夕焼けと月に恋心を込めて (ネム狼)
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本編 
10年前の約束と幼馴染みのお目覚め


ひまり作品リメイク版投稿致しました。
一部変わってないところや追加したところがいくつかありますが、よろしくお願いします
本編どうぞ。


「ねえユズくん」

「なに、ひまりちゃん」

 

 いつからだろうか。俺が彼女のことを好きになったのは。そうだ、5歳の頃だ。俺とひまりは生まれた時から一緒だ。いつも一緒で、まるで兄妹のような関係だった。

 

「私とユズくんが大人になったらさ……」

 

 俺とひまりは約束したんだ。

 

 

――私をお嫁さんにしてください!

 

 

 俺とひまりが大人になったら、ひまりを俺のお嫁さんにするって。二人で幸せになろうって約束したんだ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 懐かしい夢だったな。俺とひまりが約束した時のことが夢に出てたんだな。それにしてもなんだ?上に誰かが乗ってるような気がする。重いし、髪もわしゃわしゃされてるし……。

 

――ゆ……き、起きて。

 

 起こしにきてくれたのか?早く起きた方がいいな、これは。今週は彼女が起こす番ってことか。起きないと五月蝿く言ってくるからな。さすがにそれはごめんだ。

 

「ん、んぅ……」

「やっと起きた!おはよー、結月!」

「むぅ、ふあぁ~、おはようひまり」

 

 欠伸が出てしまった。目が覚めたのはいいけど、本当に俺の上に跨がるのはやめてくれ。でかい何かが強調されるし、揺れるとかで目のやり場に困るんだよなあ。

 

「朝から元気ハツラツだな」

「ハツラツだよ!元気なひまりちゃんが起こしに来たよ!」

「そうかい、そうかい。起きるからどいてくれないか?」

「はいはーい、わかりました~」

 

 まったく元気だな、抱き締めたいくらいだ。朝からひまりの笑顔を見ていたらやる気が出てくる。俺は身体を起こしてひまりの頭を撫でた。

 

「起こしてくれたご褒美に撫でてやるよ」

「えへへ~、幸せ~」

「可愛い顔しやがって」

「可愛いのは結月の寝顔だよ」

 

 あれ、もしかして寝顔撮られたか?まあいっか。ひまりになら撮られてもいいか。早く着替えようか。

 

「着替えるから出てもらっていいか?」

「着替え見ちゃだめなの?」

「だめだよ。下で待ってなさい」

「はーい」

 

 着替えてひまりの弁当も作って、朝食も作って、朝って本当に大変だな。お母さんとお父さんは早朝に仕事に出てるからいない。二人共いる時といない時があるんだ。ひまりが起こしに来れたのは合鍵を渡してあるからだ。

 

 ひまりの親御さんはお母さん達と同じ職場で働いている。同じようにいる時といない時がある。何日かいなければ、ひまりは俺の家に泊まりにくることがある。

 

 それと、俺は姫宮結月(ひめみやゆづき)。彼女、上原ひまりの幼馴染みで家は隣だ。それと言い忘れていたが……。

 

 

――俺はひまりのことが好きだ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 結月の寝顔可愛いかったなあ。本当に男の子かなって思ってしまう。結月は肩まで伸びた黒い髪に青い瞳。顔は女顔で男の子なのかって見えてしまう人だ。結月は私の好きな人で、幼馴染みでもある。

 

 私は結月と10年前に約束をしたんだ。

 

 

――結月のお嫁さんになるって!

 

 

 結月は覚えてくれてるかな?10年前の約束を……。

 

「お待たせひまり」

「ううん。全然待ってないよ」

「そっか。弁当とご飯作るから待っててな」

「じゃあ私も手伝うよ!」

「わかった。じゃあパン焼いて、後お湯沸かしてコーヒー入れてもらっていいか?」

 

 料理をしている私達ってなんか夫婦みたいだ。私はお菓子作りならできるけど、料理はあまりできない。結月は料理もお菓子作りも出来るから、私からしたら羨ましい。

 

 結月ってなんでここまで出来るんだろ?ギターとベース、手芸も出来る。私はここまで出来る結月が本当に羨ましい。私も料理できるように頑張ろう!

 

「ねえ結月」

「何?」

「なんか今の私達って夫婦みたいだね」

「そ、そうか」

 

 お、結月の顔が赤くなった!顔を赤くしてる結月って可愛いなあ。顔が女の子みたいだから余計可愛く見える。

 

 お湯が沸いたし、パンも焼けた。結月もちょうど二人分の弁当ができたみたいだ。さあ、今日も一日が始まる。今日は結月とどんな一日が送れるかな?楽しみで落ち着かないよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 朝食を終えて俺とひまりは家を出た。俺達が向かっている学校は羽丘学園、昔は羽丘女子学園だったが少子化の影響によって共学になった。

 

 俺が料理が出来る理由は、ひまりを幸せにするために必要だから出来るようにしたんだ。他にもお菓子作りや手芸、あとはギターやベースも出来るようにした。ひまりは「Afterglow」っていうバンドを組んでおり、ひまりはベース担当でリーダーでもある。

 

 俺は中学1年の頃からベースとギターを始め、その次の年にAfterglowが結成された。ひまりは俺にベースを教えてほしいと言ってきて、俺は必死にベースを教えた。今では抜かされるんじゃないのかっていうくらいに上手くなってる。

 

 本当にひまりはすごいなって、こいつは努力家なんだなって思い知らされた。

 

 俺はひまりを幸せにするためなら何だってやる、そういう覚悟で料理も楽器も出来るようにした。だから俺は……。

 

 

――ひまりをお嫁さんにするなら、ちゃんと幸せにしてやらなきゃいけない。

 

「ねえ結月、手繋いでもいい?」

「どうしたんだ急に?」

「ちょっと手を繋ぎたくなってね」

 

 ひまりは顔を赤くして言った。手なら毎日繋いでるんだけどな。まあいい、彼女の言うことを聞こうかな。

 

「いいよ、繋いでも」

「いいの繋いでも?」

「それくらい構わないよ。ただし、蘭達が来るまでな」

「わかった。ありがとう!」

 

 いい笑顔だ。この笑顔のためなら断れないし、甘やかしたくなってしまう。俺はひまりに甘すぎるんだなって思ってしまう。まあしょうがない、彼女のことが好きなんだから。

 

 どのくらい経ったんだろう。もうかれこれ10分くらいか。長いようで短い、この一時の時間が俺は好きだ。あ、蘭達が見えて来たな。

 

「ひまりここまでな」

「うん……」

 

 ひまりは落ち込んだ表情をしながら手を離した。俺も名残惜しいけど、しょうがない。後は家でやるかな。俺はひまりの頭に手を置いた。

 

「ひまり。後は家の中で、な?」

「うんいいよ。ありがとう結月」

 

 俺とひまりは放課後手を繋ぐ約束をした。

 

「おはよう結月、ひまり」

「おはよ~ひーちゃん、ユズ―」

「ひまり、ユズ。おはよう!」

「結月君、ひまりちゃんおはよう」

 

 蘭、モカ、巴、つぐみ。うん揃ってるな。この4人は俺とひまりの幼馴染みでAfterglowのメンバーだ。

 

「おっはよーみんな!」

「おはよう」

 

 なんかみんなニヤニヤしてるな。あれ、もしかして手を繋いでたのバレてたか?バレてなきゃいいんだけど......。冷や汗が流れる。なんでだろう、嫌な予感がする。特にモカが何か言いそうだ。

 

「二人共朝からアツアツですな~」

「なんのことだモカ?」

「ひーちゃんと手繋いでたでしょ~」

「なんでわかったんだ!?」

 

 どういうことだ!?まさかモカ遠くから見えてたのか?そうだとしたら外で手を繋げなくなる!それだけは避けたい!

 

「ユズからひーちゃんの匂いがするからだよ~」

「ひまりの匂い?手から匂うのか?」

「その通り。ユズってわかりやすいね~」

 

 俺ってそんなにわかりやすかったっけ?なんかひまりに申し訳ないな。帰ったら存分に甘やかしてやろうかな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 蘭から手を繋いでいたことがバレてしまった。結月もどうやらモカにバレたみたいで焦ってるようだ。なんでバレるのな?

 

「ひまり、結月とはどんな感じなの?」

「えっ、どんな感じって。まだ進展はないよ」

「まだなのか!?ひまり、本当に結月のこと好きなのか?」

「す、好きだよ!好きに決まってるじゃん!」

 

 因みに、私が結月のことを好きであることはみんなにバレている。私は私なりに結月にスキンシップをしたり好きだっていうアピールを積極的にやっている。

 

「ひまりちゃん。私達は応援してるよ!ひまりちゃんなら結月君と幸せになれるって私は信じてるから!」

「ありがと、つぐー。私絶対に頑張るから!」

 

 私はつぐみに抱きつきながら言った。待っててね結月!貴方のお嫁さんになるために私は頑張るからね!

 

 

――青春の恋物語は始まったばかりである。

 

 

――少年は少女を幸せにするために、少女は少年に想いを届けるために奔走する。全ては二人の幸せのために……。

 

 




リメイク1話完了。
これから追加される部分が何個か出てきますが、
今後ともよろしくです。
感想と評価お待ちしてます。


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起こしてくれた幼馴染みに膝枕という名の癒しを

リメイク2話更新です
今回は多分砂糖吐くかもしれないです
ブラック念のためおすすめです


 教室は今は静かになっていた。授業中だからまあ当然か。今受けてる授業が世界史で、日本史とは違ってこっちは外国での歴史が中心だから単語も豊富、覚えることも増えて来る。

 

 俺のクラスは1-A、蘭と同じクラスだ。俺とひまりがクラスが違うというのが本当にショックだ。クラスを自分で決められたらひまり達と同じクラスにしたかった。まあ、そんなに都合よく決められないよな。それなら仕方ないか。

 

 蘭も前は授業サボってたけど、最近は授業に出るようになった。でも成績は微妙だ。ひまり共々心配としか言い様がないが、試験が迫ってきたら勉強会やらないとヤバそうかもしれない。

 

 それにしてもひまりは大丈夫だろうか……。

 

 学校行ってる時にひまりの顔を見たら彼女は眠そうな表情をしていた。眠そうにしているところを隠すのに必死になっていたが、蘭達には隠すことはできたようだ。だが、俺にはわかるんだ。

 

 自分で言うのもなんだが、俺はひまり一筋だ。あいつの考えてることはわかるし、好きなものだってわかる。なんかこれじゃストーカーみたいだな。幼馴染みがストーカーっていうのは洒落にならない。

 

 チャイムの音が鳴った。もう昼になるのか、早いな。

 

「今日やったところの復習忘れないように。では号令お願いします」

 

 起立、礼、ありがとうございました。午前の授業が終了した。

 

 さて、ひまり達を迎えに行こう。早くお昼にしないと……。

 

 

▼▼▼▼

 

 風が気持ちいい。外は心が晴れているかのように快晴で、屋上でお昼にするには打ってつけだ。季節が春だからか、外は暖かい。

 

「ひまり大丈夫か?眠そうだけど……」

「大丈夫だよ!このくらいどうってことないって」

 

 いや、もう隠し切れてないぞ。暖かいせいかひまりは完全に眠そうな顔をしていた。今はつぐみが来るのを待っている。蘭やモカ、巴もすでにいるが、なんか視線を感じるな。気のせいではなさそうだ。

 

「あんた達って夫婦なの?見せつけてるの?」

「お、落ち着けよ蘭!」

「おーおー、二人共アツアツですなあ」

 

 蘭が半ギレ気味になってる。しょうがないだろ、ひまりにいつ告白するかを全く考えてないし、ひまりが俺のことをどう想っているのかもわからない。こんな状態じゃ想いを知るどころか関係が破綻しておしまいってなる。

 

 そうなったら俺の努力は全部水の泡になる。もし俺とひまりが恋人になれなかったら俺は死んでやろうって思っている。俺はそれほどまでに本気なんだ。

 

 

――ひまりの幸せのためならどんなこともすると決めているから。

 

 

「みんなお待たせ、遅くなってごめんね!」

「大丈夫だよつぐみ。あたし達も今来たところだから」

 

 つぐみがようやく来た。どうやら生徒会の用事で遅くなったとのことだ。俺はひまりの分の弁当も作ったから上手くできているかは毎回不安に感じている。何故ひまりの分も作っているのかというと、ひまりは料理ができないからだ。

 

 ひまりは料理はできないが、お菓子作りは上手い、俺よりも上手だ。それだけ負けているのは俺からしたら悔しいし、たまにどっちが上手くできるかを競って蘭達に審査をしてもらう時もある。結果はほとんど引き分けだ。

 

「ひまり、食べ終わって二人きりになったら膝枕してやるよ」

「いいの?」

「いいよ。眠そうにしてるひまりは放っておけないから」

 

 さすがにひまりをこれ以上放っておけない。眠そうにしているところは見てて辛いし、放課後は練習もあるから支障が出るとマズいからな。練習終わったらスイーツを買ってあげないと。

 

「結月、ひまり話聞こえてるよ」

「えっ、嘘!?」

「聞こえてたのか!?」

 

 俺とひまりは蘭に話が聞こえていたことを言われ、顔を赤くしてしまった。うわあ恥ずかしい、聞こえない程度に話してたんだけど、聞こえたなんて……。

 

「お前らもう付き合っちまえよ」

「そうだそうだー」

「こればっかりは私も同感だよ」

 

 あのつぐみでさえも同感していた。モカは便乗気味に言ってるし、巴も呆れていた。だからいつ告白しようかに迷ってるんだよ!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 お昼を済ませた後、蘭達は「あとは二人で過ちを起こさない程度にごゆっくり」と言って教室へ戻っていった。過ちって何!?私にそこまでの勇気はないよ!

 

「ひまりどうだ寝心地は?」

「いい……感じだよ?」

「何故疑問形なんだ」

 

 疑問形って言われても自然とそうなっちゃったからしょうがないよ。今結月に膝枕してもらってるけど、今にも寝そうだ。結月ともっと話をしたいけど、眠いや。

 

「ひまり、時間になったら起こすから寝てていいぞ」

「大丈夫?結月も少し眠そうだけど」

「バレたか。ひまりにはわかっちゃうんだな」

「私だって結月のことはお見通しだよ」

 

 自分で言ってて恥ずかしい。結月に眠そうにしていることはバレても、私だって結月が今眠そうにしているのはわかってしまう。多分だけど、授業の時に眠くなったのかもしれない。

 

「お見通しか。俺は大丈夫だよ、帰って落ち着いたら寝るから」

「本当に大丈夫?無理してない?」

「ひまりは俺のお母さんか。無理はしてないよ、睡眠を取らないと練習にも支障が出るだろ。あとでスイーツ買ってあげるから」

 

 私が結月のお母さんってなんか想像できないなあ。それにスイーツ買ってあげるって……。それを言われたらなにも言い返せないよ。結月ってズルいなあ。そういうところだよ、全く。

 

「じゃあおやすみ結月。ちゃんと起こしてよ?」

「ちゃんと起こすよ。おやすみひまり」

 

 今は寝よう。結月が私のためにいろんなことに努力してることは私が一番知ってるから。私は結月のそういうところが好きだ。誰かのために一途になって、その人のことを大切にしたいっていう気持ちは私の心に充分すぎるくらいに伝わっている。

 

 私はいつもこう思っている。

 

 

――私もなにか結月にしてあげられることないかなと。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「可愛い寝顔だな。気持ちよさそうに寝やがって」

 

 ひまりの寝顔は見るたびに癒される。疲れが吹き飛んで頑張ろうっていう気持ちになるくらいに癒される。これじゃあ俺も寝そうだな。あとでコーヒー飲もうかな。

 

「蘭や巴にもう付き合えよって言われたな。けど俺はいつ告白したらいいかな?」

 

 わからない。ひまりが俺のことをどう思っているのか、10年前の約束を覚えているのか、こんなことを思う度に不安に感じてしまう。心が蝕まれそうなくらいに不安だ。

 

 もしひまりに告白してダメだったら俺は死ぬつもりだ。もうそれほどまでにひまりのことを好きになっていた。周りから見れば愛が重いだの、病んでるだの言われるかもな。俺はそれでもいい。ひまりに尽くすって決めたから。幸せにするために努力をするって決めたんだから。

 

「なあ、ひまり」

 

 

――俺のこれまでの努力は伝わっているかな?

 

 

――ひまりに俺の想いは届いているかな?

 

 

――10年前の約束を覚えてくれてるかな?

 

 

 考えたくないけど不安だ。もう時間がないのかもしれない。せめて今年中には想いを伝えよう。不安に感じるより、今は前を向こう。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
感想と評価お待ちしてます。


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恋愛に噂は付き物、甘える時は強引に行け

前半は平和ですが、終盤はちょっとやばいです
では本編どうぞ


 窓から夕日が見える。ひまりはテニス部で部活中、そして俺も部活をやっている。因みに俺は手芸部に所属している。

 

 俺は料理だけでなく、手芸もやっている。手芸についてはお母さんから教わってできるようにした。手芸をやっていくうちにパッチワークにも興味を持って中2の時からやり始めた。ひまりからポーチを作ってほしいと言われ、部活中の時間でも作っている。ただし、時間が空いている時のみだ。

 

「もう5時になるのか」

「姫宮君、先に帰っていいよ」

「いいんですか先輩?」

「私達ももう帰るところだから。彼女さん迎えに行くんでしょ?」

「彼女ではありません、ただの幼馴染みですよ」

 

 ヤバいな、俺がひまりのこと好きなのバレてるか!?一緒にいたいけど、噂になるかもしれない。下手したらひまりに避けられてるって思われそうだ。

 

「本当にそう?」

「本当ですよ。俺に彼女ができるのは難しいですって」

「でも姫宮君と彼女さんは付き合ってるように見えるけど……」

「そうですかねえ?勘違いだと思いますよ」

「勘違い?まあ、そういうことにしとくよ」

 

 先輩はウィンクしてそう言った。ひまりのことが好きだってバレたら大変なことになっていた。俺の心臓はバレるんじゃないのかっていう焦燥感に駆られてドキドキしていた。さて、帰る準備して正門で待とうかな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 部活が終わって10分経つ。帰る準備をしていた時に先輩達から「彼氏さんとごゆっくり」とからかわれた。私と結月は"まだ"付き合っていないけど、カップルに見えるかな?

そうだったら嬉しいことだ。

 

 正門に向かっていたら遠くに人影が見えた。結月だ、待っていてくれたんだね。早く向かわなきゃ!私は結月の元に走り出した。ラケットが重い、結月の元に向かうためだからしょうがないことだ。

 

「ひまり、お疲れ様」

「結月もお疲れ様。帰ろ!」

「だな。今日は練習ないからゆっくりできるな」

 

 そう、今日は練習がないのだ。蘭は華道があり、モカはバイトにつぐと巴は商店街の行事の関係で先に帰った。今は結月と二人きりだけど、肩の力が抜けてくる。これはあれかな?愛の力ってやつかな?

 

「ひまり、ラケット持つよ」

「いいの?重いけど……」

「大丈夫。ひまりは部活でお疲れなんだ。俺が持ってあげるよ」

 

 結月は私が肩に下げているラケットケースを持って肩に下げた。優しいなあ結月。私は結月のこういう優しいところが好きだ。二人きりだから手繋ごうかな?

 

 そうだ、帰りにコンビニスイーツ買おうかな?うん、そうしよう。

 

「結月、コンビニでスイーツ買いに行かない?」

「ちょうどよかった、俺も買おうと思ってたんだ。今日はパッチワークやるから糖分補充しとかないといけないからさ」

「今日もやるんだ。ポーチの方ってどんな感じに進んでるの?」

「まだ作ったばかりだからまだまだかな。多分だが1週間はあればできるかも」

 

 まだ作ったばかりだったか、忘れてた。結月ってホントに女子力高いなあ。料理もできて手芸もできる、さらにギターとベースも引ける。もはや優良物件としか言い様がない。

 

「とりあえず行こう。早くしないと目当てのスイーツがなくなる」

「そうだね。行こうか!」

 

 私は笑顔で言った。私も頑張ろう、結月にできることを探していろんなことを学ばないと!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 俺とひまりは春限定の桜スイーツを買うことにした。それもシュークリームだ。だが、このシュークリームは普通とは違う。なにが違うかというと……。

 

 

――クリームの色が違う。しかも苺を使ったクリームになっている。

 

 

 これだけ違うとなると味は期待できそうだ。さて、会計を済ませるか。

 

「会計お願いします」

「は~い、会計しますよ~」

 

 ん?なんか聞き覚えのある声だな。この声もしかして……。

 

「モカじゃん!何してるのここで!」

「決まってるじゃ~ん。バイトだよ、ひーちゃん」

「気づかなかった。まさかモカがいたなんて思わなかった」

「あれ、リサさんは?」

 

 そうだ、リサ先輩がいない。今日は休みなのか、それともここにいないだけなのか?

 

「誰かアタシのこと呼んだ?」

「うわあ、ビックリした!後ろから声掛けないでくださいよ!心臓に悪い」

「ホントですよ!」

「ごめんごめん、面白そうだったからついね」

 

 リサ先輩は両手を合わせ、片目を瞑って笑顔で謝った。面白そうって……。この人怖いな。

 

「じゃあ会計しますよ~っと」

 

 モカは会計を始めた。しかし言ってるのは値段ではなく、カロリーの数字を言っていた。

 

「モカ~やめてよ!」

「ごめんごめ~ん、お約束だからやった方がいいかな~とね」

「うう、結月~」

「ひまり、こればっかりはどうすることもできない。まあ、ドンマイ」

 

 俺はひまりの頭に手を置いて諦め気味に慰めた。さらに追い討ちをかけるかのようにリサ先輩は「さすがバカップルだね!」と言ってきた。ホントにひでえなこの二人。

 

 早く帰ろう。これ以上ここにいると何を言われるかわからない。

 

 

――やっぱり俺とひまりは噂になっているのか?

 

 

 なんとか自宅に到着。まだお母さん達は帰って来てないか。ひまりの方も帰って来てないみたいだからまた二人きりだ。

 

 夕飯も済ませたし、パッチワークを始めるか。今日はどのくらい進むか。

 

「ねえ結月」

「何?」

「パッチワークさ、近くで見ていいかな?」

「構わないよ。けど退屈になると思うが……」

 

 できればひまりには退屈な想いをしてほしくない。なにかしてやれそうなことはないだろうか?俺は試行錯誤したが、全く思い付かなかった。困ったな、どうしたらいいか。

 

「大丈夫だよ結月。私は側にいればそれでいいから」

「でも……」

「いいんだって!結月、私は本気だよ」

 

 ここまで言われたら何も言えない。ひまりの想いは本気だ。多分何を要っても聞かないだろうな。うん、俺の負けだなこれは。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 結月がパッチワークの続きを始めて数分経った。まだ表面の片方しかできてないけど、それでも凄い。結月には敵わないかもしれない。

 

「よし、今日はここまでにするか。あと、ひまり近いんだが……」

「あっ、ごめん!嫌だった?」

「いや、別に嫌ってわけじゃないけど」

「嫌じゃないけど?」

 

 結月が黙り込んだ。私もやりすぎたかな?結月にくっつきたいって言ったら怒られそうかな?怖くて言えない。どう言ったらいいかな?

 

「その、名残惜しいというか……。あっ!」

「どしたの結月?」

「ごめん、今の忘れて!」

「今名残惜しいって言ったこと?」

「ちょ、言わないでくれって!ああもう、言わなきゃよかった!」

 

 名残惜しいって、そんなに私とくっつきたかったのかな?なんか可愛いなあ。からかいたくなってきた。私の心は結月を攻めたいという想いに満ちていた。こんな結月は蘭達には見せたくない。

 

「そんなに名残惜しいなら朝までくっついていようか?」

「い、いいよ。そこまでしてもらわなくても」

「ふうん。じゃあこれならどう?」

 

 私は結月の腕に絡みつき、肩に頬擦りをした。私って結月のこと好きすぎるなあ。正直言うと、私は結月に甘えたいという気持ちでいっぱいだった。こうでもしないと結月は駄目だって言ってくるから、少しは強引に行かなきゃ甘えられない。

 

「待ってひまり、何をする!?」

「私は結月に甘えたいだけだよ?」

 

 私は結月の耳元で囁いた。

 

「っ!?」

「ねえ、いいでしょ?」

「わかったよ。好きにしてくれ」

「やった!ありがと、結月!」

 

 私は結月の腕に強く絡み付いた。結月に告白しなきゃだけど、今はこの時間を大切にしたい。二人きりだからこそできるこの時間を堪能しなきゃ!

