提督の提督による艦娘のための軍事小噺 (柱島低督)
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陸戦編
第一回 戦車の種類
「提督、これは?」
「あぁ、それは……」
と話し出す。
「Mark I 戦車だ」
「WW Iでイギリス軍が投入した、って奴ですね」
大和は興味深げに机の上に置かれているバラバラの菱形戦車を眺める。
「気になる?」
「そうですね。前に約束してた戦車についての話、今聞いていいですか?」
そういえばそんな約束をしていたな、と思い出し作業の手を止めずに話を始める。
「最初のころの戦車は、塹壕を越えるための兵器だったんだ……」
戦車に当てはまる英単語は『Tank』である。
水槽などを表すタンクと綴りは同じ。
イギリス軍の最新鋭兵器である、火砲(尤も、このころはまだ機関銃程度だったが)を備えた装甲車両を、敵(ドイツ軍)に悟られてはならないと、ロシア(この頃は帝政ロシア)向けの『水タンク』として戦線まで持ち込んだということが由来である。
開発ネームは『Landship(陸の軍艦)』であるが、安直すぎるので隠蔽せねばならなかったのだ。
機関銃もほとんど効かず、塹壕はあっさり越えてくるという恐るべき兵器に、当時のドイツ兵(伍長だった
それまでの、馬に乗った兵士が銃を構えて撃ったり、塹壕で向かい合って銃を撃ちまくるといった陸戦の既成概念をぶち壊した新兵器は、あっという間に世界の陸軍へと浸透。挙って開発を進めた各国の新型戦車は、あっという間に大型化し、高性能化が進んでいった。
一次大戦中に完成した仏・ルノーのFT-17軽戦車で基本形が整った。乗員室とエンジンルームが区切られ、視界と射界を提供する全周砲塔を搭載した。
この形が知れ渡ると、それこそそれまで以上のスピードで戦車・搭載砲の大型化・高性能化が進んだ。
そしてあるとき、とある設計者が砲塔を更に増やしてしまう。
そう。多砲塔戦車の誕生である。
戦車は強いが、歩兵に接近されれば対処できない。その死角を補うため、また別に砲を乗っけてしまおうという、ある意味良さそうに聞こえる特大級の地雷である。(慣用句的な表現で)
全周砲塔を2つ*1も積んでいるので、問題が複数以上現れた。
1.どんどん肥大化していく
2.防御すべき範囲も拡大するので装甲が薄くなる
3.大きいので装甲が重い
4.他の砲塔が邪魔で寧ろ射界に制限がかかる
5.1,3に起因して取り回し・機動性が足りない
6.いろんなものが詰め込まれているのでコストが跳ね上がる
7.6に起因して整備性が悪い
8.一つ一つの砲が小さくなってしまう
etc.etc.
特に2,3は深刻で、軽量化のために装甲を削れば、2が加速していく。また、6に関してはT-35重戦車(ソ)開発中に、スターリンが『君ら、なんで戦車の中に百貨店作ってまうん?(意訳)*2』と皮肉られる始末であった。*3
とまぁ、こんな具合に多砲塔戦車は歴史の闇として語り継がれてゆくのである。
戦車の発展の過程で、設計者らはとある一つの限界に突き当たる。
1.敵を撃破できる火力(敵戦車を撃破できる一点の威力+歩兵を薙ぎ払える面制圧の破壊力)
2.敵の攻撃に耐えられる装甲防御
3.逃げる敵を追って攻撃できる+敵から逃げるための速力
この3つの性能の両立が困難になりつつあったのだ。
世間的に1が加速すれば、2が必要になる。すると重くなり、3が不足するのだ。逆の立場で、加速する2に対し1で対抗すれば、反動を抑えるために大型化して3が足りなくなる。
3に重点を置けば、特に2が不足する、といった具合に、3つをすべて完璧、は困難なのである。
エンジンの出力は有限なのだ。
だとすればできることは1つ。
分業しちゃえ、だ。
それぞれの項目に特化させた複数種類の戦車を、混合して運用すれば隙間を減らせる、という発想だった。
そして、
1,2に特化した『重戦車』
3に特化した『軽戦車』
1に特化した『駆逐戦車』
1,2,3をそれなりにこなせるバランス型の『中戦車』
と分岐していく。
但し英国では、
1に特化した『自走対戦車砲』*4
2に特化した『歩兵戦車』
3に特化した『巡航戦車』
と分岐し、歩兵戦車・巡航戦車は火力不足で、重装甲のドイツ戦車と戦うときに大きな時限爆弾を残すのである。また、対戦車砲の破壊に最適な榴弾が射撃不可な砲を積んだ一部は、対戦車砲にカモにされるなど大きな禍根を残した。
駆逐戦車は、火力で言えば重戦車相手でも撃破可能な、強力な火砲を備えている。
ドイツの駆逐戦車は、全周砲塔を諦めた代わりに、低い車高と、長砲身の主砲で高い貫通力を持ち、待ち伏せで言えば最強格に属する。*5より後期のものでは傾斜装甲を採用するなど、2でも性能が上がる代わり、3が低下していく。
