冒険家ルフィ (くわばら)
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プロローグ

 

とある少年は憧れを持った。

 

海賊王ゴール・D ・ロジャーが残した伝記に心揺さぶられたのだ。ただし、彼は金銀財宝になど興味はなく、ただただ純粋にかの海賊王が海を渡り、旅をしてきたその未知なる大陸へと自分も来訪したいという想いだけが日が経つにつれて強まっていった。

 

そして、そのための準備も今日に到達するまでに、逞しい青年と呼べるくらいに成長するまでに終えていた。ゴムのように手足は伸ばせなくとも、その拳は彼の祖父のように山河を砕き、その蹴りは空海を割るほどにまで鍛え抜かれている。

 

全ては世界を旅して回る際、ひとつなぎの財宝(ワンピース)などという存在するかも定かではないものに魅了されて海賊になった愚かな者達に襲われた時の自衛するための手段として。

 

そんな彼は目の前で地に膝をつきながら『正義』の名を背負う老兵から荒っぽく叱り飛ばされていた。

 

 

「ルフィ、お前は立派な海兵になるんじゃ!海賊王になんてならせんぞッ!!!!」

 

「ちげーよ、じいちゃん!おれは海賊王になんかならねえ!おれは————」

 

 

青年は両腕を広げ、己が夢を声高らかに叫んだ。

 

 

()()()に、おれはなるッ!!!!」

 

「冒険王?えぇ〜〜〜〜〜〜〜……………いいよ」

 

『いいのかよ!!!?』

 

 

船出しようとする青年を見送りにきた村の者たちは彼の祖父であり、海兵で英雄として讃えられているモンキー・D ・ガープのテキトーさに総ツッコミを浴びせていた。

 

当の本人は鼻の穴に指を突っ込んで、知らん顔をしている。青年はそんな祖父の有様に身震いするほどの羞恥心を覚えていた。

 

 

「それじゃあ、おれはもういってくるよ!皆には冒険してきた感想いっぱい聞かせてやるかんなァ!!!!」

 

「海賊にならんのならええわい!しっかり気張れよルフィ!!!!」

 

「怪我や病気には気をつけるのよ、ルフィ!!!!」

 

「おう!んじゃあな〜〜〜〜ッ!!!!」

 

 

ブンブンと皆の姿が見えなくなるまで青年————モンキー・D・ルフィは村の者達に向かって手を振り続けるのだった。

 

そんな青年の無邪気な様子を一瞥したガープは、海賊王の資質を持つ彼がこれからどんな苦難が待ち受けていようとも海賊にだけはならないでくれと心の中で何度も願うのだった。フリではない、マジである。

 

 

(頼むから海賊なんぞになって海軍に攻め込んできたりせんでくれ……もうわしよりも強いおめーを止められる奴はそうそうおらんからな……!)

 

 

海軍の英雄と謳われた老兵はルフィという青年が海賊になれば海軍の死期が来ると同時に、世界政府も天竜人も何もかもが粉砕される未来を想像し、身震いするのだった。

 

 

 

 

 




ルフィ。

ゴムゴムの実は食べていない。というか悪魔の実を食ったら泳げなくなるので、とある赤髪の男が戦利品として持って帰ってきたゴムゴムの実を見ても食後のデザートとして食べなかった。

むしろ他の悪魔の実がどんなものか知るために村で色々と知識を高めたり、研究していたりした。ヤミヤミの実のような悪魔の実の能力を無効化するものやグラグラの実のような空間を歪ませる悪魔の実があることも確認済み。

他にも原作より海軍の英雄との修行や接する時間が長かったことで海軍の存在を知っており、三大将の能力やその更に上の元帥の存在や、世界政府、天竜人、七武海、四皇、と原作では知らなかったことを先に予習している。

他にも航海するにあたって必要な知識や技術はすでに習得済み。芸術性は相変わらずゼロなので絵は下手くそ。

普通に鍛えた。覇気は全部使える。全盛期のガープ以上。ゴムゴムの実の能力がない代わりに身体能力が桁外れ。


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リア充爆発しろ(お幸せに!!!!)!!!!泥棒猫襲来!!!?

 ◇

 

「普通に小舟で海に出ちまったけど、嵐が来たら吹き飛んじゃったからなァ〜〜〜〜、まぁおじいちゃんから六式教わってたから問題ねェけどさ!」

 

 

 雲ひとつない航海日和。少し前まで嵐が巻き起こっていたなどとは信じられないほど穏やかな空模様だ。しかし、ルフィは嵐に巻き込まれて命と五体だけはなんとか守ったものの、彼が乗ってきた小舟は海の藻屑となってしまった。

 

 彼自身、小舟で海を渡れるとは思ってなかったのでこうなる日も来ることは予想できていたのだが、まさかこうも早く自らの祖父に教わった海軍体技である『六式』を使うことになるとは思ってもみなかった。

 

 大気を踏みしめ、空気を足場にし、海面スレスレを跳躍し続けながら海をスイスイと渡っていくルフィ。その途中、海面を凍らせながら自転車で移動していく男と遭遇したものの、別に知り合いでもなかったので会釈だけして通り過ぎていった。

 

 そして、数日かけて背負っていたリュックサックの中にある食料を計算通りに消費しつつ、ルフィは漸く島へと上陸した。街中をキョロキョロと見渡しながら歩けば、何故か町の者たちが道の端で膝を折って座り、頭を深く下げている。ルフィが不思議そうにしていると、そこへいかにも七光りの息子といった感じのスーツ姿の男がやってきた。

 

 

「おい、お前。なんで俺に向かって礼してねぇんだ?親父に言うぞ?」

 

「ん?そうか、頭下げりゃいいのか?そりゃ悪かったな」

 

 

 ぺこりと頭を下げ、そのままその男の横を通り過ぎていこうとしたルフィだったが、側にいた海兵に腕を掴まれる。

 

 

「おい、貴様!この方をどなたと心得る!あの海軍大佐、モーガn————」

 

「知らん————退け」

 

 

 力で圧倒するのは簡単だと理解したルフィだったが、同時に力で押さえつけるやり方はこの場合適していないとも分かった。だからルフィは軽くその海兵を威圧した。威圧し、自らの威光を叩きつけた。

 

 覇気。ルフィが有する人の上に立つ王の資質である『覇王色』と呼ばれるものだ。ルフィの腕を掴んだ海兵はそれを間近で食らい、泡を吹いて前のめりに倒れていく。

 

 

「な、何しやがったてめぇ……!」

 

「見りゃ分かるだろ?こいつが勝手に倒れただけだ」

 

 

 一歩退きながら恐れ戦くスーツの男にそう言い残し、ルフィはその場を後にした。背後からその男の命令と共に何発か飛んでくる弾丸があったものの、そんなものに当たってやるほどルフィはお人好しではないので『見聞色』という未来すらも見通す覇気で最小限の動きで躱しながらその歩みを止めることはなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

「ゾロ、あーん」

 

「くいな、あーん」

 

「おれにもあーん」

 

『誰だ(よ)テメェ(貴方)は!!!?』

 

 

 

 ルフィは三本の刀を腰に差す緑髪の男と、露出は少ないもののそのスタイルの良さが服の上からでも分かるショートカットの女剣士が交互にパフェを食べさせ合う姿を見て、腹の虫を鳴かせていた彼も思わず口を大きく開けた。当然、パフェは貰えず、返ってきたのは目をひん剥く二人からのツッコミであった。

 

 

「おれ、ルフィ。おまえら、カップルか?爆発しろ」

 

「なんで爆発しなきゃならねェんだよ!?そんなことしたらくいなと世界最強の剣豪の座を争えなくなるじゃねェか!!!!」

 

「ゾロ……!」

 

 

 何やら感激した様子でゾロという男をうっとりとした眼差しで見つめるくいなを名乗る女剣士。ルフィは無性に腹が立ったが、修行で鍛えた強靭な精神力で手を出すのを必死に我慢する。

 

 そして、彼はこの時理解した。自分の祖父が海軍でイチャイチャするのを見て抱いた感情、『リア充爆発しろ』だということを。

 

 

「世界最強の剣豪ねェ……たしか『鷹の目』ジュラキュール・ミホークだっけか?」

 

「へェ……!おまえ、鷹の目のこと知ってんのか?」

 

