三ノ輪銀は勇者である オラトリアの緋跡 (大腿筋膜張筋)
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プロローグ

私の人生は一日の日々を耐えるだけのものだった。10歳の頃、神経難病として、筋萎縮性側索硬化症を患った。この病気は治るのが難しく徐々に筋肉が萎縮していくという病気であった。なので、病院で過ごすことが多く、外に出ることはほとんどなかった。

そうなると勉強もしたところで生涯は短く終えることが決まっているため、12歳になる頃にはただ惰性で行っていた。

するとやれることは限られ、最低限のリハビリと一般教養程度で行い、趣味としてはアニメや漫画に片寄っていた。自分が出来ることはないものを見るのは羨ましくもあり、憧れの対象でもあった。

そこで自分が特に好きだったのは異世界ものの転生であり、自分には持っていないもの、体を動かし新しい人生を苦しくも楽しんでいるものには憧れはあったが、それと同時に嫉妬の対処でもあった。

自分とは違い好きに体を動かし、好きに生きていくことに強い憧れを覚えていた。アニメの中でも辛い場面、苦しい場面があったのは分かるが、体を好きに動かし、未知の出会いがあるのは自分の人生と比べ、何事にも変えられない素晴らしいものであるのは間違いないだろうと思っていた。

初めの頃は病気に負けず、外に出て好きに動かせる自分になると信じえ止まなかった。しかし10年の月も経てば諦めが勝り、病室で閉じこもりの生活が続いていた。

そして、つい先月に自分の余命が告げられるも、特に日々は変わらず、リハビリの先生や家族からは、自分のしたいことは何かと言われるも何も思いつかなかった。ただ、自分の好きなアニメを見直すという行為を行うことしかしなかった。

その中で、結城友奈は勇者であるというものを見ていた。自分の好きなアニメは異世界転生ものに偏っていたが、1番好きなアニメと聞かれれば、このアニメだと思う。自分には指名を課せられ、勇者という役割こなしながら学生生活を行っていた。その中で唯一亡くなった勇者といして、三ノ輪銀という少女に自分は凄く惹かれた。

初めは仲のいい、同級生とバーデックスという日本を脅かす化け物と戦っていたが、この少女は正義感が強く、仲間の鷲尾須美といえ少女と反発し合っていたが、力を合わせて勇者としての仕事を全うしていた。しかしバーデックスも力をつけていく中で三ノ輪銀という少女は亡くなってしまった。

この事実としてファンからは気さくなキャラとして愛されており、作中で亡くなってしまったのは悲しみの声が大きく、私も大号泣して、家族や病院の方々に迷惑をかけてしまったが。しかし自分としては悲しいという気持ちよりも羨ましい気持ちが大きかった。結果としては亡くなったしまったが、仲間のために役に立てたならば良いではないかと。病院でただ死の運命を待つだけのわたしに比べたら羨ましい限りだと思う。

そんなことを思いながら病室の中で薄れていく意識の中、出来れば誰かの役に立ち、天寿をまっとうしたい願うばかりであった。

 

 

 

 

「…ここは…?」

 

もうひらかれることはないだろうと思っていた閉じた瞼には明るい光が知覚され、少しづつ目を開いていくと目に入り込んできたのは、もう拝めることはないだろうと思っていた太陽の日差しであった。その光景が嘘ではないかと確認するように瞬きを数回繰り返し、今映っている景色が幻覚では無いことを確認する。その次には今まで動くはずのなかった四肢が動くことに気づき、体を起こし周りを見渡してみる

 

「ここはどこなんだ…?」

 

病室の窓から眺めることしか出来なかった風景に感動来ると思っていたが、その事よりも自分がいる場所に疑問が出てくる事の方が先であった。辺りを見渡してみても、ビルや住居どころか建物が1つも見当たらず、草原と森林、青く澄みきった空に太陽しか目に映らない。

 

「取り敢えず、歩いてみよっか」

 

地面から臀部を離すように立ち上がると、スムーズに立ち上がれたことに驚きを感じる。今までは支えがなければ立ち上がるのがやっとで、それをこなす筋力も段々と無くなっていき、ベッドでの生活が長く続いたことから足を踏み出すのに躊躇したが、踏み出してみると地面の感触は硬いものではなく、草をクッションにして感じられる自然の感触に喜びを感じ、徐々に走り出した。

 

「ははっ、あはははっ!!」

 

楽しい!楽しい!

ただ走るだけなのに今まで味わったことの無い、体に風が通り抜け、全身の隅々まで伝わる快感が、もっと体を動かせと爽快な気分になりながら息が切れるまで走り駆けた。

たとえ夢であろうとも今感じているこの瞬間は忘れまいと思う自分であった。

やがて体が疲れを感じ、走るのを辞め、息を整えていると視線の先には子供二人分の幅がある川を見つけ、そこまで歩いて行く。

 

「ん…?」

 

その川は水も澄んでおり、喉の渇きも感じていたので水分補給をしようと水面の反射で自分の顔が映る。

そこに映ったのは今までなんの特徴もない一般的な日本人の顔ではなく、大きい瞳に、茶色と言うよりもやや灰色に近い髪を紐で結い、1本で縛ったショートポニーテールというものに近かった。その顔つきは将来美人になり、良い姉御肌のような優しくも頼れる存在になるであろう……ちょっち待ち?

 

「いや、これ三ノ輪銀じゃね?」

 

これは神様がくれた夢とでも思えばいいのだろうか。頬を抓ってみても普通に痛覚があるが今の現状が夢以外に信じられなかった。

今流行りの異世界転生というものではないかと思うが、正直あれらは創作物のもので、死んだら天国か地獄に行くものばかり思っていた。

 

「けど神様っぽいものにもあってないし…」

 

自分が今まで見てきた作品では神様と会い、言葉を交わして異世界にいくものだと思っていたので、正直転生ではなく、夢の延長戦のようなものだと感じていた。

まぁ、夢なら覚めるまで好きにやるかと川で喉を潤した後、歩き出すが何処へ行こうかと再び歩みを止める。

 

「取り敢えず、街を目指そうか」

 

とはいえ、目印となる建物の影も形もないことから何処へ行けばいいのか分からなかった。

この少女の記憶が無い。この子がどんな生活をし、どんな親に育てられ今まで生きてきたのか分からないので、正に八方塞がりであった。

 

まぁ、取り敢えず川を下っていったら何かしらの街に着くかと思い歩き始めた。

 



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出会ったのはゲロと共に

「夢はまだ冷めないのか…」

 

そろそろ夢は冷めてもいいんじゃないかと思いながら川沿いを歩いていくと、目先に映ったのは夕暮れと天高くそびえ立つ縦長い建物に軽い感動を覚えた。

目測でしかないがかなり大きい建物と分かる。取り敢えずはあの建物に向かって、先程捕まえて焼いた魚を齧りながら歩みを進める。

しかし問題となってくるのは街だった場合、関所で通行料などが発生すると困ってくることがある。

 

「ポケットの中から何も見つからなかったもんねー」

 

今時分が持っているのは川で捕まえた川魚のみ。物々交換が通じれば良いが、その街で使っている通貨を求められた場合確実に詰んでしまう。

最悪、どんな乗り物を使っているか分からないが、ファンタジー世界のような設定であった場合、馬車の荷台にこっそりと隠れ乗り込むしかない。

夢の中で初めて直面した問題が金銭関係とは、やけにリアルだなと思わずため息をいてしまうのであった。

 

歩いて体感的に10分ほど歩いたところ、関所のようなものが見えてくる。そこでは馬車や人が関所の前で止まり、何らかのやり取りをしたあと関所を通り過ぎて行った。

 

「通る時には通行証みたいなのを見せていたよな」

 

馬車に乗り込むとなると問題になってくるのはこの開けた大地である。森を抜けると30メートル位の位置に関所があり、その前には障害物となるものが見当たらない。

そうなってくると今来た道を少し戻り、草木に体を隠して馬車が止まったところに隙を見て乗り込むしかない。

たかが10数年生きてきた病人にはこれくらいの考えしか思いつかない。杜撰な計画であるが、自分にとって何もかもが初めてのことで、見つかった時はなんとかなるくらいにしか考えていなかった。

来た道を戻り、焼き魚を5匹程度食べたあと、ある馬車が自分の目の前を通り過ぎようとしたあと、数メートルの位置で止まり、人が降りてきた。これはチャンスだと思い、馬車の後ろ側に周り、荷台に乗り込み、身を隠すところはないかと探すと奥の方に長方形の子供一人分入りそうな木箱を見つけた。

これは好機だと思い、その木箱を開けると中身は入っておらず、中に入り身を隠す。

 

「(この馬車は帰る途中なのかな…?)」

 

いざ中に入ってみると、甘い香りにアルコールの匂いが漂ってくる。その匂いに僅かながらも嫌悪感が湧いてくるが、少しの我慢だと思い、耐えながら馬車の持ち主が鼻歌を歌い戻ってくる。

ある程度時間が経つと馬車が走り出し、酔いそうになるほどの振動に耐えながら街に着くのを心待ちにしていた。

というか吐きそう…。

 

 

寝ていれば着くかと思ったが、木箱の中に満ちているアルコール臭とガタガタと体に襲いかかる振動と戦いながら眠れるわけがない。

吐き気と戦いながら、約30分ほどしたら人の声が聞こえ始め町の中心部へと近づいていくのが分かり出した。

 

「(…早く止まってくれないかな。吐きそう…)」

 

この木箱の中で吐瀉物をぶちまけるのは流石に申し訳なさ過ぎる。

もうそろそろ限界だと思い始めたところで馬車のスピードが徐々に緩みだし、目的地に着いたのであろうと馬車は止まった。

しかし止まったのはいいが、ここからの行動を全く考えていなかったので、取り敢えず木箱の中で大人しくしていると外から話し声が聞こえる。

これはチャンスを、逃してたまるかとなるべく音を立てないように木箱の蓋を開け、荷台から降りる。

しかし荷台から降りたのは良いが降りた衝撃で、腹部への圧迫感が伝わり、胃液が喉の奥まで登りつめる。

 

「(名も知らぬ商人よ、ありがとう!この借りはいつか返します!)」

 

兎に角走る。走りまくってなるべく人のいないところへと走り、商店街らしき通りを右へ曲がり、数メートル先へ走ると、もう限界だとばかりに地面に四つ這いになり、焼き魚を全て大地に注ぐ勢いで吐きまくった。

 

「「お、おっぇぇぇええ!!」」

 

約1分間も続く吐瀉物をすべて吐き出すと、自分以外にも同じような音が聞こえると思い、横を向くと自分と同じ姿勢で地面へゲル状の液体を地面に注ぐ人物がいた。

 

「やっぱり、行くんじゃなかった…。ロキと会うし、ヘファイストスには小言を言われるし、他の神にも弄られるし、散々だよぉ…」

 

こうべを垂れて地面と話しかけている女性は両方の側頭部で髪をっているツインテールという自分もよく見ていたアニメでもよく見られた髪型だった。

横顔しか見られないが童顔であるものの非常に整った顔立ちをしており、同じ女性でも見とれてしまう美しさがあった。

視線を下に向けるとその身長と顔立ちからは考えれないほどの胸部があり、その胸の下には青色の紐が着いており………紐?

 

「そりゃあ、居候の身で何、酒飲んでロキと喧嘩してどんちゃん騒ぎをしたっていってもさぁ、あんなに言うことはないだろう…」

 

待て待て、wait。こんな特徴的な服と暴力にも等しいダイナマイトボディを持つ、童顔少女がいるのだろうか。いや居ない。

100歩譲って顔立ちと犯罪的なボディにコスプレして街を出歩いているとしても、この人物から感じられるオーラ的なものから考えて見るに、あのアニメのキャラクターではないかと確信めいたものを感じる。

 

「(この人、ヘスティア様じゃね?)」

 

あのアニメは自分も好きなシリーズであり、何度も見直したものであったが、ライトノベルの方は買っておらず、アニメの続きが出ないかと待ち望んでいたアニメである。

ヘスティアはある程度気分が治ったのか、愚痴は止まっており四つ這いのままこちらと向き合う。

 

「なんでこんな路地裏に君みたいな子供が?」

 

「道に迷いまして…」

 

あの時は無我夢中で走り、人の目のつかないところを探していたため、こんな薄暗い路地裏に来てしまったのである。実際に迷子でもあるが、そもそも自分の名前も出身も分からずにここまで来たため自分が何をしたらいいのかと途方に暮れそうな所であった。

 

「こんな所であった所も何かの縁だ!。

僕の家族になってくれないかい?」

 

「(え、えぇ…?)」

 

こんな感じで簡単に誘ってくるものだろうか。

自分のイメージ的にはヘスティア様は子供っぽい所もあり、ベル君と会うまではヘファイストス様のところでニートしていたところもあったが、しっかりする所はしっかりしていた気もするのだがと思う。

ヘスティア様はだいぶ酔っているようで、顔も赤く、視点も定まっていない。そんな状況で家族になりましょう宣言されても動揺するしかない。

 

路地裏で同時にゲロを吐きあったのはまさかのヘスティア様で、酒の勢いで家族になろうと誘ってくるのに自分はどうしようもなく、ただ困惑するばかりであった。



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廃教会の中で私は決意を固める

「ねぇ、ヘスティア。こればかりはダメだと思うのだけれど」

 

鍛冶師系のファミリアの主神、ヘファイストス様は目の前で正座しているちんちくりんな駄女神であるも、友人のよしみで今まで居候させてきたヘスティア様に説教をかましていた。

