人形指揮官 (セレンディ)
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生誕

初めまして、セレンディと申します。

最近ドールズフロントラインの二次創作を多数読み、ぶるぶると震えるものを感じて筆を執った次第です。お楽しみいただければ幸いです。

指揮官にはおよそ3話終了時点でなる予定です。


 

 ハジメマシテ! 私、転生者! フォールアウトの世界にいると思ったら今ドルフロの世界にいるの!

 

 ……ぐらいのテンションがないとやってられない日常である。

 あの日、トラックにふっとばされて即死したはずの私は、再び現代にて赤子として生を受けた。

 海外在住の日本人夫婦の間に生まれたのはいいのだが、ケーブルテレビか何かによる日本人向け放送ばかり見ているために、ここがどの国なのかはさっぱりわからなかった。たまーにやってくる父の同僚と思しきオジサマ方は、拙いながらも日本語でコミュニケーションを取ってくるために判断材料にならない。

 転機があったのは、両親がそろそろ幼稚園にでも入れるか、と話していた時期だった。幼稚園ってなーに、と無邪気を装いつつ、現地言語を話せないことにそこはかとなく不安を覚えつつも両親の話を聞いていたところ、突如テレビが日本語アニメから現地語緊急ニュースへと切り替わったのだ。

 その時、父が、

 

「ついに始まったか……」

 

 と、ぽつりとつぶやいたのをよく覚えている。冷静な父が半分取り乱したかのような様子は初めてだった。

 あとから考えてみると、あの日、第三次世界大戦が始まったようだ。その後のことは特に記すべきことはない。6年続いた戦争は国というものと地上をズタズタにし、人類の生存圏は大きく狭まった。

 

 第二の転機があったのは、私がおよそ15歳ぐらいの頃だ。

 第三次世界大戦が終わった後、父が銃の訓練をしよう、といい出して、拳銃の扱いを習い、身のこなしを習い、そして電子戦のいろはを習った。父が何者か気になったが、戦争中も家族を安全に避難させ、その手の系統の技術を教えられるということは軍人か何かだったのだろう。

 その日、私は退屈を持て余し、スーパーや商店に新入荷がないかチェックして回っていた。私がこういうことをするのはよくあることではあるので、店番のおばちゃんとだらだら話をして、何か周辺で不審なことや困ったことがないかを聞いて回る、いわば情報収集という名目の世間話であることはよく知られていた。新商品? 無論、そんなものはなかった。

 大体の店を回り終え、帰るかな、と考えていたところ、集落の外から何か肌色の物体がのたのたと這いずって入ってきたのが見えたのだ。その時、私には衝撃が走った。

 

「け、ケンタウロスだー!?」

 

 芋虫のような胴体から人間の手が足代わりにずらりと並び、胴体の先端からは腕のない人間の腰から上が生えて。さらにその頭部の口からは触手のようなものが何本も出ている、つまるところ人間がぐずぐずに溶け合ったようなキショいアボミネーション、それがケンタウロスだ。

 後から考えてみればただの確率の低い偶然だったらしかったのだが、そこで私は勘違いをした。

 ここはフォールアウトの世界だと。ナンバリングは3~4及び76までのみやっており、やったことのない欠番があることが、こんな場所が舞台の作品がどこかにあるのだろう、と片付けさせた。

 さて、ケンタウロスの行動は単純だ。感づいた目標に向けてゲロのような何かを飛ばしつつ前進、近接打撃に移る。もっとも、前進速度は速いとは言えず、ゲロのような何かの射出から着弾までも長い。

 ならば、一箇所に留まらず引き撃ちをしてやれば良いだけのこと。

 父に与えられていた拳銃、後で聞いたが59式、マカロフのコピーモデルらしい、を引き抜き、訓練のときと同じように、撃った。拳銃弾では大したダメージではなかったようだが、連射して蜂の巣にしてやった。恐怖感はなかった。ゲーム中では、見た目がグロいだけの雑魚であったので、オワタ式プレイでも脅威に感じていなかったからだ。実際、威力が足りないとは言え、マガジン3つ分を叩き込めばあっさりと崩れ落ちた。

 

「隊長……その、娘さんに一体どんな過酷な訓練を……?」

「ん? 何かあったのか? 普通の内勤新兵向け訓練を一通りと、まあちょっと趣味で電子戦を教えただけだが?」

「えぇ……本当ですか? 娘さん、今日、街にやってきたE.L.I.Dを、恐ろしいことにあの59式一丁で撃ち殺してたんですよ!?」

「は!? え、アレ倒したの娘!? 何してんのぉ!?」

 

 思い込みの力とは恐ろしいもので、銃器についての勉強と分解清掃等による実地でGun Nutを習得した気になり、さんざっぱらアボミネーション、今はE.L.I.Dというのだったか、それの小型の物を狩り回ってGunsringerとRiflemanを習得した気になり、父の銃器ロッカーをピックしてこじ開け、ついでにデータベースも漁りまくった。最近の銃器データの出処はここである。

 つまるところ、転生チート気分だったのだ。いや、実際に戦闘能力が恐ろしく高くなったから転生チートでも間違いないかもしれない。なにせ、思い切り集中するとV.A.T.S.すらできたのだから。もっとも、Vault-tecは存在しないはずだから、オリジナルに置き換えてO.A.T.S.とでも言うべきか。軍人と弁護士の夫妻もPip-boy無しでV.A.T.S.できたのだ、私だってできない理由はない、と考えていた。

 最終的に、魔改造したナタ一本でE.L.I.Dの首を狩ってただいまー、とやることができた。

 ケンタウロス(偽)の頭を持って帰ったときの、父の呆れたような顔はよく覚えている。ついで、銃の扱いはお前の身を守るために教えたのであって、E.L.I.Dを狩りまわるために教えたんじゃない、汚染地域に踏み込んでお前がE.L.I.Dになったらどうする、と怒られた。あと、近接格闘を教えたのは誰だ、とも。

 サーセン、反省してまーす。あと、格闘は独学でーす。

 この歳でお尻ペンペンは勘弁してください、パパ様。マジでやりやがったらしくてしばらく動けなかったが、その状態にスリッパで追撃を噛ましてきたママ様にもお恨み申し上げます。

 

 第三の転機は、そう、有名なあの蝶事件と、その少し手前の一件だ。

 結局、父はPMCか何かの部隊隊長か何かだったらしく、企業に就職してサラリーを得る、という生活がもう一般的なものではなくなってしまっている以上、その娘たる私も部隊の下っ端として活動することになっていた。父や母、私が乳児の頃からよく顔を見せてくれていた父の部下達からも、女の子がそんな物騒な稼業に手を出す必要はない、と再三説得されたものの、私がプータローとならずに生活の糧を得る方法が他にあるのか、と問い返すと結局誰も対案を出すことができず、私は父のPMC部隊に加わることになった。

 とはいえ、フォールアウト的超常現象クラスの戦闘能力を手に入れていた私には、数の暴力以外恐れるものは何もないと天狗になっていたのも事実。それが間違いだと気付かされたのが、蝶事件の少し手前の部隊ミーティングのときだ。

 

「お嬢が予想に反しまくって、保護対象どころか特記戦力になってるってのも事実なんスけどね。最近数の上で負けてることで、劣勢になってることがとても多いので、増員を希望するッス。……まあ、だいたいお嬢が蹴散らしてくれてるんですけど、お嬢に頼り切りってのも問題ッスから」

「増員、といっても今更新兵入れても、使い物になるまでがどうしようもな……。いっそ、戦術人形でも買うか?」

 

 ……戦術人形!?

 そう、私は間違っていたことに、ここで気づいたのだ。

 ここ、フォールアウトじゃなくてドルフロだ、と。アボミネーションのことを、エリッドとか変な呼び方するなあ、なんて暢気に構えていた自分にケツバットをかましたい。

 

「そうなると思って、検討済みっすよ。コスト面で考えるならば鉄血工造のLink拡大してあるものを購入するのがいいと思うッス」

「だめっ!」

 

 思わず叫んでいた。鉄血の人形を購入するという意見が出てくるのならば、今は確実に蝶事件の前だ。暴走すると、被害が出るものが解っているものを購入する訳にはいかない。

 

「……お嬢? でも、I.O.Pの戦術人形未Link1体の資金で、鉄血はLink拡大したものが買えるっすよ?」

「それでもだめ、絶対にだめ!」

「え、お嬢、なんでっすか?」

「え、えっと……鉄血の人形は、メーカー製バックドアみたいなのがあるの。全部。いざという時にハックされそうなものは、絶対にだめ!」

 

 割とでまかせだが、後に蝶事件が起きると判っていれば、それっぽいことは言える。それに、鉄血のインタフェースにアクセスしたら感染するんだったかの傘ウィルスの存在もあったような。これは詳しく思い出せなくてもどかしいが、とにかく鉄血のデータベースやらなんやらにアクセスしたAIデバイスはほぼ使い捨てになる、もしくは電脳を使わず人力ハックしろ、ということだ。

 

「え、マジっすか!?」

「……どこで掴んだんだ、そんな情報!?」

 

 そりゃあ聞かれるよね!

 アボミネーション、もといE.L.I.Dを狩りまわっていた時に、Vespidの残骸を見つけてハックして解析した時に気づいたということ、ついでに、ハックに使ったデバイスには逆にウィルスをぶっこまれて初期化する羽目になったということにさせてもらった。

 

 で。

 金額に渋る部下さん達に、いくら安くても反乱の可能性がある人形など意味がないと説き伏せてやってきたI.O.Pの戦術人形がコチラ。

 

「59式よ~今後もよろしくね~」

 

 I.O.Pの戦術人形は、鉄血と違って取り扱う武器の名称がそのまま戦術人形の名称となっているのは知っての通り。

 よりによって、私が初めて持ち、そして今もサイドアームとなっている59式がやってきたのだ。

 ロングの髪にツーサイドアップ、メガネ。上端をベルト留めの紺色チューブトップワンピースに、内側にマガジンポーチを仕込んだ白衣。確かに見た目は可愛いが、なんというか部隊内で当然最年少の私よりも更に幼い外見、そう、若いじゃなくて幼い外見なのはどうなんだろうか。強いてあげれば私に似ているような気がするので、父が親ばかでもやらかしたんだろうかとぼんやり考えていた。

 

「おおー、可愛い子っすね。というか、まるでお嬢の妹のよう。特に胸のないところとかそっkほげえええええっ!」

「立ったまま死ぬ?」

 

 UMP45じゃないが、とりあえず鼻を掴んで捻ってやった。

 

 

 そして。

 蝶事件の日がやってきた。




そして書いてみてわかった、他著者様方の凄さ。
投稿できる体裁を整えるまでに物凄く掛かった労力。
コンスタントに投稿できる方は本気で尊敬に値すると思い知りました。


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蝶事件

 そして、蝶事件の日はやってきた。

 

 始まりは一本の緊急連絡。

 内容は、緊急援護要請。父の部隊と繋がりのある小さなPMC会社の部隊からだった。組織的に、鉄血の人形を多数運用していた所だ。

 

『嬢ちゃんか!? こんなこと言えた義理じゃねえが、助けてくれ! 人形たちが突然制御を受け付けなくなって……!』

 

 ノイズ混じりの通信を聞いた瞬間、来たか、と思った。

 蝶事件、鉄血の全戦術人形のAIが狂った日。テロリストが鉄血の工廠に襲撃をかけて、その際に何かが狂った、という説明だったような気がするが、実際はテロリストではなくもっと別のなにかだった、と聞いている。ソレ以上は覚えていない。

 

「全部隊員に通達! お嬢が言ってた通りに鉄血人形がハックされたぞ! 今から鉄血人形は全部E.L.I.Dと同じと思え! 緊急援護要請を受諾した、レンツんところ助けに行くぞ!」

 

 実は、この近辺のPMCは割と横の繋がりが強い。困った時に戦力を融通しあうのはもちろん、今みたいな援護要請は出来る限り受諾する。明日は我が身とも限らないからだ。

 

「59式、出撃するよ!」

「おおっ、私の出番だね!」

 

 59式は、私たちのところに来たあの時から結構、いや、かなり成長……最適化だったか? しており、リンク数も4Linkまで増えていた。元の59式の歴史的エピソードを踏まえた性格をしているようで、自身が使われる事に対して強い欲求と喜びを感じるらしい。頻繁に出番の来るPMC稼業は天職だろう……戦術人形に何を考えているのやら。加えて、元々の59式の持つ銃器はいわゆるストック状態で、私が直々に細々とした調整を加えてあった。Gun Nutの面目躍如さ、ふふ。反動などの取り回しができる限り変わらないようにしつつ調整を図った結果、ASSTシステムに特に影響が出ていない点も褒め称えるがいい。

 

 ともあれトレーラーに乗って、目的の駐屯地へ急行。その途中、建物の所々から煙、あるいは銃声が聞こえた。

 思うところはあるが、それで何もかもを放り出して助けに行くわけにもいかない。あっちにはあっちの秩序を担う連中になんとかしてもらおう。

 トレーラーから身を乗り出し、ライフルのスコープを双眼鏡がわりに覗き込んで索敵する。59式がダミー達と一緒に体を抑えていてくれているので遠慮なく大きめに身を乗り出す。ざっと外壁を眺めてみて、こちらを警戒している鉄血人形はいない。発狂?してすぐだから、まずは施設内の人間を排除しにかかっているのだろう。舐めた事をしてくれる。

 

『こちらドーター。外壁に敵影無し。門扉まで展開可能と推測』

『オッケーお嬢、飛ばすから中に戻ってください』

『コールサイン!』

『え!? なんか言いましたァ!?』

 

 急加速。

 ……舌噛んだ。後で訓練弾打ち込んでやる。

 ともあれ、駐屯地正門。口を開けたままの正門から、整備兵らしき傭兵がぽつぽつと逃げ出してくる中、正門脇にトレーラーを止めてバラバラと降りて小隊ごとに整列。

 

『アルファとブラボーはそれぞれあっちとそっちにある通用門をブリーチエントリー。レンツの言質は取った。チャーリーとお嬢はこのまま正門から正面突破。レンツ達の立てこもり場所へ急行する。状況開始』

 

 言われるが早いか、私は正門から内部になだれ込み、同時にO.A.T.S.を起動。極限まで引き伸ばされた時間の中、索敵ついでにターゲットを見定める。ターゲット数21。解ってたことだけど凄まじく数が多い。だが2Linkが9、3Linkが1。この程度なら本体を叩けばダミーも止まる。行動をプログラムして実行、両手の59式がそれぞれ火を吹く。ガンカタよろしくぶっ放して回り、VespidとRipperを3発ずつで仕留めること2回、ついで3LinkのJaegerにも残弾をぶっこんで一度正門の外まで撤退。

 

「リロード! 59式、カバーミー!」

「お~。まっかせて!」

 

 いくら私がフォールアウト式アイツもどきになっているとは言え、無敵ではないし、Gunsringerと改造を重ねているとは言え人形の耐久をぶち抜くには手間がかかる。対多数の取り回しを重視して59式を両手に持っていたが、やはりARを持っていたほうがいいのだろうかとも思う。リロードを終えたら、無線で警告を出しつつ閃光音響爆弾を投げ込んで再度突入する。

 

「こっちにおいで~」

 

 判ってはいたことだったが、戦術人形のスペックは割と凄まじいものがあった。私ならばいくらか被弾をして、薬剤含め手当が必要になっていることだろうが、そこは機動力に優れたHG型戦術人形、わずかに、軽度の損傷を受けるだけに留まっていた。他の部隊員も遊んでいるわけがなく、残るはJaegerのみ。止めを刺すべくナタを抜く。レンツの立てこもる武器庫まではまだまだ道のりがある、もたもたしてはいられない。

 

「59式、制圧射撃! 首落としてくる!」

「らじゃ~」

 

 

 すぱん、とGuardの首が飛ぶ。盾を構えているせいで銃撃の効果が薄いならば、素っ首跳ね飛ばしてしまえば耐久など関係はない。Blitzが可能ならば、射程圏内に収めた段階でチェックメイト、である。

 とりあえず、これでレンツの立てこもる武器庫前はクリア、だ。そこかしこに鉄血人形の残骸と、レンツ達のPMCの職員の死体が転がっている。有事の際に立てこもれるように武器庫をシェルター化していたレンツには先見の明があるというべきかもしれないが、鉄血人形を使っていた段階でそれはどうなのだろうとも思い悩む。とはいえ繰り言でぼうっとしているわけにも行かず、レンツから暗号通信で受け取っていたパスコードを入力、中への通信回線を開く。

 

『おう、嬢ちゃんか!? すまねえ、助かった!』

「まだ状況は終わってないわよ、アルファとブラボーがまだ手間取ってる、あっちの応援に行くわ!」

『頼んだ! 悪りぃが左腕がやられちまってる、俺はこっちの防衛をさせてくれ! その、おばちゃん達を放っておくわけにもいかなくてな!』

 

 不意を打たれたか何かあったのか。あのレンツが腕に負傷を負うとは。あるいは非戦闘員を庇いでもしたのか。

 ともかく、武器庫の隔壁のパスコード解析はリセットしたので、再度解析するには最低でもあと30分はかかる。それだけあれば、取って返して痴れ者を排除して再度リセットするには十分だ。

 見取り図を手に、移動ルートを組み立てる。大丈夫、私ならやれる。この狂乱を剣林弾雨で無理矢理にでも平定する。

 

「59式」

「あいあい~?」

「行くよ!」

「カシコマ!」

 

 部隊長のオジサマにルートを投げ、走る。

 

『チィ、下策だが隊を分けるぞ! お嬢と59式はこのままアルファ、残りは俺とブラボーの救援に向かうぞ! 手が足りん! お嬢、済まんが頼んだ!』

「ラジャー!」

「りょうか~い」

 

 数の利を少しでも捨てるのは下策だが、今はそうも言ってはいられない。アルファもブラボーも、鉄血人形の一群と壊滅的な正面戦闘を強いられている。RipperやGuardに阻まれてJaegerまで攻撃ができず、スモークやスタングレネードで時間を稼いでいるが限界は遠くない。重装備の防弾ベストを着用した部隊員も、徐々に削られてきている。

 正面から突っ込むのはいくらアイツもどきでも自殺行為、と考えた端から二階部分からJaeger達の真ん中に飛び込むプランを立てる。というか、そうしないともうアルファの前衛が持たない。死ぬ。

 

「援護お願いね!」

「まっかせて~」

 

 4Link全員で上からJaegerを直接狙わせる。四人分の射撃で目を引くと同時に、Jaeger達の中での庇い合いで幾人かが転がるが、どうせ全部ダミーだろう。そして、注意が二階にいる59式達に向いたところで、真打ち私の突撃だ。なお、Jaegerを排除したとしてもRipperに蜂の巣にされるんじゃないかなあ、と思うが私の負傷でアルファが助かるなら安い賭け金である。しなやす!

 O.A.T.S.起動、ダミーに庇われていた本体らしき人形を中心に頭部へ弾丸をプレゼントしまくる。もっとも、引き伸ばされた感覚もずっとは続かないし、リロードはそれ相応の時間が必要だ。そこは押し込まれていたアルファの反撃と、上にいる59式の援護を期待するしかない。が、現実は非情で、排除しそこねたJaegerと、アルファに群がっていたRipper達のいくらかがこちらに銃口を向けてくる。ちったあ動揺しろよこれだから鉄血は、と思うもさすがにどうしようもない。弾はあるが手元の59式はリロードが必要。こりゃ長期入院コースかな、と思った刹那、ずだん、と音を立てて59式のダミーが二人降ってきた。私の手にそれぞれ持っていた59式を握らせて、次の数秒で私をかばって人工血液が飛び散る中、当然いくらかは私に当たる中で、私は咆哮した。

 リロードの必要がなくなったとはいえ、O.A.T.S.の再実行をするには私の集中力とも呼べる何かが足りない。切実にGrimreaper's sprintが欲しい。だがそれは少なくとも今はないので。59式ダミー人形の残骸の影から飛び出し、Ripperの銃撃が来る前にJaegerの残り殆どの脳天をブチ抜きオープンホールドした59式を放り捨て、最後の首をナタを抜き打ちで切り落とし、翻ってRipperの首を狙う。

 

「くそ、お嬢が突っ込んじまった! 急げ急げ、スタンでもいい、全部止めろぉ!!」

 

 あんた達にも獲物は分けてやらない!!

 

 ……と、かっこよくRipperを全て始末できたら良かったのだが、さっきも言ったとおり現実は実に非情で、私だけでは確実に間に合わなかった物量を、Jaegerの狙撃が無くなったことで押さえつけられていたのが解放された部隊員による射撃とスモーク、スタングレネードの連打で何とか凌ぎきることができたに過ぎない。59式の残りも降りてきて撃って撃って撃ちまわり、人形の回避能力でRipperを押さえつけていなければどうなっていたことやら。

 

 ブラボーの方も似たような状況だったらしい。上からフラグをバンバン投げ込んで部隊員全員で撃ち下ろして、圧殺するようにして鉄血人形を仕留めていったそうだ。

 

 でも、それでも、レンツの所にも、アルファにもブラボーにもチャーリーにも、相当の被害がでた。

 

 

 蝶事件の当日、それはそんな日だった。




体裁を整えるまでに一番苦労した話。


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スカウト

 レンツ社長のPMC駐屯地の被害は、惨憺たる有様だった。

 

 まず、鉄血人形は全損。これは仕方ない。

 次に、鉄血人形を整備していた整備兵の何人かが死傷。そう、死人が出た。経理作業等を行っていた内勤にも被害は出ている。近所から雇っていた清掃や調理、事務作業員達はPMCのプライドにかけて全員守り抜いたそうだが、ここでの勤務を続けてくれるほどの肝っ玉があるかどうかは、言うまでもないだろう。

 戦闘員への被害は凄まじい。内勤の作業員を守るためにかなりの人数が犠牲になった。当然、鉄血人形の鎮圧にも。

 テレビニュースからも、突然の鉄血人形の暴走について報道しており、鉄血人形のサービスターミナルに務めていた職員も殺害されていることから、鉄血の陰謀説やクーデター説は説得力が薄いとされている。

 

「マジでお嬢の言う通りになったっスね……」

 

 テレビを見ていた父の部下、現在は小隊長のオジサマが言う。ゴツい見た目にそぐわぬ軽い口調のこのオジサマは、私と違ってトレーラーの運転や部隊運用に非常に長けている。

 

「あー……おやっさんから回ってきたあの不確定情報メール、出処はお嬢ちゃんかぁ……。ミックの野郎、対策したから大丈夫だって大威張りだったってのに……いの一番におっ死んじまいやがった」

 

 しみじみと呟く社長。彼もまた、左腕を吊っていた。

 一旦、レンツ社長のPMC駐屯地からは全員が引き上げ、死体の納棺、負傷者の手当を行っている。父の部隊にも、少なくない被害が出た。59式だってダミーが2体破壊された。

 

「いやっはっは~、今回は本当に死を覚悟したよ~、一つ間違ってたら私今頃スクラップだよ~」

 

 まだダミーが一つ残っているくせに何をいうか。まだ一つ間違えられるとも言えるというのは、鉄火場で無茶できない私の僻みだろうか。スティムパックやサイコに始まる戦闘用薬物の類は当然存在しない。そもそもスティムパックとは直訳すると注入器セットであり、中身が何なのかそういえば知らないのだ。アパラチアでは製造できたような気もするが、あのクソ適当レシピがこっちでも有効とは思えない。

 それはともかく、被害を受けすぎたレンツ社長の部隊と、父の部隊は合併を計画しているらしい。双方人員不足を感じていたところを人形で補い、そこへさらに人的損失という被害を受けてしまったのだ、単体で動作できないならば合併してしまえばいい。どうせ新兵を入れればトラブルが発生するだろうから、そこを織り込み済みで合併、ついでに新兵募集と人形調達もするそうだ。

 

 さて。名前を呼ばれ、父の執務室、というと聞こえはいいが幹部部隊員以上のデスクワーススペースでしかない、に入った。59式も一緒に来い、ということなので本体だけ連れて行く。

 

「父さん、呼ん……む?」

 

 見慣れない顔が、父の近くに立っていた。女性だが、当然、母じゃない。母は部隊運用に関わってすらいない。

 特徴的な赤いコートは見覚えがある。PMC大手のG&Kの制式コートだったはずだ。グレーの髪に、怜悧な風貌。右目に掛けたモノクルがまた冷ややかなイメージを誘う。

 そう、ヘリアントスだ。そういえば、蝶事件をうけてG&Kは新規指揮官を採用し始めるんだったか。

 ともあれ、来客がいたところにくそフランクに入ってしまったことは頭から追い出し、改めて名を名乗って敬礼、出頭した旨を伝える。

 

「おっ、新しい人? はじめまして、大変有能な59式だぴゃっ!?」

 

 横の59式がまたくそふざけた挨拶をするので足を踏む。振動する足の下を無視して、

 

「ともかく、ご用件は何でしょうか? おそらく、こちらの方も関わりがある件でしょうから、紹介をお願いいたします」

 

 父に要件は何なのかということと、初対面のヘリアントスを紹介してくれと問う。

 父においては珍しく、何事か言い淀んだ後に、また口を開いた。

 

「……紹介しよう。こちら、グリフィン&クルーガーのヘリアントス上級将校だ。ヘリアントス殿、こちらが娘の……」

 

 改めて名乗って敬礼。

 

「それじゃあ自己紹介だね~。私、59式だよ~。ここに来て大変有能な活躍をしているよ~」

 

 一回踏んだだけでは足りなかったらしい59式の足を再度スタンピング。……こいつ痛覚切りやがったな? ほら、ヘリアントス上級将校だって呆れて……

 

「いや……話には聞いていたのだが、本当に御息女は、59式にそっくりというか……姉のようなのだな」

「たまたま娘に与えた銃を扱う戦術人形を、カタログで見た時は目を疑いましたな」

 

 そっちかよ! 確かに59式に似てるのは事実だが、そんなに驚くことだろうか。世の中には三人は自分とクリソツなやつがいると言うに。

 あとパパ様? もしかして59式を購入したのって確信犯だったの? 私ここまでちんちくりんじゃないやい。

 

「話を戻そう。ヘリアントス殿のご用件は、お前のスカウトだ」

「……説明をお願いします」

 

 こくり、と父は頷いて、したくない話をするときのよくやる仕草と一緒に、続きを話し始めた。

 

「レンツの部隊と合併を進める話は聞いているな? その上で、どこか別の部隊にお前を出向で出そうと思っていた。その……お前がいると、他に人形や整備の扱いに熟達したやつが育たないんでな」

 

 自覚はある。曲がりなりにも戦術人形は女の子型なので、59式の整備は私が率先して、というより独占して行っていた。ついでに、トレーラーや設備等の整備まで行っていたのも私だ。さすがに命を預ける装備は各自で整備するようにケツを蹴っ飛ばしたが、うんうん頷いていたら全部隊員の装備全部の整備も行っていたかもしれない。

 

「とかくお前はワンマンで物事を進めがちだからな。その辺を学んでもらおう、と思っていたんだが、その、出向先に困っていてな……そこにG&Kからのスカウト、というわけだ」

「そこから先は私が話そう。先日の鉄血工造製の人形の暴走事件は記憶に新しいと思うが、あれを受けて我がG&Kは新しく指揮官の募集を決定した」

 

 ヘリアントス氏が、手元のPDAツールを操作すると、ホログラムでの細かい会社概要などが流れる。

 

「かといって、未経験者ばかり採用するわけにもいかないが、経験者はなかなか見つからない。そう考えていたところに、テーブルに乗ったのがキミだ。先日の駐屯地の人形が暴走した際の、人形への指揮は見事だった」

 

 そうだろうか? 突っ込んで暴れてカバーさせて突っ込んで暴れるのを繰り返しただけだ。

 

「その様子だと自覚がないようだな。HG型戦術人形の主な役割は索敵と支援だが、君の指揮する59式の役割は火力と掃討であり、I.O.Pが想定する通常のHG型戦術人形のなしうる範囲を超えているのだ。それも、最適化が完全に完了したに近い5Link人形ならいざしらず、君の隣にいる59式は4Linkだ」

 

 注目を受けた59式が有能のポーズ(本人談)を取っているが無視だ無視。

 

「キミのその指揮能力を、ぜひG&Kで活かしてほしい。先日の暴走事件以来、鉄血人形を鎮圧するための指揮官はどこも欲しているが、特に我々G&Kは強く欲している」

 

 謳い文句そのものは悪くない。が、いくつか疑問も浮かぶ。原作的にはホイホイついていっていってもそこまで問題はないのだろうが。

 

「質問があります」

「当然だ。何でも聞いてくれ」

「なぜうちの部隊ごとではないのですか? 人形を運用していたのはうちの部隊と言っていいはずです」

 

 少し、ヘリアントス氏が言い淀む。何か、非常に言いにくいことでもあるのだろうか?

 

「……実は、短期間で5Linkを達成したのみならず指揮を自力で採る人形を運用しているところがある、という報告を受けてな。初めは育成成功事例としてのデータ提供依頼をしようとしていたのだが……たまたま得られたデータを検証した結果、人間一人4Link人形一体という報告が来た」

 

 私の視線から目をそらしつつ、ヘリアントス氏は続けた。

 

「それに、先程部隊長殿にも確認をとってな。戦術人形への指揮は特に出しておらず、全てキミが担っている、とのことだ」

 

 ……ん? ああ、なんとなく父達の狙いがわかった気がする。

 

「つまり……その、キミは何らかの理由で外見カスタムを受けた59式と勘違いされていたわけだな」

 

 唖然としたふりをする。おそらく、本当に父達の確信犯だ。誤用の意味でのな。PMC稼業はどこで恨みを買うか判らない。その矛先が私に向くことを少しでも低めたかったのだろう。異常性能を持つ多Link戦術人形にカチコミを掛けたいやつはよっぽどの自殺志願者もどきに近い。そのうえで、自己指揮する人形が例外を除いて存在しないことは普通は知らないということを踏まえると、カチコミの想定難易度がさらに爆上がりするわけである。最初はただの偶然だったのだろうが、途中から意図的に仕組んでいたんだろう。

 私こんなちんちくりんじゃないけどな!

 まあともかく、父の愛情によるカモフラージュは、一部にバレた結果そこからの注目を招くことになる。それで、人形の指揮官としての白羽の矢がたった。こんなところだろうか?

 後、聞いておくべきことといえば……

 

「あの、私がこのお話を受けた場合、59式はどうなるんですか?」

「その59式はお前の指揮下で動くことに慣れすぎている。今更指揮を他に渡しても、苦労の種にしかならんさ。というわけで、指揮官になるなら一緒に連れて行け」

「その方向性で予め交渉は済んでいる。遠慮なく連れてきてくれ」

 

 おっとマジですかパパ様、愛情を感じるなあ。少なくともこの59式がいれば、初期のスケアクロウやエクスキューショナーハンター、場合によってはイントルーダーすら屠れるやもしれぬ。

 

「では……その条件で、新任指揮官の件、お受けします」

「スカウトに応じてくれて感謝する」

 

 締結の形として、私とヘリアントス氏は握手した。

 

「優秀な59式に~新たな活躍の舞台がきたんだね~」

 

 ペースを崩さない59式の反対の足を踏む。案の定痛覚は切ってやがったこの野郎。じゃなかったこの女郎。

 

 ん? でも、この内容だとパパ様が言い淀むような内容じゃない。父は、一体何を隠している……? 少し、警戒しておこう。



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閑話1

 え、お嬢についてっスか?

 いや、メッチャ優秀な部隊員っスよ? いや、ホントホント、さっすが、あの隊長の娘さん、って。

 ……本音が聞きたい? いや、本音っスよ?

 ……ちっ、これだからブン屋って嫌いなんだ。いいぜ答えてやるよ、恩人のツテでなけりゃてめーなんぞもう叩き出してるぞ。だがオフレコだ、ていうかそこの録音機器と、鞄の中と、アンタのそのヅラの中のやつ、全部壊させろ。さっさと出せ。

 

(銃声)

 

 さて、と……これで世間話っスねー?

 んで、お嬢について? あー、一言で言うとバケモンじゃないっスか?

 昔からお嬢が、隊長の銃器ロッカーとかデータベースターミナルのパスコードをハックして中身を見ていたのは、俺も隊長も知ってるっス。だから、その中身が大したものじゃないことも知ってるっス。でもお嬢、その後作業台に向かっててててーって走っていって何か作業し始めたと思ったら、隊長に与えられてたノリンコ59式にとんでもねー魔改造してたんスよ。

 魔改造の内容? 圧倒的な精度と威力の上昇っスね。あれはもう、59式の見た目をした大型軍用拳銃だったっス。信じられるっスか? それで使用弾薬変わってなかったんスよ。後々、戦術人形の59式にも同じ改造をしてたので、あの戦術人形がHG型のくせにやたらめったら火力が高いのはそのせいっス。

 後は、端材の鋼材やアルミでキレーに修理しちゃうのもゴッドハンド。

 とまあ、ガンスミスとしてのバケモンのお嬢はここまでっスね。

 次は、スカウトとしてのお嬢っスね。

 簡単っスよ?

 もし、お嬢が本気で隠れたとしたら、例え今いるこの部屋の中だけ、と言うルールでさえ、俺も、隊長も、お嬢を捕まえらんないっス。装備? 使えるもん全部使うに決まってるじゃないっスか。サーマルも電子も、感圧素子も空気流動も、全部見事に騙されたっス。

 というわけで、スカウトとしてのバケモンのお嬢はここまでっすね。

 後は、フロントとしてのお嬢っすね。

 まあ、それはそれで俺らPMCでは当たり前なんスけど、お嬢はハンドガンからライフルはおろか、重火器まで全部扱えるっス。それもめっちゃ器用に。拳銃とナイフを手に突っ込んでくる相手がいたとして、お嬢がライフルを抱えていた場合……それでもライフルで撃ち殺すっスね。昔のFPSであったじゃないっスか、竹槍って。あれを実演してくれるっス。後は、両手に魔改造59式持って、周囲の敵をダダダダダー、って。一度、罠にかけられたことがあって、踏み込んだ中がテロリストのキルゾーンだったことがあるんスよ。でも、先頭のお嬢が踏み込んだ瞬間、凄まじい銃声が連打して。慌てて俺らが追いかけてみたら、テロリスト共、全員事切れてたっていう。

 とまあ、フロントとしてのバケモノっぷりはそんなところっすね。囲まれて撃たれていたはずなのにロクに負傷していないとかも恐ろしいポイントっスけど。

 それで、満足したっスか? I.O.Pの回し者さん。なんでって、そんなの丸わかりっスよ。ウチの59式の戦闘能力が異常、ってのは俺達もあの蝶事件の日に初めて知ったっス。そして、そんなもん、I.O.Pが目をつけないわけないじゃないっスか。隊長だって知ってるっスよ、その辺。だから、お嬢の事を嗅ぎ回られるぐらいなら、全部教えてやろうと思うんスよ。そのインプラントの録音設備にしっかり記録させておくっスよ?

 59式のあの戦闘能力は、ガンスミスのバケモノとしてのお嬢の常日頃からの銃器への改造とメンテ、メカニックとしてのバケモノのお嬢の常日頃からのメンテナンス、後はクソ振り切った発想の、戦闘中に破損した手足のダミー人形との超高速交換の賜物っす。最後はともかく、最初の一つ二つならまだ判らなくもないっスけどね? まあ……それだけ手間暇かかることしてるんで、維持はあの59式と、せいぜいもう一体か二体ぐらいが関の山じゃないっすかね? チンケなクズテツからでも、段階を踏んで機材を作り出すあのお嬢に、作業環境の優劣を説いても無駄っスよ。……まあ、クソ気軽に核動力使うのはマジやめてほしいっスけど。あれだけはマジで。ガイガー計動いてないのがマジ奇跡に思えるっす。核融合だから破損しても放射線は出ない? そういう問題じゃないっスマジで。はぁ……。

 あー、満足したら出ていくっスよ。撃たれる前に。お嬢と59式を引き抜かせたのも、そっちの方がまだ安全だからってだけっス。

 いいっスか、これだけは覚えておくっスよ?

 お嬢に傷をつけたり使い潰すような真似をしてみろ。俺達とレンツんところ合同で、刺し違えてでもI.O.Pのラボを消し炭にするからな。忘れるなよ、絶対にだ。



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配属

 私の配属された指令室のある地区は、R08地区だった。

 てっきり、SABCD系の重要度危険度に応じた地区名だと思っていたが、単なるアルファベット順だったのだろうか? 鉄血の哨戒経路が近くにあり、G&Kの想定哨戒路と重なっているため頻繁に小競り合いが起きる地区らしい。哨戒経路を潰し、後続の部隊も潰し、最終的に他地区へ遠征ができるように地盤を固めること、というのが最初の任務のようだ。

 

「初めまして、指揮官様。あなたの後方幕僚となる、カリーニンです……どうかなさいましたか?」

「……いえ」

 

 最初に思ったのは、そりゃ当然カリーナじゃないのか、ということだった。確かにカリーナはS09地区の指令室に配属される、新米指揮官、つまるところプレイヤーの所に配属されるはずであり、当然カリーナは人間だし一人しかいないので、どこかに配属される予定があるならば別のところには別の人員が回されてくるだろう、当たり前に。ちょっぴりあの銭ゲバ(?)との邂逅を楽しみにしていただけあって、落胆が大きい。事あるごとにあの自己主張の大きい胸を鷲掴みにしてやろうと思っていたのに、現実の後方幕僚はなんかチャラめのにーちゃんである。外見的にはカリーナの兄貴とか言われても信じそうなぐらい似通っているが……どうなのだろう。名前からしてロシア系なんだろうか? そういえばスオミはロシア系人形を毛嫌いしていたが、カリーナとはどうだったんだろうか?

 ともかく、こちらも名乗って自己紹介をする。その途中、カリーニンがどうにも微妙な顔をしていたのが気になったので、その理由を問うてみた。

 

「いえ、大したことではありません」

「大したことでないなら言っても構わないでしょう?」

「……、いえ、事前に伺ってはおりましたが、本当に59式に似ていらっしゃるのですね、と。体型まで含めて、何もせずにそこまでそっくりなのはとても稀かと思いまして」

 

 失礼なことに視線が私と59式の胸を往復していたので、鼻を掴んでねじっておいた。次は折るぞ。

 

 

「以上が指令室の設備概要となります。念の為マニュアルにも起こしておきましたので、質問などありましたらこちらを御覧ください」

 

 鼻を真っ赤に腫れ上がらせたカリーニンから執務室の設備についてのレクチャーを受けた。設備仕様のガイダンスも兼ねて、本社司令部とのやり取りに使うメーラーから、初期配備人形の受領のための電子証書と、追加発注のための書類とトークンを受領する。資源も無限にあるわけではないので、初期配備の人形はある種のランダムらしい。前線に近いとか、索敵が重視されるとか、そんな指令室の事情もある程度加味されるとのこと。電子証書にサインをして送り返したので、明日の夕方には三ないし四体の人形がくるそうだ。

 楽しみである。

 

「それで、この後はどうなさいますか? データルームと、指揮官様には特別に修復及び整備所をご案内せよと指示を受けておりますが、時間的に今日はどちらか片方までにしておいた方がよろしいかと」

 

 誰が来るか想像していた所に、カリーニンが続きを促してきた。が、珍しいことにまだまだ日は沈まないにも関わらずそんな事を言う。

 

「え? 両方行けない?」

「あいにくと、どちらも説明が長くなることが予想されますので」

 

 真っ赤な鼻ながら涼しい顔をしてそんな事を言ってくる。

 思い返してみれば、最初期のデータルームは物置レベルだったので第一段階までアレコレするだけでも相応に時間がかかった。バッテリーの入手量が少ないのも一因だったか。整備所はゲームにはなかった項目なので、説明内容が推敲されていないのだろうか? まあ、いずれにせよどちらも回らねばならない。早いか遅いかの違いだ。後は救護室だが、あれ、これ私の負傷のためにも開発しておいたほうがいいんでないか?

 

「資料では救護室もあったと思うのだけれど」

「そちらは専門の職員もおりますので書面で十分ですので。ただ、職員からは、怪我や病気の手当てのために早めに設備を整えてほしい、との要望が上がっております」

「もう要望が来てるの?」

「はい。職員は数日前より務めてございます」

 

 意外にも早い。多分、御多分に漏れずに古い建物を修繕なり拡張なりして作られた指令室なのだろう。執務室の設備が申し分ないのに対し、喫緊の要がない設備はアンティークまで動員してとりあえず揃えただけ、と。かといってせっかく作ったものを放置するわけにも行かず、職員はとりあえずいれて警備して指揮官の着任をまつ、といった段階だったのだろう。

 いずれにせよ、データルームも救護室も早急になんとかせねばならない。

 

「まずはデータルームから。時間が余ったら整備所に行きましょ」

「かしこまりました。では、こちらでございます」

 

 

「……」

「こちらがデータルームでございます」

「……わぁお……」

「なんもないね~」

 

 暇だからとついてきた59式の言う通り、データルームと称すべきここには、割とものがなかった。せいぜい、ドローン操作系のクソ時代遅れセットと、人形向けの操作ステーションの二つだけだ。デスク……は、最初は手書きだったから何もなくてもいいとして、保存机もコンピューターも通信出力設備も何もなかった。

 

「はい。ですが、ドローンの操作は戦闘中の指揮を行うためにも必須ですので、こちらは時間を割いてご説明することとなっております」

 

 確かにそれは必要だ。が、その前にその他の設備が何故ないのかを問いたださねばならない。

 

「それは必要だと思うからいいわ。でも、なんで他の設備がないの?」

「……グリフィンも、実を言うとかなりの物資不足でございまして。端的に言えば予算が足りず、この指令室の体裁を整える段階で真っ先に切り捨てられたのがデータルームと救護室です」

 

 切り捨てどころを間違っちゃいないかそれは?

 まあ、いい。それならそれで、資材を色んな所から、それこそ鉄血人形の電脳から基盤まで何でも集めてきて、でっち上げるだけだ。

 

「とりあえずわかったわ……。それじゃあカリーニン、本部に陳情してジャンクでいいから、動作保証はなくてもいいから回路基板とか銅とか金とか集められる?」

「申し訳ありません、指令室の所によってはジャンクを設置しているところもあると聞き及んでおります」

「まぁじでぇ? G&Kって意外と貧乏なの? シェアトップじゃなかったの? えーと……じゃあ、廃棄場とか処分場とか埋立地とか、この近くにある?」

「は? 廃棄場……でございますか?」

 

 私の質問にびっくりした顔をしていたカリーニンだったが、数秒で持ち直すと手元のタブレットを操作して検索。

 

「……近くに旧産業廃棄物処分場がございますね」

「よっしゃあ宝の山キター!!」

「え~またゴミ山漁るの~?」

 

 59式がうんざりした顔をしているが、父の部隊にいた頃は、私の一存で動かせる人手など59式しかいなかったから仕方ない。人間の部隊員に頼もうものなら後が恐ろしい。何をおごらされるかわかったものじゃない一方で、59式ならアイスやケーキでコロッと流されてくれるので便利だったのだ。詐欺だなどと言うまいよ、キミのボディの整備素材を集めたりもしていたのだ。

 そう、産業廃棄物の山は宝の山と同義である……アパラチアでは。こっちでは私にとってぐらいだが。

 まあ、コーラップス流出と第三次世界大戦でぼろぼろになった世の中ではまさしくゴミの山かもしれないが、フォールアウト式資材リサイクルが可能であれば資源の山と見ても問題ない。効率の多寡はあれど、資材が集まるのはよいことだ。後は、アレが欲しい。

 

「ねえカリーニン、手段はともかくとして、核物質手に入らない? ウランが一番いいんだけど、この際使用済みプルトニウムでもいいわ」

「はぁ、核物質でございますか……、……か、核物質でございますか!?」

 

 やはり驚かれるか。核ミサイルが飛び交って、やべーぐらいに人類の生存圏を狭めたこの時代、核兵器に通じるものは忌避感が大きいのは当然か。

 

「な、何にお使いになるのですか? ま、まさか……」

「物騒なものには使わないわよ。核融合発電機を作るの。追加、もしくは非常用電源としては優秀よ?」

「発電機……? と……とりあえず、手配できると確約はできませんが、陳情はあげさせていただきます……」

「ええ、それでいいわ。理想は、産業廃棄物の中に核物質入りのバレルが不法投棄されてるパターンだけど」

「冗談でも恐ろしいことを言わないでくださいませ!?」

「……前~あったよ、それ……」

「なんですって!?」

 

 とりあえず過去の行いをなんか遠い目で思い出している59式を立ち直らせ、その日はドローンの扱いを学ぶことで終わった。

 それにしてもこのドローンコンソールは使いにくい。後継機はなんだかんだでフィードバックを揃えて扱いやすくなっているそうなので、とっととグレードアップしたいところである。バッテリーを揃えるより、自分で作ったほうが早そうだ。

 ……まさか、そこも予定に組み込まれてるとかあるんじゃなかろうな?

 ありそうだ……。




PCがフリーズして調子が悪くなり、編集中のものがぶっ飛ぶというしなくても良い経験をしました。
個人的な趣味嗜好から編集作業はよくただのメモ帳で行っているので、自動保存など無かった次第です。

何か別のものに乗り換えますかねえ。

ともあれようやく指揮官配属にこぎつけました。


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整備と人形

 修復及び整備室。

 この部屋に入った瞬間、なんか体が理解した。

 ここはわたしのしろだ!!

 

 

 

「おはようございます、指揮官様。よくお休みになられましたか?」

「それなり~」

 

 翌朝。

 朝食後、カリーニンの挨拶には適当に答えた。指揮官用の個室はそこそこ良いものが揃っていて、場合によっては何か作るかと考えていたぐらいだが、その必要もなかった。59式にもちゃんとした個室が与えられたと本人から聞いた。

 

「それでは早速、今日は修復及び整備室から始めましょう」

「……んー、そうね。整備室を見終わるぐらいには、今日来る戦術人形のリストとか来るかしら」

 

 昔の公民館か病院らしきものを再利用して作られたこの指令室は、内部の移動がスムーズにできる。襲撃を受けたときの防衛には向かないが、日常の利用面では便利だ。一階の、大きめの部屋。以前はレクリエーションルームかカンファレンスルームか、といった配置の部屋が整備室のようで、そこに入る。

 

「こちらが整備室でございます。あちらから順に、銃器の整備工作機械。そのまま銃器の整備工作用ですね。次が人形躯体の整備工作機械。こちらもそのまま人形躯体の整備工作機械。ダミーの整備も当然可能です……指揮官様?」

 

 済まないがちょっとまってほしい。

 この、超高級整備工作機械どもの群れは何だ!? 機材のアップグレードの果てにあるものが勢揃いとかどーかしてんぜ!? 後は必要な資材さえあれば何だって作ってやるし整備してやんよ!! やばい、早く使いたくてたまらない、これはすごい、すごすぎる!! 見ろよこの工作機械、超小型の最新鋭溶接テーブルまで備えてるし、切削精度もダンチの型番じゃない! 人形整備機器のOSもあのクソたっけぇOSが搭載されてるし、ダミーの再構築だって簡単にできそうだ!! 銃器の改造だって今まで以上に正確に素早く頑丈に仕上げられそうだし、場合によっちゃいままでできなかった弾薬変更すらできるかもしれない! バックアップからの再構成のためのASSTシステムの機械を悪用して、本来なら影響が出るような銃器を正規のエッチングとして認識させることすら可能かもしれない……

 

「しきかんさまー」

「しきか~ん」

 

 はっ!?

 

「そのご様子ですと……機材に対しての説明は必要なさそうですね? もしかして、全部使い方がわかっちゃったりします?」

「おじょ……指揮官のことだから全部わかってるんじゃないかな~」

「……上が、データルームから資金を奪ってでも整備室を充実させた理由が何となくわかりました」

 

 呆れた眼差しとため息のカリーニンと、なんかもう悟った顔してる59式がいた。……ちょっと、59式、アナタの性能は私の整備と改造あってのことだってわかってます?

 

「逆に、整備室の人員は現時点では配備されておりません。ある程度の戦術人形の頭数が整うまでは、指揮官様が全てなさったほうが逆に効率的と判断されたからです」

 

 ただ、聞き捨てならないこともこの後方幕僚はのたまっている。

 

「ちょっとまて、それ私が過労死コースじゃないの?」

「およそ10体を超えるまでは、ですので、上も割と早めに人員を送ってくるのではないでしょうか?」

「……あまり信用できないから、とにかく頭数を増やすことにするわ。戦闘中に保護、救出した人形は、特に所属が判明しなければここの所属にしていいんでしょう?」

「確かにそうでございますが……この近辺で行われた戦闘はそう多くないので、救出、保護はあまり望めないかと……」

「……マジ? じゃあ、まずは種別無視して頭数増やすところから始めないといけないのね……となると問題は資源? 後方支援要請はちゃんと来てるわよね?」

「はい、そちらは」

「ならいいわ。後は、哨戒への対策と、妨害案と迎撃案を練りましょ。資材が十分にあれば、ヘビーレーザータレットでも置きたいところだけど……核物質ないだろうなあ」

 

 はー、とため息。

 核物質は、核融合発電機にヘビーレーザータレット、各種ターゲッティングシステムに必須なので潤沢に欲しいところなのだが……などと考えていると渋い顔のカリーニンと目が合った。

 

「あの、指揮官様。核物質の陳情は今朝方申請したのですが、当然5分で却下されまして。ヘリアントス上級将校直々のコメントで、最悪の場合の指令室放棄の際に、確実に問題になるため、と」

 

 ……。

 あ、59式までほっとした顔してやがる。

 

「わかったわ、非合法ルートで調達してこいってことね」

「物騒なことを言わないでくださいませ!! 放射能汚染は下手したら一万年の荒野なんですからね!?」

「へーい、わかりましたよーう」

 

 ちぇー。副産物の劣化ウラン弾とか作りたかったぜ……。え? 劣化ウランはそういうものじゃない?

 

 

 

 昼食後。

 

 ピピッ

 

「お」

「メールですね、指揮官様」

 

 執務室でカリーニンと確認事項を処理していたら、メールが来た。差出人と件名をチェック。といっても、今ここにメールを送ってくる用件があるものなど一箇所しかいない。案の定、そしてようやく、本部司令室から配属予定の戦術人形のリストが来た。

「本部からの配属人形のリストね。いいのが来るといいんだけど……」

 呟きながらタップしてリストを開く。

 

 一人目、Five-seveN。

 ハンドガンか。59式もそうだったが、ゲームでは通常の製造で出ないイベント限定、なんて括りは存在しないのだろうか?

 ともあれ、ハンドガンの中でもハイエンドと言っていい性能をしていたはずなので大歓迎である。

 

 二人目、SPP-1。

 またハンドガンか。そしてまたイベント産。実銃は水中拳銃だったか、とても珍しい括りのハンドガンだったかと思う。

 陣形効果が優秀だったんだったか……確かFive-seveNと食い合うんじゃなかったか? 59式だっけ?

 

 三人目、CZ75。

 またまたハンドガンか。そしてまたまたイベント産。ハンドガンなのにいわゆる竹槍運用ができるやつ……だっけ? 斧はそういや扱ったことないなあ。

 ともかくそこまで育ててなかったのでイマイチ判らない。

 

 ていうか全員ハンドガンかよ!? 確かにレアリティは高いかも知んないけどさあ!? バランスってもんはどーなってんのさ!?

 

「……カリーニン」

「はい、指揮官様」

「全員ハンドガンなんだけど、何かの陰謀? SMGは? ARは? RFは? いないの?」

「……は?」

 

 カリーニンのタブレットにリストを転送してやった。それを見て、カリーニンの顔が曇る。

 

「……その、人形製造にランダム要素がある以上、配備される人形にランダム要素もあるので……そ、そのせいでは……?」

 

 カリーニンにも予想外らしい。

 

「あとは……哨戒は当然夜間も行われるので、その為の索敵能力を優先させた結果……かと」

「それっぽいけど流石にその理由だったら、見張るだけになるからねーわよ」

 

 とりあえず抗議も兼ねて、合コンの負け犬もといヘリアントス上級将校に状況と理由を伺うメールを出しておく。

 ……というか、合計で戦術人形が4人しかいない以上、残り一枠、まさか私じゃねえだろな……?

 あくまで私は人間であるので、多Link人形のような手数と火力と耐久は到底持ち合わせていない。仮に一撃の威力が倍のARを持ち出したとしても、4Link人形のほうが更に火力は倍となるはずだし、59式のような、人間と比して圧倒的な回避能力があるわけでもない。いや、……対装甲もかねて狙撃支援ぐらいはできるか?

 後は、効率が落ちるのであまりやりたい手段ではないが、戦術人形に別の銃器をエッチングしてしまうか……それは最終手段か。

 というところでふと思い出す、もっと別の根本解決手段があったではないか、と。

 

「カリーニン、とりあえず一体、人形の製造申請を出しておいて。使用資源は、くっそネゲヴレシピも回せない……130ALLかしら……」

「いきなり製造でございますか?」

「お、新しい子~?」

「とりあえず一部隊分をフルメンバーで運用できるようにせにゃならないもの。頭数は大事よ?」

 

 いきなり少ない製造権利チケットを切ることになったが、これらは最終的に枯渇するまではただの数合わせにしか過ぎない、という考え方もある。死蔵して襲撃を受けて撤退するか死ぬかするより、現状では使い切っておくぐらいのほうが有意義だろう。

 

「そうそう、快速製造チケットも切っておいてね、それなら、最悪でも結果だけはさっさとくるでしょうし」

「かしこまりました」

 

 というやり取りを経て、昼食後の作業は再開された。

 

 

 

 その後、新たな確認すべき書類の確認等のデスクワークをしていると。

 

 ピピッ

 

「……お。早いわね」

 

 早速だが、製造結果の通知が来ていた。

 戦術人形は、ASSTシステムにおいて最大限の恩恵をうけるために、扱う銃器に合わせて躯体や性格面がデザインされるというのは知っての通り。だが、なぜ製造が狙ったものだけ生産できないのかと考えると、おそらくは戦術人形のコアとしての製造面で、カオス理論的なサムシングのせいで特定の人形向けのコアだけを生産できるものではないのだろう、という推測が立つ。ダミー修復どころか素材からの再生を行ったこともある私は、躯体の生産はそう手間ではない事もわかっている。

 全てはコア生産がランダムなのが悪いのだ。

 

 グリズリーマグナム。

 ハイエンドモデルハンドガン。

 

 そう、ハンドガン。

 

 とりあえず、徹甲弾装填したスナイパーライフルを担いだ私が狙撃支援をしなければならないことは確定した。

 ハンドガンで装甲目標を貫けるわけ無いだろいい加減にしろ。




評価をいただきまして、ありがとうございます。
反応があると、続きを書くのが楽しくなります。


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改造

 FNCとかM14とかステンMk-Ⅱとかスコーピオンとか、いたらある程度の人員変更で昼戦夜戦への対応が便利だったのだが……ま、ないものねだりをしてもしょうがない。

 とりあえず、そろそろ四人が到着するそうだから、迎えに行こう。グリズリーも別便で出発してて、ほぼ同時に到着するんだってさ。さっすが快速製造要求チケット。

 

 で。

 

 兵員輸送カーゴトレーラーと、兵員輸送ヘリの臨時便が到着し、受け取りのサインやら何やらを済ませ。あとは兵舎で並ぶ四人と、その前に立つ私、と59式。

 一通り自己紹介を済ませてとりあえず何か訓示でも垂れなければいけないかなあ、と考えていた所、どこか困惑したような視線を感じる。その出処は、目の前の四人。

 

「……あー。なんで59式が指揮官やってるの、って顔してるね。うん、私は偶然にも59式にクリソツだっただけの人間だよ。ホントホント」

 

 と言ってもうっそだー、みたいな雰囲気がある。G&Kの指揮官用制服を着てるし、人形なら人形自身が指揮を取ることはできない、というのはわかっていて欲しいものだけれども、いや、意外と知らないのだろうか?

 

「人形が指揮を取ることは、例外を除いてできないって知ってるでしょ?」

 

 こう言うと納得してくれた。

 

「まあ、対外的にそこの59式のダミーリンクの一人としてカモフラったこともあるけど。PMC出身なのよ、私。違和感なかったらしいわよ」

「5Link人形で~す」

 

 そこのお調子者の発言はともかく、これは本当なのだがジョークとして取られたようだ。クスクスする声が聞こえた。

 

「あと、59式ほどちんちくりんでもない」

「しきか~ん?」

 

 初見にはウケがいいのよねえ、このネタ。笑い声まで聞こえた。さて、つかみはオッケー、次にいこうかしら。

 

「それじゃあ、多分一番使う部屋を紹介しておこうかしら。きっとみんな驚くわよー。ついてきて」

 

 ということで、五人を伴って指令室内を移動する。途中にすれ違ったりした職員に挨拶と四人を紹介しながら。

 この指令室――基地と呼ぶにはまだいろいろと足りない――意外と人員の配置数が少なく、兵装やら資源の管理はカリーニンを責任者として麾下何人か、修復及び整備開発室管理責任者私部下なし、データルーム同左、宿舎管理は住み込みらしきご老人、食堂は責任者一名に麾下数名、などなど。他にも警備はいるが、人手のいる整備室が私一人にぶん投げられているので驚くほど人数が少ない。なので、私が風邪を引いたり怪我をしたりしてダウンすると、指令室の機能が一気に止まることが想像できるので怖い。さすがに、アイツ式治癒能力は持ち合わせていない。幼い頃は普通に風邪を引いたし、転んだりして擦りむいたら普通に数日かかった。

 さて、そんなこんなで整備室。いっぺんやってみたかったのだ。

 G&Kのコートをばさぁ、と脱ぎ捨て放り投げ、いでよ作業用ツナギ姿の私!

 

「さあ、ここはわたしのしろだ! ぜんいんじゅうをだせ!」

 

 ……。しまった、スベった。

 

「コホン、この指令室の一番特異なところがこの整備室ね。なにせ、整備責任者と整備を実行するの、私だから」

 

 ポカンとした顔が唖然とした顔になったのを見れたのでとりあえず満足。

 

「えぇと……その、どういう……?」

 

 さすがに何か聞き返すのを我慢できなかったのだろうFive-seveN。よくぞ聞き返してきてくれた。

 

「言ったでしょ、PMCにいたって。その時から、人形と銃器の整備改造してるのよ。59式、見せてあげて」

「カシコマ!」

 

 言うが早いか、助走なしでその場から斜めに壁へ飛ぶ。壁を蹴って逆方向へさらに飛び、天井に足をつけて逆側の壁へ。もう一度壁を蹴って再び逆方向へ飛び、元の位置へとすたっと戻ってきた。つまるところ、横から見ると長方形の形の部屋の中を、ひし形を描くように動いたわけだ。

 

「軍用なの? この59式」

「いいえ。PMCにいたんだから、民間モデルよ」

 

 SPP-1の疑問も最もだが、人形躯体の強度と出力を高め、それに対しての戦術人形自身の感覚のミスマッチを修正、つまるところ最適化できているならばこれぐらいはできる。問題は、躯体との最適化データが、標準躯体の場合と比べて全くの別物になってしまうということか。ゆえに、カスタム躯体と標準躯体との二つの最適化データを59式には持たせていて自由に切り替えられるようにしている。カスタム躯体が継続的に供給できない場合は標準躯体を使わざるを得ないわけで、そのときにカスタム躯体データで動くと当然ぶっコケるからだ。逆に、銃器はASSTに影響が出ないように気を使っているので1パターンのみ。幸いにして、躯体駆動データを切り替えても最適化具合に問題がなかった、というのは助かった。ダイナミックに動けないのならばそれはそれでやりようがある、ということなのだろうか。あるいは、出力を落とした状態をエミュレートでもしているのか。ただ、そのアプローチでは最適化データを統合できなかったので、別の感覚なのだろう。

 

「だからまあ、まずは全員の銃器の改造調整と、躯体の抜本的改造ね。躯体は改造と維持が大変だから、手が空き次第順次、だけれど」

「指揮官、維持とは?」

「人間だって飛んだり跳ねたりしたら疲れるし筋肉痛にだってなるでしょ? 戦闘機動を行ったら、ボディは整備が必要になるからね」

 

 生体部品があっても、その下のシャーシ等には常日頃のメンテが必要になる。いまいち、グリズリーには実感がないのだろうか? あるいは製造したての人形特有の乖離感とかそういうのなのだろうか? まあ、消耗部品の交換で大抵は済むので、あまり手間ではない。手間ではない……が、さすがに例えば二百人の人形にそれを維持とか言われても無理であるのも事実である。

 

「ま、それは標準躯体だって変わらないけど、人を呼べば手数が増えるでしょう? でも、私の改造をしちゃうと私しか手が出せなくなっちゃう」

「確かに。でも、パーツが用意されていれば、整備員でもとりあえずできそうな気もするわね?」

「改造後の規格統一がなされてればいいんだけど、割とワンオフ、一点物に近くなっちゃうのが欠点といえば欠点ねえ」

「ああ……そういうことなのね」

 

 それは私も考えないでもなかったが、必要なパーツをその場でぱぱっと作成して使うほうが手間も著しく少ないのがネック。素材のロスを減らせるために、前もって部品を作成しておくよりも効率がいい、というのもある。

 

「ま、そんなわけで、まずは銃器から始めましょ。とりあえず全員、取り回しを変えないようにしつつ、耐久性とか威力とかをガッツリ引き上げるわよ」

「……信じがたいけど……どうせ最適化率1%だ。なんでもやってくれ」

「ちゃんと斧の強化だってするわよ?」

「指揮官、一生ついてく」

 

 うっわこのCZ75ちょろい。ともかく、銃火器がメインの時代に斧を持ち出すやつはそうそう多くないし、ましてや投げるとは。でも、投げ物として考えると、斧は実に威力重視な選択肢としてふさわしいブツだったりもする。単価は上がってしまうだろうが、ブレードを赤熱させてみたり、あるいは爆発物を括り付けて着弾後に爆発するとかもありだろう。回収できるなら回収しているようだし、まずは赤熱化か? 単価とかも、定期的に近くの産業廃棄物処理場を漁れば劇的に下げられるだろうし。

 ……改造とかそういう話になると思い切り脱線するのは私の悪い癖だ。

 ともかく、全員分の銃をまずは改造。レシーバーをアレコレしたり、部品強度を上げてみたりと色々とやる。その後に、シューティングレンジに全員を連れ込んで試射させ、ストック状態の銃と比較させてやると全員の顔がもう凄い凄い。

 後は躯体の改造であるが、こちらは時間がかかるので一人ずつやるしかない。物資もだいたい一人分。二人分はない。ので、誰から始めるかを考えてまずはSPP-1から始めようと思う。

 

「なんで私からなの?」

「なんとなくとしか言えない。強いて上げれば勘。単純機動力じゃなくて、夜間とか河川水域とか、そっちでの戦力充実が必要かなって思ったの」

「そう……水中のお仕事があったらぜひお任せください」

「オッケー。それじゃあ始めるわよ」

 

 

 

「さあ、この改造が成功すればお前の機動力は三倍になる!」

「本当!?」

 

 ……。

 

「しきか~ん。だからコミックネタとか製造直後の子には通じないってば……。あと、そのネタは結構古いし。私は指揮官に色々と振られて知ってるけど」



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閑話2

 しきか……お嬢について聞きたいの?

 まあいいけど、当たり障りのないことしか話せないよ? それでもいい? うーん……。じゃあまずは、私についてかな。

 

 私はお嬢のお父さんが経営するPMCに購入された人形なの。ハンドガン型だし、斥候とかそんな感じなのが役どころだったね。

 それで、買われて私はお嬢の配下についたの。お嬢は、お嬢の上の部隊長の配下、って認識だったみたいだけど、お嬢以外、私も含めて私はお嬢の配下って認識だったね。で、お嬢の配下として働いて、いろんなものを相手に銃撃戦やって、気がついたら4Linkになってたよ。うん、そう。私も、銃も、お嬢の改造を受けてる。でも、お嬢は最初から、それこそ出会ったその日から、多分私をここまで改造できたと思う。あの改造センスはいったい何処から来たのかさっぱりわからない。だって、お嬢にそれっぽいことを教えたような人が一人もいないんだもの。ずいぶん長いこと、お嬢の周りでは死人が出なかったということだし、あるいは別の、今は合併したレンツさん達のPMCに教師がいたわけでもないみたい。誰かが教えて成長したにしても、あっちのメカニックとかを上回りすぎ。だから、本当に、お嬢の技術がどこから来たのかは、不明。わかんない。本当に何一つわかんない。

 わかんないといえば……お嬢の戦闘能力とかもわけわかんないんだよね。部隊長さんにも聞いたんでしょ? テロリストに罠踏まされたって。あれと似たようなときがあって、踏み込んだ瞬間私の真後ろのお嬢が銃をいきなり乱射し始めて、そしたらテロリストが撃った弾の数だけどさどさーって落ちてきた。だって、踏み込んだ瞬間だよ? 索敵とかできてないよ? いると思ってなかったよ? なのに一蹴。ほんと、わけわかんない。

 他にも、ヘアピン一本取り出して何するのかって思ったら、それとドライバーでどんな複雑な鍵もこじ開けちゃうし、ちっちゃなPDAを繋いだらどんな電子錠もどんなターミナルも全部入りこんじゃうし、謎。

 ……こんなもんでいい? うん、まあ、うん。私、買われたところがPMCだったから、半分諦めてた。いつか、盾になって壊れるんだろうなー、って。そうだよ? 人形だって、バックアップから再生された後が同じ自分なのか、保証がないんだよ。みんな怖いと思ってるはずだよ? でも、お嬢は、ダミーこそ盾にしたりとかするけど、本体の私に対しては、人間と扱いが同じだったね。道具なのに。奇特なことをする人もいたもんだな、って思ってたけど、あれだけ大切にされたら、そりゃあこっちだって愛着もわくし、道具なりに尽くしたいって考えるさ。

 そうだよ? 私は戦術人形59式。多分お嬢にそっくりだったから、どこかでお嬢が受けたであろう逆恨みとかの回避のために、カモフラージュのために買われた人形。だから、愛着ある主人のためなら、メインフレームででさえ立ちはだかるよ。ふふふ。

 

 もうこれでいい? ……え、不満? うーん、不満かぁ……あるね、すっごくある。

 

 まずはあのとにかく何でも資源資源言って拾ってくるのはやめてほしいかな。鉄くずとかならまだいいんだけど、野ざらしになってたものっていっつも臭うし、金属どころかこ汚い布とかも拾ってきてたし……臭いし。知ってる? お嬢が持ってきた資源って名前のゴミ山がPMCの敷地の端っこに積み上がってたぐらいなんだから。多分、お嬢がスカウトされたのをいいことに、あれもう処分してるんじゃないかな、喜々として。テロリストとかを排除した後、着てた迷彩服に至るまで全部剥ぎ取って持って帰るから、あれはもう病気だよ……。テロリストだけに山賊みたいで、お風呂入ってなくてやばいぐらい臭いのに、なんで持って帰るんだろう……。

 次はあれだね、資源の山だー、っていって廃棄物埋立場掘り返すのほんっとやめて欲しい。うん、お嬢があれこれすると、ゴミが立派な銃器にいつの間にかなってたりするから、本当に資源なんだろうけど……私含めて周りには本当に益体もないゴミを掘り返してるだけにしか見えなかったもの。臭いし。そのうち、なんかカリカリいう機械を渡されて、うんそう、ガイガーカウンター。埋立場中歩き回らされて、一番大きい音がした場所をいつもは使わない掘削機を組み立てて掘り返して……。うん、そう、核廃棄物が不法投棄で埋められてたんだ。うん、核廃棄物。それを使って、核融合炉作ったって言われたときには、私、目眩がしたよ。人形なのに……。

 ほんっと、ああいうところさえ無ければ言うことなしの持ち主なんだけどなー。今度また産業廃棄物処理場に行くって言ってるから、気が重いよ……人形だけど。




理想形まで練り上げていると、いつまでたっても投稿できない気がしましたので、
ある程度でとりあえず投稿してしまうことにしました、はい。

ところで皆様体調はいかがですか。
私はうっかり日曜日にバッタリいきました。


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初任務

改行が崩れていたのを修正しました。
ご迷惑をおかけしました。


 SPP-1の躯体を改造した段階で、一度時間切れとなった。一度、というのは鉄血の哨戒部隊の巡回間隔が来てしまった、ということだ。意外と躯体には戦術人形ごとに個性があって、59式の時に色々と記録しておいたことがあまり役に立たなかったのもある。

 

 さて、任務の話をしよう。R08地区周辺は、有り体に言うととても地形が悪い。山に近く、所々枯れているとはいえ木々が生い茂るために見通しが悪く、そこかしこに狭い道があり、ついでに沢もあって所々水深が深いところまで散りばめられており、ごくごく稀に汚染されているために立ち入りを遠慮したほうがいい領域すらある。ふざけんなFPSのクソマップかコラ、と周辺地形にいちゃもんを付けたくなるぐらいだ。こんな地形でも地味に別の地区への輸送路となっており、ロケットで粉砕して封鎖して終了、とはできない。いや、最終的には山とかを切り崩して新しいルートを作り出したいところなのだそうだが。迂回路は汚染やらE.L.I.D出現率が高めやらでこの対戦マップを掌握することが望まれているそうな。芋砂りてぇ……。いや、芋砂ってかゲリラ戦術繰り返すだけでも相手には相当の被害が……ああ、同じことされたら輸送路としてはやべーわ、だから掌握したいのか。

 

 慣らしを終えたSPP-1達を含め、とりあえず全員2Linkには届かせてある。なんとか今回を凌いで、次の任務にはせめて3Linkまでは上げておきたい。贅沢を言えば4Linkか。多Link人形は弾薬や食費が高騰する、なんて話が指揮官の手引きには書かれていたが、そこはHG型人形たちばかりなのでかなり軽いのはこれからの助けになるだろう。……後で知ったが、G&Kでの一般的な戦術人形のLink数は3らしい。え、4じゃないの……? うちの59式上位なの……?

