おっさんが異世界で無双したりしなかったり (一条 治)
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プロローグ

初投稿です。よろしくお願いします(´・ω・`)


 

「・・今日もつかれたなー」

 

 十条(ジュウジョウ) (オサム) 40歳。仕事はパチンコ店店長。ちなみに独身である。

 

 仕事を終えて帰宅途中、コンビニに立ち寄る。

 深夜2時という事もあり客は自分ひとり。漫画雑誌を軽く立ち読みした後、冷凍食品コーナーへ向かう。

 

 最近の冷凍食品はすごいよね、安いしおいしいし。おっさん、冷凍食品と風俗があれば一生独り身でも生きていけると思うの。

 冷凍パスタや焼き鳥を手に取った後、次はスイーツコーナーへ。

 メタボ気味のぽっこりおなかが気になる今日この頃だけど、食べたい物を我慢する気はまったく無い。

 少しでもストレスを溜めないようにする事の方が大事である。

 

 真剣にスイーツを吟味していると隣に人の気配がした。

 目を向けると、フードをかぶっていて顔は見えないが背丈からいって小学校低学年くらいの子供がいる。

 「こんな深夜に感心しないなぁ」なんて思いながら店内を見回し親の姿を探すが他に客は無し。

 (まさか一人か?)

とか考えているうちに、子供は [期間限定すぺしゃるフルーツロール] を手に取りレジへと向かう。

 まぁ俺が気にする事でもないか、と思い直し自分もプリンアラモードを手に取りレジへと向かう。

 

 支払いを済ませ駐車場に出ると先ほどの子供がいた。

 どうやら家まで我慢出来ないようで、その場で食べようとしているみたいだ。

 一生懸命包装を開けようとする姿に思わず笑みがこぼれる。

 まるでうちの甥っ子みたいだなと、食い意地のはった小学2年の甥っ子を思い出しながらそばを通り過ぎる。

 その時『ギュキュキュキュキューーー』と擦過音を響かせ、かなりのスピードで車が駐車場に入ってくる。

 このコンビニは交差点に面しているので、目の前の信号が赤になった車が駐車場を横切るため急に入ってきたのだろう。いわゆる“コンビニワープ”というやつである。

 進行方向には [期間限定すぺしゃるフルーツロール] に夢中の子供がいる。

 

「危ないっ!!」

 

 とっさに子供を抱き上げ、車との間に自分の体を滑り込ませるようにジャンプする。

 その瞬間『ドンッ!!』という衝撃が体を襲う。

 跳ね飛ばされゴロゴロと転がりながらも子供の体を必死で包み込むようにする。

 徐々に転がるスピードが落ちてくるのを感じ、なんとか死なずにすんだか・・と思った瞬間、後頭部に『ガツンッ!!』と衝撃が。

 

 (あ、これアカンやつや・・)

 

 おそらく縁石にでもぶつかったのだろう。俺の意識は闇に呑み込まれた。

 

    

 




慣れていないので至らない部分があるとは思いますが、生温かい目で見ていたただけると幸いです。


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第一章
1. おっさん、イラッとする


 

 気がつくと、真っ白な空間にいた。

 そして目の前にはダークスーツに身を包んだむくつけきおじさん。

 うん、わけがわからん。ここはドコ?そしてこのおじさんはダレ?

 

 とりあえず目の前のおっさんを観察してみる。

 スーツの上からでもわかる盛り上がった筋肉。頭はスキンヘッドだが頭頂部から一房の髪が額に垂れている。

 ぱっと見アームス○ロング少佐みたいだが、仁王像の如き迫力でこちらを睨んでいる。完全にヤクザだ。あかん、しっこちびりそう。

 さすがに40にもなってしっこちびるのは情けないのでなんとかこらえる。

 そんなアホなことを考えていると、ヤクザがこっちに近づいてきた。

 

 (刺される!!)

 

 そう思った瞬間、ヤクザは膝を折り地面に手をつけ綺麗な土下座を披露する。

 

 「すいませんでした!!」

 

 「・・は?」

 

 むしろ土下座しようとしていたのはこっちなんだが。

 なぜかヤクザが土下座している。わけがわからん。

 ・・もう一度観察してみる。

 するとヤクザは目に涙を溜め、上目遣いにこちらを見つめている。やめろ!それが許されるのは美少女だけだ!

 若干イラッとしながらもそれを押し殺しヤクザに声をかける。

 

 「とりあえず説明してもらえますか・・?」

 

 ヤクザは見た目とは裏腹に、丁寧で腰の低い態度で話し始めた。

 

 いわく、自分はこの世界を管理している者。俺達の言う所の神みたいなものだと。

 そして俺は死んでしまったという事。そしてそれは自分の責任であり、大変申し訳なく思っているという事。

 そしてお詫びとして、自分が管理している別の世界で第2の人生を送れるよう手配するという事。

 

 (いわゆる異世界転生というやつか・・)

 

 生前この手のラノベはよく読んでいた。

 異世界で主人公がチートで無双してハーレムを築く話が好きだった。

 40にもなって何言ってんだコイツと思うなかれ。碌に休みも無い仕事に追われる日々の中で、数少ない楽しみだったのだ。現実逃避ともいう。

 

 

 ただ、ここでひとつ気になることがあった。

 「俺が死んだのはそちらの責任みたいな話があったけど、どういうこと?俺、事故で死んだんじゃ・・?」

 

 「それなんですが・・あの時、あなた子供をかばったじゃないですか。あれ、うちの子なんですよね・・。本来我々が地上に降りたりする事はまず無いんですが、どうしても“期間限定すぺしゃるフルーツロール”が食べたいってきかなくて・・テヘッ」

 

 (#^ω^)ビキビキ

 

 「テヘッじゃねーぞゴラ!!残り少ない髪の毛むしって不毛の大地にかえてやろうか?ああ゛ん?」

 

 「暴力!暴力はやめてくださいっ!争いからは何も生まれませんよっ?!・・髪の毛はマジでヤメロ!!」

 

 理由もそうだが、ヤクザ神の『テヘッ』に殺意をおぼえた俺が残り少ない髪の毛に手をかける。必死に抵抗するヤクザ神。その時、白い空間に可愛らしい声が響きわたる。

 

 「まって!おとうさんをいじめないで!!」

 

 声に振り返ると、そこにはフードをかぶった子供。俺があの時助けた子供がいた。子供がおもむろにフードをとる。そこには目に涙を溜めた天使のような小学校低学年くらいの美幼女がいた。

 

 ズキュゥゥゥウン!!

 

 おもむろにヤクザ神の髪の毛を放し、居住まいを正す俺。

 そしてヤクザ神の目を正面から見据えて言葉を紡ぐ。

 

 「お父さん、娘さんを僕にください」

 

 「おまわりさーん、こっちです!」

 

 




すいません、1話のまえに2を話投稿してました。修正しました(´・ω・`)


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2. おっさん、事案発生

 

 「まぁ冗談はさておいて・・」

 

 「いや、冗談じゃなかったですよね今の。いいかい、ああいう人には絶対に近づいちゃいけないよ?あれはね、ロリコンていう性犯罪者なんだ」

 

 美幼女に言ってきかせるヤクザ神。

 

 「ロ、ロリコンちゃうわ!ちょっと他人よりストライクゾーンが広いだけやし!!」

 

 「おまわりさーん、こっちです。」

 

 「おい、ヤメロ。おまわりさんは卑怯やぞ」

 

 美幼女は右手でヤクザ神にしがみつき、左手で防犯ブザーをいつでも鳴らせるようにスタンバイ。

 まずい、このままでは事案発生だ。話を逸らそう。

 

 「その子が、あんたの・・?」

 

 「はい、娘です!」

 

 ドヤ顔のヤクザ神。

 おずおずといった感じで前に出る美幼女。

 

 「・・かばってくれてありがとう、おじちゃん」

 

 尊い。

 

 「ちゃんとお礼言えてえらいね。ケガしなかった?」

 

 「うん、へいきー」

 

 「そっか、良かった・・」

 

 「 まぁ、我々は車にはねられた位じゃ掠り傷ひとつ負わないんですけどね。あっ・・」

 

 え?今なんつった?

 

 「それって、俺が余計なことしなくても問題なかったって事?もしかして俺、犬死に・・?」

 

 フイッと目を逸らすヤクザ神。膝から崩れ落ちる俺。

 

 「ははっ・・犬死にかぁ・・俺の人生なんだったんだろうなぁ・・」

 

 「いや、結果的にはそうかもしれませんが、身を挺して子供を助けようとしたその行為が尊いのです!」

 

 ヤクザ神のフォローが余計に痛い。

 項垂れていると、背中をさする小さな手のひらの感触。

 

 「おじちゃん、おなかいたい?だいじょぶ?」

 

 心配そうにこちらを見る美幼女。

 そうだ。俺は一体何を落ち込んでいるのか。美幼女は無事だったんだ。それでいいじゃないか。

 心配してくれている美幼女の頭を撫で、立ち上がる。

 

 「すまん、取り乱した。もう大丈夫だ。話を進めてくれ」

 

 ヤクザ神は美幼女を抱き上げ遠ざかると、おもむろにアルコールを取り出し、美幼女の手を消毒する。

 

 「変なものさわっちゃいけませんよ。めっ!」

 

 「おい、俺が泣いたら手がつけられねえぞ?」

 

 消毒が終わった所でヤクザ神が話し始める。

 

 「先程申し上げました通りお詫びとして、異世界に転生させていただこうと思います。その際、生活に困らないよういくつかの特典をつけさせていただきます。また、遺体をこっそり回収してありますので、それを修復して今の記憶を持ったまま転生可能です。ちなみに転生先は、剣と魔法の世界です。」

 

 ちょっと興奮してきた。

 異世界転生、チート無双、奴隷ハーレムで俺TUEEE。おっさんワクワクすっぞ。

 

 「それじゃ、とりあえず魔力量は常人の100倍くらいでー・・」

 

 「あ、それ無理です」

 

 「は?」

 

 「地球人は魔力器官をもっていないので、今の肉体ベースで転生、正しくは転移かもしれませんが、した場合魔法は一切使えません。」

 

 「え、それじゃむこうで新しく肉体を造ったりとかは?」

 

 「その場合、今の記憶は全て失うことになります。記憶は脳に紐付けされたものなので。どちらになさいますか?」

 

 「・・記憶を持ったままで」

 

 さすがに記憶を失うのはちょっとね・・。

 

 「承知しました。まぁ魔法が使えない分、肉体を強化しておきますので。他の特典はどんなものがよろしいですか?」

 

 「他人のスキルを盗む能力とか・・」

 

 「他人の物を盗むとか・・それはどうなんでしょうか?」

 

 ここでそんな常識を持ち出すなよ・・いやまぁ正論だけど・・。

 

 「うーん・・それじゃネットショッピング機能とかは?」

 

 「ネットショッピングですか?」

 

 「そう。地球にある物を購入する事が出来る機能」

 

 「それはちょっと厳しいかなぁ・・」

 

 「よく考えてみて。この恵まれた日本でぬくぬくと生きてきた俺が見ず知らずの土地で、いやそれどころか見ず知らずの世界でまともに生きていけると思う?」

 

 「たしかにそう言われると・・いや、でも・・」

 

 「あーあ・・犬死したと思ったら、今度は異世界で野垂れ死ぬのか・・ははっ・・。」

 

 「わ、わかりましたよ・・こちらの責任でもあるわけですし・・」

 

 マジで?やっふー!言ってみるもんだね!!

 

 「ただ、無制限というわけにはいきませんよ?そうですね・・魔石と交換で購入出来るとかどうですか?」

 

 「魔石?」

 

 「はい。むこうの世界には魔物がいるのですが、それを倒すと魔石が手に入ります。それと交換ということなら、むこうの世界の維持管理の手助けになりますし」

 

 「そうなん?」

 

 「ええ。あまり魔物が増えると人類の生存圏がどんどん縮小されて、あまりよろしくないのです」

 

 「じゃ、それで!」

 

 「承知しました。それと生活に困らないよう言語理解スキルと、鑑定スキル、インベントリ、それと初期費用として100万円ほどネットショッピング出来るようチャージしておきますね」

 

 100万円!?太っ腹じゃないですか!!

 

 「あざーす!!」

 

 「こんなところでしょうか?なんでもかんでも揃えてしまうと愉しみも無くなってしまうと思いますし」

 

 そうだね。レベルアップする愉しみってあるよね。むこうの世界にレベルがあるのかしらんけど。

 

 「あ、最後にもういっこだけ。」

 

 「なんでしょうか?」

 

「娘さんの写メ撮らせ『ぴーーーーーーーー』美幼女が防犯ブザーを鳴らす。

と同時にヤクザ神が天井からぶらさがる紐を引っ張ると俺の足元の床がパカッと開き、落下。

 

 「ちょっ・・」

 

 「それでは十条 修様。あなたの新しい人生に幸多からん事を。」

 

 額に青筋を立てたヤクザ神がそうのたまう。

 防犯ブザーの音を聞きながら、俺の意識は暗転した。

 

 



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3. おっさん、ステータスを確認する

 

 目を覚ますと、森の中にいた。規模が分からないので林かもしれないが。

 子供の頃よく遊んだ家の裏の林を思い出す。今のところ異世界感はまったく無い。

 太陽は一つだし、空の色も地球と変わらない。疲れて幻覚見ただけだったりして。

 最近、仕事忙しかったからなぁ。

 

 ・・とりあえずステータスとか見てみる?

 

 「ステータスおーぷん?」とか言ってみる。端からみたら結構イタイ人かも。

 

 「おわっ!」

 

 出た。目の前に半透明なボードみたいなのがヒュンって出てきた。

 

 

===========================

 

 名前:ジュウジョウ オサム

 年齢:40

 レベル:1

 種族:人族

 職業:無職

 称号:異世界人 ロリコン

 

 HP:1000/1000

 MP:0/0

 力:100

 スタミナ:100

 素早さ:100

 魔力:0

 

 スキル

 ・言語理解 ・鑑定 ・インベントリ

 ・ステータス偽装

 

 ギフト

 ・ネットショッピング

 

 《おしらせ》←NEW

 

===========================

 

 

 ロ、ロリコンちゃうわ!無垢な魂が好きなだけやし!!

 職業の無職も何気に心につきささるなぁ・・・。

 

 とりあえずステータス見れたけど、比較対象がないからよくわからんね。

 言語理解は助かる。この歳で一から学ぶのはしんどいまじで。鑑定とインベントリは異世界ファンタジーの基本だよね。ヤクザ神わかってるじゃん。インベントリは経過時間が停止するタイプかな?あとで検証しないといけないな。

 あとステータス偽装って何やねん。・・ん?一番下におしらせ?

 指でタップしてみる。

 

 

《おしらせ

 

 おつかれさまです。管理者です。

 いくつか注意事項を伝えさせていただきます。

 

 この世界では身分証明のため、ステータスの開示を求められる事があるかもしれません。

 その際、ギフトや称号の『異世界人』などは他人に知られるとトラブルに巻き込まれそうなので、ステータス偽装スキルで隠したほうがいいと思われます(もちろんステータス偽装スキルもですが)。

 称号のロリコンは・・・まぁ・・性的嗜好は人それぞれですから・・・。ちょっとまわりの大人が、子供を近づけないようにするぐらいでしょう・・・たぶん。だいじょぶだいじょぶ。

 

 あなたの新しい人生に幸多からん事を心より願っております。

 

 PS.

 ただし、うちの娘に近付いたら去勢します。》

 

 

 だいじょぶだいじょぶじゃねーよ!まわりにロリコンだと知られたら社会的に死ぬわ!!ロリコンちゃうけど。

 とりあえず、称号のロリコンは消しておいた。

 

 



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4. おっさん、ネットショップる

 

 とりあえず、ネットショップを開いてみよう。魔物いるみたいだし、装備を整えないと。

 ギフトのネットショップをタップする。

 

 「おぉ、すげー」

 

 まるで某通販サイトのようだ。

 

 「まずは武器から見ていくか~」

 

 棍棒から核兵器まで何でもあるぞ、ってなんでだよ。核兵器なんていらねーよ、こえーよ!

 うーん、日本刀とか憧れるけど、近接戦闘はリスクが高いよね。値段も高いし。ちょっとうまいこと言った。

 それはさておき、男の子だったらやっぱり銃だよね。おっさんだけど。

 ハンドガンは~っと。いっぱいあるね。実用的な事を考えるとグロック17あたりかな?素人でも使いやすそうだ し、値段もお手頃だし。

 眺めることしばし・・

 

 「ん?これは!!」

 

  [AMTハードボーラー7インチロングスライドモデル] 、しかもレーザーサイトつき。

 

 説明しよう。このハンドガンは映画ター○ネーターの一作目でアー○ルド・シュワル○ェネッガー演じるT-800が使用した事で有名だ。

 映画ではレーザープロダクツ製のレーザーサイトを装着していたが、これは完成品とはいえないものだったとかなんとか。

 少年時代のおっさんも憧れた超かっけぇハンドガンだ。

 .45ACP弾を使用するため威力が大きい反面、反動も大きいので素人のおっさんには使いづらいかもしれない。

 でもそんなの関係ねぇ!だってカッコいいんだもの。

 ポチったった。

 

 「おぉ~~!」

 

 目の前に光の粒子が集まるようにしてハードボーラーが現れる。

 手に取るとずっしりとした重厚感溢れるステンレススチールの感触。レーザーサイトのスイッチをいれるとちゃんとレーザーが照射される。

 思わずニマニマとしてしまう。

 

 さっそく試射してみよう。

  [.45ACP弾] を100発ほど購入してマガジンに詰めていく。

 装弾数は7+1発と少な目だが仕方が無い。

 詰め終わったマガジンを叩き込み、スライドを引く。

 少し離れた所にある木の幹に狙いをつける。レーザーサイトがある為、狙いは付けやすい。初めて実銃を撃つということもあり、アイソセレススタンスで構える。

 おっさん本当はウィーバースタンスの方がカッコよくて好きなんやけどね。

 軽く膝を曲げ両腕を伸ばし、二等辺三角形を意識する。

 

 「すぅーーはぁー」

 

 ゆっくり息を吸って吐く。人差し指に力を込め引き金を引く。

 

 『ダァァアン!』

 

 森に銃声がこだまする。初めて撃った弾はちゃんと木の幹に命中した。上出来、上出来。

 反動も大した事なかったな。これなら片手でも撃てそう。

 片手で構え、引き金を引く。

 

 『ダァァアン!』

 

 ・・余裕だな。そのまま連射する。

 

 『ダァン、ダァン、ダァアン!』

 

 

 その後、色々な撃ち方を試し100発すべて撃ったところで、はたと気づく。

 

 「・・魔物がいるかもしれないんだった。」

 

 つい熱中してしまった。魔物こわい。

 ネットショップで追加の弾100発購入、ついでに予備マガジン4つと・・服なんかもそろえるか。今の格好じゃ森を歩くのはつらい。

 

 「とりあえず[タクティカルブーツ]と~、[レッグホルスター]と~・・」

 

 次々ポチっていく。

 

 

 「こんなもんか~。結構使ってしまったな。」

 

 ハードボーラー込みで24万くらい。まぁ命にはかえられないもんね。

 さっそく着替える。脱いだものはインベントリへ。

 のどが渇いたので [ミネラルウォーター500mL] も購入した。

 よし、OK!

