落第騎士の転生先(凍結) (五月時雨)
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ネタ章
ファンです!
どんな元号になるのか、アニメ始まる前と同じく正座待機してた私です。
令和という読みが凄いキレイだと思いました。
ステラ編はもう少し待っててね
後書きに細かい設定があります。案の定長いよ。
どうして、こうなってしまったのだろうか。それはこうして生まれ直し、三十年が経った今なお、たまに思うことがある。
最初は、夢の中で断片的に見ていた謎の光景。
食べることが大好きで、
才能がないと言われ、実の父に
それからは、自分なりに鍛え始めた。夢の中で一瞬だけ出てきた、
両親には、太っていた私が唐突に鍛え始めた様子を見て、『漸くダイエットを始めたのか!』とか言ってたけど、どうでもいい。ダイエットは結果としてのそうなるだけだから。私の目標は痩せることじゃなく、どこまでも自分を高め続ける、
何より、私と彼の境遇は、少しだけ共感できるものだったから。彼には、才能がなかった。魔導騎士になるために尤も重要で、根本となる魔力という絶対的な才能が。
そして私にも、才能が無かった。魔力量は同年代の平均とほぼ同じだが、ランクもEと普通以下。そして、絶対的に異能の力が劣っていた。
私の生まれ持った異能は、《契約》を司る因果干渉系能力。
《契約》に則って結ばれた内容は絶対遵守とされ、破ろうとすれば死に至らしめる因果への干渉能力。これだけ聞けば非常に強力。でも、これには欠点があった。それは、対象が自主的に宣誓し、《契約》を交わすこと。使い勝手が悪い代わりに、それによって結ばれた契約の拘束力は無類と言えるが、戦闘には一切使えない。騎士を目指すためには、魔力量と並ぶ絶対的な壁だった。
でも、私には目標があった。私と同じように、いや私
夢の中の人物に、幻想を抱いているだけかもしれない。本当は、そんなこと不可能かもしれない。年が経つ毎に鮮明になる夢は、強くなれるという願望の現れかもしれない。
だけど、いや、それでも、私は彼のようになりたくて。
自分自身を諦めることだけはしたくなかった。
そして、出会ったんだ。
「お前さん、良い目をしてるな」
「才能なんてちっぽけなもんで満足するような…分相応なんていう諦めで大人ぶるつまらねぇ大人を歯牙にも掛けちゃいねぇ」
そう言って、少年のような笑顔を向ける彼は、どことなく、夢に見た
「気に入ったぜ。お前さえ良ければ…絶対に自分自身を諦めねぇって言うんなら」
ただ剣を振るうだけの私に手を差し出して。
「俺が、お前さんを『最強』にしてやる」
__________
「で、断ったのから、もう二十年か。ホント、色々あったなぁ」
黒鉄龍馬に出会ったのが、十歳の時だから、時が経つのは早いものだ。あれ以降、龍馬さんは度々私の元を訪ねてきた。
おかしいな。断ったはずなのに。
断った時に言った言葉は、
「結構です。確かに強くなれるでしょうが、私が目標としているのは最強ではなく
だった気がする。ただ強くなることはできる。最強と言われるほどの力を持つことも、まぁ…できる。でも、どんな人だろうと、
それから、彼は私を鍛えるようなことはしなかったけど、時には剣を振る私を見るだけで。時には模擬戦をして。
そんな折、私の中にある
それにあった剣技と体技を創り上げて。
私の故郷であるエストニアが戦争に巻き込まれたから、戦場に飛び込んで。
誰かに頼る時間もなくて、一人で戦争をしてた三十万にもなる両軍を相手取って壊滅させて。
指名手配されて。
「あのころからだったなぁ……『世界最強の剣士』って呼ばれるようになったの」
四年ほど逃げてたら、三組織のトップが運悪く同じ日に私を殺しに来て。バトルロワイヤルになって返り討ちにして。
それからは、
といっても、本当は
その甲斐あって、正規の魔導騎士や
また、解放軍が
この時に初めて私の
あと、不可侵契約を結んだからか、戦争の時に妙に粘った
まぁ色々あったけど、私は今、日本にいる。
夢に出てきた黒髪の青年も、度々来た黒鉄龍馬さんも日本人だから、少し感慨深い。何より、
解放軍の一部が、日本の首相と結託し、何やら事を起こすようで、私はその用心棒といったところだ。私が三組織の全てと契約していることは連盟と同盟のトップしか知らないので、多少の介入は問題ない。たとえバレても問題ない範囲でしかやるつもりもないし。
あと、七星剣舞祭の決勝戦の後に三人と飲みに行くから、暴れすぎて問題にしたくない。むしろこっちの方が重要。私は飲めないけど。
「さて、そろそろ来る頃かな?」
つい数時間前に事を起こすためにこの場を立った人達のことを思い出し、そろそろ私も待ち構えようと思う。……どうしよう。『最強』としてはどこか目立つ、あるいは最強に相応しい出迎え方をしたい。その方がカッコいい。
それに、
「…………よし。屋根に登ろう」
当人たちは「ここを校舎にしよう」と本気で言っている建物の屋上に、いそいそと登る
さて、ここで堂々と待ち構えて―――
「って、もう来たみたいだ」
遠くから、まだ弱く微かにだが剣気を感じる。彼の年齢からすれば、間違いなく一級品。
「なら、その真剣な思いには、真摯に応えよう。
―――おいで。《テスタメント》」
言霊と共に、全身が固有霊装に覆われる。戦乙女を想起させる純白の軽鎧に双剣。どうでもいいけど、固有霊装を顕現すると、着てた洋服が見えなくなるのは何でだろうか。いや、固有霊装を消したら、ちゃんと着てるから良いんだけど。
そんなことより、僅かに、だが本気で剣気を放つ。弱めに発したが、それでも『世界最強』と謳われるだけの技量を身に着けた私が放つそれは、もはや斬撃と変わらない。彼が
「………」
「敵ッ!?」
無言で
彼の顕現させたそれは、私が想像していた通りのもの。やっぱりここでも君は、
二人が何やら話している。ここからは何も聞こえない。でも、内容は知っている。
ここに連れ去られた
すぐ真下を通り、少女は校舎に入っていった。
「珠雫を素通ししてくれるんですね」
「ええ。中にはヴァレンシュタイン卿もいますので。それにここで二人まとめて倒すのも、貴方を倒し、彼女を追いかけるのも、時間にしてそう変わりはありません」
「でしょうね。貴女にとっては」
だから私は―――いや、僕は、
「貴方にこの場を引く気がない事は、その目を見れば分かります。力量差を知りながら、怯えていながらも立ち向かうその意志に、敬意を評しましょう」
「貴女ほどの人に、そう言われるとは思いませんでした。………ですが、貴女の言う通り僕は引きません。引くわけに行かないんだ」
「ですが、それは蛮勇ですよ」
「そうですね。ですが、蛮勇であれど僕は、剣を下ろしていない。剣を向ける敵に、貴女は背を向けますか?」
ふふっ。そんなの、私が誰よりも分かっている。剣を向ける相手には、同じく剣を以って応えましょう。この場で全力を出せば、
たとえ相手が最強だろうと、絶対に諦めない貴方だから。
「――それでこそ。貴方は
「何か?」
「いえ。この場において、今の質問は無意味でしたね。私は、貴方に恨みはない。だが向かってくるというのなら、私も剣を以って応じましょう。でなければ、私は剣士足りえない」
さぁ……名乗りを上げよう。
黒鉄一輝の成れの果てが、かつて受け取った贈り物を今度は私が届けよう。
「我、遙かなる頂にして終焉。
一対の剣にて天地を分かつ者。
我が名は《比翼》のエーデルワイス
幼き少年よ。世界の広さを知りなさい」
『僕』が死に、私となってやり直したこの力、今度は貴方に贈りましょう。
とまぁ、カッコつけて名乗りはしたものの…
………ちょっと、我慢できそうにない。
「黒鉄くん、ファンですサインください!」
かれこれ二十年以上もファンなんだ。
仕方ないよねっ
続く
原作が手元にないため、原作エーデルワイスの能力とか経歴とか違うかもですが、もし違ったら一輝が改変したんやなって多目に見てください(適当)。
エイプリルフールに間に合わせる為に急いで書き上げた。なお、執筆時間の七割は裏設定を練ってた。楽しい。
時間軸は以下の通り
5歳 黒鉄一輝としての記憶を夢に見始める
10歳 黒鉄龍馬と出会い5年間鍛え?られる
15歳 バルト危機
20歳 交渉(物理)の末、エーデルベルク入手
黒鉄一輝としての前世を完全に思い出す
30歳
つまり元服したての少女に三十万人が負けた
バルト危機には、以下の三人は18〜20歳のどこかで参加しました。
イタリアの水の神殺し 《カンピオーネ》カルロ・ベルトーニ
禁技《
日本の剣に飢えた狼 《剣狼》木場善一
原作での最終成績はKOK元12位
米国の赤き蠍 《
この二人は原作で一瞬登場した人です。
どっちも原作ではエーデルベルクに登ろうとしてましたが、この世界では登りません。
どっちも年齢は知らんから、みんな三十代前半ってことで。エーデさん、飲み友達になってた。あだ名まで付けて。
カルロ・ベルトーニ→カルトーニ
木場
ランバルト・ラープ→ランラン
エーデルワイス→エーデ
なお、エーデさんは酒が弱く、酔うと某迷宮に出会いを求めてる世界の剣の姫さんばりに手が付けられないので、飲みに行っても専ら烏龍茶。年に一、二回は会ってる。場所はそれぞれの国を順番に。だけどエーデさん以外の三人の一番のお気に入りはエーデさん家。ご飯が美味しい。酒は無いから持ち込む。登山も何のその。
原作ではエストニアが自主的にエーデルベルクを放棄して、エーデルワイスとの繋がりがないことを示したけど、この世界ではエーデルワイスが自らニ組織に掛け合って『エーデルベルクの所有権』を条件に両組織に対する不可侵契約をした。
「エーデルベルクくれたら、こっちからは手ぇ出さないよ?」
だいたいこんな感じ。
ここでのエーデさんは『黒鉄一輝』とは完全に別人。記憶はあるけど、二十歳過ぎてようやく完全に思い出しても…って感じ。ただし重度のファンなもよう。一輝くんが載ってる破軍の新聞は定期購読してるほど。入手ルートは秘密。
バトルロワイヤルの末に三人を返り討ち。
エーデさんめっちゃ強かった。極限まで集中したからか、《一刀修羅》《一刀羅刹》《模倣剣技》、《完全掌握》、七つの秘剣、《抜き足》《天津雷光》《追影》などなど、中途半端な記憶だったのに完全に使いこなした。
交渉(物理)
連盟と同盟が会談をしてる所に堂々と乗り込んで交渉した。会談の内容も『エーデルワイスをどうするか』という当時最大級の問題だったため、自分から解決に来たエーデさん、むしろ歓迎された。酒は断った。
以下、エイプリルフールなのでやったウソ
( )内は本当です。
・正座待機 (ニュースは見るけど)
・ステラ編はもう少し待っててね
(数日忙しかったのと、この話作ってたらすっかり忘れてた。
・その他設定(嘘設定だからね。仕方ないね)
・続く(続かない。要望があれば前向きに検討)
後書きで長々と失礼致しました_(._.)_
ステラ編はまだ続くので、気長に待っててね。
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紅蓮の皇女の転生譚《リスタート》
紅蓮の皇女は来日する
ホントに需要ないから!
空港から一歩外に出た瞬間、無数のフラッシュが彼女の顔を照らした。中には報道のカメラも回っており、中継でその様子を日本全国にお伝えしていることだろう。時刻は朝七時。朝のニュース真っ最中である。
カメラに向かって薄っすらと
そんな事実があったことなど、誰も気づかなかったのだが。
空港の前には、一台のリムジン。現実でそれに乗れる人がどれ程いるかはさておき、彼女は故郷でも見慣れたその車体に、静かに身体を滑り込ませた。
「よく来たな。私は、お前を歓迎するぞ?」
中には運転手の他に一人の女性。スーツ姿の麗人だが、無駄にタバコを咥える姿が似合う新宮寺黒乃がいた。
「理事長先生、宜しくお願いしますね」
静かに、その長い車体が自身がこれから通うことになる学園――破軍学園へと向かい出す。
後方では取材班が、その様子を全国にお伝えしていた。
「い、今!ヴァーミリオン皇国第一皇女ステラ・ヴァーミリオン殿下が、破軍学園へと出発しました!」
__________
《
己の魂を《
《固有霊装》の形は十人十色千差万別。操る異能もまた然り。人でありながら、人を超えた奇跡。
一説には過去の数多くの権力者を始め、今では神話に語られる神々や生物さえ、伐刀者だったのではないかという仮設もある。この世界は遥か太鼓の時代から、伐刀者の力無くして成り立たない。
故に、力を正しく振るうための教育機関もまた、存在する。
『国際魔導騎士連盟日本支部旗下破軍学園』
日本に存在する七つの『騎士学校』の一つであり、これからステラ・ヴァーミリオンが通うこととなる学園。
東京都に東京ドーム十個分という広大な敷地面積を誇るそこは、かつて一年に一度の武の式典『七星剣舞祭』において優秀な成績を修めていた。
が、
「数年前から成績が低迷。今では七星剣舞祭でもなかなか勝ち上がることができていない。でしたっけ?」
走る車内から流れる景色を眺めながら、ステラは隣に座る女性に質問した。尤も聞いた全て、ずっと
「恥ずかしながら、その通りだ。だからこそ、この状況を打破すべく私が理事長として
「まぁ、私はなんでも良いですけどね。日本には来てみたかったですし、あの国にいても
昔ステラが言っていた事を言いながら、かつての記憶と擦り合わせ、少しずつ
「……そういえばヴァーミリオンの皇族は親日家が多かったか。お前もその口か?」
「えぇ。というより、私が日本に興味を示した事で、家族も――という感じですね。日本には理事長先生を含め、優秀な伐刀者が多いので、自然と興味を持ちました」
用意していた言葉はすんなりと口から出て、隣の新宮寺黒乃も納得の様子だ。
「なるほどな。なら断言しよう、こうして留学してきたことは正解だ、とな」
「学生騎士で私より強い人がいる、と?」
かつての人がそのままの実力だとするならば、今のステラよりも強い学生騎士はいなくなる。
「優るとも劣らない奴なら、な。そろそろ学園に到着する、降りる支度を整えておけ」
黒乃のどこか含みのある笑みを見て、ステラは誰の事を考えているか検討がついた。十中八九、《彼》だろう、と。
「わかりました」
前方に大きな建物が見えてくる。ステラはどこか、
「あぁ後、これがお前の寮室の鍵になる。相部屋になるが、構わないな?学年は同じだ」
「先輩と同室なら緊張したでしょうが、同学年なら問題ありません。………あ、理事長先生?去年までと違う体制を知りたいので、寮に荷物を置いたら、理事長室に行っても構いませんか?」
ステラは内心、言葉とは違う理由を思い浮かべながら、黒乃に問うた。時間ありますか?と。
「それくらいなら構わん。―――まぁ、他に来る理由が増えるかもしれないがな」
後半に小さく紡がれたその言葉を、ステラは聞こえない振りをしてやり過ごし、部屋番号に目を向ける。そこには、かつての自室と同じ番号が。
「…………ようやく、か」
不安と期待を膨らませた言葉が漏れる。
運転手が何を勘違いしたか「時間がかかって申し訳ありませんっ!」と冷や汗を流したことで、ステラの意識は弁解へ向かった。
__________
何が理由か、なんの因果か、因果なら紫音君ならやりかねない。なんて冗談を何十回何百回と考えた。
「いや、理由なんて考えても分からないよね」
分かるのは私が―いや、僕、黒鉄一輝が七星剣舞祭の決勝戦で命を落としたこと。そして本当に訳がわからないけれど、赤子として生まれ直したこと。他ならぬ
かつての記憶は幻想だったのか、今のステラとしての生は何なのか。僕としての意識が覚醒したときから、その疑問は尽きない。ただかつて、前世とも言うべき記憶の中でステラは
義父になってほしいと思った相手は血の繋がった父になったと理解したときは、かなりの衝撃だった。また、本当の意味で『あ、やっぱりステラのお父様だなぁ』と実感した。性格ソックリだもの。
「さて、荷物も片付け終わったし、一応制服に着替えて理事長室に行こうかな」
一人のときは、どうしても前世での口調が出てしまう。所々、女性的且つかつてのステラのように癖づいているけれど、根本のところはやはり、黒鉄一輝のままである。
「そういえば、僕とステラの出会いって―――」
この時、僕は完全に失念していた。前世での僕たちの出会いがとても、それはとても劇的であったことを。制服に着替えるために下着姿になった時、寮室のドアが開く音で、かつての思い出が急激に蘇った。
ステラ(一輝)ちゃんでした。
初っ端から需要ないね。精神的な面で見ると、一輝と一輝が色々していく……と思う。
この章の主人公は一輝。ヒロインも一輝(ステラ)。需要以前の問題だな。
続けられたら続く
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(元)落第騎士と落第騎士
日課のランニングを終え、黒鉄一輝が学生寮の自室に戻ると、そこには半裸の美少女がいた。
(……え?)
燃え盛る炎を体現したかのようなウェーブがかった紅蓮の髪。
日本人離れした美しい顔立ちの中央で、突然の侵入者に驚愕する
黒のレース地に包まれた起伏の大きい肢体は淡く白く、さながら新雪のよう。
綺麗だ。一輝はそれ以外に少女の容姿を表す言葉が見つからなかった。
少女の美しさはさながら絵画に描かれた女神のように神々しくすらあり、ただ目を奪われる。
しかし、しかしだ――何故、そんな少女が自分の部屋にいる!?
(え、なに!?僕は部屋を間違えたの?)
そう考えるも、第一学生寮405号室。六畳一間
「あ―――」
少女の口から小さく声が漏れる。
続いて聞こえるのは少女の肺が空気を吸い込む音。
不味い。今叫ばれたら、問答無用で男の方が悪者になる。弁解できなくとも、叫ばれないように―
「待ってくれッ!」
「待ちなさいッ!」
「…………え?」
出てきた言葉は、同時に、互いを静止させるためのものだった。
__________
端的に言おう。忘れてた。いや、言い訳させてもらえるのなら、いくらでもしたい。またこの学園に通えることの期待。もしかしたら僕と入れ替わりでステラが黒鉄一輝かもしれないという期待とそうでないかもしれない不安。そして、それを上回って余りあるこの世界で黒鉄一輝と出会う緊張。これらが日本に到着してからもずっと頭の中にあったのだ。
また、前世の記憶も今回のことに基因する。だってステラとは一年も過ごさなかったとはいえ、その期間はとても濃密としていて、最初の頃のステラの様子はすぐに思い出せないもの。そして、ステラ・ヴァーミリオンとして生まれ15年がたった今、最初の出会いなど美化したり抜け落ちたり前後したり美化したり美化したりしても仕方ないじゃないかッ!
いや、うん。落ち着こう。思わず「あ―――」と漏れてしまったけど、この後たしか前世で僕は「待ってくれッ!君の言いたいことはわかる」とか何とか言って服脱ぐんだよな?なら、黒鉄一輝が一輝であるかステラであるか確認するために前世に沿う?
いや、やめておこう。どうせこの後に模擬戦をするように仕向けるんだ。なら、その時にわかる。今は互いに落ち着いて―――ってあぁっ!一輝が僕を静止しようとしてる!
「待ってくれッ!」
「待ちなさいッ!」
「…………え?」
よ、よし、何とか止められた。とりあえず服を着よう。で、話し合おう。試合するために。
「その…事故なのは分かる、から!ふ、服を着るから、後ろを向いててもらっていいかしら!?」
「わ、分かりました!」
なんとなく、試合をせずとも分かった。この一輝はステラじゃない。前世で僕が愛したステラではない。それは、僕が黒鉄一輝だったからこそ分かってしまう。
この、目の前で『私』から背を向ける人は、紛れもなく
でも、なんだろう。僕がステラになってしまったからか。そこまで大きなショックでは無かった。むしろ、あぁ、やっぱりか。なら、仕方ないかな。という程度のもの。その程度の小さな諦念であり、それ以上に『この世界の黒鉄一輝』に興味を示している所が、
「もう、良いわよ」
制服に着替え終わり、一輝に声をかける。
あ、見惚れてる…というか、下着姿を思い出してるね。僕自身、『私』がこの制服を着てるの、かなりの破壊力を感じるし。
「さっきの姿を思い出したら、なます切りか子孫を残せなくするわ」
「ごめんなさい!」
「良い?私これでも羞恥心はあるし、下着姿なんてパパにも見せたことが無いの。言うなれば、あなたに汚されたと言っても過言じゃないわけで…」
今はまだ一輝はテンパっていて私が誰かまで頭が働いていない。正直に言えば、前世の記憶をなぞっているだけで、一輝に対してそれほど怒りは無い。というか、
「……ごめん。見てしまったものを見てないなんて言い訳はしないし、僕なりの誠意を示したい」
うん。やっぱりこの人は黒鉄一輝だ。今までの動きや心臓の拍動から感じられる緊張、言葉に込められる感情が、前世の僕と完全に一致する。僕の《
なら―――
「次にあなたは『だから僕も脱ぐからおあいこってことにしよう!』というわ」
「だから僕も脱ぐからおあいこってことにしよう!……ハッ!?」
少しネタ混じりにからかわせてもらおう。《完全掌握》の無駄遣いみたいだけど。
《完全掌握》は父を親日家にするためにかなり使ったから、練度も上がったんだよね…。言葉や感情だけじゃなく発汗や緊張といった身体反応も情報に取り入れられるようになったら、掌握の難易度も下がったし使えるようになるまでの時間も短縮できた。
「ふ…ふふふっ!本当に言うとは思わなかったわ。ぬ、脱ぐのが誠意って…あはははっ!変態として理事長先生に付き出そうかしら?」
「そんな楽しそうに笑われても…」
「ふふっ…ま、良いわ。私自身、それほど怒ってるわけじゃないし。努力して磨き上げた身体は自慢ですらあるわ。周りの人は『はしたない』って言うけどね。言っておくけど、露出狂じゃないわよ?羞恥心はあるわ」
これは事実だ。前世と同等のトレーニングを欠かしたことは無いし、ステラとして恥ずかしくないよう美容や健康、プロポーションにも気を使ってきた。マジマジと見られるのは勘弁だが、この身体は僕の自慢である。
「怒ってないとしても、君を不快にしてしまったことは事実だから。本当にごめん」
さすが、素直に頭を下げたか。
「あなた、名前は?」
「……黒鉄一輝」
「なら一輝。謝罪は受け取るわ。パパにも見せたことが無い自慢の身体を舐めるように、いやらしい目で見たことは、私、ステラ・ヴァーミリオンは許します」
「なんだろう。許してもらったはずなのに、言葉の端々に怒りとか悪意とかを感じる……って、え……ステラ・ヴァーミリオン…さん?」
顔を上げて心底驚いた表情を見せてくれる一輝。うん、表情筋が愉快な形で硬直してる。
あと一輝、気付いているかな?あくまで許すのは『私』個人ということに。父が出張ってきても、何もする気がないと言う事に。
「他にも
「悪戯心が半分を占めてるッ!?しかも殺意まであるの!?」
「パパにも見せたことないのよ?誠意を見せてもらわないと」
「うっ…分かった。ステラさんの気が済むまで、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
う〜ん、懐かしい。一輝、心底申し訳なさそうな表情を浮かべてるけど、前世の僕もこうだったんだろうなぁ。で、ステラはかわいい笑顔でハラキリ宣告したんだよね…。今思うとこの頃のステラ、ツンデレっぽいけどツンしかないよね。ツンと言うかもはやグサッか。いや、付き合いだしたらデレしか無くなる辺り、両極端だったけどさ。
文字通り煮るなり焼くなりできるけど、それじゃあ一輝じゃ死んじゃうからなぁ。試合をするためにも、新宮寺理事長の所に行くのが懸命かな。
「………なら、一つ聞かせなさい」
「なに?」
「どうして、あなたが私の部屋に来たのかしら?私は理事長先生からここの鍵を受け取ったのよ。相部屋が男なんて聞いてないわ」
「え、えぇ…理事長先生、何考えてるんだ…」
「知らないわよ」
知ってるよ。お互い余り物だったから。とか言いつつあの人、前世でも僕とステラで互いに刺激しあって欲しかったのだろう。
「デスヨネー」
「だ か ら。
「……何だろう、ステラさんの『聞く』が、もっと恐ろしい何かに聞こえた気がする」
さすが
「煮るのも焼くのも全部の理由が分かってからにするわ。原因が分からないまま理不尽に力は振るいたくないもの」
「ありがとう、ステラさん。その調子で文字通り煮るなり焼くなりはやめてほし―」
「さ、一輝には煮られるのと焼かれるの、嫌な方を選ばせてあげるから、早く行きましょう」
「嫌な方なのッ!?」
スタスタと先を歩く僕を、一輝が苦笑混じりに追いかけてくる。こういう所は変わらない。ステラが一輝を引っ張って行動する。戦いになれば一輝も積極的だけど、他はステラの方が積極的だった。少しは、ステラみたいになれているだろうか。
「そうだ一輝」
「どうしたのステラさん?」
「私が汚されたと知ったら、パパ親日家やめて反日デモの先頭に立つわよ」
「え………」
「国際問題になって欲しくなかったら、男を見せてよね?一輝」
一輝の表情筋が変な形で硬直した。
ステラ(一輝)ちゃん、前世のステラちゃんっぽく演技する。けど上手く言ってるかはご愛嬌。のちに《完全掌握》でバレるんじゃないかとヒヤヒヤもんだぜ。
模擬戦をどうしたもんかと早くも煮詰まってるが、需要がないから悩む必要ないな!