 

「酔った勢いで、名も知らない、身元もわからない子供を連れて帰って、挙句の果てには眷属にしようとした?今までは見逃してきたけどこればかりは許容範囲外よ」

 

「はい、返す言葉もありません…」

 

ヘスティアの頭にはギャグ漫画のようなタンコブが3つ重なっており、冷たい床の上に正座をしていた。

その横には私も同様に正座しており、ヘファイストス様の顔を見つめるも、壁に飾られている武器を作るための金槌や、書籍などがありそちらの方に目がいってしまう。

 

「それよりも…君、名前は?」

 

ヘファイストスに尋ねられ、思わず黙ってしまう。今まで夢とばかり思ってきたが、痛みも感じるし、昨日から一晩寝ても自分の姿かたちがまるで変わらず、これは本当に夢なのだろうかと疑ってしまう。

例え、夢であろうとなかろうと今の自分の名前を使うべきではないと思った。

 

「…銀、三ノ輪銀です。」

 

「三ノ輪銀ね…。予想はしていたけどあまり聞かない名前ね。」

 

それもそうだろう。というか私も自分の出身、身元も分からずじまいで取り敢えず、この街にたどり着いたのだから。そこで出会ったのはまさかのアニメのキャラクターであるヘスティア様だ。それに加えて、街の風景や目の前にいるヘファイストス様っぽい人もいることから考えて、ダンまちの世界に迷い込んでしまったということか。

とは言っても1日眠ったくらいで夢が覚めるとは限らないし、結局は夢の世界が少し長く続いているだけなのだろうという結論に至った。

 

「そういえば、自己紹介が遅れたわね。私はこの駄女神の友人をしているヘファイストスよ。よろしくね。」

 

ヘファイストス様は目線の高さを私に合わせるようにして自己紹介をしてくれた。

やはりこの女神様は良い人なのだろうと思う。しかしこの優しさを持ってしても昨日のヘスティアの失態は許容範囲外ということかと横でタンコブを3つ作って涙目のヘスティア様を見る。返答が遅かったのか怪訝そうな顔を浮かべるヘファイストス様に慌てて頭を下げる。

 

「よろしくお願いします。」

 

「取り敢えずは自己紹介したけれど、銀ちゃんは自分の名前以外ほとんど分からないのよね?」

 

ヘファイストス様の質問に対し、こくこくと頭を上下させる。

自分のの身元を保証する持ち物なく、記憶もない。そもそも三ノ輪銀のそっくりさんがいるとしても、服装まで讃州中学の制服までも被るのはおかしすぎる。

 

「それなら…。

ちょうどいいわヘスティア、アンタこの子を連れて出ていきなさい」

 

「ヘファイストス!?」

 

「あんた、このままここに居座る気?」

 

「うっ、それは…。」

 

ヘスティア様は痛いところをつつかれたとばかり呻く。それは自分にとって好都合でもあった。正直、ヘファイストス様の所に保護されてゴロゴロ過ごすよりも、アニメでヘスティアがじゃが丸くんのお店でバイトをするのもいいし、冒険者となり生計立てていくのもありだと感じる。

今まで病院の中でベッドから出ることのない生活を送っていた身としては、外の世界で体を動かしながら生きていきたい。

 

「しかもヘスティア、銀ちゃんに神聖文字刻んだんでしょう?」

 

「な、なんでそれを…。」

 

昨日の夜、ヘスティア様はヘファイストスギルドの自分の部屋に行くと私の体をスッポンポンにして背中の上に羊皮紙を置いて血を垂らすというアニメであったような儀式めいたものを行っていた。

その後のことは眠くなり詳細には覚えてはいないが、後ろの方で騒いでいたような気がする

 

「こうなった以上、あんたは責任を取らなくちゃならないのは分かるわよね?」

 

「おっしゃる通りでございます…。」

 

こうべを垂れてショボーンと見るからに落ち込んでいる雰囲気を出しているヘスティア様である。

世間に疎い私から見てもヘスティア様のした行為は流石にどうしようもないと思うが、自分としては都合の良い展開であった

 

 

ヘファイストス様の領地から出て、数時間ほど経ち、住む場所を探していると街の外れに廃教会があり一先ずそこで生活していくことになった。

こじんまりとしているが、中は意外と広く感じ、2人で生活していく分には問題はなさそうであった。

それからは軽く部屋の掃除や生活用品、食材などを揃えていくうちに夕暮れに近づいていた。

 

「銀くん、大切な話があるんだけど。」

 

買った食材で初めての料理に胸を踊らせながらも、ネットサーフィンにハマっていた頃に眺めていた料理のサイトでのことを思い出しながら、どんな料理を作ろうか迷っているとソファーに腰掛けていたヘスティア様に呼ばれ、自分もソファーに腰をかける。

 

「はい、なんですか?」

 

「まずは…ごめんなさい。」

 

ヘスティア様は自分の方を向いて、ソファーの上で器用に土下座をした。その光景をポカーンと眺めていると我に返り、慌てて辞めさせる。

 

「これは、相手に謝罪する時の最上級の謝罪の態度って、僕の友達から習ったんだけど。」

 

「と、取り敢えず顔を上げてください!」

 

相手は昨日いくらあのような失態を犯しても、神様である人に土下座をさせるなんて申し訳がなかった。

 

「昨日はいくら酔ってたとはいえ、銀くんみたいな小さな子供に同意も得ずに眷属にしてしまったのはほんとに悪いと思っている…」

 

「それはここに来る途中で、何度も謝ってもらったので大丈夫ですよ。」

 

それに関してはほんとに頭を下げすぎて、脳に血液が溜まりすぎるのではないかと心配になるほど程に頭を下げたので、謝られ過ぎてこっちが申し訳無くなるほどである。

 

「そこで相談になるだけど…、銀くんはほんとに冒険者になりたいのかい?」

 

ここへ来る途中に話した内容は自分が冒険者となってかせいでいくというものだ。ヘスティア様は住むところを探す途中で見つけた、じゃが丸くんのお店で働くと言っていた。自分もそこの店舗で働けばいいのだろうけど、自分の体格から考えて、おそらく断られるだろう。

流石にヘスティア様に路銀を稼いで貰いながらニート生活を送っていくのは人としてダメであることは分かる。自分がいくら子供と変わらないものであってもアルバイトだけの金額では2人で生活していくのは細々しく生活していかなければならない。

 

そこで選択肢として挙がるのは冒険者という職業だ。冒険者は年齢も実力さえあれば認めてもらえ、自分が稼いだ分だけの金額が貰えるらしい。

 

「はい!自分だけ食っちゃ寝するのはダメだと思うんで!」

 

「そ、その通りだネー」

 

冒険者というものはメリットも大きいが、当然デメリットもあり、モンスターと戦い、戦っていく中であっさり死んでしまうことも充分にある。

だが自分にとっては何もせずに生活して行くことが何よりも苦痛であり、自分が惨めに思えて来るのも、親が申し訳なさそうに自分の見舞いにやって来ることを思い出してしまいそうで、途轍もなく辛かった。

 

「私は誰かの役に立ちたい!それが私のやりたいことだから!」

 

「…分かったよ。でも僕の友達の所に行ってダンジョンへ行く許可を貰ってから行くこと!これは絶対だよ。」

 

ヘスティア様は有無を言わせない真剣な表情で顔を近づけて言ってきた。

私は誰かの役に立ちたい。今まで関わってきた人に恩返しが出来るように。病気を患っていた私を支えてくれた親に立派に成長していると見せるようにと。

そして三ノ輪銀のように、人々から愛され、皆を守れる力が欲しいと強く決意するのであった。

 



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ダンジョンへの道のりは長いようで短かったのである

すみません、遅くなりました。
なるべく早く仕上げようと思います。


右方向から降りかかってくる斬撃に木刀で受けるが、衝撃を殺しきれずに体勢を崩してしまう。その隙に体の中心部に向かって突きが迫ってくる。突きに対しては体を横に向けようとするが先程の斬撃で体に痺れが残り、体を無理矢理逸らすことでギリギリかわす。

逸らした勢いで、重心が体の後ろに残っているのを、後ろ足を軸にして体を回旋させ、勢いづけて左斜め下から振り切る。

 

「むっ!」

 

タケミカヅチ様は私の攻撃に対して、反応が遅れるも綺麗に衝撃を後ろへ流すと、その勢いで私の体は前のめりになり、隙だらけの顔に斬り掛かる直前で寸止めで木刀を止める。

 

「今日はここまでだな。」

 

顔の前で寸止めしていた木刀で肩をを叩きながらタケミカヅチ様はそう言った。すると私は体の力を抜き、地面へ座り込んだ。

 

「さっきの返しは良かったが、受け流された時のことも考えておかないと体が流れて逆に返されてしまうからな。注意しとけよ銀。」

 

「はい!」

 

私がタケミカヅチ様の所へ稽古をつけてもらって早2ヶ月が経とうとしていた。

ヘスティア様の友達であるタケミカヅチ様は私の稽古をつけてとお願いした時はたいそう驚かれたが、快く承諾してくれた。

だが、いざ稽古をつけてもらってみると私は木刀を振るったことがなく、初めての稽古は型から入ることになった。それからは素振りや木人形に対しての打ち込みなどを経て、ようやく実戦形式の稽古にたどり着くことが出来たのが1か月前。

そこからはタケミカヅチファミリアの命さんや桜花さんと掛かり稽古を行い、今日でダンジョンへ行くことを決める試験が行われた。

 

「試験の結果だか…合格だ!」

 

「ほんとですか!?」

 

「あぁ。」

 

私は思わず立ち上がり、その場でグッと拳を握り込む。その反応に対してタケミカヅチ様は私の頭を乱暴に撫でる。

その稽古を見てみたヘスティア様や命さん、桜花さん、千草さんは駆け寄ってくる。

 

「銀くん!おめでとう!」

 

「良かったなぁ、銀!」

 

「銀殿、おめでとうございます!」

 

私の周りを囲って、胴上げをする勢いで近づいてくる。千草さんや桜花さんは私の稽古も手伝ってくれたので弟子のように感じているのだろうか。

 

「けど、初めてのダンジョンはほんとに俺らと一緒にいかなくていいのか?」

 

「はい、初めてのダンジョンは自分の力がどこまで試せるかやってみたいので!」

 

私の力を試してみたいのでヘスティア様やタケミカヅチ様にお願いしてみた。その時は滅茶苦茶心配され、桜花さん達を連れて行くと言って話を聞かなかったが、日本の必殺技のDOGEZAをして許可が出るまで頭を上げないという力技でゴリ押しした。

 

「仕方がない。だがほんとに気をつけておけよ。」

 

タケミカヅチ様はもう一度私の頭を乱暴に撫でながらそう言ってくれた。

今日のお昼頃にバベルへ行き、冒険者として登録するつもりだ。そこからダンジョンに入るために講座などがあり、ダンジョンへの道のりはあと少しということになる。

 

「じゃあ、銀殿。ギルドの講習会頑張って下さい!」

 

千草さんと握手を交わし激励を受けてギルドへ向かうため、ヘスティア様と共に歩みだした。

 

 

ギルドの講習会を受けて、廃教会へ戻る途中で講習会の内容を思い出していた。

私の担当はベル君大好で有名なエイナさんだった。とは言ってもベル君会っていないため、少し厳しそうな綺麗なお姉さんであった。

まず講習会を受けるために冒険者登録を行おうとしたが、そこで一悶着あり、自分年頃の子がダンジョンへ行くのは有り得ないと言われ、門前払いを受けそうだったが、タケミカヅチ様の指導を受けたと言うと、渋々登録してくれた。

講習会で筆記試験などを受けてやった、ダンジョンに潜れるという事だったので、もう少しかかりそうだなっと思った

 

 

そして2週間後には筆記試験が終わりダンジョンの入口にやってきた。筆記試験については千草さんや桜花さんにダンジョンのモンスターの特徴などを稽古の合間に話してくれてたので話の内容的には入りやすかった。そして今日に筆記試験を受けて、合格判定を貰ったのでダンジョンに潜ろうとしていたのであった。

ほんとならタケミカヅチファミリアのみんなやヘスティア様に合格したと報告するべきなのだろうけど、ダンジョンに行きたいという気持ちが勝り、試験直後にダンジョンに潜ろうとしていた。

 

「これからダンジョンの始まりか…」

 

長いようで短かった。自分が病室の中で意識が朦朧していく中で、目覚めたらアニメの世界でしたとかどんなの冗談だと初めは思っていたが、今自分が生きている世界はここであるということはそろそろ自覚し始めていた。だが夢の延長戦であると思う時が多々ある。例え夢であってもこの世界に来てよかったと思える自分がいる。

これから色んな人に感謝していこうと決意し、1歩踏み締めていた。

 

 

 

 

向かってくるのはゴブリンというブダのような見た目のモンスターであった。このモンスターは正直、あまり強くはないが『冒険者は冒険してはならない』という言葉を忘れてはならないとエイナさんに口酸っぱく言わてれていたことを思い出していた。

ここがダンジョンということを思い、桜花さんから貰った斧の柄を握りしめていた。

防具については千草さんからお古を貰ったのだが、斧については装備をどうするかと迷っていると桜花さんから冗談交じりに斧を貸してもらい、扱ってみると想像以上に扱いやすかった。重さに振られると思ったが、稽古で使っていた木刀よりも扱いが簡単で驚いた。