 それじゃ行きますか。

 とりあえず、森を出て人の住んでるとこを目指そう。

 

 

 

==========================

 

 購入品リスト

 

 ・[AMTハードボーラー7インチロングスライドモデル・レーザーサイト付き] 10万円

 ・[.45ACP弾×200] 1万円

 ・[予備マガジン×4] 2万円

 ・[レッグホルスター] 2万円

 ・[タクティカルウェア上下] 4万円

 ・[タクティカルベスト] 2万円

 ・[タクティカルブーツ] 2万円

 ・[バックパック] 1万円

 ・[ミネラルウォーター500mL] 100円

 

 合計 24万100円   残金 75万9,900円

 

 



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5. おっさん、テンプレに遭遇する?

 

「とりあえず、道を探そう。」

 

 道をたどれば人に出会えるだろう。たぶん。

 

 歩くこと10分くらい、森の終わりが見えた。

 そりゃそうか。わざわざ深い森の奥なんかに転移させないわな、常識的に考えて。ヤクザ神、見た目はともかく性格はまともそうだったし。

 森の外、すぐそばに街道らしきものが見える。

 

 「よし!あれをたどれば人に会える。」

 

 その時、遠くから人の争う声が聞こえてくる。

 おっさん、これ知ってるぞ!異世界転移もののラノベでよくある 《高貴な身分の美少女の乗る馬車が魔物に襲われているのを助けて、一目惚れされる》 感じのやつや。

 ハードボーラーもある。ゴブリン程度、屁でもないわ。

 

 「おっさんが助けたる!まかせとけ!!」

 

 ハードボーラーを握り締め、声の聞こえる方へと走り出す。体が軽い。おっさんの冒険はここからはじまるんや!

 

 やがて、街道そばの草原に幌馬車?とその護衛らしき武装した男達が、魔物と対峙しているのが見えてくる。

 

 「・・ん?あれ・・ゴブリンじゃないな・・?」

 

 まだ距離がある為はっきりした大きさは分からないが、魔物はそばにいる護衛の男の倍以上の大きさがある。

 見た目は熊っぽいが、あれホッキョクグマよりデカくね?

 体毛は黒くビロードの様な光沢を放ち、稲妻を思わせる金色の縞模様がある。

 俺はハードボーラーをそっとしまって地面に伏せる。見つかったらヤバイ。

 

 「ちょ・・あれなんだよ・・この世界あんなのがいるのかよ・・!?」

 

 どう考えてもハンドガンじゃ無理がある。とりあえず様子をみよう。

 この世界は魔法があるから、護衛の人たちメッチャ強いのかもしれんし。

 護衛の男は5人で軽装の革鎧に槍や剣といった出で立ち。

 あっ、巨大熊の一撃で一人吹き飛ばされた・・だがその隙に他の男達が攻撃を繰り出す。ある者は槍で突き、ある者は剣で斬りつける。だがまったく効いている様子は無い。

 

 「何故馬車はこの隙に逃げないんだ・・!?」

 

 よく見ると、そばに馬車をひいていたと思われる馬が血塗れで倒れている。

 真っ先に馬がやられたみたいだな・・あれでは逃げられない。

 馬車を降りて逃げようにも、熊は人より速いからな・・。

 護衛の男達もそれが分かっているのだろう。逃げたくても逃げられない、そんな感じだ。

 

 助けてあげたいけど、さすがにあれは無理。俺レベル1やし。

 普通こういうのって弱いゴブリンとかから順番に倒してレベルアップしていくものじゃないのん?なんでラスボス前に出てくるようなやつがいるんだよ。

 それともこの世界ではあれがデフォなの?だとしたらハードモードどころじゃなくてナイトメアモードなんですけど。

 

 「あのヤクザ神、今度あったら不毛の大地にかえてやる・・!」

 

 

 そうこうしているうちに護衛の男達は残り一人にまで減ってしまっていた。

 その時、馬車から人が飛び出した。

 恐怖に耐えられなくなったのだろう、商人風の男が一目散に逃げていく。だがそれは悪手だ。熊は逃げるものを追いかける。

 案の定、巨大熊は護衛の男を無視して逃げる商人を追いかける。あっという間に追いつき、襲い掛かる。ぼろ雑巾のようにズタズタにされ、咀嚼される商人。

 あまりの光景に吐きそうになり、思わず目を逸らす。

 その時、馬車の幌の間から中が見えた。見えてしまった。

 檻のようなもの中に小さな子供がいた。

 

 みすぼらしい服装からおそらく奴隷と思われる。異世界転移のラノベでは奴隷がよく出てくるが、さすがにこれはないだろう・・。

 幼子は恐怖に怯え、震えながら蹲っている。

 

 「あーマジかー・・・」

 

 正直に言おう。

 安全に助けられるならともかく、自分の命を懸けてまで見知らぬ他人を助けようとは思わない。

 ただ子供は別だ。変な意味ではなく。

 

 前世では甥っ子のことが大好きだった。

 自分で子供を作る気はなかったが、俺のクソみたいな人生の中で甥っ子はまさに 《救い》 だった。

 俺を見つけると笑顔で抱きついてくる甥っ子が大好きだった。

 サンタの格好でプレゼントを持っていくと、目をキラキラさせて喜んでくれる甥っ子が大好きだった。もう会えないけれど。

 馬車の窓から見えた幼子に、甥っ子を重ねてしまった。見なかったことには出来そうもない。

 

 「しゃーねー・・やるかー。」

 

 あんな巨大熊に勝てる気はまったくしないが、仕方が無い。

 どうせ一回死んだ身だ。やれるだけやってみようじゃねーか。

 

 ネットショップを開く。残り75万9,900円。ハンドガンでは太刀打ち出来ない。

 もっと強力な武器を・・これだ。

  [バレットM95・スコープ付き] 74万円。12.7×99mm NATO弾を使用するアンチマテリアルライフルで装弾数は5発。

  [予備マガジン] 1万円と [12.7×99mm NATO弾] 800円×10発も購入。

 残り1,900円。

 急いでマガジンに弾を詰め、銃身に叩き込む。

 予備マガジンにも弾を詰めると俺は走り出した。

 弾は限られている。確実に当てられる距離まで近付きたい。

 その間に巨大熊は商人を食べ終わり、同じく逃げ出した最後の護衛の男を捕まえて貪っていた。

 馬車まであと200m。巨大熊は食事に夢中でまだ俺には気付いてない。

 ・・あと150m・・まだだ、もっと・・。

 残り100m・・ここで巨大熊が食事を終え、次のエサを求めて馬車へと近づいていく。

 マズい!俺は大声で叫んだ。

 

 「こっちだクソやろおぉぉぉー!!」

 

 巨大熊がこちらを向く。

 地面に伏せ、狙いをつける。ボルトを操作し薬室に弾を送り込む。

 

 「くらえっ!!」

 

 『ガアァァァン!!』

 

 轟音と共に弾丸が巨大熊の右肩に命中し血が飛び散る。

 

 「よしっ、効いた!!」

 

 「グルゥァアアアアアアア!!!」

 

 怒りによるものなのか痛みによるものなのか・・巨大熊は大気を震わす様な咆哮を放つと、俺を睨み付ける。

 だがその時にはすでに俺は、二発目の装填を済ませている。

 

 『ガアァァァン!!』

 

 すばやくボルトを操作し三発目。

 

 『ガアァァァン!!』

 

 「グアァァァァァアアア!!!」

 

 巨大熊は唸りをあげながら、こちらに向かって駆け出した。

 

 『ガアァァァン!!』

 

 四発目。

 

 『ガアァァァン!!』

 

 五発目。

 マガジンが空になる。全弾命中したが巨大熊は止まらない。

 恐怖を抑え付けマガジンを交換する。残りは5発。

 

 『ガアァァァン!!』

 

 冷静に。

 

 『ガアァァァン!!』

 

 機械のように淡々と。

 

 『ガアァァァン!!』

 

 巨大熊は一直線にこちらに向かってくる。狙いをつけるのは容易い。

 

 『ガアァァァン!!』

 

 ここで左目に命中、側頭部を弾き飛ばす。だが止まらない。

 最後の一発。

 

 『ガアァァァン!!』

 

 額に命中。巨体が揺れる。

 明らかに致命傷と思われるがそれでも巨大熊は向かってくる。魔物としての執念か。

 ライフルを捨て立ち上がり、ハードボーラーを構える。

 巨大熊の顎が目の前に迫る。数秒後には俺の頭など丸呑みにされてしまうだろう。しかし不思議と恐怖は感じない。それどころか感謝のような気持ちさえ感じる。

 俺というちっぽけな存在に全身全霊、文字通り命を懸けて向かってくる存在。

 大きく開いた口の中を目がけて引き金を引く。

 

 『ダァン、ダァン、ダァン、ダァン、ダァアン!』

 

 次の瞬間、強い衝撃を受け俺は意識を失った。

 

 

 

==========================

 

 購入品リスト

 

 ・[バレットM95・スコープ付き] 74万円

 ・[12.7×99mm NATO弾×10] 8,000円

 ・[予備マガジン] 1万円

 

 合計 75万8,000円   残金 1,900円

 

 



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6. おっさん、ケモナーになる

 

 「ん・・」

 

 目を覚ました。

 

 「・・また死んだのかな?」

 

 だが、ここは白い空間では無かった。

 眩しい太陽、頬を撫でる風、濃厚な血の匂い・・

 

 「・・生きてる?」

 

 見ると目の前には、俺に覆いかぶさるように息絶える巨大熊。

 間一髪、倒すことが出来たようだ。とたんに疲労感が襲ってくる。

 

 「はぁ~つかれた~~~」

 

 肉体的というより精神的な疲労だろう。

 

 「おっさん、シリアス展開とか向いてないんだよ~」

 

 巨大熊の体の下からなんとか抜け出して、じぶんの体を確認する。

 どうやら怪我らしい怪我は無い模様。ただ返り血でえらいことになっていたが。

 

 「そういえば、あの子は・・?」

 

 急いで幌馬車に向かう。

 

 中を覗くと、檻の中で蹲ってプルプルと震えている。

 よく見るとこの子、犬耳らしきものと尻尾がついている。

 

 獣人キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!

 

 やべぇ・・かわいい・・!モフりたい。

 

 「もうだいじょうぶだよ。ケガはないかい?」

 

 怯えさせないよう、やさしく声をかける。

 ビクッと体を震わせ、おそるおそる顔を上げる子供。年齢は5・6歳といったところか。顔は涙・鼻水・涎でグシャグシャだ。

 

 「フフッ、もうだいじょうぶだよ」

 

 つい笑ってしまったが、もう一度やさしく声をかける。

 次の瞬間

 

 「あ゛ーーーーーー!!」

 

 子供はギャン泣きした。

 

 安心させようと近づくと怯えて後ずさる。

 あれ、俺怖がられてね?モフりたいという心の内を見透かされたか?

 自分の体を見ると、血塗れだったのを思い出した。

 

 「おっふ・・そうだった・・」

 

 とりあえず、血塗れの服とズボンを脱ぎ、インベントリに入れてあったワイシャツとスラックスに着替える。脱いだ服はインベントリに放り込む。

 

 「これでよし!」

 

 再び子供の所へ。

 

 「だいじょうぶだよ~こわくないよ~」

 

 とりあえず泣き止んでくれたが、まだ警戒している。

 ネットショップを開いて [ミネラルウォーター500mL] を2本購入。ふたを開けて片方を子供に差し出す。

 

 「お水だよ~どうぞ~」

 

 近付いてくれないので檻の中にそっとおいて、自分ももう一本のミネラルウォーターに口をつける。

 それを見ておそるおそる手に取り口をつける。

 クピクピと少し飲んだあと、一気にミネラルウォーターをあおる子供。のどかわいてたんだね。

 あたたかい目でそれを見つめるおっさん。

 おなかも空いてるかな?ネットショップをで [蒸しパン] を2つ購入。包装を開けて再び檻の中へ。

 

 「どうぞ~おいしいよ~」

 

 俺がもう一つの蒸しパンを食べてみせると、そおーっと手に取り口に入れる。

 次の瞬間パアァァッと笑顔になり、もきゅもきゅと一心不乱に食べ始める。

 食べ終わると『あー、なくなっちゃった・・(´・ω・`) 』みたいな顔をしたので、もう一個ネットショップで購入してあげた。

 今度は味わってゆっくり食べている模様。嬉しそうに尻尾がぱたぱたと揺れている。

 

 「檻から出してあげないとなー」

 

 檻には錠がついているが、あたりに鍵らしき物は見当たらない。おそらく商人らしき男が持っていたのだろう。ということは、巨大熊の腹の中か・・・。

 だが正直ここで解体する気にはなれない。

 

 「檻、壊せないかな?」

 

 グッと柵を握って力を込めてみる。

 

 『バキッ!』

 

 「ファッ?」

 

 案外簡単に壊れた。錆びてたのかな?

 檻が壊れても獣人っ子はいまだ蒸しパンに夢中だ。

 観察すると、栄養状態が悪いのか大分痩せている。服も粗末な貫頭衣だし靴も履いていない。

 

 (・・こんな小さい子にひどい真似するなぁ)

 

 そっと近付いて頭を撫でてみる。一瞬ビクッとしたが再び蒸しパンに集中。毛は大分汚れていてゴワゴワしてしまっている。ぜひ綺麗に洗って乾かして、フワッフワになった所をモフりたい。もっふる、もっふる。

 

 

 

==========================

 

 購入品リスト

 

 ・[ミネラルウォーター500mL×2本] 200円

 ・[蒸しパン×3個] 300円

 

 合計 500円   残金 1,400円

 

 



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7. おっさん、街へ向かう

 

 一旦外へ出て、放り出したバレットM95を回収してインベントリに。

 巨大熊の死体もとりあえずインベントリに入れておく。

 商人らしき男や護衛達の死体はグロいので放置する。

 いつまでもここにいてもしょうがないので、街に向かおう。

 

 幌馬車に戻ると、獣人っ子はおなかがいっぱいになって眠くなったのかウトウトしはじめている。

 怖がらせないようにそっと抱き上げると、きゅっとしがみついてくる。

 あまりの可愛らしさに叫びそうになるが必死にこらえる。起こしたらかわいそうだからね。

 街道から眺めると、今まで気付かなかったが遠くに街らしき物が見える。

 眠る獣人っ子を抱っこしたまま、俺は街に向かって歩き出した。

 

 街は高い壁に囲まれており、規模はかなり大きい。

 入り口には門番らしき武装した男がいた。

 

 「そこで止まれ。何用だ!」

 

 「遠くより旅をしてまいりました。街に入りたいのですが・・」

 

 「身分証を持っているか?」

 

 「いえ、持っておりません」

 

 「その場合税として一人あたり大銀貨1枚、二人合わせて大銀貨2枚になる」

 

 「・・あいにく路銀が尽きてしまいまして。魔物の素材を売ってそこから支払うという事ではいけませんか?」

 

 「かまわんぞ。ただその場合、売却先まで同行させてもらうが」

 

 「では、それでお願いいたします」

 

 門番は同僚に声を掛け、一緒に街中へ。

 門番を観察すると、革鎧を来た彫りの深いヨーロッパ系の顔立ちをした男だった。

 

 (よかった・・身分証が無いと入れないとかだったら詰むところだった。まあ、都市部ならともかく、地方の農村とかだと身分証なんか無いのかもな~)

 

 「魔物の素材はどちらで売却すればよろしいですか?」

 

 「冒険者ギルドだな。討伐依頼が出ている魔物なら討伐報酬も出るしな。」

 

 (ほう・・冒険者ギルドがあるのか。さすが異世界)

 

 門番の案内で冒険者ギルドに向かう。

 ちなみに獣人っ子はまだ眠っていて、口をあけてよだれをたらしている。可愛い。

 

 しばらく歩くと、剣と盾のマークがついた石造りの大きな建物に着く。

 スイングドアを押し開き中に入ると、イメージ通りのカウンターがあり奥には酒場が見えた。

 まだ昼間という事もあり、冒険者に絡まれることも無かった。門番と一緒だしね。

 その門番がカウンターにいる受付嬢に話しかける。

 受付嬢といっても残念ながらオバちゃんだが。

 

 「この旅人が魔物素材を売りたいそうだ」

 

 「あいよ。それじゃ素材を出してくれるかい?」

 

 門番とオバちゃんがこちらを見る。

 

 「あ、かなり大きいのでここだとちょっと厳しいです」

 

 「ん?外に置いてあるのかい?」

 

 「いえ、インベントリに入っています」

 

 「インベントリ?なんだいそりゃ?」

 

 首を傾げるオバちゃん。・・何か嫌な予感がする。

 

 「と、とりあえずどこか広いスペースはありますか?」

 

 「?それじゃあ解体場に行こうか。」

 

 オバちゃんが怪訝な顔をしながらも案内してくれる。

 

 解体場に着いたところでインベントリから巨大熊を取り出す

 

 『ドスン!!』

 

 「これなんですが・・」

 

 振り向くとオバちゃんと門番が、口を開けたまま固まっている。

 

 「あのーこれなんですけど・・買い取れますかね?」

 

 「「なんじゃこりゃー!!!」」

 

 オバちゃんと門番の叫び声が、解体場にこだました。

 

 突然の叫び声に獣人っ子がびっくりして飛び起きる。ぶわっと目に涙が溜まる。

 

 「よーしよし、だいじょうぶだよー」

 

 背中をやさしくポンポンしながらあやす。

 

 「いきなり大きな声出さないでもらえますか?子供がびっくりするんで」

 

 「ちょ、おま・・これなんだよ!」

 

 慌てて詰め寄ってくる門番。

 

 「・・というか今、これどっから出したんだい!?・・マジックバッグ?」

 

 同じく慌てて詰め寄るオバちゃん。

 

 「はい、マジックバッグから出しました」

 

 ナチュラルに嘘をつく俺。

 

 (インベントリ知らないみたいだしな・・とりあえず話を合わせよう)

 

 「いや・・マジックバッグでも普通こんなに大きなもの入らないと思うんだけど・・」

 

 オバちゃんが何やらブツブツ言っているが聞こえないふりをする。

 

 「この金色の縞模様・・ベヒモスじゃねーか!?これお前がやったのか!?」

 

 「そんなわけないじゃないですか。街に来る途中で拾いました」

 

 ナチュラルに嘘をつく俺。

 

 「ちょ、詳しく聞かせろ!」

 

 ここに来る途中、巨大熊(べひもす?)の死体を見つけた事。辺りには商人と護衛らしき無惨な死体が散乱していた事。幌馬車があり、その中の檻にこの獣人っ子がいた事などを説明した。

 

 「たぶん相討ちになったんじゃないですかね~」

 

 ナチュラルに嘘を(ry

 

 「そんな馬鹿な・・ベヒモスといえば災害級の魔物だぞ・・。Aランクパーティーが複数協力しても倒せるかどうかなんだぞ・・」

 

 Oh!そんなヤバイやつだったんですね・・。

 

 「俺は領主様に報告してくる!!」

 

 門番が飛び出していった。

 

 (やべえ・・厄介事のニオイしかしねぇ・・)

 

 



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8. おっさん、胡椒を売ってみる

 

 「ちなみにこの獣人っ子はどうなりますかね?」

 

 まだブツブツと独り言を呟いているオバちゃんに訊ねる。

 

 「・・え、ああその子は奴隷だから、この場合所有権はあんたに移るね。この国では奴隷以外に獣人はいないから」

 

 「・・そうなのですか?」

 

 「ああ、あんたは旅人だったね。このエマージス神聖国は人族至上主義の国だからね。奴隷以外に獣人の入国が認められていないんだ。みんながみんな獣人嫌いという訳じゃないんだけどね・・。ただこのザシールの街の領主様は獣人が大嫌いだから、その子は領主様の目に触れさせない様に気をつけな。何言われるか分からないからね」

 

 「・・そうですか。わかりました」

 

 獣人っ子をぎゅっと抱きしめる。早いところ別の国に移動しよう。

 

 「ちなみに、なんで領主様は獣人が嫌いなんですかね?」

 

 「・・ここだけの話、獣人奴隷を無理やり手篭めにしようとして反撃されたらしいよ。頬に付いている傷はその時のものだとか」

 

 どクズじゃねーか。

 

 「この魔物の所有権も問題ありませんか?」

 

 「ああ、討伐者が死んでいる場合、拾ったもん勝ちさね」

 

 「それでは売却をお願いします」

 

 「・・こんな大物いくらになるか・・査定に大分時間がかかるだろうね。・・数日はみてもらった方がいいね」

 

 あまり時間はかけたくないな・・。

 

 「ちなみに売り物になる部位は?解体にかかる時間は?」

 

 「売り物になるのは、魔石・毛皮・牙・爪・骨・胆ってところかね。解体はどんなに急いでも明日になるよ」

 

 おう、そうだ。魔石だいじ。

 

 「それでは売却は無しで、解体だけお願いします。急ぎの用事で別の街に行かなければならないので。売り物にならない部分は処分してください」

 

 「あいよ。これだけの大物だから解体費用は大銀貨3枚ってところだね」

 

 (まずい・・金無いんだった、どうすっか。・・・そうだ!)

