂歌(レクイエム)】」

 

 

そして次の瞬間、士道と万丈は自身の全身を蝕んでいた苦痛や疲労感が、ゆっくりと和らいで行くのを感じた。

 

「え………?」

 

「な、なんだ、これ………」

 

目を瞬かせ、士道は身体を動かそうと試みる。

すると、さっきまで動かなかったのが嘘のように、ある程度ではあるが身体の自由が効くようになっていた。少なくとも半身を起こせる程度には、身体は動けている。

 

すると、前方の砕けた窓から、誰かの声が聞こえて来た。

 

 

「ふん、揃いも揃って情けないですねー」

 

 

美九だ。煌びやかな霊装を纏い、軽やかなステップを踏んで廊下に降り立つ。

 

「【破軍歌姫(ガブリエル)】______【独奏(ソロ)】!」

 

するとそこから銀色の細長い円筒が現れ、先端部が美九の方へ向かって折れ曲がる。その姿はまるで、ライブなどに用いるスタンドマイクを思わせた。

 

「_______________っ!」

 

美九はそれに向かって、思わず聞き惚れるほどの美声を響かせる。

するとそれは筒の内側で幾重にも反響し、周囲にあまねく広がった。次の瞬間に、美九の歌声を聞いた魔術師(ウィザード)たちは一斉に武装を解除、デウストルーパー隊は変身を解除して、壁際に綺麗に整列する。

 

「美九!」

 

士道が叫ぶと、美九は不機嫌そうにフンと視線を逸らした。

 

「気軽に呼ばないでもらえますぅ?あなたの喉から発された声で舌で発音された音で呼ばれると、それだけで私の可愛い名前に拭いようのない穢れが蓄積するんですよぉ」

 

相も変わらず、愛らしいルックスに似合わないメスのように鋭い罵倒で士道の心を抉ってくる。

窓の外を見やると、美九をここまで連れて来たであろう、天使を顕現させた四糸乃と耶倶矢の姿が見受けられた。

 

「………耶倶矢」

 

「………」

 

万丈が耶倶矢の名を呼ぶも、耶倶矢はぷいと首を振り顔を合わせようとしなかった。その様子に、万丈は困った様子で頭を掻く。

 

「お姉様……私達はどうしましょうか」

 

巨大なウサギの背にしがみ付いた四糸乃がそう言った、その時。

 

 

「_____いやぁ、僥倖だねえ。まさか精霊が三人もここに来てくれるなんて」

 

 

「っ………その声_____ッ!!」

 

士道たちにとって聞き慣れた、慣れてしまった、聞くだけで虫酸の走るような嫌味ったらしい声音が響いてくる。

 

長い髪を揺らし、手には濃い紫色に光る銃を構え、白衣を着込んだ狂人(マッドサイエンティスト)

 

士道達の因縁の敵______神大針魏であった。

 

「……誰ですかぁ?いきなり現れて、気持ち悪いですねー。髪も長くて鬱陶しい。中で虫でもたかってるんじゃないですか?貴方の存在で空気が汚れる前に、早くここから出てってくださいよー」

 

「おやおや、これは手厳しいねぇ」

 

くつくつと含み笑いを浮かべながら、美九の罵倒を軽く受け流す。

先ほどより随分と動くようになった身体で立ち上がると、士道も神大の方を睨みつけた。

 

「悪いけど、お前の好き勝手にはさせない。俺たちは先に進んで、十香を助ける!」

 

「おぉおぉ。殊勝な心掛けだねえ。でも………出来るのかなぁ?今の君に」

 

挑発するように笑みを深めると、神大はポケットからビーオルタナティブボトルを取り出した。

士道も応戦するためドライバーを取り出そうとすると、それを万丈が制した。

 

「万丈?」

 

「士道、お前は先に行け。こいつの相手は俺がする」

 

「っ、そんな!お前一人じゃ……」

 

「お前よりかは動ける。それに、ここで足止め食らってたんじゃ、いつまで経っても十香を助けらんねえ。戦兎を助けて、それで終わりじゃねえんだ」

 

『ギギッ!』

 

クローズドラゴンが万丈の周囲を舞い、同意するように鳴き声を鳴らす。

そして万丈の隣に、並び立つように耶倶矢が降り立った。

 

「耶倶矢、お前………」

 

「ふん、勘違いするでない。あいつがどうにも気に食わんだけだ。それに、姉上様の邪魔立てをするものは、何人たりとも許さん。そのような不届き者は、我が槍の前に貫かれると知るがいい」

 

「……へっ、そうかよ」

 

万丈が不敵に笑うと、士道の方を向いて言った。

 

「……つーわけだ士道!お前はそいつ連れて、早く十香を助けて来い!こんなやつ、俺らだけで十分だ!」

 

「万丈………分かった!美九、行くぞ!」

 

「はぁっ?何勝手に決めて………あーもう!ほんと癪に触りますぅ!四糸乃ちゃん!貴女は邪魔が入らないように外の魔術師(ウィザード)さん達をやっつけちゃってください!」

 

「お姉様が、そう仰られるのなら……」

 

四糸乃が天使を駆ると、そのまま外へと飛び去っていった。そして万丈達の間を抜けて、士道と美九が走り去っていく。

 

神大はそれを止める事はせず、そのまま目の前に立った万丈と耶倶矢を見下すように向く。

 

「良いのかい?君達だけで私の相手をしようなどと」

 

「はんっ!てめえなんざ、俺たちだけで十分だっつーの!」

 

「その通り。寧ろ我一人でも、片付いてしまうやもしれんぞ?」

 

万丈と耶倶矢が神大を見据え、戦闘態勢に入る。

 

「そう。………なら、始めようか?」

 

神大はビーオルタナティブボトルを怪しく持ち上げると、一つカラン、と鳴らした。

 

それが戦いの合図代わりのように、両者の間に戦慄が走ったのだった。

 

 

 




どうでしたか?
またお待たせしてすいません。書くモチベーションがガル鉄の方に吸われていたのと、テストに追われてました。
次回からはもう少し早く投稿できるようにするので、これからも応援をよろしくお願いします……。

それでは次回、『第73話 それぞれのバトルフィールド』をお楽しみに!

よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします!


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第73話 それぞれのバトルフィールド

士道「仮面ライダーアライブこと五河士道は、万丈、夕弦と共に、ハザードフォームとなった戦兎の救出に成功!しかしそんな俺たちの前に、あの神大針魏が立ち塞がる!」

万丈「次から次によく出てくるなぁ。これ本当に十香のとこ辿り着けんのか?」

士道「愚痴言ってたって仕方ないだろ。だからあのウザい無駄ロングヘアマッドサイエンティストの相手は任せたぜ万丈」

万丈「辛辣だな!え、お前そんな毒舌だったっけ」

士道「ここまでやっと来たのにまた邪魔して来てイラついてんだよ察しろよ」

万丈「あ、おう。じゃなくて!お前仮にも主人公だろ!もっと言葉遣い直せよ!」

士道「うるせぇっ!こちとらこの美九編いつ終わるか分からない不安の中必死にやってんだ!あらすじ紹介の中で愚痴の一つくらい零したって良いだろうが!」

万丈「それ作者の心情だろうが!何ヤケ起こして熱く語ってんだよ!」

士道「いいだろ別に!つーわけで第73話、どうぞ見てくれクソがッ!」

万丈「とうとうクソがって言いやがった!もっとコブラートに包めよ!」

夕弦「補足。コブラートではなくてオブラートです。読者の皆様、見苦しい物をお見せしました。こちらは本編と一切関係ありませんので、どうぞ本編の方を最後までご覧ください」





_____あHaハ!aハははははハッ!!

 

「くっ______」

 

迫り来る血色の弾頭を、空中で旋回して回避する。

 

ファングと、ジェシカ_____だった、アクエリオスオーバースマッシュ 変異体との戦闘は、空の上で展開されていた。

 

敵のオーバースマッシュが放った弾頭は、爆破すると血のように赤い爆発を引き起こす。その妙に生々しい色に生理的嫌悪感を覚えながらも、右手に構えたファングクラッシャーで以って撃ち落とす。

 

しかしすぐさま前方から肉塊のような触手が飛び出し、ファングへと迫ってくる。

 

 

【エッジ・ファング!】

 

 

ファングクラッシャーのモードを切り替えると、展開したブレードで触手を斬り落としていく。しかし再生能力を備えているのか、斬り落とした触手は程ないうちに再生し、際限なくファングの肉体を貫かんと迫ってくる。

 

「ちっ、キリがねーですね………っ!」

 

毒づきながら、ファングはドライバーからウルフマテリアルボトルを取り出すと、ファングクラッシャーのボトルスロットに装填した。

 

 

【SLOT ONE!】

 

 

音声と共に、エレキギター調の待機音が流れる。

構えてトリガーを引くと、ブレードから牙のような蒼いエネルギー刃が放出された。

 

 

【シングルテアーッ!!】

 

 

「ハァッ!」

 

放たれたエネルギーは、槍のように迫った触手を一気に斬り刻んだ。

しかし、それで終わりではない。爆風の向こうから、オーバースマッシュがその鮮血のような色の全身を覗かせていたからだ。

 

はhAハハ!無駄Yぉ!!

 

狂ったような笑い声を上げながら、オーバースマッシュが赤黒く染まったミサイルや魔力砲、レイザーブレイドを一斉にファングへと向けてくる。

 

「どうやら、まともな判断力も残ってねーようですね………」

 

 

【ブラスト・ファング!】

 

 

ブラストファング状態で牽制射撃をしながら、スラスターを小刻みに駆動させて飛行する。

とにかく一撃が重い攻撃。一瞬でも気を抜こうものなら、すぐに擂り潰されてしまうだろう。酔ってしまいそうなほどの濃密な魔力が、全ての攻撃に込められていた。

これはオーバースマッシュ化による影響のみではない。恐らくだが、ジェシカは全身に改造手術を施されている。

 

_______真那が何年もかけて施されたものを、ごく短時間のうちに。

 

「く____」

 

一体どれほどの事をすれば、一日と経たずにこれほどの化け物へと変貌するのかは分からない。だがその果てが、彼女にどれほどの深刻な影響を及ぼしているかは容易に想像が付く。

実際、眼前のオーバースマッシュはファングを倒すことのみに執心し、味方への被害も厭わずに滅茶苦茶に弾薬を放ち、触手を放ち、エネルギー砲を放ってくる。周辺のDEM施設は、その余波でどれほど爆発したか分からない。

 

「く、このままでは……!」

 

こreデ、終ワRIヨォッ!!

 

オーバースマッシュが再び狂ったように笑うと、ミサイルハッチから赤黒いミサイルが無数に放たれた。

ファングは急いで旋回姿勢を取るも、どこまでも追跡してくるミサイルはただ距離を取っただけでは意味が無い。かといって、迎撃の為に姿勢を戻そうにも、オーバースマッシュは壊れ切った正気の癖にこちらの動きを逐一細かく認識しているため、少しでも隙を見せようものならすぐさま向こうからも追撃が来るだろう。

 

「_______オッラァァッ!!」

 

と、そこでファングとミサイルの間を、一条の光が突き抜ける。

次の瞬間、先頭のミサイルがその光によって爆発、空中で更に誘爆を引き起こし、ファングを追っていたミサイル全機が爆発した。

 

さらにその隙を縫うようにして、地上から金色の影が飛び上がってくる。

グリスだ。オーバースマッシュが召喚したリキッドスマッシュ・スカーレットはその全てが液体に帰され、周囲には激しい戦闘が会ったことを示す煙や破壊の痕が残っていた。

 

「俺を無視して、楽しんでんじゃねェぞコラァァァッ!!」

 

可動した肩部から勢いよくヴァリアブルゼリーを噴出させ、スラスターのように上空へと舞う。長時間の滞空はできないが、それでも彼女らの戦闘域に一瞬でも入り込むには充分だ。

 

ツインブゥレイクゥッ!!

 

ツインブレイカーに装填したゴリラ、ユニコーンのボトルのエネルギーがパイルの先端に集約し、大鎚の如き質量を持ったドリルが顕現した。全身を捻って勢いを付け、オーバースマッシュ目掛けてエネルギードリルを高速回転させる。

 

「その図体じゃあ、接近戦は無理だろッ!!」

 

舐ぁァmeルなァッ!!

 

しかしグリスが一撃を放つより先に、オーバースマッシュがグリスの腹部を貫かんと、高速で触手を突き出してくる。今攻撃態勢を取っているグリスには、まともにそれを食らうほか道はなかった。

 

だが、そこでやられる程グリスは容易くない。

 

「見えてんだよッ!!」

 

 

ディスチャァージボォトルゥッ!潰れなーいィッ!ディスチャァージクラッシュゥッ!!

 

 

なaッ!?

 

オーバースマッシュから放たれた触手は、グリスの腹部に突如出現した結晶体に阻まれ、弾かれることとなった。

彼が使ったのは、ダイヤモンドフルボトル。全ボトルで最高の硬度を誇るその能力は、スクラッシュドライバーで使えば最強の盾を生み出すボトルとなる。オーバースマッシュの攻撃でも、必殺技でもないなら防ぐのは容易い事だ。

 

Oノォぉれeぇェッ!!

 

「食らいやがれッ!!」

 

そして反撃が失敗したオーバースマッシュに、グリスの一撃が叩き込まれる。

ゴリラの超パワーと、ユニコーンの貫通力が合わさったツインブレイカーの一撃は、オーバースマッシュの肉体に大きく突き刺さり、飛び散った肉塊が粘液と化してあちこちに張り付く。

やがて攻撃の威力によって、オーバースマッシュは地面へと叩き落されるのだった。

 

 

 

 

クローズと耶倶矢対、ナスティシーカーの戦いは、クローズ側が攻勢に出て始まった。

蒼炎を纏った拳を突き出し、シーカーのガスマスクを象ったようなフェイス目掛けてパンチを繰り出す。

 

「うぉらぁッ!!」

 

……甘いね

 

が、クローズの繰り出した拳は空を切り、先程までシーカーが立っていた場所には、蜂の群体の幻影が残るのみだった。ブブブ、と不気味な羽音を立てて、霧のように霧散していく。

 

「何……ッ!?」

 

鬼さん、こちらだよ

 

「な……っ!?ぐぁっ………!」

 

背後から声が聞こえたかと思うと、そこには眼前に居たはずのシーカーが、ブレードを構えて立っていた。

クローズがすかさず体勢を変えようとするも、ブレードによって右腕が斬り付けられる。その細身な腕に似合わぬ力で放たれた斬撃は、クローズから距離を離す程の威力を持っていた。

 

「ふん、後ろが留守であるぞ!」

 

その隙を突くように、耶倶矢が顕現させた颶風騎士・穿つ者(ラファエル・エル・レエム)を構え、突風とともに飛び上がって突貫する。精霊の霊力の風と共に放たれた一点集中の一撃は、仮面ライダーの一必殺技にも匹敵しうる程の力を秘めている。まともに当たれば、やられるのは必至。そしてクローズに意識が向いている今ならば、シーカーとて対応しきれない。その筈だった。

が。

 

精霊【ベルセルク】。君たちへの警戒だって、怠っちゃいないさ

 

【FULL BOTTLE……CYCLONE……EFFECT SLASH】

 

 

「なっ………!?」

 

スチームガンと合体させたブレードにボトルを装填しトリガーを引くと、羽先から竜巻のような風が引き起こり、耶倶矢の一撃を遠ざけ、さらに斬撃によるダメージを食らわせた。

 

「耶倶矢ッ!!」

 

「馬鹿な……我の風を、上回るだと………!?」

 

いくら精霊とは言え。封印されて力も弱まり、片割れである八舞夕弦もいない、今の君一人の攻撃を御する事など、訳ないさ。それに……

 

シーカーはブレードガンを掲げると、それをじっくりと舐め回すよう見る。

 

君達との戦いに備えて、私の方も色々と()()をしていたからねぇ。来ると分かっているなら、幾らでも対処のしようはあるという訳さ

 

「へっ……それが、どうした……うぉらぁぁッ!!」

 

ビートクローザーを構えクローズが立ち向かい、再びシーカーへの攻撃を再開する。

しかし、クローズの攻撃はことごとく躱され、先と同じく蜂の幻影目掛けて虚しく剣先が空を切るのみだった。

 

万丈龍我、もとい仮面ライダークローズ。君の攻撃は直線的で分かりやすい。更に、先ほどの戦闘による疲労も回復し切っていないだろう?剣先がぶれぶれだ。そんな攻撃を避ける事など、子供の投げたボールを避けるよりも簡単さ

 

「くそっ、舐めやがって……っ!」

 

ハハッ、君からそんな三下腰巾着のようなセリフが聞けるとは思わなかったよ

 

そして、最後に打ち込まれた剣撃を、シーカーはブレードで受け止める。

渾身の力で放たれるクローズの斬撃を、シーカーはまるで児戯のように軽々と弾き避ける。今までの戦いからは想像も付かない、圧倒的にシーカーが優位な戦いだった。

 

「これで……終わりだぁッ!!」

 

【ヒッパレーッ!SMASH HIT!!】

 

ビートクローザーのグリップエンドを弾き、必殺技を発動する。

蒼炎を纏った刃がシーカーの眼前まで迫るが、しかしシーカーは変わらずクローズの一撃を易々と止めてみせた。

 

「なっ………!?」

 

やれやれ、いい加減飽きて来たよ………ふん!

