カースド・プリズン・ブレイカー ~栗きんとん、開錠に挑まんとす~ (ターニャ・オルタ)
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アナタの名前を教えて

―――いつかの時代、何処かの場所

 

『世界五分前仮説、というものを知っておるか?』

 

問いかける男の声があった。

枯れた老人のような、それでいて若者のように張りのある声で、年齢は判別できない。

ただし、スピーカーから響く音のように、余計な音がこそぎ落とされた平坦な声ではあった。

 

『アー…コノ世界ハ、誰カガ五分前ニ作ッタモノカモ知レナイ、ダッタカ?』

 

答える声は、ボイスチェンジャーでも使っているのか、ひどく機械的で、もはや男か女かの判別すらできない。

 

『よく知っておるな』

 

Ms.プレイ・ディスプレイ(クソテレビ)ガ流シテタ、日本ノアニメ(cartoon)デヤッテタ』

 

『アニメ…』

 

微妙な沈黙を挟んで、男は言葉を続ける

 

『ともあれ、この仮説を反証することは出来ぬ』

 

例えば、五分より以前の記憶があったとして。

五分より前から動いているストップウォッチがあったとして。

その時計も、記憶すらも何者かに「五分より前からある」ものとして作られたものではないのか?

このように全てを疑い続けるならば、最終的に世界五分前仮説を覆す証拠を示すことは不可能。

 

『ダガ、コノ世界(ユニバース)ハ、誰ガ作ッタカハハッキリシテルジャナイカ』

 

この世界に生きるものならば誰もが知っている。

この宇宙は「だいたいあいつのせい」こと、全能存在ギャラクセウスが作り出したもの。

そして、ギャラクセウスが力を与えた、ミーティアスやハイドロハンズといったヒーローが実在する以上は、その存在を疑うことは思考実験にしてもナンセンスに過ぎる。

 

『だが、それは本当に正しい世界なのか?』

 

『ダカラ、ソノ実証スルタメノ「ソレ」ナンダロ?』

 

『ああ。しかし、このディメンジョン・リッパーを起動できうる唯一の存在たるカースド・プリズンは、既にこの宇宙から失われた』

 

『…ダカラ、私ガ過去ヘ行ク必要ガアル』

 

『左様。オヌシ以外にこのミッションを成し遂げられる者は居らぬ。故に、ディメンジョン・リッパーと、鍵たるこの武器をオヌシに託す』

 

そうして差し出されたのは、極小の機械と、形容しがたい武器。

継ぎ接ぎしたような材質で形作られたソードオフ・ショットガンの銃床に、斧のような刃物が装着されている奇妙な構造。

強いて比するならば、火縄銃全盛の時代、弾切れ時の白兵戦にも対応させようと作り出された白兵戦用複合銃(ホイールロック・ウォーアックス)

 

それらを受け取りながら、機械仕掛けの声は告げる。

 

『フン、宇宙ダノ世界ダノハドウデモイイ。私ハ私ノ目的ノタメニ行クダケダ』

 

『それでよい。然れども』

 

『ハン?』

 

『過去へ赴く以上、元々の名を名乗るには障りがあろう。考えておるのか?』

 

『ソウダナ…ナラ、私ノ名ハ―――』

 

 

 

―――今より未来、北米大陸の何処か

 

仲睦まじく、追いかけっこをしている一組の男女が居た。

 

「おじ様ったら、待ってー!」

 

「誰が待つかァ!」

 

…もっとも、無邪気さや色っぽさは皆無の追走劇、あるいは逃走劇ではあったが。

 

「もー!おじ様ったら、なんで逃げるの?」

 

問いかける、追う側は流れるような金髪に快活さを印象づける小柄な少女。

服装は一見ブルーカラーのようであったが、よくよく見ればソレが戦闘に耐えうるよう作られた特別製とわかるだろう。

何より、その両手に握られた()()が、何より雄弁に少女が只人でないことを物語っている。

 

「なんでって、そりゃあ…」

 

答える、追われる側は異形であった。

身の丈は二メートルを優に超える偉丈夫。

その長身は拘束具の意匠が各部にデザインされた奇怪な鎧によって、肌の一部も見えぬよう覆い尽くされている。

声さえ聞こえなければ、男とすらわからぬ―――いや、機械(ロボット)とさえ見まごう姿。

何故なら、その全身には本来の鎧とは明らかに異なる、まるでそこらの機械から()()()()()()ような部品が散見されるからだ。

 

当惑げに答えを返そうとする男ではあったが、言葉を言い終わらぬ内に、両足に融合したタイヤを全力で反時計回りに回転させる。

車輪の生み出す運動量によって、猛烈なスピードで男がバックする。

その数瞬後、それまで男が居た場所に、少女が右手に握った()()()()を叩きつける。

 

「―――テメェが襲って来るから逃げてんだろうがガキンチョ!」

 

そう、少女は右手に非常用斧(マスターキー)を、左手にソードオフショットガン(マスターキー)を携えて男を追い回していたのだ。

大の大人でさえ両手で扱うであろうそれらを片手で軽々と振り回す膂力は、明らかに常人のソレではない。

 

少女の名はロックピッカー。

全能存在ギャラクセウスの力すら及ばぬ謎の存在「カオス」。

そのカオスが作り出し、数多のヒーローやヴィランを閉じ込めた街・ケイオースシティの住人として生み出された贋造物、偽りの人間(レプリコンポイド)

本来ならば個を獲得することなど無いハズだった彼女は、偶然か因果か、様々なヒーローやヴィランと関わるうち、とりわけ少女が「おじ様」と慕うヴィランとの運命的な巡りあわせの果て、己自身を「全ての鍵を開く」ヒーローとして確立するに至った。

…もっとも、近未来ピッキングツールやハッキングによる鍵開けも得手であるにも関わらず、最終的には両手の斧とシャッガン(マスターキー)による開錠、ならぬ壊錠を試みる有様なのだが。

 

そして、少女から「おじ様」と呼び掛けられ、先ほどから斧とショットガンに追い回されている全身鎧の男がカースドプリズン。

遥か太古の地球で生まれた彼は、全能の存在であるはずのギャラクセウスすら予期せぬイレギュラーであり、その力を危険視されて呪われた鎧の中に閉じ込められた。

以来、歩き回る自由はあれど、常にその身は牢獄に繋がれた囚人となったが故の呪われた牢獄(カースドプリズン)という呼称。

 

彼がその牢獄から脱する方法は、今のところ一つしか発見されていない。

それは、己を封じたギャラクセウス本人、ないしギャラクセウスから力を与えられた者と戦い、その力を奪うこと。

だからこそカースドプリズンは暴れる。今の彼に残された、破壊した物体を吸収して鎧を強化する能力を使うために。

車を破壊すれば、吸収したエンジンとタイヤによる走行能力を。

金庫を破壊すれば、分厚い装甲を。

そうして得た力でギャラクセウスやヒーロー達を倒し、本当の己の姿を取り戻すために。

 

暴れまわる彼はヴィランとしてヒーローと敵対していたのだが、他のヒーローやヴィラン同様ケイオースシティに閉じ込められた際、どういった運命の悪戯か、数度に渡って同じ少女を助けた。

助けられた少女が長じた後の姿が、誰あろう斧とシャッガンで彼へと襲い掛かるヒーロー、ロックピッカーである。

 

「そんな、おじ様ったら…私はただ、仮初めの存在に過ぎなかった私を救ってくれたおじ様への、せめてもの恩返しとして、その呪われた牢獄から解放してあげようと…」

 

「いや、斧で壊せば解けるような呪いだったら、こちとら何千年も苦労してねェんだよ…」

 

いくらか悄然とした様子で返すロックピッカー。

対してカースドプリズンは顔を覆う鎧で表情がわからないハズなのに「人は覆面越しでもここまで感情表現できるのか……」と思うようなウンザリとした様子で返す。

すると何を勘違いしたか、ロックピッカーはモジモジとしながら言葉を続ける。

 

「だって私の持つカオス因子は、『起こらない筈の可能性を0%から1%にする』んだから、もしかしたら何とかなるかも知れないじゃない。それに襲うだなんて…そういうのはもっとお互いの仲が深まってから、二人っきりの時に…」

 

「ヒトの話を聞けェ!」

 

「他人様の迷惑を一顧だにしないで暴れまわってるおじ様が言っていいセリフじゃないと思うけど?」

 

「ガキンチョが、大人の真似なくていいとこばかり真似やがって…」

 

「自分が教育に悪いという自覚はあるのね」

 

「俺様が教育に悪いという認識はあるんだな…大体、仲を深めるって何だ」

 

「だって、私ったらまだおじ様の名前さえ知らないのよ?」

 

「あァ?俺様はカースド…」

 

その言葉を遮るように、ロックピッカーは問いかける

 

「だってその名前、()()()()()()()()の名前でしょ?」

 

カースドプリズンとは、ギャラクセウスの呪いによって閉じ込められた、牢獄の囚人としての名。

対して、ギャラクセウスの力を取り込み鎧を脱ぎ捨て本来の姿を取り戻した姿は「プリズンブレイカー」と呼ばれる。

 

しかし、これは奇妙な話だ。

本来の姿を示す呼び名が、呪いから解放される事を前提としているというのは。

彼が鎧を脱げない呪いは、太古から続くものとは言え後天的なものでしかない。

 

「だから、おじ様の名前はプリズンブレイカーでもカースドプリズンでもない。鎧に封じられる前の()()()()()があったはずじゃないかなって」

 

顎に手を当てつつ、己の推論を語るロックピッカー。

ソレを聞いたカースドプリズンは、彼女から視線を逸らしながらぶっきらぼうに答える。

 

「フン…つまらねえ事を気にしやがる。そんな昔の事は忘れ―――」

 

「というわけで隙あり!」

 

「来ると思ったわバーカ!」

 

台無しである。

カースドプリズンが言葉を紡ぐところを狙って、再度非常斧(マスターキー)を振り下ろすロックピッカー。

カースドプリズンとてもはや読み切っていたのであろう、危なげない動きでその一閃を回避する。

そうして猫と鼠のごとくじゃれ合っていた両者。

二人の追いかけっこが辺りに破壊をまき散らす以上、もはや周辺には人っ子ひとり居ない

 

―――ハズ、であった

 

『オヤオヤ、ダンスノ相手ハ選ンダ方ガイイ。ソンナ小娘ハ放ッテオイテ、私ト踊ッテイタダケルカナ?』

 

「ッ!ガキンチョ!」

 

「おじ様?!」

 

忽然と、まるで()()()()()()()()()()ような何者かの声が響く。直後にパァンと乾いた発砲音。

咄嗟にロックピッカーの細身を掴み、己の影になるように引き倒すカースドプリズン。

突如として掴まれた彼女も、それでもまたヒーローの端くれ。あえて力には逆らわず、カースドプリズンに庇われるように倒れ込む。

直後、バヂヂヂッと、何かが連続して叩きつける音。

恐らくは敵の攻撃が、カースドプリズンの鎧表面で弾けた音で間違いあるまい。

 

ロックピッカーはカースドプリズンの背中に庇われながらも冷静であった。

なにせ彼に守ってもらうのは、一度や二度ではないのだから信頼感が違う。

そして襲撃者の武器に確信を抱く。先程の発砲音と着弾音。

間違い無い。何故なら自分もまた日常的に使っている武器。

 

(ソードオフ・ショットガン!音の感じから30メートルは離れている…)

 

ショットガンは、距離が近ければ音速を超えた衝撃波でバチン!という高い音になる。

さっきのような乾いた音になるのは、発砲した相手とはそれなりに距離が離れていることを意味している。

ならば何も問題ない。カースドプリズンの鎧にまともなダメージを与えるには、ショットガン程度の火力では接近戦で撃たなければ何の効果も無い。

 

ならば自分のやるべきことは自分のショットガンで応射して、反撃のスキをつくること。

そう思って、カースドプリズンの背中越しに襲撃者の姿を認識するため起き上がろうとして、ロックピッカーは気づいた。

 

自分を庇うカースドプリズンの体が()()()()()ことに。

 

「おじ…様…?」

 

震える声で呼びかけるも、返る言葉は無かった。

先程までショットガンの弾すら防ぐ堅牢さを持っていたカースドプリズンの体は、見る間に形を無くして、まるで最初からそこには誰も居なかったかのように、虚空へと掻き消えてしまった。

 

「な…んで…」

 

『成ル程。ヤハリ事前予測通リ、コノ時間デハカースドプリズンハ存在ヲ確立デキナイヨウダナ』

 

絶句するロックピッカー。

その視線の先、おじ様(カースドプリズン)が消えたことで視界に現れたのは、ショットガンを放ってきたであろう襲撃者。

その表情はフルフェイスタイプのガスマスクに覆われていて、伺うことは出来ない。そのマスクに変声機でも仕込まれているのか、声は機械変換されていて性別はわからない。

体の方は、明らかに生身ではない機械のソレ。機械(アンドロイド)か、義体(サイボーグ)か。

身長はさほど大きくはない。せいぜいが自分と同じか、少し高い程度。体のラインも華奢で、中身がどうかはともかく女性型であろう。

その右手には、先に銃撃してきたのであろうショットガン。奇妙にねじくれた、まるで寄せ集めた部材でくみ上げたかのような歪さで、銃床の部分には近接戦対策か刃物が仕込まれているらしい。

左手は顎に当てて、何事か考え込んでいる様子。

得られた情報の中から、該当するヒーロー・ヴィランは存在しない。

つまりは、未知の敵!

 

「誰だオマエ!おじ様に何をした?!」

 

油断なく構えつつロックピッカーは怒鳴る。

その声を聞いて、ようやく彼女へと注意を向けた謎の敵は、

 

『フム…後者ニ関シテハ、私ハ何モシテイナイ。ソシテ前者ニ答エルノデアレバ…』

 

機械で加工された音声でありながら、明らかに嘲りを含んだ口調でこう告げる。

 

『キサマガ「鍵をこじ開ける者(ロックピッカー)」ヲ名乗ルノデアレバ、私ハコウ名乗ロウ。私ノ名前ハ「鍵を打ち砕く者(ロックブレイカー)」ダ!』

 

「なッ…」

 

当てつけ、あからさまな挑発。

だが、激昂する感情とは別に、体は訓練された冷静さで、一瞬で相手の懐へ潜り込む。

 

『ムッ…』

 

虚を突いたかと思ったが、ガスマスクの奥で青く輝く目が、確かに自分の動きを追っている。

しかし関係ない。これから繰り出す技は、例えわかっていても防ぎようが無いのだから。

 

「強制解錠!」

 

ロックピッカーが、己の必殺技(ウルト)を発動させた。

 

 



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強制解錠

ロックピッカーが強制解錠のモーションに入る。

 

彼女の必殺技(ウルト)は、相手の体をポールダンスの支柱として、太陽歯車の周りを回る遊星歯車のごとく、敵に関節技をかけながら全身に扉破砕用爆薬(ドア・ブリーチャー)を仕掛け、飛び離れたのちに起爆、という技。

メインのダメージソースたる爆弾こそ目を引くものの、この技において最も重要なのは関節技の方だ。

 

『起こらない筈の可能性を0%から1%にする』カオスの因子を持つ以外、彼女は特別な能力など無い。

 

シルバージャンパーやミーティアスのように、自由に宙を駆け回れるわけでもない。

 

PSYボーグ・ロイドやDr.サンダルフォンのように、超能力があるわけでもない。

 

ゼノセルグスのように、強靭な肉体があるわけでもない。

 

ティンクルピクシーやリキシオンのように、不可思議な術やアイテムを使えるわけでもない。

 

強いて言うならば、開錠のために、肉眼では確認できない部分まで構造的理解をする能力が人より鍛えられているという程度。

そんな彼女が、ヒーローやヴィランに並び立とうとした結果、選択したのが関節技だった。

 

何故ならば、関節技は()()()()()()()()()だからだ。

どれほどの巨体であろうと、どれほどの異形であろうと、それが生物であるならば可動部分というのは存在する。

さらに機械であっても、否、機械ならばこそ関節技は効果を発揮する。

 

逆運動学制御(インバースキネマティクス)というものがある。

通常、多関節のアームは本体部分から末端部分へと力を伝えて動作する。

これを逆に、末端部を操作または固定することで、本体部分からの動力伝達を阻害して動きを封じたり、場合によっては過負荷によって破壊することもできる。

 

乱暴な例えになるが、自転車で言えばペダルを漕いで、チェーンが動力を伝達、結果としてタイヤが動くのが本来の動作。

対してタイヤを動かす方向によっては、逆にチェーンを伝ってペダルを回転させることも出来るし、タイヤが固定されている状態でペダルを漕ごうとしてもタイヤは回らないし、無理に力をこめればチェーンが外れてしまう。

 

無論、彼女が対峙するヒーローやヴィランのような機械(ロボット)義体(サイボーグ)はもっと複雑な構造をしている。

しかし、可動部分が増えるということは、それだけ精密な制御が求められるということ。

逆に言えば、シンプルな構造以上に不具合を起こしやすいということだ。

であれば、余計に関節技の餌食ということに他ならない。

 

まして彼女は鍵をこじ開ける者(ロックピッカー)

普段こそおじ様(カースドプリズン)の影響から脳筋的解決法を選択することの多い彼女ではあるが、別に鍵開け自体が不得手というわけではない。

常日頃、肉眼では確認できない構造を相手にしている彼女にしてみれば、可動部位を最初から見て取れる人体など、答えを教えてもらっているようなもの。

どうすれば動きを止められるかなんて、文字通り一目見れば理解できる。

 

加えて、この技における関節技は、破壊ではなく関節技の連続であることに意味がある。

あくまでダメージソースは最後に起爆する爆弾であり、関節を完全に固定したり破壊したりする必要がないため、一つ一つの関節技はごく短い時間で済む。

一つの関節技で相手の動きが阻害されている間に、扉破砕用爆薬(ドア・ブリーチャー)を仕掛け、次の関節技を仕掛ける。

相手は最初の関節技に対処しようとしても、ロックピッカーは既に次の関節技に移行している。

そして次の関節技に対処しようとしても、さらに次の関節技が…と、次々と関節技が絶え間なく連続して仕掛けられれば、相手は対応の選択肢が飽和して身動きが取れなくなる

 

つまり、この技は物理的に相手の動きを制限するだけでなく、次々と連続して技を仕掛け続けることで対処を精神的にも縛るという、両面の攻撃なのだ。

これを初見で破ることはまず間違いなく不可能。

故に、どんな相手にも有効なこの技は、正体不明の相手を確実に制圧するには最適の選択ではあった。

 

事実として、技をかけられている最中、ロックブレイカーなる正体不明の敵は為す術がないように思えた。

ロックピッカーをして、これ以上ないという完璧な技のかかり。

相手の動きを止める関節技も、爆薬を設置する手際も、練習でさえこれほどスムーズに決まったことはない。

大切なおじ様を、何の手品か消し去られたことへの怒りが、自分に力を与えているのか?

