アムロ再び戦場に立つ。 (ローファイト)
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アムロ平行世界に転移する

メビウスの輪……

 

サイコフレームの共振が見せた希望の光。

 

アクシズが地球の重力から徐々に離れて行く……

 

 

(ああ、光の輪が……シャア見ているか?お前が見限った人々の心はこんなに温かな光を……)

アムロの意識はそこで途切れる。

 

 

アムロ・レイ大尉29歳 第ニ次ネオ・ジオン抗争、アクシズ降下阻止戦にてMIA

実質戦死扱いとなり、2階級特進で中佐となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

「おい!そこの見慣れないパイロットスーツのあんた!バルキリーの戦闘経験は?戦闘機ぐらい乗れるだろ?」

 

(ここは……基地……いや戦艦の中?)

けたたましく鳴り響く警報音に、見慣れないノーマルスーツを着た兵士達がそれ程広くない通路を騒然と行き来していた。その空気感は、戦場独特の雰囲気を醸し出している。

 

(これは一体?俺はνガンダムと運命を共にしたはずではなかったのか?いや、助かったのか……しかし、あの時のノーマルスーツのままだ)

アムロ・レイは自身の体を確かめるように動かし、その目で確認する。

 

「ボーっとしてる暇は無いんだ!!彼奴らがまた攻めて来てるんだ!パイロットが不足してる!時間が無い。こっちにこい!!」

白色の戦闘機のパイロットスーツのような物を着込んだ30中頃ぐらいの強面の男が、アムロの腕を強引に掴み、引っ張って行く。

 

「待て……ここはどこだ。俺はどうなった?」

 

「ちっ、まだ混乱してやがる!しょうがねぇ!!SDFがフォールドしたのは良いんだが、何でか冥王星まで飛ばされたんだよ!ってわからねぇよな!ふぅ、あんたプロメテウスかダイダロスのパイロットの生き残りか?……とりあえずだ!敵は待ってくれない!事情説明は後だ!行くぞ!!」

 

「おいっ!?」

(冥王星に飛ばされた!?何を言ってる?SDFとは?フォールド?プロメテウス?ダイダロス?)

アムロは思考が追い付かない。

この男の言動には聞きなれない言葉が多数含まれていたためだ。

 

アムロはその男に引っ張られるまま連れられ、広い場所に出る。

そこは格納庫だろう。アムロからすると旧世代の戦闘機が所狭しと置かれ、発進準備をしていた。

 

(どういう事だ?あれは、旧世代のF‐14型戦闘機じゃないか?……いや、この男、ここが冥王星だと言っていたぞ。そんな辺鄙な場所に宇宙戦艦が?その宇宙戦艦の中になぜ旧世代の戦闘機が?モビルスーツも見当たらない……)

 

 

「おーーい!空いてるバルキリーはどこだ!!」

アムロを引っ張ってきた男は大声で叫ぶ。

 

「そこら中空いてるよ!!」

整備兵と思われる若い男が怒鳴り声で返す。

 

「くそったれ!さっきの地球での一戦でかなりの戦死者が出たってことか!!」

 

(地球での一戦?なんだ?……あの後、地球で戦闘行為があったと言う事か、俺はあの後どうなったんだ?)

 

「おい、あんた。そこらへんのに乗り放題だ!バルキリーは……その顔を見るに乗ったことは無いだろうな。まあ、ファイター形態だったら、ほとんど戦闘機と一緒だが……あっ、しまった。宇宙空間での戦闘の経験はあるのか!?」

 

「……ある」

 

「ふー、よかったぜ。流石に宇宙戦闘の経験が無いと無理だからな。おっと、俺はSDF-1所属キャスパー中隊隊長エストラント・キーリック中尉だ。俺の部隊はもう3人しか生き残ってないから実質小隊だがな。あんたは?」

少々乱暴な物言いのパイロットスーツの男は、ようやくここで名乗りを上げる。

 

「外郭独立遊撃艦隊ロンド・ベル所属アムロ・レイ大尉だ」

 

「げっ、階級上かよ!しっ失礼しました大尉殿!って、なんだそのロンド・ベルって聞いたことが無いが、まあいいか。大尉殿!ご同行願いませんでしょーうか!」

 

(なんだ。俺の名前を知らない?……そこそこ有名だと思っていたのだがな)

地球連邦軍のパイロットでアムロ・レイの名を知らない兵士は居ない。

なにせ、伝説的モビルスーツRX-78-2ガンダムを駆り、数々の功績を残したエースパイロットだ。

 

「……おい、ここはどこで、何と戦ってる?」

 

「やっぱ、混乱してんな。……大尉殿!とりあえずこのデカブツ戦艦を守らないといけないんだ!出撃して生きて帰れたら、たんまり答えるからさ!とりあえず乗った乗った!!」

 

アムロは整備兵と共にエストラントに無理やり、空いてるバルキリーに乗せられ、ハッチを閉められる。

 

「聞く耳持たずか……しかし、おかしい」

アムロは違和感を持ちつつ、バルキリーのコクピット周りの確認と、マニュアルが映し出されてるタブレット端末を確認する。

(……なんだ。これは!?唯の旧世代戦闘機じゃない。エネルギーゲインが5倍もある。宇宙用の戦闘機……こんなもの聞いた事も見た事もない。……何!?変形するだと!これはモビルスーツ!?いや、こんな小型で変形機構を持つモビルスーツなど聞いたことが無い!一体何なんだ?)

アムロはマニュアルを見て驚き、さらに今の自分の置かれた状況がますます理解ができない。

 

 

そして、戦闘機風のコクピットの前面画面に年若い美女が映る。

『私は管制オペレーター主任の早瀬未沙中尉です。キーリック中尉に事情を聞きました。アムロ・レイ大尉。突然戦闘に巻き込まれ混乱と疑問をお持ちだろうと思いますが、今はSDFの防衛にご協力ください』

 

「わかった。帰ったら事情を聞かせてもらいたい」

 

(とりあえずは、VF-1Aというモビルスーツ、いやバルキリーと言ったか、乗りこなさなければ)

 

『ご武運を……』

 

 

そして、アムロが乗り込んだVF-1Aは甲板エレベーターに載せられ発進シークエンスに入る。

 

 

 

 

西暦2009年、地球は突如として現れたゼントラーディ軍と交戦状態に突入。

対異星人用に開発建造(正確には改装)されたSDF-1マクロスはゼントラーディ軍に集中して狙われピンチに落ちいるが、フォールド技術を利用したワープ航法で地上から月に脱出を図ったのだ。

しかし、月軌道上にワープする予定が何らかのトラブルで冥王星まで飛ばされる事となる。

 

その際、SDFが停泊していた基地や街、他の戦艦なども巻き込み一緒にワープしてしまう。

さらにはワープした先でも、すぐにゼントラーディ軍の追手が現れ、襲撃にさらされたのだった。

 

アムロは丁度このタイミングで、似通った世界、平行世界へと転移し、飛ばされたのだった。

それはサイコフレームの共振の影響なのかは不明である。

 

そしてアムロは、奇しくもSDF-1のワープに巻き込まれた他の戦艦や他の航空部隊の生き残りだと勘違いされ、無理やりバルキリーに乗せられる羽目に……

 

 

 

 

 

そして……

 

「くっ、凄まじい旋回性能と機動力だ。モビルスーツというよりもMAに近いコンセプトか。パワーはZ系には劣るが、この小回りの良さは対モビルスーツに優位に働きそうだ。ただ、その分技量が必要なのも否めないか……そこっ!」

アムロは抜群の操縦センスと戦闘センス、さらに優れたニュータイプ能力で、ほぼ完全にバルキリーを乗りこなし、凄まじい戦果を挙げていく。

 

「人型……バトロイド形態と言っても接近戦用の武器は無しか、いや頭部レーザービーム、これぐらいか。威力は低いようだな。ビームサーベルが欲しいところだが……、あまい!……反応は悪くは無いが宙域では使い辛い。バトロイドモードは改良の余地が有るな」

アムロは戦闘機形態のファイターモード、人型形態のバトロイドモード、その中間のガウォークモードを確かめるように機動し、戦場を駆け巡り、次々と敵の戦闘ポッドを破壊していく。

 

「敵はなんなんだ?……意思が……まるで戦闘本能だけで生きる野獣のようだ。だがしかし、……やられるわけには!」

ゼントラーディ軍の兵器を次々と撃破していく中、アムロはニュータイプ能力で敵の意思を感じるが、それが今迄戦ってきた相手とは異なっていた事に困惑を隠せなかった。

 

そしてアムロ・レイが駆るVF-1A一般量産型のバルキリーはその一戦で19機という驚異的な撃墜スコアを残し、無傷でSDF-1マクロスに帰ってきたのだった。

 

 

 

 

 



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アムロこの世界で生きていく事を決心する

続きです。



冥王星での異星人艦隊(ゼントラーディ軍)の襲撃を何とか撃退することが出来たマクロス。

地球統合軍准将ブルーノ・J・グローバル艦長は、冥王星近海まで飛ばされたマクロスを通常航行で異星人艦隊(ゼントラーディ軍)の包囲網を突破し、地球まで帰還することを宣言する。

ワープ航法を可能としたマクロスのフォールド装置は、予期せぬ冥王星までの1回目のワープの際、装置自体が喪失し、再度のワープが不可能となっていた。

もはや地球への帰還方法は通常航行しかなかったのだ。

それは長く辛い道のりの始まりだった。

 

SDF-1マクロス艦長室では、グローバル艦長に、バルキリー隊の隊長であるロイ・フォッカー少佐と管制オペレータ主任の早瀬未沙中尉が呼ばれていた。

 

「少佐ご苦労だった。見事な働きだった。今後もバルキリー隊を頼む」

 

「艦長。お褒めの言葉は恐縮ではありますが、こちらの被害も大きく、とても勝利とはいえる状態ではありません。さらに地球に帰るとなると地球を包囲してる異星人の大艦隊との戦闘は避けられない。これからの戦闘を考えますと、圧倒的にパイロットが不足しております」

ロイ・フォッカー少佐は統合戦争時に既に戦闘機、バルキリー乗りとしてその力を振るってきたエースパイロットだ。

そんな彼でも現状のパイロット不足を補うまでのカバーは出来ない。

 

「うむ……やはりそうか。地上から今回の戦闘でパイロットの消耗が激しい事は把握している。初の地球外生命体との戦闘に宇宙宙域での戦闘だからな。しかし少佐、人員不足は何もパイロットだけではない。全体的に人が足りないのだ」

 

「まあ、パイロット候補生を何とか早急に仕上げますが、それでもまだ足りないのが現状です」

 

「艦長。民間から募ってはいかがでしょうか?」

未沙は手にもつタブレット端末を確認しながらグローバルに提案する。

マクロスは停泊していた街の住人をゼントラーディ軍の攻撃から守るために約5万8千人程収容していたのだ。

 

「……致し方がないか。その線で進めよう。早瀬中尉、早速で悪いが企画提案書を早々に提出してくれ」

 

「了解いたしました」

 

 

「ん?パイロットの中に……今回の宙域戦闘で単機で19機撃墜か、凄まじい戦果だな。所属不明……」

グローバルはタブレットで今回の戦闘報告を確認していたのだが、ある報告が目に入った。

 

「それですか。私も直接本人に確認をとってはいないのですが、SDF-1所属のパイロットではないようで、フォールドで巻き込んだいずれかの戦艦のパイロットのようです。

申し訳ありません、こんな事になり。バルキリー隊のパイロットが不足しておりまして、キーリック中尉が無断で緊急出撃させたようです。……その、私がキーリック中尉を厳重に注意いたします故、その……罪は」

フォッカーは頭を掻きながら、説明をするが頭を下げ謝りだす。

SDF-1やバルキリーは機密兵器であった。

同じ軍属と言えども、別部隊の隊員には機密保持をしなければならないのに、勝手に乗せて、しかも戦闘までさせたのだ。厳重な罰どころか、軍事裁判にかけられてもおかしくない所業だ。

 

「申し訳ございません。その件ですが、私も既に許可が降りてるものと思い、出撃許可を出してしまいました」

未沙も謝罪を言葉にし頭を下げ謝った。

 

「指揮系統の混乱はむしろ、こちらが謝らなければならない。キーリック中尉の行為は軍人としては褒められたものではないが……そのおかげで我々が助かった事も事実だ。中尉については少佐の裁量に任す。……して、バルキリーをそれ程乗りこなすその人物とは……」

グローバル艦長は軽く首を振り、未沙やフォッカーに謝罪の言葉を重ねる。

地上での激しい戦闘を行い、フォールドで冥王星まで飛ばされ、また直ぐに宙域戦闘だ。

人員も不足してる上に、指揮系統自体が上手く機能出来ていない状態だった。

 

「はい、キーリック中尉からは、アムロ・レイ大尉と……可変戦闘機(バルキリー)自体に乗ったことが無さそうだということで、戦闘機のパイロットなのかと統合軍のデータベースを確認したのですがアムロ・レイなる人物は……その、登録されていませんでした」

未沙は言葉に詰まりながら説明をする。

 

「おいおい、中尉それは本当か?バルキリーに乗ったことが無い人間が19機も撃墜できるはずが無い!しかも宇宙での宙域戦でだ!統合戦争での1回の戦闘撃墜最高スコアを軽く超えてるんだぞ!?」

フォッカーが驚くのも無理が無い。フォッカー自身が樹立したバルキリーによる単戦撃墜スコアを大きく超えていたからだ。

 

「登録されていないか……統合軍司令部の機密部隊かもしれんな。我々の動向を探るための統合軍内の別派閥の工作員の可能性もある。統合軍も一枚岩ではない……」

 

「しかし艦長。工作員だとしてもだ。それ程の技量であれば、統合戦争時代に名前が出てもおかしくない」

 

「ふむ。名前は偽名かもしれんな。ここで議論しても始まらない。本人に事情を聞くのが良いだろう。もし工作員だったとしてもだ。こんな事態だ。優秀なパイロットは喉から手が出るほど欲しい。事情を説明し協力を仰ぐのが妥当だろう。アムロ・レイ大尉をここに呼んでくれ」

 

 

 

 

アムロは帰還した後に、アムロを強引にバルキリーに乗せたキーリック中尉を探すが、負傷し医療施設に運ばれたという事だった。

 

アムロは、ノーマルスーツのまま、格納庫に併設してる整備兵の休憩場らしき場所で腰を落ちつけていた。

(この戦艦、全長1キロ以上あった。メガ粒子砲並みの砲門も多数搭載されている。まるで宇宙要塞だ……こんな戦艦聞いたことも見た事も無い。敵は二足歩行可能なポッドのような戦闘機だった。しかも機動性はジムⅢ、いやジェガンよりも上だ。ただ攻撃力は大したことはなさそうだ。しかし、このバルキリーという可変モビルスーツの性能はすさまじい)

 

アムロは休憩中の整備兵等と情報を得るために軽く話していく中で、違和感を覚えずにはいられなかった。

(今が西暦2009年だと?…旧世代の年号だ。何かが異なる……世間話を聞いたが、馴染みのない物ばかりだ。どういうことだ?)

 

「おおっ、ここに居たか!」

見るからに2mは超えているだろう高身長の雰囲気のある男が、大声でアムロに声を掛ける。

その男が休憩場に入ると、皆立ち上がり敬礼をする。

統合軍のエース。ロイ・フォッカー少佐だ。

 

アムロは先ほど世間話をしていた若い整備兵にこの人物について小声で聞くと、若い整備兵は敬礼したまま答えてくれた。

「大尉殿。バルキリー部隊大隊長ロイ・フォッカー少佐です」

 

アムロは慌てて立ち上がり、敬礼をする。

 

「いや、休憩中に悪いな、皆はかしこまらんでくれ、俺はこの大尉殿に用事があってな」

フォッカーは気さくに休憩中の兵士たちに声を掛ける。

 

「初めまして少佐殿、外郭独立遊撃艦隊ロンド・ベル所属モビルスーツ部隊部隊長アムロ・レイ、階級は大尉を拝命しております」

アムロは敬礼をしたまま、フォッカーに対し正式な儀礼的挨拶をする。

 

「……地球統合軍SDF-1所属バルキリー部隊大隊長ロイ・フォッカーだ。階級は少佐だ。アムロ・レイ大尉、さっそくですまんが、ついてきてほしい」

そう言ってフォッカーはアムロの手を強引に掴んで引っ張り、歩き出す。

 

「少佐殿。少々お聞きしたいことがあるのですが」

 

「フォッカーでいい。レイ大尉」

 

「ではフォッカー少佐、此処はどこで、何と戦っているのですか?」

アムロはフォッカーに腕を掴まれ、通路を歩きながら聞く。

 

「……SDF-1マクロス、地球外生命体との戦闘を想定した大型宇宙戦艦だ。そして、今日大尉が戦った相手は地球外生命体、要するに異星人の軍隊だ」

 

「い、異星人……聞いたこともない」

あまりにもインパクトのある返答にアムロは驚きを隠せないでいた。

 

「大尉が驚くのも無理はない。SDF-1は、表向きは統合軍の象徴として建造した宇宙戦艦という事になっていたのだからな。そして、異星人の存在はずっと秘匿されてきた」

 

「………」

アムロはロッカールームに連れてこられ、ここの将校用の制服を渡され、ノーマルスーツから着替えさせられる事になる。

着替えをしながら、アムロはここは自分が居た世界とは全く別世界ではないかと思い始めていた。

理性では在りえないと思考するが……その可能性について否定できないでいた。

モビルスーツが無い世界。西暦2009年。連邦軍ではなく、地球統合軍なる軍隊の存在、そして異星人が存在し、実際に攻め込まれている状況なのだ。

 

 

「ついた。ここだ……ロイ・フォッカーです」

ロッカールームからエレベーターなどを経て、とある一室の前に到着する。

フォッカーは扉の横に設置されてる認証機器に手をかざし、自分の名を告げた。

 

「少佐、入りたまえ」

スピーカー越しに返事が返り、正面の扉が開く。

 

 

ここはSDF-1の艦長室。

正面には歴戦の勇士然とした存在感のある、歳は50頃の人物が座っていた。

この艦の艦長ブルーノ・J・グローバル准将だ。

 

フォッカーは直立不動で敬礼し、アムロもそれに習う。

「ロイ・フォッカー参上しました」

「お初にお目にかかります。外郭独立遊撃艦隊ロンド・ベル所属モビルスーツ部隊部隊長アムロ・レイ大尉です」

 

「地球統合軍准将SDF-1艦長のブルーノ・J・グローバルだ。少佐ご苦労。大尉も楽にしたまえ」

グローバル艦長は自己紹介を行う。

 

「私は先ほど自己紹介をいたしましたね、レイ大尉。こちらにどうぞ」

入口の横で待機していた早瀬未沙が敬礼するアムロ達の後ろから声を掛け、応接セットへと誘う。

 

 

応接セットに座り、話し合いが始まる。

 

「大尉、先程の戦闘では見事な戦果だった」

グローバルはまずは、アムロの戦果を労った。

 

「恐縮です」

 

「ところで大尉。大尉が所属している外郭独立遊撃艦隊ロンド・ベルとはどこの麾下の組織かね?私は聞いたことがない。モビルスーツ部隊という部隊名も初めて耳にする」

グローバルはアムロにこう話を切り出した。

 

「失礼ですが、大尉の事を調べさせていただきましたが、地球統合軍のデータベースでも大尉の所属や身元も確認できませんでした」

未沙はグローバルの話に補足しアムロに告げる。

 

「……そんなはずは。いえ失礼しました。私は地球連邦軍連邦宇宙軍所属、地球外郭艦隊ロンド・ベル。サイド1コロニー、ロンデニオンにて宇宙世紀0090年に発足。独立遊撃艦隊とし、主要任務はネオジオン。シャア・アズナブルの動向を探る事でした」

アムロは心の中でやはり、ここは自分たちが居た世界とは異なる世界だと認識し、アムロはあえて自分の正確な所属先と任務について話したのだ。

 

「……地球連邦軍?宇宙世紀?……どういう事だね大尉……」

 

「私にもわかりません。ただ、ここが私の居た地球圏とは異なる世界だと、認識します」

 

「異なる世界……?」

 

「私はある戦いで小惑星の地球落下を阻止すべくモビルスーツで出撃し、目的を達しながらも死を覚悟した瞬間に、私はこの艦の通路へ立っていたのです。奇妙に思われるかもしれませんが、今私が言えることはこれだけです」

アムロはここに至ったまでの事象を簡潔に伝えた。

 

「異世界から来たとでもいうのですか?し、しかし、レイ大尉は私達と同じ言葉を話し、さらに地球人にも見えます。バルキリーに乗り戦果も挙げています。何らかの記憶障害か何かではないでしょうか?」

未沙は戸惑いながら、アムロが異世界から来たと言う事に反論をする。

 

「……うーむ。これは平行世界。要するによく似た世界から何かの切っ掛けで飛ばされたということじゃないでしょうか?何かの小説か文献でそんな話を見たか聞いたことがあります」

フォッカーは頭を掻きながら、そんな事を言う。

 

「私も少佐と同じ意見です。私が所持していたものは、先ほどの着ていたノーマルスーツという宇宙服ぐらいです。それを調べて貰っても構いません」

 

「……信じられません」

 

「ふう、フォールド発生装置がすべてどこかの時空へと消え去ったのだ。その逆もありえるのだろう。

もしや、そのフォールド発生装置の影響でレイ大尉をこちらの世界に呼び寄せたのかもしれん。こんな事態だ。何が起こってもおかしくない」

グローバルは大きくため息を吐いた後、こう結論付けた。

 

この後……しばらくこの事で議論が続いた。

歴史認識については、西暦2000年以前についてはほぼ同じであった。

そこからは違った歴史の歩みを見せていた。

この世界は西暦2000年からたった9年後。アムロが生きていた世界は有に100年は越えていた。

 

最終的にはグローバルとフォッカーはアムロが平行世界から来たことを認めていたが、未沙はまだ、信じていなかった。

後程、アムロが着ていたノーマルスーツを詳しく調べた結果、かなり高度な技術で作られたものだと言う事が判明、素材は現在の地球では作られてない技術が使用されていた事、さらにこのデザインのパイロットスーツの登録がなされていなかった事で、アムロが平行世界から飛ばされた人間だと未沙もようやく観念するかのように認める事となった。

 

但し、アムロが平行世界の人間だと言う事は、この3人のみの秘匿事項となる。

 

しかし、結局平行世界にどうやって来たのかもわからずじまいの上に、帰る方法など見当もつかない状況であった。

 

(……俺を簡単には死なせてくれないと言う事なのか……ララァ、君を否定した報いだと言うのか)

アムロはこの現実を受けとめつつも、ある思いが心の中で渦巻いていた。

 

 

 

アムロは直ぐに地球統合軍に登録され、SDF-1バルキリー部隊、独立遊撃隊の隊長に任命される。

 

 

 

 

「ヒュ~、我らの隊長殿はすさまじいな。既に撃墜スコア26ってバケモンかよ」

 

「無駄口叩く暇はないぞ。キーリック中尉。補給を受け次第、再出撃だ。各部隊の損耗状況は?」

 

「18機すべて健在ですよ。アムロの旦那のおかげでね」

 

「新人は再出撃停止だ」

 

「おい、俺らだけって、旦那と合わせて10機だけで再出撃ってことかよ?」

 

「ああ、新人は集中力が切れる頃だ。ベテランの意地を見せてくれるだろ?キーリック中尉」

 

「へいへい。わかりましたよ!」

 

弾薬、エネルギー補給中の格納庫休憩所での束の間の休憩後、アムロ率いるバルキリー独立遊撃隊ユニコーン部隊は再出撃をする。

 

 

『レイ大尉この作戦プランは?……どう見ても無茶が過ぎます!』

管制オペレータ主任の未沙から、再出撃直後のアムロに抗議の通信が届く。

アムロは休憩の間に立てた再出撃後の自部隊の作戦プランを各部署に送信していたのだ。

 

「早瀬中尉。フォッカー少佐は承認してくれた。参謀部にも上がっている。そっちにも直ぐにでも承認が上がって来るだろう。第一戦である程度敵軍の戦力も把握することができた。敵軍の挙動や戦力を見ればできない作戦では無いはずだ。中尉は管制オペレートで俺達の部隊が突貫できるよう他の部隊を誘導さえしてくれればいい」

 

『こんな即興に立てた作戦を……』

 

「あのとんでもないマクロスキャノンとかいうビーム砲は今回は使用できないのだろ?ならば、こちらで如何にかするしかないだろう。少ない戦力で効果的に敵を撃退するには、敵の頭(指揮戦艦)を討てばいい。幸い前回よりも敵艦隊は少ない。相手もこちらの主砲が直ぐには撃てない事も把握しているのだろう。だからこの前回より少ない艦隊での電撃奇襲だったのだろう。敵は数よりも機動力を重視したと見ていい。なにせ3000m級戦艦は今回お目見えしていないからな。このまま消耗戦を行っても相手が有利になるばかりだ。相手には増援の可能性があるがこちらは単騎だ。早めに目の前の敵に退場してもらった方がいい」

 

『理屈ではそうですが!……参謀部から承認きました。……作戦始動してください。……また無茶を……オペレートは任せてください……大尉。ご武運を……』

 

「頼む」

アムロは未沙との通信を一旦終える。

 

 

「俺についてこい、あの敵の化け物戦艦を墜とすぞ」

そしてアムロは、再出撃した直属の部下達に、承認されたばかりの作戦を伝える。

 

『ま、まてよ旦那。防衛だけで精いっぱいだってのに、攻勢にでるとか正気かよ?』

エストラントのVF-1Sにアムロから作戦内容とターゲットデータが送られてくる。

敵の戦艦はマクロスよりも巨大な2000m級の戦艦だ。ゼントラーディ軍の標準型主力戦艦。

今回襲ってきたゼントラーディ軍の中枢艦だ。

 

「このままでは敵軍に差し込まれるだけだ。あれを墜とせば敵も引いてくれるだろう。宙域まで突貫後、中尉は反転し、戻って来る敵部隊を各個撃破してくれ。俺はそのまま突入する」

 

『おいおいおい、マジであのデカ物戦艦を単騎で墜とすつもりかよ。ガンポッドとミサイルだけでどうやって、反応弾でもありゃ可能かもしれないけどよ~』

 

「工夫だよ中尉。……いくぞ」

 

全身白一色にカラーリングされ、コクピット下と両翼に朱色でユニコーンのマークが施されたVF-1S改、アムロ専用にカスタマイズされたバルキリーがアフターバーナーを吹かし、一気に宙域を加速する。

 

『はぁ、俺、なんであの時にこんなとんでもない奴を拾っちまったんだ?……お前ら!大尉に後れを取るなよ』

エストラントはため息を吐きながら、部下に命令し、同じカラーリングをされたバルキリー部隊が加速し続く。

 

 

 

この後、30分後には、ターゲットのゼントラーディ軍2000m級戦艦は爆散し、敵軍は引いて行った。

 

 

西暦2009年3月

アムロがこの世界に転移して1か月が経とうとしていた。

 

アムロは既にこの世界で生きていくことを決心していた。

 

 

 

 




アムロのVF-1S改アムロ専用カスタム機
ビームサーベルが2本腰に装備されてます。
ミサイルを減らし、バズーカとライフルを装備
ミサイルポッドとガンポッドはそのまま。

白色に朱色のユニコーンマーク


一応これで一旦完結のつもり。
何か思いついたら書き足して行きます。


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アムロこの世界で充実感を感じる

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


思いついたので書き足しましたw


西暦2009年7月、SDF-1マクロスは土星宙域まで接近するに至る。

その間、幾度か異星人軍(ゼントラーディ軍)の攻撃に晒されるが、冥王星転移当初に比べれば小規模な戦闘ばかりであり、大きな被害を受けることはなかった。

まるで異星人軍はマクロスの戦力を推し量るように散発的な攻撃を繰り返すばかりであり、マクロス上層部もこの異星人軍の行動を威力偵察だと判断していた。

異星人軍はマクロスの性能とマクロスの主砲マクロスキャノンを侮れないものとし、偵察、観察を繰り返し、慎重に事を運び、確実に仕留める機会を狙っているのだろう。

 

この4か月間でマクロスは人員の再編成や収容された民間人からの人員補充、パイロットの育成に取り組むことができた。

さらに、異星人軍の通信傍受や戦闘ポッド鹵獲により、技術力や異星人が超巨大人種だという事も正式に確認。

また、戦闘経験を活かし、新たな兵器などの技術開発も進む。

 

そして収容された5万8千人の民間人は、マクロスのフォールドワープ航法に巻き込まれ冥王星まで飛ばされた街を再利用し、マクロスの中型戦艦まで収容できる内部ドッグスペースに街を形成した。

 

 

 

 

フォッカーは自室でウイスキー片手に、アムロと語りあう。

 

「アムロ、お前のバルキリーの宙域運用やバトロイド形態の戦闘機動は実に参考になる。お前が作った意見書や運用指南書にも技術部は手放しで喜んでいたぞ」

 

「少佐。前にも話したが、俺が元居た世界ではモビルスーツ、人型ロボットでの戦争がメインだった。ましてや宇宙での戦闘はこの世界に比べ10年以上進んでいた。俺自身も実戦を潜り抜け、その経験を活かしたに過ぎない」

 

「お前の話だと、初陣が14年前なんだろ?俺とお前は同じ年(29歳)だ。15歳で既に戦争に参加してたということか?まだハイスクールかジュニアハイスクールに通ってる年頃だろ?」

 

「ああ、酷い戦争だった。人類の半数も亡くなった。俺も巻き込まれて止む無く」

 

「そうか、すまん。……辛い記憶だな」

 

「いやいい。今は吹っ切れている。俺は一度死んだ人間だ。まあ、こうして生きてるのだが……この世界では俺にはしがらみも何もない」

 

「家族は……居ないって言ってたか。恋人ぐらい居ただろうに……」

 

「恋人と定義する女性はあの時点ではいなかったが、全く未練が無いと言えば嘘になる。戦友や友人達のその後が気にはなるが、今となっては気にしても致し方が無い。俺の役目はここに来る前に終わっていたからな……」

 

「いかんな。死に急ぐなよアムロ。お前に死んでもらったら俺が困るんだ。一人でどうやってあのヒヨッコ共ばかりの部隊をまとめあげるんだ?」

 

「勝手な事を……」

 

フォッカーはこうやって、プライベートでアムロを自室に呼んで、酒を飲みながら元の世界の話や世間話をしていた。

ただ単に友人との付き合いというだけでなく、この世界で孤独となったアムロに元の世界の話題などで、ストレスの発散をさせる目的もあった。

どちらかというと人付き合いが得意ではないアムロに対して、さり気ない心遣いだった。

 

 

「ロイ、ちょっといいかしら……あらレイ大尉、いらしたのですね」

突然フォッカーの個室に現れた彼女はクローディア・ラサール中尉。マクロスの航法・火器管制主任オペレーターであり、ブリッジオペレーターのリーダーでもある。

因みに彼女はこの戦いの以前からのフォッカーの恋人でもある。

 

「いやこちらこそ悪いラサール中尉。じゃあ少佐、俺はここで暇させてもらう」

フォッカーとクローディアの関係はマクロス艦内では周知であり、アムロも気を遣う。

 

「そうか、すまないなアムロ」

 

「大尉、未沙をあまり困らせないでくださいね」

アムロはフォッカーの自室から出て行こうと、クローディアとすれ違い様に苦笑気味に言われる。

 

「いや、困らせるつもりは無いんだが……」

確かにアムロは出撃の度に未沙から無茶が過ぎるとよく言われていた。

 

「ははははっ!クローディアそれは違うぞ。アムロが立案した作戦は今迄になかったような真新しいものばかりだ。新しい物事をするには多少のリスクが伴うのは仕方がない事だ。堅物の早瀬中尉にはそれが危なっかしい物に見えたのだろう。ただな、それらの半分以上は、これからの宙域戦闘におけるバルキリー運用方法と機動作戦の一般模範となるものだ」

 

「それを差し引いても、無茶な作戦も多いのでは?」

 

「たしかにな。単騎であのデカ物戦艦をぶっ潰すと言って来た時には、耳を疑ったがな。ふははっ、まあ、アムロだからな」

 

「言われようだな。……早瀬中尉には声をかけておくさ」

アムロはそう言って部屋から出る。

 

 

地球が異星人の艦隊に包囲され、このマクロスも方々からつけ狙われる非常に困難な状況下であるのだが、アムロは充実感を感じていた。

今のアムロには大きなしがらみが無いと言っていい。

一年戦争から始まるシャアとの因縁。ララァとの邂逅。味方であるはずの連邦軍からも疎まれ、危険視される中、連邦に所属し地球を守ろうと戦場を駆け巡る。そんな矛盾だらけの中、ストレスと不安を抱えながら生きて来たのだ。さらに自分の中のニュータイプとしての能力がそれを更に拍車を掛けていた。

悪夢の様に夢に現れるララァと数々の戦場の記憶、今ではララァが夢で語り掛けてくる事は無くなり、戦場の悪夢も見なくなった。

 

 

 

 

 

マクロスのブリッジ管制室に、珍しくフォッカーが訪れていた。

マクロスのブリッジ管制室では男性のグローバル艦長か参謀部長兼副艦長が交代で指揮を執り、それ以外のブリッジスタッフは全員女性であった。

その他にも艦全体の命令指揮系統や作戦参謀部を司る発令所等が有るがそちらは男性スタッフの方が多い。

元々観艦式に備え、メディアにもお披露目を予定していたため、ブリッジ管制室は華やかな方が良いという事でこのような配置となっていた。それが今もそのまま続いている。

決して、グローバル艦長の趣味ではない。

 

 

艦の外ではアムロが駆るVF-1S改が丁度新人相手に模擬戦を行っている。

「少佐、見事なものだな。大尉は何故あれ程の動きが出来る?」

 

「いや~、後ろに目が付いているんじゃないでしょうか?」

グローバルが座る艦長席の隣でフォッカーは模擬戦の様子を見ながら答える。

 

「うむ、冗談かね」

 

「これが冗談でもないんです。大尉の戦闘履歴映像を確認するに、そうとしか思えない機動がいくつも見られます。確かに各部のカメラに映る情報をモニターで全方位全て確認はできますが、戦闘を行ってる最中にすべてのモニター、計器を同時に確認する事はほぼ不可能と言っていいでしょう」

 

「では、なんなのかね」

 

「空気感。戦場の雰囲気。そう言う物です。地球重力下では私もそれをひしひしと感じるものがありました。それは空気の流れる音や光や影や臭い等を耳や目、肌、鼻などの五感情報をフルに使い僅かな違和感を感じたものです。……それ以外にも純粋に第六感というものもありますが、それは置いといてです。宇宙空間では平衡感覚を保つのも難しい上に、音や臭い、影など、地上に比べ五感情報は極端に減ります。しかし大尉はそれをものともせずにモニターや計器以外の何かを感じ、やってのけているとしか言いようがありません」

 

「ふむ。長年宙域で戦ってきた大尉だからこそというわけかね」

 

「……いや、それだけではあれは無理でしょう」

フォッカーは8機のバルキリー相手に立ち回りを見せるアムロのバルキリーの動きを目で追いながらそう答えた。エースパイロットとして数々の戦場に君臨してきた実力を持つフォッカーだからこそ感じる率直な感想だった。

 

 

 

「アムロ大尉ってかっこいいよね~」

「うん、他のパイロットみたいにガサツじゃないし、優しそうだし」

「バルキリー乗りには珍しい草食系って感じ」

「とてもパイロットに見えないよね。でもあの顔で29歳だって」

「ええー?私達よりちょっと上ぐらいだと思ってた!童顔だよね~」

「でも、ちょっと話した事あるのだけど、すごく大人って感じよ。またそのギャップが良い感じなのよ」

「ええっ?話したことあるの?うらやましい!」

「彼女とかいるのかな?」

「うーん。女の子と一緒なのは見た事ないね」

「アムロ大尉の部隊の子に聞いたんだけど、彼女とかいないんだって」

「そうなの!?私、彼女候補になろうかな?」

「無理無理、整備班やパイロットの子達にファンが多いんだから」

ブリッジ最前列のブリッジオペレーターのヴァネッサ、キム、シャミーの3人娘がキャイキャイとアムロの噂話に花を咲かせていた。

 

「こほん。皆さん、私語は慎みましょう。ここしばらく敵影が無いとは言え、いつ現れるかわかりません」

未沙はブリッジ中央右寄りの管制オペレーター席から部下の3人に注意を促す。

 

ブリッジ中央左寄りの席の女性陣最年長のクローディアはその様子を見て苦笑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、バルキリー隊に出撃の命令が下った。

土星のリングの小惑星群の中に敵の艦隊を発見し、奇襲を行うというものだ。

マクロスも土星のリングの小惑星群に突入し身を潜めつつバルキリー隊を先行出撃、迂回させ敵艦隊の後方から奇襲。その間にマクロスは一気に敵艦隊の前面にでて挟み撃ちで撃破するとの事だ。

 

アムロの遊撃独立部隊も奇襲組に組み込まれる。

 

 

民間から募ったパイロットや年若いパイロット候補生の多くは今回が初陣となる。

アムロの遊撃独立部隊ユニコーン部隊にも6名程組み込まれたが今回は待機させた。

 

アムロの遊撃独立部隊も基本作戦通り動くが、作戦に支障がない限り臨機応変に動くことが許されている部隊だ。今回のような一つの失敗が大きな痛手となる奇襲戦は作戦やマニュアル通りに動けるとは限らない。さらに土星のリングの中、デブリ(石のかけら)が多量にある中を進まなければならない。新人の初陣としては相応しいものではない。連れて行った場合、最悪、作戦領域に到達する前に置いてけぼりにしてしまう可能性もある。

 

実際、今回初陣を飾るパイロットのほとんどが奇襲組ではなく、マクロスの防衛に回されていた。

 

アムロの隊はフォッカー少佐が率いる大隊の後ろに付き、デブリの中を突き進んでいく。

 

「フォッカー少佐、新人の一機が隊列から離れてる。新人を連れてくるのはまずかったんじゃないのか?」

アムロはフォッカーの大隊の中、隊列から離れてる機体を確認し、フォッカーに通信する。

今回フォッカー大隊には5名程新人が組み込まれていた。

 

『ああ、こっちでも確認してる。大丈夫だ、奴ならじきに慣れる』

フォッカーは心配無用というかのように答える。

因みに、その隊列から離れている一機のパイロットとは、後程エースパイロットの一人に数えられる一条輝である。これが軍属としての正式な輝の初陣だった。

 

 

 

(何か嫌な感じがする……何だ?敵はマクロスに敵意を向けてる?マクロスの位置が敵にばれているのか?)

アムロは奇襲作戦のデブリの中を進行半ばで、ニュータイプとしての能力で何かを感じ取ったのだ。

 

「少佐、敵に今回の作戦がばれてる可能性もあるんじゃないか?俺の遊撃部隊をマクロスの防衛に戻る事を許可してくれ」

 

『何を言っている大尉?敵の指揮戦艦の位置は変わらない反応を示している。今の所その挙動は無い。それにユニコーン部隊は精鋭ぞろいだ。抜けては作戦に大きく支障がでる。許可できない』

 

「せめて小隊、いや、単騎でもいい。戻らせてくれ」

 

『アムロ大尉、何をそんなに焦っている?敵の位置はそのままだ。マクロスからの援軍要請や攻撃を受けたという信号は受け取っていない』

 

「頼む」

 

『……わかった。もし何もなかったら、始末書だけでは済ませないぞアムロ』

 

「少佐、助かる……帰ったら奢らせてもらう」

フォッカーはアムロの鬼気迫る表情の訴えに折れ、アムロだけをマクロスへの帰還を許可した。

 

 

「エストラント中尉、部隊を任せる。俺はマクロスに帰還する」

 

『はぁあ!?何言っちゃてるんだ旦那!?作戦中だぜ?今から戻って何を!?』

 

「説明する時間が惜しい。後は頼んだ」

 

部隊副隊長のエストラント中尉にそう通信に残し、アムロのVF-1S改は綺麗な円を描き、反転し加速、あっという間に部隊から離れて行った。

 

『ちょ、大尉!?ってもう行っちゃったよ。このデブリの中、なんてスピードを出すんだ』

 

『中尉!大尉殿はどこに行かれたのですか?』

『副隊長、隊長殿はどちらに?』

それに気が付いた部隊の比較的若手から次々とエストラントに短距離通信を送って来る。

最初期からの部隊員は何時もの事だと、通信もよこさない。

 

『……お前らも慣れろ。大尉のいつものあれだ。まあ、大尉が居ないんだ。手柄立て放題だぞお前ら!大尉に部隊を離れた事を後悔させてやろうぜ!大尉よりも撃墜スコア稼ぐぞ!!』

エストラントはそう言って部隊を鼓舞する。

エストラントは言葉遣いは荒いが部下の面倒見も良く、パイロットとしてもベテランの域に達し、アムロ率いるユニコーン部隊の副官として欠かせない人物となっていた。

 

 

 

 

アムロが反転し、デブリの中、凄まじいスピードで帰還しているさなか……

 

マクロスは敵艦隊の挟み撃ちに合い、ピンチに陥っていた。

こちらの作戦を見抜かれ、それを利用され、逆に敵の罠に嵌ったのだ。

さらに敵の通信妨害にも合い、奇襲組に救援通信もままならない。

奇襲組もダミーの反応に騙され、ありもしない戦艦の下に突き進んでいる。

マクロスの防衛は、元々のバルキリー防衛組と待機していた新人パイロットを駆り出し、必死の抵抗を見せるが、情勢は最悪だ。

 

敵軍は3000m級と2000m級戦艦の2隻、1500m級大型ミサイル搭載中型砲艦を4隻投入、その他小型の突撃艦や斥候艦なども多数投入し、マクロスを苦しめる。

マクロスも新兵器ピンポイントバリアで抵抗するも、物量で押され、各所に被弾し徐々に被害が拡大している。

マクロスキャノンの発射準備もできない状況に陥り、じり貧状態だ。

 

 

絶望的な状況下で未沙はある提案を艦長にしていた。

強攻型(人型形態)マクロスを特攻させ、マクロスの右腕に当たるダイダロス部にピンポイントバリアを集め、敵指揮戦艦を殴りつけ破壊すると言うものだ。

 

しかし、ミサイル中型砲艦(大型ミサイル搭載中型砲艦)が邪魔をし、突撃が敢行できないでいた。

無理に突入すれば近距離でのミサイルの餌食になり、戦艦級に近づく前にこちらが爆散するだろう。

 

こうしている間にもマクロスの損傷と防衛中のバルキリー部隊の損耗報告があちこちで上がって来る。

マクロスのブリッジでは緊急警報がけたたましく鳴り響き続ける。

 

 

しかし、事態が動く。

敵ミサイル中型砲艦の一隻が突如として爆散したのだ。

 

「ん!何があった!」

グローバルはその光景を見てブリッジクルーに問いかける。

 

「確認いたしました。レイ大尉のバルキリーです!」

ブリッジオペレーター三人娘の一人、メガネ娘の通信・レーダー担当オペレーター、ヴァネッサ少尉が答える。

 

「何!?レイ大尉がやったのか!?奇襲組が戻ってきてくれたのか!!」

 

「いえ、レイ大尉だけです!」

ヴァネッサは端的に返答する。

 

「……大尉」

未沙は普段は温厚そうな人柄だが、戦場では鬼神のような働きをする無茶ばかりするパイロットの顔を思い出し呟く。

 

 

そうしている間にも、アムロがもう一隻のミサイル中型砲艦を半壊させ、ミサイル発射を止める。

 

「前方敵ミサイル群射線減少確認……行けます!艦長!」

未沙は敵ミサイル中型砲艦が二隻に減少したことで、改めて行ったシミュレート結果を確認、艦長に告げる。

 

「大尉が道を切り開いてくれた!行くぞーー!!目標、敵指揮戦艦!!マクロス突撃!!」

グローバルがブリッジで吠える。

 

「マクロス全速前進。目標前方、敵3000m級指揮戦艦、アタックを開始します。ダイダロス並びにデストロイド部隊各機、直ちに準備願います」

クローディアが各部署へマクロス突撃のアナウンスをする。

 

 

 

 

 

アムロは2隻目を半壊させ、3隻目のミサイル中型砲艦へと向かっていた。

(マクロスは敵指揮戦艦に突撃を開始したか。いい判断だ。……邪魔はさせない!!)

 

アムロのVF-1S改バルキリーのミサイルとミサイルポッド、バズーカの残弾は既にゼロ。1500m級の中型砲艦を爆散させるには、それ相応の弾薬が必要だった。それを1隻目を爆散、2隻目を半壊に追い込んだがそこまでだった。

元々ミサイルやバズーカの弾数には難があっただけに、少ない弾数でこんな芸当が出来るのは現段階でアムロだけだろう。

残る兵装は頭部レーザービーム。ガンポッド、専用実弾ライフルと突貫で作らせたビームサーベル。しかもビームサーベルと言っても、現行の集束レーザービームに改良を加えたものだ。その威力と持続力は元の世界の半分も出ない。現行のバルキリー開発に携わった技術者達には超接近戦の思想が無い上に、元の世界とのそのあたりの技術力の差があるため開発は難航しているのだ。しかも、取り扱うのはおそらくアムロだけになるだろう事も、進まない理由の一つだ。それでも敵戦闘ポッドには有効な攻撃手段となった。だが敵戦艦級には効果的な攻撃手段とはならないだろう。

 

(外からの攻撃が無理ならば、内から!)