それならばと桜花さんから前に使っていた斧を譲ってもらうことになった。

自分の体格で斧使いというのは笑えてくる。その時に稽古中であったことを思い出してみると肩の力が抜けた。

そのままリラックスした状態でコボルトに近付き、1歩踏み込んで右斜めから振り斬った。

するとゴブリンはグギャ!と叫びながら血を流し後ずさる。そのままもう一歩踏み込み、左斜め下からアッパースイングの要領で斬り込む。そのまま稽古で注意された相手の反撃に対して構えていると、魔石がボトっと地面に落ちて転がる。

 

「まずは1匹!」

 

今日の調子は悪くない。体も思ったより動いてくれるし、流されることも無い。とはいえ調子に乗りすぎると自分の不注意で簡単に殺されてしまう。1層とはいえ、どんなトラブルがあるか分からないのだ。

 

「なるべく注意して、4層までを目指そう!」

 

落ちた魔石を回収しながら奥へ進み、身丈に合わない斧を担ぎながらダンジョンの奥へ走り出すのであった。



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ダンジョンの木こり少女

迫り来る腕を掻い潜り、そのまま1歩踏み切って横っ腹に斧を切り込む。そして振り向き無防備な背中へもう一度袈裟斬りの要領で切り掛かる。すると先程のゴブリン同様に魔石へと変わり地面へ転がる。

 

「これで3体目か」

 

1匹目のゴブリンを倒すと、その勢いで2匹目へ斬り掛かり魔石を回収すると3匹目も同様に魔石へと変えていた。

現在は2層目であり、周囲にモンスターが居ないことを確認するとひと休憩とばかりに地面へ座り込んだ。

その後ろには岩陰で保護者かとばかりハラハラとした気持ちで見守るタケミカヅチファミリアがいるとも知らずに。

 

 

「一先ずは順調そうですね…」

 

命がそう呟くとその横でうんうんと頷いている桜花と千草であった。

今日が筆記試験だと銀はヘスティアに伝えておくと、その流れでダンジョンに向かうと思ったヘスティアはタケミカヅチに様子を見てきてくれないかとお願いしていた。するとタケミカヅチファミリアもどうやら心配だったらしく快く承諾してくれた。

 

「この先は複数のモンスターが出てくるのでいざとなったら、飛び出すか」

 

タケミカヅチファミリアは銀が休憩は終わったのか更にダンジョンの奥へと駆け出していくのを遠くながらも見守っていた。

 

 

 

現在3層、その途中でダンジョン・リザードやコボルトといったゴブリンと違う種類のモンスターも出会ったが斧を振りかぶって、木こりの如くバッサバッサと薙ぎ倒していた。

すると行く先ではゴブリン群れが現れていた。

その種類は3体、ゴブリン達は私を見つけるとドタドタとその巨体を

揺らしながら近づいてきた。

私は斧を持ち直し、襲撃に備える。

 

まずは1番先に私に襲いかかってきた左側のゴブリンに対しては、右腕をゴブリンが振りかぶり、私を狙ってくる。

その拳を掻い潜り、通り過ぎた時に同時に脇腹に切り込みをいれる。そのままゴブリンの背後へ周り、しゃがみ込んでふくらはぎに目掛けて横一直線に斬る。

 

しゃがみ込んだ私に目掛けてその隣のゴブリンは拳を振り下ろして来るのに対して、バックステップをとり振り下ろした腕に斜めに斬りこんでそのまま片足を軸にして一回転しながら1歩踏み切り、アッパースイングで胸部目がけて降り抜くとゴブリンは巨体を地面へ押し付け、魔石に変わらず倒れる。

倒れた2体目のゴブリンの巨体を踏み台にして飛び上がり、目一杯に背中まで持っていき、兜割りの要領で縦一直に振り下ろす。

 

すると3体目はそのまま魔石へと変わり、残りの動けないゴブリン2体を処理して魔石へと変える。

 

「このまま4層まで行ってみよう!」

 

地面へ落ちていた魔石を回収しながら、体に異変がないか確認する。攻撃らしい攻撃も受けてないとチェックすると自分の力を試したいということで更に奥へと足を進めるのであった。

 

 

 

 

 

「銀くん、大丈夫かなぁ…?」

 

廃教会で銀の帰りを待ち続けるヘスティアはタケミカヅチファミリアに銀の様子を見てくれとお願いしたものの、心配なのは心配であるとばかりにハラハラとした気持ちでソファーで銀の帰りを待っていた。

 

「ただいまです!」

 

「銀君!おかえり!」

 

扉を開けて中に入ると同時にヘスティア様が私に飛び込んで来て体を弄りまくった。その時に匂いまで確認するのはどういう事なのかと問い詰めたかったが表情が表情だったので引いた。具体的に言うと蕩けている顔が。

取り敢えずへばりついているヘスティア様を引き剥がすしソファーに座らせる。

 

「大丈夫だったかい?変な冒険者に体を弄られたりしなかったかい?」

 

「大丈夫でした!」

 

後ろから変な視線を感じたりしたが、実際になにかされたということは無かった。

ダンジョンでのモンスターも傷らしい傷は受けてはおらず5そう直前まで行ったが5層からは長い舌を使って中距離から攻撃してくるフロッグ・シューターや危険を察知すると仲間を呼び出すキラーアントなども出てくるため4層で引き返してきた。

 

「やっぱり明日も行くのかい?」

 

ヘスティアが心配そうな顔で私の顔を覗き込んでくる。

確かに5層からはまた難易度が違ってくるので今日4層までにしておいたのだ。

 

「はい!明日は5層から7層までいけたらいいなぁって思ってます!」

 

「そっか…。でも出来ることがなんでも言ってくれ!僕ができる範囲なら何でもするから!」

 

ヘスティア様はふんすっ!と顔を近づけて力こぶを作るように私に見せてきた。

とはいえなるべくなら自分の力で行けるところまで行ってみたい私はホントにダメな時にヘスティア様やタケミカヅチファミリアのみんなに頼もうと思う。

ヘスティア様は私を神様であり、ダンジョンには連れて行けない。それに加えてタケミカヅチファミリアのみんなには稽古を付けてもらった恩があるので、これ以上迷惑をかけれないと思い、頼みにくかった。

 

「じゃあ、取り敢えず…僕のバイト先で貰ったじゃが丸くんを食べようじゃないか!」

 

流石にじゃが丸くんだけでは夜中にお腹がすき、目が覚めてしまいそうで、バイトを頑張ってくれたヘスティア様にお礼がしたいと思い、少し待ってて下さいと、ヘスティア様に言うと私は帰りに買った食材で夕飯を作るためにキッチンへ向かったのであった。

 

 

 

「良し!銀君。寝る前にステイタスを更新しておこうか!」

 

ヘスティア様はベッドの前に座っており、自分もその場所へ行き、服を脱いでうつ伏せで寝る。

するとヘスティア様は私の背中でステイタスを確認する。

 

「ひょ、ひょわぁぁぁ!!??」

 

「ど、どうしましたヘスティア様!?」

 

「い、いやなんでもないよ。うん、なんでもない!」

 

私のステイタスに変なものでもついていたのだろうか。自分にバフを掛けるようなスキルでも発現したのだろうかとワクワクしたが、すぐにそれならばあのような悲鳴は挙げないだろうと落ち込んだ。

以前やった時も時間がかかっていることからこれは相当厄介なものでも発見したのだろうか。もしくはステイタスが0を振り切ってマイナスまでなっているのだろうかと内心ビクビクしながらステイタス更新が終わるのを待っていた。

 

私はその紙を受け取ると少し驚いてしまった。

 

三ノ輪 銀

Lv.1

力: I 99

耐久: I 86

器用: I 96

敏捷: I 89

魔力: I 10

《スキル 》

 

勇者不懼(カーレッジ フィアリィス)

恐れを抱かず挑み続けることで経験値(エクセリア)上昇。

思いがある限り効果持続。

 

【⠀???? 】

解析不能

 

 

 

「なんなんでしょうね。このスキル」

 

「んー、僕にも分かんないや。悪くは無いんじゃない?」

 

私はある程度確認すると眠くなってしまい、服を着るとそのままベッドで寝てしまった。

 

 

その様子を確認したヘスティアは溜息をつく。初めてのダンジョンでスキルがつくことはそうそうない。しかもかたや見たことの無いスキルで、もう片方はそもそも解析不能であった。

経験値の上がり幅については初めのうちはいくら上がりやすくなるとはいえ、この数値は少し異常であった。

明日は5層に行くらしい銀に対して、ヘスティアはただ帰ってくるのを待つことしか出来ない自分に悔しさを感じた。ホントならばパーティを組んで行った方がスムーズに進むことが出来るはずがヘスティアのファミリアは一人しかいない。

タケミカヅチファミリアに頼むということも出来るが、稽古から初めてのダンジョンでの付き添いをしてくれたことからこれ以上迷惑をかけれないと思い頼みにくかった。

 

「早く団員を見つけなきゃだね…」

 

ベッドで寝る銀に対して微笑みながら頭を撫でるヘスティアであった。

 



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今日も今日とて木こり少女は斧を振り回す。

「いい?絶対に無理しちゃダメだからね!」

 

「は、はい」

 

エイナさんに昨日のことで軽い説教を受けて、今から行くダンジョンの階数を告げると鬼の形相で私に注意する。

 

「装備は大丈夫?ポーションは?敵の特徴を押さえてる?体に異変とかない?」

 

これでもかと言うくらい確認すると、エイナさんは私が渡したステイタスの羊皮紙見ながら首を傾げる。

やはり気になるところはスキルのところなのだろうか。正直あまり記憶力のない私は原作のベル君がどうやってスキルを発現したのか覚えていない。確かに経験値の獲得上昇はいいスキルであまり聞いたことはないとヘスティア様が言っていたが、初心者のうちはそんなに変わらないと思っていた。

 

「だ、大丈夫です。」

 

「4層なのにフロッグ・シューターと出会ったって聞いた時はびっくりしたけど…何かあった時はすぐに撤退するように!分かった?」

 

「はい!」

 

私はエイナさんに一礼するとダンジョンへ向かうために走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

長い腕を使って私の頭を狙って、爪で攻撃してくるウォー・シャドーに対して右腕と右脚の間をくぐり抜け、通り過ぎに横っ腹に斧を斬り込む。そして厄介な腕に斧を振り下ろして腕を切断する。

不快な感触とモンスターの呻き声を感じながら、トドメとばかりに頭から股にかけて兜割りで斧を振り下ろす。

すると魔石に変わり私はそれを回収する。

 

「ふぅ…」

 

額に汗が滲み、それを手の甲で拭い斧を担ぐ。少しづつだがモンスター強さが変わってきている気がする。ゴブリンやコボルトと比べ攻撃のスピードが上がってることに警戒心を強める。

今のところは集団で来ても2、3匹だがこれからより奥へ進んでいくと集団での数が増え、攻撃方法や耐久力が厄介になってくるので周囲を警戒しながら奥へと進む。

 

 

 

 

7層を歩いていると視線の先に灰色の形をした何かがいた。視線を凝らすと1匹1匹のアリの群れであった。

あれが『初心者殺し』と呼ばれるキラーアントであると確信する。外殻は硬いが1匹1匹の強さはそこまではないが危険になるとフェロモンを発し、仲間を呼び出すという習性があるモンスターだ。

今は5匹だが更に仲間を呼ばれたら面倒だと思い、集団に向かって走り出す。

 

「はぁ!」

 

まずは先頭の1匹に横殴りに斧を振り抜く。すると矮小な体はダンジョンの壁に叩きつけられる。間隔をつけないで他のキラーアントも私に対して飛びかかってきて、私はバックステップをとり、下から掬い上げるように振り抜く。また上に上がった斧を軌道を変え横一直に振り抜くと再びバックステップをとる。

すると追うように2匹のキラーアントは上下から迫り来る。飛びかかった1匹と下から節足を動かして迫ってくるキラーアントに対してのまとめて始末するため2匹を直線で結んで、それをなぞるように斧を上から下へ振り下ろす。

 

「ラストぉ!」

 

最後1匹になっても果敢に迫ってくるキラーアントに対して真正面に来たと同時に兜割りで斧を振り下ろして最後の1匹を始末する。

 

「はぁ…」

 

地面に斧を突き刺しもたれ掛かる。キラーアントは1発ずつで倒せたが、やはり斧は剣と比べると自分にとっては扱いやすいが、近づかれた時の対処法を考えなければいけないと思った。

斧は扱えれば切断力もあり破壊力もあるが近づかれすぎると対処が難しくなってくるという代物だ。

自分の戦いやすい距離感でなければ破壊力もグッと下がり、戦いずらくなるというものである。

また降り抜いた時の隙の大きさもあり、そこを同じ斧使いである桜花さんに斧のイロハを教えて貰った。

なぜか昨日の帰り道にたまたまあったタケミカヅチファミリアのみんなに会い、その後に桜花さんに斧の使い方を押してもらったという訳だ。

 

「よし、次に行こうか。」

 

地面に突き刺していた斧を引っこ抜き、担ぎ直して奥へと駆け出していく。

 

 

 

 

 

 

7層で現れたキラーアントに加えて、ニードルラビット、パープルモスなどを斬り倒して、現在は9層の途中であった。

9層では以前の階層と比べ天井が高く、部屋の数も多くて迷ってしまった。またモンスターとしてはゴブリンやコボルトなどのダンジョンの最初で現れたモンスターが出現し、難易度が下がるかと思われたが攻撃のスピードや耐久性が上がっていたので、苦戦している途中である。

 

