紅の引き金 (柿の種至上主義)
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スクラップ・クイーン
異論反論は認めねえ(開き直り
あん?あの大馬鹿野郎についてだって?
別にあんたらが邪推してるような関係では欠片もないから安心しな。
それでも話を聞きたい?ああ分かった、もう降参だよ。・・・と言っても大して面白くもないんだけどね、それにあたしはあの野郎と直接会うつもりなんて最初はなかったんだ。
♦♦♦
やせっぽちの政治犯野郎から話を聞いてから早数日、例の大馬鹿野郎の機体にちょっとした魔法ってやつをかけてからもあいつは他の懲罰部隊の連中と一緒になって何度か空に飛んで行き、その度に馬鹿なことをやってのけた上で生きて帰ってきやがっていた。
あたしはいつものように生きて帰ってきたやつらの機体の整備をするためにハンガーに向かった。機体のことを欠片も気にせずに飛ばしまっくた馬鹿野郎どもは、さて今回はどんな風に無茶したんだろうかと思いつつ。
ところがハンガーには先約がいやがった。以前からちょくちょく誰かがあたしの庭みたいな場所を勝手に使っていやがるのは気づいていたが、中々に尻尾を掴めていなかったのだ。あたしはできるだけ音を立てないようにハンガーに入っていった。中にいた野郎が着ているのは懲罰部隊の服、まあそれ自体は予想できていた。看守どもの中に好き好んで懲罰部隊の機体をいじろうとする奴も、それができるだけの腕をもつ奴もいないのだから。
そいつは機体に集中しているのかこちらに気づいた様子はなく、あたしはこれまで勝手に使っていやがってことの意趣返しの意味も含めて驚かせてやろうと思った。ついでに一言二言の文句も。
だが、そいつは端から気づいていやがったんだ。
「もう来たか、悪いが使わせてもらってるぜ」
聞き慣れた声じゃなかったが機体をいじる手を止めてこっちに振り返ってきた野郎の顔だけは知っていた。声を知らないのも無理はない、一度も話したことはなかったのだから。
「あたしの庭で勝手してやがったのはあんただったか・・・
これが、あたしとあの大馬鹿野郎が初めて会った時だった。
♦♦♦
「てめぇの乗るもんのことすら知らねえようじゃ、空を一丁前に飛ぶなんて出来ねえのさ」
「へえ、ご立派な考え方だねえ」
機体の整備を終えて、あたしらはちょっとした話をしていた。いい機会ではあるし、この大馬鹿野郎はどんな頭をしているのか興味があったからだ。以前やせっぽちの政治犯野郎から話を聞いた時にあたしは、『父さんができなかったことをやってのけた奴なんて肌が合いそうにない』なんて思ったもんだが案外そうでもなかったらしい。成り行きで一緒になって機体の整備をやったが、こいつも中々いい腕をしている。操縦の腕だけじゃ、こいつには不十分だったらしい。
他愛もない世間話からこの場所への愚痴、この大馬鹿野郎がこなしてきた任務、いろんなことを話した。そしてしまいには、あたしのこれまでのことまでしゃべっちまってた。父さんのこと、じいちゃんのことも。他人にこれまで話したこともないようなことまでしゃべってたのは、単にこの大馬鹿野郎がえらく聞き上手だったからなのか、見た目で言えばあたしと同じか少し上くらいなのに戦争を経験した父さんや下手すりゃじいちゃんみたいな年上と話してるような感覚になるからなのかは、あたしにも分からなかった。人が見た目によらないってのをここぞとばかりに実感したよ。
そしてあたしは、”空の色”についてあいつに聞いてみた。一切合切しゃべっちまったんだし、それくらい聞いとかなきゃ割に合わないと思ってね。そしたらあいつは、
「空の色、ダークブルー、ね。なるほどな、中々ロマンチストじゃねえか。」
「そう言うのはいい、さっさと答えな」
「――――――――――――――」