 

否。

 

()()()()()()()…?)

 

爆弾の設置を終えて、ロックブレイカーから飛び離れながらも、不信感がロックピッカーの頭をかすめる。

まるで相手が進んで関節技にかかりに来てくれていたような―――

 

(迷うな!)

扉破砕用爆薬(ドア・ブリーチャー)は、設置が簡単な分、体から引きはがすのも簡単に出来てしまう。

ならば、ここで爆破を躊躇しても相手に対処の余裕を与えるだけ。

今は何より、この相手を制圧して、おじ様がどうなったかの情報を引き出さなければならない。

 

「喰らえ…!」

 

逡巡を振り切るように、起爆スイッチを押す。

 

響くのは爆音、ではなく―――

 

『練度ハ悪クナイ。ガ、コノ私ニハ通ジン』

 

機械で変換された、声。

そう告げながらロックブレイカーが握り込んだ手を開くと、そこからパラパラと落っこちるのは、ロックピッカーが仕掛けた爆薬に差し込まれていたハズの雷管。

 

それが意味するのは

 

「まさか、私が爆弾を設置する間に…!」

 

『ソウダ。キサマノ関節技ハ全身ヲ同時ニ拘束スルワケデハナイ。故ニ技ニ逆ラワナケレバ、固定サレテイナイ部位ヲ動カスコトハ不可能デハナイ。後ハ雷管ダケ引キ抜イテシマエバ、高性能爆薬デアロウト単ナル粘土ト変ワラナイ』

 

「そん…な…」

 

あり得ない。

理屈は理解できる。

理論上は可能であろう。

しかし、それを実行できるかと言えば話は別だ。

あの僅かの間に、こちらの関節技に逆らわず、動かせる部位だけで瞬時に雷管を引き抜く?

そんな芸当、事前にどんな技をどんな手順でかけられるかを知ってでもいない限りは―――

 

混乱し、動きを止めてしまうロックピッカー、そこへ

 

『一秒呆ケルトカ悠長過ギナイ?』

 

「しまっ…!」

 

我に返った時には、ロックブレイカーの両目に灯った青い光の軌跡が、己の懐まで飛び込んで来ていた。

この動きはまるで、先に自分がロックブレイカーに強制解錠を仕掛けた時と同じ。

咄嗟に反応しようとしても、もはや全てが手遅れであった。

ロックブレイカーの左手が彼女の腹部に添えられる。

 

『雷鳴』

 

「がっ」

 

恐らくは技の名前であろう、ロックブレイカーの機械音声が聞こえた直後、ロックピッカーの全身に激痛が走り、体が言うことを聞かない。足に力を入れることも出来ず、体ごと地面へと崩れ落ちてしまう。恐らくは相手を行動不能にする技なのであろう。喰らった感覚的には脳震盪に近いように思え、ほどなく動けるようになるであろうが、それまでは完全に無防備だ。

しかし、致命的な隙をさらしているロックピッカーへ、それ以上の追撃は無かった。

 

「何故…トドメを刺さない…?」

 

『フン…刺サナイノデハナク、()()()()ノダ。ココデキサマヲ殺シテシマエバ、ワームホールガ開カナクナル』

 

「な…に…」

 

かろうじて動く口で問えば、ロックピッカーの眼前で、虚空に歪みのようなものが生じていく。

 

『コレモ予測通リ。キサマガ保有スルカオス因子デ時空間ヲ繋グワームホールガ開ケバ、過去ヘト戻ルコトガデキル』

 

独りごちて、一切の躊躇なくワームホールへと歩んでいくロックブレイカー。

追いすがろうとするも、意気地の無い体はいまだ動いてはくれない。

 

「待て…お前は、何を…」

 

『何ヲ、カ…私ハコレカラ過去ヘ行キ、呪ワレタ()()ヲ変エル。ソノタメニ来テ、ソノタメニ行クノダ』

 

これ以上は説明する必要もない、と言わんばかりにロックブレイカーがワームホールへと近づいて行く。

すると、まるでそこには最初から誰もいなかったように、()()()()()()()()()()()()()()()、その姿が消えていく。

恐らくは、その言葉通りに過去へ行った、そういうことなのだろう。

 

「ふざ…けるな…」

 

誇張抜きで、おじ様(カースドプリズン)は彼女の全てだ。

おじ様と出会わなければ、自分は偽りの命として、虚ろな自我のまま、消えてなくなっていただろう。

それが個性を、己自身を与えて貰ったおじ様を消し去られて、黙ってうずくまっていられるような女だったならば。

 

「私は…ヒーローになんて、なってない!」

 

一声叫んで、己の体に喝を入れて立ち上がる。

ヤツは何もしていないとは言っていたが、おじ様が消えたことも「予測通り」と言っていた。翻ってそれは「何故消えたのかを知っている」ということ。

ならばおじ様(カースドプリズン)を助けるために、己がすべき事は決まっている。

 

「あいつを取っ捕まえて、洗いざらい吐かせてやる…!」

 

過去へ行くとか、正直わけのわからないことばかりだ。

だが、同時にヤツは彼女(ロックピッカー)のカオス因子によりワームホールが開いたと言った。

そのワームホールと呼ばれた虚空の歪みは、依然として眼前に残ってはいる。が、先ほどよりも小さくなっているように思える。このまま手をこまねいていれば、いずれ消えてしまうように思われた。

 

ならば、やることは一つ

 

「待ってておじ様。今度は私がおじ様を助けるから」

 

己の持つカオス因子が、『起こらない筈の可能性を0%から1%にする』力が、自分を過去ヘと、ロックブレイカーの消えた先へと導いてくれることを信じて、ロックピッカーもまたワームホールへとその身と投げ込むのだった。

 

 



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力士ニンジャ錬金術師

―――現代、北米大陸の何処か

 

「ムゥ、妖気…!」

 

言った男は、奇妙な…そう、奇妙としか言いようがない風体であった。

 

髪は頭頂部へと油で固められており、纏められた先端部は扇状に広がった形をしていた。これは古代から日本に伝わる力士レスラーの由緒正しい髪型である「オオイチョウ」である。ジャパニーズ力士レスラーは、この髪型を出来なくなったら引退せねばならないという鉄の掟が存在する、厳粛にして神聖な髪型なのだ。

 

顔は鼻から下が金属製のマスクで覆われており、体は動きやすさを重視したシルエットに、体の各所にメッシュ素材が用いられている。これは古代から日本に伝わるニンジャ装束と呼ばれるアサルトスーツである。顔を覆う金属マスクは「メンポ」と呼ばれ、酸素マスク、ガスマスク、サーモグラフィ等の多くの機能を搭載された万能マスクとなっている。ジャパニーズニンジャは暗黒の平安時代から、これらの機器を使いこなして日本を裏から支配していたことは日本人ならば誰もがご存じのことであろう。

 

そしてニンジャ装束の各所に設けられたマウントスペースには、常人では何に使うのか見当もつかない奇怪な道具の数々が括り付けられている。これらは錬金術に用いられる器具や薬剤である。目に見える部分に出ているものは戦闘中、即座に使用するためのもので、ニンジャ装束の収納スペースには、クナイやマキビシといった非人道ニンジャ兵器と共に他にも多くの錬金術アイテムが格納されている。

 

彼の名はリキシオン・コーガ・パラケルスス。

力士であり、ニンジャであり、錬金術師でもある彼こそは、日本に流れた錬金術士の血筋がニンジャ一族と混ざり合い、現代にサイバー漢方として開花した錬金術を用いて自己強化する力士ニンジャ錬金術ヒーローなのだ。

彼は研ぎ澄まされたニンジャ感覚により、己の小宇宙(ミクロコスモス)へと照応する大宇宙(マクロコスモス)に奇怪なゆらぎを感じ取った。

 

「イヤーッ!」

 

ニンジャシャウトと共にリキシオンは跳躍、見事な力士体型からは想像も出来ないような機敏なワイヤーアクションで妖気の発生源へと急行する。

冗談のような見た目とは異なり、彼は正義を愛し悪を憎むヒーローの心と、正義を行うにふさわしい実力とを兼ね備えているのだ。

そして、錬金術師にして哲学者たる遠祖パラケルススの流れを汲み、現代に錬金術とニンジャの秘奥を伝える彼は、思慮深く知性にあふれた人物であることは、多くのヒーローや敵であるヴィランも認めるところである。

 

すぐさま妖気の発生源を確認した彼は、警戒してやや距離を置いた場所へと華麗に着地する。

妖気の発生源は、虚空に生じた空間の歪みのようなものであった。

それを冷静に、万象を読み解く錬金術師としての観察眼で見つめるリキシオン。

 

「フム…時空間忍術に似た気配ではあるが、ワシの知るどのような術とも異なる。これは一体…」

 

より詳しく調べようと、彼が硫黄や水銀や塩といった錬金術(アルケミカル)ニンジャアイテムを取り出そうとした時であった。

空間の歪みが放つ妖気が強くなったことを感知した刹那、目前に忽然と人影が出現していた。

 

「アナヤ!」

 

『…リキシオン・コーガ・パラケルスス。コノワームホールニ最初ニ気ヅクノガアナタデアロウコトモ予測済ミダガ、ソレニシテモ早イナ』

 

感嘆の言葉を上げるリキシオンに対し、現れた人物は冷静に言葉を紡ぐ。

大抵の人間はリキシオンの姿を目にすると、何故か驚愕に支配されるのが常であるのだが、彼女は冷静であった。

 

そう、彼女。フルフェイスのガスマスクを被っていようと、全身が機械のサイバネボディであっても、リキシオンの優れたニンジャ観察力は現れた相手が女性であることを看破していた。

同時に、このような女性の心当たりはない。間違いなく初対面のハズなのだが…

 

「オヌシは何者だ?ワシと逢うたことがあっただろうか…」

 

『答エル義理ハ無イガ、ソノ賢智ヲ称エテ一ツダケ答エヨウ。私ノ名ハ鍵を打ち壊す者(ロックブレイカー)。閉塞シタ()()ヲ壊シ、()()ヲ変エル者ダ』

 

「何?!それはどういう…」

 

『答エルノハ一ツト言ッタ!』

 

問いかけるリキシオンを余所に、もはやこれ以上話すことは無い、と言わんばかりに正面から突っ込んでくるロックブレイカー。

咄嗟にリキシオンもまた戦闘態勢を取る。接近するロックブレイカーに対し、両腕で抱え込むようにしてその体を捉えようとする。

これは「打棄り(うっちゃり)」の構え!ジャパニーズ力士レスリングにおける48の必殺技(ウルト)のひとつ。絶体絶命の窮地からでも逆転を可能にするという奇跡の投げ技であるが、この技を使うには驚異的な瞬発力と足腰の粘りが要求されるため、現代の相撲においてはヨコヅナクラスでさえこれを使いこなす者はいないという幻の技である。

しかしリキシオンにとっては、この幻の必殺技さえ通常技に過ぎない。なんたるサイバー漢方により強化されたニンジャ瞬発力と脚力か!

並のヒーローやヴィランであれば避けえぬ致命の一撃、しかしロックブレイカーは両目を煌々と青く光らせながら、告げる。

 

『フォーミュラドリフト』

 

「何ッ?!」

 

リキシオンをして必殺の間合い、捉えたと思った刹那、目の前のロックブレイカーの姿が掻き消える。

否、そこには青い残光の軌跡が残されており、その先は―――

 

「背後?!」

 

『遅イ』

 

「グワーッ!」

 

リキシオンの巨体が、中空へと跳ね上げられる。一瞬意識を手放したリキシオンであるが、瞬時に臨戦態勢を整える。何たる思わぬ反撃にも揺るがぬニンジャ判断力か!クナイ投擲にて牽制射撃をせんと地上を振り向いたリキシオン。しかし

 

『凄マジイ背中ダ。流石ノ仕上ガリダガ…』

 

再び背後からの声。

驚くべきことにロックブレイカーは先の攻撃を繰り出した直後には、リキシオンが反撃態勢を整える間に再び背後まで回り込んだのだ。

咄嗟にクナイを逆手に持ち替え、振り向きざまの斬撃を放とうとしたリキシオンであったが

 

防波(さきなみ)

 

「グワーッ!」

 

その振り向く動きすら利用されて、今度は逆に宙から地面へと投げ放たれるリキシオン。

 

(バカな!これではまるで、()()()()()()()()()()()()()()()ような…それにこの技)

 

投げ飛ばされたリキシオンは受け身にて衝撃を殺し、すぐさま体制復帰を兼ねて着地の隙を消すために四連続バク転でロックブレイカーから距離を取る。

しかし、追撃は無かった。見ればロックブレイカーは、その右手に持った袋を弄んでいる。

 

「ヌ、ワシのニンジャピルケースを!」

 

それはリキシオンがニンジャ装束のマウントスペースに付けていた錬金術(アルケミカル)ニンジャアイテム。

つまり先の攻防は最初からダメージを与えることなど眼中に無く、あの袋を奪うことが目的だったのだ。

事ここに及んでリキシオンは確信する。

 

「オヌシ…未来から来たのだな?」

 

『ホウ…流石ハ賢者パラケルススノ(スエ)ト言ッタトコロカ』

 

感嘆と称賛をもってリキシオンの推測を肯定するロックブレイカー。

リキシオンと初対面ではないかのような対応と攻防での先読み。あれらは何らかの装置や術を使っていたとしても出来過ぎている。

加えて彼女が奪った巾着袋は、彼が錬金術と忍法の粋を結集して作製したエリキシル配合ニンジャピルが入っている。アレはサイバー漢方にて忍法を補助するのみならず、彼の切り札であるコズミックちゃんこ鍋には絶対に欠かせぬ妙薬。まさにリキシオンにとって生命線に等しいアイテムだ。

 

「ゆえにソレを身に着ける場所は、誰にも悟られぬよう定期的に変更しておる。にも関わらずオヌシは迷わずにワシのわずかな隙をついてピルケースを奪った。事前に全てを知っていたのでなければ説明のつかぬことよ」

 

『ソノ通リ。私ハ未来カラヤッテ来タ。アナタノ事モ良ク知ッテイルトモ。コズミックチャンコ鍋サエ封ジテシマエバ、アナタトテ単ナル錬金術師力士ニ過ギヌ…単ナル、ト言ッテイイノカハトモカク』

 

そう、リキシオンの必勝パターン。それはストロング飲料水とサイバー漢方で強化された忍法での戦闘で相手の手札を明かし、見切り、しかる後にコズミックちゃんこ鍋を食べて繰り出す「ハッケヨイ(Ready Go)

これを破れるヒーローもヴィランもほぼ皆無と言っていい。

ならばどうするか。簡単だ、最初から必勝パターンを使えなくすればよい。

 

『何ヨリ、ココデアナタヲ殺スワケニハイカナイ。世界線ガズレテシマウカラナ…』

 

「世界線…相対性理論…つまりオヌシは―――」

 

『オット、オシャベリノ時間ハ終ワリニシヨウ。例エ殺セズトモ、アナタニハ暫ク病院ノベッドノ上デチャンコヲ食ベテ貰ウコトニシヨウ』

 

リキシオンの言葉を遮り、奇妙に捩じくれた素材で出来たショットガンを構えるロックブレイカー。

咄嗟に忍術の準備に入るリキシオンだが、彼は迷っていた。相手はおそらく自分の戦法についても熟知している。切り札は封じられた。()()()()()()はあるが、アレはデメリットも大きいため、確実に相手を倒せなければ逆にピンチを招く諸刃の剣。切り札なしでは(かた)く、さりとて最後の勝負に出るのも(むずか)しい敵だ。

 

この状況を打破するならば、それは

 

「見ぃつけたあああああ!」

 

第三者の介入に他ならない。

 

鳴り響く乾いた発砲音、ロックブレイカーにとっても聞きなれたソレは、30メートル以上は離れた位置からの銃撃であることを意味している。

 

『マサカ、追ッテキタノカ』

 

忌々しげに言い捨てるロックブレイカーの視線の先、つい先刻に己が出てきたワームホールの傍に立つのは、こちらへとショットガンを構える金髪の少女、ロックピッカー。

 

ロックブレイカーは瞬時に状況判断する。前門のリキシオン、後門のロックピッカー。どちらの戦術に対しても対策は出来ている。一人ひとりならば問題無く対処できるレベル。ただし殺すことは不可能である以上、二対一での戦闘を強いられれば、彼女をして選択肢の飽和で押し切られる危険性は否めない。

ならば取るべき手段は一つ。

即時撤退。

 

『鞍馬天秘伝』

 

術を起動し、強化された跳躍力で飛び離れていく。

元より、こんな連中の相手をする必要などない。あくまで目的はカースドプリズン。この時間であれば存在も確立されているハズだ。後ろから銃声が響いているが、もはや一顧だにせず、ロックブレイカーはその場を後にした。

 

 

「リキシオンさん、大丈夫?私はロックピッカー、初めまして…と言うべきなんでしょうね」

 

「うむ、ダメージはあるが問題は無い。…察するに、オヌシも未来から来たので間違いはないか?」

 

「あら、流石だねリキシオンさん。話が早くて助かるけど…」

 

ヒーローとして顔の広いリキシオンとロックピッカーは、未来においては当然面識がある。

それが初対面のような態度を取るならば、本当にここは過去なのだろう。

それにしてはリキシオンの物分りが良すぎる気もするが、もともと聡明な彼のことだ。アイツ(ロックブレイカー)からも情報を引き出していたのだろう。

ロックピッカーに出来るのは、非暴力的(クレバー)な鍵開けと暴力的(スマート)な鍵開けだけ。

逃げた敵を追跡するには、この時間にもいるであろうMs.プレイ・ディスプレイ(クソテレビ)に何とかして強制解析(ハックライズ)を使わせるか、さもなくばリキシオンの摩訶不思議な術(ミスティック・アーツ)に頼るより他にない。

 

「だから、協力をお願いしたいんだけど」

 

「無論、ワシもまたロックブレイカーには用がある。彼女が使った技、フォーミュラドリフト、防波、鞍馬天秘伝。あれらはみな我がコーガ流忍法に間違いない…あの出所を正さねばならぬ」

 

