兄というのは苦労するが、やり甲斐はある (P&D)
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-1話- 木組みと石畳の街にやってきた![rewrite]

 

 

「ココア、着いたぞ。電車降りるぞ。」

 

「あ!待ってよ!お兄ちゃん!」

 

俺の名前は如月(きさらぎ)リョーマ。そして俺について来ようとトコトコ走っているこの子は保登心愛(ほとここあ)。俺のことをお兄ちゃんと呼んでいるが血の繋がった兄妹ではない。小さい頃からの馴染み。幼馴染というやつだ。俺の両親とココアの両親が俺たちを会わせたのが知り合ったきっかけだ。

 

何故ココアが俺のことをお兄ちゃんと呼ぶのかは特に理由はない。顔を合わせた直後にお兄ちゃんと呼んできて最初はちょっとびっくりしたが今ではそう呼ばれるのが当たり前になっていいる。というかそう呼ばれないと違和感を覚えるまである。

 

「そういえばお兄ちゃん、下宿先ってどこなの?」

 

「ん?ああ、まずはこの道をまっすぐだ。はぐれないようにちゃんとついて来いよ。」

 

「もう子供じゃないんだから迷子になんかならないよ。」

 

「そうか?方向音痴なのは今もそうだろ。」

 

「うぅ………ならないったらならない!」

 

「そうかそうか。ほら行くぞ。」

 

俺はココアを引き連れ、改札口を通り駅を出た。すると目に映ったのは木組みでできた家が並ぶ街並み、石畳でできた床、橋の下に流れる大きな川、街の中をを行き交う人々、雲一つない青空、そして街全体を照らす太陽、まるで目に映るもの全てが俺たちを歓迎してくれてるかのようだ。

 

「ふわぁ!すごく綺麗!昔と変わってないね!」

 

「ああ、全然変わってないな。」

 

「お兄ちゃん早くいこ!」

 

俺たちは幼い頃の記憶と照らし合わせながら懐かしむように街の中を歩いた。全体的には昔と変わってないが一部変わっているところもあった。空き地だったところには新しい建物が建っており、街灯が増え、公園には木やベンチ、新しい遊具が増えていた。以前より街っぽさが幾分増した感じだ。

 

小さい頃に一度この街に来たことがあったが、それはココアの母親が学生時代からの友人に会うためだった。最初はココアの母親、ココア、そしてココアの姉、3人で行く予定だったがココアが俺も一緒に来てほしいとお願いされ俺含め4人で行くことになった。

 

今思えばあの時この街に来れて本当に良かった。初めてこの街に来た時のことは今でもよく覚えている。昔と変わらないこの街、ここなら何か出来そうな気がする。当時小学生だった俺が何の根拠のない、しかし何故か確信じみた想いを抱いた。

 

だが中学生になった時にはあれは何の信憑性のないただの身勝手な考えだと自分に言い聞かせて高校一年生の時は地元の学校に通ったがこの街のことが何度も頭にチラついてモヤモヤした日々を送っていた。そして二年生への進級を機に両親にこの街の学校に通いたいということを話した。最初は驚いていたが理由を話すと少し悩んだ後、許可をもらうことができた。そしてその想いはココアも同じだったらしく、ココアの方は最初は年頃の女の子を遠くの街へは行かせれないと両親に反対されていたみたいだったが俺がその街の学校へ行くことを知るとすんなりと許可をくれたみたいだった。信頼されてるんだな。

 

”良い結果は良い環境から”と言うし、あの時の俺の決断は正しかったと思ってる。昔の俺を褒めたいくらいだ。

 

「ねえお兄ちゃん下宿先ここじゃない?」

 

ココアに呼び止められ指をさしている方を見てみると、うさぎとコーヒーカップの看板、英語で”RABBIT HOUSE”と書かれていた。事前に聞かされていた店の名前と地図の位置が一致している。ここで間違いない。

 

「確かにここだな。」

 

「ラビットハウスかー。ウサギとかいるのかな?」

 

「いや、多分店の名前がそうなだけでウサギはいないんじゃないか?」

 

「えぇ絶対いるよ!ラビットハウスなんだから絶対いる!」

 

どこからその自信が出てくるのか分からないがココアはすっかりこの店にウサギがいると思い込んでしまった。これでいなかったら落ち込むだろうな。

 

「そうか?まあいたらいいけど。とりあえず入ろう。」

 

「うん!」

 

ドアを開けるとカランカランとドアベルが鳴った。中の様相は天井にはシーリングファンがあり、アンティーク調の照明や椅子、テーブルなどが並べられており、コーヒーの香りが漂っている。如何にも喫茶店というのが伝わってくる。カウンターにワインが並べられているのは謎だが。

 

そして正面には薄い青髪で青色の制服、黒い長スカートを着た女の子が後ろ姿で立っていた。

 

「いらっしゃいませ………。」

 

振り向きと同時にその女の子はそう言ってきた。物静かで大人しそうな女の子だ。そして何故か頭に白い毛玉を乗せている。

 

「こんにちは。今日からここで下宿させていたたく如月といいま「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

横にいたココアが突然大声をあげだした。あまりにも急だったからめちゃくちゃびっくりした。当の本人を見てみると女の子の頭に乗っている白い毛玉に指をさしている。あれがどうかしたのか?

 

「ウサギさんだぁ!」

 

え?あれウサギなの?てっきり大きめの毛玉か何かと思っていたけど。それともウサギがいると思い込みすぎてあれがウサギに見えているとかなのか?

 

「やっぱりウサギさんいたよ!ウサギさーん!」

 

「ふぇ!?ちょ、ちょっと返してください!」

 

ココアは親のもとへ駆け寄るかのように女の子に近づき頭に乗せてあった毛玉を手に取った。ココアは目を輝かせてウキウキ状態だ。対して制服を着た女の子は返して欲しそうな顔で慌てている。

 

「ほらお兄ちゃんウサギさんだよ!」

 

毛玉みたいなウサギを手に取ったココアは今度は俺の所に駆け寄り、バッと目の前へ見せてきた。遠くから見たら白い毛玉にしか見えなかったが近くで見てみると目と鼻と口が確かにある。毛が多かったせいで隠れて見えなかったんだな。

 

「かわいいーーー!もふもふだー!」

 

そう言ってココアはその毛玉ウサギを今度はギューッと抱きしめ始めた。毛玉ウサギはよほど嫌なのか眉間にしわを寄せ、しかめっ面になっている。

 

「あ、あの………ティッピー返してください。」

 

制服の女の子は返してほしそうな顔でココアに頼んできた。ティッピーというのはこの毛玉ウサギの名前か。かわいらしい名前だ。そしてココアはさっきからずっとティッピーに顔をうずめるようにもふもふ具合を堪能している。

 

「あの………。」

 

「はぁ~~~このもふもふの感じたまらないな~!今日からこの子を枕にして寝たら最高だろうなぁ~!」

 

そんなの嫌がられるに決まってる。というか人様のウサギで何てことしようとしてるんだ。

 

「か……返してください!」

 

いい加減返してほしいと思ったのか、今度は少し張った声で言ってきた。しかしココアはティッピーに夢中なのか聞こえている素振りは全くない。女の子は全然聞いてくれないと悟ったような顔で俯きだんだん目尻に涙が溜まってきたのが見えた。

 

「こら、いい加減離れろ。自分のじゃないのに勝手に人のウサギを取ったらダメだろ。」

 

「あぅ……うん。」

 

「ごめんな、勝手に取ったりして。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

ココアからティッピーを引き離した俺は軽く注意をし女の子にそっと返した。女の子は無事に取り戻せて安心したような顔で再びティッピーを頭に乗せた。頭にウサギを乗せるなんて器用なことをする女の子だ。バランス感覚が良いんだろうか。

 

「勝手に取っちゃってごめんね。私ウサギには目がなくて。」

 

「いえ、大丈夫です。お二人はお客さんでしょうか?」

 

一段落ついたと同時にすぐさま営業に取り掛かってきた。そっか、下宿の話をしようとした途端あんなことになってしまったんだった。

 

「まだ話してなかったね。俺たち今日からここで下宿させてもらうことになってるんだけど、その話はもう聞いてるかな?」

 

「ああ、お二人がそうだったんですね。父から話は聞いてます。私は香風智乃(かふうちの)といいます。ここのマスターの孫です。」

 

どうやらこの水色髪の女の子の名前はチノという名前みたいだ。第一印象は店に入った時と同じで大人しそうで礼儀正しい女の子といった印象だ。

 

「私は保登心愛だよ!ココアって呼んでね!」

 

「俺は如月リョーマ。リョーマでいいよ。」

 

「ココアさんとリョーマさんですね。この街の学校に通う間はここで働くと聞いてます。うちは見ての通りの喫茶店ですけど接客は大丈夫ですか?」

 

「うん大丈夫だよ!私お喋り大好きだから!」

 

「俺も大丈夫だよ。アルバイトはしたことないけど人と話すのはそれなりに多かったし。」

 

「でしたら大丈夫そうですね。更衣室に制服があるので案内しますね。」

 

「あ!ちょっと待って!」

 

一通り自己紹介を終え更衣室へ案内してもらおうとした時、ココアが何か思いついたような顔で呼び止めてきた。

 

「どうした?」

 

「この店のコーヒー飲みたい!」

 

「は?」

 

「だから、この店のコーヒー飲みたい!」

 

何を言い出すのかと思えば。今からここで働くというのに。

 

「いやダメだろ。今からここで働くんだぞ?」

 

「だって気になるんだもん!」

 

「仕事終わってからでもいいだろ。」

 

「今飲みたい!それにここのコーヒーの味も分からないのに働いてるなんて知られたら笑われるよ?」

 

「うっ………。」

 

中々痛いところを突かれた。考えてみればココアの言う通り、お客さんからこの店のコーヒーについて教えてほしいと聞かれて”飲んだことないので分かりません”なんて答えてしまったら”え?店員なのに?”と思われてしまうだろう。かといって今から仕事をするのにそんなのんびりとしていられない。

 

「いいでしょ?コーヒー1杯だけでいいから。」

 

「ん~、でも………」

 

「私は構いませんよ。丁度今はお客さんがあまり来ない時間帯ですし、今だけお客さんとしてコーヒーを飲めば問題はないと思いますよ?」

 

「ほら!チノちゃんもこう言ってるんだし!」

 

どうしようか悩んでいたところチノが助け舟を出してくれた。それを聞いたココアはコーヒーが飲めると確信したのか勝ち誇ったような顔で俺を見てくる。チノの方はいつでも準備ができるといった顔だ。

 

「……わかった。1杯だけな?」

 

「やったーー!」

 

「それじゃあ私はコーヒーの準備をしますね。」

 

万歳をしながらココアは喜び、チノは素早くカウンターに戻りコーヒーの準備に取り掛かった。今だけお客さんとしていれば問題はないだろう。むしろ今飲んでおかないと後々ココアの言ったとおりになりかねない気がしてきた。

 

「お兄ちゃんここに座ろ!」

 

そう言いながらココアはカウンター席に指をさしていた。今チノが立っている場所の目の前だ。多分コーヒーを作るところを見たいんだろう。

 

ココアはすぐさま席に座り、早くコーヒーが作られるところを見たくてわくわくしてるような顔だ。そういえばコーヒーが作られるところを見たことがないんだった。

 

「それじゃ今から作るので少し待っててくださいね。」

 

チノは豆をコーヒーミルに入れ、ハンドルを回しゆっくりと豆を挽いていく。早すぎず、そして遅すぎないようにゆっくりと一定の速度で。静かな店内でガリガリという豆が挽かれている音が響き渡っていると次第に豆の香りも広がってきた。

 

この時の香りが堪らない。お湯を注いだ瞬間の時、コーヒーが出来上がった時、人によって好みの香りは違うが俺はコーヒー豆を挽いている時の香りが一番好きだ。

 

豆を挽き終えると今度は抽出器具を取り出した。上部にはロート、下部にはフラスコ、そしてそれらを支えるスタンドで構成されている。水蒸気を利用してコーヒーを淹れる器具として知られているコーヒーサイフォンだ。

 

フラスコに水を入れ、ロートにはフィルターを入れてから先ほど挽いた豆と入れる。そしてアルコールランプに火をつけ、それをフラスコの下に置いて過熱させていく。

 

しばらくそのままでいると、次第に水が沸騰していきフラスコにあるお湯がロートへ上っていき挽いた豆と混ざり茶色になっていった。

 

「おぉぉぉぉ!すごい!理科の実験みたい!」

 

「私も初めて見た時はそう思いました。」

 

ココアは珍しいものを見るような目でずっとキラキラしている。確かに理科の実験みたいと言われればそうだろうな。実際に学校でやっても全く違和感を感じないだろうし。

 

「もう少しで出来上がるのでもうちょっとだけ待っててください。」

 

アルコールランプの火を消し、放置していると今度はロートからフラスコへコーヒーが下りていった。これで晴れてコーヒーの完成だ。インスタントだとすぐに作れるが、喫茶店のように本格的に作るとなると意外と時間がかかる。だが時間をかけたその分コーヒーの香りや美味しさを味わえる。コーヒーの醍醐味というやつだ。

 

「どうぞ。」

 

完成したコーヒーをカップに注ぎ、俺たちに差し出してくれた。香りとともにコーヒーから立ってくる湯気が鼻腔をくすぐってくる。

 

「ん~♪良い香り~!」

 

どうやらココアもこの香りを気に入ったようだ。嬉しいと思ったのかチノは少し頬を赤らめている。

 

「さ、冷めてしまいますから、早く飲んだほうがいいですよ///ほら、早く飲んでください///」

 

照れているのを悟られたくないのか、やや強引気味に勧めてきた。確かにコーヒーは温かい方が個人的には好きだ。早速いただこう。

 

「「いただきます。」」

 

水面を軽く冷ますように息を吹きかけて、ゆっくりと味わうように一口飲んだ。感想を一言で表すなら”すごく美味しい”、それしか思いつく言葉が見つからない。そして今まで飲んだ事があるコーヒーとは違う味がする。この時点でオリジナルブレンドだというのはすぐわかったが細かいところまではわからない。きっと数えきれない程、試行錯誤を繰り返して作り上げたものだろう。また新しい味に出会えて俺は大満足だ。

 

「美味しい、本当に美味しいよ!」

 

「そ、そうですか………良かった、です///」

 

チノは一気に頬を赤らめ傍にあったお盆で顔を隠した。率直な感想を言っただけなんだけど、多分褒められ慣れてないのだろう。

 

「ん~美味しい!この落ち着く感じインスタントと同じだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、場が一気に凍り始めた。雲一つないそよ風が吹くような場所から猛吹雪が吹き荒れる場所に飛ばされたような気分だ。

 

恐る恐るチノを見るとさっきまで赤らめていた顔から一変、信じられないものを見るような目でココアを見ていた。そしてそこからだんだん怒りをこみあげているような顔にも見えてきた。

 

「どういう意味ですか?………それ。」

 

「え………?」

 

ココアも雰囲気の変わり様に気付いたようで、しかしどうしてこうなっているのか分からない顔で困惑している。チノは変わらずムッとした顔でココアを睨んでいる。

 

「私が淹れたコーヒーがインスタントって言いたいんですか?」

 

「ち、違うよ!味は本当に美味しいよ!今まで飲んだことがないくらい!飲んだ時の落ち着く感じがインスタントと同じって言っただけだよ!?」

 

「つまり、()()()()()()と同レベルって事ですよね?そう言いたいんですよね?」

 

「ち、ちが………そういうつもりじゃ………。」

 

「違いませんよね?さっき()()()()()()と同じって言いましたよね?」

 

ようやく理解したココアはすぐさま弁明するがチノは聞く耳持たず。よほど不愉快と思ったのかインスタントの部分を強調している。

 

そして何より圧がすごい。女の子の物とは思えないくらいの圧力で気を抜けば一瞬で気圧されそうなる。下宿1日目でこれじゃ流石にマズい。なんとかしてフォローしないと二人の間に亀裂が入ったままだと店の経営にも支障を出し迷惑をかけてしまうかもしれない。

 

「違うんだチノ!ココアは今までインスタントコーヒーしか飲んだことがないんだ。今まで比較対象が無かったからそういう風に言ってしまっただけなんだ。さっきココアも言ってたけど、チノの淹れたコーヒーの味がインスタントと同じって言ったわけじゃないよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、だから決して馬鹿にしてる訳じゃないよ。」

 

「…………ですけど、それでも落ち着く感じがインスタントと同じと言われたのは不愉快に感じました。」

 

それは誰だってそうなるよな。頑張って作った料理を不味いって言われるようなものだからな。

 

ココアは思ったことをすぐ言うタイプではっきりとした子だ。良いところではあるが、稀にそれが仇となる時がある。今回は完全に仇になってしまっている。

 

俺が慌てて仲裁に入って少し落ち着いたチノだが、まだ少しご機嫌斜めといったところだ。

 

「これから少しずつここのコーヒーを飲んでいけばココアもきっとコーヒーの違いが分かってくるようになると思うよ。」

 

「………そう、ですか。」

 

「それに飲んでわかったけど、この店のコーヒーって独自でブレンドしたコーヒーでしょ?」

 

「え………わかるんですか!?」

 

「!!!………」

 

突然チノが驚いた顔になりカウンターテーブルを乗り越えるくらいの勢いで顔を近づけてきた。それには俺は驚いたが、それよりも気になるところがある。カウンターテーブルにいるティッピーも驚いていたのだ。

 

………なんでウサギが驚くんだ?

 

「も、もしかしてコーヒーソムリエなんですか!?」

 

「ち、違う違う!そうじゃないよ。俺の父さんが大のコーヒー好きで、その影響で俺もコーヒーが好きになってそれでコーヒーの違いが分かるようになっただけだよ。それにコーヒーなら俺より父さんの方が詳しいだろうし。」

 

さっきの威圧的な空気はどこへ行ったのやら、チノの顔はパアっと明るくなり驚き嬉しそうな顔になった。チノの変わり様にココアは状況についていけず目が点になってるし。

 

今まで飲んだことがない味だったからもしかしたらと思ったが、やっぱりオリジナルブレンドだったみたいだ。このままいけば機嫌を直してくれるかもしれない。

 

「でもそれでもすごいです!じゃあコーヒーの淹れ方の種類も知ってるって事ですよね!?」

 

「ああ、フレンチプレスに、エスプレッソ、マキネッタ、今チノがやってたサイフォン。挙げだしたらきりがないかな。」

 

「本当にコーヒーが好きなんですね!リョーマさんみたいな人がうちで働いてくれるなんて嬉しいです!」

 

「ありがとう。でも俺も最初はコーヒーの違いなんて全く分からなかったんだ。コーヒーなんて全部同じだろって思ってたくらいだし。ココアも今はまだコーヒーの事があまり分からないかもしれないけど、ここで働いていけばいつか分かるときが来ると思うんだ。だからココアの事、今回は大目に見てくれないかな?」

 

チノは”さっきまで私怒ってたんだった”みたいな顔でハッとし、ココアをちらっと見て少し沈黙の後軽くため息をつき

 

「分かりました。でもココアさん1日でも早くコーヒーの違いを理解してくださいね?店員がコーヒーの違いが分からないなんて知られたら私が恥ずかしいんですからね?」

 

「え………?……あ、う、うん!」

 

まだ状況を理解していなかったらしいココアは素っ頓狂な声で返事をしていた。何はともあれ事態が収束してよかった。ホッと一息をついてコーヒーを飲むと気のせいかもしれないが一口目の時より美味しく感じた―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした。」」

 

「お粗末様でした。」

 

コーヒーを飲み終えた俺たちはリラックスした気分になっていた。やっぱりコーヒーをを飲むと落ち着く。ココアは眠そうな顔をしてるが。

 

「ココア寝るなよ?この後仕事するんだぞ?」

 

「ほぇ?…あ、そうだった。」

 

眠気眼のココアは目をこすり、顔をパチパチと叩き眠気を無くそうと頑張っていたが、電車の長旅で疲れてしまっているのかまだ少しウトウトしている。

 

「そうだチノちゃん、ティッピー貸して?」

 

「え……?どうしてですか?」

 

一瞬、1秒にも満たないほどの一瞬だったが嫌な顔をしていた。店に入ってきて早々ティッピーを取ったことを少し根に持っているのかもしれない。

 

「ティッピーをもふもふしたら眠気が吹っ飛ぶと思うから。」

 

「さっき店に入ってきて早々してたじゃないですか。」

 

やっぱり少し根に持っているかもしれない。考えてみれば店に入って早々、なんの断りもなくティッピーを取ったり、悪気がなかったとはいえ相手を不愉快な気持ちにさせる言葉を言ってしまったりと失礼な事ばかりだ。

 

この街に来る前、下宿先でいつか何かしらのトラブルが起こることはあるだろうなと覚悟していたが、まさか1日目でそうなるとは思ってなかった。ココアの母さんからよろしく頼むと言われたがこれは先が思いやられる。

 

「お願い!もふもふするだけで大丈夫だからお願い!」

 

「ココア、疲れてるんだったら無理せず少し休んだ方がいいぞ?」

 

「もふもふしたら元気いっぱいになるから大丈夫だよ!だからチノちゃんお願い!」

 

ココアは貸してもらうまで折れないといった様子だ。疲れてるのは間違いないだろうし、このまま仕事を始めても何かしらの問題が起こる可能性が高い。少し寝かせたほうが良いだろうか?30分ほど仮眠を取らせてからでも遅くはないと思うが。

 

「………わかりました。いいですよ。」

 

「いいの!?」

 

ほんの一瞬貸したくないような顔をしていたのに何を思ったのかもふもふの許可を出し、チノはカウンターテーブルにいるティッピーをそっとココアに渡した。

 

「そのかわり少しだけですよ?」

 

「ありがとう!チノちゃんは優しいね!」

 

「か、勘違いしないでください//// リョーマさんの負担を減らすためですから///」

 

どうやらチノに気を遣わせてしまったみたいだ。ココアのわがままっぷりは今に始まったことじゃないから俺はもう慣れているが、そうじゃない人には悪い印象しか与えていないような気がする。それに該当しているかもしれないチノはというと、貸したティッピーを雑に扱われないか監視するような目でジーっとココアを見ている。

 

「ふわぁ~、やっぱりこのもふもふ具合は最高~!」

 

そんなチノとは対照的にココアは、お花畑……いや、もふもふ畑にでもいるかのような、人生に悩みなんか全くないような笑顔だった。微笑ましい光景ではあるがチノの顔を見るとそれと同時に申し訳ない思いも出てくる。

 

「この子、綿飴にしたら美味しそうだな~!」

 

 

 

 

 

「の゛お゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

「え!?」

 

食べるなよとツッコもうとした途端ティッピーからお年寄りの男性のような大声が聞こえた。

 

ウサギが喋った!?

 

「今このウサギ喋らなかったか!?」

 

「え?喋った?私は何も聞こえなかったけど?」

 

「………さあ?私も聞こえませんでしたけど。」

 

え?うそ………。絶対に喋った気がするんだけど。気のせい?気のせいにしては鮮明な声だったけど………。

 

「ふわぁ~、いくらもふもふしても全然飽きないよ~!」

 

再びココアはティッピーをギュッと抱きしめ、もふもふを堪能している。

 

やっぱりさっきの声は気のせいだったのだろうか。冷静に考えれば動物が喋るなんてこと、オウムとかは例外として基本的にはありえないことだし。きっと俺の気のせいだろう。

 

 

 

 

「ええい!いつまでも抱き着くな!暑苦しいわい!」

 

 

 

 

 

「やっぱり喋ってる!!!」

 

間違いない。今確実に喋った。さっきと同じ声だし、発声源もティッピーからだったし気のせいなんかではないはず。

 

「ココア!今ティッピー喋ったよな!?」

 

「ふえぇ?そう?もふもふに夢中だったからわかんないや~。」

 

「えー嘘だろ………チノは聞こえたよな?」

 

「………私は何も聞こえませんでしたよ?もしかしてリョーマさんも疲れてるんじゃないですか?」

 

そんなはずはない。あんなにはっきりと聞こえたんだ。幻聴なはずはない。ココアはもふもふで夢中だったから分からなかったとして、チノも傍にいたんだから聞こえてるはずだ。なのに聞こえなかったと言っている。

 

………もしかして白を切っている?ティッピーが喋ったことを言うと妙な間を置いてから聞こえなかったと言っているところを考えるとその可能性はある。

 

「そうかな?聞こえた気がしたんだけどな。俺も疲れてるのかな?」

 

「ええ、きっとそうです。ですからウサギが喋るなんて事はないです。ありえないです。あるはずがないんです。ですからリョーマさんの気のせいです。」

 

やけに早口なのが気になるが今ここで問い詰めても聞こえなかったの一点張りをしてくるだろう。今はこの場に合わせておいてこの事は後回しにしておこう。

 

「ココアさん、そろそろティッピー返してください。」

 

「えー?もうちょっとだけ。」

 

「さっき少しだけって言ったじゃないですか。」

 

チノがティッピーを手に取ろうすると、ココアはまだもふもふしていたいようで中々ティッピーを離そうとしない。

 

「返してください。もう充分もふもふしたじゃないですか。」

 

「あとちょっとだけ!5分でいいから!」

 

少しムッとなったチノは強めにティッピーを自分のもとへ引っ張るが、負けじとココアも引っ張る。ティッピーの取り合いだ。お互い譲る気は無いといった様子でティッピーが苦しんでいる。このままじゃティッピーが2つになってしまう。

 

「ココア、少しだけって言ったんだからそろそろ返せ。約束守らないとティッピー貸してくれなくなるぞ。」

 

「………うん。」

 

ココアは少しその場で考えた後、名残惜しそうにそっとティッピーを手から離した。

 

「でももうちょっとだけもふもふしたかった………。」

 

「………仕方ないですね。お仕事が終わったらまた貸してあげます。」

 

「え?ほんと!?」

 

「少しだけですよ。今度はちゃんと約束守ってくださいね?」

 

「うん!ありがとう!」

 

また貸してくれるとわかった途端、悲しい表情から太陽みたいな笑顔に変わった。ココアは小さい時から我が儘なところがあった。そしてそれは今もあまり変わらない。この街での暮らしを機に少しずつでも我が儘なところ治させていこう。これを放置してしまうのは良くないだろう。

 

「さて、コーヒーも飲み終わったことですしそろそろお仕事に入ろうと思うんですけど、もう大丈夫ですか?」

 

「うん!もうバッチリ元気だよ!」

 

「ああ、俺も大丈夫だ。」

 

「わかりました。では着替えを渡しますのでついてきてくれますか?」

 

そう言ってチノは奥の扉を開け中に入っていき俺たちはゆっくりと席を立ち、チノについていった。

初日から、それも仕事が始まる前からトラブルの連続だったが、少しずつ頑張っていけば良いことだってあるだろう。よく言うしな。『なるようになる』って。

 

To be continued




お久しぶりですP&Dです。

結構前から思っていたんですが、最初あたりの話を読み返す度にこれ書き直した方がいいよなって常々思っていたので超久しぶりの投稿ではありますがリメイクを投稿させていただきました。今後は最新話と同時にリメイク版も投稿していきますので読んでもらえると嬉しいです。


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-2話- 君たちは拳銃を持った女子高生に会ったことはあるか?俺は1度もない。

どうも、P&Dです。
執筆にも少し慣れてきたので頑張っていきます!


俺たちは今、チノに更衣室に案内されていた。

 

「リョーマさんはここの男子更衣室を使ってください。ロッカーの中に着替えが入っているのでそれに着替えてください。」

 

「わかった。ありがとう。」

 

「ココアさん、私たちは隣の更衣室ですよ。」

 

「うん!どんな制服なのかな??すっごい楽しみ!」

 

そう言って2人は隣の女子更衣室へ入っていった。

 

「さて、俺もさっさと着替えるか」

 

中に入ると何ともない普通の更衣室だった。壁際にはロッカーが4つ並んでいる。

 

「俺のロッカーはどれだ?」

 

探していると一番奥のロッカーに「如月リョーマ」と書かれたネームプレートが貼られていた。

 

「これか。」

 

中には制服が入っていた。黒いズボンに白いYシャツに黒いベスト。蝶ネクタイまである。

 

「なんだか、バーのマスターが着てそうな制服だな。」

 

制服を着替えようとしたその時。

 

「キャーーーーーーーー!!!!!!!」

 

「な、なんだ!?」

 

ココアの悲鳴だ。

 

俺は急いで隣の更衣室へ急いだ。

 

「どうした!」バタン

 

中に入るとそこには下着姿の紫色の髪の女の子がいた。

 

「お兄ちゃん助けて!強盗が!」

 

「ち、違う!知らない気配がして隠れるのは当然だろ?」

 

と、慌てて弁明している。

 

「ていうかお前、なんで拳銃なんか持ってるんだ?」

 

「こ、これは護身用だ。私の父は軍人で護身術というか色々仕込まれているだけで、普通の女子高生だから信じろ!」

 

「拳銃持ちながら言っても説得力ねえよ!...ていうか服着ろよ///」

 

そう言われて女の子は自分の体をみた。

 

するとみるみる顔を赤くしていった。

 

「..へ..へ....へ」

 

「へ?」

 

そして。

 

「変態!!!出てけ!!!覗き!!!痴漢!!!!!」

 

その女の子は近くにある物を手あたり次第投げてきた。

 

「うわ!やめろ!危ない!っておい!ナイフ投げんな!」

 

殺す気かこの子は。

 

俺は死に物狂いで男子更衣室へ転がり逃げた。

 

「はぁ..はぁ....マ、マジで死ぬかと思った...。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ...

 

「!!!!!!!」

 

慌てて振り向くとそこにはチノがいた。

 

「なんだチノか。驚かさないでくれよ。」

 

「あの、何かあったんですか?」

 

「それよりチノ!女子更衣室に拳銃を持った女の子が!」

 

「拳銃?...あーリゼさんですね。うちで働いてるバイトの人です。」

 

「バイト?強盗じゃないのか?」

 

「強盗なわけないじゃないですか。それより早く制服に着替えてください。」

 

「お、お兄ちゃん?」

 

ドアからひょこっとココアが出てきた。

 

「ココアか。」

 

「だ、大丈夫?」

 

「まあ...大丈夫だ」

 

「あの、さっきの子がさっきはごめんもう気にしてないって」

 

「そ、そうか。俺も悪かったって伝えといてくれ。」

 

「うん。わかった。」

 

「....本当に何があったんですか?」

 

「まあ...色々とな」

 

話す気力が無い。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ようやく落ち着いた俺たちは制服に着替え1階へ集合した。

 

「......./////...///」

 

顔を赤くしながら俺を睨んでいるさっきの女の子がいた。

 

「えっと..さっきはごめん。」

 

「いいよ、もう。それに私も物を投げてすまなかった。」

 

「「..............」」

 

き、気まずい!

 

「えっと、私たちまだ名前知らないし自己紹介しようよ。」

 

ココアが助け舟を出してくれた。

 

「そうだな。俺たちまだ名前知らないし。」

 

「そうだったな。私は天々座理世、リゼって呼んでくれ」

 

「私は保登心愛だよ。ココアって呼んでね。」

 

「おれは如月リョーマだ。リョーマでいいよ。」

 

「ああ、よろしく。そういえばさっきココアがリョーマのことお兄ちゃんって呼んでたけど兄妹なのか?苗字違うみたいだけど。もしかして義理の兄妹か?」

 

「それ私も気になってました。」

 

そういえばまだ言ってなかったな。

 

「違う違う。俺たち幼馴染なんだ。こいつがお兄ちゃんって呼んでるだけだよ。」

 

「すっごい優しくてカッコイイんだよ!」

 

「そういえばココアが悲鳴上げた時一目散に走って来たもんな。」

 

「や、やめろよ//恥ずかしい//」

 

「うれしかったよ//お兄ちゃん///」

 

「お前までやめてくれよ//////」

 

そうやっているといつの間にか場が和んでいた。

 

「では自己紹介も終わりましたしそろそろ仕事を始めましょうか」

 

「そうだな。よろしくみんな!」

 

俺はそう言い仕事に取り組み始めた。

 

こうしてラビットハウスでの初仕事が始まった。

 

 

to be continued




今回はここで終わりです。
なんだか日に日にテンションが上がってきてるような気がします。
でもこれ深夜に書いてたやつなんですよね。
深夜テンションなんでしょうか?
僕にはわかりません!


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-3話- 初仕事ってすごく緊張しないか?

どうもP&Dです。
皆さんはバイトや就職先での初仕事はどうでしたか?。
僕はミスのオンパレードでした。



俺たちは自己紹介を済ませ仕事を始めた。

 

「リョーマはこの街に来る前にバイトはしたことあるのか?」

 

「いや、ラビットハウスが初めてだ。でも人と話すことは多かったから接客は大丈夫だよ。」

 

「お兄ちゃん、もしかして緊張してる?」

 

「少しな。」

 

「まあすぐに慣れるさ。じゃあ今から地下室にあるコーヒー豆の袋をキッチンまで運ぶぞ。」

 

「わかった。ココア行くぞ。」

 

「うん!」

 

俺たちは地下室へ降りて行った。

 

「これか。じゃあ運ぶか。」

 

俺は大きいほうのコーヒー豆の袋を2つ肩に背負った。

 

「う~、この袋重すぎるよ~。これは普通の女の子には無理だよ~。」」

 

ココアは無理して大きいほうの袋を持とうとしていた。

 

それを見ていたリゼは俺と同じ大きいほうの袋を2つ背負った自分を見て慌てて床に下ろした。

 

「あ、ああ!確かに重いな。普通の女の子には無理だ。小さいほうを運ぼうか。」

 

「うん。そうだね。」

 

そう言いリゼは小さいほうを軽々と4つ持った。しかしココアは。

 

「う~1つ持つのがやっとだよ。ねーリゼちゃん?」

 

そう言われリゼはまた慌てて袋を下ろし1つだけ持った。

 

「ああ!そうだな。1つ持つのがやっとだな。」

 

「.........。」

 

俺はそのやり取りを黙ってじーっと見ていた。

 

「ん?何だよリョーマ。」

 

何か文句でもあるのかみたいな目で俺を睨んでいた。

 

「...いや、なんでもない。」

 

別に普通の女の子を取り繕わなくてもいいと思うけどな。ていうか拳銃持ってる時点で普通じゃないからな。

 

「じゃあキッチンまで運ぶか。」

 

俺はそう言い2人の方へ振り向くと重そうに袋を持っているココアと重そうに演技しながら袋を持っているリゼがいた。

 

「...やれやれ」

 

そう思いながら俺たちはキッチンへ向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

袋を運び終わった俺たちはお客さんが来るのを待っていた。

 

「リョーマ、ココア、メニューちゃんと覚えとけよ。」

 

「コーヒーっていろんな種類があるんだね。覚えられるかな?」

 

「私は一目で暗記したぞ。」

 

「俺はもうほとんど覚えた。」

 

「2人ともすごい!」

 

「チノなんて香りだけでコーヒーの銘柄当てれるし。」

 

「そんなにすごくないですよ////」

 

「いや、すごい事だと思うぞ。」

 

俺がそう言うと。

 

「リョーマさんの方がすごいですよ。私なんて砂糖とミルクがないとだめですし、リョーマさんなんてオリジナルブレンドを当ててたじゃないですか。」

 

「チノこそ中学生なのにすごいよ。誇っていい事だと思うぞ?」

 

そう言い頭を撫でてやると。

 

「そ、そうでしょうか?////、で、でもありがとうございます////」

 

そう言いながら顔を赤くし頭から湯気を出していた。

 

「そういえばチノ。さっきから何書いてるんだ?」

 

気になっていたので聞いてみると。

 

「これですか?春休みの宿題です。あまりする時間が無いのでこうして空いた時間にこっそりやってます。」

 

「ヘ~偉いねチノちゃん。あ!ここは128でここは367だよ。」

 

「なあリョーマ、ココアって。」

 

「ああ。こいつ計算だけはすごいんだ。ココア、267円のコーヒーを37杯頼んだらいくらになる?」

 

「9879円だよ。」

 

「な?」

 

「こいつバカそうに見えて意外な特技を!」

 

俺も初めて見た時は驚いたもんだ。

 

「じゃあココアさんこの漢字分かりますか?」

 

「えっとー、全然わかんない。」

 

「おいおい。高校生なる人が中学の漢字わかんなくてどうすんだよ。」

 

「だって文系苦手なんだもん。」

 

そう。ココアは理系が得意な代わりに文系が絶望的なのだ。

 

中学の時のテストで点数が1桁の時はさすがに驚いた。なので俺がみっちり文系の指導をして何とかこの春から通う高校に合格ができたのだ。

 

「で、チノ。どこの漢字がわからないんだ?」

 

「ここの漢字なんですけど。」

 

「この「惨」って漢字は「さん」って読むんだよ」

 

「そうなんですか。ありがとうございます。」

 

「そうだ!1つコツみたいなのを教えようか。わからない漢字があったらその漢字の中に漢字があったらその音読みと同じ読み方なんだ。例えば「祉」は音読みで「し」って言うけど、この漢字の中に「止」があるだろ?この漢字も音読みで「し」って読むだろ?だからわからない漢字があったらその漢字の中の漢字を読めばだいたい合ってるよ。」

 

「すごいです!ほかの漢字も全部解けました!ありがとうございますリョーマさん!」

 

「どういたしまして。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カランカラン。

 

どうやらお客さんが来たようだ

 

「「「「いらっしゃいませ!」」」」

 

「あら、2人は新人さん?」

 

「はい。今日からここで働かせて頂くココアっていいます。」

 

「如月リョーマといいます。」

 

「よろしくね。じゃあキリマンジャロお願い」

 

「わかりました。やったー!私ちゃんと注文取れたよ!キリマンジャロお願いします!」

 

「良かったな」

 

「えらい、えらいです。」

 

注文取れただけで喜びすぎだろ。

 

 

 

 

 

 

数分後

 

「そういえばチノちゃん。このお店ってラビットハウスって名前でしょ?うさ耳つけないの?」

 

「そんなもの着けたら別の店になってしまいます。」

 

「リゼちゃんが着けたら似合いそうだね」

 

「そんなもの着けるか!.........。」

 

バニーガールみたいなものを想像してるんだろうな。

 

「リゼ、たぶんお前が今思ってるのとは違うぞ」

 

「!!!ひ、人の心を読むな!!」

 

「うわ!!だからナイフ投げんな!!!」

 

トラウマになってるんだよ!

 

「似合うと思うんだけどなー。」

 

「絶対に着けないからな、まったく。それよりココア、リョーマ、ラテアートしてみるか?」

 

「ラテアート?」

 

「ああ。うちではサービスでやってるんだけど、カフェラテにミルクの泡で絵を描くんだよ。」

 

「ヘ~、手本見せてくれよ。」

 

「まあ、手本としてはこんな感じだな。」

 

「花の絵か。かわいい絵だな。」

 

「そ、そうか///」

 

「ねえリゼちゃん、他の絵も書いてよ。」

 

「しょうがないな。特別だぞ。やり方もちゃんと覚えるんだぞ。」

 

どんな絵を描くのかと思って見てみると衝撃だった。戦車の絵を描いていたのだった。

 

「す、すごーい!」

 

「いやー、そんなに上手くないって。」

 

「い、いや。上手ってレベルじゃねえぞ?ていうか人間業じゃないぞ。」

 

「じゃあお前たちも描いてみろ。」

 

俺たちはラテアートを描いてみるが。

 

「...うーんなんか難しい、イメージと違う。」

 

「どんな絵を描いたんだ?」

 

見てみるとティッピーだった。形は歪だが...。

 

「ティッピーか、形は変だけどかわいいぞ。」

 

「ほんと?ありがとうお兄ちゃん。そういえばお兄ちゃんは何を描いたの?」

 

「俺か?俺はこれだ」

 

「な、な、な、な//////」

 

「あ!リゼちゃんだ!すごいそっくり!」

 

「なんで私を描くんだ!」

 

「いいじゃん別に。可愛いだろこれ?」

 

「うん!すっごく可愛い!」

 

「か、可愛いって////うぅ~///い、今すぐ消せ!!!」

 

そう言ってリゼは銃口を向けてきた。

 

「おい!やめろ!銃口向けんな!」

 

「だったらすぐ消せ!!!」

 

「わかった、わかったから銃を下ろしてくれ!」

 

俺はすぐにそのカフェラテを飲み干した。

 

「まったく、お前というやつは////」

 

「でもリゼを描いたカフェラテを飲んだからリゼを飲んだってことになるのかな?」

 

「!!!!//////へ、変なこと言うな!!!」

 

「だからナイフ投げんな!」

 

「お、お前にラテアートなんか教えるんじゃなかった////」

 

「でもリゼちゃん。嫌じゃないんでしょ?」

 

「嫌ではないけど、恥ずかしいんだ。」

 

「お兄ちゃんがリゼちゃんを描いたってことは可愛いって思ってる証拠だよ!自信もって!」

 

「うぅ~~///////」

 

それからしばらくリゼの顔は真っ赤だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

お客さんもいなくなり閉店時間が近づいてきた。

 

「今日はそろそろ閉めましょうか?」

 

「そうだな、お疲れ様」

 

「お疲れ様」

 

俺たちはそれぞれ更衣室で着替えをした。

 

「ココアとリョーマは今日からここで寝泊まりするんだよな?」

 

「うん。そうだよ。チノちゃん、一緒に晩御飯作ろうね?」

 

「1人で出来るので大丈夫です。」

 

(何だか楽しそうだな...)

 

「リゼもよかったら一緒に作るか?」

 

「え?...いや遠慮しておくよ。今日はお前たちの初めての下宿だろ?3人でゆっくりしてくれ。」

 

「そうか。わかった。」

 

「悪いな。また今度誘ってくれよ。」

 

リゼが家へ帰った後俺たちは見知らぬ男性に会っていた。

 

「皆さん、こちらは私の父です。」

 

「君たちがココア君とリョーマ君だね?」

 

「はい。お世話になります。」

 

「これからよろしくお願いします。」

 

「私はタカヒロだ、よろしく。チノと仲良くしてやってくれ。それじゃ失礼するよ。」

 

「タカヒロさんはどんな仕事してるんだ?」

 

「ラビットハウスは夜になるとバーになるんです。父はそこのマスターです。」

 

「ヘ~。何だか裏世界の情報提供してそうでカッコイイね。」

 

「.....なんの話ですか?」

 

「まあ、とにかく夕食の準備をしようか?」

 

「そうですね。」

 

「よーし!みんなで作ろう!」

 

こうして俺たちは夕食の準備に取り掛かった。

 

「こうしていると何だか姉妹みたいだね!」

 

「私は妹じゃないです。」

 

「そんなこと言わずに~。」

 

「でも、...リョーマさんがお兄ちゃんならいいかもしれませんね//////」

 

「そうかな?ありがとうチノ。」

 

すると突然ココアが。

 

「ヴェアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」

 

「うわ!どうしたココア?」

 

「なんで!?チノちゃんなんで!?お兄ちゃんはいいのになんで私はダメなの?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?」

 

そう言いながらココアはチノの肩を掴みブンブンと揺らしていた。

 

「やめろココア!チノが酔ってしまう!大丈夫かチノ?」

 

「うぅ~~、...だ、大丈夫です。」

 

「お兄ちゃんずるい!」

 

「そんなこと言われても。」

 

「こうなったら私もチノちゃんにお姉ちゃんって呼んでもらえるように頑張るから覚悟してよお兄ちゃん!」

 

「....まあ、一応覚悟しておくと言っておくよ。」

 

「はぁ~、まったくやれやれです。」

 

 

 

 

 

夕食を終えた後チノとココアは風呂に入ったのでタカヒロさんのところへ行くことにした。

 

「タカヒロさん、少しお邪魔してもいいですか?」

 

「やあリョーマ君、どうしたんだい?」

 

「夜のラビットハウスってどんな感じなのか気になって。」

 

「そうかい。まあゆっくりして行ってくれ。」

 

「はい。じゃあすこしだけ。」

 

「チノとは仲良くなれそうかい?」

 

「ええ、もちろん。夕食の時俺がお兄ちゃんならいいかもしれないって言われましたし。」

 

「それは良かったじゃないか。」

 

「はい。何だかすごく嬉しかったです。」

 

「これからも仲良くしてやってくれ。」

 

「はい、任せてください。おじいさん(ティッピー)もよろしく。」

 

「ああ、よろしくな。.....あ!!!」

 

「やっぱりあの時の声あなただったんですね。」

 

「親父。口軽すぎるだろ。」

 

「親父?この人、うさぎ?はあなたの父親なんですか?」

 

「ああ。聞いてると思うけど親父は一度死んでるんだよ。それでなぜか知らないけどティッピーに乗り移ってね。私にもわからないんだ。」

 

「そうだったんですね。このことは誰にも言わない方がいいですね。」

 

「ああ。そうしてもらえるよう頼むよ。」

 

「ワシからも頼む。」

 

「わかりました。それじゃ長居すると悪いですしそろそろ部屋に戻りますね。」

 

「わかったよ。それじゃお休み。」

 

「おやすみなさい。」

 

部屋に戻るとココアとチノがいた。

 

「お兄ちゃんお帰り。」

 

「お帰りなさい」

 

「ただいま。チノ、ちょっといいか。」

 

「なんですか?」

 

部屋を出て廊下で話すことにした。

 

「ティッピーってチノの祖父だったんだな。」

 

「....おじいちゃんが口滑らしたんですね。」

 

「このことは誰にも言わないようにするね。」

 

「はい。お願いします。」

 

「じゃあ今日はもう遅いから早く寝て。」

 

「わかりました。ココアさん、もう寝ますよ。」

 

「うん!じゃあチノちゃん。今日一緒に寝よ?」

 

「1人で寝てください。」

 

「お願いチノちゃん!」

 

「はぁ~仕方ないですね。」

 

「ありがとうチノちゃん!じゃあおやすみなさいお兄ちゃん。」

 

「ああ、おやすみ。」

 

俺は自分の寝室へ入った。

 

「さて!寝るか。」

 

明日に備え俺は眠りについた。




今回はここで終わりです。
思ってたより長く書いたので少し疲れてます。
今から寝ます!


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-4話- 通学路の道はしっかりと覚えよう!

どうもP&Dです。
皆さんは通学路にどんな思い出がありますか?
僕は高校の通学路を覚える時に(当時ケータイ持ってなかったので)迷子になった思い出があります。



「....て.....きて....起きて、お兄ちゃん。」

 

「ん?おはようココア。」

 

「おはようお兄ちゃん。」

 

「どうしたんだ?部屋に入ってきて。」

 

「何言ってるの?今日から学校だよ?」

 

「は?」

 

学校は明日だったはずだけど。

 

「学校明日だろ?」

 

「え?学校は今日だよ?」

 

「書類ちゃんと確認したか?もう1回見てこい。」

 

「うん。」

 

ココアは確認のために自分の部屋に戻った。数分後顔を赤くして戻ってきた。

 

「学校.....明日だった////」

 

「な?言っただろ?」

 

「うぅ~恥ずかしいよ~////」

 

「ていうかココア、お前通学路知ってるのか?」

 

「え?知らないよ。」

 

「.........。」

 

この子は本当にもう....。

 

「よくそれで学校に行こうだなんて言えたな?」

 

「なんとかなるかなって思って。」

 

「なるわけないだろまったく。はぁ~仕方ない。今から学校の前まで行くか?」

 

「いいの?ありがとうお兄ちゃん。」

 

「じゃあ今から準備して。」

 

「わかった!」

 

数分後準備ができた俺たちは玄関でチノに会った。

 

「おはようチノ。」

 

「おはようチノちゃん!」

 

「おはようございます。」

 

「チノは今日から新学期か?」

 

「はい。2人は今日じゃないんですか?」

 

「俺たちは明日だ。今日は学校までの通学路を覚えるために学校まで行くんだ。」

 

「チノちゃんも途中まで一緒に行こうよ。」

 

「いいですよ。」

 

「ていうかココア、何でお前制服なんだよ?」

 

「いや~どうせなら通学気分味わいたいなーって。」

 

「そうかいそうかい。」

 

こうして俺たちはチノと一緒に途中まで一緒に通学路を通っていた。

 

「こうして3人で歩くのって初めてだね。」

 

「そうだな。そういえばチノの学校って帽子があるんだな。」

 

「はい。帽子がある学校はうちの学校だけ見たいです。」

 

「かわいいな。こうして見るとチノが妹に見えてくるよ。」

 

「え!!///は、恥ずかしいこと言わないでください////」

 

チノが何だか照れているようだった。

 

「!!チノちゃんは私の妹だよ!」

 

「何言ってるんだよ。」

 

「だからチノちゃんは私の妹なの!!!」

 

「私は妹じゃないです。」

 

こんなやり取りがしばらく続いた。

 

「では私はこっちですので。」

 

「ああ。学校頑張れ」

 

「またね!」

 

しばらく歩いていると公園が見えた。

 

「ねえお兄ちゃん、ちょっと休んでいこうよ」

 

「おい。通学気分味わいたいっていったの誰だよ。」

 

「まあいいじゃない。別に急いでないんだし。」

 

「しょうがないな。」

 

ベンチに向かって歩いているとうさぎに羊羹を与えている和服の女の子がいた。

 

「おいで~おいで~。ん~食べないわね、うちの子は食べるのに。」

 

「ココア、うさぎって羊羹食べたっけ?あれ?ココア?」

 

「わ~!その羊羹おいしそ~!」

 

「あら?食べる?」

 

「え!?いいの?ありがとう!」

 

「うさぎじゃなくて女の子が釣れちゃったわね。」

 

「おいココア!勝手に動くな!」

 

「あ!お兄ちゃん!この羊羹すごくおいしいよ!」

 

「お前はまったく。ごめんね迷惑掛けなかったか?」

 

「ええ、大丈夫よ。自己紹介がまだだったわね。私は宇治松 千夜よ。」

 

「私は保登 心愛だよ!よろしくねチヤちゃん!」

 

「俺は如月 リョーマだ。よろしく。」

 

「あら?2人は兄妹じゃないのかしら?」

 

「俺たち幼馴染なんだ。ややこしくて悪いな。」

 

「そうだったの。私にも幼馴染がいるの。からかい甲斐がある面白い子なの。」

 

「へ~、いつか会ってみたいね。」

 

「いつか紹介するわ。それよりその制服私と同じ学校ね。」

 

「え?チヤちゃん私たちと同じ学校なの?やったー!学校でも仲良くできるね!」

 

「ええ!よろしくねココアちゃん!リョーマ君!」

 

「そういえばチヤちゃん、この栗羊羹どこに売ってるの?」

 

「気に入ってくれた?それ私が作ったのよ?」

 

「そうなの!?すごい!ねえねえお兄ちゃんも食べてみてよ!」

 

「どれどれ.....へぇ~すごい美味しいなこれ!和菓子作るのが得意なのか?」

 

「ええ。それは特に私の自信作なの。幾千の夜を往く月....名付けて千夜月!栗を月に見立てた栗羊羹よ!」

 

「なんかカッコイイ!意味わかんないけど!」

 

「意味わかんないのにいうセリフじゃないな」

 

「それより2人は何をしていたの?」

 

「ココアが通学路わかんないっていうから道案内してたんだよ。」

 

「そうだったの。よかったら私が道案内しようかしら?」

 

「俺が覚えてるから大丈夫だよ。ありがとう。」

 

「わかったわ。それじゃ私はそろそろ帰るわね。明日学校で会いましょうね。」

 

「ああ。また明日。」

 

「また明日会おうね!」

 

「じゃあココア続きを歩くか。」

 

「うん!」

 

この後学校の前まで歩いたが1回じゃ覚えられないということで結局5往復することになった。あの方向音痴には困ったもんだ。

 

「さて、明日から新しい学校生活か。まあ!何とかなるだろ!」

 

こうして俺は少し早めの就寝についた。




今回はここで終わりです。
今回はあまりオリジナル要素ありませんでしたね。
次回はもうちょっと頑張ってみます。


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-5話- 転校生に質問責めは避けられない運命だ。

どうもP&Dです。
転校生にとって初日はやっぱり人一倍疲れるんでしょうか?
僕は転校生じゃなかったのでわかりませんが。


今日から学校生活が始まった。それは良かった、それは良かったんだけど1つだけ問題が発生している。

 

「今日からこの学校に転校しました。如月リョーマと言います。よろしくお願いします。」

 

ココアはこの春から入学だが俺はココアの1つ上だから転校生なのだ。最初の1年は地元の高校に通っていたがこの街のことが忘れられなかった。だから今年度からこの街の高校に通うことにしたのだ。そしてその問題とは。

 

「キャーー男の子だわ!カッコイイ」

「私の好みだわ!」

「あとでお話してみよ!」

 

そう。男子が俺しかいないのだ。聞いた話によると今年度から共学になったらしく男子でこの学校に来たのが俺だけだったのだ。

 

「ねえねえ如月君。前はどこに住んでたの?」

「如月君はどこの部活に入るの?」

「如月君って趣味はなんなの?」

 

「えっと...あの....ちょっと待って。」

 

ただいま質問責めである。転校生ってこんなに大変なのか!?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼休み

 

 

 

 

「お兄ちゃん!一緒にお昼を...ってお兄ちゃん!どうしたの!?」

 

「女子怖い女子怖い女子怖い女子怖い女子怖い女子怖い女子怖い女子怖い女子怖い女子怖い女子怖い女子怖い」

 

「お兄ちゃん!しっかりして!目が死んでる!」

 

女子ってあんなに質問してくるのか?恐怖を覚えたぞ。

 

「リョーマ君大丈夫?」

 

「ああ、もう大丈夫だ。ありがとうチヤ。」

 

「ねえ、一緒にお昼食べよお兄ちゃん?」

 

「ああ。食べようか。」

 

俺たちは中庭のベンチでお昼ご飯を食べることにした。

 

「リョーマ君。学校生活の方はどう?...あ!」

 

「........。」

 

何だろう体の震えが止まらないぞ。

 

「ごめんなさいリョーマ君。怖い思いしたんだったわね。ごめんなさい。」

 

「いや、もう大丈夫だよ。気にしないでくれ。」

 

「あ~あ。私お兄ちゃんと同じクラスが良かったな~。」

 

「学年が違うんだから仕方ないだろ?」

 

「まあいっか!こうして学校内で会えるんだし!」

 

「2人とも仲良いのね。」

 

「うん!私の大好きなお兄ちゃんだもん!」

 

「////////////」

 

「あら?リョーマ君顔赤いわよ?」

 

「本当だ!お兄ちゃんもしかして照れてるの?」

 

「う、うるさい/////」

 

昔からそうだった。こいつはこういうことを平気で言うから困る。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「あら?予鈴だわ。」

 

「じゃあ教室に戻ろうか。お兄ちゃん今日一緒に帰ろうね!」

 

「ああ、わかった。」

 

俺は自分の教室に戻ることにした。中に入ると。

 

「あ!如月君だ!」

 

俺はこの時、気付きたくないことに気付いてしまった。さっき流れたチャイムは予鈴、つまり本鈴まで少し時間があるのだ。つまり....。

 

「如月君、部活なんだけどテニス部に入らない?」

「如月君、茶道部に入りましょうよ?」

「バスケ部の方が良いわよ!」

 

恐怖の時間はまだ終わっていない!

 

(ココア!チヤ!助けてくれーーーーーーーー!!!!!!!)

 

5分ほどの時間が1時間くらいに感じた。

 

 

 

 

 

帰り道

 

 

「お、お兄ちゃん大丈夫?何だかお昼休みの時より窶れてるけど。」

 

ココアが心配そうに聞いてくる。初日が終わったからもう今日みたいなことはないだろう。こんなのが毎日あると身がもたない。

 

「大丈夫だ。今日を乗り切ったから明日からは心配ないよ。」

 

「転校生も大変ね。男子が1人だけなら尚更。」

 

「まったくだ。そういえば2人は同じクラスになれたのか?」

 

「ええ!無事なれたわ。」

 

「そっか。良かったなココア。」

 

「うん!」

 

そういう会話をしながら歩いているとパン屋がみえた。

 

「あ!パン屋だ!」

 

「本当だな。そういえば最近焼いてないな。」

 

「そうだね。久しぶりに作ってみたいな。」

 

「2人はパンを作ったことがあるの?」

 

「うん。実家がベーカリーでね。よく作ってたんだ」

 

「俺もココアの家に遊びに行った時によく作ったな。」

 

「そうだ!チノちゃんにオーブンあるか聞いてみようよ。」

 

「そうだな。聞いてみるか。」

 

「もしオーブンがあったらチヤちゃんも一緒に作ろう?」

 

「ええ。お願いするわ。」

 

 

ラビットハウスに戻って仕事の制服に着替えた後チノにオーブンがあるか聞いてみた。

 

「オーブンならありますよ。おじいちゃんが調子乗って買ったやつが。」

 

するとティッピー(おじいさん)が顔を赤くしていた。ていうか調子乗って買ったのかよ。

 

「じぁあさ、今度みんなで看板メニュー開発しない?」

 

「ココア、リョーマ、遊んでないで仕事しろよ。」

 

きゅるるるるるるる~

 

「......。」

 

俺は黙ってジーっとリゼを見ていた。

 

「こ、こっち見るな!」

 

「焼き立てのパンって美味いんだぞ?」

 

「そんなのわかってる!」

 

きゅるるるるるるる~

 

よほど腹が空いているのだろうか。俺は思い切って聞いてみる。

 

「腹減ってるのか?」

 

この時俺はこのことを聞いたこと後悔した。リゼは顔を真っ赤にしながらゆっくりと近づいてくる。

 

「女の子にそんなこと聞くな/////」

 

「銃をこっちに向けるな!」

 

腹の音を聞かれただけでそんなに恥ずかしがることないのに。

 

 

 

 

 

10分ほどしてようやくリゼが落ち着いたので本題に入ることにした。

 

「さっきココアが言ってたけど新メニュー考えないか?お客さんが増えると思うんだ。」

 

「そうですね。お客さんが増えた方が私も嬉しいですし。」

 

「ああ、私も構わないぞ。」

 

どうやらみんな賛成のようだ。明日はラビットハウスは休みなので明日、みんなで作ることになった。

 

 

 

 

その日の夜

 

「明日のパン作り楽しみだね?」

 

「ああ。ココアはパンを作るのだけは上手いからな」

 

「お兄ちゃんの方が上手だよ?お母さんがよくお兄ちゃんの作るパンすごく美味しいって褒めてたし。」

 

そういえばそんなこと言っていたような気がする。うちで働かないかって10回以上聞かれたことは鮮明に覚えているが。

 

「パン作り決定したしチヤを呼んで明日みんなに紹介するか?」

 

「うん!お友達はいっぱいいた方が楽しいしね!」

 

ココアがいつも以上に機嫌が良い。自然と俺も笑顔になる。

 

「じゃあ今日はもう寝るか。明日寝不足の状態でパン作るわけにはいかないからな。」

 

「うん!じゃあおやすみお兄ちゃん。」

 

「おやすみ。」

 

明日のパン作りの期待を胸に俺は眠りについた。




今回はここで終わりです。
僕は1回だけパン作りしたことがあるんですけど、生地をこねるのがとても楽しかった思い出があります。
また機会があったら作ってみたいですね。


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-6話- 焼き立てパンってもちもちで美味しいよな。

どうもP&Dです。
焼き立てパンって1度食べると止まりませんよね。
スーパーに売ってるパンとは全然違います。


チノからラビットハウスにオーブンがあるということが分かったので休日にみんなで集まってパン作りをすることになった。チヤも喜んできてくれたのでチノとリゼに紹介することにした。

 

「ココアと同じクラスの宇治松 千夜だ。」

 

「みんな、今日はよろしくね。」

 

「私はリゼだ。よろしく。」

 

「チノです。よろしくお願いします。」

 

「よろしくね。...あら?そちらのワンちゃんは?」

 

どこをどう見たら犬に見えるのか、ものすごく疑問に思ったがチノが「ティッピーです。」と返していた。

 

「この子はね、ただの毛玉じゃないんだよ。」

 

「あら?毛玉ちゃんなの?」

 

一向にうさぎと言う気配がしない。

 

「おい2人ともちゃんとうさぎって言ってやれよ。」

 

「あ!そうだったね。あとねこの子はもふもふが格別なんだよ。」

 

「まあ、確かにティッピーは抱き心地良いし、ふわふわしてるから良いよな。」

 

「お?お兄ちゃんわかってるね。チノちゃんと同じくらいもふもふなんだよ?」

 

「私はもふもふじゃないです。」

 

「へぇ~そうなのか?どれどれ。」

 

気になったのでチノを抱きしめてみる。

 

 

 

 

「え?え!?え!!!!//////」

 

「あらあら~。」

 

「今日のリョーマは何だか大胆だな。」

 

確かにココアの言った通り抱き心地がティッピーと同じくらいだな。

 

「本当だ。ティッピーと同じくらいもふもふだな。」

 

「でしょー?」

 

「な、なにするんですか!!!////」

 

一気に顔を赤くしながらチノが言ってきた。

 

「本当にモフモフなのか気になってな。」

 

「だからってここでしないでください////」

 

「ふ~ん、じゃあ誰もいなかったら良いのか?」

 

少しからかって言ってみた。するとさらにチノが顔を赤くした。

 

「そういうことじゃないです!!!リョーマさんのバカー!!!」

 

そう言いながらぽかぽかと俺を叩いていた。

 

「ほら、そろそろパン作り始めるぞ。」

 

「そうね。始めましょうか。」

 

リゼとチヤはそう言い準備に取り掛かった。

 

「ねえチノちゃん、お兄ちゃんに抱きしめられてた時チノちゃん嬉しそうな顔してたよ?」

 

「そ、そんな顔してないです////」

 

ちなみにパン作りを始めるのにここまで30分かかった。

 

 

 

 

 

 

「それにしてもココアがパンを作れるなんて意外だったな」

 

「えへへ~そうかな?」

 

褒められてないと思うが....言わないでおこう。

 

「みんな!パン作りをなめちゃいけないよ!少しのミスが完成度を左右するからね!」

 

「コ、ココアが燃えている!よし!今日はお前に教官を任せた!よろしく頼む!」

 

「任された!」

 

傍から見たらすごく暑苦しい。

 

「みんな。パンに入れたい材料を出して。私は新規開拓に焼きそばパンならぬ焼きうどんパンを作るよ!」

 

「私は自家製あずきと海苔と梅を持ってきたわ。」

 

「冷蔵庫にいくらと鮭と納豆とゴマ昆布がありました。」

 

「......お前たち、ここに来た意味知ってるよな?」

 

不安になったのでつい聞いてしまった。

 

「リゼは何持ってきたんだ?」

 

「私はいちごジャムとマーマレードだ。」

 

「なあリゼ。これってパン作りだよな?」

 

「私も少し疑問に思ってきた。」

 

この材料を見たらそう思えてしまうのも無理はない。

 

「あ!そうだ。ココア、ドライイーストは持ってきたか?」

 

「うん。もちろん持ってきたよ。」

 

「ドライイースト!?食べて大丈夫なんですか?」

 

突然チノが驚きだす。

 

「ドライイーストは酵母菌なんだよ。これがないとパンがふっくらしないよ。」

 

(攻歩菌!?)

 

チノが怯えだした。何か勘違いしてるな。

 

「チノ。酵母菌は発酵させるために必要なものなんだ。危険な菌じゃないから安心して。」

 

俺はチノの頭を撫でながら説明した。

 

「そうですか、それは良かったです。リョーマさんって頭撫でるの上手なんですね。」

 

「ああ、小さいころココアの頭を撫でていたからな。」

 

「そうなんですか.....ちょっと羨ましいです。

 

「ん?何か言ったか?」

 

「い、いえ。何も言ってないです////」

 

最後チノが何かボソッと言ったが聞き取れなかった。

 

「パンを捏ねるのってすごく時間がかかるんですね。」

 

「腕が....もう動かない...」

 

「初めてパンを作る人には少し疲れるかもな。あまり無理はするなよ。手伝おうか?」

 

「大丈夫よ。ありがとうリョーマ君。」

 

「ココアは大...」

 

「この時のパンがもちもちしててすごくかわいいんだよ!」

 

「すごい愛だ!」

 

実家にいた時もパンを作る時はテンション高かったな。

 

「チノはどんな形にするんだ?」

 

「おじいちゃんです。小さな頃から遊んでもらってたので。」

 

「おじいちゃんが大好きだったんだな。」

 

「はい。コーヒーを淹れる姿はとても尊敬していました。」

 

「....みたいですよ。おじいさん。

 

「....う、うるさいわい////

 

ティッピー(おじいさん)が顔を赤くしながら照れていた。

 

「みんなー、そろそろオーブンに入れるよー。」

 

「...では、これからおじいちゃんを焼きます。」

 

何も知らない人が聞いたら犯罪宣言にしか聞こえない。

 

 

 

「チノ。さっきからオーブンに張り付きっぱなしだな。」

 

「リョーマさん。見てください、どんどん膨らんでいきます。」

 

「確かにパンが膨らむところは見てると楽しいよな。」

 

「あ!リョーマさんのパンが私のより大きくなっていきます。ずるいですリョーマさん、少しは手加減してください。」

 

「....俺に言われても。」

 

言うならせめてパンに言って。

 

 

 

数十分後、ようやくパンが焼けたようだ。

 

「焼けたよー!さっそく食べよー!」

 

「そういえば結局みんなは何を入れたんだ。」

 

「私は焼きうどんだよ。」

 

「私は梅干しを入れたわ。」

 

「私はいくらを入れました。」

 

「.........どれも食欲をそそらないな。」

 

百歩譲って焼きうどんパンがまだマシな方だ。

 

「そういえばまだ焼いてるのがあったけどあれはなんだ?」

 

そういえば試食のあとココアが何か焼いていたな。

 

「それはねー、じゃーんティッピーパン作ってみたんだ!」

 

「看板メニューはこれで決まりだな」

 

「食べてみましょう。」

 

みんなでティッピーパンを食べてみた。

 

「中身はいちごジャムなのね。」

 

「みたいですね。」

 

「「「「「.........。」」」」」

 

「なあ、みんな。中身はマーマレードに変更しよう。」

 

全員一致した。だってすごくエグいんだもん。

 

 

 

 

 

 

看板メニューが決まったのでパン作りは終わることにした。

 

「そうだわ。今日はパン作りでお世話になったから、お礼にうちの喫茶店に招待するわ。」

 

「え?いいのかチヤ?」

 

「ええ、もちろんよ。」

 

「いいの?やったー!じゃあ今度みんなで行こうよ!」

 

「そうですね。では今度お邪魔します。」

 

「そうだな。私もお邪魔しよう。」

 

「ありがとう。待ってるわね。」

 

 

 

 

 

 

 

パン作りは終わり、みんなも家に帰ったので今は入浴中だ。

 

「この街に来てから色んな事が起きてるな。」

 

地元にいた時はこの街のことが忘れられなくて、学校にいる時も家にいる時も心のどこかに穴が空いてるような感じだったがこの街に来てからはその穴はすっかり無くなっていたからやっぱりこの街に来てよかったと思ってる。

 

「さて、今度チヤの喫茶店にお邪魔しに行くから早く出て寝るか。」

 

パジャマに着替え部屋に入ろうとした時ココアがチノに一緒に寝たいと駄々をこねていたが俺は見なかったことにして眠りについた。

 

 

 

To be continued




今回はここで終わりです。
6話目にして気づいたんですけどリゼとリョーマの話し方がほぼ同じなんで書きにくいです。


.........それだけです。


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-7話- 普通なら喫茶店のメニューに漫画の必殺技みたいな名前はないと思う。

どうもP&Dです。
もし本当に喫茶店に必殺技みたいなメニューがあったらすごいですよね。
あったら是非行ってみたいです。


先日チヤに喫茶店に招待されたので俺たちは今、チヤの喫茶店に向かっている。

 

「チヤちゃんの喫茶店、どんなとこか楽しみだね。」

 

「リゼさん、何ていう名前か知ってますか?」

 

「ああ、甘兎って聞いたけど。」

 

「甘兎とな!!!」

 

おじいさん!そんなとこで大声出さないで。気づかれるから!

 

「チノちゃん知ってるの?」

 

「おじいちゃんの時代から張り合っていたと聞いてます。」

 

「おじいさん、そんなに甘兎が嫌だったのかな?」

 

そう思いティッピー(おじいさん)をチラっと見るとプイっとそっぽ向いていた。

 

「でもチノまで張り合う必要はないから、チノはチノなりにやればいいよ。頑張れ。」

 

そう言ってチノの頭を撫でてあげた。

 

「///あ、ありがとう...ございます////」

 

「チノちゃん、お兄ちゃんに撫でられるとすごく照れて嬉しそうだね!」

 

「そ、そんなことないです!!////」

 

「え!?そうなのか?もしかして撫でられるの嫌だった?」

 

「あ!いや、そうではなくてですね...あの...えっと....うぅ~~////」

 

「嫌がられてなくてよかったよ。チノの頭を撫でるのってなんか癖になるんだよな。」

 

「/////////」

 

チヤの喫茶店に到着するまでチノの顔はずっと真っ赤だった。

 

 

 

 

 

 

「着いたよ。」

 

「ここみたいですね」

 

店の前に立って見てみると外見が和風で看板が木の板になっている。

 

[あまうさあん]かぁ~.....ココア。何て読むか当ててみろ。」

 

「え!?...えーっと...おれ、うさぎ、あまい...かな?」

 

「.....あまうさあんだ。あと俺じゃなくて庵だ。」

 

「漢字って難しいね。」

 

今度のテストが赤点だったらまたみっちりと文系の指導をしてやろうと密かに思った。

 

 

 

 

 

「こんにちはー!」

 

「あら!みんな来てくれたのね。」

 

そこには和服姿のチヤがいた。

 

「あれ?初めて会った時もその服だったな。」

 

「ええ。あの時はお仕事で羊羹をお得意様に届けた帰りだったの。」

 

「そうだったのか。...あれ?あれは何だ?」

 

うさぎの置物のようなものがあった。

 

「看板うさぎのあんこよ」

 

「そうなのか!?」

 

「置物かと思ったぞ!?」

 

「あんこはよっぽどのことがないと動かないのよ。」

 

すると突然あんこがティッピーめがけて突進していった。

 

「ティッピーーー!!チノちゃん大丈夫?」

 

「び、びっくりしました。」

 

ティッピーを見てみると全力であんこから逃げていた。

 

「ああああああああああ!!!!!!!!!」

 

おじいさんまた大声出して。気づかれても知りませんよ。

 

「縄張り意識が働いたのか?」

 

「いえ....あれは一目ぼれしたのね。恥ずかしがり屋君だったのにあれは本気ね。」

 

「ねえチノちゃん、ティッピーってオスじゃないの?」

 

「ティッピーはメスですよ......中身は違いますが。

 

あれは暫く帰って来ないだろうな。

 

「さあ、ずっと立ってちゃ疲れるでしょ?席に座って。」

 

チヤに案内されてテーブル席に着いた。

 

「みんな、これがメニューよ。」

 

「ありがとうチヤ。」

 

メニューを見てみると。

 

「煌めく三宝珠、姫君の宝石箱、黄金の鯱スペシャル.........。」

 

何?この漫画の必殺技みたいなメニュー!

 

「なあ、みんなわかるか?」

 

みんなに聞いてみるとわからないと言っていた。ただ1人を除いて。

 

「わー抹茶パフェもいいし白玉ぜんざいもいいなー。」

 

「え?ココアわかるの?」

 

「うん。わかるよ。」

 

ココアとチヤって波長が合うのか?

 

「じゃあ俺は雪原の赤宝石をお願い。」

 

「私は海に映る月と星々を。」

 

「私は花の都三つ子の宝石をお願いします。」

 

「じゃあ私は黄金の鯱スペシャル!」

 

「わかったわ。」

 

「それにしてもチヤちゃんって和服似合うよね!」

 

「そうかしら?ありがとうココアちゃん。」

 

「......。」

 

リゼがチヤをジーっと見ている。和服を着てみたいみたいな目をしていた。

 

「リゼ。着てみたいのか?」

 

「え!?いや!そんなんじゃ!」

 

「和服ならまだ予備があるわよ。」

 

「そうなの?リゼちゃんせっかくだから着てみなよ。」

 

「いや、いいよ!多分似合わないと思うし。」

 

「着てみろよ。リゼなら絶対似合うと思うぞ。」

 

「そ、そうか?////」

 

「そうだよ。お兄ちゃんが言うんだから間違いないよ!」

 

「私も似合うと思いますよ。」

 

「そうかな///....じゃ、じゃあちょっとだけ着てみようかな/////」

 

「じゃあ部屋に案内するわね。」

 

 

 

 

 

俺たちは2階へ案内された。リゼとチヤは部屋に入り、俺とココアとチノは部屋の前で待っていた。

 

「どんな感じなのかな?楽しみだね!」

 

「リゼはなんでも似合うと思うよ。」

 

「軍服姿とかも似合いそうだよね?」

 

「そもそも着る機会がないと思うぞ。」

 

「みんなお待たせ。終わったわよ。」

 

「そうか。じゃあさっそく見てみようか。」

 

「よーし!開けるよー!」

 

ココアが勢いよく開けた。そこには和服姿のリゼがいた。

 

「わー!リゼちゃんすごい可愛い!」

 

「リゼさん似合ってますね。」

 

「あまり見ないでくれ////恥ずかしい////」

 

「ヘ~すごい可愛いな。似合ってるよ。」

 

予想以上の可愛さだった。着てる服が違うとこんなに違うのか。

 

「え?そうか////」

 

「ああ、正直言うと予想以上だった。」

 

「//////////」

 

リゼがこれまでにないくらい顔が真っ赤だった。

 

「リゼちゃん顔真っ赤だね!」

 

「う、うるさい!!!/////もう着替える!!!」

 

「もう着替えるのか?せっかくだし写真撮らせてくれよ。」

 

「お、おい!絶対に撮るなよ!」

 

「え?もう撮ったぞ。」

 

「////すぐに消せ!!!////」

 

「おい!銃向けんな!どこから持ってきた?」

 

何だかナイフ投げられるのも銃向けられるのも慣れてきたような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

リゼが服を着替えた後テーブル席に戻り注文が来るのを待っていた。

 

「それにしてもリゼちゃんの和服姿かわいかったなー。」

 

「もうその話はするな////」

 

「可愛かったぞ。自信持ちなよ。」

 

「リゼちゃんお兄ちゃんに褒められるとすごい赤くなるよね。」

 

「そ、そんなことない////」

 

「チノちゃんと一緒だね!」

 

「わ、私こんなに赤くしないです!!」

 

自分に話を振られるとは思っていなかったのだろう。チノが驚いて顔を赤くしていた。

 

「みんな、お待たせ。」

 

チヤが注文したものを持ってきてくれた。

 

「おいしそうだな。」

 

「見ただけでも美味しそうってわかります。」

 

「嬉しいわ。ありがとう。」

 

「じゃあ、いただきまーす!」

 

「「「いただきます。」」」

 

一口食べてみる。

 

「美味しいなこれ。」

 

「本当だ。すごい美味しい。」

 

「口に合って良かったわ。」

 

チヤはとてもうれしそうな顔をしていた。

 

「今度来た時は他のも食べてみるよ。」

 

「あら?また来てくれるの?じゃあ思いっきりおもてなししないとね。」

 

「私たちも来るね!」

 

「ええ。楽しみにしてるわ。」

 

俺たちはチヤと話をしながら和菓子を味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ご馳走様でした。」」」」

 

和菓子を食べ終わった俺たちは少し寛いでいた。

 

「なあチノ。あんこに触ってみないのか?」

 

「触ってはみたいんですけど、その.....。」

 

「?」

 

「チノはティッピー以外の動物には懐かないんだ。」

 

だからしょんぼりとしたのか。

 

「試しに触ってみたらどうだ?」

 

「でも逃げられたら....。」

 

「大丈夫。そーっと触ればいけるよ。」

 

「じゃあ...やってみます。」

 

チノは席を立ち、ゆっくりとあんこに近づきそーっと耳を触った。あんこは逃げる素振りはなかったのでゆっくりと背中を撫でぎゅっと抱きしめていた。

 

「大丈夫みたいだな。」

 

抱きしめた後、何故か頭に乗せていた。

 

「チノ、何で頭に乗せるんだ?」

 

「この方がしっくりくるので。」

 

「だからいつもティッピーを頭に乗せてたのか。」

 

そう思った直後チノの頭に乗っていたあんこが俺の方に向きいきなり飛び乗ってきた。

 

「うわ!!!」

 

「リョーマさん大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。でもなんで飛び乗って来たんだ?」

 

そう思いあんこを見てみると目をキラキラしながら俺を見ていた。

 

「まあ!あんこがこんなに懐いたの初めてみたわ!」

 

「チヤは初めて見たのか?」

 

「ええ。いつも全然動かないから。」

 

「そうなんだ。そんなに俺が好きか?あんこ。」

 

俺の言葉が通じたのかキラキラした目で頷いていた。

 

「こうしてみると可愛いなあんこは。」

 

俺はそう思いながらあんこを抱きしめるとそれに応えるかのように俺の頬を舐めていた。

 

「...........。」

 

不意に視線を感じたので振り返ってみるとチノがジトーっと目で俺を見ていた。

 

「どうしたチノ?」

 

「私の時は全然動かなかったのにリョーマさんの時だけあんなにキラキラした目で......リョーマさんずるいです!」

 

「いや、俺に言われても。」

 

「リョーマさんなんか知りません。」

 

懐かれ方が違うだけで何でこんなにも言われなきゃならないのだろう。

 

「チノ、そんなに拗ねないでくれよ。」

 

「ふん!」

 

これは落ち着かせるのに骨が折れそうだ。

 

チノを落ち着かせるのにココアとリゼの協力もあったが結局30分かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろお暇するか。」

 

1時間以上経っていたのでそろそろ帰ろうと思った。

 

「あら?もうこんな時間なのね。みんな、また来てね。」

 

「もちろん!」

 

「またお邪魔するよ。」

 

「またみんなで来ますね。」

 

俺たちは店前でチヤと別れた。

 

「それにしても和菓子美味しかったね!」

 

「はい。とっても。美味しかったです。」

 

「ああ。確かにな。」

 

「あのメニューには悩まされたけどな。」

 

どうやったらあんな名前が思いつくのかと少し疑問に思った。

 

「ねえみんな。また今度一緒に行こうね!」

 

俺もそう思いながらふとチノの頭を見るとティッピーではなくあんこになっていたのに気が付いた。

 

「あれ?ティッピーは?」

 

「え?ほんとだ、あんこになってる!ティッピーどこー!」

 

俺たちは辺りを探しているとティッピー(おじいさん)が嫉妬100%の目で俺たちを睨んでいた。この後俺たちは急いであんこを返しティッピーを連れて帰ったがこの時ティッピーの正体を知ってるのは俺とチノだけだったのでティッピー(おじいさん)を落ち着かせるのに30分以上かかった。

 

 

 

To be continued




今回はここで終わりです。
オリジナル要素が思いつくと執筆が止まらなくなりますね。
その分疲れますけど.......。


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-8話- カフェインで酔う人っているんだな。

どうもP&Dです。
酔いといえば先月お酒を飲みすぎてぶっ倒れたことがあります。
あの時は気持ち悪かったです。



ラビットハウスで仕事をしている時ココアが新しいカップを買わないかと提案してきた。

 

「ねえみんな、新しいカップ買いに行かない?」

 

「新しいカップ?なんで急に?」

 

リゼが疑問に思い出した。

 

「そんな必要ないです。」

 

「でも、この店のカップって無地でしょ?」

 

「普通なのが一番です。」

 

俺はココアの提案に乗ってみることにした。

 

「でも新しいカップがあったらお客さんに新鮮味を味わってもらえるんじゃないかな?」

 

「そうでしょうか?」

 

「新しいカップがあってもいいと思うよ。」

 

チノが少し考えた後。

 

「わかりました。では明日の学校帰りに見に行きましょうか。」

 

「ああ、わかった。」

 

「そうだ。私、良いティーカップの店知ってるぞ。」

 

ふとココアを見てみるとぷくーっと頬を膨らませていた

 

「どうしたココア?」

 

「私の時は断られたのに何でお兄ちゃんの時はいいの?ずるいよお兄ちゃん!」

 

「リョーマさんの方が頼り甲斐があるので。」

 

「確かにリョーマは頼り甲斐があるよな。」

 

「ガーン!お兄ちゃんずるいずるいずるいずるいずるい!」

 

しばらくの間ずっと俺を叩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちはティーカップ店に向かって歩いていた。

 

「楽しみだね!」

 

「私物を買いに行くんじゃないんですよ。」

 

「わかってるけどどうせなら私物も買っていこうよ?」

 

「はぁ~、しょうがないですね。」

 

「だったら、俺も何か買おうかな。」

 

「ほんとに?そういえばお兄ちゃんと買い物って初めてだね。」

 

「そういえばそうだったな。」

 

小さいときから遊ぶことはよくあったけど買い物はなかったな。これがココアとの初めての買い物になるってわけか。

 

「ほらみんな、着いたぞ。」

 

リゼの言っていたティーカップ店に着いた。

 

「じゃあ、入ってみるか。」

 

中に入ってみるとマグカップやアンティークのティーカップが並べられていた。

 

「へぇ~色んなカップが並べられてるんだな。」

 

「じゃあ、さっそく見て回ろうよ!」

 

俺たちは暫く店の中を回った。

 

「ねえお兄ちゃん。これ買わない?2つセットでお揃いだしお得だよ!」

 

ココアがお揃いのマグカップを持ってきた。

 

「マグカップかー。じゃあこれを買うか。」

 

「うん!」

 

しかしよく見てみるとカップル用のマグカップだということがわかった。

 

「なあココア、これカップル用だぞ。」

 

「え!?そうなの?.......も、戻してくるね/////」

 

「なんで戻すんだ?」

 

「だ、だってこれ....その.....カップル用////」

 

「いいじゃん。俺たち幼馴染だし長い付き合いだろ?カップル用でもいいんじゃないか?」

 

カ、カップル////。そ、そうだよね。.....じゃ、じゃあこれ買ってくるね////」

 

「ああ、いってらっしゃい。」

 

ココアは顔を真っ赤にしながらレジへ走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ココアがマグカップを買い終わり仕事用のカップも買い終わったのでそろそろ帰ることにした。

 

「じゃあ、そろそろ帰るか。」

 

店を出ようとした時、リゼと同じ制服を着ている女の子がいた。

 

「なあリゼ、お前と同じ制服の子がいるぞ。」

 

「え?あれは....シャロ。」

 

その女の子が振り向きリゼを見るととても驚いていた。

 

「て、天々座先輩!?」

 

「リゼ。知り合いか?」

 

「ああ、桐間 紗路っていうんだ。私の後輩でココアと同い年だよ。」

 

「あれ?リゼちゃんって私より年上?」

 

「リゼ。俺と同い年だったのか?」

 

「2人とも今更!?」

 

てっきりココアと同い年かと思ってた。

 

「あの、天々座先輩。この人たちは?」

 

「名前でいいよ、呼びにくいだろ?この人達は私と一緒に働いてる友達だ。」

 

「そうなんですか。」

 

俺たちは自己紹介をすることにした。

 

「はじめましてシャロ。俺は如月リョーマだ。今知ったけどリゼと同い年だ。」

 

「はじめまして、シャロといいます。よろしくお願いしますリョーマ先輩。」

 

「私は保登 心愛だよ!よろしくねシャロちゃん!」

 

「私は香風 智乃です。よろしくお願いします。」

 

「あら?チノちゃん小さくて可愛いわね。」

 

「直に大きくなるので大丈夫です。」

 

一瞬チノが複雑そうな顔をしていた。

 

「可愛いでしょ?私の自慢の妹なんだ!」

 

「だから妹じゃないです。」

 

なんかこういうやり取り見慣れてきたな。

 

 

 

 

 

「あの、リゼ先輩はどんな所で働いてるんですか?是非遊びに行きたいです!」

 

「喫茶店だよ。コーヒーのな。」

 

「え!?そうなんですか?」

 

「シャロちゃんもしかしてコーヒー飲めないの?」

 

「コーヒーていうか私、カフェインを摂ると異常なテンションになるのよ。自分じゃ覚えてないけど。」

 

「カフェインで酔うのか!?」

 

そんな人初めて聞いたぞ。

 

「まあコーヒー飲めなくても遊びに来るだけでもきてくれよ。」

 

「はい!近いうちに!」

 

「そうだ!シャロちゃん、ティッピー触ってみる?モフモフですっごい気持ちいいよ。」

 

「え!?.......いや、私は....」

 

なんだろう?急に顔が青ざめたけど。

 

「どうした?顔色わるいよ?」

 

「えっと.....あの実は私、うさぎが怖くて。」

 

「へぇ〜そういう人初めてみたな。」

 

「小さい頃よくうさぎにかじられて、それで。」

 

それでか。珍しい人もいるんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方になり辺りも暗くなってきたのでそろそろ帰ることにした。

 

「今日はいろんなカップが見れて楽しかったね!」

 

「そうですね。これでお客さんが増えたら嬉しいです。」

 

「なら明日からも頑張らないとな。」

 

「そうだな。じゃあ今日は明日に備えてゆっくり休むか。あ!でも今日マグカップ買ったから帰ったら早速使ってみるか。ココアも使うか?」

 

「え!?....う、うん////......使ってみる////」

 

ラビットハウスに帰り、寝る前にココアと一緒にコーヒーを飲んだが飲み終わるまで何故かココアの顔が赤いままだった。

 

 

 

To be continued




今回はここで終わりです。
原作を読みながらある部分はカットしてそこにオリジナルを入れるとすごく楽しくなります!
わかる人いますかね?


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-9話- 早とちりせずにまずは冷静になろう。

どうもP&Dです。
中学生の時、部活の集まりで3時集合だったんですけど2時だと思い込んで行ったら誰もいなかったので後でみんなに笑われたことがあります。
めっちゃ恥ずかしかったです!


今日も俺はいつもどおりラビットハウスで働いていた。あと少しで終わる頃になった時、チヤが突然勢いよくドアを開けて駆け込んで来た。

 

「みんな!大変シャロちゃんが!」

 

「どうしたチヤ!」

 

「リョーマ君!とにかく大変なの!」

 

「とにかく落ち着いて椅子に座って。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後にチヤが落ち着いたので椅子に座らせてコーヒーを差し出した。

 

「そういえばチヤ、なんでシャロのこと知ってるんだ?」

 

「私、シャロちゃんと幼馴染なのよ。」

 

「初めて会った時に言ってた幼馴染ってシャロだったのか。」

 

「ええ、小さい時からずっと一緒だったの。」

 

「俺とココアと同じだな。そういえばさっきなんか大変とか言ってたけど。」

 

「そうなの!これを見て!」

 

手渡されて見てみると広告のチラシだった。

 

「えーと.......心も体も癒します。名前はフルール・ド・ラパン。これがどうかしたの?」

 

「きっといかがわしい店で働いてるのよ!本人に聞きたいけど怖くて聞けないの!」

 

フルール・ド・ラパンってハーブを扱う喫茶店じゃなかったか?

 

「なあフルールって「シャロちゃんがそんなとこで働いちゃダメだよ!」」

 

やばいココアが勘違いし始めた。

 

「だからフルールはハーブを「そんなところで働いてるのか!?今すぐ辞めさせないと!」」

 

「あの......みんな?俺の話を「今すぐそこに行ってシャロさんと話をしましょう!」」

 

........ダメだ、みんな誤解してる。

 

「じゃあ今すぐ行こう!」

 

まあ行けばみんなわかるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

歩いて数分後フルール・ド・ラパンに到着した。

 

「シャロちゃんいる?」

 

「みんな!?なんでここに?」

 

「シャロちゃん!こんないかがわしい店で働いちゃダメ!」

 

「は?いかがわしいって何?」

 

「シャロ!今すぐここを辞めろ!」

 

「え?リゼ先輩まで!?」

 

「シャロさんがこんなとこで働く姿なんか見たくないです!」

 

「あの......みんな落ち着いて!」

 

そろそろ本当のことを言ってやるか。

 

「お前たち勘違いしてるよ。フルール・ド・ラパンはハーブを扱う喫茶店なんだ、いかがわしい店じゃないよ。」

 

「え?シャロちゃんそうなの?」

 

「そうよ!何?いかがわしいって!」

 

「なんだ〜ハーブの喫茶店か〜。」

 

「そうだったのか。」

 

「安心しました。」

 

「そもそも最初に勘違いしたの誰?」

 

シャロに言われると全員の視線がチヤに向いた。

 

「.........その制服素敵ね!」

 

めっちゃ誤魔化してる!でもシャロはこいつが犯人かみたいな目で見ている。バレバレだ。

 

「シャロちゃん、その制服かわいいね。うさ耳もかわいい!」

 

「店長の趣味なのよ。あまりジロジロみないで。」

 

「本当だな。シャロってこういう服似合うんだね。」

 

「ほ、褒めても何もないですよ////」

 

「顔が赤いぞ?照れてるのか?」

 

「て、照れてなんかないです!」

 

「写真撮っちゃおうかな。」

 

「やめてください!撮らないで////」

 

なるほど、チヤがからかい甲斐があるって言ってたのがわかる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

せっかくシャロの働いてる喫茶店に来たので少しお邪魔することになった。

 

「ハーブティーってたくさんあるんだね。」

 

「ハーブティーってよく知らないんだよな。」

 

「私もだ。」

 

「じゃあ私が皆さんに合うハーブティーを選びましょうか?」

 

ハーブティーのこと何も知らないしここはシャロに任せるか。

 

「じゃあお願いするよ。」

 

「あ!シャロさん、ティッピーには難聴と老眼防止の効果のあるものをお願いします。」

 

「ティッピーそんなに老けてるのか!?」

 

リゼが驚くのも無理はない。だって中身があれだからな。

 

「わ、わかったわ。少し待っててね。」

 

シャロも少し動揺してる様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても凄い綺麗な店だね!」

 

「確かに、シャンデリアまであるしな。高さ2mくらいあるな。」

 

「ねえラビットハウスにもこのシャンデリア着けない?」

 

「うちには大きすぎます。」

 

当然のツッコミだろうな。

 

「じゃあラビットハウスをもっと大きくしていかないとな。」

 

そう言いながらチノの頭を撫でてあげた。

 

「はい!頑張ります!」

 

「..........。」

 

ココアが何か不満そうな顔でこっちを見ている。

 

「お兄ちゃん、最近チノちゃんの頭ばかり撫でてない?」

 

「そうか?」

 

「そうだよ!最近チノちゃんにはハグしたり頭撫でたりしたことあるのに私にはここに引っ越してきてから1度も無いもん!」

 

「そうだったっけ?」

 

「間違いないもん!チノちゃんもそう思うよね?」

 

「.........気のせいです。」

 

「もー!チノちゃんったらお兄ちゃんにもっと撫でたりハグしたりして欲しいからって嘘ついて!」

 

「そんなこと!!!........無いです/////」

 

......何?今の間。

 

「しょうがないな。おい、ココア。」

 

俺は両腕を広げハグの体勢になった。

 

「え?どうしたのお兄ちゃん?」

 

「ハグして欲しいんだろ?ほらおいで。」

 

「こ、ここで?」

 

「ああ」

 

するとだんだんココアの顔が赤くなっていった。

 

「......ここに座って。」

 

俺はココアにココアの隣の席に座らされた。

 

「どうした?」

 

「今は.....隣に座ってくれてるだけでいいから/////」

 

「....ああ、わかった。」

 

まあ確かにここじゃ恥ずかしいよな。後で頭でも撫でてあげるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてシャロがティーポットをもってきた。

 

「おまたせしました。」

 

よく見てみるとティーポットの中にハーブであろう物が入っていた。

 

「この中にお湯を入れるのか?」

 

「はい。リゼ先輩入れてみますか?」

 

「ああ、じゃあ試しに。」

 

リゼがティーポットの中に入れるとお湯が赤くなった。

 

「わぁー!きれーい!」

 

「いい香りがしますね。」

 

「じゃあさっそく頂くか。」

 

一口飲んでみた。いつもコーヒーばかり飲んでいたから違った美味しさがある。

 

「おいしー!」

 

「確かに美味いな。」

 

「ハーブティーも美味しいですね。」

 

どうやら好評のようだ

 

「そういえばシャロちゃん。あのハーブティーないのかしら?」

 

「あれって何よ?」

 

「なんだったかしら?えーと.....ギム.......シル.......あ!ギムネマ・シルベスターだわ!」

 

「チヤ。なんだそれ?」

 

「甘みが感じなくなるハーブティーなの。シャロちゃんがよくダイエットで飲んでたから。」

 

「な、なんでここで言うのよ!」

 

シャロの顔が一気に赤くなった。ちょっとからかってみよう。

 

「へぇーシャロがダイエットに飲んでたのかー。」

 

「リョーマ先輩忘れてください!」

 

「でも、聞いちゃったしな〜。チヤ、どうしたらいい?」

 

「そうね〜、もうずっと覚えてたらどうかしら?」

 

チヤも俺のからかいにのっているようだ。

 

「そっか〜、じゃあずっと覚えてようかな。」

 

「//////もー!チヤーーーーー!!!」

 

シャロが真っ赤になりながらチヤをポカポカと叩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ夜になろうとしていたので店を出ることにした。

 

「今日はありがとう。すごい美味しかったよ。」

 

「また来るね!」

 

「次はうちにも寄ってくれよ。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

フルールを後にし、リゼとチヤと別れた後ラビットハウスに戻り3人でコーヒーを飲んでいた。

 

「今日は楽しかったね!」

 

「ハーブティー飲んだことなかったので美味しかったですし飲めてよかったです。」

 

「またみんなで行くか?」

 

「もちろん!」

 

「次はいろんなハーブティーを飲んでみたいです。」

 

 

 

 

 

夕食も終わり風呂も入り終わったので部屋に入ろうとするとココアが部屋に入るところをみかけた。

 

「ココア。」

 

「あ、お兄ちゃん。どうしたの?」

 

「ほら。」

 

俺はフルールの時と同じ再び両腕を広げハグの体勢になった。

 

「え?」

 

「フルールの時は人がいたから。それに引っ越してからされてないって言ってたからさ。」

 

「いいの!?」

 

「もちろん。おいで」

 

そう言うとココアは一目散に俺の胸に飛び込んできた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「うわぁっとと、ココア勢いつけすぎ。」

 

「だって久しぶりなんだもん。」

 

「ココアは相変わらずだな。」

 

俺はそう言い抱きしめながら頭を撫でた。

 

「なんだかすっごい幸せな気分!」

 

「そうか。」

 

「もうちょっとこのままでもいい?」

 

「構わないよ。久しぶりだからな。」

 

「えへへ〜////」

 

このまま5分くらいこの状態だった。

 

 

 

 

 

「さあ、もうそろそろ寝るぞ。」

 

「うん!ありがとうお兄ちゃん!」

 

「今日もチノと一緒に寝るのか?」

 

「もちろん!私のかわいい妹だもん!」

 

チノが聞いたら妹じゃないですって言いそうだが。

 

「そうか、迷惑かけないようにな。」

 

「うん!おやすみお兄ちゃん!」

 

「おやすみ。」

 

ココアはそのまま部屋に入って行った。

 

「さて、寝るか。」

 

ココアを最後にハグしたのは確かココアが中学を卒業する直前だったのを思い出した。それから1度もなかったのだと思うと、もしかしたらココアは寂しかったのではと思った。これからはココアにも構ってあげようと反省をして部屋に戻った。

 

 

 

To be continued




今回はここで終わりです。
僕はハーブティー飲んだことないのでどんな味なのかすごい気になるんですよね。
機会があったら飲みたいですね。


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-10話- 怪談はほどほどに。

どうもP&Dです。
小学生の時に貞子を見たことがあるんですけど怖すぎて号泣しました(笑)。


今日も俺たちはラビットハウスで働いていたが今日の天気は生憎の雨。お客さんは全然いなかったがチヤとシャロが来てくれたので今は2人に話し相手になってくれている。

 

「今日は来てくれてありがとな。」

 

「ちょうどバイトが休みになっただけなので。」

 

「リョーマ君、制服姿が似合ってるわね。」

 

「そうか?ありがとう。」

 

3人で話をしているとリゼがシャロの頼んだコーヒーを持ってきた。

 

「なあシャロ、コーヒーダメなのに大丈夫か?」

 

「少しなら大丈夫です。」

 

まあ、少しならシャロも大丈夫だろうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、それが良くなかった。

 

「みんなー!今日は私と遊んでくれてありがとー!」

 

シャロはただいま絶賛酔っ払い中である。少し飲んだだけでも酔うなんて想定外だった。

 

「シャロ、大丈夫か?」

 

「リョーマ先輩、一緒にコーヒー飲みましょー!」

 

「おい、それ以上飲むな!」」

 

「なんれすか?私はコーヒー飲んじゃダメなんれすか?」

 

ダメだ。呂律が怪しくなってきている。

 

「えへへ~、抱きついちゃいますね。」

 

「おい!抱きつくな!ココア、止めてくれ!」

 

「お兄ちゃんに抱きついていいのは私だけだよ!」

 

「何言ってるんだお前は!チヤ、何とかしてくれ!」

 

「え?せっかくだし写真撮っちゃいましょ。」

 

「今はそんな場合じゃないだろ?」

 

シャロは俺に抱きつき、ココアはそれに文句を言い、チヤはそれを写真に撮ろうとしている。リゼとチノは巻き込まれたくないのか我関せずといった顔だ。店内はまさにカオスだ。

 

「早く早く、リョーマ先輩もコーヒー飲んれくらさいよ。」

 

「俺はいいよ。ていうかシャロ、一旦落ち着け。」

 

「わら...しは......おちつ....。」

 

「?」

 

「zzz....zz....zz...。」

 

どうやら眠ってしまったようだ。

 

「はあ〜、眠ったか。」

 

「面白かったわ〜。」

 

「まったく、見てないで助けてくれよな。」

 

本当に大変な目にあった。これからはシャロにコーヒーは飲ませないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

さっきまでよりどんどん雨が降ってきている。このままじゃシャロとチヤが帰れないかもしれない。

 

「なあ、チノ。雨強いし今日はチヤとシャロを泊めてあげてもいいかな?」

 

「ええ、私は構いませんよ。」

 

「チヤ、今日はもう遅いし雨も降ってるし泊まっていってくれ。」

 

「あら、いいの?」

 

「ああ、シャロもまだ酔ってるし。」

 

「そうね、じゃあお言葉に甘えようかしら。」

 

せっかくだしリゼも誘ってみよう。

 

「リゼも泊まっていくか?」

 

「え?いいのか?」

 

「人数は多い方が楽しいからな。」

 

「じゃあ私も泊まらせてもらおうかな。」

 

チノからも承諾をもらったので全員泊まることになった。

 

 

 

 

 

チヤとシャロが先に風呂に入りに行ったので俺たちはチノの部屋で寛ぐことになった。

 

「チノちゃんの部屋って可愛いでしょ?」

 

「たしかにチノらしいな、うさぎの人形があるし可愛い部屋だ。」

 

「よかったねチノちゃん。お兄ちゃんに褒めてくれたよ。」

 

「////////」

 

チノの顔が真っ赤だ。

 

「.........。」

 

さっきからリゼがそわそわしている。

 

「リゼ、緊張してるのか?」

 

「いや、親父の部下に誘われたワイルドなキャンプしか経験したことないから.....。」

 

「は、はぁー。」

 

どんなキャンプだったんだ?サバイバルみたいなことでもしてたのか?