そこからあの野郎が話し出したのは、どこかの海の上で戦い、戦友も親友も失ってたった一人生き残っちまった男の話だった。そしてその話の中に出てくる、空のどこかに存在しているかもしれない’雲の平原’。
あたしにはなぜだかその風景が鮮明に浮かんできていた。見渡す限りの真っ白な平原。自分の乗っている機体のエンジン音すら聞こえない静寂。自分のいる場所からさらに高い、あたしの言うダークブルーの入り口辺りに流れている一本の不思議な雲。
奴はこうも言っていた
「あの時のことだけは、死んでも忘れられねえさ」
その一言がなぜか妙な重みを持っていた。
♦♦♦
あの大馬鹿野郎との話から数日後、あいつが他の懲罰部隊の馬鹿どもと駄弁ってるのを見つけた。と言っても、あいつは他の奴らの話を聞いてるのがほとんどだったが。操縦の腕はいいんだが手癖の悪い奴、博打しか頭にない馬鹿、根性ないくせに政治犯気取りの奴。
意外な連中があいつの周りにいやがった。変わった奴らに気に入られてると思ったが、どうやら何度か奴のおかげで命拾いした奴らばかりらしい。
「僕らはみんなトリガーに助けられたからこそ、今ここにいるのさ。そりゃマジで死ぬんじゃないかって場所に連れてかれたこともあるけどそれはそれ。それ以上に助けられてるのさ。ハイローラー、チャンプ、フルバンド、口では何だかんだ言ってるが、少なからずみんなトリガーに感謝してるのさ。もちろん僕もね」
後になってからやせっぽちの政治犯野郎が、妙に得意げになってそんなことを話していた。そんな奴らの話の話題はちょうど
やれ、挨拶一つ返さないだとか
やれ、女王様を気取ってやがるだとか
やれ、女のくせに生意気だとか
しょうもないことばかり。
いつものように聞かなかったことにしてそこをさっさと離れようと思った矢先に、聞き役だったあいつがしゃべりだした。
「あいつはただの女なんかじゃねえさ。スクラップ機から俺たちの乗れる機体を作り上げたんだ。タブロイドの言葉で言えば魔法みたいにな。ちいとばかし若いが、いい腕してるぜ」
「えらくクイーンの肩を持つじゃないかトリガー、さしずめ騎士さまってところか」
「そう言う考えにすぐいっちまう辺りがまだまだ若い証拠なんだよ」
「まあまあ、トリガーからしてみれば僕ら全員まだまだ小童なのは間違いないさ」
「俺が乗る機体も、前よりずっと良くしてくれたんだ。もうちっとばかし丁重にしても罰は当たんねえだろ」
「ほんとかよ?でたらめ言ってんじゃねえだろうな」
「飛行機やら戦闘機、飛行船に関しちゃ嘘は言わねえさ」
あいつの言葉が妙にこそばゆかった。
よく見ればあいつはえらく煙草を吸っていた。その場にいた誰よりも。思い返せば、あいつが使ってた時のハンガーの入り口近くには灰皿に小さな山が出来ていたし、あいつからも煙草のにおいはしたが、あたしと話していた時は一本も吸っていなかった。
今までされたことのないような気遣いや褒め言葉がどうにもどうしようもなくこそばゆくて、
正直今でさえまだ慣れちゃいない。
♦♦♦
あん?結局のところどうなのかって?別に変わりはないさ、
あたしは今もあの真っ赤な趣味のいいとは言えない機体でどっかの空を飛んでいるだろう大馬鹿野郎のことをちょっと離れたところから見守るだけだ。
・・まあでも、いい酒が手に入った時くらい二人で飲むってのも悪くはないかもね。
エスコンやり、映画も見直して思ったんですが、
いくら大型の飛行艇とはいえすれ違いざまにエンジンだけを打ち抜くって
神業だと思うんですよ。
思いません?思えよ(横暴
映画の序盤、自分で修理もしてたんである程度の知識と腕を持っていると解釈しました。
まあほぼ独自設定かもしれませんが。
好評だったら、別の人Ver.投稿したいと思ってます。
こういう系は初めて書いたに等しいのでどうかご容赦ください
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