「いや、まったく。じいちゃんが言ってたんだ。仕事上、よく会うって」

 

「仕事上ってなんだよ……」

 

 

 海軍に属することで海賊行為を認められている七武海に与しているのだから当然である。ルフィの祖父は海軍で英雄的存在なのだから。しかしそんなことなど知る由もないゾロとくいなはそれぞれルフィの発言に首を傾げ、呆れていた。

 

 

「まァ、とにかく末永く爆発しろ」

 

『するかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ〜〜〜〜ッ!!!!』

 

 

 ゾロとくいなはすでに自分達に背を向けているルフィへと再び目をこれでもかと見開きながらツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

「ハァハァ……そこの人、助けてください……私を助けてくれたら……ハァ……色々といいことをしてあげますから……ハァハァ……!」

 

 

 頬を朱に染め、色っぽい顔で空中を跳躍するように海上を移動していたルフィへと助けを求める橙色の髪をしたショートカットの美少女。ちらりと未成熟ながらも年不相応に育った谷間を見せつけ、ルフィを誘惑しようと試みる。

 

 しかし、冒険以外は眼中にはないルフィにそんなものが通用するはずもない。そもそもルフィには人が嘘をついているかどうか正確に判断する方法があるので無意味である。

 

 

「いらねェ。それにおまえ、本当は何ともねェんだろ?」

 

「うぐっ……!ど、どうして私が何ともないって分かったのよ……!」

 

「それをおまえに教える義理はねェ、泥棒猫のナミ」

 

 

 ルフィに正体を言い当てられ、目を僅かに見開くナミという少女。途端に顔色を変え、不快そうに歪めると、ルフィを上目遣いで睨みつける。

 

 

「……アンタ、どうやって私のことを知ったの?」

 

「さっきも言ったけど、教える義理はねェ。取り敢えずおまえ、さっさとここから離れたほうがいいぞ。そろそろ嵐が来る」

 

「んなっ……!?」

 

 

 何故かルフィの海上の天候の予知に驚きを露わにし、雷に打たれたかのようにショックを受けるナミ。その反応はまるで自分の得意技を奪われたかのようだ。

 

 

「な、何でそんなことアンタに分かるのよ……!」

 

「そりゃ海に出るために死に物狂いで勉強したからな。冒険王になるにはこのくらいの知識は当たり前だろ?」

 

「冒険王?何それ、海賊王の間違いじゃないの?」

 

「ハァ〜〜〜〜、分かってねェなァ、おまえ……全然違ェよ。おれは冒険がしてェだけだ。金銀財宝とか、ましてやひとつなぎの財宝とか心底どうでもいい。そんなのは生活の足しになればいいくらいにしか」

 

 

 海賊ならば誰もが夢見るひとつなぎの財宝をどうでもいいと断言したルフィを見て、ナミは衝撃を受けていた。歳は自分も近そうだがいかにも海賊でいそうな風貌をしているというのに、海賊ではなくただの冒険家。その上、腕っ節も強そうで自分の素性をどうやって知ったのかは見当もつかないが、自分のことを見下してるフシもない。

 

 自分の目標を達成するにはもってこいだと思ったナミは早速ルフィにアプローチをかける。

 

 

「ねぇ、あんた名前は?」

 

「センゴク」

 

 

 ルフィは咄嗟に自分の祖父の口からよく愚痴で出てくる者の名前を出し、自らの正体を隠す。見聞色の覇気で素性をいくらでも心の中を覗いて読み放題とはいえ、見知らぬ者相手に身分を隠すのは当然の行為である。

 

 そうとも知らずにナミはルフィの言葉を鵜呑みにする。どうやらルフィのポーカーフェイスはナミの洞察力を上回っていたようで、気付かれることはなかった。

 

 

「センゴク、ね。分かったわ。じゃあ、センゴク。私とパートナーになってくれない?その代わり、私の体を好きにしていいから」

 

「そんなものは要らねェ。金が欲しいんならすぐそこの島にバギー海賊団がいるはずだからそいつらから奪え。おれはそいつらの首を海軍に差し出して報酬金を得る。それでいいだろ」

 

「……あんた、本当に私のことを何処まで知ってるのよ。いや割とマジで怖いんだけど」

 

 

 

 全てを見透かされている気がしたナミはルフィに対して恐れの感情を抱いていた。それすらも掌握していたルフィにとってはどうでも良かったが。

 

 彼は冒険以外は基本的に興味を示さないのだ。

 

 

 

 

 




ヨサクとジョニー改め、くいなとゾロ……尊い。

ナミ、自分の体をを好きにしていいという発言に対してルフィの塩対応。原作でも割とナミのこと最初はあまりよく思ってなかったからこれくらい普通、だよね?

コビーとは出会ってますけど、その話はまた後ほど。


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底が見えない

 ◇

 

「お前が赤っ鼻のバギーだな」

 

「だぁれが赤っ恥のバギーだゴラァ!!!?」

 

『あいつ一言もそんなこと言ってませんよバギー船長!!!?』

 

 

 ルフィはバギーの周りにいる取り巻き共のツッコミを聞き流しつつ色々と考えた。不自然ではない、バギーへと接触する方法を。だがしかし、残念。冒険以外には興味がないルフィにそんなことを思いつけるはずもなく、そもそも思いつくたまに考える作業すら惜しむほどだ。

 

 真正面から全員ひっ捕らえてやろうと思考を放棄した。そんなルフィを物陰からひっそりと覗いていたナミは目を見開き、顔を顰める。

 

 

「何やってんのよ、あいつは……!あれだけの数相手にどうやって立ち向かう気なのよ……!」

 

 

 何の考えもなしに、無策でバギー海賊団勢揃いの中へと突き進んでいるようにしか見えないようだ。しかし、ルフィにはちゃんと勝算はあったし、その上実力の差が違いすぎるという自負もあった。

 

 彼は自分とバギー海賊団の間に確かにある、天と地ほどの開きを理解していた。当然、圧倒的強者であり、優位であるのはルフィである。

 

 

「なんだぁ?お前、一人か?馬鹿か?死ぬ気か?正気か、テメエ?」

 

「ああ、正気だ……少なくともおまえらみてぇな海賊団一つ潰せるくらいには自分の実力は理解してるぞ」

 

 

 ルフィからの冗談にしては笑えない返答に船長であるバギーは額に青筋を浮かべた。いつもの彼ならば、笑い飛ばして近くにあるバギー玉という街一つ容易く破壊し尽くす代物をブッ放すのだが、ルフィの傲慢な物言いを聞き、そんな苦痛を一切与えない処刑方法はあり得ないと却下し、惨たらしくここで抹殺することを心に誓う。

 

 だが、相変わらずルフィは表情を変えずにバギー海賊団の集まりへと歩を進めていく。全く足取りに重みなどない。まるで散歩をするかのような軽快な歩みである。

 

 

「俺がやる、バギー船長」

 

 

 そう言ってルフィに向かって歩き出したのは一頭の百獣の王たる獅子————リッチーの背に乗る猛獣使いの男————モージだった。巫山戯た格好とは裏腹にルフィへと鋭い視線を送っており、一切目を背けようとはしない。

 

 バギーは嘆息し、彼へと短く聞き返す。

 

 

「やれんのか、テメエに?」

 

「ああ、やる。仕留めてみせる。見ててくれ、バギー船長……ッ!」

 

 

 次の瞬間、モージとリッチーの姿が掻き消えた。モージと対等以上に渡り合える者以外の目にはまるで彼らの姿が煙のように消失して見えることだろう。だが、ルフィの目から逃れることは出来なかったようだ。

 

 

「……遅ェ」

 

「なんだと……!?」

 

 

 いつの間にやら自分の背後に回り込んでいたルフィに目をひん剥くモージ。彼はルフィに反撃しようとしたが、それよりも先に攻撃の雨が降ってきた。

 

 黒く染まった拳による乱撃を浴び、モージの全身はみるみるうちに打撲痕だらけになっていく。意識を繋ぎ止めておくのがやっとだったが、それをわかっているかの如く、ルフィはトドメの一撃を放つ。

 

 

「ブッ飛べ」

 

「ぐはっ……!?な、なん、だ……こいつ、は……!?」

 

 