 

 

 

 

 




後半のキャラ崩壊はお許しを。
言っておきますが、付き合っていません。
二人がいつ付き合うかは作者にもわかりません。
感想と評価お待ちしてます。


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飛び移りからの抱き止め、からの......睡眠

お久しぶりです
更新遅れてごめんなさい
今回つまらないかもです



 ふわあ、眠い。欠伸が出てしまった。昨日遅くまでパッチワークやってたから眠い。今日は休みか。何もなければこのまま寝ようかな。何もなければの話だがな。

 

 そんなことを考えていたら電話が来た。嫌な予感がするな。言った側からフラグを回収するなんて……。誰からだ?

 スマホの画面を見たらひまりからだった。なんだこんな朝早くに。なにかあったのか?

 

「もしもし?」

「おっはよー結月!」

 

 ひまりから大きな挨拶が来た。声大きいよ、ひまりのバカ野郎。

 

「お、おはよう。ひまり声大きい」

「ごめんごめん!」

「テンション高いな、いいことでもあったか?」

「特にないよー!結月、今そっちに行くね!」

 

 電話を切られた。え?こっちに来る?普通に来るんだよな?俺は日差しを浴びるためにカーテンを開けることにした。しかし、外を見た瞬間になにかが目に入った。

 

 

――ひまりがこっちに飛び移ろうとしていた。

 

 

 ちょっと待て!なにをしようとしてるんだあいつ!これあれだよな!?抱き止めろってやつだよな?とにかく怪我だけはさせちゃダメだ。俺は窓を開けることにした。

 

「ひまり!駄目だ、普通に来てくれ!」

「結月、今飛び移るね!」

 

 ひまりは俺の話も聞かず、俺の部屋に飛び移った。本当にやったよこいつ!ああもう、抱き止めてやるよ!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は結月の部屋に飛び移った。無事に飛び移り、抱き止めてくれた。けど、結月は後ろに倒れちゃったけど、ベッドの上だったから大丈夫だった。あちゃ~、怒られるよねこれ?やり過ぎたかもしれない。

 

「大丈夫かひまり、怪我とかないか?」

「大丈夫だよ。ごめんね、こんなことしちゃって」

 

 私は結月に謝った。怪我がなかったからよかったけど、飛び移れなかったらどうなってたか。想像しただけでも怖くなった。なんか自分でやっといて泣きそうになっちゃった。

 

「ひまり」

「なに?ってわあ!?」

 

 結月は私の頭に優しくチョップし、頭を撫でた。こんなことをしたのになんで優しくするの?

 

「バーカ」

「ば、馬鹿って……」

「ホントにバカだよお前は。こんなことしなくても抱き止めてやるのに、やり過ぎだよひまり」

 

 結月は私に優しく言った。あ、駄目だ泣きそうだ。私は涙を流してしまった。結月、ごめんね。ごめんね!

 

「ひまりどうした!?」

「ごめんなさい、結月……」

「泣くなってひまり。許してあげるから」

 

 結月は涙を指で拭った。こんなことしちゃって言うのもなんだけど、キュンとしてしまった。結月って天然ジゴロなの?私は結月の胸に顔を埋めて泣いた。

 

▼▼▼▼

 

 

「ひまり、落ち着いたか?」

「うん。さっきはごめんね」

「もういいよ。ひまりに怪我がなくてよかった」

 

 ひまりが泣き止んで数分経った。今は俺の膝の上に乗って落ち着いている。俺はというと、ひまりを後ろから抱き締めている。付き合ってもいないのにこんなことをするとは、罪深い男だな俺は。

 

「それで、今日はなんの用なんだ?」

「そうだそうだ。今日は結月と家デートしようと思って来たんだ!」

「家デート?なんでまた……」

 

 家デート。どこにも出掛けずに家で過ごすっていうあれか。ひまりのことは好きであっても家デートはしたことがない。

 

「今日はそんな気分だからかな?」

「自分で言っといて疑問形かよ」

「疑問形だよ!」

「ツッコミはいるのかよ!」

 

 なんだよこの会話、聞いた俺がバカみたいじゃん。これじゃ俺とひまりがバカだって言ってるも同然じゃねぇか。

何をして過ごすか何も決まっていないが、とりあえず話合うか。

 

「何して過ごす?」

「結月が決めていいよ。私は結月と一緒にいればいいからさ」

「そうか。じゃあ今から寝るか」

「え、寝るの!?」

 

 そうだよ、パッチワークやり過ぎて眠いんだよ。頼むから寝させてくれ。

 

「パッチワーク夜遅くまでやってたから眠いんだ」

「寝ようよ!?追い込まれてるの結月!?バカなの、死ぬの!?」

「追い込まれてないよ。てかボロクソ言うのやめろ」

「追い込まれてないならなんでまた……」

「余裕持たせておこうと思っただけだよ」

 

 そう、余裕を持たせるためだけだ。決して追い込まれてるとかではない。

 

「そうなんだ。じゃあここに頭置いて」

「えっ、それってヤバくないか?」

「大丈夫だよ。私と結月しかいないから問題ナッシングだよ!」

 

 ひまりが置いてくれと言った場所とは、膝だった。膝枕か、二人でいつもやり合ってるから慣れてるが……。まあいいか。

 

「問題ナッシングなら信じよう。じゃあ寝るぞ?」

 

 俺は自分の頭をひまりの膝に乗せた。慣れてるとは言ったけど、やっぱり慣れない。幼馴染みとはいえ、女の子の膝枕だ。慣れたら怖いとしか言い様がない。

 

「結月どう?気持ちいい?」

「う、うん。まあまあだよ」

「なーに顔赤くしてんの?可愛いなあ」

「可愛いとか言うな。可愛いって言われるのは抵抗あるんだぞ」

「ごめんごめん。可愛いかったからつい、ね?」

 

 ひまりこそ可愛いよ、なんて言えない。好きな人であってもそんなの言えるわけがない。俺ってどんだけヘタレなんだ。

 

「ごめんなひまり。朝からこんなことになって」

「いいのいいの!私は結月と一緒にいればいいからさ!」

 

 ひまりはホントに優しいな。俺がひまりのことを好きになったのはこういう優しいところだ。こんなに優しくされたら甘えてしまう。母性本能をくすぐられたのかもしれない。

 

「ありがとひまり。それを言われただけでも嬉しいよ」

「そっか」

「じゃ、おやすみひまり。昼くらいには起こしてな」

「りょうかーい!おやすみ結月」

 

 俺は眠りに就いた。"一緒にいればいい"、か。本当に嬉しかった。ひまりがあんなことを言ってくれるなんて......。そんなことを言われたらさらに好きになってしまう。罪深い女だなひまりは。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 結月寝ちゃったか。なんか私も眠くなっちゃった。そういえばまだ言ってなかったな。お母さん達とおばさん達が仕事でしばらく帰ってこれないって言ってなかった。1ヵ月だったかな?

 

 そこまでいないってなると私と結月、二人きりになるってことだ。どう過ごそうかな?明日は休みだから今日は泊まるけど、結月は呑気に寝てる。しょうがないか疲れてるんだ。

 

 結月から言われたけど、「ひまりは料理はできなくてもお菓子作りは上手い」って、なんか複雑だなあ。私も料理できるようにして結月の胃袋を掴みたい。誰に教わろうかな?蘭達のうちだとつぐに教わるのもいいかもしれない。

 

 私も頑張ろう。結月のお嫁さんになるんだ!なにもできないっていうのはとてもヤバイ。花嫁修業やらなきゃだね!

 

 

 

 

 

 




この話は続きます
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渾名で呼び合うのは恥ずかしいことなのか?

連続投稿ですよ!
家デート続きです


 ひまりに膝枕をしてもらって数分が経った。どれくらい経ったんだ?二人きりの部屋は何故か静寂だった。あれ?おかしいなひまりには昼くらいに起こしてくれって言ったんだけど……。

 

 

――なんでひまりからいびきが聞こえるんだ?

 

 

 こいつ俺が寝た瞬間に眠くなったな。まあいいか。とりあえず起こすか。俺はひまりの膝から頭をどけて起こすことにした。寝顔可愛いな、写真撮っておくか。

 

「ひまり、おーいひまりー」

「……ふにゃぁ」

 

 ふにゃぁってなんだよ可愛いな。俺はひまりの頬を優しく突きながら起こした。起きないな、それに頬がプニプニする。幼馴染みでしかも好きな人にこれやってるって、俺は相当の変態だな。

 

「ん……」

「あ、起きたか。おはようひまり」

「あれ、寝ちゃった私?」

「寝ちゃってたよ」

 

 まだ寝惚けてるなこいつ。さて、昼にしなきゃだな。お母さん達は朝からいないみたいだし、どうするか。

 

「ご、ごめんね結月!起こせなくてごめんなさい!」

「いいよ謝んなくても。寝顔が可愛かったからチャラにするよ」

「可愛かったって、もしかして撮ったの!?」

「撮ったよ。可愛かったから撮らせてもらった。俺のスマホに永久保存だよ」

 

 俺がそう言った瞬間、ひまりは俺のベッドの布団に顔を埋めた。あ、悶えてるな。やりすぎたかもしれない。でもしょうがない、可愛いのがいけないんだ。

 

「バカ~、撮らないでよ~」

「ごめんって」

「もう、(結月の)お嫁に行けないよ……」

 

 大丈夫、その時は俺が貰うから。なんて言えない。それを言ったら好きだってことがバレちまう。こんなタイミングで告白みたいなことになったらロマンなんて全くない。

 

「とりあえずお昼にするぞ」

「は~い」

 

 なに作るか?まあ適当でいいか。その後はなにをして過ごすか。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「結月、話があるんだけど……」

 

 私は結月に今日泊まることとおばさん達が1ヶ月間仕事で家を空けることを伝えた。そしたら案の定、結月はビックリしつつも動揺した。

 

「お母さん達また言ってなかったな。はあ、なんでミスをするんだか」

「忙しかったから仕方ないよ。突然でごめんね?」

「いいよ、ひまりが悪いわけじゃない。あと、泊まるんだろ。着替えとか大丈夫か?」

「鍵は預かってるから大丈夫だよ」

 

 お母さんからは鍵は預かってるからなにかあっても取りに行けるから問題ない。けど、結月と二人きりで過ごすってなんか夫婦みたいだ。そんなことを思っていたら私の耳が赤くなったような気がした。

 

「けど家から取りに行くのは面倒だろ?制服とか必要な物は置いてもいいぞ」

「いいの?」

「全然いいよ。俺とひまりの仲だろ?あと、鍵も渡しとくから」

「鍵も?」

「俺の帰りが遅くなったらとかを考えてだよ。買い物とか部活とかで遅くなるかもしれないからさ。女の子一人を外に放ってはおけないし、それに……」

 

 

――ひまりになら預けられるって思ったから。

 

 

 結月は照れながら言った。照れてるのがわかるくらいにだ。それってつまり、私のことを信頼してくれてるってことだよね?

 

「結月照れすぎじゃない?」

「しょうがないだろ!言うの恥ずかしかったんだよ」

「ふーん。さすが"ヒメちゃん"だね!」

「ヒメちゃんはやめろ。そう呼ばれるの苦手なんだよ」

 

 ヒメちゃんとは結月の渾名だ。結月は普段はユズって呼ばれてるけど、中等部の頃はヒメちゃんと呼ばれていた。理由は結月が女の子っぽかったからだ。

 

「だったら俺もひまりのことひーちゃんって呼ぶぞ?」

「なっ!?なら私だってユズって呼ぶよ?」

 

 なんだろうこれ?小さい頃呼んでた渾名で呼び合うってなんかくすぐったいな。でもそれって毎日呼ぶってことになるよね?

 

「たまに呼ぶならいいけど、毎日はやめようか」

「そう……だね。毎日ってなったら身が持たないよね」

「じゃあ、二人きりの時に呼ばないか?」

 

 え、二人きりの時に呼ぶの?それって恥ずかしくないかな?私ならひーちゃんだけど、結月だとユズかヒメちゃんのどっちかになる。どっちがいいかな?

 

「二人きりの時に?」

「そう。二人きりの時ならいいだろ。俺のことはユズでもヒメちゃんでもいいよ。ヒメちゃんの方は慣れるようにするから」

「そうなると私はひーちゃんだよね」

 

 ヒメちゃんってなったらお互いにちゃん付けになる。ならユズにしようかな?ヒメちゃんはたまに呼ぶくらいならいいかな。

 

「渾名のことは置いといて、雑誌読むが一緒に読むか?」

「読む読む!ファッション系とかでいい?ヒメちゃん」

「あ、ああ。それにするかひーちゃん」

 

 なんか恥ずかしい。慣れてないからかもしれない。お互い渾名で呼ぶのってこんなにも恥ずかしいことなんだなって私は実感した。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 夕飯を済ませてファッション系の雑誌を読むことになり、ひまりは隣に座り、ページを見る毎にこれはヒメちゃんに似合うんじゃない?とか、これいいね!とかを二人で言い合ったりした。

 

 こんな家デートも悪くないな。好きな人と過ごすのってなかなかいいな。まるで恋してますとか青春してるみたいで心地がいい。

 

「ヒメちゃん」

「なに?」

「前より髪伸びてない?」

 

 あれ伸びてたのか?肩までしか伸びてないと思うけど、気づかなかったな。

 

「そういえば伸びたかも。ひーちゃんは切ったほうがいいと思う?」

 

 いつから切ってないんだっけ?中2以来だったか?ひまりから髪が長いほうがいいって言われてそれっきりだったか。

 

「長いほうがいいよ」

「そうか、ひーちゃんが言うならそのままにしとくよ」

「そうだよ。今のほうがヒメちゃんに似合うよ」

「ありがとひーちゃん」

 

 さっきから渾名で呼び合ってるけどやっぱり恥ずかしいな。

 

「……」

 

 俺とひまりは黙り込んだ。そりゃそうだ、夕飯の時も渾名で呼んでたんだ。よくそこまで呼び合えたよなって思える。

 

「やっぱりやめようよ結月!恥ずいよ!」

「そうだよな!俺も恥ずかしいよ!」

「ここまで渾名で呼ぶのっておかしいよね」

「ああ、おかしいよ。慣れないことはやるもんじゃないな」

 

 二人きりだからいいけど、ここまで呼び合うのは無理があった。本当に俺達はバカだな。はあ、今日は寝よう。下から布団取りに行かないといけないな。

 

「ひまり今日はもう寝ようか」

「そうだね。あ、一緒に寝ない?」

「え、一緒に?」

「そう、一緒に!私達いつも一緒に寝てるじゃん!」

 

 俺とひまりは幼馴染みでありながら一緒に寝ているんだ。前に布団を敷くと言った瞬間に一緒に寝ようと言われたんだ。しかも涙目からの上目遣い、さらに甘ったるい声で言われた。

 

 それ以来、俺とひまりは一緒に寝るようになった。俺は毎回こう思うようになった。

 

 

――可愛いから許すって!

 

 

「わかったよ。しょうがない子だな」

「やった!ありがとヒメちゃん!」

 

 もういいや、諦めよう。こうなったひまりはなにを言っても聞かない。素直に一緒に寝るしかない。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ああ、結月の匂いがする、幸せだ。私は結月に抱きついて背中に顔を埋めている。結月からは今日は向き合って寝るのはやめようって言われた。理由は渾名で呼び合ったから恥ずかしいとのこと。だからこんな状況になってる。

 

「結月起きてる?」

「お、起きてるよ……。どうした?」

「明日はどうするの?」

「明日は特に決めてないよ」

 

 決めてないかあ。それなら出掛けようかな。明日は土曜日だからちょうどいいや。何故かというと、金曜日の今日は祝日で休みだからだ。

 

「じゃあさ、どっか出掛けない?」

「出掛ける?」

「うん、デートってやつだよ!」

「デートか。というかひまり」

「なに?」

 

 あれ、どうしたんだろう結月?さっきから伝わってくるくらいに動揺してるけど、何かあったのかな?

 

「お前、わざとなのか?」

「なにが?」

「なにがってその……。当たってるんだけど」

「ああこれ?当ててるんだよ!」

「わざとじゃん!ひどいなひまり!」

 

 ふふっ、悪いね結月!からかいたかっただけだから許してね!

 

「ごめんね結月。嫌だったよね?」

「え、それは……」

「今離れるから」

「いや、離れなくていい!このままでいいよ!ひまりもそのほうがいいだろ!」

 

 もしかして嫌じゃなかったのかな?結月ってムッツリスケベかな?

 

「……スケベ」

「ちょっ、理不尽だな!?」

「いいよ。朝までこうしてるもん!」

「ええ!?この小悪魔め……」

 

 朝までこうしていよう。こうしていた方が結月の匂い嗅げるからいいや。ごめんね結月、私はたまーに小悪魔になるんだからね!

 

 

 

 




まだ付き合っていません
次はデートになりますのでお楽しみに
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幼馴染みとお出掛けという名のデート―前編―

更新お待たせしてごめんなさい
デート回になります
今回は前半です


 今日は休日。昨日ひまりと約束した通り、今日は出掛けることになっている。エスコート出来るか心配だ。私服は何にするか、普通にするかそれとも気合いを入れてカッコよくキメるか。どれにするか迷うな。

 

 ひまりは未だに俺のベッドで寝ている。今日出掛けるのに寝てるなんて呑気なやつだ。俺はベッドに近づき、ひまりの寝顔を覗いた。相変わらず可愛い寝顔だ。こうやって見れるのは幼馴染みの特権というやつかな?

 

 寝顔を撮りたいけど、怒られるからやめておくか。起こさないと出掛ける時間がなくなってしまう。俺の家で眠れる想い人を起こすか。こんなこと言ってるけど、言ってて恥ずかしくなってきた。なんてことを言ってるんだ俺は……。

 

「ひまり起きろ、朝だぞ」

「……」

 

 反応なし。さて、どうするか。耳元で「起きないとキスするぞ」はなしだ。付き合ってないのにこれを言うのはまずおかしい。じゃあどうするか。

 

 

――思い付いた!よし、これにするか。

 

 

 俺はひまりの耳元で今思い付いたことを言って起こすことにした。

 

「起きないと冷蔵庫に取っといてあるチョコレート食べちゃうぞ?」

 

 これならどうだろう。ダメ元でやってみたが効果はあるのだろうか。

 

「だ、だめ~!私のチョコを食べないで~!」

 

 ひまりは布団から起き上がって叫んだ。マジかよ、ダメ元だったのに効果あったよ。これからはこれで起こすかな。

 

「あ、あれ?ゆ、結月?」

「やっと起きた。おはようひまり」

「お、おはよう結月。あれ、チョコレートは?」

「食べてないよ。ひまりが起きないからちょっと悪戯をしただけだよ」

 

 ひまりは口を開けて呆然とした状態で固まっていた。よく見ると寝癖が崩れてる。どのくらい寝ていたのやら。

 

「……ばかぁ」

「お、おいどうしたひまり!?」

 

 ひまりは枕に顔を埋めて悶えてしまった。ちょっとやり過ぎたかもしれない。多分顔を赤くしてるな。これはやり過ぎた俺も悪いけど、起きないかったひまりも悪いんだ。

 

「結月、それ冗談だよね?」

「冗談って、何のことだ?」

「チョコレートを食べたってことだよ!ていうか何で冷蔵庫に入れてるの知ってるの!」

「適当に言っただけだ。冷蔵庫に入れてるのを知ったのは今だよ。だから手もつけてないから安心してくれ」

「それホントなの?」

「ホントだから、起きてくれ!今日は出掛けるんだろ。デ、デートするんだろ!」

 

 なんでデートっていう言葉を言おうとしただけなのに詰まるんだよ!ひまりは枕から顔を出して起き上がった。顔が赤くなってる、後でなんか言うことを聞くか。

 

「朝ご飯済ませてから着替えてもいいかな?」

「わかった。下でご飯の支度して待ってるから」

 

 ひまりが着替えるので、俺は部屋から出ることにした。さっきのひまり可愛いかったな。ヤバい、ニヤけそうになる。抑えよう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私と結月は朝ご飯を済ませ、私は一旦家に戻り着替えることにした。朝から恥ずかしいところを見せちゃったな。今日は結月とデートなんだ、気合いを入れなきゃ!どういう私服にしようかな?

 

「うーん、迷うなあ。あまり結月を待たせたくないからなあ」

 

 デートと言っても単なるお出掛けなんだ。結月はどんな気持ちなんだろう、今日はどんな一日になるんだろうと私は楽しみで仕方なかった。結月もどんな私服にするのかな?まだ着替えてなかったみたいだから気になるなあ。

 

 服を選んでしばらく経ち、組み合わせが決まった。うん、これに決めた!これなら結月を魅了できるかもしれない。

 

「よーし、頑張るぞー!えい、えい、おー!」

 

 少しでも結月と距離を縮めよう!頑張れ、私!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 外でひまりを待っているけど、どれくらい経ったんだろう?もう20分くらいは経ってるような気がする。でもしょうがないか。女の子の着替えは時間がかかるって言うし、「遅い、待ってたんだぞ!」なんて言ったら最悪のスタートになってしまう。

 

 その場合は「いいよ、今来たところだから」って言えばいいんだよな?そう雑誌に書いてあったからその通りにやれば問題ないはすだ!

 

 というか男なのにお母さんが買ってたデート専門の雑誌を読んでる時点でおかしいんだよな。こんなんだからヒメちゃんって呼ばれるんだろうな。自分で言ってて悲しくなってきた。

 

 待っていると、ひまりが出てきた。ようやくだな。

 

「ごめん結月、遅くなってごめんね!待たせちゃったよね?」

「いや、今来たところだから待ってない……ぞ」

 

 俺は固まってしまった。ひまりの私服はいつもと違っていた。私服が違うとこんなに変わるんだな。

 

 ひまりの私服は上にトレンチコート、中にブラウス、下にロングスカートだった。凄いな、気合いが入ってるって伝わってくる。

 

「結月、どうしたの固まっちゃって?」

「え!?ああ、ごめん!見惚れてた」

「見惚れてた?」

「ああ。ひまりがいつもより可愛いなって思ってな……」

 

 やべえ口に出ちまった。顔が熱い、やらかしたな。ひまりはどう思ってるんだ?ひまりの顔を見たら顔が赤くなっていた。

 

「か、かわ!?」

「ご、ごめんひまり!つい本音が出ちまった!」

「ゆ、結月もカッコいいよ?」

「っ!?」

 

 胸がドキッとしてしまった。カッコいいなんて言われるなんて思わなかった。今日は気合いを入れて正解だったかもしれない。

 

 ひまりに服を褒められただけなのに、今日は頑張れそうな気がした。今日はエスコートできるように頑張るか!俺は深呼吸をして落ち着かせ、ひまりに話しかけた。

 

「ひ、ひまり!」

「な、なに!?」

「き、今日はエスコートするから、よろしくな!」

 

 俺はひまりに手を差し伸べた。良いところを見せよう!積極的に行かないと!

 

「こちらこそよろしくね、結月!」

 

 ひまりは俺が差し伸べた手を掴んだ。こうしてると王子様とお姫様みたいだな。一度やって見たかったんだよな、このシチュエーション。男なのに憧れてるなんて、俺らしくないな。

 

 




前半終わりです
最初が1話と被ってるのは見逃して下さい
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幼馴染みとお出掛けという名のデート―後編―

連続更新です
デート回後編です



 どうしよう。顔がニヤけそうだ。さっき結月から可愛いって言われたからかな?今日は気合いを入れすぎたかもしれない。でも、今日のデートのためなんだからいいよね。

 

「結月、手繋いでもいい?」

「構わないよ。手繋ごうか」

「う、うん!」

 

 私は結月と手を繋ぐことにした。暖かいなあ結月の手。ニヤけるのを抑えてるのに余計ニヤけてしまう。今日の私はおかしい、こんなになるなんて思わなかった。

 

「ところでひまり」

「なに?」

「最初はどこに行くんだ?」

 

 そうだ、どこに行こうか。何も決まってなかったな。昨日は勢いで言っちゃったからノープランで来てしまった。ここは二人で決めよう、そうしよう!