 

「お風呂終わったわよー。」

 

風呂に入っていたチヤとシャロが戻ってきた。

 

「次は私たちだね!」

 

ココアがそう言いココアとチノが風呂は入りに行った。

 

 

 

 

ココアとチノが部屋に戻ってきた後リゼ、俺の順に風呂に入った。全員チノの部屋に集まるということだったので今はチノの部屋に向かってあるところだ。

 

「今日は賑やかな夜になりそうだな。」

 

そう思いながらチノの部屋に入るとそこにはチノの制服を着たリゼがいた。

 

「リゼ、お前何やってんの?」

 

「ち、違う!こ、これはじゃんけんで負けて!」

 

「へえ〜可愛いじゃん!」

 

「こ、こっち見るな!!/////」

 

「あ、そうだ!チヤ!」

 

「ええ、わかってるわ!」

 

俺とチヤは迅速に携帯電話を取り出し写真を撮り始めた。

 

「と、撮るな/////」

 

「いいじゃん、かわいいんだし。なあチヤ?」

 

「ええ、とってもかわいいわ!」

 

「チヤは何枚撮れた?俺は28枚だ。」

 

「私は39枚よ!」

 

「す、すぐに消せーーー!!!」

 

真っ赤になったリゼが一瞬で俺たちにCQC(近接格闘術)をかけ、携帯電話に撮った写真を一瞬で消された。

 

 

 

 

 

 

 

時刻は10時を回ろうとした時、チヤがみんなに提案をした。

 

「こんな機会だからみんなの心に秘めてる事を聞きたいんだけど。」

 

なんだ?恋バナでもし始める気か?苦手なんだよなー。

 

「とびっきりの怪談を教えて♪」

 

「「「「「............。」」」」」

 

ここにいる誰もが思っただろう。恋をしたような瞳で言うなと。

 

「怪談ならうちにもありますよ。」

 

どうやら1番手はチノみたいだ。

 

「このラビットハウスは夜になると白い物体がふわふわと彷徨っているという目撃情報がたくさんあるんです。」

 

一生懸命怖がらせようとしてるのはよくわかるのだが、ティッピーのことでしかない!

 

「では次はリゼさんの番です。」

 

もう終わりのようだ。早すぎないかな?

 

「小さい頃うちの使用人から聞いた話なんだけど、仕事を終えて帰ろうとすると、ゆっくりと茂みの中から何かが地面を這って近づいて来たんだ。使用人はあまりの恐怖に逃げ出したんだ。」

 

少し怪談っぽくなってきたな。

 

「犯人は匍匐前進の練習をしていた私だ。」

 

「おい、バラしてどうする!」

 

せっかくいい感じだったのに台無しだ。

 

「じゃあ次はチヤの番だ。」

 

「私の番ね、実はとっておきの話があるの。切り裂きラビットっていう実話なんだけど。」

 

その瞬間、停電になり辺りが真っ暗になった。

 

「なんだ?停電か?」

 

「バーの方は大丈夫なのかな?」

 

「落ち着いてください。こんな時のために...」

 

チノがそう言いロウソクに火をつけた。

 

「よりによってロウソクか。」

 

そのままチヤが怪談を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

20分後、チヤが怪談を終えたので寝ることにした。

 

「こ、怖かったです.....」

 

「絶対取り憑かれちゃうよ....」

 

たしかに怖かったけど怯えるほどだったかな?まあこればっかりは人によるから仕方ないけど。

 

「さて、じゃあ俺は自分の部屋に戻るよ。おやすみ。」

 

そう言い、部屋を出ようとすると誰かに袖を引っ張られた。

 

「お兄ちゃん、今日はここで寝て!」

 

「は!?みんないるし大丈夫だろ?」

 

「リョーマさんおねがいします。今日はここで寝てください。」

 

2人ともすごい怯えている。リゼとシャロもかなり怯えていた。チヤは全然だったが。

 

「しょうがないな。わかったよ。」

 

みんなと一緒に寝ることになったが、ココアとチノが一番怯えていたので俺はココアとチノの間になることになった。

 

「お兄ちゃんと一緒に寝るの久しぶりだね。」

 

「リョーマさんがいてくれれば安心します。」

 

「もう寝る前に怪談はやめような?」

 

みんな布団に入ったので眠りについた。

 

 

 

 

 

0時を回って少しした後、誰かに揺さぶられて起こされた。

 

「リ、リョーマさん、起きてください。」

 

「?.....チノ?どうした?」

 

「あ、あの一緒にトイレに来てくれませんか?」

 

「トイレなら廊下を出てすぐだろ?」

 

「そうなんですけど、その.....怖くて.....」

 

そういえば怪談をしたな。怖くなるのも仕方ないか。

 

「わかった、じゃあ一緒に行こうか?」

 

「ありがとうございます。」

 

廊下を出てトイレに向かう途中ずっとチノが俺に抱きついていた。

 

「チノ?大丈夫か?」

 

「......は.....はい。」

 

ものすごく怖がっている。寝る前に怪談はすべきではないと改めて思った。

 

「それにしても停電まだ治らないのかな?」

 

「あ....朝までは....な....治らないかと。」

 

ということは朝まではロウソクのみとなるわけか。

 

「チノ、着いたぞ。」

 

「では....行ってきます。絶対に...そこから.....は、離れないでくださいね。」

 

「わかってる、動かないよ。」

 

これはしばらく時間がかかりそうだな。

 

 

 

 

 

「リョーマさん、いますか?」

 

「いるよ。」

 

「本当にいますか?」

 

「いるって。」

 

「本当に本当に、ちゃんといてくれてますか?」

 

「いるって!ちゃんといるし置いて行ったりしないから!早く終わらせてくれ!」

 

「あの、無音だと怖いので大きめの声で歌でも歌ってくれませんか?」

 

「なにが怖くてこんな夜中にトイレの前で歌わないといけないんだよ!」

 

どんだけ怖いんだよ。怪談なんか2度とやるか!

 

「お待たせしました。」

 

5分程してようやく終わった。

 

「よし、じゃあ戻るか。」

 

そう言い部屋に戻ろうとした瞬間辺りが一瞬光り雷の音がなった。

 

「きゃあーーー!!」

 

「うわ!すごい音だったな。チノ、大丈.....」

 

チノに大丈夫かどうか聞こうとするとものすごい力で震えながら俺に抱きついていた。

 

「チノ、大丈夫か?」

 

「.....っ......えっ.......ひぐっ.....」

 

よく見てみると怖さのあまり泣いていた。普段はしっかりしていてもまだ中学生だ。怖がるのも無理はない。

 

「チノ、俺がいるから大丈夫だよ。」

 

「.....リ....っ.....リョーマさん......」

 

「ほら、大丈夫だから。ゆっくり歩いて行こう。」

 

数秒で1歩間隔で部屋まで歩いて行った。傍からみたらカタツムリ?と思われてしまうくらいの速さだった。

 

 

 

 

 

 

10秒くらいで着くはずの寝室に5分くらいかかってようやく到着した。

 

「チノ、早く布団に入るよ。」

 

そう言いながらチノを見るとなんだかそわそわしていた。

 

「チノ、どうした?」

 

「あの、今日はもっと側で一緒に寝てもいいですか?」

 

あれだけ怖がってたからな。仕方ないか。

 

「いいよ。おいで。」

 

「ありがとうございます!」

 

チノは喜びながら俺の隣に入ってきた。

 

「そうだ!せっかくだから今夜は甘えていいよ。」

 

「え?いいんですか?」

 

「もちろん!何かあるか?」

 

「じゃあ....その......う、腕枕......して欲しいです//////」

 

「お安い御用だ。」

 

そう言い俺はチノの頭付近に腕を差し出した。

 

「えへへ////なんだかすごく安心します。」

 

「ココアが見たらずるい!って言って駄々こねそうだけどな、」

 

「でも今は、私だけ独り占めできます///」

 

すごく嬉しそうだ。見てるだけで安心してるとわかる。

 

「やっぱりリョーマさんは頼りになりますね。」

 

「役に立てれてるようで何よりだ。」

 

時計を見るともう1時を過ぎていた。

 

「さ、もう遅いから寝よう。」

 

「はい。」

 

「おやすみ、チノ。」

 

俺はそう言い眠りについた。

 

「おやすみなさい......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

............お兄ちゃん。

 

 

 

 

To be continued




今回はここで終わりです。
トイレの付き添いシーンなんですけど、とあるアニメのあるシーンを使いました。
わかる人はすぐわかると思います。


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-11話- 嫌いな食べ物を克服しよう!

どうもP&Dです。
皆さんは嫌いな食べ物はありますか?
僕は未だにトマトが好きになれません笑


学校へ行く準備も整い、今はタカヒロさんが作ってくれた朝ごはんを食べていた。

 

「タカヒロさん、いつも朝ごはんありがとうございます。」

 

「なに、いつもチノと仲良くしてくれてるんだ。これくらい当然だよ。」

 

そう言いタカヒロさんは、キッチンの作業に戻った。

 

「こうして朝ごはん食べてると、ココアの実家を思い出すな。」

 

「そうだね。いつも朝ごはんの時はうちにお兄ちゃんを呼んでたからね。」

 

「2人とも相変わらず仲良しですね。」

 

「まあな、俺はいつも気を使わなくていいって言ってたんだけど俺の両親が無理やりココアの家に連れて行かされてな。」

 

今となっては良い思い出だが、当時はやばかった。ココアの父親と兄は都会に行ってたからココアの実家には女性しかいなかったのだ。そこに朝食に呼ばれて両親にほぼ毎日無理矢理連れて行かされたのだ。しかも両親はそれをなんだか楽しんでいたのであの時は少し腹を立てていた記憶がある。

 

「お兄ちゃん朝ごはんの時、いつも少し顔が赤かったもんね。」

 

「女の人しかいない所に朝食に呼ばれるんだぞ。しかもほぼ毎日。」

 

「まあそれもそっか!」

 

ココアにはわからないだろうなと思いながら朝食を食べた。

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした。」

 

俺が最初に食べ終わったので2人が食べ終わるまで待っていると、なんだか2人とも困ったような顔をしていた。2人の食器を見てみるとココアとチノがそれぞれ嫌いなトマトジュースとセロリが残っていた。

 

「おい2人とも、ちゃんと全部食べろ。」

 

「だ、だって」

 

「苦手なんです。」

 

「そんなんじゃいつまで経っても食べられないぞ。」

 

「お兄ちゃん飲んでよ〜。」

 

ココアが我儘を言い始めた。仕方ない、あの作戦を使うか。

 

「そっか〜、残念だな。ちゃんと全部飲めたら思いっきりハグしてあげようと思ったのに。」

 

「え!?」

 

ココアが動揺し始めた。これはいける!

 

「でも飲めないんじゃ仕方ないか〜。今日はハグ無しだな〜。」

 

「ま、待って!飲むから!飲むからハグして!」

 

そう言いココアは恐る恐るトマトジュースを手に取った。そしてかなり躊躇していたが意を決してトマトジュースを飲んだ。

 

「お.....お兄ちゃん、全部飲めたよ!」

 

「よしえらいぞココア。ほら、おいで。」

 

「やったー!」

 

ココアが大喜びで抱きついてきた。

 

「へぇー、リョーマ君はそうやって嫌いな食べ物を頑張って食べさせるようにしていたのかい?」

 

「はい。こうすればココアは意地でも食べようとしますから。」

 

「チノも頑張って食べてリョーマ君にハグしてもらったらどうだ?」

 

「え!?いえ、....私は。」

 

「チノちゃん、せっかくだし頑張って食べてハグしてもらいなよ!」

 

「////.......じゃあ、食べてみます。」

 

少し恥ずかしそうにしていたが頑張って食べていた。

 

「頑張って食べれたな。やっぱりチノはえらいな。ほら、チノもおいで。」

 

「は、はい////」

 

恥ずかしそうにしながらゆっくりと近づきそっと抱きついてきた。

 

「チノちゃん嬉しそうだね。顔真っ赤だよ!」

 

「!!!み、見ないでください!!」

 

「よかったな、チノ。これからも頑張って嫌いな野菜を食べてリョーマ君にハグしてもらったらどうだ?」

 

「わ、私は大丈夫です////」

 

「遠慮しなくていいんだぞ?ココアにもハグしてるんだし。」

 

「遠慮なんて!......でも、たまにならいいですよ////」

 

「そうか。じゃあ今は思いっきりハグしないとな。」

 

俺はそう言いながら今までで一番強くチノを抱きしめた。

 

「え!?....えっと.....あの......あの....はぅ〜/////」

 

チノの顔が真っ赤になりさらに頭から湯気を出して気絶してしまった。

 

「チノちゃんが気絶してる!?しっかりして!」

 

「え!?ほんとだ!チノ、しっかりしろ!」

 

「リョーマ..さん...が....思いっきり....ハグ////」

 

チノが意識を戻すまで、このドタバタ状態がしばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

チノが意識を取り戻した後タカヒロさんに学校へ行く挨拶をし、今は通学路を歩いている。

 

「すみませんでした。お騒がせして。」

 

「大丈夫だよ。ちゃんとハグできたし俺は嬉しかったよ。」

 

「チノちゃんってば最近すぐ赤くなるもんね!」

 

「ココアさんじゃないんですから。私はそんなにすぐ赤くなりません。」

 

いや、ここ最近はチノがよく赤くなってるが..........言わないでおこう。

 

「では、私はこっちですので。」

 

「学校頑張れよ。」

 

チノと別れそのまま学校へ向うため通学路を歩き続けた。

 

「ねえ、お兄ちゃんの方のクラスは大丈夫?」

 

「ああ、男子は俺しかいないけどそこそこ楽しいよ。.........あんな恐怖の時間はもうなくなったし.......。」

 

「あはは.....あの時のお兄ちゃん、警戒心MAXだったもんね。」

 

そりゃあんな事(5話参照)があったら警戒するよ。たった1日だけだったけど。

 

「そういえばココア。お前今日小テストあるんだろ?勉強したか?」

 

「うん......したはしたんだけどやっぱり文系が。」

 

「そうか、とにかく頑張れ。」

 

これは居残り補習だろうなと密かに悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、やっぱりココアは居残り補習になったので今は1人でラビットハウスに向かっている。

 

「はぁ〜まったく。文系で高得点取るまでハグ禁止令出した方が良いかもしれないな。」

 

聞いたところによるとココアの文系の小テストの結果全部20点代だったらしい。マジで禁止令出すべきか本気で考えてしまった。

 

「でも禁止令出したら出したでやる気失くしそうだしなー。どうしたものか。」

 

そんな事を考えながら歩いていると、目の前にリゼがいた。

 

「あれ?リゼ?」

 

「ん?リョーマじゃないか。ココアはどうした?」

 

「今日の小テストの点数が悪くて補習だ。」

 

「まったくしょうがないなココアは。」

 

「本当だよ。」

 

せっかくここでリゼと会ったし一緒にどこか行くか。

 

「リゼ、今から一緒に甘兎庵に行くか?」

 

「え?いいのか?」

 

「ああ、今日はラビットハウス休みだしな。」

 

「そうだな。じゃあ一緒に行こうか。」

 

俺はラビットハウスに帰らずこのままリゼと甘兎庵に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「お邪魔しまーす。」

 

「いらっしゃいませ!あら!リゼちゃんにリョーマ君。2人だけなんて珍しいわね。」

 

「帰り道でばったりあったから。」

 

「そうだったの。さあ、席に座って。」

 

俺たちはテーブル席へ案内された。

 

「はい、メニューよ。」

 

「相変わらずのメニューだな。」

 

「私でもなかなか覚えられない。」

 

どれがどれなのかわからなかったので適当に選んで待つことにした。

 

「それにしてもリョーマと2人で喫茶店って初めてだな。」

 

「他の人から見たらデートって思われてるのかな?」

 

「デ、デート!変なこと言うな!」

 

しかし周りをよく澄まして聞いてみるとあの2人カップルかしら?とかお似合いね〜など恋人同士だと思われてるのがよくわかった。

 

「リゼ、周りの人達俺たちのこと恋人同士だと思われてるぞ。」

 

「こ、恋人!...../////」

 

あまりに恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏してしまった。

 

「なあリゼ、別に恥ずかしがらなくてもいいんじゃないか?顔上げれば?」

 

「....やだ////........無理////」

 

よっぽど恥ずかしいみたいだった。

 

「おまたせ〜。」

 

チヤが注文したものを持ってきてくれた。

 

「ありがとう。」

 

「どういたしまして。あら?リゼちゃん顔赤いけどどうかしたの?」

 

「な、なんでもない////」

 

リゼを見てみると絶対にチヤには言うなよみたいなオーラを放ちながら俺を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

和菓子を食べ終えチヤにお礼を言って店を出た。

 

「いや〜美味しかったな!」

 

「私はあまり味を感じれなかった。」

 

「もしかしてまだ気にしてんのか?」

 

「当たり前だ!あんな状況でおいしく食べれるか////」

 

俺はそんなに気にしなかったけどリゼには刺激が強すぎたようだ。

 

「じゃあ今日は疲れたんじゃないか?今日はもう休みなよ。」

 

「ああ、そうするよ。今日はありがとう。」

 

「また明日な。」

 

 

 

リゼと別れラビットハウスに戻り中に入ると、ココアはトマトジュースを、チノはセロリパンを持って倒れていた。

 

「.......2人ともどうした?」

 

「....トマトジュースにやられた。」

 

「...セロリパンにやられました。」

 

聞いたところによるとどうやら嫌いなものを克服しようと2人で一緒に食べたようだが、やっぱり無理だったらしく倒れたようだった。

 

「でも克服しようと頑張ったんだな。よし、ハグしてあげよう。」

 

「え!いいの!?」

 

「もちろん。2人ともおいで。」

 

ココアは大喜びで抱きつき、チノはまだ恥ずかしいのか、ゆっくりと抱きついてきた。ココアはハグがあれば頑張れるみたいだしハグ禁止令はやめた方がいいなと密かに思った。

 

To be continued




今回はここで終わりです。
嫌いな食べ物の克服方法があればマジで教えて欲しいです。


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-12話- ちゃんと仲直りはすること!

どうもP&Dです。
中学生の頃、大喧嘩して仲良くなっていたクラスメイト同士がいました。喧嘩するほど仲が良いってあういうことなんですかね。


お昼が過ぎお客さんが少なくなった頃、俺は朝からチノが少し機嫌が悪いことをずっと気になっていた。

 

「なあリゼ、今日のチノなんか機嫌悪くないか?」

 

「それが昨日チノがトイレへと部屋を出ていた間、毎日少しずつするのが楽しみだったジグソーパズルをココアが全部やってしまったらしいんだ。しかも1ピース足りなかったらしい。」

 

「それで機嫌が悪かったのか。ココアに悪気があったわけでは無いと思うけど。」

 

俺はココアに機嫌が悪くなったチノについて話すことにした。

 

「ココア、お前チノが毎日少しずつしてたジグソーパズルを全部やったんだって?1ピース分残して。」

 

「うん!チノちゃんが喜ぶと思って!」

 

「いやいや、喜ぶどころか機嫌悪くなってるぞ。」

 

「え!?そうなの?で、でもピースは最初から1つ足りなかったよ。」

 

「それはココアのせいじゃないと思ってると思うけど、毎日少しずつしてたのを邪魔されたら機嫌悪くなるよ。」

 

「そんな......チノちゃんが喜ぶと思ったのに。」

 

「まあ、喜ばせたいっていう気持ちはわかるけどさ。」

 

「私.......お姉ちゃん失格だーーーー!」

 

そう言いココアは慌てて店から出て行った。

 

「おい!ココア!はぁ〜まったく。チノ、リゼ、悪いけど店任せてもいいか?」

 

「ああわかった。」

 

俺は店を出てココアを探し出した。おそらく公園にいると思い向かってみると、思った通り公園のベンチに座っていた。

 

「ココア。」

 

「....お兄ちゃん。」

 

俺はココアの隣に座った。

 

「チノちゃん、喜ぶと思ったのに.....」

 

「悪気があったんじゃ無いんだろ?」

 

「....うん。」

 

相当落ち込んでいる。本当にチノを喜ばせたかったんだな。でもそれが逆効果になったが悪気が無かったのなら謝れば許してくれるはずだ。

 

「だったら大丈夫。ちゃんと謝れば許してくれるよ。」

 

「そうだよね。私ちゃんと謝ってくるよ!」

 

ココアの気持ちが前向きになった。これなら大丈夫そうだな。

 

「それでこそチノのお姉ちゃんだな。」

 

「えへへ〜///そうかな?そうだ!チノちゃんに何か買って行くよ!」

 

「そうか。じゃあ俺も付き合おう。」

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

帰り道、買い物を終えた俺たちはラビットハウスに向かっていた。

 

「なあココア、本当にそれで良かったのか?」

 

「うん!これならチノちゃんも喜んでくれるよ!」

 

まあ.......喜んではくれるだろうけどその前にまず驚きそうだが.....本人に見せたらわかるか。

 

「仕事中に抜け出しちゃったんだ、早く戻るぞ。」

 

「うん!」

 

ラビットハウスに戻り店内に入るとチノとリゼがいた。

 

「チノちゃん、勝手にパズルしちゃってごめんね!これ買ってきたからこれで許して!」

 

そう言いココアは新しく買ったジグソーパズルをチノに差し出した。

 

「あ、ありがとうござい.......8000ピース!?」

 

ほらやっぱり驚いた!8000ピースだもんな、そりゃ驚くか。

 

「あの、高かったんじゃないですか?」

 

「気にしないで、チノちゃんの楽しみを奪っちゃったお詫びだから。」

 

「えっと、ココアさん。ずっと素っ気ない態度取ってしまってすみませんでした。話そうとは思ってたんですけど、どう話したらいいのかわからなくて。」

 

「私こそごめんね。じゃあさ今日の仕事が終わったら一緒にこのパズルしようよ?」

 

「はい!」

 

俺とリゼは2人の様子を離れて見ていた。

 

「どうやら仲直りできたみたいだな。8000ピースのパズル買ってた時はびっくりしたよ。」

 

「お疲れ様。兄っていう立場も楽じゃないな。」

 

「まあな。そうだ!リゼも一緒にパズルするか?あの2人だけじゃすっげえ時間かかりそうだし。」

 

「うーん、そうだな。じゃあ私もやってみよう。」

 

 

 

 

 

仕事が終わった後4人でココアが買ったジグソーパズルを始めたが完成する気配がまったく無かったのでシャロとチヤを呼ぶことにした。

 

「悪いな来てもらって。やり始めたはいいけど終わらなくてな。」

 

「いいのよ。ジグソーパズルなんて久しぶりだし。」

 

「そんなに難しいんですか?」

 

「難しいっていうより量がな、8000ピースあるんだ。」

 

「「8000!?」」

 

やっぱ驚くよね。

 

「それは終わらないわよね。」

 

「私たちも手伝います。」

 

「助かるよ。」

 

チヤとシャロも加わってパズルを再開した。

 

「リゼ、なんだか楽しそうだな。」

 

「ああ、なぜかわからないけどすごい楽しい!」

 

珍しくリゼが目を輝かせながらパズルにのめり込んでいた。

 

「なんだか小さな子供を見てるみたいな感じだな。」

 

「な!私は子供じゃない!お前と同い年だろ!」

 

「まあそうなんだけどさ、パズルに夢中になってるリゼを見てたらなんかそんな感じがして。リゼにもかわいいとこあるんだな。」

 

「それ以上言うな!!////銃口向けられたいのか?」

 

「それだけはやめてください!」

 

恥ずかしいからって脅すのは無しだろ?

 

 

 

 

 

 

パズルを始めて1時間と少しした後、みんながぐったりしてきていたので俺はホットケーキを作ることにした。

 

「みんなお腹減っただろうし、ホットケーキ作ってくる。」

 

「私も手伝っていいですか?」

 

「もちろん!助かるよ。」

 

1階のキッチンへ行き、チノと一緒にホットケーキを作り始めた。

 

「リョーマさんって料理上手ですよね。」

 

「そうかな?タカヒロさんほどじゃないと思うけど、ありがとう。」

 

ここに引っ越す前に、母さんから料理くらいできないとダメと言われみっちり叩き込まれたことがある。あの時は何故か寝る間も惜しんで指導されたので結構辛かった思い出がある。でも、そのおかげで料理の方はだいぶ上達したので感謝はしている。ちなみにココアも俺の母さんから教わった。

 

「実は母さんから料理を教わったんだ。ココアも俺と一緒に教わりたいって駄々こねてな、よくココアと2人でお互いに料理を出し合って食べた思い出があるよ。」

 

「そうなんですか。私、1人っ子なのでリョーマさんとココアさんが兄妹のように仲良しなのが羨ましいです。」

 

「俺も実際1人っ子だし、もし俺に妹がいたらチノみたいな妹がいいな。店の仕事もできて家事もできて、自慢の妹になるよ。」

 

「そ、そうですか////」

 

チノの頬が赤くなっていた。

 

「あ、あのリョーマさん。」

 

「ん?」

 

「えっと....あのですね.....その////」

 

「どうかした?」

 

「やっぱり何でもないです///」

 

「どうした?何か悩み事でもあるのか?」

 

「い、いえ!そういうのではないので...今のは忘れてください。」

 

「そうか。」

 

何だったんだろう?なにか言いたいことがあるような様子だったけど。

 

「さてホットケーキできたし、上に持っていくか。」

 

「.....はい。」

 

ココアたちのいる部屋に行くまで何故かチノはずっと黙ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

「おまたせ。」

 

「お帰りお兄ちゃん。あ!ホットケーキだ!おいしそー!」

 

「本当ね、いい香りだわ。」

 

「みんな疲れただろ?少し休憩にしよう。」

 

パズルでみんな疲れていたのでホットケーキを食べ始めた。

 

「んー!おいしー!」

 

「リョーマって料理上手いよな。」

 

「先輩ってすごいですね。」

 

好評のようだ。口に合ってよかった。

 

「さて、パズルもあと少しだし頑張るか!」

 

「うん!頑張ろう!。」

 

ホットケーキを食べて休憩したことでスムーズに進み30分ほどでようやく完成することができた。

 

「やったー!できたー!」

 

「やっと終わったな。」

 

「結構時間がかかっちゃいましたね。」

 

俺たちが完成できた喜びの余韻に浸っていると突然リゼが。

 

「なあ、これ下に何も敷いてないけどどうするんだ?」

 

「「「「「.........」」」」」

 

あ。何で気付かなかったんだろう。パズルすることに夢中になりすぎた。

 

「何も考えてなかったのか!?」

 

「ど、どうしよう。お兄ちゃんどうしよう!」

 

「大丈夫。ゆっくり動かせばいいから。」

 

このあとめちゃくちゃ慎重にパズルの額縁に移動させ何とか事なきを得た。

 

 

 

 

 

時刻は10時を過ぎていたのでチヤとシャロとリゼはここで泊まることになった。

 

「またみんなと一緒に寝れてうれしいよ!」

 

「じゃあ俺は自分の部屋に戻るよ。」

 

「え?なんで戻るの?一緒に寝ようよ?」

 

「今日は怪談しなかったし大丈夫だろ?」

 

「あの、できれば私からもお願いします。」

 

ココアとチノに頼み込まれたので一緒に寝ることにした。

 

「しょうがないな。わかった、一緒に寝よう。」

 

「やったー!」

 

「ありがとうございます!そうだ、リョーマさん。よかったら今日も腕枕を.......あ!」

 

言った直後に気づいたのだろう。ココアがすぐそばにいたことを。

 

「お兄ちゃん!」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「腕枕ってどういうこと?ねぇ!どういうこと!?」

 

やばい、早く訳を言わないと。

 

「前に怪談をして寝ただろ?その時チノがすごく怖がってさ、それで腕枕したんだよ。」

 

「もー!チノちゃんばっかりずるいよ!」

 

「あの時は本当に怖かったんです。だからずるくないです。」

 

「だったらお兄ちゃん!今日は私も腕枕して!さもないと学校でもずーっと抱きつくよ!」

 

「おい!それはやめろ!」

 

そんなことされたら卒業するまでずっとネタにされる。

 

「わかった、わかったから腕枕するから落ち着け。」

 

「ほんとに?ありがとう!」

 

「チノもそれでいいか?」

 

「腕枕してくれるのなら大丈夫です。」

 

なんだかここ最近振り回されてるような気がするけど気のせいかな?

 

「さあ、早く寝よう。」

 

「うん!」

 

俺が真ん中になり両腕にそれぞれココアとチノが横になった。

 

「お兄ちゃんの腕枕気持ちいいね!」

 

「やっぱり落ち着きますね。」

 

「そんなに良いのか?」

 

「うん!」

 

まあ、喜んでくれてるからいいか。

 

「さあて、明日も仕事あるし寝よう。」

 

「おやすみ!」

 

「おやすみなさい。」

 

俺は少し暑苦しいと思いながら眠りについた。

 

 

To be continued




今回はここで終わりです。
実はこの小説に出ている腕枕は、僕が小さい頃に母親によくしてもらっていたのでそれを元に書いています。
腕枕いいですよね。


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-13話- 無理なダイエットは禁物!あと歯医者にはすぐ行くこと!

どうもP&Dです。
僕は何回か虫歯になったことがあるんですけど、未だに麻酔の注射が怖いです。


お昼時、俺とココアはチノとリゼにパンを試食してもらうためにパンを焼いていた。

 

「うん!今日もいい出来だね!」

 

「ココアはパンを作るのだけは上手だよな。」

 

「だけって何!?だけって!」

 

ココアがプンスカ怒ってきた。

 

「うそうそ、料理も上手だよ。」

 

「本当に?」

 

「ああ、特にシチューが好きかな。味がしっかりしててまろやかで、母さんから料理を教わる前と比べたら全然違うよ。」

 

「そ、そうかな?」

 

「そうだよ、だからもっと上手になって俺にいろんな料理を食べさせてよ。」

 

「.....////パ、パンが冷めちゃうから早く持って行こう////」

 

「そうだな。」

 

ココアは少し頬を赤くしながらパンを持って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「2人とも、パンができたよ!」

 

ココアはチノとリゼに完成したパンを持ってきた。

 

「今日も試食してくれるかな?お兄ちゃんも手伝ってくれたからすっごくおいしいよ!」

 

「「.......」」

 

「2人ともどうしたの?」

 

「今日は食べたい気分じゃないんだ。」

 

「え!?」

 

「私もです。」

 

「え?なんで?私にはもう飽きちゃったの!?」

 

「変な言い方するな!」

 

「うわ~ん。2人とも私に冷たいよー!」

 

ココアはそう言いココアの部屋に行ってしまった。

 

「2人ともなんで試食しないんだ?何かあったのか?」

 

「何でもない。」

 

「気にしないでください。」

 

明らかに何かを隠しているように思えたが俺はそのまま仕事を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、午前の授業が終わり昼食になったのでココアとチヤと一緒にお昼にすることにした。

 

「最近チノとリゼが何か隠してるみたいなんだ。」

 

「そうなの?何か悩み事でもあるのかしら?」

 

「きっと私のパンに飽きて他の店のパンを食べてるんだよ。」

 

「それはないと思うぞ。ココアの作るパンは美味しいから。」

 

「そうよ。だから自分の作るパンに自信持って!」

 

「.....うん////」

 

褒められることになるとは思っていなかったのだろう、俯いたまま顔を上げようとしない。

 

「もしかしたらチノちゃん虫歯なんじゃないかしら?」

 

「虫歯....か。」

 

確かにそれはあるかもしれない。チノは結構我慢する子だからな。

 

「だとするとリゼは何だろう?」

 

「そうね~、高校2年生だしダイエット?体重を気にしてるのかしら?」

 

確かに、俺と同じ16歳だし体重を気にする年ごろだよな。

 

「でも別に体重を気にしなくてもいいと思うけどな。」

 

「女の子にとって体重の増加は生命の危機と同じくらいなのよ。」

 

「大袈裟すぎないか?」

 

「お兄ちゃんは女の子のことが分かってないね。」

 

そういえば昔、母さんに太った?って聞いたら鬼のような形相で怒られたことがあったな。女性にとって体重の数値は大事というわけか。

 

「とりあえず帰ったら2人に聞いてみるか。」

 

昼食を終え、そのまま午後の授業を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わりラビットハウスで仕事をしている中、俺はチノに虫歯があるかどうか確認してみることにした。ちなみにココアはまた補習だ。

 

「なあチノ、ちょっと口開けてくれないか?」

 

「何でですか?」

 

「虫歯チェックだ。ほら、口開けて。」

 

ちょっと恥ずかしそうにチノは口を開けた。虫歯らしきものは見当たらなかった。

 

「ふ~ん、特にないな。それにしてもチノの歯って小さくてかわいいな。」

 

「え?虫歯検査じゃないんですか?」

 

「そうだけど、歯が小さくてかわいいかったからさ。」

 

「は、はぁ。そうですか。」

 

次はリゼに体重について聞いてみることにした。

 

「なあリゼ、お前もしかして体重気にしてる?」

 

「はあ!?何だよいきなり。別に気にしてないけど女の子にそんなこと聞くなよ。」

 

「ごめん、悪気があったんじゃないんだ。気に障ったらごめん。」

 

俺はこの時、ある疑問が脳によぎった。チノは虫歯が無いのに菓子パンを遠慮した、そしてリゼは体重のことは気にしてないのに菓子パンを遠慮した。

 

「......もしかして。」

 

俺はチノに確認をとることにした。

 

「なあチノ、悪いけどこの冷えた水を飲んでくれないかな?」

 

「は、はぁ。いいですけど。」

 

チノはなんの躊躇いもなく水を飲んだ。

 

「やっぱりか、ありがとう、チノ。」

 

次はリゼに確認をとることにした。

 

「リゼ、このキンキンに冷えた水を飲んでくれないか?」

 

俺はわざとキンキンというところを強調して言ってみた。

 

「え!?な、なんで?」

 

「今日少し暑いだろ?喉渇いてるんじゃないかなって思ってさ。」

 

「い、い、いや、別にいいよ。今あ、あ、あんまり喉か、か、渇いてないしさ。」

 

めっちゃ動揺してる、間違いないな。

 

「チノ、自分は太ってるんじゃないかって思ってるでしょ?そしてリゼ、お前虫歯だろ?」

 

「「ど、どうしてそれを!?」」

 

見事にハモりながら2人は驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「そういう事だったのか。」

 

話を聞いてみると、どうやらチノはココアによくモフモフしてて抱き心地が良いなどと言われ自分は太っていると思ってしまったらしい。そしてリゼは数週間前から虫歯になってしまったみたいだが歯を削る音が怖いらしく未だに行けないでいるみたいだ。

 

「まずチノ、チノは全然太ってないからダイエットする必要はないよ。無理にダイエットすると免疫力が低下して病気になるかもしれないからな。それに今のままのチノが一番かわいいよ。」

 

「そ、そうですか////」

 

チノは顔を赤くしながらお盆で顔を隠した。

 

「.........そしてリゼ!」

 

「は、はい!」

 

俺はこっそりと部屋から抜け出そうとするリゼを見逃さなかった。

 

「病院.......今から行くぞ。」

 

「えっと、明日でもいいんじゃないか。」

 

「ダメだ!そんなこと言ってたらいつまで経っても行かないだろ!」

 

俺はリゼの腕を掴んで引きずった。

 

「チノ、悪いけど暫く店任せてもいいか?」

 

「大丈夫ですよ。」

 

「悪いな、さあリゼ行くぞ!」

 

「いやだーー!助けてーーー!」

 

俺はリゼの叫びを無視して病院へ無理やり連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「--さん、治療台へどうぞ。」

 

俺たちは今、待合室で順番が来るのを待っていた。

 

「.......」

 

待っている間、リゼはずっとそわそわしていた。

 

「リゼ、もう観念しろよ。」

 

「なあリョーマ、やっぱり今度にしないか?」

 

「ダメだ!早く治療しないと余計悪化するし、受付も済んだんだ。今更キャンセルなんかできないよ。」

 

待っている間リゼの順番が近づく度にリゼの顔が青ざめていた。

 

 

 

 

 

 

「次、天天座さん。治療台へどうぞ。」

 

「ほら、リゼの番だ。行くぞ。」

 

「いやだ。怖い。」

 

「後の人が待ってるんだ。早くしろ。」

 

「いやだ!歯を削るあの音が怖いんだ!」

 

「高校2年生になった人がこんなことで駄々こねんな!」

 

「だ...だって...うっ....怖い...ひぐっ....んだ。」

 

駄々をこねた挙句泣いてしまった。

 

「はぁ~まったく、しょうがないな~。」

 

俺はそう言いリゼを抱きしめた。

 

「大丈夫、俺がそばにいてあげるから。」

 

「本当に?」

 

「もちろん。」

 

「じゃあ、手.....握っててくれ。」

 

「いいよ。じゃあ行こう。」

 

俺はリゼと手を繋ぎながら治療台へ向かった。向かう途中、周りの人から若いわね~とか小声でひゅ~ひゅ~と言われたのは聞かなかったことにした。

 

「天天座さん、こちらに座ってください。」

 

「リョーマ、ちゃんと手繋いでてくれよ。」

 

「わかってるよ。」

 

「ふふ、大変ですね。」

 

「すみませんお手数かけて。」

 

「大丈夫ですよ。治療を怖がられるのは慣れてますから。」

 

「そ、そうですか。ではお願いします。」

 

「はい、わかりました。では天天座さん、麻酔をするので口を開けてください。」

 

歯科医の先生が麻酔の注射をしたとたん突然。

 

「痛たたたたたたたたた、リゼ!手、力入れすぎ!」

 

リゼは注射の痛みに耐えるために、繋いだ俺の手をものすごい力で握っていた。

 

「痛いってリゼ!潰れる潰れる!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」

 

これはリゼの治療より俺の治療が必要かもしれないと思った。

 

 

 

 

 

 

リゼの治療が終わったのでラビットハウスに向かっていた。

 

「はぁ~手痛かった。」

 

「それは悪かったよ。でもおかげで虫歯を治せたよ。ありがとうリョーマ。」

 

「役に立ったようで良かったよ。これから早く虫歯を治すようにな。」

 

「そ、その時はまた手を繋いでてくれないか?////」

 

「......握りつぶすくらいの力を出さないんだったらな。」

 

「........ぜ、善処するよ。」

 

これは俺がまた痛い思いをするんだろうなと悟った。

 

 

 

 

 

 

ラビットハウスでの残りの仕事を終え今はチノの部屋へお邪魔し、チノが淹れてくれたコーヒーを飲んでいた。

 

「やっぱりチノが淹れてくれたコーヒーは美味しいな。」

 

「/////......あんまり飲みすぎると虫歯になりますよ。」

 

「毎日しっかりと歯を磨いてるから大丈夫だ。」

 

「........コーヒーばっかり飲んでると太っちゃいますよ。」

 

「それも大丈夫だ。今朝体重測ったけど、ここに引っ越す前とまったく変わってなかったよ。」

 

そう言ってチノを見ると前髪が邪魔で表情が見えず、何やら赤色のオーラを纏っているように見えた。

 

「....リョーマさんの。」

 

「あ、あのチノさん?」

 

なんかやばい気がする。

 

「リョーマさんのバカーーー!!!」

 

チノはそう言って枕を持って俺に振り回してきた。

 

「うわ!危ないって!やめろチノ!」

 

「リョーマさんなんか知りません!」

 

この後俺は、チノから逃げるために30分以上家中を走りまわった。傍から見たらただの鬼ごっこに見えただろうな。

 

 

 

to be continued




今回はここで終わりです。
最近なんだか歯が沁みるんですよね。
また歯医者に行くことにならないように心の底から祈ります。


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-14話- 天気の良い日は散歩にかぎる!

どうもP&Dです。
ドラマやアニメでよく出てくる偽造パスポートってどうやって作ってるんでしょうね。
気になるけど捕まりたくないので作りたくないです。


目覚まし時計の音が鳴り俺は目を覚ました。カーテンを開けるとそこには雲1つ無い快晴、そして太陽が照らす木組みと石畳の街、まるで1枚の絵画を見ているようだ。今日は学校は休みでラビットハウスも休み、完全な休日なのである。

 

「さあて、こんな日は何をしようかな?」

 

何をしようかあれこれ考えた結果、ココアとチノと一緒に散歩をしようと考えた。

 

「ココアー、いい天気だし散歩に.....あれ?」

 

ココアに部屋に入ると中には誰もいなかった。

 

「ココアー、ココアー、いないのかな?チノの部屋に行ってみるか。」

 

部屋にいなかったのでもしかしたらチノの部屋にいるかもしれないと考えチノの部屋に向かった。

 

「チノ、ココア知らないか?」

 

「ココアさんなら1時間ほど前に出かけましたけど。」

 

「そうなのか。じゃあチノ、いい天気だし一緒に散歩に行かない?」

 

「リョーマさんとですか?」

 

「うん、俺とチノだけだけど。」

 

リョーマさんと2人だけ////.....いいですよ。一緒に行きましょう。」

 

何故か顔を赤くしながら考えていたが、一緒に行くことに決まった。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、チノと2人だけで出かけるのは初めてだな。」

 

「そうでしたね。出かける時はいつも3人以上でしたからね。」

 

俺とチノは話しながら散歩をしていると看板にハサミの絵や時計の針がある店があった。

 

「なあチノ、あの看板は何の店?」

 

「ハサミの絵は床屋さんで時計の針は時計屋さんですね。この街の店は看板でその店が何なのかわかるように工夫されているんです。」

 

「へぇ~、だからラビットハウスにもコーヒーカップとうさぎの看板があったのか。」

 

この街のことについて話していると服屋にリゼがいることに気がついた。

 

「ん?あれって.....リゼ?」

 

「洋服を選んでますね。」

 

リゼはあれにしようかこれにしようかものすごく葛藤しながら服を選んでいた。これがいいかもみたいな顔をしていたがすぐさま葛藤し始めた。あれは当分決まらないパターンだな。

 

「...そっとしておきましょうか。」

 

「そうだな。」

 

俺たちはそのまま散歩を続けた。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと歩き疲れたしそこのベンチに座るか。」

 

数十分歩き続けていたので俺たちは公園のベンチで休むことにした。

 

「ここはぽかぽかしてて気持ちいいな~。」

 

「ですよね~。」

 

俺とチノはすっかり日向ぼっこにハマっていた。周りを見てみるとペットの散歩をしている人がいたり、ジョギングをしている人たちがいた。

 

「今日はチノと散歩ができて本当に良かったよ。」

 

「私もリョーマさんと散歩ができて楽しいです。」

 

そんな話をしながらボーっとしていると向こう側にクレープ屋があることに気が付いた。

 

「チノ、あそこにクレープ屋があるから一緒に食べるか?」

 

「え、でも私財布持って来てません。」

 

「いいよ俺が払うから、一緒に食べよ?」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

クレープ屋向かう途中チノは嬉しそうに少し小走りになりながら歩いていた。

 

「すみません、クレープ2つください。」

 

「はい!少々お待ちくだ....ってリョーマ先輩!?」

 

「あれ?シャロ?」

 

店員の姿を見てみるとその人はなんとシャロだった。

 

「シャロさんここでも働いていたんですか?」

 

「趣味が多いのはいいことだ。」

 

「はい!多趣味なんです.....決してお金に困っているわけでは....」

 

最後に何かボソボソと言っていたが全然聞き取れなかった。

 

「じゃあシャロ、クレープ2つもらえるかな?」

 

「わかりました。ちょっと待っててくださいね。」

 

シャロがクレープ作りの作業に入った。

 

「そういえば2人は今日何をしてるんですか?」

 

「ただの散歩だよ。チノと2人でどこかに行ったことなかったからさ。」

 

「そうだったんですか。よかったわねチノちゃん、こうして見るとなんだか兄妹にみえるわね。」

 

「わ、私はリョーマさんが街で迷子になったら困るので一緒に散歩してるだけです////」

 

なんだかチノが少し照れくさそうにしていた。

 

「お待たせしました、できましたよ。」

 

俺とチノは完成したクレープを受け取った。

 

「ありがとう。それじゃ俺たちはベンチで食べてるよ。仕事頑張ってね。」

 

「はい、ありがとうございます。チノちゃんもお散歩楽しんでね。」

 

「は、はい////」

 

俺たちはさっき座っていたベンチに戻りクレープを食べ始めた。

 

「このクレープ美味しいな。」

 

「はい!とてもおいしいです!」

 

よほど美味しいのか夢中になりながら食べていた。

 

「あの~、よろしければお隣いいですか?」

 

声のする方へ向いてみると、そこにはとてもおっとりしている女性がいた。

 

「はい、いいですよ。」

 

「失礼します。」

 

そう言って俺の隣に座った。

 

「お2人は今日何をなさっているんですか?」

 

「今日はとてもいい天気なので散歩をしていたんです。」

 

「そうだったんですか。そちらの小さい方は妹さんですか?」

 

「い、妹じゃないです////」

 

顔を赤くし驚きながら否定していた。

 

「そうだったんですか、てっきり兄妹かと思ってました。あ!そういえば自己紹介まだでしたね、私、青山と言います。」

 

「俺は如月リョーマといいます。」

 

「私は香風智乃です。」

 

「リョーマさんにチノさんですね。香風ということはもしかしてラビットハウスのマスターのお孫さんですか?」

 

「え?チノを知ってるんですか?」

 

「いえ、学生の頃よくラビットハウスにお邪魔していてその時のマスターの苗字が香風だったので。」

 

「そうだったんですか。青山さんはどんな仕事をしているんですか?」

 

「小説を書いてるんです。ペンネームは青山ブルーマウンテンです。」

 

ペンネームって面白い名前だったり不思議な名前があったりすると聞いたことはあったけど本当だったんだな。

 

「青山さんも今日は散歩なんですか?」

 

「はい、閃きを求めて彷徨っているんです。」

 

彷徨うって....それ散歩じゃないよね?散歩なのか?あれ?わからなくなってきた。

 

「小説家も大変ですね。」

 

「ネタはどこに潜んでるかわかりませんからね。」

 

そのまま俺とチノは青山さんと小説家についていろんな話をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは私は再び閃きを求めて彷徨ってきますね。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

青山さんはそう言って散歩?彷徨い?をしに行ってしまった。

 

「不思議な人でしたね。」

 

「そうだな。学生の頃よくラビットハウスに来てたって言ってたし近いうちにまた会えるんじゃないかな?」

 

「そうですね。」

 

そう言って俺たちは食べかけのクレープを食べ始めた。

 

 

 

 

 

「あれ?チノじゃん!」

 

「あ!ほんとだ~。」

 

チノを呼ぶ声のする方を見ると、元気いっぱいそうな青髪の女の子と青山さんと同じおっとりしている赤髪の女の子がいた。

 

「チノ、この子たちは?」

 

「私の友達です。」

 

「条河 麻耶だよ。マヤって呼んでくれ!」

 

「私は奈津 恵だよ。メグって呼んでね~。」

 

「俺は如月リョーマ。よろしくね。」

 

「お前がチノの言ってたリョーマか。」

 

「う、うん。」

 

初対面の年下の女の子にタメ口で話されるのは初めてだったから若干戸惑いを隠せないでいた。

 

「じゃあさ!兄貴って呼んでいい?」

 

「あ、兄貴!?」

 

「じゃあ私、お兄さんって呼びた~い。」

 

俺は今、状況についていけていない状態だ。だって会ったばかりの女の子に兄貴とかお兄さんって呼ばれようとされているんだぞ。

 

「ダメか?」

 

「もちろんいいよ。なんだか妹が増えたみたいで嬉しいしな。」

 

「「やったー!」」

 

2人とも声を揃えて喜んでいた。

 

「.......リョーマさん嬉しそうですね。」

 

何故かチノにジト目で見られた。

 

「あ!そうだ!兄貴、知ってるか?チノってば学校以外では兄貴のことリョーマさんって呼ぶけど学校の時だけお兄ty「わーーーーーーーーー!わーーーーーーーー!」」

 

「うわ!なんだ!?どうしたチノ!」

 

突然チノが今まで聞いたことない声量でマヤの言葉を遮った。

 

「マヤさん!!!」

 

「おっと。これは秘密だったんだ。兄貴、今のは忘れてくれ。」

 

「は、はぁーわかった。」

 

何だったんだろう?何故かチノは今までで一番顔を赤くしてるし、あまり詮索しないほうがいいかな。

 

「じゃあ私たちそろそろ帰るよ。兄貴、またなー!」

 

「お兄さんまた会おうね~。」

 

「ああ、またな。」

 

マヤとメグはそのまま帰って行った。

 

「さて俺たちも帰るかチノ?」

 

「........///////」

 

「チノ?」

 

「あの.....もうちょっとだけ....休憩してたいです////」

 

「そうか。わかった。」

 

さっき大声をだしてからずっと真っ赤だったのでもう少し休むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったな!」

 

「はい、私も楽しかったです!」

 

夕方になり、日も暮れそうだったのでラビットハウスに戻っている途中だ。道を歩いていると髪型を変えおしゃれな服を着ているリゼがいた。

 

「あれ?リゼさん?」

 

「は、はい!」

 

「と思ったら人違いでした、すみません。」

 

え?確かに普段とかなり違うが人違いするほどではないと思うが。

 

「でもさっきリゼさんって言ったら反応しましたよね?」

 

「ち、違います。私、ロゼというんです。聞き間違えただけです。」

 

「いや、お前リゼ「ロゼです。」」

 

「絶対リゼ「ロゼです。」」

 

「あの「ロゼです。」」

 

「........はい。」

 

顔は笑顔だがオーラが笑顔とは正反対だった。ここはリゼに合わせないとまずい!

 

「そうなんだ、実はロゼに似た人がうちの喫茶店にいるんだよ。」

 

「そうなんですか?是非行ってみたいですね。」

 

「ラビットハウスといいます。お待ちしてます。」

 

「ええ、いつか行くわ。それじゃ失礼しますね。」

 

そう言ってリゼはその場から去っていった。

 

「私、人見知りするんですがさっきの人は何故か普通に話せました。もしかして私、成長してるんでしょうか!?」

 

「あ、ああ......そうかも.......しれないな。」

 

俺は平然を装うので必死だった。

 

「さあ、もうすぐ日が暮れるから早く帰ろう?」

 

「はい!」

 

俺とチノは少し急いでラビットハウスに戻った。ちなみに翌日、リゼに昨日のことは絶対に誰にも言うなとめちゃくちゃ念を押された。

 

 

 

To be continued




今回はここで終わりです。
僕、もしかして迷走しかけてる?と思っている今日この頃です。
迷走していないことを願います。


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-15話- 妹が増えるとその分疲れる。

どうもP&Dです。
ゴールデンウィーク終わってから若干燃え尽き症候群になっちゃってます。
どうしよう(泣)
小説の方は大丈夫ですが。



学校の授業が終わり今日もラビットハウスでお仕事!そして今日もココアは補修!.......あいつ最近補修ばっかりだな。受験勉強の時みたいに鬼になってみっちりと面倒をまた見てやろうかと思ったのは俺だけの秘密だ。

 

「早く帰らないとチノが困るよな。」

 

俺はジョギングがてら走ってラビットハウスへ帰った。

 

 

 

 

少し遅れてしまったので俺はラビットハウスに戻ると急いで仕事の制服に着替え、仕事場へ向かった。するとそこにはリゼの制服を着たマヤとココアの制服を着たメグがいた。

 

「マヤ!メグ!どうしてここに?」

 

「あ!兄貴だ!」

 

「こんにちは〜。」

 

「ああ、こんにちは。それよりチノなんで2人がここに?」

 

話を聞いてみると、店が1人だとさすがにきつかったみたいでマヤとメグも手伝いたいと言ってたらしくここに2人がいたらしい。

 

「そうだったんだ。2人ともありがとな。」

 

そう言って2人の頭を撫でた。

 

「お〜!兄貴ってうちの兄貴より兄貴っぽいな!」

 

「なんだかすっごい癖になっちゃうね〜。」

 

「そうかな?実は幼馴染だけど妹みたいな子がいるからな、もしかしたらそれでかもしれないな。」

 

マヤとメグと話をしているとやっと補習を終えたココアが帰ってきた。

 

「遅れてごめんね!それよりチノちゃん、お兄ちゃん私の制服が無いんだけど知らない?」

 

そう言いながらココアはメグを見ると自分の制服を着ていることに気づき新人さん!?だの私リストラだ!とか言ってすごい慌てていたのですぐに説明してあげた。

 

「そうだったんだ。遅れて本当にごめんね。」

 

「なあ兄貴、この人は?」

 

「さっき言った幼馴染のココアだよ。」

 

「この人がお兄さんの妹さんなんだね〜。」

 

2人にココアの紹介をしていると、ココアが顔を膨らませながら何故か怒っていた。

 

「お兄ちゃん!私という妹がいながらなに勝手に妹増やしてるの!」

 

「俺から言ったんじゃないよ!」

 

「じゃあマヤちゃん!メグちゃん!お兄ちゃんの妹になったんだから私のことはお姉ちゃんって呼んで!」

 

「ココアは姉貴っていうより......」

 

「お友達かな?」

 

「もー!お兄ちゃんのバカー!」

 

「俺の所為!?」

 

何故かココアは俺にポカポカと叩いていた。

 

「すまない!部活な助っ人に駆り出されて遅れてしまった!」

 

遅れてしまったリゼが帰ってきた。すると、店内に見知らぬ2人がいることに、さらにココアと自分の制服を着ていることに驚いていた。

 

「リゼはまだ知らなかったな。チノと同じクラスメイトのマヤとメグだ。」

 

3人はお互い自己紹介をし合っていた。終わった後なんだかリゼが探し物をしているようだった。

 

「リゼ、何か探し物か?」

 

「ああ、私としたことがアレをなくしてしまったんだ。誰か見てないか?」

 

「もしかしてこのモデルガン?あとコンバットナイフも入ってたけどこっち?」

 

リゼ!とんでもない物失くしてるぞ!制服にあったからよかったけど店内だったらヤバかったぞ。

 

「おいリゼ。物騒なものをここに持ってくるなよ。」

 

「護身用なんだから仕方ないだろ。」

 

「だったらせめて失くさないで。」

 

失くしたら護身用もなにもないぞ。

 

「じゃあ今日は私たちが手伝うからさ、兄貴達はお客さんになって休んでてくれよ。」

 

「大丈夫なのか?」

 

「大丈夫!チノがいるからなんとかなるよ!」

 

まあチノがいれば大丈夫だと思うが.......職業体験って思えば2人のためになるかな。

 

「わかった。じゃあ2人ともあまりチノに迷惑をかけないようにな。」

 

「「はーい。」」

 

俺たちは3人を見守りながら席に座った。

 

「今日はリゼとココアと一緒にお客さんだな。」

 

「なんだか新鮮だな。」

 

「中学生なのにお手伝いなんて偉いよね!さすが私の妹達だよ!」

 

お友達だと言われてたことを言うとまた怒ると思い黙ったままマヤとメグの様子を見てみるとコーヒーカップを落としそうになったりレジでパニックになったりして結局チノがカバーすることになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

それからここ数日、よくマヤとメグがラビットハウスで手伝いをすることが多くなった。今回は俺も仕事に入りマヤとメグに色々教えてあげると早い段階で手伝いに慣れていた。

 

「兄貴ってすごい頼りになるよな!」

 

「本当だよね。私もお兄さんみたいな兄が欲しかったな〜。ココアちゃんとチノちゃんが羨ましいよ。」

 

「そうかな?いつも通りにしてるだけなんだけど。」

 

そんなやり取りをしていると、背後から私の妹達を取るなみたいなオーラを感じたので俺は敢えて振り向かないことにした。

 

「なあ兄貴!今日はここで泊まりたい!」

 

「私も!お兄さんともっとお話ししたい!」

 

「え!?でも両親はまだ知らないんだろ?」

 

「「大丈夫!もう許可は取ってるから!」」

 

まるで準備してきたかのようにハモりながら言ってきた。用意がいいなこの子達は。

 

「チノ、2人を今日ここに泊めてもいいかな?」

 

「ええ。いいですよ。」

 

「大丈夫だってさ。」

 

「やったー!じゃあ今日はいっぱい遊ぼうな!」

 

「私お兄さんとお話しいっぱいしたい!」

 

「じゃあ今日の仕事を頑張ろうな。」

 

「「はーい。」」

 

2人ともさっきよりなんだか張り切ってるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「おー!兄貴って料理もできるんだな!」

 

仕事を終えた俺たちはマヤ達と一緒に夕食を作っていた。

 

「ここに来る前に色々教えてもらったからな。頑張ればマヤもメグも料理が上手になると思うよ。」

 

「「そうかな?」」

 

2人とも料理を頑張ってみようみたいな表情だった。

 

「よし、完成だ。」

 

今日の夕食はハンバーグだ。マヤとメグは俺が作ったハンバーグに釘付けになり早く食べたいとすごい目で訴えていた。俺は急いで食卓に並べて席についた。

 

「「「「いただきます。」」」」

 

マヤとメグが一口食べるとすごいキラキラした目をしていた。

 

「これすごい美味しいな!」

 

「チノちゃんいつもこんな料理食べてたの?羨ましすぎるよ!」

 

「/////」

 

チノの顔が少し赤い。そしてそれを誤魔化すかのように食事を続けた。

 

「さすがチノの兄貴だな!」

 

「そうだよね〜。」

 

「だからお兄ちゃんじゃないです。」

 

「「え?でも学校ではむぐぅ!」」

 

何故かチノは慌てて2人の口を塞いだ。

 

「まだハンバーグのおかわりあるからたくさん食べてね。」

 

「「はーい!」」

 

俺たちは食事を続けたが20分もかからずにおかわりのハンバーグがなくなった。よほど絶賛だったようだ。

 

 

 

 

 

食事を終え、風呂も済ませ今はチノの部屋に集まり会話を楽しんでいた。

 

「チノと兄貴と一緒に泊まれるのってすごい楽しみだな!」

 

「そうだね〜、私もすごい楽しみだよ!」

 

「なあなあ、チノと兄貴っていつも一緒に寝てるの?」

 

「いや、今まで2回しか寝たことないよ。」

 

「ねえチノちゃん、お兄さんと寝るとどんな感じなの?」

 

「それは........その.....すごく安心します/////」

 

恥ずかしそうにチノはメグの質問に答えていた。

 

「なら今日は4人で寝ようか?」

 

俺がそう言うと3人は1秒もたたずに一緒に寝てほしいと即答していた。

 

「じゃあチノ、今日も腕枕してあげようか?」

 

「え!?チノちゃん腕枕してくれてるの?」

 

「そうなのか!?」

 

「あ、あの.......はい////」

 

同級生に知られたのが恥ずかしいのか枕で顔を埋もらせていた。

 

「マヤとメグにもしてあげようか?」

 

「「いいの!?」」

 

めちゃくちゃ顔を近づけながら聞いてきた。俺が承諾すると2人ともすごく喜んでいた。

 

「さあ、今日はもう寝よう?」

 

「兄貴!早く隣で腕枕してくれ!」

 

「私もしてほしい!」

 

「わ、私もしてほしいです。」

 

残念ながら俺の腕は2本しかないのでじゃんけんで決めることになった。

 

「勝っても負けても恨みっこ無しだぞ。」

 

「分かってます。」

 

「じゃあいくよ!じゃんけんポン!」

 

結果.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで私が.......」

 

じゃんけんの結果チノが隣になれなかったみたいだ。よほどショックなのかベッドの隅で縮こまっていた。

 

「隣にはなれなかったけど腕枕はできるんだからいいだろ?また今度してあげるからさ。」

 

「.......本当ですか?」

 

「もちろん!」

 

「約束ですよ?」

 

「わかった、だから今日は我慢してくれ。」

 

今度また腕枕してあげることを条件に今日はなんとか我慢してくれた。

 

「よし、寝るぞ。」

 

俺たちはベッドに入り右腕にマヤ、左腕にメグ、その奥にチノが寝ることになった。

 

「ふわ〜、兄貴の腕枕すごい癖になるな〜。」

 

「本当だね〜。これじゃすぐに寝ちゃうよ。」

 

「喜んでくれて嬉しいよ。」

 

「チノちゃんが本当に羨ましいよ。」

 

「そうですか?」

 

「うん!本当に羨ましいよ。私もお兄さんみたいなお兄ちゃんが欲しかったなー。」

 

「じゃあ今だけは.........私達3人だけのお兄ちゃんですね/////」

 

「おー!チノちゃんが珍しいこと言ってる!」

 

「チノってば兄貴の前だと少し表情が明るくなるよな。」

 

「そんなことないですよ////私はいつも平常心です////」

 

顔を赤くしながら平常心とか言ってもな〜と思ったが言わないでおいた。

 

「さあ、明日学校なんだろ?早く寝るよ。」

 

俺はそう言ってみんなと就寝についた。翌日の朝、ココアがチノの部屋に入るとそこには俺に腕枕をしてくれている3人を見て、めちゃくちゃ問い詰められることになるとはこの時の俺はまだ知らなかった。

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
気づけばお気に入り100件まで目前!
これからも頑張ります!!!!!


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[お気に入り100件記念] 少し昔話をしよう。

どうもP&Dです。
お気に入り件数100件突破しました!
いつも読んでくださり本当にありがとうございます。
さて、今回はお気に入り100件を記念した完全オリジナルの話となります。
内容はリョーマとココアが初めて出会った頃の話になります。
初めての完全オリジナルなので僕の創造の塊です。ん?と思ってしまうところがあるかもしれません。
それでも全然OKという方はぜひ読んでくれると嬉しいです。
話が少し長くなりました、ではどうぞ。


休日の朝、目覚まし時計のアラームをオフにしてカーテンを開いた。今日もいい天気だ!俺はそう思いながらしばらく窓から街の景色を眺めた後、ふと机の方に目を向けると1冊のアルバムがあった。

 

「.....懐かしいな。」

 

アルバムを開くと中には、まだ小さい時の俺とココアの写真がたくさん並べられていた。俺は懐かしい思いに浸りながらアルバムを見ていると、チノが俺の部屋に入って来た。

 

「リョーマさん、おはようございます。」

 

「おはよう、チノ。」

 

「何を見てるんですか?」

 

「俺とココアが小さい時のアルバムだよ。」

 

「私も見ていいですか?」

 

「いいよ。」

 

俺はそう言い、チノにアルバムを見せると興味津々といった表情をしていた。

 

「2人ともすごくかわいいですね。」

 

「ありがとう。」

 

「そうだ!リョーマさんとココアさんが初めて出会った頃の話を聞かせてくれませんか?」

 

「もちろん!」

 

俺は昔を思い出しながらチノに俺がココアと出会った時のことを話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

小学校に入学してから数か月、俺は小学校生活をとても楽しんでいた。

 

「おかえり!」

 

「おかえりなさい!」

 

「ねえ父さん見て!今日テストで100点取ったよ!」

 

「お!よく頑張ったな!偉いぞリョーマ!」

 

父さんはそう言いながら俺の頭を撫でてくれた。テストで100点を取るとご褒美に頭を撫でてくれるので俺はこれが大好きだった。ちなみに母さんからは思いっきりハグをしてくれるのだ。

 

「そうだ!今日はお前に会わせたい子がいるんだ。」

 

「?会わせたい子?」

 

「ああ、お前の1つ年下の女の子だ。」

 

小学校に友達はたくさんいたが、女の子の友達はいなかったので少し緊張したが、友達が増えるならいいかとすぐに前向きになり父さんの言う会わせたい子に会うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

少し遠い所にいるのかと思えば歩いて1分も経たずに着いたことに呆然としてしまったのは俺だけの秘密で、家の外観は見るからにパン屋だった。看板に保登ベーカリーって書いてあるし。

 

「ここ?」

 

「そうだ、行くぞ。」

 

父さんについて行き家の中に入るとそこにはその女の子の母親と思われる人がいた。

 

「あら!いらっしゃい!」

 

「こんにちは。」

 

ここに来る前に聞いた話だと2人はとても仲良しで母さんとも仲が良いらしい。2人が少し世間話をした後父さんが本題に入った。

 

「今日はこの子にココアを会わせたいんだが。」

 

「もちろんいいわよ、あなたがリョーマ君ね。よろしくね!」

 

「よろしくおねがいします、おばさん。」

 

おばさんはそう言いながら俺を抱きしめていた。なんだか母さんとすごく似ていたのですぐに親近感が湧いた。

 

「連れてくるからちょっと待っててね!」

 

少し待っていると、小さい女の子をおばさんが手を繋いで連れてきた。

 

「お待たせ。リョーマ君、この子がココアよ。」

 

「俺はリョーマだよ。よろしくなココア。」

 

「リョーマ?......うーん、お兄ちゃんって呼んでいい?」

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

いきなりお兄ちゃんと呼ばれて少し驚いたが、別に嫌な気持ちは全然しなかったのでそう呼んでもらおうと思った。

 

「もちろんいいよ。」

 

「やったー!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

 

ココアはとても嬉しそうにぴょんぴょんとジャンプしながらお兄ちゃんと連呼していた。

 

「お兄ちゃん!遊んで!」

 

「うん、いいよ。遊ぼうか。」

 

「えへへ〜。」

 

これが俺とココアの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

学校から帰ってくると、家にはココアがいた。ココアと出会ってからはよくうちに遊びに来るようになり、俺が帰ってきたと分かると嬉しそうに玄関に迎えにきた。

 

「あ!お兄ちゃんお帰り!ねえねえ今日も遊んで!」

 

「あー、ごめんな。今から勉強しないといけないんだ。」

 

「え!?遊んでくれないの?」

 

「ごめんな、勉強が終わったら遊んであげるから。」

 

「む〜、終わったら絶対遊んでね?」

 

「わかった。だからちょっと待っててね。」

 

俺はそう言ってココアの頭を撫でた。最近ココアは俺にベッタリだ。俺は元々1人っ子だから妹ができたみたいで俺もすごく嬉しかった。

 

「えへへ〜、お兄ちゃんのなでなですごく好き!」

 

「そう?」

 

「うん!あとハグも大好き!」

 

テストで100点を取ると、父さんと母さんがよくハグや頭を撫でてくれてたので、それを真似てココアにしてあげると満面の笑みで喜んでいたので、よくこうしてスキンシップを取っていた。

 

「じゃあ勉強するからちょっと待っててね。」

 

「うん!」

 

俺は自分の部屋に向かい宿題に取り組み始めた。しかし、しばらくしてココアが早く遊んで欲しそうな顔で定期的に俺の部屋へ覗きに来ていたので、しょうがないなと思い宿題は夜にすることにして、宿題が終わったと嘘をついてココアと遊んであげた。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

家に帰るといつもいるココアがいなかった。自分の部屋に行ってもいなかったので母さんに聞いてみることにした。

 

「母さん、ココア知らない?」

 

「ココアは今日熱を出しちゃったらしくて家で寝てるって聞いたわ。」

 

「え!?そうなの?ちょっとココアの家に行ってくる!」

 

俺は慌ててココアの家へ向かった。

 

「おばさん!ココアが熱を出したって聞いたんだけど!」

 

「あら?リョーマ君。ココアなら部屋で寝てるわ。熱はそんなに高くなかったから今日1日安静にしていれば治ると思うわ。」

 

「じゃあ今日は俺が看病するよ!」

 

「あら?看病してくれるの?じゃあおねがいしようかしら。」

 

「まかせて!」

 

俺はココアの部屋に入ると、ベッドに横になっているココアがいた。俺が来たと分かると嬉しそうな顔で体を起こした。

 

「お兄ちゃん来てくれたの?」

 

「うん、ココアが熱を出したって聞いたから。」

 

「ありがとー。でもお熱はそんなに高くないってお母さんが言ってたからすぐ治るよ。」

 

喋る調子からするとおばさんの言った通り、高熱ではないとわかったのでとても安心した。

 

「そうだ!おばさんに手伝ってもらってお粥を作ってきてあげるよ。」

 

「ほんと!?」

 

「だから良い子で待ってて。」

 

「うん!お兄ちゃんありがとう!」

 

ココアはすごく嬉しそうに再びベッドに横になった。

 

「おばさん、ココアにお粥作ってあげたいんだけど手伝ってくれる?」

 

「あら?リョーマ君が?ええ、いいわよ!」

 

おばさんに手伝ってくれるか聞いてみると喜んで受け入れてくれた。

 

「今日は来てくれてありがとう。とっても助かったわ。」

 

「ココアが熱を出したんだもん当然だよ。」

 

「もうすっかりココアのお兄ちゃんね。」

 

「ほんとに?」

 

おばさんからお兄ちゃんのようだと言われた時、心の底から嬉しみを感じた。家では遊べる相手がいないからもしかしたら無意識のうちにココアのような妹が欲しかったんじゃないかと思った。

 

「さあ、できたわよ。これをココアの所へ持って行って。」

 

「うん、ありがとう!」

 

俺は少し小走りでココアの所へ向かった。

 

「ココア、お粥できたよ。」

 

部屋に入ると、ココアは早く食べたいといわんばかりの目でキラキラしながら見ていた。

 

「今日は食べさせてあげるよ。」

 

「いいの!?」

 

「もちろん、はいあーん。」

 

「あ~ん!」

 

ココアにお粥を食べさせるとすごく嬉しそうな顔で食べていた。

 

「すっごく美味しい!」

 

「そうか、よかった。」

 

「ねえねえもっと食べさせて!」

 

「しょうがないな、はいあーん、」

 

「あ〜ん!」

 

ココアがお粥を食べ終わるまでこのループが続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした!」

 

お粥も食べ終え熱もわずかだがさっきより下がっていたので寝かすことにした。

 

「よし、お粥も食べたしそろそろ寝てね。」

 

「ねえねえお兄ちゃん、今日一緒に寝て?」

 

「今日は安静にしないとだから1人で寝て。」

 

「やだやだー!一緒に寝たい!」

 

ココアはそう言いながらベッドの上でジタバタと駄々をこね始めた。一緒に寝ないと寝なさそうだし仕方ないか。

 

「わかった、一緒に寝てあげるからちゃんと寝るんだよ?」

 

「うん!ありがとうお兄ちゃん!」

 

ココアの横に入るととても嬉しそうにワクワクしていた。もしかしてこれって逆効果なんじゃ......と思ったが一緒に寝ると言ってしまったのでなんとかして寝かそうと意気込んだ。

 

「お兄ちゃんと一緒に寝るの初めてだね!」

 

「そういえばそうだな。これからもたまに一緒に寝るか?」

 

「いいの!?一緒に寝たい!そうだ!お兄ちゃん、頭なでなでして!」

 

「いいよ、今日のココアは甘えん坊さんだな。」

 

ココアの頭を撫でてあげるとふにゃふにゃの笑顔になりながらもっとしてほしいみたいな目で見られた。

 

「お兄ちゃん、これからもずっと一緒にいようね?」

 

「うん、ココアは俺の妹だからな。」

 

そう言うとココアはよほど嬉しかったのか勢いよく抱きついてきた。

 

「よしよし、安静にしないとだから今日はもう寝ようか?」

 

「うん!おやすみお兄ちゃん!」

 

「おやすみ。」

 

ココアと出会ってから毎日がとても楽しく思えてる。一緒に遊んだり一緒に寝たり。父さんに感謝しないとな、こんな楽しい日々がずっと続くといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、これが俺とココアの出会いだよ。」

 

「へぇー、昔のココアさんってすごい甘えん坊さんだったんですね。」

 

「今とあまり変わらないけどな。」

 

「でもそんなココアさんだったから今のココアさんがいるのかもしれませんね。」

 

「チノもこの時に出会ってたらココアみたいに甘えん坊さんになってたのかな?たまに腕枕してって甘えてくるし。」

 

「わ、私は甘えん坊さんじゃありません!私はいつもしっかりしてますから////」

 

そんな話をしているとココアが部屋に入ってきた。

 

「ねえねえお兄ちゃん、チノちゃんいい天気だしお散歩に行こうよ!」

 

「昔と変わってませんねココアさんは。散歩行きますか?」

 

「ああ、行こうか。よしココア、散歩に行くから準備するぞ。」

 

「うん!」

 

俺たちは急いで散歩の支度をし、街の散歩へ出かけた。開きっぱなしのアルバムには幼い2人が楽しそうに散歩をしている写真があった。




今回はここで終わりです。
いかがだったでしょうか?初めての完全オリジナルなので変なところがあったかもしれません。
ここが良かったとかここをもう少し工夫したらいいんじゃないかというところがあれば感想を書いていただければ嬉しいです。
ではまた次回お楽しみに!


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-16話- たまには2人だけで出かけるのもいいよな!

どうもP&Dです。
前から沁みていた歯がとうとう本格的に痛み出して昨日病院に行ったら即答で虫歯ですねと言われました。
麻酔怖い(泣)


ラビットハウスで仕事をしていたある日、ココアの実家から自家製ジャムが届いた。

 

「みんな!実家からジャムが届いたよ!」

 

「あ!ジャムか!実家のジャム久しぶりに見たな。」

 

「こんなにたくさん届いたんですね。」

 

「ココアの実家ってジャムも作るんだな。」

 

みんながジャムに興味津々になっているところ、ココアが突然スコーンを作って欲しいと言い出してきた。

 

「ねえお兄ちゃん!スコーン作ってよ!」

 

「え?スコーンを?」

 

「ココアさん、スコーンって何ですか?」

 

「パンとすごく似てるよ。焼く前にレーズンとかドライフルーツとかを混ぜて丸く焼いたら完成!お兄ちゃんの焼くスコーンすごくおいしいよ!」

 

ココアは俺の作るスコーンを絶賛していた。昔よく俺の作った菓子パンが食べたいと強請られたことがよくあったな。

 

「へぇー、リョーマってなんでもできるよな。」

 

「そうか?ありがとう。せっかくだしみんなで作ってみるか?」

 

「私、作ってみたいです!」

 

珍しくチノが進んで言ってきた。そのあとココアもリゼも作りたいと言ったので、スコーンの材料の準備をし4人でスコーンを作ることにした。

 

「なんだか前にみんなでパンを作ったのを思い出すね!」

 

「そうですね。」

 

「そういえばチノを初めてハグしたのもあの時だったな。」

 

チノも思い出したのか、みるみる赤くなっていった。

 

「は、恥ずかしいこと思い出させないでください!」

 

「でもチノちゃんあの時少し嬉しそうな顔してたけどね!」

 

「//////ぅわーーーーーー!!」

 

「おい!どこにいくんだ!スコーン作りは!?」

 

大きな声で叫びながらチノは自分の部屋へ駆け込んでしまった。この後なかなか部屋から出てこなかったのでスコーン作りが始まるのに結構時間がかかってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、時間が経ってしまったけど早速始めるぞ。」

 

俺の合図でスコーン作りが始まった。ココアは何度か作ったことがあったので苦戦はしなかったがリゼとチノは初めてだったので少し苦戦していた。

 

「チノ、大丈夫か?」

 

「少し難しいです。」

 

「パンの作り方とほとんど同じだから、パン作りの時のことを思い出しながらやればいいと思うよ。」

 

「わ、わかりました、やってみます////」

 

なんだか余計なことを思い出してしまったみたいな顔をしていた。

 

「リゼは.....ってなんでそんなにドロドロなんだ!?」

 

リゼの作っているところを見てみると明らかに小麦粉の量が違っていた。

 

「わからない、なぜか固まらないんだ。」

 

計量機の記録を見てみると小麦粉の時だけ桁数が1つ少なかった。リゼに言ってあげると恥ずかしそうにしており少しポンコツみたいなところが出たが、小麦粉の量を足すと普通に固まっていった。

 

「よし、みんな固まったな。前みたいな鮭とか梅とかは無しにして今回はレーズンを入れよう。」

 

あの時(6話参照)は食欲が全然そそらなかったからな。今回は普通でいくことにし、オーブンへ生地を運んだ。

 

「パンが焼けていくところはいつ見てもいいですね。」

 

チノはパンを焼くときはいつもオーブンに釘付けになる。前に釘付けになっている時に首をちょんと突いたらものすごいびっくりして怒られたがあの時はかわいかったな。

 

「よし、焼けたな。」

 

スコーンを完成し、チノとリゼに見せてあげると目を輝かせており早く食べたそうな顔をしていた。テーブルに並べさっそく食べてみるとみんな美味しそうに食べていた。

 

「スコーンって美味しいな!リョーマってなんでもできてすごいな。」

 

「リョーマさんが作ったスコーンが1番美味しいです!」

 

「やっぱりお兄ちゃんが作るパンは美味しいね!」

 

まだ食べたそうな顔をしていたので追加で作ってあげることにした。追加で作ったはいいがその追加分もあっさりと平らげられたので嬉しい気持ちもあったが驚きの気持ちもあった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、仕事をしようとするとチノから俺とココアは今日は休んでいいのでどこかへ出かけてほしいと言われた。何故かを聞いても、秘密ですの一点張りだったので俺はココアと出かけることにした。

 

「お兄ちゃんと2人だけでお出かけっていつ以来かな?」

 

「本当に久しぶりだな。」

 

「なんでかわからないけどせっかく休みもらったんだから今日はいっぱい遊ぼうね?」

 

ココアはスキップをしながら街を歩きだした。とても上機嫌のようだ。

 

「じゃあまずどこに行きたい?」

 

ココアに聞いてみると、少し考え甘兎庵に行きたいと言い出した。俺は行きたい所が思いつかなかったのでココアの提案に乗ることにした。

 

「あら!いらっしゃい!」

 

甘兎庵に入るとチヤが笑顔で迎えてくれた。何故この時間に?見たいな顔をしていたがラビットハウスでの出来事を話すとチヤも不思議そうな顔をしていた。

 

「そうだったの。チノちゃん何か隠し事でもしてるのかしら?」

 

「も、もしかして!新しいお姉ちゃんができたとか!?それで私たちに隠して目一杯甘えてるとか!?」

 

「いや、それはないだろ。」

 

ココアはああなんじゃないか、こうなんじゃないかとすごい慌てていたが俺はそのままココアを引きずってテーブル席へ座りそのままチヤに注文をした。

 

「む〜、もし本当にチノちゃんに新しいお姉ちゃんができてたらお説教だね!」

 

「なんでそうなるんだよ。まあ、帰ってから聞けばわかることだし今は気にしなくていいんじゃないか?」

 

「それもそうだね。今はお兄ちゃんとのお出かけを楽しもう!」

 

「2人ともおまたせ!」

 

チヤが注文したものを持ってきてくれた。

 

「チヤが作る和菓子はいつ見ても美味しそうだな。」

 

「ありがとうリョーマ君。」

 

「チヤちゃんは将来絶対良い奥さんになるよ!」

 

「そうかしら?嬉しいわ!」

 

「間違いないな。こんな美味しい和菓子が作れるんだ。立派な奥さんになれるよ。」

 

「そ、そう?.....////わ、私まだ仕事があるから失礼するわね////」

 

そそくさとチヤは仕事に戻ってしまった。

 

「じゃあいただくか。」

 

「そうだね!あ!お兄ちゃん、せっかくだから食べさせて!」

 

「もうそんな年じゃないだろ?」

 

「いいじゃん!小さい頃はよく食べさせてくれたでしょ!」

 

「高校生になったんだから自分で食べろよ。」

 

「お願い食べさせて!お願いお願い!」

 

頬を膨らませながら駄々をこね始めた。本当に高校生だよな?

 

「仕方ないな。ほら口開けて。」

 

「やったー!あ~ん!」

 

ココアはとても美味しそうに食べていた。この街に来てからなんだかだんだん我儘な甘えん坊になってきている気がする。小さい頃からそうだったが。

 

「さて、俺も食べるか。」

 

1口食べてみたが、相変わらずとても美味しかった。ココアはまた食べさせてほしいみたいな顔をしていたが俺は見なかったことにして食べ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、美味しかったな!」

 

「ねえお兄ちゃん、次はお買い物に行きたい!」

 

どんな買い物なのか聞いてみるとアクセサリーショップに行きたいと言っていた。

 

「よし!じゃあ行くか!」

 

「うん!」

 

数十分歩きアクセサリーショップに着いた。店内にはネックレスやブレスレット、髪留めなどがあった。

 

「うわー!いろんなアクセサリーがあるね!」

 

「そうだな。よし!見て回るか!」

 

俺たちは店内のアクセサリーを見て回った。ココアはいろんな物を手に取りどれがいいか葛藤していた。

 

「いろんな物があるんだな。」

 

俺はココアとは違う所を見て回っていると桜のようなピンク色の花の髪留めが目に留まった。

 

「...........。」

 

俺は無意識にその髪留めを手に取りココアの所へ持って行った。

 

「ココア、この髪留めつけてみてくれないか?」

 

「え?この髪留めを?」

 

「うん、何故かわからないけどココアにすごく似合いそうな気がして。」

 

ココアはその髪留めを受け取り、自分の髪に付けた。見てみると予想以上に似合っており、とても可愛く思えた。

 

「どうかな?」

 

「うん、思った以上に可愛い。ほら、鏡で見てみろよ。」

 

ココアをスタンドミラーの前に立たせて見せてあげると自分でも少し驚いた様子でほんの少し頬を赤らめ、髪留めを付けた自分の姿をしばらく見ていた。

 

「......私、これにする!」

 

「え?それでいいのか?他にもいろんな髪留めがあったぞ。」

 

「ううん、これがいい!...........絶対にこれが/////

 

「そうか、じゃあそれ買ってあげるよ。」

 

「え?いいの?」

 

「ああ、すごい似合ってたからな。俺に買わせて。」

 

「ありがとうお兄ちゃん////」

 

ココアが気に入った髪留めを買ってあげると早速ココアがその髪留めを付け店を出た。ラビットハウスに帰るまでココアは少し顔を赤くしていたが出かける前よりもすごい上機嫌だった。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

「ココアさん、リョーマさんお帰りなさい。」

 

ラビットハウスに入るとチノが迎えてくれた。

 

「ごめんな、留守にしちゃって。」

 

「いえ、私から言ったので気にしないでください。......えっと、それでですね。」

 

チノは何かを言いたそうにそわそわしていた。

 

「これ作ったんです!食べてみてください!」

 

渡された物を見てみると昨日作ったものと同じ、スコーンだった。訳を聞いてみると俺たちを出かけさせてる間にスコーンを作り驚かせたかったらしい。

 

「そうだったんだ.、ありがとうチノ。食べていいか?」

 

「はい、どうぞ!」

 

1口食べてみると昨日よりはるかに美味しかった。チノは上手くできたかどうか不安な様子だった。

 

「すごく美味しいよ!たった1日だけだったなのによくできたね。」

 

俺が味の感想を言うと、チノの顔の緊張が一気に緩みとても安心した表情だった。

 

「ねえねえ、私も食べていい?」

 

「ええ、いいですよ。」

 

ココアもスコーンを食べてみると美味しそうに食べており、どうやらココアも好評みたいだ。

 

「とっても美味しいよチノちゃん!」

 

「喜んでくれて良かったです////」

 

「そうだ!今日せっかくチノがスコーンを作ってくれたから、今日を『妹が兄のために記念日』にしようか。」

 

「じゃあ私、『妹がお姉ちゃんのために記念日』にする!」

 

「や、やめてください!それに妹じゃないです!」

 

チノが慌てて止めに入った。俺たちの記念日騒動が治まった後チノがココアの付けている髪留めに目が留まった。

 

「ココアさん、その髪留めどうしたんですか?」

 

「これ?お兄ちゃんが買ってくれたんだ!」

 

「すごい似合ってたからな。」

 

「ええ、とても似合ってます。」

 

「大切にするね!お兄ちゃん!」

 

ココアは嬉しそうに髪留めに手を当てた。気に入ってくれたようで良かった。

 

「あと2時間くらい時間あるし仕事するか!」

 

「そうだね!よし!あと少し頑張ろー!」

 

俺たちは残りの仕事に取り組み始めた。嬉しそうに仕事をしているココアの笑顔と髪留めが相まって髪留めがとても輝いているように見えた。

 

 

To be continued




今回はここで終わりです。
ちょっと歯医者のトラウマが蘇りそうな今日この頃です。
皆さん虫歯には気をつけて!


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-17話- 隠し事は誰にでもある..........多分。

どうもP&Dです。
最近全然眠れなくていつも夜中の3時頃になってやっと眠れます。
やっぱりこういう時って睡眠導入剤とかを飲んだ方が良いんでしょうか?


俺とリゼは今、明日行うパン祭りに向けてチラシ配りをしていた。きっかけは前に食べたスコーンがきっかけでココアがパン祭りがしたいと言い出したのだ。ちなみにチノとココアはラビットハウスで明日のパンの準備をしている。

 

「ココアっていつも唐突に言いだすよな。悪い気はしないけど。」

 

「まあリョーマの作るパンは美味しいからな。」

 

「そうか?まあ前に作ったスコーン、リゼが一番多く食べてたからな。夢中になりながら。」

 

「そ、その話はやめろ!!」

 

「おい!こんな所で拳銃出すな!」

 

リゼはポケットから拳銃を出そうとしていたので慌てて止めた。こんな所で他の人に見られたら洒落にならない。

 

「はぁ〜なんか変な疲れが出た。」

 

「誰のせいだ!誰の!」

 

「こんな所で騒いでもしょうがないし早くチラシを配ろう。」

 

変な神経を使って少し疲れてしまったが、チラシ配りを再開した。配っている途中近くにフルールの制服を着ているシャロが俺たちと同じチラシ配りをしているのが見えた。

 

「あれ?シャロか?」

 

「あ!リョーマ先輩、こんにちは!」

 

「こんにちは。シャロもチラシ配りか?」

 

「リョーマ先輩もですか?」

 

「ああ、明日ラビットハウスでパン祭りをするんだよ。シャロも来るか?」

 

「行きたいんですけど、その日はバイトが入ってて。」

 

シャロは絶好の機会を逃してしまったかのような表情だった。パン祭りが終わったらシャロにパンを作って持って行ってあげようかな。

 

「おーいリョーマ!私の分のチラシ暮らし配り手伝ってくれないか?」

 

チラシ配りに手こずっていたリゼが手伝って欲しそうに俺の所へ駆けてきた。

 

「え?リゼ先輩も!?」

 

「あれ?シャロ?シャロもチラシ配りか?」

 

「はい、フルールのチラシ配りです。」

 

少しシャロと世間話をした。最近はバイトで忙しいだのチヤの家に入るといつもあんこに噛み付かれて困っているだの愚痴を話していた。

 

「なあシャロ、パン祭りが終わったら近いうちにパン作って持って行ってあげるよ。」

 

「え?いいんですか!?」

 

「もちろん!何のパンがいいかな?」

 

「じゃあメロンパンが食べたいです!」

 

「シャロってメロンパンが好きなのか?」

 

リゼがシャロに聞くともちろんです!と言わんばかりの表情で頷いていた。

 

「わかった。それじゃメロンパン多めに作っておくよ。」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「それじゃ俺たちは向こうの方でチラシ配ってくるよ。」

 

「わかりました。頑張ってください!」

 

俺とリゼは再びチラシ配りを再開した。リゼの分のチラシを少し分けてもらい街を歩く人々に配っていると先日会った青山さんに出会った。

 

「リョーマさん、こんにちは。」

 

「青山さん、こんにちは。今日もネタ探しの彷徨いですか?」

 

「はい、この街はたくさんのネタがありますからね。ところでさっきロップイヤーを付けた方からチラシをもらったんですけど.....。」

 

そう言いながら青山さんはシャロからもらったのであろうチラシを俺に見せてきた。

 

「この店はいかがわしいお店なんでしょうか?」

 

「普通の健全なハーブの喫茶店です!ご心配なく!」

 

なんだろう、この光景どこかで見たぞ。というよりこのフルールのチラシ、少し変えた方がいいんじゃないか?

 

「なるほど....耳を付けた少女たちを拝みながらお茶をする。こういった趣向もあるんですね。」

 

「お、拝むって.....。」

 

青山さんって普通の人と比べて考え方や見方が少しズレているのでは?と思う自分がいた。青山さんはチラシを見ながら機会があったら行ってみようと意気込んだ後、再びネタ探しへ行ってしまった。

 

「さてと、チラシ配り続けるか。」

 

チラシ配りを再開しようとした途端、ココアとチノが慌てて俺たちの所へ走って来た。

 

「お兄ちゃん!リゼちゃん!チラシ配りストップ!」

 

「どうしたココア?」

 

「はぁはぁ、ごめんお兄ちゃん。ラビットハウスのスペル間違えちゃった!」

 

「何!?」

 

チラシのラビットハウスのスペルを見てみるとHouseがHorseになっていた。『うさぎうま』って何?ケンタウロスの類か?そう突っ込まずにはいられなかった。

 

「仕方ないな、残りは書き直して配るか。」

 

そう言った直後、強い風が吹き持っていたチラシ全てが飛んで行ってしまい、俺たちは慌てて急いでチラシの回収に向かった。回収してる最中、木に引っかかったチラシを取るためにココアが土台になりチノがその上に乗りチラシを取ろうとしていた。なんだかチラシの文字通りになっている感じだった。

 

「チノ、大丈夫か?俺が代わりに取ろうか?」

 

「いえ、大丈夫です。あと少しで取れそうなので。」

 

「お兄ちゃん!私の心配は!?」

 

「.....スペルを間違えたお前が悪い。」

 

「うぅ~お兄ちゃんが冷たいよ~。」

 

ココアは明らかなウソ泣きで落ち込む素振りをしていたが、俺は見なかったことにしてチラシを回収した。

 

「あ!大きい虫が落ちました。」

 

チノがもう少しで木に引っかかったチラシを取れそうになった瞬間、近くにいた虫が落ちてしまいタイミング悪くリゼの頭の上に着地した。

 

「キャーーーーーーー!!なんてことを!」

 

リゼは頭に落ちた虫に驚き、怖さのあまりしゃがみこんでしまった。

 

「リゼ、お前虫苦手なのか?てっきりキャンプやサバイバル系で慣れてると思ってたけど。」

 

「そ、そんなこと言ってないで早く取ってくれ!」

 

リゼはもう半泣き状態だった。俺は急いで虫を払ってあげたがリゼは立ち上がろうとしなかった。

 

「リゼ?立たないのか?」

 

「ごめん.....腰を抜かして立てない。」

 

「しょうがないな。」

 

「リ、リョーマ!?何を!?」

 

「腰抜かして立てないんだろ?そこのベンチまで運んであげるよ。」

 

俺はリゼの腰を支えながら、近くのベンチまで運んであげた。

 

「あ、ありがとう///」

 

「どういたしまして、なんか顔赤いぞ?熱でもあるのか?」

 

俺はリゼのおでこに手を当てると顔がますます赤くなっていき、されるがまま状態になっていた。

 

「さっきより赤いぞ?やっぱり熱があるんじゃ。」

 

「だ、大丈夫だ!心配いらない!は、早くチラシ回収するぞ!」

 

そう言ってリゼはチラシ回収に向かった。耳まで赤くしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スペルの誤字を修正し、全てのチラシを配り終えたので俺たちは今ラビットハウスへ戻っているところだ。

 

「スペル間違えて本当にごめんね。」

 

「だからいつも勉強しろって言っただろ?」

 

「だって文系苦手なんだもん。」

 

「よし、しばらく文系特訓するか!」

 

俺がそう言うとココアは受験勉強の時のことを思い出したのか、急に顔が青ざめ始めた。

 

「ヤダ!あの時は本当に辛かったからヤダ!」

 

「でもその日の特訓が終わった後はいつもハグしてあげてただろ?あ!もしかしてココアはもうハグは必要ないのかな〜?」

 

俺は少し挑発気味で言うと、ココアはすぐさま葛藤し始めた。

 

「う〜、特訓はイヤ、でもハグはしてほしい。あー!どうしようー!」

 

ハグして欲しさに悩むなんてすごい純粋な子だな。俺だったらハグがない代わりに特訓も無しにして自習で頑張るが。

 

「リョーマってココアの扱い上手いな。」

 

「伊達に幼馴染してないからな。」

 

「チノも特訓してもらったらどうだ?来年受験生だろ?」

 

「私は大丈夫ですよ。」

 

「でも特訓したらハグしてくれるみたいだぞ?」

 

リゼがそう言うとチノは言葉を発せず黙り込んでしまった。数秒後、考えておきますと言ったきり帰るまでずっと顔を赤くしながら俯いたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、昨日から準備していたパン祭りが始まった。チラシの効果があったようでたくさんのお客さん来てくれた。さらに俺の通ってる学校のクラスメイトの人たちまで来ていた。..........全員女子だが。

 

「このパン美味しいわね。」

「お母さん!このパンもっと食べたい!」

「この店すっごい気に入っちゃった!」

 

どうやらお客さんに大好評みたいだ。子供からお年寄りの人まで気に入ってくれたようですごく嬉しかった。

 

「このパン美味しい!これ本当に如月君が作ったの?」

 

「うん、上手く出来たか不安だったけど。」

 

「不安なんてする必要無いよ。すごく美味しいよ!ねえねえまた来てもいい?」

 

「もちろんいいよ。」

 

クラスメイトの人たちにも絶賛の嵐だった。こんなに美味しいと思ってくれるとは正直思ってなかったからその分の嬉しさもあった。俺はこの時嬉しさの気持ちでいっぱいだったので背後からの視線に気づかなかった。

 

「お兄ちゃん......あんなに女の子にデレデレして.......。」

 

「まあ作ったパンが美味しいって言われて嬉しい気持ちになるのはわかるからな、今だけは大目に見てやったらどうだ?」

 

「ふん.........お兄ちゃんのバカ。

 

ココアは俺がクラスの女の子と話しているのが気に入らなかったらしくずっと頬をふくらませながらヤキモチの目で俺を見ていた。

 

「いや〜こんなに喜んでくれるなんて思わなかったよ。パン祭りやって正解だったな。」

 

そう言いながら俺はリゼたちの所へ行くと、ココアにジト目で見られていることに気がついた。

 

「どうしたココア?俺の顔になんかついてる?」

 

「お兄ちゃんのバカ!」

 

「なんで!?俺何かした?」

 

「ふん!お兄ちゃんなんか知らない!」

 

俺が何かしたかを聞いてもココアは答えようとしなかった。それを見ていたリゼはやれやれといった表情だった。この後パン祭りが終わるまでココアが口を利いてくれなかったが、パン祭りが終わった後今日一緒に寝てくれたら許すと言われ、何が何だかわからなかったが俺が承諾するととても上機嫌になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、パン祭りを終えた俺たちはチヤとシャロにパン祭りのお裾分けを渡すために甘兎庵に向かっていた。

 

「パン祭り大成功だったね!」

 

「ああ、リョーマの作ったパンすごい好評だったな。」

 

「あそこまで気に入られるとは思ってなかったけどな。」

 

「あ!そうだお兄ちゃん!知ってた?パン祭りの時、チノちゃんずっとお兄ちゃんが作ったパンを食べたそうにしてたんだよ。」

 

「コ、ココアさん!なんでそれを言うんで.......は!リョーマさん違うんです!そんな顔してません!」

 

うっかり口を滑らしてしまった後、それを誤魔化そうとすごく慌てていた。

 

「そうだったんだ。じゃあ明日作ってあげるよ。」

 

「チノちゃんよかったね!」

 

「うぅ〜〜////」

 

そんな話をしながら甘兎庵に到着すると、ちょうどチヤが店から出てきた。

 

「あ!チヤちゃんこんばんは!」

 

「あら?みんなどうしたの?」

 

チヤにパン祭りのことを話しそのお裾分けを持ってきた事を話すととても嬉しそうな顔をしていた。

 

「まぁ!ありがとう!ごめんね仕事で行けなくて。」

 

「その分たくさん作ってきたから遠慮なく食べてくれ。」

 

「ありがとうリョーマ君。」

 

「あ!そうだ!シャロちゃんにもお裾分け渡したいんだけど、チヤちゃんシャロちゃんのお家知らない?」

 

「え!?え〜と......。」

 

チヤは突然言葉を詰まらせた。なんだかシャロの家の場所を隠そうとしているように見えた。しばらくシャロの家の場所を隠そうとするチヤと話をしていると隣の物置から誰かが出てきた。

 

「はぁ〜、夕飯の食材買い忘れちゃった。」

 

「「「「え!?」」」」

 

その物置から出てきたのはなんとシャロだった。シャロも俺たちの存在に気づくと驚いた顔のまま固まってしまった。

 

「な、なんで先輩たちが......」

 

「パン祭りのお裾分けに来たんだけど、シャロそこに住んでたのか?」

 

シャロはリゼと同じお嬢様ばかりの学校に通っていたからてっきりお嬢様なのかと思っていた。

 

「そうか!私の学校に特待生がいるって聞いてたけどシャロだったんだな。」

 

リゼは全てが繋がってすっきりしたみたいな顔をしていたが、それとは対照的にシャロは恥ずかしさでどうにかなりそうみたいな顔だった。

 

「シャロ、別に気にしなくてもいいと思うぞ。」

 

「え?」

 

俺がそう言うと少し驚いたような表情だった。

 

「だってお嬢様であろうとなかろうとシャロはシャロだろ?頑張り屋で気遣いができてさ。」

 

「幻滅したりしないんですか?」

 

「なんでする必要がある?」

 

「そうですか。なんだか安心しました。」

 

シャロはとてもホッとした顔をした。

 

「そうだ!せっかくだしフェアになるように、私の秘密を教えるよ。」

 

リゼはそう言ってシャロの耳元で何かを言っていた。するとシャロはそれわかるみたいな顔をしていた。

 

「あ!忘れてた。シャロ、これ昨日言ってたパンのお裾分け。メロンパン多めに入れてるよ。」

 

「ありがとうございます!これリョーマ先輩が作ったんですか?」

 

「うん、そうだけど。」

 

「やっぱりそうでしたか、すごく美味しそうな香りがしたので。」

 

今のシャロの顔はとてもワクワクした顔だった。住んでる場所がバレてしまった時と比べると随分落ち着いたようだ。

 

「それじゃ俺たちは戻るよ。パンで喉詰まらせないようにね。」

 

「わかりました。ありがとうございます!」

 

俺たちはチヤとシャロに挨拶をしラビットハウスへ帰路を歩いた。

 

「シャロさん、パンもらえて嬉しそうでしたね。」

 

「そうだね。でもシャロちゃん別に住んでる家隠さなくてもよかったのに。」

 

「バレたら幻滅されると思ったんだろう。誰だってそうすると思うよ。」

 

「それもそっか。よし!今からラビットハウスまで競争!」

 

「おい!ちょっと待てココア!」

 

ココアの号令でラビットハウスまで走って帰ることになった。走っている途中言い出しっぺのココアが転びそうになっていたのは誰にも言わないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たのもーーーー!」

 

翌日、仕事をしているととてもテンションの高いシャロとそれに付いて来ているチヤがいた。

 

「チヤ!シャロどうしたんだ?」

 

「昨日、家がバレたことが恥ずかしさのあまり耐えられなくなったみたいでヤケコーヒー巡りを勧めてみたの。ちなみにここで3件目よ。」

 

なんてもの勧めてるんだ!こうなったらシャロは中々手強いぞ。

 

「リョーマしぇんぱい!ハグさせてくだしゃい!」

 

「ちょっと待て!」

 

シャロは俺に有無を言わせず抱きついてきた。そのままシャロは俺の胸に頬ずりをし、とても安心しているような感じだった。

 

「もー!シャロちゃんばっかりずるい!私もハグしたい!」

 

「おい!その前にすることがあるだろ!」

 

ココアも俺の言ったことを聞かず勢いよく抱きついてきた。

 

「チヤ!助けてくれ!」

 

「せっかくだし写真撮らせて!」

 

「この事態を作った本人が何言ってる!」

 

チヤは俺の言ったことを聞かずはいチーズ!と言って写真を撮っていた。

 

「チノ!リゼ!助けて!」

 

「私コーヒーの補充してきます。」

 

「私は掃除をしてくるよ。」

 

「薄情者ー!」

 

2人は巻き込まれたくないがために理由をつけて離れていってしまった。

 

「えへへ〜、しぇんぱ〜い!」

 

俺はココアとシャロを引き剥がすのに苦戦しているとタイミング悪くお客さんが店内に入って一瞬誤解されたがすぐに説明してあげると誤解を解いてくれた。2人を引き剥がした後、店内ではハグ禁止令を出したが、ココアは嫌だと駄々をこねていたが俺は無視してそのまま仕事を始めた。

 

 

 

To be continued




今回はここで終わりです。
最近雨が多くなってきましたね。
梅雨嫌い!