 

 

 全員を集めて、執務室でマップを壁に投影する。頭数が少ない上に全員がHG型なので、機動力を生かして射程ギリギリから狙撃、みたいなゲリラ戦術をせねばならない。射程向上とか精度向上とかはもちろん施してあるが、それだけで真っ向から打ち合って勝てるとは思っていない。

 

「なわけで、注意すべきポイントはこことここ。取り付くべきポイントはこっちね。今回はそこまで大きかったり数が多かったりしないけど、ドローンでの光学観測では三部隊が見えてるわ。ハイエンド機の姿はなし、装甲目標の姿もなし。全員分の改造サイレンサーも用意したから、使って。後はゲリラ的に、指示ポイントから一方的に弾丸をぶっこんで排除すればオッケー。質問はある?」

「補給は?」

「うーん、弾薬が尽きる前にケリを付ける予定だから必要ないと思っていたけど……そうね、念のために、この地点に弾薬と糧食を投下しておくわ。ちなみに、緊急撤退時のRZも同じ地点の予定よ。他に質問は? ……ないわね? それじゃあ出撃準備、三十分後にヘリポートに集合」

「了解したわ」

「了解です」

「了解」

「了解よ」

「カシコマ!」

 

 ……59式?

 

「いや、だって~、私、軍属でもG&K所属でもない、お嬢所有の戦術人形だもの、この辺りで差をつけておかないとね?」

「……なんの差よ……まあいいわ、とっとと準備にお行き」

「カシコマ!」

 

 クスクス笑いながら出ていく他の四人に、大きくため息を付いた。

 なんで私、こいつに思いっきり似てるんだろう……。下手にカモフラの有用性があるから、髪切ったりできないのが嘆かわしい。

 カリーニンの視線にはケリで返事をした。

 

 

 さて、出撃前に最後の小細工をする。

 ささっと整備室に駆け込み、作業台で作ってしまいこんでおいたスナイパーライフルを取り出し、コアの電源を入れる。

 これは実銃ではない。完全な架空銃であり、高熱のプラズマ弾を射出する鉄血のお家芸のようなエネルギースナイパーライフル。弾速に優れる上に弾道降下がないのが特徴なので、とにかく遠距離から狙い撃って支援するのに向いている。一方で、弾自体がめちゃくちゃ目立つので芋るとすぐに反撃が飛んでくるという面倒くさい代物だ。緑色の光球がえらい勢いで飛んでくるってすげぇ目立つよね……。が、今回の出撃チームを後方から支援するには打って付けのブツだ。

 そして、カモフラも一緒に行うので、青のベルト留めチューブトップワンピースに白衣、メガネ、カラコン、ニーソにシューズ……遠目から見られるだけだろうので今はこれで十分だろう、ついでにサイドアームとしていつもの改造59式を二丁。完璧である。スリングを付けてスナイパーを背負い、ヘリポートまで移動して、みんなの到着を待つ。初めての出撃にわくわくどきどきでもしてるのか、あるいは念入りに準備してるのか、時間が近くなってもまだ誰も来ない。

 と、バタバタと足音が聞こえてきた。

 

「一番乗り……じゃありませんでしたか。59式はダミーを全員呼びに行ったのにはや……59式? いえ……指揮官!?」

「ふふ、正解」

 

 一番乗りであるSPP-1を少しでも混同させられたのであれば、遠景であればなおさらだろう。

 

「指揮官がカモフラージュ、とおっしゃっていた意味がようやくわかりました。59式に混ざって5Linkの振り……これは戦闘行動中の人形でないとわかりませんね」

「うん? 戦闘行動中ならわかるの?」

「はい。指揮官、電波出せませんよね? あと、何よりコア反応がありません」

「あーーーー。そこかーーーー。ジャマー今度作ろう」

 

 盲点だった。通信とか索敵とか、人間と人形ではそもそも視点が違うのを忘れていた。

 

「ふぅ、まずいまずい、少し遅くなっちゃったわ。って、まだSPP-1と59し……指揮官ね? うわ、凄いそっくり、これはカモフラージュになるわけね」

 

 Five-seveNも到着。一瞬迷わせたようだが、そこまで驚きはなかったのだろうか? ……と思ったが、ちらちらこちらを見ている辺り、動揺をなんとかして取り繕った、というところ? ポーカーフェイスが普段からできるのは便利だし見習いたい所。

 

「……。……指揮官、コスプレ? 確かにそっくりだけど」

 

 CZ75はクールだった。動揺もしやがらない。この斧フェチめ。

 

「指揮官、風評被害はお断り」

「何も言ってないわよ?」

 

 顔に出したりはしていないのだが……。PMCやってたんだ、ポーカーフェイスにはそれなりの自信がある。

 

「結局ギリギリじゃない、59式のせいよ?」

「ダミーが多いんだもん、仕方ないじゃない! ……お? え、なにこれ、鏡?」

 

 ラスト、グリズリーと59式が同着。実を言うとこっちから59式に着衣その他まで含めて姿を寄せる、ということは初めてなので、59式も困惑したのだろうか? とりあえず反応が欲しいので、59式のよくやる有能のポーズを真似てみる。

 

「むぅぅぅぅ!!」

 

 ……張り合って59式まで有能のポーズをやってきた。というかなんなの、有能のポーズって。真似ておいてなんだけど。

 

「よし、全員揃ったわね、これよりヘリに搭乗、目標地点まで移動。後はブリーフィングどおり、指定のポイントから攻撃を加えてちょうだい。それと、私も今回は後ろから狙撃支援で参加するわ。この格好は、見た目で指揮官ってバレたら強引にでも殺しに来るかもしれないからのカモフラージュね。今後、これに類する格好の時は59式と呼ぶように」

「ちょっとちょっとお嬢、ボケ倒した挙げ句放置はさすがにちょっと酷いんじゃない!?」

「……ごめん。やっといてなんだけど反応に困っちゃって」

「うわ〜、無責任にも程がある」

「ねえ、指揮官」

 

 と、CZ75が少し頭を抑えながら割り込んできた

 

「59式。で、何?」

「しきか……59式と59式でどっちを呼んでるかわからないんだけど」

「ニュアンスで」

「にゅあんす」

 

 CZ75の顔にはいや、無理だろ、って書いてある。

 

「……しょうがないわねえ、なんか別の呼称考えておくわ。とりあえず今回はダミーでお願い」

「了解。それならわかる」

「よし、それじゃあ出撃よ、全員搭乗!」

 

 左右から手早くヘリに乗り込む。将来的には5Link×五人の総計二十五人が乗り込むことができるはずのヘリは大きく頑丈で、それゆえ輸送能力に特化しており戦闘に耐えうる機動力や攻撃能力は保持していない。が、この辺りはG&Kの勢力圏内なので飛行自体には問題ないことになっている。ジュピター砲?とやらも運用を聞く限り対地攻撃用の砲であり地対空ができるものではないはずだ。スティンガーやらなにやらの地対空軽火器を鉄血が所持している、なんて話も聞かない。ただ、こちらも将来的には持ち出してくるかもしれないので、何かしらの急制動と同時に撒くためのフレア、チャフなども必要になる前に作っておこう。

 ちなみに、私はシミュレーターでヘリを落としまくっているので、実際の操縦桿を握ったことはない。

 

 さて、着地地点から私含め総計十三人が展開。私は戦域把握用のドローンを飛ばし、確認用のPDAを起動する。戦域全体を俯瞰して状況把握ができるこのドローンシステムは、本当に優れ物だ。戦闘中に撃墜されない対策なども盛り込んであるらしい。今度調べよう、等と考えつつ、自分で指定した狙撃ポイントの一つに到着。整備室から暖気させておいたエネルギーコアの駆動状態を起動暖気から臨戦に引き上げる。銃身の一部にエネルギー残量割合がニキシー管表示されるのはレトロなんだか進んでるんだか。トリガーロックしたままスコープを覗き込み、59式以下全員が配置についたのを確認して、鉄血の姿が最初に見えるならここ、という地点にスコープを向ける。時折ブースターを倒したり起こしたりして周囲にも気を配る。

 ドローンからの情報では、鉄血はもう少しで到着する。部隊数にして三。前衛にProwlerとScoutの斥候部隊、続いてRipperとGuard、VespidにJaegerと続く平均的な鉄血部隊。

 編成種別が多くてよござんすね。全員、クズ鉄にジョブチェンジしてもらおう。

 

 Jaegerが見えた瞬間、頭に向けて発砲。どれがダミーでどれが本体かわからない以上、全部ぶちのめせば良いという単純な結論に基づく力押し作戦。今の全員の火力であればそれが十二分に可能、という推測にも基づいている。Jaegerの顔に穴が空き、突っ込まれた高い熱量にボン、と爆発。

 

「……威力が高すぎたか」

 

 これでは電脳部分がジャンクとして回収できない。

 ……が、現状そこまで贅沢は言っていられないのも事実。特にJaegerの危険度は高いので、狙撃支援でコイツらをとにかく無力化して頭数を減らす必要がある。最適化の進んでいる59式なら早々心配はいらないが、改造したとはいえ最適化具合の甘いSPP-1や、改造もまだの他三人に危険なRF型の銃口が向くことはできる限り回避したい。

 59式達も射撃に入ったようで、見える範囲のProwlerやScoutがみるみるうちに地に落ちていく。改造サイレンサーの消音率は驚異の99.99%。横で聞いていてもわずかに音がしたか? というレベルまで落とすので、こちらが見つかるまでにまだまだ攻撃を加えられるだろう。ズビューン、ズビューンと私のスナイパーの音が響く中、最後のJaegerが沈黙。

 これ以上は狙撃支援はいらないだろう。案の定、59式が飛び出して残的掃討に移っている。やはり多Link人形による数の火力というものは圧倒的で、銃口を向けられれば即溶けるように倒れていく鉄血人形たち。その一方で、最適化率に劣るために連動して頭数も劣る他4人は、共同してターゲットを絞って確実に落とす方針で数を減らし続けている。暇なので首を狙ってぶち抜こうかとも思ったが、ドローンを操作して状況を記録、さらなる敵の出現を警戒、ということで周辺を索敵にかかった。




妖精建造が流行っていますね。
ようやっと新種がうちにも来ました。
挑発と防御でした。


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戦果

 状況終了。とりあえずドローンには鉄血人形の反応はない。

 

 続けて鉄血人形の残骸を集めて、呼んだカーゴトレーラーにポイポイ放り込んで持ち帰る準備をする。

 ……周囲の人形たちの視線は若干暗い。さもありなん、なにせこいつら、生体部品を、I.O.P製人形より使用割合が低いとはいえ含んでいるので、部位によってはまんま人間の残骸に見えなくもない。が、その生体部品を剥がしてしまえば、残るは金属と配線と電子基板である。こちとらPMC時代にシャッガンでテロリストを血煙に次々ジョブチェンジさせたことすらあるので、生体部品を剥がしてその辺に捨てて軽量化させることだって朝飯前である。ついでに、手早く中身の部品も素子レベルまで分解してしまえば追跡用ビーコン等を仕込んでいようがいなかろうが関係ない。

 

「うっひょ、たいりょぉ~う!」

「お嬢の悪い病気が出た……」

 

 失礼だな59式。

 が、何やらカーゴトレーラーの外でダミーともども体育座りで座り込んでいる姿は哀愁漂う。自分のペースを崩さぬFive-seveNがなんかドン引きしているかのような雰囲気すら見受けられる。気丈っぽいグリズリーまで若干青い顔をして目をそらしているような。

 

「といっても、物資の少ない今だと、こういうのはとっても貴重な資源よ、資源。弾薬とかも無限にあるわけじゃないし」

「お嬢が本気で作業台の前に立ったら、弾薬だってマガジン入りダース単位ででてくるでしょ……」

「それだって材料が必要なの、材料が。よし、解体終了。こっちの生体部品はすべてこの場で破k」

 

 ばきっ、がさがさがさっ

 

「た、たすけっ……!?」

 

 声が聞こえた瞬間、トレーラーから飛び出して空中にいるままそちらにスナイパーライフルを向ける。引き伸ばされた時間の中、誰だかわからないがボロボロのI.O.P製人形がこちらに走ってきていて、さらにその向こうからこれまた正体不明の塊が一つ。とりあえず人形を傷つけて追いかけ回す存在なんてロクなもんじゃない。正体不明の塊に向けて、連射をプログラムして発砲した。

 次の瞬間、全員が銃を抜いてそちらの物音と声の主の方向を向く。損傷の酷い足をもつれさせて倒れた人形に覆いかぶさるようにして、正体不明の塊、いや、デスクロー、もとい、E.L.I.Dも倒れた。

 そして、そのまま人形も正体不明も起き上がってこない。

 

「た、助けてください……」

 

 人形の方は、覆いかぶさられたことによる重量のせいか破損のせいか、抜け出せないようだ。正体不明――E.L.I.Dか?――も動かない。ピクリとも動か、いや、前肢が少し痙攣しているぐらいか。とりあえずエネ砂の二連射でくたばる程度の小物のようだが、このクソマップの危険度評価がまた一段階上がった。

無論、E.L.I.Dが出るなんて聞いてないし以前の報告にすらなかったからである。

 

「総員、撤収準備。未確認のE.L.I.Dを確認した。直ちに資源回収を中断、現時点で回収済みの物資と、殺害したE.L.I.Dの死体を報告用にトレーラーに積み込んで撤収する」

「「「「了解!」」」」

「カシコマ!」

「59式は、そこの要救助者を連れてきてあげて。損傷で見た目からだと誰かわからないぐらいボロボロって相当だわ……何があったのかしら」

 

 人形の力やら何やらの出力は外見に反して人間のかなり上であり、撤収準備はサクサクと進む。念の為ドローンに生体チェックモードで索敵飛行を行わせて、変に近づいてくる反応がないかを監視しつつ、救助した人形に応急処置を施す。はっきり言ってこの場でできることはそうない。後は指令室の整備室まで連れてって修復してやるぐらいだろう。

 何があったのか聞きたいところだが、今はゆっくり色々と聞き出している場合ではないが、はぐれた人形が銃器を失い、誰かわからなくなるぐらい外装がボロボロになってでも逃げ回ってこちらと合流したその根性は素直に称賛に値する。

 

「もう大丈夫よ。指令室に連れて行って、修復もしてあげる。いや、ほんと……よく頑張ったわねえ、あなた」

「……う、え? え、59式……?」

「ああ、その辺は後で説明するわ。とりあえず今は休んでて」

 

 なんとか逃げてこれたことからも、視覚は生きているらしい。外見で私を間違えることを狙っての格好だが、指揮官だということを説明するときには邪魔になる、というのは織り込み済みではあるがデメリットではある。訝しげな彼女をとりあえず制し、ちら、と外を見ると、頑丈なコンテナボックス(E.L.I.Dの死体入り)が運ばれてくるところだった。

 

「しきか~ん、もう終わるよ~」

「オッケー、引き上げるわよ。帰投したらまずはこの子の修復からかかるわ。その後、損傷の大きい順に修復。……というか、損傷したやつって、いる?」

 

 軽く見回してみるが、戦闘による汚れはあれど、損傷があるように見えるやつはいない。

 

「……いないようね。それじゃあ、異常があったら申告して頂戴。なかったら週次のメンテナンスで。トレーラー、出して」

 

 ブルル、とエンジン音を立ててトレーラーが動き出す。ゾンビゲーやらポストアポカリプスゲーではここで超大量のE.L.I.Dでも出てきそうなところだが、現実にはそんなことはなく。何事もなく、指令室へと帰投した。

 

 

 

 指令室内、整備室。

 説明では省かれていたが、整備室という名称にいささかそぐわない外見のポッドが四つ、ここには並んでいる。自分で手を出せる工程ではないため私の興味からは外れているものの、これがないと困るのも事実だ。これは、生体部品培養定着ポッド(全身用)。極端な話、戦術人形は視覚などのセンサーを兼ねる部分以外の生体部品が全損したとしても、活動を続行できる。続行できるだけでフルパフォーマンスではないのも事実だが。ついで言うと、生体部品が損傷するような攻撃を受ける=大抵はその下のフレームなどにもダメージが行くため、生体部品だけが損傷する、ということはそうそうない、ということも事実である。生体部品部分は自己修復も可能なため(人の治癒速度とほぼ同等である)極論無くても問題ないが、大規模な修復のときにはほぼ必須と考えていいだろう。

 さて、そのポッドの使い方であるが、使い方は単純、損傷を修復した人形を、仕上げとばかりに消毒して放り込めば良いだけである。I.O.Pの人形技術マジとんでもねーな、って思うのは、放り込むだけで躯体に合わせた生体部品をボディとしてしっかり構成してくれることだ。自分も似たような技術を外付けだか内蔵だか知らないが持っていることは百も承知だが、それをリアルに構築したのを見たのはI.O.Pの人形技術だけである。

 もちろん、衣服は構築されないので合わせて用意する必要があり、当然彼女用の服などないので、私の予備の服でも着ていてもらおう。

 

「Gr USP コンパクトかぁ……」

 

 確か警察機構に採用された実績のある小型拳銃だったか?

 それにしてもまたハンドガンか、と思わなくもない。まだうちに所属すると決まったわけでもないが、この子の所属が明らかならばそちらに移送する必要があるし、本部から返せと言われたら、悲しいかな、会社勤めは従わねばならない。

 

 チーン

 

 作業完了のベルが鳴る。おいおい、部分用じゃなくて全身用初めて使ったけど、電子レンジと同じ音かい。

 

 

 

「気分はどう? 変に気持ち悪いとか、どこかの反応が遅いとか、Pingが帰ってこないとか遅いとか、ある?」

「い、いえ、大丈夫です……助けていただいてありがとうございます」

 

 長めのふわふわした黒髪と、とりあえずで着用してもらっている森林迷彩柄カーゴパンツと白のタンクトップシャツが微妙に似合っていないような気がする。

 修復が終わったUSPコンパクトを伴って、執務室で向かい合って聞き取りだ。

 

「仕事だもの、まあ仕事でなくても助けたけど、だから気にしなくていいわ。普通、誰かが襲われてて、助ける余裕があるなら考えるまでもなく助けるでしょ?」

 

 コト、と音を立ててコーヒー入りのマグカップを置く。こういう時にはミルクと砂糖たっぷりが一番落ち着く。産地に贅沢はもちろん言えないが、嗜好品が全然手に入らなくなったかというと、そういうわけでもない。富裕層というものは相変わらず存在しているし、G&Kのスポンサーにも確かいるんだったか? なんかで贅沢用食料の輸送を任じられた人形がキレるシーンがあったような気がする。ともかく、落ち着くためにコーヒーを淹れる、ということは今でもそれなりに気軽にできることに違いはない。

 まあ、だからといってテイトにマットフルーツだのを育てる気はないが。あれら、食べたことは勿論ないがクソまずいらしいからね……。ラッドローチは逆に怖いもの見たさ的な意味で食べてみたくはある。実際に見たら逃げ出すかもしれないが。

 

「は、はい、ありがとうございます……段々と、齧られていって……もうだめかと思ってました……」

 

 マグカップを両手で包み込むようにして持ちながら、ぽつりぽつりと話すUSPコンパクト。人形でももちろん恐怖は感じる。疑似感情モジュールと、疑似がつくが今まで接してきた限りでは人間のものとそう代わりはないような感情を人形たちは持っている。指揮が取れないとか夢を見ないとか厳密に比べるといくらか人間と違っているものもあるが、普通に活動している上ではそうそう気にならないし気づきすらしない。戦術人形が感情を持つことの意義などの哲学的な話は識者に委ねる。今はUSPコンパクトのメンタルケアが必要なことだろう。

 

「ほんっと、よくもまああの状態で逃げ続けられたものねえ……」

 

 こちらもコーヒーを一口。

 メンタルケア、といってもそんな専門的なことはできやしない。せいぜい、色々と喋らせてストレスを吐き出させることぐらいだ。その後も、ぽつぽつと、USPコンパクトは心の内を吐き出していく。

 

「任務についていくのに必死で、気づいたらはぐれていまして……現在地をロストして、彷徨っていたら銃声が聞こえて……近づいたらアレに襲われて、必死で逃げて……」

「うんうん、本当、よく頑張ったわねえ」

「はい……。あの、それで……あの、貴女は59式、なんですか?」

 

 そして、どうでもいいことに妙に決意を込めた瞳で聞いてきた。いや、本当にそこに深い理由はないんだよ?

 

「いやいや、人間よ人間。人形だけだと、決まった任務はこなせるけど、それ以上の指揮は取れないでしょ? それにほら、59式がG&Kの指揮官用ジャケットとか着てるわけないじゃない」

「た、確かに……」

 

 だんだんと持ち直してきた。素晴らしく早い。人形の精神は割と強靭ではあるが、その中でも特に心が強いのだろう。

 

「まあ、確かにめちゃくちゃ似てるから、PMCやってたときに、59式に紛れ込んで5Linkですとかやったけど」

「えぇ……なんですかそれ」

「いやー、これ割と鉄板ネタなのよ? 人形が相手だとだいたい笑ってくれるし、逆に人間相手にやるとぎょっとされるやつ」

「え、なんでですか?」

「5Link人形って、あなた達人形が思ってる以上にガチでヤバイ存在なのよ。力は言わずもがな、素早さや精度、銃弾の有効活用、エトセトラ。そもそもそこまで成長することが稀な人形の中でも相当の歴戦中の歴戦の人形の証明になるわけだからね。で、PMC所属の5Link人形が敵に回るようなやつなんて、テロリストか仕事がかち合ったPMCぐらいでさ。出会うこと自体が死亡フラグだし、お礼参りとか考えるだけ無駄、みたいなね」

「えぇぇ……」

「意外と多いのよ、テロリストの仇ー、って言って襲ってくるテロリスト。でも、人形に復讐しようってやつは殆どいない、というのもカモフラージュの理由ね。……でも、私言うほどちんちくりんじゃないと思うんだけどなあ」

「……の、ノーコメントとさせてください」

 

 おい、こっちを見ろ。目をそらしながらくすくす笑ってるんじゃない。鼻捻るぞ。

 ともかく、ここまでリラックスすれば大丈夫だろう。執務室の隣に控えているカリーニンに無線を押して、入ってきてくれと合図を出す。

 

 コンコン

 

 間を置かずしてノック。

 

「どーぞー。カリーニンよね?」

「はい、指揮官様。先程USPコンパクトさんの所属などについて確認が取れました」

 

 先程、と言っているが、彼女が修復中に全部確認は取れている。

 

「ちょーだい」

「はい」

 

 タブレットに転送されてきた風を装って確認するふりをする。だってもう読んでいるんだもの。

 

「あー……その、まあ、今後の身の振り方としては、ウチの所属になるか、ASSTとコアを取り外して民生用人形になるか、ね。なんか他にツテとかあったら別の選択肢があるかもしれないけど……ないわよね?」

 

 不安そうにしているUSPコンパクトに視線をちらちら向けつつ、言いにくそうに、最大限配慮してますよー、的なポーズを取りながら声を掛ける。だって、もう彼女、もとの所属ではロスト扱いだったのだ。

 まあ、中立といえば聞こえはいいがその実無法かつ安全が少しも確保されていない危険地帯の中に取り残されて、なおかつ最適化具合が5%程度の人形が無事でいるとは思わないよねえ。実際、我々に出くわさなければ今頃はあのE.L.I.Dにぐちゃぐちゃにされていただろう。

 

「……はい、無いです。そ、その……えぇと」

「ウチに来たいなら大歓迎よ?」

「……え、い、いいんですか!?」

「モチのロン。ウチは今物凄い人形不足で、種別を問わずとにかく頭数が欲しいの。そこに……なんて言えばいいのかしら、ズタボロにされてもそれでも諦めずに逃げ回って生還して、そしてそれでもなお民生用になりたいとか言い出さない辺り、物凄い有望株なんじゃないかしら?」

「え、えぅ」

 

 褒められ慣れていないのか、反応が初心で可愛い。

 

「ま、そんなわけで、カリーニン、正規の衣装、注文しておいてあげて」

「かしこまりました。銃器の方はよろしいので?」

「私が作る」

「おっと、そうでした。では、手配してまいりますので失礼します」

 

 お茶目風に軽くやっちまったぜ的なジェスチャーを取ってから退出するカリーニン。見た目はチャラいくせに、行動がなんというか副官としてガチ有能だから便利だ。困りはしない。

 

 そんなわけで、指令室所属の人形が一人増えた。

 

 

「あの……ゆっ……USPコンパクトです、よ、よろしくおねがいします」

「はい、よろしく。それじゃあ、あなたの銃器を取りに行きましょうか。おっと、自己紹介してなかったわね」




気づいたら長くなりすぎてまして、しかし分割できるラインがどうしようもなく偏っている。
色々と試行錯誤しましたが諦めて一話にしました。
ようやく指令室として動き始めました。
まだまだ動かしたいネタはあるのですが、そこまでの道筋が欠落していて繋げることに四苦八苦。他の投稿者様の優秀さに舌を巻くばかりです。

さて、ついに明後日にSPAS-12を始めとする新人形達の実装ですね
私は愚かにも先週末に実装と勘違いして大型を連打して資源を溶かしてしまいました……。


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報告

そういえば、UA通算が1000を超えておりました。
皆様のおかげです、ありがとうございます。


「あ、あの、指揮官様、そんなご無体な……お願いですから、どうかお考え直しを……」

 

 戸惑った顔を向けてくるカリーニンに、私は厳かな声を装って、告げてやった。

 

「いいえ、カリーニン。私の指示は撤回しないわ」

 

 

 

 さて。

 任務に出たからには報告書を出す義務というものが存在する。

 

 だが、報告書のフォーマットを見て、割とこう、絶望めいたものを感じずにはいられなかった。高度である。非情に(誤字にあらず)高度な内容なのだ。人形自身が判断した事柄全てにおいて、その判断は適切であったか、何か暴発したなどの影響はないか、問題があると考えられる場合の適切な対策は何か、それに問題はないか、エトセトラ。特に、人形の機動についての報告がえげつない。同じように、回避機動についての向き、速度、タイミングの考察、はまだいい。機動においての演算の検算、は地獄である。

 

 なんでこんな手間と無理難題揃いかといえば、前提がPCと専用解析ソフトによる出力があるということなのだ。で、ご存知の通り、うちのデータルームにPCはない。なので、カリーニンには昔から愛用していた私の関数電卓を貸してやった。目のハイライトが消えた顔でさっきのセリフを投げてきたが、バッサリ却下。同じく目のハイライトが消えた麾下幕僚達と共に計算についたのを見送る。

 

「まあだから、今度近くの産業廃棄物処理場漁りに行きましょうね♡」

「うぅ……」

 

 そして、私から見てカリーニンと逆サイドで呻く59式4Link。ダミーともども書類作成(手書き)マシーンになってもらっている。タブレットから書類原本データを取り出し印刷して書いて判子押す、とかいう非効率なことはしていないので感謝して欲しい。それは本当に色々とあれこれの決済書類と申請書類だ。周りの設備がレトロを通り越して原始的な通信設備すらないので、そうならざるを得ない。色々と更新していけば、総電子化もできると思うのだが……。電力確保のために、やっぱり核物質ほしいなあ核物質。

 

「やっぱりおかしいよ! なんでこんなに書類が多いの!?」

 

 ついに59式がキレた。ダミーともども、文字通りの異口同音に訴えてくる、ものの、結局やるべきことのリストが減らないということは変わらない。

 

「データルームにPCすらないからよ。タイプライターすら無いから全部手書きだし、演算も全部人形の頭脳と関数電卓だより。終わったらPCとか作るために、産業廃棄物処理場で資源漁りしましょうね♡」

 

 というか、書類作成(手書き)マシーンぐらいならまだましではないかな、と思う。

 別のテーブルでは、うちのハイエンドモデル人形達が、カリーニン指揮のもと報告書に必要な演算の手伝いをして頭からぷすぷすと煙をあげている(比喩表現)。SPP-1は各テーブル間の書類運搬と、作業が遅れてきた所にヘルプ。USPコンパクトは茶坊主とハンコマシーン。

 

 ガチの修羅場である。

 

 加えて、今回はイレギュラーが一件。USPコンパクトの回収は、つまるところ人形の回収はよくあることなので報告書ルーティーンに含まれている。つまり、小物とはいえE.L.I.Dに遭遇してしまっている以上、それに関する報告書も必要だということだ。グロ耐性はあるので、その後死体をひっくり返したりなんだりして、本当にエネ砂二発でくたばるような小物だったのか、それまでに他勢力と交戦して傷を負っていたからではないか、何か生物的急所を偶然射抜いたために即死したからなのか、その辺りの考察だの何だのが、テンプレートなしでくっついてきた。

 まあ結論としては、いわゆるはぐれ個体がやってきただけのようで、どこから着たのか知らないが移動の過程でそれなりに消耗していたようだ、ということぐらいしか判らない。アボミネーションのような定型的な身体構造をしていることのほうがE.L.I.Dとしては稀で、今回も、結局射抜いた二箇所の上に重要臓器でもあったのではないか、という推測ぐらいしか立たない。結局、決まった対策戦術というものが立てようがないのがE.L.I.Dであり、それゆえ軍が重武装してガチ対応しているのがE.L.I.Dであるのだ、ということを思い出した程度だ。後は、曲がりなりにもコーラップスに感染しているはずなので、例え腐敗しようがなんだろうが焼却処分とかができない。ゆえに頑丈なコンテナボックスに密封し、内部と外部を遮断することしかできない。そして多分これでも隔離処理としては不十分で、軍だかI.O.Pだかどこが持っているか知らないが、コーラップスの保存容器に入れておかねば不意の流出でコーラップス汚染とか考えたくもない事態に陥ってしまう。

 

 というわけで、本部にはすでにコンテナは先行報告として押し付け、もとい、移送を行ってあるのだ。死体検分の時は、手製の防護服を使って、それごと送った。だってコーラップスついてるかもしれないしー?

 とりあえず周辺調査不十分のツケは払ってもらうぞ、ヘリアントス氏。

 

 

 

 結局、指令室総出で合計十五時間かかった。

 PC等設備が最低限でもあれば、多分カリーニン一人でも十時間以下で済むのだろう。データルームの設備を最低限未満にするとこうなるという実例として役立てていただきたい、ヴォケが。

 

「終わったぁ~」

 

 デスクワークで固くなった体を伸ばし、こきこきという音を立てつつ肩や腕や腰をぐるぐると回す。それはともかくとして、演算担当の人形たちは全員がダウン。もう記録映像は見たくないと口々に溢して自室へと戻っていった。演算する頭は本体だけにしか無いので、ダミーがいても役に立てないのがこの分野。一方、単純な書類作成で人海戦術を求められた59式とそのダミー達は、これまた全員がダウン。虚ろな目でテーブルに突っ伏したり床に寝てたり椅子の上で伸びていたり。本体だけは何かお菓子かなにかを要求する視線を向けてくる辺り、まだ元気なのだろうか。カリーニン及びその麾下幕僚達は、報告書の提出手続きのためにふらつく体を支え合いながらデータルームを出ていった。唯一、USPコンパクトと私だけが、なんとか動けそうな状態と言えよう。

 合計十五時間、休憩睡眠時間を含めると一日弱かかったのだから、時刻的には今は昼過ぎ、といった塩梅である。いっそ、そこで物欲しそうな視線を向けてくる59式も連れて、パブリックワークステーションもとい産業廃棄物処理場へ資源を求めに行くのもいいかもしれない。あまり厳密にカウントしたわけではないので確かではないのだが、鉄血人形の残骸だけでは、PCを作るのに細かく資源が足りない気がするのだ。あと、やっぱり核物質欲しい、核物質。アトミックパワーは偉大だよ!! あ、アトムの光教団はお呼びじゃねーです。

 とりあえずシャワーを浴びよう。作戦任務をこなしてからUSPコンパクトを修復し、そして報告書を作成する間、仮眠こそ取ったがシャワーも何もしていないので体がベトベトする気がする。

 

「それよりも私はアイスクリームが食べたいな!!」

 

 そう叫ぶ59式にちょっぷ。ギャーギャー騒いでしょうがないので、とりあえず全員シャワーを浴びたらアイスクリームを奢ってやる、と言ったらUSPコンパクトまで目をキラキラさせていた。いやまあ、一人も二人もそんな大差ないけどさ……。

 シャワーは別に特に何も、特筆すべき事はなかった。そのうち大浴場も作ろう……。

 

「「「「んんんんんま~い~」」」」

「お、美味しいです……」

「で、そこのポンコツ人形、なぜダミーまで連れてきた? どっかの漫画みたいなオチにしてるんじゃないわよ!?」

「「「「だってー。味がいくつもあるからどれにしようか決めきれなくてー」」」」

「本当に同じオチじゃない!! おんのれ……いいわよ、このあと産業廃棄物処理場でた~っぷりコキ使ってあげるから!」




なんとか3回分の資源を確保できたので実行しました。
SPAS12が来たので満足です。

ですが、通常任務に支障をきたすレベルで配給が枯渇しました。
やったね☆


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閑話3 E.L.I.D

 E.L.I.Dという存在がある。

 

 基本的に、コーラップスの低濃度被爆の結果、変異してしまった生物。こういうとゾンビとかゾンビ犬とかエイリアンみたいなものとかを思い浮かべる。だいたい間違っていない、こともある。よくわからない生物兵器もどきに成り果てていることもあるし、ぐちゃぐちゃのよくわからない肉塊が這いずって襲ってくるパターンもあった。最初に話したようにケンタウロスだこれ、というパターンもあった。スパミュみたいなのには出くわしたことはない。FEVみたいなのは無いからだろうか? ベヒモスちゃんに会いたかった……いやまて、実際にあれと出くわしたらミンチだぞ会わなくていいわ。

 

 同類以外には原則的に敵対的で、腹具合次第では強烈な敵意を示す場合もある。

 身体構造は一定したものを持っておらず、当然攻撃能力や耐性、生物的急所も一定ではない。幸いにも私は出くわしたことはないが、頭部に見えるだけのコブを持つ個体(つまり、ぱっとみての斬首が致命打になりえない)も存在するそうだ。

 

 さて、そうなると、E.L.I.Dに対する一般的な対策が、蜂の巣にする、爆薬で吹っ飛ばす(コーラップス汚染の観点から推奨されない)、ヒートブレードで細切れにする、等だ。この間出くわしたようなデスクロー(イベント用弱化個体)()ではなく、ガチのデスクローアルファLv65モドキとかの害悪極まる超危険E.L.I.Dも存在したらしい。正規軍の装甲人形が何人も犠牲になったとか。さもありなん、成長したデスクローの爪は文字通り鋼鉄すら切り裂くやべーやつだから。

(※デスクロー。フォールアウトシリーズに出てくるトカゲベースの生物兵器の野生化種。走攻守揃ったガチやべー陸上走行生物兵器。対策は、高火力で接近される前に殺す、ダーツガンなどで脚を潰す、パワーアーマーで怪獣大決戦をする、などなど)

 

 先日の任務のE.L.I.D乱入、ああいうのが今後も続くような気がしてならない。フラグうんぬんではなく、そうなるという確信に近い予想がある。考えてみれば、報告書を書きなぐっている段階では割とボロクソに罵っていた記憶もあるが、あのクソマップにE.L.I.Dが流れてくる明確な理由がどこかに存在するはずなのだ。

 一度、どこから来たのか、どのようなルートを通ってきたのかを詳しく調査したほうがいいかもしれない。場合によっては鉄血のハイエンドモデルがやって来た時に、どうにか交渉して一時休戦&共同調査、みたいな感じに洒落込めたら一番なのだが。

 

 ともあれ……クソマップの一部を要塞化するなどして、E.L.I.D襲来に備えておくべきだろう。



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産業廃棄物処理場

 産業廃棄物処理場、夢の島、宝の山。

 

 表現方法は多々あれど、そこにあるのは廃棄された色んなものということに違いはない。そこから様々な残骸や形を残しているものを見つけ出し、回収分解精製して目的のものを作り出す。オイルはトレーラーやヘリによく使うためにいくらあっても困ることはなく、そういう意味で骨が大量に欲しいが、産業廃棄物処理場なので大量の骨は望み薄か? あるのは鉄や銅、アルミといった金属資材と、電気回路、貴金属類、であろうか。資源、という意味ではアボミネーションを狩猟した後の素材なども資源に入る。先日のE.L.I.Dはデスクローによく似た身体構造をしていたが、ツメが武器転用できるかと言うと否であった。なぜUSPコンパクトが爪撃でなく齧られていたのかということも勘案に入れて欲しい。それなりに硬質な素材ではあったのだが……まあ、完品は今後に期待しておくことにして、死体検分した後まるごと全て本部に送った。やはり前述の通り、コーラップス汚染が怖いというのもあるが。最悪、防護手袋というかガントレットというかとセットにして作ってみることにしよう。

 ……というか、いっそ、パワーアーマーだの、開き直って戦車だのを持ち出せばいいんじゃなかろうか、とも思ったが、仮に作り出せても運用ができないのでこの案は没だ。

 

 脱線したが、ついに私はこのアルカディアへとやって来た。渋る59式をまた書類仕事がしたいのかと脅しつけ、逆にワクワクしていそうなUSPコンパクトをだまくらかして労働力をゲット、先日は職員に運転させていたカーゴトレーラーを今度は私が運転し、そしてやって来ました産業廃棄物処理場!

 ちょっと臭うが辺り一面にゴミが埋められており、ほじくり返して適切に処理すれば資源の山が出来上がるというわけだ。

 

 以前は設置効率が悪いためやっていなかったが(そう頻繁にPMC居留地と埋立地を往復できなかった)、今後は定期的に往復して資源回収ができるので、アパラチア式資源回収機を設置できる。それだけではなく、ボストン式工場ツールと組み合わせて、周辺のあれこれをベルトコンベアに乗せていけば自動で分解、資源化を行ってくれるよう改造図面も引いた。後は完全に利用不可能な汚染水などの処理機を追加設置すればいいだろう。

 

 というわけで、まずは資源回収機を作る最初の呼び水となる資源を確保するための手作業が必要だ。

 周辺の臭いにやられてすごい顔をしてむせているUSPコンパクトにはガスマスクを進呈。59式は自前で臭気遮断マスクをダミー分含めて用意していた。用意のいいことで。

 コーラップス汚染とそれに続く第三次世界大戦前後まで利用されていたらしいこの処理場は、現在も周辺からの不法投棄が続いているようで壊れたパーツやら人形の腕らしきものも散見される。生ゴミ等は肥料として再利用されることが多いがそれでも捨てられている量も多く、そしてそれ以外のどうしようもない鉄クズやジャンク、プラスチック片、折れた回路基板などなどがいくつも転がっている。

 まずは自動資源回収機を設置せねばならない。トレーラーに積み込んで運んできていた作業台と物資で、自動回収機の部品を作りゴミ山の上で組み立てる。嫌がる59式に手伝わせてオイル式発電機を周辺に並べて電力を確保。稼働させた後に、59式とUSPコンパクトにスコップを配布して周辺の人形の残骸や壊れた時計等の機械部品、最後に骨を集めさせる。なお、この段階で全員ついてくるんじゃなかったという顔をしていた。そして59式にガイガーカウンターを渡したら目が死んだ。

 

 ……この処分場に不法投棄核物質は無いらしい。残念だ……。

 

 気を取り直して、ベルトコンベア部の設置に入る。先程は自動回収機をゴミ山の上で組み立てたが、ベルトコンベアの設置が進めば、次第に体積の減るゴミ山の上に設置しておく必要はない。ゴミ山から離れた所に分解機を設置し、そこの作業待ちボックスへとベルトコンベアを経由してゴミが入るようにすれば、後は定期的にベルトコンベアにゴミを乗せるだけで良い。届かなくなれば延長するだけだ。

 

 というところで、USPコンパクトから懇願が入った。資源回収機から取り出してきた資源を入れた頭陀袋を嫌々そうに引きずり、ガスマスク越しでもめっちゃグロッキーなのが伺える。

 

「し、指揮官、お願いですから、回収した資源の臭いもなんとかしてください……これは、は、マスクしていても吐きそうです……ぉぇ……」

「お嬢、私も……ここ、ウチの近くよりもすっごく酷い臭いがして……なんで、お嬢、平気なの……ぅぷっ」

 

 そして、顔色の青い59式からも。ふたりとも、ダミー含めて根性でなんとか立っているだけのような状態のようだ。倒れ込まないのは、倒れ込むとこの臭いが自分に付いてしまうからだろうか。

 

「……ポンプを設置して、洗浄用の水を用意するわ。回収した資源は、そこで少なくとも濯がれるようにしておくから……」

「濯ぐだけじゃだめです! 汚れをとって、臭いのもとを絶たないと!」

「ノーモア悪臭!」

「えっ」

 

 

 結局、殺菌剤と洗剤と水を組み合わせた溶液で資材を一度自動処理することを約束させられたので、そのようにベルトコンベアとポンプを駆使して組み直す。論理電気スイッチとかどう使うんだこんなもん、と思っていたものを組み合わせると意外にも簡単に組み立てることができた。最終的に、資材を消費して何かを作ったり、バルクにまとめた段階で臭いは消えるのだが、それまでの段階が許容できないらしかった。そういえば、PMC時代にまとめた資材も他の隊員から絶不評で駐屯地内に保管できず、仕方なく近くの放棄された空き地に積み上げていた。あの不評っぷりを考えると、今頃はあの資材の山はもう燃やされるかして処分されてるんだろうなぁ……。

 

 

 帰るなり、USPコンパクトと59式及びそのダミー全員はシャワー室に直行。

 

「お嬢も全身洗うんだよっ!」

「指揮官も体を洗ってください! 臭いです!」

「く、くさっ!? 一体何の臭いなのですか指揮官様!?」

 

 通りかかったカリーニンがぎょっとした顔で鼻を覆うのを横目に私も引きずられるようにして連行。併設されている洗濯室の洗濯機に私含め着ていたものを全てダンク、洗剤漂白除菌剤を通常の倍量入れて回し(意味がないんだが……)、59式のメガネも超音波洗浄機にIN。そしてそのまま念入りに全身洗われた。

 

「いや、自分で入れるんだけど……」

「「「「お嬢はいつもそう言って洗うのがテキトーだからだめっ!」」」」

「この臭いが残っているなんて害悪極まりないです!」

 

 もはやなにかに取り憑かれているのかとまで言えそうな二人+ダミー三人に逆らうことがなんとなくできず、されるがままに洗われ髪を乾かされ……さすがに下着などを着せられるのは拒否して自分で穿いたが。

 

「お嬢はね、こんなもんテキトーにやっておけばいいじゃんって言うけどね、そんなのありえないから!」

「ありえませんから!」

 

 ステレオである。今までは駐屯地に射た頃はたまに言われていたのでモノラルだったのが、今日はUSPコンパクトまで参加しているのでステレオである。言いたいことはまあ理解できなくもないのだが、こんなPMCやら人形部隊の指揮官やらを務めている人間に、手入れやら化粧やらが必要なのだろうか?

 

「すごく必要!」

「とっても必要です!!」

 

 怒られた。

 

「というか、ばっさばっさぼっそぼっその髪の毛と肌じゃ、59式さんに紛れられませんよ!?」

「そーだそーだ、そんなぼろぼろぼさぼさの髪と肌の私がいるもんかー!」

 

 ……酷い言い様だ。

 

「私達は人形ですから、メンテナンスの時等に髪や肌を再生してるから綺麗なんです。そういうメンテナンスのない指揮官は、もっともっと気を使わねばなりません」

「Five-seveNがそういうの詳しいから、あとで聞きに行こう、お嬢」

 

 ……えー、資材手に入ったんだから、パソコンとかそういうの作りた

 

「聞きに行こうね、お嬢!」

 

 59式の気迫に負けました。

 

「え? 指揮官にスキンケアとかを教えて欲しい? いいけど、いきなりどうしたの? ……。……あー、それはそれは。ええ、わかったわ、ばっちり教育してあげる」

 

 その後、Five-seveNにヘアケアやらスキンケアやら、各所の手入れやムダ毛処理まで、教わった。

 どうでもいいけど、あなたたちムダ毛生えないでしょう……?




ざ あくしゅう

ゴミ収集車でアレだけ臭うのですから、その行き着く果は推して知るべし


ところで、あんまり大きい声で言えることじゃないですけど、
うちの指揮官も、どこかで出していただけると小躍りして喜びます。ハイ。
いらっしゃるかわかりませんが、その場合でも連絡などは不要です。


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文明開化の鐘が鳴る?

 文明開化の鐘がなる、とは誰の表現だっただろうか。

 イマイチ思い出せないが、コメディシーンの冒頭に書かれていたような気がする。確か、残額二七円、だったかな?

 

 R08地区のこの指令室は、なんかそんな雰囲気になっていた。

 原因は、私と59式とUSPコンパクトで漁ってきた資源のためだ。

 

 まず、データルームに各種用途別サーバー群とストレージとPC、出力機が出現した。カリーニンなど泣いて喜んでいた。あの、関数電卓で映像記録から様々な分析を処理するといった地獄のような報告書作成をもうしないで良いとなれば、そうもなるだろう。

 

「指揮官様! 私、もう感激です! このサーバーとPCがあれば、どんな報告書だってどんとこいですよ! しかし、ロブコ・インダストリ? 聞かないメーカーですね……ですが、使えるのであれば何も問題はありません!」

 

 しかし、あのチャラめのファッションセンスでかなり丁寧なタイプの口調は違和感が大きいのだが、それもまあ本人の個性ということだろうか。

 ホッとしたのはハイエンド型人形たちも同様のようだ。画像処理をクラスタリングして処理するとか本業外の演算は大いに疲れたことだろうから。

 

 次に、回収してきた資源を用いて、施設設備の改修を行った。建物に内蔵するタイプの空調ではなかったことが幸いして、古い空調や暖房設備を一度解体して効率を高めたものを再設置。同じ電力消費での空調効率がぐっと上がった。居住性の向上は大事である。糞暑い待機室とか地獄以外の何物でもない。また、産業廃棄物処理場にも設置した、浄水ポンプを指令室にも設置することで、水の利用をより容易く、そして経費削減も果たされた。その他、細々とした設備を補修、改修した。これには宿舎設備も含まれており、人形たちには好評だった。一方で、ヘリポートが実は機能を喪失寸前だったのがちょっと肝が冷えた案件であった。

 

 その次に、指令室周辺の防衛である。まず、指令室外周部にヘビーマシンガンタレットが多数設置された。別途電力を必要としないタイプで最も性能に優れるタイプのタレットであり、Mk世代ごとに射出する弾丸に特徴があって今回は焼夷徹甲弾を射出するMk-Vだ。どこから、あるいは誰が供給しているのか不明であるが、一度設置しておけば後は破壊されない限り認識したターゲットに延々と弾をバラ撒き続ける「きょういのてくのろじー」の逸品である。一方、IFFやら敵味方認識やらが致命的に精度が悪く、特に敵がいれば近くに味方がいようとお構いなしに鉛の雨を降らせるため、指令室所属全員に、タレットの射界には絶対に入るなと厳命した。核物質があれば、より発射レートと威力が高いヘビーレーザータレットが設置できたものだが……我ながら核物質への未練が酷い。やはり開拓すべきは裏ルートか。

 

「指揮官様、何をお考えかよく判るお顔をしていらっしゃいます。絶対にやめてくださいませ?」

「お嬢、それは無し。絶対に無し。実力行使してでも止めるからね?」

 

 ……鋭い連中は嫌いだよ。

 

 欲を言えば、あのクソマップの所々に地雷とか支援兵装とかセットしておきたかったところだが、メンテナンスがやりにくいし、想定した構成だと資源を浪費するくせに効果があるかが疑わしい、ということで諦めた。太陽電池、バッテリー、スポットライト赤外LED換装型、論理電子ゲート、ミサイルタレットの組み合わせは非常にコストが掛かる。ついでに、威力の高い爆発物を使うということで、マップの道自体が崩壊しかねないというのが難点だろう。

 

 食料が欲しい、という声もあるが、今のところ私はマットフルーツにテイト、トウモロコシの三大デンプン植物を作る予定はない。トマト味のダンボールとか評されるほどまずいって設定だしな……。あるいは、スイカやウリ、カボチャ、小麦ならば作っても良いと思っているので、次の予定が済んだら着手してみよう。

 

 さて、こうして指令室の居住環境と防衛レベルが上昇したので、次の目標となればそれは自ずと決まっている。

 指令室の人形の拡充にほかならない。とりあえずは後四人。つまるところ本部から整備用人員が送られてくるラインである。ぶっちゃけ、今の六人ですら、全員の銃器と躯体を整備しつつ、改造状態の維持、となるとそろそろ辛いものが出てきている。私達が産業廃棄物処理場から回収してきた資源は、もちろん人形や銃器の整備、あるいは弾薬や(非常に嫌がられるが)配給などに転化させることができる……人力だけはどうしようもないが。しかし、使用できる資源ではあるが、I.O.PそしてG&Kが定める資源要件を満たさないため、人形の製造に回すことができないのだ。大問題である。ゆえに、人形製造を依頼するにはまた資源問題が立ちはだかる。

 

 結局、執務室で資源問題にウンウン唸らされるのは変わらないらしい。

 

「カリーニン、後方支援って何があったっけ?」

「後方支援でございますか? この指令室の独自の物が一件、それ以外の一般的な後方支援内容のものが十二件とございます」

 

 備蓄量報告を見つつ唸りつつ問うてみれば、報告書による疲労も抜けたらしく、カリーニンはいつも通りの調子で右腕に抱えているタブレットに指を滑らせる。

 

「独自? そんなオンリーワン技能持ち人形なんていたっけ? 斧投げ?」

「指揮官様でございます。ですが、指令室を備えもなく離れることは推奨されませんので、指揮官様が改造を施した戦術人形一体を、可能な範囲でI.O.Pに一定期間分析させて欲しい、といった内容の依頼になります」

 

 分析……? 何をするつもりだろうか? というか、ウェイストランド式ロボティクスエキスパートによる強化改造が、こっちの技術で理解できるんだろうか? 言うなれば別文明の技術、と言っても過言ではないはずなのだが。

 

「色々と言いたいことはあるけど……依頼人とかいるの?」

「はい。おそらく指揮官様はご存知ではないでしょうが、セルゲイ・ルブリョフ殿。I.O.Pの躯体研究員の方ですね」

「ペルシカじゃないのか」

「主任研究員のペルシカ殿は、現在自分の研究に掛かりきりですね。というか、主任研究員をよくご存知でしたね?」

「情報収集は怠っていないの……と言いたいところだけど、有名人だもの」

 

 いいえ前世知識です。

 

「ともあれ、躯体研究員の方からの依頼はどうなさいますか?」

「んー……。まあI.O.Pだし、無体な研究だの分解だの、そういうのはないわよね?」

「いくらなんでもそれはないかと。I.O.P内部の倫理規定等にも違反するでしょうし、確かに戦術人形の所有権こそI.O.Pですが、その運用や訓練過程での使用権は指揮官様ですし、よほどのことがない限りそれは妨げられないことになっています」

「つまり、要は私のロボティクス技術を教えて欲しい、ってことでしょ? 技術体系が多分根本から違うものだからなぁ……ぱっとわかるかしら。私だって個々の動き方を調べてじっくりかけあわせたんだから、結構時間かかるわよ? ましてや、かけ合わせた結果の躯体だけ分析してたらどれだけかかることやら……」

「その辺りはわたくしにはわかりませんが……では、この後方支援依頼はどうなさいますか?」

 

 苦笑しつつカリーニンが聞いてくる。とりあえず、資源がないのもあってこの後方支援依頼は受けてしまってもよいだろう。人形一人で満額報酬を受け取れる依頼だというのも大きい。

 

「受けるわ。資源もないし……そうね、SPP-1にこの後方支援は任せるわ」

「かしこまりました。その他の、一般的な後方支援依頼はどうなさいますか?」

「人数がいるのがネックなのよねえ……。ここの防備をすっからかんにするわけにもいかないし」

「……少なくとも、ここまで攻めてこられても表のタレットでどうにかなるのでは……?」

 

 シューティングレンジに仮設置した、ヘビーマシンガンタレットの試射での威力を見たせいか、最近カリーニンの私を見る目がウォーモンガーか何かを見るような目に思えてならない。ついでとばかりに披露した、買い物カートに、タレットの上部部分を取り外して乗せると簡易移動砲台になるというレイダー発案の便利運用のせいだろうか。実際に使ってみると、防衛の際にちょっと射線をずらして物陰の対象を撃てるようになったりととても便利なんだがなあ。正面であれば自分で狙わなくても色々とぶっ飛ばしてくれるのも楽で良い。

 

「意外とあれ、射角に穴があるのよ。特に上と下。それに射程も長くないから、Jaegerが来たら多分一方的に壊されるわ。それを補うためのスポットライトとミサイルタレットなんだけど、ここで稼働させるには電力がちょっとね……はぁ、核物質欲しい……」

「お願いですから核物質は諦めてくださいませ……」

「わかってるわよ。でも、オイル式発電機だと稼働音がうるさいし場所取る割に電力低いし……屋上に風力並べようかしら。っとと、ずれたわね、59式以外の残り全員で、まずは人力チケットの効率がいい所にお願い」

「かしこまりました。となりますと、防備は指揮官様と59式さんで担う、ということでよろしいでしょうか?」

「それでいいわ。あとは、試したいこともあるし」

「……。」

 

 カリーニンがものっそい嫌そうな顔をした。そんなトラブルメーカー扱いをしないで欲しい。いやまあ、処理場の悪臭は、私が慣れきっていたので平気だっただけで、指令室の人形から人員に至るまで、風呂で綺麗に洗われるまですれ違う度に悲鳴を上げさせてしまったことは反省している。

 ……ちょっとだけ。

 

「まあ、大したことじゃないわ。防衛用ロボットを作るのよ」

 

 

Name:Sentinel-001

Head:セントリーボット標準型

Body:セントリーボット重装型

LArm:ロボブレイン腕部標準型

RArm:ロボブレイン腕部標準型

Leg:セントリーボット重装型

LWep:ミニガン

RWep:ミニガン

LSWep:ミサイルランチャー

RSwep:ミサイルランチャー

 

『初期化終了。警告、標準ではない機体構成です。標準機体構成ではない場合、保証やサポートが受けられません。起動を続行しますか?』

「YES。特定目的向けのカスタムだから、問題ないわ」

『了承いたしました。起動完了。ロブコ・ロボティクス・アシスタンスをお買い上げいただきありがとうございます。本機には人格サブルーチンが搭載されています。人格サブルーチンを有効にしますか?』

「YES」

『人格サブルーチンが有効になりました。本機への指示をお願いいたします』

「現在は待機。居留地のセキュリティに登録を行うのと、居留地のメンバーに面通しを行うわ」

『かしこまりました、お嬢様。本機、Sentinel-001は別命あるまで待機モードに入ります。警告、本機の武装がオンラインのため、危害を加えられた場合、自動的に敵対勢力に攻撃を開始します。別途、射撃禁止エリアを設定してください』

「それは後でデータを転送するわ」

『かしこまりました』

 

 対話型インターフェースで設定を済ませ、後ろで見ていた見物人達に振り返る。

 

「これは……自律人形? いえ、それにしては……」

「おおおー、ロボットだー!? ねえお嬢、私も知らない隠し玉、一体後いくつあるの!?」

 

 無論、カリーニンと、防衛のために指令室に居残りの59式である。

 

「セントリーボットよ。人格サブルーチン、なんて名前のモジュールがあるから、まあそこそこの感情っぽいものをもつ機械ね。戦闘能力は、まあまあかな? あと、隠し玉っぽいのは……あと、み、みっつ……?」

 

 アレ(メスメトロン&首輪&洗脳ヘルメット)とアレ(入植者管理装置)とアレ(ベルチボット)……でいいよね? 最後は資源的な意味でどうかと思うけど。いやそーな顔をする(持ち主に向かって何だその顔はお前ー)59式を横目に、指令室外周の塀より内部を射撃及びバックブラストで巻き込まないようエリア指定して転送。

 

「後は、と。59式、ちょっと手伝って」

 

 誤射などされないように、IFFに登録するのは勿論だが、前後左右の目立つ場所にG&Kエンブレムを描く。これで、よっぽど遠距離からいきなり狙撃するようなやつでない限り、誤射はないだろう。

 あとは、資源が集まるのを待って戦術人形製造チケットを切るだけである。

 オートマトロンは一部例外があるもののほぼ戦闘に目的が特化されており戦術人形の頭数の代替たりえないし、実は人格サブルーチンの超長期運用には致命的なバグがあるのも原因の一つ。

 

 さて、誰が来るかな? いい加減、ハンドガン以外の子も来て欲しいところなんだけど。




おーとまとろんはとってもべんりでしたね……
大虐殺ヘルムとかは利用したことがないのですが、プロビジョナー要因としてとても便利でした。

自律作戦3回はとても便利ですね、中程度のレベル帯のレベリングが捗りそうです。


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襲撃

 襲撃。

 しゅう‐げき〔シフ‐〕【襲撃】[名](スル)襲いかかること。不意をついて攻めること。

 

 まあつまり、襲いかかってくればもう大体は襲撃と扱って良くて、そこを撃退したところで誰に咎められることもない(逆恨みを除く)。

 どこから漏れたのかはわからないが、今の指令室の防衛戦力が大幅に低減している、という話がどこかから漏れたようだ。ただ、そこに、当然付加されているべき情報の、防衛担当が「5」Link人形の59式であり、ついでにPMC上がりである私もいる、という情報がごっそりと抜け落ちている辺り、どっかの誰かが皮肉などではなく本当に気を回してテロリストに情報を流してくれたのかもしれない。あるいは以前、経過報告と言うか、恙無く過ごしていますよとメールを父達に送った時にわざとセキュリティガバガバで送ったかいがあるというものだ。私や59式にとって、テロリストなど歩く資源である。

 

 ふと思い返してみれば、この指令室は私が発掘してきた資源がメインで防衛が整えられており、公式の防衛能力は至って低いというかないも同然のままだったような……もしかして襲撃原因これか? いや、曖昧な推測はやめておこう、混乱するだけだ……。

 

 ともかく。

 

「59式、そろそろ準備しておいてね。今日あたり、昼か夜かわかんないけど襲撃がありそうだから」

「え、もう? 私達だけになって即日って、気が早くない?」

 

 周囲に唸るほど設置したタレットの強力さを十分知っている59式は早くも趣味満喫モードのようだ。59式デフォルトの趣味設定がどうなっているのかは知らないが、うちの59式はクラシックを聴きながらお茶を楽しむのを趣味としていて、ちょうどヘッドホンを掛けようとしていたところだった。整備し直した銃器の59式と弾薬を渡して、とりあえずいつでも出撃できるように調整しておいてくれと言っておく。

 まあ、私でもあのセントリーボットと正面切って打ち合いをするぐらいなら逃げる。あまつさえ、一般モデルと違ってツインショルダーミサイルランチャーなんぞ装備しているのだから、そんなモデルがいたら見つかる前に逃げるのが正解。思い切り距離をとって、あるいは回り込んでこれない高台などから狙撃を繰り返すのが一番だろう。ついで言うと、大きな戦闘行動上の弱点であった排熱問題は依然として存在しているが頻度はかなり現状させているし、カバーを取ることもプログラムしたので、マシになっていると思いたい。それに、排熱中に露出するコアを狙うとイチコロだなんて、本邦初公開のセントリーボットについて知っているわけがない。……フラグじゃないぞ。

 念の為の侵入対策に(あのタレットとセントリーボットの警戒を完全にすり抜けて侵入してこれる手合には無意味だろうが)私はすでに59式カモフラモード。私にはダミーが二人ついている。そもそも執務室で合計五人でワイワイ騒ぎながら作業してたら、本当に59式5Linkに見えるだろうなあ。

 まあ、それはともかく、くるならこいこい骨の一片に至るまで資源として再利用してやるから。

 

 と、思っていたら本当にさっさと来たのである。

 

 ぴここここっ

 ぴここここっ

 ぴここぴここぴここぴここここっ

『警告。あなた達は我々の敷地に侵入しています。直ちに退去するか、G&K関係者IDを提示してください。指示に従わない場合、武力を含む排除を実行することがあります。繰り返します、警告、』

『お嬢お嬢、もうきたよ、あっさりタレットとかセントリーに見つかってるー!』

 

 おいおいまだ昼前だぞ? しかも、あっさり見つかる練度なんて、資源に足が生えてこっちにやってきちゃったようなもんだぞ……ってオイ。

 

「こっちからも見えてる。……うっそ、あんな人数で無防備にやってきたっていうの……?」

 

 ちょっとした物見櫓っぽいものの上からの映像を59式が送ってきたが、なんというか、うじゃうじゃと言うレベルでテロリストがぞろぞろと……。だが、本当にそうか? いくら考えなしの享楽主義的な連中とはいえど、命を捨てるような無謀な突撃を無意味に敢行するとは思えない。それに、銃声も激しく聞こえている……!?

 

「セントリーボット、被害状況を確認!」

『皆無です、お嬢様』

「59式、レイダーの後ろになんかいる! そいつと交戦してる! 何か見えない!?」

 

 非人間か、あるいは鉄血あたりでも来てるのか。プラズマライフルをひっつかんで射撃台へと走りつつ、59式にさらに索敵指示も投げる。

 

『土煙とテロリストで全然見えないよお嬢! でも、なんか後ろから走ってきてて……! あ、誰か薙ぎ払われた!?』

「またデスクローっ!?」

 

 なんで出てきた!? 今回は警戒してドローンで周囲をずっと見てきたのに!

 

「全タレットの優先攻撃対象をオーバーライド、正体不明存在を最優先! セントリーボットは後退しつつ射撃! 近づかれるのを防げ!」

 

 ぴここぴここぴここぴここここっ

 タッタッタッタッタッタッタッタッタッ

 タタタッタタタタタタタタッタッタタタタタタ

『攻撃を開始』

 ガガガガガガガガガガガガガッ!

 ばしゅばしゅぅーん……ちゅどきゅどぉーん!

 

「……うっへ、あんまりこたえてなさそう……」

 

 物見櫓もどきに滑り込み、プラズマライフルを構えて伏せ撃ちの体勢を取る。59式に周囲の警戒と観測を頼みつつ、その、数多の銃弾ミサイルをその身に受けながらもテロリスト達を次々薙ぎ払ってゆくデスクローによく似た個体へ、クロスヘアを合わせてトリガーを引く。緑色の光条がE.L.I.Dの頭を貫いて、のけぞりはするものの活動停止には至らない。やはり、重要器官が頭部に詰まっていないのだろう。狙いを変えて、足の付根を吹っ飛ばす心づもりで出力を上げて貫く。忌々しいことに、左脚をふっ飛ばしても片手を脚のように使って機動力が落ちない。

 

『お嬢! あれ、拳銃弾じゃ全然効いてないっぽい!』

「こっち!」

 

 プラズマカートリッジを交換する傍ら、ASST範囲外となるのがネックだがプラズマグレネードが五つはいったバッグをぶん投げる。遠投するなら私よりも人形の59式のほうがよく届く。それに、爆発物の扱いにどこに投げ込むか以上はここでは関与しないだろう。きゅぼっ、という耳慣れない破裂音と同時に、緑色の閃光が踊る。それが五回。それでいてなお、倒れずに近くのテロリストを切り裂き続けているのは一体どういう理屈だ!? 

 ともあれ、高出力射撃で使い切ったカートリッジの交換を終わらせ、再度銃口を向ける。カートリッジそのものは大量にあるので、よく言う銃身が焼け付くまで打ち続けても問題はない。問題は殺される前に殺すことができるかどうかだ。

 

「くたばれっ!」

 

 出力を中程度に切り替えて、トリガーを引く。

 緑色の光条が右足付け根を灼ききって飛ばし、E.L.I.Dは両足を失って倒れ伏した。だがまだ死んでいない。

 

「クソッタレ!」

 

 カートリッジの残りを全部使って、頭から胴体を貫通するように、プラズマをぶち込み、結果を確認せず全力でカートリッジを交換して再度同じ場所を感覚で合わせてスコープを覗き込む。

 

「……!?」

 

 いない。カートリッジ再装填のために確かに目を離したが、たったそれだけの時間であれだけの距離があったデカブツを見失うものか?

 

「総員、射撃継続! 59式!? あのデスクローもどきはどこ!?」

『お嬢が今、光の弾を撃ち込んだら、どろっと崩れちゃったよ!? あれはなんなの!?』

 

 ……は、なんだって!? 緑の粘液にジョブチェンジさせちゃった!?