 

「映画館に行こうかな」

「映画館か。ひまりまさかだが、ノープランなんじゃないのか?」

「ギクッ!」

 

 私は結月に計画を立てていないことを看破されてしまった。気づいてても口に出さなくてもいいじゃん!結月のバカ!

 

「その顔は、やっぱりか」

「結月~、言わないでよぉ」

 

 私は結月の胸を優しく何回も叩いた。なんか泣きそうになっちゃう、まだ来たばかりなのに、こんな状態じゃカッコ悪い。結月に情けないところ見せちゃったなあ。

 

「ごめんって。でもさ……」

 

 結月は叩いていた私の手を掴んだ。どうしたんだろう?私は気になり、結月の顔を見て話を聞くことにした。

 

「俺は別にノープランでも平気だよ」

「なんで?」

 

 ノープランでも平気?なんでそんなことを言えるのかな?気になってしまう、結月がどうして平気だと思ったのか。私は理由を聞くことにした。胸がドキドキする。警鐘を鳴らすかのような、いや違う。これはどんな答えが出るのかなっていう好奇心みたいなものかな。

 

「なんでって、その……」

「その?なんなの、言ってみなよ結月!」

「わかったよ!理由はだな、ノープランでもひまりと一緒にいれば楽しいって思えるから、それでいいかなって、そう思ったから言ったんだ」

 

 結月は照れながら言った。私は結月に抱き着き、胸に顔を埋めた。どうしよう、またニヤけそうだ。私の顔は真っ赤になっているかもしれない。ズルいよ!そんなこと言われたら期待しちゃうじゃん!

 

 私と一緒にいれば楽しいって、それはズルいとしか言い様がない。結月が楽しいって思っているのか期待しちゃうよ!結月に顔見られてないかな?恥ずかしいよ~!

 

「お、おい!?どうしたひまり!?」

「なんでもない!」

「……これどうしたらいいんだ?」

 

 何を思ったのか、結月は私の頭を優しく撫でた。違うよ!なんで撫でちゃうの!?明らかに違うよね!?癖なのかな?確かに私は結月に抱き着くことが多い。その後に結月が私を撫でる、っていう流れがお約束みたいになってたからこうなったのかな?

 

 まあいいや。抱き着いてよかったかもしれない。役得だし。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 あれからなんやかんやあって映画館に行き、映画を見終わった。まだ午前なのに疲れてしまった。急に抱き着いて来たからビックリした。あれはさすがに言い過ぎたか?

 

 俺は事実を言ったんだ。ひまりと一緒にいて楽しい、これは紛れもない事実であり、俺の本心でもある。俺はひまりが今どうなっているのかが気になり、ひまりのほうを向いた。

 

 泣いてるし。あの映画ホラー系かと思いきや恋愛系だったからな。「怖いけど、面白そうだから見てみようよ!」と言ったけど、確かに面白かった。ホラー展開が来た時は俺の腕にしがみたいたり、恋愛展開が来た時は泣いたりと、泣き顔を何度か見てしまった。

 

 なんというか、ひまりの泣き顔は可愛いと思ってしまった。何故だ?

 

「まだ泣いてるのか?」

「だ、だってぇ……。感動しちゃったんだもん!」

「それはわかるけどさ。涙拭かないと可愛い顔が台無しだぞ?」

 

 俺はひまりにハンカチを差し出した。あれ?俺今なんて言った?またやらかしたか?俺はひまりの顔を見た。また顔赤くしてるし!やっちまったよ、俺のバカ!

 

「ねぇ結月、それ狙って言ってるの?」

 

 ひまりは渡したハンカチで涙を拭いて言った。狙って言ってる訳ないだろ!狙って言ってたら引かれるよ!

 

「そんなことない!狙って言ってないに決まってるだろ!」

「本当?」

「ホントだよ!」

 

 なんか信用されてないような気がする。そりゃそうだよな、こんなこと言ってる時点でおかしいんだ。どうにも上手くいかないな。どうすればカッコよくできるのかに悩んで雑誌を読んだけど、参考にしすぎたのかもしれない。

 

「……フフッ」

「どうしたひまり?」

「なんか結月らしくないなって思ってね」

「俺らしくない?」

 

 俺らしくないってなんのことだ?まさかまた変なことを言っちまったのか?それともどっかでミスをしたのか!?

 

「そうだよ。なんかキザっぽいなって思ったから、なんかあったのかなって」

「らしくないってキザっぽいところか?」

「そこだよ!もっと普通にしてさ、いつも通りでいいんだよ!その方がお互いに過ごしやすいじゃん?」

 

 そう……だよな。変にカッコつけなくてもよかったんだ。そんなことをしていたら自分が無理をして相手に気を遣わせてしまう。だったらいつも通りにすればいいんだ。なんかひまりには申し訳ないことをしたな。

 

「なんかごめん」

「どうして謝るの?謝るところってある?」

「なんていうかさ、変なところを見せたなって思って」

「いいよそんなこと!むしろ別の結月も見られたからよかったし、私は楽しかったよ!」

 

 楽しかったか。そんなことを言われると俺まで嬉しく思ってしまう。こういうこともたまにはいいなって、そう思ってしまうのはなんでだろう?

 

「そっか。あ、このことは蘭達には内緒にしてくれよ?」

「わかってるよ!」

 

 こんなこと蘭達に知られたら笑われちまう。恥ずかしいし、一生ネタにされる。それだけは避けたい。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 映画を見た後、私達はお昼を済ませ、買い物に行くことにした。結月に似合いそうな服を探すことにしたけど、何かないかな?

 

「ねえ結月、これなら似合うんじゃないかな?」

「どれにしたんだ?」

「これなんだけど、どうかな……?」

 

 私は選んだ服を結月に見せた。結月は素材がいいから女物の服も似合うかもしれない。結月を着せ替え人形にしたいっていう欲望が出てるけど、ここではやらないほうがいいかな……。

 

「え、これは俺には似合わないと思うぞ」

「着てみないとわからないじゃん!着てみようよ!」

「いや、やめとくよ。俺は着ないよ」

「どうしても、ダメなの?」

 

 私は少し涙を出し、上目遣いをして結月の顔を見た。こうなったら女の子の武器を使ったほうがいいよね!さあ結月はどんな反応をするのかな?

 

「っ!?」

「ねぇ、結月ぃ。おねが~い、着てみてよ~」

 

 私は甘ったるい声でお願いをした。顔が赤くなってる、効果は抜群みたいだ。結月ってこういうのに弱いから、断れないはずだ。

 

「わ、わかった、着るよ!着るから泣かないでくれ!」

「ホント?ありがと結月!」

 

 私は笑顔でお礼を言った。楽しみだなあ。結月はどんな感じになるかな?カッコよくなるか、可愛くなるか、私の心はどうなるかという想いでいっぱいだった。

 

 結月は私の選んだ服を持って試着室に入った。そういえば思ったけど、私達って周りからどう見られてるかな?カップルに見られてる、それとも兄妹、どっちかな?

 

「ひまり、着替えたぞ」

「着替えた?じゃあ開いてくれる?」

「わかった」

 

 結月は私の選んだ服に着替え、試着室のカーテンを開いた。着替え終わった結月を見た瞬間、私は見惚れてしまった。

 

「ど、どうだ?似合ってる……か?」

「似合ってる……。似合ってるよ、結月!」

「そうか、よかった」

 

 結月似合ってるって言われて安心したみたい。似合ってるし。カッコいいとしか言い様がない。ここまで似合うなんて、私のファッションセンスって凄いなって思ってしまう。

 

「ひまり、どうしてこの服を選んだんだ?」

「どうしてって、結月に似合うかなって思ったからだよ」

「この服がか?これ黒のスーツと黒のYシャツだよな?よくこれを選んだな」

 

 そう。私が選んだ服とは上下黒のスーツに黒のYシャツだ。因みに結月は髪が肩まであるので、ポニーテールにしてもらってる。何度も言うけど似合ってるね!

 

「まあ、単なるお遊びで選んだだけだよ」

「お遊びって……。言っとくけど、写真に撮るならいいけど、買わないからな?」

「買わないの!?カッコいいのに?」

「いやこれ値段見ろよ」

 

 私は結月に言われてスーツのタグを見た。嘘!?これ10万もする!?なんで私これ選んだんだろう。値段に気づかずにファッションセンスで選んじゃった。道理で買わないわけだ。

 

「そ、そうだよね、買わないよね」

「買わないけど、楽しめたからいいよ。もう少し選んでみようか。俺もひまりに似合う服選ぶからさ」

「いいの?」

「もちろんいいよ。今度は一緒に選ぼう、それでいいだろ?」

 

 結月は私の頭に手を置いて撫でながら言った。私のためにそこまでしてくれるなんて、嬉しい!

 

「わかったよ!今度は私に似合う服選んでよね!」

「OK!ひまりに似合う服を選ぶから待っててな!」

 

 私と結月はお互いに似合いそうな服を一緒に選んで、一番似合った服を二人で買った。アクセサリーも二人で決めてペアルックで買った。今日は最高のデートになったなと私は心の中でそう思った。

 

 それから家に帰り、私と結月はソファーに座って今日のデートのことで話し合った。

 

「今日はありがとなひまり」

「なんのこと?私なにかしたっけ?」

 

 ありがとうって、私なにかしたかな?お礼を言われるようなことをした記憶はないんだけどなぁ。

 

「したよ。今日デートに連れてってくれただろ?俺嬉しかったんだよ」

「嬉しかったの?」

「そう、嬉しかった。ひまりと一緒に出掛けたことは何回かあったけど、今日のデートは凄く楽しかったんだ」

「楽しかったって……。そんなこと言われたら私も嬉しいよ!」

 

 私は結月に顔を近づけて言った。そりゃそうだ、こんなことを言われば嬉しいに決まってるし、今日は誘ってよかったって思う。

 

「ちょ、ひまり!?近い、顔近いって!」

「あ、ごめん!嫌だった?」

「そ、そんなことはない。なんていうか、その……」

「その?」

「恥ずかしいから、少し離れてほしかったかな?」

 

 私は結月から離れ、嫌だったかを聞いた。嫌ではないみたいだけど、顔を赤くしている。ちょっとやり過ぎたかな?

 

「ごめんね結月。やり過ぎたかも」

「やり過ぎたって、大丈夫だから。別にくっついてもいいけど、やり過ぎない程度にしてくれたら嬉しいかな」

「やり過ぎない程度に?うん、わかった!」

「おい!言ったばっかなのに腕に抱き着くなよ!」 

「このくらい、いいじゃ~ん!」

「はあ……。全く、しょうがない奴だな」

 

 結月は私の頭を撫でながら言った。今のこの時間は私にとって、とても幸せだ。私は結月に甘える度に何度もこんなことを思う。

 

 

――この幸せな時間が続いてくれればいいのに。

 

 

 

 




ひまりの選んだスーツはfate/zeroのロイヤルブランドみたいなものです
中途半端な終わり方になりましたが、これにてデート回終了です
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連休の始まり、幼馴染みはまたしても泊まりに来る

またしても泊まりに来ます
本編どうぞ


 今日から五連休に入った。先週、お母さん達が帰って来てひまりは家に帰ったが、その瞬間に俺は寂しいと感じた。

 

「ユズー、ご飯だよー」

「今行くよ」

 

 もう夕飯か。あっという間だな。久々にギターを弾いたが、どうやら腕が落ちてるな。今月はギターとベースの練習を平行してやろう。ベースについてはひまりと一緒にやるから大丈夫として、ギターはこのままだと蘭に怒られるな。特に、紗夜先輩にバレると「何なんですかその腕は!練習を怠っていたんですか!?」なんて言われるな。

 

 まあ、ブランクは練習で取り戻して行こう。さて、夕飯にするか。待たせてると怒られてしまう。俺は髪を一つ縛りにしてリビングに向かった。

 

 今日はオムライスか。ここに丸山先輩がいたら喜びそうだ。あの人は確かオムライスが好きだったか。最近知った情報だが……。

 

「いただきます」

 

 今日はまた一段と美味い。卵にマヨネーズを入れたのか?だとしたらいつもよりふわふわだ。

 

「そういえばユズ」

「なにお母さん」

「あなた、ひまりちゃんとはどこまでいったの?」

 

 っ!?ヤバい、喉が詰まった!俺は慌てて水を飲み、口に入れていた物を飲み込んだ。あ、危ない。死にそうになった。

 

「い、いきなりなに!?」

「ひまりちゃん、泊まったんでしょ?進展あったのかなあと」

「無いよ。進展というか、デートしただけだよ」

「デートって、やるなあユズ!」

 

 お父さんは喜びながら言った。因みに、お母さん達は俺がひまりのことを好きなのは知っている。元から知っているようで、なにかある度に進展はあったのかとか、どこまでヤったのかとかを聞いてくる。

 

 ヤったとか聞く時点でアウトだし、俺とひまりはまだそんな関係ではない。いずれなる予定だ。

 

「やるなって言っても、お互いに似合ってる服ないか探してただけだよ」

「凄いじゃないユズ!」

「それで服は買ったのか?」

 

 買ったのかと聞かれ、俺は買った、と答えた。答えた瞬間に両親二人とも狂喜乱舞してしまった。応援してくれてるのはありがたいけど、エスカレートしてくると恐怖を感じる。

 

 でも、俺はこう思っている。こんなにいい両親はいないし、俺はこの家で生まれてよかったなって思っている。本当に感謝の気持ちしかない。

 

「そうだ、お父さん達は連休どうするの?」

「お父さん達か?連休は家にいるよ」

「さすがに連休も仕事続きだと辞めるか、ボイコットするわよ」

 

 待て、今なんて言った?辞めるとかボイコットするとか言ってるけど、なにサラっと言ってんだよ。そんなこと言えるのがある意味すげえよ。

 

「あと、さ。ひまりのことなんだけど、連休はこっちに来たりするみたいなんだ」

「お、来るのか!」

「今夜は寝かせないぞ、っていう夜が来るのね!」

「来ねえよ!さすがに寝かせるよ!そこまでやんないって言ってるだろ!」

 

 俺はやらないと言った瞬間、お母さん達はなーんだ、つまんないの、と口を揃えて言った。ホントあんたらなんなんだよ!?俺とひまりのことをどう思ってんだよ!?

 

「まあ、要するにだな。ご飯食べに来たり、遊びに来たりとかそのくらいだよ」

「あ、そんなことか」

「へぇ、ホントにつまんないわね。このバカ息子」

 

 もういいや。もう疲れたよ。もうどうにでもなれ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は今結月の家のドアの前に来ていた。遊びに来るって言ったけど、また泊まりたいっていう気持ちに負けて着替えを用意してしまった。私って誘惑に弱いなあ。

 

 私はドアの前のチャイムを押した。ピンポーン、と音がし、ドアが開いた。私の愛しの結月が迎えに来た。

 

「はーい。おおひまりか、おはよう」

「おっはよー結月!あれ、おばさん達はどうしたの?」

「ああ、リビングにいるよ。二人ともひまりが来るのを楽しみにしてるみたいでな」

 

 全く、うちの親は、と結月は溜め息を吐いた。でも、嬉しそうな表情をしていた。結月の顔って改めて見ると綺麗だなあ。本当に男の子なのか疑問に感じてしまう。

 

「ん?どうした、ジロジロ見て?」

「な、なんでもないよ!?」

「そうか。まあ入ってくれ。あと聞くけど、その荷物はなんだ?」

 

 結月は私の抱えてる荷物がなんなのかを聞いた。よくぞ聞いてくれたね!泊まるためのセットなんだよ!

 

「ああ、これ?実はね、また泊まろうかなって思ってね……」

「また泊まるのか?まあいいけどさ。ひまりなら大歓迎だよ」

 

 結月は微笑みながら言った。朝から結月の笑顔が見れるなんて、私ついてるなあ。うん、ラッキー!

 

「じゃあ、お邪魔しまーす!」

「あらあら、来てくれてのねひまりちゃん!」

「お久しぶりです!連休はよろしくお願いします!」

「お母さん、ひまり泊まるから」

「泊まることは上原さんから聞いてるわ。よろしくねひまりちゃん」

 

 おばさんは私の頭を撫でて言った。おばさんに撫でられるのっていつぶりだろう。顔が赤くなってるような気がする。おばさんはまるでユズの妹みたいね、と言った。結月は聞いた瞬間に顔を赤くして真っ先に否定した。私が結月の妹って、それはそれでアリかもしれない。

 

 しばらくしてお昼を済ませ、私は一旦家に戻ってベースを取りに戻った。今日は結月と一緒に弾こうかな。なんかギターの腕が落ちたとか言ってたけど、大丈夫かな?

 

「お待たせ!」

「お、来たか。ギターの方ブランクあるかもだけど平気か?」

「私はいいけど、結月は大丈夫なの?」

「やれるだけやるよ。ひまりが一緒に弾きたいって言ったんだから、頑張らないと」

 

 結月無理してるなあ。私は心配で仕方なかった。

 

「なにを弾くんだ?」

「True colorを弾こうかなってね」

「あの曲は大丈夫なんじゃないのか?練習見ても完璧だと思うが......」

「わからないところがあってね」

 

 確かにTrue colorは本番とかは問題ない。けれど、練習では弾けないところがある。それを連休の日に練習しようと私は考えた。

 

「わかった。ベースメインで教えるけど、ギターのパートは俺が弾くよ。一応弾けるようにはしてるけど、ミスとかは許してくれよ?」

「そこは問題ないよ。許すからさ!」

 

 そっからは2、3時間休憩しながら練習をした。案の定、結月はギターの腕は落ちていたようだ。本人曰く、弾くのは2ヵ月ぶりと言っていた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 夕飯も風呂も済ませて夜。時間は、8時か。あっという間な一日だったな。ひまりのベースの腕はどんどん上達してきている。俺も置いてかれないようにしないといけないな。

 

 パッチワークの方はこの前のポーチは完成してひまりにあげたんだっけ?次は何を作るか。この連休は手芸部の活動は無いからな。

 

 コンコン、ノックの音が聞こえた。ひまりか?ということは風呂を済ませたってことか。

 

「入ってどうぞ」

「ふう、いい湯加減だったよー」

「おかえり。お母さん達は寝てるのか?」

「もう寝てるよ。今日は騒いでたからね、だいぶ疲れてたのかも」

 

 そっか、と俺は納得した。そうだよな、あれだけ騒いでたんだ。そりゃ疲れてるに決まってる。いきなりひまりにあーんしろなんて言ってきたからビックリした。まあ、やったけど、ホントに恥ずかしかった。

 

「ひまり、髪乾かしてあげるよ」

「え、いいの?もしかして結月、私の髪を触りたいの?」

「なんでわかるんだよ」

「わかるに決まってるじゃん!わかりやすいんだよ!」

 

 わかりやすいって……。俺はこの見た目だが、実は髪フェチなところがある。ひまりのふわっとした髪を触った瞬間に髪フェチに目覚めてしまった。その髪が触り心地いいのが悪いんだ。

 

「結月なら乾かしてもいいよ」

「いいのか?こんな髪フェチの変態だぞ?」

「髪フェチの変態なのは元からでしょ。それで乾かすの、乾かさないの?」

「乾かすよ。今やるから!」

 

 焦らすなよ全く。俺はドライヤーの電源を入れ、ひまりの髪を優しく乾かした。うん、触り心地いいな。

 

「ひまりってさ、髪下ろした時って別人だよな」

「急にどうしたの?」

「いや、なんかさひまりって普段お下げにしてるだろ?衣装によって髪型も変わるけどさ、髪下ろした時のひまりも可愛いなって思ってな」

 

 俺はなにを口に出してんだ!なんで自然と可愛いって言えるんだ!ひまりを前にすると緊張するどころか自然体になってしまう。

 

「可愛いって……。結月ってよくそんな恥ずかしいこと平気で言えるよね?」

「なんかごめん」

「なんで謝るの?私は恥ずかしがらずに言えるなあって思っただけだよ?」

 

 ひまりはこう言ってるが、本当は恥ずかしい。ひまりの耳を見たら赤くなっている。恥ずかしいのはお互い様じゃねえか。

 

「それは、だな。ひまりが可愛いのがいけない」

「え、私が悪いの!?」

「そりゃそうだろ。そんなに見た目が可愛いんだ。悪いに決まってる」

「ゆ、結月だって可愛いに決まってるじゃん!」

 

 え、俺もか!?なんでそこで俺に振るんだよ!ほんとひでえやつだな!

 

「もういいよ!可愛いのはお互い様、これでいいだろ!ほら、乾かし終わったからあと梳いてやるよ!」

 

 俺はやけくそ気味に言った。ひまりからは逃げたね、と言われた。なんか複雑だ、ひまりが可愛いのがいけないのに、なんで俺まで可愛いと言われるんだ?確かに女っぽいけど、そこまで言うことないだろ。

 

 髪を梳いたあと、俺とひまりは眠りについた。もちろん一緒に寝てだ。ひまりに抱き枕にされて気持ちよかったというか、苦しかった。ホントに眠れない夜だった。 




中途半端な終わりでしたが、連休お泊まり回でした
もちろん続きます。あと2話くらいやる予定です
感想と評価お待ちしてます


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泊まりに来たのはいいが、これは家デートなのだろうか

リアルが忙しくなって更新が遅くなりました
ホントにごめんなさい
今回は家デートになります


 ひまりが泊まりに来て2日目。どっか出掛けるか?と聞こうとしたが、いきなりひまりは連休は家デートにしようと言ってきた。いや、何故家デートになるんだ?

 

 しかし、家デートとなると、何をしたらいいんだ?初めてのことだからよくわからないな。俺は何かできることはないかと考え始めた。

 

 ……駄目だ、全く思い付かない。やっぱり、ひまりと話し合うしかないか。最近困ったらひまりと相談することが多いな。気のせいではないような気がする。しかし、家デートをしようと言ったひまりはというと……。

 

 

――雑誌を読んでいた。

 

 

 こいつ、自分で言っといて読んでやがる。呑気な奴だな、可愛いから許すけど。はあ、と俺は溜め息を吐いた。

 

「どしたの?溜め息なんか吐いて」

「なんでもない。それでどうするんだ?」

「なにが?」

 

 ひまりは首を傾げて言った。ちょっと待て、自分の言ったことを忘れたのか?呑気にも程があるぞ。

 

「なにが?じゃねえよ。家デートのことだよ」

「あぁ、そうだった。ごめんごめん、忘れてたよ」

「マジかよ」

「マジだよ!」

 

 なんでそこで返すんだよ。ていうかなんだよこのやり取り。

 

「まあいいや。どうしようか、今回のい、家デートは……」

「あれぇ?結月、なに恥ずかしがってんの?」

「こ、これは……その……。家デートって言うのが恥ずかしいだけだ!気にしなくていい!」

「えぇ……」

 

 ひまりは引き気味な顔をした。なんで引かれなきゃいけないんだよ。悲しくなってきたじゃねえか。こんなことをしていたら日が暮れちまう。早く話合わないと!

 

「話を戻そう。今日はどうするんだ?」

「どうするっていうかね、私はなんでもいいんだ」

「なんでもいい?どういうことなんだ?」

「私はね、結月と一緒にいればいいんだ。一緒に映画を見たり、一緒にベースを弾いたりとかでもいいんだ」

 

 それでいいのか?と俺は思った。ひまりに何かしてやれないか、俺にできることはないかと考えていた。一緒にいればいいとひまりは言った。俺は先月出掛けていた時に一緒にいると楽しいと言った。

 

 俺は深く考えすぎていたんだな。こんな単純なことに気づけていないなんて、まだまだだな。少し頭を冷やした方がよさそうだな。

 

「そっか、ひまりらしいな」

「そうかな?えへへ……」

 

 ひまりは照れながら手を頭の後ろに置いて笑った。隠していても隠しきれていないくらいに照れていた。この笑顔を見ているとさっきのモヤモヤが無くなってくる。どうしてお前の笑顔は眩しいのだろう。と俺は疑問に感じた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 あの後私と結月は部屋にあったBlu-rayで映画を観ることにした。時間は二時間と普通の物だった。私の提案で恋愛物を観ることにしたけど、よく考えると結月と二人きりで観るんだと気づいた。

 

 二人きりで映画を観るなんていつ以来だろう。正直覚えていない。今はいいや、結月と映画を観ることに集中しよう。

 

 しかし、集中しようにもなかなか集中できなかった。今の状況は私と結月が隣り合っているのだ。要するに、肩と肩とがくっついている、そんな感じだ。

 

「ねえ、結月。これからどうなるかな?」

「俺に聞かれてもわからないよ。観てからのお楽しみだろ?」

「そ、そうだね」

 

 結月は気づいてないのかな?私は緊張して展開が気になるどころではなかった。ドキドキするし、結月の髪からはいい匂いするし……。ていうか結月ってシャンプー変えたのかな?