アムロは3隻目の敵ミサイル中型砲艦のドックから内部に入り込み、中から破壊を行い始める。

まるで何かに導かれるかのように、真っすぐにエンジンルームと弾薬庫に到達し、破壊を行い一気に離脱する。

アムロのニュータイプ能力がここに来てさらに上昇の兆しを見せていた。

 

アムロが3隻目のミサイル中型砲艦の撃沈に成功し、離脱したところで、突撃を敢行したマクロスのダイダロスアタック(後程命名)が敵指揮戦艦に突き刺さり、爆散していくのが見えた。

 




また、思いついたら書き足します。

ビームサーベルについては、こんな感じで……うーんどうなんだろうって感じはありますが、お許しください。

原作6話ぐらいの話ですが、色々と改変させていただいてます。

無双って感じじゃないですね。まだ。


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アムロこの世界になじむ

こんなに感想をいただきまして感謝いたします。
徐々に返事をさせていただけばと……

誤字脱字報告ありがとうございます。
非常に助かります。


というわけで、思いついたので投稿します。
私的意見がめちゃ入ってる感じです。
これがアンチになるかもしれません。



土星での一戦から、しばらくゼントラーディ軍からの襲撃は鳴りを潜めていた。

奇しくも、土星でマクロスがダイダロスアタックで爆散させたあの3000m級指揮戦艦は土星、木星間の艦隊の指揮を執っていたのだろう。

あの戦いでのマクロスの損傷もかなり大きく、防衛に回っていたパイロット、特に新人パイロットの損耗が激しかった。

あの一戦で分かった事は、マクロスよりもゼントラーディ軍の方が索敵能力も高いと言う事だ。

こちらの作戦を利用され、逆に奇襲を受けピンチに陥った経緯を見ても明らかだ。

 

 

アムロは新人パイロットやパイロット候補生の育成に取り組む一方、兵器開発に積極的に関わる。

技術部ではアムロ組なるアムロが提供した技術提案を実現化させるチームまで結成される。

その中で開発された兵器の中で、特に有用だったのはダミーバルーンだ。

バルキリーに似せたバルーンを放出する事で、敵の認識やセンサーを狂わせる。

相手の攻撃の盾としても役割を果たせるのだ。

ダミーバルーンはさらに発展をみせ、モーターを取り付け、プログラミングされた動きを行うパッシブダミーバルーン。

更に、バルーンに爆薬を含ませ、接触や破壊すると爆発を起こし敵を巻き込む、パッシブアタックバルーン等など。

また、チャフを多量にまき散らすグレネード弾を作成。相手のミサイルロックオン機能の阻害及びビーム攻撃を減衰させる効果をもたらす。

 

そして、宙域戦闘におけるバルキリーの有効戦術を練り直す。

 

これにより、火星圏に近づくにつれ、敵の散発的な攻撃を受けるようになってからのパイロット生存率はかなり高まった。土星前と比べると新人が多いのにも関わらずパイロット損耗率は7割減少した。

 

 

しばらく前からアムロは技術部から、ある兵器についての活用方法を模索してほしいと要請を受け承諾する。

その兵器とはバルキリー用のアーマードパック。正式にはGBP-1S プロテクター・ウェポンシステムと呼ばれるものだ。

装甲の薄いバルキリーに追加重装甲と火力を補うための重武装を一体化させた脱着可能な追加ウエポンシステムだ。

そう聞けば、一見かなり有用な兵器なのではと思われるが、最大の難点なのはバトロイド形態のみでの運用と限定されてる事だ。

その最終試作品がマクロスに持ち込まれていたが、元々陸戦を想定してる装備パッケージなだけあって、現在宙域をさまよってるマクロスにとって無用の長物であった。

なにせこのアーマードパックを武装したバルキリーの運用方法が、デストロイドとほぼ同じだからだ。

バルキリー運用はやはり宙域や空戦での戦闘がメインとなる。特に宙域では、旋回能力や高速飛行能力に優れている ファイター形態での運用が殆どだ。

わざわざバルキリーをデストロイド化させる必要性は全くない。

しかもデストロイドが存在するのに、より高価なバルキリーをデストロイド化させる意味も無いのだ。

なまじアーマードパックを纏ったとしても、マクロス艦上から、ミサイルを撃って弾幕を張ったり、迎撃をするのが関の山。バルキリーの運用方法としては宝の持ち腐れも良いところなのだ。

デストロイドが不足し、よっぽどバルキリーが潤沢に余ってる状態では、多少の意味は持つだろうが……

そんな事で、今までお蔵入りになっていた武装だった。

メーカー曰く、陸戦で単騎突入を想定した武装との事だが……重力下でも空中に浮く戦艦、しかも凄まじい攻撃能力を持つゼントラーディ軍の艦に対して、どれだけ有効なのかも疑問でもある。

ゼントラーディ軍の戦艦の大型ビーム砲の前ではその装甲も意味をなさないだろう。

 

「大尉どうでしょう?これに有効な活用方法はあるのでしょうか?」

ミーティングルームで作業服姿の技術部中尉は、アムロにアーマードパックの技術資料を載せたタブレットを渡す。

 

「……バトロイド形態で近接武器が無い。重力下での戦闘をメインと考えられているが、重量が倍に跳ね上がる。スラスターで補っているが、旋回能力がかなり落ちる。歩く砲台と言ったところか……デストロイドで事が足りる。デストロイドモンスターの方がよっぽど有効ではないのか?」

アムロが言っている事はまさしくその通りだった。重火力の人型形態はデストロイド系のマシーンが担っている。わざわざそこにバルキリーを近づける必要性はほとんどない。

 

「やっぱりそうですか。大尉でもこれの運用方法は見つからないと」

 

「そうだな。まだ、これがガウォークかファイターでの運用が可能であれば、評価は違っていたが……、せめて旋回能力と機動力を確保できる常時ホバーが可能な状態であればな……武装の殆どが弾数が極端(1発)に制限されるミサイルなのも痛い。けん制の為の中又は近距離の兵器も欲しい。あとは超接近戦用の武装も必要だろう」

 

「なるほど参考になります!ホバーに中近距離兵器!接近戦武装!わかりました!」

 

「飽くまでも重力下でのという前提はつく。宇宙空間ではファイターの優位性は変わらない。バルキリーは可変戦闘機との位置づけだがやはりメインはファイターだ。それにどんな戦闘場面だろうと優位性を損なわない事を可能にしたのがあの3段階変形だろう」

(わざわざ最大の利点である加速と旋回能力などの俊敏性や機動力を削る方向では、バルキリーを活かしきれない。これは企画倒れだろう。まるでモビルスーツ黎明期の様だな。あの時は特にジオンは様々なバリエーションのモビルスーツを作成し、有用性の無い物は日の目も出ずに淘汰されていった。この重装甲・重火力兵器パーツがモビルスーツに対してのコンセプトであれば間違いではない。むしろ正解でもあった。装甲強化、火力増強といったアーマー系の装備パッケージは多数作られた。しかし、大艦巨砲主義をモビルスーツに求めすぎると、機動力との兼ね合いが上手くいかず。非常にバランスの悪い機体となる。そこで現れたのがMAだ。戦艦と戦闘機、モビルスーツの利点をうまく融合させたものだ。但し、あまり詰めすぎるとパイロットの負担過多になり、適正パイロットの選出が困難なものにもなる)

 

「レイ大尉!非常に参考になりました!」

何故か満足そうに頷く技術部中尉。

 

「……中尉、バルキリーの追加武装パッケージはこれ以外にもあるのでは?」

アムロはこの技術資料を見て、バルキリーの製作段階で既に追加武装パッケージの構想はあったのではないかと考えに至り、目の前の中尉に聞く。

 

「はい、高加速による一撃離脱をコンセプトに機動力、重武装のパッケージや機動力・持続力を高めたパッケージ計画もありました。しかし、こちらの方はマクロスが飛ばされた時点では試作品も出来上がってない状態で、もしかすると地球では既に完成品が出来上がっているかもしれません」

 

「なるほど、そちらの方がかなり有用そうだな。計画段階では三段階変形に対応していたのかい?」

 

「はい、ただバルキリーの複雑な変形コンセプトに対応するために難航していたようで…それで開発に遅れが出ていたようです」

 

「なるほど」

 

「次世代機であるVF-2やVF-3の試作機であるVF-X-2とVF-X-3はほぼ完成と噂がありまして、今頃調整段階でしょう。多分ですが設計思想を見るにVF-3が採用されるんじゃないでしょうか。我々が地球に戻る頃には、正式採用が決まり量産に向け動く頃だと」

 

「その機体を見るのにも、マクロスで地球に帰らなければな」

 

「大尉とフォッカー少佐がいれば大丈夫ですよ」

 

 

 

 

 

10月初旬、マクロスは火星圏到達。

 

火星には幾つか地球統合軍の基地が存在する。

無人探査機により得た情報では、火星基地は攻撃に晒され壊滅状態。もしくは脱出しもぬけの殻となった基地も存在する。

 

更にバルキリーの偵察隊を送り込み、基地周辺を探索。

敵影は発見されず。マクロス上層部は火星表層には敵がいないと判断する。

 

マクロスは補給を行うために、攻撃被害の少ない基地から物資を運び出す事を試みる。

火星圏の宙域では散発的な戦闘が繰り返し行われたが、敵が引いたのと同時に、火星へと降り立ったのだ。

 

 

 

火星に降り立つ半日前。

 

「少佐、これは敵の罠だ」

アムロはマクロスが火星に降りたつことをフォッカーに聞き、間髪入れずにこう返事を返した。

 

「偵察も隈なく行ったが敵は見つからなかった。その上での判断だ。しかし俺も罠の可能性が十分にあると感じている。マクロスをおびき寄せるためのな」

敵の存在が全く感知できなかった事に、フォッカーは逆に危機感を感じていた。

土星での戦闘で、明らかに相手の索敵能力と隠密行動能力が高かった事は周知の事実であった。

 

「だったら……」

 

「上の決定だ。参謀部も艦長も罠の可能性を十分承知している。……物資不足が深刻だ。特に生活物資などが不足している」

確かにそうだった。マクロスは式典の最中に宇宙に放り出されたのだ。長距離航行の十分な準備が整っているはずが無い。しかも5万8千人の民間人を緊急収容してる状況だ。同時に飛ばされた基地や街から物資などを取り入れたからといって、マクロスの元々の許容量を優に超えている。この8か月間何とかやりくりしていたが、もはや限界が近かったのだ。

 

「……そうか」

 

「罠だろうが突破しなければならない。参謀部も罠にかかったふりをし、反撃する方法を模索しているが、やはり索敵能力に歴然とした差がある。今も必死に戦術を練っているところだが難航してる。最悪出たとこ勝負となる可能性もある。その時は俺達で敵の奇襲なりトラップなりを一早く察知して対処するしかないだろう。そのためにお前に相談に来たんだ」

 

 

まさしく、これはゼントラーディ軍のブリタイ艦隊が敷いた罠であった。

火星圏に近づくにつれ、散発的な攻撃が行われたのは、地球一直線へのルートを阻害し、火星圏へと誘導するためであった。

 

そして、破壊が少ない基地に補給することを見越して、トラップを仕掛けたのだ。

敵は、マクロスが基地の付近に到達するとマクロスの重力制御装置を阻害させる特殊な波長を放出する戦術兵器を地中に埋め、マクロスを地上に釘付けにし、そこを一気に叩く算段であった。

 

 

「……わかった。……少佐。俺に考えがある」

 

 

 

 

マクロスは火星の大気圏に突入し、目標基地手前20㎞に到達。

結局、参謀部も有効な戦術を練る事が出来ず、出たとこ勝負となった。

勿論伏兵が潜んでいる可能性のある地点などはピックアップし、それに対応する準備も整えてはいたが十分とは言えない。

ところどころに無人偵察機を飛ばし、周囲には十分警戒しマクロスは基地に近づく。

補給も短時間で行わなければならない。

補給中のマクロスが、火星宙域に展開する敵艦隊に火星に降りて来られて一斉攻撃を受ければお終いだ。そちらにも十分注視している。今の所、火星宙域では動きは無い。

 

逆にそれが、敵が基地周辺に罠を仕掛けているという可能性を非常に高めていた。

 

 

 

アムロはアーマードパックを装着したVF-1S改、通称アムロ専用アーマードバルキリー改に乗り込み、マクロスの艦橋に立っていた。

 

「やるしかない。……敵を感じろ。マクロスに対しての敵意を感じるんだ……」

(サイコフレームが無くともやって見せる。一年戦争のア・バオア・クーではあれ程感じたじゃないか)アムロは一年戦争最終決戦の場で、ニュータイプ能力を最大限に発揮し、ア・バオア・クー内で戦っていた味方を全員、死地からの脱出に導いたのだ。まるでア・バオア・クーで起きてる状況や未来に起きるだろう事象がすべて見えていたかのように……。

 

アムロは心を落ち着かせ、自身のニュータイプ能力を信じ覚醒させる。

 

 

「……………そこか」

 

 

 

 

 

ブリタイ司令に命令を受けたカムジン機甲師団長が、戦闘ポッド隊を引き連れ火星地表の切り立った深い崖の谷間に身を潜ませ、奇襲のタイミングを計っていた。マクロスが基地付近に到達すると重力制御装置をかく乱させる兵器を作動させ、マクロスが動けなくなったところを多量に引き連れ各所に潜ませた戦闘ポッド隊で叩く算段だ。

 

「ふん。のろのろと。さっさと罠に嵌れ」

カムジンはマクロスが基地20㎞手前で急に減速したことに苛立ちを感じていた。

 

「隊長……なんか、敵の戦闘ポッドが一機先行してこっちにくるぜ」

 

「はぁ?そんなもん唯の偵察だろ?ジッとしてろ。レーダー阻害装置を作動させてんだ。動かなきゃバレねーよ」

 

「でも、変なんだ。そいつ、真っすぐこっちに来るような」

 

「偶然だ偶然。いちいちそんなもんに……ん?なんだ?」

間近に迫る一体の敵機に流石のカムジンも違和感を感じ出す。

しかし、それは既に手遅れだった。

 

 

 

アムロの専用アーマードバルキリーはマクロスから飛び降り、一気に加速する。

アーマードパックの脚部にはホバーシステムと後部ジェットエンジンが搭載されていた。

バルキリーは前傾姿勢のまま、地表を滑るように突き進む。

デストロイドモンスターに搭載されていたホバーシステムを小型化改良し、アーマードパックに追加したのだ。これで地上における加速性能、旋回能力などの機動力と運動性が確保されたのだ。

 

アムロはニュータイプ能力を覚醒させ敵意を感じ、すべての伏兵の位置を確認。

先ずは、奇襲を兼ね敵意の中心を叩くために単独で突撃を敢行したのだ。

 

そして、敵戦闘ポッドの戦団が潜む崖の谷間へと到達すると同時にミサイル群を全弾発射、広範囲に崖の谷間の壁面を巻き込む形で爆破破壊する。

崖の谷間に身を潜めていたカムジン率いる敵戦闘ポッド部隊は、ミサイルの直撃やクレバスの壁面から崩れ落ちた岩などで戦闘不能にされていく。

 

その様子を確認したマクロスはアムロが示した他の敵伏兵位置へとミサイルを一斉に放つ。

それと同時に待機中のバルキリー部隊は次々と飛び立ち、ミサイルが命中した敵伏兵位置へ向かい、混乱した戦闘ポッド部隊を討ちに行った。

 

 

アムロは破壊され土煙が立ち込めるクレバス一帯から抜け出してきた戦闘ポッドを、両脇に抱えている専用大型バズーカーで次々と吹き飛ばす。

 

さらにアムロの専用アーマードバルキリー改に何体かの戦闘ポッドが突っ込んでくる。

アムロは右手のバズーカーを腰のパーツに吊り下げ、肩口からサーベル状の物を取り出し、構えると刃先が伸びキーンと高音が鳴り響く。高周波(イオン)ブレード。マクロスの装甲を切断加工する工作機器を改造したものだ。ビームサーベルの溶かして切るとは異なり、高周波を起こし刃先に分子を纏わせることで一時的に限界まで鋭くして断ち切るというコンセプトの超近接装備だ。

現在のところ装備自身が大型になるのと、刃先方向でしか断ち切ることが出来ないのと、刀を扱う技量が必要だという難点がいくつもあるが、実戦に耐えうる仕上げとなった。

アムロの戦闘センスとホバーシステムの旋回能力も相まって、近づく敵を次々と両断していく。

 

上空から迫る敵には左手のアーマー装備前腕部から三連装ガトリングが展開し、敵を撃ち抜き、撤退する敵をバズーカーで仕留める。

 

カムジンが直接率いていた120機の伏兵戦闘ポッド部隊は、アムロの専用アーマードバルキリー改たった一機にカムジンと2体を残し壊滅。

カムジンは這う這うの体でその場から脱出したのだった。

 

 

そして、他の敵奇襲部隊もマクロスのミサイルとバルキリー部隊に攻撃を受け潰走する。

 

 

こうして、奇襲部隊を退けたマクロスは罠を警戒しながら基地近くに停泊。デストロイドや車両等を多量に投入し、基地から物資を運び入れる。

これで、しばらくは地球までの物資不足に悩まされる事は無いだろう。

 

 

(何とかなったか……やはり索敵能力の違いは痛いな。今回は相手の敵意が強かったがため見つけることが出来たが……)

アムロは一度マクロスに戻り、補給を受けていた。

アーマードに搭載されたミサイル群32発は一発限りの武装だ。

まさに、今回のような使い方のような先制一斉攻撃が理想といっていいだろう。

その後の戦闘持続能力を高めるために、左前腕部の二連装ミサイルランチャーをガトリング砲に載せ換え、バズーカー若しくはライフルを最大3門背中と腰口装着できる様に改装を施したのだ。

 

「大尉!見事なご活躍でした!その…アーマードパックの具合はどうでしたか?」

デッキ休憩場で栄養ドリンクを飲むアムロにあの技術部中尉が声を掛ける。

 

「上出来だよ中尉。よくやってくれた」

(アーマードパックはなんとか使えるようには仕上がった……ホバーシステムは上出来だ。やはりビームサーベルは無理か。だが高周波ブレードは、グフやザクのヒートソードやヒートホークよりも十分に使えるレベルだ。技術部も頑張ってくれたようだ)

マクロスの技術部は僅かな時間と少ない資材で創意工夫をし、アムロが提示した設計思想を基にいろんなものを流用し、出来る限り要求に近づけ、実現させたのだった。

 




結局アムロは117機戦闘ポッドを撃墜。
まあ、半分以上からは初撃のミサイルと崖の岩肌に押しつぶされて撃沈したんで……
いや、それでもこれはやりすぎだった?


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アムロ戦場を語る。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は、無双は……ないかな?
何時もとはちょっと違った感じです。

すみません。ダミーバルーンの説明が抜けてましたので追加します。



火星基地にて敵の罠を打ち破り、無事補給を済ませたマクロスは、再び地球に向かい進む。

この8か月の功績にて、フォッカーは中佐に、アムロは少佐に略式ながら昇進を果たす。

バルキリー遊撃部隊隊長の立場は変わらないが、これでアムロはマクロス上層部作戦会議に参加できる資格を得た。

また、火星での活躍で一条輝は少尉に昇進し小隊長へ、その際新人二人を任させることに、一人はマクシミリアン・ジーナス軍曹、もう一人は柿崎速雄伍長。両者ともにパイロット候補生として優秀な成績を収めていた。特にマクシミリアン・ジーナス軍曹はシミュレーターでの候補生どうしの成績では負けなしであった。

 

 

佐官クラスが使用できる食堂スペースの個室で昇進を果たしたアムロとフォッカーの2人は食事をとっていた。

普段は一般食堂を使用してる二人だが、休憩時間が重なり人で埋め尽くされていたため、こちらを利用していた。

「アムロお前、早瀬中尉に何かやらかしたのか?」

 

「いや、心当たりがないな」

 

「火星から帰ってから機嫌が悪いそうだぞ。クローディアがぼやいていたが……どうやらお前が原因らしいぞ」

 

「……ああ、あれか。確かにちょっとは要因はあるかもしれないな。しかし……」

 

「何をやったんだ?」

 

「火星基地補給の際に早瀬中尉は基地にマクロス発進ぎりぎりまで留まっていたのは知っているな。正直マクロス発進時間に間に合いそうもなかったため、一条少尉にバルキリーで中尉が居た基地の部屋をこじ開けさせて、強引に連れ帰らせた……。後で少尉に聞いたのだが、どうやら中尉の亡くなった恋人が使っていた部屋だったらしい。そこで思いをはせていたのだろう。そこの部屋の破壊行為を承認したからな」

 

「ああ、それならば輝から聞いている。それだけではないだろう?」

 

「それだけのはずだが…一条少尉から早瀬中尉を見つけた際、近くにいた俺に対応を確認してきたのだが、少尉も大胆にも、基地を壊して連れ帰って来てもいいかと聞いてきた。それを苦笑しながら了承した……ああ、あれかもしれないな……中尉が感傷に浸ってほっといてくれと少尉に言ったらしくてな、それを聞いた俺は通信で『子供じゃないんだ。そんな初心な少女のような戯言は聞かなくていい。強引に連れて帰ってこい』と言って承認した。しかし、俺は少尉にしか回線を回していないはずだ。早瀬中尉は聞いていないだろう」

 

「ふははははっ!それだな。輝の奴、アムロの回線をそのままスピーカーで早瀬中尉に聞こえるように流したと言っていたぞ。丸聞こえだ。お前に子ども扱いされたと思ってるだろう中尉は」

 

「一条少尉に一杯食わされたと言う事か。しかし早瀬中尉がその程度の事で引っ張るとはな」

 

「確かに中尉の行動は戦場には相応しくない。だがな早瀬中尉はああ見えてもまだ19だぞ。難しい年頃だ。法律上は成人前だ。いわば大人の一歩手前。少女と呼んでもおかしくないということだ。偶然とは言えそれを思いっきり子ども扱いしたんだ、そりゃ不機嫌にもなる。何せまだ乙女だろうしな。クハハハハッ!」

 

「笑いごとではないぞロイ。ふぅ、まさか聞かれていたとは思ってなかった。それに俺はロイのように女の扱いは得意ではないんだ。勘弁してくれ」

 

「はあぁ?お前モテるのになんだ?女慣れしてないのか?それじゃいかんぞアムロ!俺なんてなちょっと前まで常時10人以上は恋人がいたもんだ!」

 

「ラサール中尉に申告しておかないとな」

 

「はははははっ、甘いぞアムロ。クローディアは承知の上さ。その中でも最高の女がクローディアだったからな」

 

「ふう、ご馳走様だ。……折見て早瀬中尉には声を掛けておくさ」

 

戦場では圧倒的な力を振るい他を寄せ付けない実力を持つアムロだが、こと女性の扱いに関しては、星の数ほど浮名を流してきたフォッカーとは、歴然とした差があった。

 

 

 

 

 

アムロは自らの遊撃部隊ユニコーン隊の隊員を集めて、ミーティングを行っていた。

マクロスは火星以降、地球圏に近づくにつれ、攻撃を受ける回数が増加の一途を辿っていた。

現在部隊はアムロを含め25人、中隊規模ではあるが精鋭部隊とあって作戦では大隊規模と同等に扱われている。

 

「敵は消耗戦を仕掛けているのは確かだ。マクロスというよりもバルキリー隊に対しての攻撃に移行している。相手の戦闘ポッドとの衝突は増して、戦艦からの直接攻撃は減少しているのが顕著だ」

 

「隊長、なぜバルキリー隊が狙われているのでしょうか?」

年若い女性隊員が挙手し、質問を行う。

彼女は、レイラ・メイス軍曹、金髪碧眼の年はまだ18歳の少女だ。

歯に着せぬ物言いをする事が多い。

 

「大型戦艦。いや、マクロスと言えども戦闘ポッドに懐に入られれば大ダメージは避けられない。ピンポイントバリアは遠距離からの攻撃には有効だが、至近距離ではほぼ防御不可能だ。今までの戦闘では戦艦や中型砲艦数隻の一斉攻撃にも耐えている。そこを見越している可能性が高い。敵の物量とこちらの物量に差を狙った戦法だが、少ない物資に人材しかないこちらにとっては地味に痛い。バルキリーが一機やられるとその回復には少なくとも3か月はかかる」

 

「しかし、マクロスは常にバルキリーの生産と人材育成を行ってます。地球帰還までは耐えられるのではありませんか?」

次に挙手し、質問を行ったのはレイラ・メイス軍曹と同期のミレイ・カシマ軍曹19歳。名前からも日本人の血が流れているのだろう黒髪ショートカットの小柄な女性だ。

 

「パイロットは正直に言えば替えが利かない。熟練度や経験値が物を言う。経験値が10あるパイロットがやられれば、次の替えとしてパイロット候補生が補充される。人にもよるが、経験値1のパイロットだ。これは大きな違いだ。数は同じだが、実際の戦力は確実に落ちている。

だから君たちは生きろ。自分の命は大切だというのももちろんだが。君たちが生き残る事でマクロスが地球に生還できる可能性が増える」

アムロは一年戦争末期の頃、これを強く感じていた。

最終決戦の地であるア・バオア・クーでは、ジオン兵は訓練もろくに終えていない学徒兵ばかりだった。当時最新量産機であり高性能機であったゲルググに乗り込み出撃していたが、使いこなすことが出来ず、ただただ死を待つだけの存在と化していたのだ。

 

「はい」

 

「本題はここからだ。対戦闘ポッドの大隊同士の集団戦における戦術を新たに組み込む……」

この後はアムロは集団戦における戦術を説明し、シミュレーターを使用して訓練を行った。

 

アムロはレイラとミレイの若い女性パイロット二人を見ているとつい、一年戦争の事を思い出してしまう。

当時自分より年上で大人の女性だったセイラとミライを彷彿してしまうのだ。

姉のような存在だった彼女らだったのだが、彼女らにどこか似た少女たちが、今や自分の方が年が上で、指導する立場にあるのだ。

アムロは自然と笑みがこぼれ、そして新たにこの戦いを皆で生き抜く事を決意する。

 

 

 

 

 

ミスマクロス。

マクロス内で民間主催のミスコンがこの日開催された。

転移当初は娯楽が少なかったマクロスではあるが、住民の努力もあって、今ではTV放送も盛んにおこなわれている。ニュース番組などの基盤放送は1チャンネルだが、後のチャンネルは過去の映画や住民が持っていた面白動画やコミュニティー番組などを放送している。

特に娯楽メディアが発達し、マクロス内の小さなコミュニティ内でこのような大規模な企画が出来るまでになっていた。

 

ミスマクロス称号を得るのはマクロス一の女性。

選ばれた女性は、歌手デビューが約束され、ご当地(マクロス)アイドルとして活動することが出来る。

イベント会場ではミスマクロス候補の女性たちによる歌や演劇、水着審査などを行われる。

選定方法は審査員投票と一般投票があり、一般投票は住民投票さながらに大規模なイベントとなり、マクロス全体がお祭り騒ぎのように盛り上がっていた。

その審査員の一人にグローバル艦長が選ばれており、審査員席に座り参加していた。

 

 

アムロは偵察・哨戒任務の無い部下には、この日ばかりは全員暇を出していた。

ミスコンのお祭り騒ぎは、軍の方にも波及し、特に若い兵や現地徴収兵達を中心にこの話題で盛り上がっていたのだ。訓練等をするよりも休暇を出した方が効率が良いとの判断だった。

 

 

部下のレイラとミレイから、一緒にミスマクロスを見に行かないかと誘われたが、やんわりと断りを入れ、自身は技術部の工作室の傍らにあるコンピューターで、バルキリーの装備改良案を作成していた。

因みに技術部の人間はほぼ全員、ミスマクロスの会場へと足を運んでおり、この工作室にはアムロ一人だ。

 

そんなアムロに声を掛ける人物が……

「レイ少佐。今日は非番ではなくて?ミスマクロスを見に行かなくていいのですか?」

 

「早瀬中尉か、俺は興味が無くてね。君は行かなくていいのかい?」

 

「私も興味がありません」

アムロに声を掛けたのは未沙だった。手にはコーヒーカップを二つ持ち。

一つをアムロの座るディスクに置く。

 

「ありがたく頂くよ。……それで中尉は何故ここに?」

 

「何となくです」

 

「そうか……そうだな。中尉ちょっと話をいいかい?」

アムロはコンピューターで作業する手を止め、椅子を回転させ未沙へ向く。

 

「え?……どうぞ」

未沙は意外そうな顔をし、近くにあった椅子を座る。

今迄、アムロの方からわざわざ話を振られたことが無かったからだ。

 

「この前は、言い過ぎたようだ。すまなかった。まさか聞こえていたとは思っていなかった」

 

「いえ、その当然の事です。あれは私がその私情であんな行為に……」

 

「……俺は15で戦場に出て、もう15年になる」

 

「え?……15で…そんな年で?」

 

「多くの人と出会い、さまざまな人の死を見て来た。口幅ったい事を言うが中尉、人の死に引き寄せられてはいけない。……中尉はまだ若い。まだこれからだ」

 

「……割り切れない。だってそうでしょう?好きだった人が私が知らない場所で、いつの間にか亡くなっていたんです!」

未沙は感情的になり、アムロに対して声を荒げる。

アムロは火星基地での亡くなった恋人の部屋で引きこもった未沙の行為に対し、アドバイスをしたつもりだったのだが、逆に未沙の感情を逆なですることになってしまったようだ。

 

「中尉は真面目過ぎる。どこかで息抜きをしないと……思いつめる」

 

「私は貴方のように何もかも受け入れる事はできない!!そんなに大人じゃないわ!!」

 

「今はそれでいい、しかし人は生きていくために一つ一つ受け入れていくしかないんだ」

 

「なぜそんなに強いんですか?あなたはこの世界にたった一人放りだされて……」

 

 

そこで、緊急警報が鳴り響く。

敵襲警報だ。

 

「こんな時に………俺は先行して出る。中尉はブリッジに」

 

「す、すみません。声を荒げてしまって……その…レイ少佐、ご武運を」

未沙は我に返ったようにアムロに頭を下げ、顔を赤らめながらブリッジに戻って行った。

 

 

アムロは直ぐにバルキリーでマクロスから飛び立ち、マクロス宙空域の警戒哨戒任務に当たっていた部隊を集め、さっそく迎撃に乗り出す。

 

「こちらは25機、あちらは180機以上……こんな近くまで何故気が付かなかった?……待ち伏せか……マクロスの予想進路を割り出し、宙域に漂う小惑星に隠れていたのか……。ジオンが良くやっていた手だ。相変わらず索敵能力に差があるということか!」

火星から地球に向けてマクロスは宙域を突き進んでいる。

マクロスが取れる大まかな進路は、地球圏に向かう事なのだが……マクロスの動力エンジンでは、その進路が一万キロずれたところで、現段階において大きな支障はない。……広大な予想進路範囲でここまで正確に待ち伏せに遭うこと自体予想されていなかった。

それは、相手が物量に任せ、至る所に伏兵を置いていたか、予想進路を正確に把握していたかのどちらかになる。

いつものように敵襲をもっと早い段階で察知出来ていれば、迎撃準備が十分整えることができていたのだが、マクロスの索敵範囲の中に突如として現れた伏兵による待ち伏せ襲撃には対応しきれなかった。

 

『少佐!まさか25機であいつらの対応するつもりじゃ……ってやっぱやるよな。アムロの旦那だったらさ』

アムロに哨戒中から合流したエストラント大尉から通信が入る。

 

「察しが良いなエストラント大尉。大尉が哨戒任務に当たってくれていて助かった。大尉は18機を率いて、一部敵を引きつけ各個撃破を狙い確実に仕留めてくれ。敵は少数だと侮っているはずだ。例の戦術プランが役に立つだろう」

 

『俺は助かってねーよ!!あのプランかよ!!ありゃ、ユニコーン部隊だったら可能だけどよ!この寄せ集め部隊で無茶言うぜ!!くそっ、俺だってミスマクロスを見に行きたかったんだよ!!ミンメイちゃんの晴れ舞台を見たかったのによ!!とんだ貧乏くじだぜ!!で……後の6機でどうするってアムロの旦那は?』

 

「大尉が居ないとこんな無茶を言わない。大尉だったら出来るだろ?俺は6機率いて正面で受ける」

 

『なんだよ。そんな事を言われたら。やらねーわけには行かねーだろ!ったく、6機で正面でってそっちこそ大丈夫なのかよ?』

 

「ああっ、何とかするさ」

 

『まあそうだろうけどな。じゃあ旦那後でな!ちょっくらこいつ等率いて行ってくるぜ!』

エストラント大尉率いる18機はアムロ達7機を置いて、急旋回をし離れて行く。

 

 

「一条少尉とネッガー准尉。悪いが一番の貧乏クジを引いてもらった。君らの小隊が優れていると見込んでだ。俺が正面から抑える。俺の後方24キロ地点宙域、敵部隊が崩れたところを狙ってくれ。一条少尉の隊はマクロスから換算し12.24.123地点、ネッガー准尉は12.56.56地点」

アムロはアムロと共に残った一条輝とネッガー准尉の小隊(3機編成)に命令を下す。

 

『了解』

『了解しました』

両小隊長は了解の返事を即答する。

 

 

 

 

『えええええ!?隊長!相手、180機以上いるんでしょ?たった7機で正面受けするって、俺達に死ねって事ですか!?』

輝からアムロの命令を伝えられた柿崎は流石に大いに狼狽していた。

多少の事では、驚かないどころか大言壮語を吐くぐらい肝が据わっている柿崎だが、今回ばかりはこのありさまだった。

 

『全部じゃない。エストラント大尉の部隊が幾つか引き受ける。半分以上引き付けてくれたらラッキーだな』

輝は柿崎に冷静に答える。

 

『半分って90機でしょ!?』

 

『はははっ、柿崎君はおっちょこちょいだね。本隊は多分140、50機以上来るよ。敵の目的は飽くまでもマクロスだからね。エストラント大尉の方は30~50機引き寄せてくれたらいい方だよ』

マックスはいつもの調子で柿崎に補足説明をする。

 

『おいマックス!150機って』

 

『そうだね。一人20機倒せば行けると思うよ』

軽い感じで答えるマックス。

 

『そんなのできるのはお前だけだって!!あーーーくそっ、どうにでもなれ!!やってやるさ!!柿崎速雄!!20機だろうが150機だろうがどんとこい!!』

 

『柿崎、少しうるさい。少佐は崩れた敵だけを狙えと言っていた。全部を相手にしなくていい。味方の援軍が来るまで耐えるんだ』

 

『だろうね。柿崎君。少佐がこの地点を僕たちに指示したという事は……勝算があるという事さ』

 

『マックス。レイ少佐の命令の意味が分かるのか?』

 

『隊長……でも、本当にそれをやってのけたら、レイ少佐はその……』

マックスはその後の言葉が出てこなかった。アムロは神か悪魔だと……

 

「折角ミンメイの晴れの舞台なのに、くそっ!」

輝はアムロの指示した場所に待機し、敵が迫る様を見ながら悪態をついていた。

 

 

 

186機の戦闘ポッドの大部隊がマクロスへ一直線に迫る。

エストラント率いるバルキリー隊が飛び去った方向に、敵部隊が30機程分かれ、迎撃に向かった。

尚も三角錐のような陣形を保ち敵156機がマクロスへ迫る。一点突破の陣形だ。

 

アムロのVF-1S改がバトロイド形態で敵を待つ。

真っ白な機体のバトロイド真正面、コクピットシェルター部には、朱色で大きくユニコーンのマークが描かれていた。

 

 

アムロは専用実弾ライフルを構え、敵の射程外から、敵陣形の三角錐の頭を張る戦闘ポッドを正確に撃ち抜く。

その後たて続けに3機撃墜した。

敵の射程に入り一斉にビーム砲が放たれるも。アムロは同時に前方にチャフグレネードを発射させ、ミサイルかく乱とビーム減衰を行いながら、その宙域で乱数回避のような動きをみせ確実に敵ビーム砲を回避しながら、次々と専用実弾ライフルで敵機を撃墜していく。

 

敵との距離がある程度迫った段階で、広範囲にダミーバルーンを複数展開。ガンポッドに持ち替え、更に迎撃。

放出したバルーンは敵のビーム攻撃で爆発し広範囲にスモーク状のガスがまき散らされ、敵の進む方向の視界を奪う。

敵部隊は爆破で視界が悪くなった宙域を避けるように5方向に分かれ、縫うように避けて進む。

 

5方向に分かれ中央付近を突き進む50機程の敵部隊の後ろから、視界が悪くなった宙域からアムロのバルキリーがファイター形態で突如として現れ、襲い掛かる。

 

アムロに後ろから襲われた敵部隊は正確な射撃で次々と撃墜されていく。

敵部隊は旋回して振り切ろうにも、隊列を分けて、周り込もうとしても、その挙動を正確に見極められ、アムロに挙動の起点となる機体を先に撃墜されて行くのだった。

 

 

5方向に分かれた敵部隊の20機程の1隊が輝、マックス、柿崎が待機している宙域を横切るように現れる。

アムロが狙っていたのは敵大部隊の分断とかく乱だった。そして各個撃破。

ダミーバルーンの爆発による視界不良やチャフによるレーダー阻害に見舞われない位置に輝たちの小隊をあらかじめ置き、迎撃態勢をとらせていたのだ。

 

『敵はまだ、こっちに気が付いていない……先制ミサイル攻撃行くぞ!』

『『了解』』

この戦闘で輝は6機撃墜。

マックスは12機撃墜。

柿崎は2機撃墜も被弾、脱落。

 

この後の追撃戦でマックスと輝は撃墜スコアを更に上げていく。

 

 

結局は敵機186機のうち、別動隊として動いた30機は見事エストラント率いる寄せ集め部隊に殲滅され、正面突破を計った156機の部隊は、半数以上がたった7機のバルキリーに撃墜。

その後、マクロスからのバルキリー部隊増援が現れ、敵部隊は撤退を開始、撤退の際に、エストラントが率いる部隊と輝とマックスの追撃でさらにその数を減らしていった。

 

味方は1機損耗、2機被弾脱落と被害は軽微で終わった。

 

 

 

マクロスに戻ったアムロのバルキリーも敵攻撃の直撃こそ受けなかったが流石に傷だらけの状態であった。

アムロはコクピットから降り、ボロボロとなったバルキリーを見上げる。

「流石に無茶し過ぎたか……コクピットの操縦桿連動のコンソールシステムがいまいち反応について行ってくれなかった。サイコミュが無くともνやリ・ガズィ系のコクピットモジュールのような直感性で操作できるものがあればいいが……技術部に言ってみるか」

 

「アムロの旦那。流石に今回は無茶し過ぎだぜ。……まあ、機体もこうなるわな。また、あの無表情の姉ちゃんオペレータに嫌み言われるぜ、きっと。……それにしても先日の戦術プランが役に立った。全くたいしたもんだぜ」

同じく戻って来たエストラントがアムロの横に並びボロボロとなった機体を見上げ声を掛ける。

どうやら、対戦闘ポッド戦用に組んだ戦術とその訓練が今回十二分に役に立った様だ。

 

「流石だなエストラント大尉。寄せ集め部隊で実行できるのは大尉の指揮能力によるところさ」

 

「お褒めに預かり光栄であります!少佐殿!って、おい、あんた一人で150機を正面受けとか何考えてやがる。そんで生きてるだけでおかしいっての。しかも一人で何機落としたんだよ!」

 

「それよりもあの新人……初陣で7機落とし、今回は15機撃墜か…たしかマクシミリアン軍曹と言ったか。凄まじい技量だ」

 

「人の話きけよ。ったく……ああ追撃戦でついて来た青いVF-1Aに乗ってた小僧か、確かにな。まあ、旦那見慣れてりゃ、そこまで思わねーよ。動きだけだったら、あの一条って少尉もなかなかのもんだぜ」

 

「いや、あの若さで大したものだ」

アムロは遠目で並んで歩く輝とマックスを見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

その頃。

ミスマクロスは無事終了し、リン・ミンメイが選ばれる。

 

 

 

 

 

また、這う這うの体で退却し、無事戦艦に戻ったゼントラーディ軍の戦闘ポッド兵達の脳裏からAの字を象った朱色のユニコーンマークが入った全身真っ白い機体が襲ってくる姿が抜けなかった。

そして、末端の兵士達の間ではいつからか囁かれ始めていた。

真っ白な機体には近づくなと………

 

 

 

 

 




やっぱ無双っぽかったかな。

一人で突撃してくる戦闘ポッドを156機を正面から受けるんだから……
実際落としたのは50~60機位かな?

女性に対してはフォッカー中佐の方が無双ですね。
地味にエストラントのおっさんは大尉に昇進で、しかも活躍中です。

次回は無双確定回


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アムロ敵に恐怖される。

感想ありがとうございます。
……すみません。徐々に…徐々に返信させていただきたく……
誤字脱字報告やご指摘ありがとうございます。非常に助かってます。


1回1回完結のつもりで書いてますが……なんか、全然進んでない気がします。



11月初旬

マクロスは冥王星に飛ばされてから9カ月、遂に地球圏に到達する。

 

しかし、地球に無事降り立つには数々の困難が予想されていた。

地球圏到達直後の作戦会議では……

 

「敵味方の状況はどうだ?」

マクロス艦長ブルーノ・J・グローバル准将は会議出席者を見渡し、問いかける。

 

「地球圏における敵1000m級以上の艦数は確認できただけで300隻です。予想では1000はくだらないと考えております。また、地球軌道上の友軍は確認できていません。最悪全滅してる恐れがあります」

参謀部長兼副艦長が答える。

 

「うむ。このマクロス以外では奴らの攻撃には耐えられないだろう……1000か、かなり厳しい状況だな」

そもそも地球統合軍の宇宙艦隊は設立間もない艦隊だ。

地球が保有する宇宙艦艇は150艇有ればいい方だった。さらに戦闘に耐えうる戦闘艦艇となるとその半分にも満たない。確認できた敵艦艇数だけでも優に5倍以上の戦力差がある。

しかも、マクロスのような超大型戦艦は他に無い。

地球が本格的に宇宙に進出し始めて、それほど時が経っていなかった。

宇宙機動艦艇などの技術革新はここ10年の出来事である。

そもそもSDF-1 マクロスは9年前に地球外から飛来した戦艦を地球人が使えるように改装したものに過ぎない。

その飛来した戦艦の未知の技術を解析し、今の宇宙艦艇やバルキリーの基礎技術が出来上がったのだった。

 

脆弱な友軍宇宙艦隊は既に壊滅しているだろうと予想はしていた。

 

 

「地球…統合軍本部との連絡はどうなっている?」

グローバルは次の議題に移った。

 

「各種通信手段を用いておりますが、敵による通信妨害の影響で地球との連絡は依然と付きません」

通信部将校がその問いに答えた。

 

「やはりそうか……現在の地球の状況はわかるか?」

 

「超望遠カメラによる目視又は各種分析を行った結果、地球内では目立った大きな被害は見られないとのこと」

参謀部次官がそれに答える。

 

「ふむ、それは朗報だな。そうか…地球は無事か……我々が困難を乗り越えここまで来た甲斐があったというわけだな。……月面基地の様子はどうかね」

 

「はい、火星とは異なり、月面基地の幾つかは現在も稼働してる可能性が高いと判断しております」

 

「……ふむ。奴らは何故、月面基地を攻撃していない?いや、我々が冥王星に飛ばされて9カ月。奴らは何故、地球に対して侵略行為を行っていないのだ?地球と奴らは何らかの交渉を行ったと見た方がいいのか?」

グローバルは火のついていないパイプを口にくわえながら、考えにふける。

 

「艦長、その可能性については疑問があります。現在もマクロスは攻撃を受け続けております」

 

「ふう、奴らがマクロスだけを狙っていたとすればどうだ?」

 

「それは………」

参謀部次官はグローバルの問いの答えに窮す。

グローバルが問いかけた内容はマクロスにとって最悪のシナリオだからだ。

ゼントラーディ軍は地球圏に現れた際、マクロスだけを狙って攻撃を仕掛けて来た。

9年前、マクロスを地球に送り込んだ何者かに仕掛けられたブービートラップが発動し、マクロスキャノンが地球圏に現れたゼントラーディ軍に対し放たれ、大きな被害を与えたという事実もある。

 

もし、ゼントラーディ軍の狙いがマクロスだけだとすれば、地球側はゼントラーディ軍との和平交渉が成立する可能性がある。

その場合、マクロスは地球から見捨てられた事を意味する。

 

「艦長、現段階ではその可能性については語らない方が良いでしょう。士気にも関わりますぞ」

参謀部長兼副艦長がグローバルをたしなめる。

 

「ふむ、何れにしろ、現状況が把握できていない事には変わりないか、情報も無い状態で無闇に地球に降り立つこともできまい。なんとしても地球の参謀本部と連絡をつけなくてはなるまいよ」

 

「艦長、その事についてなのですが、このほど上がって来た技術部からの新装備が有用と判断し、新たな作戦を立案いたします」

参謀部長兼副艦長が地球との連絡手段が有ると答える。

 

「ふむ。言ってみたまえ」

 

「先行してバルキリーによる月面基地又は地球への単独降下により、直接連絡を取る方法を提案いたします。単純ではありますが、確実性があると判断いたします」

 

「伝令役を直接送るという事かね。確かに確実性はあるが、中世の時代に戻った気分だな。……ただ、そのような事は可能なのかね。その装備とは何かね」

 

技術部将校が挙手をし、グローバルの問いに対し答える。

「それは私から説明いたします。この程、バルキリー用に改良を施しました長距離移動用ブースターが完成いたしました。その結果バルキリーの宇宙空間での航続距離を大幅に伸ばすことに成功いたしました。

単独で星間移動とまでは行きませんが、地球圏内であれば長距離移動が可能です。元々長距離移動用ブースター自体はバリエーションオプション計画として存在し、その試作品はありましたが、レイ少佐の提案再設計により、航続距離が大幅に延び、さらに旋回能力などは大きく落ちますが、超高速スピードを安定して出すことが可能です。また、大気圏再突入だけでなく、理論上は大気圏突破も可能です」

元々バルキリーは単体でも大気圏再突入が可能な程強固な機体であった。一番の問題は宇宙空間での航続距離だった。大気圏では空気を推進剤とするため理論上連続700時間という航行時間を保つことが出来るが、大気が存在しない宇宙空間では、水素推進剤が必要となる。元々アムロは一回の戦闘持続時間を延ばすためにプロペラントタンクを2基取り付ける設計思想を提案していたが、バルキリーは変形機構が複雑なため、難航し実現が困難であった。

色々と検討した結果、設計当初よりかなり小さめなタンクを取り付ける事に……

また、別の運用方法として遠距離での戦闘を想定し、この長距離移動用ブースターを改良したのだった。

長距離移動用ブースターはファイター形態のみでしか運用できない。

バルキリー後部にドッキングさせ、戦闘中や航行中の脱着を可能とし、基本は戦闘宙域前に外し、帰還前に再び装着をするスタイルとなる。

これは初代ガンダムのRX-78シリーズに対応したコアブースターやGアーマーの運用思想をバルキリーに転用したものだった。

 

 

「うむ。確かにその作戦は有用ではあるが……しかし、月面にしろ地球にしろ、敵の警戒網を突破するのは容易ではなかろう」

 

「アムロ・レイ少佐にその任務を任せようと考えております」

ここでバルキリー部隊の指揮官であるフォッカーが挙手し答える。

 

「そうか、少佐ならば……。しかし少佐にはマクロスの防衛に専念してもらいたかったが、致し方が無い。少佐、やってくれるか」

グローバルはフォッカーの横に座るアムロに尋ねる。

 