また、アメリカは、(オープントップではあるが)全周旋回砲塔を維持しており、前期のものでは中戦車の車体を流用するなど3よりも2の比重が大きかったのが、新型になるにつれ、軽量化とエンジンの強化で2より3の比重が大きくなっていく。*6
そして、終戦間際になってようやく、1,2,3をすべて満たしたイギリスの
同時期に登場したアメリカのM26『パーシング』もそのような存在と言えるだろう。最初は重戦車だったが、後に中戦車へと種別変更される程度の機動力は持っている。
このパーフェクトな戦車が、MBT(Main Battle Tank:主力戦車)として各国機甲師団の中核へと成るのである。
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・ご意見・ご質問などある方は、感想欄までお気軽にどうぞ。
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第二回 戦車の砲弾(1)
たぶん。
「九一式徹甲弾か……欲を言えば一式徹甲弾の方が……」
「対地装備なら僕も三式弾でいいよ。WG42の方が希少だから……」
長門と最上が口をそろえて砲弾のことに触れる。
「実は今三式弾は鈴谷と榛名に持たせててな……在庫が無いんだ。あと一式徹甲弾は今大和が持ってる。ワンオフだし、
「そういえば砲弾って結構種類あるのに、今ボクらが使えるのは零式通常弾と九一式・一式徹甲弾、三式焼夷弾だけだよね」
「ぶっちゃけると零式通常弾でも一式と効果は変わらない筈なんだけどな。どっちも徹甲榴弾……APHEの類で、強いて言えばキャップ……被帽の形状くらいだし」
「水中弾効果を狙ってるらしいが、深海棲艦相手ではあまり機会もないな」
普段使ってる目線からの長門の発言はもっともだった。
「へぇ~そうなんだ。詳しくみると砲弾も面白いね」
「気になるか?最上」
「お願いするよ」
「砲弾は概ね、運動エネルギー弾と化学エネルギー弾の2つに大別されるんだがな……」
火薬を手にした人類は、やめておけばいいのに武器に転用しようとした。その過程で、元寇の際の『てつはう』*1などが出て来たが、それは外に置いておき。
運動エネルギー弾を簡単に説明すれば、鉄板に弾丸ぶつけて力ずくで叩き割ってブチ抜く、ということである。
まず艦船から徹甲弾の運用が始まり、大質量の砲弾で装甲を貫くのだが、装甲に突き刺さりやすくするために先端が尖った形状になる。
この単純かつ脳筋な砲弾が、AP*2(徹甲弾)である。
だが、表面硬化装甲が開発されると徹甲弾は劣勢に立たされる。
表面が硬い装甲相手の場合、正面から直撃したときは弾丸が砕け、斜めに命中したときは弾が滑るのである。この防御優位は、凡そだが日露戦争前後に顕著となる。
しかし、徹甲弾側もめげずに進化を続ける。
軟鉄で作った柔らかいキャップをかぶせて食いつきをよくするAPC*3(被帽付徹甲弾)が登場する。
また、空気抵抗を減らすために、着弾の衝撃で外れるキャップを取り付けたAPBC*4(仮帽付徹甲弾)が登場し、APCとの相の子といえるAPCBC*5(仮帽付被帽付徹甲弾)となる。
また、着弾後の破壊力向上にも注力され、炸薬を封入したAPHE*6(徹甲榴弾)が登場。着弾後に敵車両内部に破片を巻き散らすのだ。
また、それまでのAPC、APBC、APCBCにも炸薬が封入される場合があり、それぞれ、AP(HE)C、AP(HE)BC、AP(HE)CBCと分けられることがある。
装甲貫徹力は、概ね着弾時の砲弾の運動エネルギーに依存する。
つまり、弾速の2乗に比例し、砲弾重量に比例するのだ。
逆に、運動量(≒反動)は、弾速×砲弾重量に依存する。
であれば、砲弾を$\frac{1}{2}$の重量にして、弾速を2倍にすれば、貫通力を2倍にできる。
(元の砲弾)
反動:v × w = vw
運動E:$v^{2}$ × w =$v^{2}$w
(新型砲弾)
反動:2v × $\frac{1}{2}$w = vw
運動E:$(2v)^{2}$ × $\frac{1}{2}$w = 2$v^{2}$w
と表され、反動はそのまま運動エネルギー(貫通力)を2倍にできるのだ。
この思想の下設計された砲弾はAPCR*9(硬芯徹甲弾)や、HVAP*10(高速徹甲弾)と呼ばる。*11
構造的には、硬度の高い金属でできた弾芯に、着弾時に吹き飛ぶ軽量かつ柔らかい金属が纏わりついているのである。
実戦では、WWIIに於いてAPCRがドイツ軍により使用された*12。また、アメリカ軍によりHVAPも一部で使用され*13、重装甲のドイツ軍戦車と渡り合った。
ただ、軽量かつ硬い弾芯が求められるため高価になりやすく、軽量化のため炸薬を封入できないなど、欠点もあり、より強力な砲弾(後述)が開発されるにつれ廃れていった。
ここで問題が出てくる。砲弾の軽量化・装薬強化による弾速向上に限界が見え始めたのだ。