 

 そして映画はクライマックスを迎えた。私は泣きそうになり、結月の腕に抱き着いてしまった。ごめんね結月!胸が当たってるけど、我慢してね!

 

 まさかここまで感動するなんて思わなかった。というよりも、私が流している涙はその場しのぎの涙なのかもしれない。結月にドキドキしていることがバレないようにするためのその場しのぎなんだ。

 

「凄い、良かったね」

「そうだな。俺も泣きそうになったよ」

「あれ、結月もなんだ。実は私もなんだ」

「ひまりもだったのか。二人して泣きそうになるなんて、不思議だな」

 

 不思議だな、と結月は微笑んで言った。結月が映画で泣くなんて珍しい。泣くなんて滅多にないのに、どうしたんだろう。私から見た結月の顔はとても貴重で、刻み込まれるかのように私の目に焼き付いた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 夕飯を済ませ、俺とひまりは部屋でゆっくりと過ごすことにした。またしても両親からあーんをしろと言われた。しかもお互いにやり合えというハードルの高いことをすることになった。恥ずかしくてできないので、そこはひまりと二人で断ることにした。

 

 そしてひまりはというと、俺の肩に頭を乗せて寝ていた。疲れて寝ちまったか。寝たのはいいけど、髪からいい匂いがして作業がしにくいんだけどなあ。パッチワークをやっているけど、針が指に刺さらないようにしないと……。

 

 それにしても、さっき映画を観ていた時胸が当たっていたが、あれは無意識だったのか?無意識ならそれでいいが、狙ってやってたらさすがに引く。無意識であってほしいがな。

 

「ん……」

「寝てるよな?この体勢でパッチワークはやりにくいな。今日は切りがいいからここまでにするか」

 

 俺は針をケースにしまった。さて、寝てるところ悪いけど起こすとしよう。このままだと風邪を引いてしまうからな。ベッドで寝てもらわないと。

 

「ほらひまり起きろ。ここで寝てると風邪引くぞ」

「ん、んぅ……あれ?結月、私寝てた?」

「ずっと寝てたよ。ほら、起きろ」

 

 ひまりの奴、寝惚けてるな。寝惚けてる顔も可愛いけど、マジでベッドで寝てもらわないと俺が困る。せっかく泊まりに来てくれてるのに、台無しにする訳にはいかない。

 

「ねぇ、結月。一緒に寝よ?」

「俺も寝るところだから先に入っててくれ」

「わかった~」

 

 それから俺とひまりは寝ることにした。今思ったが、これって家デートではないような気がする。気のせいだろうか。

 

 さて、明日はどうするか。せめて出掛けるようにはしないと。せっかくの連休なんだからひまりとどこか出掛けたいところだ。できれば蘭達も誘いたいところだな。

 

 

 




とりあえず終わりです
中途半端な終わりになって申し訳ない
感想と評価お待ちしてます


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恐怖の健康診断、女性にとっての気になる所

2、3週間ぶりの更新です
健康診断が直前に迫った時、女子は主にアレを気にする


 連休もようやく終わり、五月は中旬に入ろうとした。この時期に入ると健康診断を受けることになる。

 

 こういう時期だとやばいんだよなあ。主にひまりがヤバイ。何故かと言うと……。

 

 

――原因は体重だ。

 

 

 今日の朝、ひまりが体重計に乗ったところ、悲鳴を上げた。それが原因で朝から抱き着かれてしまったわけで、今も半泣き状態だ。

 

「ひまり、いつまで泣いてんだよ」

「だって~」

「ひまりちゃん、なにかあった?」

 

 つぐみが聞いてきた。さすがにこれは俺の口からは言えない。俺が言ったらひまりが傷つくからひまりの口から言ってもらわないと……。

 

「もしかしてひーちゃん、お腹が……」

「言わないで!」

「結月、ひまりが半泣きになってることはアレだよね?」

「なるほどそういうことか。これは仕方ないな」

 

 蘭はわかっているかのように聞いた。どうやら巴はわかっているみたいだな。まあこれは自業自得だ。そもそもスイーツの食べ比べなんてやったからだ。

 

 その結果がこの有り様だ。俺から見たらひまりは太ってはいないと思うんだけどな。さて、どうフォローしようか……。

 

「結月、どうするの?」

「どうすると言われてもなあ」

「じゃあ、あたしがひーちゃんにカロリーを送るのやめようか?」

「いや、それやっても変わらないだろ……」

 

 モカはこんな提案をしたが、まず無理だろ。大体、どうやって送ってるのかが気になる。

 

「ならドラムやらせようか?」

「今からだと無理だし、練習にならないよ」

「じゃあ、お菓子を控えるとか」

「控えたら私が死んじゃうよぉ!」

 

 ひまりが俺から離れてつぐみの提案に対して反論をした。さすがに控えた方がいいだろ。食べ比べした結果がこれなんだから。それに、巴の提案も厳しい。今からドラムやったらベースが疎かになるからやめたほうがいいと思う。

 

 ここまで来たら蘭はどういうアイディアを出すのか。蘭なら普通のことを言うと思うがな。ここは頼むぞ、蘭。

 

「じゃあさ、デスボイスを出せるようにする?」

 

 

――頼んだ俺が馬鹿でした。

 

 

 蘭、お前ボーカルだからと言ってデスボイスは物凄く無理だから!ひまりにデスボイスは似合わないし、こんな可愛い幼馴染みがデスボイスなんかやったら俺が死ぬから!

 

「蘭、相変わらずぶっ飛んでるねー」

「蘭が壊れた……」

「あたしは壊れてないよ。ボーカル故に考えついた結論だから」

 

 それ結論になってないし、何ドヤ顔で言ってんだこの赤メッシュ華道は。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 練習を終えて家に入り、私は部屋で寛ぐことにした。今日は結月に部屋に入っていいって言ったけど、来るかな?

 

 そんなことを考えていたらドアからノックの音が聞こえた。結月かな?

 

「ひまり、入っていいか?」

「いいよ」

「お邪魔しまーす」

 

 部屋に入って来た結月は髪を縛っていた。服装はジャージのようだ。何か結月のセンスがおかしい。というより、ダサい。

 

 服装が違っていればもっと良かったけど、どう見ても部屋着だよね?それ……。

 

「結月、それダサくない?」

「え、駄目だったか?」

「おかしいよ!さすがにジャージは無いって!」

 

 やっぱりそうか、と声がした。結月は肩を落とし、落ち込みながら縛った髪を下ろした。さすがにやめたようだ。

 

「隣、座っていいか?」

「いいよ、座って!」

 

 結月はそう言って私の隣に座った。結月の髪からはマスカットの匂いがした。またシャンプー変えたのかな?結月ってやっぱり女の子っぽいなあと私は思った。

 

 マスカットの匂いに誘われるかのように私は結月の肩に頭を乗せた。うん、いい匂いだ。この匂いは落ち着く。

 

「ひまり、くすぐったい」

「ごめんごめん。ねえ、結月。シャンプーまた変えた?」

「ああ、変えたよ。最近、シャンプーにハマっちゃってな。どんな物がいいかなってこの前選んでたんだ」

「その結果、マスカットにしたんだ」

 

 その通り、と結月は言った。そうだ、さっきの昼休みのこと聞こうかな?

 

 結月はどう思うんだろう、私はドキドキしていた。確かにあれは私の自業自得だ。スイーツの食べ比べをしよう、なんてやったからこんなことになったんだ。それにしても私って見た目どうなのかな?

 

「ねえ結月、私ってやっぱり太ってるかな?」

「そんなことはないと思うが……」

「そうかな?」

 

 私は落ち込みながら言った。その時、私は撫でられているんだと感じた。慰められてるのかな?

 

「大丈夫だひまり。俺から見たらひまりは太ってないし、そのまんまでも充分可愛いよ」

「か、可愛いって言わないでよ!恥ずかしいんだから!」

「ごめん!なんて言ったらいいかわかんなかったから……」

 

 私は顔を赤くして怒ったら結月は狼狽えてしまった。でも、私は嬉しかった。結月は結月なりに私を慰めたんだ。その優しさが私は嬉しかった。

 

 ありがとう結月。私を慰めてくれてありがとう。私は心の中で感謝の言葉を贈った。

 

「よーし、決めた!私ダイエットするよ!」

「そうか。なら俺も協力するか」

「協力するって、結月何かできるの?」

「できるというかだな、ダイエットに最適な料理を作るとか一緒に運動とかくらいしかできないけどな」

 

 結月は立ち上がって自分の指を絡めて腕を伸ばした。疲れてるのかな?

 

「そうと決まったらレシピを調べて来るか」

「もう帰っちゃうの?」

「今日は遅いからな。充分寛いだし、ひまりのために色々とやらないといけないしで忙しくなるから」

 

 また明日、と言って結月は私の頭を撫でて部屋を出た。結月がいなくなった後、私は枕に顔を埋めた。どうしよう、ニヤけそうだ。結月が私のために動いてくれるなんて、凄く嬉しい。

 

「ズルいよ。あんなこと言われたら嬉しいに決まってるじゃん。結月ってズルい人だよ」

 

 本人は気づいていないだろうけど、あんなことを言われたら嬉しくなるに決まってる。しかも無意識に笑顔で言ってるんだから質が悪い。

 

 私も頑張ろう。私は何ができるかを調べることにした。でも、今日は眠いから明日からやろう。少しスイーツは控えようかな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 俺は家に戻り、寝る準備をした。あの時のひまり、可愛かったな。俺はとにかくひまりのためにできることをしよう。あいつに尽くすって決めたんだ。なら、俺は俺なりにできることをするまでだ。しかし、レシピは作れないから調べてやるしかないよな。

 

 俺は思う。ひまりは俺から見ても太ってもいないし、あのまんまでも可愛いと思うんだけど……。

 

 もう少し言えることがあったはずだ。なんで俺は可愛いとしか言ってないんだろう。俺は後悔した。もうちょっと言葉を選んだ方がいいなと決意した。

 

「さて、今日は寝ようか。健康診断は再来週だったはず。まだ時間はあるが、ひまりのためだ。頑張らないと!」

 

 俺は布団の中に入り、眠りに就いた。しかし、眠れなかった。何故なのかは俺にはわからなかった。

 

 それから二週間の間、野菜を重視した料理を作ったり、休日は一緒にランニングをしたり、柔軟運動を手伝ったりと色々なことをした。

 

 その結果、ひまりの体重はなんとか落とすことができた。その嬉しさのあまり、俺はひまりに抱き着かれてしまった。彼女が嬉しそうにしてるから、まあいいかとひまりの好きにしたが、一緒に寝ていた時に抱き枕にされてしまった。

 

 抱き枕にされたのはいいが、不幸なことに俺はひまりの胸に顔を埋められてしまい、昼まで気絶していたようだ。

 

 好きな人とはいえ、できればあまりやらないでほしいと思った。全く、死にそうになったよ。

 

 

 




更新遅くなってホントにごめんなさい
ラストが投げやりになりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです
感想と評価、お待ちしてます


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密室という名のロッカー、幼馴染みと二人きり

人生で一度はこんなことあってもいいよね


 ……どうしてこうなったのだろう。

 

「ひまり、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよ、狭いし暗いよー」

 

 俺とひまりは今とある密室にいる。その密室は掃除用具だったり、中には専用になって着替えや私物を置くための物にもなる。そう、その名は……。

 

 

――ロッカーである。それもテニス部の女子更衣室だ。

 

 

 何故俺とひまりがこの密室という名のロッカーにいるのか、それは数分前に遡る。

 

 俺が家庭科室で手芸部の活動をしていた時のことだ。時間に余裕ができたからパッチワークをやり始める直前にひまりから連絡が来た。どうしたんだろう、部活終了前なのに連絡が来るなんて珍しい。俺はバイブレーションで振動しているスマホを手に取り、先輩に一言言って廊下に出て電話に出た。

 

「もしもし、どうしたんだ?」

「あ、もしもし?ごめんね結月、今出て大丈夫だった?」

「全然大丈夫だよ、それでどうした?」

「実は今日部活早く終わってね、迎えに来てほしいんだけどいいかな?」

 

 迎えにか。今日はもうやることはないし、先輩も先に上がっていいよって言ってたもんな。よし、迎えに行くか。

 

「わかった、今行くから待っててくれないか?」

「ありがとう。でもね、今日は場所違うんだ」

 

 場所が違う?どういうことだ?いつもは校門前なのに、今日は違うなんて珍しいな。まあ聞いてみるか。

 

「場所はどこなんだ?」

「場所はね、更衣室の中だよ」

 

 ん?ちょっと待て、今何て言ったんだ?更衣室って言ったのか?俺の聞き間違いじゃないよな? 

 

「なあひまり、一言言っていいか?」

「え、なに?」

「それおかしくないか!?なに、バカなの?死ぬの?」

「バカじゃないよ!バカって言った方がバカなんだからね!あと死なないよ!」

 

 それを言ってる時点でバカなんだよ。俺は心の中で呟きながらひまりの一言に呆れ、溜め息を吐いた。はあ、もうどうしたらいいんだろう。ひまりはこれを言ったらそれ以外のことは聞かないからな。仕方ない、行くとしよう。こんなこと蘭とかにバレれば絶交待ったなしだ。

 

「わかったよ、行けばいいんだろ」

「窓の鍵は開けてあるから待ってるね。あと安心して、先輩達はまだ後片付けしてるから」

「手伝わなくてよかったのか?」

「先輩達から彼氏さんが待ってるだろうから先に上がっていいよって言われてね」

 

 彼氏さんって……。だから俺とひまりは"まだ"そういう関係じゃないんだけどな。とりあえず行こうか。俺は先輩に先に帰ることを伝えてひまりの待つ女子更衣室の窓の元へと走って向かった。もちろん、先輩からも彼女さんとお楽しみにと言われた。だからそういう関係じゃないってば!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 よし、大成功!こういうのやってみたかったんだよね。実はこれは私の立てた作戦で、早く終わったのは本当だ。窓の鍵は開けたからあとは結月が来るのを待つだけだ。先輩達はまだ片付けには時間がかかるだろうから問題はない。作戦が成功するのを祈るだけだ。

 

 待つこと十分、窓から顔を出そうとしたら結月が目の前にいた。やっと来た、よかったと私は心ので中ホッとした。

 

「待ってたよ結月」

「待たせて悪い、というかこのまま入って大丈夫なのか?まずいだろこれは……」

「大丈夫、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ!」

「それ言ったらダメなやつだからな!」

 

 結月は私の頭にチョップしてツッコミを入れた。でも、そんなに痛くはなかった。そんな時、ドアから部員達がやって来る音が聞こえてきた。

 

「え、嘘!?」

「嘘じゃねえよ!どうするんだよこれ!?」

「と、とりあえずロッカーに隠れよう!」

 

 私と結月は二人して更衣室のロッカーに隠れることにした。というか下に結月の鞄置いてあるから足元が狭い、これは自業自得だからしょうがないか。

 

 私と結月の態勢は私が結月にくっつき、結月は私を壁ドンしているような状態になっている。なんかドキドキするよ。

 

 ドアが開く音がして先輩達が入ってきた。賑やかな話し声や着替えや私物が入っているロッカーが開く音等がする。というか今私と結月って二人きりだよね?

 

「ごめんね結月」

「これはしょうがない、こんなこと一度きりだからな」

「うん、ホントにごめん」

 

 私と結月は外に聞こえないようにお互いに小さい声で放した。やり過ぎたかもしれない、私は自分のしてしまったことに後悔した。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 そして今に至る。なんか外からあの二人付き合ってるのかなとかが聞こえるが、それって俺とひまりのことなのか!?

 

「結月、私達って周りからどう見えるのかな?」

「な、なに?どうなんだろうな、それはわからない」

 

 そう、ひまりは俯いて言った。あれ?なんかまずかったかな?てか狭いから胸が当たるんだけど、これひまりは気づいてるよな!?気まずいどころじゃない、ここにいること事態が地獄だ!

 

「さ、寒い……」

「大丈夫か?」

「大丈......夫だよ。あと結月、これ実は私の考えた作戦なんだ」

「作戦?もしかして俺を更衣室に入れたことか?」

 

 そうだよ、とひまりは体を震えさせて言った。俺はひまりを安心させるために抱き締めて頭を撫でた。多分、泣きそうになってるかもしれない。普通なら怒るだろうけど、俺はそんなことはしない。何故なら、たまにはこんなことも悪くないなって思ったからだ。

 

 人生には何が起こるかわからない。起こることによっては最悪と感じたり、こんなこともいいなとかもあるだろう。これはあくまで俺が個人的に思っていることだ。ひまりとだったらこういうこともいいなって思ってしまう、何故かはよくわからない。

 

「結月……ホントにごめんね」

「いいよ、怒ってないから。今は落ち着くのを待とう」

「うん……」

 

 ひまり、相当申し訳なさそうにしてるな。わかってはいたけれど、俺が来ることを楽しみにしていたことで頭から抜けていたのかもしれない。まあこれに乗った俺も悪いけどな。

 

 しばらくして外から音はなくなった。どのくらい閉じ籠っていたのだろうか、俺とひまりはロッカーから出て壁に掛けてある時計に目を向けた。もう六時か、ということは一時間か。

 

「ひまり着替えてないよな?」

「そうだった、結月見ないでね?」

「見るわけないだろ。外で待ってるよ」

「出ない方がいいんじゃない?出たらバレちゃうよ?」

 

 そうか、よく考えたらそうだよな。止めておこう、俺は目を瞑り、耳を塞いで後ろを向いてひまりが着替え終わるのを待つことにした。駄目だ、気まずい。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私と結月は暗い帰り道を歩く。お互いに気まずい雰囲気だ、今日私がやったことに怒ってるかもしれない。さっきは怒ってないって言ったけど、大丈夫かな?

 

「ねえ結月、怒ってない?」

「なんのこと?」

「さっきのことだよ」

「怒ってなんかないよ、まあ呆れはしたけどな」

 

 やっぱり、呆れたってことは見損なったってことかもしれない。これじゃあ結月を好きになる資格なんかないよね。本当に結月には迷惑かけたな。

 

「まあそれどころか、こんなことも悪くないなって思ったな」

「え?」

「俺思ったんだ。ひまりとこういうことするのなら別にいいかなって……」

 

 私は結月の一言で涙が出そうになった。君は優しすぎるよ、どうして私にこんなに優しいの?どうして私のことを大切に思ってくれてるの?私は疑問に感じてしまった。それと同時に結月のこの一言を聞いて安心した。それはとても心地よくて、冷めていた心を暖めてくれるような温もりだった。

 

 家に着き、私と結月はお互いにおやすみ、と言って帰宅した。今日のことは一度きりで私と結月にとってなかなか経験できないことだ。人生で一度はあってもいい青春だなと私は思った。

 

 

 




こんな終わり方になったけど、私にはこれが精一杯です
感想と評価お待ちしてます


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梅雨のどしゃ降り、濡れて透けるのは当たり前

雨で濡れて透けたら気まずいよね


 六月に入ってから一週間、今日の天気は若干曇りだ。梅雨に入れば湿度が上がり、更に楽器にも影響が出る。そうなってくると面倒なことが起きてしまう。そうならないように管理には気を付けないといけない。

 

 しかし、髪が伸びてきたな。特に前髪が気になる、今度ひまりに頼んで切ってもらった方がよさそうだ。全く、どうしてこんなに髪が伸びるんだ?あまり長いと女子と間違えられそうだ。

 

「蘭、大丈夫か?ずいぶんと眠そうだが……」

「昨日華道の方でお父さんと出掛けてた。多分その疲れかもしれない」

「じゃあ、モカちゃんが膝枕をしてあげよう。らーん、さあ膝においでー」

 

 そのまま寝ちゃいそうだからパスと言って蘭はモカの膝枕を断り、モカはしゅーんとなって悲しそうな表情をした。よっぽど蘭を甘やかしたかったんだな。モカ、ドンマイ。

 

「つぐみ、この時期は梅雨だけど雷は平気……じゃないよな?」

「もちろんだよ結月君……。雷なんてなくなればいいのに……」

 

 まあ雷がなくならないのは仕方ない。自然の摂理だからな、なんというかつぐみが可哀想になってきた。慰めようにもどう言ったらいいかわからない、そう思っていた時、巴がつぐみの近くに座った。

 

「まあつぐ、今度雷鳴ったらアタシが側にいてやるから、泣くなって!」

「巴ちゃん、ありがとう……!」

 

 つぐみは巴に慰められた途端に抱き着いた。つぐみの雷嫌いは昔からで、雷が鳴るとリスのように蹲る。可愛いように見えて可哀想に見える、そんな謎の現象が起きてしまうのだ。

 

 斯く言う俺も小学生の頃は雷が苦手だったがな。苦手だったあまり、中学三年の時に克服しようとしたが、あの時はマジで泣きそうになった。泣きそうになったらひまりに慰めてもらう、そんな毎日だった。

 

 

――ひまりに慰めてもらってたなんて、みんなの前では言えないよ。

 

 

「結月、何一人で黄昏てるの?」

「いや、なんでもない。少し昔を思い出してただけだよ」

「昔のこと?」

「ああ、俺が雷苦手だった頃を思い出してな」

 

 こんなことはあまり話したくない。何故かというとみんなに笑われるからだ。現にひまりが目の前で笑いそうになっているのが証拠だ。

 

 まあ案の定、笑われた。つぐみからは意外だと言われ、蘭には可愛いところあるじゃんと鼻で笑われ、巴とモカに至ってはドンマイと慰められた。だから話したくなかったんだ。そしてひまり、笑いすぎだ。

 

 今日は雨が降りそうだ。念のため折り畳み傘を持ってきたが、ひまりは傘を持ってきただろうか……。少し心配だ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 天気が曇りのち雨なのは聞いていたけど、まさかここまで降るなんて聞いてないよ!大雨だなんて、今日の私はついてないなぁ……。

 

 しかも傘まで忘れるし、もう最悪!傘の方は結月に入れてもらおう、さすがに雨だと楽器は持っていくのが難しい。でも結月って普段は折り畳み傘だったような気がする。まあいいか、入れれば別にいいや!

 

 雨が降っているから部活は中止になってしまった。私はというと図書室で結月の帰りを待っている。結月は手芸部だから中での活動だ。後三十分で部活は終わる。図書室で待ち合わせって言ってたから、ここで待たなきゃいけない。

 

 私は欠伸をしながらスマホの画面を見て時間を見た。もう5時、部活が終わる頃だ。結月、来てるかな?

 

「ひまりー、おーい」

「あ、あれ?結月、いつの間にいたの?」

「ついさっきだ。ひまりが考え事をしていた辺りからいたぞ」

 

 それって途中からってことだよね?連絡入れてくれればいいのに……。変な顔見られてないよね!?見られてたら恥ずかしいよぉ。

 

「そろそろ帰ろっか」

「う、うん……」

 

 なんか複雑だ。絶対結月笑ってるよね?変な顔してたぞって言うかもしれない。

 

 私と結月は靴を履き替えて玄関を出た。すごい雨だ、ジメジメするししかも寒い。風邪引かないようにしないといけないなぁ。

 

「どうしたひまり?」

「ごめん結月、傘忘れちゃったから入れてもらえないかな?」

「構わないよ、折り畳み傘になるけどいいか?」

「大丈夫、結月ありがと!」

 

 結月は鞄から折り畳み傘を出して傘を開いた。あれ、これってよく考えたら相合い傘だよね?全く考えてなかった……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 なんでこんなことになったのだろう。まさかひまりと相合い傘で帰るなんて思わなかった。折り畳み傘は小さいから俺とひまり、二人で傘の中に入るには限りがある。俺はいいけど、ひまりが濡れてしまっては駄目だ。それに、風邪を引かせる訳にはいかない。

 

「ひまり、肩濡れてないか?」

「少し濡れちゃったかな。私は大丈夫だよ」

「そっか、あと寒くはないか?」

「結構寒い……かな」

 

 早く帰った方がいい、俺も寒くなってきたしこのままだと二人共風邪を引いてしまう。

 

 それにしてもひまり、体が震えてるな。これはまずい、帰ったらシャワーを貸してやろう。あと、暖かいものとあとなんだ?何があったっけ?まあ家に着いてからにしよう。

 

 俺は自宅に着きひまりを家に上げた。今日はおばさん達が帰ってくるのが遅くなるって聞いたから上げることにしたんだ、決して襲おうっていうわけではない。

 

 ひまりにタオルを渡し髪を拭くように言った。髪を拭いたひまりはカーディガンを脱ぎ、畳んで俺の部屋に置いた。

 

「ちょ、ひまり!?」

「ん?何、どうしたの?」

「Yシャツなんだが……」

「へ?Yシャツ?」

 

 俺は目を逸らしながら指を指した。ひまりは視線を下に落とす。そして気づいた瞬間、徐々に顔を赤くした。ああヤバイ、殺される!