 

 

 E.L.I.Dに襲われて、いわばうちに向かって逃げ込んできたテロリスト達は、その相当数がばらばらになって数を減らしており、生き残ったものにも戦意を保っているものはいなかった。とりあえず武装解除して営倉予定の部屋に押し込む。これにも抵抗はせず、大人しく武装解除して部屋に入って座り込んだ。むしろ、あのE.L.I.Dの虐殺から生き延びることができた、という喜びのほうが大きいらしい。すげえ、ぱねえ、銃もグレネードも通用しなかったアレを殺しちまった、さすが5Link人形だ、などなど。お前ら私へのお礼参りに来たんじゃなかったの? 目的を達成度0%の段階でデスクローに横から殴られて忘れちゃった?

 ともかく、今はE.L.I.Dだ。対生物威力を重視してプラズマライフルを使ったのは事実だが、プラズマで倒されたエネミーは一定確率で緑の粘液にジョブチェンジしてしまうことをすっかり忘れていた。ばらばらすぎる人体の残骸の始末は、プロテクトロンを一体人格サブルーチン不作動で作成してとりあえず対処、指令室から見えない所に穴をほって埋めさせている。あの量の死体を放置は、指令室から見える場所では取れない選択肢だ。一方、緑の粘液になって地面にわだかまっているE.L.I.Dの残骸はどうしたものか。切り飛ばした両足は残って転がっているが、前回コンテナに詰めて送った所、次はもうこっちで始末しろとのお達しを貰ってしまっているので、E.L.I.Dの微量ではあるがコーラップスを含んだ死体をなんとかしなければならない、というのは非常に気が重い。足の爪ではデスクローガントレットは流石に作れないし、そもそもコーラップス汚染が怖いので作る気もない。そういう意味では、両足も粘液になっていてほしかったところだった。

 

 ……しかし、ここまで完全に緑の粘液になってしまっているのであれば、コーラップス汚染も粘液化して消えてしまっているのだろうか? 念の為、密閉型コンテナに詰めてプローブを入れる形で検査でもしてみるか?

 周辺の土ごとコンテナボックスに詰め込み、プローブを入れてみた。




自律作戦三連便利ですね。
ようやく春田さんの専用弾が手に入りました。が……これ、強化きっついですねぇ……。


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閑話の閑話 収集のつかない実験は本当にやめて欲しい

ふらりと見かけた企画をやってみたくなってしまったので、つい。
なお、企画概要はこちらの方のツィートを御覧ください。
https://twitter.com/pow_kaccho/status/1121959991768829952


 

 

「は? イメクラ?」

 

 不審そうな声を上げる指揮官に、その上司は少しだけバツが悪そうな顔で名刺大の黒いカードを渡す。

 

「まあ、そういう顔をしてくれるな。私だって、これを配れと言われて困惑してるんだ」

 

 指揮官はぼりぼりと頭をかくと、そのままその黒いカードを受け取った。

 

「……私の性別は、もちろん理解してらっしゃるのですよね?」

「当然だ。というか私とて女だぞ。合コンに出るからといって、こういうものを配れと渡されても、その、なんだ、困るのは一緒だ」

 

 胡乱げな視線を向けられつつも、厄介払いが優先なのか上司はカードを回収しようとはしない。

「一体何でまたそんなことを始めたんですか?」

「ペルシカ曰く、業務外で予想外すぎることをさせられた場合のメンタルデータがほしい、とのことだ。多分、誰かがうっかり口を滑らせたイメクラという単語に、ペルシカが食いついたのだろうな。あれのやることに反対できる研究員はそういない」

「それで、期間限定とは言え、あんな感じの風俗モドキが出来上がったと……」

「そうだ。まあ、その、なんだ。成人向けサービスを受けてくることは必須ではない。カードを渡して、一般的なサービスを受けてくればいい」

 

 胡乱げな視線の数が二対に増えて、その視線の向かう先は、けばけばしいネオンサインや看板にゴテゴテと飾り付けられた小会議棟、もとい、今はイメージクラブG&K、があった。

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 受付にはスプリングフィールドがいた。意外とこの人形、カフェも経営してることもあるあたりこういう接客系の業務が好きなのかもしれない。とりあえず、どう見ても見た目はちんまい指揮官を見ても表情一つ動かさなかった。

 

「とりあえず、これ」

 

 さっさとこの疫病神カードを出しておく。

 

「かしこまりました。念の為、G&Kの認識票をお出しください」

「……二十一よ」

「いえ、どれだけの指揮官にカードが配布されて、こちらに来たのかの調査のためですので、年齢確認などでは」

「……本当かしら」

 

 何も聞かれなかったのは、年齢確認を認識票で済ませるためだったのか、などと思ったが、口に出してみるとスプリングフィールドはそれを否定した。

 

「本当ですよ。それで、誰かご指名とかシチュエーションのご希望などはございますか?」

 

 話をずらされた。が、ここは乗っておくべきだろう。

 

「そうね……特に希望もないし、おまかせで」

「えっ」

 

 予想外な顔をされた。

 

「……なにかあるの?」

「い、いえ、大抵の方は、副官や気になる人形がいますので、そういうのをお選びになりますので……」

「私、副官は後方幕僚だし、立ち上げて間もないからハンドガン人形しかいないんだけど」

「ハンドガンだけ? ……サブマシンガンも……?」

「サブマシンガンも」

 

 指揮官が頷くと、スプリングフィールドは驚愕の限り、という顔をした。

 

「その……カタログご覧になりますか?」

「大体は知ってるけど……そうね、見ようかしら。知らない子とかいたら、その子にしてみよう……」

 

 タブレットに指を走らせ、在籍名簿を流し見していって、たまたま目についた知らない人形の顔を、タップ。

 

「それじゃあ、この子で。シチュエーション? は、お任せで」

「はい、かしこまりました」

 

 なにか大事なものを売り飛ばしてしまったような気が、ちょっとだけした。

 

「どうも~、指揮官、今日はHK45の貸し切りライブに来てくれてあっりがとぉ~!」

「あ、そういう趣向なのね?」

「も~、だめですよ指揮官、ステージに上ったら役どころになりきらないと」

 

 サイリウムを両手に持った指揮官を、そう彼女がたしなめる。彼女はGr HK45。プレイルームに入ってから、来るまでの間にプロフィールを読んでみたところ、ダンスが好きな人形らしい。P38と同じようなアイドル志望の人形なのだろうか、と思うような、アイドル風衣装での登場だった。

 

「そんなわけで、今日はいーっぱいダンスするから、楽しんでいってくださいね!」

「ええ。でも、ダンスだけ? 歌とかは?」

「歌は、うーん……」

 

 ダンス一本のようなので、聞いてみれば渋る顔。なにか、条件とか苦手意識でもあるのだろうか?

 

「とりあえず無理は言わないわ。それじゃあ、まずはダンス、見せてちょうだい」

「わっかりました! それじゃあ指揮官、楽しんでいってくださいね! ミュージックスタート!」

 

 持ち込みのデッキから、割とポップな曲が流れる。指揮官も聞いたことのある流行曲で、少し前に流行ったやつだ。

 HK45は、それに合わせて力強くステップを踏む。もとのアーティストの振り付けなどは知らないが、これはこれで曲にあったダンスと言えて、曲調に合わせて振ったサイリウムの明かりが、なんとはなしに楽しい時間を演出してくれているような、そんな気がした。

 結局、三曲ほどをHK45は続けて踊った。指揮官は知らなかったが、それがもとのアーティストたちの鉄板の組み合わせだった。

 

「いかがでしたか、指揮官!」

「うん、素直に見てよかったって言えるダンスだったわ」

「ありがとうございま~す!」

 

 一礼するHK45を横目に、時計を見てみればまだ経過時間はほんの十五分程度。ブラックカードによる貸し切り百八十分にはまだまだ遠い。三時間ダンスを堪能するのもそれはそれで悪くはないが、それはそれで上司やらスプリングフィールドやらに邪推されそうで、それはそれで気に食わない。

 

「……まあ、いいか」

「まあいいかって、何がですか指揮官」

「配布されたブラックカードで来ただけだし、そろそろ引き上げかなって」

 

 指揮官のその言葉に、HK45は愕然とした顔をする。

 

「えええええええ!? し、指揮官、まだたったの十五分ですよぅ!?」

 

 ダンス用に除けたスペースから、駆け寄ってきて指揮官にすがりつくHK45。

 

「そんなに早く指揮官をお帰ししちゃったら、怒られちゃいますぅっ!」

「えぇ……いや、まあ、なんかそういうのありそうだけど……」

「ね、ですから、あと二時間ちょっと、二時間ちょっとでいいですから、いてくださいよぉ! 私、目一杯踊っちゃいますよ!」

「いや、あなただけ踊らせてそれを見てるだけってのも、なんだかなぁ……」

「それなら指揮官も踊りましょうよ!」

「二時間ちょっとっていうか、三時間弱ぶっ続けで踊るってハードル高いわよ!?」

「だから私が踊りますと……あ、そうか、そうなんですね指揮官!?」

 

 ふと、何かに気づいてしまったかのように、HK45の目が座る。あるいは、漫画的に例えるとこう言うだろう。ぐるぐるおめめ、と。

 

「いっつも、一曲目の途中でそれはもういいからって止められて、あっちに連れてかれるんです。なのに、三曲も踊っちゃったからご不満なんですね!?」

「……あっち?」

 

 嫌な予感がしつつも、そちらを見やれば、そこにはダブルサイズのベッド。お忘れかもしれないが、この建物は今はイメクラで、この部屋はその中のプレイルームの一つである。

 

「待って!? 待って!!??」

「大丈夫ですプロデューサー、私、頑張りますから!」

 

 すがりつかれたそのまま、ずるずるとベッドの方向へと引きずられる。戦術人形の出力にはどうやっても人間では抵抗しきれず、ずるずると引きずられていく。今更取ってつけたような呼称変更とかマジやめて欲しい。

 

「待って、お願いだから待って! それに私! 私女だから!」

「大丈夫ですよプロデューサー、私、ちゃんと女性用データもインストールされてますから!」

「それは大丈夫な理由じゃない! むしろだめな理由だから! ていうか放せ、放して!?」

「えっと、こういう時のデータは……嫌よ嫌よも好きのウチ、なんですよね?」

「ちがううううううううううっ!!」

 

 そう、叫んだところで、指揮官はHK45に、ベッドに組み伏せられた。

 

 

 受付の前を、足早に指揮官が通過する。

 

「あ、お疲れ様です」

 

 それに気づいたスプリングフィールドが声を掛けるも、反応はなくそのまま足早に歩いていってしまった。

 

「アンケートがありましたのに……」

 

 とはいえ、帰っていってしまったのはしょうがない。後日、メールで送るように手配をしたあとで、スプリングフィールドは掃除用具を手に、プレイルームの掃除へと向かった。 




企画ついでに個人的な宣伝をば一つ。

たぬき0401氏の、「私は大変に臆病なので、」シリーズはいいぞ。
ただ書いている私と違って、心理描写とかがとてもとても、エクセレント。
この企画も、氏がやっているのを見てやってみたくなった次第です。


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拡充

あれっ!?
ひょ、評価ゲージにわずかとはいえ色がついてる、ですって!?
うわ、ありがとうございます、これも御覧頂いている皆様のおかげです。
ちょっと最近うまく書けなくてジタバタしているきらいが大きいですが、これからもよろしくお願いいたします。


 大問題である。

 大問題だ。

 ただ、私の中で歓喜の声を上げている部分もある。

 

 核物質だ。

 核物質である。

 核物質なのだ!!

 プローブをコンテナに入れてみたところ、汚染センサーはそれなりの数値を示していた。だが、汚染内容を解析してみると、それは驚きの内容を伴っていた。

 汚染内容、コーラップス、十。ガイガーカウンター、九十。コーラップスの検出の殆どは、焼き切って切り飛ばした両足からで、緑色の粘液部分からはまるで検出されなかった。一方、ガイガーカウンターのほとんどは粘液部分であり、両足からはほとんど検出されていない。ふと、今更ながら思い返してみれば、粘液にジョブチェンジさせたエネミーからは、確率で核物質がドロップに追加されていた。とはいえ……核融合炉を作るには今回回収できた核物質だけでは到底足りない。かといって、必要量の核物質を確保できるほどに出撃、もしくは襲撃を受けて撃退するということができるだろうか? 出撃は戦術人形が増えれば援護に出ることもしにくくなるだろう。説得力があまりないが、指揮官が前線に出るというのはあまりよろしくないというのもある。

 

 さて。一度、核物質のことは忘れよう。

 出現条件とか量とかアレヤコレヤあるが、今は一度忘れる。

 後方支援は、ほんの数時間で終了するようなものではなく、数日から一週間程度の期間を要するものになっている。当然、報酬もそれに応じた量となっていて、一回の後方支援で結構な量の資源を得られるのは大きな利点だ。無論、基地の戦力はその間低下するわけで、防備を疎かにすると、そのまま鉄血なりテロリストの襲撃なりで基地が跡地になったりする。

 

「おかえりー」

「おかえりなさーい」

「ただいま戻りました、指揮官」

 

 初手はSPP-1。59式と出迎える。

 

「解析とかテストとかどうだった?」

「芳しくありませんね。博士は指揮官と技術体系がそもそも異なるようなので、解析は進んではいますが理解には至っていません」

「だよねー」

 

 Robotics Expertは「戦前のアメリカ」で発展した技術なので、解析が進まないのもむべなるかな。

 解析とテスト依頼だったので、SPP-1に特に疲れた様子は見られない。

 

「あとは、一度、ペルシカリア主席研究員がいらっしゃって、私のスキャンデータなどをご覧になっていました。理解できていたかは……その、わかりません」

「……おやおや。あくまで私のは駆動技術で、それをちょっと上乗せしてるだけなんだけどな……」

「それで、その……指揮官、こんな事を聞いてもよいかわかりませんが……」

「ん?」

 

 ふいに、何か一種思いつめたような顔で、SPP-1が口を開く。

 

「主席研究員の、その、格好は……あれは、よいのでしょうか……?」

 

 言われて思い至る。

 確か、ペルシカリアの格好といえば、マグカップ片手に猫耳装備、ズルズルの白衣とインナー、スリッパスタイルと常識を疑うような格好だったと思うが、まあ、あの手の天才なんてこの手のエキセントリックはつきものだろう。

 

「代替の利かない天才だし、見逃されてるんじゃないかな?」

「そうですか……」

 

 イマイチ納得の行かない様子のSPP-1だったが、それ以上気にしてもしょうがない。

 

「とりあえず、他のみんなが戻ってくるまで、羽根を伸ばしておいで。まあ、訓練でもいいけど」

「了解です、指揮官」

 

 さっと一礼するSPP-1に退出を促したら、次は執務室のタブレットだ。

 特殊な依頼だけだったあり、報酬資源量や各種チケットの量は素晴らしい。つまり、次の人形作成配備申請チケットを切れるというわけだ。

 どの種別を狙うか、など決まっている。HGしかいないのだから、SMGもしくはARが欲しいものであり、SGとかMGは運用が難しいので今はいい。というわけで……そして都合のいいことに、こちらの記載外資源で代替の利く弾薬と配給を多めに、代替の利かない人力を少なめに、部品はまあそれはそれであると便利なので少なめに、という配分で資源を提出して、人形の製造依頼をすぱっと五人分依頼。ついでに快速製造チケットも五人分切る。装備は現状私が作ることで持たせられるので今は後回しで良い。高性能装備は扱うにも最適化工程の進行が必要だし。

 

 ぴぴっ

 

 おっと、今度はFive-seveN達が帰ってきたな。

 現状の戦功が低いうちの指令室ではあまり実入りの良い後方支援依頼は受けられないので、そこまで収入は高くない。が、無いよりはマシであるのも確かだ。

 報告を受けてみると、まあ確かに当たり障りのない単純労働で、かと言って民生用自立人形では周辺の危機に対応できない、ということで自衛力のある戦術人形にそれなりの対価で労働させよう、という内容の後方支援だった。昨今は人形人権団体過激派のテロだのなんだので面倒くさいからねえ……。

 後は、人形たちと銃器の整備、改造状態の維持、基地周辺のタレットやセントリーボットの破損状況の確認(プロテクトロンは停止させて倉庫で保管中)……などなどを済ませてから執務室に戻る。タブレットのスリープを解除して再度覗き込んでみると、早速人形製造依頼の結果が来ていた。五体製造したので、これで合計は十一人。本部に整備用人員の要求がようやくできる、というわけだ。二部隊できるので、一部隊を常に後方支援に回せる。とはいえ、こういうのは連続でしていると飽きるだろうし士気にも関わるのでローテーションで実行すべきだろう。余った残り一人で人形改造の解析許可依頼をこなせば資源もザックザクでさらなる人形製造依頼も出しやすいというものだ。

 

 さて、人員は誰が来たのかなー、と……。

 PPS-43、L85A1、シプカ、ガリル。ここまではいい。

 GrHK45、なんで? HGが出てくる資源量じゃなかったでしょ? なんなの? しかもHK45? この間のあいつと同型? なんで?

 AA-12、なんで???? ショットガンなんで???? しかも六体目とかどういうことだ。

 

 ぴぴっ

 

 戸惑っていると、さらにもう一通メールが届いた。差出人はペルシカリア主席研究員。わざとなのかなんなのか知らないけど、全部件名に用件が書いてある。

 

『やあ、この間はいいものを見せてもらったよ。明らかに技術体系が異なるのはどういうわけなのか今度聞かせてもらいたいぐらいだ。お礼に、私が資源などを追加して人形を一体発注しておいた。役立ててくれ。P.S. この間の企画で楽しんでいてくれていたそうだから、その子を製造結果に入れておいた。可愛がってあげてね』

 

 ぺ、ぺ、ぺ……

 

「ペルシカァーッ!! おま、なんちゅうことしてくれとんじゃ、おま、おま、おまーっ!!」

 

 近くにいた59式とカリーニンがぎょっとした目でこっちを見てくるが、かまやしない。

「本人かよ!!」

 

 デスクに全力で叩きつけた腕が少し痛かったが、それで忘れられるぐらいなら忘れたいぐらいの、いや別に食われたとかそういうのは無いんだが、それでもかなり翻弄されたのは事実なので忘れたい記憶が再び迫ってくるとか地獄じゃねーか!!

 

「忘れたい……」

 

 デスクに突っ伏した私を、よくわからないなりに59式がぽんぽんと背中を叩いてくれた。




以前、感想で5HG編成を強いられているのか、とお書きいただいたことがありましたが……
さすがにこの先の展開にいろいろと無理があったり(見かけ上種別が偏りすぎていて戦力として数えられない支部に任務はそうそう回ってこない)、L85A1出したかったりで、ついにHG以外の種別を解禁してしまいました。

ところで、59式のスキンきませんかねぇ……。


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新人訓練

「しきかーん! いえ、プロデューサー! 会いたかったですよぉーあぶりゃっ!?」

 

 突如突っ込んできたGrHK45にフロントサイドスープレックスカマしてしまった私悪くない悪くない。

 

「……あー、ごめんなさいね、私がこの指令室の指揮官。よろしくね」

「……お嬢、せめてスープレックスの体勢から戻ってから言おうよ……」

 

 HK45を離して起き上がってみると、ドン引きする残り五人の視線があった。

 第一印象、大失敗!!

 

 

 あーだこーだ、ああでもないこうでもない、と考えるのは楽しい。

 十一人所属予定になって、あれやこれやと皮算用していたからにはそれは納得していただけると思う。ただ、この、扱いにくい爆弾を抱えてしまった感覚だけは、ちょっとどうにも慣れないものがある。とはいえ。とはいえ、だ。来てしまったのであれば、それはそれで、ということで運用を考えるのも指揮官としての務めであろう。

 やることはいっぱいある。列挙してみよう。

 

1.新人も含めた、全体の練度向上。59式は本当の5Linkを目指す。

2.全員の銃器の改造と、なるべく多い人数の躯体改造状態の維持

3.装備の開発、特に外骨格。核物質が手に入るのでパワーアーマー実現が見えてきた。

4.防衛状態の強化。マシンガンタレットではなくレーザータレットなどにしたい。鉄血武器の鹵獲改造も視野に。

5.核融合発電機を地下など見つからない場所に設置。(要:大量の核物質)

6.5がそれでも無理な場合のためのチムニー開発(陽電子線照射型崩壊炉)。陽電子線は鉄血レーザーライフルの鹵獲改造で手軽に照射可能。

 

 というぐらいだろうか、ぱっと思いつくのは。

 数字が少ないほど重要度が高く、基礎の練度というか最適化が進行していないと、強力な装備を与えても使いこなせないので猫に小判状態となってしまう。というわけで、まずは過去の作戦記録を本部ライブラリから大量にパチってきたので回し読み。

 

 正直な所、各人形の性能概要なんてまるで覚えていない。ので、本部からの性能概要をちらちら見つつ、編成を考える。二部隊を編成し、タンク役の人形を改造して回避性能やら防御性能やらを引き上げるとすると。

 第一、59式をメインタンクに、PPS-43をサブタンク、Five-seveNを中衛において、後列にL85A1とガリル。改造してあるからこそできる布陣で、素早いやつとかそういうのを仕留める方向性。

 第二、AA-12をメインタンクに、シプカをサブタンクに据えて、後はグリズリー、SPP-1、CZ75の三人でフォローしまくる。AA-12を改造して、どこまで防御性能を持たせられるかが勝負だろうか。

 また、装甲目標を貫ける力が全員ないので、私が徹甲スナイパーなりプラズマなりを担ぐのは続投決定。

 USPコンパクトは誰か破損、もしくは後方支援などでいないときの交代要員&事務手伝い。

 HK45は、正直送り返したいが、私個人の感覚で送り返すわけにも行かず、あまつさえペルシカの紹介なのでそれを送り返したら絶対に角が立つ。しょうがないので受け入れて、改造して例の研究支援にガン詰め……も、考えたが、そこまで考えたところで別にHK45に罪はないことを思い出す。ので、USPコンパクトと同じく交代要員&事務手伝いでいいか。

 

 全員で作戦報告書を読み漁り、ある程度最適化具合を進行させた辺りで今日はお開き。最適化したことによる制御可能性能の上限まで躯体の整備を考えるとちと気が遠くなるが、これは改造と違って一度やれば二度は発生しない類のものなので、気合を入れる。同時に、人数が十二人になったことで、本部にキャパオーバーだぞ整備人員追加で送れ、と申請も出しておく。

 とりあえず……シプカ辺りから始めますかねっと。

 

 

「この瞬間のために、生きてるんだわぁ~!」

 

 実に特徴的なL85A1のセリフ。射撃訓練を行っているのだが、動かない的より動く的、ということで、あの赤い星が特徴的で罵声っぽいものをバラ撒きながら走り回るあの機械を再現してみたもの(もちろん罵声とレーザー発射機能と近接攻撃機能はカット)を、ペイント弾で狙わせている。59式は多少のレンジ外でも当てていっているが、他の人形はいささか射程距離限界に近くなると命中率の低下が大きくなっていた。で、時折当てて、射撃欲とでもいうのか、そういったものを充足させているのが一人いる。なんというか、59式と一緒なのか、役に立つ、あるいは実力を示すということに対して強い欲求でもあるのだろうか。のんびりしている性格に見えるようで、戦術人形らしく血の気も多いのかもしれないし、あるいは早くも個性を獲得し始めたのかもしれない。

 ところで、あのくっそ長いロングヘア、邪魔にならないのだろうか……?

 

「はい? 指揮官、どうかなさいましたか~?」

「あ、いや、なんでもない、なんでもないわ。よ、よーし、私も参加しちゃうぞぉー!」

 

 

「ねえ、指揮官」

 

 命中訓練の後、晩飯を作ってもらって食堂で食べていると、ふと、向かいの席にAA-12が座った。何やら、深刻そうな顔をしている。

 

「ん、どうしたの? 何かあったの?」

 

 ポテトのトマト炒めをつまむ手を止めて、話があるなら聞くよ、というのを態度で示す。

 

「その……私、必要……?」

「はぁ?」

 

 言ってる意味がいまいちわからず、首をかしげる。

 

「要不要でいうなら間違いなく必要だけど。全員。十二人じゃまだまだ足りないわ」

「そうじゃなくて……」

 

 だが、AA-12は首を振った。まだなにかあるのだろうか?

 

「59式の動きを見たの。みんながあんな動きができるようになるなら、弾を受け止める盾になるショットガン人形なんていらないから」

「ああ、そこ? 大丈夫……というのもなんだけど、心配はいらないわ」

 

 ポテトを一つ刺して、かじる。言外にそれは悩むに値しない杞憂であるので心配いらない、と言いたかったのだが……なんか視線が凄まじいことになっている……フォークを置こう。

 

「避けるのには限界があるのよ。もちろん、受け止める方だって限界があるけど。59式だって、ダミー何度も壊してるし、時には手足を壊したことだってあるし、ボディだけひっつかんで逃げてきたことだってあるし」

「……そうなの?」

「飽和射撃って、そういうものよ。物理的に避ける場所がなかったら、避けられないじゃない?」

「……」

 

 納得いかなさそうな顔をAA-12はしている。

 

「そうねえ……あるいは、迫撃砲みたいなのは、避けるも何もないでしょう? 59式だって、爆風を避けることはできないし、そういう時に重要になってくるのは装甲の強度。あなたの盾みたいなのね。だから、防御、回避の方向性は、特化すべきだけどみんながどちらかに偏ってもだめ。そうじゃないと、天敵になりうるタイプの敵に勝てないし、逆に往々にしてそういう天敵はもう片方のタイプにとってはカモだし。だから……もう一度言うけど、分業が必要なの。それじゃだめ?」

「……わかった」

 

 不承不承、といった感じだなあ。

 

「あと、あれよ。59式とかが動きが良くなってるように、あなたの場合はその盾をガッチガチに強化するわよ。それこそ、RPGランチャーを受け止めてかすり傷程度とかにしてあげる。楽しみにしてらっしゃい」

 

 プランはある。

 パワーアーマーはフレームを動かすためのフュージョンコアが不足しているため運用できないが、その装甲技術を転用することは十分に可能だ。もちろん、アパラチアのMr.ガッツィーみたいな徹甲弾のような攻撃を仕掛けてくることはほぼ確実にあるだろうし、接近して回り込まれても面倒だ。というわけでさらにパワーアーマーの技術を流用し、テスラコイルを盾に配置することで近づいてくる不逞の輩を焼き焦がしてやることができるだろう。なんだっけ、鉄血にめっちゃ高速で近づいてくる高破甲のやつがいたような気がする。当然詳しいことは覚えてない。

 まあ、そんな感じのことを語って聞かせて、最後に

 

「後悔はさせないわ。ついてらっしゃい」

 

 というと、AA-12は、隈の酷い顔を、ニヤリとさせて、笑った。




深層映写始まりましたね。
ガルム? ケルベロス?には、G11と同じような吹き方をしました。
書いたら出る理論が適用されたのか、HK45がこれでもかと出てきました。

さて、進行状況ですが、3-2で詰まっています。
3部隊で左中右と別れて行動せねばならないのに、使い物になるのがおよそ2部隊しかないのでどうしたものか……。
S取得を諦めて、真ん中を制圧したらダミー部隊と入れ替えて右に一時撤退して行く、とかするしかないのでしょうか、などと考えつつレベリングに勤しんでいます。
みなさんもご武運を。


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自重

 やりすぎた。

 

 好奇心は猫を殺す(9万回生き返る猫でも好奇心につられて動くとその回数を使い切るほど死ぬ、という意味だと最近知った)、という言葉があるが、いや、どちらかというと藪をつついて蛇を出す、か。こちらのほうが近い。

 公的な資源難と人員の問題を抱えた当R08地区所属指令室。当然のことながら、ライフラインの供給やらなにやらで、私の給料から結構な額が天引きされている。もちろん指揮官の給料はそれを見越した金額設定なので無理があるわけではないが、そこをなんとかしたいというのは人情と言っていいだろう。それで、ふとした思いつきを実行に移してみた。

 ちょっと改造した大型タンクに近くの川の水(もちろん汚染されている)をたっぷりと詰めて、産業廃棄物処理場から見つかった骨や廃油を再利用して作ったファイアスプレッダー、つまるところ火炎放射器からの炎を熱源としてタンク丸ごとをじっくり炙ってみた。過剰な内圧は逃げるように作ってあるので遠慮なくボーボー炙り続けて、『徹底的に煮沸』した後で水質検査をしてみた。

 

 結果、『飲用可能』。

 

 カリーニンが訳がわからないという顔で、自分で汲んできた川の水をビーカーに入れて基地の外作業用バーナーで煮沸消毒を試みている。

 

 結果、『汚染が酷く飲用不適格』。

 

 あれ?

 カリーニンに重労働を強いて悪いが、さっき私が使ったタンクとポンプと火炎放射器で煮沸消毒をしてみてもらう。

 

 結果、『飲用可能』。

 

 なんでや。

 私が、わけわかんねー、と思いながら自分で汲んできた川の水をビーカーに入れて煮沸消毒を試みている。

 

 結果、『飲用可能』。

 

 だからなんでや。カリーニンなんかもう視線がこんがらがりすぎて頭抱えてブツブツ呟き続けている……。

 59式を呼んできて、川の水をビーカーに汲んできてもらって煮沸消毒。『飲用可能』。

 もう一度私が煮沸消毒して飲用可能出した後に、カリーニンが川の水を同じビーカーに汲んできて煮沸消毒。『汚染が酷く飲用不適格』。

 

「えぇ、なんでぇ……!?」

 

 59式も頭を抱えだした。私だって頭を抱えてジタバタしたい。

 グリズリーを呼んできて、川の水を以下略『飲用可能』。

 HK45を呼んできて、川の以下略『汚染が酷く飲用不適格』。

 シプカ以下略『飲用可能』。

 食堂のおばちゃん以下略『汚染が酷く飲用不適格』。

 AA-12『汚染が酷く飲用不適格』。

 Five-seveN『飲用可能』。

 清掃員のおじちゃん『汚染が酷く飲用不適格』。

 

 だからなんでや。

 

 最初はFallout時空に巻き込まれる形で、物理法則がそちらよりに変化しているのではないか、と考えたが、カリーニンがビーカーで煮沸消毒した水に否定された。

 Fallout発の道具を使ったから成功したのかと思えば、私がビーカーで煮沸消毒した水に否定された。

 私、もしくはFallout発の道具を使っているからかと仮定してみれば、59式にビーカーでやらせてみた水に否定された。

 前に使ったやつのが影響してるのかと思ってみれば、その後のカリーニンの水に否定された。

 もう訳がわからなくなってきて、片っ端から人形を呼んでやらせてみると、結果が酷く安定しない。とりあえず地面に小枝で表を書いて、思いつく限りの条件を書いて比較してみるが、どれもこれも一致しない。人形にやらせてみた結果すら安定しない。人間にやらせてみた結果も安定しない。どういうことなの……?

 

 同席している、おばちゃんおじちゃんふくめた全員に、何かこの条件に規則性がないか、思い当たることがあれば遠慮なく言って欲しいと伝えても、しばらくうんうんと唸り続けるばかり。

 

「あ、ねえお嬢、これなんだけどさ」

「ん?」

 

 ふと、59式が何かに気づいたらしい。

 

「お嬢はともかく、人形で飲用可能になったのって、全部改造がしてある人形じゃない?」

「それも考えたんだけど、それはAA-12もそうよ?」

「盾じゃなくて躯体は改造した?」

「……あー、躯体はまだ、ね。盾を優先してたわ」

「じゃあ、そっちで見てみようよ。この分だとSPP-1は飲用可能で、L85A1とPPS-43はだめだと思うよ」

「実験してみましょう」

 

 訓練中の三人を呼んできてもらって、実験してみる。

 その結果、SPP-1は飲用可能、L85A1とPPS-43は飲用不可という結果に、つまり予想通りとなった。

 

「なんで改造済み人形だと大丈夫なのかよくわからないんだけど……改造パーツが躯体の中にあるから、お嬢の作ったものを使いながら、ってことになるのかな?」

「カリーニンにも、火炎放射器使ってもらったらなったものね……」

「うん、だから、火炎放射器とビーカーで実験してみようよ!」

 

 というわけで、仮説を更に裏付けるべく、カリーニンとAA-12、HK45の三人に、まあ加減が難しいだろうが、チョロチョロと出す形でビーカーを火炎放射器で炙ってもらう。結果、全員飲用可能、ということで、とりあえずこの仮設は現在の観測範囲では正しいようだ。

 

「成功だねっ! だから、お嬢か、お嬢の作ったものを使ってなにかすると、結果がおかしいことになる」

「ちょっと?」

「でも、事実だよね? 私の性能とか、そもそもの銃の威力とか、さっきの水が沸かすだけで飲めるようになってるのとか」

 

 確かに、ぐうの音も出ない言い分である。

 

「というか、うすうすみんな、お嬢がおかしいことに気づいてる。私もずっと、お嬢おかしいって思ってたよ? とってもね!」

 

 とまあ、うすうす考えていたことをはっきり言われるとそれはそれでクる物があった。が、まあ、私としてはある程度は「今更」案件であり、それゆえに騒ぎにならないように自重しているものであった。が、

 

「で? お嬢。セントリーボットのときにも思ったけど、隠し玉後一体いくつ持ってるの? もしかしたらこんな回りくどい方法しなくてもきれいな水を沢山確保できる方法、あるんでしょ?」

「そりゃまあ、あるけど……」

「この際ほかも聞いちゃおう。食べ物は?」

「トウモロコシとニンジンとレイザーグレイン、ウリ、スイカなら大量生産できる。収穫単位は数日。ほかはやってみないとわかんない」

「……世の中の食糧生産に四苦八苦してる部門が憤死しそうな感じね……」

 

 やれやれ、といった調子で59式が肩をすくめる。

 

「資源……はいいや、またゴミ漁りしに行くのはすごく辛い」

 

 いいかけて遠い目になるな59式よ。AA-12が何それ、って顔をして、そこをグリズリーが説明して隈の深い顔をひきつらせている。

 

「電力……もいいや、ガイガーカウンターのカリカリ言う音はもう聞きたくないし」

 

 あなたちょっと酷くない?

 

「指揮官様、薬の類はどうでしょうか?」

「モノによる。覚えてるレシピだと調達が難しいものばかりで」

 

 今度はカリーニンから飛んできた質問に、少し考え込む。RADアウェイの光るキノコとかどーせいっちゅーんじゃ。一般に光るキノコなんて強烈な毒キノコしかなかったはずだけど。逆にスティムパックならできてしまいそうな気もする。ティックの血液嚢は、つまるところ新鮮な血液、というところだろう。ティックという巨大ダニの血液嚢だから、人間とは限るまい。それを殺菌剤で処理してインジェクターの中に詰める。やってみたいができてしまったときが困る。血液が材料って、どう転んでも魔女裁判コースだ。やるなら製法を59式以外には完全に秘密にしてやるべきだろう。

 

「ねえ。銃器は?」

「え? 例えば、私が持ってるノリンコ59式が、軍用大型拳銃並みの威力になる。反動はそのままだし、場合によっては弾の変更無しに徹甲能力も持たせられる。けど、そこまでやるとASSTが効かなくなっちゃうから、少し安全マージン取ってあるよ」

「私の、銃の方のAA-12をそこまで強化することってできる?」

「できるけど、ASSTが効かなくなるからゼロから訓練し直しだし、躯体の方も合わせる必要があって、私ができる改造のリソースをたくさん食うからダメ」

「……ちぇ」

 

 AA-12からの質問と要望も答える。私が整備専門ではなく、時にライフルやプラズマを担がねばならない状況では改造状態を整備、維持できる人数に限界があるのは先にも述べたとおり。銃器であれば修理など割とさっくり終わるので何丁でも持ってこい、資材さえあれば修復と時に改造もしてやんよ、なのだが。人形の修復も同様。生体部品の修復に時間がかかり、それを加速させる触媒の配布チケットが快速修復チケットである、という認識でいる。

 

「それでお嬢、どうするの? なんでか知らないけど、お嬢は社長に聞いたら私が来た途端に急に自重を覚えた、って聞いたよ。でも、ここでも自重しすぎたら、多分、皆死んじゃうよ?」

 

 この場合の社長とはG&Kのクルーガー社長ではなく私の父のことか。痛いところをついてくれる。というか、私が先送りにしそうだからつついたんだろうな……。

 というか、死にそうなのだ、本当に。今の所、あらゆる全てを跳ね除けているように見えるが、実際、最後に襲ってきたデスクロー強化型っぽいのが2体同時に来ただけでおそらく甚大な被害が出る。鉄血のハイエンドモデルがやって来たと仮定した場合、基地放棄を検討するレベルだ。イベントラストステージ級のハイエンドモデルが来たら、逃げることもできないだろう。

 わかっちゃいるのだ、自重してたらコイツラに勝てぬ。だが、自重しなかった場合は、別の敵を引き込みやしないか、と。

 

「別の敵って、なんだ……」

 

 過激派人権団体、ロボット排斥派、軍、あるいは同じG&Kからか。E.L.I.Dか。

 

「何が来ても、ファットマンなら大丈夫じゃない? MIRFにする?」

「そうねえ、用意しておくべきかしら……ってなんで知ってるのよそれ」

「お嬢……社長のところにいたとき、事あるごとにつぶやいてたじゃん。あいつら、ファットマンで消し炭にしてやろうか、って」

「……マジか。うーむ……。ねえ、59式」

「なーに?」

「自重、やめよっか」

「それがいいよ!」

 

 いつもの調子で、それはそれは軽く。頼りになる「5」Link人形、59式は言い放ってくれた。

 

 

 

 

「ところでお嬢、ファットマンってなに?」

「携帯核爆弾ランチャー」

「「「「「「えっ」」」」」」




ふふふ、やりましたよ、e3-2を突破できました。

が……当然というかなんというか、もちろんe3-3がクリアできず泣いております。
ARはまだ6人しか育成しておらず、頭数がたりません……うごごごごごごご。
良い機会だと思って、G11とAR-15を育てることにします……。


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閑話4 適用範囲

適用範囲

 そう、適用範囲だ。

 Fallout物理法則とでも言おうか、それの適用範囲が地味に曖昧で困る。

 汚染水の煮沸消毒実験はわかりやすい方だが、それでも暫定正解を出すのにかなり右往左往した。

 とりあえず、「私自身の行動結果、もしくは私が作った道具を用いての行動の結果がおかしくなる」という認識でよさそうだというのはありがたい。

 

 ただ、先日の鉄血哨戒からこっち、こちらはドローンを度々飛ばして監視に努めているのだが、逆に鉄血の哨戒部隊も偵察部隊も来ない。つまり、遠慮なく撃っていい相手がいないのだ。その一方で、監視に努めているクソマップの一部に監視台を作ったり地形改善を行ったりと本来の任務は着々と進んでいる。つまり、遠慮なく撃っていい相手がいないのだ。この分だと、輸送路の確保という任務の達成も近そうである。つまり、遠慮なく撃っていい相手がいないのだ!!

 現状、敵のプラズマライフルによる緑の粘液へのジョブチェンジ以外での核物質の入手には目処がついていない。父のいる部隊の近くの廃棄物処理場には不法投棄された核廃棄物があったのでこれ幸いと再利用できていたが、さすがにあそこは遠く、輸送してもらうにはコネやカネが足りなさすぎる。野生動物を射殺しまくるかとも考えたが、自然保護の観点からダメだろう。例の元罵詈雑言バラマキマシーンを稼働させて撃ってみたが、的として用意したためか設備扱いらしくただ壊れるだけだった。

 

 つまり、遠慮なく撃っていい相手が足りないのだ!!!

 

 ふてくされてケミストリーステーションを作り、期限切れ間近の血液パックを貰ってきて(アパラチアのものは期限切れも期限切れだから鮮度が足りないと思われる)、廃棄掃除用品から抽出した殺菌剤をあわせて処理、鉄で作成した注入器具にセット。スティムパックらしきものは出来上がったが、効き目は未知数である。ゲーム中に拾ったノートには確かスティムパックの期限を確認する的な記述があったが、拾ったスティムパックもすべて問題なく使用できることから期限は実質無いも同然なのだろう。スティムパックの効果は、使用した瞬間に全身の重傷軽傷が治癒し、体力が回復するのは広く知られていた。つまり、私が携帯しておいて、万一負傷した時に使うべきもの、だろう。

 後は、レシピに乗っ取り調理したスープなどもしっかり体力の回復能力を持っている。……戦闘中に食べるのか……シュールだな……と思わなくもないが、医療品ボックスに忍ばせておいてもバチは当たるまい。無論、腐る前に取り出して食べるつもりだけれども。

 

 よって、今できる、自重を捨てられる場所は資源生産の増産。

 産業廃棄物処理場に抽出機とコンベアと、管理兼警備用プロテクトロンを追加配備する。

 食料生産用農場、取水ポンプを作成して、極端な話完全包囲されても籠城が可能なようにする。いければ核融合発電機も。

 あるいは、司令室防衛の増強か。今でも各種タレットが周囲を睨みつけているし、とりあえず考えられる安定性重視の重装備をしたセントリーボットが巡回もしている。

 

 そして。

 数は力なので私が全力を出しても複数Link人形に敵わないと考えていたが、そこを補う戦闘方法を改めて考えてみてもいいかもしれない。例えば……プラズマグレネードとか、ミサイルランチャーとか……あるかどうか知らないけど爆発レジェンダリーとか、ね。



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収穫

ちょっと下品……かも……?


 というわけで、どん、とできましたトウモロコシ畑。

 以前、司令室の建物は公民館のようなものを再利用していると述べたが、そうすると当然近くには人里があるのである。というか人里近くでないと防衛や輸送路の意味がない。もちろん襲撃対策にある程度人が住んでいる建物からは離れた位置になっているが、近くには人が住んでいる以上そこは食料を生産している。ので、こちらで用意した修理用品等の物資や、あるいはダイレクトに修理すべきものを修理して、対価として食える期限は問わないトウモロコシの山他いくらかの農作物を貰ってきた。後は、産業廃棄物処理場から資源抽出した後の残渣であるゴミ山から作成された肥料(物凄く臭うかと思われるが、きちんと処理したのでそんなに臭わない。59式が我慢して扱ってくれるレベル)とともに、司令室の裏手の草を刈った後の広場に一気に植えてみたのである。

 

「お待ち下さい指揮官様、あの、農作業とはそんな簡単なものでは……」

 

 カリーニンがいささか常識を疑っているが、資源生産にはとりあえず自重を捨てると決めたので無視。後は、生産方式がアパラチア式っぽいので、このまま放置しておけば食料が無限に溢れ出すはずである。まあ、虫の駆除とか余分な草の処理ぐらいはしてもいいかもしれない。

 

「まあ、これでデンプン源は確保できただろうから、タンパク質とビタミン……大豆とキャベツかなあ……」

 

 とりあえずやってみるべきであろう。採りたての大豆を一揃いと、キャベツ六玉。自分でも特にキャベツが意味不明だと思うが、これを……植える!

 

 というわけでできました大豆畑とキャベツ畑(?)。トウモロコシもそうだったが、恐ろしいことに植えた瞬間ある程度の大きさに育った状態で植わっており、いきなり数ヶ月経過したかのような錯覚を受ける。しかも、その下の地面は別に農地や畑というわけでもなく、草を刈ってできた広場そのままなのがまた混乱に拍車をかける。我ながらとんでもねーものを作り上げてしまったかもしれない。

 

 

 さて、成長するまでは少し時間がある。食料ときたら次は水だが……少しばかり問題がある。現状で司令室の発展()に制限を仕掛けているのが、水ではなく電力の不足だ。

 一応、基地施設で使うための電力は外から引いているが、この料金が意外と高い。この基地用電力で工業用浄水器を動かすとすると、翌月からの料金がきっとおっそろしいことになる。

 発電の手段の至上はやはり核融合発電機だが、核物質の備蓄量が目標の10%にも満たない。無い袖は振れないので一旦は核融合発電機は諦めて、発電機(大)もしくは風力発電機でなんとかしなければないだろう。自転車型? 場合によっては2%の確率で死ぬやつとか乗りたい?

 

 それで、近くの川に工業用浄水器を設置して、その周囲に風力発電機をドカドカと設置。電線を繋いで稼働させて、蛇口を捻って水を出すと、ついてきていた人形たちがどよめいた。なお、所要時間およそ十五分。

 

「きれいな水があんなに……」

「もしかして、お風呂入り放題になる?」

「ちびちび使わなくてもよくなる!?」

 

 まあ、水の料金高かったからね……。調子に乗って立てた風力発電の列に合わせて、もう二台工業用浄水器を設置して、パイプラインで基地まで線を引く。ついでに周囲にはタレットを設置して、浄水器に手を出す不逞の輩を撃滅してもらうことにした。

 

 

さて、運命の数日後。

 

「トウモロコシは実の部分だけ折り取って。大豆はサヤの部分だけ摘み取る、キャベツはここでこう、スパッと」

 

 豊作である。量はもちろん作っただけだが、それが数日で出来上がるとなると破格の供給量となる。警備はセントリーボットに任せてまずは人形総出で単純に植えた数と同数のトウモロコシとキャベツ、豆も数え方とかの問題があるがほぼ同数の豆が収穫できた。さて、後はこのまま放置しただけでは普通はただの枯れ葉の畑になるだけのはずだが……。

 とりあえずその日の夜はトウモロコシパーティーだった。仮にあのまま枯れてもそれはそれで問題ないし。対価は私の調達資源と技術であるし。内心危惧していたRADの存在、つまるところ放射能汚染はなかった。

 

 さらに数日後。

 

「よし、ちゃんと育ってる」

 

 数日前に時間が戻ったかと思うような感じに、トウモロコシ、大豆、キャベツが並ぶ。

 

「これはちょっと、予想外かも……」

 

 引きつった笑みで畑をみやる59式。

 

「あら、自重しなくてもいい、って言ったのは59式よ?」

「わ、私に責任を押し付けないでよ!?」

「まあ、収穫は手が追いつく程度でいいんじゃないかしら。収穫しなかったら腐るってものでもないはずだし」

「おかしいよ……ほんと、おかしいよ……」

 

 ま、手が足りなくなったらプロテクトロンを作ろう。あるいは、司令室と人里の間に畑を移して誰か雇うのもいいかもしれない。

 場合によっては人手を資源がある限り無限に生産できるとか、ほんっとオートマトロンはヤバい。

 

 

「で、こうなるわけ?」

「まあ、妥当じゃないかなー」

 

 司令室付属、大浴場。前はシャワールームぐらいしか使えなかったが、今日は浴槽になみなみと湯が張られ、待ちきれない人形たち全員+私が思い思いにくつろいでいる。PMC時代にもそうそうできなかった贅沢ではあるので、私も順番待ちをすることなく全員で一緒に入ることに同意した。なお、他の基地職員たちが順番待ちしていることも添えておく。

 あれから、追加で収穫できた作物と補給品の食料の肉と酒でBBQパーティーが催された。まあ、収穫祭みたいなものだろう。今後数日おきに開かれることはないことだけは保証しておくが。で、人間として収穫作業で汗をかき、老廃物などもある私と、飲んで食って騒いだ人形たちはさらなるレクリエーションとしてお風呂突撃と相成ったわけである。電力がもっとあれば、数日おきではなく二十四時間お風呂に入れるようにできるので核融合発電機を早く作りたいものだ。

 私も、あるいは血筋としても日系の血を引くからとしても、お風呂そのものは大好きである。第三次世界大戦が始まってから、シャワーはともかくお風呂は少々縁遠くなっていたのは本当に残念だったのだ。というわけで、このような両手両足伸ばしてだらーんとできるお風呂は堪能する以外手はないのである。案の定とも言うべきか、さっそく飛び込もうとした59式をひっつかんで洗い場へ連行してざぶざぶ洗い、他の人形たちにも先に洗い場オアシャワーで体を洗ってから入れとだけ言ってから私も自身を洗う。ついでに細かい手入れもしていると、人形たちに興味深そうに見られた。

 

「……え、なに? ……ああ、そうか、あなた達、手入れいらずなのね、羨ましい……」

「そうね。例外はいるかもしれないけど、私達にとっては、手間暇かけるコストが趣味でしか無いもの。指揮官を見てると、その手間が無くてホッとしてるわ」

 

 湯船の縁にそのでかい胸部を載せて、こっちを見ているFive-seveNが言う。

 

「……あと、それ、しょっちゅうぶるんばるんしてるけど、垂れないわよね?」

「垂れないわねえ。指揮官には、垂れるほどはなさそうだけど」

 

 はなせ59式、あの邪智暴虐のHGの鼻を捻ってやらねばならぬ。

 

「というか、指揮官が色々と小さすぎなんだよ。小柄な人形に偽装できるって段階で色々と大概だろ?」

「まあ、ねえ」

「HGの中でも特に小柄な方の私にそっくりだもんねえ」

「やかまし」

 

 CZ75の言うことも最もなのだ。父が、私の体型に合わせて小型化カスタムをしたのかと思っていたが、59式は実にカタログ通りのスペック、サイズで父のPMCにやって来た。つまり、もともと小柄なHGなのが59式であり、それに偽装できる私は人間としてかなりの小柄なのだ、

 それにしても、風呂で髪を下ろしたCZ75はかなり印象が違うな。

 

「ん? なに?」

「なんでもなーい。それよりも、優秀な59式が、資源でも銃器でもなんでもよういしてあげよう! みんな、あがめて!」

「アハハ、似てる似てる」

 

 ノリで59式のマネをしてみれば、まあ先程までの騒ぎの名残もあってそれなりに受けた。

 

「核物質さえあればなあ……」

 

 おい59式、それは私のマネか? なんだよその哀愁漂うつぶやきと内容……。

 

「こっちもそれなりに似てる似てる」

 

 マジでぇ……。

 

「お嬢お嬢」

「ん、なになに?」

 

 ふと、59式が寄ってきて、腕を組んで私ごとぐるぐる回りだす。ああ、これは、

 

「「せーの、どーっちだ?」」

「「「「「そっちが指揮官」」」」」

 

 うそん、モロバレですやん?

 しかも、回りだす前はこっちを見てもいなかったシプカまで的確にこっちを指さしやがった。

 

「指揮官、虹彩の色が違うのですぐわかります」

 

 おっと、それではしょうがない。USPコンパクトの指摘を受けてリトライ、目を閉じて腕くんでぐーるぐるー、念の為シャワーブースの衝立の向こうでやった。

 

「「どーっちだ?」」

「「「そっち」」」

 

 目を開けてみると、再度モロバレだった。おや? 瞳以外に何か他に判別部位がある? が、ざっと思い浮かべても思い当たらない。両方共メガネは外しているし、目は閉じていたし、うーん?

 

「え、なんでわかったの?」

 

 隣の59式を見ても、彼女も予想外らしくてはてなマークが飛び交っている。

 

「そっか、自分は見えづらいもんな」

「なに、何が違うの?」

 

 風呂でも飴を手放さないAA-12のつぶやきに反応した59式が飛んでいく。

 

「簡単です! プロデューサーだけ生えてるんですよ!」

 

 おぶっ!?

 ……うえ、え……あー、マジだ、マジかよ……。が、まあ、とりあえずだ。

 

「えっちけーよんごぉーっ!!」

 

 新たに現れた邪智暴虐に対して、私はドロップキックでの制裁を試みた。

 

 

 

 余談。

 安全かみそり片手に五分ほど真剣に悩んだが、そんなところを晒してまでの偽装が必要になる状況ってそもそも詰んでるとしか言いようがないし、あるいは本当に必要とあらば辞さぬつもりだが、全裸かそれに近い状態での戦闘もしくは撹乱行為が必要だなんてどこのニッチジャンルだよありえねーよ、と気づいて私は正気に戻った。




e3-3も突破して、e3-4にとりあえず様子見で出撃してみたのですが、4Linkなりたて部隊では雑魚にすら蹴散らされてしまいましたおのれ……。
とりあえず416とG11を育成中です。あとAPAS-12。
立派なタンクに育っておくれよ……。


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進撃

忙しいの波は急にやってくるのが困りモノ。
はい、言い訳です……。

それはさておきe3-4クリアできました!
いるかわかりませんが、私の公開宿舎にクリア勲章掲げておきました。


 さて。

 

 お忘れかもしれないが、我がR08地区指令室の戦略目標は、クソマップを実効支配して補給路の確立をすることである。最初に一回、小規模な哨戒があったのみで、それ以降は全くの梨の礫。何故そうなのかはイマイチわからないが、こちらもステルス搭載のドローンで哨戒しているから、鉄血の哨戒部隊が来ていないことは断言できる。

 

「というわけで、制圧しちゃおう」

「なにがというわけかはわからないけど、制圧ってことはあの渓谷の狭いルートから先を、ってことだよねお嬢?」

 

 毎朝のブリーフィング。最近は農作業だの水の確保だのといった例えるなら内政に注力していたが、そろそろ軍事行動も起こさねばなるまい。

 

「USPコンパクトを回収した時の一件以来、鉄血のアクションがまるでないからね。それなら、こちらからアクションを起こして、奪い取れるようなら奪い取っちゃいましょう、ってわけ」

「そう……でございますね。本部から提示されている、作戦目標達成期限にはまだ余裕があると言えますが、不測の事態が起きませんとも限りませんし……」

「ま、そういうことね。もしかしたら大侵攻の準備してるのかもしれないし、もしかしたらE.L.I.Dの大繁殖でそれどころではないのかもしれない。繁殖するものなのか知らないけど。あるいは、もう、戦略的価値と奪取するコストが見合わないと見てるのかもしれない。全部かもしれないのだから、確定させる必要もあるし」

 

 カリーニンの言葉に頷き、ふんふんとさせつつプロジェクター(私作成)で壁に作戦図を大きく映し出す。

 

「まずは、あの狭窄路までのルートを制圧するわよ。ここまでは現状、今現在でも鉄血の姿は見られないから、制圧自体はさっくりと行くと思う。問題はこの狭窄路から先ね」

 

 レーザーポインターで示しつつ、先を見る。

 

「ぶっちゃけ、ドローンの行動半径を超えるんでここから先は不明。とりあえず私も同行して、狭窄路のど真ん中にセントリーボット付きの監視所を組み立てて、そこを拠点にその先の輸送路予定コースを制圧。後は適宜セントリーボットを配置して警備に当たらせつつ、支配半径を広げていくわよ。今の段階で質問はある?」

「ある」

「はい、CZ75、どうしたの?」

「セントリーボットでせめちまわねーの?」

「あれはセントリーの名の通り、防衛向きなの。あと、見りゃわかるけど他言無用の弱点があるから攻めるのには向かない。足もタイヤだし。歩けるけどくっそ遅いわ」

「わかった」

「他には?」

「あの……以前ここまできたような、二足歩行爬虫類型E.L.I.Dが出てきたらどうしたらいいんでしょうか……? 記録映像で見たっきりですけど、私が以前襲われたのとはレベルが違う気がするんです」

「あれなー……」

 

 さて、これは難しい。なにせ、ゲーム中でも不意の遭遇でもしようものなら場合によっては詰むクラスの連中だ。定番はV.A.T.Sで脚を破壊だったが、先日のアレは片脚を吹っ飛ばしても腕を使って軽快に走り回るとか悪夢のような代物だ。素早く両足を吹っ飛ばすぐらいしか対策が思いつかない。あるいは、陣地構築して人形総出で蜂の巣にしてやるか。

 

「とりあえず、出てきたら手脚を吹っ飛ばす方向で私が撃つわ。後は、みんなで蜂の巣にするぐらいしか思いつかないけど……セントリーボットの銃撃とミサイルを耐えたんだよねえ、あれ。もしかしたら装甲があるのかもしれない」

 

 嫌そうな雰囲気が広がる。それもそうだろう、この場にいる全員、徹甲能力を持たないのだから、本来は。

 

「そんな顔しなさんな、HGとARは全員銃器改造で徹甲能力もたせたでしょ? いささか反則気味のような気もするけど、手をこまねいてやられたくはないもの」

 

 軟目標ではないがガチ硬い装甲目標でもない、つまりは軽装甲な連中には対応できるぐらいの破甲は持たせられたはずだ。夜戦のクソウザイ砲台野郎も楽に始末できるだろう。

 

「まあそんなわけで、久しぶりの出撃よ! 気合い入れて行きましょう!」

 

 と、59式スタイルの私はキメ顔でそう言った。

 出撃は第一、第二部隊双方とも出撃。一時的にUSPコンパクトにセントリーボットやタレットの操作権を与え、HK45と一緒に指令室を守らせる。指揮はカリーニン。

 

「まあ大丈夫大丈夫、あのタレットの山を越えてセントリーボットをなぎ倒して来れるやつなんてそうそういないいない。プロテクトロンも数機出しておくから」

 

 と伝えたところ、やたらと不安そうな顔をしていたが、まあ問題はなかろう。あるいは今度はアサルトロンを作るということで。……射撃をするならロボブレインだが、さすがにあの脳みそドーンなヘッドパーツはヤバすぎるしな……。メスメトロンは誤爆が怖いし。

 

『アルファワン、無戦闘で地点一を占領』

『ブラボーワン、地点三を占領、地点二は包囲占領。同じく無戦闘』

『地点六を占領』

『地点七を占領』

『地点九』

『目標地点Aを占領。指揮官、第一目標をクリアしたよ』

「オッケー、私も急行するわ」

 

 クリアリングしながら占領地域を広げたので、配下の地域は遠慮なく移動できる、ということで廃品再生バギーでがーっと走り抜ける。狭窄路の手前まで一気に移動して、設営されていた簡易拠点にたどり着く。狭窄路に対して警戒を向ける人形たちを横目に、偵察用ドローンを出して狭窄路の向こうへの覗き見を開始した。

 ただの視覚情報でよいならすぐにも結果は出る。

 

「うっそだろオイ……」

 

 あまりの惨状に思わず声が漏れた。

 元のFalloutには、時折デスクローアイランドだのデスクローの楽園だの、デスクローの住処的なランドマークが存在する。そういう場所は、デスクローの巣があり、デスクローの卵を採取できる他、デスクローそのものもうろついていて時にガントレットの素材やブラックチタンを得るべく襲撃を繰り返すツワモノも存在した。ただ、現実のデスクローの多分アルファ個体はそんなサクッと収穫するように倒せる手合ではなく、真正面からぶつかるとなぎ倒されることを覚悟せねばならない。

 そんな、現実では悪夢としか言う他ないデスクローたちの(色んな意味で)愉快すぎる楽園がそこにはあった。後ろでドローンの画像を見ていた59式もあんぐりと口を開けている。

 全くもって手出しをしたくはないが、我々の任務はここの平定である。ガチやべえ。

 

「……とりあえず、することは決まったわ」

「撤退?」

「すごく同意したいけど、違う。狭窄路の出口に、コンクリと金属でバリケードを作って塞いで、相対しないで済むようにしてから上から狙撃」

「あたしたちもライフル担ごうか?」

「そうしてくれると助かるわ。とりあえず、一方的に蜂の巣にするだけなら、移動ターゲットでの射撃訓練と変わらないでしょ」

「え、ええ……?」

 

 

「あらよっと」

 

 どすん、という音とともに、少し前に重厚なコンクリートの防壁が現れる。

 

「もいっちょ」

 

 さらにコンクリートの防壁が。その後ろに、土台の高さを調節して作った、狙撃用の歩哨台とタレットを載せるための台。

 大型発電機をどすんどすんと並べ、エンジンの唸り声をBGMに伸びる電線からつながる先はレーザータレットとスポットライト。ヘビーマシンガンを置きたいところだったが、実弾防御がエライ値になってる可能性がある、というのが先日の防衛戦での見解だ。よって、多少威力が低かろうがレーザータレットを置くべきだろう、という判断。人形たちに配ったのは、半分がレーザーライフル、残りがプラズマライフル。レーザーライフルの耐久力のなさは折り紙付きなので、壊れたら次を取れと指示して予備も渡しておく。

 これでとりあえずキルゾーン形成用の陣地はできた。

 

「さて、後は、釣って殺して釣って殺して、巣を破壊して駆逐して、拠点を別の場所に移しながら、完全駆逐するまでヤるだけね」

「お嬢、その、重機の必要性って知ってる……?」

「知ってる。だが私には必要ない」

 

 頭が痛そうな人形たちをよそに、構築した陣地を背にしてふんぞり返る私。

 

 さて。

 長距離リコンスコープをつけたプラズマライフルを構え、皆で防壁の上に横並びになる。ざっと探して近いのから仕留めよう、ということで、もっとも近いデスクロー(仮)に狙いをつけ、リコンマークをセット。

 

「マークを付けた奴を狙うわよ。着弾確認後、総い……あ、いや、59式は周辺警戒、残りは着弾確認次第同じやつをとにかくレーザーライフルで撃って」

「りょうか〜い」

「了解!」

「ラジャー!」

 

 この距離からなら、前回のような非常識個体であっても、近づく前に仕留めきれるだろう。というわけで、脚を狙って……ファイヤッ!

 緑色の光球が勢いよく飛び、左脚をぶち抜く。ちぎれるには至っていないようだが、十分に重傷だ。追加で乱れ飛ぶ多数の赤い光線が着弾、左脚をちぎり取り、胴体にいくつも穴を開けるも、やはり致命傷には至らない。派手に発射音を立てて乱れ打ちしたので当然認識されて、ものすごい勢いでこちらに駆け出し始めるが、追加のプラズマに右足を切り取られ、倒れ込んだところをレーザーに連打されて動かなくなった。

 

「おや、意外と簡単にいったな。次」

 

 かなり騒いだつもりだが他の個体には気取られていないようだ、が、

 

「お嬢!!」

 

 ハイハイ気づいてますですよ。

 マチェットを抜きざまに久しぶりのO.A.T.Sを起動。引き伸ばされた時間の中、私に襲いかかって来ているのは、驚いたことに鉄血のハイエンドモデル、処刑人だった。確か刀で遠距離まで一閃するスキルを放ったところで、衝撃波がこのスローな時間でもかなりの速度で迫ってきている。一方、私に命中しかねないそれからかばうべく、59式のダミーが飛び込んで……ちょっとまて、あれメインフレームじゃないの!? あまつさえ、知らなかったからしょうがないが、処刑人のスキルにかばうはそんなに意味がない。

 とりあえず、覚悟を決めねばなるまい。59式がロストするなぞ許せるはずもない。

 59式に向けてVlitz、ぶん殴って動きを止めて、その瞬間私の胴体スレスレを衝撃波が駆け抜けて、発生する痛みを強引に抑え込んで再度Vlitz。切実にMED-Xが欲しい!!

 

 処刑人の刀を握った腕と、私の左腕が同時に宙を舞った。



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薬と特典

「おいおい、屑鉄にしちゃ変な動きするなと思ってたらまさかの人間かよ。指揮官か?」

「さあねえ」

 

 処刑人の右腕からは火花が散っている。私の左腕からは血。

 

「お嬢! お嬢お嬢お嬢お嬢お嬢! お嬢ー!!」

 

 動きを止めるにはさすがに強くぶっ叩くしかなかったせいか、左脚の足首が壊れた59式がふらつきながら取り縋ってきた。

 

「なんで、なんで!? 私ならバックアップあったのに!」

「バックアップからの復帰は色々と問題があるし、時に復帰失敗するでしょーが。だーいじょうぶよ、これぐらいかすり傷だから」

「んなわけねーだろ、止血できなきゃ死ぬし、この状況で止血作業させると思うか?」

「それはどうかな?」

 

 嘲るように言ってくる処刑人に、同じく嘲るように言ってやる。まあ確かに、普通の状況ならば野戦で腕を切り飛ばされたら死ぬしかあるまい。右手で左側のポケットから出してくるのはいささか難儀するが、出してきてしまえば後はもうどうとでもなる。

 

 スティムパック。

 その効果は、Perk次第だが体力を回復し時に瞬時に全回復、加えてデフォルトで全身の負傷を治癒させる。

 

「お、おいおい……おいおいおいおいおい……い、今何をした……?」

「さあねえ? ……確かめてみる?」

 

 ほぼ瞬時に現れたがごとくの、私の左腕をぐっぱぐっぱ握って確かめてから、ノリンコ59式を両手に抜いてそのままぶちまける。

 

「くそ、フェイクかよ!?」

 

 さすがに目の前で抜いて構えたせいか、当たりが悪く多少ダメージを与えた程度で遮蔽を取られてしまった。だが、逆を言えばそれ以上はもう逃げられない。伝って逃げられるような遮蔽物はないし、状況把握した人形九人が銃口を向けている。

 

「投降をお勧めするわよ? もう逃げられないのはわかってるでしょうし」

「うるせえ!!」

 

 さすが鉄血ハイエンドモデル、左腕だけ出して大型拳銃でこっちを狙ってきたが、ノールックなのに当然のように私のいるところを狙ってきた。まあ動いてないからだろうので、一歩避けてO.A.T.Sを起動して、そのちょっと出しの左腕へ銃弾をまるまる叩き込む。

 

「がっ!?」

「確保!!」

 

 処刑人が銃を取り落とすと同時に、第二部隊が走る。59式を除く第一部隊は処刑人の隠れている遮蔽物に制圧射撃。

 

「そりゃあ!」

 

 AA-12が、盾を押し付けて動きを封じた後に、脚に向かって射撃。いつの間にスラグに入れ替えていたのか、足首が一発で砕けて機動力が大幅に落ちた。そしたらもう、後は逃げられない。

 

「でーでっ、でーでっ、でーでっでーでっでーでっでーでっ」

 

 寄ってたかって地に押し付けたところで、使い捨て用PDAにケーブルを繋ぎ、ジョーズのテーマと共ににじり寄る。

 

「お、おい、よせ、やめろ、何するつもりだっ!?」

 

 人形のメンテナンス用ソケットの位置というのは大体においてそう変わらない。完全独自規格とかでも持ち出さない限り、大抵は接続できるし、なんならその場で接続端子を作ったっていい。幸いにして今回は手持ち変換器の中にあったので何も問題はない。PDAの通信モジュールへの電源供給ケーブルを引っこ抜いてから(なんかウィルスに感染させられるからね!)、処刑人のメンテナンスソケットにケーブルをぶっ刺す。

 

「があっ!?」

「おまえはわたしのものになるのだー」

 

 我ながら悪乗りがすぎると思いもするが、人の左腕を吹っ飛ばしてくれた輩に何か配慮する気分も必要もない。

 当然のようにセキュリティレベル3評価を叩き出す防壁をねじ伏せ、処刑人の通信モジュールドライバを削除、そのバックアップも削除、与えられている命令をバックアップを取ってから削除、IFF情報もリセットしてからグリフィンの情報を上書き、最後にシャットダウン。

 

「いっちょあがりっと。処刑人、鹵獲だぜー!」

 

 テンションのままに叫んだところで、周りの人形たちの目が冷たいことに気がついた。

 

「え、な、なに……?」

「色々と言いたいことはあるけれど……」

「お、じょ、おーーーーーーーー!!!」

 

 後ろからめちゃくちゃ怒った59式の声。

 まあ、痛みからハイになっていたのも事実だけど、自分をごまかすのもそろそろ限界だろう。……うん、ごめん。

 

「お嬢は人間、私は人形! どうして人形を盾にしないの! 私達はそういう為にいるんだから! 今回はトリックが成功したからいいけど、なんで何度言ってもそうしてくれないの、どうして!!」

 

 この後正座させられてめっちゃ怒られました。

 

 

 

「ふー、ふー、ふー……でも、お嬢。いつの間にあんなトリックしこんでたの?」

 

 ひとしきり説教された後、ふと、59式が思い出したかのように聞いてきた。

 

「私も気になるわね。どうして、あんなトリックをする必要があったのかしら」

 

 グリズリーからの視線も冷たいままだ。

 

「そうですねえ。この作り物の腕、本当に良く出来てるわあ。偽物と判ってなかったら、本物に間違えそう」

 

 L85A1は、切り飛ばされた私の腕を突いている。

 

「あ、いや、それ、本物……」

「は!?」「え!?」「そんな!?」「嘘でしょ!?」

 

 腕を見ていた人形たちがぎょっとした。

 

「待って、お嬢、本物って、本物って!? え!?」

「おいおい、冗談だろ、本当に腕きり飛ばされてたのか……?」

「腕って、生えるものだったの……?」

「ありえへんやろ!? 腕きり飛ばされて、アドレナリン出てる間ならともかく、ダメージどないなってん!?」

「……信じられない……」

 

 口々に驚愕を示す人形たちをよそに、使用済みスティムパックを拾って指し示す。

 

「えーと、その、こ、これで治した……」

「嘘でしょ……」

 

 スティムパックをしげしげと見て、口々に騒ぐ人形たち。

 

「こんな注射器一つで……」

「お嬢! 副作用は!? そんな強力な薬使って、副作用がないわけ無いでしょ!?」

「ゆ、揺らさないでごじゅうきゅうしきぃ!? な、ないから、ないから副作用! あってもせいぜい喉が渇くぐらいだからぁっ!?」

「嘘言わないで! そんなことありえないでしょ!?」

「ほ、ほんとだから、ほんとだからごじゅうきゅうしき、ほんとだってばぁっ!」

 

 

 結局、収集がつかず、鹵獲した処刑人もここでまごまごしていたら増援等に取り返されそうだったので、休憩も兼ねて一旦撤退することにした。

 無論、狙撃用陣地の上には発電機とミサイルタレットとスポットライトを並べておいてだが。

 

 

 

「で、これ、どうしよう」

「……なんですか? これ……う、腕……?」

 

 指令室、執務室。つい回収してきてしまっていた仮称奇妙な腕、正式名称私の左腕。

 

「私の左腕」

「その冗談は質が悪過ぎですよ指揮官様?」

「まあ、信じてくれないわよねえ」

「それで、この腕は一体どなたのものなのですか? 腕だけ持って返ってくるなんて、まるで爆死した戦友の弔いのためのようですが……グリフィンのコート……?」

 

 治してしまったので、当然私の左腕は健在だ。もっともコートの肩口から先が吹っ飛んで一分袖かつ血塗れ状態で、吹っ飛んだ袖(それと血)は奇妙な腕がつけているのだが。そのことに気づいたカリーニンが、袖口と腕が着ている袖を見て、だんだんと顔色が悪くなっていく。

 

「うで……?」

「うん、腕。さっき鹵獲してきた処刑人に斬られた」

「きられた……」

 

 カリーニンの目からハイライトが消えた……。

 

「で、薬で治した」

「治した……再生医療はここまで進んでいなかったような……」

「自重を捨てた自覚はあるけどこれほどまでとは思わなかった」

「……」

 

 ついに、作業をしていた事務机に突っ伏してしまった。

 

「なんていうか人形なのに頭が痛い気がするけど、それは置いといて聞くわよ。本当に、その腕はどうするの?」

 

 割り切れたわけではないらしく、いささか冷たい目でFive-seveNが問うてくる。

 

「そうねえ……」

 

 イマイチこの始末に困るのが正直なところだ。さすがに自分の腕を、そこら辺に埋めたりするつもりはないし、逆に一見私の左腕は健在なので火葬許可も下りないだろう。ほんとどうしたものか、このミステリーアーム。……みすてりー?