 

 「手持ちが無いので、こちらで何か買い取ってもらえませんか?例えば・・塩とか胡椒とか」

 

 「塩はここでは買い取れないよ。近くに岩塩が採れる場所があるから、買い取ってもウチの旨みがないからね。でも、胡椒だったら高級品だから喜んで買い取らせてもらうよ」

 

 (よし!わざわざ商人と交渉する手間がはぶけた。流石は異世界定番の高級品、胡椒さんやでぇ!!)

 

 「ちょっと待っててください!」

 

 ギルドを出て物陰に隠れ、まわりに誰もいないのを確認する。

 ネットショップで粒胡椒 [ブラックペッパー ホール200g] 1,000円とそれを入れる [麻袋 スモール] 200円を購入し、胡椒を麻袋に移す。残金200円。

 解体場に取って返しオバちゃんに麻袋ごと渡す。

 

 「いくらになりますか?」

 

 「そうだね・・金貨3枚でどうだい?」

 

 金貨キタコレ!価値がまったく分からんが。

 

 「ではそれでお願いします。そこから解体費用を引いてください」

 

 「あいよ」

 

 

 カウンターに戻りオバちゃんから代金を受け取る。

 ついでに獣人っ子の奴隷登録証も貰った。これが無いと色々面倒らしい。

 

 「金貨3枚から解体費用の大銀貨3枚を引いて、金貨2枚と大銀貨7枚になるよ。確認しとくれ」

 

 (大銀貨10枚で金貨1枚ってことか・・)

 

 「問題ありません。あ、そうだ!」

 

 俺は大銀貨2枚を取り、オバちゃんに渡す。

 

 「街に入るのに必要な分です。門番さんに渡してもらえますか?」

 

 「あいよ。解体は明日までには終わらせとくよ」

 

 「わかりました。それと、この街で風呂のある宿ってどこですかね?」

 

 「・・風呂かい?そんな豪勢なものがあるのは 《黄金の荒鷲亭》 くらいだね。ギルド前の大通りを北に向かえばすぐに分かるよ。なんせ立派な建物だからね」

 

 (・・すげー名前だな)

 

 「ありがとうございます。それでは明日また伺います」

 

 俺達はギルドを後にした。

 

 

 

==========================

 

 購入品リスト

 

 ・[ブラックペッパー ホール200g]  1,000円

 ・[麻袋 スモール] 200円

 

 合計 1,200円   残金 200円

 

 現地通貨残高  金貨2枚 大銀貨5枚

 

 



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9. おっさん、ブチきれる

鬱展開があります。苦手な方はご注意ください(´・ω・`)


 

 ギルドを後にした俺達は 《黄金の荒鷲亭》 に向かう。

 とりあえず、この子をお風呂でキレイにしてあげたい。

 

 (服を買わないとな。あと何がいるかなー?)

 

 大通りは露店や屋台がたくさん並んでいる。辺りを物色していると大人しかった獣人っ子がピクッと反応した。

 

 「ん、どしたー?」

 

 目線を追うと串焼きらしきものを売っている屋台があった。

 

 「・・食べるか?」

 

 獣人っ子は無言できゅっと抱きついてくる、が尻尾はパタパタ揺れていた。

 串焼き屋の兄ちゃんに声をかける。

 

 「串焼き2つください」

 

 「 あいよー。んん?なんだ獣人じゃねーか。獣人なんかに売るもんはねーよ、どっか行ってくんな!」

 

 ・・あ゛ぁ゛!?コイツ今なんつった!!?

 

 「食いもんが獣くさくなっちまうじゃねーか」

 

 獣人っ子の揺れていた尻尾がピタッと止まる。

 思わずハードボーラーを抜きそうになるが、血を吐く思いでなんとか堪える。

 正直今すぐこのクソ野郎の脳天を吹き飛ばしたいが、子供の前でそんな事するわけにはいかない。

 だから俺は大声で叫んだ。

 

 『なんだこのくしやき、まっずー!!なんか、うんこのあじするんですけどーー!!!』

 

 まわりの人たちが一斉に振り返る。

 あっけにとられるクソ野郎。ダッシュで逃げる俺。

 なんだか後ろの方で怒鳴り声が聞こえるが知ったことかボケ。おっさんの逃げ足の速さナメんなよ!?

 

 

 「・・ごめんなー」

 

 しばらく走ってから、落ち着いたところで獣人っ子の頭を撫でる。

 大人しく撫でられているが尻尾はシュンとうな垂れている。

 

 (クソみたいな国だな・・)

 

 人族至上主義とかバカじゃなかろうか?こんなに耳も尻尾も可愛いのに。国ごと滅ぼしたいわぁ。

 そばに服屋があったので、とりあえずここで服を購入する。

 ここの店主も見下したような目でこちらを見ているが、無視する。

 耳と尻尾を隠せる大き目のローブと下着らしきもの数点、ついでに俺の分のローブも。あと獣人っ子は裸足なので靴も買う。靴は子供用はサンダルしか無かったがまあいい。明日ベヒモスの魔石が手に入ったら、ネットショップでもっといいもの買うちゃる!

 さっきみたいにフザケたことを言われないようギロリと睨みつけ、威圧する様に店主の前に商品を叩きつける。

 

 「こいつをくれ・・!いくらだ!?」

 

 「ヒッ・・大銀貨1枚と銀貨9枚になります」

 

 「・・ほらよ、釣りはいらねえよ」

 

 大銀貨2枚を置いて商品を掴み、足早に店を立ち去る。

 

 公園らしきものがあったのでそこのベンチに獣人っ子を座らせ、ローブを着せて靴を履かせてやる。ついでに俺もローブを纏う。

 

 「・・これでよし!」

 

 再び抱え上げ、歩き出す。

 途中、串焼き屋があったので (もちろんあのクソ野郎の店とは別の店だ) 一本ずつ購入、2本で大銅貨1枚。

 それを考えると、大銅貨1枚が100円くらいか?

 大銅貨1枚100円、銀貨1枚1,000円、大銀貨1枚1万円、金貨1枚10万円の計算になる。

 すると胡椒は30万円で売れたって事か。・・さすが胡椒さんやでぇ!

 

 獣人っ子は、口のまわりをタレでべとべとにしながら美味しそうに串焼きを食べていた。

 喜んでもらえてなによりだ。

 

 

 

==========================

 

 残金 200円

 

 現地通貨残高  金貨2枚 大銀貨2枚 銀貨9枚 大銅貨9枚

 

 




当作品は基本的にほのぼのやっていきたいと思っています。なので鬱展開といってもこの程度です(´・ω・`)


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10. おっさん、固まる

 

 「あれかな・・・?」

 

 しばらく歩きつづけると、立派な建物が見えてきた。「明らかにお金かかってます」的な雰囲気。

 黒の大きな看板には、金文字で《黄金の荒鷲亭》と書いてある。

 

 入り口をくぐると広いなエントランスがあり、正面には大きな階段がある。タカラジェンヌがおりてきそうな階段だ。まるで貴族のお屋敷である。

 

 「いらっしゃいませ、ご宿泊ですか?」

 

 スッと音もなく近づいてきて、にこやかに訊ねる執事っぽい人。

 一瞬チラッとフードをかぶったままの獣人っ子に目を向けるが、まったく表情を変えることは無い。従業員教育がしっかりしているんだろう。さすがは高級なお宿である。

 

 「はい、風呂付きの部屋があると聞いて来ました。一泊おいくらですか?」

 

 「今日の夕食と明日の朝食が付いて、2名様で金貨2枚になります。」

 

 (所持金的にはギリだがまぁいいだろう)

 

 明日には魔石が手に入るし。

 

 「では、とりあえず一泊お願いします」

 

 金貨2枚を手渡す。

 

 「かしこまりました。では、お部屋にご案内します」

 

 案内された部屋は広いリビングルームに大きなベッドが2つ置いてあるベッドルーム、お風呂はもちろんのこと使用人の為の部屋まであった。

 

 「お食事は、部屋までお持ちいたしますか?」

 

 「お願いします」

 

 「承知いたしました。それと、お風呂のお湯は、言っていただければいつでも交換いたします。それでは何かございましたら、お声掛けくださいませ。」

 

 深々とお辞儀をして執事さんは退出した。

 

 「ふぅ~、やっと落ち着いた」

 

 獣人っ子をソファーにおろしてやる。ふかふかのソファーにとまどっている。かわいい。

 

 「いろいろと聞きたい事はあるが、とりあえずお風呂に入ろうか」

 

 ローブと靴を脱がせ、抱き上げてお風呂へ。

 大理石の浴槽にはすでにお湯が張られている。

 

 (いつ客が来てもいいようにスタンバイしてるのか?すげーな!)

 

 とりあえず全裸になる。じつに爽快である。露出癖はない!

 そして獣人っ子の服を脱がせる。

 

 「あ゛う~」

 今まで大人しかったのに、何故かジタバタと抵抗する。もしかして獣人は風呂が苦手なのか?ありえるな・・・。

 しかし、大分汚れているから洗わないとね。

 心を鬼にして、すぽーんと貫頭衣を取り去る。肌白いなー、なんて思っていたら・・・

 

 

 『ピキッ!!!』

 

 

 次の瞬間、俺はフリーズした。

 

 

 

 

 

 ついてなかった・・・・・・・・・・・・ぞうさんが。

 

 

 

==========================

 

 残金 200円

 

 現地通貨残高  大銀貨2枚 銀貨9枚 大銅貨9枚

 

 



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11. おっさん、おまわりさんに怯える

 

 目の前で顔を赤くしてもじもじとする獣人っ子。とりあえず背をむける俺。

 

 (あれ?男の子じゃなかったの・・?どういうことだってばよ)

 

 いや、むしろ俺はいつからこの子が男の子だと錯覚していた・・!?

 というか、嫌がる女の子を無理やり裸にするとか犯罪じゃねーか・・。やめてください、おまわりさんだけは勘弁してください。

 俺パニック。おちつけ俺。俺おちつけ。

 とりあえず深呼吸しよう。

 

 「ひっひっふー、ひっひっふー」

 

 よし落ち着いた。

 ・・おそらく、俺はこの子に甥っ子を重ねていたから男の子だと思い込んでしまったのだろう。うん、なっとく。

 それによくよく考えると男の子だろうが女の子だろうが、こんな幼い子が裸になったところで問題無いよね、常識的に考えて。俺ロリコンじゃないし。

 そうだよ、意識する方が逆におかしいって。逆にね。

 

 冷静になった俺は獣人っ子の体を洗い始める。

 

 (ふー、大分キレイになった。次は髪だな)

 

 浴室には石鹸しかない。この世界、シャンプーやリンス的なものは無いのだろう。これもあとで買ってやろう。

 耳に入らないよう注意しながら洗ってやる。

 髪の毛がからまっているので、痛くないよう丁寧にほぐしながら洗っていく。もちろん尻尾も念入りに。

 尻尾を洗われるのは少しくすぐったいみたいで、くねくね身をよじっていた。

 

 そうして繰り返し洗ってやると大分キレイになってきた。

 洗い始めは流したお湯が茶色に濁っていたが、今はキレイなもんだ。

 くすんで灰色に見えていた髪や尻尾も今ではキラキラした銀色。実にびゅーりほー。

 

 泡を流して湯船に浸かる。

 だいぶお湯が減ったが、獣人っ子がそのまま座ると顔まで浸かってしまうので膝の上に座らせる。可愛らしいおしりの感触が心地良い。へんないみではない・・けっして。ノーモアおまわりさん。

 タオルを湯船に入れ、〈くらげ〉をつくる(中に空気を入れ、きゅっとすぼめて丸くするやつ)。

 するとパァァァッと顔をかがやかせてこっちを見る。

 おそるおそる触ったあと再びこちらを笑顔で振り返る。

 気に入ってくれたようで、てしてしとくらげを叩いている。なんかもうひたすら可愛い。

 

 「そういえばキミ、名前なんていうの?」

 

 くらげをぎゅーっとつぶして、ひとりエキサイトしている獣人っ子に聞いてみる。

 こちらを見て、こてんっと首を傾げる。

 

 (うーん、理解できないのかな?言葉は通じていると思うんだよね・・言語理解のスキルあるし。名前が分からないと不便だよなぁ・・とりあえず仮の呼び名でも決めるか。

どんな名前がいいかな?可愛いのがいいよね。・・・・・・・・よし、決めた!)

 

 「とりあえず、キミのことは《シラユキ》と呼ぼうと思うんだけど・・どうかな?」

 

 するとこちらを見つめたあと、ぎゅーーーっと力いっぱいしがみついてきた。犬耳がぴこぴこ嬉しそうに動いている。よかった。

 キラキラした銀髪と透けるような白い肌からイメージしました。

 我ながら良いネーミングセンスだと思う。

 

 「おれの名前はオサムだよー」

 

 「おしゃ・・ん?」

 

 「惜しい。オサムだよー、お・さ・む!」

 

 「お・しゃ・ん?」

 

 舌ったらずなしゃべりかたも可愛い。

 シラユキさんは少し考え ( ゜д゜*)ハッと何かに気づいたような表情になった後、満面の笑顔でこう言った。

 

 「・・おっしゃ~ん!!」

 

 うん、もうそれでいい。だって可愛いもの!それに実際おっさんやし。

 

 




小説情報のキーワードを見ていたら、おっさんだらけのハーレムを想像してしまいました。ボーイズラブはありません・・一章には(´・ω・`)


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12. おっさん、もふもふフィーバー

 

 お風呂から上がり、風邪をひかないようしっかり拭いてやった後に服を着せる。

 幸い子供用の下着は男も女も変わらんみたい。ドライヤーが無いのが残念。

 

 そうだ、ベヒモス倒したんだからレベル上がってんじゃね?

 

 「ステータスオープン!」

 

==========================

 

 名前:ジュウジョウ オサム

 年齢:40

 レベル:1→27

 種族:人族

 職業:無職

 (称号:異世界人 ロリリーダー←NEW)

 

 HP:1000/1000→3600/3600

 MP:0/0

 力:100→360

 スタミナ:100→360

 素早さ:100→360

 魔力:0

 

 スキル

 ・言語理解 ・鑑定 (・インベントリ )

 (・ステータス偽装 )

 

(ギフト

 ・ネットショッピング )

 

==========================

※( )内はステータス偽装の為、他人には見えません

 

 

 ・・ロリリーダーってなんだよ!?この称号、進化すんの?誰得だよ!ロリちゃうし!!

 

 (・・まあいい。それより一気にレベル上がったなー!ステータスの上がり幅がすげー単純だけど)

 

 相変わらず比較対象が無いので、このステータスが高いのか低いのか分からんが。

 

 (あ・・シラユキのステータス見てみればいいんじゃね?)

 

 「シラユキー、ステータス見せてくれるー?」

 

 「う?」

 

 こてんっと首を傾げるシラユキさん。

 

 「ステータスオープンって言ってみて?」

 

 「すてーたしゅおーぷ!」

 

 まかせろ!と言わんばかりにキリッとした表情のシラユキさん。

 

 「・・何も出ないな?」

 

 きょとんとするシラユキさん。

 

 (・・そうだ!鑑定スキルで見れるんじゃね?)

 

 「鑑定!」

 

 シラユキさんにむけて鑑定を発動。

 

==========================

 

 名前:シラユキ

 年齢:5

 レベル:2

 種族:銀狼族

 職業:奴隷

 

 HP:93/93

 MP:33/33

 力:8

 スタミナ:9

 素早さ:11

 魔力:3

 

 スキル

 ・獣化

 

==========================

 

 

 ・・・ほう。

 

 (うーん、俺のステと比べるとだいぶ低いような気がするけど・・まだ子供だし、おかしくは無いのか?あまり 数値はあてにならないのかも。経験や知識なんて目に見えないしな。)

 

 ところで獣化ってなんぞ?

 

 「・・獣化って何かわかる?」

 

 するとシラユキさんは胸の前でちっちゃなおててを握り締め、全身に力をこめる。

 はぁぁぁー・・みたいな感じ。え、スーパーサ○ヤ人にでもなるのん?

 全身から毛が伸び、じょじょに体が縮んでいく。

 

 「おおー!」

 

 気がつくとそこには銀色のもふもふした子犬がいた。

 

 キュゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

 乙女のように胸を高鳴らせるおっさん。

 

 (やべぇ・・可愛すぎて心臓止まりかけた・・)

 

 ドヤ顔でしっぽを振りながらこっちを見る子犬(銀狼族なので正しくはたぶんオオカミ)。

 

 「だいしゅきぃーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 タガがはずれるおっさん。

 銀色のかたまりを抱き上げ思う存分モフるおっさん。

 もふもふフィーバー。おっさんフィーバー。ごめん、ちょっと何言ってるか分かんない。

 この時おっさんは心から幸せを噛み締めていた。

 

 (異世界にきてよかったー!!)

 

 




ふぅ・・・(´・ω・`)


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13. おっさん、おねしょは小5まで

 

 「すまん・・わけがわからなくなった・・」

 

 膝の上で幼女に戻ったシラユキさんが、ほっぺをふくらませてぺしぺし叩いてくる。

 ちょっとモフりすぎてしまった。

 

 夜、部屋で豪華な夕食を堪能する。メニューは、かごいっぱいの焼きたてパンとマッドブルとやらのステーキ、野菜たっぷりのポトフに果物の盛り合わせだった。味も申し分ない。シラユキさんも、もきゅもきゅと口いっぱいにほおばっていた。よく噛んで食べなよ?