 

「結月……見てないよね?」

「な、何を!?」

「……ブラの色は?」

 

 俺は目を逸らして緑だ、と言った。色を言われたひまりは涙目になりながら俺のことをバカ!と言いながらタックルをしてきた。地味に痛い……。

 

 しばらくしてひまりはシャワー借りるね、と言って浴室に向かった。そして俺はというと自分の部屋で待つことにした。服は替えのジャージを渡したから問題ない。だか、サイズがちょっと大きい。それを考えるとひまりには申し訳ないな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私はシャワーを浴び、結月から借りたジャージに着替えた。制服は洗濯機で洗って乾燥かけておくって言ってたっけ?さすがに今日は泊まろうかな?

 

 二階に上がり、結月の部屋のドアをノックする。どうぞ、とドア越しから聞こえ、私は結月の部屋にドライヤーを持って入った。髪は乾かしてもらおう。あと、さっきタックルをしたことも謝ろう。

 

「お待たせー」

「暖まったようだな。今コーヒー入れてくるから待ってな」

 

 結月の今の髪は一つ縛りの状態で眼鏡まで掛けていた。私は床に敷いてある座布団に座って結月を待つことにした。机にはパッチワークが置いてあった。今度は何を作ってるんだろ?

 

 3分くらい経ち、ドアが開く音がした。トレーにコーヒーとシュークリームが置いてあるのが見えた。

 

「待たせた。あとシュークリームも置いとくから、今髪乾かすから隣いいか?」

「いいよ、お願い」

 

 ドライヤーをコンセントに差し、電源が入る音がした。ああ、気持ちいい。結月は私の頭を撫でながら髪を乾かしていた。やっぱり癖になるなぁ。

 

「結月、さっきはごめんね」

「さっき?俺、なんかしたっけ?」

「私のYシャツ透けてたじゃん?それで私がタックルしちゃったから謝ろうと思ってね」

「いや、あれは見ちまった俺が悪い。されて当たり前だし、ひまりは何も悪くないだろ?」

 

 結月はそんな優しいことを言ってくれる。それは嬉しいけど、私も悪いんだ。どっちもどっちだけど、あれは私が悪いに決まってる。

 

「私が悪いよ!結月は悪くない!」

「じゃあこうしよう、どっちも悪いってことで今お互いに謝った、これでいいだろ?」

「なんか複雑……」

「ひまり、言うこと聞いてやるから終わりにしよう。切りがないだろ?」

 

 結月の手が離れる、乾かし終わったんだ。もうちょっと撫でて欲しかったなぁ。でも今言うことを聞くって言ったんだ、それなら撫でてもらおうかな。

 

「結月、膝の上座っていい?」

「え?別にいいが……どうしたんだ?」

「撫でてほしいんだけど、いいかな?」

「いいよ、いくらでも撫でてやるよ」

 

 断られなくてよかった。私は胡座をかいてる結月の膝の上に乗った。頭に結月の手が乗るのを感じた。うん、やっぱり結月に撫でられるのは気持ちいい。

 

 私と結月は幼馴染みだから距離は近い。でも、こうして密着していると更に距離が縮んだなって思ってしまう。私はそれが堪らなくて嬉しかった。

 

「どうした、ひまり。何かいいことでもあったか?」

「ううん、何でもない!」

 

 そっか、と結月は優しげに言った。本当は結月の側にいたいって言いたいけど、恥ずかしくて言えない。だから撫でてもらって側にいようって思ったんだ。

 

 

――今日は結月の側にいて暖まろう。この温もりが消えないくらいにくっつこうかな。

 

 

 

 




書いてて思ったけどこれでよかったのだろうか
感想と評価お待ちしてます


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十年前の約束を願い事に込めて

更新遅くなってごめんなさい
今回は季節外れの七夕回です
個人的に全力を注いだ回になります
あと今回は少し長いです


 梅雨が明け、季節は夏になろうとしていた。しかし、月はまだ七月だ。梅雨が明けても暑いということに変わりはない。

 

 七月といえば七夕だ。願い事はどうしようか、しかしそう言ってもなかなか決まらない。アフターグロウとしての願い事は「いつも通りにバンドを楽しもう!」と決まっている。まさにアフターグロウそのものだ。

 

 じゃあ俺はどうする?俺は十年前にひまりと約束していることがある。ひまりを幸せにする、それが十年前の約束だ。

 

 ならそれを願い事にしたらいいじゃないか、それでいいじゃないかと言いたいところだが、好きな人にそんなことがバレたら黒歴史レベルで恥ずかしくなる。そんな願い事、ひまりには見せられない。

 

「願い事か、どれにしようか迷うな」

「願い事決まってないの?」

「どわぁ!ってなんだひまりか。驚かすなよ」

 

 ごめんごめん、ひまりはウィンクしながら言った。耳元でそんな声出されたら誰だって驚く。ファンにとってはプレゼントでしかないだろうな。

 

 そういえばひまりの願い事は何だろうか。気になるが、この場合は聞かない方がいいのか?もし聞いたらどうなるんだ?とりあえずダメ元で聞いてみるか。

 

「ひまりは七夕の願い事って決まってるか?」

「結月、それ今聞くの?悪いけど秘密だよ。残念ながら教えられません!」

「だよな。悪い、こんな事聞くのはまずかったな」

「そりゃそうだよ。七夕なのにいきなり願い事なんだって言われて教える人はいないと思うよ?」

 

 確かにそうだ、いきなり願い事を聞くなんてタブーだったな。俺としたことが情けないことをしたな。まぁ、俺も聞かれても秘密だけどな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 あの結月が願い事を聞くなんて、私からしたら珍しいことだった。というより、結月から聞かれること自体が予想外だった。

 

 アフターグロウとしての願い事はみんなで決めたから まだいい。でも、私の願い事なんて始めから決まっている。私の願い事は……。

 

 

――結月のお嫁さんになれますように。

 

 

 これが私の願い事だ。結月と十年前に交わした約束は私の願い事であり、結月と誓った約束でもある。だから、私の願い事はこれ以外に変わることはない。変わってしまったら私じゃなくなるし、結月と約束した意味がなくなっちゃう。

 

「待っててね結月、この願い事は絶対に叶えるから!」

 

 私はあの日から誓った。結月の隣に立てるようにしないといけない。結月のことが好きだって胸を張って言えるようにしないといけない。だから私は日々努力しなくちゃいけない。

 

 息が詰まりそうだ。こんな弱い所を結月に見られたら合わせる顔がない。逃げ出したい気持ちが芽生えそうだけど、結月を好きだという気持ちを手放したらおしまいだ。全てが終わってしまう。

 

 結月に好きだって伝える、口で言うのは簡単だ。いつまでも言うだけじゃ駄目だ。結月が他の人と付き合う前に動かないと!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 七月七日、七夕当日。今年の七夕はどうやら休日にやる年のようだ。今までは巴の妹であるあこも一緒だったが、今年はロゼリアが七夕ライブをcircleでやるらしく、一緒にはいられないそうだ。

 

 あのロゼリアが七夕ライブをやるなんて誰が予想しただろうか。湊先輩も珍しいことをするものだ。

 

 さて、今日は七夕だがどうするか。昨日はつぐみや沙綾から笹の飾りの準備を手伝ってほしいと頼まれて準備したわけだが、どんな感じになるのか楽しみだ。

 

「結月何悩んでるような顔してんだ?」

「巴か。何でもないよ」

 

 

――本当は悩みはある。あまり知られたくない悩みなんだけどな。

 

 

 俺は悩みがあるということを気づかれないように少し視線を逸らした。これは俺が嘘をつく時によくやる癖だ。

 

「……嘘だな。結月、嘘をつく時の癖隠せてないぞ」

「やっぱり巴にはわかるか。よく見てるな」

「結月は嘘をつくのが下手すぎるんだよ。つぐやモカには隠せていると思うけど、アタシにはバレバレだ」

 

 巴にここまで言われるなんて、まぁこればっかりは俺が悪いか。

 

 俺は巴に隠そうとした悩みを打ち明けることにした。その悩みはひまりが隠している願い事だった。俺は昨日から引き摺っていた。自分でもここまで引き摺るというのは不思議だなと思っていた。

 

「それはひまりでも秘密にするだろ。こればっかりは結月が悪い」

「そう……だよな。俺もここまで気になってたなんて思ってなかったんだ。願い事を秘密にされたっていうだけなのに、それが悩みになるなんて情けないとしか思えないよな」

 

 俺は愚痴を混ぜるかのように言った。巴に当たってもしょうがない。これは自業自得なんだ。こんな状態が続くとせっかくの七夕が台無しになってしまう。それだけは御免だ。

 

 巴が腕を組んで考えるかのような表情になった。何を考えているんだ?どんなことを言われるんだ?俺は巴が考え終わるのを待つことにした。

 

「よし、こうしよう。しばらくしてからでいいからさ、今度ひまりに聞いてみるのがいいと思うな」

「今度か、しかしいつ聞いたらいいんだ?」

「それは……。あれだな、例えば付き合ってからにしてみるとかだな」

 

 

――付き合ってからにしてみる?

 

 

 あれ?待て、それって……。もしかして俺がひまりのことを好きなのバレてんのか!?嫌な予感しかしないけど、聞いてみるか。

 

「巴、聞くようなことじゃないんだが俺がひまりのこと好きなの知ってるのか?」

「いや知ってるも何もバレバレだぞ?」

「嘘だろ。言っておくけど、このことはひまりには言わないでくれよ!ひまりにバレたらなんて言ったらいいのか……」

「言うわけないだろ。さすがに言ったりはしないし、幼馴染みがそんなことをするわけないだろ!」

 

 なんだろう、巴が言うとすごい説得力がある。やっぱり巴って頼りになるな。さすが姉御だ。

 

「そうだよな。わかった、そうするかな。巴ありがとな」

「どういたしまして。なんかあったら相談しろよ。頑張れよ!」

 

 巴は笑顔で言った。いつまでもこうしてちゃ駄目だ。こんな姿、ひまりには見せられないな。うん、肩の力が抜けてきた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 空に綺麗な夕焼けが映る、その夕焼けは目に焼き付けるには十分すぎるくらいに綺麗だった。結月ならなんて言うかな。聞いてみたいものだ。

 

「結月遅いなぁ、いつになったら来るんだろ……」

 

 普段は時間通りに来るのに、今日は珍しく遅い。

 

 いつもは結月が待っていることが多い。たまに私と結月がバッタリ会うっていう時もあるし、家が隣だからそのまま合流して一緒に出掛けるということもある。

 

 

――何もなければいいんだけど。

 

 

 そんなことを思ってから二十分が経った。私は左腕に付けている腕時計に目を通す、時間は夕方の四時二十分。もしかして来ないのか、そんなことを思ってしまった。

 

「ごめんひまり、遅くなった!」

 

 彼の声が聞こえた。この声は……結月だ!よかった、来てくれた。私は結月の声が聞こえたと同時に落ち着けると感じた。

 

「いいよ、私も今来たばかりだから」

「いや、充分待たせちゃってるよ。ホントにごめんな」

 

 私は遅くなった結月にどうして遅くなったのかを聞こうとした。でも、それは止めることにした。彼の首を見たら汗でダクダクだった。きっと何かあったに違いない。

 

「遅れた理由なんだけどさ……。母さん達に七夕の飾りの準備を手伝ってくれって言われたんだ」

「そうなんだ。私心配したんだよ?」

「ごめんって。とりあえず商店街行こうか。待たせたお詫びにスイーツ奢るから」

 

 スイーツを奢る、そんなことを言われたら仕方ない。それで許そうかな。私は結月と一緒にコンビニに寄ってスイーツを奢ってもらい、商店街に向かった。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ひまりを待たせてしまった。ひまりは許してくれたが、俺にとってはやってはいけないことをしてしまったと反省している。普段は待たせることはなかったのに、今日に限って待たせるなんて何をしているんだ俺は……。

 

 俺はひまりに嘘をついた。母さんに七夕の飾りを手伝ってくれと言われたことだ。だが、本当の理由は巴に相談をしていたから遅くなった、それが本当の遅れた理由だ。

 

 きっとひまりは気づいていない。好きな人に嘘をつく、それは俺にとってやってはならないことの一つでもある。

 

 今度ひまりには謝っておこう。いつまでもこんなことを引き摺ってはならない、引き摺っていてはひまりを幸せにすることはできないんだ。

 

 

――こんな俺をひまりは許してくれるだろうか……。

 

 

 いや、許してはくれないだろうな。とりあえず切り替えよう。せっかくの七夕なんだ、彼女といるこの時間を大切にしないと。

 

「そういえば結月って願い事決まったの?」

「決まってるけど、教えないぞ?」

「やっぱり教えてはくれないんだね。なんか残念だなぁ」

「残念って……。俺からしたら昨日のお返しだよ」

 

 そうだ、教える訳にはいかない。願い事を教えてしまったらその願い事は叶わなくなる。父さんから教えてもらったことがある。ひまりが教えてくれないのなら俺も教えない、そうするまでだ。

 

 今の時間は俺とひまり、二人だけだ。蘭達との七夕は昨日済ませてある。何故そうしたのか、その理由は蘭が七夕当日は家族と過ごしたいから前日にしてほしいということだった。

 

 それを言ったのは蘭ではなく、蘭のお父さんだった。あの人がそんなことを言うなんて誰が予想しただろうか。いや、誰も予想出来なかっただろうな。あの日から蘭と蘭のお父さんは仲直りしようと努力していた。

 

 

――蘭、ちゃんとお父さんと仲直り出来るようにしろよ。

 

 

 歩いて数分、俺とひまりは商店街に着いた。夕方ではあるが、七夕ということで賑やかになっていた。周囲には近所の人だったり、沙綾やはぐみもいた。

 

「どうする?つぐに声掛ける?」

「いや、止めとくよ。沙綾とはぐみと話してるみたいだから三人だけにしてあげよう」

 

 そっか、ひまりが口元を緩ませて言った。たまには商店街の看板娘達にしてあげよう。三人で話したいこともあるんだ、それならそうしてあげた方がいいと思うな。

 

 俺とひまりはベンチに座り、二人で空を見上げた。見上げた空は少しではあるが赤が残っていた。その夕焼けは目に焼き付けるには充分すぎる物だった。

 

「結月願おうよ、願い事決めたんでしょ?」

「ああ、決まってるよ。ひまり、願い事言う前にこうしないか?」

「何をするの?」

「手を繋いで目を瞑って心の中で願い事を言う、やってみたかったんだ」

 

 こんなことを言うのはなんだが、これは咄嗟に思い付いたことだ。普通は手を合わせて心の中で願い事を言う、これが常識だ。でも俺は違うやり方を選んだ。ひまりとならこんなロマンチックなことをしてみたいと思ったからだ。

 

「いいけど、結月ってロマンチックなとこあるね」

「そうか?」

「もしかして自覚ないの?」

「どうだろうな……。まぁ言われてみればそうかもしれないな」

 

 ひまりは不思議そうに俺を見つめた。きっと自覚していないのかもしれない、俺が気づいていないだけなのかもしれない。どっちだろうか、まぁいいや。

 

 俺とひまりは手を繋ぎ目を瞑った。さぁ願うんだ。俺は自分の想いを願いに込めて心の中で言った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 こんなことをするなんて結月らしくない。でも、悪くないなと私は思った。

 

 結月とならロマンチックなことでも構わなかった。手を繋いで願い事を言う、私でもこんな発想はなかった。さすが私の好きな人だ。

 

 最初は恥ずかしいと感じた。でも、不思議と恥ずかしくなくなってきた。なんでかな?結月と一緒にいるから恥ずかしくなくなったのかな?理由はわからないけど、結月と同じ気持ちだからかもしれない。

 

 ねえ、結月。貴方に伝わってるかな?私の想いは届いてるかな?私は結月のことが好き、どうかこの想いが届いてますように。私は自分の想いを込めて願い事を言った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 二人の願い事は偶然にも同じだった。内容は違えど想いは同じ、それだけが二人の気持ちを重ねるかのように見えた。

 

 

 少年の想いが……。

 

 

――どうか、ひまりを幸せにできますように。俺の想いが……。

 

 

 少女の想いが……。

 

 

――どうか、結月のお嫁さんになれますように。私の想いが……。

 

 

――重なる瞬間だった。

 

 

――想いが届きますように。

 

 




内容はアレですが、私的には満足です
こんなロマンチックな人生送りたかったなと書いてて思いました


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想いが届くまで、私はあなただけを見つめる

連続投稿です
今回は向日葵をテーマにしてみました


 向日葵(ひまわり)は夏に咲く花だ。花言葉は「憧れ」と「あなただけを見つめる」の二つだ。

 

 他にもいくつか花言葉はあるが、これだけ知っていれば大丈夫だろう。だが、向日葵の花言葉の一つである憧れはまだいい。問題はもう一つある花言葉だ。

 

 あなただけを見つめる、俺からしたら恐ろしい言葉に聞こえてしまう。理由は想いを伝えるまで見つめるとかずっと見ているぞって聞こえてしまって怖いと思えてしまう。

 

「向日葵の花言葉にそんな意味があるって、なんか怖いね」

「あたしはそんなこと知らなかったよ。華道をやってる時もそこまで考えてる余裕はなかったな」

 

 蘭とつぐみが向日葵の花言葉について話している。意味は聞いたことはなかったが、二人が話をしていたことで今知った。憧れだったら、巴の妹であるあこが該当する。

 

 あこは巴に憧れているところが結構ある、そうなると憧れといえばあこしかいないだろう。これはあくまで個人的な意見だけどな。

 

「ねえ結月」

「何?」

「最近ひまりとはどんな感じなの?」

 

 ちょっと待て、いきなりそれ聞くのか!?さすがに七夕で手を繋いで心の中で願い事言ってたなんて言えない。蘭からロマンチストとか言われたくない。

 

 俺は髪フェチだけでなく、最近ロマンチストに目覚めてしまったような気がしている。あの七夕でのことをひまりがどう思っているかはわからない。もし引かれてたらショックで立ち直れない。

 

「ま、まぁいい感じだぞ……?」

「なんで疑問形になってんの?」

「結月君、怪しいよ。なんか隠してるでしょ?」

 

 つぐみに怪しまれてる。まさかつぐってるのか!?とにかく隠さないといけない!

 

「何もないよ、ひまりとはいい感じだから問題はないよ」

「……本当に?」

「本当だ!蘭、つぐみ、俺が隠してるように見えるか?」

 

 俺はこれ以上聞かれないようにするために必死に隠した。あんなこと聞かれたら俺の命がない。どう出るんだ?

 

「わかった、ここは結月を信じようかな」

「私も蘭ちゃんに賛成。結月君、もし隠してることがあったらちゃんと言ってね。いつでも相談に乗るから!」

「わ、わかった。ありがと蘭、つぐみ」

 

 なんとか隠せた。今回はなんとかなったが、次隠し通せるのは無理かもな。バレるのは時間の問題かもしれない。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「はぁ……」

「どしたのひーちゃん?溜め息吐いてると幸せが逃げちゃうよー?」

「ひまり、なんか悩みあるのか?相談に乗るぞ?」

 

 私は溜め息を吐いてしまった。昨日結月と向日葵の花言葉で話をしていたことが原因だ。花言葉のあなただけを見つめる、この花言葉が怖いと結月は言った。

 

 なんで怖いのかを聞いてみたが、なんとなくかなと言った。なんとなくって理由になってないような気がする。

 

「実はね……」

 

 私は巴とモカに向日葵の花言葉のことを話した。

 

「なるほどねー」

「まぁ憧れだったらあこだよなぁ。でも、もう一つはちょっと……」

 

 巴が引いてる、モカはどうだろう?聞いてみようかな。

 

「ねえモカ」

「なーにー?」

「モカは向日葵の花言葉どう思う?」

「そうだねぇ……」

 

 モカはどう答えるんだろう。モカなら何かいいことを言ってくれるかもしれない。私はモカの言うことを期待をしながら巴と待つことにした。

 

「ヤバイかな」

「ヤバイ?」

「何がヤバイんだ?」

 

 巴も気になってるみたい。でも何がヤバイのかな?モカなら予想外なことを言うに違いない。どんなことを言うんだろう……。

 

「何だろう……。あなただけを見つめるってさぁ、あたし的には束縛してるとか常に側にいるよとかそんな感じがしたんだよねー」

「なるほど、モカが言うと説得力あるね。なんか凄い」

「こればっかりは納得するしかないな」

 

 モカって凄いこと言うなぁ。こんなにゆるーい感じなのに、こんなことを言えるのが凄い。巴も待てモカの意見を聞いたせいか引いてる。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 俺は久々にパッチワークの作業をすることにした。といっても作業場は自分の部屋ではなく、ひまりの部屋でやることにした。たまにはひまりの家でやるのもいいかなと思ったからだ。

 

「今度は何作ってるの?」

「今回はキルトの飾りかな。今までポーチとかスマホのケースとか作ってたから、今度は飾りに挑戦してみようかなって思ってな」

「へぇ、結月って何でもできるよね」

 

 何でもだなんて、それは言い過ぎだと思う。俺にだって出来ないことはある。楽器やパッチワークは趣味だが、料理に関しては出来るようにしておきたかった。ひまりの隣に立つにはそれぐらいのことは出来るようにして方がいい。

 

「そんなことはないよ。ひまりだってお菓子作れるだろ?俺なはお菓子が作れるひまりが羨ましいよ」

「そうかな?結月だって主夫みたいじゃん。私は料理下手だから、料理できる結月が羨ましいよ!」

 

 羨ましいか、ひまりにここまで言われるなんてここまで努力してよかったと思ってしまう。出来るようにした甲斐があったな。

 

 俺はひまりと話をしながら作業を進めた。そういえば、最近買ったミシンを使ってないな。何を作ろうか迷う。何にしようか……。

 

「結月ミシン買ったよね、何か作るの?」

「何を作ろうかに迷っててな。ひまりならどうする?」

「私に聞かれてもなぁ。うーん……」

「今決まらないなら二人で何を作ろうか決めないか?」

 

 自分で決められないのなら二人で話し合って決める、この方がいいかもしれない。ひまりとならいい物を作れそうだ。

 

 しかし、キルトって難しいな。今度先輩辺りに聞いてみようか。部活の時にキルトを見せてどうしたらいいか聞くしかないな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 結月は作業を終えて私の膝を枕にして眠っていた。相当お疲れのようだ。寝顔が可愛い、気持ち良さそうに寝てるなぁ。

 

「結月、今だけど言うね。寝てるから聞いていないだろうけど、私ね結月のこと好きだよ」

 

 聞こえていないかもしれない。でも私は何度でも言う。想いが届くまで告げよう、私は結月だけを見つめる。いや、結月しか見えないのかもしれない。

 

 今の私は向日葵の花言葉と同じようなものだ。あなただけを見つめる、まさにその言葉に尽きる。

 

「ひまり……」

「っ!?な、なに?」

「……」

 

 反応がない、寝言か。さっき私が言ったこと聞こえてないよね?多分、聞こえてないはず!聞こえてたら恥ずかしくて死にそうだよ。

 

 今の私は恋する乙女だ。結月はあの時の約束覚えてくれてるかな?もし覚えてくれてたら凄く嬉しい。結月のことを好きになってよかったって思えるし、想い続けてきた私の想いが報われる。

 

 私は左手で結月の髪を撫でた。相変わらず触り心地のいい髪だ。撫でた途端に気持ち良さそうな表情になった。結月は私の髪が好きだって言ってくれたけど、私も結月の髪が好きだ。

 

「やっぱり結月って女の子の顔だなぁ。でもそこがいいんだけどね」

 

 この態勢だと結月が弟のように見える。私が姉だなんて、滅多にないことだ。私にも姉はいる。お姉ちゃんは大学に通ってて今は一人暮らしだ。結月と付き合うことになったら色々と聞かれるかもしれない。

 

 とにかく結月に想いを伝えないといけない。来月の夏、八月の夏祭りに想いを届けよう。だから……。

 

 

――待っててね結月。好きだって言うまでどこにも行かないでね!

