【管理官】も異世界から来るそうですよ? (ネェリ)
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第1話 招待

「管理官 あなたへのお手紙です」

 

「…手紙?それは”何処”からの物ですか?」

 

「不明です。中央本部のエージェントからあなたに渡すように頼まれたものでして」

 

「…質問を変えます。それがSCiPでないかどうか検査しましたか?」

 

「検査したと思われます。特に危険性は見当たらないから安心しろ、と付け加えて渡されましたので」

 

「…そうですか。ありがとうございます、エージェント レイチェル。あなたはご自分のチームへとお戻りください」

 

「わかりました」

 

 

 

●○●○●

 

 

 

「本日の業務も問題なく終了ですか。……そういえば、私宛の手紙がありましたね」

 

「…ふむ。一見するとただの手紙ですが見たことない紋章ですね。GOIでは無さそうなので構いませんが」

 

「…【悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能 ギフトを試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を世界の全てを捨て、我らが箱庭に来られたし】」

 

「…どうやら送り主の名前は書かれていないみたいですね。一体誰が……」

 

手紙を読み終えた瞬間。企業から管理官の存在が消失した。

 

 

 

●○●○●

 

 

 

「…ここは一体。……どうして私は空中にいるのでしょうか?」

 

管理官が目を開けると、そこには広大な土地と湖が映し出されていた。

 

「…周りに人は、3人ですか。このままでは死にますね。…【Fairy Festival】私と彼らを陸地まで運んでください」

 

彼女がそう呟いた瞬間。辺り一面に人型の小さな妖精が多数出現し、管理人たちを陸地へと運んで行った。

 

 

【Fairy Festival】妖精の祭典

 

一体の大きな妖精と複数の小さな妖精によって構成された、光り輝く人型の妖精たち。

アクアマリンのような肌に、尖った耳、腕に似た形状をした長い髪の毛、2組の腕、一対の脚、昆虫のような大きな翅、そして長い尾を持っている。

 

 

 

●○●○●

 

 

 

「…ありがとうございます」

 

『あなた様のお望みでしたら、我々は喜んで駆け付けますよ』

 

「…そうですか。必要な時はまたお呼びします」

 

「本当信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

「となりに同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ。

まぁ、結果的に助かったから問題はないが。あんたが呼んだんだろ?さっきの虫みたいなの。

一応礼を言っておくぜ、ありがとな」

 

「…お気になさらず。それと、あれは虫ではなく妖精です。お間違いないように」

 

「ここ……どこだろ」

 

「さあな。まぁ、世界の果てっぽいものが見たし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

「…ふむ」

 

(世界の果てですか。もしやあの手紙は転移型のSCiPだったのでは?)

 

「間違いないだろうが、確認するぜ。もしかしてお前たちにも変な手紙が?」

 

(なるほど。他の3人にも同じような手紙が来ていたのですか。…エージェント レイチェル。確かに危険性はなさそうですが、何処かもわからないところに転移させられるとは思いませんでしたよ)

 

「まずそのお前という呼び方をどうにかしてくれないかしら。私の名前は久遠飛鳥よ。これからは気を付けて。そこの猫を抱き抱えている貴女は?」

 

「春日部耀。以下同文」

 

「そう、よろしくね春日部さん。それで、見るからに野蛮で凶暴そうなあなたは?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

「……説明書を用意してくれたら考えるわ」

 

「マジかよ、なら今度作っとくから覚悟しとけ」

 

「それで、先ほど私たちを助けてくれたあなたは?」

 

「…助けたのは私ではなくFairy Festivalなのですが。まぁいいでしょう。私の名前は……。すみません、永いこと管理人か管理官としか呼ばれていなかったため忘れてしまいました。ですので、気軽に管理”人”。または管理”官”とでもお呼びください」

 

「そう、よろしくね管理人さん」

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ」

 

「…いえ、そこに何か居るみたいですよ?」

 

「…なんだ、あんたも気付いてたのか?」

 

「あれだけわかりやすければ、誰でもわかるわよ…」

 

「風上に立たれたら嫌でも気付く」

 

「や、やだなぁ皆々様。そんな狼みたいな顔で睨まれると黒ウサギは死んでしまいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵にございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

(…Rabbit…Team? …いえ、ウサギ人間? 珍しい生き物が居るようですね)

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「…ウサギ人間は初めて見ましたね」

 

「あっは、取りつくシマもないですね。あと、私はウサギ人間ではなく黒ウサギですよ!」

 

バンザーイ、と降参のポーズをとる黒ウサギ。しかし、その眼は4人を値踏みしていた。

 

(…これまた懐かしい眼を向けてきますね。こういう眼を向けられるのは数年前に財団に行ったとき以来ですかね)

 

すると、耀が不思議そうに黒ウサギの傍により、

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

黒いうさ耳を根っこから掴んだ。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!? 初対面でいきなり黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですかぁっ!? 」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

「へぇ?このうさ耳って本物なのか?」

 

十六夜が耀とは反対の耳を掴みあげた。

 

「ちょ、ちょっと待っ――」

 

黒ウサギは言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。

 




如何でしたでしょうか?

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第2話 接触

「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いて貰うだけで小一時間も費やすとは。学級崩壊とはきっとこのような状態に違いないのデス」

 

(触り心地は悪くないですね)

 

「いいからさっさと進めろ」

 

割と本気の涙を浮かべながらも、黒ウサギは話し始めた。

 

 

 

●○●○●

 

 

 

(なるほど。まとめるとこういうことですか)

 

この世界は”箱庭”と呼ばれる異世界である。箱庭にはギフトゲームという法が存在する。

あらゆる物事はギフトゲームによって決定する。ギフトゲームは”恩恵”……才能を用いて行うゲームである。

ギフトゲームの勝者は主催者が提示した商品を入手できる。

 

(…まぁ、私が居なくてもどうにかなるでしょう。長期間私の存在が確認できない場合には”財団”に引き継ぎをしてもらうよう、話も付けてありますし…。まだ、私の”管理下”にいるので大丈夫ですかね…)

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

「…私もしていないのですが、まぁ聞きたいこともないのでいいでしょう」

 

「……どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

 

「そんなことはどうでもいい。腹の底からどうでもいい。俺が聞きたいことはただ一つだ」

 

「…何でしょう?」

 

「この世界は……面白いか?」

 

「……YES 箱庭の世界は外界より格段に面白いことを保証いたします!」

 

 

(面白い…ですか…。そのような感情はここ数十年、感じたこと、無かったですね……)

 

 

 

●○●○●

 

 

 

「ジン坊ちゃーん! 新しい方を連れて来ましたよー!」

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの御三人様が?」

 

「はいな、こちらの御四人様が……」

 

クルリと振り返り、カチンと固まった。

 

「……あっれー、もう一人いませんでしたっけ?目つきが悪くてかなり口の悪い、俺問題児!って感じの方が…」

 

「あぁ十六夜君のこと?彼なら「ちょっと世界の果てを見てくるぜ!」と言って駆け出して行ったわよ」

 

「何で止めてくれなかったんですか!」

 

「「止めてくれるなよ?」と言われたもの」

 

「どうして教えてくれなかったんですか!」

 

「…教えなければいけなかったのでしょうか?」

 

「教えてください!管理人さんはともかく、お二人はめんどくさかっただけでしょう!?」

 

「「うん」」

 

ガクリとうなだれる黒ウサギ。

 

「ま、まずいよ黒ウサギ。世界の果てには幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「ギフトを持った獣のことです。出くわせば最後、人間では太刀打ち出来ません!」

 

「あら残念。それじゃあ彼はゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?…斬新」

 

「……」

 

(そう簡単に死ぬような人間には見えませんでしたが……。まるで何か月も働いた(Ⅴランク)職員以上のスペックを持っているような…)

 

「…ジン坊ちゃん。すみませんが御三人様の案内をお願いします。黒ウサギは問題児様を連れ戻してまいりますので!」

 

そう告げると、黒ウサギは髪を緋色に染め飛び去って行った。

 

 

 

 

「紹介が遅れてすみません。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢11になったばかりの若輩者ですがよろしくお願いします」

 

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのと、白衣を着ているのが」

 

「春日部耀」

 

「管理人とお呼びください」

 

「それじゃあ箱庭に入りましょう。まずは軽い昼食でも取りながらお話を聞かせていただけるかしら?」

 

「分かりました。近くにおすすめのカフェがありますので、そちらに案内させていただきます」

 

 

 

 

「いらっしゃいませー。ご注文はどうしますか?」

 

「えーっと紅茶を三つと緑茶を一つ。あと軽食にコレとコレと…」

 

「ティーセット四つにネコマンマですね」

 

「三毛猫の言葉分かるの?」

 

「そりゃ分かりますよ。私は猫族なんですから」

 

「……箱庭ってすごいね。私以外にも三毛猫の言葉がわかる人がいたよ」

 

「ちょ、ちょっと待って。春日部さんも猫と会話できるの?」

 

「うん。生きているならどんな物とでも会話できる」

 

「……」

 

(…あなたのような人材が、我が社にも欲しかったです。……そうすれば、彼らも………生きていられたかもしれませんね)

 

「あ、あらゆる生物と会話できるとは心強いギフトですね。箱庭においてとても貴重な能力ですよ」

 

「そうなんだ」

 

「春日部さんには素敵な力があるのね」

 

「久島さんは」

 

「飛鳥でいいわ。管理人さんもね」

 

「…でしたら私も管理”官”で構いません。私は”普通の人間”ではないですから」

 

「飛鳥は、どんな力を持っているの?」

 

「私?……私の力はひどいものよ。だって…」

 

「おんやぁ?誰かと思えば名無しの権兵衛のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

 

 

品のない声がジン=ラッセルを呼ぶ。そこには2mを超えるピチピチのタキシードで包む変な男が立って居た。

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 ガルド=ガスパー 

「僕らのコミュニティはノーネームです。ガルド=ガスパー」

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたみたいじゃないか。コミュニティの名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続で来たな。そうは思わないかい、お嬢様方」

 

「失礼ですけど、同席を求めるなら氏名を名乗ったうえで一言添えるのが礼儀ではなくて?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ ”六百六十六の獣”の傘下である…」

 

「烏合の衆の」

 

「コミュニティリーダーをしている、ってマテやゴラァ!! 誰が烏合の衆だ小僧ォ!」

 

(煩い動物ですね…。それに、この臭い……)

 

「口を慎めや小僧ォ!」

 

「ちょっとストップ。事情はよくわからないけど、あなたたち二人の仲が良くないことは分かったわ。それを踏まえたうえで質問したいのだけど…」

 

「ねぇジン君。ガルドさんが指摘している、コミュニティの状況というものを説明していただけるかしら?」

 

「それは……」

 

「…どうやら答えられないみたいね。そちらの方、代わりに説明していただけますか?」

 