大きな初速を達するには、多くの装薬を使用する必要があるが、大口径の砲の方が装薬は増やしやすい。しかし、口径が大きいと空気抵抗を低減させづらくなるのだ。
そして、高速徹甲弾の理想としては、細い砲弾である。空気抵抗が少なく、着弾時の抵抗が少なくなるのだ*14。そこから考えれば、軽量の金属にまとわりつかれている高速徹甲弾は、対極であるといえる。
これを解決するのに、とある狂気染みた案が出されるのである。
「結局のところ、最後に吹き飛ぶ軽金属部分が最初に外れればいいんでね?そしたら貫通に必要な弾芯だけ高速で飛び出すべ」
そして、細身の砲弾と、発射時のみセットされる台座が作られることになる。
そう、APDS*15(装弾筒付徹甲弾)の完成である。
WWII中の1944年にオードナンス QF 17ポンド砲用の新型APDSが完成すると、高い貫通力*16を示した。
とはいえ精密に組み合わせられた品であり、被弾した場合確実に動作する保証のない砲弾である。撃たれることをある程度見越した武器としてはやや不適合なものでありながら、その性能を買われて最前線でティーガーを撃破し続けたのだ。
しかしAPDSにも限界はあった。細いため貫通力には有利に働くのだが、斜めに命中した際は跳弾する可能性が高くなったのだ。
また、貫通力を求めてより細長くした際、とある問題が発生した。
普通砲弾は、ライフリングで高速回転を与えることで、ジャイロ効果により安定して直進するのだが、細長くなると逆に軸がブレて不安定になったのだ。
というわけで、APDSは新たな砲弾の陰に隠れて、戦車用砲弾としては廃れていった。
では今の戦車はどんな砲弾を使っているのか。
そのおおもとの発想は、とある珍妙な、しかし革命的で、以後の対戦車運動エネルギー弾の基礎となるものだった。
「回しても不安定なんだったら回さなくてもよくね?」
である。
*17ついさっきまで、砲弾は回転を与えることで安定して飛翔しているとの発言をしておいてこれである。
これまでの先人の積み重ねなど知らんこっちゃないといわんばかりであるが、実際結果を出してしまったので仕方がない。
ここでライフリングをぶん投げて方向転換。ライフリングの切られていない滑腔砲から発射されることになる。
しかし(やはりというべきか)ジャイロ効果の発生しない無回転の砲弾は、飛翔が不安定である。
そして辿り着いた答えが、
『翼をつける』
ということである。
飛行機みたく揚力を求めているわけでも、ミサイルみたく誘導時の空力効果を求めているわけでもない、ただの安定翼ではあったが、一定以上の効果を発揮した。
これがAPFSDS*18(装弾筒付翼安定徹甲弾)である。
APFS*19(翼安定徹甲弾)とAPDSの相の子である。
しかしこのAPFSDS、その程度ではないとんでもない貫徹力を備えている。文字通り矢と見まごうほどに細いが、その結果として、運動エネルギーが一点に集中する。
貫通力を高めるためのアプローチだったが、別の効果を発揮してしまう。
運動エネルギーが集中しすぎて、装甲の金属が液体のように振舞うのだ*20。
物体には弾性というものが存在し、加わる力が一定以下であれば元の形状に戻ることができる。それを超えれば、変形してしまうのだが、ユゴニオ弾性限界というものを超えると、固体を維持することができず、常温でも液体として振舞う。
つまり、侵徹体と装甲が狭い領域で高圧で圧縮され、塑性流動を起こすのだ。これにより、侵徹体は長さを急速に失いながら侵入するが、同時に装甲もメタルジェットとして振舞い、直撃部はどんどん侵徹されてゆく。結果として、侵徹体は車内へと飛び込み*21、飛散して乗員にダメージを与える。
貫通力を求めていたら、それまでの金属製の装甲など意に介さない砲弾が完成したのだ。ここまでくると最早炸薬を封入せずとも車内に致命的なダメージを与える。
完全に攻撃優位の時代が始まったのだ。
今回はここで終わりとしよう。
次回「第三回 戦車の砲弾(2)」に続く。
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第三回 戦車の砲弾(2)
基本的に一話完結ですが、今回は「第二回」も併せて読むとより楽しめると思います。
「提督。こないだは運動エネルギー弾の話しか聞いてないよ?」
「そういやそうだったか……」
執務室に突撃してきた最上に指摘され思い出す。
「まぁ、化学エネルギー弾といっても、火薬が入ってるとかそんなレベルだしな」
時はAP全盛の時代。とある誰かが気付いたのだろう。
「あれ、これ中に火薬入れて爆発させれば強いんじゃね?」
というわけで、装薬のみならず炸薬を封入し、着弾後に内部から吹き飛ばすHE*1(榴弾)が開発された。
しかしここで問題が出てくる。
着弾だけでは火薬は爆発しない。
というわけで、信管が取り付けられるのだが、更なる問題が発生してしまった。
「こいつ、いつ爆発させるん?」*2
そして数種類の信管が開発されたのだ。