つづけ。
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紅蓮の皇女は認めない(仮)
流し読みでオーケー
破軍学園の理事長室に到着した僕達は、皮のソファーに座る理事長、新宮寺黒乃に対してここに至る経緯を話していた。
「なるほど。下着姿を見てしまった事故を、自分も脱ぐことで相殺しようとしたと」
「誠意として脱ごうとする人は初めて見たわ。面白かったわよ?一輝」
黒乃に呆れた眼差しを向けられることに居心地の悪さを覚える。事実であるが故に否定しづらい。隣ではステラさんが出された紅茶を飲みながらクスクスと笑っている。
「アホだろお前」
「フィフティフィフティで紳士的なアイデアだと思ったんですよ、あの時は。尤も、ステラさんに先読みされて制されましたけど」
「本当に脱いだら、思いっきり叫んで痴漢としてここに連行しました」
あれはビックリした。ステラさん、ジョ○ョ知ってるんだね。と言うか一字一句正確に当てるって…。あの時のステラさんは、どこか僕を見透かすような瞳をしていた気がする。
「確かに、ある意味紳士的ではあるな」
「いや変態紳士という意味ではなく…確かに、本当に脱いだら理事長先生に突き出すって言われましたけど…」
ステラさんが怒ってないことに安堵したけど、『自慢ですらある』って…いや、綺麗だったから納得なんだけどさ。少し気を緩めると、また下着姿を思い出しそうになる。
「……一輝」
なます切りと…し、子孫を残せなくなるのは遠慮したいからこれ以上考えないようにしよう。横から凄い怒気を感じるけど、努めて冷静に。
「……ふむ。その様子では、ヴァーミリオンは裸体を見たことは許したのだろう?」
いや理事長先生。いまの底冷えするような視線と声音でどうして許したと思ったんですか。
「えぇ。でも許したのは私個人としてであって、父に知られても何もする気は無いですよ。むしろ…ねぇ一輝」
「その含み笑いを止めてほしい…なに?」
「『ごめんなさいお父様。……私は、汚されてしまいました』……国際問題にする時は、こう言うつもりなんだけど…どうかしら?」
その儚い消え入りそうな笑顔をやめてッ!?直後のケロッとした表情と言葉で演技なのは分かるけど、一瞬ドキッとしたから!すんごい罪悪感を感じたから!
「ふふっ冗談よ。生徒の罪はそれを監視する学園の罪。問題にするなら理事長先生を訴えるわ」
「おいばかやめろ。黒鉄を好きにしていいから」
「自分のために生徒を売ったよこの人!」
「さて。ここまでで私が国際問題にする気がないとは分かってもらえたと思うわ」
「「どう分かれと!」」
イヤほんと、どうしたら分かるんだよ。今は心底楽しそうに笑っているから、全部冗談で嘘八百なのは分かるけど、こんなにからかわれたのは初めてかもしれない。
「はぁ。ヴァーミリオンがこんな性格をしていたとはな。人は見た目じゃないことが良く分かる」
「これでも演技には自信があるんですよ、私」
テレビでヴァーミリオン皇国での姿を見たことがあるけど、あれが仮面だったことがよく分かる。やっぱり、公に携わる人には大なり小なり裏表があるんだなぁ。
「………と言うか、あれだな。今更だが黒鉄はヴァーミリオンのことを知っていたんだな」
「鉢合わせしたときは気が動転して忘れてましたけど、許してもらって、冷静になったら思い出しました。すんごい人に失礼なことして、冷や汗が止まりませんでしたけど」
「そういう事だったのね。思わず、私ってそんなに有名じゃないのかと勘違いしたわ」
そう。彼女の名前はステラ・ヴァーミリオン。
ヨーロッパに位置する小国ヴァーミリオン皇国の第一皇女。
彼女が日本の破軍学園に推薦入学することは、かなり大きな話題になった。『十年に一人の天才騎士!ヴァーミリオン皇国第一皇女ステラ・ヴァーミリオン様(15)破軍学園に歴代最高成績で主席入学!』という見出しの新聞記事は記憶に新しい。
「本物のお姫様で、主席入学なんて、すごいですよねぇ」
「それもぶっちぎりのナンバーワンだぞ。判断基準に規定される『運』を除く五項目で全てA判定。
「ほっといてください」
「理事長先生。私、運もA判定なので」
僕がムスッとしたように言ったら、横からサラッとえげつないことを言われた。六項目で、つまりオールA判定。天才と謳われるのも納得だ。
「ほぉ…ヴァーミリオン。黒鉄がランクFの留年生であることには驚かないんだな」
「ランクが低いことは気付いてましたから。魔力が平均を大きく下回っているのは、彼からほとんど魔力を感じないことで分かってましたし、入学式よりかなり早いにも関わらず、一年生で既に入寮していることを鑑みれば、自ずと」
ステラさん、僕をからかいながら冷静に状況を分析してたんだ…。って、この部屋に来た理由を忘れることろだった。
「そうだ理事長先生。話がかなりズレてしまいましたけど、なんで僕とステラさんが同室になるんですか?第一、男女でペアになるなんて聞いたことがない」
「それは私が理事長に就任する前の去年までの話だ。黒鉄。お前には既に話しただろう。私の方針を」
「………完全な実力主義。徹底した実戦主義……でしたっけ」
「そう。それが私の方針であり、ヴァーミリオンが聞こうとしたものであり、お前たちが同室になった答えでもある」
「まさか、この学園が私を推薦という名のスカウトをしたのも関係があるんですか?理事長先生」
「その通りだヴァーミリオン。負け続きの『七星剣舞祭』。他の騎士学校と比べて良いところがない現状。これらを立て直すために私が理事会に喚ばれ、私の好きにしていいことを条件に就任した。そして立て直しの第一歩が君のスカウトとこの部屋割だよ。出席番号も性別も関係ない。
どうだすごいだろうと言わんばかりに不貞不貞しい態度だけど、それならそれでおかしいだろう。
「でも、なら尚の事おかしいですよ。ステラさんはぶっちぎりのナンバーワンと学年最下位で留年した僕が同じ部屋になるのは」
「なんとなく想像は付きますが、私も納得できかねます」
「ほぅ、ヴァーミリオン。君の想像とは?」
「あなたの独断と偏見でしょう。一輝と私なら、その競争が生まれる、という」
瞬間、理事長は鋭い視線をステラさんに向けた。僕自身、Aランクの天才騎士と言われるステラさんが、僕をこれほど買っているとは思いもしなかった。今の発言は僕と彼女が同格であると認めるようなものだったから。
「………念の為聞こう。何故、そう思った?」
「ここに来るまで、一輝のことを観察しました。身体の姿勢や足運び、体幹はもとより、指先の一点に至るまで無駄なく洗練されていた。―――洗練と、しすぎていました。分かるのは体術だけですが、それでも学生レベルを遥かに上回っています。勘ですが、実戦では最低でもC…いえ、Bランク相当に戦えるのでは?あとは……私に優るとも劣らない人がいる。そういったのは、理事長先生ですよ?」
ビックリした。……うん。本当にビックリした。ステラさんがそこまで分かっていたということに。そして、理事長先生が僕をそれだけ認めていたことに。確かに僕は、今の戦い方を身につける為にあらゆる武術を身に着けてきた。道場破りなんかもしてきた。剣術が主ではあるけれど、大抵の武術に精通しているという自負はある。そのことを、ステラさんは見抜いてきた。
「ヴァーミリオンが、それほどまで黒鉄を買っているとはな。だが、ならば何故、同室になることには納得できないんだ?」
「これでも観察眼には自信がありまして。でもやはり、多少の配慮はしてもらいたかったんです。私は学生である前に皇族です。もし仮に間違いが起きてしまえば、一輝にも多大な迷惑が掛かってしまう。実に関係なく噂が立つことを忌避しているんです」
不覚にも感動した。ステラさん、自分がただ嫌だった訳じゃなくて、僕のこともキチンと考えていたみたいだ。理事長には見習ってほしい。
「ほほ〜一体どんな間違いや噂が立つと困るんだ?ぜひ聞かせてほしいなぁ〜」
「不純異性交遊ですが?皇族が誰かと付き合うというのは、それだけでスキャンダラスなんですよ。
泥酔したおっさんみたいに絡む理事長には聞こえなかっただろうが、隣にいる僕にはバッチリと聞こえてしまった。え、清い交際なら王様も黙らせるの?
「……ヴァーミリオン。先程から、君の言い分は、要領を得ない。黒鉄を見下さずむしろ認めている。私の考えを見抜き、納得した様子を見せながら、皇族としてという理由だけで拒否している。私は受け入れることはないのに、だ。同室になることに嫌ではないとも受け取れる。なぁ、ヴァーミリオン。お前の本心はどこにある」
真剣な表情で問うそれは今、僕も思っていた。ステラさんが同室を拒否する言い分には私情がなかった。少しむず痒いが、僕の実力を認めていながら、皇族としての考えで同室を拒否している。
「………確かに私自身、分かりづらい態度だったかもしれませんね。ですが、答えは本当に単純なんですよ」
そう言って、ステラさんは小さく微笑んだ。
「先生の考えは分かります。ランクはさておき、見てわかる一輝の実力を買ってはいます。
ですが…
直前まで浮かべていた優しさを含んだ笑みから一転、獰猛な獣の如く瞳を輝かせ、お前は格下だと、そう告げられる。
「現時点でわかる実力には限界があるので、一輝の力を確かめさせてください」
このステラ(一輝)ちゃん、ある意味で面倒な性格になってます。前世が一輝くんである故に、自分自身を貶すことが出来ないばかりか認める発言までしちゃう
それでも前世のステラちゃん成分を出そうと振り絞った結果、『実力は認めてあげるけど、私にはかなわないんだからね!』となったのが顛末。ツンデレかな?
一輝くんsideでお送りしました今回、ステラ(一輝)ちゃんsideで書くとステラちゃんの内心のテンパり具合でアタフタドタバタして倍以上の文量行きます。
それはそれでコメディーチックになるけど。最初の3分の1は量変わらず、後半に行くに連れて話が全く進まなくなる。
内容も(先生の考えに理解示しちゃったよどうしよう)
(
(皇族としてって理由聞かないんですけどこの人!どうしよう)
って感じで終始アタフタしてるだけなので需要ないよねっ!
精神性は一輝ですが、15年も女性として生きてきたために自分の中でもフワフワしてる。
次回は必死こいてなんとかこぎ着けた試合。ステラちゃんの精神はここまででもう既にグロッキー!さてどうなる!
ノリと勢いだけの深夜テンションで書いちゃダメなんやなって…。
今回ので『訳分かんねー』って所は、模擬戦後に寮でお話しします。物語が続けば。
まだ…まだ続けっ!(別世界線の構想を練りつつ)
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皇室剣舞
そのテンションで書いたけどこれ以上は無理。
『転生先』は原作沿いになっているので、ステラちゃん大暴れしたりはしません。
「
魔導騎士が国家の戦力という側面を持つ以上、当然戦闘技能が求められる。
国家間の戦争はもちろん、《
故に、破軍学園の敷地にはいくつかのドーム型闘技場が点在しており、そのうちの一つ、第三訓練場の中心に黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンの姿があった。
そして、そんな二人を見つめるいくつもの視線が観戦席にある。
元々この訓練場を使ってトレーニングしていたり、噂を聞きつけたりして集まった二、三年生たちだ。数は二十人強と春休みにしてはかなり多い。
彼らのお目当ては新入生であるステラか、はたまた無謀にも挑戦を仕掛けた落第騎士黒鉄一輝か
」
「………………ステラさん、何言ってるの?」
うん、何言ってるんだろう。まるで小説かなにかで臨場感を醸し出すための地の文のような口調で、ステラさんは今の状況を解説していた。
無駄に上手い。
「雰囲気作りよ」
「雰囲気作り!?」
理由が適当すぎる…。いや、部屋で会ったときから、これまでの皇女然としたイメージを尽くで粉砕してきたけど、親しみやすいというか、波長が合うというか…うん。友達になれそうな人だ。
「今の状況を小説風にしたらこうなるかなって、少しふざけてみたわ。でもお陰で―――肩の力、抜けたでしょう?」
「っ――あはは。気付いてたんだね」
あぁそうだ。僕は柄にもなく緊張していた。彼女が理事長室で、僕の力量を見抜いてきた時からずっと。観察眼に自信がある?確かにそうだろうね。でも、
ステラさんが僕に下した評価はBランク相当。久しぶりに鳥肌が立ったよ。
ステラさんは、
「気を使わせちゃったかな?ありがとう、ステラさんのお陰で無駄な力が抜けたよ」
「それなら良かったわ。変に力まれて本来の力が出せないなんてイヤだもの」
ステラさんの実力は間違いなく
それも、現時点で正式な魔導騎士のAランク相当と仮定。以前戦った、手加減した新宮寺理事長以上と、想定。
「ではこれより模擬戦を始める。双方、
「来てくれ。《
「
僕は魂の具現である武具を《幻想形態》――人間に対してのみ、物理的なダメージを与えず、体力だけを削り取る形態で召喚し、ステラさんに目を向けた。
「サーベルの、二刀流?それが、君の固有霊装」
「ええ。二つで一つ。理事長先生のようにそれぞれ銘がある訳じゃなく、二つ揃って《
ステラさんの両手には、日本刀のように反りのある片手で扱う西洋剣のサーベルが握られていた。刀身は黄金色で、纏う炎の揺らめきが、その美しさを際立たせる。両の腰には鞘まであり、状況に応じて一刀流に切り替えると予想する。
……こんな状態で、文字通り煮るなり焼くなりされて負けるのは嫌だと思えるのは、リラックス出来ている証拠だろうか…。
「よし。…………では、
こうして、微妙に気の抜けた状態で
__________
うん。一輝の緊張も抜けているし、コンディションもいい感じかな?僕としても一輝の力を見るために、万全で来てほしいし、手の内を残しておくとはいえ、万全で立ち向かおう。
「ではこれより模擬戦を始める。双方、
「来てくれ。《
「
………うん。やっぱりステラとして生まれて、一番驚いたのはこれかもしれない。固有霊装の形が、前世でステラが持っていた大剣からかけ離れているもの。サーベルの二刀流。これが、今の
たぶん、ステラではあるけれど、魂が僕だからこの形になったのだと思う。
扱いは刀を扱っていたことと、皇国での指導が良かったこともあり十分。苦戦したのは二刀流に変わってしまうことだが、それは前世で対峙した世界最強たる比翼のエーデルワイスさんを参考にさせてもらった。
「サーベルの、二刀流?それが、君の固有霊装」
「ええ。二つで一つ。理事長先生のようにそれぞれ銘がある訳じゃなく、二つ揃って《
一輝は予想通り、黒一色で統一された日本刀の固有霊装。これがもし大型の刀剣だったなら、ステラで間違いないだろうなと思ってしまう。
一言発破でもかけてみようか……いや、やめておこう。今の
あとはすべて、剣で語ろう。
「よし。…………では、
__________
開始直後、一輝は無闇に突っ込んできたりはしなかった。まあ最大の警戒はしているように見えるけど。
僕も一輝のことを弱いなんて思っちゃいない。なにせ、かつては向こう側だったんだから。
だからこそ―――
「来ないなら、先手はもらうわよ!」
あえて宣言し、後方に飛び退く。その動作に一輝は怪訝に思い――直後、その顔に驚愕の色を覗かせる。まぁ、当然といえば当然。だって…。
「小手調べよ!燃やし尽くせ。《
僕の背後には今、百を超える炎熱の球体が浮かんでいるから。右の剣を指揮刀のように振るい、言霊で命じる。炎球は勢いよく撃ち出され、幾条もの光の矢となって一輝に襲いかかった。
『うわ!これ終わったんじゃない?』
『一瞬で模擬戦を終わらせるとか、皇女様えげつねー』
『人間業じゃねーだろ』
一輝がいた場所を中心に訓練場の半分以上を埋め尽くす絨毯爆撃をし、周囲に黒煙を上げているのを見れば、観客がこうした声が漏らすのはわかる。
でも
「今のが小手調べって、少し派手すぎない?」
「ふふっ。一輝なら無事だと思っていたわ。この程度、あなたなら切り抜けられる」
「初めて戦ったのに、全幅の信用をありがとう、でいいかな?」
無傷、だろうね。制服に多少の黒焦げがある程度で、ほとんどを切り払い、躱し、逸らしてみせた。特に発射から着弾までの僅かな時間での判断が良い。飛来する軌道と順番を一瞬で判別し、着弾点を大きく迂回した回避行動。逃げ場がない時のみ切り払い、逃げ道を作り出す。しかも、僕との距離を詰めながら。
観客が騒然としている様子が目に映る。そうだ。もっと驚け。黒鉄一輝という騎士の強さを目に焼き付けろ。
「普通の
「それにしては、平然としているね」
まぁ、ショックっていうのは半分嘘だからね。この技を最初に使った理由は一つ。観客に知らしめたかったからだ。黒鉄一輝という騎士を。
誰もが『終わった』と思う中でなお諦めない、一輝の強さを。誰一人、この戦いから目を逸らさせないために。
「元から魔術じゃなく、
「…………そういうことか」
一拍
「ハァアァ!」
一気に距離を詰め、一撃を見舞う。この一撃はあえて単純かつ単調。一見粗暴にすら見える大振り。単純なそれを一輝はその剣筋を正しく見切り、《陰鉄》で受け止め――
「ッ!?」
ようとする行動を突如中止した。横っ飛びで僕の斬撃の軌道から外れた。
うん。
掠ることもなく振り切られ通過した剣は、だが
「なんて攻撃力だ。振った余波だけで、強化コンクリートの地面を叩き割るのか―ッ!それにこれはまさか、魔力なしで!?」
「良い判断ね、一輝。今のを受けていれば、それだけでこの戦いは終わっていたわよ」
少なくとも、無事では済まなかっただろうね。前世のステラは大剣と自身の怪力を遺憾なく発揮し、訓練場全体を激震させる攻撃力を誇っていた。今の僕はステラとしての身体能力こそあるが、大剣の重量はない。だが固有霊装がサーベル型に変わったことで、攻撃の鋭さと正確性、貫通力は、むしろ増している。それは、
故に、この攻撃力。本気で振れば魔力を用いずとも斬撃を飛ばせるようになった。それこそ、かつての兄、黒鉄王馬がステラとの試合でやってみせたように。
とはいえ、こんな大振りは初手だからこそできたこと。ここからは使えないし、一輝は使わせてくれないだろうね。
だからこそ僕は、《
「私の《
一度開いた距離を再び詰める。大振りではなく連撃。この世界で生まれ直し、正式に学び直した
『おぉぉぉおおっ!』
観戦する生徒の歓声が聞こえる。連撃の間に織り交ぜられる体術と足技の数々が、次の手を予測しづらくさせ、
『本当に舞ってるみたい…』
『綺麗……』
『やっぱあの留年生、押されっぱなしだ』
『こりゃ時間の問題だなー』
前世でもステラの剣技は凄く研ぎ澄まされ、舞うように美しく、烈火のごとく荒々しかった。ステラとして生まれ直してから、ヴァーミリオン皇国の剣技大会で優勝したこともある僕の剣は同じ――いやそれ以上に洗練してきた。
それでもなお。
「ッ!?……くぅ――!……オォォオ!」
あはは。食らいついてくるね。
流石に何度か剣を受けたり足技を食らったりしてるけれど、一度として体勢は崩していない。それに、威力の高い斬撃を見極める目もちゃんと持ってる。上手く衝撃を逃して、僕の攻撃範囲から逃れている、か。
前世でステラもこんな気持ちを抱いたんだね。
それに…………もうそろそろか。
「逃げるのは上手いじゃない、一輝」
素直な賛辞を贈る。皇国の剣技大会の決勝でも、僕の剣の前で相手は一分と持たなかったのに対し、一輝はかれこれ5分、致命的な攻撃から逃れ続けた。僕自身、本当にすごいと思う。
「いや、ギリギリさ。君が磨き上げてきた剣舞。感じるよ、本当にすごい努力だ」
「うっ……」
いや不意打ちはNG。中身が僕自身とはいえ、不覚にもドキッとしたよ。ステラもこんなことを平然と宣うから僕に惚れてくれたのだろうか。前世では完全に無意識だったけど、戦いの中では正直な部分がハッキリと出るんだね、
「煽てても、剣しか出ないわよ!」
最速の刺突。最小且つ最少の動きから繰り出される左の刺突は先に振っていた右の剣がブラインドとなり、死角から繰り出され、一輝に迫り―――
瞬間、右の剣諸共、叩き伏せられた。
きっと今、僕は心の底から笑ってるだろうね。
「ようやく本領発揮、と言うところかな?一輝」
皇室剣舞の詳細設定は、次話の方で載せるつもりです。
模擬戦が終わるとネタ無くなるんだよなぁと震えている現状。
理事長の
本文でステラが、理事長と違って二つ揃って〜的なことを言ってましたが、違いは別々に顕現できるかできないかという一点に尽きます。ステラは顕現する時は常に二刀。だから一刀流に持ち替える時の為に鞘まであるんですねー。
に、二十話くらいか1巻終わりまでは続け。
じゃねーと恋愛のれの字も出ねー
ステラ(一輝)だから精神的BLかな
腐海が喜ぶかは不明。見た目は美少女やし。
あ、二丁拳銃は慣れてないと肩外れるそうです。