 ちなみに食べ切れなかったパンはインベントリに入れておいた。

 

 食事の後、疲れていたので早めにベッドに潜り込む。

 シラユキさんはすでに、もう一つのベッドで眠っている。

 

 (さて・・これからどうするか・・)

 

 目を瞑って考える。

 とりあえず生活はなんとかなるだろう。明日魔石が手に入ったら、ネットショップで胡椒を仕入れて売却すればいい。

 問題はシラユキさんだ。

 もちろん養っていくつもりだが、独り身のおっさんに育てることが出来るのか?ましてや女の子だ。男親独りではいたらない部分も出てくるだろう。

 そうだ・・人を雇えばいいじゃない。お金は問題ないんだし。いや、いっそ奴隷を購入するか!これから別の国に行くからその方がいいだろう。

 色々とシラユキさんの面倒を見てもらえれば安心だ。ついでにおっさんの夜の面倒も見てもらったりなんかして。

サイテーとか言うなかれ。奴隷ハーレムは異世界転移の基本です。

 

 (おっぱいの大きなおねいさんがいいな~)

 

 ロリコンじゃないですし。

 そんな事を考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

 深夜、物音に目を覚ます。

 

 「・・・ん?」

 

 隣のベッドを窺うと、シラユキが声を押し殺して泣いていた。

 

 「・・どした?」

 

 「おっしゃん・・ごめ・・しゃーい・・」

 

 よく見るとシーツが濡れている。

 

 (ああ、おねしょしちゃったのか・・)

 

 涙でべろべろになった顔をタオルで拭いてやる。

 

 「・・おねしょぐらいで泣かなくても大丈夫だよー。おっさんなんか小5までおねしょしてたは」

 

 風邪ひくといけないので濡れた下着を脱がせてお湯でしぼったタオルでキレイに拭いてやり、俺のいたベッドに寝かせる。

 

 「・・ねてていいぞー」

 

 頭を撫でてやった後、濡れたシーツと下着を回収。幸いシーツの下は革らしきものがひかれていたので、タオルで拭いて乾かせば大丈夫だろう。

 シーツと下着はお風呂場でよく洗い、絞ってリビングに干しておく。リビング広いのでシーツを干すのも余裕である。

 

 「ふわぁーあ・・」

 

 俺もまだ眠い。シラユキさんの隣に潜り込む。

 

 「・・・おっしゃん」

 

 「なんだ・・ねてなかったのかー?」

 

 シラユキさんはめっちゃ落ち込んでいる。耳もへにょっとなっている。

 

 「だいじょうぶだから、あんしんしてねろー」

 

 「・・あい」

 

 そのまま抱きしめて、眠るまで頭を撫でてやった。

 

 



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14. おっさん、お金持ちになる

 

 「・・ふあー、もう朝かー・・」

 

 気が付くと既に日が昇っていた。大分疲れていたのだろう、思ったよりぐっすり眠ってしまった。

 ふと視線を感じ隣を向くと、シラユキさんがつぶらな瞳でこちらを見つめていた。

 

 「もう起きてたのかー?」

 

 声を掛けると恥ずかしそうにしがみついてくる。大分気を許してくれるようになったみたいだ。

 

 宿の人に頼んで朝食をとる。メニューは数種類のサンドイッチとポタージュスープ、フルーツのシロップ漬けだった。お高い宿だからかもしれないが、食事は悪くない。これなら異世界での食事は問題なさそうだ。食事は大事だからな。

 

 食後、宿の人にお礼を言いチェックアウトして冒険者ギルドにむかう。観光しながら行くとしよう。

シラユキと手を繋いで歩く。あらためて街を眺めると、中世ヨーロッパ的な雰囲気だ。異世界転移あるあるだな。まるでテーマパークにいるみたいだが。

 街を歩く人々はほとんどが人族だ。時々みすぼらしい服の獣人を見かけるが、あれは奴隷なんだろう。あまりいい気分ではない。

 エルフやドワーフは見かけない。この国にはいないのか、そもそもそういう種族は存在しないのか。

 

 (ドワーフはともかくエルフには会いたいなー)

 

 おっさん、エルフスキー。

 途中で昨日串焼きを買った屋台があったので、再び購入。シラユキさんもお気に入りで尻尾をブンブン振りながらかぶりついている。

 

 そうこうしていると冒険者ギルドに着いた。

 中に入ると昨日のオバちゃん受付嬢がいたので声をかける。

 

 「こんにちは、解体終わってますか?」

 

 「ああ、あんたかい。終わってるよ、ついて来な」

 

 そう言ってオバちゃんは解体場へと歩き出す。

 

 「こいつだ・・確認しとくれ。あたしも長い事ここで働いちゃいるが、こんな大物は初めてだよ」

 

 そこには結構な量の素材が積まれていた。

 

 

 「はい、問題ありません」

 

 バックパックに入れるフリをしながら、全てインベントリに収納する。

 

 「はぁー・・あんたのマジックバッグは大分容量が大きいんだねぇ」

 

 「幸運にも旅先で入手する事ができましてね」

 

 適当に誤魔化しておく。

 

 「それじゃ私はこれで失礼します」

 

 立ち去ろうとしたその時

 

 「ちょっと待ってくれ!」

 

 昨日の門番が解体場に入って来た。

 

 「領主様がお呼びだ。付いて来てくれ」

 

 「お断りします」

 

 「外に馬車を用意してあるから・・えっ!?」

 

 まさか断られるとは思っていなかったのだろう。門番は驚いている。

 

 「急ぎの用事がありますので失礼します」

 

 「ま、待ってくれ!討伐報酬も支払われるかもしれんぞ?」

 

 「いえ、結構です。私は死んでいた魔物を拾っただけですし」

 

 あっけにとられる門番をスルーして足早にギルドを出ると、シラユキを抱き上げダッシュで大通りの人ごみに紛れる。

 討伐報酬は勿体無いが、仕方ない。クズ領主に呼ばれるとか、どう考えても厄介事の匂いしかしない。

 

 昨日も来た公園でシラユキをベンチに座らせ、まわりに人がいないのを確認する。

 インベントリからベヒモスの魔石を取り出し眺める。

 大きさはサッカーボール位でずっしり重い。まるでピジョンブラッドのルビーの様に赤くキラキラと輝いている。

 

 「どうすればネットショップにチャージできるんだ?」

 

 とりあえずステータスオープンして、ギフトのネットショップをタップする。

 画面をよく見ると魔石売却の項目があったのでタップする。

 

 《魔石を売却する場合は、魔石を画面に触れさせてください》

 

と出たので、魔石を画面に近付ける。魔石が画面に触れるとスウッと消えてしまった。

 

 「うおっ!」

 

 急に重さを感じなくなったので、ちょっとビックリした。

 画面を見ると

 

 《魔石を売却しますか? YES/NO》

 

と出たので、YESをタップする。

 

 チャリーンと小気味良い音がして

 

 《魔石を1億円で売却しました》

 

と表示された。

 

 「ブフォオオオオ!!!!!?」

 

 

==========================

 

 ベヒモスの魔石売却 +1億円  残金 1億200円

 

 現地通貨残高  大銀貨2枚 銀貨9枚 大銅貨8枚

 

 



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15. おっさん、エルフに出会う①

 

 思わず吹き出した。

 シラユキさんがびっくりしてこっちを見る。

 

「ご・・ごめん、何でもないよ・・」

 

 気持ちを落ち着かせる。

 

(なんだよ1億って・・桁がおかしいだろ!・・あの魔石にそれだけの価値があったってことか。ベヒモス・・災害級とか言ってたしな・・。想像以上にレアでヤバいやつだったって訳か・・そりゃレベルも上がるわな)

 

 それに、お金はあるに越したことはないし。

 

 シラユキさんが退屈していたので肩車をしてあげる。きゃっきゃ言いながら喜んでいる。

 お金の心配が無くなったところで、奴隷を買いに行きますか。

 

 街行く人に尋ね歩くことしばし、目的の奴隷商館を見つけ中に入る。

 不健康そうに太った男が一瞬隣のシラユキを見た後、厭らしい笑みを浮かべて近寄ってきた。

 

「奴隷をお探しですか?」

 

「ええ。読み書きが出来る女性奴隷がいいのですが・・」

 

「ええ、ええ、おりますとも。種族のご希望はございますか?」

 

 一応ダメもとで聞いてみるか。

 

「・・エルフとかっていたりします?」

 

「申し訳御座いません。エルフは希少な為、現在在庫を切らしておりまして」

 

「そうですか・・それは残念」

 

(・・いる事はいるんだな、エルフ)

 

「あ・・ただ、ダークエルフならいるのですが・・」

 

 なぬ!ダークエルフとな!?

 

「是非、見せていただきたい!」

 

 奴隷商人の案内で地下室へと向かう。

 地下室の中は薄暗く、饐えた臭いがした。

 一番奥まで歩き、奴隷商人は立ち止まる。

 

「・・こちらになります」

 

 そこには、鎖で繋がれ襤褸切れを纏った15~6歳くらいの少女がいた。

 

 

「お客様もご存知の通り、ダークエルフは《忌み子》とも呼ばれ不吉な存在とされています。」

 

 ・・ん?そうなの?

 

「ですが曲がりなりにもエルフですので魔力量が多く、使い捨ての兵士として需要がある・・と思ったのですが。この国では信心深い方が多くて、まったく売り物になりません。最近は戦争もありませんし。仕方なく従業員の福利厚生にでも使おうと思ったのですが、従業員ですら災いを恐れて近寄らない始末でして・・。今なら金貨2枚でお売りしますよ?」

 

 奴隷商は下卑た笑みを浮かべる。

 

「・・わかりました。ですが、今日は下見のつもりで金を持ってきていません。かわりに現物でもよろしいでしょうか?」

 

「現物ですか・・?」

 

「ええ、胡椒になります」

 

「・・まあ、いいでしょう。どうせ売れ残りですし」

 

「ちょっと待っていてください」

 

 冒険者ギルドの時と同じように一旦奴隷商館の外に出て物陰に隠れる。まわりを確認してからネットショップで[ブラックペッパー ホール200g] 1,000円と[麻袋 スモール] 200円を購入し、胡椒を麻袋に移す。

 商館に戻り、奴隷商に胡椒を渡す。

 

「これでどうでしょうか?」

 

 麻袋の中を確認した奴隷商が汚らしい笑顔を浮かべる。

 

「・・問題ありません」

 

 そりゃそうだろう。少なくとも金貨3枚以上の価値はあるからな。

 

「お客様は胡椒を扱っておられるのですか?」

 

「そうですが、何か問題でも?」

 

「いえいえ、もし宜しければ私共にもっと譲って頂けないかと思いまして」

 

 おや?少々話の風向きが変わってきたな。

 

「・・どの程度入用でしょうか?」

 

「あればあるだけ譲って頂きたい。なにせ胡椒は高価な上、いくらでも需要がありますからな・・ワッハッハッ」

 

 ほう・・あればあるだけとな?

 

「ご予算はいくらぐらいでしょうか?」

 

「・・・白金貨2枚分までなら。流石に多すぎますかな」

 

 おそらくコイツは俺の事を、金貨3枚分の胡椒を2枚で売るカモだと思っているのだろう。

 

(いいだろう・・お望み通り売ってやろうじゃないか)

 

 俺は心の中で邪悪な笑みをこぼす。

 

「白金貨2枚なら胡椒20kgでいかがでしょうか?」

 

「!!!・・商談成立ですな」

 

 奴隷商は内心の喜びを隠しきれていない。馬鹿な田舎者を手玉に取ってやった感が滲み出ている。

 

(おまえ、商人むいてないよ)

 

 俺は心の中でひとりごちた。

 

 




ダークエルフスキー(`・ω・´)


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16. おっさん、エルフに出会う②

 

 応接室にて、胡椒20kgを渡し白金貨2枚を受け取ると奴隷商が言う。

 

「これで取引は成立いたしました。後になってトラブルの出ないようお互いに書面を交わしたいのですが、よろしいですかな?」

 

 後で俺がゴネたり出来ない様にだろう。正直、こちらとしても都合がいい。

 

「もちろんです。ついでに奴隷購入の手続きもお願いします」

 

 無事に手続きが終わり、再び地下室へ。

 奴隷商が鎖を外しながらダークエルフ少女に告げる。

 

「今日からこの方がおまえの主人になる。くれぐれも失礼のないように」

 

 ダークエルフ少女が驚きに目を見開き、こちらを向く。この時、初めて目が合った。

 思わず見惚れてしまった。吸い込まれてしまいそうな翠色の綺麗な瞳。

 どれくらいそうしていただろうか、我にかえった少女が恥ずかしそうに頭をさげた。

 

「・・・申し訳ございません、ご主人様。これからよろしくお願いいたします」

 

「あ・・ああ、こちらこそよろしく」

 

 そばにいたシラユキさんが、なぜか俺の脚にギューッとしがみついてくる。急にどした?

 

 地下室を出ようとした所でダークエルフ少女がよろけた為、とっさに受け止める。

 

「も、申し訳ございません・・・!」

 

 平謝りの少女。

 

(ずいぶんやつれているな・・・)

 

 無理もない。あんな地下室に閉じ込められていてはな・・・。

 そのまま、ヒョイッと抱き上げる。いわゆるお姫様だっこだ。

 

「い、いけません、こんな・・・。わたし汚いですし・・・!」

 

 慌てる少女。

 

「気にするな。この方が早い」

 

「・・・申し訳ございません」

 

 顔を伏せる少女。耳が赤く見えるのは気のせいだろう。

 足にしがみついていたシラユキさんが、なぜか俺のふとももにかじりついている。おなかがすいたのだろうか?

 

 

 奴隷登録証を受け取り、俺たちは奴隷商館を後にした。

 

「とりあえず、服とか買いに行きますかー」

 

「あ、あのその前に降ろしていただいてもよろしいですか・・?もう大丈夫ですので・・」

 

 お姫様だっこしたままでした。流石に街中でそれは恥ずかしいですよね、ごめんなさい。

 ダークエルフ少女をそっと下に降ろす。シラユキさんもようやく俺の脚から離れる。もうおなかいっぱいですか?俺のふとももはよだれでべしゃべしゃですが。

 

 ・・ん、シラユキさんが目の前で両手を上にのばし、ぴょんこぴょんこ飛び跳ねている。

 

「・・どしたー?」

 

「だっこー!」

 

 ぴょんこぴょんこ。あまえんぼうさんですか。よろこんで。

 だっこしてあげるとシラユキさんは『むふー』と満足そうにうなずいた。

 

 

===========================

 

 購入品リスト

 

 ・[ブラックペッパー ホール200g]  1,000円

 ・[麻袋 スモール] 200円

 ・[ブラックペッパー ホール20kg]  10万円

 ・[麻袋 ラージ] 400円

 

 合計 10万1,600円   残金 9,989万8,600円

 

 現地通貨残高  白金貨2枚 大銀貨2枚 銀貨9枚 大銅貨8枚

 

 



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17. おっさん、からまれる

 

 とりあえず近くのお店でダークエルフ少女用のローブと、下着数枚を購入。裸足なのでサンダルも。ていうか奴隷は裸足がデフォなの?可愛い少女が裸足とかバカか。お天道様が許しても、足フェチのおっさんが許しません!

 いつもの公園のベンチでローブを着せサンダルを履かせる。

 

『・・きゅるるるー』

 

 なんか可愛らしい音がした。

 

「あっ、あっ・・」

 

 少女がお腹をおさえて慌てている。恥ずかしいのか顔を真っ赤にして目に涙を溜めている。

 

(そういえば昼飯まだだったな。たしかインベントリに・・)

 

 バックパックから取り出す振りをして、インベントリから昨日の夕食のパンを取り出す。

 一つを少女に渡し、自分とシラユキさんも一つずつ。ベンチにならんでかぶりつく。

 

(焼きたてそのままだな・・インベントリは時間が停止もしくはゆっくり経過しているみたいだ)

 

 シラユキさんはいつものように、ほっぺをふくらませてもきゅもきゅ食べている。

 一方少女は泣きながら食べていた。

 

「こんな美味しいパンはじめて食べました・・」

 

 あかん、おっさん貰い泣きしそう・・今までつらい思いをしてきたんだね。

 

「まだあるから、いっぱいお食べ」

 

 頭を撫でてやると、少女は泣きながらコクコクと何度も頷いた。

 

 なかよく3人でパンを食べていると

 

「・・おまえか!ベヒモスの素材を持っているというのは!!」

 

 金属鎧を着たガラの悪そうな男2人がこちらに近付いてきた。

 

「いえ、持っていません」

 

 面倒なので嘘をつき、パンを食べる作業に戻る。もきゅもきゅ。

 

「・・貴様、嘘をつくな!!!」

 

 急に大きな声を出したので、シラユキさんがびっくりして食べかけのパンを落としてしまった。

 

 ・・ブチッ!!

 

「うちの子がまだ食べてるでしょうがぁぁぁぁぁ!!!」

 

『ドガァァン!!』

 

 次の瞬間、俺のアッパーがガラの悪そうな男Aを空高く舞い上げていた。

 

 地面に叩きつけられた男Aは意識を失ったらしく、ピクピクしている。

 むしゃくしゃしてやった。反省はしていない。

 シラユキさんには新しいパンを出してやる。落としたパンはもったいないけど、拾って食べたらお腹こわすかも知れないからね。

 

「・・き、貴様!我々が領主様の私兵だと知っての事か!!」

 

 いや、知らんし。

 

「・・みねうちです。安心してください」

 

「ふざけたことを抜かすな!・・貴様覚えていろ!!」

 

 ガラの悪そうな男Bは走り去っていく。

 ちょ、Aは放置ですか・・?まあいいけど。

 倒れている男を観察してみる。俺が殴った部分、金属鎧がべっこりへこんでいる。

 俺の拳は何とも無い。まさか人が空を飛ぶとは思わんかった。聖闘士○矢か。おっさんのコスモが爆発しちゃったか。

 シラユキさんは、落ちていた枝でAをつついている。やめなさい、もどってらっしゃい。

 ダークエルフ少女は青い顔をしている。

 

「・・ご主人様、これからどうなさいますか?」

 

「心配しなくても大丈夫だよー」

 

 最悪、暴力で何とかなるだろう。なにせネットショップに1億あるからね。武器・兵器買い放題。

 

「・・わかりました。いざとなったら私が刺し違えてでも足止めします」

 

 悲壮な決意を固め、落ちていた石を握り締めるダークエルフ子さん。

 こわいこわい、やめて?そんな決意いらないから!

