機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ IF (タロ芋)
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機体とキャラ情報〜1〜

 ASW-G-72 "GUNDAM ANDROMALIUS"

 

 ミカエラ・カイエルに与えられた、今までのガンダムフレームの開発データと戦闘データを統合させた最後機。

 そして、ソロモン72柱のアンドロマリウスは正義を司るヘビの悪魔といわれているため開発思想は『今までの悪魔達(ガンダム)の力を用いてMAを正義の鉄槌で破壊する』という理念の元で建造された。

 特徴的なのはそのバックパックの換装システム《ソロモンパッケージ》であり、本体自体はASW-G-71 "GUNDAM DANTALION"と似たように武装は最低限に留まっている。

 ソロモンパッケージとは、今までのガンダムの特徴とも言える武装をバックパックとしてまとめ、外付け武装やブースターとして戦闘によって順次換装していくシステムである。

 そして、この機体だけに特殊なシステムが追加されておりそれが機体管理兼サブパイロットの独立型量子AI端末《HALLO》。

 たとえパイロットが不在でも、ハロがいれは機体を起動させ操作することができ、操縦時にくる膨大なデータも大部分を代わりに処理してくれるためパイロットの負担を軽減する。

 

 《コクピット》

 この機体のコクピットは今までのものと違い全天周囲モニターを採用した珠型のものとなっており、その周辺はナノラミネートアーマーとは別の特殊な装甲を採用し物理的に簡単には破壊できないようになっている。

 そして、帰還が困難の場合はパイロットをコールドスリープにする機能が搭載されている。

整備時にはその装甲を展開することが可能。

 

 《パイロットスーツ》

 全身に特殊な装甲がつけてあり、下のスーツ部分も特殊な繊維で出来ているため軽量ながらかなりの柔軟性と硬さを誇り、並の弾丸じゃ傷はつかずモビルワーカーの砲弾もものともしない。

 そしてコクピット外に活動ができるよう、パワードスーツの機能も持っており鉄板程度なら簡単にぶち抜きナノラミネートアーマーも装甲の質にはよるが凹ますくらいのことが可能。

 ヘルメット部分はバイザーがディスプレイのようになっており、様々な情報を表示させる。

 

 《本体武装》

 

 ・ガンソード

 リアアーマーの裏側に2丁格納されており、使用時は展開して引き抜く。

 ハンドガンの下部にブレードが取り付けてあり近接時は剣として扱う武装。

 

 ・踵部内蔵パイルバンカー

 踵部に内蔵されており、衝撃により射出される。

 

 ・脚部シザークロウ

 爪先部分と踵部の前後に取り付けられており、可動して顎のように挟み込む。

 

 ・掌部エイハブ粒子砲《スティング》

 両の掌部分にある武装であり、キマリスのマルチスロットアクセラレーターと同じ武装。

 だが、キマリスのものよりも発展させており人体の脳を破壊する以外に装甲の外から内部部分なども破壊できる。

 現在は左腕を失っているため、片方は使用不可。

 

 《機体データ》

 ・全高 18.0メートル

 

 ・本体重量 28.6トン

 

 ・動力源 エイハブリアクター×2(ソロモンパッケージ装備時は三基)

 

 ・使用フレーム ガンダムフレーム(各部分は形が若干違う)

 

 《ソロモンパッケージ》

 アンドロマリウスの最も特徴的な外付け式武装システム。

 今まで建造されてきたガンダムフレームの特徴といえる武装を発展させ、複合化させておりブースターやスラスターもあるため換装する事に余分なウェイトを減らすことに成功させた。

 そして、このバックパック自体にエイハブリアクターを一基搭載されており、合体時は三基のエイハブリアクターのトリプル・リアクターシステムより機体の出力が大幅に上昇する。

 ただし、ツインリアクターシステムですら厄災戦当時ですら困難であったために実装されたのはこのこの機体のみで、ほかのガンダムフレームに取り付けても並列稼動させることは困難である。

 

 《現在確認しているソロモンパッケージ》

 ・GAS-P-01 "REBERTAS"

 ラテン語でリベルタスは"自由"を表す。

 ガンダムアンドロマリウス専用汎用換装バックパック。

 大型のメインスラスターと非装着時は左右三対のウィングブレードと2つの主翼が航空機のように変形し、大気圏内外を問わず飛行できる。

 アンドロマリウスに装着した時そのブレードは翼状へと変形し、付け根部分には小型スラスターがある。

 そして、特殊な推進システム《エイハブクラフト》を採用されており、推進剤を使わずに浮遊が可能。

 

 《武装》

 ・大型複合レール砲

 両翼に各一基ずつウィングスラスター上部に格納されており、使用時は伸縮展開される。

 ASW-G-64 "GUNDAM FLAUROS"のレールガンを強化、発展させた武装。

 同じようにダインスレイヴを発射できるが、3つのリアクターからなる電力によりフラウロス以上の威力を有する。

 弾頭は切り替え式で、ビームも発射可能だとか・・・

 

 ・ウィングブレード

 三対六基の超鋼ワイヤーブレード。

 阿頼耶識システムで特殊粘性合金製のワイヤーを操作する事によって、変幻自在な攻撃が可能。

 ブレード自体は超硬合金製のため、重MSの装甲をも容易に突破する。

 そして、格納時は主翼として機能し。発射時は根元部分に隠れていたフィンが露出する。

 

 ・折りたたみ式レールガン

 折り畳み式の砲身とスラスターを併置したレールガン兼AMBAC(姿勢制御)可動式ユニット。

 非装着時は主翼に懸架されるように保持。バルカンとして使用され、装着時は両サイドスカートに接続される。

 小型の弾丸とプラブマ弾を発射可能。

 

 ・VN(バイブーションネイル)

 非装着時は飛行形態時のバックパック下部に二基あり、ランディングギアとして機能する。

 装着時は両腕武に装着され、使用する時は4つの可動する歯に展開し高速で振動して敵の装甲を破砕する。

 現在は片方は紛失している。

 

 《データ》

 ・全高 5.3メートル

 

 ・全長 8.2メートル

 

 ・動力源 エイハブリアクター

 

 《システム》

 ・エイハブクラフト

 エイハブスラスターを強化発展させた高出力推進器。

 開発された時期はアンドロマリウスと同時期のため、搭載されたのはこの機体のみで使用するには3基のエイハブリアクターを同調させねばならないため、この技術は厄災戦時に失われたので完全なロストテクノロジーである。

 

 つまりミノフスキークラフト。(いまいち作者はミノフスキークラフトとミノフスキーフライトが分かってない)

 

 ・HALLO

 バスケットボールほどの大きさの球体型の機械。

 ガンダム作品に出てくるハロとほとんど同じ見た目で、性能的にはOOのハロ達みたいな感じ。

 結構頑丈で、大体ミカエラの足元を転がっている。

 

 

 《パイロットデータ》

 名前:ミカエラ・カイエル

 

 身長:三日月・オーガスと同じほど

 

 体重:不明

 

 年齢:19歳

 

 最終階級:准将(MAケルビム戦にて対象を撃破の後MIA(消息不明)のため二階級特進)

 

 ガンダムアンドロマリウスのパイロット。ギャラルホルンの前身組織エインヘリヤルのリンドヴルム大隊の隊長を任されていた。

 ギャラルホルン創設者アグニカ・カイエルと同じ姓をもつが、関係性は不明。

 喋り方に特徴的なのな訛りがあるが、恐らく阿頼耶識を施術した時の後遺症と推測ができる。

 かなりの健啖家で厄災戦当時にも記録上での金の使い道の大半が食費に消えていた模様。

 人を殺すのはなんとも思わず、むしろ率先して行う性格破綻者。だが、仲間意識はあるので仲間が危険になると救援に駆けつけようとはする。

 常にハロを傍に置くか抱いている。

 好きなものは食事。得意なことは料理。

 苦手なものは子供。

 嫌いなものは美味しくない食事と食事の邪魔をされること。

 常にパイロットスーツを纏っているため、彼女自身は非力かと思われるが普通に生身でも格闘戦は強く、当時の部隊内でも普通に組手は上位の成績を誇っていた。



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書きたくなったからやりました。


 広大な宇宙。

 無数の星々が煌めく暗黒とした世界。

 その広大な漆黒な世界のとある一角、無数の残骸や小惑星浮かぶアステロイドベルトにソレはあった。

 巨大な小惑星に磔にされてるかのようにいるのは鋼鉄の巨人、MS。だか、そのMSはほかのMSとは一線を画すガンダムフレームと呼ばれるものであったが、かつては美しかったであろう白を基調とし、所々に青のデザインが入った装甲は今は銃弾のあとや薄汚れ、ひび割れている。頭部のブレードアンテナは片方が、折れ、ツインアイには光がない。

 そしてなによりも、その巨人は左腕が肩口からなく無残にもなにか巨大な力で引きちぎられたかのような有様だった。

 

 そして、本来ならその巨人は誰にも見つからずこの先もずっとそこに眠っているはずだった。だがなんの偶然か突如その小惑星が爆ぜ割れた。

 

『フハハハハ!悪逆に慈悲などいらぬわッ!』

 

 そして聞こえるのは若い男の声。

 

『イオク様!貴方様は指揮官です。前線は我ら部下の仕事なのでお下がりください!!』

 

『ならん!お前達が血を流し戦っているというのに私がそれを後ろから見ているなど出来ぬ!!私はお前達とともに歩み、進みたいのだ!!』

 

『イオク様・・・!我らに勿体なきお言葉でございますッ』

 

 アステロイドベルトから少し離れた場所にてそのような会話と数機のMS、ギャラルホルンの主力量産機のグレイズがおりそれとは別の海賊のMSと戦闘を繰り広げていた。

 

 そして、彼らは気が付かない。その小惑星が先程の砲撃で砕け幾つにもばらけた中に磔にされていたMSがそのアステロイドベルトから抜け出し移動していくことに。

 

 ○

 

「ん?なんの音・・・・?」

 

 青い空を見上げ、黒髪と感情の見せない青い瞳の少年三日月・オーガスはポツリと呟く。

 

「あん?音って何がだよミカ」

 

「なにか音が聞こえるでしょオルガ?」

 

 三日月はジャケットのポケットから火星ヤシをひとつ取り出し、それを食べながら隣にいる肌が浅黒く特徴的な銀髪と青年オルガ・イツカにそう言い空へ指を指す。

 そして、聞こえるのはジェット機のようなゴォォオ・・・・という音。

 

「あ〜・・・ 確かに聞こえんな。なんの音だ?」

 

「さぁ?」

 

 小さい頃の仲の2人はなんとなく自分たちの所属しているクソッタレな民間警備会社CGSの敷地の外で壱番組が来ない場所を見回りの途中で軽く休憩を挟んでいた。

 

 2人してなんだなんだと首をかしげ、空を見ていると目のいい三日月はソレを捉える。

 

 さすがに距離が遠すぎるために詳しくはわからないが、なにやら巨大な岩が火星に落ちてきたのだ。そして、オルガもようやく気がついた。

 

「おいおい!ミカァ!これやべぇぞ!!」

 

「そうだねオルガ」

 

「随分と余裕そうだなミカ!?」

 

「そう?」

 

 どこまでもゴーイングマイウェイな相棒に軽くオルガは脱力しかけるがすぐに気を取り直し、三日月のジャケットの襟を掴んでモビルワーカーの操縦席に放り込んだ。

 

「早く出せミカァ!」

 

「ん、わかったオルガ」

 

 相棒の言葉に三日月は頷き、阿頼耶識とモビルワーカーを繋ぐとCGSの基地へと向けてアクセルを踏み込み急発進をさせる。

 

 そしてどうにか基地に着いた頃、空から飛来したそれは火星の地面へと激突する。

 離れた基地にまで凄まじい轟音が聞こえ、ビリビリと空気の衝撃波と地震が響く。

 余談だが、これにより社長室で高そうな調度品を磨きながら葉巻を吸ってたCGSの社長マルバは思わずその衝撃に椅子からひっくりかえり、ついでに飲んでいた熱い珈琲を頭からぶっ掛かり火傷したりしていた。

 

「ッツ〜・・・ 大丈夫かミカ?」

 

「うん、少し揺れたけど平気だよオルガ」

 

 ひっくり返ったモビルワーカーの運転席の中、逆さまの状態で呻くオルガとベルトで固定されのんびりと火星ヤシを食べる三日月。

 えっちらおっちらとモビルワーカーからはい出たオルガと三日月は落ちてきた隕石の方向へ視線をむける。

 

「おいオルガ!なんださっきの揺れ!?」

 

 すると、若い男の声がかけられオルガが振り返り見ると何かと彼につっかかるユージン・セブンスタークが慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「いや、それは俺も聞きてぇけど唯一言えるのは空から岩が降ってきたらこうなった」

 

「岩ァ?」

 

「うん、でかい岩だよユージン」

 

 何言ってんだこいつら、と言った感じでユージンは三日月が指さした方向を見つめ首を傾げる。

 みえるのはキノコ雲と巨大なクレーターだけだ。

 確かに岩かなにかが落ちてきたというのは理解できる。

 

「って、そんなことよりお前らさっさと基地の掃除するぞ。なんか三日後にお偉いさんが来るみてぇだからマルバが騒いでたぞ」

 

「わーたよ。ミカ、さっさと終わらせるぞ」

 

「うん」

 

 オルガの言葉に三日月は答え、さきほどの岩が落ちた場所を見つめすぐに戻し歩み始めた。

 

 ○

 

 ──付近にエイハブリアクターの反応を確認。検索・・・ ASW-G-08 GUNDAM BARBATOS と認識。

 順次強制待機状態を解除・・・

 ──パイロットのバイタルを確認・・・ 異常なし

 ──阿頼耶識との接続状況良好

 ──機体状態の確認・・・ 各駆動系、火器管制システム(FCS)の異常。左腕部確認できず。機体損傷度60%越え(イエロー) 早急にメンテを推奨

 ──機体出力オーバーダウン。

 ──武装確認・・・ ソロモンパッケージ異常なし。本体武装・・・ 異常なし

 ──待機状態を継続。パイロットのコールドスリープを継続・・・

 ──ASW-G-72 "GUNDAM ANDROMALIUS"待機状態を継続

 

 クレーターの中心、隕石となった小惑星に磔にされた悪魔は眠りからは覚めない。

 近くにもうひとつの悪魔(バルバトス)が眠っているのを確認して。



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乃木さん高評価あざーっす!


「MSだと?」

 

「はい、どうや昨日飛来してきた小惑星にくっついていた模様です。近くには民間の警備会社が」

 

 ギャラルホルン火星支部、その支部長コーラル・コンラッドは部下の報告に眉を顰める。

 そして出された報告書には解像度は荒いが辛うじてMSだと確認出来る写真が付属されてるが、見たところ片腕はなくあちこちがボロボロのため大したことは無いとコーラルは1人結論づけると部下を下がらせた。

 

 そして、今の彼からしたらガラクタ同然のMSよりもこの後に来る監査官が悩みの種である。

 

 ○

 

「おやっさん。落ちてきたアレってコイツと同じやつ?」

 

 CGSの動力室、本来なら立ち入り禁止の場所なのだが三日月のお気に入りの昼寝の場所になってる所でCGSで唯一子供たちが懐いてる大人のナディ・雪之丞・カッサパに目の前で力なく繋がれてるMSを見ながら三日月は尋ねた。

 

「あん?どうだろうな・・・ 遠目からしか見てねぇからわかんねーが。まぁ、見た感じコイツの同類だとは思うぞ三日月」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 雪之丞の言葉に頷き、三日月はそう答える。

 そして、そこにオルガが三日月を呼びに来た後にクーデリア・藍那・バーンスタインと邂逅し少々違うが物語は始まっていく。

 

 そして、時間は進む。

 だが、その過程でちょっとした齟齬が生まれる。

 本来なら見回り中でギャラルホルンの兵士の狙撃により命を落とす少年たちは、空から飛来してきたMSのおかげで地形が変わり、風の向きが変化し狙撃銃を持っていた兵士が思わずくしゃみをして狙った弾丸は見当違いの方向へ飛び、その音に死ぬはずの少年は運命を回避し無事に閃光弾を打ち上げる。

 さらに、余っていたモビルワーカーにダンジが乗り無謀にもMSに突撃し死ぬはずが、このMSの落下の衝撃で複数機のモビルワーカーが破損し偶然にも余りが出ることなく前線には出ることは無かった。

 

 偶然には偶然が重なり、そして・・・

 

停止していたMSのコクピット内部、サブモニターに光が灯る。

 

 ──複数のエイハブウェーブを確認。検索を開始・・・未確認の機体と断定

 ──敵機と仮定

 ──各種武装ロックを解除

 ──待機状態を停止

 ──パイロットを覚醒

 ──目標、複数のUNKNOWN。ガンダムアンドロマリウス強制起動

 

 

 ギャリリリリリリッ!!!耳障りな音を立て、ナニかが飛び出しギャラルホルンのモビルワーカーを破壊していく。

 

「なんだ!?何が起こった!!」

 

 グレイズのコクピット内、オーリス・ステンジャは突然の出来事に目を見開く。

 

『と、突然背後からの攻撃によりモビルワーカー隊が・・・!』

 

「チィッ!全軍攻撃開始!」

 

 オーリスの言葉に後方のモビルワーカー隊から砲撃が開始されるが、明らかにそのまばらな砲撃はCGSの基地を焼き尽くすことは無かった。

 

「クソッ!アイン、私はクーデリアを確保する。お前はモビルワーカー隊を見に行け!クランク、お前もだ!」

 

『りょ、了解しました!』

 

『待てオーリス!今の状況でを部隊を分けるのは!』

 

「黙っていてもらおう!今の指揮官は私だ!!」

 

 元教官の言葉を遮り、命令を送りオーリスはモビルワーカー隊へと向かう2機のグレイズを見送る。

 もし傷一つでも付けたら厳罰を処してやると吐き捨てながら。

 

 

「ん・・・んん、んんんん〜!」

 

 そして、モビルワーカー隊に攻撃を行ったMSガンダムアンドロマリウスのコクピット内部にて、全身をぴっちりと覆い、頭も通常のヘルメットと違い完全な曇りガラスのような材質で隠されているが、体のラインから少女とわかる人物が固まった体をほぐすように伸びをしていた。

 

「ミカ!おはよう!ミカ!おはよう!」

 

「うん、おはようデスHALO(ハロ)。どれくらいミカは眠ってたデス?」

 

「302年と42日15時21分8秒!302年と42日15時21分8秒!」

 

「むむむ・・・ そんなに眠ってたデスか」

 

 コクピットの座席の近くに増設された台座にて、丸型のロボットHALOと呼ばれたソレは機械音声の混じった子供の声で喋り、ミカという名の少女は唸る。

 

「困りましタ。ミカの口座絶対無くなってるデス。というかココどこデス?なんだかアンドロマリウスの自動迎撃システムが起動してますケド?」

 

「近くに未確認エイハブウェーブ!近くに未確認エイハブウェーブ!追加で戦闘!追加で戦闘!」

 

「なるほどデスネー」

 

 ミカは頷くと操縦桿を握る。

 

「とりあえず足元のチョロチョロしたの潰せばいいデス?」

 

「OK!OK!」

 

「あんまりおなかいっぱいになりそうな獲物じゃないデス」

 

 蹂躙が始まった。射出されていたウィングブレードを引き戻しその途中で何台か巻き込まれモビルワーカーが爆散。

 そして、クレーター内から飛び出し着地した時に二台のモビルワーカーが踏み潰される。

 何台か砲弾を打ち出してきたが、MSの装甲に効く訳もなくむしろ煩わしげに踏み潰されていた。

 

「HALO、もっと大物いないデス?ミカとアンドロマリウスはこんなんじゃ小腹もいっぱいになりまセン」

 

 最後の1台を踏みつぶし、不満げに言うとHALOがセンサーを起動させる。

 

「UNKNOWN機が2機接近中!UNKNOWN機が2機接近中!」

 

「アハァ♪ならソイツを食べちゃうデース」

 

 そのヘルメットの内側で端正な顔立ちを歪め、歯を剥き出しにして笑う。

 自分の元へやってる2機のMSをどうやって壊そう(食べよう)かと楽しそうに思いながら。




感想、評価、しおり、お気に入りとか待ってマース!


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夜乃唱さん、ゆみつかいかん高評価あざーっす!


 ギャラルホルン火星支部所属のクランク・ゼント二尉は言いようのない不安が胸中を占めていた。

 例えるなら家のガスの元栓を閉めたかとか、母親に部屋の掃除を勝手にやられてベッドの下に隠してたちょっと見せられない本を見つけられたかもしれないというような不安が。(注意、これらは作者の例えであってクランクさんはもっと真面目な例えができます)

 

 そしてコーラルから民間の警備会社を襲撃してクーデリア・藍那・バーンスタインの捕縛を命じられた時は更にその不安が大きくなった。

 はっきり言うとこの任務は新入りのアインが一緒にいなければ今すぐ投げだしたくなるようなほどに。

 

 だが、不安は的中する。72番目の悪魔が目の前に現れたことで。

 

 それほど離れていない距離、クランクとアインのグレイズを前に足元には無数のモビルワーカーの残骸が転がり佇む隻腕のMS。

 

「アイン!正面は俺がやる。背後から挟みこめ!」

 

『了解!』

 

 ○

 

「おー?見たことの無いMSデスネー。HALOわかりますカ?」

 

「特徴を検索!ヴァルキュリアフレームに酷似!ヴァルキュリアフレームに酷似!」

 

「なるほどデス。じゃあやりますカ!」

 

 左腕がない。だがそれがどうした?とばかりにミカはアンドロマリウスを稼働させる。

 

「食べ応えあることを期待しマース!」

 

 獣のように屈み、ガンダムフレームのツインリアクター特有の高出力を利用した瞬発力で勢いよく突撃し、背部の格納している3対6基のウィングブレードを2基射出しお手並み拝見といった様子で蛇が地面を這うように2機のMSへと攻撃を放つ。

 

 そこまで殺意の乗せた攻撃ではないため、簡単に片割れは避けるが片方は避けきれずに頭部の装甲を剥がされ、センサーが露出する。

 

「後ろは動きがまだぎこちないデスガ。左は結構慣れてますネ」

 

 後ろ(アイン)を無視し、ミカは狙いを左のMSクランク機に定めた。

 

「アナタを食べ(壊し)マース!アハハ!!」

 

 熱の孕んだ笑い声を上げ、アンドロマリウスは応えるようにツインアイの光を強く発光させた。

 

 ○

 

「ヌゥ!」

 

 スラスターかと思っていたユニットから突然飛び出てきた武装にクランクは驚愕しつつ、すぐに最小限の動きでその攻撃をかわし距離を離そうとしたが、不明機は狙いをクランクに定めたのかアインのグレイズを無視して一直せんに突進してきた。

 

「チィ!」

 

 すぐに距離をとることをやめ、ライフルを投げ捨て近接武装のアックスを装備し近接戦闘を開始する。

 

「むふふ〜、なかなか反応はいいですネー。なら次はこれデース」

 

 片腕がないという決して小さくないハンデを負いながらも、愛機を駆るミカの表情は余裕そのもので寧ろ楽しんでいた。

 蹴りやパンチだけの格闘にウィングブレードを追加する。クランクはそれを盾やアックスを用い長年のパイロットとしての勘と経験を活かし必死に捌き続ける。

 

「そのような骨董品のMSでギャラルホルンのグレイズを!!」

 

 そしてそれをどうにか援護できないかアインはライフルの銃口を向けるが、ミカはクランクのグレイズを射線に被るように立ち回り2対1という不利な状況を擬似的なタイマンに持ち込んでいた。

 

「(強い──!!)」

 

 短い間に武器を交え、クランクの頭に浮かんだ言葉はそれであった。

 クランクはエースというほど実力はないが、パイロットとしての期間は長く教官にも任命されるほどだ。

 自分と目の前のMSに乗る実力差も途轍もないくらい離れていることに。恐らく相手は手を抜いているだろう。事実、ワイヤーで繋がっているブレードは背部のユニットに格納されているのを見ても残り5本もあるというのにそれを使わず1本だけしか使わないのが何よりの証拠だ。

 

「アハハ!いいですネー!ちょっとだけ物足りないけどお遊びはおしまいデース!!」

 

「ぬぅ!!?」

 

 これ以上は時間の無駄と思い、ミカは最後にクランクのグレイズを蹴り飛ばし地面へ転がすとウィングブレードでフレームごと腕部を突き刺し、もう片方の腕を足のシザークロウで固定し内蔵されていたパイルバンカーを打ち付け、地面へ縫い付ける。

 クランクは激しい揺れに頭を打ち付け、少しだけ意識が飛びかけた。

 

「それじゃあ、オシマイデス」

 

 ガシャン、右腕部の武装が上下4本のサーベルタイガーの顎のように展開すると、その先端が高速振動し始めた。

 そしてゆっくりとソレをコクピットへ近づけクランク諸共破壊しようと近づけるが・・・・

 

「ッ!!」

 

 瞬間、アンドロマリウスの胸部装甲にアックスが突き刺さりコクピット内部に激しい揺れが襲いたまらずアンドロマリウスの体勢が崩れる。

 

「チィ!! 一体なニ!?」

 

少女がその端正な顔を歪め、睨みつけるとそこには投擲した体勢のアイン機がいた。

 

『大丈夫ですかクランク二尉!?』

 

「ぬぅ・・・ すまんアイン」

 

『いえ!それとクランク二尉。オーリス隊長はクーデリア・藍那・バーンスタインの確保に失敗、突如現れたMSの攻撃に戦死した模様です・・・』

 

 アインの通信により、クランクは自分の教え子に少しの間だけ瞠目し口を開く。

 

「作戦は失敗。これより帰投するぞアイン!」

 

『ハッ!』

 

 クランクも近くに落ちていた自身のライフルを拾い上げ、アインと共に弾幕をアンドロマリウスへ広げスモークも焚き脱兎のごとく逃げ出す。

 

「逃げんなァ!!」

 

「レールキャノン展開!レールキャノン展開!」

 

 ガシュン! ミカが叫ぶと背部のウィングに内蔵されていた二門の大口径レールキャノンが展開し、狙いを2機へ定めその砲門から2発の砲弾が発射された。

 

 空気を引き裂き、途轍もない加速によりマッハともいえる速度でソレはクランクとアインのグレイズのすぐ横を通り過ぎその余波でアインのグレイズの片腕をもぎ取ると先の地面を勢いよく爆発させた。

 

「チッ、外しましたカ。追いかけようにもアンドロマリウスがボロボロ・・・・ 仕方ないデス。今回は見逃しマース」

 

 ミカは不満げに眉をひそめながら2機が帰投するのを見送り後ろ姿が見えなくなるとその視線をこちらを見ていたバルバトスへ向ける。

 

『あの白いのってどうするオルガ?』

 

『おそらく味方・・・ だと思うから一応通信しておけミカ』

 

『わかった』

 

 バルバトスのコクピット内部、三日月・オーガスはオルガへと短く会話をすると目の前のバルバトスと似たMSへ通信を送る。

 

『ねえ、アンタ。誰?』

 

「人に尋ねる前にそちら側が教えて欲しいのデスガ───。コホン、私は"ミカエラ・カイエル(・・・・)"人類軍《エインヘリヤル》内《リンドヴルム》大隊所属。階級は2佐(中佐)になりマス」

 

「HALO!HALO!」

 

 ヘルメットを外し、その中から長くしっとりとした艶やかな黒髪が露出し、深海のように蒼い瞳、小さな蕾のような唇を薄く笑わせミカエラ・カイエルは答える。




感想、評価、しおりとかお気に入り、アドバイスとか待ってまするゆえ


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感想とか来てニヤニヤしてる変態でございまする。
そしてつい最近1/100のヴィダール作りましたよー。
いやー、かっくい〜


「なっ・・・ 失敗しただと!!?」

 

『ハッ、活動を停止していたMSが突如起動。そのMSによりMW隊は全滅。オーリス機はパイロット諸共撃破され、私の機体は中破、アインの機体は大破したため作戦を遂行できないと判断し止むを得ず撤退しました』

 

「巫山戯るなッ!!」

 

 机に手を叩きつけ、コーラルは頭に包帯を巻いたクランクの報告に唾を飛ばしながら怒鳴る。

 

 たかが民間の警備会社にMSだと?なんの冗談だ!