 

「くっ………!」

 

シーカーが受け止めたブレードを振るい、クローズと距離を空ける。

ゆらゆらとスチームガンを持ち上げたシーカーが、ビーオルタナティブボトルを装填する。銃口に黄色いエネルギーが収束し、蜂のような奇妙な羽音が鳴り響く。

 

そろそろ終わりにしようか………!

 

「な________」

 

 

【ALTERNATIVE BREAK……BEE……!!】

 

 

シーカーの指が動き、引き金が引かれる。

瞬間、クローズ達の視界は閃光に染まった。

 

 

 

 

『撃て!容赦するな!』

 

「邪魔なんだよッ!!」

 

アライブ達が階段を上がり続けてしばらく経った頃。眼前に近接火器で武装したトルーパー隊が待ち構えていた。もう美九を引き連れていた事は伝わっていたのだろう。以前よりも武装は強化されていた。

トルーパーから放たれた弾丸をアライブは手にしたアライブラスターと灼爛殲鬼(カマエル)で薙ぎ払い、被弾も厭わず前へと進んでいく。

 

「うぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

『な、なんだこいつ、無茶苦茶だっ!?』

 

『ひ、怯むな!総員で囲んで………う、うわぁぁッ!?』

 

ブラスターと灼爛殲鬼(カマエル)の二刀流による回転斬りで、囲んでいたトルーパー達を一掃していく。

 

「ぐぅ____っ」

 

無論、デメリットが無いわけではない。先程から灼爛殲鬼(カマエル)を持っていた方の手を起点に、じわじわと痛みが全身の内側を回っているのだ。

そしてその痛みを、アライブの内に眠る琴里の回復能力が癒していく。全身を痛みが伝わる度に、地獄のような高熱と共に癒されていく。さながら天国と地獄のようなループに、何度も意識が飛びそうになりながら堪えていく。

 

だが、ここで足を止める訳にいかない。ブラスターを支えにもう一度立ち上がると、再び歩みを再開させた。

そんなアライブの様子を見てか、美九が忌々しげにフンと鼻を鳴らす。

 

「……無様ですねー。なんでそうまでして頑張るんです?」

 

「言っただろ……俺は、十香を助けなきゃならない。十香がどんな目に遭ってるか分かんねえんだ。………俺が、こんな所で立ち止まって、モタついてなんかいられるかよ」

 

アライブはそう言って、赤いスーツに包まれた拳を握りしめた。

その様子に、美九がぴくりとわざとらしく嫌悪感に溢れる表情を作ってくる。

 

「あーあーあー。お寒いですねぇ。何ですかそれー。悲劇のヒロインを助ける自分に酔ってるんですかぁ?そんなコスプレまでして、もう正義の味方に憧れる歳でもないでしょうにぃ」

 

嘲るように肩をすくめ、美九が続ける。

 

「あっはは、もしかしてあれですかー?自分の命より十香さんが大切とか言っちゃった手前、引っ込みが付かなくなってるんですかー?いいですよー別に。人間の醜さはよぉく知っていますから、今更失望なんてしません」

 

「…………」

 

だがアライブは反応を示さず、ただ黙々と廊下を歩いて行った。

 

「ちょっと!何無視してるんですかぁ!」

 

美九はそれが気に入らなかったのか、声を荒げてアライブを追い越し____そして、何かを思いついたようにポンと手を叩いた。

 

「_____ああ、そうだ。じゃあこうしましょう。今ここで、十香さんの事は諦めるって言ってくださいよぉ。そうしたら、私の『声』で、あなたの好きな女の子をいくらでもあなたの奴隷にしてあげます。どうですー?悪い話じゃあないでしょう?」

 

美九のその言葉に、アライブは心の奥底から激しい激情が昇るのを感じた。

胸の内に、ドス黒い不快感が広がっていく。今美九の機嫌を損ねるのは得策ではない。_____そんな事は分かっているが、今の発言だけは、どうあっても許せるはずがなかった。

 

「………ふざけんじゃねぇッ!!十香に、代わりなんているもんかよッ!!」

 

「………ッ」

 

抜き身の刀のような鋭い剣幕に、美九な小さく肩を震わせた後、いきり立つように語気を強めてきた。

 

「ふ、ふんッ、いつまでも見栄張ってんじゃないですよ!どうせあなた達の『好き』とか『大切』だなんて、たかが知れてる程度のものでしょう?代わりを用意してあげるって言ってるんですから、それでいいじゃないですか!何でそこまでするんですか……ッ!!」

 

強制をするような調子で美九が言ってくる。アライブを惑わそうとするだけと言うには、それはあまりにも余裕のない口調だった。

アライブは一度変身を解除すると、美九の方を真っ直ぐと見据えて口を開いた。

 

「………確かに俺は、正義の味方って名乗れるほど立派な奴じゃない。目の前にある物を守るので精一杯な、半人前もいいところだ」

 

そう。自分など、戦兎や万丈、そして一海達に比べたら、全然大した事はない。今はまだ、背中を追いかけるのが精一杯だ。手の届く物を守るだけで、他の助けを求める多くの人を、救うなんてできやしない。

 

だが、それでも。

 

「それでも俺は_____十香を助ける。十香の笑顔を、救う為にな。正義の味方になれなくても、目の前にある笑顔を守れるように」

 

「……笑顔?ハッ、何ですかそれ。そんな安っぽい物のために、無様に地べたを這いつくばってまで助けに行くっていうんですかぁ?それは十香さんが精霊だからですかぁ?安っぽい『大切』っていう建前のせいですかぁ?」

 

「……人間だ精霊だなんて、そんなの関係無い。ただ誰かの苦しむ顔が見たくない、笑顔が見たいと、そう思ったからだッ!!」

 

力強く、自分にも言い聞かせるように、叫ぶ。その言葉に、美九は一層顔を歪めた。

そして更に、言葉を続ける。

 

「……その笑顔を守るためだったら、俺は喜んで地べたを這いつくばってやる。どんなに無様に倒れたって、また何度でも立ち上がってやるよ。それが俺の………仮面ライダーとしての覚悟だ」

 

どこまでも真っ直ぐに、美九を見据えてそう言い紡いだ。

掛け値無しの士道の本心を聞いた美九は、まるで理解が出来ない、いや。理解する事を拒んでいるかの様に、再び語気を強めて言葉を放った。

 

「何が……何が仮面ライダーですか!何が覚悟ですか!馬鹿じゃないですか!?どうせそんな言葉、安っぽい感情を隠す為の嘘に決まってます!人間が、そんな風に生きられるはずが無いんです!」

 

「美九、お前は勘違いしてる。人間は、そんな奴らばっかりじゃ_____」

 

「う・る・さぁぁぁぁいっ!人間なんて私のおもちゃたんです!男は奴隷!女の子は可愛いお人形!人間に、それ以上の価値なんてありません!」

 

美九が断ずるように叫ぶ。まるでそうでもしなければ、自分自身が否定されてしまうとでも思っているかのようだった。

 

「美九、お前………」

 

士道は眉をひそめた。狂三の影の中で聞きそびれた言葉が、頭を掠める。

 

「なんで____なんでお前はそんな風に男を嫌うんだ!なんで女の子を物のように扱うんだよ!なんで人間を、そんな風に見てしまうんだ!」

 

「はッ、そんなの決まっているでしょう?人間なんてその程度の______」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

美九の言葉を遮るように言い放つ。

美九が、言葉を切って息を詰まらせた。

 

「______ッ!?」

 

美九が驚愕に見開いた目を士道に向けてくる。士道はその目を見据えながら続けた。

 

「もともと人間だったお前に、【ファントム】____ノイズのような姿をした何かが、精霊の力を与えた。……違うか!?」

 

「…………!」

 

美九が肩をビクッと震わせる。が、否定はしなかった。

狂三が、ここに至るまでの道中で、士道達に話してくれた事が、それだった。

 

美九の家で発見した____別名義のCDと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から読み取った情報。

 

美九が、琴里と同じように、何者かによって精霊にされた人間である事。

 

そして、かつて別の名前でアイドルとして活動していたことがあるという、過去。

 

「……あなた、どうしてそれを」

 

たった今美九が鋭い視線で睨み付けたことが、何よりの証拠だった。

 

「知り合いに情報通がいてな」

 

とは言え、士道とて全てを知っている訳ではない。あれらの物品から狂三が読み取れたのは断片的な情報が多く、未だ分からない事は山ほどあったのだ。

もし、美九が元々人間であったというのであれば。

 

何故、同じ人間をモノとしてしか扱うことができないのだろう。

 

男嫌いなだけでなく、女の子に対してすら、まるでアンティークドールを愛玩するような接し方しかしない。人間を自分と同じ生き物として扱おうとしない、途方も無い違和感があったのである。

 

当初士道は、それを生まれ持った『声』の力によって、歪んだ価値観が形成されたからだと思った。

だが美九が人間だったとするならば、十数年もの間に人間社会で培った価値観が、どうしてこうも歪んだものとなるのかが分からないのだ。

 

一体どれほどの事を経験すれば、あそこまで人間に無機質的な感情を持てるのだろうか。

 

「同じ、人間じゃないか。だったらもっと______」

 

士道が言いかけると、美九はギロリと鋭い視線を送り、憎々しげに叫ぶ。

 

「ふざけないでください……、あなたに、あなたに一体何がわかるって言うんですか!」

 

「……分からないから、知ろうとするんじゃないか!」

 

「っ………!」

 

士道のその言葉に、美九が口をつぐむ。士道は再び、ゆっくりと口を開いた。

 

「美九……お前に、過去に一体何があったんだ」

 

「……ふんっ、なんで私がそんな事」

 

「美九」

 

士道が詰め寄るように言うと、美九は面倒そうに吐息した。

 

「しつこいですねー。ふん………」

 

 

言って______美九は。精霊の歌姫は。ぽつぽつと、吐き捨てるように語り始めた。

 

 

 




どうでしたか?
結局今回も時間空けてしまってすいません。毎回後書きで謝罪しててすいません。

美九編長ぇ…………長ぇよぉ………。

なんとか原作読んでると美九の暴言シーン書くのがしんどくって……でもこの先があると信じて、これからも頑張ります!

あとリライズ神すぎる。みんなも見て、どうぞ。

それでは次回、『第74話 歌姫のバイゴーン』、お楽しみに!

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第74話 歌姫のバイゴーン

士道「仮面ライダーアライブこと五河士道は、止む無く万丈と耶倶矢を残し、美九と共に先に進む事となる!そして外では未だ、真那と一海さんが戦っていた。それぞれの戦場で、自らの意思を掛けて戦いが始まる中、士道は美九との対話を試みる。そしてついに、謎に包まれた美九の過去が明らかとなるのだった………!」

一海「今回は過去編か。まー過去編は漫画とかでよくあるテコ入れの常套手段だからなぁ」

真那「これ小説でいやがりますけどね。ていうかどうしました急に」

一海「いやだってよ、よくあるじゃねえか。素性も知れねえ、読者からの人気もイマイチなキャラが、過去編をやった途端人気が上がるって現象」

士道「あ〜……」

真那「確かに…………」

美九「ちょっと待ってくださぁい!それって遠回しに、私の読者人気はいまいちって言ってるんですかぁっ!?」

士道「うお美九!?」

一海「少なくとも本編での俺からの人気はイマイチだな。つーかこの過去編自体原作からの流用だし。書いたら書いたで原作とほぼ同じだし、書かなかったら書かなかったで新規読者がついていけなくなるし。要約めんどくせえし」

士道「おい最後筆者の本音出てるぞ。……ごほん。まーというわけで、第74話、どうぞ!」

美九「ちょっとぉ!説明してください!私って、ちゃんと人気ありますよねぇっ!?」



_____少女には、歌しか無かった。

 

勉強も運動も人より劣り、美術にも聡い訳ではない。小学校、中学校でも、彼女は劣等生のままだった。

 

そんな少女にも唯一つ、誇れるものがあった。歌だ。

 

きっかけは、幼稚園で先生に褒められた事だった。それは幼い少女にとって、何物にも勝る、自分一人だけの勲章に思えた。

 

そんな少女はやがて、テレビの向こうのアイドルに憧れた。煌びやかなステージの上で、可愛らしい歌声を響かせながら、皆に笑顔を浮かべる彼女らの姿に、少女は心奪われたのだ。

 

そして、少女が十五歳になった頃。アイドルのオーディションで審査員の目に留まり、晴れて少女____『誘宵美九』は、『宵待月乃』として、憧れていた存在、アイドルとしてデビューすることとなったのだ。

 

デビューしてからは仕事も軌道に乗り、CDも徐々にチャートに入るようになっていき、最初の頃は数える程しか客のいなかったライブも、続々と人が増え始めて来た。

 

客層は男性客が九割と言ったところ。今では考えられないが、当時の少女にとって、それは皆大事なファンだった。

 

CDやラジオも数多く収録したが、やはり少女は、自分の歌声がファンの皆に届いているという実感が一番湧く、ライブという舞台が楽しくて、大好きだった。

 

みんなが少女の歌を褒めてくれて。

 

少女の事を大好きと言ってくれて。

 

胸についた、目には見えない勲章が一際輝いて。

 

皆の喜ぶ顔を見ると、どんなに辛くても笑顔になる。

 

そんな、夢のような時間が、永遠に続くと信じて止まなかった。

 

 

_______だが。終焉はあっさりと、そして残酷なまでに、訪れた。

 

少女がデビューし、それなりに人気も出始めて一年ほど。事務所のマネージャーから、ある話を聞かされた。

 

某局のプロデューサーが、少女の事を気に入ってくれている、という話だった。()()()()()()なれば、ゴールデンのレギュラーが取れる、という話も。

明確な指示は無かったが、つまりは()()()()()だろう。

 

無論、そんな話を受けるつもりなど毛頭なく、丁重に断った。

 

自分がアイドルになったのは、テレビに出て知名度を上げたり、ちやほやされるためではない。自分の歌と笑顔を、皆に届けたい為だ。

 

そういう風に通して、その話は終わった、筈だった。

 

 

それから、しばらくの事。

 

少女の身に覚えの無いスキャンダルが、写真週刊誌に掲載された。

その内容は、少女の想像を絶するものだった。その余りのショックに雑誌を放り投げ、全身の震えが止まらなかった程である。

 

そこには………捏造されたと思しき、少女が見知らぬ男性とホテルの側を歩く写真や、過去の男性関係、堕胎経験。ドラックパーティに入り浸っているという内容まで、身に覚えの無い捏造記事がでっち上げられていた。

後からわかった事だが、どうやら先のプロデューサーが、このスキャンダルに一枚噛んでいたようだった。美九の事務所の社長とも懇意だったらしく_____美九は、あっさりと事務所での居場所を無くしていった。

 

だが、少女にとって一番堪えたのは、ファンの………否、今までファンと思っていた人達の、掌を返したような辛辣な態度だった。

少女の言葉より、どこの誰が言ったかもわからない噂話を信じられた事が、辛かった。

 

「(ねえ、前の彼氏とは何回ヤッたの?)」

 

「(堕胎って赤ちゃん殺すことでしょ?人殺しが何やってんの?)」

 

ブログにそんなコメントが書き込まれ、随分と客の減った握手会やサイン会で心無い言葉をかけられる度に。

少女の心と笑顔は、日に日に磨耗していった。

 

 

それでも、少女は諦めなかった。

 

自分には歌がある。どんな噂話に流された人も、自分の歌を聴けば分かるはずだ。

 

自分の歌には、力がある。

 

そんな根拠のない自信が、心の何処かに確固として残っていた。

 

 

そうして少女は、再びステージに立った。

 

だが、駄目だった。

会場にひしめく人々が、自分とは別の、何か恐ろしく、悍ましい何かに見えて来て、緊張とは別の動悸が、全身を支配していった。

しかし、歌わねばならない。曲が始まり、マイクに口を近づけ、喉を震わせた。

だが。

 

(………!…………!)

