鷹月夕矢は想い続ける (こうが)
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オリ主・物語解説&番外編
鷹月夕矢・設定資料集(新キャラ紹介更新完了)


 鷹月夕矢 

 

『お前は1人じゃない。ここには防人の皆もいるし、何より……俺がいる』

 

 今作の主人公。楠芽吹の幼馴染、『基本的』には冷静であり落ち着いた物腰をもった少年。33人いる防人の中で、唯一の男性であり、メンバーの一人。隊長である芽吹と共に防人隊をまとめる防人番号2番、副隊長。

 

身長・161㎝

学年・中学2年

誕生日・9月7日

血液型・B型

趣味・特になし

特技・槍術、弓術、体術など様々

好きな食べ物・わかめうどん

大切であり好きな人・芽吹

 

 鷹月夕矢

 

 

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〜人物像〜

 

 一人称は「俺」。上記のように、『基本的』には冷静であり落ち着いて物事を捉えるクール寄りな人物。多少口が荒くなる時はあれど、根は優しく細かな気遣いも出来る所から、人間的にも、副隊長としても、他の防人面子達からは好印象を受けている模様。

 

 彼は小学生の頃から、幼馴染である芽吹に対し恋心を抱いており、彼女がいなくなった2年間の間もその気持ちを途切れさせる事はなく、現在でもその想いは消えていない。寧ろ、想いが大きくなり過ぎて歯止めが効かなくなっている事が問題である。

 

 口を開けば、芽吹本人に「傍にいたい」や「好きだ」など、他人から見たら恥ずかしくなってしまう様な言葉を人前でも一切気にせずに口にする。本人はその事を周りに指摘されても大概首を傾げる為、周りからはある意味で尊敬されると共に呆れられている。時には都合のいい解釈を勝手にしたり、芽吹から怒られて喜んだり、芽吹から好意的な行動を取られたら失神しそうになるなど、割と『アレ』な部分が目立つ。

 

 また、大好きな芽吹を貶されたりすると秒でプッツンするらしく、こうなったら止める術はないとされている。実際、小学生時代では芽吹を貶したいじめっ子達と大喧嘩を起こしたり、防人になってからでは、シズクが芽吹に対し暴言を吐いた際にも喧嘩腰で彼女に挑んだ。

 

 この事から、雀、夕海子、しずく、亜耶ちゃんのいつメンだけでなく、他の防人メンバーなどからも『芽吹依存症』として認知されてしまっている。実際に行き過ぎた行動も多く、周りを困惑させたりすることも多い。

 

 とは言ったものの、彼の芽吹に対する気持ちは本物であり、何度も彼女を助け、そして誰よりも傍で支えている。上記の行動も、真に芽吹を想って(想いすぎて)いるからこその行動であると思われる。

 

 上記の内容だけ見ると芽吹しか大事に思っていないように聞こえるが、そんな事はなく……しずくの親について聞いてしまった時には、すぐに謝って空気を変えようと新たな話題を振ろうとしたり、訓練中に怪我をした雀を見て世話を焼くなど、仲間を大事にする様子が伺える為、決して芽吹以外はどうでもいいという訳ではない。

 

 戦闘においては、「部隊の誰も殺させない」という芽吹の方針の通りに動く。副隊長としての指揮力は中々のもので、かなり頼られている。また、機転の効いた戦術を取る時も有れば場合によってはゴリ押し戦法を取るなど、状況判断能力に長けている所も垣間見える為、やはり冷静よりの人物である(気がする)

 

 そんな彼の実家は、かつて神世紀72年に四国全土で発生した大規模テロ事件を、赤嶺家、そして弥勒家と共に鎮圧させた鷹月家でもある。最もそれを誇りに思っている夕美子とは対照的に、夕矢はこの事を一切誇りなどとは思っておらず、彼自身どうでもいいと考えている。彼のその考えは、大赦に勤めていた父親が鷹月家再興という願いを持ちながら、ある事故によって亡くなった事が原因である。

 

 

〜変身後と彼自身の能力について〜

 

 通常ならば防人になった場合、銃剣と盾のどちらか適正がある方になる筈だが、夕矢に至っては男性ということもあり、戦衣は変わらないものの装備が一新されたものとなっている。これを提案したのは夕矢とも面識があり、彼の父を先輩に持つ三好春信である。ちなみに、この力の最終的な調整を行なったのは晴信ではなく、別の人物であるとされている。

 

 変身後の武装

 

・リカーブボウ

 

 夕矢が扱っている主力武装。折りたたみ式でシングルアクションの展開ができ、弦は普段は収納されているが展開と同時に貼られる仕様となっている。起爆スイッチなども用意されており、トリックアローとの連動した扱いが可能になっている。接近戦の際には打撃武器として扱えるだけでなく、折りたたむ事で接近専用ロッドとして扱う事もできる。

 

・トリックアロー

 

 背負っている矢筒に装備されている様々な効果を持った多数の矢。普通の物から、小型リモコン弾、スタン弾、分裂弾、ワイヤー弾、衝撃弾などなど、これ以外にも様々な場面で役立つ矢がある。

 

 夕矢自身の能力

 

 並外れた身体能力を有しており、立派な山育ち。父親との特訓や鍛錬により身についた体術や槍術などの影響もあり、アクロバットな技を華麗な身のこなしで繰り出す事が可能。また、目の良さもあってか、卓越した射撃技術、反射神経を駆使し、弓で放った矢を百発百中で相手に命中させる、または外したかに見せかけて何かしらの効果を必ず加えるなど、弓使いとしての実力は常人を凌駕する。実際、防人内に於いても射撃技術に関しては彼の右に出るものはいない。生身の格闘戦や白兵戦においても申し分なく、隊長である芽吹、しずくのもう一人の人格であるシズクとも互角以上に渡り合っている(シズクには勝利している)

 

〜人間関係〜

 

・楠芽吹

 

想い人であり、幼馴染。二年間離れ離れだった反動もあり、防人になった今では大体共に行動している(夕矢が勝手に付いていっている)

場所を選ばずに直球で想いを伝えてくる彼をあしらいつつも、芽吹自身も満更ではないようで割と関係は良好。なんだかんだで信頼し合えており、戦闘の際にも息の合ったコンビプレイをする。思う所があるようで、現在では積極的……といったほどではないが、彼女も夕矢に対し好意的な態度を取る場面がよく見られる。もしかしたら、夕矢の想いが届く日もそう遠くないかもしれない。

 

・加賀城雀

 

守ってくれとせがんでくる同年代の少女。

芽吹とは対照的に彼女を割と積極的に守ろうとする、理由としては芽吹と加賀城のスキンシップ回数を減らす為だとか。多少、目の敵にしている部分はあれど、夕矢自身は彼女の能力、そして人柄を認めている。割と会話する機会も多いらしく、いつメンの中では2番目くらいに仲が良い。

 

・弥勒夕海子

 

落ちているとはいえ、名家の血筋を持つもの同士。上級生である為、もちろん敬語は使うが、ツッコミを入れる際にはタメ口になる。彼女からすれば、副隊長になった夕矢もターゲットらしく、度々勝負を挑まれてはコテンパンに負かせているそうな。しつこいとは思っておらず、寧ろ面白く感じているらしく、どんなに負けても挫けないタフさと不屈の精神、猪突猛進ぶりを夕矢は「尊敬する」と評している。ただし、弥勒家の為という部分にはあまりいい印象を持っていない。

 

・山伏しずく

 

『しずく』からは、芽吹以上に懐かれている様子。夕矢自身の性格上、しずくとも積極的に会話したり、関わったりする為、落ち着ける相手として認識されているらしい。多少、好意に似たようなものも見られなくはないが真相はしずくのみぞ知る。作戦能力に関しても、判断力、作戦をやり遂げる力においては防人内でもトップと感じている。

 

・シズク

 

芽吹を馬鹿にした許せない奴であったが、戦闘終了後良きライバルとして認め合う。当初は芽吹の想いを侮辱したものの、夕矢の真っ向からの反論に気圧されかつ決闘にも敗北した。従わされる側になっても、決闘後は意気投合し、割と『いい感じ』の関係性を築く。

 

・国土亜耶

 

良き後輩、自分達防人と共に歩んでくれる仲間として認識している。どこか面倒を見てあげたくなるタイプの子らしく、頭を撫でたり、励ましてあげる反面、その分、こちらの苦労や頑張りを理解してくれるいい子と評している。また、自分の芽吹への想いの伝え方を素晴らしいと評価してくれた事から、好感度はかなり高い。

 

・三好春信

 

実の兄のような存在。父の後輩である事から、関わる機会も多かった。現在においても印象は変わっておらず、防人としての力を授けてくれた事には本当に感謝しているとのこと。しかし、度々妹の話を聞かされるのは流石にうんざりしているそうな。

 

???

 

???

 

???

 

〜オリキャラ紹介〜

 

夕矢の母 鷹月朝緋

 

「あ、言い忘れてたけど……私、結構強いのよ?」

 

身長・164㎝

年齢・秘密

誕生日・9月19日

血液型・A型

趣味・お昼寝と鍛錬

特技・武術、料理、お裁縫

気になっていること・芽吹と夕矢はいつ結婚するの?早く結婚して?

 

 鷹月朝緋(通常時)

 

 

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 鷹月朝緋(戦闘モード)

 

 

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人物像

 

 一人称は「私」。青い長髪が特徴的な美人。お淑やかな雰囲気を醸し出しており、根も優しく非常にまとも。どこにでもいそうな普通のお母さん……という、見た目と性格をしているが言ってしまえば、それはあくまで仮の姿。

 

 実は夕矢に「俺が知っている人の中で最強」と言わしめるほどの実力を持ったやべー人。事の発端としては、夫である刀夜から武術を興味本位で習い始めた結果、思っていた以上に武術と自分の相性が良かったらしく、鍛錬を続けていたら手が付けられないくらい強くなっていた事が原因。その強さもあってか、地元の不良達からは姐さんと呼ばれている(過去に痛い目に遭わせたらしい)この作品におけるバランスブレイカーと呼ぶべき存在で、その実力は圧倒的。

 

 彼女の特性として、普段は長髪にしているが戦闘を行う必要があると判断した際、髪型をポニーテールにすると普段のお淑やかさは抑えられ、砕けた口調や態度をとるようになる。所謂『戦闘モード』というやつらしい。

 

 誰よりも家族の事を大事に思っており、夫が亡くなった際は悲しみに暮れ、立ち直るまでに時間が掛かったらしい。夕矢の事も軽く溺愛しており、ベタベタしようとする事が多い(多いだけで実際は出来てない)

 

 姉がいるらしく、現在では連絡を取り合う程度に留めているとか。理由としては、「目を合わせれば大乱闘になりかねないから」との事。朝緋曰く、「私が肉弾戦で最強なら、姉さんは頭脳戦最強」らしい。

 

 芽吹の事を夕矢のお嫁さんにしようとあの手この手で2人をくっつけようとする。しかし、一番重要な二人が軽く両想いである事を看破できてないため、だいぶポンコツ。

 

 〜武術、彼女の実力について〜

 

 武術を学んだ事で対人戦に於いては夫を上回る程の戦闘センスを有する。その影響か、武術とは全く関係のない格闘技の技なども取り入れるようになり、武道家というよりもチンピラのような喧嘩殺法を好みとしている。また、技的にもかかと落としなど少々危ない技を好んでいるとか。ぶっちゃけると武術と格闘技を混ぜ合わせた我流格闘術を有している。怖い。

 

 しかし、肉弾戦は大得意なのに反して得物を使った動きはからっきしで、剣道、弓道などそっちに関しては本人曰く「ぼっこぼこ」とのこと。

 

 後、着痩せするタイプの為非常に分かりにくいのだが……何がとは言わないがデカい。とりあえずデカい。

 

 

 黒衣の男(ローニン)

 

『じゃあな、昔の鷹月夕矢。せいぜい足掻いて、■■を失わないようにする事だ』

 

身長・171㎝

年齢・20歳(くらい?)

誕生日・忘れた

血液型・B型

趣味・特になし

特技・対象を始末する事

好きな食べ物・味のしないもの

嫌いな食べ物・わかめうどん

 

 幕間において、初登場。見た目は真っ黒の着物のようなものに身を包んでおり、忍者を思わせる風貌をしている。唯一、目のみが露出されている。

 

 夕矢の■の中で出会い、謎の殺意を彼に向ける。戦闘の端々で夕矢と通ずる部分があったりと、何かと夕矢に因縁がありそうな言動が多い。

 

 

〜戦闘能力〜

 

 戦闘スタイルは刀や手裏剣などの武具と、自身がかつて教わった格闘術を合わせたもの。

 その技術と力は夕矢すら凌ぐ。遠距離戦、中距離戦、近距離戦、どの間合いでも比類なき強さを見せた。また、矢を素手で受け止めるほどの目の良さと、瞬発力も有している。




物語を進めていく内にこの欄にも人物の名前や概要を増やしていきます!たまに確認する程度でも、また見てくださいね!


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番外編 二人の距離

初の番外編!
芽吹がちょい優しめ所ではなく、かなりデレている気がするぞ!


「……今日もいい調子だな」

 

ゴールドタワーの近くにある弓道場で、俺はいつもの如く鍛錬に励んでいた。今日は防人の御役目も訓練もない、休日なのである。

 

休日という訳で、他の防人の面子は仲の良いグループで集まりお出掛けなどもしているらしい。加賀城や弥勒さん、山伏、亜耶ちゃんも外出しているようだ。

 

そんな俺はもちろん、大好きな芽吹と過ごす為に朝から息巻いてたわけなんだが……。

 

(芽吹は……朝から神官に呼ばれてたな。お陰で声掛けそびれたじゃねぇかぁ!!)

 

朝食も食べ終わった後、俺はもちろん芽吹を一緒に過ごそうと誘おうとした。しかし、女神官の登場によりその夢は砕かれたのだった。恐らくだが、何か防人関連での報告やらなんやらに芽吹は駆り出されたのだろう。

 

「まーじで許さんぞ、あの神官……はぁぁぁぁぁ〜」

 

異常な長さのため息が漏れた。いや、わかる、わかってんだよ……芽吹に仕事があることくらい、でも、やっぱり休日は好きな人と過ごしたい。

 

(芽吹と二人っきりになれれば、なんでもよかったんだけどなぁ……あわよくば、一緒にプラモ作りとかも……まぁ考えても仕方ないか)

 

そう胸の内でぼやきながらも、順調に的のど真ん中を射抜く。なんというか、朝から芽吹と話せなかったのが相当響いているようだ。

 

「つーか、昼どうするかな。食堂……でも、一人でいってもなぁ」

 

ふぅ、と何度目かも分からない溜め息をついていると、道場の入り口が開かれた。

 

「ここにいたのね、夕矢」

「お、おお?芽吹じゃないか!」

「うるさい、いちいち叫ばない」

「おっと、悪い。つい反射的に……」

 

突然現れた芽吹に、多少(?)驚く。てっきり今日は何か用事があってゴールドタワーに篭りきりかと思っていたんだが。

 

「やっぱり、ずっとここで鍛錬してたわけね」

「丸々休みってのは、中々ないからな。たまには篭って鍛錬も悪くねぇかなと」

「ふーん、そう」

「芽吹は?神官さんとの用事は、済んだのか?」

「ええ、終わったわ。ちょっとした仕事を頼まれただけだからね」

「流石だな、ここに来たってことは芽吹も鍛錬か?銃剣の訓練をしに来たなら、手伝うぜ」

 

俺の言葉に対し、芽吹は首を横に振る。

 

「鍛錬はしないわ、休みだもの。しっかり休まないと損でしょ?所で、あんた昼食は食べたの?」

「いや、まだ食べてないが……それがどうかしたのか?」

「そう、だったら私の部屋に来なさい。昼食作ってあげるから」

「まじか、助か……って、ん……?」

「それじゃ、準備しながら待ってるから早めに来なさいね」

 

芽吹が軽く手を振りながら、そそくさと道場から去っていった。道場内が静寂に包まれている。鳥のさえずりがやたら聞こえ……って、んなことはどうでもいいわ!!!

 

「う、嘘だろ!?えっ!?いま、はぁ!?」

 

どういうことだ……今のは。俺の聞き間違いじゃなければ、め、めめめめめ芽吹が俺の事を、自分の部屋に来て欲しいと誘ってくれた?それだけじゃなく、昼食を作ってくれる……だと?

 

今まで、芽吹が俺を昼飯に誘ってくれた事なんてなかった。毎回俺が自分から付いて行ってたし……ましてや、昼食を自ら作ってくれるなんて。

 

(芽吹の手料理……俺、明日死ぬんじゃね?)

 

最高のイベント発生に思考がついていかず、その場から体が動かなくなった俺は、なんとか動く腕をクロスさせてこう呟く。

 

「今日は最高の休日だ……芽吹・フォーエバー!!!」

 

自分でも何を言ってるのか分からなくなってきたが、それくらい俺の嬉しさメーターは振り切れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音速で着替えを済ませて、道場から出てきた。今、俺は芽吹の部屋へと足を踏み入れようとしている。あ、やばい、なんか足めちゃくちゃ震えてきたぞ。

 

「落ち着け…俺」

 

聞いてないぞ、こんなイベント急に起きるなんて。てっきり今日は一日中一人で悲しく道場で鍛錬して、飯食って寝るなんていう悲しいスケジュールの予定だったんだが。

 

それが今はどうだ?……俺は好きな人に部屋に来て欲しいと誘われ、挙句手料理まで振る舞ってもらえるという。いわゆる、栄光のウイニングロードを駆け抜けようとしているではないか。

 

「はぁぁ……だめだ。幸せと混乱が俺の頭を支配してやがる」

 

いつまでも廊下に突っ立っているわけにもいかない為、俺は芽吹の部屋(楽園)への扉をノックする。

 

「芽吹ー!き、来たぞ〜!」

『早いわね……少し待ってなさい、今開けるから』

 

ドア越しから、いつも通りの凛々しい声が聞こえて来る。すると、ここに来てまた緊張がぶり返してきた。

 

(そうだ、こういう時は素数を数えて冷静さを取り戻すか!それだそれしかな)

 

「来たわね……って何で固まってるの?」

「おい、どうしたんだ……急にどうしたってんだ」

「な、何がよ?」

 

出てきた芽吹の姿を見て、俺はその場に膝をついた。何故か?そんなのは単純明快だ、芽吹がエプロン姿だったからだ。デザインは非常に、シンプルだが……それでも、芽吹自体が百億満点な為、可愛い、そして美しい。俺はどうすればいい、目の前に女神いるんだが。

 

「似合いすぎだろ、エプロン……たまんなく可愛いんだが」

「はっ!?い、いきなり何言って」

「あぁ!!やめろ!やめるんだ、芽吹!その姿で恥ずかしがらないでくれ!それは、俺に効く!!」

「ば、バカな事言ってないで!さっさと入りなさい!」

 

芽吹に引っ張られて、部屋へと連れていかれる。もう何をされても俺は嬉しくなるだろう。あぁ、本当に今日は最高だ。

 

「自分の部屋だと思って、寛ぎすぎないように」

「えぇ…そこは、寛いでいいわよって言うとこなんじゃないか…?」

「あんたに、それを許したらあんた何しだすかわかったもんじゃないから、言いたくないのよ」

「まさか、何も……しないと思うぞ?」

「その間と疑問形が証拠じゃない、馬鹿」

「に、にしても芽吹の手料理かぁー!楽しみだ。ちなみに何を作ってるんだ?」

 

「話を逸らしたわね」と、軽く不機嫌そうに呟きながらも答えてくれる芽吹。

 

「わかめうどんよ、あんた昔から好きだったでしょ?」

「おお!まじか、手料理ってだけでも嬉しいのに好物を食べさせてもらえるとは。ありがたいよ、今日は昼食抜きにしようと思ってたから」

「今日、じゃないでしょ?昨日も、昼食抜いてたじゃない。鍛錬もいいけど、1日三食しっかり食べなさい。力つかないわよ」

「す、すまん…気をつける」

 

腕を組みながら、ジト目で俺を気遣ってくれる芽吹。優しい…もう、ダメ…頭爆発しそうだ。

 

「それじゃちょっと待ってて、すぐに作るから。もう一回言っとくけど、勝手にいろいろ触ったり変なことするんじゃないわよ?」

「わ、わかってるわかってる!そもそも、俺が芽吹の嫌がる事をするわけないからな!」

「……どうだか」

 

ため息まじりに台所へと向かった芽吹の背中を見送りつつ、部屋を見渡す。やっぱり、今でもプラモは好きなんだな。棚の上に沢山置いてる、てかクオリティ高い。

 

(にしても、急にどうしたんだろうな。芽吹)

 

部屋に入れてくれたり昼食を作ってくれるのは嬉しいが、なんというか変な感じだ。こんなに芽吹が俺に色々してくれるなんて。

 

(考えてもわからないからな、後で聞いてみるか。あ〜芽吹の手料理楽しみだなぁ〜)

 

少しの疑問を持ちつつも、台所の方から香ってくるいい匂いに思考を停止させられる。同時にもうすぐ芽吹の手料理が食べれるかと思うと口元が緩んだ。我ながら、浮かれすぎである。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「……柄じゃないわね、本当に」

 

はぁー、と一人台所で私は今日何度したかも分からないため息をまたついていた。

 

そもそも何故、こういう状況に発展したのか。それを説明するには、昨日の亜耶ちゃんとのある会話を振りかえらなければならない。

 

『夕矢先輩にお礼をしたい、ですか?』

『ええ、それもさりげなく自然な感じで』

『えと、夕矢先輩の場合、芽吹先輩が日頃の感謝を言葉にしてあげるだけで、大喜びしそうですが……それでは、いけないんですか?』

『私も、最初はそうしようと思ったけど……直球過ぎると、あいつきっと手がつけられないほど調子に乗るし……何より、その…』

『ふふっ、恥ずかしいんですね?』

『……ええ』

『なら、手料理を作ってあげるのはどうでしょう?幸い明日はお休みですし、自然な流れで昼食に誘えるはずです!あと、舞台のセッティングはお任せください!』

 

と、いうことがあり今の状況に至る。ちなみに亜耶ちゃんの言っていた舞台のセッティングはお任せ発言の意味は朝送られてきたメールの内容で理解することができた。

 

『雀さん、弥勒さん、しずくさんは、私が昼食に誘うので気にせずお二人で楽しんでくださいね!』

「気合入りすぎよ、亜耶ちゃん……」

 

何故、お礼をしようとしている私よりも気合が入ってるのだろうか。それに私はただ、昼食を作ってあげるだけだし何を楽しめというのか。

 

「楽しむも何も、ただ手料理を振る舞うだけだし……」

 

ぶつぶつ小言を呟きながら手を進めていくと、料理が殆ど完成していた。出来上がった品を、夕矢の元へと持っていく。

 

「お待たせ、出来たわよ」

「おお〜待ってたぜ!」

「テンション高いわね、そんなに私の料理が食べれるのが嬉しいの?」

「あったりまえだろ!?初、芽吹の手料理なんだしさ!そんじゃ、いただきます!」

 

いつもよりテンションの高い夕矢を見て、クスリと笑ってしまう。喜ぶとは思ってはいたけど、ここまで喜んで貰えるとこちらとしても悪い気はしない。

 

「その、味はどう?大丈夫?」

「美味い!サイコーだよ!作ってくれてありがとな、芽吹!」

「っ……そ、そう、喜んで貰えてよかった」

 

嬉しそうに微笑む夕矢を見て、動揺する。こいつのたまに見せるこういう表情……正直苦手だ、どんな顔をしたらいいか分からなくなるから。

 

「でもよ、芽吹」

「なによ?」

「いや、なんで急にここまでしてくれるのか気になったっつーか」

 

まぁ…普通に気になるか。今まで、こんな事した事もなかったし夕矢自身もされるのは初めてでしょうし。しかし、どうしたものか……即座に言い訳も思いつかない。

 

「それは……」

「それは?」

「き、気が向いたというかなんというか」

 

部屋が静寂に包まれる。流石に自分でも、その言い訳はどうかと思う……しかし、日頃のお礼も込めてなんて恥ずかしくて言えない。なんで恥ずかしいのかも、理由は分からない。

 

すると、固まっていた夕矢が口の端を吊り上げ呟いた。

 

「そっか、ありがたいなぁ。まぁ、理由はなんであれ芽吹が俺にこうやって色々してくれたってだけで嬉しいからいいけどよ!」

「い、いいの?それで?」

「いいに決まってんだろ?俺にとっちゃ、芽吹と二人で過ごせるこの時間が宝物なんだから」

「私との…時間」

 

夕矢と一緒にいる時間……どこか近いようで遠い私たちの距離、でもこの距離感こそ私は案外好きなのかも知れない。夕矢が歩み寄ってきて、どこか満更でもなくそれを心地よく感じている私。

 

(私は…夕矢と、どういう風になりたいんだろう?)

 

最近、よく考える。けど私にはよくわからない、夕矢に対してどんな感情を持っているか、それが自分でも分からないんだから。

 

「なぁ、芽吹」

「う、うん」

「お前はどうだ?俺と過ごす時間は、楽しいか?」

 

突然の質問に少し動揺する。でも、何故か私の口は自然に動いた。

 

「そうね……騒がしくて少し頭が痛くなる時もあるけど、つまらなくはないわよ、あんたと一緒にいるのは」

 

そう私が、言ったと同時に夕矢はまた嬉しそうに微笑んだ。私もそれに釣られて少し笑った。

 

「さて、残りもしっかり食べなくちゃな。作ってくれた芽吹に失礼だ」

「ええ、しっかり食べなさい。まだいっぱい残ってるから」

「ちなみに、どれくらい残ってるんだ?」

「そうね、ざっと五玉分くらいかしら」

「……ご、五玉…?な、なんでそんなに?」

「育ち盛りだし、何より昨日の昼を抜いた分も栄養は取らなくちゃでしょ?まさか、残したりしないでしょうねぇ…?私と過ごす時間は宝物…なんでしょ?」

「……死ぬ気で食べさせていただきます!!!」

「それでいいのよ、さぁ頑張りなさい」

 

その後、苦しみながらもうどんを食していく夕矢と二人で過ごした。そのひと時は、大好きなプラモを一人で作っている時よりも楽しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お熱いですわね、あの二人」

「な、なんか聞いてるこっちが恥ずかしくなってきたよ」

「……なんだかんだで、ベストマッチなのかも…」

「芽吹先輩、グッジョブです!」

 

芽吹が、この四人から夕矢との関係性について冷やかされるのもそう遠くない未来なのだが、それはまた別のお話。




小ネタ解説、ないと思った!?じつはあるんだなぁ!これがぁ!!

腕をクロスさせてこう呟く。
「今日は最高の休日だ……芽吹・フォーエバー!!!」

映画『ブラック・パンサー』にてワカンダの王、ティ・チャラやワカンダ国民が「ワカンダ・フォーエバー」といいながら、腕をクロスさせるシーンから引用。ダサいって言われてますが、僕はめちゃくちゃ好きです、ワカンダ・フォーエバー!!!!

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にしても、楽しかった…何気にデレる芽吹可愛い。さて、次は本編かな、ほかのキャラとも夕矢くん絡ませなくちゃ!


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番外編 私だけの…?

メブの誕生日回をあげられなかった作者は、こう考えた……何か二人の尊い絡みを書きたいと。アベンジャーズ成分はない……かもしれない!!


「こんな時間に…誰よ」

 

夜7時頃、私楠芽吹は自室にてプラモ作りに励んでいた。趣味に没頭していると、インターフォンの呼び出しを受ける。

 

「はい、今行くから少し待ってて」

 

(全く、せっかくのプラモ作りの時間を…)

 

胸の内でぶつぶつと呟きながら、入口へと近づいていく。ドアを開けると、そこには夕矢がいた。

 

「夕矢?どうしたのよ、こんな時間に」

「お、おう、悪いな芽吹。今時間あるか?」

「別に、ないわけじゃないけど。私のプラモ作りを邪魔するのに十分たりえる用なんでしょうね?」

 

私の言葉にギクッという、擬音が聞こえそうなほど体を震わせる夕矢。

 

「お前にしか頼めないから、たりうる用ではあるんだが…」

「随分、よそよそしいわね。はぁ……で、結局何のようなの?さっさと言いなさい。別に怒ったりしないから」

 

夕矢は謎の深呼吸をしてから、私の目を真っ直ぐみて言った。

 

「背中に手が届かないから、湿布を貼って欲しいんだ(キリッ)」

「……はっ?」

 

あまりにも普通すぎる用事に、自分でも驚くくらいの間抜けな声が出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たかだか、湿布を貼って欲しいくらいであんなによそよそしくするんじゃないわよ。紛らわしい」

「だってよ……芽吹の楽しみを邪魔したら悪ぃって思ったから」

 

溜め息を吐く。あんなに溜めるものだから何かと思った。それに、私にしか頼めないとか意味深なことも言うから。

 

「にしても、湿布ってあんた……寝れば治るでしょうに」

「辛辣だな……俺結構湿布には世話んなってんだぜ?昔っから、鍛錬ばっかりしてたからさ、どーにも体が……そういう、芽吹は使わねぇのか?」

「さっき言った通り、しっかり寝れば大概治るわ。あんたの場合、夜中まで筋トレとかしてるから治らないのよ。全く」

 

「図星だ…」っと呟く夕矢。こいつの場合、疲れがとれないのではなく。疲れをとらないだけなのだ。

 

「今まで、どうしてたのよ?貼るのは」

「ああ。家にいた時は、母さんにずっと頼んでたよ。だけど、防人になってからは部屋に一人になっちまったからなぁ。我慢してたんだが……ついに限界が来たらしくてよ、自分で付けようとしたんだ……そしたら」

「上手くいかなかった……てわけね?」

「そういうこと。流石、芽吹、鋭いな」

「何にも鋭どかないでしょ」

 

私の返答に夕矢はへへっと笑った。なんて、楽しそうに笑うんだ、こいつは。私と話すのが本当に楽しいと言うかのように笑いかけてくる。

 

「プラモ作りの時間をこれ以上取るのも悪いしな。そんじゃ、早速頼む」

「ええっ……って!ちょ、あ、あんた!何いきなり脱いで!?」

「んっ?そりゃ、貼ってもらう為だが…ダメだったか?」

「……はぁ」

 

少しはこちらの気持ちを察して欲しい。そりゃ、いきなり男が上半身裸になればビビリもするだろう。せめて、前置きとかは言って欲しい。

 

「な、なんか、すまん」

「別に、いいわよ。そんなことより、ほら背中こっち向けて」

「おうよ、頼む」

 

夕矢が着直した上着をもう一度脱ぐと鍛え上げられ、引き締まった背中が顕になる、こいつが筋トレを趣味としているのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。

 

(男の人の背中って、こんなに広いんだ…)

 

「芽吹?どした?」

「……なんでもない、湿布貸して。貼るから」

「あんがとな、なんか、悪いな。湿布もつけてもらえて芽吹と夫婦みたいなやり取りもして、俺ばっか得してよ」

「誰と誰が夫婦よ、誰と誰が」

 

夕矢のいつも通りの発言を受け流しつつ、指示された通りに湿布を貼っていく。夕矢の背中には、それなりに傷があった。

 

「傷、多いわね」

「まぁな、昔の傷だ」

「昔?」

「親父との鍛錬でついたのが主だな。ま、これも全部お前を守る為の力を得る為についた…勲章みたいなもんだ。きにすんな」

「別に、気にしてないけど」

「……そうですか(泣)」

 

よくもまぁ、そんな事を真顔で言えるものだと呆れを通り越して感心する。湿布を、貼りながら顔を俯かせる。妙に胸の辺りが熱い気がした。

 

(いつも、私の近くにいてくれた)

 

背中に優しく触れる。私がどんなに、適当にあしらったり受け流しても。ずっと、俺はここにいると側にいてくれる馬鹿な幼馴染み。

 

(私を、引っ張っていってくれる背中。私だけの……)

 

「…芽吹?触ってもらえるのは嬉しいが、少しくすぐったいぞ?」

「あ、ご、ごめん。それより、もう貼れたから服着ていいわよ」

「おう、ありがとな」

 

何を考えているんだ、私は。これじゃまるで、私が夕矢の事を___________。

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、邪魔した」

「本当よ、全く私のプラモ作りの時間を…」

「わ、悪かったって!今度は事前に連絡するから!」

 

まぁ、だろうとは思っていた。単純に私以外に頼める相手がいないのだ。なんだかんだで小さい頃から、一緒にいた事もあって抵抗も…そこまであった訳じゃないから別にいいが。

 

「今度があるの?」

「芽吹以外に頼めないしな。何より、俺が背中を無防備に晒すのは大好きな芽吹の前だけだ」

「なにいってんの?あんた」

「……自分でもなにいってんのか、わかんね」

 

お互いに顔を見合わせ、苦笑する。夕矢を避けながら、ドアを開けようとすると。

 

「急にどうした、芽吹!?もしかして、別れのハグか!?しょうがないな、湿布を貼ってくれたお礼として、熱いハグを…」

「ハグじゃないわよ、ドア開けてんの。ほら、早く行きなさい」

「はい……そんじゃ、また明日な、芽吹。おやすみ」

「うん、おやすみ。夕矢」

 

扉を閉め、夕矢と別れる。扉に背を預けながら、そのまま腰を下ろした。

 

「ふふ……」

 

笑みが溢れる、何に対して溢れた笑みなのかは分からない。

 

『俺が背中を無防備に晒すのは大好きな芽吹の前だけだ』

 

「意味わかんないけど、何でかしら。ちょっと嬉しい」

 

扉の前で、膝を抱えながら私はボソッと呟く。先ほどまで、触れていた背中の感触と温度を思い出し、私の胸はまた熱くなった。




小ネタ解説!?実はあるんです!

「急にどうした、芽吹!?もしかして、別れのハグか!?しょうがないな、湿布を貼ってくれたお礼として、熱いハグを…」
「ハグじゃないわよ、ドア開けてんの。ほら、早く行きなさい」

ここのやり取り、これは『スパイダーマン:ホームカミング』にて、トニー・スターク/アイアンマンがピーター・パーカー/スパイダーマンを家に送り届けた際に、車内でトニーがドア開けようとしたのをピーターがハグと勘違いしたシーンより、引用。ちなみにこのシーン、エンドゲームまで覚えておくと、いろんな意味で超泣ける。



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イチャイチャメブゥ書いてるの楽しい!!!(脳汁溶けてる)
でも、本編も進めなきゃ()



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番外編 変わらず強くあれ

「なるほど……いい作り込みね、流石だわ」

 

自室にて、趣味でもあるプラモ作りに没頭する。珍しく神官からも呼び出しがなく、静かな休日を満喫していた。

 

「……」

 

あまりにも静かすぎる休日のせいか、軽い違和感を覚える。それもこれもあいつのせいである。

 

「まぁ、仕方ないわね。今日はしずくとの用があるって言ってたし」

 

朝食の時間の際、夕矢から既に報告は受けている。どうやらあの二人、隠れて自主的に鍛錬を行なっているそうだ。

 

詳しくは知らないがしずくが夕矢に頼んだと、本人から聞いた。

 

「やっぱり、私も行けばよかったかしら」

 

その場で一緒に行かないかと誘われた時は、少し突き放したような言い方で断ってしまった。別に、二人と鍛錬するのが嫌というわけではない……ただ。

 

「なんなのよ、この感じ。胸の辺りが、もやっとしてて……」

 

二人が隠れて鍛錬をしていたと聞いた辺りから、胸の辺りが騒がしい。なんというかもやもやする。

 

「少し、散歩でもしましょうか」

 

プラモの完成は後回しにし、気分転換も兼ねて散歩に向かおうと部屋を出る。すると、隣の部屋へと清掃に向かおうとしている亜耶ちゃんとばったり鉢合わせた。

 

「あ、芽吹先輩。今からお出かけですか?」

「ええ、ちょっと散歩に。そういう亜耶ちゃんは、部屋の掃除?」

「はい、夕矢先輩が帰ってくる前に部屋の中を少し掃除させていただこうかと」

 

にこやかな笑みを浮かべながら、そう言った彼女は天使そのものであった。余りにも良い子すぎて、少し心配になる。

 

「偉いわね……そうだ、私も手伝いましょうか?」

「そ、そんな!それは芽吹先輩に悪いですし……」

「気にしないで。どうせ、少し歩こうかと思ってただけだし。……亜耶ちゃんと一緒にいた方がこの気持ちも晴れるかもしれないしね」

「え?」

「なんでもないわ」

 

小首を傾げた亜耶ちゃんから箒を受け取り、夕矢の部屋へと入る。思えば夕矢が私の部屋に来ることはあれど、その逆はなかったなと思った。

 

「思った以上に何もないわね……この部屋」

「他の方と比べると確かに置いてあるものは少ないですね」

 

あまりの何もなさに苦笑する。趣味を持っていないのを知ってはいたが、ここまで何もないとは。とりあえず、私と亜耶ちゃんは場所を分断し掃除を開始した。

 

ある程度作業が進んだ辺りで、机の上に置いてあるものに目がいった。

 

「これ、あの時の……」

「どうかしましたか、芽吹先輩」

 

背後からひょこっと顔を出した亜耶ちゃんに、メモ帳を見せる。てっきり肌身離さず持っているものだと思っていたが……今日は忘れたのだろうか。

 

「ああ、夕矢先輩のメモ帳ですね。この前掃除に来た時も熱心に書いてらっしゃいましたよ」

「熱心に、ねぇ……中身、少し見てしまおうかしら」

「えぇ!?よ、良くないですよ!人のメモ帳の中身を見るなんて」

「考えてもみて、亜耶ちゃん。あの『夕矢』が書いてるメモ帳よ?内容なんてだいたい想像つかない?」

 

亜耶ちゃん、思考巡らせ中。

 

「……芽吹先輩のことしか書いてない気がします(真顔)」

「でしょ?なら、見ても良い気がしない?」

「うっ……不覚にも良い気がしてしまいました……」

「それじゃあ、見るとしましょう」

 

亜耶ちゃんを押し切り、メモ帳を開く。

 

 

 

 

『◯月◯日 なんやかんやあって防人隊に入ることになった。芽吹と再会した、嬉しい。運命としか言いようがない、そして相変わらず芽吹可愛い結婚したい』

 

『✖️月✖️日 昼間、道場で芽吹と一緒に訓練をした。俺がいつも通り好きだと伝えたら、少し顔を赤くしながら木刀を振るってきた。恥ずかしがっている様子だった、可愛い。でも、木刀で頭を殴られたのは痛かったな。まぁ可愛いので全部許すが』

 

『△月△日 今日も芽吹に付きっきりで過ごした良い日だった。常に芽吹の横顔を見ていられるなんてのはご褒美を通り越して、楽園のそれだ。芽吹から「じろじろ見過ぎ」と怒られたが申し訳ないが見ないと死んでしまう為、見続けた(結果的に蹴りを貰ったがそれもご褒美)』

 

 

 

「すぅ……」

「あぁぁ!!め、芽吹先輩、落ち着いて!無言で破こうとしないでください!」

「止めないで、亜耶ちゃん。私はこれを破く事を強いられているの」

「だ、誰にですかぁ〜!」

 

錯乱気味になった私を亜耶ちゃんが全力で止めた事により、忌々しいメモ帳は無事のままであるが、まずは亜耶ちゃんに頭を下げた。

 

「…ご、ごめんなさい、亜耶ちゃん。取り乱したわ……思った通り、いやそれ以上すぎて」

「あ、あはは…」

 

もうなんか「でしょうね」とヤケクソ気味に言いたくなるような内容だった。あからさまに溜め息しか出てこない。

 

「でも、夕矢先輩の芽吹先輩に対する深い愛情を改めて感じます。本当に芽吹先輩の事が好きなんだな〜って」

「少しばかり……いや、かなり狂気じみた愛情な気もするけどね」

 

普通に感心してる亜耶ちゃんの横で苦言を漏らす。好いていてくれるのは嫌ではないが、これは流石に怖い。もっとまともな内容のものがないかとページを進める。

 

「…?ここだけやけに文章長いわね」

「本当ですね、もしかしたらさっきまでとは違った内容かもですよ?」

「どうかしら、夕矢の事だしいつも通りな感じの気もするけど…」

 

期待はせず、次のページの内容へと目を通していく。読み進めていく内に、横にいた亜耶ちゃんは嬉しそうに呟いた。

 

「夕矢先輩らしいですね、こういう事を素直に書けてしまうのは」

「バッカみたい……さっきまで変態みたいな文章しか書いてなかった癖に」

「ふふ、そう言いつつ少し嬉しそうですよ?」

「……嬉しくはないわ、ただ…その、アイツらしいなって思って」

 

私の言葉に、亜耶ちゃんはまた嬉しそうに微笑んだ。どこか見透かされてるようで少し照れ臭い。

 

もう一度ページへと視線を向ける。まさか、『まとも』な内容が書かれたページがあるとは思わなかった、と内心思いながら長文を読み進めていく。その手には、自然と力が篭っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜夕矢視点〜

 

 

「はぁ……」

 

ふっかいため息が出た、勿論俺のだ。今日は山伏と鍛錬を行う為、道場へとやってきたのだが……朝、芽吹に若干突き放すような感じで接せられたもんだからダメージがでかい。

 

「鷹月…大丈夫?」

「ん、あぁ……大丈夫だ」

 

そうだ、あれは俺と山伏が隠れて二人で鍛錬していた事への嫉妬心から生まれた態度だ、うん、そうだそう思っておこう。全く芽吹は可愛いやつだなぁ〜。

 

「……顔、変」

「顔変言うな。で、山伏。本当に大丈夫か?」

「……うん、手合わせ、お願い」

 

山伏はそう小さく呟き、木製の模擬銃剣を構えた。俺もそれに応えるように模擬銃剣を構え直す。

 

本人たっての要望で軽く手合わせをする事になった、山伏からその提案をされるのは少し意外だったが……今までの鍛錬の成果を試すのには、実戦の方が確かに向いていると俺自身も思った。

 

「来い」

「……ッ!」

 

初動は山伏の一手。少しぎこちない動きで、模擬銃剣を振るってくる。それを受け止め、競り合いへと持ってく。

 

「良い感じだ、前よりも威力に重みがある」

 

俺の言葉に山伏は首だけ動かし反応した。彼女に競り合いをしながら言葉を返す余裕は恐らくまだない。間合いを取り、今度はこちらの反撃。流石に本気でやる訳にはいかないので、威力は落としめで銃剣を横薙ぎ気味に振るった。

 

「……受け、止めるっ」

 

前までの山伏なら反応するので精一杯だったはず。しかし、今の彼女は即座に反応するだけでなく、力を弱めているとはいえ俺の一撃を受け止めて見せた。その姿を見て、嬉しくなったせいなのか。