「承りました。まず、コミュニティとは……」

 

ガルド=ガスパーは箱庭においてのコミュニティという概念と、ジン=ラッセルの所属しているコミュニティの現状を説明し始めた。

 

 

 

●○●○●

 

 

 

「どうでしょう。よろしければお嬢様方、私たちフォレス・ガロのコミュニティに…」

 

「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」

 

「は?」

 

「春日部さんと管理官さんは今の話をどう思う?」

 

「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」

 

「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補してもいいかしら?」

 

「……うん。飛鳥は私の知る女の子とちょっと違う感じだから。管理官さんも、…良かったらお友達になりませんか?」

 

「友達…?」

 

(…人間の友人ができるのは何年ぶりでしょうか)

 

「…はい、春日部さんさえよろしければ、これからもよろしくお願いします」

 

「うん。よろしく」

 

「それで管理官さんは、どうするの?」

 

「…私もジンさんのコミュニティに加入します。ガルドさん、……あなたからは嗅ぎなれた”血の臭い”が漂うのでお断りさせていただきます」

 

「血の臭い?」

 

「…!?お、お言葉ですがレディ」

 

「”黙りなさい”」

 

「今の管理官さんの言葉で私の予想が確信に近づいたわ。あなたは”そこに座って、私の質問に答え続けなさい”」

 

飛鳥の言葉に力が宿り、椅子に非々が入るほどの勢いで座りつける。

 

「ねぇジン君。私の聞いたギフトゲームの説明は、主催者と挑戦者が互いにチップを賭けて行うものなのだけれど。コミュニティそのものをチップにすることなんてよくあることなのかしら?」

 

「や、やむを得ない状況なら稀に。しかし、それはコミュニティの存続をかけたゲームですので、余程のことがない限りは…」

 

「そうよね。訪れたばかりの私たちでさえそれぐらい分かるもの。だからこそ、魔王の持つ主催者権限がどれほど強力なのかも予想できるわ。…魔王でもない貴方がどうしてコミュニティを賭けるゲームを行えたのか、”教えてくださる”?」

 

またしても、飛鳥の言葉に力が宿る。まるで久遠飛鳥の命令には逆らえないのだというかのように…。

 

「…相手コミュニティの女子供を攫って脅迫する。それに動じない相手は後回しにして、ほかのコミュニティを取り込んだ後ゲームに乗らざる状況を作り出して圧迫していった」

 

「まぁ、大方予想通りね。けど、そんな方法で従えた組織があなたに従うかしら?」

 

「各コミュニティから数人ずつ人質を取ってある」

 

「…その人質の方々は何処に幽閉されているのかしら」

 

「もう殺した」

 

その場の空気が凍り付く。誰一人として耳を疑って思考を停止させた。

 

「鳴き声がうるさくて思わず殺した。それ以降、つれてきた人質はその日のうちに始末することに…」

 

「”黙れ”」

 

ガルドの口が”閉ざされる”。

 

「ここまで絵にかいたような外道とは早々出会えなくてよ。さすがは人外魔境の箱庭といったところかしら」

 

「箱庭でも彼のような悪党はそうそういません」

 

「そう?…ところで、彼の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことはできるかしら?」

 

「難しいです。…裁かれるまでに外に逃げ出してしまえばそれまでですから」

 

「そう。なら仕方がないわ」

 

苛立ちながらも指を鳴らす飛鳥。その音が合図だったのだろう。ガルドを縛り付けていた力が霧散し体に自由が戻った。

 

「こ……この小娘がァァァ!!」

 

雄たけびとともにその体を激変させ、ワータイガーへと変身したガルドが飛鳥に襲い掛かるが、

 

「…≪天国≫」

 

それよりも速く、管理官がガルドへと槍の矛先を向けていた。

 

「…さっきから煩いですよ。…あと、動いたら殺します」

 

誰一人として反応することができなかった。ガルドの変身までは認識できたかもしれないが、管理官の行動は一般人よりも優れた五感を持っている耀ですら、認識できなかった。

 

「く……クソが…ァ」

 

「…さて、と。ありがとう管理官さん。私ね、思うのよ。あなたのような外道は己の罪を後悔しながら罰せられるべきだと。……そこでみんなに提案なのだけれど」

 

一拍おいて、飛鳥は告げた。

 

 

 

「私たちとギフトゲームをしましょう。貴方のフォレス・ガロ存続と、私たちノーネームの誇りと魂を賭けて、ね」

 

 

 

 




≪天国≫

地中の天国のエンケファリンボックス(抽出されたエネルギー)から作れる装備





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第4話 千の瞳

「なんであの短時間にフォレス・ガロと接触して、しかも喧嘩を売るような状況になったのですか!」

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

「…私は反省するようなことなどした覚えがないのですが」

 

「反省してください!」

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「十六夜さんは面白ければいいかもしれませんがこの契約書類を見てください。今回のゲームで得られるものは自己満足。たったのそれだけなんですよ!?」

 

「ごめん黒ウサギ。僕もガルドを許せない。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

「はぁ……。仕方がない人たちです。まぁフォレス・ガロ程度なら十六夜さん一人いれば楽勝でしょう」

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

「…私はどっちでもいいのですが」

 

「駄目ですよ!仲間同士なんだから協力しないと」

 

「そういうことじゃねえよ。これはこいつらが売った喧嘩だ。俺が手を出すのは無粋だろうが」

 

「あら、分かっているじゃない」

 

「もう、好きにしてください…」

 

一日中振り回され続けて疲弊した黒ウサギには、言い返す気力が残っていなかった。

 

 

 

●○●○●

 

 

 

「そろそろ行きましょうか。皆さんの歓迎会はまた後日、きちんと」

 

「いいわよ、無理しなくて。私たちのコミュニティって崖っぷちなんでしょう?」

 

「…も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが」

 

「…それだけ必死だったのでしょう。構いませんよ、私は気にしていませんから」

 

「ありがとうございます」

 

「…春日部さんはどうですか?飛鳥さんは先ほどの会話からして納得しているようですが」

 

「あら、良く分かったわね」

 

「私も怒ってないよ。……あ、でも」

 

「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らにできることなら最低限の用意はさせてもらいます」

 

「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は…毎日三食お風呂付の寝床があればいいなっと思っただけだから」

 

(…その条件、かなり難しいのでは?)

 

ジンの表情が固まった。この箱庭で水を得るには買うか、もしくは数kmも離れた大河から汲んでくるしかないのだ。そのような土地でお風呂といいうのは、一種の贅沢品であった。

 

「それなら大丈夫です!十六夜さんが大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もないですし、水路も復活できます♪」

 

一転して明るい表情に変わった。これには飛鳥も安心したような顔を浮かべた。

 

 

 

●○●○●

 

 

 

「それで、今はどこに向かっているのかしら?」

 

「皆さんのギフト鑑定をお願いするために、サウザンド合図に向かってます」

 

「ギフト鑑定?」

 

「YES ご自身の秘めた力や起源を知ることはかなり重要なことなのです!」

 

(…私の力は、大体想像できますね)

 

「桜の木…ではないわよね?真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。桜が少し残っていてもおかしくないだろ」

 

「……?今は秋だったと思ったけど」

 

「…真冬だったはずですが」

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元居た時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

 

「へぇ? パラレルワールドってやつか?」

 

「正しくは立体交差並行世界論ですね。今から説明し始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会に」

 

曖昧に濁して黒ウサギは振り返る。どうやら店に着いたらしい。商店の旗には、青い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。

日が暮れて看板を下げる割烹着の情勢店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを

 

「まっ」

 

「待ったなしですお客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

「文句があるなら他所へどうぞ。うちはノーネームお断り」

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィ!」

 

黒ウサギは店内から爆走してくる着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱き着かれ、浅い水路まで吹き飛ばされた。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで頼む」

 

「ありません」

 

「何なら有料でも」

 

「やりません」

 

「し、白夜叉様!?ちょ、ちょっと離れてください!」

 

黒ウサギは白夜叉と呼ばれた少女を引き剥がし、頭を掴んで投げつけた。

 

「管理人、パス」

 

十六夜は飛んできた白夜叉を管理人へ蹴り飛ばした。

 

「…要りません。あと私のことは管理官とお呼びください」

 

管理官は飛んできた白夜叉を躱した。

 

「ゴバァ! お、おんし、飛んできた初対面の美少女を蹴り飛ばすとは何様だ!それに、そこのおんしも、受け止めずに躱すとは何事だ!」

 

「十六夜様だぜ和装ロリ。以後よろしくな」

 

「…私が悪いのでしょうか?」

 

一連の流れで呆気にとられていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかける。

 

「あなたはこの店の人?」

 

「おぉ、そうだとも。このサウザンドアイズの幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼なら、おんしのその年齢の割に発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売上が伸びません」

 

「うぅ……。まさか私まで濡れることになるなんて」

 

「まぁ、私たちは管理官さんのおかげで濡れていないけどね」

 

「…春日部さんに言われて思い出したわ。遅れてだけれど助けてくれてありがとう、管理官さん」

 

「…お気になさらず。助けたのは私ではなく【FairyFestival】ですので」

 

「ふふん。お前たちが黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私のもとに来たという事は………ついに黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!」

 

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

 

「……」

 

全員白夜叉に続き、店内へと入っていった。

 

 

 

(…白夜叉さん。……なぜでしょう。彼女からは【WhiteNight】と同じ気配を感じるのですが…)

 

 

 

 

 

 

 







「返せぇ!返してくれよぉぉ!!俺のエージェント!!!」


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第5話 白夜

注意 頭おかしいレベルで自己解釈が含まれています。

何言ってんだこいつ?病院行って来いよ。その解釈おかしくね?っと思うかもしれませんが、あくまで作者の解釈ですのでご容赦ください。



「生憎と店は占めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

五人と一匹は和風の中庭を進み、縁側で足を止める。障子を開けて招かれた場所は香の様な物が焚かれており、風と共に五人の鼻をくすぐる。

 

「もう一度自己紹介をしておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている”サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。そこの黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者たちが住んでいるのです」

 

箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられている。黒ウサギが説明のために描いた、上空から見た箱庭の図は、とても分かりやすく描かれていた。

 

「……超巨大玉ネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「…確かに、そのような形をしていますね」

 

うん、と頷きあう四人。身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

 

「ふふ、うまいこと例える。まぁ、例外として”世界の果て”にはコミュニティに属していないものの強力なギフトを持った者たちが棲んでおるぞ。……その水樹の持ち主とかな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめして入手したのですよ」

 

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?」

 

「というか、白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

小さな胸を張り、呵々と豪快に笑う白夜叉。

 

「へぇ?じゃあオマエはあの蛇より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の階層支配者にして、最強の主催者なのだからの」

 

「なるほどな。これは探す手間が省けたか」

 