 

_____少女の喉からは、ひゅうひゅうと空気が発されるだけだった。

 

 

心因性の、失声症だった。過度のストレスが、少女から声を、歌を奪ったのだ。

こうして。歌しか持っていなかった少女の人生は、いとも容易く終わりを迎えた。

歌しかない少女が、声を失った時。それはもう、その少女の終わりを意味しているのだ。

 

だから、そんな少女が自殺を考えるのは、当然の帰結だった。

方法は何でも良い。首吊り自殺や、覆水自殺。睡眠薬の過剰服用。電車の前に飛び出したり、剃刀を手に当てて引くだけでも構わない。たったそれだけの事で、簡単に命は捨てられる。

 

でも少女が、それを実行に移そうとした時。

 

少女_____美九の前に、『神様』が現れた。

 

 

(_____人間に失望した君。世界に絶望した君。ねぇ、力が欲しくは無い?世界を変えられるくらいの、大きな力が欲しくはなぁい?)

 

 

 

 

「私は_____失ったんですよ。一度。醜い男共のせいで_____声を………命よりも大事な、この声を…………ッ!」

 

感情を吐露するように独白し、美九が今にも泣き出してしまいそうな顔で言う。

 

「何度も死のうと思いました。でも、そこに……『神様』が現れて、今のこの『声』をくれたんですよ!一度歌えば人を虜にする、この最高の『声』を!」

 

恐らくその『神様』というのは、琴里に霊力を与えた正体不明の精霊【ファントム】だろう。

 

「……そう、だったのか」

 

『………キュルゥ…………』

 

士道は、人を人として扱おうとしない美九に、途方も無い違和感を覚えていた。

価値観や死生観が、人のそれとかけ離れ過ぎていると感じていた。それに憤りを覚える程に。そして美九の家で写真とCDを見つけた時、その違和感はさらに膨れ上がっていった。

 

だが、それは違った。

 

無論、美九の人間に対する接し方を肯定するつもりなど毛頭ない。霊力の『声』で無理矢理従わせ、女王気取りでいる美九のやり方を認めることは出来ない。

しかし、違う。美九は人間を自分より劣るモノとしか思っていないのではなく______

 

対等の関係として接するのが、たまらなく恐ろしいのだ。

 

信じたならば、きっと裏切られる。

 

託したならば、きっと見限られる。

 

頼ったならば、きっと騙される。

 

ならばいっそ………最初から、信じない方がいい。

 

人間と自分の間には距離を置き。

 

人間と自分は別種の存在だと認識し。

 

人間に自分の如何なるものをも託さない。

 

人間への失望が生み出した、自らの自覚なき防衛策。

美九が自分のものにならなかった腹いせにスキャンダルを捏造したプロデューサーと、それに踊らせれ心を傷つけたファン達。そんな身勝手な男達を侮蔑し拒絶し。

 

女性にも心を開かず、自分を裏切ることの無い可愛い人形としてしか接することができなくなってしまったのだ。

 

「だから、私は男が大っ嫌いなんですよ!下劣で、汚くて、醜くて_______見ているだけで吐き気がして来ます!」

 

美九が、吐き捨てるように言う。

 

「女の子だってそうです!私の言うことだけを聞く、可愛い子がいればあとは何もいりません!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()他の人間なんて、みんなみんな死んじゃえばいいんです!」

 

「………ッ!」

 

美九の叫びに、士道は固く拳を握りこんだ。

確かに美九の苦悩は分かる。いや、分かったつもりでも、その絶望は士道には完全に理解し切れないだろう。自分の命より大事な声を失った事が、どれ程の苦痛だったか。

 

だが_____

 

「それは違う!お前の境遇は気の毒だと思うし、お前を傷つけた奴らには向っ腹が立つ!手のひらを返したファンだって胸糞悪いさ!けどな、だからって他の人間まで嫌うことはねえだろ!」

 

「何を………!黙ってください!男なんてみんな同じなんです!」

 

「いいや違うね!本当に、お前の歌を聴いてくれる人は一人もいなかったのか!?スキャンダルに踊らされずに、お前の歌を信じて楽しみにしてた人だっていた筈だ!」

 

『キュルッ!』

 

「そ、そんな人____!」

 

と、その瞬間、廊下の前方から幾人もの足音が響いて来た。すぐに、小銃を構えた魔術師(ウィザード)やトルーパー達が、幾人も姿を現す。

 

「いたぞ!侵入者だ!」

 

『確実に仕留めるんだ!』

 

「もう来やがった………ガルーダ!」

 

『キュルッキュイーッ!』

 

士道が呼ぶと、ガルーダが士道の手元に収まり変形する。ボトルを装填し、ドライバーへとセットした。

 

「変身ッ!」

 

 

【Dead Or ALIVE-SPIRIT!!イェーイッ!!】

 

 

【ALIVE LASTER!】

 

 

変身すると、リビルドライバーから生成したアライブラスターを構える。どうやら琴里の炎は、先の問答の間に随分とアライブの肉体を回復してくれたようだ。変身して肉体もある程度保護された今なら、十二分に戦えるだろう。

 

だが、アライブは敵を目の前にしてなお、美九に一瞬視線をやった。

 

今は敵を倒さなければならない。だが、美九が自分の過去をここまで話してくれたのはこれが初めてだ。この機を逃しては、また振り出しに戻る。根拠は無いが、そう確信できた。

敵が一斉にレーザーや弾丸を放ってくる。が、それらは美九の声の壁と、アライブラスターから放たれた炎弾により弾かれた。

 

 

【SLASH VERSION!】

 

 

その隙を狙い、即座にモードチェンジしたアライブラスターを一閃させながら、アライブは叫びを上げた。

 

「美九!お前は自分の中で恐ろしい人間の幻想を作り上げちまってる!その声でみんな言う事を聞いてくれるから、それが膨れ上がって余計、本当の人間と話すのが怖くなってるんだ!!」

 

「はぁっ!?怖い………!?言うに事欠いて、私が人間を恐れてるっていうんですか!?ていうか今は戦闘中でしょう!何を余計な____ァァァァァァッ!」

 

美九の言葉の途中でまたも魔術師(ウィザード)達の放った弾丸が迫って来た。美九はアライブに向けていた声を張り上げると、再び声の壁を作りそれを防ぐ。

 

「んなの知るかよ!何度だって言ってやる!お前はずっと、自分を肯定しかしない人間に囲まれて来たから、生の人間と会話すんのが怖いんだよ!でも、それだけ人間を拒絶しながら、心のどっかで、ちゃんと話をしたいって思ってたはずだ!」

 

「何を適当な……!あなたなんかに何が分かるっていうんですか!」

 

 

【オシコーメッ!ONE SLASH!!】

 

 

美九が声を張り上げ、アライブが朱炎の斬撃を放つ。

二人は大声で言い合いながら、時折出てくる魔術師(ウィザード)やトルーパー隊を蹴散らし、廊下を進んでいった。

 

「わかるさ!だからこそお前は、自分の声じゃ操れない人間_____『五河士織』を欲したんだろッ!?」

 

「………ッ!」

 

美九が息を詰まらせ、表情を歪める。

そう。美九はこれまで自分の言う事を聞く人間、自分の事を好きな人間しかいらないと言っておきながら、自らを否定した士織に対して異常に執着していたのである。

 

「そ、そんなこと_____」

 

「それにお前は、そのご自慢の『声』を手に入れて再デビューした時、『宵待月乃』でも新しい芸名でもない、他でもない『誘宵美九』って本名を名乗ったんだろう!?お前は知って欲しかったんじゃないのか!?自分はここにいると、認めてもらいたかったんじゃないのか!?他でもない人間にっ!!そうだろう!誘宵美九ッ!!」

 

美九はうぐぐ………と顔を赤く染めると、廊下を前進しながらヒステリックな声を上げた。

 

「う・る・さぁぁぁぁぁぁぁいッ!黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!知った風な口を利いてぇ!バカー!アホー!間抜けぇぇぇっ!」

最早罵倒と言うよりかはただの悪口になっていたが、その声には濃密な霊力が乗せられていたらしい。前方に顔を出していた魔術師(ウィザード)やトルーパー達が、後方へと吹き飛ばされていく。

 

「おまっ、図星突かれたからってそりゃねえだろっ!あと誰がバカだっ!?バカって呼ばれんのは、万丈だけで充分だっつーの!!」

 

「図星なんて突かれてないですもん!違いますもん!あなたがバカなだけですし!バーカ!バーカ!!バーカ!!!」

 

「んだとこの我儘女!!やっぱお前に四糸乃や耶倶矢を任せてなんかおけねえ!こうなったら意地でも霊力封印して、絶対二人を戦兎と万丈の元に連れ戻してやるからなこの野郎……ッ!」

 

アライブは叫ぶように言うと、美九がビクッと肩を震わせた。

 

「そんな事……させないんですからっ!この『声』を封印されたら、私は、また______」

 

美九が歯を噛みしめるように言いながら、言葉を継いでくる。

 

「あなたは、またなれっていうんですか!?歌のない私に……無価値な私に……ッ!」

 

「そんな事______言ってねえだろ!!」

 

叫び、アライブラスターを振り抜く。炎の斬撃が飛び、トルーパー達を随意領域(テリトリー)ごと吹き飛ばしていった。

 

「俺は人をいいように惑わす力なんて篭ってねえ、お前の本当の歌声と、本当の笑顔が見たいだけだ!!」

 

それは、本心だった。美九の家で聴いた、人間だった頃の美九の歌声。それは本当にひたむきで、今の美九にない魅力に溢れていたのである。

そしてジャケットに写っていた、彼女の笑顔。それは、今の美九のような偽りの笑顔では無い。本当に心から歌を愛していると、写真からでも伝わるような、気持ちのいい笑顔だった。

 

しかし美九は、忌々しげに顔を歪める。

 

「知った風な口を利かないでください……!この声があれば、私は最高のアイドルでいられるんです!この声を失った私の歌なんて、一体誰が聞いてくれるっていうんですかぁッ!!」

 

「俺がいるッ!!」

 

アライブが叫ぶと、美九は呆然として、全身を微かに震わせた。

 

「何を……適当なことを!私の歌なんて、聴いたこともない癖に!」

 

「聴いたさ!一曲だけだけどな!ひたむきで、一生懸命で、一途で、すっげえカッコよかったッ!今の歌よりよっぽど好きだね!誰も歌を聞いてくれない……?寝惚けた事言ってんじゃねえよ。今ここに、どんな事があろうと、例えお前が誰も信じられなくても、お前を信じて離れないファンが、ここに一人いる!」

 

「………っ!!」

 

美九は、今にも泣き出しそうな顔になり___しかしすぐに思い直すように首をブンブンと振った。

 

「そんな……そんな言葉____信じないんですからぁっ!そう言ったファンは、みんな私を信じてくれなかった!私が辛い時……誰も手を差し伸べてくれなかった!」

 

「俺はそうは思わない!お前を信じて待っていたファンは、必ずいるはずだ!でも、もし仮に_____何万分の一の確率で、もし本当にそうだとしたら!その時は俺が、必ずその手を掴んでみせるッ!お前の笑顔を、取り戻して見せるッ!!」

 

「都合のいいことを………!じゃあなんですか、私がもし十香さんと同じようにピンチになったら、あなた、命を懸けて助けてくれるとでもいうんですかぁ!?」

 

「当然だろうがッ!!」

 

「…………!」

 

一瞬の躊躇いもなく、アライブはそう言い切る。

その返答に、美九が一瞬足を止めた。だがすぐに不愉快そうに顔を歪め、アライブの後を追ってくる。

 

「信じませんッ!どうせ嘘です………!嘘に決まってます!」

 

「お前な______」

 

「大体ですね、なんで私があなたに助けられなきゃならないんですかぁ!身の程を弁えてくださいよねぇ!」

 

「いやお前から振った話だろうが!」

 

「ふーん!そんなの知りませんよーだ!」

 

美九がつーんと顔を背ける。アライブはマスクの下で、頰をピクつかせた。

 

「この………っ!」

 

だがそこで、アライブは今いる階層が、今までと異なっている事に気が付いた。

頑丈そうな壁が連なり、辺りには窓一つない。まるで______何かの隔離施設のように。

 

「もしかして……ここが?」

 

眉をひそめ、前方を見やる。

長く連なる隔壁の一部。そこには、頑丈そうな扉が設えられていた。

 

 

 

「くっ、しぶてーですね……!」

 

マaaぁぁぁぁァァァァアNaァァァァァァァァァ_____ッ!!

 

外部で戦っていたファング達の状況は、芳しくなかった。

グリスの攻撃で一度は地に伏したオーバースマッシュだったが、あの程度でやられる訳もない。その後息つく暇もなく復活し、ファングに執心して狙い続けて来ているのだ。

 

「避けろガキっ娘ォッ!」

 

「ッ!」

 

すると、突然後方からグリスの声が響き、反射的に横へ逸れる。

グリスはヘリコプターボトルの力で空中に上がり、ツインブレイカーを構えていた。

 

「こいつを喰らいやがれ!!」

 

 

ツインフィィニッシュゥッ!!

 

 

ツインブレイカーの銃口から、ダイヤモンドライオンのエネルギーが放たれる。ダイヤモンドの弾丸にライオンボトルの熱いオーラを纏い、凄まじい勢いでオーバースマッシュへと向かっていった。

 

邪mAナのヨぉぉぉぉォォォオッ!!

 

対するオーバースマッシュは、ミサイルコンテナから赤黒いミサイルを発射し迎撃する。ツインブレイカーから放たれたダイヤモンドの炎弾が、一つ残らずミサイルとぶつかり誘爆していく。さらにその中のミサイルが礫を切り抜け、グリスに直撃する。

 

「のわぁぁぁぁッ!?」

 

ヘリコプターボトルにより作られたプロペラが落とされ、黒煙と共にグリスが地上へと落下していく。

だがグリスはファングの方を見ると、マスクの下でニヤリと笑って叫んだ。

 

「____今だぁッ!ガキっ娘ォッ!!」

 

「だーからぁ!ガキっ娘じゃなくて、崇宮真那でいやがります!!」

 

 

【エッジ・ファング!】

 

 

呼称に抗議しながらも、ファングクラッシャーの下部からブレードを展開し、背面のスラスターを噴かしてオーバースマッシュへと迫る。魔力により高周波を伴った鋭い一太刀が、オーバースマッシュを斬り裂かんとした、その時。

ファングの背筋を、まるで冷たい指でなぞられるかの様な感覚が襲った。

 

「______!?」

 

一瞬、オーバースマッシュの触手により背後を取られたのかとも思った。だが。違う。

これは広範囲に随意領域(テリトリー)を張った魔術師(ウィザード)同士が近接した際、互いの随意領域(テリトリー)が侵食し合う時の反応だ。

 

「く………!」

 

それを認識すると同時に、ファングは慌てて身を翻し、回避行動を取った。

次の瞬間、ファングの身体があった空間を、黒いドラゴンのようなエネルギー体が通り抜けていく。

 

『_____おや、避けましたか。いい反応です』

 

言って、いつの間にかファングの背後に隠れていた人影が、悠然と顎を上げながら言ってくる。

龍を模したマスクに、全身の黒光りしている装甲。そしてその黒い装甲とは相反するような、白金のCR-ユニットを身に纏っている。

 

ファングは息を詰まらせた。______DEMが誇る最強の魔術師(ウィザード)にして、最悪の仮面ライダー。エレン・M・メイザースこと、仮面ライダーマイティが、そこにいたのである。

 

「エレン…………ッ!」

 

『襲撃者達の中に、見覚えの無いネズミが一匹紛れ込んでいると聞きましたが……成る程。その戦い方に口遣い。貴方でしたか。崇宮真那』

 

言って、マイティがファングを見下ろすように視線を送る。

 

『残念です。あなたの事はDEMの中でも、私に次ぐ実力者と認めていたのですけれど。確か我が社のライダーシステムに真っ先に適合したも、あなたでしたね』

 

「は…………ッ、冗談じゃねーです。人の身体を好き勝手に弄っといて」

 

ファングが吐き捨てるように言うと、マイティはピクリと反応を示した。

 

「……なるほど。そこまで知ってしまいましたか。どうやら、ラタトスクに拾われたというのは本当のようですね」

 

「ふん、驚かねーところを見ると、あんたも共犯らしいですね。理想的なシナリオとしては、真実を知ったあなたが改心して一緒に社長をぶっ倒してくれる事だったんですが」

 

「残念ですが、私がアイクを裏切ることはあり得ません」

 

「……でしょうねぇ」

 

ファングは忌々しげに呟きながら眉を歪めた。_____正直、相手にしたくない女が現れた。アデプタス・ナンバーの頂点にして、自他共に認める世界最強の魔術師(ウィザード)。そして、少なくともDEMの中では、最強の仮面ライダー。モデライズドライバーによる変身と、ラタトスクのCR-ユニット【ヴァナルガンド】を纏っているとはいえ、ファングが勝てる保証などどこにも無かった。

しかも今は____

 

消eロォォッ!!MぁaaaaナAぁぁぁぁぁッ!!