 

「うぅっ……あっ」

「あっ」

 

手に力が篭ってしまい、山伏を軽く吹き飛ばしてしまった。吹き飛んだと言ってもそこまで酷いものではないが、急いで山伏の元へ駆け寄る。怪我でもあったりしたらまずい。

 

「山伏!すまん、つい力が篭っちまった」

「い…」

「い?」

「いってぇだろうがぁぁぁぁ!!」

 

そこからの流れは一瞬である。手を差し伸べていた俺に、意識が山伏ではなくシズクになった肉体は、飛びついてからの寝技を綺麗な形で俺に叩き込んだ。不意打ちには不意打ちを、見事に不意を突かれた俺はバッチリ技を決められた。

 

「ぎ、ギブギブ、ギブぅぅ!!!流、石の俺もぉ…これ、はつら」

「うるせぇ!しずくを吹っ飛ばした罰だ!素直に食らいやがれぇぇぇ!」

 

寝技を完璧に決められ意識が飛びそうではあったが、確かに俺が悪いのは事実なので甘んじて受ける事に……いやまて、やっぱりやめさねぇと俺がs…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数分後〜

 

「鷹月……ごめん」

「よ、ヨユーだ、こ、こんなの……対した事な、いぜ(死に体)」

「顔色悪い、それに死にそう」

「はっ……俺は芽吹と結婚して、幸せな家庭作って、生涯仲良く楽しく暮らしましたって流れを踏まなきゃ死なない体になってるからな大丈夫だぜ(???)」

「いい人生設計だと思う」

 

「だろ?」とドヤ顔を向けつつもしっかり空気を身体中に送り込む。ふむ、割と普通に死にかけた。

 

「締め続けられてたな、多分……10分くらい」

「鷹月が持ったなら30分はやったって」

「ガチで殺す気じゃねぇかよ…」

 

やっと落ち着いてきた為、立ち上がる。山伏の方を向くと、彼女はどこか物憂つげな表情を浮かべていた。

 

「やっぱり……私、弱いまま……」

「そんなことないだろ。一撃に重みもついてきたし、俺の攻撃にもしっかり対応出来てた。成長してるさ」

 

訓練を始めた頃に比べ、山伏は成長している。それは訓練をつけている俺が一番よく知っている事だった。だが、当の本人は満足していないように見える。

 

「鷹月は……強いよね…」

「俺?」

「楠やもう一人の私にも引けを取らない……それに任務の時もいつも最前線で戦ってる……とっても、強い」

 

その言葉を聞き、俺は頭を掻く。別に強いと言われるのが嫌なわけじゃないんだがなぁ……。折角なので、とある事を質問してみる。

 

「質問いいか?」

「?、いいけど…何」

「山伏にとって、強さってなんだ?」

 

突然の質問に対し、少し困った表情を浮かべる山伏。今日はこいつの色んな表情が見れるなと考えていると、自信なさげに山伏が呟く。

 

「ぅー……分からない」

「はは、ま、こんなこといきなり聞かれても困るわな」

「……鷹月は、答えられる?」

「勿論だ、まぁ俺なりの考えだけどな。押し付けるつもりはない、そこんとこはよろしく」

 

山伏は小さく頷いた。それを確認し、話し始める。

 

「さっき、山伏は俺の事を強いって言ってくれたよな」

「うん…実際、鷹月強い…」

「まぁ…技量的な意味じゃ、俺は山伏の言うように強いのかもしれねぇ。けど、俺が思う強さってのは違うもんだ」

「…違う?」

「ああ、俺が思うに強さってのは……『意思の強さ』だと思うんだよ、つまりここの強さってやつ」

 

俺が胸をトントンと叩くと、山伏も俺の真似をし始めた。同時に山伏は小首を傾げる。

 

「意思…?」

「そうだ、人ってのはな。自分を突き動かす意思や想いがありゃあ、どこまでも強くなれるし、強く有れるんだよ」

 

昔の自分を思い出す。目的もなく、意味も考えず、親父と鍛錬を積んでいた頃の自分を。

 

あの頃の俺は空っぽだった。親父の影響で技術や力は多くつけてたが、今ならわかる。『それだけ』じゃ強くなったとは言えないのだと。

 

そんな俺を変えてくれたのは一番身近な存在……幼馴染の芽吹だった。

 

「芽吹は、どんな奴よりも強かった。常に自分に何かを課してよ……周りから何を言われようとも自分の信念は決して曲げない、どこまでも自分の道を突き進む」

「わかるかも……楠、防人にいる誰よりも真っ直ぐ…」

 

山伏の言葉に頷く。この防人隊の隊長になった今でも変わらない、そんな芽吹がとてもかっこよくて凛々しくて……改めて、彼女を知れば知るほど好きになっていった。

 

「昔の俺は芽吹に憧れ惚れた。そこから何かが変わったんだ」

 

こなしていただけの鍛錬を、自ら行なって意味のあるものに変えていった。自分自身の胸に宿った強い想いの為になるようにと。

 

「空っぽだった俺に芽吹がくれたんだ。俺を突き動かすモノを、そして意思の強さを。俺が今、山伏が言ってくれたように強く有れるのはそれのお陰なんだよ」

「意思、……」

「山伏が俺に特訓頼んできたのだって、自分の中に何か強い意思があったからだろ?」

 

質問に対し、山伏は一瞬止まるが少し考えた後コクッと力強く頷いた。それを見て、柄にもなく少しばかり微笑む。

 

「なら、大丈夫だ。お前はきっと強くなれるさ、それを忘れない限りな。だから焦らずゆっくり行こうぜ、山伏」

「……うん、ありがとう。話も…聞かせてくれて」

「いや、お礼を言われるような事はしてないさ。むしろ説教っぽくなって悪かった」

「ううん、すごい為になった…だから、ありがとう」

 

自分なりの考えとか過去の話とか言っちまえば自分語りしかしてなかった訳だが……感謝は素直に受け取っておくことにする。

 

「にしても……鷹月、本当に楠の事好きなんだね。改めて思った」

「当たり前だ!俺はどんな時であろうと四六時中芽吹の事を考えなかった時なんてありはしねぇ!今だって、芽吹の事で頭がほとんど埋まってらぁ!」

「鷹月、テンションだるい」

「そして、そんな一日一日の俺の芽吹に対する思いが綴られたメモ帳がここに……ん?え!あれ!?ちょ、ちょっ待てよ!」

 

あたふた焦り出す俺をガン無視し、山伏は模擬銃剣の素振りを行なっていた。良い振りだ、成長したな……て、それよりもだ。

 

「まさか……忘れたと言うのか…俺が、あのメモ帳を…!?ぐぁぁ……なんたる不覚だぁ……朝の一件が響きすぎて忘れたのかぁ…ぐぁぁ…俺はなんてバカなんだぁ…もう、俺、疲れた…山伏、助け」

「とりあえず……鍛錬」

「……りょーかいだ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山伏との鍛錬を終え、ゴールドタワーにある自室へと向かう。あれを手放すなんて……自分に少し幻滅する。

 

「なんだかんだで、朝のが効いたんだろうな」

 

芽吹に本気で断られたから割とガチで凹んだ。その影響でメモを忘れるとは……辛い。とりあえず、部屋に着いたので扉を開けて中に入る。少し休むとしよう。

 

「はぁ……ただいま」

「おかえり。随分、浮かない顔ね?」

「そうか…?」

「ええ、酷い顔よ。もしかして、なんか忘れ物でもしたの?」

「あぁ、実はな、自分が愛用しているメモ帳を忘れちまってな。肌身離さず持ってようと思ったんだが…」

「メモ帳ね、これのことを言ってるのかしら?」

「ああ、そうそう、それそ……っ!?!?!?」

 

ベッドから飛び上がる。なんか会話成り立ってるなーなんてぼーっとしていたが、ぼーっとしてる場合じゃない。視線を横にずらすと、芽吹と目が合う。

 

「ちょっ、うぇ!?なんで芽吹が、ここに!?」

「反応遅すぎない?というかさっきまでの会話何」

「わ、悪い…ぼーっとしてた。てか、んな事よりなんで芽吹がここにいるんだ!?」

 

突然の事で軽くパニック状態の俺とは反対に、終始芽吹は落ち着いている。しかし、どこかムスッとした表情をこちらに向けた。

 

「あんたが許可もなく私の部屋に遊びにくるのは良くて、私が伝言を伝えにここで待ってるのはダメなのね」

「いやいい、許す。今の顔めっちゃ可愛いからもっかいお願い」

 

その切なる願いに対する返答は、芽吹からの脳天を狙いつけたチョップによって終わったという。

 

「神官から連絡があったわ。来週の予定について話すから、二人で来なさい…との事よ」

「了解だ。所でぇ…芽吹、そろそろそのメモ帳返してくれないか…?」

「あ、忘れてた」

 

「どうぞ」っとメモ帳を俺に手渡してくれる芽吹、優しい…流メブ(流石芽吹の略)

 

「そういうものは、当人に見られないよう配慮するのが常識だと思うんだけど」

「うぇ…もしかして…中身見たのか?」

 

俺からの質問に芽吹は頷く。

 

「亜耶ちゃんの掃除を手伝ってる時に、それを見つけた。ついでに2人で中身を拝見させてもらったわ」

 

見られても全然OKだと思っていたが、実際に見られてしまったとなると案外恥ずかしかった。

 

「まぁ、ここで待ってたのはそれについて少し言いたかったからでもあるわ」

「さ、さいですか…」

「メモ帳の中に、やたらと長い文が書いてあるページあるでしょ?そこ読んで私から、言いたいことがあったのよ」

 

長い文章……確か、昔と変わらないでいてくれた芽吹が本当に好きだ的な事を書いてあったページだったような……?

 

「変わらないわよ、私」

「え?」

「私は、変わらない。これからも自分の信念も生き方も曲げるつもりはないから……だからアンタも、変わらずそのまんまでいなさい。わかった?」

 

てっきり怒られると思ったがそうではない。芽吹は俺の胸を握った拳で優しく小突いた。胸の奥が、めちゃくちゃ熱くなる。

 

「……ああ、わかった!これからも芽吹のことずっと好きでいる!なんせ、それが俺だからな!」

「ふふ、相変わらずね。でも、確かにそれが一番あんたらしいかも」

「うおおおお!俺は芽吹が大好きダァァァァァ!」

「はいはい、そろそろ行くわよ。バカ夕矢」

 

部屋から出ようとする芽吹を追いかける。

 

改めて思った……俺は芽吹がいてくれる限り、変わらず強く自分のままでいられるのだと。

 

そして、いつだって変わらず自分のままでいてくれる彼女が心から好きなのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜夕矢の部屋前〜

 

「芽吹先輩の先程の発言……どう捉えますか?山伏先輩」

 

「ほぼ告白……だと、思う。楠…変な所で積極的」

 

「夕矢先輩はいつもですが、芽吹先輩もたまに積極的ですからね。ふふ、本当にお二人は仲が良いですね〜」

 

「うん…楠と鷹月、お似合い…なんで付き合わないんだろ?」




小ネタ解説 

そこからの流れは一瞬である〜

ここからの一連の流れは、映画『アントマン』のスコットとホープの訓練中のシーンのオマージュ。

「締め続けられてたな、多分……10分くらい」

この台詞は、映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』より、ストレンジの力によってそりゃもう酷い目に遭わされた際にロキが吐いた台詞のオマージュ。ちなみに酷い目ってのは、30分間落ち続けるっていう絶叫アトラクションなんて屁でもない罰ゲーム的なやつ。

今回も登場した夕矢のメモ帳、9話の時にも書きましたがキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースが持っているメモ帳から引用させていただいたものです。今回も登場したし,割とキーアイテムになるのも?


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雀ちゃんだけでなく、しずくちゃんにも「なんで付き合わないんだろ?」と言われる二人。ほら、言われてるぞお二人さんはよ付き合えよ(白目)

では、次回は『幕問』の物語でお会いしましょう〜!


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番外編 心を込めれば

明けましておめでとうございます!そして、今年もこの作品と作者のことをよろしくお願いいたします!

新年一発目の投稿!今まで以上にメブタカ注意報+意外とピュアな夕矢くんも見れるかも?年越す前に出そうと思ったんですが過ぎちゃってた……まぁけど書けたし出しちゃおうかなって!キリッ()

それでは、番外編どうぞ!


 ある日の休日、俺は芽吹と共に大きめのショッピングモールへと出向いていた。

 

「必要なものは……うん、十分ね」

 

 買い物カゴには絆創膏等の応急処置の為の商品が入っている。それを確認し、芽吹は満足げな顔をした。可愛い。

 

「メモに載ってるやつは揃ってる、これで買い物は終わりか」

「ええ、悪かったわね夕矢。荷物持ち頼んで」

「気にするなって、寧ろご褒美さ。芽吹と一緒に買い物なんて」

「……ほんとブレないわね、あんた」

 

 深い溜息を漏らす芽吹。その横顔は満更でもなさそうだった、その表情を見て和む。

 

 小学生の時も休みの日は今と変わらず、芽吹にぴったり引っ付いてはいたがこういう過ごし方をした事は一切ないのでどうしても嬉しくなってしまう。まぁ、そもそもの話一緒にいれるだけで嬉しいのだが。

 

「それじゃ、戻りましょう。外も暗くなってきたし」

「おう、荷物貸してくれ。全部俺がもつさ」

「気持ちは嬉しいけど全部はいいわ。私そんな非力じゃないし」

 

 荷物持ちという立場にも関わらず、芽吹にも持たせる事になってしまったので多少納得しきれていなかったが……

 

(二人で買い物、さっきまでの会話、あらゆる面をとっても今の俺たち周りから見たら夫婦並の距離感じゃね?)

 

 油断してると叫びそうになるくらい気持ちが高まっている。少し落ち着かなくてはならない。

 

「へへへ……」

「急にどうしたの、気持ち悪いわよ?」

「悪い、この状況が嬉しくてつい」

「まーた、そういう事を。ま、荷物も持ってもらってるし今回は見逃してあげる」

 

 めっちゃ幸せ(歓喜)永遠にこの時間が続けばいいのに。一人で惚けていると、芽吹の足が止まる。視線の先には彼女が愛してやまない、プラモデルがずらっと並べられている模型屋があった。

 

「折角だし、寄ってくか?」

「……うん」

 

 少し照れ臭そうに頷く芽吹の可愛さを直視し、悶え死にそうになるがなんとか耐えた。店に入るなり、沢山のプラモデルが目に入る。

 

「こんなにあんのか……知らなかったな」

「歴史深いものだもの、沢山あって当然よ。にしても、ここの品揃えは素晴らしいわね……今度一人で来ようかしら」

「その時も俺がお供するぜっ!」

「こ、こんなレア物まで取り扱ってるなんて……素晴らしいわ!」

 

 ガン無視された、俺<プラモみたいだな。まさかライバルがプラモデルとは……いつか越してやるぜ、この野郎。

 

 なんて悪態をついていると、芽吹が一つのプラモを手に取った。

 

「あっ…これ、懐かしい」

「懐かしい?ああ、昔作ったりしたのか」

「ううん……作りたかったけど作れなかった物なの、これ」

「?、どういうことだ?」

 

 芽吹は少し寂しそうにしながらも語ってくれた。小さい頃、このプラモを買って貰う為に珍しく親父さんに頼み込んだこと。親父さんの仕事が急に忙しくなり、買いに行く暇がなくなった事。プラモの事を言おうにも尊敬する父の邪魔をするのはいけないと考え、言い出せなかった事。

 

「結局このプラモは買ってもらえなかった……って話。その時から色々なものを強請るのはやめたわ。強請る暇があるなら、鍛錬とかに時間を使った方がよっぽど自分の為にもなるしね」

「そうか……」

「……さて、そろそろ行きましょう。早くしないと門限に遅れる」

「お、おう。でも、いいのか?」

「何が?」

「いや、これ……買わなくていいのかなって。作りたいんじゃないのか?」

「……いい、他にも作りたいものはあるし大丈夫」

 

 それだけ言うと芽吹はそそくさと店を出て行く。どうにも腑に落ちない俺は芽吹にとってある意味思い出の品であるプラモに視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 〜次の日のお昼頃〜

 

 

「……渡せねぇ」

 

 目の前に置かれているのはプラモデル。もちろん俺のものにするつもりはない、これは芽吹へのプレゼントとして渡す為に買ったものである。

 

 しかし、プレゼントをどう渡すべきなのか。それが分からない。結果として朝も渡せず、この昼休み中も俺は頭を抱えているだけだった。

 

「しっかりしろ〜俺。これが人生初の好きな人にあげるプレゼントじゃねぇか。悩むなぁ〜悩むなぁ〜……ぐぅぅおおお!」

 

 いつまでもうじうじ悩んでる頭を地面にガンガン打ちつける俺。折角だ額から血が出るぐらいまで痛めつけてやろうかこの体(狂気)。

 

「あの顔は……いらないって子のする顔じゃねぇよな」

 

 店を出て行く時の芽吹の表情。どこか寂しげなその表情を見て、ついつい買っちまった。

 

「あとはあげるだけなんだが……」

 

 俺は今まで芽吹にプレゼントをあげた事がなく、これが初めて彼女に送るものとなる。それをもし拒絶されでもしてみろ、俺は死ぬ。

 

 軽い病みモードに突入していると、扉がトントンとノックされる。ドア越しからお隣さんの声がする。

 

「ユウ〜?いる〜?元気〜?」

「加賀城…?元気、ではねぇな……ああ、だめだ、俺疲れた、色々済んだら農園開くわ」

「えっ?ユウがめちゃくちゃ悟り開いてる!?だめだって、ユウ!これからもユウには私を守ってもらわないと!」

「加賀城……俺、疲れた……」

「ゆ、ユウ!?大丈夫!?ユウゥゥゥ〜!?」

 

 そこから俺が扉を開けるまでに10分掛かったのは内緒である。とまぁ、色々あったが加賀城を部屋に招き入れる。後、加賀城の言葉を誤解し、俺に何かあったのかと心配して来てくれた亜耶ちゃんも部屋に入れた。

 

「もー、びっくりさせないでよー」

「すまん……色々あってな」

「まぁまぁ、夕矢先輩も謝っている事ですし」

「いいけどさ。なんか騒がしくしちゃってごめんね、あやや」

 

 いえいえ、と言いつつ微笑む亜耶ちゃん。俺でも分かるほどの天使っぷりだった。

 

「ユウ、これお裾分けね。実家から送ってもらったみかん」

「お、おお……毎度毎度ありがとな」

 

 「えっへん」と胸を張る加賀城。嬉しいがほぼ毎週みかんを貯蔵されるのは中々複雑な気分だ。美味しいがこうも続くと流石に飽きてくる。ほら見ろ、亜耶ちゃんも苦笑いしてるじゃないか。

 

「所で、夕矢先輩。そのプラモデル…どうしたんですか?」

「ん、ああ…これな」

「もしかして、ユウもメブと同じでプラモハマっちゃった感じ?」

「違うぞ、まぁなんだそのかくかくしかじかでよ」

 

 思った以上に行き詰まっていたのだろうか、俺は今胸に抱えているこのモヤモヤを取っ払う為……何より、愛する人に初めてのプレゼントを今日中にあげる為に全てを話した。

 

 それに対しての加賀城と亜耶ちゃんの反応は……

 

「えっ、普通に渡せば良いじゃん」

「不覚にも、私もそう思ってしまいました…」

「……まぁ、ソウダヨナ」

 

 俺も他の奴から同じような話聞かされたら同じように答えると思うわ。

 

「ユウがいつもみたいにメブ〜好き好き〜って言いながらそれあげれば済む話じゃないの?」

「それじゃいつも通りすぎる!特別感がないんだよ!もっとこう、ほら…初めて渡すプレゼントなんだから!」

 

 手をわなわなと震わせる。勿論、渡すの自体は簡単だ。でも、これは『初めて』渡すプレゼントなんだ。それをいつも通りのノリで渡してしまっては、特別感が一切ない!

 

「なるほど、夕矢先輩は特別感を出したい…と」

「そうなんだよ、だって好きな子に渡す初めてのプレゼントだよ?そりゃ、特別なものにしたいじゃんか」

「面倒くさい熱量だなぁ……でも、納得。だから昨日あの子と話してたんだね」

 

 加賀城が言っているのは防人隊随一の恋愛マスターと呼ばれた少女のことを指している。(何をどうとって恋愛マスターなのかは知らん)

 

「で、成果は?」

「いいや、ない。恋愛漫画やらを色々見てみたがよく分からなかった。そもそもなんで好きって言うだけで、時間掛けてるのか俺にはてんでわからない世界だったよ。好きなら好きって伝えりゃいいのにさ……って、どうした」

「息を吸うようにメブに好きって伝えられるのに……どうしてプレゼントの渡し方くらいで悩むのか私は疑問で仕方ないよ?」

 

 プレゼントの渡し方くらいで、だと!?なんて事を言うんだこのチュンチュン丸は。

 

「仕方ねぇだろ。初めての事で……緊張するんだから」

「普通、好きって言う方が緊張しませんかね!?」

「…いや、余裕だろ(キリッ)」

「めんどくさ!ねぇ、あやや!この副隊長マジでめんどくさいよ!」

「そんな言い方はめっ、ですよ?雀先輩。これも夕矢先輩の個性なんですから。私はこういうところも夕矢先輩らしくて良いと思います」

 

 流石、亜耶ちゃんだこの子は本当にどこまでも良い子だな。亜耶ちゃんの横にいた加賀城は「あややに言われたら仕方ない…」と呆然と呟いている。おい、亜耶ちゃんを見習えチュンチュン丸。

 

 話を戻すと、徹夜で彼女から借りた漫画やらを見て知識を得ようとしてみたが……まぁ、結果はご覧の通り、この有様である。積み上げられた雑誌やらなんやらを見て加賀城が呟く。

 

「にしてもすごい量だね……もしかして、ユウって本好きだったりする?」

「いや、別に。あー、でも小学校の頃見たホビットの冒険って本は好きだな。あの作品は面白かった。二人とも知らないか?ガンダルフとか」

「な、ナニソレ?あやや知ってる?」

「ええと…名前だけなら。内容は…そのごめんなさい」

「あー……いや、俺の方こそごめんな、二人とも」

 

 親父が持ってた本の話なんかするもんじゃねぇな。

 

「にしても、意外だなぁ〜。特別感を出したくて悩んでるなんてさ。いつもあんなに積極的だから、悩むイメージなかったよ」

「俺だって悩むよ。特に芽吹の事とあっちゃな…」

 

 こんなイベント滅多にない事だ。もしかしたら、芽吹ともっと距離が近づく可能性だってある。その可能性を逃したくはないのだよ…それに。

 

「これを機に……芽吹に自分は強請ってもいいんだって思って欲しい。いきなりは無理でも…これを受け取ってもらって、少しでも気持ちが変わってくれたら、良いなって思ってさ」

 

 どんな芽吹も大好きだ。ストイックでカッコいい芽吹も、どこまでも真っ直ぐな芽吹も全部全部、芽吹のどんな所も好きなのは今だって変わらない。その気持ちは本物だ。

 

(────だからこそ)

 

 少しでも彼女が変われる手伝いが出来たのなら。我慢するだけじゃなくて……自分のしたい事をもっと表に出すことの出来るように。

 

 そもそもだ。このプラモを買って貰えなかったのだって、芽吹は勿論親父さんも悪い訳じゃない。ただ間が悪かっただけのことなんだ。それで芽吹が自分の好きな事を我慢とかするのは違うと思う。

 

「そんな訳だから、もっと芽吹の心に響くような特別な渡し方をしたい訳で……」

「それですよ!夕矢先輩っ!」

「それだよ!ユウ!」

「えっ?」

 

 さっきまで黙っていた二人が身を乗り出しながら、叫ぶ。何が起きてるのか分からず首を傾げる俺に。加賀城は呆れた様子で語る。

 

「それでいいんだよ、ユウ!その気持ちさえ伝えちゃえば、十分特別だって!ね、あやや!」

「雀先輩の言う通りです!その気持ちさえあれば、どんな風に渡すのなんて些細な問題だと思います!何故なら、本当に大事なのはそのプレゼントをあげる時、あげる側の人がどれだけ想いや心を込めているかなんですから」

「……」

「特別感を出したいとおっしゃいましたが、本当はそれよりも大事な事が何か……夕矢先輩自身ももう分かっているはずです」

 

 ────どれだけの想いや、心を込めているか。そうだ、何を悩む必要があったのか。

 

「……だよな。そうだよな、そんな悩む事もなかった。ありのままこの気持ちをぶつければよかったんだ。ありがとな二人とも、助かった」

 

 悪い癖だ。『初めて』って部分に囚われ過ぎて視野が狭まってたらしい。

 

「もっと感謝してよ〜ユウ!それで私のこともっと守ってねぇ〜!」

「へいへい、守ってやります守ってやりますよ」

「わーい!やったー!」

 

 心底嬉しそうに笑う加賀城、それを見て自然と笑みが溢れる。チュンチュンと喜ぶこいつを見てたら、さっきまで悩んでいたのがバカらしくなってきた。

 

「亜耶ちゃんもな、ありがとう」

「お役に立てて光栄です。夕矢先輩も元気になってよかった…」

「お陰様でな……っと、そろそろ昼休みも終わりか、ほんとごめんな亜耶ちゃん。付き合わせて」

「いえいえ。夕矢先輩のお手伝いが出来て私も嬉しいので。先輩の恋が実る事を私は願っていますから。それではファイトですよ!夕矢先輩!」

 

 これまた優しくニコッと微笑み、涙がホロリと出そうになる程感動的な言葉をしれっと言う亜耶ちゃん。もはや、天使を超え女神様の域であったとさ。

 

 そして……そんな昼休みの一幕から数時間後、その時はやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜夕矢視点out〜

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

〜芽吹視点in〜

 

 

 

「ねぇ、夕矢」

「ひゃいっ!?……おっと、失礼。どした?」

 

 あからさまに変な反応。今日の夕矢は朝からずっと変だ。やたらとソワソワしているし、私と話す時もどこかよそよそしかった。

 

「どうしたのよ、もしかして…具合でも悪いの?」

「具合か…まぁ、確かに…悪い、といえば悪いかもな」

「はぁ…全く。そういう事なら早く言いなさ」

「主に…緊張で心臓が飛び出そうだ」

「はっ?緊張?」

 

 話が噛み合ってない気がする。やっぱりおかしい、こうなると何があったのか気になってしまう。

 

「芽吹!」

「ひゃっ!?な、何よいきなり!?」

「え、今の声可愛い…じゃ、じゃなくて!すまん、少しここで待っててくれ!渡したいものがある!」

 

 有無を言わさない迫力で夕矢は自分の部屋へと消えた。その場に取り残された挙句、何が起きているの分からない私は首を傾げることしか出来ない。

 

(何を渡すつもりかしら……まさか、変なものじゃないでしょうね)

 

 一人夕矢の自室の前で立ち尽くす。あいつがなにを渡してくる気なのか、分からない私は思案に暮れる。やがて、あいつが部屋から出てきたその手には────。

 

「それって…」

「あぁ、お前に渡したかったもんだ。受け取ってくれ芽吹」

「……私、いらないって言ったわよ?そのプラモは」

 

 差し出されたプラモと夕矢を交互に見た後、そう呟く。

 

「でも、作りたかったんだよな?それにあん時のお前はいらない、とははっきり言ってなかったぞ」

「…変に記憶力いいの、なんか腹立つ。なに、お節介でも掛けようとしてるの?」

「まぁ…割とお節介かもな。でもさ、俺芽吹に気付いて欲しくて」

「気づいて欲しい?」

 

 言葉の意味が分からず、首を傾げる。大袈裟に深呼吸をしてから、夕矢はこちらを見る。

 

「自分はもっと強請ったり色々な事を表に出しても良いって事をさ。これ受け取ってもらう事で、芽吹が少しでも過去と折り合いをつけられたらいいなって。前に、強請るのをやめたって言ってたろ?」

「ええ…言った、けど」

「まだ色々我慢してるんじゃないかって思ってな。きっと、過去の事が枷になってよ」

「それは……」

 

 ないとは言い切れなかった。そういう機会がなかったという事もあるが、自分の中にあるその記憶がどこかで私自身を縛り付けていたのかもしれない。

 

(夕矢は、それに気づいてこれを?)

 

「いきなりは無理だろうけど、これはその第一歩的な意味合いも込めてさ。ゆっくりで良いから、自分のしたい事とかを表に出せるようになって欲しい。そういう気持ちを込めて、これ、プレゼントしたくて」

「夕矢…」

「そんな訳だもんで、さ。その、これ、受け取ってもらえるか?」

 

 照れ臭そうにプラモを前に差し出してくる夕矢。その手は僅かながら震えている。もしかして、緊張してるのだろうか。

 

 どうしてか、上手く言葉が出なかった私は軽くペコリと礼をしてからプラモを受け取った。瞬間、夕矢が「う、受けとってもらえたぁ〜」と安堵した様子でガッツポーズを取っている。

 

「話、少し変わるけど……もしかして、朝とか昼にソワソワしてたのはこれが原因?」

「いっ!?……まぁ、その、は、はい」

「ソワソワしてた理由は?」

「あー……実はだな、プレゼントの渡し方に悩みまくって」

「は?」

 

 予想外の言葉に間抜けな声が出てしまった。こいつに限ってプレゼントの渡し方で悩んでいたのか。

 

「その、さ…こ、これ芽吹に初めて渡すプレゼントだったし〜その、なんていうかな、俺特別感を出して渡したかったんだよ。だからその〜」

 

 あたふたとらしくもなく慌てる夕矢。そんな夕矢が面白くて私はクスッと笑ってしまった。

 

「ぷっ…何それ、バッカみたい」

「だ、だってさぁ…しょうがないだろ。好きな人にあげる初めてのプレゼントなんだから」

 

 顔を赤く染め。照れ臭そうに頰を掻きながら夕矢は呟いた。全くこの幼馴染は……いつもは私の事を好きだ好きだとアホみたいに騒いでる癖に。

 

(プレゼント一つで渡すのに手間とって、渡した後もそんな顔して)

 

「ほんと……バカね」

「えっ、ちょっ…芽吹?」

「……プレゼント、ありがと。嬉しい」

 

 自然にそんな言葉が私の口から出た、今の自分の素直な気持ち。顔を見られないように、夕矢の胸に頭を預ける。

 

「あ、ああっ!嬉しいんだ…よかったぁ…あはは」

「…ほんとバカ、泣く事ないのに」

「だっ、だって嬉しくてよ……ぐわー!芽吹ー!好きだー!」

「ちょっ…どさくさに紛れて抱きしめるな、このバカ夕矢!」

 

 まぁ、でも……そうね。バカだけど、今回ばかりは少し見直したかも。

 

(本当にありがとうね…夕矢)

 

 ギャーギャー騒いでいる幼馴染を見ながら、胸の内でそう呟いた。




「… ああ、だめだ、俺疲れた、色々済んだら俺農園開くわ」

この台詞、色々済んだら農園開くって台詞。これはMCUにおいて最強最大のヴィランとして君臨するサノスが最終目標である『全生命の半分』を消し去るという野望が叶った後に農園を開きたいと言っていた事が元ネタです()

「いや、別に。あー、でも小学校の頃見たホビットの冒険って本は好きだな。あの作品は面白かった。二人とも知らないか?ガンダルフとか」

 これは現在ディズニー+にて好評配信中の映画ではなくドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第二話 星条旗を背負う者にてサムとバッキーの会話の中でガンダルフとか出てきたからつい入れちゃいました。二人の会話が面白くてね……バッキーがホビットの冒険語ってるとこ好き。


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多分今までの中で一番メブタカが激しかったね、この回(ニッコリ)


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エイプリルフール特別短編 なんだただの惚気か

エイプリルフールにお話書きたいなーって思ってたら出来ました。

衝動的に書いたので今回のお話にはマーベルネタはありません。そこはご了承ください。お話もそんな長くありませんが、まぁ気軽に見てくださいな。




「ねぇ、雀」

 

「どったのメブ」

 

「今日ってエイプリルフールよね」

 

「軽い嘘をついても許される日ってやつだね。人によっては割と盛り上がる日でもあるかな?でも、それがどうかしたの?」

 

「実は試したい事があって、夕矢相手に軽く嘘でもつこうかと」

 

「あ、面白そう!いいねいいね!メブがユウにどんな嘘つくのか、私気になるよ!」

 

「意外とノリノリね。じゃ、折角だし雀もついてきなさい」

 

「ついてくついてくー!」

 

〜夕矢の部屋に移動するメブandスズ

 

「夕矢、いる?」

 

「その声は!!!!!芽吹ぃぃぃ!どした!俺の部屋…いや!俺に何か用か!?」

 

「ええ、あんたに言いたい事があってね」

 

「お、俺に?なんだ、急に…も、もしかして…」

 

(さてと、メブがこっからどう出るのか見ものだね〜。それに対するユウ反応も楽し)

 

「実は私、あんたの事嫌いだったの」

 

「へっ?」

 

「えっ、……ぇ?」

 

 (軽くないよぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?メブ、それユウにとって致命傷になりかねない重い言葉だよぉぉ!?試したかったことってそれ!?酷いポンコツを見たよあたしゃ……無慈悲!あまりにも無慈悲だよメブゥゥゥゥ!!)

 

「(成功したわ!と言いたげに雀の方を見る芽吹)」

 

(いやいやいや!この空間でそんな満足感に満ち溢れてるのメブだけだから!残り二人完全に取り残されてるというか片っぽ息してないよ!?呼吸止まってるってあれ!早く!早くリカバリーしてメブゥぅぅ!!)

 

「え…えぇ…ほんとうにござるかぁ〜?えいぷりるふーるのうそではないのでござらぬか〜?」

 

(キャラ崩壊してる……ダメだよぉ、もう顔に生気なさすぎてホ●ーマンみたいになってるじゃん…さ、さて……これに対してのメブの返答は…)

 

「私が冗談言うタイプに見える?」

 

「……みえまぜん…(涙を必死に堪えてる)」

 

(予想の斜め上通り越して大気圏の外まで出て行く返答してるよこの隊長!?えっ、なに、メブはユウのこと殺したいの!?ほら、見てよ!ユウ、完璧に縮こまっちゃってるよ!)

 

「うぅぅ…許してぇ!何でもするから!僕を…僕を愛してくださぁい!」

 

(もう辛くなってきたよ!?何この構図、見ているこっちの胸が引き裂けそうなんだけど!?メブ、ほらそろそろ!)

 

「ふふ、良い反応が見れたわね」

 

「びぇ…?」

 

「ここらでネタバラシね、全部冗談よ。今日エイプリルフールだし、ちょっと嘘ついてやろうと思ってね」

 

「……そ、そ、そっかー!!だよな、だよね!?芽吹が俺の事嫌いな訳ないもんな!」

 

「えぇ、まぁ…そうね。嫌いじゃないわ」

 

(本当に嬉しそうな顔しちゃって……やっぱりユウはこうでなくちゃ。メブも満更じゃない顔してるし、これでいつも通り)

 

「あんたも嘘ついたら?いつもみたいに、私の事好き〜って」

 

「はは、何言ってんだよ。あれは嘘なんかじゃなくて本気も本気、いつだって俺は芽吹の事愛してるし大好きだ…アイタァ!?」

 

「ちょ、ちょっとは嘘つきなさいよ!バカ夕矢!」

 

(……なんだぁ、結局ただの惚気かぁ)

 

 そう思いつつも、二人のいつも通りのやりとりが見れて嬉しい雀であった。




 結局の所、惚気。この二人のイチャイチャは止まらない!加速する!!
 そういえば、キャラ紹介の所にキャラメーカーさんで作らせていただいた夕矢くんと朝緋さんのキャライラストを載せたのでそちらも見てもらえると嬉しいです(ニッコリ)


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冬の短編 コタツは一緒に

もしかしてメブタカっててぇてぇ?


 寒い時期に人間を支えるモノ、それはコタツと呼ばれる神器。なんと、母さんが俺の為にとわざわざ届けてくれた(走って届けにきた)。こたつを部屋に配置した所、真っ先に駆け込んできた人物がいた。

 

 その意外な人物とは……

 

「なぁ、芽吹よ」

 

「…何かしら?」

 

「いや、そのさ…そろそろ、コタツから出た」

 

「やだ」

 

「早すぎるって。ほぼノータイムで拒否るなよ」

 

「……やだ」

 

「可愛いかよ…珍しく部屋に入り浸ってくれるから舞い上がってたけど、改めて考えたらコタツに負けてる事に気づいたよ俺」

 

「……出ないから」

 

「ま、寒いしな。折角だゆっくりしてってくれ…あ、そういや加賀城から貰ったみかんが」

 

「美味しいわね、これ」

 

「もう食べてる。なんか今日は色々早いな、芽吹」

 

「とりあえず…その、アンタも入りなさいよ。寒いでしょ」

 

「……可愛すぎんか?可愛すぎて、体が燃えてるみたいに熱いんだが」

 

「じゃあ、入らなくていい」

 

「いいや!限界だ!入るね!とーう!!」

 

「結局入るのね」

 

「芽吹と一緒にコタツで過ごすとか、芽吹大好きな俺が逃すわけないだろ。そんなチャンスを」

 

「はいはい、にしても…美味しいわね。このみかん」

 

「だろ?俺も気に入ってんだ〜、加賀城がくれるみかんさ、毎回すごい美味しいからよ。ほら、まだあるぜ」

 

「夕矢も食いなさいよ、はい」

 

「ムグっ……おお、美味!ていか、はいあーんされた!やったー!」

 

「うるさいっての。全く……いちいち喜びすぎなのよ、アンタは」

 

「仕方ないだろ、好きな人からあーんされるなんて嬉しい以外の何物でもないんだから」

 

「……」

 

「ん?どした、芽吹。顔赤いぞ」

 

「……気のせいでしょ」

 

「そうかぁ?んー、なんかいつもより赤いような…」

 

「もういいから…あ、甘い…本当に、このみかん美味しいわね」

 

「気に入ってるな。あ、そうだ、そんなに気に入ったらならさ、たくさんあるし何個か持って帰るか?」

 

「…いいの?」

 

「あぁ、勿論だ。加賀城からはいつも多めに貰ってるからな。部屋に持って帰ってたべても良いと思うぜ?」

 

「……はむ」

 

「?、芽吹?」

 

「ここでいい」

 

「へ?」

 

「持って帰って食べるより…私は、ここで食べてたい」

 

「?、そう、なのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「コタツから出たくない…的な感じ?」

 

「まぁ、それもあるけど……なんとなく、もう少しここにいたいなって思ったから」

 

「なっ、ウッ…そ、そっか!おし、じゃあどっちが多くみかん食べれるか勝負しようぜ?」

 

「なにそれ、そんな子どもみたいな…」

 

「なんだ〜勝負しないのか?じゃあ、俺の勝ちって事で」

 

「あ?いいわよ、やってやろうじゃない、ほらさっさとかかってきなさいよ」

 

「ごめんって…そんな怒んなって」

 

「別に怒ってないけど」

 

「ま!そんなムスッとしてる芽吹もめちゃくちゃ可愛くて好きだけどな〜!」

 

「またそれ?飽きないわね…ま、アンタらしくて良いけど」

 

 二人で一緒に入るコタツは、いつもとはまた違った暖かさがある事を知った芽吹と夕矢なのであった。




 いかがでしたでしょうか。今回は冬の特別短編という事で恒例のマーベルネタはありませんでしたが、いつも通りのメブタカが書けて作者としても楽しかったでございます。

 さて、まずは本編の投稿が全く進んでおらず申し訳ありません。現在十二話を書いているのですが、戦闘描写が上手く書けず頭を抱えてしております…一応、その後の話は書き溜めしてあるのですが、十二話が完成しない限り出す事ができないのでもう少しお待ちください。お待たせしてしまい本当に申し訳ありません。

 そして、もう一つ。こちらは良い知らせなのですが、実は夕矢の父である鷹月刀夜さんを主役としたスピンオフ『鷹月刀夜は愛を知る』の執筆も始めました。現在、三話までは書き上がっており、夕矢の物語の進み方次第ではその内あげると思うのでこちらもご期待してお待ちください。

 後書きが長くなりましたがここいらで…これからも鷹月夕矢は想い続けるを是非よろしくお願いいたします。


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短編 ネコメブゥ!

いやどこのギャルゲーやねん…ってタイトル見て思ったでしょ?まぁ、たまにはこういうのも良いじゃない。あ、今回ギャグ寄りですよ、皆さん楽しんでくださいませニッコリ


「はぁ……」

「お疲れさん、芽吹。ほら、水分補給忘れないようにな」

 

 ありがと、と短くお礼を言って受け取る。早朝、私と夕矢はいつも通りランニングをこなしていた。

 

「だいぶ慣れてきたわね…もう少し距離伸ばそうかしら」

「おお、良いじゃねえか。そうなればもっと芽吹と二人の朝を満喫できるしな(お互いの体力の向上に繋がるしな)」

「わざとじゃないのよね?それ」

 

 ?とよく分かってない顔をしてるバカは放って置いて歩き出す。

 

「はぁ…まぁ良いわ。それじゃいきましょ、少し早いけど」

「おう……っと、思ったが電話きてるな」

「誰から?」

「あー、母さんからだ。最近、電話掛けてくる事が増えてな…しょーじき困ってる」

 

 と言いつつも、若干口角が上がってる事に気づく。意外な事にこういう所は、割と素直ではないのが鷹月夕矢という男である。

 

「電話出てあげなさいよ、待っててあげるから」

「いいのか?母さんとの電話…少し長いけど」

「いいって言ってるでしょ。ほら、さっさと行きなさい」

 

 追い払うような手振りをしつつ、夕矢に早く行ってきなさいと急かす。

 

「さてと」

 

 一人残されたが、どうしたものか。体を動かそうにも過度なトレーニングは逆効果と言うし。

 

 かと言って、この広場には時間を潰せるようなものはない。精々、ベンチがある程度だ。

 

「仕方ないわね」

 

 短く溜め息を漏らし、近場にあったベンチへと寄って行く。

 

「…猫?」

 

 誰にも譲らないとでも言いたげに、ど真ん中を占領している。スヤスヤと寝ているネコを起こすのも気が引けるので、移動しようとするが。

 

「にゃあ〜」

「……」

 

 起こしてしまった。ふわふわな毛で覆われた体を起こし、こちらをジッと見ている。

 

「ごめんなさい、起こすつもりは…なかったのだけど」

「にゃ〜」

 

 可愛い、なんだろうか…自然と心がふわふわしてくる。

 

「みゃああ〜」

「そこ寝心地良さそうだものね。邪魔しないよう私は消えるわ」

 

 急に猫が動き出す、ベンチから降りたかと思うと私の足へと擦り寄ってきた。言葉が通じているのだろうか…何となく、その子が行かないでと言ってる気がした。

 

「一緒にいたいの?」

「にゃあ〜」

「…分かったわ、あのバカが戻ってくるまで一緒にいましょう」

 

 ベンチに座り、おいでと手招きする。膝の上で猫は丸まっている。その愛くるしい姿を見て、自然と笑みを溢した。

 

「…にゃ〜」

 

 周りを見渡す。周辺に人はいない、なら…少し、少しくらいなら。

 

「……にゃ、にゃ〜」

 

 猫の可愛さに脳でも溶かされたのか?と思ってしまう。だが、どうにも気持ちが昂って……

 

「…あなたが良ければ、もう少しここで一緒にいる…にゃ」

 

 自分でも何をやっているんだろうと頭を抱えた。しかし、そんな私に対して猫は嬉しそうに擦り寄ってきた。

 

「にゃぁ〜」

「…ふふ、可愛い。にゃ〜、にゃ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「いや、誰よりも可愛いの君なんだけど!?」

 

 あまりの尊すぎる光景に声が出ちゃった。急いで口を塞ぐ。…俺の声が聞こえたのか芽吹は辺りを見回している。気のせいだと判断したのか、視線を猫に戻していた。

 

 芽吹が座っている位置から、そこそこ離れている草むらから観察中。

 

(ヨシっ!……いや、ヨシっじゃねぇ!なんだ!?なんなんだ、あれは…あの、可愛すぎる空間は!?)