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-18話- スランプは誰にでも訪れる。

どうもP&Dです。
初デートで映画館はダメって本当なんですかね?
友達と映画館はすごい楽しいですが。


「はぁ〜今日で4日目、新記録だな。」

 

学校が終わり、俺は今ラビットハウスへ帰る途中だ。ちなみに新記録とはココアが連続で補習になった日数のことだ。毎度毎度泣きながら補習を受け、いつも少し遅くなって帰ってくるんだが、なんとかならないものかな?

 

「兄貴ーー!」

 

後ろで声がしたので振り返ってみると満面の笑みでマヤが俺に飛びついてきた。思いっきり倒れそうになったがなんとか体勢を保てた。

 

「マヤ!?てことは。」

 

辺りを見渡すとチノとメグも俺の所へ向かってきた。

 

「マヤさん。いきなり飛びついたら危ないですよ。」

 

「だって兄貴がいたんだもん!チノもメグも抱きつこうぜ!」

 

「じゃあ私も〜!」

 

「ちょっとおい!」

 

そう言ってメグも俺に抱きついてきた。そのまましばらくの間、頭を撫でて欲しいとか、おんぶして欲しいとか言ってなかなか俺から離れてくれなかった。

 

「..........マヤさん!メグさん!リョーマさんが困ってるじゃないですか!早く離れてください!」

 

チノは少し不満そうに且つ少し羨ましそうな表情でマヤとメグを俺から引き剥がした。

 

「え〜!いいじゃん別に、減るもんじゃないんだからさ!あ!もしかしてチノだけハグできなくてヤキモチとか?」

 

「そ、そんなことないです!変なこと言わないでください//////」

 

「そういえばチノちゃん学校ではいつもお兄さんのことばっかりはなsむぐぅ!んーー!いひへひはい!(息できない!)」

 

メグが何かを言おうとした途端チノがメグの口を塞いだが鼻まで塞いでしまいメグが息できない状態だった。

 

「ぷはぁ!も〜チノちゃん恥ずかしがらなくていいのに。」

 

「なあ兄貴!今から一緒にどこか行こうよ!」

 

「え?今から?」

 

「うん!兄貴と一緒に出かけたことなかったから。」

 

今日はラビットハウスは休みだし帰ってもやることないからな。久しぶりに遊んで帰るか。

 

「わかった。じゃあ今から出かけようか。」

 

「やったー!あのな兄貴!この先に美味しいアイスクリーム屋があるんだ!」

 

「そういえばあったね〜。お兄さん早く行こ!」

 

俺はマヤとメグにそれぞれ片腕ずつ引っ張られながらアイスクリーム屋に連れていかれた。

 

 

 

「このアイスクリーム美味しいですね。」

 

「アイスクリーム久しぶりに食べたけど、確かに美味しいな。」

 

マヤの言っていたアイスクリーム屋に着きみんなでアイスクリームを食べたが予想以上に美味しかった。

 

「でしょ!この前食べた時すごい美味しかったんだ。」

 

「もっと早く来ればよかったね〜。」

 

アイスクリームを食べながらふとチノの方を見ると夢中になって気づいていないのか頬にアイスクリームがついていた。

 

「チノ、アイスクリームついてるよ。ちょっとジッとして。」

 

俺は少ししゃがんで頬についたアイスクリームを拭き取ってあげると、恥ずかしそうに俯いていた。

 

「あ、ありがとうございます///」

 

「溶ける前に早く食べよう。」

 

俺は少し急いでアイスクリームを食べた。

 

「チノ、兄貴に拭いてくれてる時なんだか嬉しそうだったな。」

 

「そうだね〜、チノちゃんお兄さんといる時だけ楽しそうな表情するもんね。」

 

マヤとメグはそう言っていたが俺とチノは聞こえることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄貴またな!」

 

「またね〜。」

 

アイスクリームを食べ終えた後、マヤとメグと別れチノと一緒にラビットハウスへ帰ることになった。

 

「アイスクリーム美味しかったな。」

 

「はい!とても美味しかったです!」

 

「また今度食べに行くか2人で。」

 

「え、2人でですか?」

 

「うん、嫌だったかな?」

 

「そんなことないです。また一緒に行きましょう。」

 

「そうだな。」

 

またリョーマさんと2人で.........えへへ////

 

チノは少し嬉しそうな顔になりながら歩いていた。すると突然紙飛行機がこっちに飛んできてチノの頭にコツンと当たりそのまま地面に落ちた。

 

「紙飛行機?なんで?」

 

「すみませーん、思わぬ方向へ飛んじゃいましたー!」

 

声のする方を見るとそこには走りながらこっちへ向かってくる青山さんがいた。

 

「青山さん、この紙飛行機、原稿用紙ですよね?いいんですか?こんなのに使って。」

 

俺がそう言うと青山さんは何か言いにくそうな顔をしていた。

 

「その.....実は辞めたんです、小説家。」

 

青山さんはそう言って紙飛行機を広げ『失職』という文字が書かれた原稿用紙を俺たちに見せた。

 

「「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」

 

俺たちはこれに驚かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ココアとリゼはまだ知らなかったな。小説家の青山さんだ。」

 

ココアとリゼに青山さんの紹介をし、青山さんが小説家をやめてしまったこと、そして就職先に困っていたらしくとりあえずラビットハウスに来てもらうことになったことを話した。

 

「懐かしいですね。昔と全然変わってません。」

 

青山さんは学生の頃の事を思い出してるのか、懐かしさに浸っている様子だった。しかしその後誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡していた。

 

「あの.....白いお髭のマスターさんはいらっしゃいませんか?久しぶりにお会いするので挨拶をしたいんですけど。」

 

あ....そうか。学生の頃はよく来ていたと言っていたが、俺がこの街に来てから青山さんがラビットハウスに来るところは見ていない。おじいさんが亡くなったのは知らないのか。

 

「えっと、青山さんが言ってるマスターは去年亡くなったんですよ。」

 

「え!?そうなんですか?」

 

俺がおじいさんが亡くなった事を話すと青山さんは今まで見たことないくらい動揺していた。

 

「そう....ですか。........亡くなったんですか........。」

 

とても信じられないという表情だった。長い間会ってなかったんだ、無理もない。

 

「青山さん!代わりにこの白いお髭をもふもふして心を癒してください!」

 

ココアはそう言ってティッピーを青山さんに渡していた。青山さんはティッピーを見ながら何かを思っている様子だった。おじいさんのことを考えてるのかな。

 

「私この子気に入りました!特に目を隠してるところがマスターさんにとても似ています!」

 

青山さんはティッピーを見てそう言っていた。少しだが落ち着いてきたみたいだ。

 

「そういえば青山さんはどうして小説家辞めたんですか?青山さんが書いた小説、とても人気があるって聞いたんですけど。」

 

「実はマスターさんから頂いた万年筆を失くしてしまってから全く筆が乗らなくて。」

 

なんとなくわかる気がする。手に馴染んだ物じゃないと上手くいかないことが俺にも昔あったからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく青山さんはラビットハウスで働くことになった。青山さんは自分にしかできないことは何かないかと言い少し考えた結果、お客さんの相談に乗ってあげたいと言っていた。それを聞いたココアは『人生相談窓口』という看板を立てていた。......看板にウサギの絵を描く必要はあったのか?

 

「いい感じだね!さすが私の力作!」

 

「すごく素敵ですね〜!ありがとうございますココアさん。」

 

青山さんはとても気に入っているようだった。

 

「そうだ!青山さん、早速お手紙が届いてましたよ!」

 

おそらくココアが書いたのだろう、青山さんは手紙を開き中身を音読し始めた。

 

「妹が野菜を食べてくれません。このままではいつまでも小さい妹のままです。そのままでもOKなんですけどピーマンが嫌いな子でも食べられる方法を教えてくれたら嬉しいです。これはお返事を書かなくてはなりませんね。」

 

するとチノはハッとし、青山さんが読んだ手紙を読むと顔を赤くし自分も用意していた手紙を青山さんに渡していた。

 

「わ、私もお手紙をもらってきました!自称姉が自分も嫌いな野菜を押し付けてきて困ってます!」

 

お互い直接言えばいいのにと思ったが俺も手紙を書いていたので青山さんに読んでもらおうと思った。

 

「青山さん、これは俺からの手紙です。」

 

「わかりました読みますね。えーと、妹が最近補習ばかりで困ってます。特訓をしようと言っても嫌だと言って聞きません。ここは心を鬼にした方がいいんでしょうか?ですか。」

 

青山さんは少し頭を悩ませた後。

 

「そうですね、無理矢理勉強させても逆効果でしょう。ですが甘やかし過ぎるのもいけませんね。心苦しいかもしれませんが時には心を鬼にした方がいいと思います。」

 

「そうですか。ありがとうございます。」

 

そう言ってココアの方へ向かうとチノを盾にして、ものすごく怯えているココアがいた。

 

「どうしたココア?そんなに怯えて。」

 

俺はわざと何もわからない振りをしてココアに近づいた。

 

「ヤダ!特訓はヤダ!」

 

「おい!逃げるな!」

 

「ヤダヤダヤダ!明日からちゃんと勉強頑張るから!補習にならないように頑張るから!」

 

「明日じゃなくて今だ!今を頑張った人に明日が来るんだよ!」

 

その日の夜、俺はココアの部屋で勉強の猛特訓を行った。ココアは半泣き状態だったが特訓のおかげか、しばらく補習になることはなかった。まあ特訓の後は思う存分ハグしてあげたから不満に思われることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、青山さんに万年筆をどこで失くしたのか聞いてみると俺とチノと初めて会った時に失くしたらしく俺は前にチノとクレープを食べた公園に行き、万年筆を探していた。

 

「ん〜無いな。チノそっちはどう?」

 

「こっちにもありません。」

 

万年筆を探し始めてから約2時間が経とうとしていた。今日は諦めて明日もう一度探そうと思った時、ティッピーが青山さんが失くした万年筆を持ってきていた。

 

「リョーマよ、これじゃ」

 

「あったんですね!よかった。」

 

万年筆が見つかった事をチノに話すとホッとした表情だった。

 

「さあ、早くこれをあの娘に渡してやっておくれ。」

 

俺はこのまま青山さんに渡してもいいと思ったが、ここはおじいさんが渡して励ましてあげた方が良いと思った。

 

「おじいさん。ここはおじいさんが渡した方が良いと思うんです。今の青山さんはおじいさんが亡くなった事を知ってショックを受けているはずなんです。だからこれはおじいさんから渡して青山さんを励ましてあげてくれませんか?」

 

「じゃが、今のわしが喋るわけには.......。」

 

「大丈夫ですよ。きっと天国からの言葉だって思うと思いますよ。」

 

「そうか。わかった、わしが渡そう。」

 

こうしておじいさんが青山さんに万年筆を渡すことが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじいちゃん大丈夫でしょうか.......。」

 

その日の夜、バータイムで働くことになった青山さんにおじいさんが万年筆を渡すことになり俺たちはおじいさんが戻ってくるのをチノの部屋で待っていた。

 

「多分大丈夫だよ。今頃励ましてる頃だと思うよ。」

 

そうやってチノと話しながら待っているとドタドタと階段を上がり勢いよくドアが開いた。見てみると青山さんがとても驚いた表情だった。

 

「ど、どうしたんですか!青山さん!」

 

「あ、あのリョーマさん!このぬいぐるみからマスターさんのお声が聞こえたんです!」

 

そう言って青山さんはそのぬいぐるみを見せてきた。しかしそれはティッピーではなく側にあったのであろう、ひよこのぬいぐるみだった。.........それじゃない!

 

「そ、そうなんですか。もしかしたら天国にいるおじいさんが青山さんに励ましに来てくれたのかもしれませんね。」

 

「き、きっとそうですよ。落ち込んでる青山さん励ましに来たんですよ。」

 

俺はそれじゃないと言いそうなったのをなんとか堪え平然を装った。

 

「そうなんでしょうか?でも久しぶりのマスターさんのお声.......とても嬉しかった。」

 

青山さんは目を閉じ始めた。きっとさっきのおじいさんの声を思い出しているのだろう。

 

「なんだか元気が出てきちゃいました!すみませんお騒がせして。私バーに戻りますね。」

 

「わかりました。頑張ってください。」

 

青山さんはさっきより元気そうに戻って行った。

 

「青山さん嬉しそうだったな。」

 

「そうですね。おじいちゃんに任せて良かったです。」

 

「そうだな。それじゃ俺はもう部屋に戻るよ。」

 

俺はチノに挨拶を交わし部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、万年筆が戻った青山さんは再び小説家に戻ったそうだ。バータイムの仕事にハマったらしく時々バーの方も手伝ってくれるようになった。

 

「青山さん、万年筆戻って良かったですね。」

 

「リョーマさんのおかげです。ありがとうございました。」

 

「どういたしまして。」

 

「何かお礼をしないといけませんね。」

 

「大丈夫ですよ。気にしなくて。」

 

「いえ、そういうわけには。そうですね........ではこうしましょう。リョーマさん、ちょっとこちらへ」

 

俺は青山さんに手招きをされたので近くに行くと、突然青山さんにぎゅっと抱きしめられた。

 

「え!?あの..........え///////」

 

「万年筆を見つけてくれたお礼です♪」

 

やばい何これ!?年下になら何回もハグしたことはあるけど年上の人、しかも女性にされるのは久しぶりでしかも年相応のむ、胸の感触が......な、なんて表現すればいいんだこれは!

 

「あのお兄ちゃんが顔真っ赤だよ!」

 

「あんなリョーマさん初めて見ました!」

 

「すみませんリョーマさん、これくらいしかできなくて。」

 

「い、いえ!あの.....えっと.......じゅ、充分.........で、です!」

 

ヤバイ!あまりの出来事で口が回らない!

 

「じゃあ俺仕事に戻りますね!」

 

俺は早歩きでその場を去った。その日1日中俺の顔は真っ赤でお客さんに熱でもあるの?と何回も聞かれ、挙げ句の果てには救急車まで呼ばれそうになるほどだった。

 

To be continued




今日はここで終わります。
最近なんだか1話分の文字数が増えてきている気がします。
なんだか嬉しいですね。


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-19話- 酔うと何が起きるかわからない。

どうもP&Dです。
最近朝食の時はめっちゃ食欲があるんですけど、夕食の時はあまり食欲がないんです。
病気じゃなければいいですけど。


夕方、俺とチノは夕食の材料を買いに行くためにスーパーに向かっていた。

 

「今日は何か安いものあったかな?」

 

「確か魚が安かったと思いますけど。」

 

俺は今日の夕食は魚を使おうと思ったがチノと一緒にいたので、せっかくだからチノの食べたいものを聞くことにした。

 

「なあチノ、今日の夕食何がいい?リクエスト聞くよ。」

 

「え?私が決めていいんですか?」

 

「うん、一緒に来てくれたお礼だからなんでもいいよ。」

 

チノは何にしようか少し真剣に悩んでいたが、リクエストが決まったのだろう目を若干キラキラしながら言ってきた。

 

「じゃあハンバーグが食べたいです!」

 

「ハンバーグがいいの?」

 

「はい!この前マヤさんとメグさんと一緒に食べた時、とても美味しかったので!」

 

「そういえばあの時、余分に作っておいた分もあっさりと平らげてたな。よしわかった!今日はハンバーグにしよう!」

 

「ありがとうございます!じゃあリョーマさん早くいきましょう!」

 

そう言ってチノは俺の腕を掴みスーパーへ走って行った。余程嬉しかったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

スーパーに着き店内へ入ると、チノは一目散に肉の販売コーナーへ走って行った。なんだか無邪気な子供を見ているみたいで微笑ましいな。

 

「リョーマさん!挽肉はここにあります!」

 

「そんなに慌てなくても挽肉は逃げないよ。」

 

「ハンバーグといえばソースもないといけませんね!ちょっとソースを取ってきます!」

 

多分俺が言ってることは聞こえていないのだろう、チノはそのまま調味料のコーナーへ行ってしまった。あんなに興奮してるチノを見るのは初めてだな。今日は多めに作ってあげるか。

 

「ん〜どの挽肉にしようかな?」

 

どれにしようか迷っていると、とても陽気な店員のおじさんがやってきた。

 

「いらっしゃい!お!にいちゃん!今日はハンバーグかい?」

 

「はい、今日はハンバーグが食べたいって言われたので。」

 

「そういえばさっきここでとてもテンションが高い嬢ちゃんがいたな。にいちゃんの妹さんかい?」

 

「いえ、僕が下宿させてもらっている所の娘さんですよ。」

 

「へぇ〜そうなのかい?てっきり兄妹かと思ったぞ。」

 

「あはは、よく言われます。」

 

青山さんと初めて会った時も兄妹と間違われたけど、俺とチノが並ぶとそんなに兄妹に見えるのかな?

 

「よし!サービスだ!少し値引きしてやるよ!」

 

「え?いいんですか?」

 

「いいんだよ!そのかわりに嬢ちゃんを喜ばしてやるんだぞ!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「毎度!また来てくれよ!」

 

俺はおじさんにお礼を言い買い物を続けた。

 

「挽肉と野菜は揃ったな。後はソースだけか。」

 

残りはソースだけとなったのでチノがいる調味料コーナーへ行こうとした時、チヤとシャロが一緒に買い物をしているのが目に入った。

 

「ふたりとも買い物か?」

 

「あら?リョーマ君じゃない、リョーマ君もお買い物なのね。」

 

「先輩は今日はハンバーグなんですね。」

 

「ああ、チノがハンバーグが食べたいって行ってたから。チヤたちは何を作るの?」

 

「私たちはシャロちゃんの家でカレーを作るのよ。」

 

チヤたちと話をしていると両手にソースを持ったチノが帰ってきた。

 

「リョーマさん、ソース取ってきました。あれ?チヤさんとシャロさんじゃないですか。」

 

「チノちゃんこんにちは。今日の夕食先輩が作るハンバーグみたいだけどそんなに美味しいの?」

 

「はい!とても美味しいです!」

 

「だったらシャロちゃんの家で食べない?ハンバーグカレーとか美味しそうだし。」

 

チヤの突然の提案に少し驚いたが、シャロはOKみたいだったのでチヤの提案に乗りココアとリゼも呼びシャロの家に集まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔します。」

 

シャロの家に上がり早速夕食の準備に取り掛かった。ハンバーグは俺が作り、カレーはリゼが作ることになった。

 

「今日はありがとうな。呼んでくれて。」

 

「人数は多いほうが楽しいからな。」

 

「それもそうだな。」

 

リゼと会話をしながら夕食を作っていると、ココアが台所へやってきた。

 

「お兄ちゃん!もうすぐできる?」

 

「ああ、あとちょっとだ。」

 

「わかった。それにしても2人で料理してるところを見てると何だか夫婦みたいだね!」

 

「ふ、夫婦!?」

 

夫婦という言葉を聞いたリゼは一気に真っ赤になっていった。

 

「リゼ、夫婦だってさ。」

 

「こ、こっち見るなバカ!」

 

「あぶな!包丁振り回すな!」

 

リゼは顔を見られたくないがために包丁を振り回していた。当たったらシャレにならん!

 

「はぁ~、とりあえず完成したし、持って行くか。」

 

「///////」

 

俺はリゼに声をかけても返事がなく無言で料理を持って行ってしまった。

 

「よし!揃ったし早速食べるか。」

 

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

「まあ!このハンバーグ美味しいわね!」

 

「流石先輩ですね!すごい美味しいです!」

 

どうやら皆に好評だったみたいだ。チノは目を輝かせながら夢中で食べている。

 

「リョーマさん!このハンバーグ美味しいです!」

 

「ありがとう。たくさんあるからね。」

 

「はい!」

 

「あのチノがここまで夢中になるなんてな、リョーマの料理はやっぱりすごいな。」

 

「今度コツを教えてあげるよ。と言っても教えられた通りに教えるだけなんだけどな。」

 

俺はそのまま夕食を食べていると、ココアとチノは嫌いな人参を隅に寄せて食べていた。

 

「おい!2人とも!ちゃんと人参も食べろ!」

 

「だって人参苦手なんだもん!」

 

「リョーマさん食べてください。」

 

「そんなこと言うんだったらもうハンバーグ作らないぞ。」

 

「!!!それは嫌です!!食べます!食べますからこれからも作ってください!」

 

「え!?う、うん。わかった。」

 

まさかここまで言われるとは全然思ってなかったので驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」」

 

夕食を終えた俺たちは食後の休憩がてら少し寛いでいた。

 

「そうだ!この前親父がチョコレート貰ったみたいなんだけど、甘いもの苦手だからってくれたんだ。今から食べようか。」

 

俺はリゼが持ってきてくれたチョコレートを食べた。とても濃厚な味で且つ少し苦味がありとても美味しかった。

 

「すごい美味しいなこれ!原材料何が使われてるのかな?」

 

俺は箱の裏に書かれている原材料に目を通した。半分くらい読んだ時にブランデーという文字が書かれていることに気がついた。

 

「みんな待て!これブランデー入ってる!」

 

「え!?お兄ちゃん大丈夫なの?」

 

「ああ、俺は大丈夫だけど他に食べた人いるか?」

 

「そういえばチノちゃんが2、3個食べてたような.......」

 

ココアに言われチノを見てみると顔が真っ赤だったが俯いており、表情が見えなかった。

 

「................ちゃ........」

 

「ん?大丈夫かチノ?」

 

チノはゆっくりと立ち上がり俺のところへ近づいて来た。

 

「お兄ちゃん!!!」

 

「「「「「えぇ!?」」」」」

 

チノはそのまま『お兄ちゃん』と叫び俺に抱きついて来た。皆は何事かといった顔で俺も何が起きたのかしばらくわからない状態だった。

 

「えへへ〜、お兄ちゃん大好きです///.」

 

チノは俺にしがみついたまま一切離れようとしなかった。

 

「チノちゃん大丈夫!?しっかりして!」

 

「むぅ〜何ですかココアさん?私のお兄ちゃんに近づかないでください!」

 

「な!?わ、私の!?お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだよ!」

 

「違います!ココアさんのじゃありません!お兄ちゃんは私のです!」

 

ダメだこれ、完全に酔ってる。ココアとチノはずっと言い合ってるし、他の皆はまだ状況についていけていないようだった。

 

ココア、今日だけは大目に見てくれないか?

 

でも、チノちゃんベタベタしすぎだよ。

 

また今度思う存分撫でたりハグしてあげるからさ。

 

ん〜〜、しょうがないな。今日だけだよ。

 

ありがとうな。

 

俺とココアはチノに聞こえないように交渉をした。今日はチノの甘えに応えることにした。

 

「お兄ちゃん、頭撫でてください////」

 

「いいよ、チノは頭撫でられるの好きか?」

 

「はい!お兄ちゃんに撫でられるとすごく安心するんです、腕枕と同じくらい///」

 

最初はチノの変わりように驚いたが、今はだいぶ慣れてきた。

 

「あの2人を見てるとなんだか本当に兄妹みたいだな。」

 

「本当にね、なんだか微笑ましいわ。」

 

「先輩もなんだか楽しそうですしね。」

 

リゼたちは俺とチノを見てそんなことを話していた。

 

「お兄ちゃん、次はおんぶしてください///」

 

「もちろんいいよ。よいしょっと」

 

「えへへ、お兄ちゃんの背中大きくてあったかいですね///」

 

チノが俺のおんぶを堪能しているとチヤが写真を撮ってあげようかと言ってきた。

 

「どうするチノ?」

 

「撮って欲しいです!」

 

「そうか、チヤ頼めるか?」

 

「ええいいわよ、チノちゃんのケータイ借りるわね。はい行くわよ!はい、チーズ!」

 

チヤにおんぶしているところを撮ってくれた。写真を見てみるとチノの顔が今まで見たことないくらいニッコリな笑顔だった。

 

「さて、チノ次は何をして欲しい?」

 

「すぅ......すぅ.........。」

 

どうやら眠ってしまったようだ。とても安心しきった顔で寝ていて、とても可愛らしかった。

 

「今日はラビットハウスに戻るよ。チノを連れて帰らないと。」

 

「そうだな。今日はもうお暇するか。」

 

俺はチノを背負ったままチヤ達にお礼を言いラビットハウスに戻った。

 

「今日のチノちゃん楽しそうだったね!」

 

「まあ酔っていたんだけどな。でも楽しそうでよかったよ。」

 

ココアと話しながらラビットハウスに到着すると、ちょうどチノが目を覚ました。

 

「ん〜?お兄ちゃん?」

 

「起きたか、もうラビットハウスに着いたぞ。」

 

「今日はお兄ちゃんと一緒に寝たいです///」

 

どうやらまだ酔いは覚めていないようだ。おそらく明日の朝までは覚めないだろうな。

 

「わかった、一緒に寝ようか。」

 

「はい!」

 

チノを寝室に連れて行くと、もう今にも眠ってしまいそうな様子だった。俺がベッドで横になると、チノも俺の横に寝転がってきた。

 

「腕枕してあげようか?」

 

「はい!して欲しいです///」

 

チノに腕枕をしてあげると安心した顔でトロンとした顔だった。

 

「やっぱりお兄ちゃんの腕枕は安心しますね///」

 

「そうか、チノが喜んでくれたら俺も嬉しいよ。」

 

俺はそのまま頭を撫でるとまたニッコリな笑顔になった。

 

「さあ、もう寝ようか。」

 

「はい、おやすみなさいお兄ちゃん///」

 

「おやすみ。」

 

そのままチノは人形のように動かなくなり眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、目覚めるとちょうどチノも目が覚めたようだ。

 

「おはようチノ。」

 

「リョーマさん、おはようございます.......」

 

まだ少し眠そうだったが、酔いはもう覚めたようだ。

 

「どうしたんですか?私の顔に何か...........あ///......ああ!!......,ああああああ!!!!」

 

酔っていた時の事を思い出しているのだろう、なんだか取り返しのつかないことをしてしまったみたいな顔だった。

 

「ごめんなさい!!ごめんなさい!!私なんて事を!!!」

 

「気にしなくていいよ、俺は楽しかったから。それにチノの新鮮なところが見れて嬉しかったよ。」

 

「うぅ〜////恥ずかしいです///」

 

「恥ずかしがることないよ。なんだか本当の妹みたいな感じで楽しかったよ。」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「ああ、ココアとはまた違った可愛さがあったよ。」

 

「そ、そうですか///リョーマさんが良いならよかったです。」

 

「さて、今日は仕事があるから俺はもう行くよ。チノはもう少し休んでて。昨日のチョコレートに入ってたブランデーがまだ残ってるかもしれないから。」

 

「わかりました。もう少し休んでます。」

 

俺はそのままチノの部屋を出た。

 

「うぅ〜、酔っていたとはいえあんな事を///」

 

俺が部屋を出た後チノは頭をかかえていた。余程昨日のことが恥ずかしかったようだ。

 

「でも悪い気分ではありませんでしたね。あ!そういえば。」

 

チノはケータイを開き、酔っていた時にチヤに撮ってもらった写真を見ていた。

 

「こんなに笑顔だったんですね私。」

 

チノは無言でその写真を待ち受け画面に設定した。

 

 

「いつか........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつかまた、お兄ちゃんって呼べたらいいな。」

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
チノがお兄ちゃん呼びになってから甘えるところが思った以上に難しかったです。
何故でしょうか?


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-20話- 怖いものはいつまで経っても怖い。

どうもP&Dです。
皆さんは1番怖いものはなんですか?
僕は多分ですけどゴキ○リの大群が1番怖いです。
あと、今回はヤンデレ?があるので苦手な方はご注意ください。


「リョーマさん、今日のココアさんがなんだか変なんです。」

 

「そうなんだ、まるで人が変わったかのようなんだ。」

 

「ココアが?」

 

チノとリゼが言うには今朝、ココアを起こしに行こうとしたら布団の中身はぬいぐるみにすり替えており、なんとあのココアが朝食を作っていたという。.......焦げていたみたいだが。

 

「確かにいつもと違うな。」

 

仕事中のココアを見てみるといつもよりキビキビと動き、なんだか見本になるような姿だった。

 

「う〜ん、何かあったのか?聞いてみるか。」

 

俺はココアにいつもと違う原因を聞いてみることにした。

 

「ココア、今日のお前いつもと違うけど何かあったのか?」

 

「私はいつもこんな感じだよ!なんたって私はお姉ちゃんだからね!」

 

「いや、いつものココアは仕事中ミスしまくるし、皿は割るし、日向ぼっこばっかりするし、いつも補習ばっかりで仕事に遅れるし、お姉ちゃんって感じる要素は無いぞ。」

 

「ちょっと待って!そこまで言わないでよ!ひどいよ!」

 

「でもその分可愛さもあるぞ。頭撫でてとか、ハグしてとか、何かにつけて甘えてきたり、お姉ちゃんっぽさを出そうとして空回りしたり、妹っぽさは十分にあるな。」

 

「..........なんだろう、この素直に喜べない気持ちは。」

 

ココアはジト目でなんとも言えない表情だった。

 

「まあ、しっかりと頑張るのは良いことだ。お姉ちゃんって所をチノに見せてやりなよ。」

 

俺はそう言いながら頭を撫でた。

 

「うん!任せて!」

 

俺はそのままリゼ達の元へ戻った。

 

「うん、今日のココアはおかしい!」

 

「だからそう言ってるだろ!」

 

あれ?振り出しに戻った?

 

「理由を答えようとしないんだよな、しばらく様子を見るか。」

 

俺たちはしばらくココアの様子を見ることにした。1時間ほど経過しても仕事の機敏さは全く鈍ろうとはしなかった。本当に何があったんだ?

 

「あのココアをここまで動かせる原動力......一体なんだ?」

 

「もしかしたらチノをハグさせたら元に戻るんじゃないか?」

 

リゼの提案にそれならいけると思い、チノをハグさせることにした。

 

「ココア、チノが呼んでるぞ。」

 

「ん?どうしたのチノちゃん?」

 

「きょ、今日は私を思う存分もふもふしてもいいですよ////今日だけ特別です////」

 

ココアはチノを見つめたままものすごい葛藤をしていた。

 

「し、仕事中だからしっかりしないとダメだよ!」

 

「あのココアがハグを拒否!?.....ココア、だったら俺が目一杯ハグしてあげるよ。ほら、おいで。」

 

「う!?わ、私はお姉ちゃんなんだから妹扱いしないで!」

 

今日のココアはココアじゃない!ココアに変装した何かか!?この変わりようは普通じゃないぞ!

 

「わ、私は.....おねえ.....ちゃん.....だか......ら....」

 

オーバーヒートしてしまったのかそのままココアは床に倒れてしまった。

 

「おいココア大丈夫か!?なんでこんなになるまで頑張ったんだ?」

 

「実はもう少ししたらお姉ちゃんが来るんだよ。」

 

「え!?」

 

突然全身に震えが襲いかかり汗が止まらなくなってしまった。

 

「ココアの姉が来るのか?」

 

「お姉さんはいつ来るんですか?」

 

「明後日だよ。」

 

「コ、ココア。お姉ちゃんってもしかしてモ、モカがく、来る......のか?」

 

「うんそうだよ。あ!そっか、お兄ちゃんはお姉ちゃんが苦手だったね。」

 

「リョーマってココアの姉が苦手なのか?」

 

「苦手どころか恐怖しか無い!」

 

ココアの姉、モカはココアから見たら理想のお姉ちゃんだが俺から見たらそうじゃない。モカはココアと同じハグ好きだ。普通のハグは長くてもせいぜい3〜5分ほどだろう、だがモカは違う。何故かはわからないがモカは俺に対してだけ1時間以上ハグをし続けるのだ。しかもそれは普通のハグじゃない、少し狂気染みたハグなのだ。まるでこのハグがないと生きていけないと言えばわかるだろうか。だから俺はモカに対して恐怖を抱いているのだ。俺はそのことをリゼとチノに話すとなんて声をかけてあげればいいのかわからない顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後、今日はとうとうモカがやってくる日だ。

 

「ココアさん!そんなに緊張しないでください!」

 

「おいリョーマ!お前恐怖のあまりに時が止まったみたいな感じになってるぞ!」

 

俺とココアは緊張のベクトルは全然違うが、体が動けずガチガチ状態だった。モカが来るまであと10分ほどだ。あらかじめリゼ達には俺は留守という設定にしてある。これでなんとか凌ぐぞ。

 

「まったく、こんなので大丈夫なのか?」

 

「先が思いやられそうです。」

 

こんな感じでモカを待ってるいるとカランカランと入口のドアが開く音がした。俺はその瞬間カウンターの下に隠れた。

 

「こんにちは!」

 

「あ!お姉ちゃん!いらっしゃい!」

 

「ココア!久しぶり!」

 

「この人が?」

 

「うん!私のお姉ちゃんだよ!」

 

「初めまして!姉の保登モカです!」

 

リゼ達はモカとお互い自己紹介をし合った。だが、モカはココアから送られてきた写真でリゼとチノのことは知っていたらしい。

 

「そうだ!ところでリョーマ君知らない?見当たらないんだけど。」

 

俺はこの瞬間、体中の危険センサーが一気に反応し始めた。俺は細心の注意を払い、息を潜めた。

 

「そ、そういえばリョーマの奴今日は見てないな。」

 

「ど、どこかへ出かけているんでしょうか?」

 

よし、少し動揺しているがこれならいけそうだ。

 

「大丈夫心配しないで。リョーマ君の匂いでどこにいるかわかるから。」

 

は!?そんなの聞いたことないんだけど!匂いでわかるか普通!?

 

「すんすん......すんすん.........カウンターの下からリョーマ君の匂いがするな〜。」

 

ヤバイヤバイバレた!どうする!?このまま出たら確実に見つかる!だがこのままだと見つかってしまう!

 

そんなことを考えているとモカの顔がカウンターの下へひょこっと顔を覗かせていた。

 

「あ!リョーマ君見つけた!こんにちは久しぶりだね!」

 

モカは満面の笑みで俺に挨拶をした。実際は本当に満面の笑みだが俺から見たら狂気の笑顔にしか見えない!

 

「さあ!久しぶりのもふもふさせて!」

 

そう言ってモカは両腕を広げ俺に抱きつこうとしていた。

 

「やめろ!来るなー!」

 

「え?.......なんで......ナンデソンナニイヤガルノ?ネエネエナンデ?」

 

突然モカの顔から笑顔が完全に消え、目の光が無くなった。

 

「ワタシノハグソンナニイヤニナッタンダ.......ソッカ......ダッタラ.......ムリヤリスキニナルヨウニスレバイインダヨネ♪」

 

無表情の顔から笑顔に変わったが、目の光は相変わらず無いままだ。

なんか以前よりめっちゃ怖いんだけど!

 

「サア!モフモフターイム♪」

 

「来るなーーーーー!」

 

俺はモカの脇からくぐり抜け自室へ逃げ込み、クローゼットの中へ隠れた。

 

「なんなんだあれは!?モカの奴あそこまでハグ狂になってたのか?」

 

クローゼットの中で怯えていると、階段をのぼる音が聞こえゆっくりと近づき、俺の部屋の前で足音が止まった。

 

「リョーマク〜ン、ココカナ?」

 

クローゼットの隙間から覗くと、ギィーとドアの開く音が鳴りモカが俺の部屋に入ってきた。

 

「ドコカナ〜?ワカラナイナ〜?リョーマク〜ン?」

 

その瞬間モカがこっちを向いた。俺は怖さのあまりクローゼットの中で物音を出してしまった。

 

「オヤ?クローゼットカラモノオトガシタネ。」

 

モカはクローゼットに近づきゆっくりと開けると、クローゼットの奥に隠れていた俺と目があった。

 

「リョーマクン、ミーツケタ♪」

 

「頼む!来ないでくれ!」

 

「モ〜ソンナニオビエチャッテ、カワイイナ〜♪ハァ〜///コレデヤットリョーマクンヲモフモフデキル。.........フフフフフフフ!フフフフフフフフ!アハハハハハハハハハハハ!アハハハハハハハハハハハハハ!」

 

怖い怖い怖すぎる!しばらくモフモフできなかっただけでここまで狂うか普通!?目は全然笑ってないのに顔は狂ったように笑っている。これが俗に言うヤンデレって言うやつなのか?

 

「リョーマクン、モフモフダー!」

 

うわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

俺は今まで出したことのない声量で断末魔をあげた。下にいるリゼ達はいったいなにがあったんだ?といった表情だっただろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜、満足満足♪」

 

モフモフを満足したモカは俺を1階まで連れて行き、椅子に座らせた、ちなみにモフモフ時間は2時間だ。

 

「リョーマ.......大丈夫か?」

 

「..........」

 

「リョーマさん!しっかりしてください!」

 

「うん........大丈夫。」

 

もう疲れきって話す元気も無い。

 

「そうだ!ここでみんなに報告があります。実は私、ここでしばらく宿泊させてもらうことになりました!」

 

「ほんとに?やったー!久しぶりにお姉ちゃんとお泊まりだ!」

 

「え!?モカ、しばらくここに泊まるのか!?」

 

「うんそうだよ!だからいっぱいモフモフさせてね!」

 

「嫌だ!」

 

「させて!」

 

「嫌だ!」

 

「させて!」

 

「嫌だ!」

 

「.....サセテ?」

 

「.....はい!お、お手柔らかにお願いします。」

 

なんだろう、一瞬ものすごい寒気がしたぞ。

 

「お姉ちゃん、じゃあ早速今から遊んで!」

 

「ええいいわよ!」

 

「待ってください、仕事してください!」

 

こうしてしばらくの間、モカとの生活が始まった。

 

 

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
ヤンデレ?を書いている時何回か、なに書いてるんだろう.....って思ってしまうことが何回かありました。


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-21話- 久しぶりの人と出かけるとなんだか楽しい!

どうもP&Dです。
湿度高すぎて最近蒸し暑いですね。
もう外に出たくないです!


「ふぁ〜よく寝た。」

 

目覚まし時計のアラームで目覚め、カーテンを勢いよく開いた。今日も良い天気だ!そして俺が寝ていたベッドにはモカが寝ている。.......おかしいな、おかしすぎる!

 

「おいモカ!起きろ!」

 

「ん〜ふぁ〜おはよ〜。」

 

「おはよ〜じゃないよ!なんでここで寝てる?」

 

「えっと夜中にトイレを済ませた時にリョーマ君の部屋の前を通ってね、せっかくだからリョーマ君と一緒に寝よっかなって。」

 

そう言ってモカはてへっとした顔だった。

 

「だからって俺の部屋で寝るな!自分の部屋で寝ろよ!」

 

「いいじゃない、久しぶりに会ったんだし。」

 

「はぁ〜まったく。」

 

「ということでおはようのハグしよ?」

 

「!!!!????」

 

俺は昨日の出来事がフラッシュバックし、思わず後ずさった。

 

「大丈夫だよ。昨日は思う存分したから少しだけ。ね?」

 

「まあ.....少しなら。」

 

俺はそのままモカにハグされた。

 

「えへへ、やっぱりリョーマ君のハグが1番だね!」

 

「そうか?.........ん!?」

 

昨日はモカから逃げるので必死だったが、落ち着いてハグされるとなんだか胸の辺りに柔らかい感触が........そういえばモカにハグされるのって久しぶりな気がする。この街に来る前はよくモカにハグされていたがその度に俺はモカから逃げていたからこうやって落ち着いてハグされるのは数年ぶりかな?青山さんと同じくらいの大きさだな.........なに考えてんだ俺!?

 

「も、もういいだろ!早く離れてくれ!」

 

「えーもう?もうちょっとだけ。」

 

「もう充分だ!それより今日はなにしようかな?」

 

今日は休日なので何をしようか考えていると、モカがキラキラした目をしていた。

 

「じゃあ私と一緒にお出かけしよ?」

 

「.......何を企んでる?」

 

「何も企んでないよ!普通のお出かけ!ていうか疑いすぎ!」

 

あんな恐怖のもふもふをされて疑わない方が無理な気がする。

 

「まあいいか、じゃあ一緒に出かけるか?」

 

「うん!」

 

こうして俺はモカとのお出かけが始まった。

 

「リョーマ君と2人で歩くの久しぶりだね!」

 

「そういえばそうだな。」

 

「こうして歩いてるとなんだかデートみたいだね♪」

 

「な、何言ってんだよ!へ、変なこと言うな/////」

 

モカを相手してると調子狂うな。

 

「そういえば今どこに向かってるの?」

 

「甘兎庵っていう和菓子の喫茶店だよ。俺の友達を紹介しようと思って。」

 

「ほんとに!?楽しみだな〜、せっかくだしモフモフしよっと。」

 

.......ヤバイ、チヤが心配になってきた。まあでもあんな長時間ハグするのは俺の時だけだし、大丈夫かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔します。」

 

店内に入ると制服姿のチヤがいた。バイトが休みなのかシャロも一緒にいた。

 

「あら!リョーマ君いらっしゃい!」

 

「おはようございます先輩!あの、お隣の方は?」

 

「ああ、ココアの姉のモカだよ。」

 

「保登モカです。よろしくね!」

 

チヤたちはお互い自己紹介した後予想通りモカは2人をハグしていた。チヤは嬉しそうな顔だったが、シャロは少し恥ずかしそうにしていた。

 

「そういえば2人は今日は何をしてるの?」

 

「リョーマ君とデート「じゃないよ!」」

 

モカが言う事は完全にわかっていたので途中で遮った。

 

「今日はモカと散歩だ。それで甘兎に寄ったんだ。」

 

「そうだったの!嬉しいわ!ではお席へどうぞ!」

 

そのまま席へ案内されモカはこの店に興味津々だった。

 

「はい、メニューよ。」

 

チヤにメニューを渡され見てみたが何回見てもやっぱりわからない。

 

「ぜんざい美味しそう!あ!いちご大福もあるんだ〜。どれにしようかな〜?」

 

「え!?モカわかるの?」

 

「え?わかるけどどうかしたの?」

 

俺がおかしいんじゃないよな?ココアとモカが特殊なだけだよな?あれ?俺がおかしいのか?いやそんなはずないよな?わからなくなってきた。

 

「いや、なんでもない。」

 

「じゃあチヤちゃん。私は白玉ぜんざいをお願いします♪」

 

「わかりました。リョーマ君は何にする?」

 

「えっと、いちご大福をおねがい。」

 

「わかったわ、ちょっと待っててね。」

 

「甘兎庵、良い店だね!」

 

「だろ?和菓子も美味しいからな。」

 

和菓子が来るまでの間モカと話しながら待っていた。最近のココアの様子を聞かれたので補習ばかりと答えるとプンスカと怒り、みっちりと特訓をしてと頼まれたので俺は遠慮なく承諾した。

 

「おまたせ、はいどうぞ!」

 

「わぁー!美味しそう!ありがとうチヤちゃん!」

 

「ありがとうございます!ごゆっくりどうぞ。」

 

そう言ってチヤは厨房へ行ってしまった。

 

「「いただきます!」」

 

モカは一口食べると余程美味しかったのか頬っぺたが落ちそうみたいな顔をしていた。

 

「ん〜!美味しい!いくらでも食べれそう!」

 

「気に入ったようでよかったよ。」

 

「そうだ!リョーマ君あ〜ん♪」

 

突然モカが俺にぜんざいを食べさせようとしてきた。

 

「やめてくれよ。もうそんな歳じゃないんだから。」

 

「も〜つれないな。小さい時はありがとうモカお姉ちゃん!って言って喜んで食べてたのに。」

 

「な!?いつの話だよ!ていうかここで言うなよ!」

 

運悪く近くにいたチヤとシャロは私たちは何も聞いていない、何も聞こえなかったみたいなオーラを纏っていた。

 

「早く出よう!」

 

「待って!そんなに勢いよく食べたら!」

 

「う!?ゲホッ!」

 

勢いよく食べた俺は喉を詰まらせてしまい店がドタバタ騒動になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、苦しかった....。」

 

騒動が終わって店を出た後、近くの公園のベンチで休憩をとっていた。

 

「あんなに勢いよく食べるからだよ。」

 

「モカがあんな恥ずかしいこと言うからだろ!」

 

モカと甘兎庵での騒動の事を話していると、夕方になり始めた。

 

「そろそろ帰るか。」

 

「もうこんな時間か~。帰ろっか?」

 

「じゃあはい。」

 

俺はモカに手を差し出した。

 

「?どうしたの?」

 

「手繋いで帰るか?」

 

「え?い、いいの?」

 

「今日だけ特別。それに.......昔は帰る時は手繋いで帰ってたし。」

 

モカは驚いていたが、すぐに喜んで腕を組んできた。

 

「おい!腕組んでいいとは言ってないぞ!」

 

「別にいいでしょ?手を繋ぐのも腕を組むのも同じようなものだよ!」

 

「しょうがないな。じゃあ帰るぞ。」

 

「うん!えへへ///」

 

俺はモカに腕を組まれながらラビットハウスへ帰った。道中、男性からは嫉妬みたいな目で見られ、女性からはいいな~みたいな目で見られ、腕を組んだのは間違いだったかなと思ったがモカがとても嬉しそうな顔だったのでこのままでもいいかとそう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラビットハウスへ戻った後、夕食を済ませた俺は風呂に入りながら今日の出来事を思い出していた。

 

「今日は色々あったけど、なんだかんだ楽しかったな。」

 

そう思いながら入浴を堪能していると風呂場のドアが開く音がした。

 

「リョーマ君、一緒にお風呂に入ろう?」

 

モカはそう言い、体をバスタオルで包みながら風呂場に入って来た。タオルで隠されていない腕や足は透けたような白い肌で少し胸の谷間が見えており、とても女性らしさを感じ取れた。

 

「ちょ、ちょっと何急に入ってきてんだよ!まだ俺入ってんだぞ!」

 

「だから一緒に入ろ?って言ったじゃん!ねえねえいいでしょ?」

 

「ダメだって!今すぐ出てくれ!」

 

「昔は一緒に入ったでしょ?」

 

「だからいつの話だよ!小学生の時だろ!しかも低学年の!」

 

モカの頭の中の俺は小学生で止まってるのか?16歳になった今、女性と一緒に風呂に入ったら理性が保てるかどうか。

 

「だめ......かな?」

 

モカは悲しそうな目でこっちを見てきた。俺これに弱いんだよな。

 

「.....わかったよ。早く入りなよ。」

 

「うん!ありがと♪」

 

俺とモカは背中合わせで浴槽に入った。

 

「今日はありがとう、一緒に出かけてくれて。」

 

「そりゃあ久しぶりに会ったんだから何もしないわけにはいかないだろ?じゃあ明日はみんなと一緒にどこかへ行こうか?」

 

「いいの?ほんとに!?」

 

「ああ、モカもその方がいいだろ?」

 

「うん!ありがとう!やっぱりリョーマ君は優しいね。昔と変わってない。」

 

モカはそう言って俺に抱きついてきた。タオル1枚隔てた胸の感触が背中に思いっきり伝わってくる。

 

「ちょ、ちょっとここで抱きつくなよ!」

 

「えへへ、嬉しくてつい。」

 

「まったく、すぐ抱きつく癖は昔と変わらないな。」

 

「だってハグが好きなんだもん♪そうだ!リョーマ君、今日は一緒に寝ようよ!」

 

「え!?自分の部屋で寝ろよ。」

 

「一緒に寝ようよ!じゃあリョーマ君が眠った夜中にこっそり部屋に忍び込むね!」

 

そんな事されたら俺は朝までめちゃくちゃ警戒することになってしまう。それだけはごめんだ。

 

「....わかったわかった。今日は一緒に寝よう。」

 

「えへへ///ありがとう!」

 

「うわ!だから抱きつくな!」

 

俺とモカはそのまましばらく入浴を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入浴を終えた俺たちは、俺の部屋に入った。モカはとても嬉しそうに上機嫌だった。

 

「リョーマ君早く早く!」

 

モカはベッドにポンポンと叩き、俺をベッドに来るように促していた。

 

「わかったから、そんなに急かさないでくれよ。」

 

「リョーマ君と寝るのも久しぶりだからね。」

 

俺はそのままベッドに入りその横にモカも入ってきた。

 

「今日は本当に楽しかった!ありがとう!」

 

「モカが喜んでくれたなら俺も嬉しいよ。」

 

「ねえねえリョーマ君、今日は手を繋いで寝てもいいかな?」

 

「しょうがないな、今日は特別だ。」

 

俺はモカと手を繋ぐと、モカは嬉しそうにニッコリと微笑みながら俺を見つめていた。

 

「じゃあ明日に備えて寝よう!」

 

「ああ、おやすみ。モカ...........お、お姉ちゃん/////」

 

「!!!!リョーマ君!!!!」

 

「うわ!抱きしめすぎ!!!」

 

モカは嬉しさのあまり今までで1番強く抱きしめてきた。眠りにつくのにかなり遅くなってしまったが、モカが喜んでくれたなら別にいいかと思い眠りについた。

 

 

To ba continued




今回はここで終わります。
しばらくモカ回が続きます。
さて、どうやって書いていこうかな?


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-22話- ピクニックっていうのもたまには良いものだ。

どうもP&Dです。
最近早寝早起きを心掛けているんですけど嘘みたいにスッキリするんですよね。
やっぱり早寝早起きは大切ということですね。


今日はみんなでピクニックに行く予定だ。みんなに聞いたところ喜んで承諾してくれ、今からそのピクニックのための昼食作りを始めるところだ。

 

「ふわぁ〜いつもより早く起きたからまだ眠いな。」

 

1/4ほど寝ぼけた状態でキッチンに行くと、チノがエプロン姿で待機していた。

 

「あれ?チノ?どうしたんだ?」

 

「あ、リョーマさんおはようございます。」

 

「おはよう。なんでここにチノがいるんだ。」

 

「今日はみんなでピクニックなので手伝おうかと思って。えっと、迷惑でしたか?」

 

チノは少し不安そうな顔をしていた。

 

「そんなことないよ。手伝ってくれて俺も嬉しいよ。ありがとうチノ。」

 

俺はチノにお礼を言いながら頭を撫でた。するとチノはホッとした表情だった。

 

「じゃあ早速手伝ってくれるかな?」

 

「はい!」

 

こうして俺とチノの昼食作りが始まった。

 

「リョーマさん、何を作るんですか?」

 

「サンドイッチを作るんだ。具材もたくさんあるしね。」

 

俺はパンに挟む具材を選んだ。

 

「たまごサンドは王道だよな。カツサンドもあった方がいいよな。」

 

具材を選んでいるとチノが恥ずかしそうに話しかけてきた。

 

「あのリョーマさん、1つお願いがあるんですけど。」

 

「ん?何?」

 

「えっと、ハ、ハンバーグサンド.......作ってくれませんか?」

 

「いいよ、チノはハンバーグが好きだな。」

 

「ハンバーグが好きなんじゃありません!リョ、リョーマさんが作ったハンバーグが好きなんです////」

 

「お!嬉しい事言ってくれるな!」

 

俺は嬉しくなり思わずチノを抱きしめた。

 

「ふぇ!?あ、あの、恥ずかしいです////」

 

「誰もいないし恥ずかしがることないよ。」

 

「おはよー!」

 

チノをハグしているとモカがキッチンにやってきた。

 

「あ!リョーマ君がチノちゃんをハグしてる!」

 

「お!モカ、おはよう!」

 

「私もチノちゃんをモフモフしたい!」

 

「え!?モカさんちょっと!」

 

モカはチノに駆け寄り思いっきり抱きしめていた。

 

「チノちゃんふわふわだね!いくらでもモフモフできるよ!」

 

「リョ、リョーマさん!止めてください!」

 

チノは俺に助けを求めてきた。顔がマジだ。

 

「.........ハンバーグサンド多めに作ってあげるから耐えてくれ。俺では止められない。」

 

「そ、そんな!?」

 

「よーし!モフモフ1時間いっちゃうよー!」

 

ふわああああぁぁぁぁぁ!!!

 

何だか2日前(20話)の自分を見ているみたいだった。俺はそのままサンドイッチ作りを再開したが、作り終わった後少しの間チノが口をきいてくれなかった。ハンバーグサンドを多めに作ったことを教え、抱きしめながら止めれなかったことを謝ると顔を赤くしながら許してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作ったサンドイッチを持ち、みんなと湖の見える野原に集まり昼食にすることになった。

 

「おー!どれも美味しそうだな!これリョーマが作ったのか!?」

 

「せ、先輩さすがです!」

 

「見ただけで美味しそうってわかるわね!」

 

「やっぱりお兄ちゃんはすごいね!」

 

リゼ達には食べる前から絶賛されていた。みんなサンドイッチを一口食べると、食べる前の時と同じようにまた絶賛された。

 

「うんうん、リョーマ君かなり料理上手になったね!」

 

「え?先輩って昔は料理上手じゃなかったんですか?」

 

モカの言葉にシャロが質問するとモカは質問に答え始めた。

 

「うん、料理を教わる前のリョーマ君って卵焼きも作れなかったんだよ。それに比べたら全然違うよ。」

 

「お、おい!なんでそれをここで言う!?」

 

俺が慌てて聞くとモカは『昔のことだからいいじゃない』と言われ何も言い返せなくなった。

 

「昔のリョーマには苦手なものがあったんだな。」

 

「まあそう考えたら母さんに感謝しないとな。」

 

「あの時のお兄ちゃんすごい頑張ってたもんね!」

 

「まあな、でも寝る間を惜しんでまで料理の勉強をされたのは未だにわからないけどな。」

 

みんなと喋りながらサンドイッチを食べていると、さっきから一言も喋らずハンバーグサンドを夢中になって食べているチノが目に入った。

 

「チノ、ハンバーグサンド美味しいか?」

 

「ふぁい!ほへほふぉいひいへふ!(はい!とても美味しいです!)」

 

チノは落ち着きがなくハンバーグサンドを頬張った状態で喋っていた。

 

「なんだかチノちゃんとリョーマ君を見てると兄妹に見えるね!」

 

モカの言葉にチノがドキッとした表情をした。

 

「それ私もわかるわ。」

 

チヤが言うとみんなもそうだと頷き始めた。

 

「リョーマさんはお兄ちゃんじゃ......な、ないですよ////」

 

「でもチノちゃん、この前ブランデー入りのチョコレート食べた時お兄ちゃんにもぐぉ!」

 

チノはモカにあの時の事を聞かれたくなくココアの口にサンドイッチを押し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食が終え少し休憩した後、ボートに乗って競争することになりくじ引きの結果、俺はモカと一緒のボートに乗ることになった。ちなみに1位の組には何でも1つ願いを言えるルールになった。....この嫌な予感が当たらないことを願いたい。

 

「リョーマ君と一緒になれて嬉しいな♪」

 

「頼むからここでハグはするなよ。落ちたらずぶ濡れだからな。」

 

「わかってるよ。」

 

モカなら本当にしかねないから気が抜けない。

 

「お姉ちゃん!今回は絶対に負けないからね!」

 

「ココアは勝ったら何をお願いするのかな?」

 

「お兄ちゃんにいっぱいハグしてもらうんだ!」

 

ココアは普段よりとても気合が入っていた。一緒に乗っていたチノはやれやれといった表情だった。

 

「リョーマ君は1位になれたら何をお願いするの?」

 

「う〜ん、まだ決めてないな。その時になったら決めるよ。モカは何をお願いするの?」

 

「私は秘密!........フフフ。」

 

俺は一瞬2日前と同じ寒気を感じた。........気のせいか?

 

「よーし!全力でいくよー!」

 

モカはそう言って全力で漕ぎ始めた。ボートが左右に揺れ何回か落ちそうになり、体勢を保つので精一杯だった。

 

「おいモカ!揺れてる揺れてる!もうちょっとゆっくり!」

 

「勝つためには出し惜しみしないよ!」

 

だからって少しは考えてもらいたいものだ。しかしそのおかげか他のみんなよりかなり差が出来ていた。

 

「あ!このままじゃ負けちゃう!負けたらお兄ちゃんとハグできない!そんなのヤダー!」

 

そこまで俺とハグしたいのか、ココアはそう叫びながら全力でボートを漕いでいた。そのせいでチノの頭に乗っていたティッピーが湖に落ちてしまった。チノがすぐに拾い上げたが、ずぶ濡れになってしまい、ぴょんぴょんと跳ねながら怒っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったー!私たちが1位だね!」

 

「まあな、ほとんどモカが漕いでたからモカのおかげだな。」

 

競争の結果俺たちの組みが1位だった。他のみんなは1位になれなかったけど楽しかったから悔しそうな感じはなかった。ただ1人を除くと、ココアは絶望してしまったかのように落ち込んでいた。

 

「なあココア、そんなに落ち込まなくてもいいだろ?」

 

「だって......だってお兄ちゃんとハグできないんだもん!お姉ちゃんにも勝てなかった!うわーーん!!」

 

ココアが泣いてしまった。高校生になったのにこんなことで泣くなよ。見ていられなかったので俺はココアにハグしてあげた。

 

「え?」

 

「まったく、こんなことで泣くなよ。いつでもハグできるんだから。」

 

ココアはすっかり泣き止み、俺としばらくハグをしていた。ハグが終わった後モカは俺に近づいてきた。

 

「じゃあ私のお願い聞いてもらおうかな?」

 

「.......なんで俺を見る?」

 

もう嫌な予感しかしない。だって俺の危険センサーが反応しているんだから。

 

「ハグさせて!」

 

そう言ってモカは俺の許可なくいきなり抱きついてきた。

 

「おい!俺まだ許可してないんだけど!」

 

「私のおかげで勝てたんだから許可なんか必要ないよ!モフモフ1時間だー!」

 

「や、やめろ!チノ!助けてくれ!」

 

「........私はティッピーを乾かさないといけないので無理です。耐えてください。」

 

俺が今朝やったことをそっくりそのまま返された。チノは仕返しが出来てスッキリしたみたいな顔だった。

 

「リョーマ君!モフモフ1時間いっくよー!」

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

これが因果応報というやつか。モカのハグが終わった後、チノを抱きしめながら誠意を込めて再び謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

就寝前、俺とモカはコーヒーを飲みながらゆっくりとくつろいでいた。

 

「モカ、明日で帰っちゃうのか?」

 

「うん、楽しいことがあるとあっという間に時間が過ぎちゃうね。」

 

モカはどこか寂しそうな表情だったので最後に何か出来ないかと考えた後、1つの名案が思い浮かんだ。しかしこれにはみんなの協力が必要だ。明日みんなに頼んでみよう。

 

「じゃあリョーマ君、今日も一緒に寝よ?」

 

「ここに来てからずっと俺と一緒に寝てるよな。」

 

「だってリョーマ君といると落ち着くし、1番ハグのし甲斐があるんだもん!」

 

「ちょっと待て!今日ハグしながら寝るつもりか?」

 

俺はモカに聞くと当然と言わんばかりの表情で頷いていた。

 

「別にハグしながら寝なくてもいいだろ?」

 

「だって一緒に寝れるの今日が最後だから。」

 

「はぁ〜しょうがないな。今日が最後だもんな。わかった、じゃあハグしながら寝てもいいよ。」

 

モカは喜びながら抱きついてきた。寝る時、モカが俺に抱きつきながら眠ったが、胸の感触があることをすっかり忘れてしまっていたのでほとんど眠れずに朝を迎えた。........寝不足だ。

 

 

To be continued




今日はここで終わります。
次回でモカ回は多分終わります。
モカって意外と書きやすいですね。


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-23話- お別れは笑顔で!

どうもP&Dです。
従兄弟がまだ小さい頃、僕が帰ろうとすると帰らないで欲しいと駄々をこねられたことがありました。
あの頃は可愛かったな〜。


早朝、今日はモカが実家へ帰ってしまう日だ。そういうわけで今日はモカのためにサプライズパーティーを開こうと考え、ココア達には俺がモカを外へ連れ出している間に準備をするという手筈になっている。

 

「いい!?お姉ちゃん!絶対にこの部屋に入らないで!」

 

「え!?どうしたのココア!?私、何かした?」

 

「いいから!絶対に入らないで!」

 

ココアはそう言ってドアをバタンと思いっきり閉めてしまった。一応芝居なんだが傍から見たら姉妹喧嘩に見えなくもなかった。

 

「リョーマ君!ココアがぁぁぁ!ココアがぁぁぁ!」

 

モカはそのまま泣き崩れてしまった。ココアの方は芝居なのだとわかっている俺からしたらなんて声をかけたらいいのかわからなかった。

 

「えっと、とりあえず泣き止みなよ。」

 

「あ゛ん゛な゛に゛か゛わ゛い゛い゛コ゛コ゛ア゛が怒鳴って゛、う゛え゛ぇぇぇん。」

 

ど、どうしたらいいんだこれ!?とにかく一旦外に出ないとこのままじゃココア達がパーティーの準備ができない。

 

「モカ、気分転換に外に出よう?.....そうだ!甘兎に行こう!」

 

「ほ、.....うっ.....ほんとに?」

 

「ああ、ほら早く行こう?」

 

「うん.....」

 

とても姉とは思えない状態のモカを連れ、甘兎庵に向かうことにした。道中、ずっと溢れ出す涙を拭いながら歩くモカの隣を歩いていると周りからの視線がものすごく集中し、いつも歩き慣れてる道がかなり遠く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リョーマ君いらっしゃい!ってモカさんどうしたの!?」

 

甘兎庵に入るとチヤが出迎えてくれたが、モカの泣いている姿に驚きおろおろしていた。とりあえず席に座らせてもらい、モカを落ち着かせることに専念することにした。

 

「そ、そうだったんですか。ココアちゃん何かあったのかしら?」

 

「絶対私のこと嫌いになったんだよ!ココアぁぁぁ!」

 

モカ以外今日のサプライズパーティーのことは知っていたのでやはりチヤもモカの対応に困っていた。

 

「ココアがそんな簡単にモカのこと嫌いになるわけないだろ?」

 

「そうですよ!ココアちゃんはモカさんのこと大好きなはずですよ!」

 

「でもあんなに怒鳴ってたんだよ!嫌いになった以外にないよ!」

 

どうやらココアの怒鳴りが相当効いているみたいだ。これは少し骨が折れそうだな。

 

「小さい頃からずっと一緒にいたんだろ?モカはココアにとって理想のお姉ちゃんだから大丈夫だよ。」

 

「そう.....なのかな?」

 

少しモカが落ち着いてきた。このままいけばなんとかなりそうだ。

 

「そうだよね、ずっと一緒にいたんだもん、嫌いになるわけないよね!」

 

「そうだよ。あのココアがモカを嫌うわけないだろ?」

 

「うん、なんだが元気が出てきたよ。ごめんね心配かけて、チヤちゃん何か飲み物くれるかな?」

 

「わかりました。ちょっと待っててくださいね。」

 

チヤはそのまま飲み物を取りに行った。モカもだいぶ落ち着いたようで良かった。

 

「でもなんでココア、あんなに怒ってたのかな?」

 

「さ、さあな。今は気にしなくていいんじゃないか?今はゆっくりしよう。」

 

「お待たせしました。アイスココアです。」

 

モカと話しているとチヤが飲み物を持ってきてくれた。モカはアイスココアを手に取ると、さっきまで明るかった笑顔が急に無くなり出した。

 

「.....冷え冷え........今のあの子にそっくり......うっ.......ひぐ........うぅ......ココアぁぁぁ........コ〝コ〝ア〝ぁぁぁぁぁ!」

 

アイスココアを見たモカは再び大泣きしてしまった。

 

「ちょっとチヤ!なんでよりによってアイスココア!?」

 

「だって少し暑いから冷えたものがいいかなって。」

 

「冷えたお茶とかあっただろ?モカ、そんなに泣かないでくれ。」

 

「う〝わ〝ぁぁぁぁぁん〝!!」

 

振り出しに戻ってしまった!あとちょっとで元に戻りそうだったのに!

 

「チヤ〜、先輩いますか?.....ってモカさん!?なんでそんなに泣いてるんですか!?」

 

シャロも同様モカの姿に驚いていた。訳を説明してあげるとすぐに納得し、モカを再び落ち着かせるのに協力してくれた。

 

「モカさん、これを飲んでください。心が落ち着くハーブティーです。」

 

「うん......ありがと。」

 

シャロはモカにハーブティーを淹れ、モカはそのままハーブティーを飲み始めた。しかし魂の抜け殻みたいな状態でまるでロボットがハーブティーを飲んでいるようだった。

 

「モ、モカさん!元気出してください!」

 

「ココアは私のこと嫌いになったんだよ......私はもうあの子のお姉ちゃんじゃなくなったんだよ......あの子にはリョーマ君がいればいいんだよ。」

 

シャロは必死でモカを元気づけようとしているが、モカは聞く耳を持たず、ずっと独り言を喋っていた。

 

「.....重症だなこれ。」

 

「そうね、ココアちゃんの方は大丈夫かしら?」

 

そんな感じでモカを元気づけながらココアからのメールを待っていると、ちょうど今準備が終わったというメールが届いた。

 

「モカ、そろそろラビットハウスに戻ろう?」

 

「でも、私ココアに嫌われちゃったのに戻っても絶対口聞いてくれないよ。」

 

モカは、すっかり嫌われてしまったと思い込んでしまい、ラビットハウスに戻るのをためらっていた。

 

「大丈夫、絶対に嫌われてないから。」

 

俺たちはモカの手を引きラビットハウスへ戻ることにした。相変わらずモカはココアに口を聞いてくれないんじゃないか、無視されるんじゃないかと不安がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ラビットハウスに着く直前、ココアに準備は大丈夫かとメールをするといつでもOKと返してきた。

 

「よし、入るぞ。」

 

店内に入ると同時にクラッカーの音が盛大に鳴り、モカは何が起きたのかわからなかった。

 

「え!?何?」

 

「お姉ちゃんへのサプライズパーティーだよ!」

 

「リョーマ君これって。」

 

「モカへのサプライズパーティーだ。モカを甘兎に連れている間にココアたちが準備をしていたんだよ。」

 

「黙っててごめんなさいモカさん。でも泣きながらうちに来た時は本当にびっくりしたわ。」

 

「ほんとですよ。先輩にもう少しで準備が終わるのを伝えようとした時は何事かと思いましたよ。」

 

モカに説明してあげると心の底からホッとした表情だった。

 

「お姉ちゃん!私たちからのサプライズ驚いてくれた?」

 

「ココアぁぁぁぁ!!」

 

「ぐぇ!!ぐるじい!ギブギブギブギブギブ!!!」

 

モカはそのまま勢いよくココアを抱きしめていた。だがモカは息が出来なくなってしまうくらいの強さで抱きしめており、ココアがとても苦しそうだった。

 

「私はあなたに嫌われたんじゃないかとすっごい不安だったんだから!」

 

「お姉ちゃんわかったから離して!苦しい!!」

 

しばらくモカはココアを抱きしめていたが、だんだんココアの顔色が悪くなってきていたので慌てて止めに入り、気を取り直してサプライズパーティーを開始した。

 

「みんな!今日はありがとう!」

 

「喜んでくれて何よりだ。」

 

「お兄ちゃんのおかげだね!」

 

「え!?これリョーマ君が考えたの?」

 

「まあな、今日でモカが帰っちゃうから何かサプライズしたいなと思って。」

 

俺がそう言うとモカは涙目になり、俺の所へ駆け寄ってきた。

 

「リョーマ君ありがとう!流石私の弟だよ!」

 

「ちょっといきなり抱きつくな!ていうか弟ってなんだ!?」

 

「冗談冗談♪リョーマ君は私のはt........っと何でもない!」

 

モカは何か言いそうになったが寸前で誤魔化していた。

 

「よーし!お姉ちゃんへのサプライズパーティー思いっきり楽しむよー!」

 

モカへのサプライズパーティーは夕方まで続いた。パーティーの最中、時折モカは寂しそうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ時、俺とココアとチノはモカを見送るために駅まで来ていた。

 

「色々とありがとう!本当に楽しかったよ!」

 

「うん!私もお姉ちゃんと一緒にいれて楽しかったよ!」

 

「モカさん、またいつでも遊びに来てください!」

 

「うん!ありがとうチノちゃん!リョーマ君、ココアのことお願いね。」

 

「ああ、任せてくれ。また補習ばかりになったら目一杯特訓させるから。」

 

それを聞いたココアは顔は笑顔のままだったが体がガタガタと震えていた。モカと別れの挨拶をしていると、電車の出発の合図が鳴り出した。

 

「じゃあ私そろそろ行くね。........あ!そうだ!リョーマ君ちょっとこっちに来て。」

 

電車に乗ろうとした瞬間、モカは振り返り俺に手招きをしてきた。俺はモカに近づくと腕を思いっきり引かれ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頬にキスをされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な!?何を!?」

 

「えへへ////お礼だよ////」

 

俺は何が起きたのかわからなくココアは、はわわわとした表情でチノは顔を赤くして顔を覆い指の隙間からチラッと覗いていた。

 

「じゃあまたね////」

 

モカはそう言って電車に乗りそのまま出発して行った。

 

「お兄ちゃん!」

 

「リョーマさん!」

 

「は、はい!何でしょう!?」

 

俺は後ろを振り向くと2人とも頬を膨らませていた。

 

「お兄ちゃん!なに鼻の下伸ばしてんの?」

 

「いや伸ばしてない!」

 

「嘘です!リョーマさんすごいニヤニヤしてました!」

 

「ニヤニヤもしてないって!」

 

俺は駅でしばらくココアとチノに問い詰められていた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方出発した電車内では。

 

(ココアもリョーマ君も元気そうで良かった。)

 

モカは木組みの街での出来事を思い返していた。

 

(リョーマ君この街に来てから、楽しく過ごせていて安心したよ。引っ越す前はどこか寂しそうな所があったからね。余程この街が忘れられなかったんだね。........できればもう少し一緒にいたかったな。)

 

モカはそう思いながら窓に映る景色を眺めていた。

 

(また会おうね........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の初恋の人♪)

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
どうでもいい事ですけど、この前大量の蜂に追いかけられる夢を見ました。
絶対に正夢になってほしくないです。


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-24話- クリスマスプレゼントは何がいい?

どうもP&Dです。
皆さんはサンタさんを何歳まで信じてましたか?
僕は中学2年生まで信じてました(ガチです)。


今日は聖なる夜、クリスマスだ。ということで今日はみんなで集まってクリスマスパーティーをすることになり、俺とチノとココアはその買い出しに行っていた。

 

「さてと、クリスマスパーティーには何を作ろうかな?」

 

そう言いながら考えていると、ココアがすぐに反応してきた。

 

「だったらお兄ちゃん、パンケーキ作って!クリスマスなんだしいいでしょ?」

 

「お前はパン類が好きだなほんとうに。」

 

ココアの要望にどうしようか考えているとチノも反応してきた。

 

「リョーマさん!パンケーキじゃなくてハンバーグ作ってください!」

 

チノがそう言うとココアがチノに対抗し始めた。

 

「何言ってるのチノちゃん!ハンバーグはこの前作ってくれたでしょ!?今日はクリスマスなんだからパンケーキ!」

 

「ココアさんこそ何言ってるんですか!クリスマスだからこそハンバーグなんです!パンケーキはおやつじゃないですか!」

 

2人はクリスマスだからと言っているが、結局自分の好物が食べたいだけだなこれは。ココアはパンケーキと、チノはハンバーグとずっと言い合っていたので1つ提案をすることにした。

 

「2人とも、ちゃんと両方とも作るから。パンケーキは食後のデザートにしよう?それでいいだろ?」

 

「う〜ん......うん!それだったら大丈夫だよ!」

 

「私もそれなら大丈夫です。」

 

どうやら2人とも納得してくれたようだ。娘2人の対応をする母親ってこんな気持ちなのかな?

 

「あ!お兄ちゃんサンタさんだよ!」

 

ココアの指を差す方を見るとサンタの衣装を着て、仕事をしている人がいた。

 

「サンタか......2人はクリスマスプレゼント何がいい?」

 

俺が2人に聞くと、チノは考えだしたが、ココアは目をキラキラしながら言ってきた。

 

「私、お兄ちゃん1日モフモフ券が欲しい!」

 

「........よしわかった!1ヶ月文系特訓券だな。じゃあ明日から始めるか!」

 

俺が少し意地悪して言うと、ココアは体を震え出した。

 

「ち、違うよ!お兄ちゃん1日モフモフ券だよ!クリスマスプレゼントなんだからいいでしよ!?」

 

「冗談だよ。そうだな、クリスマスだから特別だぞ。」

 

「やったー!お兄ちゃんありがとう!」

 

ココアはジャンプしながら喜んでいた。いつも思うがココアの精神年齢って低いんじゃないか?

 

「チノは何がいい?」

 

「えっと私は.......」

 

「できる範囲なら何でも言っていいよ。」

 

「できる範囲なら......ですか。」

 

チノはすこし考えた後、口を開いた。

 

「それじゃ、えっと........お....お。」

 

「『お』何?」

 

「お.......おn.......や、やっぱりもうちょっと考えます////」

 

チノは顔を赤くし、『お』という言葉だけ発し、何も言わなくなった。

 

「まあまだ時間はいっぱいあるしゆっくり考えればいいよ。」

 

「わかりました////」

 

俺たちはそのままスーパーに向かい買い出しを行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

買い出しを終えた俺たちはラビットハウスへ戻り、パーティーの準備に取り掛かった。

 

「ココア、リゼたちはあとどのくらいで来る?」

 

「10分くらいだよ。大丈夫?手伝うよ。」

 

「大丈夫。ココアは食器を並べておいて。」

 

俺はそう言ってハンバーグを作っていると、チノがキッチンへ入ってきた。ハンバーグが目に入るとチノはキラキラした目でハンバーグに釘付けになり、今にも食べたそうな顔だった。

 

「リョーマさん!それハンバーグですか!?」

 

「そうだよ。いっぱい作るから楽しみにしててね。」

 

俺は味付けを足すために調味料を取りに行った。

 

「美味しそうですね!..........。」

 

「チノ、つまみ食いは良くないぞ。」

 

俺はチノがこっそりとつまみ食いをしようとするところを見逃さなかった。

 

「つ、つまみ食いなんてしてないですよ////」

 

そうは言っていたがさっきからチノの目線がチラチラとハンバーグに向いている。

 

「仕方ないな、ほらチノ、あ〜ん。」

 

俺はハンバーグを一口サイズに切りチノに食べさせようとした。

 

「え?いいんですか?」

 

「今日はクリスマスだから特別だ。そのかわりみんなには内緒だぞ!」

 

「ありがとうございます!あ〜ん♪」

 

チノは嬉しそうにハンバーグを頬張った。とても幸せそうな顔でこっちも嬉しくなってくる。

 

「それじゃ私、ココアさんのお手伝いに行ってきます!」

 

ハンバーグを食べれたからなのか、キッチンに来る前よりすごいやる気に満ち溢れたような感じだった。

 

「こんばんは!」

 

準備が終わりそうになった頃リゼ達がやってきた。

 

「来たか。あれ?マヤとメグは?」

 

リゼ達の方を見るとマヤとメグだけが見当たらなかった。

 

「え?後ろにいるぞ。」

 

俺は慌てて振り向くと、いつのまにか俺の背後にいた。

 

「兄貴!こんばんは!」

 

「お兄さん久しぶり〜!」

 

2人は嬉しそうに俺に抱きついてきた。俺はそのまま2人の頭を撫でると顔がすごく緩んでいた。

 

「改めて見るとリョーマ君って頼れるお兄ちゃんって感じがするわね。」

 

「こういう時の先輩ってこれぞ兄って感じがします!」

 

「そ、そうか///」

 

面と向かって言われるとなんだか照れ臭いな。まあ、マヤ達が喜んでくれてるならそれでいいか。

 

「じゃあ準備は出来たし、早速パーティー始めるか!」

 

全員集合したので俺たちはパーティーを始めることにした。

 

「兄貴の作ったハンバーグおいしそう!」

 

「お兄さんの作ったハンバーグおいしいもんね!」

 

「はい!今日のリョーマさんが作ったハンバーグはとてもおいしいですよ!」

 

するとマヤは疑問に思ったような顔をし始めた。

 

「チノ、なんで兄貴が今日作ったハンバーグがおいしいって知ってるの?」

 

すると口を滑らしてしまったことに気づいたチノはハッとし、慌てて口を押さえた。

 

「あ!さてはチノ、兄貴のハンバーグをつまみ食いしたな!」

 

「チノちゃんずるいよ!」

 

「つまみ食いなんてしてないです!」

 

チノはしばらくの間2人に問い詰められていた。内緒だったのに速攻でバレちゃったな。

 

 

 

 

 

パーティーが終盤になってきた頃、俺は食後のデザートであるパンケーキを作り始めた。生地を焼こうとした時マヤとメグがやってきた。

 

「兄貴!それパンケーキ?」

 

「甘い香りがして美味しそう!」

 

「今日はたくさん作るから楽しみにしてて。」

 

「なあ兄貴、私たちにちょっとだけ食べさせて!」

 

「え?今?」

 

「うん!だってチノだけつまみ食いなんてずるいもん!」

 

俺は少し迷ったが結局作ることになった。1枚の拳くらいの小さなパンケーキを作り2人に差し出すととても嬉しそうだった。

 

「お兄さんありがとう!」

 

「おー!甘くて美味しい!」

 

「チノには秘密な。バレたらチノにずるいって言われそうだし。」

 

「リョーマさん!パンケーキできそうですか?」

 

「「「あ........」」」

 

キッチンの入り口の方を見るとチノがやってきた。2人がパンケーキをつまみ食いをしてるところを見たチノは頬を膨らませていた。

 

「2人だけつまみ食いなんてずるいです!」

 

「いいじゃん!チノだってハンバーグつまみ食いしてたじゃん!」

 

「うっ!?そ、それとこれは別です!私にも食べさせてください!」

 

3人はしばらく言い合っていたが、チノにもパンケーキを作ることになった。悪い行いはすぐにバレるということか。

 

 

 

 

 

 

 

「よしみんな!パンケーキできたぞ!」

 

完成したパンケーキをココア達の所へ持っていくと、みんなパンケーキに釘付けだった。

 

「美味しそー!お兄ちゃん早く食べよ!」

 

「そんなに慌てるな。みんなの準備ができてからだ。」

 

全員が食べる準備が整うと、食後のデザートが始まった。

 

「このパンケーキ美味しいな!シャロも食べてみろよ!」

 

「美味しい!私の大好きな甘さです!」

 

「ほんとうに美味しいわね!ねえリョーマ君!甘兎で和菓子作ってみない?」

 

ココア達の口にも合ったみたいだ。パーティーであんなに食べたのに食べる速度は全く衰えていなかった。........パンケーキ足りるよねこれ?

 

「お兄ちゃんパンケーキ食べさせて!」

 

「お前は高校1年生だろ?もう自分で食べろよ。」

 

「今日はクリスマスだからいいの!早く早く。」

 

クリスマスだからということをいいことに今日はめちゃくちゃ甘えてくるな。

 

「お兄さん!私にも食べさせて!」

 

メグが言うと続けざまにマヤもチノを食べさせて欲しいと言ってきた。結局俺はココア達にパンケーキを食べさせることになった。でも、美味しそうにパンケーキを食べてくれるから作り甲斐があるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンケーキを食べ終わりパーティーが終わったので俺はココアにクリスマスプレゼントを渡すことにした。

 

「はいココア。お前が言ってたモフモフ券だぞ。」

 

俺はココアに1日モフモフ券を渡した。即席で作ったので見栄えが良いとはとても言えないが、ココアはみんなに見せながら大喜びだった。

 

「お兄ちゃんありがとう!」

 

「おっと!いきなり抱きついて早速その券使うのか?」

 

「ううん、これは楽しみにとっておく!期限書いてないしいつでもいいでしょ?」

 

..........あ!期限書くの忘れてた!まあココアがこんなに喜んでくれてるし無期限でいいか。

 

「あの、リョーマさん。」

 

後ろを振り向くと少し不安そうなチノがいた。

 

「どうしたチノ?」

 

「あの、私クリスマスプレゼント決めました!」

 

「お!決まったか!チノは何がいいんだ?」

 

「えっと、できる範囲ならなんでもいいんですよね?」

 

「もちろん!何がいい?」

 

「えっと......その......リョーマさん!」

 

「ん?」

 

「あの........私を........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を......リョーマさんの妹にしてください!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「...............え?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬でその場が沈黙になったのは言うまでもない。

 

To be continued




今回はここで終わります。
1度昼夜逆転になると元に戻すのに苦労しますね。
最近は電車内でよく寝てしまいます。


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-25話- 妹がもう1人増えました!

どうもP&Dです。
蝉の鳴き声が聞こえてきましたね。
これぞ夏って感じですね。
夏は嫌いですけど。


あ、ありのまま今起こったことを話すぞ。チノが欲しいクリスマスプレゼントが決まったというので何かと思ったら妹にして欲しいと言ってきた。何を言っているのかわからないと思うけど俺も何が起きたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった、頭を撫でてとかハグをしてとかそんな甘えてくるような類では断じてない。頭に電撃が走るような驚きを味わったよ。

 

「えっとチノ、なんで俺の妹になりたいんだ?」

 

みんなかける言葉が見当たらないようなので俺が聞くことにした。

 

「リョーマさんがこの街に来てから一緒に過ごしていくうちに、リョーマさんみたいなお兄ちゃんがいたらいいなって思うようになったんです。だから.....その.....クリスマスプレゼントは......おn、お兄ちゃんが欲しいです!」

 

ここから見てもチノが全力の勇気を出して話しているのがものすごく伝わってくる。これは応えないわけにはいかないな。

 

「そうか、よしわかった!じゃあ今日からチノは俺の妹だ!」

 

「ほ、本当に!?いいんですか!?」

 

あっさりと承諾してくれたからなのかまだ信じきれていないような様子だった。

 

「うん!だからこれからはいっぱい甘えていいよ!」

 

俺がそう言うとチノは嬉しさのあまり少し泣きそうになっていた。そしてチノはそのまま俺を抱きしめていた。

 

「ありがとうございます!じゃあえっと......これからもよろしくお願いします!.......お、お兄ちゃん!」

 

こうしてチノも俺のことをお兄ちゃんと呼ぶようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チノが俺のことをお兄ちゃんと呼ぶようになってから、チノが俺に対する甘えが一気に上昇するようになった。ある時は。

 

「お兄ちゃん!今日もお仕事頑張りました!褒めてください!」

 

「うん!今日も頑張ったな!偉いぞチノ!」

 

「えへへ////ありがとうございますお兄ちゃん!」

 

そしてある時は。

 

「お兄ちゃん!今日も一緒に寝ましょう!」

 

「今日も!?最近毎日一緒に寝てないか?」

 

「もちろんです!私はお兄ちゃんの妹なんです!一緒に寝るのは当然です!」

 

さらにある時は。

 

「もーチノちゃん!最近お兄ちゃんに甘えすぎだよ!」

 

「別にいいじゃないですか!ココアさんはこの街に来る前からお兄ちゃんにいっぱい甘えてたと聞きました!私にもいっぱい甘える権利があります!」

 

「だからってくっつきすぎだよ!お兄ちゃんから離れて!」

 

「嫌です!ココアさんが離れてください!」

 

チノが妹になってからよくこの状況になることが多くなった。今のチノは甘え過ぎというか暴走しているのに近いような感じがした。今までずっと我慢してきたんだな。

 

「ココア、チノはずっと我慢してきたんだから少しくらい甘えさせてやってくれないか?」

 

「ヤダ!最近はチノちゃんばっかり甘えてて私は全然甘えれてないもん!」

 

「モフモフ券もう1枚でどう?」

 

「うっ!?.......し、しょうがないな〜、じゃあそれで許してあげる。」

 

動揺を悟られたくないのか、平然を保っているつもりかもしれないが、すっごい棒読みになっている。

 

「お兄ちゃん!今日はお休みですから一緒にどこかに出かけましょう!」

 

「いいよ、どこに出かけたい?」

 

「まずはフルールに行きたいです!」

 

「よし!じゃあ準備しようか!」

 

「はい!」

 

こうして俺とチノはフルールに向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

「こうしてチノと2人で歩くのって散歩の時以来だな。」

 

「そういえばそうでしたね。あの.....お兄ちゃん?」

 

「どうした?」

 

「手.......繋いでもいいですか?」

 

「もちろん!はい。」

 

俺がチノに手を差し出すと喜んで手を繋いできた。

 

「お兄ちゃんの手、あったかいですね!」

 

「そうか?ありがとう。じゃあこのままフルールに行こうか?」

 

「はい!」

 

俺はチノと手を繋ぎながらフルールに向かった。フルールに向かう途中、すれ違う人達に兄妹に見られることが多かった。以前のチノならそれでよく恥ずかしがっていたが今のチノは逆に喜んでおり、とても機嫌が良く見えた。

 

「シャロこんにちは!」

 

「あ!先輩いらっしゃいませ!チノちゃんもいらっしゃい!」

 

「こんにちはシャロさん!」

 

「あら!手なんて繋いでチノちゃん良かったわね!」

 

「はい!お兄ちゃんの手すごくあったかいです!」

 

「もうすっかり先輩の妹ね!じゃあお席の方へどうぞ。」

 

俺たちはシャロに席へ案内され、席に座るとシャロにメニューを渡された。

 

「チノは何にする?」

 

「お兄ちゃんと同じのがいいです!」

 

「俺と同じ?」

 

「はい!お願いします!」

 

となるとチノが飲みやすいカモミールの方がいいかな。

 

「じゃあカモミールとクッキーをお願いできるかな?」

 

「わかりました。少し待っててくださいね。先輩って優しいですね!」

 

カモミールが飲みやすいことはシャロには当然わかっているのだろう。シャロはそう言って去って行った。

 

「あ!そうだ!お兄ちゃん、今日の夕食はハンバーグが食べたいです!」

 

「チノは本当にハンバーグが好きだな。じゃあ今日はハンバーグにするよ。」

 

「ありがとうございます!すごく楽しみです!」

 

そう言ってチノは椅子に座りながら床に届いていない足をぷらぷらと揺らしながら待っていた。

 

「お待たせしました。カモミールとクッキーです。」

 

「ありがとう。いただきます。」

 

俺たちはそのままカモミールティーを飲んだ。

 

「久しぶりに飲んだけどやっぱり美味しいな!」

 

「コーヒーとは違う美味しさです!」

 

「ありがとうございます。そういえばチノちゃん、先輩がお兄ちゃんになってからどう?」

 

「すごく楽しくて幸せな気分です!もっと早くこうしていればよかったです!」

 

シャロの質問に即答で答えられると、さすがに少し恥ずかしい。

 

「先輩はどうですか?」

 

「ああ、俺もすごく楽しいよ。まあそのせいでココアが最近拗ねることが多くなってしまったけど。」

 

「そ、そうですか。先輩も大変ですね。」

 

シャロはそう言って苦笑いをしていた。

ココアにもちゃんと構ってやらないとあのままじゃずっと拗ねたままになってしまうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした。すごく美味しかったよ。」

 

「ありがとうございます!先輩!また来てくださいね!」

 

俺はシャロに挨拶をして店を出た。

 

「さてと、チノ次はどこに行きたい?」

 

「あの、お兄ちゃんとお揃いの物が買いたいです!」

 

「お揃いか。じゃああの店だな。」

 

「?どんな店なんです?」

 

「アクセサリーの店なんだけど、前にチノが1人でスコーンを作っていた時にココアと一緒に行った店なんだ。あそこなら多分良い物が見つかると思うよ。」

 

「じゃあそこに行きましょう!さあ早く早く」

 

俺はチノに急かされたままアクセサリーの店に向かった。店内に入ると以前と変わらず色んなアクセサリーが置いてあった。

 

「わぁ〜!綺麗なアクセサリーがいっぱいです!これなら見つかりそうです!」

 

俺はチノとお揃いの物を探し始めた。

 

「お揃いか〜。髪留めはできないな。ブレスレットは仕事中邪魔になりそうだし。う〜ん、どうしたものか。」

 

悩みながら歩いているとコーヒーカップの形をしたバッヂが目に入った。

 

「チノ!このバッヂはどうかな?コーヒーカップだし、ラビットハウスにも合うと思うよ。」

 

チノに見せるとコーヒーカップのバッヂをジーっと見つめ、目をキラキラしていた。

 

「はい!これがいいです!」

 

「本当にこれで大丈夫?他のはいいの?」

 

「お兄ちゃんとお揃いなら何でも大丈夫です!」

 

「そうか、じゃあこれを買おう!」

 

俺はコーヒーカップのバッヂを2つ買い店を出た。チノはバッヂの入った袋を嬉しそうにギュッと抱きしめていた。

 

「お兄ちゃんありがとうございます!あの.....これ早速着付けてもいいですか?」

 

「うん!いいよ。じゃあ俺も今付けようかな。」

 

俺もバッヂを付けるとチノはお揃いのバッヂを付けれて、嬉しそうだった。

 

「えへへ////お揃いですね。お兄ちゃんがそばにいるみたいです!」

 

「喜んでくれて俺も嬉しいよ。さてと、もう夕方だしそろそろ帰るか。」

 

「はい!お兄ちゃん手を繋いで帰りましょう!」

 

俺はチノと手を繋ぎながら夕日に照らされている道を歩きラビットハウスに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま!」

 

「あ!お兄ちゃんお帰り!」

 

「ただいまです!」

 

「チノちゃん!お兄ちゃんとお出かけどうだった?」

 

「とても楽しかったです!」

 

ココアと話をしているとココアは俺とチノがつけているコーヒーカップのバッヂが目に入った。

 

「あれ?そのバッヂどうしたの?」

 

「これか?この前ココアと一緒に行ったアクセサリー屋で買ったんだ。」

 

「お兄ちゃんとお揃いです!」

 

そう言うとココアはぷくーっと頰を膨らませた。

 

「チノちゃん!お揃いなんてずるいよ!」

 

「ココアさんはその髪留めを買ってくれてたじゃないですか!だからずるくないです!」

 

「もー!お兄ちゃん私にもお揃い買って!」

 

「おいこら!そんなに揺らすな!」

 

「買って!買って!買って!」

 

妹が増えると楽しいことがたくさんあるが、その分大変なこともたくさんあるな。ココアはお揃いが欲しいとずっと駄々をこねていたが、今日はずっとハグしていいよと言うと一応それで許してくれた。いつかココアにもお揃いの物を買ってあげようかな。

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
今回の話、自分で執筆しておきながら少しにやけている自分がいました。
もう病気ですかねこれ?


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-26話- 手紙はちゃんと読もう!読まないのは以ての外!

どうもP&Dです。
みなさんは夏休みの予定はありますか?
僕はアニメの聖地巡礼をする予定です。


「ん〜、よく寝た〜。明日はみんなでキャンプか。」

 

明日はリゼの誘いで、みんなで山奥でキャンプをすることになっている。何をしようか迷っているとチノが部屋に入って来た。

 

「お兄ちゃん、おはようございます。」

 

「チノか、おはよう!」

 

「あの、お兄ちゃん!おはようのハグしてください!」

 

「いいよ!おいで!」

 

俺が両腕を広げるとチノは嬉しそうに抱きついた。俺はそのまま頭を撫でてあげると、チノはさっきより強く抱きしめてきた。

 

「チノ、随分と甘えん坊になっちゃったな。」

 

「私はお兄ちゃんの妹ですから。それにずっと我慢してきたので、その分いっぱい甘えます!」

 

俺はそのまましばらくハグを続けた。すると、部屋のドアが開き誰かと思ったらココアが元気よく入ってきた。

 

「お兄ちゃん!一緒にお散歩に......ってチノちゃん何してるの!」

 

「見ての通りハグをしてるんです!」

 

「チノちゃんずるい!私もハグする!」

 

「あ!ココアさん!今は私がお兄ちゃんとハグをしてるんです!ココアさんは離れてください!」

 

「ヤダ!チノちゃんばっかりずるいもん!」

 

「あの、2人とも、ちょっと苦しい。」

 

2人とも力強く抱きしめてきたので少し息がしづらかった。

 

「お兄ちゃん!今から一緒にお散歩に行こ?」

 

「お兄ちゃん!それより一緒にボトルシップを作りましょう!」

 

「チノちゃんはいっぱい甘えてたでしょ!次は私の番!」

 

「そんなの関係ないです!私だってお兄ちゃんと一緒にいたいです!」

 

最近はこういった2人の言い合いが多くなった。対応の難しさが日に日に上がっている気がする。

 

「じゃあこうしよう。午前はチノとボトルシップを作る、午後はココアと散歩をする、これでいいか?」

 

「お兄ちゃんがそれでいいなら私も大丈夫です。」

 

「それなら私も大丈夫!じゃあ私部屋で待ってるね!」

 

2人とも納得してくれたようだ。ココアはそのまま部屋に戻って行ってしまった。

 

「お兄ちゃん!早速ボトルシップを作りましょう!」

 

「わかった。一緒に作ろう!」

 

こうしてチノとボトルシップ作りが始まった。ボトルシップという名前くらいは聞いたことはあるが、詳しいことはわからなかったので聞いてみることにした。

 

「チノ、ボトルシップってなんなんだ?」

 

「瓶の中で部品を組み立てていくんです。部品に接着剤を付けてこのピンセットを使って組み立てるんです。」

 

「よし!やってみるか!」

 

そう意気込んでやってみたがこれが思った以上に難しい。細かい作業ということももちろんあるのだが何よりも集中力の消費が凄まじい。

チノは慣れているのか、特に疲れているような様子はなく楽しそうに組み立てていた。

 

「結構難しいけど、意外と面白いな。」

 

「私もお兄ちゃんとできて楽しいです!」

 

チノを見てみるとそう言って生き生きとした顔だった。なんとなく頭を撫でてあげたら少し驚いていたが、すぐに笑顔になりもっとして欲しそうに頭を擦り寄せてきた。

 

「よし!あと少しだし、頑張るか!」

 

「はい!お兄ちゃん、ここの部品をつけてください。」

 

俺たちはそのままボトルシップ作りを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、できた!」

 

お昼を少し過ぎた頃、ようやくボトルシップが完成した。チノも完成したボトルシップを持ちながら、とても嬉しそうだった。

 

「お兄ちゃんありがとうございます!」

 

「どういたしまして。さてと、少し過ぎちゃったけどココアと散歩に行ってくるか。」

 

そう言った途端にチノは寂しそうな表情になった。

 

「お兄ちゃん!もうちょっとここにいてください!」

 

「でも、そろそろココアの所に行かないと。」

 

「嫌です!もう少しここにいてください!」

 

チノは俺に抱きつきながら止めに来た。可愛そうだけどここはしっかりと言わないといけないな。

 

「チノ、約束は守ろう?約束を守れないチノなんて見たくないよ。」

 

そう言うとチノはシュンとした表情になり俯いてしまった。

 

「ご、ごめんなさい........約束、守りますから嫌いにならないでください!」

 

「大丈夫、嫌いにならないよ。でも約束は守ろうな?」

 

「はい!あのお兄ちゃん、最後にハグしてください!」

 

「甘えん坊だな。おいで!」

 

チノはそのまま俺を強く抱きしめ、それを堪能するかのように頬ずりをしてきた。

 

「お兄ちゃんのハグは落ち着きますね。」

 

俺は2分程ハグをした後チノに挨拶をし、そのまま部屋を出てココアの部屋に入るといきなり抱きつかれた。

 

「お兄ちゃん遅いよ!お昼少し過ぎちゃったよ!」

 

「ごめんごめん、じゃあ早速行くか?」

 

「うん!お兄ちゃん早く行こ!」

 

俺たちは準備をし、外へ出た。

 

「それで?どこに行くんだ?」

 

「公園で日向ぼっこしたい!」

 

今日はココアに振り回されそうだなと思いながらまずは公園に向かうことにした。

 

「よし、じゃあ行くぞ。」

 

「うん!」

 

俺たちはそのまま公園に向かった。公園に着くとマヤと似た髪色をした女性が息を切らしながらこちらに向かってきた。

 

「あの.....すみません!はぁ....はぁ.....この辺りで薄茶色の髪の毛をしてすごくおっとりとした人を見ませんでしたか?」

 

そんな人、俺の知る中では1人しかいない。

 

「もしかして青山さんのことですか?」

 

「知ってるんですか!?」

 

「はい、よく俺が働いてる喫茶店に来るので。青山さんのお知り合いですか?」

 

「はい!私、真手 凛と言います。小説家の青山先生の担当の者です。」

 

俺達は凛さんとお互い自己紹介をし終わった後、何故青山さんを探しているのかを聞いてみると、どうやら青山さんは原稿の提出期限を2週間も過ぎているらしく、それで青山さんは追いかけてくる凛さんから逃げている状況らしい。何やってるんだよ青山さん。

 

「リョーマさん、もし青山先生を見かけたら私に教えてください!私、しばらくこの辺りを探していますので!」

 

「は、はい。わかりました。」

 

「お願いします!では失礼します。」

 

そう言って凛さんは再び走って青山さんを探しに行ってしまった。

 

「青山さんも大変だね。」

 

「いや、あれは青山さんが悪いだろ。」

 

俺は青山さんが見つかることを願いながらベンチに座った。

 

「この公園はのどかで良いな〜。」

 

「そうだよね〜、なんだか眠くなってきちゃうよ。」

 

日向ぼっこを楽しんでいると、近くにアイスクリーム屋があった。親子連れの人達がとても美味しそうに食べていたので、自然と食べたい気持ちになってくる。

 

「なあココア、あそこにアイスクリーム屋があるけど食べるか?」

 

「うん!食べたい!私チョコレートがいい!」

 

「はいはい、ちょっと待ってろ。」

 

俺はアイスクリーム屋に行きチョコレート味を2つ頼み、ココアの元へ戻るとココアは目を輝かせていた。

 

「ありがとう!ふわぁ〜美味しそう!」

 

ココアはアイスクリームに夢中になりながら食べていた。ゆっくり食べろと言ったが聞かずに食べた結果、頭を抑えながら悶えていた。

 

「リョーマさーん!」

 

アイスクリームを食べ終えた後、声のする方へ向いてみると、青山さんが走りながらこちらに向かってきた。

 

「青山さんどうしたんですか?」

 

「はぁ〜.....あ、あの、少し付き合ってください!」

 

「コラー!先生待ちなさーい!」

 

奥の方を見てみるとさっき会った凛さんが走って来た。

 

「探しましたよ先生!さあ!早く原稿書いてください!」

 

その直後青山さんは合わせてくださいみたいな目で見られた。

 

「あの!俺リョーマです!ぶつかった拍子に青山さんと魂が入れ替わってしまったんです!」

 

俺はこの時思った、何をやっているんだこの人は....と。

 

「くだらないことしてないで早く原稿書いてください!締め切りは2週間も過ぎてるんですから!」

 

「あの、まだ台詞終わってませんけど......」

 

凛さんは青山さんが言ってることを完全に無視し腕を掴み引きずり戻していた。

 

「.......なんだったんだろうね?」

 

「.....さあな。」

 

公園の時計を見てみると夕方になろうとしていた。いつもならまだ少し出かけているが、明日のことがあるので今日は早めに帰ろうと思った。

 

「ココア、少し早いけどラビットハウスに戻ろう?」

 

「え!?もう?もうちょっといようよ!」

 

「備えあれば憂いなしってやつだ。今日はもう帰ろう。」

 

「?備え?よくわからないけどわかった!」

 

俺はそのままラビットハウスに戻った。道中、手を繋いで帰りたいと言われたのでしょうがないなと思いながら手を繋いであげるとココアはスキップをしながら歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝の早朝、キャンプの準備が出来た俺はリゼが迎えに来るのを待っていた。

 

「あ!お兄さんおはよ〜!」

 

「兄貴!おはよー!」

 

店の入り口前で待っていると、マヤとメグが到着した。2人は到着するや否やいきなり抱きついてきた。

 

「えへへ、お兄さん頭撫でて!」

 

メグの頭を撫でてあげるとニッコリと笑っていた。それを見たマヤは私もして欲しいと言われたのでマヤにも頭を撫でてあげた。

 

「お兄ちゃんおはようござ......ってマヤさん!メグさん!何してるんですか!」

 

「見ての通りハグだぞ!」

 

「ずるいです!私もハグします!」

 

そう言ってチノは荷物を床に置いて抱きついてきた。昨日の朝と同じシーンだなと思いながら3人に抱きつかれていた。

 

「リョーマ君おはよう!」

 

「先輩おはようございます!」

 

チヤとシャロも到着したようだ。

 

「リョーマ君聞いて!昨日シャロちゃんの家のエアコン壊れたらしくて、このままじゃ死んじゃうって叫んでうちに駆け込んできたのよ。」

 

「ちょっとなんで先輩に言うのよ!」

 

シャロはチヤをポカポカと叩きながら顔を赤くしていた。

 

「あの時のシャロちゃん可愛かったわ!」

 

「それ以上言うなバカー!」

 

シャロは慌ててチヤの口を塞いでいた。そんなやりとりを見ているとリゼが乗った車が迎えに来た。

 

「みんなおはよう!あれ?ココアは?」

 

「そういえばいないな。あいつもしかしてまだ寝てるんじゃ.....」

 

そう思ってココアの部屋に行こうとした途端店の入り口のドアが開き、そこにはまだパジャマ姿のココアがいた。

 

「お兄ちゃんおはよ〜.....ってあれ?なんでみんないるの?」

 

「何ってお前もしかして手紙見てないのか?」

 

「手紙?」

 

俺が聞くとココアは何のことかさっぱりわからないような表情だった。

 

「今日はみんなで山奥にキャンプに行くんだぞ。」

 

「え!?私聞いてない!」

 

「聞いてないってお前が手紙読んでないだけだろ?まったくお前はいつもいつも!」

 

「いひゃいいひゃいおひいはんおへんははい(痛い痛いお兄ちゃんごめんなさい!)」

 

俺はココアの頬を抓り、急いで準備してくるようにいうとココアは部屋へ急いで戻って行った。

 

「ごめんなみんな、ココアが準備出来てなくて。」

 

「気にするなよリョーマ。手紙読んでなかったココアが悪いんだから。」

 

「みんな待たせてごめんね!」

 

急いで準備をしてきたココアが戻ってきた。みんな揃ったので車に乗ろうとしたがここでも問題が発生してしまった。

 

「お兄ちゃん!私の隣に座ってください!」

 

「あ!チノ!抜け駆けなんてずるいぞ!兄貴の隣は私が座る!」

 

「お兄さんの隣は私が座りたい!」

 

「3人は3人で座って!お兄ちゃんの隣は私が座るから!」

 

「ココアさんは1人で座ってください!」

 

車に乗りたいのだが4人が俺の隣に座りたいと駄々をこね始め、車に乗れないでいた。

 

「じゃんけんで決めればいいだろ?早く乗ろう?」

 

俺が言うと4人は納得し、じゃんけんで決めることになった。4人とも目が本気で心なしか4人から炎が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、勝ちました!お兄ちゃん勝ちました!」

 

勝負の結果チノが勝った。3人はすごい悔しそうな表情だったが一方チノは嬉しさのあまりぴょんぴょんとジャンプしながら俺に抱きついてきた。

 

「良かったわねチノちゃん。リョーマ君も大変ね。」

 

チヤの言葉にチノはお礼を言いそのまま俺の手を引っ張りながら車の席に座った。

 

「よしみんな出発するぞ!」

 

リゼが出発の合図の出したのでみんな車に乗り山奥に向けて出発した。

 

「キャンプ楽しみだね!」

 

「そうだな、頼むから問題起こすんじゃないぞ。」

 

「わかってるって!」

 

こういう時のココアは問題を起こす可能性が高いから気が抜けない。俺はそう思いながら山奥に向かった。ちなみに隣に座っていたチノが山奥に着くまでの間すごい甘えてきたので、3人からの視線がすごかった。

 

To be continued




今回はここで終わります。
早く夏終わって欲しい!気温40℃とか絶対嫌だ!
冬!早く来てー!