やる時は注意しましょう。
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舞踏
後書きで皇室剣舞について裏設定を載せてあります。長いけど。設定厨の特徴です、仕方ないね。
設定ばかりよく思い浮かぶのに、圧倒的に書くための
設定にこだわりすぎた結果、自分でも良くわからなくなるという杜撰さ。矛盾あったら指摘してください_(._.)_
今回の一輝との模擬戦。僕は、最初から自身の扱える技術にいくつもの制限を掛けていた。
エーデルワイスの剣技、体技の不使用。
使う剣術は、
使う魔術は三回だけ。
魔力による身体強化をしない。
本来の能力である《竜》の力の不使用。
《
我ながらかなりのハンデを背負っていると思う。だがエーデルワイスの剣技と体技は理事長がレフェリーをしている時点で使うわけにはいかない。《竜》はそれこそ試合を一瞬で決めかねない。一輝として培った技術は使わず、ステラとして体得した技術だけで戦うつもりだった。
使う魔術も、最初から決めていた。《
他には絶対に使わない。
だからこの模擬戦の結果は、最初から僕の敗北で決まっている。
__________
ステラさんの使う剣は、さながら舞のようだった。まず、音がない。いや、剣撃の音はするけれど、着地や踏み込みの動作がまるで無重力を思わせ、次の動きに繋げる時に無駄な力が全くない。舞を意識したような一見無駄に思える身体動作は、目の前にいる
何より、つま先から頭、指先に至るまで、彼女の動き全てが優雅だった。剣舞。剣の舞とはこういうことを言うのだろう。
《
どんな相手にでも上を行き、先手を取るためにはどうすれば良いか。その答えとも言うべき僕だけの剣技。相手の剣技から枝葉を読み取ることで理を暴き、その場で欠点を是正した完全上位互換の剣技を作り出す。それが、《
だがステラさんの剣技…いや、剣舞というべきそれは、予想以上に研ぎ澄まされていて。
どんな技、コンビネーション、相手への対応があるのか等を暴くことはできた。だが、
「《
上位互換なんて作れない。彼女の使うあの型が、既に完成されているっ!事実として今、僕は彼女の剣舞を使っていてなお、攻めきれないのだから。
「当然よ!私の
「ッァ!!」
『すごい……模擬戦じゃないみたい』
『あぁ…まるで舞踏だ』
『あの留年生、皇女様と互角だぞ!』
確かに今、全く同じ皇室剣舞を使っている様子を観戦すれば、二人で
久しぶりだよ。こんな経験、《
互角?そんなわけない。僕は今でも食らいつくので精一杯だ。五分もの時間を要し、枝葉を読み取ってなお、完全上位互換は作れなかった。
剣の腕で圧倒されたのは、本当に久しぶりだ。
「ふふっ。楽しそうね、一輝」
「え?……ははっ、そうか。ああ、そうだね。剣戟で圧倒されたのは久しぶりだったから、どうにも楽しくてね」
互いの剣がぶつかり合い、その反動を利用して二十メートルほどの距離を取る。偶然にも、模擬戦を始めた初期位置へと降り立った。
僕は笑っていた。どうしようもなく、込み上げてくるこの感情が抑えられなくて、頬が釣り上がるのを止められない。
「楽しい、ね。剣術バカはどこまで行っても剣術バカなのかしら」
「ははっ。僕が剣術バカなら、ステラさんは剣術オバケかな?」
自分で言うのもなんだが、この年代で僕以上に剣術を磨く人は少ない。いないとすら思える。それだけの無茶をしてきたと思っているし、それだけの力があるとも思っていた。だけど……なにせ
「なにせ、それだけの才能を持ちながら、僕以上に努力を欠かさなかった。《
一体、どれほどの修練をすればその境地に到れるのだろう。一から剣舞を創り上げ、弱点を一つ一つ潰す。修正に修正を重ね続けた先の今が、どれほどの道のりの先にあるものなのか、僕には想像もつかなかった。
このままじゃ、良くてジリ貧。悪くてすぐにでも押し負ける。偶然にも流れの切れた今、僕の
そう思い、勝つための唯一の手を切ろうとする僕の前で、ステラさんが左の剣を鞘に納めた。
__________
思ったとおり、一輝は食らいついてきた。《
だが、このままじゃ『私』の最強も一輝の
そう決意し、僕は左の剣を鞘に納めた。
__________
「ねぇ一輝。これ以上続けても決着はつかないと思わない?」
………何を言ってるんだろうか。明らかに自分が優勢であるにも関わらず、そして剣で決着をつけると言ったにも関わらず、ステラさんは何を思ってそんな事を言うのだろうか。
「それにほら。観戦席の人達も、そろそろ飽きてくるでしょう?」
「………戦いにエンターテイメントを求める必要は無いんじゃないかな?」
「私の想像以上に、あなたは私に食らいついてきた。そのご褒美みたいなものよ。………最大限の敬意を払い、私の
不敵に笑い、宣言するステラさんに、流石の僕も理解した。
「次で決着をつける…ってことで良いのかな?」
「ええ。そして、私にも見せてみなさい。あなたが持つ、たった一つの強い輝きを――っ!」
『一輝』という名前に掛けて言ってるんだろうな、と考えなくても分かった。それに元より、僕にできるのは最初から一つだけ。
ステラさんが、一足飛びで観戦席との間を隔てる壁際まで飛び退いた。まさか、また《
ステラさんを中心に、膨大な量の魔力が、竜巻の如く吹き荒れる。それは炎という形に変換されずとも、自然と赤い魔力光を放っていた。
「蒼天を穿て、煉獄の焔」
《
『な、なんだこれぇぇえ!!』
『滅茶苦茶じゃねーか……っ。これで同じ人間なのかよ………!』
百メートルを超える太陽の如き光の刃は、あらゆるモノの存在を許さない滅死の極光。
これぞAランク騎士ステラ・ヴァーミリオンが誇る
一輝との剣での競い合いをやめ、
「さぁ………死に物狂いで足掻きなさい。あなたの実力で、敗北を受け入れた先にある普通の幸せを否定してみせなさい……っ!!」
敗北の先にある普通の幸せ、か。確かにここで敗北を受け入れ、魔導騎士になる道を諦めれば、ごく普通の幸せを手に入れることはできるだろう。
「妹にもよく言われたよ。『お兄ちゃんは魔導騎士以外なら何にでもなれるんだから、そっちを目指した方がいい』って。……確かにそうだ。ここで敗北を受け入れ、普通の幸せを甘受した方が身のため。僕には、魔導騎士の才能が無いから」
僕が魔導騎士になるには、
でも。今のステラさんの言葉はどうだ?こんな才能が無い僕に発破をかけ、妹にすら否定された魔導騎士への道を応援するかのように、
「は…はははっ!あぁ退かないよ、ステラさん。魔導騎士になるのは、僕の夢だから。今この場を降りることを、僕を僕たらしめる誓いが許さない」
だから、
「だから考えた。最弱の僕が最強に打ち勝つための方法を。僕が僕を貫き通すためには、何をなせば良いのかを」
《陰鉄》の切っ先を持ち上げ、勝敗より僕への試練を優先してくれたステラさんに感謝して。
「これが、その答えだ。
僕の
そう宣言し、全身から炎のように揺らめく魔力光を発する。それに呼応するかのように。
「《
光の刃が、振り下ろされた。
皇室剣舞(裏設定)
拙作の中では一切出てこないので、ステラ(一輝)ちゃんが創り上げた剣舞の設定です。
皇室剣技を基盤として、歴史ある流派から独自の技能まで、あらゆる剣技や体技を《模倣剣技》で習得し、皇室剣技に合わせて作り変え、組み入れたもの。
組み入れたのは前世を含む百を超える剣術や体術の他に、皇国で対戦した多くの伐刀者の技術。
剣技の中に舞のような動きを取り入れており、見惚れるほどの完成度で相手の判断を付きにくくさせる。
創り始めたのは三歳。魔力を暴走させたことが原因で、一時期は魔術より剣を振るった。まだ一輝としての記憶も断片的で、全身を大火傷したことが炎に対する恐怖心を煽り、剣に逃げたとも言える。
だが剣技に邁進するステラの姿を見て、パパさんが『ステラは剣なんか持たなくていいんじゃー!』と怒った結果、ステラは
パパさんが怒ったのは、さすがに三歳から剣技を磨くのはやりすぎと思ったかららしい。
皇室剣舞として認められたのは、ステラが八歳の時だが、型ができたのは七歳。前話で『十年近く〜』とあるが、事実は八年である。
七歳の頃には、一輝としての記憶は完全に蘇っており、《竜》を持っていたことも分かっていたため、完全にコントロールできるように魔術の鍛錬を始めた。
そして、この剣舞の最大の特徴は、
原作一輝の剣技が、様々な剣に先手を取る為に至った《無形の剣》であるならば。
拙作ステラの皇室剣舞は、皇室剣技を主軸に成長し続ける《無限の剣》。
本文にある一輝の“習熟している”やら“完成している”的な発現は、皇室剣舞を成す理の量を読みきれず、完全な模倣ができなかった。
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決着
今朝見たらランキングに『転生先』があった(真ん中やや下ですが)ことにビックリして衝動で一気に書きました。短いよ。
模擬戦の決着までなので、2000字くらいです
次回は少し遅れます。(今までがハイペース)
はっきり言おう。この模擬戦、最初から僕は勝つつもりが無かった。最強の技を見せ、一輝の力を観戦席の人に、引いては動画で各学園に知らしめるのが目的。
変化は劇的だった。ステラ・ヴァーミリオンとして生きてきて、何人もの騎士を見て、何人もの努力を感じ取ってきた。その中でも、黒鉄一輝という騎士は、とびきりの光を放っていた。
『努力すれば、天才にだって勝てる』
そう、自信たっぷりに僕に挑んできた騎士は、数多くいた。だが決まって最後にはこう言った。
『これだけ努力しても、才能に負けるのか』
あなたに何が分かる。そう言いたかったし、前世でのステラの気持ちがよく分かった。僕がやってきたトレーニングを、あなたは一つでも習熟できるのか?剣舞を一から創り上げたことはあるか?無数の剣術を模倣し、剣の理を暴くことはできるか?
『満足した時点で、あなたは本当の意味で努力していない』
一度、一人の騎士にそう突きつけた。結果は逆上されたけど。僕自身、皇国にいた頃は心が荒んでいくのが分かっていたし、言ったのは一番酷いときだった。
だからこそ、
《一刀修羅》。かつての僕の切り札にして、
一分でいい。その一分は誰にも負けないようになろう。誰にでも勝てるようになろう。そう、最弱たる僕の考えた、最強の自爆技。全ての生物が持っている
だが、いやだからこそ、その技が放つ蒼白い魔力光はどこまでも強く輝く。
その光が、一輝の諦めない意志の表れだから!
「僕の
前世で僕が愛用した、全力を出すときの宣言。
だが、僕の目は正確に一輝の姿を捉え、光の刃で攻め立てた。
「ッ!その急激な身体強化――っ!明らかに普通の方法じゃないわね!」
「普通の方法じゃ、君からの試練は超えられないし、この先必ず何処かで限界が来る。だから僕は、普通じゃない方法で。今この瞬間に全力を賭けるんだ」
そうだ。それでこそ、
「そんな心構えだけで、魔力が増幅するなんてあり得ないわ!」
高く跳躍した瞬間を狙い、光の刃を薙ぐ。一輝は空中で身体を逸らし、間一髪で避けてみせると、着地と同時に疾走。一瞬とはいえ、僕の視界からも振り切られた!
「確かにそうだ。でも、心構えじゃなかったら?ステラさん、僕は昔から疑問だったんだ。例えば百メートル走を全力で走ると言って、走った後に
全力で、つまり持ちうる全ての力を出し尽くし、死力を尽くしてこそ、全力。にも関わらず、余力が残っているのは可笑しいだろう。そう言いたいんだろう?ならば答えよう。
「そんなの生存本能のリミッターがあるから……あなた、まさか!」
我ながらかなりの演技に自画自賛する余裕もなく、一輝を攻め立てる。こうして対面してわかる、一輝の強さ。底力は本当に計り知れない。僕が前世で培った技術を一切使ってないからこそ、彼の努力と身につけた力が浮き彫りになる。
「あぁ、そうさ。この魔力は上がったんじゃない。
「あなた分かってるの!?それは…そんなの自殺にも等しい博打じゃない!」
気づいたら、かつて七星剣舞祭の決勝で、ステラに超えられた記憶が、一輝の輝きを否定していた。博打は博打。失敗すれば、待つのは死だ。
「だとしても、
「ッ!」
「一分で良い。最弱の僕はそんな多くは求めない。でも、この一分間ならステラさんだって超えてみせる!」
元々、この技を使った時はその場から動かないと決めていたので、どうしても攻めきれない時があり、一輝が外周付近を逃げるのをやめ、攻めに転じる時に対応が遅れてしまった。
それが、最後だった。
「《一刀修羅》!」
「ぁ―――」
ザンっ!と。
《幻想形態》で切られたことによる特有の脱力感を感じながら、僕の口元は緩んでいた。恙無く…とは行かなかったが、概ね予定通り模擬戦を負えられたから。
そんな、ある種の満足感を感じながら、薄れゆく意識の中、僕は誓った。
「次は、負けてあげ…ない、よ……」
「あぁ。次は、ステラさんも手を抜かないでね」
あはは…やっぱり、バレてたんだ。さすがに一歩も動かないんじゃバレるよね。攻めの動きも単調にしてたし。
「勝者、黒鉄一輝ッ!」
訓練場内が騒然とする中、理事長の勝者宣言を聞いたのを最後に、僕の意識はブラックアウトした。
ボツバージョン
一輝がトドメの一撃を食らわせる瞬間にステラが魔力で再現した《一刀修羅》を発動。
原作でエーデルワイスさんがやってみせた、魔力を完全に作用させた状態になって《陰鉄》を受け止める。
一輝の《一刀修羅》が切れるまでの時間、一輝が倒れなかったら一輝の勝ちとしてギリギリまでフルボッコにするステラさん。
土壇場で成長し、不完全ながら魔力の無駄を少なくしてなんとか猛攻を耐えきって一輝の勝利。
やりすぎは良くないなーと思ってボツ。
ボツにはあと一つ理由あるけど、ネタバレは厳禁なのでやめておきます。
尤も、理由が明らかになるまで続くは不明。
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ネタばらし
書いてたら長くなったんで、半分で切って投稿。
続きは手直しが終わってないし
需要無いと思うのに日間ランキングにランクインしました。ありがとうございます_(._.)_
目が覚めると、懐かしい感触と、初めて見た低い屋根。答えを言ってしまうと、二段ベッドの下段。前世は上段を使っていたから、同種のベッドの懐かしい感触と初めて見たの下段の景色があった。
「目が覚めたか、ヴァーミリオン」
唐突に声がかかり、そちらを向くと紫煙を吹かす理事長先生がいた。寮内、禁煙なんですが。でも今は、そんなことを言う気力も沸かなくて。
「ここは…寮室ですか」
「あぁ。お前が倒れたのは、《幻想形態》で殺傷されたことによる極度の疲労だからな。iPSカプセルに運ぶほどでもないと判断し、こうしてベッドに寝かしていたというわけさ」
その言葉に、ちゃんと僕の敗北になったことを悟り、少しホッとする。
「ということは、私は負けたんですね」
「あぁ。お前が、手心を加えたからな」
あぁ…きっと今の僕は、ギクッ!って擬音が付きそうな表情をしてるだろうな。
「その顔では図星か。いや、存外に上手く隠していたと思うぞ?手心と言っても、《
「それに、理不尽に立ち向かう一輝の姿に大半の人が目を奪われてましたから、生徒にバレる可能性は低いと思ってましたよ」
実際、部外者として一輝の輝きを見ることができて、かつての自分の在り処に目を奪われたから。
「手加減したことは、否定しないんだな」
「バレてますからね。一輝が起きたら、謝らないといけませんね。理事長室で言った同等と認めない発言、嘘ですから」
模擬戦に漕ぎ着けるための嘘八百な出任せをネタバラシすると、理事長先生は深い深いため息をついた。幸せ逃げますよ?
「お前な……。本音を言えと言ったろうが」
「許してくださいよ。一輝とは最初から模擬戦をしてみたかったんですよ。でも言いにくいじゃないですか。『模擬戦をしたいだけ』なんて」
「戦闘狂かなにかかと思うな」
「でしょう?」
「ならヴァーミリオン。なぜ、ワザと負けた?模擬戦をするのが目的であれば、むしろ勝敗に拘って然るべきだろう?」
前世に沿って決めた、なんて言っても、意味なんてないだろう。電波を受信したと疑われそう。
「模擬戦を通して、見極めたかったんです。黒鉄一輝という人間を。生まれながらに決まってしまう
嘘は言ってない。最初は(ステラかどうか)見極めたかったんだから。それに、ステラとして再び生まれたことで、黒鉄一輝の輝きを間近で見てみたくなったのだ。
「黒鉄家」
「ッ!………知っていたのか」
ポツリと呟いた一言で、理事長先生はすべてを悟った気がした。
「『サムライ・リョーマ』を輩出した家ですし、連盟日本支部でもかなりの発言権を持っている家名ですからね。そして、これまで数多くの優秀な
………一輝の名前を聞いたときから、気になっていました」
何故、一族の恥になる存在を、それでも魔導騎士の専門学校に通わせるのか。
でも、答えを分かっていながら、知らないはずのこと故に、理事長先生に問いかけた。この質問は、本来上にいる一輝にするべきだと分かっていながら。
「一輝が留年した理由、能力値が低いからじゃ、ないですよね?」
__________
一日一回の大技である《一刀修羅》を使った反動で今の今まで眠っていたのだが、目が覚めるとすぐ近くから話し声が聞こえてきた。
「一輝が留年した理由、能力値が低いからじゃ、ないですよね?」
目が覚めて、最初に耳に入った言葉が、これだった。突然のことで数秒間理解できなかったが、ベッドの横には理事長先生が立っていて。下段にはステラさんがいる。彼女は、理事長先生に今の質問をしたのだろう。
僕の目が覚めたことにステラさんは気付いていないだろうが、一瞬理事長先生と目があった。
理事長先生は僕の様子に気付かない振りをして、ステラさんの言葉をただ聞いている。
どのタイミングでステラさんに声かけよう…。
「黒鉄という日本の名家が、能力の乏しい
凄いな。僕の名前だけで、ここまで正確に僕の境遇を読んできた。この分じゃ留年の理由も気付いているだろう。
「でも相手は黒鉄家。想像でしかありませんが、学園上層部に圧力を掛けたんじゃないですか?
例えば―――」
「黒鉄の家から出奔したはぐれ者。黒鉄一輝を卒業させるな」
ステラさんの言葉は、理事長先生によって続けられ、それが正解であると裏付けていた。というか理事長。いくらステラさんが自力で気付いたからって、人の込み入った事情を話す気ですか。
「正解だよ、ヴァーミリオン。名家ゆえの
本当にマルっと全部話しましたね、理事長先生…。いや、事実ですから、嘘を言う必要も無いですけど、包み隠さず話す必要も無かったんじゃないですか…?
「正直、『バカらしい』とは、一概にも言えませんね。実力の高い者と低い者を平等に扱っても、高い者は伸びず、低い者は怪我をする恐れがあるし、劣等感が生まれる。ならば、一定の力量以上で区切ってしまった方が良い。そんな考え方もできますから。……尤も、
「『学園はあくまで生徒を教育する場であって、無理な指導をするべきではない。彼に通常の指導をすれば、最悪死ぬ恐れがあった』………確かに、前理事長も似たような言い訳を言っていたよ。私が理事長に就任した際に、お前と似た言葉を送り、ヤツに賛同する者と共に追い出したが」
そう、だったのか。前理事長の時の理不尽は、まだ鮮明に思い出せるが、それでも表向きの理由がないと、もしもの時に自分を擁護できないもんね。そして、その
「ランクとは、あくまで生まれ持った才能を視覚的に分かりやすくしたモノにすぎません。努力次第でどこまでも大きく成長できる。それに、」
「それに、なんだ?」
「………いえ、なんでも。国は常に強い伐刀者の存在を求めているはずなのに、
うん、ステラさんの言い分、皇女様だから言えることでもあるよね。今は理事長(と僕)しか聞いていないとはいえ、ハッキリと連盟本部と日本支部の両方を批判してるし。
「お前の考えには理解できるがな。己の立場や利益を欲する腹黒がいれば、理解を示さない愚か者もいる。皆がみんな高潔な訳じゃない」
「分かってますよ。でも、才能があることに傲り、いざって時に命を懸けられないような人間に、背中を預けたくはないじゃないですか。その点、一輝なら信じられるわ」
「理事長室でも言ったが、随分と高く黒鉄を買っているな?惚れたか?」
ッ!?ちょっ、理事長先生何言ってるんですか!?
「一輝のことなら最初から好きですよ、Likeの方ですけど」
「なんだつまらん」
「人の感情に面白さを求めないでください?一輝の事は、本当に凄いと思ってるんですから」
一瞬、ドキッとしちゃったんだけどステラさん…。倒置的な言い回しやめよう?心臓に悪い…。
「それで?まだ私はお前から核心を聞いていないが、いつになったら話してくれるんだ?」
………途中で目が覚めたんだけど、二人共、思いっきり僕関連の話しかしてなかったよね?