「任務承りました」

アムロは軽く頷き承諾する。

すでにこの一連の流れは、フォッカーや技術部将校と参謀次官と打ち合わせ済みであった。

アムロ自身、長距離移動用ブースターの改良に携わり、試験を繰り返していた所であった。

 

 

 

長距離移動用ブースターを装着したバルキリー単独による地球への伝令作戦を遂行することが正式に決定され、作戦にあたっての調整が行われる。

大きくは地球に送り届ける情報の選択や、マクロス内で開発された技術試験品の運搬や同行者を搭乗させることが可能かなど……。

同行者や技術試験品を載せるためのバルキリーや戦闘機用の脱出コクピットを強化した運搬用カプセルを長距離移動ブースターのウイング下部、左右の大型ミサイル4連装着アームに1基づつ、合計2基取り付ける事となった。

1基には同行者を一人、もう1基には技術試験品を積むことも決定される。

同行者と技術試験品の選別はこの場では決まらなかった。

 

作戦遂行は3日後と決定する。

その間、アムロは可能な限り、長距離移動用ブースターの調整を行う事になる。

 

 

 

 

この頃、技術部では長距離移動用ブースター以外にも多数の改良装備や追加装備を検討、試験運用を行っていた。

一つは哨戒偵察用の戦闘機ES-11D キャッツアイと哨戒偵察用バルキリーVE-1 エリントシーカーの強化だ。

現状ではマクロスよりもゼントラーディ軍の索敵能力が完全に上回っている状態である。

それを少しでも解消するために哨戒偵察機の運用範囲の強化、さらには現状の索敵能力を大幅に強化改修させる試みが行われていた。

 

もう一つは無人機の運用だ。

元々マクロスの運用方法として、無人戦闘機が先行攻撃を行い、続いて有人機がそのフォローを行う方法が想定されていた。

マクロスに配備されていた無人戦闘機QF-3000E ゴーストは敵の電子妨害(ECM)をも想定して、無線運用ではなく、AIによる自動戦闘が出来る機体として仕上がっていたが、AIが脆弱なため、敵の戦闘ポッドの攻撃に対応することが出来ず、今ではバルキリーの支援攻撃で運用するのが関の山な状態となっていた。

アムロはこのゴーストに着目して、新たな運用方法を模索し、AI周りの再強化、半自動運用の提案を行う。

 

さらにはダミーバルーンのバリエーション強化なども行っていた。

 

 

 

長距離移動用ブースターをドッキングしたバルキリー単独地球降下作戦が決定された次の日。

アムロは巨大な2基のブースターエンジンを搭載した長距離移動用ブースターと運搬用カプセルの調整のため、ドッキングしたアムロ専用バルキリーで長距離試験飛行を行っていた。

 

一方、一条輝のバーミリオン小隊は哨戒偵察用の戦闘機ES-1D2 キャッツアイ改と同じく哨戒偵察用バルキリーVE-1 エリントシーカーの哨戒試験飛行を行っていた。

輝はES-1D2に搭乗、柿崎がVE-1 エリントシーカー、マックスはその護衛と外部からの運用記録を行うため、自らの搭乗機VF-1Aに乗り込み出撃する。

しかし、輝のES-D2の複座席には早瀬未沙が同乗していた。

名目は試験運用状況を確認するのと、哨戒範囲拡大における運用状況の確認をするためという事にはなっているが、発端は輝と未沙の些細な言い争いが原因だったようだ。

輝がいつものように未沙におばさん呼びをしながら、現場を分かってないとか、戦闘に出ていないからそんな事を言うんだ、とかと愚痴を言った事が要因となり、売り言葉に買い言葉でこんな事に。

 

 

 

しかし、そんな中、事件が起こった。

哨戒偵察機の試験運用を行っていた一条輝のバーミリオン小隊が敵襲に遭い、消息を絶ったのだ。

マックスの最後の通信で、ES-1D2が突如として現れた敵部隊に鹵獲され、それを奪還するとメッセージを残して。

 

 

それから2時間。

長距離試験飛行から戻ったアムロだったが、バルキリーの格納庫では……

 

「連れ去られたって事はまだ生きてるってことだ!まだ間に合う!!俺が出る!!」

フォッカーが数人の整備兵やパイロットに掴まれながらも、引きずってバルキリーに乗り込もうとする姿があった。

 

「ちゅ、中佐!やめてください!!参謀部の返答を待ってください!!」

「おい!!フォッカー中佐を止めろ!!バルキリーに乗せるな!!」

フォッカーは2m10cmを超える巨漢だ。数人の人間に押さえつけられたところで物ともしなかったが、続々とパイロット達が集まり、遂にはフォッカーを押し倒す。

 

 

アムロは近くに居た若い整備兵に状況を聞く。

「どうしたんだ。フォッカー中佐はかなり荒れているようだが」

 

「レイ少佐!その…ですね。バーミリオン小隊が消息不明に……どうやら、鹵獲され連れ去られたようなんです。それでフォッカー中佐が自分が出て助けに行くと……」

若い整備兵はアムロに敬礼してから、状況を説明する。

 

「バーミリオン小隊と言えばフォッカー大隊の一条少尉の部隊か、鹵獲とはどういう事だ?あの隊にはマクシミリアン軍曹も居たはずだ。そんな不覚を取るとは思えないが……」

アムロはフォッカーに一条輝との関係を聞いていた。自分の恩人の息子だと…弟のような存在だと。

フォッカーの荒れように納得する。

しかし、輝とマックスというエース級のパイロットが二人も居る小隊だ。

撃墜ならともかく、それに比べかなり難易度が高くなる鹵獲という状態に持って行かれた事に疑問が残っていた。

 

「いえ、哨戒偵察機の試験運用を行っていまして……」

 

「ああ、あの試験運用実験は一条少尉の部隊が受け持っていたのか……なるほど」

現在試験運用用哨戒偵察機の実験機とあって戦闘能力は低い。いくらエース級のパイロットと言えども、まともに戦闘をするのも困難な代物だった。

 

「その……あと、試験運用の確認という名目で早瀬中尉も同乗していたらしくて……」

 

「ふぅ、済まないが俺のバルキリーと長距離移動用ブースター共に燃料を満タンに、バルキリー本体の兵装は専用のB3装備を…直ぐに出られるようにしてくれ」

 

「は、はい!」

若い整備兵は嬉しそうに返事をし、駆け足でアムロのバルキリーに向かっていく。

 

 

「中佐、随分荒れてるようだな」

アムロは多人数に組み敷かれてるフォッカーに声を掛ける。

 

「アムロ!こいつらをどかせるように言ってくれ!」

尚も暴れようとするフォッカー。

 

アムロはフォッカーの耳元に小声でこうささやく。

「……ロイ、俺は今から長距離移動用ブースターの調整運用に再航行する。今回の調整運用はすべて俺の一存で決めることができる。その試験運用場所がどこだろうとな。……たまたま、敵の部隊に遭遇するかもしれない。たまたま捕まった友軍機を発見するかもしれない。そういう事だ。お前は年代物の酒でも用意して大人しく待ってろ」

 

「アムロ……お前」

 

「皆!中佐殿を丁重に独房にでも閉じ込めておけ!」

アムロは立ち上がり、フォッカーを抑えつけてる兵士達に命令を下す。

 

フォッカーは10人がかりで取り押さえられながら引きずられて行く。

「アムロ!!お前!!お前が居ないと作戦がどうなる!!お前をこんな事で死なせるわけにはいかないんだ!!俺が行く!!アムローーー!!」

 

(ロイ、精神的な支柱であるお前が居なかったらどうなる?マクロスは終わりだ。お前の代わりは居ないんだ。それに俺は死に行くつもりは毛頭ない)

 

 

数分後、長距離移動用ブースターとドッキングしたアムロ専用バルキリーは、巨大なブースターエンジンから吐かれる高熱燃焼物の光を尾を引かせながら、マクロスから暗闇の宇宙へと一気に離れて行った。

 

 

 

 

 

 

一方、ゼントラーディ軍に哨戒偵察機を鹵獲され捕まった一条輝、それに早瀬未沙、柿崎速雄はゼントラーディ軍ボドル基幹艦隊所属第67グリマル級分岐艦隊(ブリタイ艦隊)旗艦、通称ブリタイ艦に連れていかれ、ブリタイ司令及び記録参謀エキセドルに尋問を受け、艦内で監禁されていた。

艦内から外の様子を見た未沙と輝達は驚きを隠せなかった。

そこには、宙域を埋め尽くさんばかりに巨大戦艦がずらりと編隊を組んでいたのだ。

その数、2000はくだらなかった。

ここに集結しているだけで2000隻、各宙域に展開している部隊も合わせると3000近くあった。

しかし、これはブリタイ艦隊だけの数だ。現在、ブリタイ艦隊以外にも分岐艦隊が地球圏には存在した。

 

その頃、マックスはバルキリーのまま輝達が鹵獲され移送された戦艦内に潜り込み、さらに現地巨人兵から奪った服を器用にバルキリーに着させ、兵士の態を装い、ブリタイ艦に移動、そして輝達の奪還の機会を伺い潜伏していた。

 

 

第67グリマル級分岐艦隊司令ブリタイ・クリダニクは発令所で記録参謀エキセドルと話し合いをしていた。

『あの兵士を弱体化させる音波攻撃は歌、と言ったか……あのマイクローン達はあれは攻撃手段ではないと言っていた…娯楽だと。娯楽とはなんだ?体を休める事と類義するようだが…理解不能だ。……やはり奴らは』

 

『はい、あのマイクローン達の証言から、プロトカルチャーの可能性がありますな。あるいはその子孫の生き残りであるかもしれません』

 

『やはりな。監察軍が残した戦艦。マクロスと言ったか、あの艦にマイクローン化した偵察部隊を送り込め……もう少し様子を見た方がいいかもしれん』

 

『そのように』

エキセドルはブリタイの命令を実行するために手配を開始する。

 

 

『ん。なんだあれは、デブリではなさそうだ』

ブリタイは艦隊の正面に何やら小さな点のようなものが動いているのを見つける。

 

『高熱源体を確認、こちらに真っすぐ迫ってます。大きさは、小さいです。戦闘ポッドサイズ』

発令員がブリタイに報告をする。

 

『逸れた友軍が帰還したか?』

 

『いえ……これは敵の戦闘ポッドです!ですが今迄に無い反応です!凄まじいスピードで……この艦に迫って来るコースです!』

 

『たった一機でか?』

 

『……後部形状は異なりますが、93%の確率であの艦の戦闘に関わった兵士の間で噂される

呼称名【白い悪魔】ですな』

エキセドルは冷静にブリタイに告げた。

 

『敵のエースか。なぜ単騎だ?なぜこの場所に……まさか、マイクローン共を奪還に?バカな。自殺行為も甚だしい。全艦に告ぐ、前方敵機を撃墜しろ』

ブリタイはそう言って命令を下した。

 

 

 

 

 

アムロは輝達が連れ去られるとすれば、敵中枢艦隊だと予想していた。

マクロスが予想していた敵中枢艦隊の位置と、輝達が連れ去られた地点からシミュレートし、場所を大まかに特定する。

さらに、自分自身のニュータイプ能力を信じ突き進む。

 

「見えた!やはり月の裏側に主力艦隊を隠していたか…しかしなんて数だ。優に2000はある。……ん?中心から前方……何かを感じる。あそこか!」

アムロは流線形の形に展開する大船団を確認。艦隊の中に輝達の居場所を感じ、その方向に向かい、エンジンをフルスロットルに回す。

 

 

 

敵の艦隊の鼻先まで接近した段階で、敵の攻撃が始まる。

「確かにこのブースター、航続スピードは凄まじいが旋回能力に乏しい。この状態では近接戦は厳しい。ならばこのまま一気に行く!!」

各艦船はアムロのバルキリーに向かって弾幕掃射を開始するが、アムロのバルキリーはそのまま艦隊の中へと突入する。

 

艦隊編隊の中に突入すれば、容易に相手は攻撃が出来なくなる。

味方に当たるため、大型ビーム砲やミサイルを無闇に発射できなくなる。

そもそも、この大船団による艦隊編成内に敵が単騎で潜り込んでくる等と誰も想定していなかったのだ。

 

アムロは敵の戦艦からの機銃掃射を予想し、機体を横に回転させながら避け、一直線にブリタイ艦に向かう。

 

アムロは4000m級戦艦である旗艦ブリタイ艦を捉えると、ブースター上部に搭載されてるミサイルポッドから一点集中で小型ミサイルを発射させ、ブリタイ艦の側面一部を破壊し、さらにダミーバルーンを破壊された側面に向かって数発発射、破壊された内部でダミーバルーンが幾重も展開、その中にバルキリーを突っ込ませる。

アムロは突っ込む寸前にブースターを切り離し、バルキリー本体はガウォーク形態に変形、ダミーバルーンで衝撃と速度を相殺すると同時に、バルーンが割れる衝撃すらも利用し、機体をコントロールし、ブリタイ艦内に回転しながら不時着する。ブースターも車輪を展開させながら滑るように不時着する。

まるでプロのスタントマンがスピードに乗った車をブレーキ一つで、数センチ単位の縦列駐車を実現させるが如き神業だった。

 

アムロが不時着した場所は広い空間ではあったが、何の施設かは不明だ。

恐らく兵士の臨時待機場所か何かだったのだろう。

 

暫くすると、マックスの敵の戦闘服を着たバトロイド形態のバルキリーが通路から現れる。

まるで、示し合わせたかのように……

しかもだ。その敵戦闘服のポケットには輝や未沙、柿崎の顔が覗かせていた。

マックスはどうやら、輝達を監禁場所から無事救出したようだ。

 

「マクシミリアン軍曹!よくやった!直ぐに脱出を図る!3人をそこのブースター底部にあるカプセルに!それと軍曹!今から送るデータを軍曹のバルキリーにインストールしろ!そこのブースターの制御プログラムだ。やる事は一つ、プログラムをインストール後、軍曹はそのブースターとファイター形態でドッキング。俺が敵を引き付けている間に、一気にこの地点から、5.25.120方向に向かって脱出しろ!!タイムリミットは2分だ!!いいな!!」

アムロは短距離通信でマックスに一気に伝える。

アムロはマックスが輝達を救出し、この場所に到達することがニュータイプ能力で見えていたのだ。

 

「え?なぜレイ少佐がここに……どうやってここが、いえ!了解しました!!」

マックスはアムロのバルキリーが目の前に存在するのとアムロの声を聴いて、夢でも見ているような気分になっていたが、直ぐに頭を切り替え、作業に入って行く。

輝や柿崎、未沙にしろ同じく驚きを隠せないでいた。

 

アムロは周囲を警戒し、マックスは粛々と作業を行っていく。

 

その間、ブースター底部にあるカプセルポッド前で柿崎が何か叫んでいた。

「少佐~!!片方のカプセルが開かないです!!置いてけぼりは嫌ですよ~!!」

 

「一条少尉と柿崎伍長は片方のカプセルの中に!狭いが我慢してくれ!早瀬中尉は俺のコクピットだ!」

アムロは男性パイロットとしてはかなり小柄な方だ。アムロで身長171cm、マックスが181cm、小柄な輝でさえ175cm、フォッカーが217cmと……バルキリーのコクピットは元々大柄なフォッカーでも窮屈だが操縦できる空間を確保してあった。

アムロはガウォーク形態で未沙を手に乗せ、コクピットに誘導する。

 

「早瀬中尉、すまんが我慢してくれ」

 

「助けに来ていただいてありがとうございます少佐……それで、その、どこに……」

 

アムロはコクピットシートを最大限に後ろにさげ、自分の膝の上を示す。

「礼なら後でいい。頭は俺の頭の横にし、後ろを向く感じだ。体は出来たらしがみつく体勢で足は左に揃えてくれ。右のコンソールパネルには触れないように、早く頼む」

 

『少佐準備できました。何時でも行けます』

アムロの下にマックスから通信が入る。

 

「早いな軍曹。流石だ。こちらももう少しだ」

アムロはそう言いながら、躊躇気味にしてる未沙を強引に引っ張り、お姫様抱っこのような体勢にさせ、コクピットを閉める。

「きゃっ」

未沙は思わす叫ぶ。

 

「よし……こちらも準備OKだ。マクシミリアン軍曹!出ろ!」

アムロはそう言いながら、通路から現れたゼントラーディ軍の兵をガンポッドで撃ち抜く。

 

マックスが長距離移動用ブースターを一気に点火させ、飛び出していく。

アムロもその後に続き、ファイター形態で飛び出す。

 

マックスが上方に加速していく中、アムロは敵を引き付けるためブリタイ艦隊2000の大船団の中を縦横無尽に飛び回る。

敵の戦闘ポッドの大部隊があちらこちらから現れるが、アムロは敵戦艦や他の戦闘ポッド部隊を盾にしながら悉く避け、敵に頭を抑えられないようにしていた。

 

アムロのバルキリーはまるで、無人の荒野を駆け回っているかのようだった。

 

アムロはマックスのバルキリーが大船団を抜けたのを見計らって、自らも脱出していく。

戦闘ポッドはいくらアムロを追っても捉えることが出来ない。

遂には敵はアムロに一発も当てることが出来なかった。

 

その間、敵は戦闘ポッドを24機撃墜、戦艦中破1の被害を被った。

被害としては少ないが、それよりも敵兵の精神に大きなダメージを植え付けて行った。【白い悪魔】の恐怖を……

 

 

 

『あれがカムジンが手も足もでなかった白い悪魔か……たった一機で我が2000の艦隊を抜けていくとは、凄まじい戦闘能力だ。あれはプロトカルチャーの真の能力なのか?あれほどの手練れは我が艦隊には………ラプラミズのエースのミリアか……』

ブリタイは艦隊を抜けていくアムロのバルキリーを、正面ディスプレイで確認しながらそう呟いていた。

 

 

 

 

 

アムロのバルキリーは途中で燃料切れを起こし、慣性移動でマクロスへと向かう。

しかし、それほど時間が経たずして、フォッカー率いる救援部隊の迎えが来て、回収される。

 

 

戦闘中、恐怖で叫びたい心をグッと堪え、アムロに終始しがみついたままの未沙は……戦闘宙域から抜けた後も一言も言葉を発せず、その体勢のままであった。

未沙の顔がずっと真っ赤であったのをアムロは知る由もなかった。

 

 




設定は劇場版とテレビ版を混ぜこぜになった感じです。
というわけで……脱出劇でした。
そういえば、柿崎君と一条君は狭いカプセルの中で……どうなった?
まあ、一条君にはミンメイちゃんが居るんで……


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アムロ地球に再び

感想ありがとうございます。
徐々に……徐々に返事させていただきたく><ごめんなさい。
誤字報告ありがとうございます。非常に助かります。

では今回は題名通りで……



ゼントラーディ軍の大船団から輝達バーミリオン小隊と未沙の救出に成功したアムロは、予定より1日遅れで長距離移動用ブースターで地球へと向かった。

 

無事帰還した輝や未沙、アムロが持ち帰った情報により、ゼントラーディ軍について幾つか判明したことがあった。

月の裏側に戦闘艦船2000隻を有する敵大船団が存在すること。

敵の巨人種はこちらの言語をある程度把握していること。

娯楽等の文化的な概念が無いことから、文化形態がかなり異なると推測されること。

女性を見かけなかったこと。未沙と輝達男女同じ場所に居た事に酷く驚いていた事から、女性は存在するが一緒に生活を営んでいない可能性があること。

さらに元々、巨人種の死体から得た血液サンプルなどにより、DNAが地球人類とほぼ一緒であることが判明していた。それが意味することは巨人種と地球人類のルーツが同じである可能性が非常に高いという事が分かっていた。

それは、人類誕生の秘密に迫る内容だ。

もしかすると地球で生命が誕生し、進化し、人類が生まれたという前提が覆る事になるのだ。

人類は地球外から来たと……

興味は尽きないが、これらの事は後は学者に任せればいい話であった。

目前の問題は今の地球が総力を挙げたとしても、ゼントラーディ軍と技術面においても、艦隊保有数を見ても明らかな戦力差があり、現状を打開する見込みが薄いという事だ。

 

マクロス上層部は未沙からの意見具申もあり、人類存続のため和平への道を模索しだしたのだ。

 

 

アムロが地球に届ける情報には上記の情報も含まれていた。

また、同行者一名は参謀部次官の田中中佐が選ばれる。

未沙は帰還後直ぐに願い出たが、却下されていた。

 

 

 

「マックス。飯行こうぜ!隊長殿がミンメイちゃんところで奢ってくれるってよ」

 

「僕は遠慮させてもらうよ、柿崎君」

 

「またシミュレーターで訓練か?敵さんの所から帰ってからずっとそれだな」

 

「思うところがあってね」

 

哨戒任務を終えた柿崎はマックスを食事に誘うが、あっさり振られる。

マックスは柿崎が言うように、敵の大船団からの帰還後、時間が許す限り、シミュレーターでの訓練や情報解析を行っていた。

マックスはあの時見た光景が脳裏から離れなかった。

敵の大船団にも驚いたがそれではない。

敵の大船団の中を縦横無尽に駆け回る真っ白なバルキリーの姿を……

 

情報部と技術部の許可を得て、アムロの戦闘データを閲覧し、毎日目に穴が開くほど繰り返し繰り返し見ていたのだ。

特に、アムロのバルキリーの各種カメラから捉えた映像を一つ一つ自ら解析していた。

(……早い。このタイミングで旋回を……僕のタイミングより0.4秒早い。……この段階では少佐の機体のロックオンアラームすら鳴っていない。後部カメラが敵を捉えた瞬間に……うん、なるほど、敵戦闘ポッドのあの挙動を一瞬で捉えての回避行動か……)

 

(射撃が正確だ。相手の動きを完全に読んでるかの様に。しかも無駄弾が殆どない。ガンポッドですら……少佐の操縦桿捌きを見て見たいが……早瀬中尉はあの時、同乗していたから見ていたのかもしれない。聞いてみようか)

 

(操縦技術が桁違いだ。見れば見るほどその凄まじさを実感する。一種のアートと言っていいのかもしれない……今の僕では、レイ少佐の動きにはついて行けない。もしレイ少佐と対峙したならば、何秒持つだろうか?僕は早い段階でこの人に出会えて幸運だった)

 

(少佐の動きは、背筋が凍るような物が幾つもある。……どう分析してみても証明できないような動きが……俗に言う経験による勘なのか……しかし、まるで未来が見えているかのような……アムロ・レイ少佐。あなたは一体――)

 

マックスはアムロの戦闘シーンを脱出時に少し見ることが出来た。

その時の光景がマックスにとってあまりにも衝撃的だったのだ。

アムロと今の自分との戦闘技術の明確な差を感じ、受け入れていた。

受け入れることで、マックスは自分に足りない物を補おうとより一層訓練に打ち込む。

アムロに対し畏怖を抱きながらも、明確に目標となる人物が現れた事に喜びをも感じていた。

 

 

 

 

アムロが無事地球へ降り立ち、地球統合軍極東方面基地にたどり着いた頃。

マクロスは新たな敵と出くわしていた。

 

「艦長。敵戦闘ポッド、いえ新型兵器1機が前線を抜け高速接近中、防衛中のフォーク小隊、ラインバルト小隊を沈黙させ、こちらの危険宙域まで到達してきます」

 

「敵の新型か!!人型だと!?マクロスに近づけさせるな!」

 

「デストロイド隊、マクロス左後方ブロックから対空防御出撃願います」

 

「バルキリー隊救援願います。マクロス左後方から敵の新型兵器が高スピードで接近、マクロスの危険宙域まで突破されました」

 

マクロスの発令所ブリッジでは、高速で接近する敵1機の対応に追われていた。

それは今迄のゼントラーディ軍の戦闘ポッドとは全く異なる形状をしていた。

人型を取り、ひと昔前の宇宙用の作業服にも似ていた。

全身赤一色のその兵器は、ゼントラーディ軍ラプラミズ直衛艦隊所属ミリア・ファリーナが駆るバトルスーツ、クァドラン・ローであった。

このバトルスーツの扱いは非常に複雑かつ繊細なため、整備も困難であり、運用が非常に難しい兵装であるため一部のエースなどにしか配給されていない代物である。

また、ミリア・ファリーナはゼントラーディ軍ボドル基幹艦隊の中ではエースのミリアとして名前が通っていた凄腕のパイロットだった。

 

「敵人型兵器、なおも侵攻中、左後方デストロイド隊2部隊全滅!!マクロスとの接触距離です!!」

 

「敵の狙いはマクロスのエンジンか!?くっ!!バルキリー隊はまだか!!」

グローバルは焦る。たった敵単騎でここまで接近を許した事がなかったからだ。

 

「もう間もなく到着です……あっ、艦長。敵人型兵器、撤退していきます」

 

「何!?弾切れか、はたまた単騎でのこのマクロス撃墜は困難とみて撤退したか、何れにしろ助かったか」

 

「敵侵攻部隊も次々と撤退していきます。バルキリースカル大隊は追撃戦に移行します」

 

「……早瀬中尉、今の赤い人型兵器一体で味方の被害はどのくらい被った?」

 

「今判明しているだけでデストロイド16機、バルキリー11機撃墜されました」

 

「間違いなく敵のエースだな。……レイ少佐が居ない間にこのような敵に出くわすとは。……マクロスのダメージコントロール。周辺宙域の警戒を怠るな」

グローバルは帽子を深くかぶり直し、シートに深く腰を沈める。

 

 

しかし、ミリアは弾切れ等の理由で撤退したわけではない。

ミリアの目的はマクロスに接近し、マイクローン装置で人型サイズとなったブリタイ艦隊の偵察兵を乗せたカプセルをマクロス内部に送り届ける事だった。

ミリアはマクロスの表層の一部を破壊し、見事カプセルを内部に置いて行く事に成功させたのだった。

「ふん。白い悪魔とやらには出会えなかったな。奴は必ずこの私が倒し、腑抜けたブリタイ艦隊の男共に真のエースとはどういうものかと思い知らせてやる」

 

地球にはゼントラーディ軍の分岐艦隊が2部隊存在していた。

主に地球を包囲していたのが女性だけの艦隊ラプラミズ分岐艦隊。太陽系全体を幅広く、制圧監視、さらにはマクロスの監視を行っていたのが男だけの艦隊ブリタイ艦隊だ。

ゼントラーディ軍は男女を完全に分けて軍を運営していた。

いや、男は生まれてから女とは一生接触がないことが殆どである。

戦闘兵器として生まれた彼らは、生まれてから死ぬまで男女の交わりがなく生涯を終えて行くのだ。

 

こうして、男女の艦隊が同じ作戦域に存在する事自体稀な状況であった。

 

 

 

 

現在、マクロスは知らずの内にゼントラーディ軍偵察兵3人の侵入を許した事になる。

しかし、この事はマクロスにとって決して悪い状況へと誘うものではなかった。

 

 

 

 

 

 

一方、地球に到着したアムロと参謀次官の田中中佐は、基地内で4日間待たされ、ようやくとある将校と接触することが出来た。

 

 

「地球統合軍中将、アラスカ統合軍総司令部提督の早瀬隆司だ」

 

「SDF-1所属参謀部中佐、田中雅也です」

「同じくSDF-1所属作戦部少佐バルキリーユニコーン部隊隊長アムロ・レイです」

 

会議室に通された田中中佐とアムロの前に、統合軍中枢の一人である早瀬中将が待ち構えていた。

早瀬中将は未沙の父親で、たった一人の肉親でもある。

今のアムロには知る由もなかった。

 

「まさか、マクロスが生きていたとはな。こうやって地球圏まで戻って来たのは良かったのか悪かったのか……君らからの提供されたこの9カ月間の交戦記録や情報は実に興味深い。映像記録だけでも膨大であり、まだまだ吟味する必要がある。これでも早くこの場を設けたつもりだ。今もこの情報を巡って、アラスカの統合軍本部では地球を包囲している異星人軍に対し、主戦派と和平派の間で論争が続いているだろう」

 

「はっ、してマクロスの帰還は……」

 

「ふむ。主戦派が押している状況だ。マクロスだけが敵視されているという認識は無い。衛星軌道上友軍艦隊は奴らに全滅させられ、残った艦隊は地球で待機していた30と月に残した10のみだ。さらにマクロスが消えてからの9カ月、奴らは地球への直接攻撃はほぼない。しかし最初期に奴らにとって威力偵察ぐらいのつもりなのか基地の何か所かはいとも簡単に潰されたよ……今の所、一般市民への被害は極微量だ。……それもこの状態がいつまで続くかはわからない。和平派の主張を取るとしてもだ。こちらにもある程度の優位性を保つ必要がある。主戦派、和平派共にマクロスを、奴らに唯一対抗できる手段として、手元に置いておきたいのだよ」

 

「という事は、マクロスの帰還は……」

 

「許可しよう。但し、マクロスは太平洋、ウエーク島南200㎞地点だ。マクロスが敵に狙われてる事実は覆しようがない。一般市民には、異星人軍との戦闘状態であるという認識を受けたくないのでね」

 

「ありがとうございます。ではマクロスに収容した市民にはどのような対応を」

 

「それは追って知らせる」

 

こうしてマクロスの沙汰を言い渡されたのだ。

アムロはこの間、口を挟むことなく無言で頷いていた。

内容はとても歓迎しているように見えないが、とりあえず地球に降り立つことが出来たという事で、田中中佐は安堵の息を吐く。

 

「ところでレイ少佐」

早瀬中将はアムロに向かって語り掛ける。

 

「はっ」

 

「君の戦果もこのマイクロチップに収められていたよ。マクロスでの活躍はまさに統合軍エースにふさわしい。グローバル准将からも信頼が厚いようだ」

 

「はっ、恐縮です」

 

「数々の開発提案に宙域における戦略・戦術策の立案まで、各方面においても見事な働きぶりだ」

 

「恐縮です」

 

「ふむ、君の出自には少々疑問を懐いているが……今の状況ではそんな事は気にしてはいられない。そうだろ?……君はこのまま極東基地に留まるように」

 

「……いえ、私はマクロスに返答を持ち帰らなくてはなりません」

 

「いや、それはできない。優秀なバルキリー乗りはすべてマクロスに持って行かれたか、宇宙艦隊と共に宇宙の藻屑となった。君には極東基地のバルキリー部隊の指導官として辞令を出している。君がマクロスで鍛えたユニコーン部隊だったか、アレに劣らない部隊を作ってくれ。スーパーパックの実戦テストも兼ねてな。さらにだ。バルキリー開発の第一任者であるタカトク大佐が非常に君に興味を持っていてね。今開発中の新型バルキリーに意見が欲しいそうだ。君が提案し再改修を施した長距離移動用ブースターか、理論上では単独で大気圏突破も出来るそうだね。素晴らしいものだと、技術部のトップが褒めていた。極東本部の開発研究部と作戦部にも顔を出してくれ、君と兵器開発と宙域での戦術論を語りたいそうだ」

 

「いや、しかし」

 

「少佐……これは命令だ。統合軍士官ならば当然受諾すべきだ」

早瀬中将のこの言い回しは、アムロの出自に対して明らかに疑っているようだ。

当然の事だが、地球統合軍のデータベースにはアムロ・レイなる人物は存在しないからだ。

ただ、グローバルから元直属の上司である早瀬中将宛にアムロについては信頼がおける人物であり、マクロスに、ひいては地球統合軍に無くてはならない人物であることを書状にしたためられてあった。

出自を不問にするから素直に命令を聞けと早瀬中将は言っているのだ。

 

アムロの処置に関して、色々な派閥による思惑が見え隠れしていた。

アムロが非常に優秀なパイロットであることは勿論だが、アムロが地球統合軍内のどの派閥にも所属していない佐官であるため、各方面の上層部としては自らの管轄下に置きやすい。

技術部等は純粋にアムロの提案力に目をつけ、より良い物を開発したいという思いもある。

また、マクロスの戦力一点集中を危険視する勢力からすれば、エースパイロットを引き抜くことで、戦力分散を図る事が出来る。

さらにはマクロスの存在を良しとしない勢力からすれば、マクロスからエースパイロットを引き抜くことで、マクロスの戦力低下を狙い、地球降下前に撃墜されれば良いとまで考えていた。

 

「中将。失礼ながらレイ少佐には一刻も早くマクロスに戻り、この事を伝えていただきたく。それだけじゃありません。少佐はマクロスには無くてはならない人材です。なにとぞ」

田中中佐は早瀬中将にアムロをマクロスに帰らすように意見する。

 

「相当信頼が厚いようだな少佐。…田中中佐。その懸念には及ばんよ。地球の我々も手をこまねいていたわけではない。大出力レーザー通信を開発、設置し、既に月基地とは連絡が付けられる状態なのだよ。マクロスももう少し地球軌道側によれば、通信可能状態になる。

現在の進行距離であれば、後1、2日の内に通信可能だろう」

 

「……」

アムロはこの世界に来てまで軍部内の政治に利用されるのは不本意でしかない。

そして、アムロにとって守るべきはこの世界の地球ではなくマクロスであった。

当然、この地球を守りたい気持ちはあるが、それよりも自分を受け入れてくれたあのマクロスの人々こそが本当に守りたいものだった。

 

「少佐…今は」

田中中佐もマクロスと共にこの9カ月戦って来た人物であった。

アムロの気持ちも痛いほどわかる。が、これ以上ごねると厳しい処分を受ける可能性がある。それはマクロスにとっても地球統合軍にとっても不利益でしかない。

 

「中将、謹んでお受けいたします」

アムロは起立し敬礼をして、受諾する。

今は恭順の意を示し、マクロスに帰還する方法を模索することを心の中に決める。

 

「ふう、私も肩の荷が下りたよ。どこも人材不足でね。特にこの極東基地は……。期待しているよアムロ・レイ少佐」

こうして、早瀬中将との会合を終える。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、マクロス上層部では戻ってこないアムロにやきもきしながらも、地球に徐々に近づいていた。

 

 

そして、今日もゼントラーディ軍の戦闘ポッド隊が攻撃を仕掛けて来くる。

 

「スカルリーダーから各機へ、あの赤い人型が来たぞ。マクロスに近づかせるな!」

 

「「「「了解」」」」

 

各小隊は散開して、面上に防御体勢を取るが、ミリアの赤いクァドラン・ローは凄まじいスピードでそれをお構いなく突破する。

「ふん。ぬるい。白い悪魔とやらはどこだ」

 

 

しかし、突破したミリアの前に青いVF-1Aが立ちはだかる。

輝達のバーミリオン小隊がミリアの突破を予想して先回りしていたのだ。

 

そして、 マックスの青いVF-1Aバルキリーとミリアの赤いクァドラン・ローの一対一のドッグファイトが始まる。

「くっ、この青いの、なかなかやる!」

 

「人型だからと言って、抜かせないよ」

 

高機動によるガンポッドと小型ミサイルの応酬。

ミリアのクァドラン・ローは近接格闘戦を混ぜてくる。

マックスのバルキリーは確実な回避行動をし、頭部レーザーで格闘戦をけん制しつつ、ガンポッドで迎撃する。

 

 

「隊長!こんなに動かれちゃ、マックスの援護ができないですよ」

 

「凄いなマックスは……。柿崎、マックスと赤い人型の戦闘域に近づいてくる敵を倒せばいい。赤い人型の援護をさせるな!」

 

「了解」

輝と柿崎はマックスとミリアの戦闘域に近づく敵を迎撃していく。

 

 

 

激しいドッグファイトを繰り広げていたマックスとミリアだが……

 

「くっ、小癪な!」

ミリアが残弾を気にしだす。

 

「強いね。でも少佐に比べればどうってことないさ。まだ僕に理解できるレベルだ。これならどうだい」

マックスはそのわずかな隙を見て、相手の腕の関節部に集中してガンポッドの弾を当て、クァドラン・ローの右手上腕部関節を破壊した。

 

「ぐっ、……貴様、次は絶対倒す」

ミリアは残弾や味方状況をみて、形勢不利と見て、一気に下がり撤退していく。

 

 

これが、マックスとミリアの出会いだった。

 

 

 

 

 

無理矢理極東基地に配属となったアムロは、タカトク大佐や極東基地の技術士官や作戦部将官などに挨拶に伺い、歓待を以って迎えられた。

翌日、指導官として極東基地バルキリー隊員を前にすることになるが、とても歓迎ムードではなかった。

その原因はどうやらフォッカーの存在が大きいらしい。

既にどこからか、マクロス帰りのバルキリー乗りの少佐が指導官、または大隊長として赴任してくると噂がたっていたのだが……

目の前に現れたのは統合軍きってのエースパイロット、ロイ・フォッカー少佐その人ではなく、名前も聞いた事がない優男風のアムロだったからだ。

ただ、アムロのマクロスでの実績などは知れ渡っていなかった。

本来アムロがマクロス帰りであることも上層部以外秘匿事項にすべきものだが、何故か漏れ出ていた。

相当、緩い空気がこの基地に流れているようだ。

 

アムロは今日は簡単な自己紹介と訓練指針について説明するに留める。

 

アムロには次の仕事が入っていた。

格納庫ではアムロ立ち合いの下、直ぐにアムロのVF-1S改のスーパーパック取りつけ作業に移る。

技術部本部やタカトク大佐から大気圏内におけるスーパーパックの評価をしてほしいと頼まれていたのだ。

 

「レイ少佐。スーパーパックの仕様を確認お願いします。……それと制御プログラムのインストールなんですが、レイ少佐のバルキリーのOSは大分触られているようで、このままインストールしても大丈夫なものなのかと……」

若い女性技術士官少尉がコクピットに座るアムロにスーパーパックについて説明を始める。

 

「インストールは俺の方でやっておく。このスーパーパックは大気圏内では空気抵抗の影響を受けやすいのか、大気圏内の高速戦闘には向いていないか……なるほど本来宇宙空間専用と思って間違いない様だな……」

アムロはタブレット端末でスーパーパックの仕様書を確認しながら、バルキリーに制御プログラムをインストールする。

 

「はい、宇宙宙域での戦闘を念頭に置いております。しかし、大気圏内での戦闘にも対応した物を開発するためにデータを取りたいらしくて……従来の物に比べ多少空気抵抗を軽減させるような形状に変更しております。大気圏内でも対応できる制御プログラムもあり、理論上では大気圏内でも戦闘出来るはずなんですが……並みのパイロットでは、このスーパーパックを大気圏内では扱えないのが現状です。……後、今開発中のVF-X3の試験データとしても大気圏内のデータが欲しいらしくて……申し訳ございません。無茶を言います」

技術士官少尉は申し訳なさそうにアムロに説明する。

 

「……このスーパーパックだが、今量産体制に入っていると聞いていたが、この基地の現存数はどのぐらいだ」

 

「はい、極東基地及びその周囲分団基地に320機あるバルキリーの内、40機分はあります。1年かけて全バルキリーに配備し宇宙空間での標準装備の予定です」

 

「そうか……、パイロットは若い奴が多い様だが……」

 

「その、ベテランパイロットの殆どが宇宙艦隊での迎撃戦で亡くなられて。基地に残っていたのは、当時の訓練生や宇宙経験のないパイロットばかりで……」

 

「そうか……この基地に直接攻められたことは?」

 

「一応ありますが、9カ月前の初期戦闘時に威力偵察程度で、勝手に引き上げてしまいました。それ以降ありません」

 

「……主な任務は哨戒任務と聞いているが、哨戒任務で敵に出会った回数は?」

 

「聞いた限りだと、無いと思います。敵は大気圏内に降りてこないんですよ」

 

「質問に答えてくれてありがとう。助かる。それにインストールも終わった」

 

「もうですか?」

 

「それにこのスーパーパック。データ通りならば、現状のバルキリーの弱点を見事に克服している。宇宙宙域戦での持続能力、さらに最高スピードはかなりのものだ。これがもう少し早く配備されていれば苦労せずに済んだだろう」

 

「やっぱりそうなんですね。少佐はマクロスから来られたと噂になってます。それと技術に明るい人だと伺っていましたので、まさにそうですね」

若い女性技術士官少尉はアムロに微笑んでいた。

 

そこに緊急警報が格納庫に流れ、緊急出動要請がアナウンスされる。

 

 

 

 

アムロは基地管制にバルキリーから通信で状況を確認する。

『レイ少佐、敵小型機が多数小笠原父島北西上空に現れました。衛星軌道上に展開する敵艦隊から出撃、大気圏を突破し、降下したものと推定します。迎撃準備をお願いします』

 

「なぜそこに……小笠原に何がある?」

 

『小笠原には軍事施設は何も……しかし、八丈島にはこのほど建造した大型レーザー通信装置の巨大アンテナステーションが存在しますが…実験施設なので』

 

「八丈島?……なるほど、敵は飽くまでもマクロスを孤立させるつもりか……哨戒任務中の部隊及び5分以内に出動できる部隊数の確認願う」

アムロは手元のタブレットでマップを開き位置関係を確認して頷く。大型レーザー通信装置は現在唯一マクロスに連絡する手段であり、明日にはマクロスが通信可能距離に到達する予定となっていた。

 

『伊豆諸島及び小笠原諸島近海、哨戒任務中の部隊はありません。他の哨戒任務部隊よりもここからの方が早いです。5分以内は現状困難です』

アムロはその返答に呆れるしかなかった。

そんな重要施設近辺に哨戒任務を行っていないだけでなく、5分で出撃できる部隊が一部隊も無いという事に。…全く緩んでいるとしか言いようがなかった。

マクロスではこの5分が生き残るか落とされるかの瀬戸際となるのにだ。

 

「遅い!俺は先行して出る。後は小隊ごとに順次出撃!……敵の予想到達時刻を!」

アムロは珍しく声を荒げていた。

 

『少佐、たった一機で無謀です。せめて大隊規模を編成しないと。それにこの基地からも対空ミサイルの準備は出来ています……』

 

「対空ミサイルだと?本来は大気圏突破中の敵を狙い撃ちするのが目的じゃないのか?既に大気圏を突破した敵に、しかも小型機に鈍重な長距離対空ミサイルが容易に当たると思っているのか?八丈島に迎撃システムはあるのか」

アムロはさらに呆れるしかなかった。

どうやら、優秀な人材は、ゼントラーディ軍の9カ月前の交戦で消耗したというのは本当らしいと。

 

『それはその、マニュアルではその対応で……八丈島は元々民間施設でして……迎撃システムはまだ』

管制室士官はあやふやに答える。

 

「レーザー通信設備が破壊されてからでは遅い。相手の射程が届く前に叩かなくては意味がない」

 

『しかし……』

 

「発進管制だけしてくれればいい」

アムロはここで一旦通信を切る。

 

 

「少尉、スーパーパックの取り付けは完了しているのか?実弾は?」

アムロは近くで待機していた若い女性技術士官少尉に再確認する。

 

「はい、搭載されてます。しかし、即実戦とは……本来宇宙宙域用の装備パックを多少改修した程度でまだ試験段階です。無茶なのでは?」

 

「途中で脱離可能なのだろう?」

 

「そうなんですが……その、脱離すると使い捨てになってしまいますので……」

 

「少尉、なるべく置いてこないようにするが、敵がそれを許してくれるか、その時は諦めてくれ」

そう言って、少尉を丸め込む。

 

「アムロ・レイ、出る」

ハッチを閉めながら、管制室に通信を繋げ、それだけを伝えた。

 

 

 

スーパーパックを装着したアムロ専用VF-1S改は極東基地バルキリー分隊のある横須賀から飛び立ったのだ。

 

 

「推進能力は相当の物だが、空気抵抗を受けてか、やはりプログラムだけでは制御コントロールがうまく行かないか……形状の問題か、特に上部ブースターパックの空気抵抗の影響が大きい様だ。問題はエンジンの小型化と対流処理の形状か……このままだと旋回能力に大きな影響がでるか……カラバ時代のZプラスの試験飛行を思い出すな……まるでじゃじゃ馬だ」

アムロは空気抵抗で震える機体をマニュアル制御で調整しながら、高スピードで突き進んでいく。

 

アムロはティターンズとの戦いの際、カラバに所属し、Zガンダムの大気圏内特化型量産機ZプラスA1タイプの試験を行っていた。

元々Zガンダムのウェイブライダー形態は大気圏再突入をスムーズに行い、大気圏内でも高速航行移動を可能としているが、モビルスーツに求められる旋回能力や運動性を犠牲にしていた。

さらに言うと、ウェイブライダー形態では近距離ドッグファイトを想定した武装が少なく、飽くまでも長距離移動の為の形態だった。

それを大気圏内運用を前提とした量産型のZプラスで解消しようとするも、武装増加やオプションパーツを取り付けると、空気抵抗の影響が大きくなり、自慢の高速航行移動の安定性を著しく欠く結果となった。そのため、Z同様ウェイブライダー形態は高速移動用と割り切った仕様となっている。

因みにカミーユがウェイブライダー形態で大気圏でも戦闘をこなせたのは、個人の優れた技量によるものである。

 

 

 

 

アムロは八丈島を越え、上空2.5キロメートル地点まで上昇し、敵空戦ポッド100機と対峙する。

「……空戦ポッド単独で大気圏突入が可能なのか?……相手の技術水準が分からないな。アンバランスも良いとこだろう」

空戦ポッドと宙域で何度か戦闘を行っていたが、戦闘ポッドや他の機体に比べ武装も性能も貧弱で、耐久力も戦闘ポッドとほぼ同様で低い。航行距離だけは、勝っていたようだ。

だが、その空戦ポッドが大気圏を単独で突入してきた事に、アムロは驚きというよりも苦笑していた。

 

空戦ポッドに対し、スーパーパックのマイクロミサイルポッドで多数ロックオンし、先制攻撃を行う。

ミサイルポッドは中空で分離し24発のマイクロミサイルを発射、敵空戦ポッドに一気に襲い掛かる。

そして、アムロは空戦ポッドとドッグファイトを展開、スーパーパックの大出力ブースターの高速移動と気流や揚力、空気抵抗さえも利用して、巧みに機体をコントロールし、空戦ポッド部隊の頭を抑え、マイクロミサイルポッドを効率よくたたき込む。

スーパーパックのマイクロミサイルポッドはまさに、密集陣形を保っている敵に対して有効であった。

 

明らかにアムロが駆るスーパーパックを搭載したバルキリーと空戦ポッドでは戦力差があり過ぎた。

まるで、現代の最新鋭戦闘機と第二次世界大戦のプロペラ機の戦闘の様だ。

3分の2を撃墜したところで、敵は撤退を開始する。

 

アムロは撤退する空戦ポッドを追撃をしようとするが、空戦ポッドが撤退していく先から高速で接近する敵大型戦闘機を確認する。

 

「なんだあれは?戦闘機か?……でかい!?100m以上ある」

 