 バギーの遥か後方へと吹き飛ばされたモージの体は遠く離れた家屋へと激突し、その衝撃で崩落して、瓦礫の山に呑み込まれてしまった。今の一連の流れを見切れたのはごく少数であり、バギーを含めたほんの一握りの実力者だけだ。

 

 

「次」

 

 

 ルフィが欠伸をしながらそう言い放つと、一斉に多勢に無勢の集団攻撃を仕掛ける。刃物や銃を手に襲いくる海賊達を目にしてなお、ルフィの瞳に絶望の色は窺えない。むしろ落胆しているようだった。

 

 ボソリと彼は呟きを漏らす。

 

 

「こんなのが、一時期俺が憧れていた海賊ってやつか……やっぱりシャンクスくらいじゃねーと海賊なんてこんなもんか」

 

 

 彼は一瞬目を閉じ、ギンとこちらへと向かってくるバギーの手下共を威圧する。その威圧はオーラとして空間を侵食していき、彼らの意識を刈り取っていく。

 

 本来の道筋である、ルフィが海賊王を目指すルートを辿っていれば覇王と成り果てていた要因である覇気と呼ばれるもの。

 

 武装色、見聞色とは異質で特別な覇気————それこそが、人の上に立つ資質である覇王色の覇気である。

 

 

「な、なんだこれは!?」

 

「な、何しやがった……!?」

 

「い、いきなりあいつら倒れやがった……!寝不足か……!?」

 

『んなんけねーだろ馬鹿かてめえは!!!!』

 

 

 総ツッコミを受ける者もいたが、そうとしか思えないほど鮮やかにルフィへと襲いかかろうとした不届き者は泡を吹いて気絶していた。その表情は世にも恐ろしい者でも目にしてしまったかのように酷く歪んでいる。

 

 誰もが理解できない現象に驚愕している中で、バギーだけが唯一違う意味でこれでもかと言わんばかりに目を見開いていた。

 

 

「テ、テメエ……まさか、あの人やシャンクスの野郎と同じ覇王色を……!」

 

「そりゃ知ってるよな、おまえは。シャンクスと同じ、元海賊王のクルーだったおまえなら」

 

 

 ルフィが一歩踏み出すと、バギーは悔しそうに唇を噛み締めながら一歩退く。

 

 それを見た船員達は船長の様子のおかしさに気づいた。

 

 

「ど、どうしたんだバギー船長!?あんたらしもくねえ!」

 

「そ、そうだぜ!いつものあんたならあんな小僧一人に————」

 

「馬鹿野郎!?あいつが、あの覇気を使いこなす奴が!ただの小僧だァ!?おまえらの目は節穴かゴラァ!!!!」

 

 

 船員達がルフィの実力を侮っていることに腹を立てたバギーが声を荒げた。そんな彼らを物陰から眺めているナミもルフィの実力の底知れなさに畏怖していた。

 

 

「な、何なのよあいつ……!あいつ、どれだけ強いのよ……!」

 

 

 そう言いながら少し動いてしまったのが仇となったらしく、運悪く地面に落ちていた枝を思いっきり踏んでしまい、パキリと音を立ててしまうナミ。そのせいでバギー達の視線が彼女へと向いてしまった。

 

 気まずいというより絶体絶命のピンチにナミは頭にコツンと拳を当て、照れ笑いを浮かべる。

 

 

「てへ♡」

 

「バギー玉用意ィィィィィイイイイイ!撃てぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!」

 

「なんでよ!可愛かったでしょ!見逃しなさいよ!!!!」

 

「自分で言うかよ普通……」

 

 

 全く通じなかった。と言うより通じる状況でなかったのが、ナミにとって最大の不幸だった。滂沱の涙を流しながらも激昂するという無駄に器用な特技を披露したナミに呆れたように溜息を吐き出すルフィ。

 

 彼の行動は早かった。バギー玉が放たれた瞬間、ナミの目の前へと一瞬のうちに到達し、遅れて向かってきたバギー玉を爆薬が炸裂しないように優しく素手で受け止めると、そのままバギー達に自分へと向かってきた以上の速度を叩き出しながら投げつけた。

 

 

「ジイちゃん直伝————『拳骨隕石(メテオ)』ッ!!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」

 

『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!あいつ滅茶苦茶だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!』

 

 

 ルフィによって投げ返されたバギー玉は盛大な爆発を巻き起こし、一箇所に集まっていたバギー海賊団達を一掃した。とはいえ、火傷を負っていたり、スプラッタな映画のように血みどろになっていたりする者がいたとしても、誰一人として命を落としている者が見当たらない辺り、ルフィなりに手加減はしたつもりらしい。

 

 焼け野原になった街並みを見て、ナミは呆然していた。そんな彼女にルフィはドサクサに紛れて掠め取っていたバギー海賊団達の財宝を手渡す。

 

 

「ほらよ、約束の品だ。これ持ってとっととここから立ち去れ」

 

「あ、あんたは?あんたはどうするのよ?」

 

「俺はこいつら……というかバギーと幹部クラスの奴を海軍に引き渡しに行ってくる。後のことはおまえには関係ない」

 

 

 ナミを一瞥もせずにそう答えつつ、ルフィはバギーとそれなりの立場を獲得してそうな顔つきの者を選別し、抱え上げる。そのままナミの元から離れようとしたルフィだったが、そんな彼の服の裾を引っ張る力を彼は感じた。

 

 振り返り、ルフィはその正体を確認し、嘆息する。

 

 

「なんだ?まだ何か用か?おまえに全部財宝くれてやったんだからもういいだろ?」

 

「……どうして、わたしを助けたの?」

 

 

 目元に思いっきり涙を溜め、縋るような目つきをしているナミを見下ろしながらルフィはあっけらかんと答える。

 

 

「んなもん、助けられる命は助けるに決まってんだろ?おれはおまえのことは好きじゃねーけど、おまえが死んで悲しむ奴は絶対にいるんだからな」

 

 

 ルフィからそう言われ、前半の部分で何故かチクリと胸を刺す痛みを覚え、後半の部分でどういうわけかナミの心臓は早鐘を打っていた。

 

 頬を朱に染めながら自分を見つめてくるナミに女心とは無縁の生活を送ってきたルフィは訝しげに首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 




おや、ナミの様子が……


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デレデレやん

 ◇

 

 その日から、ルフィがバギーを倒した時からナミの態度はガラリと変わった。

 

 

「……何やってんだ、あいつ」

 

 

 呆れたような声音でルフィは背後を振り返り、嘆息する。その言葉通り、視線の先では最初出会った時はあれほど堂々としていたナミがルフィと視線が合うと顔を真っ赤にして顔を背けるというまるで恋する乙女のような態度を見せていた。

 

 どう見ても、ルフィに恋慕の情を抱いている。道行く者達にさえもそのことは分かりきっていたというのに、ルフィは首を傾げ、言葉には出さず、こう思った。

 

 

(腹でも痛ェのか?)

 

 

 言葉にしていれば、間違いなくナミだけでなく、道行く者達から反感を買うことは間違いなかったので思うだけに留めておいたルフィの判断は正しかった。

 

 だが、だからといって答えを得たわけではないので結局のところ何も解決はしていない。元々頭の出来が良くない上に興味がないことにはとことん興味を示さないルフィはそんなに好きではないナミのことを考えるのは放棄することにした。

 

 そのまま彼は何故か一定の距離を保ちながら自分の後を追ってくるナミのことは気にしないことに決めたようだ。

 

 それよりも、だ。ちょうど真昼時で腹を空かせたルフィはちょうど食事処を見つけ、美味しそうな匂いにつられて店内へと踏み込むことにした。当然、ナミもとことことルフィの後を健気に追う。

 

 

「このメニュー表のこっからここまで全部くれ」

 

「えっ!?」

 

 

 ルフィの食欲に目ん玉をひん剥かせる店員。ナミもルフィと同じ分量を頼もうと考えたが、自分の胃袋の容量では無理だと悟り、肩を落とす。好きな人と同じになりたいのになれない悲しさからか、ナミの表情は少し悲しげだ。

 

 そんな悲しそうな美少女を放っておくほど、店内にいる者達は良識ある者ばかりではなかった。

 

 

「なんだ、ねえちゃん。金、足んねえのか?きひひ、なら俺が出してやるからこのあと付き合えよ」

 