「模擬戦をワザと負けた理由、でしたっけ」
あ、それ話してたんだ。何をどうしたら僕の話になったのか甚だ疑問だけど。
でもやっぱりそうか。剣での勝負をやめた辺りから、おかしいとは思ってたけど、最初から勝つつもりが無かったんだね。
「ああ。黒鉄と黒鉄本家の確執に仮説を立て、あいつを見極めようとしたのは分かった。が、負ける理由にはならないだろう。嘘から行った模擬戦でも、そろそろ真相を話してもらおうか」
え?嘘からって何?理事長室の会話のことだよね?えぇ?何処からが嘘だったのステラさん…。
でも、ワザと負けた理由については僕も気になる。ステラさんは大技を使ってから、一歩も動かなかった。大技ゆえに隙は大きくなるし、動かないなら接近すればただの的。それに、ステラさんは《一刀修羅》を使った僕を
でも得るものは多かったんだよ。僕以上の剣技を見て、また鍛え直そうと思えたし、ステラさんのトレーニングなんかも参考にしてみたいと思ってる。だけど、最後に勝たせてもらったという気持ちが強くて、なんとなくスッキリしない。
「一つ訂正しておくと、今回に限っては、本当に勝敗より一輝の輝きを見ることが目的だったんですよ。あとは、一輝みたいな凄い騎士が、本当の実力を知らしめられる場も無く留年したことに
圧倒的な才能の力を最後に見せたのも、そのためなのか。僕にも“足掻け”って発破を掛けたし、ステラさんが抱いた怒りと、ステラさんなりの形で僕のことを考えてくれた結果なのかな。
「つまり、
「一言で言えば、そうなりますね」
自分の戦績に傷がつこうと気にもせず、あはは…と小さく笑い声を上げるステラさんの様子に、理事長(と僕)は毒気を抜かれたような呆れた表情を浮かべる。
なんというか、ステラさんって……
「お前、アホだろう。もしかすると、自分の価値を貶める可能性すらあるだろうに」
もったいないことする人だなぁ、ステラさん。
「人から向けられる感情や、他人が決める私の価値なんて、元より操作できない不確定なものですよ。事実、尊敬の視線を向ける人がいれば、『人生イージーモードで羨ましい』と妬む人もいます。そんなモノ、いちいち気にしません。
それに、」
「それに、なんだ?」
「それに、私の価値は、私が決めます。私の価値も可能性も
あ―――。
『その悔しさを捨てるな。それは、テメェがまだ諦めてない証拠だ。自分ってやつをな』
かつて、両親も親戚も邪魔者として扱ってきた自分に、諦めなくていいと言ってくれた黒鉄龍馬の言葉。その言葉があったから、僕はこれまで
「だから今日の模擬戦で手加減したのも、敗北したのも私の過失です。手加減なんてする必要無かったと、久しぶりに悔しさを思い出せたから―――
だから、次は負けないわよ?一輝」
間を開けて言ったステラさんの声が、下からじゃなくすぐ横から聞こえたので、反射的にそちらの方に目を向けると……目があった。
「………え?えぇぇぇええ!?い、何時から気付いてたの!?」
「一輝が留年した理由を聞いた時からよ。気配でわかったわ?」
「最初から気付いてたんだ…」
ベッドに横になっている僕のすぐ横から顔を出して、したり顔を向けるステラさんの茶目っ気に脱力する。
ビックリした…最初から気付いてたなら、あえて無視して話してたってことだよね?
「先生もなんで言ってくれなかったんですか。声かけるタイミングを完全に逃してたんですけど」
「お前の過去話で適当に介入すれば良かっただろうに。お前が何も言わないから、私が話してしまったぞ?」
「あの時か……」
「何時になったら話すのかなーってワクワクしてたんだけど…介入してこないから、こっちから仕掛けたわ。理事長先生にも身振りでお願いして」
うわー、すっごくいい笑顔を向けてるけど、真剣な話をしながらドッキリ仕掛けるって、何してるのさ。その心意気を模擬戦にかけてほしかったよ……。何二人して『ドッキリ大成功〜』ってハイタッチしてるんですか。仲良しか。
途中から一輝くん視点でお送りいたしました。
昨日、久しぶりに本屋に行って、来月の新刊予定表の中に落第騎士の
一万五千字いったところで「やべー」ってなって半分で切りました。
新刊は2019年4月12日らしいです。出たらダッシュで買う。投稿より購読。ファンの鏡(自尊)
鏡といえば私が好きなキャラは、かがみんです。
どーでもいいね。私事に需要はない。
前書きにも書いたけど。
次回は少し遅くなります。これは本当。
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負けず嫌い
()内はステラの心情
地の文は一輝よりの三人称
最後に今話の粗筋があります。
読みづらい人はそちらへ
投稿に当たり、章の名前を変更と、エイプリルフールネタを一番上に並べ替えました。
その後ひと悶着あったものの、黒乃が「あとは若い二人で話したまえ。私はまだ仕事がある」と言って退室したことで、一応の落ち着きを見せた。
今は一輝とステラの二人だけで居る。そして事ここに至って、一輝は重大な問題に気付く。
な、何を話せば良いんだろう…と内心で頭を抱えていた。
机を挟んで対面して座る二人。黒乃がいなくなった途端に会話が終了したのである。だが、こうして悩んでいるのは一輝だけではなかった。
(どうやって話を切り出そう…)
ステラもまた、悩んでいたのである。奇しくも二人は共に一輝。思考回路は基本的に同じであった。全く良いところがない。
そうして、沈黙が数分続くと。
「あのさ」
「ねぇ」
「「…………」」
「「えっと
「「………」」
譲り合いの精神を見せる二人。話が進まないが、片方が未来を歩んだ以外に魂が同じなため、仕方ないのかもしれない。
「じゃ、じゃあ、私から良いかしら?」
「う、うん」
このまま何もしなければ話にならないと業を煮やし、切り出そうとするステラ。一輝としてもレディーファーストができて安堵した。
今の二人の雰囲気を例えるなら、付き合いたてのカップルである。
だが、そんな初々しい空気は何処へやら、唐突にステラが頭を下げた。
「えっと、ね。色々と謝らせてちょうだい」
「えっ、ちょっ、ステラさん?どうしたの急に」
一輝は心底訳がわからない表情を浮かべるものの、ステラは顔を上げずに続けた。
「急じゃないわ。理事長室で、嘘とはいえ傷付けるような事を言ってごめんなさい。…模擬戦で手を抜いてごめんなさい。…さっきも、あなたの事情を理事長に勝手に聞いて……ごめんなさい」
(さすがに、慌ててたとはいえ言い過ぎちゃったしね…前世との齟齬がないかの確認もしたかったとはいえ、少し軽率だった)
段々と消え入りそうな声でひたすらに謝罪するステラ。その声に、先程までの一輝をからかっていたような感情は見受けられない。だから、一輝も真剣に先程から気になっていたことを聞くことにした。
「………二つ、聞いても良いかな?」
「何かしら」
「一つは、理事長室で言ったっていう嘘。多分、同等とは認めてないってやつだと思うんだけど、それってつまり…」
「私は最初から一輝の事を認めていたわよ。特に、その精神性はエーデルベルク並みに高く買ってるわ」
「世界最高峰の山を例えに出すほどなんだ…」
「それとも、マリアナ海溝より深いって言った方がいいかしら?」
キッパリと言い切ったステラの様子に、一輝は逆に呆れ返った。しかも次に出てきたのが一万メートルを超える深さの海溝だというのが笑えない。エーデルベルクが九千メートルを超えるのだから、尊敬度が増している。だが人は学習する生き物。ステラが浮かべる表情から、一輝は彼女なりの冗談だと分かった。
「言っとくけど、エーデルベルクは本気よ」
(こうして対面すると分かる。一輝が、そしてかつての僕が持っていた決意は相当なものだ。昔の僕は、それを誰かに肯定してほしかった気がする。だから僕が肯定しよう。自信を持てって)
前半は本気だった。一輝から乾いた笑いがこみ上げる。
「あと理事長先生にも言ったけど、本音は一輝と戦ってみたかっただけよ。何かしら理由がないと、あなたは受けてくれないと思ったの」
「まぁ、僕には戦う理由がなかったからね」
図星だった。いづれ戦わなければいけない相手であることは分かっていたが、理由も無しに戦う
一輝の境遇に怒って…なんて理由は最初からなく、あくまで後付けに過ぎないと、そう言ったステラに、模擬戦中に抱いた僕の感謝は何だったのかとため息をつくも、
「じゃあ二つ目。模擬戦で手加減したのは、ステラさんなりに僕の事を考えてくれた結果だよね?」
(やっぱり、聞いてくるよね…確かにそれは目的の一つだ。もう一つは、まだ前世と同じようにしたかったから)
それが聞きたい二つ目だったため、躊躇なく聞いた。
「まぁ、理由の一つには含まれるわね。でも一応、
(前世とは違う結果にしてしまえば、僕でも予想できない未来になる。それに、ここで才能の力で勝つと、一輝が潰れてしまう可能性もあった。同じ僕だから諦めないとは思うけど、まだ完全にかつての僕と同じとは決まったわけじゃない)
「まあ僕も全部話せなんて言わないから、構わないよ。それにしてもあの剣舞、凄い綺麗だったからね。受けてて見惚れたよ」
「あ、ありがとう…。一輝こそ、不完全とはいえ私の剣舞を盗んだのは凄いわ。その前も五分も受けきってたし」
共に剣を磨いている者同士であり、(一輝は知らないが)同じ魂を持つ者同士、剣の話になれば盛り上がる。最初の
「《
「あなたの観察眼があるからこそできる技よね。模擬戦の最中は、筋肉の繊維まで見透かされてる気分になったわ」
模擬戦を振り返り、互いの剣技を称賛する。と、ステラがあることを思い出した。
「あ……私、まだ謝罪の返事聞いてないわ」
(僕からの話はこれで終わりなんだけど…一輝の話って、絶対に
「えっ……あ、あぁ。そうだったね。つい剣技の話に行っちゃった。―――うん、良いよ。僕はステラさんのことを怒ってない」
返事をもらうまでジーっと見つめてきそうな雰囲気のステラに若干気圧されながら、一輝は朗らかに微笑む。
「ありがと、一輝。私の言いたいことはそれだけよ。次は一輝、どーぞ」
(《
「あ、うん。―――ステラさん、さ。模擬戦で
「し、証拠はあるのかしら」
(もはや疑問系ですらない…いや、そう来ると思ったけどさ。てか今の僕の言い訳が証拠だね)
若干挙動不審になりながら尋ねるステラに、一輝は笑いそうになる。自分をからかいっぱなしな人が、こうも狼狽える姿を見れば当然かもしれない。
「その言葉が証拠だよ、っていうのは冗談だけど。ステラさんほどの
それは確信だった。ステラは一輝が振り下ろす直前、左手を伸ばしていた。《
確信を持って告げた言葉に、言い逃れはできないと思ったのか、ステラは降参の意を示す。
「降参よ、よく見てたわね。最初から皇室剣舞と魔術だけに決めていたのよ。魔術は回数制限まで設けてね」
(前世は魔力を節約していたけど、だからこそ魔力の制御力は高かった。正確には魔力を扱う際の集中力が。だから、この身体にある膨大な魔力で
「それに素の身体能力同士でも、十分に私が押してたじゃない」
(まあ、全力でやらなければ良いだけなんだけど。僕の
「ぐっ……確かに剣舞は圧倒されたし、ステラさんは二刀流だから手数でも負けたけどさ……。というか、魔術にも制限かけてたんだ。これもう、実質僕の負けじゃない?」
魔術にまで回数制限を掛けていて、剣で圧倒されて、身体強化もしてなかった人に、勝ちを譲られた。それが悔しくて悔しくて……だからこそ勝ちたくて。
今回は負けでいい。次こそはと思い、自身の負けを提案したのだが。
「それはダメ」
(ダメに決まってる。制限を掛けたのも手加減したのも僕なのだから、その結果僕が敗北したのなら、それは僕の過失だ。一輝の勝利は揺るがない)
即答で却下された。どっちが負けかで譲らないあたり、『負けず嫌いとは』で哲学本ができそうである。
「本当は防御できていたのだとしても、事実として私が斬られた。それは変わらないわ」
(確かに、防御できたのは事実だ。でもあの瞬間、あのタイミングから防御するためには、エーデルワイスさんの体技を使う必要があり、使ってしまえば理事長先生から何を言われるか分からない。使うわけには行かなかったんだよね…)
毅然とした態度で負けを譲らないステラの姿に、一輝は諦めた。できればステラの全力を見てみたかった一輝は、だからこそ、
「本当なら勝ってたのはステラさんで、実際に勝ったのは僕。だからステラさん、
「え………?」
勝負を預けることにした。ここでは決着はつけない。どっちが負けたかで言い合うなんて不毛でしかない。全力でない戦いの勝敗にも意味なんてない。ならば、ここでの勝利はいらない。そう、一輝は思っていた。
(予想外だ。中途半端に《完全掌握》をやっていたのもあるけど、
このステラの認識には、ある計算違いがある。それは、
そう混乱している間にも、一輝は続ける。
「僕たちの決着は、正式な場所で決めよう。例えば―――七星の頂きをかけて」
挑発的な物言い。今はまだ、及ばない。剣舞で負けた。手加減されていた。勝ちを譲ってもらった。でも、次は全力でやろうと。今度こそ、手加減も手心もいらない。七星の頂きをかけて死合おうと。
模擬戦を持ちかけた際のステラにも優る獰猛な笑みを浮かべ、どこまでも挑戦的に。
『次は負けない』と。
「ふ…ふふふっ。あはははははは!」
(あぁ、そうだ。違うのかもしれない。僕と似てるけど違う、いわゆる平行世界の一輝かもしれない。でもやっぱり、君は黒鉄一輝だ。自分を諦めず高め続けられる人だ。魔導騎士になれるチャンスの場を私達の決着の場にしてしまうほどに。だったら)
笑う。
でもステラは知っている。英雄だから怪物を倒すんじゃない。
何より、自分もかつて彼のように、決勝の場で戦おうと持ちかけたのだから。
ゆえに、一輝の挑戦は正当なものだ!
「いいわ。今度こそ、全力で。決着の場では、殺すつもりで刃を振るいましょう。命の限り、戦い尽くしましょう。
その結果
突如、ステラの眼光が鋭いものに変わる。否。その瞳が、
一輝からは見えないが、身体のあちこちで紅い鱗が発現していた。それは、ステラが持つ概念の発露。強すぎる《竜》の概念が、ステラの意思に呼応するかのように表面化していた。
だが、一輝は臆さない。むしろ、彼女の強い意思に引き上げられるように、身体のコンディションが上がる。今なら、もう一度《一刀修羅》も使えるのではないかと錯覚すらする。
「あぁ。その時は、僕も死力を尽くそう。僕ができる
どちらが負けたかで譲らないほど、今回の戦いは不完全燃焼なものだった。だから誓うのだ。再戦を。全力を出し尽くした果てにある、決着を。
今度こそ、完全な勝利を得たいから。
ならば、
「「次に戦うまで、誰にも負けないでよ」」
この二人は、同じくらい負けず嫌いだ。
__________
互いに宣戦布告をしてから数分たち、ステラの瞳も元に戻っていた事に気付いたら頃、寮のチャイムが鳴り響いた。
それは、八時を告げる合図だ。
「あっちゃぁ。大分話し込んじゃったみたいだ。参ったな」
「そういえば八時に食堂が閉まるんだったわね」
「食堂のこと、知ってたんだ。晩飯どーしよ」
「え、えぇ。日本に来る前から調べていたから」
(あぶなー、つい口が滑った)
門限は九時だから、スーパーに買いに行こうかと考えるも、《一刀修羅》の後は筋肉痛が辛いので料理なんてしたくない。そう一輝が思っていると、
「私が作りましょうか?」
「え?いいの?」
「あんな後先考えない技使ったんだから、反動で動くのも辛いんでしょ?」
よく分かってらっしゃる。今日初めて会ったはずなのに、もう十年来の友のように理解されている気がする一輝。
「門限も九時だから、早く買い物に行っちゃいましょ。これでも料理には自信あるんだから」
なんとも興味のそそられる話である。女の子が自分から手作りしてくれるというのは、そういった気がなくとも嬉しいのだ。
その辺、一輝も男の子なのだ!
「分かった。なら一緒に近くのスーパーまで行こうか。荷物持ちくらいするよ、ステラさん」
(むむっ。っと…なんか昔のステラの気持ちがわかった気がする。再戦を申し込んだりまでしたのに、いつまでも他人行儀じゃイヤだな)
「ステラ、よ」
「え?」
「これから一緒に生活するルームメイト兼ライバル兼友達が他人行儀なままじゃ気に食わないわ」
「えぇ……、それは抵抗あるなぁ。だってステラさんは本物のお姫様だし……というか、ルームメイトも友達もいいんだ?」
「むしろなりたいんだけど?というか、同室の人にお姫様扱いされるのは息苦しいからやめて欲しいのよ。正直疲れるわ。ただの友達扱いがいい」
(ただでさえ、
「ともかく!」
ビシッ!とステラは人差し指を一輝の鼻先に突きつけて、
「ステラって呼ばないと返事しないし、一日一イタズラするわよっ」
「一日一イタズラってなに!?」
怒ったような、でもどこか恥ずかしそうな可愛らしい顔で命令する。
さすがにお姫様相手に呼び捨ては抵抗があるが、……本人が疲れると言って嫌がっているわけだし、と言い訳を重ねに重ねて。
「……………ふぅ。わかったよ、ステラ」
結局一輝は、ステラの言葉に従った。
というか、出会って以降、ずっと会話のペースを取れていない気がする。お姫様の話術パない。
「うんっ。じゃあいくわよ、一輝!暴漢に襲われたら、一輝が助けてよねっ」
「はいはい。
でも僕より強い人に言われてもなぁ…」
「ちゃんとエスコートしてって意味よっ」
呼び捨てで読んだだけで、こうも嬉しそうに笑ってくれるのなら、これからもステラのことは呼び捨てで呼ぼう。
一輝はステラの笑顔に釣られるように微笑んで、そう思うのだった。
(これは、あなたの為の
過去の自分に試練を課す
ステラ 『手加減してごめん!』
一輝 『いいよー、でも力半分だったね』
ステラ 『そんな分かりやすかった?』
一輝 『これやっぱ、僕の負けじゃね?』
ステラ 『いいえ!私の負けよ!』
一輝 『くっ…強情な』
ステラ 『そっちこそ!』
一輝 『じゃあ決着は持ち越そう』
ステラ 『次は全力で叩き潰してあげるわよ?』
一輝 『やってやんよー』
二人 『だから他の誰にも負けんなよ!』
___
一輝 『お腹空いたー』
ステラ 『私が作る!呼び捨てにしてくれたら』
一輝 『荷物持つよ、ステラ!』
ステラ (満面の笑み)
だいたいこんな感じ
『なんか昔のステラの気持ちが分かった気がする』分かってない。
最後にステラちゃん、変なこと考えてますが、深い意味はありません。たぶんきっと、今後の指針でも練ってんだろ。
多分今後は(良くて)週一投稿になります。
圧倒的に
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《完全掌握》
珠雫出すところまで行こうとしたのに、朝練で終わった。
ネタが尽きてきた今日この頃
私は加々美の次くらいに珠雫が好き。メインヒロインよりサブヒロイン。それよりもっと、お助けキャラがいいという偏屈な作者です。
まだ肌寒い4月の早朝。
破軍学園の校門前には、二つの人影があった。全力疾走とジョギングを交互に行いながら、全くペースを乱さずに並走する二人。
黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンの姿が、そこにあった。
一輝には才能がない。それは、彼自身が誰よりも自覚しているし、だからこそ、こうして身体を鍛えている。いま行っているのは、二十キロのランニング。それも、全力疾走とジョギングで緩急をつけたことで、肺にかなりの負荷をかけている。同年代ではかなりの無茶だ。下手をすれば身体が壊れる。そんなトレーニングを、一輝は欠かさず行ってきた。
その為普段から早く起きる習慣ができており、模擬戦の翌日も自然と目が覚めた。
その時だ。
『あら、おはよう一輝』
声をかけられた時は本当に驚いた。自分より先に起きたらしいステラが、ジャージ姿で一輝に跨っていた。
ステラ曰く、そろそろ起きる頃だと思い軽いイタズラを仕掛けたらしい。心臓が止まりかけた。
鼻孔を擽る甘い匂いを間近に感じるし、なにやら柔らかい感触がすごい分かる。何より彼女が跨っている場所がマズかった。男性なら誰もが経験があるであろう、朝の生理現象が隠せないのだ!
急いで彼女に退いてもらったのだが、どこかニヤニヤとした顔を向けてきた時は恥ずかしさを覚えた。死にたい。なお、翌日からはやめてくれた。最初からやらないでほしい。
だが、トレーニングを始めた直後、そんなことよりも驚かされるコトがあったため、もはや気にしていない一輝である。
「まさか、ステラが僕と同じトレーニングをしてるとは思わなかったよ」
努力バカらしい驚きの内容である。ランニングのゴール地点である校門に到着し、スポーツドリンクを飲みながら呟く。
「そう?私は一輝ならこれくらいやってそうだなーと思ってたわ」
(実際、僕は前世でやっていたものと変えていない訳だし)
返すステラもスポーツドリンクを飲んでいるが、二人とも毎日行っているだけのことはあり、大量の汗を流してはいるものの、極度の疲労はない。
「そうじゃなくて、僕以上のトレーニングをしてると思ってたんだ」
「そうでもないわ。行き過ぎれば体調を崩すし、無理はしても無茶はしない程度に抑えてるのよ」
「それ、あんまり変わらないような…」
今日のトレーニングはこれで終了のため、部屋から持ってきたタオルで汗を吹きながら休憩する。もう少ししたら部屋に戻り、朝食にしなければいけない。
「ようやくね、始業式」
ふと、ステラが呟く。その視線の先には、正門にある始業式を知らせる看板があった。
「うん、そうだね」
一輝にとっては、感慨深いものがある。一年目はチャンスも与えられないまま、全てが過ぎ去った。
だが、今年は違う。新理事長・新宮寺黒乃のもと、すべての生徒にチャンスが与えられる。
待ち続けたチャンスの到来に、否が応でも気持ちが高揚する。それに、
「楽しそう――いえ、嬉しそうね、一輝。
―――もしかして、彼女でも入学するの?」
「うぇっ!?い、いや、彼女なんて居ないよ何言ってるの!?」
ニヤニヤと、それはもうニヤニヤとした顔でからかうステラの言葉に、大袈裟な反応をする一輝。その反応が余計にステラを助長――
「ま、一輝に彼女がいれば、私とのルームメイトだって断るはずだし、分かってたわ。一輝が会いたいのは『黒鉄珠雫』。違う?」
(僕も珠雫とは会いたいけど……今は僕がステラなんだし、というかステラになって、なんで珠雫がステラを度々いじめていたのか分かっちゃうし…はぁ)
することはなく、素面に戻って聞いてきた。
「珠雫のこと、ステラは知ってたんだ」
自分の考えていた相手のことをドンピシャで当てられ、流石に驚く一輝。こういう所で主導権を握られていることに気付かない。
「入試次席があなたと同じ黒鉄だったもの」
(
「でも、僕の考えていることも当てられると、ビックリするよ」
「一輝なら、そんなこと考えてると思ったのよ」
(《
「それはそれで見透かされてて怖いんだけど…」
「大丈夫よ。さすがに
「そのうち読めるようになるの!?」
(大丈夫、一輝もできるようになるよ。剣舞祭決勝戦は、それで序盤に有利を取ったわけだし)
平然と、いつかは読めるようになると宣うステラの姿に愕然としながら、どうやったらそんな芸当ができるのか、本気で考える一輝。
その姿を見て、ステラは、
「安心して。一輝なら、近いうちに使えるようになるわ」
(もともとは、《
「その、荒唐無稽な技
心を読む。まばたき等の意識とは切り離された無意識の身体反応すら、いつか読み切れるという技が、単なる技術ということに驚愕する。
するとステラが、ランニング前に行った打ち込みに使用した木刀を手に取ると、
「えぇ。………一輝、
「え――ッ!?」
突如、ステラの腕が
防御すら間に合わない、雷速の斬撃。それを、一輝は知っている。
「第七秘剣――『雷光』。……ど、どうしてそれをステラが――っ!」
模擬戦では、一輝が作り上げた七つある独自剣術は見せていない。その存在は知らないはずだ。今日まで、
知らないはずの技術を、一輝と同レベルで使ってみせた。しかも、『見てて』と言ったことから、それが一輝の技術と分かっててやった。
訳がわからない。そんな表情の一輝に対し、ステラは語る。
「私の
ステラ曰く、皇室剣舞は自身で一から創り上げた剣。その前は皇室剣技を習っていたらしいので、他の技術を身につける時間はない。でも実際には、多くの技術を身につけている。そんなことができるとすれば―――。
「ッ!……ま、まさか!」
あり得ない。一輝はきちんとした剣技を持たなかったが為に、この技術を身に着けたのだ。でも、そうとしか考えられない!