腹に目がけて横に薙ぎ払うと今まではほぼ一撃で魔石へと変わっていたゴブリンが呻き声を上げながらも私の頭頂部目掛けて拳を振り下ろす。

迫り来る拳を間一髪で前回りをしながら回避し、片膝をつけた状態で両下腿に横一直に斬りつける。すぐに私は立ち上がると無防備な背中へ十字をつけるように斬りつけ、最後に胸部目がけて突き刺す。

 

一息ついていると後頭部の髪の毛が何本か切れる。振り向くといたのは4匹のコボルトの群れだった。気がつくと周りを囲まれており、これは油断した結果だと自分にイラついてしまう。

すると私に目掛けて4匹同時に飛びかかり接近してきた。それに対して私は片足を軸にして円を描くように斧を使って振り回すと同時に斬れたので回転が止まった真正面の位置にいた1匹のコボルトに対して兜割りで斬り込む。その後は縦、斜め、横一直に斬りこむと魔石に変わり、後ろから追撃するようにもう1匹が襲いかかってきたので振り向きざまに横方向に斬りつける。

何度か斬り込むと魔石に変わり、また1匹と接近してくるのに対して対応するということが続き最後の1匹になると一息つく。

 

「油断してたね…」

 

独り言を呟くと自分の迂闊さにため息をついてしまう。

そして9層の最後まで行くとそこから下るか帰るか迷ってしまう。今の状態では厳しいのだろうと思う。

原作のベル君のようにサポーターでも雇ったほうが良いのかと考える。

しかしどっちにしろ今日は遅いし、ヘスティア様も待っているはずだ。あまり迷惑はかけられないと思い帰路へ就くのであった。

 

 

 

 

 

鼻歌を今日の夕飯の食材を担ぎながら歩いて廃教会の前までたどり着くと中からヘスティア様以外の声が聞こえてくる。

泥棒かと思い警戒するが中からはどちらかと言うと男性の声の叫び声が聞こえてくる。そのことからヘスティア様の友達がいるのかなとドアを開け、中に入ると…。

 

 

 

「ま、待ってください!自分で脱ぎますから!」

 

「いいじゃないか〜ベル君。僕が直々に脱がせてあげ……る…?」

 

そこに居たのはベットの上で寝転がっている白髪の男性と服を無理やりひっぺがそうと迫っている人がいた。というよりヘスティア様であった。

これは所謂男女の営みというものだろうか。ヘスティア様は処女神であるが日頃の鬱憤を晴らすために男性に襲いかかっているのだろうか。

そこで考えが巡りに巡って頭がフラフラし始め、買い物袋を落としそうになるがぐっと堪えて、ヘスティア様達に言わなければ!

 

「ご、ごゆっくり…!」

 

「「ちょ、ちょっと待ってください!」」

 

 

 

 



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恩返し

「なるほど、ベルさんは冒険者になりたくて村からこっちに来たんですね。」

 

「うん、取り敢えず誤解が解けて良かったよ…」

 

私はベルさんと一緒に皿を洗いながら雑談をしていた。

初めに会った時はヘスティア様の恋人かと思ったけど、実際はファミリアの加入としてを神の恩恵(ファルナ)受けるために必要なことだったらしい。

ベル君が神の恩恵を受けた後、私もステイタスを更新してもらった時はまたヘスティア様が怪訝そうな顔をしながら、首をかしげていた。

 

「それじゃあ、ベルさんはギルドの講習会を受けてダンジョンに参加という感じでいいんですかね?」

 

「そうですね。今まではファミリアに入ってなかったんで、門前払いだったんですけど、ようやく冒険者になれます…」

 

洗い終わった食器の水を拭いて 一先ずは夕飯から片付けまでの流れは終わった。

ヘスティア様はお腹がいっぱいになって動けないと言って、ソファーに寝転がっている。

私はタケミカヅチ様との稽古から続いている素振りをしてくると言って外へ出ていく。その時にベルさんが見学をしたいとの事だったので一緒に廃教会の外へ行くのであった。

 

 

 

 

 

大切なのはイメージ。

私が自己鍛錬する時にイメージしているのは2パターンある。1つ目が仮想の敵がモンスターである場合と対人での場合だ。モンスターの場合、今日戦ったモンスターや、過去に戦ったモンスターで苦戦した時のことをイメージしながら斧を振っている。

特に今日のモンスターでゴブリンを倒した時に油断してしまい、攻撃が当たりそうになった時だ。

あれは完全に自分のミスであり、慢心していた。ダンジョンの中では簡単に人が死んでしまうこともあり、どんな時であろうとも油断せず、集中しなければならない。

私は生前でも現在でも多くの人に支えられて生きている。自分が負けて殺されてしまうことよりも、関わってきた人に失望され、悲しませてしまうことが何よりも怖い。

 

「ふっ!」

 

負けてしまってはならない。殺されてしまってはならない。失ってしまってはならない。生前の家族に、ヘスティア様やヘファイストス様、エイナさん、タケミカヅチファミリアのみんなを悲しませてはならない。

イメージ、イメージだ!自分が想定する限りの事態に備えろ。相手がどんなパターンで攻撃してきて、自分が攻撃したあと相手がどんな攻撃をしてくるか考えて、考えて、考えろ!

 

 

 

 

 

「凄い…」

 

ベルは銀の事自己鍛錬を眺めていた。

動きとしては疾く、斧を振るう姿はとてもではないが信じられなかった。自分の身長よりも大きな斧を自由自在に操り、多彩に動き、自分が受けたら上半身と下半身が確実に切断されると思うほど重く、鋭かった。

初めて銀と出会った時は変な誤解をされてしまったが、誤解を訂正すると自分に優しく接してくれた。料理や掃除などを自分でしており、ベルの想像ではヘスティア様が拾ってきた孤児など思っていた。よもや銀の背丈よりも大きい斧を振るい、ダンジョンへ潜っているなど考えもしなかったが、この姿を見て彼女は冒険者であると確信した。

その光景を1時間ほど眺めているとどうやら休憩らしく、地面へ斧を突き刺し、地面へ座って水筒で水を飲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「凄いですね!銀さん!」

 

「う、うぇ!?。あ、ありがとう…」

 

一先ずは休憩と水の入った水筒に口をつけながら、考え事をしていたらいつの間にか近くに寄っていたベルさんに大声で話しかけられた。

 

「銀さんよりも大きい斧を操って、こうブンブン!って!凄いですよ!」

 

「んー?自分じゃ無我夢中にやってたからあんまり分かりませんけど…って、なんで敬語なんですか!?」

 

そもそも自分より年上のはずのベルさんが私に敬語を使っているのが疑問だったが、ベルさん曰く、自分より先に入っていたから先輩と思って敬語を使ってたらしい。

それを聞いて私は先輩という魅力的な単語に憧れたが、家族だから畏まらなくてもいいということになり、お互いにタメ口で話すことにした。

その後は自己鍛錬を続けていると眠くなってきたので終わることにした。以前、フラフラになって自己鍛錬から帰ってきたらヘスティア様に軽く説教され、子供は早く寝なさいと言われ、眠くなったら早く帰るように言われたので鍛錬を終了するようにしていた。

 

帰宅するとヘスティア様はベル君の名前を寝言で言いながら爆睡していて、それを眺めていた私とベル君は苦笑しながらヘスティア様に布団をかけ直していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル君がギルドへ講習会に言っている間、私はダンジョンの10階層に来ていた。

3匹のコボルトの群れに対し、この間の二の舞にならないように気をつけながら斧を振るっていた。

同時に2匹襲いかかってくるのに対してバックステップ後ろに下がりつつ踏ん張って斜め下から振り斬り、上に掲げた斧をコボルトの頭へ叩き斬って逆V字を描くように捌く。

そのまま負傷中のもう1匹に対して斧を突き刺し、コボルトを突き刺したまま振りかぶって地面へ叩きつける。1匹のコボルトが魔石へと変わると同時に飛びかかってきた無傷のコボルトが飛びかかってきたので腹の下を滑り込みながら腹に目がけて縦に斬りつけ、私は起き上がって腹を傷つけたコボルトに追い打ちをかけて、魔石へと変える。

そして最後に残った1匹を始末すると斧を担ぎ直す。

 

「ふぃー…」

 

口から変なため息が出た。今日はやたらとモンスターに絡まれる気がする。ここまでに遭遇したモンスター数は2倍近くにもなり少々疲れていた。

しかし今回の目標は12階層まで行くことだったのでこれくらいなんてことないとばかりにひと休憩入れるとさらに奥へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

11階層に着くとそこは10階層よりも視界が悪く濃霧が辺りを覆っていた。キョロキョロしながら周囲を警戒しながら歩いていると前から人の集団と思われるものがこちらへ向かっていた。

ほかの冒険者と鉢合わせることは私は意外となかったりするので気軽に挨拶をしようと声をかけようとするとうっすらと顔が見えてきた。

 

「こんにちはー?って桜花さん?」

 

「ぎ、銀!?」

 

走ってくる正体はタケミカヅチファミリアの皆さんだった。私の前までくると止まり息を整えている。

よく見れば桜花さん達は負傷しており、千草さんはぐったりしていて桜花さんに背負われていた。命さんも額から血を流し、右手で左腕を押さえていた。

私は血相を変えて、アイテムポーチからポーションなどを取り出し桜花さん達に渡そうとすると前方からモンスターの足音が聞こえてくる。

 

「銀!早く逃げろ!ここにいちゃ不味い。もう少しで追いつかれる!」

 

「何が来ているんですか?」

 

前方へ向けていた視線の先には恐らく自分の背丈よりも大きい小竜が現れた。そのモンスターは11.12階層で稀に現れるというインファント・ドラゴンであった。上層では迷宮の孤王(モンスターレックス)が存在しないため事実上の階層主だ。

状況は最悪であると確信する。レベル1の私と負傷中のタケミカヅチファミリア。そこへ現れたのはインファント・ドラゴンであり、()()()3()()

レアモンスターにカテゴライズされる小竜がなぜ3匹も同時に現れるのかと自分の運のなさに嘆いてしまいそうになる。

しかしこのままでは全滅だ。この前冒険者になったばかりの自分では足止めくらいにしかならないだろう。

 

「…ってください!」

 

「は?」

 

「行ってください!桜花さん!」

 

「な、何いってんだ!銀、死ぬつもりか!!」

 

「私が足止めしておきます!だからギルドに戻ったら他の冒険者を呼んできてください!早く!」

 

私は桜花さんに持っているポーションを授けるとインファント・ドラゴンへ視線を向ける。桜花さんは私の顔を見て顔を歪ませるが、すまんと言って上の階へ走り出した。

 

「この状況、三ノ輪銀と同じか…」

 

結城友奈は勇者であるの鷲尾須美の章で三ノ輪銀が最後にバーデックスと呼ばれる敵と遭遇した時と状況と非常に似ている。

後ろには負傷中のタケミカヅチファミリアがいる。ここで逃げ出す訳にはいかない。せめて桜花さん達が逃げ切れる範囲までの時間さえ稼ぐことが出来れば…!

私はいつも使っているの斧ともう1つ予備の斧を取り出し、地面へ横にラインを引く。

 

「こっから先は通さない!!」

 

私は今までお世話になってきたタケミカヅチファミリアに恩返しとして3匹の小竜の元へと駆け出した。

 

 




三ノ輪・銀
Lv1
力: I 99 →F392
耐久: I 86 →H189
器用: I 96 →G256
敏捷: I 89 →F367
魔力: I 10 →H102

《スキル 》
 
勇者不懼(カーレッジ フィアリィス)
恐れを抱かず挑み続けることで経験値エクセリア上昇。
思いがある限り効果持続。
 
【⠀満開 】
解析不能


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VSインファント・ドラゴン前編


戦闘シーンは難しいですね。
かといって日常シーンが得意なのかと言われるとそうでも無いんですけど…


1匹のインファント・ドラゴンが私に対して前足を振り出して攻撃をする。右へサイドステップをすると右方向から尻尾を振って胴体を狙ってくる。尻尾を斧の柄で防御するが思ったより衝撃があり吹き飛ばされてしまった。

 

「くそっ!」

 

体勢を立て直す前に更にインファント・ドラゴンが私に追い打ちをかける。前足が降り掛かってくるのに対して斧の柄で守るがインファント・ドラゴンの体重がのしかかり地面が凹んだ。

その前足を右へ逸らして無防備な顎へ掬い上げるように斬り上げると呻き声を上げ体勢を崩すのが見えたのでチャンスと思い、両前足を狙うように横一直に斬りつける。

しかし斬りつけたのはいいが3匹中の1匹が私の後ろへ回り込み、大きな口を開けて噛み付こうとする。それを紙一重で避けきるが、無理な体勢でしゃがみこんで避けたので追撃の尾を使っての攻撃に対処できず、吹き飛ばされてしまい、そのまま壁へと激突し肺の中にあった空気を吐き出す。

 

「かはっ!」

 

意識が朦朧としながら体当たりをかましてくるのをギリギリで起き上がり、横っ飛びで回避する。

そして息をつかせないように2匹のインファント・ドラゴンが斜め前から挟み込むように口を開いて接近して来るのを上へ飛び上がって避け、縦に回転しながら片方の小竜の頭頂部目掛けて2つの斧を縦に振り下ろす。

着地すると大きく振りかぶって右の前足を斬り飛ばす。片足が無くなったことでインファント・ドラゴンは腹の底まで響くような悲鳴を上げながらも地面へ倒れ込む。

まずは1匹を動けなくしたと思い、安心したら後ろから私の無防備な背中へ1匹のインファント・ドラゴンが前足を踏み出す。

間一髪で斧の柄で踏み潰されるのを防ぐがドラゴンの体重を支えて防御できない私に目掛けて、3匹目のドラゴンが尾を振るって脇腹に直撃する。

 