その戦闘機は高速接近しながらアムロのスーパーバルキリーに対しビーム砲で攻撃を仕掛けてくる。

アムロはビーム砲を避けながら、追尾型ミサイルを放ち、バトロイド形態に変形しガンポッドで迎撃する。

 

アムロが放った追尾型ミサイルが、敵砲門から放たれる近接ミサイルに阻まれる。

ガンポッドの弾は命中するも、敵装甲を傷つけるだけにとどまる。

 

敵戦闘機はそのまま、アムロのバルキリーに対し、突っ込んできた。

 

アムロはファイター形態にすぐさま変形し回避する。

「装甲が戦艦並みに堅い。スピードも攻撃力も今迄の敵とは大きく異なる。まるで、重装甲モビルアーマーだな。さしずめ大気圏内も運用可能なビグロと言ったところか」

 

アムロがこう感想を漏らしたのも頷ける。

このゼントラーディ軍の兵器はケルカリア、元々戦略・戦域強行偵察が目的の高性能戦闘機である。ゼントラーディ軍切っての高速、重装甲、高火力兵器だった。

自慢の重装甲で身を固めつつ、高火力攻撃で敵を排除しながら、戦闘域の奥深くに侵入し、強行偵察を行うのだ。

但し、高性能機だけあって、各艦隊に数十機しか存在しない。

 

本命はケルカリアで八丈島の巨大アンテナステーションを高速航行で一気に近づき、高火力の攻撃でピンポイントで破壊し、離脱するつもりだったのだろう。

空戦ポッドは防衛兵器の露払いを行うために先行していたのだった。

 

ケルカリアは旋回し、ビーム砲を放ちながらさらにアムロのバルキリーに迫る。

 

「こんな兵器を隠し持っていたのか……ならば!」

 

アムロはスーパーパックのブースターを最大に吹かし、一気に高度を上げる。

ケルカリアも機首を上げ、ビーム砲を放ちながら追いすがろうとする。

アムロはバトロイドに変形し自由落下をしながら、専用ライフルを構え、機首にあるケルカリアの大きなメインカメラの中心を正確無比に打ち抜く。

ケルカリアのメインカメラは破壊され、煙を上げる。

アムロはすかさず、ケルカリアの破壊されたメインカメラにスーパーパックの腕部ミサイルランチャーを叩きこんだ。

ケルカリアは大爆発を起こし爆散。

 

 

八丈島周辺には敵機影は見当たらなくなった。

 

 

「お前たち!ぼさっとしてる暇はないぞ!敵空戦ポッドの追撃を行え!」

遅れて戦闘空域に到着した極東基地のバルキリー隊は、アムロとケルカリアの戦闘を唯見ているだけであった。

アムロは遅れて来たバルキリー部隊全員に通信を開き叱咤する。

 

「す、すみませんでした」

「は、はい」

「りょ、了解であります」

バルキリー隊はアムロの叱咤で慌てて編隊を組み、撤退していく空戦ポッドに追撃を開始する。

 

アムロ自身は追撃が行えなかった。

スーパーパックがオーバーヒート気味であった。

空気抵抗を受けるこの状況で、無茶ともいえる機動を繰り返していたためだ。

特に上部パックはフレームが変形し、脱離一歩手前の状態だった。

 

「レーザー設備は守れたか、これでマクロスにも朗報が届く。……このスーパーパック、現状では大気圏内での使用は控えた方がいいな」

アムロはそう呟きながら基地に引き返す。

 

 

その後、アムロの戦闘を大いに見せつけられた極東基地バルキリー部隊員から、アムロに対し不平不満を言う者が出ることはなかった。

 

しかし……この戦果にタカトク大佐や技術士官連中は興奮し、大いにはしゃいでいた。

そして今後スーパーパックの改良に勤しむことになる。

 

その結果、高熟練者やエース級パイロットでないと操縦が困難なストライクパックが生まれることに。

更には次世代新型試作機VF-X3が相当ピーキーな仕様になり、常人が操縦できないような仕様になったのは言うまでも無かった。




ミリアさん登場ですが、マックスとの戦闘は、TV版よりも早まってます。
ケルカリア登場……アーマードバルキリーを追い詰めた実力機です。
空戦ポッド……ご愁傷様です。
タカトク大佐……バルキリーの産みの親です。
スーパーパック。本来宇宙用です。大気圏内で使用できるようになったのは……もっと後の時代です。
VF-X3スタークルセイダー。あまりにもピーキーな機体だったらしいのでこの状態で量産には至らなかったそうです。姿恰好はファイターもバトロイドもギャプラン見たいです。
その後継量産機はVF-3000は汎用機ですね。似ても似つかないw

あ、地味に早瀬パパ登場……忘れそうになりました。



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アムロ地球でも戦場を語る

感想ありがとうございます。
その、徐々に返信できるように頑張ります><すみません。
誤字脱字報告ありがとうございます。非常に助かります。





アムロが地球に降り立ってから6日。

マクロスは地球からの大出力レーザー通信を受信し、条件付きではあるが地球への帰還許可を得る。

 

それから4日後。

マクロスは敵の攻撃を受けながらも、フォッカー大隊、ユニコーン遊撃部隊の活躍により地球へ、北太平洋ウエーク島南200㎞海上に降り立った。

時は11月下旬。マクロスが冥王星に飛ばされてから9カ月半、無事地球に帰還を果たしたのだった。

 

 

その2日後。

アラスカ統合軍総司令部とマクロスとの間で映像通信にて報告会議が開かれた。

マクロス側はグローバルと付き添い役の未沙の2名のみ。

総司令部は早瀬中将を含む、12名が参加していた。

 

会議はほぼ、総司令部メンバーの質問に対しグローバルが答えるという形であった。

内容は9カ月半に及ぶ戦闘記録についてやゼントラーディ軍の軍容などが主であり、今後のマクロスの扱いについては保留、要するに何も決定されなかったのだ。

しかも、マクロスは現在位置から移動を禁止され、乗員や収容された一般市民も一切の上陸を禁止されたのだ。

 

グローバルはそれを受け、マクロス内上層部と数時間の会議を行った後、発令所ブリッジに戻り、ため息を吐きながら艦長席のシートに深く腰を沈める。

「マクロスは地球統合軍に歓迎されていないか……早瀬中尉、市民の様子はどうかね」

 

「艦長、……マクロスの市民の方々には受け入れ先が決定されていないため、上陸はまだ先になるとは主旨を伝えましたが……」

未沙は沈痛な面持ちで答える。

 

「やはり、不平不満はでたか」

 

「はい……市民の皆さんは地球に降りて、直ぐに上陸できるものだと思ってましたから」

 

「マクロスは敵に狙われてる事は明白だ。この9カ月の間、地球は殆ど戦闘がなかった事からも……マクロスだけが狙われていると考えていいだろう。戦闘に住民が巻き込まれないためにも、この人が住んでいない太平洋の真ん中での待機命令だ。それは軍人として十分に理解できる。しかし、せめて一般市民への早急な上陸の許可を出してほしいものだ」

 

「艦長、少し休まれては……」

クローディアはグローバルの憔悴気味の顔を見て進言する。

それもそのはず、グローバルは地球に降り立つ3日前から今迄、ほぼ寝ていなかったのだ。

 

「すまない。ラサール中尉しばらくここを任す」

そう言って、グローバルは重い足取りでブリッジから出て行った。

 

地球統合軍上層部はマクロスの扱いについて、このような対応にせざるを得なかった。

ゼントラーディ軍との戦争をするにしろ、和平への道を進むにしろ、キーポイントはマクロスだからである。

いざ戦争となれば、マクロスには主力として戦わせなければならない。和平となれば、マクロスを執拗に狙うゼントラーディ軍との交渉材料として、有効に活用しなければならない。マクロスの明け渡しも視野に入れなければならないからだ。

戦争か和平かの最終判断を行っていない現段階では、マクロスを動かすことはできないのだ。

 

 

 

 

 

「未沙……レイ少佐と田中中佐は」

クローディアはグローバルが出て行くのを確認してから、未沙に先行して地球に降り立ち、音信不通となっていた二人について尋ねる。

 

「………田中中佐はそのままアラスカ総司令部付に辞令を……そのレイ少佐は……極東基地、バルキリー隊指導官及び隊長に就任されたと……」

そう言葉にする未沙に影が落ちる。

先般の総司令部との報告会議終盤で、未沙が質問許可を得て質問した内容がこれだったが、端的にこの事実だけが伝えられたのみだった。

 

「ロイは何か言っていたかしら?」

 

「……その参謀部の一人が、その……田中中佐とレイ少佐が裏切ったんじゃないかと……」

 

「火を見るより明らかね。ロイは参謀部のその人を殴り飛ばしたんじゃなくて?」

クローディアはフォッカーのそんな姿を思い浮かべながら苦笑する。

 

「席が離れていたから……皆が止めて」

どうやら、本当にフォッカーは手を上げる一歩手前まで行ったようだ。

 

「後で宥めるのに大変ね。それにしてもレイ少佐がマクロスを、私達を裏切るわけがないのに……」

 

「うん……」

未沙の返事には何時ものはきはきとした切れが全くなかった。

 

クローディアはそんな元気のない未沙の顔を心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼントラーディ軍ボドル基幹艦隊直衛艦隊司令ラプラミズは艦隊で地球を包囲するも、地球への戦闘行為を禁止していた。

基幹艦隊司令長官ボドルザーが地球への攻撃禁止命令を下していたからだ。

ボドルザーは初期戦闘で地球人類がプロトカルチャーでは無いかという疑念を抱き、見極めるため地球への直接攻撃をせず監視をさせていたのだ。

 

ラプラミズはそのため地球に降り立ったマクロスに対しても、攻撃を禁止させる命令を下した。

 

ラプラミズは地球に対し、情報収集を行うために電波や望遠による監視を行っていたが、監視を行っている兵士が次々と不調をきたしていた事に悩まされていた。

実際には地球で流れてる歌や男女が一緒に生活する姿を見て衝撃を受けた兵士達の精神が情緒不安定になった結果なのだが、ラプラミズらにはそれが何故なのかが理由が分からなかったのだ。

ラプラミズとしても、地球への介入はできるだけ避けたいという意思があったのだ。

 

しかし、直属の部下であるミリア・ファリーナが自らをマイクローン化し、マクロスへの潜入調査に志願したのだった。

ラプラミズはマクロスへの潜入調査については、以前から検討していた。すでにブリタイ艦隊からは派遣され、情報が送られている事も知っていた。

早期に実行に移さなければならなかったが、前記の事から人員の選定も進まず、中々踏み出せずにいたのだ。

ミリア本人が熱望してる上にそのような状況下であったため、断腸の思いでミリアをマクロスへと送りこむことを決定した。

 

そんなミリアだが、潜入調査とは別にある目的があった。

自分を追い込んだあの青い機体のパイロット(マックス)をこの目で見るためだ。

ミリアはマックスと2度程戦っていた。1度目は痛み分けに近い内容であったが、2度目は完全に負けていたのだ。

マックスは短期間でさらにパイロット技術が向上し、ミリアを撃墜寸前まで追い込んだのだ。

 

 

 

その頃、ブリタイ艦隊司令も地球への攻撃を禁止していたが、部下のカムジン艦隊だけはマクロスだけを狙うとし、勝手に地球に降り立ったマクロスに対し攻撃を繰り返していた。

 

 

「あの白い奴……白い悪魔は誰も見てないんだな」

 

「へい、3度の攻撃でも見た奴は一人もいやせん」

 

「くくくくくっ、そうかそうか。奴はあの艦に居ないのか。理由は分からんが、先行して地上のマイクローン共の基地に行ったという情報もある。俺もようやく運が回って来たという事か。くくくくくっ」

 

「どうしやすか、隊長」

 

「あの忌々しい艦のせいで、俺はケチをつけられっぱなしだ。あの艦は地上では動きが鈍いどころか、ほとんど動かん。さらにあの白い悪魔も居ないと来た。今がチャンスだな……。戦艦の用意をしろ……あの艦に突撃する」

 

「隊長!さすがにブリタイ司令に怒られちまうぜ」

 

「ようは落とせばいいんだろ?あの艦をよ。そうすればオヤジ(ブリタイ)も褒めてくれるってもんだ」

 

「戦艦が大気圏突入のときに、あのバカでかいビーム砲に狙われて墜とされるのが落ちでっせ!」

 

「ふん。俺に考えがある」

カムジンはニヤリと口を歪ませていた。

マクロスを確実に落とすための作戦を実行するため、準備を進めだしていた。

 

 

 

 

一方、地球統合軍極東基地に転属し、バルキリー隊の教育係兼隊長に就任したアムロだが……

 

「アムロ君!!次はアレを試したい!!どうだね。早速君のバルキリーに取り付けよう!」

 

「……タカトク大佐。後で見ておきます。そろそろ私はバルキリー隊の訓練に行かなくては」

 

「少佐!!ゴースト用の独立AIプログラムの調整を見てくださいよ!!」

「近接兵器案プラン11のビーム集束率が上がりました!!確認願います」

「ストライクパック用の姿勢制御用サブモーターを強制機動レベルまでに出力を向上させることができたんで!早速試験飛行を!!」

「コクピットの操縦桿周りの大幅改修案が実現しそうです!設計図を確認願います少佐!」

「試作集束ビームライフルが完成しました!実地試験を願います!!」

皆、目をキラキラと輝かせ、アムロに迫る。

 

「……すまん。後で俺の作業端末に全部送っておいてくれ」

アムロは少々呆れた風な表情をしていたが、それでもお構いなしだった。

 

「待ちたまえアムロ君!!君の要求を最大限に盛り込んだ試作可変機 VF-X3Z改(ブイエフエックススリーゼットカイ)からの新設計プラン1028号の基礎設計モデルがもうすぐ完成する!!もはやVF-X3とは似ても似つかない性能だ。そこでこの機体を3世代試作機としてYF-5と呼称したいと思う!どうかね!」

 

「タカトク大佐……VF-X3の量産機VF-3の先行少数量産計画が3カ月後に控えております。VF-3の量産試作機の調整も行わないといけません。

確かに現行のバルキリーの改善点を申し上げましたが……あれをすべて盛り込むのは厳しいのでは?」

 

「何を言うアムロ君!!君のお陰でVF-X3は次のステージへと上がった。量産機VF-3は出力・性能共に53%も下げた、VF-1の上位性能の所詮オモチャにすぎん!!君という技術に明るいエースパイロットのお陰で、究極の可変機が誕生する!それがYF-5なのだ!!VF-3の調整など、部下にやらせればいい!!私は早くYF-5に着手したいんだ!!だからだ。君に基礎設計図を見てもらい忌憚ない意見を聞きたい!!」

 

タカトク大佐は食って掛かるように興奮気味にアムロに迫る。

タカトク大佐はアムロと出会ってから常にこのテンションである。

VF-1の本来の性能の120%以上を出していたアムロに対し、一瞬で友情以上の物を感じてしまったようだ。さらに技術開発論議もパイロットの目線だけでなく、技術者の目線からも話すことができ、新しい発想も提供してくるとあっては、その惚れようはもはや恋する乙女の如くであった。

他の技術開発部の連中も同じような感じであった。

バルキリー次世代試作機VF-X3はアムロ着任と同時に起こったレーザー通信設備への襲撃を行った敵部隊をたった一機で撃退したアムロのデータ等を取り入れ、フレームから改装を施し始めていた。

それが今、作り上げているVF-X3Z改であった。いうならばエースパイロットアムロ専用に試作機をさらに再構築し、性能を向上させた試作機の試作機と言っていいだろう。

元々、試作機としてVF-X3は3機用意されていた。基本設計は一緒だがそれぞれ設定やフレーム、変形機構が多少異なっている。その中でも特にパイロットを無視し性能を突き詰めたものを選び、それに改修を施している最中なのがVF-X3Z改なのだ。

もはや常人が操縦できる仕様ではないのは言うまでもない。

更にそのVF-X3Z改を一から再設計し、アムロの意見を最大限に取り入れたのが、今タカトク大佐が躍起になって設計図を完成させたYF-5ということなのだ。

 

「……わかりました。私の作業端末に送っておいてください」

アムロは苦笑気味にそう言って、技術開発部から出て行く。

アムロの日課はこの技術開発部に新たに設けられた、アムロ用の設計作業ブースのデスクに座る事から始まる。

何故か技術開発部トップのタカトク大佐に気に入られ、さらに技術開発部全員がアムロに意見を求める毎日だった。

 

午後からはバルキリー隊の教育訓練となる。

 

 

アムロはマクロスが無事地球に到着したことを知り、戻る手立てを考えていた。

その第一段階に向け、動き出す。

 

それはウエーク島にある元空軍基地をバルキリー隊の訓練施設にすることだ。

現在マクロスはウエーク島南200㎞海上に留まっている。

ウエーク島から、バルキリーや戦闘機であれば目と鼻の先と言っても良いだろう。

 

その為の理由はこうだ。

『実戦に勝る訓練の場はない』

マクロスはゼントラーディ軍に狙われている事は、統合軍上層部にとって周知の事実だ。

アムロは今の時点で、地球に降り立ったマクロスがゼントラーディ軍の襲撃を少なくとも1回受けた事を知っていた。

この9カ月、地球ではレーザー通信施設が狙われたのを例外として、マクロス以外でゼントラーディ軍の襲撃をまともに受けた場所はないのだ。

マクロスの近くに拠点を構えれば、実戦を行える可能性が高い。

 

もう一つの理由は、マクロスの近隣の監視体制強化だ。

マクロスを襲撃してきた敵が他に飛び火しないように、警戒するためと。

それは表向きで、マクロス自身を監視するという意味合いの方が強い。

アムロはマクロスが地球統合軍にとって厄介な存在だと認識されている事を知っている。

そのマクロスの動きを抑えるためにも、ウエーク島の軍隊滞在は抑止力となる。

 

これらの理由をアムロの口から言えば疑いの目を向けられるだろうが、バルキリー開発に大きな権限を持つタカトク大佐や技術開発部将官らが提案すれば、極東方面基地の司令官も折れ、許可が下りやすい。

幸い技術開発部はバルキリー性能向上や兵器開発に思考が偏っており、実戦性能テストによるよりよいデータ取りが可能だと説明すれば、二つ返事でその役目を受けてくれた。

 

こうして、アムロは極東方面基地のバルキリー部隊320機のうち、94機を引き連れ訓練及び監視警戒名目でウエーク島旧空軍基地に滞在することとなったのだ。

それに何故か、タカトク大佐以下技術開発部の半数以上が海上補給艦と海上空母、巨大な工作艦を引き連れてウエーク島に……

工作艦にはバルキリーが一から作成できる設備を載せられており、もはや動く技術開発部兼工場の様相を見せていた。

 

 

 

 

そんな時だ。

 

ゼントラーディ軍ブリタイ艦隊のカムジンはマクロスを沈めるべく動き出した。

 

「お前ら、わかってるな!今日こそあの忌々しい艦にけりをつけるぞ!」

空戦大型ブースターを装着した高性能戦闘ポッド グラージに自ら乗り込み、空戦ポッドの大部隊を率い大気圏を突破し、マクロスに迫る。

 

カムジンの作戦は単純明快だ。

空戦ポッドの大部隊を率い、マクロスに纏わりつき、マクロスキャノンを撃たせないようにしたうえで、戦艦三隻を突入させ、至近距離での一斉放射を浴びせる作戦だ。

マクロスは宇宙空間とは違い、大気圏内での動きが鈍い事は既に数度の襲撃で分かっていた。

ルートさえ確保すれば戦艦と言えどもマクロスに近づくことが可能だと踏んでいたのだ。

しかも、あの白い悪魔が居ない今が好機だと。

 

マクロスは空戦ポッドの大部隊の襲来を確認し、バルキリー隊を出撃させる。

スカル大隊を主力とし迎え撃つ、エストラント・キーリック大尉が代行で率いるユニコーン部隊はマクロスの防衛に回っていた。

 

『こちらスカルリーダーより各機、大気圏はこちらのホームグランドだ。ノコノコと現れた敵さんに目に物みせてやれ』

 

『「「「「了解」」」」」』

フォッカーの檄がバルキリー部隊全体に広がる。

 

「お前ら!少佐が居ないからって気を抜くなよ。空戦ポッド如きにやられたとあらば、あの世からどやされるぞ!」

「大尉、少佐は死んでません。それに少佐はそのように下品に怒りをあらわにしません」

「……あまりにも不謹慎ではありませんか?少佐は亡くなってません」

ユニコーン部隊を率いるエストラントは通信で部隊員に檄をとばすが、若い女性パイロットのレイラとミレイに反感を食らっていた。

 

「じょ、冗談だ。例えだ例え」

エストラントはたじたじであった。

 

 

 

 

 

 

 

ウエーク島でも、ゼントラーディ軍の空戦ポッド大部隊がマクロスに攻撃を仕掛けるコースを取っている事を把握し、援軍に向かう準備を進めていた。

 

『アムロ君!!今回はスーパーパックを大気圏用に改修したものだ。前のように途中でオーバーヒートは起こさないだろう!更にだ!!上部ミサイルポッドユニット部にビームランチャーを一門装備させてみた!!更に更にだ!!貫通力を重視した集束ビームライフルを用意した!!君が好きな近接武器も装備させてある!!存分にデータを持ち帰ってきたまえ!!』

出撃直前にタカトク大佐からこんな通信がアムロの下に入って来た。

 

「大佐……了解です」

既にアムロのVF-1S改には数々の試作兵器が搭載されていたようだ。

このスーパーパックは後程、ストライクパックと呼ばれるエース機専用の火力と機動性を向上させたパックの原型だった。

 

『こちらウエーク島基地管制、極東方面基地ウエーク島滞在第204部隊 零大隊、出撃してください』

 

「第204大隊、アムロ・レイ出る」

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長!三方から敵艦隊が大気圏を抜けてきます!2000m級戦艦3隻、中型砲艦6隻です!」

マクロスのブリッジオペレーター3人娘のメガネっ娘、レーダー担当官のヴァネッサ少尉が大声で報告する。

マクロスを囲むように3方向から戦艦1隻、中型砲艦2隻の3隻編隊を編成し、大気圏を突破してきたのだ。

 

「何!?敵は本気でマクロスを落とすつもりだな!!バスターキャノン(マクロスキャノン)の準備はどうした!!」

グローバルが即時に判断する。

 

「発射可能ですが、敵の空戦ポッド部隊に進路を妨害され射線が定まりません!」

未沙がバスターキャノンの現状況を説明。

 

「構わん!!3時の方向、戦艦1隻、中型砲艦2隻に狙いを定めろ!!」

 

「了解、主砲(マクロスキャノン)発射準備、各員衝撃に備えよ」

クローディアは艦内に向け放送する。

戦闘前に既に強行型にトランスフォーメーションを行っており、主砲発射の準備はできていた。

 

「スタンバイOKです」

 

「撃て――――!!」

マクロスの主砲の大出力ビームが光の柱となって空の彼方へと撃ち抜く。

 

 

「敵3時方向、中型砲艦1隻撃墜、戦艦1隻、中型砲艦1隻は軽度のダメージです」

未沙は主砲の砲撃結果を報告する。

マクロスの主砲は逸れ、余波に巻き込まれた中型砲艦1隻が爆散するのみに留まった。

 

「くっ!逸れたか!マクロスはこのまま3時方向の敵だ!スカル大隊を7時の方向の艦隊!ユニコーン遊撃部隊を11時の方向の艦隊に向かわせろ!!マクロス防衛戦力をすべて出せ!!」

 

「了解!」

 

「スカル大隊 フォッカー中佐……7時の……」

「ユニコーン遊撃部隊 キーリック大尉……11時に」

ブリッジ内は慌ただしく言葉が飛び交う。

 

 

 

大気圏突破した敵2000m級戦艦及び中型砲艦は空戦ポッド部隊及び戦闘ポッド部隊を多量に投下し、バルキリー部隊と対峙させながら、マクロスへ迫っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

カムジンはこの状況をグラージの中でほくそ笑んでいた。

「くはははははっ、どうだ!!この敵の慌てよう!!精鋭と艦隊をつぎ込んだんだ。お遊びは終わりだってことだ!!」

 

 

しかし、11時の方向の中型砲艦が突如として爆散したのだ。

 

「何!?どうした!!」

カムジンは11時の方向の艦隊に目を向け、通信を行う。

 

『わかりません!!敵戦闘ポッドは味方戦闘ポッド部隊、空戦ポッド部隊と交戦し、我が艦隊には近接していない筈です!!……ん?なに?……上空から一機?うわっーーーーーーー!!』

そこで11時の方向の戦艦との通信が途切れる。

 

カムジンが見たものは戦艦が上空から何かに貫かれ、分解しながら爆散していく姿だった。

 

そして、11時の方向の生き残った中型砲艦からの通信も……

『上空から白い戦闘ポッドだと!!……し、白い悪魔だ……、回避!!回避ーーーっ!!』

中型砲艦も爆散し、分解しながら海へ落ちていく。

 

「な!?な!?なんで奴が!!」

カムジンは目の前の光景と味方からの通信で混乱する。

 

 

 

 

 

 

 

 

アムロは第204大隊バルキリー部隊を率いて、マクロスの救援に向かって居たが……

 

「敵の動きが速い。このままでは……大黒中尉!敵の状況はわかるな!俺は11時方向の艦隊を墜とす。中尉は大隊を率いマクロス正面3時方向に敵艦から出撃した戦闘ポッドと空戦ポッドを抑えろ!」

 

『しかしレイ少佐。3時方向の戦闘ポッド、空戦ポッドの数は300を超えてます……我が隊だけでは』

 

「中尉、戦術シミュレーションナンバー21通りに動け。機体性能はこちらの方が上だ。落ち着いて戦えば撃破も可能だ!」

 

『りょ、了解いたしました』

 

アムロは引き連れた86機を切り離し、アムロのビーム砲を搭載した大気圏用スーパーパックを装着したVF-1S改は一気に加速上昇し雲の先に消える。

 

 

 

アムロはマクロスから11時方向の敵戦隊を遥か上空から捉え、バトロイド形態に変形し、自由落下をしながら試作集束ビームライフルを構える。

 

「このビームライフルが予定の性能ならば、戦艦も貫けるはずだ……そこっ!」

アムロはまずは中型砲艦に狙いを定め、エンジンルーム2か所、敵ミサイル弾薬庫2か所、管制室1か所を正確に撃ち貫いた。

中型砲艦は分解しながら爆散する。

 

その後アムロは戦艦に狙いを定めながら通信を開く。

 

「エストラント…キーリック大尉!聞こえるか!今からその戦艦を撃墜する!直ぐに離れろ!」

 

『え?旦那?……ま、まずい!!おいお前ら!!この空域から離れるぞ!!全速だ!!』

エストラントは一瞬その通信に驚くが、直ぐに慌てて部隊員に通信する。

 

ユニコーン部隊36機が一糸乱れず、戦闘空域から一気に離脱するところを確認し、アムロはビームライフルを放つ。

 

アムロが放ったビームライフル5発は2000m級戦艦のエンジンルーム、弾薬庫、管制室を見事貫き、誘爆し、分解し戦闘ポッドや空戦ポッドを巻き込みながら爆散していった。

 

「流石大尉だ。こうもまとめるとは………次だ!」

アムロはエストラントの部隊を率いる手腕を褒めながら、次のターゲットへと視線を移す。

 

残りの中型砲艦も、アムロのバルキリーは自由落下しながら正確に敵の急所を貫き、最後はすれ違い様に弾薬庫を撃ち、爆散させる。

 

アムロは爆発の余波を避けるためにファイター形態に変形し、空域を離脱。

 

 

『戻って来ると思ったぜ旦那!』

エストラントからの通信が直ぐにアムロの下に入る。

 

「いや、正確には戻れていない。指揮系統的に命令権は無いが……大尉、7時方向のスカル大隊の援護に向かい、敵を抑えてくれないか?」

 

『旦那、言いっこなしだぜ、俺らの中では、隊長はあんたしかいないんだ。命令権?そんなもん知った事か。いいぜ7時の方向だな。またあんたと戦えて嬉しいぜ』

 

「ああ」

アムロはそんなエストラントの返答に気恥しさを感じ、鼻を掻きたい思いがした。

 

 

 

アムロのバルキリーのスーパーパックのブースターに火が付き、3時方向に向かって一気に加速する。

 

 

 

 

マクロスの発令所ブリッジでは……

 

「11時方向の敵戦隊沈黙!?」

未沙はその光景を驚きながら報告する。

 

「何が起きた!!」

 

「友軍機による攻撃です!援軍のようです!3時方向にも友軍機大隊が向かってます」

ヴァネッサ少尉が状況を報告。

 

「何!?統合軍はマクロスを見捨てたのではなかったのか?……所属は?」

 

「不明です。ですが11時方向の友軍は一機です。望遠カメラではブースターのような物を装着した真っ白なバルキリーを確認しました」

さらにヴァネッサは報告を重ねる。

 

「まさか……」

ブリッジはその報告にある予感と期待を感じていた。

 

 

『マクロス……こちら極東方面基地第204大隊』

通信オペレーターのトップである未沙の下に通信が入った。

 

「………少佐?」

未沙は声とその通信映像に写る人物を不思議そうに見る。

 

『久しぶりだな早瀬中尉。艦長に3時方向の敵は任せてくれと伝えてくれ』

 

「レイ少佐!よく……了解、ご武運を!」

未沙は顔をほころぶのを我慢するが、声は上ずっていた。

 

『了解だ』

 

「艦長!アムロ・レイ少佐が帰還されました!3時の方向を任せろと!」

未沙はグローバルに即報告する。

 

「なんと!よし!マクロスに付き纏うポッドを蹴散らしつつ、7時方向に反転回頭!!」

 

 

 

この後、アムロは3時方向の戦艦1隻と中型砲艦を撃破し、遅れて到着した第204大隊と合流し戦闘ポッド、空戦ポッドの大部隊に大ダメージを与える。

 

 

7時方向ではフォッカー率いる大隊が善戦し、輝、マックス、柿崎のバーミリオン小隊が中型砲艦に取りつき、内部からの破壊に成功。

援軍に駆けつけたエストラント率いるユニコーン部隊も中型砲艦を撃墜。

 

残るは戦艦だが、捨て身の様相を見せバルキリー部隊を抜け、マクロスにビーム攻撃を浴びせながら迫る。

 

マクロスはビーム攻撃はピンポイントバリアで何とか防ぐが、敵の突撃を抑えられないでいた。

 

眼前に迫ってくる敵戦艦……

しかし、マクロスのブリッジの真横を白い閃光が過ぎ去っていった。

 

 

アムロのバルキリーだ。

敵にスーパーパックに取り付けられたビーム砲を浴びせながら戦艦真正面に突撃をする。

「ビーム砲の貫通力が低い様だな。ならば!」

 

ビーム砲は戦艦にダメージを与えていたが、貫通力が弱く、表層の破壊に留まる。

ビームライフルのエネルギーも既にゼロであった。

アムロは敵の弾幕を避けながら、艦首の前でバトロイド形態に変形し、伸縮する棒を取り出し、敵管制室のあるブロックに投げつけた。棒の先端が光り輝き、槍状の突起が現れ、管制室に突き刺さった。

 

これは極東方面基地の開発陣がアムロの意向で作成していた近接用のビーム兵器だった。

ビームサーベルはやはり、この世界では作成が困難であったが、その過程で出来たものがこれだった。高い収束率を必要としなかったのと、敵に当たる瞬間だけ放出するように設定することで、ビームジャベリンとほぼ同等の物が出来上がったのだ。

 

アムロは直ぐにファイター形態に変形させ、左のエンジンブロック目掛けてミサイルとビーム砲を全弾放ち破壊する。

 

敵戦艦は大きく右に逸れ、マクロスから遠ざかり、海上に落ちる。

 

 

 

 

その光景をむざむざと見せつけられたカムジンは怒り狂ったようにグラージをアムロのバルキリーの後ろから突撃させる。

「くそーーーーーーっ!!この悪魔がーーーーー!!」

 

ほぼ全弾撃ち尽くしたアムロのバルキリーだが、突撃を難なくかわすと同時に頭部レーザービームと残りのガンポッドの僅かな残弾で難なくカムジンのグラージを撃墜し、カムジンのグラージは海へと墜落する。

 

 

 

撤退していく空戦ポッドと戦闘ポッドの追撃戦も終わり、アムロはマクロスに接触通信で要点だけを伝え、第204大隊を率い、ウエーク島へと帰還していった。

 

 

「そうか、レイ少佐を強制的に極東方面基地に転属させたのか……やはりマクロスは厄介ものという事か」

グローバルは呻く。

アムロの接触通信で現状のマクロスの立場を、アムロが調べることが出来た範囲で伝えられたのだった。

 

「……レイ少佐」

未沙はアムロが飛び去った空を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 




ウエーク島に帰還したアムロを待っていたものは。
むさくるしい技術開発陣。
さらなる兵器の向上に尽力するそうです。

一応スーパーパックでしたが、ビーム砲が一門搭載されてます。
ほぼストライクパックですね。
一応ストライクパックの前段階という意味で、スーパーパックの名のままにさせてもらってます。

マクロスの全方位バリアの暴走回避!!
柿崎君死亡フラグ回避!!
フォッカー死亡フラグ回避!!

今回のアムロの活躍ですが……
戦艦3機中型砲艦3機撃墜。
戦闘ポッドと空戦ポッドは沢山。
何機落としたのかわからないですね。
今回は一年戦争のアムロの戦闘シーンのBGMが耳になってました。
ドムとムサイを落としいく二つ三つってカウントするシーンを妄想してました。

マックスが徐々にアムロの影響を受けて来たようです。実質中型砲艦を1隻落としたのはマックスです。

次は宇宙に放り出されるマクロスがどうなるか?
歌も混ぜたいですね。


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アムロ再び宇宙へ

感想ありがとうございます。
毎度すみません。徐々に返信できればなと……
誤字脱字報告もありがとうございます。非常に助かっております。

ご無沙汰しております。
ようやく書くことができました。
完結まで後2話と思っていたのですが……
どうやら、もうちょっと続きそうです。

では……



2009年12月末

カムジン率いる艦隊のマクロス襲撃から、半月が経過していた。

その間、マクロス襲撃どころか、ゼントラーディ軍に動きは無かった。

 

 

しかし……

 

「なんですと!………せめて市民の受け入れだけでもしてはいただけないのですか!彼らは巻き込まれ、やむなくマクロス内で過ごす羽目になった被害者ですぞ!」

グローバルは統合軍参謀本部からの命令に激高していた。

マクロスに下った命令は宇宙域からのゼントラーディ軍監視任務。聞こえはいいが、ようするにマクロスの地球外退去だ。

グローバルはせめて市民だけでも、地球に残したいと願い出たのだが、それすらも認められる事は無かった。

統合軍から与えられたものは物資の補給とこれまでの功績と称し、マクロス艦内軍人の一階級昇進というものだった。

 

 

その頃、地球統合軍上層部は主戦派が台頭していた。

地球統合軍では地球宇宙宙域に展開するゼントラーディ軍艦隊に対し、切り札となる効果的な兵器を二つ開発、又は改良を施し、壊滅又は排除プランを計画、その準備を進めていた。

一つは大量破壊兵器、マクロスの主砲に使われているエネルギー理論を応用した対宇宙域兵器である『グランドキャノン』である。地表から直接宇宙の艦隊に攻撃可能な超巨大兵器だ。現在完成し稼働可能なのは地球統合軍アラスカ本部に併設され、地下に埋設されている6キロ砲身を擁するグランドキャノン1基のみ。その他地球では3基、月で1基が現在建設中であり、建設を急がせていた。

グランドキャノンは理論的にはマクロスの主砲の数倍の威力を持ち、全て完成すれば3000の敵艦隊を消滅させるだけの力を持つと想定されていた。

地球統合軍はマクロスを囮にし、地球からゼントラーディ軍の目を宇宙のマクロスに向けさせる事で、グランドキャノンの存在と稼働状況を隠そうとしていたのだ。

そしてもう一つの兵器は……

 

 

 

マクロスの地球退去命令が下された3日後、マクロスは地球統合軍からの最後の補給を受けた後、再び地球を旅立ち宇宙へと……

 

 

しかし、マクロス上層部にとって大きな誤算があった。

 

「ふむ、艦長よろしく頼む」

 

「よろしいのか?タカトク大佐」

 

「はっはははー、私の権限はかなり自由でね。それなりの成果を上げれば、頭の固い統合本部も納得するでしょう!それよりも早速だが、マクロスの機関部に案内していただきたい!」

 

「………大佐を案内して差し上げろ」

グローバルは一呼吸おいてから、クルーの一人に大佐を案内させた。

 

そう、タカトク大佐が地球外退去するマクロスに乗艦したのだ。

 

タカトク大佐はマクロスに地球外退去命令が下された後、ウエーク島に滞在させていた技術開発スタッフと工作艦や空母、補給艦を引き連れ、マクロスの補給のどさくさに紛れて乗り込んできたのだ。流石に艦船は残してきたが、開発機器やバルキリー生産可能な機材の一切合切をマクロスに積み込んだのだ。

 

グローバルはタカトク大佐の乗艦はマクロスにとって、良かった事なのか悪かった事なのか計りかねていた。

とりあえずは統合本部からの抗議必須だろうと……

 

しかし、それはグローバルの杞憂であった。

後程、正式に地球統合軍本部からマクロスのグローバルに対し、タカトク大佐率いる機動兵器開発チームの乗船と、タカトク大佐のあらゆる要求を実現するようにと通達が送られてきたのだった。

 

タカトク大佐は統合軍本部と事前に話を付けていたのだ。

強引なのは何時もの事なのだが、マクロス乗艦に当たって、統合軍本部が納得できるだけの材料を提示し、交渉を行っていたのだ。

それが地球統合軍が対ゼントラーディ軍に対して、グランドキャノンと共にもう一つの切り札となる『反応弾』の運用試験だ。

反応弾―――核爆弾を改良した兵器であり、現地球統合軍では大量破壊兵器であるそれはあまりにも危険かつ、倫理的な観点で使用凍結されている兵器であった。

ただ、10カ月前のゼントラーディ軍との初期戦闘で宇宙軍が数発使用し、敵方艦隊にダメージを与えた事は確認されていた。

但し、その宇宙軍は跡形も無く壊滅させられたため、その時の正確なデータは統合軍に届くことがなかったのだ。

理論上は小型の反応弾一つで敵の戦艦を丸ごと破壊できる威力を持っているとされているが、敵艦隊や艦船に対しての正確なダメージ値や有効射程、耐久力、速度などのデータが不足しているため、3000もの敵艦隊に対して、正確性の高い効果的な戦術が立てられないでいたのだ。

 

そこに目を付けたタカトク大佐は統合軍本部と取引を行った。

ゼントラーディ軍と交戦を繰り広げているマクロスで反応弾の実践テストを行い、地球統合軍本部 戦略室が喉から手が出るほど欲している反応弾の正確な効果データを統合軍に逐一送信する事を引き換えに、タカトク大佐率いる機動兵器開発チームのマクロスへの乗艦許可を半場強引に取り付けさせたのだ。

当のタカトク大佐は反応弾のためではなく、バルキリー開発のデータが欲しいためにこのような事をしたのだが……

更に反応弾の正確なデータを取るためにと、タカトク大佐は統合軍本部にある要求を行った。

これがマクロスやマクロスクルーにとって何よりも嬉しい誤算だったのだ。

 

 

 

 

マクロスが宇宙に上がる2時間前。

とあるバルキリー大隊がマクロスの甲板に着艦し、機動エレベーターから格納庫に入り、パイロットは次々と降り立つ。

 

「よお、アムロ。よく帰った」

 

「ロイ……遅くなってすまない」

 

「お前も物好きな奴だ。世界で一番危険なこんな場所までわざわざ戻って来るなんぞ」

この程大佐に昇格したフォッカーはVF-1S改から降りたアムロにそう言いつつも嬉しそうに肩に腕を回す。

 

タカトク大佐はアムロ・レイをマクロスに乗船させることを条件に交渉していたのだ。

反応弾の試験運用にこれ程適した人物はいないと力説し、地球統合軍本部 戦略室が期待する以上のデータをアムロなら取得可能だと言い切ったのだ。

地球統合軍本部も、それには同意せざるを得なかった。

現状、反応弾が使えるパターンとして、エース級パイロットが敵戦艦に近づき、撃ち込む以外に方法が無かった。

エースパイロットを失うリスクが非常に高い上に、エースパイロットの数は現在の地球統合軍には一握りしかいないため、現実的な戦略が立てにくい状況であった。

バルキリーで敵戦艦を単独撃破し、帰還するという荒業を何度も実践してきたアムロならば、反応弾の運用データを確実に持ち帰る事が出来るだけでなく、あらゆる角度や方法での反応弾の使用試験が可能である。

更に、アムロは新たなバルキリー運用戦術も幾つも編み出し、実戦レベルで成功させている。

エースパイロットだけでなく、通常のパイロットでも反応弾が使用できる戦術を編み出し、持ち帰って来る事が可能だろうと言う事は、今までの実績を見ても否応なしに期待感が高まるのも致し方が無いだろう。

結局、地球統合軍はアムロ・レイをタカトク大佐の麾下に置き、マクロス乗艦を極東基地所属の64機のバルキリー大隊と共に許可したのだった。

 

 

「少佐!お帰りなさい!」

「レイ少佐!」

「少佐!」

次々とパイロットや整備兵が、フォッカーと共に艦橋へ歩むアムロの下に駆けつけて行く。

 

「おい、お前ら!少佐は艦長に挨拶に行くんだよ。邪魔だ!」

エストラントはそんなパイロット達をかき分け、一喝して、アムロの進む道を作る。

 

「エストラント……」

 

「アムロの旦那、これで俺の肩の荷が下りるってもんだぜ……よく帰って来た」

エストラントはそう言ってアムロに握手を求め、アムロもそれに応える。

 

「ふっ、大尉……いや少佐だったな。俺と同じ階級だ。ユニコーン部隊の隊長は任せたぞ少佐殿」

 

「げっ!それは無いぜ旦那~」

 

その後も、ユニコーン部隊の隊員たちが次々とアムロの許に集まって来た。

 

 

 

格納庫での一通りの挨拶を済ませ、アムロはフォッカーと共にブリッジまで向かう。

「アムロ・レイ、戻りました」

 

「少佐……」

「レイ少佐、お帰りなさい」

ブリッジの入口から入り敬礼するアムロに未沙を筆頭にブリッジクルーも歓迎の声を上げる。

 

「レイ少佐、よく戻ってくれた。これほど心強いことは無い。……だが、よく戻ってこられたものだ。こちらにも辞令などの通達はなかったが……もしや、無断でか?……それならそれでいい。君の身柄は必ず守る。統合軍にも一切手出しはさせん」

真新しい少将の階級章を胸にするグローバルも、この時ばかりは顔がほころぶ。

 

「私も強引にマクロスに乗り込むつもりでしたが……それがタカトク大佐がどうやって統合軍本部を説得したのかはわかりませんが、無理矢理ねじ込んだようです。

更に第204大隊の半数以上を、テストパイロットとして64名は引き連れております」

アムロはウエーク島基地でタカトク大佐が極東基地と統合本部との通信で大声を響かせていた事を思いだし、苦笑する。

 

「ふっ、君はあのとんでもない大佐殿に相当気に入られているようだ。何にしろ、マクロスは君の帰りを歓迎する」

グローバルとアムロはがっちりと握手を交わした。

 

 

この後、宇宙に上がったマクロスに地球統合軍本部からレーザー通信で、正式にタカトク大佐は准将に昇格し、そのスタッフとテストパイロットたちは宇宙方面技術試験運用軍としてマクロスに滞在することとなった。

そのバルキリー運用試験を主とする第603技術試験隊 部隊長、そしてこの試験運用軍のNo.2としてアムロは中佐に昇格する。

独立した組織である宇宙方面技術試験運用軍所属であるため、正式にはマクロス所属ではないが、マクロスで活動する事には変わりはない。

 

 

 

マクロス作戦部内の編成も大きく変更されていた。

バルキリー隊は2~3師団クラスのパイロットの人数が回復していた。

アムロが発案した数々のバルキリー運用戦術により、パイロットの生還率が劇的に高まり、更にパイロット育成に力を注いできた結果だった。

フォッカー大佐はバルキリー師団ともいえる部隊のトップとして、これまでの様に先頭に立って率いる事は困難な立場となった。但し、フォッカーの性格上、それは直ぐに瓦解するだろう。

 

一条輝は中尉に昇進し中隊を率いる事になり、小隊だった頃の名を引き継ぎ、バーミリオン中隊24機を率いる事に、副長としてマックスが少尉に、柿崎が准尉に昇進、小隊を率いていた。

既にエース部隊の一つとして扱われる。

 

エストラント少佐はバルキリー遊撃大隊ユニコーン部隊48機を率い、エース部隊として高度な戦略に従事することに……。本人はアムロの代わりなんて出来ないと、相当嫌がっていたが、アムロやフォッカーの後押しでしぶしぶ了承する。

 

更に、タカトク准将がマクロスに持ち込んだのは反応弾だけではなかった。

スーパーパック60機分、開発完了したばかりのストライクパックを5機分、VF-1Aのマイナーアップデート版 VF-1Jを持ち込んでいた。

スーパーパックについてはユニコーン部隊にすべて装着。ストライクパックについてはエースパイロットに配備された。

 

 

 

 

 

アムロはと言うと……

 

「アムロ君!マクロスのエネルギーバイパスの改善と変換器を直しておいた!!全方位バリアも可能だ!!さあ、私のバルキリーの旋回能力試験とビーム兵器試験に付き合いたまえ!!」

 

「ありがとうございます准将。……統合軍本部の反応弾の試験や改良は良いのですか?」

 

「ふん。あんなものはミサイル屋にやらせればいい。試験だけはやってやるが、今は敵が攻めてこないではないか!!更にだ!!大量破壊兵器は好かんのだよ!!君は集束ビームライフル一本で戦艦を何機も墜としてみせたではないか!!あれこそがアート!!あれこそが機動兵器の本分であり、私の可変機に相応しい!!VF-X3Z改にはエネルギーCAPをさらに効率化することで、熱廃棄問題を解決と同時に小型化させ、集束ビームライフルを腕部に標準装備させた!!エネルギー切れ等無い様に、ビーム兵器のエネルギーは交換式に変更させた!あのスマートなフォルムはどうだ!!後付けのミサイルなど要らん!!」