1.着弾したらすぐ (着発・瞬発信管と呼ばれる)
2.着弾してから少しして (遅延信管)
3.発射から暫く経って (時限信管)
そして、榴弾としては、概ね1がセオリーとなる。
特に戦車などの陸戦兵器では、信管の時間*3を設定している時間もない。
また、*4小口径であるため、*5炸薬の含有割合が高くなり、*6被覆となる金属部分は薄くなるので貫通力も見込めない。*7
という訳で、榴弾の目的は、構造物の破壊ではなく、非装甲部*8の破壊や、弾片での歩兵掃討に変化していく。
爆発すると薄い被覆が周囲に飛び散るので、生身の歩兵であればひとたまりもない。
そして貫通力が無いとは言え、爆発で飛び出す弾片はそれ相応のスピードを持っているため、極端に薄い部分に直撃すれば、それなりのダメージを与えることはできる。
そして、これらの影響は多少離れていても作用するのだ。
特に野砲や対戦車砲の破壊には、着弾した場所の重装甲目標にしか効果の出ない徹甲弾は向いていない。それこそ、直撃せずとも周囲の兵士を範囲攻撃で殺傷できる榴弾の本分だ。*9
こうして、榴弾は戦車の砲弾として、WWIIでも使われることとなる。
戦後世代の砲弾ではあるが、他にも粘着榴弾というものが存在する。
榴弾を名乗ってはいるが、その実態は、爆発の運動エネルギーで装甲の内側の被膜を千切れさせ、車内を飛散させることで乗員だけ殺傷する砲弾である。
たとえば、岩石に爆薬を密着させた状態で起爆するとする。
するとその衝撃波は岩石の中を伝わり、裏側で跳ね返る。その際、岩石を引っ張るように力がはたらく*10。
特に、岩石やコンクリートでは、圧縮に対する『圧縮強度』よりも、引張力に対する『引張強度』の方が弱いので、圧縮する方向に働く爆発の力ではなく、引張波による力で裏側が乖離してしまうのだ。
これをホプキンソン効果といい、この内張りの乖離をスポール破壊という。
これを応用したのが、粘着榴弾(
以下説明図
とはいえ、砲弾(弾頭)自体が粘着力を持っているわけではなく、着弾後に装甲材に密着して起爆せねばならないため着弾時の弾頭の食いつきを良くしただけである。
その着弾時に、軟鉄のキャップが潰れて張り付くように見えるため、粘着と称されるのである。*13
内部の乗員だけ殺傷するという、なかなかにえげつない砲弾である。
そして話は榴弾に戻る。
榴弾では装甲を貫通できない。
しかし徹甲弾のみでは貫通後の破壊力に不安が残る。
二極化が進んでいた砲弾は、このようにジレンマが発生した。
「じゃぁ徹甲弾に炸薬封入するべ」
ということで、徹甲弾(AP,APC,APBC,APCBC)に少量の炸薬が封入されることとなった。
ここである事実が発覚する。
「相手の車内に弾片を巻き散らすだけなら、少量の炸薬でも問題ない……だと……」
である。
まず、榴弾が殺傷能力を持つのは、周囲に被覆の断片を巻き散らすからである。
であるから、相手の車内に弾片が巻き散らされれば所定の目的は達される。そして、普通の*14状態の徹甲弾では、破壊に大きな力が必要で、大量の炸薬が必要になる。
しかし、着弾して貫徹し、内部へ入った後ならば、砲弾が壊れ(潰れ)て強度が落ちている。
その状態であれば、少量の炸薬で断片を巻き散らせるのだ。
そして誕生したのがAPHE*15(徹甲榴弾)である。
適度な貫通力と、貫通後の破壊力を兼ね備えた砲弾は、多くの国で主力砲弾として使用される*16ことになる。
と、キメラのことは置いておき、
その後の榴弾は、対戦車榴弾という形で、貫通力を手に入れることとなる。
説明がややこしくなる*17が、円錐形のくぼみに成型した火薬に、金属で薄い内張*18をする。
これを後ろから起爆すると、窪みの奥から順にライナーが押し出され、円錐が広がっていくと、周囲から同時に爆圧で押し込まれ、円錐の中心軸でぶつかって、向きを変えて前方に噴出する。
APFSDSでも触れた、ライナーの金属のユゴニオ弾性限界を超えた力が加わり、ライナーが飛び出すことで侵徹体として機能するのである。
この侵徹体は、成形された炸薬で貫徹力を得ているために、貫通力は砲弾の運動エネルギーに依存しない。
つまり、遠距離で空気抵抗により弾速が落ちても*19貫通力が維持される、という特性を持ち、遠距離戦では最適である。
しかし、この貫通力はライナーの直径に依存する*20ので大口径の方が望ましい、最適な起爆距離から外れると空気中でメタルジェットが減衰し大きく貫通力が落ちる、といった欠点もあり、メインの砲弾としては扱われることは少ない。
この成形された炸薬で破壊力を得ているので、化学エネルギー弾に分類されるのだ。
これが
そして、滑腔砲での無回転の波はHEATにも近寄る。
もともと、HEATは回転を与えるのに適してない砲弾だったのだ。何が問題かというと、メタルジェットが収束する時に、回転により飛沫として飛散するので、メタルジェットの生成が阻害され、貫通力が落ちるのだ。