「がっ!」

 

脇腹を攻撃された私は数メートル先の地面まで転がり飛ばされる。

今のは不味い、全く対応出来てなかったと反省するがそんな暇も与えずに接近してくる1匹のインファント・ドラゴンに顎下を狙うように斧を1つ突き刺す、そして突き刺したまま小竜の首を縦に割くように力を入れ斧を振り斬ると途中で捻り、刃の向きを変えると横一直に斬りつけ、予備の斧も同時に斬りつける。

するとインファント・ドラゴンの首が切断され魔石へと変わる。

 

「はぁ、はぁ、まずは、1匹…!」

 

魔石を回収する暇もなく1匹のインファント・ドラゴンが走り出してこっちへ接近してくるのを踏ん張って斧の柄で受け止めると1メートル程度後退する。すぐさまにバックステップをとって後ろへ下がり、接近していたもう1匹のインファント・ドラゴンの尾での攻撃を回避すると

前へ前進し2つの斧を用いて斬りつける。

すると間髪入れずに顎を使って噛み付いてくるインファント・ドラゴンに斧の柄をクロスさせてガードする。

ガードした後ドラゴンの胴体へ行き、前足と腹を斬りつけて鱗の薄い部分を目掛けて奥深くへ斧を突き刺した。すると血飛沫が顔にかかり視界が塞がれ、もう1匹のインファント・ドラゴンの爪での薙ぎ払いをギリギリ予備の斧の柄で受け止める。

しかし受け止めたものの衝撃を殺しきれずに斧を離してしまい地面へ転がる。

このままでは不味いと思い、インファント・ドラゴンに突き刺していた斧を引っこ抜くと両手で柄を握りしめて腹に突き刺したインファント・ドラゴンに更に追撃を仕掛けるが自分の手の何倍の大きさがある爪で私の隙だらけの背中へ振るわれる。

 

「んぐっ!……舐めるなぁ!」

 

背中の激痛を無視して追撃していたインファント・ドラゴンに斜め下から上へ斬りつけて、そのまま片足を軸にしてくるりと回転して分厚い前足を斬り落とす。

 

「ガァァァ!」

 

前足を失い。バランスを崩したインファント・ドラゴンは仕返しとばかりに私の胴体に牙を立てようとするが、前周りに転がり回避するとそのまま起き上がり、勢いを殺さずに倒れかかっているインファント・ドラゴンに追い打ちをかける。

そしてトドメとばかりに地面に転がり立ち上がれないインファント・ドラゴンの腹に斧を突き刺す。

 

「根性ォォォ!!!」

 

突き刺していた斧にさらに力を入れ。深くまで突き刺すと引っこ抜いて腹に目掛けて斧を振るい。胴体を真っ二つに分ける。

すると魔石に変わり、最後の1匹に目を向けると腹に尻尾が振るわれ、数メートル先の壁へと激突する。

 

「くそっ…!」

 

斧を支えにしてなんとか立ち上がり、視線を最後のインファント・ドラゴンに向けると遠く離れた位置にいる。

なぜ追いかけて来ないかと疑問に思っていると、地面に転がっていた魔石をインファント・ドラゴンが顎を開け噛み砕く。

するとインファント・ドラゴンの色が変色し、赤色だった体が黒へと変わり、メキメキと音を立てて体が大きく成長する。

 

「嘘…だろ…!」

 

そしてインファント・ドラゴンが最後の魔石へ目を向け口にくわえようとするのを見て、私は握っていた斧をインファント・ドラゴンの元へ投げ飛ばそうとするが背中の傷が痛み、斧を手放してしまう。

最後の魔石を噛み砕くとインファント・ドラゴンは私に視線を向け大きく口を開けると火を吹き放つ。

 

「くっ!」

 

私はできる限りの力で横へ飛び出しなんとか回避するが、追い打ちをかけるインファント・ドラゴンの尻尾が襲いかかる。

顔の前に振るわれた尾の攻撃を避けきれないと思い、腕をクロスさせて防御するが私の矮小な体は軽々と吹き飛ばされてしまう。

 

「はぁ、はぁ…!」

 

なんとか立ち上がるも血で視界は霞んで見えずらく、右腕には力が入らない。恐らく先程の攻撃で腕にヒビが入ったか折れている。そして桜花さん達はまだ来る気配はない。

 

「(どうする…?このままじゃあ、確実に… )」

 

殺される。それも惨めに、ドラゴンに体を噛みつかれて跡形もなく私は食い殺されてしまうだろう。

そう思うと手に震えが止まらなくなる。一歩一歩着実に近づいてくるインファント・ドラゴンに震えが止まらない。

自分が殺されたあとは?

ヘスティア様やベル君、ヘファイストス様、タケミカヅチファミリアのみんなは悲しんでしまうだろう。

ヘスティア様とベル君は泣きに泣いて、ヘファイストス様も悲しそうな顔を浮かべているのが想像出来る。桜花さん達は良い人たちだから罪悪感に苛まれてしまうのではないかと思う。

 

こんな時、物語の主人公はどうしていた?三ノ輪銀はどうしていた?

 

「諦めなかった!」

 

そうだ。どんなに絶望的な状況だとしても守りたいもののために命を張って戦っていた。

仮にも私は三ノ輪銀の体を借りている身だ。作中であんなことがあったのにこの世界でも同じような目に会うのは嫌だった。

もうこの状態では逃げることが出来ない。

ならば道は一つだけ。

 

「ここで倒す!!」

 

私はまだこの世界でみんなと笑って過ごしたい!

ならば絶対に殺される訳にはいかないと決意を固めるのであった。

 



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VSインファント・ドラゴン後編

私は迫り来る尻尾を上にジャンプして避ける。そしてジャンプしたまま左に持った斧を尻尾の付け根を狙って切り込む。

しかし硬い鱗に覆われている部分を攻撃したため斧は跳ね返される。

 

そして着地すると同時にインファント・ドラゴンは前足を使って踏み潰そうとするのを斧で受け止めるが、不十分な体勢であったため、片膝をついてなんとか踏み出されないように体を守る。

しかし右腕がろくに使えない今、無防備な腹へと再び尻尾を振るわれ勢いよく吹き飛ばされて壁に衝突する。

 

「がっ!」

 

そこで斧を支えにしてなんとか立ち上がるも膝がガクガクと震え、まともに体を支えることが出来ない。

インファント・ドラゴンへ視線を向けると口を大きく開けて、溜め込むのが見えると全力で右へ横っ飛びをする。

 

「くそ!炎が邪魔過ぎる!」

 

インファント・ドラゴンと距離をとれば炎で追撃され、近づくと前足と尾を使った攻撃が待ち構えている。

ここでサラマンダーマントがあれば、状況も少しは好転したがないものねだりをしてもしょうがないと思考を巡らせるとふと、頭に考えがよぎる。

 

自分が知っている知識が正しければ、竜の弱点となる場所があるはずだか、そのためには前足と尾の攻めを回くぐらなければならない。

そのためにはまず、相手の近くまで駆け出す。

 

「ふっ!はぁ!」

 

前足と尾を使った攻撃をバックステップやサイドステップ、ジャンプで躱しながらインファント・ドラゴンを観察する。

更に近くへ行き、見上げて目を凝らすと首の下にある部分を見つけた。

 

すると後ろへ逆走し、ある場所の元へ行くと手に持っていた斧を大きく振りかぶってインファント・ドラゴンの瞳を目掛けて投げ飛ばす。

インファント・ドラゴンは思いがけない一撃に対応出来ず、右目に斧が突き刺さる。

そして呻き声を上げながら体を揺らし、斧を取り除こうとするが、深くまで突き刺さったため取ることができない。

 

そして地面に転がっていた予備の斧を再び持つとインファント・ドラゴンの元へ走り出す。

インファント・ドラゴンは目に突き刺した私を見るやいなや、前足や尻尾を振るって攻撃するが半分視界が塞がれているため、うまく私に当てることが出来ない。

私は足と腰に力を入れ、思いっきり上へと飛び上がり目指す場所は首の下にある逆鱗と呼ばれる場所だ。

 

「行っけぇぇええっっ!!」

 

竜種の弱点である逆鱗に私は左に持った斧を力の限り突き刺す。するとズブリと奥深くへ斧が突き刺さるとインファント・ドラゴンは鼓膜を震わす呻き声を上げ、首を振り回して私を落とそうとする。

私は左手だけで持っていた斧を更に動かせない右を無理やり動かし、突き刺さった斧に力を入れ捻じる。

すると右腕から全身にかけて激痛が走るが、ここを逃すと勝機はないと思い更に力を入れる。

 

「これこそが!人間様の!」

 

インファント・ドラゴンが首をしならせて上へ上げる瞬間に手を離し、私の体が勢いよく上へ投げ出されるのを利用して、目に突き刺さった斧の柄を握る。

そのまま目に突き刺さった斧を捻りながら強引に引っこ抜く。

 

「気合いだ!」

 

引き抜いた勢いとインファント・ドラゴンの首振りによって上空へ高く舞い上がる。

 

「根性と!」

 

舞い上げられた私は斧の柄を両手で握り締めて、縦に回転しながら小竜の首を目がけて渾身の斬撃を叩きつける。

 

「魂ってやつよォォォ!!!」

 

その斬撃はインファント・ドラゴンの硬い鱗さえも断ち切って長い首を切断した。

 

そして私はインファント・ドラゴンが魔石に変わることも確かめることが出来ないまま、その場に立ち尽くし意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここは…?」

 

私はうっすら目を開けると見覚えがある風景が目に入ってきた。そして辺りをぐるりと見渡してみるとヘスティアファミリアのホームに帰ってきたとひと安心する。

そしてベッドにうつ伏せて寝ている2人の影が視界に入る。

 

「ヘスティア様とベル君…」

 

良かった…!

私は帰ってこれたんだと思わず泣いてしまいそうになる。

恐らく2人は私が桜花さん達かほかの冒険者が連れて帰ってきてくれたのだろうと思う。私は良い家族に恵まれたなと安心していると眠気が襲いかかってきて抗うことなく、そのまま目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣から温かな温度とマシュマロのような触感が私の右隣にある。その感触を確かめるために布団の中をまさぐって行くと2つの大きな山が見つかり、それを揉みしだく。

なんだこの確かな弾力と甘い香りが臭う不思議なものは。もっと探求しなければと全力で揉みしだく。

 

「ダメだよベルくん!私達はまだそんな関係じゃあ…でもベル君がどうしてもというなら…って何をしているんだよー!銀くん!」

 

「いや、そこに山があったら揉むしかないでしょ?、」

 

そうそこに山があったら揉むしかないのだ。決して女性としての劣等感があるとかそんなことはない。ないったらないのだ。

 

「ヘスティア様ーどうしたんですかって、銀!?起きたんだ!」

 

ベル君は台所からひょこっと顔を出すと私の顔を見る間にすぐに駆け寄ってくる。

 

「良かったよ、3日も眠ってたからもう目覚めないんじゃないかと思って…」

 

3日…あの戦闘ならそれだけ眠っていたのも頷ける。正直、意識も朦朧としていたし、生きていること自体が奇跡みたいなものだったんだろう。

その後の経緯はヘスティア様から聞くと、私があのインファント・ドラゴンを倒すと同時にタケミカヅチファミリアのみんなが駆け寄ってきて私をここまで連れてきたそうだ。

怪我の方はハイポーションを使ったらしく体の痛みはほとんど無くなっていた。

しかし予想をしたもののやはり右目の視界が何も見えなくなっていた。

 

「やっぱりか…」

 

「どうしたんだい?」

 

「い、いや、なんでもないですよ!」

 

原因は恐らく、スキル欄にあった満開なのだろうと思う。

結城友奈は勇者であるの作中では三ノ輪銀は満開は使えてはいなかったが、鷲尾須美や乃木園子が使えていたのだ、使えない訳が無い。

満開は大きく身体機能を向上させ、普段発揮できない力まで呼び起こすことが出来るが、大いなる力には代償が付き物である。

その代償は身体機能の一部を失うというものだ。

どこの身体機能が失うのはランダムだが、ある意味今回はまだマシな方だったかもしれない。

 

だが不安要素はまだある。

いつ満開が発動して、どんな状況で発動するのか全くわからないのだ。

いえばいつ爆発するか分からない爆弾を抱えているようなものだ。取り敢えずは自己鍛錬を続けて、ダンジョンの探索は控えてスキルの詳細を調べる必要があると思った。

 

「ヘスティア様!?それは銀のお昼ご飯ですよ!食べちゃダメです!」

 

「だって、銀くんに寄り添って寝てたらお腹が空いてきたんだよ!?」

 

私はヘスティア様に空腹を持たせる能力でも発言したのだろうかと思わず苦笑する。

こんな日常が欲しかった。

ホントにここに帰れてよかったと安堵するのであった

 



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とある少女との邂逅

遅くなって申し訳ありません。
最近国家試験の勉強がキツくなって…
それでもなるべく早く載せて行きたいと思います。


「銀くん、僕に隠し事をしているね?」

 

「……それは。」

 

夜、恒例の寝る前にステイタス更新をヘスティアと行っていたところ真剣な顔をして私に問いかけてきた。

恐らく、満開のスキル詳細が分かったのかなと考える。

あのスキルはメリットもあるがデメリットが大きすぎる。あの爆弾がいつ爆発するかもわかったものでは無い。

そして神様たちには嘘が通じない。ステイタスを見せた時点でその事は分かっていたはずなのに言いづらかった。

 