タカトク准将はマクロスのバリアについて、アムロから見てほしいと言われていた。

その前にマクロスの技術開発部や上層部から依頼していたようだが、タカトク准将はあまり興味を示さなかったようで、最初は拒否をしていた。

だが、アムロからと言う事であれば別だった。

自分達の試験に付き合ってもらうために、タカトク准将や開発陣スタッフは不眠でマクロスのバリア系統のエネルギー供給問題を調査し、改善、修繕を行ったのだ。

 

「了解です。午後からの試験運用にVF-X3Z改に搭乗します」

 

「うむ!良いデータをよろしく頼む!!」

タカトク准将は満足げに頷く。

 

「レイ中佐!サポート用のゴーストの調整が終わりました!是非試験運用を!」

「姿勢制御モーターの噴出口を改良しました!見てください!」

「ストライクパックとストライクパック改の宇宙試験運用をお願いします!」

「コクピット周りのコンソール簡略化についてご意見をください!」

「衝撃吸収材の改良に成功しました!早速VF-X3Z改のコクピットに取り付けます!」

「ガウォーク形態排除による、変形のスムーズ化について意見を!」

タカトク准将との話が終わると、アムロの下に技術開発スタッフが押し寄せる。

 

「……わかった。意見書はまとめて俺のコンピュータに送ってくれ、試験運用については順次行う。ストライクパックは603部隊から1名とマクロスのバーミリオン中隊から2名借り受けてる。ダブルストライクパック(ストライクパック改)とサポート用ゴーストについては後日、俺が試験運用する」

アムロは苦笑しながら返事をし、開発室から出て行く。

この建物の屋上のベンチに座り、そこでタブレット端末をじっと眺めていた。

一人で考え事をしたい時、アムロはいつもこの場所で、こうやってリフレッシュしながら自分の作業に入っていた。

 

 

「……レイ中佐、大分お疲れのようですね」

 

「早瀬…大尉か。よくここを通してもらえたな」

 

「ふふふっ、マクロス内部について、私以上に把握してる人間はいないんですよ」

未沙は微笑みながら答え、アムロの対面に座る。

 

ここはマクロス内に急遽設置された宇宙方面技術試験運用軍専用の建物だ。

マクロス内部のバルキリー発着ドックの一つを丸ごと利用し、そこの建物を占拠していた。

一応、マクロスとは別の組織になる上に、機密性の高い研究などが行われているため、マクロス内における治外法権と化していたのだ。

マクロス所属の軍人も許可なくこの区域に入れない。

更に言うと、軍務中のアムロにマクロスの軍人が会う事は困難となっていた。

皆、受付で追い帰されるのが落ちであった。

宇宙方面技術試験運用軍の最重要人物である上に、技術開発スタッフは普段からアムロの取り合いになる状況下で、他の軍人など正式命令以外にアムロに会わせるはずが無いのだ。

 

 

更に、軍務が終わればアムロはフォッカーに連れ回されるか、ユニコーン部隊の誰かに待ち伏せさせられ、連れていかれる事が多い。

未沙もアムロを訪ねるが、いつも先を誰かに越されるため、こうやってこっそり会いに来たのだ。

 

「レイ中佐、ちゃんと食事はとられてますか?」

 

「いや、朝から何も口にしていないな」

 

「食事はしっかり取らないと、体力が持ちません。……そのよかったら」

未沙はそう言って、手に持っていた手提げ鞄から、小さなバスケットを取り出し、目の前のテーブルに手作りサンドイッチと飲み物を置く。

 

「助かる。早瀬大尉」

 

「どういたしまして」

 

「ところで、大尉は俺に何か用があったんじゃないのか?」

アムロはタブレット端末を置き、サンドイッチを手にする。

 

「その………私も休憩を……」

 

「?」

 

未沙は言い訳を思いつくことが出来ず、顔を赤らめながら答える。

未沙の持ち場である発令所ブリッジとここでは場所が離れ過ぎており、休憩などという言い訳は成立しない。

 

 

休憩所にリン・ミンメイの歌が流れ、テーブルの空間投影型のディスプレイにミンメイが歌う姿が映しだされた。

 

「この子も、有名になったものだ。歌か……」

 

「レイ中佐はどのような歌が好きなんですか?」

 

「いや、こうして歌を聞くのは何年振りかだ。暇を持て余した時期にはよく聞いたものだが……」

 

「そうですか、サンドイッチは口に合いました?」

 

「あ、ああ、美味い。……そう言えばこの歌の彼女は一条中尉のガールフレンドだとロイに聞いたが」

アムロは既にサンドイッチを4つ目に手を伸ばしていた。

女性からの頂き物に対し儀礼的に美味しい事を伝えるという作業を自然と忘れ、手抜かりがあった事に思い出し、褒め言葉を口にし、慌てて別の話題を振る。

アムロは昔、幼馴染のフラウ・ボゥによくその事に注意された事を思い出す。

アムロ自身、未沙の前でも自然とリラックスしていたのだろう。

 

「その話ですか、軍に取材が来てました……。どちらかと言うと、一条中尉は彼女に振り回されている感じがします」

 

「あの一条中尉を振り回すか……」

 

「……そのレイ中佐には……その、気になる女性は……」

未沙は言い難そうにアムロに女性関係について質問しようとしたのだが……

 

 

突如として、警報がけたたましく鳴り響く。

敵襲撃警報音だ。

 

「もう、こんな時に!」

未沙は悪態を付いていた。

 

「バルキリーで出る。……大尉、建物の外まで一緒に居た方が怪しまれない。行くぞ」

アムロは未沙の手を引いて、早足でエレベーターへ向かう。

未沙は無断でこの建物に入って来てるため、その配慮をアムロは行ったまでだったが……

 

「れ、レイ中佐……え、ええ」

未沙は顔を若干赤らめ、アムロに引っ張られるがまま、ついて行く。

 

 

 

 

アムロは未沙と別れ、格納庫に到着し、整備兵に声を掛ける。

「今直ぐに出られる機体は?」

 

「中佐!!……失礼しました。VF-X3Z改は各種装備を換装中で時間がかかります。ダブルストライクパックを換装した中佐のVF-1S改なら直ぐに発進できます」

年若い整備兵はアムロが突然現れた事に驚くが、冷静さを取り戻し説明する。

 

「装備は?」

 

「既に中型反応弾2発を搭載しております。そのため、専用ライフルとバズーカは装着できません。携行兵器はガンポッドと集束ビームライフル一丁、ビームジャベリンです」

 

「十分だ」

アムロはそう言って、ダブルストライクパックを装着したVF-1S改に向かい乗り込む。

 

ストライクパック。

スーパーパックの上部ブースター片側の前部マイクロミサイルユニット部に二連装ビームカノンを搭載し、攻撃力と更に運動性とスピードを上げたものだ。

以前、アムロが試験運用していた改良型スーパーパックの正式生産版だ。

ただ、その扱いが難しく、エースパイロット級でしか扱い切れず、少量生産のみとなっていた。

更にそのストライクパックを改良したものが、ダブルストライクパックと呼ばれるものだ。

上部エンジン両方に貫通力を高めた単砲の集束ビーム砲を搭載し、更に持続性を多少犠牲にし、スピードと旋回能力を向上させたほぼアムロ専用と言っていい仕様となっていた。

 

「中佐、アレの準備も可能です」

 

「………わかった、必要になる可能性がある。念のために発進させてくれ」

 

「了解です」

アムロと整備兵が言うアレとは……とある兵器を改良したものだった。

 

アムロは自らを先頭に、603部隊、通称ペガサス部隊の面々を出撃準備が整った小隊ごとに出撃させる。

 

 

 

 

 

マクロスの発令所ブリッジでは……

 

「艦長!敵艦隊に包囲されました。その数100を超えてます!」

ヴァネッサ中尉が艦長に報告する。

 

「なんと……敵艦隊は遂に本気でマクロスを墜とすつもりの様だ……しかし、活路は必ずある」

グローバルは前方のディスプレイを睨みつけていた。

今迄に無い数の敵攻勢に驚きはしたが、まだ想定内であった。

 

「艦長、敵旗艦と推定される4000m級戦艦を確認いたしました」

未沙が敵艦隊情報を分析し、報告する。

 

「うむ……ここは敵旗艦を一気に叩き、相手を撤退させる。全方位バリアは稼働可能か?」

 

「はい。但し、連続使用は現段階で2時間持ちません」

 

「ふむ、敵遠方時はピンポイントバリアで対処。先ずはバスターキャノンで敵艦隊に穴を開け、道を作り、続いてバルキリー大隊で敵艦隊をけん制をする。敵旗艦突貫時に全方位バリア発動、敵旗艦にダイダロスアタックを仕掛ける。バルキリー部隊への反応弾の配備状況はどうか!?」

 

「現在、出撃可能な反応弾を積んだバルキリーは8機です」

 

「反応弾を搭載したバルキリー8機を中心とした部隊をマクロス前方に配備、マクロスの進路を阻む敵艦に反応弾をお見舞いしてやれ!」

 

「了解」

クローディアが返事をする。

 

「603大隊のレイ中佐には、挟撃の恐れがある後方の敵艦隊を任せる、と打診してくれ!」

 

「了解です」

今度は未沙が返事をする。

 

 

 

 

 

アムロが出撃し、宙域で自部隊と合流して直ぐに未沙から通信が入り、マクロス後方敵艦隊の対応を打診される。

アムロは603大隊 48機を率い、マクロス後方敵艦隊に向かう。

 

マクロスは主砲 バスターキャノンを放ち、敵艦船を6機撃墜させ、敵旗艦戦艦への道を作り、突撃を開始する。

 

アムロは途中で部隊を切り離し、マクロスに先行して移動する戦闘ポッド部隊のけん制を任せ、

自身は単独で敵艦隊にスピードを上げ、突撃を開始する。

 

アムロは敵艦隊に突き進みながら、妙な違和感を感じていた。

(なんだ?敵の攻撃意思が以前と比べ随分と弱い。敵の何らかの罠か?いや、敵兵士の戦意が明らかに落ちている。何故だ、戦意が殆ど無い者もいる。内部抗争でもあったのか?いや、敵の艦隊は何故このタイミングでこの数の敵をマクロスに差し向けた。3000の艦隊であれば、地球を万遍無く包囲する必要性があったとしても、一時的にもっとこっちに差し向ける事が出来るはずだ)

アムロのニュータイプ能力がこの宙域の敵兵士の戦意を感じていたのだが、明らかに以前に比べ野獣のようだった攻撃性が薄れ、敵の戦意が低下していたのだ。

 

アムロがこう感じたのは間違いではない。

戦闘兵器として生まれたゼントラーディ軍兵士は、敵を屠るだけが存在意義であったが、彼らは地球の文化の一端に触れ、戦う事に疑問を持ち始めたのだ。

それが現在、ブリタイ艦隊中に広まりだしていたのだ。

それは、マクロス内でスパイ活動を行っていたブリタイ艦隊の兵士が持ち帰って来たデータや情報、歌や映画、テレビ番組、そして彼らが話すマクロス内の生活が如何に素晴らしいものなのかと……戦うだけの存在だった彼ら兵士は、徐々にマクロスへの生活に憧れを持つようになっていたのだ。

 

 

しかし、アムロの優れたニュータイプ能力が敵兵士一人一人の意思まで感じてしまったために、敵艦隊の意図を見逃してしまい、ブリタイ艦隊の罠に早期に気が付くことが出来なかったのだ。

 

 

 

 

アムロはまず、戦艦級や中型砲艦級から次々と出撃し、大編成部隊と化した戦闘ポッド部隊に対し、高速で突撃しながら、敵の中心に反応弾を撃ち込む。

 

反応弾は大きな爆発を起こし、敵戦闘ポッドの大編成部隊をその一発で壊滅させる。

 

その後、マクロス後方 12隻の敵艦隊に対し、残り一発の反応弾を発射し、1隻に命中させ、近隣の2隻を巻き込み爆散させる。

 

残り9隻の艦隊は高速機動を続けるダブルストライクパックを装着した白いVF-1S改の前に、反撃は虚しく砲弾やビーム砲は空を切る。

縦横無尽な機動を取るアムロのバルキリーから、正確無比に艦の急所を2門の集束ビーム砲に貫かれ、次々と爆散していった。

 

アムロのバルキリーは踵を返し、突撃を敢行しているマクロスに合流すべく移動を開始するが、そこで重要な見落としに気が付く。

「……あまりにも抵抗が薄い。敵兵の士気が異様に低いのもそうだが……旗艦がああも追い込まれながら包囲網を狭め、マクロスの進行を阻止するどころか……静観……!?……不味い!!罠か!?マクロスは誘い込まれたか!」

 

 

 

 

 

一方、マクロスはバスターキャノンの砲撃で開いた進路を突き進み、敵旗艦4000m級戦艦に突撃を敢行していた。

マクロスの進路を妨害する敵艦は悉く、反応弾の前に爆散、半壊の憂き目を見、あっさりと敵旗艦目前に迫る。

 

「よし!ダイダロスアタック、目標 敵旗艦!!」

グローバルは艦長席から腰を浮かせ、吠える。

 

「ダイダロスアタックを敢行いたします。衝撃に備えて下さい。各デストロイド部隊へ通達、ダイダロスアタック目標到達5秒前・4・3……」

クローディアがマクロス各部門に、ダイダロスアタック開始を通達する。

 

そして、マクロスの右腕部にあたるダイダロスが敵旗艦4000m級の艦首を破壊し、突き刺さり、その衝撃の一部がブリッジにも伝わる。

 

「敵艦艦首貫通、ダイダロスアタック成……艦長!!緊急事態です!!デストロイド部隊が壊滅!!敵戦闘ポッドがダイダロスに乗り込んできました!!」

クローディアは珍しく、慌てて状況報告をする。

ダイダロスアタックが成功したと確信したその瞬間、一転して逆にこちらがピンチに陥る深刻な事態となりつつあった。

 

「何!?……ダイダロスを敵艦から引き抜け!!急げ!!」

 

ダイダロスアタックとはマクロスの右腕部に接続した超大型揚陸艦 ダイダロスの艦首にピンポイントバリアの層を纏わせ、敵艦を殴りつけ、敵艦装甲を貫き、突き刺した艦首揚陸用ランプを開放し、あらかじめランプに配備した多量のデストロイド部隊による一斉射撃で、敵艦内部から一気に破壊、爆散させる荒業だった。

 

しかし、ダイダロスの艦首揚陸ランプを開放し、ピンポイントバリアを解除した瞬間に、敵戦艦内から逆に待ち伏せにより一斉攻撃を受けたのだ。

配備していたデストロイドと艦首揚陸用ランプは破壊され、ダイダロスを通じてマクロス内部に敵戦闘ポッドの侵入を許してしまったのだ。

そう、これはブリタイが考案したマクロスのダイダロスアタックへのカウンターアタックだった。

多数の艦隊を導入し、見せつけ、マクロスが起死回生の策として、旗艦をダイダロスアタックで狙ってくるだろうと想定した上の作戦であった。

そして逆にそれを利用し、旗艦の艦首破壊と引き換えに、戦闘ポッドをダイダロス部からマクロスに侵入させる事が出来たのだ。

最終目標は戦闘ポッドによるマクロスの内部からの破壊、占拠だった。

 

マクロスがここまで旗艦4000m級に容易に迫る事ができたのも、ダイダロスアタックをわざと敢行させるためだった。

反応弾を使われ、艦隊に大きな損害を被ったのは計算外ではあったが、概ねブリタイの計画通り事が進んでいた。

 

そして、このタイミングで、マクロスを包囲していた敵艦隊は包囲網を狭め、マクロスを鹵獲する動きを取る。

 

 

まんまと敵の誘導に乗ってしまったマクロスはピンチに陥る。

 

グローバルはその報を聞き、慌ててダイダロスを敵艦から引き抜くが、既に多数の戦闘ポッドが内部に侵入してしまった後であった。

 

 

「全速後退だ!!……敵はこのマクロスを鹵獲するのが目的だ!!」

グローバルもようやく敵の意図に気が付き、マクロスを後退させる。

 

「待機中のバルキリー各隊及び近接防衛を行ってるバルキリー各隊!緊急事態です!マクロス内部に戦闘ポッドおよそ100機強の侵入を許しました!直ちに排除願います!」

未沙はオープンチャンネルでマクロス待機中、近隣作戦中のバルキリーに緊急事態を知らせる。

 

 

反応弾を撃ち尽くし、マクロスの防衛に回っていた輝率いるバーミリオン中隊は、マクロス内部に侵入した戦闘ポッド排除のため、マクロス内部へと降り立った。

 

 

 

しかし、ブリタイの計画は9割方成功へと向かっていたが、思わぬ誤算があった。

マクロス内部に侵入した戦闘ポッドの約半分が、戦闘ポッドを乗り捨てて、逃亡したのだ。

更に戦闘を行っていた戦闘ポッドも戦意が低く、戦闘を停止する者も出ていた。

最終的に最後まで暴れていたのは30機も無かったのだ。

それらをバーミリオン中隊の輝やマックスの活躍で、マクロス内部に多大な被害が出る前に撃墜、戦意を失ったゼントラーディ兵の捕縛に成功したのだった。

 

既に地球の文化に触れたゼントラーディ軍の兵士は、マクロスに逃亡することを考えていたのだ。この作戦が下された段階で、マクロス突入戦闘ポッド部隊の半数は既にマイクローン化し、

マクロス内部に逃げ込む算段をしていたのだ。

 

 

そして、ブリタイの誤算はこれだけではなかった。

マクロスが旗艦に迫るために、周囲の戦艦に大きな被害をもたらした反応弾には驚いたが……

マクロスを包囲するために100隻を擁する戦隊を組んでいた。

……だが、たった一機のバルキリーにマクロスの後方及び左方に展開していた戦艦27隻を墜とされたのだ。

その為、マクロスは包囲網を突破し後退に成功したのだった。

 

 

 

アムロは、敵の狙いがマクロスである事を、後方戦隊を壊滅させた後に気が付く。

気が付いた時にはマクロスのダイダロスアタックが利用されピンチに陥ったことを知り、後退するマクロスの退路を確保するために、左方の敵戦隊を壊滅させるべく移動を開始。

宙域に待機させてあった試験運用無人実験機、補給サポート専用ゴースト QF-3000OE2機と合流し、移動しながら補給を受ける。

このゴーストはAIで動く無人機だ。アムロの機体状況を把握し、的確な補給を行う様にプログラミングされた補給専用のゴーストだった。

一機は推進剤やエネルギーを補給担当するゴースト、もう一機は武器弾薬を補給するゴーストだ。

発進前にアムロと整備兵が言っていたアレとは、この補給サポート専用の改良型ゴーストの事だった。

アムロのバルキリーは反応弾及び各種補給を移動しながら受ける。

十分に補給を受けた白いダブルストライクバルキリーはマクロス左方に展開する敵戦隊に単機突貫し、敵戦艦の迎撃などものともせず、縦横無尽の回避運動と正確無比な射撃で次々と撃墜していき、戦隊を撃滅させたのだった。

 

 

 

ブリタイ艦隊は多大な被害を受け、撤退を余儀なくされる。

また、白い悪魔のさらなる恐怖が兵士達に刻まれたのであった。

 

 

難を逃れたマクロスだったが……この後、意外な展開が待っていた。

 




もう、アムロとタカトク大佐を混ぜて、技術革新させたら、こうなっちゃったです。
なんか、デンドロビウムを装着させた気分です><

27隻はやり過ぎたかな……
宇宙世紀でもデンドロビウムに乗ったアムロだったら、このぐらいの事やってのけそうに思っちゃったんです。


ダブルストライクパック……マクロス本編では出ませんが……設定だけあったような。
しかも、上部ブースター前部装備は二連装ビームカノン仕様ではありません。
集束ビームライフルの出力ちょいアップ版を左右に一門づつ装備させてます。

ゴースト……本来初代マクロス時のゴーストはQF-3000Eという出来の悪い子なのですが、補給サポート専用にして、補給・弾倉補給をしめすOEとさせて貰ってます。

次回は……マックス・ミリア回?なのかな?


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アムロ戦争の無い世界を望む。

感想ありがとうございます
誤字脱字報告ありがとうございます。非常に助かっております。


……今回は繋ぎ回です。
無双は無しです。
最終話に向けて大きく弓を弾く感じです。


ゼントラーディ軍ブリタイ艦隊のマクロス鹵獲作戦から辛くも脱したマクロスは、とある問題を抱え込む事となる。

それは敵のマクロス鹵獲作戦にも関わる問題でもあった。

 

 

 

ブリタイ艦隊の兵士……ゼントラーディ人のマクロスへの亡命だ。

現在マイクローン化したゼントラーディ人104名の亡命希望者が、マクロス市街にある軍庁舎に訪れていたのだ。

 

ブリタイ艦隊のダイダロスアタック破りと言うべきカウンターアタックにより、マクロスを内部から破壊、占拠を目的とした敵戦闘ポッド100機程の大部隊のマクロス内侵入を許した。

この時点でブリタイのマクロス鹵獲作戦は9割方成功と言っていいだろう。

 

しかし、作戦を立案実行したブリタイにしろ、マクロス上層部にしろ、思わぬ事態が起こり、マクロス鹵獲作戦は失敗に終わったのだ。

マクロス内に侵入した戦闘ポッドの半数が乗り捨てられ、乗っていたゼントラーディ兵はマクロスに亡命すべく敵前逃亡を図ったのだ。

しかも、逃亡したゼントラーディ人はマイクローン化していた事から、計画的行動だったといえよう。

 

ここ最近、ブリタイ艦隊のゼントラーディ兵士たちには劇的な変化が起きていた。

マクロス内に潜入偵察を行った偵察兵が持ち帰った情報や人伝手に語られた文化的な生活、歌や映画やテレビといった情報が、ブリタイ艦隊の兵士たちの間で広まっていたのだ。

戦う事しか知らないゼントラーディ兵は皆興味を持ち、マクロスでの生活に憧れを持つ者が徐々に現れ、今回のような亡命騒ぎへと発展していったのだった。

 

 

 

 

 

マクロス大会議室では、現在ゼントラーディ兵の亡命希望者代表3人と面会を行っていた。

グローバル艦長以下、マクロス幹部3名、フォッカーに未沙、ゼントラーディ軍に囚われた経験がある輝と柿崎は休暇中ではあったが、緊急呼集され出席していた。

アムロへも声を掛けたかったのだが、アムロは宇宙方面技術試験運用軍のナンバー2という立場があり、マクロスと別組織の人間であるため、現在マクロス内だけに情報を留めておく段階において、正式に参加要請するわけにはいかなかった。

しかし、グローバルからは後程この面会の結果をオフレコでアムロに伝えるようにと指示があった。

その役目はフォッカーと未沙が買って出たのだが、未沙が何かと理由を付け、未沙一人で伝える事となった。

 

亡命希望者の代表者の3名は、マクロス艦内に潜伏偵察を行っていたあの3名の偵察兵だった。

彼らの名は、ワレラ・ナンテンス、ロリー・ドセル、コンダ・ブロムコ。

この3人がブリタイ艦隊に文化の風を嵐のように吹かせ、この事態を起こした張本人と言っていいだろう。

 

この3人の亡命理由にグローバル以下全員が驚きと戸惑いを隠せないでいた。

彼らは戦いを捨て、ただマクロスで生活をしたいと。

彼らにとって、潜伏偵察時のマクロスでの生活は驚きと衝撃の連続だった。

特にリン・ミンメイの歌には衝撃を受けたとのことだった。

地球人の何気ない日常が、彼らにとって何物にも代えがたい宝物に見えていたのだ。

 

グローバル及びマクロス上層部は面会の後、協議を重ね。

亡命希望者を受け入れる事を決定した。

 

マクロスはゼントラーディとの和平の道を繋ぐべく、主戦派が台頭している今の地球統合軍本部に改めて強く働きかける事を決意する。

 

未沙はこの事をアムロに伝えるべく、街のはずれにある展望公園に誘う。

宇宙方面技術試験運用軍の建物屋上では、流石にこの正式通達出来ない話題を話すことは出来ず、そうかと言ってアムロをマクロスの軍施設内部に呼ぶわけにも行かない。

飽く迄もプライベートという形をとるのが無難であったため、軍務帰りのアムロをこの場所に誘ったのだった。

 

未沙はアムロにゼントラーディ兵の亡命から和平の道についてまで、全て話す。

 

「そうか」

統合軍の軍服姿のアムロは感慨深そうに相槌をうつ。

因みに、未沙はアムロを意識してなのか、派手にならない程度のお洒落な私服を着て来ていた。

 

「レイ中佐、どう思われますか?」

 

「俺も皆の意見に賛成だ。戦争は無い方がいい。それが異星人だろうと」

 

「レイ中佐なら、そうおっしゃって下さると思ってました」

 

「……彼らの仲間を大勢討ってきた俺が言うのもおかしな話だがな」

 

「そんな事は……中佐は私を、私達を何度も救って下さいました。それに今は戦争状態です。討たなければ私達は討たれてました」

 

「それは分かってることだが……いざこういう場面に直面すると、どうしても考えてしまう」

 

「中佐は、優しい人なのですね」

 

「そうか?」

 

「そうです。優しくて強い人です」

未沙は顔を若干赤らめていた。

 

「大尉、買いかぶり過ぎだ」

 

 

 

 

そんな二人に大きな声が掛かる。

「よお!お二人さん!デートか?アムロ!」

 

「ロイ…それにクローディア」

「フォッカー大佐にクローディア?」

アムロと未沙はその声の主の方に顔を向けると、そこには私服姿のフォッカーとクローディアが仲睦まじげに歩いて来た。

フォッカーとクローディアの二人はデート中のようだ。

 

だが、デート中なのは何もこの二人だけではない、普段あまり人が立ち入らないこの展望公園も、今日ばかりはカップルが、ちらほらと見られる。

今日はクリスマス・イブ、恋人たちが愛を語り合う日でもある。

宇宙の星々を一望できるこの展望公園は、恋人達の雰囲気作りには持って来いの場所であった。

 

未沙も、少なからずクリスマス・イブを意識していた。

今回の亡命騒ぎの話を伝える口実に、アムロと一緒にゆっくりと話をしながら食事でもしようという打算はあった。最初は個室のあるレストランにアムロを誘うつもりであったが、流石にクリスマス・イブ直前では予約が取れるはずもなかった。

仕方なく、この展望公園を選んだのだが、照明が夜の明るさに設定されてるこの時間帯は、星空の光が差しこみ、思いのほかムードの良い雰囲気を出していた。

さらにカップルもちらほらと見て取れる状況に、流石に未沙も恥じらい、場所を変更しようと引き返そうと思ったのだが、アムロが何時もと変わらぬ態度でベンチに誘い、話し合いが始まったのだった。

話が始まれば、未沙も落ち着きを取り戻し、何時ものようにアムロと話し合う事が出来た。

内容は、恋人同士の語らいからは随分と離れた堅い話ではあったのだが。

 

 

「ごめんなさいねお二人さん。デートの邪魔しちゃって。ロイ、ここは静かに見守るべきよ」

「いやー、すまんすまん。ついな!」

クローディアはアムロと未沙に謝りながら、フォッカーに注意をする。

フォッカーも笑いながら、謝る。

 

「二人共、勘違いをしてるぞ」

「…………」

アムロは苦笑気味に反論するが、未沙は俯き加減で沈黙を守る。

 

「はっはーー、こりゃ手強そうだな。じゃあアムロ、またな。次のオフにはクローディアの旨い料理とサラダを用意して待ってるぞ」

 

「クローディアの料理は上手いし、ロイが羨ましい」

 

「だろ?」

 

「ロ~イ、ちょっと飲み過ぎじゃない?」

クローディアはフォッカーの耳を引っ張る。

 

「痛てて、なんだクローディア?」

 

「はぁ、アムロ中佐も……未沙、本当にごめんね」

クローディアはフォッカーとアムロに呆れた顔を向け、未沙に謝ってから、フォッカーを強引に引っ張り、ここを離れて行った。

 

 

「いいコンビだ」

アムロは離れて行く二人の後ろ姿を見ながら、小声で呟く。

 

「………クローディア……クローディアは名前呼びなんですね」

 

「まあ、そうだな。ロイの恋人で、3人で飲む機会があるからな」

 

「………クローディアの料理も……」

 

「ロイの部屋に呼ばれると、クローディアがいつも何か用意をしてくれる」

 

「また名前で……私は名字なのに………ユニコーン部隊の子たちは呼び捨てで……」

未沙はアムロにも聞こえない様な小さな声を漏らす。

 

「早瀬大尉?」

 

「早瀬ですけど、未沙と言う名前もあるんです!………すみません中佐……その、失礼します」

未沙はつい声を荒げるが、ハッとし、アムロに頭を下げて謝り、顔を赤らめ、逃げるように去って行った。

 

「何かまずった様だな。ふぅ」

アムロは自嘲気味に独り言ちる。

未沙を少々不快な気分にさせた事を理解しているが、理由は分からなかった様だ。

年頃の女の子の扱いに少々手間取っているとすら感じていた。

アムロの恋人遍歴を見ると、今までは積極的にアプローチを掛けてくる女性ばかりであった。

未沙のように奥手で堅物で、しかも10も年下の若い女性との付き合いは無かった。

最強のニュータイプであるアムロも、流石に女性関係については完璧に理解することは出来ないようだ。

 

この後、未沙はアムロにあんな態度をとってしまった事に自室のベッドでシーツを被り、自責の念にかられるのと同時に、アムロと互いにファーストネームで呼び合うクローディアが羨ましく思っていた。

 

一方、アムロは後日、クローディアにフォッカー共々、やんわりと注意を受けていたのだった。

 

 

 

 

 

その頃、街の中心部にある別の公園でも、女性関係でのトラブルが発生していた。

此方の方はもっと深刻な状態だった。

刃傷沙汰にまで発展していたのだ。

 

女性関係でのトラブルはトラブルだが、所謂色恋沙汰のトラブルではない。若い男が訳も分からず、一方的にナイフを持った若い女に襲われたのだ。

 

その若い男とはマクロスバルキリー隊の若干18歳の若きエース、マクシミリアン・ジーナス少尉。

ナイフを持ってマックスに襲い掛かっているのは、ゼントラーディ軍ボドル基幹艦隊ラプラミズ分岐艦隊のエースパイロット、ミリア・ファリーナだ。

 

ミリアはマクロス内部偵察に志願、マイクローン化し、マクロス内に潜伏していた。

そして、自分を二度負かした青いバルキリーのパイロットに復讐をするために、マックスを探していたのだ。

 

街のゲームセンターでバルキリーのシミュレーターと同様のコクピット型の大型ゲーム機でマックスとミリアは偶然対戦し、またしてもマックスが圧勝してしまう。

ミリアはマックスが操るシミュレーター上のバルキリーが、自分を負かした青いバルキリーと同じ動きをしていた事から、マックスがあの青いバルキリーのパイロットだと見抜き、ゲーセンを出て公園に向かったマックスの後を付け、ナイフ片手に襲い掛かったのだ。

 

そこは天才マックス、そんなミリアの襲撃も難なくかわす。

いや、それどころか、どうやってそんな事になるのか常人では全く理解が追い付かないが、ゼントラーディ兵であり、男女の関係について全く知識も理解も無いミリアを口説き落としてしまったのだ。

流石はマックスとしか言いようがない。女性関係についても天才的能力を発揮した様だ。

しかも、即その日から同棲生活……マックスは普段、軍の寮に住んでいるが、しばらく外でマンションを借り、二重生活をすることに……

 

この辺は全方位的に天才を発揮するマックスがアムロに勝る部分だ。

 

 

 

しかも、翌日には直ぐに上司であり戦友である一条輝にミリアとの結婚について相談する。

輝は結婚には賛成するが、流石に一人では判断が出来なかった。

何せ、マックスのお相手は異星人で、星間結婚となるからだ。しかも交戦中のゼントラーディ軍のエースときた。

輝は兄貴分であるフォッカーに相談し、さらにそこからグローバルとマクロス上層部に伝わる。

 

マクロスがゼントラーディ軍の亡命の受け入れを決定してから数日後の話であり、そのマックスとミリアとの結婚の話は、マクロス上層部に驚愕をもって受けいれられる事になった。

 

 

 

年が明け、2010年1月3日。

マックスとミリアの結婚式が執り行われる。

グローバル以下マクロス上層部はこの星間結婚に賛同し、軍は結婚式からこの後の結婚生活まで大々的にバックアップを行う事を決定していた。

 

この星間結婚をゼントラーディ軍と地球との和平の礎と位置づけ、地球統合軍とゼントラーディ軍にアピールする狙いがあったのだ。

 

マックスとミリアの結婚式にはもちろん輝や柿崎、フォッカー、グローバルやマクロス上層部、マックスと関りがある知り合いや軍兵、そしてアムロと未沙も招待されていた。

そして、リン・ミンメイがゲストで呼ばれ、結婚式に相応しい歌を披露する。

 

 

アムロと未沙は披露宴会場では隣同士の席に座り、祝福していた。

「星間結婚とはよく言ったものだ。二人は間違いなくゼントラーディと地球人との架け橋となるだろう。マックスとミリアさんはこの難しい状況下でよく決断したと思う。この勇気ある若者達には脱帽だ」

 

「レイ中佐、勇気ではないと思います。好きになってしまったら、もう止まらないんです」

 

「若さゆえか……」

 

「年寄り見たいな事をおっしゃらないでください……中佐はまだお若いのに」

 

「早瀬大尉から見れば、俺は十分中年のおじさんだ」

 

「そうは見えません」

 

「もう30だ。15年前の俺は、漠然とその頃には結婚して子供が生まれ、家庭を持ってるだろうと当たり前のように想像していたが…今はこの通りだ」

 

「中佐もごく普通の幸せを思い浮かべていたのですね」

未沙は、普通の幸せ像を語るアムロが何だか微笑ましく思う。

 

「普通の幸せか……確かにな。15歳の俺は、いつ死ぬか分からないという恐怖もあった。生きていくのに精いっぱいだった。終わらない戦争、戦いの日々。だが、いつか戦争が終わり、生き残れば、いずれ誰かと結婚し、そうなるものだと……」

 

「中佐……」

 

「すまない。この場では相応しくない話だった。……今は二人を祝福しよう」

 

「……はい」

 

「俺たちは、和平を実現し、一日でも早く、この二人が大手を振って安心して過ごせる世界を作らなければならないな……」

 

「はい、統合軍本部の和平への説得、そしてゼントラーディと停戦……最終的には和平交渉に持って行かなくてはいけませんね」

未沙は統合軍本部への和平への道を説くにはどうすべきかという事を、この頃はずっと模索していた。

 

 

「そろそろ出番か……」

「中佐頑張ってください」

アムロは席を中座し、未沙はそれを見送る。

 

 

 

この後、マックスとミリアは派手にデコレーションを施した複座の訓練用バルキリーに乗り、マクロス周囲宙域を周回しお披露目をする。

そこに、アムロとフォッカー、輝と柿崎によるバルキリーのアクロバット飛行で出迎え、5機のバルキリーで曲芸乗りを披露した。

最後に色付きの噴出剤で、絵文字で祝福の言葉を宙域に描き、マクロスの祝砲で結婚式を締めくくった。

 

 

この結婚式の様子は、マクロスからオープンチャンネルであらゆる電波で飛ばしていた。

ゼントラーディ軍は当然、この映像を受信し見ているだろう。

地球にもレーザー通信で送り届けているため、統合軍上層部には見られているだろう。

まさしく、和平への願いを込められた、強烈なメッセージとなったはずだ。

 

 

 

 

 

 

マックスとミリアの結婚式から10日後の一月中旬、ゼントラーディ軍ブリタイ艦隊の戦艦がマクロスの前に単艦で現れる。

マクロスは戦闘準備を行うが、ゼントラーディ軍の戦艦から通信が入ってきたのだ。

今まで、一度たりとも通信が送られてきたことは無かった。今回が初だ。

しかも内容が……

 

『停戦交渉を行いたい』との事だったのだ。

 

まさかゼントラーディ側から停戦交渉を行ってくるとは思いもよらなかったが、これを好機と見て、マクロスは交渉を受理し、マクロス艦内にゼントラーディ軍ブリタイ艦隊の使者を受け入れる。

一応、罠の線も考え、同時にいつでも反撃できる態勢も整える。

 

停戦交渉にはマクロス側はグローバル以下マクロス上層部、フォッカーに、ブリタイ艦隊に捕まった経験がある未沙、輝、柿崎、さらにマックスとその新妻である元ゼントラーディ軍ラプラミズ艦隊 エースのミリア、そしてゼントラーディ軍ブリタイ艦隊亡命者の代表格であるワレラ、ロリー、コレダの三人が予め呼ばれていた。

 

ゼントラーディ軍ブリタイ艦隊の使者が現れると、ミリアと亡命者代表格の三人は驚きを隠せなかった。

使者はマイクローン化したブリタイ艦隊司令 ブリタイ・クリダニクの補佐官役である記録参謀エキセドル・フォルモだった。

 

エキセドルはミリアに気軽に声を掛け、結婚式の映像を見たといい、結婚について色々と聞いていた。亡命者三人にも同様に、気軽な感じで声を掛ける。

ミリアと三人は恐縮しっぱなしではあったが、エキセドルは叱責することもなく、興味深げに質問を投げかけるのみだった。

 

さらに未沙と輝、柿崎にも、「あの時とは立場が相当変わったものだな」と気軽に声を掛けてきた。

勿論あの時とは未沙と輝と柿崎がブリタイ艦隊に捕まり、尋問を受けていた時の事だ。

 

エキセドルからは敵意だけでなく、緊張感も感じられなかった。

 

エキセドルは交渉の席に座り、出された飲み物を美味しそうに飲み干し、お代わりを要求する一幕はあったが、直ぐにマクロス側から参加者の紹介を始める。

エキセドルは頷きながら対応していた。エキセドルの頭の中にはその人物の一語一句すべて記録されていた。

 

次いで、エキセドルが自ら自己紹介を行うが……

「第67グリマル級分岐艦隊ゼムー級記録参謀エキセドル・フォルモだ。……ところで、この交渉に必要不可欠な人物が居ないと見受けるが……」

エキセドルはこの停戦交渉に、マクロス側に参加すべき重要人物が見当たらないと言ってきたのだ。

 

「それはどのような人物ですかな?エキセドル閣下」

グローバルはエキセドルの質問を返す。

閣下と敬称したのは、ミリアがエキセドルと会話する際、エキセドルの事を記録参謀閣下と称していたためだ。この時点ではまさか敵艦隊の№2だとは思ってもみなかった。

小柄でみすぼらしい姿からは想像しにくいが、ミリアや亡命者三人の口調から、かなりの位の人物だという判断はしていた。

 

「うむ。歌という音波攻撃……文化の一端とそこの者達が申していたな。その使い手の女だ」

エキセドルはそう言って、誰かの下手な歌真似をして見せる。

 

「さて?」

グローバルはエキセドルが誰を指しているのか、皆目見当がつかなかったが、未沙と輝と柿崎、そして、亡命者の三人も、その人物が誰なのか気が付いていた。

 

「艦長、ミンメイさんの事だと思われます」

未沙がグローバルにそう進言する。

 

「うむ。閣下がこの場に要求された人物は、民間人です」

 

「民間人?はて?」

 

「非戦闘員の事です」

 

「非戦闘員?……戦闘をしていない兵が居るという事ですかな?」

 

「いえ、兵ではありません」

 

「……兵ではない?不可解な。あれ程の力を持っていて、戦闘員でも兵でもないのか?」

 

「わかりました。少しお時間を頂ければ、呼びましょう」

グローバルは埒が明かないと判断し、そう言った。

ゼントラーディ軍に民間人という立場の人間はいないのだ。

ゼントラーディ人は全てが軍人であり兵であった。

 

「うむ。そうしてくれ。それと白い悪魔……白い戦闘ポッドに乗り、たった一機で我が勇猛なるゼントラーディ兵達を恐怖のどん底に陥れた者はこの場に居るのか?」

 

「いえ、この場には居ませんが……」

グローバルはエキセドルのこの言葉だけで、その人物が誰なのかが分かった。

その人物とはアムロの事だと。

 

「その者にも、会っておきたい」

 

「閣下、それは何故ですか?」

グローバルはエキセドルにその理由を聞く。

常識では考えられない数の敵を討ち、莫大な功績を残して来たアムロは、マクロスにとって英雄的存在ではあるが、裏を返せばゼントラーディ軍にとって、まさしく悪魔の如き嫌悪される存在であろうからだ。

アムロをこの交渉の場には呼ぶことに躊躇していたのだ。

 

「ふむ。どのような人物か自己の興味本位がゆえ」

 

「……わかりました。呼びましょう」

エキセドルの軽い言いようと、ミリアや亡命者三名への対応を見るに、グローバルはアムロをこの場に連れて来ても問題無いと判断する。

 

 

 

 

その頃、アムロは丁度、次世代可変戦闘機実験試作機である全身白く塗装されたVF-X3Z改に乗り込み、宙域で技術開発チームの試作新兵器や新装備などの各種試験を行っていた。

 

元々のVF-X3はVF-1に比べ、一回りほどサイズが大きい。総出力はVF-1の3倍であり、装甲や運動性、機動性や装備等を換算すると、試算段階でVF-1の32倍の戦力と目されていた。

VF-X3Z改はさらにアムロ専用にカスタマイズされており、サイズはVF-X3よりもさらに若干大きい。総出力はVF-1の5倍、スーパーパックを装備したVF-1の2.5倍以上の出力を持つ。

固定兵器は両腕に装備された専用集束ビームランチャー。頭部バルカン砲、三連小型ミサイルラック2基、両腕の集束ビームランチャー基部に小型プラズマ(イオン)ソード2本。小型ミサイルポッド2基(ダミーバルーン兼用)

装備可能携行武装、専用バズーカ、実弾スナイパーライフル、専用大型集束ビームライフル。

ミサイルラック最大4基。

さらにハード面でのVF-X3との最大差異は廃止されたガウォーク形態を復活させている。

さらにコクピット周りが大幅に変更、機体が一回り大きくなり、コクピット空間に若干の余裕ができている。メインコンソールは操縦桿型ではなく、両手で操作する専用ソフトコンソールを採用(νガンダムのコンソールに近いもの)。

 

そして最大の特徴は、余裕が出来たコクピットスペースにサブオペレーションシステムと言うべき、新技術が搭載されたのだ。

VF-X3Z改は多数の実験的新技術や兵器が満載であり、さらに出力や機動力も、常人の反射神経では制御不可能なレベルとなっていた。

要するにアムロ以外の人間では操縦すら困難な機体となっていたのだ。

そのアムロをもってしても余裕をもって操縦できるものでは無い。

 

そこで、機体制御の一部をサブAIに委譲することでVF-X3Z改のパイロットへの負担を軽減させるアプローチを行ったのだ。

それが、バルキリー用試作サブオペレーションシステム、High-order AI Ray Operation system(アムロ・レイ専用高次元AIオペレーションシステム) 通称HARO……

 

「アムロ、アムロ、元気か?(疲労指数上昇を確認)」

 

「大丈夫だハロ、それよりもハロ、このVF-X3Z改のシステムはすべて把握できたか?」

 

「大丈夫、大丈夫(VF-X3Z改とのリンク率97%)」

エメラルドグリーンの30㎝程の球体が、アムロのコクピットシートの後ろに取り付けられた台座にスッポリと嵌り、アムロと会話を行っていたのだ。

そう、あのハロが、今アムロのコクピットの後ろに鎮座しているのだ。

1年戦争時代、アムロと共にホワイトベースの一員として駆け抜けたあのハロをベースに、アムロが一から組み上げた正当後継機だった。

柔軟な思考パターンを持つこのハロに、バルキリーの機体の制御の一部を任せる実証試験を行っていたのだ。

まるでスターウォーズのR2-D2のように……

 

 

『アムロ君。君が開発したHAROとVF-X3Z改とのマッチングテスト状況はどうかね』

タカトク准将から、宙域を飛び回り試験飛行を行っているアムロの下に通信が入る。

 

「かねがね良好です」

 

『そうかそうか、うむうむ!すばらしい!!バルキリーはこれで次のステージに立てる!!では次の段階に移ろうではないか!アムロ君!!』

タカトク准将はそのアムロの言葉に喜色を浮かべていた。

 

「……准将、まだ早いです。ハロのAIにはまだまだ不足部分が多い状況です。そう一足飛びには行きません」

タカトク准将はこのハロに、次の段階なる機体制御以外の何かをやらせようとしていたのだが、十分にハロのAIが成熟していない現段階では困難だとアムロが止めたのだ。

 

 

そこに、マクロスから緊急通信がアムロの下に入る。

アムロはVF-X3Z改の試験を即中止し、マクロスに帰還したのだった。

 

 

 

 

 

20分後、アムロはマクロスのとある会議室に入る。

 

「アムロ・レイ参りました」

 

「急に呼び立ててすまん中佐」

グローバルは会議室の扉前で敬礼するアムロに声を掛け、未沙がエキセドルの前方に用意した椅子に座るように促す。

アムロはここに来る道中に、ある程度の事情の説明を受けていた。

今、まさにゼントラーディ軍との停戦交渉の場である事を……

 

「閣下、彼がご要望された我が艦のエースです」

グローバルはアムロがエキセドルの前方に着いた頃に、そう言ってアムロを紹介する。

アムロはエキセドルに一礼して席に座る。

アムロがこの場に来る前に、既にリン・ミンメイとエキセドルとの対話は済んでいた。

 

「うむ、その者が白い悪魔か?屈強な兵士のイメージとは異なる」

エキセドルは前方に座るアムロを見て、そう感想を漏らす。

アムロは内心、少々驚いていた。

エキセドルの口から『白い悪魔』という単語が飛び出し、しかも自分に向けられた言葉だという事に……、まさかこの世界でも、敵にそう呼ばれるとは思っても見なかったのだ。

 

「閣下、私をこの場にお呼びになられたのはどういう理由からでしょうか?」

アムロはエキセドルに質問をする。

本来なら、停戦交渉の場に、同胞を悉く討ったアムロをこの場に呼びつけること自体、異例だったためだ。

 

「貴公には随分我が軍をやられた。貴公さえいなければ、我が軍の作戦は成功し、この艦はとっくに沈み、こうして貴公と顔を合わせる事は無かったであろう。貴公程の戦闘ポッドの乗り手は、私の記憶にも無い。称賛に値する」

エキセドルから意外にも称賛の言葉を贈られたのだ。

 

「恐縮です」

 

「貴公はプロトカルチャーの生き残りか?それとも監察軍すらも恐れる伝承にあるアニマスピリチアなのか?」

 

「いえ、その様な者ではありません。一介の兵士に過ぎません」

エキセドルから、アムロの知らない単語が幾つか出てきたが、無難な返答をする。

 

「一介の兵士……はて、プロトカルチャーの伝承に戦争を一変する能力を持つ究極の兵士が……確かニュータイプとあったか……」

エキセドルは首を傾げながら呟くようにその言葉を口にしたのだ。

 

 

 

「………」

アムロはその言葉に思わず目を見開き、心中の動揺を隠しきれなかった。

 




ハロ遂に登場……R2D2と化したハロ……タカトク准将とアムロのコラボでどうなっちゃう?