「そう。私も…あなたと同じ。あなたが《
そしてこれが、
(いつかこの技術は、一輝の生命線になる。なら、早い段階で教え、鍛えておいた方が良い)
あなたの考えを何度も当てた。その言葉に、一輝は最初は理解が追いつかなかった。その答えが、《模倣剣技》にあるというからくりも。だが少しして、考えの先読みは心当たりがあった。
「もしかして、初めて会ったときの……」
「正解よ。ネタ混じりにあなたが半裸になるのを止めたのも、この技術。《模倣剣技》を人に対して用いることで、
言葉に込められた感情や行動だけでなく、卓越した洞察眼をもって筋肉の緊張や発汗といった身体反応を読み取ることで、より早く、正確に掌握が可能になると、ステラは言う。
「パーフェクト、ヴィジョン……そうか!剣技も人も同じなんだ。剣技の型から歴史を紐解くように、攻撃から次の手を読み取り」
ここに至り、一輝はようやく理解した。そして一輝の言葉に合わせるように、ステラが続く。
「大刀筋から流派の心得を学び取るように、相手の動きから心理を
打てば響く鐘のように、ステラの言葉に一輝が続け、
「呼吸から創製の理念を暴くように、言葉と声音から思考を理解し」
「そして、筋肉の緊張や発汗から、それを生じさせる
最後にステラが締めた。これが、《完全掌握》のからくり。やっていることは、《模倣剣技》と変わらない。だが、これには《模倣剣技》にはない優位性がある。
「《
「なるほどね。事前に情報を分析し性格を解析しておけば、より効果を高められそうだ」
「やってることは《模倣剣技》と同じだから、一輝も使えると思うわ。筋肉の緊張や発汗なんかは、洞察眼を更に磨く必要があるけれど、できなくても十分掌握は可能よ」
つまり、現時点の一輝でも、《完全掌握》を使えるだけの力量があるということだ。筋肉の緊張や発汗を読み取れれば、掌握までにかかる時間や効果を上げることができるとステラは言う。
「じゃあステラは、僕のことをほぼ掌握できてるってことか」
「ここ数日でかなり精度も上がったわよ?なんなら今一輝が、
ステラが言ったと同時に、第一学生寮の方からチャイムが聞こえた。朝七時半。
食堂が開く時間だ。
「えっ……あ!そ、そうだったね!早く寮部屋に戻らないと、食べる時間が無くなる。急いで戻ろうか、ステラ」
流石にそろそろ戻らないと、食堂で食事を取る時間が無くなってしまう。そんな時間になるまで話してしまったのもあるが、一輝は今、自分の新たな可能性に興奮し、完全に時間を忘れていた。
小休止するつもりが、すっかり校門で話し込んでしまった二人は、もう一度だけ始業式の看板に目を向ける。
「一輝、遂にはじまるわね」
「あぁ。七星剣舞祭の代表を掛けた戦いが、漸く始まるんだ」
「《完全掌握》を教えてあげたんだから、負けるんじゃないわよ?」
「そっちこそ、僕のときみたいに、手加減して負けないようにね」
笑いながら、二人は寮に向かって駆け出した。
どうせ翌週の火曜日に《完全掌握》できるようになるし、ヒントくらい教えたろ的な
そしたら完全に理解しちゃった的な
興奮してお食事忘れちゃった的な
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黒鉄 珠雫
ここまで十話。短いですし、実はまだ原作一巻の半分にも届かないというヤバさでございます。
UA30,000を突破いたしました。
始めて一ヶ月も経たず、話数も十話と少ないのに、多くの方に見ていただいて嬉しい限りです。
どういうことだ。
その思いで僕の頭の中は埋め尽くされていた。
珠雫がここに来るのは、予想できていた。前世でもそうだったし、今世でも同じだろうと。
でも、なんで―――
珠雫が
始業式は前世と相違なく、クラスも一組で変わらなかった。折木先生は変わらず吐血したし。
前世で僕がそうしたように、一輝が先生を保健室に連れていき、戻ってくると解散を伝えた。ここまでは、前世と全く同じだったし、日下部さんが来るのも予想通りだった。全く以て前世と同じ。だから、あの可能性を忘れていたのかもしれない。
ステラの魂が、別の人に宿った可能性を。
__________
「せんぱぁ〜〜いっ!!」
ひしっ!または、ぎゅっ!と効果音がつけられるような雰囲気で、一輝に全力で抱きつく様子にステラは、こんな事もあったなぁ…と思う。
一輝に抱きついてきたのは、日下部加々美。前世ではクラスメイトで友達、神出鬼没な新聞部部長その人だ。いつの間にか倉敷君との戦いをすっぱ抜かれたのはいい思い出だ。
そんな加々美は、一輝と話してみたいクラスメイトの意を汲んで大袈裟な行動に出ている。無理矢理でも一輝との距離を縮めて、親しみやすい人であると周囲に知らせようとしているのだろう。その心遣いに、前世ではかなり困ったが。
そうこうしている内に、いつの間にか一輝が女子たちに囲まれていた。取材させてください!とか言って加々美が抱きついているのが目に入る。
と、
(なんか、つまらない……)
もやもやするというか、ムッとするというか…端的に言って、面白くない。そんな、よく分からない感情の波に苛まれ、つい――
「良かったわね、
「な、なんかステラ、怒ってない?」
「べっつにー?抱きつかれて表情が情けないことになってる人になんて、何にも思ってないわよ」
こうして一輝にあたってしまう。八つ当たりなのは分かっているが、どうしても思ったことがそのまま出てしまった。
いやいや、胸を押し付ける加々美が悪い。これはきっと、昔の自分を客観的に見て自己嫌悪しちゃっただけだと、ステラは自分に言い聞かせる。
(はぁ…。一輝ってやっぱり、女の子の耐性が無いよなぁ。でも、
胸を押し付ける強さが増した。一輝はタジタジでまともに対応できていない。
そろそろ助け出そうか。いやいや別に嫉妬なんてしてない第一精神は同じなんだからそんな気持ちを抱くのは色々ヤバイ。と、内心で捲し立てて理由とか理屈とか言い訳とかとかとか。
「ちょっとそろそろ―――」
一輝を放して、困ってるわよ。そう鉄壁の理詰めカッコかりをして、救出しようとした時――
「おいセンパイ、オレたちともお話しましょうや」
敵意を孕んだ粗暴な、獣の唸り声にも似た声がかかった。
(あぁ…もう。最近は前世の細かな事を忘れるなぁ。なんで彼が絡んでくるのを忘れてたんだろ)
こんな事になるなら、もっと早く救出すれば良かった。というか、最近では前世にあった細かな出来事を思い出せない。デパートの解放軍や桐原君、倉敷君との戦い。今の時期から一番近い事柄で思い出せるのは、これだけだ。尤も、転生して15年が経ってなお、そこまで覚えていれば十分かもしれないが、ステラは気付かない。
それは、目の前で繰り広げられる敵意むき出しの会話に集中しているからだ。今にも霊装を顕現して襲いかかってきそうな5人組に対し、一輝はなんとか宥めようと奮闘するも、彼らは聞く耳を持たない。
(これはまぁ、一輝がなんとかするかな)
技術に関しては、前世の自分自身と相違ない力を持つ故に、ステラは心配しない。
いつの間にか相手が霊装を構えていようが、黒鉄一輝を相手にするには荷が勝ちすぎている。
「先輩、私ちゃんと正当防衛だって証言するよ!だから、やっちゃってっ!」
「―――いや、その必要はないよ」
そう、必要ない。何故なら
「霊装を出すまでもないわ」
絡んできた真鍋を除く取り巻き四人を一瞬で
「あ、あれ。ステラ、………なんか教室の空気が冷たいんだけど…」
「そりゃ、限界まで手加減して
「でもこれ、ステラもできるよね?」
確かにできる。前世でもやったし、今の五人の動きも普通に反応できる。
「確かにできるけど、今回絡まれたのは一輝だもの。手を貸しちゃ悪いかなって」
ステラが、自分もできると言ったことに周囲が驚愕した、次の瞬間、
パチ、パチ、パチ……………
教室の入り口から、拍手が聞こえてきた。
(ついに来たか)
ステラだけは、誰が来たのか察した。確信を持って視線を向けると、そこには廊下から差し込む陽光を背に、一人の小柄な少女が立っていた。
短い銀髪に、淡い翡翠色をした瞳。
全体的に色素の薄い容貌の、強く人を引きつける美少女。
「雑魚が何人いようと関係のない強さ。流石ですね。―――お兄様」
(あ、れ―――?)
なんだ、これは……?ステラは何か、決定的な違和感を感じた。前世ではあった、全身から感じる儚さが無く、その瞳には、僅かに
何より、その身から感じる魔力が、前世のそれより
「珠雫―――ッ!!」
ハッとして、ステラは現実に引き戻される。
容姿は、完全に珠雫だ。だが、一輝に抱きつくだけでキスをしない珠雫の中身は、決定的に違った。見極めが、出会い頭のキスという所が色々とおかしいが、それはさておき。
兄と妹の感動の再会を周囲は邪魔をしないよう、只々眺めていた。ただ一人、カシャカシャしてる新聞部部長がいるが、ステラは軽く小突いてカメラを奪う。『兄妹感動の再開!二人の愛に迫る!』なんて書いてるメモもついでに。
スクープがぁぁああ!とか言ってるが知らない。メモを破き、新しいページに『俺の腕でMOGAKE 鬼畜なルームメイトと過ごした皇女の密着72時間に迫る!』と書き込んで突き返す。端っこにすんごい小さく『現実に存在する人物とは一切関係ありません』と書くのを忘れない。間違いではない。前世の話だもの。
鼻血を吹いて、特大スキャンダルきたーーー!とか言ってるけど、後で気付いてガッカリすると良い!
「すすステラちゃんっ!後で取材させてね!」
「ええ。良いわよ。事細かに詳細まで語ってあげるから」
「やったーーっ!!」
鼻息荒く、絵文字にすれば( ´Д`)ハァハァとしてる加々美だが、全て嘘と知ったらどんな顔をするだろうか。百パー殺されるな。と思い、メモを最後までよく見なさいと言っておく。
あ、崩れ落ちた。
加々美と戯れるのはこれくらいにして、珠雫について考えねば。よくよく感じ取ってみると、魔力量はステラ自身の半分以下ではあるが、平均の十倍はあるだろうか。前世の珠雫は平均をやや上回る程度だったことを考えると、やはりかなり増えている。
一輝との会話から少しずつ、その精神性を理解していく―――と。
(んんん………??)
なんだろう。既視感にも似た、
まだ途中だが、《
「
その瞳には、
「はじめまして、で良いのかな?
「
「君が、ここにいるなんて思わなかったわ」
「まだ混乱しているなら、これで分かるかしら。
ひれ伏せ。―――《
言霊と共に顕現するは、彼女の身長をゆうに超える斬馬刀。刀身には爬虫類のような蒼い鱗が全体的に広がり、自然と珠雫の周囲に霧が立ち込める。その霧は意思を持つかのようにうねり、捻り、翼を持つ胴体の長い東洋龍のようにも見える。
「あ、あははは………」
どうやら、間違いないらしい。
でも、どういうことだ。彼女がここに居るのは事実だが、なぜ彼女がここにいるのかが分からない。だって、僕は死んだからここにいる。まさかステラも死んだのか?七星剣舞祭のあとの世界で。それとも、寿命を迎えてからここに来た?
「し、珠雫!ここで
「あたしが
「訳が分からないよっ!?」
一輝が霊装を出しちゃいけないと窘めているけど、それで完全に分かったのだから珠雫はけろっとしている。
「でも、ステラは分かったのよね?」
「うん。……うん。分かった。何でかは後で聞きたいけど、とりあえず、
「二人共、知り合いなの?すんごい砕けた口調なんだけど…」
確かに、
「
「つまり、僕との時みたいに、波長が合った、と」
理解してないけど、分かってはもらえたらしい。詳しくは説明できないから、ある程度で納得してもらえてよかった。
いつの間にか珠雫は霊装を消し、ステラと向かい合うように立つと、
「これから時間ある?少し話しましょう?」
「良いわよ。私も話したいことが山ほどあるわ」
話そうと提案し、ステラは快諾。もはや一輝は置いてけぼりを食らい、二人で教室から出ようとする。周囲の呆然とした雰囲気もなんのそのだ。
「ではお兄様。あたしはこの人と
「今日は遅くなると思うから、夕飯は珠雫と食べてくるわね、一輝」
「う、うん分かった。分からないけど分かった」
一輝の返事を聞き、二人は揃って教室から出る。身長が違うから歩幅も違うが、自然と二人の歩くペースは一致していた。
__________
「改めて、久しぶりね。一輝。いえ、この場合はステラと呼んだほうが良い?」
「ここなら誰もいないし、前世の方で良いよ。違和感は凄いけどね、ステラ」
誰もいない校舎裏で、二人は対面する。互いに七星の頂きをかけて競い合った実力者。感知範囲は広く、周囲百メートルに人がいないことは分かっているし、その圏内に魔力反応もないので、何かの異能で会話が聞かれる心配もない。
「中身が一輝だって知ってるから、さっきまでの女の子口調は笑いを耐えるのが大変だったわ。似合わないもの」
「流石に、皇女が『僕』なんて使うのはまずいからね。その辺は、ステラの方が分かるだろう?」
もしこの会話を誰かが聞けば、物凄い変な会話だろう。珠雫はステラのことを『一輝』と呼び、ステラは珠雫を『ステラ』と呼ぶ。口調も今までの二人とは比べ物にならない程だ。
「それで早速だけど、ステラはどうして、この世界に?僕は決勝戦で死んじゃって、気付いたらここにいたんだけど」
「あたしも同じよ。一輝の上半身と下半身をお別れさせたと思ったら、一輝の剣が私の心臓を貫いていたの。一輝が先に死んじゃったから記憶がないだけで、あの決勝戦は勝者無しで終わったのよ」
まさかの事実発覚である。というか
「じゃあ、最後の試合は引き分けなわけか」
「あたしとしても、こうして目覚めて再戦のチャンスを与えられたと思ったけどね」
僕もできるならそうしたい。そうステラは思う。でも、七星剣舞祭の決勝戦はこの世界の一輝と戦う約束をした。もし試合相手が前世と同じになれば、珠雫とは当たらないだろう。その事については、あまり言及しないでおこう。
「そういえば、ステラの今の異能って何?」
先程見せてきた、霧でできた東洋龍は、前世の珠雫では成し得なかったものだ。それができるということは、ステラの魂が《竜》という概念を引っ張ってきたとしか思えない。
「あたしも予想でしかないけれど、
「それはまた…僕の天敵だね」
炎で形作られた竜と、水で形成された龍。どちらが有利に試合を運べるかは一目瞭然だろう。その事に苦笑し、負けられないな、と思っていると、
「……………それでもアナタなら、不利もひっくり返してくると思っていたわ」
その言い方に、違和感を覚えた。なぜ、過去形なのか。
「『思っていた』っていうのは、どういうことだい?」
その問いに、珠雫は断言する。
「言葉通りよ。一輝、
「え―――?」
弱く、なった?そんなつもりは無かった。鍛錬だって欠かしたことはないし、
それなのに、珠雫はステラが弱くなったと断言した。
「じゃあ聞くけど、なんでお兄様との模擬戦、
「それは、一輝の力を見ることが目的で――」
「だからおかしいのよ」
「だから、それの何が、」
途端に語調が強くなる珠雫の言葉に、ステラもまた釣られるように苛立ちが募る。だがそれは、次の一言に一瞬で冷やされた。
「昔のあなたなら、
「っ―――!」
「魔力が増えた?異能を使えるようになった?
「何甘いこと言ってんのよ一輝!!」
前世を彷彿とさせる大声は、周囲には聞こえない。珠雫が叫ぶ前から準備し、周囲を水のヴェールで包み込み、音を遮断していたのだ。ステラに気付かせることもなく。
「アナタ、何年命がけの戦いから身を引いた?」
「何年って―――あ………っ」
言われて、漸く気付けた。前世の
それが、今はどうだ。
一年?二年?いやもっと前から。それこそ、
確か、確か―――
「異能の力だけで、勝った………」
ステラとして生まれ直してからただの一度も、命懸けになるような綱渡りの試合をしていない。
「やっぱりね。気持ちは何となく分かるわ。あたしだって、前世では天才と持て囃される事に嫌気が差したから、日本に来たんだし。
でもね―――」
だからこそ、あなたの
その言葉が、ズンとステラにのしかかった。
嘘予告
力ではなく、魂が弱くなったことを自覚したステラはもう一度、一から己を磨き直すことに決めた。
「最初に謝らせてください。桃谷先輩」
「な、んだよ、この魔力は―――っ!?」
「私の
ステラの全身を、鮮やかな赤の魔力光が包み込んだ。
「《朱羅刹》」
たった一秒。
試合開始直後、緊張から心と身体が噛み合わなかった一輝は苦戦する。
「君には卒業がかかってるんだからさぁ?」
誰もが嘲笑する中、ステラの声が響いた。
「―――黙りなさい」
普通に話す程度の声量にも関わらず、会場全体に響き渡ったその声は、一輝の意識を身体と噛み合わせる。
「捕まえた。そして僕はもう君を逃さない。
僕の
「何だよ………これ―――っ!?」
その会場は、異様な雰囲気に包まれる。気温がマイナスまで低下した場内は、小柄でありながら誰よりも巨大に見える
雷使いの上級生は、低下した気温に震え、一瞬体を硬直させてしまい、それで全てが終わった。
「ここは、あたしだけの世界。《青色支配》」
フィールド全体の水分を掌握した珠雫の支配対象には当然、
もはや、相手に勝ち目はない。血液の流れを強制的に操作され、身動き一つ取れず、抵抗すれば血流が止められる。
「り、リザイン……」
「ようやくアナタと戦えるのね、ステラ」
「私も楽しみだよ、珠雫」
「「今度こそ、決着をつけましょう」」
前世から磨き続けた
幻想の生物をその身に宿す二人の怪物が今、激突する。
「《
「《蛇龍変化》――っ!」
その身を炎を纏う巨竜と水のヴェールを纏う巨龍に変化させた二人は、さながら神話のごとくぶつかり合う。七星剣舞祭の会場は既に役に立たず、二人はなおもはるか上空で戦う。
「《
「《蒼鱗殻龍》」
超高温の炎を纏った爪による攻撃を、龍の概念によって形成された防御鱗で防ぐと、
「《
「《
本来は百メートルを超える焔の剣と同じく百メートルを超える超高圧水流の剣が、その威容を
戦いは、まだまだ終わらない。
その頃一輝は、この神話対戦を繰り広げるどちらかと決勝戦をすることに、冷や汗をかいていた。
「これ、事実上の決勝戦じゃだめかな……?」
折角、王馬兄さんに勝って決勝進出を決めたのに、次こそ本当に勝てる気がしない一輝だった。
ちなみに、王馬くんもこの二人の戦いを見て震え上がっていたとか。で、悟った。
「《竜》か《龍》そのものを持つアイツらに、俺の《龍爪》では足りんか…。ふっ、それに、
同じ龍とはいえ、爪だけでは、ダメージは与えられても決定打にならないと思い、
しかも一輝くんをライバル認定し、もっと己を磨き再戦を誓う。
王馬くん、強化スタート
うそだよん
はーいネタ切れー
珠雫ちゃんはステラちゃんでした。
ロリっ子が巨大武器ブンブンするロマンを実現していただくため、このように。予想していた人はいただろうか。
霧でできた龍。見た目の元ネタは金色のガッシュ‼に登場するパティの『スオウ・ギアクル』。わからない人はスオウ・ギアクルで検索。面倒なら、ドラゴンボールのシェンロンにコウモリみたいな翼をくっつけてください。似たような感じになります。但し、体色は白か水色。
一輝とステラ(精神的ボーイズラブ)
ステラと珠雫(物理的ガールズラブ)
三人によるくんずほぐれつ という三つのルートが出現しました。三人の明日はどっちだ!
原作のユリちゃん☆、真鍋が絡んでくる所は大胆カット。色んな人ので読み飽きてると思った。
実は弱くなってたステラ(一輝)
これは最初から考えてました。いや、うん。誰だってさ、突然大きな力を持てば、油断もしちゃうんじゃないかな。模擬戦の決着の話のときに、ボツバージョンがあったのはこれが理由。
独自解釈ですが、原作一輝くんの気質は全力の相手には全力で応えると思うんですよ。また、勝負事に真剣な所があると思います。だからこそ敢えて今作では模擬戦で、一輝らしからぬ『手加減による負け』を書きました。
前世の一輝くんとしての精神がそのままであれば、『手加減して勝ちを譲る』ことは『圧倒的力の差で叩き潰す』事よりも酷いことだと、分かっている筈です。相手のプライドがズタズタですからね。
それに気付けていないのは、ステラとしての生が彼の精神を、正確には黒鉄一輝としての気質を鈍らせたということです。
最初は書いてる時に、感想で批評されると思いました。一輝らしからぬことをしてるので、『原作ちゃんと読め』『このステラは一輝じゃない』くらい言われるのを覚悟してましたが、言われずにここまで来てしまった…(;^ω^)
ステラ自身も気付いていない無意識的なモノだったので、読者様に勘付かれないように、ステラの
からかいが多かったのか、ストーカーみたいになってしまいましたが(-_-;)
模擬戦の話の辺り、特にステラの心象で『最初から、僕の敗北で決まっている』は一輝らしからぬものでしょう。全力の相手にすんごい失礼な考えですよね、これ。
また、珠雫(ステラ)ちゃんに、そういったことが無かったのは、一輝の逆の現象ゆえです。最高峰の才能が、小さな器に閉じ込められてしまったために、油断も慢心もなく鍛え続けたのが、この珠雫となっております。ちなA級。
嘘予告
嘘です。感想で、王馬くんのメンタルを心配する方がいたので乗っかりました。安心して!王馬くんはあの程度じゃへこたれなかったよ!
むしろ一輝をライバル認定して余計に強くなって戻るつもりだよ!