3人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。しかし、管理官だけは違う視線を向けていた。

 

「抜け目のない童達だ。今の話を聞いておきながら私にギフトゲームを挑むと?」

 

「え? ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には飢えている」

 

「ちょ、管理官さんも三人を止めてください!」

 

「…白夜叉さん、一つ質問してもいいでしょうか?」

 

「ふむ、おんしは他の三人とはまた違うようじゃの。して、質問とは?」

 

「…”WhiteNight”。…いえ、”白夜”という言葉に心当たりはありませんか?」

 

「……ほぅ。それは私の名前を聞いての推測か?…まぁよい、その問いには後で答えるとしよう。その前にそこの三人」

 

「なんだ?」

 

「ゲームの前に一つ確認しておくことがある。おんしらが望むのは”挑戦”か………もしくは、”決闘”か?」

 

刹那、四人の視界に爆発的な変化が起きた。四人の視覚は意味をなくし、様々な情景が脳裏で回転し始める。脳裏を掠めたのは、黄金色の穂波が揺れる草原。白い地平線を覗く丘。森林の湖畔。記憶にない場所が流転を繰り消し、足元から四人を飲み込んでいく。…四人が投げ出されたのは、白い雪原と凍る湖畔。そして、

 

水平に太陽が廻る世界だった。

 

「…なっ……!?」

 

余りの異常さに、十六夜たちは同時に息を呑んだ。まるで星を一つ、世界を一つ創り出したかのような軌跡の顕現。その光景に唖然と立ち竦む四人に、今一度、白夜叉は問いかける。

 

「管理官と言ったかの。おんしの質問に答えようじゃないか。私は”白き夜の魔王”太陽と”白夜”の星霊・白夜叉。…して、おんしらが望むのは、試練への”挑戦”か?それとも対等な”決闘”か?」

 

”星霊”とは、惑星級以上の星に存在する主精霊のことを指す。妖精や鬼・悪魔などの概念の最上級種であり、同時にギフトを”与える側”の存在でもある。十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

 

「水平に廻る太陽と……そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、お前を表現してるってことか」

 

「如何にも。この白夜と湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

 

「さて、質問の答えには納得できたかの?管理官」

 

「…えぇ、十分すぎるほどの回答を頂けました。私の知る【白夜】の根源分類はtheophobia。貴方に似たような気配を感じたのは、あなたが神に近しい存在であり、”白夜”という同一名称を用いていたから……と」

 

 

theophobia ”神仏恐怖症”

 

アブノーマリティ【白夜】の分類は”T”(トラウマ) 

【白夜】の首輪に刻まれた数字”666” 悪魔の数字 黙示録の獣

 

そして、北緯”66.6”度から起こる 自然現象の”白夜” 

 

 

 

 

偶然の一致なのだろうか?

 

 

 




如何でしたでしょうか?

今後もこの様な頭の悪い自己解釈が含まれる場合がございます。苦手な方はご注意ください。


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第6話 ~異常存在~ "Abnormalities"

遅くなってほんとすみませんでした!!!

新大陸を走り回ったり、SANを減らしたり、レイヴンになったりしてたらいつの間にかこんなにも期間が開いてしまいました!!!

今後も不定期になると思いますが失踪だけはしませんので!!!
(elonaの方もそのうち上げます)




~注意~!!

Lobootomyのネタバレや、SCP要素が入ってきます。というか、今後も増えてくると思います!苦手な方はブラウザバックを推奨します。


…そういえば彼らは大丈夫でしょうか?私の管理”権”が残っているみたいですから、会社自体が崩壊したことはなさそうですが……。そろそろ私が居なくなったことがGOIや財団にも露見していると思うのですがね。

 

 

―――――最悪の場合、”アンジェラ”に譲渡すればいいでしょう。

 

 

 

 

●〇●〇●

 

 

 

……っと考えすぎましたね。いつの間にか白夜叉さんと皆さんはゲームをしていたみたいですね。どうして私を呼んでくれなかったのですか?

 

「いいえ、管理官さん。私たちは声を掛けたのよ?それでも反応がないから何か考え事でもしているのではないかと思ってね」

 

「…すみませんでした。昔から考え事を始めてしまうと周りの声とかが聞こえなくなってしまって」

 

「問題ない。私がちゃんとクリアしたから」

 

そもそもどのような内容だったのでしょうか?…まずいですね。この考え癖もどうにかしないと……。

 

「ほらよ。これがお前の分だぜ」

 

「…これは?何かのカードのようですが」

 

「それが話してたギフト鑑定に必要な道具だとよ」

 

「…なるほど。って、参加していない私が受け取ってもいいんでしょうか?」

 

「気にすんなよ。俺も飛鳥も参加していないけど貰ってるんだからな」

 

 

「…そうですか、それなら私もいただきましょう。……確かに名前が浮かび上がってますね」

 

異常支配

 

正体X

 

 

確かに私にふさわしい名前ですね。それにしてもXですか……。”A”とは認識されていないようですね。……当然、といえば当然ですか。私は真実にたどり着いておきながら、財団のせいでAにはなれなかったのですから…。

 

「へぇ……正体Xね。俺の表記ミスとは違うみたいだな」

 

「表記ミス?……正体不明ですか。確かに違いますね。私はXの意味を理解していますから」

 

(どういうことだ?この娘もギフトを無効化した…?いや、さすがに二人はないだろ)

 

(そう考えると…、ラプラスの紙片のエラーかのぅ。それにギフトの複数所持とはな……面白いのぅ)

 

「……ところで、今更だがおんしらは黒ウサギのコミュニティの現状を理解しているのか?」

 

「あぁ、名前と旗の話か?それなら聞いたぜ」

 

「なんだったら魔王の話も聞いたわよ」

 

「…そうか。それならそこの娘三人、忠告しておく。間違いなくおんしらは死ぬぞ」

 

予言するように断言する。二人は一瞬だけ言い返そうと言葉を探したが、白夜叉の威圧感に何も言うことができなかった。

 

「…問題ないですね。私は毎日、いつ死ぬかわからない環境で過ごしていましたので。それに”彼ら”が守ってくださいますから」

 

「おんしなぁ……」

 

「…それに、私達がその気になればあなたでもただでは済まないと思いますよ?」

 

 

 

 

―――――その瞬間、管理官の存在感が増幅した。

 

 

 

異常存在を統べるもの。停止したセフィラの代わりを務め続けている者。

 

……繰り返しを拒否し、50日分のエネルギーを青い空(財団の敗北)に吸収され、心を取り戻すはずだった”人達”を元に戻せないと知ってしまい、絶望したAIと管理を続けることを決めた管理官。

そんな管理官に服従することを選んだ110体のアブノーマリティ。

 

 

 

”私達”の為に手を尽くし続けてくれる管理官にせめてもの恩返しを……。

 

 

 

 

 




ほんと、お待たせしてすみませんでした。自己解釈とオリジナル設定が多数含まれてますが気に入っていただけると何よりです。


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閑話1 管理官の過去

注意!!


頭おかしいほどの自己解釈が含まれます。苦手な方はブラウザバックしてください。


50日目を迎え、溜まり切ったエネルギーは空へと放出され地上へと降り注いだ。種としての力を持ったエネルギーは、アブノーマリティへと変化した人間を元に戻せるはずだった……。

 

 

エネルギーの放出を確認し、役目を終えたと理解し活動停止したセフィラ達。それに続いてアンジェラも活動停止しようと思っていたが……異変に気づいてしまった。空へと放出されたエネルギーが、一向に降り注がない。放出されたエネルギーは、不自然なほど綺麗な”青空”にかき消されてしまった。

110体のアブノーマリティを人間に戻す。それは、心だけでなく肉体……。見た目にも影響を及ぼすということ。

それはつまり、多数いる職員やエージェント、何度も訪問してきた財団職員たちの可視スペクトルに大規模な影響を与えるということだ。

 

 

 

 

―――――そんなことは許さない。

 

 

 

 

それが青い、青い空の意思なのか、それとも世界の意思かは分からない。ただ一つ言えることは……、数多の職員が命と時間を捧げ集めてきたエネルギーが…、エージェントたちの最後の希望が…、LobotomyCorporation(LC)の最終目的が……消失してしまったのだ。

 

 

 

……財団や他団体の協力により、何とか再出発をすることができたロボトミーコーポレーション。しかし、取り返しのつかないものもあった。エネルギーはあっても、誰も再起動方法を知らないセフィラ達。可能性が潰えたことを知り、退職していったエージェント達……。

 

 

だが、良いこともあった。

 

 

全アブノーマリティが、どういうわけか”現管理官”に絶対の服従を誓っていること。彼女の指示に従い、彼女の為に自らを捧げる。…それにより、何があっても脱走しない、敵対しない、彼女の為にエネルギーを生産する、彼女が望めば力を貸す、……素晴らしい存在へと生まれ変わった。

 

 

結果、管理官は現実改変者と認定された…。

 

現実改変者の監視(機嫌を損ねない)のため、財団はエージェントを数名派遣。

エージェント達の協力もあり、会社はエネルギー生産を続行。問題なく、それどころか以前よりも安全に管理することが可能となった。

 

 

 

そして何より、管理官に友人ができた。

 

財団の送り込んだエージェントとは別に、財団から来た博士(問題児)だ。

 

彼とは気が合うのか、すぐに友人と言えるような存在になっていた。

そんなこともあってか、財団は”博士(問題児)”の一人を受け持ってくれたLCに全面的に協力することを約束。また、コギトの研究も受け持つと約束した。

 

 

 

 

 

 

……そのころにはアンジェラ(AI)も立ち直っていた。

 

 





博士「俺が誰かだって?ジャック・ブライト、あんたもよく知ってるだろう?」


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第7話 コミュニティ

「お、おんし…その力は一体…」

 

「…これは正確には私の力ではありませんが……私をあまり舐めないでもらいたいですね」

 

 

誰も、何も言うことができなかった。先ほど白夜叉が放った威圧よりも、明らかに強すぎる威圧感に言葉を発することができなかった。

 

 

「おいおい何だよそれ!さっきの白夜叉よりも面白そうじゃねーか!」

 

「…面白そうですかね?……とりあえず、納得してもらえたみたいなので”もう抑えていいですよ”」

 

管理官が告げると、途端に威圧感が消失した。

 

「…私には”彼ら”が付いてるからいいですが、お二人は本当に死ぬかもしれませんのでお気をつけてください。”命は元には戻らないのですよ”」

 

「え、えぇ…気を付けるわ」

 

「……うん」

 

リセットできるなら消耗品扱いしますがね……。

 

 

 

 

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

 

「駄目よ春日部さん。次は対等な条件で挑むんですもの」

 

「そうだな。次は渾身の大舞台で頼むぜ」

 

「…私も白夜同士をぶつけてみたいですね」

 

「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。……管理官のはシャレにならなさそうだからやめてくれ」