 それにMSを1機失い、2機に損害を出し、挙句にはMWもだ。

 そのことを視察に来る若造たちに知られたら、と思うとコーラルは益々嫌な汗が流れ出る。

 

 このままではノブリスならの援助や、自分の地位も危うい。良くて拘束、悪くて極刑だ。

 

「ファリド特務三佐が来るのはいつだ・・・・?」

 

「ハッ、2日後かと」

 

「クランク、何がなんでもクーデリアを確保しろッ!第三地上基地のMSを全てお前に一任する!奴ら諸共証拠を残さず消せ!!」

 

『なっ、子供を殺せと──』

 

 有無を言わせず、クランクにそう言い捨てコーラルは雑に通信を切る。

 

 そして、部下を下がらせ深々と柔らかい椅子に体を沈めコーラルは1人おもう。

 

 いつからだろうか、自分がこのようになってしまったのは・・・と、

 

 

 ○

 

「ふんふふ〜ん♪」

 

「・・・・すげぇ」

 

「うわぁ・・・・」

 

「どんだけ食うんだよ・・・」

 

 基地にある食堂、その中心の机には無数に積まれた空の皿、器、鍋といった食器類。

 そして満面の笑みで盛られた料理を平らげるミカと、その様子を引き気味に見ている参番組の少年兵たち。

 

「あ~、それでミカエラだったか?あんた何もんなんだ?」

 

「先程も答えた通りデスヨ?」

 

 前髪が特徴的な参番組のまとめ役オルガ・イツカは、目のまえの不可思議な少女に頭を悩ませる。

 

「そうは言ってもなぁ・・・ 300年前というか厄祭戦時代の人間って言われても信じろって言われた方が無理だぞ」

 

 しっとりとした烏の濡れ羽色の腰まで届く黒い髪、深い海の底のような蒼い瞳、ほのかに赤みを帯びた頬に蕾のように小さな唇。

 クーデリアとはまた違った方向の美しさと儚さをもつ少女が、あのような戦闘を繰り広げたかと思うと何かの冗談な気もするが実際に起こったことのためなんとも言えない奇妙な感じがオルガの胸中に渦巻く。

 

「ところでオルガさん」

 

「なんだ?」

 

「ミカを傭兵として雇ってはくれませんカ?」

 

「・・・一体なんだよ藪から棒に」

 

「オルガさんの話でハ、ミカはギャラルホルン?のMSやMWをたくさん壊しましタ。だから目をつけられているでショウ。行くあてのないミカは流石にボロボロのあの子(アンドロマリウス)で逃げ切ることはできまセン。だから提案デス。貴方がたの話を聞く限リ、なにやらクーデリアさんという方の地球までの護衛を頼まれてましたネ?ですけど、見たところこの施設にある戦力は旧式のMWとメンテナンスのされてないバルバトス」

 

「そのとーり!そのとーり!」

 

 ミカエラの言葉にそばにいたハロが同調する。

 一通り食べ終え、満足したのかミカは口元を拭いハロを膝に乗せて微笑んで続ける。

 

「もし私を雇ってくれるなら貴方たちは戦力をGETできて、私は寝床が確保出来る。まさにwin-winの関係デス。ああ、あとMSの整備も私できマスヨ?」

 

「ふーむ・・・ 別に雇うことにゃ異論はねぇが本当にいいのか?俺らと行動を共にするってことはギャラルホルンのやつらとドンパチやり合うってことだ」

 

「構いませんヨー。向こうから獲物(ご飯)がやって来てくれるんですから寧ろウェルカムです。全部壊し(美味しくいただき)マス。というかぶっちゃけとっとと雇えコノヤローデス」

 

「マジでぶっちゃけたな・・・ そうかい。なら交渉は成立だ。もしこの仕事が成功したら正規雇用も考えておいてやるよ」

 

「ワーイ、ありがとデス。オルガさん」

 

「ミカ!おめでとう!ミカ!おめでとう!」

 

 パタパタと羽のように頭部パーツを動かすハロを撫で、大して感情を感じない平坦な声でミカエラは喜びの声を出す。

 

「(なんというかミカみたいなやつだな。コイツ)」

 

 何を考えてるかよくわかんないところがなんとも似ている。

 オルガは目の前の少女を見ていると、

 

「オルガー、デクスターさんが会計終わったって!」

 

 恰幅のいい少年兵、参番組の参謀にして癒し枠のビスケット・グリフォンがヒィコラいいながらオルガの元へやってきた。

 

「そうか、すぐ行く。じゃあカイエ──「ミカって呼んでくだサイ」ミカエラ。おやっさ・・・ 雪之丞さんって名前の人に整備関係を教えてやってくれ」

 

「リョーかいデス」

 

「任せろ!任せろ!」

 

「あ、この子が例のMSの?」

 

 ビスケットがミカエラを見ると、オルガに視線を送る。

 

「ミカエラ・カイエルっていいマス。気軽にミカって呼んでくだサイ。真ん丸な人」

 

「宜しくねミカエラさん。あと僕にはビスケット・グリフォンって名前があるからどっちかで呼んでね」

 

「ビスケットですカ・・・ 美味しそうな名前デスネ」

 

「あはは・・・ それじゃあオルガ行こう」

 

「そうだなビスケット」

 

 オルガはビスケットの後に続いていき、ミカエラはそれを見送ると近くにいた2人組の少年兵に声をかける。

 

「ねぇ、そこの人。雪之丞さんってドコにいますカ?」

 

「あ、はい。おやっさんですか?」

 

「おやっさんなら多分あそこにいると思うよ姉ちゃん」

 

「そうですカ。ありがとうございマス」

 

 片方の金髪の少年兵タカキ・ウノが宙を仰ぐと、その隣のオレンジ色の髪のいたずらが好きそうな少年兵ライド・マッスが笑いながら指を向けた。

 それにミカエラは礼を言い、向かおうとするとタカキとライドがついでに施設の案内をすると言い出したので、頼むことにした。

 

「あ、ところで姉ちゃんがあのMSに乗ってギャラルホルンのMSを倒したって本当!?」

 

 少し歩いたところで、ライドは目を光らせてミカエラに聞いてきた。

 

「ちょ、ライド!馴れ馴れしすぎるって!すみませんミカエラさん・・・」

 

「構いませんヨ、タカキくん。ええ、その通りデス」

 

「すっげー! 姉ちゃん、あのMSって三日月さんのバルバトスみたいに名前ってあんの?」

 

「ハイ。ASW-G-72 ガンダム・アンドロマリウスっていいます。ASW-G-08 ガンダム・バルバトスとは兄弟機で、アンドロマリウスが弟でバルバトスがお兄さんデス」

 

「そういえばミカエラさん。あなたのMSって片腕がありませんでしたけど・・・ どうしたんですか?」

 

「ああ、ソレですカ?MA(モビルアーマー)《ケルビム》にやられましタ」

 

「モビル・・・」「アーマー・・・?」

 

 2人はミカエラの言葉に首を傾げる。

 

「簡単に説明するト。貴方たちの言う厄祭戦の原因ともなっタ化け物デス」

 

「厄祭戦って確か300年前に起きたすごい大きな戦争だよねライド」

 

「うん、おやっさんがそんなこと言ってた。ミカ姉ちゃんってソレと戦ったの?」

 

「沢山戦いましたネー。手足の指が足りないくらい壊しましタ」

 

 戦う度に機体を壊して良く整備班の人達に怒られましタ、とケラケラ笑ってミカエラは2人に言う。

 そうして、色々と話し歩くと肌が黒い腹巻をした背の高い男をタカキとライドが見つけた。

 

「おやっさ〜ん! ミカエラさん連れてきました〜」

 

「というかおやっさん残ってくれたんだー」

 

「まあなぁ。俺も年食っちまった。ガキのお守りぐらいの仕事がちょうどいいのさ」

 

「おやっさん、友達いなそうだしねぇ」

 

「外でやってけなさそうだしね~」

 

「おう。よくわかってるじゃねぇか・・・ っと、その隣の嬢ちゃんがアンドロマリウス(アレ)のパイロットか?」

 

「ミカエラ・カイエルと申しマス。よろしくお願いしマス、雪之丞さん。ダンチョーさんから整備のやり方を教えるよう言い渡されマシタ」

 

 ペコリとミカエラが頭を下げる。

 

「よろしくな!よろしくな!」

 

 ついでにハロも転がりながら言う。

 

「それはありがてぇな。あいにく俺はMW専門だから300年前の骨董品とはいえMSは門外漢だ」

 

「バルバトスはアンドロマリウスと違っテ、汎用型のガンダムフレームなのデ整備はしやすいと思いマス。ですが、300年もノーメンテなら劣化とかしてるでしょうシ関節や駆動部のメンテをしまショウ。ハロ、皆さんに教えることお願いできマスカ?あと、それが終わったら私のアンドロマリウスもメンテ手伝って欲しいデス」

 

「ハロ任された!ハロ任された!」

 

「ついでだタカキ、ライド。お前も嬢ちゃんを手伝いな」

 

「えー!」

 

「ライド、文句言わない!」

 

「わかったよー!」

 

 ここの人達は排他的ではないため、1時間もすればミカエラも優しく迎え入れてくれた。ついでにハロは年少組たちにおもちゃにされていた。

 

「ミカ助けろ、ミカ助けろ」

 

「頑張っデス、ハロ」

 




感想、お気に入りとかしおり、評価とか諸々お待ちしておりますのよ〜
( ´−∀−` )


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ランキングに乗って変な声が出たけど直ぐに欄外になっちまったぜ!
だけどスクショしたタッター。いやー、なんか見てる人たくさんいて感想も来てニヤニヤしておりまするわ。


「クランク二尉!部隊を動かさないというのはどういうことですか!?」

 

「ああ、俺一人で行く」

 

「そんな、俺たち2人でも敵わなかった相手もいるんですよ!?」

 

「その時は相手を舐めていただけだ。なに、次は同じ轍は踏まん」

 

「なら!俺だけでも!!」

 

「その体でついてこられても足でまといになるだけだ」

 

「ッ・・・ で、ですが」

 

 先の戦闘時、アインはアンドロマリウスの砲撃の余波によりコクピットを破損しその時に少なからず怪我を負っていた。

 

「子供を相手になど・・・」

 

「クランク二尉・・・」

 

「頼む一人で行かせてくれアイン。お前達若い連中に汚名を着せる訳にはいかないんだ」

 

 クランクはそう言い、ギャラルホルンの兵士としての証のバッチを手に取る。

 

「(それでも・・・・ 戦わねばと言うのなら)」

 

「アイン──」

 

 ○

 

「ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜ん、ふ〜ふ〜んふ〜ふふ♪」

 

 光の点っていないコクピット内部、交響曲第九番第四楽章を口ずさみ光の点っていないコクピット内部で楽しそうにしているのガンダム・アンドロマリウスのパイロット、ミカエラ・カイエルであった。

 

「ミカ楽しそう。ミカ楽しそう」

 

「あ、わかりますカ?ハロ」

 

 閉じていた瞼を開け、ミカエラは膝に乗せていた球体の相棒の声に愉快そうに微笑む。

 

「エインヘリアルに所属してた頃はモビルアーマーばかりが相手でしたカラネー。人間を相手になんて少なかったデスカラ楽しみなんデスヨー」

 

 ああ、実に楽しみだ。これからどれだけの(ご馳走)が出てきてくれるのか。すべて美味しく殺させ(食べさせ)てもらおうじゃないか。

 

「クフフ、クヒハ・・・・キャハハハハハッ!!」

 

 熱の孕んだ狂笑をあげ悪魔の胎内で小さな悪魔はこれから先のことを楽しそうに愛しそうに思い、その小さな両手を宙へと掲げた。

 

「かつての仲間達が作った組織を相手にするのは心底楽しそうデース。クヒヒヒ」

 

 夕方になり、日が沈み空がオレンジと藍色の中間の時間帯になった頃ミカエラはコクピット内に入ってきた外気にピクリと反応した。

 

「この臭い・・・ 昨日のMSデスカ?」

 

「エイハブウェーブを検索!照合・・・・ 間違いなーし!間違いなーし!」

 

「フーム。クーデリアさんをまた捕えに来たんですカネ?それにしてモ、1機だけって言うのも変な話しデスガ・・・」

 

 コクピットから出ると、それなりに高さがあるのだがミカエラはそこから飛び取り猫のように衝撃を受け流して簡単に地面に着地する。

 

「うわ!?」「ミカエラ姉ちゃん!?」

 

 ちょうどタカキとライドのすぐ真後ろで着地したため、ぎょっとした様子で声を上げる。

 

「二人とも、オルガさんはどこですカ?」

 

「団長ですか?団長なら多分・・・」

 

 タカキが答えようとした時、基地内に警報が響く。

 

「来ましたカ」

 

「ミカエラさ〜ん!ちょっといいっすか!?」

 

 すると、団員の一人(名前は知らない)が息を切らしてやってきた。

 

「なんデスカ?」

 

「えーっと、ちょっと団長がお呼びなんで来てくれますか?」

 

「りょうかいデス」

 

 ハロを抱え、ミカエラはその少年の案内でオルガの元へと行く。

 

「団長〜、ミカエラさん連れてきましたー!」

 

「来ましタ〜」

 

 

「おう、すまないな。お前は持ち場に戻ってくれてもいいぞ」

 

「ハイっす!」

 

 ビシッと少年は敬礼すると走ってどこかに行き、それをミカエラは見送るとオルガの元に近づく。

 

「ミカに御用ですカ?オルガさん」

 

「ああ、実は──」

 

『私は、ギャラルホルン実動部隊所属、クランク・ゼント!そちらの代表との、一対一の勝負を望む!』

 

 オルガの声を遮るようにグレイズから男の声が響き渡る。

 

「おおー、これはマタ珍しいデスネー」

 

 クランクと名乗った男のグレイズには赤い布が下げられており、ミカエラは記憶の中にあるソレが決闘を行うためのものだと言うのを思い出した。

 

「厄祭戦の前は、大概の揉め事は決闘で白黒つけてたらしいが、まさか本気でやってくる奴がいたとはなあ」

 

 雪之丞の言葉にミカエラも同意する。自分自身もこういうことはあんまり見た事がなかったのもある。

 

「それでオルガさんはミカを呼んだわけはアレデス?」

 

「察しが良くて助かる。実はミカのバルバトスに出てもらおうと思ってたんだが整備がまだ間に合ってないらしくってな・・・」

 

 つまりはミカエラに出て欲しいということらしい。

 別に断る気はないため、彼女は簡単に承諾をした。

 

「あ、オルガさんオルガさん。よろしいですカ?」

 

「あん? なんだよいったい」

 

「ちょっとコイントスしてくれマス?」

 

 ミカエラはそう言い、懐から1枚の純銀で出来た硬貨を取り出しオルガへ渡す。

 

「? まぁ、別に構わねーが・・・」

 

 訝しげに思いながらオルガはそれを指で弾き、クルクルと空中で回るそれをミカエラはキャッチするとその手の中にあるコインを見た。

 それは角笛(ギャラルホルン)のマークであり、ミカエラはつぶやく。

 

「・・・・表デスカ。あの人は運がいいデース」

 

 クスリと笑い、ミカエラはくるりと回るとアンドロマリウスの元へと歩き始める。

 

「・・・・なんだったんだ? アリャあ」

 

 首をかしげ、彼女の後ろ姿を見ながらオルガは1人そう呟いた。




次は戦闘デース。
感想、評価、しおりとかおきにいり諸々待っておりますのよ


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えー、コホンちょっとを愚痴を・・・
4月から入社だよー!イギダグナイヨォォオォン!!一生ニートで過ごしたいよォォォオ!!!!
えー、失礼しました。ということで、4月から働くので更新が不定期になりまする(´・ω・`)
まぁ、どうにかこうにか失踪しないよう頑張ります。ハイ。タブン。おそらく。きっと・・・・
ではどうぞ〜


「さて・・・ やりますかネ」

 

「アンドロマリウス起動!起動!」

 

「網膜投影スタート。各種システム起動。ガンダムアンドロマリウス・・・・ 起動」

 

 首筋のコネクタから接続され、ヘルメット内のディスプレイに膨大なデータが上から下へと流れていき最後に魔法陣とASW-G-72 "GUNDAM ANDROMALIUS"の文字が表示され消えると、全天モニターとパネルモニターに光が点る。

 アンドロマリウスの双眸が光を放ち、各部を軋ませながらその2本の足で地面を踏みして立ち上がった。

 

 そして、ミカエラの乗り込んだガンダムアンドロマリウスとクランクの乗るギャラルホルン量産機グレイズが互いに武器を持ち対峙する。

 

「ギャラルホルン火星支部、実動部隊、クランク・ゼント!」

 

「んーと・・・ CGS所属のミカエラ・カイエルデース」

 

「ハロ!ハロ!」

 

「参る!!」

 

 クランクが宣言と同時、グレイズのスラスターを吹かし距離をつめアックスを勢いよく振り下ろす。

 だが、それを短いブレードの取り付けられたガンソードで受け止めようとはせず神業ともいえる技術でその刀身をアックスの刃で滑らし容易く攻撃をいなし、地面へとその半ばまで沈み込む。

 

「ハハッ!!」

 

「ぬぅっ!?」

 

 膝蹴りを放ち、グレイズの巨体が浮かび上がる。

 さらにその場で片足を軸に回転するともう片方の足で刈り取るように勢いよく回し蹴りをぶちかました。

 

 硬いものがひしゃげる音が響き渡り、勢いよく後ろへ飛んでいくグレイズをクランクは顔を顰めながら各部のスラスターで体勢を整えなんとか着地する。

 

「ハァ・・・! ハァ・・・・!グッ、ぬぅ・・・・。これが・・・子供だというのかッ!!」

 

 頭を打ったのか、包帯から血を滲ませクランクはその彫りの深い顔にいくつも汗を垂らす。

 

「まだまだァ!!」

 

 ウィングスラスターを吹かし、その巨体を浮かび上がらせ上空へとアンドロマリウスを飛ばすとそのまま勢いよくグレイズへと落下させる。

 

「ムゥンッ!」

 

 恥も投げ捨てその場で転がり、先程までいた場所をアンドロマリウスがその質量で踏み砕きいくつもの瓦礫が飛び散り巨大な土煙が作り出され2機をつつむ。

 

「スゲェ・・・」

 

 その戦闘を見て団員の1人が自然とそんな言葉を漏らした。

 初めて見るMS同士の戦闘。その激しさと苛烈さに少年たちは自然と握りこぶしを作る。

 

「・・・・・」

 

 それを静かに見つめ、三日月・オーガスは言いようのない感情が胸をよぎった。

 なぜ、自分があそこにいないのかということに。

 砕きかねないほど三日月はその手を握り、焼き付けるように目の前の戦闘を脳裏に焼き付ける。

 

 ガン!ギンッ!!といくつもの剣戟が響き、土煙を引き裂いて現れたグレイズは、全身の装甲をボロボロにし頭部センサーを露出させ左肩の装甲はむしり取られたかのようにフレームが見えた。

 そして、アンドロマリウスはボロボロだがそれは予めそうであったため特にダメージを受けた様子を見えない。

 

 そして、アンドロマリウスの蹴りと射出されたパイルバンカーをクランクはグレイズの片腕を犠牲にその攻撃を受け流し残った部分で固定する。

 

「やっと・・・・捕まえたぞ!!」

 

「チィッ!往生際の悪イ!!」

 

 ミカエラはその拘束を解こうとするが、300年もの時とMAとの戦闘でのダメージで出力の下がっている弊害で解くことは出来なかった。

 

「この勝負・・・ 貰った!!」

 

「こっのォ!!」

 

 そして、クランクなニヤリと笑い残った腕に握られたアックスをアンドロマリウスの胸部へと振り下ろす。

 それを受け止めることは出来ず、ミカエラごとコクピットは押しつぶされるだろうと誰もが予想した。だが、

 

「・・・なぁんちゃッテェ!!」

 

 最後まで使わなかったウィングブレードが射出し、グレイズの右腕をひじ部分から先を切り裂く。

 飛んで行ったアックスが見守っていたオルガたちのすぐ近くに突き刺さり、土煙が舞う。

 余談だが、彼女は後に「え、誰が使っちゃダメって言いましタ?ン?」と至極真面目に答えとさ。

 

「・・・鉄華団」

 

「え?」

 

「俺たちの新しい名前だミカ。CGSなんてかび臭い名前を名乗るのは癇に障るからな」

 

「てっか・・・」

 

「ああ。決して散らない鉄の華だ」

 

 目の前の戦闘を見つめ、ポツリとオルガの漏らした言葉に三日月はその拳を自分の胸元まで持ってくる。

 

「鉄の・・・華・・・・。うん、いいねオルガ」

 

 小さく微笑み、噛み締めるようにつぶやく。

 

 

 

 

「ちょ〜っと、惜しかったデスネー?まぁ、いい線いってましたヨ〜」

 

 嗜虐心からその口角を釣りあげ、ミカエラはウィングブレードを操作しグレイズをコクピットをあえて外して串刺しにする。

 

「じゃあ、終わりにしまショウカ」

 

 倒れたグレイズの胸部にウィングブレードの先端部を突き付ける。

 

「無念・・・」

 

 目を閉じ、クランクはつぶやくと同時にブレードがそのコクピットを突き刺した。

 

 ただし、クランクを殺さぬようその目前までだが。

 

「なっ・・・!? なぜ俺を殺さない!」

 

「え〜? だってコイントスしたら表だったんデスヨ。私はコイントスして表出たら殺さないって決めてるんデス。それに・・・・」

 

 クランクの戸惑った様子にミカエラはしんそこ不満げに続ける。

 

「死にたがってるような人を殺してモ。面白くないデース。私は生き足掻くひとを殺すのが好きなんデス」

 

「ッ・・・・ 私に、生き恥を晒せと言うのか?」

 

「別にいいんじゃないデース?生き恥を晒すのハ。アグニカだって生きてればなんだって出来るっていってましたシネー。というか貴方って勝手に自分の要求いってた割にはこちら側の勝った場合の要求聞いてませんでしたネ」

 

 突き刺さっているブレードを引き戻すと、ミカエラはアンドロマリウスのコクピットを開き大穴の空いたグレイズのコクピットのなかに呆然とした様子のクランクを見下ろす。

 

「それで、どうしマス?貴方どうせ命令違反みたいなことした癖して任務失敗してますカラ帰れないデショウ?というか死んで終わりを迎えようとするなんてそんな虫のいい話は許しませン。責任は生きて返しなさいクランク・ゼント」

 

「だったら、どうすればいいのだ?」

 

「そうですねぇ・・・」

 

 少しだけ考え、ミカエラはポンと手を打つ。

 

「私に都合のいい労働力になってもらいマース。貴方きちんと教養ありますから団員の人たちに文字の読み書きとか諸々やってまりマース」

 

「ドレイ!ドレイ!」

 

「こちらに拒否権はない。・・・従おう」

 

 その言葉を聞き、ミカエラは心底邪悪な笑みを浮かべる。

 そして、クランクはゆっくりと息を吐き出し自分のこれからを思い意識を手放した。

 

 

 

「ふんふふ〜ん♪」

 

 すっかり暗くなり、星々が浮かび始めた空を見上げミカエラはコクピットハッチに座り足をぶらつかせながらその下で話しているオルガたちを見下ろす。

 

 どうやら、活動資金はクーデリアという少女がどうにかしてくれるらしい。

 

 そして、CGSという名前から鉄華団と改名したことを聞いた。

 

「鉄華団・・・ 鉄の華ですか。フフ、その鉄が血で錆つかないよう期待しますよだんちょーさん」

 

「ミカ。ミカ」

 

「ん? なんデスハロ」

 

「ミカ、機体データ参照!ミカ、機体データ参照!」

 

「? りょーかいデス」

 

 ハロに言われてミカエラはパネルモニターを操作し、機体データを表示させる。

 そこにはただでさえ駆動系がボロボロだったのに、さきの戦闘で派手に動いたせいでさらにダメージを食らってもはやレッドゾーンといえる警告が出ていた。

 

「・・・・早急にオーバーホールをしなけれバ」

 

 これには思わずミカエラは冷や汗が流れたとさ。




それでは感想、評価、しおりとかお気に入り、お友達やお知り合いに宣伝お願い致します〜。
あ、あと低評価の方はできる限り理由とが教えて欲しいです。ではではー


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お気に入りが130だやったー。
そして仕事が忙しくてやべーっすわ。立ち仕事で足ガガガガ
それと、月一か二更新頑張りまっす


 クランクの独房として宛てがわれた部屋にて、ミカエラは端末を片手に尋問のようなことをしていた。

 

「えーとー?情報を整理しますガ、先日の2度の戦闘はクーデリアさんの命を狙ったもノ。命令を出したのはギャラルホルン火星支部司令官のコーラル・コンラッド三佐・・・ デース?」

 

「そうだ。火星の独立運動の象徴的存在であるクーデリアを争いの火種になる危険人物として拘束するというのが名目だが、コーラルの様子からすると裏で何者かの意向を受けていたようだ」

 

「それはギャラルホルンの外部、コーラルの個人的な(つか)がりからデス?」

 

「ああ、コーラルは地球からの監査の前に今回の事を片付けたかったようだ。俺にも監査官が到着する前にクーデリアを捕らえ、CGSの人間を証拠隠滅の為1人残らず殲滅(せんめつ)しろと命令してきた。それに・・・ 焦っていたようだな」

 

「そこまで監査を気にするという事からしても、まともな作戦命令じゃありませんネ〜。それじゃああなた方はまるでコーラルの私兵じゃありませんカ?ギャラルホルンは秩序を守る為の公的な組織でショウ?」

 

「・・・その通りだ。地球からの目が届きにくい火星支部はその行動の全てがそうでは無いにしてもコーラルの私的な欲の為に動かされている、フッ、それなら私兵も同じか」

 

「アグニカが聞いたらブチ切れそうデスネ〜・・・」

 

「そのトーリ!そのトーリ!」

 

 呆れたようにミカエラは視線を宙へ向ける。

 秩序を守る組織と聞いて呆れる腐りっぷりだ。汚職に組織の金に手を出したり賄賂・・・ 叩けば叩くほど出てくる埃に笑いしか出てこない。

 

 まぁ、これはのちのち使えそうなためにミカエラは一応音声を別の通話と一緒に記録していると扉がノックされた。

 