 

オーバースマッシュが叫び、ドライバーを操作して無数の触手を操作し、二門の魔力砲にケーブルのように接続してエネルギーを貯める。

 

 

【STAND BY】

 

 

AQUARIUS VANISH】

 

 

どこか空恐ろしい音声と共に、赤黒い肉塊がこびり付いた魔力砲から凄まじい魔力の奔流が放たれる。

 

「ぐ………!」

 

如何にファングとはいえ、オーバースマッシュ化により元から強力な威力だったものを、更に滅茶苦茶な威力になった魔力砲を直撃されようものなら、確実に消し炭になるだろう。身を捻ったファングは随意領域(テリトリー)の表面で魔力砲を滑らせるようにして衝撃を抑えようとした。

だが、ファングは侮っていた。オーバースマッシュによるその攻撃は必殺技。即ち、ただ魔力砲を放っただけではないという事を。ファングの随意領域(テリトリー)を掠めた砲撃は、その随意領域(テリトリー)をまるで溶液で溶かすように削り取ったのだ。

 

「なっ!?くぅ………っ!」

 

急いでスラスターを噴かて急旋回回避行動を取り、マイティとオーバースマッシュを視界に納めるように後方へと飛び退いた。

 

右手には、白金の鎧と黒の龍を纏った最強の魔術師(ウィザード)にして、最悪の仮面ライダー。

 

左手には、その全身を異形に変え、真紅の怪物となった最狂の魔術師(ウィザード)にして、スマッシュ。

 

『二対一というのは気が進みませんが、アイクの意向なら仕方ありませんね』

 

A、ハ、はhaハハ、mAナ、まNぁ、ツいni追イ詰めTAワyぉ……Mぁァァナぁぁぁぁ?

 

「ち………」

 

二対の視線に睨み付けられ、ファングが忌々しげに舌打ちを零したその時。

 

「いーや、二対一じゃねーぞ!」

 

下から、聞き覚えのある声が迫り、次いでファングの隣に、金色の影が現れる。

グリスだ。先程ミサイルに撃墜され地上に落下したが、どうやらもう一度戻って来たらしい。

 

「……戻って来やがりましたか。尻尾巻いて逃げ出したかと思いやがりましたよ」

 

「へっ、抜かせ。新参者にばっか任せてちゃ、俺の先輩としてのメンツが立たねえからな」

 

『……仮面ライダーグリス、でしたか。数を互角にしたところで、結果は変わりませんよ』

 

グリスの姿を前にして、マイティが変わらず冷淡に告げる。

だがグリスは、その言葉に不敵な笑みでもって返した。

 

「おい、そこのクローズもどき。聞いたぜ?お前、自分で最強とか言ってるらしいな」

 

『ええ、事実ですから。魔術師(ウィザード)としても、仮面ライダーとしても___「そいつは違えな」___なんですって?』

 

マイティの言葉を遮って、グリスが否定する。

 

「確かに魔術師(ウィザード)とやらだったら、お前は最強かも知れねえ。けどな、仮面ライダーとしてだったら、少なくとも俺はお前より確かに強え奴を知ってる。DEMだがなんだか知らねえが、そんな狭いとこでお山の大将気取ってんじゃねえぞ。_____それにな」

 

そしてグリスは、もう一度強い意志でマイティを見据える。

 

「_____仮面ライダーってのはな、大勢の希望を託されて戦ってんだよ。その希望背負って、皆の思いに、明日に応える。それが俺の信じる、仮面ライダーだ。………だからお前らみたいな外道に、仮面ライダーを名乗られんのは、不愉快なんだよ」

 

『………理解に苦しみますね。私より強い者など、この世界のどこにもいませんよ。最強である私と、このアクエリオスオーバースマッシュを相手に、貴方達のような者が勝てるとでも?』

 

「勝てるさ。______心の火、心火だ」

 

右拳を胸に当て、強くその言葉を紡ぐ。

仮面ライダーグリスの戦う意志であるその言葉を、右手を握り締めて、放った。

 

「心火を燃やして_____ぶっ潰すッ!!」

 

 

 

 




どうでしたか?今回は説明回みたいな感じだったので、ちょっと冗長になってしまいました。
あと美九はちゃんと人気あるから安心しなさい。

ガル鉄の最新話はもう少し時間が掛かりそうです。すいません………最近なかなか時間が取れなくて。

あ、デアラアンコール10巻読みましたが、いやー面白かったですね!てっきりもう最終巻かと思いましたが、まだ続きがあるとはとても楽しみです!
あと五日くらい前に、スラッシュライザーが家に届きました。滅茶苦茶待ちましたが、無事届いてよかったです。財布の中身は死にましたが。

それでは次回、『第75話 アールの覚醒/今、風と共に』をお楽しみに!

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第75話 アールの覚醒/今、風と共に

士道「仮面ライダーアライブこと五河士道は、美九と共に先へ進み、遂に目的の場所へと辿り着く!美九の過去を知るも、相変わらず美九は心を開かない。そんな不安を抱えたまま、ついにボスとの決戦___」

万丈「その前に!お前らがボスのところ向かってる間にも、俺たちはそれぞれの場所で戦ってたわけだ」

士道「うおびっくりしたぁ!?どうしたんだよ万丈急に」

万丈「どうしたじゃねえよ!俺前回ごっそり出番なかったんだぞ!俺だって主役なのによ!」

士道「それ言ったらこの章の中盤から殆ど出番のないあいつは………」

万丈「という訳で!今回は俺が主役だッ!!全国の仮面ライダークローズファンのみんな、楽しみにしてくれよな!」

士道「誤魔化したよ。後でアイツに殺されるなこりゃ…………ま、というわけで、クローズが主役の第75話、どうぞー!」







_____場所は、DEM第一社屋のある空間へと移る。

 

「ぐっ………がぁっ………」

 

クローズは、ビートクローザーを杖代わりにして地に片膝を築き、マスクの下で血を吐きながら、あちこち傷を負いながらもナスティシーカーと戦い続けていた。耶倶矢も必殺技を食らった事で、既に地に伏してしまっている。

 

ナスティシーカーは、今まで戦った時よりも格段に力が増していた。クローズや耶倶矢の攻撃を物ともせず、まるで予測したかのように回避行動や反撃を繰り出してくる。

そこで、体力の消耗したクローズと、半身の夕弦がいない上に霊力も封印された状態の耶倶矢が戦っても、勝てる筈がない。攻撃もまるで児戯のように効かず、今の醜態を晒すこととなってしまった。

 

……まだ、戦うつもりかい?そんな無様な姿になってまで、戦う意味がどこにある?

 

「うる……っせェッ!!うぉぁぁぁぁぁッ!!」

 

最早走ることすら覚束ない足で、クローズがシーカーへと迫っていく。

だが、シーカーはその攻撃をブレードで弾くと、クローズの胴に蹴りを入れ後方へと吹き飛ばした。弾かれたビートクローザーが、硬い床へと突き刺さる。

 

「がはっ………!」

 

それが、限界だった。纏っていた装甲が粒子のように搔き消え、万丈は壁へ叩きつけられ項垂れる。身体の中で、何か硬いものが食い込んだような、鋭い痛みが襲う。

 

もうやめておいた方がいいよ。骨の一本くらいは折れていてもおかしくないからねぇ……さて

 

万丈の方を一瞥した後に、今度はシーカーは耶倶矢の方へと歩み寄っていく。耶倶矢もまた霊装に守られていたとはいえ、所詮は限定解除されたもの。全身傷だらけになり、地に伏していた。

 

「ぐっ………この……」

 

君もまだ戦えるのかい?大好きなお姉様とやらのために?

 

「舐めるで……ない……ッ!!」

 

耶倶矢はフラつきながらも立ち上がると、突風を纏って颶風騎士・穿つ者(ラファエル エル・レエム)をシーカーに向けて突く。

シーカーはそれらを易々と躱し、一瞬で耶倶矢の眼前に迫ると、首元を掴み持ち上げた。

 

「がっ…………」

 

拍子抜けだねぇ……。精霊の君も、片割れがいなければこの程度かい?

 

「何、を………ぉ…………っ!?」

 

「耶倶矢ッ!ぐっ………くそ、が………ッ!!」

 

シーカーに首を掴まれ、息苦しく苦悶する耶倶矢。

万丈が叫び、シーカーに飛びかかろうとするが、思うように身体に力が入らない。彼の言う通り、どこか骨が折れているのだろう。力を入れれば入れる程、全身に鋭い痛みが伝わっていった。

 

クローズも倒れ、大好きなお姉さまとやらも、片割れである八舞夕弦もいない。……今の君を助ける者は、もう、一人もいない

 

「………ッ!」

 

シーカーが耶倶矢の心を抉るように、言葉を並べる。

そして左手に持ったスチームガンを構えると、耶倶矢の胸元_____心臓の辺りへ、カチャリ、と突き立てた。

 

世界の災厄たる精霊は………一人残らず、消えなくちゃ、ね

 

「あ…………」

 

_____その瞬間、耶倶矢は抵抗していた手を離した。

 

 

シーカーに投げ掛けられた言葉。

 

自分の力が悉く通じなかった事。

 

自分を助けてくれる人が、誰もいない事。

 

 

この場に揃ったあらゆる要素が、耶倶矢の心を折った。

手にした颶風騎士・穿つ者(ラファエル エル・レエム)を地に落とし、全身の力が抜けていく。

 

やがて意識も遠のき、最早後は死を待つばかりだった。

 

 

「(…………私、は……………)」

 

 

やがて耶倶矢の脳裏に、様々な人々の顔が浮かんでは消える。

 

これが走馬灯と言うものだろうか。 美九や夕弦。間近にいた人達の顔が、次々と浮かんでくる。

 

しかしその中に一人、何か靄のかかった顔があった。

 

でも、何故だろうか。その顔は何だか、心から安心できるような顔で。

 

自分の全てを、預けてもいいと思えてしまうような______

 

そう、あれは________

 

 

「_____耶倶矢ァァァァッ!!」

 

 

_____その思考を真横からぶった切るように、失いかけた意識を引きずり出すように、つんざくような、自分を呼ぶ声が響いた。

 

 

その声の主は、()()()()()()()()()()()()速さで突っ込んでくると、耶倶矢を抱きとめ、今にも銃の引き金を引こうとしていたシーカーのマスクに、何かを握り締めながら一発殴りこんだ。

 

何………!?

 

「…………っ」

 

強い衝撃を伴って殴られたシーカーは、突風に煽られたように後方へと吹き飛んでいく。

そして耶倶矢を抱き留めた声の主は、飛ばされたシーカーへ強い意志を込めた視線を向け、そして言った。

 

「誰もいない、だと………違うな。ここにいるぞ」

 

「あ___________」

 

そして耶倶矢は、その顔を見た。

 

その顔を、見た時。

 

 

「______今ここに!どんなことがあろうが、こいつを守るバカが、今ここにいるッ!!」

 

 

_____耶倶矢の思考を支配していた靄が、みるみる晴れていくのを感じた。

 

 

万丈、龍我…………まさか、まだ立ち上がれるとはねぇ………確実に骨は折れていたはずだが

 

「うるせぇっ……こいつの為に今動けねえんだったら、骨の一本だろうが百本だろうが、くれてやる」

 

口調とは裏腹に、万丈の表情は苦しげだった。恐らく相当無理をしたのだろう。汗が滲み、手足は震えていた。

しかしその万丈の様子を見たシーカーが、被りを振って尋ねる。

 

……君といいビルドといい、私には理解できないね。何故彼女ら精霊を庇う?精霊は人類の敵、世界の災厄だ。これを摘み取る事は即ち、君達の謳う正義、ってやつじゃないのかい?

 

「………っ」

 

シーカーのその言葉に、耶倶矢の表情が曇る。

 

「………違えな」

 

だがそれでも万丈は、その言葉を否定した。

その目には、どこか確固たる意志が籠っている。

 

違う?……何が違うというんだ

 

「テメェらなんかにゃ、分かんねえだろうさ……。俺たちは、正義の為じゃねえ………『生きる』為に戦ってんだ」

 

強く視線を向けながら、彼はそう言う。その言葉は、かつて元の世界で仲間が放った言葉であった。

 

生きる?……それのどこが、精霊を守ることに繋がるというんだい?

 

「……精霊?……んなモン、関係あるか。精霊だろうが人間だろうが、俺の、俺たちの生きる明日に、『八舞耶倶矢』はいなきゃ駄目なんだよ!」

 

万丈はより強く、そして優しく耶倶矢を抱きとめ、叫ぶ。

 

「例えお前がどんなにこいつを否定しようが、世界中の誰もがこいつを否定しようが!俺はこいつを、八舞耶倶矢を信じるッ!!信じて一緒に明日を生きてくッ!!何故ならッ!!耶倶矢は俺を信じてくれたからだ!!だから俺は守ると決めたッ!!戦うと決めたッ!!どんなに骨折ろうが、どんなに血反吐吐こうが、信じて守ると決めたモンは絶対守るッ!!それが俺だ!!仮面ライダークローズだッ!!」

 

……理解できない。何故だ。何故そこまで戦おうとする

 

シーカーが先程までの声音とは僅かに違う、どこか恐怖を抱いたような声で聞く。自分の理解の及ばない、自分の常識からあまりにも逸脱した、彼と彼の言葉に対して。

そしてその問いに万丈は、不敵に笑って返してみせた。

 

「決まってんだろ………俺が!世界で唯一人……八舞耶倶矢の、最っ高の、ヒーローだからだよォォッ!!

 

「…………っ!!」

 

その時、耶倶矢の頭の中を支配していた靄は、完全に取り払われた。

 

 

_______嗚呼、そうだ。

 

_______自分を救ってくれたヒーローは。

 

_______こんなにも真っ直ぐで、誰よりも馬鹿で…………

 

 

_______誰よりもカッコいい、そんな奴だった。

 

 

耶倶矢は目に涙を浮かべながら微笑み、万丈の顔を見上げる。

すると万丈は耶倶矢を後ろへやり、立ち上がってシーカーを見据えた。

全身が痛みを訴えている。とうに限界は近い。だがそれでも、全身から沸き起こる()()のような衝動に、万丈は立ち上がった。

 

「………すぐに終わらせる。待っててくれ」

 

「あっ…………」

 

一言そう言うと、ビルドドライバーを取り出し、腰にあてがう。

そして、先程から握りしめていた右手を開き、そこに収まっていた、槍と翼の意匠が施された橙色のボトル_____【ラファエルRエンジェルフルボトル】を持ち直した。

 

「……力、借りるぞ」

 

『ギーギギーギガー!ギーギーギー!!』

 

一言呟くと、頭上へと舞ってきたクローズドラゴンを掴む。

 

 

_____ビュゥ、ビュゥ、ビュゥ______

 

 

ラファエルボトルを振ると、まるで小さな突風のような音が鳴り響く。更には室内であるはずの彼らがいる空間に、一陣の風が吹く。

成分を活性化させたボトルのキャップを開けると、クローズドラゴンへと装填した。

 

『ギィャォガァァァーーッ!!』

 

瞬間、手元のクローズドラゴンが輝き、鳴き声と風車のような音と共にに、そのボディがまるで耶倶矢の霊装のようなカラーリングへと変わる。

ガジェットモードへと変形させると、前面に設置されたスターターボタンを押し込んだ。

 

 

【激災ィッ!!】

 

 

聞き慣れない音声が鳴り響くと同時に、ガジェットをビルドドライバーへとセットする。

 

 

クロォーズラファエルドラゴンッッ!!