「…ジャパニーズニンジャの術なら、なぜ英語表記なの?」

 

「ニンジャとは常に最新の技術を取り入れるものだ。鉄砲が伝来すれば鉄砲を使うし、錬金術が伝来すればサイバー漢方を使う。何も不思議ではあるまい。我が祖先コーガ忍者が異国の錬金術師を受け入れたように、フマー忍者なども戦国の世から異人の血を取り入れ、ロボニンジャを開発していたとの記録もある」

 

「あー、ソウダね」

 

リキシオンに対してツッコミを入れるだけ無駄。ロックピッカーはよく理解していた。

 

「それより、アヤツのことだ。オヌシは正体に何か心当たりは無いのか?」

 

「んー、私の所にも突然現れたから詳しくは…ただ、『コノ時間デハ』とか『過去ヘ行キ、呪ワレタ()()ヲ変エル』とか言ってたし、私より未来から来たんじゃないかと思ってるけど…」

 

「フム、それにしては妙な…」

 

「妙?」

 

「アヤツは私にも『()()ヲ変エル』と言っておった。しかし、オヌシの言うように、オヌシの時代よりさらに未来から来たのであれば、()()ではなく()()と言うのではないか?」

 

「まあ、そうかも知れないけど…じゃあ、未来でないなら、何処から来たっていうの?」

 

「済まぬ、これ以上は手持ちの情報では何ともならぬ。やはりアヤツを捉えてつまびらかにするより他はあるまいて。では早速追跡に移るとしよう」

 

そう口にしたリキシオンは、柄に宝石のようなものが埋め込まれた剣を地面に立てると、手を放す。

すると剣は倒れて、ある方角を指し示す。

 

「行くぞ、あちらだ」

 

「え、そんな棒倒しでわかるの?」

 

「安心せよ。これは霊験あらたかなるアゾット剣。柄尻にはめ込まれた賢者の石はアヤツ(ロックブレイカー)小宇宙(ミクロコスモス)を記録しておる故、我らを過たず導いてくれるであろう」

 

「アッハイ」

 

ロックピッカーは考えるのを辞めた。深く考えれば宇宙めいた恐怖の淵から転げ落ちるような不吉な予感に襲われたので、追跡に専念することにした。

 

 

そうして二人がその場を後にすると、誰もいなくなったそこにはワームホールのみが残された。

見る間に大きさを減じていくワームホール。間もなく消えるかというその時、歪みから忽然ともう一人の人影が現れる。新たな影は、音も無く先の二人を追って行ったのだった…

 

 

一方、アゾット剣の指し示した遥か先では、蒼き流星と(あか)き凶星が激突していた。

 

 



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俺はやりたいことをやりきるだけ

(あか)い凶星が、星の尾を棚引かせて駆ける。

その先に居る蒼い流星もまた、文字通りキラキラと光る星の道(スターロード)を駆け抜けていく。

 

緋い流星の名はプリズンブレイカー。緋色に輝くこの姿こそ、ギャラクセウスによって呪われた鎧(カースドプリズン)となった彼が、封印を破って一時的に往時の力を取り戻した本来の姿。

 

対する蒼い流星の名はミーティアス。全体に白いボディスーツの各部に金色のアーマーを付け、五芒星の形をしたゴーグルのついたフルフェイスの覆面姿のヒーロー。青い光を放って中空を蹴り、道をも作り出して自由自在に三次元軌道で駆け回る彼の力は、全能存在ギャラクセウスがプリズンブレイカーの能力を模倣して彼に与えた能力であり、故にこそ己の力を取り戻さんとするカースドプリズンから常日頃狙われることとなっていた。

 

そしてこの日も、ミーティアスとカースドプリズンは激突していた。

既にしてミーティアスの力の幾ばくかを奪ったカースドプリズンは脱獄(プリズンブレイク)を果たし、プリズンブレイカーとなって中空を自由自在に駆け回りながら、火のような連撃を以てミーティアスを攻めたてる。

 

本よりミーティアスが与えられた力はプリズンブレイカーの劣化(ダウングレード)版に過ぎぬ。星すら破壊しかねぬ凶星の力は、そのままに再現するのはあまりに危険であったからだ。故に今の状況は明らかにミーティアス不利。並のヒーローならば防御に専念するか、もしくは逃げの一手しか選びえぬであろう。プリズンブレイカーはあくまで一時、かつての姿を取り戻しただけであり、時間の経過で再びカースドプリズンへと逆戻りするのだから。

 

しかしミーティアスは違う。逆に自分から踏み込み、反撃を加える!

 

「この程度じゃ、ボクはぁ……流星(ミーティアス)は止まらなぁい!!」

 

「止めるのは息の根だ馬鹿野郎がぁ!!」

 

プリズンブレイカーとミーティアスが同時に蹴りを繰り出し、互いの蹴りが激突する。

あまりの衝撃に、轟音と共に両者の体はそれぞれ真逆の方向へと吹っ飛んでいく。

 

「うごぉ!!」

 

「ぐふぅ!!」

 

吹き飛び、露出した崖面に叩きつけられるミーティアス。

両者は戦いながら、郊外の採掘現場まで移動していた。これはミーティアスの狙い通りの展開である。

一つには、人の少ない場所へ移動することで周囲への被害を少なくするため。

そしてもう一つは、まもなくカースドプリズンへと戻る宿敵が吸収できるオブジェクトの少ない場所へと誘き出すという目的である。

 

当然のこととして、ミーティアスはカースドプリズンの能力を熟知していた。

車や瓦礫などを取り込んで自身の鎧を強化する能力であるが、これとて万能の力ではない。

まず、取り込まれた物体は耐久力が上昇するが、重さは変わらない。よって、無尽蔵に物体を吸収できるわけではない。同時に複数の物体を吸収することも可能だが、この重量の問題をクリアする必要が出てくる。

また、動力はカースドプリズン自身で賄うことはできず、外部に依存する。消防車を取り込んだからといって、無尽蔵に放水攻撃が行えるわけではなく、消火栓に接続しなければ使うことすらできない。逆に車などのエンジンを取り込めばその分だけ馬力が上がるので、取り込める物体の重量上限を引き上げることも出来る。

そして、銃器などの飛び道具は強化されない。

よって、街中でカースドプリズンと戦うことは望ましくない。動力や装甲として使える自動車等がいくらでも入手可能だからだ。

 

さらに、このような複雑な要素を勘案して吸収しなければならない能力を使いこなしていることから、実はカースドプリズンは相当に頭が回ることも知っている。

カースドプリズン自身が()()()()戦い方を好んでいるだけで、決して()()()()()()()わけではないのだ。

そんな彼に、吸収可能オブジェクトの少ない郊外へと誘い出すという己の意図を悟らせないため、ミーティアスは不利を承知でプリズンブレイカーに対して反撃しながらの逃走という困難なミッションをこなしたのだ。

その甲斐あって、展開は理想的。経験上、プリズンブレイカーの効果時間はもう切れたハズ。

予測を裏付けるように、ミーティアスの反対側、激突により生じた土煙の下から、恨めし気な声が聞こえてくる。

 

「ちっ、もう時間切れか…意気地のねえ鎧だぜ」

 

風に土煙が吹き散らされて現れたのは、黒を基調とした拘束具の意匠があしらわれた鎧姿の偉丈夫。

予想通り、既にカースドプリズンに戻っている。

この状況ならば7:3で自分が有利、これなら十二分に勝ちきれるだろうと、ダメージを負った体に鞭打って駆けだそうとした矢先であった。

 

『ヨウヤク見ツケタ』

 

ボイスチェンジャーでも通しているのか、男かも女かもわからぬ声。

どこからか跳躍してきたのか、静かに着地したものの関節などからわずかに聞こえる機械音。義体(サイボーグ)のようであるが、身長はそこまで高くは無い。全体に細身の印象だが、女性だろうか?

少なくとも、己の知るいかなるヒーローやヴィランにも該当する人物は居ない。

 

「ああ?何だ、テメエ」

 

カースドプリズンもまた、突然の第三者に心当たりは無いらしい。ぶっきらぼうな態度に見えながらも、すぐにも動けるよう身構えていることが何度となく戦ってきたミーティアスにはわかる。

警戒する二者の前で、ゆっくりと乱入者は言葉を紡ぐ。

 

『私ノコトハ鍵を打ち砕く者(ロックブレイカー)トデモ呼ンデクレレバ結構。私ハアナタヲ救イニ来タノダ、カースドプリズン』

 

「あ?」

 

「何?!ならば貴女はヴィランか!」

 

カースドプリズンに与するとの言葉に、即戦闘に入れる態勢へと警戒のランクを上げるミーティアス。

 

『フフ、ヴィランカ…ヒーローダノヴィランダノ、私ニトッテハドウデモイイ事ダ、好キニ呼ベ。私ハタダ、コノ「万物理論」ヲ証明スルタメニ作ラレタ「ディメンジョン・リッパー」ヲアナタニ吸収シテ使ッテモライタイダケダ、カースドプリズン』

 

そう言って、ロックブレイカーなるヴィランが手を開くと、そこには握りこぶしに収まってしまうような小さな機械があった。

万物理論、または統一場理論とは、電磁気力・重力などの相互作用力すべてを一つの理論として扱うことができるとする理論である。かのアインシュタインでさえ相対論と量子論を一つにまとめることは出来なかった。しかし、もしもそのような理論が完成したならば、宇宙の真空中に存在するとされる暗黒物質や暗黒エネルギーをモ利用可能となるため、無尽蔵のエネルギーリソースともなり得ると期待されていた。

 

「…話が見えねえな。で?ヒトを救うだのなんだ言って、その御大層な機械を使うとどうなるってんだ」

 

突然の闖入者に、不信感を隠そうともせず問いかけるカースドプリズン。

対して、ロックブレイカーはさらに衝撃的な答えを返す。

 

『簡単ダ、コノ機械ヲ起動デキレバ、ギャラクセウスノ存在ヲ()()()()()()二シテシマエル』

 

「なッ…?!」

 

「にィ…」

 

言葉は違えど、ロックブレイカーの言葉にヒーロー(ミーティアス)ヴィラン(カースドプリズン)も一様に驚きを見せる。

ギャラクセウスといえば、この宇宙を創りだした超越存在。

それを無かったことにするなど―――

 

「バカな!ありえない!」

 

『偏狭ダナ、ミーティアス。所詮ギャラクセウスナド、全能()()()トイウダケデ、全知ノ存在デハナイノダ』

 

確かに、この宇宙を創ったギャラクセウスが超越存在であることは間違いない。

しかし、この世界にはギャラクセウスでさえ予期せぬ力が存在することもまた確か。

例えば、「起こらない筈の可能性を0%から1%にする」カオス。

例えば―――

 

「この俺様か」

 

『ソウトモ。「ディメンジョン・リッパー」ハ、実験ノ過程デ人ノ意識ニ感応シテ、時空間ノ構造スラ書キ換エラレルラシイコトガ判明シタ。コレニヨッテ次元移動ヤ過去遡航サエ可能トナル。ソシテ、イレギュラータルアナタ(カースドプリズン)ガ使エバ、コノ次元自体ヲ最初カラギャラクセウスガ存在シナカッタモノニシテシマエル』

 

「…それが本当だとして、何故わざわざ過去へ来たというんだ?」

 

事態への理解が追い付かず、混乱しつつも臨戦態勢を整えつつミーティアスは問いかける

すると、一瞬にしてロックブレイカーの殺気が膨れ上がり、異様な風体のショットガンを構えながら答える。

 

『…簡単ナ事ダ。私ノ居タ未来デハ、カースドプリズンハ殺サレテイタ。キサマ(ミーティアス)ノ手デナ』

 

「ボクが?!」

 

『証拠モアルゾ。私ノ使ウコノ斧付きシャッガン(ソードオフ・ウォーアックス)、銘ヲ呪われた牢獄を打ち砕く者(カースド・プリズン・ブレイカー)ト言ッテナ、カースドプリズンガ最期ニ纏ッテイタ鎧ヲ材料ニシテ作ラレテイル』

 

そう言って彼女が掲げるショットガンをよくよく見れば、確かに特徴的な拘束具の意匠が刻まれている。

それだけなら模様を真似ただけとも思えたが、カースドプリズンも、宿敵たるミーティアスも、直感的に感じ取っていた。ロックブレイカーの言葉が真実であると。

 

「成る程、その未来を変えるためには、俺様がその機械でギャラクセウスの野郎を消してしまうしかない、と」

 

己の未来における死を告げられても、カースドプリズンは静かに答えるのみだった。

ただし、不本意ながら長らく腐れ縁であるミーティアスにはわかっていた。アレは意気消沈しているのでも戸惑っているのでもない。

アレは()()()()()()()()()ぞ、と。

別な意味での警戒を高めるミーティアスを余所に、カースドプリズンの雰囲気の変化に気づかないのか、ロックブレイカーは勢い込んで言葉を続ける。

 

『ソウダ!アナタガ助カルニハコレシカ無イ!サア、早速コレヲ吸収シテ…』

 

「やなこった」

 

『エ…?』

 

「いいか、俺様は別に勝とうが死のうがどうでもいいんだ。俺様が何より許せねえのは、あのギャラクセウスみたいに、高みから見下ろしてアレコレ指図されることだあ!!」

 

困惑するロックブレイカーを余所に、怒りを爆発させたカースドプリズンは凶星の力を解き放つ。

 

凶星引力(フォビドゥン・グラビティ)!!」

 

「何?!」

 

警戒こそしていたが、ミーティアスは吃驚する。今カースドプリズンが使った技は、吸収可能なオブジェクトを自分へと引き寄せる技。しかし、己が誘い込んだこの郊外には、ヤツの使える機械など…

驚くミーティアスへと、カースドプリズンは鎧で表情がわからないにも関わらず、間違いなくドヤ顔をしているであろうことを確信できる、煽るような声音で告げる。

 

「ようヒーロー、テメエは俺様を誘い込んだつもりらしいが、逆だぜ。俺様が採掘現場(ここ)()()()()()()()

 

告げるカースドプリズンのもとへ、何か巨大な機械が三つ、飛来して来る。

確かに、この郊外にはそこら中に吸収可能な車があるわけではない。

しかし、特定の機械が目当てで事前に目星をつけていたのだとしたら?

 

「さあ、暴君の時間だ!」

 

一声叫んだカースドプリズンがやって来た機械を叩き壊す。爆風がその身を隠した数瞬の後、煙の中から現れたのは異形であった。

ただでさえ巨大なカースドプリズンの体がさらに巨大になっただけではない。

その両腕部は体の三倍はあろうかというほど()に長く、よくよく見ればそれは両腕に一つずつショベルアームが折りたたまれた状態で装着されているのだと分かった。つまり、伸ばせばさらに倍する長さになるということ。

そして、アームの先端部には通常のショベルのバケットとは異なり、円盤のようなものがいくつも並んでいて、よくよく見るとそこには細かな刃がびっしりと並んでいる。

 

「あれは…?」

 

『…連続掘削機(コンティニュアス・マイナー)ダ』

 

連続掘削機(コンティニュアス・マイナー)とは、地下の鉱物資源を採掘するため、坑道掘りにも使われる機械である。

動きこそ遅いが、爆薬による発破など行わずとも、硬い岩盤さえ先端の回転するカッターヘッドで苦も無く掘り進むという特別な機械。

つまりカースドプリズンの狙いは最初からコレ。

プリズンブレイカーで戦闘に付き合っていたのも誘いの罠。

本命はここでショベルカーと連続掘削機(コンティニュアス・マイナー)を吸収すること!

 

「しかし、いくら破壊力があっても、その重量ではマトモに動けないだろう」

 

「確かにこの重量とキャタピラじゃあ素早く動くのは無理だな。だが知ってんだろ、俺様は吸収した(モン)()()()()()()()()()んだよ。だったら、こういう真似も出来るよなあ!!」

 

高らかに告げると、カースドプリズンは両腕のアームを伸ばし、岩盤さえ容易く砕く円形カッター群を起動させながら超信地旋回(その場でグルグル回り出)した。

 

十数メートルに渡るアームは、元々の強度であれば先端に継ぎ接ぎされたカッターの重さを支えきれない。しかし、耐久力を強化されたことで強度の問題はクリア。

そして全ヒーロー・ヴィランを通じてもトップクラスを誇るカースドプリズンの膂力に、回転による遠心力まで加われば―――

 

「この一撃は物理学の叡智ィーッ!!」

 

「なッ!」

 

『クッ…!』

 

カースドプリズンの両腕が、ヒーロー・ヴィランであっても触れればタダでは済まない質量と運動量の暴風となって吹き荒れる。

 

『キャッ…ヒ、人ノ話ヲ聞ケ!』

 

動揺しながらも、何とか交渉を試みようとするロックブレイカーであったが、

 

「ああそうだとも!よく覚えておけ()()()()()!いまこの瞬間! 今が楽しければ先のことなんざどうでもいい!」

 

『ナッ…!』

 

「うはははは! なんかどんどん楽しくなってきた!」

 

先程までの不機嫌など何処へやら、一切話を聞かずに高笑いと共に暴力を振り回すさまは正しく自己申告通りの暴君(タイラント)

 

精神的にも物理的にも、何物をも寄せ付けない暴君を前にして、ミーティアス(ヒーロー)ロックブレイカー(ヴィラン)も、その場から逃げ出すことしか出来なかった。

 

 



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必要経費(コラテラルダメージ)

目論見を外され、撤退を選ばざるを得なかったミーティアス。

しかし、彼はただ逃げていただけではなかった。

 

「キミの企みを聞いてしまった以上、見過ごすわけにはいかないからね」

 

『フン…ソレハコチラトテ同ジコト。次善策ニナルガ、ココデ貴様ヲ始末シテシマエバイイワケダカラナ』

 

ミーティアスは、カースドプリズンから逃走しながらも、同じくあの場から逃げ出したロックブレイカーを追走していた。

応じるロックブレイカーもまた、全くの無傷というわけでもない。

ミーティアスは疲弊した己の体に鞭打った。互いに疲弊しているならば互角。何より、正義のヒーローとして宇宙そのものの危機をもたらさんとするヴィランをこのままみすみす逃がすことは絶対にできない。

 

大地を蹴り、駆ける。壁を走り、宙を踏みしめ、時にスピンを、バックステップを入れて加速。そしてガラ空きの背後に蹴りを……

 

「え?」

 

足を掴まれた。

 

防波(さきなみ)

 

「ふぐっ!?」

 