 

「…残念です」

 

 

 

 

●〇●〇●

 

 

 

白夜叉とのゲームを終え、ノーネームの居住区画に着いた一同は門の先を見て言葉を失った。

 

 

「っ、これは……」

 

街並みに刻まれた傷跡。残骸が転がる廃墟がそこには広がっていた。

 

「…ひどいですね」

 

「……おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは何百年前の話だ?」

 

「わずか三年前でございます」

 

「そりゃ面白いな。マジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?……断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。膨大な時間をかけて自然放火したようにしか思えない」

 

十六夜はあり得ないと結論付けながらも、冷や汗を流していた。

 

「魔王とのゲームはそれほど未知の戦いだったのです。僅かに残った仲間たちも心を折られて……箱庭を去っていきました」

 

「……面白そうですね。魔王…。博士へのお土産になりそうです……」

 

 

 

―――――ノーネーム居住・区水門前

 

「みなさん!貯水池と水路の準備は終わってます!」

 

「ご苦労様ですジン坊ちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

「黒ウサねーちゃんお帰り!」

 

「掃除手伝ってたよー」

 

「ねぇねぇ、新しい人たちって誰?」

 

「強いの!?かっこいいの!?」

 

(…私、子供はあまり好きじゃないんですよね。見た目に騙されやすいですから……【TheQueenOfHatred】とかもいますし…)

 

 

 

「……さて、自己紹介も終えたし水樹を植えましょう!十六夜さん、お願いできますか?」

 

「あいよ」

 

「それでは根を張りますので、十六夜さんは水門を開けてもらえますか?」

 

十六夜が水門を開けると、多量の水が激流となって貯水池を埋めていった。

 

「ちょっ、マテやゴラァ!」

 

濡れるのが嫌だったのか、十六夜は慌てて石垣まで跳躍した。

 

「すごい…。これなら生活以外にも使えるかも」

 

「…農作業でもするんですか?」

 

「近いです。水仙卵華などの水面で自生する花を植えれば、それだけで収入になりますから」

 

「ふぅん。…で、水仙卵華ってなんだ御チビ」

 

「す、水仙卵華は薬湯や観賞用に取引されている花です。確か噴水広場にもあったはずです」

 

「あの卵っぽい華のことか。一個ぐらい取っておくべきだったな」

 

「だ、駄目ですよ!ギフトゲームのチップに使われるものですから。採ってしまえば犯罪です!」

 

「おいおい、ガキのくせに細かいことを気にするなよ御チビ」

 

(…御チビとは、また懐かしい呼び名ですね。【Laetitia】を思い出します…)

 

ジンは癪に障ったように言い返そうとする。

 

「悪いが、俺が認めない限りリーダーとは呼ばないぜ。この水樹も気が向いたから貰ってきただけだ。なぁ、あんたもそう思うだろ?管理官さんよ」

 

「…ここで私に振るのですか。……そうですね、私もリーダーとは認めていません。リーダーとは部下の管理をする者のこと。リーダーの選択一つで全てが失敗に終わることもありますから。……私のように

 

 

 

 

最後の言葉は聞き取れなかったのか反応されることはなかった。

 

 



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第8話 ガルド・ガスパー HE

みなさん予想以上に文字数多い方がいいみたいなので試しに多くしてみました。
前の方がいい!などの意見がございましたら、教えてください。




「ところで、私たちは何処で寝泊まりすればいいのかしら?」

 

「本来ならプレイヤーの皆様から最上階に住んでもらうのですが……移動も不便ですし、お好きなところを使ってもらってかまいません」

 

「…あそこにある別館は使っていいのですか?」

 

「構いませんがあれは子供たちの館ですので、120人の子供たちとご一緒でよければ…」

 

「…遠慮します」

 

「私も遠慮するわ」

 

「それよりお風呂に入りたい」

 

「一刻ほどお待ちください!すぐに綺麗にしますので!」

 

と叫んで掃除に取り掛かった。それはもう凄惨なことになっていたのだろう。

 

「…私に言っていただければ自動で掃除してくれる”清掃”に適したロボットがあったのですが」

 

「ロボット?」

 

古い時代から来た飛鳥にはロボットという言葉がわからなかったのだろう。

 

「なにそれ、すごいほしい。そんな機械があったならすごい便利だったと思う…」

 

代わりに春日部さんには伝わったみたいだが…

 

「…まぁ、少しだけ欠陥があるのですが」

 

「欠陥?」

 

「……人間も汚れと勘違いして排除してしまうのですよね」

 

「いやいやいや!それ致命的よ!」

 

「何それ怖い…」

 

「…まぁ、元々製作者は隣人を排除するためにプレゼントしたらしいですが」

 

「なんでそんなものを使おうと思ったのかしら!」

 

「怖い…。管理官さんどんな世界に住んでたの?」

 

 

確かに我が社でも【All-Around Helper】は嫌われてましたね……。

 

 

 

 

 

 

「湯殿の準備ができました!女性様方からどうぞ」

 

「…先に入らせてもらいますね」

 

「俺は二番風呂が好きな男だから構わねえよ」

 

 

女性四人は真っすぐに大浴場へと向かった。

 

 

 

 

●〇●〇●

 

 

 

「本当に長い一日でした。まさか新しい同士を呼ぶのにここまで苦労するとは、想像もしておりませんでしたから」

 

「それは私たちに対する当てつけかしら?」

 

「め、滅相もございません!」

 

「このお湯…森林の匂いがして落ち着く。三毛猫も入ればいいのに」

 

「水樹から溢れた水をそのまま使ってますからね」

 

「……ちょっとした温泉ですね」

 

「水を生む樹……これもギフトと呼ばれるものなの?」

 

「はいな。ギフトは様々な形に変化させることができ、生命に宿らせることでその力を発揮します」

 

「ギフトを得るためのギフトゲームか……。私は楽しければそれでいいと思ってたけど、コミュニティのことを考えると無茶できないのよね。春日部さんと管理官さんはどう思う?」

 

「私はとにかく勝てばいいと思う。勝てば私たちも楽しいしコミュニティも嬉しい。一石二鳥」

 

「……私の友人に、失敗は全て事故ということにしたらいい。そうすれば何事も楽しく思えるよ。と言ってた人が居るのですが、彼の言葉を借りるなら失敗なんて気にせずやれるだけやってみてはどうでしょう。全てのギフトゲームを警戒していたら何も参加できませんよ?」

 

「耀さんと管理官さんの言う通りでございます!まぁ、管理官さんのご友人の言葉はちょっと…、いえだいぶ問題がありますが、ゲームを楽しむのは一流のプレイヤーの条件ですよ」

 

「そ、そう言ってもらえると助かるわ」

 

「ところでところで御三人様。こうして裸の付き合いをしているのですし、良かったら黒ウサギも御三人様のことを聞いてもいいですか?ご趣味や故郷のことなどナド」

 

「…そんなものを聞いてどうするのですか?」

 

「それはもう、黒ウサギの好奇心というやつでございますヨ!ずっとずっと待ち望んでいた女の子の同士、黒ウサギは御三人様に興味津々でございます♪」

 

 

「……そうね。これから一緒に生活する仲だもの。障りのない程度なら構わないわよ。…というか私も管理官さんのことは知りたかったのよね」

 

「…なぜ私なのですか?春日部さんもいますが」

 

「私はあまり話したくない。けど、質問はしたい。黒ウサギには興味あるし、管理官さんは……いろんな意味で私達とは違うから」

 

「春日部さん…?いろんな意味とはどういうことでしょうか?……というか、お二人ともどうして私のことを知りたがるのですか?」

 

「「それは……ねぇ……」」

 

「あやや、黒ウサギも知りたいのです!」

 

「……???」

 

 

どうして自分に興味を持たれたのか理解できていない管理官であった。

 

 

 

 

 

 

―――――翌日 箱庭 ペリペッド通り・噴水広場前。

 

 

 

飛鳥、耀、管理官、ジン、そして黒ウサギと十六夜と三毛猫は”フォレス・ガロ”のコミュニティ居住区を訪れる道中、”六本傷”の旗が掲げられた昨日のカフェテラスで声を掛けられた。

 

「あー!昨日のお客さん!もしや今から決闘ですか!?」

 

『お、鉤尻尾のねーちゃんか!そやそや今からお嬢たちの討ち入りやで!』

 

「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです!二度と不義理な真似ができないようにしてやってください!」

 

「…そのつもりですのでご安心を」

 

「おお!心強いお返事だ!」

 

満面の笑みで返す猫娘を後に、管理官たちはゲーム会場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「あ、皆さん!見れてきました……けど、」

 

「……ジャングルですか」

 

「虎の住むコミュニティだしな。おかしくはないだろ」

 

「いえ、おかしいです。”フォレス・ガロ”のコミュニティの本拠は普通の居住区だったはず……それにこの木々、鬼化してる?…いや、まさか」

 

「ジン君。ここに契約書類が貼ってあるわよ」

 

 

≪ギフトゲーム名 ”ハンティング”≫

・プレイヤー一覧 久遠飛鳥 春日部耀 管理官 ジン=ラッセル

・クリア条件 ホストの本拠内に住むガルド=ガスパーの討伐。

・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。

指定武具以外は”契約”によってガルド=ガスパーを傷つける事は不可能。

・敗北条件 降参か、プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

・指定武具 ゲームテリトリーにて配置

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、”ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

”フォレス・ガロ”印 

 

 

 

「ガルドの身をクリア条件に……指定武具で打倒!?」

 

「こ、これはまずいです!」

 

「…何か問題でも?」

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

 

「いえ、ゲームそのものは単純です。問題はこのルールです。このルールでは飛鳥さんのギフトで彼を操ることも、耀さんのギフトで傷つける事も、管理官さんの武具で傷つける事も出来ないことになります……」

 

「……どういうこと?」

 

「”恩恵”ではなく”契約”によってその身を守っているのです。これでは神格でも手が出せません!」

 

「すいません、僕の落ち度でした。初めに”契約書類”を作った時にルールもその場で決めておけばよかったのに……!」

 

ルールを決めるのが”主催者”である以上、白紙のゲームを承諾するというのは自殺行為そのものなのだ。

 

「なるほどな。敵は命懸けで五分に持ち込んだってことか。観客にしてみれば面白くていいけどな」

 

「…気楽でいいですね。指定武具が何かもわかっていない現状では、かなり不利な状況ですね」

 

「だ、大丈夫ですよ!”契約書類”には『指定』武具としっかり書いてある以上、何らかのヒントがなければなりません」

 

「大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし、私も頑張る」

 

「……ええ、そうね。むしろあの外道のプライドを粉砕するためには、これぐらいのハンデが必要かもしれないわ」

 

 

(…昔の管理作業に比べれば、達成条件がわかっているだけ全然楽ですね)

 

 

 