 

 馴れ馴れしくナミの肩へと手を置く見るからに軽薄そうな男。その正体は海賊、ナミは海賊を心底嫌っていた。そんな海賊に触れられ、平静を保っていられるはずもなく、男の手を叩き落とすナミ。

 

 彼女の目は冷徹に、危ない光を宿していた。

 

 

「触らないで。私、海賊が嫌いなの。あっち行って」

 

「このアマ……!いいから俺に付き合え……!」

 

 

 実力行使に出ることにした海賊の男。ナミも必死に抵抗するも、海賊としてはルーキーもいいところであっても男の腕力に敵うはずもなく、席を無理矢理立たされ、店外へと引き摺り出されていくナミ。下卑た笑みを浮かべる海賊の男に嫌悪な眼差しを向けるナミだったが、嫌な記憶が思い浮かび、彼から視線を外すと、静かに食事をしていたルフィを見つめる。涙をたっぷりと目元に溜め、道端に捨てられた子犬を思わせる視線を感じ取ったルフィは一つ溜息を漏らすと、面倒臭そうに席を立ち上がった。

 

 そのままナミ達の元まで行き、海賊の男の肩をトントンと叩くルフィ。当然、肩を叩かれた海賊の男は鬱陶しそうに振り返る。

 

 

「なんだ、てめえは。まさかこいつのツレか?悪いことは言わねえ。俺は海賊だ。邪魔するんなら————殺すぜ?」

 

 

 腰に差してあったマスケット銃の銃口をルフィの額に狙いを定め、口元を引き裂いて笑う海賊の男。ナミがルフィを殺さないように懇願しようとしたその時、それを遮るかのように路傍の石ころでも見るような視線をルフィは男へと向けて口を開く。

 

 

「それは人を殺せる武器だ。つまり、お前は命を賭けるってことだよな?」

 

「あ?何言ってんだてめえは」

 

 

 ルフィの言葉の意味が汲み取れず、馬鹿にしたように鼻で笑う男。そんな彼へと真顔で告げ、銃口を掴み、へし折るルフィ。

 

 

「殺す覚悟があるからそれを抜いたんだよな?だったら俺に殺される覚悟も当然お前にはあるんだよな?」

 

「こ、こいつ俺の銃を曲げやがった……!ひっ、ば、化物……!」

 

 

 腰を抜かし、尻餅をつく海賊の男。ルフィはそんな彼をつまらなさそうに見下ろす。

 

 

「これは脅しの道具じゃねえんだ。立派に人を殺せる武器だ————殺される覚悟もねえくせに、人を殺せる武器を向けてんじゃねェ!!!!」

 

「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」

 

 

 ルフィに一喝され、その迫力のあまり一瞬で立ち上がり、その場から走り去っていった。そんな彼の背中を一瞥もすることなく、地面に座り込んでいるナミへと仏頂面で手を差し出す。

 

 

「ほら、手ェ貸してやるから立てよ」

 

「う、うん……ありがと」

 

 

 ルフィにまた助けられ、ナミの心臓はバクバクと早鐘を打っていたがやはりルフィは彼女が立ち上がったのを見届けるとどうでもよさそうにすぐに手を離し、その横を通り過ぎて行き、何事もなかったかのように食事へと戻った。

 

 

 そんな彼の素っ気ない態度にも気を悪くすることなく、先程助けられたルフィの横顔を思い出しながら、握られた手の温もりの余韻を思い出して、つい頬が落ちてしまいそうなほど緩めるナミであった。

 

 

(((リア充爆発しろ!!!!)))

 

 

 店内にいた者達の心の声が合致したのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 ◆

 

「俺の名は首領クリーク様だ!この海上レストラン『バラティエ』は俺が頂k————」

 

「黙ってメシ食え」

 

「がはっ!?」

 

 

 海面スレスレを月歩で疾駆し、小腹が空いて見つけたレストランへと足を運んだルフィは災難にもまた海賊と遭遇した。なんか面倒だったので何か仕出かす前に触れたものを弾き飛ばす手掌でレストランを占拠しようとした海賊達の意識を刈り取り、一瞬の出来事で周りがあんぐりと口を開けているのも気にせず食事へと向かい合っていた。

 

 そんな彼の前に現れたのはまたしても海賊であった。それも背中に黒い太刀を背負った鷹の目をした男であり、今まで見てきた海賊達とは比較にもならない覇気にルフィは何処から持ってきたのかも分からない玉座へと腕組みをして傲慢そうな顔つきで腰をかけている彼を一瞥する。

 

 だがあくまでも食事を優先しているルフィはすぐに目の前の皿へと視線を戻した。

 

 

「なんでまだお前がいるんだよ……」

 

「い、いいじゃない別に……ダ、ダメ?」

 

「…………好きにすればいいじゃねェか」

 

 

 ナミが上目遣いで自分を見つめてくるのを見て、周りの男達の目の色がハートマークに変わっていくのを阿呆らしそうに思いながらルフィの心が動じることは一切なかった。

 

 そんなルフィの冷たい態度にナミは少し落ち込むのであった。

 

 

「…………」

 

 

 鷹の目をした男はどうやらルフィが食事を終えるまでは何もしないで待つ気のようである。

 

 

 

 

 



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戯れ(ガチバトル)

 

日も暮れるかという頃、漸くルフィは食事を終えた。バラティエにあった食材を全て食い尽くし、満足げに笑うそんな彼に声をかけてくるのはずっと律儀に待っていた鷹の目をした男だ。

 

 

「久しく見ぬ強き者よ。お前は何のために海へと飛び出した?」

 

 

何故か鷹の目をした男はルフィへと遠くにあるというにも関わらず凄まじい覇気を放ち、真剣な眼差しと共に問いかける。そんな光景を乙女フィルター越しに自らの視界に映したナミは鷹の目がルフィに迫っているように見えたせいで危機感を覚え、ルフィを自らの胸へと抱き寄せると、がるると鷹の目の男を威嚇した。鷹の目はナミの存在そのものを認識すらしていないのか、全く意に介していない。

 

ルフィは自分の顔に当たるマシュマロのように柔らかいものが邪魔に感じ、押し退けようとする。

 

 

「あぁん♡」

 

 

変なところを触ってしまったらしく、ナミが喘ぎ声をあげた。それを遠く離れたところから見ていたスーツ姿のコックが血涙を流しながらルフィを睨みつけていた。

 

その視線を感じてはいたものの、スルーすることにしたルフィはナミを引き剥がすと、鷹の目の男の問いに答える。

 

 

「んなもん決まってんだろ?冒険だ……誰よりも世界を知って、誰よりも冒険して、世界に名を轟かせる冒険王だッ!!!!」

 

「冒険王?海賊王ではなく、か?」

 

「おう!海賊王じゃねェ!海賊王には白ひげとかシャンクス辺りがなったらいいんじゃねェのか?俺はそんなもんに興味はねェ!ただ冒険がしたいだけだ!伝説の海賊王が訪れた場所や誰も到達したことのないような未知の場所へと行きてェだけだ!」

 

 

キラキラと目を輝かせながら夢を語るルフィの横顔に嬌声を上げながら貧血でも起こしたかのようにフラフラと地面へと尻餅をつき、横座りするナミ。しかしその瞳は普段は物静かなルフィの無邪気な笑顔を網膜に焼き付けようと瞬きすることを忘れていた。

 

 

「冒険王か……いい夢だ。感動的だな」

 

「だろ?にっしし!おれ、絶対にこの世界を全て冒険し尽くすんだ!」

 

ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)には興味がないのか?」

 

「ねェ!!!!」

 

 

完全に言い切るルフィ。大胆不敵に笑う彼にナミの心臓は破裂する寸前と思えるほどに胸が高鳴っていた。ルフィがシリアスを繰り広げているのに、すぐ隣でシリアルなリアクションをしているせいか凄くシュールな光景に見えるものの、鷹の目の男が動じる様子は一切ない。

 

否、感情は揺れ動いていた。ルフィというこの少年の覚悟がどれほどのものなのか、試してみたいと。首領クリークを食事の邪魔だと簡単に叩き伏せた。あれが実力の全てだと思い込むほど鷹の目の男は世界を知らないわけではない。

 