 

 

猛々しい龍の鳴き声と共に、周囲に颶風の吹き荒れる音が鳴り響く。

ボルテックレバーを回すと、ドライバー中央付近のボルテックチャージャーが、回転と同時に周囲の風を取り込んでいった。徐々に風が小さな竜巻へと変わっていき、風をまとったスナップライドビルダーが形成されていく。

 

 

【Are You Ready?】

 

 

もう何度も聞いた、問いかけの言葉。

 

覚悟はいいか?と、このベルトはいつも場違いな程に調子良く聞いてくる。

 

そしてその返答も、いつも決まっている。覚悟は済ませた。

 

ならば後は、自分のままで変わればいい。

 

だからこそ、叫ぶ。熱い魂を込めて、己を変えるための、その言葉を_______

 

 

「変身ッ!!」

 

 

瞬間、スナップライドビルダーのアーマーが万丈を挟み、その周囲を風が渦巻く。

そしてその姿が露わになった瞬間、背面から紫紺のマフラーが現れ、風に巻かれて靡いた。

 

 

Wake Up Tempest!!ゲェット ラファエルドォラァァゴンッッ!!!

 

 

イェイイェェエーイィッ!!ビュウバァァァァーーンッ!!

 

 

_____橙の装甲に身を包み、銀の複眼を光らせて、紫紺の龍をその身に纏う。

 

 

「____力が溢れる……!魂が震える………!!」

 

 

万丈と耶倶矢の力が融合した_______

 

 

「___俺の嵐が、吹き荒れるッ!!!」

 

 

_______仮面ライダークローズラファエルが、爆誕した瞬間だった。

 

 

 

それは……

 

「さぁ……行くぜェッ!!」

 

クローズラファエルが叫ぶと、力強く足を踏み出す。

するとその瞬間に、シーカーの眼前からクローズが消え去った。

 

何………!?馬鹿な!?

 

「オッラァッ!!」

 

反応する間もなく、背後からクローズの回し蹴りが繰り出される。疾風を纏ったその蹴りは、目にも留まらぬ速さでシーカーの胸部を直撃する。

さらにシーカーが反撃しようとすると、次の瞬間には視界から消え、次も死角からパンチが繰り出される。クローズラファエルの全身に組み込まれた加速装置、【サイクロンアップクレスト】と、肩部の【CZRインファイトショルダー】から伸びた紫紺のマフラー、【サイクロンハイヤー】がクローズのスピードを爆発的に引き上げ、両腕部に設置された【CZRドラゴヘッドアーム】により、竜巻を纏った爆砕パンチが繰り出されるのだ。

その後も神速の如きスピードで以ってシーカーを翻弄し、次々と攻撃を繰り出していくクローズ。

 

追い切れないだと………ならばッ!!

 

 

【ALTERNATIVE BREAK……BEE……!!】

 

 

劣勢を悟ったシーカーはスチームガンにビーオルタナティブボトルを装填すると、必殺技を発動。銃口から無数の蜂を象ったエネルギー弾が分散して放たれた。

 

「龍我っ!」

 

「大丈夫だ!」

 

耶倶矢が叫ぶが、クローズは動じない。

クローズが耶倶矢の前に庇うようにして立ち止まると、ドライバーから何かが飛び出してくる。それはクローズと耶倶矢の周囲を高速で回転しながら飛び回り、シーカーの攻撃を弾くと、クローズの右手へと収まった。

 

 

【ランサーラファエェルッ!!】

 

 

クローズが手にしたのは、八舞耶倶矢が持つそれと同じ、紫紺の突撃槍。

否_____少し違う。彼が手にしたそれは、耶倶矢の持つそれから、少し機械的な意匠が施され、細部の形状が異なっていた。

 

ランサーラファエル】_____クローズラファエルへと変身したことにより、リビルドされたクローズ専用の天使(武器)であった。

 

「うぉりゃァァッ!!」

 

叫びと共にシーカーへと向かい、手にしたランスを繰り出す。ランスに組み込まれた円錐形、【ドリルスパイラルスピア】が回転し、シーカーの装甲を削り取っていく。

 

ぐっ……馬鹿な……!これほどの戦闘力の上昇は、私のデータに、入っていない………!

 

苦し紛れに吐き捨てながら、シーカーがブレードを構えクローズへ放つ。

クローズはその攻撃をランスで防ぐと、ランスを回転させて弾き返した。

 

「そんなモンで測れるかよ……!1+1で2じゃねえ。俺と耶倶矢の力が合わさったこいつのパワーは、1+1で200だ!十倍なんだよ!十倍!!」

 

計算が違う……正しくは、百だ!

 

「じゃあ百倍だ!!お前のチンケなデータなんぞで、俺たちが止められるかァッ!!」

 

そんな押し問答の中でも、激しい攻防が繰り返される。だがこれは、どう見てもクローズが優勢であった。

クローズはランスを構え直すと、グリップ上部に配置されたエネルギー充填機関、【スキルズファン】を三度回した。

 

 

【ウイィークッ!ミディアァムッ!!ストロォングッ!!!】

 

 

やがてランスのドリルが回転し、穂先からグリップに掛けて、周囲に颶風が巻き起こる。竜巻のようになったそのエネルギーは、やがて槍のような形状へと変わっていった。

 

ランスを突き出すようにして構えると、クローズはグリップ部のトリガーを引いた。

 

 

タイフゥゥーンチィャァージィッ!!ブルルラァァァッッ!!

 

 

「ウォリャァァッ!!!」

 

裂帛の勢いでランスを突き出すと、槍状に充填された颶風のエネルギー波がミサイルのように放たれた。

ドリルの回転を伴ったそのエネルギー波は、一寸の狂いもなく暴風を伴いながら、シーカーへと向かっていった。

 

ぐっ……ぐぉぁぁッ!!?

 

最早シーカーにそれを止めるすべはなく、苦し紛れにブレードで防御の姿勢を取るも、クローズの必殺技を止められる訳もなかった。ブレードは穿たれ木っ端微塵になり、シーカーも後方へと大きく吹き飛ばされる。

 

だが、これで終わりではない。クローズはランスを下に突き刺すと、ボルテックレバーを勢い良く回す。ボルテックチャージャーの回転に合わせて、中央へ向けてまたも竜巻が巻き起こった。

 

 

【Ready Go!】

 

 

「はあぁぁぁぁあ……………ッ!!」

 

右足にパワーが溜まると同時に、背後から嵐のようなドラゴンのエネルギー体、【クローズドラゴン・タイフーン】が現れる。更にクローズの背中から銀色の右翼、【CZRソレスタルライトウイング】が出現した。

クローズドラゴン・タイフーンが大口を開けて鳴くと、クローズの周囲に竜巻が吹き荒れ、クローズもまた竜巻に乗って飛び上がる。クローズドラゴン・タイフーンのオーラも纏うと、その竜巻と共に、敵に向けて強力なボレーキックを叩き込む必殺技_____

 

 

テンペストドラゴニックゥッ!!フィニィィィィイッシュゥッッ!!!

 

 

「ドォリャァァァァァーーッ!!」

 

颶風を纏った渾身のキックは、シーカーを確実に捉え、更に大きく吹き飛ばした。衝撃とともに、旋風が巻き起こる。

 

ガハッ…………!?

 

シーカーは苦悶の声とともに吹き飛ぶと、壁に激突した。更にダメージの許容量を超えたアーマーは霧のように搔き消え、瓦礫と共に中から露わになった神大が地に伏す。

 

「馬鹿な………これ程の、力が…………」

 

ヨレヨレになりながらもどうにか立ち上がり、その面立ち良い顔を歪ませ、クローズを睨みつける。

憎しみと悔しさの入り混じった感情と共に、万丈の名を呟く。

 

「万丈……龍が……ぁっ!?」

 

しかしその瞬間、神大の脳裏に激痛が走った。堪らず頭を掴み、その場で膝を屈する。

何か得体の知れないものに、頭の中を引きずり出されるような感覚。

 

「ぐぁ、あぁ…………ッ!!何、が…………!?」

 

「お、おい!どうしたんだよ!」

 

クローズの声が聞こえる度に、まるで剣山で貫かれたような激痛が脳を走る。

 

この感覚は、覚えがある。確か以前、或美島で仮面ライダーグリスと戦った際に覚えた、あの痛みと同じ______

 

「鬱陶しい……!鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい……ッ!!消えろ……早く、消えろッ!くそっ、くそっ…………ッ!!」

 

しかし、こんな思考すら許さないとばかりに、頭の痛みはより一層深まるばかりだった。

神大はそのままどうにか立ち上がると、左手で頭を抱えたまま、右手に持ったスチームガンを自身の前へと取り上げた。

 

「覚えて、いろ………!次は………ッ!!」

 

「あ、おい待て!!」

 

神大が震える指でトリガーを引くと、銃口から放たれた煙に巻かれ姿が消えていく。その様は、伸ばした髪とその痛みに苦しむ苦悶の表情と合わさって、さながら現世を求め彷徨う亡霊のようでもあった。

 

神大の姿が完全に消えると、クローズは変身を解除した。アーマーが風とともに搔き消え、中からボロボロの姿の万丈が現れる。

 

「ぐっ……ちと……カッコ、つけすぎたか………?」

 

口元を伝う血を拭い、自嘲気味の笑みを浮かべる。

万丈は全身が鉛のように重く、鈍い痛みが次々と襲ってくるのを感じた。これが、精霊の力によって限界寸前の肉体を行使した代償だとでもいうのか。

だが万丈はそれでも力を振り絞ると、振り向いて耶倶矢の方へと向かった。

 

「耶倶、矢……。へっ、無事、かよ?」

 

「龍、我…………」

 

耶倶矢は、万丈の笑顔を見ると、ほぼ無意識のうちに立ち上がる。

やがて、目から一筋の涙が溢れ、次いでボロボロと、涙が流れ出る。そしてもう、辛抱ならないといった表情になった耶倶矢は、気がついたら万丈に向かって駆け出していた。

 

「龍我………龍我ぁっ!!」

 

「ぐっ………!」

 

思い切り抱きつかれ、一瞬痛みが走るも、どうにか堪えて耶倶矢を受け止める。耶倶矢は両手を万丈の背中に回すと、堰を切ったように泣きながら、嗚咽混じりの声を漏らした。

 

「龍我……!私……わたし………っ!龍我に、酷いこと…………!」

 

「………耶倶矢」

 

「ごめん……!ごめん、なさい………っ!でも、ありがとう………!龍我……龍我ぁ………っ!!」

 

万丈の胸元で泣きながら、謝罪と感謝の言葉を述べる耶倶矢。

そんな耶倶矢の様子を見ると、万丈は困ったような笑みを浮かべて、震える手で頭を撫でた。

 

「……バーカ。もう、俺から、離れんじゃねえ」

 

「え………?」

 

「……俺のこと、振り向かせんじゃねえのかよ。デレさせるんじゃねえのかよ。だったら、勝手にいなくなるんじゃねえ。もしいなくなったら………そん時ゃ、また俺が………無理矢理にでも、連れ………戻して______」

 

だが、最後まで言い切ることは出来なかった。

今までの戦いの疲労と、エンジェルフォームによる精霊の力の行使により、肉体は既に限界を超えていた。段々と耶倶矢を抱きとめる手の力が緩くなり、前のめりに倒れていく。

 

「り、龍我っ!?」

 

「悪い…………もう……………ここまで、みてえだ……………少し、休___________」

 

万丈はそこまでいうと、ついにその目を閉じた。

額に流れ落ちた血を拭う力すら残らず、彼の意識は深い闇の底へと沈んでいき、大切な少女に、肉体を預けることとなった。

 

 




どうでしたか?
と言うわけで遂に出ました!クローズの新フォーム、仮面ライダークローズラファエルです!
こちらがそのイラストになります


【挿絵表示】


大分前に描いたやつなので汚いので、今後修正版を出しますが、取り敢えずの全体図はこんな感じです。あと変身時に風とかマフラーが出現した際の音は、初代仮面ライダーの『ピキーン!』って音を想像するとよりかっこよくなります。変身時は結構初代ライダーをリスペクトしました。

あと一応言っておきますが万丈は死んでません。気を失っただけです。
あとぶっちゃけ今回はやりすぎた。個人的には『もうこいつらくっついてんだろ』って言われても仕方ない感じになってしまった。
まだ、まだくっついてませんから!!

それでは次回、『第76話 ロボットハートは燃え上がる』をお楽しみに!

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第76話 ロボットハートは燃え上がる

士道「仮面ライダーアライブこと五河士道は、美九と共に、遂にラスボスの前まで辿り着く!そしてその最中、ナスティシーカーと戦っていた万丈と耶倶矢だったが、耶倶矢のピンチを前に、ついにクローズがパワーアップ!」

耶倶矢「その名も、仮面ライダークローズラファエルだ!どうだ?我と龍我の運命の象徴として、これ以上に相応しい物は無いであろう?」

万丈「なんでお前が誇らしげに解説してんだよ……。つーか、あれ変身するとめちゃ疲れんだけど」

士道「エンジェルフォームはえらく疲れるからなぁ……俺もカマエルに変身した時は大変だったし……」

耶倶矢「ふん、情けないな龍我よ。あの程度で根を上げるなど、龍戦士(仮面ライダークローズ)としての自覚が足りんのではないか?」

万丈「お前は変身したこと無いから分かんねえだろうけど、あれ疲れんだぞ!例えんならそう……めっちゃ疲れんだぞ!」

夕弦「説明。龍我、全然例えられていません」

耶倶矢「とにかくだ!そんな様子では不安だ。これからは毎週、いや、一日三回はあの姿に変身するのだ」

万丈「アホか死ぬわ!」

夕弦「解説。あんな事を言ってますが、耶倶矢は本当は、大好きラブラブな龍我の変身したクローズラファエルが見たいだけです」

耶倶矢「ゆ、夕弦!?ちちち、違うし!ていうか、大好きラブラブってなんだし!私そんな頭悪いバカみたいな事言ってないしー!!」

万丈「おい馬鹿ってなんだよ!今俺のこと馬鹿って言ったか!?」

耶倶矢「龍我の事じゃないし!この筋肉馬鹿ぁっ!!」

士道「はい!いい加減始めないと収まりつかなくなるから!という訳で、第76話、どうぞ!」






_____戦場は、外での空中戦に移る。

 

死ネsHiねSぃnEぇェeeeee!!!

 

「しっっけえなぁッ!タコ足が!」

 

狂気に染まった声と共に、オーバースマッシュから鋭い触手が放たれる。

 

 

【シングルゥッ!シングルフィイニッシュゥッ!!】

 

 

空中で身を捻らせ、ジェットフルボトルを装填したツインブレイカーからジェット機状のエネルギー弾を連続で発射する。

だがその隙を突いて、オーバースマッシュがグリスの周囲に限定随意領域(テリトリー)を展開してきた。

 

「な……んだこりゃぁっ!?アレか、前に言ってた、テリヤキーだかヤキトリーだか言う……」

 

 

【アァタックモォードォッ!!】

 

 

全て間違っていたがしかし、グリスはそこから脱出せんとツインブレイカーを撃ちまくり、随意領域(テリトリー)を破る。しかしその時には既にオーバースマッシュは魔力砲の充填を済ませており、ドライバーの操作と共にグリス目掛けて魔力砲を放った。

 

 

AQUARIUS VANISH】

 

 

「あめぇッ!!」

 

 

スクラップ フィイニッシュゥッ!!