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-27話- ドッキリはやりすぎないように!

どうもP&Dです。
人生で1度きりでいいのでバンジージャンプしたみたいです。


ラビットハウスから出発して3時間ほど経ち、ようやく山奥の森にあるコテージに到着した。たくさんの木に囲まれており大自然みたいでなんだかココアの実家を思い出した。

 

「ふわぁぁ!すごいです!お兄ちゃん、木がいっぱいです!」

 

チノは大興奮しながら、森の中の写真を撮り始めた。普段はこんなにはしゃがないチノと比べると、中学生っぽさを感じられとても可愛らしかった。

 

「チノ、とりあえずコテージの中に入ろう?」

 

俺はチノを呼びコテージに入った。中に入ると2階もあり俺たちだけでは少し広すぎるくらい豪華で、マヤとメグがコテージの中を探検したいとはしゃいでいた。

 

「すごい広いな!いいのかリゼ?こんな豪華な所使っちゃって。」

 

「ああ、親父がほとんど使ってないから好きに使えって。」

 

これはリゼのお父さんに感謝しないとな。そう思いながら荷物を置くとマヤとメグが駆け寄ってきた。

 

「兄貴!このコテージすごい広いぞ!」

 

「2階が寝室になってたよ!」

 

2人はそう言って大はしゃぎだった。俺も中学の修学旅行の時もこんな感じだったな。

 

「みんな!食料は親父から貰ってきたけど、せっかくだし魚釣りとか山菜採りをしないか?」

 

リゼの提案にみんなは喜んで承諾し軽く昼食を済ませ、まずは山菜採りをすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ〜!きのこと山菜がいっぱいだわ!」

 

チヤの言った通り、きのこや山菜がたくさん並んでいた。早速始めようとしたが、チノがずっと俺と同じ所を採っていた。

 

「チノ、他の所に採りに行かないの?」

 

「嫌です。お兄ちゃんと一緒に採りたいです。」

 

すごい可愛いこと言うようになったなこの子は。そう微笑ましく思っているとマヤとメグもやってきた。

 

「兄貴!山菜こんなに採れたぞ!」

 

「私はこんなにきのこが採れたよ!」

 

マヤとメグはそう言い両手に満杯の山菜ときのこを見せてきた。

 

「こんなに採れたのか!ありがとう2人とも!」

 

2人の頭を撫でてあげると、ニコッと笑いながら嬉しそうな表情だった。

 

「な!?お、お兄ちゃん!私はこんなに山菜ときのこを採りました!マヤさんとメグさんより多いです!」

 

明らかに頭を撫でて欲しそうな勢いで言ってきた。少し意地悪してみようかな。

 

「そっか。その調子でどんどん採っていこうな!」

 

俺は頭を撫でずにそのまま再開した。するとチノはてっきり頭を撫でてくれると思っていたのか、驚きを隠せていない表情だった。

 

「....え?あの、お兄ちゃん!こんなに採れたんですよ!こんなに!」

 

そう言ってチノは再び見せてきた。頭を撫でてくれない不安からなのか、だんだんと焦り始めていた。

 

「え?うん、さっき見たよ。ほら、まだ全員分には足りないからいっぱい採っていこう!」

 

「..........」

 

そのままチノは何も言わなくなった。そして数秒後、どこかからすすり泣く声が聞こえた。

 

「....えぐっ.....ひぐっ...うっ...うぅ...」

 

「え?」

 

振り向くとチノが涙を堪えながら泣いていた。まさか泣くとは思わなかったので俺は慌てずにはいられなかった。

 

「ご、ごめんチノ!」

 

「私.....頭撫でて欲しくて.......ひぐっ......頑張ったのに.....」

 

「ごめん!頭撫でよう思ったんだけどあまりにも可愛かったから少し意地悪しただけなんだ!本当にごめん!」

 

俺はチノを安心させようと必死だった。泣きはしなくなったがまだ目尻に涙が溜まったままだった。

 

「嫌いになったんじゃ.......ないんですか?」

 

「こんなに山菜ときのこを採ってくれたのに嫌いになるわけないだろ?」

 

俺はそう言いながらチノを抱きしめながら頭を撫でてあげると安心しきった顔をしていた。

 

「嫌われてなくて本当に良かったです!」

 

そう言ってチノも抱きしめてきた。これからは意地悪はしないようにしよう。

 

「リョーマ君、こんなにきのこが採れたわよ!」

 

チヤはそう言って俺にきのこを見せてきた。しかしよく見てみるとめちゃくちゃグロテスクなきのこや赤い斑点があるきのこなどがたくさんあった。

 

「おい!これ全部毒キノコだろ!?」

 

「ツッコミありがとう!」

 

「ツッコミのためだけに採ってくるな!早く戻してこい!」

 

そう言うとチヤはそのままさっきいた場所へ戻って行った。チヤのああいった所には困ったものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山菜を充分に採れたので、俺たちはそのまま川へ行き魚釣りをすることになった。

 

「お兄ちゃん!一緒に魚釣ろう!」

 

俺はココアに手を引かれ、川の岩場まで連れて行かされた。連れて行かされてる最中チノたちがずるいと叫んでいたがココアは御構い無しだった。

 

「お兄ちゃん!ここならいっぱい釣れそうだよ!」

 

川を見てみると結構な数の魚が泳いでおり、ココアの言う通りここならたくさん釣れそうだ。早速準備をし、魚が釣れるのを待っているとさっきからずっとココアが鼻歌を歌いながらご機嫌だった。

 

「ふん♪ふん♪ふ〜ん♪」

 

「なんだかご機嫌だな。」

 

「だってお兄ちゃんと一緒なんだもん♪最近のお兄ちゃんはチノちゃんとばっかり遊んでて構ってくれなかったから。」

 

思い返せば、チノと一緒にいるのが多かった気がする。まさかチノがあそこまで甘えん坊になるとは思っていなかったからな。

 

「ごめんなココア、最近構ってあげられなくて。」

 

「ううん、大丈夫!だって今はお兄ちゃんと一緒だから!」

 

そう言って隣に座っていたココアはさらに寄ってきた。

 

「それはそうと........」

 

「ん?」

 

「........なんで俺は1匹も釣れないんだ?」

 

釣りを始めて30分程経つがココアはすでに3匹も釣れているのにも関わらず俺はまだ1匹も釣れていなかった。ココアの釣り方を真似してみても一向に俺だけ魚が釣れなかった。

 

「お兄ちゃん、そろそろ戻ろう?」

 

「そうだな........戻るか。」

 

俺はあの後頑張ってみたが結局1匹も釣れることはなく、それとは逆にココアの方はどんどん釣れていきしっかりと人数分釣り上げていた。俺は少し悔しい思いをしながら夕食を作るためにコテージへ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「みんな!できたぞ!」

 

今日の夕食は山菜ときのこを使ったカレーライスを作った。みんな美味しそうに食べていたが中でもチノがよく食べていた。

 

「お兄ちゃん!これすごく美味しいです!」

 

「ありがとう、そう言ってくれると作り甲斐があるよ。」

 

俺はチノにお礼を言いながら頭を撫でた。

 

「チノがこんなに食べるなんて初めて見た!」

 

「ほんとにね、学校でも見たことないのに。」

 

いつも学校で一緒にいるマヤとメグですら驚いていた。

 

「お兄ちゃんの作る料理はすごく美味しいですから!」

 

チノは笑顔で俺の料理を褒めていた。するとココアが妹を取られたみたいな顔をし始めた。

 

「チ、チノちゃん!私の作る料理も美味しいでしょ!?私だって夕食作る時があるし!」

 

「お兄ちゃんと比べないでください。ココアさんが作る料理とお兄ちゃんが作る料理では天と地の差があります。」

 

「そ、そんな!?......お兄ちゃんのバカーーーーー!」

 

「おいやめろ!叩くな!」

 

チノははっきりとそう言い切り、それを聞いたココアはよほどショックなのか俺をずっと叩いていた。

 

「お兄ちゃん!おかわりください!」

 

チノは空になった皿を俺に差し出しながら元気よく言ってきた。その姿はとても子供っぽく、猫が食べ物を強請る時みたいな感じだった。

 

「うんいいよ。それにしても今日のチノはたくさん食べるね。」

 

「はい!とても美味しいので!」

 

空になった皿にカレーを盛り、チノに渡すと再び美味しそうに食べ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ごちそうさまでした!」」」」

 

「美味しかったなー!」

 

「先輩って本当に料理上手ですね!」

 

みんな今日の夕食に大満足の様子だった。食後のお茶を飲んでいるとチノがだんだんウトウトとし始めた。

 

「チノ、眠いのか?」

 

「......はい。......少し。」

 

俺から見れば少しどころじゃないと思うが、少し寝かせてあげよう。

 

「チノ、俺の膝の上で寝ていいよ。」

 

「.......はい。」

 

チノはなんのためらいもなく俺の膝に頭を乗せ、すぐさま眠ってしまった。

 

「あ!膝枕だ!懐かしいな〜。」

 

「ココアちゃん、リョーマ君に膝枕してくれたことあるの?」

 

「うん!小さい頃よくしてくれたんだ!」

 

そういえば小さい頃はよくココアに膝枕をしてあげてたな。たまにして欲しいがために夜更かししてわざと眠くさせ、それで膝枕を強請ってきたことがあったな。

 

「そうだ!せっかくだし今日は外でテントを張って寝ないか?」

 

「いいね!せっかくだしそうしようよ!」

 

「テントで寝るのってなんだかワクワクするわね!シャロちゃんテントで一緒に寝ましょ?」

 

「いいけど、驚かせるようなことしないでよね。」

 

リゼの提案にココアが元気よく賛成し、みんなも反対はしなかった。

 

「じゃあ外に出てテントを張るか。チノは俺がおぶって行くよ。」

 

俺たちはコテージから少し離れた所に行きテントを張ることにした。

目的地に行く途中、俺の背中の上でチノが寝言で何回も嬉しそうに『お兄ちゃん』と言っていた。どんな楽しい夢を見てるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠ってしまったチノを寝袋に入れテントの中で寝かし、焚火を作り焼きマシュマロを作って食べていた。

 

「ん〜!焼きマシュマロ美味しいね!」

 

「ええ!本当に美味しいわ!」

 

「食べ過ぎるんじゃないわよ。」

 

焼きマシュマロって焼く前と比べると柔らかさが全然違うからその分すごく美味しい。そんなことを考えていると、マヤとメグが焼きマシュマロを持ってやってきた。

 

「兄貴!私が焼いた焼きマシュマロ食べて!」

 

「お兄さん!私のも食べて!すごくいい感じに焼けたんだ!」

 

2人はそう言って串に刺した焼きマシュマロを差し出してきた。すごい食べて欲しそうな目だ。

 

「ありがとう2人とも!」

 

俺は2人のマシュマロを受け取りお礼を言うと喜びながら抱きつかれた。チノが見たらずるいですって言われそうだな。

 

「そうだ!私チノちゃんにドッキリしたい!」

 

またココアが変なことを言い始めた。それで怒られても知らないぞ。

 

「やめておいた方がいいと思うよ。」

 

「ドッキリしたことないからやってみたいの!」

 

そう言ってココアは駄々をこねて聞かなかった。結局ドッキリはすることになり、テントの外ではゾンビで溢れかえっているという設定でチノを驚かすことになった。今はマヤとメグがチノにそのことを教えている所だ。

 

「絶対怒ると思うぞ。」

 

「今回だけだから大丈夫!」

 

大丈夫と言っているが後で嫌われたと言って泣いてしまうのが目に見える。

 

わあああああぁぁぁぁ!!!」

 

そんな話をしながら待っているとチノが大声で叫びながらテントから出てきた。

 

「どうしたチノ?」

 

「あの....ゾンビ。」

 

「ゾンビがどうした?」

 

「みんな......ゾンビに.....」

 

チノは状況を掴めていないようで、呆然とした様子だった。そしてココアはここだといわんばかりの顔をしていた。

 

「何言ってるのチノちゃん?私たちが........ゾンビニナルワケナイヨォォォ!」

 

そう言ってココアは口にケチャップを付けた顔をチノに見せた。するとチノは言葉を発せずそのままバタンと気を失って倒れてしまった。

 

「チ、チノちゃん!大丈夫!?ケチャップだから!ゾンビになってないから!目を覚まして!ケチャップだからーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チノちゃん本当にごめんね!この焼きマシュマロで許して!」

 

「..........いただきます。」

 

チノはマシュマロを受け取ったはしたが決してココアの方を向こうとはしなかった。

 

「お兄ちゃん、一緒に食べてもいいですか?」

 

「ああ、いいよ。」

 

チノはそのまま俺の隣に座ってきた。

 

「お兄ちゃんのマシュマロ、いい焼き加減ですね!」

 

「え?ああ、ありがとう。」

 

本当はマヤとメグが焼いてくれたんだが黙っておいた方がいいなこれは。

 

「でもなんで2本なんですか?」

 

「え!?えっと、この焼きマシュマロすごい美味しいからさ、多めに焼いたんだ。」

 

ヤバイ!バレたら絶対にずるいって言われてマヤとメグと言い合いになる。

 

「........お兄ちゃん嘘ついてますね。」

 

「え!?嘘なんてついてないよ!」

 

「いいえ嘘です!お兄ちゃん嘘つく時、作り笑顔になるんですよ。今のがまさにそれでした。」

 

「え?そうなのか!?」

 

「嘘です。」

 

なんてことだ!チノに嵌められてしまった!チノはそのまま頰を膨らませながら近づいてきた。

 

「さあ正直に答えてください!」

 

「........マヤとメグが焼いてくれたんだ。」

 

俺は正直に言うとチノはさらに頰を膨らましていた。

 

「マヤさん!メグさん!なに私を差し置いてお兄ちゃんに褒めてもらおうとしてるんですか!」

 

「ヤベー!逃げろー!」

 

「あはは!逃げろ〜!」

 

3人はしばらく追いかけっこをしていた。終わった後、マヤとメグだけだとずるいとやっぱり言われ、チノにもマシュマロを焼いてもらい頭を撫でで褒めてあげると満足そうにしてマシュマロを食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マシュマロも無くなり、俺はだんだん眠くなり、みんなも眠くなってきたようなのでそろそろ眠ることにした。

 

「さて、そろそろ寝るか。」

 

「お兄ちゃん!一緒に寝よ!」

 

ココアは俺の手を掴みテントに入れようとしてきた。それを見たチノはマヤとメグと一緒のテントに俺を引き連れようとしていた。

 

「お兄ちゃん!今晩は私たちと一緒に寝てください!」

 

「そうだそうだ!今日は兄貴と寝たい!」

 

「私もお兄さんと寝たい!ねえねえいいでしょ?」

 

マヤとメグも参加してきてしまった。せっかく眠れそうだったのに目が覚めそうだ。

 

「今日は私がお兄ちゃんと寝るの!チノちゃんたちは3人で寝て!」

 

「嫌です!ココアさんはリゼさん達と寝てください!」

 

「そうだぞ!兄貴は私たちと寝るんだ!」

 

「私たちお兄さん大好きだもん!」

 

ココアには右腕を、チノ達には左腕を引っ張られとても寝れるような状況じゃなかった。

 

「みんなそれぞれのテントで寝なよ。俺は俺のテントで寝るから。」

 

「「「「それは嫌だ(です)!!」」」」

 

なんでここだけ声を揃えて同じ意見なんだよ!

 

「じゃあ4人で同じテントに寝よう?俺もそこで寝るから。」

 

「そっか!そうすればいいんだ!チノちゃん達もそれでいい?」

 

俺がそう提案すると、4人とも納得してくれた。寝るのにもこんなに体力を使うなんてな。

 

「じゃあお兄ちゃん、早速テントに入りましょう!」

 

俺は妹組のテントに入り、寝袋に入った。眠るのに少し時間がかかるかと思ったが山菜採りや魚釣りで思ったより疲れていたみたいですぐに眠りにつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....にい.....起き......さい!」

 

真夜中の中、なんだか誰かに呼ばれてる声がする。

 

「お兄ちゃん、起きてください!」

 

少し目が覚めたので声のする方を向くとチノが困った顔をしていた。

 

「どうした?トイレか?」

 

「いえそうじゃなくてですね。その......眠れないんです。」

 

そういえば夕食の後眠ってたな。眠れないのも無理もないか。そう思った瞬間、少し強い風の音が周りに響いた。

 

「ひゃっ!」

 

チノは風の音に驚き、俺にしがみついてきた。しがみついてきた体はガタガタと震えていた。

 

「もしかしてチノ、風の音が怖くて眠れなかったのか?」

 

「だ、だって仕方ないじゃないですか!こんな山奥に何もないところでしかも真夜中なんですから怖いに決まってます!」

 

チノは半泣き状態になっていたが、泣くまいと頑張っていた。少し落ち着かせた方がいいな。

 

「チノ、一旦テントを出て焚火を作って少し落ち着こう?」

 

「そ、外に出るんですか?」

 

テントを出ると聞いた途端チノはまた体を震え出し始めた。

 

「大丈夫、焚火があるから。ほら!手繋げば大丈夫だろ?」

 

「は、はい。」

 

俺はチノと手を繋ぎテントを出た。そして俺はすぐに焚火を起こしチノにコーヒーを差し出した。

 

「ありがとうございます。.........はぁ〜落ち着きます。」

 

「どういたしまして、それにしてもみんなぐっすりだったな。」

 

「よほど疲れていたんでしょう。」

 

俺とチノはコーヒーを飲みながら話をしていた。チノはすっかり落ち着いたみたいで、まるでさっきの怯えはなかったかのような感じだった。

 

「お兄ちゃん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです!」

 

「ありがとう。さてと今日の朝には帰るしそろそろ寝るか。」

 

「そうですね。.....あのお兄ちゃん。」

 

「ん?どうした?」

 

「今日は.....お兄ちゃんとハグしながら寝たいです!」

 

少し頰を赤くしていた。もう落ち着いているが寝てる時にまだ怖がり始めたらいけないし要望に応えよう。

 

「いいよ、じゃあ早くテントに入ろう?」

 

「はい!」

 

俺とチノはテントの中に戻り、チノをハグしながら横になった。とても安心しているようで体の震えはまったく感じなかった。

 

「えへへ////お兄ちゃんがそばにいます////」

 

「マヤ達に見られたら大変なことになりそうだけどな。」

 

「その時は私たちが先に起きれば問題ないです。」

 

「それもそっか。じゃあ早く起きれるようにもう寝よう。」

 

「はい!お兄ちゃんおやすみなさい。」

 

俺たちはそのまま眠りについた。朝になったが俺たちは起きることが出来ずマヤ達に結局バレてしまい、ものすごい問い詰められてしまった。帰りの車の中ではマヤとココアが隣に、メグが俺の膝の上に乗っていた。チノはテントでのことがあり俺と隣になれずラビットハウスに着くまでずっと半泣き状態だった。

 

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
先日アニメの聖地巡礼に行ってきました!すごい疲れましたがその分めっちゃ楽しかったです!また今度行きたいな。


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-28話- 手当てはすぐにしよう!

どうもP&Dです。
夏休みに入ってから夜更かししまくりで生活スタイルがボロボロです。
元に戻すの大変そう..........。



「今日は違う道で帰ってみるか!」

 

ラビットハウスへ帰る途中、ふといつも通って帰る道とは違う道で帰りたいと思い、少し回り道して帰ることにした。

 

「へぇ〜、こんな所にパン屋なんてあったんだ。」

 

辺りを見ながら歩いているとパン屋、床屋、ファストフード店等、まだ見たことなかった店がたくさん並んでいた。

 

「たまには知らない道を通って帰るのもいいものだな。......あれ?こんな所に学校?」

 

見てみると俺が通っている学校よりもかなり大きい学校がそびえ立っていた。門もその分大きく、いかにもお金持ちの人が通いそうな学校だった。

 

「こ、こんな大きな学校見たことないぞ。あれ?あの制服......」

 

門から出てくる生徒を見ていると、全員女子生徒だった。それをみてここは女子校なのだとすぐにわかったのだが、俺が気になったのは制服だった。

白が目立つ制服をしており、リゼとシャロが着ている制服にすごく似ていた。

 

「ここってもしかしてリゼとシャロが通っている学校なんじゃ....」

 

そう思いながら立っていると門の近くにいた女子生徒がこっちに走ってきた。

 

「あの!もしかして如月リョーマさんではありませんか?」

 

「え?は、はいそうですけど。」

 

俺は質問に答えるとその生徒は長年探していたものがやっと見つかったみたいな顔をし始めた。

 

「やっぱり!リゼ先輩からあなたのことをよく聞いてるんです!とても料理がお上手だとか妹思いの優しい兄だとか気配りができて素敵な人だと!」

 

その生徒は次から次へと俺についてのことを言い始めた。.......リゼ、学校では俺のことをこんなにも褒めてくれてたのか。

 

「あ、ありがとうございます///」

 

「そうだ!せっかくですから、この学校を見て行ってください!」

 

何を言い出すんだこの人は!?どこからどう見ても俺は他校の生徒なのに無断で俺が入っても大丈夫なのか?

 

「勝手に入ってもいいんですか?許可とか取らないと駄目なんじゃ......」

 

「大丈夫です!さっき許可を取りましたから!」

 

この人用意周到だな。さっき門の近くにいた時に許可取ってたのか。

 

「じゃあせっかくですしお願いしてもいいですか?そうだ!リゼがいる所へ案内してもらってもいいですか?」

 

「わかりました!こちらです!」

 

俺は女子生徒に案内された。リゼの所へ案内してもらっている途中、学校でのリゼを教えてくれた。

リゼは学校ではかなりの人気者らしく生徒みんなからの憧れの存在のようだ。そして今は部活の助っ人をしているらしく体育館にいるみたいだ。

 

「ここです。リゼ先輩は今バスケ部の助っ人をしていますよ。」

 

「ありがとうございます!じゃあ行ってきますね。」

 

中に入るとリゼへの声援が一斉に聞こえた。リゼがシュートを決め、ゴールに入るとキャーという声が響き渡った。......耳が潰れる。

 

「あれ?あの人って......」

 

少し離れた所から俺の方を向いて何か言っている生徒がいた。まあ他校の生徒がしかも男子がいたらそうなるのは当然か。

 

「あの!如月リョーマさんですよね!」

 

「えっと。はい、そうです。」

 

俺はそう返すと周りにいた人もざわざわとし始めた。

 

「やっぱり!リゼ先輩の言った通り素敵な人!」

「本当にあの如月リョーマさん!?」

「まあ!すごいカッコイイ!」

 

なんだろう?無意識のうちになんだか体がだんだん震えてきた。俺にとって恐怖の記憶(5話参照)が蘇ったとでもいうのか?

 

「リョーマ!?なんでここに!?」

 

振り向くと、そこには驚きすぎているリゼがいた。

 

「よお。近くを通ったらここの学校の生徒に案内されてな。」

 

俺はリゼに訳を話すとすんなりと納得してくれた。しばらく話をしていると周りの生徒達がまたざわざわとし始めた。

 

「あの!如月さんとリゼ先輩って恋人同士なんですか?」

 

「「こ、恋人!?」」

 

俺とリゼは同時に驚いた。おそらく今の俺の顔は赤いと思うがリゼはそれ以上に真っ赤だった。

 

「ち、違うぞ!リョーマとは確かに仲は良いけど、こ、恋人じゃ........ないぞ////

 

リゼはそう言って顔を赤くしながらこっちをチラッと見た。ここは俺も言った方がいいかな。

 

「俺はリゼと同じ店で働いてるんだ。仲は良いけど恋人ではないかな。」

 

俺はそう言うとみんなは残念そうな顔をしていた。リゼはさっきの言葉を発したきりずっと顔を赤くして俯いたままだし、どうしたものか。

 

「そ、そろそろ続きしてもいいか?」

 

しばらく沈黙だったリゼが雰囲気を変えるために部活を再開しようとしていた。周りの生徒も応援に集中するようになり、さっきの話の空気はもう無くなっていた。

 

「リゼ先輩頑張ってください!」

「ドリブルの姿も素敵です!」

 

周りは歓声の嵐だった。俺は人が少ない隅で見ていたが、助っ人とは思えないほどの動きをしていた。

水分補給の時、リゼがこっち向いてきたので手を振ってあげたが顔を赤くしてプイッとそっぽを向かれた。.......なんで?

 

休憩が終わり再び練習が再開した。リゼは相変わらずの動きだったが、俺が来てから1時間以上経っているが、実際はもっとしていたはずだ。流石のリゼも少し疲れが出ているように見えた。

 

「ちょっと心配だな、怪我しなければいいけど。」

 

そう思った矢先、突然リゼがバランスを崩し倒れてしまった。俺は頭より体が先に動き真っ先にリゼの元へ向かった。

 

「リゼ!大丈夫か!」

 

「うっ......あぁ.........大丈.......っ!」

 

リゼは足を抑え苦しそうに悶えていた。運動靴と靴下を脱がすと足首の辺りが赤く腫れていた。

 

「捻挫か。保健室はどこにありますか?」

 

「えっと、それなら体育館を右に出て奥にあります!」

 

俺は近くにいた生徒に保健室の場所を聞き、俺はそのままリゼを抱えた。お姫様抱っこで。

 

「リョーマ!何を!?」

 

「こうしないと運べないだろ?」

 

「お、降ろしてくれ!恥ずかしい////」

 

「怪我人は静かにしてろ!行くぞ!」

 

俺はそのまま保健室へ急いで向かった。体育館にいた生徒達は俺たちの姿を見て、顔を赤くしていたが今の俺には気にする余裕がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません!誰かいますか?」

 

保健室に入るとそこには誰もおらず、ベッドや薬棚などがあるだけだった。

 

「そういえば今日、保健室の先生休みだった。」

 

「こんな時に限って。」

 

俺はとりあえずリゼをベッドに寝かせた。包帯と氷を拝借し、リゼの足を冷やしてから包帯を丁寧に巻いた。

 

「これで大丈夫だろ。少しの間安静にしてろ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

俺たちはしばらく無言の状態が続いた。リゼは申し訳なさそうな顔をしていたので、ここで怪我のことを注意するのは野暮だと思ったので何も言わないでおくことにした。

 

「ごめんな、心配かけて.......」

 

「いいよこれくらい。小さい頃よくココアが怪我したのを手当てしてたから。」

 

俺は昔のことを話して気を紛らわそうとしたがあまり効果がなかったようだ。

 

「そんなに落ち込むなって、怪我なんて誰だってするだろ?俺だってもちろんしたことあるんだから気にするな。」

 

「......優しいなお前は、私が怪我したことを責めようとしないんだもんな。」

 

「ここで注意しても余計に落ち込むだけだろ?次からは気をつけようっていうのはお前が1番わかってるだろ?だから責める必要は無いよ。」

 

そう言うとリゼは少し安心した様子だった。もう30分程経ったからそろそろ歩かせても大丈夫だろう。

 

「リゼ、そろそろ歩けるか?」

 

「ああ、まだ少し痛むけど歩けるよ。」

 

「せっかくだしお姫様抱っこしてあげようか?」

 

「し、しなくていい///」

 

リゼが真っ赤になって拒否されたので、肩を貸して帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、デカい.......」

 

リゼの家に到着したが、家がめちゃくちゃデカい。門の前にはサングラスを付けた男の人が立っており、遠くから見ても威圧感があった。

 

「俺が行っても大丈夫なのか?」

 

「ああ、お前のことは前からみんなに話してるから大丈夫だ。」

 

俺はそのままリゼを連れ門の前まで行き、学校でのことを話すと家の中に入れてもらい、リゼの部屋まで連れて行った。

 

「よっと、しばらく助っ人はしないようにな。」

 

「わかった、ありがとう。」

 

俺はしばらくリゼと話をした。俺のことを学校で言ってたことを話すと事実を言っただけだと顔を赤くしながら黙ってしまった。

 

「失礼します。リョーマ様、旦那様がお呼びです。」

 

「親父がリョーマを?」

 

ドアのノックの音がし、見てみるとメイド服の女性が入ってきて要件を伝えると、俺をリゼのお父さんの所へ案内しようとしていた。

 

「リゼのお父さんが?ちょっと行ってくるよ。」

 

「ああ、いってらっしゃい。」

 

俺はそのままメイドさんに案内されドア前まで到着すると、メイドさんは挨拶をし、そのまま立ち去って行った。

 

「なんだか緊張するな。」

 

俺はドアのノックをし、部屋に入るとそこには眼帯をつけたすごい威厳があるリゼのお父さんがいた。

 

「来たか、リゼが世話になったな。」

 

「いえ、怪我をしてしまっていたので当然のことをしただけですよ。」

 

ヤバイ、緊張して足が動かない。

 

「そんなに緊張するな。そこの椅子に座れ。」

 

「は、はい。」

 

俺は近くにあった椅子に座った。リゼのお父さんは机に両肘をつき顎を両手の上に乗せながらジッと俺を見つめていた。......なんか怖い。

 

「フッ、リゼの言った通りだな。とても優しい目をしている。」

 

「え?わかるんですか?」

 

「これでも俺は軍人でな。今までいろんな同期や後輩、上官を見てきた。人を見る目には自信がある。」

 

「そうなんですか。」

 

「そうだな、リゼには世話になったことだし、俺もお前の事が気に入った。これからは俺のことはお父さんと呼んでくれ。」

 

「え!?」

 

何を言うのかと思ったらいきなりハードルが高いことを言われた。会ったばかりなのにいきなりお父さんと呼べだなんて。

 

「そんな、会ったばかりなのに。」

 

「気にするな、俺がいいと言ってるんだ。」

 

「悪いですよ。いきなりお父さんだなんて。」

 

「いいんだ、呼んでくれ。」

 

「いや、でも。」

 

「........呼べ。」

 

「........はい。」

 

これあれだ。逆らったらヤバイやつだ。

 

「えっと、これからもよろしくお願いします。お、お父さん。」

 

「ああ、こちらこそよろしく。そうだ、今日は泊まっていくといい。リゼを手当てしてくれた礼だ。」

 

「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えますね。」

 

俺はリゼのお父さんにお礼を言い、そのまま部屋を出てリゼの部屋へ戻った。

 

「お帰りリョーマ。どうだった?」

 

「今日は泊まっていけって言われた。あと、お父さんと呼べって言われた。」

 

「お父さん!?」

 

やっぱ驚くよな、いきなりお父さん呼びだなんて。

 

「お嬢様、リョーマ様、お食事の準備ができましたので食堂の方へどうぞ。」

 

俺たちはそのまま食堂へ案内された。食堂もこの家のデカさ相応の広さだった。俺は食堂の広さに呆然としているとリゼに隣に座るように手招きされた。

 

「そういえばリゼのお父さんは?」

 

「親父はいつも仕事で忙しいから夕食はいつも遅いんだ。」

 

「じゃあいつも1人で食べてるのか?」

 

「ああ。でも今日はリョーマがいるから楽しくなりそうだよ。」

 

俺たちはそのまま食事を始めた。始めにスープを飲んでみたがこれがすごく美味しい。是非作り方を教えて欲しいな。

 

「そうだ!リゼ食べさせてあげようか?」

 

「い、いいよ別に。もうそんな年じゃないし。」

 

「遠慮しなくていいんだぞ?ココアとチノは喜んで食べてくれるしさ。」

 

リゼは俺が掬ったスープをじーっと見て、どうしようか迷っていた。もう一押しすればいけるかもしれないな。

 

「恥ずかしがらなくていいんだぞ。いつも1人で食べてるんだろ?今日くらいいいんじゃないか?」

 

「.......今日だけだぞ。」

 

「そうこなくっちゃ。はい、あ〜ん。」

 

「あ....あ〜ん///」

 

すごい顔が赤くなっていた。こういうのには慣れていないのだろう。

 

「おいしかったか?」

 

「....わからない。」

 

その瞬間食堂の扉が開き、そこからリゼのお父さんが入ってきた。俺たちの今の状況は俺がリゼにスープを食べさせていたところだ。この後の展開はなんとなく予想がつく。

 

「お前たち、もうそんな関係になっていたのか!これは赤飯を炊く日はそう遠くないかもしれないな!ハッハッハッハッハッ!」

 

そう言ってリゼのお父さんは食堂の扉をそっと閉めどこかへ行ってしまった。

 

「ち、違う!親父、違うんだ!違うんだーーーー!」

 

リゼは大声を上げながら食堂を出て、リゼのお父さんを呼び止めていた。食後、2度とこの家では食べさせるようなことはするなと顔を真っ赤にしながら言われた。

 

 

 

 

 

 

食後、風呂を済ませ廊下を歩いていると突然辺りが真っ暗になった。近くにいた人に聞くと、どうやら停電になったらしくしばらく明かりはつかないらしい。

 

「リゼ、大丈夫かな?」

 

リゼのことが心配になったので部屋に入ってみると、中には布団を頭ごと被りベッドの隅で縮こまっているリゼがいた。

 

「おいリゼ!大丈夫か?」

 

「あ、ああ。だ、大丈夫だ。」

 

「暗いとこ怖いのか?」

 

「そ、そんなわけないだろ!私はもう高校2年生だぞ。こ、こんなことくらいで怖がるわけな、ないだろ。」

 

意地でも怖くないと言いたいようだ。よし、だったら。

 

「そうか、じゃあ停電中でも1人で寝れるな。じゃあ俺は空いてる部屋を使わせてもらってそこで寝るよ、おやすみ。」

 

俺はそのまま部屋を出ようとした。するとリゼは慌てて俺を止めに来た。

 

「お、おい!私を1人にする気か!?女の子1人を暗い部屋の中に置いていく気か!?」

 

「大丈夫だよ、警備の人たちもたくさんいるし。不審者が侵入してくるようなことはないよ。それじゃあおやすみ。」

 

そう言って俺はドアノブに手をかけるとリゼが俺の背中に抱きついてきた。

 

「ごめん正直に言うから、今日は一緒に寝てくれ!」

 

「はぁ〜まったく、怖いなら怖いって正直に言えばいいのに。」

 

「だってこの歳になっても暗い所が怖いなんておかしいだろ?」

 

「そんなことないよ。俺だって小さい頃は暗い所が怖くなかったわけじゃないし。......さて、じゃあそろそろ寝るか。」

 

俺はリゼと同じベッドで寝ることになった。シングルベッドだったので少し狭いが四の五の言ってられない。

 

「ごめんな、迷惑かけてばっかりで。」

 

「気にするな、それより他にして欲しいことないか?」

 

「して欲しいこと?」

 

「前にみんなでラビットハウスで泊まったことあっただろ?その時チノが雷怖がってたから腕枕してあげたんだ。今のリゼはあの時のチノと同じだからさ、何かして欲しいことないかなって。」

 

俺がそう言うとリゼは少し悩んだ後、少し恥ずかしそうに言ってきた。

 

「じゃあ朝まで.......て、手を繋いでてくれないか///」

 

「ああ、もちろん!」

 

俺が手を差し出すとちょっと安心した表情で手を繋いできた。その手は絶対に離すまいといったような強さで握ってきた。

 

「そんなに強く握らなくても離さないよ。」

 

「こうしてないと怖いんだ。」

 

「そうか。」

 

俺はリゼに寝る挨拶をし眠り始めた。ちゃんとリゼが寝れるか不安だったのでしばらく起きていたが、安心した寝息が聞こえてきたので、俺はもう大丈夫だと思いそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?朝か?」

 

鳥のさえずる声が聞こえたので起き上がろうとしたが何故か起き上がれなかった。横を見てみるとリゼが俺を抱き枕のようにしながら眠っていた。

 

「な!?リ、リゼ!?」

 

俺がリゼから離れようとすると、リゼがさらに強くしがみついてきた。ヤバイ、多分今の俺の顔真っ赤だ。

 

「リゼ起きろ!」

 

「ん〜、なんだリョーマ?.....って....えぇ!?」

 

リゼも今の自分の状況を理解したのだろう。頭から湯気を出している。

 

「ご、ごめん!今離れるから!」

 

リゼが離れようとした時、寝室のドアが開き、リゼのお父さんが入ってきた。

 

「おはようリゼ。今日も訓練を......え?」

 

「ち、違うんだ親父!これは!」

 

「なんだ、やっぱりお前たちそういう関係だったんじゃないか!よし!今日は赤飯だ!」

 

リゼのお父さんはそう言って元気よく部屋から出て行ってしまった。

 

「だから違うんだってば!親父ーーー!」

 

リゼは再びリゼのお父さんを呼び止めに行ってしまった。これからはリゼのお父さんの前では誤解されないようにしないといけないな。あれじゃリゼが苦労しそうだ。

 

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
思えば今回が初のリゼ回でしたね。意外とすんなり書けました!
少しずつ成長してるんですかね。


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-29話- 熱が出たら安静に!

どうもP&Dです。
熱が出ると辛いですよね。インフルエンザなんか特に!


「は~~、何だか最近寒くなってきたね。」

 

学校からの帰り道、ココアと一緒に帰っているとそんなことを言い出した。確かにここ最近肌寒くなってきており、町中の人たちの服装が長袖服の人たちが増えてきた。

 

「風邪なんか引くんじゃないぞ。看病するの大変なんだから。」

 

「大丈夫だよ。もう高校生なんだし!それにお兄ちゃんと出会ったばかりの時に風邪を引いた時から風邪引いたことないから!」

 

ココアはピースをしながら言ってきた。小さい頃はよく大丈夫とか言って怪我はしてくるわ風邪は引くわモカと喧嘩したから仲直りの手伝いをしてほしいとかですごい大変だった思い出がある。

 

「ココア、そこの自販機で何か温かい飲み物でも買って帰るか?」

 

ココアに聞くと、喜んで自販機まで走って行った。財布をポケットから取り出しながら自販機に向かうとココアは何にしようかにらめっこしながら迷っていた。

 

「どれがいい?」

 

「このお汁粉がいい!」

 

ココアは即答しながらお汁粉に指をさしていた。俺はそのままお汁粉を2つ買いココアに1つ渡すと大はしゃぎしながら公園のベンチに座った。

 

「ぷはぁぁ~!お汁粉美味しいー!」

 

「寒い日は温かい飲み物だよな。」

 

俺たちはお汁粉を飲みながら寛いでいた。今日のお昼に食べようと試しに栗羊羹を作っておいたが食べ損ねてしまったのでココアと一緒に食べようとカバンから取り出すと、目をキラキラさせながら食べたいと言われた。

 

「お兄ちゃんの栗羊羹美味しい!もう1個ちょうだい!」

 

ココアはそう言って栗羊羹をひょいと取り、美味しそうに食べていた。あまり自信はなかったが、喜んで食べてくれてたのでホッと安心した。

 

「あ!お兄ちゃん、ココアさん。何してるんですか?」

 

声のする方へ向くと下校中のチノがいた。

 

「チノか。自販機でお汁粉買ったからここで寛いでたんだ。」

 

「私も一緒にいいですか?」

 

「もちろん!おいで。」

 

俺は隣に来るようにポンポンとベンチを叩くとチノは嬉しそうにちょこんと座った。そのままチノは俺が持っていた栗羊羹をジッと見ていた。

 

「この羊羹、甘兎庵で買ったんですか?」

 

「いや、俺が作ったんだよ。チヤに作り方を教えてもらってな。」

 

「え!?そうなんですか?てっきり甘兎庵で買ったのかと思いました!食べてもいいですか?」

 

俺は1つ栗羊羹をチノに差し出すと、じっくりと味わうようにモグモグと食べていた。するとチノは突然目を見開き美味しさに感動したような顔だった。

 

「すごく美味しいです!お兄ちゃんはやっぱりすごいです!もう1ついいですか?」

 

しかし手元を見ると栗羊羹は1つしか無かった。それを見たココアはチノに対抗し始めた。

 

「チノちゃんダメ!私も栗羊羹食べたい!」

 

「嫌です!私も食べたいです!」

 

2人は頰を膨らませながら睨み合っていた。半分ずつにしようと考えたが、ココアは既に2つ食べていたのでここはチノにあげようと考えた。

 

「ココア、お前もう2つ食べただろ?チノはまだ1つしか食べてないんだから、これはチノに食べさせてもいいだろ?」

 

「む〜、でも。」

 

「そんなんじゃチノのお姉ちゃんになれないぞ?」

 

そう言った瞬間、ココアはハッとした表情になりあっさりとチノに栗羊羹を譲っていた。お姉ちゃんに憧れすぎだ。

 

「さて、そろそろ帰るか?」

 

「はい!お兄ちゃん、手を繋いで帰りましょう!」

 

「チノちゃんずるい!私も手繋ぐ!」

 

俺は2人にそれぞれ片手ずつ手を繋がれながら帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん。明日の週末、マヤさんとメグさんと一緒に勉強会をすることになったので、週末はお店を休んでもいいですか?」

 

チノは申し訳なさそうな表情で聞いてきた。普段は忙しくないので、大丈夫だろうと思い、勉強会を頑張ってくるように言った。

 

「ありがとうございます!あ、そうだ!お兄ちゃんハグさせてください!」

 

「おっと、どうしたんだチノ?いきなり抱きついて?」

 

「週末はお兄ちゃんに会えないので、今のうちにお兄ちゃん分をいっぱい補給します!」

 

「お兄ちゃん分って......」

 

週末は俺に会えない寂しさを紛らわすためにいつもより力強く抱きしめられた。10分経っても離れようとしなかったのでそろそろ離そうとすると、それを完全否定するかのように抱きついてきた。超強力磁石みたいだな。

 

「じゃあ週末は私がお兄ちゃんをいっぱいモフモフしてもいいんだね!?」

 

「少しならいいけどやり過ぎるなよ。」

 

「やったー!じゃあ早速モフモフ!」

 

そう言ってココアは俺に抱きついてきた。それを見たチノは頰を膨らませながらココアに対抗するために負けじと抱きついてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、チノはマヤとメグと一緒に勉強会に行き今はココアと一緒に仕事をしていた。

 

「ココア、コロンビアとケーキだ。」

 

「..........。」

 

「ココア?」

 

「......へ!?何?」

 

「だからコロンビアとケーキだってば。お客さんからの注文だぞ。」

 

「あ!うん!すぐに準備するね。」

 

そう言ってココアは急いで準備を始めた。仕事を始めてからなんだかココアがボーッとしてるのが多く、朝起きた時はなんともなかったのに一体どうしたんだ。

 

 

 

昼休憩、ココアと一緒に昼食を食べていた。朝のことが気になったので少し聞いてみることにした。

 

「ココア、午前中ボーッとしてるのが多かったけど具合でも悪いのか?」

 

「ううん、大丈夫。多分寝不足だから。」

 

「夜更かしはするなっていつも言ってるだろ?怪我でもしたらどうするんだ。」

 

「大丈夫だよ。少しだけだから。」

 

「ならいいけど。」

 

そのまま休憩は終わり仕事を再開したが、やはり午後もボーッとしてるのが多かった。コーヒーを運ぶ時もほんの少し千鳥足になっており、さすがに危ないと思ったので代わりに俺が運ぶことにした。

 

 

 

「ありがとうございました!......さて、お客さんはいなくなったし、そろそろ終わるか。ココア?」

 

ココアの方を見ると俯いたまま無言で立っていた。

 

「ココア?ココア?どうした?」

 

「........。」

 

何度呼んでも返事がなく肩を叩いて呼んだ途端、糸が切れたかのように床に倒れてしまった。

 

「ココア!?ココア!!!」

 

慌てて抱き起こすとココアの顔は真っ赤になっており、息もとても荒かった。

 

「ココア!しっかりしろ!」

 

「はあ........はあ......お......に.......ちゃ......

 

話すことさえままならない状態だったので急いで寝室のベッドまで運んだ。氷とタオルで体を冷やしたが気休め程度にしかならず、相変わらず息が荒いままだった。

 

「ココア大丈夫か?俺の声聞こえるか?」

 

「はあ.........う......うん.....

 

「確かここの引き出しに薬が....」

 

なんとか意識はあるようだがとても苦しそうな状態だった。急いで薬を飲まそうと引き出しから薬を探したが中身は空だった。

 

「薬切れてたのか!?こんな時に!」

 

お......兄......ちゃん......

 

「どうしたら.....店はもう閉まってるし.......ここからなら甘兎が一番近い。チヤに薬を分けてもらおう。」

 

 

 

「ココア、今からチヤの所に行って薬を分けてもらってくる。急いで戻ってくるから待っててくれ。」

 

チヤに薬を分けてもらおうと考えた俺は急いで着替え、ココアに薬を分けてもらいに行ってくるように伝え、急いで甘兎へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ.......はあ........早くしないとココアが.......」

 

俺は甘兎に向かって夜道を全力で走っていた。時間が経つにつれココアの容体が悪化していくと思うと、最悪の場合のことを考えてしまった。

 

「.....そんなことあるか!ココアはいつも元気で誰にでも優しくて俺の大切な妹なんだ!こんなことでくたばられてたまるか!」

 

俺は体を奮い立たせ残りわずかの道を走った。入り口前に到着するとちょうどチヤが出てきた。

 

「チヤ!」

 

俺を見たチヤは俺の慌てように驚いていた。

 

「リョーマ君!?どうしたのそんなに慌てて!」

 

「チヤ!薬持ってないか?あったら少し分けてくれ!」

 

俺はチヤに事情を説明すると、チヤは急いで薬を持ってきてくれた。ちょうど喉が渇いていたので飲み物も持ってきてくれ、とてもありがたかった。

 

「早くこれをココアちゃんに飲ませてあげて!」

 

「ありがとう!助かったよ!」

 

俺はチヤにお礼を言い、急いでラビットハウスへ戻って行った。

 

 

 

 

「ココア!大丈夫か?」

 

ココアの元へ駆け寄ると息が荒いままだった。急いで薬を準備し、ココアをゆっくりと起こした。

 

「ココア、薬だ。頑張って飲んでくれ。」

 

はあ........はあ.......んっ...んっ。

 

無理をさせないように少しずつ少しずつ水と薬を飲ませた。水を飲んだおかげかほんの少し息が落ち着いていた。そのままココアを横に寝かせ、おでこや首元辺りに氷水を当て、安静にさせた。

 

 

 

1時間程経つと、荒かった息はだいぶ落ち着き意識も戻ってきた。熱はまだ少し高かったが話すことならできる状態だった。

 

「お兄ちゃんありがとう。」

 

「ごめんなココア、こんなになるまで気づかなくて。俺.......お兄ちゃん失格だな.......本当にごめん。」

 

「そんなことないよ。お兄ちゃんは料理ができて、勉強もできて、私たちのことちゃんと見てくれて、お兄ちゃんは私にとって理想のお兄ちゃんだから、だから....そんなこと言わないで。」

 

ココアは俺を励まし、笑顔を見せてくれた。俺がしっかりしないといけないのに、励ましくれてるココアに対し、落ち込んでる俺がとても情けなく感じた。

 

「ありがとうココア。そうだな、俺はココアたちのお兄ちゃんなんだから俺がしっかりしないとダメだよな。」

 

「それでこそお兄ちゃんだよ......えへへ///」

 

ココアが励ましてくれたおかげで前向きになることができた。ココアに何かお礼しないといけないな。

 

「今日は一緒に寝るよ。」

 

「え!?ダメだよ、風邪移っちゃうよ。」

 

「大丈夫。それに風邪引いてるのに1人で寝たら寂しいだろ?」

 

ココアは少し迷っていたが、1人で寝る寂しさは嫌だったのだろう、一緒に寝てくれと頼まれた。

 

「早く元気になるんだぞ。」

 

「うん。お兄ちゃん、ギュってして。」

 

「これでいいか?」

 

「ううん、もっと強くギュってして。」

 

熱が出ていた時の不安がまだ少し残っているのか、不安を完全に消し飛ばしたいような様子だった。

 

「お兄ちゃんがそばにいる。嬉しい///」

 

そう言ってココアは俺の胸に顔を擦り寄せていた。俺はそのままココアを抱き寄せながら頭をポンポンとした。

 

「そろそろ寝ようか。早く風邪治さないとな。」

 

「うん、お兄ちゃんおやすみ。」

 

俺は眠りについたココアの顔を見て俺も眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜!元気になった!」

 

そう言いながらココアは元気よく飛び起きカーテンを開けた。そのままココアは寝ている俺の顔を見つめていた。

 

「ありがとうお兄ちゃん。お兄ちゃんがいなかったら今頃どうなってたか。」

 

ココアは突然顔を赤くしながらキョロキョロと周りを見ていた。

 

「いい......よね////お姉ちゃん別れ際にしてたんだし。」

 

そう言ってココアはそっと近づき寝ている俺の頰に口付けをした。

 

(お兄ちゃん////)

 

「........うぅ〜恥ずかしすぎるよ〜////これを人前でやったお姉ちゃんすごすぎるよ!」

 

なにやら大声が聞こえたので目を開けるとジタバタとしているココアがいた。

 

「ココア、起きてたのか。」

 

「へ!?お、おはようお兄ちゃん!」

 

「どうした?俺の顔に何かついてるか?」

 

「ううん!何もついてないから大丈夫!」

 

そう言いながらココアはすごくあたふたしていた。何があったのか知らないけれど元気になったようで本当に良かった。

 

「風邪が治って本当に良かった。もう平気か?」

 

「うん!もうすっかりこの通り!」

 

ココアは元気になった姿を見せるために部屋中を走り回っていた。

 

「良かった良かった。よし、チノが帰ってくるのは明日だから今日も一緒に仕事頑張るぞ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

そう言いながらドアノブに手をかけた瞬間、ココアに呼ばれたので振り向くと勢い任せに抱きつかれた。見上げたココアの顔はほんのりと赤かった。

 

 

 

「お兄ちゃん、いつもありがとう/////」

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
先日眼鏡が壊れてしまって大惨事でした。
周りが全然見えなくてめちゃくちゃ焦りました。すぐに新しいのを買いに行きましたけど。


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-30話- お土産の買い忘れは絶対にダメ!

どうもP&Dです。
今回はアニメからネタを借りました。
元ネタは『BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS-』です。
展開が分かっている方は温かい目で読んでもらえると幸いです。


「修学旅行終わっちゃったな。」

 

俺は今ラビットハウスへ帰っている途中だ。1週間の海外の修学旅行でとても楽しい時間が過ごせた。修学旅行へ行く前は班決めの時は俺の取り合いになったり、ココアとチノに寂しいから行かないで欲しいとめっちゃ駄々をこねられたりとそれはもう大変だった。

 

「1週間ぶりのラビットハウスか、ココアたち大丈夫かな?」

 

出発前の事があり、少し不安の気持ちになりながらドアを開けた。中に入るとせっせと仕事をしているココアがいた。

 

「ただいま!」

 

「あ!お兄ちゃんお帰り!」

 

ココアは仕事そっちのけで俺に抱きついてきた。久しぶりに会ったので俺も嬉しい気持ちになり、俺もココアを抱きしめていた。

 

「お兄ちゃんすごい寂しかったよー!」

 

「ごめんなココア。それよりチノはどこだ?」

 

「え!?えーとチノちゃんは.....」

 

何だか言い辛そうな感じだった。

 

「もしかして熱でも出したのか!?」

 

「いやそうじゃなくて!直接見てもらった方がいいかな。チノちゃんは今部屋にいるから見てきて、私じゃどうしようもできないよ。」

 

「どうしようも?」

 

ココアが少し気になる言葉を発していたが、今はチノのことが心配だったので急いで部屋に向かった。しかし部屋の前に立つとドアからものすごい哀愁のオーラが漂っていた。

 

「な...なんだこれ....本当にこの部屋にチノがいるのか?」

 

俺はそ~っとドアを開けると中は真っ暗だった。しかし相変わらず哀愁のオーラは漂っていた。

 

「チノただいま、寂しい思いさせてごめんな。」

 

声をかけたが返事はなかった。本当にいるのか不安になったので電気をつけると哀愁を漂わせながらベッドの隅で縮こまっているチノがいた。

 

「チノ!大丈夫か!?」

 

「お兄ちゃん.....早く帰ってきてください.....寂しいです.....お兄ちゃんがいない毎日なんて辛いです......寂しい.....寂しい寂しい寂しいさみしいさみしいさみしイさミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイ。」

 

こ....怖い。目は完全に死んだような目をしており、壊れた機械のようにずっと『寂しい』と呟いていた。

 

「チノ!帰ってきたぞ!しっかりしてくれ!」

 

「ふぇ.....お兄.....ちゃん?.....お兄ちゃん!」

 

チノは俺の顔を見た途端、大粒の涙を流しながら抱きしめてきた。

 

「お兄ちゃん!...あっ....うっ.....寂゛し゛か゛っ゛た゛.......寂゛し゛か゛っ゛た゛ぁ゛ぁ゛!」

 

チノは号泣状態だった。俺はチノを安心させるために泣き止むまでギュッと抱きしめてあげた。

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫か?」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「いいよ、こっちこそ寂しい思いさせてごめんな。」

 

俺は謝りながらチノの頭を撫でた。

 

「仕事が終わるまでまだ少し時間あるから一緒に頑張るか?」

 

「はい!お兄ちゃんと久しぶりのお仕事ですね!」

 

俺たちは制服に着替え1階へ降りた。ココアは元に戻ったチノを見て安心したように抱きついていたが、それとは対照的にチノはココアから離れようとしていた。

 

 

 

 

「さて、そろそろ終わるか。」

 

「お兄ちゃんとのお仕事久しぶりで楽しかった!」

 

2人ともいつもより活気的に働いており、俺から見ても楽しそうにしてたのがよくわかった。仕事が終わり着替えようと更衣室へ入ろうとした時、チノがこっちへ駆け寄って来た。

 

「お兄ちゃん!何か忘れてませんか?」

 

「え?仕事場に何か置き忘れてた?」

 

「いえそうではなくて、私に何が忘れてることないですか?」

 

チノは期待の眼差しで言ってきた。そう言われても期待されるようなことをした覚えはないけど。

 

「チノに何かしないといけないことあったっけ?」

 

「あの........いえ......なんでもないです......」

 

チノはそのまま落ち込んだ様子で更衣室へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日間俺はチノに避けられるようになってしまった。俺が話しかけようとすると無視してどこかへ行ってしまったり、ハグしてあげようとすると部屋へ逃げられたりされていた。

そして休日の日ラビットハウスに遊びに来ていたリゼに原因を聞くことにした。

 

「なあリゼ、俺が修学旅行から帰ってきてからチノの様子が変なんだけど何かあったのか?」

 

「え!?お前気づいてないのか?」

 

「気づいてないのかって言われても避けられるようなことした覚えはないし。」

 

リゼと話をしているとチノがやってきて、俺を見つけるとじーっと見てきた。

 

「どうしたんだチノ?」

 

「........なんでもないです。」

 

そう言ってチノは再び部屋へ戻ってしまった。

 

「俺、チノに何かしたかな?」

 

「.......本当はお前自身が気づくべきなんだけど、覚えてないか?お前が修学旅行に行く前にチノとした約束の事。」

 

「........ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修学旅行前日

 

「お兄ちゃん本当に行っちゃうんですか?やっぱりここにいてください!1週間も会えないなんて無理です!」

 

「大丈夫だよ、たった1週間なんだから。」

 

「なんですかたった1週間って!私からしたらこんなの地獄です!いじめです!体罰です!」

 

「いやさすがにそこまではいかないだろ!?」

 

「.......でも。」

 

「大丈夫!お土産いっぱい買ってきてあげるから!」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ、だから良い子にしてて待っててくれ。」

 

「はい!約束ですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か....完全に.....忘れ......てた.....」

 

そういえばそんな約束した。だからチノは俺のこと避けてたのか。

 

「チノの奴、いつ言ってくれるかずっと待ってたんだぞ。」

 

「早く言ってくれよ!もうけっこう経ってるぞ!」

 

「買い忘れたんならちゃんと謝らないとダメだぞ。」

 

「ちょ、ちょっとチノの部屋に行ってくる!」

 

俺は慌ててチノの部屋に向かった。中に入るとめちゃくちゃ落ち込んでるチノがおり、俺に目を向けてくれなかった。

 

「なあチノ、約束してたお土産なんだけどさ。」

 

「.........」

 

「実はな.....」

 

「!?........」

 

チノはきっと忘れてしまってたんだろうなと思っていそうな表情だった。

 

「実はな、すごい美味しいお土産買ってあるんだ!豊葦原の瑞穂の国っていう所の名物の水饅頭って聞いたことあるだろ?」

 

「はい!知ってます!」

 

チノの表情が嬉しそうになった。

 

「どうやらクラスメイトの荷物の中に紛れ込んでたみたいでさ、すぐに取ってくるからま、待っててくれ!」

 

「はい!えへへ///」

 

俺ってバカだ。なんで後にはもう引けない嘘をついてしまったんだ。俺は後悔しながらリゼの所へ戻った。

 

「どうだった?」

 

「チノの顔見てたら言えなくて。」

 

「正直に言った方が良くないか?」

 

「でも、チノが悲しむところは見たくないし.....」

 

「親父に頼んでみようか?何とかなると思うけど。」

 

たしかにリゼのお父さんに頼めば何とかなるかもしれない。でもそれじゃダメだ。これは俺が何とかしないと。

 

「いや、これは俺が蒔いた種だ。自分で何とかするよ。ココアには出かけてくるって言っておいてくれ!」

 

俺はそのままラビットハウスを飛び出した。こうして俺の水饅頭探しの旅が始まった。

 

 

 

 

俺はクラスメイトの人たちにしらみ潰しに聞いて回ることにした。

 

「水饅頭ってまだあるかな?」

「ごめんなさい!もう食べちゃったわ。」

「そっか、わかったありがとう!」

 

 

「水饅頭ってまだある?」

「水饅頭は買ってないわ。あわまんじゅうならあるけど。」

「他のはダメなんだ。大丈夫ありがとう!」

 

 

「水饅頭ってまだある?もしあったら譲って欲しいんだ!」

「すっごく美味しかったわ!」

「......いや、そういうのを聞いてるんじゃなくてさ。」

 

 

それから俺はクラスメイト全員に聞いて回ったが誰も持っていなかった。俺はどうしたらいいのか公園のベンチで途方に暮れていた。

 

「あら?リョーマ君どうしたの?」

 

声のする方を見るとチヤが立っていた。買い物袋を持っていたから恐らく買い物帰りだろう。

 

「俺、チノのお土産買い忘れてしまって.....忘れたなんて言えなくて。」

 

「そうだったの。だったらあの店がいいかもしれないわ!」

 

チヤが言うには近くの路地裏にいろんな国の食べ物が売っている見た目が怪しそうな店があるという。もしかしたらそこに水饅頭があるかもしれないとのことだった。

 

「ありがとうチヤ!早速そこに行って探してみる!」

 

「せっかくだし私も行くわ!」

 

「いいのか?」

 

「もちろんよ!」

 

俺はチヤと一緒に行くことになり路地裏の店まで案内してくれた。店の外観を見てみると確かに怪しそうな店だったがそれなりに人で賑わっていたのでめちゃくちゃ怪しいとまではいかなかった。

 

「へぇ〜いろんな物が売ってるんだな。」

 

「ええ、面白い店でしょ?」

 

「ああ確かにな。おっとこうしちゃいられない!早く水饅頭探さないと!」

 

俺は隈なく探してみたがなかなか見つからなかった。そしてふと見てみると包装紙で包まれた物があり水饅頭と書かれていた。

 

「あ、あったーーーー!」

 

「あら、見つかったの?」

 

「ああ!これだ!幻じゃないよな!?本物なんだよな痛って!」

 

俺は水饅頭を手に取ろうとした瞬間この店の店主らしきおばあさんにハエ叩きで手を叩かれた。

 

「誰が触っていいって言った?売り物に気安く触るんじゃないよ!」

 

「あ!おばあさんこんにちは!」

 

「おや?チヤじゃないか?このガキんちょの知り合いかい?」

 

「チヤ、このおばあさんと知り合い?」

 

話を聞いてみるとこのおばあさんとチヤのおばあさんはとても仲が良いらしくチヤもよくこのおばあさんと話をするらしい。

 

「おばあさん!この水饅頭売ってくださ痛った!」

 

「だから気安く触るんじゃないよ!うちは上品な店なんだ。」

 

「そんなこと言わないで売ってくださいよ!こっちは緊急事態なんですよ!」

 

「ほぉ〜緊急事態ね〜。ならば聞かせてもらおうかい、一体どんな緊急事態なんだい?」

 

「その.....妹のお土産を買い忘れてしまったんです。それでこの店なら売ってるかもしれないって聞いて来たんです。」

 

その瞬間おばあさんの目がほんの少し見開いたような気がした。

 

「ほぉ〜そんなに妹のことが大事かい?」

 

「当たり前ですよ!すごく可愛くて守ってあげたくてたまにわがまま言われますけど大切な妹です!」

 

そう言うとおばあさんはしばらく俺の目をジッと見つめていた。見つめ終わるとおばあさんは棚に置いてあった水饅頭を差し出された。

 

「おばあさん、これって。」

 

「それ持ってとっとと帰んな!緊急事態なんだろ?」

 

おばあさんはそう言って俺たちを店から追い出した。

 

「あのおばあさん!まだお金払ってません!」

 

「水饅頭の1つくらいくれてやるさ!まったく、あんたのおかげで忘れっぽいクソ兄貴を思い出してしまったよ!はぁ〜気分が悪いね!」

 

「.....!!おばあさん!」

 

おばあさんはそのまま店のシャッターを閉めてしまった。

 

「.....帰りましょうかリョーマ君。」

 

「あ、ああ。」

 

俺たちはそのまま店を後にした。しかし俺はシャッターを閉めようとした時のおばあさんの少し悲しそうな顔が頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

「........」

 

「どうしたのリョーマ君?水饅頭手に入ったのにあまり嬉しそうじゃないみたいだけど。」

 

「俺、やっぱりチノに正直に話すよ。」

 

「どうして?せっかくバレずに済むのに。」

 

「嘘ついてまで喜ぶ顔は見たくないからな。それなら正直に話した方がいいよ。」

 

「ふふ、それでこそリョーマ君ね!」

 

「今日はありがとう!おかげで助かったよ。」

 

「どういたしまして、頑張ってね!」

 

俺はそのままラビットハウスへ戻った。ドアを開けると待っていたチノが駆け寄ってきた。

 

「お兄ちゃんお帰りなさい!」

 

「チノ、これ約束してた水饅頭。」

 

「ありがとうございますお兄ちゃん!えへへ、お兄ちゃんからのお土産///」

 

チノは嬉しそうにお土産を抱えていた。やっぱり言った方がいいな。

 

「チノごめん!それ本当は修学旅行で買ったお土産じゃないんだ!」

 

「.....,え?」

 

「街中を探しまくって見つけた物なんだ!本当にごめん!」

 

「.......嘘ついたんですか?」

 

「......ごめん。」

 

しばらく無言の状態が続いた。そして最初に話したのはチノだった。

 

「でも、私のために一生懸命探してくれたんですね。じゃあお兄ちゃん、この水饅頭一緒に食べてください。それで許してあげます。」

 

「いいのか?」

 

「はい、だから一緒に食べましょう!」

 

「もちろん!」

 

俺はチノと一緒に水饅頭を食べた。チノはそれで許してくれたが俺の気が収まらなかったので今日は一緒に寝ることにした。

後日怪しい店のおばあさんにお礼を言いに行くと妹を大切にと言われたのでその日はココアとチノにいつもよりもっと優しく接すると2人にいつものお兄ちゃんじゃないと言われ病気かと疑われたので結局いつも通りに接することにした。

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
もしかしたら今後もアニメネタを借りるかもしれませんが読んでくれると嬉しいです。


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-31話- 写真は笑顔の方が良い!

どうもP&Dです。
最近涼しくなってきましたね。僕の好きな冬まであと少し!


朝、自室で宿題をしているとココアが元気よく部屋に入ってきた。右手には手紙を持っており、誰かからの手紙だろうか。

 

「お兄ちゃん!お姉ちゃんからお兄ちゃんにお手紙だよ!」

 

「モカから?」

 

手紙を受け取り、中を見るとモカからの手紙だった。内容はこの前のお礼の内容だった。

 

「何て書いてるの?」

 

「この前モカがこの街に来た時のお礼だよ。」

 

 

 

リョーマ君へ

 

この前は本当にありがとう!とても楽しい時間が過ごせたよ!

木組みの街で楽しく過ごせているようでとても安心しました。チノちゃん達に迷惑かけないようにね。あとご飯はしっかり食べるように。

ココアったらちょっと目を離すと勉強サボるからみっちり特訓してあげてね。

いつかこっちに戻って遊びに来てね!

 

 

 

 

「お姉ちゃんってば心配性だね。」

 

「なんだか母さんみたいだな。」

 

「ん?お兄ちゃん、手紙がもう一枚あるよ。」

 

よく見ると手紙がもう1枚あった。1枚目よりかなり小さいメモ用紙くらいの大きさだった。

 

「どれどれ。」

 

 

 

追伸

 

また一緒にお風呂に入って一緒に寝ようね♪

 

 

 

 

 

俺はこの瞬間、神業の如く一瞬で破り捨てた。なんで手紙にこんなのを書くんだ。あの時の事を思い出してきて恥ずかしくなってきた。

 

「お兄ちゃん顔すごく赤いよ!なんて書いてあったの?」

 

「.......また遊ぼうって書いてあった///」

 

「だったら顔赤くすることないよね!?本当になんて書いてあったの?」

 

ココアがしつこく聞いてきたが何とか誤魔化して事なきを得た。そしてココアは実家に手紙を書くと言って自室へ戻ってしまった。

 

「仕事まであと1時間くらいあるけど、もう着替えるか。」

 

俺は気分を変えるためにもいつもより早く仕事場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんどうしたんですか?なんだか顔が赤いですよ?」

 

仕事を始めたはものの、手紙の事が頭から離れないでいた。チノは熱かと心配されたが大丈夫だと伝え仕事をしていた。

 

「チノちゃん!写真撮らせて!」

 

制服に着替えたココアがカメラを持って駆け寄ってきた。チノは突然のことに戸惑っており、ココアはそれでもお構いなしにぐいぐいと寄ってきた。

 

「急に言われてもチノが困るだろ?どうしたんだよ急に?」

 

「お姉ちゃんとお母さんに可愛い妹のチノちゃんの写真を送りたいの。だから撮らせて?」

 

するとチノはムッとした表情になった。

 

「私はココアさんの妹じゃありません、私はお兄ちゃんの妹です。」

 

「え!?私はお兄ちゃんの妹でしょ?チノちゃんがお兄ちゃんの妹ってことは私の妹でもあるの!」

 

「勝手に決めないでください!私はお兄ちゃんの妹です!」

 

また言い合いが始まった。この2人は俺関係の話になるといつもこうなる。

 

「チノ、少しだけ撮らせてあげてくれないか?後でハグしてあげるからさ。」

 

「本当ですか!?じゃあ......ちょっとだけなら。」

 

チノが許可するとココアは喜んで写真を撮り始めた。チノはお盆を持ちながら立ったままだったので傍から見ればなんだか証明写真を撮ってるかんじだった。

 

「チノちゃんもっと笑って!」

 

「そう言われても難しいです。」

 

「じゃあココアと一緒に撮ってあげるよ。誰かと一緒ならやりやすいだろ?」

 

俺はココアからカメラを受け取り、ココアにチノの隣に並ぶように指示を出した。それでもチノは少し表情が硬かったが、俺の合図で写真を撮った。しかし写真を見てみると1人の時より暗い表情だった。すごい陰気な喫茶店って思われそう。

 

「チノちゃんお願い笑ってください!」

 

ココアはチノに土下座で頼みこんできた。チノは少し困っていたが何かを思いついたような表情になり俺のところに来た。

 

「お兄ちゃん!一緒に写真撮ってください!お兄ちゃんとなら良い写真が撮れそうです!」

 

「俺と?」

 

「はい!」

 

「わかった!ココア、悪いけど写真撮ってくれ。」

 

ココアにカメラを渡しチノの隣に並ぶとココアの時よりものすごい近くに寄ってきた。俺はほんの少し離れるとチノはその分近寄ってきた。何回離れても何回も近寄るので俺は諦めてそのままの状態で写真を撮ってもらった。

 

 

 

「なんでなのチノちゃん!?なんでお兄ちゃんとだとこんなに眩しい笑顔ができるの!?」

 

撮ってもらった写真を見てみるとココアとの写真とは180°正反対の表情だった。見てるとすごく可愛く見える表情で、記念にもらっておきたいほどだった。

 

「確かにココアとの写真とは全然違うな。」

 

「チノちゃん!私との写真でも笑ってよ!」

 

「無理です。お兄ちゃんとじゃないとできません。」

 

チノがそう言うとココアは頬を膨らませながら俺を嫉妬の目で睨みながら近づいてきた

 

「しょ、しょうがないだろ?チノがそうじゃないと笑えないみたいなんだから。」

 

「それでもずるい!お兄ちゃんばっかりチノちゃんの笑顔が見れて!」

 

「じゃあココアさんもお兄ちゃんみたいに頑張ってください。」

 

「じゃあチノちゃん!今度はチノちゃんが私たちの写真を撮って!お兄ちゃん!私と一緒に写真撮って!」

 

ココアはそう言い俺を無理やり引っ張った。カメラを手に取ったチノは写真を撮る準備をしていた。

 

「撮りますよ。」

 

「うん!お兄ちゃん腕貸してね!」

 

チノが写真を撮った瞬間、ココアはそのまま俺に腕組みをしてきた。俺は突然のことに驚いたが一番驚いていたのはチノだった。カメラを持っている手はフルフルと震えており、さっきのココアと同じ嫉妬の目をしていた。

 

「ココアさん何してるんですか!腕組みなんかして!お兄ちゃんから離れてください!」

 

「今は私がお兄ちゃんと写真を撮ってるんだから、私の勝手だよ!」

 

なんだか今のココアからは笑顔の写真を撮らせてくれなかった事の憂さ晴らしのオーラを感じた。

 

「2人とも少し落ち着け。」

 

「こんにちは〜。」

 

2人の言い合いを止めようとした時、入口から青山さんが入ってきた。そして青山さんは何かあったんですかみたいなキョトンとした表情だった。

 

「チノさんとココアさん、どうかされたんですか?」

 

「青山さん聞いてください!チノちゃんが笑顔の写真を撮らせてくれないんです!」

 

「お兄ちゃんと一緒じゃないとできないって言ったじゃないですか!それに聞いてください青山さん!ココアさんったら誰の許可も無くお兄ちゃんの腕に抱きついたんですよ!」

 

2人は青山さんにお互いに対してのことを一気に話し始めた。青山さんは突然のことであたふたしており、俺に助けてくださいみたいな目で見られた。

 

「おい2人とも、青山さんがせっかく来てくれたのに困らせるようなことするな。」

 

「あの〜、一体何があったんですか?」

 

俺は青山さんに事の経緯を話すと青山さんはすぐに納得してくれた。すると青山さんはある提案をしてくれた。

 

「では3人一緒に撮ってはどうでしょうか?リョーマさんが真ん中で隣にココアさんとチノさんが並べばチノさんは笑顔になれますしココアさんも笑顔のチノさんと一緒に写真が撮れますよ。」

 

「そっかー!そうすればいいんだ!チノちゃん!お兄ちゃん!3人で撮ろう!」

 

ココアは俺とチノの手を引き、俺を真ん中にし並んで立った。

 

「それでは撮りますね。」

 

青山さんに俺たち3人の写真を撮ってもらった。見てみるとチノはニッコリな笑顔で、ココアは笑顔でピースをしている写真だった。

 

「やったー!笑顔のチノちゃんと一緒に撮れた!」

 

ココアは笑顔のチノと撮れたことに大喜びで、チノは撮ったカメラを見ながら微笑んでいた。

 

「青山さんありがとうございます。」

 

「いえいえ、お役に立ててよかったです。リョーマさんも大変ですね。」

 

俺は青山さんにお礼を言い、今日の仕事が終わったら写真の現像をしようと思いながら仕事を再開した。

数日後、仕事を終えた俺は現像がし終わった写真を受け取りココアとチノに渡してあげると2人とも子供のように喜んでおり、もっと写真を撮ろうとしてきたが、今日はもうやめようと言い夕食作りに取り掛かった。

 

 

 

夜の10時を少し過ぎた頃今日はなんだか眠れそうにないと思い、気分転換にタカヒロさんの所へ行くことにした。

 

「タカヒロさん、少しお邪魔してもいいですか?」

 

「リョーマ君か、構わないよ。」

 

店内に入るとまだ客は誰もいなかったのでタカヒロさんと向かい合うようにカウンター席に座った。おじいさんはマスコットのように動かないようにしていた。

 

「おじいさん、バータイムの時はそうやってマスコットのようにしてるんですか?」

 

「まあな、おかげでその時は体中が痛むわい。」

 

「今の姿の親父が喋って動くと大騒ぎどころじゃないだろ?」

 

俺はそれはそうだろうと思いながらしばらく3人で話をしていると、実はタカヒロさんにも現像して渡していた写真が置いてあった。

 

「タカヒロさん、仕事中はここに飾ってるんですね。」

 

「ああ、この写真を見ていると3人が本当に兄妹のように見えてね。チノは君達がここに来る前は話し相手があまりいなくて寂しがっていたからね。チノが君を兄のように慕ってからは本当に笑顔が増えたよ。」

 

「わしも喫茶店の時間の時に見てるといつもお前に懐いておるよ。修学旅行で留守になっていた時はすごい大変じゃったよ。」

 

俺が帰ってきた時にあんな感じだったなら、留守中は相当だったんだろうと察した。

 

「リョーマ君のおかげでチノも楽しそうでよかった。これからもチノと一緒にいてやってくれ。」

 

「もちろんです!」

 

「わしからも頼むよ。さて、もう夜も遅いしそろそろ部屋へ戻ると良いじゃろう。」

 

「そうですね、じゃあ俺はここで失礼します。おやすみなさい。」

 

俺はタカヒロさんとおじいさんに挨拶をし、部屋へ戻った。階段を上がり部屋へ向かおうとした時、チノが部屋の前に立っていた。

 

「チノどうしたんだ?」

 

「あ、お兄ちゃん!あの、今日も一緒に寝ていいですか?

 

チノは枕と兎の人形を持ちながら言っていた。チノとはすっかり一緒に寝ることが多くなった。時々一緒じゃないと眠れないなんて言われるようにもなったけど、別に嫌な気持ちにはならないから全然構わないけどな。

 

「ああ、いいよ。それにしても週4日以上は一緒に寝てるよな。」

 

「もちろんです!だって私は、お兄ちゃんの妹ですから!」

 

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
この前ごちうさの最新巻読みましたけど面白かったですね!
次の最新巻まで約1年.......長い。


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-32話- 恋人同士の練習だ!......練習だぞ。......もう一度言う、練習だぞ!?

どうもP&Dです。
もうすぐハロウィンですね。
仮装するならなにがいいですかね......思いつかない。


午前の仕事が終わり今は昼休憩。ココアが作ってくれた大量のサンドイッチを4人でテーブルに座って食べていた。

 

「ココア、パン少し上手になったな。」

 

「ほんと?でもお兄ちゃんほどじゃないよ。」

 

「そうか?このまま上手くなったらチノにお姉ちゃんって呼んでくれるかもな。」

 

「ほんと!?チノちゃんもし私がもっとパンが上手になったらお姉ちゃんって呼んでね!」

 

「呼びませんよ。私にはお兄ちゃんがいるのでもう充分です。」

 

「そんな〜〜!」

 

こういった団欒とした感じで昼食を食べていたが、リゼだけがさっきから食が進んでいなかった。何か思いつめたような表情で俯いている。

 

「ん?リゼどうしたんだ?さっきから全然食べてないけど。」

 

「ほんとだ。リゼちゃん大丈夫?体調悪いの?」

 

「いや、そうじゃないんだ。」

 

「何か悩み事か?できることならなんでもするぞ。」

 

「そうだよ!私もできることなら手伝うよ!」

 

「そうか?じゃあ......えっと.......リョーマ!!!」

 

突然テーブルを叩きながら立ち上がり俺の名前を呼びジッと見つめられた。

 

「リョーマ!......わ、私と付き合ってくれ!!!/////」

 

「え!?」

 

「「ヴェアアアアアアアア!!!」」

 

その言葉を聞いたココアとチノは驚きというより慄きに近いような叫び声で倒れてしまった。

 

「おい2人ともしっかりしろ!」

 

「お兄ちゃんに.......恋人......そんなわけ......ありません。」

 

「あ、あはは、そうだよね。お兄ちゃんはもう高校2年生なんだし恋人くらいできてもおかしくないよね。そうだよね、あはは、アハハハハハハハハ!!!」

 

ココアはだんだん狂い始め、チノは気絶しながら何かブツブツと呟いていた。

 

「えっと、詳しく教えてくれないか?」

 

「実は、その......。」

 

話を聞いてみるとどうやら今度、部活の助っ人で演劇をするらしい。そしてリゼの役は恋人がいるヒロインの役だという。だがリゼには今まで恋人ができたことがなく、恋人がいる気持ちを理解したいらしく恋人の練習に付き合ってほしいとのことだった。

 

「そうだったのか。わかった!その練習付き合うよ!」

 

「「ちょっと待って(ください)!!!」

 

突然ココアとチノに声を揃えて呼び止められた。心なしか少し焦っているような表情だった。

 

「どうしたんだよ急に。」

 

「えっと.....えっと......そう!お兄ちゃんだって今まで恋人できたことないのにいきなり練習相手になるなんてリゼちゃんに申し訳ないよ!だからまずは私がお兄ちゃんの恋人相手の練習に付き合うから、それからリゼちゃんの恋人相手の練習に付き合うといいよ!」

 

「な!?待ってください!ココアさんはドジで方向音痴で日向ぼっこばかりしているのに恋人相手の練習は務まりません!ここは私がお兄ちゃんの恋人相手の練習に付き合います!」

 

「何言ってるの!?チノちゃんはまだ中学生でしょ!チノちゃんにはまだ早いからここは私が練習相手になるの!」

 

「そんなことないです!中学生でも恋人同士の人はいます!子供扱いしないでください!」

 

また始まった。今日のはいつにも増して激しい言い合いだ。あくまで演劇のための練習なのにそこまで本気になることはないと思うんだけど。

 

「2人とも落ち着け。そんなことしたら時間がかかってそれこそリゼに申し訳ないだろ?できることならなんでもするって言ったんだ。それに2人とも恋人できたことないだろ?。」

 

俺が言うとココアとチノはそのまま渋々納得してくれた。

 

「そういうわけだ。よろしくなリゼ。」

 

「ああ、ありがとう。えっと、よろしく......お願いします///」

 

リゼは恥ずかしさの所為か敬語になっていた。練習は明日からということに決定し午後はそのまま仕事を続けたが、リゼは俺が近くにいると顔を赤らめ、ココアとチノはジーッと俺とリゼを見つめ、なんだか監視されているような感覚だった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、この日は恋人練習のために遊園地でデートをすることになっている。待ち合わせは公園にしており時間まであと30分ほどあるが、俺は少し早めに待ち合わせ場所に向かうことにした。

 

 

約束の時間までまだ20分ほどあったが待ち合わせの公園に着くと、既にリゼが待ち合わせ場所に立っていた。少し落ち着かない様子でツインテールの先の髪をいじりながら待っていた。

 

「リゼお待たせ!」

 

「ああ、リョーマか。おはよう。」

 

「おはよう。まだ20分くらいあるのに結構早くから来てたんだな。」

 

「夜全然眠れなくてやっと眠れたと思ったら朝早く起きてしまって、居ても立っても居られなくて早めに来てしまったんだ。」

 

よく見てみると瞼に少し隈が出来ていた。よほど今日の事で緊張していたんだろう。

 

「じゃあ早速練習始めるか。」

 

「そうだな、よろしく頼むよ。」

 

「じゃあ手を繋いで歩こうか。」

 

俺が手を差し出すと、リゼは状況を掴めず戸惑っていた。

 

「手を繋ぐのか?」

 

「ああ、この街でよくカップルを見かけるけど、みんな手を繋いでたし、昨日少し調べてみたらそこにも手を繋ぐって書いてあったから。」

 

俺がそう言うとリゼはものすごく恥ずかしそうに周りの目を気にしながらそっと手を繋いできた。

 

「いつもしっかりしてるリゼが、慣れないことに戸惑ってる姿を見てるとなんだか新鮮だな。」

 

「しょ、しょうがないだろ!恋人なんか出来たことないしデートだってしたことないんだから。」

 

「じゃあ慣れるように今日は頑張ろうな!さあ行くぞ!」

 

俺は緊張状態のリゼの手を引っ張り目的地へ歩き出した。向かう途中、お年寄りの方や主婦の人たちから微笑ましそうな目で見られていたので到着するまでリゼは顔を真っ赤にして、俺が話しかけても恥ずかしさのあまり一言も話してくれなかった。

 

 

 

 

遊園地に到着すると、リゼはさっきの恥ずかしさとは一変して無邪気な子供のように興奮していた。

 

「なんだか楽しそうだな。」

 

「ああ!遊園地なんて初めて来たよ!リョーマ早く行こう!」

 

俺はそのままリゼに引っ張られ園内に入っていった。

 

「さてとまずは何に乗ろうかな?」

 

「リョーマ!あのジェットコースターに乗ってみたい!」

 

そう言ってリゼはジェットコースターに指を指していた。

 

「よし!じゃあ乗ってみるか!」

 

かなりの行列で40分ほど並ぶことになったが、ようやく順番が回ってきた。リゼは初めてのジェットコースターに大興奮だった。

 

「どんな感じなんだろう?すごく楽しみだな!」

 

リゼは早く発進して欲しそうにウズウズしていた。しばらくするとアナウンスが鳴り、間も無く発進だった。

 

「リゼ、興奮しすぎて口噛んだりすうわぁ!!!」

 

リゼに少し注意しようとした途端いきなり猛スピードで進み始めた。てっきり少しずつ進み頂上に着いたら坂を思いっきり降るのかとすっかり油断していた。リゼはそんなの関係なく満面の笑みだった。

 

「あははは!すごいスピードだな!」

 

「なんだこれ!スピード早すぎるだろ!」

 

スピードも予想より遥かに早くこの状態が3分ほど続いた。ようやく1周を終えた頃には俺は疲れ切っていた。

 

「お、俺の思ってたジェットコースターと全然違う...,.。」

 

「リョーマ!次はあれに乗ろう!」

 

俺は半ば強引に手を引かれ次々とアトラクションに乗って行った。リゼは興奮状態で止まることを知らず、それに比べて俺はリゼについて行くのがやっとで遊園地を楽しむ余裕がなかった。約3時間休憩無しでアトラクションに乗っていたので、休憩を頼み込んで今はベンチで休んでいる。

 

「ごめん、無理させちゃって。」

 

「大丈夫。気持ちはわかるから気にすることはないよ。」

 

「じゃあリョーマ、次はあれに入ろう!」

 

指を指している先を見るとお化け屋敷だった。暗いところが苦手なリゼがこんなとこに入って大丈夫なのだろうか。

 

「大丈夫なのか?暗い所怖いんだろ?」

 

「大丈夫!所詮は作り物なんだし、いざとなったら私が守ってやるぞ!」

 

「まあ、リゼが大丈夫ならいいけど。」

 

俺たちはそのままお化け屋敷に入っていった。入る直前看板に小さな字で超本格的と書いてあり、この時点でこの後の展開をなんとなく察した。

 

 

 

 

 

 

 

「ゔごぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「キャーーーーーー!!!」

 

「があああぁぁぁぁ!!!」

 

「キャーーーーーー!!リョーマ!!」

 

開始30秒、さっきの意気込みはどこへやら。お化け役の人が脅かせて来る度にリゼは悲鳴をあげ俺の背中にしがみついた。なんとなく予想できたが的中すぎて何も言えなかった。

 

「全然大丈夫じゃないじゃん。」

 

「だ、だってこんなに本格的とは。」

 

リゼは足をガクガク震えさせており、全然先へ進めなかった。今にも泣き出しそうな顔で普段とは全く違う姿だった。

 

「リョーマ!頼むから離れないでくれ!」

 

「わかったわかった。.......あ、リゼ後ろ。」

 

「え?」

 

「うがあああぁぁぁ!!!」

 

「キャーーーーーー!!!」

 

この悲鳴はお化け屋敷を出るまで数十回にも及んだ。やっと出れた頃にはリゼは大号泣状態で落ち着かせるのにかなり時間がかかった。時刻は17時を過ぎ夕方に差し掛かっていたので最後は観覧車に乗って景色を楽しむことにした。

 

「今日はありがとう。あと色々と迷惑かけてごめん。」

 

「気にするなよ。俺はリゼの可愛らしい所が見れて楽しかったよ。」

 

「か、かわ!?それは忘れろ!」

 

顔を真っ赤にしながら言ってきた。

観覧車が半分過ぎた頃、リゼが何か言いたそうな顔をしていた。

 

「どうした?」

 

「その.....1つ頼みがあるんだけどいいか?」

 

「なんだ?なんでも言っていいぞ。」

 

「その、もう少し練習に付き合ってくれないか?」

 

「もちろん!どんな練習をするの?」

 

「えっと.....りょ、旅行に行ってみたい!昨日調べてみたら恋人同士は旅行にも行くみたいなんだ。それでリョーマが良ければその旅行に付き合ってほしい。」

 

リゼはちょっと頰を赤らめながら言ってきた。もう演劇の本番まで1週間もないみたいだし、なんでも手伝ってあげよう。

 

「ああ、俺で良ければ付き合うよ。」

 

「本当か!?良かった!ありがとうリョーマ!」

 

「どういたしまして。観覧車も終わるしそろそろ降りるか。」

 

俺たちは観覧車を降りそのまま遊園地を出た。リゼを家まで送り、旅行は明後日となり明日はその準備をすることになった。

ラビットハウスへ戻りドアを開けると、電気はついてなく誰もいなかった。

 

「ただいま!......あれ?誰もいないのか?」

 

俺はココアの部屋とチノの部屋に入ったが2人ともいなかった。どこを探してもいなかったのでとりあえず部屋に戻って着替えることにした。

 

「それにしても2人ともどこに行ったんだ?」

 

そう思いながら部屋に入った瞬間、誰かに腕を掴まれそのまま引っ張られ無理矢理椅子に座らされロープで縛られてしまった。そして電気がついたので見てみると目の前にはココアとチノがいた。

 

「おい2人ともなにやってんだ!これ解いてくれよ!」

 

「ダメだよお兄ちゃん!今日のデートの内容を聞くまでは解かないから!」

 

「はあ!?なに言ってんだよ!チノこれ解いてくれ!」

 

「嫌です!お兄ちゃんには今から尋問を受けてもらいます!」

 

2人ともギラギラとした目で近づいてきた。そしてデートの内容を隅から隅まで事細かく尋問された。最後に明後日リゼと一緒に旅行に行くと言った瞬間、2人の目から光がなくなった。

 

「どういうことですかお兄ちゃん?」

 

「リゼちゃんと旅行に行くの?ねえなんで?」

 

「なんでって、演劇の練習だよ。リゼに演劇のために旅行に行きたいって言われたから旅行に行くんだよ。」

 

「そっかー、本当に旅行に行くんだね。チノちゃん!」

 

「はい!メモの準備はできてます!」

 

「さあ!その旅行の内容のプランを詳しく聞かせてもらうよ!」

 

「もうやめろーー!!!」

 

俺はそのまま1時間ほど尋問された。翌日、旅行の準備をしている最中、常に2人からジーッと見られていた。

そしてその日の夜は何故か3人一緒に寝ることになり、2人に抱きつかれながら眠りについた。

 

To be continued




今回はここで終わります。
本当は1話で終わらせるつもりだったんですけど長くなりそうなので2話に分けることにしました。
次回は旅行編です。お楽しみに!


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-33話- 恋人同士(仮)の旅行ってどんな気分?