むしろ鷹の目の男は目の前の、食いしん坊なだけに見える少年相手に挑戦者として挑む心算である。彼の勘がそうしろと執拗に語りかけてくるのだ。

 

 

「そうか……強き者、お前に興味が湧いた。モンキー・D・ルフィ。おれと戦え。否、戦ってもらうぞ」

 

「やだ。おれ、別におまえと戦う理由ねェもん」

 

「その隣の女を斬る、と言ってもか?」

 

 

鷹のような凄絶な瞳と濃密な殺気を向けられ、尻餅をついたまま後退りするナミ。そんな彼女を庇うように目の前へと立つルフィ。その表情は凄く面倒臭そうだった。

 

 

「やはりその女には何か思うところがあるらしいな」

 

「まァ、こいつのことはそんなに好きじゃねェけど……」

 

 

ガックシ、と肩を落とすナミ。そんな彼女の頭へとポンと手を置いてルフィは鷹の目の男へと視線を向けて、バギー海賊団を圧倒した時以上の覇気を叩きつける。

 

 

「誰かが困ってるのを目の前で見たら助ける。当たり前のことだろうがッ!!!!」

 

 

その覇気はルフィの立っている場所から衝撃波が発生し、鷹の目の男へと襲いかかる。

 

軽く黒刀を一閃するだけで斬り捨てる鷹の目の男。だが、その目は僅かに見開いていた。

 

 

「……まさかこれ程とはな。このおれに、冷や汗をかかせるとは……!」

 

 

ルフィは鷹の目が臆したという事実に驚愕を露わにするバラティエにいる者達のことなど気にすることなく拳も構えずに、自然体のまま彼と対峙する。

 

 

「来い、鷹の目————ジュラキュール・ミホーク。世界最強の剣豪とやらの腕を見せてくれよ」

 

「おれのことを知っていたのか、食えない奴だ……いいだろう存分に見せてやる————たった一太刀で終わってくれるなよ?」

 

 

遠く離れた玉座から立ち上がった鷹の目の男はタン、という重さを感じさせない軽い足音と共にルフィの懐へと迫り来る。黒刀を下から掬い上げるように振り上げようとしていた彼だったが、一瞬自分の背中に走った寒気を見過ごすことが出来ず、尋常ならざる脚力で一旦離脱する。その次の瞬間、ルフィは鷹の目がいた位置を蹴り上げていた。蹴りの速さは音速をゆうに超えており、その上覇気でコーティングされているためか蹴りの威力を物語るかのように雲のど真ん中に風穴が開いてた。

 

直撃していればただでは済まなかっただろう。そんな蹴りを当たり前のように使ってきたルフィの容赦のなさに鷹の目は久しく感じる実戦の雰囲気に口元を歪めていた。

 

 

「強き者よ、今のは当たっていればこのおれでも危なかった」

 

「当たってねェから意味ねェ。次は当てるけどな————剃」

 

「海軍の体技まで使えるのか……!?」

 

 

驚くと同時にルフィの実力が少しずつ浮き彫りになっていくのを楽しそうに実感するミホーク。爆発的な速度で急接近してきたルフィを黒刀で薙ぎ払おうとしたものの、その刃を鋼のように強化した腕へとさらに触れたものを一切合切寄せ付けない覇気を纏わせ、逆に弾き飛ばした。

 

黒刀を手放しはしなかったものの、まるでS極とS極が向き合った時のように物凄い反動で海面を滑るようにしてミホークは吹き飛ばされる。彼は何度もクルクルと回転しながらもなんとか海面を蹴って空高くへと跳躍すると、黒刀に覇気を渦巻かせ、ただでさえ容易く船を一隻ぶった斬る巨大な斬撃そのものに覇気を乗せた一撃をルフィめがけて放つ。

 

そんな絶対不可避、一撃必殺の斬撃をまるで蝿でも追っ払うかのように右手を横へと薙いだ。彼は鬱陶しそうに呟きを漏らす。

 

 

「邪魔」

 

 

一瞬の拮抗も許さず、ミホークの斬撃は少し離れた海面へと直撃し、海底が見えるほどポッカリと穴が空いてしまうほどの一撃であったことを証明した。その光景を目の当たりにしたバラティエから見守る一同は口をあんぐりと開け、目ん玉をひん剥かせ、絶叫すらできなかった。気絶する者までいた。

 

ただナミだけは、健気にもルフィの勝利を祈っていた。

 

 

「ふっ、やるじゃないか強き者よ。ここまでおれの実力を引き出してくれたのはあの男以来だ」

 

「シャンクスのことか?たしかに強ェもんな」

 

「見聞色の覇気でおれの心の中を読んだか……そうだ、おれとあいつの剣の腕は拮抗している。いや、僅かにおれの方が上だ」

 

「だろうな。お前は剣士で、シャンクスは剣士じゃねェ。お前のような凄腕の剣士相手に拮抗状態まで持ち込めれば十分だろうな。けどまァ、それなら安心したぞ」

 

「……なに?」

 

 

安心した、ルフィの言葉の意味がわからず目を細めてその先を促すミホーク。ルフィはそんな彼の望み通り、言葉を続けてやって心底彼を驚かせた。

 

 

「おれは本気のシャンクス相手に勝ってる。全力全開、何でもありのルールでな」

 

「なんだと……!?」

 

 

普段は寡黙で冷静なミホークでさえも動揺した。目の前の少年が四皇とまで呼ばれている赤髪のシャンクスの本気に勝利を収めているという事実に。

 

そして、その事実が真実であることも今の戦いで少なくともデタラメではないと聡明なミホークの頭脳は確信しつつあった。そんな彼はルフィから一度目を離してしまった。それだけの隙さえあれば彼が次の攻撃を備えるのには事足りるというのに。

 

 

「どっこいせ、っと」

 

 

船の残骸から見つけたマストをルフィは持ち上げると、武装色の覇気を纏わせながら持ち上げる。何をするのか、誰もが分かってはいたが、認めたくなかったので全員が分からないフリをする。それでも、ルフィの行動をすでに理解していたミホークは流石に口元をフルフルと震わせていた。

 

恐怖ではない。歓喜だ。まだまだ本気ではないという事実に、ミホークは子供のように無邪気でありながら極悪非道の海賊のように凶悪な笑顔が零れ落ちていた。彼もまた黒刀を振り上げ、全身全霊を振り絞り、この一撃で終わらせることを予感させるほどの、あれだけ快晴だった天候さえも急変させてしまうほどの覇気を練り上げる。

 

ルフィも槍投げの要領でマストを肩に担ぎ、構える。勝負はこの一撃で押し負けた方の敗北だ。

 

 

(かみ)————」

 

(ほとけ)————」

 

 

ミホークは全身全霊の覇気を纏わせた斬撃を放つ準備を整えた。

 

ルフィは全力全開の覇気を纏わせた最強の砲弾を投擲する準備を整えた。

 

あとは己の実力を発揮するだけだ。

 

 

「斬りッ!!!!」

 

「穿ちッ!!!!」

 

 

二人は同時に互いの技を放ち、それは馬鹿げた速度を伴って衝突するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

後に信じられない事実だが、海軍本部へとこんな情報が舞い込み、それを聞いたガープはちょうど湯呑みを傾けていたせいで茶を思いっきり吹いた。

 

その情報とやらが身内のことだったからだ。

 

 

『鷹の目ミホーク、センゴクと名乗るモンキー・D・ルフィという少年に打ち倒されて七武海脱退!?』

 

 

ガープはその情報をもう一度聞き直し、目の前にいたセンゴク本人に向かってお茶を吹く。怒るセンゴクもまたその情報を受け取り、ガープに向かってお茶を吹きかけるのだった。

 

 

 

 

 




ルフィの実名と顔写真が世界に出回る。


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泥棒猫は甘えん坊

 

「ルフィ」

 

『なんだ?おれの愛しのナミ』

 

「んふふ、呼んでみただけ」

 

『そうか……』

 

「ルフィー」

 

『なんだ、マイスイートハニー!』

 

「ハ、ハニーだなんてそんな……えへへ、何でもないわよー」

 

『そうか、愛してるよナミ』

 

 

 

 

「ルーフィーイー……ナミ!愛してる!ってきゃーえへへ!」

 

「何やってんだあいつはさっきから……あいつ、頭でも打ったのか?」

 

 