貫通力のハンデが減るとなれば、無論安定翼での無回転型が登場する。それがHEAT-FS*23(翼安定対戦車榴弾)である。
それはおいといて、
とある人が気付いたのだろう。
「あれ、これ元々の榴弾の仕事してくれなくね?」*24
正確に言うと、高圧かつ高温のガス*25を周囲に巻き散らすというとんでもなく危険な代物なのだが、如何せん効果範囲が狭すぎた。
そして、成形炸薬の中に、金属製のテザー(鎖状の紐)が封入され、爆発時に周囲に飛び散るようになった。
これがHEAT-MP*26(多目的対戦車榴弾)である。『対戦車』とか言っておきながら今度は『多目的』である。
こいつらの発展によって、再び戦車の砲弾は
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第四回 戦車の防御 (材料編)
「提督よ。それでは、戦車に必要なものは火力と、砲撃を回避できる機動力……いや、相手に装甲がほぼないとなると、それこそAPFSDSのような過剰な攻撃力は不要になるのではないか?」
「いやぁ……それがねぇ、そう簡単にいかないもので」
こないだのことについて、長門が質問してくる。ビッグ7として世界に名を馳せ、最後は水爆にすら耐えた装甲の持ち主だ。その点に気づいたのは必然ともいえるだろう。そのことにのらりくらりと返しながら提督は言葉を続ける。
「うーん……ファインセラミックスって知ってる?」
「確か、窒化ケイ素などの人工原料を焼成した……焼き物だぞ?なぜ装甲と関係があるのだ」
「それがねぇ……」
対戦車砲といった野砲も存在せず、後方からの砲撃支援は、戦車という小さな的に当てるには精度に難があったため、大型の砲の直撃は考慮されていなかったのだ。
しかし、同時期に前線配備が進められていたドイツの小銃/機関銃用徹甲弾「SmK弾」に貫通されてしまう8mm厚の装甲では不満だったこともあり、改良型*2のマークIV戦車に取って代わられることになる。
そして時代が進むと、敵国の戦車相手に戦う必要が発生する。
すると、敵戦車の火砲*3に耐えうる装甲を施した戦車が登場し始める。
しかし最初期は、非力なエンジンが足枷となり、装甲の強化もある程度で頭打ちとなる。
そして、普通の鉄では限界が見え始めたのだ。
少し余談になるが、鉄*4に於いて、硬さと強さ*5は、
つまり、硬くなればなるほど、欠けやすく*6なり、逆に、欠けにくくすると、柔らかくなってしまうのだ。
鉄鋼は、鉄+炭素で作られている。
炭素の含有率が上がれば、硬くなるのと引き換えに脆くなり、逆に下げれば欠けにくくなる代わりに柔らかくなる。
これが曲者で、砲弾を受け止めるには硬い方が理想的だが、硬くすると逆に強度が落ちて、衝撃で砕けてしまう可能性が高まるのだ。
そして、とある人が思いつく。
『これ、表面だけ硬くすればいいんじゃね?中身は多少柔らかくても表面で敵弾を砕いて、内側で衝撃を受け止める……これ、どうよ!?』
という発想に則り開発されたのが表面硬化装甲である。
1つ目の製法としては、鉄板として完成させた後に、表面を高温で加熱する
2つ目は、低炭素鋼の鉄板を加熱した上で、片側だけ高温の炭素ガス中に暴露させる。それにより、炭素が染み込み、表面だけ硬化されるのだ。特にこちらは、浸炭装甲と呼ばれる場合もある。
当時の砲弾がただのAPだったこともあり、着弾時に斜めだった場合は砲弾が滑って運動エネルギーが逃げ、直撃した場合でも砲弾の方が砕けてしまうといった形で、一定以上の効果を発揮した。
そして弾頭にキャップをかぶせて滑りにくくした
しかし、それでも限界は訪れる。
特に二次大戦中期以降*9になると、砲の攻撃力が大きく上回り、硬さだけでは対処できなくなったのだ。*10
そして登場したのが、ほぼ一定の質で圧延された鋼板。
これは、比較的品質管理も行いやすく、防御力は概ね厚みに相関するので、表面の硬さしか持たなかった表面硬化装甲に比べて、簡単に防御力を引き上げることができる。*12
特に、戦後第二世代MBTでは、*13防御力より機動力を優先したこともあり、品質維持が容易なRHAは多用されることとなる。
だが、金属など無いに等しいAPFSDSの前には、だいたい400mm以上ないと防ぐことは難しい。
そして、400mmというと大和型
話は飛ぶが、装甲の金属は鉄鋼でなければならないということは無い。
つまり、軽量の金属を用いればそれだけ重量を抑えて分厚く*14することができる。
その発想に則ったのがアルミニウム合金装甲である。
アルミニウムは鋼鉄の約$\frac{1}{3}$の密度なので、同じ重量で約3倍の厚みにすることができる。しかし、大きな問題がある。
『う……うん?……アルミニウム*15の強度って、鋼鉄に比べて約$\frac{1}{3}$じゃね?』
お分かりいただけただろうか?