どうもP&Dです。
旅行といえば最後に行ったのは高校の修学旅行でしたね。いつか友達とどこか旅行に行きたいですね。


旅行当日、待ち合わせは駅になっている。今回の旅行先はこの街から離れた所にある旅館だ。今は駅に向かっているところだが、ラビットハウスを出る前はココアとチノから絶対に変なことをしないようにと念を押され、もし変なことをしたら尋問じゃ済まないと脅された。練習のための旅行なのに変なことをする必要がどこにあるのやら。

 

「リゼおはよう!」

 

「おはようリョーマ!今日はありがとう、旅行にまで付き合ってくれて。」

 

「出来ることならなんでもするって言ったしな。今日は目一杯楽しもうな!」

 

「ああ、よろしくお願いするよ。じゃあリョーマ早く電車に乗ろう!」

 

俺はリゼに手を引かれ電車に乗った。リゼはだいぶ慣れてきたみたいだ。

この街に来た時に乗った電車と同じでどこか懐かしみを感じた。

 

「リゼ、演劇の練習は順調か?」

 

「ああ、最初は緊張したけどお前とのデートのおかげでだいぶ上手くなったと思うよ。」

 

「それは良かった。」

 

「それよりリョーマの方は大丈夫なのか?ココアとチノに何か言われたんじゃないのか?」

 

「.........気をつけて楽しんできてって言われた。」

 

「......なんだ今の間は。」

 

脅されたなんて言ったら多分リゼが黙ってないだろう。今はリゼの演劇のために全力を尽くそう。

 

「そういえば旅館の予約リョーマがとってくれたんだな。ありがとう、何から何まで。」

 

「どういたしまして。演劇の練習が上手くいってるみたいでこっちも嬉しいよ。」

 

「でも急に上手くなった所為か、何でそんなに急に上手くなったのか後輩たちから何回も聞かれるんだ。」

 

「あれ?みんなにこの事言ってないのか?」

 

「当たり前だろ!こんな事言ったら恥ずかしいに決まってる!それに言ったらお前のとこにも押し寄せてくるだろうから。」

 

まあ確かに前にリゼが足を捻挫してしまって俺が保健室に運ぶためにお姫様抱っこをした時、周りから歓喜の叫びが聞こえたからな。強ち間違いじゃないかもしれない。

 

「そうだな。言わない方がいいかもしれない。」

 

「お前、私の学校じゃかなり人気だからな。」

 

「嬉しいけど......押し寄せられるのは嫌だな。」

 

「私もお前の立場だったら嫌だよ。」

 

こんな感じでお互いの学校での出来事などを話しながら目的地へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

電車を降り、旅館に到着するとかなり大きな旅館だった。和風ということもありどこか甘兎庵と似ているところがあった。

 

「旅館に来たのも初めてだけど、意外と大きいんだな。」

 

「リゼって意外とアウトドアじゃないんだな。」

 

「そんなことないぞ。旅行や遊園地に遊びに行ったことがないだけで、サバイバルの訓練やキャンプは何回もしたことあるぞ。」

 

「......それは俺がやったことがない。」

 

お互いやることの方向は違うが、その事は気にせず旅館に入ることにした。

中に入るとこの旅館の女将が立っていた。

 

「すみません、2名で予約した如月です。」

 

「ようこそお出でくださいました。ここの旅館の女将ございます。」

 

女将さんは丁寧なお辞儀をし自己紹介をしてくれた。そして女将さんは俺の後ろにいたリゼに目が留まった。

 

「そちらの方はあなたの恋人ですか?」

 

それを聞いたリゼは顔を真っ赤にし、しどろもどろになっていた。

 

「えっと、その、こここ恋人.......で、です///」

 

「リゼ、そんなに緊張しなくても。」

 

「誰だって緊張するだろ!」

 

練習とはいえ他人に恋人だと言うのはさすがに恥ずかしいみたいだった。

 

「ふふ、とても仲が良いのですね。」

 

女将さんに微笑ましく見られそのまま部屋へ案内された。部屋に入ると2人用にはかなり広い和室でそれを見たリゼは驚いていた。

 

「おお!結構広いな!」

 

「あれ?女将さん、予約した部屋もう少し狭かったような気がするんですけど。」

 

俺が聞くと女将さんはリゼに聞こえないように小声で話し始めた。

 

「恋人さんと一緒だったので急遽部屋を変えました。お代はそのままで大丈夫ですよ、私からのサービスです!」

 

それを聞いた俺はリゼを見るとこの広い部屋を気に入っており、部屋に置いてあるものに興味津々な様子で見て回っていた。ここはお言葉に甘えよう。

 

「すみませんお手を煩わせてしまって。」

 

「お気になさらないでください。そのかわり恋人さんと楽しんでください。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「ごゆっくり寛いでくださいね。では私はこれで失礼します。」

 

女将さんは一礼し、そのまま部屋を出て行った。リゼはまだ広い部屋を見て回っていた。

 

「リゼ、とりあえず少し休憩しようか。」

 

「ああ!それにしても見てて飽きない部屋だな!」

 

俺は湯呑み茶碗にお茶を淹れ、リゼと一緒に暫く休憩をすることにした。子供みたいに部屋を見て回っていた姿が今ではだいぶ落ち着いていた。

 

「リョーマ!まずはどこに行く?」

 

「まずはいろんな観光スポットに行こう。この辺りはそれがたくさんあるみたいだし。」

 

この辺りは観光スポットが多いと聞いたことがある。そのあとはここの名物とかを巡ったり、ココアたちへのお土産を買ったりするといいだろう。

 

「よし!そうと決まれば早速行こう!」

 

リゼは再び純粋な子供のようになり、俺の手を強引に引き旅館を出た。旅館から出る際、女将さんからまるで兄妹を見送るような感じだった。確かに今のリゼの状態はココアに似ているようなところがあり、そう見られるのも仕方ないかと思った。

 

 

 

 

「おお!すごい大きい寺だな!」

 

「確かに大きいな。よし入ってみるか?」

 

俺たちは一番の人気スポットの寺院を訪れた。流石人気ということもあり、観光客も大勢いた。そばにいないとすぐに逸れそうなほどだった。

 

「リゼ大丈夫か?離れるんじゃないぞ。」

 

「リョーマ待って!ちょっと!」

 

「まずい!」

 

俺は大勢の中、逸れそうになったリゼの手を慌てて掴みこっちへ引き寄せた。しかし少し引く勢いが強かった所為で抱きしめる形になってしまい、リゼは顔を赤くし動けなくなってしまっていた。

 

「大丈夫か?」

 

「う...うん///...だ、大丈夫///」

 

「逸れちゃまずいし、手繋いで行こう。」

 

俺が手を差し出すと、俯いたまま手を繋いできた。しばらくの間リゼは顔を赤らめながら何も喋らなくなり、俺が大丈夫かと聞いても無言で頷くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

寺院の最上階に着くと町の絶景が広がっていた。ここが観光スポットと言われるだけのことはある。

 

「リョーマ!すごい景色だぞ!」

 

「折角だし写真撮ろうか。」

 

「よろしかったら写真撮りましょうか?」

 

俺は誰かに写真を撮ってもらうよう頼もうかと思った時、後ろからお年寄りのおばあさんが声をかけてくれた。

 

「すみません、お願いしてもいいですか?」

 

「ええ、もちろんですよ。」

 

俺たちは町の景色を背に写真を撮ってもらうことにした。リゼは少し緊張しており顔が引き攣っていた。

 

「ほらほら、彼女さんもっと近づいて笑顔で。」

 

「は、はい!」

 

「リゼ、手繋ごうか。」

 

「そ、そうだな。」

 

リゼは俺のそばに寄りながら手を繋いだ。そのまま写真を撮ってもらいおばあさんにお礼を言ってカメラを受け取った。カメラを見てみるとリゼの引き攣っていたのが嘘だったかのような笑顔だった。

 

「どうしたリョーマ?」

 

「いやなんでもない。さあもっといろんな所に行ってみよう!」

 

俺はカメラをしまいそのままリゼと観光を続けた。観光中リゼはすごく楽しそうだったが、周りの人たちから恋人だと思われる度に顔を真っ赤にして俺に隠れることが多かった。男女が手を繋いで観光してたらそう思われるのも当然と言われれば当然かもしれないけど。

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、いい湯だな。」

 

観光から帰ってきた俺たちは歩き疲れていたので温泉に入ることにした。リゼは少し準備があるから先に入ってくれと言われ今は1人で満喫している。

 

「明日には町に帰るのか。.....もう1泊予約しておけば良かったかな。」

 

そんなことを思っていると入り口から誰かが入ってきた。他の宿泊客かと思って見たらなんとリゼだった。

 

「ちょ!?リゼなんで男湯に来てるんだ!?」

 

「ここの旅館、夜からは両方とも混浴になるらしいんだ。」

 

そんなシステムがある旅館なんて初めて聞いたぞ。ていうか混浴になるんだったら暖簾を変えようよ女将さん。

 

「混浴って知ってたんだったらなんで女湯の方に行かなかったんだ?」

 

「だって折角だし、一緒に入ろうかなって///」

 

リゼはタオルで体を隠しながら言ってきた。モカが来た時もこんな感じだったが年頃の男女が一緒に風呂に入るなんてなんだか罪悪感を感じる。

 

「まあ、リゼがいいなら入っていいけど。」

 

「ああ、じゃあ失礼するよ。」

 

 

 

 

 

 

 

「「.............。」」

 

何を話せばいいんだろう。もう5分ほど経つがずっとこの状態だ。リゼはさっきから何も話さずずっとモジモジしてるし。

 

「リゼ、今日は楽しかったな。」

 

「ああ、今日は本当に楽しかったよ。旅行も悪くないものだな。」

 

 

「「............。」」

 

ヤバイ、緊張しすぎて何も浮かんでこない。いつもならすぐに話題が浮かんでくるのになんでこういう時に限って浮かんでこないんだ。

 

「この後の夕食楽しみだな。さっき女将さんが味には自信があるから楽しみにしててって言ってたよ。」

 

「じゃあリョーマの作る料理とどっちが美味しいか審査だな。」

 

「当然俺の方が美味しいと思うけどな。」

 

「お!珍しいなリョーマがそんなこと言うなんて。よし!じゃあ厳しく審査してあげよう。」

 

会話を和ませるためにわざと見栄を張ったが効果はあったようだ。いつものように自然と会話ができるようになった。

 

 

風呂を上がり浴衣に着替え、部屋に入ると女将さんが夕食の準備をしていた。

 

「おかえりなさいませ。温泉の方はいかがでしたか?」

 

「はい、すごく気持ちよかったです。」

 

「それは良かったです。お食事の準備ができましたのでごゆっくりと召し上がってください。」

 

「ありがとうございます。いただきます。」

 

俺たちは早速夕食をいただいた。リゼが温泉で厳しく審査すると言っていたので、俺も気合を入れて審査してみたのはいいが.....。

 

「......リョーマのより断然美味しいな。」

 

「.......そ、そうだな。」

 

わざと見栄を張ったとはいえ心のどこかで勝負心に燃えていたが、あっさりと負けてしまいショックを受けている自分がいた。

 

「そんなに落ち込むなよ!リョーマの料理もすごく美味しいから!」

 

「ありがとう、審査のことは忘れて美味しく食べようか。」

 

俺たちはそのまま夕食を楽しんだ。

布団を敷き寝る準備が整った後、今日のことをココアとチノに言っておこうと思い寺院で撮った写真を添えてメールを送った。

 

「リョーマ何してるんだ?」

 

「ココアとチノに今日の事を教えてたんだ。あれ?もう返ってきた。」

 

着信メールが来たので内容を見てみると。

 

『お兄ちゃん♪帰ってきたら尋問だね♪

ココア&チノより』

 

ああ.......帰りたくなくなってきた。やっぱりもう1泊予約しておけばよかったかな。

 

「どうしたんだよ、世界が終わってしまうみたいな顔して。なんて返信が来たんだ?」

 

「........楽しんでるようで良かったって。」

 

「........いや、絶対嘘だよな?」

 

当然と言わんばかりのツッコミをされた。不思議そうな顔をされたが俺は何も言わずに布団に入った。

 

「リゼ、そろそろ寝よう。」

 

「そうだな。あの.......リョーマ///」

 

「どうした?暗いのが怖いのか?」

 

「そうじゃなくて、その......手..繋いでくれないか?」

 

「もちろん!構わないよ。」

 

俺は部屋の電気を消し布団に入りリゼと手を繋いだ。心なしか少し震えてるような気がした。

 

「やっぱり怖いんじゃないのか?」

 

「.....ち、違う///」

 

そう言ってリゼはそっぽ向いてしまった。どうやら当たりみたいだ。

 

「無理しなくていいよ。一緒の布団に寝るか?」

 

「......うん、寝る///」

 

リゼはそのまま何も言わずに布団に入ってきた。手を差し出してきたので手を繋いであげるとさっきまでの震えは完全に消えていた。

 

「本当に暗い所が怖いんだな。」

 

「誰かと一緒なら全然平気なんだ。でも1人だとやっぱり怖い。」

 

「そうか!だからリゼの部屋に眼帯をつけたうさぎの人形があったのか。リゼにも可愛い所あるんだな。」

 

「な!?もういいだろ!早く寝るぞ!」

 

「そうだな、早く寝ないとどんどん暗くなっていくからな。」

 

「ふん///」

 

リゼは反対側を向いて寝てしまった。しかし手は繋いだままなので怖いのには変わりはないんだなと思いながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?もう朝か。そろそろ起きよう。........リゼ!?」

 

起きようとした時何かにしがみつかれている感覚がしたので見てみるとリゼが俺に抱きつきながら寝ていた。しかも足を絡ませながら。

 

「おいリゼ起きてくれ!」

 

「ん〜〜リョーマ〜♪」

 

リゼは起きるどころかさらに抱きついてきた。俺を抱き枕と勘違いしてるのか?

 

「リゼ起きろってば!」

 

「えへへ〜リョーマったらそんなに抱きついてきて〜♪」

 

夢で抱きつかれてるのはリゼみたいだが現実で抱きつかれてるのは俺だ。早く起こさないと女将さんが朝の挨拶に来てしまう。

 

「リゼ!頼むから起きてくれ!女将さんが来てしまう!」

 

「ん?リョーマどうしたんだよ急に離れて。もっとハグしよ〜♪」

 

起きたは起きたがまだ寝ぼけているみたいだ。まだ夢の中だと思い込んでるなこれは。

 

「おい寝ぼけてないで起きろ!」

 

「なんだよリョーマ。私達恋人同士だろ?もっとハグさせてくれ。」

 

リゼってもしかして寝てる時はけっこうハグ魔だったりするのか?リゼを起こすのに必死になっていると襖が開く音がした。

 

「おはようございます。昨日はよく眠れました.......か?」

 

見ると女将さんが俺たちに朝の挨拶をしに部屋に入ってきた。そして俺たちのこの状況を見て少し呆然としていた。

 

「あ、女将さん違うんです!これはリゼが寝ぼけてるだけで!」

 

「あれ?なんで女将さんがここに?.........あれ?.......え!?.........え!!!???」

 

「やっと目が覚めたみたいだな。おはようリゼ。」

 

「今のって夢じゃ.......」

 

「ないよ。」

 

「あらあら、お2人とも本当にラブラブなんですね。大変失礼しました。1時間後にまた来ますのでごゆっくり。」

 

そう言って女将さんはそっと襖を閉め何事も無かったかのように去って行った。

 

「待って!女将さん待ってください!女将さーーーん!!!」

 

リゼは必死で女将さんを呼び止めに行ってしまった。.......この光景どこかで見たな。

 

 

 

 

 

 

 

 

リゼは女将さんに寝ぼけていたと誤解を解いた(本当に解けたのかは知らない)後、少し遅めの朝食をいただき帰る準備をしていた。

 

「さてと、リゼ準備できたか?」

 

「ああ、いつでもいいぞ。」

 

「よし、じゃあ出るか。」

 

俺たちは旅館の玄関まで行き女将さんに挨拶をすることにした。

 

「女将さん、本当にお世話になりました。」

 

「いえいえ、私もいろいろと楽しかったですよ。またいつでもいらして下さいね。」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

俺たちは女将さんにお礼を言い旅館を後にした。電車に乗る頃にはお昼を過ぎており、町に着く頃には夜になっているだろう。

 

「本当に楽しい旅行だったな。」

 

「ああ、リョーマと来て正解だったよ。」

 

俺たちはしばらく旅行での出来事を振り返り語り合った。寺院に訪れたこと、お土産巡りやグルメ巡りその他の観光スポットに行ったことなどを話し気がつくと2時間くらい話していた。

 

「旅行は楽しかったし、出来ることは全部できたし、これで練習の方も大丈夫かな。」

 

「え?練習?」

 

リゼは何の事か分からずポカンとした表情だった。

 

「演劇の練習のことだよ。もうこれでバッチリだろ?」

 

「............あ、ああ!そうだな!もうこれでバッチリだ!本当に助かったよ!............そっか......練習だったなそういえば。

 

リゼは最後に何かを呟いた後すごく寂しそうな表情になり俯いてしまった。

 

「どうしたんだリゼ?どこか具合悪いのか?」

 

「ううん、大丈夫。少し眠いから寝てもいいか?」

 

「ああ、町まで着くのにまだしばらくかかるし、着いたら起こすよ。」

 

「悪いな。じゃあお言葉に甘えて少し寝るよ。」

 

リゼは俺の肩に寄り添って眠りについてしまった。俺は到着するまでの間、あのリゼのすごく寂しそうな表情が頭から離れずにいた。

 

 

 

 

 

町に到着する頃にはすっかり夜になっていた。俺は寝ているリゼを起こし電車を降りた。リゼを家まで送るまでの間リゼはずっと電車の時と同じ寂しそうな表情だった。

 

「やっぱり1泊だけじゃ物足りなかったかな?」

 

「う〜ん、かもしれないな。すごく楽しかったし。でも本番まで時間が無いし我儘は言ってられないからな。」

 

話をしながら家に向かっているとあっという間に到着した。

 

「リョーマ、いろいろと本当にありがとう。」

 

「いいよ気にしなくて。俺も旅行すごく楽しかったから。さて、俺はもうラビットハウスに戻るよ。また明日な。」

 

「.......リョーマ!」

 

俺がラビットハウスへ帰ろうとした途端リゼに手を掴まれ呼び止められた。

 

「どうした?」

 

「その.....さ、最後の練習に付き合ってくれないか?」

 

「いいよ、やり残した事があるならもちろん最後まで付き合うよ。」

 

「ありがとう。それで....えっと....今日はうちに泊まっていってくれないか?最後は恋人らしく練習を終わらせたいんだ。」

 

「わかった。じゃあお邪魔しようかな。」

 

「ありがとう!さあ早く入ってくれ!」

 

俺は今日、リゼの家に泊まることになった。中に入るとリゼのお父さんが立っていた。

 

「ただいま!」

 

「お帰りリゼ、お!リョーマも来ていたのか。」

 

「はい、リゼに今日は泊まってくれって頼まれたので。」

 

「そうか!泊まっていってくれるのなら俺も大歓迎だ。旅行で疲れただろう、夕食の準備はできてるから旅行での話を聞かせてくれ。」

 

俺たちはリゼのお父さんと一緒を食べることになった。楽しそうに旅行での事を話すリゼ、それを嬉しそうに聞くリゼのお父さん、なんだか団欒とした感じでとてもいい気分だ。

 

「いい旅行だったじゃないか。そういえばリョーマ知ってるか?リゼ、お前に演劇の練習に付き合ってくれるか最初はすごく不安がっていたんだぞ。」

 

「ちょっと親父!それは言わなくていい!」

 

「いいじゃないか過ぎた事なんだから。そしてお前が練習に付き合ってくれると分かると大喜びで俺に報告を「それ以上喋るな!」」

 

リゼはお父さんの言葉を遮って懐にしまっていたモデルガンを突き出した。......待って、旅行中ずっと持ってたのか!?

 

「おいやめろ!父親に銃口向ける娘がいるか!」

 

「だったらそれ以上喋るな!」

 

途中からドタバタな夕食になってしまったが、なんだかんだ楽しそうにしていた。

就寝時、お父さんから今日はリゼと一緒に寝てやってくれと頼まれた。元からそのつもりだったが、俺は頼みを受け入れリゼの部屋へ向かった。

 

「リゼ今日も一緒に寝るか?」

 

「ああ!早く入ってくれ。」

 

俺はそのまま部屋に入った。もう夜の11時だ、そろそろ寝ないといけないな。

 

「ありがとな、最後の練習に付き合ってくれて。」

 

「気にするな、やり残した事がある方が嫌だしな。」

 

俺はリゼと同じベッドに入った。するとリゼは突然俺を抱きしめ始めた。

 

「リゼ急にどうした?」

 

「まだ練習は続いてから眠るまでは恋人同士でいさせてくれ。」

 

リゼはそう言って強く抱きしめてきた。なんだかこの状況を堪能しているような感じがした。

 

「そうだな、じゃあこのまま寝るか。」

 

「ああ、おやすみリョーマ。」

 

「おやすみ。」

 

俺たちはそのまま抱きしめあいながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何で私練習だってことを忘れてたんだろう。その分すごく楽しかったというのももちろんあると思うけどそれだけじゃないような気がする。それに練習だって思い出した時の寂しい思い、なんだったんだろう?.......今はまだわからないけどいつかわかる日が来るといいな。)

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
今回思ってた以上に長く書いてしまって気づいたら8000字超えてましたww
次は何書こうかな?


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-34話- 久しぶりに実家に帰ろう!

どうもP&Dです。
最近くしゃみが止まりません。
風邪ひきそう.......。


「2人とも、できたぞ。」

 

「やったー!今日はハンバーグだ!」

 

「わぁぁ!すごく美味しそうです!」

 

仕事が終わったある日の夕食、ココアとチノのリクエストでハンバーグを作ることになった。完成したハンバーグを2人に見せると早く食べたそうにハンバーグを見つめていた。

 

「さて早く食べようか。」

 

「「いただきます!」」

 

2人は同時に元気よく言っていた。2人は他のおかずには目もくれず真っ先にハンバーグを食べていた。他のおかずから『なんで俺たちのことを無視するんだ!』みたいなのが聞こえたような聞こえなかったような気がした。

 

「ほらチノ、口にケチャップついてるぞ。」

 

俺は口についてしまったケチャップを拭いてあげるとすごい恥ずかしそうな表情だった。なんだか父親が幼い娘の食事の面倒を見てあげているような感覚だった。

 

「チノちゃんってばお茶目さんだね!」

 

「う、うるさいです///そういうココアさんこそケチャップついてるじゃないですか!」

 

「え!?ほんとだ!」

 

俺はやれやれと思いながら夕食を続けた。ハンバーグと一緒にそれぞれ2人の苦手なトマトとセロリを添えていたが案の定食べようとする気配は全く無かった。だが実はハンバーグにはトマトとセロリを混ぜていたが2人は気づく素振りが無く1つ収穫ができたので良しとし、2人に食べてくれとせがまれたトマトとセロリを食べてあげた。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!お姉ちゃんからまたお手紙だよ!」

 

就寝時、ココアが手紙を持って元気よく入って来た。また小さいメモ用紙の手紙が入ってなければいいが。俺はそう思いながら少し警戒して手紙を開けた。

 

「1枚だけか、大丈夫そうだな。」

 

「ん?何が?」

 

「い、いや!何でもない!読んでみようか。」

 

 

 

 

ココアへ

 

たまにはうちに帰ってきなさい。お母さんが寂しがってたよ!(あと私も!)

リョーマ君に我儘ばかり言って迷惑かけないようにするんだよ!それに前にリョーマ君から聞いたよ、最近補習ばかりなんだってね!しばらくリョーマ君に特訓してもらいなさい!

 

それとリョーマ君へ

 

あまりココアを甘やかさないようにね。

なかなか言うこと聞かない時は遠慮はしなくていいからどんどん特訓してあげて。

多分何かご褒美をあげると喜ぶだろうから、もしココアが頑張ったら目一杯甘えさせてあげてね!

頑張って立派なお兄ちゃんになってね!

すごく料理も上手になっててお姉ちゃんはとても嬉しかったよ!

機会があったらココアと一緒にうちに遊びに来てね!

 

 

 

 

「.......。」

 

「......おいココア、どこへ行く?」

 

俺はこっそりと部屋から逃げようとするココアに声をかけながら腕を掴むと、ビクッと体を震わせていた。そしてココアは恐る恐るこっちを向き少し青ざめた表情だった。

 

「えっと....そろそろ寝る時間だから早く寝ないと。夜更かしは体に悪いからね!だからお兄ちゃんも寝よ?」

 

「いつも夜更かししてるお前がそんなこと言って通用すると思うか?今日はその夜更かしの時間を勉強の時間に使おう、ほら椅子に座って。」

 

「ヤダーーー!もう今日は寝る!夜更かしはダメ!」

 

「こういう時だけ真面目になるな!さあ今から特訓だ!」

 

「ヤダーーー!チノちゃん助けてー!」

 

「ココアさんどうかしたんですか!?」

 

ココアが叫ぶと、チノが血相を変えた表情で慌てて入ってきた。

 

「チノちゃん助けて!お兄ちゃんに特訓されちゃう!」

 

「.........お兄ちゃん、ココアさんに思いっきり特訓してあげてください。心配した私がバカでした。」

 

チノは呆れた様子で部屋から去っていった。俺はそのままココアを椅子に座らせ特訓を開始した。最初は泣きべそをかきながらだったが、ハグをしてあげることを条件にしてあげるとちょっと嬉しそうな顔で1時間ほどだけ勉強をした。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、俺とココアはモカが寂しそうにしているということでココアの実家へ行くことになった。準備は完璧でいつでも出発することはできるのだが1つ問題が発生している。それは.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌です!お兄ちゃん行かないでください!」

 

「ごめんなチノ、でもそろそろ実家の方に顔を出さないと。」

 

「ココアさんだけ行けばいいです!お兄ちゃんはここにいてください!」

 

只今絶賛チノに俺がココアの実家に行くことをめちゃくちゃ反対されている。今にも泣きだしそうな顔で俺にしがみつきながら反対しておりどうしたらいいのか俺は途方に暮れていた。

 

「おいチノ!リョーマが困ってるだろ。たまには実家に帰らせてやれよ。それに最近のチノはリョーマにベッタリしすぎだ!」

 

「ヤダ!ヤダヤダヤダ!お兄ちゃんと一緒にいたいです!離してください!」

 

リゼはチノを羽交い締めで俺から引き離した。それでもチノは諦めず足をバタつかせながら全力で抵抗していた。

 

「たった1週間だけだろ?少しくらい我慢しろよ!」

 

「嫌です!1週間も会えないなんてもう嫌なんです!お兄ちゃんが修学旅行で1週間も会えなかった時、本当に辛かったんです!もうあんなの嫌です!」

 

俺が留守中の時のことを思い出したのか目尻に少し涙が溜まっていた。一緒にいてあげたいけど流石に何ヶ月も帰らないわけにもいかない。

 

「チノがあそこまで駄々をこねるなんて。」

 

「あはは.......お兄ちゃんが修学旅行でいなかった時はもっとすごかったんだよ。仕事中もずっと死んだような目をしてて、私が代わりにモフモフしてあげようとしたらものすごい力で突き放されて『お兄ちゃんじゃないと嫌です!」って言われたもん。」

 

「それは.......大変だったな。」

 

俺はココアが可哀想だと思い、頭を撫でてあげた。ココアは嬉しそうに微笑んでいたが、羽交い締めされていたチノはそれを見て再び暴れ出し、リゼが必死に止めていた。

 

「リョーマ君!」

 

「せんぱーい!」

 

声のする方を見るとチヤとシャロが見送りに来てくれた。ココアは嬉しそうにチヤと手を取り合っていた。

 

「ココアちゃん!向こうに行っても元気でね!」

 

「たまには連絡しなさいよね!」

 

「うん!みんなのこと絶対に忘れないよ!」

 

なんだか周りから見たら転校するって勘違いされそうなやりとりだった。そしてココアとチヤは涙を流しながら抱き締めあっていた。俺はたった1週間なのに大袈裟だなと思いながら溜息をついた。ちなみにそばにいたシャロも溜息をついていた。

 

「ココア、たった1週間なんだからなにも泣かなくても。」

 

「う゛わ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!」

 

ダメだ、しばらく泣きやまないなこれ。周りの人たちは完全に転校だと思い始めて同情してるぞ。

 

「兄貴ー!」

 

「はあ....はあ....な、なんとか間に合ったね!」

 

駅の入り口を見るとマヤとメグも見送りに来てくれた。2人はこっちに来ると早速俺に抱きついてきた。

 

「兄貴!本当に行っちゃうのか?」

 

「お兄さん!いつ帰ってこれるの?」

 

「1週間だけだからすぐ帰ってくるよ。それまでいい子にな。」

 

俺は2人の頭を撫でてあげた。見たら再び暴れるであろうチノに見えないようにいまだに泣きながら抱きしめ合ってるココアとチヤを盾にしながら。

 

「じゃあさ兄貴!1週間分のハグしてくれ!」

 

「私もしてほしいー!ねえねえいいでしょ?」

 

2人は不安そうな目で見てきた。よほど寂しいのだろう、俺はいつもより強く2人を抱きしめてあげた。

 

「お兄ちゃん!最後にハg......マヤさんメグさん!何してるんですか!ずるいです!」

 

ようやくリゼから解放されたチノは俺の所に駆け寄ってくると俺に2人が抱きしめられてるのを見てプンスカと怒り2人の間に割って入ってきた。

 

「あ!チノ!割って入ってくるなんてずるいぞ!」

 

「そうだよ!チノちゃんはいつも家でハグしてくれてるでしょ!」

 

「関係ないです!お兄ちゃん私にもハグしてください!」

 

3人ともハグして欲しさに言い合いになっていた。俺が1人ずつハグしてあげるというと3人とも大喜びになりあっさりと解決した。

 

「さてと、そろそろ行くか。チノ、これ渡しておくよ。」

 

俺は前にチノと一緒に買ったコーヒーカップのバッジを渡した。

 

「これを俺の代わりにして1週間良い子にしてて待ってて。」

 

「良いんですか?お兄ちゃんありがとうございます!」

 

俺はそのまま頭を撫でてあげると何故かココアが怒り出し、チノがいつも大事にしているウサギの人形をチノに手渡した。

 

「チノちゃん!この人形を私だと思って良い子で待っててね!私がいなくて寂しいと思うけどお留守番しててね!」

 

「この人形とバッジをお兄ちゃんだと思って良い子で待ってます!だからお兄ちゃん帰ってきたらいっぱいハグしてください!」

 

「ちょっと待ってチノちゃんその人形は私だよ!お兄ちゃんじゃないよ!」

 

「ココアさんは頭の中に入れておきます。なので何もなくて大丈夫です。」

 

「む〜〜!お兄ちゃんのバカ!」

 

「なんで!?」

 

ココアは怒って俺を叩き、みんなからは相変わらず兄妹喧嘩だなみたいな目で見られた。見てないで止めてくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!お兄ちゃんもう電車出発しちゃうよ!」

 

駅から出発のアナウンスが聞こえる、そろそろ出発の時間だ。俺たちはみんなに挨拶を交わし急いで電車に乗り、電車が動き出すと俺たちは電車の窓を開けみんなに向かって手を振った。みんな寂しそうにしていたが中でもチノが一番寂しそうにしていた。

 

「お母さんに会うの久しぶりだね!」

 

「そうだな、おばさん元気にしてるかな?」

 

「ねえお兄ちゃん!頭撫でて!」

 

突然ココアが頭を近づけてきた。頭を撫でてあげるとココアそのまま俺に抱きついてきた。

 

「どうしたココア、なんだかやけに甘えん坊だな。」

 

「だっていつもチノちゃんに邪魔されるから、全然ハグ出来ないんだもん!だから実家にいる間いっぱいお兄ちゃんに甘える!」

 

ココアは頭を撫でるのとハグだけでは飽き足らず頬ずりまでしてきた。よっぽど甘えたかったんだろうな。

 

「じゃあ駅に着くまではハグしてあげるよ。」

 

「え!?いいの?やったー!」

 

ココアは大喜びでハグを続けたが10分ほど続けているといつの間にか眠ってしまっていた。夢に中でもハグをしてるのか眠りながらハグをされた。到着までまだ数時間あったので俺はココアを抱きしめながら駅に着くまで眠りについた。

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
実はモカからの手紙の中にちょっとした秘密が隠されています。
ヒントは『それとリョーマ君へ』の後の文に隠されています。
わかるかな?


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-35話- 久しぶりだからって何事もやりすぎないように!

どうもP&Dです。
もう11月ですね。
今年ももうすぐで終わりですね。


「ん?着いたか。」

 

目を覚ますとちょうど目的地の終着駅に到着したところだった。ココアは未だに爆睡中で俺の服を掴みながら眠っていた。

 

「ココア着いたぞ、起きろ。」

 

「えへへ〜お兄ちゃんがいっぱいだ〜。」

 

どんな夢見てるんだよ。いくら揺すっても起きる様子はなかったので仕方なくあの方法で起こすことにした。

 

「ココア、今起きたら思いっきりハグしてあげるぞ。」

 

「ほんと!?.....あれ?」

 

ココアの耳元で囁くと一瞬で飛び起き辺りを見渡していた。そして窓に映る終着駅を見ると既に到着していることを理解した様子だった。

 

「もう着いたんだ。」

 

「早く降りるぞ、車掌さんに迷惑がかかるからな。」

 

「それよりお兄ちゃん!ちゃんと起きれたからハグさせて!」

 

そういうところはちゃっかりと覚えてるんだな。それを是非とも勉強に活かして欲しいものだ。多分言っても聞かないだろうなと思いながら約束通りハグをしてあげると満足そうにしながら電車を降りていった。

 

 

 

 

「お兄ちゃんどうしたの?なんだか私の家に行くのが嫌みたいな顔だけど。」

 

道を歩いているとココアが不思議そうな顔で俺を見てきた。別に俺はココアの実家に行くこと自体が嫌なわけではない。問題なのはこいつの姉だ。この前ラビットハウスにやってきた時しばらく会えなかっただけであの狂気さだ。あの時から既に数ヶ月経っている、いったいどんな目にあわされるかを考え始めるとキリがない。

 

「......狂気のモフモフが怖いって言えばわかるか?」

 

「.......何も言わないでおくよ。」

 

さすがの補習ばかりしているココアでも察したようで、それ以上は何も言わなくなった。俺が唯一恐れているものだということはココアも重々承知している。しばらく俺は無言になり重くなった足を運びながらココアの実家へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「着いたー!」

 

ようやくココアの実家に到着した。ココアは少しウキウキした様子でドアを開けるとおばさんが出迎えてくれた。

 

「おかえりなさいココア!リョーマ君もおかえりなさい!」

 

「お母さんただいま!」

 

ココアは荷物を床へ手放しおばさんに子供みたいに嬉しそうに抱きつきに行った。おばさんはココアを愛でるように頭を撫でていた。ちなみに俺はさっきからモカの姿が見当たらないので周りを警戒していた。

 

「ねえおばさん、モカはどk..........!!!」

 

モカはどこにいるのか聞こうとした瞬間背後から狂気の気配を感じた。俺は冷や汗をかきながら振り向くとそこには満面の笑みのモカが立っていた。

 

「おかえりリョーマ君!」

 

「た、ただいま。」

 

「久しぶりだね!リョーマ君に会えてすっごく嬉しいよ!さあリョーマ君今から何したい?ご飯作ってあげようか?お風呂沸かしてあげようか?それともモフモフがいい?リョーマ君がしてほしいことならなんでもするよ!一緒に寝てホしイなら一緒にネテアゲルし、甘えタイナラ私がいっぱいアマエサセテあげるし、ヒザマクラシテホシイナラヨロコンデシテアゲルヨ?ナニガイイ?ナニシテホシイ?リョーマクンナニガイイ?ネエナニガイイ!?」

 

俺が少し後ずさりをするとモカも近づいてきた。大きく後ずさるとその分大きく近づいてきて、俺の心臓の鼓動は増すばかりだ。喋れば喋るほど狂気さが増していき、俺は怯えずにはいられなかった。

 

「いや、今はいい!ていうか近すぎ!」

 

「エンリョシナクテイインダヨ?ココアノメンドウヲミテバッカデツカレテルデショ?ワタシガイヤシテアゲルカラコッチニオイデ!」

 

後ずさりをし続けた俺は壁を背にしてしまい、逃げ道を失ってしまった。そしてモカは両手を俺の顔の横にある壁に突き出した、いわゆる壁ドンというやつだ。

 

「モカ落ち着きなさい!」

 

「お姉ちゃんしっかりして!」

 

「ハッ!.....ごめんねリョーマ君、お姉ちゃんちょっとどうかしてたみたい!」

 

「いや全然ちょっとどころじゃないから!」

 

俺は当然のツッコミをした。俺の予想通りかなり狂っていたみたいで、ちょっと会わなかっただけでこの状態だ。次会った時はどうなっているのやら。考えると震えが止まらないのでやめておこう。

 

「さあ2人とも疲れたでしょ?おやつ作ってあるから休憩にしましょ?」

 

「やったー!おやつだ!」

 

おばさんの得意なおやつはクッキーだ。小さい頃はよくココアと一緒に遊んで家にお邪魔した時によく作ってくれた。あの頃はよくお互いに食べさせあいっこをしたのが懐かしい思い出だ。俺がテーブルに座るとモカは当たり前のように俺の隣に座り、それを見たココアは頬を膨らませていたが姉のモカには勝てないと悟ったのか黙って俺の向かいに座った。

 

 

 

 

「リョーマ君あ〜ん♪」

 

「やめてくれよ甘兎の時といい、もうそんな歳じゃないんだから。」

 

モカは俺にクッキーを食べさせようとしてきた。おばさんは微笑ましそうに見ていたがココアは頬を膨らませながらジッと見ていた。こんな状況でこんなことできるわけない。

 

「そういえば2人とも向こうでどんな事があったの?」

 

おばさんに聞かれた俺たちは様々なことを話した。みんなと一緒にクリスマスパーティをした事、チノが俺の妹になってめちゃくちゃ甘えん坊になった事、山奥でみんなとキャンプをした事などを話した。そして最後にココアは俺にとって一番言って欲しくない事を言い出した。

 

「お兄ちゃんったらリゼちゃんとデートしたんだよ!挙句には2人っきりで旅行までしたんだよ!」

 

ココアがそれを言った瞬間、紅茶を飲んでいたモカの手がピタリと止まった。恐る恐る見ると笑顔の仮面を被ったモカがいた。

 

「へぇ〜リョーマ君ってばリゼちゃんとデートしたんだ〜♪へぇ〜それは嘸かし楽しかっただろうね〜♪ふ〜ん♪」

 

「いやあれはリゼが演劇の練習のために付き合って欲しいって言われただけだから!ていうかなんでモカが怒るんだよ?」

 

「何言ってるのリョーマ君?ぜ〜んぜん怒ってないよ!リョーマ君もそういう年なんだな〜って思ってるだけだよ!だから怒ってないよ!本当に怒ってないからね!」

 

怒ってる!何故かはわからないが絶対怒ってる!だってオーラが狂気の笑顔の時と同じだから。

 

「そうだわ!この後お得意さんの所にパンを届けないといけないんだけど、モカ行ってくれるかしら?」

 

「それじゃリョーマ君も一緒に行こうよ!

 

するとココアがいきなり文句を言い始めた。

 

「ヤダ!お兄ちゃんは私と遊ぶんだからお姉ちゃん1人で行って!」

 

「う〜ん、もし一緒に行かせてくれたらリョーマ君に後でココアをモフモフさせてあげるように言っておいてあげるけどどうかな?」

 

「........お兄ちゃん!お姉ちゃんと一緒にお使いに行ってきて!」

 

「おい5秒前のお前はどこに行った?あとモカ、なんで勝手に決めてるの?」

 

今更何言っても聞かなさそうだったからそういうことで決定し、モカと一緒にパンを届けることになり、玄関を出る頃にはモカはもうウキウキ状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと腕組まないでくれ。いや恋人繋ぎもダメだって!」

 

家を出て少しした後、モカがいきなり俺の腕を組み始め、さらには恋人繋ぎまでしようとしてきた。挙げ句の果てには俺の肩に頭を寄せようとしてきた。

 

「え〜いいじゃない減るもんじゃないんだし。」

 

「だからって限度があるだろ?俺たち恋人じゃないんだから、周りの人たちが誤解するだろ。」

 

モカはケチだのヘタレだのブーブー言っていたのでしょうがないなと思い普通に手を繋いであげることにした。モカは手を繋いでるというのをしっかりと感じ取るためか少し強めに握っていたが俺は気にすることなく道を歩いた。

 

 

お得意さんにパンを届け終えた俺たちは少し休憩することになり、少し離れた所にある大きな木の木陰に座りサンドイッチを食べていた。

 

「サンドイッチ美味しいね!」

 

モカはじっくりとサンドイッチを味わいながら感想を述べていた。それにしてもこの辺りは全然人がいない。人が通る気配が無ければ車が通る気配も無い。誰もいない秘境の地にいるのと錯覚してしまいそうになってしまうほどだ。

 

「すごく静かでしょ?この辺りは人が全然いないから休憩にはもってこいなんだ!私のお気に入りの場所だよ!」

 

俺が不思議に思っていたことにタイミングよく答えていた。確かにここは休憩には良い場所で俺もすっかり気に入っていた。ココアがいたら逆に騒がしくなるだろうけど今はモカしかいないので静かな気分でサンドイッチを食べ終えた。

 

 

「ん〜!やっぱりリョーマ君といると落ち着くな〜!」

 

モカは伸びをしながら俺にとって少し恥ずかしいことを言ってきた。そしてモカは俺の心情を察したようなニヤニヤとした表情で詰め寄ってきた。

 

「おやおや〜?そんなに顔を赤くしてどうしたのかな〜?周りには私しかいないから恥ずかしがることないよ!」

 

「わかった、わかったから近すぎだって!」

 

「えへへ〜リョーマ君は恥ずかしがり屋さんだね!リョーマ君、せっかくだしここで少しお昼寝していこうよ!」

 

何を言い出すかと思えばお昼寝をしたいと言い出してきた。ここは確かに静かで昼寝にも適している場所だ。実際俺は眠い状況だった。

 

「うーん、まあそうだな。俺も少し眠くなってきたしちょっとだけ寝ようかな。」

 

「うん!そうこなくっちゃ!じゃあリョーマ君、手繋いで寝てもいいかな?」

 

この時すでに半分寝てしまっている状態の俺は、お願いされたことをすんなりと受け入れ手を繋いだ。モカはそのまま木にもたれながら俺の肩に寄り添った。

 

「リョーマ君おやすみ。」

 

「ああ......おやすみ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リョーマ君ったらぐっすりお休み君だね!」

 

数十分後、ずっと寝たふりをしていたモカは目を開け完全に眠っている俺の顔を眺めていた。時には頬を突いたりして俺の反応を窺って楽しんでいた。

 

「向こうではずっとココアの面倒見てるし、最近はチノちゃんが妹になってリョーマ君にベッタリって言ってたし疲れてたんだね。」

 

そしてモカは俺の顔に両手を添え、まるで愛おしいもの見つめるかのような顔をしていた。

 

「それにしてもリョーマ君は鈍感だな〜。あんなにサイン出したのに私の想いに気付いてくれないんだなんて。鈍い男の子は嫌われちゃうぞ〜。」

 

モカは不満そうに言っていた。モカも人間の女性だ、想い人のことを思うのは当然のことだろう。それに何度もサインを出しているのに全然気づいてくれずに不満になってしまうのも当然だろう。

 

「.......このままキスしても.....大丈夫かな。」

 

想い人に触れたい、しかし起きてしまうのではないかという不安がモカの欲求を抑えている。だが不安要素より触れたいという欲求の方が遥かに勝っていた。モカは起きてしまわないように慎重に唇をそっと近づけた。

 

(.....起きないで.......起きないで。)

 

だがモカの願いは叶わず、すんでのところで目覚めてしまった。しかしモカはその事に気付かず顔を近づける。

 

「ん〜.....ん?モカ、何してるの?」

 

ふわぁ!!リョーマ君いつ起きたの!?」

 

「いやたった今だけど、それより何してたの?」

 

「ゴ、ゴミが付いてたから取ってあげてたんだよ!」

 

ゴミを取ろうとしただけであの慌てよう。一体どんなゴミが付いてたんだろう?でも昼寝のおかげですっきり目が覚めた。時刻も夕方に差し掛かろうとしている頃だ。そろそろ戻った方がいいだろう。

 

「さてと、そろそろ夕方だし帰るか?」

 

「.....うん、そうだね..........バカ....。」

 

ものすごい小声で何か言っていたが全然聞き取れなかった。何故か少し落ち込んでるような様子だ、元気付けた方がいいかな。

 

「なあモカ.....腕組みながら帰るか?」

 

「え?いいの?」

 

「なんだか元気無いから、その方が良いかなって思って。嫌だったか?」

 

「ありがとうリョーマ君!やっぱりリョーマ君は優しいね!」

 

さっきの落ち込みは嘘だったかのように喜んで腕を組んできた。何があったかは知らないけれど元気が出て良かった。帰り道、腕組みだけでは足りないのかお使いの時と同じ恋人繋ぎをしてきたが、それはさすがに勘弁してもらいそのまま家に戻った。

 

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
ここ最近一気に寒くなってきましたね。
風邪には気をつけてください!


by風邪をひいてしまった人より。


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-36話- 好きの伝え方は十人十色。

どうもP&Dです。
皆さんの初恋はいつでしたか?
僕は小学6年生でした!
まあ.......何も発展しませんでしたけど。


「お兄ちゃん助けて~!」

 

数日後の朝、ココアの実家は朝から大忙しだ。開店前にパンを捏ねる、焼く、店に並べる。簡単そうに見えるが作る数が多くて全然簡単じゃない。実際ココアが音を上げて俺に助けを求めている。俺は木組みの街の高校に転校する前、というより中学生の時からよく手伝いをしていたので別に苦ではなかった。それに比べてココアはいつも寝坊して手伝いに遅れることがしょっちゅうだった。なので高校生になった今、俺はココアを叩き起こして店の手伝いをさせている。

 

「いつも夜更かしするお前が悪い。ほらつべこべ言わず手を動かす!」

 

「うぅ.....お兄ちゃんの鬼!」

 

ココアは少し涙目になりながらパンを捏ねていた。しばらく放っておいた状態で準備をしていたが、時折チラっとココアを見ると少し辛そうにしていた。ぐっすり眠っていたところを叩き起こして無理やり手伝いをさせたことを思い出すとさすがにやりすぎたと思い、パンを捏ねていたココアの腕を掴みギュッと抱きしめた。

 

「ふぇ!?どうしたのお兄ちゃん?」

 

「考えたらやりすぎたかなって思ってな、ごめんなココア。」

 

頭を撫でながら抱き締めていると最初辛そうにしていた表情が一瞬で安心したようなほんわかとした表情をした。そしてもっと甘えたいのか嬉しそうに抱きしめ返していた。俺ってやっぱり妹に甘いのかな?

 

「おや!ココアったらリョーマ君にハグされて嬉しそうだね!」

 

「今は私がお兄ちゃんとハグしてるんだからお姉ちゃんはダメ!」

 

店の入り口の掃除を終えたモカが俺とココアを羨ましそうに見ているとすぐさまそれを察したココアは俺を抱きしめながらモカから守るような大勢を取った。

 

「そんなこと言わずにモフモフさせてよ~!今日はまだしてないんだからさ!」

 

モカは手をワシワシしながら少しずつ近づいてくる。ココアはハグを奪われないようにするのに必死だったが、俺はモカのモフモフが怖かったので今のココアがありがたかった。もうあんな数時間のモフモフは嫌だ!

 

「ほら3人とも、もうすぐ開店だから準備して。」

 

タイミングよくおばさんが現れて、なんとかモフモフされずに済んだ。モカは不満そうにしていたが仕事となればいつまでもこんなことはしていられない。仕事に取り掛かろうと抱きしめていたココアから離れるとココアも不満そうにしていたが、代わりに頭を撫でてあげてから店を開店した。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

開店直後、大勢の人たちが一気に店内に入ってきた。準備している時から人の声はしていたのだがこんなに大勢とは思わなかった。お客さんの数も中学生の時より遥かに増えていた。

 

「あら!リョーマちゃんじゃない!少し大きくなったわね!」

 

俺が中学生の時からよく来てくれるお客さんに声をかけられ大きくなったと言われた。そういえば最近ココアがほんの少し小さく見えるようになった。小さく見えたのはそのせいか。

 

「あ!リョーマお兄ちゃんだ!」

 

声のする方を見ると、親子連れの子供の方が俺のとこに駆け寄ってきた。この親子も中学生の時からよく来てくれる人だ。

 

「ねえリョーマお兄ちゃん!前みたいに頭撫でてよ!」

 

「ああ、いいよ!」

 

「え!?お兄ちゃん他の子達にもそんな風にしてたの!?」

 

「そうだけど、ココアがよく寝坊してたから知らなかっただけだよ。」

 

「お兄ちゃんの浮気者!!!」

 

「なんでそうなる!?」

 

頭を撫でただけでこの言われよう。本物の浮気だったらそう言うのはわかるけど、なんで撫でただけでここまで言われるんだろう?おばさんにちょっと苦笑いしながら見られたぞ。いくら話しかけても無視される一方だったので今は仕事に集中することにした。

 

「モカ、手伝うよ。」

 

「ほんとに?ありがとう!」

 

レジの横に立った俺は、パンの袋詰めをすることにした。もうすでに大行列ができており、ちょっと気を抜くと袋詰めの方にも列ができてしまいそうになるほどだ。そういえば昔、モカが袋詰めは3秒以内にとか言ってたっけ。

 

「リョーマ君は手際がすごくいいね!前より良くなってるよ!」

 

「そうか?むしろ遅くなってるような気がするけど。」

 

手際が良くなっているというより遅くなっているんじゃないかと俺は思っていた。ラビットハウスではこんなに忙しいことは滅多になかったからな。まあ、鈍っていないようで良かった。

 

 

 

朝のラッシュが終わり一段落ついた後、最後に並んでいたお年寄りのおばあさんが話しかけてきた。

 

「モカちゃんはいつもすごいね〜。毎日大忙しの中頑張って。」

 

「ありがとうございます!すっかり慣れちゃって全然平気ですよ!」

 

「でも気のせいかね〜?なんだか今日は人一倍元気だったような気がするけど。久しぶりのリョーマちゃんに会えて嬉しいのかね?」

 

「はい!リョーマ君がいると何でもできる気がするんです!」

 

モカはそう言って嬉しそうに俺の腕を組んで抱きついてきた。他人の前で抱きつかれるのは慣れていないので結構恥ずかしかった。おばあさんに微笑ましく見られ、俺は言葉が思い浮かばず喋ることができなかった。

 

「それにしてもなんだか2人を見てると新婚夫婦みたいに見えるよ。」

 

「え///....ふ、夫婦///」

 

いつもは恥ずかしがらないモカがこの時は珍しく恥ずかしがった。夫婦という言葉がよほど効いたのか顔を真っ赤にして抱きしめていた俺の腕を離していた。しかも時折チラッとこっちを見てくる。

 

「はっはっは!若いのはいいね〜。それじゃ私は失礼するよ。また明日来るからね〜!」

 

おばあさんは元気よく笑い店を出て行った。お客さんがいなくなった今、俺とモカは取り残されたような感じだった。そしてさっきから一言も喋らないモカはずっと俯いて立ったままだった。

 

「お客さん.......いなくなったな。」

 

「うん.......そ、そうだね///」

 

 

「「.............。」」

 

 

「......えっと......休憩にするか?」

 

「.......うん////」

 

そこから俺たちは無言でおばさんとココアがいるリビングに向かい、昼休憩をすることにした。休憩中ぎこちない俺たちを見たおばさんとココアはものすごい不思議がっていたが休憩が終わる頃にはいつも通りのモカに戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうリョーマ君、夕食手伝ってくれて。」

 

仕事が終わった後、俺はおばさんと夕食の準備を手伝っていた。ココアがどうしても俺が作ったハンバーグが食べたいと言っていたので今はハンバーグを作っているところだ。

 

「向こうでいつも作ってるから気にしなくていいよ。」

 

「それにしても随分と上達したわね。昔は卵焼きも作れなくていつも焦がしてばかりだったのに。」

 

「........それ前にモカにも言われたから言わないで。」

 

昔はよく料理を焦がしていたことを思い出すとなんだか恥ずかしい気持ちになる。確かに昔は焦がしてばかりだった。いつも隣で母さんが指導をし、失敗した時はいつも『料理ができない男の子はモテないわよ!』って言われてた。まあその指導のおかげでここまで上達したわけだけど。

 

料理のやり甲斐を実感できるのは料理を美味しく食べてくれた時だ。いつもココアとチノが俺の作った料理をとても美味しそうに食べてくれる。それだけでもっと上手になろうと思えるようになる。

 

「今日作るハンバーグは絶対美味しいと思うから楽しみにしててよ。ココアとチノもすごく美味しいって言ってくれるから。」

 

「よほど自信があるみたいね!じゃあ楽しみにしてるわね!」

 

俺はそのまま夕食の準備に取り掛かった。準備中ココアが5分ごとにキッチンに来てハンバーグはできてるか見に来ていた。おとなしく待ってるように言っても何回も見に来るので頭を撫でておとなしくさせ、少し急いで準備に取り掛かった。

 

 

「まあ!リョーマ君の作ったハンバーグ美味しいわね!後で教えてもらおうかしら!」

 

「でしょ!お兄ちゃんのハンバーグすごく美味しいんだよ!チノちゃんもお兄ちゃんが作るハンバーグが大好物なんだよ!」

 

夕食、ハンバーグを一口食べたおばさんは驚きのあまり手で口を抑えていた。なんと言ったって俺の一番の得意料理だからな。それ相応の自信はある。

 

「前に街のみんなとピクニックに行った時のハンバーグサンドより美味しくなってるよ!上達したんだね!えらいえらい!」

 

「お、お兄ちゃんがいつもとは逆に撫でられてる!写真撮ろう!」

 

「おいモカやめろ!あとココア、すぐに消せ!」

 

この後俺は頭を撫でられるだけじゃなくさらには抱きしめながら頭を撫でてきたので身動きが取れなかった。ココアはそれを良いことに写真を撮りまくっていた。しばらくココアを追いかけ回していたが、ようやく捕まえた頃には写真はロックされていた。

 

「皆に見せるんじゃないぞ。」

 

「わかってるって♪それにしてもお姉ちゃんに撫でられてるお兄ちゃんってなんか可愛い!」

 

「おいココアやっぱり消せ!」

 

俺は軽くココアの頬をグリグリしながら言ったが、頑なにココアは写真を消そうとしなかった。おばさんに別に気にすることじゃないと説得され俺は渋々諦め、そのまま夕食を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「明日には帰るのか。なんだかあっという間の1週間だったな。」

 

ベッドの上で寝転びながら俺はここでの1週間を振り返っていた。それにしてもこの1週間やたらとモカが俺にベッタリだった。何かをする時はいつもモカが横にいたし、その度にココアが割って入って来てすぐモカと言い合いばかりだった。向こうに帰ったらココアたくさん甘えさせてあげよう。

 

「リョーマ君起きてる?」

 

ノックもせずに、モカがひょこっとドアから顔だけを出してきた。ココアがいたらまた何か言い出しそうな感じだが、当のココアは明日に備えて爆睡中だ。

 

「起きてるけど何か用か?」

 

「2人とも明日帰っちゃうでしょ?だから今日はリョーマ君と2人でお話したいなっと思って。ちょっとだけいいかな?」

 

向こうに帰ったら次はいつ会えるかわからないからな。今はモカの誘いに乗ろう。

 

「ああ、いいよ。少しだけだぞ。」

 

「えへへ、リョーマ君ありがとう!」

 

俺はそのままモカと一緒にリビングに向かった。おばさんは別の部屋で今日の売り上げの集計中だったので誰もいなかった。席に座っておくように言われた俺は椅子に座りモカを待った。そして手に何か持っていたのでよく見て見るとボトルワイン2本とワイングラスを持っていた。

 

「おい何持ってきてるんだよ!俺未成年だぞ!」

 

「大丈夫。片方はホットワインだからリョーマ君が飲んでも大丈夫だよ。」

 

そう言ってモカは席に着きボトルを開け、グラスに注いだ。そしてホットワインの方のグラスを俺に手渡すと乾杯の合図をされた。

 

「えへへ、なんだか本当にお酒飲んでるみたいだね!」

 

「まあ俺の方はホットワインだけどな。」

 

誰もいない部屋で2人っきりで飲む、そして手に持っているのは液体が入ったワイングラス。傍から見たら完全に酒を飲んでいると誤解されるだろう。

 

「それよりあまり飲み過ぎるなよ。引っ越す前のココアの木組みの街の高校の入学祝いで飲み過ぎて部屋まで運ぶの大変だったんだからな。」

 

「わかってるよ。ほどほどにするから。」

 

俺はモカに酒の注意をしてそのまま話を続けた。しかし話に夢中になりすぎてモカが飲み過ぎていることに気付けなかった。気が付いた頃にはボトルを1本空けており、顔は真っ赤で頭をゆらゆらと揺らしていた。

 

「きいれよりょーあくん!このあえおかあひゃんっひゃらてくいけあしえあいのいよういんいいうっえいっえうひょういあんあお!ひおいおおおあない?(聞いてよリョーマ君!この前お母さんったら手首怪我してないのに病院に行くって言って嘘ついたんだよ!ひどいと思わない?)」

 

「そ、そうだな。大変だったな。」

 

「ほんろうだお!ぷんうあおええひゃんあお!(そうだよ!プンスカお姉ちゃんだよ!)」

 

見ての通り、今のモカは呂律がまとも回らず、宥めるので精いっぱいだった。そういえばモカは酔った時は愚痴を言いまくるタイプだったな。しばらく会ってなかったせいですっかり忘れていた。

 

「りょーあくん!もうもうさえへ〜!(リョーマ君!モフモフさせて!)」

 

モカは全体重をかけて俺に抱きついてきた。ほぼ泥酔状態のモカは遠慮ができず力任せに抱きしめてくる。予想以上の力に俺はびっくりし、慌てて引き離そうとした。

 

「モカ!ちょっと痛い!離れて!」

 

「やら!もうもうしあい!(ヤダ!モフモフしたい!)」

 

なんだか今のモカはココアにすごく似ている。顔を俺の胸に埋め駄々をこねる、愚痴を言いまくるだけでなく精神年齢も下がるのか?

 

「モカ少し落ち着け!酔いすぎだぞ!」

 

「..........。」

 

「モカ?」

 

「.......う〜ん。」

 

さっきまで駄々をこねて喚いていたのに、一瞬で眠りについていた。やっぱりモカに酒は飲ませすぎない方がいいな。次からは確認の頻度を増やした方がいい。頑張り屋のモカが酒を飲んでこんな風になるんだったら、俺が大人になって飲んだらどうなるんだろう。少し楽しみでもあるし不安でもあるな。

 

「しょうがないな。少しこのままにするか。」

 

抱きついたままで寝られてしまったので30分ほどこのままにしておきホットワインを飲んだ。夢の中で俺に甘えているのか時折俺の胸に頬ずりすることがあったが、今はそっとしておくことにした。

 

 

 

 

 

「う~ん.....あれ?」

 

「やっと起きたか。」

 

目を覚ましたモカはゆっくりと体を起こし時計を見ていた。30分のつもりだったが結局1時間ほど経っていた。泥酔ではなくなったが、まだほろ酔い状態のようだ。そろそろ寝る時間だし部屋へ連れて行った方が良いだろう。

 

「そろそろ部屋へ行こう。立てる?」

 

「ありがと~。なんだかリョーマ君がお兄ちゃんみたいだね~。」

 

肩を貸し、半分寝ぼけてるようなモカを連れ2階へ上がった。あと少しでモカの部屋に着こうとした時、突然俺の寝室の前でモカが立ち止まった。

 

「ねえリョーマ君、もう少しお話しようよ?」

 

「いやもうやめとこう。早く寝ないと明日がきついよ。」

 

「お願い~!少しだけだから!お願い~お願い~!」

 

俺を思いっきり抱きしめ再び駄々をこね始めた。一応ココアの姉なんだよな?酔っているせいかもしれないが、今誰かにこの光景を見られたら100%妹だと思われるぞ。

 

「わかったわかった、少しだけだぞ。」

 

俺はそのままをモカを寝室へ連れて行った。部屋に入り電気をつけようスイッチを押そうとした時、ドアの方からカチッと鍵がかかった音がした。振り向くとドアを背にしながら鍵を閉め表情が窺えないモカが立っていた。しかし口の笑みだけは見えており、少し不気味さがあった。

 

「モカ.......なんで鍵かけるの?」

 

「.........フフ。」

 

モカはそのままゆっくりと近づいてきた。まるで絶対にこの部屋から逃がさないというような気を放ちながら。今までの狂気染みたものとは少し違う。そのせいなのか俺はその場から動けないでいた。

 

「.........えい♪」

 

俺はそのままモカにベッドへ押し倒された。俺の体の上に乗られ、腕を押さえつけられ、全く身動きが取れなくなってしまった。

 

「リョーマ君///」

 

「ちょっと何してんだよ!どいてくr........。」

 

モカを見た瞬間驚いた。恍惚の笑みを浮かべながら俺の顔を見つめていたのだ。言葉を失ってしまい、すごく惹かれそうになってしまいそうだった。

 

「リョーマ君の胸、あったかいね。」

 

モカは俺の胸に顔をそっと当ててきた。俺の鼓動めっちゃ速くなってるの絶対にバレた。ていうよりこの状況で緊張しない方が無理がある。

 

「ねえリョーマ君///」

 

「な、何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キス.......しよ////」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........は?」

 

顔を上げてしばらく見つめあった後、何を言うかと思えばとんでもない爆弾発言をしてきた。モカの言った言葉を理解するのに数秒かかってしまった。

 

「ねえ、しよ?」

 

「な、何言ってんだよモカ!ちょっと酔いすぎだ!離れてくれよ!」

 

「酔ってなんかないよ。本心で言ってるんだよ。」

 

「酔ってる人たちはみんなそう言うんだよ!早く離れてくれ!」

 

引き離そうにもずっと両腕両足を押さえられているので身動きが取れない。力の無い女性でも自分の体重と持ってる力を使えば男性でもある程度押さえることはできる。それに俺は部活をやってないからスポーツとか筋トレなどをすることがあまり無い。故に筋力が高くない。そんな俺を年上のモカからしたら簡単に押さえることができてしまうだろう。

 

「いいでしょ?」

 

「ダメだって!俺たち恋人じゃないし、キスだってしたことないし....。」

 

「私はいいよ、私の初めてのキス、リョーマ君にあげても。」

 

「何....言って...。」

 

モカの言葉に声が出なくなってしまった。潤んだ瞳と愛おしい物を見る顔、それだけで言葉が詰まるのには充分だった。モカは右手を俺の左頬に添え、そのまま唇を近づけてきた。

 

「リョーマ君///」

 

「.........やめろよ!酒の勢いでこんなことしたら絶対に後悔する!頼むからこんなこと......やめてくれ。」

 

俺は目を閉じて顔をモカから背け、しはらく沈黙の時間が流れた。モカが今何を考えているのか、目を閉じている俺は全くわからなかった。俺はそっと目を開けるとモカは顔を離し、何も言わずにドアの方へ重い足を運ぶように歩いて行った。

 

「ごめんね......リョーマ君。」

 

「モカ........なんで......」

 

「本当に......,ごめんね.....。」

 

そのままモカは俺の寝室を後にし、部屋へ戻って行った。

 

「......なんで泣いてたんだ?」

 

俺が疑問に思ったのは目を開けた時、一筋の涙を流しながらとても悲しそうな顔をしていたことだ。そもそも何故キスをしようとしてきたのか、酔っていたという割には理性ははっきりとしているようにも見えた。俺は寝転んだままその疑問についてしばらく考えたが、理由がわかることはなかった。

 

「........寝る....か。」

 

俺はそのまま瞼を閉じ、なかなか寝つけない夜を過ごした。

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
こういう恋愛系を執筆してると、昔の恋していたことを思い出しますね。何も起きませんでしたけど(2回目)。


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-37話- 愛されたいなら、愛し、愛らしくあれ。

どうもP&Dです。
今回で実家編は終わりです。
しっかり書けるかわかりませんが温かい目で読んでください。
ちなみにタイトルはベンジャミン・フランクリンの名言です。


ふと目を覚ますと窓を遮っているカーテンから僅かな日の光が差し込んできた。まだ少しぼーっとする頭をゆっくりと起こし昨夜のことを思い出していた。

どうしてあんなことをしてきたのかわからない、そして最もわからないのは最後に流した一筋の涙。考えても考えても疑問が晴れない。これじゃとてもじゃないが仕事ができる状態じゃない。恐らくモカも同じだろう。

しかし幸いなことに今日は定休日だ。そして今日で木組みの街に戻らないといけない。

 

「.....電気つけるか。」

 

俺は部屋の電気をつけ、窓とカーテンを開きここから見える景色を眺めた。考え込んでしまっている頭を少しでも落ち着かせるためだ。日の光は落ち込んだ気持ちを回復、鬱病の予防、気持ちを落ち着かせる効果があると聞く。実際日の光を浴び、景色を眺めたことで少し気持ちが落ち着いた。

 

「お兄ちゃんおはよう!朝ごはんもうすぐできるよ!」

 

ココアが元気よく部屋に入って来た。エプロン姿だから恐らくおばさんと一緒に準備をしていたんだろう。とにかく今は朝ごはんを食べて気分を変えた方が良い。

俺はココアにすぐに行くと伝えパジャマを着替え部屋を出た。ドアを開けると隣の部屋のドアが同時に開き中からは今一番顔が合わせづらいモカが出てきた。

 

「あ......おはようモカ。」

 

「.......おはよう。」

 

沈黙が流れる数秒間。途轍もなく気まずい。昨夜のことを思い出すと尚更だ。モカも同じことを思い出しているのか、一向に話そうという気配がなく無言が続く。

 

 

「......先に行くね。」

 

モカは俺に目を合わさず逃げるように1階へ降りて行った。このままギクシャクした状態で木組みの街へ戻ることになってしまったら次会った時さらに気まずくなってしまう。

 

「どうしたものかな.....。」

 

俺は1分ほどその場に留まりモカと時間をずらしてからリビングへ向かった。中に入るとちょうど準備ができた時で俺はそのまま席に座った。朝食の最中、俺とモカはココアやおばさんと話すことはあったがやはり互いが話すことはなかった。

 

 

 

 

「さてと、こんなもんかな。」

 

出発の準備ができた俺はココアの準備が終わるまでベッドに寝転がり天井を見つめながらボーっとしていた。結局朝食の時も話すことはできなかった。チラチラと目が合いその度に目を逸らしあうことは何度かあったが、ただそれだけだった。

俺はこのままじゃダメと思いモカに気にしてないことを伝えようと立ち上がりドアを開けた。

 

「あ......。」

 

「あ......。」

 

俺の部屋に入ろうとしてたのか、モカがドアの前に立っていた。そして再び沈黙の時間が流れる。

 

「.....ねえリョーマ君。」

 

俺が言いたいことを伝えようとした時、モカの方から話しかけてきた。俺は後で言おうと思いモカの話を聞いた。

 

「どうした?」

 

「ちょっと、散歩に行かない?」

 

モカは俺の目を見つめたまま散歩の誘いをしてきた。しかしだんだん恥ずかしくなってきたのか暫くすると顔を逸らしていた。

モカも言いたいことが何かあるのだろう。ここは誘いに乗ろう。これを逃したらもう話す機会は当分先になりそうだし。

 

「わかった。じゃあ行こうか。」

 

俺は急いで準備を済ませモカと一緒に散歩に出かけた。

 

 

 

 

 

おばさんとココアには少し散歩をしてから駅に向かうと伝え先に駅に向かってもらっていた。そして今、散歩をしている俺たちはというと....

 

「「..........。」」

 

散歩を始めて数分、お互い無言のまま歩いていた。話しかけたい気持ちは山々なんだが、既に無言が数分続いているので話すタイミングを完全に逃してしまっていた。

しかしこのままだと今朝と変わらない。俺はモカに昨夜のことは気にしてないと伝えることにした。

 

「なあモカ、その......昨日のことは気にしてないから。酔ってたんだから仕方ないよ。」

 

「そう......だね。ごめんね。」

 

「その、こっちこそごめんな。あの時なんか少し怒鳴るような言い方して。別に怒ってたわけじゃないから。」

 

あの時結構キツめにやめろと言ってしまい、もしかして怒ってると思われてるのではないかと思い、俺は少しでもモカの不安を消そうと安心させるために弁明した。

 

「リョーマ君はやっぱり優しいね。」

 

「そうか?」

 

「そうだよ。あの時は私が一方的にしたことでリョーマ君は何も悪くないのに、そうやって相手のことを考えてくれる。だからリョーマ君はとても優しいよ。」

 

「そっか、ありがとう。」

 

最初は相槌だけ打っていたモカだったが、次第に自然と会話ができていた。気のせいかもしれないが少し気まずさが解けてきたようだ。その証拠にいつの間にか俯いて思い詰めてた顔がいつも通り笑顔になっていたから。

 

「なあモカ、まだ時間あるしこの前の所に行かない?」

 

「あそこに行くの?もちろんいいよ!リョーマ君もすっかりお気に入りになっちゃったね!」

 

「まあな、あそこはのんびりするのに持って来いだからな。」

 

俺たちはこの前にパンのお使いを済ませた後に寄った大きな木がある所へ行き木陰に座り景色を眺めていた。しばらくここにいても駅には充分間に合うだろう。

それにしてもここは本当に落ち着く。人が誰もいないし、ここからの景色を眺めているだけで悩みなんか吹っ飛んでしまうほどだ。

.......ということは最初っからここに来ればよかったのでは?考え込み過ぎててまったく思いつかなかった。

 

「やっぱりここは落ち着くね。」

 

「そうだな。」

 

俺がモカの言葉に相槌を打った後、しばらく俺たちは無言で景色を眺めていた。ここからちょうど駅が見える。今頃おばさんとココアは駅の近くの店で寛ぎながら電車と俺たちが来るのを待っている頃かな。

駅を見つめながらそんなこと考えていると突然モカが立ち上がり手を後ろに組みながら少し前を歩き、景色を眺めながら俺に話しかけてきた。

 

「ねえリョーマ君はさ、好きな人とかいないの?」

 

「.......どうした急に?」

 

「リョーマ君、年ごろの男の子だからさ。ちょっと気になっちゃって。」

 

唐突の質問に少しびっくりした。しかし考えてみれば恋愛はしたことなかったし、況してや好きな人もできたことがない。俺みたいな年ごろの人は恋の1つや2つするものなのだろうけど如何せん俺は恋がしたことがないから、俺に恋愛話をされてもいまいちよくわからない。

 

「いやいないよ。ていうより恋自体がよくわからないからな。」

 

「じゃあもし.........もし付き合うとしたら歳は近い方が良い?」

 

急に恋愛話をしてきたり付き合う相手の年齢を聞いてきたりと今のモカは少し変だ。いや、変というよりなんだかほんの少し何かに焦っているように見えた。モカは成人してるけど交際相手がいないから将来のことで焦っているのだろうか。

 

「う~んそうだな........恋したことないからわからないけど近いほうが良いんじゃないか?2歳差までだったらOKかな?」

 

「............そっか。」

 

モカはそう言ったきり、何も言わずに景色を眺めていた。後ろ姿しか見えないがなんだか悲しそうな雰囲気をしていた。何だかよくわからなくなった俺はモカをそっとさせ、しばらく何も考えずに景色を眺めた。

 

 

 

 

「さっ、リョーマ君そろそろ時間だから行こ?」

 

腕時計を見ると、出発の20分前だった。俺は木に凭れかかっていた体を起こし駅に向けて歩き出した。

 

「リョーマ君、手繋いでいい?」

 

「ん?ああ、いいよ。」

 

モカはいつものように手を差し出してきた。次会えるのはいつなのかわからないし、ここはモカの要望に応えよう。

 

「なんだか寂しいね。本当にあっという間の1週間だったね。」

 

思えば確かにあっという間だった。最初は狂気のモカを落ち着かせるのに精一杯だったが、その後は楽しく過ごせて良い1週間だった。1週間とはいえ4人で過ごした家から急に2人いなくなったら確かに寂しくなるよな。

 

「また近いうちに来るよ。その時はまた一緒に遊ぼう?」

 

「うん!また一緒に遊ぼうね!さあお母さん達が待ってるから早く行こ!」

 

俺たちはそのまま駅に向かった。駅にはすでにココアとおばさんが立っており、ココアが俺たちを見つけると元気よくジャンプしながら手を振っていた。

 

「お待たせ。」

 

「お兄ちゃん!朝モフモフできなかったから今させて!」

 

ココアの元へ行くと、いきなり抱きつかれた。チノがいたら割って入ってきて言い合いが始まるところだ。ココアに抱きつかれたままだがおばさんにお礼を言わないと。もう出発の5分前だ。

 

「おばさん、1週間色々とありがとう。本当に楽しかったよ。」

 

「どういたしまして!また遊びに来てね。それとココア?モカとリョーマ君から聞いたけど補習ばかりって聞いたわよ。あまり勉強を疎かにするんじゃないわよ。」

 

「は、は〜い......。」

 

おばさんに注意をされたココアは恐る恐る俺を見てきた。俺はまた特訓するぞというサインを出すと顔を青ざめていた。それが嫌なら普段から勉強してればいいのに。全然懲りないな。

 

「もう出発するからそろそろ行くよ。」

 

「ええ、頑張ってね!」

 

俺はおばさん達に挨拶をし、電車の入り口に向かった。俺はこの時1つある事を思い出したので、ココアに先に乗るように言い、俺はモカの元へ向かった。

 

「どうしたのリョーマ君?」

 

俺は何も言わずにモカの手を引っ張り前にモカにされたように頬にキスをした。

 

「な!?.......リョーマ君///」

 

「この前の仕返し!じゃあな!」

 

俺は顔を真っ赤にしているモカを後にし電車に向かった。おばさんは柔らかい笑みで見ていた。前にされた時、あの後ココアとチノにめっちゃ問い詰められたんだから当然の仕返しだ。内心めっちゃ恥ずかしかったが、俺は振り向かず電車に乗り込みそのまま出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったわねモカ。」

 

「............うん///」

 

電車が去った後もまだモカは顔を真っ赤にしていた。おばさんは微笑ましそうに見ていたが、電車が去った方向を見ながらモカに質問を問い出した。

 

「モカ、よかったの?リョーマ君に想いを伝えなくて。小さい時からずっと好きだったんでしょ?」

 

「うん.......でも私じゃダメだよ。私とリョーマ君少し歳が離れてるし、リョーマ君も恋愛するなら歳が近い方が良いって言ってたし。もしリョーマ君が恋をするとしたら多分、あの子たちの誰か。そこに私は入ってないよ.......。」

 

モカの回答におばさんは黙って聞いていた。昔の自分を思い出しながら。昔の自分をモカと重ねて見ていたおばさんはモカにアドバイスをした。

 

「モカ、恋愛に年の差は関係無いわ。お母さんだって昔はお父さんと付き合う前は色々悩んだわよ。歳が少し離れてたから、今のモカと同じように悩んだわ。でも告白してOKをもらった時、年の差なんか関係無いって言ってくれた時は本当に嬉しかったわ。だからモカ、今のリョーマ君は恋をした事ないから歳が近い方がいいって言ってるけど本当にモカのことを好きになってくれたら歳の差なんか気にしないって言ってくれるわ。だから頑張りなさい!」

 

おばさんの言葉を聞いたモカは心の中にあった重りがスッと消えたような顔で気持ちが吹っ切れた様子だった。失恋をしかけたモカにとってどれだけ希望が持てる言葉かは本人にしかわからない。

モカは右手を胸に当ておばさんと同じ電車が去った方向を見つめていた。

 

(リョーマ君、私頑張るよ。振り向かせることができるかはわからないけど、最後まで頑張って振り向かせるように頑張るから。

だからあなたを.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.....私の想い人でいさせてね。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ックション!」

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

「ああ、風邪かな?」

 

「もしかしたらお母さんとお姉ちゃんがお兄ちゃんの話でもしてるのかもね!」

 

「はは、そうかもな。」

 

 

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
モカの成人やモカの両親の年の差云々は僕の勝手な想像なので、この人そういう風に考えてるんだみたいに思っててください。


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-38話- ダンスはけっこう難しい。

どうもP&Dです。
僕は中学の時に創作ダンスをしたんですけど内容がどうも厨二くさかったので発表の時、けっこう恥ずかしかったです。


ある日のこと、いつも通りに仕事をしていたがいつもと違うのが1つある。チノが何故かずっと背伸びをしたままで仕事をしているのだ。ココアは異常成長をしたと勘違いしてずっとチヤに電話をしている。

とりあえず俺はチノに背伸びの理由を聞くことにした。

 

「チノ、なんで背伸びしながら仕事してるの?」

 

「今度学校で創作ダンスがあるんです。それでメグさんの家がバレエ教室みたいで本番までの間そこに通おうと思うんです。それでダンスに向けて少しでも足の筋力を高めようと背伸びしてました。」

 

詳しく聞いてみるとどうやらマヤとメグと同じグループになれたらしくメグは幼い頃バレエをしておりマヤも一時期やっていたらしくそれを聞いたチノは劣等感を感じ2人の足を引っ張らないための背伸びだったようだ。ダンスの内容はもう完成してるらしくあとはダンス力を鍛えるだけみたいだ。

 

「へぇ〜ダンスか。じゃあ今度差し入れついでに見に行っていいか?」

 

「はい!是非来てください!その方が私も嬉しいです!」

 

チノが大喜びで言ってきた。顔が近い。俺は次のダンス練習の時に見に行くと約束しココアに背伸びの理由を言うことにした。

 

「ココア、チノは創作ダンスのために背伸びしてたんだと。」

 

「ううん!悪いものは食べてないと思うし、ゾンビにもなってないから大丈夫だと思うけど、チノちゃんのあの背の伸び方は異常だよ!」

 

「.........はぁ~。」

 

ココアはまだチヤと電話をしていた。というより何をどう考えたらゾンビという言葉が出てくるのだろうか。ココアは物事を注意深く見ずにすぐ勘違いするから将来が少し心配だ。

ココアに背伸びの理由を言ってあげると心底安心した顔でチノに抱き着いていた。

 

 

「え~と、ここかな。」

 

数日後、チノ達がダンスの練習をしているメグのバレエ教室に到着した。受付の人に話をし、中へ通してもらうといろんな年代の人たちがバレエのレッスンをしていた。中学生、高校生、主婦などだ。そんな教室を見渡していると教室の端で一生懸命創作ダンスの練習をしている3人がいた。

 

「おーい、3人とも!頑張ってるか!」

 

「あ!兄貴だ!」

 

「本当だ~!お兄さんだ~!」

 

「やっと来てくれました!」

 

3人は俺の姿を見つけると一目散に駆け寄ってきた。3人の中ではチノが一番足が遅いはずなのに、何故か他の2人よりも驚くほど速かった。3人とも俺のそばに来ると尻尾を犬のように頭を撫でて欲しそうにしており、ご希望どおり頭を撫でてあげることにした。

 

「疲れてるだろうし差し入れ持ってきたから休憩にしよう?」

 

俺の提案により、俺が持ってきた差し入れのサンドイッチを食べて休憩をすることにした。3人とも目を輝かせながらサンドイッチを凝視しており、早く食べたそうな様子だ。

 

「「「いただきます!」」」

 

3人とも声を揃えてサンドイッチを食べ始めた。マヤとメグはどのサンドイッチにしようか迷っていたがチノは何の迷いもなくハンバーグサンドを手に取っていた。ハムカツやたまごサンドなど沢山あったのによほど好きなんだろうな。

こうして美味しそうに食べてくれるとすごく嬉しい。自信がつくしこれからも作ってあげようという気持ちになる。

 

「チノ、さっきからハンバーグサンドばっかり食べてんじゃん。」

 

「チノちゃんはハンバーグ大好きだよね〜。」

 

「だ、だって美味しいんですからしょうがないです。お兄ちゃんが作るハンバーグは最高ですから。」

 

チノは少し恥ずかしそうにしながらパクパクと食べていた。恐らくチノはハンバーグサンドをたくさん食べると思いハンバーグサンドだけ少し多めに作っておいたのだ。結果は予想通りで少しホッとした。

 

「「「ごちそうさまでした!」」

 

籠の中に入っていたサンドイッチは全部なくなり、あっという間に完食されていた。俺はこの後夕食の買い出しと準備があるので、3人にしっかり頑張るように言ってバレエ教室を後にした。

 

 

それから創作ダンスの本番までの間、俺はバレエ教室に顔を出し、3人に差し入れを渡すようになった。いつも美味しそうに全部食べてくれるので作り甲斐があって嬉しいものだ。

そんな嬉しい気持ちに浸っていた頃、ちょっとした出来事が起こった。それは本番前日、いつものように差し入れのサンドイッチを渡しにバレエ教室に来た時だった。

 

「今日でバレエ教室最後か。3人ともしっかり頑張れ。」

 

「うん!ありがとうお兄さん!」

 

サンドイッチの籠を4人で囲いながら話しているとここの教室の先生らしき人が現れた。髪が赤色でどこかメグに似ている。

 

「こんにちは〜!あなたがもしかして如月リョーマ君?」

 

「はい、そうですけど。」

 

「初めましてメグの母です。いつも差し入れありがとう!」

 

なんとなく予想していたがやはりメグのお母さんだった。メグと同じ少しおっとりとした様子をしており、親子揃って似たところがあるなと思った。

 

「メグの言ってた通り、優しいお兄ちゃんって感じがするわね。」

 

「お、お母さん!」

 

やはり本人の前で言われると恥ずかしいのか突然メグが割って入ってきた。

 

「聞いてリョーマ君。メグったらほぼ毎日あなたのことを話すのよ。この前頭撫でてくれて嬉しかったとか、ダンスの応援してくれてすごく元気が出たとか、もし泊まってくれたら1日中そばにいたいとか言ってたわ。」

 

「やめて〜///お母さんやめて〜///」

 

とうとう恥ずかしさに耐えられなくなったメグは顔を手で覆いしゃがみこんでしまった。確かに俺も同じ立場だったらメグのようになっていたかもしれない。というよりメグのお母さん、なんの躊躇いもなく言ってきたな。

 

「そうだわ!リョーマ君、よかったら今日うちに泊まっていって!差し入れのお礼もしたいし!」

 

「え!?お兄さん泊まってくれるの?」

 

さっきまで恥ずかしがっていたメグが何事もなかったかのようにひょこっと話に入ってきた。せっかくの誘いだし、メグも期待と不安の眼差しをしてるし、ここはお言葉に甘えよう。

 

「ありがとうございます。じゃあ今日1日よろしくお願いします。」

 

「やった〜!お兄さんと1日一緒にいれる!」

 

「待ってください!!!」

 

メグが大喜びではしゃいでいるのとは逆にチノは頬を膨らませながらズンズンと俺の所に寄ってきた。これ絶対に泊まるなって言われるな。

 

「お兄ちゃんは泊まっちゃダメです!」

 

やっぱり言ってきた。こうなったチノはなだめるのに苦労するぞ。

 

「いいでしょチノちゃん!チノちゃんはいつもお兄さんと一緒にいるんだからたまには一緒にいさせて!」

 

「いやです!そんなに泊めたいならまずは私に許可を取ってからにしてください!」

 

「じゃあチノちゃん、お兄さんをうちに泊めてもいい?」

 

「ダメです!!!」

 

「も〜!最初からそのつもりで言ったでしょ!」

 

メグも頬を膨らませ始め、チノと言い合いになってしまった。チノには悪いけどメグのお母さんがせっかく誘ってくれたんだからここはメグの味方になろう。

 

「チノ、今日1日メグの所に泊めさせてくれないか?いつも一緒に寝てるんだし1日だけいいだろ?」

 

「嫌です!お兄ちゃんが泊まっちゃったら今日1日どうやってお兄ちゃん分を補給すればいいんですか!」

 

めっちゃ涙目になっている。どう宥めてあげればいいだろうか。それにしてもチノはだんだんとわがままになってきている気がする。何かすることになっても俺と一緒じゃないと嫌だとか、誰かと一緒に何かしてたらずるいと言って割って入ってきたりとそういうのが多くなってる気がする。

 

「チノ、少しは我慢できるようになろう?俺がしばらく留守の時は我慢できただろ?」

 

「だってお兄ちゃんがいないと不安になるんです.....2回も1週間留守にされるとお兄ちゃんが帰ってこないんじゃないかと怖くなるんです。」

 

チノを不安にさせてしまう原因は俺にある。普段から甘やかしてしまった結果がこれだ。最初は厳しくしててもだんだん可哀想に思ってしまい甘くなってしまう。甘やかす時は甘やかす、厳しくする時は厳しくするというのを俺はもっと勉強した方が良いかもしれないな。

 

「大丈夫1日だけだから。帰ったら一緒にいるから。だから頑張って我慢しような?」

 

「じゃあ頑張って我慢するので帰ったらいっぱいハグしてくださいね?」

 

「ああ、もちろん!」

 

こうしてチノから許可を取ることができた。メグは大喜びのあまりジャンプして俺に飛びついてきた。背後から嫉妬の気配を感じたが、感じなかったことにして、メグの家にお邪魔することになった。

 

 

「お兄さん!早く早く!」

 

俺はメグに手を引かれながら家の中に入った。メグの家はこのバレエ教室の2階でそれなりに広かった。バレエの道具やポスターなどがあるかと思ったがそんな事はなく、普通の家だった。メグのお母さんは夕食を作るからメグと遊んでいて欲しいと言われ、俺はそのままメグの部屋に連れられた。

 

「ここが私の部屋だよ!」

 

部屋の中はいかにも中学生といった部屋だった。勉強机がありベッドがあり、人形が置いてたりと部屋の模様が少しピンクだけなのを除けばチノの部屋とあまり大差はなかった。

 

「まずは何したい?」

 

「チノちゃんはいつも何してもらってるの?」

 

「帰ってきたらまずはハグをしてってせがまれるな。」

 

「じゃあハグしたい!」

 

すごい即答だった。メグは早くしてほしそうにそわそわしていた。なんだか今のメグはチノにそっくりだ。これじゃラビットハウスにいるのとあまり変わらないぞ。

俺はあまり気にしないことにして、腕を広げるとにこやかに俺の胸に抱きついてきた。

 

「やっぱりお兄さんのハグ落ち着く〜。」

 

「そうか?」

 

「うん!ねえお兄さん、チノちゃんは他にも何してもらってるの?」

 

「色々あるよ。抱っこしてあげたり、頭撫でたりしてる。」

 

「そうなの!?じゃあチノちゃんにしてあげてること全部して欲しい〜!」

 

「お、おう。わかった。」

 

俺はメグにせがまれるままチノにしてあげてることをしてあげた。頭を撫でて、抱っこをして、膝枕をして、背負ってあげたりと挙げだしたらきりがない。メグの要望を応えているといつの間にか30分経っていた。それでもメグはまだ満足してないらしく全然離れてくれない。

 

「メグ!リョーマ君!夕食できたからリビングに来てー!」

 

リビングからメグのお母さんが呼ぶ声が聞こえる。どうやら夕食ができたようだ。しかしまだメグは俺に抱きついたままだ。

 

「メグ、もう夕食できたみたいだから離れてくれるか?」

 

「えへへ~、お兄さ~ん。」

 

ダメだ。誰の声も聞こえていない。夢中になってしまうという気持ちはわかるがこれは夢中になりすぎだ。こんなんじゃ夕食なんて食べられないぞ。

俺はメグに抱き着かれたままリビングに向かった。

 

「すみません、ちょっと遅くなりました。」

 

「メグ!?なにしてるの!リョーマ君が困ってるじゃない!はやく離れなさい!」

 

メグのお母さんの言葉を以てしても聞こえていない。どうやら自分だけの世界にのめり込んでいるようだ。このキラキラした笑顔を見てるとすごく可愛くは思えるのだが限度というのを守ってほしい。まあこれはメグだけに言えることではないが。

 

「メグ?そんなにリョーマ君を困らせてばかりだと嫌われちゃうわよ?」

 

「ふぇ!?ヤダ!」

 

ようやく我に返ったようで笑顔から焦りに変わっていた。涙目で嫌われないでほしいといった表情で俺を見てくる。もちろんこんなことで嫌う事はないがメグからしたらちょっとしたことでも嫌われてしまうと思っているんだろう。ここはちゃんと言って安心させないといけない。

 

「大丈夫。こんなことで嫌いにならないよ。」

 

「ほんと?」

 

「うん、でも何事もそうだけどやりすぎないようにな。」

 

「うん!」

 

無事にメグが安心できたようで気を取り直して俺たちは夕食を食べることにした。夕食はシチューだ。とても濃厚で味をしっかりと引き出しており、具と一緒に食べるとさらに美味しさが引き立つ。シチューを味わいながらふと隣を見るとメグがキラキラした目で俺を見ていた。

 

「どうした?」

 

「お兄さん食べさせて!」

 

「メグったらあまりリョーマ君に迷惑かけないの。」

 

終始笑顔で鼻歌を歌いながら超ご機嫌のメグ。目を閉じニッコリと微笑みながらこっちを向いている。控えめに言ってもすごく可愛い。恐らくこれの類が俺を甘くしてしまう原因だろう。

 

「ごめんね、メグのわがままに付き合わせちゃって。」

 

「大丈夫ですよ、家でもこんな感じですから。」

 

最近は夕食の時、チノが甘えて食べさせてほしいと言ってくる。そしてそれを見たココアも対抗して同じように甘えてくる。さらにそれを見たチノも対抗して甘えてくるといったループがよく起こっている。今ここにいるのがメグだけで良かった。

 

「ねえお兄さん!1回だけでいいからお願い!」

 

「わかったわかった。はい、あ〜ん。」

 

「あ〜ん♪」

 

「美味しい?」

 

「うん!ありがとうお兄さん!」

 

どうやら満足したみたいでようやく落ち着いてくれたみたいだ。夕食を続けようとシチューをひと口食べた時少し温くなっていた。メグがこんなに嬉しくなってくれたんだからまあいいか。

 

 

外は完全に暗くなり寝る時間になった。メグのお母さんから空き部屋あったのでそこを使うように言われていたのだが、メグがどうしても一緒に寝てほしいと何度も言われメグと寝ることになった。

 

「お兄さんといると時間があっという間に経つね〜。」

 

「そうか。それぐらい楽しかったってことだろうな。」

 

メグはベッドに座り、俺は床に座って会話をしていた。明日のこともあり今日は早めに寝ることになっており、話せる時間は少しだけだ。今日はいろいろメグの可愛らしい所が見れて俺も楽しかった。しばらくここに泊まったらメグもチノみたいになりそうだな。

 

「ダンス大丈夫そうか?」

 

「う〜ん、まだちょっと緊張するけど大丈夫だと思う。」

 

俺も気持ちはわかる。特に小学生になったばかりの頃、席を立って発表した時はめちゃくちゃ緊張したものだ。今は全然平気だが、今のメグを見るとそんなことを思い出す。

 

「とにかく全力で頑張れ。そうすれば結果がどうなろうと落ち込むことはないよ。むしろやり切った感が出ると思うから。」

 

「うん!私頑張るね〜!」

 

「その意気だな。さてとそろそろ時間だし寝るか。」

 

俺は部屋の電気を消しメグが座っているベッドへ向かい横になった。隣にはメグも横になっており、微笑みながら俺を見ている。しかし気のせいかまだ明日の不安があるように感じられた。こういう時は寝る時にいつもチノにしてあげてることをしよう。

俺はそのままメグを俺の胸に抱き寄せポンポンとメグの頭に手を添えた。

 

「なんだろう、これすごくいい〜。」

 

「いつもチノにしてあげてることなんだ。怖くて眠れない日やなかなか寝付けない日はこうしてあげるとすぐに寝るんだ。」

 

「そうなんだ。うん、すごく安心する.........。」

 

さっきまで不安で少し体が固まっていたメグの体だったが、だんだん力が抜けていきとろんとした目をしていた。よほど落ち着けているのだろうか3分ほど続けていると安心した寝息が聞こえてきた。どうやらもう眠ってしまったようだ。

俺はメグが眠ったのを確認した後、重くなった瞼を閉じた。

 

 

翌日、創作ダンスの本番が行われた。俺はいつも通り仕事をしながらチノの帰りを待っていると裏口からドアが開く音がし、数人の足音がした後、最初はチノが、それに続いてマヤとメグもやってきた。なんだか3人とも喜んでいる顔だ。

 

「お疲れ様。ダンスどうだった?」

 

「兄貴!すげえんだよ!私たち優勝したんだよ!」

 

話を聞くと見事優勝したらしく、しかもクラスではなく学年で優勝だったらしい。いつもバレエ教室で練習を頑張った結果だ。それはとても良いことだ。

 

「おめでとう3人とも!じゃあ今日はご褒美にハンバーグ作ろうかな?マヤとメグも食べていくか?」

 

「いいの!?やったー!メグ、ハンバーグだってさ!」

 

「うん!すごい楽しみだね〜!」

 

3人とも大喜びだった。優勝できたんだからこれくらいはしてあげないとな。

 

「ねえお兄さん。」

 

チノとマヤが手を合わせながら喜んでいた時、メグがこっそり俺の元へ来た。

 

「どうした?」

 

「昨日はありがとう。ダンスの本番中にね、寝てる時にギュってしてもらいながら頭を撫でてくれた時のことを思い出しながらやったら全然緊張しなかったんだ〜。」

 

「そうか。俺も嬉しいよ。」

 

「お兄さん!本当にありがとう!」

 

メグは俺にお礼を言いながら抱きついてきた。そこまで効果があったとは正直思っていなかったが、メグのためになったのなら良かった。

俺はメグをハグしていると背後から2つの気配を感じた。あぁ.....この時点でわかってしまった。この後の展開を。ゆっくりと振り向くとジーっと俺を見つめている2人がいた。

 

「.....待て。2人が言いたいことはわかる。」

 

「じゃあ私たちが今してほしい事は何かわかるよな?」

 

「わからないとは言わせませんよ。」

 

ジーっと見つめたままだが、すごい圧力を感じた。2人も頑張っただし、ご褒美をあげないとな。メグを抱きしめている腕の片方を広げると、とても嬉しそうに抱きついてきた。ちょっと息苦しかったが、俺は気にせず3人が満足するまでこのままにしておいた。

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
最近、IFストーリー書こうかな?どうしようかな?と思ってます。
気が向いたら書いてみようかと思います。


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【番外編(チノ)】 大好きなお兄ちゃん!

どうもP&Dです。
あけましておめでとうございます!
投稿頻度は早くないですがこれからも読んでくれると嬉しいです!
今回はチノ視点で書いてみました。
台詞はなく文章だけで、日記?みたいな内容です。
読み疲れるかもしれないので、自分のペースで読んでください。


私にはお兄ちゃんがいます。もちろん本当のお兄ちゃんではないですが....。

名前は如月リョーマ。私の大好きなお兄ちゃんです。

出会いはお兄ちゃんがこの街の高校に通うために幼馴染で妹のように慕っているココアさんと一緒にうちに引っ越してきた時です。お兄ちゃんの第一印象はとても優しそうで頼りになりそうな印象でした。それに比べてココアさんは注文を聞いたときに真っ先にうちのペット兼おじいちゃんであるうさぎのティッピーを注文してきて変な人だなと思いました。しかもどうしても触りたいがためにコーヒーを3杯も頼んで挙句には自信ありげに銘柄を言ってきましたが全部外れてて本当に変な人だと思いました。でもお兄ちゃんは全部の銘柄を当てて、しかもうちのオリジナルブレンドまで見事に当ててすごいと思いました。

 

そのあとにうちに下宿する人たちだということを知り、学校の方針として住み込みで働いてもらうことになりました。ということで早速着替えてもらうことにしたのですがちょっとした事件が起きました。ココアさんの制服を渡そうと更衣室へ向かおうとした時、何やら悲鳴が聞こえました。向かおうとした時、死に物狂いで男子更衣室へ逃げ込むお兄ちゃんの姿があり、何があったのかわからなかった私はお兄ちゃんに聞いてみると、ココアさんが更衣室に入ると、着替え途中だったバイトのリゼさんがココアさんを不審者と勘違いしたらしく、拳銃を突き付け、悲鳴をあげたココアさんの声を聞いたお兄ちゃんが駆け込むとお兄ちゃんに下着姿を見られたリゼさんは顔を真っ赤にして辺りにあるものを手あたり次第に投げ、お兄ちゃんが逃げ出したみたいです。そのあとはちゃんと誤解が解けたみたいでこの日から4人で働くことになりました。

 

それからはいろんな出来事がありました。チヤさんとシャロさんと出会い、甘兎庵にお邪魔した時、メニューを見ると漫画の必殺技みたいな名前でどれが何なのかわからなかったり、シャロさんは実はカフェインで酔う体質だということを知ったり、みんなと一緒にパンを作ったりととても楽しい日々でした。

 

そしてこの人がお兄ちゃんだったらいいなと意識し始めたのはみんなと一緒にうちに泊まった時でした。

チヤさんが寝る前に怪談話をし始めて聞き終わった時には怖くてたまらなくて、他のみんなも同じみたいでこの日はお兄ちゃんも同じ部屋で寝てもらうことになりました。そして夜中にトイレに行きたくなって目が覚めてしまい、トイレに行こうにも怪談のことを思い出して怖くて行けなかったのでお兄ちゃんを起こしてついてきてもらうことにしました。廊下は真っ暗で見慣れてるはずなのにトイレまでがやたら遠く感じてお兄ちゃんにくっついてトイレに向かい、帰りもお兄ちゃんにくっついて部屋へ戻りましたがその時とても大きな雷が鳴って私は怖くて動けなくなってしまいました。そんな私をお兄ちゃんは優しく声をかけてくれてさっきよりもっとそばに寄ってくれてゆっくりと部屋へ戻りました。

部屋に戻った私は雷のことがあってこのままじゃ眠れないと思いお兄ちゃんに一緒に寝てもらうよう頼むとすんなりとOKをもらって私は心が踊りました。お兄ちゃんの布団に入るとお兄ちゃんは今日は甘えていいと言われたので少し恥ずかしかったですが腕枕をお願いしました。お兄ちゃんの腕に頭を乗せると不思議なことにすごく安心できたんです。このまま抱きつきたくなるくらいに。でもこの時の私はそんな勇気はなかったので腕枕だけしてもらいそのまま眠りました。

この出来事が、お兄ちゃんだったらなと思い始めたきっかけでした。

 

それからの私は2つの思いができました。お兄ちゃんと呼びたいという思いと呼びたいけどすごく恥ずかしいという思いです。学校にいる時だけはマヤさんとメグさんの前でお兄ちゃんのことを話す時はお兄ちゃんと呼ぶことはできたのですが学校以外では相変わらずリョーマさんと呼んでいました。青山さんと初めて出会った時お兄ちゃんと兄妹と間違えられた時、心の中では嬉しかったのですがやはり恥ずかしさの方が上でした。みんなとジグソーパズルをした時にお兄ちゃんとパンケーキを作りましたが、その時に勇気を出してお兄ちゃんと呼びたいと言いたかったですが結局言うことはできませんでした。

この頃の私はココアさんがすごく羨ましかったです。お兄ちゃんと呼んで抱きついて頭を撫でてくれてる所を見ると、私もあれくらい積極的だったらと何度も思いました。でもそんな勇気がない私は離れて見ているだけで、時々こんな私が少し嫌になったこともありました。

 

そんな私に嬉しくて恥ずかしかったけど、お兄ちゃんと呼ぼうと決意した出来事がありました。

それはお兄ちゃんと一緒に夕食の買い出しに行った時にチヤさんとシャロさんに偶然会い、シャロさんの家でカレーパーティーをすることになった時です。

リゼさんがチョコレートを持ってきてくれたんですが、私はブランデー入りとは知らずに食べてしまい、頭がフワフワしてしまいました。その状態でお兄ちゃんを見た時、すごく甘えたい気持ちに駆られ、いつの間にかお兄ちゃんに抱き着いていました。お兄ちゃんはそんな私に少し驚いていたみたいですが、すぐに甘えさせてくれました。頭を撫でてくれたり、おんぶをしてくれたり、とても心地よくてこんな時間がずっと続けばいいのにと思いました。そしていつの間にか眠ってしまい気付いた時は翌日の朝でした。そして私は昨日の出来事を思い出して恥ずかしくてどうにかなりそうでしたが、お兄ちゃんは気にしなくていい、新鮮なところを見れて嬉しかったと言ってくれてちょっと嬉しかったけどやっぱり恥ずかしかったです。

でもこの出来事のおかげでお兄ちゃんと呼ぶ決意ができました。

 

そしてやってきたクリスマス。私はこの日に勇気を出してお兄ちゃんに妹にしてくださいとお願いしました。すごく恥ずかしくて、みんなも驚いていてしばらく沈黙状態でしたが、お兄ちゃんがあっさりと妹にしてくれました。私は本当に嬉しくて泣きそうでした。この日から私はようやくお兄ちゃんと呼ぶことができました。

それから私は自分でもわかるくらい人が変わったかのように甘えん坊になりました。お仕事を頑張ったら褒めてもらって、寝るときは一緒に寝てもらって、ハグをしてくれて頭を撫でてくれてとても幸せでした。一番嬉しいのはハグしながら頭を撫でてくれることで、それらを見てたココアさんとはよく言い合いになり、お兄ちゃんの取り合いが日常茶飯事でした。ココアさんは小さい時から甘えていたのに私が甘えていると文句を言ってくるなんてとてもずるいです。不公平です。ココアさんは私にお兄ちゃんと一緒にいる時間を与えるべきなんです。本当にしょうがないココアさんです。

 

そんな幸せに浸っていた私ですが大事件が起きました。お兄ちゃんが修学旅行で1週間留守をすることになったんです。私は必死に止めましたが学校行事なので仕方ないと思いお土産も買ってきてくれるということなのでここは我慢して待つことにしました。

しかし私には辛すぎる1週間でした。

開始1日目でもうダメになりそうでした。

お兄ちゃんがいなくて全然元気が出なくて、2日目にはお兄ちゃんの声の幻聴が聞こえるようになりました。仕事中に急にお兄ちゃんの声が聞こえて振り向くとリゼさんだったりココアさんだったりしてその度にどんどん元気が無くなっていきました。

3日目にはお兄ちゃんの幻覚が見えました。テーブルを拭いているとお兄ちゃんが見えて、私は嬉しくなりお兄ちゃんに抱きつきましたが幻覚だったので私はそのまま通り過ぎて行き壁に激突しました。すごく痛かったです。

4日目にはもう真っ暗な部屋で寝込むようになってしまいココアさんにハグをされましたがお兄ちゃんと全然違う、格が全く違いココアさんを突き放してしまいました。チヤさんやシャロさんたちがたまにお見舞いに来てくれましたが、もうすでにこの時の私は魂が抜けた寝たきりの人状態だったので誰の声も聞こえませんでした。

そしてお兄ちゃんが帰ってくる7日目、到頭無意識に何かぶつぶつと呟くようになりました。そして誰かに肩を揺らされ見てみるとお兄ちゃんが修学旅行から帰ってきて、私はすぐお兄ちゃんに抱きつきました。とっても温かくて安心できて大泣きしてしまいました。この後少しだけ時間があったのでお兄ちゃんと一緒にお仕事をしましたが、留守の時とは全然違くてすごく元気が出て、ずっとお兄ちゃんのそばでお仕事をしてました。

事件はこれだけではありません。事件のしばらくした後、今度はお兄ちゃんがココアさんの実家に行くという事件が起きました。私はトラウマを思い出し、私はしがみつきながらお兄ちゃんを止めました。結局止めることはできませんでしたが、お兄ちゃんが代わりに前に一緒に買ったコーヒーカップのバッジを貸してくれました。ココアさんは私がいつも持っているうさぎの人形をココアさんだと思ってと言われましたが私はこれをお兄ちゃんだと思って我慢することにしました。

そして始まった2度目のお兄ちゃんの留守耐久1週間。私はお兄ちゃんのコーヒーバッジを握りしめ毎日うさぎの人形をお兄ちゃんだと思ってギューッと抱きしめていました。前回のように幻聴や幻覚は見ることはなかったですが辛いのに変わりはありませんでした。お兄ちゃんが当ててくれたオリジナルブランドばかり作ってしまったり、お客さんが店に入ってくると間違えてお兄ちゃんお帰りなさいと言ってしまったりとトラブルばかり起きていました。さすがに2回も1週間も留守をされると辛さも増し、少し泣いてしまったこともありました。

お兄ちゃんとココアさんが帰ってくると私は一目散にお兄ちゃんに抱きつき、ココアさんは何か文句を言ってましたが完全無視しました。やっぱり私はお兄ちゃんがいないとダメみたいです。

 

こんな大事件がありましたが私はお兄ちゃんと楽しく過ごしています。お兄ちゃんがこの街に来てくれてから毎日が充実してていつもお兄ちゃんに甘えることができて、相変わらずココアさんとはお兄ちゃんの取り合いをしますが毎日が幸せです。これからもいっぱいお兄ちゃんに甘えてハグをしてもらって幸せな日々を送りたいです。




今回はここで終わります。
年末に最初の頃を振り返って小説を投稿したばかりのあたりを読み返してみたんですけど読んで思ったこと........





