 

 電話が終わって戻ろうとした俺が目にしたのは、猫と戯れていた芽吹だった。そこまではいい…

 

(問題は!芽吹がニャーって言ってた事だ!なんだありゃ!?可愛すぎるだろ、一瞬心臓止まったぞ普通に!)

 

「ママ〜あそこに不審者さん〜」

「そうねぇ〜不審者さんね〜」

 

 何とでも言いやがれ。この光景を見ていられるなら、俺は不審者にでも犯罪者にでもなってやる(もうなってる事に気づいていない夕矢くん)

 

 にしても、どうしたもんか。そろそろ出ていった方がいいの分かってるんだが……しょーじきこの光景もっと見てたい。

 

 今俺は、モーレツに自分の欲望を優先したい。

 

『にゃ〜』

『…来ないわね、あいつ。話、弾んでるのかしら?』

 

 …落ち着け、芽吹が待ってるじゃないか。愛する人を待たせるとか、良くないよ?うん。よし、やっぱり合流を

 

『みゃぁぁぁ』

『そうね、待ってるって言っちゃったし…しっかり待っててあげましょ。あなたとも、もう少し一緒にいたいからね』

 

 えっ、何、芽吹って猫と会話出来ちゃうの?えー、何それ可愛い、付き合ってくれ。

 

 やっべー、己が欲望に負けすぎて全然出ていけねぇ…どうしよ、でも…早く決めねぇと。

 

 

 

〜5分後〜

 

「んー」

 

 

 

 

〜10分後〜

 

「ん〜、にしても芽吹の横顔きれ…って、寝てるぅ!?!?」

 

 アホみたいに悩んでいたら、視線の先にいる芽吹が猫と共にスヤスヤと眠っていた。疲れが溜まってたのかな?ふふ、可愛い…じゃねぇ!!!

 

「まずいぞ…芽吹みたいな可愛くて美人で可愛すぎる子があんな所で寝ていたら…」

 

 確かに、今は早朝だからそうそう人なんて通らないんだろうがもし通ったら…。

 

「俺だったら襲うわ」

 

 いや、まぁ嘘だけどね?まぁ…嘘なんだけど…

 

「……(シャッター音)」

 

 満足するまで自身のスマホに思い出を詰め込んでいく…うん、素晴らしい。

 

 ふぅ、家宝にします。ありがとう芽吹…。ありがとう、神様…ありが…。

 

「ん?」

 

 目を離した隙に、ベンチからは芽吹だけでなく猫の姿も消え去っていた。

 

「あれ?芽吹…がいない?あれ?」

「ふふ…随分遅いと思ったら」

 

 頭をガッツリ掴まれる。ヤバイ、頭、ワレソウ。てか、いつのまに俺の背後に?さっきまで…ベンチで寝てたよね?

 

「あの、これは…ですね」

「立て」

「…へ?」

「立ちなさい、アホ夕矢」

 

 はい…と静かに頷いてから立ち上がる。明らかに怒ってた、もはや阿修羅。でもそんな芽吹も可愛いと思ってしまう私はダメな男でしょうか?

 

 さっきまで芽吹と一緒に寝ていた猫ですら、俺に向かってシャー!っとキレてきてる。ちょっと泣きそう。

 

「どこから見てたわけ?」

「どこから…とは?」

 

 そんな事言わずとも分かるでしょ?っと言いたげにこちらを睨む芽吹さん。

 

「い、今来たばかりで…」

「嘘」

「……」

 

 あれ?不思議だ…芽吹に怒られるのって…すごい良いかも…(夕矢くんは新たな嗜好に目覚めた)

 

「もう一度聞くわ。いつから見てたの?」

「芽吹が…ニャーって言った辺りから…」

「そう…なるほどねぇ」

 

 と、急に一歩下り…蹴りの素振りを行う芽吹。相変わらず綺麗だ…ただ一つ問題点があるとするなら…狙いが俺の頭に向かってることぐらいか。

 

「あの、芽吹さん?」

「何?」

「貴女様の足が私の顔面目掛けて飛んできそうなんですけど…これはどういう?」

 

 俺の質問に対し、芽吹は笑顔だけを返してくれた。出来れば、俺の質問に対する答えも返して欲しかったです。

 

「……許してくれぇぇ!芽吹ぃ!!悪気があったわけじゃ…ごふっ(チーン)」

 

 言葉が言い終わる前に、芽吹の蹴りが俺の顔面を直撃した。そのまま、俺は意識を失ったという。

 

「おっと失礼、このマシン(足)の使い方…私知らないのよ」

 

 なんて言ったかは聞こえなかったが…めちゃくちゃ怒ってるのだけはよく分かった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「芽吹可愛いぃぃぃぁぁ!!……はっ、ここは、俺の部屋…?」

 

 おかしいぞ、俺…確か芽吹といつも通りランニングをしてたはずだが…いつの間に部屋に戻ってきてたんだ?

 

「あー、うー頭いてぇ…寝違えたか?」

 

 なんか大事な事を忘れてる気がする。一人困惑していると、部屋のドアが開いた。入ってきたのは芽吹だった。

 

「おぁ?芽吹、どうした?」

「……」

 

 何故か申し訳なさそうにしてる芽吹。なんか、あったのか?俺と。

 

「その…夕矢、顔痛い?」

「ん、あぁ、なんか少し痛いな。でもまぁ、どうって事ないぞ、少しヒリヒリする程度だ」

 

 「そう…」と短く答える芽吹。俺が首を傾げていると、何か意を決したかのように芽吹はこちらを真っ直ぐ見つめてきた。

 

「な、なんだよ…芽吹。さっきから変だぞ?」

「えぇ…確かにね。折角、あんたの記憶から的確に『あの黒歴史』を消せたのに…それを思い出させるような事をしようとしてるなんて」

 

 黒歴史?記憶?消す?なんか知らんが恐ろしいワード勢揃いすぎでは?と、俺が困惑してるところに芽吹は…

 

「…にゃ、にゃー」

 

 両手を前に出し、そんなもう可愛すぎる事してきた。その時、俺の脳内には一度は失われた記憶が…

 

「つ、強くやりすぎたし…これでチャラって事で良いわよね…まぁ、喜んでもらえるかは、知らないけど…あれ?夕矢?」

「……」

「お、おーい?夕矢?どうしたの?」

 

 どうしたものこうしたもないさ…ただ、今の俺の胸には言葉では表現できない熱い感情が渦巻いてやがる。とりあえず、叫ぶか。

 

「ありがとう!!ネコメブゥ!!最高だぜぇぇぇぇぇぇ!!!……はぅ…(チーン)」

「えっ、ちょっ、夕矢……し、死んでる!?」

 

 この後、二人で訓練に遅れた。

 

 

 お し ま い




〜小ネタ解説〜

「おっと失礼、このマシン(足)の使い方…私知らないのよ」

 映画、ガーディアンズオブギャラクシーにて、スターロード達が身元を確認されている場面で、スター・ロードがハンドルを操作するようなジェスチャーをしながら少しずつ中指を立てていくシーンがあり、そん時の台詞をオマージュしてます。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 この作品内のメブは、夕矢くんに対する飴と鞭の使い方理解しすぎじゃない?もう結婚してよ君たち。

 あ、本編もその内あげますぜ!



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外伝・鷹月刀夜は愛を知る
第一話


 連投!これは以前より温めていたお話、夕矢の父…刀夜さんが主役の物語です。本編では人物像すらも描かれていない彼ですが、後に本編にて重要になってくる要素もあったりと、割と大事なお話でもありますね。

 ただくめゆ成分なしなので、オリキャラ同士のあれこれは興味ないなって方はブラウザバック推奨です!(マーベル成分は今回はないけど次回とかからはあるかも)

 ま、とりあえず!ゆったりと…見ていってくださいな〜。


 よく覚えている。怯えた母の顔、だいじょうぶだいじょうぶといいながらぼくを抱きしめてくれていた。

 

『どうして…こんな事を!』

 

 少し離れた所から父が叫ぶ声がする。なぜ、なぜ、とかなしそうにつぶやいている。

 

『お前達のような■■の一族が当たり前のように外に出れて…なんで俺たちが』

 

 知らない声がする。そのあとザクッと音がする。綺麗な部屋にはあかい液体が飛び散った。

 

 なんどもなんどもザクッザクッと音がする。その度、大丈夫よ私が守るから…と母がぼくだけじゃなくてじぶんにも言い聞かせるように呟いていたのも覚えている。

 

 やがて、音が消えた。

 

『やっと■んだか』

 

 その一言を聞いた瞬間、母の目から涙がこぼれた。かなしいの?かなしいの?

 

 ごめんなさい、ぼくがなにもできないばっかりに。

 

『あの女も殺した方がいいんじゃないか?』

 

 知らない声がまた聞こえる。こちらに静かに寄ってくる。

 

『隠れて…お願い、あなただけでも』

 

 そう言って母はぼくとは反対側の方へ歩いていった。

 

 直後、またザクッという音がした。また、また、あの音。

 

 やがて音が消える。今度はこんな声がする。

 

『子どももいるはずだ。そいつも見つけ出して■せ』

 

 見つからない為にどこかへ隠れようとした。でも、間に合わなくて。

 

 すぐに捕まった。目を血走らせた大人達がぼくを取り囲む。

 

『■せ、■せ、こいつもきっと』

 

『何人の教徒が襲われたか!思い知れ!■■の一族が!!』

 

『抉り出せ!抉り出せ!そいつの■■を抉りだせ!』

 

 ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ…掻き回されて、傷つけられて、そのせいで右目から光は失われた。

 

 これは、ある日の惨劇…僕が僕で亡くなり、俺になった日。

 

 大嫌い、大嫌い。こんな世界、大嫌い。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ん、んん…?」

 

 ピピピと、甲高い音をひっきりなしに鳴らしてくる携帯を掴む。

 

「はぁい」

『はぁいじゃないよ、バッチリ寝坊してるじゃないかよ、お前』

「おー我が友、天城よ。わざわざ俺を起こしてくれたのか…嬉しいぞ」

 

 軽口を叩きつつ起き上がる。とりあえず目を覚まそうと、洗面所に向かう。

 

『たくっ…昨日は一丁前に明日は絶対に遅れない!なんて言いやがるからちょっと信じてみればこれだよ…この万年遅刻魔め』

「ぷはぁ〜……いやいやぁ、そんな褒めるでない〜」

『褒めてねぇよアホ、そんで?どうなんだよ、今日は結局来るのか?お前』

 

 割と真面目に心配してそうな天城の声。俺にとって唯一の友はなんと優しいことか。

 

「流石に、これ以上休むのはまずい。だから、行くよ…もう少ししたら」

『そっか、まぁ事故らない程度にゆったり来いよ。待ってるからな』

「天城…俺の事をそんな大事に思って…あ、切れてる」

 

 気づいた時には携帯からプープーっという音がしてた。全く天城の奴め、何を今更照れる必要があるのか。ま、その事については後で弄ってやるとしよう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 通学路とは違う道、たまたま見つけた近道を通り学校へと向かう。

 

 狭くなったりボコボコしていたり通りにくい所もなくは無いが、鍛錬している俺にはそんなに関係なかった。

 

「楽ちん楽ちんっと」

 

 バク転、からの着地。ふむ、今日は調子が良いねぇ…とても。

 

 走り続け、延々と足を止めず進む。鍛錬の賜物だろう、全く息が上がらない。

 

(…天城はまた弁当を分けてくれるだろうか。美味しいんだよなぁ、アイツが作ってくれる唐揚げ〜)

 

 なーんて事を考えていたら、いつの間にか学校に着いていた。

 

「よーし、今から行けば授業にも」

 

 と言いかけて止まる。学校の時計を見る限り、授業時間は後20分もない。ならば…

 

「すまない、天城……だが、安心しろ、お弁当はしっかりもらいに行くからな!」

 

 教室へは向かわず、俺は一直線にとある場所に向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜一方その頃〜

 

「へくしっ!」

 

「なんだ、天城。風邪か?」

 

「……いや、風邪ではないと思うが。何だろうな、悪寒がしてよ」

 

「悪寒?」

 

「あぁ、これは…弁当の中身が消える感じだ」

 

「どんな感じだよそれ…ほら、んな事良いからここの問題教えてくれって」

 

「あーはいはい。……にしても、あのバカ遅いな。そろそろ来るって言ってたような気がするんだが…まさか」

 

「あのバカ…って言うのは、もしかして鷹月くんのことかしら?」

 

「あぁ、そうそう…あのバカ刀、夜…ん?」

 

「その話、詳しく聞かせて貰っても良いかしら。天城くん?」

 

「げっ…『朝緋』委員長…」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 カツンカツン、と自分の足音だけが響く。階段をゆっくりと上がり、目的地を目指す。

 

 向かう先は一つ。屋上である。

 

 屋上にて寝っ転がり空を眺める、それが俺にとっての日課の一つとなっているのだ。

 

 錆びついてるドアノブを捻り、ドアを開く。開いた先に広がっていたのは、雲一つない青空だった。

 

「ふむ…」

 

 誰もいない屋上にて伸びをする。誰もいない為、何も気にせず寝っ転がる事が出来る。

 

「…落ち着くな」

 

 ぼんやりと空を眺めながら、そんな事を呟く。人が多い場所が苦手な俺としては、ここは絶好の場所であった。

 

「……」

 

 眼帯に触れる。出来ることなら、両目でこの綺麗な空を見たかったな、と思う…思ってしまった。

 

「今更、何考えてんだか」

 

 鼻で笑う。このバカにしたような笑いは自分に向けてのものだった。

 

 アホらしい願いだ。どうせ、そんな事本気で思ってない。何故なら、俺は…『全てに興味が湧かないのだから』

 

 そう、興味なんてない。両親、右目…この二つが失われたあの日から、僕は死んだ。

 

「代わりに」

 

 今の俺がある。誰にも興味を持たず、何にも興味を抱かない。空っぽな自分が。

 

 空っぽな自分には、この世界も空っぽにしか見えない。表面上は綺麗でも、その中身は薄汚れていて、とても汚い。

 

 人を見た目で判断するな、という言葉があるが…それは世界にも言える事だ。

 

「やぁ、腐った世界よ。今日も『空』だけは綺麗じゃないか」

 

 自然と、そんな言葉が口から漏れた。アホらしい、とさっきのように鼻で笑う。

 

「……アホらし」

「ええ、本当にね。授業も出ず、こんな所で油を売っていたなんて…ホント、アホらしいわよ?あなた」

 

 おかしい、ここには俺しかいないはず。なのに、何故か、女の声がする。しかも、真上から。

 

「ふん、天城くんの言う通り。本当にここにいたのね、遅刻欠席常習犯の鷹月くん?」

 

 こちらの顔を覗き込むように見下げている女がいた。その子はビキビキとこめかみに青筋を浮かべている。怒ってるね、なんでかは知らないけど。

 

「…何だんまり決め込んでるの。委員長である私が自らあなたを指導しにきたのよ?何か言ったらどう?」

 

 と、言われましてもね。とりあえず、身を起こして相手の顔を見つめる。

 

「……何よ、じっと見て」

「いや、そのさ」

 

 そもそもさ。

 

「君は、誰だ?」

「……………は?」

「いや、だから君は誰なんだろうなって」

「…ちょ、ちょっと待って!?あなた、もしかして私のこと知らないの!?同じクラスなのに!?」

「同じクラスだったのか。通りで聞いたことある声だと…ちなみに名前は?」

 

 はーーーー!!!???と、腹の底から出た良い声が屋上に響き渡る。うむ、元気な子だ。

 

「あなた…本当に…はぁ」

「ん、なんだ疲れているのか。それじゃここで一緒に寝る?気持ちいいよ、ここ」

「あ、じゃあ遠慮なく〜……じゃないわよ!な、なんなのあなた!からかってるの!?」

「君が疲れてそうだったから提案しただけだが……気に障ったなら謝る、すまない」

 

 あーもうなんなのこいつー!と癇癪を起こす女の子。どうやら相当疲れが溜まっているらしい。

 

「……お大事にな、ここは君に譲ろう。しっかり寝て、疲れを取るといい」

「やかましいわ!それと、君って呼ぶのやめて!私には、上代朝緋って名前があるんだから!」

 

 仁王立ちで腕を組みながら、偉そうに彼女は自身の名を告げた。

 

「上代、朝緋…上代朝緋、上代朝緋!上代朝緋!」

「連呼しないで。はぁ…全く…聞いていた以上に変な子ね…あなたは。まぁ良いわ、とりあえず付いてきなさい。そろそろ授業も始まるし、今から一緒に行けば間に合うわよ」

 

 と、言って俺の手を掴む彼女。その姿はやけに大人びて見えた。

 

「…かっこいいな、上代さんは」

「な、何よ急に…褒めたからって、これまでの遅刻欠席が消えるとでも」

「だが一つ忠告だ、男が見上げている時はスカートの中身に気を配った方がいい。色々と…見えてしまうからな」

 

 

 …………………………………………………………。

 

 一瞬。まさに一瞬の出来事である。

 

「変態…死すべし!」

「あっぶな!?何するんだ!?」

「うっさいわね!くぁー!もうっ!あったまきた!!そこに直れ!この変態野郎!!」

「ちょっ、待つんだ!そろそろ授業始ま」

「んなもん知るかぁ!そんな事より変態の指導が最初だっての!!」

 

 さっきまでの優等生オーラをかなぐり捨てて叫ぶ朝緋。それから逃げる刀夜。

 

 そう、二人の始まりは『これ』だった。酷い出会いだ…そう思う人もいるだろう。

 

 でも、彼、彼女にとってこの出会いは…これから先のことを考えれば、運命の出会いとも呼べるものだったのだ。

 

 これは、鷹月夕矢が生まれる前の物語。

 

 彼の両親…刀夜と朝緋、二人が紡ぐ前日譚。

 

 

 

 鷹月刀夜は愛を知る

 第一話 『最悪』で『運命的』な出会い




 あ、言い忘れてましたが…朝緋さんもメイン枠です。そして新キャラの天城くんだったり〜まぁ物語は始まったばかりですので、本編も見つつ、興味あるなって思って頂けたのであればこちらもゆったりと追っていただけたら嬉しく思います!約全12話程で終わる予定ですので、こちらもよろしくお願い致します。

 それでは、また〜!


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本編
プロローグ 


マーベルのホークアイみたいに強いオリ主を作りたかったから書きました!あと、好きな子に一途な主人公を、書きたかったから!

これからの展開が気になるなぁーって、思っていただけたら嬉しいです!!




タァーンッという音が、中学校にある弓道場内に響きわたる。的の真ん中に向かって一直線に矢が突きささったのを見て、体から力を抜くように息を吐く。

 

「ふぅ……もう一度」

 

もう一度、同じ行程を繰り返す。小さい頃からずっと続けてきたことだが、別に好きだからやっているというわけではない。小さい頃、親父にやれと言われたから、ただそれだけ。本来、俺にはやる気もなければ、やる必要のないものだ。

 

昔から目がやたらとよかったのもあってか、的の真ん中を当てるのは得意だった。外すことはまずない。何より、俺にとって弓を射るという行為は作業に近かった。決まりきったことを寸分の狂いもなく、繰り返しなぞらえる。目標を持たず、言われたことをやるだけの俺には、最適なことでもあった。

 

(そういえば昔、芽吹にあなた自身が弓のようねって言われたっけな。はは、今考えればそれは言い得て妙……なのかもしれないな)

 

「部活は今日休みの日じゃなかった?にしても、まだ続けてたのね……必要ないんじゃなかったの?」

「習慣になっちまってな、別に必要だからやってるってわけじゃないさ。芽吹」

 

相変わらずの凛々しい声が聞こえたため、振り返るとそこには楠芽吹がいた。

 

彼女とは、家が隣同士だったこともあり関わることが多かった。なんだかんだで、付き合いは長く幼なじみと呼べるくらいには、一緒にいた。(遊ぶとかではなく、ただただ一緒にいた)

 

それと、俺は、彼女のことが好きだ。理由としては単純で、彼女の真っ直ぐな所に惹かれたから。

 

俺は、基本的に何かに自分から決めて打ち込むことがなかった。いつも親父から言われたことをやるだけで、自分の意志を持たなかった。

 

だけど、彼女は違った。いつも、自分を追い込み続けていたんだ。小学校では、運動も学習も何もかもに強い意志を持ちながらすべてに時間を費やしていた。

 

そんな彼女の姿が、俺にはとても眩しく見えた。誰に言われたからとかではなくとも、色んなことに一途な気持ちで打ち込める彼女に、俺は惹かれたんだ。

 

「声かけてくれればよかったのに」

「あんなに集中している時に、声を掛けたら邪魔になるでしょ?」

「芽吹なら、いつでも歓迎だ。何より、声を掛けられたくらいじゃ俺は外さない」

「あっそ……」

「もしかして、俺のことを待っててくれたのか?それだったらすごく嬉し」

「夕矢が、一緒に帰りたいってうるさいからでしょ?」

「そ、そうだったな。ああ、すぐ着替えるから待っててくれ。お前と一緒に帰りたいからな」

「分かったから帰るなら、早くしなさいよ」

 

そう言って、道場を出ていった芽吹の後ろ姿を見た俺は胸の内で呟いた。

 

(二年間、何をしていたんだろうな……芽吹のやつ)

 

そんな、彼女は小学六年生の秋頃に突然姿を消した。あまりに唐突だったから、理由も何も聞けなかった。彼女のお父さんにも聞いて見たが、答えてはくれなかった。

 

時は流れて、俺が中学二年生になると、いなくなったときと同様に、彼女は突然戻ってきた。もちろん、嬉しかった、好きな人が戻ってきたのだから。

 

だけど、気になったことがあった。帰ってきた時の彼女の目だ。まるで、魂が抜け落ちてしまったかのように、覇気のない目。それだけじゃない、教室ではいつも悔しそうに手を握りしめながら、俯いているのだ。

 

話掛ければ、しっかり会話してくれはするのだが、だいたい返事が譫言みたいだし。

 

(今日こそ、聞かねぇとな)

 

「遅い、早くしなさいって言ったでしょ?」

「すまん、着替えに手間取った」

「……行くわよ」

「おう」

 

二人で、帰路を歩く。芽吹が戻ってきてからはいつもこうしている。今の芽吹は、なんか危なっかしいからな。一人にしない方がいい。別に、俺ができるだけ一緒にいたいからって訳じゃないぞ?

 

「なぁ、芽吹」

「何よ……?」

「お前、なんか悩みとかないか?」

「……そういう、あんたはどうなのよ?」

「俺か?なんだよ、急に」

「あんた、昔からだけど、考え事がある時ほど射に没頭する癖があるから」

「そう……なのか?」

「ええ、別に分かりたくないけど、分かっちゃうのよ。昔から一緒にいたから」

 

すると、芽吹は懐かしそうに呟いた。その時の表情には、少し覇気が戻っているように感じたのは気のせいだろうか?

 

「もしかして……親父さんのこと?」

「親父……か。いいや、あの人のことじゃないさ、何よりあの人のことは今悩んだってしょうがないだろ?死んじまったんだから」

「……」

 

俺がそう答えると、芽吹がばつが悪そうに俯いてしまった。そこへ、俺が本題をふる。

 

「俺が、考えているのはお前のことだよ。芽吹……二年間も、どこにいってた?言えないなら、無理して言わなくてもいいが、何かあったなら言ってくれよ」

「……あんたには、関係ないことでしょ」

「……そうか、でも、なんかあったら言えよ。いつでも、力になる」

「いいって言ってるじゃない。どうして、あんたはいつもいつも私に引っ付いてくるのよ……」

「お前のことが、好きだからに決まってんだろ?」

「っ!!ほ、本当に相変わらずなのね……」

「当たり前だろ?俺は変わらない、もちろん、お前への思いも変わらないからな」

あんたのそういうところ嫌いじゃないわ

「そうか、嬉しいな。その、お前に褒められるのは」 

「……聞こえてた?」

「ああ、ん?前に言わなかったか?耳も良いって」

 

そう言った瞬間に、芽吹は歩く速度を上げた。

 

「お、おい、なんでそんなに速くするんだよ!?」

「ここからは、もう一人で帰る。さようなら」

「ちょ、待てって!芽吹!」

「ふん」

 

置いてきぼりをくらわまいと、俺も速度を上げて横にならんだ。俺はこれだけで、幸せだ。芽吹の傍にいられるだけで、胸が熱くなる。

 

(この、芽吹が好きだって想いだけは曲げない。俺が唯一自分で決めたことだからな。二年も離れちまったんだ……今度は何があっても、俺はこいつと離れねぇぞ)

 

そう、俺はもう一度強く誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書物に囲まれた部屋に二人の人物がいた。どちらも、歪な仮面をつけている。二人は大赦に勤めている神官と呼ばれる存在だ。

 

「彼に、勇者適正の反応があったそうです……」

「そ、そんな!?本当なんですか!?」

「はい、本当です。しかし、可能性がない訳ではなかった。知っているでしょう?神世紀72年に起きた反乱を鎮圧させた三家を」

「赤嶺家、弥勒家、そして、鷹月家……そうか、彼は」

「ええ、その時代に鷹月家では男性で初めて勇者になった人物がいたそうです。詳しいことは、分かっていませんが……」

「何故、今になってその話を?」

「今だからです、三好春信。大赦は彼を、『防人』の部隊に迎え入れようとしています」

 

『防人』それは簡単に言ってしまえば勇者の量産型。これは、勇者適正がありながら勇者に選ばれなかった候補生と呼ばれた少女達がなった存在である。もちろん、こちらも男性ではなることは不可能だ。

 

「正気なんですか!?男性で勇者になれた存在が、鷹月家から出たのは知っています。しかし、それは過去のことでしょう?第1に勇者様では、ないのですか!?」

「これは、上からの決定です。そして、鷹月家も、弥勒家と同様の落ちた家柄……それに、先の戦いで現れた()の影響もあり勇者様のシステムを即席で作ることなど、不可能です。しかし、量産型である『防人』なら別」

「つまり……実験台ということですか?」

「これからに、役立てるためです。三好春信、あなたには彼のための『防人』システムの調整を任せます。これは上からの決定です、分かりましたね?」

「……分かりました」

 

三好春信と、呼ばれた男は仮面の下で悔しそうに顔を歪めていた。これが今の大赦のやり方だ。

 

世界を救う(維持する)ためなら、生存への道を見つけるためならなんでもやる。例え、それが子供達を犠牲にする道であったとしても。

 

(っ……すいません、先輩。夕矢くんを巻き込んでしまって)

 

今はいない上司に向かって、彼は心の中で謝罪した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これより、語られるのは華麗に咲き誇る勇者達の物語ではない。

 

例え、誰の目にもくれなくとも人に踏みつけられようとも、それでも、地を這うように必死に生きようとする少女達共に、好きな女の子のため大事な仲間のため奮闘し続けた一人の少年の物語である。




正直、1話だけではちんぷんかんぷんのはず。僕もですよみなさん!(´・ω・`)

でも、こんな作品でも気に入ってもらえたら嬉しいです!これから連載していきます!

芽吹かわいいよ芽吹(・∀・)


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1話  今度こそ傍に

まだ、小ネタが挟める場面がない。しかも、くめゆって題材にすると意外に難しいのね(´・ω・`)

そろそろ、戦闘シーンが書きたいなぁ(´ω`)


芽吹が戻ってきてから、結構な日にちが経った。季節は移り変わって、夏の日差しが和らぎ始めていた。時間が経つにつれ、芽吹もゆっくりではあるが、帰ってきたときよりも元気になっているように感じた(まぁ、何かを悩んでいるのは相変わらずだが……)。

 

(なんだかんだで、元気になってくれてよかったな)

 

芽吹の変化を、嬉しく感じながらリビングに入る。

 

「やけに、ご機嫌じゃない。やっぱり、芽吹ちゃんが戻ってきたからかしら?」

「当たり前だよ、好きな人が帰ってきたんだ。嬉しくないはずないだろ?あと、俺が昼飯作るから」

「毎回思うんだけど、別にいいのよ?無理しなくても」

「いいんだよ、俺がやりたいって言ってんだから。母さんは休んでて」

「……じゃあ、お願いするわね」

「ああ、任せろって。ちょいと鍛練しに行くよ、それが終わったら昼飯作るから。なんかあったら呼んでくれな」

「ええ、わかったわ」

 

母さんは渋々ながらも、俺の言葉に頷いてくれた。それを確認した俺は、家の敷地内にある弓道場へ向かった。なんであるかは、分からないが親父曰くこの家に昔からあるものらしい。

 

「自分で言ったんだろうが、悲しませてどうする……」

 

弓を引きながら、ポツリと呟く。今この家には、俺と母さんの二人しかいない。理由は簡単で、親父が亡くなったからだ。

 

親父は、一言で言えばお節介な人だった。

 

何に対しても興味を持たなかった俺に色々なものを勧めてきた。多少うざくは感じたものの、嫌ではなかった。

 

それと、親父はよくこう言っていた「男は、大事な人を守れるように強くあるべきだ」と。だから、なのかは知らないが、俺が小さい頃から、様々な技術を教えてきた。体術、剣術、槍術、など色々なことを教わった。弓道もその一つだ。

 

そんな親父は、大赦という神樹様を祀っている組織に所属していた。

 

あの人は、落ちた家柄と呼ばれた鷹月家を再興させたいとずっと言ってた。それが、息子である俺と母さんの幸せに繋がると思っていたかららしい。しかし、俺と母さんは再興なんて、どうでもよかった。俺達が望んでいたのは、三人でずっと一緒にいることだったのだから。なのに……

 

親父は……大赦での仕事の最中、事故にあい亡くなった。今はかなり良くなったが、母さんもひどく悲しんでいた。

 

(勝手に、逝くんじゃねぇよ)

 

呟きと共に、矢が飛んでいく。的の真ん中に向かって一直線に矢が突きささって、甲高い音が道場内に響き渡る。すると、道場の戸が開かれた。

 

「夕矢、ちょっといい?」

「母さん、どうかした?」

「お客さんがね、来てるの。とりあえず……玄関に来て」

「?ああ、わかったよ」

 

呼ばれるがままに、家に戻って玄関へと向かうと……。

 

「芽吹?……と、あんた誰だ?」

 

そこには、どこか動揺している様子の芽吹と、奇妙なお面を付けた女性がいた。それを見て、大赦から来たのだとわかった。

 

(相変わらず、気味の悪い仮面だな)

 

「突然の訪問、申し訳ありません。鷹月夕矢。今日は貴方に用があって伺わせていただきました」

「大赦から?もしかして、親父のことで何か?」

「いいえ、違います。あなたのお父様のことではありません」

 

すると、一拍置いてから目の前の女性は俺に言った。

 

「鷹月夕矢。人類を守るお役目のために、貴方の力が必要になりました」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

(今さら、大赦が私に何の用なの?)

 

大赦の使いの言われるがままに、車へ乗り込む。そんな中、私は俯きながらずっとそれだけを考えていた。

 

勇者選別を、三好夏凜に敗れ不合格の刻印を押された自分になんの用なのだろうか。今さら、呼び出された理由がわからない。

 

「芽吹、大丈夫か?」

「え、ええ……大丈夫。問題ないわ」

「そうか。所で、なんでこんなことになってるか。分かってることとかあるか?」

「それは、こっちが聞きたいくらいよ。なんで……今さら……」

 

(それに……)

 

一番の疑問は、私の横に座っている幼なじみのことだった。何故、夕矢まで?

 

そう私が考え込んでいると、夕矢が私の顔を心配そうにこちらを見つめていた。

 

「な、何よ、そんなじっと見て……」

「大丈夫だ、心配することはない。安心しろ、俺も付いてる」

「……」

 

ホントに、この馬鹿は。昔からそうだ、いつもいつもそうやって私に踏み込んでくる。

 

(でも、こいつのそういうところに助けられてるのも事実なのよね)

 

勇者になるための、全てを犠牲にした二年間。それを否定されて、選考に選ばれず勇者にもなれず、昔言われた通りの車輪の下敷き(落ちぶれた)になり、何も得られないどころか何もかも無くし地元に戻ってきた私を、こいつは昔と変わらない様子で、接してくれた。

 

(悔しさが、消えたわけでもあの結果を認めた訳でもない。だけど、夕矢のお陰で救われた部分もある)

 

「ねぇ、夕矢」

「なんだ?」

「ありがとね、色々と」

「気にすんなって、好きな女の子を支えるのが男の役目だろ?」

「……はぁ」

 

まぁ、変わらなさ過ぎて困る部分もあるのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そうして、俺と芽吹が連れてこられたのは大束町にあるゴールドタワーと呼ばれた場所だった。

 

現在、俺と芽吹の二人は大赦の使いである女性と共にエレベーターで、展望台へと向かっていた。窓の外からは、海が見えるがその日は曇りで、海面は銀色にくすんでいた。沈黙に耐えきれず、俺は質問する。

 

「そろそろ、何が目的なのか。教えてくれてもいいんじゃないですかね、大赦の使いさん?」

「もうすぐです」

「それ、何回目だよ……」

 

車の中でも、同じことを聞いたが何度もこの返答ばかりを、返された。大赦内で親父の後輩である人と、知り合いなのだが、その人はここまで機械じみた喋り方はしていない。すると、横から芽吹に耳打ちされる。

 

「……諦めた方がいいわよ、この神官はそうなったらそれしか言わないから」

「……そうか。てか、芽吹、お前。この人のこと知ってたのか?」

「ええ……まぁ、一応ね」

「着きました。さぁ、こちらです」

 

大赦の使いがそう言うと、展望台に到着した。芽吹の発言が気になったが、それはあとにしよう(今すぐにでも聞きたい所だが)

 

そして、エレベーターの扉が開き俺の目に飛び込んで来たのは……。

 

「?なんで、女の子がこんなに集められてんだ?」

「!」

 

俺や芽吹と、同年代くらいの少女達だった。入った瞬間に全員からの視線を向けられる。居心地が、悪すぎて横にいた芽吹に話しかけようとすると、彼女は何故か目を見開き拳を握りしめていた。

 

「どうし「これで、全員揃いましたね」……」

 

よし、あの人には俺と芽吹の会話の時間を奪った償いをさせよう。そんなことを、考えていると神官はさっきからは想像できないくらいにペラペラと語りだした。

 

「これより、あなた達に世界の真実を教えます」

 

それから、色々なことを聞かされた。ここにいるのはかつて、勇者?というお役目の候補生だった子達だということ。旧世紀に人類を襲ったのはウイルスではなく、バーテックス?とか呼ばれる天の神?だかが寄越した尖兵だとか。んで、それを防ぐために地の神の集合体である神樹が、人類を守るために四国に、結界を張ったとか。だが、このままだといずれ神樹様の寿命は尽きて……四国は滅びるだとか。

 

すべてが、自分が小さい頃から学校で習ったものと違った。

 

後ろに見えるスクリーンでは、時々何か妙な服装でその……バーテックス?だかと戦っている少女たちの姿が見えた。

 

(なんだよ、あれ?ボロボロじゃないか、ひでぇな……)

 

「事態を打開するため、我々人間は自ら打ってでなければなりません。そのために、天の神が異界へと造り変えた壁の外を徹底的に調べなければなりません。そのお役目を勇者適正の高い、あなた達に任せたいのです」

「いやいやいや、無理無理無理無理。あ、頭痛が痛くなってきたので帰りますです。はい」

「加賀城さん、帰ろうとしない。危険なお役目を生身でやらせたりなどはしません。あなた達には、性能を抑えて汎用性を増した、戦闘用装備__『戦衣』を支給します」

 

そう神官は言う。加賀城っていうのか、面白い子だな。にしても、呼ばれた理由が俺にはホントに理解できない。なので、痺れを切らし俺が手を上げて質問しようとすると

 

「すいません、質問よろしいでしょうか?」

「なんでしょう」

「お役目が必要なのは分かりました。なら、そこにいる彼は?男性では、勇者になれない。なのに何故、男である彼がここにいるんですか?」

 

気の強そうな少女が、俺の代わりに疑問の声をあげた。それと同時にまた俺に視線が集中する。

 

(もし、男が勇者?だかになれないなら、俺ここにいる意味ホントにないじゃないか)

 

「あなたの疑問はもっともです。そうでしたね、彼のことは先に言うべきでした」

 

ホントだよ。目的も分からないのに、ここまで黙って聞いていた俺を褒めてほしいもんだね。まぁ、芽吹が近くにいるから構わないが。

 

「彼は、『特例』です。男性にも、関わらず高い勇者適正を持っている」

『!?』

「夕矢……どういうこと?あんた、知ってたの?」

「知るわけないだろ、初耳だよ。こんなこと……」

 

俺以外の全員が、顔を驚愕の色で染めている。芽吹に問われた俺はそれしか言えない。

 

「鷹月夕矢。あなたにもその高い勇者適正を活かして、お役目についてもらいたいのです」

「鷹月……?」

「?」

 

気の強そうな少女と目が合う。知り合いだったか?なんか、ずっとこっち見てる気が……。まぁ、今は置いておくか。

 

「つまり、俺にもその『戦衣』ってやつを着て戦えってことか?」

「はい」

「一つ質問、いいか?」

「なんでしょう」

「芽吹が二年もいなくなってたのは、あんた達が関係してるのか?」

「ええ。彼女も、勇者適正が高く候補生として参加していただきました」

「そうか……」

 

横にいる芽吹へと、視線を向ける。二年前、彼女が地元を出ていったあの時に、俺は傍にいることはもちろん見送ることすら出来なかった。

 

「芽吹」

「何?」

「お前は、これを引き受けるのか?」

「当たり前よ……」

「そうか、なら」

 

強く拳を握りしめている幼なじみの姿を見て、俺も覚悟を決める。この役目を、引き受けなければ俺はまた芽吹と離れ離れになる。

 

だったら答えは一つだ。

 

「俺もやりますよ。その御役目ってやつ」

 

(さっきの映像を見た限りじゃ……この御役目ってのは危険だ。なら、傍にいて芽吹を守んないとな)

 

こうして、俺は『防人』という御役目に付くことを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鷹月夕矢」

「なんです、神官さん?」

 

ある程度の話が、終わって落ち着いて来た頃、後ろからあの女性神官に声を掛けられた。

 

「貴方には、もう一つ用があります」

「用って?」

「貴方は『特例』です。その為、貴方専用の防人システムを調整する必要があります。なので、一度私と共に大赦本部へ出向いていただければと」

「……分かりましたよ。じゃあ、少し時間をくれます?」

「分かりました」

 

断りをいれてから、芽吹の傍に寄っていく。

 

「芽吹」

「夕矢……なんで、断らなかったの?あんたは勇者候補でもない。なら戦う理由がな」

「芽吹がいる。それが俺の理由だ」

「ちょっ……ゆ、夕矢……こんな所で!?」

「俺はお前と二年も離れちまった。だから、今度はお前の傍から離れる気はない」

「バッ!?や、やめなさい!周りに人がいるのに!!」

「ん?ああ、悪かった」

 

顔を真っ赤にしながら、俺の胸ぐらを掴んだ芽吹によく分からないがとりあえず謝る。

 

「鷹月夕矢、そろそろ」

「分かりましたよ。そんじゃ、また後でな。芽吹」

「……はいはい、後でね」




そろそろ、鷹月くんに「上からの方が見渡せる」とか「速すぎて見えなかった?」とか言わせたいわ~(^ω^)


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2話 力と理由

ホントに難しいね。くめゆ(´・ω・`)

今回は、説明が多いから微妙かもしれません( ̄▽ ̄;)

でも、ちょっとアベンジャーズの小ネタ混ぜた。解説は後書きで(´ω`)


自分用の防人システムの調整の為、ゴールドタワーを離れた俺は神官の車で、大赦本部に向かっていた。その途中、まさかの神官から、俺に喋り掛けてきた。

 

「貴方の、防人システムの調整には一人担当の神官を付けます」

「そうですか。で、それを何で今俺に言うんです?」

「貴方が、よく知る人物だからです」

「……そうか」

 

大赦に勤めていて、俺のよく知る人物。脳内に、浮かんできたのは親父の後輩である一人の男性。

 

(会うのは……随分久しぶりになるのか。元気かな、春信さん)

 

そうして、大赦本部へと着いた俺は神官に連れられるがまま、本部内を歩いていく。神樹を祀っているにしては随分、陰気臭い場所だ。

 

「ここに、彼がいます。あとは、彼の指示にしたがってください」

「はいはい」

「では……」

 

それだけ言うと、神官はゆっくりと歩き出した。ホントに、この人は……機械かなんかなのか?少しくらい、愛想よくしたっていいだろうに。

 

(だけど、なんだろうな。あの人は……なんか望んでああなっている感じではない気がする。まぁ、勘なんだが)

 

そんなことを考えながら、ドアをノックし部屋の中へと入ると、すぐに聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「奇遇だね、夕矢くん。こんな所で会うなんて」

「ええ、ホントに奇遇ですね」

 

仮面の男から発された軽口に、軽口で答える。よかった、会ってない間にさっきの神官みたいな感じになってんじゃないかと、思った。

 

この人の名は、三好春信さん。親父の後輩で、昔から交流があった。詳しいことは、知らないが妹さんがいるらしい。

 

「最近は?昔みたいに、いつものゴルフ場に行ったりはしないの?」

「ゴルフに関しては、正直、もう昔のような面白味はないですね。18ホール18打で、回りました」

「相変わらず、さすが鷹の目(ホークアイ)だね」

「そのあだ名好きですね、春信さん。で?俺の防人システムってどこです?」

「はぁ……そうだったね」

 

一気に、声のトーンが落ちる春信さん。なんか、不味いこと言ったか?これ、本題のはずなんだが。

 

「まぁ、ここに来たということは……そういうことだろうとは思ったけど、あの人から勇者に関する事を聞いたよね?」

「はい、そりゃもうべらべらべらべらと」

「勇者適正のことも?」

「聞きましたよ、勇者ってのは男はなれないんですよね。なら、矛盾してないですか?何で、俺はその適正ってのがあるんです?しかも、今になって」

「君に適正があることについては、詳しいことは分かってないよ……でも、今になって君の勇者適正が明かされた理由は知ってる」

「それは、何です?」

 

春信さんから、発されたトーンが真面目なものに変わった為、こちらも真面目に聞き返す。

 

「君に、勇者適正があることは……僕と、ある人は前から知ってたんだ」

「ある人?」

「僕とその人は、君に勇者適正が見つかったことを大赦に隠し続けていた。何故なら、君に適正があることが分かれば大赦がそれを利用しないはずがないからね」

「その人ってのは……もしかして、親父ですか?」

「うん、あの人がいなくなったことで上層部にその情報が漏れた。だからだよ、今になって君が呼ばれたのは。先輩は君を危険に晒したくないといっていたのに」

「ちっ」

 

またか、なんなんだあの人は。お節介なだけじゃなくて、考えが独りよがりとか。余計なお世話もいいとこだぞ。

 

「ふざけてるな、何が危険に晒したくないだよ。舐めんのも大概にしろってんだ。あの、クソ親父」

「そこまで言わなくても……先輩は君のことを」

「心配していたとでも?嬉しくないですよ、そんな優しさ」

 

いつもそうだった。家族に頼りもせずに、なんでもかんでも一人でやろうとして。確かに、父親として家族を守ろうとするのは大事なことなんだろう。だけど……

 

「俺は、そんな重要なことを隠してまで守ってほしいとは思いません。寧ろ、そういうのは言って欲しかった」

「……ごめん」

「春信さんが、謝ることじゃないでしょ?」

「それでもだよ。ごめんね、夕矢くん」

「分かりましたから、そろそろ本題に入りましょうよ」

「……うん、そうだね。じゃあ、こっちに来てくれるかい?やらなきゃならないことが多いんだ」

「了解です」

 

微妙な雰囲気が流れる中、防人システム調整のための検査が始まった。身長、体重、視覚、聴覚、触覚、血液検査、血圧。正直、必要ないだろってことまで検査した。検査されている間、ずっと春信さんの妹自慢を聞かされた。

 

(まぁ、暗い雰囲気よかマシか)

 

そして、ある程度の検査が終わった頃。再度、春信さんに声をかけられる。

 

「そうだ、夕矢くん。君の防人システムには他の子達と違う部分が一つあるからそれについて、説明するよ」

「違う部分?それは、なんです?」

「これだよ」

 

そう言って手渡されたのは、黒い棒のようなものだった。

 

「これは?」

「折り畳み式の弓さ。折り畳んだ状態なら槍のように近接武器としても扱える。あと、この矢筒に入った矢……トリックアローって呼ぼうか。これと、組み合わせて使う君専用の武器だ。その矢には、沢山の機能が備わっているんだけど……それについては今度話そう」

「分かりました。んで?これが、他との違いってやつですか?」

「そう。他の防人の少女たちは銃剣か盾を、装備することになっている。でも、君のはこれにした」

「何でですか?」

「君の防人システムは、君用に再調整するんだ。上からの命令で、様々な可能性を試せって言われたから。だったら、少しの変化を加えてもいいかなって、何より、鷹の目を持つ君には弓と矢が合ってるだろ」

「まぁ……」

 

折り畳まれた弓を開き、矢筒に納められた矢を取り出して、弓を引く。

 

「悪くないですね。いや、寧ろ気に入った」

「それはよかった」

 

口の端を吊り上げながら、そう呟く。すると、春信さんが神妙な面持ちで俺に語り掛けてきたので、矢を戻し弓を折り畳む。

 

「正直な所、僕は先輩の思いを汲んで君を危険な目には合わせたくなかった。でも、こうなった以上は全面的に協力する。ここに来たってことは、君は防人の役目に付くことを自分で決めたってことだもんね」

「そうですね、丁度俺にも目的が出来たので」

「目的?」

「好きな人……芽吹の傍にいて彼女を守るって、目的が出来たから」

「芽吹?ああ、楠さんか。はは、相変わらずなんだね。その想いも」

「当たり前ですよ。俺はこの想いだけは、曲げるつもりはありません」

 

俺は、春信さんに向かってそういい放つ。何があろうと、この想いは変わらない。

 

「そっか、君の気持ちはよく分かった。システムのことについては、神官を通して伝えるよ。お疲れ様、夕矢くん」

「了解です、色々とありがとうございました」

「礼を言われるようなことじゃないよ」

 

困った様に、頬を掻いた春信さんを見届けながら部屋を出る。

 

(防人、それにシステム……か。まぁ、関係ないな。もう離れないために俺は芽吹の傍にいるだけだ)

 

胸の内で、そんなことを呟きながら本部に来た迎えの車に乗りこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

私達、防人はゴールドタワーで訓練を受けながら、暮らすことになった。どうやら、事態はかなり逼迫しているらしい。

 

防人は、数が多いという利点を活かして集団戦をすることとなる。私は、選考の際に双剣の扱いを鍛練を受けたけど、防人は銃剣か盾を使うことになる。私は銃剣を扱うことになったため。戦いの技術を一から学び直しとなった。

 

(もう一度、勇者の選考があるのかと思ったのに……)

 

訓練を受けている間、私の中には強い怒りが渦巻いていた。

 

(失格にしておいて、今になって人が足りなくなったからって呼び出した。まるで、都合のいい道具みたいに。しかも、私は……私達は勇者じゃない)

 

量産型のくだらない役目、勇者になれない私達くらいでも、それくらいは出来ると言いたいのか……大赦は。

 

(だったら、認めさせてやる。この御役目で大赦の連中が想定している以上の成果をあげて、勇者に相応しかったのは私なのだと、認めさせてやる!!)