($\frac{1}{3}$……重量……ウッアタマガ)
とお気づきだろうが、
『厚みが3倍で同じ防御力じゃね?』
という根本的な問題が出てくる。つまり、同じだけの重量でも厚みは3倍になるが、防御力はそのままなのだ。
つまり、軽量化できていないうえに防御力も向上せず。そのくせ体積だけは3倍浪費するという……
おまけに覇権を握りつつあったAPFSDSやHEAT*16に対して、アルミ合金はRHAよりも極端に脆弱という問題点も発生した。*17
という訳で、冷戦期の空挺戦車や、浮上航行可能な装甲車などの、極端な軽量が要求される一部車両を除いて現在ではほぼ使用されていない。
では、他の金属ではどうだろう。
特に硬い金属に限るとしても、そういった金属は需要が大きく、得てして高価である。大量の金属を要する兵器には不適だろう。また、兵器は大量生産されねばいくら性能が高くとも蹂躙されるだけである。*18
そんな事情が絡み、適度に硬く適度に安い金属という条件が付く。
結論から言うと、ほぼ存在しないのだ。
チタン装甲は、ほぼ半分の重量で鉄鋼と同等の防御力となるが、やはりと言うべきか聊か高価である。*19
高い水圧に耐える必要のある潜水艦の外殻や、
方向性を変えて、APFSDSに対する抗堪性を上げるために、重金属のアテを探すともう1つ、安価*22な金属がある。
劣化ウラン
その名が示す通り、*23ウランを使っての原子力発電の、最後に残った
もちろん放射性物質なので、そのまま使用はできない。
例として*24M1エイブラムス(米)の
とは言っても、結局主装甲の中に封入するだけだったのだが、被弾して被覆が吹き飛べば、周囲に放射線が撒き散らされる。
*25タンクデザントなんてした日にゃ、自車の歩兵*26のみならず周囲に被害が及ぶ。
放射性残留物の戦後処理に大きな問題も残るだろう。
そして、1番の問題は、APFSDSの貫通を許した場合、車内に劣化ウランのメタルジェットが飛び込む
それと、やたらめったら重いという問題もある。それを補うため、M1エイブラムスでは2000馬力を発揮するガスタービンエンジンを搭載している。
この調子で語り倒したら止まらないので、続きは次回とさせてもらいます。
(なんか前後編仕様が跳梁跋扈し始めてる……)
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第五回 戦車の防御 (非金属材料&設計技術編)
許してつかーさい……
それでは、続きです。
さて、これまで散々、さもAPFSDSが最強であるかのように吹聴して回ったが、APFSDSは着弾の際、自身のユゴニオ弾性限界をも上回った運動エネルギーを装甲に与えている。
つまり、装甲側が液体と同様に振舞う中を、液体として振舞う弾芯があっさり通過していくのだ。
ということは、ユゴニオ弾性限界*1が極端に高い物質に対しては無力なのだ。*2
その一例として、前回では劣化ウラン*3を挙げたのだが、非金属に目を向ければまた別の材料が見つかる。
それがセラミックス*4である。
セラミックスはつまり焼き物である。*5
しかし、たかが焼き物と侮る
これに目を付けた一部の設計者ら*8が、*9防弾鋼板の中にセラミックスを封入してしまった。
それが、複合装甲(Composite Armor:コンポジット・アーマー)*10である。
案外割れてしまうのではと不安になるが、実際にはそんなことは無く、セラミックにヒビが入る速度がAPFSDSの弾速より遅い、という説明でも理にかなっているといえる*11。
しかし、焼き物は脆い。
貫通は許さないのだが、自身が砕けないということではないのだ。
従って最初期型の複合装甲は、一発被弾しただけで全体にひびが入り使い物にならなくなる、というリスクも抱えていた。
それに対する対策が、チョバム・アーマー*12である。
セラミックの詰まった金属製のケースが一面に敷き詰められ、接着されているのだ。結果として、ひび入りになる部分は、被弾個所の一部に局限されるのだが、抜本的な改善とは言えない。
(ただ、着弾個所のセラミックが侵徹体にまとわりついて、その抵抗により威力を大きく減退させるのが複合装甲の目的なので、一概に駄目とも言い切れないのが実情ではある)
そして、とある装甲が開発された。
拘束セラミック複合装甲
というやたらと長い名前を持つのだが、先の複合装甲が
「ある程度貫通させながら砕けたセラミックが纏わりついて減退させる」
目的だったのに対し、
「ガチガチに固めて弾丸を砕く」
という*13回れ右をしたかのように目的が変化している。
とはいえ『チョバム・アーマー』の延長線上にあるような構造で、高密度のセラミックがギュウギュウに押し込まれた合金製の箱がタイル状に並べられているのだ。*14