この辺で一度、ステラ編を切ろうと思います。
『転生先』の性質は、色んな人への逆行憑依ですので、そろそろ他の人もやろうかと。
また気が向いたら続き書きますが、二、三人は別世界を書くかと。
あと、多分誰も得しないけど、これの連載版をその内に書くかも。そしたらこっちは、どっかでルート分岐かな。
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黒鉄珠雫は見守りたい
プロローグと呼んでいいのか怪しい何か
ステラ編より前から考えてたけど、全然かけなかったキャラ。すんごい短い。掴みというか、何というか。
たぶんステラ編より需要ないな
剣を振るう
その動きは未だ稚拙で無駄も多く、決して綺麗とは言えない。
だが、その姿は綺麗だった。
才能がなくても。不当な扱いをされても。彼は全くに諦めていないから。自分という可能性を。
その姿に、
「―――おにぃさま…」
かつて、自分を慕ってくれた大切な妹が使っていた呼称が、まだ少し舌足らずな口から洩れる。
「ん?どうしたの、
汗をびっしょりと滴らせながら振り向いた
陰ながら見ていて、小声で呟いたはずが聞こえていたらしい。その事に驚き、私は物陰に隠れてしまう。どうしてこの兄は、こうも私の声を必ず聞きつけるのだろうか。
物陰で数秒蹲る。そうすることで平静を取り戻し、兄の前に出た。この頃からかつての面影を既に感じる。昔は若干幼い顔立ちが不本意ながら好評だったらしいが、今のお兄様は本当に幼い子どもの顔だ。いや、まだお互い
「きょうも、たんれんですか?」
「うん。ぼくには剣しかないから。人よりすごく才能がないから、人よりたくさん剣を振るんだ」
「おにぃさまは、まどぅきしになるのですか?」
「それが、ぼくの夢だからね」
昔、珠雫に言われたことを思い出す。『お兄ちゃんは魔導騎士以外なら何にでもなれるんだから、そっちを目指した方がいい』と。でもそれを私が、いや僕が口にするのは、かつての僕のあり方を自分で否定することになる。それだけは、しちゃいけない。
かつての
記憶の殆ども欠落し、断片的なままだ。
「――なれますよ。おにぃさまなら、ぜったい」
「しず、く…?」
その道の先を知っていながら、
「おにぃさまならきっと、どんな運命でも斬り裂ける」
ほぼ全てを失ってなお、
「己の
教えずとも、黒鉄一輝は己の力で切り拓く。下手に協力するのは、黒鉄一輝には邪魔なものだ。
「英雄へといたるその道を、おにぃさまのすぐそばで見させてくださいね?」
だから私は、お兄様の行く末を見守りたい。
珠雫ちゃんでした。
今プロットを作っているのは、珠雫編含め三人。しかもステラ編の連載版を加筆修正して作成中なので、次回は遅くなる。
今回のは珠雫編スタートって掴みなだけ
舌足らずな珠雫を妄想して可愛さに吐血しました
続け……
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プロローグと呼んでいいのか怪しい何か2
今回までの二話で、原作前までの拙作珠雫ちゃんの経歴をダイジェストにお送りしております。
記憶は、ほとんど無い。
覚えているのは、使っていた技術と捨てきれない
たったこれだけ。それ以上を思い出そうにも、全てが真っ黒で思い出せそうもない。だからこそ、『僕』ではなく、私でいられるのだけれど。
なんで死んだのかも、思い出せない。
唯一確かなのは、
自覚したのは四歳だった。
丁度、お兄様が『何もできないお前は、何もするな』と言われた頃でしょう。というか、お兄様がそう言われた時にお父様の部屋の外で偶然聞いて、思い出したのだけれど。
私が黒鉄一輝だったことを自覚し、最初は混乱した。だって、お兄様はあそこにいて、でも自分の中には高校生までの黒鉄一輝の記憶が微かにある。混乱しない方が無理だと思う。
だから、確認することにしたのだ。仮称前世で使っていた技術を全て。その結果分かったのは、ほとんど使えなくなっていること。
魔術戦に特化した身体に、前のような洞察眼は無かった。鍛えても筋肉は付きづらく、体力もかつてに比べればかなり少ない。
《
尤も、それでも自覚してからは鍛え直したのだ。前世でも最初から洞察眼が優れていた訳ではなく、体力だって無かった。
身体に馴染ませるように鍛え続け、ようやくつい先日、前世で独自に作り上げた剣術である、《第一秘剣》から《第七秘剣》を実戦使用できるまでになった。
洞察眼は、様々な戦闘を見て鍛えたのだが、《模倣剣技》と《完全掌握》を使えるほどには未だ至っていないが、手応えは感じてきた。
体力トレーニングも欠かさず行い、ようやく十キロ走れるようになった。それでも前世の半分だ。先は長い。
《一刀修羅》は、黒鉄一輝の
また、前世よりも小柄なこの身体を十全に活かせるよう、技術にも磨きをかけた。
そして皮肉なことに、私が『僕』だったことを自覚する前から使えたのは、加速というプロセスを無くした、初速が最速の剣技。唯一、『僕』が
世界最強の剣士 《比翼》のエーデルワイスが作り上げたものだ。『僕』はそれを模倣し、私になって無意識のうちに、記憶にある彼女と同質にまで鍛え上げていた。
最初は驚いたが、黒鉄家の人の話では、私が赤ちゃんの頃、目にも止まらない速さで“はいはい”をしていたらしい。なんか納得した。
当時は『スワッ!?転移かっ!?』と騒がれたらしい。異能と間違えられる程の移動速度とか…。
接近戦の才能が乏しい身体でこの剣技が使えるのは皮肉っぽいが、今日まで鍛え続けて自分なりの形に昇華させることができた。
もちろん、異能も鍛え続けている。《水》を操る異能は攻撃よりも防御よりの力。この身体になったことを恥じないよう、かつての珠雫を超えられるよう努力した結果、
それはつまり、肉体の損傷が少なければ、死者蘇生すら可能にする。
それが決定打となり、私はA級に上がった。黒鉄家としては、大兄様と合わせて同年代に二人のA級
また、《水》を『僕』の剣技に組み込む鍛錬も
そのため、《緋水刃》は攻撃力の補完程度しか使いみちが無くなってしまったのも理由にある。
そうして作り出したのが、
《水麗》は補助的な技で、エーデルワイスの剣技とは別に血流を操作することができる。これがあれば、新宮寺理事長もごまかせると思う。しかもあの剣技と組み合わせると、物理限界に迫る動きができる。昔は失敗して、物理限界を突破して身体をボロボロにしたけど。
《
それがきっかけで日本政府に、私が運命の鎖を壊していることがバレてしまった。運命を乗り越えた者が世界には何人もいて、そうした人達を総じて《
『全てを呑み込む大海を創り出す、当代最強の魔女。生み出されし深海は、無限の如く全てを
ゆえに、
__________
今の珠雫ちゃんにできること
なお、原作珠雫も使えるものは除く。
エーデルワイスの剣技
《一刀修羅》(偽)
《一刀羅刹》(偽)
《第一秘剣》〜《第七秘剣》
《終の秘剣 追影》
その他前世で模倣した技術(天衣無縫とか)
物理限界の突破(失敗談) など
前話で『この身体でできたのは、たった一つ』とあったのは、エーデルワイスの剣技。赤ちゃんの頃に特殊な神経伝達回路を無意識に使っていたため、いつの間にか習熟してた。
他の技術は、記憶を思い出し鍛錬して使えるようになった。
《追影》は今話に書いてないけど、結局のところ、《魔人》としての運命への強制力で『あらゆる運命を斬り裂く』って決定付けた、抜刀《一刀羅刹》なので、つかえるかなぁと。
《一刀羅刹》は《一刀修羅》とやってることはほぼ同じやし。全力を使い尽くすのに、一分か一振りかの違いだけやし。
物理限界の突破とか、どこの盤上の世界のケモ耳なのか。きっと強化コンクリートの試合場も踏み砕いちゃうぜ。
禁技・《
イタリアの《カンピオーネ》カルロ・ベルトーニの《
今では珠雫が作った海は立入禁止領域になってる。水が意思を持つようにうねり続け、あらゆるものを喰らい尽くしてしまうため。
発動時のイメージは、聖剣使いの禁呪詠唱にでてくる水の禁呪《
ガチで地図書き変えちゃったぜ
この珠雫ちゃんは、基本的に珠雫ちゃんです。
ステラ(一輝)ちゃんと違って、基本的に性格は原作珠雫ちゃんと同じ。ただそこに一部、一輝の技術が受け継がれた感じ。
実は小柄な体型がコンプレックスだったん。
怒ったら周辺地域が海の底。
禁技指定されちゃったぜ。
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黒鉄珠雫は名を名乗る
ステラ編を途中でぶった切ったら、お気に入りしてくれた人が少し減って悲しかった。珠雫編でまた少し増えたけど。
本当はネタ章も更新したかったのですが、設定が思いつかなかった。またエーデさんやったら、もうネタ章じゃなくてエーデさん編になっちゃうし。
ステラ編の連載版をスタートさせました。これの一分前に投稿。と言ってもまだ『転生先』と同じです。少し修正しただけです。
これの投稿一分後に、原作:賢者の孫でやってる作品も投稿しました。作風を原作に寄せてるので、合う人合わない人がいると思いますが、気が向いたらご覧ください。
(きっとこれは、私もやった道なのでしょう)
珠雫の目に、洗練とした動きで六人を一方的に倒した兄が映る。自分には、黒鉄一輝として生きた記憶がほとんど無いので、これをやったかは分からない。だが、心の奥底。魂が僅かに、懐かしいと感じているから。
「あ、あれ。ステラ、……なんか教室の空気が冷たいんだけど」
「そりゃそうでしょ。それだけの力を見せればこうなるわよ」
(彼女は……)
兄と呆れたような表情で掛け合いを繰り広げている、紅蓮に燃えるような髪色の女性。その姿に、先程以上の懐かしさを感じて。
「力を見せたって……怪我しないように限界まで手加減したつもりなんだけど……」
「限界一杯手加減して
でもそれ以上に、兄の洗練とした動きを称賛したかった珠雫は、無意識に拍手をしていた。その音は、静まり返った教室に反響し、否が応でも珠雫に注目が集まる。中には珠雫の正体に気づき、驚愕したり、逃げ出したりする者もいた。
(ここまで注目を集めてしまうなんて……こうなればヤケね)
「雑魚を寄せ付けない圧倒的な強さ。さすがですわ。―――お兄様」
注目を集めるつもりなんて更々無かった珠雫は、開き直って前に出る。格好良くなった兄の姿ももちろん視界にきちんと入るが、横の
「しず、く……」
そんな思考は、愛する兄の声音で霧散した。
「はい。お久しぶりです。お兄様」
「珠雫―――っ!!」
(わわわっ!お兄様が近寄ってきた急いできたから汗臭くないかな手を取ってくれた格好いいわお兄様かつての自分を自画自賛なんてしてないんだから―――っ)
表面上では、嬉しさをわずかに滲ませた表情で兄との再会をする珠雫は、思考がパニックになっていた。
「うわ、やっぱり珠雫か!こっちこそ本当に久しぶり!なんだかすっごく大人っぽくなったね!見違えたよっ!」
「当然です。四年も逢っていなかったのですから。変わらない方がおかしいですよ」
(やった!お兄様が褒めてくれた大人っぽくなったって言ってくれた成長したのにすぐに私だと分かってくれた!)
「あはは、それもそうだ!いやでも嬉しいな!まさか珠雫から逢いに来てくれるなんて!今日こっちから探しに行こうと思ってたんだけどちょっと教室でゴタゴタがあってさ――って今はそんなことどうでもいいか。……ごめん、なんか突然すぎてテンパってるな、僕」
「大丈夫ですよ。私もお兄様に早く逢いたくて、ここまで走ってきちゃいました」
本当に脇目も振らず全力疾走してきた珠雫は、恥ずかしげに呟く。
「ねぇイッキ。その子ってもしかして……今朝話してたイッキの妹さん?」
(む、なんですか兄妹の感動の再会に水を刺さないでほしいですね田舎皇女っ!)
「え、あ。ああ!うん!ステラ、みんなにも紹介するよっ」
(うっ、お兄様が私を紹介する…となるとこの女は邪魔ですが、お兄様の思いを汲むのも良き妹の努め。ここは再会の喜びに頬にキスでも落としたかったのですが、我慢いたしましょう。田舎皇女ユルサン)
「初めまして皇女様。よろしくするつもりはありません消え失せなさい」
「んなぁっ!!」
「ちょっ、珠雫何言ってるの!?」
(あ、いけない。つい本音が)
「すみません。つい本音が」
「本音なの!?建前でも無理あるけどやっぱり本音なの珠雫!」
「ねえイッキ。アナタが言ってた妹ってホントにこの子なの!?物凄い毒舌じゃない!」
「いや僕も驚いているというかおののいているというか……」
「いやですねお兄様。珠雫は変わりありませんよ?今も昔も、誰よりお兄様が大好きなかわいいかわいいお兄様の妹です。………だから立ち入る隙なんて無いんでとっとといなくなりなさい泥棒猫」
後半でステラに向かい、貴女なんて邪魔なんですよと毒を吐きまくる珠雫。言いながら、珠雫はきつく、一輝に抱きつく。
「さぁお兄様。あんな些末な事より、もっと珠雫を感じてください。具体的にはギュッてしてください。寂しかった珠雫にお兄様を感じさせてください」
「ぅ……ぁ」
(これでもキスしないだけ譲歩してるんです、邪魔だけは――)
「だめぇぇぇええええっ!!」
(これが、世に言うフラグですか。そんな運命、
キスこそしなかったが、ステラによって引き剥がされた珠雫は、内心でごちる。
「ちょっとイッキ!何アンタ普通に受け入れてんのよ!しっかりしなさいよ!」
「ご、ごめんっ!なんか抵抗しづらくて…というか助かった!ありがとうステラ!」
(もういい。この女が、お兄様にどんな気持ちを抱いているのかは分かった。まぁたしかに?お兄様は格好良くて素敵ですもの。こんなチョロそうな人がごまんと惚れてしまうのは想定内。………だからといって想定内でも許せないんですよっ!)
「どういうつもりかしら」
珠雫の瞳が、ようやくステラのみを捉えた。まるで先程までは、兄との語らいに微妙に邪魔してくる面倒くさい相手程度の認識だったステラに、まっすぐと絶対零度の視線を向けている。
「どういうつもりはこっちの台詞よ!アンタこそ、イッキになんてことするのよっ!」
「懐かしさのあまり抱きついただけですが?四年も離れ離れだった兄妹の絆を、貴女は簡単に引き裂くのですか?」
「うっ…」
「そもそも、私はこれでも譲歩してるんですよ皇女様?本当ならお兄様と、この四年間の出来事を話したかったのに、その全てを堪えてハグだけにしてるんです。会って数日程度の浅はかな相手が邪魔しないでください」
「うっ……。で、でもアンタ、今にもキスしそうな雰囲気だったじゃない!」
「本当にするとも分からないのに、そんな理由で引き裂いたのですか。それに、私は合意の上でしかそんなことしません。しても頬です。外国では挨拶として行うような簡単な行為です。……さて皇女様、貴女はどんな理由があって、私とお兄様を引き裂くのでしょうか?所詮ルームメイトにすぎないお兄様に構いすぎじゃありませんか?そこの所、どうなのですか?ねぇ?ねえ?」
容赦なかった。実際、ちょっと言動はあれだったがやることはハグだし、大好きな兄と四年も離れていた珠雫目線で見れば、物凄く場に配慮した行いだ。前世の珠雫ほどアグレッシブにはできない。だから、キスしそうな雰囲気だったとか言う、とても浅はかな理由で引き剥がされたのは納得できないし、珠雫は更に追い打ちをかけることにした。
「そもそも、貴女はお兄様の何なのでしょう?例えば、お兄様との模擬戦に大口叩いた挙げ句ボロ負けして?『アタシより強い人がいるなんて…ポッ』みたいな近世ライトノベルでも類を見ないチョロインさを発揮して?お兄様と恋仲にでもなっているなら?全く以って理解はできませんが仕方なく妹に嫉妬する狭量な人ということで大負けに負けて全殺しで許しましょう」
「珠雫それ全然許してないよねっ!むしろ許す気もないよね!?」
「ご安心を、お兄様。ちゃんと《青色世界》で生き返らせますので。………復元時に色々と欠けてるかもしれませんが」
「そ、そんなわけないじゃない!ア、アタシとイッキがこ、恋人なんて――ってアンタ最後なんてこと言うのよ!」
「あらあら?ならば何故、邪魔をするのでしょうか?どんな立場で?権利で?関係で?私とお兄様の行為を邪魔するのですか?私がやろうとしたのは、兄妹の仲が良ければ誰でも行うであろう極普通の行為です。恋仲でないなら、相応の理由があるのでしょう?もう一度聞きます。いい加減教えてくださいますか?
貴女はお兄様の何なのかしら?」
最後に問うたことを華麗にスルーし、終始珠雫のターンでめった打ちにされるステラは、もう我慢の限界だった。とはいえ、珠雫の方が言ってることは正論だし、ハグという
でも……
「さぁお兄様。幸い私は一人部屋で誰にも迷惑はかかりません。良い茶葉を仕入れたんです。四年間で話したいことも沢山できたのです。早く行きましょう」
でも、一輝のことは関係なく、このシズクとか言う毒舌女に言い返さないと気がすまないっ!!
「……関係なら、あるわよ」
だから、たとえ恥ずかしくとも言うべきだと覚悟を決めた。
「……関係あるから、イッキがアンタといかがわしい事をするのはイヤなのよっ!」
「別にいかがわしいことなんてしませんが、あえて聞きましょうか。―――ご関係は?」
なんか向こうは言ってるけど知ったことか。自分たちの兄妹とも友人ともライバルとも違う繋がりを、この場で証明してやるっ!とか考えているステラは、半分やけっぱちだった。
「イッキはアタシのご主人様なんだから!ご主人様がシスコンを拗らせた変態社会不適合者だと困るのよっ!!」
(
外野で眺めていた人たちは、『特大スキャンダルきたぁぁぁあああ!!』とか、お兄様が隠れ肉食系だとか言っているけど、まぁ肉食系ですよね。前世の『僕』もなんか赤い髪のどこかの誰かが好きだったような気がする。今の私にはほぼ理解できませんが。結構その人を独り占めしたいとか考えてたような考えていなかったような。どうでもいいけどとりあえずこいつコロソウ)
「本当、なのですか」
もし、もしも、前世での『僕』もそうだったとしたら、何かしら理由があるはずだ。だから珠雫も最後の理性で確認をした。たとえ聞いた限りでは、お兄様がすんごいナルシストみたいになっていても。『俺と同じ場所で寝ろ』とか、記憶が無くても言ってないことは分かるけど。
(こわ…)
凍てつくほどに冷たい問いかけが、一輝は率直に怖かった。否定しなければならない。でも残念なことに、今のステラの発言は、事実としては間違っていないから。
「ま、まぁ…ニュアンスにかなり悪意のあるバイアスが加わっている気はするけど、概ね間違いはない、かな」
ギリギリの言い訳だけして、肯定した。
実のところ、一輝がもし、これを否定していたら、珠雫はステラに攻撃を放つ準備をしていた。
だが、結果は肯定。だから、考える。
一輝の肯定に加え、ここまで観察したステラ・ヴァーミリオンという人の性格を考慮して。《完全掌握》が使えなくても、ある程度の性格を把握することは誰だってできる。そこから類推される初見での一輝への対応。かつての自分と全く同じ精神性を持つ一輝の行動。それら全てを統合し、推測して―――。
「―――あ、はは……フフ、フフフッ。なんだ。そういうことですか。あはははっ」
「し、珠雫?」
脳裏に残る僅かな記憶と今の情報を頼りに、全ての謎を解明した。そして、笑いが収まると、一輝に向き直り、
「そこの
淡々と、ステラに向かって心底おかしそうに言い放つ。決闘前に、ステラから提示した内容をそのままに。
まるで見ていたかのように言った珠雫の言葉に、一輝とステラは目を見開いた。
「そ、それはもう無しってことにしてるからっ。というか珠雫何で分かったのっ!?」
「ふふ、隠さなくて良いんですよお兄様?
言い当てられ、動揺混じりに弁解する一輝だが、いえいえ分かってますよと本当に正解をついてくる珠雫。そして、遂に皇女様とすら呼ばれず、あれやそれ呼ばわりされていたステラが軽く睨んできた。
「さっきからアタシのことをそれとかあれとかで呼ばないでくれるかしら?」
「あらあら?自分が負けるはずない!とか高を括ってボロ負けした下僕さんが何か言ってるわ」
「くっ!!」
「ねぇねぇ、どんな気持ち?自分で『負けた方は何でも言うことを聞く下僕になるのよ!』とか何とか言ったのでしょう?ねぇねぇ?言った挙げ句ボロ負けして自分が下僕になった人の感想を聞きたいわ?
NDK?NDK?と。まさに愉悦を浮かべた珠雫は、全力でステラをからかう。それこそ、ステラの周囲をグルグルと回りながら。ちょこまかとすばやい動きは、無駄に洗練された無駄のない無駄な華麗さを持っていた。どこかの水の女神みたいな、プークスクス!という変な笑い方も加えて、どんどんステラの羞恥と怒りのボルテージを上げていく。
(さっき邪魔されたんだもの。全力で仕返してやるわ)
たとえ、それをやる理由が単なる仕返しだとしても、自分は悪くないと言い張るつもりでいる珠雫。先にやったのは向こうだもん!と、小学生みたいな言い訳を脳内で繰り広げていた。
殺そうか悩んだが、それはやめよう。下僕とはつまり、兄の所有物。自分の一存で壊していい物じゃない。代わりに今の瞬間、この人を全力でからかい倒すっ!
とか考えてる珠雫は、かなり楽しんでいた。
そして膨らみに膨らんだステラの怒りが、爆発する。
「アンタ――いい加減にしなさいよっ!
傅きなさい、《
「ちょ、ちょっとステラァァ!?それは不味いって!それはダメだって!!物騒なものをしまって落ち着いてくれ!」
「止めないでイッキ!コイツだけはなんとしても倒さないと気が収まらないわっ!」
「だからってここでやったら停学だから――ねぇ聞いてる!?」
(あらら…完全に怒らせてしまったわね。でも、十分に仕返しして満足したし、さっきまでの分は終わらせるつもりだったんだけど…)
事情が少しばかり変わってしまった。
(まさかとは思ったけれどステラさん、私のことを知らないのね)
自身の所属する教室では、自分を知らない人はいなかった。でも、それは当然だ。
今ここに居ることすら、注目を集めた瞬間から怯え、逃げ出す者が僅かだがいた。なのに、ステラは自分に対して喧嘩を売っている。本気で倒したいと、刃を向けている。
だから――
「
「ってなんで珠雫もやる気になってるの!?」
「刃には刃を以って応えるのが、私の流儀なので。それに――」
(面白そうなんだもの)
今までに戦ってきた並とは違う、本物の才能。やり直してなお届かない、圧倒的魔力量。どんなに記憶がなくなっても、その魂は忘れない存在感。
「―――それに、私が全力でやっても、彼女は死にそうにないんですもの」
「っ!」
全力を出しても、相応に力をつけ、必ず期待に応えるだけのポテンシャルを持つ生まれながらの怪物。元B級の自分とは違う本物。
そんな相手、そう何人もいるとは思えないから。こういう全力を出せるかもしれない相手にはワクワクしてしまう所は、今世も前世も変わらない。それがたとえ、現時点ではありんこ同然だとしても、その潜在能力に期待を込めていた。
だからこそ、珠雫となって変化した霊装を構える。形状は日本刀のそれ。烏を思わせる漆黒の柄と、氷のような透き通る蒼銀の刀身。構えるだけで総身から立ち昇る剣気は、一輝をも上回る。これで遠距離主体の伐刀者なのだから笑えない。
そして、一輝もまた、珠雫の顔を見て息を呑んだ。妹が、ここまで好戦的な
(珠雫も、全力を出せる相手に飢えてるのか…)
それが分かってしまう。常勝。負けたことがないなら、まだ良い。努力の果てに、勝利を手にしているだけだから。でも、
(それでも、今のステラじゃ相手にもならないのは、珠雫も分かっているはずだ)
今なお、珠雫の剣気に圧倒されているステラが、珠雫と拮抗できるはずがない。一輝にすら剣技で及ばないステラは、魔術でも珠雫の足元にも届かない。それは珠雫が一番分かっているはずだ。
ならばなぜこんな事をしたのか、一輝には分からなかった。
「剣が震えていますよ、
「う、うっさいわね!これは武者震いよ!」
(両者の実力差を正確に感じ取っているからこその恐怖。それが感じ取れるだけ、ステラさんは強い。並大抵の相手は、何も感じないから)
何も感じ取れないのは、文字通りの桁違いに実力が違いすぎるからだ。アリが象を足元から見ても、単なる壁としか思えないだろう。つまりはそういうこと。大きすぎる力の差は、感じ取れる範囲にいるだけマシなのだ。
だから、自分にも届くやもしれない希望を込めて、今度こそ自己紹介をする。
「本当は、下調べもしてこない脳筋皇女になんて自己紹介する必要性も感じませんが」「アンタ、ケンカ売ってんのよね?」「何も知らない無知な貴女に、親切にも教えてあげましょう」
「改めましてステラさん。
私は《
禁忌の技で終焉を齎す者。
無限に呑み干す
次の瞬間、ステラの意識は闇に沈んだ。
その1
お兄様を睦み合ってたのに邪魔しくさってワレぇ
その2
下僕プレイですねわかります。
ボロ負けしてどんな気持ち?