ニュータイプって言う言葉が出ましたが……あまり深い意味はありません。
たぶんw
その位の感じで思っていただけると、助かります。(私の気持ち的に楽です)

どうしても出したい原作の人物が居たのですが……今回出せませんでした。
次回出せるかな?

最終話が見えてきました!!
遂にやりたかったあの場面とあの場面が!!
真アムロ無双が解禁!!

後僅かの話数を残すばかりです。


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アムロこの世界で嘆く。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
非常に助かっております。

今回はタイトル通りですね。
真アムロ無双準備体操です。


2009年1月19日

ゼントラーディ軍ブリタイ艦隊との停戦交渉を無事終え、マクロス上層部はブリタイ艦隊との簡易的な停戦協定を結ぶ事となった。

ブリタイ艦隊の記録参謀エキセドルはそのままマクロスに残り、ブリタイ艦隊の交渉窓口となり、本格的な停戦条約制定へと協議を繰り返す。

 

これ以降、マクロスとゼントラーディ軍ブリタイ艦隊との戦闘は起きる事は無かった。

 

 

1月31日

停戦条約もエキセドルとの協議を繰り返し、大凡合意に至るところまで漕ぎつけていた。

この日もマクロス上層部は会議を行う。

 

「ブリタイ艦隊とマクロスとの停戦条約は上手く行きそうだな」

グローバルはホッと息を吐く。

 

「はい艦長。しかし、この後の問題の方が大きいですな」

参謀部長兼副艦長がそれに答える。

 

「うむ」

グローバルは深く椅子に座り直す。

 

参謀部長兼副艦長が言う、この後の問題とは……

今回のこの停戦協定は飽く迄も、マクロスとブリタイ艦隊との停戦協定だという事だ。

地球統合軍の意思は介入していない。今後、本格的にゼントラーディ軍との同盟や停戦協定を結ぶには、マクロスは交戦派が台頭する地球統合軍本部を説得にかからなければならない。

そして、マクロス上層部はエキセドルから驚愕の事実を知る。

ブリタイ艦隊はゼントラーディ軍ボドル基幹艦隊分岐艦隊の一つでしかない事。

3000もの艦隊を保有するブリタイ艦隊がゼントラーディ軍の末端の一つに過ぎなかったのだ。

そして、そのボドル基幹艦隊が保有する戦力は大凡500万の艦隊だと言う……。

最早、どう足掻いても地球統合軍が敵う相手では無かった。

さらに、地球を包囲しているゼントラーディ軍の艦隊はブリタイ艦隊だけでなく、

ブリタイ艦隊と同等の戦力を保有するラプラミズ艦隊が存在するということだ。

これはミリアからも情報提供されていたが、戦力規模は正確には分からなかった。

 

しかし、ラプラミズ艦隊についてはブリタイ艦隊司令のブリタイ・クリダニクが説得を行う事を明言している。

少なくともブリタイ艦隊とラプラミズ艦隊、地球統合軍との停戦協定が結ばれるならば、地球への直接的な脅威は随分と低減することは確かであった。

 

地球の命運はこの三組織停戦協定にかかっていると言っても過言ではない。

マクロスは一刻も早く地球統合軍本部を説得し、和平交渉の場に引きずり出さなくてはならない。

 

 

マクロス上層部は本人の意向もあり、未沙を地球統合軍本部の説得へと送り出すことを決定する。

統合軍参謀本部の幹部の一人、未沙の父親 早瀬中将を足掛かりにし、説得に乗り出す心積もりであった。

 

しかし、地球に降り立つのも工夫がいる。

事実上の地球外退去を命じられたマクロスは、統合軍本部の許可なしに地球に降り立つことも、人員を地球に送り込むことも出来ない。

 

そこで、マクロスに滞在するタカトク准将率いる宇宙方面技術試験運用軍に、アムロを通じてひと肌脱いでもらう事に……

宇宙方面技術試験運用軍はマクロスには滞在しているが、地球外退去を命じられてはいない。それどころか、レーザー通信で定期報告を行っていた。

内容は兵器試験内容や新たな設計図などを技術開発関連の報告だ。

一応、マクロスの動向もスパイしろとは命令を下されていたが……タカトク准将がバルキリー関連の開発以外で時間や人を割く訳が無い。

しかも、ゼントラーディ軍の亡命者が乗り捨てた無傷の戦闘ポッドが幾つもあるのだ。

それの調査、研究に猫の手も借りたい状況だったのだ。

アムロの口利きもあり、マクロスの動向などは適当にそれらしくあしらった報告書を送っていたのだ。

 

タカトク准将はある条件をマクロス側に飲んでもらい、喜々として未沙を地球に送り届ける段取りを行う。

准将が手放しに喜ぶ条件とは……エキセドル・フォルモとの面会だった。

記録参謀とはゼントラーディ軍内の情報にアクセスできる権限を持つ役職であった。

タカトク准将が聞きたいのは勿論ゼントラーディ軍の兵器についてなのだが……

 

タカトク准将は名目として、VF-X3の量産機であるVF-3の地球での少数生産ラインの状況確認と、生産されたVF-3を宇宙試験のために数機引き取るため、輸送シャトルを地球に送るとし、さらにアラスカの統合本部に技術士官を送り、直接開発成果を報告するとしたのだ。

その技術士官に未沙を同行させ、統合軍本部に未沙を送り届ける段取りを行う。

 

しかし、タカトク准将には誤算があった。

アムロがその統合軍本部行きの技術士官に立候補し、譲らなかったのだ。

 

アムロはエキセドル・フォルモからニュータイプという言葉を聞いてから、色々と思考を巡らせていた。

(なぜ、ゼントラーディ軍から、ニュータイプの言葉が……いや、エキセドル参謀はプロトカルチャーの伝承と言っていた。プロトカルチャーとはそもそもなんだ?……プロトカルチャーとニュータイプとどういう関係が……考えても仕方がない事だ。そもそも、俺がいた世界のニュータイプとこの世界のニュータイプとは同じものである確証はない。たまたま同じ言葉が使われただけの事だ)

アムロはそう結論付けていたが、しばらくはどうしても頭から抜けなかった。

 

(あの時から、地球に何かが起こる予感がしてならない。ニュータイプ能力が何かを警鐘している)

そしてこの頃から、アムロのニュータイプ能力が地球に対して負のイメージを呼び起こしていた。

 

未沙から直接地球に行くことを伝えられたアムロは、統合軍本部を説得に行く未沙を止めることは出来ようもなく。

自らも地球に行くことを決意したのだった。

 

アムロが同行を名乗り出たと聞いた未沙は、内心、手放しで喜んでいた事は言うまでもない。

 

 

未沙やアムロ達が地球に降り立つプランはこうだ。

まずは輸送シャトルでVF-3の生産工場がある横須賀の極東基地に降り、そこからは輸送シャトルの護衛として一緒に地球に降りたったアムロのVF-X3Z改に未沙を同乗させ、アラスカの統合軍本部へと向かう。

VF-X3Z改のコクピットユニットはハロを載せていない複座式のものと交換することで、後部に未沙を乗せる事が出来る。

 

 

マクロス出発前にアムロを見送るタカトク准将は……

「アムロ君!!ハロ君の事は任せたまえ!!君が戻ってくるまでに!!必ず調教……いや調整を行い!!例のプランを成功させて見せる!!」

 

「……准将、ハロに余計な事を吹き込むことはしないでください。そのまま、例のプログラムを覚えさせるだけで大丈夫なハズです。宇宙飛行試験を行っていただいても構いませんが……載せる機体が無いですね」

 

「宇宙飛行試験!?アムロ君以外で……んん?んんん!?そうかそうか!!それならば!!初期のVF-X3にハロ君の台座が載ったコクピットユニットを取り付けよう!!人員はそうだな!!ワイルダー君がいい!!ハロ君とのコミュニケーションも上々のようだ!!学習速度も上がるだろう!!」

 

「確かに、ハロとのコミュニケーションテストに協力してもらってますが、彼は訓練生です。正式なパイロットではないです。それに初期型とはいえ、VF-X3の操縦はベテランでも困難かと……」

 

「操縦はハロ君に任せればいい!!彼はコクピットの中でジッとしてればいいのだ!!ハロ君メインの試験なのだからな!!それとだ!アムロ君!!VF-X3Z改専用の私が開発したサブスラスターブースターの地球大気中での試験を頼む!!きっと大気圏突破を単体で行えるはずだ!!」

タカトク准将は相変わらず、無茶を通す様だ。

多分、アムロが居ないこの機会に、ハロによる自動操縦モードやアムロ以外のパイロットとの同調試験を行うようだ。

また、例のプランとは、タカトク准将が考案したハロを使った新たな兵器プラン計画の事である。

そのプランはアムロもハロの開発段階で可能性を十分視野に入れていたため、計画はスムーズに進み、完成間近であった。

 

「了解しました……」

この時アムロはニュータイプ能力を使うまでもなく、少年ジェフリー・ワイルダー訓練生のちょっと先の運命が見えていた。

暴れ狂うVF-X3の中で彼が恐怖する姿が脳裏に浮かんでいた。

 

 

 

 

2月5日

この日、アムロと未沙は地球に降り立ち、事前の計画通り、アラスカの地球統合軍本部にたどり着いた。

 

早速未沙は統合軍本部上層部の方針を和平へと転換させるため、先ずは足がかりとなる実父の早瀬中将を説得するために行動を移す。

 

アムロはその間に宇宙方面技術試験運用軍としての本来の仕事をこなす。

本部技術開発部にマクロスで行った数々の開発や試験データ、新技術の報告、及びに最新鋭試作機であるVF-X3Z改の現在の試験内容などの説明を行う。

 

4日が経ち、アムロは順調に予定の仕事をこなしていた。

未沙の統合軍本部説得は長期戦になるだろう事は分かっていたが、同じ基地内に居るはずの未沙にコンタクトが取れない状態に、未沙が説得に難航し、何らかの困難な状態に陥っているのではないかと危惧していた。

 

アムロの危惧通り、未沙は統合軍本部上層部にすらたどり着けていなかった。

早瀬中将さえも説得することが出来ず、それどころか早瀬中将に基地から少々離れた建物に軟禁状態にさせられたのだ。

早瀬中将は既に、ゼントラーディ軍との交戦を腹に決めていた。

未沙から得た情報では、現在地球を囲むゼントラーディ軍の艦隊は凡そ2艦隊6000だと、さらには500万の艦隊が背後に控えているという事だった。

早瀬中将はその情報を俄かに信じ難いと思っていた。

500万の宇宙艦隊等想像が出来ようがなかったからだ。

その事もあり、6000の艦隊も統合軍本部上層部を和平へと説得するためのブラフだと……

そして、娘を思う一人の父親として、未沙を主戦派が台頭する統合軍本部上層部の前に出したくなかったのだ。

未沙が500万の艦隊の話をした場合どうだろうか?まず間違いなく、今の上層部は信じないだろう。それどころか、そんな妄言を吐く未沙を何らかの罪を負わせ、拘束する可能性もあるのだ。

また、マクロスに未沙を返す事も出来ようもなかった。マクロスは敵に狙われているだけでなく、統合軍からは完全に厄介者扱いされていたのだ。

さらに、もし開戦となった場合、マクロスは真っ先に先陣に立たされ、さらにはグランドキャノンの囮にさせられ、最悪の場合、敵ごとグランドキャノンの巻き添えを食らう可能性があるのだ。

早瀬中将は未沙を守るために、統合軍本部から離れた別荘地の建物に軟禁させたのだった。

 

 

 

 

2月11日

運命の日が訪れる。

 

 

 

マクロスでは、マクロス内に滞在中のエキセドルから、緊急面会の申し出があった。

グローバルは早速、幾人かの幹部と共にエキセドルと面会を行う。

このような緊急の申し出は一度も無かったため、順調に進んでいた和平協議が何かのトラブルが起きたのではないかと漠然と危惧する。

 

「グローバル艦長、非常に残念な知らせだ」

グローバルの危惧が当たったかのように、エキセドルの第一声がこれだった。

 

「エキセドル記録参謀閣下、どうなされたのかな」

グローバルは冷静に言葉を返す。

 

「ボドル基幹艦隊のほぼすべてがこの宙域に現れる」

 

「!?……それは……」

その言葉はグローバルが危惧していた以上の衝撃だった。

ボドル基幹艦隊の凡そ500万の戦艦を擁する艦隊の殆どが、この地球圏に現れるというのだ。グローバルは背中に冷たい物を感じ、次の言葉を待つ。

 

「地球に総攻撃の命令が下された。ボドルザー閣下は地球人類をプロトカルチャーと認定し、第一級危険種族と指定したのだ。それは地球人類の抹殺」

 

「な!?」

その衝撃な言葉に、グローバルもマクロス上層部も驚きを隠せず、動揺の声を上げる。

 

「このマクロスだけでも逃走する事を望む。我々ブリタイ艦隊は貴公らの逃走を幇助する。さっそく準備にかかられよ」

エキセドルからの次の言葉も意外なものであった。

リスクを承知で、マクロスを逃がしてくれると言っているのだ。

 

「待ってください。地球が、地球人類が滅ぼされるというのですか!?」

 

「そうなる。こうなってしまった以上、我々や地球に止める手立てはない。ボドル基幹艦隊は地球を死の星へと変貌させるだろう」

エキセドルは残念そうな顔を見せていた。

エキセドルにとっても、多彩な文化を持つ地球が魅力的に映っていたのだろう。

 

「いえ、我々の母星の危機に逃げるわけには行きません!」

 

「ボドルザー閣下からは、まだマクロス破壊の命令は下されてない。貴公らを取るに足らない存在だと考えているようだ。しかし、地球の後はこのマクロスが狙われるだろう。貴公らに意識が行く前に、逃走を図るのが最善と思われる」

 

「……………くっ、何か手立てが……」

 

「早くこの宙域から離れられよ」

エキセドルはもう一度言う。

 

 

そうこうしている内に会議室に緊急通信が入る。

ゼントラーディ軍の大軍が地球圏に現れたと……

そして、その映像を会議室に回す。

 

ゼントラーディ軍の艦隊が地球を取り巻く様に、フォールド(ワープ)航法で次々と現れたのだ。

ボドル基幹艦隊 その数凡そ480万、地球を覆いつくさんばかりの艦隊だ。

 

「………………」

その圧倒的な光景に、グローバル以下マクロス上層部は目を見開き、身動きが取れなかった。

 

 

「……遅かったか」

エキセドルは呻く。

 

「くっ、各員戦闘態勢だ!!」

グローバルは我に返り、指示を出しながら会議室を後にし、発令所ブリッジへと向かう。

 

 

 

時を同じくして、アラスカの地球統合軍本部上層部もこの状況を把握し、俄かに基地が慌ただしくなる。

 

統合軍本部基地内のアムロはこの状況を把握できていなかったが、アムロのニュータイプ能力が漠然と空が落ちてくるイメージを思い描いていたのだ。

(なんだ!?この圧倒的なプレッシャーは!悪意とかそう言うレベルのものではない。まるで何者かがこの地球を握りつぶさんとするかのようだ!……無数の敵意がこの地球に集まってきている。……まさか!?)

 

何かが起きていると感じたアムロは情報端末で情報を集めようとするが、通信系統が麻痺し、情報の確認が出来ないでいた。

周囲の佐官クラスに聞くも、同じく情報が来ていないようだ。

埒が明かないと、アムロは直接状況を確認するために統合軍の司令施設がある棟へ向かう。

 

アラスカ地球統合軍本部基地の施設はすべて地面の下にあるため、強大な地下迷宮のようになっている。

アムロは地下通路を急ぎ、司令施設受付に将官の面会を求めるが、誰も通すことが出来ないとの一点張りだった。

受付担当官自身も現在何が起きているのか、知らされていない様子だ。

 

そこに早瀬中将が現れる。

「中将!何が起きているのですか?それに早瀬大尉はどこに?」

 

「……アムロ・レイ中佐……君に会えてよかった」

 

「どういう……」

 

「時間が無い、こっちに来たまえ」

早瀬中将はアムロの言葉を遮り、腕を取って、施設の外へ足早に出て、周りに誰も居ない事を確認する。

 

「何が起きているのですか?」

 

「ゼントラーディ軍の大軍が地球圏を包囲した」

早瀬中将はアムロの質問に声を低くし、答える。

 

「!?」

 

「突如として地球圏に現れた。ワープ航法の類だろう。もはや相手は隠れるつもりも何もない……全面戦争の様相だ。その数、戦艦だけでも推定500万……我々の目算が余りにも甘すぎた。グランドキャノンでもどうにもならないだろう。もはや勝てる数字ではない……あの子の言う事を信じていれば……いや、あの時点では誰も信じはしなかっただろう」

早瀬中将は悔いるような表情をしていた。

 

「基幹艦隊か……」

アムロは敵艦隊が500万と聞き、エキセドルからもたらされた情報通りであれば、ボドル基幹艦隊全艦隊が地球へ現れたと理解する。

 

「頼みがあるアムロ・レイ中佐、こんな事を頼むのは軍人として失格だ。だが……娘を…未沙を頼む」

早瀬中将は頭を垂れながら、未沙が軟禁されている校外の別荘地の場所を知らせる。

 

「……わかりました」

 

「私は軍人として最後まで戦いを全うするだろう。中佐、マクロスならば若しくは………」

早瀬中将はそう言って、苦笑しながら踵を返し、司令施設入口へと向かう。

 

「……」

アムロは早瀬中将の背中に向かって無言で敬礼し、足早に基地外延部にあるバルキリー地下格納庫へ向かった。

 

 

 

アムロが地下格納庫へ向かうと、誰が準備したのかはわからないが、既にアムロのVF-X3Z改は発進の準備が整っていた。

「運がいい……補助ブースターも取り付け済みか」

アムロはバルキリーに乗り込むが、……格納庫全体が揺れ、轟音が鳴り響き、目の前の機動エレベーターが激しい熱粒子の光と共に破壊された。

 

「っ!攻撃が始まった!?」

 

アムロはガウォーク形態で、破壊された機動エレベーターから基地の外に飛び出す。

そこで見た光景とは、巨大なビームの柱が地表のあちらこちらに降り注いでいるというものだ。

そう、それは大気圏外からの敵艦主砲による艦砲射撃だった。

 

「な!?大気圏外からの直接攻撃!?なんて数だ!」

アムロは空高く上空に、何かが蠢き覆っているのが見えた。

その蠢く何かとは、地球を覆うボドル基幹艦隊500万の艦隊の一部だという事に直ぐ理解する。

しかも、この艦砲射撃はその艦隊の極一部の戦艦からだけだと……

 

「……」

アムロはVF-X3Z改をファイター形態に変形させ、急ぎ、早瀬中将が記した建物の場所へ向かう。

 

 

 

 

別荘地の頑丈な家に軟禁されていた未沙は何とか外に連絡しようとしたが、連絡手段はすべて絶たれていた。

衣食住の不自由はなかったが、早瀬中将の息が掛かった人物に警備、監視されていた。

(交渉は失敗なの?まさかお父様がこんな強引な手段をとるなんて……いえ、まだよ……せめて、中佐に連絡が取れれば……)

未沙はまだあきらめてはいなかった。何とか隙を付いて、アムロに連絡しようとしていたのだ。

 

幾日か経過したその日、突如として未沙の耳に激しい轟音が聞こえて来た。

今居る2階の部屋の窓の外を見ると、空の向こうの宇宙域に、何かが埋め尽くさんとしていた。

「………まさか!」

 

未沙はその光景に激しく動揺する。

未沙は理解した、空を埋め尽くすあれはゼントラーディ軍の艦隊だと……

 

「もう、ダメなの………」

未沙はその場に崩れるように座り込む。

その間にも、空から降るビームによる激しい光と衝撃音が届く。

 

未沙の心は折れそうになる。

 

「……中佐…アムロ…中佐」

しかし、その人物の名前を口にするだけで、折れそうになった心もなんとか持ちこたえる事が出来た。

こんな状況でも、あの人ならば何とかしてしまうのではないかと……

 

 

窓の外が急に暗くなる。

 

いや、純白のバルキリーがガウォーク形態で降り立ってきたのだ。

 

そして、コクピットが開く。

「迎えに来た」

そこには未沙が待ち望んでいた人物の顔が……

 

「中佐!」

未沙は窓を必死に開けようとするが、開けられない。

窓自身頑丈な作りになっている上、この窓は中から開けられないようになっていた。

 

アムロはそれを理解し、手振りで未沙に後ろに下がるようにと指示すると、バルキリーの手で強引に窓を破壊する。

 

「乗れ!」

 

「レイ中佐!!」

 

未沙はバルキリーの手の平に乗り、アムロはその手をコクピットの横まで持ってくる。

 

「レイ中佐!!」

未沙はアムロに抱き着きたい衝動に駆られるが、自制心で何とか抑え、アムロが座るシート後方の狭い複座に乗り込む。

 

コクピットを閉めながら上空へと垂直移動し、ファイター形態に変形し、この場を飛び去る。

 

 

「中佐、ありがとうございます。今、何が起こって……いえ、ゼントラーディ軍が迫って来ているのですね」

未沙はこの事態について聞く。

 

「ああ、約500万の戦艦が地球圏に現れたようだ。俺もすべて把握してるわけじゃないが、恐らくエキセドル記録参謀が言っていたボドル基幹艦隊だろう」

 

「……遂に……私は説得に間に合わなかったのですね」

 

「いや、君のせいじゃない……君は一番初めに彼らとの和平をと声を上げた……俺達大人がもっとしっかりとしなくてはならなかった」

 

「中佐………その、レイ中佐、よく私の居場所がお分かりに……」

 

「君の父親の早瀬中将が、俺にここの場所を教えてくれた……」

 

「父は何と」

 

「君を俺に託すと……中将は最後まで戦うと……」

 

「そうですか父が………」

 

アムロは所々降り注ぐ、大気圏外からの艦砲ビーム攻撃に注意しながら、一直線に進む。

 

「レイ中佐、これからどうされるのですか?」

 

「マクロスに戻る。地球からでは埒が明かない。このままこの機体で大気圏突破をする」

VF-X3Z改にはタカトク准将が開発した極小の専用スラスターブースターが取り付けられていた。

 

「……敵艦隊がこうも多いと大気圏突破は」

未沙の言う通り、このまま大気圏突破を試みても、地球圏に犇めく艦隊に容易に撃墜されるだろう。

大気圏突破中の数十秒は完全に無防備になる。いくらアムロでもその状態では避けようがない。

 

「ああ、艦隊の薄い場所を探してる……太平洋海上は比較的薄そうだ。誰も居ない海上は敵も狙わないだろう」

 

そんな事を言っている傍から、大気圏外からのビーム攻撃が徐々に激しくなり、さらに嵐のような激しいビームの雨が地表に隙間なく降り注いできたのだ。

ボトルザーはついに、ゼントラーディ軍ボドル基幹艦隊全艦に地球への一斉攻撃を命じたのだ。

 

 

「今迄は様子見か!やはり奴らは地球を滅ぼす気だな!」

 

「きゃーー!」

未沙はその敵の嵐のようなビーム攻撃の恐怖と、アムロの操るバルキリーの機動に目を回し、叫ぶ。

 

「頭を低くし、歯を食いしばってろ。舌を噛むぞ」

アムロは未沙に声を掛ける。

アムロは両手の操縦コンソールを自在に動かし、機体を上下左右へ傾け、時には回転しながら、上空から降り注ぐビームの雨の中のわずかな隙間を縫うように突き進み、絶妙な機体コントロールですべてかわしていた。

アムロの超絶技巧と空間把握能力、ニュータイプ能力による予知予測、さらにこのアムロ専用にカスタマナイズされたVF-X3Z改の機体性能あってのこの回避だ。

通常のパイロットに機体ならば2秒と持たないだろう。

 

アムロはそんな超絶回避を繰り返しながらも、太平洋に向かって突き進んでいた。

 

 

太平洋へと到達する頃、アムロの予想通り敵の艦砲射撃は弱まる。

しかし、振り返った先に見たものは、敵の一斉攻撃により先ほどまであった町は消滅し、地面は削られ、徐々に変貌していく大地の姿だった。

 

「………中佐……街が人が…」

未沙はその光景に言葉を失う。

 

「……今はマクロスに戻る事だけを考えろ」

アムロは、未沙の震える声に檄を入れる。

そうは言ったもののアムロ自身、優れたニュータイプ能力により、地球から生命が一気に失われる感覚がその身に重く圧し掛かっていたのだ。

だが、アムロはその感覚を必死に抑え込み精神をコントロールしていた。

 

太平洋側の海上に抜け、確かに艦砲射撃は弱まったものの、地球圏宙域には敵艦隊が犇めき、単独で大気圏を突破できる状況ではなかった。

 

 

 

すると……

アラスカ統合軍本部基地方面から突如として巨大な光の柱が昇り、空を突き抜け、宇宙に向けて伸びて行ったのだ。

そして、宙域に展開していたゼントラーディ軍の艦隊を飲み込む。

さらに巨大な光の柱は敵の艦隊を多数巻き込みながら、南へと矛先が進む。

 

この巨大な光の柱は地球統合軍の切り札、グランドキャノンからの超高出力エネルギー攻撃だった。

 

グランドキャノンの超高出力エネルギー攻撃は、敵艦隊を次々と焼き払っていき。

120秒間照射し続け、ビームは途切れる。

 

後で分かった事だが、このグランドキャノンの超高出力エネルギー攻撃は敵の艦隊の凡そ2割弱を撃滅、または戦闘不能に陥れたとあった。艦船数では70万から80万近くを沈黙させたことになる。

密集陣形が仇となり、ボドル基幹艦隊に大ダメージを与えたのだ。

だが、グランドキャノンの真の狙いはボドル基幹艦隊の旗艦、1400㎞級超巨大空母艦だった。超高出力エネルギー攻撃が到達する前にエネルギー切れを起こして停止してしまい、超巨大空母には届くことは無かった。

実質、これが地球側からの最後の抵抗だった。

グランドキャノンは再チャージまでに数時間を擁し……その隙に敵艦隊の集中艦砲攻撃により、グランドキャノンは統合軍本部基地ごと消滅する。

 

 

しかし、これはアムロにとって好機だった。

グランドキャノンの攻撃により、地球圏を包囲していた500万の艦隊にぽっかりと大穴が開いたのだ。

 

アムロはすかさずその艦隊の穴から大気圏突破を図り、宙域へと飛び出す。

 

「マクロスはどこだ!?」

アムロは宙域に上がる事が出来たものの、グランドキャノンで大ダメージを受けたとはいえ、ボドル基幹艦隊はまだ400万以上が健在なのだ。

四方は敵が犇めいている。

 

「レイ中佐……」

未沙も周囲遠方に見える犇めく艦隊に表情が強張っていた。

 

(……感じろ、マクロスはどこだ。………見えた!)

アムロは心を落ち着かせ、ニュータイプ能力を発現させ、マクロスの正確な位置を感じ取る。

だがマクロスは、現宙域からでは幾つもの分岐艦隊級の艦隊を突破しなければならない位置にあった。

 

「………大尉、マクロスに戻るぞ。さっきよりも荒れる。しっかり掴まってろ!」

 

「え?……その……はい」

そのアムロの言葉は、先ほどの地上でのビームの回避機動よりもと言う事になる。

未沙は一瞬躊躇するが、もはや未沙にどうすることもできない。

 

 

 

アムロのVF-X3Z改はバーニアを吹かし、敵の分岐艦隊目掛けて猛スピードで突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

ボドル基幹艦隊は地球への攻撃を継続中だった。攻撃開始から1時間が経とうとしていた。

地球の超兵器による思わぬ手痛い反撃を受けたが、それも沈黙させ、後は地球に対し断続的に大気圏外から艦砲射撃を撃ち続けるのみだった。

予定では後1時間。

 

 

しかし、とある分岐艦隊に突如として謎の戦闘ポッドが突貫してきたのだ。

「なんだ?たった一機?味方ではない。この星の戦闘ポッドの様だ。この星への艦砲射撃を継続しつつ、適当に迎撃してやれ」

分岐艦隊司令 オゴタイはそんな命令を下したのだ。

その戦闘ポッドが唯の戦闘ポッドで唯のパイロットならば、それで容易にあしらえたであろう。

 

しかし……

 

「艦隊司令!我が艦隊に被害が出ております」

 

「先ほどの敵の地表からの超兵器か?」

 

「いえ、こちらに突貫してくるあの白い戦闘ポッドです。既に艦隊の中に入り込み、艦船が数隻落とされました……」

 

「なに?……たった一機の戦闘ポッドに何をしている!!こちらの戦闘ポッド部隊はどうした!?」

 

「まったく歯が立ちません。一直線でこの旗艦に向かって………」

 

2時間前にこの宙域に到着したばかりのこの分岐艦隊には、ブリタイ艦隊やラプラミズ艦隊の兵士達を恐怖のどん底に陥れたこの真っ白な戦闘ポッドの恐ろしさを理解できなくて当然だろう。

 

そして理解した時には既に遅かった。

 

「……なっ!?」

艦隊司令はブリッジから、真っ白な戦闘ポッドが凄まじいスピードで迫って来る姿がその目に映る。

その瞬間、ブリッジはビーム砲に撃ち抜かれ……その分岐艦隊旗艦は爆散する。

 

 

 

アムロのVF-X3Z改はマクロス帰還に向けて、一直線へのコースをたどる。

現在のVF-X3Z改の武装はフル装備ではない。

大気圏突破するため、外部ユニットに取り付けていた反応弾などのミサイルに大型バズーカやビームライフルなどの携行武器はすべて廃棄していた。

そのため、現在使用できるものは固定武装と内蔵兵装のみとなっている。

それでもこのVF-X3Z改は強力な兵器類が装着されている。

両腕の集束ビームランチャー、小型プラズマイオンソード、頭部バルカン砲、三連小型ミサイルラック、小型ミサイルポッド2基と……

 

さらに、推進剤に余裕がない。戦闘を行えば、通常航行に比べれば推進剤の消耗は激しくなる。特にアムロのようにとんでもない機動をとると余計にだ。

 

アムロは幾つもの分岐艦隊級を突破するには、最短コースを最小限の戦闘で突破する必要があったのだ。

 

(最短コースは………)

アムロは操縦に集中しながら、ニュータイプ能力を発現させ、マクロスへの最短コースの道筋が脳裏に浮かばせる。

 

 

 

ゼントラーディ軍分岐艦隊司令 ヤンガスは隣の艦隊が地球への艦砲射撃を止め、艦隊内で戦闘状態の様相であることに気が付く。

「左翼に展開するオゴタイ分岐艦隊が騒がしいようだが、どうなってる?」

 

「さて?……通信が来ました。……!?オゴタイ分岐艦隊旗艦が墜とされました!?」

通信兵は左翼の分岐艦隊から意外な内容の通信を受け取る。

 

「何―――?どうなってる?敵の攻撃など……」

 

「……な!?し、司令、たった一機の戦闘ポッドにやられたと!!」

さらに彼らは驚く事になる。

 

「バカな!何かの間違いだろ!!」

 

「司令!!我が艦隊に一機の戦闘ポッドが突入しました!凄まじいスピードです!!……データ来ました!!オゴタイ分岐艦隊旗艦を墜とした、白い戦闘ポッドです!!」

 

「な…なんだ!?……直ぐに迎撃態勢だ!!」

 

「……司令!!2000m級戦艦2隻撃沈!!尚も被害が拡大中!我が艦隊の下方を尚も一直線に突き進んでおります!!」

 

「迎撃どうした!!戦闘ポッド部隊は!?」

 

「戦闘ポッド部隊追いつけません!集中弾幕もすべて避けられました!!………白い戦闘ポッドは我が艦隊を抜け……、友軍ビサール分岐艦隊へ向かいました……」

通信兵はホッと息を吐く。

 

「………何だったんだいったい?……被害状況は?いや、ビサールに通信だ!」

分岐艦隊司令 ヤンガスはまるで狐につままれた気分であった。

 

 

 

 

その後も……

「……なんだあの白い戦闘ポッドは!?まるで追いつかない!?」

「こっちは2000の艦隊に、戦闘ポッド18万だぞ!?なぜ落とせない!!」

「うわーーー、来るなーーー来るなーーーー!!」

「どこだ?どこに行ったーー!?うわーーーーっ!!」

「たかが戦闘ポッドに何故戦艦が落とされる!!なんだあのビーム兵器は!?」

「対空防御………なっ!?この射線をかわすだと?」

「……なんて動きだ。あれは本当に兵が乗ってるのか?」

「……悪夢か……いや、あれは悪魔だ。まさか伝承の……プロトデビルンか?」

ゼントラーディ軍の艦隊は、たった一機の白いバルキリーに手も足も出なかった。

 

 

交戦経験が豊富なブリタイ艦隊ですら、アムロのバルキリー一機に翻弄させられていたのだ。初見となる彼らには、あの二つ名持ちのバルキリーに対応など出来るはずも無い。

ブリタイ艦隊司令 ブリタイ・クリダニクは、アムロに捕虜を奪還されてから、アムロのバルキリーを脅威とし、アムロシフトなる対アムロ用の戦術を幾度となく準備し実行したが、悉く無に帰する結果となる。

アムロのバルキリーは対戦の度に、予想以上の動きと攻撃を繰り出してくるのだ。

そのうち、アムロを撃墜することを諦め、被害を拡大させない戦術を組み込む程であった。

最終的にアムロのバルキリーについてはあらかじめ被害を想定し、マクロス撃墜のための戦術を優先することに……

そして、アムロの駆る白いバルキリーについた二つ名は白い悪魔。

 

 

突破された分岐艦隊は艦隊全体としての被害こそ大きくないが、その白い悪魔の恐怖は確実にゼントラーディ軍の兵士に刻みつけられていくのだった。

まさにゼントラーディ軍兵士にとって悪夢そのものであった。

 

 

 

「そこか……邪魔だ!」

アムロのVF-X3Z改は立ちはだかる敵をなぎ倒しながら、無人の荒野を駆け抜けていくが如く、次々と敵分岐艦隊を突破していった。

 

 

そして、アムロは遂に敵中突破を成功させ、マクロスが待機している宙域へと出る。

 

「タカトク准将や開発スタッフには感謝だな。VF-X3Z改の能力が無ければ、こうも突破できなかっただろう」

タカトク准将以下、技術開発部がVF-X3Z改に並々ならぬ熱意を注いできた結果だろう。

 

「中佐……あの、もう、もうよろしいでしょうか?」

未沙は、恐る恐るアムロに尋ねる。

戦闘中のコクピットの中は、ただただ恐怖でしかない。

叫び声を抑えるので精いっぱいだった。

 

「ああ、すまない。突破は成功した」

 

「レイ中佐……地球が………」

未沙はコクピットから地球を見、その姿に苦悶の表情を浮かべ、アムロのシートの後ろに項垂れしがみ付く。

あの青い星と言われた地球は、ゼントラーディ軍からの艦砲射撃により、無数の光が降り注ぎ、爆発などがあちらこちらで起きているのが見える。

街は破壊され、森は焼き払われ……海や川も蒸発している場所も見受けられる。

地表は無残な状態となっているだろう事は想像に難くなかった。

この状況下では生命は生き残る事は出来ないだろうと……

 

「………くっ………」

アムロも無残な地球の姿に胸が締め付けられ、グッと拳を握りしめる。

(止められなかった。……何か手立てがあったはずだった)

 

そして、もう一つの思いがふと沸き上がっていた。

(……シャア、お前がやろうとしていた事はこういうことなんだよ……この現実を受け止める事ができたのか?シャア!?)

 

 

 

アムロと未沙を乗せたVF-X3Z改はマクロスへとたどり着く。

 




地球が原作通りの惨事に。
迷いましたが、原作通りにいたしました。

原作通り、480万の艦隊ですが、今は凡そ500万としてます。
分岐艦隊規模は凡そ1000~5000の艦船と考えてます。

グランドキャノンも原作では80万の艦船を落としてます。
かなりの超兵器ですよね。

そんでもって、後残り2話の予定です。
次が真アムロ無双完結編の予定。


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アムロ人類の存亡を懸けた戦いに赴く

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
毎度、助かっております。

すみません。最終決戦が1話で収まらず。
1話増えちゃいました。



マクロスの発令所ブリッジでは絶望感が漂っていた。

 

「くっ、地球が!!」

ボドル基幹艦隊による集中砲火を浴びる地球の姿を見たグローバルの一人嘆く声が、ブリッジ中に響き渡る。

 

ブリッジクルーはそのあまりの衝撃な光景に、ただただ茫然と見ている事しかできない。

 

 

「艦長……エキセドル記録参謀閣下から、面会を求められてます。火急の要件です」

クローディアは、辛うじて立ち直り、通信を読み上げる。

 

「……わかった……行こう」

グローバルは帽子を深くかぶり直し、ブリッジを後にする。

 

 

大会議室に向かうグローバルはこの後のエキセドルとの会談について、思考を巡らせていた。

十中八九、マクロスの逃亡についてだろうと……、地球の惨状を見て、それも致し方が無いとも考えていた。

その反面、ボドル基幹艦隊にグローバルは一矢報いる方法が無い物かと模索していたのだ。しかし、どう考えても玉砕にしかならない。

 

 

マクロスの大会議室に着いたグローバルは、エキセドルから意外な言葉を聞くのだ。

 

「もはや、我々が協力し、ボドル基幹艦隊を退けるしか生き残る道はありませんな」

 

「エキセドル閣下……いや、私もその事について考えておりましたが、玉砕同然です。しかし、ブリタイ艦隊はなぜそこまで……、ボドル基幹艦隊はお味方の艦隊ではありませんか。閣下こそ我々を見捨て、お戻りになられた方が良いのではないですか?そうなされても我々はブリタイ艦隊に対して遺恨はありません」

グローバルの意見はもっともである。

ブリタイ艦隊がそこまで無茶をする必要性が全く見えない。そもそもブリタイ艦隊はボドル基幹艦隊の下部艦隊だ。エキセドルの言動は反逆に他ならないのだ。

 

「ふむ。基幹艦隊司令ボドルザー閣下は我々とラプラミズ艦隊に貴艦の足止めを命じられた」

エキセドルは淡々と語りだす。

 

「それは当然の処置だと……それでは我々と協力し反逆行為を行う意味がわかりかねます」

 

「……ボドルザー閣下はプロトカルチャーである地球人類の抹殺を命令された。その地球人類と長時間接触をして来たブリタイ艦隊とラプラミズ艦隊もその対象になったと判断せざるを得ない。マクロスごと我らも抹殺するおつもりだろう。ラプラミズ、ブリタイ艦隊で貴艦を止め置く理由はそれしか見当たらない」

エキセドルの判断は間違ってはいなかった。

ボドルザーは地球人類及び地球人類が接触した物をすべて焼き払うつもりだったのだ。

 

「な!?」

 

「ボドルザー閣下はプロトカルチャーや文化を恐れられてる節がある。50万周期で何も変わらなかった我々が……貴公らと接触し、文化に触れ、極わずかな時間で変化していくのを私自身感じている。ゼントラーディの過去を知る記録参謀の私には、それはボドルザー閣下にとって、いやゼントラーディ軍にとって、どれだけ脅威に映るであろう事も理解できる」

 

「いや、しかし」

 

「我らは争い以外の新しい未来と言うものを知った。もう後戻りはできまい。ならば我らも自らの手で未来を切り開くしかあるまいよ。貴公らと協力してな」

 

「……申し出はありがたいですが」

 

「艦長……、文化を絶やしてはならない。未来を知った我々もここで滅ぶのを良しとしない。現状ではもはや逃げる事もままならない。ならば倒すしかあるまいよ」

 

「……分かりました。我々も腹をくくりましょう」

 

「勝ちましょうな」

ゼントラーディ人であるエキセドルから、グローバルに握手を求めたのだ。

これはエキセドルから、共に戦い生き抜こうと言う熱いメッセージだった。

 

 

こうして、マクロスとブリタイ艦隊との共闘作戦会議が始まったのだ。

 

先ずは、ブリタイ艦隊司令 ブリタイ・クリダニクは第一関門であったラプラミズ艦隊司令 ラプラミズとの共闘を漕ぎつける事に成功させた。

 

そして、一条輝が発案、エキセドルとマクロス上層部が作戦を練り、後世に伝わる伝説の作戦『リン・ミンメイ作戦(ミンメイ・アタック)』が考案されたのだ。

 

『リン・ミンメイ作戦』とは簡単に言うとこうだ。

リン・ミンメイの生歌をブリタイ艦隊のオープンチャンネルを使い、ボドル基幹艦隊の全艦船、全兵隊に行き渡る様に流し、初めて歌と言う文化に触れたボドル基幹艦隊の兵達は極度のカルチャー・ギャップによる混乱を起こす。

これは既にブリタイ艦隊は実体験済みである。

その混乱の隙にグランドキャノンの攻撃で空いた艦隊の穴を通って、敵の頭であるボドル基幹艦隊旗艦1400㎞級超大型空母にマクロスを中心としたブリタイ、ラプラミズ艦隊で突撃し、旗艦を落とす作戦だ。

エキセドルが言うには、基幹艦隊の旗艦が落とされた場合、各艦隊は無条件で撤退する仕組みとなっているとの事だった。

 

 

「しかし、もう一手欲しいところですな」

エキセドルは顎に手にやり思案する。

この作戦はある種の賭けでもある。

しかも、相当分が悪い。

成功率を高めるために、何か他にも手を打ちたい所であった。

 

「……そうですな」

グローバルはその言葉にアムロを思い起こすが……アムロを地球に送ってしまったのだ。悔いても悔いきれない思いがあった。

これ程、この場面で頼りになる人物はいないからだ。

しかし、あの地球の惨状では……生きている事は無いだろうと……

 

エキセドルも、グローバル以下マクロス上層部の曇り顔に思い当たる節があった。

アムロが地球に降り立った事をエキセドルも知っていたのだ。

もし、ブリタイ艦隊を苦しめたあの白い悪魔がここに居れば、もう一手打つ手はあっただろうと、エキセドルも思わずにはいられない状況であった。

 

会議室は一時、重い沈黙の空気が流れる。

 

 

「会議中失礼します。緊急報告です」

そこに通信ではなく、直接会議室に士官が慌てて報告に来たのだ。

 

「何かね?……構わない、この場で報告を」

本来ならエキセドルの前で行うべきではないが、もはやこのような事態だ。グローバルはその場で報告させる。

 

「アムロ・レイ中佐!早瀬未沙大尉!マクロスに戻られました!!」

その士官は声を大にして報告する。

 

「な、なんと!!それは本当かね!!」

グローバルは思わず立ち上がる。

この重苦しい空気を一掃する程の吉報が舞い込んできたのだ。

 

「はい!!中佐は専用バルキリー単騎で地球圏突破、敵分岐艦隊凡そ8艦隊を突破し、戻られました!!」

士官は興奮気味に伝える。

それを聞いたマクロス上層部全員が驚きと共に歓喜の声を上げていた。

 

「くくくっふはっ!そうだった。あいつはそう簡単にくたばる玉じゃなかったな!」

この会議に参加していたフォッカーも大声を上げ喜んでいた。

 

「信じられん。戦闘ポッド一機で集中砲火の地球を離脱し、分岐艦隊8艦隊を突破とな……やはり白い悪魔ということか」

エキセドルもこの時ばかりは驚きの声を上げていた。

 

「中佐は無事なのだな!?」

 

「はい、ご本人は無傷です!バルキリーには目立った損傷もありません!!現在パイロット待機室で休憩を取られております!!」

 

「至急、レイ中佐を呼んできてくれ!」

 

 

こうして、マクロスは最終決戦へ向け、新たなる一手を手に入れる事になる。

 

 

 

 

 

 

ボドル基幹艦隊は、地球への2時間に及ぶ一斉艦砲射撃を終え……

いよいよ、マクロスへと攻撃を移そうとしていた。

 

しかし……

 

「目標!!ボドル基幹艦隊旗艦、1400㎞級超巨大空母!!マクロス!!突撃――――!!」

グローバルはカッと目を見開き、腰を浮かして、腕を前に振り降ろし、吠える。

 

「「「了解」」」

ブリッジクルーも全員それに答える。

 

『リン・ミンメイ作戦』が開始されたのだ。

 

 

マクロスは足止めをするはずのブリタイ艦隊とラプラミズ艦隊と陣形を組み、

ボドル基幹艦隊の旗艦を落とすべく、突撃を開始したのだ。

 

その陣形はこの宇宙進出時代では使用されていない古来の陣形、鋒矢(ほうし)の陣、西洋の槍の形(矢印↑の形)をした陣形で正面強行突破を図るための陣形だ。

破壊力がある反面、柔軟な対応が出来ない、まさに捨て身の陣形なのだ。

さらに、槍の陣形の穂先には強力無比な兵を置かなくては陣形が保てないという。

まさに猛者のみが許された陣形と言っていいだろう。

大将は穂先の中腹に陣を置くが、今回は最大攻撃力を誇る大将のマクロスとブリタイ・クリダニクの旗艦がほぼ最前列に並び突撃を敢行していた。

 

マクロス前方防衛にはフォッカー率いるスカル師団。

エストラント率いるユニコーン遊撃部隊と大隊に昇格した一条輝を隊長、マックスを副長としたバーミリオン大隊は遊撃任務に就く。

 

マクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊は、アムロがマクロスに帰還する際使用したルートを通り、グランドキャノンの攻撃が空けた艦隊の穴に先ずは入り込もうとする。

 

 

そして、マクロスから宇宙を一望できるテラスでは……

『おぼえて、〇○〇すか~』

マヤンの島で発掘された詩を元に作曲された、あの後世に残る偉大な歌を歌うリン・ミンメイ。

その歌を、多種多様な文化の映像と共に、オープンチャンネルでボドル基幹艦隊全艦隊に流したのだ。

 

 

狙い通り、ボドル基幹艦隊はカルチャー・ギャップ・ショックにより混乱し、戦力は大幅に低下。

マクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊はグランドキャノンの攻撃が空けた艦隊の穴に到着し、そこから旗艦1400㎞級超巨大空母に一直線に向かう。

 

 