これは日本の90式戦車が有名である。
というのも、採用例がチャレンジャー2(欧)、M1エイブラムス*15(米)とこの90式のみだからだ。
そして、90式はこの3つの内最大の厚みを持っているのだ。*16
その結果、「正面の防御力はM1エイブラムスを若干上回る」とさえ言われた、超ハイスペックな代物に仕上がった。*17
これの何がおかしいかと言うと、一発の被弾で防御力がガタ落ちしていた旧来型の複合装甲に比べ、防御力の低下が発生しにくい点である。具体的には、被弾によりセラミックが粒子状に砕けるものの、セラミックの割れる速度は砲弾の弾速よりも遅いので貫通されない。違いはその後だ。
セラミック粒子は、高密度の周囲のセラミックに阻まれて行き場を失う。つまり、被弾によるヒビをセラミック粒子が埋めている状況になるのだ。
ここに、砲弾の運動エネルギーから転化した熱エネルギーが加わると、セラミック粒子が焼結してヒビが埋まり
なんかもうAPFSDSがなんぼのもんじゃいといわんばかりの怒涛の勢い*18でいろいろひっくり返して、攻防がほぼ拮抗しているのが現代の戦車戦である。
ここまで素材の話をしてきたが、設計面でも、防御力を高める工夫は随所にある。
一番オーソドックスなのが、傾斜装甲だろう。
装甲材を、敢えて傾斜させて配置することで、実際の装甲厚より分厚く見せかけることが可能なのである。また、表面が十分に硬ければ、弾頭が滑って力を逃がすことができる。*19
ピタゴラスさんはさておき、傾斜装甲が一番猛威を振るったのはやはりT-34だ。
傾斜装甲が高い防御力を発揮し、WWII序盤の独軍主力戦車、III号の37mm砲や長口径50mm砲、IV号戦車の24口径75mm砲の攻撃をほとんど受け付けなかった。
上下方向での傾斜のみならず、左右方向で傾斜をつける場合もある。IS-3重戦車の正面装甲がわかりやすいか。*20
その次は、空間装甲。
こいつが対応できるのは一部の砲弾に対してで、その砲弾というのがHEAT*21だ。メタルジェットで貫通力を得るHEATは、そのメタルジェットが空気によって大きく減退すると本来のポテンシャルを発揮することができない。
(結果的に)空間装甲として機能した*23もので考えると、最古のものは*24独軍のIII号・IV号戦車で、極端に薄い車体側面を対戦車ライフルから保護するため後期の型で追加されたシュルツェンだろう。
もとは対戦車ライフルを防ぐためだが、それがHEATに対して有効に機能することが実証されてしまったのだ。
ただ、信管が高感度で設定されているHEATを車体より手前で起爆させるには、薄い鉄板を張る必要はなく、鋼鉄製の網*25があればいいことになる。*26
この網の楯は、現代ではさらに密度が落ちて、ゲージ装甲として別物として扱われる。
一時期、RPG対策のため、(重量がかさむ装甲を張れないような軽車両に)搭載されることもあった。*27
「……とまぁ、なんか話してるこっちがこんがらがりそうなことになってるが……」
「とにかく、その装弾筒付翼安定徹甲弾、とやらが万能でないのと、装甲に関していろいろな人が腐心しているということはよく伝わった」
「あっさり締めるねぇ」
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海軍編
第一回 艦艇の分類
「なぁー提督ー!駆逐艦と戦艦じゃ何が違うんだー?」
「清霜……お前……そもそも駆逐艦と戦艦じゃ源流が違うんだよ」
突如押しかけてきた清霜の対応。そこから始まった。
そもそも、戦艦こそが原始戦闘用船舶の雛形で、駆逐艦・巡洋艦はある意味
ほら、みんな知ってるでしょ?木製のおっきな帆船の横っ腹に大砲をずらずら並べたやつ。
そう、海賊船。
まぁ、そこから発展した、「金属製の装甲化された船に大砲乗っけて戦わせる」という思想のもとで形式化されたのが、「戦列艦」である。
この時期は、まだ砲丸を飛ばしあうだけで、砲塔ではなく、舷側に穴をあけてそこから大砲が顔をのぞかせるスタイルが主流だった。このころは砲台甲板は概ね1層だったが、大型化するにつれて2層になることも増えていった。
というか、これは「スペインの無敵艦隊」だとか、「トラファルガー海戦」だとかの所詮「大航海時代」の話ではある。
この流れを汲んだのが、分厚い装甲と、強力な火砲を備える決戦艦艇としての「戦艦」*1である。
なので戦艦の英訳はbattle shipだし、漢字で書いても「戦」う「
そして、この軍艦は巨大化を続け、愚鈍さを増す。
1870年頃になると、火器・戦術の発展により、新たな脅威が現れる。
多くの提督のヘイトをかっさらっているであろう*2、魚雷艇*3である。
バルジとか、注排水とか、水密区画とか、集中防御区画*4とか、そんなんも一切ない時代である*5。