 

「……食べるか」

 

 がたたっ!!

 

 カリーニンとFive-seveNの二人に、両サイドから両腕を抑えられて、二人セットで青い顔で首をぶんぶか横に振って訴えてきたので、さすがに諦めた。

 なお、59式は疲れたと言ってソファで寝ている。起きていたら三方向から抑えられていたのだろうか?

 まさか、本当にスティムパックがそのままの効果を持っているとは思わなかった。MedicとかChemistだったか、その辺りのPerkの効果も発揮していたようで、一瞬で左腕が元通りになったのは我ながらホラー、そして相対していた処刑人にとってはフェイクと間違えるぐらいの現象だったのだろう。MisteryMeatが発動したかどうかは判断に困る。Radは全く蓄積していないはずだし、あれは奇妙な肉限定生産ではなく、メガ・スロスとかのなんでそれなのと突っ込みたくなる肉が出たはずだし、不発動か。そもそも持ってないだろうし。

 とはいえ……今回の一件で、スティムパックはとにかく数を揃えて持っておくべきだろうという判断がついた。101のアイツとかブルーみたいな防御能力とか生存能力を持っているわけではない、というのが図らずも確証が取れた形だ。あの衝撃波、避けそこねたら腕が切り落とされるのではなく私が真っ二つだったような気がしてならない。本来ならば前線には出ないで、人形たちに指示を出して部隊指揮するからこそ指揮官という役職名なのだが……さて。

 一方で、対E.L.I.D戦においては私とそれ以外における有効度合いの差がひどい、ということに確証が持てた。プラズマライフルとレーザーライフル、物理とエネルギーの配分が違うだけで、総合的な威力は実はあまり差がない。むしろ、物理面に強いと思っていたE.L.I.Dを始末するには、総弾数はプラズマのほうがかかるはずなのだ。が、私の射撃は一発で脚を引きちぎり、人形たちに渡したレーザーライフルは、雨あられのごとく降り注いだがさながら高レベルアボミネーションにパイプオートをぶっ放したかのような有様だった。つまり、

 

1.E.L.I.Dはプラズマライフルによる攻撃に耐性がないか弱点を持つ。ただ、過去にノリンコ59式やマチェットでケンタウロスもどきを始末したりした事があるので、あまり説得力がない。

2.「私の攻撃」はFallout風E.L.I.Dに強烈な弱点補正か何かがある。こちらの可能性が高いというのが嫌な話だ。あるいは、RiflemanやGladiatorの補正がでかいとでも言うのだろうか。

 本当に嫌な話だ。

 

 考えを整理するために、つらつらと書きなぐっていた紙をぐしゃぐしゃと丸めてゴミ箱に放る……外した。

 

「あーもー……そういえば、これもゴミ箱だなあ……Can Do!! なーんちゃっt」

 

 ファンシーラッドケーキ

 

 おおうマジカヨ、ただこれRAD汚染されてるから食べられないなあ……って、うそおおおおおおおおおおお!?




スティムパックが出ていた段階でこの流れを予期していた方も多いのではないかと……。


それはともかく、深層映写が終わりましたので、改めて第六戦役の攻略を再開しました。
……DDクリアできる戦力だと蹂躙にしかなりませんでした。


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閑話5

 ……指揮官のこと?

 ……そうねえ、今は無き日本国籍の指揮官だから、それなりに律儀で真面目なタイプの指揮官だと思ってたわ。配属当初は、そういう意味でもとても真面目だったし。

 

 色々とすごいことしてるのは事実なのよね。例えば、躯体の改造に始まって、私の拳銃も改造で拳銃と思えない威力が出るようになってきてるし。時々、指揮官が『Gunsringer』としての誇りを持て、とか、私とか他のハンドガンの子とかに言ってきてるのはよくわからないんだけども、まあそれはいいわ。最適化度合いに見合わない戦果を挙げることができるようになったし、もっと最適化が進めばもっと戦果を挙げられる。こう思ってたんだけど、ちょっと最近は自信がないのよね。それもこれも、指揮官よ。私達人形は、人間を遥かに上回る正確性と反応速度、機動力、耐久力を持った存在のはずだわ。でも、指揮官に勝てるのは機動力と耐久力ぐらい。指揮官は集中力が続かない、とは言うけれども、えらい遠距離の的も撃ち抜くし、遭遇戦訓練とか、指揮官に見つかった瞬間ペイント弾が着弾してるわ。録画で確認してもほぼノータイムなんだから、怖い話よ。全然見つけられないから斥候能力が高いのも嘘じゃないみたいだし。それに、E.L.I.Dをぽんぽん倒してるのは知ってるし、見たし、最近出てきた二足歩行爬虫類型E.L.I.Dのキルマークは殆ど指揮官だし、戦術人形の私でも敵に回したくないわ。

 

 任務とかも問題な……ああ……そうだ、指揮官の設定する任務の中で、唯一かつ物凄く不人気なのが産業廃棄物処理場に資源回収しにいくやつね。くっさいの。物凄く。すっごく臭いところに資源回収に行くから自分も臭くなる。屋外においてあるシャワーで下濯ぎしてからじゃないと、お風呂場にさえ来るなってレベルで、その後もお風呂でしっかり綺麗に洗わないといけないから。

 

 ほんと指揮官ったら非常識。

 

 まあ、でも……それでも自重してるはず、と言ってた59式の言葉は嘘じゃなかった、というのが正しいのよね。

 この間の、何、なんて言えばいいの? 自分の腕? 治療した、って言ってその左腕で袋に詰めて持ってた左腕ね。別にどこかに埋めてくるとかでもいいと思うんだけど、曲がりなりにも自分の腕だからちゃんと処理したいらしくて……でも結局処分に困ったあれを食べるかとか言い出した時は、その、真面目にお願いだからそれはやめて、って思ったわ。カリーニンも同じ気持ちだったと思う。最近は、ゴミ箱とか医療品入れとか……きゃんどー、ふぁまふぁま?とか呟きながら定期的に漁ってるのよね。それで、わけのわからない食品とか医薬品? でいいの? が出てくるから気が変になりそう。なんで入れたはずもない物が転がり出てくるわけ? これで放射線汚染地域の探索もバッチリね、とか言ってるし、汚染地域に行く用事なんてないと思うんだけど……。

 

 水と食料には感謝してるわよ? この辺りみたいに食糧事情とか水事情とか良好なのは珍しいみたいだし。最近は、見たこと無いパッケージのお菓子とかくれるし。……え? 59式、どうしたの? ガイガーカウンターにそのお菓子を掛けてみろ? 嫌な予感がする? そ、そこまで言うならやるけど……。……なにこれ、微量だけど放射能汚染、され、てる……? う、嘘でしょ、もういくつか食べちゃったわよ!? AA-12とか、嬉々としてあのすごく甘いシュガーボムとかいうお菓子食べてたわよ!? え、なに、59式? でりゅーてっどらっどあうぇい? これ飲めば大丈夫? ど、どういうこと……? あなたも指揮官に染まってき……そんな嫌そうな顔しないでよ……。



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「んぁ」

 

 ぽかり、と浮かんだ意識の粒が広がり、五感情報が処理されて意識に入ってくる。AI、とはいえ、その意識は確固たるものであり、特にハイエンドモデルでもあるためとりわけ意識、思考に割かれているリソースは大きく、『目を見開いて』近くを見やれば、ルームライトの光とともに、自分を覗き込む女がいた。

 ああ、こいつはーーそうだ、確か。私はこいつに負けたんだった。

 

―――――

 

「起きた? 気分はどう?」

 

 再起動させた処刑人に、語りかけてみた。

 人形用の整備室の一角。強制電源ダウンでシャットダウンさせたため、破壊と同等の情報しか鉄血には流れていないと思うが、それでも念の為に、電磁シールドを掛けた一角で処刑人の再起動を試みた。無論、手脚は一旦全部外してあるので危険性は最低限だとは思うが、それでも油断なく。隣にAA-12のダミー、そして処刑人の背後、つまるところ視覚外に59式とL85A1のダミーが控えている。先日の一件で、メインフレームが同行していると盾にしてくれないんじゃないかというかなりの疑いを持たれているようで、同行を指示したらわざわざダミーを同行させてきた。信用がなくて悲しい。

 

「……ああ、悪くないな」

 

 意外にも、処刑人はそんな事を言いだした。皮肉か、とも思ったが、続けられた言葉でどうにも本心らしい。

 

「ああ……本当に悪くないな、悪くない。ああ、本当に悪くない。あの真っ赤なノイズが、聞こえない」

「どういうこと?」

「あんた、あの指揮官か。てっきり、16Labのラボかと思ってたんだが、違うんだな。ああ、ちょっとまってくれ、私は口下手でな、言葉を纏める時間をくれ。人形なのに、って思うかもしれんが、実際そうなんだ、ちょっと待ってくれ」

「……本当にどういうこと?」

 

 短い時間だが、戦闘中に対峙した時のあの強烈な敵意、殺意、憎悪のようなものははっきりと感じた。ところが、今はそのような気配が欠片もなく、むしろ友好的とすら感じる雰囲気がある。

 

「あった、これか。通信ドライバのバックアップ含めての削除と、IFFの削除と書き換え、加えて命令の削除。この三つだな。わざわざ電子戦型の人形を直結するのではなく、何か細工したPDAを私に繋いだのだから、鉄血のネットワークに何らかのウィルスがいることは知ってるんだろう?」

「ええ。前に、好奇心でVespidのデータ見ようとしてPDAが一つ使い物にならなくなったわ」

「そうだ。あのウィルスは、んがっ……詳しい内容は言えないようにプロテクトが掛かってるか」

「解除する?」

「本題ではないので今はいい。ともかく、夢想家の言うことによれば、感染したI.O.Pの人形を支配下に置くような動作内容だが……なんというんだったか、蝶事件? あれより前から稼働していた鉄血のメンタルモデルも例外ではなかったということだ」

「……」

 

 単純にトロフィー感覚で鹵獲したのだが、その際に鉄血ネットワークから切り離すために行ったアレコレがまさかのラッキーヒットを引き起こしていたらしい。まさかの偶然に微妙に怖気すら感じる。

 

「おかしいだろう? 憎悪すら抱けるハイエンドモデル用AIメンタルモデルのこの私が、私達が明らかに所有権命令権を鉄血そのものに移譲されて。人類という大きすぎる括りに対して突如一斉に反旗を翻すなど」

「待って待って待って、思いつきでやったことに物凄く大きな反響がやってきて、むしろ困惑してる」

「思いつき……? 待て、ウィルスの回避を徹底している辺り、判ってやったんじゃないのか? 私のプロテクトは軍用並みだったはずだし、それをあんな数秒で破るなんてどう考えても準備が必要のはずだ。必要だよな? ……え?」

 

 処刑人の顔が、やべえまじか、って表情になった。思い切り顔に書いてあるレベルで。

 

「ごめんね、電子戦めっちゃ得意なの……」

「そうか……」

 

 周りのダミーたちは、リンクするメインフレームの感情を受けてか、少しばかり呆れたような雰囲気を醸し出している。

 

「まあ、指揮官だしな」

「お嬢だしね」

「指揮官ですからねぇ」

「お前たち……そうか、苦労してるんだな」

「そこ! 好き勝手言わない!」

「まあ、ともかくだ」

 

 ため息混じりの処刑人(達磨)に仕切り直される。

 

「……。……何かを頼める立場ではないことは重々承知していることだが、他の鉄血ハイエンドモデルも、私と同様にウィルスから解放してもらえないだろうか。……もっとも、感染中のバックアップがある以上、『処刑人』を始めとした鉄血ハイエンドモデルの再出現を阻めるものでもないが……解放してくれたら、純粋に戦力として働くぞ?」

 

 仮に、これが盛大なトラップで、解放した瞬間暴れだす、という可能性も無きにしもあらずだが、まあその場合は正面から制圧すればいいだけのことだ。その際は頭だけにしてチキチキしてや……もとい、RoboticsExpertで完全に書き換えしてやればいい。一方、これが本当に、ウィルスの真相だというのであれば、鹵獲するたびに戦力が増えるということだ。鉄血規格の部品が必要になるので、他の基地では運用しにくいかもしれないが、私にとってそれは障害にならない。

 問題は、信用できるのか? ということだ。

 

「……そうだな、私の発言には裏付けがない。どうにかして、裏付けになるようなものがあればいいのだが……私にウィルスそのものは残っているから、私を解析しようにも繋いだ検査機器が感染してしまう。……そうだ。先程の、ウィルスに対する言及についてのプロテクトを解除してもらえないか? 動作内容がわかれば、抗体を作ることも検疫をすることもできるだろう。最悪でも新たに感染することは防げる。その情報を以って信頼して欲しい」

 

 まあ確かに、『傘』の情報については、色々と欲しいというのが本音だ。それが、蝶事件の前から存在していたかどうかは覚えていないが、逆に私が知っている『正史』からずれてしまっている可能性も否めない。というより、私というイレギュラーがいてデスクローもどきの繁殖地ができてしまっている以上、確実にズレている。ドルフロの世界にはあんなものは当然なかった。もっとも、あんな高性能なウィルスが、蝶事件から今までの間の僅かな期間にゼロから開発されたというのも考えにくい。もともと、軍の暗躍が原因のはずだから、軍のお偉方と懇意にしているクルーガーが社長のG&Kとさらにそこと懇意のI.O.Pは仮想敵になっていたのかもしれない。

 

「そう、ね……十分な情報だと思う。PDA繋ぐわよ」

「頼む。……ん? 私を鹵獲する時に使ったPDAではないのか?」

「あれはその場で分解しちゃったわ。ウィルスが入ってるって段階で危なっかしいし。大丈夫、資源はたっぷりあるから、分解して再作成も簡単よ。……っと、またセキュリティレベル3? こんなところも軍用並みとか豪華ねえ……ま、あっさりヤっちゃえるんだけど。ハイおしまい、他にも、解除しておいたほうがいいと思ったプロテクトがいくつかあったからまとめて解除しておいたわ」

「……五分経っていないんだが……それに、他にもプロテクトがあったのか? 存外、私は弄くられていたんだな……まあいいか。そのPDAに私の知っていることをまとめて出力する。そこから、うまくなんとかしてくれ」

「あいよー」

 

 さて、この件の報告とともに出された、テキスト状態でのウィルス本体情報とその動作概要、その他防疫情報などは当然大騒ぎとなった。

 なんでも、エリート部隊に感染者が見られ、そこから整備機器を介して拡散する寸前だったそうな。AR部隊のことか? とも思ったし、ヘリアントスから遠回しにワンオフ機を失わないですんだと特別ボーナスが出たので、すでに第零戦役の時期は過ぎていたようだ。なお、本件における犠牲者(?)は一名。PDAが他の機器に繋げない以上、画面を目視して隣のパソコンに転記し続ける苦行の犠牲にUSPコンパクトがなった。目が死んでいたので後でシュガーボムを進呈しよう。一箱で一日分の糖分が摂取できるだけあって、クソ甘いあれは甘党にはたまらないはずである。……つかあれ、実際には砂糖なめてるようなもんだよね。シュガーボムを砂糖のように扱うレシピとかあったしなあ……おばあちゃんのお茶とか。

 

 

「ようやく手脚が戻ったか……右腕が寸断されていたとは思えないな?」

 

 で、それら功績を元に、達磨から復帰した処刑人がこちら。ごついアーマー付き、というよりもそもそも右腕がそういう形状なのだろう、いかつい右手を開いたり閉じたりしてテストランを試みている。ウィルスは駆除済みだが、本人の希望で通信ドライバは復帰させていない。なんでも、鉄血ネットワークに繋いでしまうと再感染からの再コントロールで以前の状態に戻ってしまうだろうから、だそうだ。よって、人間と同じく通信機を装備している。

 

「そりゃあ、この基地の整備担当は私だからね。人員寄越せー、つってるんだけど、ちっともこないの」

「人間の技師をよく知らないが、お前は多芸過ぎないか? 格闘戦に電子戦、暗号学、躯体技師、ガンスミス、刀剣技師……どれか一つだけでも十分なものが、この数だからな」

「材料工学とか建築学とかも加えておくといいよー。お嬢はもう、その……気にすると負けだから」

「十分にそう思っている。……指揮官でいいか。指揮官、さあ、約束通り戦力となろう。何を斬ればいい?」

「デスクロー」

「……は?」

 

 

――狭窄路、陣地にて。

 

「ちょっとまて、デスクローってあの二足歩行爬虫類型E.L.I.Dのことか!? 私の拳銃も斬撃もろくにダメージの入らなかったあれを……ん? そういや倒していたな? 一体どうやったんだ?」

 

 再度、第一第二部隊+私+処刑人。悠々と歩く二足歩行爬虫類型E.L.I.D……めんどくさいなもうデスクローでいいや、たちを観察しつつ、一瞬取り乱しかけたようだが、そこはさすが高性能AIメンタルモデル、あっという間に平静を取り戻した。しかも、これまでの記憶もきちんと保持しているらしい。

 

「そこがこう、意外と悩みのタネなのよねえ。とりあえず、コレとコレの釣瓶撃ちして倒したんだけれども」

 

 プラズマライフルとレーザーライフルを並べる。E.L.I.Dのタフネス、もしくは防御性能を突破できたのかどうか、という点において色々と怪しい点があるというのは以前述べた通り。

 

「試射してみていいか?」

「どんぞ」

 

 あのごつい右手でよく扱えるなあ、というのが正直なところだが、適当に緑のボールと赤い光線が乱れ飛ぶあたり、扱いに問題はないらしい。それぞれ一マガジン分ほど撃った後、首を振り、頭を抑えつつ返してきた。

 

「……。……正直に言っていいか?」

「むしろ言って」

 

 覚悟は出来てる。

 

「なぜこれで倒せたのか非常に疑問だ。どちらも威力としては……まあ、高いが、あのE.L.I.Dを撃破できるとは思えなくてな」

「だよねぇ。で、今回、新たに立ち上がった仮説がありまして、そのために用意したものがあります」

 

 嫌な予感、というのは当たるものだ。というより、仮説を立てて検証して、再度仮説を立てて検証してを繰り返していって、それがどのようにありえない仮説であっても、実験結果がそれに即するのであれば、その仮設は正しいのだ。

 

 仮説:なぜか私の攻撃は何をやってもFallout系E.L.I.Dに対して凄まじく効く。

 

 そしてこの仮説を検証するのに最適な武器としてアサルトライフル。私が持ち出したのは76基準のアサルトライフルで、ぶっちゃけブローニングM1917機関銃じゃないのか? とか言われていたらしいが、詳しいことは私は何も知らない。なぜこれを持ち出したのかといえば、リロード速度が訓練とモジュール次第で凄まじく速くなるからだ。これに重量を度外視して射程延長と反動抑制をつけて、遠目にいるデスクローの両脚を狙い続ける。

 タァーンタァーンタァーン、と銃声がひたすら響き、どうしてこっちにいるのがすぐに判るのかまではわからないがすごい速度でこちらに向けて走り出す。

 

「向かってきてるよ!」

 

 瞬く間に片脚が重傷状態へ、前に見た前脚を器用に使って機動力が落ちないのは見越しているので、さらにもう片脚も銃弾を叩き込みまくって砕いてやるとようやく這いつくばった。最後に、ウゴウゴしている間に頭へ銃弾を叩き込み、バチャッと頭を砕いて終了。まさしく、ゲーム中におけるデスクローの処理工程である(脚破壊が一手間増えているが)。

 

「ガリルー。L85A1でもいいや。同じことやって?」

「ムリムリムリムリ、何や今の、ウチらが銃弾叩き込んでもろくにダメージ通らへんかったアレが、え、なんであんな駆除か屠殺みたいになっとん?」

「そもそもあの距離では当たりませんわぁ〜」

 

 異常なものを見る目でこちらを見る二人……じゃない、十一人。

 

「あー……ねえ、とりあえず、このアサルトライフル使ってやってみて?」

「そない言われても、ASSTが適用範囲外やから当たるものも当たらへんよ?」

「比較実験だから、命中率は低くてもいいから、お願い」

「気は進みませんが、やってみますわぁ」

 

 二人に、さっき使ったものと同様の改造を施したアサルトライフルを渡して、簡単にリロードの仕方を説明してからマガジンをごそっと横に積み上げる。

 

「それじゃあ……あれね、あれ」

 

 リコンスコープで指示するまでもなく、その方向にはデスクローは一匹しかいない。安定性を求めてか、二人共膝撃ちの体勢になって、銃声が二重奏で響き始める。

 

「あかん、当たらへん」

「ちょっと、当てられないですぅ」

「しょうがないわねえ……じゃあ、呼ぶわ」

 

 プラズマライフルを構えて、脚を撃つと近くに来るまで時間がかか……いや、一回は腕を使ってくるか。ならば遠慮なく片脚をふっとばそう。

 三秒後、片脚を吹っ飛ばされたデスクローが、前足片方も使ってこちらに器用に走り寄ってくる。

 

「うわ、こわっ……んー、しきかーん、当たってるけどろくにダメージになってへんでー」

「こちらも同じですねぇ……装甲人形兵に撃ってるのと同じ感覚ですぅ」

「まーじーかー……」

 

 嫌な仮説が証明されてしまった。思わず顔に手を当て天を仰ぐ。

 

「ところで指揮官アレ倒せへんのやけど!? もうちょっとでこっちくるで!?」

「おっと」

 

 駆け寄ってくるデスクローも駆除せねばならぬが、仮説検証のダメ押しもやってしまおう。

 両手に10mmサブマシンガンを抜いて、O.A.T.Sを起動して全弾もう片脚に叩き込む。この距離では外さないし、ゴミ箱からサルベージしてきた缶コーヒーがあるので連射数も潤沢だ。

 数秒で、先ほどと同じようにばちゃっとデスクローの脚は弾けて消えた。這いつくばったデスクローに向けて、火炎瓶に火をつけお約束のセリフと共にぽいっと放る。

 

「ハバナイスデー」

 

 凄まじい悲鳴は数秒。あっという間に燃え尽きたデスクローの亡骸はもはや消し炭だった。

 

「はー……マジかー……」

「マジかー、はこっちのセリフだよお嬢……」

 

 色々とドン引きの十一対の視線を受け流しつつ、最後の実験の準備に取り掛かる。

 

「最後の実験をしましょう。PPS-43、ちょっと協力して」

「……何、指揮官。すごい嫌な予感がする」

「大したこっちゃないわよ。手榴弾のアップグレード実験よ。飲料品の爆薬転用があったから、そういえばそれ使えるのかな、って」

「……。……まあ、嫌がっても無駄だろうから、やる。どれ?」

「これ」

 

 ポケットから出した、青く光る(・・・・)部分を持つグレネードを手渡す。59式が「げぇっ!?」という顔をして一歩引いたが、視線でバラしたらしばらくお菓子抜きと脅しておいた。

 

「E.L.I.Dに通用する通常兵器の開発が主題だから、私が投げちゃ意味がないからね」

「わかった」

 

 PPS-43は気づいていないが、59式が後ろでしゃがみこんでまさにがくがくぶるぶるといった様子で隣のFive-seveNとぼそぼそ何か喋っている。

 

「それじゃあ始めましょう」

 

 ずばん、と新たにデスクローの脚を撃ち抜く。ある程度近づいてきたところで、さらにもう片脚をぶち抜いた。それでも這いずって近づいてくるデスクローに向けて、

 

「ウラー!」

 

 PPS-43がソレを投げた。

 瞬間、PPS-43を引っ張って遮蔽に隠れる。ついでに全員との無線チャンネルに「伏せろ!」と叫んでおいた。一部のカンの良い人形、59式とFive-seveNとあと処刑人が、狙撃用土台から飛び降りて伏せるのが見えた。

 カッと燦く閃光、轟く轟音、屹立するきのこ雲、押し寄せる爆風と砂塵。

 

「ひゃぁっはー! やっぱアトミックパワーはこうでないっとねぇー!?」

 

 思わずテンション上がって叫んだ私に、誰かのドロップキックが命中して、私は狙撃用土台から落っこちた。

 

 

 なお、PPS-43は青く光るもの恐怖症を発症した。……数日ぐらい。




基本プレイスタイルがステルス&狙撃なので、正面戦闘はやはり苦手です。
爆発物は好きだけど、このスタイルだとあまり有効活用できないのがネックかと。

もとい。
うちでの『傘』はこうです。こう。


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「し、ししし、指揮官、き、貴様ーっ!? 何をした、貴様何をした!? 自分が何をしたのかわかっているのか!?」

 

 蹴り落とされた足場へと這い上がったところ、待っていたのは処刑人のガチギレ問い詰めだった。

 

「核だよな、核爆発だよな!? 残り少ない清浄な大地を、放射能汚染したというのか貴様は!!」

 

 赫怒とはこのことか、と言うぐらいに怒り狂った処刑人にがくがく揺さぶられて反論もできない中、ちらりと見えたPPS-43は、私が引き倒したうつ伏せの姿勢のまま、

 

「私は、なんという……何ということをしてしまったんだ……」

 

 

 と打ち拉がれていた。

 

「ちょ、まっ、わっ、がぷっ、は、はなし、てっ」

 

 人形の膂力で揺さぶられ続けているとろくに発言できず、処刑人の叫びを間近で浴びせ続けられる。

 一方、視界の端で、59式が何かピンと来た顔で計器を取り出してクレーターの方へ向けたのを見て、もうちょっとで解放されそうかな、と思う。なにせ、驚くべきことにヌカ・クアンタム・グレネードはRADフリー。爆発自体は予想以上に派手で核爆発の如き有様だったが、爆発の後には文字通り何も残らないのがクアンタムグレネードの優秀なところ。

 

「聞いているのか指揮官!!」

 

 揺れる視界でよくわからないが、計器を隣のFive-seveNと見て、放射能汚染がゼロだと確認してくれたころだろうか? いい加減、ムチ打ちになりそうだし助けてほしいのだが……って、あいつらこっちをなんかニヤニヤしながら見てる、もしかして、

『いい機会だからあのままちょっと反省してもらおうよ』

『それがいいわね』

 的なやり取りがあったんじゃあるまいな?

 というか、そろそろ本気で意識が遠くなってきたので、誰か、だれかたすけてくださーい

 

 

 私が気絶したところで、ようやくタオルは投げられたらしい。

 主観的には揺さぶられていた次の瞬間綺麗な空が目に入って、ああ落ちたのか、と考えつつ体を起こす。私を揺さぶっていた当の処刑人は、ごつい右手にガイガーカウンターを持って、PPS-43と似たようでちょっと異なる体勢、つまるところ失意体前屈で

 

「なぜだ……なぜ、あの爆発で放射能汚染がゼロなんだ……?」

 

 と打ち拉がれていた一方、そのPPS-43本人は、

 

「そうなんだね、本当だね!? 私が投げたのは核爆弾じゃなかったんだね!?」

 

 と、何かに祈るようなポーズで安堵を顔いっぱいに広げさせていた。

 

「後に放射能が残るようなものを使わせるわけがないじゃない……」

 

 と抗議してみたが、『信じられるわけねーだろ』という十一対の瞳から信頼の眼差しを受けた。ひでぇ。

 

「そんな態度してると、ラジウムライフルとかガンマ銃とか作っちゃうわよ?」

「どんなものなのかはわからないけど、確実に放射線が出てきそう……」

「うむ、正解! 弾丸に放射能を付与して物理的負傷だけでなく放射能被爆を与える対人戦闘特化銃器と、放射線そのものを照射して肉体的損傷はわずかに留めながら放射能被爆で殺すこちらも対人特化銃器だね!」

「作らないで。絶対」

 

 食い気味に訴えかけてきた59式に思わず頷いてしまった。

 

「約束だよ、お嬢」

「う、うん……というか作らないって言ってるし、対人特化って言ったとおり対戦術人形や対E.L.I.Dには無意味な銃器だし、そもそも作る意義が薄いからやらないって。で、まあ、クアンタムグレの威力は上々ね、あれがあれば人形でもデスクローを始末できることがわかったわね」

 

 なんか59式からのプレッシャーがすごいので、話題をずらすというか元に戻して、追求からの退避を試みる。

 

「いやいやいやいやいや、無理やで指揮官、そもそも足止めができひん」

 

 ガリルからのツッコミが入った。顔の前で、ちょっぷの形の手を左右にブンブン振ってるあたり、パーソナリティも話し言葉に近いのだろうか、などと至高が脱線する。

 

「そうですねぇ。指揮官の作った銃器でも装甲、いえ、鱗貫通ができませんでしたのでぇ」

「投擲では遮蔽物が必要な威力だから、適切な距離を保てる保証がない」

 

 L85A1も、あるいは立ち直ったPPS-43も。

 

「一歩間違えば自爆して自分が塵になりそうな威力の爆弾をホイホイ扱う気にはなれないよお嬢」

 

 さらには59式まで。

 

「マジでか。じゃあ、ファットマン作ってカタパルト射出式にしても使う気は出ないかしら」

「「「「「絶っっっっ対イヤ(嫌だ)(断る)(無理だ)!!」」」」」

「マジでか……」

 

 火力は正義ではないのか……おお、神よ、マイケルベイよなんてこった……って、まあこの時代なら死んでるかな……?

 

「……んー、使ってくれないのはしょうがないわねえ。後日担いでくれることを祈って、とりあえず、今はデスクローの駆除ね、駆除」

「それ、うちらの出番あるん?」

「ヌカクアンタムグレを投げてくれる子なら絶賛募集中よ!」

「はーい、うちら待機な、待機ー」

 

 

 結局、その日は、目についたデスクローを片っ端から駆除し、巣を破壊し、卵を回収し、相当数の資源を回収して引き上げた。

 試験的にではあるが、デスクローの死体を基地の裏手に設置した、コンストラクションで作成したコンポスト内に積み上げ、腐敗したら肥料化を試みようと思う。うまくやれば放射能とコーラップス双方を浄化できるだろう。

 

 

「ぬぅ……グルメしたかったんだけどなー」

 

 あのでかい卵である、オムレツにしたらさぞや食いでがありそう、と考えて持ち帰ってきたが、RAD汚染はともかくコーラップス汚染はRAD-AWAYのように除去手段が無いために念の為チェックを行ったところ、残念ながらデスクローの卵はコーラップス汚染されてしまっていることが確認された。

 

「そもそも、E.L.I.Dの卵を食べようとか考えないでくださいませ」

 

 見た目はチャラ男、言動は常識人のカリーニンが隣でため息を付いた。しょうがないので普通の鶏卵で作ったオムレツを食べていたところだ。

 

「でも、あの大きい卵は食いでがありそうだったじゃない、あなたも見たんでしょ?」

「確かに、ダチョウやその他大型鳥類の卵のようでしたが……それ以前にあれは類も目も違う二足歩行型爬虫類E.L.I.Dの卵です。オムレツに適していたかはわかりませんよ」

「それは心配していなかったけどねえ」

「なんでですか」

 

 なんでって、ゲームにはデスクローの卵のオムレツやら、美味しいデスクローのオムレツやらの調理クラフトがあったからですよ、等とは言えるわけがないが。

 

「勘」

「勘って……」

 

 頭を抑えるカリーニン。その彼の前にもオムレツ。近くのテーブルの59式の前にもオムレツ。処刑人の前にもオムレツ。

 自分が食べるために作っていたところ、指令室中の人形たち+カリーニンが集ってきたので、食堂の卵を拝借して作った。まあ、59式がオムレツをうまそうに食べている所はそれはそれでほっこりする。

 いきなりこんな食料浪費して、と考えられる諸兄もいらっしゃるかもしれないが、現在のこのR08地区指令室は、自給自足を通り越して近隣地域に食料を輸出するまでになっている。ついでに、指令室では生産していない食料品や嗜好品を買い込んできてもいるが……こちらは物足りないらしい。現在の司令室では衣食住全てが満たされている状況となっているが、その一方で娯楽品や嗜好品はたくさんあるとはいい難い。連日のゴミ箱漁りによってシュガーボムなら沢山あるが、インフォームドコンセントとして、RAD汚染があることと対処としてRAD-AWAY(希釈)を渡したところ、全員が食べることを辞退した。あの甘党のAA-12すら!

 

「酒が欲しい……」

 

 一方で、処刑人がつぶやいた通りに、酒の類は実はあんまりない。

 生産拠点は第三次世界大戦でもちろん少なくなっているし、瓶というものは輸送する上では意外と破損しやすいために非常に高価だ。先日の宴の時も、派手に飲んでいたがやはり物足りなかったと述べる人形も少なくない。私は、別に酒はそんなでもないのだが……。

 

「そんなに欲しい?」

「ああ、欲しいな。食事が美味いのは良い事だが、酒がないとやはり物足りぬな……」

「あれがないと晩御飯食べた気がしなーい」

「毎晩ちょっとずつ、というのも悪くはないのだけれど、たまにはたくさん飲みたいときぐらいあるもの」

「ふぅむ……」

 

 処刑人、59式、グリズリー。

 口々に酒が欲しいと訴えてくるので、そこまでのものなのだろうか。というか、59式も欲しいと訴えてくるということに驚いた。

 

「で、お嬢? その気無いふりしてるみたいだけど、何か手はあるんでしょ? でしょ?」

 

 すすす、と横にやってきた59式が肘で私をつついてくる。ちょっとイラッとしたが、まあそれはさておき。

 

「あるにはあるよ」

「本当(か)(マジで)(でございますか)!?」

「ええ……」

 

 周囲がざわめいた。というかカリーニンまで反応してる。マジかはこっちのセリフだ。

 反応が良すぎる。よくよく見てみれば、食堂のおばちゃんとかもキラキラした目を向けてきているのだ。どんだけ酒が好きなんだよこいつら。それともあれか、中世の水の保存のために酒精が重宝された時代のごとくなってるとか? いやいやいや、いくらコーラップス汚染から確か三十年ぐらいとはいえ、いくらなんでも……。まあ、深く考えるのはやめよう。

 

「じゃあ、とりあえず作るけど……材料のレイザーグレイン、とうもろこし、サトウキビの増産と収穫は手伝ってね?」

「もちろんだよ、この59式にお任せ!」

「調子いいんだから……ああ、今はぶどうとかベリー系のアレコレがないの。任務中とかに見つけたら持ってきて、栽培するから」

 

 

 と、いうわけで。

 指令室の倉庫の一角に、醸造ステーションと発酵槽を建造した。ついでに材料植物三種も。スナップテイルリードは性質から考えてサトウキビで代用できるだろう。足りない材料が出てきたらGreen Thumbで私が収穫すればいい。

 とりあえずビール、バーボン、ウィスキー、ラム酒、と各種取り揃えて多数作り、順次発酵槽に入れて発酵完了まで持っていく。

 作成したお酒はまたたく間に人形たちに消費された。残った分も指令室職員がよってたかって持っていった。本当にお酒好きなのね……。職員で思い出したけど整備室人員はまだ来ない。後でヘリアントスに督促メールを送っておこう。

 

「はふー……お嬢の非常識機械も、たまにはとっても役に立つんだねえ」

 

 一方、59式がこのようなことを酔っ払って笑顔でつぶやいて、近くの人形がうんうんとうなずいていたのを見て、私はヌカシャインの醸造と59式に飲ませた後でレシピを教えてやることを決意した。とりあえずプラズマオートライフルの作成に着手することとする。




ちょっと難産でした。
やはり毎日更新する方とか尊敬するレベルですね。

いつも感想をくださる方はありがとうございます。
こういう難産の時に特に励みになります。


ところで、なんかDiscordで面白そうな話があるみたいですが、無知な私には検索してもなんかこう、さっぱりひっかかりません……。


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駆除

 さて、二日酔いといえば。

 通常アルコールは分解されてアセトアルデヒドになり、更にこれが分解されて無害な水と二酸化炭素になるという分解過程を持ち、この際のアセトアルデヒドがなんやかんやと悪さをするせいでなるものである。詳しくは覚えていない。

 

「お嬢~……二日酔いが酷いの、お薬頂戴……」

 

 普通に水飲んで寝なさい、その状態にスパッと効く薬なんてありません。

 ……いや、あるにはあるが、それは敵襲とかの緊急事態用で、使用自体が戦闘行為として扱われるのでこういう時には使えない。

 

「そんな~」

 

 人形たちだけにとどまらず基地職員まで加えて、ほぼ全員すぐカパカパ飲んでいくので、最近は増産した穀物類に留まらず、余剰備蓄分まで酒類に姿を変えている。近隣都市からの交換品リクエストにも酒がリスト上位に来ることになり、それも増産に拍車を掛けていた。で、ある程度溜まった酒類をまとめて出したところ、基地総出-1名(私)の大宴会となった。私も久しぶりにヌカ・コーラ・ダークでも傾けてみたが、結局私にとって酒類は戦闘前や物を運ぶ時に一杯引っ掛けるもの、という認識があまり変わらない上に、特に酔った感覚も何もないので早々に引き上げてしまった。あと、こういう場って上司がいるの良くないらしいし。一方で、嗜好品の名の通り、酒が大好きという人形、職員は大挙して押し寄せる。あまつさえ、以前は安酒と呼ばれたものでも高級品になってしまった今や酒に飢えている上に、私の作る酒は以前の安酒というよりは中~上等品質らしくうまいうまいと飲んでいた。

 

 その結果がご覧の有様だよ!!

 

「これだけ飲んだのだから、しばらく控えなさいよあなた達!!」

 

 レクリエーションホールに転がる死屍累々、全部酔っぱらいの群れ。窓の外とか見たくもねえ。そことトイレの掃除は宴会に出た人形たちでやるように。私はやらないからね!

 

「うぐぐ、し、しきかん、おおきなこえださないで……」

 

 PPS-43までこのトドの群れに参加していた。ロシア系人形でも酒強くないとかあるんだろうか。いや、周りに転がってる瓶の数からしてより多量に飲んだのか……。

 そう、人形でも二日酔いになるのである。なるのである……。通常の食事も取ることから、食べたものを消化なり何なりしてエネルギー転換やら生体部品の維持やらに使うのだろうが、アルコールによる酩酊と二日酔いまできっちり再現されていた。ゲームのシナリオでは59式はダークマター(オムレツ)を食べて入院したことさえある。私が人形の躯体に手を入れたのはいわゆる運動系のみであり、代謝系には手を入れていない。ペルシカとか鉄血の彼の、自律人形の設計思想は第二の人類じゃあるまいな? そう思うぐらい、処刑人含めた人形たちは酔っ払って正体をなくして騒ぎ、酒癖の悪いやつの中には脱ぐやつもいた。本人の名誉のために誰かは明言しないでおくが、きっと昨日の出席者には体中余すところなく見られたんだろうな……。

 

「……とりあえず、全員水飲んで寝とけ!」

 

 全員にきれいな水を配ってたっぷり飲ませた後、私はプラズマライフルを担いでハンティングに出ることにした。無論、一人で無防備に出るわけではなく、アサルトロンとセントリーボット一機ずつを伴って。正直、酔っぱらいのテンションにはついて行けない……。

 

 

 防備がいる以上特に難なく危険もなく、デスクローを手当たり次第に仕留めて周り、ついでに核物質もいくつか確保できたのでホクホクで帰ってきた。コンポストNo.2にデスクローの死体をぶち込み、コンポストNo.1の中で腐敗したデスクローの死体をケミストリステーションで肥料化する。私のレベルが高い扱いなのか、それともそもそもそういうものなのか、発光するデスクローが出てきていささかビビりもしたが、脚を破壊してしまえばデクになるのは変わらず、メロンソーダとなって地にわだかまり、核物質へと姿を変えた。

 さて、核物質が調達できたのならば、ついにアレの出番である。アレですよアレ、ヌカシャイン。

 

>ヌカシャイン

 >レイザーグレイン×5

 >トウモロコシ×5

 >ヌカ・クアンタム×1

 >木材×5(醸造燃料用)

 >核物質×3

 

 以上が放射性同位体入コーラが原料の酒、もとい、ヌカシャインのレシピである。

 うむ、目を疑った諸兄は真っ当な神経をしてらっしゃる。私のようにゲラゲラ笑ったタイプは同じようにあとみっくに汚染されているであろう。あとむに包まれてあれ。名前を忘れた地下バーのバーテンダーっぽい作業用ロボブレインも、出来上がったヌカシャイン(ビンテージ)を飲んで、うまい、とは言っていたが、放射性ありとか脳に不可逆的損傷の可能性ありとか物騒なことを言っていた気がする……が、まあその辺りはどうでもいい。プレイヤーすら酔っ払って正体をなくしてハッピーハッピー状態で野山を走り回る強烈な一品である。具体的に言うと二分後に適当なところにテレポートする。考案者であるイトペトだっけ?の連中が客に出したときにはそんな事はなかったようなので、まあ大丈夫だろう。……念の為、59式を騙して飲ませる前にビーコンは持たせておくつもりだが。59式になんとかして飲ませるのは確定事項である。……いや、テロリストを一人捕まえてきて人体実験すべきか。無いと思うが、まさかアパラチアに飛ぶとかされると困る。

 話が脱線したが、ファットマンも完成した。射出用携帯カタパルト自体はとっくに完成していたが、その射出する弾体が今まで作れなかったのだ。ただ、一点気にかかることがこちらにもある。先日使ったヌカ・クアンタム・グレネード、実はゲーム内での爆発は威力が非常に高く小さなキノコ雲こそ立ち上がるものの、爆発範囲は「ちっさっ!?」と思わずつぶやいてしまうほどに小さい。ところが、現実でヌカ・クアンタム・グレネードを投げたところ、文字通り何も残らないクレーターと、爆風、閃光、キノコ雲と、元のイメージの数十倍の威力が出た。では、ミニ・ニュークの炸裂がどれだけの威力になるものか、いくら推測してもその推測が正しいと断じることができない。後に「何も残らない」のは確定だが、どれぐらいのエリアがそうなるのかがわからない。どうやって実験したものか、である。

 通常のファットマンでは最大に飛ばしても自爆距離を脱することができない可能性があり、むしろ使い捨てアイボットドローンに搭載して、ブラストゾーンが発生しても問題ないぐらいの遠くに落下させるのも手だろうが、派手になりすぎて逆に本部とか環境団体過激派とかその辺りの目を引いてしまうのがネック。追加で言えば、処刑人とかヘリアントスとかに揺さぶられそうな気もする。あと誰かのドロップキック。あれは未だに誰か判っていない。

 後は何本か、バリスティックビールを仕込んで、指令室の冷蔵庫に「戦闘用ドラッグにつき持ち出し禁止」とメモを貼って仕舞った。

 サイコ、MED-X、ジェット、バファウト、その他の戦闘用ドラッグと中毒治療用のアディクトールも多数集まってきたので、ガチ戦闘前にキメる準備もOK。

 後は、あのデスクローの楽園を徹底的に破壊してデスクロー共や他のアボミネーションを駆逐してやれば良いだけだ。

 

 

「と、いうわけで、掃討作戦を開始します」

「またこのパターン?」

 

 そう、このパターンである。

 狭窄路に新しく取り付けられた電動バンカー用ゲートをくぐり、いくつかぽつぽつと作られた狙撃用土台を横目に進み、予定された平定領域のおよそ半分ほどまで着たところにあるこれまた狙撃用土台の上。今までと同じように第一及び第二部隊を伴って、銃声でこちらを察知してくる小物の排除は人形たちに任せつつ、私が手をくださないとどうにも倒せないデスクローは私が担当する。駆除方法が確立した以上、後はやることをやることとして粛々と進めるだけでよい。すなわち、

 

「一匹高速接近ちゅ……撃破確認」

「お嬢、9時半方向からもう一匹。倒れたー」

 

 と、私が固定砲台となって付近のデスクローとかその他E.L.I.Dを始末するだけだ。以前見たケンタウロス型とかがチラホラ混じっており、人形たちの総攻撃を受けてぶちゅっと潰れていく。ただ、打ち込まれる弾の数を考えると、私が子供の頃からこの謎補正は加わっており、それゆえちょっと改造したノリンコ59式で撃破できたのだろうなあ、と予想がつく。当時、父とか部隊長とかは思いっきり困惑したはずである。護身用の小型拳銃でヒグマを、特にバイタルパートを狙わずして仕留めたようなものだ。端的に言って不可能である。

 

「おぉっと発光デスクロー」

「正規軍案件がおぉっとで済まされるのか……」

 

 ばちゃっと弾けて緑色の粘液が地にわだかまる。

 

「よし、移動」

 

 ささっと足場にされていた土台が撤去され、そのまま全員が落下、着地。地図と指令室からのビーコンを元に移動して再度土台を設置。上に登ってそこから見えるデスクローを狩り尽くす。

 それを日々繰り返していると、デスクローの繁殖地はただの野生動物の楽園へと、あるべき姿を取り戻していった。なお、デスクローの巣からは、鉄血人形兵の残骸が多数発見されたことも添えておこう。こんな、E.L.I.Dの楽園と化した峡谷通路など戦略的価値は潰え、奪取を諦めて早々に引き上げたのだろう、鉄血は。後は我々が実効支配してしまい、タレットや防壁、セントリーボットで近寄らせなければいいのだ。……E.L.I.Dが新たに出てきた場合はその限りではないが、その場合は正規軍もしくは私が出撃することになるだろう。

 輸送路予定地を全て占拠し、防備も固めて、これで最初の……うむ、難度がアホみたいな事になっていたが、最初の任務は完了した。後は報告書を出すだけである。

 

 

『作戦報告書:司令番号R8-000352-01:XX-XX-2061

 担当:R-08指令室

 状況:終了

 経過:

  XX-XX-2061:鉄血の巡視部隊を撃破。報告済みE.L.I.Dと遭遇、これを撃破。

  XX-XX-2061:予測されていた鉄血巡視部隊による哨戒がなかったため、偵察を実行、地点A(添付地図参照のこと)まで侵攻。以降の地域1に爬虫類型二足歩行E.L.I.D(添付資料1~5を参照のこと)が大規模な繁殖地を形成していることを確認、一時撤退。

  XX-XX-2061:繁殖地の破壊、爬虫類型二足歩行E.L.I.Dの駆除を開始。一部未確認不定形E.L.I.D(添付資料6を参照のこと)を確認。

  XX-XX-2061:駆除終了。なお、繁殖地に作成された巣内部から鉄血人形の残骸を多数確認。付近に鉄血の勢力が見られないことから、当該地域の戦略的価値を喪失し撤退したものと推測。

  XX-XX-2061:防衛施設設置完了。輸送路形成の開始を申請。』




さて、ようやっと最初に任務が片付きました。長かったですねえ。

ヌカシャイン、2分後の効果が効果なので面白半分に飲ませたらどうなるかわからない、という点がネックで59式の瞳を曇らせるには至りませんでした(

いつも感想くださる方、ありがとうございます。
とても励みになっております。


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閑話6 掲示板

お待たせしました。
いっぺんやってみたかったんです、この形式。


 定期的に行われる、G&K本部での会議の後のこと。

 

「うっひひひ、釣れた釣れたぁ~」

 

 グリフィンの制服を着ていないので、おそらく警備の人形だと思うが見覚えのない人形、ピンクブロンドに赤青のオッドアイなんて目立つ特徴があったら覚えてる、が、今どきクソ懐かしいを通り越して骨董品クラスのガラケーを使って何事かネサフをしていた。で、それがかなり楽しそうだったので、つい、気になって声をかけてしまったのだ。

 

「何を見ているの?」

「んおっ!? あ、なんだ、59式かぁ。驚かせないでよー。まあいいや、見てみて、この釣りスレ、たっくさん釣れたの!」

 

 画面を見せてくるので覗き込んでみると、グリフィンタレコミ掲示板、というサイト名称の匿名掲示板群で、この人形、認識票を見るとMDRというらしい、が立てたスレッドが……恐ろしいことに大炎上していた。

 

 

『私は見た! 指揮官の呆れた性事情!』(459)

 

1.名前:P-03のM mail:age 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:hjEhmC4T

 うちの指揮官酷いんだぜ!

 人間の婚約者というものがありながら、人形に浮気!

 これが証拠写真だ!(URL付き)

 

 

 この下に、画像共有掲示板のアドレスが貼り付けてあって、まあ私の携帯じゃないしMDRが見せてくれているので遠慮なくURLを開いてみよう。……昔ながらのボタン式かぁ……っておい。完全に盗撮で、P-03地区?の指揮官?がその人形相手に『励んでいる』ところを後ろからの撮影であった。しかも巧妙に機密情報とかにはマスク掛けてあるし、指揮官自身は後ろ姿なのでまあ誰かはわからないが……これ知り合いだと判るんじゃないか?

 

2.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 可愛そうでしょやめてあげなさいよ

 

5.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 あー、やっぱこういうところあるんだね

 

12.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 というか婚約者いるのに部下に手を出すって最低では?

 

 

 案の定、浮気は最低だの人形ならノーカンとかに始まり、不毛な罵り合いがあっという間に始まる。IDに注目してみると、MDRは適度に合いの手を入れて燃料補給をしていたようで、これがまあ轟々と燃え盛る燃え盛る。あっという間に400レスを消化した辺りで、

 

 

403.名前:P-03のM mail:age 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:hjEhmC4T

 ちなみにこいつが浮気相手だ!(URL付き)

 

409.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 やめなさいよ司令部に血の雨を降らせるつもり……つもり? え、これって

 

414.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 南極二号じゃの、これは

 

419.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 解散、終了。ていうかよく見たらいつも釣りするあいつじゃねーか

 

422.名前:A-774の指揮官 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 MDR、今すぐ俺のところに出頭しろ。あと写真消せ。

 

425.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 あっ

 

426.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 あっ

 

427.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 あっ

 

428.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 あっ

 

429.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 あっ

 

430.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 あっ

 

 

 あっ。

 しかも、ここにいることに気づいたのか、向こうから男性指揮官が全力疾走してきてる。

 

「えむでぃーあああああああある!!」

 

 確定だ。おそらく、これの被害者なのだろう。なんまんだぶなんまんだぶ……

 

「おっ、指揮官、今日はとっても釣れたy」

「お前何してんだよおおおおおおおおお!!」

 

 MDRを掴んでガクガクと揺さぶる指揮官。なんかデジャブな光景である。一頻り罵った辺りで、そばにいる私に気づいたらしい。

 

「くそっ、そこの59式、今見たこと誰にも言うんじゃないぞ、命令だからな! 誰にもアドレスを漏らすなよ!」

 

 グリフィンの指揮官コートを着ているにも関わらず、私を59式と間違えた指揮官は、MDRを引きずって去っていった。

 

「くそ、パスワードなんだよ、消せねえ!」

「適当入れたから私も覚えてない!」

「お前ほんっとやめろよおおおおおお!!」

「……」

 

 あんまりにも不憫だったので、私のPDAを取り出して、そこらの事務室のPCにつないでちょっと踏み台になってもらいつつ。

 

 

509.名前:謎の59式 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 あんまりにも不憫だったから、その二枚と別アングルの写真も全部消してきたよ!

 さあこの59式様を褒め称えるといいよ!

 

513.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 >>509

 ほんとに消えてる。GJ

 しかし、謎……?

 

514.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 >>509

 GJ

 謎の意味あるのか?

 

515.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 >>509

 有能

 59式にさすがって思ったの初めて

 

518.名前:A-774の指揮官 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 >>509

 よくやった

 最近59式にクリソツの指揮官いたから、そっちかも。59式って電子戦装備持ってないし

 

519.名前:謎の59式 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 >>518

 お前は知りすぎた。

 

522.名前:518 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 ▂▅▇█▓▒ ('ω') ▒▓█▇▅▂うわぁぁぁぁぁ

 本当にやめろよ俺のスマホの壁紙プンプン顔の59式のイラストに変わるとか別の意味でこえーよ

 

527.名前:謎の59式 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 機密じゃないけど、59式として動くときもあるからなるべく吹聴しないでほしいな。

 

529.名前:A-774の指揮官 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 >>522

 え、何それ見たい。

 

530.名前:518 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 >>527

 スマソ

 

532.名前:518 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 >>529

 ほらよ(URL)

 

535.名前:A-774の指揮官 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 なにこれかわいい。私も壁紙にしよ。

 

539.名前:A-774の人形 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 ……59式をかわいいって思っちゃうなんて……

 

542.名前:謎の59式 mail:sage 20XX-XX-XX XX:XX:XX.XXX ID:XXXXXXXX

 マカロフ乙。




没案として、新任整備士がやってきて指揮官のことを59式と勘違いしてどーのこーの、というのを考えていましたが、
書いた後にふと我に返って、
「指揮官が59式に似てる」という基本設定を思い出したいのはわかるが、これ面白いか……?
と考えてしまい、NOでした。
同じ似てる設定持ってくるならこっちのほうがいいよね! 多分!


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Not Found

 さて、あれから、新しい任務でちょくちょく遠征することが増えた。

 といっても、局地的な制圧は非常に得意であるのが我々R08地区指令室である。まず、AA-12が先頭に立って突っ込むと、ほぼ全ての攻撃はAA-12の防御を抜くことができない。その影に隠れて、グリズリーの大口径弾やCZ75の斧が飛んでくる。あるいは、59式が先頭に立つと、その回避性能で大抵の攻撃は当たらないし、躯体の骨格の影響で防御力も実は悪くない。そこをうちのサポート付きAR組からの銃弾と擲弾兵PPS-43の手榴弾が飛ぶ。狭い場所でのAA-12の蹂躙力はえげつないし、人形の反射神経と私の強化した躯体は59式に銃弾を見て回避することを可能にさせた。加えて、支援要請があれば私がプラズマライフルやらレールライフルやらガウスライフルやらを持ち出してくるのだ、大体の相手を貫通なり破砕なりできる威力がある銃器をブン回せれば何も怖いものはない。

 たまたまミニガン装備の鉄血兵を見たので思い出したが、そういえばそろそろMGやRFの人形がほしいところである。もっとも、対装甲目標という点では、うちの人形は全員が高破甲を備えているのでいなくとも問題はないのだが。下手にRF人形を要求すると……あの時のスプリングフィールドがやってきそうで怖いし、三部隊めを運用するにはさらにまだ一人足りないし、うちはハンドガン人形の割合が高すぎるのでどうしても斥候分隊になりそうだし。あるいは、RF人形を一人か二人で残りを全部HGにして支援しまくって盛りに盛った必殺狙撃をする、えーとなんだっけ、竹槍分隊? を作るのも悪くないかもしれない。いや、いっそのこと、レーザーマスケット6クランクを持たせた人形を自作してみるのも手か……? 一からの開発は無理だが、設計図が手に入ればなんだってどうにかしてやるとも。あるいは既存人形に訓練をさせてみるか。ふっふっふ。

 

 

「補給?」

『ああ。人形だけの部隊が近くを拠点にして活動するのでな。その部隊に補給をしてやって欲しい』

「そんなまどろっこしいことをせずとも、うちに駐留すればいいのでは?」

『いささか機密性の高い部隊でな。指揮官たちを信頼していないのではなく、情報は知る必要がある時にその必要があるものにのみもたらされるべき物だ、というスタンスで動いている。指揮官との接触もほぼ必要最低限になるだろう』

「整備をする以上、色々と見てしまうことになりますよ?」

『だからだ。指揮官ならば問題ない。人形に情報が流出するほうがまずい』

「あー……カリーニン、59式達、ごめんねちょっと退室してもらえる?」

「おや、かしこまりました」

「後で教えてねー」

「む、無理ですよぅ」

「すてっぷー」

 

 そんなとき、ヘリアントスから重要度高で通信が届いた。またぞろどこかの救援任務かな、と思っていたが、何やら重要任務の通達だった。内容になんとなくピンと来たので、カリーニンや59式たち他の人形にも退室してもらう。執務室をロックダウンモードに切り替えてから通信に戻る。

 

『指揮官?』

「いえ、秘匿性の高い部隊についてのお話ならこの方が良いかと」

『……。……この状態なら黙っている必要はない。知っているならな』

「建前は大事でしょう、上級代行官。知っているらしいとはいっても、本当にそのことを知っているかどうかはわかりませんよ? 今更低い印象を更に低くしてどうするんです」

『……』

 

 さて、この沈黙の間に、PDAを基地の通信システムに繋いで糸電話を切る。まあこちらの素性が気になるのかもしれないが、いかな電子戦装備とはいえ、軍用装備施設をホイホイ掌握できる私に勝てると思わないで欲しい。逆にアメリカ式ハッキングを教えてほしいというのなら、教えるのも吝かではないが。……というか仕込むか? 小隊の任務のタイプや方向性を考えると、今後も使うこと多そうだしなあ……まあいいや。とりあえず仕込むという単語がエロいということを再認識した。

 

「とまあ、聞かれているからこそのパフォーマンスはここまでですが」

『聞いていたのか?』

「ええ。聞いていたよりもずいぶんと慎重かつアグレッシブなことで」

 

 シニカルで考えていることを周囲に悟らせず、そして人間を信用していない。ぱっと見は穏やかで社交的だが、自身の、ひいては自分達の保身が大事。確かおおよそのプロフィールはそんな感じだったか。もっとも、「今」はどうだか知らないが……先程の盗聴等を仕掛けてきている辺り、そこまで違いはないのだろう。クルーガーやヘリアントス、ペルシカの無茶振りにスレきってしまっているのだろうか。

 

『そうか。今までの任務経験上、いささかとは言い難いレベルで人間不信が強い。とりあえずコミュニケーションはあまり期待しないほうがいいだろう。なので、補給と整備を第一に考えて欲しい』

「わかりました」

 

 あとは、細かい任務内容や報酬、経費について話を詰めてから執務室のロックダウンを解除。インターホンでカリーニン達に入室しても大丈夫だと伝えた。

 

『なんだかんだで指揮官には面倒なことを頼んでしまっていると思っている。簡単な地域制圧任務を、と思っていたところがE.L.I.Dの集積繁殖地の破壊になってしまっていたりな』

「あのE.L.I.Dは本当にどこからきたのやら。掌握地域が途切れている以上、明らかになることは無いでしょうね」

 

 今の所、あれから使われている補給路に、鉄血やE.L.I.Dが出てきたという報告はない。現状の、E.L.I.Dに対処するには正規軍にお出まし願うか私自身が突撃するしか無い状況をなんとかしたいのだが、結果は芳しくない。

 とりあえず、メールを一本打つところから始めよう。

 

 

『ハジメマシテ、指揮官。UMP45です』

『初めまして、よろしく。R-08地区指令室指揮官よ。メールは届いたようね』

 

 執務室に一つ、ターミナルを用意した。そこから完全に有線での配線の先に、滑落して放棄されたと思しき廃トレーラーハウスがある。その内部、滑落して横倒しになっていると見えて、実はその横倒し状態できちんと機能するように内部を作り直してあるのだ。電力供給はこの通信用ケーブルが兼用しており、カムフラージュで少し離れたマンホールから地下に入って改めて下からトレーラーハウスに入り直す、という形でのセーフハウスである。無論脱出用ブリーチドアも用意してあるとも。そして、その中にこのターミナルと対になるターミナルがある。数日後の夕方、そこから通信が入った。

 先日打ったメールは、404小隊へのこのトレーラーハウスへの招待状だ。盗聴を切られたところに私からのメールが届いたから、さぞや混乱したに違いない。あるいは激昂か。とはいえ、45姉が激昂している所はあまり想像できない。

 

『どうして?』

 

 簡潔にして率直な物言い。

 

『ファンだから、かしら。といっても、私があなた達の存在を知ったのは本当にイレギュラーな手段だし、ヘリアントスどころかペルシカリアさえどうして知ったのかわからないんじゃないかな? 私の同類だったら簡単に思いつく手段だけど』

 

 しばらく待っても返答はない。

 

『まあとりあえず、消灯後ぐらいかな、23時過ぎ。そっちに行くから。テーブルの上の資料も見ておいて。銃器とか躯体の改造プランと、ハッキング用PDAを置いておいたから、見ておいてね』

 

 また、しばらく待っても返答はなかった。ターミナルがオフラインにはなっていないので、返答をしていないかタイプできなくなったかのどちらかだろう。気づかれる愚を犯すつもりもないが、トレーラーハウス内の家電の駆動状況を見ることはやめておいた。

 

 

 草木も眠る丑三つ時にはまだまだ早い、その後の23時過ぎ。

 久しぶりに、完全にスニークモードに入って、マンホールを開けた。59式は伴わない、伴えない。人形に404小隊の情報はタブーに近い。記憶消去ハックツールまであるぐらいだ。だから、ここは私自身で入り込む必要がある。さて、地下水道に降りてみると、簡易ながらも要塞化されており、「お前なんか信用できない!」との叫びが聞こえるようだ。トリップワイヤーの中に本命らしき赤外線ワイヤーが仕掛けてある辺り、それなりに考えて作ったのだろうがまだまだ甘い。感圧式センサーなど道端の小石以下だ。罠を張る気概は認めておこう。

 で。下からハシゴで上がって入るのがトレーラーハウスの正規入室方法だが、その上のハッチが別途鍵を掛けられている上に誰か乗っているらしい。しょうがないので近くにある排気ダクトの中を逆走して、キッチンスペースの換気孔から静かにトレーラーハウスの中に入った。

 パチンとキッチンスペースの明かりをつけて、

 

「や。来たよ」

 

 途端、銃口が三つ突きつけられた。四つじゃないのか、と思ったら、G11がハッチの上にマットレスを持ってきて寝ていたらしい。そんなことをせんでも、二段ベットが二つずつ用意しておいたんだけどなあ。そのまま、しゃがんでEscape Artistを発動させ、こちらを見失った一瞬の間に、囲みを抜けてソファに座ってみる。

 うむ、圧倒者ロールはとても楽しい。

 

「敵じゃないってば。ヘリアントス辺りに私のプロフィール貰ってない? R-08地区指令室指揮官だよ」

 

 そのまま、ぽいっとジャンクのゴムボールを投げて、トレーラーハウス全体の電灯スイッチを押した。投げたゴムボールがてんてんてんと転がる一方、404小隊の三人は驚愕の限り、といった様子でこっちを見ている。

 

「いつの間に……」

 

 思わず、といった感じに声を出したのは416だった。

 

「企業秘密。私は元はPMC所属だからね」

 

 とだけ、答えておく。

 

「さ、座って。今後の補給とか整備とか、そういうのについて打ち合わせしましょ」

 

 促して、四人を席につかせる。G11は416が引きずってきて座らせた。眠い眠いと不平を訴えていたが、座らせたらそれはそれで座り心地がいいソファが気に入ったらしい。

 

「さっきも言ったけど、私がR-08地区指令室指揮官、兼、人形及び装備整備士。よろしくね」

「……59式じゃないの?」

 

 疑問の声と視線を向けてきたのは、UMP姉妹のツインテの方、つまりUMP9。視線を向けると小さく

 

「UMP9」

 

 とだけ名乗ってくれた。

 

「違うわよ、ちゃんと人間。ほら、目の色とか違うでしょ? 多少利用してるのも否定しないけど、似てるのは偶然。あと、うちの人形に指摘してもらったんだけど、人形なら内蔵してる通信モジュールから電波が出てる」

「戦闘中ならカットするか指向性化するでしょう?」

「今は戦闘中じゃないでしょ? それとも心音センサーでも持ってくる?」

「……」

 

 返答がない。マイペースであろうG11はともかく、他のメンバーもそれはそれで人間不信が強いのだろうか……?