ルフィは今のこの状況に頭を抱えていた。鷹の目との戦闘の後、自分の名前が世界中に知れ渡ってしまったからだ。そのせいで旅先で海賊達に絡まれることが多くなり、その上ナミがついて回っているせいで道端を歩いていると男達からの嫉妬の視線を独り占めすることになった。嬉しくない独占権である。そのせいでナミは何度も身の危険に晒され、怖い目にも遭っているというのにルフィから距離を置く気配は微塵もない。

 

少しだけ面倒臭そうに、不思議そうにしているルフィだったが、ナミは妄想に耽っていてそんなことを気にする様子はない。

 

 

「ルフィ、ちょっとあそこの服屋気になるから一緒に入らない?……服?一人で勝手に見てくりゃいいだろ。覇気でこっちはお前の居場所が分かるんだから」

 

 

冷たい言葉をルフィから浴びせられたが、彼の言葉の裏側にある優しさを見抜いていた……という妄想にナミは励む。

 

 

「その言い方って居場所が分かるからいつでもお前を守れるっていう風に聞こえるんだけど、そういう解釈でいいの?……どうとでもとればいいだろ……とにかく、俺は入らねェ、なんてちょっと冷たいけど私のことを思ってくれてるみたいな!」

 

 

ふてぶてしい猫のような顔でそう言うや否や、顔を背けるルフィを愛おしそうに見つめる……などという妄想劇場をナミは自分の頭の中で繰り広げる。

 

ルフィは居心地が悪くて堪らなかった。そもそもの話、彼には恋愛感情など微塵も理解できないのだ。

 

彼女の心の中を見聞色の覇気で覗き放題な彼には彼女の心が読めていた。そして読めていたがゆえに、恋愛というものを誰にも教えてもらわなかったがゆえにルフィは戸惑いを隠せなかった。

 

あれだけ自分に対して、取引相手として明確な線引きをしていた女がこうも劇的なまでに心変わり出来るのか、と。

 

それが恋心というものであったとしても、ルフィはそんなものには興味を示さず、今日まで生きてきた。幼き日に一度ルフィは海軍の英雄たる祖父から「海賊王になるくらいだったらハーレム王にでもなれ!」と言われたが、とにかく冒険がしたかった彼は異性には一切の関心も示さずに今日という日を迎えるまで冒険するために必要な知識や技術や、あるいは武力を備えてきた。

 

だからこそ、ルフィの強さは揺るがない。幼い頃からゆっくりと、時間をかけて積み重ねてきたのは戦闘力だけでなく自分の強さへの自信でもあるからだ。

 

急激に強くなったわけではない。むしろ雨垂れ石を穿つように小さな努力をコツコツと気が遠くなるほどの時間をかけて、じっくりと育て、蓄えてきた。

 

ルフィ自身もそれが分かっているからこそ、自分が強いと自負しているし、相手を見ればある程度はその強さを見極めるくらいは出来るようになった。

 

ただ未だに彼は恋愛が理解できない。これだけはどうしても克服できなかったと言ってもいい。彼はきっと、『冒険には必要のない知識だから』と言うだろう。

 

しかし、それは彼が海賊王を目指していたらの話である。ただし、彼は冒険王になりたい……いや、なるのだ。そして、そんな彼は目の前で困っている者がいれば例え好き嫌いに関わらず、救いの手を差し伸べてしまう男だ。

 

もしその相手が男であれば、友情が生まれる。なら、女であれば……?

 

誰しもがその思考の果てに何が生まれるのか、解を口に出来るとしても今のルフィには見当もつかないのである。

 

溜息を吐きながら、結論が見出せそうもない思考を放棄していると、ナミの悲鳴が聞こえてくる。呆れたように視線を向ければ、ナミが海賊らしき男達に囲まれている。あまりいい雰囲気ではない。また余計なことでも口にしたのか、と面倒臭そうにルフィは海賊の一人の肩を叩く。

 

 

「おい」

 

「こんな上玉は見たことがねぇ!って、なんだよてめえは!ひっ!て、てめえはまさか鷹の目とやり合ったっていう……!」

 

 

ルフィは自分の名前がまた知られていことに辟易としながら肯定する。

 

 

「ハァ……そうだよ、おれが鷹の目とやり合ったルフィ、モンキー・D・ルフィだ。頼むからとっととどっかに行ってくれねェか?」

 

「そ、そうよ!どっかに行きなさい……ハッ!」

 

 

海賊達が怯んでいる中、ナミがとっておきの名案を思いついたとでもいうような顔になる。その名案について一言物申そうと口を開こうとしたルフィを制し、ナミは彼の腕に抱きついた。

 

 

「こいつは私の彼氏なの!だからあんたらなんかについて行くわけないでしょうが!!!!」

 

『えぇ〜〜〜〜!!!!せ、世界最強の剣豪を倒した相手の彼女ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお〜〜〜〜ッ!!!!』

 

「……おい」

 

 

ナミの口から語られた真実からは程遠い虚言に目をひん剥き、驚愕のあまり腰を抜かす海賊達に短く言葉を吐き出すルフィ。ナミはそんな彼に舌を出しながら、悪戯っ子のように微笑む。ルフィはもうどうとでもなれ、と何も言い返そうとはしなかった。

 

それをいいことにナミは海賊達にあくどい笑みを浮かべながら自慢に尻餅をつく彼らへと言い放つ。その瞳はお金のマークになっていた。

 

 

「いいこと!私の彼氏に殴られたくなければ、今すぐあんたらの持ち金全部出しなさい!いいわn……って、ちょっとルフィ!何で首根っこ持つの!?苦しいから!それにこれじゃあまるで親に怒られる前の子供みたいじゃない!早く降ろして!ねえってば!」

 

「おれのか・の・じ・ょ・が悪事を働こうとしているのを黙って見過ごすわけにはいかねェからな」

 

「か、彼女!?えっ、認めてくれるの!?やったー、メルヘンゲットォォォォォオオオオオオ!じゃなくて、ルフィ顔怖いわよ!?」

 

「さァて、何でおれの顔が怖くなってるんだと思う?」

 

「わ、私が海賊達と楽しそうに話してたから嫉妬とかで……って、ひっ!ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁあああああい!私が海賊達相手にお金を巻き上げようとしていたからですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううう!!!!」

 

 

猫のように首根っこを掴まれ、持ち上げられたナミはルフィから迸り始める覇気に身震いし、懺悔する。呆然とそんな光景を見つめていた海賊達に、ルフィは自分の胸に抱きついて泣きじゃくるナミの頭を鬱陶しそうに顔を歪めながら撫でつつ声をかけた。

 

 

「まァ、あんたらは早くどっか行ってくれ。お金を取る気もねェし、暴力を振るうつもりもねェから」

 

『す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!』

 

 

海賊達はそんな謝罪を置き去りにしながら走り去っていった。そんな彼らの背中を見つめるルフィの胸板へと頬擦りするナミ。周りの者達は砂糖を吐きそうだったが、鈍感なルフィがそんな機微を理解できるはずもなかった。

 

 

 

 

 



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完膚なきまでに救ってやる

 

海賊達を自分の彼女と騙るナミの魔の手から哀れな海賊達を逃したルフィは次なる場所へと向かっていた。その視線は海に向いており、ナミもそれに気付いているらしく、どうやら次は船を使っての移動だとばかり彼女は思い込んでいた。

 

そんなナミの心境を見聞色の覇気で読み取ったルフィは言葉を先んじる。

 

 

「違ェよ。船は使わねェ」

 

「えっ?なら、どうやって移動するのよ?」

 

 

数日前、自分がどうやって海を渡ったのか忘れているらしいナミをルフィにしては珍しい生温かい視線を送った。そのことに反感を覚えたナミが剣呑な目つきで応える。

 

それを涼しい顔で受け流しつつも、ルフィはハッキリとした口調で断言した。

 

 

「海の上を走るに決まってんじゃねェか」

 

「えっ?」

 

 

そう言うと、ルフィはさっさと大海が広がる方角へ向けて歩き出す。その後をナミがついていくこと数分後、目の前に清々しいまでの青があった。それを崖の上から見下ろすルフィとその高さに足を竦ませているナミ。

 

そんな彼女をよそに崖の上から飛び降りようとしたルフィにナミは慌てて制止の声をかける。

 