蹴りの勢いに逆らわず、引き込むような動きで天地反転させられると、そのまま地面へと叩きつけられる。

ロックブレイカーはそのまま地面へ転がったミーティアスのマウントを取ると、右手でミーティアスの腕を極めつつ左手でショットガンを突きつけながら、青く光る眼で冷たく見下ろしながら告げる。

 

『空中カラ攻撃スル傾向ガ高イキサマ(ミーティアス)ナラ、攻撃シテクル場所サエワカッテイレバ反撃ヲ先ニ置クダケデ、後ハ勝手ニキサマノ方カラ当タリニキテクレル、トイウワケダ』

 

「くっ…!」

 

ロックブレイカーが引き金に掛かった指へ力を入れる。いかなヒーローとてショットガンの零距離射撃を受ければタダでは済まない。

万事窮すかと思われた、その時

 

「天誅!!!」

 

ロックブレイカーの肩越し、上空で金髪を振り乱した少女が、落下しながら右手の巨大な朱斧を振り下ろさんとしているのをミーティアスの目は捉えた。

というかこの軌道で斧が振り下ろされると自分ごと―――

 

「ちょあああああ!!?」

 

『チッ…!』

 

ミーティアスの目に映る上空の敵(ロックピッカー)を捉えたロックブレイカーは、ミーティアスを拘束することを諦め飛び離れる。

自由を取り戻したミーティアスもまた、咄嗟に両足から蒼色の爆発を生み出し、無理やりに体をその場から弾き飛ばして回避する。

 

二人が居なくなった地面を打ち砕きながら、非常斧(マスターキー)を振り下ろしたロックピッカーは

 

「うーん、そこは『諸共に叩き斬れ!』ってソイツ(ロックブレイカー)にしがみついて止める位はやって欲しかったなあ」

 

「ロックピッカーよ、オヌシ実はヴィランなのではなかろうな?」

 

後から現れたリキシオンが呆れたように問いかける。が、ロックピッカーは涼しい顔で返す。

 

「正義のためなら必要経費(コラテラルダメージ)よ」

 

「えぇ…?」

 

面識のあるリキシオンはともかくとして、初対面である(多分)ヒーローの少女から明らかにぞんざいというか、それを通り越して敵意(ヘイト)を向けられていることに困惑しきりのミーティアス。

そこへ歩み寄ったリキシオンは、ミーティアスを助け起こす。

 

「あやつの相手はワシと彼女に任せられよ。オヌシはこれで回復を」

 

「…鮭?」

 

「これはライブスタイドサーモンと言う。かのアーサー王が探し求めた聖杯は、大型の魚を運ぶための器であり、その魚は鮭であったと伝承にある。他にも多くの神話で鮭は河川に生まれ海に出でて、河川へと帰りまた生まれるという習性から生命の円環の象徴ともされ…」

 

「いや、それはいいんだけど。これ、どうやって回復させるの?」

 

リキシオンが差し出したのは、まるまる一匹、尾頭付きの鮭だった。

ミーティアスのこめかみを一筋の汗が伝う。

 

「…生でかじった方が回復速度が早いのだ」

 

「えぇ…?」

 

「済まぬ……普段であればエリキシル配合ニンジャピルでコズミックちゃんこ鍋を振る舞うのだが、それも全てアヤツ(ロックブレイカー)に奪われてしまった故、今最も優れた回復手段はコレなのだ」

 

「アッハイ」

 

ミーティアスは考えるのを辞めた。深く考えれば宇宙めいた恐怖の淵から転げ落ちるような不吉な予感に襲われたので、回復に専念することにした。

 

一方、共にショットガンを構えて対峙するロックピッカーとロックブレイカー。

 

「やられっぱなしは性に合わないんでね…お礼参り(リベンジマッチ)だ!」

 

『無駄ナコトダ。何度ヤッテモ私ニハ勝テン』

 

言うや否や、お互いに申し合わせたように体を崩しながらの銃撃。

共にほとんどの弾を回避し、一気に距離を詰める。ロックピッカーが右手の朱斧を振り下ろすが

 

『コーガ忍法「ジャストパリィ」』

 

「くっ」

 

ロックブレイカーが右手の斧付きシャッガン(ソードオフ・ウォーアックス)の刃を用いて朱斧を弾くと、そのまま左手を鉤型に曲げたものをそのまま叩きつけてくる。

これは搗ち上げ(かちあげ)!相撲においても相当にダーティな技であり、使い方によっては相手の失神を狙うことすらできるため、正式の土俵上での使用は厳に慎まれる危険技である。そしてこれは相撲の試合ではない。ロックブレイカーは完全に失神狙いで技を繰り出していた。

咄嗟に左手のショットガンを搗ち上げ(かちあげ)の軌道上に割り込ませて直撃を防いだロックピッカーだったが、威力を殺し切ることはできず地面に転がる。

転倒したロックピッカーへ向けて右手のショットガンを発射しようとするロックブレイカーだったが、そこへリキシオンがインタラプトしてくる。

 

「ハッケヨイ!」

 

しかしロックブレイカーは冷静だった。

何しろ彼女にコーガ忍法を教えたのは他ならぬ()()()()()()()であり

そればかりでなく彼女の全身義体(サイバネボディ)もまた、ニンジャが装着者になることを前提に錬金術すら盛り込んでリキシオンが制作したものだからだ。

 

ロックブレイカーは、忍法にどうしても必要な生体部分である眼球と脳を含んだ頭部以外ほとんどを義体化している。

本来ならば、機械化した体では忍法を使うことはできない。

忍法とは、三陽三陰十二脈を以て万物自然とコネクトしチャクラを操る東洋哲学に基づいたもの。

故に西洋の科学礼賛・物質主義(フィジカリズム)の産物である機械の体では絶対に使用できない秘奥技(ミスティック・アーツ)なのだ。

 

だが、忍法と錬金術を共に極めたリキシオンは、強化セラミックとバイオマテリアル、果てはパラケルスス直系として受け継いだホムンクルス生成の知識をも合わせることで、忍法を使用可能な全身義体(サイバネボディ)を組み上げることに成功したのだ。

この世に()()()()しか存在しないその一つをロックブレイカーは与えられている。

さらに彼女の脳には、あらゆるヒーロー・ヴィランの戦闘データが収められた外部記憶装置が増設されている。

これこそロックブレイカーがあらゆるヒーロー・ヴィランに初見殺しを決めることができる所以。

ありとあらゆる攻撃を事前にデータから照応、最適な忍法を選択することでメタを張ることができるのだ。

 

((モットモ、コレガ完成スル遥カ以前ニ死ンデシマッテイタ()()()ノデータハ無カッタカラ、サッキハ失敗シチャッタケド))

 

そんな余念を抱く余裕すら彼女にはあった。

今リキシオンが狙っているのはもろ差し。ショットガンの使いづらい組みあった状態を作り、ロックピッカーに攻撃させる算段だろう。ならば組みあいに応じておいて、逆にリキシオンの体を盾にしつつロックピッカーを、スキあらば回復中のミーティアスを銃撃するのがこの場合の最善手。

 

その判断は何一つ間違えてはいなかった、()()()()()

 

予測どおり、がっぷりと四つに組むロックブレイカーとリキシオン。

 

『フン!チャンコ鍋ノ無イ力士ナド、ルーノ無イカレート同義!タダノ白米ニ等シイ!』

 

「ふむ、白米を嘗めるべきではないぞ。なにしろ良く()()()()からな」

 

そう口にしたリキシオンが何かをロックブレイカーの腕に()()()()()

 

『コレハ…!』

 

不味い、そう思ったロックブレイカーは咄嗟に張り付けられたソレを引きはがそうとするも、リキシオンに両腕の動きを封じられている。

 

『馬鹿ナ!アナタモ無事デハ済マナイゾ!』

 

「正義のためなら必要経費(コラテラルダメージ)よ」

 

言ってリキシオンが笑うと同時、張り付けられた扉破砕用爆薬(ドアブリーチャー)が起爆する。

 

『グワーッ!』

 

「グワーッ!」

 

ロックブレイカーの両腕が爆ぜ、その衝撃でリキシオンもまた吹き飛ばされる。

そう、先にリキシオンが張り付けたのはロックピッカーが必殺技(ウルト)で使用する扉破砕用爆薬(ドアブリーチャー)

 

(ロックピッカー)の攻撃も、リキシオンさんの攻撃も読み切っていても、リキシオンさんが私の攻撃をしてくるとは思わなかったでしょ?」

 

起爆スイッチを押したロックピッカーが、倒れたリキシオンを助け起こしながら言う。

これがロックピッカーとリキシオンの秘策。賢明なるリキシオンは、ロックブレイカーがそれぞれの技を予測しきって対応してくるであろうことを読み切っていた。

ならば、予測されたことを前提にして、予測以上の攻撃をするまでのこと。

ロックピッカーの爆弾を予測できても、リキシオンの相撲技を予測できても、リキシオンが()()()()でロックピッカーの攻撃を設置しにくるとは予測できまい。

 

故に、己が戦闘不能になるのを覚悟で、リキシオンは爆薬をロックブレイカーから譲り受けていた。

最初にロックピッカーが襲い掛かった時点から既にして心理的誘導が仕組まれていた。

力の源たるエリクシル配合ニンジャピルを失ったリキシオンではなく、いまだ十全な戦闘能力を残しているロックピッカーが主攻であり、リキシオンはサポートに回ったと印象づけるための布石。

 

「それにしても大丈夫リキシオンさん?やっぱり無茶だったんじゃ…」

 

「なんの、心配は要らぬ。爆発の直前に腕を放してコーガ忍法「ジャストパリィ」で防御した故な」

 

「だからなんでジャパニーズ忍法が英語表記なの…」

 

「何を言う。ブロッキング術はニンジャの必修技能。かつて偉大なりしダイゴ・ウメハラは、必敗の状況から敵の十七連撃を全てブロッキングして大逆転勝利を収めたという。私もコズミックちゃんこ鍋を食べた状態であれば…」

 

「アッハイ」

 

ロックピッカーは考えるのを辞めた。深く考えれば宇宙めいた恐怖の淵から転げ落ちるような不吉な予感に襲われたので、応急処置に専念することにした。

 

『マダダ…!私ヲ殺スニハ足リヌ!』

 

言ってロックブレイカーはよろよろと立ちあがった。が、強がりでしかないのは明らかだった。

両腕は失われ、胴体や足にも異常が出ているのが外から見ただけでもわかる状態であり、フルフェイスのマスクにも亀裂が走っている。

 

「なら、ボクが引導を渡してあげよう」

 

答えたミーティアスの足に、蒼い粒子が収束し煌々たる輝きが宿り始める。

あれは必殺技(ウルト)であるミーティア・ストライクの予備動作。

 

「待てミーティアス!ソヤツにはまだ(あらた)めねばならぬことが…」

 

「リキシオン、キミは聞いていないのだろう。彼女の目的はギャラクセウスの消滅。彼はボクに正義のための力を授けてくれた恩人だし、何よりそれは宇宙全体の秩序を破壊する行為だ。彼女は危険すぎる、だから彼女を止める、このボクの手で!」

 

『フン…手デハナク足ジャナイカ……』

 

憎まれ口を叩くロックブレイカーだが、機械変換された音声からもありありと諦念がにじみ出ていた。

 

((ゴメンナサイ()()()…ヤッパリ、私ジャ駄目ダッタ…))

 

ひび割れたガスマスク越しに覗く瞳に、涙が光る。

咄嗟にリキシオンが、ロックピッカーが止めようとするも、もはや間に合わない。

 

「ミーティア……ストライク!」

 

ミーティア・ストライクは蒼く輝く星の力を蹴り足から対象へと流し込み、内側から爆発させる技。

喰らってしまえば防ぐ方法は皆無。

そして、内側から光と衝撃が溢れ出し、爆ぜたのは

 

乱暴に引きちぎられた()()()()()()()()()()だった。

 

『ナ…ン…』

 

「だと…」

 

その場の誰もが言葉を失う中、ギャリギャリと響く金属音。

ロックピッカーは/()()()()()()()()は知っている。

遥か遠い記憶でも、その一瞬だけは色鮮やかに焼き付けられている。

ロックピッカーというヒーローの/ロックブレイカーというヴィランの原風景。

 

呪われた鎧(カースドプリズン)の背中が、そこにはあった。

 

「どうしたヒーロー、泣いてる女の子を助けないとか、まるで一般人(モブ)のようじゃねぇか」

 

「…カースドプリズンは人助けするような奴じゃなかったと思うけど。第一、さっきはボクごと彼女を倒そうとしていたじゃないか」

 

「知るか。俺様はやりたいことをやってんだよ。さっきはその()()()()()が根性のねえ事をほざいてたからムカついたけどなあ……今はテメーにムカついてんだよ!」

 

怒号とともに、ミーティアスへと突っ込んでいくカースドプリズン。

先のショベル二台と連続掘削機(コンティニュアス・マイナー)の融合から、両腕を引きちぎった状態となった今は重量も遥かに軽く、三台分のエンジンを上乗せされたキャタピラは馬力相応の速度を叩き出す。

 

再度激突する凶星(カースドプリズン)流星(ミーティアス)

 

その光景を、ただただ涙を滂沱と流しながら見続ける()()の少女を前にして、リキシオンは確信していた。

 

「ロックブレイカーよ、オヌシは…ロックピッカーの()()()なのだな?」

 

「え?」

 

リキシオンの言葉に驚いて振り向くロックピッカーの視線の先、ひび割れていたロックブレイカーのマスクが砕ける。

そうして露わになった顔は、ロックピッカーと()()()()()()()だった。

 

『フン…ソノ通リ。私ハオマエダ』

 

「オヌシのその声、マスクによるものではなかったのか」

 

『コイツハ後遺症ダヨ。私ガオジ様ニ使ッテ貰ウタメニ持ッテ来タコノ「ディメンジョン・リッパー」ヲ私ノ脳ニ繋ゲテ、カオス因子デ起動サセヨウトシタガ、無理ダッタ。ソノ後遺症デ声帯ガヤラレチマッテ、ドウヤッテモコレ以上ニハ治セナイノサ』

 

「ディメンジョン・リッパー…成る程、それで時間を遡り、()()()()()()のだな?」

 

『今ノヤリトリダケデ、ソコマデ読ミ切レルノ、マジ狸親父ダナ…」

 

「え?え?どゆこと?!こいつは未来から来た私自身……じゃあ、ないの?」

 

混乱するロックピッカー。対して、リキシオンは()()全てを理解し終えていた。

 

「疑問だったのだ。ワシやロックピッカーを殺さないのはタイムパラドックスを防ぐためだったと仮定しても、オヌシはミーティアスを殺そうとしていた。それだけでも未来は変わってしまうのにな。それはつまり」

 

『ワシやソヤツ(ロックブレイカー)が時間移動ではなく、平行世界から次元移動してきた、ということだ、この世界のワシ(リキシオン)

 

ゾブリ、と。

くぐもった音と共に、声が聞こえた。

枯れた老人のような、それでいて若者のように張りのある声。

しかし、スピーカーから響く音のように、余計な音がこそぎ落とされた平坦な声。

 

それは、戦闘中だったカースドプリズンの真後ろ、影の中から這い出て来ていた。

男の全身義体(サイバネボディ)は、その意匠からロックブレイカーと同型の義体と見て取れる。

それでいてサイズは()()()()()()()()()遥かに大きく、その頭頂部には見事な「オオイチョウ」が結われていた。

そして、いつの間に回収したのか、その手にはロックブレイカーが使っていた斧付きシャッガン(ソードオフ・ウォーアックス)が握られていた。ただし、銃床に取り付けられた刃は斧状だったものが細長く、さながら()()()()()()()のように延伸していた。

その刃は、真後ろからカースドプリズンの体へと突き刺さり、体の正面から血に濡れた刃の先端を覗かせていた。

 

『ナ、何ヲ!話ガ違ウ!』

 

気色ばみ、叫ぶロックブレイカー。が、男は感情を感じさせない平坦な声で返す。

 

『正義のためなら必要経費(コラテラルダメージ)よ』

 

「て、めえ…誰だ…」

 

掠れた声で問うカースドプリズン。

 

『私は力士であり、ニンジャであり、錬金術師であり、()()()()()でもある。あちらにこの世界のワシ(リキシオン)がいる以上、こう名乗ろう。ワシの名前はリキシボーグだ!』

 

 

 



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ナズナノ花言葉ヲ知ッテルカ?