 

 

●〇●〇●

 

 

 

「大丈夫。近くには誰もいない。匂いで分かる」

 

「あら、犬にもお友達が?」

 

「うん。二十匹ぐらい」

 

「…私も保険を張っておきますか。【Punishing Bird】辺りを見てきて貰えますか?」

 

管理官の呼び声に答え胸に赤い模様のある、真っ白な手の平サイズの小鳥が現れた。

 

「あら可愛い。昨日のを見て思ったけど、管理官さんのギフトは召喚系みたいね」

 

「…そう思っていただいて構いません。それと、見た目は可愛いですが間違っても攻撃しないようお願いします。攻撃されたと認識した場合、速攻で殺しに来ますので…」

 

「何それ怖い。…小鳥さん、後で私とお友達になろうね」

 

「管理官さんの出すものは、危ないものばかりね」

 

「…むしろ罰鳥は安全な方ですよ?それよりも、もうしばらくお待ちを。罰鳥がガルドを探してきてくれると思いますので」

 

「ガルドならもう見つけた」

 

「…はい?」

 

「本拠の中にいる。影が見えただけだけど、目で確認した」

 

「…それを先に教えて欲しかったです。【Punishing Bird】戻って大丈夫です。お疲れさまでした」

 

『自分が来た意味はあったのでしょうか?』

 

「…すみません。でも、意味はあったんじゃないでしょうか?どう思いました?この”黒い森”の惨状を見て」

 

『酷いですね…。悪いことだと知っているのになぜそのようなことをするのでしょう』

 

「…罰する人が居ないからですね。ですので、私が罰しましょう」

 

『ありがとうございます。それと管理官。この森の木には吸血鬼が関わっているようですのでご注意を』

 

「…なるほど。ありがとうございました」

 

「管理官さん?さっきから何を言ってるのかしら?」

 

「小鳥と話してたみたい。私にも聞こえてたから」

 

「…そういえば、春日部さんはあらゆる生物と会話できるんでしたね」

 

『おや、自分の声が聞こえていましたか』

 

「うん。よろしくね小鳥さん」

 

『こちらこそお嬢さん。どうぞ罰鳥とお呼びください』

 

「私だけ会話に入れないのは、少し悲しいわね」

 

「大丈夫です。僕も入れていませんから」

 

『それでは、管理官。また御用があればお呼びください。すぐに駆け付けますので』

 

「…その時はよろしくお願いします。…皆さん、春日部さんは会話を聞いていたのでわかっていると思いますが、どうやらこの木には吸血鬼が関わっているようです」

 

「吸血鬼?ガルドではなくて?」

 

「…それは僕も思っていました。植物を鬼化できるのは吸血鬼だけですから。…でも、どうして」

 

「…さっきから私の得た情報を潰されていくのは何故でしょうか。まぁ、いいですけど……。吸血鬼が関わっているなら、指定武具は”聖水”や”銀の剣”ですかね」

 

「その可能性が高いです。ただ、絶対はあり得ませんので気をつけてください」

 

「わかってるわ」

 

「…せっかくですから、罰鳥の力をもう少し借りますか。【くちばし】」

 

管理官が呟くと、彼女の服装が防護服へと変わった。

 

「可愛い…」

 

「…春日部さんも着ますか?もう一着ありますし、多少ですけど防御力も上がりますよ?」

 

「私はいいかな。この服が好きだから」

 

「…飛鳥さんはどうします?一応、多少の怪我なら防いでくれますが」

 

「私もいいわ。せっかく黒ウサギに貰った服ですもの。このままの格好で参加したいわ。それに、この服にも多少は防御力があるみたいだしね」

 

「…そうですか。それじゃあ館に入ります。皆さん、警戒を」

 

 

管理官が扉を開くいて中を覗くと、中はかなり酷いものになっていた。高級そうな家具は打倒されて散乱し、扉に施された虎の紋様も無残に取り払われていた。この光景を見て、四人は疑問を持ち始めていた。

 

「この奇妙な森の舞台は、本当に彼が作ったものなの?」

 

「……わかりません。”主催者”側の人間はガルドだけに縛られていますが、舞台を作るのは代理を頼めますから」

 

「…もしかして、吸血鬼が」

 

「おそらくは。というよりも、ガルドが慣れない吸血鬼の力に暴走して破壊したと思う方が正しいでしょう」

 

「…ということは、以前よりも強くなっていると」

 

「間違いなく強くなっているかと」

 

「…二階に上がるけど、ジン君。貴方はここで待ってなさい」

 

「ど、どうしてですか?僕だってギフトを持ってます。足手まといには」

 

「そうじゃないわ。上で何が起こるか分からないからよ。だから二手に分かれて、私たちはゲームクリアのヒントを探してくる。貴方にはこの退路を守ってほしいの」

 

理に適った回答だが、ジンはそれでも不満だった。しかし退路を守らなければならない重要性も彼には分っている。ジンはしぶしぶ階下で待つ事にした。

管理官たちは根に阻まれた階段を物音を立てずにゆっくり進む。階段を上った先にあった最後の扉の両脇に、飛鳥と耀が立ち機会を窺う。

 

「…お二人とも、少し動かないでください。今から少し防護壁を付けますので」

 

「防護壁?」

 

「…驚くかもしれませんが、痛くはないので我慢してください」

 

そう告げると、管理官は二人に向かって赤色の弾丸を撃ち込んだ。

 

「…反応する前に撃ち込まれたらどうしようもないと思うのだけれど」

 

「痛くはなかったけど、驚いた」

 

「…すみません。ですが、これで少しの物理攻撃なら防げると思います」

 

「そう…。ありがとうね」

 

「…それじゃあ、開けます」

 

管理官が扉を開け、中に入ると

 

 

 

「—————……GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!」

 

 

 

 

 

言葉を失った虎の怪物が、白銀の十字剣を背に守って立ち塞がった。

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
長文を書くのは初めてなので、誤字が含まれていたり、文法が狂っていたりしたらすみません。


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第9話 ガルド・ガスパー HE 鎮圧

正直に言おう…… 東方✕elonaよりも、問題児✕LCの方が書きやすい……。

すみません!いつか東方の方も投稿しますので!!(いつとは言ってない)


「…飛鳥さんは逃げてください。早く」

 

「ちょっと待って!私も一緒に」

 

「飛鳥、ジンを連れて一旦逃げて」

 

二人に言われてか、飛鳥は渋々選択をした。

 

「……っ!ちゃんと戻ってきなさいよ!」

 

(…行きましたか。春日部さんならともかく、一般人の飛鳥さんに”鎮圧”は無理でしょう)

 

「…春日部さん。私が引き付けますので、指定武具を確保してください」

 

「…うん。お願い」

 

「……GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!」

 

「……っ。【くちばし】では力不足ですか…。…っと、行かせませんよ」

 

管理官の銃撃がガルドを襲う。契約書類の効果でダメージは入らないが、獣の本能か”銃弾”に反応してか、数秒だけ怯む。

 

「管理官さん!確保できた……けど」

 

「…そうですか。……場所を変えます。お先に退避を」

 

「でも……それじゃあ管理官さんが」

 

「…構いませんから早く。私よりも指定武具を失う方が、勝率が下がることを理解してください」

 

「……ごめん、任せる」

 

「…それで正解です。……まぁ、この程度の相手なら数時間相手にしても問題ないのですが」

 

「……GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!」

 

「…さっきから煩いですね。生き物ならもう少し会話をしたらどうですか?……取り合えず、埒が明かないですし合流しますか」

 

【くちばし】に残った弾丸を、全弾撃ち込んでから管理官は出口へと走り出した。

 

 

 

 

●〇●〇●

 

 

 

「春日部さん!こっちよ!」

 

「飛鳥。これ、指定武具…」

 

「無事に確保できたみたいね。ところで、管理官さんは……」

 

「管理官さんは……」

 

「…呼びましたか?」

 

(…まぁ、分かってましたよ。私の”正義”ランクではすぐに追いつけることぐらい)

 

「あら、お帰りなさい。ところで、ガルドは?」

 

「…ただいまです。ガルドは……そのうち来ると思いますよ。すみません……こんなに足が遅いとは思いませんでした」

 

「…管理官が速すぎるのではなくて…?」

 

「うん…。私でも逃げ切れるか分からないぐらいの速さだったと思うけど」

 

「…そうですかね?……来たみたいですよ」

 

「GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!」

 

「来たわね…。”拘束なさい!”」

 

一喝、鬼種化した木々が一斉にガルドへと枝を伸ばした。

 

「…便利なギフトですね。春日部さん、止めはお願いします。私は攻撃されないようタイミングをずらしますので」

 

「任せて」

 

「……GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!」

 

鬼化した樹を振り払うように絶叫を上げる虎の怪物。だが、その動きも管理官の銃撃に抑えられ、耀の持った白銀の十字剣に貫かれ、終わりを告げた。

 

「…鎮圧完了。……あっ、お土産に血でも採取しておくべきでした…」

 

砂となって消えたガルドを見て、少し残念がる管理官であった。

 

 

 

 

 

ゲーム終了を告げるように、木々は一斉に霧散した。

 

「おい、そんなに急ぐ必要ねえだろ」

 

「大ありです!黒ウサギの聞き間違いでなければ、管理官さんは怪我を負ったはず」

 

(管理官が怪我を?それはないと思うがな)

 

風より速く走る二人は瞬く間に管理官たちのもとに駆け付けた。

 

「管理官さん!お怪我の方は……えっ?」

 

「…私がどうかしましたか?」

 

「えっ……、えーっと、管理官さんが怪我をしたと聞いたのですが」

 

「…先ほど飛鳥や春日部さんにも言いましたが、この程度なら自分で治せますのでお気遣いなく」

 

R弾を貫通できると思っていなかった管理官は、多少のダメージを受けたが、黒ウサギたちが来る前にHP弾を自分に撃ち込んで回復していた。

 

「管理官。そろそろ私も耀でいいよ?私だけ苗字なのも、仲間外れみたいで嫌」

 

「…そうですか。わかりました、耀」

 

「まぁ、お前が怪我をするとは思ってなかったけどな」

 

「…一応怪我はしたんですが。まぁ、掠り傷ですけど」

 

「とにかく!無事に終わって良かったです!」

 

「それじゃあ、帰りましょ?もうここにいる意味もないしね」

 

(……博士には、黙っておけばいいでしょう)

 

 

 

 

 

ゲームが終わり、”フォレス・ガロ”の解散令が出たのは間もなくの事だった。居住区から避難していた人間は鬼化した木々が消えたのを知り門前に集まっていた。

 

「そうですか……ガルドはあなた達が」

 

「はい。人質の件に関しては”階層支配者”にも連絡してあります。”六百六十六の獣”が沽券を理由に元”フォレス・ガロ”のメンバーを襲うこともないでしょう」

 