 

「ちょ、ルフィ!?何考えてんの!?あんたそんなことしたら普通死ぬでしょうが!!!!」

 

「……お前、おれがこっから落ちた程度のことで死ぬように見えるのか?」

 

 

呆れ返った視線を逆に送り返すルフィ。その視線に気圧されたナミが一歩退くと、また断崖絶壁の方向へと向き直った。

 

 

「それじゃあな、ナミ。おれはおれの冒険に行く」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!な、なら私も連れて行ってよ!」

 

 

必死に懇願してくるナミにルフィはバッサリと切り捨てるような口調で対応する。

 

「……おれは仲間なんかいらねェって言ったはずだぞ。それに足手纏いはないに限る」

 

「なら、私も強くなるから!だから一緒にいさせてよ!」

 

「…………故郷のことはどうすんだ?」

 

 

ルフィに痛いところを突かれ、当初の目的を思い出し、ナミは苦々しい表情になりながら顔を俯かせた。俯く瞬間、その目尻には涙が溜まっているのが見える。故郷は救いたい。生まれ故郷だからでもあるが、何より親のいない彼女を生まれ育ててくれた者達がそこにはいる。でも好きな人とは離れたくない。

 

そんなナミの中で嵐のように巻き起こる思考の海を読み取り、面倒臭そうに溜息を漏らすと、ルフィはナミを抱え上げた。

 

 

「え、えっ!?ちょ、ルフィ!いったい何を————」

 

「ナミ、言え————お前はどうしたいんだ?」

 

「な、何を言って————」

 

 

ルフィに突然抱え上げられ、力強い瞳で射抜かれたこともあり、動揺で心を震わせるナミ。そんな彼女が続けようとした言葉を遮ると、ルフィはもう一度同じことを問いかける。

 

 

「いいか、ナミ。答えろ。お前はどうしたいんだ?俺と一緒に冒険がしたいのか?それとも故郷を救いたいのか?ほら、答えてみろナミ」

 

「っ!」

 

 

次の瞬間、ナミの涙腺は決壊し、滂沱の涙を流しながらルフィへと訴えかける。そこには泥棒猫としての姿も、恋する乙女としての姿もなく、ただか弱く救いを求める圧倒的弱者の少女しかいなかった。

 

 

「助けて、ルフィ……!わたし、どっちかを諦めなきゃいけないの……?故郷はもちろん救いたい……!でも、あんたと冒険だってしたいの……!ねぇ、教えてよ……わたしはどっちかを切り捨てなきゃ駄目なの……?」

 

「………………ハァ」

 

 

ルフィはナミの口から語られた本音に嘆息で回答する。ルフィの胸中にあったのは呆れと怒り。呆れは二つ叶えたいのならそれを叶えるだけの努力をすればいいだけだということと、怒りとは普段は飄々としていて見聞色の覇気やら人を見る目がある程度養われた観察眼がないと見抜けないナミをここまで精神的に追い詰めた彼女の故郷で今ものうのうと巣食う魚人の海賊共へ向けてのものだ。

 

強者の力は強者にこそ振るわれるべき、強い力を持っている者はそれを弱者を守るために振るえと海軍の英雄と謳われた祖父からの教えを今も忠実に守っているルフィにとって魚人の海賊達がナミの故郷で好き勝手やっている事実を受け入れられないのは当然の帰結である。

 

ルフィはナミの故郷『ココヤシ村』がある方向を睨みつけながら、ルフィの腕の中で今も年不相応に泣きじゃくる彼女の頭を優しく撫でていた。

 

 

「お前の気持ちはよくわかった。だったら————完膚なきまでに魚人の海賊共からお前の村を取り返してやる。しっかり掴まってろよ」

 

 

そう言い切ると、ルフィは崖の上から跳躍し、海面を走るようにして大海を馬鹿げた速度を叩き出しながら横断していくのだった。

 

 

 

 

 



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ついに邂逅する鮫

 

 

ルフィはナミを抱きかかえ、海面スレスレを月歩で跳躍しつつ、剃を駆使して途轍もない速度で大海を横断していく。途中、海賊船が見えたが、無視して目的地であり、ナミの故郷でもあるココヤシ村を目指す。

 

すでにルフィはナミの心を読み、ココヤシ村の全体像と場所は把握しているので迷う余地はない。そして何より、今その村が魚人達に支配されている現状も認識している。

 

 

「おれはお前が嫌いだ」

 

 

ルフィは自分の胸の中にいるナミにそう断言する。ナミが悲しそうに顔を俯かせるが、それでもルフィの意思は変わらないようで、彼女を見下ろす視線は冷気を纏っているかのように酷く冷たいものだった。

 

 

「泥棒猫として出会ったときからずっとだ。お前は自分の本心を隠し、自分から汚れ役に徹し、すぐになんでも諦めようとする。その結果が魚人族共の家畜扱いされているクソッタレな現実だ。お前の行動の一つ一つが、今の結果を生んだんだ」

 

「そんなこと、わかってるわよ……!私だって、助けて欲しかった……!でも誰に助けを求めればよかったのよ……!私の村にいる海兵はアーロンと手を組んでいて、役に立たないし、村にいる人達は老人や子供ばっかり……!私がアーロンに歯向かえるだけの力があればよかったのかもしれないけど、非力な女一人で何ができるっていうのよ……いたっ」

 

 

ルフィは決壊したダムのように流れ出てくる言葉を堰き止めるために、ナミの頭を軽くコツンと小突いた。とはいえら武装色を纏った一撃だったので、まるで石頭をぶつけられたような感覚にナミは頭を抑えながら、ルフィを上目遣いで睨みつける。

 

そんな彼女とは目を合わせず、ルフィは語りかける。

 

 

「誰が自分だけでなんとかしろって言った?お前は最初から誰かに助けを求めりゃよかったんだよ。おれと、初めて会った時にでも素直に頼んでくれたらいくらでも力は貸してやったんだからな」

 

「ル、ルフィ……」

 

「まァ、それでも……よく頑張ったよ。よく耐えたよ。にっしし!その強靭な忍耐力だけは褒めてやる」

 

 

ポンポンと頭を撫でられ、とうとう抑えきれなくなった感情を溢れ出させて子供のように泣きじゃくるナミ。ルフィはその涙が枯れるまで胸を貸すのだった。

 

数分後、ナミはルフィの胸板に顔を埋め、表情を絶対に見せないという決意を固めていた。彼女の耳が真っ赤になっているのが見える上に、見聞色の覇気が使えるルフィに隠し事などできるはずもなく完全にバレているとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

「到着、っと」

 

 

数刻後、ルフィ達は目的地である魚人に支配された村ココヤシ村へと上陸した。辺りを見渡せば、なんの変哲も無い村だ。

 

しかし、見聞色の覇気で探知してみれば魚人が好き勝手に村の中を闊歩し、人間達を見下した態度で金銭を巻き上げる光景をルフィの意識は捉える。

 

無意識のうちにルフィは拳を握り締めていた。

 

 

「酷えな、こりゃあ……ったく、とっとと魚人共にはこの村から出て行ってもらうとするかね」

 

「うん……ありがとう、ルフィ」

 

 

ルフィの背後を赤くなった顔を隠すために俯きながら後を追うナミ。そんな彼女を気に留めることなく、ルフィは村の中へと足を踏み入れた。明らかに見覚えのない、よそ者であるルフィの姿を目の当たりにした魚人が彼の前に立ち塞がり、見下した目つきで嘲笑する。

 

 

「ちょいとあんちゃん、この村に入るには俺ら魚人海賊団へ通行料払ってもらわなきゃならねえんだ……分かるよな?」

 

「分からねェ、邪魔すんな」

 

 

そう言ってルフィは魚人の顔を押し退ける。まさか歯向かってくるとは思わなかったルフィの態度に呆然とするも、すぐに自分の横を興味なさそうに通り過ぎようとしていた彼に激昂し、拳を振り上げた。

 

村にいた誰もがその次の光景への予想がつき、悲鳴を上げる。だが彼らは予想できていなかった。

 

ルフィという青年は魚人という人間の上位種でありながら、その更に上をいく冒険家であったとは。

 

 

「死にやがれゴラァ!!!!」

 

「 あ? 」

 

 