 

(しょうがない・・平和的に解決するか・・)

 

 シラユキさんは、落ちていたパンをAの口にギュウギュウつめている。どうやらかなりご立腹だったもよう。やめなさい、もどってらっしゃい。

 

 



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18. おっさん、暗躍する①

 

 とりあえず時間がかかりそうなので、宿をとろう。

 宿といったら《黄金の荒鷲亭》だよね。

 

「すみません、もう一泊お願いしたいのですが」

 

「かしこまりました。3名様で金貨3枚になります」

 

 金貨の手持ちが無いので白金貨でお支払い。

 

「・・少々お待ちくださいませ」

 

 執事さんは少し驚いたようだが、何も余計な事を言わずにお釣りを持ってきてくれた。

 その後、部屋に案内してもらう。

 相変わらずゴージャスな部屋だ。

 

「ご、ご主人様。こんな凄い部屋に私なんかが入ってもよろしいのでしょうか・・」

 

「気にしなくて大丈夫だよ、お金ならあるから」

 

 ちなみに、シラユキさんは眠そうにしていたのでベッドでお昼寝させている。

 俺はダークエルフ子さんをお風呂に連れて行く。

 

「いろいろ話したい事はあるけど、とりあえずお風呂に入っておいで。俺はむこうの部屋にいるから、上がったら教えて」

 

「・・はい。キレイに洗ってきます」

 

「?・・お、おう」

 

 なんか顔赤かったけど、大丈夫かな?

 

「さてと・・」

 

 一人になったところで俺はネットショップを開いた。

 そして大量の胡椒とそれを入れる袋を購入し、移し替える。胡椒はともかく包装のビニールなんかはこちらの世界に放置する訳にはいかないからね。自然に分解されないだろうし。そういうのはとりあえずインベントリに死蔵だな。

 移し終えたものは次々インベントリに放り込んでいく。

 

 しばらく黙々と作業に没頭していると、物音が聞こえた。ダークエルフ子さんがお風呂から上がったのだろう。

 作業の手を止めそちらを振り向くと、そこには

 

 

 ・・全裸の美少女がいた。

 

 

「あ、あの・・初めてなので上手くご奉仕できるかわかりませんが・・」

 

 濡れた藍色の髪・・艶やかな褐色の肌・・痩せてあばらが浮いているが、小さいながらも自己主張する胸・・。大切な部分を手で隠し、恥ずかしそうに頬を染めながら上目遣いにこちらを窺う15~6歳くらいの美少女。

 

「ちょ・・!えっ、はだ・・えっ!?」

 

(おおおおおちつけ俺・・どういうことだこれは?と、ととりあえずこのままではおっさんのおっさんがヤバい!!)

 

 気持ち前かがみになりながら寝室にダッシュ!毛布をとって引き返す!!

 少女を毛布でくるみソファーに座らせる。

 

「とりあえず、落ち着こう」

 

 少女の目にはみるみる涙が溜まって今にも零れ落ちそうだ。

 

「・・忌み子の私ではお役にたてませんか・・?」

 

「そ、そういうことじゃないよ?忌み子とかよく知らないし・・ただ、今日会ったばかりだし・・」

 

「こういうことの為に私を買われたのでは無いのですか・・?」

 

「違う!・・い、いや違わなくもないような気がしないでもない今日この頃って感じですが・・」

 

 たしかに最初は、そういうつもりで奴隷商館に行った部分も無きにしも非ずなんだが・・

 流石に経験も無い少女にそういう事を求めるつもりはない。

 YESロリータNOタッチだよね。俺ロリコンじゃないけど。

 

「と・・とにかく、そういう事は気にしなくて大丈夫だよ。君には他にやってもらいたいがあるから・・子供の世話とか・・」

 

「・・私のような醜女では、おイヤですか・・・?」

 

 翠色の瞳から零れ落ちる涙。

 

「そんなこと無いよ!・・君はその・・すごく綺麗だよ。思わず見惚れてしまうくらいにね」

 

「・・ほんとうですか?」

 

「ああ、もちろん」

 

 俺は少女の頬に触れ、手で涙を拭った。

 少女は両手で俺の手を包み込むと、泣きながら嬉しそうに微笑んだ。

 

 



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19. おっさん、暗躍する②

 

「まだ名前を聞いていなかったね。俺はオサムだよ」

 

「・・私に名前はありません」

 

 聞くと奴隷は持ち主が代わると、古い名を捨てて新しい名前を主人につけて貰うらしい。

 

「奴隷になる前の名前は・・?」

 

 すると少女は悲しそうに首を振る。

 

「もう、その名で呼ぶものは誰もおりませんので・・」

 

 色々あったのだろう・・無理に聞く事もあるまい。話したくなれば、いつか自分から話してくれるだろう。

 

「ぜひ、ご主人様に名前をつけていただきたいです」

 

 まっすぐにこちらを見つめる少女。

 

「・・・カグヤ、とかどうかな?俺の故郷に伝わる物語に出てくる姫の名前なんだけど・・」

 

 シラユキさんとも姫つながりになるし。

 

 うつむく少女。

 ・・あれ、気に入らなかった?ほ、他の名前にする?

 

「・・いっじょうだいじにじまずぅ~~」

 

『びえぇぇぇー』と号泣する少女。

 喜んでもらえたようで何よりだけど、整った顔立ちが台無しなのでハナミズ拭こうか。

 

「すみません、あまりの嬉しさに取り乱しました・・」

 

「・・お、おう」

 

「身命を賭してご主人様に尽くしてまいります。ふつつかものですがよろしくお願いいたします」

 

 ソファーの上で三つ指ついて頭を下げるカグヤさん。こっちの世界でもそういうのあるんですね。でも命は賭けなくてだいじょぶです。

 

 

 ちょっと野暮用があると告げ、宿を出る。カグヤさんはついてこようとしたが、シラユキを一人にする訳にはいかないので残ってもらった。

 まずは高級服を扱う店に向かう。場所は宿の執事さんに教えてもらった。これからする事の為に身なりを整える必要があったからだ。

 

「いらっしゃいませ。どのような服をお探しですか?」

 

「いい素材を使った上品な服が欲しい・・予算は大金貨1枚だ。」

 

 店員は大金貨1枚と聞いて目の色を変えた。

 奥から数点の服を持ってきて目の前に並べる。ひとつひとつ店員が説明しているがあまり興味がない。派手すぎず地味すぎず見る人がみれば質のいい物だと分かりそうな服を選んで支払いを済ませる。店の中で着替えさせてもらい店を後にした。

 

 そして俺は領主の館に来た。

 門の前が慌しい。鎧を着た男達が武装して、今にも出発しようとしている所だった。

 その中の一人が俺に気付いて叫んだ。

 

「貴様は!・・よくもぬけぬけと現れたな!!」

 

 金属鎧を着たガラの悪そうな男Bだ。

 

「お連れの方はどうされました?」

 

「ヤツは骨折で入院した・・貴様がやったんだろうが!!領主様に楯突いてタダで済むと思うなよ!?」

 

「それは誤解です・・私は領主様に楯突いたつもりはありません」

 

「嘘をつくなっ!!」

 

「では逆にお聞きしますが、あなたは〝最初に″自分が領主様の私兵だと名乗られましたか?」

 

「い、いやそれは・・だが、この鎧を見れば分かるだろう!」

 

「・・私は遠い異国より旅をして、初めてこの街を訪れました。鎧を見ただけでそれが領主様の私兵だと分かろうはずも御座いません」

 

「ぐっ・・」

 

「ですが、結果として領主様に失礼を働いてしまったことは事実。だからこうして謝罪にまいったのです。直接領主さまに謝罪申し上げたいのでお目通り願います」

 

「・・・いいだろう。ついてこい」

 

 男Bはまだ何か言いたそうにしていたが反論の材料が見つからないのか、領主の下へと俺を案内する。こいつチョロすぎだろ、ばーか。

 

 



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20. おっさん、暗躍する③

 

 男Bに案内された先にいたのは、背が低く小太りで眼鏡をかけた陰気そうな30歳前後の男だった。

 

(頬に傷があるって事は、こいつが領主か・・。ていうかこの世界にも眼鏡があるんだな)

 

「領主様、例の男を連れて参りました」

 

「おまえかお?ベヒモスの素材を持っているというのは。」

 

「領主様には大変失礼を致しました。直接謝罪を申し上げるべく罷り越しました」

 

「そんな事はどうでもいいお。それよりベヒモスの素材はボクちんが買い取ってやるお。ベヒモスのような希少な魔物素材、おまえが持っていてもしょうがないお。大金貨5枚でどうかお?田舎者には一生かかってもお目にかかれない大金だお!」

 

(・・つっこみ所が多すぎてなんとも言えんな。大金貨5枚って500万位だろ・・魔石だけで1億円の価値があったんだが)

 

「・・もうしわけありません、領主様。ベヒモスの素材はすでに売却してしまって持っておりません」

 

「な!なんてことをしてくれたんだお!?あれがあればまわりに自慢できると思ったのにお!!」

 

 ・・小っさ!

 クズ領主、顔を真っ赤にして喚き散らしている。

 

「お詫びといってはなんですが、領主様に儲け話がございます」

 

 儲け話と聞いて目の色を変える領主。

 

「・・言ってみるお。たいしたことなかったら承知しないお!」

 

「ベヒモスの素材と引き換えに大量の胡椒を仕入れました。お詫びの意味も込めまして領主様には特別に格安でお譲りしたいと思っております」

 

「・・いくらだお?」

 

「200kgで白金貨20枚」

 

「な・・!?白金貨20枚は大金だお!」

 

「本来は他の街で売却する予定があったのですが、領主様にならお譲りしても構いません。

 もちろん無理にとは申しませんが・・」

 

 領主は足りない脳みそをフル回転させて考えている。かりにも領主なのだ、胡椒の適正価格ぐらい知っているはずだ。ただ、白金貨20枚という大金に踏ん切りがつかないのだろう。

 もう一押しか・・。

 

「・・実は冒険者ギルドで、200g程ですが金貨3枚で売却させて頂きました。領主様がいらないようでしたらそちらで売却しようかと・・」

 

「待つお!・・買うお!!胡椒200kg、白金貨20枚で買ってやるお!!」

 

 フィーーーーーーッシュ!かかった!!

 

「よろしいのですか?」

 

「領主であるボクちんに二言は無いお!金は明日までに用意しておくお!とりあえず契約書をかわすお!!」

 

 他人に儲けを横取りされてはたまらないと思ったのだろう。いそいで契約書を用意するバカ領主。お互いにサインする。

 

「これで契約成立だお!後で文句を言っても受け付けないお!」

 

 得られるであろう利益を皮算用しているのか、にやけたブサイク面で宣言する領主。

 

「・・もちろんでございます」

 

 俺は微笑みながらそう答えた。

 

 

 明日再び訪ねる事を約束し、領主の館を後にした。

 日暮れまでにはまだ時間がある。急いで仕込みを終わらせよう。

 

 街が夕日に包まれる頃、ようやく仕込みを終わらせた俺は宿への帰り道を歩いていた。

 

「てめえは昨日の!」

 

 怒鳴り声に振り向くと、そこには昨日獣人に対する差別発言を吐いたクソ野郎がいた。

 

(ちょうどいい、こいつにも協力してもらおう)

 

「どうかしましたか?」

 

「よくもぬけぬけと・・てめえの所為で商売あがったりだ!どうしてくれる!!」

 

 クソ野郎めちゃめちゃ怒ってる。激おこぷんぷん丸。

 

「それは失礼しました。では、お詫びにこれを格安でお譲りしましょう」

 

 そう言って、男に麻袋を手渡した。

 中を覗いた男は驚いている。

 

「こ、これ胡椒じゃねーか・・」

 

「はい、胡椒が2kg入っています。特別にこれを大金貨2枚でお譲りします」

 

「い、いやそんな大金持ってるわけ・・」

 

「屋台を担保にすれば、貸してくれる相手ぐらいいるでしょう?ちなみに昨日、冒険者ギルドで200g金貨3枚で売却させて頂きました」

 

 息をのむ男。計算くらい出来るのだろう。

 

「し、しかし・・」

 

「普通串焼き屋で、高級な胡椒なんか使わないでしょう。ですが胡椒を使えば今よりもっと美味しくなること間違いなし!しかもそれを謳い文句にすれば、街で評判の屋台となるでしょう!!」

 

「・・わ、わかった。買おう」

 

「ありがとうございます」

 

 胡椒を返してもらい、明日受け渡す約束をしてその場を後にした。

 俺は宿に着くまでニヤニヤが止まらなかった。

 

 



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21. おっさん、暗躍する④

 

 宿に着いた時にはすっかり暗くなっていた。

 執事さんに挨拶をし、部屋に向かう。

 部屋のドアを開けるとすぐ目の前にカグヤさんが立っていた。

 

「うおっ!びっくりした・・」

 

「ご主人様・・!!」

 

 涙目でいきなり抱きついてきた。控えめな2つの膨らみが当たって鼻の下が伸びそうになる。シラユキさんも『ガシッ』と俺の脚にしがみつく。

 ふたりとも・・どした!?

 

「・・なかなか帰っていらっしゃらないので心配しました」

 

「ちょっと用事が長引いちゃってね。不安にさせたみたいだね・・ごめんごめん」

 

 ふたりの頭を撫でてやる。嬉しそうな表情のカグヤさんとシラユキさん。でもそろそろ離れてください・・やわらかな胸の感触が・・その・・ね?

 

 ふたりを引き離して夕食にする。

 カグヤさんは、奴隷が主人と同じ食卓を囲むのは不敬だと床で食べようとしていたが、無理矢理同じテーブルに座らせた。

 ちなみにシラユキさんは、一番先に座り尻尾をぶんぶん振って『もう食べていい?まだ!?』

 といった感じでこちらを見つめている。

 

 本日の夕食は、かごいっぱいの焼きたてパンとビッグバードとやらのソテー、野菜たっぷりのシチューに果物の盛り合わせ。

 カグヤさんはパンを上品にちぎって美味しそうに食べている。ビッグバードのソテーも食べていたのでベジタリアンという訳では無さそうだ。ラノベでは、エルフはベジタリアンだったりする場合もあるので少し心配だったのだ。よかった。

 シラユキさんはいつも通りもきゅもきゅと口いっぱいにほおばっている。ハムスターみたい。・・あっ、口いっぱいにつめこみ過ぎてオエッてなってる。ちょ、いったん出しなさい。よくかんでゆっくりたべなさい。

 

 夕食の後はお風呂だ。既に宿の店員さんに準備してもらってある。

 

(おっと、その前に・・)

 

「カグヤー、シラユキー、ちょっときてー」

 

 ネットショップを開き2人に画面を見せる。

 

「ふたりのパジャマとか色々買おうと思うんだけど、どれがいい?」

 

 シラユキさんはこてんっと首を傾げ、カグヤさんも何か戸惑っている。

 

(・・?あっ、もしかして・・)

 

「これ・・もしかして見えてない?」

 

「・・えっと、すみません・・どれのことでしょうか・・?」

 

 どうやら俺以外には見えないみたいだ。

 

 ネットショップを操作して、無料のカタログ誌を注文した。

 目の前に光の粒子が集まるようにしてカタログ誌が現れる。

 

「・・ご主人さま、今どこから出したのですか・・?」

 

 聞けばカグヤさんには、『カタログ誌が急に目の前に現れたように見えた。ただ光の粒子が集まるようなのは見えなかった』そうだ。

 これなら人前で発注しても誤魔化せそうだな。

 

「これは俺の能力だ。俺の故郷の品を購入する事が出来る」

 

 カグヤさんは驚いている。シラユキさんはきょとんとしている。

 

「さすがはご主人様・・まるで神の御業です」

 

 何故かうっとりとした表情のカグヤさん。

 たしかに神に直接もらった能力だけどね。

 ふたりに釘を刺す。

 

「便利な能力だけど、他人に知られるとマズイことになる。この事は誰にも言わないようにね」

 

「わかりました・・たとえ死んでもこの事はもらしません」

 

「いや、さすがに死にそうな目にあいそうだったら喋っていいからね?」

 

 カグヤさんは時々決意が重いよー。

 シラユキさんもわかってくれたのか、選手宣誓するみたいに右手をぴしっと上げていた。

 

「・・と、とりあえずこの中から好きなの選んでくれるか?」

 

 カタログ誌を開いてふたりに見せる。

 

「これは・・もの凄く精巧な絵ですね・・こちらの文字のようなものは読めませんが・・可愛らしい服ばかりです・・」

 

 食い入るように見つめるカグヤさん。女の子は服とか好きだもんね。

 シラユキさんは興味なさそうに俺の膝の上でだらーんと仰向けに寝そべっているので、おなかをわしゃわしゃしてやった。カグヤさんがちょっと羨ましそうにしていた。

 

 小一時間ほどかけて、色々購入。

 カグヤさんはコットン素材でネイビーのギンガムチェック柄パジャマと下着、シラユキさんは同じくコットン素材でピンクのストライプ柄パジャマと下着(ちなみにカグヤさんが選んだ)。

 それとアンティーク調のメイド服だ。

 カグヤさんいわく、どの服も可愛いがとても珍しいので人目を引いてしまうだろうとの事。目立つのを避ける為、止むを得ないチョイスだった。おっさんの趣味でもある。

 靴・靴下・バッグもそれに合わせて選んだ。不都合があれば買い直せばいい。

 おっさんは下着と靴下のみ購入。寝るときはパンツ一丁で寝る派だし、服は大金貨1枚で買った物があるしな。

 この後、お風呂に入るのでシャンプーとボディソープも購入しておいた。

 

 

==========================

 

 購入品リスト

 

 ・[レディース パジャマ ギンガムチェック ネイビー]  6,000円

 ・[キッズ パジャマ 女の子 ストライプ ピンク]  4,000円

 ・[パッド付きキャミソール+ショーツ 上下2セット]  4,000円

 ・[女児 綿100% ペアインナー 2セット]  2,000円

 ・[ロング丈 メイド服]  40,000円

 ・[ロング丈 メイド服 キッズ]   40,000円

 ・[レディース ロリータ靴 ヒールタイプフラット]  5,000円

 ・[キッズフォーマル ローファー]  4,000円

 ・[折返しフリル ショートソックス 2足セット]  1,000円

 ・[子供用フリル ショートソックス]  2,000円

 ・[2way レトロバッグ]  3,000円

 ・[ショルダーバッグ 小さめ]  2,000円

 ・[メンズ ボクサーブリーフ 前開き 3枚組 セット]  2,000円

 ・[メンズ ビジネスソックス 抗菌防臭 5足セット ]  1,000円

 ・[リンスインシャンプー 480ml]  1,000円

 ・[赤ちゃんにも使えるボディソープ 480ml]  500円

 

 合計 11万7,500円   

 

 



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22. おっさん、暗躍する⑤

 

「カグヤー、シラユキをお風呂に入れてくれるか?」

 

 カグヤさんにシャンプーとボディーソープの使い方をおしえる。

 

「わかりました。シラユキちゃん、一緒にお風呂にいきましょう」

 

「・・・や!」

 

 そういって俺にしがみついてくるシラユキさん。

 

「どしたー?お風呂イヤかー?」

 

「・・・おっしゃんとはいるー」

 

「女の子同士で入った方がいいんじゃないかー?」

 

「ヤ!!おっしゃんとはいるのー!!」

 

 目に涙を溜めてギュウウウッとさらにしがみついてくる。

 カグヤさんは苦笑い。

 

「しょうがないなぁ・・ごめんなカグヤ。俺が入れるわ・・」

 

「お気になさらずに。ご主人様をとられてしまうんじゃないかと不安なんでしょう」

 

 カグヤさんは優しく微笑んで見送ってくれた。

 

 まずササッと自分を洗った後、シラユキさんを丁寧に洗ってやる。女の子なのでキレイにしてあげないとね。

 髪と尻尾はリンスインシャンプーを使ったので大分指通りが滑らかになった。

 これで至高のモフモフにまた一歩近づいたな!