リキシボーグを名乗った男が、忍者刀付きシャッガン(ソードオフ・ニンジャソード)をカースドプリズンの体から引き抜く。

するとあっけなく、カースドプリズンの巨体が糸の切れた操り人形(マリオネット)のごとく崩れ落ちる。

 

「おじ様!」/『オジ様!』

 

重なった悲鳴を余所に、リキシボーグは淡々と言葉を紡ぐ。

 

『最初からカースドプリズンが「ディメンジョン・リッパー」を使ってくれれば何も問題は無かったのだがな。こんなこともあろうかと、この呪われた牢獄を打ち砕く者(カースド・プリズン・ブレイカー)には賢者の石を埋め込んで、イレギュラーたるカースドプリズンの小宇宙(ミクロコスモス)を吸収する機能をつけておいた』

 

「つまりは、この事態も予測済みなのだな、()()()()()()()から来た別世界のワシ(リキシボーグ)よ」

 

『フン、そこまでわかっているならば、もはや語る必要もあるまい、この世界のワシ(リキシオン)よ。剪定事象を、否、世界の全てを救う手段はもはやこれ以外にない』

 

どこか痛ましいものを見るようなリキシオンと、何の感情も見せない様子のリキシボーグ。

 

()()()である二人は、自分(リキシボーグ)が何をしようとしているのかを理解していたし、自分(リキシオン)が全てを理解したであろうことを感じ取っていた。

 

しかし、余人はそうはいかない。

 

「おじ様!しっかりして!」

 

『キサマ…!何ヲシタ!』

 

ピクリともせず倒れ伏したカースドプリズンに駆け寄るロックピッカーと、もはや憎悪すら込めてリキシボーグを睨み付けるロックブレイカー。

そんな二人の少女を目にしても、リキシボーグは眉ひとつ動かすことなく淡々と告げる。

 

『カースドプリズンは死んではいない。死んでしまえばこの世界も()()されてしまうし、せっかくのイレギュラー(ギャラクセウスに由来しない力)も失われてしまうからな。そして、この()()ならば、カースドプリズン本人でなくとも、その力でディメンジョンリッパーを発動させることが可能な()()がある』

 

その言葉を聞き、直前まで戦っていた相手が倒れて、態度を決めかねていたミーティアスが、静かな口調で告げる。

 

「つまり…アナタもまた、宇宙そのものを滅ぼさんとするヴィランなのだな、リキシボーグ」

 

『逆だ、ミーティアスよ。我が心と行動に一点の曇りなし。全てが「正義」だ』

 

「世界を根底から否定するような行為がか?!」

 

『ならば問おう。オヌシは今のこの世界を正しい姿だと思うのか?たった一人のヒーローやヴィランに、巨大な都市を壊滅させる力が与えられている……こんなアンバランスな姿が、世界の正しい在り方だと言い切れるのか?』

 

「何を言う!ヴィランの悪逆が無くならないから、それと戦うヒーローが必要なのだろう!」

 

『違うな。あの娘を見よ。カースドプリズンが生きていた世界ならば悪と戦うヒーローとなっていたハズのものを、オヌシがカースドプリズンを殺したワシらの世界では、ヒーロー憎しが昂じてヴィランとなってしまった…』

 

そう言ってロックブレイカーを見るリキシボーグの声には、今までの無感情なものとは別の憐憫と哀惜の情が初めてにじみ出ていた。

 

『その現実を見てワシは思ったのだ。ヒーローとヴィランが相争い続けるこの世界は間違っているのでは?()()()()()()()()()()()()()()()()()こそ正しいのではないか、とな」

 

「何を言って…?それとギャラクセウスを消し去ることと何の関係が…」

 

次第に困惑を深めていくミーティアスを余所に、リキシボーグは何か得心したように頷いて言葉を続ける。

 

『ともあれ、オヌシが最後の障碍だと言うのなら試してみるとしよう。これからワシはカースドプリズンから奪った力でディメンジョン・リッパーを発動させられる場所へ向かう。カースドプリズン本人ならばともかく、余人が次元圧縮による世界改変を行うには「場所」が重要なのでな。その前にワシを止めてみよ』

 

「何?!」

 

『オヌシがワシを止められるのであれば、やはりヒーローもギャラクセウスも世界には必要ということなのであろう。止められるものならば止めてみよ。ワシの絶望に、オヌシの正義が敵うというのなら!』

 

言うや否や、リキシボーグの足元が爆発した。

そう見えるほどの脚力を以て、リキシボーグの姿は一瞬にして遠ざかっていく。

 

「な…逃がすか!!」

 

一瞬遅れて、ミーティアスも脚から蒼光を爆発させて追って行く。

残された者たちは、死んだようなカースドプリズンを診察するリキシオンを囲んでいた。

 

「どうなのリキシオンさん?!おじ様は…」

 

『黙ッテイロ(ロックピッカー)大医師ケルススを凌ぐ者(パラケルスス)(スエ)ガ診テクレテイルノダ、邪魔ヲスルナ』

 

「アナタは私でしょう?!おじ様がこんなことになってるのに、何でそんなに冷静なの!」

 

『…私ニトッテハ、目ノ前デオジ様ガ死ヌノハ、コレガ初メテデハナイカラナ』

 

「…!!」

 

『ソウダ、オジ様ガ死ンデ、私達ノ世界ハ終ワッテシマッタ……剪定事象ニナッテシマッタノダ』

 

 

 

―――――――

 

 

 

「何?!ボクがキミ達の世界のカースドプリズンを倒したからって、何故世界が終わるというんだ?!」

 

ミーティアスはリキシボーグへ追い付いていた。

しかし、ただでさえ忍術による挙動は厄介であるというのに、加えて義体の性能が生み出すリキシオンを遥かにに超えたスピードとクイックネスに追いつくのがやっとで、捕まえることは出来ない。

それ故か、リキシボーグは事ここに及ぶ仔細を語って聞かせる余裕すらあった。

 

『遡って原因を探れば、それがトリガーだったというだけなのだがな』

 

カースドプリズンが死んでも、世界は何も変わらなかった。()()()()

一人の少女がヒーローへの憎しみを募らせてヴィランへの道を歩んだが、多くはヴィランの死を歓迎していた。

これで世界が平和になると。

事実として、その頃から世界は平和になっていった。

ヒーローとヴィランの戦闘も少なくなった。

ヴィランが数を減らして、ヒーローが活躍する機会が減ったのだと、誰もが思っていた。

しかし、実態はそうではなかった。

 

『そう、カースドプリズンの死を境に、ヒーローやヴィランが新たに()()()()()()()()()()()のだ』

 

これまでであれば、ギャラクセウスが原因で宇宙からヴィランがやって来たりしていたが、それも無くなった。

そしてギャラクセウスが力を与えてヒーローを誕生させることも無くなった。

と言うよりも、もはやギャラクセウスは()()()()()()()()()()()()()()()()

その原因を探るため、その世界のリキシオン(当時のリキシボーグ)は時空間を圧縮することで時間を遡ることのできるディメンジョン・リッパーを作成、錬金術の知識を総動員し過去遡航に耐え得るサイボーグボディをも作った。

 

しかし、実際に過去遡航を行おうとして判明したのだ。

既に()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが。

 

「過去や未来が、無くなる…?」

 

『左様。そうなってしまった世界のことを()()()()と言う』

 

本来、この世界には無数の可能性が存在し得る。

しかしながら、その全ての可能性を許容し続けるだけのリソースが宇宙には存在しない。

故に、存続可能性の低い世界、その存在自体を削除することで宇宙全体の情報リソースを保っているのだ。

そうして削除された可能性の世界は剪定事象と呼ばれる。

 

『剪定された直接の原因はギャラクセウスが力を失ったこと。しかし、過去へと戻ろうとした時に、カースドプリズンが死んだ時間より以前が消失していたことが分かり、その時点から世界が分岐してしまったことが判明したのだ』

 

そう口にしたリキシオンが着地した場所は、つい先刻ミーティアスがカースドプリズンを()()()()()として()()()()()()()()採掘現場だった。

 

「ここは…?」

 

疑問を口にするミーティアスに答えることなく、リキシボーグは山腹に開けた坑道へとその姿を消す。

当然、ミーティアスも戸惑いながらも蒼い残光を残しつつ追いかける。

 

 

 

――――――

 

 

 

「つまりオヌシの世界では、イレギュラーたるカースドプリズンの死で世界が固定されてしまった。そのままでは過去遡航すら出来ないため、次元移動で『カースドプリズンが生きている世界』へ移動し、そこからカースドプリズンの生存が確定している時間まで過去遡航してきたというわけだな…」

 

診察を終えたリキシオンが、言い争う二人に声をかけてくる。

 

「リキシオンさん!おじ様は…」

 

「命に別状は無い。身と精は無事だが、魂だけを抜き取られた状態のようだな。大宇宙(マクロコスモス)の三態である地上世界・天上世界・霊的世界に照応するのが人間(ミクロコスモス)の身体・精神・魂魄なのだが、錬金術の秘奥には魂のみを賢者の石へと移し替えることで永遠の命を得ようというアプローチ方法があった。恐らくはその術式を使って魂ごとカースドプリズンのイレギュラーたる力を抜き取った、というところだな」

 

「えーと……どういうこと?」

 

『ナラバ、オジ様ノ魂ヲ収メタ呪われた牢獄を打ち壊す者(カースド・プリズン・ブレイカー)ヲ奪イ返セバ…』

 

「無理だ。本人の魂は本人が回収しなければ元には戻らぬ。本来、人の三位一体のうち精神と肉体の二つがあれば行動不能にまではならずに済むはずなのだが、カースドプリズンは力の源それ自体を失っている状態だ。魂と力の源を奪い返したところで、これでは……」

 

「そんな!」

 

『……ダッタラ、私ニ考エガアル』

 

「何をするつもりだ?」

 

問いかけるリキシオンに、ロックブレイカーは朗らかな笑顔で答える。

 

『ナズナノ花言葉ヲ知ッテルカ?』

 

 

 

―――――――

 

 

 

リキシボーグを追って狭い坑道へと入ったミーティアスは、突然に視界が開けたことに驚く。

侵入者に対して、この空間は歓迎を選んだらしい。

原理の分からない光が灯り、謎の地下空間……その果ての全容を照らし出す

 

「なんだ、これ……さらに穴が」

 

『頓挫した大規模地下都市(ジオフロント)開発計画、その跡地だ。()()()現れたヴィランとヒーローとの戦闘が発生し、結局計画はお蔵入りとなった……それも全てギャラクセウスの差し金』

 

「何故、わざわざそんな…」

 

『宇宙はアヤツ(ギャラクセウス)の領域……天の神を殺すなら、地の底でなければならぬ。何故地球でばかり事件(イベント)が起きると思う?それはこの星がギャラクセウスの生命線にしてアキレス健だからよ』

 

「何の話をしている?!」

 

『オヌシはおかしいと思わないか?』

 

そもそも、本当にギャラクセウスが全能存在であるならば、自分の力でヴィランを全滅させてしまえばよさそうなものである。

にも関わらず、わざわざミーティアスやハイドロハンズといったヒーローに力を与えて戦わせたり、逆にゼノセルグスのようなヴィランを呼び寄せたり、カースドプリズンのような宇宙を滅ぼしかねない存在を倒さずに、わざわざ自由に動き回れる程度の封印で済ませているのか。

 

『逆なのだミーティアス。全能存在ギャラクセウスがヒーローを作り出すのではない。この地球でヒーローやヴィランが争い合っている世界でなければ()()()()()()()()()()()()()()のだ。ヒーローやヴィランの減ったワシらの世界がこの宇宙に存在を許容されなくなったことがその証拠』

 

つまり、この宇宙で最も知的生命が煩雑に存在する()()()の多い惑星である地球に、ヒーローやヴィランが争い合うという()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状況が整っている世界でなければ、ギャラクセウスは存在証明ができないのだ。

 

『わかるか?!ヒーローがどれ程正義のために戦おうとも、この世界の存続のためには新たなヴィランとの戦いが必要となる!逆に平和が訪れれば、世界の存在が終わってしまう!ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()より他に平和が訪れる術は無いのだ!!』

 

リキシボーグとて、どこまでも正義のために戦ったのだ。

ヴィランへと道を踏み外さんとする少女には、自ら師となって教え導こうとした。

世界が滅ぼうという危機には、ヴィランとも手を取り合って回避しようと最後まで足掻いた。

その結果わかったのが、ギャラクセウスのいる世界では、争い続けるか、滅ぶかの二択しかなかったという事実。

 

あの娘(ロックブレイカー)は、カースドプリズンに新たな宇宙の基準点になって欲しかったようだが、本人が拒絶するのならば仕方ない。ギャラクセウスの干渉が最も遠いこの地の底で、あやつ(カースドプリズン)から抜き取ったイレギュラーの力を使ってギャラクセウスの居ない新たな世界を創る。これだけが本当に世界を救う唯一の方法なのだ』

 

「……アナタの正義は理解した。だが、この世界で今生きている人たちはどうなる?」

 

『……平和の実現のためには必要な犠牲(コラテラルダメージ)だ』

 

「なら、ボクはそれを認められない」

 

戸惑いの消えた、決意を固めた瞳でミーティアスはまっすぐにリキシボーグを見る。

 

『それがオヌシの正義か…』

 

納得した様子で、リキシボーグは隠していたボタンを押す。

すると入ってきた坑道から爆音が響き、土煙が吐き出される。

 

『通りながら爆薬を設置しておいた。これでワシを止められるのはオヌシのみ……来い!この老いぼれを見事倒してみよ!』

 

一瞬の睨みあいの後、ミーティアスが仕掛ける。

この世界全ての命を背負った以上、敗北は許されない。

故にこそ、対プリズンブレイカー用に温存していた奥の手を切る。

 

『むっ…!』

 

すべてのヒーロー・ヴィランを通じて、最高峰のスピードを誇るミーティアスの最大速度。

そこから繰り出す、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ミーティアスではプリズンブレイカーには勝てない。これだけは絶対の事実。

ミーティアスに知覚できる程度の速度の攻撃ならば、プリズンブレイカーには必ず対応される。

ならば、自分(ミーティアス)が知覚できる限界の速度を超えた攻撃をするまで。

最大速度の、自分でも当たったかどうかすら判断できない攻撃。故に事前に多段フェイントまで組み込んで練習したコンビネーションを見えずともそのまま繰り出せばよい。

 

一撃!

二撃!

三撃!

 

手ごたえを知覚するより早く、より速く!

 

最後の二十撃目を繰り出し終えて、ようやく結果を知覚したミーティアスは

 

『コーガ忍法上級奥義(オーバーゲハイムニス)、ウメハラ・ブロッキング』

 

二十連撃を全弾凌ぎ切った、リキシボーグの青く輝く瞳と視線がかち合った。

 

「…なんでジャパニーズ忍法なのにドイツ語なの?」

 

『ワシの遠祖パラケルススはドイツ人だぞ?むしろドイツ語の方が自然だ…何より、かっこよさが段違い(ダンチ)であろう』

 

「成る程…ぐふっ!」

 

全力を使いつくし、反動で動けなくなったミーティアスはリキシボーグの掌打で崩れ落ちる。

 

『この技はこの時代のワシ(リキシオン)であればコズミックちゃんこ鍋を過剰摂取(オーバードーズ)してようやく、後の壮絶なデメリットと引き換えに使うことのできる絶技。しかし、長年の研鑽とこの錬金術ニンジャ力士サイバネボディ、そして()()が合わされば、このとおりよ』

 

全身に溜まった熱を吐き出すように言葉をこぼすリキシボーグからは、それでも容易い技でないことが見てとれる。

残心を終えたリキシオンは、静かにミーティアスへと歩み寄る。

 

『残念ながら、オヌシの正義はワシの正義には届かなんだようだな。見事な技と覚悟に免じて、苦しまないよう一撃で葬ろう』

 

言って、断頭の一撃を構えるリキシボーグ。

ミーティアスは限界を超えた連撃と先に受けた打撃のダメージで動けない。

そして、入口が塞がれた以上は、誰の助けも間に合わない。

 

地底には星の光は届かない。

 

だが、太陽すら霞ませる()()ならば?

 

 

ゴァアン!と、地下空間に轟音が響く。

咄嗟にトドメの一撃を中止し、警戒するリキシボーグ。

その視線の先に映ったのは、小城のごとき円筒形の威容であった。

 

先頭部におろし金のような細かい刃がびっしりと並んだそれは、巨大なトンネル掘削機(シールドマシン)

地下トンネルを掘るためだけのその機械は、しかし日に数十メートルも掘り進むのがやっとの速度。刃の摩耗も激しく交換が必要となる。

 

ただし、()()()()()()し、()()()()()()()()()()()()()()()()がソレを纏えば?

 

「おいおい、楽しそうじゃねえか。だがこの俺様が混ざらなきゃ始まらないんじゃないか?」

 

『馬鹿な…!何故、キサマが動ける?!』

 

「何処かのバカな()()()()()がな、自分のカオス因子(ギャラクセウスに由来しない力)を全部()()()()()()()()()()()な」

 

『なッ…では、ロックブレイカーは、()()()()()()()()()()()()…!!』

 

ナズナの花言葉とは、『I offer you my all(アナタニ私ノ全テヲ捧ゲマス)

 

「一つだけ言っておくぞ……キック・ユア・アス(俺はお前をぶちのめす)

 

 



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本当にやりたかったこと

―――ほんの少し前

 

「…それがどういう事かわかっておるのだな?」

 

失われたカースドプリズンのイレギュラー(ギャラクセウスに由来しない力)の代わりに、自分(ロックブレイカー)の保有している「起こらない筈の可能性を0%から1%にする」カオス因子(ギャラクセウスに由来しない力)を与える。それが意味することは、自身の消失。

 

ロックピッカーは/ロックブレイカーはカオスが作り出した仮初めの命、偽りの人間(レプリコンポイド)。数々の奇跡的な巡り合わせの果てに個を確立したが、その存在を支えるカオスの因子を無くしてしまえば、消えて無くなるだけ。

だが、ロックブレイカーは笑っていた。

 

『ドノ道、私達ノ世界ハ「終ワッテル」ンダ。一度ハ絶望ト諦観ノ海ニ沈ンダ私ガココマデ来レタ。ダカラ、()()()()()()()()()()()()()ダ』

 

一点の曇りもない自分自身(ロックブレイカー)の笑みに、ロックピッカーはそれ以上何も言えなかった。

 

『後ハ頼ンダゾ、(ロックピッカー)

 

「任せてよ、(ロックブレイカー)

 

 

 

―――そうして現在

 

カースドプリズンは怒っていた。

むしろ、カースドプリズンはほぼ常に怒っている。太古の昔、ギャラクセウスに封印されるより以前から、ずっと。

 

鎧に封じられる前、欲望のままに力を振るっていた彼だが、それは他の多くのヴィランのように、圧倒的な力で他者を虐げる暗い悦びに浸っていたわけではない。

そこにあったのは、子供が初めて自分の足で歩けるようになった時のように、初めて自転車に乗ることができた時のように、()()()()()()()()()()()()()()という、己の生命を、可能性を最大限に表現することの純粋な喜びだけ。

それなのに、自分に出来る最大限(ベスト)を尽くさない、出来ることすらやろうとしない者たちに憤って暴れていた。

それを悪だと断じられ、呪われた鎧へと封じられてヴィランのレッテルを張られた彼は、別にそう呼ばれることは何も気にしていなかった。

他人からの評価など、彼にとってはどうでもいい。

 

今も昔も、彼の行動原理は単純明快。

()()()()()()()()()()()()()

ただ、封印された後は、自分がやりたくてもできないことを軽々とできるのにやろうともしない一般人(モブ)やヒーローを見て、自分がその側に回ることを拒絶してきた。

 

だから、あのガキンチョのことはよく覚えている。

あのワケのわからない場所(ケイオースシティ)に閉じ込められた時、助けた少女。

助けたのは偶然ではあったが、気まぐれでもない。

なんとなく予感があったのだ、こいつは()()()()()()()()()()()ヤツになるんじゃあないか、と。

 

だから、未来から来た彼女(ロックブレイカー)であっても、一目であの時のガキンチョだと理解できた。

そして、だからこそ怒っていたのだ。

俺様(カースドプリズン)が死んだからって、わざわざ過去まで来て、俺様(カースドプリズン)にギャラクセウスを消してもらおうだなんて。

それはオマエが()()()()()()()()()()()じゃないだろう、と。

根性足りてないんじゃないか、と。

 