ざわざわと衆人に声が広がる。しかし歓声のような物は少ない。人質が殺されたと知った者たちはその場で泣き崩れてされいる。それに”フォレス・ガロ”は近隣で最大手のコミュニティだったのだ。それが無くなることに対する不安もあるのだろう。代表者の男はその原因を恐る恐るジンに切り出す。

 

「一つ、とても重要なことをお聞きしたい」

 

「なんですか?お困りなら多少の相談には」

 

「いえ、その……まさか俺たちは、あなた達のコミュニティ―――――”ノーネーム”の傘下に?」

 

ジンの表情が強張った。それは感謝の言葉でもなければ、解放された喜びの言葉でもない。これから自分たちが、名も無き”ノーネーム”のコミュニティを背負わされるのかという失意だ。恩人に対する感謝よりも、明日を憂う心から出た言葉だった。

 

(…なるほど、彼らはこれが狙いでしたか)

 

「…十六夜。少しいいですか」

 

「なんだ?」

 

「…私は疲れたので先に帰らせてもらいます。……やりたいことも分かりましたので」

 

「そうか。ちゃんと名前を売っておくから安心しろ」

 

「…わかってます」

 

久々に動いたから疲れたのか、管理官は十六夜たちを置いて、先にコミュニティへと帰って行った。

 

 

その後、十六夜たちは”ルル・リエー”を始めとした、名と旗印を返還すると同時に、ジン=ラッセルの名前を広めていった。

 

 

 

 

 

●〇●〇●

 

 

本拠に戻った後、十六夜と管理官は紅茶の飲みつつ今回のゲームを振り返っていた。

 

「…お疲れ様です。目的は達成できましたか?」

 

「ああ、ちゃんと名前を売ってきたぜ」

 

「…それは良かった。……ところで気づいてますか?」

 

「もちろん。…で?いつまでそこで見ているつもりだ?」

 

「おや、気づかれていたのか」

 

二人が窓の外を見ると、ガラスの向こうで金髪の少女が浮いていた。

 

「…どちらがやります?」

 

「それじゃあ、俺がやろうかな!」

 

「お二方!紅茶のおかわりを……って、レティシア様!?」

 

レティシアと呼ばれた少女は黒ウサギの方を見るとにこやかに笑った。

 

「…黒ウサギ、知り合いですか?」

 

「YES!元ノーネームのお仲間なのですよ!」

 

「っち、なんだよ。せっかく遊べると思ったのによ」

 

「冗談でもやめてください!」

 

「……」

 

(【Laetitia】?……いえ、同名の別物ですか。…私の知る”レティシア”は機械人形でしたね)

 

「黒ウサギ…様はよせ。今の私は他人に所有される身分。”箱庭の貴族”ともあろうものが、モノに敬意を払っていては笑われるぞ」

 

レティシアは苦笑しながら談話室に入る。美麗な金の髪を特注のリボンで結び、赤いレザージャケットに拘束具を彷彿させるロングスカートを着た彼女は、黒ウサギの先輩と呼ぶには随分と幼く見えた。

 

「こんな場所からの入室で済まない。ジンには見つからずに黒ウサギと会いたかったんだ」

 

「そ、そうでしたか。あ、すぐにお茶を入れるので少々お待ちください!」

 

「それにしても…、かなりの美少女だな。目の保養になるぜ」

 

「…それは私に対する当てつけですか?…目の保養にされても困りますが」

 

「おいおい、管理官もそんな冗談言うんだな。安心しろよ、管理官も美人だと思うぜ」

 

「…そうですか」

 

「ふふ、なるほど。君が十六夜か。白夜叉の話通り歯に衣着せぬ男だな。しかし鑑賞するなら黒ウサギも負けていないと思うのだが」

 

「あれは愛玩動物なんだから、鑑賞するより弄ってナンボだろ」

 

「…否定はしません」

 

「否定してください!」

 

紅茶を淹れ終わった黒ウサギが口を尖らせて怒る。

 

「…それで、どのような用件で来たのですか?」

 

「要件というほどの物じゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないというのは合わせる顔がないからだよ。お前たちの仲間を傷つける結果になってしまったからな」

 

予想していたが、やはりあの森はガルドだけの力ではなかったようだ。

 

「…お気になさらず。あの程度、傷に含まれませんから。っとすると、あなたは吸血鬼ですか」

 

「吸血鬼?なるほど、だから美人設定なのか」

 

「は?」

 

「え?」

 

「…はい?」

 

「いや、いい。続けてくれ」

 

十六夜はヒラヒラと手を振って続きを促す。

 

「実は黒ウサギのノーネームに力を秘めた新人達が入ったと聞いてな。一つ試してみたくなったのだ」

 

「結果は?」

 

「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。……こうして足を運んだはいいが、さて。私はお前たちになんと言葉をかければいいのか」

 

自分でも理解できない胸のうちにまた苦笑する。十六夜は呆れたようにレティシアを笑う。

 

「違うね。アンタは古巣の仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て、安心したかっただけだろ?」

 

「……ああ。そうかもしれないな」

 

十六夜の言葉に首肯する。

 

「その不安、払う方法が一つだけあるぜ」

 

「何?」

 

「実に単純な話だ。アンタ本人がその身、その力で試せばいい。—————どうだい、吸血鬼様?」

 

「ふふ……なるほど。それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。下手な策を弄さず、初めからそうしていればよかったなぁ」

 

「ちょ、ちょっと御二人様?」

 

「…私を巻き込まないでくださいね?疲れているので」

 

「わかってるよ。ゲームのルールはどうする?」

 

「どうせ力試しだ。手間暇かける必要もない。双方がともに一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」

 

「地に足を付けて立っていたものの勝ち…と。いいね、分かりやすい」

 

笑みを交わし二人は窓から中庭へ同時に飛び出した。

 

「へぇ?箱庭の吸血鬼は翼が生えているのか?」

 

「ああ。翼で飛んでいるわけではないがな。……制空権を支配されるのは不満か?」

 

「いいや。ルールにはそんなのなかったしな」

 

「……どっちが勝ってもいいですが、敷地に被害を出さないでください」

 

「わかってるさ」

 

そう言い、金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカード取り出した。それを見た黒ウサギは蒼白になって叫ぶ。

 

「レ、レティシア様!?そのギフトカードは」

 

「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、これが決闘であることに変わり無い」

 

ギフトカードが輝き、封印されていたギフトが顕現する。

 

「互いにランスを一打投擲する。受け手は止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

 

「好きにしな」

 

投擲用に作られたランスを掲げる。

 

「ふっ―――――!」

 

レティシアは呼吸を整え、翼を大きく広げる。全身を撓らせた反動で打ち出すと、その衝撃で空気中に視認出来るほど巨大な波紋が広がった。

 

「ハァア!!!」

 

怒号と共に放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線に十六夜に落下していく。流星のごとく大気を揺らして舞い落ちる槍の先端を前に、十六夜は牙を剥いて笑い、

 

「カッ―――――しゃらくせぇ!」

 

 

殴りつけた。

 

 

「「—————は……!??」」

 

素っ頓狂な声を上げるレティシアと黒ウサギ。しかしこれまた比喩では無い。他に表現の仕様も無い。鋭利に研ぎ澄まされ、大気の壁を易々突破する速度で振り落とされた槍は、鋭い先端も巧緻に細工された柄も、たった一撃で拉げてただの鉄塊と化し、凶器となってレティシアに向けられたのだ。

 

(……貸しですよ)

 

「【魔法の弾丸】」

 

管理官が告げると、一秒のタイムラグもなく、蒼と金で装飾された狙撃銃が手元に現れた。

 

「…撃ち抜け」

 

引き金を引くと、光線のような弾丸が鉄塊へと向かっていき、撃ち砕いた。

 

「なに?…管理官か。また面白いものを持ってるじゃねーか!」

 

「…十六夜。もう少し方向を考えては?あのままではレティシアが潰れていましたよ」

 

「レティシア様!」

 

鼻先まで迫った鉄塊を、管理官が撃ち砕いた後、黒ウサギが窓から飛び出てきた。レティシアは驚愕しながら黒ウサギを抱き留め、翼を畳んで落下する。

 

「く、黒ウサギ!何を!」

 

レティシアが声を上げる。だが決闘を邪魔されたことに対してあげた声ではない。それだったら、管理官に対して声をあげている。黒ウサギの手に握られていた、レティシアから掠め取ったギフトカードに対する抗議の声だった。

 

「ギフトネーム”純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)”……やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

 

「っ……!」

 

さっと目を背けるレティシア。歩み寄った十六夜は白けたような呆れた表情で肩を竦ませた。

 

「神格がない?…もしかして、御チビの言ってた元・魔王様ってのはレティシアの事だったのか」

 

「…元・魔王?そんな話聞いてないのですが」

 

「言ってないからな」

 

「……」

 

「……はい。武具は多少残してありますが、自身に宿る恩恵は……」

 

「なるほど、どうりで歯ごたえがないわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

 

「いいえ……魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません。そもそも隷属させた相手から合意なしにギフトを奪うことはできないのです」

 

それはつまり、レティシアが自分からギフトを差し出したという事だ。三人の視線を受けて苦虫を噛み潰したような顔で目を逸らすレティシア。

 

「レティシア様は鬼種の純潔と、神格の両方を備えていたため”魔王”と自称するほどの力を持ってたはず。今の貴方はかつての十分の一にも満ちません。どうしてこんなことに……」

 

「……それは」

 

「…まぁ、話があるなら屋敷で話したらどうです?」

 

「管理官の言うとおり、とりあえず屋敷に戻ろうぜ」

 

「……そう、ですね」

 

中庭から屋敷に戻ろうとする管理官達四人。異変が起きたのはその時だった。顔を上げると同時に遠方から褐色の光が四人に射し込み、レティシアはハッっとして叫ぶ。

 

「あの光……”ゴーゴンの威光”!? まずい、見つかった!」

 

焦燥の混じった声でレティシアが叫んだ時には、

 

 

 

 

 

褐色の光が視界降り注いでいた。

 

 

 

 

 

 

 



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第10話 ペルセウス

今まではアブノーマリティの名前を英語、EGOの名前を日本語にしてましたが、どうしたらいいのでしょうか?