 

 洗い終わった所で湯船につかる。また膝の上に乗せてくらげを作ってやる。

 

「・・シラユキはカグヤのことキライか?」

 

 ぶんぶんと首を横にふるシラユキ。

 

「それじゃあ、ちゃんとなかよくするんだぞ?」

 

 こくりと頷いたあと、『うぅー』と泣きながらぎゅっと抱きついてくる。

 

(カグヤの言った通り不安にさせちゃったみたいだな)

 

 頭を撫でながら優しく言って聞かせる。

 

「シラユキは俺にとって、とても大切な女の子だよ。だから何も心配することなんかないんだぞ?」

 

「・・・・あぃ」

 

『バァンッ!!』急に風呂場のドアが開いた。

 

「話は聞かせていただきました!!」

 

 目に涙を溜めたカグヤさんが、いきなり風呂場に入ってきた。全裸で。

 

「ちょ、なにしてんの?なんで裸!?」

 

「ひとり寂しかったので、ドアの前で一緒にお風呂に入る機会を窺っていました。全裸で!」

 

「とりあえず前かくしなさい!」

 

「そんなことよりも、シラユキちゃん。私にはあなたの気持ちが痛いほどわかります。今までつらい思いをしてきたのでしょう。そしてそこから救い出してくれたご主人様に対する崇拝にも似た気持ち。そしてそれを失うことへの不安。わかります!私もまた同じだからです!でも心配はいりません。われわれは同志です。ともにご主人様を愛する仲間です。これからはふたりでご主人様を支え、愛を育んでいきましょう!!!」

 

「・・・ヤッ!!!」

 

 シラユキさんはほっぺをふくらませ、ふたたびギュウウウッとしがみついてきた。

 

 



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23. おっさん、暗躍する⑥

 

 とりあえず風邪を引くといけないので、カグヤさんを湯船に入れた。

 俺とカグヤさんが向かい合って座り、その間に俺の膝に座ったシラユキさんとくらげといった図式。只今カグヤさんは、不機嫌そうにほっぺをふくらませてくらげをてしてし叩いているシラユキさんを必死にあやしている。

 前からうすうす感じてはいたが、見た目の美少女然とした佇まいとは裏腹にこの子、残念な子なんじゃ・・?

 

「・・カグヤ、ステータス見てもいい?」

 

 ちょっと気になったので聞いてみた。

 

「ステータスですか?かまいませんよ。では明日にでも神殿に行ってみますか?」

 

「神殿?・・今、見たらダメ?」

 

「ダメというか・・鑑定スキルがないと見れませんよ?鑑定スキル持ちは希少なので、大きな街の神殿くらいにしかいません。このザシールの街は大きいので問題ありませんが」

 

「・・・俺、鑑定スキル持ってる」

 

「えっ?すごい、さすがはご主人様です・・。一般的に鑑定スキルを持つのは1万人に一人と言われているんですよ」

 

(1万人に一人か・・まぁこれは隠さなくても大丈夫か)

 

「・・インベントリって知ってる?」

 

「インベントリ・・どこかで聞いたような・・・あっ、思い出しました!たしか以前に読んだ古い書物にそんな記述がありました。無限の広さを持ち時間さえも停止するマジックバッグのような物だとか・・まぁ御伽噺ですね」

 

「・・・・俺、インベントリ持ってる」

 

「えぇっ!・・さすがはご主人様。呼吸をするがごとく奇跡を起こす・・むしろご主人様こそが神なのでは・・?」

 カグヤさんが何やらブツブツと呟いているがスルーしよう。

 

「そ、それじゃちょっとステータスみせてね?」

 

「ばっちこいです!」

 

 

==========================

 

 名前:カグヤ

 年齢:20

 レベル:8

 種族:エルフ族

 職業:奴隷

 

 HP:76/76

 MP:204/204

 力:6

 スタミナ:8

 素早さ:11

 魔力:20

 

 スキル

 ・火属性魔法 ・水属性魔法 ・風属性魔法 ・地属性魔法

 

==========================

 

 

「・・カグヤって20歳なの?15歳くらいにしか見えないんだけど」

 

「エルフ族は人族と比べて長命な為、見た目の成長も遅いんですよ。なので合法です!」

 

 何が合法なのか、ツッコむのはやめておこう。

 ちょっと俺のステータスと比べてみようか。

 

 

==========================

 

 名前:ジュウジョウ オサム

 年齢:40

 レベル:27

 種族:人族

 職業:無職

(称号:異世界人 ロリ主任←NEW)

 

 HP:3600/3600

 MP:0/0

 力:360

 スタミナ:360

 素早さ:360

 魔力:0

 

 スキル

 ・言語理解 ・鑑定 (・インベントリ )

(・ステータス偽装 )

 

(ギフト

 ・ネットショッピング )

 

==========================

 ※( )内はステータス偽装の為、他人には見えません

 

 

 

 ・・・俺の称号が出世してる。なんでだよ!カグヤさんが仲間になったから?

 でもカグヤさん20歳じゃん!本人も合法だって言ってるじゃん!!・・見た目はアレだけども。

 

 ・・話を戻そう。

 

「カグヤのステータスって平均的にはどうなの?」

 

 俺が見たカグヤさんのステータスを、本人に伝えて聞いてみる。

 

「そうですね・・、HP・力・スタミナの数値は高くありません。ですがエルフ族、その中でもダークエルフはMPや魔力の数値が高いので、総合的にみると一般人よりは上でしょう。ただし、魔物を倒してレベルを上げている冒険者などはまた別になります」

 

(ふむ・・俺のステータスはなんか桁がおかしいと思ったが、レベルを上げまくっている冒険者はこれくらいなのかもしれんな。レベル1時点で俺のステータスが高かったのは、ヤクザ神のサービスだろう。魔法が使えない分、肉体を強化しておくとか言ってたし)

 

「種族がエルフなんだけど、ダークエルフじゃないの?」

 

「ダークエルフという種族はありません。エルフから極稀に肌が黒く魔力の強い子供が生まれるのですが、それを便宜上ダークエルフと呼んでいるのです。またダークエルフは忌み子とも呼ばれ、その強すぎる魔力ゆえに災いの象徴として嫌われています。特に人族至上主義のエマージス神聖国では近づく者すらおりません」

 

「ふーん、綺麗な肌なのにね」

 

「そ、そんなことをおっしゃるのはご主人様くらいでしゅ・・」

 

 あ、かんだ。カグヤさん、耳まで真っ赤ですよ。

 

「どうしてエマージス神聖国は人族至上主義なの?」

 

「エマージス神聖国はエマージス教を基にした宗教国家なのですが、何でも神託があったそうですよ。『この世界は人族のものであり、亜人は人族に仕える存在だ』とかなんとか・・。まぁ、信じているのは信者だけです。時々神託があるのですが、どれもエマージス神聖国に都合のいい内容なので・・」

 

 バカばっかりか。

 ヤクザ神がそんなこと言うとは思えないしな。見た目はともかく常識はありそうだったし。

 

「俺、あんまり常識とか知らないから・・これからも色々教えてもらえると助かる」

 

「わかりました。いつでも何でもお聞きください」

 

 そのあとに「優れた能力を持つにもかかわらず常識に疎いとか・・母性本能をくすぐられますね」とかブツブツ言いながら自分の世界にトリップしていたので、シラユキさんと先に上がりました。カグヤさんものぼせる前に上がってくださいね。

 

 

 風呂から上がり、シラユキさんを隣のベッドに寝かせようとしたらコアラのようにしがみついて離れない。やむを得ず一緒のベッドへ。

 遅れて風呂から上がったカグヤさん。当たり前のようにこちらのベッドに入ってくるので追い出そうとしたところ「わたしだけ仲間外れですか・・?」と悲しそうな顔で言われたので、やむを得ず3人一緒に寝ることに。

 両脇からケモミミ幼女とエルフ美少女に抱きつかれ、身動きがとれなくなった。

 

 すでにふたりは寝息をたてているが俺はなかなか眠れそうにない。

 シラユキさんそれは食べ物ではありません、わたしの二の腕です。

 カグヤさんちょいちょい胸をあててくるのはやめてください。

 

(おれ、眠れるかな・・?)

 

 理性と欲望のせめぎあう中、夜は更けていく・・。

 

 



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24. おっさん、暗躍する⑦

 

 

 結局ほとんど眠れませんでした・・。

 眠い目を擦りつつ、美味しい朝食をいただく。

 

「クックック・・・」

 

 今日は今まで仕込んできた事の総決算だ。気合入れていこう!

 

「・・ご主人様、すごい悪い顔してますよ」

 

 カグヤさんに指摘される。

 顔に出ていたか。いかんいかん、感情を表に出すのは三流の商人のする事だ。商人じゃないけど。

 

「くっくっく・・」

 

 シラユキさんも真似してわるい顔をしている。かわいい。

 

 

「カグヤ、今日もシラユキのこと見ててくれるか?」

 

「・・・どれくらいで戻られますか?」

 

「なんとか午前中には終わらせて、お昼までに帰ってくるよ。そしたらすぐに街を出るから、そのつもりでね」

 

「わかりました。全ては御心のままに」

 

 カグヤさんはちょいちょい堅くなるよね。もっとフランクでええんやで?

 シラユキさんは置いていかれるのが不満らしく、俺の手をがじがじ噛んでいる。そんなわるい子はこうだ!抱き上げてくびすじにチューしてやる。ちゅぅーーーー!くすぐったそうにキャッキャ言っている。

 

 ふたりが退屈しないようジェンガを購入。遊び方を説明して渡しておいた。

 

 まずは領主の館に向かう。入り口にいた私兵に案内されて領主のいる部屋へ。

 

「待ちくたびれたお、さっさとボクちんの胡椒をよこすお!」

 

「まずは代金を確認させて頂きます」

 

 用意されていた金を数える。契約書を交わしているが信用出来ないからな。

 

「・・たしかに、白金貨20枚確認いたしました」

 

 バックパックから粒胡椒20kgが入った麻袋を10袋、計200kgを取り出す。

 

「・・マジックバッグ持ちかお?まあいいお、それより胡椒だお!」

 

「問題ありません」

 

 領主の私兵が念入りに確認した後そう告げた。

 

「これで取引完了だお!また儲け話があったら来るといいお!」

 

 バカ領主はニヤニヤ笑っている。またカモにしてやる、そう思っているのだろう。

 

(悪いが、もう会うことは無いだろうよ・・)

 

「・・それでは私はこれで失礼します。大変よい取引をありがとうございました」

 

 俺は館を後にした。

 

 

 その後も急いで用事を済ませていき、最後に獣人嫌いのクソ野郎がいる屋台へとやってきた。ちなみにおっさんは結構根に持つタイプだ。こいつを許すつもりは無い。

 

「お金は用意出来ましたか?」

 

「・・あんたか!ああ何とか金は工面出来た。確認してくれ!」

 

 聞けば屋台を担保に金を借りられたらしい。

 大金貨2枚を受け取る。

 

「・・ではこれを」

 

 麻袋に入った粒胡椒2kgを渡す。

 受け取った男は中を確認した後、こう呟いた。

 

「これで俺も大金持ちだ・・」

 

 欲望に濁りきった目をしている。

 

「・・きっと評判の店になりますよ」

 

 そう言って俺は立ち去った。

 

 

 

==========================

 

 購入品リスト

 

 ・[ジェンガ]  2,000円

 

 合計 2,000円   

 

 




おっさんは根に持つタイプ(´・ω・`)


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25. おっさん、暗躍する⑧

 

「ご主人様~シラユキちゃんひどいんですよ~」

 

 宿に帰るとカグヤさんが泣きついてきた。

 なんでもはじめの内は普通にジェンガで遊んでいたのだが、途中からシラユキさんはジェンガを崩す方に楽しみを見出してしまったらしい。子供あるあるだな。「ゲームにならないんですよー」とカグヤさんが言っていた。

 

「用事は済んだのですか?」

 

「・・ああ、バッチリだ!」

 

 そう言って俺はテーブルの上に、手に入れた金をぶちまけた。

 

「すごい・・こんな大金どうされたのですか!?」

 

 カグヤさんが息をのむ。

 

 全部で白金貨30枚に大金貨2枚、日本円換算約3億とんで200万円相当。

 ・・・そう白金貨()()枚だ。

 

 バカ領主に売りつけた胡椒の代金は白金貨は20枚。それじゃ後の()()枚は・・?

 

 賢明な諸君ならもう既におわかりだろう。

 

 俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 この街に店をかまえる商人5人にそれぞれ20kg白金貨2枚分ずつ、計100kg白金貨10枚分の胡椒を売却した。その際なるべく評判の悪い商人を選んだがこれは自己満足だ。

 

 結果、この街で売りさばいた胡椒は全部で322kgと400g。

 これだけの量が一つの街に集まればどうなるか・・まず間違いなく値崩れを起こすだろう。

 さらに街を出た後この国を出るまで、立ち寄った場所でも可能な限り胡椒を売りさばくつもりだ。

 さて、どこまで値が下がるかな・・楽しみだ。

 

 宿の執事さんに礼を言ってチェックアウトする。そとは快晴、出発するにはぴったりの陽気だ。

 門の所で最初にあった門番に会う。

 

「外に出るのか?」

 

「ええ、この国の聖都に向かおうと思います」

 

 聖都とはエマージス神聖国の首都であり、ここザシールの街から西に馬車で数週間の位置にあるらしい。

 

「歩いていくのか?乗り合い馬車を利用した方がいいんじゃないか?」

 

「歩いてのんびり行こうと思いましてね」

 

「だが、次の街まで結構あるぞ?そんな荷物じゃ野営もまともに・・ああそうか、アイテムバッグ持ちだったな」

 

「ええ、それでは失礼します」

 

 それ以上引き止められる事も無く街を出ることが出来た。西へしばらく進んだ後、大きく迂回して東に向かう。

 聖都に向かうと言ったな?あれは嘘だ。

 一応追っ手がかかった場合に備えて西に行くと見せかけただけだ。

 

 やがて街も見えなくなったあと、俺は立ち止まった。

 ここから東に向かい国境の街まで馬車で6日(徒歩だと3週間位)、一番近い街でも馬車で2日かかるそうだ。

 ・・・・・・しんどい。

 現代っ子なめんな!そんなに歩いてられっか。こっちには小さい子もいるんですよ。

 というわけで、ネットショップを開く。

 

「ふたりともちょっと離れててね」

 

 危なくない様ふたりには離れて貰い、前から目をつけていた物をポチる。

 目の前に光の粒子が集まるようにして、大きな物体が現れる。

 

「・・・ご主人様これはなんですか?」

 

「これはキャンピングカーだ!!」ドヤァ!

 

 説明しよう。

 このキャンピングカーはトイレやシャワー、さらにテレビや冷蔵庫も標準装備している。しかもソーラーパネルを搭載し室内装備のオール電化を実現させた優れものなのだ。

 それなりのお値段だったけどね。

 

 カグヤさんは言葉を失っている。

 シラユキさんは「ほう・・キャンピングカーか」みたいな顔をしている。君これ知らんやろ。

 

「まあ、要は馬のいない馬車みたいなもんだ。これで旅をするのでふたりとも乗ってください」

 

 ドアを開けてふたりを乗せる。

 

「ご主人様、馬がいなければそれはもう馬車ではないと思うのですが・・」

 

 うむ。正論だな。でもちっちゃいことは気にすんな。

 ふたりが乗車したのを確認してドアをロック。

 俺は運転席に座ってエンジンをかける。

 

『ドルウゥゥゥン』

 

「こいつ、動くぞ!」みたいな顔をするシラユキさん。

 

「もはやご主人様に不可能はないのですね」

 

 そう言って、なぜか胸の前で両手を合わせ祈りを捧げるカグヤさん。

 

 

 異世界転移してまだ3日。

 

 かなり濃い3日だった。

 ていうか3日でこれだとこの先いったいどうなるのか。

 

 だが不思議と不安は無い。

 

 そばにいるふたりを見る。

 ケモミミ幼女とダークエルフ美少女、ふたりがこちらを見て微笑んでいる。

 俺も笑みがこぼれる。

 

「さあ、行こうか!」

 

 俺たちの冒険は、今はじまったばかりだ!!

 

 

 

==========================

 

 購入品リスト

 

 ・[ブラックペッパー ホール302kg]  151万円

 ・[麻袋 ラージ×16枚] 6,400円

 ・[ソーラーパネル搭載キャンピングカー

 定員(乗車 / 就寝):6/4人 主な装備:シンク、IHコンロ、電子レンジ、冷蔵庫、テレビ、サブバッテリー、トイレ、シャワー] 2,000万円

 

 合計 2,151万6,400円   残金 7,826万2,700円

 

 現地通貨残高  白金貨31枚 大金貨10枚 金貨7枚 大銀貨1枚 銀貨8枚 大銅貨8枚

 

 




これにて第一章終了となります。第二章はある程度書き溜めてから投稿させていただきます。これからもお付き合い宜しくお願い致します。
壁|ω・`)感想書いてくれてもええんやで?