まぁ、その運用思想としては、「モーターボートに魚雷っていう新兵器乗っけて、戦艦に肉薄してぶっぱする」というものである。*6
この魚雷艇、何が厄介かというと、「大口径の戦艦の艦砲では連射速度が遅すぎて捉えられない」「ひとたび被雷すれば、多額の費用がつぎ込まれた主力艦が沈む」というリスクが大きく、対して魚雷艇は小さいので「沈められても戦果としては小さい」という大きな差があることだった。
流石にぼーっと眺めてるわけにもいかないので、水雷艇を「駆逐」するフネとして、「水雷艇駆逐艦」が誕生した。
そう。「駆逐」艦なのに駆逐される側じゃん、とかいう話が生まれるきっかけはここにある。
駆逐艦は、速射のきく小口径砲を主兵装とする小型の艦で、機動性が高く小回りが利く。
ここで一部諸氏が気付く。
「……魚雷乗っければ魚雷艇の代わりになるんじゃね?」
こうして、魚雷を搭載した駆逐艦は、用兵思想としてだけでなく、
名実ともに「駆逐」艦である。
そして、戦艦も駆逐艦も大型化を続けるが、ここで問題が発生する。
「外洋航行能力」に乏しいのだ。
当時の戦艦(5000~8000tクラス)は乾舷が低く、外洋の高波に対して凌波性が低かった。駆逐艦にしても、1000tを上回らない極小の艦艇であり、外洋へ出ればひとたまりもない。
そうして、「乾舷が高く凌波性があり、外洋での長距離航海にも耐えうる適度に大型な船体を持つ艦艇」が必要とされた。
そうして建造されたのが「巡洋艦」である。
戦艦と駆逐艦の中間程度の排水量を持ち、機関出力に余裕がある艦が多く、比較的優速である。
そうして、程よく運用しやすい艦艇であった巡洋艦は、どんどん発展をしていくことになる。
喫水線下への被弾→浸水→沈没
というケースが問題視された当初、装甲重量の配分との兼ね合いもあり、喫水線下のうち最も被弾リスクが高い喫水線周辺のみの装甲に絞られて装甲化された。
それが装甲帯巡洋艦である。
装甲帯巡洋艦(belted cruiser)
・19C後期から運用が開始された
・喫水線部分に、帯状の装甲を施した
・重心が上がりやすい
しかし、喫水線下の部分に被弾を受けると、装甲帯が意味を成さずに浸水する、という問題があった。
ここから、より低い位置に装甲を施した防護巡洋艦へと移行することとなる。
防護巡洋艦
・19C末期から
・喫水線下の機関部を保護するように、亀甲状に装甲が配置されている
・重心が上がりにくく、装甲に重量を割きやすい
という特徴があった。
しかし非装甲の上部が、小口径の速射砲でボコボコにされやすく、結局脆弱性がモロに出やすい。
「やっぱり乾舷に装甲、最強じゃね?」
というわけで、
装甲巡洋艦
・19C末期から。防護巡洋艦に完全に入れ替わる形
・亀甲配置の左右末端から上方向へ、乾舷を保護するように装甲化
・装甲用鋼板の進歩により、広範囲に軽量で装甲を施すことが可能になった
とまぁ、こんな感じに巡洋艦は発展していくことになる。
そして迎えた1930年。
一部諸氏は気づくであろう。
そう、ロンドン海軍軍縮条約である*7
1930年のロンドン海軍軍縮条約により、従来の巡洋艦の分類が崩壊した。
というのも、ロンドン海軍軍縮条約が制限の対象とした「中小の補助艦艇」*8に含まれる巡洋艦の分類が、砲口径によって定められたからだ。
カテゴリーaとカテゴリーbで分けられたその境目は、6.1(inch)=15.494(cm)であった。
便宜上155mmとして扱われたそれは、
155mm(6.1inch)より大きく203mm(8inch)以下をカテゴリーa*9
127mm(5inch)以上155mm(6.1inch)以下をカテゴリーb*10
とすることになった。
ただまぁ、日本の最上型軽巡が155mm砲を採用した以外、敢えてキリの悪い6.1inch砲を用いる例はあまりなく、軽巡の主砲は152mm(6inch)が世界的なセオリーとなった。*11
ところで、ワシントン海軍軍縮条約(1922)での巡洋艦主砲の上限値である8inchの元はどこからどこから来たのか。
実は*12、我らが日本海軍の古鷹型一等巡洋艦(建造時は偵察巡洋艦*13という艦種)である。
実はこの古鷹型、他国の偵察巡洋艦との遭遇に備えて、正20cm(きっかり200mm口径)主砲6門という、同クラス最大級の破格の大火力を与えられていたのだが、ここがちょうど巡洋艦の最大として設定されたのだ。
その結果、古鷹は「すべての重巡の姉」だとか呼ばれることになった。
……
と見せかけて、英のホーキンス級の方が建造が早かったため、より一般にはそちらの方が「最古の重巡」と呼ばれる
(ふざけたこと書いてすみませんでした)
to be continued…
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