「ハーイ。どなたデース?」

 

「だ、ダンジっす!MS(モビルスーツ)の修理でミカエラさんに聞きたいことがあるっておやっさんが呼んでました」

 

「あー、わかりましタ。そうですネェ・・・ ダンジくんでしたっケ?」

 

「うっす!」

 

「この人の監視お願い出来マス?」

 

「任せた!任せた!」

 

「りょ、了解しました!」

 

 顔を赤くして敬礼するダンジにミカエラはにこりと微笑み、ハロを抱きその場をまかせ軽やかに歩き出した。

 

 そして、ミカエラが部屋から出ていき少しからしてクランクは口を開いた。

 

「本当に・・・ 子供だけなのだな」

 

「まあ、大人って言ったらおやっさんに会計のおっさん、トドの三人だかんなあ・・・。一番上だって十六とか十七だし」

 

「君たちは無理やり戦わされてはいないのか?」

 

「アンタ達ギャラルホルンが攻撃して来るまではそうだったよ。1軍の大人達に毎日コキ使われてつまんねえことで殴られて、使い捨ての道具扱いでさ・・・ 唯一まともに扱ってくれたのはおやっさんだけなんだよ。ほかの連中はあんたらが来たら俺たちを囮にして一目散に逃げていっちまったし。まぁ、ミカエラさんや三日月さんのお陰であんまり死んだ連中がいなくて助かったけどさ」

 

「そうか・・・ だが、俺たちのことは憎くないのか?」

 

「そりゃあ何で殺そうとしてきたやつを基地に置いておくなんて理解できないけど・・・ あんたはミカエラさんとしか戦ってないんだろ?なら1人も殺してないってことだしあんまし憎いとかいうのはないよ。あと、あんたは俺たちのことをまともに人間として扱ってくれるから寧ろ有難いよ」

 

「そうか・・・」

 

 〇

 

 整備工場では雪之丞たちがバルバトスや球体型のコクピットがむき出しのアンドロマリウス、グレイズの修理や整備を行っていた。

 グレイズの方はオーリス機がまだマシな状態のため、損傷の激しいクランクのグレイズからまだ使えそうなパーツをいくつか取り出して継ぎ合わせて、足りない部分は新たに製造して補っていた。

 そして、ミカエラは少年たちに指示やわからない所を教えたりしながら愛機の破損した部分を修繕していた。

 

「ふーむ・・・ ここら辺は削ったり、溶接したりすればどうにか出来そうですネェ」

 

 ボロボロの装甲は既に外され、フレームが剥き出しの状態のアンドロマリウスを見ながら破損して使えなさそうなパーツをいくつか見繕いそれを修復して組み込んでいく。

 そして、グレイズのジャンクパーツから抜き取った部品で修理しているとオルガとビスケットが様子を見に来た。オルガがバルバトスのコックピットを手入れしていた三日月に声を掛ける。

 

「ミカァ!どうだー、調子は!?」

 

「うーん、いいんじゃないの。多分」

 

「多分って・・・」

 

 ビスケットが宙へと指をさして雪之丞に状態を訪ねる。

 

宇宙(うえ)に持っていけそうですか?」

 

「さあなあ」

 

「え、ええ~?」

 

「俺ぁなあ元々MW(モビルワーカー)専門なんだぞ。しかもコイツと嬢ちゃんのは何百年も前、厄祭戦の時の機体ときやがる。いくら嬢ちゃんの指示があっても新しい分まだアッチの方がマシだな」

 

 そう言っておやっさんはヤマギが作業中のグレイズを指差した。

 

「そう言わねえで頼むぜおやっさん」

 

「まあ、やれるだけの事ぁやるがよ・・・。って嬢ちゃん何してんだ?」

 

「使えそうなパーツを見繕ってマース。アンドロマリウス(この子)の左腕をどうにか出来ないかと思ってるんですけどネェ〜。あ、これ使えそうデース」

 

「って、そりゃあ戦利品のじゃねえか!?」

 

「べつに構わないでショウ?いろいろと勝手に調べましたケド、カタギな場所じゃこれらは捌けないデショウシ」

 

「だからってなぁ・・・」

 

 そんなこんなで、どうにか左の破損箇所の修復と駆動系の応急処置を終えボロボロだった装甲も品質は低いがきちんとした装甲に換装をし終えた頃に昼食時になり食堂で昼食をとることにした。

 

「あんまり美味しくないですねぇ〜・・・」

 

 といっても既に5杯目のお代わりをしており、まだまだ食べようとしていた頃。

 

「ねぇ、出かけるんだけどあんたもどう?」

 

 三日月がミカエラにそのように声をかけてきた。

 

「? 別に構いませんヨー」

 

「そう」

 



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「おー、トウモロコシが沢山デース」

 

「タクサン!タクサン!」

 

 広い畑の中、車から降りたミカエラは目の前の光景を見てそんな感想を漏らしハロも同じように続ける。

 

「来たね」

 

「?」

 

「誰だ?誰だ?」

 

 すると、どこからともなく目付きが鋭い腰の曲がった老婆がやってきた。

 そして、三日月がその老婆に気がつくと嬉しそうに声を出した。

 

「サクラちゃん」

 

「これで全部かい?」

 

 サクラと呼ばれた老婆はその場の面々をみる。

 

「うん」

 

「そうかい。んじゃ、始めるよ準備しな」

 

「うん」

 

「なにをするデース?」

 

「収穫だよミカエラさん。じゃあ、着替えを用意してますんで・・・」

 

「なるデーす」

 

 ビスケットにいわれ、ミカエラは頷きクーデリアやフミタンと共に案内された。

 といっても、ミカエラは特に着替えることは無くパイロットスーツの上にジャケットを羽織った程度だが。

 

「んしょット」

 

「収穫、収穫!」

 

 茎からもいだトウモロコシをハロが器用に頭部に載せたカゴへと放り込み、次々収穫していく。

 そして、離れたところで三日月とクーデリアがラブコメ的な感じになっている頃ミカエラは。

 

「それにしてもこのトウモロコシはどれも素晴らしい品質デース・・・ これを使って料理を作りたいデスネ」

 

 戦闘時以上に真剣な顔でトウモロコシ片手にそんなことを呟いていた。

 

「でしょでしょー?私たちが手伝ってるんだもん!」

 

「だもん!」

 

 背後からそんな声が聞こえてきた。振り返り、見てみると背丈と顔がそっくりな双子の少女がいた。

 

「? どなたデスカ」

 

「クッキーでーす!」

 

「クラッカーだよー!」

 

「ふむふむ・・・ お名前的にビスケットさんのご家族デス?」

 

「「そうだよ〜」」

 

 2人はそう言うと、ミカエラの前にはアトラをからかっていた話題よりも興味津々といった様子でミカエラの隣にいるハロをみる。

 

「ねーねー、この丸っこいのってなに?」

 

「うんうん。どうやって動いてるのー?」

 

「ミカエラってどんな人?」

 

「どうしてそんな格好なのー?」

 

「あ、そういえばトウモロコシってどんな料理作れるのー?」

 

「私も食べていい?」

 

「えーっトー・・・・」

 

 あまりの質問の速さにミカエラは言葉に詰まっていると、後ろからビスケットが少年兵の割に豊かな腹を揺らして走ってきた。

 

「あー、クッキー、クラッカー。ミカエラさんを困らせちゃダメだってー!ほら、新しい籠を持ってきてくれるかい?」

 

「うん!とってくる!」

 

「うん!取っちゃう取られちゃーう!」

 

 2人がそう言って行くのをビスケットが見送ると、申し訳なさそうにミカエラへ謝罪した。

 

「すみませんミカエラさん。うちの妹達が迷惑をかけて・・・」

 

「いえいえー、子供っていうのは無邪気でいいですからネェ。ところでビスケットさん・・・ ちょっとよろしいですカ?」

 

「は、はい?」

 

 ズズイっと顔を近づけ、真剣な声色にビスケットは思わず距離を取ってしまうが体格差などものともせずその両肩を掴まれ

 

「このトウモロコシ・・・・ 鉄華団で仕入れてはくれませんカ? このトウモロコシは料理すれば化けマス。ええ、この私が保証しマスッッ!!!! ですからだんちょーさんに一言ッッッ!!!!!」

 

「ひ、ヒィィィィイ!!?」

 

 血走った目のミカエラに詰め寄られたビスケットは悲鳴をあげる。

 そして、なにかの擦れる音と倒れる音がふたつ聞こえた。

 

「!」

 

 駆け足で向かい見てみると、そこには乗り上げた車と倒れたクッキーとクラッカーが。

 

「あ、おい!お前達だいじょ─── ガッ!?」

 

 そして、車から出た背の高い仕立てのいいスーツを着た男が2人に声をかけようとした瞬間に三日月はその男との体格差をものともせず片腕で首を絞めあげそれに、持ち上げていた。

 

「ガッア・・・ な、なにを・・・!?」

 

「ッ・・・!!」

 

 それを横目にミカエラが倒れた2人に近づき、起こして体を見てると外傷はなくせいぜい倒れちときに軽く擦りむいた程度だ。

 

「三日月さーん、この2人は平気ですヨ〜・・・ あらラ、聞いてませんネ〜」

 

「み、三日月!違うの!!」

 

「三日月ってば!」

 

「ガッ・・・・ アッ・・・ たす、け・・・・」

 

 さすがにそろそろ男が窒息死するか首の骨折れるかの瀬戸際になりそうだったので、ミカエラが止めようとすると。

 

「いい加減にせんか。この慌て者」

 

 と、サクラが三日月の後頭部をそういいながら小突いた。

 

「あ、サクラちゃん・・・」

 

 ようやく男の首から手を離し、三日月がサクラの名前を口にするとクッキーとクラッカーが少しだけ早口になりながら状況を説明した。

 

「わ、私たちが飛び出しちゃって」

 

「あの車が避けてくれたの!」

 

「いやー、あと少しでその人殺しそうでしたよーマジテデ」

 

「マジで!マジで!」

 

「え?」

 

 咳き込む男を指さしながらミカエラはいい、ハロがそばでぴょんぴょん跳ねながら同じこと言う。

 自分のやったことが思い違いからだったのか、三日月はそんな声を出した。

 

「こちらも不注意だった。謝罪しよう」

 

 そして車の影から同じように仕立てのいいスーツを着た金髪の男が出てきた。

 こちらも三日月が殺しかけた男のようにスタイルがいいのに、何故かどことなく幼い少女が好きというか誰かのファンすぎてこう・・・ 残念な感じがするのをミカエラは思った。

 

「いえいえー、むしろこちら側が謝罪する側じゃありまセン?あのひと死にかけましたシ」

 

「おーい!クッキー!クラッカー!」

 

「何があったの三日月、ミカエラさん!?それに大丈夫クッキー、クラッカーは!?」

 

 すると、ビスケットとアトラも慌てた様子でやってきたためミカエラは両手をやれやれと言った様子で広げ説明した。

 

「えー、このお二人が飛び出して間一髪車にぶつかりそうなところをこの方たちが避けたのはいいんですが、三日月くんが早とちりしてコーナっちゃいましタ」

 

「えっと・・・ じゃあ俺・・・」

 

「まったく。カッとなるとすぐこれだ。気をつけな」

 

「あ、ごめんサクラちゃん」

 

「謝る相手が違うだろ。まったく・・・」

 

「ですネェ〜」

 

「違う、違う」

 

 サクラに言われ、三日月は男ふたりに頭を下げる。

 

「あのすみませんでした」

 

「私からもこのとーリ」

 

「許せ!許せ!」

 

 だが、案の定首を絞められたオトコは許す訳もなく。

 

「なにがすみませんだ・・・ このッ!!」

 

「ガエリオ──」

 

 ガエリオと呼ばれた男の勢いよく拳を振りおろすが、三日月は簡単にそれを避ける。そして、その時に2人は三日月の首筋に生えている三本の阿頼耶識のピアスを見てしまった。

 

「・・・オイ、貴様。その背中のはなんだ?」

 

 ガエリオは戸惑いの声を滲ませ、尋ねると金髪の男が腕を組み呟く。

 

「・・・・・阿頼耶識システム」

 

「阿頼耶識?」

 

「人の体に埋め込むタイプの有機デバイスシステム・・・だったかな。・・・未だに使われているのは聞いたことはあったが」

 

「体に異物を埋め込むなんて・・・ うっぷ───」

 

 金髪の説明に、ガエリオは隠そうともせずに顔を顰めると口元を抑え車の後ろ側へ行ってしまった。

 

「(何気に失礼なヤツですネ。こんにゃろウ)」

 

 その後ろ姿をニコニコとミカエラは見つめるが、割とイラッときていたりしたが声には出すのは我慢した。

 それと、ガエリオを見送ると金髪の男はクッキー、クラッカー、アトラの元へ近づくと懐から包装された菓子を差し出して口を開いた。

 

「あの───」

 

「怖い思いをさせてすまなかったね。こんなものしかないがお詫びの印に受け取ってもらえないだろうか?」

 

 やはり子供か、クッキーとクラッカはそのお菓子を見て直ぐに顔をほころばせた。

 

「ありがとう」「ございます!」

 

「ど、どうも」

 

「念の為医者に見せるといい。ギャラルホルン火星支部まで連絡をくれたまえ」

 

 一旦区切り、金髪の男は振り返ると続けた。

 

「私の名前は。"マクギリス・ファリド"だ」

 

「・・・・ッ!」

 

 その名前を聞き、ミカエラは僅かに目を見開いた。

 まさか、こんな直ぐに出会えると運命の悪戯に思わず口角がつり上がってしまう。

 

「ところで、聞きたいことがあるのだがいいかね?」

 

「な、なんでしょう?」

 

 すると、マクギリスはビスケットに声をかける。

 

「この付近で戦闘があったようなのだが。なにか気づいたことはあるか?」

 

「そ、そういえば2、3日前にどんパチやってる音が聞こえたような・・・ネ?」

 

 素早くビスケットは三日月とミカエラに目配せをし、2人は僅かに頷いた。

 

「だけど、近くに民兵の組織があるからそこの訓練かなって?ねぇ二人とも」

 

「うん」

 

「デスデス」

 

「なるほど・・・ ご協力感謝する。・・・君」

 

「ん?」

 

 マクギリスはビスケットから視線を外すと、三日月にその視線を向ける。

 

「見事な動きだった。なにか訓練でも?」

 

「・・・まぁ、色々と」

 

「そうか・・・ いい戦士になるな」

 

「・・・・・」

 

 

 ギャラルホルンが走り去っていくのを見送りつつ、ミカエラは獰猛に笑った。

 

「フフッ・・・ まさかこんなに早く彼らの子孫に会えるなんて素晴らしい偶然デス。無神論者ですがこれは神サマの思し召しってヤツデス?」

 

「感謝!感謝!」

 

「嗚呼・・・・ 早く戦いたいデスネェ・・・・ そうでしょウ?アンドロマリウス」

 

 首筋を撫で、ミカエラは熱を孕んだ声で呟いた。

 

 〇

 

「農場にいた男の証言通り、あの近くにはCGSという民兵組織が存在していた」

 

「・・・存在していた?」

 

「経営者が変わり、社名も変更になっている新しい名前は鉄華団だ。だが、それよりも気になる情報がある」

 

「そうなのか?」

 

 火星の荒地を走る車の中、マクギリスとガエリオは話していた。

 

「その数日前にその付近にとある隕石が落下しているという記録があってな。そして、それにはとある物体があった」

 

「壊れたMSか・・・」

 

 荒い画像の添付されたファイルを横目にマクギリスは目を細め、噛み締めるように呟いた。

 

「・・・ガンダム」



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 数日ほど経ち、鉄華団の面々は宇宙へと上がったシャトルの中へいた。

 少年たちが楽しそうにシャトルの窓から外の景色を見て騒いでいると。

 

「あ。あれがオルクスの船じゃないですか?」

 

 ほら、あそこあそこ! とタカキが指をさし。誰もが船窓を覗き込むと、オルクス商会の強襲装甲艦が小さくその姿を現していた。

 

「予定より少し早いな。 ……ん?」

 

 その姿を見て、オルガは怪訝そうな顔をする。

 オルクス商会の船の端で何かが輝く。

 艦船に比して小さな機体のスラスターの光だと、その時気づかない者はいない。そしてその姿が大きくなるにつれて面々は顔を青ざめさせた。

 

「あれは…………!」

 

「ギャラルホルンのモビルスーツ!?」

 

「お、おい…………。その奥にもまだ何かいるぞ!?」

 

「何ィっ!?」

 

 オルクス商会の船が移動を始めた。まるでこちらの頭を押さえようとするかのように。

 

 そしてその背後に視線を移せばギャラルホルンの軍艦2隻と、さらにモビルスーツの影があり益々少年たちが顔を青ざめさせる。

 

 そして、彼らがシャトルでそんなことをやっている頃の鉄華団が保有する強襲装甲艦"ウィル・オー・ザ・ウィスプ"改め"イサリビ"に格納されちいるアンドロマリウスのコクピット内で首筋のコネクタを接続し、ミカエラはシートに背中を預けて膝を抱え丸まっていた。

 

「嗚呼、もう少しで沢山殺せる(食べれる)んダ…… うん。わかってるヨ食べ残しはダメだもんネ。うん、うん。ちゃんと殺さなきゃ利用価値を示さなきゃあの時のパパみたいに捨てられちゃうもン。だからいっぱいいっぱいいっぱい殺さなきゃ…… そうでしょウ? "アグニカ"」

 

 目の焦点はどこにも定めておらず、独り言を呟き続けるミカエラはゆっくりとその手で操縦桿を握る。

 

 出撃の準備は既に完了している。あとは命令を待つだけだ。

 

『ミカエラ、シャトルはもうすぐで合流出来る。先行は頼めるか? シャトルは俺がやっておく』

 

「……了解」

 

 昭弘との通信を短く終え、ヘルメットのバイザーを下ろす。

 そして、イサリビの艦体下部カタパルトデッキが展開。ハッチが開き宇宙空間がポッカリとその姿を現す。

 カタパルトに寝そべった状態で固定されたリベルタスパッケージの外されたアンドロマリウスは出撃の時を待つ。

 

『よしッ。いいぞミカエラ!』

 

「ガンダムアンドロマリウス、ミカエラ・カイエル。敵を鏖殺しまス」

 

 カタパルトが凄まじい勢いで打ち出され、アンドロマリウスの巨体が瞬間的に猛加速し宇宙空間へと射出される。続けて、

 

『バックパック、出すぞ!』

 

 その後に飛行形態へと可変していたリベルタスパッケージもカタパルトから射出されまっすぐにアンドロマリウスへと飛んでいく。

 

「レーザー誘導問題なし、エイハブリアクター同調率誤差許容範囲。各種システムオールグリーン」

 

 2枚の主翼が変形し、下部にランディングギアとして使用されていたパーツとバルカンが分離、それぞれサイドアーマー、腕部に装着される。

 そして主翼根元部分が曲がると翼状に変化し、バックパック本体がアンドロマリウスの背部へとレーザー誘導で接続された。

 

《CODE:REBERTAS ANDROMALIUS》

 

 そのような文がディスプレイから左から流れていき、アンドロマリウスの双眸が強く発光する。

 

 そのままスラスターの推力を全開にし、一瞬で最高速度へとなり翼ともいえる光を放ち、シャトルのいるであろう地点へ飛び立つ。今か今かと獲物を前にした猛獣のように……



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7月分デースデス!


「入港はいい! 加速して振り切れ!!」

 

「は、はいィィイ!!」

 

 シャトルのコクピットでシノとユージンの2人がトドをボコボコにしてる横でオルガがパイロットに叫び、パイロットは情けない叫び声を上げすかさずスロットルレバーを押し込む。

 

 低軌道ステーションへの入港準備のためシャトルは緩やかな減速の最中にあったが、このままでは追いつかれて撃墜される。

 だが加速した所で…………モビルスーツの速度に叶うはずもない。

 

 シャトル内に微かに衝撃が走る。

 ビスケットたちがシャトルの窓際を見ると、顔を更に真っ青にさせる。

 

「囲まれてるっ!」

 

「モビルスーツから有線通信! 『クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡せ』 ……とか言ってますけどぉ!?」

 

 パイロットの絶叫の後、一瞬、誰もの視線がクーデリアただ一人に集中した。

 

 ユージンに後ろ髪掴まれたトドが必死に抵抗しながら

 

「さ…………差し出せェっ!! そうすりゃ、俺たちの命までは取らねえだろ!?」

 

「てめぇは黙ってろ!」

 

「ほかに助かる手があるってのかよオ!?」

 

「ぐ…………それは……!」

 

「どうすんだ…………オルガ!」

 

 2人から催促され、オルガはトドを冷めた目で見下ろしたまま口を開かない。

 シャトル内にいる面々が顔を見合せたりしているがいい解決案など出るわけがなく

 

 そして、クーデリアがさっと前に出た。

 

「私を差し出してください!」

 

「それはナシだ」

 

 にべもなくその提案を切られ、クーデリアはなお食い下がろうとするがオルガは「俺らの"筋"が通らねぇ」と突っぱねる。

 

「バカかッ! 状況をか──」

 

「うっせぇ!」

 

「ギャヒッ!?」

 

 喚こうとし殴られたトドから視線を外し、ビスケットへ視線を向ける。

 その視線にビスケットはこれから来るであろう命令に備え、扉の端末に手を添えていた。

 

「ビスケット!」

 

「了解! ……行くよ三日月!」

 

「「何!?」」と思わずユージンとシノが、

 

「「三日月?」」とクーデリアとアトラの声が重なり、二人は顔を見合わせる。

 

「い、一体…………」

 

「何を!?」とダンジとタカキも驚きを抑えきれなかった。

 

 オルガは不敵に口角を釣りあげ、何かが打ち出され貫く衝撃が走る。

 そして、シャトル上部にコクピット部分を貫かれ機能を停止し漂流する"グレイズ"と飛翔する"バルバトス"。

 

『多分、トドさんが仲介してくれたトコはギャラルホルンに私たちを売りますヨ。これ証拠デース』

 

 ついこの前にオルガはミカエラからオルクス商会とギャラルホルンのどうやって手に入れたかわからない密談の録音データを渡してきていたのだ。

 これによりオルガは三日月をコックピットに待機させ、機体を出撃可能状態に置いていたのだ。

 

 カーゴデッキからばら撒かれたスモークによって気を取られた先の"グレイズ"は、次の瞬間突き付けられた"バルバトス"の滑腔砲に為す術も無くコックピットをぶち抜かれ、突き刺さった通信ケーブルを支点に力なく漂流していく。

 

 突然シャトルから現れた"バルバトス"の姿に、混乱したギャラルホルンのモビルスーツ部隊は、距離を取って応戦し始めた。

 

 さらにコックピットの船窓越し。迫るもう1機の白いMSを見てオルガは笑う。

 

 ───来たか、ミカエラ! 

 

 

 

「まずは…… いっぴぃィィキ!!」

 

 フットペダルを限界まで押し込み、もはや流星と見間違うほどの光を放出させ複数のうちの1機に狙いを定め、"アンドロマリウス"を"グレイズ"へと勢いを乗せた飛び蹴りを放つ。

 

 踵部のパイルバンカーが射出し、蹴りとその一撃は容易く"グレイズ"の頭部ごとコクピット部分諸共ひしゃげさせ、ソレを足場に隣にいた1機へと飛びかかる。

 

 無論"グレイズ"もライフルから弾丸をばらまき応戦するが、最小のスラスター可動で弾丸を避け同じように、コクピット周辺の装甲を右腕のVN(バイブレーションネイル)で粉砕し、露出したコクピットを握りつぶす。

 

「……遅い、鈍い、弱い、温いッ! この程度でMSに乗ってんじゃねぇぞクソガァ!!」

 

 この程度の奇襲に対応出来ず、簡単にやられた"グレイズ"2機にミカエラはそう吐き捨てる。

 この程度では全く満足できないと表すように、何度もVNを動かなくなった"グレイズ"へと叩きつけた。

 

 その背後ではバルバトスが回収したバトルアックスでワイヤーを叩き切り、ミカエラは無言でリアアーマーへマウントしていたメイスを三日月のバルバトスへ投げ渡す。

 三日月はソレを受け取り、互いに目配せし目標を定め飛び立つ。

 

「…………」

 

 ミカエラは裏切り者(オルクス商会)の船へ視線を固定させると、一気に加速した。

 

 

 

『……目標の確保、失敗したようです』

 

 部下からの報告に支部長ながら自らも前線にでてきたコーラルは一瞬ピクリと眉を震わせるが、すぐに下卑た笑みを浮かべた。

 

「クーデリアがそこにいるならいい」

 

 護衛がいるというのならそこにいるといっているようなものであり、彼女を捕えるなり殺せば今迄の損失を補填し更にプラスとなるほどの金がノブリスから手に入る。

 

 コーラルは乗機の "グレイズ" のスラスターを吹かし、前進させるとその手に持つライフルの照準をシャトルへ合わせる。

 

『コーラル司令ッ! ファリド特務三佐から"殺すな"という指示が!!』

 

 部下からの通信に、コーラルは青筋をたて怒鳴り散らす。

 

「貴様の上官は、いつからあの青二才になった!? 構わん!! ファリドが来る前に船ごと、ぐわっ!?」

 

『こ、コーラル司令!?』

 

 コーラルが言い終わる前に三日月の乗るバルバトスが打ち出した滑腔砲の砲弾がコーラル機に当たり、体勢を崩す。

 だが、司令となる前まではいちパイロットとしてそれなりに活躍してたコーラルは前線から退いていても直ぐに体勢を立て直す。

 

「くっ、あいつから始末しろ!!」

 

「よし、こっちに来い」

 

 コーラルと部下の "グレイズ" が三日月のバルバトスを狙いに定めシャトルから離れる。

 それを見てニヤリとオルクスは笑う。

 

「クックック、モビルスーツ隊は敵に釣られたか。よし、こちらで船を沈めるぞ。コーラルに恩を売るいい機会だ!」

 

 ドカドカと民間用シャトルからしたらオーバーキル気味な砲弾を打ち出す。

 

「引導を渡してや…… んなぁっ!!?」

 

「無駄ダ」

 

 だが、その砲弾全てはミカエラのアンドロマリウスから射出されたウィングブレードが全て弾き飛ばした。

 

 さらに今度は船内に衝撃が走る。

 

「な、何が起きたァ!?」

 

「ほ、砲門が全て破壊されています!! というか次々船体にダメージが!」

 

 スラスターを稼働させ、オルクスの船全体を縦横無尽にかけまわりオルクスの船を少しずつ破壊していく。

 そして推進部をレール砲で破壊し、完全に動きを停止させた。

 

『死ね』

 

 短くミカエラは言葉を紡ぎ、ブリッジ全体にウィングブレード全てを突き刺す。

 ウィングブレードの餌食になった艦は小爆発を起こし、オルクスやほかの船員諸共爆散するという呆気ない幕引きであった。

 

「次はアッチだナァ」

 

 三日月が気を引いているコーラルたちのMS隊の後方にいるギャラルホルンの戦艦へ狙いを定める。

 



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拾壱

ハッハッハ、なんかめっちゃ更新止まっててスンマセン!
ほんと、社会人になってモチベやらなんやらが彼方に消し飛んでました・・・
ホント、すいませんした!!

