蒼き雷霆ガンヴォルト~のび太のヒーローアカデミア~ (じゃすてぃすり~ぐ)
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プロローグ『その少年の名は・・・』

ゲームの『蒼き雷霆ガンヴォルト』をやってたら、唐突に思いつきました。
色々と拙い内容ですが温かい目でお願いします。


Side のび太

 

―4年前・・・僕、野比のび太は全てを失った。

 

「パパ・・・ママ・・・」

 

 家族と・・・、

 

「ドラえもん・・・」

 

 親友を、そして思い出の詰まった我が家を失った。

 

「おめでとう、野比のび太君。君は選ばれたのだよ、『プロジェクト・G』の被験者に」

 

―道化師のような仮面の男。そいつを筆頭とした一味によって。

 

 そのプロジェクトにより、『無個性』だった僕は『個性』を手に入れた。

 どうやら僕の身体は、その『個性』と相性が良かったらしい。

 以前の僕なら『個性』を手に入れた事に喜んでいた事だろう。

 だけれど、喜べる筈が無い。家族を殺されているのだから。

 そして、それからの生活は苦痛の毎日だった。

 

「うわあああああああああああっ!!?」

 

 繰り返される実験の日々。

 無理矢理『個性』を引き出され、その出力はデータとして記録される。

 苦痛を伴うその実験は、とても辛く僕が泣き叫んでも止めてくれなかった。

 それは正に絶望と後悔。・・・死んでしまいたいと思いたくなるほど辛かった。

 

 あの時、ドラえもんと大喧嘩して家出なんかしなければ良かった。

 

 あの時、自分に個性が無いと知って、諦めて『元の世界(・・・・)』に戻ればよかった。

 

 そもそも、『もしもボックス』なんて使ってこんな世界を願わなければ良かった(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 そんな後悔が僕の頭の中を渦巻いていた。

 

 そんな時だ、彼と出会ったのは。

 遠くから爆発音が聞こえる。それと同時に警報がなった。

 

『警告、侵入者発見。侵入者発見。非戦闘員は即座に脱出せよ』

 

 警告が鳴り響く中、聞こえる銃声と怒号。そして、何かがぶつかる音と悲鳴が聞こえてくる。

 それは段々と近づいていき・・・。

 

―CRASH!

 

 瞬間僕のいる部屋の壁が爆ぜた。

 疲労と実験の激痛で霞む眼でその爆ぜた方向を見やる。

 そこには男が居た。

 前髪をV字に2本逆立てた金髪の筋骨隆々とした体格の男。

 その男を僕は知っていた。・・・いや、この世界の誰もが知っているのだ。この(ヒーロー)を。

 掠れる声で、僕はその男の名前を呟いた。

 

「オール・・・マイト・・・」

「よく耐えたな、少年。だけどもう大丈夫。・・・何故かって?」

 

 そう言ってオールマイトは、僕に笑顔を向けた。僕を安心させるように、誰よりも眩しい笑顔で。

 

「私が来た!」

 

―ああ、もう大丈夫だ・・・。

 

 オールマイトが来てくれた。その安心感と共に、僕の意識は暗転した。

 

―そして現在。???、のび太の自室。

 

「・・・夢か」

 

 もう何度目になるだろう、4年前のあの時の夢を見て僕はため息をついた。

 ベッドから起き上がり、洗面台へと向かう。歯を磨き、顔を洗った後、今の自分の顔をマジマジと見る。

 実験の影響で、金髪へと変色した僕の長く伸びた髪。それをオサゲにした後、クルクルと自分の後頭部に纏めて黒髪のカツラを被った。そして、メガネをつけて・・・コレでよし。

 

 何故、変装する必要があるかって?話が長くなるから余り言えないけれど、金髪のままで学校に行くと色々とまずい事になるんだ。とは言っても、犯罪行為とかヴィラン紛いの事をやっている訳ではないのでそこは安心して欲しい。