「ゴーゴンの首を掲げた旗印……!?だ、駄目です!避けてくださいレティシア様!」

 

黒ウサギの声も虚しく、レティシアは褐色の光を全身に受けた……と思われた。

 

「…レティシアさん、避けますよ」

 

が、それよりも速く移動した管理官がレティシアごと光を躱していた。

 

「ばかな!?ゴーゴンの威光を躱しただと!?」

 

「…相手に攻撃を当てるなら、これぐらい速くしなさい」

 

レティシアを連れて、ゴーゴンの威光を躱した管理官はすぐさま”狙撃銃”に次弾を装填し、空に浮かんでいる軍団に撃ち込んだ。

 

「なっ…!?な、名無し風情が我らペルセウスに歯向かうだと!」

 

「…歯向かうだと!とか言われても……。あの程度で撃ち落とされる方が問題だと思うのですが…」

 

「…あれ、さすがに俺でも避けるのきついと思うぞ」

 

「…そうですか?…まぁいいです。さて、今の一射で半分撃ち落としたみたいですが、どうしますか?引き返すというなら追撃はしませんが」

 

……管理官はたった一射。たった一射で空の軍団の半数を撃ち抜いていた。

 

「……ッ、て、撤退だ!撤退するぞ!」

 

「おいおい、俺も混ぜてくれよ。こんな風におまけに扱われたのは生まれて初めてだぞ?」

 

「…でしたら残りはあげますよ?」

 

「いや、お前さっき追撃しないって言ったじゃねーか」

 

「…あくまで私はです。他人が追撃しないとは一言も言ってませんし、そもそも普通相手の言葉を信じますか?……私だったら喜んで追撃しますが」

 

「鬼だなお前。まぁ、もう追撃のしようがないがな」

 

「…うん?……おや、私の認識よりも速く移動で来たんですか」

 

「いえ、……あれはまさか、不可視のギフト!?」

 

「”ペルセウス”って名前がコミュニティの名前なら、間違いなくそうだろうよ。そもそもそんなに早く移動できたなら、お前の狙撃も避けれただろうしな」

 

「…それもそうですね」

 

「とりあえずペルセウスってのがどういうコミュニティか、白夜叉にでも聞きに行くか。それに、レティシアを狙ってたってことは、サウザンドアイズも無関係ではないだろうしな」

 

「…飛鳥さん達も呼びますか?」

 

「頼む。あと御チビも連れてきてくれ。どうもキナ臭い。最悪その場でゲームになることだってあり得る。なら頭数は居た方がいいだろ」

 

「…わかりました」

 

―————ま、そうなっても俺と管理官が居るなら十分だけど。

 

とは思っても口にしない。十六夜は空気が読める男だった。…空気が読める男十六夜は、さっきから話についてきていないレティシアと黒ウサギを眺めながら、管理官を待ち続けるのであった。

 

 

 

 

●〇●〇●

 

 

 

「…おい、俺は頭数を揃えるよう言ったはずだが、御チビと春日部はどうした」

 

「さすがに本拠を空にするわけにはいかないでしょ」

 

「…それもそうか」

 

「…はい。それと、撃ち落とした人たちの見張りもお願いしてきました」

 

あの後、管理官は飛鳥と耀とジンに声をかけたが、ペルセウスに奇襲されたばかりという事もあって、耀とジンは本拠に残ることにした。ついでに撃ち落としたペルセウスのメンバーの監視もするよう頼んできたのだった。

 

「それにしてもこんなにいい星空なのに、出歩いてる奴はほとんどいないな。俺の地元なら金取れるぜ」

 

「…私も、久しぶりに星空を見た気がします」

 

「これだけハッキリ満月が出ているのに、星の光が霞まないなんておかしくないかしら?」

 

「箱庭の天幕は星の光を目視しやすいように作られてますから!」

 

「そうなの?……でもそれって意味はあるのかしら?」

 

「ああ、それはですね」

 

「おいおい、お嬢様。その質問は無粋だぜ。”夜に綺麗な星が見れますように”っていう職人の心意気がわからねえのか?」

 

「あら、それは素敵な心遣いね。とてもロマンがあるわ」

 

「…絶対違うと思うのですが」

 

「……あー」

 

黒ウサギはあえて否定しなかった。納得したのならそういう事にしておこう。話せば長くなるし、店先までほんの僅かだ。

 

「…みんな、すまない。私のせいで迷惑をかける事になって…」

 

「気にするなよ。ゴーゴンの威光っていうぐらいだし、触れてたら石になってたんだろ?」

 

「…その通りだ。……あの光に触れたものは石にされる」

 

「いいじゃない、助かったんだから」

 

「…それを言うなら、勝手に助けた私が悪いみたいになってしまうのですが」

 

「ち、ちが……。そういうつもりは…」

 

「…わかってます。もうすぐお店に着きます。詳しい話はそちらで話しましょう」

 

「……そう…だな」

 

「それよりも、黒ウサギは十六夜さんが意外と博識なことに驚きなのです!」

 

「おいおい、俺は生粋の知能派だぞ。それよりも……ついたぜ」

 

サウザンドアイズの門前に着いた”五人”を迎えたのは、例の不愛想な女性店員だった。

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

 

「黒ウサギたちが来ることは承知の上、ということですか?あれだけの無礼を働いておきながらよくも『お待ちしておりました』なんて言えたものデス」

 

「……事の詳細は聞き及んでおりません。中でルイオス様からお聞きください」

 

定例文にも似た言葉にまた憤慨しそうになる黒ウサギだが、店員の彼女に文句を言っても仕方がない。店内に入り、中庭を抜けて離れの家屋に黒ウサギたちが向かう。

 

「うわぉ、ウサギじゃん!うわー実物初めて見た!噂には聞いてたけど、本当に東側にウサギが居るなんて思わなかった!つーかミニスカにガーターソックスって随分エロイな!ねー君、うちのコミュニティに来いよ」

 

ルイオスは地の性格を隠す素振りもなく、黒ウサギの全身を舐めまわすように視姦してはしゃぐ。

 

「これはまた……わかりやすい外道ね。この美脚は私たちの物よ!」

 

「そうですそうです!黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!」

 

「そうだぜお嬢様。この美脚は既に俺のものだ」

 

「そうですそうですこの脚はもう黙らっしゃいッ!!」

 

「よかろう、ならば言い値で買おう!」

 

「売・り・ま・せ・ん!!!あーもう、まじめな話をしに来たのですからいい加減にしてください!それと!管理官さんも黙ってないで止めてください!」

 

「…納得いきません。なぜ私まで怒られたのでしょうか」

 

納得いかない管理官を置いておいて、全員一度仕切りなおすことにした。

 

 

 

 

 

座敷に招かれた”四人”はサウザンドアイズの幹部二人と向かい合う形で座る。長机の対岸に座るルイオスは舐めまわすような視線で黒ウサギを見続けていた。

 

「—————以上がペルセウスが私たち対して行った無礼の数々です。ご理解いただけたでしょうか?」

 

「う、うむ。ペルセウスの所有物 ヴァンパイアが身勝手にノーネームの敷地に踏み込んで荒らした事。それを捕獲する際に置ける数々の暴挙と暴言、確かに受け取った」

 

(…実際には暴挙を振るった上、所有物を奪い取ったのも私たちなのですけどね)

 

「それでですね。ペルセウスに受けた屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと。サウザンドアイズにはその仲介をお願いしたくて参りました。もしペルセウスが拒むようであれば、”主催者権限”の名の下に」

 

「いやだ」

 

黒ウサギが言い終わる前に、ルイオスが突然断った。

 

「……はい?」

 

「いやだ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れまわったって証拠があるの?」

 

「それは……」

 

「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出した原因はお前たちだろ?実は盗んだんじゃないの?」

 

(…その通りです。見かけによらず意外と賢いですね)

 

「な、何を言い出すんですかッ!そんな証拠が一体何処に」

 

(…襖を開ければすぐそこに)

 

「事実、あの吸血鬼はあんたの所に居たじゃないか」

 

ぐっと黙り込む。それを突かれては言い返せない。黒ウサギの主張も、ルイオスの主張も、第三者が居ないという点では同じなのだ。

 

「まぁ、どうしても決闘に持ち込みたいというならちゃんと調査しないとね。……もっとも、ちゃんと調査されて一番困るのは全く別の人だろうけど」

 

「そ、それは……!」

 

視線を白夜叉に移す。彼女の名前を出されては黒ウサギとしては手が出せない。この三年間、ノーネームを存続できたのは彼女の支援があったからだ。

……それとは別に”もう一人”、視線を逸らす人が居た。

 

(…まずいです。調査されたら非常に困ります。傷害罪に窃盗罪……。いやですよ?こんなことで捕まるのは)

 

「じゃ、さっさと帰ってあの吸血鬼を外に売り払うか。愛想のない女って嫌いなんだよね、僕。だけどほら、アレも見た目は可愛いから。その手の愛好家にはたまらないだろ?」

 

「あ、貴方という人は…!」

 

「しかし可哀そうな奴だよねアイツも。自分のギフトを魔王に売り払ってまで仲間の下に訪れたのにさ」

 

「……え、な」

 

黒ウサギは絶句する、そして見る見るうちに蒼白に変わっていった。そんな様子をみたルイオスはにこやかに笑うと、蒼白な黒ウサギにスッと右手を差し出した。

 

「ねぇ、黒ウサギさん。このまま彼女を見捨てて帰ったら、コミュニティの同志として義が立たないんじゃないか?」

 

「……?どういうことです?」

 

「取引をしよう。吸血鬼をノーネームに戻してやる。代わりに、僕は君が欲しい。君は生涯、僕に隷属するんだ」

 

「なっ…」

 

(…もうすでに戻っているのですが。…ただ、黒ウサギも話し合いに夢中になってるのか忘れてますね……)

 

「一種の一目惚れって奴?それに”箱庭の貴族”という箔も惜しいし」

 

再度絶句する黒ウサギ。飛鳥もこれには堪らず長机を叩いて怒鳴り声をあげた。

 

「外道とは思っていたけど、此処までとは思わなかったわ!もう行きましょう黒ウサギ!こんな奴の話を聞く義理はないわ!」

 

「ま、待ってください飛鳥さん!」

 

黒ウサギの手を握って出ようとする飛鳥。だが黒ウサギは座敷を出ない。

 

(……え、…あの、今出られるとすごい困るのですが。…レティシアさんも襖の隙間から覗いてますが、困惑してるじゃないですか。……もしかして、飛鳥さんもレティシアさんのこと忘れてます?…十六夜なんて、口を押えて笑いそうになってるじゃないですか!)

 

管理官がこの場にいる誰よりも焦っていた。そして、人というものは、焦っている時こそまともな思考をできない生き物なのだ。

 

(……も、もしバレたら殺しましょう。目撃者が消えれば問題ないですから。【鮮血】…これなら装備していてもバレないでしょう)

 

管理官は周りに聞こえないぐらいの小声で呟き、背中に”真っ赤な小斧”を背負った。幸いにもルイオスには気づかれていなかった。…十六夜には気づかれていたが。

 

「ほらほら、君は”月の兎”だろ?仲間の為、煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ?君たちにとって自己犠牲って奴は本能だもんなぁ?」

 

「……っ」

 

(…いや、あの、気づいて?レティシアさん困ってるから。襖の奥で困ってるから)

 

「ほらほら、どうなんだよ!黒ウサ」

 

黙りなさい!