追記、ミカエラの年齢を19歳に変更しました


 後方、ミカエラとは別行動でコーラル含む"グレイズ"たちと対峙する三日月の"バルバトス"と昭弘の"グレイズ改"

 

 だが、阿頼耶識と三日月自身の天才的な勘というアドバンテージによりものの数分でコーラル機含めたMSたちは物言わぬ鉄塊へと変貌していた。

 

「これで最後」

 

 最後の一機へと握るメイスを振り落とそうとした瞬間、三日月は”バルバトス”のスラスターを吹かし、緊急回避を行う。

 すぐ後に"バルバトス"のいた場所にライフルの弾丸が通り過ぎ、三日月は乱入者へとカメラを向ける。

 

「フン、コーラルめ。 我々を出し抜こうとしてこのザマか」

 

 そこには装甲を紫色に塗装された、グレイズとは違うエース専用機"シュバルベ・グレイズ"を操る"ガエリオ・ボードウィン"が静かに"バルバトス"を見下ろしていた。

 

 

 

 

「ボードウィン特務三佐会敵しました!」

 

 戦場からは離れた位置に鎮座するギャラルホルンの宇宙船のブリッジの中、指揮官のマクギリス・ファリド特務三佐は今しがた出撃していった同僚であり盟友のガエリオ・ボードウィンの"シュバルベ・グレイズ"の見慣れぬ白いMSとの戦闘を見守っていた。

 そして、民間の宇宙船を単機で迎撃している隻腕のMSはギャラルホルンや民間でも見ない機体だ。

 

「……見ない機体だ。 照合を頼めるか? あの二機ともだ」

 

「距離はありますが、どちらもエイハブ・リアクターの固有周波数は拾えています。 ……データベース照合中…… 出ました!」

 

 オペレーターの手元のモニターにギャラルホルンの膨大な機体データから2機のデータが表示され、オペレーターはそれを見て困惑の声を漏らす。

 

 

【GUNDAM BARBATOS】

 

【GUNDAM ANDROMALIUS】

 

 

「"ガンダム・フレーム"…… だと?」

 

「個体コードは"バルバトス"と"アンドロマリウス"です。 マッチングエラーでしょうか…… 厄災戦当時の古い機体ですよ?」

 

 オペレーターの言葉に、「いや……」とマクギリスは静かに笑みを浮かべた。

 

「必然かもしれないな。その名を冠する機体は、幾度となく歴史の節目に姿を現し人類史に多大な影響を与えてきた。

 火星の独立を謳うクーデリア・藍那・バーンスタインが、それを従えているのだ。

 それに…… かの"英雄(アグニカ)の姫君"が搭乗していた機体もいるとはな」

 

 少しの間、ガエリオの"シュバルベ"と三日月の"バルバトス"の戦闘を見守っていたが、「……フッ」と笑いかけると。

 

「船を任せるぞ。 ……私も出る」

 

 マクギリスは近くの部下にそういうと、自身の機体のある格納庫へと向かう。

 この船にはガエリオ機の他に、もう1機の青色の"シュバルベ"がいた。

 手早くパイロットスーツに着替えると、コクピットに飛び乗る。

 そして、船のカタパルトハッチが解放し無数の星々がモニターへと映りこんだ。

 

「マクギリス・ファリド、"シュバルベ・グレイズ"…… 出るぞ」

 

 マクギリスの駆る"シュバルベ"は宇宙空間へと飛び出し、ハーフビーク級の護衛に着いていた"グレイズ"を伴い火星軌道上への戦線へ向かうため、そのスラスターを光らせる。

 

 

 〇

 

 

「ひぃ!? く、来るなぁ!!」

 

「おい! 無闇矢鱈にばら撒くな!!」

 

「なんで片腕なのにそんなに動けるんだよォ!?」

 

「お前ら! そんなバラバラに───キュガッ!! ──ゲペッ!?」

 

 コーラルの乗っていたハーフビーク級の護衛に着いていた"グレイズ"たちを難なく処理し、ミカエラはその残骸には一瞥もくれず、すぐ目と鼻の先にいるハーフビーク級のブリッジへと"アンドロマリウス"を着地させる。

 背部のユニットからウィングブレードを射出し、その切っ先をブリッジのガラス部分へ突きつけミカエラは接触回線で語りかけた。

 

「要求はひとつ。 全員その船から降りなさい。 リミットはそうですねェ………… 30分程度デスかね〜」

 

 その通信内容に、ブリッジ内の船員はバタバタと慌ただしく動くと、恐らく艦長と思える人物がその通信に応じた。

 

 ハーフビーク級の艦長は目の前の存在を敵にしたおのれの上官たちに恨み言を吐き捨てる。

 滅茶苦茶な要求だ。 だが、もし抵抗してしまえば目の前の存在はなんの躊躇いもなく蹂躙するだろう。

 交渉して時間を引き延ばそうが、30分程度では支部からの応援なぞ望めるはずがない。

 

 ならば、選べることは一つだけだ。 酷く乾いた喉から絞り出すよう、艦長は声を出した。

 

『こ、降参だ。 そちらの指示に従おう。 頼むから、殺さないでくれ』

 

「ん〜…… 言ってることよく分かりませんネー。 私は"降りろ"と言ってるんですガ?」

 

 コツコツと苛立たしげにウィングブレードが器用にガラスを小突き、その音に船員たちの寿命が縮むような感覚に陥る。

 

『わ、わかった! 早急に退艦指示をだす!』

 

「んっん〜♪ 理解の速い人は好きデス」

 

 作業は粛々と行われ、船員たちは全て脱出艇に我先にと乗り込みミカエラはそれを見送り、すぐ近くにいたオルクスの船の生き残りの船に命令を出した。

 

「そこの船〜、そこら辺に浮いてるMSを全て格納なさイ。 それが終わったら、ワイヤーでこの船と連結をすること。 そして、変なことをしないで手早く船から降りなサイ。 OK?」

 

 これまた粛々と行われ、オルクスの船はブリッジが破壊されたために、ギャラルホルンの船で牽引する形で持っていくことにした。

 

 そして、ミカエラはハロとハーフビーク級を無線で繋ぎ、オーオパイロットシステムに即席で作った航路指示データを仕込み、三日月たちと合流をしようとした時にソレは来た。

 

 まず最初のものは複数の死角からの銃撃。

 だが、それはウィングブレードで全て弾いた事で防ぎ切る。

 続けてこちらへと突撃してきた、シルエットは違うがら青色の"グレイズ"の斧による一撃を回収していた、同型の斧で受け止める。

 

 膨大な火花が接触点から飛び散り、衝撃により"アンドロマリウス"が船体から叩き落とされる。

 

「チィ!!」

 

 舌を打ち、姿勢を整えミカエラは突然の襲撃者を睨みつける。

 マクギリス・ファリドが駆る青い"シュバルベ・グレイズ"はそのコクピットの中で、涼し気な笑みを浮かべミカエラの"アンドロマリウス"と対峙する。

 

「『ッ!』」

 

 対峙は一瞬、スラスターウィングを全開にし光の翼を展開して"シュバルベ"へ突撃する"アンドロマリウス"。

 各部の大型スラスターを全開にし、急降下する燕のごとく飛来した"シュバルべ・グレイズ"。

 斧と銃剣がぶつかり、大きな火花を散らし衝撃波を放ち周辺のデブリが吹き飛ばされる。

 超高速の螺旋を描き、ぶつかり合いその度に暗い宇宙に小さな瞬きを作り出す。

 

『凄まじい! そんな機体でここまで追いすがるとは予想外だ!!』

 

「私のアンドロマリウスがこの程度デ!!」

 

 ウィングブレードを射出し、"シュバルベ"へとその切っ先を放つ。

 マクギリスはかわそうとしたが、生き物のようにうねるブレードはかわしきれず背部スラスターの1部とライフルごとマニュピレーターを持っていかれてしまった。

 

「姿勢制御プログラム特有の回避パターンは出ない……

 素晴らしい…… やはりパイロットの技量か……

 まるで生身のような重心制御が、回避動作を最小限に留めている……

 空間認識能力の拡大を謳ったものだったか…… 阿頼耶識システムとは」

 

 切り結んで理解した。 目の前の機体はこうして自分がどうにかついていけてはいるが、もし両腕が健在ならばここまで食らいつけないだろう。

 マクギリス・ファリドはそこまで理解すると、笑みを浮かべオープンチャンネルを開く。

 

「そこのガンダムのパイロット。 名前はなんと言うんだい?」

 

『…………突然なんデス? それと、この声は……』

 

 不機嫌といった様子を隠そうともしない少女の声にマクギリスは僅かに目を見開く。

 

「その声は…… あの時の農場にいた…… これは驚いたな。 いや、これもまた必然か……」

 

「何をぶつくさと──『ミカエラ! ずらかるぞ!! ミカを頼む!』ッ…… チッ! その首洗って待ってなサイ!! それと、私の名前は"ミカエラ・カイエル"デス! "マクギリス・ファリド"! その首洗って待ってなサイ!!」

 

 オルガからの通信に、ミカエラは盛大に舌を打ち最後にマクギリスの"シュバルベ"を一瞥し、その場で方向を変え火星の重力に囚われかかった"バルバトス"の救出へと向かう。

 

 

 〇

 

 

「大丈夫か、ガエリオ?」

 

 ゆっくりと降下し、マクギリスは火星の重力に囚われるギリギリの高度にいたガエリオ機へと近づく。

 

『クッ、かすり傷だ。 あいつは!?』

 

 視線の先には火星へと落下していく"バルバトス"とそれを追随する"アンドロマリウス"。

 その時、視界を巨大なナニかが遮ったかと思うと次の瞬間には2機はいなかった。 どうやら、こちらの追撃をかわした強襲装甲艦らしい。

 それに着艦した2機と、船を追撃をしようにもこちら側の被害は大きくコーラルの戦死。 グレイズの半数以上の撃墜、並びに鹵獲されマクギリス、並びにガエリオ機の損傷。その上ハーフビーク級すら持っていかれる始末だ。

 

『クソ、こっぴどくやられたな………… マクギリス。 …………マクギリス? どうした、どこか打ったのか?』

 

「…………いや、すこし衝撃的な出会いがあってな」

 

『……?』

 

 モニターの奥で首を傾げるガエリオに気づかず、ガエリオはその名を静かにつぶやく。

 

「ミカエラ…… カイエル(・・・・)

 

 自分が憧れた英雄と同じ姓を持つ少女。

 御伽噺にいた人物と同じ名前と同じ機体。

 その事実にマクギリスの心は熱く、激しく燃え上がる。

 

「クハハ、クハハハハハハ!!!!」

 

 子供の頃、夢にまで思ったかの人物との邂逅をまさか、こんな辺境の星でできるとは思えずマクギリスはひたすらに歓喜の笑いをあげる。

 あまつさえ、彼女に自分の命を狙われたという事実に目頭が熱くなり、もう一度。 もう一度彼女と出会い、話し、当時の話を聞きたいと思った。

 

「アア、俺は! 俺は彼女と! 数刻の間とはいえ切り結び、言葉を交わし、彼女の記憶に刻み込んだ!! 今日はなんて最高の日なんだ!!!」

 

 

 〇

 

 

 ミカエラは誰もいなくなったギャラルホルンのハーフビーク級の中へアンドロマリウスを乗せ、無人だが予め航路を仕込みオートで進むようにした船の艦長席へその身を預けた。

 

「あ〜…… 今日は疲れましたネェ。 まったく、あの変態には面倒デス!」

 

「オツカレ! オツカレ!」

 

「ありがとデス。ハロ」

 

 ハロが器用に頭に乗せたトレーから冷たいスポーツドリンクを受け取り、喉を潤わせつつ自分の略奪した物品へと目を通す。

 

 ────────────────―────────

 ・オルクス商会の船(ブリッジ損傷)

 

 ・ハーフビーク級(無傷)

 

 ・2隻の内部の設備、物資、情報全て

 

 ・グレイズ18機(内、半数が"胸部周辺の損傷")

 

 ─────────────────────────

 

「『奪えるものは奪っておけ』でしたッケ? アグニカ……」

 

 誰もいないことをいいことに、裸と言っても差し支えない姿でミカエラは笑みを深める。

 

「さ〜てと…… 楽しみデ〜ス」

 

 次の戦いはどんなことになるか、と無邪気な笑みとは裏腹にどこまでも物騒なことへ思いをめぐらせミカエラは目を閉じた。

 

「あ、でもあのマクギリス(変態)には会いたくないデース!!」

 

「ソノトーリ! ソノトーリ!」




ハイ!久しぶりなんでもうキャラとかどんな感じだったかガバガバっすね!
申し訳ねぇ!!


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拾弐

はい、実質新年1度目の投稿!
前回のはちまちま書いてたヤツをやったのから実質ノーカン!!
ということでね!少しづつ投稿していきますからねー!今回はまぁ日常的な?平和パートです。
ではドゾー(*゚-゚)っ


 火星軌道上での戦闘の後、幸いなことにギャラルホルンからの追撃はなかった。

 おそらく、コーラルの不祥事や戦闘での損害の後始末や部隊の再編といったことでそれどころでは無いのだろう。

 

「ミカエラさーん、装甲の補強ってモビルワーカーと同じでいいの?」

 

「ダメに決まってますヨ? それと、このマニュアル通りにやって下さいネ。 といっても、基本は鹵獲した"グレイズ"のを切った貼ったデスがネー」

 

「ミカエラさーん! リアクター周りのチェックもー!!」

 

「ハーイ! いまアンドロマリウス(この子)のリアクターのハロから整備マニュアル出すので参考にやってくだサーイ」

 

「わかりました!」

 

「キチントナ! キチントナ!」

 

 "バルバトス"や"アンドロマリウス"といったMSのいる格納デッキにて、ミカエラは"バルバトス"の胸部に取り付いているヤマギにハロを流す。

 しばらく遊泳した後にきちんとハロが受け取られたのを確認し、ミカエラは少年たちの感謝の言葉にヒラヒラと手を振りながら作業へと戻る。

 

 その光景を見て雪之丞は。

 

「あ〜、やっぱしあの嬢ちゃんのおかげで大助かりだなぁ。 こちとらMW専門だからMSは門外漢だし、MSを触るなんざガキの頃以来だからな」

 

「このモビルスーツって大昔に造られたんでしょ?」

 

 すると、無重力の中で浮遊しながらタカキが"バルバトス"を見上げる。

 それに雪之丞は相槌を打つ。

 

「昔も昔。 "厄祭戦"の頃の骨董品だ。 最も、ギャラルホルンが使ってるモビルスーツは大抵が骨董品だがな」

 

「"ヤクサイセン"って確か300年前の大きな戦争だっけ?」

 

「よく知ってんなぁ。 んで、300年も前に地球で起こったデカい戦争だが。話にゃ、それこそ地球をぶっ壊すぐらいの数のモビルスーツが、ドンパチやりあったそうだ」

 

 駆動系の整備を行いつつ、ミカエラはついでとばかりに雪之丞の説明に頬についたオイルぬぐいながら補足を行った。

 

「事の発端は細かくは覚えていませんが、効率よく人を殺すためにどこかの国が開発し、戦線に投入したモビルアーマーの暴走が大元デス。

 それで、この"バルバトス"や"アンドロマリウス"はその厄祭戦末期に建造された72機あるうちの一機デス。

 そして、″ガンダムフレーム″のその持ち味は専用設計による"ツインリアクターシステム"による大出力で、データを見る限りは現在の最新のモビルスーツにはパワーは負けてませんネー。

 更には、"ガンダムフレーム"のうちに後半に建造された子たちはその機体ごとに特徴とも言える武装をもっていて、私の"アンドロマリウス"の"ソロモンパッケージ"はいままでのガンダムたちのテクノロジー集大成ともいえて〜のって…… いっぺんに言っても分かりませんカネェ」

 

「ザンネン! ザンネン!」

 

 事実、先程までの説明に少年たちはポカーンとした様子で惚けていた。

 それに気まずくなったのかコホン、とミカエラは咳払いを1つし、ハロがパタパタとパーツを開いたり閉じたりする。

 

「やっぱし、嬢ちゃん本当に300年前に生きてたんだなぁ」

 

アンドロマリウス(この子)のおかげデス」

 

 そう言ってミカエラは愛機を見上げる。

 

「確か、"コールドスリープ"だったけ?」

 

 雪之丞の呟きに、ハイとミカエラは頷くがそれ以上語る気は無かったことを雪之丞は察したのか言及されることは無かった。

 

「(そういえば、今ごろオルガさんたちは今後を話し合ってるんですかネー)」

 

 ぼんやりと"イサリビ"のブリッジがある方向を見上げ、そんなことを思う。

 といっても、部外者の自分からしたらどうでもいいことだと結論づけ、作業へと意識を戻す。

 それからは順調に作業は進み、駆動系周りもだいぶ改善されてきた。

 だが本格的なオーバーホールは必要であり、いくらギャラルホルンから奪い取った設備があったとしても、やはりきちんとした施設を用いて整備、改修を行えば建造時ぐらいまでには性能を戻せるだろう。

 

 それに、

 

「(早くアンドロマリウス(この子)の片腕をどうにかしないとナァ)」

 

 今のところはどうにかなっているが、いままでの戦闘では所々に危険な場面があり、その都度に片腕があればと思った。

 

 もしこれ以上戦闘が激しくなれば、いくらアンドロマリウスとミカエラの技量があるといえど恐らく、難しいだろう。

 

「皆さーん、お疲れ様でーす」

 

 そんな時、アトラが三日月、クーデリアとともに格納庫へと入ってきた。

 その声に今まで顰め面だった雪之丞が、ようやく顔を緩まる。

 

「おーい! 区切りのいい所で飯にしようや!」

 

 思考が泥沼化していたミカエラはこの声にキリがいいし、作業を切り上げ3人の元へ向かう。

 

 他の面々もつられてわらわらと整備や雑用係の少年兵らが集まってくるが、その面々はまだ前線に立つことのできない、年端もいかない子供たちだ。

 

 アトラとクーデリアが、一人一人にお弁当を手渡ししていく。

 

「みんなの分もちゃんとあるから」

 

「ど、どうぞ」

 

 クーデリアから渡された弁当を少年のひとりが照れながら受け取る。

 どうやらアトラよりクーデリアが人気で、少年たちが彼女の周りに集まりちょっとした人だかりができていた。

 

「あ、ミカエラさんはコレですよ〜。 いっぱい食べるって聞いていたので沢山作りました!」

 

「ん、どーもデス」

 

 アトラから5個くらいの弁当の入った袋を渡され、ミカエラは受け取ると近くの手すりに腰を下ろし蓋を開くと、サンドイッチを摘み小さく齧る。

 

「……美味しい、デスネ」

 

 アトラの料理の腕はどうやらミカエラのお気に召したらしく、そのまますぐに平らげ彼女の評価を上げておく。

 そんなことをしている隣で、三日月が雪之丞を見上げて口を開く。

 

「俺もこっち、手伝おうか?」

 

「ああ、力仕事になったらな。今、細けぇ調整やってっからよ。オメー、字読めねえだろ?」

 

「そっか。分かった」

 

「三日月……あなた字が読めないの?」

 

「うん?」

 

「うん、って…………だって、こんな複雑そうな機械を動かしているのに?」

 

 クーデリアはそう言うと、三日月と"バルバトス"を交互に見やった。 それを見て、ミカエラは早くも3箱目に手をつけながら説明を行った。

 

「"阿頼耶識"というものは元々、訓練や学習といった手間やコストを掛けずに手っ取り早く戦力を手に入れるために開発されたものデス。 感覚的には体を動かすのと同じデス。 長く接続してシステムに体を慣らすか、或いはセンス、或いは肉体の鍛錬で……ハイ、歴戦のパイロットのかんせーい…… ってところデス」

 

「オテガルカンタン! オテガルカンタン!」

 

「……まぁ、こんな感じ? 字ぃ読んで動かすわけじゃないからね。 モビルワーカーとだいたい一緒だし…… あとは勘?」

 

「か、……勘?」

 

「そんなに驚くことかな?」

 

「少なくとも私の時代では無かったデスネ〜」

 

 三日月の言葉に肯定し、ミカエラはまたひとつサンドイッチを頬張る。

 

「あの、学校とかには?」

 

「行ってないよ。 行ったことがある奴の方が少ないんじゃないかな?」

 

「まぁ、学校に行けるほど裕福だったらこんな所にいませんもんネ」

 

「まあ、生きていくだけで精一杯だった奴がここにも多いからなぁ。 マシな施設にいたやつは幾らか教わった事があるようだがなぁ」

 

 雪之丞がそう言い、作業へと戻っていた少年たちを見つめ何処か悲しげな声で吐き出す。

 

「そうですか……」

 

 そうすると、弁当を配り終えたアトラが4人の元へとやってくる。

 

「配り終わったよ〜」

 

「アトラは字を読めるんだっけ?」

 

 三日月の問にアトラは、

 

「うん。おばさんに習ったから!」

 

 その様子を見つめ、ミカエラは小さくため息を漏らす。

 

「(はぁ…… こういうのを無くすためにあの大戦をアグニカは走り抜けてたのニ…… 呆れしか出ませんネェ)」

 

 地球圏以外の福祉は皆無に等しいことに、300年前と何一つ変わっていない。 むしろ悪化している事実に改めて認識させられ、呆れ混じりに頭の中で愚痴をこぼす。

 そして、再度見やれば学校に行ったことがないという三日月に、クーデリアは熱意をもって、読み書きの勉強をしないかと提案している所だった。

 

「私が教えますから! 読み書きができれば、きっとこの先役に立ちます。本を読んだり、手紙や文章を書くことで、自分の世界を広げることもできます」

 

「そっか…………。いろんな本とか読めるようになるんだよな」

 

「ええ! そうですよ」

 

「俺、やってみようかな…………」

 

 その事に話を聞いていたタカキや双子のエンビとエルガー、それにトロワといった年少の子供たちがいいなー! と駆け寄ってきた。

 

「俺も読み書きできるようになりたいっス! 一緒にやってもいいですか?」

 

「俺も俺も!」

 

「俺にも教えてよ! クーデリア先生っ」

 

 先生、という子供たちの言葉にクーデリアは恥ずかしそうに戸惑った様子だったが、「ええ……! 私でよければ、みんなで勉強しましょう!」と力強く頷いた。

 

 その言葉に少年たちは喜びの声を上げ、はしゃぎ始める。

 

「みんな偉いわね〜。 ウン! じゃあ私も教えてあげるからいつでも聞いてね!」

 

 すると、アトラが言うが。

 

「アトラかぁ……」

 

「俺クーデリア先生がいいやー」

 

「俺はミカエラさんがいい!」

 

「え!? ちょっとなによそれー!! それに、私とミカエラさんのどこが違うの? 多分同い年ですよね!?」

 

 最後の1切れを食べ終えご馳走様でした、と手を合わし終えたところのミカエラにそう聞いてきたアトラにミカエラは僅かに首を傾げたあと、口を開く。

 

「違いますヨ? 言ってなかったデスガ、私19デス」

 

「ソノトーリ! ソノトーリ!」

 

『エェ!!?』

 

 衝撃の事実に、格納庫にいた一同は驚きの声を上げる。

 その中に、クーデリアや雪之丞はもちろんの事、三日月も僅かばかり驚いた様子だった。

 

「と、年上…… だったのですか? ミカエラさんは」

 

「ま、まったく見えなかったぜ…… 嬢ちゃんはてっきり三日月くらいかと思ってたんだがなぁ」

 

「オルガより2つ上なんだ……」

 

「…………そんなに幼く見えマス?」

 

『見える』

 

「…………フッ」

 

 まさかのハモリに僅かばかり、ミカエラは視線を自身の体。 詳しくは胸に注視する。

 どこまでもスラットした線に少しだけ目を細めたのち、顔を上げて一同を見たあとに微笑む。

 その事を後に、タカキ少年は「少しだけ走馬灯が見えた」と語ったという。

 

 余談だが、その日のクランクに出された食事はかなり辛く、その悲鳴が"イサリビ"中に響き渡ったとか……

 

 




ハイ!ありがとうございました〜。最後にクランクさんとばっちりでしたね!
では、誤字脱字といったご報告や評価に感想(これ重要)を待ってますので!次回もお楽しみにー!


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拾参

遅くなっちゃった★
すまねぇ、すまねぇ・・・ だけど今回は長めだから許してくれー!