ひるがえって、己に対して怒っていた。

あのガキンチョ(ロックブレイカー)犠牲と献身(やりたいことをやった結果)がなければ動くことすらできない自分の方が、よほど根性が足りてない。

もっとも、それで自責の念に沈んでしまうような精神構造はしていない。

だから()()()する。

それもこれも全部あんちくしょう(リキシボーグ)のせいだ。

畜生リキシボーグ絶対許さねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

「粉微塵にしてやる……!」

 

集められるったけ集めた(合計十二基の)エンジンが生み出す大馬力によって移動要塞(動けるデブ)となったカースドプリズンは、岩盤を砕くドリルを唸らせながら突っ込んでいく。

流石に無視できるものでもなく回避するリキシボーグはしかし、理解が及ばず困惑する。

 

『ちいぃ…!何故、トンネル掘削機(そのようなモノ)が都合よく見つかる?いや、むしろどうしてこの場所がわかった?!』

 

「あ?Ms.プレイ・ディスプレイ(クソテレビ)が教えてくれたぜ」

 

「おじ様……相手がヴィランだからってああいうことをするのは良くないと思うの!」

 

カースドプリズンが空けた穴から追ってきたロックピッカーが、顔を真っ赤にしてプリプリと怒っている。

 

「一体何をしていたんだ……」

 

「存外と元気そうだなミーティアスよ」

 

倒れたままで呆れた声を出すミーティアスを抱え起こしながら、同じく追いついたリキシオンが言う。

 

「まあ実際空元気だけどね…ダメージはそこまでじゃないけど、無理な技を使ったせいでスタミナがもう無い」

 

「ふむ…ならばこれはオヌシが使うがよかろう。本来はワシの()()()()()()だったのだが、両手を損傷したワシでは役に立てぬ故」

 

「こ、これは…!」

 

 

―――――

 

『無駄だ!どれだけ装甲が厚かろうとも、どれだけ馬力を底上げしようとも、錬金術全身義体(サイバネボディ)となったこのワシには通じぬ!』

 

「く、そがァ!」

 

カースドプリズンは一方的に打たれ続けていた。

如何に強力な攻撃も当たらなければ意味は無く、如何に強靭な装甲も無限に攻撃を防げはしない。

これが生身(リキシオン)であれば消耗にて、いずれカーストプリズンが有利を取れるはずであった。

 

リキシボーグになる以前(リキシオン)には弱点があった。

それは補給の問題。

力士のパワーとニンジャの技を兼ね備えたリキシオンは、()()()の力を発揮さえ出来ればどんなヒーロー・ヴィランにも負けることは無い。

ただし、力士としての力を使うためにはストロング飲料水を飲まねばならず、忍法を使うためにはサイバー漢方でトランスせねばならず、必殺技(ウルト)を使うためにはコズミックちゃんこ鍋を食べねばならない。

それらを補給するための時間、そして摂取できたとしても強化状態自体にも制限時間が存在する。

しかし、リキシボーグにはそれが無い。森羅万象とコネクトし忍法を操りながら、肉体的限界に縛られることのない機械の体。

 

何より今のカースドプリズンは自分本来の力ではなく、ロックブレイカーから与えられたカオス因子にて動いている。

全力を振るおうにも、アクションのいちいちに後ろ髪を引っ張られるような違和感がある。

まして、最も致命的なのは脱獄(プリズンブレイク)が出来ないことだ。

そも、カースドプリズンが何故ミーティアスと戦っていたのかと言えば、己の力を模倣したミーティアスと戦って、その力の一部を奪うことで一時的に呪いを無効化し脱獄(プリズンブレイク)を果たすため。

だが、今やその力はリキシボーグの手で奪われてしまっていた。故にギャラクセウス由来の力を吸収しても脱獄自体が出来ない。

通常戦闘で不利、起死回生の切り札は使用不能。

もっと狭い空間であれば巨体を生かして逃げ場を封じ圧殺する戦法も使えたが、このジオフロントは相当な広さがあり、縦坑により高さもあるため、忍法で三次元機動するリキシボーグを捉えきれない。

 

『隙有り』

 

「しまっ!?」

 

既に砕けつつある装甲の隙間を狙われ、転倒させられるカースドプリズン。

リキシボーグはそのまま地面へ転がったカースドプリズンのマウントを取ると、装甲の可動範囲を逆用して動きを封じつつ、左手で忍者刀付きショットガン(カースド・プリズン・ブレイカー)を突きつけ、青く光る眼で冷たく見下ろしながら告げる。

 

『ワシの勝ちだ。己の力を封じた武器で死ぬがよい』

 

リキシボーグが引き金に掛かった指へ力を入れる。

一対一では今のカースドプリズンではリキシボーグに勝てない。

 

では、二対一ならば?

 

「天っ誅ァーーー!!!」

 

縦坑上空へと跳躍したロックピッカーが、金髪を振り乱しながら右手の巨大な朱斧を振り下ろす。

 

「おじ様!()()()()()()!!」

 

「来い、ガキンチョ!」

 

『小癪』

 

リキシボーグは己を掴もうとするカースドプリズンの腕を払いのけ、すぐさま飛び離れる。

おそらくは、マウントを取った自分の動きをカースドプリズンが押さえることを期待しての大振りであろう。

ならばさっさと避けてしまえばよい。重装甲で転がされたカースドプリズンは避けられないし、ロックピッカーもあそこまで勢いをつけての振り下ろしでは攻撃を止めることもできまい。

 

『愚か…己の救った娘の手で葬られるがよかろう』

 

()()を停止するリキシボーグ。現在の彼をして、この術は時間制限付きであり、常に使い続けることはできない。リキシボーグの目から青色の光が消える。

 

そしてカースドプリズンへと直撃する非常斧(マスターキー)

だが、二人の()()()()()は攻撃ではなかった

 

ロックピッカーという存在の源は「起こらない筈の可能性を0%から1%にする」カオス因子。

今のカースドプリズンの力の源は「起こらない筈の可能性を0%から1%にする」カオス因子。

そして、脱獄(プリズンブレイク)の条件は、己と同質の力を吸収すること。つまり―――

 

「強制()錠!!」

 

ロックピッカーの斧が、カースドプリズンの纏ったトンネル採掘機(シールドマシン)を、その下の黒を基調とした拘束具の意匠をあしらわれた鎧までをも両断する。

 

それは、鍵をこじ開ける者(ロックピッカー)鍵を打ち砕く者(ロックブレイカー)が、()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()

 

地下に、緋色の光が溢れる。

 

「クライマックスだ、ケリをつけてやる」

 

『キサマ…!』

 

リキシボーグは咄嗟に瞳術を再使用しようとして、

 

「遅え」

 

『がッ…!』

 

緋色の凶星(プリズンブレイカー)に掴まれ、縦坑を上空へと投げられる。

 

『くっ…!』

 

ようやく起動した瞳術で、プリズンブレイカーの動きを捉えようとした所へ、声をかけられる。

 

「よう力士崩れ(リキシボーグ)()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

『何を……まさか、キサマの()()()()()は?!』

 

カースドプリズンとは、牢獄に封印された後の名。

プリズンブレイカーとは、封印から脱した後の名。

ならば、太古の昔、封印される以前の本当の名は。

 

賢明なるリキシボーグは、表の歴史では決して語られえぬニンジャ神話についても詳しい。

 

とあるニンジャは、チョップにより紅海を割り人々をエジプトから約束の地へと導いた。

ローマのアーチ様式建築は、堅牢なるニンジャのブリッジ姿勢に着目して作られたものだ。

 

そして、とある神話には、自由に空を駆け、必殺技(ウルト)たる二十連撃空中殺法を振るった戦士の逸話が収録されている。

その技は文字通りの、受けた者は誰一人として生き残らなかったと伝えられる開幕十割(必殺技)の使い手。

 

いかなるニンジャを以てしても再現不可能とされ、実在が疑問視されてきたその者の名は―――

 

統天(マスタースカイ)!』

 

「へぇ、心当たりがあるのか。なら話は早い」

 

((だが、焦ることは無い。今のワシならミーティアスの限界を超えた二十連撃すら凌ぎ切ってみせた。そして、今のコヤツは本来とは別の力で動いておる。技のキレも、脱獄時間も本来には遠く及ばないハズ!))

 

覚悟を決めて、上級奥義(オーバーゲハイムニス)を構えるリキシボーグ。

そして、緋色の凶星は天気でも聞くような、気軽な口調で()()()()へと声をかける。

 

「よう、合図が必要かい」

()()()()し、()()()()()()だろ……!!」

『キサマ……ミーティアス!』

 

ミーティアスは、プリズンブレイカーの能力を熟知していた。

空中戦では劣る自分では決して敵わないからこその、妥協案として用意した対抗策の地上戦での二十連撃。

しかし、リキシオンの()()()()()()で能力を過剰強化された今ならば、ヤツの動きを()()()()できる!

 

即ち、これより繰り出されるのは、神話の二十連撃に非ず。

蒼色の流星(ヒーロー)緋色の凶星(ヴィラン)の、本来ありえない二人(タッグ)による()()()()

 

「「双星天(アステール・スカイ・ツイン)!!」」

 

 

 



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最終回

―――カースドプリズンとリキシボーグが戦っていた時

 

「これぞワシの隠し球、魔魂丸薬(イヴィル・フォース)。通常のコズミックちゃんこ鍋に使っている安全性の高い素材と違い、安全性を度外視する代わりに強大な力を得ることのできる代物よ。ただし、効果が切れた後、暫くは副作用でロクに動けなくなる諸刃の剣ではあるが」

 

「オッケー」

 

リキシオンが差し出した黒い丸薬を受け取ったミーティアスは、躊躇うことなくそれを飲み込んだ。

 

「エリキシル配合ニンジャピルを全て失った時の対策に、奥歯の奥に隠しておった故に無事だったのよ」

 

「それ飲んでから言う?!あーもう、サンドバッグにしてやるから覚悟しろ未来のリキシオン(リキシボーグ)め!」

 

 

そんなやりとりの結果、今現在ミーティアスは

 

「先に言えコラーッ!!」

 

『言いがかりも甚だしいわ!』

 

八つ当たりしていた。

自身が対プリズンブレイカー用に準備したコンボも破られた分まで含めて、八つ当たりの攻撃を繰り出していた。

片やプリズンブレイカーは

 

「どうしたどうしたァ! 疲れたなら一息で首刎ねてやろうかァ!?」

 

「今ボクごと攻撃しようとしたよね?!ぶっ飛ばす!!」

 

「返り討ちだオラァ!!」

 

普通にミーティアスごとリキシボーグを潰そうとしていた。

それはミーティアスも同じで、隙あらばプリズンブレイカーをも巻き込まんと攻撃している。

故に

 

((動きが!読めぬ!))

 

リキシボーグが使っている瞳術は、思考処理速度を加速させ動きをスローモーションに見せるだけでなく、攻撃がダメージを与える範囲すら視覚として捉えることができるものだ。

故に単なるコンビネーション攻撃であれば、たとえ四十連撃でも捌いてみせるつもりだった。

 

しかし、実際にはヒーロー(ミーティアス)ヴィラン(プリズンブレイカー)も、まるで連携などしていない。

お互いに相手をリキシボーグごと叩き潰さんと、本気の連撃を繰り出して来る。

相手を攻撃した反動を利用して、そのまま自分に攻撃してくるような有様だ

 

故に、ダメージを与える範囲があらかじめ分かっていても、まるで役にたたない。

動きに無駄が多く、合理を外れた攻撃さえしてくるので、どうしても防ぎようがない一撃が出てくる。

 

((しかし、引くことは出来ぬ!))

 

リキシボーグとて、世界の全てを犠牲にする覚悟で正義を為さんとしているのだ。

 

『この程度の窮地、幾度も超えてきた!!』

 

「「こっちのセリフだオラァァァア!!」」

 

覚悟の機人が双眸に宿す青光と、蒼緋の双星の残光が地底にてアストログラフを描く。

 

 

 

それを見上げる少女は

 

「すごい……あれがおじ様の本気……あれなら」

 

((マダダ))

 

「え?!」

 

脳内に響く声に驚く。

 

「この声は…もう一人の私(ロックブレイカー)!」

 

突如として声を上げたロックピッカーに、リキシオンがいぶかしげに声をかけてくる。

 

「む、どうしたのだロックピッカーよ?」

 

「え、リキシオンさんには聞こえないの?」

 

((ドウヤラオマエ(ロックピッカー)ノ中ニ精神ダケ移ッテシマッタヨウダナ))

 

錬金術で言う三態、すなわち肉体・精神・魂。

今のプリズンブレイカーはリキシボーグに魂とイレギュラー(ギャラクセウスに由来しない力)を抜き取られて肉体と精神だけの状態。

そこへと三態全てと、カオス因子(ギャラクセウスに由来しない力)を捧げることで活動可能にしたロックブレイカー。

本来ならば、自意識すら保つことすら出来ないはずである。

 

((シカシ、私ト同位体デアルオマエガ使ッタ「強制開錠」ノ結果、精神ダケガオジ様カラ移ッタノダロウ))

 

「うーん、わかったようなわからないような…」

 

((仔細ハドウデモイイ。ソンナコトヨリ、恐ラクハアノ連撃デモリキシボーグハ仕留メキレナイ))

 

困惑するロックピッカーを余所に、ロックブレイカーは淡々と言葉を続ける。

 

「え?どういう事?!それ以前にあの攻防が見えてるの?」

 

((アア、私ガ「見テ」ヤル))

 

そうロックブレイカーの声が聞こえた瞬間、ロックピッカーの瞳に青い光が灯る。

瞬間、世界の全てが停止したように動きを止める。

 

否、その視界は宙に舞うミーティアスとプリズンブレイカー、そして二者の攻撃を的確にブロッキングするリキシボーグの姿を捉えた。

 

「凄い…完全に見える」

 

((コレゾ、コーガ忍法奥義(ゲハイムニス)真界観測眼(クォンタムゲイズ)」。無論、リキシボーグモ使用デキル。コレガアノ連撃ヲ捌ケル絡繰ヨ))

 

「じゃあ…」

 

((全テヲ捌ケテイルワケデハナイガ、ソレデモ決メ手ニハ足リヌ。ダカラ、()()()()()()))

 

「え?!」

 

プリズンブレイカーは、自身本来の力ではないせいで全力を発揮しきれず脱獄終了間近。

ミーティアスは、魔魂丸薬(イヴィル・フォース)の副作用でこのあと動けなくなる。

リキシオンは、先のロックブレイカーを倒すためのダメージで戦力には数えられない。

 

つまり、残るはロックピッカーのみ。

 

「でも、おじ様でさえ倒しきれない相手に…!」

 

((ウルセェッ!死ヌマデ殴レバ死ヌンダヨ!))

 

「!」

 

((…ッテ、オジ様ナラ言ウト思ウ))

 

「ああ、言いそー」

 

((ダロウ?))

 

クスクスと、ひとしきり笑いあう少女二人。

そして、覚悟を決めた目になったロックピッカーは自分(ロックブレイカー)に問う。

 

「でも、私にできるかしら?」

 

((デキルサ。デナケレバ―――))

 

「―――ヒーローになんて、なってない!でしょ?」

 

ロックピッカーが/ロックブレイカーが力を求めたのは何のためか。

それは勿論おじ様のため。

守られるだけの存在で居たくない。助けてくれたあの人を、今度は私が助けてあげたい。

そのための力、そのための研鑽。

 

((動キハ私ガ「見テ」ヤル。カマシテヤレ、(ロックピッカー)!))

 

「任せて、もうひとりの私(ロックブレイカー)!」

 

 

 

そして、四十連撃の果て、双星と機人が墜ちる。

 

濛々と立ち込める土煙の下から現れたのは、

 

倒れ伏すミーティアスと、

再び牢獄へと囚われたカースドプリズンと、

サイバネボディは全身がひび割れ、七孔全てから血を流しながら、それでも立っているリキシボーグ。

 

『見事……御美事……!だが、このワシを殺すには足りぬ!』

 

「くっ…」

 

「ちィッ…!」

 

動けないミーティアスと、もはや吸収できる武器もないカースドプリズン。

それにトドメをささんと、満身創痍ながら確かな足取りで近づいて行くリキシボーグ。

 

しかし、その前に立ちふさがるロックピッカー。

堂々と、嘗て幼き日の思い出に焼き付いている、己を助けてくれたおじ様のように!

 

「あら、まだ踊り足りないのかしら。だったら一曲踊ってくださる?」

 

『オヌシか…だが、忍術も使えぬオヌシではワシの相手にはならぬ』

 

「わかってないわね。女が武器を取る理由なんて昔から一つだけ。大切なヒトを守るためよ」

 

うっとりと、恋する乙女の瞳で語るロックピッカー。

一瞬、虚を突かれたように動きを止めるリキシボーグ。

その瞬間、右手の非常斧(マスターキー)を遥か上へ、左手のショットガン(マスターキー)を地面へと投げ捨てたロックピッカーは、両目に灯った青い光の残光を棚引かせながらリキシボーグの懐へと飛びこむ。

使うは、己の研鑽の集大成たる必殺技(ウルト)

 

「強制解錠!」

 

しかしリキシボーグは動じない。この技の破り方は知っているからだ。

真界観測眼(クォンタムゲイズ)起動。既にロックピッカーが設置した一つ目の扉破砕用爆薬(ドア・ブリーチャー)が生み出すダメージ圏で視界が赤く染まる。

冷静に関節技で動きを封じられていない部分だけを動かして、右腕に設置された一つ目の爆薬から雷管を引き抜く。

今だ視界は真っ赤に染まっている。一つ目の爆薬のダメージ圏は消失したはずなので、既に二つ目の爆弾が設置されている。

冷静に動きを封じられていない部分を動かし、二つ目、三つ目と雷管を引き抜いていく。

 

((拍子抜けだな。これならワシが鍛えたあの娘(ロックブレイカー)の方が手ごたえがあったであろう))

 

余念を抱きながらも、体は冷静に雷管を引き抜いていく。

そして、ロックピッカーの体が己から飛び離れる。

最後の爆薬を設置しおえたのだろう。ならば次に雷管を引き抜いて終わりだ。さすれば視界を覆う真紅のダメージ圏も消える。

既に最後の雷管を引き抜いた後の、ロックピッカーへのとどめの手段を吟味しながら、リキシボーグが目にしたのは

 

地面に着地して微笑むロックピッカーの青く輝く瞳と、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『アナヤ!』

 

「『一手』遅かったわね」

 

ロックピッカーの言葉と共に、リキシボーグの右腕が吹き飛ぶ。

 

((何故?!最初に雷管を引き抜いた……()()()?)