「ほぼ会話文しかねえじゃん!」


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-39話- ポーカーフェイスは大事!

どうもP&Dです。
2020年始まっちゃいましたね!
でも気が付くと2020年も終わりですねって言ってるんでしょうね。
時の流れは早い!


「お゛兄゛ちゃ゛ん゛あ゛り゛か゛と゛う゛~~!」

 

ココアが泣いている理由を話そう。今日で俺たちは学年が1つ上がったのだ。つまり俺が高校3年生、ココアが2年生になったわけだ。そしてココアが泣いているのは、進級してそれに感動して泣いているわけじゃない。なんとか進級出来て泣いているのだ。学年最後の期末試験1週間前、相変わらず文系の勉強を全然していなかったココアは焦りだして俺に勉強を教えてくれと縋り付いてきて、その間仕事はチノとリゼに任せて俺はココアに試験までみっちりと勉強をさせた。それでなんとか功を奏して赤点をギリギリ回避することができ、無事に進級できたわけだ。

 

「頼むから少しでもいいから普段から勉強しようという意欲を持て。留年なんかされたらおばさんに申し訳が立たん。」

 

「うん....。」

 

さすがのココアも今回のことで少しは反省しているようだ。ちなみに今一緒にいるチヤはいつも高得点でそんな心配はないが。

 

「ごめんなチヤ。学校では面倒見ててもらって。」

 

「いいのよ。ココアちゃんといるといつも楽しいから。それにリョーマ君、ココアちゃんには何かと厳しい所があるけど、ちゃんと心配してくれてるもんね。」

 

まあなんだかんだ妹のように慕ってるから、自然とそうなっているのかもしれないな。

そのココアはまだ泣いており、制服の袖で涙を拭んでいる。

 

「ココア、もう怒ってないから泣くな。俺もちょっと言い過ぎた。」

 

ココアの頭を撫でながら謝ると、まだすすり泣きだったが涙を流すことはなくなった。考えてみればココアもココアで頑張ったんだよな。ちゃんと褒めてあげないと。

 

「ほんとに?怒ってないの?」

 

「ああ。それに1週間ちゃんと頑張っただろ?ココアはやればできる子なんだからもう泣くな。」

 

ココアはやればできる子だ。ただやろうとしないだけで、頭が悪いわけではない。いつも小テストで赤点ばかり取ってるとやる気が出なくなるのはわからなくはない。ただそこから頑張ろうという思いが出てくるかどうかだけだ。

ココアの場合はハグをしてあげればやる気が出てくる。1日くらいしか持たないが。

今回はしっかりと頑張ってたしご褒美をあげようかな。

 

「ふぇ?お兄ちゃん?」

 

「ちゃんと頑張ったご褒美。よく頑張ったなココア。」

 

「.....えへへ///」

 

頭を撫でながらハグをしてあげるとさっきまで泣いてたのが嘘みたいな笑顔だった。まあ2年生になっても特訓をさせることになるんだろうけど、ココアがちゃんと頑張ってくれればそれでいい。

 

「良かったわねココアちゃん!」

 

「うん!」

 

「そうだわ!リョーマ君、私も頑張って高得点取ったんだしハグして欲しいわ!」

 

「え!?チヤも?」

 

「ええ!思い出してみれば私、まだリョーマ君にハグされたこと1回もないし。」

 

そういえばしたことがなかったな。いつもココアとチノにしてたし。チヤはウキウキしながらハグしてくれるのを待っている。

 

「さあリョーマ君!ハグさせて!」

 

「わかったから落ち着け。ほら。」

 

俺は腕を広げると、ゆっくりと抱きついてきた。そのまま頭を撫でてあげたが、なんだかチノみたいに甘えてくるな。チヤって意外と甘えん坊?

 

「いいわねこれ。とっても落ち着く。ココアちゃんの気持ちがすごくわかるわ!」

 

「でしょ!」

 

「ええ!リョーマ君、もっとハグさせて!」

 

「おい!ちょっと!」

 

チヤは半暴走状態になってしまった。引き離そうとしても、いったいどこからこんな力が出るのかと思ってしまうくらい強く抱きしめてきた。

 

「お兄ちゃん!」

 

聞き覚えのある声がする方を見るとチノが立っていた。チヤが俺を抱きしめているのを気にしている様子だが、このことは触れないでおこう。

 

「あらチノちゃん!リョーマ君のハグってすごくいいわね!」

 

「ずるいです!お兄ちゃんのハグは私専用なんです!」

 

「ちょっと待ってチノちゃん!お兄ちゃんのハグはチノちゃん専用じゃないよ!」

 

「いいえ違いません!ココアさんは小さい頃いっぱい甘えてたって言ってたじゃないですか!だから私専用です!」

 

「昔のことは関係ないよ!」

 

「関係大ありです!」

 

チヤからのハグが引き金となり、いつも通りの言い合いが始まった。チヤは手を合わせてごめんのジェスチャーをしていた。

 

「はあ.....はぁ.....チノ速すぎ!」

 

「チノちゃん、お兄さんのとこに行く時だけ速いからね〜......」

 

チノの後に息を切らしているマヤとメグがやってきた。2人の様子からするとそれなりの距離があったはずなのにチノは一切息を切らしていない。一体どうやったらそうなるんだ?

 

「なんだ、もう来てたのか?.....ん?何があったんだ?」

 

「きっと先輩絡みでしょうね.....。」

 

不思議そうな顔をしているリゼとなんとなく察したシャロもやってきた。相変わらず言い合いをしているココアとチノだが、しばらくそっとしておけば鎮まるのでその間、状況が理解できていないリゼに説明をすることにした。

 

 

 

 

「それで今日は皆さんどうして集まったんですか?」

 

「今日は進級祝いにみんなでお茶をすることになってるんだ。チノ達も来るか?」

 

「はい!お願いします!」

 

「お〜!メグ!兄貴と一緒にお茶だってさ!」

 

「うん!やったね〜!」

 

チノ達に説明すると喜んで一緒にお茶会をすることになった。お茶会は大勢の方が楽しいからな。ココアはほんの少しチノが俺に近寄るのを監視しているような視線をしていた。また喧嘩にならないことを祈りながら俺たちは歩き出した。

 

「あの、先輩。」

 

目的地へ向かっている途中、隣にいるシャロが何か気にしているような素振りをしていた。

 

「どうかした?」

 

「チノちゃん、前に見た時より甘えん坊になっちゃってますけど、家では大丈夫なんですか?さっき見た感じだとココアとよく喧嘩してそうに見えますけど。」

 

「見ての通りよく喧嘩してるよ。この前はココアと一緒に寝る約束をしてたんだけどチノはそれを御構い無しに俺と寝ようとしてきて、それで喧嘩になってたよ。さすがにあの時はココアが先に約束してたからチノには1人で寝てもらうことにしたよ。駄々こねてたけど。」

 

「チノちゃん、先輩のことが本当に大好きなんですね。」

 

「まあその分、苦労のレベルが上がってるような気がするけど。」

 

思えば喧嘩の回数も日に日に増えてるような気が....。片方ばかり甘やかすのも問題だよな。飴ばかりじゃなく鞭もないとな。

 

「なんだ?二人とも何の話をしてるんだ?」

 

俺とシャロの間にひょこっとリゼが入って来た。ちょっと冗談言ってやろうかな。

 

「リゼがかっこよくてすごく可愛いっていう話をしてたんだよ。」

 

「な!?///」

 

急にリゼの顔が真っ赤になった。

リゼは可愛いという言葉にやたら弱いからな。まあ普段からモデルガン持ってたり、学校で憧れの的になればかっこいいの方が言われることが多いよな。

 

「先輩!?全然違うこと言ってますよ!」

 

「あはは!違う違う。ココアとチノのことを話してたんだ。」

 

「じょ、じょじょ冗談でもそんなこと言うな///」

 

「え?リゼはけっこうかわいいのは本当だと思うけど。シャロはどう?」

 

「確かにリゼ先輩はかっこいいですけど可愛いところもありますよね!うさぎが好きなところとか。」

 

シャロも参加したことによってますます真っ赤になっていった。両手を頬に添えながら頭から湯気を出している。

 

「もうやめてくれ///」

 

「自身持てって。リゼは可愛いから!」

 

「そうですよリゼ先輩!自信持ってください!」

 

「なんでココアとチノの話から私の話になるんだ///」

 

「だってリゼ可愛いから。な!シャロ。」

 

「はい!」

 

「うぅ~///チヤ~~助けてくれ~!」

 

「あらあらまぁ。どうしたのリゼちゃん?」

 

恥ずかしさに耐えられなくなったリゼはチヤに縋り付いていた。この中じゃ俺と同じ1番年長なのに、今のリゼはとてもそうは見えない。

 

「なあこれって俺が悪いの?」

 

「いいえ、先輩は事実を言っただけなので大丈夫です。むしろリゼ先輩はもっと自分に自信を持つべきなんです。」

 

今この状況を見ると、シャロの方が先輩らしく見えるぞ。後ろの方を見るとチヤがリゼを落ち着かせていた。リゼは俺と目が合うと顔を赤くしながらそっぽを向かれた。可愛いって言っただけでなんでこんなことになるんだ?

 

 

 

 

「着いたー!」

 

数分後、目的地のカフェに到着した。元々5人で予約していたので席が空いているか不安だったが、ある程度席は空いていたので8人席の円状のテーブルへ案内してもらった。

 

「みんなー!席を決めるよ!」

 

「何で席を決めるんですか?」

 

「もちろんくじ引きで!」

 

そう言うとココアは1〜8が書かれた8枚の紙をテーブルに裏向きで置いた。席の番号は12時方向が1番、そこから時計回りに2番、3番といった席順だ。

 

「じゃあ俺はこれにしようかな。」

 

「じゃあ私はこれにしよう。」

 

各々紙を選び同時に表に返した。席の結果は俺が1番、リゼが2番、シャロが3番、チノが4番、ココアが5番、マヤが6番、メグが7番、チヤが8番だった。

 

「なんで兄貴が隣じゃないんだよー!」

 

「ココアさんズルしましたね!」

 

「してないよ!私の席を見ればわかるでしょ!」

 

「私はお兄さんと割りと近いから別に大丈夫だけど。」

 

見ての通りの言い合いが始まった。ココアが俺と一番遠いから不正はしてないだろう。仮に不正してもドジ踏んで結局俺が一番遠くなるような気がしなくもない。

 

「テーブルは一緒なんだからいいだろ?くじ引きで決まったんだから文句は言わない。」

 

俺が3人に向けて言うと、少し不満があったようだが言う通りにしてくれ、俺たちはその席順で座り店員に注文を頼んだ。

 

「ねえみんな!待ってる間トランプで遊ぼう!」

 

ココアはそう言いながらカバンからトランプを取り出した。それを見たみんなもどうやらやる気満々のようだ。

 

「よしやるか!で、トランプで何するんだ?」

 

「ここは王道のババ抜きをしよう!」

 

誰も反対する人はおらず満場一致でババ抜きに決まった。ココアは機嫌がいいのか、鼻歌で俺たちにトランプを配っている。

配り終わったカードを見ると1つのペアが見つかり残り4枚になった。残りはスペードのA、ダイヤの8、クラブの7、ハートのQだ。スタートは俺から時計回りとなった。

 

「ねえねえ!せっかくだから1番に上がれた人は何かご褒美がもらえるっていうのはどう?」

 

ココアがまた何か言いだした。機嫌が良かった理由ってもしかしてこれか?

 

「ちなみに私はお兄ちゃんにいっぱい甘えること!1日中甘えさせてもらうんだ!」

 

「わ、私も勝ったらお兄ちゃんに1日中甘えます!なのでココアさんはその日お兄ちゃんに甘えてはダメです!」

 

「じゃあ私が勝ったらその日はチノちゃんがお兄ちゃんに甘えちゃダメだよ!」

 

「受けて立ちます!」

 

気のせいだろうか2人の視線の間に電撃みたいのが見える。2人とも勝てなかった時のことは考えていないみたいだな。ちなみに俺が勝ったら今日の......いや、まだ言わないでおこう。

 

「さあ、早く始めるぞ。」

 

俺はそう言ってリゼに俺の4枚の手札を向ける。リゼは少し迷いながらダイヤの8を取ったがペアはなかったようだ。そうしてシャロ、チノが順にカードを取っていくが一向にペアが見つかる空気がない。8人でやってるから当然といえば当然かな。

 

「よーし!私の番だね!」

 

ココアはそう意気込んでチノの手札からカードを1枚取る。するとココアが取ったカードを見ながら青ざめながらこの世の終わりみたいな顔をしていた。あれ絶対ジョーカーだ。

 

「は、はいマヤちゃん。カ、カードを1枚取って......」

 

ココアはココアなりに全力のポーカーフェイスをしているつもりみたいだが、俺には全然そうには見えない。マヤはココアの不自然さに気付く様子がなくカードを1枚取る。ココアを見てみるとジョーカーを取ってくれなかったような落ち込みの顔だった。めっちゃわかりやすい!

そしてメグ、チヤと回り俺の番が来た。

 

「う〜ん。これかな。」

 

俺はチヤからカードを1枚取ると、カードはハートの7だった。俺はクラブの7とペアを作り残り2枚となった。

 

「もうあと2枚になったぞ。次ペアができたら上がりだな。」

 

それを聞いた1部を除いたみんなは頑張れやあとちょっとなど応援をしてくれた。そしてその1部を除いたココアとチノというと。

 

「お兄ちゃん勝っちゃダメ!お兄ちゃんに1日中甘えれなくなっちゃう!」

 

「そうです!ココアさんの言う通りです!お兄ちゃん絶対に勝たないでください!」

 

「そんな頼まれ方があってたまるか!」

 

途中変なやり取りがあったが、ババ抜きを再開した。そして2周目、リゼに残りの2枚を向けるとハートのQを取ったリゼは嬉しそうな顔になりQのペアを作っていた。問題のココアは未だにジョーカーを手札から無くすことができていないみたいでこの時点で最下位だろうなと察した。

チヤの番が終わりリーチの俺の番だ。俺は運に任せることにして何も考えずにカードを1枚取った。少し緊張しながらカードを見るとダイヤのAだった。

 

「よし揃った!上がりだ!」

 

俺が宣言するとみんながおめでとうと言ってくれたが、ココアとチノはけっこうなショックを受け何も言葉を発せずにいた。このままババ抜きが再開されたがチヤ、リゼとどんどん上がっていくのにポーカーフェイスが苦手なココアはずっと上がれないでいる。そして最後はココアとマヤが残ったが予想通りココアが最下位となり、ババ抜きは終了した。

 

「1位になりたかったのに〜.......。」

 

ココアはテープルに突っ伏して半泣きだった。見てると勝たせてあげればよかったと思ってしまうが、俺にも1位になったらしたいことがあったので勝たせるわけにはいかない。

 

「お兄ちゃん、ご褒美は何にするんですか?」

 

「帰ってからのお楽しみ!」

 

ババ抜きが終わるとちょうど店員さんが注文したものを持ってきてくれた。俺たちはカフェでのお茶会を楽しんだ後その場で解散となり俺たちはラビットハウスへ戻った。

 

 

 

 

「さあ!今日はハンバーグだぞ!」

 

今日の夕食はハンバーグにした。理由は簡単、ババ抜きで勝ったご褒美を使うためだ。

 

「え!?どうしたのお兄ちゃん!?いつもは私たちが言わないと作らないのに。」

 

「もしかしてババ抜きで勝ったご褒美を使ったんですか?」

 

さすが察しが良いチノ。しかし俺のご褒美はここからが本番だ。俺はキッチンからもう一つのご褒美を持ってきた。

 

「確かにこれもご褒美だけどこっちもご褒美だ。」

 

俺はテーブルに置くと、2人の顔は青ざめていた。皿にはチノの嫌いなセロリとココアが嫌いなトマトのサラダの盛り合わせがあった。そう、これが俺の本当のご褒美だ。

 

「お兄ちゃん!これはご褒美じゃないよ!」

 

「そうですよ!こんなのご褒美じゃないです!罰ゲームです!」

 

俺の予想通り文句を言ってくる2人。だがいつまでも好き嫌いをしてはいけない。特にチノは好き嫌いが多すぎる。いい機会だからここで2人には少しでも慣れてもらおう。

 

「2人とも好き嫌いが多すぎる。この際慣れてもらうぞ。」

 

「ヤダ!トマトヤダ!ハンバーグだけがいい!」

 

「そうですよお兄ちゃん!これじゃ美味しくハンバーグが食べれないです!」

 

「だったらハンバーグは無しだ。そんなに好き嫌いするんだったらこれからはハンバーグは作らない。それでもいいのか?」

 

「「うぅ......食べ.....ます。」」

 

俺は2人にほんの少しだけ威圧的に言った。2人はハンバーグが食べれなくなるのが余程嫌みたいでかなり辛そうに時間をかけてサラダを食べていた。

 

「う~、美味しくないよ~。」

 

「に、苦くて食べれないです....。」

 

2人ともちびりちびりと食べている。仕方ないな。

 

「.....いいよ、半分食べれたらあとは俺が食べるから。」

 

「え?いいの?」

 

「ああ、ただしこれからもサラダを出すから次からは全部食べろよ。」

 

「うん!チノちゃん半分だけでいいって!」

 

「ほ、本当に良かったです!」

 

今回はしっかりと飴と鞭を与えたつもりたけどやっぱり俺は妹に甘いな。俺もまだまだ勉強が足りないのかな。半分食べ終わったらすぐさま俺の所に移動させてハンバーグ食べてるし。

まあ、今は無理でも少しずつ慣れさせていけばいいかな。

 

To be continued




今回はここで終わります
最近、朝起きると手足が冷えててめっちゃ寒いです。
なんとかなりませんかね?


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-40話- 我慢のしすぎは体に毒。

どうもP&Dです。
この前ドリアを食べてたら熱すぎて火傷しました。
皆さん、今は寒いですが火傷には注意してください。


「私、しばらくお兄ちゃん断ちします!」

 

ある日、仕事を始めようとした時チノが突然驚くことを言い出した。何かする時はいつも一緒だったのに一体どうしたんだ?ココアとリゼも目を丸くして驚いている。

 

「どうしたのチノちゃん!?熱でもあるの!?」

 

「そうだぞチノ!お前がそんなこと言うなんて!一体どうしたんだ!?」

 

2人はチノの肩を掴みながら理由を聞こうとしている。チノは2人の驚き方にびっくりして言葉を発せずにいる。なんとかしないと。

 

「2人とも落ち着け。それでチノなんで急にそんなことしようと思ったんだ?」

 

「私、最近お兄ちゃんに甘えてばかりで仕事にも支障が出てきて、さすがにダメなんじゃないかと思ったんです。 なのでこれから1ヶ月お兄ちゃんに甘えるのは禁止にします!」

 

フンと鼻から蒸気が出るみたいに意気込んでいた。本当に大丈夫だろうか。1週間なら2回耐えてたことはあったが1ヶ月となると話は変わってくる。1週間であれだったんだ、今のチノには耐えれそうに見えない。

 

「大丈夫なのか?無理しなくていいよ?」

 

「いいえ大丈夫です!1ヶ月耐え切ってみせます!」

 

チノはもう張り切り状態だ。ここで無理に止めるのも野暮だし、させてみるか。

 

「わかった。じゃあ今から始めるけどいいか?」

 

「はい!」

 

チノは元気よく返事をして、開店作業を始めた。隣にいたリゼも心配しながらチノを見ている。

 

「なあリョーマ、チノの奴本当に大丈夫なのか?」

 

「本人がやるって言ってるんだ。できるところまでさせてみるよ。さすがにもう無理だと思ったら俺が止める。」

 

こうして今日の仕事が始まった。チノは張り切って仕事に励んでいる。まだ1日目だから大丈夫だろうけど1週間経った時が心配だ。あの時は無心で呟いていたからな。

 

「さて、俺はパンを作るか。」

 

俺は厨房へ行きパンを作るために、小麦粉、砂糖、塩、牛乳、ドライイーストなどの材料を取り出した。ラビットハウスは9時から始まるが、お客さんが来だすのは10時を回ってからだ。そしてパンの注文が入るのもその時間帯だ。それまでは俺はパン作り、残りの3人は店の方を任せている。

 

「それにしてもチノがあんなこと言うなんてな。」

 

俺はパンをこねながら今朝のチノのことを考えていた。

チノは俺の妹になってからはいつもそばにいたからな。少し大人になったのかと思えば嬉しいがその反面寂しい気持ちも少しある。でもいつまでも甘えん坊というわけにはいかないけどな。

 

「よし、あとは少し寝かせて焼くだけか。」

 

俺は生地をボウルに入れ、ストップウォッチを設定し、近くにあった椅子に腰を掛け、腕を組みながら時間が経つのを待った。数分間無音の時間が流れ、少し離れたホールから3人の話し声が聞こえる。

 

「そういえばココアもチノくらいの時はかなりの甘えん坊だったな。」

 

ボーッとしながら待っていると、少し昔のことを思い出した。

ココアが中学に入学したばかりの頃、俺と同じ中学に入れたことが嬉しくて大はしゃぎしてたっけ。一緒に通学することになったけどいつもいつも寝坊するからわざわざココアの家まで行って起こしに行ってたな。今も変わらないが。

 

「もうあれから4年くらい経つのか。早いな。」

 

懐かしさに浸っていると無音の部屋からピピピッという音が響き渡った。どうやら時間のようだ。生地を見てみると程よく膨らんでいる。俺はロールパン、ジャムパン、クロワッサンなどの生地に均等に分けてトレイに乗せ、オーブンに入れ電源を入れた。

 

「お兄ちゃん!パンもうすぐ焼ける?」

 

電源を入れた時ちょうどココアが厨房に入り、ちょこちょこと小走りで俺がいるオーブンの前までやってきた。オーブンの窓に映る少しずつ焼けていくパンの生地をジッと見つめている。

 

「今焼いたところだからもう少しだな。」

 

「ねえお兄ちゃん!焼けたら1つ食べたい!」

 

「ダメだ。これはお客さんに食べさせるパンだ。それに朝ごはんの時にパン食べただろ?」

 

「だってお兄ちゃんのパン美味しいんだもん!お願い1つだけ!」

 

ココアは目を瞑りながら手を合わせて俺に頼み込んでくる。そしてタイミングが良いのか悪いのかピーっというパンが焼けた音がオーブンから鳴った。それでオーブンに目が行き再びココアに目を戻すと尻尾を振る犬みたいにウキウキしている。

 

「はぁ〜、1つだけだぞ。」

 

「やったー!お兄ちゃんありがとう!」

 

俺はオーブンから焼きあがったパンが乗ったトレイを取り出しキッチンのテーブルに置き、焼きたてのロールパンを1つ手に取った。

 

「ほら。」

 

「えへへ、ありがとう!」

 

ココアはパンを受け取るとパクパクと夢中で食べていた。こういうところはチノと一緒なんだよな。なんとなく頭を撫でてあげるとパンを咥えながらニコッと微笑んでいた。

 

「それ食べたら仕事に戻れよ。」

 

「えっと、お兄ちゃん。」

 

半分ほど食べたココアが両手に残りのパンを持ちながら、上目づかいで少し申し訳なさそうな顔をしている。なんとなく予想がついてしまう。

 

「ん?」

 

「あの......もう1個...。」

 

「ダメ。」

 

「おねがい!」

 

「ダメだ!」

 

「む~.....」

 

予想通り頬を膨らませながら俺を見てくる。そんな顔してもダメなものはダメだ。そういうところもチノと一緒だな。いや、チノがココアに似たのか?

俺はトレイを持ってホールに行くことにした。

 

「ほら早く食べてさっさと行くぞ。」

 

「お兄ちゃんのケチ!」

 

「ケチで結構!」

 

お客さん用のパンなのに何を言ってるんだこの妹は.....。

 

俺はパンをホールへ持っていくとちょうど小さい女の子を連れた親子連れのお客さんが注文をしていた。そしてそのお客さんの女の子がパンが乗っているトレイを持った俺を見つけると、目をキラキラしていた。

 

「ママ!またあのパン食べたい!」

 

女の子は席を立ちトレイに乗っているバターロールに指差していた。

 

「ここに来るといつも頼むわね。すみませんバターロールください!」

 

「かしこまりました!」

 

俺は皿にバターロールを2つ乗せ、女の子の前に置いた。とても嬉しそうにパンを見つめている。

 

「はいどうぞ。さっき焼きあがったばかりだから気をつけて食べてね。」

 

「うん!お兄ちゃんありがとう!」

 

「うん、どういたしまして。」

 

俺は軽く一礼し、チノたちの所へ戻った。振り返って女の子を見るととても美味しそうに食べており母親の方はそれを微笑ましく見ている。

 

「リョーマのパンすごく人気だよな。」

 

「はい。お兄ちゃんのパン目当てで来るお客さんも多いですから。」

 

「美味しく食べてくれると作り甲斐がある。」

 

チノの言う通り、注文がパンだけというお客さんもいる。最近売上が上がってきているようで、ティッピーが跳ねながら喜んでいるところをよく見かける。

数分後にはどんどんお客さんの数が増えていき、俺の大忙しのパン作りの時間が始まった。お昼時が一番忙しいんだよな。

 

 

 

 

「さて、今日はこれで終わるか。」

 

「やっと終わった〜!そうだお兄ちゃん!お仕事頑張ったから頭撫でて!」

 

ココアは俺の所へテクテクとやってきて、頭を差し出してきた。仕事が終わったら頭をを撫でてあげるのが当たり前になってきている。

 

「はいはいわかった。」

 

「えへへ〜。この撫で撫でのために頑張ってると言っても過言ではないよ!」

 

それなら勉強もそれくらい頑張ってほしいものだ。でもそれを言うとめちゃくちゃ誤魔化すからあまり意味はない。

 

「ココアさんずるいです!私も撫でてください!」

 

チノもこっちにやってきて頭を差し出してきた。どうやら甘えるのを禁止してるのを忘れてしまっているようだ。1日目の終わりで朝での勢いが少し崩れてきたかな。

 

「チノ、甘えるの禁止にしてるんじゃなかったか?」

 

「あ........そうでした。すみません今のは忘れてください。」

 

「無理しなくていいんだぞ?甘えたいなら甘えていいぞ?」

 

「いえ大丈夫です!耐えてみせます!」

 

チノはそう言って自室へ走って行った。この調子じゃ2週間も持たないかもしれないな。とはいえ少しでも忍耐力がつくのは確かだ。見守りながら応援しよう。

 

こうして1日目が終了した。日が経つごとにボーッとしていたり、ココアが俺に抱きついているとじーっと見ていたりと少しずつ異変が出てきた。そして本格的な異変が出てきたのは6日目の時だった。朝、目を覚まし歯を磨がき、部屋へ戻ろうとしたときにそれは起きた。

俺は部屋へ入ろうとドアを開けた時、ちょうどチノの部屋からチノが出てきた。なんだかフラフラとした足取りをしており何かを呟いている。....お...兄...ちゃんと呟いているのか?

 

「チノ、大丈夫か?」

 

「お兄.....ちゃん.......お兄ちゃん........お兄ちゃん。」

 

チノは俺を見つけると虚ろな目で両手を前に出し、誰かに引っ張られてるような歩き方でこっちに来た。まるでゾンビみたいな歩き方だ。そしてチノは間合いに入ると糸が切れた人形のように抱きついてきた。

 

「チノ?」

 

「お兄ちゃん......」

 

チノはそのままずっと抱きついたままである。我慢のしすぎで無意識に抱きついてるような様子だ。

 

「チノ大丈夫か?チノ?チノ?」

 

「........は!?お兄ちゃん!?どうしてここに!?」

 

「どうしてって、チノが抱きついて来たんだぞ?」

 

「そう....だったんですか。ごめんなさい迷惑をかけました。」

 

チノはそう言って重い足を運びながら洗面所へ向かって行った。明日で7日目だ。そろそろチノも限界だろう。明日の時点で限界だろうが続行できようがもうやめさせよう。すごく可哀想に見えてくる。

 

「甘兎にでも行くか。」

 

俺は気分を変えるために甘兎庵に向かうことにした。

 

 

 

 

「まあチノちゃんがそんなことを。」

 

「少しびっくりですね。」

 

甘兎庵に行くとまだ空いてる時間帯みたいで客は俺と既にいたシャロだけだった。2人に今チノがしていることを話すとココアとリゼほどではなかったが少し驚いていた。

 

「でも我慢をしすぎてるみたいでな。明日でやめさせようと思ってる。」

 

「そうですね、また我慢しすぎて先輩が修学旅行で留守の間のチノちゃんになるのは見たくないですからね。あの時のチノちゃん凄かったです。」

 

「そうね、お見舞いに行った時声かけても全く返事しなかったし。」

 

「そんなに酷かったの?ココアがチノに突き放されたのは聞いたことがあるけど。」

 

「ええ、私達が声をかけてもずっと『お兄ちゃんに会いたい、ハグしたい、撫でてほしい』って呟いていたわ。」

 

「私はその翌日にもう1度お見舞いに行きましたけど、同じことをずっと呟いてました。」

 

「そうだったんだ......」

 

どうやら俺が思ってた以上に酷かったみたいだ。そんなトラウマがあるのに1ヵ月禁止に挑むなんてな。すごいよチノ。

 

「お邪魔しま〜す。」

 

入り口の方からおっとりとした女性の声がした。この声はもしや....

 

「青山さん。」

 

「あら?リョーマさんじゃないですか!奇遇ですね!」

 

青山さんはそのまま俺の隣のカウンター席に座った。

 

「小説のネタ探しですか?」

 

「はい!」

 

「本当は?」

 

「休憩です!」

 

「ただの休憩じゃないですか。」

 

「そうかもしれませんしそうでないかもしれません。」

 

なんか軽い漫才みたいだな。青山さんはチヤに善哉を注文すると、両肘を机につき、両手の指同士を絡ませて俺の方に顔を向けた。

 

「何か心配事ですか?」

 

一瞬俺の考えてることを読まれたのかと驚いた。でも心配事があるのは本当だし多分顔に出てるんだろうな。

 

「今チノが俺に甘えるのを禁止してるんです。今日で6日目なんですけどもうそろそろ限界だと思うので明日でやめさせようと思ってるんです。」

 

「そういえばこの前、リョーマさんにすごく甘えてましたね。初めて会った時に私が兄妹と間違えてしまった時あんなに恥ずかしがっていたのに、今ではお兄ちゃんと呼んで甘えていますからね。でもどうしてそんなことをしだしたんでしょう?」

 

「最近俺に甘えすぎて仕事でミスが多くなってきて、それを気にして甘えるのを禁止にしたみたいです。」

 

「そうだったんですか。兄を慕う妹、とても素晴らしいです!リョーマさん次の小説の参考にさせてください!」

 

俺の話を聞いていた青山さんは突然俺の手を両手で握り、目を輝かせながら頼み込んできた。青山さんってネタが見つかるとこんな風になるの?

 

「は、はあ。いいですけど。休憩はいいんですか?」

 

「ええ!大丈夫です!」

 

青山さんはカバンからペンとメモ帳を手に取り、原稿を書くときにだけ使う眼鏡をかけ、体ごと俺の方に向きやる気満々といった顔だ。なんだか取材をする記者みたいだな。普段からそうやって頑張っていれば締め切りに追われることも、真手さんに追いかけられることもないのに。

 

「ではまずチノさんとの出会いから教えてください!」

 

「まず俺は小さい頃にこの街に1度来たことがあってそれが忘れられなくてこの街の高校に通うことにしたんです。そしてーーーー」

 

 

 

 

「つ、疲れた......」

 

あの後俺は青山さんに4時間近く事細かく聞かれ続けた。てっきり40分くらいで終わると思っていたがそんなことは全然なく、しかも青山さんは疲れてる様子は全くなかった。あの頑張りっぷり、ココアには是非とも見習って欲しい。

 

「もう暗くなるな。早く帰ろう。」

 

俺は疲れた体を動かし歩き始めた。手を繋いで話しながら帰ろうとしている親子連れとすれ違ったりスーパーから出てきて帰ろうとしている人や互いにバイバイと言いながら公園で遊んでいた子供たちが去っていく光景が目に映る。日がどんどん見えなくなっていき辺りが暗くなっていく。

 

「チノ大丈夫かな。」

 

俺はふとチノのことを考えた。今朝の時であの状態だったんだ。早く帰らないともっとひどくなってしまうかもしれない。

俺は少し早歩きで帰ることにした。

 

 

「ただいま。」

 

ドアを開けると店内には誰もいなかった。店内を通り過ぎキッチンの方へ行くとココアが夕食を作っていた。

 

「あ!お兄ちゃんお帰り!」

 

「ただいま。今日はココアが作ってるのか。」

 

「うん!今日のは自信があるから楽しみにしててね!」

 

自信たっぷりに言ってくる。この前は自信があると言っておきながら塩と砂糖を間違えるという漫画みたいなドジ踏んでたからな。ちょっと心配だ。

 

「そうか。そういえばチノは?」

 

「チノちゃん今日1日ずっと部屋に籠ったままなの。お昼ご飯の時も出てこなくて部屋の前にお昼ご飯置いたらしばらくしたら食べてくれてたけど。お兄ちゃんのそばにいれないのが辛いみたいなの。」

 

「そうか。ちょっとチノの部屋に行ってくる。」

 

俺の予想以上に深刻みたいだな。明日じゃなくて今すぐやめさせよう。俺はそのまま2階に上がりチノの部屋に行くことにした。チノの部屋に立ったが、ノックをしても返事がない。

 

「チノ、いるか?」

 

俺はチノを呼びながらドアを開け部屋に入ると、チノがベッドの上で体育座りをしたまま一切身動きをとらずにじっとしていた。俺の声に反応したチノは俺に目を移したが、目は今朝よりさらに虚ろになっていた。しばらく俺を見ていたチノはそのまま目を元あった視線に戻した。

俺はチノの所まで行き、同じ目線になるように膝立ちになった。

 

「チノ、もうやめよう?辛いだろ?」

 

「.......。」

 

チノは何も言葉を発さない。

 

「このまま続けても意味なんか無い。より辛くだけだ。だからもうやめろ。」

 

俺の言葉を聞いたチノは暫くした後口を開け、震えるようにしゃべり始めた。

 

「...........たいですよ............やめたいですよ私だって!!!.........でも、自分から言ったのに今更やめるだなんて..........できないです。」

 

途中から怒鳴るように言ってきた。責任を感じてるんだな。でもこれ以上続けると短気になり八つ当たりするようになり最悪大喧嘩に発展するかもしれない。そんなことになったらみんな口を利かなくなる恐れがある。そんなことで良い事なんか1つも無い。

 

「チノ、自分の言ったことに責任を持つのは良い事だ。でもだからと言って体や心を壊していいわけがない。それにいきなり大きな縛りをつけるのも良くない。だから今日で終わろう?苦しんでいるチノを見る俺も辛いから。」

 

俺はチノの目を見て言うと、チノは次第に涙を流し俯いてしまった。髪の毛で隠れた顔から涙がポタポタと流れ落ち、ベッドに染み込む。やがてその量は増え、涙の量が増えていることを物語っている。

 

「いいんですか?........自分で........言ったのに。」

 

「うん。」

 

「自分で言ったのに..........辛いからっていう理由で........やめるんですよ?」

 

「ああ。」

 

暫く無言の時間が流れた後、チノは体を震えだしすすり泣く声が聞こえた。そしてチノは顔を上げると口を噛みしめながら声をあげて泣くのを我慢していたが、涙は止まるどころか、どんどん増えていき我慢出来ずにいられないようだった。そのままチノは全体重を俺に任せるように抱きつき、やがて大声で泣き始めた。

 

「.......寂しかった!........苦しかった!........お兄ちゃんが....そばにいるのに.....手を繋ぐことも....撫でてもらうこともできなくて......本当に辛かった!」

 

「そうか。」

 

俺はチノの頭を撫でながら何も言わずに聞き続けた。

 

「もうこんなことしたくない!........私......もうお兄ちゃんから離れたくない!」

 

いつも敬語のチノが敬語じゃなくなっている。それほど心の底から本音を言っているんだろう。涙は止まることなく泣き続けている。

 

「そうか。よく頑張ったな。」

 

わあああああああん!!」

 

 

 

 

30分ほど泣き続けたチノは泣き疲れたみたいで、床にあぐらで座っている俺の膝の上に頭を乗せぐっすりと眠っていた。時々寝ている頭を撫でると笑顔になりながら寝ているから多分夢の中でも頭を撫でられてるんだろうな。

 

「お兄ちゃん、チノちゃんは大丈夫?」

 

「ああ、もうぐっすり寝てるよ。」

 

ココアは部屋に入り、俺の隣に座り寝顔のチノを見ている。

 

「もう今日でお終いにしたんだよね?」

 

「ああ、すごく辛そうだったからな。」

 

「よかった。チノちゃんはもうお兄ちゃん無しでは普通にはいられないようになっちゃったからね。」

 

ココアはそう言いながらチノの頭を撫でていた。ココアの手で撫でてもチノはにっこりと笑顔になりながら眠っている。それを見たココアも微笑ましく笑っており、俺はこの瞬間だけココアがチノのお姉ちゃんっぽく見えた。

 

「今のお前、お姉ちゃんって感じがするな。」

 

「ほんと?」

 

「ちょっとだけな。」

 

「ん~........お兄ちゃん........お姉ちゃん。」

 

聞き間違えたかと思った。だが確かに今チノの口からお姉ちゃんという言葉を放った。今この部屋にいるのは俺とココアとチノだけだ。ということはココアのことを寝言だがお姉ちゃんと呼んだんだ。俺は驚いたがそれ以上にココアが目を見開き驚いていた。

 

「よかったなココア。」

 

「......うん!寝言でもすごく嬉しい!」

 

ココアは目尻に少し溜まった涙を拭っていた。よほど嬉しいみたいだ。チノの顔に目を移すと感動に浸っているココアとは違って無邪気な顔で眠っている。とても可愛らしい。

 

「それじゃ私、夕飯の準備の続きしてくるね!」

 

「ああ、もう少ししたら俺もチノを起こして行くよ。」

 

ココアは上機嫌で部屋を後にし、1階へ降りて行った。パタパタとリズムよく階段を降りる音が聞こえる。その音からでもココアの機嫌さがよくわかる。

 

「さてと。チノ、そろそろ起きろ。」

 

「ん~.....お兄ちゃん?」

 

チノは目をこすりながら寝惚け眼でゆっくりと体を起こした。チノは俺が目に映ると躊躇うことなくスッと抱きついてきた。

 

「チノ、もうすぐ夕飯だから下へ行こうか。」

 

「もう少しだけお願いします。6日ぶりなので。」

 

「そうか。じゃあちょっとだけな。」

 

俺は立ち上がりかけた足を座り直し、5分ほどこのままでいることにした。時計の秒針が動く音だけが部屋に漂っている。

 

「お兄ちゃん。」

 

「ん?」

 

「その、ごめんなさい。あの時八つ当たりするみたいに怒鳴っちゃって。......本当にごめんなさい。」

 

やめたいって言った時のことを気にしてるんだな。人間イライラしないことなんてない。誰しも機嫌が悪くなることはあるものだ。もちろん俺にだってある。.....主にココアが全然勉強しないことに関してだが。

 

「いいよ。チノはよく頑張ったんだから気にするな。」

 

「はい。......お兄ちゃん、これからもお兄ちゃんのそばにいいですか?」

 

「何言ってんだチノ。いいに決まってるだろ。」

 

「お兄ちゃんありがとうございます!」

 

悩みのない満面の笑みだった。もう大丈夫だな。次またチノが挑戦しようとしてきた時はまずは3日間にしよう。

 

「じゃあ下に降りようか。」

 

「はい!」

 

俺はチノと手を繋いでココアが待つリビングへ向かった。

 

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
寒いと布団から出るのが難しいですよね。もう少し暖かくなって欲しいですね。


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-41話- 人に心配はかけないようにしよう。

どうもP&Dです。
最近はコロナウイルス騒動ですごいですね。
皆さん、手洗いうがいを徹底して人が多いところにはなるべく近寄らないようにしてください。


「朝か.........。」

ある日、俺は目が覚めると鳥のさえずりが聞こえた。どうやらもう朝のようだ。今日もいつものように学校から帰ったら仕事をしながらココアやチノに甘えられて、それで2人が喧嘩して俺がそれを止めて2人を甘えさせるという日になるんだろう。

そう思いながら俺は起き上がろうとした時、何だか布団に違和感があった。

 

「ん?なんだ?」

 

俺は恐る恐る布団をめくるとなんとチノが俺の胸辺りに頭を乗せ俺を覆うように抱きしめて幸せそうにすやすやと眠っていたのだ。これにはすごくびっくりした。てっきりよくテレビで見る布団をめくるとそこには幽霊がいたみたいな展開になるかと思った。

 

「ちょっ!?チノ!?おい起きろ!」

 

「ん~.....お兄ちゃん?」

 

慌ててチノを起こしたが、まだ眠たげな目を擦っており半分寝ているような様子だ。それに比べてこっちは驚きで心臓がバクバク状態だ。なんで朝からこんな思いしないといけないんだよ。俺はホラー映画の主人公か?

 

「なんでここで寝てるんだ!?昨日の夜自分の部屋で寝てただろ!?」

 

「え~と.....たしか......昨日1人で寝てるとすごく寂しくなったので夜中にお兄ちゃんの部屋に忍び込んで、お布団の中に潜り込んだんです。お兄ちゃんのお布団の中すごく温かかったです!」

 

ふにゃっとした笑顔で言ってくる。めっちゃ可愛い笑顔だから怒るに怒れない。でも一応注意しておく必要はあるな。

 

「チノ、一緒に寝たくなったら言ってくれ。夜中にそんなことされるとびっくりしてこっちの身が持たん。」

 

「はい!わかりました!」

 

まだ半分寝ぼけてるようだけど本当に大丈夫だろうか?また同じことが起きて『そんなこと言ってましたっけ?』って言われると言葉が出なくなるぞ。

 

「それよりお兄ちゃん、もうちょっとハグさせてください!」

 

俺の注意を聞き終わるとチノは何の迷いもなく抱きついてきた。今のチノを見てると初めて出会った頃の面影は0%だ。随分と甘えん坊になったな。

 

「お兄ちゃんおはよー!」

 

ココアがドアを勢いよく開け部屋に入って来た。しかし俺の部屋には今、俺と俺を抱きしめているチノがいる。この光景を見たココアが文句を言わないわけがなく。

 

「も~~チノちゃんずるい!私も!」

 

「ココアさん来ないでください!お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんなんです!」

 

「元は私のお兄ちゃんだよ!いいから離れて!」

 

「そんなの知りません!」

 

こうして本当の兄のように思ってくれると1人っ子の俺にはとても嬉しい。今全力で2人に抱きしめられてちょっと痛くて苦しいけど。もし俺に本当に妹がいたらこんな毎日を送っていたんだろうか?

.......ってそんなこと考えてないで止めないと。

 

「2人とも喧嘩するな。」

 

「だってチノちゃんが離れないんだもん!」

 

「ココアさんが離れないからです!」

 

互いが互いを譲らないといった感じで全然埒が明かないぞ。厳しくしすぎるのは良くないし、かと言って甘やかしすぎるのも良くない。この絶妙なバランスを取るのが本当に難しい。よくこの状況になるのは甘やかしすぎたからなのだろうな。計測器で計ったら甘やかしすぎの方に針が思いっきり傾くこと間違いなしだな。

 

「このまま喧嘩するんだったら、今日1日甘えるのは禁止にするからな。」

 

「「ヤダ!!!!!」」

 

ほとんどズレがなく大声量のハモりだった。そんなに禁止にして欲しくないのか2人とも涙目だった。まあチノは3回経験してるからわかるけど。

 

「おねがい!禁止はイヤ!もう喧嘩しないから!」

 

「そうです!もうあんな思いしたくないんです!」

 

2人は俺の体を揺らしながら頼み込んできた。これ、2人が喧嘩した時に止めるのに使えるかも。

 

「だったらもう喧嘩はしないこと。喧嘩さえしなかったら禁止にはしないから。わかった?」

 

「うん........。」

 

「はい........。」

 

2人ともしゃんとした顔をしてしまった。このままだとなんだかぎこちないというか空気が悪いというか、とにかく元気付けた方がいいなこれは。

 

「じゃあこうしよう。今日1日喧嘩せずにいられたら今日はいっぱい甘えていいぞ。」

 

「ほんと!?」

 

「じゃあ今日はハグしながら寝てもいいんですね!?」

 

2人とも一瞬で元どおりになった。互いに喜び合ってるし良しとするか。ていうかちゃっかりと一緒に寝るのは確定してるんだな。

 

「ほらもうすぐ学校に行く時間だから早く着替えてきな。」

 

「はい!」

 

「さっき言ってたこと忘れないでね!」

 

2人はそのまま部屋を出て更衣室へと向かって行った。朝からハプニングの連続だがこれが日常茶飯事だからすっかり慣れてしまった。もちろん最初は確かに対応に困ったけど。慣れって怖いな。

 

「さてと俺も着替えるか。......あれ?」

 

ベッドから立とうとした瞬間視界が歪み突然眩暈に襲われ膝をついてしまった。急に立ち上がったからだろうか?それにいつもより少し力が入らない。

しかし1分ほどそのままの状態でいると次第に眩暈は治まり、力も戻っていた。

 

「疲れてるのかな俺?」

 

今まで疲れても眠ればいつも通りに戻っていたので俺は睡眠不足だろうとあまり気にせず制服に着替えココアたちと一緒に登校した。

 

 

 

 

 

 

「はぁ......はぁ......」

 

学校に到着し、1限目が始まる10分前になったが体の様子がだんだんおかしくなってきた。体中が熱くて汗が出ているのに尋常じゃないほどの寒気を感じ、震えが止まらない。

 

「皆さーん!席に座ってください!授業を始めますよ!」

 

体の異常に耐えているといつの間にか1限目が始まろうとしていた。とりあえず1限目は耐えて終わったら保健室に行くことに決め授業を受けることにした。

 

「ではまず教科書の47ページを開いてください。今日の数学はこの公式を使っていきます。」

 

しかし授業が始まっても耐えるのに精一杯で全然先生の話が頭に入ってこない。次第に息が荒くなり手の震えは増していき汗の量も増え、頬から顎へ汗が伝い、開いたノートへポタポタと落ちていった。

 

(しっかりしろ俺!)

 

心の中で自分に言い聞かした所で治るはずはなく、かなり無理をしている所為で頭痛までしてきた。

 

(落ち着け。焦ると余計に苦しくなる。)

 

俺はゆっくりと目を閉じ、深く深呼吸をした。気休めにしかならないがほんの少しだけ楽になった。だが時間が経つと再び苦痛が返ってきた。そうなると当然俺は再び苦しむ事となる。俺の席は外の景色が見える窓側の一番後ろの席で、あまり人の目の行き渡らない所だ。平然を装っているからかも知らないが俺の様子に気付く人は1人もいない。時計を見てみると授業が終わるまであと20分ほどだ。あと少しの辛抱だ。授業が終わったらすぐに保健室へ急ごう。

 

「この式の答えを出せたらその答えをこの公式に代入します。」

 

いつものように授業が進んでいく。時計を見るとまだ5分ほどしか経っていない。いつもならあっという間に時間が進んでいくのに苦しい状況だとものすごく時間が遅く感じる。頻繁に時計を見ている所為なのだろうけど早く終わってほしいと思っている俺には時計を見ずにはいられなかった。

 

(まずい。なんだか意識が.........。)

 

気を抜いてしまうと一瞬で気を失ってしまいそうになる。ボーッとしてしまい意識を失いそうになった時にハッと我に返る。何回もそれを繰り返しやがてその間隔が短くなっていく。もう無理だと思ったその時、周りからチャイムの音が響き渡った。

 

「はい!では今日の授業はここで終わります!」

 

号令をかけやっと授業が終わった。これほど時間が長く感じたことはなかった。体はもう限界だ。

 

(早く保健室へ行かないと。)

 

俺は保健室へ急ごうと席を立った瞬間朝の時と同じ眩暈に襲われた。しかも今は体中の熱さ、頭痛、寒気もあり、気を失ってしまうのには充分な状態だった。

俺は視界が歪んだまま倒れ込み、周りから悲鳴や騒ぎの声が聞こえたのが最後に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「...........っ!!」

 

目を開けると見慣れない天井が見えた。辺りを見てみると手首の辺りには点滴が打たれており、ビーチチェアみたいな腰辺りから30°ほど傾いたベッドに寝かされていることがわかると病院にいるのだとすぐに理解した。壁にかかっている時計を見ると16時を過ぎている。学校が終わった頃かな。

 

「おや?気が付きましたか?」

 

右にある出入り口のドアの方を見ると白衣を着たこの病院の先生らしき人が入ってきた。病院に運ばれるなんて人生で初めてだったのですぐに状況を聞くことにした。

 

「あの、俺なんでここに?」

 

「あなた学校で高熱で倒れたんですよ。それですぐに病院に運ばれたんです。」

 

詳しく聞いてみると俺は1限目の授業が終わった後、俺は倒れたらしい。そこまでは記憶にあるのだがそこから先の記憶がない。先生が言うには39度を超える高熱だったらしく、すぐに救急車で搬送され点滴などを打ち今に至るみたいだ。原因は疲れから出た高熱みたいで、今はもう熱はかなり下がったみたいだが今日一日安静にしているようにとのことだそうだ。

 

「そうだ!この事みんなに言わないと。」

 

「それでしたら大丈夫ですよ。あなたの生徒手帳をお借りしてお電話をしておきましたからもうすぐ来るでしょう。」

 

「そうですか。すみません迷惑をかけてしまって」

 

「お兄ちゃん!!!」

 

突然バタンと勢いよくドアが開く音が響き渡った。見てみると今まで見たことがないくらい血相を変えたココアが入ってきた。

 

「お兄ちゃん大丈夫っ!?タカヒロさんからお兄ちゃんが倒れたって聞いて!」

 

ココアは恐怖に直面したみたいな顔をしている。それほど心配させてしまったみたいだ。俺がしっかりしないといけなかったのに申し訳ないことをしてしまったな。

 

「ああ、まだほんの少し熱はあるけど、あとは安静にしてるだけでいいって先生が言ってた。」

 

「うぅ........よかったぁ.........よかったあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

ココアは心の底から安心したみたいに大泣きをしてしまい、そのまま俺の胸に顔を埋めるように抱きついてきた。先生は空気を読んで席を外しますみたいなジェスチャーをして病室を出て、しばらくの間2人だけにしてくれた。

 

「ごめんな心配かけて。」

 

「怖かったぁ!!........お兄ちゃんが........死んじゃうって.........死んじゃうんじゃないかって.......本当に怖かったぁぁ!!」

 

ココアは泣きながらなんとか喋ろうと必死だった。俺は何も言わずに頭を撫でながら抱きしめて何も言わずに聞いていた。

 

「ごめんなさい!」

 

「なんでお前が謝るんだよ。」

 

「だって看護婦さんから.........疲れが原因だって........私.......いつもお兄ちゃんに迷惑ばっかかけて.........ごめんなさい.........ごめんなさい.........ごめんなさい!!!」

 

ココアは抱きしめながらずっとごめんなさいと言い続けている。完全に自分が原因だと思ってしまっている。

 

「お前は何も悪くないよ。体調管理をしっかりしなかった俺が悪いんだ。」

 

「でも...........でも......」

 

「じゃあココアが泣き止むまで俺を抱きしめてくれるか?1人で少し寂しかったからさ。」

 

うん..........うんっ!」

 

俺はココアを泣き止ますための傍から見たら誰でもわかる噓をつき、しばらくこのままでいることにした。俺の胸辺りからはずっと泣き声が聞こえ、静まる気配が全くない。小さい頃は泣いてる所を何度か見たことはあったがこんなに泣くココアを見たのは初めてだ。

 

そして15分ほど経つとようやく落ち着きを取り戻したようで、俺はココアを近くにあった椅子に座らせた。

 

「私、今日はお兄ちゃんのお世話する!」

 

「え?嬉しいけど今日1日安静にしてれば大丈夫だし明日には退院できるから無理しなくてもいいぞ。」

 

「いや!帰ったらお兄ちゃんが心配で不安になっちゃう!だからお願いお世話させて!」

 

ココアは俺の右手をギュッと握り俺の目を見つめてきた。不安そうな悲しそうな顔をしながら。

このまま帰してもココアを不安にさせてしまうだけだろうし、面会時間ギリギリまでいてもらおう。その方がココアも安心すると思うし。

 

「......わかった。じゃあお願いしていいか?」

 

「うん!お兄ちゃんありがとう!」

 

こうしてココアからの世話時間が始まった。ココアは少し待っててほしいと言い残して病室を出て行った。その間何もすることがない俺はココアが戻ってくるまでベッドに横になり、ぼーっと天井を見つめ待つことにした。すると携帯電話からいくつかのメールが届いた。開いて見てみるとリゼ達からのメールだった。大勢で押しかけるのも悪いということでメールを送ってくれたみたいだ。俺は1人1人に返信を終えた直後、突然電話がかかってきた。画面にはチノの名前がありすぐにチノからの電話だとわかり出ることにした。

 

「もしもし?」

 

「お兄ちゃん大丈夫ですか!?今お父さんからお兄ちゃんが学校で倒れて病院へ運ばれたって聞いたんですけど!」

 

突然の超大声の電話で耳が千切れるんじゃないかと思った。すごく耳がキーンってする。

 

「ああ、でももうだいぶ楽になったから今日1日安静にしてれば明日には退院できるから。」

 

「.....ひぐっ......よかったぁ........よかったです.......」

 

電話越しからすすり泣く声が聞こえる。心配の泣き声ではなく安心の泣き声だ。みんなには本当に申し訳ないことをしてしまった。もうこんな心配はかけないように心掛けようと思った俺はそのままチノに話を続けた。

 

「心配かけてごめんな。」

 

「もう.....大丈夫なんですか?」

 

「ああ、もう熱は下がったし今日1日安静にしてれば明日には退院できるよ。」

 

「そうですか。本当に良かったです。」

 

心底安心したような声だった。なんだか今のチノの姿が想像できる。

 

「じゃあお兄ちゃん。帰ってきたらいっぱい、いっぱい甘えさせてください!私を心配させた罰です。絶対に受けてください!」

 

なんかちょっと可愛い罰の受けさせ方だな。心配させてしまったしここは喜んで受けよう。

 

「もちろん!だからいい子で待っててな。」

 

「はいっ!」

 

電話を終えた俺は携帯電話を閉じ、再びぼーっと天井を見つめ待つことにした。それにしてももう20分くらい経つのにココアは何をしてるんだ?時計は17時を回っている。

少し心配になった俺はココアに電話をかけようとした時。

 

「お兄ちゃんお待たせ!」

 

元気よくココアが病室に入って来た。手には買ってきた物であろう物が入った袋を持っている。

 

「お帰り。遅かったな。」

 

「うん、病院にある店が急な事情で閉まってたから近くのスーパーに行ってたんだ!」

 

そう言いながらココアは買ってきたものを机に出していった。プリンやゼリー、果物、インスタントのスープがあった。買ってきたものを出し終えたココアは椅子に座りものすごく褒めて欲しそうな目をしている。

 

「ありがとなココア。」

 

「えへへ~。どういたしまして。」

 

俺は感謝を込めて頭を撫でると気持ちが伝わったのか安心した顔で微笑み返したきた。そしてココアは何故かスプーンを取り出し、買ってきたゼリーの蓋を開けゼリーを1掬いすると俺の口に差し出してきた。

 

「はいお兄ちゃん、あ~ん。」

 

「え!?いやいいよ!気持ちは嬉しいけど自分で食べれるから!」

 

「も~!さっきお世話するって言ったでしょ?それに病人は人の言うことを聞くものだよ!」

 

ココアはぷくっと頬を膨らませてきた。確かに世話を頼んだのは俺だし、それにまだほんの少し熱がある所為かココアが大きく見える。ここは素直に従おう。

 

「わかった。わかったからもう怒るな。」

 

「じゃあはい!あ~ん♪」

 

俺はゆっくりと口を開けスプーンに乗っているゼリーをパクっと食べた。恥ずかしすぎて顔を上げれない俺は俯いたままゼリーを飲み込んだ。まさかこんなことされるなんて。

 

「どう?美味しい?」

 

「...........恥ずかしすぎてわからない。」

 

「あはは!お兄ちゃんこういうの慣れてないもんね!」

 

言い返したいが紛れもない事実だから何も言えない。人に食べさせられるなんて俺の記憶の中じゃ小さい時にモカにされたのが最後だぞ。この歳になって食べさせられるなんて恥ずかしくてどうにかなりそうだ。

 

「はいお兄ちゃん、もう1回口開けて。」

 

ココアは再びスプーンでゼリーを掬い俺の口に差し出してきた。

 

「え?まさかこれ全部食べさせる気か!?」

 

「今日は私がお兄ちゃんをお世話するんだから当然だよ。プリンも果物もちゃんと食べさせてあげるからね!」

 

「...........はい。」

 

どうやら1口だけではなかったみたいだ。この後俺は全部食べ終わるまでこの繰り返しだった。プリンも掬って食べさせられ果物も食べやすいサイズに切って食べさせられ、さすがにスープは自分で飲ませてもらえたが、人生の中で1番恥ずかしい時間だった。そんな恥ずかしさに埋め尽くされた俺とは逆にココアは嬉しさに埋め尽くされていた。この病室に誰もいなかったのが幸いだったけど、ココアが満足してくれたならそれでいい。全部を食べ終えた頃にはもう19時半を過ぎており、面会時間もそろそろ終わりだ。

 

「ココア、そろそろ面会時間終わりだからもう帰りな。」

 

「うんそうだね。じゃあお兄ちゃん今日1日安静にしててね。」

 

「ああ。今日は本当にありがとな。」

 

「えへへ、どういたしまして。また明日ね!」

 

「ああ、気を付けてな。」

 

ココアはそのまま病室を出ていき、ラビットハウスへ帰って行った。

 

「.........いつも思うけど1人になると寂しくなるな。」

 

ココアが帰ったことでシーンと物音1つ無い空間となった。恥ずかしかったけど、1人になるともう少しだけいて欲しかったなと思ってしまう。ココアがいなくなると特にだ。そう思うとココアはそばにいてくれるだけで場が和むのだということを実感する。ココアからたまに、いつも勉強教えてくれて助かってると言ってくれるけど、俺が思っている以上に俺もココアに色々と助けられてるのかもしれない。

俺は明日退院したら改めてココアにお礼をしようと決め、何もすることがなくなったのでゆっくりと目を閉じ眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どくんっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「まただ.....。」

 

病院からの帰り道、私は時々起こる変なドキドキになっていた。いつからだっけ?お兄ちゃんを見たり考えたりするとこんな気持ちになるようになったのは........。

たしか、前に仕事が終わった時に熱で倒れてしまって、その時にお兄ちゃんが必死に私を看病してくれた時からだったような。

 

「何なんだろうこれ。」

 

あの日以来、こんなドキドキに悩まされる日がある。お兄ちゃんに抱きしめてくれたり、頭を撫でてくれたり、勉強を頑張って褒めてくれたり、一緒に寝てくれた時にそうなる。それにこんな気持ちとは別にヤキモチみたいな気持ちになることも時々ある。特にチノちゃんがお兄ちゃんに甘えてるところを見ると嫌な気持ちになる。もちろんチノちゃんが嫌いなわけがないけど、お兄ちゃんに甘えないで欲しい、私だけが甘えれるお兄ちゃんがいいって思う時がある。

 

「私.........どうかしてるのかな。」

 

そんなことを考え始めると私はもしかしたら良くない方へ進んでいってるんじゃないかと不安になる。だって大好きなチノちゃんがお兄ちゃんに甘えてるところを見ると嫌な気持ちになるなんて絶対におかしい。こんなことチノちゃんやお兄ちゃんに相談できないし、チヤちゃん達に相談して変に思われたら嫌だしどうしたらいいんだろう。

 

「........ううん、考えてもわからないんじゃ仕方ないよね。早く帰ろう。」

 

私は気持ちを切り替えるために頭を振り、少し早歩きで帰ることにした。本当にわかりたくなった時は遠慮せずに聞くことに決めて。

 

 

 

「........そうだ!帰ったら少しだけ勉強しようかな。そしたら明日お兄ちゃんにいっぱい褒めてもらおうっと♪」

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
コロナ騒動の所為でマスクが全然手に入らないです。



........とほほ。


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-42話- 進路を決めよう!

どうもP&Dです。
最近花粉症で鼻水やくしゃみでヤバいです。
マスクも全然手に入らないし、誰か助けて~!


「では皆さん、今から進路希望調査のプリントを配ります。」

 

4月が終わり明日からゴールデンウィークである今日、下校前のHRに担任の先生から進路希望調査を配られた。俺はもう高校3年生だ。無職で生きていくわけにもいかないし、そろそろこの先何をするのかを決めないといけない。でも今の俺には何がしたいのかがわからずにいた。

 

「提出はゴールデンウィーク後になります。それでは皆さん、良い1週間を。」

 

こうしてHRは終わり下校となった。俺は5秒間ほどいくつかの記入欄がある進路希望調査のプリントを見つめた後、鞄にしまいそれを肩にかけ、席を立った。周りの生徒たちはどこに就職するかとかここの大学に行きたいとか進路の話題で盛り上がっていた。将来が決めれない今の俺からしたらなんだか少し羨ましく思える。

俺は静かに教室のスライドドアを開け、廊下に出ると元気な声で俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「お兄ちゃーーん!」

 

「おぅ、ココアか。」

 

「お兄ちゃん一緒に帰ろう?」

 

「そうだな、帰るか。」

 

俺は校門に向かって、女子生徒しかいない廊下をココアと一緒に歩き出した。ここの学校に転校したばかりの頃、つまり去年の今頃はココアと一緒にいるとそれを初めて見た生徒たちは彼氏彼女?だのお兄ちゃんって呼んでるから兄妹なの?だのめちゃくちゃ問い詰められるという少し怖かった思い出がある。俺は幼馴染だと答えると何故かみんな残念そうな顔をしたり、期待外れの顔をした人たちがいた。俺、あの時あんな顔されるようなこと言ったっけ?事実を言ったから間違ってはないと思うけど。

そんな恐怖体験を振り返っていると、いつの間にか校門を出ていた。あとはこのまま真っ直ぐ帰るだけだな。

 

「明日からゴールデンウィークか。」

 

「そうだね。1週間も休みだしいっぱい遊ぼうね!」

 

「遊ぶのは別に構わないけど、休みの間特訓があることを忘れるなよ。」

 

「..............。」

 

ココアは後半の俺の言葉を聞くと、石像のように固まり歩みを止めてしまった。そこまで嫌か?

 

「お兄ちゃんゴールデンウィークだよ!?」

 

「ああ。」

 

「わかってる?ゴールデンウィークだよ!?」

 

「わかってるよ。遊ぶ分勉強もちゃんとしないとな。」

 

「ヤダ!ゴールデンウィークなんだからいっぱい遊びたい!」

 

「文句言うな!そんなんだからいつも小テストで赤点ばっか取るんだろ?」

 

ココアはちょっと目を離すとすぐ遊びたがる。それで勉強を疎かにして結局特訓を受ける羽目になるのがテンプレとなっている。つまりゴールデンウィーク中に特訓を受けようが遊び惚けようが結局特訓を受けることに変わりはない。ただの時間の問題だ。

 

「ヤダ!遊びたい!遊びたい遊びたい遊びたい!」

 

ブンブンと腕を振り、小学生みたいに駄々をこね始めた。やめてくれないかな.......一緒にいる俺が恥ずかしい。本当にこいつの精神年齢何歳なんだ?

 

「駄々こねるな!結局特訓することになるんだからおとなしく受けろ!」

 

「ヤダ!遊びたいもん!」

 

「そうか.........ゴールデンウィークだから今日はハンバーグにしようと思ったけど無しだな。」

 

「え?いやだよ!ハンバーグ作ってよ!」

 

ココアはハンバーグのことになると途端に大人しくなった。しかも少し青ざめている。

 

「何も頑張ってないのにご褒美をあげるなんてそんなのご褒美じゃないからな。でもチノは普段から勉強をコツコツと頑張ってるから今日はチノだけハンバーグだな。」

 

ココアにとって少し酷なことを言うとものすごく葛藤し始めた。頭を抱えながら何かぶつぶつと呟いている。ココアにとって遊びとハンバーグは天秤に乗せると同じなのか?

 

「うぅ............する!勉強する!だからハンバーグ作って!」

 

「わかった。じゃあココアが勉強するって言ったから今日は多めに作るよ。」

 

「やったーー!」

 

ココアは両腕を万歳のように広げぴょんぴょんと飛び跳ねていた。どうやら天秤に乗せた結果、ハンバーグの方に傾いたみたいだ。

 

「ほらはしゃいでないで早く帰るぞ。」

 

「うん!」

 

よほどハンバーグが嬉しかったのか、鼻歌歌いながらスキップしている。小学生の性格とココアの性格だけを並べて、どっちが小学生でしょうと聞いたら高確率で間違われるんじゃないか?

 

「ハンバーグは作るけどちゃんと勉強するんだぞ?」

 

「わかってるよ♪ハンバーグ作ってくれるんだからちゃんとするよ!」

 

ココアは張り切った顔でガッツポーズをしていた。ハンバーグで勉強してくれるのなら毎日ハンバーグといきたいところだけど栄養が偏るからそういうわけにもいかない。ココアとチノは大喜びしそうだけど。

そんなことを考えながら歩いていると。

 

「もういい!!親父とは2度と口を聞かない!!!」

 

どこからか物凄い怒鳴り声が辺りに響き渡った。女の子の声だ。しかも聞き覚えのある声。

 

「ねえお兄ちゃん、今の声って.........」

 

「ああ、リゼの声だな。」

 

俺たちは急ぎ足で怒鳴り声の発生源であるリゼの家へ向かうと門の前で困惑している黒いスーツにサングラスをつけた門番の男の人たちがいた。

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

「あなたはたしか.........お嬢のお友達の如月さんでしたね。いやぁそれがお嬢とお嬢のお父上が大喧嘩をしてしまいやしてね。それでつい先程お嬢が家を飛び出してしまったんですよ。」

 

それでさっきの怒鳴り声が響き渡ったのか。それにしてもリゼが喧嘩って何があったんだ?モデルガンを壊されたとかかな?まあ本人に聞けばわかるか。

 

「それでリゼはどこに行ったんですか?」

 

「それが行き先も言わずに出て行ってしまったんでわかんないんですよ。」

 

そう言ってスーツの人たちは頭を掻くような仕草をし、途方に暮れたような様子だった。家を飛び出したとなるとそんなに遠くへは行ってないだろう。

 

「じゃあ俺、リゼを探してきますよ。」

 

「本当ですか!ありがたい!是非お願いしやす!多分そう遠くへは行ってないと思うので。」

 

「わかりました。ココア行くぞ。」

 

俺たちはそのまま、家に帰る前にリゼを探すこととなった。しかし今のリゼが行きそうな所はなんとなくわかる。あんなに響き渡る怒鳴り声を出すほどの大喧嘩をしたんだからどこかで頭を冷やしたいと思っているはずだ。

 

「ねえお兄ちゃん、リゼちゃんどこにいるかわかるの?」

 

「ああ、なんとなく予想は着く。」

 

時刻は16時半を過ぎ、周りの景色は夕日でオレンジ色になってきた。この時間帯で広くて人が少ない場所はあそこしかない。

 

「ここって、公園?ここにいるの?」

 

「多分な。」

 

俺たちは公園に入りくまなく探し始めた。それなりに広い草原、ブランコなどを探し、そして最後に噴水のそばにあるベンチを見てみると床にボストンバッグを置き、腕を組みながら考え事をしているリゼが座っていた。

 

「よぉリゼ。」

 

「ん?お前たちか。」

 

「リゼちゃん何かあったの?リゼちゃんのお父さんと喧嘩したって聞いたよ?」

 

「..........親父と進路の話になって、それで私がやりたいことを言ったら笑われたから喧嘩した。」

 

リゼのお父さん、娘のやりたいことを笑っちゃいけませんよ。そりゃリゼも怒るよな。

 

「なあリゼ。帰ってもう一回話し合ったらどうだ?」

 

「いやだ!しばらく親父の顔は見たくない!」

 

よほど怒っているらしくそっぽ向いてしまった。困ったな。今帰してもまた喧嘩して家を飛び出すだろうし、このままにしておくわけにもいかないし。仕方ないな。

 

「うちに来るか?」

 

「え?」

 

「お兄ちゃん、リゼちゃんを連れて行くの?」

 

「ああ、このままにはしておけないし行く当て無いんだろ?タカヒロさんに話せばわかってくれるよ。」

 

「...........わかった。しばらく、お世話になります。」

 

リゼは少し考えた後、ペコリと頭を下げラビットハウスへ連れていくことにした。道中リゼは喧嘩の時を思い出してるのか少しイライラしている感じだった。俺はしばらくそっとしておくようにした。

そして10分ほど経ち、ラビットハウスに着くと俺はタカヒロさんに事情を話すと快く受け入れてくれた。

俺たちは私服に着替えるために一旦それぞれの部屋へ向かった。リゼはココアの部屋を一緒に使うみたいだ。

 

「さてと着替えるか.........。」

 

着替えようと思ったが部屋の中に1箇所だけすごい不自然なものがあった。俺のベッドにかかっている布団が妙に膨れているのだ。しかも膨らんだり縮んだりしている。俺が部屋を出る前はこんなことはなかった。誰かが入ってるとしか思えない。

 

「誰だ?」

 

バサッと布団をめくると、俺が使ってる枕を抱きしめながら縮こまるようにぐっすりと眠っている学校の制服姿のチノがいた。この姿だと帰ってきてそのまま俺の部屋で寝てしまったってところかな。なんで俺の部屋で寝てるのかは謎だけど。

 

「チノ、起きろ。今寝たら夜寝れなくなるぞ。」

 

「.......ん?あ、お兄ちゃんおかえりなさ~い。」

 

寝惚け眼で言ってきた。頭はゆらゆらと船を漕いでいる。

 

「なんでここで寝てるの?」

 

「お兄ちゃんを待ってたらいつの間にか寝ちゃってました。えへへ。」

 

つまり寝落ちというわけか。たしかにいつもより30分ほど帰るのが遅くなったからな。

 

「リョーマ入るぞ。」

 

「あれ?なんでリゼさんがいるんですか?」

 

「ああ、ちょっと色々あってな。」

 

「もしかしてお兄ちゃんに甘えにきたんですか!?ダメですよ!お兄ちゃんに甘えていいのは私だけです!」

 

チノは俺をギュッと抱きしめ子猫が威嚇するみたいにリゼを見ていた。すごい勘違いだな。リゼはちょっと苦笑いしてるし。

 

「リゼは家で喧嘩をしたらしくてな、それでしばらくここに泊まることになったんだ。」

 

「そうだったんですか。わかりました。でもリゼさん、うちに泊まるのは構いませんけどお兄ちゃんにハグしてもらったり頭を撫でてもらったりしてもらうのだけは絶対にダメですからね!」

 

「この歳になってそんなことするか!///」

 

苦笑いから一変、今度は大赤面になっていた。リゼは表情豊かだな。それに甘えていいのはチノだけって、チノって意外と独占欲が強いのかな?

 

「チノ、そろそろ夕食の準備をしないといけないから離れてくれるか?今日はハンバーグだからさ。」

 

「本当ですか!?」

 

チノはうさきが耳をぴょんとさせながら反応するような素振りを見せた。子猫の次はうさぎというわけか。しかも目をキラキラさせてるし。

 

「ああ、だからいい子で待っててくれるか?」

 

「はい!じゃあ私、勉強して待ってます!」

 

夕食がハンバーグとわかったチノはいつもより数倍張り切って自室に戻り勉強を始めた。ハンバーグとわかっただけであそこまでなれるなんてな。ハンバーグの効果は絶大だ。

 

「なあリョーマ。」

 

「ん?どうした?」

 

リゼは今のやりとりを見てなんだか少し驚いた様子だった。

 

「チノの奴、仕事の時以外はいつもあんな感じなのか?」

 

「まあそうだな。俺のハグをめぐってよくココアと喧嘩してるよ。」

 

「...........仕事の時もかなりのあれだけど、仕事以外の時はそれ以上だな。」

 

リゼは半分呆れ顔になっていた。リゼは気付いていないようだが、仕事の時も相当だぞ。事あるごとにお客さんやココアとリゼの目を盗んで後ろからギュッてされることがあるし。その度にニッコリな笑顔をされるから注意したくてもつい頭を撫でて甘やかしてしまう。

 

「さてと、待たせると悪いしそろそろ夕食の準備をするか。」

 

「あ、それなら私も手伝うよ。」

 

俺たちはキッチンに向かい、夕食の準備を進めた。時折上からスキップの足音が聞こえる。この上はココアの部屋だからココアがスキップをしているのか。よっぽどハンバーグが楽しみなんだな。

そして準備が整い、2人を呼ぶと待ちきれないといった様子で階段を駆け下りてきた。

 

「わぁハンバーグだ!」

 

「すごく美味しそうです!」

 

2人は席に座るとキラキラした目でハンバーグを見つめ、早く食べたそうにウズウズしていた。そんなに慌てなくてもハンバーグは逃げないのに。

 

「ほら冷めないうちに早く食べよう。」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

言った直後に2人はハンバーグへまっしぐらだった。一口食べると幸せに満ち溢れたような顔で満足気だった。トマトとかセロリもそのくらいの勢いで食べて欲しいんだけどな。

 

「ん〜〜!おいし〜!」

 

「やっぱりお兄ちゃんのハンバーグは最高です!」

 

「久しぶりにリョーマのハンバーグを食べたけど、前より上手くなってるな。」

 

「そうか?」

 

「ああ、久しぶりに食べた私が言うんだから間違いない。」

 

リゼが最後に俺が作ったハンバーグを食べたのはモカがこっちに来た時に、ピクニックで食べたハンバーグサンドだから多分リゼの言う通りなんだろう。それにしても本当に美味しそうに食べるなこの2人は。

 

「そういえばリゼちゃん、なんで進路の話で喧嘩になったの?」

 

ココアはリゼに喧嘩の理由を聞いてきた。どんな進路の話になったらあんな怒鳴り声が出るほどの喧嘩になるのか俺も気になっていた。

 

「親父がバカにしてきたから。」

 

「リゼは将来何になりたいんだ?」

 

「..........。」

 

 

言うのが恥ずかしいのか、頬を赤らめ少し俯いてしまった。

 

「大丈夫だよ。笑ったりなんかしないから。」

 

「そうですよリゼさん。何になるのか決めるのはリゼさんなんですから。」

 

「そうだぞ。恥ずかしがることなんてないんだぞ?」

 

「...........んせい。」

 

何かボソッと呟いていたが、全然聞き取れなかった。

 

「なんて?」

 

「.......しょ、小学校の先生になりたい........って親父に言ったら笑われた。」

 

リゼはいつもモデルガンを携帯している。しかも父親が軍人だから喋り方は女の子らしいかと言われるとそうではない。だからリゼのお父さんは向いてないと思って笑ってしまったといったところかな?それでもやっぱりお父さん、娘のやりたいことを笑っちゃダメです。

 

「ほら!お前たちまで笑う!」

 

向かいに座っているココアとチノを見ると、リゼが先生になった時のことを創造をしてるのか、にへらと微笑んでいた。俺も少し創造してみよう。小学生の子供達からリゼ先生と呼ばれ、わいわいと一緒に遊ぶリゼ。なんだか予想以上に似合いそうだな。

 

「........ふふ。」

 

「お前まで笑うなー!」

 

「いや違う違う!想像したらすごい似合ってたからさ!」

 

「え////」

 

「そうだよリゼちゃん!リゼちゃんなら立派な先生になれるよ!」

 

「そうです!ココアさんの言う通りです!」

 

「そ、そうか///」

 

さっきまでプンスカと怒ってたのに、一瞬で顔を赤くしていた。

 

「でも私こんな喋りかただし、怖がられると思うんだけど。鬼教官とか呼ばれそうだし。」

 

「そんなことないぞ。前にロゼになってた時のお前はすごく女の子らしか「んん?」..........なんでもないです。」

 

めっちゃ怖い。顔は笑顔だけど殺意に似たオーラが滲み出ている。そんな顔しないでくれよ。そんな顔したらそれこそ鬼教官って呼ばれるぞ。幸いココアとチノには聞こえていないみたいだからセーフだ。

 

「まあとにかくだ。リゼは教師に似合ってるから頑張ってみなよ。」

 

「あ、ありがとう。ちなみにリョーマは何を目指すんだ?」

 

「..........俺は。」

 

言葉が出なくなるのは無理もない。まだ決めれていないからだ。

 

「俺は、まだ決まってない。」

 

「そうなのか?」

 

「私、もうてっきり決まってるのかと思ってた。」

 

「私も思ってました。」

 

3人とも少し驚いた様子だった。大抵の人は2年生の時に大体の目星をつけるもんな。驚かれるのも無理はない。

 

「じゃあお兄ちゃん、お兄ちゃんも学校の先生になってみたら?すごくわかりやすいし向いてると思うよ?」

 

「バリスタとかどうですか?初めて会った時、全部当ててましたしそっちも向いてると思いますよ?」

 

「ん~、そうだな。頭に入れておくよ。」

 

ココアとチノが進んで候補を出してくれた。正直あまりピンと来なかったが、進む道はたくさんある。候補として置いておこう。

 

「まあゆっくり考えていけばいいよ。あまり考えこまないようにな。」

 

「そうだな。ありがとう。」

 

進路の話は一旦終わり夕食を続けた。リゼからのハンバーグ評価が好評でなんとおかわりをしてきた。それを見たココアとチノは皿にあったハンバーグを慌てて食べて少しでも多く食べようとおかわりをして必死だった。そして残り1つになった時ココアとチノがハンバーグをめぐって取り合いの喧嘩になってしまった。そこで俺は急いで2つに切って半分ずつにして事なきを得た。その光景を見ていたリゼは俺の肩に手を置き『お前も大変だな』と言われ同情された。本当に大変だよ。たまには仲良く譲り合ってほしいよ。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃーん!お兄ちゃんのお母さんから電話だよー!」

 

就寝前、部屋のベッドで寝転がっていると1階からココアの声が聞こえてきた。母さんから電話をかけてくるなんて珍しいな。

俺は起き上がり、1階の電話まで向かった。

 

「母さんから?」

 

「うん、お兄ちゃんに代わってって。」

 

俺はココアから受話器を受け取り電話を代わった。

 

「もしもし?」

 

「リョーマ?少しの間大丈夫?」

 

「うん大丈夫だけど、どうかしたの?」

 

「ほら、あなたもう3年生でしょ?進路の方は大丈夫かなって思って。」

 

「........。」

 

こういうのは親が一番心配するよな。あまり心配かけたくなかったから今は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

「まだ、決めれてない。」

 

「そうだったの。でも焦ることないわ。ゆっくり考えていきなさい。リョーマはしっかりしてるから大丈夫よ!それにきっかけって案外そばにあるものだからね。」

 

てっきり早く決めなさいって言われるんじゃないかと思ったが、信頼してくれてるようだ。

 

「うん、わかった。」

 

「ええ、頑張りなさい。あ!それとリョーマ。」

 

「何?」

 

「そろそろ好きな女の子できた?」

 

「はぁ!?」

 

進路のことかと思ったら全然違うことを聞かれた。まだできてないけど、普通電話でいきなりそんなこと聞くか?

 

「できてないよ!ていうか俺には恋とかそういうの全然わかんないから!」

 

「あらそう?まあいつか好きな人ができたら教えてね!」

 

「....っ////教えるわけないだろ!もう切るよ!」

 

俺は顔を真っ赤にして電話を切った。なんで寝る前にこんな思いをしないといけないんだ?俺何か悪いことしたか?

 

「はぁ~。もう寝よう。」

 

俺は少し重くなった足で部屋に戻りベッドへ横になった。だけど母さんの所為で寝付くのにいつもより少し時間がかかってしまった。

相変わらず母さんは恋愛ごとには興味津々だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リョーマ君、進路決めれてなかったの?」

 

数日後、俺は進路の相談をするために甘兎に来てきた。ちょうどシャロもいたので今は2人に相談に乗ってもらっている。

 

「焦る必要はないですよ。焦れば焦るほど考え込んでしまいますから。」

 

「うん。わかってはいるんだけど、どうしても考えてしまって。」

 

「シャロちゃんの言う通りよ。悩み過ぎは良くないわ。はい、お茶淹れたからちょっと休憩しましょ?」

 

「ありがとう。」

 

チヤが淹れてくれたお茶を飲んだ。かなり熱かったが今の俺にはちょうどいい熱さだった。

 

「ココアちゃんたちは何か言ってたの?」

 

「ココアからは教師で、チノからはバリスタはどうかって聞かれたよ。いいなとは思ったけどあまりピンとは来なかったよ。」

 

「そうだったんですか。........あ!でしたら先輩、料理人とかどうですか?先輩の料理すごく美味しいですし!」

 

「料理人か......。」

 

たしかに候補の中では一番良いかもしれない。やり甲斐があるしみんなから美味しいって言ってくれるし。でも何かが足りない。

 

「う~ん、すごくいいと思うけど、この職業だって思える決定的な何かが足りないかな。ごめんなせっかく考えてくれたのに。」

 

「いいんですよ。気にしないでください。最後に決めるには先輩ですから。」

 

「そういえばシャロちゃん、前にモカさんがいた時にみんなで食べたサンドイッチがすごく美味しかったって私にだけ内緒で言ってたわね。もしかしてそれで料理人って言ったのかしら?」

 

「な!なんで今それを言うのよーーーー!」

 

顔を真っ赤にしたシャロは逃げるチヤをポカポカと叩きながら追い回していた。俺は少し冷めてしまったお茶を手に取り、2人のやり取りを見ながら飲んだ。

2分ほどかけて全部飲んだ後、2人に俺を言って店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

そしてゴールデンウィーク最終日の早朝、結局俺は進路を決めれずにいた。教師、料理人、バリスタ。みんなから色んな候補を挙げてくれたがいまいちピンとこなかった。提出期限明日なのにどうしたらいいんだ。白紙のまま出すわけにもいかないし。

 

「はぁ~........。」

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

「ん?ああ」

 

リビングのテーブルにある椅子に座り、頬杖をつきながら進路のことを考えていると階段を下りる音が聞こえ、振り向くと今日は仕事も休みなのに珍しくココアが朝早く起きていた。

 

「珍しく今日は早いな。」

 

「うん。お兄ちゃん最近元気無いし、昨日なんか特にそうだったからちょっと心配になっちゃって。」

 

「..........ごめんな心配かけて。」

 

「ゆっくりと考えていこうよ。焦ってもいいことないよ?」

 

「そうだな.........ありがとう。ちょっと気分転換に朝食のパン作ってくるよ。」

 

「じゃあ出来上がったらちょっとだけ食べていい!?」

 

めっちゃ目をキラキラさせてきた。今日のはお客さん用のじゃないし慰めてくれたお礼に食べさせてあげよう。

 

「いいよ。じゃあ出来上がるまで待っててくれ。」

 

「うん!」

 

そう言ってココアはテーブルの椅子に座り、足を振り子のようにゆらゆらと揺らし、わくわくした顔だった。そして俺は厨房へ行きパンの材料を用意し、生地を作り始めた。こうしている時は普段なら何かを考える意識がなくなるから、かなり落ち着く。でも今はどうしても進路のことが頭にちらつき、今は忘れようと頭を振っても離れてくれない。その度に俺は溜息をついた。

 

「これじゃ気分転換じゃないな。」

 

俺は独り言を呟き、出来上がった生地をロールパン状に均等に分け、オーブンに入れた。焼き時間の間、することが何も無いとますます進路のことを考えてしまう。本当にどうしたらいいんだろう。

 

「お兄ちゃん。」

 

入口の方を見ると、リビングにいたココアが入って来た。

 

「パンもう焼ける?あ!焼いたとこなんだね。」

 

「ああ、あと少しかな。」

 

「じゃあお兄ちゃん出来上がるまでお話しよう?」

 

1人でいたら、頭の中が進路のことばかりになりそうだからな。今はココアと話をして落ち着こう。

 

「リゼはまだ寝てるのか?」

 

「うん、昨日はリゼちゃんとちょっと夜更かししちゃって。」

 

「ちょっとって.....いつもそうだろ。」

 

「まあそうだね。」

 

「夜更かしするなっていつも言ってるのに。」

 

「リゼちゃんが泊まってるんだから特別だよ。」

 

「はぁ~。そうか。」

 

こうやって何気ない会話で時間が過ぎていく。張り詰めた頭の中がほぐれていき、だんだん心が落ち着いていった。やっぱり思い悩んだ時は1人でいるんじゃなく誰かと何気ない話をした方がいいな。

 

「そういえば今日起きたらまたチノが夜中に俺が寝ている布団の中に潜り込んできてたよ。」

 

「チノちゃんいいな〜。私も入っていい?」

 

「やめろ。あれ結構びっくりするんだよ。」

 

前に同じことされた時にちゃんと注意したのに、絶対寝惚けて覚えてないなあれは。チノが起きたらまたちゃんと注意しておかないと。

 

こうしてココアと数十分間話しているとオーブンから焼きあがったアラーム音が鳴った。中からパンを取り出し厨房のテーブルに置くと、ココアが早く食べたそうにパンを見つめていた。

 

「お兄ちゃん早く食べたい!」

 

「はいはい、そう慌てんなって。ほら。」

 

「えへへ!」

 

俺はロールパンを1つ渡すとすごく嬉しそうに受け取った。ココアは好きな食べ物を前にすると小学生みたいに喜ぶんだよな。

そしてココアはパクっとロールパンを一口食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄ちゃんが作ったパン、いつ食べてもすごく美味しい!

 

 

 

 

 

「っ!!!.......。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

........何だ......今の。

 

 

ココアがパンを食べた時の笑顔なんて見慣れてるはずなのにすごく輝いてて、心が突き動かされるようないつまでも見ていたくなるような、そんな感覚だった。

 

「.........なあ、ココア。」

 

「ん?」

 

「パン......美味しいか?」

 

「うん!!!」

 

「っ!!!.......そ、そうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(パン職人.....か。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭の中に出てきたのはそれだった。パンを食べさせてココアを笑顔にさせたい。この笑顔をずっと見ていたい。不思議とそう思えた。目指す理由は単純だが明確な目的を見つけ出せた俺にとっては十分だった。そのおかげでゴールデンウィークの間、霞がかっていた心の中が一気に晴れていった。

 

「.....悪くないな........お前の笑顔を見るためなら。」

 

「ん?お兄ちゃんどうしたの?」

 

「あ、いやなんでもない。ありがとうココア。」

 

「ほぇ?」

 

俺は1週間悩み続けた答えを見つけ出させてくれた感謝を込めてココアを抱きしめた。本人は何のことだか全然わかっていなかったが、これで俺は進む道が決まった。

 

「ココア、他に食べたいパンあるか?」

 

「え?いいの?」

 

「ああ!今日はココアが食べたいパンを全部作ってあげるよ!」

 

「ほんと!?じゃあクロワッサン食べたい!あとクリームパンとチョコパンとスコーン!あ!あとロールパン追加!」

 

「よしわかった!ちょっと待ってろ!」

 

俺は清々しい気持ちでパン作りを続けた。しばらくしてリゼとチノも起きてきて、ココアが注文したパンを作りみんなで朝ごはんを食べた。その後みんなにパン職人を目指すことを話すと、進路が決まってよかったと安心してくれた。ちなみになぜそれを目指すのかは言ってない。ていうか言えるわけがない。言ったら恥ずかしくてどうにかなりそうだ。

 

 

 

そしてその日の夜、俺は母さんに進路が決まったことを伝えるために電話をかけた。

 

「母さん?」

 

「リョーマどうしたの?もしかして進路決まった?」

 

「うん。俺、パン職人を目指すよ。」

 

「ふふ。やっぱりパン職人だったわね。」

 

「え?母さんわかってたの?」

 

「ええ。まだあなたが小さい頃、ココアちゃんに出会って1年経ったくらいだったかしら?あの頃、絶対にココアを喜ばせるんだって言って張り切ってパンを作ってたのよ?覚えてない?」

 

「そうだったっけ?」

 

母さんが言うにはそんな頃があったみたいだけど俺自身は全然覚えてない。もしかしたらあの時ココアの笑顔を見てパン職人を目指そうと思えたのは、俺が覚えてないだけでその頃の記憶が頭の奥底にあったからなのかもしれない。もしそうなら昔の俺に感謝しないとな。

 

「ところでリョーマ。なんでパン職人を目指そうと思ったの?」

 

「.......え?」

 

まずい!一番聞かれたくないことを聞かれた。

 

「いやぁ、まあ、色々と。」

 

「え~?何か隠してるでしょ?」

 

「いや、隠してなんかないよ。」

 

「絶対隠してるでしょ?」

 

なんか今日の母さんはグイグイ来る。これじゃ口を滑らしてしまいそうだ。

 

「もしかして.......誰かさんの笑顔が見たいから、とか?」

 

ヤバい!バレるバレる!

 

「いや!.......別にココアのためとかじゃなくて!」

 

「あら?私1度もココアちゃんのためとか聞いてないわよ?」

 

「.........あ。」

 

やってしまった!地雷踏んじゃった!

 

「ち、違う違う!そうじゃなくて......えっと.....えと!」

 

「あらあら~~?どうしたのそんなに慌てちゃって?やっぱりココアちゃんのためなのね!」

 

「あ.....あの.......えっと........と、とにかく!俺はパン職人を目指すから!それじゃ!」

 

 

 

ガチャッ!

 

 

 

......バレた?絶対バレたよな!?

なんでよりによって母さんにバレるんだ!?絶対に今日父さんと話のネタにされるよ!めっちゃ恥ずかしい!穴があったら入りたいってこんな気持ちなのか!

 

「お兄ちゃんどうしたの?」

 

俺は恥ずかしさのあまり電話の前で両手と両膝を床につけ、項垂れているとココアが不思議そうな目で俺を見ていた。

 

「.....いや、なんでもない。」

 

俺は気にすることはない、バレるのが早くなっただけなのだと、今だけポジティブな気持ちに無理やり切り替えて自室に戻った。そして部屋に誰もいないことを確認すると俺は気絶するみたいな倒れ方でベッドにうつ伏せで倒れこんだ。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

 

俺はかなり長めの溜息をついた。理由は簡単。母さんにパン職人を目指す理由がバレたからだ。いつかは知られるんだろうけどやっぱり恥ずかしい。特にココアには絶対に言わないで欲しい。母さんは周りの人に言いふらすような野暮な人じゃないから大丈夫だと思うけど。

 

「.......それにしてもあの笑顔を見た時、すごくドキッとしたな。」

 

俺は仰向けに寝がえり独り言を呟いた。いつも見てきたはずなのに、不思議なことがあるものだ。

俺は5分ほど何も考えずに天井を見つめ頭の中をリセットし落ち着いた後、机の椅子に座り鞄の中から進路希望調査のプリントを取り出し机に置いた。

 

「よし、書くか!」

 

俺は意気込んでペンを握った。俺は明確な意思があるのだという意味を込めて、強めの筆圧で記入した。進む道が決まってなんだか爽快な気分だ。母さんの言った通りだ。きっかけってこんなに近くにあったんだな。

俺は書き終えたプリントを鞄にしまい部屋を出た。

 

「ココアはまだ起きてるよな。」

 

いつも夜更かししてるらしいから恐らくまだ起きてるだろうと思い、ココアの部屋へ向かった。

 

「ココア、起きてるか?」

 

コンコンとノックをし、しばらく待っているとパジャマ姿のココアが出てきた。

 

「お兄ちゃんどうかした?」

 

「えっと、その..........今日は、一緒に寝るか?」

 

「え、いいの?」

 

「ああ、チノは今日1人で寝るみたいだから今日は俺1人なんだ。」

 

「ほんとに!?やったー!寝る寝る!一緒に寝る!」

 

ここ最近の俺はチノとばっかり一緒に寝てたからな。久しぶりだからよほど嬉しいんだろう。ココアのおかげで進む道が見えたわけだから今日はできるだけココアが喜ぶことをしてあげよう。

 

「さあさあ!部屋に入って!」

 

「え?俺の部屋で寝るんじゃないのか?」

 

「いいのいいの!今日は私の部屋で一緒に寝よ?」

 

半ば強引にココアは俺の手を引き部屋へ連れて行かれた。そういえばこっちに来てからココアの部屋に入るのって結構久しぶりだったな。部屋に入ると正面奥には机の椅子が、その手前にはスタンドミラーがあり右真横を見るとクローゼット、右奥にはピンク色の布団がかかったベッド、そのベッドの横にタンスがあり目覚まし時計とうさぎの人形が3,4匹置いてある。悪く言えば少し質素でよく言えばスッキリとした部屋だ。

 

「意外と片付いてるんだな。」

 

「意外とって。どんな部屋想像してたの?」

 

「服とか勉強道具で散らかってるのかと思ってた。」

 

「そんな散らかせ方しないよ!」

 

「いや小学生の頃のお前の部屋、すごく散らかってたぞ。」

 

「今はもう高校生だよ!昔みたいに散らかさないよ!」

 

顔を真っ赤にしたココアはポカポカと俺の胸を叩いていた。そうだよな。ココアはもう高校2年生なんだよな。小学生の頃のココアは今のチノより遥かに甘えん坊だったからな。登下校や遊ぶ時はいつも一緒だったし、寝る時だって一緒じゃないと眠れないと駄々をこねられてその時は俺がココアの家にお邪魔して一緒に寝ることが多かった。でも1回だけココアがうちに来て一緒に寝ることがあった。けれどそれは夜中に勝手に家を抜け出して、俺の部屋の窓からこっそり侵入して、爆睡中の俺の布団の中に入って一夜を過ごしたのだ。そして翌日、ココアはおばさんにめちゃくちゃ怒られて大泣きしてたけど、今となってはいい思い出だ。

 

「ごめんごめん。ココアはもう高校生なんだもんな。」

 

「そうだよ!もう大人なんだから!」

 

ココアが胸を張って言ってきた。

 

「.........そうか。なら今から少し勉強するか。」

 

「.........え?」

 

「だってもう大人なんだろ?だったら今から少しだけ勉強しよう。知ってるか?勉強は寝る前と朝起きた時にするのが良いんだぞ。寝る前は漢字とか英単語とかの暗記系、朝起きた時は数学とか現代文とか古文とかの考える系だ。大人なんだからこれくらい楽勝だろ?」

 

「あの、えっと............。」

 

さっきまで胸張って言ってたのに急に縮こまり始めた。やっぱり高校生になってもココアはココアだな。

 

「冗談だよ。でももう高校2年生なんだから授業も難しくなってくる。近いうちにこの方法で特訓していくからな。」

 

「は、はーい.......。」

 

なんだか半分固まってるけど大丈夫か?この方法は2学期が始まってからでいい。今日はもう夜遅いから寝よう。睡眠時間を削ってまで勉強するのは良くないからな。

 

「ほら、夜更かしは良くないから早く寝るぞ。」

 

「あ、うん!」

 

気持ちを切り替えて、俺たちは布団に入った。ココアがベッドから落ちてしまわないように壁際に寝かせるようにした。右隣にはココアがいる。俺たちは互いが向き合うように横になった。

 

「やっぱりお兄ちゃんと寝ると落ち着くよ。」

 

「そんなに嬉しいのか?」

 

「うん!お兄ちゃんもうちょっと近寄ってもいい?」

 

「ああ、いいよ。」

 

俺は少しスペースを空けると、ココアは俺の胸に顔を埋めるように抱き着いてきた。

 

「ねえお兄ちゃん、頭も撫でて。」

 

「これでいいか?」

 

俺もココアを抱きしめて、そっと頭を撫でた。蕩けた目でとても幸せそうな顔だ。

 

「はぁ~すごく幸せ~。」

 

「それは良かった。」

 

「........ん.........ふぁ〜......。」

 

いつも夜更かししてるのに、今日はすごく眠そうだ。そういえば今日は朝早くから起きてたからな。そのせいかもしれない。それに頭を撫でれば撫でるほど、どんどん眠そうになっていってる。

 

「もう寝ようか。」

 

「.......いや........お話、したい.......。」

 

「明日から学校なんだから、夜更かしは良くないぞ。」

 

「............。」

 

「ココア?」

 

どうやら眠ったようだ。起きてる時はあんなに元気な顔なのに、寝てる時の顔は安心しきったような顔だ。見てると俺も安心してくる。

 

「本当にありがとうココア。」

 

俺はそっとココアの頭に手を添えて目を閉じた。ココアがいてくれなかったら今もずっと悩み続けていただろう。パン職人を目指す理由を聞いたら『そんなことで?』って言う人もいるだろう。でも誰に何を言われようと変えるつもりはない。それが俺が目指す理由だ。それに目標があった方がやり甲斐があるしな。

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
前に友達から緊急事態宣言で暇すぎると電話がかかってきました。
7都道府県に住んでる方々、すごく暇な方がいるかと思いますが、安全第一で過ごしてください。


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-43話- 妹3人を同時に相手をするのは正直大変!