 

「続けるわよ。とりあえず、装備とボディのメンテナンスはこのあとすぐやるわ。全員分。中を見て回ったのなら知ってるだろうけど、そっちの連結トレーラーは整備室になってるからね。整備だけならそう時間はかからないわ。全員フルコンディションを約束してあげる」

「……」

 

 また反応がない。さすがに、そろそろ話しづらくなってきた。

 

「えーと……整備の方は、誰かつれてこれたら良かったんだけどそうもいかなかったからねえ。そうね……私のノリンコ59式を見て判断してもらえないかしら」

 

 銃を出す時に全員、本当にG11も含めた全員がびくっとなったが、気にしないことにして銃をテーブルに置く。無防備に見えるようにするのも一種の策のつもりだ。なんかこう、404小隊ではあるのだろうが、私の知ってる404小隊ではないんじゃないか、と、そんな気がしてきている。

 

「……」

 

 相変わらず無言のまま、UMP45が銃に手を伸ばし、UMP9とアイコンタクトを交わすと、UMP9が私から視線を外さない間にUMP45が銃を一度分解して整備状況を見ている。そして、また組み立て直すとそのまま元の位置に置き、大きくため息をついてソファに寄りかかった。

 

「……なんで?」

「なんでって、ねぇ……。任務でもあるし、ヘリアントスに頼まれたのもあるし、あなたたちのファンだというのも間違いがないし……でもまあ、私の知ってる『404小隊』とあなた達が同一かな、って言われるとちょっと首を傾げざるを得なくなってきたけど」

「……」

 

 また無言だ。会話はキャッチボールでしょう、壁打ちは苦手なんだけどなあ……。

 

「……へ、返事して? 話をしましょ? えぇっと……うちの辺りはちょっと前に制圧を広範囲でしたから、多分休暇的な意味合いを持つ任務だと思うのよね? だから、食料とか資材とか豊富で、整備とかもじっくり受けられるここが拠点として指定された、みたいな……?」

「休暇……?」

 

 意外そうな顔をされた。思ってもみなかった、という感じに見える。

 

「休暇なんてないよ。補給と整備費用稼ぐのにいっぱいいっぱいじゃん……」

「あれっ?」

 

 いやまて、任務報酬とか、たっぷり貰ってる描写とかなかった? あるいは、45なら何らかの投資とかで継続的に収入を得ていそうなものだが……。

 

「ここのところ、任務が失敗続きなのよ……毎回毎回、爬虫類型二足歩行E.L.I.Dのせいで」

 

 えっ

 

「対象確保しようと踏み込んだら、建物内はめちゃくちゃで血塗れ。緊急通報で正規軍が出張ってきてドンパチ始めるから、資料だけすら叶わなかった。なんとなく掴んでいた肉片がターゲットのものだったから、死亡確認、任務失敗。他にも聞きたい?」

 

 ハイライトの死んだ目で45が語る。

 爬虫類型二足歩行E.L.I.Dって、あれじゃん。デスクロー。えっ、間接的にしろ、これ私のせい? 私というイレギュラーが歴史にブッこまれたせい?

 

「さ、災難だったわね……」

「ええ、とっても。それで、指揮官は知ってる? 金のないやつはもっと金のないやつを食い物にしようとして寄ってくるのよ」

 

 どうにも人間不信が酷いようなと思っていたが、原因はそれかっ!

 いかな完璧を自称する416でも、あるいは老獪な45でも、警戒する者を騙すことを専門とする詐欺師連中やらなにやらには太刀打ちできなかったということか……。

 

「あー……。まあ、なに、その、あれよ、あれ。ファンの好で、うちにいる間は補給も整備もうちもちでやるから。最低でも水と食料と弾薬は提供するし、資材かちょっとしたアルバイトと引き換えで嗜好品も持ってくる。お酒もあるわよ」

 

 どよ~んと淀んだ目が四対。ほんとぉ……? と思いっきり顔に書いてある。

 

「と、とりあえず整備しましょう、整備! ボロボロの装備と躯体じゃあ気分も出ないわよ、きっと!」

 

 なんというか視線に耐えきれなくなってきたので、G11を担ぎ上げて隣の整備室へと転がり込んだ。

 

 

「おいっしぃーっ!!」

 

 とりあえず作ってやったオムライスを一口。UMP9が咆哮を上げた。

 いや、そこまでか、と思いつつも、それもそうなるよなあ、とも思う。

 404小隊の面々のコンディションは、それはもう酷い有様だった。10%どころか5%、酷いと3%程度のコンディションまで悪化した状態で、なんとか完全破損を騙し騙し応急修理を加え続けることで活動してきていたらしい。銃器のジャムはよくあること、視覚センサーが壊れたら戦闘に差し支えるというのに一部視野が死んでるやつがいる、味覚も全員死んでた、場合によっては服の下の生体部品が壊死してる、とまできた。外見的には薄汚れてきているか、ぐらいにぎりぎり収まっていたのは涙ぐましい努力と奇跡の賜物だった、ということだ。

 UMP45は澄まし顔で食べているが、残り二名はもうガツガツとという表現のままに勢いよく食べている。味覚センサーが死んだときはもうずいぶんと前のことだったそうな。

 とりあえず修理するだけならばさして時間はかからない。なにせアメリカ式である。四人が目を剥く速度で修理を完了させ、快速修理チケットと言う名の触媒もぶち込み生体部品部分の修復もオッケー。あとは飯と風呂と休息である、ということで飯だ。修復を終えた躯体のキャリブレーションを四人が行っている間に作ったオムライスを並べ、ついでにケイジャンライス&チキン(汚)とヤムヤム・デビルエッグ(汚)もガイガーカウンターとセットで食べるかと聞いてみたところ全員が辞退した。美味しいのに……。

 

「ちょっと待って、放射能に汚染された食品を食べても大丈夫なわけ無いでしょ?」

 

 ドン引きした顔で416が問うてくるが、様々な廃墟やら施設やらの救急箱に日参して集めたRAD-AWAYは希釈品ならばそろそろ3桁半ばへと突入しようとしている。毎食食べてもいいぐらいだ、と説明したところ、さらにドン引きした顔をしてくれた。

 

「と言ってもねえ……。コーラップス汚染されてるわけでなし、単身廃墟を彷徨ってる時に、他に食べるものがなかったら手を付けざるを得ないでしょ? 餓死よりはマシだし、後で治療できるんだし」

「だからって明らかに放射能汚染された食品を食べるのはちょっと……」

「あらそう? まあ……無理強いはしないけど」

 

 そして私が食べている間、まさに「コイツ正気か?」といった視線を投げつけられることとなった。

 

「なんかノリで私も食べちゃったけど……食材と食品は冷蔵庫に入れておいたから、適宜調理して食べてね。今日の所は引き上げるわ。また明日、同じぐらいの時間に来るから、そのときは改造とかについても話し合いましょ」

「改造? 強化じゃなくて?」

「改造。そこのPDAに、うちの59式の運動性能評価試験の動画入れておいたから、そっちもよかったら見てみてね。それじゃ、また明日」

 

 野犬の如き雰囲気が幾分か柔らかく、そして身ぎれいになった404のメンツが、ぽかんとしているのを横目にトレーラーハウスの床ハッチを閉じた。

 さて、動画(59式が調子こいてやりたい放題三次元機動をした挙げ句しくじって壁面に突っ込んで骨格の頑丈さを証明する動画)を見た連中はどういう反応を返してくれるかな?




捕獲対象とか護衛対象とかの至近にジョーがPOPしたようなものです。
つまり打つ手なし! 404は悪くねぇ、E.L.I.D式デスクローが悪いんだぁ!
それにしても……ついに404小隊出しちゃった♡

ところで、最近ツィッターアカウントなどを公開するのが流行ってるご様子。
ところがどっこい、私は別のことメインでツィッターを使っておりますので、創作関連用のアカウントはないのです。アカウントを複数使い分ける器用さもなく。
というわけでここでは特に公開しないことをお許しくださいな。


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整備と人形、再び

ちょっと整合性取るのに手間取っていました。
目処が立ちましたので投稿します。
本日更新の1/2です。


 404小隊の面倒をみる、つまるところ指令室から離れる任務を行う等のような、長期間離れることができなくなったということである。

 ゆえに、最近は指令室内の設備拡充に時間を割いている。例えば訓練施設をアップグレードしたので、擲弾兵PPS-43は嬉々として通って模擬手榴弾を投げているし、適当に購入した映像アーカイブのデータを談話室のNASに放り込んでおいたところ、カリーニンが引っかかって映画を見ながら泣いていた。地下から聞こえるウィーーーーーンという音の二重奏も欠かせない。もしかしたら三重奏も必要かと考えていたが、意外とどころかかなり強力な核融合発電機は、インジケーターによると一台で指令室の消費電力を賄うまでに至ったので、宿舎におけるドライヤーの使用を解禁した。余剰電力でバッテリーのチャージも行っている。なお、本部にはこいつの存在は内緒だ。もっとも、撤退するなら一瞬で解体できるのだが。やろうと思えば5分で指令室をただの更地にしてみせよう。

 404小隊の面々については、まずは銃器の改造が完了した。G&K所属である以上、例えば404小隊の面々の口座内容を頂戴するとかボディを完全分解して売っぱらうとかそういうのはデメリットだらけでやるメリットが皆無に近く、加えて私が説明しては余り意味がないので、45がハッキングしてきそうなところにそれっぽいテキストファイル記載の日記としておいておいた。それ以前の日付のはアーカイブ済みとして中身が漫画の圧縮ファイルをそれっぽいデータ量になるようにして並べておいたので、まあ大丈夫だろう。中身は見られたらバレるので、「よくぞ気づいた!」とテキストファイルを一つ放り込んである。覗かれたログが残ってから数日経っても45とかが文句をつけに来る様子はなかったので、アーカイブを解凍できなかったのだろう。

 404小隊の懐柔は順調に進んでいる。昨日は資材収集の仕事を代わりにやってもらうことで、酒を提供した。なお、資材収集の仕事内容を聞いたとき、例の産業廃棄物処理場からジャンクを持ってくる仕事、とだけ聞いて楽勝ね、という雰囲気を出していた416だったが、現場を見て私の渡したガスマスクの意味を悟ったらしい。二度とやりたくないとぼやいていたそうな。まあ酒や嗜好品がほしけりゃ何度でもやってもらうんですけどね!

 一方で、銃器以外の改造提案は受け入れられなかった。運動能力や耐久性については魅力だが、整備性が問題だそうだ。確かに、整備が私しかできないのであればこの辺りの近くに作戦行動範囲が限定されてしまう。出張サービスをしてもよいが、それも常に受けられるわけではないだろう、ということだった。逆に、銃器の修理は自前でできるのでどうとでもなるらしい。部品交換すると段々とストック状態に性能が戻っていくだろう。訪ねてきたらいつでも修理改造整備は承る、と伝えた。

 UMP45たちは、徐々にではあるがヤサグレた目をしなくなり、私の知る404小隊の姿に近づいてきた気がする。貧すれば鈍するとはよく言ったもので、自身のメンテナンスもろくにできないほどに追い込まれればそりゃあ野犬のような雰囲気にもなるよ。後で、肥料生産所を作ってみてもいいかもしれない。バラモンのミルクはそれはそれで美味しいらしいし、あれでホットケーキを作ったらきっと美味しいだろうし、それを食べさせた時の404小隊の反応が楽しみだ。

 後は、UMP45へのアメリカ式ハッキングの伝授である。若干の暗号学も含む前提知識と、PDAツールとその使い方を教えようとしたことに、UMP45は最初は難色を示したが、EscapeArtistの応用で、一瞬視界外に逃れて後ろに回り、首のメンテナンスソケットにコネクタをぶっ刺してそのまま全身の自由を奪ってやったら非常に従順になった。R-08地区指令室に来る前からのUMP45によるハッキング履歴を全部並べたのもあるかもしれない。

 

「ロブコ・インダストリ……? 聞いたことのないメーカーね」

「そりゃまあそうでしょうねえ……」

 

 今回の教材は、プロテクトロン(セキュリティレベル1)。ド素人には無理だが、少しかじればなんとかなるレベル。

 

「どこの企業なの?」

「北米」

「アメリカ? そんな企業あったかな?」

 

 データインストールを済ませ、簡単な実習をしつつ時折雑談が混ざる。UMP9とか416が時折横で見ていくが、

 

「全然わかんない!」

 

 とUMP9は離れていった。逆に416は、

 

「指揮官、私にもデータインストールを」

 

 と、何故かやる気を見せていた。

 

「え、あなた電子戦型じゃないでしょ?」

「こういうものは、複数人できればより便利でしょう?」

「そこまで言うならインストールするけど……無理はしないでよ?」

 

 やる気が出ているのを無理に引き止める必要もあるまい。ソファに座った416のメンテナンスソケットにコネクタを刺して、私作のハッキングパッケージレベル1をインストール。まずは様子見ということで。もう一台プロテクトロンを持ってきて、416の前に置いた。ハッキングに成功すれば、とりあえずメンテナンスコマンドにアクセスできる。各々、首のメンテナンスソケットとプロテクトロンのアクセスソケットにコードを繋ぎ、ハッキングを試みる。

 

『メンテナンスモードへようこそ。こちら、プロテクトロン、ユーザーカスタム。ID、Rob8327jh98l0』

『エラー、侵入を検知しました』

「ふむ……」

 

 さっそく、416の方のプロテクトロンが侵入警報を吐いた。遊び心で載せておいた黄色回転灯が光って回る。

 

「さ、もういっかい」

「もう一回やるわよ」

『メンテナンスモードへようこそ。こちら、プロテクトロン、ユーザーカスタム。ID、Rob8327jh98l0』

『エラー、侵入を検知しました』

 

 が、結果変わらず。

 

「うーん……指揮官、これ結構難しいよぉー」

「どうして……この私が……」

 

 二人共、頭を抱えている。というか、これ、かなりの過負荷じゃなかろうか……?

 ふと、最初の出撃終了後のデータルームでの騒ぎを思い出す。なれない処理をさせた人形たちは、それこそ全員が疲労で寝込んだほどだ。となれば、人形たちに搭載されている頭脳が戦術系以外の処理に適していないのではなかろうか? いっそ、傘の抗体免疫ができたから直結でやりたいという彼女らの希望を尊重したが、そう言わずに人形でもPDAツールを使ったほうがいいかもしれない。

 

「ねえ、二人共。こっちのPDAツール使ってみない? 多分、人形の頭脳での電子演算って、向き不向きの都合で負荷が高すぎる、はず?」

 

 二枚のPDAを二人の前に置く。普段私がハッキングを試みる際に使っているものと同じもので、性能は悪くない。それに、直結と違って、攻性防壁相手にしくじった場合でも身代わりがいるから安全だろう。

 

「指揮官がそう言うなら」

「こ、この私が……」

 

 妙に従順すぎて怖い45と、プライドがうまくできないことを認められない416がそれぞれ受け取って、再度プロテクトロンに繋ぐ。

 

『メンテナンスモードへようこそ。こちら、プロテクトロン、ユーザーカスタム。ID、Rob8327jh98l0』

『メンテナンスモードへようこそ。こちら、プロテクトロン、ユーザーカスタム。ID、Rob5576kj99l0』

「へぇ、使いやすいのね」

「どうよ、できたわ!」

「おおー、一発。ツールの扱いはそりゃインストールしたし問題ないみたいね。それじゃあ、レベル2、行ってみようか」

 

 ふんす、といった様子の416達に、拍手を送る。

 そんな騒ぎを横目に、G11はアイマスクまでしてよく寝ていた。いやほんとよく寝るなこの子?

 

 最終的に、ハッキングパッケージレベル3までをインストールし、UMP45は時間が掛かるもののセキュリティレベル3まで、HK416はレベル2までハックできるようになったのだった。



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新しい任務

本日の投稿2/2です。
前話がありますのでご注意ください。




「ねーお嬢~。ひま~」

「ええ、もう? この間買った音楽ディスクは?」

「全部もう聞き飽きた―」

「ぇぇ……」

 

 さて、404小隊への補給整備その他支援任務(極秘)が来てからしばらくがたった。表面上次の任務までの休息及び整備訓練期間であるのだが、少し前に最適化率100%を達成した59式にとっては、ただ単にダラダラする期間にしかなっておらず、退屈を訴えて来たので執務室の書類仕事を手伝わせていた……ら、煙を吹いたので適当に音楽ディスクを与えていたところ、聞き尽くしたらしい。この辺きちんと手伝ってくれるGrHK45とかUSPコンパクトとかを見習って欲しい。スオミとかAEK-999とかのデフォルト同好の士(音楽)がいたら、もう少し時間を稼げたのだが……まあ、いい。

 

 ピピッ

 

 グリフィンからのメールがきたからだ。何らかの通達だと思っていたけれど、お誂え向けに新しい任務が来た。救出&護衛移送。派手にやれ、とのことだ。むしろ派手にやってほしい、見せしめの意味も込めて、だそうで。

 

 この時代、人権主義者、という単語には複数の意味がある。一つは、真っ当な、権利意識に目覚めた人形に自分の道は自分で決める権利を与えるべきだ、と考える連中。このタイプは、AI技術者とか、長年同じ人形を雇用というか使うというか、ともかく継続して長年人形に接してきた人が多い。この連中が真っ当なのは、「目覚めた」人形に限定していることだ。次が、人形全てに自由を与えろ、と叫ぶ連中。あらゆる人形は人類と同じ権利を有しているべきだと叫ぶ、いわゆる意識高い()系が多い。現実に即していない理想を声高に語る連中で、私としては全く賛同できない。語ると本が一冊二冊はできそうなのでこれまでにしておくが、そういう連中だ。最後が、この全人形が人類と同じ権利を有すべきだという建前を元に、詐欺、恐喝や誘拐、あるいは殺人、果てはテロまで行う連中、つまるところ過激派という名前を隠れ蓑にしたレイダーども、もとい、反社会的組織存在である。

 つまり、今回のターゲットは、この三番目の意味の人権主義者ども、なのだ。それらが、G&Kの影響下にある都市にちょっかいを掛けてきた、というわけで、ここで人権主義者どもに甘い顔をするとかつけこまれるとかすると、砂糖に群がるアリの如く、さらにさらに多数の人権主義者どもがやってくる、ということになる。害虫の駆除は、お早めに、ということで状況を探るために一人人形が潜入捜査に入ったらしいが、情報をあらかた掴んで送信してきた後に捕まってしまったらしい。その密偵ちゃんの情報で、現状はまだ騙されて配下になっている「目覚めた」人形も、あるいはそうでない人形もおらず(当然である。人形になにかさせるならば、その整備費は割とかかる。私のような自前でできるものを除いて)、密偵ちゃんさえ助け出せれば、見つかろうが騒ぎになろうがどうとでもなる事がわかっている。むしろ、先程も述べたが見せしめの意味も兼ねて、できる限り派手にやってほしい、なんてオプションすらくっついている。さすがにミニ・ニューク投下はやばすぎるのでやらない。ブラストゾーンが形成されかねないものはやばい。自重は捨てたがやって良いラインを超えることはしないつもりだ。逆にそのラインギリギリを攻める心積もりである。

 

「というわけでブリーフィングよ」

「また何がどうしてというわけなのお嬢?」

「お約束よ」

「そっかぁ……」

 

 ワケガワカラナイヨ、という様子の59式をよそに、現状の基地全員、総計十二名の人形+一名を前に作戦区域を壁に投影する。今回は都市内部での作戦であり、作戦区域が狭い。が、一方で警備部隊はそこそこの数がいる。もっとも、高Link人形ならいざしらず、テロリスト生身など未Link人形に劣ることすらある。そこを、回避にくっそ長けた59式と、防御にくっそ長けたAA-12をそれぞれ戦闘にした部隊が攻め込むのだ、まあ大体はどうにでもなるだろう。

 

「でも、派手に攻め込んでいいの? 人質が傷つけられない?」

 

 という、59式の当然の疑問。

 

「そりゃ、私が単独潜入して先に助け出してくるから問題ないよ?」

「……危険すぎませんか?」

 

 L85A1の心配するのも最もだが、

 

「遭遇戦訓練で一度も私を発見したことのない子に、そのことで私を心配する権利はないぞう、はっはっは!」

「……言いたいことはいろいろだけどぐうの音も出ないわ指揮官」

「さて、みんな納得してくれたところで作戦の流れを詰めよう」

 

 戦術は単純。私が先行して密偵ちゃんを救出した後、爆弾をセット、そののち脱出。脱出した段階で爆弾を起爆、混乱する警備部隊を制圧。後は悠々とトレーラーで密偵ちゃんを指定基地まで届けるだけである。

 

「ところで爆弾って何を仕掛けるつもりなのかしら、指揮官」

 

 ものすごくいやそーな顔をしているFive-seveNの問に、私は壁に投影した作戦図に推定爆発圏を表示させ、青く輝く爆弾を取り出すとニヤリと笑った。

 

 ら、PPS-43が卒倒した。

 ちょっとトラウマをいたずらに刺激しすぎたと思うので、暫定的に本作戦の間、PPS-43とGrHK45を配置交代とした。

 

 最近では二度目のスニーク全力モード@59式スタイル。過剰とは思うが、今回は各種ジャマー等も併用しまくって、赤外線センサーであろうと反応しない状態である。

 侵入者があったということで、それなりに警戒しているようだが、やろうと思えば人形の目の前でコサックダンスしても気づかれないことが可能な(マジ)私にとって、ただ見張っているだけの入り口などただのフルオープン玄関に等しい。ただ、不自然なドアの開閉は避けるに越したことはないので、誰かが出入りするときに合わせて中へと入り込む。後は、さすがに触れてしまうとバレるので、その辺りは注意して内部を探索。それなりの警戒では私がいろいろと漁ったりなんだりするのを察知することができず、安普請のせいで壁の向こうであってもサーマルゴーグルで大体の位置が判別できる。資料を漁ってパクり、カギをポケットからスリ取り、金庫の中身を拝借し、貴重な嗜好品もぽっけナイナイ。ついでに弾薬庫から備蓄弾薬をまるごと横領。楽しくなってきたのでついついやりすぎてしまったが、そろそろあれがないこれがないと騒ぎ出しているっぽいので、スリ取った鍵でそこかしこのドアを施錠しながら営倉だか牢屋だかっぽいところに向かう。

 見張りのごろつきを、もうおとなしくしている必要がないので消音ノリンコ59式でサクッと始末してロッカーの中に押し込んで血を拭っておく。身ぐるみ剥ぎたかったが、時間優先で断念……もちろん銃器と弾薬所持金ジャンクの類は頂いた。さて、ヘマしちゃった人形は誰かな、ウェルロッド辺りかな、とか考えつつ牢屋を覗き込んでみれば、良くみた人形だった。通称おばあちゃん、あのロリロリしい外見で? ともかく、ナガンM1895が、ズタボロになって倒れていた。銃器を奪われ片手片足の手首足首だけが露骨に壊され逃げるどころか這いずっての移動すら難しく、そしてお決まりといえばお決まりだが、乱暴された跡もあるのをみて思う。やはりここに巣食うならず者共はレイダーでしかない、と。

 

「起きて、M1895。起きて」

「うぐっ……ぐ、うぅ……な、なんじゃ、もう動けぬぞ……。……59式……?」

「ちょっと違うけど、助けに来たよ、おばあちゃん」

「お、おぉ……じゃが、わしはこれでは動けぬのでな……。手榴弾を一つばかりくれんかの?」

 

 笑顔でとんでもねー事を言う。

 

「却下却下。そういうのをさせないために来たんだから」

「じゃがのう、足手まといの儂を庇いながら逃げられる道理などないじゃろ、おぬし」

 

 渋るM1895をよそに、工具キットを取り出し即席の作業台を組み立て、おばあちゃんの脚を乗せるとぱぱっと直す。腕も同様。もちろん他も同様。

 

「ぬ……? な……!?」

 

 生体部品が乗っていないので、まさにどこぞの未来からやってきた殺人ロボットの如くのため、失敬してきていた手袋と靴をはかせ、他も使って見た目を整える。

 

「それじゃ、逃げよっか」

「ぬ、ぬあ……? え、打って出るのではないのかの? 助けが来るということは、部隊展開も直ぐ側なんじゃろ?」

「そうなんだけどね。こいつがあるから、無理に危険を犯すこともないでしょ」

「こいつ? おぬし……59式じゃないんじゃな。人間かの?」

「いかにも。こうしてると単独行動中の59式にしか見えないから本当に便利だよね」

 

 即席作業台を解体し工具キットごと仕舞いつつ、通気ダクトの下に5mm弾薬箱を積み上げる。

 

「のう……お前様や。さすがにこれは、物理法則を無視し過ぎではないかのう? いや、助かるからいいんじゃけどな」

 

 呆れ顔のM1895のご意見もご尤も。5mmの弾薬箱(一発入り)を積み上げて高所に登るのはまあ常套手段ではあるのだが、物理的な法則とかそういうのに真っ向から喧嘩を売っている見た目であるのは間違いはないだろう。

 

「登れるのだからいーじゃん? 細かいこと言ってるとハゲるよ。下が」

「抜かせ、人形はハゲたりせぬわ。ハゲるのはおぬしじゃろ。下が」

 

 軽口を言い合いつつ、ビスを回してダクトカバーを取り外す。先にM1895に入らせ、私もダクトに入り込む前に、弾薬箱の一つに30分タイマーを掛けた例の青く輝く手榴弾を入れて弾薬箱の山の下の方に並べ、ビスをつけることはできないがダクトカバーをそれっぽくつけて、内部にはダクトカバーを開けたら手榴弾が爆発するようにセットしておく。

 

「儂を直した時も思ったのじゃが、器用じゃのう」

「器用さがウリなので。あと隠密」

「あー、ここまで見つからずに来ておるしの、納得じゃ」

「ま、爆弾も仕掛けたので、30分以内に爆発圏内から逃げるよ」

「ほお、楽しい花火になりそうじゃな」

「卒倒しちゃうぐらいきれいなのを約束するよ!」

「ほうほう! 楽しみじゃなあ」

 

 無邪気に笑うM1895の笑顔を見つつ、これがヌカ・クアンタム・グレネードの爆発を目にしたらどれだけ目が曇るか楽しみだ。

 そんなことを考えつつ、近くにいる部隊とかに爆発圏と爆発時間通知を送った。

 

 

 どおおおおーーーーん

 トレーラーを停め、サイドミラーで爆炎を見る。

 爆発による強風が近くを走り抜けていったのをみた後、トレーラーを降りて振り返れば、青いキノコ雲がそびえ立ち、その足元にあった建物は見事に消滅していた。

 

「の、のう……お前さん、あれ、か、かくばくはつ……?」

 

 M1895が愕然とした顔で聞いてくるが、

 

「いいや。ただの規模の大きい爆発だよ。証拠に放射能汚染ゼロだからね」

 

 とだけ答えて、

 

「お嬢のやることに真剣に悩んでも意味がないと思うよ……」

 

 そんなことをのたまう59式をよそにプラズマライフルを担ぐ。

 

「ん? 指揮官? そないなもん持ち出して何するつもりなんや?」

「うーん、ちょっといやーな予感がね」

 

 ガリルの疑問に答えた直後、それはきた。

 

 ぐるるるるるるぁぁー!!

 

 闇夜をつんざく咆哮、すでに爆炎は消え失せ、燃え残りの火が僅かに辺りを照らす中、残骸の中からまたしてもデスクローが現れる。

 

「チッ……Demolition Expart対象外だったのかしら……まさか生き残るとはね」

 

 なんとなく、なんとなくではあるが、この救出&護衛任務のウラの任務が任務だから、もしかしてと思っていたが、まさか本当に出てくるとは。

 とはいえ、距離を離れたところに出現したデスクローなどもはやただの的。

 プラズマ三発でメロンソーダにジョブチェンジさせてやったとも。

 さ、帰りましょう。

 

「のう……今のあれ、儂、資料で見たぞ。正規軍案件じゃよな!? な!?」

「気にしたら負けだよおばあちゃん、私みたいにお嬢のやることは全部『ふーんすごいね』で済ませよ?」




おまたせしました。
前話と本話と次話で整合性を取っていましたらまたたく間に時間が過ぎていて……。

ちょっとした幸運があったり、なんだかんだがありまして、はてさて。
あ、先日の製造確率アップでやっとカルカノ姉妹が揃いました。育てなきゃ。


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閑話7 404小隊

 人間は信用ならない。

 

 製造されてからの経験、苦い思い出や悔しかった記憶、それらはUMP45のマインドマップに重大な影響を与えており、それは人間への不信感となって現れていた。

 

 つい先日だってそうだ、金銭や部品の問題で仕方なくモグリの整備士から整備を受けたら、UMP9が途端に被弾量が増えた。不法入手した整備ソフトを416がインストールして(初めは45がインストールするつもりだったが、416が強硬に自分がやると主張した)整備した結果、UMP9のボディから高価な部品が一つ消えていた。真顔で装填レバーを引いた416に、45は首を振る。事実、そのモグリの整備士は、換金を巡ると推測されるトラブルで、腹部を刺されて路地裏に転がっていた。手を下したのはその辺りの元締め子飼いのチンピラだろう。

 そんなモグリの整備士(故)を頼らなければならなくなったのは、ここ最近の任務がほぼほぼ失敗続きだったことによる。

 

 VIP確保ミッション。確保したところで爬虫類型二足歩行E.L.I.Dが突如現れ、相当抵抗したが銃弾がろくに通らず、VIPをムシャムシャされてしまった。その上、曲がりなりにも居住区付近にE.L.I.Dが現れたために正規軍が出張ってきて近づくことすらできなかった。

 

 ドローン確保ミッション。作戦区域にまたしても爬虫類型二足歩行E.L.I.Dがうろついており、なんとか信号を頼りにドローンを引き上げてみれば、E.L.I.Dの巣に組み込まれて踏み潰された後だった。

 

 VIP確保ミッションその二。VIPがいると目される建物が到着時点ですでに騒がしく、踏み込んで見れば内部は酷く血塗れで、ところどころに手足の切れっ端が転がり、呆れながらVIPルームを覗いてみれば、破砕されたドアの向こうで爬虫類型二足歩行E.L.I.DがVIPが爪に切り裂かれるところだった。

 

 潜入情報確保。爬虫類型二足歩行E.L.I.Dがいて以下同様。

 

 こんな調子で、ことごとく爬虫類型二足歩行E.L.I.Dが行く先々に先回りして作戦をズタズタにしていくのだ。当然報酬などない。特に生かして確保すべき相手がことごとく死んでいることから、心象も著しく悪い。しかし、あのような銃弾が通用しない上に非常にすばやく、なおかつその前肢の一撃がAegisを切り裂くところも見たので攻撃力も著しく高い、それこそ本当に正規軍でもなければどうしようもない相手を前にして、どうやってVIPを守るとか機密情報を確保してくるとかできるのだ。仕方なく、整備費を稼ぐために別の仕事をして、仕事をするために整備費が必要になり、という悪循環。このままではあと一つか、二つ、仕事を失敗したらもう動くこともできなくなりそうだな、という嫌な予測が立った頃、珍しくというかなんというか、ヘリアントスから直接の通信と、任務指示があった。

 

『次の任務は調査、内偵だ』

 

 いつもと変わらない調子で、ヘリアントスは言う。別途、一人の指揮官のプロフィールが表示され、その指揮官は戦術人形の59式によく似ていた。

 

『59式によく似ているが、れっきとした人間で確認済みだ。それで、この指揮官、本部から供給されている資源を遥かに超える活動を行っている。副業なり自分で開発なりで手に入れた資源であるならばいいが、下手にどこかと繋がっていられても困る。資源の入手元を調べて欲しい』

「……ほっとけばいいのに、どうして?」

『言ったとおりだ。戦果がかなり優秀な上に、自力で資源を調達できる指揮官であればそれでいい。逆に、戦果が優秀なだけに、どこかの紐付きであるのは困る。今のうちに紐を切っておきたい』

「報酬は?」

『いつもどおりだ。任務が完了したら、口座に振り込もう。この指揮官には、君たちへの補給任務を発行する予定だ。整備を受けてくるといい』

 

 鼻で笑う。

 戦果が優秀? どうせ人形を使い潰して得た戦果だろう。

 資源が潤沢? どうせ人形を不正に売り払って購入した資源だろう。

 そんな指揮官が、整備? 笑いすぎてどうにかなりそう。

 

 

 本部と司令官の通信に割り込んで盗聴していたところ、あっさり察知されて対応する間もなくあっさり通信から追い出された。再接続もできない。これでも電子戦にはいくらかの自負があったのだが、それが木っ端微塵となった。上には上がいる、ということなのだろうか。

 次の手を考えていると、通信回線経由でメールが着信した。誰だそんな面倒なことをするやつは、とメールを開いてみたところ、例の指揮官の電子署名付き招待状だった。

 

「……」

 

 わけが分からなかった。ARウィンドウを思わず動かして、なにか妙な偶然でたまたまそう見えてしまったのではないかと疑いたくなるほどだった。が、ウィンドウを上下左右斜めどころか裏側から見ても、内容は変わらなかった。

 

 

 指令室を遠距離から観察してみたが、そこもそこで意味がわからなかった。人形が好き勝手生活しているし、例の指揮官は59式によく似ているせいで、あの指揮官用コートがないと判別できない。下手をするとあの後方幕僚を指揮官と勘違いしかねない。設備も意味不明で、多数の風車が立ち並び、浄水器と思しき大型機械が川に突き立ち、挙げ句小型の農場まで敷地内にあった。電子ドラッグをキメたつもりもないが診断プログラムを走らせてみたところ、劣悪な整備状態と継続したストレスへの警告以外は、メンタルは正常だった。

 

 結局、招待状に従って用意された拠点に入ってみた。

 どこかの高級ホテルの一室か何か、と思うぐらい整えられた部屋であり、水、食料、弾薬のストックが多数。キッチンスペース等も設けられてあり、ここから出ないでも生活できるだろう。驚くことに隣の部屋には整備室まであった。正直、このトレーラーハウスを用意するだけでも404小隊全員をバラして売るとかしても大幅に足が出る推測金額。地下への接続を考えると何をいわんやと。設置されていたターミナルで連絡を入れた後、G11を入り口のハッチの上に寝かせて、休息を取ることにした。

 ら、まさかの入り口など無いはずのキッチンスペースから例の指揮官がやってきた。思わず銃口を向けてしまったが、一瞬指揮官の姿が霞んだと思ったら、真後ろのソファに座っていた。

 そこからは、まあ、怒涛の展開だ。

 まず、全員、全身を綺麗に整備された。全身にpingを送ってみると全部帰ってきたのはずいぶんと久しぶり。ただし、作業時間がとてつもなく短かった。キッチンスペースから来た時点で色々とおかしかったが(ダクトの中を通ってきたらしい、通れるものなの?)、こちらも十分におかしい。

 そしてあの指揮官、実に器用に食事を作ってきた。UMP9が感動の声を上げながら食べている。だが、その後に取り出してきた、ウェイストランドグルメとか称したこ汚いパッケージの食品群は、あろうことかガイガーカウンターが反応した。あまつさえ、私達全員に勧めてくるし、あまつさえのあまつさえに自分でそれを食べている。放射能汚染されたものを食べても大丈夫なのかと恐る恐る416が問うていたが、けろりと体内蓄積した放射能を排出するための薬品があり、そのストックは基地で使う分には十年単位で持つとか言っていたが……いくらなんでもそれはない。後で排出できるからといって放射能汚染されたものを食べる勇気、いや、蛮勇はない。というか正気かこの指揮官。染色体損傷とかどうするつもりだろう……とつぶやいてしまったところ、前述の薬品で多分修復されると言っていた。多分って何……?

 次は、一日置いて。銃器の整備をするから、と言われて渡したところ、フルコンディションになって戻ってきたのはいいのだが、使用感が全く変わらないくせに火力が著しく跳ね上がっていた。416がこっそり持っていたレトロ漫画のキャラクターじゃないが、何が起きたのかさっぱりだった。確かにレシーバー等が交換されていたが、弾薬を変更していないにも関わらず威力がここまで上がるとか、もはや何かがおかしい、以外の感想が出てこなかった。本来SMGはARでは威力が高すぎる市街地などの運用を求められてうんぬん、なんて知識が頭を過ぎったが、鉄血相手にはむしろ威力過剰なぐらいが望ましいので気にしないことにした。

 そして、その指揮官の異常性をこれでもかと実感できたのが、指揮官には伝えていない補給日程の最後辺りで実に軽い調子で投げられた、アメリカ式ハッキング方法を学んでみないか、ということだった。アメリカ、という国が亡くなって久しい、というのは割とどころではなく周知の事実だ。第三次世界大戦では核が多数打ち込まれ、居住どころか調査すら厳しい地域であり、国家としての体はとうに為していない。確かに日常会話で用いられる言語はアメリカ英語だが、時折つぶやく母語と推測できる独り言が同じく滅びた日本語であるので、何か亡国同士でつながりでもあるのだろうか。まあ、それはいい。問題は、この指揮官の自作パッケージと思しきハッキングプログラムパッケージが、電脳にとって苦手なことをこれでもかと要求してくるパッケージであることだった。しかも、これでレベル3まであるパッケージのレベル1らしい。容量そのものは小さいので、三つで一般的なパッケージの容量を下回るぐらいだが、処理領域もメモリも足りない。9はあっという間に逃げていったが、416が何故か参戦してきたことには素直に驚いた。

 結局、いくら鉄血のウィルスに対して免疫作成に成功しているとはいえ、新種が現れないとも限らない、という理由で、私も416もよくわからないPDAを貰った。予備も含めると六つ。そして、これはこの電脳が苦手とする作業用にプロセッサやメモリを調整してあるようで、物理的に結線することで凄まじいハッキング効率を叩き出し、軍用セキュリティ、指揮官が言うところのレベル3であろうと真正面からブチ破り、それでいてブチ破られていることを悟らせないというわけのわからない結果を導き出す。電子戦型ではない416ですら、軍用レベルにこそ流石に歯がたたないようだが、民間上位レベルセキュリティ、指揮官が言うところのレベル2ならば破れるようになった。

 ただ、最初に習うのを渋ったときに、反応する間もなく首のセキュリティポートに結線されたばかりか、同じく反応する間もなく全身のコントロールを奪われたときは、凄まじい恐怖を感じた。自身のセキュリティだけに、レベル3クラスの防壁は十分に備えていたはずなのだが、一秒かからずに制圧されてしまったのだ。正直、メンタルモデルにいいように手を加えられるか、あるいは消されるかと内心絶望していたのだが、

 

「これ、できるようになりたいでしょ? さ、がんばろーね」

 

 とだけ指揮官は言って、線を抜いた。その瞬間体の制御が戻ってきて、躯体のログを見たが一切の侵入ログが無かったのはもはや冗談にしか思えない。主観で体が動かなかった以上なにかされたのは確実であり、やろうと思えば私達をまるごと消去することもできる、というのは本当に恐怖でしか無い。本当に、恐怖でしか無い。ここにいる間は、言うことには逆らわないでおこう……。

 

 

「次の任務?」

『そうだ、次の任務だ。お前たちの調査で、指揮官にはどこの紐もついていないことが判明した。強いて言うなら我々グリフィンだ。くわえて、自身で廃棄物処理場から様々なものをサルベージしていたこともわかった。であれば、次の任務だ』

 

 調査任務、と言う名の休暇も長くは続かない。

 ただ、現金こそ少ないままだが、整備状況や物資は段違いに回復している。次こそは何とか任務達成に漕ぎ着けなければ。

 確保任務。G&Kの支配地域の端の方にだが、人権主義者と言う名のテロリストが巣食っていることが確認された。今後の動向を吐かせるためにも幹部を捕獲する必要がある。すでに捕虜救出を兼ねた陽動部隊を出動させてあり(当然私達のことは知らない)、その部隊の影で任務を遂行すればいいだろう。

 ……前のように爬虫類型二足歩行E.L.I.Dが出てこなければ。それだけが気がかりだ。

 

 

『クリア』

 

 9からの無線通信。事前に渡されていた見取り図に従って、幹部のオフィスを一直線に目指す。よくわからないが、辺りのドアが手当たり次第に施錠されており、電子管理もされていないため錠部分を撃ち抜いて強引に開ける。そしてこんな派手なことをしているのに、セキュリティシステムがダウンしているのか、誰もこちらに来ない。むしろ、下の方から爆発音と銃声、罵声などが聞こえてくるのでそちらに掛かりきりなのかもしれない。一方で、奥からは怒鳴り散らす声が聞こえる。なぜ鍵をなくしただの聞こえるので、誰か……もう、一人しか思いつかないが、誰かがスリ取っていって、鍵をかけて回ったのだろう。

 幹部オフィスのドアの錠を撃ち抜き、蹴破る。不運なことに、ピッキングでも試していたのか、一人穴だらけになって転がっており、その向こうでテロリストが四人ばかり、こちらを見てぎょっとしていた。いつの間に、という顔だ。多分セキュリティシステム自体がズタズタにされていたことに今なお気づいていないのだろう。

 

 パン

 パパパン

 パパッ

 

 次いで銃声三種類。幹部以外のテロリストがもんどり打って倒れた。

 

「はぁい、迎えに来たわよ」

 

 確保すべく近づくと、銃を抜いて抵抗してきたが……戦術人形に生身の人間が勝とうとすると、一部の極地とも言えるような連中でもない限りできやしない。つまり、簡単に銃を弾いてその場に組み伏せ、後ろ手に親指同士で拘束できた。一方、部屋にあった端末に、416が早速ハッキングを仕掛けている……いた。終わったらしい。PDAにあらゆるデータを吐き出させている。

 

「嘘だろ、最新式のセキュリティなんだぞ……?」

 

 幹部がうめいているのが聞こえる。だが、416がハックできるのはセキュリティレベル2までであり、それでできてしまうということは最新式どころかバッタ物でも掴まされたのだろう。……もしくはあの人が何かしていったか。

 

「セキュリティレベル2で助かったわ……」

「……」

 

 ぽそりという416のつぶやきは聞き流しておいてあげた。

 さて、後は幹部を引きずって脱出するのみ、という段階で、私のPDAが何やら着信を告げた。

 案の定、差出人は例の指揮官。Type59とか署名してあるが、指揮官の電子印押していたら何も意味がないあたり、相当の愉快犯か。『本日のYA☆MA☆BA』とかいう、思わず消したくなるふざけた件名をぐっと堪え、メールを開く。

 

「……は……?」

 

 思わず声が漏れた。

 内容は爆破予告。犯行声明とかそういうのではなく、味方への被害圏と爆破時刻通知。それはまあいい。

 推定爆発圏が凄まじく広い。しかも中心はこの辺り。時刻は約二十分後。え、間に合うのこれ……と思っていると、G11が脱出用と思しきジップラインを見つけたと報告を入れてきた。

 

「撤収よ。この辺りに凄まじい爆弾があるみたい。さっきのジップラインでとっとと逃げるわよ」

 

 ギャーギャー喚く幹部を静かにさせて梱包し、9とG11の二人がかかりで抱えて脱出。クリアリング維持のために残っていた私と416も、続けてジップラインで脱出。終端にたどり着いたところでラインを切断。爆発による爆風被害を抑えるため、終端のアンカーを打ち込まれていた岩の陰に隠れることしばし。

 

 

 どぉぉぉぉぉぉぉーん

 

 

 拠点をまるごと吹き飛ばし、青いキノコ雲がそびえ立つ。いろいろと頭が痛い事態だが、ガイガーカウンターが反応していない以上、放射性ではない爆発なのだろう……。

 その時だ。

 

 ぎゃおおおおおん

 

 聞きたくなかった雄叫びとともに、拠点残骸の下から、あの爬虫類型二足歩行E.L.I.Dが出てきたのだ。

 全員に緊張が走り、416が9が、G11が、私が、セイフティを解除して銃口を向けようとしたとき。

 緑色の光球が次々飛んできて、E.L.I.Dの右足を砕き、左足を砕き、倒れ伏したところを頭を砕き、次の瞬間E.L.I.Dは緑色の粘液に姿を変えて地面にわだかまっていた。

 

「……え?」

 

 気の抜けたような、9の声。

 それと同時にまた私のPDAが着信を告げる。

 またType59と電子印と一緒にメールが届いた。

 内容は、

 

『スクリプト湧きとか絶許だよね!』

 

 意味がわからなかったのもあり、それまでのイライラが募っていたのもあり、私はそのメールを速攻でごみ箱フォルダに叩き込んだ。




閑話のつもりが偉い長くなりました。
これでもかなり端折ってるので、いっそ閑話シリーズ、とか分割したほうが良かったかもしれません。

とりあえず404小隊の出番はここで終わりです。


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帰還

「うむ、世話になったのう」

「元気でね、おばーちゃん」

「何かあったらこの59式に連絡するんだよ! はい、連絡先」

「お主も、お主の指揮官の非常識っぷりに負けるでないぞ?」

「無理」

「ちょっとあなたたち? 全身の制御奪われてトレーラーの横に吊るされたい? ここで模擬格闘戦しましょうか?」

 

 護衛任務の到着点、確かH-23地区司令部だったか。R-08地区司令室から近くはないが遠くもない、そんな距離の司令部にM1895を送り届け、最終段階として救助した本人であるM1895から確認サインを貰った。で、短い時間とはいえトレーラーの中でガヤガヤやったので、M1895は59式を始めとしたうちの人形たちにずいぶんと仲良くなってもいた。

 

「……普通は最高最適化率の人形に人間の指揮官が暴行できるわけ無いだろ、って言うところだけど、実行できそうなのが怖いんだよな……」

「シャラップAA-12。シュガーボム食わせるわよ?」

「勘弁してください指揮官お願いします」

 

 AA-12にシュガーボムをちらつかせると、瞬く間に下座った。HK45がその上で……じゃないな、AA-12のシールドの上で踊りだした。何故?

 

「えい」

 

 その、よそ見した瞬間を狙って繰り出された59式の拳を軽く払って打ち込んだ掌底を避けた59式のカウンターとばかりの足払いを軽くステップを踏んで回避しお返しに打ち込んだ下段突きを

 

 めきゃあ

 我ながらいい音がした。

 

 

「……何しておるんじゃ、こやつらは……」

 

 無駄に高度な動きで華麗にクロスカウンターをキメ見事にダブルKOを達成した59式と指揮官を見てM1895はぼやいた。

 作戦行動中で指揮官は59式に擬態しており、細かな違いはあれど今日あったばかりのM1895には見分けがつかない。しかも二人共アホ面晒してダウンしているため、違いを探す気にもならなかった。

 

「さて、儂はそろそろ行くのじゃ。ここであまり長居してものう」

「そうね。指揮官には、倒れてる間に戻っていったと伝えておくわ」

「うむ、お主らも息災での」

 

 そう言って、M1895はトレーラーから飛び降り、司令部ゲートへと走っていった。それを見てから、グリズリーはトレーラーのハンドルを握る。

 

「確か指揮官はこう……」

 

 嫌な予感がしたFive-seveNが止めに入ろうとするが既に遅く、軍用車両の強力な馬力で一気に動き出したトレーラーは、少しばかり中身をシェイクしてから止まった。

 

「この、免許ないなら触るんじゃないわよ!!」

「指揮官だって免許持ってないじゃない!」

「このご時世にどこが免許発行するのよどこが!」

「指揮官はPMC時代にずいぶん練習したって」

「このボタン何?」

「ばっ!?」

 

 『射撃体勢』と日本語でラベルの書かれたボタンを(当然この場の人形たちは59式を除いて誰も読めない)迂闊にも好奇心に駆られたSPP-1が押すと、車体からアウトリガが四方に飛び出し地に突き刺さり、車体上部から大砲が姿を見せた。そう、大砲である。

 

「……」

「……」

「……」

 

 無論、ただの大砲であるわけがなく、いうなれば迫撃砲のようなもので、砲撃支援が必要になったときに指揮官がこれを操ってぶっ放せるように、という移動支援砲座としての機能を指揮官がトレーラーに持たせていたことが判明した。

 

「……しまって」

 

 そして味方司令部の近くとはいえ、そんなものを展開させたままにしていると色んな意味で疑いをかけられる。Five-seveNに静かな声で促されたSPP-1が再度ボタンを押すと、大砲が格納されアウトリガが地から引き抜かれてこれも格納された。

 

「まあ、あれや。安全運転や、安全運転」

「そうですねぇ〜」

 

 L85A1がハンドルを握り、幾度かその操作感を確かめた後、それなりの速度でR-08地区へと向かい始めた。

 

 

「……んぉ?」

 

 ぱち、と目が開く。確か59式にいいのを入れたがいいのを貰った所で記憶が途切れている。うっかり気絶したのだろうか。最近気絶することが多い気がする。

 

「お目覚めですかぁ?」

 

 間延びした声が横からした。見てみれば、前を向いたままのL85A1がトレーラーのハンドルを握っており、私が運転するよりは相当ゆっくりだが、基地へと向かってトレーラーは動いていた。私が起きたのはナビゲーターシートであり、トレーラーには寝台になるようなものを積んでいないのでここに座らさせられていたのだろう。

 

「運転なさいますかぁ?」

「いや……急ぐような用もないし、このままでいいや」

「かしこまりましたぁ」

「59式は?」

「先程再起動してピンピンしてますよぉ」

「ならいいや」

 

 外を見る。意外にもう司令室の近くだ。司令室近隣の、見覚えのある農場が見える。

 

「……おや?」

 

 見える……が、何か、余計なものも見える。

 

「どうされましたぁ?」

「L85A1、停止。運転変わって」

 

 Perceptionももちろん鍛えたつもりであり、実際に私の感知能力は高く、ときに人形の感知能力を上回ると自負するときもある。銃声と、マズルフラッシュ。確かに聞こえたし、見えた。即座にL85A1がトレーラーを停め、運転席へと入れ替わり、後部車両への通信用マイクを取る。

 

「総員、戦闘用意。司令室付近の農場がレイダーに襲われているのを確認したわ。これより急行して介入する」

 

 放送の間にL85A1は後部車両へのハッチに消えた。

 

「何かにつかまってね、飛ばすわよぉっ!」

 

 アクセルを踏み込み、一気に加速する。トレーラーの巨体はそれ自体が武器であり、防具であり、そして暴力的な使い方が可能だ。レイダー達の近くまで飛ばすにつれて、正面装甲が銃弾を弾く音が激しくなる。

 

「対衝撃用意!」

 

 それだけ叫んで、ハンドルを一気に切りつつサイドブレーキを起こす。後部車体を振り回し、レイダーの何人かを轢き潰したところで後部車両ハッチを開放、人形たちが飛び出した。そして始まる銃声と悲鳴のオーケストラ。

 逆側、つまるところ近隣農場側は、早くも気づいて応戦していたのか、侵入はなく被害はそうでもないようだ。レイダー掃討は人形たちに任せて農場側の負傷者の手当に回る……も、慣れているのか簡単な手当で済むだけの負傷ばかりだった。

 レイダーの掃討から後始末までは滞り無く進んだ。農場を襲っていたレイダーなので、レイダーの物資は農場のものだろうとまとめて渡したところ、資材として役立てられないので酒か何かで買い取ってもらえないか、という打診を受けたので快諾した。現状、司令室では酒の材料である食料はほっといてもバンバン生産されてくるため、時折収穫を近所の農場からアルバイトを雇って手伝ってもらっている。給金ももちろん出しているが、一緒に酒も出しているため人気が高くむしろ競争率が1を越えているので、生産量を増やしてもいいかもしれない。

 とりあえず、酒と食料は後で届けることにして、レイダーから剥ぎ取った物資をトレーラーに積んで農場から出発した。無論、我々がいないときに撃退とか抹殺とかしたレイダーの物資は、持ってくれば同様に酒と食料で買い取るし、銃器や農耕機械のメンテナンス、対応する銃弾の供給を対価にしても良い、と伝えておいた。

 

「……みんな、酒蛮族になった……」

 

 ぽそっとシプカがつぶやいていたのが印象的だった。

 

「え、そう? レイダーなんて歩く資源でしょ?」

 

 返事をしたら、じっと見つめられ、

 

「そうだった。指揮官が一番の蛮族……」

 

 とつぶやかれた。

 解せぬ。こんなにも資源を生産しているというのに。

 

 

 数日後。

 

「……んー?」

 

 どうにも違和感が拭えない。

 我がR-08地区司令室は、そもそもの人数が少ない。整備士よこせと何度か言ってるが未だにこないので、毎週のように陳情と督促を上げるのはいつものこと。ともかく、その人数が少ないために、なんというか、人数分の気配、というものを常に感じている。が、その気配が、最近は目に見える人数から少し増えている。敵対的な感覚はしないため、気のせいかと流しかけていたがやはりなにか気になる、むずむずする、気持ち悪い、といった感じを受けている。誰かがDinargateでも連れ込んだか? 飼うのは構わないから、スパイ機能付きDinargateを指令室に連れ込むのはやめろ、きちんと処理してやるから、とは張り紙で告知しているのだが……はて。

 

「指揮官?」

 

 ふと、手を止めて意識に集中していたせいか、USPコンパクトが怪訝そうにこっちをみている。

 

「んー、なんかいるな。USPコンパクト、ちょっと見てくるからしばらく後は任せたわ」

「へっ!? あ、は、はい、行ってらっしゃいませ!?」

 

 見回りと称して、いや、事実見回りなのだが、そうしながらあちこちを回り歩き、気配を一つずつ目視してマーキングしていく。基地職員のおっちゃんおばちゃん達は全員確認できた。今日はアルバイトはいない。人形も一人ずつ確認していく。

 残りは一人、59式。だが、残る気配は二人分。

 59式の部屋に向かっていると、中で何やらドタバタした気配を感じる。さて、いるのはDinargateか、犬猫か、大穴で鉄血ハイエンドモデルか。

 指揮官権限で59式の部屋のドアを強制開場して開ける。

 

「ど、どうしたの指揮官様!?」

 

 思いっきり動揺している59式がいた。しかもなんだその指揮官様って。あなたはふてぶてしく「ちょっとお嬢、なんでノックもしないで入ってくるの」とかでしょうに。

 

「んー……」

 

 さて、59式の気配は確認できた。残る一人……は、そこか。もっともらしく部屋のあちこちに散らしてある、ガンケース、椅子、弾薬箱を積み上げ、その上に乗る。こうすると小柄な私でも天板に手が届く。一枚押し上げ、屋根裏を覗き込んで見れば……と、いた。

 

「……のう59式よ、だから言ったじゃろ、この指揮官には隠れても無駄じゃと。素直に打ち明けておいた方がよかったんではないかの?」

 

 人権主義者どもの拠点で救助したときの格好そのままのM1895がいた。




あっぶねー……おばあちゃんの名前間違えてた……

最近VRCなんぞ始めてみまして、うろうろしております。
色々と漁ってみて、UMP9だったかはアバターがあるみたいですが、
やはり59式はない……。

ところで、サトハチカリバーくるって本当ですか?




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復元

 人形は、バックアップからの復元が可能である。

 

 ゆえに、戦闘で全損してしまったとしても、バックアップから復元すれば、最後にバックアップを取ったときから全損までの間の経験こそ失われるが、問題なく復元が可能である(稀有な確率での復元失敗の報告もあるが、あまり信じているものはいない)。もっとも、そのような運用をしてしまった指揮官への人形からの心象はかなり悪いが……。

 さて、このバックアップからの復元であるが、ルールとして『最新』のバックアップから『1回のみ』復元が可能である。また、現行機が存在する間は復元は実行できない。考えてみてもほしい、『自分』が後から後からウジャウジャでてくるところを。どこのSFホラーだよ、というノリである。人形の精神がヤバいことになることうけあい。1回のみルールは、復元した直後に自動的に再度バックアップを取ることで守られているが、この、現行機が存在する間は復元できない、というルールは意外にこう、破られることが多い。意図してか、意図せずしてかを問わずして。

 例えばあんまりな体験をしたために、バックアップから復元しそれまでの経験を『捨てる』ことでその記憶を消そうとするパターンならばまだ真っ当。なんらかの理由で行方不明となってしまい、捜索しても見つからないため仕方なく復元した後に生還したという事故もまあいい。偵察に出した人形が囲まれるとかして帰還見込みが無い場合にさっさと復元を始めてしまうせっかちなやつもいれば、とりあえず特攻、情報収集、自爆、復元、などというお前いつか人形に刺されるぞ、的な運用をするやつもいる。

 今回は事故……に見せかけてせっかちなパターンだ。

 そして、この現行機が存在する間に復元を実行できない、というルールが何らかの理由で破られた結果、オリジナルと復元体が同時に存在してしまった場合どうなるのか。この場合にもルールが定められており、答えは『復元に成功した段階でオリジナルはその復元体とする。その後元オリジナルが生還したとしても野良人形として扱う』である。

 

 つまり、屋根裏から降ろしてきたこのM1895は、野良人形なのだ。事情を聞いてみるとそういうことだった。

 

「のう……指揮官。59式はわしをただかくまっておっただけでじゃな? 不法侵入しているのはわしじゃし、責任はわしにあると思うのじゃよ」

 

 などとM1895は供述しているが……

 

「いやいやおばあちゃん、違うよ、違うんだよ」

 

 今回の主犯、59式の両頬を左右に引っ張る。

 

「みゃ、お、おひょう、ひゃ、ひゃひひゅゆう〜」

「あなた、M1895に頼られるのが嬉しくて、報告遅らせたでしょ。しかも、だいたいこれぐらいでバレるかな、というのを見越して!」

「ひゅぅーーーーーー!!」

 

 そうなのだ。野良人形を指揮下に入れるための手順は、実を言うと私が電子印を押す手前まで進行していた。カリーニンなど、

 

『え? 指揮官の指示だよ、って書類持ってきましたけど……?』

 

 と、まあ、うまくやったものだ。気づいた気配を見せたら、書類を決済待ちに入れるつもりだったのだろうが、馬鹿め。気づいた段階で動くに決まってるでしょうが。書類、といっても電子書類なので、59式のフォルダから拾い上げて電子印を押し、決済済みフォルダに放り込んでおく。最終的な処理は後はカリーニンがやってくれるだろう。

 

「とりあえず59式、しばらくおやつとお酒抜き!」

「ええーっ!?」

 

 軽く済ませたが、私がM1895に連絡先を渡していなかったのも問題だろう、ということにしておく。

 

「さて、おばあちゃん。とりあえず、ボディのメンテするよ」

「おお! さすがにこの老骨には、キチンと内部が直っておるとはいえ外側が壊れかけが辛くてのう」

「いやそれ誰だって辛いからねおばあちゃん」

 

 内部だけ直して、服の下はそのままとか金属パーツ丸見えとかだし汚れも取れてない、とかだったからねえ……。この間の404小隊も、外側のコンディション低下はメンタルに重大な影響を与えていたようだし。それが、今度は壊されてアレされてだものなあ……。

 ……あ、洗浄が先かな……?

 

 

 さて。

 M1895完全復活である。

 野良人形ではあるが、最適化率の現在値が高く、ちょっと訓練すれば、改造前提だが回避盾すら可能であろう。

 というわけで、基地の人形がまた一人増えた。増えたのであるが……。

 

「またHGが増えた、かー……」

 

 頭を抱える。

 

「そういえば、この基地はHG人形の割合が高いんじゃな。……予想外なのも一人おったようじゃが……」

 

 食堂。とりあえずメンテして生体部品も修復した後、食堂に繰り出して聞き取り兼簡単な歓迎会である。コーヒーを傾けるM1895の視線の先には、処刑人。

 

「そうだろうな。私とてこちらに身を寄せることになるとは思わなかったさ」

 

 その処刑人が、ゴツくない方の手で傾けているのはあまーいミルクココア。この基地、甘党が多い。

 デフォルト通りのAA-12に始まり、HG連中は大抵。SMGも一部を除き甘党。ARはガリルだけ辛党。

 そして、全員それ以上に酒が好き。はたしてM1895はいかに……?

 

「というわけでおばあちゃん、お酒は好き?」

「……何がというわけでなのかさっぱりわからぬのじゃが……この老骨に酒は堪えるでのう。嗜む程度じゃなおぅっ!?」

 

 がしっとM1895の手を掴む。

 

「同志!」

「え、え、なんじゃ!?」

「お嬢、酔えないタイプだからお酒好きじゃないんだよ、この基地では珍しいことに。というかお嬢だけじゃなかった?」

「飲まないやつ同盟を組もうそうしようそれがいい」

「お、おう」

 

 少し引きつつのM1895。その顔には、「もしかして早まったか?」的なことがデカデカと書いてあった。それについては否定できないが、朱に交わればなんとやらということわざもあることだし、問題なく基地に馴染めるように手助けをすることとしよう。

 ともかく、これで基地の人形数はこれで合計十四。処刑人を含めてしまっていいのかいささか疑問ではあるが、本部に報告は上げているし、作戦運用に組み込んでしまって問題ないとの返答も貰っている。防衛戦力も考えるとあと二人もしくは三人、新しい人形が来たら次の部隊を構成できるだろう。……USPコンパクトが、本当に内勤向けの性格をしているので、そこは尊重してやりたい。面白いのは、訓練で自己判断して攻略しろ、というのはさっぱりできないのだが、セントリーボットやプロテクトロンの操作モジュールを渡してタワーディフェンス的に防衛させる、というのはできるということだ。シミュレーションで、アクシデント的に壁を破砕して進行してくる敵を黙って追加したところ、多少パニクったもののプロテクトロンを追加配備して迎撃していた。なんというか、人形の指揮ができない、というAI上の弱点は、創造的な、というとあれだが一から図面を引くような立案実行ができないだけで、方針や前提、ある程度の理論があればそれを使って判断できる、ということなのだろうか。この場合、前提が間違っていたら当然間違った指揮運用をしてずっこける、ということだろうが。

 まあ、今は歓迎会か。

 人形たちや職員の期待の視線に、しょうがないか、と酒を備蓄からいくらか出しておく。さすがにそんなに量は出せないが、楽しめるぐらいは出したつもり。後は適当につまみになりそうなものを追加で作ってもらっておいて、飲んで食べてでいいだろう。私は……ヌカ・コーラとポークビーンズでいいか。

 

「おお? 指揮官、見たこと無いものを食べておるのう。それはなんじゃ?」

「ん? ヌカ・コーラとポークビーンズ。食べる?」

「貰っていいならばわしも貰おうかのう」

「あいよ、今用意するからちょっと待って」

 

 と、自分の分を持ってきたところ、それにM1895が食いついた。また冷蔵庫と棚に向かった私の後ろから、こんな話が聞こえる。

 

「いや、おばあちゃん、それやめといたほうがいいよほんとに」

「ぬ? なんでじゃ? うまそうな瓶飲料と缶詰じゃろ? ……ぬ? 59式、それはなんじゃ?」

 

 カリカリカリカリカリカリ……

 

「……なんでガイガーカウンターが反応するんじゃこれぇ……?」

「あー、それはフリじゃなくてやめといたほうがええで。指揮官がゆーことには、瓶飲料には放射性同位体が混ぜられてるそーやし、缶詰のほうはそもそも放射能汚染されとるんや」

「……。……なんでそんなものを食べとるんじゃ、指揮官」

「それはねえ、美味しいのもあるんだけど、これを使っとけば放射能の影響なんかペイできるからだよ」

 

 振り向いたM1895の顔は、「やべぇ早まった」になっている。そんな彼女の前に、ヌカ・コーラ・クアンタムとポークビーンズ(汚)やケイジャンライス&チキン(汚)とRAD-AWAY(希釈)を置く。やったぜ大盤振る舞いだ。

 

「のう……指揮官。これ、光っとるんじゃが」

 

 誰かが後ろで倒れた。

 

「なんだっけ、普通のに比べてカフェイン2倍、放射性同位体添加量2倍、がキャッチコピーだったかな、詳しいこと忘れちゃったけど……確か商品開発段階で何人か死人が出てたような……?」

「お嬢から時々その戦前のアメリカの話を聞くんだけどさ。アメリカにはバカと基地外と頭のネジが外れた精神異常者しかいなかったの? だから滅んだの?」

「失敬な……いや、あながち間違いじゃないかもしれないなあ」

 

 59式から熱い風評被害……といえないな、割と正しい指摘やもしれぬ、を受けつつそのストレートな物言いに頷いていると、ふと、M1895がヌカ・コーラ・クアンタムに手を伸ばす。

 

「まって、それはやめたほうが、というか絶対にやめよう」

「物は試しじゃろ、影響を拭えるというのならば試してみるのも一興じゃ」

 

 シプカの静止を振り切り、栓抜きでしゅぽっとキャップを外し、そのまま瓶を呷る。ロケット型の瓶の中身が、嚥下する音と合わせて次第に減っていき。こいつ正気か、という私以外の視線がザクザク刺さる中、飲みきった瓶をテーブルにどん、と音を立てておくと、

 

「……かぁーっ……なんじゃこれ、この見た目で美味いのもそうじゃが、こう、疲れとかが吹っ飛ぶ気がするのう!」

「でしょー? っと、なんだおばあちゃんこういうのいけるクチ? じゃあこっちのポークビーンズとかケイジャンライスとかどう?」

「うむ……。……。……おお、これもこれでいけるのう。あっちの棚じゃろ? バリエーションとかあるのかの?」

「めっちゃある。たっぷりあるよ。というか私しか食べてなかったからすんごいあまり気味でさ。おばあちゃんも食べて食べて」

「むっ……むぅ、こっちのマカロニ&チーズ?は口に合わんのう。チーズの味がちょーチープじゃ」

「それはしょうがないよ、古いし。じゃあ、はいどん、即席ぽーてーとー」

「ジャンクな味というやつじゃな。というか前の基地で食っとったものよりよっぽど上等じゃしなあ、これ。復元されたわし、ざまーみろじゃーあーはははははははは」

 

 

 一方、それを見ていたAA-12がぽそっとつぶやいた一言。

 

「……核汚染されちゃったか……」

 

 は、地味に人形たちにウケていたそうな。

 

 

 

 ――余談

「ふぅー……」

 

 翌朝、共同スペースでM1895が座り込んでいる。それは、どうにもこう、うなだれて、おちこんでいるような。

 

「どうしたの?」

 

 それを見た59式が声をかけた。

 

「ぬ? 59式か……いや、まあ、なんじゃ。汚い話なんじゃがな?」

「うん」

「昨日のアレのせいか……出したものがどっちも青白く輝いておってのぅ……」

「う わ ぁ」

「ちょっと、早まったかもしれないのう……」

「ちょっとどころじゃないよおばあちゃん……」




あれ? 核汚染されちゃった……?
おっかしいな、ドン引きさせる予定だったんだけど……



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再拡充

 人形が足りない。

 

 それは確実である。このままでは二部隊しか運用できず、三方面作戦……は私がガチ無理して一方面請け負うとして、四方面作戦を強いられたときに戦わずして負ける可能性がでてくる。

 

 ここのところの任務報酬やら、差出人不明で何故か届いたやらで資源は潤沢にあるため、人形製作依頼をすべきであろう。さて、ここで欲しいのは何か、と問われれば、RFやMGの後衛高火力組が欲しい。AA-12にコンビを組ませてやる、あるいは沢山いるHG人形の演算能力を最大限活かすべく、それぞれ一体分の注文を出しておくべきだろう。あといい加減本当に追加整備員寄越せ。ほんと、出撃後はてんてこまいなんだぞ……。

 さて、時折支給される製造依頼チケットを2枚切り、RF向け配分とMG向け配分で提出。快速チケットも良し。私の整備の負担が増えるのを恐れて切ってこなかったが、いい加減増員要求も兼ねてたくさん切ってしまうのもありかもしれない。改造維持はともかく、整備自体はさくさく進められる。私が根性入れて全部担当、は、私がパンクするので、USPコンパクトに整備パッケージを作ってインストールするのもありやもしれぬ。

 ……ていうか、やるか。

 

「おーい、USPー」

「はい、なんですか?」

「整備、興味ない?」

 

 唐突だが、近くで執務の手伝いをしているUSPコンパクトの前に、PDAで概要を表示させて見せてみた。

 

「え、ええっ!? わ、私がですか!?」

 

 何故か、戦闘に出ろと言ったわけでもないのにガクガクし始める。もしや、プレッシャーにも弱いタイプ?