 

 

 

 




向日葵の花言葉のあなただけを見つめるって愛が重いよね


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夏休み前の期末試験、事故は必ず起こる

勉強はしっかりやらないと後が苦しくなる、学生時代ではあるあるだよね


 夏休みが迫っている、それは俺達学生にとって楽しみの一つであり、一番長い休みでもある。

 

 しかし、その前に重要な物がある。その重要な物とは……。

 

 

――期末試験だ。

 

 

 期末試験、夏休みの前哨戦にして赤点を取ると補習確定という最悪な物が付いてくる。そうならないように試験勉強をしなければならない。

 

「さて、試験二週間前になったが……」

「モカちゃんは問題ナッシングだよー」

「アタシは苦手なところはあるけど、他は大丈夫だぞ」

「わ、私も大丈夫だよ……」

 

 つぐは全くもって問題ないからまだわかる。巴は確か理系が苦手だってことは把握してる。モカは授業でも寝てる時があるが、意外にも赤点を取ったことがない。もしやこいつ、睡眠学習でも身に付けてるのか?

 

 この三人はまだいい。一番の問題は、蘭とひまりだ。あの二人は特にヤバイ。

 

「ねぇ、英語はやる必要なくない?」

「補習なんてやりたくないよ!期末試験なんてなくなればいいのに、わけがわからないよ」

 

 蘭、お前英語で歌ってる時あるのに何を言ってるんだお前は?あとひまり、最後の言葉は魔法少女になれっていう契約詐欺のマスコット擬きになるからやめなさい。

 

 蘭は音楽には強いのに何故か英語がダメ、ひまりに至ってはまさかの全教科というかなりまずい物だった。ひまりはこれまで俺が付きっきりで教えてたから、こうなると今回も付きっきりになる。

 

「蘭、さすがに湊先輩みたいな結果にはなるなよ?今井先輩から聞いたが、あの人も英語まずいらしいから」

「はぁ!?湊先輩と一緒にしないでよ!あの人に負ける訳にはいかないし、赤点取ったら練習もライブもできなくなるから補習は御免だよ」

 

 こんなに強気になってるが大丈夫だろうか。俺には心配で心配で仕方ないよ。ともかく蘭達もそうだがひまりを何とかしないといけない。ひまりが赤点取ったらおしまいだ。

 

 何故ひまりが赤点を取ったらおしまいなのか。それは夏休みの予定に関係ある。俺は決めたんだ、今年の夏祭りで伝えると決めた。

 

 

――ひまりに告白すると決めたんだ。

 

 

 俺はあの日から決めていた。今年中に告白すると言ったが、夏祭りにというのはつい最近だ。ひまりがあの時の約束を覚えていると俺は信じている。

 

「結月、助けてくれるよね?」

 

 ひまりが涙目、上目遣いで助けを求めた。そんな顔をしなくても助けるさ。断る訳にはいかないし赤点を取ってほしくないからな。

 

「もちろんだ、断るっていう選択肢はないし今まで助けてただろ?今回も助けるに決まってるだろ」

「ありがと結月!」

 

 そう言ってひまりは俺に抱き着いて来た。蘭達の前なのにそんなことされたら恥ずかしくなるだろ。そして蘭、モカ、巴、つぐみ。お前ら何見守るかのような表情になってんだよ、止めろよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 こうして試験勉強が始まった。この試験勉強の期間中は部活は中止になる。平日と土日は蘭達も来てつぐの所で勉強会を開き、私はみんなが帰ってからも結月と一緒に勉強をするという形になった。

 

 みんなそれぞれわからない所を教え合ったり、休憩中は糖分補給としてデザートを食べたり、あっという間に一週間が過ぎた。

 

「ひまり、本当にいいのか?」

「何が?」

「勉強会するのはいいけどさ、泊まってていいのかってことだよ」

 

 私は結月と付きっきりになる。そのため、今回は結月の家に泊まることにしたのだ。前は泊まることはなかったけど、今年は結月と一緒にいたいということで泊まると決めた。

 

 私としては好きな人と一緒にいた方が安心するし結月と一緒にいると勉強が捗るような気がする。これはあれかな?愛のパワーというやつかな?

 

「ああ、そういうこと?そういうことなら私は平気だよ」

「平気って……。おばさんからひまりのこと頼むって言われたけど、大丈夫かなって思って聞いたんだ」

「そうなんだ。結月って私のことになると心配性になるよね?」

「え、そうか?」

 

 結月は私のことになると心配性になる、それは昔からだ。私は結月のこういう優しい所が好きだ。これは女の子でも惚れてしまう、でも結月のこの優しさを知っているのは私や蘭、モカ、巴、つぐだけだ。

 

「そうだよ。もしかしてまた気づいてなかった?」

「いや、それは自覚してるかな。迷惑だったか?」

「全然、私は結月のそういう所好きだよ」

「そ、そうか!ならよかった……」

 

 結月って私から好きって言われるの弱いんだなぁ。こういうことを知ってるのは私だけだ。弱いってなると私のこと好きなんじゃないのかって思っちゃうけど、あまり自惚れてちゃ恋愛は上手くいかない。

 

 だから赤点を取らないように頑張らないといけない。取ったらみんなに迷惑がかかるし結月に教えてもらった意味がない。とにかく結月の期待に応えないと!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 俺はスマホの電源ボタンを押して時間を確認する。時間は……11時か。もうこんな時間か、ひまりも眠そうにしてる。疲れてるようだからここまでにするか。

 

「ひまり、眠そうにしてるけど大丈夫か?」

「んぅ……。今何時ぃ?」

「もう11時になるかな。今日は止めにして明日にしよう」

 

 わかったよ、とひまりは両手を上に伸ばした。上に伸ばしたせいか胸が強調されている。目のやり場に困るな。全く困ったものだ。

 

「今日は疲れたねー」

「そうだな。何時間やってるか忘れるくらいにやってたな」

「だよねー」

 

 ひまりはそう言って立ち上がろうとしたが、疲れてるせいか俺の方に倒れてしまった。俺は頭を床にぶつけてしまった。少し痛いがひまりが心配だ、大丈夫だろうか。

 

「ひまり、大丈夫か!?」

「ご、ごめん!頭ぶつけたよね?今退くから待ってて」

「わ、わかった。ひまりも怪我とかないか?」

「私は大丈夫、ごめんね結月」

 

 よかった、ひまりに怪我はなかったようだ。怪我があったらどうなってたか、想像するだけでも恐ろしい。

 

 ここまで心配性になるなんてな……。これを言うのもなんだが、ひまりは罪深い女の子だよ。まぁ、こんな状態になった俺が悪いけど。

 

 しかし倒れた時に思ったが、ひまりの胸が当たってしまった時にクッションのような感触を味わった。いや、止めよう。忘れた方がいい、忘れないと彼女に変な感情を抱いてしまう。

 

 

――とりあえず今日は寝よう。寝ていれば忘れるはずだ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 今日も私は結月と一緒に寝る。でも今日は向かい合ってではない。結月は後ろを向いて寝ていた。こんな状態だと私は見捨てられているのではないかと思ってしまう。こんなこと思いたくないのに、どうしても思ってしまう。

 

 私はこの感情を拭い去りたかった。結月に抱き着く、これしか私には思い付かなかった。好きな人と一緒にいたい、その方が一番よかったと思った。

 

「見捨てられたくない、結月と一緒にいたいよ……」

 

 彼は聞いていないのかもしれない。いや、聞いてほしくない。こんなことを聞かれたらどう思われるだろう、彼なら見捨てるわけないだろと言ってくれるかもしれない。

 

 言っててくれば私は救われるだろう。でも、そうとは限らないと思ってしまう。大好きな人を疑いたくはない。そんなことをしてしまったら私はおしまいだと思う。

 

 

――だから私は決めた。今年の夏祭りに結月に告白しようって決めたんだ。

 

 

 それから数日後期末試験を終え、解答用紙が返却された。蘭はギリギリだったけど大丈夫だった。 巴は少し間違えた所があったけど結果はよかった。モカとつぐは相変わらず優秀、結月も点はよかった。でも、前回の中間より点は下がったとのこと。

 

 そして、肝心の私はというと……。

 

 

――赤点はなかった。

 

 

 ヒヤヒヤした。ただそれだけだった。けど本当によかった、結月の期待に応えられたし、いい点を取れたから恩返しはできたはずだ。結月からも頭を撫でられ、よく頑張ったなと褒められた。

 

 嬉しかった。結月に褒められることがどれだけ嬉しいことか、これだけでも私の努力は報われたんだなと思ってしまう。

 

 

――あとは夏祭りだ。ああ、この想いを早く届けたい。

 

 

 




突然ですがあと五話くらいで本編を終わりにする予定です
最後までお楽しみに


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巡り合う想い、あの日の約束に二人は何を思う

今更ですが、結月のモデルは空の境界の両儀式です
あくまで作者個人の意見です


 アフターグロウと俺はなんとか赤点を免れた。特にひまりはよく頑張ったなと思う。付きっきりでやった甲斐はあったし、蘭も本当に頑張った。だが、湊先輩と全教科同じ点だったというのは偶然だろうか、いやこんなことあるのかよとさえ思ってしまう。

 

 

――あの二人、絶対に仲いいだろ。

 

 

 まあいいか。無事に夏休みに入れたんだ、それだけでも安心だ。現にこうしてひまりは相変わらず俺の隣でのんびりとしている。そして俺はというと、キルトの作業を続けていた。

 

「結月、本当によかったの?」

「キルトのことでか?」

「うん。アイビーだよね?テーマは……」

「ああこれにしたよ。理由は教えないけどな」

「えぇ~教えてよ!気になる~」

 

 いや、こればっかりは教えられない。アイビーの花言葉は「永遠の愛」だ。実を言うと俺はこのキルトをひまりにプレゼントしようと考えている。告白したら渡そうかと思っているんだ。

 

 ひまりに永遠の愛を誓おう、なんてことを思っているが、俺はおかしいかもしれない。ロマンチックどころか変態染みている。これだとあれだな、愛が重いとしか言い様がないな。

 

「どうせあれでしょ?結月またロマンチックなこと考えてるでしょ?」

「そんなことない。俺が毎日そんなことを考えていると思うか?」

「七夕の時にあんなことした時点でアウトだよ。言い逃れはできないよ!」

 

 ひまりはそう言って顔を近づけてきた。ここまで近づかれると色々ヤバイ!気づいてくれ、このままだとキスしてしまうということに。初めてのキスがこんな事故だっていうのはさすがに俺としても嫌だ!

 

 気づいてない!もう1mmくらいの距離だ。これは言った方がいいのか!?言わないと俺のファーストキスが事故で終わってしまう。゛不発のファーストキス゛はごめんだ!

 

「えっとあれだ。アイビーにした理由はだな……」

「理由は?」

「は、花言葉なんだよ!てかひまり、顔近い!」

「顔?」

 

 ひまりは数秒固まった。あ、やっと気づいたな。顔も徐々に赤くなってるのがわかる。そろそろ離れてくれないと俺の心臓がもたない。

 

「……ご、ごめんね!」

「いや、これは俺が悪い。俺もごめん」

 

 ひまりが離れてくれた。名残惜しいと思ってしまうが、それは胸にしまっておこう。俺は心を落ち着かせるために深呼吸をした。

 

「ひまり、さっきの理由今から言うけどいいか?」

「いいよ」

「理由はな、花言葉に惹かれたんだ。その花言葉はな……」

 

 

――永遠の愛なんだ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 結月は今なんて言ったの?永遠の……愛……?それはどういう意味なんだろう。今の私にはわからなかった。でも、なんとなくわかる。結月はきっとあの日の約束を覚えてくれてるんじゃないのかって。

 

 私はそう思った途端に涙が出てしまった。嬉しかった。結月が約束を覚えててくれたことが本当に嬉しかった。

 

「ちょひまりどうしたんだ急に!?なんで泣いてるんだ?」

「泣いてないよ、ゴミが目に入っただけだよ」

 

 結月は安心させようとしたのか私を抱き締めた。今そんなことをされたら涙が止まらなくなる。永遠の愛だなんて、結月らしい。私は結月を好きになってよかったと思った。

 

「アイビーにした理由はもう一つあるんだ」

「もう一つ?それってなんなの?」

「今は教えられない。花言葉だけは教えるけど、本当に言えないんだ。でも覚えてて欲しい」

 

 大丈夫だよ結月、私は忘れないよ。そんな花言葉を言われたら忘れられる訳がない。永遠の愛だなんて、あの時の約束みたいだ。

 

 そして三十分が経った。やっと涙が止まった。どのくらい泣いてたかわからない。結月から落ち着いたかと言われ、肩に手を置かれた。

 

「いきなりあんな理由言ったら恥ずかしいよな?」

「そんなことないよ。むしろ嬉しかった」

「なんで嬉しいんだ?」

「それは秘密かな……」

 

 そっか、結月はそう言って肩に置いてる手を離した。これだけは秘密にしよう。今言うわけにはいかない。言う時になったら言うんだ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 あの日から四日経つ、その間に練習があったり、宿題をやったりと色々なことがあった。俺はそろそろあの日が近づこうとしているのを感じた。

 

 あの日とはひまりと十年前に約束をした日だ。もうあれから十年が経つのか……。あっという間だ、とうとうここまで来たのか、もう後戻りはできない。

 

 夏祭りは明明後日、偶然にもその夏祭りは約束した日と被っている。ここまでタイミングがいいなんて、都合がよすぎるにも程がある。

 

「神様は本当に酷いことをしてくれるな」

「でも、あんたはその神様に感謝しないと駄目なんじゃないの?」

「その声は……蘭か」

 

 俺は今circleの隣の休憩所にいた。ひまりは先に帰ったとのことだ。巴とモカとつぐみはひまりと一緒にいるようだが、何を話しているのやら。

 

「あんた、ひまりのこと好きなんでしょ?」

「……誰から聞いた?」

「ひまりからだよ」

「そうか……」

 

 そうだ、ひまりしかいない。この想いが知られたのであれば隠す必要はない。隠してもしょうがない。でも、あまり知られたくなかったな。

 

「ああそうだよ。俺は十年前からひまりのことが好きだよ」

「じゃあいつ告白するの?」

「明明後日の夏祭りかな。花火が打ち上がるところ辺りで告白するかな」

「それだと花火の音で消されそうなんじゃないの?」

 

 告白が花火の音で消される、それはよくあることだ。でも、俺はそうなる前に想いを伝える。告白が不発に終わるなんて、それは嫌だな。

 

 もちろん、告白の時にアイビーのキルトも渡す。あれは俺が全身全霊を込めて作った作品だ。ひまりを想って作った、こんなこと知られたら引くだろうけど、それが俺の精一杯なんだ。

 

「結月ってひまりのこと好きすぎるよね」

「そうか?まぁ言われてみればそうだろうな」

「それはつぐみでさえも引くと思うよ」

 

 だろうな、俺は黄昏ながら言った。とりあえず帰ろうかな。蘭に止められるかと思ったが、どうするかを聞かれるなんて。でも俺は止められても伝えないといけない。

 

 

――約束の日じゃないと駄目なんだ。そうしないと約束を果たせないのだから……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は箪笥から出した浴衣を見つめた。この浴衣は私にとってとても大事な物だ。結月が選んでくれた大切な浴衣でもある。

 

 結月はきっと似合ってると言ってくれるはずだ。毎年言ってくれたんだ。昨日言ってたアイビーの花言葉、永遠の愛、それは私と結月を象徴するかのような言葉だった。

 

 自分でこんなことを言うのはおかしいのかもしれない。でも、お似合いだって思えてしまうんだ。

 

「上手くいくよね……」

 

 巴とモカ、つぐは応援してるって言ってくれたんだ。蘭からも「結月と付き合えるといいね、あたしはひまりの恋を応援するよ」と言ってくれた。

 

 幼馴染みからあんなことを言われたんだ。私は感じた。結月が約束を覚えてくれてるってわかったんだ。それなら告白するしかない。明明後日の夏祭りが勝負だ。

 

「後には退けない。私は絶対に結月のお嫁さんになるんだ!」

 

 私は想いを込めてあの言葉を言った。みんなの前でやっても失敗に終わってしまう、でも結月だけは違った。二人きりの時は一緒にやってくれたし何度も合わせてくれた。

 

「えい、えい、おー!」

 

 

――その言葉私、上原ひまりを象徴する魔法の言葉だった。 

 

 

 




こんなロマンチックなこと書いてる私はイカれてると最近になって思いました
次で最終章です。三、四話くらいしかありませんが


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想いを伝えるまで、その手は離さない

最終章一話目です
指切り拳万の意味を知った瞬間、吹いてしまいました
拳万で一万回殴るっていう意味らしいです


 今日は夏祭りだ。俺にとって大事な日であり人生最大の勝負となる日だ。

 

 あれから十年経つ。今日は夏祭りだけじゃない、俺とひまりが約束をした日でもある。俺はひまりを幸せにする、そう約束した。

 

 俺は右手の小指を見つめた。あの時小指を絡めて指切り拳万をして約束したんだった、懐かしい。

 

「待っててくれよひまり、あの日の約束を果たすからな」

 

 俺はあの時ひまりにキルトの花の意味を教えた時、泣いていた。きっとひまりは約束を覚えてくれてるのかもしれない。確信とまではいかないが、嘘じゃないはずだ。

 

「しかし、どうするか。浴衣で行くか私服で行くか、迷うな。ここで迷うなんて、まだまだだな」

 

 こんなこと母さんや父さんには話す訳にはいかない。私服なら何かあった時にすぐ動けるっていうメリットがある。逆に浴衣なら夏祭りそのものを楽しむことができる。

 

 どうするか……。ここは賭けに出るか?もしひまりが浴衣で来るとしたら合わせるべきか?いや、ひまりなら浴衣で来るに決まってる。あいつが浴衣以外で夏祭りに来たところなんて一度も見たことがない。

 

 ……よし決めた!浴衣で行こう、確か中学二年の時にひまりが選んでくれた浴衣があるはずだ。あの時はお互いに選び合ってたからな。

 

 告白するのにここまでやるなんて、本当に俺はロマンチストだ。髪フェチ、ロマンチスト、幼馴染みが好きすぎる、こんな三拍子は俺しかいない。

 

「ふぅ……。よし!頑張ろう!」

 

 準備は出来た。俺はこの日のために色んな努力をした。ひまりのために全力を尽くした。俺は心の中で好きな人に想いを告げた。

 

 

――ひまり、俺はお前のことが……。

 

 

 告白する前なのに、顔が赤くなってしまった。本当に上手くいくのだろうか、心配になってきた。こんな状態で大丈夫なのか俺は……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 夕方、私は結月に選んでもらった花火の模様にディープブルーの浴衣を身に纏って結月と待ち合わせをすることにした。待ち合わせといっても結月の家の近くだけど……。

 

 蘭達とは商店街で合流するということになっている。巴は太鼓の方もやるようだ。まだ時間はあるから大丈夫だ、なんて言ってた。なんだろう、巴なら私と結月の恋路を応援を兼ねて太鼓を叩きそうだ。いや、巴ならやりかねない。

 

 そういえば沙綾もパンを祭りに出すって聞いてるけど、モカが食べ尽くしそうで怖い。「モカちゃんはそこまでしないよー」なんて言ってるけど大丈夫かな

 

「ごめんひまり、また遅く……なった……」

「あ、結月待ってたよ!」

 

 やっと結月が来た。あれ?どうしたんだろう?私のことをジロジロと見てるけど何かあったのかな?

 

「なぁひまり、その浴衣って……」

「そうだよ。結月が昔選んでくれた浴衣だよ。結月も私の選んだ浴衣着てくれてるんだね」

 

 私は微笑んで言った。結月が照れてる、久しぶりに見たな。相変わらず可愛い顔をしてる。私は結月の照れてる顔も好きだ。

 

「そりゃあひまりが選んでくれたんだ。着ないっていう選択肢はないさ」

 

 結月の着ている浴衣は刺繍の模様がある白の浴衣だ。結月は髪が長い、普段は一つ縛りなのに今回はポニーテールだ。

 

「なんか結月気合い入ってない?」

「せっかくの夏祭りなんだ。楽しまないと損だろ?あと、ひまり浴衣似合ってるぞ。可愛いよ」

「っ!?」

 

 ず、ずるい。そのタイミングで言うなんて卑怯だよ!もう、顔が熱いよぉ。こうなったら!

 

「ゆ、結月も似合ってる……。綺麗だし……カッコいいよ」

「なっ!?ひまり、お前ずるいぞそれ!」

「結月が悪い!あんなこと言うなんて反則だよ!」

 

 結月も顔が赤くなってる。これはお返しだ、急に可愛いなんて言われたら反則だし焦ってしまう。

 

 私はこの夏祭りで結月に告白する、みんな応援してくれてるんだ。それに、結月は約束を覚えてくれてることがわかったんだ。それなら告白する時に言わないと!

 

「そういえば気になったんだけど、その袋何入ってるの?」

「え、これ?これは教えられないな」

「ええ~、どうしてもダメ?」

「ごめん、どうしてもなんだ。花火が打ち上がる前辺りで教えるから」

 

 それなら仕方ない。花火の時に教えるって結月って変わってるなぁ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 危なかった、この袋にはアイビーの花を刺繍にしたキルトが入っている。俺が今日に向けて徹夜してまで作ったんだ。今知られたら全部台無しになる。これは告白する時に渡さないといけない。

 

 俺とひまりは夏祭りの場所へと向かった。まだ大丈夫、混んではいないようだ。途中で蘭と合流するが、どこにいるんだ?

 

「ひまり、離れるなよ?」

「離れたりはしないよ!」

「でも心配だ。手繋ぐからいいか?」

 

 俺は左手でひまりの右手を掴んだ。離すわけにはいかない、いや離すもんか。この手を離したらひまりはどこかに行ってしまう。俺が守らないといけない。彼女の側にいてあげないと駄目だ。

 

「あ、ありがと……」

「どういたしまして、最後までエスコートするからな」

「う、うん」

 

 また顔が赤くなってる。ひまりってこんなに照れ屋だっただろうか、でもそういう所も可愛いからいいか。

 

「おーきたきたー」

「こんばんは二人とも!」

「待ってたよ結月、ひまり」

「やっと来たかぁ!待ってたぜ!」

 

 蘭達と合流した。やっと着いたな、さて楽しむかな。

 

「あんた達いつまで手繋いでんの?」

「え!?こ、これはだな……」

「なんでもないよ!なんでもないからね!」

 

 俺とひまりは手を繋ぎながら誤魔化そうとした。さすがに離せない、そのせいかひまりの手に力が入ってる。そんなに力入れなくてもいいのに……。

 

「どうぞどうぞお構い無くー」

「ホントアツアツだなぁお前らー」

「どうぞお幸せにね!」

 

 おい待てつぐみ、それはおかしい!俺とひまりばまだ゙付き合ってないからな!?

 

「ちょっとつぐ!」

「お前ら楽しんでるだろ……」

 

 楽しんでるのはいいが、何お前ら親指立ててんだよ。なんだ、それは頑張って来いってことか?それなら嬉しいけど、完全にあれだ。俺とひまりが両片想いなのバレバレじゃねえか!