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閑話. シラユキさんの一日①

三人称、シラユキさん視点です(´・ω・`)


 

 シラユキさんの朝は早い。

 

 朝の4時位だろうか、まだ日の出る前に目を覚ます。もちろん、他に目覚めている者はいない。

 

 起きて、まずダークエルフ女からおっさんを引き離す。

 本当はおっさんと二人で寝たい。だが一人だけ仲間外れは可哀想だとおっさんが言うので、

 やむなく三人で寝ている。ダークエルフ女はおっさんにしがみついて寝ていることが多い。生意気だ。なのでとりあえずおっさんから引き離す。おっさんとダークエルフ女の間に体をねじこみ、ダークエルフ女を足蹴にすると同時におっさんの体を押してゴロンと一回転させる。

 基本的に、おっさんは一回転させた位では目を覚まさない。足蹴にしたダークエルフ女の方も、何やらうなされてはいるが目を覚まさない。都合がいい。

 ダークエルフ女を引き離すことに成功し、満足そうに頷くシラユキさん。ミッションコンプリートである。

 

 次にシラユキさんはまだ寝ているおっさんの懐に潜り込む。するとおっさんは、寝ぼけてギューっと抱きついてくる。ニヤニヤがとまらない。普段はとても頼りになる大人なおっさんがまるで子供のようにしがみついてくるその様は、胸をキュンキュンさせる。これが母性か。

 頭を優しく撫でてやりながら、おっさんの温もりと匂いを堪能する。

 おっさんはとても温かい。これだけ温かければ、冬でも凍えることは無いだろう。そしておっさんは独特の匂いがする。イヤな匂いではない。今まで嗅いだことの無い、なんというかとても安心できる匂いだ。フンフンと匂いを嗅ぐ。常にこの匂いを嗅いでいたいが、起きている時にこれをやるとおっさんは嫌がる。何でも「かれいしゅー」とやらを気にしているようだ。よくわからない。なので寝ている時に思う存分嗅ぐことにしている。

 そうこうしている内に眠気が襲ってきたので、おっさんの温もりと匂いに包まれながらシラユキさんは二度寝する。

 

 それから2時間くらいして外が明るくなってきた頃、シラユキさんは再び目を覚ます。

 またダークエルフ女がおっさんにしがみついているので引き離す。懲りないやつだ。

 おっさんはまだ気持ちよさそうに眠っている。このまま寝かせてあげたいのはやまやまだが、そういう訳にもいかない。なぜならお腹がすいたからだ。

 

「おっしゃーん」

 

 ぺちぺち顔を叩いてみるが起きない。ほっぺにチューしてみよう。

 

『ぶっちゅぅぅぅー』

 

「う・・うぅん・・」

 

 まだ起きない。もうペロペロしてしまおう。

 

『ぺろぺろぺろぺろ』

 

 ちょっと楽しくなってきたシラユキさん。

 

『ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺr』

 

「ふはっ!くすぐったい!!」

 

 残念、起きてしまった。

 

「ちょ、シラユキくすぐったいよ・・お腹すいたの?」

 

「あい!」

 

「ちょっと待ってて。今、朝ごはんつくるから」

 

 そう言っておっさんは朝食の準備に取り掛かった。

 ちなみにダークエルフ女はまだ寝ている。シラユキさんはちょっとイラッとしたので、口と鼻を押さえてやった。

 

「・・・・・・・ぶはっっ!!え・・な・・何?何が!?」

 

 ようやく起きたようだ。何やらわたわたしているが、放置しておっさんの所へ向かう。朝食の手伝いをする為だ。シラユキさんは出来る女なので。どっかの残念エルフとは違うのだ。

 

 今日の朝ごはんは「わしょく」だ。何でもおっさんの故郷の料理らしい。

「わしょく」は、さいきょーだとシラユキさんは思っている。特に「こめ」は素晴らしい。ふっくらツヤツヤ、口に入れると温かくほろりとくずれて、噛めばほのかに広がる穀物の甘み。しかもどんな料理にも合う。おっさんが料理上手ということもあるのだろうがこんな美味しいものを知ってしまったらもう、今までの食事では満足出来なくなってしまった。

 これはもうおっさんに責任をとってもらうしかない。うん、そうしよう。

 将来を想像するシラユキさん。大人になってボンキュッボンなレディへと成長した自分とそのそばに寄り添うおっさん。ニヤニヤがとまらない。

 

 朝食を食べた後は、お勉強タイムだ。

 立派なレディになる為には教養が必要だからだ。

 文字の読み書きと計算を教わっている。おっさんは「きゃんぴんぐかー」の運転で手が放せないので、不本意ではあるがダークエルフ女から教わっている。ダークエルフ女は子供の頃、家の中で本ばかり読んでいたので文字の読み書きや計算が出来るそうだ。生意気だ。

 

 お昼ごはんは「なぽりたん」だ。フォークでくるくる巻いてチュルチュル食べるやつだ。かなりテンションが上がるシラユキさん。何を隠そう「なぽりたん」は、シラユキさんの「好きなものランキング」第3位にランクインしているのだ!

 おっさんが用意してくれた、持ち手のところにウサギさんの模様がついた可愛らしいフォークでくるくると「なぽりたん」を巻いていく。口に入るギリギリの大きさまで巻いた後、かぶりつく。うんまあーい!野菜の甘みと酸味、もちもちした麺の食感・・味の宝石箱やー!!一心不乱にかぶりつき、チュルチュルすする。

 

「・・シラユキ、口のまわりスゴイぞ?」

 

 おっさんが、濡れた布巾で口のまわりをキレイに拭いてくれた。

 それを見ていたダークエルフ女が、口のまわりに「なぽりたん」を塗りたくっている。

 

「ご・・ご主人様。私も口のまわりに・・・」

 

「あ、ほんとだ。ほらこれで拭きな?」

 

 そう言って濡れた布巾を渡すおっさん。

 

「あ・・はい・・・」

 

 顔を真っ赤にして自分で拭くダークエルフ女。ばかめ!ただの行儀わるい人ではないか。わたし?わたしはいいのだ、まだ子供だから。と悪い笑顔のシラユキさん。

 

 



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閑話. シラユキさんの一日②

 

 午後からは自由時間。

 

 最近のシラユキさんは「でぃーぶいでぃー」を鑑賞するのがブームだ。

 中でも、緑の帽子をかぶった背の高い男の人が、毛むくじゃらの生き物と楽しそうに遊んでいるやつが大のお気に入りだ。あまりにもヘビーローテで見ているものだから、おっさんが毛むくじゃらの生き物のぬいぐるみをくれた。これはシラユキさんの宝物になった。

 ダークエルフ女は「まんが」を読んでいる。時々うっとりとした表情で「尊い・・」とか呟いている。ちょっとキモい。

 

 

 今日の晩ごはんは「はんばーぐ」だ。

「はんばーぐ」とは何ぞや?今回が初めてである。期待が高まる。

 

「それじゃシラユキさん、これをかきまぜてください」

 

「!?」

 

 いつもは食器を並べるのが仕事だった為、料理自体に参加するのは初めてだ。我が実力、見せてくれよう。

 おっさんから受け取った手袋をはめて、材料を手でかき混ぜる。

 こう、こうか・・?ぐっちゃぐっちゃとかき混ぜるシラユキさん。

 ほう・・これはなかなか・・。楽しくなってきたシラユキさん、尻尾ふりふり腰をクイックイッしながらかき混ぜる。

 

「それくらいでいいよ。ありがと」

 

 ムフーと満足げなシラユキさん。

 

「それじゃ焼くから、ちょっと離れてね」

 

 おっさんの背後にまわり、脚にしがみつく。顔だけ出して様子をうかがう。『ジュウゥゥー』という心地よい音と共に、肉の焼ける香ばしい匂いが広がる。

「じゅるり」よだれをたらすシラユキさん。だが、これは仕方がない。こんな好い匂いを出されたらどうしようもない。そう、どうしようもないのだ。

 

 次々に焼いていくおっさん。

 焼いた「はんばーぐ」がお皿に積み上がっていく。

 まだかな?もう食べたいな。でもおっさん、食べていいって言ってないな・・。食べたい。こんなにいっぱいあるんだから、一つくらい食べてもいいかな?いやでもおっさんたべていいいってないたべたい。

 気を紛らわすため、おっさんの脚にかぶりつく。はぐはぐ。もちろん手加減はしています。シラユキさんはレディなので。

 

「ちょ、くすぐったい。なんだ?我慢出来なくなっちゃったのか?しょうがないなぁー」

 

 そう言うとおっさんは、「はんばーぐ」を一つお皿にのせて軽く塩コショウをふる。

 

「ひとくちだけだぞー」

 

 熱くないようフーフーしてから食べさせてくれるおっさん。

 

 これは!!!!!

 

 噛んだとたんジュワッと溢れる肉汁!そしてシャクシャクと歯触りの良いタマネギ!ほどよい塩コショウ!

 一部の隙もない。まさに至高、そして究極!!これはもう神!!!

 今まで神など信じてはいなかった・・でも今は違う。神はここにいたのだ!自分の中に揺るぎ無い信仰が芽生えたのを感じる。と同時に何故今までこれを知らなかったのか、自分の無駄なこれまでの人生を悔やむ。

 これが「はんばーぐ」か。

 

「もうすぐ出来るから、お皿並べてくれる?」

 

「あい!」

 

 シラユキさんはお皿を並べながら想いを馳せる。この後あの「はんばーぐ」を心ゆくまで堪能出来る。今日は人生最良の日となるだろう。

 

 

 夕食後シラユキさんは、ソファーで放心していた。

 夕食で出てきた「はんばーぐ」は甘酸っぱいソースがかけられ、ごはんによく合った。塩コショウだけでもあれだけ美味しかった「はんばーぐ」がさらに高みへと登りつめ、付け合せのポテトサラダとコーンスープ・・それだけでは飽き足らずデザートの「ぷりん」まで・・・。ここは天国か?いや、やめよう。これ以上言葉で語るのは野暮ってもんだ。

 おなかだけでなく心まで満たされている。このまま幸せに包まれて眠りたい。ウトウトするシラユキさん。

 

「シラユキー、寝る前にシャワー浴びるよー」

 

 おっさんが呼んでいる。やむをえずシャワーを浴びる。

 きゃんぴんぐかーは湯船が無いので残念だが、悪いことばかりではない。狭いためダークエルフ女が入ってこれず、おっさんとふたりっきりになれる。

 おっさんに全身を洗ってもらう。特に耳と尻尾は念入りに。

 お返しにおっさんの背中を洗ってあげる。

 

「シラユキは背中洗うの上手だなー」

 

 そうであろう。シラユキさんは背中を洗わせたらこの世に並ぶ者無しなのだ。ついでに前も洗ってあげようとするのだが、おっさんは嫌がる。

 

「あ!前は大丈夫です。自分で洗えますので・・」

 

 何故か敬語。まあいい。

 

 シャワーから上がり「どらいやー」で乾かしてもらう。こうすることで毛がフワッフワになる。おっさんは便利な物をたくさん持っているなあ。

 歯も磨く。自分で磨いた後、おっさんが仕上げに磨いてくれる。何故か「仕上げはおかーあさーん」と歌いながら磨いてくれる。おっさんはお母さんではないが。

 

 歯を磨き終わる頃には、起きているのが限界に近づいている。

 おっさんにだっこされてベッドへ。そのまま添い寝してもらう。

 おっさんは毛布の上から優しくポンポンしてくれる。至福である。

 

 

 こうしてシラユキさんの一日は終わる。

 今日も幸せな一日だった。明日もきっと楽しいことがたくさんあるだろう。

 おっさんと一緒にずっとこんな日が続けばいいと心から願う。

 おやすみなさい。

 

 



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第二章
26. おっさん、とどめをさす


 

 エマージス神聖国の東部にある街ザシールを出発してから4日、俺達は隣国ノイタルジーヌ王国に入国した。

 

 途中エマージス神聖国側3箇所の街に立ち寄り、合わせて80kgほど胡椒を売りさばいた。トータルでエマージス神聖国内で売却した胡椒は、400kgちょっと。おかげで、現地通貨は一生生活に困らないぐらいには確保出来た。

 多少のトラブルといえば、エマージス神聖国側の国境に一番近い街を出る際、ダークエルフのカグヤと獣人のシラユキを連れていたため少し疑われた事(奴隷が隣国へ逃亡することがよくあるらしい)か。奴隷登録証を見せても時間がかかりそうだったので、試しに袖の下として胡椒を少量渡したら、すんなり通してくれた。この国は本当に腐っている。

 

 逆にノイタルジーヌ王国側の街に入る際はすんなり通してもらえた。

 カグヤさんの話ではノイタルジーヌ王国は亜人に対する差別が少なく、国境を越えてくる難民にも寛容だとか。もともと戦禍によって故郷を失った人達が集まって出来た国である為、国是として《万人は平等である》を掲げている。もちろん差別がまったく無い訳ではないだろうが、それはどこでも一緒だ。

 当然、人族至上主義を掲げる隣国エマージス神聖国とは仲がよろしくない。

 特にエマージス神聖国側はノイタルジーヌ王国を目の敵にしている。しかし、ノイタルジーヌ王国側はエマージス神聖国を可哀想なものを見る目でいる為、大きな争いはしばらく起きていないらしい。民度の違いが窺い知れる。

 

(永住するにはいいかもしれないな・・)

 

 ここはノイタルジーヌ王国国境の街メーニア。

 この街で、まずやることがある。

 胡椒を売りさばくのだ。今のままでも十分値崩れしてバカ共は大損するだろうが、とどめをさしておきたい。

 

 俺たちは商業ギルドへ向かう。商業ギルドは石造りの大きな建物だった。

 受付で胡椒を大量に売却したいと伝えると、奥からキャリアウーマン風の美魔女が出てきた。

 俺より少し下くらいの年齢だろうか。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。何というか、峰 不○子っぽい。つまりエロい。何故かシラユキさんが俺の左手にガジガジ噛み付いている。いたい。右手は何故かカグヤさんにギリギリ締め上げられている。いたひ。

 

「私はノイタルジーヌ王国商業ギルド、副ギルド長のジュリアと申します。胡椒をお売りになりたいとか?」

 

「はい、そうです。私はオサムと申します。量が多いのでどこか広いスペースの場所はありますか?」

 

「では倉庫に案内しましょう。こちらへどうぞ」

 

 後について倉庫に移動する。

 

「ちなみに胡椒はどちらに?」

 

「実はマジックバッグを持っていまして・・」

 

 そう言って俺は、マジックバッグという体のバックパックから取り出す振りをしてインベントリから大量の胡椒を取り出す。

 

「な、なんですかこれは!!!!!」

 

 ジュリアさんが目をひん剥いて驚いている。

 そりゃそうだ。何せ()t() の粒胡椒だからな。

 

「マジックバッグからこんな大量の物が・・いやそれより、これ全てが胡椒なのですか!?」

 

「確認いただいて構いませんよ?」

 

 念入りに確認するジュリアさん。

 

「ま、間違いありません。全て胡椒です・・」

 

 確認してもまだ信じられないといった様子だ。

 

「こんな大量の胡椒を一体どこで・・?」

 

「その質問にはお答えしかねます」

 

「失礼致しました。商人にとって仕入先は大切な財産です。今の質問はお忘れください」

 

 これが二流の商人なら、どうにかして仕入先を聞き出そうとするだろう。流石は副ギルド長を務めるだけはある。

 

「分かりました。それでは商談に入りましょう」

 

 

「しかしこれだけの量となると・・だいぶ値が下がってしまいますがよろしいでしょうか」

 

「ええ、もちろんそれは織り込み済みです。ちなみにこの辺りでの相場はどれくらいなのでしょうか」

 

「そうですね・・この胡椒を見る前でしたら、200gあたり金貨4枚といった所なのですが・・」

 

 概ね予想通りの金額だ。

 

「これだけの量だと三分の一・・いや四分の一の金貨1枚といった所でしょうか・・」

 

 これも予想通り。

 

「ではそのさらに五分の一の大銀貨2枚でどうでしょうか?」

 

「大銀貨2・・ええぇっ!?」

 

 ジュリアさんが再び驚く。

 それはそうだろう。値段を吊り上げるならまだしも、売り手が()()()()()()()()()()()なんて普通は考えられない。

 

「・・訳をお聞きしても?」

 

 すぐに驚きから立ち直ったジュリアさんが、尋ねてくる。

 

「理由は色々ありますが・・私の仕入れ先では胡椒はそれほど高価ではありません。それに私はマジックバックを持っているので運送の手間も少ない。この値段でも十分儲けが出るのですよ」

 

「それだけですか?」

 

「・・いいえ。売却にあたり条件をつけさせていただきたい。この国だけでなくエマージス神聖国以外の周辺各国にも売却すること。またその際に値段を吊り上げないこと」

 

「何故、エマージス神聖国に売却してはいけないのですか?」

 

「正確には売却してはいけないのではなく、おそらく売却出来ないだろうからです」

 

「・・どういうことです?」

 

「胡椒がだぶついているからです。ここに来る前、エマージス神聖国で400kgほど胡椒を売却しました。200gあたり金貨2枚で」

 

「な!?」

 

「ちょっと嫌なことがあったものでね」

 

 俺の言葉にチラリとカグヤとシラユキを見るジュリアさん。何となく察したのだろう。

 

「ふふ・・そういうことですか」

 

 ニヤリと悪い笑みを浮かべるジュリアさん。

 

「私もあの国はあまり好きになれなくて・・特にザシールの街のバカ領主は大っ嫌いなんですよ。人のことをジロジロとイヤラシイ目で見てくるし。自分がまわりから嫌われてることに気づかないんですかね?」

 

 どうやらジュリアさんも色々あったようだ。俺もあいつは大っ嫌いだ。

 

「あ、ちなみにバカ領主には200kg白金貨20枚分売りつけました」

 

「あっはっはっは!・・すみません、あまりにも可笑しくて・・」

 

「喜んでいただけてなによりです」

 

「あなたも悪い人ですね・・」

 

「何をおっしゃる。私は相場より安い値段で売って差し上げただけですよ?・・お互い合意の上でね」

 

「確かにあなたに非はありません。たとえこの後、大きく値崩れを起こしたとしてもね」

 

「そうでしょうとも」

 

 俺は大きく頷いた。

 

「胡椒は喜んで買い取らせていただきます。それと、後のことは私ことジュリアにお任せいただけませんか?けっして悪いようにはいたしません」

 

 ギラリとジュリアさんの目が光る。

 

「本来であれば値崩れを起こす前に少しでも高く売り抜けるのが商人なのでしょうが、それではつまらない。商人たちには安価で売ることを徹底させます。そうですね・・200gあたり大銀貨4枚といったところでしょうか。大銀貨2枚で仕入れて4枚で売れば十分利益が出ます。と同時に、胡椒がだぶついている情報を流します。そうすれば値を吊り上げるのも難しいでしょうから」

 

「素晴らしい。それでは後のことはジュリアさんにお任せします」

 

「ありがとうございます」

 

 胡椒の代金を受け取って、俺達は商業ギルドを後にした。

 

 

 後日談になるが、この後ジュリアさんは電光石火の勢いで胡椒を各地で安価に売り捌ききったそうだ。

 程なく値崩れが起き、欲に目が眩んだバカな人達は大損した模様。

 ちなみにザシールの街のバカ領主は逮捕されたとか。

 何でも胡椒を購入する為に、公金に手をつけていたらしい。胡椒を売却して戻すつもりだったが値崩れを起こした為、戻すことが出来ずに発覚。逮捕されたのち鉱山送りになったそうだ。ご愁傷様である。

 

 



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27. おっさん、これからの方針を決める

 

 ノイタルジーヌ王国国境の街メーニアを出発した俺たちは、キャンピングカーで南に向かっている。

 

 俺は運転席に、カグヤさんとシラユキさんは後部座席にいる。

 以前、移動中に退屈しないよう子供向けのDVDと少女漫画を購入したところ、ふたりともハマってしまったみたいだ。購入した後にふたりは日本語がわからないことに気づいたが、カグヤさんいわく「DVDは絵が動くし、漫画はキレイな絵を見て想像するだけでも十分楽しめる」との事。

 シラユキさんは「で○るかな」に夢中だ。あまりにも気に入ったようなので、ゴ○太くんのぬいぐるみを買ってあげたところ大喜びしていた。最近は常にだっこしていて、寝る時も離さない。おっさんちょっと嫉妬しちゃう。

 カグヤさんは「高○ゆん」先生の作品に傾倒している模様。画集を買ってあげたら涙を流して喜んでいた。おっさん、少女漫画のことはよく分からんが喜んでもらえたなら何よりである。ただ、ときどき画集をニヤニヤ眺めながら「尊い・・」と呟くのはやめて欲しいかも。最近は日本語の勉強まで始めた。そんなにか。

 

 街道から少し離れた所に車を停めて、後部座席に移動するおっさん。

 

「はい、ちゅうもーく」

 

 日本語のひらがなドリルで勉強中のカグヤさんと、DVDを見ているシラユキさんに声をかける。

 

「どうしました?」

 

「う?」

 

 集まるふたり。

 

「これからの方針を説明したいと思います。まず第一にみんなのレベルアップを考えています!」

 

「レベルアップですか?」

 

「はい、そうです。いつ何が起こるか分からないので、身を守れるようある程度の強さは必要だと思うのです」

 

 口には出さないが、もし万が一おっさんがいなくなっても生きていけるようにはしてあげたい。

 

