妹の前でカリスマを保てる姉などいないっ! (空飛ぶたい焼き)
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レミリアのとある1日
一つの灯りに照らされる、小さな紅い部屋。家具は机が真ん中に置かれており、その机を挟むように二つの女性が椅子に座っていた。ただ、その雰囲気はお茶会なんて軽いようなものではなかった。
「──さて、いろいろと説明し終わったわけだけど、何か不満はあるかしら?」
そう言いながら、笑う金髪の少女……少女?まあ、見た目は少女に見えるその金髪の妖怪はもう一人の青髪の少女……いや、青髪の妖怪へと語りかけていた。
「……そもそも私は負けた身だ。そちらのルールに不満など言うことはない」
青髪の妖怪は少し歯ぎしりをしながら、そう返す。仕方なく、向こうの言い分を受け入れている……それを体で表していた。
「そう……それならそれで良いわ」
そう言うと、金髪の妖怪は立ち上がりどこからか扇子を取り出して開き、口元を隠す。そして、こう言った。
「ようこそ幻想郷へ、幻想郷は全てを受け入れますわ」
「パチュリー」
「……はいはい、扉を開けば良いのね」
図書館の扉を開けた私は、すぐに自分の友人の名を呼ぶ。彼女はすぐに私が何をしてほしいか分かったようで、すぐさま魔術を唱えていた。まさしく、以心伝心というやつだろう。
その魔術もすぐに唱え終わったらしく、数分もすればパチュリーはこちらの方を見た。
「いつもすまないな、パチュリー」
「もう慣れてるわ……それより気をつけなさいよ?」
「ああ、分かってる。自分の妹とはいえ、油断はしない」
私はこれから、地下に閉じ込めた妹に会いに行く。我が妹はその恐ろしき能力とその未熟な性格ゆえに地下に閉じ込めたのだ。だが、ずっとそのままにしておくわけにはいかない。だがら、姉である私が週一で会いに行くようにしている。その未熟な性格を治すために。
私は図書館の奥にあるドアに手をかけ、開く。そこにあるのは地下へと続く階段。蝋燭の灯りだけが頼りのその階段を足を踏み出さないように歩く。私の足音が、この全く音のしない空間の中で響く。
そんな音を聞きながら、一分は降りていっただろうか。そこは廊下があり、いくつかのドアがある。私は迷わず、直進し、一番大きなドアを開いた。
「フラン、入い──」
その言葉を言おうとした瞬間、ちょっとした岩が私の頭に飛んできて、体が後ろへ吹き飛ぶ。正直、痛い。しかし、私はそんな事を気にせず立ち上がる。そして、立ち上がった私に一人の少女が目に入った。
「ノックしてから入ってっていつも言ってるよね?」
可愛い帽子、透き通った綺麗な金髪、人形のような顔、汚れていない肌、美しい羽……そう、我が愛くるしい妹だ。妹が目に入った瞬間私は駆け出し、跳んだ。
「フランーーーっ!」
跳んだ私の軌道は見事にフランの元へと、行く……筈だったが、フランは普通に場所を移動したため、私は頭から地面に落ちた。痛い。だが、すぐに立ち上がる。なぜなら、そこにフランがいるから。
「久しぶりね、フラン!さあ、なにして遊ぼうかしら?鬼ごっこ?トランプ?将棋なんて物もあるわよ?」
そう言いながら、私は持ってきたトランプと将棋の駒を取り出す。将棋の方はまだルールも理解してないけど、私の方が知ってる筈だから、ルールを教えてあげれるわね!
「……将棋、駒しか持ってきてないみたいだけど将棋盤は?」
「……あっ」
フランに会えるのが楽しみ過ぎて忘れてたわ……やめてフラン!そんな目で私を見な……いや、これはこれでいいわね。写真とやらで永久保存したいぐらいよ……って、それより将棋盤をどうしようかしらね。
「……まあ、ここに将棋盤はあるし将棋をするわ」
「フラン……!」
さっすがフランね!私の足りない部分を補ってくれるなんて……私達、最高のパートナーよ!……また睨めつけられてきたから、早く準備しないと。駒を並べるのよね……えっとどれがどこだったかしら。
「……レミリア、まさか駒の並べ方も知らないの?」
「ギクッ」
フランは呆れた顔でこちらを見る……多分よくそんな知識で将棋をしようと思ったんだろうとか思ってるんわね。私の目は誤魔化せないわ!……とりあえず私は将棋の駒が入った入れ物を渡す。
するとフランは慣れた手つきで将棋の駒を並べていく……速いわ。この前、一人で練習してたときは並べるのに十分はかかったのに……流石フランね。私の自慢の妹だわ。
「じゃあ、するよ」
「そうね、ところでフラン将棋の駒の動かし方は知ってる?」
「うん、知ってる」
「そう、じゃあ始めるわよ」
大人げないことになるでしょうけど……申し訳ないわね、フラン。本気でいかせて貰うわ!……というか、どこで駒の動かし方なんて知ったのかしら?