 

やがて、私達が一通りの訓練を終えた頃、部隊の隊長と副隊長を選出することとなった。その為に、様々なテストが行われた。

 

私は、他の追随を許さないトップの成績を叩き出し、隊長になることが出来た。ちなみに、夕矢は私と並ぶほどの成績を出し、副隊長に選出されていた。

 

そして今、私は防人のための訓練施設として用意されていた道場にいる。来る実戦に向け、トレーニングを行うためだ。私だけではなく夕矢もいる。

 

「なんで、あんたもいるのよ?」

「神官から実戦が近いって言われたから、鍛練を重ねておこうと思ってな」

「……なんで、弓道を?」

 

防人の基本装備は銃剣か盾。なのに、弓を使った鍛練をしてなんの意味があるのか、私は気になった。

 

「前に俺が大赦に行ったときあったろ?」

「ええ」

「あん時に、俺の防人システムについての詳しいことを聞いたんだよ。そしたら、俺のだけ装備は弓と矢だってさ」

「なんで?」

「俺のシステムは、自分用に再調整するらしくてな。その影響らしい」

「そうなんだ」

 

こいつに限って、もう弓の訓練なんて……ていうよりも、射撃関連は鍛練の必要はないと思うが。

 

「にしても、副隊長か。隊長でもよかったんだが、芽吹の傍にいられるなら、いいか」

「はぁ……」

 

にしても本当にこういうことを言うのは、勘弁してほしい。そもそも、こいつはおかしい。自分以外の全員が女性しかいないにも、関わらず平常運転。誰がいても、私への好意を包み隠さない。

 

「た、頼むから……周りに人がいるときにそういうことを言うのやめてよね。夕矢」

「しょうがないだろ?好きなんだから」

「あ~~わかったから!やめて!恥ずか……集中できないから!」

「おわっ!?あぶな!?」

 

いつも通り過ぎた幼なじみの脳天目掛けて、模擬銃剣の先端を突きだす。

 

(そ、そもそもなんで、私はこんなに……)

 

どうしてだろうか。こいつの行動や言動を鬱陶しく思いつつも……どこか懐かしくて心地よく感じている自分がいる。

 

(内心は、案外こいつが近くにいることに安心している?)

 

「いやいや!そんなわけ!ない!!」

「ちょっ!?芽吹!振り回すのやめろ!俺、今袴だから、避けきれな」

 

直後、ゴスッ!という鈍い音が道場内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着々と、防人たちにとっての初めての御役目を行う日は近づいてきていた。




小ネタ解説(^ω^)

「奇遇だね、夕矢くん。こんな所で会うなんて」
「ええ、ホントに奇遇ですね」

↑この会話は、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』にて、空港での決戦前のアイアンマン/トニー・スタークと、ウォーマシン/ローディ・ローズの会話のオマージュ。

「18ホール18打で、回りました」

夕矢が春信の質問に対して言った台詞。これは、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の劇中にて、アイアンマン/トニー・スタークからの『隠居生活は、性に合わなかったか?ゴルフに飽きた?』という質問に対しての、クリント・バートン/ホークアイの『18ホール18打で回った。的は外さない』と返答した台詞のオマージュ。


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話の進みが遅くて、申し訳ない。恐らく次から、原作に追い付くかと思われます(^ω^)

早く、ドラマCDの内容で番外編書きたい( ̄▽ ̄;)


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3話 防人『達』の戦い

ふふふははは……アベンジャーズ ・エンドゲーム最高でしたわ( ^∀^)

うん、この話題くめゆファンからしたら、ちょーどうでもいいね!それじゃ、本編行きましょうか!!

あ、いつも通り小ネタは後書きで、解説しますわぁ〜(弥勒さん風)


「総員、戦闘態勢に入って!」

『了解!』

 

芽吹からの、号令で俺を含めた防人の面々は全員がスマートフォンを取りだし、アプリを起動させる。

 

同時に体に変化が起こる。着ていた服が一瞬にして特殊な装束に変化し、周りの少女たちの手には銃剣、または盾が握られている。俺には、折り畳み式弓と背中には矢筒。

 

そして、同時に体の奥底からよく分からないが力が沸き上がってきた。

 

(これが、神樹様の力ってやつか)

 

折り畳まれた弓を、強く握る。すると、相変わらずの無機質な声が聞こえてきた。

 

「あなた達は防人です。敵を倒すことが目的ではありません。決して、無理はしないように」

「分かってますよ、そんなこと」

 

横にいた芽吹が、うんざりした様子で呟く。そこに、先程の無機質な声とは違い、幼い少女の辛そうな声が聞こえてきた。

 

「芽吹先輩、夕矢先輩、それに皆さん……絶対に無事に帰ってきてください……」

 

この子は、国土亜耶ちゃん。巫女という役目に就いている俺や芽吹よりも年下の女の子だ、外見は幼くその雰囲気はどことなく小動物を思わせる。

 

まぁ、とりあえずこちらを心配して言ってくれているんだ、礼くらいは言わなくちゃな。

 

「安心してくれ。芽吹はもちろん、皆も何があっても俺が守り抜くからな」

「夕矢先輩……はい、頑張ってください!」

「おう、ありがとな。亜耶ちゃん」

 

自然と手が伸びて、彼女の頭を撫でる。すると、亜耶ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

 

「夕矢、何してるの?そろそろ行くわよ」

「あ、ああ」

 

少しドスを効かせた声色で芽吹に呼ばれ、俺も先頭にいる彼女の横に立つ、防人の皆は壁の外側に向かってふみだした。壁上の特定の位置を踏み越えると、目に移る光景が一変した。

 

「ここが、結界の外……」

「すげぇな、まるで地獄みたいだ」

「……そうね」

「お、おい?芽吹?なんか、怒ってないか?」

「……別に。皆、壁から降りるわよ!離れず一箇所にまとまって!」

 

芽吹の指示で、俺も少女達も巨大な壁の上から飛び降り爛れた地に降り立った。よく分からんが、俺たちの着ている戦衣ってのは耐久性を特別に高めてあるらしい。

 

「わぁぁぁ!?怖いよ怖いよ!!助けてぇ〜メブゥー!ユウ〜!」

「離れて、雀。動けないから」

「おい、加賀城。助けてほしければ、もうちょい芽吹から離れろって」

「やだよぉ!!だって、なんか白いのがめっちゃ飛んでるもん!!あれ、絶対ヤバイってぇ~!!」

 

この子は、加賀城雀。彼女は盾を持ち護衛を行う護盾型防人の一人だ。自己評価が、非常に低くめっちゃネガティブ。あと、芽吹と俺にやたらと引っ付いてくる。

 

「そもそも、ユウの武器は弓と矢でしょ!?だったら、盾の私がメブの側にいた方が絶対いいって!(まぁ、基本守ってもらうけど……)もし、メブのお尻を狙ってあの白いのが来たらどうするのさ!?」

「安心しろ、芽吹のけつは俺が守る」

「雀は怯えない!夕矢は、真顔でイヤらしい言い方しない!」

「ご、ごめんなさい」「……すまん」

 

先程よりもドスの籠った声と銃剣の先端を向けられ、二人で謝る。結構、真面目に思ったこと言っただけなんだが。すると、颯爽と最前線に割り込んでくる少女がいた。

 

「雀さん、何を恐れることがあるのです!今こそ、活躍を見せる時ではありませんか!!」

「げっ……弥勒さんか」

「鷹月さん、楠さん!ここで功をあげ、お二人に勝った暁には、弥勒家を」

「弥勒さん、突出しようとしない!」

「っ!?」

 

芽吹に怒鳴られ、不満そうな顔をさせながらも止まったお嬢様口調をした彼女の名は、弥勒夕海子。銃剣型防人の一人で、三年生で、弥勒家という名家の令嬢だそうだ。俺と芽吹に加賀城とは違った理由で、突っ掛かってくる。

 

そんなやり取りをしていると、星屑達が俺達のいる方向に向かって飛んできた。

 

「はわわわ~!?き、来たぁ!!!」

「芽吹!」

「わかってる!銃剣隊、射撃用意、撃って!!」

 

即座に矢筒に納められた矢を取りだし、弓を射る。号令と共に、一斉射撃が行われた。接近してきた星屑達は、射撃を受けて、消滅していった。

 

「た、倒したぁ!……倒したよ!メブ!」

「案外、どうにかなるもんだな」

「でしょうね。意外とこんなものよ……人間がしっかりと対策をたててればね」

 

芽吹の言う通りだ。さっきので、この矢が奴等に効くこともわかった。これならやれる。芽吹を、皆を守れる。

 

「遠くにいる奴等はどうする、芽吹?俺が仕留めようか?それとも、大勢で袋叩きに?」

「夕矢、今回の目的はあくまでも調査と採取よ。無闇に戦う必要はないわ」

「まぁ、そうだが……」

 

その時、肩をトントンと誰かに叩かれた。その子は、山伏しずく。基本口数が少なく考えが読みにくいが、芽吹曰く任務遂行能力が高いとのことだ。

 

「なんだ?って山伏か。どうした?」

「鷹月……あれ」

「ん、ああ……そりゃそうだよな」

 

山伏が無言で指差した方向を見ると、三人の少女が腰を抜かしていた。一人は失禁すらしている。

 

「あらあら、怖いのでしたら結界内に戻っていればよろしいのに」

「無理もないですよ。これが、初めての任務ですしね。まぁ、言ってる俺も俺ですが。で、どうする?芽吹?」

「私達に撤退はないわ。皆、一ヶ所にまとまって!!」

 

芽吹が、すぐに指示を飛ばし三人の少女を守るように防人全員が一ヶ所に固まる。

 

「銃剣隊、射撃用意!護盾隊は盾を展開!」

「えっ、ユウ!?護盾隊って、私のことだよね!?」

「当たり前だろ。お前が持ってるそれはなんだ?」

「……盾?」

「なんで、疑問系なんだよ。ほら、来るぞ!」

「雀、盾!」

「ううう……お助けぇ!!」

 

加賀城が、泣きわめきながらも盾を全面に押し出す。同時に何人もの少女達も同じように構える。すると、それは固まって一つの壁となった。そこに、複数の星屑が群がってくる。

 

「めっちゃ来たぁぁぁ!?」

「加賀城、盾と盾の間に少し隙間開けてくれ」

「へ?な、何するの?」

「あいつらを、一斉に消し飛ばすだけだ」

「そ、そんなこと出来るの!?」

 

問いかけに無言で頷くと、加賀城は盾と盾の隙間を意図的に開ける。そこから見える群れの一番手前にいる星屑に向かって矢を放つ。

 

「加賀城、皆、踏ん張ってくれよ」

「えっ?なん……(ドォン!!)わひゃあ!?」

「割りと規模がでかかったな」

「な、何をしたんですの!?あなたが矢を放ったと思ったら急に爆発が……」

 

弓を折り畳み槍の状態に切り替えながら、横から聞こえてきた疑問に答える。

 

「それを狙ったんだよ。俺の背負ってる矢筒には、色んな機能を持った矢があってな。その中にはタイマー付きの小型爆弾のものとかがあるんだ」

「それを使って、群がってくる星屑を一斉に仕留めようとしたってこと?」

「ご名答、さすが、芽吹だな。やっぱり俺達は運命の赤い糸で」

「繋がってない。バカ言ってないで、目の前のことを片付けるわよ」

「ユウってさ、強いけどかなりアホだよね?……って、ああぁぁ!?助けて、メブぅー!ユウぅー!」

「そ、そんなことないだろ、うぅ……(泣)」

「自分で自分を助けなさい、雀。夕矢も、ほらしっかりして」

 

そのやり取りを見ていた防人の面々(((なんだろう、状況が状況だけにこのやり取りを見るとなんか落ち着く……)))

 

加賀城の悲痛な叫び声を聞きながら、軽く涙ぐみつつも芽吹の指示を聞いて、それらをこなしていく。

 

しかし、攻撃が続いてくれば疲労するものは必ず出てくる。

 

「きゃっ……!?」

 

星屑の突撃の圧力に耐え切れずに、盾持ちの一人が突き飛ばされる。弾き出された少女を狙って無数の星屑が群がり始めた。

 

「誰も、殺させない!!」

「っ!芽吹!!」

 

一人で、少女に群がる化け物達に切り込んだ芽吹を追って自身も飛び出す。即座に群がって来た奴に対し、矢を手に持ってそのまま化け物に向かって突き刺す。

 

「一人で先行しすぎるなよ、芽吹」

「私の部隊で……死人なんて出させるもんか!」

「……芽吹?」

 

俺の呼び掛けが聞こえないのか、鬼気迫る様子で銃剣を振るう芽吹。

気にかけながらも、彼女と共に次々と星屑を殺していく。食われそうになった少女を助け出すと再び盾の内側へと、戻った。戦衣のお陰で、食われかけた少女は多少の傷はあるものの致命的な傷はなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

「芽吹、大丈夫か?」

 

汗にまみれ、息をあげている芽吹に声を掛ける。

 

「ええ……大丈夫よ」

「無理はしないようにな、きついなら言ってくれ。皆でフォローするからな」

「余計なお世話……ほら、今は目の前のことを片付けるわよ」

 

顔をあげそう言った芽吹きの目には、何か強い怒りのようなものが感じられた。

 

(何をそんなに、焦ってるんだ。芽吹……)

 

そんな彼女の様子を見て、俺の中には不安が募った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

今日が、防人達の初めての御役目だ。星屑達の執拗な攻撃が続く。負傷者や恐怖で動けないものもいるため、私達は移動することが出来ない。しかし、今回の目的はあくまで壁外の土壌や溶岩の採取。だから、この場から動く必要はない。

 

(問題は……星屑の数が多すぎる。その影響で護盾隊のメンバーにも、疲労が見られる……このままじゃ押し切られる)

 

盾に頼りすぎていては、さっきのように押し切られる確率が高い。思考を巡らせ、すぐに指示を送る。

 

「護盾隊は、隊全体の防御を継続して!副隊長、そして三番から八番の防人は盾の外で星屑を撃退し、護盾隊の負担を軽減して!それ以外のメンバーは採取を!」

 

それぞれが指示された通りに動き始める。隊長、副隊長以外に『三』から『八』の番号を持つ防人は能力の高い指揮官型なのだ。夕矢が『二』、私は『一』の番号を持っている。

 

(私は、絶対にこの御役目を完璧にこなして、勇者に昇格するんだ!!こんな所で、止まってられない!今までの人生を……積み上げてきた全てを、無為にされてたまるか!!!)

 

息が上がりながらも、怒りに突き動かされるように敵を殲滅していく。だが、敵の数が多すぎた……いつのまに後ろに回ったのか、背後から星屑が一体接近してきた。

 

(っ!?……まず)

 

「させるかよ!!」

 

声が聞こえたと同時に、頰の横を矢がすり抜けていく。それが、星屑に突き刺さると、電流のようなものが流れ星屑の動きが止まった。それを狙い、追撃として夕矢が折り畳んだ弓を槍のように使って星屑を貫いた。

 

「はぁ……お前のそういう真っ直ぐな所は好きだけど。それが行き過ぎて、周りが見えなくなる所は直さないとな」

「夕矢……」

「何をそんなに焦ってるとか、何をそんなに思い詰めてるんだとか聞きたいことは多いが……お前が話さないのなら、無理には聞かないさ。だけど、これだけは忘れるな」

 

折り畳まれた弓を、開きながらこちらを向いて夕矢は呟く。

 

「お前は1人じゃない。ここには防人の皆もいるし、何より……俺がいる」

「っ!?はぁ〜……」

 

こんな状況なのに、真顔でそんなことを言う幼馴染(バカ)を見てため息が漏れる。自然と、さっきまで込み上げていた怒りが消えていた。

 

「な、なんで溜息つくんだよ?俺、なんかおかしなこと言ったか?」

「別に、ただこんな時でもいつも通りなあんたに呆れただけよ……」

「わたくしには、呆れたというよりも安心しているように見えたのですが?」

「弥勒さん!?な、何を言って……ってそうじゃなくて!あなたの番号は二十番でしょう!?指示に従ってサンプル採取をしてください!」

「何を言いますか!?それでは、功績を、立てられないではないですか。よって!わたくしは前線で戦いますわー!!」

 

意気揚々と戦い続ける弥勒さんを見て、更に深い溜息をつく。すると、また星屑達の一群がこちらに向かって飛んできた。

 

「ちっ、ほんと邪魔な奴らだな」

「口が悪いわよ、夕矢。それよりも応戦しないと!」

「メブゥー!!ユウゥー!!」

 

突然飛んできた雀が、盾を使って星屑達の突撃を阻む。そのお陰で、夕矢と協力し、順当に倒すことが出来た。

 

「助かったわ、雀!」

「やるな、加賀城。助かったよ」

「2人が死んじゃったら、誰が私を守るのさ!?絶対に生きて、私を守り続けてくれないとダメなんだからぁぁあぁ!!」

「……」

 

人を守りながら守ってくれと叫ぶ雀に、軽く気圧されていると無線でしずくから、連絡があった。

 

『楠……』

「どうしたの?しずく」

『弥勒が……そっちに向かったけど気にしないで。私がその分も回収するから……』

「ええ、任せたわ」

 

無線が切れると、夕矢が口の端を吊り上げながら言った。

 

「な?言ったろ、皆がいるって」

「ええ、まぁ……そうね」

 

その言葉を聞いた瞬間に、口元が少し緩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、充分に採取出来たこと、そして護盾隊の体力の限界が来たことからボロボロになりながらも、私達は壁の中へと戻っていった。死人は出なかったものの、多少の被害や怪我人は出た。

 

「芽吹先輩、夕矢先輩!皆さん!」

「亜耶ちゃん」

「帰ってきてくれてよかった!心配していました……」

「おう、なんとか皆生きてるよ。とりあえず、無事だ」

「よかったぁ……」

 

亜耶ちゃんが、何度目か分からない安堵の声を漏らす。すると、横からあの神官が歩み寄ってきた。

 

「楠さん……結界の外の土壌や溶岩のサンプルは取れましたか?」

「はい、各防人が所持しています」

「では、そのサンプルは回収させていただきます……」

 

すると、神官は無言でサンプルの回収を始めた。それに対し、また怒りを覚える。

 

「芽吹」

「何?夕矢」

「やったな、お前の指示のお陰で死人が1人も出なかったぞ」

「えっ?私の……?」

「ああ、皆初めての実戦だったからな。混乱したりした時もあったが……うまく、それをまとめたのはお前だぞ、芽吹」

「私が……」

「よくやったな、隊長」

「ちょっ!?や、やめなさい!」

 

突然、夕矢に頭を撫でられ顔が熱くなる。なんで、顔が熱くなったのか、分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘中、私の脳裏には車輪の下敷きという言葉がよぎってた、でも……。

 

(私は……いや、私達は絶対に下敷きになんてならない!!)

 

胸の内でそう呟き、手に力が篭もった。




小ネタ解説!!


小ネタ1「安心しろ、芽吹のけつは俺が守る」
    「夕矢は、真顔でイヤらしい言い方しない!」

夕矢の台詞と、芽吹の台詞。この会話は、映画『アベンジャーズ・エイジオブウルトロン』より、ソコヴィアでのウルトロン軍団との空中戦最中の時に、アイアンマン/トニー・スタークとウォーマシーン/ローティ・ローズの掛け合いから抜粋。


小ネタ2「遠くにいる奴等はどうする、芽吹?俺が仕留めようか?それとも、大勢で袋叩きに?」

この台詞は、映画『マイティ・ソー』にて、クリント・バートン/ホークアイが、ソーを弓で狙っている際に放った台詞のオマージュ(個人的に、この台詞めっちゃ好き)


小ネタ3『矢を手に持ってそのまま化け物に向かって突き刺す』

これは、映画『アベンジャーズ』や『アベンジャーズ・エイジオブウルトロン』で何度か、ホークアイが戦闘中に行った動き。ホントにかっこいいから見てほしい(^ω^)


小ネタ4「口が悪いわよ」

芽吹が夕矢を、注意した時に言った台詞。これは、映画『アベンジャーズ・エイジオブウルトロン』の冒頭場面で、キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースが汚い言葉を使ったアイアンマンを咎めた時の台詞より、引用。


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どんどん小ネタが、増える増える(^ω^)さて、今回は戦闘多かったので次は、日常メインにしますかね。可愛い芽吹を書きたいからね!


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4話 必要な日常

後半の不穏さ以外は、全体的に日常成分強めです!( ^∀^)

皆をうまく書けてるか心配ですが……なんか変なとこあれば言ってください!では、本編スタートォ!!(アベンジャーズ成分は、今回殆ど無いです……申し訳ない)


「ごめん……本当にごめんなさい」

 

私の前には、力無さげに座り込んだ少女が項垂れた様子で呟いていた。

 

「あなたは、それでいいの!?せっかく防人として訓練してきたのに……ここで諦めたら何も!」

「落ち着け、芽吹。どうするかは、本人次第だろ?」

 

横にいた夕矢に、肩を掴まれる。その声で、少し冷静さを取り戻す。

 

「とにかく、もう少し考えてみて」

「うん、でも……考えは変わらないと思う……本当にごめんなさい……」

 

少女は俯いた状態で、自室へと戻っていった。夕矢とその場に取り残された私はため息をつく。

 

「これで三人目、ね……」

「しょうがないさ、あんなもん体験すれば嫌になるやつも出てくるだろ」

「っ……」

 

初めての任務が終わった後、三人の少女が防人をやめたいと言い出した。例え事前に、結界外の惨状を知らされていたとしても、彼女達にとって実際の光景は絶望的なものだったんだろう。

 

前回の任務の中での、被害は少ないといえど負傷したものはいる。それを目撃すれば、次は自分かもしれないという恐怖が押し寄せてくるのも理解できる。

 

「一人は大丈夫そうだが、さっきの子ともう一人は無理かもな」

「情けない……勇者にも選ばれなくて、ここでも逃げてどうするのよ!!」

 

苛立ちが募り、それを吐き出すかのように怒鳴る。聞いた話では、勇者たちは星屑なんかよりももっと格上の敵と、戦っているらしい。それはまるで、格の違いを見せられているようだった。

 

「私は……違う。私は……逃げない」

 

拳を血が出るのではないかと思うほど、強く握りしめた。

 

「私は……落第者じゃない。私は、勇者になるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

やって来たのは、ゴールドタワーの展望台。ここは、大赦の改築によって、防人達専用の個室がたくさん用意されている。

 

「戻らないの?あんた」

「せっかく、再会したんだ。出来るだけお前の傍にいたいんだよ」

「何それ、私と一緒にいても楽しくないでしょ?」

「何言ってんだ?芽吹の、傍にいれることほど楽しいことないだろ。今すぐにでも、跳び跳ねたい位楽しいぞ?」

「あんたが、何言ってんのよ」

 

溜め息をつき、芽吹の視線が外に向けられる。さっきの発言といい、今の彼女の状態といい空気が重苦しくなっている。俺が、芽吹を元気付けようと口を開くと、背後から気配がした。

 

「防人の御役目を、辞退したいという者が二名出たそうですね」

 

現れたのは、俺達防人の監視役……ではなく見守る係的な立場にいるまるで機械のような神官だった。

 

「なんで、ここにいるんです?まさか、芽吹や俺たちの不手際がどうこうと言う気でも?」

「いいえ、あなた達を責める気は毛頭ありません。辞退する者の代わり人員の件について、伝えるため参りました。指揮官系統の欠員は無さそうなので、すぐに補充は出来るでしょう」

「補充……?」

 

その発言は、明らかに俺達のことを人として扱っていないということを物語っていた。どうやら、大赦ってのは防人のことを人類が生き残るための踏み台くらいにしか思っていないらしい。俺はその言葉を聞いて、苛立った。

 

「なぁ、神官さんよ」

「なんでしょう?」

「大赦の上の連中に伝えとけ。俺達のことを舐めてると、痛い目見るぞってな」

「確実に伝えられるかは分かりませんが……分かりました」

 

淡々と告げると、俺達に背を向け、エレベーターに乗って展望台から降りていった。

 

「補充、ねぇ。俺達は消耗品じゃないってんだよ」

「夕矢……」

「行こうぜ、芽吹。明日の朝も訓練あるだろ?隊長が行かないと、あいつらもサボるかもだし、今日は自室に戻ってゆっくり休もうぜ」

「……そうね、行きましょう」

 

二人で、エレベーターに乗り込む。その途中、俺は聞き逃さなかった。芽吹が、俺にありがとうって言ってくれていたことを。こういう素直じゃない所も、俺はとても愛しく感じた。まぁ、好きだから当たり前だが。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

そして、次の日の早朝。訓練施設の一部であるグラウンド場で防人の面々は芽吹考案ランニングプログラムの真っ最中であった。

 

「ふぇぇ、も、もう無理だよぉぉぉ……」

「むむ、これはペース配分に気をつけなくてはなりませんわね」

「珍しい……弥勒にしてはまともなこと言ってる……」

「私にしては、ってどういうことですの!?」

「なんで、弥勒さんはそんなに元気なの……もう、私無理だよぉ。はぁ〜サボりたい〜!!」

「サボったら…もっと酷くなる」

「……だよね」

 

雀がこういうのも、無理はなく芽吹の考える訓練内容は地獄のようなものだった。サボることもできるが……やらなければもっと量を増やされるという恐ろしい罰が待っていたので、防人の面々は参加せざるをえないのであった。

 

「にしても、芽吹さんと鷹月さんは一体どういう体の構造をしているんですの?」

「駄目だよ、弥勒さん……あの二人は色んな意味で人間じゃないから」

「加賀城の意見に……賛成。ほら……噂すれば」

 

しずくが、指を指したその先には……。

 

「はぁ、はぁ……」

「悪い、芽吹。左失礼っと」

「っ!!この、待ちなさい!夕矢!!」

「ちょっ!?なんで、怒ってんだ!?」

「なんで……ですって?そりゃ、抜かされる度に左失礼って言われ続ければ腹が立つに決まってるでしょ!?」

「怒ってるお前も可愛いが!頼む、謝るから……背中をぶっ叩くのやめてくれぇぇぇぇ!!」

 

鬼の形相で、夕矢を追い掛ける芽吹の姿だった。

 

「なんなの……あの二人……なんで、ランニングこなしながらイチャイチャしてるの?」

「しかも……私たちより、ペースも速い」

「これは、負けていられません!さぁ、雀さん!ペースを早めますわよぉー!!!」

「ギャァァァァァァァ!!やめてぇ、弥勒さん!!足ちぎれるぅ!!」

「ギャァァァァァァァ!!やめろぉ、芽吹!!背中が、壊れるぅ!!」

「……阿鼻叫喚の世界……」

 

これが、基本的な防人の訓練風景である。

 

 

 

 

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訓練が終わると、あの神官がやってきて防人の面々を全員展望台へと集めた。しかし、昨日防人をやめたいと言った二人はいなかった。替わりに見覚えのない少女が二人いた。つまり、新しく入る防人メンバーのことを知らせる為に集めたようだった。

 

(俺達は、消耗品とでも言いたいのかねぇ?大赦は……)

 

「わーん!メブゥー!!ユウゥー!」

「……」

「加賀城、どうかしたのか?」

 

食堂に、叫び声が響く。もう、このやり取りも随分慣れたもんだ。

 

「やっぱり私も防人やめるって言うべきだったよ〜!タワーを出ていった人たち、あんな簡単にやめられるんだったら私もやめるぅ〜!やめるやめればやめる時ー!」

「雀、何度もいってるでしょう、やめるなんて言わない」

「そうだぞ、加賀城」

「でもでも、防人やめてった人たち、私よりも訓練成績良かったんだよ!」

「訓練はあくまで訓練よ、実戦では雀、あなたの方が優秀だった」

「そうだぞ、加賀城」

 

加賀城は自身の評価が、低いが俺や芽吹は彼女の能力を認めていた。頭の回転の速さなら俺や芽吹よりも上だろうと思ってる。

 

「雀、あなたはもっと自分に自信を持ちなさい」

「そうだぞ、加賀城」

「自信なんて持てないよぉ!てか、ユウはさっきからそれしか言ってない!自分の意思とかないの!?」

「芽吹の意思が俺の意思だ」

「答えになってないよ!?」

「夕矢、ちょっと黙ってて。でっ?雀、防人をやめるって件はどうなったの?」

「そ、そうだった!よし、言うぞ!やめるって言っちゃうぞ!あのロボット女神官さんに、行ってくる!……行って、やっぱり無理ぃぃぃぃぃ!!」

「芽吹(泣)……まぁ、なんというか、情緒不安定だよな……加賀城って」

「ユウがそれ言う!?」

「あらあら、ずいぶんと騒がしい人達がいらっしゃいますわね。食事とはもっと優雅に行うものでしてよ?」

 

てな、こと言って現れたのは俺や芽吹達よりも年上で三年生の弥勒夕海子。どうやら、いつも通り俺達以外に絡んでくれる人がいないから同じテーブルについたようだ。

 

「さて、次の御役目こそ、わたくし弥勒夕海子が……」

「うう、次の御役目いつになるのかな……次で死ぬ絶対死ぬ」

「安心しろ、芽吹が見てるんだ。お前や皆を死なせたりは絶対にしねえさ」

「あんたが、言わなくても私の部隊で死者なんて出さないわよ」

「ああん、メブ&ユウ!なんて頼もしいんだろう!流石、隊長と副隊長だよぉ〜」

「ちょっと!わたくしを無視しないでくださいませんこと!?」

「「「あ、弥勒さん、いたんですね?」」」

「な、な、あなた達!仮にも私は上級生ですのよ!?」

「仮にもって自分で言っちゃうんですね?」

 

弥勒さんがギャーギャー言っているところに、また二人の少女が俺たちの方にやってきた。山伏しずくと国土亜耶だ。

 

「弥勒先輩はいつも前向きですね!頼もしいです!あ、芽吹先輩横いいですか?」

「弥勒さんは前向きすぎて、周りが見えなくなるのが欠点だけどね。ええ、いいわよ、空いてるし」

「……鷹月、横いい?」

「おう、山伏。構わねぇぞ」

「ん、ありがとう……」

「気にすんな」

「なんか、この六人で集まるのも当たり前になってきたわね」

「ああ、確かに。まぁ、でも、いいんじゃないか?皆といると楽しいし。芽吹と二人きりの時間が減るのは……まぁ、まぁ、あれだが」

 

俺がいつも通り思ったことを言うと、芽吹は手をわなわなさせ、他の面々は呆れつつジト目を向けてきていた。亜耶ちゃんだけは目をキラキラさせてるが……。

 

「んっ、お、おい、どうした?」

「出たよ。ユウのメブ依存発言」

「もうここまで直球だと、ツッこむのも馬鹿らしくなってきますわね」

「常にプロポーズ……」

「流石、鷹月先輩です!そういう真っ直ぐに愛を伝えられる男性はカッコいいと思いますよ!ねっ、芽吹先輩!」

「私にとっては頭痛のタネでしかないけどね……」

「でも、メブってたまにユウの言葉を聞いて嬉しそうにしている時とか、あるよね?」

「ふんっ!!!」(ザクッ)

「んにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!目がぁぁぁぁぁぁ!!」

「なっ!?そうなのか!?芽吹!?やっぱり俺達は」

「鷹月……耳元で怒鳴らないで」(ザクッ)

「んぎゃぁぁぁぁぁぁ!!目がぁぁぁぁぁぁ!!」

「皆さん、今日も元気で何よりです!仲もどんどん良くなってるみたいですし!」

「これは、仲が良いという部類に入るのでしょうか?」

「「目、痛い(泣)」」

 

とまぁ、このような感じで。芽吹、加賀城、弥勒さん、山伏、亜耶ちゃん、俺。基本、この六人で行動することが多く、一つのグループ的な感じで周囲からは認識されていた。

 

(俺からすれば、芽吹と一緒にいられる時間が減るのは少し思うとこがあるが……何気にこいつらといるのも楽しいんだよな。何より……昔から一緒にいたから分かる。芽吹も皆といるのが楽しいんだ(・・・・・))

 

なんであれ、好きな女の子が昔に比べて人と関わる事を楽しんでいるのが嬉しかった。きっと、皆と過ごすこういう日常は彼女にとって必要なんだ。まぁ、おそらく俺にも……な。

 

 

 

 

 

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〜???side〜

 

「そうか……奴は防人に変身出来たか」

 

「ええ、三好春信が上層部へ出した報告が正しければ……」

 

「そうか……ふふふ、ははは!!成功だ……やったぞ!これで私の研究成果も実を結ぶ!!」

 

「一度止まっていたプロジェクト……貴方を抑え込んでいた_____が消えた事でまた再開することが出来ましたね」

 

「ああ、全くもって邪魔な男だった……しかし、奴はもうここにはいない!これで、思う存分に研究を続けられる」

 

「しかし……上層部に勘付かれた場合どうするのですか?」

 

「なに……上層部にはこれからの世界の為とほざいておけばいい。まぁ、私からすれば、世界なぞどうでもいいが……この世界は既に終わっているようなものだからなぁ……それよりも、私は自身の研究に力を注げればそれでいい」

 

「了解しました……では、私はこれで……」

 

「ああ……ふふ、さぁ、もっと働いてもらうぞ……鷹月夕矢!!私の研究の進歩の為に!!」

 

〜???side out〜




小ネタ説明!\( ˆoˆ )/

「悪い、芽吹。左失礼っと」

左失礼って部分は、『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』での冒頭場面のキャップの台詞より抜粋。

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不穏な雰囲気が、見え隠れしてますが大丈夫です……きっと……きっと……( ^∀^)


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5話 火花散る

お久しぶりです〜!地味ーに、今回もアベンジャーズ成分入っとります!感想が、来るのがめちゃくちゃ嬉しい…もっときて←強要


「ふぅ……」

 

朝のランニングを終え、一人でゴールドタワーをエレベーターを使って上がっていく。いつもなら芽吹のランニングに付き合うのだが……俺としたことが寝坊してしまったらしい。

 

「ちっ、朝の芽吹成分が足りん……ここ最近ずっと一緒だったからかクッソ寂しい…」

 

寝坊なんてもんをした自分に苛立ちながら、いつもより遅めに食堂へと向かうと山伏が、ちょこんっと一人で座りながら朝食を取っているのが見えた。

 

「よっす、朝早いな。山伏」

「鷹月…?楠は一緒じゃないんだ……珍しい」

「お前こそ、加賀城と弥勒さんは一緒じゃないんだな。にしても…俺が芽吹から離れるとか……ぐぅ…過呼吸になりそう」

「……朝からハイテンション」

「いや、こんなのまだまだ。芽吹が近くにいりゃ、もっと違うんだけどな」

「それより上があるの…?」

「なんで嫌そうなんだよ。あ、ここいいか?」

 

山伏が静かに頷く。本人の許可も取れたので、正面の席へと座る。山伏は相変わらず、何を考えているのか分からない無表情顔で食事を進めていた。

 

「なぁ、山伏」

「…何?」

「お前ってどこ出身?」

 

急な質問に、山伏は小首を傾げた。うーむ、こういう仕草がやたら似合うんだよな。小動物感ってのかな?

 

「…急にどうしたの?」

「山伏とは前々から色々話したいと思ってたからな」

「そうなんだ……徳島にいた」

 

徳島か…確か、加賀城は愛媛、弥勒さんは高知、俺と芽吹、亜耶ちゃんは香川。結構バラバラだな。

 

「不思議なもんだな。四国全部の出身者が揃うなんてよ」

 

山伏は黙々と食事をしているが、何気に俺の話を聞いているようで静かに頷いてくれる。ふと、気になったことをもう一つ聞いてみた。

 

「ご両親とかは、こんな御役目やることになんか言わなかったのか?」

「……親は、心中した」

「……悪かった」

「ううん、気にしないで」

 

知らなかったとはいえ、悪いことをした。あまりこの空気を持続させるのもどうかと思った為、すぐに違う話題を振る。

 

「ずっと徳島にいたのか?」

「小学校は神樹館」

「ほー、ん?それって、確かあれだろ?確かぁ……」

「二年前、勇者様がいらっしゃった場所ですね!?」

「うぉ!?あ、亜耶ちゃん!?っと……芽吹じゃないかぁ!」

「落ち着きなさいっての!たくっ、珍しく私に引っ付いてこないと思ったら、しずくと一緒に食堂にいたわけね」

 

ん?なんだ、芽吹から不機嫌な匂いがするぞ?これはもしかして……俺が山伏の所にいたから嫉妬している!?