 

そうリキシボーグが思ったと同時、見ていた全員が「うわ」と呟いてしまうほどのドヤ顔を浮かべて、ロックピッカーは宣言する。

 

「アナタが最初に雷管を引き抜いた後、私が二つ目の爆薬を設置してから、アナタが最後の雷管を引き抜くまでの間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ」

 

『な――――』

 

ロックピッカーがこの強制解錠を必殺技(ウルト)に選んだ理由。

それは、関節技がどんな相手にも有効だから、というのは結果に過ぎない。

本当の理由は、全て()()()に使うため。

自分より大きなおじ様の懐に飛び込み。

人体と構造はそう変わらないおじ様自身にも、おじ様が取り込んだ機械にも逆運動学制御(インバースキネマティクス)で有効な関節技で動きを止め。

()()()()()()()()()()()()()

そのためだけに開発し、そのためだけに研鑽した技。

 

結局、最後の条件を満たす方法が今もって見つからなかったため、代用として爆薬を設置しているだけ。

そういった意味で、この技は既に完成し完結した技ではなく、いまだ発展途上の技なのだ。

故に、常に改善を続けている。

もう一人の私(ロックブレイカー)に破られてから、既にその対策は考えていた。

 

「女の子はね、ちょっと目を離したらすぐ淑女(オトナ)になっちゃうんだから」

 

だから私から目を離さないでね、とカースドプリズンへウィンクを送るロックピッカー。

 

『まだだ―――』

 

勝機と見たリキシボーグが、残った左手をマウントスペースの忍者刀付きショットガン(カースド・プリズン・ブレイカー)へと手を伸ばして、

 

その手が空を切る。

 

『な…』

 

「お探しのものはコレ?」

 

ロックピッカーが、またも淑女を自称するにはどうかと思うドヤ顔で、背中に隠していた忍者刀付きショットガン(カースド・プリズン・ブレイカー)をこれみよがしに取り出す。

 

『オヌシは』

 

「そ。最初の爆薬に雷管を設置する他に、コレもちょちょいっと貰っちゃった。と、ゆーわけで、ここで会うたが百年目!盲亀の浮木!泥率1%!いざ尋常に、天誅!」

 

そのまま刃部分を前に構えて、銃剣突撃のようにリキシボーグへ突進するロックブレイカー。

 

『驕るな!コーガ忍法百秀の神腕(サウィルダーナハ)!』

 

リキシボーグの左腕が、忍法の支援を受けて忍者刀と激突し、諸共に砕け散る。

両腕を失ったリキシボーグであったが、武器を破壊した今ロックピッカーもまた無手。

ならば条件は互角!動じることなく、そのまま前蹴りでロックピッカーを文字通り蹴散らさんとする。

しかし

 

降雷轟槌(エル・トール)!!」

 

ジャンプで前蹴りを躱したロックピッカーは、そのまま()()()()()()()()()()()非常斧(マスターキー)をキャッチして、勢いそのままリキシボーグへと振り下ろす!

 

両腕を失い、蹴りをも躱されたリキシボーグには回避する術はもはや存在せず。

上空からの運動量そのままにロックピッカーが振り下ろした非常斧(マスターキー)は、リキシボーグの左の片口から腰までを両断した。

 

「……ふぅ。上から斧が落ちてくるタイミングに合わせるのに、話の繋ぎに苦労したわ」

 

『完敗、だな。よもやワシを止めるのがミーティアスでもカースドプリズンでもなく、オヌシのような女童とは…』

 

「それは違うわ。アナタは私に負けたんじゃなくて、()()()()()に負けたのよ」

 

『何…?』

 

そう、ここまでの戦闘の流れ。

斧を遥か上に投げて注意を逸らし、

強制解錠中に雷管を刺し直しつつ武器を奪い、

斧が十分に落下エネルギーを蓄えて落ちてくるのに合わせて話を引き延ばしておいて、正面から突っ込んだ後の上空奇襲二弾式天誅。

これらは全て、ロックピッカーがもう一人の自分(ロックブレイカー)と話し合って事前に立てた作戦であった。

 

リキシボーグの疑問には微笑みのみで返し、ロックピッカーはもはや半壊した忍者刀付きショットガン(カースド・プリズン・ブレイカー)をカースドプリズンへ差し出す。

 

「おじ様、どうぞ。あの娘(ロックブレイカー)の武器、結局こんなに壊しちゃったけど」

 

「それでいいんだガキンチョ。武器は勝つために振るうもんだ。後生大事にして負けるより、ブチ砕いてでも勝つ方がいいに決まってる」

 

ぶっきらぼうに、彼なりの賛辞を口にしたカースドプリズンは、凶星の力を解放する。

 

凶星引力(フォビドゥン・グラビティ)

 

「おじ様…?」

 

別に力を取り戻すだけなら、忍者刀付きショットガン(カースド・プリズン・ブレイカー)を砕いて吸収してもいいはず。

ロックピッカーだけでなく、皆が疑問に思う中、カースドプリズンへと忍者刀付きショットガン(カースド・プリズン・ブレイカー)が、そして()()()()()()()()()()()()が吸収される。

 

「何を?!」

 

気色ばむミーティアスを無視して、カースドプリズンはロックピッカーに静かに告げる。

 

「こいつを使えば、俺様は次元自体を再構築できるんだろ?それでオマエ()を元の場所へ帰す」

 

「おじ様…気づいて……」

 

「いいか、俺様から言うことは一つだけだ。オマエらが()()()()()()()()()()()()……じゃあな」

 

それだけで、あっけなくロックピッカーは、リキシボーグさえも完全にこの世界からは姿を消していた。

 

時空改変に耐えきれなかったのか、サラサラと崩れて消えるディメンジョン・リッパー。

そのまま、しばし佇むカースドプリズンへ、ミーティアスが声をかける。

 

「素直じゃないね」

 

「うるせえ」

 

「もうちょっと思いやりはわかりやすくした方が」

 

「ああもう、うるっせえ!」

 

一声叫んだカースドプリズンの左腕から、青白い収束した炎が噴き出す。

 

「……えーと、ソレは?」

 

「さっき凶星引力(フォビドゥン・グラビティ)のついでに吸収しておいたテルミット溶断機だ。燃料はそれほどなさそうだが、安心しろテメエを真っ二つにするくらいは持つはずだぜ」

 

「いやボクまだ回復しきってないんだけど」

 

「遠慮することねえよヒーロー、一緒に双星天(トリック)決めた仲じゃねえか。俺様手ずから、そのクソダセェ☆型メガネ、リフォームしてやる」

 

「ヒドくない?!」

 

「ミーティアスよ、正直言ってワシもそのメガネは無いと思うぞ」

 

力士ニンジャ錬金術師(キミ)にだけは言われたくない!……ようし喧嘩だ! 今ならなんとタダで売っちゃうよ!」

 

「クーリングオフ(物理)だオラァ!」

 

ボロボロの状態で、しまらない喧嘩を始めるミーティアス(ヒーロー)カースドプリズン(ヴィラン)

それを微笑ましく眺めながら、リキシオンはひとりごちる。

 

()()()()()()、なべて世は事も無し、か……」

 

結局、何一つ世界は変わらなかった。

ギャラクセウスは変わらず全能存在として君臨している。

今回の騒動も、いくらでもある世界の危機の一つに過ぎなかった、と片づけられるに相違あるまい。

 

では、この世界がこのまま存続していくのか、それとも彼らの世界のように剪定されて終わるのか、それはいずれ、別な世界線(ユニバース)の話として、いずれ語られることがあるのかもしれない。

 

未来は、世界は、いまだ一つに決定されてはいないのだから。

 

 

 




カーマ宝具5になったらエピローグ投稿します


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エピローグ ~カースド・プリズン・ブレイカー~

―――今より未来、ロックピッカーの世界

 

今日も、世界は喧噪に満ちている。

 

「だから、どうしておじ様ったら逃げるの?!」

 

「だから、テメェが襲って来るから逃げてるんだろうがガキンチョ!」

 

過去にカースドプリズンが発動したディメンジョン・リッパーにより未来へと戻されたロックピッカーは、早速未来のカースドプリズンを追い回していた。

次元移動してきたロックブレイカーにより一度は未来における存在を失ったカースドプリズンであったが、過去の出来事から再び存在確率を収束させることで、無事未来においても確かに存在し続けていた。

 

「だから、おじ様だって覚えているでしょ?私に『本当にやりたいことをやれ』って言ったのはおじ様なんだから」

 

「テメェのやりたいことは俺様をボコることなのか…」

 

「違うわ!今も昔も、例え世界が違ったって、私()がやりたいことは一つだけ」

 

呪われた牢獄の鍵を開け放つこと。すなわちカースドプリズンの呪いを解くこと。

その方法は、これまで封印を施したギャラクセウスの力を取り込む以外に発見されていなかった。

しかしロックピッカーは過去において、もう一人の私(ロックブレイカー)の手により「強制()錠」に成功していた。

 

「つまりは手順の入れ替えよっ」

 

「はァ?」

 

「私がおじ様をボコっておじ様の力を吸収すれば、私の手でおじ様の呪われた牢獄(カースドプリズン)打ち壊せる(ブレイク)ってことでしょう?」

 

「いやそのりくつはおかしい」

 

「さあ、おじ様。私の愛情……受け取ってねっ!」

 

「愛情(物理)じゃねえかァ!」

 

二人の逃走劇/追走劇は続く。これまでと同じく。

 

 

 

 

―――剪定された未来、ロックブレイカーの世界

 

『終わりの決まった世界に戻されるか……酷なことをする』

 

『敗軍ノ将ノ倣イダロウ?ヴィラン的ニ言エバ、敗ケル奴ガ悪イ』

 

リキシボーグと、一度は存在を失ったロックブレイカーもまた己の世界の、元いた時間軸へと戻されていた。

二人とも損傷さえ元通りにされていたが、この世界が終わってしまう事実は変わらない。

 

しかし、ロックブレイカーの声は、機械音声であってもはっきりとわかる程に晴れ晴れとしていた。

何故なら、もう一度おじ様に会えて、おじ様の役に立てて、言葉を送ってもらった。

それはかつて自分には出来なかったことだから。

 

『本当にやりたいことをやれ、アヤツ(カースドプリズン)は言っておったが、オヌシはこれからどうするつもりだ?』

 

『決マッテイルサ。ギャラクセウスヲブッ飛バシテ、コノ世界ヲ救ウ』

 

『何?!それは―――』

 

かつて、ロックブレイカーは己自身で次元干渉をしようとしたこともあった。

ディメンジョン・リッパーは観測するヒトの意識により波動関数を落とし込み次元干渉を行う。

元々ロックブレイカーは、己の「起こらない筈の可能性を0%から1%にする」カオス因子を利用した次元干渉を行おうと、ディメンジョン・リッパーを搭載するために全身義体化を行った。

しかし、ヒトの意識で観測せねばならないにも関わらず、ディメンジョン・リッパーは搭載した人間を変性意識状態(アルタード・ステイツ)、いわゆるトランス状態にしてしまう事が発覚。

それでもロックブレイカーは実験を強行したが失敗、一命は取り留めたものの声を二度と修復できない状態となってしまった。

 

『だからこそ、ディメンジョン・リッパーを体に直接搭載せずとも起動できるカースドプリズンに使ってもらうために、別な世界の過去まで行ったのであろう?』

 

『ダガ、アンタハ隠シテイタダロウ?次善策(セカンドプラン)トシテ、オジ様ノ力ヲ奪ウ方法ヲ』

 

『む、それは…』

 

『責メタイワケジャナイ。ソイツヲ使ッテギャラクセウスノ力ヲ奪エバ、今度コソ私ノカオス因子デ次元干渉ガ出来ルカモシレナイダロ?』

 

『それはワシも考えた!しかし実現可能性はゼロに等しい』

 

『ダロウナ。ダガ、ドウセコノママジャア世界ハ滅ブンダ。ナラ、()()()()()()()()()()()マデダ』

 

決断的に口にするロックブレイカーを見て、リキシボーグは眩しいものを見たように目を細める。

老いては子に従え、とはこのような心持ちであったろうか、と。

 

『そうだな……しかし、いくら力を減じているとは言えアヤツ(ギャラクセウス)は全能存在。オヌシ一人でどうこうできるものでもあるまい』

 

『ッ!ソレデモ!』

 

『故に、ワシも手を貸そう。一人では無理でも、二人ならできると、ついさっき過去でオヌシらに教えられたしな』

 

『ハッ、ソウコナクッチャア!』

 

絶望と諦観を超えて、瞳術ではない、挑戦する決意の輝きをその眼に取り戻した二人。

そこへ―――

 

「いよう、楽しそうじゃねえかガキンチョも力士崩れも。当然、俺様も混ぜてくれるんだよなあ?」

 

―――あり得ない、声がかかる。

 

『馬鹿な!オヌシは…』

 

『嘘……オジ……サマ?』

 

そこに立っていたのは、全身を緋色に輝かせた痩身長躯の男。

もはや隠されなくなった面貌に、白い歯を覗かせながら言う。

 

「いやあ、あの世界の俺様(カースドプリズン)が次元干渉で()()()()()()にした時点で、取り込まれた俺様も再現されたんだが……何の因果か別な次元を行ったり来たりする体になっちまってな」

 

ある次元の科学者からは「量子的存在確率が不安定になり、隣接する次元へと滑り込んだ」と言われた。

ある次元の修行僧からは「我執を以て六情を呑み大悟を得た」と評された。

 

世界は、観測するヒトの意識がすべてを確定する。

本当にやりたいことをやる、だからこそ波動関数の収束を己の思った世界へと落とし込む、人の思考こそがエネルギーとなり世界を変える。それ即ち

 

『阿頼耶識、空であるハズの宇宙を観測によって実体に落とし込んでいるのか?!それではまるで―――』

 

だいたいあいつのせい(ギャラクセウス)と同じ、か?地蔵力とか量子収束観測とか言われるが、そんな便利なモンでもねーんだが。ここに来るまであっちこっちの次元に飛ばされて、俺様の主観では56億年ぐらいかかってるし……ま、俺様がこうなれたのもロックブレイカー(ガキンチョ)が「やりたいことをやりきった」からだしな、声ぐらいは治してやれるぜ」

 

緋色の男がそう口にするだけで、少女の声は機械音声ではあるものの、ボイスチェンジャーにかけられたようなくぐもった声ではなく、生身の頃と遜色ない声となる。

 

『私の…声…!?』

 

「さあ、言ってみろ。オマエが本当にやりたいことは何だ?」

 

ニマニマと、悪戯に成功した子供のような表情で問いかける男に、少女は生身の瞳から涙をこぼしつつ答える。

 

『おじ様と、一緒に、居たいです……!』

 

「もう一声」

 

さらに笑みを深くした男から再度問われて、少女は涙をぬぐうと声を張り上げる。

 

『一緒に、ギャラクセウスを、ぶっ飛ばしましょう!』

 

「おう―――」

 

遥かな昔、「統天(マスタースカイ)」の名で呼ばれ。

呪われた牢獄(カースドプリズン)とも、脱獄者(プリズンブレイカー)とも呼ばれた男。

 

今や、かつての呪いを克服し、幾多の次元を渡る旅の果て、少女の元へと帰ってきた男の名は

 

「―――俺様は、閉塞した世界を打ち砕く者(カースド・プリズン・ブレイカー)だからな!」

 

 

 

 



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ネタバレキャラ設定解説のような……次回予告のようなナニか

注意:あくまで本ユニバースの設定です。
筆者個人に捏造されている設定であり、シャングリラ・フロンティア原作の設定とは異なります。
拙作のネタバレが多数含まれますので、ご覧になる場合は拙作を読了後になさってください。
また、「カフェイン過剰摂取による強めの幻覚」も多数含まれますので、わざわざ見に来て下さった方には申し訳ないが今すぐブラウザバックした方がいいです。
ここで一時『退く』のは敗北ではない………!!


それでも読もうという奇特な方は『覚悟』してお読み下さい。



【カースドプリズン】

 

イメージキャラ

・暴血ガンギマリ状態のサンラク

・『スクライド』シェルブリットのカズマ

・『Fateシリーズ』クー・フーリン

・『ドリフターズ』島津豊久

・『めだかボックス』獅子目言彦

 

本ユニバースの「中心」

傍若無人なヴィラン扱いされているが、本人はヒーローとかヴィランとか気にしておらず、「やりたいことをやりきるだけ」

太古の昔から存在しているため、価値観・死生観が太古の英雄のソレ(ストロングケルトスタイル)であり、ソレが現代ではハタ迷惑で実害も伴うからヴィラン認定されているだけで、時代が時代ならフツーに英雄。

呪われた牢獄(カースドプリズン)というネーミング自体、明らかに後付けで本名じゃないよなあ…ということで、シャンフロ原作にて登場しながら現在では何処の誰かもわからない『統天』(マスタースカイ)が太古の昔の本名であったという設定に。

地頭は悪くないし、太古から続く長大な人生経験に裏打ちされた、ある種の賢者の如き見識の持ち主―――なのだが、行動するにあたってはそれら一切を顧みることなくエゴ(やりたいこと)を優先する。

畢竟、ハタから見れば馬鹿としか言いようがない行動が多くなるので、よほど洞察力に優れているか、もしくは関わりの深い相手以外からは素でバカだと思われている。

このあたり「理論派に見えて実はアドリブマン」というサンラクとは実は微妙に異なるのだが「テンションとプレイヤースキルが連動している」という点は一致している。

 

とにかく前向き。思い煩ってる暇があるなら殴れ、前に進め、例え倒れるとしても前のめりだ!というスタンス。

こういった「キツいことがあって、凹むことがあっても最後には前に進む」点はサンラクインストール……というよりも、後悔とか反省とか全てブン投げているあたりサンラクよりも色々とブッ飛んでる。

やりたいことをやりきる、やりきろうとする、全力で取り組む者への好感度は高い。

反面、やりたいことが定まらない、やれることなのにやらない者へは極めて塩対応、手が出ることも。

カスプリ最大の面白い点であるオブジェクト吸収については、作中に登場した連続掘削機(コンティニュアス・マイナー)トンネル掘削機(シールドマシン)以外にも

・ブルドーザーカスプリ

・クレーンカスプリ

・チェーンソーカスプリ

・ドラッグカーカスプリ

伐採機(ハーヴェスター)カスプリ

・コンバインカスプリ(ヘッダーホイール型、耕して撒き散らすのは敵の血肉)

・芝刈り機カスプリ(刈り取って撒き散らすのは敵の血肉)

・除雪車カスプリ(引き込み撒き散らすのは敵の血肉)

などなど、色々なパターンが想定されていたが没になった。

次回作では、原作に出てきたバリエーションor更なるゲテモノ吸収の予定…?