「はい、これで詰みだね」
「……もっ、もう一回よ!」
「はい、また詰み」
「もう一回!もう一回!」
「……詰み」
「どこがよ!」
「こう動かしたら、こう。こう動かしたらこうなるでしょ?」
「でも、この持ち手を使えば……!」
「それならこうするから詰みだよ?」
「たっ、確かに……」
「……レミリア、めちゃくちゃ弱いね」
「うっ……フランが強いのよ。こう見えて、パチュリーには何回も勝ってるのよ!」
「それ、手加減されてない?」
「……えっ?」
嘘……手加減されてたの?じゃあ、私の将棋に対する自信ら全部偽りのものだったの……?えっ?えっ?えっ?そんな……。
「まっ、まあ、それはいいわ。それより、なんで将棋盤なんて持ってたの?」
話をずらすために、最初気になったけど聞くのやめた事を今聞いてみる。ずっと地下にいるはずなのに持ってるなんておかしいわよね……?
「ああ、これはこの前紫お姉さまが忘れていったの」
「へぇ……えっ?今、なんて言ったのフラン!?」
「だから忘れていった──」
「違う、その前!」
「紫お姉さまが──」
「紫お姉さま!?もしかしてあの八雲紫の事!?」
「うん、そうだよ?」
「……」
えっ?毎週会いに行ってる私ですらお姉さまなんて呼ばれたことないのに?実姉の私がお姉さまと呼ばれたことないのに?あの、胡散臭い妖怪がフランからお姉さまなんて呼ばれてるの?そもそも、あいつ、この地下に出入りしてたの?
「レミリア?」
フランから珍しく、私を心配してる声が聞こえる。普段の私なら、物凄く喜んだだろうが、今は話が別だ……あの胡散臭い妖怪が私の大事なフランに出会っているという恐ろしい事実を知ってしまったからだ。
しかもお姉さまと呼ばれてるなんて……許せない!許せないわよ!八雲紫!絶対八つ裂きにしてあげるわ!
「もう帰るの?」
……可愛い。凄い可愛い。……そうね、今はフランの相手をするのが先よ。八雲紫を八つ裂きにして、バーベキューをするのは後でいいわ。今はこの可愛すぎるフランの相手をするのが先よ……命拾いしたわね、八雲紫。
「いえ、まだ戻らないわ。さっきは将棋でボコボコに負けてしまったから、トランプで神経衰弱なんてしない?」
「……はいはい、やってあげる」
ふっふっふ……フラン。さっき将棋で私をボコボコにしたから満身してるわね?残念だけど、私は小悪魔に神経衰弱で何連勝もしてるのよ……おかけで記憶力のレミリアと呼ばれてるほどなのよ……。
「じゃあ、始めようか」
「ふふ、フラン。見せてあげるわ、私の強さを!」
この勝負、もらったわ!
「はい、私の方がペアの枚数多いね」
……なんで?
レミリアが上に帰り、静かになった。レミリアが来た時はいつも騒がしくなる……私の前ではいつもあれらしい。紫お姉さまと妖精さんも言っていた。
……私、カリスマが溢れるレミリアの方が好きなんだけどな。
レミリア……フランの前、またはゲーム以外ではカリスマ溢れる吸血鬼。フランをとても溺愛しており、遠くにフランを見たら飛び込まずにはいられないが毎回避けられる。ゲームはあらゆるジャンルで弱いが、チェスだけ圧倒的に強い。
フラン……地下でゆっくり暮らす吸血鬼。特別に妖精メイドが一人ついており、妖精さんと呼んでいる。一月に一度遊びに来る八雲紫を紫お姉さまと呼ぶほど大好き。レミリアは昔はうざいしか思ってなかったが、最近は慣れたため特に思うことはないらしい。
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