 

 

しかしグリスはドライバーのアクティベートレンチを下げ必殺技を発動させると、ヴァリアブルゼリーでコーティングした脚部で一瞬ビームを蹴り、そのまま肩部と背面のゼリー噴射を最大にして上空へと上がった。

 

 

【アァタックモォードォッ!】

 

 

そしてツインブレイカーを振りかぶり、オーバースマッシュへと叩き付ける。

無論オーバースマッシュも防いでくるが、グリスはすかさずドライバーからロボットゼリーを引き抜き、更にはロボットフルボトルを共にツインブレイカーに装填した。

 

 

シングルゥッ!ツインッ!

 

 

ツインブゥレイクゥッ!!!!

 

 

「喰らえやゴラァァァァァッ!!!」

 

トリガーを引き、必殺を放つ。金色に輝くエネルギーが至近距離で放たれ、防性に展開されていた随意領域(テリトリー)も砕け散る。

 

亜aAぁぁァァァッ!!!?

 

「ぐっ…………!っ、はぁっ、はぁっ………!」

 

オーバースマッシュから苦悶の咆哮が漏れ、グリスもまた反動で吹き飛ばされた。荒い呼吸を整え、重い身体をどうにか保つ。

 

ドライバーのスクラップフィニッシュと、ブレイカーのツインブレイクを連続で放つ、グリスの一撃必殺技。威力は抜群だが、同時に反動も大きかった。今回は続ける形で放った為、以前ほどの疲労は見られなかったが。

息も落ち着いた所で、強気な姿勢でオーバースマッシュがいた場所の硝煙を見据える。あの技を食らったのだ。例え仕留めきれずとも、大きくダメージは入っている筈_______

 

「けっ……どうだっ、こら………っ!?」

 

_____だが、そんな予想は、簡単に裏切られた。

 

あhA!Aハは葉hぁ!!よoクモ、ヤッtEクれたwAnェ!!?

 

硝煙の中から現れたのは、依然変わらず_____いや、先程よりかは消耗しているようだが、それでも尚ピンピンしているオーバースマッシュの姿だった。

奇怪な声をあげながら、血色に染まる触手を揺らめかせている。

 

「んの野郎……ちと歯応えがありすぎんぞ………ッ!」

 

グリスは吐き捨てるように毒付くと、再びオーバースマッシュへと向かい、ツインブレイカーを蠢動させた。

 

 

 

 

「く………っ!」

 

マイティが参戦したことも相まって、戦況は依然ファング達の劣勢だった。

マイティと、アクエリオスオーバースマッシュ変異体。恐らくは現状のDEMでの最強クラスの戦力を相手取っているのである。オーバースマッシュはグリスが引き受けてくれているとはいえ、戦いの負担は計り知れなかった。

迫り来るマイクロミサイルの群れを避けるように空中を高速で駆けながら、ファングは随意領域(テリトリー)で以って敵二人の位置を確認した。後方に_____グリスと交戦中のオーバースマッシュ。だが、マイティの反応が認められない。

 

次の瞬間、ファングの随意領域(テリトリー)に異質な随意領域(テリトリー)が触れる。

 

 

【エッジ・ファング!】

 

 

それに素早く反応して、ファングは右腕のファングクラッシャーを振り上げた。

すると、その位置にマイティのデュアルスレイヤーが振り下ろされ、激しい火花を散らす。

 

「うぐ……!」

 

『素晴らしい反応です。ですが、打ち合いで私に勝てるとでも?」

 

【STAND BY DRAGON BREAK】

 

 

言って、マイティがデュアルスレイヤーの必殺技を発動させる。黒龍のエネルギーを纏った刃が、目にも留まらぬ速さで振るわれた。

動体視力では間に合わない。ファングの複眼部である【ウルフズツインアイ】により強化された反応速度と、全神経を集中させた随意領域(テリトリー)の精度で、領域に触れる斬撃に反応してギリギリのところでブレードを振るった。

何度目かの交戦があった後、マイティとファングは距離を置き、互いに睨み合った。

 

『ほう、この反応速度………成る程、変わったのは見てくれだけではないようですね』

 

先程までのファングの反応速度に対し、マイティが感嘆の声を漏らす。いくらファングが、マイティに匹敵する実力の魔術師(ウィザード)だとしても、この連撃を凌ぎきるのは至難の技だ。マイティはそれらを紙一重といえ交わし切るファングの力量と、その新たなドライバー、そしてその開発者に、ほんのささやかな感心を覚えた。

 

「へっ、よく言いやがりますよ……さっきから、全然攻撃を、ものともしてねーじゃねーですか」

 

一方、ファングにとってはそんなもの、気休めどころか嫌味にしか聞こえなかった。こちらの攻撃は先程から全く通じておらず、戦況は進むどころか寧ろ後退している。向こうは息を切らした様子もないが、こちらはこれまでの戦闘により、段々と体力の消耗が早まってきた。

スーツとアーマーの性能により被ダメージは少ないものの、それと体力の消耗率は別だ。早く決着をつけたいところだが、眼前に塞がった敵はそれを許してくれるような、生易しい敵ではない事をファングは嫌という程知っていた。

 

「それにしても……()()、随分と趣味が悪いじゃねーですか。そこまでして、私達の邪魔をしやがりたいのですか?」

 

ファングが指したアレは、言うまでもなくジェシカのオーバースマッシュだ。気休めにもならない時間稼ぎだが、少しでも体力を回復させて、その後に一気にケリをつける。

マイティもその意図を知ってか知らずか、ファングの言葉に応えた。

 

『彼女が望んだ事です。ですが、安心してください。______ボトルへの過剰適合の為の改造手術に加え、オーバースマッシュ化に伴う急激な肉体細胞の変質。例え勝ったとしても、アレに待っているのは破滅のみです』

 

「………あんたら、最初(ハナ)っからジェシカを使い潰すつもりで、この戦いに投入しやがりましたね」

 

『ユニットの損傷や、任務の失敗_______失態を繰り返した愚か者を置かせておく程、私達は寛容ではありません』

 

「………それが、例えアデプタスのナンバー3だとしてもですか?」

 

『私がいれば、何も問題はありません』

 

あくまでも淡々と告げるその言葉に、ファングは言い表しようのない胸糞の悪さを覚えた。今まで自分がこんな組織に身を置き、剰え感謝すらしていたのかと思うと、一周回って滑稽とすら思える始末だ。

 

すると、次の瞬間。

 

 

「______ぐ、ぐぁぁぁぁぁあッ!?」

 

 

背後から苦悶の声と共に、何者かがファングの横を吹き飛ばされていった。

その声の主は、ファングの真後ろにあったビルの屋上へ叩きつけられると、土煙と共に姿を現した。

 

「っ、まさか______!」

 

誰でもない。グリス____否、猿渡一海だった。変身は既に解除され、膝をつきながらも、空中に漂うオーバースマッシュを睨みつけていた。

 

アhAはハハ!随分と、手KozぅらセテくrEタwAneええぇ?

 

 

オーバースマッシュが、怪しく狂気的な笑みを浮かべる。変身してアーマーに守られていたはずの肉体に走る無数の傷跡が、どれほど激しい戦闘があったかを如実に物語っていた。

 

「一海さん…………くっ」

 

『これで二対一。……もう終わりですね』

 

あッhAハはハはハ!!終wA理ヨォ?Maぁナa?

 

ファングがマスクの下で冷や汗をかく。

形成が覆され、数の有利が無くなってしまった。如何なファングと言えど、変異体のオーバースマッシュと、マイティの二体を相手取れるほどの余裕は無い。右手に握ったファングクラッシャーのブレードの剣先が、同様から僅かに揺れる。

らしくもない弱気な恐怖が心中を占めようとしていた、その時。

 

「______勝手に、俺を除け者にしてんじゃねえぞ………ッ!!」

 

瓦礫の中から、立ち上がる者がいた。

誰あろう、一海だ。全身傷を負いながらも、その眼にはギラギラとひりつく闘志が宿っている。

 

「一海さん………っ!?何してやがるんですか!?そんな傷じゃ……!」

 

「ガキっ娘は黙ってろ!!……こんな傷、今まで何べん負ってきたと思ってやがる。てめえら程度のチンケな攻撃なんざ、痛くも痒くも無えんだよ。これなら、みーたんにビンタでもされる方が、よっぽど痛むね」

 

『強がるのは止した方がいい。これ以上戦えば、本当に死にますよ』

 

「悪いがこちとら、一度死んでる身なんでな。もう死ぬのは御免だ。けど_____ここで尻尾巻いて逃げるような、軟弱者に成り下がんのは、もっと御免だ」

 

「(一度、死んでる………?)」

 

一海の言葉に引っかかりを覚えたファングだったが、一先ずは思考の外へと疑問を置いた。

そして一海はオーバースマッシュとマイティを指差し、高らかに叫ぶ。

 

「テメェらぶっ倒して、とっとと仲間んとこに行かせてもらうぜ。お前らみたいな奴も倒せねえようなら、俺ぁ仲間に顔向けできねえ。____こっからが、本当の祭りだ」

 

そう言うと一海は再びスクラッシュドライバーを装着し、ポケットからスクラッシュゼリーを取り出した。

それはいつも変身で使用しているロボットゼリー______では無い。

 

銀のパッケージに、水色のドラゴンの模様が施された、ドラゴンスクラッシュゼリーである。かつて、万丈龍我から餞別として託されたアイテムだった。

 

モぅナnIヲしヨゥG亜無駄よォo?a鉈tAチに勝ちmEハNaIワぁa!

 

「抜かせ。______また、力借りんぞ。龍我!」

 

その友の名を呼び、一海がスクラッシュドライバーにドラゴンゼリーをセットする。

 

 

ドラゴンジュゥエリィー!!

 

 

「っ……ぐっ、ぐァァァァアッ!!?」

 

瞬間、一海の身体に鋭い電流のような痛みが走る。ただでさえダメージを負った身体でのインダーバルを挟まない変身、さらにはドラゴンゼリーの使用に伴う負荷が、ダイレクトに一海の肉体へと流れているのだ。

 

「一海さん!何を…………」

 

ファングが思わず声をかける。

だが一海は、顔に大量の汗を流しながらも、不敵に笑い、拳を握りこんだ。

 

「ぐっ…………っがぁぁぁぁぁぁぁッ!!!

 

痛みを振り払うように、邪魔なものを取っ払うように、一海が雄叫びを上げる。

 

______その瞬間、一海の全身を流れていたスパークが、ドライバーに装填されたドラゴンゼリーに集中した。

 

 

一海のこれまでの戦いが刻み込まれたドライバーが。一海の燃える心火が。その決意が。

 

_____一つの形を、創り出した。

 

スパークの集まったゼリーが突然ドライバーで燃え出したかと思うと、弾き出されるように一海の顔の前まで飛んでいき、炎が消えて行くと同時に、その姿を露わにしていった。

 

それは先程まで装填していたドラゴンゼリー____では無い。

 

パッケージの前面に斜線が敷かれ、その上下から対照的に、グリスの成分であるロボットと、クローズの成分であるドラゴンのエンブレムが描かれた、全く見たことのないスクラッシュゼリーであった。

 

「………変わった……?」

 

「………っ」

 

一海はそれを掴むと、一瞬視線をやる。

が、すぐにマイティ達の方へと戻し、改めてドライバーに、そのゼリーをセットした。

 

 

ドラゴンロォボットォッ!!

 

 

今までの音とは違う、ヒップホップ調のスチームパンクな待機音が鳴り響く。

左手の人差し指を前方の、マイティとオーバースマッシュへと向ける。そして____今までとは違い、拳を握り込んで【アクティベイトレンチ】を下げた。

 

 

「変身ッ!!」

 

 

レンチが下がり切り、装填したゼリーが潰れる。

瞬間に、一海の周囲にビーカー状のファクトリーが生成され、内部を青と____()()()炎のような赤い色の、【ヴァリアブルミックスゼリー】が満たしていく。

 

 

 

【ミィックスッ!!】

 

 

【燃えるゥッ!漲るゥッ!!迸るゥッ!!!】

 

 

 

展開していたビーカーが焼け焦げるかのように消失していくと、内部に満たされていたゼリーが、()()()ように周囲に溢れ、一海の肉体に金と銀のスーツが生成される。

そして溢れ出したゼリーは、まるで一海の肉体を()()ように纏わり付き、頭部、胸部、両肩部のアーマー、【クロスオーバーアーマー】を形成していった。

 

 

 

ドラゴンロボット・イン・グゥリスチィャァージィッ!!!

 

 

【ドォゥウルルルルゥゥゥゥゥラァァァァァッ!!!】

 

 

 

_______グリスとクローズの力が融合した、赤き心火の新たなグリス。

 

 

「心火を燃やして______ぶっ潰すッ!!」

 

 

その名も、仮面ライダーグリスチャージ

 

元のグリスの装甲の色が、金色から燃える炎の赤い色に変わり、それにミックスされるように、クローズチャージのアーマーが取り付けられていた。

 

「この土壇場で、新しい姿に_____」

 

「_______おいガキっ娘ぉッ!!まさかもう、リタイアする気じゃねえよなぁッ!!」

 

グリスチャージがファングの方を向き、発破をかける

 

「あのバケモンは俺に任せろ!お前はあのクローズもどきに集中しやがれ!」

 

グリスチャージからのその言葉に、ファングは一抹の悔しさと、反骨心を抱いて不敵な笑みを浮かべた。

 

「……言われなくても!」

 

ファングは力強く答えると、眼前でブレードを蠢動させているマイティへと視線を向けた。CR-ユニットとアーマーのスラスターを噴かせ、ファングクラッシャーのブレードを展開させて向かっていく。

 

グリスチャージもまた、怪しげに空中へと浮かんでいるオーバースマッシュを見上げた。敵はその赤黒い血色の触手を蠢かしながら、双眸を怪しく光らせている。今が夜ということもあってか、その様はまるで、深海で獲物を虎視眈々と待ち受ける大蛸にも見えた。

 

tYぉット形gA変ワっTぁクラiで、kATeルとオモっTeルノ菓子ラaaaa!?

 

「そいつぁ見てからのお楽しみだ。さぁ………行くぜぇッ!!」

 

声を上げた瞬間、グリスチャージの身体が消えた。

いや、正確に言うならば、その場から天高く飛び上がり、オーバースマッシュよりも遥か高みへと昇っていた。肩部のアーマーから射出された、マグマのような赤いゼリーと、蒼炎のような青いゼリーにより、今までを超えるスピードで飛び上がったのである。

 

Nぁッ……!?

 

オーバースマッシュも反応が遅れ、上空を見上げ愕然とする。グリスチャージはそこから両手を広げると、腕のポイントからゼリーが流れ、纏わり付いた。

 

 

【ツインブレイカーッ!!】

 

 

生成されたのは、グリスやクローズチャージなど、スクラッシュゼリーで変身するライダーの標準装備であるツインブレイカー。

だが、生成されたのは片手に一つではなく、両手に二つ。かつてグリスがドラゴンゼリーを使用した時と同じように、ツインブレイカー二つ持ちのスタイルとなったのだ。

 

 

【アァタックモォードォッ!】

 

 

【ビィームモォードォッ!】

 

 

右手のブレイカーをアタックモードに、左手のブレイカーをビームモードに変え、オーバースマッシュへ向けて落下していく。左のブレイカーから放たれるビームで牽制したことにより、オーバースマッシュも防性の随意領域(テリトリー)を張る。

 

「舐めんじゃねえェェッ!!」

 

だがグリスチャージは、ブレイカーのエネルギー分のビームを撃ち切ると、ブレイカーを持った右手を弓を引くように構え、肩部のゼリーを全てオーバースマッシュへの推進力に回して加速させた。まるで天から落とされるミサイルのように、凄まじいスピードでグリスが迫る。

 

アmA位ワYooooo!!