どうもP&Dです。
暑い.......暑すぎる!
この前暑過ぎてTシャツに汗を吸い過ぎてビショビショでした。
めっちゃ恥ずかしかったです。



6月になり、もうすぐ梅雨に入ろうとしていたある日の朝、俺は少し蒸し暑くて目を覚ました。今日は学校から帰ってきたらラビットハウスの仕事がある。俺は今日も1日頑張ろうと意気込み起き上がろうとした時、布団の中に違和感があった。

この感覚は間違いない、またチノが夜中に潜り込んできたな。チノは最近自分でも甘え過ぎなのを少し自覚し始めて、だけど何日も甘えるのを我慢すると前みたいなことが起きるということで寝る時は1人で寝るのを始めて潜り込んでこなくなって安心してたのにまたびっくりさせられるのか。

 

「チノ、前に言っただろ?どうしても一緒に寝たくなったら言って.............え?」

 

布団をめくると、てっきりチノが潜り込んでいたのかと思っていたがそうじゃなかった。そこには布団の中で俺を抱きしめながら幸せそうに眠っていたココアがいたのだ。これはまた別の意味で驚かされた。

 

「おいココア起きろ!なんでお前まで潜り込んで来てんだ!?」

 

「ん~......ふぁ〜、お兄ちゃんおはよ~。」

 

「はいはいおはよう。で、なんでここにいる?」

 

「前にチノちゃんが夜中に潜り込んだって聞いたから、どんな感じかなって思って。すっごく温かかったよ!」

 

チノと全く同じ感想だ。ひょっとしてココアもこれから夜中に潜り込んでくるのか?そんなことになったら俺は毎日驚きの朝を迎えないといけなくなるぞ。

 

「頼むからもう夜中に潜り込んで来るなよ?」

 

「わかってるよ。今日だけだから。」

 

どうやらココアはわかってくれてるようでよかった。チノは言っても潜り込んで来てたからな。もうココアより甘えん坊になってる気がする。

 

「ココア、もうすぐ学校に行かないとだから早く部屋に戻って着替えてこい。」

 

「え~?もうちょっとだけギュってさせて!」

 

そう言ってココアは俺の胸に抱きついてきた。まあ朝食まで5分くらいあるし、少しだけなら大丈夫だろう。

俺はそのままココアと抱きしめ返し、少しの間このままでいた。

 

「えへへ///こうしてると幸せだな~。」

 

「ハグくらいいつもしてるだろ?」

 

「うん。でも起きてすぐにハグはあまりしないから、目覚めの後のハグは本当に最高だよ!」

 

ココアはさらに抱きつく力を強め頬を俺の胸に擦り寄せてきた。どうやらハグスイッチが入っちゃったみたいだ。ココアには悪いけどそろそろ着替えないと。時計を見ると疾うに5分を過ぎている。

 

「ココア、本当にそろそろ着替えないと。」

 

「むぅ~。じゃあ学校から帰ってきたらいっぱいハグさせてね?」

 

「ああ、わかった。早く着替えてきな。」

 

「うん!」

 

そのままココアは急ぎ足で部屋を出て行った。少し名残惜しそうな顔をしていたが仕方がない。ハグの時間が長くて遅刻したなんて先生に言ったら呆られながら怒られるのは目に見えている。

 

「さてと俺も着替えるか。」

 

俺はベッドから立ち上がり学校の制服に着替えた。朝食に少し遅れているからチノを待たせるのは悪いと思い部屋を出てココアと一緒に食卓へ急いだ。

 

「おはようチノ。」

 

「チノちゃんおはよー!」

 

「あ、おはようございます!」

 

食卓へ向かうとちょこんと椅子に座り大人しく待っていてくれたチノが俺を見ると席を立ち勢いよく抱きついてきた。いつもならここでココアがずるいとか言ってチノと喧嘩するんだけど、朝起きてハグができたからなのか特に何も言ってこなかった。

 

「それより今日は遅かったですね。何かあったんですか?」

 

「え!?う、うん。私が起きるの遅かったから.......。」

 

「ん?...........なんだか怪しいですね。お兄ちゃん本当ですか?」

 

ココアの態度を見て怪しんだのか、今度は俺に聞いてきた。ハグの時間が長くて遅くなったなんて言ったら絶対にココアと喧嘩になる。なんとしても嘘を突き通さないと。

 

「う、うん。思ったより起きるの遅くてな。起こすのにちょっと時間かかったんだ。」

 

「本当ですか?ひょっとしていっぱいハグしてたから遅くなったんじゃ.........。」

 

こういう時だけ勘が鋭いな。ジト目でめちゃくちゃ疑ってるぞ。心の中まで見透かされそうだ。ココアがバレそうですごく冷や汗をかいてるし、気のせいかもしれないけど俺も冷や汗かいてる気がする。

 

「ほ、本当だって。ココア全然起きなかったんだから。」

 

「..........わかりました。そういう事にしておきます。」

 

まだ少し疑ってる様子だったけど納得してくれたようだ。少しヒヤヒヤしたけど事無きを得た俺は朝食を済ませ学校へ向かったが、通学路での分かれ道の際チノがお兄ちゃん分を補給とのことで思いっきり俺を抱きしめてきた。そしてそれを見たココアはいつも不機嫌になるからお昼にチヤも一緒に3人で昼食を食べた後、ハグしてあげるのが日課になっている。甘えられるのは嫌じゃないけど、甘えられすぎるのはちょっと疲れるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!一緒に帰ろう!」

 

放課後、授業を終えた俺は教室を出るといつものようにココアが駆けつけてきた。チヤも一緒だ。

 

「ココアちゃん、そんなに走ったら危ないわよ。」

 

「だって早くお兄ちゃんと帰りたいんだもん♪」

 

そう言ってココアはご機嫌のようだ。何かいいことでもあったのかな?

 

「何かあったのか?」

 

「それがねリョーマ君、さっきお昼の時にベンチでお弁当を食べてた私たちを見たクラスメイトの子がいたみたいでね。その子がココアちゃんとリョーマ君が幼馴染なのにいつ見ても本当の兄妹みたいで羨ましいなって。しかもハグもしてたからあんな兄が欲しいなとも言ってたのよ。ココアちゃん、見られてたのがわかって少し恥ずかしがってたけどそれ以上に嬉しがってたわ。」

 

「そ、そうか///」

 

なんだかものすごく恥ずかしくなってきた。ていうか見られてたのか。この学校は俺以外女子だからそういうところを見られるのはまだ抵抗がある。そうなった原因は多分前にリゼが怪我した時にお姫様抱っこで保健室へ向かった時に周りの女子たちに歓喜の叫びをされたからだと思う。

 

「お兄ちゃんどうしたの?顔赤いよ?」

 

「い、いや。何でもない///ほら、早く帰るぞ!」

 

俺はココアに悟られないようにそそくさと廊下を歩きだした。事情を知っているチヤはクスクスと笑ってるし、頼むからココアには言わないでくれよ。

 

「そうだ!お兄ちゃん!」

 

「ん?」

 

「これ見て!」

 

そう言ってココアはカバンから1枚のプリントを俺に渡してきた。見てみると今日の小テストのプリントだったが内容を見た瞬間驚いた。国語の小テストなのに点数が60点だった。いつも20点代とか30点代なのに。

 

「珍しいな!お前が文系で60点なんて!」

 

「えへへ///最近頑張ってるからね!」

 

ココアは胸を張って自信たっぷりの様子だ。まあ最近いつもと違って妙に勉強頑張ってたからな。何かきっかけがあったんだろう。

 

「そういうわけでお兄ちゃん!ハグさせて!」

 

ココアは両腕を広げ、ハグを受け止める体勢を取った。こんなとこでやったら周りの女子生徒達の注目の的になってしまう。

 

「ハグは帰ってからでいいか?ここでやったら色々と恥ずかしいから。」

 

「え?あ......!そ、そうだね///」

 

冷静になったのか、少し顔を赤くしていた。ココアは誰もいない所やリゼやチヤ達の前では遠慮なく甘えてくるけどこういう風に周りに大勢の人たちがいる前ではさすがのココアでも恥ずかしがる。その点に関してはチノは全然恥ずかしがらないけど。その分甘えん坊になったってことかな?

 

「ほら、早く帰るぞ。」

 

「うん!」

 

俺たちはそのまま校門を出た。チノは今頃家に着いた頃だろう。今日は帰ったらラビットハウスの仕事があるから早く帰らないと。

 

「ねえお兄ちゃん。明日と明後日の土日なんだけどチヤちゃんの家で勉強会してもいいかな?」

 

「え?勉強会?そうなのかチヤ?」

 

「ええ。ほら、もうすぐ試験があるでしょ?それでココアちゃん赤点を回避するために頑張ってるのよ。」

 

どうやら次の期末試験に向けての勉強会みたいだ。それでココアは最近勉強を頑張ってたのか。前の試験の時が赤点ギリギリでなんとか進級できたからそれが効いたんだろう。

 

「わかった、いいよ。最近のココアは偉いな。」

 

「えへへ///」

 

頭を撫でてあげると嬉しそうに微笑んだ。こうやって日頃から頑張ってくれると俺も褒め甲斐があるんだけどな。それにしてもココアが自分から進んで勉強をするなんて、前の試験のこともあるんだろうけど根本的な何かが変わったような。ココアが最近勉強するようになったのは前に俺が高熱で倒れた日くらいの時期だ。あの頃に何かきっかけがあったんだろうか。考えても全然答えが出なかった。

 

「それでねお兄ちゃん、1つお願いがあるんだけど。」

 

「ん?何かあるのか?」

 

「お兄ちゃんも勉強会に来てくれない?」

 

「え?俺も?」

 

「うん、お兄ちゃん勉強教えるの上手だから!」

 

勉強を見てあげれるんなら見てあげたいけど仕事はチノとリゼだけで大丈夫だろうか?一旦帰って聞いてみるとするか。

 

「俺はいいけど仕事もあるからチノ達に聞いてから決めるよ。」

 

「そうだね。もしダメだったら私とチヤちゃんで勉強会するね。」

 

「ああ」

 

俺たちはそのまま歩き続けた。道中ココアとチヤはどの教科を勉強しようか話し合って盛り上がって会話が絶えなかった。いつも勉強を嫌がってたココアが前向きに取り組むなんて世の中何が起こるかわからないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。」

 

チヤとは甘兎庵で別れ、俺とココアはラビットハウスへ帰った。そしてドアを開けたが誰もいなかった。まだ店は開いてないから当然なんだけど。いつもならここでチノがお帰りって言って俺に飛び込んで来るのに。

 

「チノはまだ帰ってきてないのかな?」

 

「そうかもしれないね。」

 

もしかしたらマヤとメグと一緒にどこか寄り道をしているのかもしれない。いつも仕事で遊ぶことなんてなかっただろうから少しくらい遅れたって俺は構わない。

 

「じゃあお兄ちゃん、帰ってきたからハグさせて!」

 

そう言ってココアはすごくウキウキした顔になった。さっき帰ってからって言ったし約束は守るか。

 

「いいよ。おいで。」

 

「お兄ちゃん!」

 

ココアは勢いよくダイブするみたいに抱きついてきた。誰もおらず窓から夕日が差し込んできてとても静かだ。チヤと別れてからの帰り道、ハグしたいけど周りの目もあって出来ずに少しそわそわした様子だったからな。それくらい我慢してたんだろう。まあ俺も人前で抱きつかれるのはちょっと恥ずかしいからこうして大勢の人がいないところでのハグの方が俺は好きだ。でも俺たちが今ハグをしてるこの場所は店のホールだからこんなとこでしてて大丈夫なのかとは思うけど誰もいないしいいか。

 

「ココア、そろそろ仕事だから着替えてきてくれるか?」

 

「うん!じゃあ先に行ってるね!」

 

大満足したココアは軽い足取りで部屋へ向かった。俺も自分の部屋へ向かいドアを開け部屋に入ると俺のベッドの布団が妙に膨れていた。どこかで見たなこれ。デジャブか?

 

「.........もしかして。」

 

俺は布団をめくると、学校の制服を着たままのチノが寝ていた。やっぱりか。あどけない寝顔で幸せそうに眠っている。ていうか前もそうだったけどなんで俺の部屋で寝るんだ?

 

「はぁ〜まったく。お腹出したままだと風邪引くぞ。」

 

俺はお腹を出してしまっている制服を元に戻してあげ布団をかけた。仕事までまだ20分くらいあるしもう少しだけ寝かせてあげよう。こんなに幸せそうな顔で寝てるから起こすのが可哀そうだ。

 

「本当に。幸せそうに寝ちゃって。」

 

俺は眠っているチノの頬を突いてみた。すごく柔らくてマシュマロみたいだ。なんだかすごく癖になる。

 

「ん〜.......。」

 

「おっと起こしたか?」

 

「.........えへへ///」

 

起こしたかと思ったが微笑んだまま眠ってしまった。とても楽しい夢でも見てるんだろうか。俺は頬を突くのをやめ、頭を撫でた。

初めて出会った頃のチノはどこか距離があって言いたいことがあってもなかなか言ってくれず、打ち解けあえずに少し心を閉ざしているところがあった。原因は母親を早くに亡くし、おじいさんは今はティッピーに乗り移ってるけど1度は亡くなってるわけで自分の心を開ける相手がいなかったからだろう。でもチノの口から俺の妹になりたいと勇気を出して言ってきたクリスマスのあの日から心に溜め込んでいた思いが一気に爆発したかのように甘えん坊になった。やりたいことや、やってほしいことを遠慮なく言ってくれるようになり心を開いてくれてすごく嬉しかった。たまに苦労することもあるけど嫌だと思ったことはない。むしろチノには心を閉ざしていた分いっぱい甘えて欲しいと俺は思っている。

 

「.........ん?........お兄ちゃん?」

 

「あ、起きちゃったか。」

 

「お兄ちゃんお帰りなさいです!」

 

頭を撫でているとチノがうっすらと目を開き起きてしまったが、俺だとわかると満面の笑みで抱きついてきた。俺はチノを抱きしめ返しながら頭を撫で続けた。

 

「ただいま。何かいい夢でも見てたのか?」

 

「はい!お兄ちゃんと一緒に寝る夢を見ました!」

 

「そうか。じゃあ今日は一緒に寝るか?」

 

「いいんですか!?一緒に寝たいです!」

 

ここ数日チノは1人で寝てたから一緒に寝れるとわかってとても嬉しそうだ。いつも思うけど本当に笑顔が増えたな。

 

「わかった、じゃあもうすぐ仕事だから服着替えてくれるか?」

 

「はい!」

 

チノはそのままご機嫌な様子で自室へ戻って行った。初めて会った頃の面影はもう全くないけど、俺は今のチノの方が大好きだ。距離を置かれる方だとなんだか晴れたような気分がしないし。

 

「よし、じゃあ俺もそろそろ着替えるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう。あの子(チノ)を支えてくれて。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

突然背後から聞き覚えのない女性の声がした。慌てて振り向いたがそこには誰もおらず、クローゼットの中やベッドの下を調べたがやはり誰もいなかった。チノはさっき出たからこの部屋には俺しかいないはずなのに。

 

「気のせい.........かな?」

 

俺は少し気になったが仕事の時間が迫っていたので急いで仕事の制服に着替えそのまま1階へ下り、仕事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、準備ができた俺とココアはチヤが待っている甘兎庵へ向かおうとしていた。週末はマヤとメグが手伝いに来てくれるみたいでリゼからの許可は出たが、もう1人は許可してくれなかった。そしてそのもう1人は俺にしがみついて全然離れようとしてくれない。

 

「........なあチノ?」

 

「......いやです。」

 

「まだ何も言ってないけど。」

 

「嫌です!お兄ちゃんは行っちゃダメです!」

 

見ての通りチノが俺から離れてくれない。なんだかこのシーン俺がココアの実家へ行く時と似てるな。

 

「今日と明日はマヤとメグが来るから大丈夫だろ?それに明日には帰ってくるからさ、頑張って待とう?な?」

 

「嫌です!お兄ちゃんがいないと嫌なんです!」

 

チノは頑なに離れようとしない。ココアはどうすればいいのかわからずあわあわとしている。かくいう俺もそうだが。

 

「なあチノ、リョーマはココアとチヤの勉強を見るために行くんだからさ、2日間くらい我慢したらどうだ?」

 

「無理です!リゼさんはお兄ちゃんがいないからそんなこと言えるんです!」

 

「そ、それを言われると......。」

 

リゼは返す言葉が見当たらず、俺たちと同じあわあわとし始めた。このままじゃチノは駄々をこねる一方だし、チヤとの約束の時間も迫ってきている。

 

「ココア悪い、勉強会俺だけ昼からでもいいか?」

 

「うん、私は大丈夫だよ。チヤちゃんにも連絡しておくね。」

 

「ごめんな。ほらチノ、お昼までいてあげるからもうわがまま言わない。」

 

「ずっといてくれないんですか?」

 

「チヤの所で勉強会するって約束したからちゃんと守らないとダメだろ?だからお昼まで。いいか?」

 

「........わかりました。じゃあお昼までいてください!」

 

なんとかチノは納得してくれたみたいだ。けどココアとチヤに申し訳ないことしてしまったな。後でパンを作って詫びを入れよう。

 

「じゃあお兄ちゃん先に行ってるね!」

 

「ああ、行ってらっしゃい。」

 

ココアはそのままラビットハウスを出て甘兎庵へ向かった。今は9時だから3時間だけここにいるか。

 

「じゃあチノもう仕事始まるから離れてくれるか?」

 

「はい!お兄ちゃんありがとうございます!」

 

チノは満面の笑みでお礼を言い、そのままテーブルを拭き始めた。自分勝手なわがままを言われたけどちゃんとお礼を言ってくれただけでも良しとするか。

 

「なあリョーマ?」

 

「ん?」

 

「いつも思うけど大変だな。」

 

「まあそうだな。苦労することはあるけど充実してるから嫌だとは思わないよ。」

 

「そっか。何かあったら言ってくれよ。手伝うからさ。」

 

「ありがとな。」

 

「お兄ちゃんテーブル全部拭きました!」

 

リゼと話しているとテーブルを全部拭き終えたチノが駆け寄ってきた。ものすごい褒めて欲しそうにしている。

 

「よしよし、よく頑張ったな!偉いぞ!」

 

「えへへ//」

 

チノは俺に頭を撫でてもらっていることにすごく堪能していた。最近のチノはどんなことでも褒めてもらうためなら何でもするようになった。さっきのテーブル拭きもそうだし、夕食の手伝いや食器洗い、勉強に掃除、挙げだしきれないほどだ。とてもいい子だけどちょっとの事で駄々をこねられるのが玉に瑕だ。

 

「そういえばチノ、マヤとメグはいつ来るの?」

 

「もうすぐ来ると思います。」

 

マヤのメグに会うのは久しぶりだな。最後に会ったのはたしか4月の進級祝いのお茶会の時だったからな。

 

「やっほー!」

 

「お世話になりま~す!」

 

2ヶ月ほど前の事を考えていると入り口から元気よくマヤとメグが入って来た。2人とも元気なのは相変わらずだ。

 

「いらっしゃい。久しぶり。」

 

「あ!兄貴だー!」

 

「ほんとだ!お兄さ~ん!」

 

「え!?ちょ、ちょっと!」

 

2人は俺を見つけると一直線に駆け寄り、軽くジャンプしながら抱き締めてきた。1人だけなら未だしも2人同時だったせいでバランスが保てず尻餅をついて倒れてしまった。

 

「2人とも勢い強すぎ。」

 

「兄貴久しぶり!」

 

「お兄さんの匂いだ~!えへへ///」

 

2人とも俺に抱き着くのに夢中で全然聞こえてない。横にいたリゼとチノを見てみるとリゼは苦笑いをしながら相変わらずだなといった表情をしていたが、問題のチノは服の裾をギュッと掴みながら頬を膨らませプルプルと震えていた。.........まずいな。早く離れないとまた文句を言ってくるに違いない。

 

「そ、そろそろ離れてくれるか?一応今仕事中だからさ。」

 

「おーそうだった!私たち手伝いに来たぞ!」

 

「よろしくねお兄さん!」

 

「ああ、2人ともありがとう。」

 

頭を撫でようかと思ったがそれをしたらチノがプンスカと怒ると思いお礼を言うだけにした。そしてリゼとチノは2人を着替えさせるために一旦更衣室へと向かった。その間俺はティッピーと2人?1人と1匹?になった。

 

「........リョーマよ。」

 

「はい?」

 

「すまんのぅ、いつもチノの面倒を見てもらって。」

 

おじいさんはチノの世話のことで申し訳なさを感じてるみたいだ。俺は面倒くさいとか思ったことはないけどやっぱり祖父として何か思うことはあるようだ。

 

「いいんですよ。こういうのは慣れてますし俺も楽しいですから。」

 

「じゃが最近のチノはお前さんにベッタリじゃろ?それも日に日にエスカレートしておる。あまり迷惑をかけないようにと時々注意はしてるんじゃが、お前さんと一緒にいたいと言って聞かなくてのぅ。」

 

「おじいさんがティッピーになる前はチノはおじいちゃん子だったんですよね?でもおじいさんが亡くなってティッピーに乗り移ったから、きっと甘える相手がいなくなって寂しかったんですよ。だから今のチノを見てると昔のチノに戻ったんじゃないかって思うんですよ。」

 

「確かに以前のチノに戻ってはいるが駄々をこねるような子ではなかったんじゃよ。まあ兄と呼べる存在ができてよほど嬉しかったんじゃろうな。」

 

「そうだと俺も嬉しいです。」

 

「これからも迷惑かけるかもしれんがチノのこと見ててやってくれ。」

 

「はい!」

 

おじいさんは生前の時を思い出してるのか、向こうを向きながら目を閉じ何も言わなくなった。おじいさんはきっと自分が亡くなってからチノの事がすごく心配だったんだろう。自我があるとはいえ体は乗り移ったティッピーであるわけで話し相手をしたり見守ることしかできなかったんだと思う。でも最近チノが以前のチノに戻ったおかげでおじいさんに安心の笑顔が増えてるのを仕事中によく見かけるようになった。もしかしたらおじいさんがティッピーに乗り移ったのはチノが心配だったが故なのかもしれないな。

 

「兄貴おまたせ!」

 

おじいさんと話し終えて暫くするとリゼの制服にマヤとココアの制服に着替えたメグが戻ってきた。リゼは女性用のバーの制服に着替えていた。でも2人とも身長が低いせいで服が少しブカブカだ。

 

「お兄さんまず何するの?」

 

「俺はいつもパン作りから始まるんだ。他のみんなは店番をするようになってる。」

 

「へぇ〜そうなんだ〜!じゃあお兄さん、私お兄さんと一緒にパン作りたい!」

 

「メグだけずるいぞ!私も作りたい!」

 

「2人だけ抜け駆けなんてずるいです!私も作りたいです!」

 

メグの発言に乗じてマヤが参加し、さらにそれを見たチノも参加してきた。1度に3人も来られるとホールが人数不足になってしまう。ここは悪いけどあまり頻繁に来れないマヤとメグのためにチノにはここにいてもらおう。

 

「チノ、悪いけどここはマヤとメグに譲ってくれるか?2人ともあまりうちに来れないし、チノはまた今度一緒に作ってあげるから。」

 

「い、いやです!お兄ちゃんと今一緒に作りたいです!」

 

「それだとリゼ1人になっちゃうから。」

 

「いやです!一緒に作ってくれないと泣きますよ!」

 

.........なにその脅し方。心の中で思わずちょっと笑っちゃったぞ。でもよく見てみると目尻に涙を溜めている。..........本当に泣かないよな?

 

「リョーマ、ここは私1人で大丈夫だからチノも連れて行ってやってくれ。」

 

「え?でも1人で大丈夫なのか?」

 

「ああ、このままだとチノは駄々こねる一方だからな。私の事は大丈夫だから一緒にパン作ってやってくれ。」

 

俺が困っていたところにリゼが助け舟を出してくれた。俺はリゼの言葉に甘えることにし、もし1人じゃ手に負えなくなったらすぐに呼びに来るように言い残し、3人をキッチンへ連れていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、じゃあ早速作っていくぞ。」

 

「「「はい!」」」

 

パン作りの準備が整い、始めるための号令をかけると何故か3人とも敬礼をしながら返事をしていた。なんだかリゼみたいだ。

俺は3人に1つずつ指示を出していきパン作りが始まった。チノは1度作ったことがあったから感覚が覚えていたのかそれほど苦戦はしなかった。だがマヤとメグは初めてということもあり、生地をこねるのに一苦労な状態だった。

 

「うぅ〜。腕が疲れるよ〜。」

 

「こねるのって結構疲れるんだな。」

 

2人とも腕をさすり少し苦戦しているみたいだ。確かに俺も初めてパンを作った時は腕が筋肉痛になったものだ。

 

「コツは手のひらを使って押すようにこねるんだ。」

 

俺がアドバイスを教えると、すぐさまその通りにし始めた。するとさっきまでキツそうだった顔がだんだん穏やかになってきた。

 

「わぁ〜すごい楽!」

 

「兄貴ってすごいな!」

 

「それじゃ3人ともそのままこねてて。俺も作るよ。」

 

お客さん用の生地が完成した俺は次にチヤの所へ持っていく用のパンを作ろうと思い冷蔵庫から挽肉を取ろうとした。ちなみにハンバーグサンドを作るつもりだ。しかしその様子をチノに見られてしまい目を輝かせながら俺のところに駆け寄って来た。

 

「お兄ちゃん!ハンバーグサンド作るんですか!?」

 

「え?うん、チヤ達に迷惑掛けちゃったからな。お詫びだよ。」

 

「私も食べたいです!お兄ちゃん私の分も作ってください!」

 

「え!?ハンバーグサンド!?お兄さん私も食べた~い!」

 

「本当に作るの!?私の分も!」

 

........まずいな。こうなったチノは俺が首を縦に振るまで続くからな。ここで断ったら駄々をこねてくるには目に見えてるし、マヤとメグもすごい期待に満ちた顔してるし作ってあげるか。

 

「わ、わかった。作るからちょっと落ち着け。」

 

「「「やったー!」」」

 

3人はハイタッチをしながら喜び合っていた。こんなに喜んでくれるんだし美味しいハンバーグサンドを作ってあげよう。

 

「じゃあこのままパン作っていくぞ。」

 

そのまま俺たちは生地をこね続けた。完成した生地を見てみるとチノのは一度経験しているからそれなりの弾力のある生地だった。マヤとメグのは初めてということもありチノの生地ほどの弾力は無かったが器用さがあったようである程度の弾力があった。

 

「兄貴、あとはこれを焼くだけ?」

 

「うん、あとはあそこのオーブンに入れるだけ。それじゃあ生地オーブンの中に入れてきてくれるか?」

 

俺たちは生地が乗ったトレイをオーブンの中に入れ電源を入れた。チノ達はオーブンの窓から焼かれていくパン生地を見るのに釘付けだった。そういえばみんなでパン作りした時もチノがオーブンに釘付けだったっけ。

俺は待っている間にハンバーグを作るために冷蔵庫からハンバーグの材料を取り出しキッチンに並べた。ボウルに牛乳、卵、塩コショウを入れていく。

 

(ココア、ちゃんと勉強してるかな?)

 

ふとココアの事が頭に出てきた。ココアはいつも20分ほど勉強するとすぐバテてしまう。でも高校2年生になったからなのか何故か最近は以前とは違って少し頑張るようになっていた。甘兎に行ったら少し聞いてみるか。

 

「(そういえばさっきから3人ともかなり静かだな)........うおぉ!?」

 

よほどオーブンに夢中になっているのか、気になって振り返ってみるとオーブンの所には誰もいなく、3人とも俺がハンバーグを作っているところを間近で凝視していた。心臓に悪いって。

 

「び、びっくりした.....。オーブン見てたんじゃないのか?」

 

「オーブンよりお兄ちゃんが作ってるハンバーグの方が気になります!」

 

3人ともハンバーグに興味津々といった様子だ。ちょっとやりにくいけどこのまま作るか。

俺はそのままボウルにお麩を入れた。

 

「あれ?ねえお兄さん、何でお麩入れたの?パン粉は入れないの?」

 

「ん?ああ、パン粉よりお麩を入れた方が肉汁をしっかりと閉じ込めてくれて美味しくなるんだよ。」

 

「へぇ〜。やっぱり兄貴ってすごいな!」

 

3人とも感心の目をしながら俺がハンバーグを作っているところを見続けていた。俺はそのまま挽肉を入れこね始めた。その後左右の手でキャッチボールをするみたいに交互に打ち付け空気を抜いていく。

 

「兄貴!もうできる?」

 

「あとは焼くだけだからもう少しだな。」

 

3人とも待ちきれないような様子だ。もしここでココアもいたらどうなってたかな?めちゃくちゃせがまれたりして。

俺はそんなことを思いながら挽肉を焼き始めた。

 

「リョーマ悪い!お客さんが多くなってきた。少しの間チノ達借りていいか?」

 

キッチンの出入り口の方から少し焦っているリゼが入っていた。時計を見るともうすぐ10時半を過ぎているしお客さんが多くなってくる時間帯だ。そろそろチノ達を仕事場へ戻そう。

 

「3人とも、そろそろリゼの所に行ってくれるか?」

 

「「「はーい!」」」

 

チノ達は元気な返事でリゼの所へ向かっていった。

ハンバーグを焼いているとちょうどオーブンのアラームが鳴った。俺はオーブンから焼きあがったパンを取り出しテーブルに置いた。そしてコンロの所に戻りハンバーグをひっくり返して再び焼き始める。

 

「なあリョーマ。」

 

さっきチノ達を連れて行ったリゼがまたキッチンに入って来た。

 

「どうした?」

 

「お客さんからパンの注文が入ってな。もう完成してるか?」

 

「ああ、ちょうど今出来上がったよ。」

 

どうやらパンの事で来たみたいだ。

 

「これか。」

 

「出来上がったばかりだから火傷しないような。」

 

「ああ。」

 

俺はパンをリゼに任せハンバーグを焼き続けたがさっきからリゼが難しい顔をしながらパンを見つめたまま持って行こうとしない。

 

「どうした?」

 

「い、いや!何でもない.......。」

 

そんな事言われても何でもないようには見えない。さっきからパンを見つめては目を逸らし、見つめては目を逸らしを繰り返して何かに葛藤してるように見える。

 

 

 

 

 

 

ぐぅ~~~。

 

 

 

 

「ん?」

 

「っ!!!........。」

 

突然リゼのお腹から音が鳴りだした。そしてリゼは顔を真っ赤にしてお腹を押さえた。

.........もしかして。

 

「リゼ、お前お腹空いてるのか?」

 

「ち、違う!別にお腹が空いてなんか.......!」

 

 

 

 

ぐぅ~~~。

 

 

 

 

「//////.......。」

 

「........お腹空いてるんだろ?ほら。」

 

俺は出来立てのパンを1つ取りリゼに手渡した。

 

「だ、だから別にお腹は.........。」

 

「本当に空いてないんだったらお腹なんか鳴らないだろ?別に誰にも言わないから食べな。」

 

リゼは少し躊躇っていたが空腹とパンの香りには抗えなかったようで大人しく受け取っていた。恥ずかしそうに、そしてとても美味しそうにパンを食べるリゼ。やっぱりお腹減ってたんだな。

そしてパンを食べ終えたリゼは少し恥ずかしそうにしていたがどこか満足そうな顔だった。

 

「その......ありがとう。」

 

「いいよ。それによくココアもパンを取りに来るときよく1つちょうだいってせがんでくるし。」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、断ったらすぐ駄々こねるけどな。」

 

「..........いつも取りに来るのが遅いなと思ってたけど、道理でココアがパンを取りに行ってから戻ってくるまで時間がかかるわけだ。」

 

どうやらリゼの疑問が解けたみたいだ。パンを取りに行くだけで遅くなるんだったらそう思ってしまうのも当然か。

 

「それじゃこのパン持って行くぞ。」

 

「ああ、頼んだ。」

 

パンを食べて満足したリゼは出来上がったパンを持って仕事場へ向かった。ちょうどハンバーグが焼き上がったのを確認した俺はフライパンから取り出しパンに挟めるサイズに切っていった。そしてそれを焼き上がったサンドイッチ用のパンに挟み箱の中に詰めた。

 

「よし、できた!」

 

無事に完成することができそのまま風呂敷に包んだ。時計を見るともう11時を過ぎていた。そろそろ甘兎に行く時間だ。

俺はギリギリの時間まで仕事をすることにした。

 

 

 

 

 

 

12時になり、休憩時間になった。俺はそれと同時に甘兎に行く準備をし今はみんなに見送ってもらってる所だ。

 

「兄貴!ハンバーグサンドありがとう!」

 

「美味しく食べるねお兄さん!」

 

お兄ちゃんが作ってくれたハンバーグサンド.......えへへ!

 

3人ともすごく嬉しそうだ。作った甲斐がある。

 

「リョーマ、私までハンバーグサンドもらってよかったのか?」

 

「ああ、1人だけ違うお昼ご飯なんて淋しいだろ?」

 

「それもそうだな。ありがたくいただくよ。」

 

「お兄ちゃん最後にハグさせてください!」

 

リザと話してると横からチノが両腕を広げながらハグをねだってきた。とても淋しそうな顔をしている。2日間会えないからその分いっぱいハグしてあげよう。

 

「おいで!」

 

「はい!」

 

その瞬間、笑顔で抱きしめてきた。いつもより力が強く感じる。多分これは気のせいじゃないだろう。

 

「兄貴私も!」

 

「お兄さん私もさせて!」

 

チノのハグに乗じてマヤとメグも抱きついてきた。ちょっと苦しいけどこれくらい全然平気だ。

ハグを充分に堪能したチノ達は満足そうな笑顔になっていた。

 

「さてそろそろ行くか。リゼ、悪いけど3人のことお願いな。」

 

「ああ、任せてくれ。」

 

「それじゃ行ってきます!」

 

「「「「いってらっしゃい!」」」」

 

俺は4人に見送られながら甘兎庵へ足を進めた。

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
もう9月ですね。あと少しで涼しくなる。
もう少しの辛抱!



PS
誤字などがあったら報告お願いします。


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-44話-甘兎庵の弟子になる!?

どうもP&Dです。
今回の話なんですけど前半はいつも通りの流れで、後半は殺伐とした感じでしかもココアのイメージを壊してしまう恐れがあるので、ちょっとそういうの無理だなって方はブラウザバックをしたほうがいいと思います。


12時を過ぎラビットハウスから出発して約10分後、甘兎庵に到着できた。チヤからは裏口からくるように言われている。ココアはちゃんと勉強してるだろうか?まあ行けばわかるだろう。

俺はチヤに予め指示されていた甘兎庵の裏手に周った。裏口がある建物と建物の間の道は陽は入っておらず、6月ということもあり少し蒸し暑かった俺の体を少しだけ涼ませてくれた。俺はそのまま道なりに進むと裏口である引き戸を見つけ、隣にあったチャイムを鳴らした。

 

「ん?なんだい?」

 

引き戸が開くと中からおばあさんが出てきた。薄茶色の髪をしていて黄緑色の和服の上に白いエプロンを着ている。恐らくこの人がチヤのおばあさんなのだろう。

 

「初めまして如月リョーマといいます。今日はココアとチヤの勉強会でお邪魔しに来ました。」

 

「なんだい?あんたうちに弟子入りに来たのかい?だったらそうと早く言いな。それになんで裏口から来るんだい?弟子入りに来たのなら普通正面の入り口から来るだろうに。」

 

「..........え?」

 

俺の聞き間違いか?弟子入り?どこをどう聞き間違えたらそうなるんだ?

 

俺は状況が飲み込めず、動くことができなかった。

 

「ほら、早くこっちに来な。ビシバシ鍛えるからね。」

 

「あの!俺弟子入りに来たんじゃなくて勉強会にきたんですけど......!」

 

「何グズグズしてんだい。早く来な。」

 

「あのですから。」

 

「早く来なって言ってるのが聞こえないのかい!!!」

 

「は、はい!」

 

ものすごい圧だ。おばあさんはそのまま俺に背を向けたまま奥へ入って行ったが後ろ姿だけでも気圧されそうになる。俺はおばあさんに従うことしかできずそのまま付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「着替えたね。なかなか似合ってるじゃないかい。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

言われるがまま制服に着替えさせられ台所へ連れてこられた。七分袖で藍色(あいいろ)っぽい和風の制服にそこから黒色の前掛けを着せられたがいかにも和食料理人っぽい服装だ。

 

「それじゃ早速始めるよ。言っておくけど手抜いたり、ましてや間違えてコーヒーなんか入れたらただじゃおかないからね。」

 

「は、はい。.........あの、それよりおばあさん。俺勉強会に........」

 

「いちいち口答えするんじゃないよ!!!それにおばあさんってなんだい!あたしのことは師匠って呼びな!!!」

 

「は、はい!すみません!」

 

こ、怖すぎる。この人には絶対に勝てない。直感的にそう思ってしまう。というか多分そうだろう。今はこの人に従おう。

 

「ほら、突っ立ってないで早くこの小豆を茹でな。まずは餡子から作るよ。」

 

「はい!」

 

俺はおばあさんから小豆が入ったボウルを受け取り、お湯が入った鍋に移した。

 

「そのまま暫く茹でてな。小豆が出ないようにこまめに水を入れて灰汁(あく)を取っていくのを忘れるんじゃないよ。あたしゃ少し席を外すからさぼったりするんじゃないよ。」

 

「わかりました!」

 

おばあさんはそう言い残しどこかへ行ってしまった。

 

「.......なんでこうなったんだろう。」

 

元々ココアたちの勉強会に来たのにこんなことになるとは想像もしてなかった。このままじゃさらに勉強会に遅れてしまう。

俺は申し訳ない思いで鍋に水を足しながら灰汁を取っていく。周りは無音で小豆を茹でるコンロの火の音と沸騰の音だけが響き渡る。ココアたちにメールを送りたいけど制服に着替えた時にケータイも置いてきてしまったから連絡を取ろうにも取れない。

 

「そろそろいい頃かね。」

 

暫くしてるとおばあさんが暖簾(のれん)をくぐって台所に入って来た。

 

「おばあさ.........コホン、師匠もういいんですか?」

 

危ない危ない、怒鳴られるところだった。

 

「...........んん、もういいだろう。次はザルに移してヘラで潰していきな。」

 

「はい!」

 

俺はおばあさんに言われた通りに取り掛かっていく。その後もおばあさんの指示通りに今度は布きんでこしとりさらし餡を完成させた。その次は鍋にさらし餡と水と砂糖を入れ強火で火をかけ混ぜていく。

 

「いいかい?ここが一番大事だ。焦がさないようにしっかりと鍋底から混ぜていきな。」

 

「はい!」

 

俺は細心の注意を払いながらしっかりと混ぜていく。隣でおばあさんが見てるからなんだかすごく緊張する。程よい硬さになると今度は塩を加えてしっかりと混ぜて火を止めた。すごく暑い。餡子(あんこ)作るだけでこんなに大変なんだな。パン作りとは違う大変さだ。

 

「よし、それじゃそれを冷蔵庫に入れて冷やしてきな。」

 

「わかりました!」

 

俺は餡子を冷蔵庫に入れ、タオルで汗を拭っておばあさんの所に戻った。

 

「次はの生地を作っていくよ。休んでる暇なんかないよ。まずはボウルに砂糖と水を混ぜな。」

 

俺は指示通りに砂糖と水を入れ丁寧に混ぜていく。混ぜ終わったら次は小麦粉を入れヘラで混ぜていき、しばらく寝かせた後、次は手でこねていく。

 

「.........ん?あんた、随分慣れた手付きしてるじゃないかい。何かやってるのかい?」

 

「パン作りを頑張ってるんです。こねるのは得意なんですよ。」

 

「ふーん、そうかい。」

 

良い感じに生地をこね終わると、ちょうど餡子が完成したみたいで冷蔵庫から取り出しその餡子を生地に包んでいった。おばあさんから見たらどうかわからないけど我ながらいい感じにできたと思う。

 

「そしたらそれを蒸し器に入れな。それでしばらく待ったら完成さ。」

 

俺は包み終わった生地を蒸し器に入れ、強火で蒸した。10分後蓋を開けるとふっくらとした饅頭(まんじゅう)が出来上がっていた。とても美味しそうだ。

 

「ふん、いい感じじゃないか。あとはそのまま置いて冷ましておきな。」

 

「はい!」

 

俺は蒸し器から饅頭を取り出しテーブルに置いて冷ますことにした。無事に終えるとおばあさんが椅子を出してくれたのでお互い向き合うように座った。

 

「どうだった?初めて饅頭を作ってみて。」

 

「はい、思ってたよりだいぶ大変でした。特に餡子づくりが。」

 

「ふん、饅頭は生地も大事だけど餡子の味が物を言うからね。餡子づくりを怠ればその分味が落ちるもんさ。」

 

「確かにそうですね。」

 

俺はおばあさんと一緒に話をして少し打ち解け合った。最初はとても怖そうに見えたけどそんなことはなく本当はとても優しくほんの少しだけ不器用なおばあさんということがわかった。

 

「おばあちゃん!ココアちゃんとお饅頭を食べ..........リョーマ君!?」

 

「よおチヤ。」

 

「ん?なんだいチヤ、この弟子と知り合いかい?」

 

「弟子!?リョーマ君どうなってるの?」

 

「えっと、それがな........。」

 

驚いているチヤに事の経緯を説明した。弟子入りと間違えられたこと、ケータイを置いてしまって連絡ができなかったこと等を説明するとチヤはなるほどと納得したみたいだ。

 

「そうだったの。おばあちゃんが弟子なんて言うからびっくりしちゃったわ。」

 

「ん?なんだいあんた、うちに弟子入りに来たんじゃないのかい?」

 

「はい、勉強会に来たって何度も言ってたんですけどね。」

 

「そうだったのかい、そいつはすまなかったね。.........ん?」

 

おばあさんは何か疑問に思ったような表情になり俺に近寄り俺の目をジッと見始めた。

 

「あの........何ですか?」

 

「.........あんた、この近くの路地裏にあるいろんな国の土産物が売ってる店行ったことあるかい?」

 

多分前にチノのお土産を買い忘れてしまった時にお世話になったおばあさんの店の事だろう。あの時は本当にお世話になった。

 

「はい、前に1度行ったことあります。」

 

「ひょっとしてその時、妹のために水饅頭を貰わなかったかい?」

 

「え?どうして知ってるんですか?」

 

「.........そうかい。あんたがあのババァが言ってたガキんちょかい。確かに優しい目をしてる。」

 

そういえばお土産屋のおばあさんとチヤのおばあさんはとても仲が良いって確か前にチヤが言ってたな。

 

「この前うちにやって来てね、あんたの事話してたよ。妹のために頑張る所がクソ兄貴によく似てるって言ってたよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「まあそのクソ兄貴はもうお空の上だけどね。」

 

「あ.......そう、ですか。」

 

そうだったのか。だからあの時おばあさんは少し悲しそうな顔をしていたのか。俺を亡くなった兄と重ねて見てしまったというわけか。知らなかったとはいえおばあさんには辛い思いをさせてしまったかな。

 

「もう辛気臭い話はやめだ。それよりそろそろ饅頭が冷めた頃だね。弟子入りじゃなかったとはいえ一応審査させてもらうよ。」

 

「はい、どうぞ。」

 

おばあさんは饅頭を1つ手に取り、感触や色味をじっくりと確かめ、パクっと饅頭を1口食べゆっくりと咀嚼して審査していた。弟子入りじゃないのに何故か緊張してしまう。

 

「..........あんた、リョーマっていったかね?」

 

「はい、如月リョーマです。」

 

「あんた、うちで働きな。」

 

「「え!?」」

 

俺は突然の事に驚いたが、横にいたチヤも驚いていた。自分の祖母が突然こんなこと言い出したから驚くのも無理ないか。

 

「お、おばあちゃん!どうしたの急に!?」

 

「リョーマの作った饅頭は生地はしっかりと柔らかさがあって噛み応えも良かった。パン作りをしてるだけの事はある。餡子の方はまだまだだけど、初めてにしては上出来だったからね。磨けば輝くだろうさ。」

 

褒めてくれたのはすごく嬉しかったけど、俺はここで働けって言われた驚きの方が上だった。

 

「すみません、お気持ちは嬉しいんですけど俺はもう別の店で働いてるので。」

 

「そうかい。ちなみにどこの店だい?」

 

「ラビットハウスです。コーヒーの喫茶店です。」

 

「なんだい、あのクソジジィの店かい。」

 

「え?おじいさんを知ってるんですか?」

 

「ふん!あんなぶきっちょ面で業突く張りで図々しいジジィなんて知らないよ!」

 

その割にはけっこう知ってるような口ぶりだけど突っ込まないでおこう。この様子だとライバル関係だったのだろうか?今度おじいさんに聞いてみようかな。もし本当にライバル関係なら今のおばあさんと同じ態度を取りそうだけど。

 

「まあ、気が変わったらいつでも来な。それより今日はチヤ達の勉強会に来たんだろ?早く行きな。あとチヤ、今日はリョーマが作った饅頭持って行きな。」

 

「わかったわ!」

 

「それじゃお邪魔しますね。」

 

俺はそのままチヤに案内されて2階に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......まったくあのクソジジィ良い子に巡り合えたもんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変だったわねリョーマ君。」

 

「まあな。でもいい体験ができたよ。」

 

服を着替えた俺はチヤと話しながら2階の廊下を歩いていた。甘兎に来たら弟子入りとかうちで働けと言われたりとか驚きの連続だったけど、今振り返って思うと和菓子を作る大変さを知ることが出来たし和菓子作りも楽しかったと思えた。

 

「それにおばあちゃんも楽しそうだったし。」

 

「え?そうなのか?」

 

「ええ、おばあちゃん和菓子作る時はあまりしゃべらないの。2階でココアちゃんと勉強してた時、下からおばあちゃんの和菓子の作り方を教えてる話し声が聞こえて誰と話してるんだろうと思ってたけど、声のトーンがいつもより楽しそうな声だったの。まさか教えてる相手がリョーマ君だったとは思わなかったけどね。」

 

俺は全然わからなかったけどチヤはおばあさんと一緒に暮らしてるから些細な違いでもすぐに分かるんだろう。

 

「リョーマ君ここよ。」

 

チヤと話ながら歩いてると目的地の部屋に着いた。(ふすま)を開けるとそこにはちゃぶ台の上にノートと教科書を広げ、滅多に見ない真剣な顔で正座をしながら勉強をしてるココアの姿がいた。一言も喋らず、ただ黙々と教科書を見てテストに出てきそうなところは蛍光ペンで印をつけてそこをノートに書いて頑張って覚えようしている。いつものココアからは想像し難い姿だ。真剣に勉強しているせいか襖が開いたことに全然気づいていないみたいだ。

そしてチヤはココアに聞こえないように囁き声で話してきた。

 

「ココアちゃんすごく頑張ってるでしょ?」

 

「そうだな。いつも勉強嫌がるのに」

 

「最近のココアちゃん、学校の授業でもこんな感じなの。今までは授業中よくうたた寝することがあったんだけど、最近はそんなことないし小テストも良い点取ってるから私もびっくりしてるの。」

 

「そうなのか...........ちょっと待て。ココア今までよくうたた寝してたのか?」

 

「........あ!」

 

チヤは慌てて口を押えた。多分ココアから秘密にしててとか言われてたんだろうな。普通に聞き逃しそうになったぞ。

 

「いいよ、今のは聞かなかったことにする。頑張ってるんだったら無理に注意しない方が良いだろうし。」

 

「ありがとうリョーマ君。」

 

ここで注意してそれで落ち込んでしまったら折角頑張ってるココアに悪いし、それが原因でやる気を無くさせてしまったら元も子もないからな。野暮なことはやめておこう。そう心に留めた俺はそのまま部屋に入った。

 

「ココア、遅れてごめんな。」

 

「..........ん?あ!もーーお兄ちゃん遅いよ!もうお昼の2時だよ!何してたの!」

 

真剣だった顔は一瞬で無くなり、頬を膨らませてプンスカと怒っていた。

 

「ごめん、ちょっとチヤのおばあさんと饅頭作っててな。」

 

俺はさっきチヤに説明した通りにココアにも事の経緯を話した。最初は頬を膨らましたまま聞いていたが、だんだん納得してくれたようで許してくれた。

 

「へぇ~、お兄ちゃんお饅頭作ってたんだ。じゃあチヤちゃんが持ってるのはお兄ちゃんが作ったお饅頭なの?」

 

「ええそうよ。お饅頭あるし少し休憩にしましょ?おばあちゃん、初めてにしては上出来って言ってたからきっとおいしいわ!」

 

「ほんと!?やったー!お饅頭♪お饅頭♪」

 

ココアはすごい上機嫌でちゃぶ台にあった教科書やノートを片付け始めた。その無邪気な姿に俺とチヤは互いに笑みをこぼし、ちゃぶ台の前に座った。

 

「いただきまーす!」

 

ココアは元気な声でいただきますと言って饅頭を美味しそうに食べ始めた。少し味の心配をしてたけどおばあさんが悪くないって言ってたから大丈夫だろう。

 

「ん~!もちもちしてる!」

 

「まあ!生地がしっかりしてるわね!」

 

2人とも好評みたいだ。初めて作ったものを食べてもらうってなんだかドキドキするけどココア達の口に合ったようでよかった。

 

「そうだ、あとこれ。遅れたお詫びにハンバーグサンドを作ってきたよ。」

 

「ハンバーグサンド!?やったー!!!お兄ちゃん早く早く!」

 

饅頭の時以上にすごく喜んでいる。俺の体を揺すってもう待ちきれない様子だ。俺はハンバーグサンドが入った箱を取り出し、ちゃぶ台の上で蓋を開けてココアに見せると目を輝かせてものすごく凝視していた。

 

「お饅頭も食べれてハンバーグサンドも食べれて、今日はすごくいい日だね!」

 

「そうね!」

 

ココアは有無を言わせずハンバーグサンドをパクパクと食べ始めた。饅頭の時より食べる速度がものすごく速いしチヤもニコニコしながら美味しそうに食べている。もうちょっと多く作った方が良かったか?

ココアとチヤはそのままハンバーグサンドを食べ、間に饅頭も食べてすっかり夢中になっていた。もうほとんど残っていない。まだ1つも食べてないのに。

俺は饅頭とハンバーグサンドを1つずつ取って残りはココアとチヤに食べさせることにした。

 

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

「お粗末様。」

 

「はぁ~美味しかった!」

 

食べ終えたココアはそのまま俺の膝を枕にしながら横になりすっかりリラックス状態だ。俺はココアの頭にそっと手を添えるとふにゃっとした笑顔でとても嬉しそうだった。するとココアは俺が添えていた手を手に取り自分の頬に移していた。今日のココアは一段と甘えん坊だ。

 

「えへへ///今日はチノちゃんいないからお兄ちゃん独り占め♪」

 

こんなことチノが聞いたらチノの火山が大噴火間違いなしだな。最近はチノばっかり甘えててそれを見たココアは時々少し嫌そうな顔をして我慢してた節があったから今日くらいは存分に甘えさせてあげよう。

 

「よしよし、じゃあ今日はいっぱい甘えていいぞ!」

 

「ほんと!?じゃあいっぱい頭撫でて!」

 

今のココア何だか猫みたいだ。甘えるのに夢中で他の事なんか忘れて我慢してたのが一気に出てきた感じだ。甘えん坊になったばかりの頃のチノに似てる。

 

「..........んぅ~........。」

 

撫で続けているとだんだんココアの瞼が重くなってきていた。言葉もあまり発さなくなり吐息だけが聞こえてくる。

 

「眠いのか?」

 

「........うん........。」

 

「じゃあちょっとだけ寝ようか。」

 

「........うん.......。」

 

ココアは『うん』だけ言って少しずつ目を閉じていきそのまま眠ってしまった。何か掛けるものはないか辺りを探しているとチヤが毛布を持ってきてくれたので、俺はそれを受け取りココアに掛けた。

 

「ココアちゃんぐっすりね。」

 

「そうだな。」

 

まだ1分も経ってないのにココアはもう熟睡していた。ずっと勉強してたから疲れたんだろう。

 

「それにしてもココアがこんなに勉強頑張るなんてな。」

 

「そうね私も最初は驚いたわ。何かあったのかしら?リョーマ君は何も知らないの?」

 

「う〜ん、強いて言えば前に俺が高熱で病院に運ばれただろ?その日くらいから急に頑張るようになったんだ。なぜかはわからないけどそれくらいしかわからないな。」

 

「そうなの?」

 

「うん。」

 

「...............。」

 

チヤはそのまま手を顎に当ててココアを見ながら何かを考えて始めた。しかもいつになく少し真剣な顔で。

 

「.........ひょっとしてココアちゃん...........う〜ん、考えすぎかしら?

 

「ん?どうした?」

 

「........ううん何でもない。」

 

何かボソボソと呟いていたが結局何もわからないままこの話は終わってしまった。そんなに深く考えなくてもいつかわかる時が来るだろう。

 

「ん〜...........」

 

突然ココアがもぞもぞと動き出し、起きるのかと思ったが寝ながら俺の方へ少しずつ這い上がって来て俺のお腹辺りに抱きついてきた。

夢の中でもハグしてるのか?

それよりもお腹に抱きつかれると身動きがほとんど取れない。下手に動いたらココアを起こしてしまうだろうし。

 

「ココアちゃんリョーマ君の前だと寝てる時も甘えん坊なのね。」

 

「チノもこんな感じだぞ。寝る時は隣で寝てるけど朝起きた時は俺に抱きついて寝てることがしょっちゅうだし。」

 

「なんだか姉妹っぽいわね。」

 

「はは、そうかもな。」

 

「私たちも少し寝る?」

 

「う〜ん........そうだな。少し時間あるし昼寝でもするか。」

 

「ええ!」

 

俺たちは少しだけ昼寝をすることにした。俺はココアを起こさないように慎重に横になりチヤも隣で横になった。天井がいつもと違うから少し新鮮な気持ちになる。

 

「それじゃリョーマ君おやすみなさい。」

 

「ああ、おやすみ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

........せん.........い。

 

誰かの声が聞こえる。

 

「せん....い..........起き...........さい」

 

声がだんだんはっきりと聞こえ、うっすらと目を開けると誰かが俺を起こそうとしていたのが分かった。だけど天井にある電気の逆光の所為でそれが誰なのかがわからない。

 

「あ、やっと起きた。」

 

誰かはわからないけど多分ココアだろう。お腹辺りの上にココアの頭が置かれてる感覚が無いからココアが俺を起こそうとしてくれたんだろう。

 

「ココア、起こしてくれてありがとう。」

 

「え?..........ひゃあ!」

 

俺はお礼を言いながらギュッと抱きしめた。するとその子はびっくりしたような声を出して固まってしまった。頭を撫でたが何だか少し違和感がある。髪が少し癖毛のような感じがするしココアはハグされてびっくりするような子じゃない。だんだん違和感に気付き少し寝ぼけていた意識がはっきりとすると今抱きしめてる子がココアじゃないとすぐに分かった。

 

「ココア.....じゃない?...........シャロ!?」

 

「あの.......はぅ~~~////」

 

「ご、ごめんシャロてっきりココアかと!シャロしっかりしてくれ!」

 

「あぅ~~////.........。」

 

「シャロちゃん、リョーマ君起きた?ってシャロちゃんどうしたの!?」

 

「わわわ!シャロちゃんが気絶してる!」

 

開いた襖から湯呑みを乗せた御盆を持ったチヤとそれに付いていたココアが入って来た。頭から湯気を出して気絶しているシャロに気付いたチヤは慌てて御盆をちゃぶ台に置いて駆け寄り、ココアは急いで氷を持って来ようとキッチンの方へ向かっていった。俺の勘違いが生んだ大パニック劇は幕が下りるまで20分近く続いた。

 

 

 

 

 

 

「ほんっっっっっっっとにごめんシャロ!てっきりココアかと思ってしまって!」

 

「い、いいんですよ先輩。もう気にしてませんから////」

 

俺は頭を床につけて土下座をして謝っていた。今の俺の土下座、もしかしたら教科書に土下座の例として載るんじゃないか?

 

「その割にはシャロちゃん顔真っ赤になってるわよ。」

 

「しょ、しょうがないでしょ!男の人にハグされたの初めてなんだから。」

 

あれ?前にシャロがカフェインで酔って俺に抱き着いてきた覚えがあるんだけど覚えてないのか?.......これは言わない方が良いな。

 

「え?初めて?シャロちゃん前にお兄ちゃんに自分から抱きつiむぐぅ!」

 

こいつ今とんでもない事言おうとしたな。そんなこと言ったらまたシャロが湯気を出して気絶してしまうに決まってる。知らない方がいいことだってある。今のが正にそれだ。

 

「わ、私はもう大丈夫ですから勉強の続きをしましょう?」

 

「そ、そうだな。」

 

俺たちは少しぎこちない雰囲気でちゃぶ台を囲んで勉強会の続きが始まった。

そういえばなんでシャロがいるんだろう?バイト帰りに寄ってきたのか?

 

「そういえばシャロ、なんでここにいるんだ?バイト帰りか?」

 

「いえ、実は今日私も勉強会に来る予定で時間になったら呼びに来るって言われてたんですけど、この和菓子娘が呼びに来るのをすっかり忘れてたんですよ。」

 

そう言ってシャロはチヤの耳を軽く引っ張って強調していた。

 

「シャロちゃんごめんなさいね。」

 

「も~頭撫でるな~!」

 

チヤはシャロを(なだ)めるように頭を撫でていた。幼馴染だからなのかなんだか扱いなれてるみたいな感じがする。

 

「お兄ちゃん!勉強いっぱい頑張ったからちょっとテストして!」

 

隣にいたココアが割と自信有り気な感じで言ってきた。

 

一応勉強会のために昨日ココア用のテストを作ってきたけど大丈夫かな?最近頑張ってるから少し難しめに作ろうと思って作ったけど難しく作りすぎたかもしれない。まあでもこれはこれで今のココアのレベルがわかるからとりあえずやらせてみよう。

 

「それじゃまずは国語からいくぞ。20問で制限時間20分だ。」

 

「任せて!」

 

「ちなみに全部50点以上取れたらハグしてあげる。」

 

「ほんと!?よーし!」

 

ココアは袖をまくってテスト用紙に書き始めた。最初はスラスラと書けていたが途中から鉛筆が止まり始めていた。どこの学校もそうかもしれないけどテストの最初辺りは割と簡単で最後に行けば行くほど難しくなってくる。今回のテストは俺もそういう感じで作ったから多分こうなるだろうとは思っていた。

そのままココアは途中で詰まってしまったり、時々閃いたりしてなんとか20分ギリギリで最後まで書き切ることが出来た。そのまま同様に社会、英語と続けていく。ちなみにココアはいつも理科と数学は高得点だから今回は文系だけのテストになる。

 

「ん~........。」

 

最後の英語でココアが完全に手が止まってしまっていた。ココアは英語が文系の中で一番苦手で点数が1桁の時があったくらいだ。昨日の学校の小テストを見せてもらった時、国語だったけど60点あったから少しは良い点を取れると思うけど。

 

「できた!」

 

「終わったか?」

 

「うん、英語だけちょっと自信ないけど。」

 

「よし、じゃあ答え合わせするからちょっと待ってな。」

 

ココアはやり切った感を出して倒れるように寝転がった。合計で1時間も集中してたから疲れるのも無理ないか。向かいに座っているチヤとシャロを見てみるとシャロがチヤに丁寧に数学を教えていた。俺は黙々とココアの解答用紙を採点していった。

 

 

 

 

 

 

「やったー!全部50点以上だ!」

 

採点した結果、全部50点を超えていた。国語が70点、社会が65点、英語がギリギリの50点で予想していた点数をはるかに上回っていた。少し難しく作ってしまったから全部30点代か40点代くらいで50点を超えることはないだろう思っていたせいで思わず呆気に取られていた。

 

「すごいなココア。思ってたよりよくできたよ。」

 

「えへへ、それじゃお兄ちゃん!約束通り全部50点以上取れたから早くハグさせて!」

 

「わかったわかった別に逃げたりしないから。おいで。」

 

「うん!」

 

ココアは俺を押し倒すように抱きしめてきた。何かを達成した時のハグは格別なんだろうな。今のココアからそんなものを感じる。それにしても全部50点以上取れるなんて本当に驚いた。次は60点を合格ラインにしてみようかな。

 

「お前たち、そろそろお腹減っただろう?夕飯作ったから食べな。」

 

襖が開くとおばあさんが入って来た。目途が立ったと同時におばあさんが夕飯を作ってくれたらしい。俺たちは教科書やノートを片付け、階段を下りて1階の食卓へ向かった。中に入るとそこには筑前煮や小海老の天ぷら、味噌汁、茄子の油味噌炒めが並べられていて、これぞおばあちゃんの料理みたいなオーラが輝いていた。俺たちはそれぞれ椅子に座るとおばあさんが人数分のご飯をよそってくれた。

 

「ほら、冷めないうちに早く食べな。」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

俺たちは晩御飯を食べ始めた。どれも程よい味付けでこの味の出し方を教えて欲しいくらいだ。ココアたちも美味しそうに夢中で食べてるし、その様子を見ていたおばあさんは硬い表情をしていたが、よく目を凝らして見てみるとほんの少しだけ口元が(ほころ)んでいた。一瞬だったがはっきりとその表情を見れた俺はなんだかちょっと得をした気分で夕飯をいただいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チヤ、風呂上がったよ。」

 

「わかったわ。」

 

「あれ?ココアは?」

 

「ココアちゃんなら何も言わずに部屋を出ちゃったけど、多分トイレじゃないかしら?」

 

「そうか、わかった。」

 

「それじゃお風呂に入ってくるわね。シャロちゃん一緒に入りましょ?」

 

「はいはいわかったわよ。」

 

 

 

夕飯後、ココアの後に風呂に入った俺はチヤに風呂から上がったことを伝えるとシャロと一緒に風呂場へ向かっていった。ココアが見当たらなかったけどトイレに行ったんだったらしばらくすれば戻ってくるだろう。

 

 

 

 

プルルルルッ

 

 

 

 

「ん?」

 

既に敷かれていた布団の上でのんびりしていると突然俺のケータイから電話が鳴りだし、画面を見てみるとチノからの電話だった。きっと今日の出来事を言いに掛けてきたんだろう。

 

「もしもし?チノか?」

 

「はいお兄ちゃん!あの、今お話ししてもいいですか?」

 

「ああ、いいよ。そっちは今日一日どうだった?」

 

「はい、ちゃんと最後まで問題なくできました。あとお兄ちゃん、私今日も夕飯の準備と片付けと勉強を頑張りました!」

 

「そうか。じゃあ帰ったらいっぱいハグしないとな。」

 

「本当ですか!........ちょっとマヤさん!邪魔しないでください!

 

「チノばっかりずるいぞ!」

 

「そうだよチノちゃん!私にもお兄さんとお話しさせて!」

 

「今は私がお兄ちゃんと話してるんです!後にしてください!」

 

電話越しからマヤとメグの声が聞こえる。聞いた感じだと電話をめぐって喧嘩してるみたいだ。このままだと喧嘩が続く一方だし順番に電話を交代させよう。

 

「チノ、独り占めは良くないぞ。ちゃんと代わってやらないとダメだぞ?」

 

「で、でも..........わかりました。........マヤさん、どうぞ。

 

「やったー!」

 

チノは渋々マヤに代わっていた。気持ちはわかるけどチノだけになるとマヤとメグが可哀そうだからな。ちゃんと平等にしてあげないと。

 

「もしもし兄貴?」

 

「ああ。今日の仕事の手伝いしてみてどうだった?」

 

「すごく楽しかった!なあなあ兄貴明日も頑張るからさ、帰ってきたらいっぱいハグして!」

 

「ああわかった。約束な。」

 

「へへ!約束だぞ!」

 

今のマヤの声はすごくウキウキしたような声に聞こえる。ハグができるとわかっただけでこんなにも元気になるなんてチノとメグもそうだけどすごいピュアだな。

 

「そんじゃメグに代わるな!.........はいメグ!

 

ありがとう!.........もしもしお兄さん?」

 

「ああ、ちゃんと手伝い出来たか?」

 

「うん!あとお兄さん、さっきマヤちゃんが言ってたけど明日も頑張ったらハグしてくれるの?」

 

「うん、ちゃんとするよ。」

 

「それじゃお兄さん!明日頑張ったらハグと頭撫で撫でして!」

 

メグは欲張って2つ注文してきた。俺は全然構わないけどそれをしたら残りの2人が、特にチノが文句を言ってくるだろう。ここは1つまでにしておこう。

 

「メグ、1つに絞ろう?チノもマヤもしてほしい事を1つしか選んでないだろ?」

 

「ん~と..........それじゃ、ハグしながら頭撫でて!これなら同時にするから2つじゃなくて1つだよね!だからいいでしょ?ね?ね?」

 

「ちょっとメグさん!そんなのずるいです!」

 

「そうだぞ!そんなの反則だ!」

 

「反則じゃないよ!ちゃんと1つしか選んでないよ!

 

.......メグってピュアだけどずる賢い所もあったんだな。意外な一面だ。

そして予想通りチノとマヤが文句を言って喧嘩をし始めた。こうなることは想像できてたからここは3人とも同じにしよう。

 

「3人とも、ハグしながら頭撫でてあげるから喧嘩はもうやめな。」

 

「そうなの?........ チノちゃんもマヤちゃんも頭撫で撫で追加してくれるって!

 

「本当ですか!?」

 

「やったー!さすが兄貴!」

 

「それじゃ最後にチノちゃんに代わるね!.......はいチノちゃん!

 

「.........あのお兄ちゃん、最後に1つだけお願いがあるんですけどいいですか?」

 

「ん?どうした?」

 

「あの、えっと........今日マヤさんたちと一緒にお兄ちゃんの部屋で寝てもいいですか?」

 

「え?いいけどどうして?」

 

「お兄ちゃんのベッドで寝るとお兄ちゃんに包まれてる感じがしてすごく安心できるんです。だから今日はお兄ちゃんがいないのでお兄ちゃんの部屋で寝たいんです。」

 

そうか。だからチノは俺が学校から帰って来た時によく俺の部屋のベッドで寝てたのか。俺が帰ってくるまでの間の寂しい思いを紛らわすためだったということか。まあ俺の部屋で暴れたり散らかしたりしなければそこで寝ても構わないけど。

 

「いいよ、そのかわり部屋を散らかしたりしないようにな。」

 

「はい!ありがとうございます!.........OKみたいです!

 

「「やったー!」」

 

すごい喜んでる声が電話越しでもはっきりと聞こえる。もし今日俺がラビットハウスで寝ることになってたら多分引っ張りだこだっただろうな。

 

「じゃあもう夜も遅いから、そろそろ切るよ?」

 

「はい!お兄ちゃんおやすみなさい!」

 

「おやすみ。」

 

俺はそのまま通話を切った。帰ったらチノ達からハグが殺到してくるだろうな。それでそれを見たココアも参加してきてハグラッシュの嵐になるのがなんとなく予想ができる。

 

「あ、お兄ちゃんお風呂あがってたんだ。」

 

電話を切ったと同時にココアが部屋に入って来た。

 

「ココアどこ行ってたんだ?俺が風呂から戻って来た時いなかったけど。」

 

「え....えっと、お水飲みに行ってた。」

 

「水?水筒持ってただろ?」

 

「そ、そうだけど.......冷たいお水が飲みたかったから。」

 

なんだか今のココアは様子がおかしいし歯切れが悪い。ココアも布団の上に座ったが何かを隠してるのか、俺と目を合わそうとしない。ラビットハウスを出る前は元気だったのに。

 

「ココア何か悩み事か?ちょっと様子おかしいけど。」

 

「う、ううん。本当に何もないよ。」

 

「そうか?それならいいけど。」

 

「............。」

 

「............。」

 

しばらく沈黙が流れる。ココアと一緒にいる時はいつも話が絶えなかったから今の状況はなんだか調子が狂う。それに風呂上がりだから喉も乾いてきた。ちょっと水を飲みに行こう。

 

「俺も水飲みに行ってくる。ココアはもう大丈夫か?」

 

「うん大丈夫だよ。いってらっしゃい。」

 

俺は部屋を出て襖を閉め1階のキッチンへ向かった。入るとそこには誰もおらず、ココアが使ったであろうコップが1つ置いてあった。ここで水を飲んだのは本当みたいだな。俺は新しいコップを1つ取り出し、水を入れてグッと飲み干した。

 

「ふぅ、風呂上がりの水は美味しいな。.........ん?」

 

部屋に戻ろうとしたとき、あるものが目についた。手に取ってみてみると空のPTP包装シート(※錠剤やカプセルを押し出して取り出すシートのこと)だった。

ココアが使ったのか?でも病院に通ってるなんて聞いてないし、多分チヤのおばあさんのだろう。

俺はそれをゴミ箱に捨て、そのまま部屋へ戻った。

 

 

 

「あ、もう上がってたのか。」

 

「あら?リョーマ君どこ行ってたの?」

 

「ちょっと水を飲みに行ってた。」

 

部屋に戻ると風呂から上がったチヤとシャロがいた。後はこのままみんなで寝るだけだ。もう夜の11時だからそろそろ寝た方が良いだろう。

 

「そろそろ寝るか?夜更かしはよくないし。」

 

「そうね、そろそろ寝ましょうか?」

 

俺たちはそれぞれ布団に入った。ちなみに寝る位置は俺の左隣にココア、右にチヤ、その奥にシャロといった感じだ。みんな布団に入ったがココアだけ何故か布団に入ろうとせずそわそわしている。

 

「ねえねえ、折角みんなでお泊りなんだし朝までお話ししない?」

 

「何言ってんだよ良いわけないだろ?折角勉強したのに全部無駄になっちゃうぞ?ほら、早く布団に入って。」

 

「そう、だよね。ごめんねやっぱり寝るよ。」

 

そう言ってココアも布団に入った。水筒を持ってるのにわざわざ1階のキッチンまで行って水を飲んだり、朝まで起きてようと言ったりやっぱり今のココアは変だ。なにかあったのだろうか。朝の時の様子は別に変わったことはなかったし、ここに来た時も特に気になる所はなかったし、考えても心当たりは全くなかった。

 

「それじゃおやすみ。」

 

俺はそう言ってゆっくりと目を閉じ眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........ん?」

 

ふと目を覚ましてしまい起き上がって時計を見ると夜中の3時だった。昼寝をしたせいだろうかこんな時間に目が覚めるなんて珍しい。時計の秒針が進む音だけが響いている。右隣を見てみるとチヤは静かな寝息を立てて眠っており、その奥のシャロは、メロンパンとか52円とか寝言を言っていた。

 

「はぁ〜、完全に目を覚ましちゃったなこれ。」

 

こうなってしまったらもう寝るのは無理だろう。

俺は昼寝をしたのを少し後悔しながらせめて目を瞑って横になろう思い再び布団に横になった。

 

.........や.......だ............やだ......

 

目を瞑ろうとした瞬間どこかから声が聞こえた。探してみると左隣のココアがうなされていた。少し汗をかいていて息も荒い。

 

「.......... やだ..........お兄......ちゃん........死んじゃやだ..........いかないで.......ヤダ.........ヤダ!ヤダ!!!

 

「ココア!?ココア!!」

 

「はっ!?........はぁ、はぁ、はぁ.......お兄......ちゃん。」

 

これは尋常じゃないと思った俺は即座にココアを起こした。目を覚ましたココアはあまりの恐怖で引きつった顔をしていた。起き上がったココアは縋るように俺を抱きしめてきた。抱きしめている手はすごく震えていて呼吸も寝ていた時よりも荒かった。

 

「ココア、少し落ち着こう?立てるか?」

 

「ヤダ!お兄ちゃん行かないで!置いて行かないで!」

 

ココアは置いて行かれるんじゃないかと勘違いしてパニック状態になっている。

 

「大丈夫俺も一緒に行くから。お茶でも飲んで落ち着こう?」

 

「..........。」

 

ココアは無言でコクリとうなずき、俺はココアを立ち上がらせて部屋を出てゆっくりと廊下を歩き出した。俺はココアの肩を掴んでリードしていたが、ココアは足取りが悪く何度か転びそうになっていた。俺は細心の注意を払って1階の食卓へ向かった。

 

電気をつけて中に入ると当然誰もおらず、テーブルやキッチンとかがあるだけだった。とにかくココアを椅子に座らせようと思いテーブルの椅子にゆっくりと座らせた。

 

「ここに座って待ってな。今お茶淹れるから。」

 

「........。」

 

急須と茶葉を借りて熱いお茶を作り湯呑みに入れてココアに差し出し俺はココアと向かいように椅子に座った。だがココアはずっと黙り込んだままでうなされてた所為か、お茶の水面に写っているココアの顔はすごく気持ちが底まで沈んでいるような顔だった。俺は何から話したらいいのかわからず、キッチンの蛇口から水が一滴ずつ漏れ、それが水が貯まったお椀に落ちていく音だけが聞こえる。

 

「...........。」

 

「...........。」

 

無言の時間が流れる。心なしかココアが少し(やつ)れてるように見える。とにかく俺は何があったのかを聞こうと思い重い口を開いた。

 

「その、何かあったのか?あのうなされ方は普通じゃなかったぞ。俺で良かったら聞くぞ?」

 

「っ!!!.....イヤーーーッ!」

 

「ココア!」

 

うなされていた時のことを思い出してしまったのかココアは両手でくしゃくしゃと髪を掴んで怯え始めてしまった。俺は少しでも落ち着かせようと椅子から立ち上がりココアの肩を掴んだ。

いつもあんなに元気なココアがこんなに怯えるなんて。よほど怖い思いをしたに違いない。ずっと震えてて涙も流している。

 

「ヤダ!そんなのヤダ!お兄ちゃん死なないで!ヤダ!ヤ゛ダア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ

 

「ココアしっかりしろ!俺は死んでなんかない!ちゃんとここにいる!」

 

「イ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!

 

到頭ココアは極限状態に陥ってしまい暴れ始め夢と現実の区別がつかなくなってしまった。暴れたはずみで湯呑みが倒れお茶は零れ、割れはしなかったが急須が床に落ちてしまった。だが俺は暴れているココアを止めるのに必死で気にしていられなかった。

 

「ココア頼む!正気に!」

 

「イヤ!離して!お兄ちゃんがいないなんてヤダ!お兄ちゃんを返して!」

 

もう目の前の人物が誰なのかもわかっていない。夢の内容なのにそれに気づくことが出来ず、ひたすら叫んで否定することしかできなくなっている。

 

「ココア!お前が見たのは全部夢だ!」

 

「離して!」

 

「う゛っ!」

 

ココアは女の子とは思えない力で俺を突き放し、その勢いで俺は後ろにあった棚に背中をぶつけてしまった。少し咳込んだ後、ココアを見るとキッチンの棚の中にある包丁を無我夢中で取り出し、自分で自分を刺そうとしていた。

 

「やめろ!!!」

 

刺そうとしている位置的に心臓を目掛けている。俺は今まで出したことがないくらい声を上げながら急いで立ち上がり、タックルするくらいの勢いで突っ走った。なんとか(すんで)の所で包丁を払い除け、俺たちは転がるようにその場に倒れた。

 

「っ!!!」

 

包丁を払い除けることはできたがその時、右手の(てのひら)に1cm程の浅い切り傷を負ってしまった。切れたばかりでまだ血は出てないが(じき)に出てきてしまうだろう。だが今はそんなこと気にしていられない。

俺は急いでココアへ近づいた。

 

「何やってんだお前!」

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

ココアは両手で髪を掴み、その場に(うずくま)ってしまった。いくら話しかけても声を荒らげたままで俺の声は全く聞こえていない。このままじゃまたさっきと同じことを繰り返してしまうかもしれない。

 

けどどうすればいいんだ?今までこんな状況に出会(でくわ)したことなんで一度も無かった。母さんならこんな時どうするだろう。一体どうすればココアを落ち着かせることができる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(..........っ!!)

 

その時、走馬灯のような記憶が頭の中を駆け巡った。俺がまだ幼い幼稚園児の頃の、ココアと出会う前の記憶が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいリョーマ?キスってすごいのよ?』

 

『きす?何それ?』

 

『キスっていうのは男の子と女の子がお口にチューすることよ。』

 

『えーほんとに?お口にちゅーするの?なんか気持ち悪いよ!』

 

『気持ち悪くなんかないわよ。キスって本当にすごいのよ!不安になった時とか怖くて怖くてどうしようもなくなっちゃった時とかにキスをするとそんなもの一瞬で吹き飛んじゃうのよ!』

 

『そーなんだ!ママはパパとちゅーしたことあるの?』

 

『ええもちろんよ!それにねリョーマ?キスは不安とかを吹き飛ばすだけじゃないの。すごく幸せな気持ちになれるの!キスって幸せな気持ちになれるすごい魔法なのよ!』

 

『すごいすごい!キスってすごい魔法なんだね!』

 

『ええ!リョーマも大きくなったらいつかわかる時が来るわ!』

 

『うん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キス............。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不安や怖い思いを吹き飛ばし、幸せになれるすごい魔法............。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けど、そんなことしていいのか?俺は初めてだし、ココアだって初めてだろう。初めてのキスがこんな不本意な形になったら、後でココアが傷つくんじゃないのか?そんなこと俺には...........。

 

 

 

「ア゛ア゛...........ヤダ................ヤダァ。」

 

「...............っ」

 

 

 

 

でも...........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

もう他に方法が思いつかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめん...........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんココア...........。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は手をグッと握りしめて決意してココアの肩を掴んで起こし、涙を流しながら(うつ)ろになっているココアの目を見つめ、ゆっくりと目を閉じ...........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ココアの唇にそっとキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

驚いたのか、ココアは一瞬体をビクッと震わせ俺の肩を掴んでいた。弱い力で俺を引き離そうとしてるかのように感じたが、やがて手の力が弱くなっていき次第にココアは掴んでいた手を離し、全身の力が抜けていくようになっていった。

どのくらい時間が経ったのかわからない。10秒くらいだったかもしれないし、もしかしたら1分、2分、それ以上かもしれない。俺はキスをしていた唇をそっと離した。

 

「............お兄、ちゃん?」

 

ココアの目を見てみると虚ろだった目に光が戻り、俺のことをしっかりと認識していた。いつもの、毎日見ているココアの目だ。

 

「ココア大丈夫か?」

 

「お兄、ちゃん。生き......てる。」

 

そう言ってココアは震えている両手を俺の頬に添えてきた。俺がそこにいるのを確かめるかのように。

 

「ああ。ちゃんとここにいる。」

 

「生き、てるんだよね?..........死んで......ないん、だよね?」

 

「ああ。お前が見たのは全部夢だから、もう安心していいんだ。」

 

「.......っ..........うっ........。」

 

ココアは安心すると、顔を俺の胸に埋めるように抱きつき、俺もココアを抱きしめ頭を撫でた。再び涙を流して我慢するかのようにすすり泣いている。俺はココアが泣き止むまでこのままでいることにした。

 

俺の知らないうちココアはここまで追い込まれていた。俺が死んでしまったと思い込んであんなに取り乱していたんだ。そうなってしまった原因は恐らく俺にあるだろう。ココアが泣き止んだら理由を聞こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「........うん。」

 

30分経つとココアは泣き止み大分落ち着いたみたいだ。俺はココアをテーブルの椅子に座らせ、零れてしまったお茶や湯呑み、急須を片付け俺もココアの隣の椅子に座った。もう怖がっている様子はないが、暴れて散らかしてしまった事に申し訳なさを感じているような様子だった。ココアには辛いかもしれないけど一体何があったのかを聞いてみよう。聞いてみないことには何も進まない。

 

「ココア、辛いと思うけど何があったのか教えてくれないか?ゆっくりでいいから。」

 

「っ........。」

 

一瞬ココアは体を少し震えさせたが、決心がついたのか手を握り締めゆっくりと話してくれた。

 

「........夢を、見るの。」

 

「.......夢?」

 

「..........お兄ちゃんが高熱で病院に運ばれた日の夢。けど夢の中じゃお兄ちゃんは死んでて、すごく冷たくなってて、そんな夢を何回も何回も見るの。私、本当に怖くて........。」

 

「.......もしかして朝起きた時、時々血相変えて抱きしめてきたのはそれが理由か?」

 

「.........うん。」

 

思い返せばそんな日がたまにあった。何もない日はいつも通り元気だったけど、血相を変えてハグをしてきた日はいつもより元気が無くて何かあったのかと聞いても少し無理して作ったような笑顔で何もないとはぐらかされることがあった。

 

「それと、みんなに隠してたんだけど病院に通ってたの。」

 

「病院?いつから?」

 

「........お兄ちゃんが病院を退院してから1週間後くらい。毎日お薬を飲んでなんとか頑張ってたの。」

 

「それじゃあ、寝る前にキッチンで水を飲んでたのって.......。」

 

「うん........お薬、飲んでたの。」

 

「........なんで、言ってくれなかったんだ?」

 

「心配......掛けたくなかったから。」

 

「.........。」

 

.........知らなかった。てっきりあれはチヤのおばあさんが使った跡かと思っていたがココアのだった。みんなを心配させないように隠れて薬を飲んでなんとか凌いでいたのか。

 

ココアが誰にも言えず苦しんでいたというのにそれに気づかずチノにばっかり構っていたのだと思うと俺はものすごい罪悪感に(さいな)まれた。そしてココアは俺の方を向くと何故か驚いた顔をした。

 

「お兄ちゃん、なんで、泣いてるの?」

 

「...........え?」

 

そんなはずはないと思って自分の顔を触ったが嘘じゃなかった。一滴や二滴の涙ではなく何滴もポロポロと涙が出てきて、拭っても拭ってもどんどん出てくる。

 

「あれ?........なん.....で?」

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

そう言ってココアは立ち上がり俺の頭を覆うように抱きしめた。その瞬間俺の意思とは無関係に溢れるような涙が流れ、無意識に俺はココアを抱きしめていた。

 

「......ごめん...........ごめんココア!」

 

「お、お兄ちゃん泣かないで?」

 

「こんな、辛い思いさせて...........最低だ.......俺............ごめん..........本当に.....ごめん....全部........全部、俺の所為だ......!」

 

「お兄ちゃん..........。」

 

涙が止まらない。止めようとしても止まらない。年下の女の子の前で泣くなんて格好悪いと思われるかもしれないが今の俺にはそんなことどうでもよかった。頭の中にはごめんという言葉しか浮かんでこない。

 

気づかないうちにココアを苦しめていた。

 

その事実だけで胸を締め付けられるような思いになりどうにかなってしまいそうだった。

 

「.........それじゃお兄ちゃんが泣き止むまで私を抱きしめてくれる?すごく寂しかったから。」

 

「..........ああ......。」

 

あの時(俺が入院した日)のココアもこんな気持ちだったのだろうか。罪悪感で胸がいっぱいだ。俺はココアを抱きしめ続け、その間ココアは頭も撫でてくれた。俺はいつもする側でされた時の気持ちはわからなかったが今ならはっきりわかる。すごく安心する。自分でもわからない何かが溶けていくように感じる。小さい頃、よく父さんや母さんにしてもらってたのにいつの間にか忘れていた。こんなに(ぬく)もりがあったなんて.........。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫?」

 

「ああ、ありがとう。」

 

どのくらい時間が経ったかわからないがようやく涙を止めることが出来た。だがそれとは逆に罪悪感は増すばかりだった。俺の所為でココアはあんな怖い思いをしてしまった。責任を取らないと俺の気が済まない。

 

「ココア、これからは毎日一緒に寝よう?」

 

「え?いいの?でもチノちゃんが..........。」

 

「チノは話せばわかってくれる。俺の所為でココアを苦しめてしまったんだ。けじめ取らせてくれ。」

 

「でも、私までわがまま言ったらお兄ちゃんが疲れちゃうよ。そしたらまた、あの時みたいに高熱で倒れちゃう。」

 

「あれは俺が体調管理ができてなかったから倒れたんだ。お前の所為じゃない。」

 

「でも..........。」

 

俺があの日高熱で病院へ運ばれたことにココアは後ろめたさを感じてるみたいだ。ここでまたココアが我慢して、いつかまた今回みたいなことが起こるのは絶対に嫌だ。もしそうなったら今度は俺がどうにかなってしまいそうだ。

 

「ココア、もう遠慮しなくていいよ。我慢される方が俺は辛い。」

 

「............本当に、いいの?」

 

「ああ、してほしいことがあるなら何でも言ってくれ。」

 

「.........ハグ、してほしい、........頭も撫でてほしい、毎日一緒に寝たい!腕枕も!おはようのハグも!全部してほしい!」

 

「わかった。全部するよ。」

 

「.......えへへ///なんだか心が軽くなった気がする!」

 

最初は遠慮気味に言ってきたが(たが)が外れたかのように、我慢していたのを吐き出すかのように言ってくれた。

どこかで俺は自分は立派な兄だと思い込んで浮かれていたのかもしれない。いや、浮かれていただろう。そうじゃなければココアをこんな辛い思いになんかしてないはずだ。まだまだ俺は未熟な兄だ。

 

「ねえお兄ちゃん、まだ時間あるしもうちょっとだけ寝よ?」

 

「そうだな。もうちょっとだけ寝ようか?」

 

「うん!」

 

俺たちは食卓を後にし、寝室へ向かった。部屋に入るとチヤとシャロはまだぐっすりだった。

 

「チヤちゃん達ぐっすりだね。」

 

「そうだな。俺たちも早く寝よう。」

 

「うん。」

 

俺は布団に入る前に少し血が出てしまっている掌の切り傷を治すために、念のために持ってきていた絆創膏を鞄から取り出しココアに見えないように掌に貼った。そして俺はチヤ達を起こさないように布団に入り、ココアも俺と同じ布団に入り、互いに向き合うように横に向き合った。

 

「こうやってお兄ちゃんと一緒に寝るのってなんだか久しぶり。」

 

「そうだな、いつもチノと一緒に寝てたからな。」

 

「ねえねえお兄ちゃん腕枕して。」

 

「いいよ。」

 

俺はそっと腕を差し出すと、嬉しそうに頭を乗せてきた。安心してる笑顔だ。ココアからしてみればこんな笑顔をしたのは久しぶりだろう。

 

「ココア、その..........ごめんな......キス......してしまって///気持ち悪かっただろ?」

 

「/////」

 

俺はキスをしてしまった事を謝るとココアはポッと頬を赤らめた。この様子じゃ初めてだったんだろう。やっぱりあんなことしない方が良かったのかもしれない。

俺は申し訳ない気持ちになっているとココアは少し恥ずかしながら口を開いた。

 

「ううんそんなことないよ。ああでもしてくれなかったら私どうなってたかわからなかったし。...........恥ずかしかったけど///..........嫌だとは思ってないよ。」

 

「でも、初めてだったんだろ?」

 

「そうだけどお兄ちゃんならいいよ。それにキスしてくれた時、怖かったのが一瞬でスッて消えてすごく安心したような気持ちになれたの。だからお兄ちゃんには感謝してるよ。お兄ちゃんが悪く思うことは無いから気にしないで。」

 

ココアは穏やかな目をしていた。気のせいか今のココアはなんだかいつもと違う雰囲気を感じる。うまく言えないけど例えるならモカに似た何かの片鱗を感じる。それにこの穏やかな目を見てると安心するというか心が温かくなるようにも感じる。その分ココアは何かが成長してるということだろうか。

 

「お兄ちゃん早くしないと朝になっちゃうからもう寝よ?」

 

「ああ、そうだな。」

 

チラッと時計を見たがもう朝の4時半だ。今日も朝からみんなで勉強会をすることになってる。少しでも寝ておかないと勉強中にうたた寝してしまうかもしれない。ココアは最近うたた寝しなくなったのに俺がうたた寝してしまったら笑われてしまう。

 

「腕枕このままで大丈夫か?」

 

「うん!あとお兄ちゃん、ハグもしながら寝たい!」

 

「わかった。これでいいか?」

 

「うん!えへへ///すごく幸せ!」

 

「そうか。もう遠慮しなくていいからな?」

 

「うん!じゃあお兄ちゃんおやすみ。」

 

「おやすみ。」

 

そう言ってココアは目を閉じて眠った。俺はしばらくの間ココアの頭を撫でてから眠りについた。もう絶対にココアを辛い目には遭わせない。そう心に強く誓って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

「そういえばおじいさん。甘兎庵のおばあさんとはどんな関係だったんですか?」

 

「ふん!あんなババァ知らんわい!」

 

 

おばあさんと同じことを言っていた.........。

 

 

To be continued




今回はここで終わります。
前書きでも書きましたがイメージ壊してしまったらすみません。
何せこういう展開を書くの初めてだったので大目に見てもらえると助かります。


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-45話- 夏バテを舐めちゃいけない。

どうもP&Dです。
みなさんお久しぶりです。
ここ最近忙しく、投稿頻度ガタ落ちですみません┏( ;〃ToT〃 )┓
しばらく忙しい日々が続くので投稿頻度はこの状態が続きますがよろしくお願いします。




そして今回の回ですが、長くなりそうので前編と後編に分けることにしました。今回は前編で次回は後編になるので楽しみにしててください。









コソコソ話


新しい番外編が7割書けてるのでもしかしたらそっちが先かも?


「........暑い。」

 

8月に入り本格的な暑さになってきたある日、俺は夕飯の買い物を済ませ、ラビットハウスに向かって歩いていた。スーパーからラビットハウスまでの距離はそんなに無いのに、この暑さの所為でものすごく遠く感じる。

 

「少し休もう。」

 

俺はタオルで汗を拭き、少し休憩するために公園のベンチに向かった。公園の入り口は目で見える距離なのにやっぱり遠く感じる。多分暑さで思うように足が動かず歩く歩幅が小さいから遠く感じるんだろう。今は学校は夏休みだから別に急ぐ必要は無いしゆっくりと歩いて行こう。

 

「着いた.........はぁ〜。」

 

やっと着いた俺は屋根付きのベンチに座り一息ついた。周りを見渡すと小学生の子供たちが元気よくサッカーをしたり鬼ごっこをしたりして遊んでいた。あれくらいの子たちってすごい元気あるよな。一体どこからあんな元気が出るんだろう?あれくらいの元気を俺にも分けて欲しいくらいだ。今両手を掲げたら元気を分けてくれるかな?俺に元気を分けてくれって言いながら..........なんて。暑さでどうかしてるのかな俺。

 

「はぁ.......はぁ.......はぁ.......」

 

「ん?あれって......リゼ?」

 

ふと歩道を見ると息を切らしながらリゼが歩いていた。スポーツバックを肩にかけ服装もスポーツウェアみたいな感じだった。

 

「おーい!リゼー!」

 

「.......ん?.....リョーマ?」

 

少し反応が遅れていたが俺に気付いたようだ。リゼはそのまま俺が座っていたベンチの所まで歩き、俺の隣に座った。

 

「今日はスポーツクラブか何かか?」

 

「いや、部活の助っ人だよ。バスケとテニスのな。」

 

「こんな暑い中2つも?!大丈夫なのか?」

 

「ああ、思ってたより暑かったけどこれくらい大丈夫だ。」

 

「........それならいいけど。」

 

「それよりリョーマは買い物か?」

 

「うん、最初はチノも一緒に行きたがってたけどこの暑さだからな。熱中症とかで倒れられたら大変だし、家にいてもらうことにしたよ。」

 

「相変わらず優しいなお前は。」

 

俺とリゼは話しながら、しばらく公園を眺めていた。子供達が遊ぶ姿、親子で遊ぶ姿、部活の自主練をしている人、いつもそうだけど公園にはいろんな人がいるな。そんなことを思いながら眺めているといつの間にか20分ほど経っていた。

 

「さてと、そろそろ行くか。リゼ?」

 

「...........。」

 

「リゼ?」

 

「...........え?ど、どうしたリョーマ?」

 

「もう充分休めたからそろそろ行こうかなって。」

 

「あ、ああ。そうだな。」

 

少し様子がおかしい。さっきも歩道で歩いているリゼを呼んだ時少し反応が遅れていたし、今のもそうだ。

 

「よっと........あ.........あれ?」

 

「リゼ!」

 

立ち上がった瞬間リゼは急に倒れそうになり、俺は慌てて抱き支えた。

 

「おい大丈夫か!?」

 

「なんか........急に目眩(めまい)が。」

 

「全然大丈夫じゃないじゃないかよ!息も荒いし、水分は摂ったのか?」

 

「いや.........部活中に無くなって、飲んでない。」

 

「ちょっと待ってろ!........確か今日スーパーで買ったはず。」

 

もしかしたら脱水症状かもしれない。俺は急いで買い物袋からスポーツドリンクを取り出し、ゆっくりとリゼをベンチに座らせた。

 

「リゼ、これスポーツドリンク。少しずつ飲ませるから口開けてくれるか?」

 

「あ、ああ..........」

 

俺は左手をリゼの後頭部に添え、頭を支えながら少しずつスポーツドリンクを飲ませた。水分を摂れたおかげか、リゼの呼吸が少し落ち着いてきた。

 

「ふぅ.......。」

 

「少しは落ち着いたか?」

 

「ああ、ごめん迷惑かけて。」

 

「これくらい気にするな。それより病院に行こう?大事には至ってないと思うけど念のために診てもらった方がいい。」

 

「そうだな。行くか。」

 

「うん。それじゃリゼ、乗って。」

 

「..........え?」

 

俺はしゃがんでリゼに背中を向けた。リゼは何のことなのか分からずキョトンとしている。

 

「リョーマ、何やってるんだ?」

 

「何って、おんぶだよ。」

 

「え///私が!?む、無理無理無理!そんなの恥ずかしすぎる///」

 

「立ち上がったらまた目眩で倒れるかもしれないだろ?文句言わない。ほら早く乗って。」

 

「うぅ///」

 

リゼは(ほお)を真っ赤に赤らめながら俺の背中に乗った。

 

「よっと。リゼって結構軽いんだな。」

 

「な///そ、そんな事言ってないで早く行け///」

 

「痛い痛い!頭叩くな。」

 

俺はリゼに頭をポカポカと叩かれながら病院へ向かった。道中リゼは恥ずかしいのか周りの人達の視線をものすごく気にしていた。何度か降ろしてくれと頼まれたが、俺が頑なに拒んでいると諦めがついたのかもう降ろしてくれとは言わなくなった。そしてしばらく歩いていると首筋に何かの感触を感じ、見てみるとリゼが安心したような顔でスヤスヤと眠っていた。それを見た俺は無意識に微笑みながら病院へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏バテだったみたいだな。」

 

「そうみたいだな。ごめんなお前の部屋借りちゃって。」

 

「いいっていいってこれくらい。」

 

あの後病院で診察してもらったが軽い夏バテだったみたいで、重症ほどではなかったみたいだ。だけどほんの少し微熱があるみたいで先生からはしばらく安静にして栄養のあるものを食べるようにと言われた。そうすれば2〜3日で治るとのことだ。そして今、リゼは俺のベットに横になってて俺はリゼの邪魔にならないようにそのベッドに座っている。時刻は18時半ですっかり日も暮れている。

 

「そういえば親父に連絡しないと!」

 

「ああ、それなら俺がさっきしておいたよ。」

 

「なんて言ってたんだ?」

 

「.............えっと.........」

 

 

 

 

 

 

《数分前》

 

「もしもし、リゼのお父さんですか?」

 

「ん?その声はリョーマか?どうしたお前が俺に電話をかけてくるなんて初めてだな。」

 

「はい、それがリゼが夏バテになってしまって病院で診てもらったんですけど特に異常はないみたいで2〜3日安静にしてれば治るみたいで今ラビットハウスで安静にさせてます。」

 

「何!?お前たち付き合うことになったのか!?」

 

「.......え?」

 

「いやぁそうかそうか!リゼももうそんな歳になったのか!」

 

「違います違います!夏バテです!そんな事言ってません!」

 

「ん?なんだ夏バテか。驚かしやがって..........夏バテだと!?リゼは大丈夫なのか!?」

 

歓喜で叫んだり聞き間違いでがっかりしたり、また叫んだりしてリゼのお父さんは忙しい人だな。おかげで耳が少し痛い。ていうか聞き間違え方がすごい。

 

「はい、しばらく安静にして栄養のあるものを食べさせれば大丈夫と言ってました。」

 

「そうか、それなら良かった。」

 

「あの、今から俺がリゼを送りましょうか?家にいた方が安心でしょうし。」

 

「そうだな。じゃあ俺が今から迎えに...............いや、やっぱりそこで安静にさせておいてくれ。」

 

「え?大丈夫なんですか?やっぱり家にいさせた方がリゼも安心すると思うんですけど。」

 

「いや、そこにいさせてやってくれ。それと悪いが1つ頼みがあるんだがいいか?」

 

「はい。」

 

「できるだけリゼのそばにいてやってくれないか?あとそれをリゼの友達にも伝えて欲しい。」

 

なんだろう。今のリゼのお父さんからは真剣さが伝わってくる。普段家で何かあるのだろうか?

 

「わかりました。そうします。」

 

「頼んだ。夏バテが治ったら迎えに行くとリゼに言っておいてくれ。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

《現在》

 

「..........ここで安静にするようにって。あと治ったら迎えに来るって言ってたよ。」

 

「そうか。..........それよりリョーマ。」

 

「ん?」

 

「お前、何か隠しただろ?」

 

「え!?」

 

たしかに隠したと言えば隠した。リゼのお父さんがリゼと俺が付き合うことになったと一時的に勘違いをしてしまったことを。けど、それを言ったらリゼは多分顔を真っ赤にして大慌てでリゼのお父さんに電話をするだろう。これはあまり言いたくない。

 

「さあ何を隠したんだ?」

 

「い、いや。別に何も........」

 

「お前は嘘をついたり何かを隠したりした時は顔に出やすいんだ。すぐわかる。」

 

俺ってそんなに顔に出やすいのか?ポーカーフェイスは得意だと思ってたけど隠し事した時は顔に出やすいのか俺は?

 

「本当に......何も隠して、ない。」

 

「それで隠し通せると思ったのか?」

 

「........そうだ!そういえばお腹空かないか?俺何か作ってくるよ!」

 

「あ!こら待て!」

 

「うぉ!?」

 

ベッドが立ち上がろうとした時俺はリゼに腕を掴まれ、そのままベッドに押し倒され、馬乗りをされながら手を押さえられてしまった。全然身動きができない。

 

「ほら、さっさと白状しろ!」

 

「だから、本当に何も隠してないって........」

 

「この期に及んでまだ(しら)を切る気か?もう逃げられないんだから早く言え!」

 

「うぅ..........」

 

そう言ってリゼは俺の目をジッと見つめ少しずつ顔を近づけてきた。めっちゃ顔が近い。あと1cmくらいで鼻が引っ付くぞ。

 

「リゼさん、体調はどうですか............リゼさん何やってるんですか!!!」

 

タイミングよくチノが入ってきて、この状況を見たチノは慌てて俺とリゼを引き離した。

 

「リゼさん!何お兄ちゃんに甘えようとしてるんですか!ハグしたりするのはダメって前に言ったじゃないですか!」

 

「え........いや、私はただリョーマから隠し事を聞き出そうと。」

 

チノは俺をリゼから守るようにギュッと抱きしめてきた。勘違いをしてるみたいだけど助かった。けどこのままじゃチノが怒ったままだ。ここは言い(くる)めるか。

 

「違うよ。リゼを起こそうと思ったらバランスを崩しただけだから。甘えてた訳じゃないよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。」

 

「そうですか。ならいいです。」

 

意外とあっさりと納得してくれた。

 

「それよりリゼさん、体調はどうですか?」

 

「ああ、別に熱中症とかじゃなくて軽い夏バテだからすぐに治るよ。」

 

「そうですか。何かあったらすぐに言ってくださいね。」

 

「ありがとな。」

 

「はい。それじゃお兄ちゃん、今日は私が夕飯作りますね。」

 

「わかった。リゼの分は俺が作るよ。」

 

「わかりました。」

 

そう言ってチノは部屋を出て1階のキッチンへと向かって行った。一時はどうなるかと思ったけど上手く言い包まれてよかった。

 

「リョーマ。」

 

「ん?」

 

「その、ごめん。無理に聞き出そうとして。」

 

「いいよ。別に絶対に言えないようなことじゃないし。」

 

「..........その言い方だとやっぱり隠してたんだな?」

 

「.............」

 

どうして俺はこう墓穴を掘ってしまうんだろう?やっぱり俺は嘘をつくのがあまり上手くないのかな?