 ふと、時計を見やる。時刻は7時、早く朝食を食べないとな。

 部屋を出て、居間へと向かう。

 

「グッドモーニング、のび太。今、起こしに行こうと思ってたところだったが、それは必要なかったみたいだな」

「蒼一郎さん、おはよう。昔はそうだったけど、今は違うよ」

 

 その最中に、長く伸ばした銀髪にサングラスをかけた男。僕が今、身を寄せている孤児院『翼の家』の園長である『八木 蒼一郎(やぎ そういちろう)』とばったり出くわした。

 ここに来たばかりの頃は寝坊ばかりして蒼一郎さんに起こされてたのはいい思い出だ。

 

「それはそうと朝食(ブレックファースト)が出来上がっているぞ、子供達も席についてるから早く居間に来るといい」

「了解」

 

 子供たち、と言うのは『翼の家』に引き取られている子供たちだ。

 無個性だった、自分でも制御できない凶悪な個性だった・・・などと言う理由で捨てられたり、ヴィランや災害などで両親を失ったりそう言った子供達が引き取られているのだ。

 

 おっと、話が逸れた。

 蒼一郎さんに返事を返し、僕は居間へと向かった。

 

「おはよー、のび太兄ちゃん」

「おせーぞ、のび太ー!」

「おそーい」

「・・・(おどおど)」

 

 僕が居間に入るなり、子供たちがわーわーと僕にそう言う。

 そんな子供達に僕はゴメンゴメンと軽く謝り、席についた。

 今日の朝食は、ご飯、味噌汁、卵焼きと言ったスタンダードな献立か。いい匂いだ。

 蒼一郎さんが皆席についたことを確認し、口を開いた。

 

「よし、皆。席についたな、では朝食(ブレックファースト)を食べよう。手を合わせて」

「「「「「いただきます」」」」」

 

―朝食中・・・。

 

「ふぅ、ご馳走様」

 

 朝食を済ませ、皿を片付けていると時間は8時となっていた。もうそろそろ学校が始まる、行かないとな。

 

「そろそろ、学校に行くよ。行ってきます、蒼一郎さん」

「ああ、行ってらっしゃい。今日はなるべく早く帰って来るんだぞ?」

 

 成る程、今日は『アレ』がある日か。僕は、分かったよ。と蒼一郎さんに返す。

 

「寄り道せずに帰る、じゃあね」

 

 そう言って、僕は学校へと向かった。

 

 学校では、普通だった。友達と喋り、授業を受ける。トラブルも無く、平穏に過ごした。

 そして放課後。

 カラオケに行こうという友達の誘いを断り、僕は帰路へと向かう。

 

「ただいま」

 

 翼の家にたどり着き、ドアを開ける。

 

「お帰りなさい、のび太君」

「モニカさん、蒼一郎さんは?」

 

 僕を出迎えたのは、蒼一郎さんと同じく『翼の家』で働くモニカさんこと、『モニカ・緑川(みどりかわ)』。少しおっちょこちょいだけど、面倒見が良く皆のお姉さん的な存在だ。

 

「お帰りのび太」

「うわっ!?」

 

 モニカさんの背後から、ぬっと現れる蒼一郎さん。・・・びっくりしたぁ。

 蒼一郎さんの服装は朝着ている私服と翼の家のエプロンではなく、黒と灰色に統一されたコートとズボンを着ている。

 

「先に『ブリーフィングルーム』で待っている。キミも着替えを済ませたら来るんだ」

「了解、分かったよ」

 

 蒼一郎さんに僕はそう言うと、部屋へと向かい学生服を脱ぎ、メガネとカツラを外すと、クローゼットを開け、そこにかけてあったある服を取り出した。

 それは、蒼で彩られたコートとズボン。所謂、僕の『仕事着』だ。

 それを着た後、僕は部屋にあるボタンを押す。

 するとどうだろうか、僕がいつも寝ているベッドが起き上がり、起き上がった箇所から穴が開く。『ブリーフィングルーム』に続く道だ。スパイ映画とかでよくあるアレさ。

 僕はその中に入って、ブリーフィングルームに向かった。

 