 

しかし、相手もスマッシュ化したとはいえ、元はアデプタスナンバー3に名を連ねていたエース。その無謀とも思える、しかし凄まじい速度による突撃を読むと、自らの触手を蠢動させ、グリスの迎撃へと向かわせる。

 

「そのタコ足も、いい加減見飽きたぜ!!」

 

だが、触手がグリスチャージを貫かんと向かった瞬間、ゼリーを噴射しているグリスチャージの肩部のアーマーが回転し、横方向へとゼリーを噴射し始めた。推進方向の変化により、グリスチャージの身体は直進方向から横方向へと回転。右手に持ったブレイカーを思い切り押すように腕を伸ばし、迫ってきた触手を全て刈り取る。

 

「激情ッ!」

 

【アァタックモォードォッ!】

 

 

そして、先程までビームモードだった左のツインブレイカーをアタックモードに切り替え、素早くボトルを二本セットした。

 

 

シングルゥッ!ツインッ!!

 

 

ツインブゥレイクゥッ!!

 

 

「蒼炎ッ!!」

 

ユニコーンとジェットのボトルで強化されたレイジングパイルが、強固に張られたオーバースマッシュの随意領域(テリトリー)を突破する。

 

チiィッ!!

 

「列波ァッ!!!」

 

オーバースマッシュは瞬時に躱そうとするも、一歩遅かった。必殺の一撃のパイルは本体にこそ届かなかったものの、側部に取り付けられた魔力砲へ深々と突き刺さった。血色に蠢く巨大な砲身が捻じ曲がり、生々しくヒビ割れ、内部から魔力が漏れ出す。

 

くSォッ!!

 

オーバースマッシュが魔力砲を切り離すと、砲は重力に従って地に堕ちていき、やがて爆破した。グリスチャージは肩部のゼリー噴射で空中へ留まり、隙も見せずに再びオーバースマッシュへの向かっていく。

 

何Naノヨ………!nAんナNぉヨ!オ前Waぁぁぁぁッ!!!

 

「仮面ライダー、グリス!………改めて、グリスチャージだァァァッ!!」

 

狂気染みたオーバースマッシュの叫び声に応え、グリスチャージは大空を舞い、戦いを繰り広げていった。

 

 




どうでしたか?時間かけた割に短くてすいません。
本当なら今回中に空中戦は決着つけたかったんですが、また持ち越しに。エネミーキャラが原作からして強すぎるのが悪いんじゃ。

と言うわけで、二話連続の強化フォーム登場!

その名も、仮面ライダーグリスチャージです!


【挿絵表示】


はい、と言うわけで。私がビルド見てた時からやりたかったアイデアを、今回ようやく出せました。
折角ドラゴンゼリー使ってるんだから、2ライダーの力が合わさった強化フォームとか出たらなぁ〜、みたいに思ってたので、今回出せて嬉しいです。

スペック自体はグリスブリザードよりかは低いです。詳しくは六章後に出す設定集にて……。

それでは次回、『第77話 心に剣、輝くブレイブ』をお楽しみに!

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第77話 心に剣、輝くブレイブ

士道「仮面ライダーアライブこと五河士道は、美九と共に、敵地の最上階へとたどり着く!」

一海「そしてその間、空中でこの俺、かずみんこと仮面ライダーグリスと、タコ足スマッシュによる激しい激闘が繰り広げられた!絶体絶命かと思われたその時、ついにグリスがパワーアップゥ!」

真那「あそこからよく持ち直しやがりましたね。それにしても、あの変身の時のクセの強い音はなんとかならねーんですか?」

一海「しらねぇよ、開発者(戦兎)に聞いてくれ。まぁ今いねぇけど」

士道「………つーかそうじゃねぇよ!前回から一体どれだけの時間が空いたと思ってるんですか!ようやく更新再開!みたいに息巻いてたのに!」

一海「このあらすじ紹介もだいぶ久しぶりだな」

士道「ああもう、ちゃんとやれっかな………つーわけで、みんな、待たせたな。いよいよ第77話、スタートだ!」


 ファングはマイティに対しスラスターを噴かせ、ファングクラッシャーの砲口から一条のビームを放つ。放ちながらスラスターの方向を直線へと変え、急速に接近していく。

 

 

【エッジ・ファング!】

 

 

 やがてビームが止むと、今度はファングクラッシャーの下部からブレードを展開し、攻性の随意領域(テリトリー)を展開してマイティの随意領域(テリトリー)を斬り裂く。

 が、そのブレードがマイティ本体に届くことはなく、すぐにデュアルスレイヤーに防がれ、接した点から火花が散る。

 

「くっ……!」

 

『______一手』

 

 マイティがそう呟くと、腰に挿したもう一本のレイザーブレイドを振るい、ファングの懐へと斬りかかる。

 

「ちぃ……ッ!」

 

 それに気付くとすぐに体勢を変え、斬り込まれるポイントに随意領域(テリトリー)を張る。だが、それも完璧ではない。マイティの振るわれたブレイドは随意領域(テリトリー)を削ると、デュアルスレイヤーによる膂力も加えてファングを後方へ大きく吹き飛ばした。

 

 そこで生じた隙をマイティが逃すはずも無く、スラスターで急速に接近すると、デュアルスレイヤーとレイザーブレイドの二刀流で以って上段から斬りつけた。

 

『二手______』

 

「ぐっ、この………!」

 

 急いで体勢を変え、防性の随意領域(テリトリー)を張りつつ回避の手を取る。デュアルスレイヤーによる一斬は、どうにか随意領域(テリトリー)で防ぐことが出来た。

 だがマイティはそれを防がれる事を読んで、再度接近。続くレイザーブレイドの一撃を、至近距離で喰らわせようとした。

 

『三手_____チェックメイトです』

 

 宣言し、光の刃が振るわれる。

 強固な随意領域(テリトリー)によって編まれた、濃密な魔力のブレードがファングに向けられた。

 

その絶対的な一撃を、防ぐ手は______

 

 

「______ハッ!!」

 

 

 ________思わぬ所から、()()()()()

 

『何………?』

 

「ぐっ_____!」

 

 防いだのは、ファングの右腕だ。右手に持っていたはずのファングクラッシャーは、空中で随意領域(テリトリー)によって浮遊していた。

 

 否、正確に言うならば、防いだのは右腕の甲_____そのスペースから伸びた、鋼色に光る爪である。

 

 【ウルフェイタルファングズクロー】_____ビルドのスマホウルフに搭載されていた【ウルフェイタルクロー】。それを発展させた、ファングの隠し手である。その表面はクラッシャーのブレードと同じく、ファングの生成魔力により作られた細かなレイザーエッジが蠢動し、ウルフマテリアルボトルの成分により、普通の状態でもかなりの強度を誇るのである。

 

『爪____そのような物を、隠していたとは』

 

「はんっ……奥の手ってのは、最後まで隠しときやがるモンですよ!ハァッ!」

 

 強がるファングだが、この機能の事を知ったのはついさっきの事である。しかし、相手が勘違いしてくれているなら別にいいかと、敢えてこう言った。

ともあれ、レイザーブレイドを防いだファングは、そのままクローで弾き返すと、空中で静止していたファングクラッシャーを引き上げ、左手に装備する。

 

 その瞬間、常人には目にも留まらぬスピードで、ファングはマイティへと向かっていく。マテリアルボトルを装填したファングクラッシャーを、エッジモードで蠢動させる。

 

 

【ONE SLOT!】

 

 

【シングルテアーッ!!】

 

 

「ハァッ!」

 

 音声が鳴るとともに、エッジに蒼いエネルギーが纏われる。

そのままそのエッジを、さながら一陣の蒼雷の如し速度でマイティへと振るった。だが、相手は最強の魔術師(ウィザード)にして、最悪の仮面ライダー。

 そんな簡単に攻撃は通らず、デュアルスレイヤーにより防がれる。

 

『直線的ですね。躱すまでも_____』

 

 だが、この攻撃は囮。こんな直線的な攻撃は、彼女に対して有効打足り得ないことはファングも十分分かっている。

 エッジがスレイヤーの刃に触れた瞬間、ファングは自らの随意領域(テリトリー)を微調整し、スロットからマテリアルボトルを勢いよく引き抜く。そしてそのまま空中で操作を途切らせず、ドライバーにセットさせた。

 

 

【CHARGE GO NOW!!】

 

 

 瞬間に、ファングは身を後方へとほんの少しだけズラし、右手に持っていたファングクラッシャーを上空へと放り投げる。

 

『な………』

 

 その咄嗟の行動により、一瞬だけマイティの意識がそちらへと移る。その隙を逃さず、右腕から伸びたクローと、両脚にエネルギーを充填させ______

 

 

ハウンディング フィニッシュ!!

 

 

「オリャァァァ____ッ!!」

 

 目にも留まらぬスピードで、パンチ、キックの応酬、凄まじいラッシュを叩き込む。狼が吠えたかのようなビジョンが浮かび、苛烈な攻撃がマイティへと襲いかかる。その荒々しさは、さながら獲物を噛み砕く獣か。

 

『く………』

 

 マイティはすぐさまその攻撃を、防性随意領域(テリトリー)で以ってガードする。だが、いかにマイティの随意領域(テリトリー)とて、ドライバー性能が上回るファングの渾身の必殺技を相殺するまでには至らない。さらには直前に注意を逸らされたことにより、随意領域(テリトリー)が不完全な状態だった。

 即ち______

 

「オォォォオ____アタァッ!!」

 

『な……っ!?』

 

 最後の一撃とばかりに放たれたクローの一撃が、マイティの堅牢なる随意領域(テリトリー)の守りを僅かながら撃ち破った。

 だがそれだけでは、マイティにはダメージを与えられていない。

 

 あと一手必要だった。あと一手あれば、ファングの牙は黒龍に届く。

 

 そしてその手は、先程ファングが上空へと置いていた。

 

『しまった………!』

 

 マイティが見上げる先には、先ほど空中に放り投げられて、軽く弧を描きながら宙を舞うファングの武器。ファングクラッシャー。

 

 ファングは空いていた左手を空に上げると、随意領域(テリトリー)を操作しクラッシャーを引き寄せた。

 

 ______最強へと一度だけ届く、一手を_______!

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉお______ッ!!」

 

 ファングクラッシャーのエッジの先に魔力を纏わせた事により、光刃によって刃渡りが一〇センチほど伸びる。

 その伸びたブレード諸共、マイティ目掛けて振り抜いた。

 

『は、ぐ………ッ!?』

 

 その刃の先に感じる確かな手応えと共に、マイティの苦悶が響く。

 だが次の瞬間、ファングは脚を見えない手に掴まれ、ビルの壁面目掛けて放り投げられていた。

 

「く………!」

 

 最大出力で減速させ、どうにか壁との衝突を防ぐ。呼吸を荒くしながら、先の交戦で酷使した右肩を押さえる。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

『………やってくれましたね』

 と、マイティが忌々しげな様子でファングを見据える。

 胸元から腹部にかけてアーマーとアンダースーツが破壊されており、生身の肌に、痛々しい傷跡が刻まれていた。随意領域(テリトリー)で止血は済ませてあるようだが、傷を負った際に飛び散ったと思しき血痕が、黒いアーマーに飛び散っていた。

 

 マイティが、デュアルスレイヤーの切っ先をファングに向ける。

 

『裏切ったとはいえ、かつては私に並ぶDEMのナンバー2だっただけの事はあります。私の身体に傷を付けた人間は、生涯で二人目です。………真那。あなたは誇っていい。_____その誇りを冥土の土産に、今度こそあの世へと送ってあげましょう』

 

「く………」

 

 ファングは疲労に軋む身体をどうにか支えて、右手にファングクラッシャーを構えた。だが、どうにか一矢報いたとは言え、未だ戦力差は開いたまま。更に疲労も相まって、このままではジリ貧である。

 だが、そこでマイティはピクリと反応を示すと、何やら耳元に手を当てた。

 

「______アイク」

 

 そしてもう一度ファングを睨み付けてから、第一社屋の方へと顔を向けた。

 

「っ、どこへ行きやがるつもりですか!?」

 

『時間切れのようです。続きはまた次の機会に』

 

「ッ、させると思いますか……っ!」

 

 第一社屋の方には、兄である士道や仲間達がいる。ファングはマイティを追おうと、スラスターを噴かせようとした。

 だがそんなファングの前に、突如降って湧いたように数体の影が現れた。

 

「っ、バンダースナッチ………!」

 

 意思を持たぬ機械人形が、ファングの前へと立ち塞がる。

 ファングは焦りに渇く喉に唾液を落とし、右手の刃を蠢動させた。

 

 

 

 

 _______IDを使い、扉を開ける。

 

 士道は美九を伴いながら、注意を払って部屋の中に足を踏み入れた。

 隔壁の内部は、フラクシナスの隔離エリアによく似た、少し広い構造になっている。広く仄暗い研究区画の中に、強化ガラスで囲われた空間が設えられていた。

 

「………!」

 

 目を見開く。その中に、椅子に手足を拘束された十香がいたのである。眠っているのか、顔をうつむかせていた。

 

「十香!」

 

 叫ぶも、こちらからの音声は聞こえていないようだった。恐らく、フラクシナスのそれと同じ構造なのだろう。

 ならばどこに入口が。いや、そんな悠長なことを言ってられない。いっそ壁を壊してでも______と。

 

 そこで、士道は身体の動きを止めた。

 誰もいないと思っていた研究区画の中に、男が二人、一人は士道達に背を向けて椅子に座り、もう一人は椅子の背もたれに肘を突き立っていたのである。

 

「く___」

 

 士道は気を緩めず、ドライバーを構える。吐き気すら催すほどの悪の気配が、奥から漂ってくるのを感じた。美九もその気配を感じ取ってか、警戒するように破軍歌姫(ガブリエル)の銀筒を構える。

 

「____よぉ。久しぶり………でもねぇか。さっきぶりだな、五河」

 

 二人の人影のうち、立っていた男が不自然な程に軽快な声を響かせ、まるで親しい友人であるかのように両手を上げて、士道達の方へと向かってきた。

 殿町宏人____否。諸悪の根元、マッドクラウンその人であった。

 

「クラウン…………ッ!!」

 

「……もう、殿町とは呼んじゃくれねぇか。___ま。お前と過ごした学園生活は、なかなか悪く無かったぜ?五河」

 

 殿町はそう言い肩をすくめると、冗談めいた小さな笑みを浮かべた。

 その様子____まるで、()()()のようなその振る舞いに、士道は言葉を続けずにはいられなかった。

 

「全部___嘘だったのか?今まで………学校で過ごしてきた思い出も、気さくに話しかけてくれたことも……クラスや、学校のみんなとの時間は、何もかも偽りだったのかよッ!!」

 

「……全部が全部、嘘だったって訳でもねぇさ。たまに楽しんで笑ったりもしたし?ちったぁ悪いこともしたとも思ってるよ」

 

「ッ……!ふざけんじゃねェッ!!」

 

 殿町の言葉に、士道は激情を顕にして叫んだ。

 ドライバーを腰に当て、変身しようとした、その時。

 

「____まぁまぁ、クラウン。折角来てくれたんだ、そう挑発することもないだろう?君たちは、【プリンセス】の友人……でいいのかな?」

 

 椅子に座っていた男が、静かな声を響かせ、椅子から立ち上がる。そして、ゆっくりとした動作で士道達の方に振り向いてきた。

 

「お初にお目にかかるね。DEMインダストリーのアイザック・ウェストコットだ」

 

 言って、その鋭い双眸を細めてくる。

 燻んだアッシュブロンドの髪と、長身。そして、どこか猛禽類を思わせる鋭い____ドス黒い双眸が特徴的な男である。 

 

 その顔を見て。その名を聞いて、士道は微かに眉を潜めた。

 

「アイザック……ウェストコット」

 

「よく来てくれたね。【ディーヴァ】に___」

 

 と、ウェストコットが美九に視線をやり、次いで士道に視線を向けた途端、言葉を止めた。

 

「ん?どうしたんだ?Mr.ウェストコット?」

 

 そして一瞬呆けたような顔を作った後、訝しげに眉を潜める。

 

「君は……何者だ?まさか………いや、馬鹿な。有り得ない、そんな筈は……」

 

 ウェストコットが何かを思案するように、口元に手を当てる。士道は彼の行動が分からなかったが、彼にこう返した。

 

「俺は_____仮面ライダーアライブ。五河士道!ここに、十香を助けに来たッ!今すぐ十香を解放しろ!!」

 