 突然の停船信号により、作業が中断された為にミカエラは事の理由を聞こうとブリッジに入り込んだ瞬間。

 

『人の船を勝手に乗り回しやがって!! この泥棒ネズミどもがァ!』

 

 なにやらモニターにでかでかと映りこんだ中年の親父がギャンギャンと喚き散らし、やれ俺の船だの、やれ良くも俺の会社を乗っ取りやがってとかあーだこーだうるさく、ミカエラは顔を顰め近くにいたダンジへと声をかける。

 

「あのおじさん何者デス?」

 

「あー、CGSの頃の社長っていいますかー……なんというかー…… まぁそんな感じっす」

 

「なるほどデス」

 

「ナルホドナ! ナルホドナ!」

 

 胸元に抱いてたハロが続く中で、前CGS社長マルバ・アーケイとそれの相手をしているユージンが怒鳴るのをBGMにして、ビスケットがフミタンへLCS(エイハブウェーブ下でも使用可能な短距離レーザーシステム)の解析を頼む。

 

「方位180度、距離6200…… 相対速度ほぼ一致しています」

 

「不味いな…… 完全に後ろを取られている」

 

「嘘だろ? エイハブウェーブの反応はなかったぞ?」

 

「いったいどうやって……?」

 

「そういうのが上手いってことは…… きっと面倒な艇なんだろうね」

 

「ですねェ。お相手さんは多分場馴れしてマス」

 

 ザワつくブリッジ内で、ミカエラは久方の手応えのありそうな敵と相対する事実に少しだけ声を弾ませる中でモニターの向こう側でヒートアップしたマルバの怒鳴り声を中断させ、別の男の声が聞こえてきた。

 

『ガキども聞いてんのか!? 船を止めろ! 今なら楽にぶっ殺し───

 

『ちょっとどいとけおっさん』

 

 モニターには白いスーツを着こなし、長い黒髪をたなびかせた美形の男が映っていた。

 

『さっきからさっぱり話が進んでねぇ。欠伸が出るぜ…… なぁ?』

 

 男の問いかけにオルガは眉をひそめながら名を尋ねる。

 

『俺? 俺は"名瀬・タービン"だ。"タービンズ"っていう組織の代表を努めさせてもらっている」

 

『俺は鉄華団の代表、オルガ・イツカだ』

 

「何が鉄華団だ! コノヤロウ!」

 

 モニター越しに映る若い少年、オルガを見ながら椅子に座り名瀬は余裕を崩さずに続ける。

 

「このマルバ・アーケイとは前に仕事上の付き合いがあってなあ…… んで、たまたま火星に立ち寄って久々に再開したんだが、えらいボロボロでよう。 話を聞けばギャラルホルンと揉めて困ってるって言うじゃねぇか。

 んで、俺らのところなら奴らが手出しを出来ないようにもしてやれるってもんで力をかそうか? って話になってたんだが…………』

 

「"俺ら"……?」

 

 オルガの疑問にビスケットは端末に情報を写し、それを彼へとみせて説明を行う。

 

「タービンズってのは"テイワズ"直参の組織だよ」

 

「なに?」

 

「組織の規模はまだ小さいけど…… あの名瀬って男はテイワズのトップ"マクマード・バリストン"と親子の盃を交わしてるんだ」

 

「そりゃ大物だな」

 

「最悪の展開だよこれは…… テイワズまで敵に回せばお終いだ!」

 

 思わず天を仰ぎみるようにビスケットは声を上げ、頭を抱えてしまう。

 

(へぇ……)

 

 二人の会話を後ろから聞き、その情報にますますミカエラは笑みを強くする。 話が本当ならば彼の持つ戦力はそれなりの物だろう。ならば、歯ごたえはかなりあることになる。

 今にも飛び出しかねない昂りを抑え、ミカエラは仮の飼い主とはいえ、オルガの命令が出るまでは我慢をするべきと思いそこに留まる。 どうせ直ぐに彼は命令するだろう。 なら、その時まで極上の御馳走をありつけるならいくらでも待とうではないか。

 

「…………」

 

「……オルガ?」

 

 ほら、来た。

 

「いや、これはチャンスだ。 俺たちだってテイワズの後ろ盾は欲しかったんだ…… その足がかりをマルバが連れてきてくれたんだぜ?」

 

『おいおい、俺と話してる時にコソコソやんな。 男同士で仲良いなぁお前ら』

 

「おっと、すまねぇな続けてくれ」

 

 男同志の腹の探り合いは続き、オルガはふと呟いた三日月の言葉に決めの一手を放つ。

 

「さっき言った通りだ。 あんたの要求は飲めない…… アンタの道理がどうだろうと、俺たちにも通さなきゃいけない筋がある」

 

『それは…… 俺たちと殺り合うって意味でいいんだよな?』

 

「ああ。俺たちがただのガキじゃねぇってことを教えてやるよ…… マルバァ、テメェにも死んで行った仲間のケジメきっちり付けさせてもらうぞ!」

 

 オルガの声に名瀬は眉をひそめ、軽くドスの聞かせた声色で言い放った。

 

『お前ら、生意気の代償は高くつくぞ?』

 

 名瀬はそれを最後に通信を切る。

 '強襲装甲艦ハンマーヘッド"のブリッジ内、名瀬・タービンは先程までのやり取りに苦い笑みを浮かべ傍に控えていた愛する妻"アミダ・アルカ"へ顔を向ける。

 

「悪ぃアミダ、こうなっちまった」

 

「やんちゃする子供を叱ってやるのも大人の役目だよ」

 

「ほんと、いい女だよお前は……」

 

 その言葉にアミダは笑い、テキパキと指示を出す中でそっと名瀬へとそっと耳打ちする。

 

「名瀬、あの中でずっと笑ってた黒髪のお嬢ちゃんがいるだろう?」

 

「ああ、偉く整った嬢ちゃんだったがそれがどうしたんだ?」

 

「あの子、多分あたしと同じかそれ以上のやり手さ。 あんまり気を抜けないかもしれないよ」

 

「オイオイ、そいつはまじかアミダ?」

 

「フフッ、なんて顔をすんだい名瀬。 あんたの惚れた女が死ぬとでも思ってんのかい?」

 

「いいや、まさかさ」

 

「そうかい。じゃあ行ってくるよ名瀬」

 

「おう、気ぃつけろよアミダ」

 

 アミダはそう言い、背後にいた女"アジー・グルミン"に振り返る。

 

「アジー。私と出てもらうよ」

 

「はい、いつでも」

 

 テイワズ最強のコンビに勝利をもぎ取ることをできたものは一人もいない。

 いつも通りと勝利を予想し、名瀬はほくそ笑む。

 だが、それすら噛み砕き咀嚼する蛇の悪魔に通用するかは分からないだろう。

 

 

 

「慎重にって言ったじゃないか! 交渉の余地はあったはずだ!」

 

「分かってるけどな、通すと決めた筋は曲げられねぇよ」

 

 オルガはビスケットに端末を返すと、艦長席から立ち上がり周りへ声を上げる。

 

「敵艦にケツをとられちゃいるが、鉄華団の力を見せつけるにはむしろ好都合だよなお前ら?」

 

「当たりめぇだろ!」「おう、目にもの見せてやろうぜ!」

 

「テイワズとの渡りをつける千載一遇のチャンス、ものにすんぞ!」

 

『おぉ!』

 

「エイハブウェーブの反応確認! 敵艦加速して距離を詰めてくる!」

 

 チャドの報告に船内は慌ただしくなり、戦闘準備を行っていく。

 

「よし! ブリッジ収納! 速度は維持して180度回頭、砲撃戦に備えろ!」

 

「了解! ブリッジ収納!!」

 

 新たな戦いが始まり、ついにミカエラは弧を描いて歪な笑みを作る。

 

「昭弘、出てくれるか?」

 

『ああ、任せろ!』

 

「ミカァ! 頼むぜ!!」

 

「勿論」

 

「シノも準備してくれ!」

 

「おうよ待ってました!」

 

「ミカエラ! お前も行けるか?」

 

「アハァ、いつでも準備万端ですヨォ? ウフフ、堪らないですヨネェ。 強そうでしたネェ、楽しめそうデスゥ〜」

 

 漸くきた指示にミカエラは歌い出しかねないほど嬉しそうに答え、三日月のあとを追うように床を蹴る。

 

 

 

 モビルスーツ格納デッキにて、捕虜であるはずの男クランク・ゼントはノーマルスーツを身にまとっていた。

 既に"グレイズ改"は準備しておりそのコクピットに昭弘が吸い込まれていく。

 その隣にはいくつか損傷は残っているが、宇宙仕様に換装とミカエラの手である程度改修の施された"グレイズ改弍型"を見上げてクランクは息を吐いた。

 

 使えるものはなんでも使うというミカエラの指示の元、一時的に自由になったクランクはこうして臨時の戦力として数えられていた。

 

「『なすべきことを為せ』……か」

 

 つい先程、ミカエラに言われたセリフを呟きクランクは眉をひそめた。

 かつては大義を持ってギャラルホルンに入り、がむしゃらに進んでいた。だが、信じるべき正義を失い、守るべき子供を手にかけようとし、結局は全てを失った。

 たが、こうして生きている自分はなんなのだ? と思ってしまう。

 だが、こうして鉄華団の少年たちと接し彼らの過酷な環境や境遇を知り、己の浅はかさを思い知らされ、クランクは改めて覚悟を決めた。

 

 せめて、この捨てそこなった命を彼らのために使おうと。

 

「……もう一度、俺に力を貸してくれ」

 

 クランクはそう言うと己の機体を見つめ、そのコクピットへと入る。

 

「クランク・ゼント…… "グレイズ改弍型"出るぞ!!」

 

 カタパルトデッキからクランクの駆る"グレイズ改弍型"が射出されていく。

 その次は"アンドロマリウス"の番で、最後に三日月という順番だ。

 

「〜♪」

 

 抱いてたハロをコクピット内のデバイスへと接続し、続けてヘルメットを被る。

 一瞬だけ視界が真っ暗になるが、すぐにバイザー兼ディスプレイが起動され全方位ディスプレイのようになった。

 

 ミカエラは愛機のコクピットで歌を口ずさみ、出撃のときを待つ。

 そして、ディスプレイの前方にオペレーターのフミタンが表示される。

 

『発射スタンバイ、どうぞ』

 

「はぁい、雪之丞さァン」

 

『おう! 次は"アンドロマリウス"だ! 下ぁ気をつけろよ!』

 

 ガコン、と音を当てて作業用クレーンが”グレイズ"の左腕を移植させた”アンドロマリウス"を降下させ、カタパルトへと機体を横たわさせる。

 

『エアロック作動。カタパルト、ハッチ開放します』

 

 前方のハッチが解放していく。

 広大な宇宙空間の中で一つの光点を発見し、それが敵艦"ハンマーヘッド"だと分かる。

 下の部分で発進用レールが伸びていき、やがてロックされた。

 

『カタパルトスタンバイ。いつでもどうぞ』

 

「わかりましたタァ。 ……"ガンダムアンドロマリウス"ミカエラ・カイエル、敵を鏖殺しまァス!」

 

 加速による凄まじいG、勢いから"アンドロマリウス"が”イサリビ”からはじき出される。

 飛び出した”アンドロマリウス”に続き、イサリビの傍にいたミカエラが奪ったハーフビーク級のカタパルト内から飛行形態の"リベルタスパッケージ"が射出された。

 ミカエラは慣れた手つきで”アンドロマリウス”の背部へと”リベルタスパッケージ”を接続させ、センサー指示の下で先行していた2機の後を追う。

 

 本来であれば、昭弘の駆る”グレイズ改”だけだったが地上と宇宙でかなりの数の”グレイズ”を鹵獲したため、新たにクランク用に用意することが出来たのだ。

 昭弘だけでは心配があったために、その補佐として経験豊富なのと頭数確保に起用した。

 

『来たか』

 

「ハァイ、どうも〜。 ミカエラですヨォ?」

 

 昭弘とミカエラは面識がなかったため、こうして会話を行うのは初めてだった。

 やがて”バルバトス”も発進し、青い光を纏いながらこちらと合流を行った。

 武装は無骨なメイス、背部のサブアームから伸ばされた滑腔砲を構えて”アンドロマリウス”と”バルバトス”は距離をとる。

 

『お待たせ』

 

『ハッ、待っちゃいねぇよ』

 

『敵が来るぞ!』

 

 センサーが敵機を捉え、ディスプレイに望遠映像に2機のMS表示される。

 2機のMS”百錬”、厄祭戦後期に開発予定だったモビルスーツ・フレームを参考にテイワズが独自に開発した機体だが、今この時にはどうでもいいだろう。

 

「えーと、じゃあ敵には近づきすぎずお願いしマス。接近戦は不利ですからネ。 それと、昭弘さんはクランクさんがサポートに着きますから」

 

『ああ、分かった』

 

『うん』

 

『承知した』

 

 三者三様の返答に頷き、ミカエラは僅かに微笑む。

 手持ちのライフルを撃ちながら迫る青い”百錬”に”アンドロマリウス”の大型レールキャノンと折りたたみ式レールガンを発射。 あえて狙いは付けず牽制目的の乱射だ。

 レールキャノンの砲弾は当たらなかったが、レールガンが幾つか当たることにより接近を諦めた青い百錬へ、狙いを定めてレールキャノンを放とうとする。 だが、その直後に赤い”百錬”が援護を行いその邪魔をする。

 

「チッ!!」

 

 見事な連携に、堪らず舌を打つ。

 人数差があっても、こっちの練度はあまりない為に連携はとれず、”リベルタスアンドロマリウス”も機体コンセプト敵には多対1を想定しているため、数の有利を活かせていない。

 

「3人は牽制のためにそのまま弾幕を維持、私は赤い方を相手しマス!」

 

 3人にそう告げ、返答も待たずミカエラは赤い百錬へと突貫する。

 

『おやおや、アンタが私の相手かい!』

 

「アハハハァッ!!」

 

 リアアーマーから”グレイズ”のバトルアックスを取り出し、赤い百錬もブレードを装備し武器同士がぶつかり合う。

 

『ッ! 随分と力持ちだねぇ!』

 

「砕けちゃいなよ!!」

 

 トリプルリアクターからなる大出力に堪らず”百錬”はマトモにぶつかり合うことを避け、攻撃をいなしていく。

 ミカエラは蹴りやレールガンの射撃を織り交ぜて赤い“百錬”を攻め立てるが、敵側もそれをかわしながら攻撃を行う。

 

『姐さん!!』

 

『行かせるかよ!』

 

『クッ!』

 

 アジーが援護を行おうとするが、3機の弾幕にたまらず近づくことを断念する。

 

「ハハッ、アハハハハハハッ!! 貴方強いですね!? でも、でもでもでもぉ! この子と私に勝てるわけないでしょオ!!」

 

 2本のウィングブレードが射出され、蛇のようにうねりながらその切っ先を赤い”百錬”へ向けて突き進む。

 

『甘いよ!!』

 

「アァん、連れませんよネェ!!」

 

 当たる瞬間にブレードでウィングブレードを弾き、もう一本もライフルを乱射して動きを停めさせた。

 2人の戦いが白熱する中で、鉄華団側のMSに通信が入る。

 

『”イサリビ”が敵MSの攻撃を受けています。援護を』

 

『ッ、もう一機いたのか!』

 

『三日月ィ!』

 

 一瞬、攻撃を受ける”イサリビ”に気を取られて機動が緩む”バルバトス”。その一瞬の隙青い方の”百錬”は見逃さなかった

 

 だが、それを昭弘の”グレイズ改”が”バルバトス”の腕を引っ張ることで”百錬”の射線からはずし、そこをすかさず”クランク改弍型”が攻める。

 

『悪い昭弘、前のやつ任せていい?』

 

『ッ、ああ任せろ!!』

 

『すぐ戻る』

 

 そう言い残し”バルバトス”を”イサリビ”へと向かわせる。

 クランクもついて行こうと思ったが、昭弘だけだと心配なために残ることにした。

 

『くっ、なかなかやる! ……うっ!?』

 

 足の止まった青い”百錬”に昭弘機の射撃が命中。 着弾により敵機がよろめく。

 

『ここは俺らが任された!』

 

『行かせはせんぞ!』

 

 その時、視界の端が白く染められる。

 何事かと確認をすると、スモークを拡散し反転した”イサリビ”が突っ込んでいく様子だった。

 恐らくはオルガらが敵艦に乗り込み、名瀬・タービンと話をつけるための策だろう。

 

 そして、母艦から離されつつあることに気がついた2機は戦うことを中断させ、追おうとする。

 

「グッ!? 逃げるナァ!!」

 

『うぉぉおお!!』

 

『ッ、待て昭弘!! 迂闊に突っ込むんじゃない!』

 

 クランクは昭弘を諌めようとするが、既に青い”百錬”へ突っ込んでいってしまう。

 昭弘は”グレイズ改”のバトルアックスを振り下ろし、青い”百錬”はブレードで受け止め、その刀身にバトルアックスの刃がめり込む。だが、逆に振り払われてしまい武装の失った昭弘機は殴り飛ばされる。

 

『クソォ! 俺は!!』

 

 昭弘は三日月を認めている。

 その三日月に任された。 その言葉の重さは第三者には分からないだろう。

 クランク援護を行おうとするが、ミカエラを振り払った赤い”百錬”がタイミング悪くこちら側へと来てしまった。

 それにより、牽制のために動きを停めざるおえなくなり、弾も消費されていく。

 

『クッ、弾が!』

 

 引き金を引いてもライフルからは弾丸は発射されることはなく、その時には合流した赤い”百錬”へ昭弘の”グレイズ改”が飛びかかり装甲をぶつけ合い、頭部を殴りつけようとする。

 だが、その腕は敵機のライフルの銃床で打ち据えられ砕けてしまう。

 

「このぉ!!」

 

 ミカエラは昭弘機諸共照準に収め、引き金を引く。だが、レールキャノンからではなくサイドアーマーのレールガンから弾丸が発射される。

 それらは昭弘機や敵機にも当たってしまうが、怯ませ距離を離すことには成功した。

 

「逃がすとでモォ!?」

 

 叫び、ガシュン!! とレールキャノンが伸びる。

 

「アハァ! 壊れちゃエ!!」

 

 砲弾が発射され、逃げようとしていた赤い”百錬”の軌道を先読みし、偏差撃ちを行う。

 赤い機体は狙い通りの起動を辿り、そして撃ち出された砲弾は右脚部の膝関節と左マニュピレーターを砕く。

 

『キャァァァアッ!!?』

 

『姐さん!!?』

 

「アハハハハハハッ! 愉快な鉄塊(オブジェ)にしてあげる!?」

 

 バランスを崩し、制御を失った赤い”百錬”は錐揉みを始めその瞬間を逃さずにミカエラは”アンドロマリウス”を急接近させ、ウィングブレードで四肢を突き刺し胸部装甲を右腕で掴む。

 

BON(ボン)♪」

 

 掌底部分が青い燐光を放ち、その光が発射される。

 瞬間、

 

『やらせるかァ!!』

 

『行かせるかよッ! ぐぁ!?』

 

『邪魔だァ!!』

 

 青い”百錬”が”グレイズ改”を引き剥がし、今にも攻撃を放とうとしていた”アンドロマリウス”へと加速を殺さずに突っ込む。

 

「キャァァア!!? このッ、許せない許せない許せない許せない許せないユルセナイィィイ!!!」

 

『アジー!? すまないねぇ!』

 

『いえ、大丈夫ですか姐さん?』

 

『何とかね……』

 

 意識外からの攻撃に避けられず、”アンドロマリウス”は弾き飛ばされ激しい揺れに襲われるコクピット内でミカエラはアジーの駆る”百錬”に向けて怨嗟の声を漏らす。

 

「後悔させてあげル!!」

 

『ブッコロス! ブッコロス!』

 

 動けない赤い機体を無視し、青い機体へウィングブレードを全て射出する。

 

『なっ!?』

 

「切り刻まれちゃないヨ!!」

 

 ”百錬”は何とかブレードをかわしていこうとするが、死角からの刺突や絶え間ない連撃にジワジワとその装甲に傷を作っていき、最初にライフル、次にブレードといった武装を破壊されるといたぶるようにスラスターを削り取っていった。

 

「ンフフフッ! 貴方がいけないんですヨォ? 私の邪魔をしちゃうかラァ!!!」

 

『グッ…… 動け!!』

 

「アハハァ、無駄無駄無駄ァ!」

 

『ッ! アジー!!』

 

 動けないように四肢にブレードのワイヤーを巻き付け、”アンドロマリウス”がゆっくりと”百錬”へと近づく。

 そして、今度こそ終わりとばかりに胸部装甲に右腕部の掌底部を触れさせる。

 

「綺麗なお花を咲かせてあげルゥ!」

 

『ッ─────!!』

 

 相手のパイロットが息を飲み、青い光が放たれようと今か今かと輝きを強めた瞬間にその動きは止まってしまう。

 

『全機、戦闘を中止して帰投してください。タービンズとの停戦が成立しました』

 

「…………チッ!!!」

 

 通信越しに聞こえるフミタンの声にミカエラは盛大に舌を打ち、青い”百錬”の拘束を解くと機体を反転させスラスターを吹かすと昭弘とクランクと合流し”イサリビ”へ3つの軌跡を作り、消えていった。

 

「ふぅ…… こっぴどくやられたねぇ。 そう思わないかい、アジー?」

 

『えぇ…… まさかここまで強いとは思いませんでした。 あの翼付き、かなりの腕でした』

 

「まさか私ら2人がかりで傷1つ付けられないとはねぇ…… 」

 

 その光を動けない機体のコクピットから見送り、アミダとアジーの2人はミカエラの駆る”アンドロマリウス”の事を話していた。

 すると、程なくしてそれなりにボロボロのラフタの乗る”百里”が2機の元へやってきた。

 

『うわ、どうしたの2人とも!? すんごいボロッボロじゃない! アジーならまだしも姐さんまで!』

 

『ラフタ、一言余計。 仕方ないだろう、相手が上手だったんだ』

 

「そうだねぇ、通信があと一歩遅かったら私ら死んでたよ」

 

『うひゃあ…… 間一髪ってやつかぁ…… じゃあ2人とも捕まって!』

 

 ”百里”のバックパック部分に損傷の激しい2機の”百錬”を載せると、スラスターから勢いよく推進剤を吐き出し”ハンマーヘッド”へと帰還する。




ハイ、安定のミカエラちゃん無双ですね!
だって仕方ないよねー、厄祭戦でMAとドンパチやり合って、オリジナル阿頼耶識もちでアグニカと同じ姓を持ってるんだから。
それじゃ、感想や誤字脱字の報告をお待ちしてまーす。
感想くれ(懇願)


〜機体解説〜
・グレイズ改弍型

型式番号:EB-06tcⅡ

全高:17.8m

本体重量:32.5t

動力源:エイハブリアクター

武装:グレイズとほぼ同じ

パイロット:クランク・ゼント

・ミカエラ・カイエルが鹵獲したグレイズを改修した機体。
背部にはグレイズ改と同様の大型スラスターに変え、更にシュバルベ同様に各部分にスラスターと姿勢制御バーニアを取り付けられているが、OSをミカエラが独自なものに変更したためにシュバルベ以上に操作性は向上しており、クランクが登場しても通常のグレイズと同様に操作することを可能としている。



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拾肆

なんとかひと月以内に更新頑張ったぞオラァ!!
ではどそー


 戦闘が終わり、無事鉄華団とタービンズとの間に和解が成立した。

 

 原因となった鉄華団前身組織CGS社長ことマルバ・アーケイは名瀬・タービンに誤った情報を伝えたことに、これまでの所業の数々といったことが彼の逆鱗に触れてしまい、テイワズ所有の資源採掘衛星へと放り込まれることになる。戦闘でかかった費用をその体で払ってもらうという訳、というのがあとから聞いた事の顛末だ。

 

 ”バルバトス”、”アンドロマリウス”、”グレイズ改”、”グレイズ改弍型”は”イサリビ”へと帰還し、”アンドロマリウス”と”グレイズ改弍型”は比較的損傷は少なかったため簡単な整備に留め、激しく損傷した”バルバトス”と”グレイズ改”の2機は早急に本格的な修復と整備を必要とした。

 

 

 

「ふぅ……」

 

「オツカレ! オツカレ!」

 

 機体から分離したバックパックを無人のハーフビーク級に格納させ素体状態となって“イサリビ”に着艦した”アンドロマリウス”のコクピットハッチが開く。

その中からミカエラが姿を現し、ヘルメットに手を添えゆっくりと外す。

 長い髪の毛が舞い、いくつもの汗の玉が宙を漂いキラキラと光を反射させる美しい光景に、何人もの少年たちが見とれてしまうが雪之丞の叱責に慌てて作業に戻っていく。

 

 だが、その事には気が付かずミカエラは固定されている愛機の装甲を労うように撫でているとタオルとドリンクの入ったボトルを持ったダンジが傍にやってきた

 

「お疲れ様っスミカエラさん! これ、冷たいヤツです」

 

「おー、ありがたいデス〜。お姉さん嬉しいデスよ〜」

 

「サンキュ、サンキュ」

 

「い、いえ!」

 

 ミカエラに褒められ、僅かに顔を赤くしたタンジを見て僅かに笑みを滲ませながら渡されたボトルを受け取ろうとした時に彼の腕に切り傷があるのが見えた。

 

「タンジくん、その手の傷どうしましタ?」

 

「え? あー、このキズですか? 多分、MSの整備してる時についたやつですかね。 こんな傷唾つけてれば治りますよ!」

 

 あっけらかんと言った少年に、暫しミカエラは言葉を失くしてしまう。

 

「はぁ…… タンジくん、いくら小さな傷だろうとソコから菌が体の中に入って危険なことになることもあるデス。 だから、すぐに消毒して絆創膏を貼るようにしてくだサイ」

 

「う、うっす……」

 

「ん、分かればいいデス。 じゃあ、医務室行きますヨー」

 

 

 〇

 

 

 医務室にて、タンジの傷を簡単な処置で手当を済ませると2人と1つしかいない医務室を見渡す。

 

「それにしても…… 船医さんいないんですねこの船」

 

「? 当たり前じゃないっスかそんなの」

 

「むゥー」

 

 あっけらかんと言うタンジにミカエラは顎に手を添えて唸る。 医学に心得のあるものがいると無いだけで環境は大きく変わるし、これからの状況を左右すると言っても過言ではない。

 ”イサリビ”にはメディカルナノマシンベッドがある。 だが、それが使えなければただの置物だ。 それに、もしメンバーの誰かが大怪我をして効果的な治療ができなければ、見殺しになってしまう。

 

「ハイ、これでOKット」

 

「いったァ!? ちょ、何するんすかミカエラさん!」

 

「オダイジニ! オダイジニ!」

 

「フフ、今度から怪我をしたらきちんと消毒するんデスヨ?」

 

「うっす…… じゃあ、ありがとうございましたミカエラさん!」

 

 ミカエラにデコピンをされ、額を抑えて抗議するタンジにクスクスと笑いながら彼が格納デッキへと向かうのを見送る。

 

「さてト…… 時間が出来ましたネ」

 

 困ったことにやることも無く、時間が空いてしまったミカエラは僅かな苦い笑みを浮かべていると曲がり角から出てきた人影にぶつかってしまう。

 

「むぎゅ…… 誰デス? って、クランクさんデスカ」

 

 鼻を押え顔を上げると、そこには比較的ラフな格好のクランク・ゼントがおり手に端末が握られその顔はどこか難しそうな感じだった。

 

「む、ミカエラか」

 

「ドーしたんデスそんなしかめっ面デ? ただでさえ怖い顔がもっと怖い顔にまってマスヨ?」

 

「……怖い顔というのは余計だ。 だが少々難しいことにはなっているな」

 

 クランクはそういうと手に持っていた端末をミカエラに見せてきた。

 

「ふむふむ…… なんデスコレ?」

 

「ワカラナイ、ワカラナイ!」

 

 その画面には比較的大きな文字でアルファベットでデフォルメされた画像の名前が書かれており、どんなものかわからないミカエラは首をかしげハロもその手の中で続く。

 

「実は文字を教えるためにクーデリア嬢とこうして教材を作っているのだが…… なかなかに手ごわくてな」

 

「なるホド―」

 

 そういえばクーデリアがそんなことを言っていたのと、そのためにクランクを連れてきてたことを思い出したミカエラは納得したように手を打った。

 

「ならここをこうして~っト」

 

「成程、そういう手が確かにあったか……」

 

 ミカエラがいくつか教材に手を加えた後に彼の乗機のOSの状態を尋ねた後にクランクとその場で別れ、あてもなく適当に歩いていると彼女の通常よりも鋭い聴覚が会話をとらえた。

 

「まさか火星の運転資金が底をつきそうだなんて……

 

「もう少し持つかと思ってたんだが……」

 

「ギャラルホルンに目をつけられてちゃ、まともに商売なんてできないもんね。 なんとかしないと……」

 

 ひょこっと展望室に顔を覗き込ませると、そこにはオルガとビスケットの二人が互いに難しい顔で一つの端末を睨んでうなっていた。

 

「どーしたんデースカ?」

 

「ドーシタ? ドーシタ?」

 

「あ、ミカエラさん…… さっきの戦闘ではありがとうございました。おかげで交渉が比較的スムーズに進めることができます」

 

「いえいえ~、雇われとしては当然デス~。 それでどーしたんンデス? 運転資金がどーこー言ってましたガ……」

 

 彼女の言葉にビスケットはオルガに目配せを行い、オルガは頭に手を当てて首を僅かに縦へ振った。

 

「……実は—————

 

 オルガの説明を受け、火星での鉄華団本部の運営をするために資金が予想よりも早くに底をつき、鹵獲した”グレイズ”を売却をして金を得ようにも普通の業者では捌けないこと、どうにかしようとタービンズに相談をするためにもう一度行くことを聞きミカエラはしばし一考し声に出した。

 

「実はお二人にご相談があってデスネ————

 

 

 〇

 

 

 オルガ達はタービンズの母艦である強襲装甲艦”ハンマーヘッド”にシャトルで乗り込むと、すぐに応接間へ案内をされた。

 部屋に入ると、白いスーツを着こなした名瀬・タービンが「よう」と気さくに手を挙げて歓迎する。

 

「ほ~う、モニター越しでも十分美人だったが生で見るとますます美人なお嬢ちゃんだ」

 

「ミカエラ・カイエルです。 この子はHARO(ハロ)っていいマス。 鉄華団に傭兵兼パイロットとして雇われていマス」

 

「ハロ! ヨロシク!」

 

 ぺこりと頭を下げ、その傍らでハロがボールのように弾む。

 

「ああ、あの羽のついた白いMSのパイロットだな? うちのアミダとアジ―から聞いたぜ。なんでも、あの二人をいいようにあしらってくれたみたいだな?」

 

「いえいえ~。でも、次からどんな相手でも最初から手を抜くのはオススメしまセンヨ?」

 

「ほ~う……」

 

「うふふふ~」

 

 目を細める名瀬・タービンとどこか黒い笑みを浮かべるミカエラ。

 

「まっ、いいか。 で、何だ? 改まって用ってのは」

 

 名瀬に促され、オルガとビスケットは一瞬だけ視線を合わせ、頷くとソファに座る。 ミカエラはすぐ後ろに控えて暫しの間静観した。

 

 そして、ビスケットはひとつのタブレット端末を名瀬へと手渡す。 彼はそれを受け取り目を通すと「これは……!」と目を僅かに見開いた。

 

「僕達が火星でギャラルホルンから鹵獲したもののリストです」

 

「かなりの量だな…… まさか火星支部のモビルスーツ全部ぶっ壊してきた訳じゃねえだろうなぁ? 