「・・たしかにご主人様の言う通りです。いつまでもご主人様に甘えている訳にはいきません。むしろ我々がご主人様を守らなければ」

 

「あい!」

 

 やる気満々のふたり。

 

「第二に魔石の確保です」

 

「そういえば、ご主人様の能力には魔石が必要なんですよね」

 

 ふたりには、ネットショップで買い物するのに魔石が必要になることは説明してある。

 

「その2点をふまえて、迷宮都市ソーワに向かい冒険者として活動しようと思います」

 

 迷宮でレベルアップ出来て魔石も手に入り、一石二鳥だ。

 

「私はご主人様が向かわれるならどこへでもお供します」

 

「あい!」

 

 カグヤさんもシラユキさんも異存はないようだ。

 

「そして第三に、ふたりを奴隷から解放しようと思います」

 

 人族至上主義のエマージス神聖国ではトラブルを避けるため奴隷身分のままだったが、ノイタルジーヌ王国に入った今となってはその必要も無いだろう。

 

「え・・?」

 

 とたんに不安そうな顔になるふたり。

 

「・・至らない部分がありましたら直します。何でもしますので、どうか捨てないでくださぃぃ」

 

 最後の方は涙で声がかすれていた。シラユキさんも目に涙を溜めて俺の脚にしがみついている。

 

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

 てっきり喜んでもらえると思っていたのに、予想外の反応だったので慌てた。

 とりあえず、ふたりを落ち着かせる。

 

「奴隷から解放するといっても急に放り出すわけじゃないよ。ふたりがきちんと独り立ち出来るようになるまで、ちゃんと面倒みるから」

 

「私は終生ご主人様にお仕えしたいのです」

 

 涙ながらに訴えるカグヤとシラユキ。

 

「・・あー、わかったよ。それじゃとりあえず、使用人として仕えてもらおうかな。」

 

「ありがとうございます・・」

 

 ホッとした表情のふたり。

 おっさんの説明が足らなかったばかりに不安にさせてしまった。マジすまん。

 

 こうしてふたりは、奴隷あらため使用人となった。

 

 

 ====================

 

 購入品リスト

 

 ・[完全保存版 でき○かな ベスト30選 DVD-BOX] 1万5,000円

 ・[ひつじの○ョーン DVD-BOX] 4,000円

 ・[となりのトト○DVD] 5,000円

 ・[ゴ○太くん ぬいぐるみ] 5,000円

 ・[アー○アン 完結版 文庫版 コミック 全5巻完結セット] 3,000円

 ・[LOVE○ESS コミック 1-13巻セット] 6,500円

 ・[源○ コミック 全8巻完結セット]   4,000円

 ・[高河○んイラスト集]   2,500円

 ・[谷○史子傑作選] 700円

 ・[○閑倶楽部 文庫版 コミック 1-11巻セット] 8,000円

 ・[はじ○の一歩 コミック 1-123巻セット] 5万7,000円

 ・[バ○道 完全版 コミック 1-17巻セット] 1万9,000円

 ・[はじめてのひらがなドリル] 1,000円

 ・[たのしいカタカナドリル] 1,000円

 

 

 合計 13万1,700円

 

 




伏せ字ばっかですね(´・ω・`)


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28. おっさん、装備を整える

 

「とりあえず装備を整えよう。カグヤは戦闘経験はあるか?」

 

「魔物との戦闘経験は、ほぼありません。ただ、狩りはしたことがありますので弓は使えます」

 

「魔法はどうだ?」

 

「威力が低く、牽制程度にしか使えません」

 

 詳しく聞くと魔法で魔物を倒せるような人は極稀であるらしい。才能があり、なおかつ専門的な訓練を積まないと物にならないため、冒険者にはほぼ魔法使いがいない。強力な魔法が使えるなら王宮や軍で引っ張りだこだそうだ。

 カグヤさんは、才能はあるがレベルが低く経験も少ないため強い魔法が使えないのだろう。これからしっかり鍛えていこう。

 

「それじゃ、武器は弓でいいな」

 

 ネットショップを開いて物色する。

 

 さんざん悩んだあげく、[リカーブボウ] の初心者モデルにした。

 アーチェリーで使われる弓だ。コンパウンドボウにしようかとも思ったが、あの滑車は目立ちすぎる。リカーブボウなら余計な物を付けなければそれほど目立たないだろうからな。

 初心者モデルにしたのは、カグヤさんの力では上級者モデルの強い弓は引けないと思われるからだ。どんなに威力が高くても使えなければ意味が無い。レベルアップして筋力もアップしてから強い弓に換えればいいだろう。矢を120本と殺傷力の高そうな鏃120個、と矢筒も購入。

 念のため近接戦闘用として、ハンドガード付きの小振りなマシェットも購入した。

 

 シラユキさんはどうしようか?体のサイズ的に普通の弓はむりだろう。かといって子供用の小さな弓では威力が低すぎる。銃は危なくて使わせたくないし。

 仕方なく [狩猟用 組み立て式槍] を購入した。瀕死状態の魔物の止めだけ刺させればいいだろう。

 

 次は服装だ。現在ふたりは、以前買ったメイド服を着ている。毎日着ているので、急遽買い足してそれぞれ3着ずつ所有していたりする。だがさすがにメイド服で戦闘は厳しいだろう・・スカートの長いクラシックタイプだし。

 ということで、それぞれにタクティカルウェアの上下を2セットずつとタクティカルブーツを購入。その上から目立たないローブを着る予定。

 ふたりはこんなもんでいいかな?そもそもそんなに危ない目に合わせるつもりはないですし。

 

 それじゃ、ここからはおっさんのターン。

 

 まずは武器だ。

 現在ハードボーラーをレッグホルスターに差している。・・が、はっきり言って邪魔だったりする。7インチのロングバレルやし。いや、カッコいいんだけどね。

 という訳で、もっとコンパクトなのにしようと思います。

[ワルサーP99] きみに決めた!

 説明しよう。ワルサーP99とは、ドイツの銃器メーカーであるワルサー社が1996年に開発した自動拳銃である。かの有名なジェームズ・ボンドも使用した銃だ。にも関わらず、なぜかあまり人気が無い。Why?何故だ!?おっさんはこんなに好きなのに。何故かおっさんの好きな物は一般的では無かったりする・・悲しい。

 まあいい。サイレンサーに弾100発と予備マガジン4つにレッグホルスターも購入。ホルスターはサイレンサーを付けたままでもいけるやつだ。

 

 ハンドガンだけでは不安なのでアサルトライフルも購入しよう。[FN SCAR-L] だ。

 この銃は、FNハースタル社がアメリカ特殊作戦軍向けに開発したアサルトライフルである。SCAR-L(Light)は5.56×45mm NATO弾仕様モデルだ。結構有名だよね。こちらはスコープと弾1,000発、予備マガジン20本購入。何かあった時、いちいちマガジンに弾詰めてらんないからね。あらかじめマガジンに弾を詰めてインベントリに入れておきます。

 そういえば、ベヒモス戦で使用した [バレットM95] がインベントリに入ったままだったので、こちらは弾のみ購入。ついでにサバイバルナイフとスローイングナイフも購入した。

 

 次に服装だ。

 インベントリに入れていたタクティカルウェア上下とベストは返り血が落ちないので、新しく購入することにした。追加でレッグバッグも。これはバックパックを持ち歩くのが面倒だからだ。これからはこのレッグバッグがマジックバッグという体でいこうと思う。

 

 こんなもんかな?おっとそうだ忘れるところだった、ふたりの腕時計も購入しなければ。

 この世界では時計は一般的ではないらしい(一応砂時計は見かけたが)。

 カグヤさんの話だと、みんな教会の鐘で時間を確認しているとの事。

 1日を12の時刻に分けていて、1の刻・2の刻・3の刻と進んでいき、昼を6の刻とするそうだ。ひとつの刻あたり2時間だな。教会の鐘は3の刻(地球時間で午前6時)から9の刻(地球時間で午後6時)まで、刻の数と同じ数の鐘を鳴らすそうだ。とりあえず刻の数に2をかければ地球時間になると思えばいい。

 ちなみに1日は24時間で問題なさそうだ。地球から持ってきた時計で確認したからな。

 カタログ見てたら俺も欲しくなったので、お揃いで3つ購入したった。

 

 

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 購入品リスト

 

 ・[リカーブボウ 21ポンド ブラック 女性 初心者用] 3万円

 ・[31インチ矢 ブロードヘッド用 12パック×10] 3万4,000円

 ・[アローヘッド 鏃 6本入り×10] 1万5,000円

 ・[屋外 矢筒 アローホルダー ベルトバッグ] 4,000円

 ・[ジャングルマシェットS ソー ハンドガード付き] 5,000円

 ・[狩猟用 組み立て式槍] 6万円

 ・[タクティカルウェア上下 レディース×2] 8万円

 ・[タクティカルウェア上下 キッズ×2] 8万円

 ・[タクティカルブーツ レディース] 2万円

 ・[タクティカルブーツ キッズ] 2万円

 ・[ワルサーP99サイレンサー付き] 18万円

 ・[9×19mmパラベラム弾×100] 5,000円

 ・[予備マガジン×4] 2万円

 ・[レッグホルスター] 2万円

 ・[FN SCAR-L スコープ付き] 40万円

 ・[5.56×45mm NATO弾×1,000] 10万円

 ・[予備マガジン×20] 10万円

 ・[12.7×99mm NATO弾×10] 8,000円

 ・[サバイバルナイフ] 3万円

 ・[スローイングナイフ 小 3本セット×10] 5万円

 ・[サバイバルナイフ] 3万円

 ・[タクティカルウェア上下×2] 8万円

 ・[タクティカルベスト] 2万円

 ・[ミリタリー レッグ バッグ] 6,000円

 ・[ミリタリー レディース ウォッチ カーキ] 2万5,000円

 ・[ミリタリー キッズ ウォッチ カーキ] 2万5,000円

 ・[ミリタリー メンズ ウォッチ カーキ] 2万5,000円

 

 

 合計 147万2,000円   

 

 



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29. おっさん、異世界料理人

 

「さてと・・晩ごはん作りますか~」

 

 日も暮れた為キャンピングカーを街道から少し離れた所に停め、キッチンに立つ俺。「ごはん」というフレーズに反応して脚にしがみつくシラユキさん。よだれたれてますよ?

 

「今日はハンバーグを作ります!」

 

「はんばーぐ!?」

 

 シラユキさんはキラキラした目でこちらを見上げている。

 

「お手伝いします。ご主人様」

 

「それじゃ、つけあわせのポテトサラダ作ってもらおうかな」

 

 カグヤさんに指示を出す。何気に料理上手だったりする。

 

 基本的に食事はおっさんが作っている。

 キャンピングカーで移動を始めてから地球の料理を出すようになったのだが、カグヤさんとシラユキさんはそれがいたくお気に召したらしい。以前立ち寄った街で食事をしようとした所、明らかにがっかりした顔をされた。というかシラユキさんにいたっては、まるでこの世の終わりが来たような絶望感あふれる表情をしたあと地面にうずくまって動かなくなった。仕方なくだっこしてキャンピングカーに連れ帰って、食事にしたのはいい思い出だ。

 

 という訳で、今日の晩御飯は「ハンバーグ」と「ポテトサラダ」を作ろう。

 すでに材料はネットショップで購入済だ。

 ポテトサラダはカグヤさんに任せよう。おっさんとシラユキさんはハンバーグを作ります。

 

 ボウルに合挽き肉4kgを入れます。量がかなり多いですが、余った分は明日の朝パンに挟んで食べるのと何かあった時用にインベントリに入れておきます。インベントリまじ便利。

 次に大量の刻んだタマネギを加えます。一般的には炒めたタマネギを使うみたいですが、おっさんは生のタマネギを使います。そうすると食べた時にシャクシャクとした食感がとてもいい感じなのです。あまり入れ過ぎると崩れやすくなりますが。

 ちなみに獣人はタマネギとか大丈夫なのか以前カグヤさんに聞いたことがあるが、大丈夫との事。獣人といってもあくまで人の為、人が食べられる物なら問題無いようだ。おそらく進化の過程で適応したのだろうね。

 そして卵、生パン粉、塩コショウを加え、こねていきます。ここでシラユキさんの出番です。調理用のビニール手袋をつけてあげます。

 

「それじゃシラユキさん、これをかきまぜてください」

 

「!?」

 

 自分も料理に参加できると思っていなかったシラユキさん、おっかなびっくり挽き肉を混ぜていきます。「こう?こうでいいの!?」といった感じでこちらをチラチラ見るシラユキさん。おっさんが頷く、とニパァーと満面の笑顔で挽き肉をかき混ぜていきます。子供ってこういうの好きだよね。

 尻尾フリフリ、何故か腰をクイックイッ揺らしながらかき混ぜるシラユキさん。可愛い。

 

 

「それじゃ焼くから、ちょっと離れてね」

 

 火傷するといけないので、あらかじめシラユキさんに注意する。シラユキさんはおっさんの背後にまわり脚にしがみつき、顔だけ出して様子をうかがっている。

 

『ジュウゥゥー』

 

 量が多いのでガンガン焼いていく。途中シラユキさんが我慢しきれなさそうだったので、一口味見させた。目を丸くして固まっていた。口に合わなかったかな?と思ったが、尻尾が今まで見たこともないスピードでブンブン振れていたのでたぶん大丈夫だろう。俺も一口味見して、カグヤさんにも一口あげた。

 

 

 大量のハンバーグを焼き終わり、次はソースだ。

 フライパンに残った肉汁にケチャップととんかつソースを合わせ、砂糖を少々加える。

 他の家ではどうか知らないが、おっさんの家ではハンバーグソースといえばこれだった。この甘酸っぱいソースがまた肉とタマネギに合うのだ。

 

 カグヤさんが作ってくれていたポテトサラダも出来たみたい。こちらは茹でたジャガイモを潰し、同じく茹でたミックスベジタブルを加え塩コショウとマヨネーズで味を整えたものだ。カグヤさんは一度教えた事は大抵出来てしまう。見た目だけでなく中身もスペックが高いんだなぁ・・時々残念だけど。

 

 これだけだと寂しいのでコーンスープも用意する。ネットショップで粒入りコーンポタージュを購入し、鍋で温める。

 あとはデザートか。再びネットショップで プリンを購入。ちょっとお高いやつを買ってみた。6個で3,000円。大丈夫!金ならある。わっはっは!

 ちょうどご飯も炊けたみたいだ。

 それじゃ食べますか。

 

「いただきまーす」

 

「いただきます」

 

「たーきまーしゅ」

 

 最近、ふたりも真似して「いただきます」「ごちそうさまでした」を言うようになった。食べ物に感謝するのは良いことだと思う。

 

 ハンバーグうまー。溢れる肉汁、シャクシャクしたタマネギに甘酸っぱいソースがよく合う。

 シラユキさんは口のまわりの汚れを気にもせず、ハンバーグを口に詰め込んでいる。

 

「まだあるから、よく噛んで食べるんだよー」

 

 無言でコクコクうなずくシラユキさん。

 一方カグヤさんは、上品に食べている。テーブルマナーもしっかりしている。もしかしたらカグヤさんは、元は良い所のお嬢様だったのかも・・こちらから聞き出そうとは思わないが。いずれ自分から話してくれるだろう。でもお昼にナポリタンを食べた時は口のまわりベトベトだったな?あれは何だったのだろう。

 

 締めはデザートのプリンだ。お高いだけあって、まろやかで濃厚だ。

 カグヤさんがとても喜んでいる。女の子は甘いもの好きだもんね。

 シラユキさんは何故か悟りを開いたような穏やかな表情をしている。どうした!?

 

 食後、シラユキさんがウトウトし始めたので急ぎシャワーに入れる。

 カグヤさんも一緒に入りたそうにこちらを見ているが、気づかないふりをする。シラユキさんは幼いからまだいいが、カグヤさんはさすがに目のやり場に困る。おっさんのおっさんが大変なことになってしまう。そもそもキャンピングカーのシャワーは狭いので、3人は厳しいのだ。

 

 シラユキさんを洗う。念入りに洗うようになったので、最近、毛艶が良くなってきた。これでまた一歩、もふもふ帝国の野望へと近づいた。

 シラユキさんもお返しとばかりに、おっさんの背中を洗ってくれる。娘がいたらこんな感じなのだろうか・・ほっこりした気分になる。

 

「あ!前は大丈夫です。自分で洗えますので・・」

 

 シラユキさんはキョトンとしている。

 あぶないあぶない・・危うく事案が発生するところでした。ア○ネス怖い。

 

 シャワーからあがりシラユキさんにドライヤーをかける。フワッフワになる。

 お次は歯磨きだ。まずは自分で磨かせる。その後、仕上げにおっさんが磨いてやる。仕上げはおかーあさーん。おっさんはお母さんではないが。

 

 カグヤさんもシャワーからあがったみたいだ。

 

「・・シャワー浴びてきました」

 

 カグヤさんはシャワーが済むと必ずおっさんに報告してきます・・熱っぽい目で。

 やめてくださいそんなめでみないでくださいおっさんのりせいがもちません。

 

 逃げるようにシラユキさんを抱っこしてベッドへ。

 添い寝して毛布の上からポンポンする。シラユキさんは寝つきがよく、すぐに眠ってしまう。最近は夜泣きも無くなった。本当に良かった。いっぱい寝て、元気に大きく育ってください。

 

「・・失礼します」

 

 カグヤさんがベッドに入ってくる。距離が近い。おっさんはシラユキさんの方を向いているが、背中にぴっとりくっついてくる。

 

「カグヤさん・・ちょっと近すぎません・・?」

 

「ご迷惑ですか・・?」

 

「い、いや・・迷惑ではありませんが・・」

 

「・・・よかった」

 

 ぎゅうっと背中から抱きついてくるカグヤさん。これどうしたらいいのん!?おっさんのおっさんが大変なことになっているのですが・・!!

 こっちの世界に来てから自家発電もままならないというのに。かといって無理やり引き剥がして傷つける訳にもいかない。どうしよう、このままではヤバい。気を紛らわせなければ・・。背中に抱きついているのはガンバ○ルーヤのよ○こ、背中に抱きついているのはガンバ○ルーヤのよ○こ・・何とか自分に暗示をかける。ちょっと落ち着いてきた。ありがとう、よしこ。

 

 

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 購入品リスト

 

 ・[国産 牛豚合挽きミンチ 約4kg(500g×8パック) ] 5,000円

 ・[タマネギ 5kg] 2,000円

 ・[卵1パック] 300円

 ・[生パン粉 1kg] 1,000円

 ・[味付け塩コショウ 250g] 600円

 ・[調理用ビニール手袋 キッズ] 1,000円

 ・[キャノーラ油 1kg] 400円

 ・[トマトケチャップ 500g×2] 600円

 ・[とんかつソース 500ml×2] 600円

 ・[三温糖 1kg] 300円

 ・[男爵芋 新じゃが 5kg] 1,500円

 ・[冷凍ミックスベジタブル 1kg] 500円

 ・[マヨネーズ カロリーハーフ 300g×2] 500円

 ・[コーンクリームポタージュ粒入り 900g×2] 800円

 ・[濃厚なめらかプリン 6個入り] 3,000円

 

 

 合計 1万8,100円   

 

 

 



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