ギンッ、と睨みつけられ、自分との格の違いを凝縮された密度の高いオーラを叩きつけられ、その身をもって理解する魚人。肌の色よりも顔を青ざめさせ、尻餅をつき、畏怖を前面に出した表情をルフィへと向ける。

 

ルフィはそんな彼の胸ぐらを掴み上げ、身震いするほど冷めた声音で問いかける。

 

 

「アーロン、ってのは何処にいる?」

 

 

 

 

 

 

アーロン————魚人海賊団の船長であり、鮫と人間を織り交ぜたような見た目をしている男だ。

 

アロハシャツという陽気な出で立ちとは裏腹に、自分に逆らう者や歯向かう者は始末するという残忍な性格の持ち主である。そんな彼はいつものように自分のアジトで部下達が人間共から金銭を巻き上げてくるのを備え付けプールの近くで広げられたパラソルの下で陽光に当たりながら待っていると、突然轟音が鳴り響いた。

 

 

「あん?なんだァ?」

 

 

それでも慌てず、呑気に男の聞こえてきた方向へと視線を向ける。そこには衝撃の光景が広がっており、流石の彼も目を見開いた。

 

 

「お前がアーロンか?」

 

 

自分のアジトへと続く門をなんと突き破り、一人の青年が土煙を巻き上げながら入ってきたのである。その背後におっかなびっくり身を潜めているのは自分が航海図を書かせる駒として利用していた見覚えのある橙色の少女だ。

 

アーロンは開かれていた目を細め、ナイフの刃のように鋭く尖らさせながら、殺気をその青年へと言葉と共に送りつける。

 

 

「テメエ……!何のつもりだ?いや、そもそもテメエは何処の誰だァ……!」

 

「モンキー・D・ルフィ、冒険家だ。まァ、駆け出し(ルーキー)だけどな」

 

「冒険家だァ?」

 

 

アーロンは青年の言葉に苛立ちを覚える。どう考えたって冒険家には見えない。まず非力な冒険家であれば、自分達上位種族に対して喧嘩を売ってくることなど言語道断。危機回避能力に欠けているとしか言いようがないからだ。

 

だが、それはアーロンのうちにある常識であってルフィにとっての常識では、冒険家とは常に周囲への警戒を怠らず、自分の身をどんな脅威からも守り抜き、冒険した土地の光景をその眼に焼き付け、記録し、それを伝記として残すことだ。

 

つまり、アーロンにとってはただ冒険するのが冒険家だという常識に対して、ルフィが思い描く冒険家はあらゆる身の危険をその身一つで退けられる冒険をする者のことだ。まず前提からして二人の認識は違う。

 

そんな二人の相性がいいはずもなく、むかっ腹を立て始めたアーロンが偶然近くに置いてあったノコギリのような刃を持つ刀『キリバチ』を手にルフィへと斬りかかる。

 

ルフィはその場から微動だにせず、アーロンが接近してくるのを眺めるだけだ。それが舐められていると受け取ったアーロンが速度を上げ、目にも留まらぬ速さでキリバチをルフィの脳天めがけて振り下ろした。

 

 

「遅ェ……」

 

 

ルフィは自分の頭をキリバチの刃が撫でる前に、ひらりと身を躱す。いつの間やらルフィを狙っていたはずのキリバチの刃が地面へと深々と突き刺さっていることに僅かばかりの驚きを見せながらも、魚人が人間の上位種族であり、自分達が人間に劣るはずがないと思い込んでいるアーロンはすぐに次の攻撃へと打って出る。

 

馬鹿げた筋力で地面へと食い込んだキリバチを勢いよく引き抜き、瓦礫の散弾をルフィに向かって放つ。ルフィはまるで瓦礫が次の瞬間何処へと飛来してくるのか分かっているかのように軽い身のこなしで、舞を踊るかのようにして回避していく。

 

とうとう無駄に馬鹿でかいキリバチを振り回していたアーロンの体力の方が先に尽き、ゼーハーゼーハーと息を荒げる彼を何の感情も篭っていない瞳で見下ろすルフィ。

 

 

「こんなもんか?」

 

「シャハハハハハ!馬鹿を言え!(シャーク)・ON・DARTSッ!!!!」

 

 

近くのプールへと飛び込み、そのダーツの矢に見立てたギザギザで鋭利な鼻をルフィの心臓へと狙いを定める。ルフィはやはりアーロンを敵とすら思えていないのか、呑気に欠伸までする始末だ。そんな彼の命をとると決意を秘めたアーロンは水中から音速をも凌駕した速度でルフィの心臓が奥に眠る彼の胸元へと迫る。

 

 

「だから遅ェんだよ」

 

「な、なんだと……!?」

 

 

流石のアーロンも声を張り上げて心底驚愕していた。まさか人間の動体視力を遥かに超越した速度で放たれた自分の動きを完全に見切っただけではなく、鼻っ柱を掴まれてしまうなどとは夢にも思わなかったからだ。

 

 

「で、もう終わりか?」

 

「このクソ人間がァァァァァァアアアアア!!!!」

 

 

一瞬緩んだルフィの常識はずれの腕力から抜け出したアーロンは鮫の持つ強靭な歯と頭一つ飛び抜けた顎の力を生かして肩へと齧り付く。そんな彼を襲ったのは、噛みついた歯が粉々に粉砕するというそう経験することはない痛みであった。

 

すぐさま後退して距離を取り、血がダラダラと流れ出る口元を押さえながら目の前のルフィへと目を向ける。彼の肩は何故か黒く染まっており、自分が噛みついた痕跡どころか傷一つさえも一切残っていなかった。

 

この時、漸くアーロンは悟った。目の前にいる人間は、自分達が普段目にしている人間とはかけ離れている、と。

 

ルフィがアーロンへと一歩近づくと、アーロンは自然と一歩退いた。

 

そんな彼へとルフィは嘆息交じりに告げる。

 

 

「この村から大人しく出て行け。じゃねェと————このアジトごとお前を粉砕する」

 

「ッ!!!?」

 

 

アーロンは直後、ルフィから迸った覇気に全身を殴打されたかのような感覚を覚え、未曾有の恐怖のあまり尻餅をつき、その手にしていたキリバチを放り捨て、両手を挙げた。

 

 

「わ、分かった!テ、テメエの言う通りにする……ッ!こっからすぐに出て行く……!テメエとこれ以上やりあってたらこっちの身がもたねえ……!」

 

「だったらとっとと荷物を纏めろ。もう二度とここには戻ってくんじゃねェぞ?もしおれとの約束を違えたりしたら……その時は魚人海賊団そのものを粉砕するからな?」

 

「わかった……!もうここには来ねえ……!手下の奴らもすぐにここから立ち退かせる……!」

 

 

殊勝な物言いだが、嘘である。アーロンは決して、ここから立ち退く気などなく、ルフィが旅立てば再び同じ体制をこの村に敷こうと目論んでいる。

 

ここで改心していればアーロンは何事もなく、また海賊をやっていられただろう。だが、そうではなかった。

 

ルフィはそんなアーロンの悪意に満ちた心を読み取り、嘆息を一つ漏らすと、黒く染めた足を振り上げ、アーロンの腕めがけて鞭のようにしならせる。

 

 

「嵐脚『真宵断(まよいだち)』」

 

 

脚に籠められた覇気を固めて飛ばした見えない斬撃がアーロンの両腕の肘の辺りを通過し、スパンという軽い音と共に呆気なく切断する。アーロンが自分が両腕を失ったことに気づいたのは、それから数秒が襲ってきた激痛と噴水のように自らの両腕から吹き出した血を浴びたことによってだ。

 

 

「な……グ、グォォァァァォァァアアアアア!!!!お、おれの腕がァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアーーーーッ!!!!」

 

「おれはお前の心が読めるんだ、間抜け。もう一度言う————この村から出て行け。さもなくば……」

 

「わ、分かったァ!すぐに出て行く!だから命だけは許してくれェ!」

 

 

涙を流しながら懇願するアーロンを冷めた目つきで見下ろすルフィ。あれほど自分達に高圧的で、絶対に敵わないと思わされていた魚人海賊団の船長アーロンが情けなく無様に命乞いする様を間近で見て、こんなのに今まで虐げられていたのかと情けない気持ちで胸を満たされるナミであった。

 

 

 

 

 



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