 あの戦艦もそうなのか?」

 

「あ、あはは…… まさか……」

 

「プイッ」

 

 名瀬が僅かに引いた様子でミカエラを見るが彼女は首をそっぽ向けてしまう。だが、先の戦闘の様子では有り得そうだと1人納得する。

 

「話というのは、それを売却できる業者を紹介して欲しいんです」

 

 名瀬は画面をスライドさせ、ビスケットに尋ねる。

 

「馴染みの業者はいないのか?」

 

「CGS時代から付き合いのある業者はいるんですが………… 物が物です。並みの業者じゃ扱いきれないんじゃないかと…………」

 

「ま、確かにな」

 

 名瀬はドンッと足をテーブルの上に乗せて組み、ビスケットはその音に一瞬だけ身体を震わせる。 だが、意を決して言う。

 

「勿論! 仲介料はお支払いします。 ……お願いできませんか?」

 

「出来なかねぇがよ。 ……お前らそんなに金に困ってるのか?」

 

 名瀬からの問いかけに、ビスケットは言い淀むが隣のオルガは「正直、困ってます」とあっさりと答える。

 名瀬はオルガを見据え、

 

「なら、なんで俺が仕事紹介してやるって言ったときに断った?」

 

「……え?」

 

「あん?」

 

「え……いや、だって。あの話を受けたら俺たちは、バラバラになっちまうって」

 

「なっちゃいけないのか?」

 

 名瀬の連続した問にオルガは少しだけ黙り、頭の中でパズルをくみ上げていくように言葉を考える。

 程なくして、組み上がったのか静かに口に出す。

 

「俺らは、離れられないんです……」

 

「離れられない? 気持ちわりぃなァ、男同士でベタベタと」

 

「……なんとでも言ってください」

 

 からかう様子の名瀬の声にオルガは少しムッとしたながら静かに返す。

 

「俺らは…… 鉄華団は離れちゃいけないんです……」

 

「だから! なんでだよ?」

 

 語気を荒げ、苛立たしげに名瀬は言う。 オルガは拳を握りしめながら、

 

「……繋がっちまってんです、俺らは」

 

「あん?」

 

「死んじまった仲間が流した血と、これから俺らが流す血が混ざって…………鉄みたいに固まってる。だから……だから離れらんねぇ。離れちゃいけないんです。危なかろうが、苦しかろうが、俺らは…………!」

 

 ジッと名瀬を見つめ、オルガのその真っ直ぐな瞳を名瀬は受け止めていたが、ふと立ち上がった。

 

「…………マルバに銃を突きつけた時、お前、言ったよな? 『アンタの命令通りに、俺はあいつらを…………!』」

 

「ッ!」

 

「その〝あいつら〟ってのが、その死んじまった仲間のことか?」

 

 オルガは自分の片方の手を握りしめ、しばらく黙ってしまう。 だが、名瀬はお構い無しに続ける。

 

「離れられない。そりゃ結構。だがな、”鉄華団”を守り抜くってんならこれから先、誰もお前に指図しちゃあくれない。ガキどもがお前の命令一つで死ぬ。その責任は誰にも押し付けられねぇ。…………オルガ。団長であるテメェが、1人で背負えんのか?」

 

 今この瞬間、(オルガ)には大きな選択を迫られている。

 ひとつとして、このまま名瀬の言うようにクーデリアの護衛を他社(テイワズ)に委託し、鉄華団を解散。

 そして、彼の言う紹介する真っ当な仕事にありつく。 だが、そんなことをしても世界は変わらない。 いくらテイワズの保護があろうとも、いつなんどき以前のように転がり消耗品のように捨てられるか分からない。

 もうひとつはこのまま”鉄華団”を守り抜き、このままクーデリアの護衛を完遂させること。

 任務に成功し、更には彼女の交渉も無事済めば火星の経済は上向く可能性が出てくる。自分たちだけでなく、世界を変えることもできるかもしれないのだ。それに、自分たちの人生や可能性も、より広げることだってあるだろう。

 だが、その恩恵を得られるのは”生き残ったもの”たちだけだ。

 

「(どうするかは貴方次第デスヨ?)」

 

 ふと、ミカエラはソファに座るオルガへ視線を向ける。

 まるで、何かを試すかのように。

 

 そして、オルガは沈黙から面をあげ決意の宿る瞳で名瀬へと返答する。

 

「覚悟は出来ているつもりです」

 

「……ほう」

 

「仲間でも何でもねぇヤツに、訳のわからねぇ命令で、仲間が無駄死にさせられるのは御免だ。アイツらの死に場所は…………鉄華団の団長として俺が作るッ!」

 

「オルガ……」

 

 掠れたようにビスケットの口から彼の名前が零れる。

 オルガは立ち上がる。

 

「それは俺の死に場所も同じです。あいつらの為なら。俺はいつだって死…………ッ!」

 

 バシン! という音が聞こえ、額をデコピンされたオルガがよろめいてソファの下に崩れ落ちてしまった。

「お、オルガ!?」と慌ててビスケットがそれを支え起こそうとする中で名瀬は、テーブルに片足乗せた状態で、その様子を見下ろしていたが、

 

「てめぇが死んでどうすんだ。指揮官がいなくなったら、それこそ鉄華団はバラバラだ」

 

 眉間に皺を寄せ、厳しい顔で見下ろされるとオルガとビスケットの2人は縮こまらざるを得ない。

 だが、「まァ、でも……」ふと彼の顔が緩む。

 

「血が混ざってつながって、か。そういうのは仲間って言うんじゃないぜ。…………〝家族〟だ」

 

 驚いたように名瀬を見上げるオルガとビスケット。名瀬はふと、遠い目で明後日の方を見上げ、また二人に視線を戻した。

 

「ま、話はわかったよ」

 

 それだけ言うと、名瀬は扉へと向かい、通路へ出ていこうとする。

 

 ビスケットは慌てて「あ、あの!」と呼び止めたが、

 

「悪ィようにはしねえからよ」

 

 それだけ言うと、ゆったりとした足取りで、オルガ達を置いてその場を後にした。

 それを確認し、ミカエラはハロを腕に抱きながら素早く駆けると扉の隙間をと乗りぬける。

 

「お、お願いします!」

「お願いします!」

 

 その背後で2人の声が名瀬へと届いたかは知れない。

 ミカエラはいつの間にか通路の曲がり角へと進んでた、彼へ素早く駆け寄る。

 

「あノ! えーと、名瀬……タービンさん?」

 

『ハロ! ハロ!』

 

「ん? ああ、さっきの嬢ちゃんとボール? か。どうしたんだ?」

 

 足の長さからか、少々小走りになりながらミカエラは名瀬の後ろを着いていく。

 

「実はデスネ、だんちょーさんとも話したんですガ”イサリビ”には船医さんがいないんデス」

 

「なるほどな。 そいつは危険だ」

 

『ソノトーリ!』

 

「デスデス。 だからこれから行く”歳星”でしたっケ? そこで鉄華団の船医さんになってくれそうな人を紹介してほしいのデス。 勿論タダとはいかずにお金はお支払いしマス。 船医さんにもそれなりの報酬を……とだんちょーさんガ」

 

「ふぅむ……」

 

 船医なぁ…… と名瀬は暫し思案する。

 それにつけ加える形でミカエラは続ける。

 

「えート、それと阿頼耶識に理解のある方が望ましいデス。 鉄華団のメンバーは阿頼耶識施術者が殆どデス。 それに、恐らくですが手術にはろくな衛生環境じゃなかったでしょうカラ、その後遺症もいつでるかわかりまセン」

 

「阿頼耶識に理解のあるやつなぁ……」

 

「……やっぱりいませんカネ?」

 

『ドウダ? ドウダ?』

 

「いや、ちょっと待て…… 確か1人居たはずだ」

 

「ッ! 本当デス?」

 

「ああ、歳星で寂れた診療所を経営してる女医がひとり居た。 以前はギャラルホルンにいたらしが、阿頼耶識システムの研究のためにわざわざ規制の厳しい地球から木星圏くんだりまでやってきた変わり種だ。案外、うまくやれるかもしれないぜ。歳星に着いたら、話をしておいてやるよ」

 

「おおー、期待はしてませんでしたケド、ラッキーデス!」

 

「ハハハ、正直な嬢ちゃんだ。 だが、結構性格きついやつだから会って驚くなよ?」

 

 名瀬はそう言うとミカエラの頭を優しく撫でた後、エレベーターへと消えていった。

 

 〇

 

「ふぃ…… 今日は疲れましタ〜」

 

 与えられた1人用の自室で、何も身につけない状態のミカエラは硬めのベッドへと倒れ込む。

 

 コールドスリープから目覚めてはや数週間。 いろんな出来事の連続で彼女自身も結構疲労が溜まっていたりした。

 

「……”家族”カ」

 

 ふと、ミカエラはポツリ呟く。

 

『ん、どうしたミカエラ? ハハハ、相変わらずお前は甘えん坊だな!』

 

『お、ミカエラ! 随分とピアノ上手くなったな!』

 

『ミカエラ、お前が幾ら燃費悪くっても食いすぎだぞ?』

 

『ミカエラ』『ミカエラ!』『ミカエラ?』『ミ〜カ〜エ〜ラ〜!』『ミカッ!!』

 

 

 

 

 

『───ミカエラ、お前は俺の大切な”家族”だよ』

 

 

 

「…………会いたいよお兄ちゃん(アグニカ)

 

 ギュッとシーツの端を握る。

 どこかの儚く、そして消えてしまいそうなほどか細い声は空気へ溶けて消滅する。

 彼女の首筋から背筋にかけて斜めに一直線へ伸びる傷跡を机の上に置かれたハロは見つめるが、沈黙を続ける。

 そして、ほどなくして規則正しい寝息をミカエラがたてはじめるのを確認するとハロはそのカメラアイを点滅させると部屋の明かりが消えた。

 

『ミカエラ、オヤスミ』




ハイ!感想やらなんやら待ってるからよろしく!

追記、5月8日に微修正


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拾伍

ハイ、毎度誤字脱字のご報告大変ありがたいです!
そしてアンケートあざーっす!!多分、次のお話で新ソロモンパッケージ出るかと!
ではどぞー


 大型惑星巡航船”歳星”

 木星圏を中心に小惑星帯の開発や運送を担う企業複合体。企業”テイワズ”の拠点。

 

「いいか? この先にいるのは圏外圏で1番恐ろしい男だ。くれぐれも失礼のねぇようにな?」

 

 ”テイワズ”代表の邸宅の正門前にて、名瀬は各々に言い聞かせる。

 すると、ユージンやビッスケットの2人があまり意味は無いが身なりを整えた。

 名瀬が門の前に立って警備をしている人物に話しかけ、会話をする。

 

「よぉ、久しぶりだな」

 

「お久しぶりですタービン様。失礼ですが、本日のご要件は?」

 

「ああ、親父に会いに来た」

 

 名瀬がそう言うと、話していた男が頷き独りでに背後の扉が開く。

 どうやら、通すのを許してくれたようだ。

 

「さぁて、んじゃ行くか?」

 

 振り返り、名瀬が悪戯っぽく笑いながら言った。

 

 それにしても……

 

「なんで私もデス?」

 

「フメイ! フメイ!」

 

 事前に”タービンズ”の女性陣に与えられゴシックロリータ調のドレスを身につけたミカエラが僅かに首を傾げて呟き、ハロもそれに続く。

 

 

 少し歩き、程なくして目的の人物のいる部屋までやってきた。

 気配に気がついた人物は盆栽の剪定をしていた手を止め、振り返る。

 

「おう、来たか名瀬」

 

「ヒッ」

 

 ユージンがその人物の顔を見て軽くひきつった声を漏らすが、目の前の人物ことテイワズ代表”マクマード・バリストン”にミカエラが抱いた印象は「なんだか気のいいおっちゃん」と言った感想だった。

 

 そして、名瀬は鉄華団のことを紹介すると、椅子に座るマクマードは面々を見て口を開く。

 

「なるほど、お前らが…… 話は聞いてるぜ。いい面構えをしてるじゃねぇか」

 

 そう言うと、マクマードは出口に控えてた人物に指示を出した。

 

「おい、客人にカンノーリを出してやれ。クリームたっぷりのをな」

 

「カンノーリ!」

 

「お? お嬢ちゃん、知ってるのか?」

 

「デス〜、カンノーリはミカの大好きなお菓子デス!」

 

「ガハハハ! そりゃあ良かった。 うちのカンノーリはうめぇぞ? 最高の生地にたっぷりのクリームだからなぁ!」

 

「はぅ〜♪ 楽しみデス〜」

 

「タノシミ! タノシミ!」

 

 マクマードの言葉にミカエラは目をきらきらさせピョンピョン跳ね、その様子にマクマードはすっかり気を許したのか優しい笑みを浮かべていた。

 但し、オルガやビスケットといった面々は冷や汗をかきまくってたりするのは瑣末なことだろう。

 

「っと、で名瀬。お前はどうしたい?」

 

「コイツらは大きな山をはれる奴らだ。親父、俺はコイツに盃をやりたいと思っている」

 

「!」

 

 名瀬の言うことにオルガは息を飲み、マクマードは少し驚いたように声を上げた。

 

「お前が男をそこまで認めるか。……珍しいこともあるもんだな」

 

「まぁ、いいだろう。俺の元で義兄弟の盃を交わせばいい。”タービンズ”と”鉄華団”は晴れて兄弟分だ」

 

「”タービンズ”と俺ら(……)が…… ”兄弟分”……!」

 

「で、貫目は?」

 

「五分でいい。どっちが上も下もない」

 

「フッ、お前が良くてもな周りが許さんだろう。 こいつらには荷が重い。 せめて四分六にしておけ」

 

 

 〇

 

 

「はぅ〜、甘くて美味しいデス〜♪」

 

「デリシャス! デリシャス!」

 

 クーデリアとマクマードが話している中、護衛として残されたミカエラは出されたカンノーリに舌鼓をうっていた。

 

「下手すりゃ”戦争”になるな」

 

「…………」

 

 マクマードのこぼした単語にミカエラはカンノ―リを食べていた手を止め、聞き耳を立てた。

 

「”戦争”……」

 

「ああ、そうなりゃ新たな利権を得ようと様々な組織が暗躍する。 それこそ、どんな悪どい手を使ってもな……。 しかも、こいつは長引く。 利権を勝ち取ってもその後の各組織間でも軋轢が残るからなぁ」

 

「どうして…… 私はただ…………」

 

 クーデリアは訳が分からないように言葉を漏らした。

 それは仕方とないことだろう。 彼女はまだ人の薄汚れた側面を知らない。 だからこそ、苦難の道が続く。

 

「お嬢さん、ここは”テイワズ”を指名しちゃくれないか?」

 

「え?」

 

「お嬢さんが直々に指名してした業者っていう大義名分を得られれば、当座の問題に関しちゃこっちで何とかやれる。 まっ、避けようもねぇこともあるかもしれねぇが……」

 

「それは…… もう少し考える時間を頂けますでしょうか?」

 

 クーデリアのその言葉にマクマードは少しだけ眉を険しくさせた。

 

「考える必要が?」

 

「…………」

 

 クーデリアは三日月を頼るように見るが、三日月はまっすぐと見据えて彼女を諭すように言い放つ。

 

「これは、アンタの決めることだよ。 どっちにしろこれからも人は死ぬんだ」

 

「今までのことでもわかってるだろう?」

 

「それは……」

 

「何かを得ようとすれば、何かを失う」

 

 三日月とクーデリアとの会話に割り込むように入り、ミカエラは空になった皿を隅に置き、ナプキンで口元を拭いながらクーデリアへと言う。

 

「けれど、何かを失うことを恐れれば何も得ることはできまセン。 クーデリアさん、貴方も薄々わかっているでショ? 

 今、この瞬間では誰かの言葉ではなく、貴方自身の意思で決めるべきデス」

 

「ミカエラ……」

 

「うん、ミカエラの言う通り。 これは多分俺が最初に人を殺した時と同じ、クーデリアのこれからを全部決める決断だ。 だから、これはクーデリアが自分で決めなくちゃいけないんだ」

 

「なるほど、確かにそいつは一大事だ。 いいだろう、しかし俺はもう老いぼれだ。 そうそう長くは待てないだろう」

 

 面白そうにマクタードは葉巻の火を消しながら言い、クーデリアはその事に礼を言ったので、それを見てミカエラは席をたち、部屋をあとにしようとする。

 それを見てミカエラは席をたち、部屋をあとにしようとする。

 

「若い衆、名前は?」

 

 すると、マクマードが三日月とミカエラに声をかけた。

 

「三日月・オーガス」

 

「ミカエラ・カイエルです。 お菓子、ご馳走様でシタ」

 

「ハロ! ハロ!」

 

「”三日月”と”ミカエラ”か…… お前ら、MS乗りのやつか」

 

「うん」

 

「デスデス」

 

 2人の名を聞くと、マクマードが何かを思いついたように言う。

 

「よし、お前たちのMSうちで見てやろう」

 

「ハ?」

 

「へ?」

 

「うちの職人は腕がいいぞ〜。 ジジイの気まぐれだ、取り上げやしねぇよ」

 

 願ってもない申し出だ。 ミカエラは少々興奮しながら声を上げる。

 

「是非お願いしマスお爺ちゃン!」

 

「おう、任せておけ嬢ちゃん」

 

 

 〇

 

 

 それから数時間たち、一旦”イサリビ”へ戻り留守番をしていたメンバーを集め”歳星”の繁華街へ出発し、数ある店の中で【PUB SOMEDAY】という酒場へと上がった。

 広いスペースの一角を、ほとんど鉄華団が貸し切るような状態で、特徴的な華のエンブレムをジャケットに背負った面々が、美味い酒と料理に、いつになくワイワイと騒ぎながら思い思いの時を過ごしていた。

 

 他の客たちに迷惑だろうが、それを言うのは野暮というものだ。

 

「みんな遠慮しねぇで思いっきり楽しめよォ!」

 

 オルガに言われるまでもない。酔いが回った様子のシノは女を漁りに行くなどと言い出し、ビスケットやユージンを困らせている。

 名前は知らないがオルガらと同年代の団員らはワイワイと騒ぎまくっている。

 

 そんな中でミカエラは三日月やチャドと同じテーブル席に座り、黙々とだが一定のペースで食事を平らげ無数の皿のタワーを作り出していた。

 そして、それを見て厨房のシェフたちが悲鳴をあげているがどうでもいいことだ。

 

「それにしても…… よく食べるねアンタ」

 

 ふと、三日月がミカエラの食べる量を見ながらそんなことを聞いてきた。

 

「モグモグ…… ゴクン。 食べれる時に食べるのが”エインヘリアル”の隊則でしたカラネ。 あと、単純に私は普通の人よりも消費カロリーが多すぎるのでこうして沢山食べないと餓死しちゃうんデス」

 

「フーン」

 

 三日月はそう言い、手元のフライ摘む。

 ミカエラは乾いた喉を潤すために烏龍茶を飲むが、

 

「んぐっ!? ……ゲホッ、ゴホッ!! チョ、誰ですかココにお酒置いタノ!?」

 

 烏龍茶かと思ったそれは誰かが置いていった酒だったらしく、急にアルコールを多めに取ってしまったミカエラは僅かにむせながら抗議した。

 

 ミカエラ自身、酒はなんだか苦くてアルコール臭い飲み物であまり好きじゃなく、こんなモノのどこがいいんだ? と思う。

 記憶の中で部隊の仲間たちがよく飲んでいたりするが、彼女は遠慮していたりする。

 

「今日はトコトンまで行くぞォッ!!」

 

「「「「「「おおーっ!」」」」」」

 

 そして、すっかり調子の良くなったオルガは音頭をとるとこちらの席へ戻ってきた。

 

「おいおい、ミカエラ! どうしたー、こんなガキ臭いもん飲みやがって、すんませーん! 適当なカクテルひとーつ!」

 

「あいよー!」

 

 そんなこんなでやってきた綺麗な色のカクテル。

 

「……だんちょーさん絡み酒辞めてくれませんカ?」

 

「あぁー? 酒の付き合い方ぐらい覚えねぇとダメだぞ? それとコイツは団長命令だ!」

 

「分かりましたから押し付けるのやめて下さいサイ!」

 

 グイグイと押し付けられ、珍しくミカエラが鬱陶しく思いながらカクテルを引ったくり、仕方なくそれを煽った。

 

「お! いい飲みっぷりだな!」

 

「フン、こう見えて”エインヘリアル各部隊対抗”の飲み比べ大会でTOP5取れるくらいはお酒には強いんデス!」

 

「そうか! なら今夜は飲み明かすぞー!」

 

「ふーんだ、だんちょーさんなんか酔い潰してあげマース」

 

 そんなこんなでどんちゃん騒ぎが続き、ミカエラは大して酔うことなくオルガ含めて何人もの団員との飲み比べ対決を制し、しばらくの間”アルコールチャンプ”のあだ名で呼ばれることになるがそれは別の話だ。

 

 そして、案の定気分を悪くしたオルガを外の風に当てるために店の外へ出て、三日月がオルガの背中を摩るのを後ろにミカエラは火照った体を夜風に冷ましていた。

 やがて、どんちゃん騒ぎもお開きになり、団員たちは酔いのまわった足取りで”イサリビ”に帰るか、一部の面々は二次会か、シノらのように女遊びができる店へと繰り出していく。

 

 そんな中でミカエラは帰り道で、ひとつの店の前に立ち止まる。

 ショーウィンドウの中に見える品物に目を惹かれたのだ。

 

「あん、何見てるんだミカエラ?」

 

「あ、だんちょーさん……」

 

 ふと、背後にいたオルガがミカエラのじっとみていたものを覗き込む。

 それは大きなクマのぬいぐるみだった。 胸元に赤いリボンをつけ、ボタンの瞳といった幼児向けの大きなぬいぐるみ。

 

「これ欲しいのか?」

 

「……いえ、別になんでもないデス!」

 

「…………ハハ、ちょっと待ってろミカエラ」

 

「?」

 

 オルガはミカエラにそう言い残すと、店の中へ入っていき店員に何かを話すと代金を支払い、ショーウィンドウの中に入っていたぬいぐるみと同じものを持って店からでてきた。

 そして、それをミカエラへと手渡す。

 

「ほらよ」

 

「わっ…… わ〜………… ありがと、ございマス」

 

「別になんてこたぁ、ねぇよ。 団長として当然のことだ」

 

「カッコつけデス?」

 

「あん? 別にんな事じゃねーよ」

 

 オルガはかすかに笑い、ミカエラの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

 

「帰り道気をつけろよ〜」

 

「そ、そっちこそデス」

 

 彼の背中が見えなくなり、ミカエラは先程の撫でられた感覚を思い出す。

 ゴツゴツして、乱暴極まるアグニカとは似ても似つかない手。だと言うのに何故……

 

「……ポカポカします」

 

 こんなにも胸が暖かいのだろう? 

 

 〇

 

 翌日、多くのSPが厳重な警戒を敷く式典会場。鉄華団やタービンズのみならず、マクマード・バリストンも立ち会う式であるため、当然の物々しい警備だ。

 

「あのー、私も着替える必要あるんデス?」

 

「何言ってるんだい。 せっかくの素材なんだからおめかししなきゃ損だろう?」

 

「デスカ……」

 

 兄弟盃の儀の晴れ舞台。鉄華団の面々もタンクトップや作業着姿の上に鉄華団のエンブレムがあしらわれた羽織を纏うなどそれなりの正装をしている。ミカエラは鉄華団の一員ではない。

 だが、先日のゴスロリ調のドレスとうってかわってクラシックなドレスを見にまとい、長い髪をひとつにまとめられた状態のミカエラはアミダや色んな女性たちに着せ替え人形にさせられていた。さらに加えて、その胸元にハロとクマのぬいぐるみを抱いて。

 

 

 そして、扉がゆっくり開かれる。メイクを手伝っていたアトラが「さ、クーデリアさん」と促し、同じくミカエラも彼女のそばに控えるように外へ出た。

 

 クーデリアが向かったのは、名瀬の控室にいるオルガの元。オルガの格好はよく似合う袴姿だ。

 

 そしてオルガと共にマクマード・バリストンの控室へ。そこで、テイワズの保護下に入ること、そして交渉がまとまった暁にはテイワズを火星ハーフメタル採掘業者に指名することを了承した。

 

 その後、名瀬、オルガの義兄弟盃の儀の会場へ。

 

 一列に整然と相対するように並ぶ、正装の鉄華団とタービンズ。和を基調とした広大な会場の正面の壁には

 

 

 

【兄弟結縁盃之儀】

 

【蛇亞瓶守】【兄 名瀬蛇亞瓶】

 

 

 

【見届人 真紅真亞土芭里主屯】

 

 

 

【弟 御留我威都華】【鉄華団】

 

 

 

 の大きな掛け軸が。

 

 

 

 設えられた畳の上で、正座したオルガと名瀬が向かい合っている。「三方」と呼ばれる小さな儀式台の上に盃が置かれ、いつもはツインテールの髪を後ろで綺麗にまとめているラフタが盃に神酒を注ぎ、まずは名瀬が、次いで再び三方の上に置かれたそれを取ったオルガが神酒の残りを煽る。

 

 これで、名瀬とオルガは晴れて義兄弟となった。

 

 鉄華団の面々からは一歩下がった場所に立ち、ミカエラ達はその光景を見届けた。

 

 式自体は思ったよりすぐに終わった。それでも、その間の緊張感は並大抵のものではなく、ようやく全てが終了し、全員が控室に戻った時、

 

「あ~疲れたぁ……」

 

 とソファに背を投げ出したユージンを始め、誰もが緊張で疲れ切った表情で、先ほどまでピンと張りつめていた緊張の糸を緩めていた。アトラが「ああ、ダメだよしわになっちゃう!」とユージンを嗜めたが、すっかり疲れ切ったユージンはボケーっとした顔で梃子でも動かない様子。

 

 ふと、テラスにいる三日月とオルガの方を見やる。手すりに腰を預けた三日月に対し、オルガは、ユージン同様疲れ切ったように手すりに前からもたれかかっている。

 

「かっこよかったよオルガ」

 

「ああ。似合わねぇ気苦労かけたな…………よし!」

 

 オルガが背を伸ばす、そして真っ直ぐ、上を見上げていた。

 

「面倒な段取りは全部終わった。…………行くぞ”地球”だ!」

 




ハイ、フラグがたった様子ですね〜

では誤字脱字、感想、評価お待ちしてまーす!