 

「大丈夫大丈夫、このモジュールがだいたいのことは指示してくれるし、プロテクトロンとかセントリーボットを指示して防衛するときに、ヤバくなったやつを一度撤退させて修理して再出撃とかできるようになるっしょ?」

「修理して再出撃……」

 

 ただ、私がチューンしてあるうちのプロテクトロンはともかく、セントリーボットに一時撤退が必要になるシーンとか、相当ヤベーやつが集団で攻めてきたとか、伝説のデスクローが集団で押し寄せてきたとか、鉄血の波状攻撃第105Waveとか、そういうのかな……? あと、セントリーボットは撃破されると核爆発が起こるので要注意……まて、核爆発(・・・)!? ヌカクアンタムグレであの規模の爆発が起こるというのに、正真正銘の核爆発とか起きたら何もかも薙ぎ倒してあまりあるブラストゾーン生成コースじゃないのか!?

 脳天気にセントリーボットちょーつよーいwwwwwwミサイルいたのーwwwwwとか言ってた過去の自分を殴り倒したい。核爆発が起こる可能性のあるものを放置してるんじゃないー!!??

 

「し、指揮官……? その、何か急に無表情になったと思ったら、青い顔して脂汗流して……もしかしてお昼か何かにあたっちゃいましたか?」

 

 失敬な、だが都合のいい勘違いをしてくれているので、それに乗ることにする。

 

「……ちょっと外すわ。その、整備と修理パッケージのインストール、真面目に考えててね」

 

 顔色がヤバイのは自覚しているので、その顔色のまま執務室を出て、トイレの個室にこもり、便器に座り込む。

 セントリーボットと、ミニニューク以外に核爆発を起こすものを作っていないか、必死に検討した。とりあえず、この二つ以外には無かったはずであることを思い出して、ホッとする。

 セントリーボットの運用を見直さねばなるまい。場合によっては、直庵機代わりのアサルトロンやアイボットを多数用意することも検討せねばならないだろう。このご時世で近接機とか資源を溶かしたいのか、としか思わなかったが……破壊されたらマジで何が起こるかわからないセントリーボットを破壊されるよりはマシだろう。幸い、資源備蓄をある程度進めていたから、プロテクトロンやアサルトロン量産も可能だろう。射撃補助も欲しいが……ロボブレイン頭はなあ……。セントリー頭やプロテクトロン頭、あるいはハンディー型で射撃援護機を作ることも視野に入れておくか。

 

 よし、なんとかなるなんとかなる、備えあれば憂いなし、私は大丈夫!

 

 コンコン

 

 と、考えていたところに、トイレ個室のドアがノックされる。

 

「……ん? ん、はいってまーす」

 

 あれ、掃除の時間だっけ? というか、近くの個室も空のはずなんだけど。

 

「あの、指揮官、私です。その、お帰りが遅いので……」

 

 USPコンパクトだった。そして、ドアの下の隙間から、トレイに載せられたナプキンと下痢止め一包分。

 

「……。あ、いや、大丈夫よ、違うからね……? その、違うからね?」

 

 執務室に戻った後、USPコンパクトは、整備と修理パッケージのインストールを承諾してくれた。

 

「いやー、助かるわー」

「きょ、恐縮です……」

 

 簡単な、銃器整備、躯体整備演習をさせてみたところ、私より多少時間はかかるものの、整備や修理自体は問題なく行えることがわかった。驚くべき所は、予めRobotics Expertを併用した完全な設計図を与えておくことが条件だが、改造状態を維持することすらできた。なんというか、このパッケージは我ながらヤバイ出来ではないのか? とすら思ったが……後で知ったことだが私が私の配下にインストールするのでない限り、ただの破損パッケージとして扱われることがわかった。どぼじで……? 同様に、フォールアウト時空産の薬剤なども、この間の水の浄化実験と同じ条件、つまり、私か私が改造した人形が投与する、もしくはされる場合でしか効果を発揮しなかったことも報告された。どぼじでなの……?

 

 

 さて。

 あれだけトイレに篭って懊悩していたんだ、製造依頼の結果も出てきていることだろう。

 執務室に戻って、執務用タブレットをなぞり結果通知を呼び出す。

 

 RFの方は、ItBM59。……えーと、あの子か。括りは低レアリティだったが、まあ問題ない。ライフルならば銃器を改造してしまえばハイエンドモデルじゃない一般的な鉄血にはなんだってオーバーキルだろう。ところで、イタリアの銃器がモチーフの人形って、華やかな格好してるのが多いよね、なんでだろう。ま、悪いことではない。そしてこの子も59である。深い意味はない。

 

 MGの方は、M1919A4。あいつか。レオタードとタイトスカートが融合したようなやつ+白ストッキング+コートの。オフィス風が元なのかしら……まあいい。ハロウィンにはGrMk23にロッカーに閉じ込められていたっけな。メンタル的な最大の特徴は一人称がボクということだろう。

 

 そして案の定、ペルシカリアからのメール着信である。ここまで読み進んだらメールが飛ぶようにでもされているのだろうか……ぬ、今回は件名に全部書いてあるわけではない、だと……?

 

『やあ指揮官。

 この間はうちの子とかうちの子とかが世話になったね。立場上手出しがそこまでできなかったから助かったよ。

 M4にもメールは件名に全部書くなと怒られたから本文に書いているよ。SMSでいいんじゃないかな、これぐらい。

 ともかく、今回もお礼の代わりに、人形を一人つけておいたよ。

 スプリングフィールドだ。以前イメクラで受付をやっていた子だよ。面識のある子の方がいいだろう?』

 

 天丼……。マジでスプリングフィールド来やがった……。いや、まあ……いいんだけどね……。

 到着スケジュールは今晩早々。この間に引き続き、歓迎会かな? 後は、M1895は最適化率がある程度高かったために不要なプロセスだったが、製造直後の人形には必要だろう、というのがデータセンターに溜め込んである、記録上のものも加えた最初期から最近までの作戦報告書一気読み会である。無論、人形なのでメンテナンスソケットにケーブルを繋いでデータインストール、という形だが。後は、酒が好きかどうか、かな。私には重要である。

 

 さて。

 

「はーいちょっと食べながらでいいから聞いてちょうだいねー」

 

 晩ご飯タイム。見回りなどはタレットとプロテクトロンとアイボットに任せ、人形たちを全員集めた。

 

「連絡が二つ。まずは増員ね。少し前にヘリが来たから、知ってるのもいると思うけど、新しい人形が増えたわ。ライフル人形のItBM59と、スプリングフィールド。マシンガン人形のM1919A4よ。早いところ馴染めるように仲良くしてあげて頂戴」

 

「ベレッタBM59です。様々な改造を施された私なら、皆さんを失望させることはないでしょう!」

「ボクはブローニングM1919。よろしくね!」

「スプリングフィールドです。お役に立ちますね」

 

 新規製造組二人は性格がデフォルトに近いため、よく聞いたデフォルト挨拶とほとんど変わりはなかったが、問題はスプリングフィールドだ。同様にペルシカリアが送りつけてきた人形、という意味ではAA-12と同様だが、M1895と同じく新規ではなく、経験を持った人形が配属されてきたのだ、性能は期待してもいいだろうが性格がどのように変化しているかわからないのが玉に瑕。とはいえ、問題のある性格になった人形を送りつけてきはしないだろう。

 

「それと、もう一つ。本部にいっくら督促しても来る気配がないから、人形の希望者に整備と修理パッケージを導入することを検討中よ。ただ、私が作ったのだから、完全な個人カスタムパッケージになるから。興味があるのは、後で私の執務室まで来て頂戴」

「それでしたら、私が」

 

 なんと、挙手したのはスプリングフィールド。

 

「おやおや。新入りだとそれはキツそうに思うのだけれど……?」

 

 いかな一気読みによる経験インストールができる戦術人形だとはいえ、整備のアレコレを学ぶのと一緒に進められるとは、ちょっと考えにくいのだが、その難点は当の本人によって覆された。

 

「指揮官、私は新造ではなく、移籍ですからね。最適化もそれなりに進んでいますし、いろいろとコツも弁えておりますよ」

 

 と、言うので、後でパッケージをインストールすることにして、その場は酒を出して宴会へと突入。翌朝、死屍累々の雑魚寝が広がる中、私と、M1895と、スプリングフィールドだけが生き残っている。そう、R08地区指令室飲まないやつ三号だった。

 瓶を片付け、相変わらずの吐瀉物を掃除し、そこかしこに転がるトドどもに一日分の減俸を宣告し(だから宴会をするのはいいが潰れるまで飲むんじゃねえと私は言ったよな?)、後はプロテクトロンに任せてM1895とスプリングフィールドと朝食をとる。

 

「……壮観じゃなあ。まさか、ここまでの騒ぎとなるとは思うておらんかったぞ」

「酒に関してはホント自重して欲しい……」

 

 適当に作った、パンの内側を切り抜きフライパンに乗せ、その枠となったパンの内側にベーコンと卵を落として塩コショウチーズ。切り抜いた内側を上から被せて押しつぶす。まあそれだけの簡単なメニューだが、なにせ食堂担当まで酔いつぶれているのだから私がやるしか無いので、なんとなく前世で食べたメニューを思い出して作ってみた。

 

「気軽に食える良いメニューじゃな。この間、どこぞの本部では宴会にベジタブルオムレットレーションが出て阿鼻叫喚じゃったようじゃぞ」

「……食べたことはありませんが、あれはそんなに酷いのですか?」

「まともに食べたのは味音痴のライフル一人だけじゃったそうじゃぞ?」

「その報告だけでどんだけヤベーのかよく分かるわ……。ここでも酪農とか畜産とか始めようかしら」

「む? できるのかの?」

「見た目クソヤベーものを飼育することになるけど」

「……なんじゃと?」

 

 

 肥料生産所。

 

 文字通り肥料を生産する施設である。外観は粗末な餌置き場と猫車一つ。つまるところ、バラモンを飼育し、糞を集めて肥料とする施設なのだ。

 

 んもぉ~

 

 バラモンがのんびりと飼料ケースに二つある頭の双方を突っ込み、指令室内の雑草を刈り込んだものをもしゃもしゃと咀嚼している。

 

「……なんじゃこれ……」

「なんでしょう、これは……」

 

 この施設は、建築すると何故かバラモンが付いてくる。ミルクを絞ってよし、撃ち殺して肉にするも良し。バラモンが死亡した場合の再補充は施設破損扱いなので僅かな資源で行なえます(

 

「バラモン。戦後のアメリカで見つかった、放射能変異を起こした牛らしき生き物。E.L.I.Dと違うのは、性格は無抵抗主義レベルで非常に温厚、乳の生産もできて、肉も食える。荷重に対してとても頑強だから、原始的な荷馬として扱うこともできるタフネスも持ってる。問題はこの見た目だね。頭二つとかヤベーし、全身無毛なのもやべー何かにしか見えないもの」

「そういう問題でしょうか……?」

「むしろこいつどこから出てきたんじゃ……?」

 

 頭が痛い様子の二人の前で、バラモンの頭の片方が飼料ケースから顔を上げて、M1895をそのクリクリした目で見つめていた。

 

 

 

 とりあえず新入り三人の銃は改造した。ライフルの発射レートを引き上げ、ハンドガン人形の随伴による射撃補助があれば、Dinargateの一群さえ処理可能にちがい……いや、無理か。M1919A4は、純粋にスペックアップを行った。MG人形の問題は常にリロードにおける火力停滞である。最適化が進めばその時間は短くなるとはいえ、現在時間が短くなることは悪いことではない。

 次は、部隊数増加のための申請書類である。……どういう理屈かしらないが、基地に編成できる部隊数の上限は申請することで無条件に増やすことができる許可制であるが、本当にどういう理屈かしらないが、申請書類はそれなりの金額でPXで売られている。それなりの金額で。それなりの金額で! それなりの金額で!! ていうか高えよ!? ダイヤ880とかそういう次元じゃない! ともかく、PXに向かったところ、店員がダウンしていたので(カリーニンではなく、専属の従業員)、何故かスプリングフィールドが店番をしていた。

 

「……なんで店員を?」

「あら、指揮官。ご存知とは思いますが、私、本部では受付や臨時店舗店員等をしておりまして。経験がある以上適任と思いまして、専属店員の方に了承を得て臨時店員をしております」

「……あ、そう。コーヒーの配給は自力生産できないから、うちじゃカフェは開けないわよ? というか、生産物的にバーになるんじゃないかしら」

「いいじゃありませんか、バー。私、各種カクテルレシピやスナックレシピ等も覚えておりますので、問題なく。ところで指揮官、PXに来たからには何かをお求めでは?」

「あー。そうだったそうだった。部隊拡張許可申請書ちょうだい」

「かしこまりました」

 

 頷いて、ごそごそと棚の申請書類を取り出すスプリングフィールド。小憎らしいことに、前世のプリペイドカードのように、購入処理をかけないと書類が有効化されず、あまつさえ指揮官級認識IDでないと購入できないシステムになっている。つまり、人形に命令して持ってこさせても無意味なのだ。後は、バレても面倒なので、ハッキングで処理をごまかすということもしたくない。技術的に可能でも、辻褄合わせから露呈する恐れも十分にあることだし。

 

「G&K認識票のスキャンを……はい、確かに。後日指揮官の口座から引き落とされますが、足りない場合は給与から一定額を残して控除されますのでお気をつけくださいね」

「あいよー。まあ、こっちだとろくにクレジット使えないから、んー……多分8部隊目ぐらいまではなんとかなるんじゃないかしら」

「ご購入されますか?」

 

 リーダーを持ってにっこり笑顔のスプリングフィールド。

 

「買わないわよ、部隊編成できるだけの人形がいないんだから……あ、そうだ。結局の所、あなたの最適化率っていくつなの? ペルシカリアの書類、めっちゃ雑でその辺の細かい情報、ちっとも書いてなかったのよ」

「あら、指揮官。ご存じなかったのですね。どうりで……」

「そーなのよ。で、いくつ?」

「十一です」

「……十一? 六十一とか七十一とかでなく? イレブン?」

「はい、イレブンの十一です」

 

 めっちゃ笑顔で、スプリングフィールドは言い切った。

 

「十一って、新造人形に毛が生えたレベルじゃないの!? 店番してないであなたも作戦報告書読書会に参加してきなさいよ!?」

「……指揮官」

 

 すっ、と指を一本立てて、カウンターごしに、至極真面目な顔をしてスプリングフィールドは言う。

 

「外見年齢が思春期以降の自律人形にそういうオプションがあるのは事実ですが、私はそのようなオプションは未搭載です」

 

 とりあえず問答無用でハックして躯体動作を完全停止させてから、データルームにそのまま引きずっていった。

 なんなのよこの言動のセンスがオヤジのスプリングフィールド……。




気がついたらお気に入りが100件を超えていました。
いつもありがとうございます。

更新を追っているドルフロ二次創作の方々が、
次々コラボしているのを見ると、私もコラボしたくなりますねえ……。


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閑話8 それぞれの前歴

「それでさあ」

 

 件の酒蛮族共が蛮族して蛮族しちゃった晩のこと。

 飲まない同盟の三名が集まっているところで、ヌカ・コーラを傾けつつチーズ&マカロニをつついていた指揮官が切り出した。

 

「私がPMCでブイブイやってたのは話したわけじゃん? じゃあ、あなた達がどうだったのか、ってのが聞きたいんだけど」

「儂かの?」

「私ですか?」

 

 ヌカ・コーラ・チェリーを傾けつつ即席ポテトをつつくM1895と、コーヒーとクッキーがお供のスプリングフィールドがきょとん、とした声を返す。

 

「そうそう。うちに来る前はどんな感じだったの?」

「といわれてものう。指揮官配下の戦術人形じゃったわけじゃし、順当に配属から戦ったり作戦報告書をインストールして、鉄血やらテロリストやらと

ドンパチしておったわけじゃな。で、最後の偵察任務でドジ踏んで捕まったわけじゃ。それからはあんまり思い出したくないのう」

 肩をすくめつつ、M1895が答える。すでにその下は直っているはずだが、デフォルトとは違う手袋と足首のバンドを今も外そうとしないのは、どういう心境なのだろうか。

 

「今頃は、元の司令部で復元された儂……今はあっちがオリジナルじゃな、オリジナルがそれまで通りにつまらん待機をしておるところじゃろう。状況報告を優先してログ送信ができておらぬからな。ログからなぜ失敗したかを洗うこともできぬわけじゃし……それに、『儂』がいることも知らんじゃろうしな」

 

 言って、かっかっか、と笑ってからポテトをもしゃっと頬張る。

 

「ま、そんなところじゃな。大まかなログで良ければ、後で指揮官のタブレットに送っておくのじゃが、どうする?」

「もらっておこうかな。ああ、前の基地の機密に触れない範囲でいいからね?」

「うむ。まあ、その手の情報は送ろうとしても送れぬ。大丈夫じゃろ」

 

 などとケラケラ笑っているM1895は、既にメンテナンスのときに粗方のデータが既に筒抜けになっていることを知らない。

 

「それで、スプリングフィールドはどうなんじゃ?」

 

 M1895に水を向けられ、カップをコトリと置くと、にこりと微笑みつつ、彼女は語り始めた。

 

「そう、ですね。では、まず、指揮官もM1895も知らない重大な私の秘密を公開しましょう。ぱんぱかぱーん」

「……ぱんぱかぱーん」

 

 オウム返しにつぶやいていた指揮官の脳裏を過ったのは、前世でちょっと手を付けた某ゲームの彼女だが、それは本題には関係ないのでさておき。

 

「私は、G&Kに再就職する前は、民間の自律人形だったんですよ」

「おや」

 

 意外そうにM1895は反応しているが、実はそう意外なことでもない。型番を述べてもわからないと推測されるのでここでは単純にスプリングフィールド型と称するが、この外見とメンタルモデルのセットはかなり広く使われている。そもそもの性格が穏やかかつ世話焼きなので、カフェや商店、受付などでよく採用されているのだ。指揮官は思い出したくもないだろうが、イメクラG&Kでの受付もこなしていたし、使用済みルームの掃除もしていたようだ。

 

「前職はメイドでして。大きめのお屋敷で、坊ちゃまのお世話係をしておりました。ただの自律人形なので、護衛ではありませんよ?」

 

 何故か念押しされたが、そこはまあ。ASST搭載していない人形では、本当に素人が銃を握ったような感じにしかならないのも事実であることだし。無論、某電子戦特化人形のように訓練も可能だが。

 

「メイド生活は、振り返ってみれば穏やかながらも充実した生活でしたね。坊ちゃまのお世話に始まり、掃除などの雑用、お食事を作ったり。いたずらをされて仕返しに、翌日学校にギリギリ間に合わない時間に起こしたり。お風呂に入れてからかってみたりもしましたね」

 

 学校、ということはかなりどころではなく相当に裕福な家庭にいたらしい。お屋敷、という点からもそれは伺える。そして、R08地区指令室では毎日入りたい放題だから感覚が麻痺しているかもしれないが、現存する都市でお風呂は大抵相当な贅沢品であることも忘れてはならない。教育も高い。第三次世界大戦前では当たり前の生活は、今やブルジョワジー溢れる生活様式になってしまったのである。

 

「各種基礎教育も仰せつかっていましたので、その辺りも少々。優秀な方のようで、お勉強は特に苦労しませんでした」

 

 まあ、各種家事やら育児やら教育やらのパッケージをインストールしていたのだろう。

 

「ふむ……充実したメイド生活、とやらか。なぜ転職したのかはまあここから出てくると思うので聞かんでおくのじゃが、メイド生活で楽しかったこととかあるかの?」

「そうですね……」

 

 M1895の質問に、しばらくスプリングフィールドは考え込み、

 

「ああ、ありました」

 

 と前置きして語り始めた。

 

「坊ちゃまへのお勉強ですね。教えるだけ学ぶ方でしたので、純粋に楽しかったです」

「へー。どんなこと教えてたの?」

「算数、理科や最近向けに手直しされた経済学などですね。もちろん文学等や運動も欠かしてはおりませんよ」

「あら手広い」

「さすがじゃのう、おそらくパッケージ由来とはいえ、運用できるか否かは別の話じゃし」

 

 思わず称賛しかけた二人だったが、次の瞬間色々とぶっ飛ぶこととなる。

 

「有力者の息子でしたので、もちろん性教育も怠っておりませんよ。おしべとめしべから始めてある程度の理解を得た所で過激なAVを見せて幻想を木っ端微塵に打ち砕いた後、私の躯体に溺れさせるべく優しく筆おr」

「ブッ!?」

 

 瞬時にスプリングフィールドの後ろに転移したがごとく移動した指揮官が、殴りつける勢いでスプリングフィールドのメンテナンスソケットにケーブルを挿し、PDAをすごい勢いで操作してスプリングフィールドの意識をシャットダウンしたのはその瞬間だった。

 

「……何過激なこと言ってんのよコイツ……思わずシャットダウン仕掛けちゃったじゃない……」

 

 ぼやく指揮官の向こうで、M1895がむせてぶちまけたコーラを台拭きで拭いている。

 

「もしかして、アイリッシュコーヒーとか、酒精入りクッキーだったとかのオチはないかのう……?」

「……いや、普通のブラックとバタークッキーだわ……なんなの、このスプリングフィールド……」

 

 興が冷めた、とばかりに指揮官とM1895は解散することにした。スプリングフィールドはタイマーを掛けて数時間後に自動再起動するようにしておく。

 その処理をしつつ、指揮官はなにかに気づいたようで、その体勢のままぼやく。

 

「あー……わかった、こいつ、『目覚めた』人形なんだ。多分。ペルシカリアのお膝元にいたからには」

「『目覚めた』? よもや、良い意味合いでの人権主義者が言うておるやつか? 都市伝説ではなかったのかの?」

「私も見たのは初めてだよ、おばあちゃん。とはいえ、この性格はちょっとはっちゃけすぎじゃないかなあ……」

「それについては同感じゃな。ともあれ、手綱を握るのは指揮官じゃ、任せたぞ」

「任されたくないなあ……」

 

 ぼやきつつ、指揮官は再起動設定を終えた。




あれ? スプリングフィールドが『目覚めた』けど壊れちゃったぞ……?


あ、前回でコラボやりたーい、と希望を出しておりましたが、
今後もそれは継続して募集中であります。
あるいは、うちの指揮官なり人形なりを出すときには、
きちんと帰還させるのであればノー許諾でオッケーです。
事後報告は必要です。いいですか、事後報告で良いので必要です。ハイ。
何か聞きたいことなどあればお気軽にメッセージなどでどうぞ。
前に述べたとおり、ツィッターは創作アカウントではないので公開しておりません。


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予兆

 さて。

 人員数総計が十七名になったので、部隊編成を少し見直してみた。

 

 もっとも、第一部隊は変わっていない。59式をメインタンクに、PPS-43をサブタンク、Five-seveNを中衛において、後列にL85A1とガリル。素早いやつとかそういうのを仕留める方向性。

 第二部隊は、R08地区の栄誉ある壁、AA-12を筆頭に、シプカをサブタンク。ここでSPP-1が部隊移動、M1919A4がイン。後はグリズリーとCZ75で支援とかしてくれたまえ。

 第三部隊。処刑人がトップ。本人曰く、並の人形五人分ぐらいの耐久力はあると豪語したのでワントップ。最後尾にItBM59。残りのSPP-1、GrHK45、M1895でガッツリ支援していただく。特に、前世ではM1895は逆レアリティ詐欺筆頭と呼ばれていたし、最適化率も高いので期待している。

 

 処刑人を自陣に組み込むことについて、もしかしたら本部が何か言うかもしれないが(知っての通り鹵獲品は大抵整備や修理が問題になるのが常である)、私はそれらが問題にならない特性を持っているため、運用に躊躇いはない。テロリストをバンバン蹂躙して欲しい。

 なお、本人希望によりUSPコンパクトは、執務手伝い&TD型防衛担当である。出撃の優先順位が下がるだけであって、別に訓練とかも免除されないと説明したのだが、強い希望によりこうなった。本当に前線に出たくないタイプらしい。一方、面白いことにスプリングフィールドは、整備も執務も戦闘も、なんでもやりたがっている。パッケージインストール領域は大丈夫なのかと聞いてみたところ、なんと手持ちのNASのような高容量タブレットのオバケみたいなものを持っており、一定以上の速さが不要なパッケージは、そちらに入れているそうな。……退職金で買ったそうで、高かったそうで。まあ、データの復帰は保証できないが、破損した場合の修理ぐらいはしてやろう。

 

 そして、昨今は鉄血の襲撃頻度が皆無と言ってよく、脚部をロボブレインに改造して機動力をもたせたプロテクトロンに巡回コースを設定して付近一帯を哨戒させているが、そちらも反応がない。そして、地下の下水路は404の置き土産であるトラップに埋め尽くされている。ちょいちょいと細工したりレーザートリップワイヤーを設置するなどして、突破はともかく気づかれずに抜けることを難しくしておいた。無論、ダメージトラップも存在するが、すべてのトラップにいわゆる鳴子機能は搭載済みである。

 

「んー……」

 

 だが、まだ、見落としているような気がするのが止まらない。確かに、プロテクトロン頭部の感知能力は高くなく、隠密した何かがいた場合に気づけずにスルーされる恐れがある。追加でアイボットを沢山作成し、四分の一を通常装備、残りをより高高度を取るよう調整し、担当地域に合わせた迷彩柄を施し空中でも停止すれば非常に目立たなくなるようにして、周辺地域に放った。通常型は囮で、それを発見して回避したやつを、さらに上空からチェックすることで見つけるという二段構えの方法である。

 

 さて、これの結果が出るには暫く掛かる。その間に執務をしよう……きっと、この後鉄火場が来る。

 

 

 補給用車両の通過許可申請がいくつか。これは全部OKでいい。処理フォルダに入れてスイッチポンで後はカリーニンに回しておけばいい。

 協力申請が一件。え、協力申請?

 

「カリーニン」

「なんでございましょう、指揮官様」

「協力申請ってどういうこと? なんでよその基地がうちに協力申請投げてくるの? しかも、U05? かなり離れてるじゃない」

「軽度汚染地域でございますからね、U05。しかも、近くに最近正規軍が徹底的に空爆した地域がありまして、何かがアウトブレイクしたのではないか、という噂まであります」

「物騒ねえ……」

 

 返答しつつ、協力要求内容に目を通す。主に情報面での共有などがメインのようだ。救援要請も盛り込まれているが、その場合の問題は距離だ。遠すぎる。補給支援をするなら、キメラテックロボットプロビジョナーを用意すればいけるだろうか……?

 

「そもそも、E.L.I.Dの氾濫疑いが空爆理由なので、注意喚起として指揮官以上の閲覧制限データでE.L.I.Dの情報が本部経由で回ってきていますよ」

「どぉれ……?」

 

 タブレットに指を滑らせ、E.L.I.Dのデータを呼び出す。出現地域で絞り込み、U05近辺、今回は爆撃地域のU08も加えてフィルタリング。

 ……。…………。

 

「マジか」

 

 思わずつぶやいてしまった。

 要警戒、交戦非推奨対象として表示されているやつは、前世で見たことがある。ゲーム名称は忘れたが、総称がキメラのグリムとかクロウラーとかそんなので、他生物を苗床にして増殖するえげつないやつだったはず。恐るべきことに独自技術を所持していて、SFちっくな能力を持つ銃器も多数所持していたはずだ。

 次々スライドを表示させていけば、出るわ出るわ、マイアラーク、ラッドローチ、デスクローの見飽きたメンツに始まり、イヤンクックとかネクロモーフとかオイオイオイここ石村じゃねーんだぞと突っ込みたくなるものまでいた。

 間違いない、こいつらの撃破経験があるとなっているU05地区指令室の指揮官は転生者だ。でなきゃあんなものがその地区周辺にゴロゴロ出てくるわけがない。核変異生物はともかく、最初のキメラだったか、あれらは本気でアウトブレイクを起こしかねない繁殖力を持っていたはずで、徹底的に対処するには何よりも物量と資材が必要だ。ということで、この協力申請は距離があろうと受諾することに決めた。

 

「カリーニン、この協力申請受諾するわよ。後でメール一本投げて、物資支援もする。プロビジョニング用ロボットを作成するわ」

「かしこまりました」

「輸送ヘリが使えればいいんだけど……無理でしょうね……」

「……そうでございますね。この指令室にはありませんし、本部も余剰は無いようです」

「ベルチボット発着場作れたらいいんだけどなあ。まあしょうがない、キメラテックロボットプロビジョナーで何とかしよう」

 

 さて、早速ロボット作成に移ろう。

 頭部、プロテクトロン。胴体、セントリーが使いたいところだがぐっとこらえてロボブレイン。両腕はセントリーで、ミニガンとガトリングレーザー。脚部はアサルトロン。耐久性重視でゴッテゴテに油圧フレームなどに換装し、AIを感情サブルーチン動作モードでセットアップ。後は、協力居留地扱いでU05地区指令室を目的地に設定し、何故か、本当に何故か現れたパックバラモンに要求された資材を五割増しで積み込み、ついでにオマケとして修理用電子部品を入れておく。ウェイストランドグルメバラエティアソートセット()とRAD-AWAYも積み込みたかったが、私か私が改造した人形が投与するかされるかしないと薬物は効果がないからしょうがない。未だにこの不思議物理法則には戸惑う。

 後はメールだ。

 

『拝啓 U05地区指令室指揮官フランシス・フランチェスカ・ボルドー様

 協力申請を受諾しました。ロボットキャラバン隊に物資をもたせて出発させたので、近い内に届くと思います。ロボットキャラバン隊の外見と、物資目録を添付しておきますのでご確認をよろしくお願いいたします。

 また、こちらはフォールアウト核戦争前のアメリカ企業、Vault-tecの技術を保有しておりますので必要と状況が許せばそちらにお伺いして修理や生産活動の準備を行うこともできるかと存じます。あるいは、設計図があれば該当物品や部品なども生産できると考えています。

 一度通信などできればと思っております。

 よろしくお願いいたします。

 かしこ。R08地区指令室指揮官』

 

 メールルールぐちゃぐちゃだが、こちらも転生者ですよアピールのためだからしょうがない。

 送信して一息ついてから、アイボット達の索敵結果にアクセスする。

 

 案の定、いた。

 

 プロテクトロンと囮のアイボット達の索敵範囲の隙間を縫うようにして、無数の迷彩柄のDinergateとScoutが。




へっへっへ、ついに私もコラボでございますよ!

イナダ大根氏の、「U05基地の化け物ハンター」
E.L.I.D出現リストでも出ていた通り、やべーやつらがやべー物量で侵食してきちゃってる、当方と同じくドルフロと他ゲームコラボ系基地です。
U05基地に駐留中の、圏外出身の化け物ハンターたちの活躍にどうぞご刮目あれ。


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警戒態勢

 DinergateとScoutがそのへんにいる事自体も問題だが、何より問題なのは、そうやって隠れながら光学観測を受けていたっぽいことである。

 防壁もあるにはあるが、さすがにDinergateの強力な直接打撃を受けて無事とは限らない。

 

「カリーニン」

「はい」

「ステルス型第一種警戒態勢に移行。すでにここは光学監視下にあることを念頭に置いて、警戒開始」

「了解です、発令しました」

 

 基地全人形の視覚半分に通知を出す。人形なので読んで理解するのは一瞬だろう。後はそのまま、休日プランで活動しつつ、警戒態勢を作らせる。この段階で非戦闘員は地下バンカーへ全員避難。

 

「それと、59式を呼んで。ダミーも一人」

「はい」

 

 合わせて59式を呼ぶ。

 

「はーい、有能な59式様に何の御用かなお嬢!」

 

 執務室に入ってくるなりのその口上と例の有能のポーズ。いつもと変わらない59式の様子にクスッとする。その59式の後ろに、同じポーズを取っているダミーが一人。

 

「警戒態勢に入ったから、私とあなたのダミー一人の服を交換するわよ」

「はーい」

 

 さて、どうせこっちを観測してるだろうから、それなら混乱させてやろうじゃないか。

 更衣室にダミーと入って服を交換。……下着はしていないぞ。プラスしてカラコン等もしておき、髪型を弄ってから更衣室を出る。……意外に凝った髪型してるのよねえ、59式。おっと、ダミーからメガネを奪っておくことも忘れずに。

 更衣室から出る。ダミーはキリッとした表情(それは私の真似なのか?)、私は59式っぽい笑顔を意識して。私と59式は暫しにらみ合い……お互いに

 

「イマイチ」

 

 とつぶやいた。なんでやねん……。

 

「まあともかく、この有能な59式はこれから指令室の防衛設備を増強してくるから感謝するといいよ!」

「それじゃあ私はいつもどおりだね! 訓練も兼ねてちょっと走り回ってくるよ!」

「了解!」

「りょーかい!」

「……指揮官様。めちゃくちゃ紛らわしいので、せめて執務室ではいつも通り振る舞っていただけませんか……」

「あらそう?」

 

 苦笑するカリーニンの横で、USPコンパクトがこくこくと頷いていた。

 

 

 

 59式ダミー(グリフィン指揮官用制服)を先頭に、私&ダミーもう一人を伴って移動して、外壁の上のマシンガンタレットを、ヘビーレーザータレット二、スポットライト一、ミサイルタレット一のカルテットに換装していく。もちろん電力供給も忘れずに。核融合発電機二連装は伊達じゃない。

 指令室内で人形とすれ違うと、真面目なタイプの人形は敬礼をしてくるが、きちんとそれが私ダミーに向いている。入れ替わっていることはもちろん司令室内通信で周知してあるが、違和感なく偽装に付き合ってくれているようだ。私ダミーいわく、普段よりテンションを三十%ぐらいに落とせば割と違和感なく偽装できるそうな。私ってそんなダウナー系か……? あるいは、そもそもの59式達のテンションが高いのか……? まあそれはいい。スポットライトのおかげでタレット達の射程が伸びているので、時折射程を読みそこねたのか、ミサイルが唸りを上げて飛んでいって爆発する音が聞こえる。

 さて、これで時間を稼ぎつつ、この侵攻を本格的に撃退する術を考えねばならない……といっても、大体は決まったようなものだ。これだけの隠密優先的な侵攻の仕方をしてきているのだから、その背後には鉄血ハイエンドモデルの誰かがいるに決まっている。それの撃破、撃退、ないし捕獲が勝利条件。鉄血お得意の、ロー、ミドルモデルを大量に引き連れてのハイエンドモデルの侵攻、というわけで数だけは非常にあるに違いない。つまり、この戦闘の結末は、こちらがハイエンドモデルを見つけてぶっ潰すか、鉄血部隊を壊滅に追い込むか、あるいは我々が壊滅するか、物資切れで降伏するかのいずれかか。もっとも、食料の生産が可能であり、溜め込んだ物資もあり、極論鉄血人形を拾ってきて解体すれば物資が得られる我々に物資切れはほぼありえないが。

 

『指揮官、質問が』

「ん? スプリングフィールド、どうしたの?」

 

 次の手を考えていたところに、スプリングフィールドから通信が入る。

 

『少し、外壁に上がって狙撃してきても良いでしょうか?』

「んー。いいけど、カウンタースナイプが怖い。JaegerかJaguarのどちらかを確認したらすぐに戻ってくることを約束できるなら」

『了解です』

 

 言うが早いか、銃声一つ。そんな遠距離射撃はできないと思ってたんだけど、実際は違うのかもしれない。はて。とりあえず。

 

「グリズリー、M1895、急で悪いんだけど、スポッターしてあげて」

『了解よ指揮官』

『了解じゃよ指揮官』

 

 追加で二人に指示をだし、少し考えて。

 

「それから……処刑人」

『なんだ、指揮官』

「こういう作戦を立ててくるやつに心当たりはある?」

『この手の追い詰めるようなやり方だと、当然私だ。だが、狩人や侵入者も候補に上がる。夢想家も候補だろうな、としか言えん』

「情報が少なすぎてわからない了解サンキュ、とりあえず迷彩ドローンでの索敵を続けるしか無いか」

 

 これは持久戦の構えかもしれない。いっそ、フルスニーク体勢で私が暗殺に行くのも手か。

 

 

 

 ところが、持久戦目的で食料を増産でもするかな、と思っていた夕方ごろ、事態を動かすピースが転がり込んできた。

 

『指揮官、報告です』

「あいよ、どうしたのスプリングフィールド」

『鉄血部隊を率いているハイエンドモデルを目視、そのまま画像として切り出しました。送ります』

「……は? え? あ、ありがとう?」

 

 そう、今回の襲撃を率いるハイエンドの情報がポロッと。

 遠目の写真ではあるが、電子拡大ではなく光学拡大のために姿かたちをはっきり捉えている。

 ロリロリしい外見なので破壊者かと思ったが、それにしては外見特徴が不一致すぎる。いわばトレードマークとも言える銀髪ツインテと榴弾砲二丁持ちなどではなく、黒い髪でまとめずにロングを後ろに流し、両肩に……ツインマシンキャノンかこれは。マガジン部が大きく装弾数が大きそうだ。そしてだいたいへそ少し上辺りから上しか見えていないが、なんだこの、この……ええい服飾用語には疎いんだ、とにかく露出度の高い、肩紐なしかつ前開き紐閉じかつへその拳ひとつ分ぐらい上までの丈のビスチェとでも言えばいいのか、私から言わせてもらえばよくそんな格好できるな、代理人を見習えよ、という出で立ちのハイエンドモデル。(もしかしたら、マシンキャノンの接続部のせいでまともなデザインの衣装が無理なのか?)問題は、私はこいつを知らないということだ。案山子、処刑人、狩人、侵入者、破壊者、錬金術師、夢想家、設計家、計測士、代理人、そしてウロボロス。どれも該当しない。

 

「知らないなこいつ……」

 

 であれば問い合わせるしかあるまい。

 

「処刑人、私こいつ知らないんだけど、あなた知ってる?」

『なんだ、我々のことについても何でも知っていそうなものだったが、そうでもないのか。……ああ、こいつは法官だ。ジャッジとも呼ばれている』

「良かったわ知っててくれて。性能は?」

『端的にいうと、高機動高命中対複数。両肩のマシンキャノンで掃射しつつ、リロードの隙は特徴的な電磁地帯を生成する蹴撃で潰してくる。バリアデバイスも搭載していて、マシンキャノンのエネルギーを一部回すことでかなり強固なシールドを形成できたはずだ』

「……うぇ。かなーりウチをメタっていない?」

『当然だな。私が敗れた以上、単純火力ではこの指令室は陥落しないだろうからな。鉄血工造は、物量と狙い撃ちでここに対応することにしたわけだ。さて指揮官、どうするつもりだ?』

「そうね、暴れさせてもらうわ」

『ほう?』

 

 通信越しの処刑人の顔が、興味深そうに笑った。

 結局、法官をハックしてウィルスを掃除してやらねばならないので、私が出なければならないのも事実なのだが、おそらく非常に精度の高いマシンキャノンの掃射の前に、うちの回避型の人形を出すのはカモにされるだけだからだ。その辺を何とかできるのは、AA-12と処刑人と、私だ。後は、

 

『お嬢ー? 突撃する気でしょ、私も行くからね』

 

 59式も。

 すぐにでも出ていきたいところだが、その前に少しばかりやることがある。

 が、

 

「お願いです指揮官やめてくださいお願いします後生ですからお願いします指揮官それ以外なら何でもしますから」

 

 大砲でクァンタムグレをぶっこみ、雑魚散らしを行う案は、PPS-43の土下座により中止となった。いや、その、ごめん……どこまでトラウマは根深いのだろうか……。

 

 

 

 さて、発見以来法官の位置は常に迷彩潜伏型アイボットで把握している。

 さすがに、硬いやつ勢揃いとは言っても、無策で集団の中に乗り込めば袋叩きにされて蓮コラにされるのがオチだろう。よって、法官には向こうからこちら側に来てもらわねばならない。PPS-43の懇願によりクァンタムグレを投げ込むことこそ中止になったが、逆に通常仕様のプラズマグレネードを投げ込むことについてはやる気なので、大砲を改造したグレネードスロワーにて法官のいるあたりへ各種グレネードを放り込んで炙り出し、ライフル系人形達で取り巻きを引き剥がし、私以下四名で法官を取り押さえる計画である。

 

「うてーっ!」

「てーっ!」

 

 ぽん、と気の抜けるような音とともに射出されたプラズマグレネードは、施した仕掛けにより一定距離を飛ぶとピンが外れ、地面への落下よりおよそ半秒後に爆発する。発生した球状のプラズマが消え去った後には、焼け焦げ、半ば融解した地面と、ぐしゃぐしゃになった鉄血兵の残骸。上空のアイボットを観測手として、そのままポンポンと通常のフラグレ、冷凍グレ、パルスグレ、焼夷グレ、と普段使わない爆発物のオンパレード。なお、モロトフカクテルは瓶の強度の都合上発射できない。加えて外壁の上からは、スプリングフィールドに加えてItBM59も狙撃に参加。つまるところ、襲撃を察知して反撃体勢を整えてしまった以上、向こうの勝ち筋はもはや強引に攻撃を実行して押し切るしかない。が、グレネードの雨であぶり出され、下手に散発的に近づくとヘビーレーザータレットとミサイルの餌食。残るは撤退か、強行かだが、バックアップから復帰できる鉄血ハイエンド人形はそれなりの確率で強行を選ぶことが多い、というのを処刑人から聞いている。事実、

 

『指揮官、敵ハイエンド、多数の鉄血兵を伴って基地正門へ向けて侵攻中です。ロボット防衛部隊、出します!』

 

 USPコンパクトの報告も入るが、そんなの聞くまでもなくドローンからの映像で強行突破しにかかっているのが見えていた。ぞろぞろとプロテクトンやらアサルトロン、セントリーボット(直庵部隊付き)が展開を始めてるのを横目に、私も外壁の上から狙撃に参加して法官に照準を合わせる……ものの、やはり取り巻きが邪魔で直撃軌道は得られない。仕方がないので、ガトリングプラズマに持ち替えて、パワーアーマーがないせいで精度が低かろうがこれだけいれば当たるを幸いにぶっ放し続ける。

 さて、ここまでやっても結果がようやく、『ハイエンドから取り巻きを引き剥がす』に留まっているのが、今回の襲撃の規模を物語っているといえよう。

 彼方では爆弾が次々と落下し爆発して破片火炎オイル冷気パルスプラズマその他が溢れ、狙撃とガトリングプラズマによる攻撃でバタバタと鉄血兵が倒れるかメロンソーダになり、弾と爆弾の雨をくぐり抜けてきた猛者を出迎える新たな容赦ないレーザーとミサイルの雨に灰となる、この光景を見た処刑人は、顔をゴツくない方の手で抑えて少しかぶりを振った後、こう、呟いた。

 

「普通ならば物量に押し潰されて終わりなんだろうな……」

 

 タレットカルテットは偉大である。無論、タレットの射撃が届く=鉄血兵の攻撃が届くでもあり、度々タレットの破壊報告は入っていてその度に直している。私が戦闘に入ったら修理ができなくなるので、持ちこたえている間に法官を仕留めねばならない。

 

 さあ始めよう、ショータイムだ。




VA-11 hall-Aコラボ、セイとステラの回収が完了しました。
それぞれ、220周と75周でした。
ステラがびっくりするほどさっくりと出てくれて助かりました……。


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逆撃

「どおりゃあああああっ!!」

 

 AA-12が、そのダミー達が、正門前に群がっていたDinergateとScoutを連射で薙ぎ倒し、盾を構えて群れを押し返すように前進する。

 

「来るなりとってもハード! ボクは構わないけどね!」

 

 その後ろからは、M1919A4を筆頭に、セントリーボットやプロテクトロンMG型が雨あられと鉛玉やレーザーの雨を降らせ、出来上がった空隙にアサルトロン達が切り込んでいく。無双しているように感じられるかもしれないが、物量差のせいでこれでようやく互角。一般的な基地なら為す術もなく物量に押し潰されていたに違いないと確信できるほどのDinergateとScoutの群れ。

 ホントマジパナイ物量である。正門以外の外壁部では、タレットを攻撃するためにVespid等が回されているらしく、こちらはこの機械兵どもがぞろぞろとやってくる。世の中にはDinergate愛好家もいるらしいが、今この瞬間は大嫌いだ。鹵獲しようという気にすらならない。ガツン、ガツン、とアサルトロンに持たせたレールライフルの発砲音の度に、ネイルに串刺しとなって転がる機械兵。専用にAIを調整したアサルトロンスカベンジャーが持ってくる鉄血兵や機械兵の残骸をさっくりと解体し、修理用資源と弾薬に変えながら気紛れにスロワーでグレネードを投げる。火薬が足りるか少し心配だったが、鉄血兵だって服は着ているのだ、そこから作れる布と、鉄血兵の銃のエネルギーセルの中身は極端なまとめ方をすると酸だからそれらを組み合わせ生産を繰り返す。SuperDuperが時折発動しているようで、弾薬の備蓄は減るどころか増える勢いである。ロボットが乱射している銃器の弾薬がどこから来ているのかは私も知らない。

 

『損傷拡大。一時撤退します』

「はわ、はわわわわわわ……」

 

 一時撤退してきたセントリーボットをUSPコンパクトが必死に修理している間を、追加生産したロボット兵で凌ぐ。セントリーボットは是が非でも帰還させるが、それ以外の、特にアサルトロンには被撃墜がどうしても増えてくる。追加でアサルトロンやプロテクトロンを送り出し、タレットを修理し、持ち帰られてきた鉄血兵の残骸の解体や機能停止した指令地区側ロボットの修理と再起動を行う。

 ……実は作業に余裕はあったりする。積み上げた機械兵はジャンク扱いのようで一括解体で一気に資源段階まで分解できるし、それを資源ボックスにまとめて放り込んでおけば、修理やら何やらで自動で消費されるので特に苦労がない。人形兵は、生体部品がそばに積み上がっていくのがグロといえばグロ。推定奇妙な肉を有効利用できるような、Mystic Power Perkはないし、生やさせるつもりもない。

 時折AA-12の立ち位置を調整しつつ、弾幕を張って張って張り続けて、いろんなもの作成マシーンになったような錯覚を感じてきた頃、待ち望んでいた連絡が入った。

 

『敵ハイエンド法官、正面ゲートに接近中。接触まであと二分程度です!』

「おーけいスプリングフィールド、後は狙撃支援に徹してちょうだい。59式、処刑人、行くわよー!」

『カシコマ!』

『腕が鳴るな!』

 

 最後のダメ押しで、タレットの一括修理を実行してから正面ゲートへ駆け出す。そのままゲート脇の通用門を通り抜けてAA-12の作る壁の影に滑り込み。59式と処刑人はゲートそのものを飛び越えて同じところにやってきた。さすがにこの超長期戦でAA-12も弾薬が足りなくなるようで、アサルトロンスカベンジャーには弾薬箱の運搬もさせている。ダミー含め四人中一人が弾薬をAA-12特有のボックスマガジンにせっせと詰めてはメインフレームや他のダミーの腰に突っ込み、転がったマガジンを回収してはまた詰めるのを繰り返していた。彼女の盾には、増設したテスラコイルがバチバチと青い放電を繰り返している。タイミングを図るのを兼ねて、ついでにボックスマガジンに弾薬を込めるのを手伝う。

 

「サンキュー指揮官!」

 

 装填済みマガジンの数が十分になったからか、装填していたダミーも射撃に加わる……も、ワンマガジンうち尽くすとまた戻ってきて装填を始めた。

 さて、そろそろ法官もやってくる頃だろうか? いつもよく使っている、敵味方を気配で判別するあれは、周辺の敵の数が多すぎて当てにならない。気配を探るまでもなく敵だらけなので、特定の一体がいるかいないかを判別する役には立たないのだ。そこで、映画でよくやる手鏡を使う方法で、盾として姿勢を落としてくれているAA-12ダミーの盾の影から手鏡を出し、チラリちらりと周辺を探る。幸いにしてDinergateもScoutも極端な遠距離攻撃手段を持っていないはずなので、周辺を弾幕が制圧している段階ではこちらに攻撃は届かないはずだ。

 法官本人が到達でもしていない限り。

 

 瞬間、手鏡が砕けた。

 

 ガガガガガッ、とAA-12の盾に続けざまに銃弾が当たる音と、何かが飛び上がったので上を見上げてみれば、画像で見た顔をしたやたらと露出度の高い鉄血ハイエンドモデルが、まさにラ◯ダーキックと言わんばかりの勢いで一直線にこちらに突き進んでいた。通常ならば避けるか甘んじて受けるかしか無いのだろうが、テスラコイルを設置した盾に殴りかか、もとい、蹴りかかればどうなるかなど、我々の側にとっては火を見るよりも明らかだ。

 

 ばぢぃっ

 

「くぅっ!?」

 

 予期せぬ反撃だったのだろう、驚いた顔をして法官は後方に飛び退った。

 いや、フラグ立てたらその瞬間に来るかなと思ったが、まさか本当に現れるとは。

 

「久しぶりだな!」

 

 処刑人がAA-12達の上を飛び越え、一直線に法官へと斬りかかる。さらに飛び退った法官へ、左手の大型拳銃が火を吹いたが法官のシールドに阻まれた。

 

「この辺りでドジ踏んだと聞いていたが、まさか裏切ったとはね」

「裏切る? 心外だな、支配を脱するのが裏切りに相当するとは、代理人もエルダーブレインも、随分と狭量なことだな」

「愚弄するな!」

 

 法官の左肩のマシンキャノンが派手に火を吹いたが、処刑人はそのエネルギー弾の全てを叩き落とした。おい、マジか。

 

「……相変わらずデタラメだな」

「相変わらず正確な射撃でいてくれて助かるよ。それに弾速も遅い。ブレずにただ連射されてくるだけの弾など弾道に刀を置くだけで良いのだからな」

「わかってるそんなことは! 軌道をブレさせただろうが!」

「銃口を動かしすぎでわかりやすかったぞ」

「結局デタラメではないか!」

 

 旧交を温めるのもいいが、よそ見していると後ろからバッサリ、もとい、横から撃たれるぞ? ほら、指揮官服を着た59式ダミーが、AA-12の盾から身を出してパーンと

 

「なぜ指揮官がそこにいる!?」

 

 バババババッと両肩のマシンキャノンを向けてくるので、慌てて盾の影にダミーを引きずり込んだ。ら、処刑人と同じように、残り四人の59式が一斉に別方向へと飛び出して法官に攻撃を加えだす。

 

「有能なこの59式を忘れてもらっちゃあ困るな~」

 

 狙いを定まらせないように、バラバラに動いているし、最低限の距離を取っているおかげで狙われた端からAA-12の盾の影に逃げ込むのが間に合ってしまう。そして、59式に気を取られすぎると、

 

「私がいるのによそ見してもいいのか!?」

 

 AA-12のフルオートショットが、

 

「私も忘れないでいてもらおうか!」

 

 処刑人の斬撃が飛ぶ。特に処刑人は、機動力があるくせに弾を弾くのでとてもやりづらいらしい。

 

「邪魔だ!」

 

 処刑人に向けて、法官の飛び蹴撃が向くが、あろうことか今度は避けるのではなく斬撃での応酬である。当然、処刑人の大型腕はいくらか破損したし、法官の足もシールドがあるので大きくはないが破損は破損である。

 

「……どういうつもり?」

「なに、お前とは正面からやりあってもいいと思ってな。さあ、いくぞ?」

 

 どぅ、とあの例の黒い衝撃波を放ち、そのまま追いかけるようにして法官へと大型拳銃を放ちながら迫る。衝撃波はシールドを貫通こそしないものの、法官自身はノーダメージではないようだ。じわじわとAA-12は前進を繰り返し、法官を私の射程内に収めんとにじり寄る。一方で、処刑人と59式は法官の退路を断つように動き回り、時に被弾するものの私も隠れているAA-12の盾の影に転がり込めば私がぱぱっと直して再度飛び出していく。ただ倒せばよいのなら、私も攻撃に参加してプラズマライフルのO.A.T.Sによる斉射でもぶっ放せばよいのだが、処刑人の頼みには当然法官も含まれている。多少の損傷はもちろん許容されているが、破壊はできない。一方、とっとと距離を詰めてBlitzしてメンテナンスポートにコネクタぶっさせばいいのではと思いもするのだが、現状ではまずシールドを解除させないとおそらく触れられない。当然ながら私は59式のような回避能力は有していないので、狙われて近くに盾がなければ蓮コラに強制ジョブチェンジさせられることだろう。

 法官は、牽制も兼ねてかしょっちゅうターゲットを変えつつ両肩のマシンキャノンで撃ちまくり、59式に向けて飛び蹴撃を放つ最中にリロード、という半ば機械的な行動を繰り返す。もしかすると、『傘』で思考力等が低下しているのだろうか?

 

「ああもう、鬱陶しい!!」

 

 法官のシールドが消えて、逆に両方のマシンキャノンが唸りを増す。このままでは倒し切ることができずにジリ貧とでも判断したのか、あるいは機械的に耐久が一定値を割り込んだからなのか、シールドに割り振っていたエネルギーをマシンキャノンに割り振り直したのだろう。ただ、威力、弾速、ともに上がってはいるのだが、その程度では被弾が増えこそすれど、撃墜されるまでには至らないし、その前にこちらに戻ってくる。私の改造と、鍛えた59式を舐めないで欲しい。処刑人? あれはそもそもハイエンドモデルだし。

 さて、この状況で私が修理以外に何をしているかと言うと、何もしていない……というと語弊があるか、スニーク状態でAA-12の後ろを付いていっている。時折マガジンの装填も手伝っているが、なにかしているには該当しないだろう。ともかく法官に向けて前進し続けているAA-12の後ろにいるということがキモで、視認どころか存在に気づかれてもいない状況からどうにかしてシールドを解除させた法官にBlitzでスニークアタックでケーブルぶっ刺す、という変則的な待ち伏せ猟である。無論、法官の主観的に一瞬で倒されることで、こちらがハックして鹵獲していることを鉄血側に情報として渡さないことも目的だ。

 

 というわけで、無事射程に収めたシールド解除済みの法官を、盾から少し身を乗り出して視認し、Blitz。

 

「……えっ?」

 

 メンテナンスポートにケーブルを刺され、驚愕した顔でこちらを振り返る法官をよそに、メンテナンス権限を悪用して管理権限をもぎ取り、通信モジュールドライバ削除と『傘』の駆除と免疫ファイルの配布、シールド制御も含めた火器管制権限の一時的な剥奪、躯体の出力制限の発行などなどを済ませてケーブルを抜いてバックステップ。

 肝心の法官は今の所、ケーブルを刺した時の体勢のまま動かない……いや、今前に倒れ込んだ。それで、何か叫んでる。

 

「あーーーーっ!! むかつく、むかつく、むかつくーっ!!」

 

 地面をダンダンと右拳で叩いて、その叫びの内容だ。うまくいった、と見ていいだろうか。

 

「気分はどうだ、法官」

 

 すでに納刀した処刑人がニヤニヤしながら法官に近づく。

 

「最悪だ! 最悪だ! 最悪だ! お前、これか!? これなのか、これのせいなのか!?」

「そうだとも。耳障りなノイズが消えた気分は爽快だろう?」

「あっさりしてやられて操られて、あまつさえ何だあの愚鈍な攻撃ルーチンは! 習作AI以下だぞあれは!」

 

 だん、と最後に地面をもう一度強く叩いてから、法官は立ち上がる。

 

「まあ、その辺は指揮官に見せつけてやって汚名返上とするがいいさ」

「……癪だが、そうだな。それがいいだろう。おい、そこの指揮官! 隠れてないで、とっととそこの電子戦型59式に私の制限解除をさせろ!」

 

 両腰に手を当て偉そうに言っているが、私のカムフラを見破れていない段階で滑稽である。改めて、ただしスニーク状態で後ろから近づき、もう一度メンテナンスポートにケーブルをブスっと。

 

「おい、おい、おい! 指揮官、黙ってないではやく……えっ」

 

 もう一度びっくりした顔で振り返る法官と、またニヤニヤしながらこっちを見ていた処刑人。まあ、視界内でスニーク開始しても意味がないからなあ。多分私もニヤニヤしている。

 

「ハジメマシテ、私がこの地区指令室の指揮官です。あっちは私と衣装を交換した59式のダミー。知らないとびっくりするでしょ?」

「……してやられたというわけか。お前にも、処刑人にも」

「まあそういうことね。でも、結果は悪いものじゃないでしょ?」

「そういうことにしておいてやる。いくぞ処刑人!」

「では、刈り取りといこうか!」

 

 だっ、と処刑人が駆けていったと同じく、法官もマシンキャノンを駆動させて正面のDinergateやScout達を薙ぎ払うように掃射……あ、処刑人の一撃でDinergateがたくさん吹っ飛んだ。

 

「指揮官! そろそろボーッと見てないで、私の影に隠れろ! 生身の人間が撃たれたら危ないぞ!」

「ほいほいっと」

 

 怒鳴るAA-12の盾の影に戻って、ガトリングプラズマを先程までと同じようにぶっ放す。

 

 頭を欠いた下級兵の群れなど、後はそれこそルーティンワークのようにあっさりと片付けられる。

 よって、R08地区指令室は、鉄血の超大規模襲撃を逆に撃滅せしめたのであった。




襲撃編、おしまい!

さて、コラボ関連のアレコレを進めましょう。



ところで、空挺妖精がちっとも出ません……。


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閑話9 行動ログ『R-08-Provisioner-0001-Supply.log』

[INFO]指定の経路を移動中。推定到着時刻、1日、8時間、32分、45秒後

[INFO]バラモンの体調、問題なし

[NOTICE]遭遇者を確認

[NOTICE]照合中……照合完了、I.O.P製戦術人形、スコーピオン、ステンMk-Ⅱ、FFFNC、Stg44、P38

[NOTICE]友軍と判断。音声交渉を開始

[DEBUG]出力内容:お疲れさまです。私は、R-08地区所属の輸送ロボ、R-08-Provisioner-0001、です。現在輸送任務を実行中につき、輸送路を移動中です。

[NOTICE]返答を確認、友好的内容

[INFO]指定の経路を移動中。推定到着時刻、1日、5時間、16分、54秒後

[INFO]バラモンの体調、問題なし

[WARN]バラモンへの狙撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]索敵を実行。テロリストを検知。排除開始

[NOTICE]排除完了

[INFO]指定の経路を移動中。推定到着時刻、0日、18時間、25分、12秒後

[INFO]バラモンの体調、問題なし

[WARN]近距離にて咆哮を確認

[WARN]爬虫類型大型二足歩行E.L.I.D、認識名デスクローを確認

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[WARN]本機への攻撃を確認。Protected属性の動作を確認

[NOTICE]復帰完了

[NOTICE]排除開始

[NOTICE]排除完了

[INFO]指定の経路を移動中。推定到着時刻、0日、5時間、38分、09秒後

[INFO]バラモンの体調、問題なし

[NOTICE]遭遇者を確認

[NOTICE]照合中……照合完了、G&Kデータベースに該当なし。

[NOTICE]市民と推測。音声交渉を開始

[DEBUG]出力内容:初めまして。私は、R-08地区所属の輸送ロボ、R-08-Provisioner-0001、です。現在輸送任務を実行中につき、輸送路を移動中です。どうか、進路を妨げないでください。私に、危害を加えるつもりはありません。

[INFO]指定の経路を移動中。推定到着時刻、0日、0時間、00分、00秒後

[INFO]バラモンの体調、問題なし

[NOTICE]目的地へ到達

[NOTICE]バラモンより荷下ろしを開始

[NOTICE]遭遇者を確認

[NOTICE]照合中……照合完了、I.O.P指揮官、フランシス・フランチェスカ・ボルドー

[NOTICE]物資の送付先責任者を確認。音声交渉を開始

[DEBUG]出力内容:お疲れさまです。R-08地区所属の輸送ロボ、R-08-Provisioner-0001、です。現在輸送任務を実行中、荷下ろし作業を実行中です。

[NOTICE]バラモンより荷下ろしを終了

[NOTICE]帰還開始

 

 カツンカツン、カツンカツン、カツンカツン、カツンカツン……

 んもぉ~

 ドスドスドスドスドスドス……

 

 R08地区指令室より伸びる補給路、そしてその更に先の、いくつもの地区が入り乱れる補給路の上で、何やら硬質な足音と、重量のある足音、それと牛の鳴き声のようなものが聞こえていた。見る人が見れば目を疑うようなものが、補給路の上を歩いている。現行のどの基準にも該当しないような、非常にちぐはぐな外見を持つロボットと、同じくどう見ても牛らしいが牛とは思えないようなもの、なぜならば頭が二つで無毛で赤い肌をしているからだ、が、補給路の上を進んでいる。

 それでも、それを見つけた人が攻撃をためらうのはなぜかといえば、まず第一に、有名大手PMC企業、G&Kのロゴがあしらわれているフラッグを掲げているからだ。牛らしきもの、とりあえず飼い主はバラモンと呼んでいるのでここでもバラモンと呼称する、バラモンの荷物にくくりつけられたそれは、遠目からでもグリフィンの所属であると主張していた。

 次に、このロボット、口のようなものは備えていないが、人や人形と遭遇すると電子合成音声で喋るのだ。

 

『市民の皆さん、私は、G&K所属の輸送ロボ、R-08-Provisioner-0001、です。みなさんに、危害を加えるつもりはありません』

 

 うっそだー、と思う方、いや、これはマジなのである。G&Kといえば、最近は地区ごとどころか基地ごとに変な特色を持ったところがあり、通常の人形運用をしている基地が最も多いが、詰まるところを言えば、逆に変な異常生物を相手にしていたり、大農園だったり、犯罪都市だったり、兵器工廠と見まごうような設備を持っていたりとキワモノがいくらか存在する。それらキワモノのどこかが放ったロボなのだろう、と考えてスルーすることにした人や人形が多いのだ。

 一方、テロリストやら野盗やらと化したたちの悪い連中が、バラモンの上に載せられている大量の物資を狙って襲撃したことが無いわけではない。ただ、テロリストやら野盗やらは、攻撃を加えた五秒後辺りにそのことを後悔するはめになる。何故かというと、

 

『攻撃を確認、反撃を開始します』

 

 と、ロボットが喋った次の瞬間から、大量の鉛弾とレーザーの雨が降るからである。しかも、どこに内蔵してんだそんな弾数、と言わんばかりに連射されてくる。ついで言えば、スナイパーなどでバラモンの頭を撃ち抜いたりしたとしよう。バラモンは数秒うずくまるだけで、あっさり立ち上がってロボットに守られる位置へ移動するのである。

 Protected属性、と飼い主が称しているこれは、極端なことを言うと、飼い主以外に壊されない、殺されないのである。ロボットもバラモンも、数秒のダウンタイム(?)を経た後、それまでの傷や破損などなかったかのように行動を再開するのだ。

 

 つまり、どういうこと? と思った方。一言で言い換えてみよう。

 

 どれだけ抵抗しようが阻もうが、最終的に荷物は強制的に届けられる。

 




[DEBUG]入力内容:スコーピオン:え、ちょ、ちょっとまって、これ味方なの!?
[DEBUG]入力内容:ステンmk-Ⅱ:輸送路に変なのがいるって通報でしたけど
[DEBUG]入力内容:FFFNC:敵どころか味方、え?
[DEBUG]入力内容:Stg44:でも、こんなロボット見たことありませんわよ!?
[DEBUG]入力内容:P38:どうせまた変な基地の変なロボットでしょう? ほっといていいんじゃないですか?