 

「芽吹……お前もしかして嫉妬してくれてるのか!?だとしたら嬉し」

「何に対しての嫉妬よ。この馬鹿」

 

呆れつつ芽吹が俺の隣の席に座り、同じく亜耶ちゃんも「失礼します」と一礼して山伏の横の席に座る。

 

「何、ニヤニヤしてんのよ」

「悪い、芽吹が迷わず俺の隣に座ってくれて嬉しくて」

「なっ!?ふ、ふん……で、しずく。さっきの話聞かせてくれない?」

「…神樹館のこと?」

「しずく先輩は当時先代の勇者様と年齢が一緒だから、もしかしたら知り合いだったのではと…」

 

亜耶ちゃんの言葉に、山伏は静かに頷く。

 

「隣のクラス。だったから」

「やっぱり!驚きました、先代の勇者様の知り合いがいらっしゃったなんて」

 

亜耶ちゃんは感嘆しているのか溜め息をついた。その横では、芽吹が真剣な目でしずくを見つめている。

 

「ねぇ、どんな人だったの、先代の勇者って……?どんな人が勇者になれたの?」

「……」

 

まただ、芽吹のこの表情。焦っているようで追い詰められているかのような……俺には何故芽吹がこの表情をしているかの理由がわからない。

 

そんなことを考えている内に、午前の訓練開始のチャイムが鳴った。結局の所、それに遮られたことで芽吹は山伏から答えを聞けていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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そんなことがあった次の日、二回目の結界調査が行われた。新しく防人になったメンバーは最低限の事だけ教え込まれ、戦地へ投入されることになっていた。まともな訓練時間すら取れないほど、切迫してるらしいな、大赦は。

 

「……もう、人数十分いるよね?じゃ、私は帰りますぅぅぅぅぅ!!」

「とか言って、逃げ出さない辺りが加賀城らしいよな」

「雀、夕矢!隊列を乱さない!」

 

なんか、怒られてしまったが全然OKだ。芽吹に怒ってもらえるのはご褒美みたいなもんだしな。

 

「今回も、密集陣形で行くわ!目標地点までの到達予想時間は三十分。なんとしても、持ち堪えるわよ」

『了解!!』

「よし、芽吹。背中は任せろ」

「えぇ、普段の変態的行動はどうあれ、あんたの強さは信頼してるから」

「お、おう……そうかぁ、嬉しいなぁ……」

 

新しく入ってきた四人以外の防人メンバー(この、開幕速攻で何気にイチャイチャするのどうにかならないかなぁ…)

 

前回は壁のすぐ外の土壌を、持ち帰る任務だった為、壁の近くから動く必要性はなかった。だけど、今回は、かつて『中国地方』と呼ばれた地域へ向かい土壌の摂取と状態観測を行う。しかし、一筋縄でいけるはずもなく、前回にも見た白い化け物が俺達の行手を阻んできた。

 

「うぎゃぁぁぁぁ!!!来たーーーーー!!!助けてぇ!メブゥ!ユウゥ!!」

「護盾隊は、盾を展開!奇数番号は、星屑と交戦しながら護盾隊の負担を減らして!偶数番号は交代のために、盾の内側で待機!!」

 

護盾隊の防人達が盾を大型化させて組み合わせ、隊全体を覆う。これにより、星屑は突撃が阻まれる。移動速度は落ちるかもしれないが、これが一番安全性が高い。

 

だが、それだけでは押し切られる。だからこそ、俺や芽吹、そして他の隊長達は盾の外に出て星屑達を倒していた。

 

「悪いが、四国は今日も店じまいなんだ、さっさとそのアホ面ひっさげて元の場所へ帰りな!!化物!!」

「消え失せなさい…化物!!」

 

多少の負傷者を出しながらも、俺達は目標地点へと辿り着いた。相変わらず、そこも爛れた大地が広がっているだけだ。

 

「相変わらず、気持ち悪りぃ風景だな…」

「えぇ、ほんとに…最悪の景色よ…」

「……芽吹、大丈夫か?」

「問題ないわ、私の心配よりも自分の事を第一に考えたらどう?」

「俺の中じゃ、お前が一番なんだから、自分なんて二の次だっての」

「あっそ……総員、撤退準備!」

 

採取が充分終わった為、芽吹の号令で防人達は後退を開始する。すると、横に随分息を荒げた弥勒さんがいた。

 

「あの、弥勒さん。すごく息切れしてるんすけど、大丈夫ですか?」

「ぜぇー、はぁー……ふふふふふふ……こ、今回のお役目も実に簡単…でしたわ…」

「うひゃぁ〜すごい〜説得力皆無ぅ〜(棒)」

「す〜ず〜めぇ〜さぁーん?あなたの眉毛全部千本ほど抜いてあげましょうか?」

「弥勒さんは突出しすぎなんです。疲れているのなら、しっかり盾の中で休息を取ってください」

「いいえ、そうはいきませんわ!それでは、功績を立てられませんから」

 

芽吹の発言を、弥勒さんはキッパリと拒否する。疲労して、傷も負っているのに彼女の目には闘志が強く宿っていた。弥勒さんのこういう所をなんだかんだで俺は尊敬していた。

 

「ああああ!!!!ユユユユユユユウユウユウユウ!!みて、見てアレェ!!」

「いってぇ!?ど、どうしたんだよ?」

「な、なんか、いっぱい集まってるんだよぉぉぉぉぉ!!!」

 

加賀城が指差した方向には、星屑が何十体も融合していく姿が見えた。神官から聞いたことがある、完全なバーテックスは作れなくともその『成りかけ』程度のものなら出てくる可能性があると。

 

突然の事態に、防人のメンバーに動揺が走る。融合個体は撤退中の防人部隊の最後部に迫る。そこには、山伏がいた。

 

「芽吹!!」

「わかってる!!私達で、助けに行くわよ!!」

 

巨大個体の出現によって、部隊が混乱に陥る中で芽吹と俺が指示を出しつつ体制を徐々に立て直していくが、星屑が邪魔で山伏の所まではたどり着けないでいた。

 

「このっ!邪魔!!するんじゃねぇ!!」

 

弓を射りながら、近場にいるやつを屠りつつ…すぐに弓を折り畳み体をよじって胴回し回転蹴りを放つ。防人の性能的に撃破は出来ないが、相手を止めることはできる。

 

「今!!はぁぁ!!!」

「ナイスフォローだ。芽吹」

「わかったから!急ぐわよ!」

 

やっとのことで、最後部まで着くとへたりと座り込んでいる山伏に迫る巨大個体が見えた。

 

「夕矢!!」

「させねぇ…」

 

弓をすぐに射り、巨大個体に向けて放つ。しかし、それと同時に銃声が響き渡った。矢と銃弾によって化物の体には風穴が開いた。

 

「えっ?」

 

芽吹の困惑と疑問が込められた声が聞こえてくる。直後、巨大個体の体は横に裂けた、裂け目からは銃剣を肩に担ついだ少女が出てきた。その少女とは、山伏だった。どうやら、無事だったようだ…安堵し、無線で山伏へ喋りかける。

 

「山伏、無事か?」

『んぁ?無事に決まってんじゃねぇか!ウスノロが!俺がこんなデカブツに負ける訳ねぇだろ!』

「は?」

『うらぁぁぁぁぁ!!!このデカブツが、ナマスにしてやらぁぁぁぁ!!!』

 

瞬間にブツっと無線が切れる。すぐに巨大個体の方に視線を向けると、銃剣を使い、巨体を突き刺し、同時に銃弾を発射。突き刺し、撃ち、斬り裂く。普段の山伏からは想像できないほどの勢いで、連撃を叩き込み化物を屠っていた。

 

ポカーンと目の前の光景に、思考停止していた俺に芽吹が言った。

 

「…誰よ、あれ?」

 

もちろん、俺はその質問に答えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

二回目の任務終了後、私と夕矢はしずくのあの豹変ぶりについてを女性神官に問い詰めていた。

 

「あれは、山伏しずくのもう一つの人格です」

「もう一つの?」

「二重人格ってやつか」

「ええ、主に追い詰められた時などにそれが出てくるようですね」

「なるほど、しずくが『九』の番号だったのはそこも考慮してのことだったんですね。しかし、強くても連携行動が全く出来ていません」

 

確かに、今回防人達に犠牲者を出さずに帰還できたのはもう一人のしずくのおかげかもしれない。だが、巨大個体を倒したあと、夕矢や私の指示を聞かずに星屑と戦い出したりなど、戦うことを楽しんでいるようなかのような行動を繰り返した。

 

「あれでは、作戦行動に支障が…」

「心配するな、芽吹。またあいつが勝手な行動をしたら、俺が従わせてやる」

「それが、最善でしょう。メンバーを従わせるのも、隊長、そして、副隊長の務めですから」

 

それだけ言うと、神官は私たちに背を向けて立ち去っていった。

 

「ちっ、あんたに言われなくても分かってるっての」

「ほんとよ、言われなくても従わせるわ」

「俺も、協力するぜ。お前の支えになりたいからな」

「……真顔でそういうことほんと毎度毎度よく言えるわね」

「好きだからな」

「あー!はいはい、そうですか…」

 

少し顔が熱くなるのを感じながら、雑談をしていると、夕矢がスマホを自室に忘れたのを思い出し取りに行った為、一旦一人で食堂へと向かうことにした。

 

「なんだぁ?お前、怯えたツラしやがって」

「ひぃ!?しずく様ぁ、お許しを〜!」

「様とかつけてんじゃねえ、なんかあるならはっきり言えよ!」

「ええと、その…い、いつまでそのままなのかなって…」

「俺が俺で、何か文句でもあんのか?」

「ひゃ、ひゃい、何でもありません」

 

食道に着くと、しずくに土下座している雀の姿が見えた。このやりとりを見て、ため息をつく。今のしずくをこのまま放置するのは、良くない。

 

「雀、怯えすぎ。それで、しずくちょっといいかしら?」

「んだよ」

「め、メブゥ!助けに来てくれたの!?」

「あなたのその状態はいつまで続くの?」

 

「ガン無視!?」と半泣き状態の雀をいつも通りにあしらいしずくに問いかける。

 

「さぁね、久々に出られたんだ。しばらくはこのまま楽しませてもらうわ」

「そう」

「お前もその方がいいんじゃないか?あっちのしずくよりも、俺の方が強いし、なんならあの使えない副隊長よりも強いからな」

「使えない…副隊長?」

 

その言葉を聞いて、何故かものすごくイライラした。確かに、夕矢は変なやつだが、こんな言葉を言われるような奴ではない。

 

「確かに、あなたの強さは頼もしいわ」

「だろ?ただ、俺に指示はするな、俺は好きなようにー」

「でもね、今のあなたはこの部隊に不要よ」

「……あ?」

 

鋭い目が私の目を真っ直ぐ捉えている。怯まず、それを受け止める。変な奴とはいえ、幼なじみをバカにされて引き下がれないし隊長として生意気なメンバーを従わせなければならない。

 

「防人に必要なのは、連携し、集団で戦う力。身勝手に戦闘を繰り広げ、味方を危険に晒すようなただ強いだけの力は必要ない。故に指示には従ってもらうよ」

「俺は…自分よりも弱ぇ奴の言うことなんて聞かねぇし、小物には興味ねぇ」

「だったら、無理やりにでも納得させ」

「あれ?ユウ……?ひぃぃ!?ど、どうしたの!?ユウ、怖いよ!?」

 

後ろからの雀の叫び声に振り向くとそこには、明らかにキレている夕矢の姿があった。

 

「たくっ、忘れ物とりいって戻ってきてみれば……てめぇ、さっき芽吹に対してなんて言った?俺の耳がおかしくなけりゃ、芽吹のことを弱いだなんだの言ってた気がしたんだが???」

「ああ、言ったぜ?俺は弱い奴に、従う気はないってよ」

 

二人が睨み合っている光景を見ながら、頭を抱えた。こうなったら、夕矢は止まらない……実際、小学生の頃私をバカにしてきた連中を無傷で粛清していた事があった程だ。(流石に、先生に呼び出されていた)

 

唖然としていると雀が近くにきて、小声で話しかけてきた。

 

「ね、ねぇ、メブゥ…な、なんか大変なことになっちゃったよ?どうにかしてよぉ」

「正直、無理ね……夕矢はああなっちゃったら止まらないもの…」

「なるほど、愛故にってことですね?流石、重度の芽吹さん依存症」

 

いつの間にか近くに来て、耳打ちしてきた弥勒さんの発言に頭痛が更に増す中、目の前の二人は更にヒートアップしていった。

 

「は?山伏のもう一人の人格だか、知らんが覚悟しろよ?」

「んだよ、やるか?」

「お前には、芽吹の素晴らしさを教えると共に礼儀ってもんも教えなくちゃならんらしいな?」

「やってみろよ、副隊長さん?」

「はぁぁ……」

 

そんな二人のやり取りに、もう私はため息しか出てこなくなった。




小ネタ解説!

「悪いが、四国は今日も店じまいなんだ、さっさとそのアホ面ひっさげて元の場所へ帰りな!!化物!!」

上のセリフは、『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』にて地球へ襲来したエポニー・マウに対してアイアンマン/トニー・スタークが、言い放った台詞のオマージュ。

胴回し回転蹴り

映画「キャプテン・アメリカ/ザ・ウィンター・ソルジャー」での、バトロック戦の際にスティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカが使った格闘術のオマージュから取りました。

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んー、次の次は番外編書こうかな!!!メブと夕矢くんがもっとイチャイチャしてほしい。


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6話 かっけぇじゃねえかよ

うーん、今回こそ夕矢くんのカッコいい所が見れるんでしょうか?(´ω`)


場所は、タワーではなく訓練施設にある道場へと移されていた。あの食堂のイザコザを終わらせる為、俺と山伏は勝負する事となった。

 

俺が勝てば、以降山伏は俺、そして隊長である芽吹の言うことを聞く。逆に山伏が勝てば、一切の指示も受けずに自由に行動する。それを条件として俺達は対戦する事になった。

 

「別に、No.2用の戦衣でもいいんだぜ?」

「いいや、てめぇに言い訳のネタをやるつもりはない」

 

目の前にいる奴を睨みつけながら、アプリを起動させる。こいつとの決闘の為に銃剣型の戦衣を使う。理由は単純、性能に差が出ないようにだ。

 

「ユウぅぅ!大丈夫なの!?あいつめっちゃくちゃ強いよ!?」

「雀さんの言う通りですわよ、夕矢さん。今の彼女、私と同等レベルの強さでしてよ」

「いや、弥勒さんの方が絶対弱いと思います」

「め、芽吹さん!?わ、わわわたくしはまだ本気を出していないだけですわ!」

 

準備運動をしている山伏の方を見つつ、横にいる三人の会話を聞いている。芽吹は分からなくはないが、何故か加賀城と弥勒さん、亜耶ちゃんも道場へ来ていた。

 

「他の防人の皆さんから話を聞いて急いできましたが……どうしてこんなことに…」

「単純な話だよ、あの野郎が芽吹を侮辱したからだ」

「はぁ……ごめんね、亜耶ちゃん。無駄な心配させて」

「い、いえ、私は大丈夫ですが……と、ともかく!夕矢先輩、怪我だけはしないでくださいね」

「ああ、亜耶ちゃん、ありがとな」

 

亜耶ちゃんにお礼を言いつつ、準備体操を終わらせ山伏の方へと近づこうとする。すると、後ろから肩を芽吹に掴まれた。

 

「どうした、芽吹?」

「あんたは……なんで、私の事になるとすぐムキになるのよ?私が馬鹿にされた所で、あんたには何の関係もないじゃない」

 

芽吹が小声で、俺にそう言う。芽吹はそう思うのかもしれない、だけど俺はそうは思わなかった。芽吹の顔を真っ直ぐ見て、言葉を掛ける。

 

「芽吹……自分の、好きな女の子が馬鹿にされたんだぞ?それで、ムキにならない男の方が俺はおかしいと思うぜ」

「っ!い、今そう言う冗談はいらな」

「冗談な訳あるか、本気だ」

「っ〜!!!わかったわよ!!なら、さっさと行ってきなさい………この、バカ」

「おう、ちょっと行ってくる」

 

芽吹に背中を向けて軽く手を振りつつ、ゆっくりと銃剣を持ち変えた。山伏はもう準備万端のようだ。

 

「んじゃ、始めるとするか。副隊長さんよぉ」

「御託はいい、これに勝っててめぇに芽吹の素晴らしさを叩き込んでやる」

 

道場内の空気が一変し、俺と山伏は銃剣を構え、対峙する。

 

「おらぁ!!!」

「っ!へぇ、やるじゃねぇか」

「どーした!?速すぎて見えなかったかぁ!?」

「ちっ、もっとしっかりストレッチしてくるんだった」

「へっ!いきなり、言い訳かぁ?」

 

先手は、山伏に直突を放たれた。それを寸前で銃剣を使い押さえ込む。思ったよりも、重たくそしてスピードのある一撃と挑発の言葉を食らい口の端が吊り上がる。

 

「ほざけ、ただの独り言だっつの。とりあえず、覚悟しろや」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「や、やばぁ……あの二人強すぎ」

「えぇ、素晴らしい身のこなしですわ。お二人とも、隙という隙が一切ありませんもの」

 

目の前で、銃剣を振るいぶつかり合っているしずくと夕矢の姿を見て雀と弥勒さんは感嘆の声をあげている。私も、今まで銃剣を使う防人達と模擬戦をして来た、しかし二人の戦う姿は明らかに他とは別格だった。

 

「芽吹先輩、夕矢先輩は大丈夫でしょうか?」

「心配しなくても大丈夫。あいつはいつもあんな感じだから」

 

確かに、しずくは強い。でも、不思議と夕矢が負けるとは思わなかった。寧ろ、勝つのではないかと…私は心のどこかで思っていた。

 

「ふふ」

「どうしたの、亜耶ちゃん?」

「いえ、芽吹先輩はなんだかんだで夕矢先輩の事を信頼してるんだなと」

「べ、別にそういう訳じゃ…」

「それでも、心配はいらないと即答出来るのは凄いと思います!」

「……」

 

亜耶ちゃんに笑顔でそんな事を言われて、どうしてか何も言えなかった。そうして、目線を夕矢の方へと向けた私の中にはある疑問が浮かんできていた。

 

(私は…夕矢の事をどう思って)

 

「芽ー吹ーは可愛いー!!!!」

「てめぇ、ちっとは静かに戦闘できねぇのか!?」

 

いつも通りの発言と共に、夕矢が銃剣を振るっている。それにしずくがキレていた。そんな光景を見て溜め息を漏らす。

 

「はぁぁ…あのバカ」

「うわぁ…どんなにすごい動きしててもユウはユウだなぁ(白目)」

「まぁ、あれも鷹月さんの強さの秘訣……なのでしょうか…?」

「夕矢先輩の愛情表現、私は素晴らしいと思います!」

「なんであれ…あんまり人前ではやって欲しくないわね…」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

山伏が振るってきた横薙ぎの一撃を受け止める。ここまで撃ち合って分かったこと、それは動きに関して山伏は素人ということだ。

 

(恐ろしいのは…スピード、そして重さか。関節と重心の動かし方が、天才的……才能だな、こりゃ)

 

だからといって負けるつもりはない、微塵もな。こちとら、芽吹を弱い呼ばわりされてイライラしてるんだ。振るわれた刃が二度三度交差し、ぶつかり合い、今度は鍔迫り合いへと発展する。

 

同時に、俺と山伏の視線が間近で交わった。

 

「へっ、うぜぇくらいに気合入ってるじゃねぇかよ!」

「たりめぇだ!!好きな女の子馬鹿にされて、キレねぇ男がどこにいるってんだ!?」

「そこまで、楠が馬鹿にされたのが気に食わねぇか!つーことはあれか!?てめぇが、男なのにこんな御役目やってんのは楠の影響か!馬鹿じゃねぇのか!?てめぇ!!」

「バカだぁ?俺はなぁ……」

 

山伏の銃剣を弾き飛ばして、真正面から突きを放つ。俺は叫びながら、言葉を紡ぐ。

 

「俺は、あの日から芽吹の側にいると決めた!!正直な話、神樹様とか世界の滅びとか、知ったこっちゃねえんだ!!ただ、そこに芽吹がいて、守りたいと好きな人の助けになりてぇって思ったからここにいる!!だから、芽吹を馬鹿にするだけじゃなく、あいつの道の障害になろうとするお前は、俺が粛清する!!」

「へぇ……てめぇは、そういう考えか」

 

山伏が力任せに銃剣を振り払うと、俺と距離を取った。すると、同時に山伏は銃剣を肩に担いだ。

 

「おい……なんのつもりだ?」

「副隊長の馬鹿みてぇな考えはわかった。ついでに、お前が溺愛してる隊長殿の理由も聞いとこうと思ってな」

「決闘はどうすんだ」

「なぁに、隊長様の聞いたら仕切り直しだ。しっかり負けさせてやるから安心しろや」

「……一旦中止だ」

 

提案にいったん乗ってやる。理由としては一つで、俺も興味があった、芽吹がこの部隊で隊長をやっている理由。聞いたこともなかったし、聞かされることもなかったから。

 

「楠!」

「……何?」

「お前は何のために、戦ってんだ?」

「急に何よ?あなた達、決闘中じゃないの?そもそも、そんな事聞いて何になるの?」

「俺が純粋に気になってんだよ、それと副隊長さんからの許可も取ってある。戦闘はお前の理由ってのを聞いたらまた始めるさ」

「夕矢…あんたまで?」

「すまん…だが、俺も気になるんだ。芽吹の戦う理由ってのがさ」

「……」

 

さっきまでとは違う重い沈黙がその場にいる全員にのしかかった。聞かれた本人である芽吹は目の前にいる山伏を睨みつけている。やがて、芽吹が諦めたかのように口を開いた。

 

「私が、ここにいるのは勇者になるため」

 

その第一声を発した瞬間に、芽吹の雰囲気が変わる。そして、それは表情にも現れたそれは時折、防人の任務中に見せた思い詰め焦っているかのような表情だ。

 

「その資格があると大赦と神樹様に認めさせてやるのよ。その為に、防人のお役目も、隊長としての仕事も完璧にこなす。それもこれも全ては勇者になるために」

「芽吹…」

「勇者…勇者、ねぇ。俺の知っている勇者って奴らは、お前みたいに勇者になりたいなりたいって駄々をこねてなかった。学校行って、授業受けて、飯を食って、友達と遊んで……。どこにでもいる子供と変わらなかった」

「っ……だったら、だったら何!?」

 

山伏の発言が、芽吹の何かに触れてしまったのか。芽吹の表情には怒りの感情が見て取れた。

 

「普通に生きることが、勇者になるための条件だって言うの!?」

 

芽吹が山伏に問う……その場にいた全員が固まっていた。加賀城なんか何故か弥勒さんに引っ付いて震えている。

 

「知らねえよ!でもな、勇者って奴らはカッコよかった、尊かった!だけど、楠!お前は他人の芝生を見てヨダレを垂らしてるガキだ!!そんなカッコ悪い奴が、勇者になれるわけねぇだろ!」

「っ、それでもね!私は、勇者になるの!例え、他人にどう思われようと!」

「はぁ、ああそうかよ……おい、副隊長!てめぇは、どう思うんだ?お前も知らなかったんだろ?溺愛してる楠がこんなかっこ悪い理由で戦ってたなんてよ」

 

山伏が俺にそんなことを投げ掛けてくる。山伏の正面に立っていた芽吹は拳を、強く握り締めながら俯いている。

 

まぁ、確かに俺は芽吹が防人の隊長になった理由を知らなかった。そして、今、やっと俺は彼女がこの防人という危険極まりない御役目とやらを何故、必死にやっているかがわかった。その理由を聞いて俺が思った事はたった一つだった。

 

 

 

 

 

 

「かっけぇじゃねぇかよ」

 

 

 

 

 

 

「はっ?」

「だから、かっけぇじゃねぇかって言ったんだよ。何がカッコ悪いってんだ?」

 

山伏が俺の発言に対して、面を食らった表情をしている。そこに俺は自身が素直に思った事を捲し立てた。

 

「こんなに真っ直ぐ一つの目標に向かって、何もかもを全力に取り組んでる奴のどこがカッコ悪いんだよ?寧ろ、最高だね、またより一層芽吹の事が好きになった」

「なっ!?夕矢!?」

「また、でたぁ!ユウのメブ依存!」

「最近では、慣れつつありますわ…」

「夕矢先輩、流石です(キラキラした目)」

 

俺の発言に対し、芽吹や加賀城、弥勒さんと亜耶ちゃん、それぞれが反応を見せる。

 

「……それはてめぇが、こいつの事を溺愛してるから補正でそう感じてるだけじゃねぇのか?」

「いいや、山伏…お前となんら変わらねぇさ。お前がその先代の勇者達を見て、かっこいい尊いと感じたのと同じように。俺は芽吹のそんな真っ直ぐな所をかっこいい、そして、尊いと感じたのさ」

 

横目で芽吹に視線を向けながら、山伏にそう言う。こいつの言葉の語っていた時の表情を見れば分かる。きっと、その先代の勇者って奴らもすごい奴なんだろう…。でも、だからって芽吹を馬鹿にしていい理由にはならない。

 

「さぁ、用は済んだろ?続き…始めようぜ?」

「ちっ…」

 

色々済んだ事だし、本題である決闘に決着をつける為に芽吹達見学者から離れ、俺と山伏はもう一度銃剣を構えた。

 

「おらぁ!!!!」

 

山伏が踏み込み、こちらの間合いは一瞬で入ってくる。同時に俺に対して鋭い刺突を繰り出した。中々、避けられるタイミングではなく、避けるのは至難の技だ。

 

(賭けるか)

 

避けられないのであればと、銃剣を持ち変えて盾として扱う。正直、賭けである。角度や力の入れ方を少しでもずらしてしまえば、山伏の剣先が俺の体に命中していただろう。

 

「どうしたぁ!?防ぐので精一杯か!?」

「…っ!」

 

山伏が放った刺突と威力は予想以上に高く、俺は体勢を崩す。

 

「取った!!!」

 

そのチャンスを逃すまいと、間髪いれずに山伏は刺突を繰り出してきた。

 

「確かに…てめぇは強い。でもな……」

 

言葉を紡ぎながら、仰け反った体を後ろに引かずに 床を強く蹴り飛ばし前へと踏み込む。多少、山伏の銃剣の刃が自身の横っ腹辺りを切り裂く。だが、同時に、俺は山伏の銃剣を脇に挟み込む。

 

「芽吹の、前では俺は誰にも負けるつもりはないんだよ!!」

「っ!?てめっ!?」

 

山伏が咄嗟に後ろへ下がろうと動く。しかし、俺の銃剣の刃が山伏の首筋へと突きつける方が速かった。

 

「俺の勝ち、だな……へへ、最後の動き、早すぎて見えなかったか?」

「……」

 

剣先を突きつけられたまま、山伏は俺の事を睨む。やがて、諦めたかのようなため息とともに両手を上げた。

 

「わーったよ、俺の負けだ負け」

「これで、俺はお前さんを手に入れた。これからは約束通り、俺や芽吹の指示を聞いてもらうぞ」

「言われなくてもわかってるっつの、そういう約束だしな。たくっ、あー!負けちまったか…」

 

山伏が戦衣を消して、床に座り込む。俺も戦衣を解いて近づいていく。

 

「にしたって、あんなところで普通突っ込むか?どういう神経してんだよ、お前」

「ま、芽吹を馬鹿にされたのもあって頭に血が上ってたからな。あんな賭け技もスッと出せたのさ。実際はまぐれだよ」

「いいや、純粋にてめぇが強かった。ただ、それだけだ」

「お前もな、芽吹程じゃないが大したもんだったぜ。まぁ、芽吹を馬鹿にした事は許さんが」

「また、それかよ、面白いくらいに変な奴だな」

「うっせぇわ、お前も大概だろうが」

 

山伏と顔を見合わせる。何故か、お互いに満足気な笑みを浮かべていた。

 

すると、突然、何の前触れもなく頭痛がした。同時に意識が遠のいていく。俺の変化に気づいたのか、目の前にいる山伏が俺に何かを言っている。しかし何を言っているかは聞き取れず、体の自由が効かなくなる感覚に襲われ、力が抜けていく。

 

(んだよ、突然……なんで、急に……)

 

考える暇もなく、ぷつんと意識が途絶えた。その寸前くらいでこっちに走り寄ってくる芽吹が見えた気がする。

 

(嬉……しい……ぜ、芽吹…)

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「間に合ってよかった…」

 

勝負に決着がつき、安堵した瞬間、遠巻きに見ていたら、急にぐらつき倒れ始めた夕矢を寸前のところで受け止めることに成功する。

 

「……しずく、なんで夕矢は倒れたの?」

「知らん、さっきまで普通に話してたんだが…、いきなり倒れ出したぜ?」

「そう…と、とりあえず、少し、手伝ってもらってもいいかしら?」

 

しずくに呼びかけて、急に倒れ出した夕矢を横にする。ただ頭は私の膝の上へのっけさせておいた。別に、深い意味はない。

 

「なんで、急に倒れたのよ…このバカは」

「さぁなぁ〜てか、楠。お前、鷹月が倒れたのを見てからこっちくるの早すぎねぇか?俺の方が近いのに、俺より先に支えてるって……もしかして、なんだかんだでお前、鷹月の事が」

「ち、違うわよ!!こ、これは、隊長として副官の助けになることは当然で!」

「……膝枕してるのにか?」

「えぇ!こ、これも隊長の務めよ!」

 

ニヤニヤ笑いながら、しずくがこっちを見ている。その表情には食堂で振りまいていた凶暴さなど微塵もなかった。そんな彼女を見て、私は唯一の疑問を、投げ掛けた。

 

「……ていうか、いいの?私とは戦わなくて?」

「なんだよ、急に」

「あなたは、強い者にしか従わないんでしょ?けど、あなたは夕矢にしか、負けてない。まだ、私を強者とは見極められてないじゃない」

「そりゃ、そうだけどよ。そこに転がってる俺に勝った馬鹿が認めてる奴が弱いなんて、多分ねぇと思ったからな」

「……あんたも、大概変な奴ね」

「けっ、言うことも同じかよ。本当に面白いなぁ、お前ら」

 

しずくは呆れつつも、どこか楽しそうに笑った。そこに亜耶ちゃんがやってくる。

 

「め、芽吹先輩!夕矢先輩は大丈夫ですか!?」

「亜耶ちゃん、ありがとう。ええ、ちょっと気絶してるだけみたい、特に怪我とかはしてないから大丈夫、安心して」

「そ、そうですか…よかったですぅ」

 

亜耶ちゃんが夕矢の顔と私の顔を交互に見ながら、安堵している。そのまま、亜耶ちゃんはしずくに視線を向ける。

 

「しずく先輩が、みなさんと仲良くなってくれてよかったです」

「んぁ?おい、お前、今俺は楠と話してんだ、邪魔すんなよ」

「お二人のやりとりを見ていたら、混ざりたくなってしまって」

 

しずくに威圧的な態度を取られても、亜耶ちゃんは怖気付かず話を掛けていった。少し、周囲を見渡すといつの間にか雀と弥勒さんがいないことに気がつく。

 

「あれ?亜耶ちゃん、二人は?」

「ああ、二人ともお帰りになられました。雀先輩は「巻き添えくらいそうだから」と夕矢先輩としずく先輩が決着をつける前に。弥勒先輩は何も言わずに」

「そう…」

「何はともあれ、一件落着ですね!これで皆さん、友達ですね。仲良しです!」

 

亜耶ちゃんが私、夕矢、しずくと順番に視線を移しながらそんな事を言った。

 

「ふん……本当、変な奴しかいねぇな」

 

しずくは照れくさそうにそっぽを向きながら、少し嬉しそうにそんな事を呟く。そんなしずくを、見て笑ってしまった。

 

(全く、退屈しないわね、あんたと一緒にいると)

 

膝の上で寝ている幼馴染をみながら、心の中でそう呟く。

 

 

「ん、んん…あれ?芽吹?俺は……なんで横に……って!!こ、これは!!芽吹のひ、ひひひひひひ、膝枕ぁぁぁぁ!?!?!?」

「い、いきなり、目覚ましやがった」

「ゆ、夕矢先輩!?だ、大丈夫ですか!?」

「ぁぁぁぁぁぁ!!ご、ご褒美すぎるだろぁぁぁぁ!?!?」

「はぁぁぁ……本当に退屈しないわね」




「ちっ、もっとしっかりストレッチしてくるんだった」

上の台詞は、「シビル・ウォー・キャプテン・アメリカ」にてクリント・バートン/ホークアイがヴィジョンとの掛け合いの時に、言った台詞のオマージュ。

「速すぎて見えなかったか?」

ちょーかっこいい台詞!!……おっと、失礼、取り乱しました。この台詞は、「アベンジャーズ・エイジ・オブ・ウルトロン」にてクリント・バートン/ホークアイとピエトロ・マキシモフ/クイックシルバーが言った台詞です!!是非聞いてみて!!


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ふいぃ〜疲れたぁぁ、まあ今回は結構大事な伏線もはれたから良きかな〜(`・ω・´)
さて、それでは皆さま、次はお待ちかね!(誰も待ってねえよ)番外編ですぜ!!!メブと夕矢くんのイチャイチャ書いちゃいますぜ!!


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7話 加賀城雀=良い奴

ちょぉ〜っと詰め込み過ぎた感ありますが、新キャラだったり雀ちゃんとの絡みだったりあるので楽しんでいただけたら、幸いです。


山伏しずく暴走事件から数日が経った頃、防人は五回目の四国外調査へと臨んでいた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!分断されちゃったぁ!ダメダァ!おしまいだぁぁぁ!!」

「まだ、終わらせないから安心しろ!それと、叫ぶ暇あったらもっと急げ!」

 

夕矢の言葉に雀は「びぇええん!」と謎の奇声を上げた。今、現在防人達は星屑、そして成りかけの化け物によって部隊を綺麗に半分に分断されてしまっていた。

 

採取が終わっていた為、後は結界外へ出るだけという事と夕矢と芽吹がお互いに別々に付けたのは不幸中の幸いだった。。夕矢はすぐに芽吹へと無線を繋げる。

 

「芽吹、聞こえるか!?」

『ええ、聞こえてる。そっちの状況は?合流は出来そう?』

「悪い、合流は出来そうにねぇ。この感じ……別々に行動して出口を目指した方が良さそうだ。何より無理に合流しようして、袋叩きにされたらそれこそまずい」

『確かにね、わかったわ。そっちの子達の事はあんたに任せる。頼んだわよ?夕矢副隊長』

「任せな、芽吹隊長」

 

無線が切れる。すぐに固まっている防人達に指示を飛ばす。

 

「皆、聞いてくれ。今から俺達は隊長の部隊とは合流せず、別行動をとり結界外を目指す。お互いにフォローするのを忘れるな。全員、気を」

「ユユユユユユ、ユウ!後…」

 

雀が忠告をするよりも先に、夕矢は後ろからの気配を察っする。振り向きはせずにトリック・アローを背後へと向けて放つ。放った矢は背後から忍び寄っていた星屑に直撃し、周りを巻き込んで大爆発を起こした。

 

「喋ってんだろ?そんくらいわかれや、バケモン」

「ゆ、ユウ……う、後ろから星屑来てたのわかってたの?」

「だいたい、気配で察してた」

「何それ!?人間技じゃない!!」

「慣れれば出来る」

「慣れればって何!?」

「とっ、雑談してる場合じゃねぇぞ。銃剣を持った者は、盾を持った者とお互いにフォローし合いながら固まれ!ここを突破するぞ!」

 

雀or他の防人(((副隊長、指示も出来るわ、人間やめてるわでやばい……)))

 

夕矢の指示の通り、防人達は星屑を撃退しながらも退路を確保していく。瞬間、地面が揺れると同時にサジタリウス・バーテックスの成りかけが夕矢達の方へと無数の矢を放った。

 

「っ!?護盾隊は、盾を展開だ!成りかけの一斉射に備えろ!」

「えぇぇぇぇ!!嘘でしょーーー!?!?」

「嘘じゃねぇ、本当だ!ほら、はよたて!俺が串刺しにされる!」

「そ、それはダメ!これからも、ユウには私を守ってもらわなきゃいけないんだからぁ!」

 

座り込んでいた雀も、立ち上がって他の防人達の盾と自分の盾を組み合わせる。直後、サジタリウス・バーテックスモドキから、無数の矢が降り注ぐ。

 

矢はまるで、機関銃のような数と速度で撃ち込まれていく。盾を持たない銃剣型防人達を守りながら、護盾型防人達は耐える。やがて、矢の音が止む。安堵の息を吐く、夕矢と他の防人達。その中で、組み合わせていた盾を雀が外し、飛び出していく。

 

「ちょっ!加賀城さん!?!?」

「お、おい、何やってんだ!加賀城!?」

「もう無理もう無理もう無理ぃ!!!死にたくないよぉ!!!」

 

突然の行動に、隣いた防人の少女と夕矢が叫ぶ。雀の行動に皆がおかしくなってしまったのかと思っていた。しかし、それは違う。

 

すぐに雀は盾を構え直す。すると、次の瞬間サジタリウスモドキは先ほどよりも数倍の大きさもある矢が雀に向かって放たれる。

 

「待って待ってぇ!そんなの食らったら死んじゃうからぁ!!」

 

絶叫と同時に矢が盾とぶつかる。防人の盾ではその一撃は到底防げるはずがない、しかし雀は正面からではなく盾を斜めにすることにより矢の力を受け流した。

 

「加賀城……あいつ、狙ったのか?まぁ、いい…よし、護盾隊は盾を解除!加賀城に続け!全力で駆け抜けるぞ!!」

 

雀のまるで計算されたかのような行動を見て、夕矢が驚嘆の声を上げながらも、防人達に指示を出す。と、同時に別行動中の芽吹から無線が飛んでくる。

 

『夕矢、今の音は何!?』

「サジタリウスモドキが、俺たちに向かって攻撃してきた。きっとその音だ」

『全員無事なの!?』

「あぁ、加賀城のおかげでな」

 

赤く焼け爛れた大地を駆け抜けながら、夕矢は悪そうな笑顔を浮かべた。視線の先には、絶叫しながらも二発目の矢を盾で受け流す雀がいる。

(この短期間で、一番生存率の高い方法を瞬時に取るとはな。おそらく、本能的なものだろうが……大したもんだぜ)

 

雀のどんな時であろうと、生存率の高い道を選ぶ頭の回転の速さを夕矢も芽吹も信頼していた。こうして、今回の防人の御役目も負傷者は出たものの、死者はゼロという結果で終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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〜夕矢視点〜

 

五回目の調査があった日から二日後、芽吹が防人メンバーの更なる体力作りと称してマラソンを訓練に加えた。内容は……まぁ、一言で表すと流石、芽吹だって感じの内容だった。

 

皆、すごく険しそうだったり、嫌そうな顔をしていたが断ればもっと酷くなるのを察しているようだ。しっかり走ってるな。俺ももちろん、芽吹としっかり足並みを揃えながら走っている。

 

「俺は芽吹と一緒にいられればそれでいいんだよなぁ(にしても、今日はいい天気だな)」

「あんた……心の声と逆になってるでしょ」

「あー、芽吹可愛いなぁ〜(心の声?何のことだよ?)」

「……はぁ〜」

 

心の声?どうしたというんだ、芽吹は。横にいた芽吹に思いっきり耳を引っ張られているが、俺には効かないとも。寧ろご褒美だからな。

 

そんな事を考えていると、芽吹と共に他の防人達よりも早くゴールについてしまったらしい。

 

「へへ、いい運動になったな」

「ええ……そうね……」

「どした?芽吹、いつものお前ならそこまで息切れなんてしないのに」

「あ、あんたの……せいでしょ」

 

どうやら、俺が悪いらしい。しっかり芽吹に頭を下げて謝った。そこに、高笑いをしながら走ってくる人物がやって来た。

 

「ご、ゴール!一番のりですわ!!」

「弥勒さん、お疲れ様です。はい、これタオルんなります」

「あぁ、ありがとうございます……って、鷹月さん!?わ、私が一番では……」

「残念ながら、三番目ですよ」

「め、芽吹さんも!?おかしいですわ、てっきり私は先頭を走っているものだと……ま、まぁ、これもあなた達二人に勝つための……」

 

とまぁ、弥勒さんは相変わらずこんな感じである。しかし、驚く事にこの人、運動神経は高くそこに関しては俺や芽吹と張れるくらいあるようだ。弥勒さんに続き、何人かがゴールしていく。やがて、山伏もやってきた。

 

「はぁ……はぁ……つ、疲れた……」

「お疲れさん、山伏。ほれ、汗拭くのと水分補給、忘れるなよ」

「う、うん、ありがとう……鷹月」

「おう、気にすんな。にしても、最初の頃に比べてかなり体力ついてきたんじゃねぇか?」

「そう……なの?」

「あぁ、確実にな。これならシズクにも負けねぇさ」

 

俺の言葉に山伏が少し笑った……ような気がした。てか、なんか後ろからすげー誰かにジト目向けられている気がする。これは恐らく芽吹からの視線だな。俺と山伏が仲良くしているから嫉妬しているに違いない。

 

「ふっ、そんなに嫉妬するなって芽」

「後は雀だけ……ね」

 

俺に対してじゃなくて、加賀城ね。ああ、知ってた知ってたよ。

 

「まぁ、いつものメンバーの中で来てないのは確かに加賀城だけだな。山伏、加賀城は?」

「……途中までは一緒だった。けど、いつの間にか、消えてた」

「まぁ、もう少し待っていれば来るでしょう。雀さんは嫌々言いながらも、途中でやめたりはしませんから」

 

そんな会話から、少し経った辺りで加賀城以外の防人の少女達はゴールし終わっていた。ここまで来ないと流石に心配になる。

 

「最後尾の子にも聞いたが、加賀城は見てないって」

「雀、どうしたのかしら」

「俺が見てこようか?まだ、体力も有り余ってるしよ」

「なら、私も」

「芽吹は、ここにいてくれ。もしかしたら、ニアミスするかもしれないからな」

「……わかった、任せたわよ。気をつけてね、夕矢」

「あぁ、んじゃ、いっちょ飛ばすか!」

 

芽吹に軽く手を張りつつ、俺は先程走ってきた道を戻り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

〜雀視点〜

 

 

「最悪……もう、誰もいないし」

 

どうも、加賀城雀です。私は今軽いピンチな状況に陥っております。メブ考案の地獄のマラソン中、最初はしずくと一緒に走っていたのですが、なんかしずくめっちゃ体力ついてて、途中で別行動になっちゃいました。で、着々と他の皆さんにも追い抜かれて〜……最後尾になった。

 

「まさかその後……石に躓いて、足を捻っちゃうなんて……」

 

しかも、こういう時に限って携帯を忘れてしまった。お陰で、連絡手段もない。

 

(なんで、こうなるのぉーーーーーーーーーー!私が何をしたって言うのさぁ!!)