この間の戦闘では死を覚悟したくらいの激しいもので、その影響で片目の視界が失われているのだと思ったが、やはりこうなってしまったと心の中で溜息を吐く。

 

ヘスティア様にステイタスの詳細を教えて欲しいとお願いし、確認するとレベルが上がっていたことは少なからず驚いたけど、それを凌駕するくらいのものがスキル欄に載っていた。

 

 

三ノ輪・銀

Lv2

力: I 25

耐久: I 12

器用: I 19

敏捷: I 21

魔力: I 0

 

《魔法》

【ヒューズ⠀】

【付与魔法⠀】

・火属性

・超短文詠唱

・回復魔法

・詠唱式

炎よ纏え。我が力となりて。我が禊となりて(プロミネンス)

《スキル》

 

勇者不懼(カーレッジ フィアリィス)

恐れを抱かず挑み続けることで経験値エクセリア上昇。

思いがある限り効果持続。

 

【満開 】

生命の危機時にステイタスを急上昇させる。

 

【散花】

満開使用時に発動。

満開終了時に身体の一部がランダムで欠損

 

 

「銀くん、正直に言ってごらん?」

 

ヘスティア様は心配そうな表情で私を見つめてくる。

この短期間でレベルが上がったことよりもデメリットが大きすぎる散花の影響を心配してくれるのは本当に家族思いの神様だと思う。

 

「…実は右目が見えてません。」

 

事実を告げるとヘスティア様は悲痛な顔で顰める。そしてベル君も同様の表情を浮かべ、申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「…銀くん、やっぱりダンジョンに行くのは…」

 

「大丈夫ですよ!ヘスティア様!片目が見えなくたって戦えますし、隻眼だってカッコイイじゃないですか!だから……あれ?」

 

涙がポロポロと流れ落ちてくる。拭っても拭っても涙が止まることはなかった。

私は怖がってなんかないし、まだまだ戦える。だから、だから…!

 

「大丈夫だよ銀くん。怖がらなくたっていいさ。怖がらなくたっていい。僕達は君を捨てたりしないさ。」

 

ヘスティア様は私を抱擁し優しく頭を撫でる。壊れるものを触れるようにではなく、力強く抱きしめてくれた。

 

私が怖かったのは体が崩壊してしまうことでない。誰かに使えないと見捨てられるのが怖かったのだ。

生前は家族以外、腫れ物を触れるように医者や親戚は私のことを扱ってきた。

満開を使い続ければいずれ、私の体は動かなくなってしまうだろう。しかしそれでも誰かの役に立てるならば良かった。

それよりも自分がこの世界から要らないものと判断され、見放されてしまうことが何よりも怖かったのだ。

 

「銀。神様や僕、銀と関わってきた人達は見捨てたりしない。だから安心して欲しいな」

 

ベル君は私の頭を撫でながらそう語ってくれた。そして私の存在を否定することなく、捨てることも無いと言ってくれた。

私は更に今まで溜まっていた涙を全て流すようにヘスティア様の腕の中で泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘスティア様と話し合った結果、しばらくはダンジョンへ行くことを禁じられた。自分としても満開のスキルの詳細をよく調べる必要があったし、武器の新調も行いたかったので好都合ではあった。

しかし稼ぎがヘスティア様のバイトとベル君がダンジョンへ潜り、生計を立てているとなると申し訳ない気持ちになってしまう。

 

2人のことを信頼してないという訳では無いが、自分だけ何もしていないという状況にあったので、取り敢えず武器の新調をしにオラリアを探索することにした。

 

今まではオラリアの中をじっくり歩くことは無く、食料の調達のために少しは周囲を回ったが、結局はダンジョンの探索の帰り道にあったお店に固定されてからは食料を買った後は真っ直ぐに帰るようになっていた。

 

「ヘファイストス様いるのかな?」

 

そして現在、北東のメインストリートにあったのヘファイストスファミリアの辺りををウロウロしていた。

しかし色々な武器屋を巡ったがピン来るものはなく、とにかく周囲を探索していた。

 

メインストリートを歩いて数十分。

正直迷いました。

ダンジョン内でも迷うことはあったが、街中で迷うほどとは思っていなかった。歩けば歩くほど人気は無くなり、気づくと周囲に人は誰もいなかった。

 

確かに散歩感覚で地面に棒を指して方角を決めていたのは、自分でもダメだとは途中から気づいていたが、だんだん楽しくなってきたのが原因だろう。

 

メインストリートに出る道は何処だろうとキョロキョロと周囲を見渡してみると、視線の先にこじんまりとした一軒家が見つかる。

自分で適当に道を選んで進むよりも、ここに詳しい人に聞く方が良いだろうと、一軒家に近づき、戸を叩く。

 

「すみませーん?」

 

戸を叩きながら声をかけるが、返答は帰ってこなかった。留守なのだろうかと戸に手をかけ引いてみると開いてしまった。

無断で入るのはご法度だと思うが、流石に鍵も閉めないまま外出はしないだろうと奥へ進んでいくと視線が止まる。

 

「ここ、武器屋だったのか…」

 

視線の先には小綺麗に飾られた様々な武器があった。種類として剣や槍、斧などのメジャーなものからモーニングスター、手裏剣、青龍刀、ハンマー、棍棒などあまりメインストリート付近では見られない武器もあった。

また武器だけでなく防具も売ってあり、軽く手に取ってみると素材も軽いが、安っぽい感じはなく、質のいい素材を使っているのだろうと思っていた。

 

「ご、5000ヴァリス!?」

 

だがしかしそこに表示されていた値段は想像以上に安く、思わず驚愕してしまう。

そして、目線を少し下に向けると防具の名前が書かれているであろう場所を見ると。

 

「長門?」

 

この製作者はタケミカヅチファミリアと同じ出身なのだろうかとほかの防具や武器をみてみると、瑞鶴、比叡、加賀、愛宕、鈴谷などがあった。

 

「軍艦?」

 

武器の方も見てみると、流星、彩雲、天山、彗星など今度は戦闘機の名前が書かれてあった武器がずらりと並んでいた。

よほど海軍が好きだったのか、愛国心が強いのかと、思わず()()()()()()思い出してしまうが、こんな所にいるわけがないと手に持っていた防具を直そうとすると奥の扉が開き、声が聞こえてきた。

 

「ふぅ、軍艦は最高ね。書物を漁っていたら、朝にって…ってお客さん?」

 

そこに居たのは自分と同じくらいの身長で歳もそう変わらないはずなのに妙にスタイルが良く、端麗な顔立ちをした少女が不思議そうな顔を浮かべ、目が合う。

 

「えっ?」

 

忘れるはずもない、生前で画面越しに何度も聞いた声が自分以外お客さんがいない部屋で響き渡った。

 

……鷲尾須美じゃね?

 

 



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鷲尾須美と私と犬っころ

 

 

鷲尾須美。

結城友奈は勇者であるの鷲尾須美の章での主人公であり、三ノ輪銀、乃木園子とバーデックスから街を守るために勇者としての日々を送っていた少女である。

何故このオラリアにいるのか、そしてなぜ車椅子に乗って生活をしているのか様々な疑問が頭の中をぐるぐると巡り、頭を抱えてしまいそうになる。

ともあれまずは自己紹介をしなければと思い、声をかける。

 

「こんにちはー。三ノ輪銀です!なんか歩いてたら道に迷っちゃって…。気が付いたらここにいたんだよねー。」

 

「なるほど?

こんにちは。鷲尾須美と言います。ヘファイストスファミリアで鍛冶師をしています。」

 

お互いに挨拶し、ぺこりと頭を下げる。

しかし本当に何故この世界にいるのか疑問である。もしかしたらほかの勇者もこの世界に流れ込んでいるのかもしれないと思うが今考えてもしょうがないと溜息を心の中でつく。

 

「そっか。ならここの武器とか防具って売ってるの?」

 

「はい。ここだとあまりお客さんは来なくて、ほかの鍛冶師の方に売ってもらうのが最近は多かったんですけど。」

 

「じゃあ、このグローブ?手袋?を買いたいんだけど?」

 

私が買いたかったのは赤と黒の2色で作られていたグローブである。

自己鍛錬やダンジョンに潜っていた時、手にマメができ、何度も破れて手がボロボロになっていたのでグローブが前々から欲しかったのだ。

 

「分かりました。2500ヴァリスになります。他にはありませんか?」

 

「んー、じゃあオーダメイドの斧とか作れる?」

 

インファント・ドラゴンとの戦いで桜花さんのお下がりである斧はダンジョンに置いてきてしまった。無くしたことを桜花さんに告げるとお古だから大丈夫と気前よく言ってくれたから良かったものの、自己鍛錬で使っているものは以前のものと比べ、扱いにくかった。

 

「大丈夫ですよ。お好みの形とかありますか?」

 

「こういう感じなんだけど…」

 

イメージするのはアニメで三ノ輪銀が使っていたもので、形状や重さなどを伝えると快く了承してくれた。

値段を聞くと同じ形のものを2つ作ることになるので値段は少々張ったが予想していたものより安かったので依頼することにした。

 

その後は雑談しながらメインストリートまで送ってもらい、その時に敬語は辞めてくれとお願いしたところだいぶ渋ったが、メインストリート付近に着く頃にはあだ名で呼び合い、砕けた口調で話すようになっていた。

 

「本当に送っていかなくて大丈夫?」

 

「大丈夫よ。鍛冶師は体力が結構いるから1人で帰れるわ。」

 

メインストリートにつき、この辺りで大丈夫ですと言うと1人で車椅子で帰るそうだ。

ここまで来る時は自分が車椅子を押して来たが、1人で帰るのはだいぶキツイのでないかと考えたがどうやら杞憂だったようだ。

 

「じゃあね銀、完成するのはだいたい1週間後になると思うからその時に私の店に来てね。」

 

「分かった!またね!すみ!」

 

今日もいい出会いがあったと喜びながらスキップをしてヘスティアファミリアのホームへ帰宅するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘスティア様!銀!」

 

「どうしたんだいベル君?」

 

勢いよく扉が開かれ入ってきたのはベル君だった。ベル君は早朝にダンジョンへ行ってくると笑顔で言いながらギルドへ向かっていた。

そして昼頃に帰ってくると言っていたので、昼食を作りながら待っているとベル君が帰ってきたのだが、なにやら顔をニヨニヨしながら帰ってきたのだ。

 

取り敢えず、ヘスティア様はベル君に体を洗ってこいと言い、ベル君はそれに従い、体を洗い終わり何が起こったのか話してくれた。

なんでも5層に潜っていたところ、出るはずのないミノタウロスに遭遇し、腰を抜かして逃げることも出来なかったところにロキファミリアのアイズ・バレンシュタインさんに助けて貰ったそうだ。その時に全身にミノタウロスの血を浴び、そのままギルドへ換金しに行くとエイナさんに説教されたそうだ。

 

「それでベル君はその、ヴァレン何某にデレデレしちゃったという訳だ。ふん!」

 

ヘスティア様はアイズ・バレンシュタインさんに嫉妬しているのか昼食のベーコンサンドをむしゃむしゃと勢いよく食べる。

 

「じゃあ、ベル君はそのアイズさん?に惚れちゃった訳だ。」

 

私がベル君にニヤニヤしながら弄るように話しかけるとベル君は顔を真っ赤にして頭を掻きながらニヤついていた。

それを見るとヘスティア様は残っていたベーコンサンドを八つ当たりするかのように食べあげるとベッドでふて寝を開始した。

 

じゃが丸くんのバイトには行かなくてもいいのかと思うが、今日はヘスティア様は休みだと言っていたのを思い出して、ベッドへ視線を向けると寝返りをうち、ブルンと揺れた胸を凝視し、全て栄養はあの胸に"行っているのかとベーコンサンドを食べながら戦慄していた。

 

ベーコンサンドを平らげると自己鍛錬の時間だと思い、ベル君と一緒に外へ行き汗を流しながら、斧を振るった。

 

自己鍛錬が終わり、夕暮れに差し掛かったのでヘスティア様を起こすとたまには外で食べようじゃないかと言い出し、ベル君がたまに食べている西のメインストリートにある【豊穣の女主人】という酒場へ行くことになった。

 

「それじゃあ、ヘスティアファミリア結成から一月を祝って!乾杯!」

 

「「乾杯!」」

 

私はジュースを、ベル君とヘスティア様はお酒を頼み、乾杯を交わした。私はカウンターに並べられた料理を食べながら今後のメニューに追加して行くものを想像しているとカウンターから乗り出し、1人の風格のある女将が話しかけてきた。

 

「アンタら冒険者かい?どんどん食べな!」

 

注文をしていないのにドンドン並べられていく食材を見て、これを全部食べきれるのか不安になりつつも食べていく。

金額についてはこの間の戦闘でだいぶ稼げたし、ベル君もダンジョンへ行き多くはないが稼いでいるので問題は無いだろうと次々に口へ運んでいく。

 

すると某忍者アニメの食堂のおばちゃん風の女性が話しかけているのをエルフの店員であろう女性がベル君に話しかけてきた。

 

「ベルさん、来てくれたんですね。いらっしゃいませ。

隣の方々は?」

 

「こんばんはシルさん。この人たちは僕のファミリアの神様、ヘスティア様と同じ団員の銀です。」

 

「こんばんわ。銀くんとベ ル 君と一緒に住んでいるヘスティアだよ。よろしく」

 