 

「あたし達のことはいいから二人で楽しんできなよ」

「いいの?みんなと楽しみたかったんだけど」

「アタシ達のことはいいからさ!」

「そーそー。二人で巡ってきてねー」

「私達は後で合流するから、二人とも楽しんできてよ!」

 

 そこまで言われたらひまりと楽しむしかないのか、俺はみんなと楽しみたかったんだけど、ここまで応援されたらしょうがないか。

 

「なんかごめん、みんな」

「絶対に後で合流だよ?」

 

 俺とひまりは蘭達と別れることにした。これは調整してくるだろうな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私と結月は二人で祭りを巡ることにした。なんかみんなには申し訳ないけど、あそこまでされたらこうするしかない。

 

「ねえ結月」

「何?」

「指絡めてもいいかな?」

「い、いきなりか!?いいけど……」

「やった!ありがと!」

 

 私は結月を離さないぞと感情を込めて指を絡めた。これで私と結月は離れない。うん、完璧だ。私は結月の顔を横から見つめた。おお、照れてる照れてる。

 

 花火が打ち上がるまで時間はある。それまでに心の準備を整えないと!

 

「頑張れ、頑張るんだ私!」

「何か言ったか?」

「何でもない、ただの独り言だよ」

 

 そうか、結月は納得してくれた。聞こえてないようだ。上手くいくか心配だけど、ここで折れたら何もかもおしまいだ。

 

 

――結月、絶対に好きって言うからね!

 

 

 

 

 

 

 




次でいよいよ告白です


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結ばれる想いと果たされる約束

二話目です
ようやく結ばれます


 蘭達と別れて何分経つんだろう。そろそろ花火が打ち上がる時間になるかもしれない。確か結月は腕時計してたかな?

 

「結月、今何時かわかる?」

「今か?今は……六時半だな」

 

 もうそんな時間か、本当に時間は早い。そういえば結月はどこで花火を見るのだろう、もしかして決まってないのかな?

 

 結月の手が暖かい。なんだろう、私の心も暖まってくる。不思議だな。

 

 周りの人達は賑やかだけど、私のこの心は誰にも聞こえていない。私だけが持っているこの想い、それは結月が好きという想いだ。私は結月のことを十年想い続けた。

 

 結月はどうだろう、私のことが好きなのかな?今になってこんなことを思うなんておかしい。でも、不安に思ってしまう。何でかな?

 

「ひまり、そろそろ花火打ち上がるからどこかで見に行かないか?」

「どこで見るの?」

「ちょうどいい所があるんだ。一緒に行こう」

 

 そう言って結月は私を連れてその場所へと向かった。何処なんだろう、気になるけど結月に着いていくしかない。結月はこうして連れてってくれてるけど、それでもこの手は離さなかった。わかる、伝わってくる、結月の想いが伝わってくる。

 

 

――なんとなくだけど、結月の想いがわかったような気がした。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 やっと着いた。俺がひまりを連れた場所は中学一年の時一緒に花火を見た所、それは俺とひまりしか知らない穴場だ。

 

 そこは思い出の場所、風が気持ちよくて景色がいい所だ。後ろにお寺があるけど、それでも思い入れのある場所だ。

 

「え、ここって……」

「俺とひまりが中学一年だった頃、一緒に見た所だ。覚えてるかな?」

 

 俺はひまりに優しく聞いた。覚えている筈、あの時のひまりは凄く喜んでいた。俺はあの笑顔を今でも覚えてる、忘れられる筈がない。

 

 

――あの時のひまりは輝いていたんだから。

 

 

 さぁ、ここからが勝負だ。ここで決着をつけないときけない。やっと……やっとここまで来たんだ。俺は心の中でひまりに謝った。

 

 

――待たせちゃってごめんなひまり。辛かったよな?

 

 

「ひまり!」

「な、なに?」

「……なんでもない」

 

 今俺は何て言った!?なんでもない?俺はそう言ったのか?もしかして俺は怖いのか?ひまりに嫌われてるって未だに思っているのか?

 

 落ち着け、落ち着くんだ。こんなところで怖じ気付いては駄目だ!まずは深呼吸しよう!落ち着く筈だ!

 

「はぁ……ふぅ……」

「どしたの?深呼吸して……」

「えっとだな、ひまりに伝えたいことがあってな」

 

 早く言うんだ!俺の告白が花火で消される前に!そうだ、まず座らせないといけない。いつまでも立ちっぱなしはまずい。

 

「その前に座らない?足疲れるでしょ?」

「そ、そうだな!あとひまり、足大丈夫か?」

「足?今は大丈夫だよ」

 

 俺とひまりはベンチに座って互いに向き合った。よかった、なら問題ない。さぁ、早く伝えよう。

 

「それで伝えたいことってなに?」

「今から言う、聞いてくれるか?」

「うん、いいよ」

 

 ひまりが真剣な表情になった。緊張する、告白する時ってこんな感じなんだな。心臓が鳴ってるけど、気にしてる余裕はない。

 

「言うぞ」

「うん」

「俺は十年前から……いや、初めて会った時からひまりのことが好きになったんだ。こんな俺でよかったら……」

 

 

――どうか付き合って下さい!

 

 

 俺とひまりの後ろで花火が打ち上がる音がした。これで想いは伝えた。頼む、届いてくれ俺の想い!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 それは衝撃的な一言だった。花火が打ち上がった、それと同時に私は驚愕した。え!?嘘……でしょ……。

 

 結月が私のことを好きだと言った。結月は私のことを好きでいてくれた。よかった、本当によかった!

 

 私は泣きながら結月に抱き着いた。結月、想いは届いたよ。あとは私が結月に好きだって言う番だね。

 

「ひ、ひまり!?」

「結月、私ずっと待ってたよ。十年間想い続けてたんだよ?」

「知ってる。待たせてごめんなひまり」

「……ホントだよ、ばかぁ。どれだけ待たせたと思ってるの……」

 

 それでも私は嬉しかった。結月が好きだって言ってくれたのが凄く嬉しかった。だって、私は結月のことを好きでよかったって思えたから、ずっとこの日を待ってたんだから。

 

 私は抱き締めていた手を離し、結月の顔を見つめた。綺麗な蒼い瞳から涙の滴が流れてる。結月も辛かったんだ。私に想いを伝えたい、でも恥ずかしい、嫌われてるかもしれないって思ってたのかもしれない。

 

 

――大丈夫だよ、結月。私も辛かったから。

 

 

「私も伝えたいことあるんだ」

「ひまりもか?」

「うん、私もだよ」

 

 さぁ言おう。十年間込め続けた想いを伝えよう。私はこの日まで待ち続けた。この一言で私と結月の関係は変わってしまう。幼馴染みから恋人、それは私の願っていたことだ。

 

「結月、私も結月のことが好き。実は私も初めて会った時から結月のこと好きなんだ。だから……こんな……」

 

 また泣きそうになってしまう。それでも、それでもいい!嫌われてもいいから、今泣いちゃってもいいから言わなきゃ!

 

「……落ち着いてひまり。ちゃんと聞いてるから、泣いちゃ駄目だ。だから、まずは落ち着こう?」

「……わかった。ちゃんと聞いてよ?」

「もちろんだよ」

 

 結月はそう言って私の頭を撫でて包むように抱き締めた。ばか、今こんなことされたら泣くなって言われても泣いちゃうよ。こんなの逆効果だよ。

 

 背後で花火の音が聞こえる。でも私と結月はこの二人だけの空間に夢中だった。もう、これじゃ何のために来たのかわからないじゃん。

 

 私は結月と向き合った。まだ抱き締められてるままだけど、さっきより落ち着いてきた。よし、今なら言える!

 

「改めて言うね。私は結月のこと初めて会った時から好きになりました。こんな私だけど……」

 

 

――どうか……どうか、付き合って下さい!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ひまり、その想いは届いたよ。本当にありがとう、こんなに辛い想いをしてもちゃんと伝えてくれた。やっぱりひまりは強いな。

 

「ひまり、本当に強いよお前は」

「私が……強い?何で?」

 

 花火が止んでる、一旦終わりだったっけ?後でまたやるはずだ。だが、今重要なのは目の前にあることだ。

 

 どうするか、お互いに想いを伝え合ったのはいいがどうしたらいいんだ?まずはひまりを泣き止ませるか、そうしようか。

 

 俺はひまりの涙を指で拭った。全く、泣きすぎだよ。

 

「いつまで泣いてるんだよ。泣きすぎ」

「だってぇ……嬉しかったから……。やっと好きだって言えたから」

「気持ちはわかる、まぁ俺も泣きそうになってるからな。人のことは言えないか」

 

 そう、俺も泣きそうになっている。今は涙を堪えるのに必死だけど、いつ泣くかわからない。俺がしっかりしなきゃ!

 

「えっと……何て言ったらいいんだ?」

「何て言ったらいいって、私に聞かないでよ!」

「ご、ごめん」

 

 何で謝ってるんだ。いや、ここはあれだな。あれを言おう。

 

「ひまり、俺達恋人になったけどさ、最初に何かしたいことあるか?」

「したいこと?それは決まってるでしょ、キスしかないと思うよ」 

 

 いきなりキス!?ハードル高いなぁ。まぁやるしかないか。

 

 俺とひまりは目を瞑り、唇を重ねた。やっと、恋人らしくなれたな。本当に長かった、十年だなんて俺はどれだけひまりを待たせたのだろうか。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私と結月は寄り添い合って花火を見ることにした。綺麗な花火だ。結月の横顔も綺麗だった。

 

「ねえ聞くけどさ、結月って本当に男の子だよね?」

「まだ言ってるのか?俺は女じゃないぞ」

「本当にそう?横顔が女の子ぽかったけど……」

 

 本当に結月は性別詐称してるんじゃないのかってレベルだ。これじゃ私は女の子同士で付き合ってるみたいだ。あまりそう思いたくはないけど、どうしてもそう思ってしまう。

 

「ひまりだって横顔綺麗だった」

「え!?そ、そうかな?」

「ああ充分すぎるくらいに綺麗だったよ。花火より綺麗だった」

 

 もう結月のばかぁ!そんなこと言わないでよ!今それ言われたら恥ずかしくなっちゃうよぉ……。

 

 私は顔が熱くなるのを感じた。もう、耳まで赤い。ああもう、結月ってキザすぎるよぉ。

 

「ひまり、こっち向いて」

「え?何……」

 

 結月の方を向いた瞬間、唇を奪われた。結月って本当に私の彼氏なの!?もう、やり過ぎだよ!嬉しいけど、これはやり過ぎ!

 

「ひまり、どうだった?」

「も、もう……。ばか!好き!」

「俺も好きだよ!」

 

 結月は微笑んで言った。ああ、どうしてそんな恥ずかしいことを言えるのだろう。私は結月のことを好きになってよかったんだ。十年耐え続けたけど、ようやく報われた。

 

 

――結月、これからもよろしくね!

 

 

 

 

 

 




長かった、ここまで必死に書きましたが、ようやくここまでこれました
次のエピローグで終わりです


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二人で始める本当のアオハル

エピローグになります
ようやくここまで書けました


 夏祭りから次の日、ひまりは俺の家に泊まると言い出した。花火が打ち上がった後、俺とひまりは蘭達と合流するために商店街へと向かった。

 

 それにしても蘭の奴、俺とひまりを二人きりにするために計画してたな。あいつならやるかもしれない、いややりかねない。

「あ、お疲れ様結月、ひまり」

「お疲れ様じゃねえよ蘭」

「いや、ホントにお疲れ様だよ。結月、やっとひまりに好きだって言えたね」

 

 蘭、それは卑怯だろ。それ言われたら何にも言い返せないじゃん。明らかに狙って言ってるし、してやったぜみたいな顔してるしで無性に腹が立つ。

 

 

――でも、ありがとう蘭。いや、これはモカと巴とつぐみ、みんなのおかげだな。

 

「まぁ、お礼は言うよ。ありがと蘭」

「どういたしまして、そしておめでと二人とも」

「蘭、ありがと!ホントにありがとねー!」

 

 ひまりは蘭に泣きながら抱きついてお礼を言った。彼女は泣いてるけれど笑っていた。俺はその笑顔に見惚れてしまった。

 

 俺の好きな人はどうしてこんなにも魅力的なんだろうか、でもいいか。それがひまりの良いところで、俺の好きな一面でもあるから。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「よかったなひまり!」

「ひーちゃんおめでとー」

「ひまりちゃん、ホントによかった、よかったよぉ……」

「ちょ、ちょっとみんな!って巴髪が乱れちゃうよー!」

 

 みんな私と結月が付き合えたことを祝ってくれた。巴は私の髪をわしゃわしゃ撫でながら祝い、モカとつぐは涙目になりながらもおめでとうと言ってくれた。二人とも泣きすぎだよ。

 

 でも本当によかった。結月と付き合うことができた、それは私にとってどれほど嬉しいことか。最初はヒヤヒヤした。付き合えないなんて言われたらどうしようかと思った。

 

 結月はというと、蘭におめでとうって言われてる。もしかしてこれはみんなが計画したのかな?そうだとしたらお礼を言わないといけない。私と結月のためにここまでしてくれるなんて、予想してなかったな。

 

「じゃああたし達はこれで帰るね」

「いいのか?みんなと巡れてないが……」

「実は夏祭りなんだけど、再来週にまたやるんだ。その時にみんなで行こう」

 

 え、それ初めて聞いたんだけど!?蘭、それ確信犯だよ!?やっぱりみんな計画してたじゃん!

 

「じゃあアタシ達はこれで帰るからまた練習の時に会おうな」

「あたしはもうエネルギー切れだから、帰るねー」

「私も帰るね。結月君、ひまりちゃん、お幸せにね!」

 

 巴とモカとつぐみはそう言ってそれぞれの家に向かった。待ってつぐお幸せにって、恥ずかしくなるからやめてよ!しかも結月の前で!

 

 

▼▼▼▼

 

 

「あたしもそろそろ帰るね」

「蘭、手間掛けさせてごめんな」

「なんのこと?」

 

 蘭は質問した。手間というより、ここまでしてくれたことだ。俺とひまりは互いに想い合っていたにも関わらず気持ちに気づけなかった。そのせいでひまりに辛い想いをさせてしまった。

 

 元はと言うと俺がひまりの気持ちに気づけなかったのが悪い。それで蘭にまで世話を焼かれるなんて情けない。

 

「今回のことだよ。本当に感謝の気持ちしかない」

「いいよ感謝なんて。あたしは見てられなかったんだ」

「見てられなかった?蘭、それって……」

「言わなくてもわかるでしょひまり。二人がいつまでたってもくっつかないから、あたし達が二人を付き合わせようって考えたんだ」

 

 案の定だった。あの蘭がここまで考えてくれてたなんて……。蘭、お前にはありがとうしか言えないよ。俺とひまりを付き合わせてくれてありがとう。

 

「だから結月、ひまり。感謝の言葉はいらない。感謝なら音楽で返すっていうのが゙あたし達゙でしょ?」

「そうだね蘭」

「そういうこと。最後になるけどさ、おめでとう二人とも。結月」

 

 

――ひまりを幸せにするんだよ!

 

 

 蘭は俺に優しく微笑んで言った。もちろんだ。ひまりを幸せにする、それがひまりと交わした約束なんだ。

 

「じゃあ帰ろうかひまり」

「うん!」

 

 俺はひまりに手を伸ばして言った。ひまりはそれに応え、手を差し出した。そして指を絡めた、所謂恋人繋ぎだ。この繋ぎ方は恥ずかしいな……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 数十分して私と結月は家に着いた。私はさっき結月に泊まりたいと言った。せめて今日は結月と一緒にいたい、離れたくない。せっかく付き合えたんだからもう少し側にいたいよ。

 

「ねぇ、私いきなり入って大丈夫かな?」

「母さん達には俺から言っておく。まだ付き合い始めたことは隠しておこう」

「いいの?」

「俺も今日はゆっくりしたいからさ。それに……ひまりと一緒に過ごしたいから、それじゃ駄目か?」

 

 ううん、駄目じゃないよ。私は結月の耳に囁いた。恋人らしいことをしたい、今の私はそんな気持ちでいっぱいだった。

 

「ちょひまり、くすぐったい!いきなりはズルい」

「ごめんごめん!やり過ぎたね!」

「やり過ぎどころじゃない、俺が悶え死ぬからやめてくれ」

 

 効果抜群だなんて、やって正解だったかな。やっぱり結月は可愛いな。もう彼氏なのかわからないや。私はこんな可愛い幼馴染みに幸せにしてもらう。けど、やっと約束を果たせたんだ。

 

 結月はおばさん達に私が泊まることを伝えた。付き合い始めたことは伏せてだ。なんだろう、この隠してるって二人だけの秘密みたいでなんかいい。そう思うとドキッとしてしまう。

 

「このままだとおかしくなるかも……。はぁ、私結月にメロメロだ」

 

 私も結月のこと好きすぎるみたいだ。お互いにこんなだなんて、どうしたらいいんだろう。これが私が求めてた恋愛だなんて……。

 

 

――恋ってすごいなぁ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 俺は母さん達にひまりが泊まることを伝えた。ごゆっくりなんて言われたが、あの二人完全に気づいたな。まぁいいや、もうどうにでもなれ。

 

 しかしどうするか、ひまりに告白する時にキルトを渡そうと思ったが、完全に忘れていた。ていうか誰も突っ込まないなんて……。

 

 とりあえずひまりに渡さないといけない。当の本人は俺のベッドに座って俺の方を見つめてる。可愛い顔しやがって、目のやり場に困るじゃねえか。

 

「そういえばひまり、着替えどうするんだ?」

「着替え?あぁ、それなら大丈夫!私の荷物は事前に置いてあるから!」

 

 は?置いてある?いつから……。

 

「待て、いつから置いた?」

「夏祭り前かな。結月がいない間におばさんに頼んだの!」

「……それ早く言ってくれよ」

 

 それさぁ、完全に狙っただろ!母さんも父さんもひまりも俺に黙ってたなんて、なんでこんなことすんだよ。

 

 ごめんね、ひまりは手を合わせてウィンクして謝った。だからそんなことされたら許すしかないじゃん!

 

「どしたの結月?頭を撫でたりして」

「いや、撫でたくなっただけ。あと可愛いから許す」

「そ、そうなんだ……」

 

 ひまりが顔を赤くしてる、これはやり過ぎたか。てかなにやってんだ俺は、早くキルト渡さないと!

 

「ひまり、渡したい物があるんだけどいいか?」

「渡したい物?なんなの?」

「この前作ってたアイビーのキルトあるだろ?それを渡そうと思ってな」

 

 俺は袋からアイビーのキルトを出した。よかった傷ついてない。あの人混みだったとはいえ、ここまで傷一つないなんて、本当によかった。あの時渡していればよかったな。

 

「これを私に?」

「ああ。実はさ、この前言ってた永遠の愛はさ……。アイビーの花言葉なんだ」

「そうなんだ、なんか今の私達みたいだね」

「そうだな。だから、このキルトと一緒にこの言葉を贈る」

 

 この言葉はひまりに贈るべき言葉なんだ。まだ先になるかもしれない、でも今ここで言わなきゃいつ言う?今しかないだろ。

 

 俺はひまりに愛情を込めてこの言葉を贈った。

 

 

――ひまり、愛してるよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 それは結月の想いが込められた言葉だった。

 

 アイビーの花言葉は永遠の愛、つまり結月は永遠の愛を誓うって言ったんだ。そこまでしてくれるなんて……。

 

「嬉しい、嬉しいよ結月!」

「これが俺の精一杯だ。ひまり、俺はお前を幸せにするために色んなことをした」

 

 知ってるよ結月。君は私のために色んな努力をしたんだよね。私が側で見てたから、結月が私のことを好きだってことは知ってた、でも私はそれを言わなかった。

 

 嫌われてるんじゃないのかって最初は思ってた。でも、それは違ってた。結月は優しいからそんなことはないってわかってた。私はそれでも信じるしかなかった。

 

 でも、いいんだ。こうして付き合えたんだからもういいんだ。

 

「うん、知ってるよ結月。全部私のためなんだよね?」

「全部ひまりのためだよ。料理も楽器もパッチワークも、ひまりを幸せにするために出来るようにしたんだ」

「そうだったんだね。ねえ結月、キスしていい?」

「……いいよ。おいでひまり」

 

 私は結月の元に近づき、結月を押し倒した。キスはするけど、離したくない。こんなに驚いてる、この表情を知っているのは私だけだ。

 

「ひまり、俺はどこにも行かないから押し倒さなくてもいいだろ?」

「だって、こうしたかったんだもん」

「そっか、今日は眠れそうにないな」

「そうだね。今日は寝かせないよ結月」

 

 私と結月は互いに唇を重ねた。重ねては離し重ねては離し、互いの舌を絡めて唇を啄んだ。ずっとこうしたかった、ずっと恋人らしいことがしたかった。

 

 ようやく願いが叶った。後から結月に七夕の願いを聞いたけど、想いが届きますように、それが結月の願い事だった。

 

 その願いは私と同じだった。まさか願い事まで同じだなんて、これって運命なのかな?

 

「ひまりの願い事ってなんだったんだ?」

「実はね、私も結月と願い事同じだったんだ」

「え!?すごいな、同じだなんて……」

 

 本当にそうだ。こんなの運命としか言い様がない。なんだろう、またキスがしたくなってきた。

 

「結月、またキスしていい?」

「いつでもいいよ。ひまり、二人で幸せになろうな」

 

 当たり前だ。私だけじゃ駄目だ、結月と二人で幸せにならないと意味がないんだ!

 

 私は結月の唇を奪い舌を絡めた。これからは幼馴染みじゃない。恋人になるんだ。私と結月はまだ付き合ったばかりだけど、きっと二人で幸せになれる筈だ。

 

 

――私と結月の二人で始めるアオハル、どんなことが起きるんだろう、楽しみだ。

 

 

 




これにて本編終了です
今回は書いてて恥ずかしかったです
実を言うと作者も前回の話書いてる時キルトの存在忘れてました
アフターは気が向いたらやるかもです
ここまで読んでくれて本当にありがとうごさいました!
他の作品も連載してますので、そちらもよろしくです!


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夕焼けと月のもう一つのアオハル
愛を誓った彼女におめでとう、夕日に祝福を


タイトル名が思い付かずこんな名前になってしまった
というわけでひまりおめでとう


 十月二十二日。それは俺の彼女、上原ひまりの誕生日前日である。俺はひまりのために一週間掛けてある作品を作っていた。その作品とは、マフラーだ。

 

 秋は暖かいというイメージがあるが、今年の秋は寒いのだ。そこで、今年はマフラーを編んでプレゼントにしようと考え、この結論に至ったのだ。一方の蘭達は、帽子をプレゼントに選んだらしい。モカが選んで皆がそれにしよう、ということで決まったそうだ。

 

 俺は作業に入る時は髪を縛っている。だが、ひまりと付き合ってからはラフポニーにすることが多くなった。ひまり曰く、他の髪型を見たいとのことだ。ひまりも髪フェチに目覚めたのかと思ったが、聞いてみたらただの好奇心だった。

 

「編み物って久しぶりにやるが、こんなに難しかったか……」

「おっはよー結月!」

「ひまりか!?お、おはよう。今日はどうしたんだ?」

「遊びに来ただけだよー。今日はポニーにしたんだ。うんうん、似合ってるよ!さすが私の彼氏だよ」

 

 恥ずかしい、面と向かってそんなことを言われると耳どころかうなじが赤くなる。絶対に狙って言ってるだろこいつ。可愛いから許すけど……。

 

 その後、ひまりから何を作っているのかを聞かれたが、俺は教えないことにした。その代わり、見ていればわかるとひまりに言うことにした。それを言われたひまりは頬を膨らませて俺の膝の上に乗ってきた。これは作業を見て当てるつもりだな。

 

 

――ひまりは挑戦状を受け取った、そう捉えているのかもしれない。なら当ててみるがいいさ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は結月が何を編んでいるかを当てるために、作業を見ることにした。見ていればわかるかもしれない。形からすると何だろう、長方形だよね?うーん、聞いてみようかな?

 

「結月、何を編んでるのか教えてくれる?」

「まだ教えないよ。明日になればわかるかもよ?」

「明日?もしかして明日って……」

 

 私が言おうとした時、結月は人差し指を出して私の口を止めた。これをするってことはわかってるのかもしれない。そうだとすると、安心する。

 

「ひまり、口にするにはまだ早いぞ」

「そ、そうだね……」

「まぁ明日を待っててくれると嬉しい。今日は途中までになっちゃうけど、それでもいいか?」

「大丈夫だよ。結月が私のためにしてくれてるってことはわかってるから」

 

 結月は作業の手を止めて私を抱き締めた。うん、暖かい。外は寒かったけれど、今は暖かい。

 

 それにしても、結月のうなじが色っぽい。あれは私を誘ってるのかな?襲っていいっていう合図?どっちだろ?