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拾陸

はい、アンケートありがとうございます!ということで結果の通り”強襲電撃型”のソロモンパッケージを使用することになりましたー。
まさか近接型を押しのけるとは予想外。ではどぞー


「まさか、この子(……)がココにあるなんて思いもしませんデス」

 

 ”歳星”にある工業区画内、”バルバトス”と”アンドロマリウス”の並ぶモビルスーツ格納庫の離れた場所にスペースの大部分を占領しているものを見て、ミカエラは僅かに驚いたように声を漏らした。

 ソレは全体の装甲は光を反射しない艶消しのブラックに塗装され、流線型のフォルムにあちこちに取り付けられた大型のバーニアスラスターが特徴的な戦闘機にも見えるものだった。

 

「”GAS-P-04 Stella(ステラ)”。まさかコイツを裏の武器マーケットで姿を見つけた時は息を飲みましたよ! 武装はいくつか失ってはいますが、要のものは失っていないため、大丈夫でしょう!」

 

「アハハハ、整備長さんには頭が上がらないデス」

 

「何を言うんですか! 私からしたら、まさか”バルバトス”と”アンドロマリウス”! 伝説のガンダムフレーム2体をこの手でいじれる日が来るなんて! 

 この美しいフレームデザイン!幻のツインリアクターシステム!メインOSの阿頼耶識システムまでまだ生きてるなんてッ!! 

 オマケに片腕や武装が幾つか欠損はしてはいますが、あの最後の”ガンダム・フレーム”の”アンドロマリウス”特殊武装の最初の”ソロモン・パッケージ”である”GAS-P-01 Rebertas(リベルタス)”までイジれるなんて整備士冥利につきます!!! 実に私は貴方たちに感謝したい!!」

 

「あのー、これってそんなに凄いんですか?」

 

「すごいも何も! コイツは厄祭戦を終わらせたとも言われる72体のガンダム・フレームのうちの2体なんだよ!? 

 ただ資料が少なくて、今じゃ幻の機体なんて呼ばれてる! そんな機体を予算上限なしで整備できるぅ~! 

 しかも”アンドロマリウス”に至っては製造当時のデータがバッチリ残ってるときた! 

 今まで調べてきても不自然なほどデータは無く、あったとしてもほぼ絞りカスのような状態だった。だが! こうして目の前に実機とパイロットがいる!! 

 さらには背中のバックパック! これにはエイハブリアクターを動力源にバックパックが変形し、単体で航空機のように運用はできるのだよ! だが! それだけではなく、”ソロモン・パッケージ”の本当の目玉は”アンドロマリウス”とドッキングしてから真価を発揮するのだ! 

 これはロストテクノロジー中のロストテクノロジー! 是非とも! 何が何でも調さ…………いや、バラバラに分解しなければッ!!」

 

 ヤマギも雪之丞も、歳星整備長の口から迸る言葉の奔流にただただ唖然とするしかなかった。

 

「…………何か、すごいことになってるんだけど」

 

「何でも三日月や嬢ちゃんが、テイワズのボスに気に入られて、予算上限なしで改修してもらえるっつー話になったんだが……」

 

「見ていてくださいっ! 消耗品全交換はもちろん! 

 フレーム・リアクターの再調整! 集められるだけの資料を集めて完っ全な”バルバトス”と”アンドロマリウス”をご覧に入れて見せますよォッ!」

 

「お願いします」

 

「ハロ、タノム!」

 

「お任せ下さい!」

 

 との事で、ようやく愛機を直してもらえることになり、ミカエラも肩の荷がおりたとばかりにため息を吐いた。

 しかし、”バルバトス”と”アンドロマリウス”を見てからわかる通り、かなり大規模なオーバーホールが必要のために後から”イサリビ”に追いつくことになりそうだ。

 

「まぁ、大丈夫ですヨネ〜」

 

 いくらなんでも、”タービンズ”が随伴してるからよっぽどの事がない限り大丈夫だろうとミカエラ1人結論づけることにした。

 

 

 〇

 

 

「おー、見間違えるようデース」

 

「ピカピカ! ヨカッタナ、ミカエラ」

 

「デスデス〜」

 

 全身と装甲を新品のものへと換装し、頭部アンテナもずっと欠けていたものから、ようやく新しく取り付けることが出来、全身のデザインが少々変更されることになった。

 更にはリアアーマーに格納していたガンブレードはフロントアーマー裏面へと変更、サイドアーマーが変更され、内部にナイフを収納できるようにし、左腕部は”グレイズ”のフレームを加工。

 阿頼耶識との親和性を高め、悪くなっていた機体バランスを調整し、火器管制システムも”百錬”のものと同様の最新のものにアップデートを行い、射撃能力もかなりアップしたようだ。

 そして、厄祭戦時代のオーバーテクノロジーが凝縮されたバックパックは、お馴染みの整備長の手で存分に解析・分解されたことだろう。

 

 三日月の”バルバトス”も同様に改修が施され、いくつか差異があるが厄祭戦のときに見かけた”バルバトス”本来の姿と同じ状態になっていた。

 

 そして、今の”アンドロマリウス”の背部には”リベルタス・アンドロマリウス”ではなく、長距離飛行のために”強襲電撃型ソロモンパッケージ《ステラ》”を装備しており、全身をすっぽりと覆う形のバックパックは、はたから見たらあのブラックバードのように見えた。

 機体のコクピット内でミカエラは端末を操作し、いくつか微調整を行いながら愛機の状態を確かめていく。

 

「ふむふむ……、バインダーのガトリングがマシンガンに変わってて、近接兵装が追加されているんデスネ。

 この程度ならさほど支障はないデス。

 三日月くん、そっちは準備OKデス?」

 

『ウン、いつでも行けるよ俺は。おやっさんはどう?』

 

『あー、多分平気だ』

 

「そうですかー。じゃあ行きますカネ」

 

 端末をコクピットの収納スペースへ仕舞い、ハロを定位置のデバイスへと接続するとミカエラは操縦桿を握り、順次機体のロックを外していく。

 そのすぐ側には”バルバトス”が長距離ブースターを装備したテイワズ製長距離移動ユニットであるクタン参型に収納された姿でいた。

 

「ミカエラ・カイエル、”ステラ・アンドロマリウス”出マース」

 

『三日月・オーガス、”ガンダム・バルバトス”出るよ』

 

 両者のブースターに火がともり、推進剤補充用のケーブルを機体の加速で引きちぎり”イサリビ”と”ハンマーヘッド”のいるであろう座標へと飛翔する。

 

 数時間が経過し、そろそろ”イサリビ”たちが見えてもいい距離のところでミカエラは僅かな閃光を見逃さなかった。

 

「……マズルフラッシュ? ハロ、最大望遠」

 

「ハロ、ハロ」

 

 ミカエラの指示通り、ヘルメットのディスプレイに最大望遠で遠くの景色が表示される。

 すると、”グレイズ改”が重装甲のモビルスーツの恐らくは”ロディ・フレーム”と思わしき機体3機に襲われている姿だった。

 

「! 三日月くん」

 

『わかった。先頼むよ』

 

「OKデス」

 

 2人は短くそう会話し、ミカエラは”アンドロマリウス”のバーニアスラスターを全開にし、クタン参型を簡単に引き離すと昭弘のいるであろう場所へと進む。

 

「座標固定、誤差修正、弾薬を実弾からビームへ変更、出力最大、射撃……今!!!」

 

 引き金を引き、瞬間、バックパック下部に接続されている二門の砲からピンク色の極光が解き放たれた。

 

 

 

「クソッ!!」

 

『あ、昭弘さん、俺なんか無視してもいいですよ!』

 

「ふざけんな! 仲間を見捨てるなんてオルガに顔向け出来るか!!」

 

 背部にマウントされているモビルワーカーのタカキからの通信に、昭弘は怒鳴りながら突如現れた重装甲モビルスーツの”マン・ロディ”たちの攻撃をどうにかかわす。

 モビルワーカーを庇うために急激な回避機動が取れない”グレイズ改”に対し、目まぐるしく飛び回り続ける”マン・ロディ”は次々にサブマシンガンを射かけ、機体とパイロットの双方にダメージを蓄積させていく。

 

 そして疲弊した所を、1機が急迫して接近戦で撃破…………という腹積もりなのだろう。だが、

 

「ッ! 後方から熱源!?」

 

 昭弘は突如鳴るアラートに急いでその場から離れると同時に、”グレイズ改”と”マン・ロディ”たちの間に2本の極光が通過していった。

 

「な、なんだ!!? 何が起こった!」

 

 突然の出来事に昭弘は混乱を起こすが、レーダーが捉えた機体のエイハブウェーブの反応から僅かに緊張を解いた。

 

『昭弘さん、大じょーぶデス?』

 

「ミカエラか、すまねぇ助かった!」

 

『ミ、ミカエラさん!』

 

 仲間の声に半ばべそをかいた様子のタカキの声にミカエラはかすかに笑みを浮かべ、3機の”マン・ロディ”に視線を向けた。

 

「さーてト、仲間を甚振ったお返しといきマスカー」

 

 お手並み拝見とばかりに、ミカエラは背部にあるミサイルコンテナから大量のミサイルを発射。

 エイハブウェーブを感知する機構を搭載されたミサイルは”マン・ロディ”たちを追尾し、慌てた様子の3機は回避行動をとる。

 

「甘いんだよネェ!」

 

 背部のガトリング砲が展開し、回避行動を取ろうとした3機に弾丸を浴びせかける。

 数十もの凄まじい閃光が”マン・ロディ”たちの装甲表面で迸り、僅かに速度の鈍った一機にミサイルが殺到する。

 

『う、うわぁぁぁあ!? く、来るなぁァァ!!』

 

 一拍遅れて、いくつもの爆発が起こり煙が晴れたところには装甲いくつも凹ませ、四肢を欠損させた”マン・ロディ”が動作を停止した状態でそこにいた。

 

『ペドロ!? ぐうっ!』

 

 仲間を助けようとした別の”マン・ロディ”に昭弘がライフルの弾丸を浴びせ、怯んだところで”アンドロマリウス”のバックパックを変形させる。

 

『姿が変わった!?』

 

「変わるだけじゃ、ないんダヨ!!」

 

 バインダーが腕から外れ、機体の全長にも迫る長柄の大鎌を振りかぶりその怯んだ”マン・ロディ”へ刃を叩きつける。

 

 だが、向こうのパイロットの反応速度が良くハンマーチョッパーを素早く引き抜き、間一髪それで大鎌の攻撃を防いだ。

 

『このぉぉお!!』

 

「アハァ!」

 

 大鎌は至近距離では取り回しに難があるというのに、ミカエラは初めて使う武器を巧みに使いこなし、次々とくる斬撃を簡単にあしらっていく。

 そして、この動きの滑らかさからミカエラはコイツらが阿頼耶識を持っていることに気がつくが、大した問題ではないと切り捨てる。

 

『ペドロの仇ィ!』

 

「力押しで”ガンダム”に勝つつもりなんて生意気なんだヨネ!!」

 

 リアクターの出力を全開、次の瞬間、ギリギリ…………と激しくつばぜり合いを繰り広げていた”マン・ロディ”のハンマーチョッパーを、強引に上へと跳ね除けた。

 

『なっ……!?』

 

 がら空きになった胴体へ、ミカエラは右腕でその頭部を掴み掌部エイハブ粒子砲”スティング”を発射する。

 圧縮されたエイハブ粒子が掌から放たれ、青い光を放つそれは”マン・ロディ”の全身へ走ると機体の回路を焼き切り、パイロットへ阿頼耶識を通じて膨大なデータを無理やり流し込んだ。

 

『がっ……ナッ、げっ、あぁ……!!?』

 

 体の至る所から血を吹き出し、ガクリとシートに脱力するも”マン・ロディ”も動かなくなる。

 だが、パイロットは微かに息をしており死んではいなかった。

 

『な、なんなんだよ、お前はァ!!?』

 

 急に現れ、数分もたたずに仲間を始末した敵に残された”マン・ロディ”のパイロット”アストン”は引きつった声で叫ぶ。

 

「アハッ!」

 

 ミカエラはその声に答えることはなく、笑みを浮かべて背部ミサイルコンテナからスモークミサイルを発射し両機を包み込む。

 

「な、なんだ!?」

 

 突然の出来事にアストンは周囲を見渡し、レーダーを見るが先程までいたはずの敵の反応が全て消失しモニターにもノイズが走り始めた。

 そして、コクピットに衝撃が走る。

 

「クソッ、姿を見せろよ!」

 

 叫んで不安を紛らわせるように叫びながらライフルを乱射するが、当たるはずもなく”マン・ロディ”の装甲にいくつもの切り傷が刻まれ、その度にアストンの頭に恐怖が走る。

 

『アハハハッ! もっともっと怖がる声をきかせててヨ!!』

 

 恐らくは敵機のパイロットの声だろうが、熱を帯びたその声はガリガリとアストンの精神を削り、ついに限界が訪れた。

 

「う、うわぁぁぁぁああっ!!!?」

 

 叫び、アストンは”マン・ロディ”の方向を転換させ、逃走しようとしたがスラスターが反応せず、慌てて機体の状態を確かめると、全てのスラスターが既に破壊され武装すら刈り取られ丸腰の状態であったことに気が付き、アストンはひきっつった声をもらした。

 なぜなら、すぐ先にユラユラと大鎌を構えた悪魔(死神)がそこに居たからだ。

 

「あ、あぁあ…………」

 

 レバーを動かし、逃げようとするが手足が動き、宇宙空間を漂う姿は酷く滑稽に映る。

 ミカエラなその姿を見て嗜虐心からか口元に弧を描き、ゆっくりと”マン・ロディ”へ近づいていく。

 

「く、くるな……」

 

 ガタガタと体が震え、股間が湿る。

 

「や、やめろ……」

 

 ゆっくりと大鎌を振りかぶり、その刃が光を反射した。

 

「うわぁぁぁぁあァアッ…………!!!!?」

 

 刃が振りかぶり、アストンは喉がはりさけんばかりの悲鳴をあげ、大鎌が”マン・ロディ”を切り裂く…………ことはなかった。

 なぜなら、センサーがさらに3個のエイハブ・リアクターの反応接近を警告してきたからだ。

 

『全く…………クソの役にも立たないヒューマンデブリどもがッ! あんたたちも…………まだ、終わりじゃあないのよッ!!』

 

 2機の〝マン・ロディ〟を先行させ、その奥からひと際異彩を放つ巨体のモビルスーツが現れた。

 

「ハロ、あの奥の機体っテ?」

 

「データベース照合……”ガンダム・グシオン”!」

 

「うっそデショ!?」

 

 思わずミカエラは目を剥いて、驚き声を上げた。

 まさか過去の戦友の機体があんな姿(おデブ)になっているとは思わず、些か信じられないと思ったがエイハブウェーブから”グシオン”という事実が突きつけられているため、思わず額に手を当ててしまう。

 

「全く、”ガンダム”をそんな不細工にするなんて許せなイ!」

 

『お前らは人質を取りな。あの黒いデカブツは……俺が相手をしてやる!』

 

 指示された2機の”マン・ロディ”が散開し、”グシオン”がこちらへと迫ってきた。

 脇に抱えたレールガンを撃ち放つが、弾丸は”マン・ロディ”よりも堅牢な装甲を貫くことは出来ず、表面を凹ますだけだ。

 

「チッ! 洒落臭い!!」

 

 大鎌を構えるが、あの巨大なハンマーを受け止めるには少々心許ない。どうする? と逡巡している間に、

 

 

 

『このクダル・カデル様と、”グシオン”を舐めるんじゃあ…………っ!?』

 

 

 

 なにやら汚い男の声が聞こえるが、その上方から一筋の青い光がほとばしる。

 それが1機のモビルスーツを形作ったかと思うと…………次の瞬間それは”グシオン”へと突貫。

 

 手にしていた太刀が”グシオン”の頭部の装甲と胸部との間にぶっ刺さり、的確にコクピットを貫いた。

 

 

『んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ─────!!!??』

 

 

 数秒とも経たない、まさに瞬殺。そんな言葉に会う光景に暫し、ミカエラも唖然としてしまう。

 そして、少しの間響いた汚い断末魔の後に”グシオン”はそれきり動かなかった。

 

『…………』

 

「うっソー…………」

 

「ハロ、ハロ」

 

 ミカエラが唖然とする中、”グシオン”の首筋から汚い内容物を付着させた太刀を引き抜き、蹴飛ばして飛び上がったそのモビルスーツの姿は…………磨き上げられた装甲が眩く光る、歳星で新品同然に改修の施された”バルバトス”だった。

 

『大丈夫?』

 

 まさかの獲物を目の前で横取りされたとは思えず、ましてや数秒で始末した三日月はなんの感慨も抱いた様子のない声色で、こちら側に声をかけてきた。

 

『ねぇ、大丈夫って聞いてるんだけど?』

 

「え、あ、アァ、大丈夫デス。ハイ」

 

『そう。あっちももう終わりそうだね』

 

「?」

 

 三日月の言葉に疑問符を浮かべながら視線を向けると、いつ出撃していたのか赤い”百錬”と”グレイズ改二式”がおり、2機の”マン・ロディ”のうち、片方があちこちから黒煙をあげ漂流、”グレイズ改二式”に拘束され、もう片方は丁度武装全てを解除され”百錬”のブレードの切っ先を首筋に突きつけられているところだった。

 手持ち無沙汰にミカエラは近づくと、通信が入り乱れて聞こえてきた。

 

『ふぅ、あまり手をかけないで欲しいねぇ?』

 

『クソッ、殺すなら殺せよ!! 俺は人質にも、捕虜にだってならないからな!?』

 

『辞めろ! まだ幼い子供が戦う必要なんてないんだぞ!?』

 

『クソォ……!』

 

 声からして、タカキと同年代か少ししたの少年の声。

 ふと、昭弘の”グレイズ改”がのろのろと戦闘不能となった”マン・ロディ”に近づいていくのが見えた。

 

『昭弘。ここはいいから早く”イサリビ”に…………』

 

『昌…………弘…………?』

 

『……はぁ?』

 

 アミダの声に反応することなく、昭弘はその”マン・ロディ”に近づくと”グレイズ改”の手で”マン・ロディ”の肩を力強く掴んだ。

 

『その声…………昌弘……だよな…………!』

 

『え…………』

 

『俺だ! 昭弘だッ!!』

 

『昭弘…………兄貴…………なの、か?』

 

 まさかの兄弟の対面である。

 恐らくはコクピットで互いに写った画像で疑問を確信へと変えている所だろう。

 

『に、にいちゃ……』

 

『まさ、ひろ……昌弘ッ!!!』

 

『その声…………昌弘……だよな…………!』

 

『え…………』

 

 震える昭弘の声。そして、

 

『ああ、……ま、昌弘ッ────────!!!』

 

 生き別れあ兄弟との再開。そして、つもりに積もった感情の爆発。

 興奮とも感涙ともつかない、絶叫が少しの間だけ広大な宇宙空間に響き渡った。




はい!アストンくんには可哀想でしたが仕方ないネ。
ということでミカエラちゃん無双でした〜。
では誤字脱字とか感想待ってるよー

《機体データ》
電撃強襲型ソロモンパッケージ

・GAS-P-04 ”Stella(ステラ)"
ラテン語でステラは《星》を意味する。
ガンダムアンドロマリウス専用電撃強襲型換装バックパック。
搭載されている武装はミサイルやナパーム弾といった施設や敵陣地などを広範囲に破壊するのを目的としたものになっている。
離れた場所から外付けのブースターを用いて大気圏を離脱し、弾道飛行で敵陣深くへの単騎での大気圏突入の後電撃侵攻を目的。
そして、全身爆薬庫ともいえるほど搭載、内蔵された火器で絨毯爆撃を行いつつ、ステルスシステムと数多くの大容量スラスターによる作戦遂行後に作戦地域から高速離脱をする。
これにより流星のように見えたため、技術者から『ステラ』と命名された。
対施設、陣地、対艦などの強襲作戦で真価を発揮する。
高い機動性と飛行形態への簡易変形機能が付加されており、素体となるアンドロマリウスとは別にエイハブリアクターが搭載されている。
分離して無人の支援機としても運用することが可能となり、変形する時はアンドロマリウス全体を覆うためなのと、特殊なシステム搭載、各種弾薬のために他のソロモンパッケージよりも大分大型となっている。
ただし、武装や機構全てがこのバックパックに集約されているために分離時には戦闘能力の大半が失われてしまう。
そのために、別途でソロモンパッケージを連結させて使うことが多い。
イメージとしてはブラックバードにいくつか武装を足して、下部に二門のレール砲を取り付けた感じ。

《カラーリング》
漆黒と灰色

《兵装+特殊システム》

・バトルサイズ
本機の唯一の近接兵装。
見た目は長柄の両刃の大鎌であり、刃の部分は根元部分が可動しバトルアックスとしても使用可能。
元々は近接兵装は装備されていなかったが、”歳星”で回収を受けた際に追加された。

・240mm大型複合レールキャノン
ダインスレイブや特殊HEAT弾、ナパーム弾頭といった切り替え式で砲弾を発射することが可能。
また、施設を破壊するためにビームも放つことが出来る。
背部に接続され、使用時は両脇に抱えるように使用される。

・ムーバブル・シールド・バインダー/サブマシンガン
元々は左右に1つずつガトリングであったが、裏のマーケットを巡るうちに紛失し、変わりにマシンガン2基とスラスター三基を備え両肘部にアームを介して取り付けられている。
フレキシブルに可動するため、航空機とは思えないほどの挙動をとることが可能。
バトルサイズを振るう時は自動的に腕部から外れ、アーム可動で動作の妨げにならないようにすることが出来る。

・背部ガトリング砲
背部に左右一門ずつ格納されている二門のガトリング。
非常時はバックパック内に格納され、使用時は装甲が後部へスライドし、使用可能。
モビルスーツ形態時は肩部から伸びる形で使用可能。

・ミサイルコンテナ
背部に4基装備されている地対空ミサイル。
スモークやチャフといったものも発射可能。

・マイクロミサイルコンテナ
両脚ランチャーポッドに内蔵された小型ミサイル。
追尾機能はなく、複数目標に対し飽和攻撃を仕掛ける「面の制圧」を目的とする。

・ハイパージャマー
本機にのみカメラやレーダー等の電子機器を無効化する、ステルス技術を応用した電波妨害装置「ハイパージャマー」を搭載している。
更に、変形時にエイハブウェーブや電磁波を吸収する機構も搭載しているために、どの様なセンサーにも一切映らない為、敵兵器、MSやMAからしたら完全に姿が消えていることになる(肉眼でしか視認が不可能)それにより相手側から察知される事無く敵機を撃墜する事が可能。
厄祭戦で開発データは失われているため、完全なロストテクノロジーとなっている。

・エイハブウェーブ吸収機構
変形時にのみ発動するする特殊な機構。
このソロモンパッケージ開発時、技術者がハイパージャマーを作る過程で偶然作り出した副産物的技術。
その時は開発陣たちは深夜テンションだったのか、組織上層部の「エイハブウェーブ反応を感知させない完全なステルス機を作り出せ」などという無茶ぶりに疲弊していたために生み出された時に許可をとらずに勝手に本機に搭載させたもの。
詳しい原理は厄祭戦の時に開発データ諸共消し飛んでるためロストテクノロジー。

・可変機構
本機に採用された可変機構。
手順としては簡単で、素体となるガンダム・アンドロマリウスは手足をまっすぐに伸ばし腕部のバインダーのスラスターを後部へ向け、肩部スラスターバインダーをスラスターを後部、先端部を前方へと向け、背部ユニット一部を前方へ機首として動かし、各スタビライザーを露出させレール砲の銃口を前方へ向けるだけである。
一応は他のMSを上部に乗せてSFSのように運用が可能。

・エイハブクラフト
詳しくは機体解説1を参照

《データ》
・全高 8.6m

・全長 33.2m

・全備重量 150.2t



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拾漆

遅れました☆


「ふむ……、目立った外傷はないが栄養失調による疲労や、今までの虐待からくるストレスが大きいな。しばらくは安静にして栄養のある食事をおすすめするな」

 

 ”イサリビ”の医務室、メディカルナノマシンベッドに寝かされる少年、昌弘・アルトランドを背に一人の女性が振り返る。

 乱雑に切り揃えられた赤い髪は長いこと手入れをしていないのか、元は綺麗だったろうがパサパサと痛み、フレームむき出しのメガネと所々薄汚れた白衣を着た彼女こそが”イサリビ”の船医となった彼女こそ”スミカ・スージエ”である。

 そして、冷たい床には正座で座らされている昭弘・アルトランドが彼女の何処か気だるげな暗緑色の瞳に睨まれていた。

 

 何故こうなったかは数刻ほど遡る。

 

 

『昌弘!!』

 

『あ、兄貴────

 

『まさひろぉぉぉぉぉっ!!!!』

 

 ”マン・ロディ”のコクピットから出された昌弘を昭弘が感極まったように抱きしめる。そこまでは良かったのだ。

 だが、大柄で腕力もある筋肉巨漢が、力も弱く、栄養失調気味で骨もやせ細った少年を全力で抱き締めればどうなるかは想像に難くない。

 

 その時は丁度、ミカエラは機体のコクピットにいたのだが通信機越しに”ベキッ……”というやけに耳に残る嫌な音が聞こえた。

 おそらくは三日月たちにも聞こえていており、案の定力なく昭弘の腕の中でぐったりとした昌弘。

 大慌てで兄弟を引き剥がし、医務室へと担ぎこんで今に至る。

 

「まったく、生き別れた兄弟同士の感動の再会はまだいい。だが、なぜ弟の方が肋を二、三本折るような大怪我をしているんだ? ん?」

 

 もちろん、納得できる理由を説明できるよな? と、暗緑色の瞳が冷たく昭弘を睨みつけ、すっかり小さくなった体を更に萎縮させて昭弘は口を開く。

 

「……すまねぇ」

 

「はぁ……、あと少し位置がズレていたら折れた骨が内臓を傷つけていたが、運が良かったな馬鹿者」

 

 その言葉に、すっかり意気消沈した様子の昭弘をユージンとシノのふたりが慰める中、オルガが苦笑しながら、

 

「まぁ、こうして生き別れた兄弟が再会出来たから良しとしようぜ。そういえば、他の連中はどうだ?」

 

「船室にまとめて、メリビットさんが容体を確かめてくれてるよ。一人はちょっと着替えさせてるけど、全員は命に別状はないってさ」

 

 ビシケットの報告に、オルガは胸を撫で下ろす。

 他の少年たちは全員は監視付きだがきちんと保護され、今頃は暖かい食事に戸惑いながらもがっついている頃だろう。(なお、そのうちの一人は妙に小綺麗な格好になっている)