 

 

 

 

【ロックピッカー】

 

イメージキャラ

・幕末汚染MAXのサンラク(クソゲニウム足りてる)

・『トライガン マキシマム』GUNG-HO-GUNS10. リヴィオ・ザ・ダブルファング

・『グリザイアシリーズ』入巣蒔菜

 

みんな大好き、元・栗きんとん幼女。

窮極の「努力の天才」

偽りの命である自身を一個の存在として確立するため、血を吐くような窮極の鍛錬の果てヒーローとなった。

師すら持たずにガムシャラに鍛錬していたので効率的とは言い難いが、自ら試行錯誤しながらトライアンドエラーを重ねたことで、クソゲーの挫折によりストレス耐性を強化してきたサンラクと同じくメンタルが鬼強くなってる。

反面、おじ様に強く依存しており、おじ様には自分が絶対に敵わないと思って自ら成長の限界を作ってしまっている。

(一話でカスプリに抵抗なく庇われているのもそのあたりの表現)

なのでサンラク同様、トライアンドエラー前提のため割とすぐ諦める。反面、二戦目三戦目にはどんどん適合して対応していく。

ロックピッカーは覚える

喰らった技を 相手の動きを 癖を 呼吸を

仕留めそこなう度に敵は近づく 敗北に 大きく

 

で、何故に幕末なのかというと「最終的にショットガンと防火斧で実力行使に出る」っていうのが「最終的に斬れば同じなのでは?」という幕末と馴染む思考回路だよなあ、ということでクソゲニウムの中でも幕末特化した、と。

つまり「統天(マスタースカイ)がやれといった、だから私はやりきった!=天誅」なんですよ(真顔)

(他人様に考えてもらったネタに全力で乗っかっていくスタイル)

次回作では、ただでさえ極小のヒロインちからが…消えた…?

 

 

 

 

【ロックブレイカー】

 

イメージキャラ

・クソゲニウムが足りてないサンラク(超反応と経験則のみ)

・『トライガン マキシマム』GUNG-HO-GUNS11. ラズロ・ザ・トライパニッシャー・オブ・デス

・『NARUTO』うちはサスケ

 

妄想デッチあげキャラその1

 

ロックピッカーについての感想返しから「未来から来たヴィラン」が敵キャラなのは確定していたが、さて誰にしようと考えた時「そのヴィランが栗きんとんと同一人物だったら面白くない?」ということでこうなった。

 

心が折れた天才肌。

おじ様の死で闇属性に堕ちてヒーローに喧嘩売りまくっていたが、一般人には被害を出していなかったため更生の余地ありと見た当時のリキシボーグ(リキシオン)により忍術を教えられる。

本人の適正に合った技術を効率よく学習したのに加え、脳に増設したメモリでヒーロー・ヴィランの戦闘データを参照して戦うためどんな相手にも初見で有利を取れる。

反面、苦戦した経験や挫折に乏しいので想定外の戦術に弱く、メンタルもロックピッカーに比べれば弱い。

対応の戦術という意味ではカッツォに近いが、どちらかと言えばウェザエモンの断風を事前情報ありとはいえ初見で避けたサンラクのイメージ。

やたら後ろを取りたがるのは、モモちゃん戦のサンラク参照なのだが、リキシオン戦での動きは実を言うと獅子連弾をイメージしてた。

まんまやるとアレだなと思ってシャンフロ内のスキルで同じような動きを引用したのだが、元ネタである表蓮華を秋津茜が披露したので結果的には被らなくって良かった…

 

というわけで、栗きんとんながら別々の派生存在であるというのを、二重人格キャラのリヴィオ/ラズロに見立てつつ、それぞれサンラクの別側面、クソゲー経験値/超反応を参照した結果としてのメンタリティの違いを表現するためにロックピッカーのみ天誅天誅言ってるという設定

私の貧弱な想像力では栗きんとんとおじ様(カスプリ)が結ばれるルートは「おじ様に先立たれて闇堕ち→過去に戻って再会→未来に戻って再起」位やらないと無理かなあ、って。

というわけで本ユニバースでの栗きんとんTrueエンドはこのロックブレイカールートしか存在しません(無慈悲)

次回作には存在しない。もうゴールしたんだからいいよね

 

 

 

 

【ミーティアス】

 

イメージキャラ

・魚臣 慧

・『キン肉マン』テリーマン

・レッツゴージャスティーン

 

銀金をイメージキャラにすると、カスプリが勝てるイメージが浮かばなかったんです……

というわけでカッツォをイメージして書いているのだが、決して凶星×流星の喧嘩ップルによる間接的なサン×鰹のBLをイメージしているわけでは無いんです!信じてください!(目を逸らしながら)

 

至極まっとうなヒーロー。

力を与えられた以上、その責務として理不尽に弱者を虐げるヴィランと戦うことを己に課す。

自ら望んで選んだ道、ためらいも無い…(白銀の聖者感)

カスプリが吸収できるオブジェクトの研究、上位互換であるプリズンブレイカーへの対抗手段の模索、そのための努力を惜しまないという、文句のつけどころがないヒーロームーブをしている。

(この辺が「アドリブマンに見えて実は理論派、ちゃんと事前調査や練習は欠かさない」カッツォのイメージ)

そうした「やりたいことをやりきろうと本気で努力するヒト」であるため、実はカスプリからの好感度はドチャクソ高い。ぶっちゃけ親友だと思われてる。

ただまあそこは太古の英雄のソレ(ストロングケルトスタイル)、明日殺し合う相手でも酒を酌み交わしてガハハと笑いあうような価値観の持ち主なので「親友だからって殺し合わない理由にはならないよなァ?」とカスプリは素で思っており、解呪のためにフツーに本気でミーティアスを殺しに来ている。

なのでミーティアスはカスプリから自分への好感度が高いとは全く気付いておらず、それでもカスプリの人間性は気づいてはいるので「出会い方が違えば友達になれたかも知れない、だが正義のために倒さなければならない」と思っている。

決して「実は両想い擦れ違い殺し愛BL」が好きなわけじゃないんです!信じてください!(綺麗な目)(人の目をまっすぐ見れば信じてもらえると思ったら大間違い)

作中ではかませ扱いになってしまったのは作劇の都合とは言え非常に残念、まあそんなところもカッツォっぽいかなとか思ってしまうのは良くないなあ……

 

双星天(アステール・スカイ・ツイン)は、本来なら「ツイン・アステール・スカイ」とか「アステール・スカイ・デュオ」とかにすべきなんだろうけど、シャンフロでも帝蜂双剣(エンパイア・ビーツイン)とかあるし、ツインが後ろの方が格好良くない?ということで今の名前に。

ほら、キャプ翼の「スカイラブハリケーンツインシュート」だって省略して「スカイラブツイン」って言ったりするし、正式名称は「アステール・スカイ・ツイン・ドッグ」略して「アステール・スカイ・ツイン」ということで。

ツインドッグの名の通り、最初のプロットでは

 

ミーティアスが連撃の最後に荒天(スカイストライク)

リキシボーグがブロック

ミーティアスの背後に影手裏剣の要領で、ミーティアスの体に隠れる形で迫っていたプリズンブレイカーが地獄の断頭台を仕掛ける

リキシボーグが外そうとする

プリズンブレイカー、右足と右肘のクラッチで外されるのを防いで神威の断頭台

 

という技で、それでリキシボーグ戦は決着の予定だった。

だって神威の断頭台めっちゃ恰好よかったやん……

右足と右肘添えるだけの技が何であんな恰好いいん?と思った時、私の心の中でマットに沈んでいた悪魔将軍が「貴様だけは…この私が、私が…何とかしてやらねば、いかぬのだ!」と言って立ち上がってきたので、ソレはやっぱり弟子として師を殺してでも止めようという覚悟が格好良く見せてるんだよなあ。

というわけで、最後はロックブレイカーinロックピッカーによる「強制解錠破り返し」に変更になったという経緯がある。

 

次回作ではカスプリとの決着が…?

 

 

 

 

【リキシオン・コーガ・パラケルスス】

 

イメージキャラ

・『ニンジャスレイヤー』ニンジャスレイヤー=サン(ナラク休眠状態のフジキド)

・『ニンジャスレイヤー』ゴッドハンド

・『キン肉マン』ザ・マン

・『MELTY BLOOD』シオン・エルトナム・アトラシア(ソカリスではない)

 

あからさまに……ニンジャなのだ!

 

「五徹とライ……某飲料の力で見出した暗黒領域の発想」と明記されており、ましてアメリカン要素マシマシなニンジャと言う時点で、重篤ヘッズとしてはニンジャスレイヤー=サンしか思い浮かばなかった。

とりあえず忍法って言っておけば、シャンフロのスキルそのまま使っても問題あるまい、だってニンジャだもの。

これについて深く追求しようとすると、ニンジャリアリティショックによるSANチェックが発生するのでミーティアスもロックピッカーも追及しないで流している。

(カスプリは神話の時代からニンジャと戦ってるので「そういうもの」と理解しておりそもそも問題にしないしSANチェックも発生しない。神話技能がめっちゃ高い継続探索者みたいなもの)

力士要素は同じく忍殺に登場する伝説のヨコヅナであるゴッドハンド=サン。

あれ読んでるとヨコヅナがソンケイに値する存在だと自然に得心できますね。

錬金術師要素は型月、とりわけ肉体・精神・魂の三態については『Fate/EXTELLA』シリーズを参考にしている。

ただし、リキシオンはパラケルスス直系を謳っているいるようだが、型月のパラケルススはちょっとフジキドやゴッドハンド=サンと相性が悪すぎるので参考キャラではない。

どちらかと言えばシオンに近い。肉体の最適運用を極めようとした時、リキシオンは死徒化ではなく最初から最高最適な体を作ってしまえばいいという結論に達したためサイボーグ化の道へ。

結果としてリキシボーグに至る。

 

リキシオンの考察から新シリーズが始まったりするという設定から、すっかり解説キャラに。

あとマスラダを放っておけないフジキド要素として、カスプリを失って荒れていたロックピッカーを教え導いた。

次回作では茶道ないし華道でカスプリと対決(お前は何を言ってるんだ)

 

 

 

 

 

【リキシボーグ】

 

イメージキャラ

・『ニンジャスレイヤー』ニンジャスレイヤー=サン(マスターヴォーパルのインストラクション後、ナラク合一フジキド)

・『キン肉マン』超人閻魔

・『銃夢Last Ordar』汰羅刃

・『ストライク・ザ・ブラッド』仙都木阿夜

・『鬼哭街』劉 豪軍

・ウメハラ

 

妄想デッチあげキャラその2

 

ニンジャの……サイボーグ!

もともとは単に生身で長年の修行の末に忍術を極め尽くしたリキシオンという設定だった。(長い年月で歪んでしまった超人閻魔要素)

しかし、ソレだけだとミーティアス・カスプリを圧倒するボスキャラとしては弱い気がして、さてどうしたものか……と思いつつ『銃夢Last Ordar』を読んでいて「そうだ、サイボーグにしよう!忍殺でもサイバネニンジャとか出てくるし!」と発想。しかしリキシオンのキャラ設定的に錬金術やら漢方やらオーガニックなイメージで、それ機械化したら忍術は使えるのか…?

と思い悩んだ結果、虚淵玄がFate/zero執筆時に言峰綺礼の八極拳を描写するにあたって自己啓発・自己洗脳を繰り返し正気に戻る前に書き上げた、という故事にならって忍殺と銃夢を読み込んで自己洗脳しよう…と思った矢先に電流走る。虚淵…サイバネ…はっ!そうか!『鬼哭街』!逆にサイバネボディだからこその内家の極致……!!

という妄想に強めの幻覚をジョイントした結果こうなった。正気に戻ってから考えると色々とヒドい。

上級奥義(オーバーゲハイムニス)ウメハラ・ブロッキングは当初ニンジャスレイヤー=サンのチャド―奥義サツキをそのまま引用しようかと思っていた。

しかし、そうするとあまりに忍殺要素が強すぎるし、かと言ってシャンフロのスキルで多段ブロックできそうなのも無し、はてどうしたものか…と思った時、そういえば磨伸映一郎先生の『氷室の天地』でウメハラブロッキングをそのまま使用してたなと思い至り「そうか、既にウメハラは概念!一迅社が使用にGoサイン出してるんだからいける!」ということでレッツゴージャスティーンしていただいた。

ちなみに冒頭のリキシボーグとロックブレイカーとの会話で出てくる「世界五分前仮説についてやってた日本のアニメ」はハルヒではなく『ストライク・ザ・ブラッド』観測者たちの宴篇。

実はリキシボーグのセリフには仙都木阿夜からの引用が相当数ある。

あの人も超人閻魔と同じく現実を諦めてしまった類なので、リキシボーグの現状に物凄くマッチしている。

というかリキシボーグの考察こそ本ユニバースにおける「ギャラクセウスの全能性の正体」に迫っているので実は次回作において割と重要な提示になっている。

剪定事象では、実は割と簡単にギャラクセウス倒せちゃうんですよ。(あくまで「剪定されていない世界」に比べたらチョロいだけで、カスプリブレイカーが居なかったらフツーにクソゲー難易度を通り越して無理ゲー)

次回作には登場しない、本人は。

 

 

 

 

【カースド・プリズン・ブレイカー】

 

イメージキャラ

・『.hack//G.U.』ハセヲ(小説版、というか黄昏の鍵(キー・オブ・ザ・トワイライト)となった後)

・『銃夢Last Ordar』呑破

・『ヤミと帽子と本の旅人』ヤミ・ヤーマ

・『円環少女』○○○○○○

・『○○○○○○;○○○○』○○○○○

 

妄想デッチあげキャラその3

 

「全能存在ギャラクセウスすらも予期せぬイレギュラー」が、呪いを解消したらどうなる?という妄想から派生したキャラ。

仏教と科学の融合というネタは『銃夢Last Order』や『エウレカセブン』とかの影響なのだが、大本のイメージは小説版『.hack//G.U.』のハセヲ。

ゲームと共通の設定として、オーヴァンは自身の碑文であるコルベニクの再誕(世界をリセットして再構築する)を自分では発動させることができず、なので再誕を発動させることの出来るようハセヲを育てる、という流れなのだが、小説ではコルベニクを阿頼耶識に例えて、ハセヲの我執が他の六人の碑文=六情を呑みこむことで阿頼耶識を発動できるまでになる、と解釈している。

 

これを初めて見た時は衝撃的で、一般に現代日本の感覚においてはマイナスイメージの我執というものから阿頼耶識に至ることが出来る、というよりも、より積極的に「我執によってのみ、我執でなくば阿頼耶識を覚悟できない」というのが斬新だなあ、と。

 

で、カスプリの俺様具合は、まさにハセヲの我執を想起させるというか。

傍若無人に暴れまわり、周囲に迷惑をかけまくって実害も出ていたりするのだけれども、それによって救われる人も居て、みたいなのがそっくりというか。

 

そうして我執を極めつくした果てに阿頼耶識に目覚めた結果が「自分がこうだと観測したら、それが現実になる」能力。

(リキシボーグは「ギャラクセウスと同じ力」だと思っていたが、実は現象としては似ていても根っこの部分は全然違う)

ただし、これは強制的に存在自体がより上位のセフィロトに移行してしまうので、「この宇宙」の内側に存在をそのまま保てなくなる。

 

この辺の設定、次回作でちゃんと明らかになる?

 

 

 

 

【ギャラクセウス】

 

イメージキャラ

・『ありふれた職業で世界最強』エヒトルジュエ

・『MELTY BLOOD』○○○○○○

・『円環少女』○○○○

 

次回作のラスボス。

現在判明している情報はこれだけ

・宇宙の神的存在、宇宙創生に関わる超越的存在。

・傍観者になりたがる、直接介入してるくせに肝心なところで傍観者気取る。

・ミーティアスやハイドロハンズに力を与えた。

・カスプリを星の命を脅かしかねないと封印した。

・いらんことしてゼノセルグスを地球に呼び寄せた。

 

しかし、全能と言う割には

・カスプリや「カオス」などのイレギュラーを予知できない・関与できない。

・ヒーローに力を与えて戦わせる割に、ヴィランを滅ぼしたりはしない。

・カスプリを封印しながら、自由に動き回れる状態で放置している。

などの点から考えて、実は能力に制限があるのでは?というところから妄想デッチあげキャラその4になる予定。

 

 

 

 

【Ms.プレイ・ディスプレイ】

イメージキャラ

・『○○○○○○;○○○○』○○○○○

 

本ユニバースにおけるカスプリの正妻、メインヒロイン。

あまりにもヒロイン力が高すぎるため、ロックピッカールートでは出番が全カットされるほど。

拙作中にてカスプリが吸収した連続掘削機(コンティニュアス・マイナー)トンネル掘削機(シールドマシン)は全て彼女が強制解析(ハックライズ)で探してきたもの。

カスプリの様子を電子機器を通じて常にモニターしており、リキシボーグに倒された時もロックブレイカーにより蘇生された直後には即座に駆けつけて来て、リキシボーグの向かった先と向かうために必要な吸収すべき機械群の場所を教えてくれた。

薄幸ツンデレストーカー人外内助の功ヒロインという、あまりに属性の詰め合わせが過ぎる、萌えという名の具材を煮詰めたポトフ。

え、ストーカーは萌え要素じゃない?だってヒロインちゃん…(ここで手記は途切れている)

 

ロックピッカーが怒っていたのは、カスプリが彼女を抱きしめて熱いベーゼを送っていたから。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()」のでカスプリからの好感度は最高値。

 

何故カスプリが彼女を抱きしめるのか、何故そこまで好感度が高いのか、そもそも大量の番組を一度に頭にブチ込まれたからって、それだけで精神崩壊し()()()ものなのか、その真の理由、そして一体彼女は何を「やりきった」のかは次回作で明らかになる予定。

 




というわけで、次回作の構想をまとめるにあたって本作のキャラ設定のおさらいとして書いたはいいものの、色々とアレなので怒られたら削除します。

で、次回作と言いつつ本作を読んでいる前提の話になってしまうので、ここに続けて投稿するべきか?
それとも折角シャンフロがジャンルとして認定されたことだし、作品の数を増やす意味でも別にシリーズを建てるほうがいいのだろうか……

言うならばFateで言うと本作がUBWルートで、次回作がFateルートに当たるので一緒の方がいい気もするし、逆に別にした方がいい気もするし、はてどうしたものか……


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