 

「結月、襲っていい?」

「待てひまり。何故そうなったか理由を聞いていいか?」

「結月のうなじが私を誘ってるからだよ……」

「それはあれか?俺が悪いのか?」

「そうだよ!変態!髪フェチ!」

 

 ひでぇ言い掛かりだ、と結月は言った。こればっかりは結月が悪い。うなじで誘われる私も人のことは言えないか。明日は私の誕生日だ。結月が何を編んでいるかいるかはわかっちゃったけど、ここで言ったら結月に悪い。明日を楽しみにしよう。

 

 作業は夕方の四時に終わった。残りは後で仕上げるって言ったけど、あの勢いだと徹夜しそうだ。ここは彼女としてエールを送ろう。

 

「ねえ結月、キスしてあげようか?」

「キス?いいけど……」

 

 結月は目を瞑った。ふっふっふ、引っ掛かったね。普通は唇だけど、私がキスをする場所は決まっている。私は結月の膝から離れ、彼の後ろに立った。そう、キスをする場所は――

 

 

――うなじだ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 うなじに何か感触がした。ん?まさかひまり、本当に誘われたのか!?こいつは……。

 

「ひまり、お前うなじにキスしたのか?」

「その通りだよ!ごめんね、我慢出来なかった!」

「我慢出来なかったって、満足気に言うお前が怖いよ」

「えへへ」

 

 笑顔で言われたらどう言えばいいかわからなくなる。俺はひまりの頭を撫でることにした。なんか尻尾振ってるように見えたからやっちまった。不意打ちを喰らったのか、ひまりは顔を赤くした。これは仕返しだ。

 

 ひまりはその後、また明日と言って部屋を出た。さて、仕上げるか。明日はひまりの誕生日、付き合ってから初めて彼女を祝うんだ。

 

 俺はコーヒーを淹れて作業に戻った。途中休憩も入れ、作業は深夜の一時まで掛かった。マフラーは無事完成した。あとはひまりにプレゼントするだけだ。

 

 次の日、十月二十三日。ついにひまりの誕生日を迎えた。今日はひまりの家で祝うということになっている。時間は午後の一時からだ。それまで俺は彼女の家でケーキを作ることにした。蘭達も来てくれたようだ。

 

「結月、今日は上手くいくといいね」

「もちろんだ。蘭も失敗しないようにな」

「ありがと。お互い頑張ろうね」

 

 俺と蘭は互いに健闘を祈った。ひまりは知らない筈だ。蘭達が選んだプレゼントが帽子であることを……。俺の方は知っていても、蘭ならサプライズ的なことでプレゼントは渡せるだろう。

 

 途中でつぐみにも手伝ってもらい、ケーキ作りは順調に進んだ。しかし、苺は二つ程モカのつまみ食いによって犠牲になってしまった。許せ、苺。あとモカ、つまみ食いは止してくれ。

 

 一時間掛けてケーキは完成した。そして二時、ひまりの誕生日パーティーが始まった。最初に蘭達がプレゼントを渡した。その帽子はどうやらひまりが欲しかったものだった。俺は帽子と聞いてはいたが、欲しかったとまでは知らなかった。彼女の欲しい物をもう少し知るべきだったな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 それから時間は過ぎた。私は蘭達から帽子を貰った時は泣いてしまった。嬉しさのあまり泣いて結月に抱き着いちゃったけど、私にとっては凄く嬉しかった。けど、まだ結月からプレゼントを貰ってはいない。

 

「ねえ結月」

「何、ひまり」

「二人きりになったね……」

 

 あの後、皆は私達に二人でお楽しみにと見守るかのような眼差しで言って帰った。それを言われたら恥ずかしいし、気まずくなる。結月にどんな顔をしたらいいの?

 

「とりあえずプレゼントあるから渡すけど、いいか?」

「うん、いいよ」

「プレゼントは気づいてると思うけど、これなんだ」

 

 結月は私にプレゼントを差し出した。丁寧に紙袋で渡すなんて、結月らしい。知ってるけれど、私は言わなかった。言わなかったというより、口止めをされたが正しいか。

 

 私は紙袋に手を入れて結月の編んだ私へのプレゼント、もといマフラーを出した。うん、予想通りだ。

 

「やっぱりマフラーだったんだね」

「ひまりにはわかってたか」

「当たり前だよ。結月はわかりやすいし、顔に出やすい。けどね……私は結月の彼女なんだよ?」

「随分と自信満々だな。さすが俺の彼女だよ」

 

 えへへ、と私は微笑んだ。当たり前だ、彼女が彼氏のことを知らないでどうする。私と結月は十年も一緒にいたんだ。知らないことなんてあるわけがない。

 

 私は結月の腕に抱き着き、キスをせがんだ。この雰囲気なら、してくれるよね?

 

「結月、してくれる?」

「わかったよ。もう一つのプレゼントっていうのは変だけど、今キスするから急かすなよ。あと、ひまり」

「何?」

「誕生日おめでとう。好きだよ」

 

 結月はそう言って私の唇を重ねた。こんな不意打ちをするなんて、彼はズルい人だ。けど、そういうところも好きだ。

 

 私の誕生日を祝ってくれてありがとう。好きになってくれてありがとう。大好きだよ、結月。

 




約一時間で書きましたが、駄文だらけのクオリティになってしまいました


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悪戯とお菓子、彼と彼女に口づけを

ハロウィンなので書きました
二日遅れなのは見逃して下さい


 十月三十一日はハロウィンだ。今日はその前日、商店街はハロウィンの飾りで一色、やまぶきベーカリーや羽沢珈琲店もハロウィンに染まっている。染まっているというより、飾りを付けているが正しいか。

 

 俺は家でお菓子を大量に作っている。ハロウィンでお菓子を配るためだ。仮装もしないといけないが、何の仮装にしようか、今日まで約二日程迷っていた。

 

 お菓子はクッキーとマフィンを作っているが、一から作るというのは間に合わないから材料を揃えて作ることにした。ゼロから作ると時間掛かるし、間に合わないからな。俺はオーブンを見てクッキーが焼けてるかを確認した。

 

「さてと……よし。焼けてるな後はチョコだけか」

「お邪魔しまーす!あれ、何してるの?」

「ああひまり。今クッキーとマフィンを作ってるんだ」

 

 へぇ、とひまりは言い、俺の隣に近づいてオーブンを見た。ひまりが来てくれたなら、手伝ってもらおうかな。一緒にやれば明日には間に合う。明日は朝から配るから忙しい。

 

「焼けてるね。結月、お菓子作り上手くなった?」

「何回かやってれば上手くなるさ。そうだひまり。今からマフィン作るんだが、手伝ってくれるか? 」

「任せて!結月のためならひまりちゃん、手伝うよー!」

 

 頼もしい、さすが俺の彼女だ。ひまりがいてくれるだけでも心強い。俺はひまりにエプロンを渡した。ひまりはエプロンを着けると、おさげに縛っている髪をポニーテールに縛った。俺も気合いを入れるため、下ろしている髪を一つ縛りに縛った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は結月の隣に立ち、マフィン作りを始めた。結月を見ると、髪を一つ縛りにして腕を捲ってお菓子作りをしていた。似合ってる、というか似合いすぎて眩しい。何度も見ている姿なのに、どうしてこんなに眩しいと感じるんだろう。

 

 よく考えたらこのお菓子作りは私と結月が付き合ってから初めてやるんだった。そう考えるとこれはあれかな?夫婦みたい?それとも……何だろう?

 

「ひまり、どうかしたか?」

「な、何でもないよ!?」

「本当にそうか?まぁいいか」

 

 結月は気にすることなく作業に戻った。危なかった、結月がかっこよかったから何て言えない。そんなこと言ったら気まずくなるし、作業に集中出来ない。これから私はこの空気に耐える、私の心持つかな?

 

 マフィン作りは順調に進み、気づいたら時間は十五時になっていた。結月は作業を中断し、さっき焼けたクッキーを四枚程小皿に置いた。もしかして味見かな?そうとしか思えない。紅茶も淹れてるんだからそれしかないよね。

 

「ひまり、さっき焼いたクッキーだけど、味見してみないか?」

「いいの?枚数足りてる?」

「全然足りてるさ。これくらいしかないけど許してくれ」

「いいよ。私は平気だから」

 

 ごめんな、と結月は謝った。どうしよう、空気が重くなった。そうだ、仮装とかの話をしよう!ここは私が明るくしないといけない。よし、頑張ろう!

 

「ねえ結月、今年は仮装どうするの?」

「仮装?ああ、それなんだけど……迷っててな。どれにしようかで決まってないんだ」

「嘘、大丈夫なの?私が決めてあげようか?」

「今回は頼めるか?ひまりに選んでもらえるなら助かるよ」

 

 私は結月に近づき、彼を抱き締めた。仮装のことで悩んでて不安だったんだ。それなら早く言ってくれたらいいのに、無理し過ぎだよ。私は結月に任せてと言った。

 

 彼は安心したのか、ありがとうと言った。お菓子作りが終わったら仮装のことを何とかしよう。今日中に決めないといけない。やることが増えちゃったけど、結月のためだ。彼のためって思えばこんなのへっちゃらだ。

 

 その後、お菓子作りを終えて私は結月の仮装決めに入った。どうやら吸血鬼か狼、どっちにしようかに迷っていたようだ。これは……狼が無難かな……。

 

「結月、これは狼がいいと思うよ」

「そうか。何かこのために二日迷ってたのが馬鹿らしくなって来たな」

「二日!?迷い過ぎだよ!」

 

 二日だなんて、迷い過ぎだ。結月はイベントになると気合いを入れることがある。こういうところは相変わらずだ。さて、決まったことだし、今日は帰ろうかな。明日が楽しみだ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 次の日、ハロウィン当日。俺は昨日焼いたクッキーとマフィンを二つずつ袋に入れて準備をした。今回は商店街の子供達、あとまりなさん、お世話になってる人にも配ることにしている。あとは蘭達にもだ。作った数は約七十、これはさすがに……。

 

「作り過ぎ……だよな」

 

 うん、これはやり過ぎたな。まぁ余らないように調整しよう。余ったら家に保管すればいいし、そうすれば小腹が空いた時にも困らない。俺は肩掛けのバッグに袋詰めしたお菓子を崩れないように入れた。ここでクッキーが割れたりしたらおしまいだ。

 

 そういえばひまりは早めに出掛けたのか。あと、狼の衣装か。といっても帽子だけだ。申し訳程度だが、これしかなかったのだから仕方ない。子供達よ、許してくれ。

 

「トリックオアトリートー、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞー」

「お菓子ならこれをくれてやるよモカ」

 

 商店街に着くと、開幕早々にモカがトリートオアトリートをしてきた。悪戯にはお菓子で返す、これはハロウィンの鉄則だ。鉄則といっても、自然とそうなったがな。

 

「さすがユズくん。用意周到だねー」

「結月、お前いくつ作ったんだ?」

「おはよう巴。ざっと50個だ。合わせて100、やり過ぎたな」

「いや、やり過ぎだよ!?」

「結月、それは引くよ」

 

 つぐみが間髪入れずにツッコミを入れた。ハロウィンでもつぐってるな。さすかだ。巴も蘭もドン引きか、自分でもやり過ぎたと自覚してる。

 

 その後、ひまりがやって来た。あれ?仮装が吸血鬼?それってライブの衣装だよな?そのままで来たのか!?似合いすぎだろ!

 

「結月、トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ!」

「お菓子ならあげるが、俺が悪戯をしてやろうか?」

「悪戯返しって、期待していいの?」

「期待して待ってろよ」

 

 顔を赤くしてるな。可愛いせいか、危うく襲おうとしてた。抑えよう、それをやるのは後だ。

 

 俺は子供達やお世話になってる人にお菓子を配り、ライブハウスに寄ってまりなさんにも配った。ここまで配るのは体力を使う、配り終えた頃には夕方になっていた。俺は蘭達に別れを告げ、ひまりと共に自分の部屋で休憩をした。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私と結月はお菓子配りを終えて休憩に入った。さっき悪戯に期待しろよ、何て言ったけど、何だろう?嫌な予感がするんだけど、気のせいかな?

 

「ねえ、結月。悪戯って何をするの?」

「悪戯?まぁこういうことさ」

 

 結月はそう言うと、私を抱き寄せた。えっ、悪戯ってこれ!?な、何をするの!?なんか怖いんだけど!?私は結月に何が来るのか期待してしまった。甘い悪戯なのか、それとも不味い悪戯なのか、わからないけれど私は欲しいと思ってしまった。

 

「ひまり、目瞑ってて」

「へ?」

 

 私は目を瞑った。結月は私が目を瞑ったことを確認すると、唇を重ねた。悪戯ってキスなの?な、何だろう……。怖いと感じた私がおかしいのかな?

 

 結月は唇を離すと、私の顔を見つめた。もう!こうなったら私もお返しだ!こんなことされたらやられたまま じゃ駄目だ。これをされるのなら覚悟は出来てるんだよね?

 

 私は結月に唇を重ねた。今度は舌を絡めてだ。だったら深く堕としてやる。頭がおかしくなるくらいにやってやる。私は結月を快楽に堕ちるまで滅茶苦茶にした。

 

 

 




これ以上は限界です
R18は書きませんので、ご想像にお任せします


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思い出の保管、二人の生きた証

思い出に残せる手段はいくらでもある


 俺は編み物をしながらあることを考えていた。彼女の……ひまりの誕生日プレゼントをどうするかを考えていた。自分で選ぶか、蘭達と話し合って選ぶか。どっちにしたらいいんだ。

 

 去年はマフラーを編んだが、今年はニット帽を編むことにした。セーターにしてもいいが、そうなると早めにやらないといけない。何にしようか迷って時間が掛かり、結果ニット帽になった。

 

「ひまりは今練習中だったか。プレゼントどうしたらいいんだ」

 

 静かに作業をしながら、俺は独り言を言った。ニット帽はもう少しで完成する。今日は10月21日、ひまりの誕生日は明後日だ。今日中に帽子を完成させたら次のステップだ。

 

 編み物をしていた時、机から振動音が鳴った。スマホの画面を見ると、ひまりからメールが届いていた。練習が終わったからこれから帰る、とのメッセージだった。プレゼントのこと、ひまりに聞いてみるか?

 

 

ーーひまりは欲しい物あるのか?

 

 

「とりあえず……聞くか。欲しい物ないって言われたらそれまでだし……はぁ、不安しかねぇ」

 

 俺はひまりが帰ってくるまで作業を進めた。最悪、徹夜しよう。それで完成出来れば問題はない。休憩はひまりが帰ってきてからだ。

 

 ひまりからメールが届いてから30分が経過した。チャイムが鳴った、帰ってきたか。帰ってきたというより、寄ってきたが正しいか。

 

「ただいま、疲れたよー」

「おかえりひまり、お疲れ様」

 

 彼女は背負っていたベースを下ろし、後ろから抱き着いてきた。手を止めているからいいが、作業中だったら危なかった。ひまりは帰ってきたら俺に抱き着くことが多くなった。彼女曰く、結月分補給らしい。抱き着くのはいいが、大きい何かを背中に当てているのは無意識なのか?

 

「ひまり、あまり抱き着くのは……」

「いいじゃん!甘えさせてよ!彼女にこうされるの嬉しいでしょ?」

「それはそうだが、当たってるんだよ」

「当ててるの。私は結月分補給出来るし、結月は私を堪能出来る、お互い得でしょ?」

「言い方!もう少し言い方があるだろ!」

 

 抱き着いているせいか、彼女の汗の匂いがする。練習で汗を掻いたんだろう。離したいが、もう少しこのままにさせるか。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 結月分を補給し終え、私は汗を落とすためにシャワーを浴びた。浴び終えた後、結月から話があると言われた。何だろう話って……。私、何かやっちゃったかな?抱き着いて当てたのマズかったかな?私は不安になりながら、結月の部屋に入った。

 

「お、お待たせ……」

「どうした、そんなに怯えて」

「話があるって言ったからさ、怒ってるかなって思って」

「怒ってないから安心しろ。ちょっと明日のことで話があるんだ」

「明日のことで?」

 

 私は首を傾げながら彼に聞いた。怒ってないなら安心だ。でも、そうなると当てられて嬉しいってことなのかな?

 

 明日のことで話があるんだった。このことは後で結月を弄る時に使おう。私は彼の隣に座り、話を聞いた。話の内容は、私の誕生日のことだった。プレゼントが決まらなくて、どうしたらいいか分からないという。

 

「そうなんだ。ていうかさ、誕生日プレゼントって秘密にする物じゃないの?」

「今回は特例、蘭達と話し合うっていう手もあるけど、時間が時間でな。だからこうして、ひまりとどうしようか話したんだ」

「私の誕生日まで時間ないよね?」

「ああ、時間がない。ひまりは何か欲しい物ってあるか?」

 

 欲しい物か。いきなり言われても決まらないよ。正直言うと、私は欲しい物はない。欲しい物は結月と一緒に掴んだ。彼と恋人になれたこと、私はそれだけでいい。だから、欲しい物は何もない。

 

 何もないって言ったら、結月は悲しむかもしれない。最悪、泣いちゃうかもしれない。こういう時ってどうしたらいいんだろう。やっぱり、正直に言った方がいいかな?もしくは、一緒に探すとか、かな?

 

 

ーーここは正直に言おう。

 

 

「欲しい物はないかな」

「ない……か。そうなると、アレしかないか」

「アレって何?」

「えっと、一緒に探すんだ。欲しい物がないなら、その場で決めるんだよ」

 

 結月は頬を掻きながら言った。顔が赤いけど、言うの恥ずかしかったのかな?一緒に探すってことはデートしながら探すってことになるのかな?もし決まらなかったらどうするんだろう。一日で決めないといけないから、その日は忙しくなるよね。

 

「二人で見つけるんだよね?」

「まぁそうなるな。明日はデートしながら見つけよう。一日中になるけど、大丈夫か?」

「全然大丈夫!結月とデート出来るし、誕生日プレゼントも決められるし、一石二鳥だね!」

「そうだな。明日は気合入れていくぞ」

 

 彼は微笑みながら言った。明日は私にとって大事な日だ。誕生日プレゼントを結月と一緒に決められる、これは滅多にないことだ。私は彼の家を出た後、部屋に戻り、早めに眠りについた。楽しみ過ぎて眠れなくなりそうだけど、大丈夫かな……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 次の日、ひまりの誕生日プレゼントを探すという名目でデートをした。もし決まらなかったら、という不安に駆られるが、そうならないようにしよう。蘭とは別行動にしようと言ってある。どんなプレゼントになるかは俺も知らない。

 

「これとかどうかな?」

「これか?どうだろうな、着てみるか?」

「うん、着てみるね。覗いちゃ駄目だからね?」

「覗かねえよ。ここでやったら俺が消される」

 

 ひまりの着替えをここで覗いたら社会的に抹殺される。そもそも、あいつの着替えてる所なんて何回か見せられてるんだ、それも目の前でだ。今更覗くな、なんて言われても無駄だと思うが……。

 

 ファッション系とかならどうか、というひまりの提案に乗って来てみたが、決まっていない。ニット帽は昨日徹夜して完成したから、後はバレないようにプレゼントと一緒に渡すだけだ。喜んでくれたら嬉しいな。

 

 その後、ひまりは何着か試着をした。流れか、俺まで着せ替え人形の如く試着をされた。前のデートと同じことをされたが、付き合った後もされてるから慣れてる。これに慣れるのはヤバいか。

 

 午前は試着で時間が潰れた。昼食を済ませ、今度は写真屋に向かった。ここなら何か見つけられるんじゃないかと思った。ひまりはAfterglowの皆を想っている。幼馴染として何か出来ないか、思い出は残せないか、色々なことを考えている。俺も恋人として、幼馴染として一緒に考えている。

 

 思い出を残せる物は様々だ。写真だったり、物だったり、手段は豊富だ。俺はひまりとプレゼントになるような物を探した。ここで見つけよう、彼女のためになる物を……思い出を残せる物を見つけないと。

 

「ねえ結月、これならどう?」

「どれ……成程、それならいいかもな」

「でしょ!結月は何か見つかった?」

「俺はこれかな。まとめるにはちょうどいいだろ?」

 

 ひまりが見つけた物はアルバム、俺が決めた物は写真立てだ。アルバムなら思い出を残すには最適だろう。写真立ては印象に残ったことや大事な思い出を仕舞うには凄くいいと思い、写真立てにした。

 

 これでひまりの誕生日プレゼントは決まった。あとは明日を待つだけだ。蘭達は何にしたんだろう。それは明日のお楽しみだ。付き合ってから二回目の誕生日になるんだ、感動させるくらいに喜ばせてやらないといけないな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 10月23日、私は皆に祝福された。結月は泣きながら私を祝った。まさか誕生日に泣くなんて、祝われてるのは私なのに、何で結月が泣くんだろう。私は彼の頭を撫でて泣き止ませることにした。

 

「何で結月が泣くの?」

「ごめん……ひまりの誕生日迎えられたのが……嬉しくてだな……」

「ユズ泣き虫ー」

「結月泣きすぎだろ」

「結月君、気持ちは分かるけど……泣きすぎじゃ……」

 

 皆に弄られ、彼はやめろと言った。泣き止んだけど、本当に大丈夫かな?心配だけど、これじゃあ進まないよ。私は心の中で言いながら、彼の頭を撫で続けた。

 

「ひまり、撫で過ぎだ」

「結月が泣くのが悪いんでしょ?」

「それ言われたら言い返せねえじゃん」

「結月は可愛いなぁ」

「可愛い言うな」

 

 そんな甘いやり取りを終えた後、蘭からプレゼントを貰った。プレゼントの中身はカメラだった。待って、何この偶然……。

 

 結月と私が選んだ物はアルバムと写真立てで、皆はカメラを選んだ。まさか重なるなんて、これって奇跡だよね?こんな奇跡があるなんて、私まで泣きそうになる。

 

「ひまり、渡したいものがあるんだけど、いいか?」

「渡したい物?」

「まずは一緒に選んだからアレだけど、写真立てとアルバム。もう一つはこれだ」

「これって……ニット帽?」

「そう、俺が編んだんだ。誕生日おめでとうひまり」

 

 彼から写真立てとアルバム、ニット帽を渡された。また編んでくれたんだ。去年はマフラーで、今年は帽子にしたんだ。ありがとう結月、嬉しいよ。

 

「凄い、こんなことあるんだね……」

「これは予想外過ぎたな。蘭、狙ってないよな?」

「いや狙ってはないよ。皆でこれなら思い出に残せるって思って選んだんだ」

 

 狙ってないにしてもこれは奇跡だ。結月曰く、蘭とは別々で決めると打ち合わせたという。相談もしてないのに、息が合ってるように見える。これも幼馴染だから為せることなのかな?

 

 私は皆と写真を撮ることにした。最初の写真は私と結月、Afterglowの皆だ。本当は結月と一緒に撮る写真を最初にしたいけど、幼馴染との思い出が大事だ。恋人と撮る写真は後で撮ろう。皆とは長くいる、皆との思い出を大切にしたい。私はそう思い、皆と撮ることにしたんだ。

 

「ひまり、こっち向いて」

「何……ん!?」

 

 彼の方を向いた瞬間、私は唇を奪われた。皆も結月の行動に驚愕した。待って、皆の前で何をしてるの!?お祝いのキスは出来れば二人きりの時でやってほしいんだけど、どうしたの!?

 

「酷いよ結月……」

「ごめん、待てなかった」

「待てなかったって、我慢してよ」

「ひーちゃん、ユズ―今の撮りたいからもう一度キスしてー」

「やめろ撮るな!」

「モカ、それだけはやめて!」

 

 私と結月は同時に言った。キスしてるところ撮るのはヤバいって!そんなことされたら恥ずかしくてキス出来なくなっちゃう、結月とキス出来なくなるのは嫌だよ!

 

 

ーー結月、蘭、モカ、巴、つぐ、本当にありがとう。皆で思い出を作っていこう。

 

 

ーーそして結月と忘れられない思い出を作ろう。私と結月のこれからに幸せが訪れますように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少女よ、思い出を作っていくんだ


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