しかし、グランドキャノンに戦力は2割奪われ、歌によるカルチャー・ショックで混乱しているとはいえ、ボドル基幹艦隊400万の超巨大船団である。

抵抗は生半可なものではない。

 

一方こちらは、強力無比なマクロスという戦力があるとはいえ、ブリタイ・ラプラミズ凡そ6000弱の艦隊だ。400万対6000の700倍の戦力差は如何ともしがたい。

マクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊は1400㎞級超巨大空母に近づくにつれ、敵の抵抗により5000、4000、3000と戦力を減らしていく。

 

 

しかし、マクロスがボドル基幹艦隊旗艦を討つべく放たれた矢は、このマクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊の鋒矢の矢だけではなかった。

 

 

 

「…………」

もう一つの白く輝く矢が、凄まじいスピードで敵旗艦の背後に迫りつつあった。

 

 

 

 

時間を遡り『リン・ミンメイ作戦』開始20分前……

 

アムロは会議室で作戦の打ち合わせを終わらせ、軽く食事を取った後、バルキリーの発進準備をすべく宇宙方面技術試験運用軍のドックに戻ったのだが……

早速、タカトク准将に捕まった。

 

「アムロ君!!作戦は聞いてある!!あの400万の艦隊に私のバルキリーを連れて、奇襲をかけるのだろ!!そうじゃなくとも、君はきっと単独でもあのバカでかい巨大空母に突っ込むつもりだっただろう!!だから私は用意した!!ついて来たまえ!!」

 

タカトク准将は通信連絡で、つい先ほど今回の作戦について知らされたばかりだった。

作戦内容はリン・ミンメイの歌によるカルチャー・ギャップによる混乱に乗じて、マクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊をグランドキャノンの攻撃で空いた艦隊の隙間から、ボドル基幹艦隊旗艦1400㎞級超巨大空母へ突撃。

そしてアムロ・レイによる旗艦への単騎奇襲攻撃の三段構えだ。

アムロの役割は、マクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊の突撃やリン・ミンメイの歌に敵が気を取られている隙を付いて、敵旗艦単騎奇襲攻撃を敢行するというものだ。

理想は敵旗艦をアムロと連合艦隊での挟み撃ち攻撃状態に持って行く事だが、もし、アムロの攻撃が奇襲にならずとも、敵旗艦後方で暴れているだけで連合艦隊が旗艦に到達する可能性が高くなるのだ。

 

 

アムロはタカトク准将に促され、とあるバルキリーの前に来る。

その周囲には技術開発スタッフが皆集まっていた。

 

アムロは目の前の真っ白なバルキリーにどこか見覚えがあった。

……両腕の集束ビームランチャーにVF-1に比べひと回り大きな機体……VF-X3Z改の面影があったが試作機らしい粗削りな雰囲気はなく、各所のフレームは洗練され、スマートな姿であった。

 

「アムロ君が戻って来て直ぐにVF-X3Z改は全力全速で改装を施した!!パーツの殆どを新調させてもらった!!1.12倍の機動力と1.21倍の出力だ!!どうだ!! YF-5の設計思想の試作機と位置付けたこのVF-X3Z改は!もはや、YF-5の設計思想そのものだ!!VF-X3とは非なるものとなったのだよ!!よって、正式にYF-5の試作機 YF-X5【RAY】(一筋の光)と名付ける事にした!!君がマクロスに戻って来る姿を超望遠カメラで見ていた!!まさしく一筋の光の様だった!!この機体は私と開発スタッフが今持てるすべてをつぎ込んだ、まさしく希望の光だ!!それにこの機体、君にしか到底扱えない!!君専用機だ!!だからコードネームは【RAY(レイ)】だ!!我ながら洒落てるとは思わんかね!!」

 

そして、今迄コクピット横フレームやウイングに施された603大隊の文字がなくなり、真っ白の機体に朱色のユニコーンマークのエンブレムが意匠されていたのだ。

 

「准将これは……」

 

「君の元部下共がうるさくするもんだから!!仕方なくだ!!まあ、このエンブレムも悪くはない!!だが、注目すべきはそこじゃない!!」

タカトク准将が元部下共というのはもちろん、ユニコーン部隊の面々だ。

 

すると……

「中佐!!VF-X3Z改じゃなかった。YF-X5の足回りの姿勢制御モーターを増やしました!」

「スーパーパックのように外付けするつもりでしたが、サブスラスターの小型化と元々こいつは一回り大きい躯体なんで、内蔵化に成功しました!」

「集束ビームライフルの出力を17パーセント向上しました!!どんな装甲も貫通させてみせますよ!」

「パイロットの疲労軽減のため、コクピット周りのシート素材を変更しました!」

「プラズマイオンソードの刃の形状をさらに伸ばしてますんで、試してください!!」

「サポート用ゴーストのエンジン回りを大幅に改修しました。これで一早く補給が可能になります」

技術開発スタッフは何時もの感じでアムロに改良要点を伝える。

 

「みんな……助かる」

 

「アムロ君、そんなものは極々微々たるものだ!!VF-5の名前を冠する最大のコンセプトはだ!!その後ろを見たまえ!!」

タカトク准将はアムロにYF-X5の後ろに並ぶ機体を指さす。

 

「VF-3ですか、4機は地球から回収できたのですね」

そこには、地球から宙域試験を行うために輸送機で回収したVF-X3の量産機であるVF-3が並んでいた。

 

「はははははっ!まさか地球があんなことになるなんて思っても見なかった!これ全部無人機に改造してしまったのだよ!!」

タカトク准将は悪びれも無く、とんでもない事を言った。地球で少量量産されたVF-3を宇宙試験用に持ち込んだ貴重な4機をすべて、事もあろうか無人機に改造してしまったのだ。

 

「どうされるんですか?……いや、まさか?」

アムロはある事に気が付いたのだ。

 

「はははははっ、そのまさかなのだよ!!完成だ!!」

タカトク准将は鼻高々と叫ぶ。

 

そこに、ハロがアムロのもとに転がって来る。

「アムロ、アムロ、元気カ?」

 

「ハロも元気だったか?」

 

「中佐……ハロをお返しします」

ハロの後に、げっそりとしたジェフリー・ワイルダー訓練生がヨロヨロとアムロの前に出る。

 

「ジェフ、すまなかった」

アムロがワイルダー訓練生の頭にポンと手を置くと、涙を浮かべ笑顔で答える。

 

そこにタカトク准将が大声で割って入る。

「ハロ君はすばらしい!!最終実験では同時に8体の無人機のAIを制御して見せたのだよ!!これでハロ君とアムロ君とYF-X5が同調すれば!!戦場で無人機を意のままに操る事が出来る!!そう、これこそ私がYF-5に最も力をつぎ込み、成したかったスタイルの一つだったのだが!!ハロ君のお陰で随分と前倒しになった。これこそがYF-5の思想をそのままつぎ込んだものと言えるだろう!!」

ハロはアムロの脳波を感知し、アムロの意思を汲み取り、それをYF-X5に搭載されたハロ専用の制御システムを介し、無人機のAIとリンクさせることで、無人機に絶えず命令を下すことが出来るのだ。

要するにアムロの意思がハロを介して、無人機に反映されるシステムを構築してしまったのだ。

 

「准将、この短時間で完成させるとは思いもよりませんでした。流石です」

アムロはハロと無人機のAI制御について、検証を重ねて来た。

ハロの教育が進めば、戦闘に耐えうるレベルまで引き上げるのに数か月、場合によってはもっと一年以上がかかるだろうと考えていたが……

 

だが、タカトク准将と無人機及びAI技術開発チームはアムロの居ない1週間足らずで、戦闘レベルにギリギリ耐えうるレベルに引き上げたのだ。

その無茶を実現させるために、ワイルダー訓練生が犠牲となったようだ。

話を横で聞いていたワイルダー訓練生は涙目になっていた。相当ひどい目に遭ったのだろう。

 

「ははははははっ!!そうだろうそうだろう!!ところでアムロ君!!なぜハロ君は君の脳波を検知することが出来る!?あれほどの意思疎通が図れるのだね!?それが謎なのだ!!うむ、そんな事は帰った後でじっくり検証しよう!!VF-3の無人機4機と改良型サポート無人機QF-3500OE4機は既にハロ君とYF-X5にリンク済みだ!!君は今からこのYF-X5に乗って十分に暴れたまえ!!そして、必ず帰ってきたまえ!!まだYF-5の開発に着手したばかりだ!!君がいないと完成しないのだ!!バルキリーの未来のために!!いや、大いなる技術進歩のために!!君は無くてはならない人材なのだ!!」

これはタカトク准将流の激励だった。少々照れくさいところがあるのだろう。

 

「了解です。戦闘データも持って帰ってきます」

 

「うむ!!」

タカトク准将は満足そうに頷く。

 

アムロはハロを抱きかかえながらYF-X5【RAY】に乗り込み、ハロをコクピットシートの後ろの台座にはめ込む。

 

アムロはタカトク准将以下宇宙方面技術試験運用軍の面々に見送られ、機動エレベーターへとYF-X5【RAY】を進ませる。

 

発進準備を進めるアムロのもとに次々と通信が入る。

 

『アムロ、どっちが先にあのデカブツ空母を落とすか賭けるか?』

「いや、いい……ロイ、マクロスを頼む」

『アムロ……必ず帰ってこい』

「ああ、そっちこそ」

通信画像に映るお互いの目を合わせるフォッカーとアムロ。

 

 

『アムロの旦那、さすがの俺も潮時だぜ。まあ、あんたが居なかったら俺はとっくに死んでた身だけどな』

「エストラント……あなたがいたお陰で、俺は随分と助けられた。感謝する」

『おいおいおい、今それを言うか?くそ、涙で前が見えねーじゃねーか』

「あなたにはまだ居て貰わないといけない。後続に続く若者を導く仕事が残ってる。こんなところで退場は困る」

『おい、勘弁してくれ、まだ俺を働かそうとする気かよ!ったく、……旦那、死ぬなよ』

「ああ、あなたも」

エストラントとも挨拶を済ませる。

 

この後、ユニコーン部隊のメンバーが次々と一言挨拶をアムロに行った。

 

『アムロ・レイ中佐……君には感謝しかない。平行世界から来た君にこの世界と運命を共にする義理は無い。しかし君は我々のために……』

「艦長……誰とも知れない人間を拾っていただきました。それに今の俺の帰る場所はマクロスです」

『レイ中佐……作戦の成功と、そしてなにより君の帰還を望む』

「了解です」

グローバルからも通信が届く。

 

今回の作戦、分が悪いのは承知だ。

これが今生の別れとなるかもしれないという思いを皆抱いているのだろう。

皆、思い思いに最後になるかもしれない挨拶を交わす。

 

YF-X5【RAY】はカタパルトに乗り、最後の通信が送られる。

『中佐……こうして発進オペレートを行うのはもう何度目でしょうか……』

「早瀬大尉、君には色々と世話になった」

『……アムロ・レイ中佐、必ず帰って来て下さい!私は貴方に聞いて頂きたいことが沢山あるんです!……だから、必ず……』

「ああ……」

 

YF-X5【RAY】は射出カウントに入る。

『レイ中佐……ご武運を……』

潤んだ目でアムロの顔を映像越しに見据える未沙。

アムロは敬礼で返す。

 

そして……

 

「アムロ・レイ、YF-X5出る!」

 

ユニコーンマークの意匠が施された純白のバルキリー YF-X5【RAY】は勢いよくマクロスを飛び立ち、その後ろを8機の無人機が追う。

 




VF-X3Z改はもはや、本来のVF-X3スタークルセイダーの面影が全くなくなってしまい。
YF-5の試作機の試作機として、YF-X5とさせてもらいました。
基本構造は変わらないのですが、ゴツゴツとしたVF-X3Z改から……洗礼されたフレームへと

VF-X3はギャプランっぽい感じで、VF-X3Z改は色々やり過ぎて、バルキリーのEX-Sガンダム化見たいになっちゃった所を……フレームを一新して、YF-X5はF-22の両翼にビームランチャーを、いや、VF-11のスーパーパックバージョンに近いイメージかな。そんなイメージ……

残り2話……予定。

敵の超巨大空母、1400㎞ってデカすぎ!
そこに突っ込む。マクロスとアムロ。半端ないです。




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アムロ戦場を駆け抜ける。

感想ありがとうございます。
すみません。徐々に返えさせていただきたいと……
誤字脱字報告ありがとうございます。
非常に助かります。


遂に最終決戦ですね。
ちゃんとアムロ無双できたかな?


広大な戦闘宙域に、愛が込められた伝説の曲を歌うリン・ミンメイの歌声が鳴り響く……

 

マクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊はグランドキャノンによって開けられた敵艦隊の穴を通って、ボドル基幹艦隊旗艦1400㎞級超巨大空母に特攻する。

 

リン・ミンメイの歌によるカルチャー・ギャップにより、ボドル基幹艦隊は大いに混乱をきたしているとはいえ、敵との戦力差は400万対6000弱の凡そ700倍である。

 

「艦長!現在バルキリー隊損耗率32パーセント!ブリタイ及びラプラミズ艦隊、損耗率52パーセント!!」

 

「くっ!敵旗艦接触予定時間は!?」

 

「46分強です!!」

 

「何としても持ちこたえろ!!」

 

「艦長!!正面、敵来ます!!

 

「怯むなーーっ!!主砲用意!!正面敵艦隊!!撃て――――っ!!」

 

敵の激しい抵抗により、マクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊は道半ばで5000、4000、3000と徐々に戦力を落としていく。

 

 

 

 

一方、ボドル基幹艦隊旗艦1400㎞級超巨大空母からは、次々と戦艦が射出される。

この超巨大空母はその大きさから予想されているだろうが、戦艦を10万単位で格納できる戦艦の空母なのだ。

いや、その大きさと用途から要塞と言った方が良いだろう。

月の直径が凡そ3470㎞である。全高1400㎞、全長510㎞のこの艦が如何に巨大かわかるだろう。

 

 

「わからん。何故あのブリタイが裏切りおったのか……、それにあの歌とかいう音波攻撃、我がゼントラーディ兵の士気をこうも落とすとは、やはりプロトカルチャーと言う事か。……しかし抵抗もそこまでだ。所詮は寡兵、この艦には届かんぞ。プロトカルチャー共々滅びるがいい」

ボドル基幹艦隊司令ボドルザーは、旗艦1400㎞級超巨大空母の最深部に位置する発令所から、望遠映像でマクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊の突撃の様子を見ていた。

 

しかし……

 

「ボドルザー閣下、後方の分岐艦隊から緊急報告です。後方艦隊に敵戦闘ポッドの部隊が突如として現れ、当艦に進路を取っているとの事です。」

通信兵はボドルザーに通信内容を伝える。

 

「ふん、小癪な。あの正面から突撃してくる艦隊は囮と言う事か、本命は戦闘ポッド部隊による奇襲だな。その戦闘ポッド部隊規模はどのくらいだ」

ボドルザーはその通信内容を聞き、敵の狙いについて冷静に答えを導き出す。

 

「……その、数機だけです」

 

「なに?誤報ではないのか?」

 

「はい、……その報告は複数の艦隊から上がっております」

 

「誤報ではない?どういう事だ。たった数機で……奇襲にもならん。たかが戦闘ポッド数機で何が出来る。各後方艦隊は何をやってる?とっとと落とすように返信しておけ」

ボドルザーの予想を遥かに下回る部隊数の報告に、呆れ気味に通信兵に命令する。

ボドルザーは戦闘ポッドによる奇襲攻撃であれば10師団以上で迫って来る事を予想していたのだ。

それがたった数機だというのだ。

通常、戦闘ポッド数機で戦艦一つ落とせるものではない戦力だ。

それがこの1400㎞級超巨大空母を狙うなど正気の沙汰ではない。

 

「そ、それが、その後方艦隊の……幾つかの旗艦と連絡が取れず、その戦闘ポッド数機にやられたと……もしくは、容易に突破されたと報告が上がっております」

 

「なんだと?……どういう事だ?本当に戦闘ポッド数機なのだな?」

 

「はい、そのように……」

 

「たかだか数機の戦闘ポッドに何をやってるか!あの歌とかいう音波攻撃で、攻撃も出来なくなったか!?とっとと落とせと後方分岐艦隊に伝えい!」

ただの戦闘ポッドであれば、既に宇宙の藻屑となっていただろう。

しかし、その数機の戦闘ポッドはただの戦闘ポッドではない。

地球最高峰の頭脳と技術者集団、さらに最上級のパイロットが作り上げた、現段階で数世代先の圧倒的な性能を持つ可変戦闘機なのだ。

さらに、それを操縦するパイロットはゼントラーディ兵すらその姿を見るだけで竦み上がり戦意喪失するという白い悪魔、いや史上最強のパイロットだった。

そんな事は今のボドルザーに知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

アムロはYF-X5【RAY】を駆り、ボドル基幹艦隊の後方から突入を開始しようとしていた。

「ハロ、VF-3とQF-3500OEのスピードはこれが限界か?」

 

「限界、限界」

 

「そうか……」

YF-X5【RAY】とVF-3、QF-3500OEとの基本スペックの差は大きかった。

それらの無人機も改良は加えられていたのだが、VF-X5【RAY】の最高スピードには全く付いて行く事が出来なかったのだ。

それでもVF-1のスーパーパックよりも最高速度は十分速いのだが……

 

 

そして、敵後方艦隊へ突入を開始する。

(歌の効果は覿面だったな。敵の戦意が落ちている………敵が立て直す前に出来るだけ戦闘を避け、基幹艦隊旗艦に近づく)

アムロはニュータイプ能力で敵の戦意が極端に落ちている事を感じ、YF-X5【RAY】を先頭に無人機を縦一列に艦隊内を突破していく。

歌を初めて聞いたゼントラーディ兵はカルチャー・ギャップを受け、戦闘行為もままならず、高速航行を取るアムロのYF-X5【RAY】の隊列の通過をそのまま許してしまっていた。

 

アムロが目標の旗艦1400m級超巨大空母に近づくにつれ、敵は持ち直し、徐々にYF-X5【RAY】に攻撃を仕掛けてくるようになってきた。

 

「ここは強引に通らせてもらう」

アムロは隊列を一列に保ったまま、スピードを緩めることなく突き進んでいく。

その間、抵抗する敵戦艦などは抵抗空しく通過際にアムロのYF-X5【RAY】と4機のVF-3による各一発ずつ計5発のビーム攻撃によって戦艦のブリッジ、弾薬庫、エンジンルーム等の急所を正確無比に撃ち抜かれ、あっさりと落とされて行く。

アムロと無人機の小隊が通過した後には爆発が起こり、敵の残骸が次々と築きあげられていく。

 

また、戦闘ポッドの大軍を用意しても一点突破を図られ、あっさりと抜かれ……。

戦艦や戦闘ポッドによる密集防御陣形を取ろうものならば、反応弾を撃たれ、被害が拡大していくのだ。

 

 

「あの戦闘ポッドはなんなんだ?」

「我が分岐艦隊が抜かれた?」

「来るな来るなーーーっ!わーーーっ!」

「なんて速さだ。あのサイズであのスピード!」

「全く当たらない!なんなんだ!」

「悪夢を見ているのか?」

「たった数機の戦闘ポッドに……味方が…味方が……やられていく」

「白い……悪魔だ!白い悪魔だ!」

アムロが通った後はさらに混乱し、阿鼻叫喚となっていた。

 

 

 

とある4000m級戦艦旗艦などはアムロの進路を妨害すべく立ち塞がるが、YF-X5【RAY】とVF-3が散開し、全方位からの見事な連携で急所を撃ち抜かれ、爆散していく。

その姿はまるで、狼が大きな獲物の狩りをする様相に似ている……

いや、それ以上の動きだった。

それぞれのバルキリーは個々に動いてはいるが、その正確無比な連携攻撃はまるで一つの意思を持った一個の生き物のようにも見える。

 

実際に、アムロの脳波を受け取ったハロがそれぞれの無人機のAIに指示を出しているのだ。

アムロという一つの意思の下動いている4機の無人機は、まさにアムロの手足と言っていいだろう。

 

その上、YF-X5【RAY】という前代未聞の高性能バルキリーに数々の高出力携行武器。付き従う無人機はVF-3とVF-1の次世代機、しかもタカトク准将率いる技術開発チームに改造された無人機だ。

しかもアムロがこの世界に転移したがために、元々のこの世界の兵器水準を大きく引き上げ出来上がったものだ。

 

戦争初期においてはマクロスとゼントラーディとの兵器パワーバランスはある意味拮抗していたのだが、今となっては大幅にマクロス側が高性能となっていたのだ。その中でも群を抜いていたのはアムロが扱う試作機に試作兵器だった。

 

そして、アムロという世界最高峰の技量を持つパイロット。

この世界では存在しないはずの最強のニュータイプ。

しかも、ニュータイプ能力をフルに覚醒させたアムロだ。

敵の動きや位置なども正確に把握していた。

分岐艦隊レベルの宙域内の事象がほぼ見えていたのだ。

 

圧倒的に物量で勝るゼントラーディ軍ではあるが、この圧倒的な個の力を擁する存在(アムロ)に対し、対処することは敵わなかった。

 

アムロは目の前に立ち塞がる敵を悉く撃ち払い、基幹艦隊旗艦へと突き進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふっ、プロトカルチャーめ、もはや風前の灯だ。ブリタイ共々滅びるがいい」

ボドルザーはマクロスの戦闘宙域の映像を見て、勝利を確信していた。

マクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊は必死な抵抗をしていたが、戦力は既に3分の1程度まで減少していたのだ。

そもそもボドルザーにとって、これ程抵抗され、眼前まで差し込まれるとは予想外もいい所だったのだ。

ボトルザーにとっての誤算はグランドキャノンによる攻撃から始まり、ブリタイとラプラミズの裏切り、マクロスの反撃、そして歌による兵の戦意低下。

だが、それももう終わると……。

 

しかし、ボドルザーは最大の誤算を見逃していた。

 

「ボドルザー閣下、敵戦闘ポッドらしきものに取りつかれました」

 

「何?プロトカルチャーの戦艦やブリタイはまだここには到達していないぞ」

 

「そ、それが、後方から奇襲に来た数機の戦闘ポッドだと……」

 

「後方艦隊は何をやっていた!たかだか数機の戦闘ポッドに抜かれたというのか!!」

 

「後方分岐艦隊に損害が拡大しております……。その……一部の艦隊から悪魔だとか、白い悪魔を見たとか……」

 

「悪魔だと!?プロトデビルンではあるまい!そもそも奴らは50万周期前に滅んだ!そんな戯言を言う前にとっとと屠れ」

 

「……な、内部に侵入されました!当艦の防衛隊及び補給並びに待機中の戦隊が対応中です!」

 

「たった数機の戦闘ポッドでこのフルブス・バレンス(1400㎞級超巨大空母)は落ちん。小虫をとっとと排除しろ!」

ボドルザーは次から次へと起こる予想外の展開に苛立ちを覚える。

たかだか6000の寡兵に翻弄されるなど、ゼントラーディ軍と同等の戦力を保有する監察軍との戦いの中でもこのような事態に遭遇することは無かったのだ。

 

「りょ、了解です」

通信兵は慌てて、各方面にボドルザーの怒りの言葉を伝える。

 

 

 

 

 

アムロはボドル基幹艦隊後方分岐艦隊を撃破又は突破しながら、遂に1400㎞級超巨大空母にたどり着く。

YF-X5【RAY】と付き従う4機のVF-3無人機は未だ健在であった。

その間、YF-X5【RAY】とVF-3はQF-3500OEにより2度の補給を済ませ、4機のQF-3500OEはその役目を終え、隊列から離れる。

 

「なんて大きさだ。コロニーどころの騒ぎではない。まるで月がもう一つ現れたかのようだ」

アムロは眼前の1400㎞級超巨大空母を見、そう感想を漏らす。

それもそのはず、全高が日本で言う本州とほぼ同じ長さで、表面積は1400㎞級超巨大空母の方が広いのだ。それが立体構造で目の前に存在する。

この旗艦空母が如何に巨大であるかお分かりであろう。

 

アムロは4機のVF-3を引き連れ、とあるハッチから突入を開始した。

この巨大空母の大まかな構造についてはエキセドルからレクチャーを受けており、既に攻撃目標は定まっていた。

アムロの目的はこの巨大空母の破壊ではない。

現在、ボドル基幹艦隊は地球と月の間に展開している。

もし、この巨大な質量を持った旗艦空母を爆散させた場合、そのエネルギーの余波が地球や月にも衝撃波として降り注ぎ、大きな影響を起こすだろう事は予想されていた。しかも、完全に粉砕でもしない限り、残骸が地球や月に降り注ぐだろう事もだ。シミュレートではその残骸が数百年単位の時間をかけ、降り注ぐと出ていたのだ。

下手をすると、ゼントラーディ軍の総攻撃よりも悲惨な結末を迎える可能性が十二分にあるのだ。

宇宙世紀のコロニーが凡そ全長35㎞、直径6㎞であった。その落下の威力により、オーストラリア大陸に大きな穴をあけ、壊滅状態に……

この超巨大空母が破壊されれば、そのコロニー程度の大きさのものが多数降り注ぐ可能性もあるのだ。

更に巨大空母の質量の四分の一が地球に落下した場合、地球の表層はすべてひっくり返り、大気も残らないだろうと……人が住むことが叶わない、マグマが煮えたぎる死の星になるだろうと……

月に落ちたとしても、衝突エネルギーは地球に多大な影響を及ぼす事は間違いないのだ。

敵旗艦空母の爆散は人類にとって自らの首を絞める行いに他ならない。

 

 

アムロの目的は敵の指揮官を討ち、巨大空母の部分的破壊、半壊から大破一歩手前の行動不能状態にまで陥れること。

非常にデリケートかつ困難なミッションである。

 

幸いにも、敵指揮官を討つだけでも、艦隊はそのまま撤退する可能性も高いとの事だ。

アムロはボドル基幹艦隊司令官ボドルザーを討つことを第一目標として、この巨大空母に突撃を敢行したのだった。

 

ボドルザーが指揮を執っている発令所はこの超巨大空母の中心部に位置する。

その他にも各種指揮系統を統制する施設は多数ある。

ボドルザーを討ったとしても、撤退せずそのまま戦闘を継続する可能性もある以上、この巨大な空母の無力化も行わなければならない。

 

ボドルザーが居るだろう中心部に突き進むと同時に、それ以外の指揮系統や発艦所や格納庫なども破壊しておきたいところである。

 

しかし、全高1400㎞、全長510㎞の超巨大空母だ。

それらをすべて破壊するには時間が掛かり過ぎる。

アムロは集中し、ニュータイプ能力をフルに開放する。

「……見えた」

艦内の要所を把握し、4機の無人機VF-3をそれぞれにこの艦に存在する複数の指揮系統に向かわせ、そして自らはボドルザーが居る中央発令所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

未だミンメイが歌う愛の歌は戦場に響き渡っていた。

マクロスはまだ健在だった。

味方戦力を減らしながらも、超巨大空母の眼前まで迫っていた。

 

「敵は目前!!味方損耗率は!?」

 

「ブリタイ艦隊、損耗率89%、ラプラミズ艦隊損耗率93%、ですが旗艦はいずれも健在です」

こんな時でもクローディアはグローバルに淡々と答える。

既に6000弱あったブリタイとラプラミズ艦隊は、敵の物量攻撃の前に500まで戦力を落としていた。

それでも、ここまで残ったのは奇跡的であった。

本来ならば一瞬で消滅したであろう戦力差であったが、やはり、歌による敵の動揺と混乱は相当なものであったのだろう。

 

 

「くっ!全方位バリアの稼働率は!?」

 

「全方位バリア、耐久残り30分いえ32分!艦長!まだ持ちます!!」

キム・キャビロフ中尉が大声で答える。

 

「よし!エネルギー・残弾は!?」

 

「主砲は後2発が限度です!残弾は後10%!反応弾は20発残しております!!」

同じく、シャミー・ミリオム中尉が興奮気味に答えていた。

 

「防衛部隊状況は!?」

 

「バルキリー隊、損耗率。70%越えました……しかしフォッカー大佐、ユニコーン部隊 キーリック少佐、バーミリオン大隊 一条輝大尉は健在です!!マクシリアン中尉とミリアさんは大戦果です!!」

ヴァネッサ・レイアード大尉は激しい損耗率でトーンを落としていたが、各隊長の健在とマックスとミリアの活躍を強調してアピールする。

 

「……中佐は!レイ中佐はどうなった!?」

 

「まだ……いえ、来ました!暗号電文です!……敵旗艦内突入成功です!!」

未沙はアムロのYF-X5【RAY】からの送信された暗号電文内容を声を大にして伝える。

 

「おお!よしっ!!……このまま敵旗艦 超巨大空母にこのまま突撃をする!!マクロス!全速前進!!」

グローバルの掛け声と共にマクロスは連合艦隊から一歩前に出て、強行突撃を開始した。

 

 

 

 

マクロス・ブリタイ・ラプラミズ連合艦隊に目の前に迫られたボドルザーは歯ぎしりをする思いだった。

「なぜだ!!なぜこうまで抗う事が出来る!!おのれーー!!プロトカルチャーめ!!」

 

「閣下…第2、第3発令所、……いえ、第4、第5発令所が……破壊されました……」

通信兵は信じられないというような様相で、現状の報告をする。

 

「な、なんだと!?」

 

「……格納庫も次々と破壊されております…………」

もう一人の通信兵も同様だった。

 

「バカな!?まさか、侵入した戦闘ポッドか!?ここには数百万からの兵が居るのだぞ!!」

ボドルザーは怒りに任せ、目の前の計器類に拳を振り下ろす。

 

 

「閣下!?」

通信兵はそんなボドルザーに声を掛けるが……その声はまるで何かに怯えるような声だった。

 

通信兵の声にボドルザーが前を向くと……

発令所ブリッジの外の広々とした空間には、一機の戦闘ポッドが堂々とした姿を見せていた。

純白のボディに、胸の中心には朱色のユニコーンマーク……バトロイド形態のYF-X5【RAY】がビームライフルを構えていたのだ。

 

「ヤック!デカルチャー!?………白い戦闘ポッド、白い悪魔!?伝承のニュータイプか!?………このままでは済まさんぞーーーーっ!」

ボドルザーは驚愕の表情を浮かべ……その言葉を最後にビームライフルで貫かれ、発令所ブリッジの爆発と共に消え入る。

 

 

 

 

「やったか……いやまだだ、この艦内部には戦力が残っている。VF-3は2機落とされたか……指揮系統はすべて破壊したが、戦力の要所はすべて破壊していない……」

アムロは司令官を討った事を確認し、次なる要所へと向かう。

 

 

 

マクロスも丁度、敵超巨大空母に取りついた頃。

 

「艦長!レイ中佐から暗号電文です!!敵中央発令所及び敵司令官と思われる人物を討ったとの事!!さらに、指揮系統のほぼ全ての破壊に成功!!敵内部要所の破壊に向かうとの事!!」

未沙がアムロからの暗号電文を通信で受け取り、ブリッジクルー全員に聞こえる声で伝える。

 

ブリッジ全体が歓喜の声が沸き上がる。

 

「おお!!やったか!!エキセドル記録参謀閣下に伝えろ!!マクロスも旗艦内部に突入し、旗艦を行動不能にする!!間違っても動力部の破壊や誘爆をさせるな!!」

グローバルは歓喜の声を上げながら、次の作戦へと移る。

まだ、この宙域には300万を超える艦隊が宙域に存在するのだ。

司令官を討てば撤退する可能性が高いが、そうでない可能性もある。旗艦を行動不能にさせれば、ほぼ確実に艦隊は撤退する。

但し、爆散させれば地球や月に多大な被害を及ぼすことを留意しなければならない。

 

 

しかし……マクロスが超巨大空母に突入したと同時に、大きな揺れと衝撃が走る。

 

「艦長!この旗艦超巨大空母に高エネルギー反応です!移動を開始しました!」

クローディアが早口で現状を報告する。

マクロスに伝わるこの揺れと衝撃は、敵旗艦が移動を開始したためのものであった。

 

「何?どういう事だ!!敵司令官と指揮系統は討ったのではなかったのか?」

 

「……わかりません」

 

 

そこに、エキセドルから通信が入る。

『超巨大空母は移動を開始した』

 

「こちらでもそれを把握しております!これはどういう事態ですか?」

 

『わからない……白い悪魔からの暗号電文と、我が艦隊で旗艦超巨大空母との情報リンクを図り得た情報から、間違いなくボドルザー閣下は討たれ、指揮系統はすべて破壊されていると出ている……この状態で移動を開始するとはあり得ない状況だが、それでも移動を開始した……しかも、この動力部の反応は……この超巨大空母は地球に向けて進んでいる』

エキセドルはここで衝撃の事態を伝える。

指揮系統を破壊すれば、現宙域に留まり、エンジンを点火し移動開始するなど起こるはずが無かったのだ。

だが、現にこの巨大な空母は地球に向かって移動を開始している。

 

「な!?」

 

「艦長……マクロスのシミュレート結果でも、旗艦は地球に突入するコースを取っている事が判明いたしました」

未沙は目の前のディスプレイを見ながら、重苦しい声で伝えた。

このままいけばこの旗艦は地球に衝突し、旗艦は勿論消滅するが地球もとんでもないダメージを受ける。死の星になる事は免れない。

敵に打ち勝つ事は出来るが、地球には二度と帰れなくなるのだ。

 

「なっ!?地球を道連れにするつもりか!!」

グローバルは焦る。

 

『超巨大空母に対しての命令変更は、指揮系統をすべて破壊したがため、再変更はできない……、止めるには動力部を破壊するしかない』

エキセドルは、超巨大空母はもはや制御不能状態だと言っているのだ。

止めるには、動力部を破壊するしかないと言う。

そうなると、この巨大な空母は爆散する可能性が高くなる。

それは、結果から言うと地球へのダメージはほぼ変わらないのだ。

 

「くっ!!マクロスで押し返す!!いや、逸らすだけでいい!!」

グローバルは無茶を承知でブリッジクルーに命令を下す。

 

 

そして、未沙は……

「中佐!レイ中佐応答願います!!早く旗艦から脱出を!!」

アムロへと通信で呼びかけていた。

 

『早瀬大尉、作戦中の直接通信はまずいのではないか?いや……何が起こっている?この旗艦が移動しているように感じている。内部の敵も相当混乱している』

アムロから通信が戻って来る。

 

「中佐!超巨大空母は地球に向かい特攻をかけてます!直ぐに脱出を!!」

 

『なんだって?地球に……大尉、エキセドル閣下と話をさせてくれないか?』

アムロは未沙のその言葉に一瞬驚くが、考えを巡らせる。

 

未沙はグローバルに確認を取り、このブリッジ内にも会話が聞こえるように通信をオープンにし、エキセドルとアムロと通信を繋げる。

 

『エキセドル閣下、この旗艦にはワープ航法が有ると聞いてます。それは利用できないですか?』

アムロはこの超巨大空母をワープ航法(フォールド航法)でどこかの宙域に飛ばそうと考えたのだ。

 

『フォールド航法(ワープ航法)か…指揮系統が破壊されてしまった今では、それもかなわないだろう』

 

『……ワープ航法の動力源は生きているのですか?エンジンの動力源は多数存在するとお聞きしてますが、ワープ航法はどうなのでしょうか?』

 

『うむ。貴公が破壊した場所には含まれていない。フォールド航法の発生装置は恐らく生きているだろう。それに一か所だ。……そうだな。直接制御できれば可能かもしれない……フォールド航法を起動すれば、旗艦設定はボドル基幹艦隊の設定されている元の待機宙域に戻る可能性が高い。……しかし、我々は直接制御するすべを持ち合わせていない』

ゼントラーディ兵に兵器を修理や修繕を行うという思想は持ち合わせていない。

整備も補給も機械による全自動化されているからだ。

更に大きな故障をすれば廃棄し、新しい兵器で補うのだ。

だから、定められた方法以外の運用は出来ないのだ。

 

『それだけ分かれば十分です。位置情報はありますか?』

 

『ある……まさか、貴公が直接制御するとでも』

 

『やる価値は十分にあります……』

 

『貴公の健闘を祈る』

エキセドルはそこで通信を一旦切り、マクロスに一旦、ワープ航法の発生装置(フォールド発生装置)のマッピング図を送る。

 

「レイ中佐すまん。君にまたしても頼ることになった」

グローバルは通信越しに頭を下げ、アムロが提案した方法に縋るしかなかった。

 

「レイ中佐……エキセドル記録参謀閣下から送られたマッピングデータと、元々マクロスにあったフォールド発生装置のデータをお送りします……レイ中佐……」

未沙は心配そうな顔をしながら、アムロに伝える。

 

『大丈夫だ』

 

 

 

 

 

アムロはエキセドルから送られたマップ情報を元に、フォールド発生装置が置かれている広い空間へ出る。

途中敵に接触するが、相当混乱している様相で攻撃を仕掛けてくることは無かった。

 

アムロは巨大な装置の前にYF-X5【RAY】を降ろす。

「発生装置はこれか……直接制御するコンソールパネルなどは無い様だな……修理は全自動で行うとエキセドル閣下が言っていた。ならば外部接続モジュールぐらいあるだろう」

 

アムロはYF-X5【RAY】の各種センサーを使用して、接続モジュールを探しだす。

ハロを手に乗せ、接続モジュールに近づけさせる。

ハロは手の部分を接続モジュールに近い物に変形させ、無理やりねじ込む。

 

「ハロ、解析は出来るか?サポートする」

 

「問題ナイ、問題ナイ」

 

「……マクロスにあったというフォールド発生装置と似ている。これならば!」

アムロもYF-X5【RAY】のコンピュータで解析を始める。

 

「起動、起動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクロス・ブリタイ・ラプラミズ艦隊は超巨大空母の地球への特攻進路を逸らすために、300までに減った戦力で超巨大空母を何とか押し返し逸らそうとするが、そもそも質量が違いすぎるため、難航していた。

 

「くっ!全方位バリアはまだ持つか!?」

 

「後10分です!!」

キム・キャビロフ中尉が言葉短く答える。

 

「レイ中佐からの通信は!!」

 

「通信が乱れ……応答ありません……」

未沙は悲痛な表情で返答する。

 

「……くっ」

 

 

一呼吸おいて……

 

「艦長!高出力のフォールド反応を計測!超巨大空母中心部からです!!」

クローディアは珍しく興奮気味にグローバルに報告する。

そう、アムロが超巨大空母のフォールド発生装置の起動に成功させたのだ。

 

「成功したか!!よし!!マクロス全速離脱!!」

グローバルは超巨大空母からの離脱を指示する。

 

マクロス、そして残ったブリタイ、ラプラミズ艦隊も次々と超巨大空母から離れていく。

 

「中佐!!応答してください!!中佐!!レイ中佐!!」

その間未沙は、必死に通信でアムロに呼びかけるが……反応が返ってこない。

それでも何度も呼びかける未沙。

このままでは超巨大空母内にいるアムロはフォールド航法に巻き込まれ、何処とも知れない宇宙の彼方へと飛ばされ、帰ってくることが出来なくなるからだ。

 

 

 

 

そして……眼前の1400㎞級超巨大空母はエネルギーの高まりと共にフォールド航法を発動させ、その場から姿を消す。

宙域に展開していた300万以上のボドル基幹艦隊も、示し合わせたかのように、次々とフォールドし、この宙域から消え去っていった。

 

 

 

 

 

戦火は消え、再び宇宙には沈黙が戻る。

 

 

 

マクロスの発令所ブリッジでもしばしの沈黙が訪れる。

 

「勝った……のか?」

グローバルは沈黙を破り、小さく声を発する。

 

「……艦長、勝利です」

クローディアはホッとした表情をし、グローバルに静に答える。

 

その声と共にブリッジクルーから歓喜の声が沸き上がる。

絶望的な戦力差を見事打ち勝ち、奇跡的な勝利を得たのだ。

 

「……レイ中佐……中佐」

しかし、未沙は持ち場の席で項垂れ……涙を落とす。

 

 

この勝利の最大の功労者であるアムロが、帰還していないのだ。

フォールド反応を計測してから7分足らずで、超巨大空母はフォールド航法でワープしてしまったのだ。アムロが脱出するには、どう考えても時間が足りない。

 

 

ブリッジに……再び沈黙が訪れる。

 

 

 

 

だが……

 

『……応答……応答願う。……こちらYF-X5……機体の損傷が激しい。回収願う』

ノイズが激しいが確かに望んでいた声が届く。

 

「!?……中佐!!レイ中佐!!」

 

『繋がったか……、少々無茶をし過ぎた。機体は半壊状態だ……自力航行は厳しい』

そして、通信映像も届き、未沙の前にホッとした表情をするアムロの顔が映る。

 

「……中佐……ご無事なんですね」

 

『ああ、何とかな』

アムロのその声に、ブリッジでは再び歓喜の声が沸き上がる。

グローバルは直ぐにアムロの回収指示を出す。

 

「中佐は無茶をし過ぎです!いつもいつもいつも!!」

未沙は涙ながらに訴える。

 

『済まない』

 

「よくご無事で……おかえりなさい、アムロ・レイ中佐」

未沙は涙でぬれた瞳のまま笑顔をアムロに向ける。

 

 

 

 

 

西暦2010年2月12日未明

ボドル基幹艦隊との総力戦はマクロス側が奇跡的な勝利を収めるのだった。

 




アムロどのぐらい落としたんだろうか?
いや、自分で書いてて恐ろしくなってきた。
まじで、アムロ一人で、基幹艦隊の半分を相手に出来たりして……

宇宙世紀でも……アムロに最高の環境に最高の技術者をつけて、最高のモビルスーツを開発して渡したら……無双じゃないかな。


と言うわけで、次話が最終です。多分無双はないです。
いや、もう一話有るかな……。話の長さ次第です。

最終話のタイトルだけは一応決まってるんですよね。




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アムロその後には。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
本当に毎度助かります。

というわけで、後日談ですが……
やっぱりというか……もう一話増えました。
今回の主役は……

最終話タイトルは「アムロ伝説となる」に決定してます。


第一次星間大戦と呼ばれたボドル基幹艦隊とマクロスとの戦いから約35年……

西暦2045年

 

第37次超長距離移民船団、通称 マクロス7船団は移民惑星を求め、西暦2038年に地球から飛び立ち7年の時が過ぎていた。

 

旗艦 新マクロス級7番艦 マクロス7の艦長及び船団長は地球統合軍エースパイロット マクシミリアン・ジーナスが就任し、副長にはマックスの妻でかつてのゼントラーディ軍エースのミリア・ファリーナ・ジーナスが就任、さらに移民船団の民間人居住区シティ7の市長にも兼任していた。

この夫婦、7人の娘に恵まれたがお互い忙しい立場となり、すれ違いの日々が夫婦仲を冷めさせていた。

 

だが、突如マクロス7船団を襲ってきたバロータ軍との戦いの中、困難な状況を共に乗り越え、再び夫婦仲は燃え上がる。

 

2046年2月

プロトデビルンとの最終決戦では、2人は青と赤のVF-22Sに乗り込み、嘗ての絶妙なコンビネーションで敵を次々と打倒していった。

 

バロータ軍とプロトデビルンとの激しい戦闘の中、マックスとミリアは……

 

「マックス……先生だったら、どうしたでしょうね」

 

「そうだな、アムロ先生だったら……この強大な敵もたった一機で抑えただろう」

 

「そうね。……この程度で、手間取ってられないわ」

ミリアはそう言って、パイロットスーツの右胸に付けている勲章を一撫でする。

この勲章はどう見ても、半分に割れているように見える。

 

「そろそろ僕らは先生を越えないといけない」

マックスもパイロットスーツの左胸につけている勲章に意識する。

その勲章もミリアの物と同じようなデザインだが、やはり半分に割れているように見える。

 

 

 

 

 

 

 

2010年2月12日

ボドル基幹艦隊との総力戦400万対6000という絶望的な状況で、奇跡的な勝利を得たマクロス・ブリタイ・ラプラミズ艦隊だったが、その代償は大きかった。

地球はボドル基幹艦隊の一斉攻撃により地球人口の約99%を失う。

都市や街や森林等は消滅し、地表の99%は荒れ果てた大地へと変貌し、大気の一部を失った。

マクロスはバルキリー隊、デストロイド隊を82%失い、ブリタイ・ラプラミズ艦隊は6000弱あった艦隊は、生き残ったのはたった3%の180隻だけだった。

 

 

2010年4月

ボドル基幹艦隊との決戦を勝利に終わらせたマクロスは地球に戻り、地球と月に生き残った人々とブリタイ・ラプラミズ艦隊のゼントラーディ人とで手を取り合い、人類存続と地球の再建のため、新統合政府を樹立。

ブリタイ・ラプラミズ艦隊のゼントラーディ人と地球人との融和計画が推進される。

ゼントラーディ人の約90%がマイクロン化を果たし、地球人と共に生活を営みだす。

 

マクロス艦長のブルーノ・J・グローバルは新統合政府総司令に就任する。

実質新統合政府のトップとなり人類を導く立場となる。

 

ブリタイ・クリダニクは新統合軍宇宙軍司令に就任し、軍のトップとなり、軍の再建や外敵監視を行う。

今も、地球圏宇宙域で軍に残ったゼントラーディ人をまとめ、防衛任務に就く。

 

ラプラミズは宇宙軍副司令の地位に就くが、女性のゼントラーディ人を導く立場としてマイクロン化を果たし、地球の文化を学ぶと同時に、新統合政府本部にて融合計画の上層部の一人として参加していた。

 

 

 

先の大戦で半壊、故障などでフォールドできなかった敵艦隊や、地球に降りていたなどで撤退出来なかったボドル基幹艦隊の生き残りが抵抗していたが、4月までにほぼ一掃する。

その指揮を執っていたロイ・フォッカーが宇宙軍副司令、そして兼任でそのまま地球防衛軍提督に就任した。

 

 

 

アムロはというと……

「フォールド反応を確認した。敵分岐艦隊2艦隊規模だな。マックス、ミリア、突撃を開始するぞ」

「了解です」「了解だ」

ユニコーンマークが意匠された純白のバルキリーの後ろに青と赤のバルキリー、その後ろには無人機12機が追従する。

 

撤退したボドル基幹艦隊の生き残り艦隊が、性懲りもなく地球圏に手出しをして来ることが大戦後しばらくあった。

ボドル基幹艦隊はトップが倒れ、命令指揮系統が相当混乱しているのだろう。

そこには統率的な意思は感じられず、分岐艦隊レベルで独自に行動しているようだった。

偵察目的なのか、敵討ちなのかは不明であるが、攻撃意思を見せる艦隊には相応の対応が必要であった。

 