 

「じゃあ、俺らは名瀬の兄貴に呼ばれてるんで。あとはお願いします先生」

 

「元からそのつもりだ。他の健常者もさっさとココから出ていけ。それと、筋肉ダルマお前は面会謝絶だ」

 

「なっ、俺はまだ「ア"?」……うっす」

 

 本当に女医なのか? というほどのドスの効いた声に、昭弘はさらに肩を落とし、それをユージンとシノの2人が慰めながら医務室を出る。

 ミカエラも他の面々が出ていくのに続き、通路を歩いていると角を曲がるオルガの背中がちらりと視界に映る。

 

「アハッ」

 

 なにかイタズラを思い浮かんだのか、少しだけ悪い笑みを浮かべて彼女はオルガのあとを追いかける。

 

 

 

 〇

 

 

 オルガとビスケットに気が付かれないよう、”ハンマーヘッド”へと移動し、ブリッジへと入ると同時にアミダが口に人差し指を当てて静かにとしているよう促し、3人はそこで止まる。

 そして、艦長席に座す名瀬がブリッジのメインモニターに映る人物と対峙していた。

 その人物を見た時のミカエラの感想としては『オークがいたらあんな見た目なんだろうなー』とのものだったのだが、あのブサイクな人物こそが悪名高き腐れ宇宙海賊”ブルワーズ”の頭領”ブルヤック・カバヤン”その人である。

 

「───ほぉ、ぅんじゃあお前らは本気で俺たちに喧嘩を売ろうってんだなぁ? なあ、ブルヤック・カバヤンさんよぉ……」

 

『ケツがテイワズだからってでけぇつらしてんじゃねぇよ。なにもテイワズだけが力を持ってるわけじゃないんだぜ? タービンズの大将さんよ』

 

「ハハハハッ! そう言っておきながらテメェんところのグシオン(切り札)とMSを一気に倒された割には面白いこと言うなぁ?」

 

『ッ……! てめぇッ!!』

 

 名瀬の煽りに、醜い面を赤く染め口汚く罵ろうとしたが、その寸前で名瀬が通信を切ると呆れた様子で口を開く。

 

「……ったく、血の気の多い馬鹿が居たもんだろ。ぬぁ?」

 

「はぁ……」

 

「オルガさんオルガさん。一応血の気が多いって鉄華団も入ってマス」

 

「うぉ!? ミカエラ? いつの間に……」

 

「えへへー、来ちゃいましタ〜」

 

「ハロ、ハロ。元気カ?」

 

 そんな会話もありつつ、応接間へと場所を移す。

 

「それで、捕まえた奴らと弟の調子はどうだい?」

 

「はい。ステープルトンさんのお陰で安心してご飯を食べてますし、昌弘くんはスージエ先生のお陰でだいぶ安定しています」

 

「役に立つ女だって言っただろう? まぁ、スミカのほうは嬢ちゃんのお陰だがなぁ」

 

「船医も載せないで惑星間航行なんていうおバカなことを仕出かす前に手を打っておいて正解デス〜」

 

「そりゃ正論だな」

 

「うぐっ……。ゴホン、それでブルワーズ(連中)のことですが。何もんです?」

 

 話を強引に切りかえようとしたオルガに僅かに笑いつつ、名瀬はブルワーズがどんな組織かを説明する。

 

「名は”ブルワーズ”。主に火星から地球にかけての航路で活躍してる海賊だ」

 

「”海賊? ”じゃあ狙いは船の積荷ってことですか」

 

「あと、”クーデリア・藍那・バーンスタイン”の身柄だとよ」

 

「「なっ……」」

 

 その要求にオルガとビスケットの2人は言葉を失い、ミカエラはニコニコと笑っていた。

 

「『大人しく引き渡せば命だけはとらねぇ』と偉く上から言ってきやがった……」

 

「ブルワーズってそんなに力を持った海賊なんですか?」

 

「武闘派で名の通った組織であるのは確かだね。勿論、テイワズに渡り合えるほどじゃあないんだが……」

 

 アミダの言葉を名瀬が引き継ぐように続ける。

 

「だからこそ今回の件に関しては妙に強気なのが気にかかる。でかいバックがついたのかもしれねぇ」

 

「クーデリアさんのことを知ってたのも気になります」

 

「やれやれ、どうにもめんどくせぇ裏がありそうだなぁ」

 

 名瀬の独り言ともとれる言葉は室内の空気に溶けるように木霊した。

 

 

 

 〇

 

 

 青く、命に満ち溢れた惑星を目の前にギャラルホル地球軌道基地”グラズヘイム2”

 その展望デッキで地球を感慨深く見つめる存在がいた。

 

「これが……、地球」

 

 ギャラルホル火星支部所属改め、ガエリオ・ボードウィンの部下として訪れたアイン・ダルトンは噛み締めるように呟く。

 そんな時、どこからともなく彼を見下したかのような声が鼓膜をふるわせた。

 

「よう新入り、お前は地球への降下降りなかったのか? まっ、そうだよなぁ。火星生まれの汚い猿がいたんじゃ地球が臭くなっちます」

 

 目付きの鋭いギャラルホルンの2人組の兵士の先輩とその後輩が立っており、アインはどこか胡乱な瞳を向ける。

 

「やめた方がいいですって。コイツ、ファリド特務三佐の船で来たんですから。ファリド家はギャラルホルンを束ねるセブンスターズのご家門じゃないですかッ」

 

 後輩兵士が先輩兵士にむけて耳打ちするが、その先輩兵士は聞く耳を立てずにアインへと近づく。

 

「ハッ、だから教育が必要なんだろう?」

 

 詰め寄り、アインを脅すように男は言う。

 

「お前のような奴がそばにいてはファリド特務三佐の名が汚れるんだよ」

 

「……今の私の上官はガエリオ・ボードウィン特務三佐ですので。その点、ご心配いらないかと思います」

 

「ボードウィン家もセブンスターズの1家門じゃねえか。バカにしてんのか!?」

 

 アインからの鋭い返しに途端に語気を荒らげ、襟を掴むがアインはそれを冷めた目で口を開く。

 

「いえ、田舎者の御教授を賜りありがとうございます」

 

「チッ! 行くぞ」

 

「あ、ハイ!」

 

 アインの様子に男は舌を打ち、後輩兵士を連れどこかへと消えていく。

 だが、アインは宙に体を浮かせるまま誰に聞かせるわけでもなく吐き捨てる。

 

「俺はあの少年たちを……あの”隻腕”を討てればそれでいい……。その機会をくれるなら誰であろうとついて行く…………」

 

 ドロッとした感情の込められた呟きは冷たい宇宙へ消えていく。

 彼は知らない。慕う上官はが生きていることに、彼は気が付かない。クランクの思いを。

 憎しみがぶつかるのはまだ、先だ。




はい、モチベやらなんやら色々と死んでおりました〜。
今度は月一で頑張りたい!


キャラ情報
・スミカ・スージエ

・身長:174cm

・体重:非公開

・年齢:27

ギャラルホルンで昔医師として働いていたが、現場出身でMSの操縦も可能。
昔、傷痍兵の治療のために阿頼耶識を研究していたが規制が厳しく、おまけに上官ともそりが合わなかったため退職届と一緒に右ストレートを顔面に叩き込んでギャラルホルンを退役。木星圏までやってきた。
腕は確かで、脳と心臓さえあれば人として形をこだわらなければ動くレベルまで治療可能。

見た目は手入れのしていない赤い髪を後ろにまとめ、塗装の禿げたフレームむき出しのメガネ、暗緑色の瞳、ヨレヨレとなった白衣の下に簡素なシャツとズボンを履いている。
性格はかなりキツめで毒舌家。だが、かなり不器用な根の優しい人物。
CVイメージは伊藤美紀。


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拾捌

「クソッ! あの若造がッ!!」

 

 ガツン! 

 ブルック・カバヤンは唾を飛ばし叫びながら手すりを蹴りつける。

 

 こんなはずでは無かった。本来だったら人質をとり、簡単にクーデリアと連中の積荷を奪い去るはずだ。

 襲撃に向かわせたデブリのゴミどもはまだいい。だが、”グシオン”と腹心の”クダル・カデル”が殺られたことは想定外もいいところだ。

 

 デッキ内で一通り鬱憤を吐き出し尽くし、荒く息を吐きだしていた所に、

 

『おんやぁ、随分とお怒りですなぁ〜』

 

 と、人の神経を逆撫でするような声とともにメインモニターの中央にちょび髭の男が映し出される。

 ブルックにクーデリアのことを教え、依頼を出した今回の騒動の大元の原因のトドその人である。

 

「テメェ……、話が違うじゃねぇか! 目的のクーデリアとかいう女を確保する楽な仕事って聞いてたが、蓋を開けてみたらどうだ!? MSを失った挙句にクダルも死にやがった!」

 

『おー、怖い怖い。そいつは災難でしたね〜』

 

 おちゃらけたように言うトドの声にブルックは血管を浮き上がらせ、怒鳴ろうとするがそれを遮るようにトドは手を打つ。

 

『そんなブルックさんに朗報だぜ〜? 俺の雇い主の旦那が追加で仕事を頼みたいってさ! もちろん、その分の援助はするぜー」

 

「なに?」

 

 トドは言うと、手元で何かを操作しブルックの座っていた席の端末にいくつものリストが表示した。

 

『とりあえずは追加のMSだぜ。受け取り場所はその座標だぜ〜。肝心のブツは阿頼耶識は積まれてないが、性能は折り紙付きだァ。んでもって追加の依頼だがクーデリアの他にこの機体とパイロットの確保ってやつだ。ああ、パイロットは殺さずにって感じ目頼むぜー? 傷1つ付けないでくれって旦那が念押ししてたからな。じゃなー』

 

 一方的に告げられ、通信が切られる。

 だが、ブルックは手に持った端末のリストにニヤリと下卑た笑みを浮かべる。

 損失した”マン・ロディ”と”グシオン”は痛いが、新しく補充されるMSはギャラルホルンが制式採用している”グレイズ”のひと世代前の”ゲイレール”。だが、どうやら独自にチェーンされておりギャラルホルンの正式量産機”グレイズ”よりも劣らない性能になっているらしい。

 

「これだけのMSさえありゃあ、タービンズなんて怖くねぇ。おまけにこの仕事を完了すりゃあ今まで以上の儲けが入るぜ……」

 

 損得勘定を済ませ、ブルックは部下に指示を飛ばす。

 そして、その端末には”翼のある白いMS”と”黒髪の少女”の荒い画像が添付されていた。

 

 そして、ブルワーズは新しいMSを補充し万全の体制となった。だが、哀れな豚たちはこの後に来るであろう悪魔の名を冠する彼らからしたら、獲物が増えただけということでしかない事に気が付かない。

 

 

 

 〇

 

 

 ブルワーブが縄張りとするデブリ帯、その中に1機のMSが侵入する。

 それはミカエラの”ステラパッケージ”を装備した”ステラ・アンドロマリウス”だ。

 

「あちこちデブリばっかデス」

 

「キケン、キケン」

 

 あちこちに浮かぶデブリたち。それをミカエラは機体を操作し、細かい動作でデブリをかわしていく。

 今回の作戦では陽動として三日月の他のMSがブルワーズのMSと戦闘で陽動を行い、その間に敵の本拠地である艦をミカエラが発見しソレを叩くのが今回の作戦だ。

 

 そして予定時刻になり、サブモニターに望遠モードでいくつかの閃光が映り戦闘が開始されたことを示し、それを見たミカエラは唇をなめ獰猛に笑う。

 

 ほどなくして、機体を加速させデブリ帯の奥深くへ進みと目的のブルワーズの艦隊を発見する。

 

「み~つけたァ!!」

 

「ハッケンハッケン」

 

 すぐさま全武装のロックを解除し、目標にロックオンをおこない大量のミサイルを発射させる。

 

「壊れちゃいなヨ!」

 

 ステラパッケージから発射されたミサイルからようやく敵の存在に気が付いたのか、すぐに対空射撃を行うが奇襲による攻撃に反応おうまくできずまばらな弾幕しか張ることができない。

 いくつかのミサイルは撃墜されたが、それでも微々たるものでしかなく無数のミサイルが殺到し、爆発を起こす。

 

「ぬおおお!!? いったい何が起きやがった!」

 

「こ、攻撃です!!」

 

「レーダーは何してやがる!」

 

「敵影、レーダーに映りません!?」

 

「クソッ! さっさとMSをだしやがれ!!」

 

「は、ハイッ!!」

 

 ミサイルによる爆発にブルックは唾を飛ばしながら部下に怒鳴りつけ、すぐさま指示を出す。

 突然の攻撃に慌ただしくMSを発信しているのを見て、ミカエラはほくそ笑む。

 

「お預けばっかり食らってましたからねェ……。楽しませてヨ!!」

 

 外付けのミサイルコンテナをパージし、つづけてバックパックを解除する。

 

「チェンジ、ドッキングゴー。モードリベルタス!!」

 

 ステラパッケージ後部に接続されていたリベルタスパッケージが素体状態の”アンドロマリウス”の背部に接続され、”リベルタスアンドロマリウス”へとなる。

 

「ステラパッケージのモードをオートに変更」

 

「リョウカイリョウカイ!」

 

 大鎌を携え、《流星》から《自由》の翼を広げ悪魔は笑いながら突撃する。

 

「アは、アハハハハハハ八!!」

 

 途中にいた”マン・ロディ”に大鎌を振りかぶり、通り抜けざまに装甲の隙間を縫って片腕を切り裂き背部のテイルブレードを射出し可動部を貫きただの木偶に変える。

 別の同型の機体もできる限りコクピットを狙わず、無力化させていく。

 

『ミカエラ、ヒューマンデブリはできる限り殺さないでくれるか? 頼むミカエラ』

 

 単独で出撃する前にオルガがそう言い、頭を下げてきたこと思い出しながらミカエラは機体を操作させる。

 

「別にあんな甘いお願いなんて聞く必要なんてないんですけど‥‥」

 

 デブリを蹴り、さらに加速させ先ほどの”マン・ロディ”から奪っていたハンマー・チョッパーを勢いを載せて”マン・ロディ”にたたきつけ頭部を破壊し動きが鈍った瞬間に、掌部エイハブ粒子砲を使用。内部機器を破壊し尽くし鉄くずに変貌させた。

 

「こノッ!!」

 

 背後から切りかかった”ゲイレール”を大鎌の柄で受け止め、ウィングブレードを射出。

 関節部とスラスター部を突き刺し、動かなくなったソレを蹴り飛ばす。

 

 一機だけであっという間に無力化させられた様を見せつけられ、たじろいだ様子の敵を一瞥。

 

「ふん。それに、あの人に頼まれるのは悪い気はしませんしネ」

 

 それに、頭をなでて欲しい。ミカエラはこの間の出来事に笑みを浮かべてレバーの握る力をわずかに強める。

 

「かかってきなさイ!」

 

「MS隊は何をしてやがる! 相手はただの一機だぞ!?」

 

 次々無力化されていく自分のMSに不細工な顔をますます不細工にさせ、ブルックは怒鳴る。

 

「あ、相手が早すぎます!! おまけに…………」

 

 オペレーターの一人が言い終わらぬうちに、船体に振動が走る。

 慌ててブルックが船外に視線を向けると、漆黒に塗装された巨大な航空機が下部に接続された砲から弾丸を放ち、この船を攻撃しているところだった。

 

「あの航空機がレーダーに映らないせいで撃ち落とせません!!!」

 

 悲鳴交じりの声に爪を噛み、目の前に目的一つの機体がいるのに手に入らないもどかしさにいら立ちを募らせる。

 だが、さらに彼は眼をひん剥かせるようなことが起こる。

 

「て、テイワズだとオ!!?」

 

 艦隊後方のデブリの密集地帯から突如として現れた強襲装甲艦”ハンマーヘッド”と”イサリビ”の二隻。

 奇襲による混乱と砲撃にたまらず転身するが、この場においては愚策でしかない。

 停止したその横腹に”イサリビ”は砲弾を叩き込み、あっという間に攻守は逆転する。

 

『ごめん、待たせた』

 

『ようやくかい。行くよアジ―、ラフタ!』

 

『ハイ姉さん!』

 

『りょーかい!』

 

『二代目流星号いくぜ!!』

 

『あまり無理はするんじゃないぞお前たち』

 

 次々と”イサリビ”、”ハンマーヘッド”からMSが発進し、レーダー上にも”バルバトス”や”百里”の識別信号が見えた。

 

 更には

 

『おらァ!!』

 

「おや、あのおデブさんハ……?」

 

『なっ、”グシオン”だとぉ!!?』

 

 胸部の400ミリ砲が炸裂し、ブルワーズ艦1隻の側面主砲が、なす術なく爆発に呑まれて撃破される。

 そして煙から現れるのは重装甲によりでっぷりと太り、元のスマートさからかけ離れた姿の”ガンダム・グシオン”だった。

 

『俺だ!』

 

「あら、昭弘さんでしたカ」

 

 モニターにグシオン内のコクピットが映り、デカデカと昭弘の顔がアップで見えミカエラは僅かに肩の力を抜く。

 

「でもいいんですカ? その機体って……」

 

『壊れてたのはコクピットだけだ。無事な奴から撮っ替えたらすぐに使えるようになった』

 

『でもそいつって……!』

 

『問題ない。昌弘を……それに仲間や家族を助けるためだ。コイツにはこれから存分に働いてもらうさ!!!』

 

 昭弘はそう言い、突っ込んでいき持ち前の重装甲を活かし艦砲射撃をものともせず次々と船体の砲台をぶっ壊していく。

 

「私も負けていられませんネェ!!」

 

 それを見てやる気を漲らせ、それに呼応するかのように”アンドロマリウス”の双眸が強く光り青い残光を伴いながら、次々と”マン・ロディ”と”ゲイレール”の混成部隊を無力化する。

 

 そんな仲で、

 

「殺さないようにって、難しいな」

 

 ”バルバトス”のコクピット、マシンガンを乱射し逃走する”マン・ロディ”を猛追しながら三日月は1人つぶやく。

 そう入っても、滑腔砲の一撃で敵機の足を撃ちバランスを崩したところに接近しメイスでマシンガンを握る手ごと砕き、頭部を掴んで膝蹴りを叩き込み太刀で肩口を突き刺し、デブリへ縫い付ける。

 

 口ではああ言っても、見事な手際でやはり天賦の才といったところか。

 そして、不幸にも近くを通っていた”マン・ロディ”も同じ目に辿ってしまう。

 

 

 

 〇

 

 

 パイロットたちの活躍により、次々と武装を破壊されていくブルワーズの船たち。

 その中でも”グシオン”の胸部砲は凄まじく、ブルワーズ艦の艦砲を破壊していく”グシオン”の戦いぶりを見て”ハンマーヘッド”のブリッジの名瀬は声を漏らす。

 

「すげぇなあの威力」

 

『本当にMSの武装かよ……』

 

 ”イサリビ”のモニター越しに呻くオルガ。それが自分たちに向けられたかったことに対する安堵と頼もしさからか、口の端が僅かにつり上がっていた。

 

「だが、嬢ちゃんのも負けてねぇな。嬢ちゃんの話じゃまだまだあんなバックパックがあるって言うんだからとんでもねぇ」

 

 ”グシオン”以外に戦場を駆ける”アンドロマリウス”と無人の”ステラパッケージ”。どちらの砲から放たれる弾丸は敵MSの重装甲をものともせず、掠っただけでも手足をもがれていた。

 

『頼もしい奴っすよ兄貴』

 

「そうかいそうかい。だが、そういうのは本人に言ってやれよオルガ?」

 

『? はぁ……』

 

「敵のMS部隊の全滅、敵艦の全武装停止しました!!」

 

 名瀬の言葉にオルガは首をかしげなら答え、弟分の鈍感ぶりに僅かに苦笑しながら名瀬はオペレーターの報告を聞き声を上げる。

 

「うーし、それじゃあ全員撃ち方止めだ。話し合いと行こうじゃあないか」

 

 

 

 

 ”ハンマーヘッド”ブリッジ、その中央でブルワーズの頭目ブルックは膝をつき名瀬やオルガがその不細工な男を見下ろす。

 

「さあて、きっちり賠償は払ってもらうぜブルック・カバヤンさんよ」

 

「ぐ……、名瀬・タービンッ!!」

 

「ふっ、何が望みだ兄弟?」

 

「そうですねえ……」

 

 横にいたオルガはブルックに近寄り、威圧を込めた瞳で見ながら言う。

 

「船一隻にモビルスーツ全部とヒューマンデブリ全員だ」

 

「はぁ!? テメェそれは吹っ掛けすぎだぞ! ……ブギャッ!?」

 

 オルガの要求にブルックはたまらず拒否しようとしたが、突如その顔に小さな拳が突き刺さる。

 

「……ミカエラ、殴って構わねえって言ったが早すぎだ」

 

「カスが口ごたえをしたから立場をわからせたまでデス」

 

「ハハハ。というわけだ。その不細工な面をさらに不細工にされたくなけりゃあ、お姫様の機嫌を損なうなよな?」

 

 ぼたぼたと鼻血を垂らすブルックに詰め寄り、オルガは襟をつかみ上げ続ける。

 

「それが不満ならあんたの肉を切り売りしたっていい。脂肪が多すぎるが犬の餌くらいにはなるだろうさ……」

 

「ひ、ヒィイイいい!!?」

 

 その脅しが効いたのか、ブルックはすぐに要求をのみとんとん拍子に話が進んだ。

 ブルワーズ艦一隻が放棄され、海賊の大人たちは脱出する。

 さらには不調で出撃できなかった”マン・ロディ”と”ゲイレール”に各消耗資材が次々運び込まれていく。その中にはヒューマンデブリの子供たちもいた。

 

 そして、管内倉庫の一室に集められた少年たちは暴れる様子もなく力なく座り込んでいた。

 

「ダンテ、これで全部か?」

 

 話を終えたオルガが近寄り、監視をしていたダンテに声をかける。

 

「ああ。団長、こいつら」

 

 オルガはダンテの肩に手を置き、少年の目線に合わせるようしゃがみ口和開いた。

 

「火星はいいところでもないがここよりもましだぜ。それに本部の経営も安定してきて飯にもスープが付く」

 

 唐突な言葉に少年はわずかに首をかしげる。だが、ダンテやほかの面々はオルガの意図を察して笑みを浮かべた。

 

「団長……」

 

「兄貴にも話はつけてある。こいつらはうちで預かることにした」

 

「ど、どういうこと……?」「あず……かる?」

 

「どうして……」

 

 少年の一人が困惑を隠せずに尋ねた。

 

「俺たちはさっきまであんたたちとやりあってた。それに、俺たちはキューマンデブリだ……」

 

「違うな。宇宙で生まれて、宇宙で散ることを恐れない誇り高き選ばれた奴らだ!」

 

 その言葉に少年たちは眼を見開き、彼らの”ヒューマンデブリ”の枷を解き放った。

 

「俺たち鉄華団はお前らを歓迎する。一緒に行こうぜお前ら」

 

「ッ……!!!」

 

 少年たちはため込んでいたものを吐き出し、すべてをさらけ出した。

 

「団長、恩に着るぜ……!」

 

 感極まったダンテの言葉にオルガはいつもの笑みをうかべた。

 

 

 

 〇

 

 

「ふ~んふ~ん、ふ~ふ~ふ~ふ~♪」

 

 展望デッキの手すりに腰を掛け、傍にハロが浮かびクマのぬいぐるみを抱えたミカエラは宝石をちりばめたかのような漆黒の世界を見つめながらクラシック音楽の一説を口ずさんでいた。

 

 そうしていると、廊下から一つの足音が聞こえミカエラはそちらに視線を向ける。

 

「おや、ダンチョーさん。どーしましたカ?」

 

「ミカエラか。お前こそここで何してるんだ?」

 

「何となく外をみてましタ」

 

 そこには少し疲れた様子のオルガがおり、彼は何となくミカエラの隣に立つ。

 

「……なにしてるんデス?」

 

「俺も外を見たくなったんだよ」

 

「デスカ」

 

「おう」

 

「…………」

 

「…………」

 

 しばらくの間無言で宇宙の景色を見つめ、ふとミカエラはこぼした。

 

「さっきのヒューマンデブリの子供たちの言ってることカッコよかったですよ。良く恥ずかしげもなく言えますね」

 

「……いきなり過ぎねぇか? まぁ、自分でも思い出して小っ恥ずかしいがな」

 

 会話が途切れ、沈黙が来る。

 

『そういうのは本人に言ってやれよ?』

 

 ふと、オルガは名瀬に言われたことを思い出す。

 尊敬する兄貴分が何を言いたいかはよく分からないが、今回の戦闘は彼女の活躍でだいぶ楽に済んだ。

 単独で複数の敵を相手にして1歩も引かず、食い破り無双するさまは相棒の三日月にも通じるところがある。

 

「なぁ、ミカエラ」

 

「なんデス?」

 

 声をかけると、こちら側に訝しげな視線向けるミカエラ。

 オルガはそこ頭に手を置き、キザな笑みを浮かべて言う。

 

「頼もしかったぜ。お前がな」

 

「はぁ」

 

「……随分と反応薄いなお前」

 

「いきなり頭撫でられてそう言われても大体の人は困惑しますよ?」

 

「そうかよ。悪かったな。でも頼もしいと思ったのは事実だぜ?」

 

 肩を竦め、手を下ろそうとするのだが。

 

「……オイ、掴まれると下ろせねぇんだが?」

 

 何故か手を掴んで離さず、若干だけ眉をひそめてオルガは言うがミカエラは掴んだまま特に普通の声色で口を開く。

 

「別に嫌だなんて言ってまセン。私の頭を撫でる機会なんですから存分に撫でるといいデス」

 

「ナデロオルガ。ナデロオルガ」

 

「へぇへぇ」

 

 1人と1匹(?)にそう言われ、ミカエラの頭を少しの間だけ撫で続ける。

 短い間だが、ミカエラは目を細めグリグリとオルガの手に頭を擦りつけると猫みたいだな、とオルガは1人思う。

 

 なんとも言えない空間だが、別段居心地が悪くもない。

 

 そして、これくらいでいいか。そう思いオルガはミカエラの頭から手を離す。

 

「あっ……」

 

 少しだけ寂しそうな声がミカエラの口から漏れ、物足りないといった感情を滲ませた瞳で見つめられる。

 

「まぁ、その、あれだ。気分が向いたらまたやってやるよ」

 

「本当デス?」

 

「おう。団長は団員との約束は破らねぇからな」

 

「……まだ私、正式に入ってませんケド?」

 

「……あー、まぁ構わねぇだろ多分」

 

「じゃあ、お願いをしマス」

 

「おう」

 

 会話が終わり、オルガはその場をあとにする。

 

「……MSに乗るとおっかねぇくらい強ぇのによく分かんねぇやつだな」

 

 通路を歩き、さっきまで見た目相応の反応をしていたミカエラの顔を思い出し、オルガは1人つぶやく。

 サラサラと手触りのいい髪、微かに香る石鹸の匂い。それと、

 

「”血の臭い”がしたな」

 

 手を握り締め、オルガは思う。

 もし可能なら、アイツから戦いじゃなくってもっと別の何かを教えてやりたいと。




なんか気に入らなかったので、最後あたりを修正しました。


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