私に教えてほちぃな?
その3
私を知らないとか無知蒙昧な脳筋皇女ですね。
仕方ないから教えてあげます能無しさん
大体こんな感じ。煽り耐性のないステラちゃんには耐えられんかったんやなって
後半の煽りが楽しかったです、まる
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《深海の魔女》
前回の続きのような…。思いつかんかったから、前回の補足的な話になります
「さて、こんなものでしょう。これ以上は、ステラさんの歯止めが効かなくなりそうでしたし」
ステラの意識を奪った珠雫は、ステラをそのまま一輝に預けた。
(ステラさんの実力は想定通り。やっぱり、まだ弱いですね。《抜き足》にも対応できていなかったですし、魔術を出すのは遠そうだなぁ)
「珠雫、今のは一体…。それに、ステラは大丈夫なの?」
「ご心配なく。異能を利用して、体内の水分を操作して脳への酸素の供給を少しばかり止めただけです。後遺症も無いようにしましたし、効果も弱めたので、十分程度で目を覚まします。それと、私はただ近づいて、ステラさんに触れただけですよ。お兄様も見たでしょう?」
「うん、見てた。でも、
流石だ。たった一度、一瞬しか見ていないのに、その事を見抜いてきた。もう自分にはできない、優れた洞察眼は非常に高い水準にある。
「フフフッ。それに気付くとは、流石ですわ。お兄様。そして、だからこそ私から言えるのは一つです。―――この学園でこれが使えるのは、私を含めて三人。一人は西京先生」
「あと、一人は?」
「さて?誰でしょう?……ですが、お兄様もいつか必ず、戦う相手です」
前世では戦ったか分からないが、その確信があった。彼女は七星剣舞祭常連で、去年もベスト4。順当に行けば必ず対戦するだろう。そうでなくても、きっと『僕』の《一刀羅刹》は、彼女がいたからできた技だ。
「いや、良いよ。今ので何となく分かったから」
「そうですか」
自分を認識できなくさせる体術。そんな技が使える人が、並の相手であるはずがなく、珠雫の口調から剣舞祭常連と分かる。だから一輝は、珠雫の言う三人目が誰か理解した。
伝わったなら良かったと珠雫は思う。尤も、こんな体術、もう一人の剣舞祭常連である《
「生徒会長は、そんな技術も持ってるんだね」
「やはり分かりますか。えぇ、私は独力ですが、彼女は《闘神》南郷が教えたそうです。以前立ち会った際に教えていただきました」
「《闘神》南郷寅次郎と……っ!?」
「シニアの合宿で少しだけですがね。会長より筋がいいと褒められました」
前世から使い方を知っていて、ずっと鍛錬を続けたのだから、当然といえば当然だが。
(そろそろ部屋に戻りましょうか。お兄様には会えましたし、今の私の動きは、大多数には恐怖しか映さないから)
目の前にいるのに、認識できなくなる。そんな技術を持つ存在に、静観していた多くの一組の生徒が呆然としていた。その目の奥には、確かな恐怖がある。この技術だけならマシかもしれない。だが、相手は《
「それよりお兄様。ステラさんに伝言をお願いしても良いですか?これ以上ここにいても、皆さんを怯えさせるだけでしょう」
「あ、うん。分かった。でも珠雫、皆はそんなこと思ってないと」「思ってますよ」
だから、たとえ兄の言葉でも遮って。同学年だからこそ、差を歴然と感じ、中にはシニアで戦った者もいるだろう。その多くが最初にこの教室に入った時から逃げ出し、そうでなくとも恐怖していた。その事実に、少しばかり寂しさを感じるが、それは置いておく。
「では、こう伝えてください」
__________
「あ、目が覚めた?ステラ」
「あ、れ………?アタシ、確か」
珠雫が教室を出ていき、言った通り十分程度で目を覚ましたステラに、一輝はお茶を渡しながら話す。今日はもう用事もないので、既に教室には二人しかいない。
「珠雫に気絶させられたんだよ。と言っても、寝てたのはほんの十分くらいだ」
「そっか……。アタシ、シズクに負けたのね」
「そもそも、珠雫の不意打ちみたいなものだけどね」
自己紹介が終わったと同時に接近し、触れたと同時に意識を落とす。二人の距離が近かったこともあり、その間二秒とかかっていない。初見で対応しろと言われる方が難しいだろう。
「まぁ、ステラが全力でぶつかっても、どの道勝てなかったのは確かだ。それだけ、珠雫は強い」
「えぇ。流石にあれだけ言われれば、いつの間にか意識を奪われれば納得した……いえ、させられたわ。シズクが、《
「正確には、珠雫が『最強』。《カンピオーネ》カルロ・ベルトーニさんは、『最高』。そして《白衣の騎士》薬師キリコさんが、『最巧』って区分けされてるけど、その実珠雫は、『最高』にも『最巧』にも並ぶ水量と魔力制御技術を持っている。間違いなく、全水使いで最強に君臨しているんだよ、珠雫は」
言いながら、一輝はため息を付きたくなった。兄である黒鉄王馬、妹の黒鉄珠雫。そのどちらもが
「ホントに、いつの間にか意識を奪われたわ。接近にも気づけなかったし、何あれ?あれこそジャパニーズニンジャってやつ?」
「いや、あれは体術らしいよ。そのことで珠雫から、ステラに伝言だ。……………えっと、怒らないでね?」
「何よ?言われて怒ることなの?」
妙にそわそわと、言いにくそうにしてる一輝の様子に、業を煮やすステラだが、一輝は意を決して伝言を伝える。頼まれた際、妙に楽しそうだったのを思い出しながら。
「珠雫からありのまま伝えてほしいって言われてね……。んんっ。ごほんっ!
『この程度の体術も見抜けないとは、《紅蓮の皇女》(笑)さんどんな気持ちですか?私、遠距離主体なんですけど?ねぇねぇ?魔術師タイプの人に体術で気絶させられた感想は?NDK?』
………だってさ」
「ア、アイツはぁぁぁあああっ!!!」
一輝の懸念通り、伝言を伝えた瞬間に大噴火したステラ。
「まぁまぁステラ、落ち着いて。珠雫の煽りは気にしない方がいいよ。特にステラにはクリティカルヒットみたいだし」
珠雫の煽りが的確にステラの急所を抉っていったのは、流石の一輝でも軽く引いた。だからこそ気にするなと言いつつ、続ける。
「でも、僕も珠雫に教えてもらって知ったんだけど、ステラが珠雫を見失った体術の使い手が他にもいる。それも、七星剣舞祭で高成績を残している騎士だ。あのくらいの体術に対応できないようじゃ、僕もステラも、勝ち上がれないだろうね」
「誰なの?」
「破軍学園生徒会長《雷切》東堂刀華。それに確証はないけど、同じ技術を習った人は、他の学園にもいるはずだ」
「つまり、学内選抜戦でも当たる可能性があるってことね。そうなれば、何かしら対策を建てないと、あの体術は攻略できない」
まだたった一度しか見ていない二人には、攻略法なんて見えない。どんなカラクリがあるのか分からない技術に対応は出来ないので、早急に対策を講じたほうが良いだろうが。
「単純な騎士としての実力も高い人だ。油断は」
「すると思う?」
「少なくとも、僕と珠雫にはしてたよね」
「うっ…。だ、だってイッキもシズクも、ぱっと見強そうに見えないし…。でも、シズクとの差は流石に理解したわ。あれは、アタシなんか足下にも及ばない。本物のA級」
しみじみと語るステラの様子に、一輝は笑う。本当の本物が、何を言っているのかと。
「総魔力量世界一位が何言ってるの?こういう言い方はあれだけど、才能の大きさでは、間違いなくステラの方が上だ。それに、珠雫は最初からA級認定されていたわけじゃない。元はB級だったんだ。それでも十分才能は高いけどね」
「そうなの?禁技まで持ってるんだし、最初からA級だと思ってたわ」
「珠雫がちょっと言ってた《青色世界》。あれは、体組織を分子レベルで分解、再構築することで、瀕死の重症からでも無傷にまで回帰させる
「あれもシズクなのね…。昔から伝説作りすぎでしょうが…」
「だからこそ、既に学生レベルではないと判断もされている」
「どういう意味?」
そんなことは言われなくても分かっているステラは、あえてそう言ってきた一輝に問いかけた。
「ステラは残念かもしれないけど、禁技保有者が七星剣舞祭に出たら、分かりきった大会になってつまらないらしい。―――珠雫には、日本支部から出場停止が言い渡されている」
「はぁっ!?今度こそ試合でけちょんけちょんにしてやろうと思ったのに、シズク出場できないのっ!?」
「そうみたいだよ。僕もさっき教えてもらった」
実のところ、これは対外的な適当な理由付に過ぎない。禁技と言われるだけあって平時の使用は禁じられているので、単なる戦闘での勝敗に関係なく、相手が勝てる可能性だって十分ある。
それでもなお、参加が禁じられているのは、珠雫が人としての運命を超えた先に立つ《
理由は違えど、学生騎士では絶対に勝てない理由はそれだ。運命的に勝てないと決定された試合など意味がないとされ、そのことを知る月影獏牙によって日本支部に圧力が掛かり、対外的には禁技保有者が出ても結果が分かりきっているという理由で出場停止されている。
「まぁ、出れないのは分かったわ。仕方ないけど、別のことでけちょんけちょんにしてやるんだからっ」
からかわれたことを根に持っていたステラの様子に、どっちもどっちの似たもの同士と思う一輝は、言ったら怒られそうなので心に留めておくことにした。
「そういえば、シズクがいるのに、なんでアタシが首席なのかしら?どう考えても、シズクの方が上でしょう?」
「あぁそれは、珠雫が入学試験を受けてないからだよ」
「……またとんでもないこと言うわね」
「禁技を持ってるのも理由にあるけど、ただでさえ珠雫の実力は抜きん出ている。非常時及び緊急性を伴う事件があった際、正規の魔導騎士と同等の権限を持っているのもそうだ。『特例招集』と違って、珠雫はに自由裁量の余地が与えられているんだ」
つまり珠雫は、街中での霊装の使用を許可されている正規の魔導騎士と同じように、事件に巻き込まれた時のみではあるが、誰の許可を必要とすることはなく霊装を使用できる。
「でもまだ、正規の魔導騎士とは言えないから、魔導騎士養成学校のいづれかに属するよう言われたらしい。代わりに試験等は一切免除されているらしいけどね」
「なるほどね。シズクがとことん規格外なのは分かったわ」
「うん。実力主義で部屋割をしてる理事長も困ったんだろうね。明らかに実力がかけ離れているのもあって、珠雫は一人部屋らしいし」
「アタシとも違いすぎるもの。今度こそもっと粘ってみせるけど、実力差を痛感したわ」
自分との差を実感してもなお諦めないステラは、今後はもっと粘ると誓う。今はまだ足下も見えないけれど、いつか追いつき、追い越すと心に刻んだ。
そして一輝もまた、偉大な妹に兄としての威厳を示したいと願う。
「なら、どっちが先に珠雫に勝てるか、勝負だね。ステラ」
「イッキでも勝てないの?」
「
単純な剣技だけなら、元々の身体能力や、近接戦闘への珠雫の不得手さで有利に運べるだろうと、一輝は言う。だが、違うのだ。まだどこか、本来の技術を使っていないような気がする。必要な歯車をわざと付けていないような、そんな違和感を。
「それに、珠雫は元々魔術戦を得意とする伐刀者だから、剣で勝っても意味がない。その瞬間、本物の怪物が目を醒ますだろうね」
「ホント言葉通りの怪物ね、アンタの妹」
「だから、いつか勝ちたいんだ。全力の珠雫に」
全力の剣技も魔術も全部を出し尽くした珠雫に勝って、示したい。黒鉄珠雫という巨大な
「諦めるなって言った龍馬さんとも違う、どんな運命でも斬り裂けると信じて断言した珠雫に、ちゃんと『ありがとう』って伝えたいんだ」
龍馬さんと珠雫。二人の言葉があったから、ここまでやってこれたから。一輝のことを最初に、そして今なお信じ続けてくれている妹に、勝利した後に感謝を伝えたい。
そう、一輝は静かに誓った。
その1
手助けはしないけど、情報はあげちゃう
その2
ステラちゃんは《深海の魔女》=珠雫というように繋がらなかっただけで、実は知ってた
その3
唯一自分を信じ続けてくれた珠雫に、一輝くんは原作よりシスコン度が上がってます。
分かりにくいけどねっ
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お誘い
後半は結構てきとーになりました。
後書きと活動報告でお知らせがあります。
「で、なんでアンタがここにいるのよ」
「あら?私がここにいる事の、どこがおかしいのかしら?」
始業式から一夜開け、早朝。学園の校門前では、二人の少女が向かい合っていた。
「私は以前から早朝トレーニングを行っているんです。それが、偶然お兄様と同じ時間に、偶然同じ場所になっただけのこと。ステラさんが思っている破廉恥な事なんてありません。
ね〜お兄様?」
「そういえば、僕が黒鉄家を出る前もよく一緒にやったよね」
「懐かしいですね。……と言う訳で、私がいることは納得しましたか?」
「うっ…」
昨日の一件から、珠雫に微妙な苦手意識を感じたステラは、二人の会話に入りづらかったのだが、やっぱり納得できない。なぜなら、
「で、でもアンタ昨日の事で
そう。珠雫は昨日、ステラを気絶させた時に異能を使ったことが理事長先生に伝わり、大事には至らなかったものの、三日間の謹慎処分を受けた。もちろんそれは前代未聞の事態であり、新聞部によって今日にも全校に広まるだろう。一輝としては、『俺の腕の中でMOGAKE』が発行されなくて安堵した。
「何を言うかと思えばその事ですか。確かに私は謹慎処分をされましたが、イコール部屋から1歩も出るなとはなりません。第一私達は、学生とはいえ騎士。騎士が日頃のトレーニングをサボるなど愚かなことです」
だから、普段通りのトレーニングをしているだけだと、珠雫は宣った。
「まあまあ、ステラ。珠雫も。そのまま問答してもトレーニングなんてできないし、早いところ始めない?遅くなっちゃうと、朝食に間に合わなくなるよ」
「そうですね。私はゆっくりできますが、お兄様を困らせたくありませんもの」
「うぅ〜っ…分かったわよっ」
そんなこんなで走り始める三人。一輝のランニングは二十キロ。しかも心肺に負荷をかけるように、全力疾走とジョギングを交互に挟んで、だ。ステラも、必死にこれについて行こうとしているが、少しずつペースが落ちていくのが、目に見えてわかった。対して珠雫はというと
「お兄様。私、最近また少し距離を伸ばしたんですよ」
「そうなんだ。四年前は五キロまでだったけど、今はどれくらい?」
「ついこの間まで十キロでしたので、今は十五キロですね」
「結構伸ばしたんだね。無理はしないでね?」
「ふふっ、大丈夫です」
距離こそ一輝より短いものの、平然と一輝と並走していた。わざと全力疾走中に会話することで、より心肺機能に負荷をかけている辺り、抜かりがない。と、そこへ無理やり追いついてきたステラが、珠雫に声をかける。
「あ、あら。シズクは十五キロ、なのね。私は昨日…二十キロ、完走したわよ?」
無理に追いつこうとした為、既に若干息が上がっているが、それでも何とか食らいついてくるステラ。
「無理に限界チャレンジするなんてバカですかステラさん。いえ脳筋でしたね、ステラ・ヴァーゴリオン」
「人の国をゴリラにするなっ。アンタの罵倒のボキャブラリー本当にヒドイわね!」
「それに昨日、私は遠距離主体だとお兄様から聞いたでしょう?近接戦は、敵に距離を詰められた際に適度に迎撃できる程度で良いんです」
「スルーっ!?」
「珠雫の場合、その迎撃だけで大抵の相手には勝てちゃうんだけどね」
そんなこんなで、ただのランニングのはずが言い争いをしながらのため、普段より体力を消費した三人だったが、十五キロを走ったところで珠雫が声をかけた。
「では、お兄様。私は先に戻って、魔力制御の鍛錬をしていますね」
「分かった。僕も走り終えたら、そっちに行くよ」
すでにかなり後ろにいるステラは無視し、スタスタと校門に戻っていく。
「さて、始めましょうか。《天尾羽張》」
(ここ最近は秘剣をこの身体でも使えるように、剣術ばかりでしたからね。魔術の方は鈍ってなければ良いんですが)
霊装を幻想形態で顕現させる。前世のような身体能力は無い。現段階の一輝と比較しても、やや下回るだろう。だからこそ、前世で作った独自剣術に、珠雫なりのアレンジを加え技術を磨いたが、今回はそうじゃない。
「《
空中に、二十余りの氷で創られた刀身だけの剣が出現する。柄は必要ない。これは、手に持って扱うものじゃないから。
珠雫が霊装を振るうたびに、踊るように空を舞う剣群に規則性はなく、全てを珠雫の意思で完全に操作する。相手がいないので、氷剣同士で剣戟を交え、時に砕き砕かれる剣閃は、全てが一級品。
やがて、二十余りもあった氷の剣たちは一本を残し、全て砕かれ、目に見えないほどに細かい氷の礫となり珠雫の周囲を漂う。
「《
そう言霊を発すると、ダイヤモンドダストのように陽光をキラキラと反射する無数の氷片が、残った氷剣に殺到。竜巻のごとく渦を巻きながら、鋭利な欠片がぶつかり合い、剣を一瞬で削りきってしまった。
これは、二段構えの伐刀絶技。大量の氷の剣による剣戟。それだけでも一級品の剣戟は、並の相手を圧倒できるが、本番は氷剣が砕かれてからだ。学園序列二位《紅の淑女》貴徳原カナタの伐刀絶技《
対処するには、砕くより一瞬で蒸発させるほどの熱量をぶつける他ないが、そんなことできるのはステラだけだろう。中途半端に溶かして水にしても、別の攻撃で利用されそうである。
「ふぅ…少しラグがあったかな。剣術の方ももっと磨きをかけたいけど、並行して魔術もやろっと」
伐刀絶技の発動に、以前よりラグを感じた珠雫は、剣術と並行して魔術をもっと鍛えることを決めた。ラグと言っても、並の伐刀者では感じ取れないほど軽微なものだが。
しかもこんなことを言いながらも、実はずっと魔力制御の訓練を行っていたりする珠雫。
体内の隅々まで、至るところに魔力を循環させ、魔力による身体強化をより体内で完全作用させる技術。魔力を手足のように操る訓練は、いつ如何なる時にでもできる。それこそ珠雫にとって、やっていないなのは寝ているときだけだ。今では手足より正確に動かせるかもしれない。
魔力を意識的に、全身に淀みなく行き渡らせているだけなので、身体強化などにはなっていないが、血管の隅々――いや細胞の一欠片にまで魔力を完全かつ均等に行き渡らせる所業は、人間業ではない。
「ここまで出来なくても、もっと魔力を体内で完全作用させられれば、お兄様の《一刀修羅》も更に上に行けるんでしょうね…」
事実、自分が魔力で再現した《一刀修羅》も、完全作用させることにより、更に上の段階に進むことができたから。《一刀羅刹》も斬撃の瞬間のみ刀身にだけ魔力を纏わせることで、使い勝手の向上と魔力消費を抑えることができた。
だが、これも教えるつもりはない。現段階でも、七星剣舞祭まで問題ないし、何より一輝なら自分で気付けると信じているから。あくまで自分は見守るだけだと、改めて認識する。
「久しぶりに見たけど、珠雫の技はすごいね」
「っ…お兄様でしたか。早かったですね」
「うん。ステラは…もう少しかかるかな」
遠くにいるステラを見る一輝に、話しかけられるまで気付かなかった珠雫は苦笑した。さっきの独り言が聞こえていなければいいのだが。
「魔力制御の評価がAではなく、遂にSに届きましたからね。普段から続けていれば、このくらいは簡単ですよ」
「さすが水使い最強だね」
「まだまだです。最近は剣術に傾倒していたので、魔術の発動にラグがありましたし」
「………無理はしてないんだよね?」
まだ、前世の技術を半分も使い切れていないので、本心からそう思う珠雫なのだが、一輝としては妹がどこまで駆け上がっていくのか、少々心配だった。
「心配してくださるのは非常に嬉しいですが、問題ありませんわ。というより、無理無茶無謀はお兄様の十八番ではないですか」
「あはは……返す言葉もないです」
《一刀修羅》なんて博打技を切り札に持っている一輝は、それを相手に切り抜けられれば攻撃の手段を失うも同義だ。しかもその性質上、防御面は紙も同然。無理無茶無謀と言われても仕方ない。
「無理だけはなさりませんように。なんて言っても、お兄様は聞かないんですもの」
「珠雫には、昔から心配をかけちゃったね」
本当です。と珠雫は笑う。珠雫は誰よりも近くで一輝の鍛錬を見てきたからこそ、誰より一輝を心配している。だが同時に、信じてもいる。それは、かつての自分もそうだったように、黒鉄一輝の魂は、この程度では挫けないと知っているから。
だからこそ、そんな暗い話を続けるつもりは無いし、ステラが走っている今がチャンスなのだ。
「お兄様、今週の末なんですが、何かご予定とかありますか?」
「ん?いや、何も無いけど、どうしたの?」
この時、珠雫は心の中でガッツポーズをした。今のうちに誘ってしまえ。できればあの
「では、珠雫の買い物に付き合っていただけませんか?実はまだ、寮生活で必要なものとかが分からなくて……。お兄様に来て頂ければ、アドバイスしてもらいたいなぁと!」
「そういう事なら、全然構わ―――」
「ちょぉっとまったぁぁぁああ!!」
(ちっ。やっぱり来たわね)
この展開を半ば予想すらしていた珠雫としては、驚くことはないのだが、ズドドドッという効果音が当てられそうな勢いでこちらに走ってくる紅蓮の猪女の形相は、ちょっと鬼気迫っていた。
「ちょっと!何二つ返事で了承してんのよイッキ!アンタには危機感ってものが無いわけ!?」
「い、いやステラ。危機感も何も、ただ買い物に付き合ってくれるよう頼まれただけなんだけど」
「シズクがその程度しか考えてないわけ無いじゃない。絶対に何か企んでるに決まってるわ!」
「あ、お兄様。近くの大型ショッピングモールなら、色々揃いそうですよね。あとあと、映画も見に行きたいです」
ステラが絡んできても、サラリと
「構わないよ。でも映画とかあんまり見ないから、珠雫の好みに任せることになるけど」
「うぅぅ〜〜……っっ!」
「あら?良いんですか?なら、当日までに決めておきます」
「ガルルルゥ……ッ!」
ステラが横で唸っていても全力でスルーする。
一輝は、唸り声を上げるステラに横目を向けているが、珠雫は全く気にしない。それどころか現状を楽しんでいた。
(素直について行きたいと言えばいいのに……。全く、可愛い人)
どうやってステラを煽ろうかと。
とはいえ、珠雫から誘うつもりはない。ステラ自身も戸惑っているその感情に、誰より先に気付いているからこそ、珠雫はステラに手を貸すことはない。むしろ壁となるつもり満々である。
「あら?ご主人様であるお兄様に牙を向く、躾のなってない奴隷がいますね。どうしたんですか?私達について来て、奴隷プレイでもしたくなりましたか?」
「牙向いてんのはイッキにじゃなくてアンタによシズクっ!誰かどどど、奴隷プレイなんかするのよ!良いわよ付いてってやろうじゃない。アンタが変なことしないか、アタシが見張ってやるから!」
奴隷プレイは全力で拒否しながら、監視の名目で付いていくと言うステラ。
「あ、お断りします」
「なんでよー!」
そんなステラをバッサリと切り裂くはやはり珠雫である。即答でステラの申し出を切って捨てた。
だが、これには理由がある。
「ステラさん、残念ですが、行く予定のショッピングモールには、ペットは入れないんです」
「誰がペットか!」
「貴女のことですが?え?