「こんばんは三ノ輪銀です!冒険者やってます!よろしくです!」

 

ヘスティア様ガルルと威嚇しながら挨拶し、私は立ち上がってお辞儀をする。そうするとシルさんはクスクスと笑いながらヘスティア様の威嚇をスルりと躱し、私たちに自己紹介をした。

私はよろしくお願いしますと再びお辞儀をするとシルさんは微笑みながら話しかけてくる。

 

「銀さん。そう固くならなくてもいいですよ。」

 

私は恥ずかしさのあまり顔を紅潮させながら着席した。

その後は私たちとシルさんが加わり、話しをしながら食事を楽しんでいると、突如、出入口の扉が開き数十人の団体のお客さんが入店してきた。

 

「ミーアさん!入るでー!」

 

団体のお客さんは私たちの対角線上のテーブルに座っていく。

ふと視線をベル君に向けると硬直し、あわわと言いながら団体のお客さんに目を向けていた。

 

ベル君の視線の先には金髪の端麗の女性がいる。もしやあれが噂のアイズ・バレンシュタインさんか?と考え、ならばあの団体のお客さんはロキファミリアなのかと確信する。

 

「な、なんでロキがここに…!」

 

そういえば以前、ヘスティア様はから聞かされていた仲が悪い神様がいるのだと。

 

「いつもならなん癖を付けに行くけど、今日の所は勘弁してやろう。」

 

ヘスティア様は目の前のお酒をごくごくと喉を鳴らしながら一気飲みする。

 

 

 

 

 

 

「今日は宴や!飲め飲めー!乾杯!」

 

「「「「乾杯!」」」」

 

ロキファミリアも乾杯するとガヤガヤと話しながら酒や料理に手をつけていた。

まぁいいかと私はジュースを飲みながら、食べ物を口に運んでいると一際大きな声で男性が喋り出した。

 

「おいアイズ!今日のあの話を聞かせてやれよ!」

 

「あの話?」

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろう!?そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出したやつ?」

 

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」

 

恐らくベル君のことだろうか。今日あった出来事らしいのとベル君の話だと辻褄が合う。

確かにベル君はミノタウロスを前にし、腰を抜かして逃げることも出来なかったが、そもそも5層までミノタウロスを逃がしたそちらの責任だろうと私はイラついてしまう。

 

ベル君は大丈夫なのだろうかと視線を向けると拳を握りしめ、ぐっと堪えて話を聞いていた。

 

「ベル君、気にしなくても…」

 

「そんでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえガキが!」

 

ヘスティア様が気遣い、ベル君に声をかけるが遮るかのように銀髪の男の話し声が大きくなる。

 

「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際に追い込まれちまってよぉ!しかも、アイズがミノを細切れにしたからそいつ全身にくっせー牛の血浴びて…真っ赤なトマトになっちまったんだよ!」

 

そう言うと銀髪の男は腹を抱えて店内に響き渡る声で大笑いした。

その話を聞いていた他のお客さんもつられて笑いを噛み殺しながらニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

 

「それにだぜ?そのトマト野郎、叫びながらどっかいっちまってっ…ぶくくっ!うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

 

「……くっ」

 

「アハハハハハッ!そりゃ傑作やぁー!冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!!」

 

「ふ、ふふっ…ご、ごめんなさい、アイズっ、流石に我慢できない…!」

 

笑いを堪えきれなかったのかほかのロキファミリアの団員もクスクスと笑い出す。

 

ふざけるな。ベル君はダンジョンに潜り出して日も経っておらず、ミノタウロスを相手にできるわけが無い。なのになぜコイツらはモンスターを逃して知らぬ顔で笑っているのだと更に苛立ちが溜まっていく。

 

そんなやついたかぁ?まぁ、良いや。本当に情けねぇ奴だったよ、勘弁してほしいぜ」

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねえヤツを擁護してなんになるってだ?それはてめぇの失敗をてめぇで誤魔化すための、ただの自己満足だろ?」

 

「これ、やめえ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

 

「アイズはどう思うよ?自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎を。」

 

「……あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」

 

「なんだよ、いい子ちゃんぶっちまって。…じゃあ質問を変えるぜ?あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

「無様だな」

 

「黙れババアッ!…じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

「……っ」

 

「そんなはずねえよなぁ。自分より弱くて軟弱な雑魚野郎に、他ならいお前がそれを認めねえ」

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

最後の言葉が聞こえると同時にベル君は走り出して店の外へ出る。

 

「ベル君!」

 

ヘスティア様が声を掛けるが聞こえていないのかそのまま走って行くのをヘスティア様もベル君を追いかけるために走り出した。

 

私はベル君が飲んでいた飲みかけのお酒を持ってロキファミリアの元へ歩き出す。

 

「なんだぁ、今の?…あ?なんだてめぇ?」

 

私は持っていた飲みかけのお酒を銀髪の男性の頭の上にグラスを傾け、お酒をぶちまける。

 

「頭は冷えたか、犬っころ」

 

ベル君はヘスティア様に任せておけば大丈夫だろう。

私はこの犬っころに一発でもかまさないと気が収まらないと目の前の銀髪の男を睨め付けた。

 

 

 

 



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豊穣の女主人にて

投稿が遅くなでてすみません。
仕事が始まってしまって全然時間が取れませんでした。
投稿に時間がかかってしまうかも知れませんが、週一を目指して書き上げたいと思います。


頭にお酒を注ぐ。周囲の雑踏は消え、シーンとなり、辺りの空気が冷える。

酒をかけられたベートは状況が理解できないのか固まっていたが、数秒の時が経つと雄叫びを上げながら立ち上がり、脚に力を込めて目の前の少女を消し飛ばそうと振り抜く。

 

「何してんだテメェェェエエッッ!!」

 

「がっ!」

 

私は目の前に迫った蹴りを間一髪で受け止めるが、衝撃をまともに受けてしまい、バキッと腕が悲鳴をあげて確実に折れた感触を味わうまもなく地面に膝をつき、衝撃が地面まで行って足と膝が地面にめり込む。

 

あまりの痛みに気絶しそうになるが、自分の家族を馬鹿にされたことを思い出して、折れた右腕を庇いながら目の前の男性を睨めつける。

 

「なっ!?……調子こいてんじゃねぇぞォ!!」

 

銀髪の男性が少女に追い打ちをかけるように近づき脚を振り上げるが、カウンターの方から轟音が鳴り響く。

その音の正体は豊饒の女主人であるミーアが拳をカウンターに叩きつけたものだった。

 

「…これ以上騒ぐんなら出てってもらうよ!」

 

その剣幕に押されたベートは脚を止め、固まってしまい、その隙にフィンやリヴェリア、ティオネなどがベートを捕え、どこから取り出したのかロープを使い、グルグルと縛って天井に吊るした。

 

炎よ纏え。我が力となりて。我が禊となりて(プロミネンス)…」

 

私はレベルアップで得た魔法をこんな所で使うとはと思いながら詠唱する。徐々に痛みは引いていくが、折れてしまった部位は修復されず右腕を庇いながらカウンターへと行き、持っていた金額を全て置く。

 

「食事代とお店の修理代です。足りなかったら後からお金を持ってくるので…。すみませんでした。」

 

ガヤガヤとロキファミリアが騒いでいる内にお店からこっそり抜け出そうと出口へ歩みを進めていくと背後から声をかけられる。

 

「ごめん、ベートが…」

 

声をかけてきたのはベル君が惚れているであろうアイズ・バレンシュタインだった。

私はかけられたことに対して、下手くそな笑みを浮かべながら後ろを振り向いて話しかける。

 

「いや、元々は私が吹っかけた喧嘩なんで大丈夫ですよ。」

 

そしてもう話すことは無いとばかりに出口へと振り返ってお店から出ていった。

 

 

 

 

 

 

「クソっ!クソっ!クソっ!!」

 

「(何が大丈夫ですよだ!)」

 

帰路へ歩みを進めながら己がした事を振り返って自己嫌悪していた。

明らかに格上であろうロキファミリアの一員に喧嘩をふっかけたことも、そして家族を馬鹿にされて何も反撃できなかった自分に憤りを感じていた。

 

「結局、何も変わってない!!」

 

歩みを止め、左拳を思いっきり握り込む。

やろうと思えば相手は豊饒の女主人の杜絶を振り切って相手の頬に殴り込むことも出来たかもしれない。

しかし結局は格上であるロキファミリアの一員にビビってしまったのだ。

自分が殴り込めばお店やヘスティアファミリアのみんなに迷惑がかかってしまうかもしれない。

だが自分の家族を馬鹿にされ、罵られて怒らない者がいるのだろうか。

相手の面に一発でも食らわせれたら自分の気は晴れるかもしれない。そんなことをしてもなんの問題も解決しないが、結局は相手にビビって何も出来なかったのだ。

 

「ああァァァァッッ!!」

 

まだまだ心も力も弱い自分に対して嘆いて嘆いて嘆いて、どうしようもない感情をぶつけるかのように星が照らす夜に声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あの少女…)」

 

豊穣の女主人でベートが起こした後始末をしながらリヴェリアは先程までいた少女を思い出しながら作業を続けていた。

ベートはあんな痴態をさらけ出してもロキファミリアの一員であり、レベル5である。

いくら酒に酔っていても実力でいえばトップクラスの力を持つベートの攻撃に対して腕を折りながらも受け止めていた少女に驚愕していた。

 

「リヴェリアー?こっちはもう終わりそうだけど、何してんのー?」

 

話しかけてきたのは同じ団員であるティオネだった。あらかた作業は終わったのか肩を回しながらこちらに近づいてくる。

 

「先の少女の事を思い出してな」

 

「あー、ベートにお酒ぶっかけた娘?中々面白かったねー。ベートなんか濡れ鼠みたいに頭びしょびしょにしてさ!」

 

ティオネは話しながら倒れた机を元の位置に戻す。私リヴェリアもティオネと話しながら先の少女の事を思い出しながら作業を続けていた。

名も知らぬ少年と少女には申し訳ないことをしてしまったと心の中で反省し作業を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はホームにたどり着くとソファーに倒れるようにうつ伏せになる。帰ってくる途中で詠唱を続けていたらいつの間にか治っていた腕の状態を確認すると、そのまま瞳を閉じる。

まだホームに帰ってきていないヘスティア様とベル君を追いかけるべきなのだろうが、頭が重く、思うように体が動かない。

 

「はぁ…」

 

これが精神疲弊(マインドダウン)なのだろうかとダンジョンの講習会でエイナさんと話していた内容を思い出す。

限界まで精神力を消費してしまうと体力にも限界があるように精神力にも限界はあり、底を尽きてしまうと気絶までしてしまうものだと講習会の内容を思い出しながら今日の事を考える。

 

今では大分頭も冷えて、今日の行動を思い出してもう少し自重すべきだったのではないかと反省していた。

格上のファミリアに喧嘩を売ってしまったこと。ベル君へのフォローをしっかりしておけば良かったなど。そして何よりも自分の弱さに嘆いていた。

あの銀髪の男性の事を考えると腸が煮えくり返ってどうしょうもないほどイラつくが、もっと何か方法があったのではないかと思考していると段々と瞼が重くなり、視界が狭くなる。

もっと強くならなければと今日の悔しさを胸に秘めて瞳を閉じるのであった。

 



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客潰し

豊穣の女主人で騒動があってから数週間、私はすみから武器が完成したという連絡を受け、すみのお店『水簾』に訪れていた。

 

「おぉ…!」

 

「どう?出来るだけ銀の要望に答えられるように作ったのだけれど」

 

すみから2对の斧を受け取ると重量や握り心地に驚きを感じた。今まで使っていた斧はバトルアックスのように先端に刃先がついたものを使用していたが、今回頼んだものは結城友奈は勇者であるの作中で三ノ輪銀が使用していたものと瓜二つであった。

 

「ありがと!すみ!」

 

「ぎ、銀!?」

 

武器を置き、すみの手を握ってお礼を言うと頬を紅潮させて目線がキョロキョロと動き回っていた。

なんで顔があかいんだ?と疑問を持ち、首を傾げるが、そんな日もあるのだろうと結論をつけ、腰に巻いていたポーチからお金を取り出した。

 

「金額はこれでいいかな?」

 

「うん、大丈夫よ。あと防具の方も渡しておくわね」

 

すみは棚から防具一式を取り出して私に預ける。オーダーメイドを頼んだ次の日にどうせならばと防具も頼んでいた。

その時のすみの表情はまとめて頼みなさいと言わんばかりの顔を浮かべていたが快く承諾してくれた。

 

「もう少しすみと話したいんだけど、今日は予定が色々あって…」

 

「気にしなくて大丈夫よ」

 

今日はあと2件ほど回らないと行けない場所がある。

豊穣の女主人の騒動があった次の日に再び訪れて、金額を返済しようとしたのだがロキファミリアが金額をほとんど払ったらしいのことだった。

それでも迷惑をかけたのだがらと私は告げると、お金はいいからお店を手伝って欲しいとのことだった。

今はダンジョンも行けないのでちょうどいいと私は豊穣の女主人でアルバイトをすることになったのだ。

 

私は防具に着替え、2対の斧を担ぐとすみにお礼の言葉と別れの挨拶をして『水簾』から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

豊穣の女主人のアルバイト開始時間は大体夕暮れの時間から始まるのだが、その前にもう1件回るところがあった。

そこは南のメインストリートから少し外れた裏路地にある『火鉢亭』と呼ばれる酒場であった。

中に入り、集合時間は間違えていないだろうかと周囲を見渡すと奥の席にある人物が席に着いていた。

 