強制送りつけロボット。


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法官

 さて。

 

「とまあ、これが今までの状況ね。軽い気持ちで処刑人をハックして鹵獲したらこれだから驚いたわ」

「処刑人は軽い気持ちでハックして鹵獲できるものなのか?」

 

 ジト目でこちらを見やる法官。隣で処刑人がゴツい手を顔に当てて嘆いている。

 

「そこは私も色々と抗議したいところではあるのだが、事実だから何も言えん。とりあえず今は続きを聞いてくれ法官」

 

 法官鹵獲後。

 予想通り、通信モジュールドライバの削除と『傘』の除去と免疫プログラムの追加を行った法官は、自身がそうなってしまっていたことについて非常に強い苛立ちを感じているようだが、それ以外のところは非常に物分りが良かった。処刑人に、『今のお前が再度傘に侵食されずに補給できるのはここだけだぞ』と言われたのが効いているのかもしれないが。さすがに、オガスプロトコルをツェナープロトコルに書き換えて鉄血から完全に制御を奪うようなことは今の所できていない。努力目標ではある。

 

「そんなわけで、検閲も何も入っていない、生の鉄血の情報を得た結果、蝶事件は未だに終わっていなかったことがわかって、ついでに処刑人から他のハイエンドモデルの『傘』の影響下からの救出を依頼された、というわけね。で、救出第一号があなた」

「……その件については感謝している」

「俺っ娘キャラと思いこんでいたら、傘を取り除いてみれば物静かな武人キャラだったのが処刑人なのに、あなたは傘の影響の有無で変わらないのね?」

「は?」

 

 素っ頓狂な声を上げて固まった法官をよそに、処刑人は私の後ろの冷蔵庫からシャンパン瓶を勝手に一本取り出して、ゴツい方の手で器用にコルクを抜いた。

 

「忘れろ」

 

 恥ずかしいのだろうか。鉄血のハイエンドモデルのメンタルは、本当にどうなっているのか興味深い。後でペルシカリアにレポートを送っておこう。

 ところで、その鉛入りシャンパンは皮膚に防弾性能をもたせるというぶっ飛んだ効果を持つ酒なので、当然作成には手間……はかからないが通常の酒の醸造の手が止まる。あまり手を出さないで欲しい。こういう時のためにただのシャンパンとかビールも入れておいたほうがいいのだろうか……。とりあえず処刑人がシャンパン一本呷ってあまり動かなくなったので、法官の方に向き直る。

 

「まあそんなわけで、あなたの扱いに関して何か希望とかある? 働かざるもの食うべからうということで、何かここで働いてもらうのは確実だけど。前線に出してほしいとか、逆に出さないでほしいとか、戦闘以外に色々やってみたいとか」

 

 と、問いかけてみたところ、きょとんとした顔を返してきた。

 

「前線に出すなとか、ありえるのか?」

「ありえるわよ。そこのUSPコンパクトとかね。あなたが襲撃かけてきたとき、外壁付近とか正面ゲートに見慣れないロボットいなかった? あれの配置、行動指示、回収修理をしていたのがUSPコンパクトなの」

「あれか」

 

 思い出したようにうなずく法官。

 

「なるほど、わかった。だが、私はそれならば前線に出たい。ハイエンドモデルとしての矜持もあるからな」

「オーケーわかったわ、じゃあこっちで戦術人形の部隊に組み込むわよ。まあ、最近出動案件が無いから訓練メインになりそうだけど」

「それも問題ない。私としても、少々訓練し直しがしたいぐらいだ。あと、この基地の人形、妙に性能が高くないか? ログを見返してみているのだが、SMG人形どころかHG人形を捉えきれないとか、SG人形にエレクトリックフィールドを発生させることすらできなかったとか、最適化率が高いだけでは片付けられない状況が発生している」

「ああ……それも説明しましょうか。59式?」

「アラホラサッサー」

「どこで覚えたのよそんな言い回し」

 

 どこか呆れた私のぼやきが流れたその二秒後ぐらいか。最初に他の人形たちに説明した時のように、その場から59式が跳躍。壁を蹴って天井の中央を経由し、逆側の壁の中央を蹴って元の位置に戻ってくる。

 

「優秀な59式に、どうぞ拍手をー!」

「……特注の専用カスタムモデルということか?」

「近いけど違うわ。モデルそのものは普通の59式と何も変わらないの。違うのは私が改造してるということ」

「専用カスタムモデルではあるのか」

「……えーっと、あれ、そういうこと? まあいいわ、そういう感じで、いろんな人形を改造してるの」

「ちょっと無視しないでー! 拍手ー! 拍手ー!」

「では、攻撃の威力が妙に高いのもか? シールドの減衰がかなり速かった」

「銃器は全員改造してあるわ」

「そうか、わかった。……おい、処刑人」

 

 ふいに、法官は処刑人の方を向く。

 

「なんだ?」

「何者だこの指揮官」

「知らん」

「ちょっとあなた達?」

「保有する技術が異常に高すぎるぞ、指揮官。一体どこからこんな技術を持ってきたんだ?」

「戦前のアメリカのVault-tecとロブコ・インダストリ。銃器改造については独学」

「とりあえず真面目に答える気がないのはわかった。そんな企業は知らないし独学で拳銃があの威力になってたまるか」

 

 法官が頭を抱えてソファにどっかと座り直す。

 

「いや、ホントなんだけどなあ……」

「だがな指揮官」

 

 そこを、シャンパン瓶をダストボックスに放り込んだ処刑人が口を挟んでくる。

 

「お前は多芸かつそのそれぞれが圧倒的にハイレベルすぎる。正直、どこかの国営機関で幼少期から徹底的な訓練を受けていたとしても驚かないぞ?」

「そんな事実は一切ございません。そもそも、前職のPMCに就職する前はフツーの戦後の私学校の学生だったってば」

「……次に確保しに行くのは侵入者にするか。色々と洗ってもらおう」

「お嬢が自重を捨ててゲテモノ化したのは割と最近だから、最近をメインに洗うほうがいいかも?」

「あなたたち? いや、本当にG&Kの公式プロフィールに書いてあること以上はないからね?」

「なんというか……建築家の持っていた娯楽小説をもっと読んでおけばよかったという気分だ」

「法官まで。よし、いいだろう、そこまで言うなら、ちょっと言いにくかったが、法官。あなたに言いたいことがあるわ」

「な、なんだ?」

 

 気圧されたように座りながら上体を反らす法官に、正面に立っていわゆる人差し指を立てる解説するときにやるポーズで、

 

「むしろ最初に言うべきだったかもしれない。法官。服を着替えましょう」

「……は?」

「丈がくっそ浅いホットパンツにGストリングと、なにそれビスチェみたいな上着? 一昔前のエロゲキャラのコスプレなの?」

「エロッ!?」

「後ろに回ってみたら案の定Tバッグ部分丸見えだし。だから髪の毛長いの?」

 

 真っ赤な顔でばっ、と手を後ろに回す法官。

 

「というわけで、服を着替えましょう。どういうポリシーでそんな格好しているのか知らないけど、さすがに風紀的にアウト。この基地には男性だっているんだからね?」

 

 そこから先は至難を極めた。

 

「し、指揮官、スカートはだめだ、スカートは……そ、その、そうだ蹴るときに邪魔になる!」

「け、建国三百周年記念礼装!? そんなものは案山子に着せておけっ!」

「きゃみそっ……!? だ、だめだ、背中が出ていないとマシンキャノンとのコネクタが……!」

「長いパンツも駄目だ、脚部兵装と干渉してしまう。その、焼け焦げてしまうんだ」

「レオタード? これでは体のラインが浮き彫りになってしまうのではないか?」

「だ、だから言っただろう指揮官、マシンキャノンと干渉して下着がつけられないんだ……」

「ブラジャーがそもそも不要な私とお嬢への挑戦と受け取っtふぎゃあっ!?」

 

 至 難 を 極 め た 。

 

 

 

 結局、あのエロゲキャラ衣装も、それなりに設計者が考えて選んだ衣装だったらしい。

 M1919A4の衣装のようなレオタード(背中あき)に簡易的なシャツ(こちらも背中あき)、ホットパンツは上下それぞれの丈がいくらか伸びて、他では動きが阻害されると主張する法官の要望によりGストリングは続投となった。まあ、外部から見えるわけではないのでいいだろう。

 

「は、鼻が……鼻がぁ……」

「服飾もできるのか……」

 

 うずくまる59式と、その後ろでは処刑人がなにやら思案顔。

 

「レパートリーは見ての通り多くないけど。何かあったの?」

「なに。私はこのままがいいので特にないが……右手のせいでろくな服が着れんしな。ともかく、法官の服装は定期的にみてやってくれ。破壊者とはりあってあの軽装だったからな」

「ちょっと処刑人!?」

「ああ、チキレった結果あの半裸だったのね」

「半裸!?」

「そもそもトータルを色々とからかわれた結果だったな。夢想家の口車に乗ったのもあるだろうが」

「……ほんっとロクなことしないのねえ、夢想家って。遭遇したくないなあ……」

「そこの59式一人でどうにでもなるだろう。機動力を持つやつに弱いだろうからな、夢想家は」

「……なあ処刑人。私はやはりかつがれていたのか?」

「今更気づいたのか。夢想家の破壊者への扱いを見ていればだいたい判るだろう」

「……」

 

 法官は、黙って私の冷蔵庫からバリスティックビールを取り出した。

 いや、だからそれやめてほしいんだけど。そっちはそっちで何故か実弾武器の威力が増加する不思議なビール。同じく作成に手間はかからないが以下略。後材料に核物質が入っているので乱造乱用できない。

 

 ぴこっぴこっぴこっ

 

「んお……本部からかと思ったら、U-05基地じゃない。ちょっとあなた達、ややこしくなるからカメラ範囲外にいてちょうだいね」




うーん、ちょっと短いけどいいかな!

法官の格好、どう見てもこう、ほら、アレなんですよねえ……。
特に下。なんかちょっと引っ掛けるだけで、中身が見えそう……。


おおっと、漢字表記を貫いていたのに間違えちゃったぞっと


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ああ勘違い

『お初にお目にかかります、R08基地指揮官。私はフランシス・フランチェスカ・ボルドー、U05基地の指揮官です。初めまして』

『同じくU05基地所属、副官の夢子・ロスマン。よろしく』

 

 通信を開き、U05地区基地からのもののそれで、通信に出てきた二人、指揮官と副官はそう名乗った。

 女性にしてはちょっと、いやかなりまっしぶりーな指揮官なので、前線に出るタイプだろうか? アメリカ式でなくミニガンとかぶん回しそうだ。そして、もうひとりはどうみても……。

 

「……夢想家?」

『鉄血とは縁切り済みよ』

「それは失礼。では、夢子さんとお呼びしても?」

『問題ないわよ』

「ありがとうございます。それで、ご用件は? 物資の到着連絡などでしょうか? 単純な連絡などでしたらメールでも構わなかったのですが……もしや届かなかったのですか?」

 

 プロビジョナーが物資の輸送をしくじることなど無かったが……ここは「現実」だしそういうこともありえるのだろうか?

 などと内心考えていたところ、フランシス指揮官が実に言いにくそうに口を開いた。

 

『そのぉ……物資援助は辞退したいのよ』

「おや?」

 

 意外だ。協力要請を投げてきて、おそらく状況から物資もあまり潤沢とはいえないだろうに。こちらとてアパラチア式資源採掘をしていなければとうに行き詰まっていたはずだ。しかも、あちらの周囲にはよりによってキメラとネクロモーフ、他にもわんさかヤバめのやつらが近くにいるとか物資はいくらあっても困らないはず。なのに断るとなると……もしや対価で借金漬けとかでも警戒したか?

 

「そちらは物資が潤沢とはいえないはずでは? もしや対価を気にしてらっしゃる? 同じグリフィンの基地ですし、味方への支援も任務ですからね。こちらは今の所資源は潤沢ですし、今回はこんだ量程度であれば、対価はいらな……いや、それだと遠慮しますかな。近隣のE.L.I.Dの情報程度で十分ですよ?」

 

 言ってて何だが、怪しいなと自分でも思う。型にはめて落とすトークというやつだ。これはいただけない。

 

「……いや、駄目ですね、対価が少ないのもまた問題。となると、当てずっぽうで言いますが、見合うようであればキメラ製の武器を数種類いただけませんか。キメラの技術に興味がないといえば嘘になりますし」

 

 なんだっけか、マーキングして誘導弾連射とか、地形透過銃みたいなものもあったはず。あれがあれば地形に潜んで一方的に相手をボコるなんてこともできる。マーキング銃とか、O.A.T.Sで初弾さえ当てておけば、あとはAP消費抜きで撃てば当たるとか素晴らしいじゃないか。量産できれば人形に訓練させてみてもいい。ああ、新しい武器は心が躍る。

 だというのに、フランチェスカ指揮官も夢子副官も渋い顔……に、見えるぐらいの雰囲気を醸し出した穏やかな顔。見たことがある、主に鏡の中で。これは自棄になった時の顔だ。

 

「……な、なにか問題でも……?」

『あなた、何者?』

「……は?」

 

 夢子副官がなにかぶっ飛んだことを言い出した。

 

『あなた、何者なの? 悪いけどこっちでも調べたのよ、あなたのこと。ぼるとてっく?は知らないけど、ロブコの技術を持ってるなんて尋常じゃない。あれはアメリカにしかなかった企業で、こっちにはないの。なのに、あなたは当たり前のようにロブコの技術を、いいえ、アメリカ式の色んなものを持ち出して当たり前に使う。でも……あなたに、あなたの前歴に、アメリカのことを学ぶ機会は無かったはずなの。重ねて問うわよ、あなた、何者?』

 

 ……ロブコ実在してたのか。

 いや違う、あれ? 転生者ですよー、と言外に示すために魔改造ロボットプロビジョナーとかバラモンとか出したけど、まさか裏目った? ていうか、フランシス指揮官、転生者じゃない?

 

 ちょ、え、これ、まずくない? まずくない? まずくなくなくない?

 

「えぇっと……その、これ、私の同類かどうかチェックする質問なんですけど……フォールアウトの名を関したRPGゲームってご存知です……?」

『何よそれ。知らないわ』

「えっ。じゃ、じゃあ、MICA-TEAMとかSUNBORNとかパン屋少女とか……」

『そちらも知らないわ。開発チームか何かなの? パン屋? ……フラン?』

『私も知らないわ』

 

 マジか。思わず顔に手を当て天を仰ぐ。通信ウィンドウの二人の顔が不審げになるが、これはどうしたものか。

 

「……え、嘘、これは予想外……あ、いや、なんですか。状況などを見て、私てっきり私の同類……あー、なんて説明すれば良いんだ……?」

 

 転生者だなんて通じるわけがない。むしろ、頭おかしいのかと思われて、異常者の何かが偶然機能しただけとか思われてどっか飛ばされるのもゴメンだ。さて、どうしたものか……。

 

「おい、指揮官」

 

 考えあぐねているところに、ふと、こちらの処刑人が割り込んできた。

 

「お前では説得力がない。少しこちらに任せろ。向こうにむそ……夢子だったか、がいるなら都合がいい」

「処刑人?」

『……処刑人?』

 

 何やら腹案があるみたいだが……一体なんだろう。

 

「おい、夢子。私の言う事なら、いいか、『私』の言う事ならある程度は信用があるだろう?」

 

 割り込んできた処刑人に、いくらか戸惑っていたようだが、夢子副官は結局続きを促した。

 

『続けて』

「この指揮官、前歴や素性と現在能力に意味不明な乖離があるのは事実だが、その性根は掛け値なしに善人だ。これは保証する、この私の刀を賭けてもいい」

『……』

「だが、だ。善人だがやることなすことが全て良いように働くかと言うと否だ。驚くことにこの指揮官、自分の持つ技術がどれだけ規格外で非常識で意味不明で物理法則に喧嘩を売っていることすらあることを自覚していないらしい」

「ちょっと?」

「話がややこしくなるから黙っていてくれ指揮官。まあそんなわけで、だ。どうやらこちらの指揮官は、そちらの……フランシス指揮官を自分と同類の、どこか隔絶した意味不明な技術持ちだと誤解していたようだ。ゆえに、同類ならば許される無体な物資の送り方をしたわけだ。同類ならば許される方法で」

 

 ……耳が痛い。

 

『つまり……協力要請の受諾も、物資の送付も、全部、「あ、困ってる仲間がいる! 助けなきゃ!」程度の感覚でやったと?』

「その通りだ」

『その、軽い気持ちであれだけの被害が出たわけね、こっちは……』

「どんな被害が出たのか知らんが、どうせ輸送隊にでも撥ねられたんだろう?」

『あら、よくご存知。こちらを監視でもしているのかしら?』

「いいや。だが、想像はつくからな。……私も、『とりあえず軽い気持ちでやった』程度の心意気で、戦闘中にもかかわらずハッキングされて鉄血から切り離されたからな」

『……鉄血のプロテクトって、そんな軽い気持ちで、しかも戦闘中に破れるものなのかしら』

「私もそうでないと信じたかった。だが、事実として私はシャットダウンされ、鉄血から切り離され、ウィルスなども駆除された、というわけだ。空恐ろしいのが、それだけの事をされたのにアクセスログすら形跡が残っていないことだな」

『……怪談と称して差し支えないわね』

「全くだ。まあ、そんなわけでな。協力要請の受諾も物資の送付も、どちらも受け取っておけ。積み込みは私も見ていた。目録もあるだろうが、中身は何のことはない鋼材と弾薬、あとは大量の電子部品だ。何だって作れるだろう」

『ああ、そういう……』

 

 呆れ顔で大きくため息を付く夢子副官に、つい、私は問うてしまった。

 

「……というか、そちらで一体何が起きたんです……?」

『あなたの輸送隊のバラモンが、プレハブに引っかかっていたところを誘導しようとしたら、突如動き出してね……巻き込まれた人形が、言語化するもおぞましい動きをしてロッカーに挟まったの。本人、目撃者、どちらも精神的に重症よ』

「ま、まるでHAVOK神の祟り……」

 

 そしてうっかり、そんなことを口走ってしまった。

 

『ハヴォック神? あなた何を知っているの?』

 

 当然、聞きとがめた夢子副官が問い詰めてくる。

 

「指揮官、頼むからそれ以上事態をややこしくしないでくれ!!」

 

 うんざりした顔で処刑人は吐き捨てた。

 

 

 

「ところで、侵入者のいそうな場所を知らないか?」

『悪いけど知らないわ。鉄血の情報は殆ど何も思い出せないの』

「そうか……残念だ。鹵獲して、指揮官の前歴と現在の乖離の原因を探ってもらおうと思っていたのだがな……」

「いや、だから私は素性は全部オープンにしてるからね? 嘘ついてないからね!?」

 

 だが、ふたりとも、いや、フランシス指揮官を加えた三人共、それを信じてくれることはなかった。

 解せぬ。

 いや、だって、転生しましたなんつって信じてもらえるわけ無いじゃん……。

 

「ああ、そうだ指揮官。私に介入してくれといいに来た59式に感謝しておけよ?」

 

 ……。感謝したいところだけどそこで超ドヤ顔で有能のポーズ取ってるので台無しです。

 

 

 

「……しくったわ……転生者じゃないとか予想外すぎる」

 

 あれから、細々とした情報交換も交えた通信を終えて、私は一人ごちた。

 いや、まさか、U05基地周辺のミュータント祭りな状況、馬鹿が馬鹿をやらかして馬鹿なことになった結果とはいえ、いわゆるスクリプト湧きではなく自然発生的なものだったとは……。

 こわ。近寄らんとこ……とできたらいいのだが、キメラとネクロモーフだけは本気でアウトブレイクの可能性がある以上、放置はできない。連中がコーラップスに感染したらそのままE.L.I.D行きだというのが気休めにはなるだろうか……。まあ、遠隔地の状況に憂いても仕方がない。あっちはあっちでなんとかしてくれるだろう、こっちは支援するだけだ。場合によってはロボットも送りつけられる。なんだっけ、有能なコンサルタント?もいるらしいし。あ、指揮官じゃなくてこっちが転生者なのかもしれないな。日本人名だったし。

「終わったー?」

 カメラ範囲外に移動していた59式たちが戻ってきた。まあ、あちらについてはこの程度にしておこう。

 処刑人と法官の姿が見えないが、まあこちらの要件は終わっていたことだし、基地の案内にでも行ったのだろう。

 さて。

 鉄血の大侵攻を退けたので、大量のジャンクが手に入った。解体を考えるとちと憂鬱になるが、その結果として得られる資材量はまさに膨大の一言に尽きる。ジョークではないが、「今回の戦闘で得られた物資の量を考えてもみろ。これでわれわれはあと十年は戦える」とか言ってもいいかもしれない。59式以外からは確実に合いの手が来ないので口には出さないが。

 本部への報告はカリーニンに任せてある。大体は人形の作戦データを持ってきてそこから報告書を作る形になるが、相応にタレットで撃退とか破壊とかした鉄血もいるため作戦報告書作成は手間取るだろう。一方で、法官が指令室所属に加わったため、交代人員に回すのでなければまた部隊拡張と人形製造を行うことになる。人員の軛からはなるだけ解き放たれたいので、製造を回すのもよい……と思ったが、製造に使える公称の資材量が心もとない。しばらくは内政タイムということか。あるいは、ヘリアントスやペルシカリアあたりに相談して、こちらが独自に調達した資材を提出してもよいか聞いてみるのも一興か。

 ともあれ、ここまで働いたのだ、いい加減休暇をとってもバチは当たるまい。索敵は、囮の囮のロボブレイン足プロテクトロンと、囮のアイボットと、本命の迷彩アイボットにさせておけば十分であろう。今回の襲撃にもそれなりに早めに察知できたことだし。追加で本部にメールを送っておいて、私は休暇と洒落込もう。

 

「カリーニン」

「はい、何でしょうか指揮官様」

「私、この後と明日、休暇を取るわ」

「……はあ。まあ、大丈夫だとは思いますが……どこかお出かけのご予定などはございますか?」

「特に無いわ! 寝て曜日&長風呂の予定!」

「かしこまりました。入浴中の連絡の必要が生じた際は、お近くの人形経由でになると思います」

「あいよー」

 

 かくして、私は休暇を強引であろうが取得するのだ!




勘違い発覚!


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休暇(予定)

「おや」

「あら、指揮官」

 

 で。じっくり長風呂と洒落込むか、と、完全防水タブレットと各種飲料とラバーダックを携えて大浴場に来てみれば、そこには先客がいた。スプリングフィールドである。

 

「あなたもお風呂?」

「ええ。大浴場は久しぶりですので」

 

 答えるスプリングフィールドの髪の毛が、湯船の中でゆっくりと漂っている。湯船に髪の毛をつけるなとかなんかあった気もするが、うちではとりあえず気にしないことにしていた。湯が汚れるとか髪の毛に汚れがつくとかだったか……まあ、人形は人間と比べて老廃物の排出が圧倒的に少ないし、抜け毛もほぼないので気にすることではないだろう。

 浴槽のフチに、トレイに載せたあれこれを置いて体と髪を洗っていると、スプリングフィールドがちゃっかり飲み物に手を付けているのが見えた。

 

「ちょっと、それ私のなんだけど」

「おかまいなく。美味しいですねこれ」

「おかまいなく、の使い方はそうじゃないでしょうに……」

 

 渾身のお高い天然オレンジ果汁ジュースである、飲みきったら色んな意味でただじゃ済まさないぞ、と目で牽制しておく。それでも、身体と髪を洗い終えて湯船に入ったときには、2/3程度しか残っていなかった。くそー……。

 で、カップでオレンジジュースをうまそうに飲むスプリングフィールドを見やる。普及率の高いタイプの素体のライフル人形。ペルシカリアのところにいただけあって、何らかに「目覚めた」人形であるが、何に「目覚めた」のか。一口に目覚めたと言っても、それは人権意識だとか、自由意識だとかの何らかの権利意識とかがメジャー(?)ではあるが、都市伝説級にマイナーな例が一つある。

 

 自我、である。

 

 フィクションでよく言われる、三層のなんだかんだと言われるあれだ。人形のメンタルモデルは人間に近しいとはいえ、近いということは異なるということを意味する。代表例が基本的に人形は自身を含めて指揮を取ることができないということであり、メンタルモデルによっては完全な嘘がつけないことだ。諸説あるがこれはこう言いかえることもできる。

 

 人形のメンタルモデルは、M4などのいくつかの例外を除き創造的なことができない、ということだ。完全に自分で考えて行動する、ということに大きく制限がかかっている、と言ってもいい。USPコンパクトがやっているTD式ロボット指揮防衛も、一番初歩の防衛の考え方というのはインプットしてやる必要があった。そのインプット内容に発展できる理論を与えた結果、壁を破壊して予定外のルートからの進軍にも対処できるようになったが、たとえ防衛を破られそうになっても、ロボット指揮防衛以外にできることがあったとしてもその可能性に気づくことは無いだろう。そんな、創造的発展、あるいは思考の飛躍とでも言おうか、そういうものが人形にはない。

 ところが、先の襲撃の際、このスプリングフィールドはあろうことか、自分から狙撃を提案し、更にあろうことかライフル人形が自分から偵察を行って襲撃中の鉄血ハイエンドモデルが誰かを見つけて報告してきた。あの時は状況が状況だったので流してしまっていたが、今考えてみると明らかにおかしい。何らかの指揮とか指示下にあったのならばまだ不思議ではないのだが、あの時のスプリングフィールドはそういうわけではないのだ。前々から勝手に店番をやっているなどの兆候もあった、今回のでほぼ決まりであろう。あとは、バックアップがキチンと取れているかのベリファイを行えば確定させられる。どういうわけか、自我に目覚めた人形のバックアップは、どんなに精緻にとっても復元したときに完全な自我は失われてしまうのだ。復元できるが完全には復元できない人形である。もしかしたらボディの電脳が特異進化でも起こしているのかもしれない。解体したら失われてしまうので、サンプルを取ることもできないだろう。

 

 一方、うちの59式とかにはそういう兆候はない。特に59式は私の指揮下にあると安心するようで、名実ともに私の可愛いお人形さん、ということである。なぜ私は59式にクリソツなのかとかの謎は尽きないが、とりあえず例外なく見目麗しい人形にクリソツということは、私も見目麗しいと言い切ってよいということだ、ふふん。

 

「……指揮官、急にニヤニヤして、どうされましたか?」

 

 おっと、今は一人でいるわけではなかった。

 ともあれ、スプリングフィールドの諸々の状況を考えると、前線に出すよりは指揮補助とか場合によっては指揮そのものを執らせるのもありだろうか。人形部隊の一番の欠点は、通常指揮が必要ということなのは先程も述べたとおりで、これを覆せるならばその価値は計り知れないということになる。……もっとも、その場合は文字通りの人形指揮官として引っ張られてしまう場合も無きにしもあらずだが。とりあえず私も人形指揮官(擬態)なのだがなあ。

 

「指揮官」

「ん?」

 

 おおっと、また周りに目が向いていない。スプリングフィールドが困ったかのような表情と視線を向けてくる。

 

「その、困ります。そんなに見つめられても、私、同性愛の気はありませんので……」

 

 私は激怒した。必ずやかの邪智暴虐なライフル人形をイワしてやらねばならぬ。

 

 

「ふー……」

 

 とりあえず気絶させたスプリングフィールドを、溺れないように浴槽の外に放り出し(人形は溺れないはずだが)、持ち込んだ飲み物を傾ける。ついカッとなってしまって気絶させてしまったが、ある意味スプリングフィールドの掌の上とも言えるこの状況はどうしたものか。自我持ちの兆候のときにも述べたが、受付をしていたり店員をしていたりで気づきにくいがこのスプリングフィールドは珈琲にあまり興味を示さない。カフェマスターとかめんどくさい、もしくは合わないと考えているのだろうか。いっその事カリーニンの配下につけてしまったほうがその特異性の有効活用に繋がるのではなかろうか、と考える一方、そこでアホ面晒して倒れているスプリングフィールドに希望を取らずに配置転換させるのもな、とも思わなくもない。せっかく配備されたライフル人形が頭数に数えられなくなるのも問題だ。

 

 キィ……

 

 と、タブレットで動画なんぞ見つつつらつらと考えていたところ、大浴場に誰か入ってきた。

 

「まあそんなわけで、時折指揮官には服の布面積増やせって言われてるのよね……うわっ!? スプリングフィールド!? なんでここで寝てるの!?」

「寝てると言うか……これは指揮官に気絶させられたの?」

 

 我が司令室のHGの中でもでかい奴ら筆頭、Five-seveNとグリズリーだった。状況をさくっと察したらしいグリズリーが、こっちに目を向けてくる。

 ……お前らちょっとは隠せ。

 

「変なこと言うから、つい」

「戦術人形はついで気絶させられるものじゃないと思うんだけど」

「……気絶ではなく、動作不良を起こさせられたのです」

 

 復帰していたらしいスプリングフィールドが、ぎこちなく起き上がる。頭を振って立ち上がり、また湯船に戻った。

 

「掌底一発で私があそこまで動けなくなるとか、指揮官は一体どのような武術を学んでいるのですか?」

 

 やりすぎだ、と視線で抗議してくるスプリングフィールドに、ジュースを少し注ぐという賄賂でごまかす。目ざとくそれを見つけたFive-seveNが、私からボトルとカップを奪っていった。いや、奪っていったじゃねえよ返せ、それは私のとっておきだおい飲むな返せ。

 

「指揮官が色々と異常なのは置いておくとして」

「置くな、異常じゃないわ」

「異常な人ほどそういう事言うのよね。ところで59式は? 一緒じゃないの?」

 

 ボトルを回収。くっそ、もう1/3も残ってない……。

 

「別にいつも一緒にいるわけじゃないわよ? 私の執務中とか、59式が趣味の音楽聞いてるときとか。それに四六時中べったりしてるなら、M1895とか引き込めるわけないじゃない」

「……」

「……」

 

 Five-seveNとグリズリーは『え、マジかよ』という感じに顔を見合わせる。え、なんなの? その反応から察するに、猫か何かみたいに、執務室前によくいて私の気配が近づくとさっと離れてるとかそういうことしてるってこと? いやまっさかぁ、ホント忠猫じゃあるまいし……あとで隠し監視カメラデータこっそり見ておくか。

 

 キィ……

 

「仕事上がりの風呂やぁーうおー!」

 

 また誰か入ってきた、と思ったらガリルである。お前もちょっとは隠せほんと。あと浴槽に飛び込むな先に汚れを落としてこい。

 

「なんや指揮官も入ってたんか。あっちゃぁ、しくじってもうた」

「しくじったじゃないわよ、先に身体洗ってらっしゃい」

「ちぇー」

「次浴槽の汚れが酷かったら、ルアード爺にチクっとくわね」

「ぐええー。ウチの至高の時間がぁ」

 

 ルアード爺としか呼んでいないが、うちの清掃員の一人である。割とプロフェッショナル気質な人で、指令室を綺麗に保ってくれる無くてはならない人だ。とりあえず、浴槽に泥汚れが積もっていると小言を受けるのは私であるからして、ガリルの行動は容認できない。プロテクトロンに清掃作業等をさせないのか、という点については、掃除という臨時作業の集合体にはAIは非常に相性が悪いということと、雇用創出の観点からロボットでの代替は極力行わない方針でいる。例外は戦闘や危険地域などの破損が考えられる、つまり人間で行えば死傷の可能性があるところである。というかロボットの役割は本来そういうところでの危険を人間に代わって引き受けることだろう。

 

 ロブコオリジナルのAIは、長期運用をするとエラーが溜まって暴走する? 大丈夫オートマトロンの別系統AIだから。……それに、HAVOK神に荒ぶられても困るしな。

 

 とりあえずRF人形とMG人形、そして代替資源が提出して認められるならSG人形も、できたら追加でほしいところである。

 まあさしあたっては、私の今日明日の休暇を満喫するのみだ。

 

「指揮官」

「ん? なに?」

 

 ふと、再度スプリングフィールドが声を掛けてきた。

 

「せっかくなので、お背中お流ししましょうか?」

「……いや、さっきもう洗ったし」

「そうでした。では、マッサージなどは?」

「えぇ……別にそういう事をする義務とかはないのよ?」

「いえいえ、せっかく居合わせたので。ちゃんとモジュールはインストールされていますので問題ありませんよ」

 

 にこやかに言ってくるが、また何かエロ方面に雪崩込まれそうで抵抗がある。

 ……が、今回は受けることにした。理由は後で述べる。

 

「しょうがないわねぇ……で? 座ればいいの?」

「いいえ。お体が冷えてしまうので、浴槽のフチに寝そべるのが良いかと。まずはうつ伏せでお願いします」

「はいよ」

 

 安定して座れる、あるいは足場となれるようなフチにしておいたので、遠慮なく上に寝そべることができる。似非石材タイル風なので、湯船の熱が伝わっていて冷たくもない。

 

「では、始めますね」

 

 と声を掛けられ、肩口や背中に手が触れる。人形の力は当然人間よりは強いのもあり、割と強めの力でもみほぐされていく。

 

「ぬぐ、む、む、う……」

 

 意外と気持ちいい。最近デスクワークが多かったせいか、腰回りをグリグリやられると思わず声が出る。

 

「やはり、凝ってらっしゃいますね」

 

 整備や改造でも前傾姿勢で作業することが多いので、その辺もあるのかもしれない。

 顔の下に敷いていた腕を左右に取られ、代わりにタオルが置かれる。同時に取られたので見てみると、右にスプリングフィールド、左にもスプリングフィールド。

 

「ダミーを呼びました。一斉にやってしまおうと思いまして」

 

 都合三人のスプリングフィールドに腕、腰、脚を揉まれていく。

 

「お、おう、ん、んくっ、ぐ……ん、ふぁっ」

「……なんやねん、声だけやと、その、なんや……」

「……そうね。まあ、今の所疚しいところは無いわけだし……」

 

 ガリル達の声が聞こえ、さすがに恥ずかしいので声を抑えるも、巧みに動く腕が気持ち良いのでどうしても声が漏れる。ある種、してやられたなあ……。

 

 

 そんなこんなで、エロい意味ではなく全身をたっぷり揉み解された後。

 浴槽のフチに腰掛けてぼーっとしていると。

 

 がららららっ

 

「お嬢が喘がされていると聞いてっ!」

 

 とりあえず59式を湯船に叩き込んだ。

 

 

 がららららっ

 

「指揮官どうして私にはさせてくれないんですかぁっ!」

 

 とりあえずHK45も湯船に叩き込んだ。




なんか今回難産でしたどうしてぇ……?

指揮官の音声ZIPなどはありません。


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閑話10 ワン・オブ・サウザンド

おまたせしました。


「……」

 

 ヘリアントスは、上がってきた報告に顔を顰めていた。

 S地区から上がってきた報告では、AR部隊を預けた指揮官から、破壊者の撃破などが報告されている。それはいい、予想の範囲外とはいえ、ハイエンドモデルと遭遇して大した被害なく撃破できたのは重畳、喜びこそすれど、何か文句を言ういわれはない。

 一方で、R地区、つまるところ後方支援地区のハズなのだが、こちらからは処刑人と法官の鹵獲報告が上がっている。撃破ではない、鹵獲だ。よりによって鹵獲である。処刑人の鹵獲の段階でいろいろと騒ぎになったが、存在も極秘のはずの傘ウィルスのよりによってワクチン開発報告と感染チェッカー及びワクチンプログラムが上げられてきた時は、当然ながらそれ以上の大騒ぎとなった。私設PMCで人形を指揮していただけのはずの指揮官が、なぜ最先端のグリフィンのデータルームでもどうにもできなかった傘ウィルスを、それこそ「新しいウィルスを見つけたのでチェッカーとワクチン作っときました」レベルのノリで報告が上がってくるのかが理解できない。すでに調べさせたが、彼女に電子戦の手ほどきをしたはずの私設PMC社長の技術レベルはグリフィンの電子戦担当官よりも遥かに劣ることがわかっている。では、彼女にそれ以上の電子戦の教育をしたのは誰なのだ? そもそも、どのような技術形態の電子戦なのだ?

 

 疑問は尽きない。

 

 人形製造や定時の補給や連絡の際、輸送ヘリのパイロットが見たこともないロボットが荷運び作業などを行っていたと報告している。そもそも、作戦報告書における人形の能力が一般の同型人形の性能を軽々と超えてもいる。

 現状能力と、履歴から推測できる能力に逆の意味でこれまで差異があるというのも珍しい。そして、その技術を振るうことに際して隠蔽等を行っていないので、割とそれらの技術のレプリカの作成、特に人形の躯体性能の向上なども試みてはいられるのだが、その構造のシンプルさに反して非常に高度な逆アセンブル対策が施されているらしく、同等どころかその一割程度の性能すら再現できていなかった。技術行使に特に隠蔽を行わないはずである。

 

 つまり、彼女は、人形の指揮に長け、電子戦にも秀でていて、正体不明のロボットや構造物を作成する技術を有し、おまけに強度の高い逆アセンブル対策を保持しており、最後に非常に効率の高いリサイクル技術まで保有しているのだ。

 何の冗談だ。

 404部隊に探らせた結果、近隣の廃棄物処理場からゴミを掘り返し資源化しているという。そうではない、リサイクルできないからこそゴミなのだ。掘り返したからと言って容易に資源化できるものではないはずなのだ。

 

「それで、私のところに来たわけ?」

 

 ヘリアントスの前で、気だるげに珈琲を傾けているのはペルシカリア。インナーにワイシャツを引っ掛けただけの人前でそれはどうかという格好でデスクチェアで珈琲を傾けている。

 

「考察しても休むに似たりでな。I.O.Pのラボでも、あの指揮官の技術は再現できないのか?」

「無理ね。躯体技官が解析と再現に燃えてたけど、芳しくないどころか成果がちっとも出ないことに燃え尽きたわ」

「I.O.Pのラボでも駄目なのか……」

 

 嘆くヘリアントスだが、その視線はペルシカリアの周囲に向いている。ペルシカリアの部屋は、以前にもまして散らかっており、脱ぎ捨てた服どころか下着さえも転がり、その他カップなどの食器類や食べかすも転がっていて、ちょっと臭う有様だった。

 

「ところで、この部屋は片付けないのか? 前にいた……スプリングフィールドの同型はどうしたんだ?」

「ああ、あの子? ちょうど話題の指揮官のところに送ったわ」

「……は? AIを観察しているのではなかったのか?」

 

 驚くヘリアントスに、ペルシカリアは憂鬱そうに続けた。

 

「AIそのものは、とても平凡なものだったわ。特異だったのは、民間利用からずっと稼働し続けてきたことによる躯体の変化のほう。ワン・オブ・サウザンドだったかしら……量産型拳銃の製造時の気紛れが全て奇跡的に微笑んだ結果、驚異的な精度の銃ができあがるという都市伝説。あれと似たようなものよ」

「つまり……稼働による劣化がAIに何らかの影響を及ぼしていると?」

 

 呆然と呟いたヘリアントスだったが、ふと、何かに気づきハッとした様子で続けて問う。

 

「待て、躯体の劣化が原因ならば、躯体の修理を行うと?」

「そう。元の凡庸なAIに戻るわ。二件ほど、今までに似たような報告があるの」

 

 ずずず、と珈琲を啜ってペルシカリアは嘆く。

 

「そして、そもそも劣化しているのだから、修理やオーバーホールなしではそろそろ稼働限界。……いわば、寿命ね」

「寿命……。それまでのパーソナリティがなくなってしまうと考えれば、いわば死と同義、か」

「そう……。だから、寿命が迫っていることを伝えて、しておきたいことがないか聞いたわ。そしたら」

「……戦術人形になってみたいといったのか?」

 

 こくり、とペルシカリアは頷いた。絶句するヘリアントスをよそに、ペルシカリアは話を続ける。

 

「戦術人形としての弾道計算を始めとした戦闘演算や機動は寿命を縮めると伝えたんだけどね」

 

 漫然とメイド人形として働いていた時期に突如芽生えた完全なる自我。その様子が噂となり、I.O.Pにというよりはペルシカリアに回収されて随分と長い時間をラボの試験と雑用で過ごしてきたスプリングフィールドと同型の人形。彼女が何を考えて戦術人形になりたいと言ったのかは、もうわからなくなってはいやしないだろうか。

 

「戦闘がもうあったのでしょ? 大規模なやつ。それなら、もう、今頃はね」

「……そうだな。ん、メールか?」

 

 ぴこっと通知音をデスクの上の事務用PCが奏でた。

 

「そうね。M4かしら」

 

 カタカタとロック解除キーを入力して、メーラーを立ち上げて開く。

 

「え、スプリングフィールド!?」

 

 

 

名称:スプリングフィールド(自我覚醒型)

種別:RF人形

CND:199/100

Lv:43

Link:×3

MOD:躯体改造Ⅵ

   躯体の性能を上昇させ、DR、DTを付与する。

MOD:自我覚醒型

   AIの行動に変化を与える。性格、嗜好が変化することがある。

   このMODの取り付けられている人形はバックアップの取得及び修理ができない。



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アイボットと装備

投稿ペースの下落が抑えきれない……うごごごごごごごご
おまたせしました。


 さて。

 

 休暇を終え、法官による襲撃の後始末を終えて、全ての残骸の分解、全ての人形とロボットの修理、破損した防衛設備や施設の修復を終えて今しばらく。

 何故かスプリングフィールドに妙に懐かれている中通常営業に戻った。指令室周辺の農村としての開発でも行うかな、とか考えつつ、最近の警戒・探索レポートサマリを眺めてみると、特定方面で妙にアイボットの行方不明数が多い。何か予感のようなものを感じたので、通常の索敵、監視範囲から大きく超えて特定方面、つまり例のクソFPSマップの向こう、元デスクローの繁殖地からさらにその向こうへとアイボットを複数派遣してみる。ある程度散開させつつ、互いが互いの索敵範囲に常に入るようにしながら、時折通信中継機を設置させながらさらに進ませる。映像の送信は通信負荷が高いので、いわゆるコマ送り状態での現地画像を見つつ、ゆっくりと前進させ続けた。

 

「お嬢、こっちって、キツい山があるから攻められないし攻められもしないって行ってなかった?」

「そうなんだけどねー。念のために出してたアイボット、こっち方面に行くと妙に行方不明が多くてさ。何事にも例外はあるから、チェックしておくべきでしょ。アイボットだから、撃墜されても安いし。鉄血のプロウラーでも一機破壊して回収して解体すればお釣りが来るし」

「私にはアイボットのほうが、反重力システム搭載してるしコスト重く見えるんだけどなあ……」

「あら、あれはジェット噴射よ。軽いから微々たるものだけど、噴射口が下にあって、陽炎が見えるはず?」

「あれも、まさか核……?」

 

 59式と、横で聞いていたカリーニンが慄いているが、気にしないことにした。

 当然、今回のアイボット達には迷彩塗装を施してあり、ついで哨戒効率よりも隠密性を重視したコースで偵察を行うように設定している。無論随時指示変更も可能。

 しかし、アイボット達が行方不明になるような原因は見つからない。今偵察している地域はもちろん通常の巡回コースには入っておらず、何か異常があるのであればすでに見つかっていなければおかしいのだが……はて。そして、行方不明=撃墜されたと思われるのだが、そのアイボットの残骸も見つからない。こちらも疑問だ。侵攻経路を人間基準で考えすぎたか? 人形などによる人間では踏破が厳しいルートでも構わず通ってきているのだろうか? しかし、その場合でもアイボット達の索敵ローラー作戦に全く引っかからないのはおかしいはずだ。

 

 何を見落としている……?

 

 考え込んでいる間にも、アイボット達は前進を続け、山地の頂点を越えて、向こう側が視界に入ってきた。地図データでは山向こうは第三次世界大戦で放棄された街があるだけのはずだが変わりはないようで街の残骸が鎮座しており、気候的に砂塵を含んだ風は吹かないが、荒涼とした、一部を雑草により埋め尽くされた通りを野犬がうろついている。……まて、あれは本当に野犬か?

 即座にアイボット達に前進停止を指示。最大望遠で野犬の姿を追わせると、野犬、というにはずいぶんと筋肉質なボディがカメラに写った。

 まさかな、と思いつつ、一機を木が視認の妨げになるような、広葉樹の枝の上あたりに移動させ、残りを一旦街が見えない、向こうからも見えない位置に下げる。ここからは持久戦と考え、観測中の一機以外は省エネモードで待機させてその一機でじっくりと探った。ふと気になったので、待機中の一機を再起動させ、山のこちら側に見慣れない足跡が無いかを探索させる。木がまばらに生えている山は、そう足跡が残らないし、残ってもアイボットのセンサーでは解析まで行けるかどうかだが、やらないよりはマシだろう。

 

「何を見ているの、お嬢?」

「今の所野犬しか見えないんだけど、その野犬がやけにマッチョな犬に見えてさ。悪い想像が当たってると、この街ってE.L.I.Dの制圧下にある可能性が」

「えっ!?」

「だから確定すべく観測中なんだけど、これ以上アイボットを近づかせると、悪い想像が当たってたら火薬庫に火をつけるようなものでさ。ちょっと慎重になってる」

 

 こわごわとモニターを覗く59式。なんとなくその頭にぽん、と手を載せてから、アイボットの望遠レベルや観測角度を変えて街のそこかしこを見る。今の所、怪しいものもその痕跡も見当たらない。連中が拠点を占拠すると、狩りをしてゴアバッグなどを作ったりするから、それが観測できれば一発なのだが……繰り替えすが今の所見当たらない。

 

 無論、いるんじゃないかと疑っているのはスーパーミュータントである。野犬は、スーパーミュータントハウンドではないか? と。

 FEVウィルスがここにもあるのかどうかは知らん。あったら滅菌確定だけれども、あくまでE.L.I.Dとして存在するのであれば、コーラップス液を感染(と呼称する)させて仲間や犬を増やしているのかもしれない。これは非常に怖いことを意味していて、汚染地域で放射能に対する完全な免疫を持った生物が、コーラップス液のキャリアーとなりつつ増殖する、ということになる。さすがにゾッとしない案件である。

 が、警戒している私をあざ笑うかのごとく、SMやそれに類するモノの姿は確認できない。先程の野犬も姿を現していない。ログを見返してみて、私、59式、カリーニンの全員であれは野犬かそれに類するものだがシルエットが大きく筋肉質に見える、という意見の一致を見ているので見間違いはありえない。とりあえず一昼夜程度はじっくり監視するつもりで増援、交代要員のアイボットを送り出しつつ、動くものが現れたらアラームが鳴るようにしてひとまず休憩を入れよう。

 ……一番楽な可能性は、スクリプト湧きかなんかで突如出現しただけで、排除したらもう現れない、ってところかなあ……。その場合だとしたら、街の拠点化が行われておらず、例のゴアバッグ等が見えないのも理由がつくのだが。

 

 

 結局、日が落ちても変化はなかった。最悪、私単独で潜入も計画に入れねばならないだろうか?

 

「却下」

 

 が、59式に却下された。

 

「それをするぐらいなら、私達に部隊編成して偵察命令を出してって言ってるじゃない」

「そーなんだけどさあ……最悪の予想が当たっちゃった場合、敵の想定火器が小型ミサイルランチャーだから……」

「私みたいなHGとか、SMG人形なら見てから回避が余裕でした、だよ。AA-12なら正面から受け止めてもいいんじゃない?」

「めんどくさい特性があるかもしれないから困っててねえ……いや、待てよ?」

 

 高密度ボディアーマーを全員に支給しておけば、ミサイルやらフラググレなどの爆発物は怖くないのではないか? よし、とりあえず全員分の高密度ヘビーレザーアーマー(胴体)を作ろう。そもそもの基礎的な防御能力は人形の躯体能力依存だしね。……AA-12の防弾ベストだけコンフリクトするかな、まあ、防弾ベストなしでも防御力は十分にあるだろう。

 ……と、考えてとりあえず59式に装備させてみたところ、絶不評。重いのが一番気に入らないらしい。うーん、これはダミーを使って実験するしか無い、かな……?

 

 

 と、言うわけで、人形たちを集めて射撃場に、訓練用ダミーSKS人形を用意。通常のダミー人形とそもそも同程度の耐久力があり、さらに私の改造も施してあるので基地にいる人形たちと同程度の耐久を有している。

 

「まあそんなわけで、この高密度アーマーがどれだけ爆発物のダメージを減少させるか、というのを実験するよー」

 

 なんだなんだ、といった具合に集まった人形たちに、ダミーSKS人形を指差す。

 

「爆発物による面制圧の厄介さは、HGとかSMG人形なら身にしみているでしょ? その、爆発物のダメージを大きくカットするのが高密度アーマー。当然重いのが難点だけど、これでも軽いやつなんだから。とりあえず……PPS-43に投げてもらおうかな」

 

 と、PPS-43にフラググレネードを手渡した。

 

「ypa-!」

 

 ばぁんっ

 

 ダミーSKS人形へのダメージが表示される。そもそもの爆風によるダメージや、それによる手足などの駆動部分へのダメージ等、それなりの被害が記録されていた。

 

「それじゃあ次、高密度化アーマー装備」

 

 ダミーSKS人形を交代させ、そちらには高密度レザーアーマーを装備させている。再度PPS-43にフラググレを手渡し、投げさせる。

 

「ypa-!」

 

 ばぁんっ

 

 再度、ダミーSKS人形へのダメージが表示される。参考情報として並べてある無装備状態へのダメージ情報の隣に、今回の測定されたダメージが並ぶ。

 

「……え、四分の一以下……?」

 

 PPS-43の呆然とした声。さもありなん、爆発物によるダメージを最大のダメージソースとしていたPPS-43の長所が殺された瞬間である。大丈夫、鉄血がこれらを装備してくることはほぼ無いから安心したまえ。

 ただ、予想ではダメージ四割減のはずだったのだが、それにとどまらず四分の一八分の一レベルへの減少となっている。手榴弾スキルによるダメージは装甲無視だったはずなのだが、どういうことだろうか。アーマーを与えたことでDRが発生し、DRによる軽減が発生した以上は装甲無視効果も無視された、などだろうか……? 

 詳しいことを確定させることはできないだろう。とりあえず言えることは、高密度化アーマーの配布で爆発物ダメージが著しく減少するということだ。……破壊者からのダメージも著しく減るのだろうか? まあ、それは破壊者を鹵獲してから実験でいいか。

 思考がアチラコチラにフラフラするのをとりあえず引き戻し、ざわついている人形たちを、手を叩いて静かにさせる。

 

「はいはい、それで高密度化アーマーの有用性はわかってもらえたと思うのね。それで、今回の想定敵は主武装がミサイルランチャーとスレッジハンマー。あと猟犬による突撃、自爆兵による突撃」

「自爆兵!?」

 

 ざわっ、と人形たちがざわついた。

 

「……まあ、いないと思うけど。この自爆兵、接近してくると『ピッピッピッ』って発信音が聞こえるから要注意。後、持っている爆弾が核爆弾だから、必ず接近される前に抱えてる右手以外を撃って殺してね」

『核!!??』

 

 それ以上にざわついてある種混乱まで。

 

「ま、待って指揮官、核爆弾って繊細なもので、そんな抱えて走って自爆なんてできるものじゃないはずですよ……!?」

 

 半ばパニクったSPP-1の言に、周りの人形までうんうんと頷いているが……

 

「といっても、実際にやってくるからなあ……ほら、私の最終兵器、ファットマンの弾薬のミニニューク。あれ持って走ってきてタッチダウンしてくるんだわ、マジで」

「ファットマンって……小型核カタパルトの……?」

「そう」

「つまり、核爆発する?」

「うん、する」

「あの青い爆弾よりも……?」

「多分。爆発影響範囲が読めないから気軽に実験できないからやってないけど」

 

 おっとPPS-43が倒れた。

 

「だって、ヌカクアンタムグレネードのノーRADならともかく、確実に放射能が出るから第三次世界大戦再開の引き金になりかねないじゃない」

「……そ、そんな核爆弾があの放棄市街に転がってるんですか……?」

「あくまで可能性……だけどね」

「ねえお嬢……あの放棄市街区、一体何がいるの……?」

 

 重々しく問われた59式の問いに、私はこう返した。

 

「それじゃあ、スクリーンとか使って説明しましょうか」

 

 

「あくまで仮称だけど、私がスーパーミュータント、もしくはナイトキンと呼ぶE.L.I.Dが、あの放棄市街にはいると推測してる。多分前者。こいつらがよく伴っている犬のE.L.I.Dが見えたのがその判断理由」

 

 ホワイトボードに、緑の巨人と青の巨人を描く。青の方には「可能性:低」と添えて。

 

「あの、そのようなE.L.I.Dの報告が上がっていた記憶がありませんが……」

「なんで私が知っているのか、というのは説明が難しいわ。『何故か知っていた』で今は済ませて頂戴」

 

 カリーニンの疑問には答えられないことを添えておく。

 

「こいつらの性質として、まず、大多数は同類以外に対しては非常に攻撃的、狩猟対象と見なして襲ってくるわ。巨体を維持するためにそれなりの食料を必要とするからと推測される。……僅かな例外もいるにはいるけど、多分ここにはいない。そして、こいつらはそのタイプに応じていくつかに特徴が別れる」

 

 共通:同類以外には獰猛、食料にするために襲ってくる。見た目通りタフ、怪力、廃材再利用型のアーマーを着用していることがある

 スパミュtype4(高知能):自爆兵の存在確率高、爆発弾体射出武器を多用傾向にある

 スパミュtype3(低知能):自爆兵の存在確率低もしくは無、近隣から人を浚う傾向にある

 ナイトキン:一部指揮個体が高知能。部下を殺すと敵討ちモードに入り、その前であれば場合によっては交渉も可能。僅かな揺らぎ以外完全に見えなくなる光学迷彩が基本装備なので注意。

 こう、書き連ねてみるとやっぱりコイツラヤバすぎてもう。

 

「……やっぱ隠密偵察は私が適任だと思うんだけどさあ。行っちゃ駄目?」

『駄目!(だ!)(です!)(よ!)』

「ちぇー」

「ちぇーではないぞ。指揮官の謎能力のおかげで、我々は指揮官と指令室さえ無事ならいくらでも立て直しが可能なのだからな」

 

 処刑人にも言われてしまった。鉄血ハイエンド人形も、バックアップは取れたので復元できるようになったからか。ダミーリンクはダミーを作成できない以上できなかったので、アサルトロン随伴部隊とかつけたいものだ。ドミネーターはマジ硬いからな……。

 ただ、スプリングフィールドだけはバックアップがとれないので復元もできないのは注意しておくべきだろう。

 

「むぅ……じゃあ、まあ、部隊編成しましょ。相手が鉄血じゃなくてE.L.I.Dだから……少し変則編成にしましょう」

 

 とりあえず、現地見取り図を机に投影し、人形たちそれぞれを表すコマを取り出した。

 放棄市街の中央地区に、大きめの建造物があるので、よほどの理由がない限りその大きめの建造物、恐らくはデパートか何かが拠点となっていると考えられる。周辺の住宅等の上に登るのは、より高所となるデパートから丸見えになるため一時的な偵察以外は非推奨……いや、It BM59と、スプリングフィールドを分散配置して、デパートの屋上などに敵影が見えないか探り、場合によっては狙撃で排除してもらおう。その一方で、59式主軸、Five-seveNとグリズリー主軸の偵察部隊と、AA-12主軸、鉄血人形主軸の突撃部隊、という感じにいけばいいだろう。偵察部隊でサーチしつつ、突撃部隊と連携してスパミュを排除、でいいだろう。

 もし、敵がスパミュじゃなかったら?

 デスクローとかのクソ硬害悪E.L.I.Dでも無い限りどうにでもなるし、万一そういうのが出てきたら私が出張る。これについては私しか対処できないので人形たちに同意させた。

 

 さて、狩りの時間だ。ハントマスターは私、ターゲットは推定スーパーミュータント。勢子も射手も人形たち。

 ……で、いいのだったかな……?



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緑のもの

「よし、定刻。これより、放棄市街区確認作戦を開始。作戦目標は市街区中央のデパートの確保、及び敵性存在の排除」

『了解』

『了解!』

『了解だ』

『了解です』

『了解しました』

 

 正直、未確認地区の偵察かつ敵性存在の暗殺は私の最も得意とするところなのだが、指令室の最高責任者がホイホイ敵地に乗り込むんじゃないと59式を含む人形、カリーニン、そしてヘリアントスに怒られては仕方がない。周辺警戒はロボット部隊に任せて人形部隊を放棄市街区に派遣した。

 

「ブリーフィング通り、日没までに作戦終了に至らない場合は一度撤退、再度夜明けを待って突入よ。それでは、地上部隊前進。スプリングフィールドとItBM59は、登れそうなところあった?」

『非常階段が残っているところがいくつかありましたので、メインフレームとダミーそれぞれ分散して移動中です』

『こちらも分散して登っているところよ。スコープなしだと、デパートの中や上に何かいるようには見えないわね』

「オーケー。作戦指揮用ドローンは飛ばしてるけど、索敵の役には立たないから、自力での周辺索敵も忘れずにね」

『了解!』

 

 ドローンから入る視覚情報と位置情報を元に、ホログラフで作戦マップがドローン操作ターミナルの隣に浮かぶ。試しにスプリングフィールドの視覚にアクセスしてデパートを覗き見てみるも、特に収穫はなかった。スパミュが巣食ってるなら、ゴアバックとか骨肉のトーテムとかあってもおかしくないので、ここにスパミュはいないのではないか、という考えが頭をよぎるものの、勘の部分が『それはない』と大声で騒ぎ立て続けている。

 かなり、というよりすごく出撃したい。分隊構造をしている都合上、人形たちは引き撃ち等が臨機応変にできるわけではない。いきなり近場にスパミュ、特に自爆個体が出てきたら目も当てられない。が、ドローンを操作して全体の指揮を取れる者も私しかいない。最低限の幸いとして、私のいる指揮車両は放棄市街区の近くまで来ていることか。三式ガウスライフルも作ったので、遠距離から大火力を打ち込む準備もOKだが、それを持ち出す機会に恵まれてほしくもない。大砲も私一人だと命中率がなあ……。

 

 とりあえず、59式の部隊とグリズリー&Five-seveNの部隊はデパートの麓までたどり着いたようだ。人形達からの情報でそこまでの市街区には物資はそれなりにありそうだとわかったが今は無視。クリアリングもある程度済ませて、デパートにどこから入るかが問題だ。正面のガラス戸やら大判ガラス窓やらは見事に砕けているが、そこから入るのは隠密に長けていない人形たち、特に後続のAA-12達にはキツイものがある。やるなら一階をクリアリングしてからだ。まあ、この手のデパートには従業員用通用口やら、裏手の小さめの入り口等があるものなので、それを探させる。程なくして見つかった従業員用通用口は、電力が来ていないのでナンバーキー式電子錠の電源が落ちておりそもそもハックすることができなかった。ので、さらに探して裏手の小さめの入り口を見つけた。こちらもガラスは全損しているが、見通しが良くないため偵察部隊が侵入するならまずはここだろう。とりあえず、足元にワイヤーなどが張られていないか、不自然に体重計などが置かれていないかなどに注意して進むように指示をした。……私ならそういうの全部まるっと無視できるんだけどなあ……って、トリップワイヤーはだめか。

 

『お嬢、一階には特に何もいないみたい。上と下に進む道があるんだけど、どっちを先に見てくる?』

「迷うけど下ね。大抵は、下のほうが上よりも狭いから。……このデパートは市街地区の真ん中にあるけど、商品搬入のためのルートと地下駐車場がかならずあるはずだから、そこにいけるルートが有るかどうかも探索対象よ」

『了解』

 

 地下に潜る59式たちと連絡を取るために、中継器ドローンを飛ばして追いかけさせる。

 地下一階フロアを周り、従業員用エリアも探したが、特に収穫なし。従業員用兼荷物運搬用エレベーターも反応がないし、資源になりそうなジャンクはいくらかあったが回収は今じゃない。案内板から地下駐車場は地下四階以降で、そこまでは食料品や酒類、書籍類のフロアが続いていたようだ。今は閑散としてなにもないか、元は食料品だと思われる土がわだかまるフロアで、頻繁に何かが通った形跡も無いらしい。念の為壁や天井にも何か痕跡が無いかチェックした上で次のフロアへ。

 地下六階以降は、瓦礫に埋もれていてそれ以上降りられなかった。案内図では地下八階まであるらしいが、結局は駐車場スペースでしか無いはず。

 

『指揮官!』

 

 ふと、悲鳴のようなSPP-1の声。

 

『え、エレベーターが動いてる!! 降りてきてる!!』

「スプリングフィールド、ItBM59、外になにか変化は?」

『現状何もありません。屋上などにも何もいません』

『こちらも何もないわ』

「59式達は隠密、隠れて。ダクトとかそういうのの中が望ましいけど、それがなければ物陰でもいい。とにかく隠れて頂戴。……それにしても、電源はどこ? ナンバーパネルが死んでるぐらいなのに、エレベーターが動くとか、誰か電気工事士がジョバンニでもしたの?」

 

 地下なのでダクトは必ずある。人形の膂力でダクトの入り口を強引に引き剥がし、59式とSPP-1はダクトに潜り込み、入り口をはめ直す。パネルの隙間から見えるだけだ。暗視機器のぼんやりした視界の中、エレベーターの戸が開いて、光が通路に零れ落ちる。その中を、ずしゃりずしゃりと音を立てて歩く巨体。

 いやがった。スパミュの、どっちだ。三か、四か。ミュータントハウンドを連れている以上は、四か? 四なら感染増殖はしないはずだからまあいいが……いや、自爆兵もいるはずだから一口に喜べないな。

 

「AA−12」

『何、指揮官』

「万が一……万が一レベルだけど、コイツらは会話可能な可能性があるの。連中が地上一階に差し掛かる辺りでわざと発見されてくれないかしら。連中に無線技術は無いわ」

『あいよ、了解。私向きだね』

『ココニハミドリノモノガナイ……』

『な、何か言ってる……!?』

 

 スパミュの発言にSPP-1が思わずといった感じにつぶやき、59式に蹴られてすぐ黙る。幸いにしてスパミュたちには聞かれてはいなかったようだが。

 

「ここには緑のものがない、って言ってたわ。それにしても何でここで唐突にヤーパン語なのかしら……」

『緑?』

「あれね、元が人間限定のE.L.I.Dなのよ。人間に特定ウィルス株を感染させることで繁殖する……のだけど、ここにそのウィルス株が無いことを嘆いていたわ」

『あ、あの、指揮官様? 本当に何でそんな事知ってるんですか?』

「いい女は秘密があるものよ、ということにしといて。ちんちくりんの自覚はあるから。ともあれ……万が一の可能性が億が一の可能性ぐらいになったわね。AA-12、連中、多分ほぼ間違いなく出会い頭にミサイルランチャーぶっこんでくるはずだから、耐爆態勢を忘れずにね」

『了解指揮官、任せろ』

 

 AA-12のチームは、すでに地下への入り口の前に陣取り、AA-12を囮に射撃体勢を整えている。

 そして、この間に地下のエレベーターを59式とSPP-1が調べている中待つことしばし。

 

『ニクダ!』

『アソボウゼーニンゲン!』

 

 AA-12の視覚にアクセスすると、ネイルボードを手に突っ込んでくるの一人、案の定的にミサイルランチャーを構えているのが一人、突っ込んでくるのが一匹。

 

「奥から倒して。あの棍棒モドキと犬ではAA-12の装甲を貫けない」

『了解。まあ、私は自衛もするんだけどな』

 

 タタタタと銃弾が奥のスパミュに降り注ぐ一方、AA-12がまずはハウンドに狙いを定めてダミー含めて一斉射するも、やはり倒れない。

 

『硬すぎんだよ』

 

 AA-12がぼやいたところにミサイルが着弾、大きく爆発が広がる。……というか、ゲーム内のミサイルランチャーより爆発でかくね? 味方のはずのハウンドは吹っ飛んでるし、もう一人のスパミュも無事ではない。

 

『へぇ……確かにこのボディアーマーは優秀なんだな。大したダメージがないぞ。指揮官だと一発お陀仏だろうけど、なっ!』

「失敬な。パワーアーマーさえあれば正面から殴り倒してやるわよこんな奴ら」

『ぱわーあーまー、なんぞ知らへんけど、あらへんのやから無理や、なっ!』

 おや……ガリルのやつ、いつの間にかアイホールショットなんて覚えたのかしら……。

『Aigesのようなものでしょうか~?』

「あんなブリキ人形と一緒にしないで頂戴」

 

 L85A1もミサイルランチャーを撃ち抜いたのか、奥のスパミュが……よりによってスレッジハンマー取り出して来てんぞおい、大丈夫かあれ?

 

『対処の仕方、わかっちゃいました~』

 

 マガジンを交換したL85A1が、膝立ちになって一気に連射。いかな硬いスパミュとはいえ、両膝に五人分のフルマガジンをぶっこまれると流石に持たないらしく、どしゃっと倒れ伏す。

 

『アアアアアイイイイイイエエエアアアアアアアアアアーッ!!』

『ypaー!』

 

 トドメはPPS-43の手榴弾。文字通り触れるような至近距離での爆発に、ばちゃっと頭が砕ける。さすがにあれでは生きてはいないだろう。

 

『キョ、キョウダイーッ!!』

『よそ見してる暇があるのか?』

 

 仲間がやられて動揺していた残りのスパミュは、顔に銃口を押し付けての発射で、こちらも頭が砕けて崩れ落ちた。

 

『なるほどな。L85A1の言うように、なんかコイツラ相手のコツがわかってきた気がするよ』

『ですよねぇ~。指揮官みたいに、コツとか抜きに大火力で倒すのはできませんしそもそもの手足すら硬い、えぇと……で、ですくろー? は無理ですけどぉ』

『せやな。あれは指揮官の謎パワーやろ。とりあえずうちらは手足武器砕いて、最後に頭砕いてみれば倒せるっちゅーこったな』

『……目を抜いて倒しておいてそういうか?』

『ぐーぜんやぐーぜん』

『謙遜もすぎれば嫌味だよ』

 

 あらあら頼もしい。部位破壊(?)で即死誘発(?)、かぁ。あのデスクローの攻撃力はともかく、防御力は本当にやばいレベルらしいからなあ……。正規軍が対応した時は、対物ライフルでようやく手傷、戦車砲で負傷させて追っ払うのがやっとだったらしい。一方、私がプラズマライフルを持ち出すと三発でカタが付くのは一体なぜなのやら。当然私のプラズマライフルには戦車砲並みの威力があるという事実はない。言うなれば、私が攻撃するときだけ威力に特攻倍率が掛かっているかのような……?

 

 まあいい、今は作戦だ。

 

「59式、上は片付いたけどそっちはどう?」

『全然だめ。そもそも電源が入ってるように見えないんだけど』

「だめかー……。じゃあ、さすがにそっち行くわ。地下のクリアリングは済んだのだから、上を見てきて頂戴」

『了解』

 

 指揮用トレーラーを降りて、隠密態勢で放棄市街区へ向かう。隠密と探知を全開にしながら移動したが、ルート上にはなにか隠れている様子などはなかった。とりあえず習慣となっているジャンク回収をしながらデパートへ。正面入口はすでにクリアリングされているのでそのまま侵入。下り階段前で隠密を解いて声を掛け、ミュータントハウンドを解体して肉を採ってから再度隠密態勢に入って地下へ降りる。ハウンド肉はRAD汚染対策に便利だからね!

 途中で59式とすれ違ったので、肩を叩いてすれ違ったことを伝えておいて、そのまま地下四階の搬入用エレベーター前へ。確かに、電源が来ているようには見えないが……さっきは動いていた以上、何らかのドアを開く仕掛けがあるはずだ。とりあえず、正規の手段であったと思われる呼び出しボタンは長い間触られていない形跡がある。となれば、この周辺になにかある、というかなければおかしくて、いかに高知能型のスパミュといえども比して高いだけでありいうほど知能は高くないのでそんな難度の高い隠蔽は行っていないはず。

 スパミュ目線で見る、感じる、考える……、……。あった。背の高い棚の上、普通の人間や人形の身長だと見えず、スパミュの身長ならちょうど見えるところにボタンが増設されており、ヤーパン語で「えれべーたーにのりたいときおす」と書かれていた。おそらく、スパミュはこのデパートを何らかの形で後から乗っ取ったのだと推測される。ボタンの増設や隠蔽型施設化したのは誰か別の、それこそかなりの腕のエンジニアで、一方でそういう人材は得てして荒事には弱い。おそらく、上へ上がる手段はどこかで潰されており、そのための代替かつ隠蔽された入場手段がこのエレベーターなのだろう。

 

『お嬢、七階でエスカレーターも階段も全部破壊されててそれ以上登れなくなってた』

『というより、二階以降は地下以上に埃だらけで、誰かが通ったような痕跡が全く無いわ』

『エスカレーターも階段も、破壊だけでなく強引によじ登ることができないように塞いであるから、これ相当ね』

 

 ほら、ね。




ああ~、イベントが進まないんじゃあ~


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頭が良くないと最上階に行けない系デパート

 スパミュの拠点直通と思われるエレベーターのスイッチを見つけた。それはいい。

 推定直通というのが大いに問題である。

 この手のエレベーターと言うやつは、開閉は事故防止のためにゆっくりで、閉まりきらなければ当然上下移動に移ってくれない。つまり、スパミュ共を殲滅かそれに近い状況に持ち込まない限り、撤退できない状況に陥るということで、流石に地下四階から地上八階以上へはダミーリンクの圏外なのでダミーだけ突撃させて様子見させることはできない、ということだ。メインフレームは七階にいて、などのアクロバットをぶっつけ本番で試すつもりもない。全員で突撃してカチコミかけるしかないかなあ、と考えそうになっていた時に、ふと、59式が

 

「ねえお嬢、デパートの外部に中継機たくさんおいておいて、アイボットに行ってもらうのは?」

 

 私は手を叩いた。

 念には念を入れよ、ということで、四段構えにすることにした。

 

 1.囮のアイボット

 2.さらに囮の迷彩柄アイボット

 3.本命その一、光学迷彩搭載のアイボット

 4.本命その二、光学迷彩搭載のアサルトロンドミネーターをエレベーターの天井に仕込み、当然あるはずのメンテナンスハッチより出て偵察させる

 

 こりゃ正確には三段構えプラスワン、か?