「いらないわよそんな気遣い!」
奴隷ってご主人様の所有物。つまりペットと類義語でしょう?と首を傾げながら宣う珠雫。
その口元は孤を描いており、ステラはからかわれていることに気付いた。まだ僅かしか話していない両者なれど、流石に分かることは分かる。
まぁ、それはもちろん
(あら、挑発がバレましたか。まぁ、バレようがバレまいが関係ありませんね)
珠雫も同じなのだが。
「まぁ、付いてくるならお好きにどうぞ」
「えっ、良いの?」
だって、付いてこようがこまいが、珠雫にとってどちらでも構わないから。一輝がいるなら、珠雫はなんら問題ない。だがきっと、一輝はそこにいなきゃいけない。
「お兄様とのデートのつもりでしたが、それはまたの機会にしましょう。折角なので私も一人、連れてきても良いですか?」
「し、珠雫。流石にデートっていうのは…ほら。僕たち兄妹だし」
「お兄様。兄妹だろうと男と女が共に歩いていれば、それは端から見ればデート以外の何ものでもありませんわ」
(前世の記憶は殆ど無いけれど、
こういう時、断片でしかない記憶が恨めしい。『珠雫にまつわる記憶』ではなく、あくまで『一輝目線での珠雫との記憶』だ。そこに他の人が何人いようが、顔も体型も分からない。分かるのはおおまかな人数くらいだ。
だが恐らく、もう一人は前世でのルームメイト。入学したてのこの時期に、珠雫がもう親しくなっている相手となるとルームメイトの線が濃厚だろうか。
(となると、寮の実力分けは助かったわね)
今年度の入学者で、恐らく次席にいるだろう人物。それが、最後の一人だ。実力による区別は、実に分かりやすい。しかも珠雫としては、もう相手に目星はついている。
「では、詳しくは追って連絡しますね」
「うん。とりあえず、四人でいいのかな?」
「むしろ四人より増えません増やしません」
減るかもしれませんが。という内容は伏せておく。まだ決定はしていないので、詳しくは追って知らせるつもりである。ステラが来れなくなる戦略も練らなければ。この際《
そんな物騒なことを考えつつ残りのトレーニングを消化した珠雫は、一輝の後を付いて行き、わざわざ第一学生寮で朝食を食べた後、自室へと戻っていった。
補足
珠雫ちゃんは謹慎くらったぜ。でもトレーニングに乱入してステラをからかっちゃうぜ。お兄様も認めてるしステラちゃんなんて怖くねーぜ
その2
若干の前世の記憶から四人いねーといけねーと思ってる。誰を誘うんだろーなー
お知らせ
作者の事情で次回の更新が一ヶ月近くできません。次回は、2019年6月の中旬くらいを予定していますが、結構空いてしまうことをここにお知らせします。
ただ、遅くとも6月以内には次回、その後はまた週一更新でやりますので、気長にお待ちください。
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Re.落第騎士の英雄譚
唐突に挿入された何かだから読み流せ
遅れに遅れてごめんなさいっっ!!m(_ _)m
一ヶ月以上ぶりに筆を取ったので、どう書けばいいのかスッカリ忘れていた(今もまだ忘れてる)ので、こんなに遅くなった上に珠雫編じゃありません。
と言っても、珠雫編を区切りの良いところまでやったら書くつもりのモノです。
次回更新については、後書きと活動報告に上げておきますので、良ければ確認してください。
「それで、僕が喚ばれたのは何故でしょうか」
簡素ながら、どこか厳かな雰囲気の漂う部屋の中で、二人の人物が対面していた。
「そう身構える必要は無い。お前も先日で元服したのだ、まずは付き合え」
一人は、齢七十は超えるであろう、長い白髭をたくわえた老人。手には年代物のワインが。飲みながら話そう。つまりはそういうことだろう。
「………先日の報告書の作成を」
「数日なら遅れてよい」
一人は、元服したての黒髪で左目に眼帯をした少年。目の前で椅子に深く腰を落とす老人の言葉にため息を付き、グラスを手に取った。
もとより、この老人が誘った時点で拒否権は無いようなものだ。少年も仕方ないと割り切り、酒に付き合うと決めた。この、
「僕はあまり、強くないのですが」
「構わん。仕事の話もある、
「三本もワイン開けるつもりですかっ。二杯で僕は十分です」
が、流石に自制してワインボトル三本はヤバイ。その内に樽で飲みそうだなと思いながら、二本片付けるように促す。
ちなみに、取り出したワインは全て超高級品だ。この部屋のワインは平均価格三十万は降らないので、これだけで百万はいくだろう。
若者が何を言ってる、と呆れた視線を向けた老人は、仕方ないとばかりに二本を仕舞い込む。その姿は、孫に
「最近、どうだ?」
「変わりないですよ。騎士団の者も良くやってくれていますし、問題ありません。そちらこそ聞きましたよ、また
「あぁ。最近、
飲みながら、ありふれた会話をする。とても元服したての少年との会話とは思えない。もう一度言うが、二人にはありふれた会話である。
「おっと、もう終わったのか……。いや、丁度お前呼んだ理由も思い出したので、そろそろ本題に入ろう。今言った通り、解放軍の動きが怪しくなってきている。それについて、調べてほしいのだ」
ワインボトルの口を覗き込み、残念そうに本題に入ろうとする。
祖父と孫のような雰囲気から一転、上司と部下のそれに変わる。そして老人からの依頼に、少年は心当たりがあった。
「解放軍が怪しい、ですか。それなら心当たりがあります。内部分裂―――いえ、たった一人の《使徒》による
そう断言する少年の姿に、老人はため息をこぼす。まさかとは思っていたが、既に調べていた事に呆れたのだ。そして、『たった一人の《使徒》』。つまり
「一応聞こう。―――誰だ」
「――《傀儡王》オル=ゴール」
「理由は……いや、聞くまでもないな。『つまらない』『飽きた』。この程度か?」
「恐らくは。そして彼は、日本の首相である
少年が騎士団で調べ上げた事を報告すると、老人は頭が痛いと
「バクガめ……何が狙いだ?」
「挙がっている情報からの推測で良ければ」
「話せ」
姿勢をただし、鋭い視線を向ける老人に向き直る。七十を超えてなお健在の眼光は鋭く、その躯は異様なまでの存在感がある。
「目的は、
「なんだとっ!?……いや、ヤツならやりかねん!」
「えぇ。月影獏牙の
最初の頃の緩やかな雰囲気は既になく、張り詰めた空気が場を占める。
「加えて《傀儡王》ですが、そう遠くない未来に解放軍を壊します。そうすれば――」
「《暴君》の死を待つ前に勢力図は大きく変わる。バクガめ、同盟に鞍替えするつもりかっ!」
今の異能者の社会は、大きく三つの勢力に分類される。小国が集まり、互いに支え合う国際魔導騎士連盟。先進国のアメリカや中国、ロシアなどが属する
この三組織が三大勢力として均衡を保ち、ギリギリのところで戦争に発展していないのが、この世界の現状だ。
だがここに来て、解放軍の盟主である《暴君》の寿命が近づいている。もし《暴君》が亡くなれば、解放軍は崩壊する。そしてその構成員の多くは、裏で繋がりの深い大国同盟に流れるだろう。そうなれば、二勢力の均衡は一気に傾く。もう、第三次世界大戦は秒読みとなるだろう。
そして、《傀儡王》というジョーカーまでいる。《傀儡王》が解放軍を崩壊させたとしても、時期が早くなるだけで結果は変わらない。
月影獏牙はその大戦で日本という国が巻き込まれる前に、同盟に身を寄せることで自国が巻き込まれることを避けようというのだろう。
しかもそこにはもう一つ、月影獏牙の意思を決定づけた理由がある。
「また、大国同盟のトップである《
ようは今後の未来を考え、将来性の高い方に天秤を傾けただけだと、少年は老人に――《白髭公》アーサー・ブライトに言った。尤も、もし月影獏牙がもう一つ、この少年のことを知っていれば、彼の行動は真逆に進んだだろう。
「また月影獏牙は、連盟を抜けることに賛同を得るために、結果を欲しています」
「つまり、数年以内に表舞台に出てくるということか。いったい何処に…」
「ありますよ。年に一度、日本で開かれる祭典
七星剣舞祭が
その大舞台で、彼が集めた生徒たちで優勝すれば、連盟のやり方が間違っているという彼の考えが証明される。今はまだ、計画予定の学園の生徒を集めている頃でしょう。実行は二年後だそうです」
調べていた事は良い。情報が揃いすぎているのも、まぁ良い。だが流石にこれでは、
「我々としても、困っていた案件だったので、調べていただけです。ついでに、この件について
「心を読むな。お前の《
二人の間に、もはや細かな会話は必要ない。もう、十年近く孫として、騎士として少年を鍛えてきた
その事実に重大案件を話していながら、頬の緩みを感じるアーサーだったのだが、次の瞬間、少年の言葉に度肝を抜かれた。
「ぶっちゃけちゃうと、僕の騎士団員の一人、《
「……………はっ?」
「ついでに《
「はぁぁぁあああああ!?」
遂に絶叫したアーサー。これはひどい。いやだって、少年の騎士団員が敵に勧誘されて、すでに二人は潜入してるなんて聞かされればこうもなろう。解放軍にも一人…しかも目の前の少年を除けば騎士団で正面戦闘力トップが潜入しているのだ。
つい先日、重苦しい会談でまる一日を費やした自分がアホらしくなるくらい、少年たちの行動は何というかヤバかった。
だが、彼らにそんなことができるのも『彼らだから』で説明がついてしまう。この少年がゼロから創り上げた彼のための騎士団は、それほどの実力を持つ。
完全少数精鋭。少年自身を含め、たった十二人の星座を冠したコードネームを持つ、
そして、その中で最強として君臨するのが、この元服したての少年なのだ。総合的な戦闘力で次席が彼の一つ年下なのも、驚くべきことである。ずっと秘匿してきたのは、構成員の約半数が元服していないためであり、全員が元服した後に公表するつもりだった。
秘匿は、かつては偶然の運命しか操れなかったが、今では世界のあらゆる運命を書き換える程に成長した《天秤》が行った。そのため、たとえ月影獏牙といえど、かれらの情報は一片たりともすっぱ抜くことはできない。
アーサーは深い、それはそれは深いため息を溢す。確かに納得した。この騎士団が出た以上、何も心配はいらない。騎士団の半分の六名で大国同盟すら落とせるだろう彼らだ。
そして先程、相手が行動を起こすのは2年後と言っていた。丁度いい。その頃には全員が元服しているし、この問題の解決を以って彼らを世界に知らしめよう。
だが、それとこの、色々と徒労に終わったことによる苛立ちは別だっ。
「ならば、この問題は正式な指令とし、お前に命令を下す」
長らく沈黙した後、唸るような低い声音で、少年に指令を出した。
「黒星騎士団団長
来年から日本の騎士学園に入学し、本問題の解決に当たれ!」
「……………はっ?」
精々公表した時に戸惑うがいい、我が孫よ!
ケケケケケッ!
おわれ
補足
実はずっとやりたかった話だけど、色々と纏まらずに投稿できなかった。『転生先』をやろうと思ったきっかけ。一輝くんは構成中の物語で1番のチート予定。
その2
かいわれ…傀儡王が色々してる。原作じゃステラちゃんにご執心だったけど、ここではそれよりも早くから解放軍に見切りをつけてたり
その3
気付いたら騎士団つくってた。何を言ってるか分からないだろうが、私にも分からん。気付いたらできてた。名称は適当。
と言うわけで、久しぶり過ぎて過去最高に最低辺の駄文となりましてございます。
ですが一輝→一輝は私が最初からやりたかったもので、ステラ編よりも先に構想だけありました。
原作では《覚醒》を超えた神の《祝福》なんてものも登場してきたので、ここの一輝君がどこまで行ってるのか、ご期待ください。
と言っても、これの続きは珠雫編の後ですがねっ!流石に読者様をこれ以上待たせるわけには……っと、次回更新について忘れてました。
次回更新ですが……
遅くなります(いきなり待たせる発言の作者の恥)
いや、一応言い訳すると、まだ勘が戻らないというか、『導師を継ぐ者』と連載版ステラ編を流石に書かないとヤバイんです。
なので、もう暫くは3作品を順番に、週1作品で投稿していく予定であり、次回は3週間後と言う大変申し訳ない状態であります。
既にひと月以上待ってくださった読者の皆様方は、あと3週間くらい一瞬に感じると信じてます。信じさせてください心からお願い。
それか2週間後に予定している連載版ステラ編を楽しみにしててください。加筆に加筆を重ねて仕立て直すつもりです。
というわけで、亀より遅い投稿速度ですが、海より広い心の持ち主と私が信じてやまない読者の皆様、その心の海を揺蕩いながら、気長に待っていてください。
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目覚め
『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います』でも投稿してますが、そちらとは文調がやや違うので感覚がズレてる。
『PS極振りが友達と最強ギルドを作りたいと思います。』
落第騎士の英雄譚を中心としたクロスですので良ければ。
前話と繋がりはありませんが、過去編の始まりみたいなものです。
むしろ前の話を飛ばしても良い。
だってこっちが始まりみたいなモノだもの。
そう、父から投げかけられた無機質な言葉に、『僕』は理解が及ばなかった。
いや正確には、
頭を駆け巡るのは、膨大な記憶の数々。十六年という、決して短くない
「話は終わりだ。自室に戻っていい」
状況を飲み込めず混乱した頭で気付けば自室に戻っていた。
僕の名前は、黒鉄一輝。
破軍学園一年のFランク騎士――――だった。
少なくとも僕の記憶は、あの七星剣舞祭決勝戦で途切れている。目の前のライバルを。愛する人を倒したいと願った最後の一刀。それは紛れもなくステラの命に届いた。だがそこで僕の記憶は途絶え、気付けば今だ。
この忘れもしない
半ば放心していたから気付けなかったが、身長も骨格も子どものそれだ。
「夢、なのか……これは」
それが一番納得の行く理由なのだが、明晰夢なんて生まれてこの方体験したことはないし、この世界はあまりに
何せ放心状態から意識が浮上した時、思いっきり転んだから。さすがに痛かった。痛みで夢じゃないと実感するとかテンプレすぎる。
「ここが夢じゃなく現実とすると、今の状態はいったい何だ…」
考えられる可能性は、今のところ三つ。といってもどれも荒唐無稽でありえないのだが。
一つは文字通り時間が逆行した。新宮寺理事長のような時間操作系能力者なら可能かもしれないが、日本にあの人を除いて時間操作の能力者は現状いない。
もう一つ。これもまた考えたくないが、僕の頭の中を巡る十六年の記憶、その全てが
それに、
「それにステラに抱いたあの気持ちだけは、幻想だなんて言いたくないしね」
そうなると、最後の一つ。
「可能性の世界、かなぁ…」
可能性の世界。もしも僕にもう少し才能があったら。もしもステラと出会わなかったら。もしもステラとの模擬戦の勝敗が違ったら。そんなあらゆる場面の違ったかもしれない無数の『もしも』の数だけ形成される世界線。いわゆる、平行世界と呼ばれるもの。その一つに僕が紛れ込んでしまったのかもしれない。
その存在は、有史以来まことしやかに語られているし、運命を司る
とはいえ僕はそんな能力者じゃないし、もしかしたら過去を追体験する夢だって可能性も残っている。今は深いことを考えても何にもならないことだけは明白だ。
「一先ず、今の僕の状態を確認した方が良いよね」
その確認作業は慣れたもので、早速自分の内側。内面に意識を向ける。
―side other―
次の瞬間、一輝は光に満ちた場所に立っていた。
正面には、どこまでも続く光の道があり、後ろを振り向けば、暗黒の洞窟がある。
鍾乳洞のような濡れた冷たい岩肌を覗かせるその暗黒に、一輝は見覚えがあった。
あそこが、本来自分がいた場所だと。
足元に目を向ければ四肢に巻き付いていた、暗黒の先に続く黒い鎖が千切れて散乱している。
黒い鎖。一輝自身が引きちぎった、
先程から一輝はどこか、自分の内側から湧き出る力を、充実感を感じていた。
それは、かつて持っていなかった力。あの決勝戦の終局において到達した領域。
それを認識するとともに、一輝の意識は現実のもとに引き戻される。
そして浮上する意識の間際、砂となり空間に溶ける鎖と、光の中に飲み込まれ、永遠に消えゆく暗黒を一輝は見た。
「……やっぱり、二つ目の可能性はなくなった、か。僕はあの世界で運命を超越した。そして、何らかの理由で
更に、消えていった暗黒の様子を思い、もう運命の内側に戻ることは無いと本能的に理解した。
自身に起こった。自分の意志で引き起こした現象の意味は分からない。光の中で感じた一輝自身の魔力は、確かに増大こそすれど、未だ平均の半分にも満たないものだった。だが、そんなことはどうでもいい。増大したという事実こそが重要であり、魔導騎士の常識を揺るがす大問題だ。
「秘匿、した方が良いよね…少なくとも、この現象を知る人間に接触するまでは」
例えば《比翼》のエーデルワイス。一輝が知る中で最強の剣技と体技を持つ彼女は、あの時には確実にこの運命を超えた
「そう考えると、KOK上位や世界的に有名な騎士もそうなんじゃないかと思えてきた…」
かつての記憶。あえて前世と呼称することに決めた一輝は、前世で有名な、それこそ一人で戦争をひっくり返せるであろう化け物たちの《二つ名》をいくつか思い出しため息をつく。
………この世界、怪物多すぎじゃないかな、と。
◇◆◇◆
「やっぱり夢じゃなかったかぁ…」
朝起きたら元の世界で元の体に戻っていた。なんて微かな希望は、起床とともに打ち砕かれた。
夜が明け、外から鍵がかかった、ベッドと小さな机以外何もない部屋。外側から補強された窓。そして己の幼い身体を順に見て、ため息を落とす。
時刻は早朝五時。予期せぬ現象に見舞われた心的疲労もあったはずだが、本能が前世の習慣を覚えていたらしい。破軍学園で早朝トレーニングを始めていた時間には目が覚めた。
「折角この時間に起きたんだから、色々と確認したかったんだけど…」
ベッドから降り扉のドアノブをひねるが、やはり開かない。
‘鍵掛かってるよね…’と口の端からこぼれ落ちた。激しい動きを室内でやれば下の部屋にいる人が起きるだろうし、朝早くから落ちこぼれが騒ぐなと怒鳴り散らすだろう。そうなると自然と今の一輝にできることは限られる。
「当然だけど身体能力、心肺機能は格段に落ちてるか」
昨日のうちに確認したのは自身の最奥。
結果として分かったのは、一輝の予想の通りのものだった。
身体能力は前世の半分にも満たず、心肺機能もまた、全盛期の三割程度。体力も相応に落ちているだろう。もっとも、今の一輝は五歳児なので相応なのだが。
「来てくれ、《
試しに自らの
元々が小型の霊装ならば大きさに変化がないこともあるが、一輝の霊装は日本刀。子どもが振るうには大きすぎるし、一輝の記憶が正しければ初めて霊装を握ったときは小太刀よりやや大きいほどの長さしかなかった。
だが、今一輝が霊装を展開すると前世で最も長い時を共にした姿のまま。一瞬ふらつきはしたものの、優れた体幹とバランス感覚を以って《陰鉄》を持ち上げるが、やはり子どもの腕力では持ち上げるだけで一苦労する。
だがそれもすぐに慣れるだろう。体力の強化にはうってつけの重さであり、この刀を今の身体で自在に振るえるようになれば身体能力はかなり向上するはずだ。
とはいえ、だ。一輝の身体は五歳。前世のような無茶なトレーニングをすれば身体が付いてこれず、将来的にも大きく影響が出る可能性がある。もちろん、悪い意味で。
「心肺機能は落ちて筋力も無い。見事なまでの無い無いづくし」
呟き、一輝は小さく丸っこくなった自分の手のひらを見つめる。
僅かな時間刀を握っていただけで、手のひらが引きつるような痛みと熱がある。
鍛えた身体は、完全に失われた。
だが――
「………ふふ」
今まで鍛えてきた身体を失ったにもかかわらず、一輝の表情に陰りはない。
いやむしろその小さな口は、力強い笑みすら浮かべていた。
「今まで以上に力を当てにできないのなら、技を研ぎ澄ませるしかないよね」
そう。
一輝はあろうことか、この状況すらも自らが成長する好機と捉えていた。
(結局、決勝戦の決着は分からない)
だが一つだけわかるのは、大切な人を残してしまったこと。
あれはだめだ。
愛する人を残してしまうことだけは、二度としちゃいけない。
そのためにはまだまだ、技量が足りない。
幸い、時間はたっぷりある。学園に入るまでに十年。かつて歩んできた道のりを、時間を、その濃度を。また一から。いやゼロから積み重ねていける貴重な機会。
剣技も《
しばらくの間、この身体と対話を続ければ、この身体に合わせた動き方も見えてくるし、模擬戦は難しいだろうが、自らが想像する動きと現実との齟齬も埋められるだろう。
まずはそこまでを――半月でクリアする。
そこから、
(ははっ…やることなんて沢山あるじゃないか!)
かくして黒鉄一輝は、この生まれ直しを更なる飛翔の糧とすべく、誰より早く動き出す。
文字通り黒鉄家の朝の鍛錬が始まる前から。
一輝くんは一輝くんです。
ここからどうやって強化していくか、計画はあるけど文章にならないんだよなぁ……過去の情報が少ないし、あまり原作で出てない部分を捏造したくないので。
と言うわけでまだ『凍結』は消えません。
今回は少し溶けて水が流れた程度ですので。
今のメインは『防振り』二次です。
見た目エーデルワイス、才能倉敷くん、その他色んな作品からちょっとずつクロスしています。
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