 

胸の内で、叫ぶ。しかし、叫んだ所で状況が好転するわけでもない。ゆっくりだけど、ゴールを目指して。私は歩いていく。

 

(辞めちゃえば、早いのに……)

 

そんな考えが浮かんでくるが、もしやめた場合メブから課せられるお仕置きを想像し頭を横に振る。

 

「だめだめだめ!!まだ、私、死にたくない……」

 

そんな事を呟いていると、前の方から見覚えのある人物が近づいてくるのが見えた。

 

「あ、あー!ユウだ!!ユウぅぅ!!こっちだよぉ!!」

「加賀城!よかった、無事だな」

「はぁ〜ユウ見て少し安心したぁぁ……一人で心細かったんだぁ」

「そうか、まぁ、役に立てたならよかった。……てか、お前、足捻ったのか?」

「えっ!なんでわかるの!?」

「大体見りゃ分かる。たくっ、道理で来るの遅いわけだ。と、そうなると……」

 

ユウが腰を落とし、背中をこちらに向けてくる。

 

「これが、一番最適だな。ほら、加賀城乗れ」

「えっ?乗せてくれるの!?」

「当たり前だろ、怪我人をこれ以上歩かせる訳にはいかねぇ。副隊長失格になっちまう」

「た、助かるよぉ〜!流石、ユウ!流石、副隊長〜!!」

「たくっ、調子のいい奴」

 

苦笑しながらも、私を背負ってくれるユウ。凄い、なんというかお兄ちゃんとかでいて欲しいなぁと思った。そしたら、私をいつでも守ってくれそうだし。

 

「……」

「どしたの?ユウ?」

「俺、まだ芽吹におんぶしてやった事ないんだ……初めては、芽吹がよかった」

「ユウ?」

「ぁぁぁぁ、加賀城に俺の初めて奪われたぁぁぁ!!!」

「ねぇ!ユウ!?その言い方、やめて!?なんか凄い嫌だから!!」

 

ここが海沿いらへんでよかった。幸い人も周りにはいなかったから、今のちょっとした問題発言も聞かれなくて済んだ。ギャーギャー喚きながらも、ユウは(メブの事がどうとかを除けば)文句も言わず、私を運んでくれた。

 

(ユウも変だなぁ……メブと一緒にいたいっていう割には、こうやって私を助けにきてくれるし)

 

そんな事を思い浮かべながら、ユウに声を掛ける。

 

「ねぇ、ユウ」

「……」

「ユウ?」

 

声を掛けても反応しないのを変に思って、私もユウが向けている視線の先へと目を向けた。すると、黒い服に身を包んだ小柄な女の子が立っていた。

 

「えっ…と、ユウ。知り合い?」

「いいや、知らねぇな。加賀城……悪いが一旦降りてもらってもいいか?」

「うん?いい、けど……???」

 

えっ、何?この展開?よくわかんないけど、凄い怖いんだけど。なんかユウも目怖いし。えっ、私どうなっちゃうの?

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜夕矢視点〜

 

 

「すみません、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「……なんだ」

 

突然現れた無表情の黒服女に睨みを効かせる。雰囲気で分かる、こいつは俺と戦う気だ。

 

「鷹月夕矢さん、は貴方でお間違いありませんか?」

「だったら?よく分からんが、今俺らはランニング中なんだ、そこどいてくれねぇか?」

「そうはいきません、何よりこれは仕事ですから」

「こっちだって訓練中……っ!!」

「ユウ!?」

 

目の前にいる黒服が、かなりの速さで蹴りを繰り出す。すんでの所で、片手で受け止める。

 

「だ、大丈夫!?ユウ!?な、なんだか分からないけど、く、黒服さん流石にやりすぎなのでは…?」

「……貴女には関係の無いことです」

「ひぃ!?ご、ごめんなさい……」

「謝る必要はねぇよ、加賀城。寧ろよく言った。お前の言ってることが100パー正しいぜ?」

「ちょっ、ユウ、頭わしゃわしゃしないでってば〜!」

 

しゅんと沈んでいる加賀城の頭をちょい乱暴めに撫でる。ビビりな癖に、しっかり言えるじゃないか。

 

「……」

「っーあー……めんどくせぇ」

 

正論を吐かれようが無言で手袋をキュッと締め、拳を構える黒服に苛立ちつつも俺も拳を構える。こういうタイプは、一回ぶちのめした方がいい。

 

だが、あまり長引かせる訳にもいかない、加賀城が足痛めているし、何より正当防衛とはいえ公の場で騒ぎは起こしたくない、周りに人がいない内に片付ける。

 

「はぁ!」

「シッ!」

 

お互いに距離詰める。黒服が、俺よりも少し早く拳を突き出してくる。それを紙一重で避け、裏拳を繰り出すが受け流される。相当、鍛錬を積んでいると見た、俺もかなり親父に教え込まれたが……この黒服も相当らしい。

 

「っ!……へぇ、結構やるな」

「お褒めに預かり光栄です」

 

表情を崩さず、黒服はそんな事をいう。次の瞬間、黒服は俺との距離を一瞬……と言って良いほどの速度で詰めてきた。更に、そこから蹴りが繰り出される。

 

(っ!?はえぇ)

 

何とか、直撃を避ける為に顔をずらした。顔面に当たるのは避けたが、頬に擦り、少し血が出てくる。不覚にも、俺はニヤリと笑ってしまった。

 

「ゆ、ユウ!?大丈夫!?」

「あぁ、平気だ、どうってことはねぇ」

「……」

「大したスピードだな、でもまぁ、もう見切った(・・・・・・)

 

俺がそう言い終わるくらいに、また間合いへと踏み込んだ。まず、俺の拳が黒服目掛けて飛ぶ。しかし、それはまた簡単に受け流される。

 

こちらの体勢が崩れたのを狙って、黒服は勢いをつけ拳を突き出す。両腕でそれを防ぐが、思ったより威力が高く。俺は後ろにのけぞった。

 

「チッ」

「ここです」

 

好機と確信した表情を、黒服が作る。と同時に恐らく得意技なのだろう、蹴りが飛んできた。

 

「蹴り、得意なんだよな?」

「なっ!?」

 

のけぞった体を、後ろには下げず前へと出す。蹴りをすり抜けて、ガラ空きになった顔面に拳を突き出す。が、当たる寸前の所で俺は勢いを殺す。

 

「女を殴る趣味はないんでな。さて、話してもらおうか?あんたは何もんだ?何が目的だ?」

「参りました、鷹月夕矢……いや、鷹月くん。想像以上でした〜貴方の力は〜」

 

さっきまでの無表情顔は何処へやら。両手を合わせながら、黒服はにこやかな笑みを浮かべた。

 

「は?」

「え?さっきまでと態度が違いすぎ…」

「ごめんなさい〜私、仕事の時くらいは黙らないと舐められるってとある先輩から言われてて……だから、仕事の時は基本クールなキャラ演じてるの〜」

 

急な事に俺と加賀城は二人同時に間抜けな顔で、目の前の黒服の女性の話を聞く。なんか、頭痛くなってきたぞ。

 

「ええと、そう!まずは名前から!私の名前は那谷切 真野(なたぎり まの)と申します〜!ええと、歳は〜こんな見た目ですが〜19歳です!!」

「えっ!?」

「年上だったのかよ……じゃなくて、年上だったんですか?」

「ええ、一応ね。あ、それと目的ね!実は私は大赦の人間でして、ある方から鷹月くん、貴方の力を測ってきて欲しいと依頼されたの」

「大赦……か、なるほど」

 

(相変わらず、訳の分からない事をする奴らだ)

 

「大赦の人間なのに、仮面つけないんですね」

「私はボディーガードっていう職だからね。神官の方々とかみたいに、お祈りとかはしないもの〜基本は、さっきみたいな武闘派な仕事が多め……っと、もう、こんな時間。そろそろ私行かなくては!」

「ちょっ、まだ話は」

「それじゃーね!後、突然襲い掛かったりしてごめんねぇー!!」

 

俺と加賀城へ、手を振りながら那谷切さんは凄い速さでどこかへ行ってしまった。文字通り、嵐のような人だった。

 

「……早く戻るか、芽吹達のとこへ」

「うん、そうだね」

 

二人で顔を見合わせて、頷き合う。すると加賀城が何故か俺の顔をじろじろ見てきた。

 

「んだよ、どうした?」

「ユウ、さっきので怪我してる?」

「ん?あぁ、ちょっとカスってな。まぁ、こんなんツバつけときゃ治るさ」

「駄目だよ!もし、そこからバイ菌入っちゃったらどうするのさ!ちょっとこっち向いてて」

 

何故か、軽くキレ気味な加賀城がポケットから絆創膏を取り出して俺に貼ってくれた。

 

「これでよし!ユウが死ぬことはなし!」

「へっ、たかだかこれくらいの傷で死ぬかっての。まぁ、でもありがとな、加賀城」

「気にしなくて良いよ、これからも私を守ってくれればね!」

「あぁ、勿論だ。芽吹が率いてるこの部隊で、死者はぜってぇださねぇよ。お前も、みんなも守ってやる」

「やったぁ〜!流石、ユウ〜メブと同じくらい頼りになるぅ!」

 

そんな事を言いつつ、加賀城は俺の背中にしがみつくように乗ってきた。俺は、苦笑する。

 

(全く、よくわかんねぇなぁ〜加賀城は。まぁ、良いやつっていうのはよく分かるけどよ)

 

そんな事を考えながら、俺はゆっくりと歩き始めたのだった。

 

(にしても……大赦。何を考えてるのかわかったもんじゃないな。今度春信さんに聞いてみるか)

 

新たな謎を解きあかすため、俺はそう胸の内で呟いたのだった。ちなみに、芽吹のもとに帰ったら俺と加賀城はこっぴどく怒られました。




小ネタ解説!

夕矢は後ろからの気配を察し、振り向かずに矢を背後へと向けて放つ。

このシーンは、映画『アベンジャーズ』にて、地球に襲来したチタウリ部隊との交戦中の際に、クリント/ホークアイが行った技、『ノールックショット』のシーンより抜粋!気になる方は、ホークアイ、ノールックショットで検索ぅ!!

まぁ、これは小ネタというか今回登場した新キャラ、那谷切 真野の名前の由来というかなんというか。

なたぎり まの→ナターシャ・ロマノフ(ブラックウィドウ)

ナターシャのなたから、まのはロマノフのマノッて部分をとってつくりました!

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さて、色々動き出しましたねぇ。ここからどうなるんでしょうか!ていうか、URメブきましたね…引きたい!


では、感想お待ちしております!


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8話 過去と今

明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!……なんて挨拶をしてる場合じゃない……投稿が死ぬほど遅れて申し訳ありません。もう弁明の余地もないです……。エタる気は一切ないのでそこはご安心ください。

新年早々こんな感じですが、何卒よろしくお願いします。


「昔の夕矢?」

「うん!今なら、ユウ用事でいないし〜聞き時かなって」

 

昼食の時間、雀がそんな事を聞いてくる。それに便乗するかのように横にいた弥勒さん、しずくもその話題に食いついてくる。

 

「ふむふむ、たしかに気になりますわね。異常ともいえる愛情を芽吹さんに向ける彼の過去について」

「昔の鷹月、私も気になる」

「ここぞとばかりにノッてくるわね……亜耶ちゃんは」

 

視線を送るがそれこそ間違い、亜耶ちゃんからは『早く聞かせてください』という言葉がなくても、期待しているのが十分に分かる程の表情を向けられた。

 

「……逃げ場なし、ね。まぁ特に話すことってないんだけど」

 

気怠げに昔の事を思い返しつつ、話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『またあんた達ね、いい加減にしなさいよ、カッコ悪い』

『げっ!?楠だ!逃げろォー!!』

『ふん』

『あ、芽吹、ありがとう……また、助けられたね』

 

昔の夕矢は今と違って、気弱なタイプだった。その性格も相まって変に気の強い同級生からのちょっかいを受けることが多々あり、私は毎回のようにそれを追い払っていた記憶がある。

 

「ちょちょ!ちょっとまった!!」

「何よ、雀」

「気弱!?why!?あのユウが……あのユウが!?」

「すすす雀さん、驚く気持ちはわわかりますが!続きが気になるので静かにしてくださいまし!」

「……続けていいですか?」

「ははははい!どうぞどうぞ!」

 

驚くのも無理はないと思う、私ももし同じ立場だったら似たような反応をすると思うし。後、補足ではあるが……別にあいつの事が心配とかではなく、幼馴染のよしみとして助けているだけだ。

 

『毎回思うけど、あんた。なんでやり返さないの?』

『なんでって……やり返せなんて『誰にも』言われてないし』

 

あの頃の夕矢は決まってこう答えた。気弱で無口なだけなら、まだいい。昔のあいつの最大の短所は大体の行動が()()()()()()()()()()()()という点。

 

「えっと、つまり……どういうこと?」

「簡単に言うと、自分でこうしたいとか何かやりたいという気持ちがなかったのよ。普通、嫌がらせを受けたらやめてとか抵抗する子が大半でしょ?でもね、あいつはそれすらもしない程、自分の意思に対して鈍感だったの」

「なるほど……所で、鷹月さんが今のように若干ワイルドな雰囲気になったのは最近ことですの?それとも前?」

「確か……小学3年辺りからだったと思います。急に雰囲気が変わった時は、私も周りも驚きましたよ」

 

その時のこともよく覚えている。気弱だった以前の雰囲気は無くなって、口調も立ち振る舞いもガラッと変わった幼馴染の姿を。

 

「気弱な鷹月……ダメ、想像できない」

「今じゃ、芽吹先輩にべったりですからね〜」

 

満面の笑みを浮かべながらの亜耶ちゃんの発言に苦笑する。正直、しつこいとは思うが、何故か嫌ではないから困る。

 

「じゃあ……昔の楠と鷹月はずっと一緒にいたわけじゃない……?」

「確かに、ユウがそんな状態だったってことはメブとベッタリする必要もないしね」

 

「実際どうでしたの?」と弥勒さんが聞いてくる。私は、少し気恥ずかしくなりながら答えた。

 

「今と……変わらないわね」

「えっ?そなの?」

「ええ……思い出してみても、夕矢と一緒にいた記憶しかないし……」

「なぁんだ〜結局、昔からメブとユウはラブラブだったん……んぎゃァァァ!!」

「すずめぇ〜?目にゴミがついてるわよ〜?私が取ってあげる(怒)」

「ひぃぃぃ!!お助けぇ!メブゥ!!」

 

泣き喚きながらやめてくださいと懇願してくる雀の声を無視して、刑を執行する。

 

「今のは、加賀城が悪い」

「直球過ぎですわね、芽吹さんの行動パターンを予測すればそのような愚かな行動は取りませんわ」

「そんなこと言ってないで助け…ひぃやぁぁぁ!」

「……でも、反応を見るに芽吹先輩も何だかんだ夕矢先輩の事が好きですよね(小声)」

「……ダメですわ、国土さん。それは周りから見たら一目瞭然ですが、あえて指摘しない事が二人のためですの(小声オブ小声)」

「二人とも、どうかした?」

『いいえ、何も』

「そう、それじゃあそろそろ訓練だし。急ぎましょうか」

「ぎ、ギブギブ……(チーン)」

『あっ』

 

尊い一人の犠牲があった騒がしい昼休みを終え、訓練の時間となった。いつもなら鬱陶しくて仕方ないはずの幼馴染がいない事に、少し、少しだけだけど……寂しさを感じている自分がいた事がなんとなく悔しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜場所は変わり、大赦本部〜

 

 

「……くしゅん」

「ふふ、見た目は怖めな割にくしゃみは可愛いんだね」

「からかわないでくださいよ、真野さん」

 

薄暗い廊下を真野さんと一緒に歩いている途中、突然でかい(本人曰くでかい)くしゃみが出た。誰か俺のこと、噂してるな?まぁ芽吹だろうな、100パー芽吹だ、もう芽吹に決まってる。

 

「ふっ……んと、そんなことより、いきなり俺に用ってなんです?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「聞いてないですよ……大赦関係の奴らは用件を言わずに人を連れてくるの好きなんですか?」

「確かに、まぁでも大赦って秘密結社じみている所あるし、割と好きかもねぇ〜」

「いや、そりゃ違うと思うんですが……」

 

秘密結社にしちゃ組織の名前が外に広がりすぎてるだろと、脳内でツッコミを入れる。前に話した時も感じたが、この人は何を考えているのかいまいち読めん。

 

「そんな怪訝そうな顔しないでよ、目的地には向かってるから」

「大赦に来たってことは……また、春信さんのとこでも行くんすか?」

「ううん、行くのはね、私の雇い主の所だよ」

「雇い主?」

 

話によると、真野さんにこの前俺を襲ってくるように指示した親玉さんが直々にお会いしたいらしい。正直、警戒が強まるばかりだが。

 

まぁ、晴信さんに聞こうと思っていた事だし、丁度いいとも言えるか。

 

「着いたよ」

「これはまた……」

 

これまで以上に陰気臭さがある場所に連れてこられる。やたら、照明は薄暗く……扉の横には変な置物がある。もはや、お化け屋敷だろ。俺の気持ちを察したのか、苦笑いしながらも扉をノックし部屋に入った真野さんに続く。

 

「蘆屋さぁ〜ん……連れてきましたよ〜」

 

部屋に入ると、こちらに背を向けながら書物を漁っている長身の男がいた。

 

「なんだい、真野。僕は今書物の片付けで忙しいんだ、新しいダイエット法の話なら、後にしてくれ」

「ダイエット?」

「あ、蘆屋さん!違います!彼、鷹月くんを連れてきたんですって!」

「……何!?あ、あの鷹月くんかい?」

「そうですそうで……って、あーれー!?」

「ま、真野さん!?」

 

蘆屋とかいう大赦の仮面をつけた奴が、真野さんを吹っ飛ばす。しかし、俺も真野さんを気にしている場合ではなかった。この蘆屋という男、そっちの趣味でもあるのか、体をペタペタと触り始めた。

 

「ふむふむ、なるほど……流石ですね、防人の力を使いこなしているだけはある。もしや……君、特殊な血清打たれて強靭な肉体を得てたりします?」

「よくわからないですけど一生のお願いです、俺から離れてください。さもないと大泣きします」

 

男に体をベタベタ触られた事で失神寸前の俺と、吹っ飛ばされて意気消沈としている真野さんを置いてけぼりにしながら、一人で話を進めていく。

 

「ぬっ、ああ、すまない。君に会えたのが嬉しくてね。申し遅れた、私の名前は蘆屋京二郎。以後お見知り置きを」

 

飄々とした様子で仮面の男……蘆屋京二郎は綺麗に頭を下げた。小休憩の後、俺と真野さんが復活した事で話が再開される。

 

「さて、この前は真野が手荒な真似をして申し訳ない。君の力を試す為に、少しばかり強引な手段に出た」

「それはもう良いですよ。でも、次俺の仲間を巻き込んだら……」

「承知しております、それに君や彼女らは人類にとって大事な存在ですから。これ以上、危害を加えるような真似はしませんよ」

 

やたらと仰々しい言い方にどこか不信感を覚える。多分、自分はこの男が苦手だ。

 

「……それで、蘆屋さんは今日俺に何の用で?」

「単刀直入に、システムを一度こちらに預けて欲しいのですよ」

「別にいいですけど……何故?」

「理由は単純、君の防人システムに不具合が見られたから。例えば、戦闘中に頭痛を感じたりしたことはありませんか?」

 

この前のか、なんて思っている間に蘆屋さんは仮面越しでも苦笑しているのが分かる様な反応をする。

 

「その反応からして、経験はあるようですね。なら、話が早い。今回そのような不具合があったのは私の不手際。ぜひ償いをさせて頂きたい」

「……別にそれはいいですけど、俺の防人システムの担当は春信さんじゃないんすか?」

「ああ、春信くん『も』担当ですよ」

「てことは…」

「一応、私が最終調整担当。因みに、君の防人システムを一から作り出したのも私です」

 

システムを作り出した。しかも最終の調整担当にも関わらず……へぇーつまり。

 

「最終調整でミスったんですね?」

「ンンンンッ!?」

「ゆ、夕矢くん!やめてあげて!この人、心は割と多分そこそこピュアだから」

「それどれくらいピュアなんですか?」

 

なんてアホやっていたら……時間が過ぎてしまうというよりも。俺が芽吹に会う時間もどんどん減ってしまうので、さっさとスマホを渡す。

 

「これで、いいんですよね」

「ええ……」

「あの、俺の顔になんかついてます?」

「ああ、いや……見れば見るほど、鷹月先輩に似ているなと」

 

その言葉を聞いて、手に力が籠る。正直……あまり良い気分はしなかった。

 

「蘆屋さんも、親父のことを知ってるんですか?」

「知ってるも何もあの人は僕と春信君、二人の上司でしたからね」

 

そう言われて思い出した。名前までは知らなかったが小さい頃、親父が自分には大事な部下が二人いると言っていた事を。

 

「なるほど、もう一人っていうのは蘆屋さんだった訳か」

「そういう事です。ほんとに、鷹月先輩には感謝してもしきれません。私が今こうしていられるのは彼のお陰ですからね」

「……そうっすか」

「聞いていた通り、お父様の事をあまり好いてはいないんですね」

「……」

「好き嫌いは当人の自由です、そこに私はとやかく言いません。しかし、これだけ覚えていてください。貴方のお父様はとても、素晴らしい人でしたよ」

 

その言葉に黙って頷くと、少し楽しそうに仮面の男は笑った。初めてだった、自分が初対面の相手に対して、ここまでの苦手意識を持つのは。

 

「さて、そろそろ良い時間だ。真野、彼をゴールドタワーまでしっかり送り届けなさい」

「お任せを!」

「急に呼び出して申し訳なかった、夕矢くん。これからも私は、君や他の防人達の活躍を期待していますよ」

「余計なお世話です……失礼しました」

「あっ、ちょっ!鷹月くん!?」

 

そそくさと、部屋を出ていく。その際に、嬉々とした様子で蘆屋さんは「また会おう」と呟いていた。

 

(……何かわからんが、気持ち悪いな)

 

得体の知れない感情を抱えながら、俺は大赦を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜…」

 

ゴールドタワーまで車で送ってくれた真野さんと別れ、今は自室へと向かっている。帰ってきた頃には、いつもはそこそこ賑やかな廊下も静まり帰っていた。気づけば夕方、窓の外からは夕日の紅い光が差し込んできている。

 

「……はぁ〜って何回目だよ、溜め息」

 

独り言を漏らす。やけにもやもやした気持ちと日中芽吹と一緒に過ごせなかった事から、かなりストレスが溜まっているらしい。

 

「あっ〜……早く芽吹に会いたい。って、ん?」

 

想いが通じたのだろうか、目線の先には何やら俺の部屋の前に佇んでいる芽吹の姿が見えた。瞬間、モヤモヤは消え去り、テンションが戻ってくる。

 

「おっす、芽吹」

「夕矢!?い、いつの間に帰ってきてたのよ!?」

「おう、今さっき帰ってきたとこだ。芽吹は?何で俺の部屋の前に」

「た、隊長として、副隊長の帰りを待つのは当然でしょう?」

「なるほど、流石は芽吹」

 

頭を撫でようとしたが、照れた様子の芽吹に手を払われた。昔に比べ、表情が豊かになった幼馴染を見るのはいつであって嬉しいものだ。

 

夕日に照らされた芽吹はいつも以上の美しさを醸し出している。できれば、写真に収めたい所だがやめておこう……んなことより。

 

「悪いな、ほぼ一日中いなくて」

「別に良いわよ、大赦から呼び出しを受けていたなら正式なものだし……」

「助かる、ありがとうな。所で芽吹、俺がいなくて寂しくなかったか?」

「別に」

 

即答ときた、これは流石に俺も泣いて良い気がしてきた。だがしかし泣いてはいけない、こんなのもう慣れたもの……。

 

「ただ……」

「ん?」

「いつも横で騒いでるあんたがいなかった分、少しだけ物足りなさがあった事は……認めるわ」

「芽吹?そ、それって寂しかったって事なんじゃ…」

「ち、違うから!ただ単純にいつも横で馬鹿みたいに騒いでるあんたがいなくて静かだったから!そこに物足りなさを感じた、そ、そういう意味で言ったのよ!だから、寂しい……とか、そういうのじゃ断じてない!」

「な、なんだよぉ〜……」

 

そういう意味だったのか……勘違いするとこだった。まぁ、だけど、少なくとも芽吹は俺がいた方が楽しい。そういう様に言ってる様にも感じたし、良いとしよう。

 

「心の声を口にする癖、少しは治したほうがいいわよ」

「別に聞かれて困るもんじゃないだろ?」

「あんたは良くても、私が困るのよ……」

 

寧ろ、自分にそんな癖があった事を今確認した。芽吹が困るのなら、全力で治さなければ。

 

その後も俺と芽吹の軽い雑談は続いた。お互いに昔よりも打ち解けている気がしたのは、恐らく気のせいじゃない。

 

なんだかんだで俺との会話を楽しんでくれている様子の幼馴染を見てそう思った。綺麗なオレンジ色に染まった夕日に照らされながら、愛すべき人との雑談という楽しい時間に俺は浸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜雀の部屋〜

 

「全く〜メブも素直じゃないなぁ」

 

折角なら部屋の中で話せばいいのに、この感じだと他の部屋が近い子達にも会話筒抜けだと思うし。

 

「なんで、あの二人付き合わないんだろぉ〜。ん〜、みかん美味しい」




久しぶりの小ネタ解説!

君、特殊な血清打たれて強靭な肉体を得てたり……。

蘆屋が夕矢に向かって言った台詞。これはキャプテンアメリカの事を遠回しに表現してる台詞でもあり、当初は身長160cm・体重43kgと小柄で、喧嘩も強くなく、極めて病弱な身体で入隊したスティーブが、戦略科学予備軍SSR”が行った“スーパーソルジャー計画”での特殊な血清を投与する実験により、身長190cm・体重109kgの大柄かつ、健康的で強靭な肉体へと変貌した事……それが元ネタとなっている。もっとも夕矢はそこまでバッキバキの超人ではない。

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最後の最後で、夕矢くんとメブはイチャイチャしていくぅ!過去とか、新キャラとか、色々出てきていますが平常運転の様ですね、二人は(白目)


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9話 俺にとっての

お久しぶりです!(これいつも言ってるな……)
今回は本編を進めさせていただきます!そして、更新遅くなってすいませんでした!(土下座



防人達が大赦から通達された任務を終え、またも命からがら四国へと帰還する事が出来た日の夜。ゴールドタワーの食堂では、芽吹を筆頭としたいつもの面子が揃い夕飯を食べていた。

 

「芽吹先輩、夕矢先輩。防人の被害がこんなに少ないのは本当にすごい事ですよ」

 

好物のわかめうどんを啜っていたら、やけに真剣な表情をした亜耶ちゃんからそんな事を言われる。

 

「ありがと、亜耶ちゃん」

「俺からもありがとう、亜耶ちゃん。ま、俺と芽吹っていう超絶最強以心伝心コンビが隊長と副隊長を務めてる事だし、これからも任せてくれよ」

「はい、これからも超絶最強以心伝心コンビのお二人に頼らせていただきますね」

 

後輩からの熱いエールに涙を流しそうになる俺の横では芽吹も同じように涙を流しそうに……なってねぇな。寧ろ俺に冷たい目線送ってきてるわ。

 

「でも、今回の任務では土壌のサンプルを持って帰れなかったしそこは反省しないと」

「分析のために必要な量をしっかり持って帰れてます。それよりも皆さんが無事に帰って来られることが一番大事ですから」

 

亜耶ちゃんは天使のような笑みを浮かべながら、目を輝かせそう言う。この子の先祖は女神か何かなのだろうか。恐らく芽吹にも匹敵す……いや、芽吹が上だけど(情緒不安定)

 

横から突然服の裾をくいくいっと引っ張られる。視線をそちらに向けると何故か申し訳なそうな顔をした山伏と目が合う。

 

「どうした?」

「……」

 

無言状態で急に頭を下げられ、少し困惑する。

 

「な、なんだよ、急に」

「今日の任務……替われなかった、ごめんなさい……」

 

その台詞で大体理解した。どうやら今日の任務の最中にもう一つの凶暴な人格の『シズク』と替われなかった事を悔やんでいるらしい。

 

「んな事気にすんな。仲間の状態や戦況に合わせて動きを考えるのが隊長や副隊長である俺や芽吹の役目なんだからよ」

「でも……鷹月だけじゃなくて楠にも、迷惑かけたから……」

 

駄々をこねた子供のように首を横に振る山伏。それを宥めるように彼女の頭を優しく撫でてやる。

 

「心配すんな、寧ろ迷惑かけろ。それを助け合ったりなんだりするのが仲間だろうが」

「……ありがと」

 

俺の言葉を聞くと、山伏はお礼と共に軽く頭をペコリと下げた。

 

「ふん、あんたにしては珍しくマトモな事言うじゃない」

「何言ってんだよ芽吹。俺はいつもマトモだろ?」

「……メブがユウの事大好きだってよ(ボソッ)」

「マジか、芽吹、結婚しよう」

「やだ。ていうか雀、はっ倒すわよ?(阿修羅)」

「うぎゃぁぁ!!うそうそー!ユウ今の嘘ー!!」

「………はっ倒すぞ?」

「にげみちがなぁぁぁぁぁい!!」

 

加賀城の断末魔が食堂に響きわたる。すぐに刑が執行されてもおかしくはなかったが、亜耶ちゃんの介入により全ては片付いた。

 

「……に、にしてもさ、今回もメブやユウが早く撤退命令出してくれて助かったよぉ〜もしあのまま戦ってたら確実に死んでたもん」

 

まだ俺たちを怖がっているのか震える手でみかんを食べる加賀城はそんな事を言う。

 

「まぁ、お二人が撤退命令を出さなければわたくしの銃剣捌きで化け物達を討ち取り、弥勒家の功績にしていましたわ」

 

「無理でしょ」と加賀城

「無理でしょうね」と愛しの芽吹

「……無理だろうな」と俺

「……」無言で首を振る山伏

「み、皆さん……わたくしの事を侮りすぎでわ!?わ、わたくしが本気を出せばあんな化け物達!」

「まぁまぁ、勝負は時の運とも言いますし。弥勒先輩が勝っていたかも知れませんよ。でも、今は皆さんが無事であった事を神樹様に感謝しましょう。きっと、神樹様の加護のおかげです」

 

そう言って食堂の神棚の方を見て頭を下げる亜耶ちゃんに向かって、俺、芽吹、加賀城、弥勒さん、山伏の全員が頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「事実、あなた達は非常に良くやっています」

 

食事の後、私と夕矢は定期報告の為に女性神官の部屋に訪れていた。神官はパソコンで報告内容をまとめながら淡々と話す。

 

「これまで死者はゼロ。2回目以降の任務でも重傷者は出ていない……もっと交替要員が必要になるのかと思っていましたが」

「でしょうね、この防人っていう制度は元々次々にメンバーを交替していく事を前提に作られていたんでしょう?」

「ええ、そうです」

 

神官は躊躇なく肯定する。それに少し、苛立つ。もはやモノのような扱い、人として見られていない。

 

「そうですって……あんた、交替が起きるって事は死人が出るって事理解して言ってんのか?」

「はい、勿論です。だからこそ、現状こちらとしても助かっています。補充をしたところで経験に乏しい人材が入ってしまっては意味もありませんから。あなた方が死者を出さずにお役目を果たしていることは評価に値します」

 

あくまでも任務の達成率しか見ていない。夕矢も言ったように交替が起こるということは、そこに人間の犠牲がある事を意味しているのに。

 

「私の部隊で、死者は絶対に出しません。これは私が私に課した誓約です」

「それは隊長としての誓約ですか?」

「人間としての誓約です。西暦時代も、二年前も、バーテックスとの戦いで勇者の中で犠牲が出たんですよね?人類の天敵だかなんだか知りませんが、そんなこと知らない。あんな化け物どもに殺される時代はもう終わらせなくちゃいけないのよ!」

 

人が神の犠牲になり続けるなんて、そんな時代は終わらせなくてはならない。感情が高まり、震えてしまった肩に優しく手が乗っけられる。

 

「俺も芽吹と同じ考えだ。あんたらがどれだけ防人の事をモノのように扱おうが無駄だからな。俺達は俺達なりに、やれる事をやってやる……一人も犠牲を出さずに、な。そこんとこ肝に銘じとけ」

 

神官、いやもっと大きなモノに対して啖呵を切る夕矢。私が顔を向けると、何故か夕矢は優しい笑みを浮かべた。それに少し戸惑う。

 

女性神官は私たち二人の話を聞いていたのかいないのか、パソコンのキーボードを叩きながら淡々と言う。

 

「……報告が終わったのなら、もう退出していいですよ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

女性神官の部屋を出る。お互いの自室へと向かう途中、芽吹はゴールドタワーの展望台から見える景色へと視線を向けていた。先ほどの会話で疲れたのか、溜息が多い。

 

(……これは、俺の出番だな)

 

愛すべき女の子の笑顔を取り戻す為、俺はすぐに行動に移る。まずは芽吹の服の裾をちょいちょいっと引っ張る。

 

「何……って、なんでトランプ?」

「まぁ、見てろって……よっ」

 

掛け声と共に手に持っていたトランプが消える、その様子に芽吹は驚きの声を……あげないんだが?

 

「……で、何?それ」

「と、トランプを使った手品だよ……めっちゃ特訓してたんだ。いつか芽吹に驚いてもらおうと思って」

「ええ、驚いたわ。まさかこんな空気の時に手品を披露しようとするマヌケな幼馴染が隣にいたことにね」

「ま、マヌケ……」

 

名案だと思った策が小馬鹿にされて割とショック。でも、どこか芽吹の表情は柔らかくなっているような気はするので良しとしよう。にしても、芽吹に手品は効果なしか……リストから消しとかないと。

 

「何そのメモ帳」

「まぁ、なんだ……芽吹との思い出をいつでも見れるようにって事でよ。こうやってメモ帳に記録残してるんだ」

「あっそ……もうなんというか、突っ込む気すら起こらないわ」

 

呆れた様子で芽吹はそう言う、言葉は嫌そうな感じだが満更でもなさそうな所がなんと可愛らしいことか。メモ帳に今日の芽吹の横顔も素晴らしいと記しておいた。

 

すると、そこに来客がやってくる。

 

「あ、楠さんに鷹月さんだ。二人とも相変わらずイチャついてるね〜」

「イチャ……違うわよ。少し話をしていただけ、神官の報告が終わったついでに」

「そうだ、俺達はイチャついてただけだぞ」

「肯定してるのか否定してるのかどっちなのよ、あんたは」

「流石、副隊長だにゃー。相変わらずの楠さん依存ぶり」

 

当たり前だぜ、と胸の内で俺が肯定している中少女達は話を続ける。

 

「所で、楠さんって先代勇者様の端末を受け継ぐ候補の一人だったんだよね?」

「ええ、まぁ……そうだけど」

「私たち二人とも、勇者グループの所謂ハズレ組でさ。本物の勇者様に会ったことないの。だから、三好夏凜さん?だったかな、その人について教えてくれないかな〜と」

 

三好夏凜……最近芽吹と一緒にいる時、よくこの名前を聞く。俺が聞いた話では、三好夏凜は芽吹と勇者の座を争ったライバルだったようだ。防人メンバーも打ち解けてきた事で、個人的なことも知るようになる。結果唯一現在では勇者でもある三好夏凜と知り合いの芽吹が彼女のことを尋ねられる事が増えていた。

 

(しかもその子、春信さんの妹だってんだから……ほんと世界ってせめぇな)

 

ぼーっと考え事をしていると、芽吹と二人の少女の会話が随分進んでいた事に気づく。

 

「三好夏凜も私たちと特に何も変わらない。確かに強いけど、あくまで鍛えてる人間程度だった。カリスマとかもなかったし」

「なぁんだ〜そうなんだ……」

「そうよ、勇者だって私達防人となんら変わらない。普通の人間なんだから」

 

ガッカリした顔をした少女達に芽吹はそう言う。その質問に答える時の芽吹は、どこか納得いかないと言いたげに憤っているように見えた。

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

「楠さん、三好さんってどんな人だったの?」

「普通の人よ、戦闘は確かに強いけど私と同じくらいだったし」

「そうなんだ……」

 

〜さらに次の日〜

 

「ねぇ、楠さん。勇者の三好夏凜様ってどんな人?」

「超人でもなんでもない、普通の人よ。ちょっとサプリと煮干しが好きすぎる普通の人」

 

〜その日の夕方〜

 

「勇者様って……」

「普通の人よ」

 

 

 

俺が見ているだけでもかなりの回数同じ質問をされていた。その日の休み時間も、三好の事をきかれお決まりの返答を返し芽吹はため息をついた。

 

「メブ、人気者だね」

「たまったものじゃないわ。毎回同じ質問を聞かれてそれに同じように答えて……苦痛でしかない」

「だよな、お陰で俺と話せる時間も減って芽吹も残念だろ」

「いや、別に」

「どぉぉしてだよぉぉぉぉッッッッッッ!!」

 

俺の反応に全員が苦笑していた。流石の俺も傷つく。

 

「まぁ、いつも通りの鷹月さんは放っておきまして。折角ですわ、弥勒家の華麗なる歴史をお聞かせしましょう」

「あ、それはいいっす、遠慮します」

「復活早いですわね!?そんなに嫌……あら、しずくさん、あなたは」

「……(首を横に振る)」

「無言で拒否しないでもらえます!?」

「弥勒家の歴史はともかく、三好さんについて色々聞かれるの面倒だし食堂の壁に張り紙でもしておこうかしら」

 

芽吹が少しだるそうに呟く。少しだるそうな芽吹も可愛いなぁ……写真撮るか。

 

「撮ったら、わかってるんでしょうね?」

 

ダメでした爆速でバレたわ、クソッタレぃ。

 

「まぁでもメブの言う事も分かるよ、あの人強そうだったけど『特別』って感じはしなかったもん」

 

そこでまさかの反応を示したのは加賀城だった。まるで懐かしむかのように話す彼女に俺は質問する。

 

「なんだ、加賀城も三好って女の子のこと知ってんのか?」

「ふふーん、よくぞ聞いてくれました。みんなメブにばっかり聞いてるけど、実は私……三好さんだけじゃなくて、現役の勇者様全員にあったことあるんだぜぃ?」

 

少し得意げに、加賀城は話を始めた。

 

加賀城はここにくる少し前に、現役の勇者達……結城友奈、東郷三森、犬吠埼樹、犬吠埼風、そして先ほどまで話題としても上がっていた人物の三好夏凜とも接触していたそうだ。

 

話を聞いていて思う。やはり勇者に選ばれたとはいっても、勇者部の少女達も本当にどこにでもいる女の子達と何もかわらないのだと。国家で最も重要な任務を背負う者たちには思えない。それこそここにいる皆と差などない、ただの普通の女の子達。

 

「まぁ、なんであれ勇者部にいた皆さんも普通の人とあんまり変わらない感じだったと思うな。バーテックスと戦っているとこは見てないけど、少なくとも戦ってない時はね」

 

どこか清々しい表情を加賀城は浮かべた。勇者部との出会いはこいつにとってもいいものだったんだろう。そんな加賀城の横では……。

 

「普通と……変わらない……」

 

防人メンバーから質問された時と同じ、どこか納得しきれていないような表情をした芽吹が視界に入った。

 

 

 

 

 

 

 

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〜その日の夜〜

 

ベッドに寝そべりながら、考え事に浸る。芽吹に何か声を掛けてやりたいが、どんな言葉を掛けるべきか……ずっと頭を巡らせていた。

 

「っー!しっかりしろ、俺……好きな人があんな顔してんだ……何か言ってあげられる事があるだろうが!」

 

不甲斐ない自分に喝を入れるため、タンスに頭を打ち付ける。すると部屋のドアがノックされる。扉から顔を覗かせたのは芽吹だった。

 

「……あんた、何してんの?」

「んーと、そうだな……修行?」

「無理があるでしょ」

「……そ、そんなことより、こんな時間にどうした?寂しくなって俺に会いにきてくれたとかか?」

「違うわよ、明日の予定について神官から連絡があったからそれを知らせにきただけ」

 

即答により、しょんぼり状態の俺だが明日の予定をスラスラと語っていく芽吹の顔を見ながら思う、何故こんなにもしっかりしていて何よりどんなことにも真っ直ぐな彼女を神樹は勇者にしなかったのかと。

 

(負けてないと思う、加賀城や山伏が語っていた子達にも全く負けてない)

 

「それじゃ、言うこと言ったし私は行くわね。おやすみ、夕矢」

 

伝えるべき事は伝え終わったのだろ、芽吹が部屋を後にしようとする。ほぼ無意識だ、気づくと俺は部屋を後にしようとする芽吹の手を握っていた。

 

「ちょっ、夕矢!?いきなり何を」

 

突然の事に芽吹も動揺して、顔を朱に染めている。それを見て可愛いなと思いながらも、伝えるべき事を伝えるため口を動かす。

 

「なぁ、芽吹」

「な、何よ」

「俺にとっては芽吹も勇者だからな。俺が今こうしていられるのは、芽吹のお陰だ。芽吹のお陰で今の俺があるんだ、いつだって芽吹は俺にとっての勇者だよ、本当にな」

 

悩みに悩んで出た言葉がこれだった。この言葉に嘘偽りはない。実際に俺は楠芽吹という一人の勇者に何度も救われたのだから。静寂が部屋を包み込む、やがて芽吹が口を開いた事で静寂は破られた。

 

「……とりあえず、手を離して」

「あ、ああ……すまん」

「ふん……似たような事をさっき雀にも言われたわ」

「うぇっ!?マジか!?」

「ええ、マジよ」

「てことは、俺って二番手的な?」

「まぁ、そういう事になるのかしら」

 

う、うそだろ!???ま、まさか……そんな身近にライバルがいたなんて。か、加賀城あのやろぉぉぉぉ。

 

「ぐぅぅぅ……よく分からんが加賀城に負けた気分だ」

「別に気にしなくてもいいんじゃない?」

「えっ?」

「あんたの気持ちは伝わったもの。その、一応言っとくわ……ありがと」

 

それだけ告げると、芽吹はこちらに顔を向けず部屋を出ていった。これは元気付けられた……ということで良いのだろうか?