 そしてそう叫び、右手に灼爛殲鬼(カマエル)を出現させ、その先端をウェストコットに向ける。

 瞬間、ウェストコットは大きく目を見開いた。そしてしばしの間、士道の顔をまじまじと見つめ____

 

「___カメンライダー、アライブ。イツカ____シドウ。君が?」

 

 やがて、くつくつと喉を鳴らし始める。

 

「……くく、精霊の力を扱うことができる少年……まさかと思ったが、なるほど、そういう事か。くく、はは、はははははははは!!」

 

「な、何笑ってやがる!!」

 

 その突然の変容に、士道は叫び、灼爛殲鬼(カマエル)の柄を握り直した。

 しかしウェストコットは、構うことなく身を捩って狂ったような笑いを響かせる。

 

「滑稽じゃあないか。結局全ては_____()()()の掌の上だったというわけだ」

 

「なぁ?言った通りだろう?面白い事になるってよ」

 

「ああ!感謝するよクラウン。君は全く最高だ!」

 

 二人が狂気じみた笑い声を上げながら、まるで親しい友人のように話す。

 すると、士道の隣に控えていた美九が、気味悪そうに声を発してきた。

 

「……なんですかぁ、この人達。どこかおかしいんじゃありません?あぁあ、だから男は嫌なんですよー」

 

「別に男なのは関係ねぇと思うがな……早く十香を解放しろッ!!」

 

 士道が灼爛殲鬼(カマエル)を突き付けながら叫ぶと、ウェストコットは心底愉快そうに方を揺らした。

 

「もしもその言葉に従わなかったら、どうなるのかな?」

 

「悪いが無理やりにでも従ってもらう!!従わねぇなら………ここで叩っ切ってやる!!」

 

 士道の脅しに、しかしウェストコッとはくつくつと笑った。

 

「できるのかな?君に」

 

「できるとも。十香を助けるためなら、なんだってな!」

 

 言うと、続くように殿町が言った。

 

「ついこの間まで、友達だったやつにも、か?」

 

「……ッ!」

 

 クラウンの揺さぶりに、士道は一瞬言葉を詰まらせる。

 だが、士道は改めて視線を殿町____否、クラウンに向け、言い放った。

 

「……戦うさ。お前はもう、俺の知ってる殿町じゃねぇッ!!」

 

 それを聞くと、クラウンは肩をすくめて返した。

 

「言ってくれるねぇ。___ま、分かったよ。お前のその覚悟に免じて、俺はお前に手を出さないさ。……Mr.ウェストコット?」

 

「分かっているよ。私はクラウンやエレンのように強くないんだ」

 

 そう言うと、ウェストコットは手近にあったコンソールを操作した。

 すると、部屋中に響いていた小さな駆動音のようなものが小さくなり、辺りがふっと明るくなる。次いで、十香の手足を拘束していた錠がガチャリと音を立てて外れた。

 

「ッ、十香!」

 

 士道が叫ぶと、椅子に座っていた十香が、ふっと顔を上げた。どうやら、ガラスの内側にも声が通じているらしい。

 

『シ……ドー……?』

 

 そして身を起こし、微睡みを振り払うように目を擦ってから、士道の方へと目を向けた。

 

『!シドーッ!』

 

 士道の姿を確認するや、十香は勢いよく立ち上がると、全身に貼られた電極をぶちぶちと剥がして、士道の方に駆けていった。

 そして強化ガラスに両掌と額を押し付けながら、今にも泣きそうな表情を作る。

 

『シドー……シドー、シドーっ……!!』

 

「十香……!悪いな、遅くなって。待たせちまった」

 

 士道の言葉に、十香がブンブンと首を振る。その仕草に、士道は思わず口元を緩めてしまった。

 どうやら無事なようだ。とはいえ、まだ声と姿を確認しただけで、十香を救出したわけではないのだ。未だ二人の間には、分厚いガラスの壁が存在している。

 

「おい!あんた、ここを開けやがれ!」

 

「そんな立派な得物を持っているんだ。自分で切り裂いてみてはどうかな?」

 

 ウェストコットが肩を竦めながら言い、クラウンがニヤニヤと薄ら笑みを浮かべる。士道は苛立たしげに眉根を寄せた。

 

「……美九、言うことをきかせたい。頼んでもいいか?」

 

「ふん、あなたに指図されるのは気に入りませんけど、特別に乗ってあげますよ」

 

 言って、美九が一歩足を踏み出す。美九の声にかかれば、どんなに強固な態度を取ろうとも絶対に言いなりになってしまうのだ。

 だが、二人は美九の能力を知ってか知らずか____恐らくクラウンは知っているだろうに____悠然とした笑みを浮かべるのみだった。

 

「ああ____そうそう、一つ言い忘れていたが。イツカシドウ」

 

 そしてそのまま、小さく唇を開く。

 

「_____そこに立っていると、危ないよ」

 

「は…………?」

 

『っ!シドー!後ろッ!!』

 

 士道が戸惑いの声を漏らし、十香がガラス越しに悲鳴じみた声を上げたのと同時。

 

 ______ぞぶっ。

 

「が____________っ?」

 

 奇妙な音と共に、士道の胸に、熱い感触が生まれた。

 ゆっくりと視線を下ろすと_____自分の胸元から、レイザーブレイドの刃が生えていることに気付いた。

 そして、視界をさらに動かすと____後方に、黒い竜の仮面と、白銀のCR-ユニットを纏ったライダーの姿があった。

 

「マイ、ティ………え、レ、ン………っ!?」

 

『_____アイクに向けられる刃は、全て私が折ります』

 

 淡々とした調子でエレン____マイティがそう言い、士道の胸からレイザーブレイドを引き抜く。

 

「あ、が………」

 

 それと同時に、士道は夥しい量の血飛沫を身体から吐き出し、床に倒れ伏した。

 

『シドー!シドぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 ガン、ガン、と、十香が幾度もガラスの壁を叩き、士道に呼びかける。

 答えたかった。こんなの何でもないと、誇らしく言ってやりたかった。

 だが、士道が受けた傷が、それを許さなかった。全身から一切の自由が奪われ、右手の灼爛殲鬼(カマエル)も消えていく。

 

「___はははっ!だから言っただろう?()()()()()()()()、ってな。嘘は言っちゃいないぜぇ?」

 

 クラウンが挑発するようにそう言う。だが、その声に返す言葉も、今の士道は紡ぐことが出来なかった。

 

「十、香……………」

 

 掠れた細い声で、小さく呼び掛けた。だがもう、既に限界だった。

 声を出すことすらも躊躇われるほどの、激痛。

 視界が真っ赤に、血の色へと染まっていく。

 琴里の加護____その身に受けたあらゆる傷を癒すはずの治癒の炎の熱さも、今は遠い。

 全てが、わからない。

 

 

『___た。____が___ます』

 

『_____を_____しま_____うか___』

 

「ああ_____さ。_____が____だ』

 

 

 ノイズのような雑音が、耳に流れ込んでくる。

 

 それは十香の声か。美九の声か。クラウンの声か。ウェストコットの声か。マイティの声か。

 

 何も分からぬまま、士道の意識は、深い深い沼へと沈んでいく。

 

 落ちたら二度と戻ることの出来ない_____死への道。

 

 このまま、自分は、五河士道は、死ぬのか。

 

 何も為せず、何も果たせず、何も救えず。

 

 何も残せぬまま、仮面ライダーアライブ_____五河士道は、ここで、死ぬ。

 

 全てが薄れ、闇に染まっていく_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『____お腹が空いたぞ、シドー!』

 

 

 

 

 ______笑顔を、見た。

 

 

 

 

『____シドー、シドー、シドー………っ!!』

 

 

 

 

 ______涙を、見た。

 

 

 

 

『____シドーが誰かの笑顔を守るなら、私は____シドーの笑顔を守るだけだ』

 

 

 

 

 ______勇気を、見た。

 

 

 

 

『____シドーは、シドーだ!』

 

 

 

 

 ______笑顔を見た。

 

 

 

 

『____私のヒーローの、シドーだぞ!』

 

 

 

 

 ______くしゃっとした、笑顔を見た。

 

 

 

 

『____シドー!』

 

 

 

 

 ______守ると誓った………笑顔を見た。

 

 

 

 

「ぁ________」

 

 

 閃光のように、流れ込んでくる。

 

 士道が見た、十香が。

 

 その笑顔が、もらった言葉が。

 

 

「そう………か。そう、だよな………」

 

 

 その閃光を、士道は知っている。その光が齎す、胸の内を包むものの正体を、アライブは知っている。

 

 走馬灯_____否。これは、勇気。

 

 

 生きるための勇気。

 

 立ち上がるための勇気。

 

 そして____戦うための勇気。

 

 

「俺、はァ…………ッ!!」

 

 

 その勇気を胸に____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ____アアァァぁぁぁぁぁアァぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

『な……っ!?』

 

 士道は、吠えた。

 痛みを振り払うように叫び、最後の力を振り絞って、全身に力を入れる。そのあり得ない雄叫びに、傷をつけたマイティが驚愕の声を上げた。

 が。

 

「ぐっ………!!」

 

 起き上がろうとした瞬間、貫かれた胸部を起点に、激痛が走る。

 まだ灼爛殲鬼(カマエル)の炎による治癒が済んでいないのだろう。未だ傷口を炎が舐め、溢れる血が少しずつ減っていく。

 未だかつて経験したことのないほどの、凄まじい痛み。

 だが。

 

「それが……っ!どうした…………ッ!!」

 

 士道は歯を食いしばって、精一杯耐える。

 そう、痛いのなら、耐えるだけだ。

 身体の傷なら、例えいくら時間がかかったとしても、灼爛殲鬼(カマエル)の炎が癒してくれる。

 

 

 _____痛みを恐れるな。希望を捨てるな。

 

 

 痛みが怖くってどうする。(アイツ)が怖くてどうする。

 士道にとって何よりも恐るべきは、今この場で十香が奪われること。

 自分がここで倒れて、何も守れぬまま力尽きること。

 

 

 _____そんなこと。

 

 

「そんな事_____させるかァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!」

 

 

 叫び、そして____士道は、二本の足で、もう一度立った。

 

『馬鹿な………!』

 

「____ほう?」

 

 

 マイティが狼狽に満ちた呟きをし、ウェストコットが興味深げに吐息を漏らす。

 

『シドー……?………シドーッ!!』

 

 勇者は立ち上がった。守るべき者の笑顔を胸に、閃光の勇気を掲げて、不死鳥の如く燃える魂をその身に宿して。

 

 

 

 

 

 

 ______その時、不思議なことが起こった。

 

 

 

 

 

 

 ______ピキィィィィィィィ……………ッ!!

 

 

「………何?」

 

『これは……!?』

 

「………おいおい、マジかよ」

 

 士道の肉体から、溢れんばかりの光が放たれ、その相貌の目から下に、涙のように光るラインが浮かび上がる。そしてさらには灼爛殲鬼(カマエル)の炎が、致命傷であったはずの胸の傷を瞬く間に包み込み、短時間の内に治癒してしまったのである。

 

 やがて、士道から溢れた光は一つに集まり、士道の眼前に、一つの形を創り出した。

 

『あれは……!』

 

「っ……鏖、殺公(サンダルフォン)……!?

 

 そう。

 十香の持つ力にして権能。精霊を精霊たらしめる理外の力、天使。鏖殺公(サンダルフォン)

 

 その剣は士道の前で光り輝くと、二つの光条となった。そしてその光に引き寄せられるように、士道の胸元からある物が飛び出してくる。

 

「これ、は……」

 

 そこに現れたのは、一本のボトル____【サンダルフォンエンジェルフルボトル】と、連れ去られる前に戦兎が投げ渡してきた、小さな鈍色の玉座。

 

 

 そして、光はボトルと玉座に降り注ぎ、ボトルにはより一層の輝きが、鈍色の玉座は美しく彩られ、黄金色に輝く、さながら十香の鏖殺公のような玉座へと変わった。

 やがて光が霧散すると、それら二つは士道の手元へと吸い寄せられるように落ちていき、収まる。

 

 するとその瞬間、部屋中に笑い声が響き渡った。

 

「くく………ははははは!いやはや、やっぱり面白ぇなぁ、五河!まさか、お嬢ちゃんの攻撃を受けて尚立ち上がるとはなぁ!」

 

『……関係ありません。もう一度斬るだけです』

 

 マイティが再び刃を構え、士道に近づこうとする。

 

『っ!シドー………っ!!』

 

 すると、十香がガラスを叩いて、懸命な声でこちらに呼びかけてきた。

 だが士道は、そんな十香に向かって笑みを浮かべると、一言告げた。

 

「ちょっと待っていてれ。____すぐに迎えに行く」

 

『っ……!』

 

「だから____力を、貸してくれ」

 

 

 士道は向き直ると、リビルドライバーを腰部にセットした。

 

 ______キンキン、キンキン、キンキン______

 

 

 サンダルフォンエンジェルフルボトルを振ると、そこから剣のような無数の金属音が響く。

 そして、左手に持ったガジェットにボトルを装填すると、ガジェット上部の【ブレイディングスターター』を押し込んだ。

 

 

 

【激斬ッ!!】

 

 

 

 さらにガジェットを、ドライバーへと勢いよくセットする。

 

 

 

アライブサンダルフォンッ!!

 

 

 

 荘厳な音が鳴り響き、士道はボルテックレバーを握りしめ、回した。

 回すと、変身用顕現装置(リアライザ)が臨海駆動を始め、士道の周囲を囲うように夜色の光のラインが現れ、そのライン上を回るように複数の金色の支柱型ビルダー、【ASピラーズビルダー】が浮かび上がった。

 そしてファイティングポーズを取り、変身の構えを取る。その瞬間、ピラーズビルダーの形状が変化し、マスク、胸部アーマー、腕アーマー、脚部アーマーへとその形を変えていった。

 

 

 

【Are You Ready?】

 

 

 

 その、いつも迷う心を突き刺す問いかけに。

 

 士道は、寸分の迷いなく叫び応えた。

 

 

 

「変身ッ!!」

 

 

 

 その瞬間、周囲を漂っていたアーマー、【キングダムアーマー】が、士道の肉体を包み込み。

 全身から淡い光を発し、腰からヴェールのようなマントが生成された。

 

 

 

閃光ブレイブソォードォッ!!アラァイィブサンダァルフォォンッ!!

 

 

 

スパスパスパスパシュッパァァーンッッ!!!

 

 

 

 

 _____そこに立つは、黄金の戦士。

 

 

 お姫様(プリンセス)から賜った、黄金と夜色の鎧を身に纏い、右手に大剣を携えるその姿。

 

 それはまさしく、御伽噺のような____囚われの姫を救う、勇者の姿だ。

 

 

 その名も_____仮面ライダーアライブサンダルフォンである。

 

 

 アライブサンダルフォンは、マイティに剣を向け、勇しく言い放った。

 

 

「さぁ____俺たちの戦い(デート)を、始めようか」

 

 

 

 

 




 どうでしたか?
 またしても更新が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。

 そしてすいません、長くなりそうでしたので、新フォーム、アライブサンダルフォンの本格的なバトルは視界になるかと思われます。

 こちらがイラストでございます。


【挿絵表示】



 そして、一つご報告がございます。

 既に活動報告で見た方もいるかもしれませんが、このデート・ア・ビルド。

 リメイクをすることを決定いたしました。

 理由はいくつかありますが、まずはVシネなどを見た上で、設定を見直さないといけない点や、情報の描写不足が目立ったこと。
 
 そしてもう一つ、これは完全に個人的な理由なのですが、戦兎達のメインヒロインである八舞編を、どうしても書き直したいという欲に駆られました。
 もっとメインヒロインの章として、インパクトのあるものに仕上げたいと思っております。

 とはいえ、リメイク、と言いましたが、今、新しく投稿し直すか、加筆修正するという形にするかで迷っております。
 投稿し直しの場合、今連載しているこのデトビルは、折紙編を目処に更新が終わると思われます。

 久しぶりの更新で、勝手な事をいってしまい申し訳ありませんが、どうかご理解の程よろしくお願いします。

 
 それでは次回、【第78話 閃光のブレイバー』をお楽しみに!

 よければ高評価や感想、お気に入り登録よろしくお願いします。





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