その対応を行う部隊がアムロ率いる特別地球圏外縁遊撃防衛隊ユニコーン隊。

アムロはその司令官として准将の地位を得ていた。

艦隊ではなく隊と言う名がつけられているのは、バルキリーによる少数精鋭部隊だからだ。

しかも1部隊のみ。

アムロ率いるその部隊は、アムロとマクシミリアン・ジーナス大尉とミリア・ファリーナ・ジーナス中尉のたった3人の小隊だ。

この部隊を作るにあたって、アムロが二人を指名したのだ。

マックスとミリアは圧倒的な力量を持つアムロに真直に触れ、尊敬と畏怖の念を抱きつつ、アムロの薫陶を受けた二人はメキメキと力を付け、アムロについて行けるだけの力量を得るに至った。

その3人だけの小隊の戦力は、現在の新統合政府宇宙軍と同等レベルとされていた。

実際、2010年~2012年前半の間にフォールド航法で現れる分岐艦隊レベルのボドル基幹艦隊残党を80艦隊以上撃退、最大20艦隊規模の兵力をも撃退している。

もはや、この部隊は敵にとって悪夢に他ならない。

 

アムロの率いるユニコーン隊にはもう一つ大きな役割があった。

新型バルキリー及び新兵器の試験だ。

アムロの部隊は新統合政府技術開発最高顧問に就任したタカトク中将が根城としている月基地を拠点としていた。

2011年初頭にタカトク中将は念願のYF-5 通称【シューティングスター】を完成させたのだった。ゼントラーディ軍の技術も盛り込み、他の追従を全く寄せ付けない超高性能機ではあったが、乗り手がアムロだけの完全にワンオフ機体でもあった。

よって次世代量産機として、後に完成するVF-4【ライトニングⅢ】の着手を余儀なくされる。

その試作機であるVF-X4にマックスとミリアがテストパイロットを兼ねていた。

 

 

 

 

その他の主なメンバーの去就は……

クローディアは中佐に昇格し、新統合政府の要職についていた。

2010年4月新統合政府を発足した月にフォッカーと結婚し、盛大な結婚式を挙げる。

 

一条輝は少佐に昇進し、フォッカーの下で部隊を率いていた。

リン・ミンメイとは恋人の仲であったが、トップアイドルとして活動しているミンメイとはすれ違いの日々が続いていた。

 

エストラントは中佐に昇進し、フォッカーの下で元ユニコーン部隊のメンバーを率いて、相変わらずの日々を過ごしていた。

 

マックスとミリアの間に2011年3月、世界初の地球人とゼントラーディ人との混血児である第一子コミリアが生まれる。

 

 

早瀬未沙は2012年1月中旬に大佐に昇進し、「人類移住計画」に基づき宇宙の新天地を目指す最初の移民船団、第1次超長距離移民船団の提督に任命された。

それに際して、マクロスで未沙の任命式と第一次長距離移民船団開設式典が行われた。

新統合政府の象徴となったマクロスは、現在地球に降り立ちその周辺に街が再建、マクロスシティと名付けられ、首都の一部となっていた。

現在もマクロスは新統合政府本部の役割を果たしている。

 

式典の翌日。

マクロス内からマクロスシティを一望できる公園に、未沙は式典参加のために地球に降りて来たアムロを誘う。

2年前のクリスマスと同じ場所、同じベンチに座る2人。

「早瀬大佐、昇進おめでとう」

「ありがとうございます。レイ准将、通信では何度もお話させていただきましたが、2人でこうして直接会うのは久しぶりですね」

「ああ、お互い忙しい身だからな」

アムロと未沙はこうやって顔を合わせて会うのは実に1年半ぶりだったのだ。

アムロは地球圏にフォールドで現れるボドル基幹艦隊の残党の対処に忙しくし、さらに拠点を月に移していた

未沙は未沙で、このマクロスシティで新統合政府の内政に関する仕事に寝る間も惜しむかのように従事していたのだ。

 

「……第一次超長距離移民船団……メガロード-01の艦長に選ばれました。このような重大な任務を任していただけたのは光栄なのですが……」

「君なら、立派にやり遂げられるさ」

「……レイ准将……覚えておられますか?」

「ん?俺は何か忘れていたか?」

「……その、ボドル基幹艦隊との最終決戦前の通信の事」

「ああその事か。俺に色々話したいことがある、だったと思うが。それがどうした?」

「確かにあの後、色々とお話をさせていただきました。……でも、その肝心な事をお伝えしていなかったのです………」

 

未沙は一度深呼吸をし、意を決したような顔をし、アムロの目を見つめ、言葉を選びながらゆっくりと口を開く。

「准将…いえ、アムロさん……私は貴方が好きです」

「……こんなおじさんに何を………」

「年なんて関係ありません。私は貴方がずっと好きでした」

「……俺はいつ死ぬかわからない身だ。しかも平行世界から来た人間だ」

「私が貴方を好きなのと、その事は関係ありません」

「俺でいいのか?」

「貴方じゃないとダメなんです」

「早瀬……」

「……結婚なんて贅沢は言いません。私はメガロードで旅立たなければならない身です。せめてその日まで恋人で居させてください……未沙と呼んでください」

未沙は目を潤ませ上目遣いでアムロをしばらく見つめ……静かに目を閉じる。

「……未沙」

アムロはそれに応え、未沙を抱き寄せ、キスをする。

 

アムロは未沙を抱きしめながら……

「俺は随分と君を待たせたみたいだ。俺は軍を辞める。結婚しよう未沙」

 

「え?…嬉しい……嬉しいのですが、貴方は新統合政府に無くてはならない人です。ボドル基幹艦隊残党の襲撃もいつまた来るかもしれません」

 

「君は俺との結婚は嫌か?」

 

「そんな事はないです。結婚したいです!したいに決まってます。貴方とずっと居たいです。ですが……」

 

「俺はこの2年間ずっと考えていた。そろそろ潮時だと……マックスとミリアは十分育った。後は彼らに後任を任す」

 

「ですが…」

 

「ゼントラーディ人と地球人が交わって行くには……俺はあまりにも彼らの同胞を討ち過ぎた。白い悪魔の名は彼らの心の奥底に恐怖を与えている。ゼントラーディと地球人が対等に生きていくには俺の存在は邪魔でしかない。だから俺は表舞台から消える。白い悪魔の経歴と共に抹消する。これは前々からブリタイ閣下やグローバル総司令にも話を通し、ある程度納得してもらっている」

 

「……そ、それは」

 

「それとも取り柄のないただのおじさんになる俺では、君の横に居るには不十分かい?」

 

「そんな事は無いです!ずっと一緒に居られるのは……結婚できるなんて…その嬉しくて……」

未沙はアムロの腕の中で涙する。

 

 

2012年4月、ユニコーン隊は解散。アムロの望み通り2009年からの数々のアムロの功績は封印されることになる。

ユニコーン隊の後継としてマックスとミリアのコンビで新しく隊が結成される事になった。

本人たちはユニコーン隊の名を継ぎたいと申し入れしていたが、アムロの功績抹消に伴い、ユニコーンの名は永久封印となり、渋々別の部隊名を使う事になった。

マックスとミリアの部隊名 ダンシング・スカルは数々の功績と共に、後世に名を残すことになる。

 

アムロは完全な退役を望んでいたが、グローバルを始めとした歴々のメンバーが何とか引き留め、技術開発部顧問という謎の役職で准将待遇のまま残る事になった。

特にタカトク中将の猛抗議というか猛反発は誰も止めようがなかった。

結果的にパイロットとしてのアムロの功績は白い悪魔の二つ名と共に封印され、今後は技術開発者としてアムロの名は残る事に……

 

 

2012年6月

晴れてアムロと未沙は結婚する事となった。

マクロスで挙式を上げ、マクロスの関係者が一同に集まり祝福を……

アムロは気恥ずかしそうに、一方で未沙は終始笑顔だった。

この時アムロ32歳、未沙22歳。

アムロが早瀬姓を名乗ると言ったのだが、未沙もレイの苗字を残したいと主張し夫婦別姓となった。

 

2012年9月

第一次超長距離移民船団はメガロード-01を旗艦とし地球を出発。

第一次超長距離移民船団の提督及びメガロード-01の艦長として早瀬未沙が指揮を執る。

アムロは技術開発部トップとして同乗している。

メガロード-01防衛隊のバルキリー隊の隊長に一条輝少佐。

輝を追いかけて、トップアイドル リン・ミンメイもこの移民船団に乗り込んでいた。

 

2013年11月

一条輝とリン・ミンメイがメガロード-01で結婚。

世界の歌姫の電撃結婚劇に世界中が衝撃を受ける。

二人のラブロマンスにも注目が集まる。

 

2014年5月

アムロと未沙の間に男女の双子が生まれる。

 

2016年7月

銀河の中心へ向かっていた第一次超長距離移民船団は突如消息を絶つ……

この情報は世間一般では公開される事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

2046年2月 プロトデビルンとの戦いのさなか……

マックスとミリアの朱色のユニコーンマークの入った青と赤のVF-22Sは、まるでダンスを踊るかのように絡み合いながら、無数の敵軍の真っただ中に突っ込んでいく。

 

「ミリア、まだいけるかい?」

 

「何を言ってるのマックス。当り前じゃない。馬鹿にしないでもらえないかしら、先生の一番弟子の私を」

 

「一番弟子は僕だよ。証拠に僕は先生引退時に集束ビームライフルを頂いた」

 

「ふん。私はYF-X5を譲りうけたのよ。一番弟子は私よ」

 

「あれは、コクピットのサイズが先生用に作られていて、僕じゃ乗れなかったからだろ?」

 

「あーら、うらやましかったの?マックス」

 

そんな会話をしながらも、次々とバロータ兵のバルキリーを爆破させないように、急所部分だけ狙い撃ち、パイロットを死なせないように無効化する超絶技巧を見せる。

 

 

 

二人の戦闘の様子と会話はバトル7(マクロス7)のブリッジにも流れていた。

「……会話しながらもこの功績、凄い」

「第一次星間戦争で活躍されたお二人がそろうとこうなるのね」

「分岐艦隊レベルを2人で壊滅させたという噂も本当なんだ……」

「まるでバルキリーがダンスを踊ってるみたい」

ブリッジクルーは二人の様子に口々に感嘆していた。

 

「エキセドル参謀、艦長と市長の二人が言ってる先生ってだれですか?」

ブリッジクルーの一人、美保美穂がマクロス7船団の参謀としてブリッジに乗り込んでいるエキセドル・フォルモに聞く。

 

「うむ。艦長達にバルキリー操縦技術を教えた人物でしたな」

巨人族のままのエキセドルはブリッジに頭だけを出した状態で質問に軽く返事をする。

 

「天才マックスにも師匠がいたんですね」

「マックス艦長に先生?聞いたことがないです。しかもミリア市長とも?」

「アムロ先生って言ってたけど……艦長の伝記本とかにも載ってないわ」

ブリッジクルーはその話題についてエキセドルに質問攻めをする。

 

「ふむ。今はそれだけしか言えませんな」

エキセドルはそう言ってこの会話を打ち切る。

(まだアムロ・レイについては機密事項であるな。50年の封印であった。もし、白い悪魔……いや、白き流星が戻ったのなら、この局面ももっと楽に乗り越えられたに違いない)

 

 

 

 

戦闘中のマックスとミリアは……

「流石に数が多いな」

 

「何?マックス泣き言?……まあ、確かに私達はいいけど、他の部隊の子達の被害が大きいわ」

 

「ミリア、HAROシステムは搭載していないのかい?あれが有ればこの局面ももっと楽になる」

 

「搭載してるけど、肝心の先生に貰ったハロ(赤いハロ)はお守り代わりにミランダ(6女)に渡しちゃったわ。そっちはどうなのよ」

 

「僕もだ。ミレーヌ(7女:マクロス7のヒロイン)に渡した。いや、正確にはミレーヌのバルキリー(VF-11MAXL改 ミレーヌ専用機)にこっそりHAROシステムごと搭載させた」

 

「そうだと思ったわ。確かに私達の血を引いてバルキリー乗りの才能はあるけど、あの演奏しながらのあの回避はおかしいとは思ったわ」

 

「ふっ、夫婦そろって親バカという事か」

 

「マックス……もしかして熱気バサラのバルキリー(VF-19改 エクスカリバー 熱気バサラスペシャル)にもあれと同じものが?」

 

「そうだ。あのバルキリーの反応はおかしいと思って調べた。どういう経緯で搭載されたのかは分からないが、間違いなく先生が残した7体のハロの一体があの機体の中に……」

 

「やっぱり。でも何?熱気バサラってもしかして先生の隠し子かしら?」

 

「君は何時も短絡的だ。先生が浮気などするわけが無い」

 

「あなたと違ってね」

 

「君もしつこいな。僕は浮気などしない。君一筋だ」

 

「……な、なによ。最初からそう言ってくれればいいのに」

 

「最初から言っていた。君が聞く耳を持たなかったのだろ?」

 

「わかったわよ!……それにしても先生は……」

 

「先生があの程度の事でどうにかなるものではない。きっと今もどこかで元気にしていらっしゃる」

 

「そうね。私達の先生だもの……」

ミリアはそう言いながら、胸に付けている半分に割れた階級章を再び撫でる。

これは、ユニコーン部隊を解体し、パイロットを辞めるアムロに譲って貰ったものだった。

それを半分に割りマックスと2人で分けたのだ。

そんな思い出の品を今も二人は、パイロットスーツに付けていた。

しかも、機体の朱色のユニコーンマークは知る人ぞ知る最強部隊の意匠なのだ。

一般的には、各船団のエースやエース部隊はフォッカーのスカルマークの意匠やスカル隊の名を受け継ぐのが通例だが……彼らはこっそりとこの現在新統合政府で禁止されている朱色のユニコーンマークを意匠していた。

この朱色のユニコーンマーク使用禁止はゼントラーディ人に白い悪魔を連想させないようにという配慮なのだ。

既に最前線から退き、表舞台に出る事が無いだろうと、彼らはお構いなしに自分専用機にあのマークを使用していた。

35年経った今では、流石にゼントラーディ人の記憶に白い悪魔の恐怖は残っていないだろうと思いたい。

しかし、現在のアムロの所在はこの二人にもわからないようだ。

 

 

 

この後、最終的には戦場に歌を奏でる熱気バサラの活躍により、プロトデビルンの首領とも和解が可能となり、バロータ戦役と言われた戦争は終わりを見せる。

 

 

 

マックスとミリアは戦争の事後処理を終えた後、改めてアムロの所在について、探す事にした。

その為に、フォールドで一時地球にも戻るが……

 

 

 

 

 




今回はマックス、ミリア視点のアムロですね。
マックス・ミリアとアムロとの年の差は13歳ですから、隊長とかよりも、先生かなって……
今や提督と市長のマックスとミリアがアムロを隊長って呼ぶよりも、先生の方が違和感が無さそうでした。

7体の内のハロの後継機コハロはマックス・ミリアに2機……何故かバサラの所に1機……自分の子供に1機……後3機は?

次回はマクロスプラスとマクロスF、マクロスデルタのお話に……
メインはやはり、マクロスF……
まてよ。マクロスFだけで1話かけちゃうかも……ジェフリー・ワイルダー大佐いるしね。

というかアムロはどこに?






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アムロ伝説となる。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告いつもありがとうございます。
助かりました。

今迄、読んで頂きまして、ありがとうございました。
完結です。
生きてるアムロが書きたい。のびのびしてるアムロが書きたいと始めたこのシリーズ。
短編のつもりが、15話も続きました。
皆さんのお陰です。

では……





西暦2059年3月

西暦2041年に地球を発ち、銀河系の中心へと向かった第25次新マクロス級超長距離移民船団 通称マクロス・フロンティア船団は射手座スパイラルアーム内ビオス星系を航行中に謎の宇宙生物バジュラに襲撃される。

奇しくも、銀河の妖精と呼ばれるトップシンガー、シェリル・ノームの来訪コンサートの当日だった。

マクロス・フロンティアの民間軍事会社S・M・Sの活躍もあり、バジュラの襲撃を何とか退ける事ができた。

 

西暦2059年4月下旬

今、S・M・Sの旗艦であるマクロス・クォーターでは、入社したてのアルトと同世代のバルキリーパイロット達はシミュレーターで合同訓練を行っていた。

参加者は早乙女アルトと高校の同級生でS・M・Sでは先輩にあたるミハエル・ブラン少尉とルカ・アンジェローニ准尉のスカル小隊の3人。

ミシェル(ミハエル・ブラン)の幼馴染で大学生パイロットのクラン・クラン大尉率いるゼントラーディ人の女性で構成されているピクシー小隊。同隊員はネネ・ローラ、ララミア・レレニアの3人、計6人で行っていた。

 

シミュレーター訓練はスカル小隊とピクシー小隊との小隊同士の対戦形式で実施。

「ミシェル。私の勝ちだな。明日のランチは奢ってもらうぞ」

マイクロン化したクラン・クラン大尉は見た目、小学生高学年ぐらいにしか見えないが、これでも19歳だ。巨人族の形態だとダイナマイトボディの持ち主だが、何故かマイクロン化するとこうなってしまうらしい。

 

対戦成績はピクシー小隊が圧倒的に勝ち星を挙げている。

戦闘経験未熟なアルトにチームプレイの熟練度の差が如実に出た結果だった。

 

「はぁ、仕方がない。……それにしてもアルトはまだまだだな」

ミシェルはため息を吐いた後、アルトにダメ出しをする。

 

「仕方がないですよ。アルト先輩はまだ隊に入って間もないんですから、でもかなりいい線行ってますよ。入って1か月でこんなにも出来るんですから。かなりのセンスがあると思いますよ」

ルカがアルトを擁護する発言をする。

実際アルトのバルキリー操縦技術は現段階でも並みのパイロットよりも上だった。

但し、相手が悪かった。マクロスフロンティア船団の中でも指折りのパイロット、クラン・クラン大尉率いるピクシー小隊が相手だったのだから。

このシミュレーター対決にスカル小隊隊長のオズマ・リー少佐が加われば、結果は違っていただろうが。

 

「くそ、もう一回だ!」

アルトは悔しそうに再戦を要求する。

アルトは見た目美少女に見間違う位の顔立ちを持つ美形男子だったが、中身は負けず嫌いの捻くれ屋だった。

 

「何度やっても一緒だぞ。新人」

クランはその小学生のような容姿でアルトにそう言い放つ。

 

「くっ、やってみなきゃ分からない」

 

「まあ、クランの言う通りだな」

ミシェルもクランと同意見だった。

 

「くそ」

悔しそうにするアルト。

 

「そうだ。皆さんお揃いなんですから、過去実戦のシミュレーターミッションをやってみませんか?」

ルカがそんなアルトを見かねて、皆にこんな提案をする。

 

「第一次星間戦争の再現シミュレーションか。マクロス側で前やったが二人だと散々だった。あの難易度は尋常じゃない。当時のパイロットの腕はすさまじいな。特にロイ・フォッカー閣下とか、マクシミリアン・ジーナス閣下は別格だな」

ミシェルは感慨深そうに言う。

実はミシェルとルカはこの過去戦争で起きた戦闘のシミュレーターを何度か挑戦していた。マクロス側のフォッカーやマックスが所属する部隊の一員という設定でブリタイ艦隊との戦闘だった。

どの戦場も難易度が高すぎて、クリアに至っていない。

 

「ふっふっふっ、エースのミリアを忘れてはいまいか?ミシェルよ。我々ゼントラーディの血を引く者として、それは外せん」

クランはエースのミリアを忘れて貰っては困ると、胸を張る。

 

「ロイ・フォッカーか…、どうせなら過去の英雄と対決してみたいな」

アルトがこんな事をいう。

 

「ルカ、出来るのかそんな事?」

 

「はい、一応そういうシミュレーションモードがありますよ。勝てる人なんてほとんどいませんけど」

 

「ものは試しだ。ミシェル、私もエースのミリアと戦ってみたいぞ」

クランは意気揚々と発言する。

 

こうして、過去の英雄たちとのシミュレーター勝負が始まる。

過去の英傑との対戦シミュレーター、レジェンドモードには第一次星間戦争時の歴戦のエースパイロットの名がずらりと並んでいた。

始めは皆一対一で勝負を挑みはじめる。

一条輝やエストラントやミレイやレイラの何れかとは、何とかクランとミシェルが一勝をもぎ取る事ができたが、流石に第一次星間戦争時のフォッカー、マックス、ミリアに、シミュレーターとはいえ、勝てる者はいなかった。

 

その後、各小隊3人と過去の英雄一人との対決でようやく1勝をもぎ取る事が出来たが、偶然に近い勝ち方だった。

 

「当時の英雄か……凄まじいな」

「くっ、まだまだということか」

「流石はエースのミリアだ」

ミシェル、アルト、クランは口々に反応する。

 

「全然勝てないって程じゃないですよ。僕らも成長して、過去の英雄に近づいているんですよ」

ルカは相変わらずのポジティブな言動だった。

 

 

「ん?なんだ……シミュレーターの人物項目の一番下に赤字で点滅が?アムロ・レイ?」

アルトがシミュレーターにとある人物の名を見つけたのだ。

 

「ああ、確かに有るが……ルカ知ってるか?」

 

「いいえ、僕も知らないです。第一次星間戦争のエース級パイロットはすべて把握してるはずなんですが……ええっと、乗機はVF-1S改とそのアーマードパック改、スーパーパック、ダブルストライクパック……え?VF-X3改…VF-X3Z改……えええ?YF-X5【RAY】……YF-5【シューティングスター】……YF-5なんて初めて聞きましたし、この機体のスペックは……」

ルカはそのシミュレーターに載ってる人物が乗機としていた機体を見て、驚愕の表情を

上げていた。

 

「俺がやる」

アルトが名乗り、アムロを選択し、シミュレーターを起動させたのだが……

始まった瞬間に瞬殺される。

 

「新人……それはないだろ?」

「アルトお前……」

クランとミシェルは開始して3秒、一発も弾丸を撃たずしてコクピットを貫かれるアルトに呆れた顔をしていた。

 

「じゃあ、お前らがやってみろよ!」

 

「ふふん。新人のデコ助に格の違いを見せてやる」

クランはアルトにそう言って、シミュレーターに入るが……

「わーーーっ、なぜだーーーー!!」

開始4秒で、敵の姿も見る事が出来ず爆散。

 

「そらみろ」

 

今度はミシェルがシミュレーターを起動。

「ははっ、どんな凄腕だろうと、射程外からは攻撃出来な……なっ!?バカな!!」

ミシェルは開始早々、射程外だろう場所に移動しようと動いたのだが……コクピットを貫かれ爆散。

 

「お前らも人の事言えないな」

 

「使い慣れていない機体だったからだ!私のクァドラン・レアだったら負けん」

「そうだ。狙撃ライフルさえ有れば」

クランとミシェルは負け惜しみじみた事を言う。

 

「………だったら、やってみます?自分の乗機で、しかもチームで出撃もできますよ」

ルカは何か考え込みながら、こんな提案をする。

 

「はははっ、ルカ、相手の機体は多少改造しているとはいえ、50年前のVF-1Sのスーパーパックだぞ?」

ミシェルは笑い飛ばす。

 

「でしたら、相手の機体のレベルも上げますね。僕はVF-X3Z改と、YF-5が見てみたいんで……」

 

「いっしょだろ?所詮50年前の機体だぞ……」

ミシェルは呆れたような表情をする。

 

「なんでもいい、やろうぜ」

アルトはやりたくてうずうずしているようだ。

 

スカル小隊は最新機体のVF-25、ピクシー小隊はクァドラン・レアで出撃。

アムロ対6機で……

そして……

 

「くそ!何もできなかった」

「ルカ!これは勝てないように設定してるんじゃないか?人間が乗ってる動きじゃなかったぞ?」

「そんなことしてませんよ。……でもこれは」

アルト、ミシェル、ルカは口々に言葉を発していた。

 

真っ白なバルキリー1機対最新機体6機での戦いだったが、開始たった10秒で全員撃墜されたのだ。

 

ピクシー小隊の3人はしばし無言の後……

「……悪魔だ。……白い悪魔だ!」

「お姉さま、怖いです」

「白い……悪魔……」

何故かクランは恐怖で顔を引きつらせ、他の2人は怯えていた。

 

「クラン、白い悪魔っておとぎ話の白い悪魔の事か?」

 

「ミシェル、何を言ってる!じい様とばあ様がいつも言っていたんだ!悪い子には白い悪魔がお仕置きに来るって!あの白いバルキリーで赤のAみたいなマーク!!じい様とばあ様が言ってた!!絶対そうだ!!」

 

「ミシェル、クランが言ってる白い悪魔ってなんなんだ?」

アルトはそもそもの疑問を口にする。

 

「単なるおとぎ話だよ」

 

「アルト先輩、ゼントラーディに伝わる第一次星間戦争時のマクロス側のパイロットの事ですよ。いくつもの伝承が残ってますよ。VF-1S 1機で200機の戦闘ポッドを落としたとか、分岐艦隊をたった1機で壊滅させたとか、基幹艦隊の半分を相手取って、立ちまわったとか……、眉唾物の話ばかりですけど」

呆れるミシェルの代わりにルカが白い悪魔の伝承について語る。

 

「教科書にも載ってない。軍のエースパイロット年鑑にも載ってない。基幹艦隊の半分って200万隻の戦艦だぞ?どうやって相手するっていうんだ?常識的に考えて無理だというのは子供でも分かる事だ。大方負けた側のゼントラーディ人がそいつのせいで負けましたってという言い訳に作った仮想の人物だ」

ミシェルはルカの説明に足す。

 

「コラ!ミシェル!絶対いたんだ!じゃないとゼントランの基幹艦隊があっさりやられるわけが無い!!」

「あれは伝説のリン・ミンメイの歌のお陰だっただろ?」

「バカにするな!歌だけでやられるものか!!」

クランとミシェルが頭を突き合わせて、口喧嘩を始めてしまった。

 

そこにマクロス・クォーターの艦長ジェフリー・ワイルダー大佐とバルキリー隊隊長のオズマ・リー少佐が通りがかる。

 

「お前ら何を言い争ってる。ん?シミュレーターのレジェンドモードか。おいおい、1対6で瞬殺されてるのか?お前らもまだまだだな。俺も結構やったが、一応全員に一人で一度は勝利したぞ」

 

「じゃあ、隊長がやってみてくださいよ」

アルトはオズマに挑発するかのように言う。

 

「少佐、せっかくだ。若者たちに手本を見せてやってくれ」

ワイルダーはその様子を微笑ましそうに見やり、オズマにこう言う。

 

「艦長のご要望とあらば、お前らよく見ておけ………ん、誰だこれは、対戦した事が無いな。お前らはこんな優男に負けたのか?」

そう言ってオズマはシミュレーターに座る。

 

「んん?……アムロ…た、隊長?」

横で様子を伺っていたワイルダーは対戦相手のその人物の名を見て、驚きの声を上げていた。

 

そして……

「ガーーっ!」

 

「あれ、隊長。手本を見せてくれるんじゃなかったんですか?たった8秒で爆散するなんて、何処を手本にしていいのですか?」

ミシェルはオズマに思いっきり嫌味を言う。

 

「くそ!お前ら、この優男を倒すぞ!」

オズマはむきになり、全員で最新機体に乗り換え挑戦することになった。

 

だが……

まるっきり勝てなかった。

健闘をして、30秒生き残ったのが最高記録だった。

 

 

 

その後、ワイルダーとオズマはマクロス・クォーターのブリッジに向かう。

「すみません艦長、時間を随分と取らせまして」

 

「いや、私の方こそ無理を言った」

 

「いえ、全くいい所がなく、お恥ずかしい所を見せてしまいました。ところでアムロ・レイなる人物は全く知りませんでした。クラン大尉が白い悪魔だと言っていましたが、ゼントラーディ人の噂を元に誰かが作った架空の人物ですかね」

 

「あれから50年、後半年で情報が解禁されるが……オズマ君。君には言っておこう。アムロ・レイ……レイ隊長は実在の人物だ」

 

「なっ!?」

 

「私がまだ、訓練生だった頃、所属していた部隊の隊長だった」

 

「でも、あの噂は……」

 

「すべて真実だ。話を膨らませた過大ではない。私から言わせてもらうと、噂はまだ過少だと言っても良い」

 

「………そ、そんな馬鹿な、白い悪魔が実在の人物だとは……」

 

「白い悪魔とはゼントラーディ人がつけた異名だ。我々の中では白き流星とな……そのバルキリーを操る様はまさしく、白い尾を引く輝く流星の如くだった」

 

「……」

 

「レイ隊長がいなければ、マクロスはとっくに沈没し、ボドル基幹艦隊との決戦では勝利は無かった。我々人類が生きながらえたのはレイ隊長の奮戦があったからこそだ」

 

「……」

 

「当時のバルキリー乗りは、残らずアムロ・レイに憧れた。いや、怖かったのかもしれん。彼一人にその双肩に重荷と重責を負わせていた」

 

「……そんな事が」

 

「あれはまだ、序の口だ。レイ隊長が本気を出しYF-X5とYF-5のHAROシステムを起動させれば……このフロンティア船団など、ひとたまりもない。バジュラは確かに脅威だ。だがまだ戦える相手だ。アムロ隊長が真に敵になれば………考えたくもない。……当時のゼントラーディ人の心の奥底に恐怖を遺伝子レベルで刻み込んだのはあながち間違いではない。だからアムロ隊長の功績は封印された。いや、ご本人がそうしてくれと願ったそうだ。ゼントラーディ人と地球人が手を取り合うには自分は障害でしかないと……」

 

「……その人物は今どこに?」

 

「メガロード-01と共に行方知れずだ」

 

「メガロード-01……が消えたという噂も本当だったんですか」

西暦2016年 メガロード-01はフロンティア船団同様に銀河の中心を目指してる最中に行方不明となったのだ。この事実は一部の人間しか知らない情報だった。

 

「ああ、他言無用だ。だが、私はアムロ・レイが生きていると信じているのだよ。あの人がその程度の事で死ぬはずが無い」

 

「………」

オズマは全身から冷や汗が噴き出る思いだった。

 

そんなオズマとワイルダーの後ろには水色のハロが何時の間にか、転がりながらついてきていた。

このハロはアムロからワイルダーに餞別として送られたハロだった。さっきまでシミュレーターに取りついていたのだ。それで無いハズのアムロの戦闘データがシミュレーターに反映されていたのだ。

ワイルダーはこの事に大方気が付いていたようだ。

 

現在、HAROシステムという無人機を意のままに操る技術は継承されていなかった。

その技術を何度かコピーしようと技術開発者が励んだが、結局成す事ができなかった。

核となるアムロが作ったオリジナルハロとその後継機の7体のハロが無いと起動すらできないのだ。

バルキリーの無人機化も、この50年思う様に進んでいない。

一度発展を見せたが、2040年シャロン・アップルの事件以来凍結し、無人機 ゴーストX9シリーズも封印。使用を禁止される。

だから、未だに有人の可変戦闘機が今も主流となっているのだ。

 

 

 

一方、シミュレーターで散々な目にあったアルト達は……

「あれはシミュレーターを開発した技術者がゼントラーディ人の眉唾物の噂を元に作った架空のパイロットだ」

「白い悪魔は存在するぞ!ミシェル!じい様とばあ様に謝れ!」

ミシェルとクランはまだ口喧嘩をしている。

 

「アムロ・レイ……どこかで聞いた事があると思ったら思い出しました。第一次星間戦争時からタカトク将軍の右腕と呼ばれた技術者ですよ。現在のビーム兵器や近接兵器の基礎を作った人です」

ルカは先ほどからずっと引っかかっていたアムロ・レイなる人物について、思い出したのだ。

 

「その技術者がなんで、シミュレーターのあそこに名を連ねてるんだ?」

そんなルカの言動にアルトは聞き返す。

 

「わかりません。一説によると、テストパイロットも兼ねていたとか、VF-1Sに初めて狙撃用の実弾ライフルと集束ビームライフルを搭載した機体が、バルキリー年鑑に掲載されてましたが……きっと今日対戦したVF-1S改です。それを開発したのがアムロ・レイで……」

ルカはアムロの経歴について語る。

 

「ほら見ろクラン。大方、アムロ・レイって人物に、噂の白い悪魔を重ねて作った仮想の設定人物だ」

「居るったら、居るんだ!!ミシェルのバカ!!」

口喧嘩は子供じみた感じになってきている。夫婦喧嘩は犬も食わないというが、まさにその通りであり、誰も止めに入らない。

 

「………」

アルトは歴戦の勇士たち、特にアムロに対し憧れを抱き、これを機にパイロットの腕をますます磨き一気にレベルアップしていったのであった。

 

 

 

 

 

西暦2059年9月

バジュラの襲撃はマクロス・ギャラクシー船団による陰謀だった。

ギャラクシー船団は人類を総インプラント(情報機器を人体に埋設)化させ、人類の意思を支配しようと企んでいた。

既にギャラクシーの上層部は肉体を捨て、意思の集合体と化し、ギャラクシー船団に住まう人々を全てインプラント化、さらには肉体を捨てさせ、サイボーグ化、または意思だけの存在に仕立て上げたのだった。

そして、それを成すために、フォールドを操る事が出来る社会性宇宙生物であるバジュラ独自のフォールドネットワークの利用を企み。バジュラと意思疎通が図れるランカ・リーを手に入れ、バジュラの女王バジュラクイーンを支配下に置いたのだ。

そして、宇宙に散らばる全人類に牙をむいたのだ。

 

まだ、ギャラクシー船団とバジュラの関係に気が付いていないマクロス・フロンティア船団はバジュラとの決戦を行うため、バジュラの女王が居るバジュラ本星に攻勢をかける。

バジュラの動きを封じるため、ランカと同じくバジュラを歌で動きを鈍らせることが出来る、重病を患っていた歌姫シェリル・ノームを歌わせ突撃を敢行する。

ミンメイ・アタックの再来だ。

その中、ジェフリー・ワイルダー大佐率いるマクロス・クォーターは、バジュラとギャラクシー船団、そしてフロンティア船団の中に潜む陰謀を事前に察知し、姿をくらませていた。

 

ギャラクシー船団の意思の集合体の一部で上位意思であるグレイス・オコナーは、突撃を行うマクロス・フロンティア船団を見せしめとして、バジュラを使い壊滅させようとする。

更には、地球もその見せしめの対象として基幹艦隊規模の多量のバジュラを送り込む。

 

 

バジュラとフロンティア船団との戦いの中、フォールドでマクロス・クォーターは突如戦場に現れ、バジュラ本星に潜みバジュラを操るギャラクシー船団の旗艦、マクロスギャラクシーに一気に突撃を掛ける。

 

「狙いは人類の裏切者のギャラクシー船団!我々を見縊った事を後悔するがいい!!」

ジェフリー・ワイルダー艦長がブリッジで吠える。

 

「クォーターの無人機システムを私に委譲しろ!ハロ行くぞ!HAROシステム起動!!マクロス・クォーター突撃開始!!」

続けてワイルダーはHAROシステムを起動し、ハロを介して無人機を操る。

 

ギャラクシー船団は突然現れたマクロス・クォーターに面喰うが、それに対抗して、使用を禁止されていた無人機ゴーストV9を投入し、戦況は泥沼と化していく。

 

 

しかし、何故か、一時バジュラとゴーストV9の動きが極端に鈍くなる。

その隙を付いて、アルトが囚われの身のランカを奪還。

 

すると、ランカを奪還された事でバジュラのフォールドネットワークの支配が解け、次々と宇宙に散らばる各船団のマクロス及び戦艦がフォールドで加勢に現れる。

既にこの時、地球を襲っていたバジュラはすべて駆逐されており、こちらに全兵力を割くことが出来たのだ。

そこにはマックスやミリア、イサム・ダイソンなど歴戦の戦士、英雄が集う。

 

さらに、ランカとシェリルのデュエットが実現し、宇宙に歌を響かせる歌姫二人はバジュラの大半を味方につけたのだ。

 

後は残すはマクロス・ギャラクシー船団バトル・ギャラクシーとグレイスの支配下にあるバジュラの女王バジュラクイーンのみ。

 

ジェフリー・ワイルダーのマクロス・クォーターがサーフィンのようにトリッキーな機動で突撃を敢行、バトル・フロンティアとの直接連携攻撃でバトル・ギャラクシーを粉砕。

 

アルトとブレラの連携攻撃により、バジュラクイーンの頭部を切断し、バジュラクイーンはグレイス・オコナーの支配下を脱し、グレイス及びギャラクシー船団の意思の集合体は消滅する。

 

そして、マクロス・ギャラクシー船団の策謀から始まったバジュラ戦役は終わりを告げる。

 

 

 

勝因の鍵となったのは、マクロス・ギャラクシー船団とバジュラの動きが明らかに鈍くなり、その隙を突いてのランカ・リー奪還だった。

 

なぜ、動きが鈍くなったか……

 

 

その半時前。

地球のマクロスシティでは、次々とフォールドで現れる多量のバジュラに襲撃を受けていた。

既に第一線を退き、相談役として新統合政府に勤めていたクローディア・フォッカーはマクロス内でその襲撃を目の当たりにして、決断をする。

「ロイ……アムロさん……力を貸して」

手に持つピンクのハロを、マクロスの現在使用されていないメインブリッジに設置されたHAROシステムの台座に置き、自らは艦長席に座る。

そう、HAROシステムを起動し無人機を動かそうとしたのだ。

既にクローディアは74歳。2年前、嘗ての英雄で夫のロイ・フォッカーを享年78歳で亡くしていた。

クローディアもハロと生活していたため、ハロとの意思疎通はほぼ完ぺきだが、パイロット経験がないクローディアでは、その力を十分に発揮することが出来ない。

 

しかも地球の防衛システムでは、進化を続けるバジュラに対抗が困難であった。

 

バジュラにより被害が拡大していく地球……

宇宙に散らばる各船団に救援要請を出したが、バジュラのフォールドネットワークを支配しているグレイス・オコナー率いるギャラクシー船団により、フォールド航法を阻止され、援軍は来ることが出来ない。

それに対抗できるのはバジュラを研究し、フォールドクォーツを手にし、フォールド断層を脱することが出来るマクロス・クォーターのみ。

 

「もう、ダメなの……ロイ……」

 

しかし……

地球と月の間に突如として、ある船団が現れたのだ。

しかも見た事も無い小型の戦艦を多数擁していたのだ。

だが、クローディアはその船団の一部の艦船に見覚えがあった。

「メガロード-01?まさか……」

 

そして……

白い流星が地球に猛スピードで落ち……マクロスの目の前に……

 

「マクロス応答願う。メガロード-01所属ユニコーン部隊隊長のアムロ・レイだ。今から謎の生命体を駆逐する……」

クローディアは耳を疑う……44年前、銀河の中心に向かい消息を絶ったはずのメガロード-01…そして人類最強のパイロットアムロ・レイ…マクロスのブリッジに確かにその声が聞こえたのだ。

目の前で浮遊するバトロイド形態のバルキリーは顔には二つの目があり、全く見た事も無い形状だったが、真っ白の機体に朱色のユニコーンマーク……間違い様がなかった。

 

「アムロ…さんなの?……ロイ、ロイが連れて帰って来てくれた?」

クローディアは自然と涙する。

HAROシステムからもアムロの意思を感じる。

 

そう、44年前に行方不明になったはずのアムロが戻ってきたのだ。

 

アムロが乗る真っ白な機体はあっという間に、マクロスシティを覆っていたバジュラの大軍を駆逐して見せたのだ。

 

さらに、次々とメガロード-01擁する船団から、バルキリーが地球に降り立つ。

 

 

 

 

それをバジュラを介して見ていたギャラクシー船団の上位意思のグレイス・オコナーは……

「なに?なんなの?あの船団は?しかも何?あの機体……見た事も無い機体、どういう事?」

突如現れた見た事も無い船団に驚きを隠せない。

 

「質量を持った残像とでもいうの?バジュラが一瞬で?そんな馬鹿な!あの近接ビーム兵器とビーム砲……見た事も聞いたことも無い!?どういう事!」

白いバルキリーの動きはバジュラを圧倒していた。

本当に残像が見え、まるで夢でも見ている心地であった。

バジュラの攻撃が当たらないどころか、攻撃をする前に悉く倒されるのだ。

まるで、バジュラの攻撃意思があらかじめ分かっていたかのように。

 

「あのバルキリーは無人?どういう事?しかも見た事も無い極小のビーム兵器が空を駆け巡って、バジュラがやられてる。どういう事!!」

グレイスはますます混乱する。

 

無人機とはバイオコンピューターとサイコミュシステムの併用で動いている無人バルキリー。

極小のビーム兵器とは勿論、空中を自由に舞うファンネル(フィン・ファンネル)の事だ。

近接ビーム兵器やビーム砲はハイパービームサーベルとヴェスバー(V.S.B.R.)を指していた。

更にサイコ・フレームを介したアムロの発達したニュータイプ能力は敵の攻撃意思を明確に理解でき、近い未来をも感じ取れるレベルだったのだ。

 

 

 

 

グレイス、いや意思の集合体は地球のバジュラが次々と駆逐されて行く様を見て混乱する。

地球に送ったバジュラの量は基幹艦隊に匹敵する量だ。

それを、分岐艦隊にも満たない船団が現れ、ほぼ潰滅状態に陥ったのだ。

 

その中でも、真っ白なバルキリーが異端だった。

まるで、その場を支配しているかのような圧倒的な力でバジュラを駆逐していくのだ。

 

「なに?これは恐怖?……皆の意思が恐怖に染まっていく。え?白い悪魔?白い悪魔の恐怖が蔓延していく!!」

ギャラクシー船団の人々の意思の集合体である彼女らは……もちろん元は地球人とゼントラーディ人だ。そして、ゼントラーディ人には漏れなく白い悪魔の恐怖が心の奥底まで染みついていた。

その恐怖が目の前に敵として現れ……再び彼らを恐怖のどん底に陥れる。

 

これが、マクロス・ギャラクシー船団とバジュラの動きが一時鈍くなった原因だった。

白い悪魔の恐怖が蘇ったギャラクシー船団の意思の集合体は戦意が一気に下がり、ゴーストV9や防衛のVF-27、支配下にあるバジュラの動きが明らかに鈍くなったのだ。

 

 

 

遠く離れたバジュラ本星でも戦いが終わり……

 

 

地球では、マクロスのブリッジで未沙とクローディア、アムロだけで話し合いの場を設けていた。

久し振りに会う戦友にして親友の二人は抱きしめ合う。

しかし…

「クローディアなの……久しぶりね……でも」

「未沙、戻ってきてくれて嬉しいわ…未沙……でも、若いまま。あれから44年が経ってるのに」

「44年。そんなに……私達は3年……、地球から飛び立って7年しか経ってないわ」

そう、未沙もアムロも、クローディアが最後に通信で顔を会わせた時からさほど姿が変わっていなかったのだ。

メガロード-01が消息不明になってから、経過している時間が明らかに違っていたのだ。

3年と44年もの開きがある。

 

「……次元断層に巻き込まれた影響か」

アムロはその話を聞いてそう判断する。

 

「でも、こうやってアムロさんと未沙に会えてうれしい。もう会えないと思っていたもの、ロイも後2年我慢していれば……」

 

「ロイは……」

 

「2年前に亡くなったわ。78歳よ。結構生きた方よね。その間色々あったけど幸せだったわ」

 

「そうか…」

クローディアの言葉に、アムロは親友の死を知り、静かに目を閉じる。

 

「まるで浦島太郎ね。この事実は流石に直ぐには公表できないわ。……メガロード-01は再び、長距離船団として銀河の中心へ向かう事にするわ」

未沙はクローディアにそう告げる。

 

「未沙、アムロさん……44年、いえ3年間何があったの?」

 

「次元断層に嵌って、ちょっと別次元に飛んで、やっとの事で戻ったら、地球でさらに見た事もない生命体に地球が襲われていたってところだ」

アムロは簡単に説明する。

 

「……このタイミングで?地球はかなりピンチだったのよ」

 

「偶然だ。もしかすると天国のロイが戻って来れるように神様にでも頼んでくれたんじゃないか?」

 

「私も…そう思った」

クローディアは微笑む。

 

 

しばらくこの3人は談笑した後、メガロード-01の第一次長距離移民船団はフォールドし、地球圏から銀河の中心に向かって再び進むことになる。

 

 

この事実は、極一部の人間にしか知らされていない。

 

ジェフリー・ワイルダーはバジュラ戦役の戦後処理を終わらせた後、3カ月の休暇を取り、どこかに出かけたとか……

勿論、マックス・ミリア夫婦も同じ場所へと……

 

 

そこには、仲睦まじいアムロと未沙夫婦、さらに二人の子供が幸せに暮らす姿があった。

 

 

 

                                       完

 

 

 

 

 

 

アムロと未沙、メガロード-01が3年の間、何処の次元に飛ばされたかは皆さんのご想像にお任せしよう。

 




完結です。
皆様読んで頂き有難うございました。

マクロスプラスとΔも書こうと思ったのですが……
この方がすっきりしそうだったので、すみません。

因みにアムロのバルキリーは
型番不明
基本設計はVF-5を踏襲しつつもほぼ、一から作り直しております。
VF-1にくらべ、二回り大きいのは仕方がないですね。
バトロイド形態はその皆さんの予想通り……F91もどきですね。はい、すみません。
バイオコンピューターにサイコフレーム、HAROシステム。基本兵器にヴェスパー、マシンキャノン、ハイパービームサーベル。外部ユニットに多弾頭ミサイル群、フィンファンネル……携行兵器にビームバズーカーに狙撃用ライフル……
ビームコートにピンポイントバリアユニット……
しかも、このスペックで三段階変形可能の変態機体。

どこで、この技術を仕入れて来たんですかね?
行方不明になった3年間何をやってたんですかね?

まあ、最後はアムロには幸せになってもらいたいんで、こんな感じで。


あと一応、ミンメイちゃんと輝君も健在、きっとマックスとミリアと会っても違和感ないと思います。41年の差があるはずだけど、ご両名年取らないし。

か、柿崎君は……多分、どこかで幸せに成ってると思う。

ハロの所在ですが……
ミレーヌ (7)マックスから
ミラージュ(Δ)ミリア→ミランダから
バサラ(7)不明
ワイルダー(F)アムロから
クローディア(F)アムロから
シェリル(F)マオ・ノームから……
アムロの子供(ここ)
アムロと未沙の家にはオリジナルハロと2機ある事になってます。

質問等があれば、裏設定を(妄想)で考えてる分だけ、お知らせします。
感想欄に書いていただければ、徐々に返事いたします><

















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