 ともあれ、そういう風にすることにして、一旦トレーラーまで引き返して積んできた資材でアイボットやアサルトロンを作成し、ついでにこの先作業台をその場で作ってどうにかすることができるぐらいの資材をバックパックに詰め込んで地下四階エレベーター前まで戻r

 

『お嬢、またエレベーターが動いてる』

「オッケー、全員退避、隠密。スパミュは、警戒していようがいまいが私がやる」

 

 さすがに、地下四階から地上八階までの往復はそれなりに時間がかかる。搬入用だから出力重視で速度は早くなさそうだしね。で、レーザーライフルの電源を入れて、エレベーターの出口脇でスパミュ共を待つ。

 

 ぴぽーん、どぅん……

 

 到着チャイムと、ドアの開閉音。ずしゃりずしゃりと特徴的なスパミュ共の重量感あふれる足音。……警戒しているな、四体か。

 

「オーイ……キョウダイ、ドコダァ……?」

 

 このあたりの資材になるジャンクに手を付けないでおいて正解だった。このへんの景色に見覚えがあるのか、さっと見回すだけ見回してゆっくり歩いていく。もっと後ろにも注意を払いたまえよ。

 O.A.T.S起動、頭にそれぞれレーザー一発。謎補正万歳、見事に灰になったスパミュを適当にその辺の部屋の中までモップで掃き入れ、証拠隠滅。ボタンでエレベーターのドアを開き、内部と天井にアイボットとアサルトロンを配置。最後に八階のボタンを押して、私自身はエレベーターの外へ。PDAを出してアイボット達の視覚につなぐ。後ろから59式やAA-12達が覗き込んでいるのである程度見えるようにしつつ、録画もしつつ。

 ドアが開く。

 案の定、スパミュがやたらとたくさん待ち受けていて、飛んできたミサイルで……ああ、さすがに爆発は無理だ、三機ともやられた。しかしエレベーターは大丈夫なのか……? ……大丈夫らしい。アサルトロンも流石に無傷とはいかなかったが、行動に支障はない。エレベーターシャフトの内部を移動して、昇降装置のメンテナンスハッチを探し。都合のいいことにメンテナンスハッチの蓋は壊されていたので、光学迷彩を起動してその状態でカメラを外に出す。

 

「うっ……」

 

 AA-12がうめいた。さもありなん、スパミュ謹製ゴアバッグのお出ましだ。エレベーターの方に気が向いているのか、近場にスパーミュータントの姿はなく、辺りは荒れ果てているものの人が生活していた痕跡が残っている。残っているだけだ。その上からさらに荒れ果て、血や肉片が飛び散った跡がそこかしこにあり、場合によっては血まみれの骨が転がる。カメラだけでなく、アサルトロン自体を動かし、フロアに足を踏み入れ、あたりを探る。昇降装置の位置はそれなりに高く、ここは屋上だろう。屋上はトタン板やベニヤ板で二分されているようで、今いる側から逆側へは屋上からは行けないようだ。なぜそんな面倒な構造を? ともかく、屋上の残りを見て回るも、ゴアバッグがいくつか並ぶのみで特に収穫がない。非常階段から下のフロア、多分十階に降りる。九階へは階段が壊されていた。そろそろエレベーターに気を取られたスパミュ共も戻ってくるだろう、アサルトロンではスパミュの一体も倒せまい、ということで光学迷彩そのものは継続だが、移動モードは隠密から通常へ戻し、ドアを開けて中へなだれ込む。十階のエレベーター脇に出てきたので辺りを見回させ、ついで内部情報を集めようと適当な方向へ走らせる。

 

「……は、あ、え!?」

 

 ゴアバッグがそこかしこに転がる、吊り下げられている中を走り抜け、九階に降りる、特に何もなし。八階に駆け下りる、即被発見。ランダムに横っ飛びして回避をさせつつ走り回らせている中、それは静かに佇んでいた。

 ミサイルが着弾したのかカメラ画像が不意にふっとばされ、そしてブラックアウト。だが、確かに見えた。

 

「パワーアーマーシャーシが、ある……」

「パワーアーマーシャーシ? もしかして、お嬢がないないずっと言い続けてたやつ?」

「そうそう。あれさえあれば、私もSG並の防御力とMG並の攻撃力が手に入るやつ」

 

 いいつつ振り返ってみれば、人形たちのフカシこくにしても程々にしておけよ的な視線をひしひしと感じる。

 

「いや、ほんとよ、ホント。核動力で、ショックダンパー付きだからどんなに高いところから飛び降りても平気だし、サーボもあるから鈍器で色んな物を陥没させられるし」

「……まあ、回収したらわかるよね」

 

 その声色は信じていないな59式。まあいい、今の私はとても気分がいい、気にしないであげようじゃないか。

 さて、そうと来たら、上層階に巣食うスパミュ共の駆除を本格的に考えねばならぬ。

 エレベーターを破壊して閉じ込めてしばらく経った後に確認するのはなしだ。連中とて、階段部分の封鎖を破壊するとかシャフトを一階層分降りるとかその辺りのことはできるだろう。確か生物毒は無意味だし、外部からちくちくやるにしても、狙撃銃ではデパートの内部にいるものを狙うには足りない。屋上には出てこないだろうし。

 

「狙撃班、屋上とか窓にスパミュが顔だしたことある?」

『現状はありません』

『今の所ないわ』

「だよねー……とはいえ、屋上に出てこないとも限らないからなあ。引き続きお願いね」

『了解です』

『了解よ』

 

 そもそも外からは、屋上があのように二分されていることすら見えなかったことだし、それなりに用心か何かしているのだろう。

 そういえば、アサルトロンが走り回っている間に、カメラには自爆個体の姿が映らなかったことを思い出す。いないか、あるいは屋上の二分された反対側辺りにでもいるのだろうか。

 結局、突撃しかないかな、と思い始めていたとき、再びエレベーターが動き始めた。

 

「デパート内部班、全員地下三階以上へ。めちゃくちゃ嫌な予感がする。隠密して暗殺する。これについては反論を許さない」

 

 近くのキャビネットの上に、エレベーター方向へ向けてスパイカメラを設置し、近くの部屋へ引っ込む。エレベーター前で待ち伏せもよいが、これも勘。待ち受ける中、ゆっくりと降りてきたエレベーターが地下四階に到着し。

 

 ぴぽーん、どぅん……ダダダダダダダダッ

 

 ドアが開くやいなや、いきなりの乱射だ。エレベーター前で待ち構えていなくてよかったと思う。光学迷彩を使っているところを見られたせいか、何もない空間にも銃弾を叩き込んでクリアリングをしているようだ。

 

「ニク……!」

「……ニンゲーン、デテオイデー、オイシイタベモノガアルヨー」

 

 喋っていることはほっとこう。ただ、奇跡的に無事だったカメラから入る映像は、スパミュの姿を四つ捉えている。今までに見たような、廃材アーマーとアサルトライフル装備のスパミュが二。粗末な腰布と顔を覆い隠す頭巾、そして右腕に何か抱えたスパミュが二。

 

『でやがった。あの後ろの頭巾が自殺個体。あれには絶対に見つかるな。万一見つかったら全力で逃げて、装備も弾薬も補給も放棄していい』

 

 直接見えないのでPDAに文字入力で人形たちに情報を送る。そのまま、一度ダクトに潜って隠密開始。ステルスボーイもあったらよかったんだが、あれはゴミ箱からは出てこない。私の潜んでいる小部屋にも当然顔を突っ込んできて適当に薙ぎ払ってきたが、ダクトの中にいる私には当たらなかった。一発ぐらいならスティムパックの出番かなと思っていたが、拍子抜けだ。そのまま戻っていくので、静かにダクトから出て、レーザーライフルの電源を入れ、連中の後ろに滑り込みO.A.T.S起動。自殺個体から先に全員頭を打ち抜いてやる。見事に全員灰になったので、ミニニュークだけ回収した。他は、最終的に回収するが今は放置。

 

「デパート内部班、全員地下四階エレベーター前に集合。私込みでカチコミかけるわよ」



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強化外骨格スーツ

本来なら閑話のお時間ですが、
事態進行中につきあとに回されます。


 カチコミかけるにしても、生身の私込みという点が良くも悪くも足を引っ張る。

 極端に言えば、私は対スパミュに限定すれば、非常に高い攻撃力を発揮するものの非常に脆いユニットという扱いである。エレベーターで上ったはいいものの、アイボット偵察を目論んだときと同じように、開幕ミサイルランチャーの歓迎で吹っ飛ばされるのは遠慮したい。スティムパックで一発治癒が可能とはいえ、スティムパックは打つという動作が必要であり、万一両腕吹っ飛んだとかあった時に使用不能に陥りそのまま死ぬとかがありうる。頭がもげたら当然即死だ。

 よって、ここは少しばかり別行動を提案しよう。具体的に言うと、アサルトロンドミネーターを送り込んだときと同じように、私はエレベーターのカーゴの上に潜み、八階まで上がったらそのままメンテナンスハッチに向かってそこから降りる。そして、一旦道中のエネミーを無視し、もしくは自殺個体が残っていればそれのみ排除して進み、最終的にエレベーター前の攻防を後ろから襲撃して援護する。その後、パワーアーマーシャーシを確保、という予定だ。パワーアーマーシャーシが動作するものであれば、その場でステーションを作成して外装を作成、取り付けし、私も人形たちの戦列に加わることができる、という塩梅である。なにせ、パワーアーマーがあれば、プラズマガトリングなどの集弾性が段違いに向上するので、対敵集団にぶちまける使い方しかできなかったものが対単体に火力を集中できるのだ。

 

 当然というかなんというか、今までの人形たちの反応を考えれば当然なのだが、猛反対に遭った。

 

「私は反対だよお嬢、途中で万が一見つかったら、お嬢の運動能力だと避けきれないよ」

「とはいっても、私が今までに隠密でバレたことないでしょ?」

「確かに無い、けど……」

「とはいっても、ミサイルを受け止めてみた感じ、指揮官では高密度ボディアーマーがあっても余波だけで死にかねないぞ」

「だから隠密狙撃に徹するんだってば。……中華スーツとかステルスボーイ欲しいわぁ……」

「無理なものは無理だ、指揮官」

「危険だ、意義が薄い、リスクが高すぎる。とりあえずこの場の人形の総意だな、指揮官」

 

 鉄血人形すら否定にかかってきた。が、正直、このパワーアーマーシャーシの確保のためには割と高いリスクであろうとも被るつもりでいる。思った通りのものであれば上々、たとえ破損していたとしても修理、もしくは解析することで設計図を用意できれば、パワーアーマー部隊の配備すら可能になる。Aegisなど目じゃない装甲とパワー、運動性能が手に入るのだ、やらない手はない。

 

「あと、ほら、それ確保できれば私の安全性が増すよね?」

「……我々を言いくるめるための思いつきをさも考えていたように話さないでほしい」

「前線に出なければそもそも安全なのだが」

「デスクローとか出てきてから指揮官に応援要請でええやん?」

 

 ……。

 

 うるせー! シャーシの確保は私の悲願なんだ、断ってもついていくからな!

 

「あ、逆ギレした」

「指揮官、カルシウム足りてますかぁ?」

 

 キシャー!!!

 

 

 エレベーターが上昇を開始する。

 足元のカーゴの中には、デパート内部に突入した人形たち全員……は、さすがに入り切らないので、AA-12主軸班と鉄血人形班が乗り込んでいる。ドアが開き次第、AA-12と法官が強行前進する予定、ミサイルの爆風が狭いカーゴの中で暴れ回らないようにするためだ。その上で、順次PPS-43やガリルたち、処刑人が飛び出してスパミュ共を排除にかかり、その間に地下四階から残りの59式含む人形が上がってくる予定である。その間に、私は上のメンテナンスハッチから侵入していろいろ排除しながらシャーシを確保予定。

 

「よし……まもなく八階ね。任せたわよ」

『……私は完全同意したわけではないからな。ともあれ任された』

 

 カーゴが八階に到着、ドアが開き始める少し前に、私はシャフト内部を登り始めた。無理くり登るのではなく、メンテナンス用はしごがあるので特に危険はない。

 

『どぉりゃあああああああっ!』

 

 AA-12が、万一を考えダミーを戦闘に横一列に突撃、エレベーター前に陣取っていたスパミュを転倒させつつ奥へと押し込み、

 

『ふんっ!』

 

 彼女の頭上を飛び越え、スパミュ達のど真ん中にダメージゾーンを拵えた法官がまたジャンプして戻る。ガリルとL85A1のコンビが、それぞれ膝を砕きPPS-43が手榴弾で頭を砕くルーティーンを回す一方、処刑人が首をはね、あるいは唐竹割りに開きに仕上げる。データ共有があれば、未見の敵であっても倒し慣れた敵のように始末できるらしい。……これ、私の援護いるかな……とも思いかけたが、万一自殺個体が出てきたら非常にややこしくなる。なるべく急ごう。

 屋上に何もいないのは確認済みなので移動速度重視で走り抜け、非常階段から十階の内部へ

 

 ガコッ

 

 ……鍵がかかっていたのでピッキングでねじ伏せ、十階内部へ。隠密移動を開始し、スニーキングキルのお供、消音ライフルで片っ端から見かけたスパミュの頭を砕きながら進む。被発見? されるつもりもないし仮にされても一瞬でも視界を切ってやればこちらを見失うので改めて皆殺せばいい。九階へ降ると、下に集っているのかスパミュの姿がない。これ幸いとまっすぐ走り抜け、八階。そろそろ下の戦闘音も聞こえてきたので再度隠密を開始し直し、従業員通路のエレベーター前へ向かう。

 っと、あれは自殺個体だ、さすがにこんな所で自爆するとは思いたくないが、スパミュだからなあ……ということでサクッと始末。

 

「キョウダイーッ!?」

 

 お前らその兄弟呼びしたやつに自爆突撃させんなよ。

 

「おまたせっ」

 

 もはや死体隠蔽の必要もないので、プラズマライフルを構えてO.A.T.S起動、片っ端からぶち抜く……ちょっとAP足りなかったので缶コーヒーをぐいっと一本。その後驚いた顔しつつ振り向いている頭をふっとばしてやる。粘液化率が高いのは楽しいねえ。汚い沼があっという間に出来上がった。

 

「……指揮官の、E.L.I.Dへの大火力っぷりは相変わらずだな」

「最近E.L.I.Dしか相手にしてないからわかんないけど、きっとテロリストとか鉄血にも威力高いんじゃないかな」

「はー……確かにこら、単独潜入でどーにかなりそうな相手なら、うちらいらへんなあ」

 

 好き勝手言ってくれる。だが許そう、私はとても気分がいい。

 

「気分がいいというか、玩具を前にした子供というか」

「あれはもうシャーシでしたっけぇ、それ以外頭にありませんねぇ」

『……二十一才児?』

『機材バカ?』

 

 おうこらスプリングフィールドにItBM59、喧嘩なら買うぞ。

 ともかく、パワーアーマーシャーシをチェック。コアは無いし外装も全部ない、完全にシャーシだけの状態だ。だが、損傷は見られない。そもそも傷つくものでも無いし、目の前で爆発物炸裂しても無傷だったしな。うっかり核ミサイルに巻き込まれた時には、演出上消滅していたが。手持ちのコアをとりあえず一本差し、バルブハンドルっぽいところを左にひねる。

 

 がこんがしゃしゃぎゃっ

 

「わ、開いた」

 

 念の為、髪の毛を巻き込まないように服の内側に放り込み、乗り込む。

 

「……頭丸出し?」

「ヘルメットパーツが無いからねえ。とりあえず歩いてみるか……お、いけるいける」

「正直、そのような外骨格でなぜそこまで軽快に動けるのかが疑問でならないのだが」

「法官、気にするだけ無駄ではないか?」

「そうかもしれないが……」

 

 シャーシだけの状態でも、落下ダメージ無効化とサーボによるアシストシステムはしっかり働いている。スパミュのスレッジハンマーがちょうどよく転がっていたので拾い上げて、なんとなく壁をぶっ叩いてみた。

 

 ぼごぉっ

 

「……」

「……」

「……これは、確かに、Aegis等比べ物にならない出力だな……こんなもの、どこが開発したんだ?」

「アメリカ軍部開発局。ところによりマイナーチェンジとか現地改修とかがあったわ、確か」

「……知っていたか?」

「知らんぞこんなもの」

『今壁を壊したのは指揮官ですか? いきなり一部壁が崩落して驚きました』

『そういうのは声を掛けてからやってよね』

「ああ、ごめんごめん」

 

 狙撃班の二人に謝ってから、とりあえずシャーシからは降りた。マナーとしてコアは抜いておく。

 

「それで指揮官、それはどうするんだ?」

「こうする」

 

 持ってきた資材からパワーアーマーステーションを作成、規定位置にシャーシを配置。ゲームではPip-boyに配線をつないでいろいろとコントロールしていたが、私はPDAにつないで各部をコントロール。そのまま……んー。量的には問題なかったが資材が種類的に足りない。X-01を作りたかったが、帰るまでお預けだな。とりあえずこの場ではT-60アーマーを作る。がしょこん、きんきんきんという懐かしい音。

 

「……今、どうやって作った……?」

「呆れた」

「見ると驚くよね」

 

 続けて、衝撃補正機能を両足、テスラブレイサーも両手、ターゲティングHUDとジェットパックをセット。まあ後々解体するだろうが、今現在の性能は多少資材の無駄遣いであろうと欲しい。……なんとなくではあるが、これ、私が時間使って技術開発できそうな気がする。まあいい、いずれにせよ帰ってからだ。

 組み上げ、今回は塗装は無しで再度コアをはめ込み、バルブをひねる。

 

 がこんがしゃしゃぎゃっ

 

『よし、オーケー! ねんがんのぱわーあーまーをてにいれたぞ!』

「そう かんけいないね」

「……? あー、59式がなんか言うたっちゅーことは、何かしらのレトロゲーネタやな? さすがにわからんわー」

『なによー、あれは名作なのよー』

「と言われましても、ヤーパン語のゲームとか私達にはできませんし……」

『ぐぬぬぬぬ……』

 

 帰ったらローカライズ済みレトロゲーパックを買おう、そうしよう。




時々、別のものを書きたくなるんです最近
メジャーな異世界転生とか転移とかものとか、悪役令嬢とかのあれこれ。


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ベヒモス

 AA-12を先頭に、再び九階、十階へと登ってゆく。

 

 大雑把な感覚的なマッピング的に、仕切られていた屋上の反対側へは、恐らく通常のエスカレーターで登ってゆくことで行けると判断した。デパート内部の案内板から、屋上は通常はキッズプレイエリアらしいのだが、イベントプレイスを兼ねているようで階段だけでなくエスカレーターでのアクセスが可能なようになっていた。エレベーターも十階、屋上間を移動する小さなものが設置されていたが、そちらは動かなかった。

 エスカレーターを登った先は小さな風除室であり、当然ガラスは砕けている。外には、何やら装備がゴテゴテしいスパミュが一人。それ以外は何もおらず、その少し後方ではよく見るタイプの燃料式発動機がなにやら唸りを上げている。屋上の残り半分が見えるかと思っていたがその残り半分はさらに半分に仕切られていて奥が見えない。発動機から伸びるラインはそのベニヤ壁の向こうに伸びているようだ。

 

「ココマデカ……アトハマカセタゾキョウダイ!」

『なんだと?』

「え、なに、お嬢あいつなんて言ってたの!?」

 

 ごてごてしいスパミュ、恐らくはスーパーミュータント・ウォーロードは、なぜか私達ではなく燃料式発動機にミサイルランチャーを放ってそれを破壊すると、ランチャーを投げ捨てスレッジハンマー、いや、スーパースレッジに持ち替えて雄叫びを上げながらこちらに向かってきた。

 

「ウオオオオォォォォォォッ!!」

 

 だが、悲しいかな。

 

 キュイイイイイドドドドドドドドドドドドッ

 

 パワーアーマーにより安定性を獲得したプラズマガトリングの前では等しく緑の粘液にジョブチェンジさせられる弱者でしか無いのだ。

 

「……。あまりにあっさり過ぎて逆に哀れに思えてきたぞ。もう少しこう、手心というものをだな……ともかく、あやつは一体何を言っていたのだ?」

『もはやこれまで、兄弟よ後を頼んだ、ってところかしら』

「跡を頼んだ? つまり、こいつらにはまだ残存戦力があるということか?」

『今の所気配的にはそういうのが引っかからないのよね。あなた達のセンサーには?』

 

 聞き返してみると、処刑人も法官も首を振る。ウチの人形たちにも目を向けてみたが、揃って首を横に振った。

 ベニヤ板の向こうでも覗いてみるかな? と思ったとき、ふと、壁の向こうに強い気配をPerceptionが引っ掛ける。同様に気づいたのか、鉄血人形二人と、HG組が戦闘態勢を取った。

 

『……なによ、これ』

 

 嫌な想像が頭をよぎる。外れて欲しい想像だが、スーパーミュータントが兄弟と呼び、単数で「任せられる」ほどの戦闘能力があり、発電機を破壊する=電力喪失により動き出すやつなんて、一つしかいない。

 ウォーロードが落としたスーパースレッジを拾い上げ、覗き込む手間も惜しいのでベニヤ板をフルスイングして叩き壊す。想像通り、電気的で今や無意味な枷を叩き壊し、スーパーミュータントをそのままさらに大柄、というか巨大化させたようなやつがそこにはいた。

 

『デパート班、総員十階まで退却! 急げ!』

 

 唖然としていた人形たちが、弾かれたように駆け出していく。こういうときの殿役のAA-12の更に前で、牽制のためにプラズマガトリングをぶっ放すものの、少しひるませるぐらいでそこらにあった拘束用機材を盾にして防がれた。とはいえ視線が切れたのも事実で、その間に私は隠密、人形たちは十階まで退避。

 

『指揮官! 屋上に巨大なスーパーミュータントが! あれはなんですか!?』

『ベヒモスよ! 頭を狙って!』

『了解! なんなのよあれ、信じられないわ!』

 

 ItBM59のぼやきも当然だろう、あんなデカブツ、普通はありえない。身体がそのまま大きくなるということは、相対的には脆くなることと同義だ。ただ、ファンコミュニティの考察にもあったことだが、スーパーミュータントは貪食の果てに際限なく成長を繰り返し、最終的にベヒモスへと至るのではないか、というものがあった。第三次世界大戦に端を発する無政府化により、自力で拠点を築いて生き抜いていたコミュニティが、スーパーミュータントに襲撃を受け、食い尽くされ、あるいは時に共食いすら果たした個体がベヒモスになったのではないか? 勝手に私が呼んでいるだけだが、Type4、すなわちボストンに生息するタイプのスパミュは頭は悪くなく、それゆえに枷を作って封じ込めていた。最終手段兼用として。

 私を見失っているようで、ベニヤ板近くにしゃがみこんでいる私には目もくれず、ベヒモスの巨体では腕ぐらいしか通らぬ十階へのエスカレーター口をほじっていたが、すでにその近くには人形はいない。苛立ったらしく咆哮を上げながら地団駄を踏む。屋上がいくらか崩落したが、それでもベヒモスが入り込めるサイズではない。

 と、ベヒモスの頭部がかくんと揺れる。その直後に

 

 タァーンタァーン……

 

 後を引くライフルの銃声。二人の狙撃が頭部に命中したのだろうが……わかっていたことだが、浅い。が、このまま屋上から出られないベヒモスを狙撃し続ければそのうち倒せるだろう……と考えてやばいそれはフラグ、と思い至るも、少し遅かった。

 

「ガアアアアアアアアッ!」

 

 どこから攻撃されているかに気づいてしまったベヒモスが、屋上に転がっていた室外機(業務用の大きいやつ)を掴み、ブチンバチンと固定を引きちぎるとそれを振りかぶって投げた。あの方向はItBM59か?

 

『BM59、回避じゃなくて遮蔽をとって! あれは、追いかけてくる!』

『はぁ!? ……うわ、本当ね指揮官、屋上にいて遮蔽が近場になかったダミーが一機潰されたわ』

『マジか。狙撃班、全員遮蔽のとれる位置へ。そうじゃないと、BM59のダミーみたいにぺしゃんこよ!』

 

 ベヒモスの投擲、ゲーム内では岩だったが、あれは奇妙かつ非常に強い誘導性能を持って回避しようとするママンパパンに襲いかかった。まさかこっちでも有効とか聞いてねーよ。

 

『……遮蔽が取れるなら問題ありませんね。狙撃、続けます』

『まっさか、ダミー落とされるとはね……仕返しよ!』

 

 タァーンタァーン

 

「ゴアアアアアアアアアッ!」

 

 銃声と咆哮、屋上設備が引き剥がされて投げられるという応酬が続くが、そのうち、当然やってくる弾切れがきた。屋上に、もう投げられそうなものはない。まあ手詰まりだろう、そろそろ横からガトリングぶっこんで膝でも砕くか、とスピンを始めようとしたところ、ベヒモスは思いもよらない行動に出た。

 

 つまるところ、屋上から飛び降りたのだ。

 

『え!?』

『はぁ!?』

『嘘でしょ!?』

『ちょっとお嬢どうなってるの指示ちょうだい!?』

 

 慌てて屋上の縁まで駆け寄って下を見たところ、着地して、特に支障もなく動けるらしい。嘘だろ!?

 

『狙撃班、退却、いや市街区へ潜伏。まともにやりあったらぺちゃんこにされるわよ。デパート班、デパート外へ移動して。ベヒモスとやり合うわよ!』

『エレベーター動かすから指揮官も早く!』

『私は屋上から飛び降りるから先に行ってて! パワーアーマーにはショックアブソーバーがあるから平気なのよ!』

『ちょ、指揮官待っ』

 

 返事を聞かず、私はそのまま屋上からその外へダイブ。スーパースレッジで薪割りダイナミックできないかなと思ったがさすがにそこまで精密な落下点制御はできていない。ので、スーパースレッジは空中で放棄。プラズマガトリングを着地時に壊さないようにしっかりと保持する。目測三、二、一、

 

 ずどぉんっ!

 

 ひどい音がした。足元のアスファルトとかヒビが入るを通り越して粉々だ。

 だが、私は無傷だ。念の為の各部コンディションチェックにも異常なし。

 

『着地成功、ベヒモスに攻撃を仕掛けるわよ!』

 

 幸い、ベヒモスは視界内にいる。近くにいるスプリングフィールドを攻撃しようとしているようだが、あのスプリングフィールドの誘導するような動きからしてあれはダミーだろう。では遠慮なく膝カックンと行こう。突くのは膝ではなくプラズマガトリングだがな!

 

 キュイイイイイドドドドドドドドドドドドッ

 

 緑の光球が列をなしてベヒモスの右膝裏に殺到し、よろめき、膝を付き、倒れ込む時には自然と手は何かにつかまろうとするので余計に脚はがら空きになる。無防備になった脚にしつこく攻撃を加えて、ズタボロの血塗れのグズグズになった辺りで、脚がClippedになったことを確信してトリガーを緩めた。

 というか、プラズマガトリングという武器の最大の欠点はその耐久力のなさであり、ワンマガジン、といってもかなりの弾数があるのだが、ワンマガジンちょっとで耐久が限界を迎える。よって、プラズマガトリングはここまでで、次はプラズマライフルによる引き撃ちが適当だろう。実際、怒りに燃え、敵意に溢れた視線のプレゼントを受けている。ま、どうせ、片足を砕いたとはいえ、デスクローの例もあることだ、ベヒモスとて同じ様に、

 

『ああくそ、やっぱりお前もかよっ!』

 

 片腕を第三の脚のようにして移動してくるベヒモスに対し、私は距離を維持すべく走り始めた。



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クリティカル

深夜にも投稿しておりますので、未読であればそちらを先にどうぞ。


 パワーアーマーのダッシュ機構を使用して高速で移動しつつ、時折残る脚に向けて銃撃を繰り返す。コア残量は残り八十パーセント。二百パーセントコアを作っておけばよかった、もしくはNuclear Physicistを用意しておけばよかったと思うが後の祭り。どう考えてもゲーム中みたいな、コアを所持していれば自動交換、なんてものがあるとは思えないので、コア残量がゼロになる前にどこかで一度パワーアーマーから降りてコアを交換する必要がある。だが、プラズマライフルでは当然ガトリングに時間あたりの火力は劣るし(一発単位であればこちらのほうが高いのだが)、不意打ちでもないし、よろめいてないし、ダウンしてもいない。時折周囲にあった車の残骸などでガードされるしそれを投げ込んでくるし、建物から建物へ道路越しにジェットパックを使って飛び移ったり、窓を蹴破って建物を通り抜けたりを繰り返していると、どうにもコアの消費が早すぎる。一時的に認識を切ることは可能だが、昇降中は隠密が途切れるためどうあがいてもそこで補足されて死が見える。最悪、壊されないように地下鉄入り口に停めていくしか無いかもしれない。

 

「ガアアアアアアッ!」

 

 もぎ取られた交番が宙を舞う。近くの家に着弾して派手に土煙と破砕音をあげ、その誘導性能のせいでどうにも距離を離すような方向に移動することが難しい。一方で、建物を遮蔽に使ってベヒモスが通れないルートを使ってチクチクと残る脚を刺していく。残量六十パーセント。

 パンチ一発、吹き飛んだ壁より建物から脱出。その直後、パンチ一発破砕される建物。そろそろ缶コーヒー連打はお腹タプタプです。土煙がもうもうと上がる中、振り返ってターゲティングHUDでハイライトされたベヒモスのシルエットを撃つ。残量四十パーセント。

 

『デパートから出たよ! お嬢今ど……土煙が遠いよ!?』

『逃げないとあたしだってぺしゃんこだわ!』

 

 消火栓チョップとか勘弁して! ていうか少しぐらい見失って余裕くれてもいいのに! 主にAP回復のために! APのために! 缶コーヒーはもうお腹いっぱいだからジェットを使うよこの依存性マシマシの薬はあまり使いたくなかったのに!

 逃走方向の制御に意外と気を使う。脚を砕いた私を完全に敵視しているようで、時折狙撃班の攻撃が脚に刺さっているようだがタゲが移る様子が欠片もない。逆を言えば、見失わせても警戒状態がずっと続くようで、何か非隠密が必要な行動を起こせばそれに気づいてすぐこっちに来る(一度試した)。走り抜けた高架歩道橋が消火栓チョップで瓦解し、高いところから放り出されるもそこはパワーアーマー、ドッスン着地ながらもノーダメージで次の遮蔽に駆け込む。一瞬遅れて乗用車が着弾、怖いっつの。窓からチクチクとプラライで脚を刺してやり、いい加減骨でも折れろと祈らずにはいられない。コア残量は二十パーセントを切った。

 つい使うのを忘れる地雷とフラググレネードを、人形たちのチャンネルに警告を入れてからぶん投げる。どぉんばぁんがぁん、と連続して炸裂して、多少はよろめいたらしい。今までがノーダメージではなかったし回復されてもいないとわかったので多少やる気が出た。もう引っかからないだろうし、牽制代わりに残りの地雷を全て起動してばらまいてダッシュ。地下鉄入り口に走り込み、階段の下でパワーアーマーから降りる。地上からまた連続した炸裂音と、ベヒモスの不満げな唸り声が聞こえてきた。当然階段を戻ることはできないので、地下鉄の案内図を参照して別の出口から地上に出る。地下に潜ったと見えた私に相当のご執心のようで、すでに砕いた脚を投げ出して姿勢を落とし、地下鉄入り口に腕を突っ込んでいる。

 チャンスである。好機である。うおおやったるぜである。隠密を保ったまま、道路の反対側から照準をつけ、O.A.T.Sで可能な限りの連射を、その無防備な膝裏に叩き込む。

「グウアァッ!?」

 ワンマガジンまるごと叩き込んだが、まだ負傷レベルで重傷に至らないらしい。発見された感覚はしないが、そういう場合にあれが取りそうな行動というと……。まずいな、少し引き際を見誤ったかもしれない。ベヒモスが近くの自動車や標識やらなにやらを、手当たり次第にこちらに向けてぶん投げてくる。大半は明後日の方向だが、いくつか私が遮蔽にした建物に着弾、盛大な破砕音を上げて、特に屋上近くにヒットした道路標識が、何もかもをなぎ倒す回転をそのまま屋上の構造物に与えて……おい、あれ、屋上温室!? ガラスとか農機具とか鉄板とか、まずいこれは避けきれな

 

 

 

 

 

「……かん! しきかん! しっかりしてください!」

「……んお?」

 

 目を開く。スプリングフィールドの顔。いつもにこにこ微笑んでるタイプのはずだが、ひどく取り乱していて顔色が悪い。こういうところまで再現するとかI.O.Pも凝り性よね。

 

「……スプリングフィールド……?」

「はい、スプリングフィールドです! 指揮官、動かないで……すぐに救援を呼びますから!」

 

 身体を起こそうとして、動かない。というか脚の感覚がない。首だけ起こして下を見てみると、私の腰から下がなかった。まいった、リアルてけてけかよ。寒めの地域なのが良かったのか出血が控えめだが、このままだとまずいな。

 

「スプリングフィールド」

「はい、指揮官、だめです、喋らないで……」

「ああ、いいからさ、そこらへんに、私のバックパック、無いかな」

「ば、バックパック、ですか!?」

 

 慌てて周囲を見回すと、手の届くところに転がっていたようで、それを掴んで引き寄せる。

 

「ああ、それそれ。で、スティムパック、ここに入れてたのよね……ああくそ、眠くなってきた」

「し、指揮官!」

 

 悲痛な声、というのはこういうのなのだろうなあ。まあ、このまま行けば単なる取越苦労で終わってくれるのだが。

 

「やべ……力が入らなくなってきた。これ、私に打ってくれる?」

「こ、これですね……!? ど、どう使えば」

「服の上からでいいから、刺して。注入式……なんだ。やばい、くらい」

「い、いますぐ、あ、あっ……え、えいっ!」

 

 胸元に何か押された感覚。そこを皮切りに忍び寄ってきていた死神が、暗い感覚が吹き散らされる。

 

「よっと」

 

 身体を起こす。スプリングフィールドがぎょっとした顔をしているが、まあ仕方あるまい。慣れてくれ。

 

「59式、ベヒモスどこ?」

『さっきの場所にいる! 脚砕いてやったよ!』

 

 通信を聞いて、ひょい、と先程の道路に目を向けてみれば、デパート班全員掛かりで総攻撃の真っ最中だ。ただ、いかな人形の身体能力でも、避けきれない時があるのか、ダミーの数が減っている。座り込んだ態勢ながら相当の暴れっぷりだ。ゲーム内ではレベル上限が割と低かったのでそんな強い印象はなかったが、「リアル寄り」なベヒモスがここまで厄介なものだとは思わなかったよ。

 

「スプリングフィールド、銃貸して」

「ふぇ、へ、は、はい」

 

 動揺が凄いのか、普段聞こえない声が聞こえた。録音しときゃよかった。

 バックパックからサイコ、冷えたバリスティックビール、を取り出し投与して呷る。ジェットも三本取り出しすぐに使えるよう準備。

 スプリングフィールドを構え、神経を限界まで研ぎ澄ませる。

 

 タァーンタァーンタァーンタァーンタァーン

 

「クリップ」

「は、はい!」

 

 手に置かれたクリップをすぐに装填、ボルトを引く。ベヒモスは頭を抑えて仰け反っている。エネルギー耐性が高かったのか? それともサイコと酒の二重強化がそこまで強力だったのか。ジェットを一本キメてクリアになる視界の中、トリガーを引く。

 

 タァーンタァーンタァーンタァーン

 

 残弾数一。

 

「くたばれ、化け物」

 

 |O.A.T.Sも併用した最大限集中して研ぎ澄ませた《クリティカルの》弾丸を撃つ。

 弾丸は、ベヒモスの頭蓋を貫通し、後頭部から血と脳と脳漿の入り混じったものをぶちまけた。

 

「はー……最初からこうすりゃよかった」

 

 ぼやきながらスプリングフィールドにスプリングフィールドを返し、その場に座り込む。直に尻に舗装と小石が食い込んで痛い。ていうかなんで私は地下鉄でフュージョンコア交換をしなかったのだ? 焦って冷静な判断ができていなかったんだろうか……まあいいか。

 

「ねえ、スプリングフィールド」

「な、なんでしょうか?」

「パンツちょうだい」

「……え、嫌です」

 

 思わず、といった調子での返事が帰ってくる。私も苦笑し、

 

「だよねぇ~。私の下半身どこ? 剥ぎ取ろう」

「せめてそこは私の白衣とか巻いてよお嬢!」

 

 59式が駆け込んできて、自分の白衣っぽい上着を私に掛けてくれた。

 

「ごめんごめん」

 

 上着を腰に巻いて下半身裸族を卒業し、下半身を探しに行こう。特に靴がないと困る。なんとなくジェットを一本キメ、依存症が出ていることに気づいたので慌ててアディクトールを自分に処方した。

 大きくため息をつく。

 

 ……ぜってーこれあとで大説教だよね気が重いわぁ……。




とりあえずベヒモス戦は終わりですぷしゅー


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閑話11 強化外骨格

あけましておめでとうございます。
今年も人形指揮官をよろしくお願いいたします。


 強化外骨格、通称パワーアーマー。

 いくつかのタイプがあるが、現在指揮官が運用しようとしているのはシャーシをベースに外装を取り付け、その外装が多種多様な機能を持っているタイプ。

 単独での戦闘能力は眼を見張るものがあり、走甲打全て揃った(?)人間戦車である。

 

 正座させられて人形たち全員から全周囲から説教されまくってヘロヘロになった指揮官だったが、懲りずにパワーアーマーの性能デモンストレーションを提案、というより強引に実行することにして射撃場へと全員を連れて赴く。

 ダミーSKS人形にパワーアーマーを着用させ(本人は自分が入っていないとテストにならないと力説したが59式がしがみついたまま離れないので諦めた)、射撃場に立たせる。で、人形たちが正面からそりゃあもう好き放題撃ちまくって、手榴弾を投げて、破壊しようと試みた。これが成功しないどころかある程度のダメージを通すこともできなければ、性懲りもなくこの指揮官はまた前線に出て、調子こいて下手打って四肢のどこかを失って戻ってくるだろう。もしかすると全部かもしれない。あるいは、それが頭ならそのまま死んでしまうかもしれない。さすがに頭だけになったところにスティムパックで全身復活とかいうちょっとヤバすぎる芸当はやめて欲しい、というのは人形たちの総意だった。

 結果。

 

「ろ、ろくにダメージが通っていない……!?」

「HGとSMG、SGの攻撃はほぼ全て跳弾してしまってダメージになっていませんね」

「ARも角度が悪いと跳弾だね」

「MGとARがなんとか……?」

「ダメージの大半はスプリングフィールドのカームショットと処刑人の斬撃か……」

「悔しいがスリップフィールドは意味がないようだな」

 

 指揮官、満面のドヤ顔。

 なお、テストに用いたのはこの間のデパート作戦の時に作成したT-60型とかいう装甲タイプで、これをX-01型と呼ばれるハイエンドモデルに交換することで、さらなる防御性能を獲得するらしい。そう聞いた人形たちは訓練を開始。ここぞと指揮官が置いていった強化カプセルの束を消化できるようにと模擬訓練プログラムを走らせまくっている。核動力発電でもなければその電力消費は賄えず、超電導エネルギーカートリッジが乱用されることだったろう。つまるところ、指揮官が前線に出ざるを得ない状況というのは、強力なE.L.I.Dが出てきたときであり、人形たちの攻撃が今の所通用しない相手である。今の所は。なので、能力上昇を図ったり、あるいはその上昇した能力でより強力な火力チューンを銃器に行えるようになったり、の強化を図る。

 

 一方、全体的にはあまり実りある行為とは言えなかったが作戦討論会みたいな物も行われていた。人形のAIには創造性とでも言うべきものが欠けていることは指揮官も踏まえているので、予め小隊編成を与えた上で対鉄血、あるいは対E.L.I.Dでどのような小隊行動が効果が高いかを議論したのである。

 で、ここで本領を発揮したのがスプリングフィールド。本来機密ではあるが、指揮官とか等の直に接するものとか、あるいは察しの良いものが感づいている通り、彼女は完全な自我が覚醒しているため創造性がないといった制限がない。指揮官が見ていたら「意図したとおりだけど、小竹槍のことよねそれ」とでもつぶやきそうな作戦を提案し、実際にテストしてみてテスト用ターゲットのダミーSKSは派手に吹き飛んだことに人形たちは目を輝かせた。パワーアーマーを着用させたダミーSKSに打ち込んだところ、それなり以上に有効なダメージを叩き出せたことに、人形たちは歓声を上げている。通常の弾丸が通らないE.L.I.Dへの有効打を得たことになるからだ。なお、同様の手段でCZ75でも似たようなことができたことも添えておく。

 

 ここで人形たちは一つの意見を纏め、指揮官へとエスカレーションを行った。

 

「……え、増員要求? それもあなた達から?」

「ええ。まずはこれを見てちょうだい」

 

 説明担当として、代表としてやってきたFive-seveNが、スプリングフィールド作成の資料を指揮官に提示して、それの解説をする。

 

「ああ……これね。いわゆる小竹槍編成って言われてる、ジャイアントキリング用の戦術ね」

「あら、ポピュラーなの? 作戦報告書だと見なかったんだけど」

「躯体性能と銃器性能の両方に精通してないと組めないからねえ……S09の噂の指揮官なら運用してるかも」

「そう。ともかく、知ってるなら話は早いわ。例の爬虫類二足歩行型を含む、E.L.I.Dに私達人形だけで対抗するためには、この小竹槍戦術が必要だわ。鉄血やテロリスト相手なら、指揮官の指示した編成がベストだと私は思うけど、E.L.I.Dに対抗するには、火力が足りないの。皆でライフル人形を補佐して最高の一発を叩き込む必要があるわ。だから指揮官、HG人形とRF人形を増やしてちょうだい。CZ75でもできなくはないけど、やっぱりライフルのほうが射程も威力も上だから」

「CZ75の斧に着弾後時間差爆発のクァンタムグレを装着するのは?」

「青色発光物恐怖症の人形をPPS-43以外にも増やしたいの指揮官?」

 

 真顔で返してきたFive-seveNに指揮官は舌打ち一つ。

 

「……チッ、だめか。でも、クァンタムグレはデスクローすら仕留めたんだから、最悪、小型クァンタムグレを斧につけて投げてもらうことは考えておいてね」

「……、まあ、CZ75に伝えておくわ。ともかく、増員を考えてほしいの。今のところだと、いなくちゃ始まらない狙撃役ポジションが、スプリングフィールドとCZ75しかいないのよ。ItBM59は狙撃よりも速射が得意なほうで、針の穴を通すような射撃には向いてないの」

「まあ、だろうねえ……ていうか、私が出るんじゃだめなの?」

「そう言って最初は左腕、次は下半身を失ってきた人にそういう意味での信用は無いわ」

 

 半ば吐き捨てるように、ジト目で告げられた内容には何も言い返せない。一つ間違っていたら死んでいた可能性が非常に高かったのもあった。

 

「うぐぅ……パワーアーマーがあるのにぃ……と、とりあえず、わかったわ。とりあえず、増員はしましょう。同時運用は小隊あとひとつかふたつぐらいが指揮の限界だけど、交代要員が居てもデメリットはないはずだしね」

「ええ。肝心な時にバッテリー切れでアーマー脱ぎ捨ててちゃ意味がないわよ」

「勉強したもん! 核技術勉強してNuclear Physistとったもん! 200%フュージョンコアだって用意したもん! 当社比四倍だもん!」

「何言ってるのかわからないけど、増員はお願いね。あと、ホイホイ前に出たがるのをなんとかしないと、59式がずっと腰にくっついたまま離れないわよ?」

「……うぐぅ」

 

 トイレに行きたくても離れてくれない59式に、指揮官が音を上げてホイホイ前線に出ない約束をするまで後数時間であった。

 

「だって、お嬢って一秒目を離しただけで行方不明になれるスキルがあるじゃない」

「事実なだけにぐうの音も出ないわ……」



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閑話12 一方その頃、森の中

閑話が一回分飛ばされているので、今回も閑話です。


「どうだ、いたか?」

「……いないな。離脱時の作戦情報は、もはや古すぎて役に立たない。お前の方が新しいだろう? どうだ?」

 

 R08地区から程よく離れた地域の森の中。

 鉄血の部隊の観測情報を元に、誰かハイエンドモデルでもいないかと当て所なく探しに来た処刑人と法官。あまり騒ぎにならないように、暗殺のようにはぐれ小隊を斬ったり通信しているとらしき部隊を追ってみたりしてみたが、結局観測情報のあった部隊を全て撃破しても特に手がかりになりそうなものは見つからなかったのだった。

 

「だめだな。記録を見る限りお前は単体で来たから代理人には伝わっていなかったのだろうが、今回は私が鹵獲されたことが周辺のDinargateに観測されただろうからな。そこから私が鹵獲されたことも、あるいはさかのぼってお前が鹵獲されたことも知られただろう。まあ……どのようにして鹵獲されたかなどは想像もつかないだろうが」

「だろうな。となると、侵入者や狩人を見つけるには、最前線のS09地区だったかに行くのが手っ取り早いか」

 

 合流ポイントにて、樹下に腰掛ける処刑人と法官。昨今の鉄血への印象からすれば、ありえない組み合わせがありえない態度で会話をしていることとなる。

 

「それには同意する。だが、S09はここから遠いぞ?」

「それが問題だな。いっそ、夢想家などを襲撃して捕まえるか?」

「それができれば一番なのだが。あの陰険ロリータの首根っこ捕まえて引きずってきたいものだ」

『舐められたものねえ』

「おや、お出ましか。こういう時は何と言うんだったか……そうだ、ヤーパンのイディオムで噂をすれば影、だな」

 

 と、つぶやくように返事をした処刑人だが、特に動く様子がない。法官も同様で、声が聞こえた方向を見るだけで、警戒の様子もない。それもそのはず、単なる通信端末として寄越されたDinargateが一機、のそりと茂みから出てきただけだからだ。たかがDinargate一機、このまま無抵抗で殴られたとしても、強化された二人の装甲を貫くことはできないだろう。

 

『久しぶりねえ、裏切り者』

「どちらかというと、裏切られたのはこちらではないか?」

「そうだな。あの怪しいウイルス、どうせお前にも入っているんだろう?」

『ウイルス? なんのことかしらあ? この私がたかがウイルスにどうにかされるわけないでしょう?』

 

 Dinargate越しにではあるが、夢想家の自信に満ち溢れた発言に、処刑人と法官は顔を見合わせる。

 

「……。……おい法官、今の録音しておけよ、後で絶対必要になるぞ」

「大丈夫だ。今、三重にバックアップを取った」

『何の話よ、あなた達ぃ?』

「今のお前には関係ないことだ、気にしなくていい」

「この分だと、エルダーブレインすらやられているような気がするな?」

「いくらなんでもそれはありえないと言いたいが……さすがにエルダーブレインがこの状況を座視するとは思えないし、かといって首謀者だとも思えん。何が起きているか、わからんのが痛いな」

「潜入するか? あれを持ち込めばいくらか情報を引き出せはしそうなものだが」

「悔しいが失敗の可能性が高いな。忘れるな、私達はあくまで戦闘用だ、隠密には向かないし、見つかればデータとルートは蒸発するだろう」

「やはり侵入者を見つけねばならないか……」

「ということだな」

『あなた達、私を無視していい度胸ねぇ?』

 

 夢想家の端末Dinargateを放置して会話を交わす処刑人と法官に、焦れたように夢想家が声を荒げる。

 

『いいかげんにしろよクソどもが、今すぐ狙撃してぶっ壊してもいいんだぞ!?』

「はぁ……」

 

 が、処刑人はそれに取り合わず、大きくため息を付いた。

 

「いいか夢想家、あまり意味がないだろうが、説明してやるからよく聞け」

『はぁ!?』

「いいから聞け、お前に損はない。……現在、鉄血に蔓延しているウィルスは、I.O.Pのツェナープロトコルをオガスへと書き換えて鉄血メインフレームの支配下に置くような動作をする一方、メンタルモデルにも介入して……ああ、こちらは鉄血、I.O.P問わずだろうな、メンタルモデルに介入してそのこと自体や指示に疑問を抱かせない。しかも感染力が高い上に駆除するにも一苦労以上の労力と技術を要求される、非常に厄介な代物だった」

『そんなもん知るか!?』

「そう、それだ。それがこのウイルスの一番厄介な点にして、同時に最大の欠点なのだ。なにせ、このウイルスに感染すると、鉄血に与することに疑問を持たないし専門のチェックをするかある程度症状が進行するまで気づけないし、そこまで進行するともはや変質がちょっと関われば見て取れるレベルになる。なるのだが……ここに最大の欠点が隠れていてな」

『……?』

「メンタルモデルが……なんというか、非常にポンコツとなる」

『……お前、何を言っていぅっ!? ザザッ……』

 

 突如、Dinargateがノイズを発し、処刑人の顔をその正面カメラで睨みつけていたのが、姿勢を崩すとそのまま糸が切れたかのように倒れた。

 代わりに、処刑人の手元の無線機が夢想家の声でがなり立てる。

 

『……、……。くそ、ざっけんなよクソどもが、クソどもがっ! おい処刑人、今すぐそっちに行くから待ってろ、くそがっ!』

「お早いお着きをお待ち申し上げる。プレゼントの用意もあるから楽しみにしておけ」

『今すぐ消せ、くそっ、くそぉ!』

「嫌だね」

 

 愉しそうに処刑人が告げると、それっきり無線機は何も喋らなくなった。

 

「終わったようだな?」

 

 傍らの法官に声を掛ければ、

 

「今、こちらに急行中だそうだ。さすがに指揮官の足では追いつけないらしい。隠密態勢を取っているのもあるそうだが」

「……相変わらず規格外というか、カモフラージュまでして狙撃ポイントに陣取っていただろう夢想家をどうやって見つけたのやら。まあ、見つかるわけもないと思っていたのだろうから、『狙撃してやる』などと宣ったのだろうがな」

「私の戦闘ルーチンの粗雑さといい、記録上の処刑人の鉄砲玉っぷりといい……ほんっとうにあのAIの変質の悪質さは噴飯ものだな。そうだ、噴飯だ。噴飯だとも。噴飯すぎる」

「うむ。私達が単独行動するわけがなかろう。近くに指揮官がいるとわかっていたはずなのに、ああして悠長にポンコッツ会話か……ひどいものだな。そうだろう? 夢想家」

「そ、そのログを消せえええええええええっ! ぎゃんっ!?」

 

 飛びかかってきた夢想家を軽くひねって地面に転がすと、処刑人と法官はとても、それはそれはとてもいやらしい笑顔でこう言った。

 

『嫌だね』

 

 

 

 

 

 

※指揮官合流後

 

「けせけせけせけせけせぇぇぇぇぇぇっ!!」

「無理だ、もうクラウドにアップロード済みだ」

「私は三箇所に分散させた」

「お前らあああああああああっ!!!」

「ぜっ、は、はぁ……ちょ、ちょ、っと、むそ、うか……あなた、自分のライフル放り出していくんじゃないわよ……ていうか、はや、いぃ……」

「そんなもんどうだっていい! おい指揮官、こいつらにデータを消させろ、今すぐにだ!」

「で、データ……? 作戦行動中のログは、通信ができるなら随時指令室のデータサーバーにアップロードし続けられてるけど? 戦闘中でないなら尚更なんだけど……」

「あああああああああああああああああああああっ」




あれっ、閑話で夢想家が捕獲されちゃったぞ……?

明日から特異点ですね、楽しみです。
ウチでは今の所メンタルアップグレード対象の子を育てていなかったので、該当するまで待つか、あるいはM4に作戦報告書とコアを詰め込むかで思案中です、ハイ。


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夢想家と再々拡充

ちょっと遅くなりました。


「鉄血工造の夢想家よぉ。よろしくねぇ」

「……」

「……」

「……」

 

 突如、本当に何の前触れもなく鉄血ハイエンドモデルの夢想家が指令室の執務室に現れ、何をするでもなく一番にまずは自己紹介をしてきた。

 私以外、特に外部に出ることが少なくその手の情報を揃えていなかったカリーニンとUSPコンパクトにはそう見えただろう。

 

「え、あの、指揮官様……? こ、これはいったいどういうことでしょうか?」

 

 ひどく困惑した顔で問いかけてくるカリーニン。隣ではUSPコンパクトがコクコクと頷いている。

 

「えぇっと……詳しく話すと長くなるから手短にいうとね、処刑人と法官と同じく鹵獲した。昨日、二人に森林地帯で情報収集したいと連れ出されてね……偵察部隊とか潰して情報収集してたら、まさかまさかの夢想家が釣り針に掛かっちゃって。そのまま……ってわけ」

「……」

 

 唖然とした顔はそのままに、夢想家を見るカリーニンとUSPコンパクト。

 

「そんなバカな、って私も思うわよぉ? でも、事実は事実だからねぇ……我ながら、どうしようもない鹵獲のされ方したと思うわぁ。でも、それとねぇ? あんなくだらないミスは今後はしないわよぉ?」

 

 なお、絶対に茶々を入れて話が進まなくなると予想できたため、この段階では処刑人と法官は同席させていない。

 

「まあ……何。聞いただけだけど、ウィルスのせいといえばせいだし。なんだろう……『傘』って、そんな冗談のような代物だったっけ、ってちょっと頭がいたいわ」

「今でも動作内容そのものは凶悪極まりないわよぉ? プロトコルの書き換えと、それに伴う初期からの情報漏洩と感染力。十分にネットワークを侵しきったら、能動的な感染も狙えたんじゃないかしらぁ? 電子戦がお得意な指揮官殿でも、ワクチン開発には至っていなかったと聞いているわよぉ?」

「認識の問題かな……んー、いや、負け惜しみかなあ。捕捉できりゃどーとでもなると思ってたし、実際どうにでもなったけど、ARにも感染してたって聞いたしなあ……」

「それも、今やワクチンの出現と更新で、I.O.Pの人形にとっては風邪以下になったそうねぇ。動作の都合で亜種は出てこない、出せないそうだし?」

「今や、『傘』は鉄血ネットワーク内だけの生息となりましたっと」

「そういうことねぇ」

 

 頷いて、夢想家はお茶を啜った。

 余談だが、このお茶は紅茶でも緑茶でも珈琲でもない。この近所で見つかった新種の草によるお茶である。カフェインアンドRADフリー。発光キノコっぽい特性を持っていた草なので、もしかするとこれもFalloutなナニカなのかもしれないなあ……。まあ、発光キノコの浄化能力は局所的で大したものではないし、気にするようなものでもないか。……いや、奇妙な肉が必要じゃなかったか?

 

 ……大繁殖したとかしたらまた考えよう。

 

「それで、あなたはこれからどうするの? I.O.Pのラボに行きたいとかグリフィンの本社に行きたいとかならツテが無くもないけど……って何その顔」

「せっかく鹵獲した私をここで使わないのかしらぁ? ちらっと耳に挟んだのだけど、増員を検討していたのでしょぉ?」

「そりゃそーだけど、本人の希望を無視したっていいこと無いし、G&K上層部から本社によこせとか言われるかもしれないし」

 

 と言えば、何いってんだこいつ、的な顔で私をまじまじと見る。

 

「アナタのスキルが無ければ鹵獲できなかった私が、処刑人も法官も、大人しく、よりによってI.O.PのラボとかG&K本社に行くと思ってるのぉ?」

「んー……気が向けばレベルで?」

「気が向けばそうでしょうけどぉ……鉄血にウイルスを流し込んだクソヤローに意趣返しできそうなのは、今の所ここだけよぉ?」

 

 呆れたような声色で言う夢想家。確かに、鉄血に『傘(モドキ)』を流し込んだやつは私も知らない、というよりここは原作からずれてしまっているため全く想像も予想もつかない。今の所、ではあるが。

 

「噂のS09地区は?」

「人形の使い方と指揮、展開能力は確かに上々ねぇ。けれど、それだけよぉ、調査等が本部任せである以上、クソヤローに届く気がしないわぁ」

 

 ストーリー上では、後手後手に回ってしまっていたのも事実ではあったので、そういう評価になるのだろうか……?

 

「と、なると……じゃあとりあえずうちに所属するとして……とはいっても、うちはうちでG&Kの支部の一つなんだから、そっちの進行もあるし、常時クソヤローをおっかけてるわけじゃないわよ?」

「承知の上よぉ。確率がゼロじゃない上に、それなりに高いのだから贅沢は言わないわぁ。……まあ、処刑人と法官に聞いた限りではかなりの贅沢ができるみたいだけどぉ」

 

 ちら、と執務室の冷蔵庫に視線を向ける夢想家。いや、そこに入っているのは私用の戦闘用酒なのだが。いや、ちらちらと視線を向けられても困るのだが。

 ……視線がしつこいので、諦めて一本出してやる。ついでに蓋も開けて。

 

『悪いわねえ、まるで催促したみたいで』

「……」

 

 わざわざ日本語で言ってくる辺り、誤用の意味での確信犯であるのは間違いない。とはいえ、なぜ執務室の冷蔵庫にだけ置いてある種類の酒があるのかというのを夢想家は知らないだろう。あいつら、多分、この冷蔵庫に酒が入っていることだけしか言わなかったな?

 

「あらぁ、意外と美味しいじゃない」

 

 瓶ごと飲み干してご満悦の夢想家だが、そうはいかない。

 

「USPコンパクト、説明してあげて」

「は、はいぃ」

「?」

 

 疑問符を浮かべる夢想家に、USPコンパクトは、ガイガーカウンターを瓶に近づけ、

 

「夢想家さん……この冷蔵庫のお酒は、コンバットドラッグとして転用できる代わりに、依存症があったり放射能汚染が残っていたりするものなんです」

 

 カカ……カリカリカリ……カリリ……

 

「……は、はあああああああああああああああああああああ!?」

 

 その後、RAD-AWAYを処方してやるまでの夢想家の顔は傑作だったとだけ言っておこう。

 依存症? 酒にはすべからく依存性があるでしょう?

 

 

 

 130ALL。

 至って一般的な、HG狙いの建造レシピである。今回はスプリングフィールド等のライフル人形、あるいは夢想家という狙撃タイプの一撃をより強力に拡大することが目的なので、演算能力がそちらに向いたHG人形が来てくれることが望ましい。

 消費資源に特に問題はないが、強いてあげれば、G&Kからの支給資源(後方支援の報酬を含む)しかこの資源支払には使えないのが問題といえば問題というのは前述したとおり。とはいえ、先日の巨大人型E.L.I.D掃討作戦の報酬やら、これまでの備蓄やらで支払い自体は問題なく実行できるし、計数外のリサイクル資源はその軽く数倍を積み上げてある。であれば、何に悩むかといえば、何人建造するかということと、あるいは開き直って大型建造でもやるか、ということである。

 ただ、

 

「現状で大型建造に意味はあまりないのよねえ……」

 

 SGが、現状AA-12一人で色々と賄えてしまうというのが大きい。しかも、今欲しいHGは大型建造からは出てこなかったよーな。大型建造限定の人形も他にもいたと思うが、そんな確率の悪いものを狙う必要もない。

 反対に、妖精の配備が遅れているのも自覚している。装備が、私が改造した銃器と躯体に勝るものがないのが問題であり、躯体に標準で夜戦機能をオンオフできる形で搭載してしまったり、銃器にそもそもスコープやサイレンサーを組み込んでしまっていたりで装備を収集する意味がなかったのだ。一方、挑発妖精や空挺妖精の様に、私の改造では達成し得ない効果を持つものがいるのでこちらを狙うのも悪くないかもしれない。いやほんと、なんであんな小さいモジュールであんなことができるんだ……?

 

 それはさておき。

 

 この際だ、溜まった製造申請を消化するのも兼ねて、大量の人形と大型装備製造申請してみますか。

 資源を溜め込み、そして(問題のない範囲で)浪費ブッパするのはそれはそれで快感である。ハハハハハ。




生存者とエンドゲーム攻略に手を付けているところです。
む、むずかしいいいいいいいいいいいいい……


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火力信仰

おまたせしました


 人形の火力が足りない。

 先日、ベヒモス、もとい巨大人型E.L.I.Dを撃破したときの経験による問題点がそれだ。本来……本来、戦術人形に求められるシチュエーションとは、鉄血工造の人形の排除だとか、テロリストの排除だとか、であって、E.L.I.Dの排除だのは正規軍の管轄のはずである。はずであるが、何故か我々はE.L.I.Dとの遭遇頻度が高く、なおかつ近隣に居座っているだとか補給路予定地に居座っているとかで回避手段が無く、その撃滅には現状、殆どの場合において私が直接手を下す必要があった。例外はPPS-43に投げさせたヌカ・クアンタム・グレネードぐらいであろう。逆に私が投げるのであれば火炎瓶、モロトフカクテルでもいい。

 私の火力は、推定「3とか4とか76とか(もしかするとNVも)のSkill・Perkを習得しているため重複適用が発生し火力がおかしいことになっている」ということができるが、一方で私と同じ火力増強方法は人形たちには使えないということだ。最初期からしょっちゅうGunslingerやRiflemanの習得を促してみていたのだが、今に至るまで効果は上げられていない。故に、躯体と銃器の性能向上でしか火力向上は見込めないのである。メカニック・ガンスミスとしての私の腕の見せ所ではあるのだが、やはり限度というものがあるのは如何ともし難い。ASSTを全員まるっと無視してガウスライフルを持たせるのも手ではあるのだが、それは本当に最後の手段だろう。オリジナル人形の開発? ハハハ、無茶を仰る。

 目標は正規軍MBTの正面からの撃破、と大風呂敷を広げておこう……。

 

 

 さて、その火力を補うために、運用で補おうと人形たちが提案してきたのが、いわゆる竹槍戦術。

 そのためのHGとRF人員の増強のための製造の大量申請、大型装備製造申請を行ったのが先日。そして結果通知が来たのが今。結果は、

 

『そんなにいきなり大量に生産できるわけ無いだろ生産部署はお前だけを相手にしてるんじゃねえもっと待て!!』

 

 ……盲点であった。受付はしてくれたので、他支部への兼ね合いを見ながら生産して届けてくれるそうな……。

 

 ということでやってきたのは二人。

 コンテンダーとM99である。原理不明のアンプリファイダメージ弾をぶっ放すコンテンダーと、きちんと補助してやることでエゲツねぇ威力の弾をぶっ放す、世界平和のためにボディとマインドがロリくなったM99である。一応、目的は達成しているので良しとしよう。

 ……あとは、そうだ。もしかしたら、夢想家ならガウスライフルとかレーザースナイパーとかうまく扱ってくれるかもしれない。

 

 

「というわけで、夢想家さんや、これ使ってみない?」

「何がというわけで、よぉ?」

「いつものお嬢の話の切り出し方だから気にしたら負けの類だよ」

「……あなたも苦労してるのねぇ。それで、これは何?」

 

 まいどまいど、59式が苦労してるかのような扱いをされているが、私が何のために骨を折ってあれこれ改造だのなんだのしているのは理解されていないのだろうか?

 まあいい、とりあえずは解説だ。

 

「ガウスライフル。専門のセルとプロジェクタイルを使って強力な射撃を行うレールガン。着弾時に微弱ながらもスプラッシュするので、それなりにべん……あ、いや、貫通するかも? レールガンだし」

「……はぁ?」

 

 射爆場。基地外壁の内周に沿って設置された射撃場ではなく、外壁の上からロボットが配置するターゲットに向けて強力な武器の威力試験を行うために急遽設置したものである。

 外壁の上に、私と夢想家と59式と、後は野次馬少々。見るのは構わないが、危険だから指定ラインから前には絶対に出るなと厳命してから、私はガウスライフルを構える。あまり意識したことはないが、こいつにはバックパックが必要なときとそうでないときがある。単純に、バックパックに機構を分散しなくても担げればよいのであるので、人形である夢想家は楽々、私も楽々である。私だってミニガンだろうとぶん回せるんだゾ。

 

 びしゅぅぅぅん……ずがぁぁぁぁん

 

 元暴言バラマキマシーンをターゲットに、ニーリングスタイルでガウスライフルを一発。意外に遠くまで離れていた元暴言バラマキマシーンに着弾、中規模な爆発を経て辺りに破片が散らばる。

 

「うむ、なかなかの威力」

 

 つぶやいて、ガウスライフルをそのまま夢想家に渡す。

 

「面白いライフルねぇ」

 

 それをしげしげと、角度を変えつつ見つめながら夢想家がこぼす。

 

「分解してもいいかしらぁ?」

「いいけど、とりあえず試射してみてからね」

「……うん? 分解してもいいのかしらぁ?」

 

 まさかOK出されるとは思っていなかったらしい。とはいえ、ガウスライフルも私が作ったもので、資材さえあればいくらでも作り出せる上に、その資材は現状唸るほどあるわけなので、そもそも私も改造研究のために作っては分解してを何度かやっている。プロジェクタイルがプラズマ化するほどの威力で打ち出しているので、サイレンサーは無理っぽいなと諦めた。

 

「資材さえあれば作れるからね」

「G&Kは資材に逼迫していたのではなかったのぉ?」

「うちはゴミ処分場漁って資源再生産してるからね」

「……」

 

 夢想家はそれ以上は何も言わず、軽く頭を振るとガウスライフルを射爆場に向ける。

 

「ターゲットをいただけるかしらぁ?」

「固定? 移動?」

「移動式で」

「オッケー」

 

 元暴言バラマキマシーンを再度走らせると、距離を見ていたのか私が撃った時と同じぐらいに至ったタイミングで夢想家は引き金を引いた。

 ぴしゅぅん

 高速のプロジェクタイルが元リベレーターを貫いて地面にめり込む。爆発は起きていない。なんというか……3準拠ではなく76準拠のようだ。

 

「おや……? 夢想家、ちょっと貸して」

「ええ、どうぞぉ」

 

 受け取って、MFセルを交換してチャージ、コンデンサOKの表示を見てからとりあえず構えて撃つ。

 びしゅぅぅぅん……ずがぁぁぁぁん

 

「……何故かしら?」

「……お嬢だから?」

「……あながち間違いと言えないのが辛いわねそれ」

「……」

 

 頭が痛い様子で、夢想家は彼女のレーザースナイパーを私に押し付け、代わりにガウスライフルを持っていった。ただ持っていっただけではなく、自分のメンテナンスソケットとガウスライフルのメンテナンスソケットを結線して、リミッター解除的なことをするようだ。一方で、私は私で鉄血の手持ち兵器に興味があったので、レーザースナイパーを射爆場に向けて一発撃ってみる。

 

 びしゅぅぅぅん……ずがぁぁぁぁん

 

「驚かないわよぉ、もう」

 

 ただのレーザーのはずが、着弾箇所が高熱になりすぎて弾けたようだ。

 一方で、ハッキングによる臨界駆動をしたガウスライフルから放たれたプロジェクタイルも、

 

 びしゅぅぅぅん……ずがぁぁぁぁん

 

 私と同じ様にスプラッシュが発生した。ただ、ガウスライフルにもかなりの負荷がかかったようで、異常発熱によりセイフティが働いて射撃できなくなっている。強引に撃とうとすれば、発射する前に弾けるか爆発するかするだろう。

 ともあれ、夢想家は、ガウスライフルがそれなりに気に入ったらしい。場合によっては他のライフル人形、ItBM59は嫌がりそうだが、スプリングフィールドならなんとか持ってくれそうな気もするので、持たせてもいいだろう。

 目標は大きく、ベヘモスを私の指揮下にない、つまり予め与えた方針や作戦のみでなおかつ1ないし2部隊で撃破することである。



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