 

「まぁ、とりあえず、明日は朝イチで加賀城の所に行かなくちゃな」

 

手をポキポキと鳴らしながら、恐らく今日一の笑顔を俺は浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕矢の部屋を出た私は急いで隣にある自室へと駆け込んだ。よく分からないが、顔がすごく熱い。

 

「何でよ……」

 

扉に背を預けながら、先程まで幼馴染に握られていた手を見つめる。その手にはまだあいつの温度が残っている。

 

『いつだって芽吹は俺にとっての勇者だよ』

 

雀に言われた時も嬉しかった。でも、なんでだろう、あいつに言われた時の方が私_________。

 

「……真顔でそんなこと言うんじゃないわよ、バカ」

 

自分の声とも思えない弱々しい声色で、そんな事を呟いた。




小ネタ解説

夕矢が持っていたメモ帳

夕矢が芽吹との思い出を記す為に、実は防人に入った頃から持っていたメモ帳。元ネタは『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』でキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースが持っていたメモ帳のオマージュ。映画冒頭ではサム・ウィルソン/ファルコンと初対面した際にも使用していた。ちなみにスティーブはそこに気になる現代文化について記している。

「……何よそれ」
「トランプを使った手品だよ……めっちゃ特訓してたんだ。いつか芽吹に驚いてもらおうと思って」

この場面はアントマン&ワスプにて冒頭シーン、FBI捜査官のジミー・ウーに対してアントマン/スコット・ラングがトランプマジックを披露したシーンより抜粋。ドラマシリーズのワンダヴィジョンではウーがトランプマジックを披露しているシーンがある。ちなみに夕矢は芽吹を喜ばせる為にこのほかにも色々な事に挑戦している。


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雀ちゃんと勇者部との出会いに関しては端折らせていただきました、申し訳ありません。さてと、次は本編が進むのなら弥勒さんを目立たせる回になりそうかな(地味に予告)

にしても、本当はよ付き合いなよ()


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幕問 失くした者の■

本編と密接に関係あるかと言われたらそこまでの関係性はないものかもしれない。けど、鷹月くんの「これから」を考えた場合一切関係がないと言われたらそんなことないってな感じのお話。


さぁさぁ■の中で出会うのは、誰なのか。


 目を閉じる度に、思い出す。彼女の笑顔、彼女の声、彼女の姿、彼女の温度、彼女の…くれたモノ。

 

 ソンなモノ、いまさら思イダしテなンになる

 

 頭痛が止まらない。ずっと、ずっと、こんな痛みに苦しめられている。

 

 夢の中でなら、彼女に会えると思った。でも、そんな事はなかった。

 

 見るのはいつも決まって……地獄のような光景ばかり。あの子が死んだ、大事な子が死んだ、守れなかった、好きだったのに。

 

 オまえハ、たすけラれナカッタ

 

 失った、目の前で。彼女の体は真っ赤な血に染まり、息遣いは荒々しく、苦しみに顔を歪めていた。それでも、彼女は最期に…

 

 ムくイだ、むクいだ、一人で背負った『報い』ダ

 

 『報い』か。にしたって今回の■は最高に趣味が悪い。悪趣味にも程がある。今まで見てきた■も酷かった、目を閉じ、眠りにつくという行為すら苦痛になる程の地獄を見せ続けられたのだから。

 

 けど、これはいけない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 コロシタイ?ころしたい?殺したい?

 

 その姿……それは『今の俺』がもっとも見ていけないモノだ。見たが最後、俺は我慢出来なくなる。

 

 ナら、殺そう。殺してしまおう、どうせこれは■だ。何をシヨウとオマえのジゆうだよ

 

 ならば、ここは本能に従うとしよう。そちらの方が俺としても気が楽になるだろうし。

 

 実際、起きている間では、有害な奴等とはいえ沢山の人間を手に掛けただろう。なら、思う存分……なのに……

 

 胸がちくっとするのは何故なんだろう?

 

 こういう時に限って、『■■』の顔が浮かび続けるのは何故だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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〜夕矢視点〜

 

「…んだ、ここ」

 

 倒れていたのだろうか、やたらと冷たい地面から起き上がり周りを見渡す。オレンジ色の光に包まれた空間、俺の記憶の中を探ってもこのような場所に見覚えはなかった。

 

「大赦……の連中がやる事にしちゃ手が込みすぎてるか?」

 

 そもそもここに倒れる前に何があったか、それが分からない。だから、誰のせいとかどうしてこんなとこにいるのかとか一切情報がない。

 

「てか、芽吹…芽吹がいねぇ…」

 

 訳もわからない場所に飛ばされた事などどうでもいい。芽吹の姿を一目でも見たい、何故かいつも以上にそんな衝動に襲われた。

 

「芽吹ぃぃ!どこだぁ!?」

 

 てか、加賀城や弥勒さん、亜耶ちゃんに山伏もいなければその他の防人面子もいないってのはどういう事だ。

 

「そもそも、なんで俺は防人になってんだ…?」

 

 考えが纏まらない。深く考えようとすると、謎の頭痛に襲われるせいで先に進みゃしない。

 

 悪態ばかりついていると、かつ、かつ、かつという乾いた足音が響いてくる。

 

「…誰かいるのか?」

 

 周辺からの光が強すぎて姿は見えてこない。が、このような意味不明の場所で警戒を解けば足元を掬われかねないのも分かっている。即座に弓を展開し、構え、臨戦態勢に入った。

 

「止まれ」

 

 足音が止まる。どうやら言葉は通じるようだ。

 

「あんたが手に持ってる()()、下ろしてもらっていいか?そしたら、俺もこれを下ろす」

 

 警告を飛ばしてすぐ、足音が更に近くなる。一足早く、相手が持っているモノ……鋭利な切っ先が光る刀を視認した事からの呼びかけ。

 

『…』

 

 やっと姿が見えてくる。光の中から現れた奴は、漆黒の着物のようなものを全身に身に纏っており、黒に塗り潰された見た目をしていた。深々とフードが被られていたが、唯一、目のみが露出されている。

 

 刀を構えながら、鋭い目がこちらを捉える。一瞬、怯むが奴の気迫に体が勝手に反応する。

 

「随分と、殺気立ってるな」

『……』

 

 黒衣の男は何も言わない。お互い視線を外さず、円を描くように牽制し合う。一瞬の油断で首を叩っ斬られる……そう思わせる程に相手の殺気は本物だった。

 

「…なんだ、その…あんた、お名前は?」

 

お見合いか、アホが。もっとマシな声の掛け方あっただろうが()

 

『ハッ……お喋りが好きなのか?それとも、相当余裕があるのか、いや単純に莫迦なのか』

「すぅ〜……こちらとしちゃ、出来れば殺し合うのはごめんなんでね。少し話でもと思ったんだが」

 

 ここがどこだろうと殺し合いはごめんだ。俺は、防人という役目を人を傷つける為にやってる訳じゃないのだから。だからと言って、相手も同じ気持ちとは限らない。

 

 考えを読んだのか、それとも察したのか。殺意に染まった目玉が、俺を凝視する。

 

『甘いな、敵意を向けてくる相手に対しての考え方とは思えん』

「ああ、そりゃ悪かったな…、けど」

『名前はない、そして、もう必要ない。これで満足か?青二才』

 

 「質問には答えたぞ」と言い黒野郎は刀を構え直す。こちらの呼び掛けは無駄、余分に呼びかけるのは逆効果の可能性もあるが…。

 

(何にせよ、多少の荒事は避けられそうにないな)

 

 にしても、この黒野郎。一切隙がない。刀の構え方からして、無形……型のない自由な戦闘スタイルを有している事が分かる、だから尚更やりにくい、どう攻めてくるのかも分からないし、こちらから攻めて返り討ち遭う可能性もある。

 

『っ…お前は、癪に触る』

「随分な言いようだな、おい」

 

 殺意は明確なものとなった、ただ俺を殺そうと黒衣の男は動く。右手に持っている凶器を逆手に持ち替え、血走った目が俺の首を捉える。一瞬、本当に一瞬の出来事。

 

「ッ!!」

 

 即座に反応。矢を4本射り、側面に飛ぶ。

 

 矢は突っ込んできた相手の両腕、両足を捉えている。そんな速度で矢に当たればひとたまりもない事は相手も分かっている筈だ。

 

 例え避けられたとしても、奴の背後に回った瞬間に爆破。直後その爆風で飛んできた体を押さえ付けさえすればこちらが有利となる。

 

(殺し合いする気はない…とか言った割に迎撃が本気すぎたか?いや)

 

 やりすぎなどではない。そもそも、そんな上手くいくわけがない。目の前の男はそんな手に引っかかる程弱くはないと。本能が警告している。

 

『俺を止めたければ、もっと本気でやるんだな』

 

 本能による警告は間違いでない事を確信する。両腕を捉えた二本の矢は奴の放った手裏剣によって応戦され、両足を捉えた矢は刀で叩き落とされていた。その動きはまるで…

 

「……分かってたみたいじゃねえか、クソが」

 

 憎々しげに呟く。同時にきっと同じ立場だったのなら、自分もそうしていたと考えながら、次の行動に移った。奴の手持ちの武器は今知りうる限りでは刀と手裏剣の二つ。

 

 後ろに飛びつつ、矢を放つ。相手にこれと言って目立った遠距離戦の出来る武装がない事はここまでのやり取りで分かる。

 

 白兵戦が苦手なわけではない。が、近接武器しか持っておらず、ましてやあからさまに白兵戦が得意そうな相手に対して真っ正直に近接戦闘を仕掛ける必要もないだろう。

 

(少しの間、得意な間合いを保つ)

 

 今もこちらに詰め寄る黒衣の男を応戦しつつ、背中にある矢筒に備えられた特殊な矢、それらの機能がどういうものだったか。春信さんから、あれやこれやと説明を受け(一応)頭に叩き込んだ知識をこの場で思い返す。

 

矢筒に備えられているトリック・アローと呼ばれた特殊な矢。これを駆使し、奴を追い詰める。仮に…成功せず、策が奴に破られてしまった時は……。

 

「ま、そん時はそん時だな」

 

 あっけらかんと短くそう吐き捨てた。矢で相手を牽制、そう簡単に離れさせてくれない事は分かっている。ならば…スプリットショットアロー、所謂分裂する矢を扱い、相手の出方を見る。

 

 一度に5本の矢を番え、一気に引き絞り放つ。矢は複数の発射体に分かれると、こちらに迫る敵へと不規則な動きで迫っていった。

 

『分裂弾……そして、追尾か』

 

 殺意に駆られている割には冷静。奴のこれまでの立ち回り、目の良さ、状況判断能力、それに付いていける戦闘技術……動きの端々から見えるのは、俺が過去に会得した技術と酷似しているような?

 

(いいや、んなことは今どうでも良い)

 

 余分な思考を振り払う。追尾する矢は、黒衣の男を捉えた。もう逃れる事は…

 

『邪魔だ』

「っー!避けようともしないのな!」

 

早速、一手が破られる。関係ないと言わんばかりに、刀で矢を迎撃する黒衣の男。荒々しさがありながらも、その技には冴えがある。認めたくはないが、相当な手練れであることは明白。

 

背後に飛び、2本の矢を番える。先ほどよりも少々力を入れて、放った。

 

『いい加減、殺されてくれ』

「直球だなてめぇ!」

 

 放たれた矢は二本。それは相手の真横をすり抜ける。

 

『どこを』

 

 相手が言い終わるよりも早く、すり抜けた矢が地面に付着し爆発を起こす。瞬間、爆発が起きた場所に吸い寄せられるように男の体は引っ張っられていく。

 

『狙いはこれか』

「面白いだろ、インプロージョン・アローって言うんだぜ?」

 

 爆縮矢とも言うらしい。爆発した瞬間、その中心部に対象を引き付ける面白い効果を持った矢である。二本の矢が立て続けにその効果を発揮した事で、黒衣の男との距離が離れた。

 

 すかさず、矢を番え放つ。体勢を崩した相手に対し、矢を連続で使う。1本、2本、体勢の崩れなど関係ない、寧ろ崩れた事を利用して相手は矢を避けて見せた。

 

 (なら、次は…)

 

 気にせず、追撃。お次はパルサー・アローと呼ばれた矢。立て続けに矢を避けている相手に対してさらに追い討ちをかける、が。

 

『舐めるな』

 

 飛んできた矢を手掴みで封じられる。直後、矢は小規模な爆発を起こすが鎧のような物に覆われている為、相手にダメージは皆無だった。

 

 『狙いはいい、だがどれも後一手足りない』

 

 偉そうに黒衣の男は言う。その言葉に判断が鈍ってしまった。その隙を相手は見過ごさない。離れていたはずの距離を一瞬で詰められた。

 

「させ、ねぇ!」

 

 一瞬の判断、弓をシングルアクションで槍状態へ移行する。ガギィッ、と鈍い金属音が空間を満たす。刀と槍が火花を散らしながらぶつかり合う。互いに一歩も譲らず、戦闘の激しさのみが増していく。

 

 相手の挙動、その全てを悉く俺は潰した。繰り出される剣戟には、槍術を扱い完封する。だが同時の、俺の反撃も全て防がれた。まるで

 

「俺と…戦ってるみたいだ」

『…殺す』

 

 その発言が気に食わなかったのか、より一層奴の攻撃の威力が増した。それに直ぐついて行く。

 

休む間もなく、一進一退の攻防が続く。俺が相手の攻撃を防げているのには理由があった。いや、詳しく理由が分かるのかと言われたら、何とも言えないが。

 

『読んでいるのか、分かっているのか……いや、視えているのか』

「さぁ、ね」

 

 力は緩めず、正面の相手を少し挑発するように呟く。自分でも訳が分からないが、相手の言う通りだった。俺はこの男が次にどのような動きをするのか。それが何故か『視えてくる』のだ。

 

 さっきまでは視えてこなかったものが、奴に近づいた瞬間視え始めた。妙な感覚に襲われながらも、手は止めない。

 

 『……チッ』

 

 大きな舌打ち、それが聞こえた次の瞬間、俺の体勢は相手の足払いで崩された。手元にばかりに注意が行きすぎたせいだ。さっきまでの戦闘が嘘のように空間から音が消える。

 

『…事が終わる時とは、呆気ないものだ』

「…同感だ」

 

 体勢を崩し、地面に寝かされた俺は相手に首根っこを掴まれているせいで身動きが取れなくなった。奴の手に握られた凶器、それは俺の脳天を捉えている。誰がどう見ても、絶対絶命の状況だ。なのに

 

『何故だ』

「あ?」

『…このような状況下でも、()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 そう、黒衣の男は鋭い視線を向けながら、俺に問うてくる。

 

「何故って言われてもな、まだ負ける気がねぇからくらいしか理由がないが」

『やはり、莫迦なのか?この状況を見ろ、お前は終わりだ。死ぬんだ』

「死なねぇよ、俺は」

 

 忌々しそうに奴の目が俺を見る。だが、その目には先程までの狂気が消えつつあるように思えた。

 

「逆に聞くけどよ、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 戦闘が始まる前から気になっていた事を言葉にする。フードの中から見える奴の目には光はなかった。奥底に視えるのは、怒りと悲しみ、それだけのように視えた。

 

『……本当に、嫌な■だ』

 

 奴がボソッとそんな呟きを漏らす。直後、奴は立ち上がり、刀を腰にある鞘へと納め出した。警戒心はとかず、俺も身を起こす。

 

「……殺すんじゃなかったのか?」

『失せた。こんな奴に殺意を剥き出しにしていた自分がアホらしくなった』

「そうかよ」

『あぁ、そうだ。何より、こんな所で殺さなくても…… ()()()()()()()なら、殺されるよりも、いや、死よりも恐ろしいものを味わう事になるだろうしな。なら、俺が手を下すまでもない』

 

 言葉の意味が理解出来ず、首を傾げる。そんな俺のことを気にせず、奴は背を向けた。殺されかけたが、元より俺に殺し合いの意思はない。相手が引くのであれば、俺も追いはしない。

 

「……鷹月夕矢だ」

『……は?』

「俺の名前だ。あんたに言わせようとしておいて、自分の名前言ってなかったしな」

 

 「知ったことか」と言いながら、男は俺に背を向ける。その後ろ姿が俺にはやけに哀しく見えた。

 

『醒めたくなくなるのかと思ってたが…その逆とはな。こんなのはもう見てられん、さっさと醒めるとしよう』

 

 黒衣の男は歩き出す。それが合図かのように、先程までの明るかった周辺の光がゆっくりと消えていく。

 

「……結局、お前はなんなんだよ」

 

 最後に疑問を口にする。俺からの言葉に一瞬、男は立ち止まる。徐々に暗闇へと染まっていく中で、男は深く被られたフードを外し、顔をこちらに向けた。

 

『これで…分かったか?』

 

 暗闇に包まれる視界。だが包まれる寸前、最後の瞬間に見えた『その顔』は。

 

『じゃあな、()()()()()()。せいぜい足掻いて、■■を失わないようにする事だ』

 

 そんな言葉を聞いたのを最後に、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起きた」

「夕矢!よか……ごほん、夕矢、体調はどう?」

 

 目を開けると、心から安堵するような表情を浮かべたかと思ったら、すぐにいつものキリッとした表情に戻る芽吹と、それに対して何か言いたげな顔をする加賀城、二人の顔が映った。

 

「…なんで、二人が俺の部屋に?…てか、もう昼じゃねえか!?」

 

 慌てふためく俺の姿を見た二人は顔を見合わせると、心配そうにこちらを向いた。

 

「ユウ、もしかして覚えてない?」

「は?、えっ、何がだよ?」

「あんた、私と一緒に朝のランニングをこなした後…倒れちゃったじゃない」

「えっ」

 

 冷静に思い返すと、そんな事があったようななかったような。起きたばかりだからなのか、頭が回らない。

 

「…悪かったな、芽吹。心配かけて」

「別に気にする事ないわ、特に心配もしてないし」

「えぇ〜よく言うよ、メブ〜。倒れちゃったユウを連れてきた時は、あんなに真っ青な顔して」

「夕矢、少しこの部屋が赤くなるかもだけど、許してくれるわよね」

「ちょっとまってメブ赤くって何が赤いのかなそしてその手は何かなやめて、やめてー!謝るからー!ユウもなんとか言ってー!」

「悪いな、俺芽吹の味方なんだ」

 

 「私も心配してたのにー!!」という加賀城の断末魔が部屋に響く。少し痛む頭を抑えながらも、芽吹と加賀城のじゃれ合いに微笑む。

 

 が、一瞬また頭痛に襲われた。瞬間、最後に見た男の顔を思い返す。

 

「…あれは、俺、だったのか」

「ユウ?」

「どうしたの?夕矢」

 

 二人がこちらに視線を向ける。これ以上心配させるわけにはいかないと、首を振って余分な思考を消した。

 

「わり。なんでもねぇ、さーて寝てた時間の分取り返すとするか!」

「とりあえず元気になってよかったわ」

「あぁ、それもこれも芽吹が横にいてくれたお陰だな」

「はいはい、そんだけいつもの減らず口を叩けるなら大丈夫そうね」

 

 嫌な気分が消えていく。うん、やっぱり芽吹は最高だ。芽吹がいてくれる限り、俺はどこへだっていける気がする。今日はより一層、そんな風に思った。

 

「……あのー、イチャイチャしながら、頬引っ張らないで?メブ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『…醒めたか』

 

 少し寒い。どうやら雨にずっと打たれていたようだ。

 

『…さて、仕事の時間だ』

 

 機械のように、動き出した。一つの命令にずっと従い続けるロボットのように俺はまた殺しに向かう。

 

 いつまでも満たされる事のない渇いた心を抱えながら。

 

『本当に…いつも以上に最悪の気分だよ』




〜小ネタ解説〜

〜今回登場した黒衣の男。

彼のモチーフは知っている人なら分かるかもしれませんが、ローニンです。

ローニンとは、原作のマーベルコミックスにおいてはキャラの名前ではなく複数のヒーローによって使われる仮の姿って奴です。見た目は、忍者のような見た目をしており、全身が漆黒に包まれた着物のような衣装を纏っています。

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)においても『アベンジャーズ エンドゲーム』にて登場しており、ホークアイことクリント・バートンが素性を隠しながら行動する際、ローニンになっていました。

〜夕矢が今回使ったトリック・アロー

インプロージョン・アロー 爆縮矢

対象に当たった直後爆発を起こし、またその爆発の中心に対象を引き寄せる特殊な矢。

スプリットショット・アロー

複数の発射体に分かれて、対象を追尾する特殊な矢。

パルサー・アロー

爆発物を搭載した矢。対象に付着、または地面などに付着させ、夕矢の持つ弓に搭載されているリモコンを使う事により手動で爆発させることが可能。

「……鷹月夕矢だ」から『知った事か』ていう二人のやり取り。

これは『シビル・ウォー キャプテンアメリカ』にて、空港での決戦の際のホークアイ/クリント・バートンとブラック・パンサー/ティ・チャラとのやり取りより抜粋。


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過去最高に小ネタ説明長くなっちゃった…申し訳ない。とりあえず、次回からはしっかり本編進めます!にしても、今回出てきた子は誰なんでしょうね、分からないなー(棒)


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10話 名家の者達

第10話!ゆっくり(過ぎ)ではあるものの、なんだかんだ10話!大満開の章にて動いてるメブが見られて作者は幸せですっ!ありがとう、製作陣の皆様ありがとう!!!

にしても、今年ももうそろそろ終わりですか…早いなぁ()


ふぅ……では、本編スタートです。弥勒さんが目立つぞ!キリッ


 いつもと変わらぬ訓練の時間。俺は弥勒さんに(いつもの事ではあるが)執拗に挑まれ続けていた。

 

「や、やりますわね……流石、防人の副隊長まで上り詰めただけのことはありますわ」

「これで五回目……どうします?ここらでやめときますか?」

「ご冗談を。わたくしがこれくらいでは諦めない事をあなたが一番よく理解しているでしょうに」

 

 木銃を再び構え直す弥勒さん。いつもの事ながら、彼女のこのタフさには恐れ入る。しかし……

 

「では行きますわよ!てえやああああああ!!!」

「よっ」

「えっ?あ、みにゃー!!!」

 

 気合の声と共に勢いよく突っ込んでくる。それを木銃を使い、受け流す。勢いを殺しきれなかった弥勒さんは見事に壁に激突し、奇声を上げながらぶっ倒れた。

 

「あぅ〜ほ、星…星が見えましてよ〜わたくしのように燦然と輝いてる星が〜」

「なーにやってんですか、弥勒さん」

「さ、流石は鷹月さんです。わたくし渾身の突きを受け流すとは……この突きを攻略したのはあなたが初めてでしてよ」

「いや、この前も八番の子に受け流されてま「あなたが初めてでしてよ!」言葉被せんのやめてもらっていいすか?」

 

 弥勒ワールド全開の影響で多少頭痛がしてきたが耐える。どちらにせよ、そろそろ訓練が終わる時間……なのだが、ギリギリまでこの上級生は止まらない事をよく知ってる。

 

「まだ、やれますわよ」

「だろうな、わかってますよ。もう何度も相手してますから」

「流石は我がライバル。では、これまでが準備運動だったと言う事を教えて差し上げますわ」

 

 俺は、弥勒夕海子という少女の事を尊敬している。猪突猛進ではあるが、それでも強い信念を持っている。それはどこか、俺の愛してる人を連想させる。だから、人間としての彼女の事は好きではある。ただ────。

 

「全ては、弥勒家再興の為に!」

「再興……ねぇ」

 

 俺自身の問題なんだが、彼女の()()()()()は好きになれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ」

「お疲れ様です、弥勒さん。はい、スポドリっす」

「あ、ぁぁ……ありがとうございまふ…た、鷹月さん」

 

 意気消沈としている弥勒さんを尻目にスポドリを頂く。横にいるのはついさっきまで「わたくしは止まりませんわよー!!」とか言いながら、計30回以上の突きを俺に向かって放ってきた弥勒家の御令嬢。

 

「……大丈夫ですか?保健室行きます?」

「…何てことはありませんわ。しょ、少々、疲れただけです」

 

 明らかに少々じゃなさそうな表情を浮かべながら、スポドリを飲んでむせてる弥勒さん。どこまでも愉快な人だ、ほんとに見てて飽きない。

 

「お疲れ様、夕矢。……弥勒さん、どうしたの?」

「おお、お疲れ、芽吹。いやまぁ、いつものだ」

 

 「あぁ、いつものね」と若干呆れた様子の芽吹。いつもので伝わってしまう辺り、芽吹も弥勒さんの事が分かってきたらしい。弥勒さん、体力があるのは明らかなんだが気合が入りすぎて自身の体力の限界以上に鍛錬に打ち込みやすいタイプらしく、訓練が終わった後、こうなる事が多い。俺や芽吹と一対一で訓練するときは尚更だ。

 

「あら、芽吹さん!今度はあなたがわたくしのお相手をしてくださるんですの?」

 

 いつのまにか完全回復した弥勒さんが芽吹に詰め寄る。うっらやましいなほぼゼロ距離じゃねーか、俺に譲ってくれその位置。

 

「ちっ…違います。そもそも、訓練は終わりってさっき伝えたじゃないですか」

「あら、残念。……何故、夕矢さんはこちらを羨ましそうに見てるんですの?」

「ば、ばっかぁ!羨ましいなんて思ってねぇですよ!?今の弥勒さんと芽吹の距離感羨ましいなぁとか今すぐその位置変わって欲しいなぁとか思ってただけですってぇ!」

「矛盾が矛盾を呼んでますわね……芽吹さん、いつもお疲れ様です」

「ありがとうございます、弥勒さん。頭痛が止まりません」

 

 愛する人と先輩からの冷めた視線が身に沁みる。雑談している内に他の防人隊の面子が道場から出て行く。さて、この後の予定はどうしたものか。今日の訓練は午前中のみ、つまり今からは自由時間となる。

 

(ま、悩むまでもねぇよな!)

 

「芽」

「あ、鷹月さん、ちょっと」

「……なんですかぁ?(怒)」

「な、何でちょっとキレてるんですの?まぁ良いですわ……この後、少々お時間よろしくて?二人きりで話したい事があるので」

 

 突然の申し出に一瞬、固まるが特に断る理由はない。いやあるんだけどね?芽吹と一緒に過ごしたいし、芽吹と一緒に過ごしたいし!

 

(けど、えらく真面目な顔してるからな……)

 

 二人きりで話したい事……よく分からないけど、ここで断るのもどうかと思う。たいっっっっっっへん不本意ではあるが、今回は芽吹と過ごすのは諦めるか。今回過ごせなかった分、次の休みに芽吹に付きまと…傍にいれば良いだけ──いや、やっぱり(意思弱々)

 

「芽吹さん、あなたの夕矢さんを借りて行ってもよろしくて?」

「……あなたのって言い方やめてください。しかも、何で態々私に確認するんですか」

「なんでって……お休みですし、お二人で何か予定でもあるのかと思ったので。一応確認を」

「ないですよ、どうぞ好きに連れてってください」

「あるだろ芽吹!俺とデートを…!」

「連れてってください」

「はい、それでは鷹月さん行きますわよ」

「やーだー!俺は芽吹と休みを過ごすんだぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺の抵抗も虚しく、弥勒さんにズルズルと連れて行かれた。あぁ……芽吹がどんどん遠くなっていくぅ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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〜弥勒さん視点in〜

 

 

 白い丸テーブル。白いチェアー。白い陶器のティーポッドとカップ。わたくし、弥勒夕海子は鷹月さんを連れゴールドタワーに近接する臨海公園で紅茶を楽し──

 

「メブキ、と、デート…シタカッタナァ」

 

 こ、紅茶を楽しみながら──

 

「あー、今頃芽吹ナニシテルカナァ」

「シャラッープ!ですわ!鷹月さん!このままでは折角の優雅なティータイムが台無しになってしまいます!」

「……俺はティータイムする為に連れてこられたんじゃないんです〜!弥勒さんが大事な話があるって言ったから仕方なく!仕方なくついてきただけなんですのよ〜!」

 

 見た事のない態度を取る下級生の副隊長。勢いに気圧されそうになるものの、コホンと咳払いをしてから持ち直す。

 

「確かに、その通りですわね。失礼しました、鷹月さん。いやはや、いつもの如くアルフレッドの淹れてくれた紅茶が美味しくてつい…」

「アルフレッド?」

「ええ、わたくし専属の執事ですわ」

 

 「ほえー」などと生返事をする鷹月さん。あっきらかに信じてませんわね、この方。まぁ、雀さんのように笑わなかったので良いとしましょう。

 

「さて、では本題にいきますわよ」

「へいへい」

「ヘイは一回にしてくださいまし」

「hey!」

 

 よろしい。言ったことをすぐ聞き入れてくれる後輩さんは好きでしてよ。……さて、ここからは切り替えてお話しするとしましょう。

 

「鷹月さん、貴方はご自分の家……鷹月家の事についてどこまでご存知ですの?」

「……というと?」

 

 鷹月さんの顔つきが変わる。さっきまでのやる気のなさそうな表情から一転し、鷹のように鋭い瞳がこちらへと向けられた。

 

「一度、名家の者同士としてお話をしたかったのです。故にこの休みの機会を頂いたのですわ」

「なるほど。ま、名家といっても今は堕落してますがね」

「それは弥勒家も一緒ですわ」

 

 弥勒家も鷹月家もかつては名家として名を馳せていた。しかし、現在ではその面影を感じさせない程に、両家ともに堕落。何故そうなったのか等の詳しい内容については弥勒家にある書物を漁っても知る事は出来なかった。

 

「鷹月さんは堕落した理由等について何かご存知で?」

「知らないっすね。大体の書物は親父が管理してたし、そもそも俺自分の家の事なんて興味なかったし」

「そうですか──鷹月さんのお父上というのは、鷹月刀夜さんの事ですわね?」

 

 私が名前を出すと、鷹月さんはあからさまに嫌そうな顔をすると共にこちらを怪訝そうに見た。

 

「そうです……って、なんで親父の名前知ってるんすか」

「一度だけですが、お会いした事がありますの。まぁ、わたくしがまだ小さい頃でしたのでそこまで深い関わりはありませんでしたが」

「……変に顔広いな、あのクソ親父」

 

 はぁ、とこれまた嫌そうに溜息を漏らす鷹月さん。あまり仲がよろしくなかったのでしょうか?

 

「お父上はお元気ですか?」

「あー……そっか、弥勒さんは知らない感じか」

「……何をです?」

「親父、2、3年前に亡くなりましたよ」

「……申し訳ありません、軽率でしたわ」

「いいんすよ、知らなかったんだし。弥勒さんが謝る事じゃないですから」

 

 それでも、と頭を下げた。少し重い雰囲気が流れてしまうが、気持ちを切り替え話題を振る。

 

「……所で、鷹月さんはわたくし達の祖先が過去にどのような働きをしたか、それについてはご存知で?」

「それは知ってます。弥勒家、鷹月家、そして…赤嶺家。その三家が神世紀72年の大規模テロ事件を鎮圧したってやつですよね」

 

 彼の言葉に頷く。神世紀72年に起きた大規模テロ事件──学校等でも取り上げられ、歴史の教科書でも載っている程の大きな事件。しかし、その詳細はどこにも記されておらず、弥勒家にある書物も全て大赦によって検閲されてしまっている為、知る手段はない。

 

「その通りです。現在ではどの文献を調べても、テロを鎮圧させたのは赤嶺家……としか書かれてはいません。ですが、わたくしはこの防人というお役目を全う…いや、それ以上の功績を出し必ず弥勒家の名誉を挽回してみせますわ」

「……名誉の為に命を賭けるんすか?」

「え?」

 

 突然の問い。彼と視線が交わる。その目は本気だ……どこか、怒りに近いものを感じる。いや、これは──。

 

「どういう事ですの?」

「言葉のままの意味っす。弥勒さんは、弥勒家の復興を目指してるんですよね?」

「ええ、そうですわ」

 

 キッパリと答える。それに対し、鷹月さんの目つきが更に鋭くなる。戦闘中や訓練の際にもそうだが、こういう時の彼は年下とは思えない程の圧を出す。

 

「……名誉の為とか、復興とか。そういうのを目標にして生きるのは悪い事じゃないとは思います。でも、その目的ばかりに縛られ生き急ぎ……その結果、本当に大事な事を疎かにしてしまい、最終的には──。俺はそんな人を見た事があるんすよ」

「私も、そうなってしまうのではないか……と?」

「断定はしませんよ。けど少なくとも俺はその人を見てから、そういった考えで動く人に対して……良い印象は持ってないっす」

 

 なるほど、と内心で頷いた。鷹月さんがわたくしと関わる際、弥勒家再興のお話が出てくるとやけに嫌そうな顔をするのはこれが原因でしたのね。

 

「忠告、ありがとうございます。しかし、私は自身の考えを変えるつもりはありません」

「……そう、すか」

 

 少し弱い声色で彼は反応する。その顔には未だ翳りがあるように見えた。

 

「わたくしは家とかつて多くの人々を救ったという事実を誇りに、そして名誉に思っているのです。祖先は英雄であり、わたくしにその血が流れている事を素晴らしくも思います。その信念は、誰にも否定させない。鷹月さんは生き急いでしまう……とおっしゃいましたが、元より私は急ぐ気はありません」

 

 勿論、弥勒家復興は夢でもあり目標。それを早く達成したいという気持ちがないわけでもないこともまた事実。ですが、それ故に──。

 

「出来ることを確実に、そして地道に。防人というこの部隊で、わたくしは目標へと近づこうと考えていますから。なので、余分な心配はご不要でしてよ」

 

 鷹月さんに向けてそう言い切る。きっと彼の先程の言葉は、わたくしを心配して言ってくれていたのでしょう。彼らしい不器用ですが、とても優しい気遣い。

 

(きっと、そんな貴方ですから……副隊長にもなれたんですわね)

 

 彼の根底にある強さ。それはきっと戦いの中だけでは測れないのだろう。

 

「あー、なんつーんだろうな」

「?、何がなんつーんですの?」

 

 歯切れの悪い言葉に首を傾げる。一息つく為、紅茶を飲もうとすると──。

 

「あー、その、俺弥勒さんの事結構…いや、かなり好きかもしんないっす」

「ブーーーーーーッ!!!」

「うっわ!ちょっ、何してんすか弥勒さん!?」

「そ、そそそ、それはこっちの台詞ですわ!どうしたんですの急に!?」

 

 な、なななんですの!?この人!?えっ?この方は芽吹さんの事が好きなのでは!?なのに、何故今わたくしに!?えっ?えっ?

 

「あなたには芽吹さんがいるでしょう!?な、なのに何故わたくしに」

「あ、そういうんじゃなくてね。人間的にかなり好きだなって」

「は、はぁ…」

「何というか、前々から思ってたけど弥勒さん本当にカッコいいと思いますよ。俺の問いに対する答え聞いた時は、ほんと感動したし」

「そ、そうですか?」

 

 急なベタ褒めに流石のわたくしも照れてしまう。なんなんですの、この方。

 

「そうですよ。その信念は誰にも否定させない……こんな言葉がすっと出てくる弥勒さんは本当に強い人だなって、俺は思います。絶対に叶えてください家の再興を」

「勿論、言われなくてもそのつもりですわ。その為にもまずは貴方や芽吹さんに勝たなくてはなりませんが。わたくしが勝利を掴み取る日もすぐそこですからね。首を洗って待っててくださいまし」

「それは楽しみだ事で。でもまぁ、そう簡単には負けてやりませんから」

 

 二人で顔を見合わせ、笑う。なんというか芽吹さんが彼と一緒にいる時、やたらと心地よさげにしているのが分かった気がした。

 

「そういや、お話ってこれで終わりな感じですか?」

「そうですわね……あ、でももう一つ」

「?」

 

 そうでしたわ。彼との会話に集中しすぎて、わたくしが個人的に一番気にしているお話をするのを忘れていました。

 

「鷹月さんは『残党』について知っていますか?」

「残党…?」

「ええ、因みにこの『残党』はわたくし達もよく知っている神世紀72年の事件とも関わりが深い事ですわ」

「もしかしてカルト教団の──」

「その通り。ここから先は、わたくし達──名家の者達が関わりの深い事ですので。出来る限り他の方々には喋らない事をお願いしますわ」

「了解っす」

 

 彼が頷くのを見て、話し始める。正直内容自体も不明瞭な事ばかりでなんとも言えないが……。あまり、いい話ではないのは確かであった。

 

 

 

 

〜弥勒さん視点out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

〜夕矢視点in〜

 

 

 

「失礼しました」

 

 頭を下げ、部屋から出ていく。少し用があり、俺は神官の部屋へと来ていた。

 

 弥勒さんとの二人っきりでの雑談を終えてからそこそこ時間が経った頃、ゴールドタワーに夕焼けの光が差し込んできている。その光を受けつつ、廊下を一人歩く。

 

「悩みの種が増えた…たくっ、もう堕落しているとはいえ…名家ってのはなにかと面倒だな」

 

 昼間に弥勒さんから聞いた話、あれが本当だとしたら実家が少し心配だ。俺が神官の部屋へと行ったのは、次の休みに実家へ向かう許可をもらう為だった。防人は外出する際、神官に理由等の説明などを態々紙に書いて提出しなければならないのだ。

 

 面倒ではあるが、これをしないと外出できないのも事実なのでみんな文句は特に言わず、このルールに従ってる。なんかルールのことばっかり言ってたら疲れてきたな……溜息出そう。

 

「はぁ〜」

「ひどい溜息ね、何?神官に文句でも言われた?」

 

 そこに女神降臨!最高のタイミングだぜ。芽吹がここにいるという事は、恐らく神官へレポートの提出だろう。

 

「おお、芽吹。違うぞ、ちとここに用があったんでな」

「用?何よ」

「次の休みに実家に戻ろうと思ってな。外出届け出してきたとこだ」

「なるほどね、でもなんで急に?」

「あー……まぁ、あれだ、実家の近くにある山で久々に鍛錬でもしようかと思ってな。ここで出来ない鍛錬もあっちなら出来るしな」

 

 半分本当で半分嘘だ。鍛錬したいのは本当だが、何より大事なのは自分の家が心配だからだった。あの家には今は母さんしかいない、故に弥勒さんの言っていた話が本当なら心配にもなるからな。

 

「……」

「ど、どうした…?芽吹」

「あんた、なんか隠してない?」

 

 な、何故わかった!?流石芽吹だぁ、完璧に俺の心を理解している。やはり俺達は結婚する運命にある!ってそれよりも──。

 

「な、なんの事か」

「そういえば、あんた弥勒さんと二人きりでどっか行って帰ってきてから少し変よね。もしかして、弥勒さんと何かあった?」

 

 こういう時の芽吹はやけに鋭い。俺だって芽吹に嘘は吐きたくないが……でも、弥勒さんには念を押されているし。

 

「あー、いや、そのぉ…」

「珍しく歯切れが悪いわね?……やっぱり私に何か隠してるの?」

 

 や、やめろ!芽吹……そ、そんな少し悲しそうな表情をするんじゃない!な、なんだ…さっきから芽吹がなんかあざといぞ。あざメブだ、あざメブ!めっちゃ可愛いなおい!(錯乱)

 

「決めたわ」

「えっ?」

「その日、私もあんたに着いて行く。前々からあんたが昔使ってたっていう鍛錬場行ってみたかったし」

「……マジっ?」

 

 なんという事だ。いつもなら芽吹と一緒だヒャッホーイ!って喜ぶところだが……今回は少し複雑である。

 

「何よ、嫌なの?」

「ぐぅぅぅ…芽吹、ちょっとずるいぞお前…」

「何がよ、ま、とりあえずそういうわけだから。次の休みの日、よろしくね」

 

 そう言って、芽吹は神官の部屋へと向かった。俺は一人ぽつんと廊下に取り残されている。我慢できず膝をついて蹲る。

 

(なしてそんな可愛いこと言うんだよ〜!そんな事言われたら断れねぇじゃんかよぉ……。ま、まぁ…でも、いいか。別に『残党』の話をしなきゃいいだけだもんな…うん、じゃあつまり実質鍛錬デートじゃね?えっ、やったぜ、急に嬉しくなってきた!)

 

「やったぜー!フォー!!」

 

 さっきまで蹲っていたのが嘘のようにハイテンションで自室へと戻った。自分でも情緒不安定じゃねえかって思うけど、本当に嬉しいんだからさ、仕方ないだろ?

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜夕海子の部屋〜

 

 

 

「彼には芽吹さんというパートナーがもう既にいる。故にわたくしは彼を専属の執事として迎え入れたいと考えておりますの!どう思います!?雀さん?」

 

「まずはその胡散臭いお嬢様設定無くすところから始めてみたらどうかな?」

 

「だぁぁ!相談相手間違えましたわ!やはり国土さんか山伏さんに聞いておけば!」

 

「うええ!?勝手に私を部屋に引きずり込んで置いてよくそんなこと言うね!?これだから、エセお嬢様は!」

 

「ダァー!言いましたわね!言いましたわね!それ言ったらもう戦争ですわよ!このみかん星人!」

 

 その後、隣の部屋の主である山伏しずくがシズクに人格が入れ替わり、夕海子の部屋に乱入した事で騒ぎは収まったという。(ようは二人ともシズクにしばかれた)




ユ「おおお!見ろぉぉぉぉ!芽吹ぃ!芽吹が動いて喋ってるゾォォォ!最高じゃねぇかぁぁぁ!!」

メ「横で叫ばない。亜耶ちゃんの声がよく聞こえないでしょ」

ユ「隠れて二人でデートしてたのか…俺とは遊びだったのね!芽吹!」

メ「遊びも何も始まってすらいないでしょ……ほら、続きを見、る?」

ユ「楽しいそうだなぁ〜ここ、ここの芽吹可愛いぞ!でゅふでゅふって!それに親父さんのことをパパって!いやー、こんな一面もあるのか、今度俺とデートした時にも見せてくれよ!」

メ「あんたの記憶を消す、いま、ここで」

ユ「ちょっ!?だめだ、あんな可愛いらしい芽吹の姿を忘れるなんて俺には!お、おい、芽吹、なんで銃剣構えてんだよ!?やめ、やめろぉぉぉ!!!(若干喜んでる)」

作者「後書きでイチャイチャするのやめてもらっていいすか?(半ギレ)はい、てな訳で今からはいつも通り解説です」


〜marvel小ネタ解説〜

「まだ、やれますわよ」
「だろうな、わかってますよ。もう何度も相手してますから」

 この会話というか弥勒さんの発言自体が軽い小ネタ。キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースの台詞である「まだ、やれるぞ」を弥勒さん風にして入れてみました。会話の流れもアベンジャーズ・エンドゲームのワンシーンを意識してます。ちなみに「まだ、やれるぞ」を英語で言うと「I can still do it」です。気になったら調べてみてね!


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11話 始まる浸食、目覚める最強

さぁて、今回は既存だけど本性隠してたキャラが大暴れしますよー。てな訳で、残党襲来戦、早速行ってみましょうー!