 

「まあ別にいいよ。絶対に隠し通さないといけないことじゃないみたいだしもう忘れる。」

 

「悪いな。」

 

「それより変に暴れたからちょっと疲れた。少し寝ておくよ。」

 

「わかった。夕飯ができたら持ってくるよ。」

 

「うん。」

 

そう言ってリゼは俺に背を向けてベッドに横になった。俺は静かにドアを閉めて1階に下りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、できた。」

 

リゼ用の料理ができた俺はお盆に乗せて箸やコップを用意した。

 

「それじゃお兄ちゃん、私たちは先に食べてるね!」

 

「ああ、俺も後で食べるよ。」

 

ココアたちにそう言って俺はお盆を持ってゆっくりと2階は上がった。

 

「リゼ、起きてるか?」

 

ドアを開けると、静かな寝息を立てて眠っていた。俺は机にお盆を置いて膝立ちになってリゼにそっと近寄った。

 

「リゼ?リゼ?夕飯持ってきたぞ。」

 

「..........ん?........リョーマ?」

 

俺は優しくポンポンと起こすと、リゼはゆっくりと目を開き上体を起こした。まだ少し寝ぼけ眼だ。

 

「夕飯できたんだけど食べれるか?」

 

「うん、ありがとう。」

 

「それじゃ用意するから少し待っててくれ。」

 

俺は折りたたみ式の小さい机を立てて、その上に料理が乗ったお盆を置き、リゼをゆっくりと立たせ座布団を敷いてそこへ座らせた。

 

「はい、冷めないうちにどうぞ。」

 

「ありがとう。いただきます。」

 

リゼはそう言って夕飯を食べ始めた。ちなみに今日作ったものは豚の生姜焼きにアサリと野菜のスープ、ピーマンの焼き浸し。どれも夏バテにはピッタリの料理だ。リゼの口に合ってるといいんだけど。

 

「どうかな?美味しいか?」

 

「うん!どれもすごく美味しいよ!」

 

リゼは笑顔で答えてくれた。口に合って本当に良かった。笑顔になってくれると作り甲斐があるとすごく実感できる。

 

「本当にリョーマって料理が上手いよな。」

 

「そうか?」

 

「うん。日に日に上手くなってる気がするよ。」

 

「そうか、ありがとう。」

 

「それよりリョーマは夕飯食べなくて大丈夫なのか?」

 

「俺か?俺は、リゼが食べ終わってから食べるよ。だからって別に急いで食べなくていいからな?ゆっくり食べてくれ。」

 

「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ。」

 

そのままリゼはゆっくりと味わいながら夕飯を食べた。だが時々リゼは俺をチラチラと見て何か言いたそうな顔をしていた。

 

「どうかしたか?」

 

「え、いや........その........」

 

リゼは茶碗と箸を持ったままソワソワし始めた。

 

「何かあれば何でも言ってくれよ?出来ることなら何でもするから。」

 

「何でも?」

 

「うん。」

 

「じゃあ........その........」

 

リゼは茶碗と箸を置いたが、言うのが恥ずかしいのか少しモジモジしている。しばらくすると言う決心がついたようで重い口を開いた。

 

「その.........1人だと、ちょっと.......」

 

「ん?」

 

「その.........料理は全部美味しいんだけど、1人で食べてると味気ないというか.........寂しいというか///........」

 

リゼはそれ以上何も言わず頬を赤らめながら、察してくれと言わんばかりの目で俺を見ていた。一緒に食べたいんだな。目を見てすぐにわかった。

 

「わかった。じゃあ俺の分の夕飯持ってくるから一緒に食べようか?」

 

「っ!.......ああ!」

 

リゼは一緒に食べれるとわかった途端、無邪気な子供みたいな笑顔になった。俺は夕飯を取りに行くためにリゼに少し待つように言い残し、一旦1階へ下りた。そしてリビングに入るとココアとチノが楽しそうに話をしながら夕飯を食べていた

 

 

「ココア、チノ。悪いけど今日はリゼと一緒に夕飯食べるよ。」

 

「え?リゼさんに何かあったんですか?」

 

「特に何もないんだけど1人で食べてると寂しいらしくてな。それで一緒に食べることにしたんだ。」

 

「リゼちゃんにも可愛いとこあるんだね!」

 

「元々可愛らしいところいっぱいあるけどな。そんじゃリゼが寂しがるといけないし、行ってくるよ。」

 

「はーい!」

 

「そういえば今日の夕飯は何だろう?」

 

そう思って台所へ行くとすでに皿に移し、お盆に乗せてくれていた。見てみるとハンバーグにコンソメスープ、サラダ、にんじんとベーコンの炒め物だった。

 

「ハンバーグ作ってくれたのか。」

 

「はい!今日のは少し自信作です!」

 

「そうなんだよ!今日チノちゃんが作ったハンバーグすごく美味しいよ!」

 

そう言ってチノとココアはトコトコと走りながら俺がいる台所へやってきた。チノは俺が作るハンバーグが大好物で味が忘れらないあまり、最近は俺が作るハンバーグの味を再現しようと頑張っている。その所為か最近はやたらと夕飯がハンバーグなことが多い。栄養が偏るのはあまり良くないけどこんなに頑張ってるんだからやめろとも言いにくい。なので俺はチノが上達できるようにノートに作り方やコツやちょっとした豆知識を書いて、さらにはカメラで動画を撮ってそれらをチノに見せている。その効果があったのか、チノの上達の速度が桁違いに速くなっている。

 

「そうか。ありがとうチノ!」

 

「えへへ///」

 

俺はお礼を言って頭を撫でた。少し頬を赤らめてすごく嬉しそうだ。

 

「ああー!チノちゃんずるい!お兄ちゃん私も!私も夕飯作るの手伝ったから私にも頭撫でて!」

 

「ココアさんはダメです!それにココアさん手伝ったって言いましたけどお米炊いただけじゃないですか!」

 

「うぅ............で、でも手伝ったのには変わりないから私にも頭撫でてもらう権利はあるよ!」

 

「無いです!」

 

「ある!」

 

「無いです!」

 

「ある!」

 

「無いですって言ったら無いんです!」

 

「あるって言ったらある!」

 

始まっちゃった。この2人の喧嘩は鎮めるのに少し苦労するんだよな。

 

「こら2人とも。上にリゼがいるんだし、それに体調も少し良くないんだから騒がない。」

 

「でもずるいよ!チノちゃんだけ頭撫でてもらうなんて!」

 

「じゃあ2人ともハグしてあげるからそれでいいか?」

 

「うん!それならいいよ!」

 

「まあ、ハグしてくれるのなら私も大丈夫です。」

 

「うん。夕飯作ってくれてありがとう2人とも。」

 

俺はそっと優しく2人を抱きしめた。2人とも目を瞑って幸せそうな顔をしていた。喧嘩が収まってくれて一安心だ。

 

「それじゃあリゼの所に行ってくる............ん?」

 

俺は2階へ上がろうとお盆を手に取った瞬間、妙な違和感に気づいた。よく見てみるとサラダにやたらとトマトとセロリが多かった。そして炒め物の方はにんじんが多くベーコンが少なかった。

 

..............まさかこの2人。

 

「なあココア、チノ。」

 

「ん?」

 

「どうしました?」

 

「俺のサラダ、トマトとセロリが多いんだけど。あとにんじん多くてベーコンが少ないような気がするんだけど気のせい?」

 

「「..............」」

 

「.........おい、2人ともなんで目を逸らす?」

 

俺は2人を見ると、目を合わそうとせず少し俯いていた。間違いない、この2人やったな。

 

「別に怒らないから正直に言いな。嫌いな野菜俺の所に移しただろ?」

 

「「............はい。」」

 

2人は口数が一気に少なくなり怒られるんじゃないかと少しビクビクしていた。夕飯の食材を準備したのは俺だけど、少しくらいは頑張って食べて欲しかったな。

 

「2人とも、別に怒ってるわけじゃないからそんなに怖がらなくていいんだぞ?」

 

「で、でもお兄ちゃん!私、頑張ってトマト1つは食べるつもりだよ!ほら、私のお皿にトマトが1つあるでしょ?まだ食べてないけど。」

 

「わ、私もまだ食べてませんけど、お皿にセロリが1つだけあります。」

 

そう言われて見てみると確かにトマトとセロリが1つだけあった。俺に言われなくても2人なりに頑張って食べようとしていたんだな。

 

「お兄ちゃん、その........ごめんなさい。」

 

「......ごめんなさい。」

 

2人は頭を下げて謝ってきた。でも頑張って1つは食べようとしてくれたんだからちゃんとそこは褒めてあげないとな。そうしないとこのままじゃ、俺を怒らせてしまったとずっと思われそうだし。

 

「謝らなくていいよ、怒ってないから。それに頑張って食べようとしたんだろ?その気持ちがあるだけで充分だから。2人とも偉いぞ。」

 

そう言って再び2人の頭を撫でた。優しく撫でていると次第に固くなっていた表情が柔らかくなっていき、いつも通りに戻っていた。こうして見ると2人とも時々姉妹のように見えるのは気のせいだろうか。

 

「それじゃ、リゼの所に行ってくるよ。」

 

「うん!行ってらっしゃい!」

 

「行ってらっしゃいです。」

 

俺は夕飯を持ってそのまま2階へ上がった。自室に入るとリゼは箸を止めて大人しく待っていた。

 

「あれ?待たずに食べててもよかったのに。」

 

「いや、せっかく一緒に食べるのに先に食べたらなんだか勿体ないからな。ほらリョーマ、早く食べよう!」

 

俺はリゼの隣に座って、そのまま一緒に夕飯を食べた。その間リゼはとても楽しそうでさっきよりも美味しそうに食べていて、なんだかリゼが幼く見えたというかいつもココアとチノの面倒見てるからなのか少し年下に見えたような気がした。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした!」

 

「お粗末様。」

 

20分程で夕食を終え食器を片付けた俺は、一度リゼの体温を測ることにした。見た感じはもう元気そうだけど、たまにぼーっとしている時がある。多分まだほんの少し熱があるんだろう。体温計を持って来て測ってみると予想通り、37.2℃の微熱だった。

 

「やっぱりまだ少し微熱だな。それじゃあこのまま安静にするようにな。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

「まだ寝るまで時間あるし、何かして遊ぶか?」

 

「え?いいのか?」

 

「うん、俺も暇だしすることないから。」

 

本当はリゼのお父さんに頼まれたことを尽くすためだが、あの時のリゼのお父さんの真剣さからして、リゼにはこのことは言わない方が良いような気がする。

 

「それじゃあ遊ぼう!でも何して遊ぶんだ?」

 

「ん~そうだな。」

 

遊ぼうにも何して遊ぶかは全然決めてなかった。俺の部屋には遊べるようなものが置いてない。ココアなら何か持ってるかもしれない。

 

「リーゼちゃーーーん!!!」

 

「ココアさん、リゼさんはまだ夏バテ治ってないんですから静かにしないと。」

 

ちょうどココアの所へ行こうとしたらちょうど本人が部屋に入ってきた。そしてココアは右手に少しだけ大きな箱を持っていた。

 

「リゼちゃん!お兄ちゃん!みんなで人生ゲームしよ!」

 

そう言ってココアは箱を俺たちに見せてきた。タイミングよく遊べるものを持ってきてくれて助かった。リゼはやる気満々と言った顔で早くやりたそうにしている。

 

「それじゃ4人でやるか!」

 

「うん!じゃあ早速準備するね!」

 

箱を開けみんなで準備を始めたが、早くしたいのか中でもリゼが準備する速度がけっこう速かった。それほど早くやりたいんだろう。目がキラキラしている。

 

5分ほどで準備が終わり、みんなワクワクした様子で人生ゲームが始まった。出だしはココアが群を抜いて1位を独占していたが、罰金マスに止まる回数が増えていき次第に差が縮まり2位になったココアは"まだまだこれから"と言っていたが中盤になると3位になってしまい、少し焦りの様子が見え隠れし始めこの段階では1位がチノ、2位が俺、3位がココア、4位がリゼになっていたがココアとリゼが僅差でココアが4位になってもおかしくない状況だった。終盤になる頃にはココア以外は全員ゴールしておりココアは祈りながらルーレットを回して駒を進めた。するとゴールの1マス前で止まってしまい内容を見てみると"会社経営の軌道に乗りかけたが上手くいかず倒産、30万失う"だった。この瞬間ココアは顔を青ざめショックを受けながら泣く泣くゴールに到着した。結果ココアはみんなと大きな差をつけて最下位の4位だった。

 

「むぅ~........。」

 

「ココア、そんなに拗ねるなよ。」

 

「だっておかしいもん!最初はあんなに良かったのに最後は最下位なんて。」

 

「ゲームなんだからそんなにむきにならなくても。」

 

「そうだけど.......」

 

ココアは頬を膨らませて拗ねてしまった。気持ちはわからなくもないけど.......。

そう思いながら時計を見るともう11時だった。

 

「さてと、もう(おそ)いしそろそろ寝るか。」

 

「そうだな。私はこの部屋で寝ても大丈夫なのか?」

 

「ああ、俺はココアと寝るから大丈夫。ほらココア、いつまでも拗ねてないでもう寝るぞ。」

 

「.........。」

 

まだココアは拗ねていた。もう寝ないといけないのに困った妹だ。

 

「ほらココア?」

 

「............して

 

「ん?」

 

「......ギュってして。そうしてくれたらもう拗ねない。」

 

そう言ってココアは両腕を広げた。そういうところも小さい時から変わってないな。昔も拗ねた時はおばさんがハグして宥めていたし。

 

「わかった。おいで。」

 

「.........えへへ///

 

そう言って俺も両腕を広げるとそっと抱きしめてきた。頭も撫でてあげると一瞬で笑顔になり拗ねていたことなんて忘れているみたいだった。しばらく撫でていた時、俺はハッと気づいた。さっきまでみんなで人生ゲームをしていたんだから当然チノもいるはず。そう思いながら気配を感じていた背後を振り向くとチノが頬を膨らませながらジーっと見ていた。

 

「私、1位になれたのに最下位のココアさんにはハグするんですね...........ひどいお兄ちゃんです。」

 

そう言って今度はチノが拗ねてしまった。チノって甘えん坊さがもう既にココアを上回ってるような気がするのは俺の気のせいなのかな?それよりこのままだとチノはずっと拗ねたままだ。1位になれたんだしチノにもハグしてあげよう。

 

「ごめんごめん。チノは1位になれたんだもんな。ほら、チノもおいで。」

 

「っ!........はい!」

 

チノは満面の笑みで抱きついて来た。いつもより少しだけ長くハグした後、充分に満足できた2人はいつでも寝れるような様子だった。

 

「それじゃお兄ちゃん早く寝よ?チノちゃんも一緒に寝る?」

 

「今日は私1人で寝ます。」

 

「うんわかった、お兄ちゃん早く行こ?」

 

「俺はリゼに寝る前の薬を飲ませてから行くよ。先に行ってて待ってて。」

 

「じゃあ先に行ってるね!チノちゃん行こ?」

 

「はい。お兄ちゃんお休みなさい。」

 

「お休み。」

 

そのまま2人は部屋を出て、各自の部屋へ向かって行った。俺は水を薬をリゼに渡してもう少しだけ話をすることにした。

 

「相変わらず優しいな。」

 

「そうか?」

 

「いつも2人の面倒見てて凄いと思うよ。」

 

「多分慣れちゃってるんだろうな。これが普通って思ってるし。」

 

時々思うけど慣れって色んな意味で凄いよな。けっこうキツイと感じていたのがいつの間にか全然キツくなくなってたり、新しいことで戸惑っていたけど気がついたらそれが当たり前になっていたなんてことをクラスメイトの人たちや、仕事をしてる時にお客さん達からそんなことをよく耳にする。まあ、俺自身もそれを感じているから本当のことなんだろう。

 

「そういえばリョーマって全然怒らないよな?」

 

「まあそうだな。ココアやチノにたまに注意することがあるぐらいかな。」

 

「そうなのか。今まで本気で怒った事ってなかったのか?」

 

「............。」

 

...........ちょっと嫌なことを思い出してしまったな。

 

「............1回だけある。」

 

「あるのか?何で怒ったんだ?」

 

「まあ、モカに関係してることだな。」

 

「モカさんに?何があったんだ。」

 

言おうか迷ったけどリゼになら話してもいいだろう。

 

「まだ俺が小学生でモカが中学生の時の話なんだけどな。当時のモカは男子にいじめられてたんだよ。」

 

「え!?あのモカさんが?なんで?」

 

「当時のモカは他の女子生徒と比べて胸がかなり大きかったらしくてな。それを奇妙に思った2人の男子生徒がそれでモカをいじめてたんだ。そんな日々が2ヶ月くらい続いたって聞いたよ。」

 

「そうだったのか...........」

 

「そしてある日、俺が学校から帰る途中にモカと男子生徒が2人見えて何か話をしてたんだ。少し離れて話を聞いてると、"お前の胸デカすぎだろ!"とか"こんなにデカいなんておかしすぎだろ!"とか言って笑いながらモカをいじめてたんだ。その間モカはずっと涙を堪えながら歯を食いしばって耐えていて、そんな光景を見た俺は我慢が出来ず割って入って反論したんだ。そこからしばらく俺はその2人と言い合いになって、そして男子生徒の1人に"こんなにデカイ胸を持ってる保登なんてただの化け物じゃん!"って言われた瞬間、頭の中で何かが切れる音がしたんだ。気が付いたら俺はその男子を思いっきり殴ってた。そこからは殴り合いの大喧嘩だよ。殴った数より殴られた数の方が多かったけど、偶然近くを通ってたお年寄りの夫婦が急いで学校に通報して先生達が駆けつけて来てすぐ止められたんだ。喧嘩はそこで終わったけどその後俺はモカにずっと"ごめんなさい"って言われ続けたよ。」

 

「............ごめん、嫌な事思い出させてしまって。.........本当にごめん。」

 

リゼは物凄い申し訳ない顔をしていた。まあこんな話聞いたらみんなそうなるよな。俺だって絶対にそうなる。

 

「いいよ気にしなくて。それにその後その2人は先生にこっぴどく叱られたみたいでな、男子2人が頭を下げてモカに謝ってその日からモカがいじめられることは無くなったよ。」

 

「そうか。それは本当に良かった。」

 

「それで何故かわかんないけど、その日からモカからのハグとか頭を撫でてきたりとかのスキンシップがその時まで以上にめちゃくちゃ多くなったんだ。まあそれがたまに怖いと感じたこともあったけど。」

 

「それでモカさんがこっちに来た時あんなに怯えてたんだな。」

 

「まあな。」

 

「なあリョーマ、よかったらもう少しだけ(はなし)していってくれないかな?まだちょっと眠れそうにないから。」

 

「ああいいよ。」

 

「じゃあ前から気になってたんだけどさ、お前とココアが出会った時の話聞かせてくれないか?」

 

「出会った時の話か?いいよ。まずココアと出会ったのは俺が小学1年生の時で________。」

 

 

 

俺は前にチノにも話した俺とココアとの出会いをリゼにも話した。出会った瞬間からお兄ちゃんと呼ばれるようになったこと、いつも毎日一緒に遊んだり俺がココアの家にお邪魔して一緒にご飯を食べたりといろんなことを話した。一通りのことを話した後、それを聞いたリゼは"今とあまり変わってないな"と言っていた。実際俺もそう思う。

 

色々話をしていたらいつの間にか40分近く経っていた。そろそろ本当に寝ないと0時を過ぎてしまう。

 

「さて、俺はそろそろ寝るよ。何かいるものはある?」

 

「ううん大丈夫、ありがとう。あと、本当にごめんな。あんな嫌な話させてしまって。」

 

「いいよもう昔のことだし。今はもうすっかり元気だし。それじゃあお休み。」

 

「お休み。」

 

俺はそのまま部屋を出てココアの部屋へ向かった。少し遅くなってしまった。多分怒って待っているんじゃないかと思いながら廊下を歩き、ココアの部屋の前まで来た。

 

「ココアごめん、ちょっと遅くなっ...........おっと。」

 

.........すぅ~..........すぅ~

 

謝りながらドアを開けると、ココアが椅子に座って机にうつ伏せで眠っていた。俺が来るのを待ってたけどなかなか来なかったから眠ってしまったんだろう。早くベッドへ寝かせよう。こんな所で寝たら風邪をひいてしまう。

 

「ココア、ここで寝たら風邪ひくからベッドで寝ないと。」

 

「ん~.......お兄...ちゃん......?」

 

軽く肩を揺すると寝ぼけ眼でゆっくりと起きた。多分これ9割方寝てるな。

 

「ほらココア、こんなところで寝てないでベッドに行かないと。」

 

「.......抱っ....こ...。」

 

「ちょっ......ココア?」

 

ココアはそう言いながら立ち上がると、俺に全体重を預けてきた。慌ててココアをもう一度起こしてみたが完全に眠っており、いくら起こしても寝息を立てるだけだった。

 

「仕方ないな。」

 

俺はそのままココアを抱きかかえてベッドに寝かせた。ドアの近くにあったスイッチを押して電気を消しベッドへ向かおうとした時、ふとココアが寝てた机に目が行った。

 

「これって..........。」

 

見てみると開きっぱなしのノートが置いてあった。ココアをベッドに運ぶので全然気づかなかった。ノートを手に取って中身を見ると英語の文章や、単語、文法がズラリと並んでいた。特にわかりにくい所は蛍光ペンで印をつけて各5回ずつ書いていた。

 

(ココア........俺が来るまでの間苦手な英語の勉強をしていたのか。)

 

ここ最近でココアは本当に変わった。仕事を頑張ってミスも以前と比べるとかなり減ったし、苦手な英語を自ら取り組むなんて昔のココアなら何かと理由をつけて絶対にしなかっただろう。夏休み前の期末試験の時は理系科目は相変わらず90点代だったけど、文系科目は3科目とも50点代だった。結果を見た時俺は本当に驚いた。多分ココアのクラスの担任も驚いてたんじゃないかな?去年は10点代とか20点代だったのにここまで上がるなんてすごい成長速度だ。これはココアの頑張りの賜物(たまもの)に違いない。

俺はそっとノートを閉じて、ベッドに入りココアの隣で横になった。

 

「本当によく頑張ってるな。」

 

「...........ん?お兄ちゃん.........?

 

俺はベッドで横になりながらそっとココアの頭を撫でているとゆっくりと目を開け起きてしまった。

 

「あれ?いつの間に来てたの?」

 

「お前が机で寝てる時にな。」

 

「そっか、私寝ちゃってたんだね。」

 

そう言いながらココアはモゾモゾと動きながら俺のそばへ寄って来た。

 

「えへへ///やっぱりお兄ちゃんと一緒に寝てると安心する。」

 

そばへ寄って来たココアはそのまま俺に抱きついてきた。甘兎庵でのあの出来事から2ヶ月ほど経ったが今でも毎日ココアと一緒に寝るようにしている。そのおかげか今はもう怖い夢を見ることは全くなくなったみたいだ。もちろんこれからも毎日ココアと一緒に寝るつもりでいる。

 

そういえば前から気になっていたけどどうしてココアは急に勉強を頑張るようになったんだろう?いい機会だし聞いてみるか。

 

「なあココア。」

 

「ん?どうしたの?」

 

「前から思ってたんだけどなんで急に勉強頑張るようになったんだ?前のココアなら自分から勉強することなんてなかったのに。何かきっかけがあったのか?」

 

ココアはきっかけを思い出すかのような顔をして、そしてゆっくりと口を開いた。

 

「.....うん。きっかけはお兄ちゃんが高熱で入院したことだよ。」

 

「え?そうなのか?」

 

「うん。あの時本当にお兄ちゃんに申し訳ないことしたと思ってね、それでお兄ちゃんに少しでも負担をかけないようにと思って勉強を頑張ることにしたの。それがきっかけだよ。」

 

「あの時から?てことは怖い夢を見ながら勉強も頑張ってたってことか?」

 

「うん。だけど元はと言えば私がお兄ちゃんに負担をかけてたのが悪いんだからお兄ちゃんは悪くないよ?」

 

「けどお前に苦しい思いをさせてしまったのは俺が原因だ。甘兎庵でのあの取り乱し方、普通じゃなかったし。」

 

「そうだね。今だからわかることだけど怖い夢を見てから1ヶ月くらい経った日に1番怖い夢を見てしまって、その日から私狂って夢と現実の区別がつけれなくなって現実が死後の世界だと思い込んでしまっておかしくなってたの。」

 

「1ヶ月って俺が進路に悩んでた時くらいからか?」

 

「うん。」

 

そうだったのか。その時からココアはおかしくなってしまっていたのか。10年近く一緒にいるのにそれに気づけなかったなんてやっぱり俺はダメな兄だ。

 

「本当にごめんな、全然気づけなくて。」

 

「大丈夫だよ、今はもう平気だから。私はお兄ちゃんと一緒にいれるだけで充分だよ。」

 

「そうか、これからも遠慮しなくていいからな?」

 

「うん!」

 

話をしながら頭を撫でているとだんだんココアの目がトロンと眠そうにしてきた。もう寝よう。とっくに0時を過ぎている。

 

「さてと、もう0時過ぎてるしもう寝るか。」

 

「うん。お兄ちゃんお休み。」

 

「お休み。」

 

 

 

to be contined




今回はここで終わります。
これ誰の回?と思った方がもしかしたらいるかもしれないので後書きに書いておきます。



リゼ回です。


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-46話- 言う勇気は大切。

「.........ふぁ~、もう朝か。」

 

目が覚めると窓から僅かな陽の光が差し込んできた。時計を見るとまだ6時だったが眠気覚ましに窓を開けて外を見てみるとちょうど朝日が昇り始めているところだった。早朝の青空によって青みを帯びている街並みを太陽が照らす。なんだか神秘的だ。もう8月だけど、日がまだ昇り切っていないこともあって少しだけ涼しさを感じる。いつもは7時前くらいに起きるけどいつもより早く起きるのも悪くない。朝からこんな景色を眺めれてちょっと得した気分になるし。

 

「ん~.......さむ......い....。」

 

景色を眺めているとココアの声が聞こえ、見てみると俺が起きた際に布団が3分の1程めくれてしまった所為で少し寒がって縮こまっていた。夏とはいえエアコンの効いた部屋で寝てるときに布団が(めく)れたら寒いよな。

 

俺はそっと捲れた布団を元に戻し、起こさないように優しくココアの頭を撫でた。ココアって寝てる時は天使みたいな笑顔で本当に大人しいな。たまに寝相がひどい時があるけど。

 

「さてと、ちょっと早いけど朝ごはん作るか。」

 

撫で終えた俺はココアを起こさないようにそっとベッドから下りて服を着替えた。そのまま部屋を出ると廊下は誰もおらず完全な無音空間だ。ゆっくりと廊下を歩いて行くが一切の物音が無い所為か、床の軋む音が足元からよく聞こえる。そのまま階段を下り洗面所で顔洗いと歯磨きを済ませてからキッチンへ向い、中に入ると当然の如く誰もおらず同じ無音空間だ。まるで幽霊が全く音もたてずにジッと動かずに隠れているような感じだ。早朝ということもあってか、よりその空気感を感じる。まあ実際そんなことないんだろうけど。

 

(さあて何作ろうかな?)

 

そう思いながら冷蔵庫を開け中身を見ていると、昨日の買い出しで買ったものがずらりと並んでいた。朝食に使える食材がないか中を見渡していると、とある食材が目に入った。これを使ったら多分ココアとチノが大喜びするだろうな。今日はいつもより少し早く起きたし仕事も休みだし時間に余裕がある。ちょっとだけ豪華な朝ごはんにするか。

 

俺はキッチンに食材を揃えて料理に取り掛かった。1人だけの空間で料理をするのって久しぶりな気がする。いつもはチノかココアが手伝ってくれたり、あるいはその2人が食卓に座って料理ができるまで仲良く話をしていたりと和やかな雰囲気があった。今のこの状況だとなんだか少し寂しいような感じがするな。

 

 

トン、トン、トン、トン

 

 

ゴォーーー

 

 

「..........。」

 

食材を切る音、コンロの火の音などが響き渡り黙々と進んでいく。時刻は6時半だ。あと30分くらいすれば出来上がるだろう。母さんは毎日これをしてたんだな。今なら母さんの大変さが少しわかる気がする。

 

 

 

 

トタ、トタ、トタ

 

 

 

「........?」

 

突然2階から階段を下りる音が聞こえてきた。階段を下りきるとゆっくりと足音が今俺がいるキッチンへと近づき、その足音の正体はひょこっとキッチンの入り口から顔を覗かせた。

 

「リゼ?もう起きたのか?」

 

足音の正体はリゼだった。最初は何をしてるんだろうという顔だったが俺の手元を見るとすぐに朝食の準備だと理解したようでゆっくりとキッチンに入ってきた。

 

「ああ、いつもこのくらいの時間に起きて朝のランニングしてるから自然とこの時間に起きるんだ。」

 

「.....え?まさか今からランニングしようって言うんじゃ.......?」

 

「いやいや流石に今日はしないよ。そこまで私は馬鹿じゃないから。」

 

「そうか、よかった。」

 

流石にリゼもそこはわかってるみたいだ。夏バテなのに、もしそれでもランニングするなんて言い出してたら何がなんでも全力で止めてたぞ。

 

「それでリョーマは何を作ってるんだ?」

 

「ああ、これだよ。」

 

「......ふふ.....なるほど、これはココアとチノが喜びそうだな。特にチノが。」

 

「やっぱりリゼもそう思う?」

 

「ああ、多分チノの奴ウサギみたいにぴょんぴょん飛び跳ねるんじゃないか?」

 

「はは、多分な。」

 

リゼはなんとなく予想がついたのか含み笑いをしていた。俺も大方予想がつく。

 

「そういえば体調の方はどう?まだ怠さはあったりする?」

 

「もう大丈夫だよ。怠さも無いし目眩もないし。一応念のために今日も大人しくしてるつもりだ。あと本当にごめんな、色々迷惑かけちゃって。これからはちゃんと気を付けるよ。」

 

「いいよ、気にしなくて。誰にでも失敗くらいあるよ。」

 

体調が戻ったみたいで本当に良かった。これなら明日には完全に治っているだろう。俺もこれを機にこれからはもっと暑さ対策をしっかりしよう。今回は軽い夏バテで済んだから良かったけど対策を怠って熱中症なんかになってしまったら大変だ。

 

「そうだリョーマ、朝ごはん作るの手伝ってもいいか?」

 

「え?ん~、気持ちは嬉しいけどもうすぐできるからリゼはテーブルで待っててもいいよ。」

 

「いや手伝うよ。体調も大丈夫だし、それに看病してくれたお礼もしたいしさ。」

 

この感じ、俺がOK出すまで続くタイプだな。まあ見た感じ体調は大丈夫そうだし、ここはリゼのお言葉に甘えるとしよう。

 

「わかった。それじゃ悪いけど味噌汁作ってくれるかな?具材はもう切ってあるから。」

 

「ああ!任せろ!」

 

そう意気込んでリゼは俺の隣に立ち、沸騰したお湯に玉ねぎ、豆腐、わかめを入れていき、作り慣れてるかのようにテキパキと味噌汁を作り始めた。そして下拵(したごしら)えを終えた俺はフライパンでじっくりと焼いていく。さっきまで1人で作ってたからなんだか少し楽しくなってきた。話し相手がいるか否かで雰囲気がガラリと大きく変わる。人は1人に慣れることはできても、独りは結構辛いからな。

 

「こうしているとシャロの家でみんなでカレーパーティーをしたのを思い出すな。」

 

リゼは懐かしむような目でボソッと呟いた。あの日は確かに楽しかったな。酔っていたけどチノが一時的に初めて甘えん坊になったのもあの時だったな。今思えばあの頃からチノは甘えたかったのかもしれないな。

 

俺はここで"ココアに夫婦みたいって言われたこともあったな"と言おうと思ったけど、それを言うと多分リゼは顔を真っ赤にして怒るだろうから言わないでおいた。また包丁振り回されるのは御免だしな。

 

 

 

 

P r r r r

 

 

 

 

「ん?電話?」

 

突然ポケットに入れてたケータイが鳴りだした。取り出して画面を見てみるとシャロと表示されていた。こんな朝早くに電話なんて珍しい。

 

「リゼ、シャロから電話が来たから悪いけど少しの間だけ料理を見ててくれるか?」

 

「ああわかった。けどなんでシャロがこんな朝早くに?」

 

「さあ?とりあえず電話に出て聞いてみるよ。」

 

俺は場所を変えるためにキッチンを出て廊下で電話に出て、応答ボタンを押して耳に当てた。

 

「もしもしシャロ?朝早くどうしたんだ?」

 

「先輩ですか?すみません朝早くに。実は昨日ココアからリゼ先輩が夏バテになったって聞いて、気になって電話することにしたんです。昨日の部活の助っ人の時、リゼ先輩頑張り過ぎててちょっと心配だったので。」

 

それで安否を確認するために電話をしてきたというわけか。良い後輩を持ったなリゼ。

 

「リゼならもう大丈夫。ほとんど治ってるし明日には完治してると思うよ。」

 

「本当ですか!よかったです!あの先輩、もしよかったらチヤと一緒にリゼ先輩のお見舞いに来てもいいですか?」

 

お見舞いか。それならきっとリゼも喜ぶだろう。俺もこの前病院で入院した時、見舞いのメールをくれて嬉しかったし。

 

「もちろん!リゼも喜ぶと思うよ。」

 

「ありがとうございます!それじゃ今日のお昼頃に行っても大丈夫ですか?」

 

「わかったお昼頃な。そうだ、よかったらお昼ご飯こっちで食べる?」

 

「え?いいんですか?」

 

「うん、みんなで食べたほうが美味しいし。」

 

「はい!喜んで!」

 

「よしわかった。それじゃまたお昼にな。」

 

「はい、失礼します。」

 

俺はそのまま電話を切った。今日は仕事も休みだしシャロ達も来るからお昼ご飯も少し凝ったものを作ろう。さっき冷蔵庫の中を見たけど、食材もある程度揃ってたから色々作れるだろう。俺はお昼ご飯のことを考えながらリゼがいるキッチンへ戻った。

 

「お待たせ。」

 

「どうだった?」

 

「お昼頃にシャロとチヤがリゼのお見舞いに来るってさ。」

 

「お見舞いに?そうか、なんだか嬉しいな。」

 

リゼは頬をほんの少し赤らめて微笑んでいた。お見舞いに来てくれたら誰だって嬉しいだろう。その証拠に小さく鼻歌を歌ってるし。

俺はそのままリゼの隣に立ち少しの間見ててもらっていた料理を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし完成!リゼ、俺はココアとチノを起こしてくるから準備しててくれるかな?」

 

「ああわかった。」

 

後のことはリゼに任せて、一旦俺はココアが寝てる部屋へ向かった。中に入って見てみるとまだベッドで穏やかな寝息を立てながらぐっすりと眠っていた。起こすのを躊躇いそうになるほどだ。でもいつまでも寝かせておくわけにもいかないしここは起こそう。

 

「ココア、朝ごはんだぞ。」

 

「ん~......。」

 

揺すって起こしてみたがココアはそのまま俺に背を向けるように寝返りを打って再びスヤスヤと眠ってしまった。確かに休みの日はいつもより長く寝てしまうのはわからなくはないけど朝ご飯が冷めてしまうからできれば早く起きて欲しい。

 

「ほら、早く起きて。」

 

「...........ん〜?.........お兄、ちゃん?」

 

「起きたか、おはよう。」

 

「.......眠い~.......。」

 

やっと起きてくれたココアはゆっくりと体を起こして眼を擦っていた。まだうつらうつらで頭がゆらゆらと揺れているが5分くらいすれば目が覚めてくるだろう。

 

「そろそろ起きないとダメだぞ?それに今日の朝ごはんちょっと豪華だから早くしないと冷めちゃうぞ?」

 

「え?ほんと!?」

 

朝ごはんが豪華だとわかった途端ココアは目をカッと開き物凄く嬉しそうな顔になった。さっきまでの寝惚け眼は一瞬でどこかへ行ってしまった。何はともあれ目を覚ましてくれて良かった。

 

「うん、でもその前に歯磨きと顔を洗うんだぞ。」

 

「はーい!」

 

そう言うとココアは急ぎ足で部屋を出て洗面所へ行ってしまった。しかもドア開けっ放しで。閉めて行きなよ。ココアって行動に移ると早くなるよな。しかもいつも元気に振る舞ってて、こっちも元気になるから羨ましい才能だ。

 

「さてと次はチノか。」

 

ココアを見送った俺は部屋を出て、チノの部屋へ向かった。向かう途中、俺が立っている床からドタドタと1階で走る足音が伝わってきた。ココアったら余程楽しみにしてるんだろうな。チノにも同じことが言えそうな気がするけど。まあ自信があるのには変わりないから楽しみにしてて欲しいくらいだ。

 

「チノもまだ寝てるのかな?」

 

部屋の前に着いた俺は、とりあえずノックをしてみた。けれど返事はなくどうやらまだ寝てるみたいだ。俺はゆっくりとドアを開けベッドの所まで行くと思った通りチノはまだぐっすりと眠っていた。

 

「チノ、朝ごはんだぞ。そろそろ起きて。」

 

「......... すぅ〜.......すぅ〜.......。

 

優しく揺すって起こしてみたがココアと同じ全然起きない。それどころかココアより深く眠っているようにさえ見える。これは起こすのに少し苦労しそうだ。

 

「チノ、朝ごはん冷めるから早く起き.........ん?」

 

何度か揺すって起こしているとチノの手から何かがぽろんと出てきた。取って見てみると前にチノと一緒に出かけた時にお揃いで買ったコーヒーのバッジだった。

 

「これって........」

 

「........ん?お兄ちゃん?」

 

「ん?ああ起きたか。」

 

「........あれ?バッジ........バッジは!?」

 

手元にバッジが無いとわかった途端ものすごい焦り顔になり、辺りを必死に探し始めた。普段見ないくらいの焦り顔だったので俺は急いで返すことにした。

 

「これか?さっき手からポロッと落としてたぞ。」

 

「良かった.........失くしたかと思いました。」

 

バッジを返すとチノは安心したような顔でホッとしていた。

 

「チノって寝てる時いつもそのバッジ持って寝てるのか?」

 

「はい、これ持ってるとお兄ちゃんが近くにいるみたいに思えるんです。だから1人で寝るときはいつもこれを持って寝てます。」

 

どうやらチノは俺と一緒に寝るとき以外はこのバッジを握りしめて寝てるみたいだ。確かにいくら1人で寝るのを頑張っていたとて何か代わりの物が傍にないと流石にキツイだろうな。それくらいチノにとってこのバッジは大切な物であり、()()の1つなんだろう。

 

「そうだったのか、一緒に寝たくなったらいつでも言っていいからな?」

 

「はい!」

 

「よし!じゃあ朝ごはんにするか!今日の朝ごはんはちょっと豪華だぞ。」

 

「本当ですか!?」

 

朝ごはんが豪華だとわかると目を輝かせ、さっきのココアと同じように物凄い嬉しそうな顔をし始めた。

 

「うん、だからちゃんと歯磨きと顔洗い済ませるんだぞ?」

 

「はい!行ってきます!」

 

そう言ってチノは大急ぎで部屋を出てドアを開けっぱなしの状態にしたまま洗面所へ向かっていった。いつもは閉めて行くのに。日に日にココアに似ていってるな。

2人とも起こし終えた俺は部屋を出て食卓に向かうために階段を下りようとしたその時、突然ゴツンという何かと何かがぶつかる音が1階から響いてきた。

 

「あ゛た゛っ゛!」

 

「あ゛ぅ゛っ゛!」

 

「う~.....チノちゃん走ったら危ないよ?」

 

「ご、ごめんなさい。今日の朝ごはんが少し豪華と聞いたので。」

 

かすかに話し声が聞こえる。どうやらさっきの音はチノとココアがぶつかった時の音だったようだ。

 

「気持ちは分かるけど、本当に怪我しちゃうかもだから気を付けないとだよ?」

 

「はい、ごめんなさい。」

 

ココア..........すごい良いこと言ってるけどあなたもさっき物凄い勢いで走ってましたよね?お姉ちゃんっぽさを出したいのかどうかはわからないけど、思いっきり自分のことを棚に上げてますよココアさん?

 

「うん!ということでおはようのもふもふ♪」

 

「ふぇ!?コ、ココアさん離れてください!」

 

「そんなこと言わずに♪」

 

「ダメです!私をもふもふしていいのはお兄ちゃんだけです!」

 

「お兄ちゃんの妹は私の妹でもあるからいいの♪」

 

階段を下りて見るとココアが半強制的にチノをもふもふしていた。なんだかモカにハグされてる俺みたいだな。

.........なんだろう急に寒気が。あまり考えないようにしよう。それより早くしないと朝ごはんが冷めてしまうからそろそろ止めるか。

 

「ココア、朝ごはん冷めるからもう行くぞ。」

 

「あ、そうだった!チノちゃん行こ!」

 

「ま、待ってください!私まだ歯磨きと顔洗ってません!」

 

ココアはチノが言ってる事を聞いていないような様子で手を引っ張ろうとしていた。俺は一旦ココアを止めてチノが歯磨きと顔を洗い終わるまで洗面所の前で待つことにした。

 

待ってる間ココアと話をしながら待っていたが、よほど機嫌が良いのか洗面所のドア越しからチノの鼻歌が聞こえてきた。チノが鼻歌を歌うなんて滅多にないからすごく新鮮だ。それを一緒に聞いてたココアは"チノちゃんには言わないようにしようね"みたいな顔で人差し指を唇に当てていた。俺もそれに応えるように微笑み返してチノが出てくるまで待った。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、2人ともおはよう。」

 

「リゼちゃんおはよー!」

 

「おはようございます。」

 

チノが事を済ませた後、食卓へ向かうとちょうどリゼが朝食の準備を終わらせるところだった。4人テーブルには俺とリゼで作った朝食が並べられていて、いつでも食べれる状態だ。さて、2人はこれを見てどんな反応するかな?

 

「ん?.........あぁ!ハンバーグだぁ!」

 

「ふわぁ!美味しそうです!」

 

食卓に並べられた朝食を見たココアとチノは心の底から喜ぶように嬉しがっていた。そう、今日俺が朝食に作ったのはハンバーグだ。まあハンバーグといっても一口サイズのハンバーグが各々の皿に3つずつだけだけど、それでも2人とも喜んでくれて何よりだ。

 

「どうしたのお兄ちゃん!?今日は何か特別な日なの!?」

 

「そうです!今日は何かあるんですか!?」

 

2人ともウキウキした顔で聞いてきた。そうだよな、朝食でハンバーグ作るなんて初めてだからな。そう思ってしまうのも無理ないか。

 

「いやぁ別に特別な日じゃないんだけどな。朝ごはん何作ろうかなと思って冷蔵庫見たら挽肉があったから2人とも喜ぶかなって思ってハンバーグにしたんだ。」

 

「そうなの!?お兄ちゃんありがとう!」

 

「ありがとうございます!」

 

2人とも満面の笑みでお礼を言いながら抱きついてきた。気のせいかな?いつもより力が強い気が。

 

「おいココア、チノ。リョーマが苦しがってるから離れた方がいいぞ。ほら朝ごはん冷めるから早く食べるぞ。」

 

「うん!ねえねえお兄ちゃん早く食べよ!」

 

今のリゼ、なんだかお姉ちゃんっぽさを感じるな。ココアもいきなりレベルの高いモカを目指すんじゃなくてまずはリゼを見習った方がお姉ちゃんレベルが上がると思うんだけどな。

 

「よし、食べるか!」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

隣にリゼ、正面にココア、斜め左にチノというふうに席に座り終えるとココアとチノは一目散にハンバーグを口に運んだ。口の中でハンバーグを噛み締めた途端、天井を見つめながらとろんとした目になり2人ともなんだか放心してるようになっていた。俺が視線の先で手を振っても全然反応しないし、いつも通りに作ったのにそんなに美味しかったのか?

 

「おーい、おーい。2人とも帰ってこーい。」

 

いくら手を振っても戻って来ないので軽く肩を揺すってみたがそれでも戻って来ない。

 

..........どうしたらいいんだ?

 

「ココアもチノも本当にリョーマが作ったハンバーグが好きなんだな。」

 

「確かにいつも美味しそうに食べてくれるけど、こんなことになったのは初めてだぞ。」

 

「それくらい好きってことなんじゃないか?」

 

「そうなのかな?........ていうかこれどうしたらいいんだ?」

 

「ん~......目の前で手をパンって叩いてみるとかは?猫騙しみたいな。」

 

「漫画とかでよくあるやつか。一応やってみるか。」

 

「ああ、私はチノにするよ。」

 

俺はまずココアの前に立ち、目をじっくり見てみた。相変わらず放心状態のような瞳で天井を見つめている。確かにボーっとしていたり何かに集中していたりしてる時に突然大きな音を立てられたらびっくりするからそう考えたらリゼの言うとおりかもしれない。

 

俺はココアの前で両手を出し、リゼはチノの前で両手を出した。お互い準備ができたことを確認すると合図を送り同時になるべく大きな音が出るように両手を叩いた。

 

「「わぁ!?」」

 

よほど大きく聞こえたのか、椅子ごと後ずさるようにびっくりしていた。

 

「........あれ?.....私何してたんだっけ?」

 

「やっと起きたか。お前ハンバーグ食べて放心状態だったんだぞ。」

 

「そうなの?えへへ、全然覚えてないや。」

 

ココアはちょっと照れくさそうに頭を掻いた。ハンバーグを食べて放心する人なんて初めて見たぞ。もしかしたらハンバーグで放心なんて世界初なのかも。まぁ何はともあれ戻ってきてくれて良かった。

 

「チノ、大丈夫か?」

 

ココアと一緒に起きたチノにも声を掛けたが、何かを探しているように辺りをキョロキョロしていた。バッジなら胸元に付けてるけどどうやらバッジを探してるようではなさそうだ。

 

「............お兄ちゃん、ハンバーグ畑はどこですか?」

 

「..........は?」

 

どうやらチノはまだ半分帰ってきてないみたいだ。ハンバーグ畑って何?花の部分がハンバーグになって咲き誇ってるのかな?ハンバーグ好きからしたら天国のような所だろうな。けど残念ながらそんな物は現実には無い。もしあるなら是非とも1度見てみたいものだ。

 

「ハンバーグ畑なんか無いぞ。チノが見たのは夢だぞ。」

 

「...........そう、ですか.......... ぐす......」

 

夢だと分かった途端チノは俯いてしゅんと落ち込み、そして少しだけ涙を流し始めてしまった。このままだと本格的に泣き出しそうな気がする。何とかしないと。

 

「チノ、夢だったからって泣かないでくれ。」

 

「だって.......ひぐっ.........ハンバーグ............ばた.........っ.........け........」

 

まずい。本格的に泣き始めた。ハンバーグ食べて放心したり、夢オチと分かって泣いてしまったりと今日は初めて見ることの連続だ。泣いてしまっているのを見て慌ててしまいそうになるが今回は対処が簡単だ。ハンバーグで泣いたならハンバーグで泣き止ませればいい。

 

「チノ、俺のハンバーグ1つあげるから泣かないでくれ。な?」

 

「え........いいん、ですか?」

 

「うん、それに今度もまたハンバーグ作ってあげるから。」

 

「本当ですか?」

 

「もちろん!じゃあ約束。」

 

「はい!」

 

涙が止まり笑顔になったチノは嬉しそうに俺と小指を絡め約束を交わした。チノは、ココアもそうだがおかずにハンバーグがあると普段とは別人のようにバクバクと食べる。それもご飯をおかわりするほどだ。なら嫌いなものも食べるのかと言われるとそうではない。嫌いなものを皿の端に寄せてバクバクと食べるのだ。ハンバーグに混ぜてる野菜は気づかずに食べるのに。何か他に良い工夫があればいいんだけど。

 

「ねぇお兄ちゃん!私にもハンバーグ1つ頂戴?」

 

泣き止んだチノにホッとしていると今度はココアがハンバーグを強請(ねだ)ってきた。

 

「ココアさんはダメです!」

 

「ダメじゃないよ!」

 

「ハンバーグ畑の夢を見てないからダメです!」

 

「そんなの関係ないよ!」

 

「なくてもダメです!」

 

「ないならいいでしょ!」

 

まただ。もう何回目だろうかこの喧嘩は?3日に1回は見るぞ。なんだか恒例行事じみているような気がする。最初の頃はそれこそ焦ったりしたが今となっては"ああまた喧嘩か、しょうがない止めるか"みたいな感じになってすっかり慣れてしまった。ほんと、つくづく思うけど慣れっていろんな意味ですごいな。

 

俺は2人の喧嘩を止めるためにココアとチノの皿からそっとハンバーグを1つずつ箸で取り、それを2人の口に入れた。すると入れられた瞬間少しびっくりしていたがしばらくハンバーグを咀嚼しているとふにゃふにゃな笑顔になり、2人で味の感想を言い合っていた。......喧嘩どこに行った?やっぱハンバーグってすごい。

 

すっかり大人しくなった2人を席に戻し朝ごはんを再開した。俺はココアにもハンバーグをあげ、結果俺のハンバーグは1つだけになったが2人が喜んでくれたからそれだけで満足だ。

俺とリゼがまだ朝ごはんを食べている最中、ココアとチノはもう食べ終わったらしく服を着替えると言って2人は何故か逃げるように2階へ上がって行った。

 

「ハンバーグだと本当によく食べるよなあの2人。」

 

「...........。」

 

「ん?リゼ?」

 

ふと隣を見るとリゼが茶碗と箸を持ったまま物思いにふけたような、少し悲しそうな眼をしていた。どうしたんだろうか。さっきまでずっと楽しそうに話しながら朝ごはんを食べてたのに。

 

「リゼ?どうした?」

 

「..........え?あ、な、なんだ?」

 

「いや、さっきからずっと手が止まってたから。」

 

「あぁ.......いやなんでもないよ。」

 

「本当に?もしかして夏バテ全然治ってないんじゃ?」

 

「そんなんじゃないよ、本当に大丈夫。ほら、冷める前早く食べよう。」

 

そう言ってリゼははぐらかすように再び朝ごはんを食べ始めた。なんだったんだろうか。楽しそうにしていたのに急に暗くなるなんて何かないとそんなことには絶対にならない。

俺は気になりつつも1つだけとなったハンバーグを取り口に運ぶ。

 

「.........なぁリョーマ。」

 

「ん?」

 

「......大勢の人たちと泊まるのって楽しいよな。」

 

リゼは俺に目を合わせることなく質問してきた。またさっきと同じ物思いにふけたような眼をしていることから明らかに何か悩み事があるというのはわかった。それが何なのかはわからないけど。

 

「そうだな。前にみんながここに泊まった時すごく楽しかったし。」

 

「......そう、だよな。いつかまたみんなでここに泊まれるといいな。」

 

「そうだな、機会があればまた泊まれるよ。」

 

「...ああ。」

 

リゼはそう相槌を打つとそこからは何も喋らず黙々と食べ続けた。

 

なんか気まずい。今までリゼと一緒にいてこんなことになったことなんか無かったのに。何か気に障るようなことしただろうか。一緒に朝ごはんを作ったぐらいだから特に思い当たる節はないんだが。とにかく今言えることは気まずいということだけだ。例えるなら怒らせてしまった人と一緒に料理を食べてるような感じだ。

俺は話す内容が思いつかずリゼと同じように黙々と食べ続けた。

 

 

「ごちそうさまでした。」

 

「お粗末様。」

 

ほぼ同時に食べ終えた俺たちは食後の休憩ということで少しの間ボーっとしていた。空腹を満たし心身ともに満足した状態で何も考えずにその余韻に浸る。俺はこの時間が結構好きだ。前にココアの実家に帰った時にモカに教えてもらった大きな木があるあの場所に雰囲気が似ていてとても落ち着くことができる。

思い出しているとまたあの場所に行きたくなってきた。またココアの実家に行くことがあったらもう1回行ってみよう。

 

壁にかかっている時計を見ると8時だった。お昼頃にシャロとチヤが来る。冷蔵庫の中の食材は殆ど無かったから2人が来る前に買い出しを済ませないといけない。

 

「………ん?」

 

ボーっとしながらそんなことを考えていると、左肩に急に重みを感じた。その重みの発生源を見てみるとリゼが頭を俺の肩に乗せてすやすやと眠っていた。

 

………なんだろう。なんだか無性に頬を突きたくなってきた。俺は起こさないようにリゼの頬をそっと突いてみた。チノと同じくらい柔らかい。まだ起きてから2時間くらいしか経ってないのに、そして突いても全然起きないところを見ると、あまり眠れなかったのかもしれない。

 

「ん~……。」

 

「え……?ちょっ………。」

 

起こさないようにしばらく突いていると、急にリゼが動き出し俺を抱きしめた。これがまた思ったより力が強い。そういえば旅行に行った時も抱きしめられたっけ。

 

「リゼ、こんな所で寝ないでくれ。」

 

「……ふふ………///」

 

いくら揺すっても起きないし完全に眠ってしまっている。しかも少し微笑んでいるところを見ると、きっと楽しい夢でも見てるんだろう。ここで無理に起こすのも可哀想だし寝室まで運んであげよう。

 

「ちょっと失礼するぞ。………って寝てる人に言っても意味ないか。」

 

俺はリゼを起こさないように慎重に抱き抱えて2階の寝室へ向かった。こうやってリゼを抱き抱えるのはリゼの学校で保健室へ運んだ時以来だな。あの時は周りに女子生徒が大量にいて歓喜の叫び声をしていた。当時は保健室に運ぶのに必死で全然気にしていなかったけど今思うとめちゃくちゃ恥ずかしいな。というか今この状況で起きられたら絶対に顔真っ赤にして暴れられるのは間違いないから絶対に起きないでほしい。

 

「くぅ………少しドア開けづらいな…………。」

 

俺は少しだけドアを開けるのに苦戦したがドアノブがレバー式ということもあって思ったほど手こずることなく開けることができた。もしこれが回転式だったら間違いなくココアかチノを呼んでいたな。何せ人1人を抱き抱える状態だ。こんな状態でドアを開けることなんてそうそうないからな。

 

「よっと。これで大丈夫だな。」

 

俺はゆっくりとリゼをベッドに寝かせ布団をかけた。リゼの寝てる時の顔はココアやチノと一緒であどけない寝顔だ。

 

 

何故か分からないけど、寝てる人の顔を見てると無性に頭を撫でたり頬を突きたくなる。俺の性なのか、小さい時からココアの兄のように生きてきたからなのかは分からないがそうなってしまう。まあそんな自分が嫌だなんて思ったこと無いから直す予定はないけど。

 

「おやすみリゼ。」

 

結局衝動に負け、リゼの頭をそっと撫でてから部屋を出た俺は起こしてしまわないようにゆっくりと音を立てずにドアを閉めた。シャロたちが来るまであと4時間くらい残ってる。食器を洗って買い出しに行って昼食の準備をしていればちょうどいい時間になるだろう。

 

「よし、まずは食器を洗うか。」

 

まずは食器洗いから済ませることにした俺は一旦食卓に戻った。

そして食器を台所へ持って行こうと手をかけた時、おかしな点があった。ココアが使っていた皿にはトマトが、チノが使ってた皿にはセロリが残されていたのだ。

 

「あれ?………さっきまで無かったのに。」

 

確かにリゼを寝室へ運ぶ前は両方とも皿の上には何もなかったはず。なのに今はある。明らかにおかしい。俺はリゼを運ぶ前のことを再現しようと一旦椅子に座った。

 

「………あ!」

 

座った瞬間わかった。椅子に座った状態だとコップや茶碗が死角を作ってちょうど見えないようになっていたのだ。それに比べて椅子から立つと何の死角も無く見えることができる。だからあの2人、これを隠すために逃げるように自室に行ったのか。

でもトマトとセロリ2つずつあったのがそれぞれ1個減ってるから、1つは食べたんだろうけど。

 

「はぁ~………食べきれないならちゃんと言ってくれればいいのに。」

 

俺は残されたトマトとセロリを口に放り込んだ後、食器を洗い始めた。これが終わったらココアとチノに食べきれないときはちゃんと言うように注意しよう。流石に何度もこれをされると頭を抱えてしまいそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

食器を洗い終えた後、ココアとチノに食べきれない時はちゃんと言うように軽く注意し終えた俺は必要な食材が書かれたメモ用紙をポケットに入れ、玄関で靴を履いて靴ひもを結んでいた。

 

「あれ?お兄ちゃんどこか行くんですか?」

 

靴ひもを結び終えたと同時に、階段から下りてきたチノが興味を持ったような目でこっちに近づいてきた。

 

「ん?ああ、買い物だよ。お昼ごろにシャロたちが来るって朝ごはん食べてる時に言っただろ?だからお昼ごはんの買い出しに行くんだよ。」

 

「本当ですか!?じゃあ私もお兄ちゃんと一緒にお買い物に行きたいです!」

 

買い物に行くと言った途端、目を輝かせて一緒に行きたいと頼み込んできた。快適な季節だったら連れて行ってもいいのだが、生憎今は夏真っ只中だ。リゼみたいに夏バテにさせたくないし、リゼより体力は無いだろうから熱中症になってしまう危険性だってある。そんな子をこんな真夏に不必要に外に出したくない。

 

「ごめんな、外まだ暑いだろうから家で待っててくれるか?」

 

「嫌です!一緒に行きたいです!昨日もそう言って連れて行ってくれなかったじゃないですか!」

 

「そうだけど、熱中症になっちゃうかもしれないだろ?チノだってそうはなりたくないだろ?」

 

「まだ朝だからそんなに暑くないです!連れて行ってくれないなら後でこっそりとついていきます!」

 

チノは頬を膨らませながら駄々をこね始めた。どうしよう。もう打つ手が無い。このまま断っても駄々をこね続けるだけだろうし。

………仕方ない。細心の注意を払って連れて行くとしよう。

 

「……わかった。そのかわりタオルと飲み物を持ってくること。いいか?」

 

「 っ!はい!すぐ準備します!」

 

すごい満面の笑みだ。余程行きたかったのだろう。チノはそのまま何かを必死に追いかけるような勢いで階段を上がり自室へ向かっていった。

 

人の要望を断りすぎるのも良くないな。かと言って受け入れすぎるのも良くないし。妥協点を見つけるのは難しいな。

 

「お待たせしました!」

 

5分後準備ができたチノは白色のワンピースにタオルが入ってるであろうポーチと水筒を肩にかけた姿だった。これ何も知らない人がみたらちょっと軽い遠足にでも行くのかと突っ込みそうだ。本人はすごくウキウキしてるから本人にとってはある意味遠足なのかもしれない。

 

「さてと、行くか!」

 

「はい!」

 

そう意気込んで俺たちは裏口の玄関のドアを開け、スーパーへ向かった。

 

 

 

To be continued




どうもP&Dです。
ごめんなさい!前後編に分けるとか言ってましたけどさらに長くなりそうなので3話構成にすることにしました。
あと投稿頻度ガタ落ちですけど複数話を同時執筆で少しずつ着実に進んでいるので気長に待ってもらえると嬉しいです。


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-47話-異性同士でお風呂ってよくあることなのか?

 

 

「ただいま。」

 

「ただいまです。」

 

10時、本格的に暑くなり始める前に俺たちは家に帰ることができた。本来なら9時半頃に帰れるはずだったのだが、帰りの道中にチノが屋台のアイスクリーム屋を見つけ、アイスクリームを食べたいと強請られてしまったのだ。暑くなってきたから帰ろうと言うとどうしても食べたいと駄々をこね、挙句には買ってくれるまでここから動かないと言ってくる始末。結局アイスクリームを食べることになった。暑くなる前に帰れるか不安だったが、無事に帰ってこれて内心ほっとしている。チノはアイスクリームを食べていた時、終始ニッコリな笑顔で食べていたから今思えば食べてよかったと思う。

 

「あ!お兄ちゃん、チノちゃんお帰り!」

 

ココアが玄関のドアが開く音に気づき、2階から下りてきて出迎えてくれた。まるで飼い主が帰ってきたとわかって嬉しがっている子犬みたいだ。

 

「ただいま。リゼはまだ寝てるか?」

 

「うん寝てるよ。起こしたほうがいい?」

 

シャロたちが来るまであと2時間ほど残ってる。チヤたちが来た時くらいに起こせばちょうどいいだろう。朝食後の時の様子だとあまり眠れてなかったように見えたし。

 

「いや、そのままにしてていいよ。チヤたちが来るまで寝かせておこう。」

 

「うんわかった!ねえねえお兄ちゃんギュってして?」

 

帰ってきて早々両腕を広げハグを強請ってきた。そういえば今日起きてからしてなかったな。今ここでしてもいいんだけどそれをすると今俺の隣にいる子が…………

 

「お兄ちゃんダメです!ココアさんにハグするなら私にもしないとダメです!」

 

「チノちゃんはお兄ちゃんとお買い物に行ったからいいでしょ!ねえお兄ちゃん早く!」

 

「ダメです!させません!」

 

こうなってしまって結局喧嘩になってしまう。チノは余程ハグさせたくないのか俺の前に割って入り相撲みたいにココアを押し返していた。それに対抗するようにココアも押し返している。もう俺がやるべきことは分かっている。早く鎮めよう。リゼが起きてしまう。

 

「ほらほら2人とも、喧嘩しない。」

 

「「………ふゎぁ~~」」

 

2人同時にハグした途端、氷が溶けていくようにだんだん笑顔になっていった。片方に何かしたらもう片方にも同じことをして平等にしないとすぐ喧嘩になるから中々忙しい。

 

「えへへ///………ん?」

 

さっきまで笑顔だったココアが何か疑問に思ったような顔になり、すんすんと俺とチノの匂いを嗅ぎ始めた。チノは急にどうしたんだろうといった顔で困惑しており、俺もチノと同じようになりどうしたらいいのか分からず立っていることだけしかできなかった。

 

「どうした?」

 

「すんすん………なんかお兄ちゃんとチノちゃんから甘い匂いがする。」

 

「っ!?………き、気のせいです!」

 

アイスクリームを食べたことがバレたくないと思ったのかチノはあからさまな動揺をしていた。おまけに目も泳いでいる。

 

「ん~……チノちゃんなんだか怪しいよ?」

 

「そ、そんなこと……ない、です。」

 

そりゃ疑われるよなそんな動揺の仕方をしたら。ココアがチノと目を合わせようとする度にチノは目をそらす。余程気づかれたくないらしい。

チノ、それをすると余計に怪しまれるぞ。

 

「この匂い…………バニラ?もしかしてアイスクリーム食べて帰ってきたの!?」

 

マズいバレた!

 

俺はこの時どうやってこの場でココアを鎮めようかと頭をフル回転していた。おそらくこの間1秒も経っていないだろう。チノを横目で見ると物凄く慌てふためいており、ココアにはもう誤魔化しが効かないなとこの時点で確信した。

 

「た、食べて、ないです!ココアさんの気のせいです..........。」

 

「うそだー!絶対うそだー!ズルいよ!もー!」

 

「わ、私夏休みの宿題が残ってるので、お昼ご飯まで部屋にいます!」

 

「あ!チノちゃん逃げないでよ!」

 

チノも誤魔化せないと悟ったのか逃げるように階段を上がり自室に行ってしまった。ココアは未だに"ズルい"と大声で叫んでおり、このままだとリゼが起きてしまいそうだ。

 

「ココア、リゼが起きるからあまり叫ぶな。」

 

「だってチノちゃんだけズルいもん!」

 

そう言ってココアは頬を膨らませながら地団駄を踏み始めた。

小さい頃のココアもこうやって地団駄踏んでたな。なんだか幼稚園児の頃に逆戻りしてるように見える。多分傍から見たら高校生になった女の子が幼稚園児みたいに地団駄を踏んで駄々をこねてるようにしか見えないんだろうな。

 

「わかったわかった。じゃあココアだけお昼ご飯にメニューを1つ追加するからそれでいいか?」

 

「.........私だけ?」

 

「ああ。」

 

「..........本当に?絶対に?」

 

「うん、だからもう騒がないようにな?リゼが起きちゃうから。」

 

「.......わかった。」

 

ちょっと信じきれてない所があるようだが一応納得してくれたみたいだ。

時間は10時を過ぎている。チヤたちが来るのは12時頃だ。お昼ご飯を作る時間とココアだけの追加メニューを作る時間を考慮するとそろそろ作り始めないと間に合わないかもしれない。早速だが今から作り始めよう。

 

「よし、じゃあ俺はお昼ご飯を作るから夏休みの宿題とかして、待っててくれるか?」

 

「うん!じゃあ宿題やってくるね!............あ!お兄ちゃん、特別メニューの事忘れないでよ?」

 

階段を上がり始めたココアは半分ほど上がると料理を作ってる最中に忘れられてしまうんじゃないかと思ったのか、振り返り少し不安な顔をして念を押してきた。それほど楽しみなんだろう。

 

「ああ、わかってる。忘れたりなんかしないよ。」

 

それを聞いたココアは安心した顔で残りの階段を上がり自室に入って行き、それを見送った俺は足早にキッチンに向かった。残り時間は2時間弱だ。ココアの特別メニューも作らないといけないが、昼食のメニューと同時進行で作れば何とか間に合うだろう。俺は丁寧かつ迅速に作るような想いですぐさま料理に取り掛かった—————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……暑い………。」

 

11時半、俺はなんとか昼食の準備を終えることができた。作り終えた後にまず思ったことが”暑い”だった。元々部屋には冷房は効いていたが早く作ろうと急いでせっせと作っていた所為で暖房の効いた部屋にでもいるのかと勘違いしてしまいそうだった。もしこれで冷房が効いてなかったらリゼと同じようになっていただろう。

 

「ちょっとシャワー浴びに行こう........」

 

どれだけ汗をかいたのか服がびしょ濡れだ。気持ち悪くて仕方がなく、俺は汗を洗い流すためにシャワーを浴びに行くことにした。時間まで30分ほど残ってる。作り終わった料理もあとはオーブンに入れれば完成だしシャワーを浴びるくらいの時間は充分あるだろう。

 

「.....ん?張り紙?」

 

キッチンを出た時、壁にメモ用紙くらいのサイズの紙が壁に貼られていた。壁から剥がし読んでみると。

 

”お兄ちゃんへ。

 

 お湯を張っておいたよ!もし汗で気持ち悪いなと思ったら、よかったら入ってね!”

 

と書かれていた。

どうやらココアは1度キッチンに来ていたみたいだ。折角ココアが用意してくれたんだ。時間もまだ残ってるしありがたく入らせてもらおう。

 

かなり汗をかいたので俺は冷蔵庫から水を取り出しコップ2杯分ほど飲み、自室で着替えを取り、脱衣所で服を脱ぎそそくさと風呂場に入った。それくらい早くシャワーを浴びたいと無意識に体が訴えているんだろ。自分でもよくわかる。

 

シャワーのレバーを捻り、やっとシャワーを浴びれると思うかもしれないがそうはいかない。まず最初は冷水が出てくる。これがお湯になるまで少し待たないといけない。この待ち時間がやたら長いと感じるのは俺だけなのだろうか。稀にそんなの関係なく冷水状態からシャワーを浴びる人がいるみたいだが俺はそんな猛者ではない。大人しく待つとしよう。

 

「よし、そろそろいいかな。」

 

シャワーに手を当て程よい温度になったことを確認し、全身にシャワーを浴びていく。汗が一気に流れ落ちてゆく。この感覚がたまらない。もし冬だったらこの感覚はあまり感じないが今は夏だ。冬には味わえないものが今は目の前にあり、それを全身で感じている。もしかしたらこれも一種の夏の風物詩かもしれない。………人によるかもしれないが。

 

「……あれ?リョーマ?いるのか?」

 

一通り体中の汗を洗い流しているとドア越しからリゼの声が聞こえてきた。ドア窓に首を傾げているシルエットが見える。

 

「リゼ?起きたのか?」

 

「ああ、ついさっき起きたよ。」

 

てっきりさっきのココアの叫び声で起きたのかと思ったが、どうやらそうじゃないみたいだ。そしてリゼは何かを迷っているかのように周りを気にしたり何かブツブツと呟いたりしてリゼのシルエットが少しあたふたしていた。

 

「リゼ、そんなにウロウロしてどうしたんだ?」

 

「え!?あ、いや、その……私昨日お風呂入れてないから……///」

 

そうか、昨日夏バテで入れていないんだった。入れてなかったらそりゃ気持ち悪いよな。しかも今は夏真っ只中だし。早く出てリゼと代ろう。

 

「そうだったな。すぐ出るからちょっと待っててくれ。」

 

「………な、なあリョーマ!ちょっと待ってくれ!」

 

早く出てリゼと代ろうとした途端、少し張ったような、緊張しているような声で急に呼び止められた。

 

「ん?どうした?」

 

「えっと……その……」

 

「どうした?もしかしてまだ体が怠いのか?」

 

「い、いやそうじゃなくて!……その……えっと……なんていうか……」

 

何か言いたいことがあるんだろうが言いにくいのか、急にしどろもどろになり始めた。一体どうしたんだろう?さっきまで普通に喋っていたのに。でもこういう言葉が詰まった時のリゼは何か頼み事がある時だ。言いにくい頼み事があるんだろう。俺から聞いた方がいいな。

 

「何か頼みたいことでもあるのか?出来ることなら何でもするぞ?」

 

「え……いいのか?」

 

「もちろん!」

 

「………じゃあ………その………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一緒にお風呂………入って……いいか?……///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ゑ?」

 

 

 

 

今何て言った?一緒にお風呂?一緒にお風呂って何だっけ?

次の世では仏になることができる菩薩(ぼさつ)のことだっけ?違うそれは一生補処(いっしょうふしょ)だ。

間違いない。リゼは一緒にお風呂に入りたいと言った。あまりに予想を超えた頼み事だった所為で変な"ゑ?"が出てしまった。

 

「い、いやいや何言ってんだリゼ!それはまずいだろ!?」

 

「いや別に変な事しようとかそんなんじゃない///ただ看病してくれたお礼をしたいだけなんだ///そ、それに前に旅行に行った時は一緒にお風呂入っただろ?」

 

あの時は俺とリゼしかいなかったから入れたが、今はココアとチノがいる。もし一緒に入ってるところを見られてみろ、何言われるか分かったものじゃない。特にチノが何しでかすのか予測不能だ。リゼには悪いがここはやんわりと断ろう。

 

「お礼したい気持ちは嬉しいけどそれでも一緒にお風呂はまずいよ。ココアとチノもいるし、お礼の仕方は1つじゃないんだし他の形でお願いしてもいいか?」

 

「………私はただ本当にお礼がしたいだけなんだ。他に方法が思いつかないし、お昼にはシャロ達が来るからお礼する機会が無いだろうから今しかないと思って………。でも、そうだよな。ここで一緒に入るのはまずいよな。ごめんな変なこと言って………それじゃ、リョーマが上がるまで部屋で待つことにするよ。」

 

リゼは明らかに落ち込んだような声で、でもそれに気付かれないようにそう言うとそこから立ち去ろうとしていた。

……お礼の内容はちょっとマズいとはいえリゼは本当に心からお礼をしたいと思ってくれたんだろう。そうじゃなかったらあんな落ち込んだ様子にはならないはずだ。

それに折角のリゼからの厚意をココアたちに見られたらマズいという理由で無碍ににしようとしている。やっぱりリゼの厚意を受けよう。これじゃ後味が悪いし、この後のリゼの様子が変な感じになってしまいそうだ。

 

「リゼ!」

 

「え?なんだ?」

 

「や、やっぱり一緒に入るか?」

 

「え……いいのか?」

 

「ああ、なんだか無碍にしてるみたいで申し訳ないから。」

 

「でもココアたちに見られたらマズいんじゃ……」

 

「その時はなんとかして誤魔化すよ。だからリゼがよかったら………どうぞ。」

 

「…ああ!ありがとう!ちょっと待ってくれ。」

 

「ちょ、ちょっと待って!その前にタオル取って!籠に入ってるから!」

 

俺はドアをほんの少し開け、リゼに籠に入っているタオルを受け取り腰にタオルを巻いてから湯船に入った。この家でまさかモカに続いて今度はリゼと一緒に入ることになるとは。人生何が起こるか分からない。

湯船に入って気づいたが、少し温めになっている。きっとココアが俺が料理で暑くなるのを察してくれたんだろう。それに夏バテに効く温度は温めの方が効果的と聞いたことがあるし丁度よかった。これならリゼも安心して入れるだろう。

 

 

 

…………する…………する…………

 

 

 

「………………。」

 

 

それは良いとして、さっきから気になる音が聞こえてきて少し困っている。さっきまでは俺がシャワーを浴びていたからシャワーの出る音がこの浴室を覆っていたが、今は湯船に浸かっているのでこの空間は無音だ。たまにシャワーヘッドから水滴が落ちる音がするくらいだ。故にどんな音でも聞こえてくる。

そして現に今とある音が聞こえてくる。布が肌に擦れるような音。そう、リゼが服を脱いでいる音が俺の耳に入ってくるのだ。

 

それだけじゃない。ドアを見るとドア窓にリゼのシルエットが映っている。服を脱ぐ動作、下着を脱ぐ動作。裸になるまでの動作が余すことなく全て映っているのだ。今ドアの向こうには産まれたての赤ちゃんのような姿のリゼが………ってやめろ如月リョーマ!変態かお前は!

なんだか覗きをしているみたいで変な罪悪感を感じる。目のやり場に困るし耳のやり場にも困ってしまう。簡単にまとめるとどうしたらいいのかわからない状況だ。

 

そういえばこういう時は素数を数えると落ち着くと聞いたことがある。パニックになりそうな時こそ冷静になるのが大切だ。そして今がその時だ。そうと決まれば早速素数を数えていこう。

 

 

 

 

2,3,5,7,11,13,17,19,23………

 

 

 

 

 

「ん……しょっと……」

 

 

 

 

 

……37,41,43,47,53………

 

 

 

 

 

「ん?また少し(胸が)大きくなったか?」

 

 

 

 

 

……ろ、67,71,73,79………

 

 

 

 

 

「大きくなると肩凝りが酷くなるんだよな〜……」

 

 

 

 

 

………うぅ……97,101,103,107………

 

 

 

 

 

「それに(胸が)大きいと変な目で見てくる人がいるって聞いたことがあるからな。」

 

 

 

 

 

ひゃ……ひゃく………127………131………

 

 

 

 

 

「………それに、????も大きい方が好きなのかな………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!?リョーマどうした!?」

 

「え!?……あぁ、いや……何でも、ない……です……。」

 

「そ、そうか?」

 

ダメだ。素数を数えてもドア越しからのリゼの言ってることが耳に入ってきて素数どころじゃない。最後辺りは何言ってたのか聞き取れなかったし、頭がオーバーヒートしそうだ。

 

俺はとにかく頭を冷やすことを最優先にし、シャワーヘッドを手に取り温度レバーを最低まで下げ、無我夢中で冷水を頭にぶっかけ物理的に頭を冷やした。気の所為なのかはわからないがこの冷水がとても心地よく感じる。これから頭を冷やしたい時は物理的に冷やすのが一番良い方法かもしれない。頭がおかしくなりそうになったが、おかげで良い対処法を見つけることができた。結界オーライということにしておこう。

 

「リョーマ、入っていいか?」

 

「あ、ああ。……いいよ。」

 

「し、失礼……します。」

 

リゼは緊張した面持ちでゆっくりと浴室に入ってきた。体にはタオルを巻いており、旅行の時は見ていなかったがタオルで隠れていない肩や脚はよく見ると透き通るような肌をしており普段部活の助っ人などでスポーツをしているということもあって健康的で引き締まってとても綺麗な肌だった。

 

「…………。」

 

「そ、そんなに見ないでくれ///……は、恥ずかしい///」

 

「あ……ご、ごめん!」

 

俺は即座に目を逸らした。モカの時もそうだったが、やっぱりこういうのは慣れないな。思わず魅入ってしまいそうになる。

 

他の一般男性の人たちはこういう時どうするのだろうか。こういった系統の事はどうも苦手だ。恋愛経験がないからなのだろうか。かと言って恋愛しろと言われてもそもそもそんな経験がないから恋愛そのものがどういうものなのかわからない。考えても仕方ないし、いつかわかる時が来るのを待つしかない。

 

「えっと………じ、じゃあシャワー浴びさせてもらうぞ。」

 

「ああ……どうぞ。」

 

「……………。」

 

椅子に座ったはいいもののリゼは一向にシャワーを浴びようとはしなかった。いや、浴びようとはしているが何かを気にしているような素振りだ。そして時折こっちをチラチラと見てくる。俺がどうかしたのだろうか。

 

「……えっと……リョーマ。」

 

「な、なんだ?」

 

「その、シャワーを浴びたいんだけど………そのためにはタオルを取らないといけないんだ………だから、その///」

 

「………え?………あ、ああ!そうだよな、ごめん向こう向いてるよ!」

 

「す、すまないな……」

 

俺は急いで体ごと反対側へ向け、完全に視線を別方向へと移した。間違いない完全に思考能力が落ちてる。普通ならタオルを取ると完全に裸になってしまうって気づくはずなのに気づくのに5秒以上かかってしまった。

今俺は反対側へ向いて壁と睨めっこをしている。今の俺の顔はどんな風になっているんだろう。間違いなく言えるのは顔が真っ赤だということだ。さっき頭から冷水をぶっかけたばかりだというのに。もしかしたら表情も酷いものになっているかもしれない。

 

嗚呼、鏡が欲しい。それがあれば平静を装うための表情を作ることができるのだが生憎その鏡は今リゼがいる所に設置されている。自力で表情を作るしかない。福笑いみたいな顔にならなければいいが。

 

キュッ………ザーーーー……

 

 

 

「きゃあ!!!」

 

 

「……え?リゼ!!!」

 

シャワーが出た途端叫び声が聞こえ、振り返るとリゼが何故かシャワーに驚き転びそうになっていた。俺は慌てて立ち上がりハグをするようにリゼを抱き留めた。

 

「大丈夫か!?」

 

「あ、ああ。水のシャワーが出てきたから驚いて………。」

 

そういえば俺が冷水のシャワーを頭からぶっかけた後そのままにしてしまっていた。そうなれば次にシャワーのレバーを捻れば水が出てくるに決まってる。冷静になるのに必死でそんな簡単なことも見落としてしまっていた。

 

「ごめん、俺が冷水にしたままだった。本当にごめん。」

 

「いや、私も何も考えずにレバーを捻ってしまったから気にすることはないよ。………それよりも……その………///」

 

「………?」

 

「………////」

 

無事に事なきを得た瞬間、何故かリゼが突然何も喋らなくなった。もしかして夏バテがぶり返してきたか?やっぱりもう少し寝かせたほうがよかったんじゃ……。

 

「リゼ大丈夫か?具合悪いのか?」

 

「い、いや……そうじゃなくて、その、ずっとこうやって……抱き留められると………その///」

 

「………あ!!!!!」

 

今になってやっとわかった。転ばせないようにするためとはいえ傍からみたらバスタオル1枚隔てた状態で抱きしめてるようにしか見えない。しかもバスタオル越しとはいえむにゅっと柔らかい2つのお山が俺の胸元当たりにめちゃくちゃ当たってるんですけど!?

 

それに気付いた瞬間物凄い勢いで頭に血が上ってくる感覚に襲われた。心臓の鼓動が今までにないくらい速いし、なんだか頭も少し痛くなってきた。のぼせているのに近い気がする。

そんなことより早く離れないと。

 

「ご、ごめん!俺はただ転ばないように抱き留めただけで!別に抱きしめたくてやったわけじゃ!」

 

「ああ………わかってる、から………別に………気にしなくて、いい………////」

 

「あ…ああ。」

 

 

 

「「………////」」

 

慌てて離れたはいいもののそこからはお互い一切言葉が出てこなかった。体にバスタオルを巻いた女と腰にタオルを巻いた男がお互い向き合って突っ立っている状態だ。

 

何なんだこの状況は?こんなことって起こるものなの?今回俺が初めて体験した出来事であって他の所ではこんなのは日常茶飯事なのか?いやいやそんなわけあるか!

あまりにも出来事にセルフツッコミをしてしまったぞ。

 

「………とりあえずシャワー浴びなよ。汗とかで気持ち悪いだろうから。俺はまた向こう向いてるから。」

 

「ああ………じゃあ、浴びる、な?」

 

「………うん。」

 

これ以上沈黙の時間を作らないようにとりあえずリゼにシャワーを浴びさせることにした。沈黙の時間を作らないようにとは言ったけどシャワーの音が追加されただけだ。そして俺は浴槽に入りまた壁と睨めっこ。

 

一緒にお風呂に入るってだけなのになんでこんなにもどっと疲れてしまうんだ?お風呂って疲れを取る場所だよな?鼓動は速いし頭は痛いし呼吸しずらいし疲れるための場所じゃないよな?

なんだかリゼとの旅行での混浴を思い出してきた。というか前に一度リゼとお風呂に入ったことがあるのに何故こんなに緊張するんだ?しかも旅行の時よりもだ。自宅だからか?旅行の時は露天風呂だったからその違いだろうか?

 

「リョーマ、終わったから………もう大丈夫。」

 

「ああ、わかった。」

 

シャワーを浴び終えたリゼは、俺の背中越しから振り向いてもいい許可を出してきた。俺はゆっくりと振り向き俺は湯船に浸かったまま、リゼは再び体にタオルを巻いた状態で立ったままで対面する形になった。お互い見つめあったまま微動だにしない。

 

「えっと……どうぞ。」

 

「ああ、じゃあ入るぞ。」

 

俺は端に寄り、リゼが湯船に入るスペースを作った。そしてリゼは足からゆっくりと湯船に入っていき、お互い向き合うような形になった。どうしよう。ここからどうすればいい?ゲームで例えると調べれるところは調べつくしたのに先に進めず行き詰まってしまっているような状況だ。リゼは少し俯いたままずっときょろきょろと目を泳がせているし多分俺と同じ心境なんだろう。

 

「えっと……さっき言ってたお礼なんだけど………具体的にどんな事するんだ?」

 

「あ、ああ……えっと、頭を洗ったり背中を流したり……かな///」

 

俺は無言の間を何とかするためにリゼが最初に言っていたことを話題に話を振った。誰かに洗ってもらうなんて小さい頃以来だ。結構恥ずかしいがお礼を受けると言ったし、ここは素直に受けよう。

 

「そうか……じゃあその……早速だけどお願いしていいか?」

 

「ああ、わかった…………じゃあこっちに来て椅子に座ってくれ。」

 

「…………うん。」

 

俺はゆっくりと湯船から立ち上がり、リゼに促されるがままに椅子に座った。

 

今の自分でもわかる。滅茶苦茶ぎこちない。というか何度も思うがどうしてこんなにも緊張するんだ?相手は1度一緒にお風呂に入ったことがあるリゼだぞ?緊張する理由なんかないはずなのに。不慣れなだけか?考えてみれば異性と一緒にお風呂に入るのはこれで3度目だ。…………小さい頃のはカウントしないとして。

 

一層の事誰かに電話で聞いて克服の仕方を聞いてみるとか?となると母さんに聞くのが無難かな。いやダメだ、母さんに聞いたら何があったのか根掘り葉掘り聞かれそうだ。

 

そうくるとモカがいいかもしれない。前にこっちに来た時一緒にお風呂に入ることになったが、あまり緊張してなさそうな感じだったし。………でも、今モカに聞くのは嫌な予感がする。最後にモカに会ってからしばらく経っている。電話越しとはいえ何されるか分かったものじゃない。そう考えると急に背筋が凍りつくような寒気が走った。やっぱりモカもダメだ。

 

だったらおばさんはどうだろう。聞いても親身になって話してくれそうだし、誰にも言わないで欲しいと言えば秘密にしてくれそうだし。よし、そうと決まれば近いうちにおばさんに聞いてみよう。いつまでも苦手なものを苦手なままにしておくのは良くないしな。

 

「それじゃあリョーマ。その………まずはシャンプーからいくけど………いいか?」

 

「ああ、よろしく頼むよ。」

 

リゼはボトルからシャンプーの液体を取り出し、緊張した手つきで俺の髪を洗い始めた。その所為なのか少しくすぐったい感じがする。

 

けどなんでだろう、それとは別に心地よいという感覚もある。自分でするのと人にしてもらうのとではこんなにも違うのか。心なしか癖になってしまいそうな気がする。

 

「上手く洗えてるか?こういうの初めてだからよくわからなくて……」

 

「ああ、ちょっとくすぐったいけど心地いいよ。」

 

「そ、そうか……よかった。」

 

顔は見えなかったがホッとしたような声だった。初めてだったからちゃんとできるか不安なところもあったのだろう。そこからは自信がついたのか緊張した手つきはなくなりもう慣れたかのような手つきで洗うようになってきた。

 

「前から思ってたけどリゼって何事にも器用だよな。」

 

「え?そうか?自分ではそうは思ってないけど。」

 

「だって髪洗うの上手だし、色んな部活の助っ人もしてるし、出会った頃に作ったラテアートもすごく上手だったし、リゼが思ってるよりずっと器用だよ。」

 

「そ、そうか///それだったら私もうれしいな。」

 

リゼはだんだん緊張が解れてきたみたいだ。それに比例するかのように俺もこの状況に慣れつつある。その証拠にさっきまであんなに一緒に入ることに緊張してたのに今は一緒に入るのが普通だと錯覚してしまいそうになるくらい落ち着いて話ができている。

 

「それじゃあそろそろシャワーで洗い流すぞ。」

 

「ああわかった。」

 

俺はそっと目を閉じリゼはシャワーのハンドルをひねって俺の髪を洗い流す。少し思ったのがリゼはシャワーの水圧がほんの少し弱めみたいだ。普段俺が出してるシャワーの水圧の9割くらいだ。リゼは髪が長いし女の子だから髪に強い刺激がいかないように気をつけているんだろう。俺の髪も全然傷んではいないがリゼを見習って少し気をつけてみようかな。

 

なんだかリゼの新しい一面が見れたみたいでなんだか新鮮だ。

 

…………女の子と一緒にお風呂に入ってその子の新しい一面を見出すなんてなんだか変態みたいだな。これ以上は考えないようにしよう。女の勘は鋭いって聞いたことあるし。

 

「よし!こんなものかな?それじゃあリョーマ、今度は体を洗うからボディタオル取ってくれるか?」

 

「ああ、……はい。」

 

「ありがとう。」

 

俺はそばにあったボディタオルをリゼに渡し、今度は体を洗ってもらうことになった。リゼはタオルにボディソープを乗せ、それを充分に泡立て俺の背中を洗い始める。そういえば背中は意外と洗い残しがあると聞いたことがある。誰かに背中を洗ってもらうなんて滅多にないだろうからリゼに感謝して背中を洗ってもらおう。

 

「痒いところはないか?」

 

「ああ、大丈夫だよ。」

 

「そうか、わかった。……ん、………ふぅ……。」

 

丁寧に洗ってくれているお陰でとても心地いいが、さっきからリゼの吐息が背中に当たって妙に(くすぐ)ったい。筆か何かで軽くなぞられてるような感覚だ。

 

「こうして見てると、リョーマって背中大きいよな。」

 

「そうか?普通ぐらいだと思うけど。」

 

「私、こんなだけど学校も女子高だし、今まで男の人と仲良くなったことなんて無かったから比較できる人は親父くらいしかいないけど、良い背中をしてる方だと思うぞ。」

 

「そう、か………ありがとう。」

 

「ふふ、リョーマって褒められるとすぐ照れるよな。なんだか可愛いって思う時があるよ。」

 

「可愛いって、俺一応男だぞ?」

 

「男の人でも可愛いって思うところはあるんだぞ。あ!あとそれで思い出したけどリョーマは年上の人にも弱いよな。」

 

「年上の人?」

 

「ああ、前にモカさんがこっちに来た時、リョーマってば恥ずかしがってたというか普段通りじゃ無かったというか、そんな感じだったぞ?」

 

「いやあれは、ちょっと怖かったからというか………。」

 

「それに青山さんがスランプを克服させてくれたお礼にって抱きしめてくれた時も。」

 

「ああああああ!!!!言わなくていい言わなくていい!恥ずかしいから!」

 

「あははは!」

 

怖かった記憶を思い起こされたと思ったら今度は恥ずかしかった記憶を思い起こされた。凍り付いた体に灼熱の炎を浴びせられた気分だ。

リゼはそんな俺を見て笑ってるし。いじめ反対だ。

 

思い返してみれば俺が関わる女性は同い年、年下ということが多かった。年上の女性は結構少ない。片手だけで数えれる程だ。それが原因なのかは分からないが、モカに褒められた時は口数が少し減ったり、青山さんに抱きしめられた時は体が石のように硬直してしまった事があった。それを踏まえるとリゼが言ってることは一概にも否定はできないかもしれない。

 

「はあ、のぼせそうだよ。」

 

「確かに顔真っ赤だもんな。」

 

「まったく、誰のせいだと。」

 

「ごめんごめん。じゃあ続きを洗っていくぞ。」

 

お互いクスっと笑った後、リゼはそのまま背中を洗い始めた。お互い笑いあえるぐらいにまで落ちつけている。今後いつかまた一緒に入ることがあっても今回みたいなぎこちない雰囲気になることはないだろう。そもそも男女が一緒にお風呂に入るなんてことが起こっていいものなのかは分からないが。

 

一通り背中を洗い終わらせてくれたリゼは少し恥ずかしそうに残りは自分でやってくれと言いながらボディタオルを渡してきた。残りの意味を理解した俺は、リゼと同じように少し恥ずかしくなってしまい変な空気になったがそのままタオルを受け取り、残りは自分で洗うことにした。

 

というかこれ以上やると雰囲気がまた振り出しに戻ってしまいそうな気がしたのでさせる訳にはいかないしな————。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~やっぱり風呂に入ると落ち着くなぁ。」

 

そんなことを言いながらリゼは伸びをして極楽モードだ。

一通り洗い終えた俺は、もう一度湯船に浸かりリゼと向かい合う形になった。最初の時のガチガチの緊張状態ではなくリラックスした状態で。

 

「そういえばリョーマ、ここに来る前キッチンに何か置いてあったのを見たけど、何を作ったんだ?」

 

「ん?あああれか。今日のお昼ご飯だよ。結構自信作だから楽しみにしてていいよ。」

 

「リョーマがそこまで言うんだったら美味しいんだろうな。ふふ、楽しみだ。」

 

どれくらいの美味しさなのかを想像してるような顔でニコニコしている。想像だけでこんなに笑顔になってくれるなんて汗びっしょりになりながらも作った甲斐がある。実際に食べてもらったらもっと喜んでくれたりして。

 

 

 

コンコン

 

 

 

「ん?何か聞こえなかったか?」

 

「え?別に何も聞こえなかったけど。」

 

気のせいか?木を叩くような音が聞こえたが……。

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「あら?鍵が開いてる。入っていいのかしら?」

 

「リョーマ先輩が裏口の鍵が開いてるってメールで言ってたから大丈夫だと思うわよ?」

 

今度はドアが開く音と同時に何かの話し声が聞こえた。ココアとチノか?それにしては声質が違うが。

 

「お邪魔しまーす!誰かいませんかー?」

 

透き通ったような大声で分かった。チヤの声だ。ということはもう片方の声はシャロだ。なんでもう来てるんだ?

 

「チヤ!?もう来たのか!?」

 

「リゼ!お前がここに来たのって何時頃だ?」

 

「えっと、確か12時10分前か15分前だったと思う。」

 

しまった。風呂での出来事で頭がいっぱいだったせいで時間のことをすっかり忘れてしまっていた。チヤたちが来たってことは12時を過ぎた頃だろう。早く出てチヤたちを止めないと。。こんなところを見られたら間違いなく誤解されてしまう。

 

「そんな事より早く足止めしないと!きゃあ!」

 

「リゼ!」

 

リゼも考えてることは同じだったらしく、浴槽から出た瞬間よほど焦っていたせいか、足を滑らせ顔が床に直撃しようとしていた。俺は頭より先に体が動き浴槽から出てすぐリゼの腕を掴み自分の方へ引き寄せ、抱きしめる形になった。そこまではいい。そこまではよかったのだが、安堵した瞬間ハッと気が付くと俺の胸元辺りに柔らかい、とても柔らかい2つのお山がタオル越しに当たっている。

 

またやってしまったぁ!!!

 

「ひゃう///………うぅ///」

 

「あ!ご、ごめん!」

 

「いいから……早く離れ………あ///」

 

慌てて離れようとしたが、離れようとする度にリゼが変な声を出してくるせいで動くに動けなかった。そうこうしているうちに走るような足音が聞こえ、そしてその足音はだんだんこっちへ近づいてくる。

 

「リゼちゃん大丈夫!?叫び声が聞こえ………たん………だけど………。」

 

脱衣所のドアが開き、浴室のドアが開くとそこには慌てたチヤが入ってきた。そして俺たちを見ると石のように固まり動かなくなってしまった。チヤから見たら抱き合ってるようにしか見えていないんだろうけど。

 

「チヤ!何で固まってるのよ!リゼ先輩大丈夫ですぴゃああああああああああ!!!」

 

後から来たシャロも入ってくると、シャロの方は苦手なウサギを見てしまったような悲鳴をあげ固まってしまった。俺たちがウサギに見えているのか?

俺&リゼ、チヤ&シャロのペアでお互いがお互いを見合ったまま時間が過ぎていく。10秒、20秒、誰一人言葉を発することなく。

もしかして時間が止まってる?それならそっと移動して2人が見たのは夢だったんだよと言って誤魔化すことができるんだけど。

 

「な、なんで2人ともお風呂に………?」

 

「お2人ってもしかして………そ、そういうご関係なんですか?」

 

残念。時間は止まってなかったみたいだ。俺とリゼは慌てて離れたが、離れたところで誤解が解けるわけではない。どうやって誤解を解けばいい?何を言ったところで簡単には解けそうには見えないが。

 

「ち、違う!ただ私はリョーマに看病をしてもらったからそのお礼をしようとしただけで!」

 

「お、お礼って………も、もしかして………その、イケナイこと、とか///?」

 

「イ、イケナイ………こと///」

 

リゼの発言でさらに誤解をさせてしまったようで、チヤは恥ずかしそうな顔で赤くなり両手で口元を隠してる。

何を想像しているのか分からないがチヤの言葉を聞いたシャロもだんだん顔が赤くなり、のぼせたようなボーっとした顔で立ち尽くしている。

 

「違うそんなんじゃない!私はリョーマにお礼に奉仕をしようとしただけだ!」

 

「ちょっ!リゼ言い方!!!」

 

「お風呂で!?」

 

「奉仕!?」

 

最後の言葉がとどめになったらしく、2人はリンゴみたいに真っ赤になると口から魂が抜けていくようにゆっくりと後ろへバタンと倒れてしまった。

そしてその音が聞こえたのか、2階からドタドタと慌てて階段を下りてくる音が聞こえた。そしてその音はチヤたちの時と同じようにこっちへ近づいてくる。

 

「チヤちゃん!?シャロちゃん!?どうしたの?お兄ちゃん大丈夫!?………ああああごめんなさい!!!」

 

ココアは慌てて浴室に入って来るや否や、俺たちの姿を見て顔を真っ赤にし両手で顔を覆い隠した。

まあ腰にタオルは巻いてるから最悪の事態は防げてるけど。

 

「ココアさんうるさいですよ?……なんでお2人が倒れてるんですか?お兄ちゃん何かあったんですかあああああああああああ!!!!

 

有ろう事か最年少であるチノまで浴室に入ってきた。そして俺たちを見ると今まで聞いたことがないくらいの声量の叫び声が響き渡った。うるさいと言っておきながら浴室に入ってきた4人の中で一番うるさい。というかチノそんな大声が出せるんだな。

 

「ご、ごめんなさい!叫び声と倒れる音が聞こえたから心配になって来ただけだから!べ、別にお兄ちゃんを覗こうとかじゃないから///」

 

「そ、そうです!ココアさんの言う通りです!確かにお兄ちゃんの体よく見ると逞しくて、いつもこんな体でハグしてくれてたんだなって思うと、その………へへ////………あっ、じゃなくてココアさんと同じで覗きじゃないです!」

 

なんだか1人だけ変に暴走しかけてたが、さっきから俺の事しか言っていないのが気になる。普通ならチヤたちのようにどうしてリゼもいるのか聞くはずだ。まるで俺1人しかいないかのようなことしか言ってこない。

不思議に思った俺はチラッと後ろを見たがそこにはリゼがいなかった。消えた?————と思ったが、湯船をよく見てみると水面に少しだけ浮いている髪の毛を見る事ができた。

そうか、ココアたちにも見られるとこれ以上手の施しようがないと踏んで、機転を利かして隠れてくれたんだ。リゼも長くは隠れられないだろう。ならばそれを無駄にはできない。急いでココアたちをここから離れさせないと。

 

「えっと、2人とも間違えて風呂のドアを開けてしまったみたいなんだ。悪いけど2人をココアかチノどっちかの部屋まで運んでくれないか?」

 

「う、うん///」

 

「はい///」

 

ココアはチヤの、チノはシャロの腕をそれぞれ自分の肩にかけ支持搬送で部屋まで運んで行ってくれた。なんとか事の峠を越すことはできた。

 

「ぷはぁ!ケホッ……ケホッ………」

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

「なんとかあの2人にはバレずに済んだな。」

 

もう息の限界だったのか、勢いよく水面からリゼが飛び出してきた。一時はもうだめかと思ったが、リゼの機転のおかげで助かった。

ココアたちにも見られてたら本当にマズかっただろう。不幸中の幸いといったところだろうか。

 

「リゼ、早く出よう。リゼが先に出て俺の部屋に戻っておいてくれ。まだバレてないけどココアたちが俺の部屋に入ってリゼがいないって知られたらまずいことになりそうだし。」

 

「わかった。先に出るぞ。」

 

リゼを浴室から出し、ココアたちにバレないように先に自室へ帰すことにした。

さて、ここからが問題だ。どうやってあの2人の誤解を解けばいい?恐らくだが一緒に風呂を入るくらい深い関係にあるみたいに思われているだろうな。誤解が解けるまで何度も説明すればいけるのか?誰でもいいから知恵を貸してほしい。

これぞ正に猫の手も………猫の知恵も借りたいというやつか。

 

あぁ神よ、何故このような試練を与えたのですか————。

 

 

 

 

To be continued




どうもP&Dです。だいぶ前にこの回は3話構成とか言ってたと思うんですけど………





すいません!4話構成にさせてください!ほんとにすいません!


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