「アンドロメダさん!」

 

「こんにちは銀ちゃん」

 

透き通る様な肌と切れ長い瞳に銀縁のメガネをかけているヘルメスファミリアの一員、アンドロメダさんが高そうなお酒を片手にこちらに手を振っていた。

私は失礼しますと一声かけてから椅子を引き、席に着いた。

 

何故私がヘルメスファミリアの団長であるアンドロメダさんと知り合えたかと言うと1週間前の夜での事だ。

 

 

 

 

 

 

「銀ー!この料理を3番テーブルの方に持っていっておくれ!」

 

「分かりましたー!」

 

私が豊穣の女主人に勤めてから2日が立ち、ホール兼キッチンを担当していた。元々はホールで接客をする予定だったが私の昼ごはんをアーニャさんとクロエさんにつまみ食いをされた所、ミアさんにキッチンも出来るのではと報告され、キッチンも担当することになってしまった。ホールに人手が足りなければ接客を行い、キッチンが忙しければおツマミなどの簡単な料理を作るなどピンチヒッターの様に使い回されていた。

 

徐々に仕事も覚えだして、こっそり私の様子を見に来たヘスティア様を横目で見ながら3番テーブルに料理を運ぶ。

 

「お待たせしました。パエリアとスパゲッティ、飲み物になります」

 

「どーもどーも、新人ちゃんかい?小さいのによくやるねぇ。」

 

私に声をかけてきたのは橙黄色の髪をした、人当たりの良さそうな旅人風の男性だった。

 

「はい!新しく入りました、三ノ輪銀と言います!よろしくお願いします!」

 

「元気がいいねぇ、何かいい事でもあったのかい?」

 

「ヘルメス様、あまりちょっかいを…。すみません、うちの主神が」

 

軽くペコりと頭を下げてきた人を見る。端正な顔立ちでどこかのお姫様みたいな雰囲気を感じる人だった。

 

「大丈夫ですよ!少しづつお客様も少なくなってきたので…」

 

ちらりとミアさんの方に視線を向けると相手をしてやれと目配せしてきた。

時折、店員がお客様の相手をすることがあり、お酌をしながら会話を盛り上げるのも仕事のひとつだと教えて貰っていたが、ぶっちゃけ今回が初めてなので緊張でガクブルだった。

 

「そうかい?ならお酌をしてもらおうかな?」

 

「失礼します!」

 

「アッハハ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

 

瓶に入っていたお酒を若干震えながらもお酌をし、話しかけてみる。

 

「お二人は冒険者なんですか?」

 

「そうそう、自己紹介が遅れたね。ヘルメスファミリアの主神のヘルメスだ」

 

「私はこの人の遺憾ながら団長をしています。アスフィ・アル・アンドロメダと言います」

 

アンドロメダさんの口からため息が出て、苦労していますとばかりに表情が出ている。顔はすごく綺麗なのだが心労が滲み出ていて黒いオーラを発していた。

そこから会話を続け、酒が空いていると注文を取るかと聞き、アンドロメダさんの愚痴を聞きつつも、ヘルメスをよいしょしながらお酌を続けていると2時間もしないうちに2人はベロベロに酔っていた。

 

「貴方はいっつもいっつも、私に何も言わないで勝手なことばかり…!」

 

「わ、悪かったってアスフィ!そ、そういえば銀ちゃんは冒険者なんでってね?」

 

「はい、ヘスティア様のところでお世話になっています!」

 

ヘルメス様はもう聞きあきたとばかりに急な話題変換をして私に問いかける。私はお酒を飲んではいないが雰囲気によってしまったのだろうか冒険者であることや自分のスキルなど色々喋ってしまった。

 

「そして厄介なスキルのせいで今はダンジョンに行けていないと?」

 

「そうなんですよねー…」

 

『満開』の代償である『散花』について色々と調べたりしているのだが解決策も見つからずに途方にくれていた所だった。

 

「ならアスフィに頼んでみるといい。アスフィは魔道具っていうかなり便利な道具を作成出来るスキルがあるんだ」

 

「本当ですか!?」

 

まさかの棚ぼたである。しかしこの状況を考えてみるとお気に入りのキャバ嬢に援助しているのと変わらないのではと思ったが、せっかくの機会だ。

アンドロメダさんにその話を伝えると机にうつ伏せながらも手でOKのサインを出していた。

しかしベロベロに酔いすぎて頼んだことを覚えていないのではないかと思うが、そこは大丈夫だとヘルメス様が言ってくれた。

 

その後、1時間程度すると2人は完全に爆睡し、自分が2人を担いで近くの宿舎に送って、お店に帰るとクロエさんとアーニャさんから恐ろしい子とばかりの表情を浮かべ、客潰し(クラッシャー)なる異名を頂いた。何故だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな経緯があり、アンドロメダさんから商品が完成したという連絡を受け、『火鉢亭』で待ち合わせて受け取るということである。

 

「これがスキルを抑える魔道具です」

 

「すみません、ご迷惑をかけてしまって」

 

「いいのよ、私達もかなり迷惑をかけてしまったし」

 

手渡されたのは銀で作られ、中央には緑色の輝きを放っている魔石のようなものが埋め込まれていたブレスレットだった。

 

「こ、これ。かなり高いんじゃ…」

 

「本当だったらかなり立派な家が3つほど立つ商品だけどサービスということで1万ヴァリスで大丈夫よ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

私はブレスレットを握りしめながら深々と頭を下げる。今まで『散花』の影響でダンジョンに出ることが出来ずに葛藤を感じていたがこれでダンジョンに行けることになる。

 

「使用する時はブレスレットに魔力を込めて、封じたいスキルをイメージすればそのスキルは使えなくなるということよ」

 

アンドロメダさんは目の前のお酒を一気飲みすると、少し用事があるということなので私からお金を受け取り、お店を後にした。

 

私は拳を握りしめ笑みを浮かべる。これでダンジョンに行ける。豊穣の女主人でアルバイトをするのも楽しかったが、やはりダンジョンに行けるという気持ちが勝る。

流石に今日は豊穣の女主人でアルバイトがあるので行けないが、明日からはベル君と一緒にダンジョンへ向かおうとお金を払ってお店を後にし、走り出す。

私は色んなに助けて貰って、ここに生きている。そのお礼をを返せるまで強くならねばと更に走るスピードを早めるのであった。

 

 

 

 



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独眼竜(笑)

「アァァァァァァァァァ!!」

 

「おーい銀ー!って聞こえてない…」

 

銀が自分たちに迫ってくるモンスターを鬼のような表情で斬り伏せていくのをベルはその後ろで眺めていた。

銀は絶賛狂乱中であり、こちらの声に振り向きもしない。

それもそうかとベルは思わずため息をつく。

銀が『散花』というとてつもないデメリットがあるスキルを封印出来たと聞いて、ダンジョンへ行こうと昨日の夜に起こった出来事が原因であると思い出していた。

 

 

 

 

「ベル君!聞いて聞いて!」

 

「どうしたの銀?」

 

銀は話したくてたまらないという表情でベルに話しかけてきた。

その内容とは『散花』というスキルを使えなくしてダンジョンに参加できるというものだった。

 

ベルはそのことを聞いて嬉しく感じていた。今まで銀とは自己鍛錬でしか斧を振るう姿を見たことしかなく、一緒にダンジョンへ潜れることに喜びを感じる。

その後、銀とは何回層まで降りるのか、どういう配置で戦うのか作戦を練りながら話していると、キィーっとドアが弱々しく開く音がした。

 

「た、ただいまー」

 

「おかえりなさい!ヘスティア様!」

 

銀は立ち上がり、帰ってきたヘスティアの豊満な胸へダイブする。

いつもならヘスティアは銀を抱きしめて頭を撫でるのだが、今日は目線を横に逸らしながら気まずそうな表情を浮かべていた。

 

「どうしたんですかヘスティア様?」

 

「どうやら、銀くんに謝らなくちゃいけないことがあってだね…」

 

ヘスティアは頭を掻きながら、クルクルと巻物のように巻かれた羊皮紙を銀に差し出す。

 

「さっき、神会(デナトゥス)があって銀くんの二つ名が決まったのだけど…」

 

ベルも気になって銀の頭の上から羊皮紙に書かれていた内容に目を通すと、思わず固まってしまった。

 

「ど、独眼竜(笑)(ダークドラゴン)?」

 

そこに記されていた内容は銀のレベルアップで付けられていた二つ名だった。

独眼竜という意味は分からない恐らく、銀が今、視力を失っており、目の瞳孔が混濁しているため眼帯を付けていたことからこの二つ名が命名されたのではとベルは予想する。

しかし語尾に付けられていた言葉は明らかにおちょくっているというのが分かる。

羊皮紙を持っていた銀はプルプルと震えながら、羊皮紙の端をグシャリと握りしめていた。

 

「ふんっ!」

 

そして黒歴史の塊とも呼べる羊皮紙を縦に引き裂き、ビリビリと原型が残らないほどに細かくちぎっていた。

その様子にベルとヘスティアはガクブルと震え、振り返った銀の表情を見ると般若の形相をしていた。

 

「ヘスティア様ー?これってレベルアップしたら変えてくれるんですよね♪」

 

「う、うん」

 

ふふふと恐ろしい笑みを浮かべながら、外へ消えていった。

その時、ヘスティアとベルは心に誓った。銀を怒らせてはならないと。

 

 

 

 

 

 

 

我を忘れて辺りのモンスターを全て惨殺すると少し、落ち着いてきて暴走してしまったと反省する。

 

「ぎ、銀ー!」

 

ベル君は大声を上げながらこちらへ走ってくる。無意識にベル君を置いて行ってしまったのかと自分の行動を振り返って恥ずかしくなってしまった。

 

「ごめん、ベル君。先に行っちゃって」

 

「ま、まぁ落ち着いたなら良かったよ…」

 

ベル君が怯えながらこっちを見ている。何故だろう。

まぁいいかと切り替えて、ベル君と足並みを揃えてダンジョンへと足を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀!そっちは頼んだ!」

 

「かしこま!」

 

現在は7階層でキラーアントの群れと戦いを繰り広げていた。

後ろと前の両方から挟み込む様に距離を詰めてきたキラーアントに対して新調した『黒鉄』と『白銀』を使って斬りこんでいく。

 

今までは刃先が先端にしかついていなくて、距離を詰められた時の対応に苦戦していたが『黒鉄』と『白銀』は自分の身長と同じくらい長く刃先がついているため、近距離の戦闘でも苦戦はしなくなった。

それに加えて1人で対処していた部分をベル君がカバーしてくれるのも大きかった。

何気に今回のダンジョン探索がベル君と行くのが初めてで、どのくらい戦えるのか気にしていたが、片手用のナイフを使って、器用に自分の懐に入られないようにナイフを振るっていた。

 

そしてキラーアントの群れを対処し終えると少し休憩しようと地面に腰を下ろす。

 

「ふぅ、そろそろ帰ろうかな。」

 

「もう帰るの?」

 

「うん、今日は豊穣の女主人でアルバイトがあるし、早めに帰ろうかなって」

 

そう。私はまだ豊穣の女主人でアルバイトを続けていた。つい先日、修理代を立て替えるぐらいの労働時間になっていたので、そろそろ終わってもいいかとミアさんに告げると、お金は払うから続けてくれないかと頼まれてしまった。

確かにダンジョンでモンスターと戦闘し、お金を稼ぐのもいいが、お店で働く楽しさを覚えてしまったので、もう少し続けることにしたのだ。

 

「それじゃあ、僕はもう少ししてから帰るとするよ。まだまだ弱いしね…」

 

「ベル君…」

 

あの件はもう気にしなくてもいいと声をかけようとしたが、ベル君は更に奥へと足を進める。

 

「夕飯前には帰るからー!」

 

ベル君は私に手を振りながらナイフを片手に走り出した。

私もまだまだだなと今日のアルバイトが終わったら、自己鍛錬に集中しようと決意し、ベル君とは反対方向へと走り出す。

 

 

 

 

 

 

今日も疲れたとコキコキと首を鳴らしながら着替えを行っていた。私がアルバイトをしている時間帯は大体、夕暮れから深夜前だった。

流石に私のような子供が夜遅くまでアルバイトするのは良くないとのことからみんなより終わるのが少し早かった。

そして着替えている途中で今日は早めの退勤らしくシルさんとリューさんが着替えながら私に話しかけてきた。

 

「そういえば銀ちゃんは明日の怪物祭(モンスターフィリア)はどうするんですか?」

 

「怪物祭?」

 

「あぁ、ガネーシャファミリアが開催しているお祭りのようなものだ」

 

そういえば、ヘスティア様がそんなことを言っていたような気がする。私もベル君と同様に誘われたが、すみと遊ぶ約束をしていたので断ることになったと思い出していた。

本当ならばヘスティア様とベル君も一緒に行来たかったのだが、ヘスティア様がベル君と二人きりでデートをしたいと小声で話しかけていたので、それならばと若いふたりでご自由にと断らせてもらった。

 

「んー、友達と一緒に行くことになっているんですけど…」

 

「それなら友達と一緒に私達と回りませんか?」

 

私は全然大丈夫なのだが、すみが若干人見知りなんだよなぁと思うが二人とも良い人なので、すみと直ぐに仲良くなるだろうと承諾した。

 

「はい!大丈夫ですよ!」

 

それならばと明日の集合時間と場所を教えて貰い、ではまた明日と言って先に上がらせてもらった。

 



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