 先日の約束通り、私は夕矢に付き添う形で地元へと戻ってきていた。ゴールドタワーで暮らすようになった事もあり、懐かしさに浸る。

 

 目的地に着くと、私もよく知る人が出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい。元気そうで良かったわ〜夕矢も芽吹ちゃんも」

「よっ、母さん。久しぶり」

「お久しぶりです、朝緋さんもお元気そうで」

 

 青い長髪を靡かせながら、夕矢の母親…鷹月朝緋さんがこちらに手を振りつつ、微笑んだ。

 

 昔と変わらない笑顔に、私も自然と微笑む。母親がいなくなってしまった私からすれば、朝緋さんの存在は…少し特別だった。実際、小さい頃は何度もお世話になったs…

 

「二人で帰ってくるのなんて珍しいわね…もしかして何か…はっ!!!つ、ついに結婚とか!?」

 

 まぁ、夕矢のお母さんなだけあってそこそこ…いや、かなり癖は強いが。

 

「その通りだ!母さん流石」

「自分のお母さんを利用して都合よく事を運ぼうとするのやめなさい」

「もう〜照れちゃって。ほら、芽吹ちゃん!早速夕矢と早く結婚を!」

「しません、親子で捲し立てないでください。疲れます」

 

 しょぼん、と体育座りしつつ拗ねる親子。夕矢を二人相手にしているようで、疲れる。

 

「あの、朝緋さん…それより本題を」

「ふふ、ごめんなさい。二人と会えてテンションあがっちゃって……えーと?今日は確か、鍛錬場を使いに来たのよね?」

「ああ、(弓兵)のスキルを上げるには山にある鍛錬場がもってこいだからな」

「確かにね。じゃあ、芽吹ちゃんも?」

「はい。夕矢が言ってた鍛錬場に興味があったので、この機会に使わせてもらえたらなと」

「そういう事〜つまり!鍛錬デートって事よね!」

 

 「どうしてそうなるんですか」と私。それを気にせずこのこのーっと夕矢をつつく朝緋さん。「照れるなー」などとヘラヘラしている夕矢。……疲れる(切実)

 

「そいえば……母さん」

「?、どうしたの?」

「…その、最近周りで気になることとか、あったりするか?」

「特にないけど……どうかした?」

「いや、ないなら良いんだ。気にしないでくれ」

 

 あからさまに怪しい態度を取る夕矢に、ジト目を向ける。こいつの隠し事についても後々本人から聞き出さなければ。別に、隠し事の一つや二つ、今更気にする必要はない……のだが、何故か気になる。

 

(……話してくれれば、力になるのに)

 

 悩みはいつでも相談してくれよ?とか言う癖に。私には相談できないとはどういう了見なのか。少し腹が立つので、なんとしても聞き出してやろう。

 

「あ、そういえば」

「どした?」

「言い忘れてたわ、実はね夕矢。私、また鍛錬始めたの!少しの間やってなかったから息抜きにどうかな〜って!」

 

 エプロン姿で、拳を前へ打ち出す朝緋さん。それに対し、夕矢は呆れたように呟く。

 

「嘘だろ…母さん、俺が出した鍛錬禁止令はどうした?」

「だって…休みとか暇だったし。それに、前よりキレが増したのよ?そうだ!どうせなら、久しぶりに組み手でも」

「断る、キレが増してきたとか勘弁してくれ……」

 

 本当に嫌そうな表情で、頭を掻く夕矢。珍しい、こいつが本気で嫌そうな顔をするのなんてそうそう見ない。相当、朝緋さんの事を心配しているんだろう。というか…

 

「朝緋さんって、鍛錬するんですか?」

「ふふん♪こう見えて私、夫から武術を()()()()教わってたのよ?」

「そうだったんですか!?知らなかった…」

 

 初耳だ。誰が想像できようか、こんなお淑やかの塊みたいな人が、武術を嗜んでるなんて普通は思わない。

 

「ま、そこら辺の話は後でな。とりあえず鍛錬場行こうぜ、芽吹」

「……気になるけど、分かった。それじゃ、朝緋さん。また後で」

「うん、二人っきりで楽しんでね」

 

 ニコニコと、優しい笑みを浮かべながら朝緋さんは私達に手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 鍛錬場へと向かっている途中、俺は先日の弥勒さんとの会話を思い返していた。

 

『つまり、その…「残党」ってのは、72年に暴動を起こしたカルト教団の思想を、未だ信仰している連中が集まった組織……みたいなもんって事ですか?』

 

『ええ、そして、今でも大赦と小競り合いを続けているらしいですわ』

 

『挙句の果てには、俺らみたいな名家の人間まで狙い始めるかも知れない……って話っすよね。今までの話まとめると……たぁ〜、んだそれだるいな』

 

『正直、わたくしも詳しい事は知りません。神官達のお話を、全部は聞き取れませんでしたし……それに、どうやら神官達も詳細については知らない様子でしたから』

 

『嘘だろマジかよ。念の為、聞きますけど。神官達に直接聞いたりは』

 

『勿論、しましたわ。ですが、「聞いてしまったからには仕方ありませんが…他のメンバーに伝える事だけは避けなさい」と、釘を刺されただけでそれ以外の情報は何も』

 

『釘刺されたのに、俺に教えちゃってますけど…いんすか?』

 

『構いませんわ。第一、残党とやらが本当に、名家の人間を対象にしている可能性があるのなら、例え不明瞭な情報であろうと、当事者達には伝えるべきだと、わたくしは思います。なんでしょうね、大赦はそういうところで、融通が効いていないというか…』

 

『変なとこで秘密主義なんすよね…あの、木祀ってる集団……とりあえず、教えてくれてありがとうございます、弥勒さん』

 

『お気になさらず。わたくしは、この件を通して一度、弥勒家の方に戻ろうと思いますが…夕矢さんは?』

 

『あー、そっすね。俺も…戻ります。色々、そう、色々心配なんで』

 

『分かりました、ではお互いに気をつけましょう。もう一度、言っておきますが…この事は』

 

『わーってます。名家に関係のない人間には喋らない、ですよね。約束は守りますよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえずは、守れてるよな」

 

 弓を片手に持ちながら、ボソッと呟く。芽吹に怪しまれてはいるものの、内容は伝えてない。つまり、約束は守れてるはず…ヨシッ!!

 

「にしてもまぁ…随分と、寂しくなっちまったなぁ…ここ」

 

 久々の鷹月家ご愛用の訓練場。昔はもっと綺麗だったんだが、親父がいなくなってからここは手をつけていない。

 

「ま、なんであれ、芽吹と一緒にいられるしなんでも良いか!」

「こっちにドヤ顔を向けるな、バカ夕矢」

「悪い。つい、な(キリッ)」

「……はぁ〜」

 

 俺の言葉が嬉しすぎてため息出ちゃったのか。可愛いな、芽吹は。もうほんと好き。

 

「…何かしら、寒気が」

「安心してくれ、俺が温めてやる」

 

 両手を広げて待っている所に、優しい優しい腹パンが入った。ううむ、最高の愛の鞭……だ。ここまで来たら、経絡秘孔の一つでも突いてほしい所だ(?)

 

「アホばっか言ってないで。鍛錬に集中しなさいよ、その為にここに来たんでしょ」

「勿論だ。さて、続きでもやるか」

 

 実家の近くにある鷹月家が古くから鍛錬場として扱われていた場所。どうしてそんなもんがあるのか……それは定かではないが。ここで俺は弓術は勿論、剣術、槍術、体術等を叩き込まれた。

 

「にしても…広いわね。お陰でいつもよりも、体を大きく動かせてる気がする」

「それは何より。一応、鷹月家の敷地らしくてよ。親父曰く、何年も前から鍛錬場自体はあったんだとか」

 

 山の地形を利用して作られたこの鍛錬場は、眼がやたらと良い俺の為と称して親父によって魔改造されている。そこら中の木に貼っつけられた的を使い、移動しながらでも敵に対し矢を当てられるようにする為の鍛錬を積む。ゴールドタワーにある訓練場では、ここまで広く使えないからな。

 

 勿論、的のど真ん中を的確に射抜く事も鍛錬にはなる。しかし、俺が防人として相手しているのは三次元的軌道で動く有象無象の化け物どもだ。なら、どんな状況だろうと的確に相手へと矢を当てられるようにならなくてはならない。

 

(努力は……どんだけしたって足りないからな)

 

 あらゆる体勢からも矢を射る事が出来る様に。広い空間をフルに使い、鍛錬に励む。横では、模擬銃剣を扱い鍛錬を行う芽吹がいる。芽吹がいるだけで鍛錬の質が上がるから助かる。

 

「そういえばよっ!」

「何、どうしたの?」

「あぁ、気になった事があってさ。芽吹、もしかしてだが……二刀流も得意なのか?」

「……別に、ただ、少し経験があるだけ。ていうか、なんでそんな事分かるのよ」

「見てりゃ分かる。芽吹の銃剣捌きは綺麗通り越して、美しいの勢いだぜ?まるで銃剣使いの手本みたいによ……けど、所々に応用みてぇな感じで二刀流を扱う際の足捌きとか、技術が組み込まれてるように見えてな」

 

 体の動かし方、自身の肉体の柔軟さを利用した動きは他の防人には出来ない芽吹のみが可能とするものだ。防人になる前の時点で鍛錬を積み続けてきたのは、動きの端々から伝わってくる。相当な努力を積まなければここまでのものには仕上がらない。

 

 解説していると芽吹が目を見開き、驚いた様子で俺の方を見ている事に気づく。

 

「……どした」

「あんたのそういう所、普通に尊敬するわ。よく気づけるわね、そんなの」

「そりゃ俺はどんな時も芽吹から目を離さないからなぁ〜!気づくに決まってるぜ〜!」

「あっそ……」

 

 会話が終わったと同時に、お互い鍛錬に意識を向ける。聞こえてくるのは、矢が的を射抜く音と銃剣が空を切る音……そんなに静かなもんだから、多少の違和感にもすぐに気づけた。

 

「芽吹」

「……分かってる」

 

 僅かな足音と、人の気配。それに芽吹も気づいたらしく、俺達は近くにあった木に隠れるように背を預けた。

 

「気づいたか?」

「えぇ、で……相手は何人くらい?」

「俺が見た限りだと……四人ってとこだ」

「割といるのね。念の為聞くけど、あんたが他に誰か呼んだ…って事はない?」

「ないな、今日は芽吹と二人っきりでランデブーの予定だったし」

「はいはい、てことは……」

 

 俺達とは無関係な誰か。しかも、わざわざ忍び足でこちらに近づいてきている。何をしたいのか知らないが、あんまり穏やかな状況じゃないのは明白だ。

 

「…目的は分からないが、あいつら『やる気』マンマンみたいだ」

「分かるの?」

「敵意がダダ漏れなんだよ。こっちをどうこうしてやろうって……そういう気が、前面に出過ぎてる」

 

 本人がどれだけ隠せているつもりだろうと、そういうもんは隠せないもんだ。

 

「てことは、相手の事は敵、と判断していいのね?」

「あぁ、どうやら俺らを標的にしてるらしい」

 

(まさかな、こんな良いタイミングで出てくるか?普通)

 

 確証はない。だけど、あまりにも……タイミングが良すぎる。

 

(確か、残党って連中は名家の人間を狙う可能性があるんだったよな)

 

「だとしたら…奴等は」

「夕矢?」

「……あ、わりぃ。どうした、芽吹」

 

 俺の反応に、芽吹がまたジト目を向けてくる。あいつらのこと、なんか知ってるんでしょ?さっさと話しなさいと言いたげな顔してる。

 

「あいつらのこと、なんか知ってるんでしょ?さっさと話しなさいよ」

 

 ビクトリー!!俺、まじ芽吹のこと分かってるわ。て、ンなこと言ってる場合じゃないわな。

 

「あー、いやー知ってると言えば知ってるし、知らないと言えば知らないというか…」

「…はっきりしないわね、結局どうなの?」

「あー、しゃあないよなぁ…状況が状況だ。簡単に説明する、よく聞いてくれ」

 

 コクッと芽吹は頷く。とりあえず、掻い摘んで残党について説明した。そういう組織がある、名家を狙ってる可能性があるとか。

 

「…なるほどね、そういう事」

「あぁ、まぁ…だから、なんだ…これは名家の人間の問題だからな、それに関係のない人間を巻き込む訳にはいかねぇって事で…」

「もうしっかり巻き込まれてるけど」

 

 ごもっともだ。タイミングが悪いっつうか、なんというか…まぁ、起きちまった事はしょうがねぇ。今は…

 

「ここをどう乗り切るか…だな」

「……どうやら、相手側は見逃してくれなさそうね」

 

 ゆっくりではあるが、確実に四方向から足音が近づいてきている。さっきも言っていたが、相手側はやる気満々のようだ。

 

 俺は弓を、芽吹は模擬銃剣を強く握る。お互い、考える事は一緒のようだ。あれ?芽吹と意見があっちゃった?やべ、すげぇ嬉しい。

 

「応戦するわよ、夕矢。ついてきなさい」

「まっかせとけ!芽吹には、指一本触れさせねぇからよ!」

「えぇ、任せたわ。あんたの事、信頼してる」

「……」

 

 えっ、何。俺死ぬの?てか、芽吹、最近よくデレてない?デレメブじゃない?デレメブ、可愛い……あれ?なんか呼吸が…(錯乱)

 

「えっ、ちょっ…夕矢、大丈夫?」

「あ、あぁ…すまん。芽吹が、可愛すぎて息止まってた…」

「嘘でしょ?」

「いや、嘘でもないぞ。40秒以上は呼吸止まってたからな」

「死ぬでしょ、そんなの…」

 

 割とやばい状況にも関わらず、いつものやり取りが行われる。クスッとお互いに笑みが溢れた。

 

「覚悟しろよ、残党ども。俺と芽吹、最強コンビが相手してやる」

 

 啖呵を切って、その場から動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふふ、今頃あの二人、仲良く鍛錬してるかしら?」

 

 洗濯物を畳みながら、朝緋は微笑む。夕矢と芽吹、二人の元気な姿を見て、彼女は心から安心していた。

 

「……刀夜さん、夕矢は元気よ。勿論、私も。だから、安心してね」

 

 ボソッと、静かに彼女は呟いた。最愛の人を失った。元に戻すのが大変だった、自分の気持ちも、生活も。それでも、私には息子がいる。だから、辛いけど…

 

「任せて、あなたの分まで…私が夕矢を支えるから」

 

 そう言って、朝緋は優しい笑みを浮かべる。すると、静かだった家にインターフォンの呼び出し音がなる。

 

「二人が戻ってきたのかしら…?はーい」

 

 玄関へ向かう途中、足が止まる。理由は単純、明らかな敵意を扉の外から感じたから。

 

「……物騒ね、全くもう」

 

 はぁ…と短い溜息を漏らす。彼女は薄々勘づいていた、自分の周り、自分を取り巻く状況が、少しずつ変化していることに。

 

(だから、夕矢から禁止されてた鍛錬も…久しぶりに再開した)

 

「だってさ、鈍ってたら…守りたいって思った時に、守れないじゃない?」

 

 「分かってくれるよね、夕矢」と小さく呟く。恐らく、刀夜さんが懸念していた事態が起きようとしている。良くない事、独りよがりな考えを持った連中が、『侵食』を始めようとしている。

 

「……もう、失くすつもりはないわよ」

 

 ゆっくりと、扉の方へと近づいていく。長い髪を纏め、ポニーテールに変える。これが彼女なりの、スイッチの入れ方だ。

 

 瞬間、彼女の纏っている雰囲気に変化が起きる。お淑やかさは消え、逆に爽やかさを感じる笑顔を浮かべた朝緋。

 

「さぁてと」

 

 扉を開ける、すると目の前には物騒な服装をした二人組の人物がいる。その人物達に、静かに朝緋は問いかける。

 

「狙いは私?それとも、貴方達は……夕矢を狙ってるって事で、いいのかしら?」

 

 その質問に対する返答は、クナイによる刺突だった。しかし、それが当たる事はない。それよりも先に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…!?」

「うーん、質問の意味が分からなかったかな?困ったわね〜、この人、もう動けないだろうし…それじゃあ」

 

 無言の圧に、もう一人の残党は後ずさる。この女はヤバいと、本能が告げていた。

 

 当然である。何故、彼女が夕矢に鍛錬禁止令を出されたのか。それは彼女が体が弱いだの、か弱い癖に無理をしているからとかそんな些細な理由ではない。

 

 理由はただ一つ、鷹月朝緋という女性は()()()()()()

 

「まぁ、良いわよね。この人みたいにならないよう、次は手加減するわ。その代わり、抵抗出来ない程度に、多少お仕置きしてからだけど」

 

 残党の一人は恐怖した。聞いていた話と違う、警戒するのは鷹月夕矢と楠芽吹を警戒していればいいと、()()()()()()()()()()言われていた。母親は気にする必要など、ない…と。だが、現実は違う。

 

「話が…違う……」

 

 恐怖のあまり、声を出してしまう残党。しかし、もう手遅れ。彼らは所謂、ヤバい奴に喧嘩を売ってしまったのだ。

 

「あ、言い忘れてたけど……私、結構強いのよ?」

 

 ニコッと笑う朝緋。その笑顔は、とても美しいものだが…残党にとっては死刑宣告のようなものでしかなかった。

 

 朝緋の強さに対して、あの夕矢すらもこう言ったという…「この人こそ、最強だわ」…と。




〜小ネタ解説〜

「いや、嘘でもないぞ。40秒以上は呼吸止まってたからな」

これはエージェント・オブ・シールド、シーズン1の第一話『シールド精鋭チーム誕生』より引用。ウィル・コールソンとグラント・ウォード、マリア・ヒルの三人の会話の中で、コールソンが言った台詞をオマージュで使わせていただきました。

 後、マーベルではないのですが、『嘘だろマジかよ。念の為、聞きますけど。神官達に直接聞いたりは』って台詞の嘘だろマジかよは、バイオハザード7とヴィレッジの主人公イーサン・ウィンターズの口癖だったりします。(まぁ、吹替でのイーサンの中の人は、MCUでアントマン/スコット・ラングの声も担当されているので一種の中の人ネタではあるかと)



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…ふぅ、とんでもないキャラが出ましたね(他人事)彼女もこれから、結構活躍すると思うので気に入っていただけたら幸いです(ニッコリ)

 設定資料に朝緋さんを追加するので、そちらも興味があれば確認してみてください!では、また次回お会いしましょう!


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12話 俺達、相棒だろ?

 さぁて、やって参りました。第12話!なんだかんだで朝緋さんも本格的に参戦し、物語も動き始めた予感!さぁさぁ、これからどうなるんでしょうか!

 では、本編どうぞ!


「ふぅ、これでよし」

 

 手慣れた様子で残党の一人を縄で拘束する朝緋。二人の勝負は一瞬でついたという。

 

「チョーシいいわね、前より速度が上がってる気がする」

 

 拳をシュッ!シュッ!と振っている姿はとても普段のお淑やかな彼女とはかけ離れた姿をしていた。

 

 残党は相手がどのようにこちらを完封したのかも理解できないまま沈んだ。結果、朝緋は敵の目的を聞く事が出来なくなっているのが現在の状況である。

 

「もー少し情報が欲しかったところなんだけどなぁ……っと」

 

 即座に首を動かす。さっきまで自身の顔があった位置を凶器が通り過ぎる。相当な勢いで飛ばされてきたのか、家の壁に凶器は突き刺さる。

 

「……懲りないわね、てゆーかさァ何人いるのよ」

 

 はぁ、と溜め息を漏らす朝緋。目の前には二人の敵が立っている。いずれも手には凶器が握られており、その様子に更に朝緋は深い溜め息を漏らした。

 

「…あんた達、何者?」

「世界の終わりを望む者」

「終わりぃ?何それ、どういう事よ」

「天の神によって人類の掃討が果たされる事、我等はそれを望んでいる」

 

 何かがキレたような、嫌な音が鳴る。場の空気が先程よりも重苦しいものに変化していく。

 

「なんで、そんな事望んでるわけ?」

「大赦という偽善者達が先導している世界…そんな物に我々は意味を感じない。どうやら、今でも天の神への抵抗を続けているようだが…そんなものは無意味だ。天の神には敵わない、相手は絶対的な力を持っている。大赦がいくら策を講じた所で…」

「……あー、もーいいわ」

「何?」

「もーいいって言ったの。ごめんなさいね、こっちが聞いたくせに遮っちゃって」

 

 手からバキバキ、と嫌な音を鳴らしながら、こめかみに青筋を立たせた朝緋が正面の敵を睨んだ。

 

「よーするに大赦が気に食わないだけ…って事よね、あんたら。だからさっさと世界が終わって欲しいって?身勝手にも程があるでしょ」

「この世界は行き詰まっている、いずれ人は天の神の力に蹂躙され滅びるのだ。ならばそれが早まったとて」

「うっせえばーか」

 

 声にやる気は感じられない。が、残党を見つめる彼女の目には怒りの感情が渦巻いていた。もう喋んなと言わんばかりの目である。

 

「何が行き詰まってるよ、だから何?あんたらの勝手な諦めに皆を巻き込むんじゃないっての」

 

 昔と比べて、今では真実を知る人間の方が少ない。彼女は刀夜と出会った事である程度の事は知っているが。

 

(こいつらもある程度の事は知ってるってことよね)

 

 残党、それは神世紀72年にテロを起こした集団の生き残り達が残した思想を受け継いでいる人達のこと。

 

(過去に縛られた悲しい人達…虚しいわね)

 

「戦う前に、一つ。あんたらの狙いはあの子達?」

 

 その言葉に対し残党は何も答えない。ただ静かに凶器を構え、臨戦態勢へと入っている。沈黙を肯定と受け取り、朝緋も構えた。

 

「そ、でも残念。あんたらじゃあの子達は倒せないと思うわよ」

 

 挑発してる訳でもなんでもない、ただ、本当にそうなのだと相手に言い聞かせるようにあっさりした様子で朝緋は告げる。

 

 青い髪が靡く。残党にもはや勝ち目はない、いや最初から勝ち目などなかったのだ。何故ならば

 

「勝手に諦めてる奴等が、今も諦めずに戦ってる私やあの子達に……勝てるわけないじゃない」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

(さて、と)

 

 敵は大の大人が四人、しかも残党と呼ばれる裏世界の人間達。自分達よりも多くの経験を積んでいる事だって想像に固くない。

 

(アイツらが弥勒さんの言ってた残党で間違い無いなら……油断も慢心できるはずがねェ)

 

 奴らの動きを見た時、確信した。奴等は…『そこそこ慣れている』。相手を追い詰め、『消す』事に長けている連中だ。

 

 所謂、殺し屋…的な感じだろう。大赦と小競り合いを起こしていると弥勒さんが言ってた理由もこれで頷ける。

 

(闇深ぇなぁおい)

 

 とりあえず、と首を振って思考を切り替える。背中に背負われている矢筒へと手を伸ばす。手持ちは通常の矢が7、8本程度。やれる事は少ないが、それ故に行動は選択しやすい。

 

(油断はしない、()()()はともかく俺達はな)

 

 芽吹を守れ、と心が叫んでいる。勿論だとも、と俺は『それ』に強く頷く。芽吹と視線を合わせる。直後────。

 

「よっしゃ、芽吹…()()()()()()

「ええ」

 

 動き出す。敵も黙って見ている事はしない。一人は即座に反応し、芽吹に向けて苦無を振りかざす。もう一人も俺目掛け、苦無を投擲してくる。

 

 しかし、人数差があるにも関わらず数で押してくる事はしなかった。そう、残党達には明らかな油断があった。所詮子供だ、ガキが俺(私)達プロに勝てるはずがない…という慢心と油断が彼等には存在していた。

 

 その油断を、見逃すはずがない。

 

「アホか」

「馬鹿ね」

 

 投擲は紙一重で避け、振り下ろされた苦無は木刀で弾き飛ばされる。すかさず放たれた芽吹の回し蹴りが、正面にいた残党の顔に命中した。

 

「なんッ!?」

 

 ガツッ!と、鈍い音が響き渡る。フルフェイス型の兜に守られている筈なのに、直に衝撃が来るほどの威力。倒れ込んだ残党の体はピクリとも動かなくなる。手はだらんと垂れ下がっており、力が入っていない様子だった。

 

「ごめんなさい。少し寝ていて」

 

 そう言った凛々しい芽吹に視線を奪われそうになりつつも、矢筒に手を伸ばし即座に弓を展開、矢を射り飛ばす。それを避けるため、少し離れた距離にいた一人の残党が反射的に横に避けたのが見える。

 

「残念、足元注意だ」

 

 瞬間、避けた残党が網に包まれ宙へと浮かぶ。焦った様子で網から抜け出そうとする残党を見ながら、ゆったりと近づいていく。

 

「こ、こんなもの…!」

「やめとけよ。動けば動くほど網の締め付けが強くなる一方だぞ、それ」

 

 忠告は間に合わず、網によって身動きを完全に封じられた様子の残党を見て溜め息を漏らす。

 

「手玉にとったつもりだろうが…勘違いも良いとこだ。ここは俺の庭だぜ?そんなとこに油断してノコノコ入ってきやがって。あんたら、それでもプロかよ」

「貴様…」

「これがあんたの言ってた…トラップ?」

「あぁ、昔はこれによくやられた……と、そんな昔話はさておきだ。残り二人…やるか」

 

 応戦してくる敵は、後二人……先程よりも距離があったものの、俺は見逃さない。

 

 残党達が懐から拳銃を取り出し、動き出すのを見るや否やこちらに向かって銃弾を飛ばしてきている。防人にもなっていない今の俺達が銃弾をもろに喰らえば、致命的な衝撃になってしまう。

 

 けど、こんなものは()()()

 

「アイツらの行動は全部潰す。だから、信じて突っ込め」

 

 その言葉に芽吹は何も返さず駆け出した。無言の信頼、彼女の後ろ姿からはそれを感じた。

 

 その場に足を止め、弓を展開する。銃弾の位置を把握、どう狙えば、どう当てればいいか…考えるのではなく、視ろ。

 

(もし、ミスって芽吹に銃弾が当たったら?)

 

 そんな事は絶対に、ない。

 

 当てさせはしない。自分を信じて、ただ敵目掛けて飛んでいく彼女の邪魔だけは絶対にさせない。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 今更なに言ってんだか、と鼻で笑う。私では見ることのできない世界を常に捉えている、そんなあんたを私は信じてる。内から湧き出てくる恐怖を、アイツへの信頼で掻き消していく。

 

 ここでの思考は逆に良くない。今は、目的を達成する事だけを念頭に置き、体を動かせ。

 

「安心、しなさいよ」

 

 金属と金属が擦れ合う音が聞こえる。進行方向の先で、背後から飛んできた矢と銃弾がぶつかり合った音なのだと瞬時に理解する。

 

 速度は緩めない。緩める必要がない、アイツは全てを潰すと言った。なら、後は信じて、突っ込むだけ。

 

 我ながらアイツのことを信用しすぎている気がする、と思いながらも足は止まらない。

 

「なっ!?」

 

 狼狽える残党。かく言う私は驚きもしない。何が起きたのか、単純な話だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただ、それだけのこと。

 

(流石ね)

 

 迎撃手段を失った残党を捉える。相手の体を覆い尽くす強化外装、あれは、木刀なんかじゃビクともしない。けど、多少外装が薄そうな頭部ならば…強い衝撃を与える事で、さっきの奴のように気絶させる事が出来るはず。そう、やることは単純。細かい事は気にせず、ただ、後ろにいるアイツを信じて。

 

「頭を……狙うだけ!!」

 

 全力で振りかぶり、木刀の一撃をお見舞いする。ガキィン!と刀身が欠けるのが見えた。でも、問題ない……倒れこんだ一人目の横をすり抜け、思い切り地面を蹴り飛ばす。

 

「これ……でぇ!!」

「ちぃ!」

 

 残党がすんでの所で体を逸らし、舌打ちをしながらもどこからともなく苦無を取り出し、こちらに向かってそれを振りかぶろうとする。

 

(隠し持ってたのね…まぁ、でも)

 

 そう、関係ない。だって、私には──────

 

「夕矢が……いるもの!」

 

 矢が苦無を吹っ飛ばした直後、私が振るった木刀による一閃が外装で守られた残党の頭部に命中する。その一撃をもろにくらった最後の残党はその場に倒れ伏せた。

 

「っ……つか──れた」

 

 息を、整える。全くもって、心臓に悪い。拳銃を持った人間を相手にしたことなんて一度もないっていうのに。

 

 手の震えが止まらない。なんとかなったという気持ちと、未だに込み上げる恐怖で情緒がおかしくなる。化け物との戦いよりも…人と戦う方がよっぽど怖い…そう、感じた。

 

「…っ、なのに」

 

 私が、いつものように…鍛錬で培った実力を出し切れたのは。

 

「やったなー!さっすが、芽吹だ!」

 

 本当に嬉しそうに、満面の笑顔で、こちらに向かって両手をブンブンと振っている幼馴染のお陰なのは、間違いなかった。

 

「……ほんっと、バカなんだから」

 

 呆れたような言葉を吐く。けど、そう言った自分の声色は…どこまでも優しいものだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「また、腕上げたんじゃないか?」

「そういうアンタこそね」

「へへ、だろ?」

 

 照れつつも、背後で起きあがろうとした残党に向かってノールックで捕縛矢を飛ばす。「ぐぁっ!?」と小さな悲鳴が背後から上がった。

 

「普通の矢しか持ってなかったんじゃなかったの?」

「そう、だから作ったんだ。今さっき」

「……作ったの?…しかも、さ、さっき?」

「あぁ、こう近くにあった部品使ってぱぱぱーっと」

 

 俺の返答に何故か呆れた様子の芽吹、もしかして、答えになってなかったか?おかしいな。

 

「……まぁいいか。で、こいつらはどうするの?」

「大赦に引き渡そう。警察でどうにかできるもんでもないだろ、こいつらは」

「ごもっとも。じゃ、連絡とかは任せたわ。私は朝緋さんに怪我がないか見てくる」

「あの人に限ってそれはないと思うが…まぁ、念の為頼む」

 

 任せて、と短く返事をして芽吹が歩き出そうとする。かく言う俺は晴信さんにメールを飛ばす為、スマホを取り出していた。

 

「あら」

 

 背後でそんな声がした。振り向くと意識を失っている様子の残党六、七人程を引き摺ってここまで来たらしい母親の姿が見えた。

 

「え」

「……だぁー、鍛錬の効果ですぎだっての」

 

 そりゃ、芽吹は「え」ってなるわな。あんだけお淑やかそうだった人が今やバーサーカーにしか見えねぇもん。

 

 そんな、バーサーカー(実の母親)は俺達を見るなり。心の底から嬉しそうに、笑顔を浮かべながらこちらに向かって飛んできた。

 

「良かったー!!!さっすが、ウチの息子!そして未来のお嫁さん!不測の事態にも二人で!協力して!しっかりと対処してる!これはもうやっぱり結婚しか(以下略)」

「ドナタデショウカ?」

「もー!何言ってるの、芽吹ちゃん!私だってば、朝緋!鷹月朝緋よ」

 

 その言葉を聞いて目をシュパシュパさせながら「え」しか言わなくなってしまった芽吹、逆に目をキラキラさせながら、芽吹に抱きついてる母親。

 

 少し頭が痛くなりそうな絵面だが、なんだかんだでいつもの日常が戻ってきた気がして安堵する。

 

「対応早。二人とも〜戯れあってるのも良いけど、大赦からコイツらの迎えくるらしいから。そろそろ家の方戻ろうぜ」

「OK!それじゃ、いきましょう!芽吹ちゃん!」

「あ、えちょ……た、たす」

 

 芽吹を軽々と背中に背負いつつ、ロープで繋がれた残党七人も軽々と連れていくヤベー母親の姿を見届けつつ、俺も残党を背負い家の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、夕矢くん!こっちこっちー!」

「げっ」

 

 あからさまに嫌そうな声を出してしまった。おかしいぞ、俺は春信さんに対応を頼んだはずなんだが…なんでこの人がくる?

 

「ふっふっふ、それはね。実は私、残党関係の事の処理を任され(押し付けられ)ている大赦職員なのです!だから、私がきた!ってわけ!」

 

 目をキラキラさせながら、自信満々に胸を張る真野さんを見て軽く頭痛がしたがなんとか耐える。

 

「ねぇ、夕矢」

「どした?」

「この人ほんとに大赦の職員なの?仮面もつけてないし、何よりテンションがとても…」

「言いたいことは分かる、がこれが現実だぞ」

 

 えぇ…と聞いたこともないような声を出す芽吹。相当真野さんのキャラに押されているようだ。まぁ、気持ちは分かる。

 

「兎にも角にも皆さん怪我がなさそうで良かった。朝緋様もご無事で何よりです」

「ご心配おかけしました〜少し怖かったけど、なんとかなりました〜」

「六人もノックアウトしておいてよく言う」

「久々に力が入っちゃって〜」

 

 ぶいっ!と楽しそうにピースサイン向けてきてる母さんを見て、真野さんも呆気に取られている。キャラ強いな、俺の周りの女性達は。

 

「まぁ、とりあえず!ご協力ありがとうございました!後の事は、我々にお任せを!では!」

 

 キラキラした笑顔を俺達に向け、大きめな乗用車に乗り込んでいく真野さんを見届ける。

 

 とりあえずは、これで一件落着ってとこかな。結果的に大事な人を巻き込んでしまった。

 

「とんだ災難に遭わせちまったな、ごめん」

「……別に、気にしてない。そもそも私が勝手に付いてきたんだから、謝る必要ないわよ」

「けど、今回の事でアイツらがお前まで標的にしたら…」

「その時は、また『二人』でやっつけてやればいいじゃない」

「まぁ、そりゃそうだが…もしも俺が」

「ふーん、あんだけ好きだとか、近くにいるとか言っておいて。そういう大事な場面でいない事とかあるの?」

 

 と、こちらを試す様に告げてくる芽吹。試す様でありながら、その目は俺の事を信じてくれている、そう思える程に真っ直ぐな瞳がこちらを見据える。

 

「いや、近くにいるさ。約束したしな、守るって」

「ま、それで良いわ。でも、守られてるばかりも嫌だから……たまには、あんたの事も守らせてよ」

「つまり…守り守られる的な?」

「ええ、まぁ…そう、ね」

「それって…もう結婚…」

「なんでそうなるのよ、ほんっと極端思考よねあんた」

「違うのか、じゃあ、なんだ…えと、相棒?」

「ま、それで良いんじゃないの。実際…その…良いコンビ、だと思うし…私達」

 

 一瞬の静寂。すごいよな、人間って嬉しすぎると頭真っ白になるらしいぞ。実際、俺今そうだし。そんな俺の横では、顔を真っ赤にした芽吹が手をわなわなさせている。

 

「あ、やっ!違、今のは…そう!戦闘面において!私達は、良いコンビって意味で!」

「あ、あ、そう…だよな!なんてたって俺達、相棒だし!」

 

 嬉しさがキャパを超え、俺もあたふたする始末。そんなよくわからん雰囲気になった俺たちの様子を……ニマニマと心の底から楽しそうに見て笑ってる母親の顔が視界に入る。

 

「あらあら〜」

「……んだよ、母さん」

「いや、ほんと結婚して欲しいなぁって」

「俺はいいぞ」

「私は嫌」

「頑張りましょうね、夕矢」

「勿論だ」

「つ、疲れる……(呆れ)」

 

 そんな、もはや慣れつつある会話をしていると母さんが思い出したかのようにこちらに話を振ってくる。

 

「そういえば、二人はこの後どうするの?」

「まぁ、もう少し時間あるし、時間までは鍛錬してくかな。その後は電車乗って帰ろうかなって。明日も休みだが、申請は今日一日分しかしてないし」

「私も、同じですかね。夕矢と」

 

 俺達の返答を聞くと、何故か首を傾げる母さん。なんか変なこと言ったかな、俺。

 

「でも、確か今日はもう電車でないと思うけど」

「「え?」」

 

 言葉の意味が分からず、間抜けな声をほぼ同時に出す俺と芽吹(ハモッて嬉しい)。そんな中、ポタっと頭に冷たいものが落ちてくる。

 

「雨?」

「予報より早いわね〜…もう来たのかしら、台風」

「台風?え、でも今日はずっと晴れだって」

「最初の予報ではね。でも突然変わったらしくて、今から台風来るらしいの」

「「え?」」

 

 ここでまたハモる二人。てことは、俺達ゴールドタワーに戻れないんじゃ…?

 

「うん!だからね、母さん夕矢の部屋に二人分の布団敷いておいたから!」

「あぁ、ありがとう……いやまてなんでだ?」

「だって、電車が出ないって事は帰れないって事でしょ?じゃあ、ウチに泊まっていくしかないよね!って思ったから」

「「え?」」

 

 でも、ほら、俺ら戻らないと。だって戻らないと後で神官から何言われるか分かんねぇし。

 

「それなら大丈夫!私がしっかり連絡入れておいたから!神官さんからも『……分かりました。私も今はこちらを動けないので、では今回はお二人の事をよろしくお願い致します』って許可もらったし、なーんにも心配いらないからね!」

 

 ペラペラと俺達の知らん事を喋り続ける母さん。俺も面を食らってるが、芽吹に至っては口を開けてポカンとしてる。

 

「ま、そんな訳なので今日はゆっくりして行ってね〜お二人さん♪」

 

 キラキラした笑顔を向け、こちらにグッジョブしてくる母親。改めて思う、やっぱすげぇや、うちの母さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…こ、ここは?」

 

 明かりが一つもない空間で、彼は…いや、彼等は目を覚ました。状況を確認しようと動こうとするが両腕も両足も拘束具によって塞がれている為、自由に動けない。

 

「…何がどうなってるんだ」

「あの二人にやられて…その後、我々は」

 

 周りから仲間達の声が聞こえる。姿は見えないが、皆無事のようだ。しかし、それだけではこの状況は好転しない。

 

 困惑している彼等をよそに突然、一筋の明かりがつく。なんであれ周りに仲間がいる事をようやく視認できた事で安堵する彼等。

 

 そこへ。

 

「目が覚めたようですね」

 

 眉一つ動かさずこちらを見つめる黒服の女性が現れる。

 

「貴女は…依頼主のボディーガードをしていた」

「はい、その通りです」

「つまりは味方か、なら聞かせて欲しい。これは一体どういう状況で…」

「皆様は、ターゲットの二人にボコボコにやられていました。それはもう…ええ、コテンパンに」

 

 ついでにとんでも無く強い女の人にも、と彼等の気も知らず呟く黒服。裏の社会に生きる残党にとって、表の世界でのうのうと生きている存在に倒されるなど、屈辱以外の何者でもなかった。

 

 しかし、今回は失敗しようが成功しようが対価は払われると依頼主から受けていたので、何も得られないという事ではない為、彼等は安心していた。

 

「彼等に倒されたあなた達は、大赦に連行されたのでしたっというシナリオを『あの方』が作ってくださったお陰で……とりあえず、皆さんが連行される事は回避できた、ということですね」

「なるほど…何から何まで、感謝せざるおえんな」

「お気になさらず。そろそろ解放しようと思っていたので、皆さん目を覚ましてくれて助かりました」

 

 そう言って一番手前にいた仲間に近づいていく黒服。状況を掴めた事で、皆の表情に安堵が生まれている。彼も安堵の表情を浮かべようとしたその瞬間。

 

「じゃあ、さっさとから外し」

 

 バンッ!!!!と、空間に大きな音が響き渡った。直後、バタッという音と共に頭を撃ち抜かれた仲間の死体が転がった。

 

 何が起きたのか分からず、空間は静寂で満たされる。その直後、また発砲音が鳴り、死体が増えた。

 

 状況に気づいた彼等は声をあげ動こうとするも拘束具によって動きを封じられている為、何もできない。

 

「や、やめ…やめてぇぇ!!がっ…」

 

 一人。

 

「ふ、ふざけんな!てめぇ、こんなことし」

 

 一人。

 

「た、助け…お願い、た、たす…」

 

 また、一人と。次々と仲間は脳天を撃ち抜かれ、生き絶えていった。残されたのは彼一人。

 

 死体が、彼の横に積まれていった。

 

「さて、貴方で最後です。お待たせしました」

「……何故だ」

「はい?」

「何故!何故、仲間を殺した!お前の依頼主は言った!失敗しても構わないと!失敗したとしても、報酬を与えまた仲間の元に戻してくれると!なのに、なんだこれは!話が、話が違っ」

 

 声が途切れる。理由は簡単、黒服が彼の口に向かって銃口を突きつけたからだ。声を上げられないまま顔を上げると、黒服の笑顔が視界に飛び込んでくる。

 

「……ええ、言いましたよ?報酬を与えると」

 

 女は、静かに、引き金に指を掛ける。背筋に走る悪寒は止まらない。やはり信じるべきではなかった。行き詰まっていたとはいえ、こんな奴らに手を貸すなど間違いだったのだ。

 

「…こ、の…屑どもめ」

「黙れ、害虫風情が」

 

 引き金が引かれると、またバンッと音が響く。動かなくなった残党の姿を見て、黒服は最後に吐き捨てるように呟いた。

 

「貴方達に与える対価は…宿命からの解放です、喜びなさい」




〜小ネタ解説〜

・サブタイ『俺達、相棒だろ?』
 これはDisney+にて配信中のドラマ『ホークアイ』の第4話『私たち、相棒でしょ?』のサブタイトルのオマージュをさせていただきました。

・「よっしゃ、芽吹…やっつけよう」
 同じくドラマ『ホークアイ』よりオマージュ。第6話『クリスマスがやってきた!』において、話の中盤辺りでクリントがケイトに向かって言った台詞のオマージュ。大勢のギャング相手に、弓を使い鮮やかに戦う二人の姿は必見中の必見!また、戦う前の二人の様子も中々良き良きで、ホークアイ好きの自分としてはもうめちゃくちゃ(以下略)

・背後で起きあがろうとした残党に向かってノールックで〜
 このシーンは上記と同じくドラマ『ホークアイ』第6話『クリスマスがやってきた!』でのワンシーンより引用。ちなみに本編でクリントがノールックした際に使ったのは捕縛矢ではなく爆発矢。

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 小ネタを入れるのが楽しいことこの上ない…毎度投稿が遅くなっていますが、仕事に負けずゆったり投稿していこうと思うので、これからも何卒!

 いつもそうなんだけどさ、夕矢と芽吹の絡み書くとね。必ず惚気というかイチャイチャに発展するわ筆とまらないわで大変なんだよね()。ん?朝緋さんの強さについて説明をって?いやだって朝緋さんだし…


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