 

ガチン!とルイオスの下顎が閉じ、困惑する。

 

「っ……!?………!!?」

 

「あなたは不快だわ。そのまま地に頭を伏せてなさい!

 

混乱するように口を押えたルイオスは体を前のめりに歪める。だがしかし、命令に逆らって強引に体を起こす。何が起こったのか理解したルイオスは強引に言葉を紡いだ。

 

「おい、おんな。そんなのが、つうじるのは、—————格下だけだ、馬鹿が!!」

 

激怒したルイオスが取り出したギフトカードから、光とともに現れる鎌。

 

……その瞬間を待っている人が居た。

 

「…これで、正当防衛成立です」

 

管理官は背中に隠していた【鮮血】を取り出すと、ルイオスの鎌を”粉々に”斬り伏せた。

 

「なにっ…!?」

 

「…おや、意外と脆いですね。もう少し頑丈だと思っていたのですが」

 

「ええい、やめんか戯け共!話し合いで解決できぬなら門前に放り出すぞ!」

 

「……、ちっ。最初に攻撃してきたのはその女ですけどね!それに、こっちは武具まで壊されてるんですけど!」

 

「えぇ、分かってます。これで今日の一件は互いに不問という事にしましょう。……あと、先ほどの話ですが……少しだけお時間をください」

 

「待ちなさい黒ウサギ!この男の物になってもいいというの!?」

 

「…そうです。ちゃんと頭を使って考えてください。…十六夜も気づいているんだからいい加減手伝ってください」

 

「いや、教えない方が面白いだろ?」

 

「…私が困るのですが」

 

「……仲間に相談するためにも、どうかお時間を」

 

「オッケーオッケー。こっちの取引ギリギリ日程……一週間だけ待ってあげる」

 

ルイオスはにこやかに笑うと、中庭から飛んで出て行った。…出て行ったのをきっかけに、とうとう我慢の限界なのか、管理官は飛鳥と黒ウサギに【鮮血】を向けた。

 

「…いい加減にしてください。お二人ともそろそろ殺しますよ!?

 

「なんでですか!?」

 

「急にどうしたのじゃ!?」

 

「いや、そこは怒りますよだろ」

 

「お、落ち着いて管理官さん!何をそんなに怒っているの!?」

 

「…二人とも馬鹿なんですか!?…レティシアさんのこと忘れてますよね? あ、もう入ってきていいですよ」

 

襖を開けて困惑したレティシアが入ってくる。それを見て二人も気づいたのだろう。

 

「「……あっ」」

 

呆然とするのであった。

 

 

「…一回殺していいですかね」

 

「「すみませんでした……」」

 

 

 

 

 

 

…反省する二人を見て、小斧を振り下ろすか考える管理官であった。

 

 

 



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第11話 ペルセウス2

アブノーマリティの名前は”日本語”か”何でもいい”が多かったので、英語はやめようと思います!



~数日後 サウザンドアイズ支店~

 

あの会談から数日後、管理官とレティシアは白夜叉に呼ばれ、サウザンドアイズの支店を訪れていた。

 

「どういうことだ!やっぱり吸血鬼はお前たちが盗んでいたじゃないか!」

 

……ルイオスにバレました。

 

「…どうしてわかったんですか?」

 

「どうもこうも部下に聞いたわ!それにお前!何でそっち側にいるんだ。僕の所有物だろ!」

 

「……それは」

 

「…それで?要件は?」

 

「要件は?だと…!?ソレを返せ。ソレの所有権は僕にある」

 

「…今の所有権は私にありますよ?盗まれる方が悪いんですから。……そうですね、ゲームをしませんか?勝ったら返してあげますよ?」

 

「はァ?お前何言ってんの?僕は今ここでお前から奪い返してもいいんだぞ?」

 

「…私よりも反応速度の遅い貴方が?……【ラエティティア】」

 

管理官が呟くと、手元にピンク色のマスケット銃が具現化した。具現化された【ラエティティア】の銃口はレティシアに向けられる。

 

「…ゲームを開かないなら、今ここでレティシアさんを殺します。別に私からしたら、生きていようが死んでいようがどうでもいいですし」

 

「……はっ、そんな脅しが通じるとで」

 

「…脅しじゃないですよ?」

 

 

ルイオスの言葉が終わる前に管理官が引き金を引いた。銃口から撃ちだされた弾丸は、レティシアの肩を撃ち抜く。

 

 

「ッ……!?」

 

「おんし、何をしている!」

 

「お前……」

 

これには白夜叉も黙っていることができなかった。

 

「…さて、どうします?ゲームを受けないなら今ここで”貴方の商品”を殺しますが」

 

「……クソッ」

 

「…返答は?10秒以内に答えてください」

 

「…あぁ、分かったよ!ギフトゲームを開いてやる!」

 

「…そうですか。それは良かった」

 

「…ノーネーム風情が、僕に歯向かったことを後悔させてやる!!」

 

キレたルイオスは襖を開けるとコミュニティへと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

ルイオスが帰った後、管理官はすぐにレティシアに緑色の弾丸を撃ち込んだ。

 

「…脅すためとはいえ、すみませんでした」

 

「……気にしないでくれ。事前に攻撃するかもしれないと聞いていたからな。…まぁ、本当に攻撃されるとは思っていなかったが」

 

「全くだ。コミュニティの同志を攻撃するとは、さすがの私でも驚いたぞ…」

 

「それよりも、良かったのか?黒ウサギたちに何も言わずゲームを挑んで」

 

「…いいんじゃないですか?他の方々もゲームができるなら満足でしょう」

 

「…そうだろうか」

 

「…それよりも痛みは大丈夫ですか?傷はさっきの弾丸で塞げたと思いますが」

 

「大丈夫だ。もう痛みは残っていない」

 

「…それは良かった。さて、そろそろ帰りますか」

 

 

 

 

 

●〇●〇●

 

 

 

「ペルセウスとのゲームを取り付けた!?」

 

「ど、どうやったんですか!?」

 

「…脅したら喜んで受けてくれましたよ」

 

「いや、喜んではないと思うぞ」

 

「私たちに相談もなく、勝手にそんなことしてたなんて」

 

「ずるい。私なんて前の会談の時も行けなかったのに」

 

「…いいじゃないですか。それよりも、皆さんゲームの準備をしておいてください。私も準備しておきますので」

 

話を切り上げると、管理官は宿舎へと帰って行った。

 

 

 

≪ギフトゲーム名 FAIRYTALE in PERSEUS≫

 

・プレイヤー一覧 逆廻十六夜 久遠飛鳥 春日部耀 管理官

・”ノーネーム”ゲームマスター 管理官

・”ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒

 

・敗北条件 プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。

      プレイヤー側のゲームマスターの失格。

      プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

・部隊詳細・ルール 

*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない。

*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。

*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行することはできる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、”ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

 

”ペルセウス”印 

 

 

「…なるほど、そう来ましたか」

 

「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」

 

「それならルイオスも伝説に倣って睡眠中だという事になりますよ。さすがにそこまで甘くはないと思いますが」

 

「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギたちはハデスのギフトを」

 

「…持ってますよ?」

 

管理官はギフトカードから、ハデスの兜を10個取り出した。

 

「な、何で持ってるんですか!?」

 

「…何でと言われても、私が撃ち落とした彼らから奪い取りました。……ヘルメスの靴もありますが要りますか?」

 

「なんか管理官のせいでヌルゲーになったな」

 

「ルイオスも、まさか私たちが不可視のギフトを持ってるとは思ってないでしょうね」

 

「ガルドのより簡単かも…」

 

「はぁ…。不可視のギフトを持っているとは思ってませんでした…。ですが、必ず勝てるとは限りません。黒ウサギ的には非常に厳しい戦いになると思います」

 

「……あの外道、それほどまでに強いの?」

 

「いえ、ルイオスさんご自身の力はさほど。問題は彼が所持しているギフトなので。もし黒ウサギの推測が外れていなければ、彼のギフトは―――――」

 

「「隷属させた元・魔王様」」

 

「そう、元・魔王の……え?」

 

十六夜と管理官の捕捉に黒ウサギは一瞬、言葉を失った。

 

「お二人とも……まさか、箱庭の星々の秘密に」

 

「…私は違いますよ?彼らからギフトを奪い取った時に、もしかしたら神話や童話が関係あるのではと思っただけです。もし関係あるならメドゥーサの話で隷属させているのではないかと…」

 

討伐した魔王を隷属させることの出来る箱庭の法則。ギフトゲーム名の【ペルセウスの御伽噺】。ヘルメスの靴、ハデスの兜、そして、管理官が粉々にした鎌、あれがハルペーだとするならば、管理官の予想が成立するのだ。

 

「俺は星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信したな」

 

「お二人とも、黒ウサギの想像以上に賢くて驚きなのです!」

 

「…とりあえず、皆さんハデスの兜を持っておいてください」

 

十六夜たちは管理官からハデスの兜を受け取ると、白亜の宮殿の門を蹴り破った。

 

 

 

 

●〇●〇●

 

 

白亜の宮殿は五階建ての作りとなっている。最奥が宮殿の最上階に当たり、進には絶対に階段を通らねばならない。”主催者”側の人間がどれだけ配置されているか分からないが、最低でも一つの階段を確保せねば先に進めない……はずだった。

 

「…ハデスの兜、予想以上に有能ですね」

 

「相手側が可哀そう。透明化してても私なら気配を探れるし」

 

「私も水樹の操り方を練習してきたのに、意味がなかったわ」

 

「無駄に疲れないだけマシじゃないか?」

 

「それもそうね」

 

「っと、着いたぜ最上階。案外狭かったな」

 

「…もう少し距離があると思ってました」

 

「そうね。それにしても……これは闘技場かしら?」

 

「見て、あそこ。黒ウサギが待ってる」

 

耀の指差すを方を見ると、黒ウサギが心配そうに最上階の入口を見ていた。

 

「…すみません、少しルイオスの相手をしておいて貰えませんか?メドゥーサが居るかもしれないので少し戦力を増強しようと思います」

 

「あら、また新しい方を呼ぶのかしら?」

 

「前は小鳥だったけど、今度は何を呼ぶの?」

 

「…へぇ、管理官のギフトは召喚系ってことか」

 

「…そんな感じです。今回呼ぼうと思ってる方は、少々時間がかかるので時間稼ぎをお願いします」

 

「分かった」

 

「あら、倒してしまってもいいのでしょう?」

 

「お嬢様の言う通り、別に倒しても問題ないよな?」

 

「…どうぞご自由に。倒して頂いた方が私も助かります」

 

管理官の言葉を聞くと、3人はハデスの兜を外し、黒ウサギの待つ最上階へと走っていった。

 

 

 

 

……さて、【悪魔】にでもお願いしますか

 

 

 

 

 

 



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