「来たか、のび太・・・いや『GV』」

「それで、『アシモフ』。今回のミッションは?」

 

 ブリーフィングルームでは、蒼一郎さん・・・いや、ここでは『アシモフ』と呼ぼう。

 所謂コレは、コードネーム。ミッション中は、僕と彼はコードネームで名前を呼び合っている。ちなみに『GV』って言うのは僕のコードネームだ。『GV』って何の略かって言うのは後で分かるよ。

 それと、モニカさんが到着していた。ちなみにモニカさんも私服に翼の家のエプロンではなく黒と白のスーツにスカートと言った『仕事着』だ。

 これが、『翼の家』の裏の顔。

 

―日本政府直属の特命武装組織『フェザー』

 

 主に、プロのヒーローでは対処できない、あるいは表沙汰にできないような仕事を政府の依頼でこなすのが僕達の仕事だ。

 本来なら僕のようなヒーロー免許を持ってない子供は入ることは出来ないが、僕の『個性』が特殊である為、色々あったが、今こうしてここにいる。

 

「今回のミッションは、折寺市の廃工場にいるヴィランチームの掃討だ」

「ヴィランチームの掃討?それなら、ヒーローの仕事じゃないのか?」

 

 アシモフの言葉に、僕は眉を潜めながら質問をした。ただのヴィランチームを退治して警察に突き出すのならヒーローだって出来る。

 わざわざ僕等に依頼するほどの事じゃあないと思うんだけど。

 そんな僕の疑問に、モニカさんが答えた。

 

「ところが、そう言う訳には行かないのよ。そのヴィランチームはある財閥のご令嬢を誘拐しててね、しかもこの事を警察やヒーローに話したり表沙汰にすればその子を殺すって脅してるの。

 その子が人質にされてる以上、ヘタにヒーローに任せる訳にはいかない。それでフェザーにお呼びがかかった訳」

 

 ・・・成る程合点がいった。

 

「それで?どうやって、侵入すればいい?」 

「指定した座標にキミを転送し、煙突から侵入。そこからはキミに任せる」

 

 僕の問いかけに、アシモフはそう答えた。任されたからにはしっかりとやらないとな。

 

「了解、ほかに質問は無いし、今からミッションを始めるよ」

 

 そう言って、僕は転送ポートへと乗る。その傍らでモニカさんがカタカタとキーボードを入力していた。

 ポートが光り出し、僕を包み込む。

 

「グッドラック、GV」

 

 アシモフの声と共に、僕は転送された。

 

 

 SIDE OUT

 

 

―折寺市 町外れの廃工場

 

「んー!んー!」

「うるせぇぞ、餓鬼ィ!」

 

 身体を縛られ、猿轡をかまされた状態で叫ぶ少女に、男の怒号が響く。

 

「しかし、本当に来るんですかね兄貴。ひょっとしたら警察を呼ばれてるかも・・・」

「こねぇよ。そうならない為に警察やヒーローには言うなって釘を刺したんだ」

 

 おどおどと心配そうに喋る仲間に、男はそう言って笑う。そんな男に今度はヘドロのような男が言った。

 

「だけど、こうして待ち続けんのはヒマでしょうがねぇ・・・。兄貴ィ、コイツで遊んでいいか?」

「・・・殺さねぇようにな。ソイツは大事な金ヅルだからよ」

「ヒヒヒ、やったぁ・・・」

 

 下卑た表情を少女に向けるヘドロのような男。少女は逃げようともがくも身動きが取れない。

 

(誰か・・・助けて)

 

 近いうちに起こるであろう、惨劇を想像しながらきつく眼を閉じ祈る。それは無駄な足掻きだとしても。

 

 その時である。

 

―Pff。

 

「ん?なんだァ?」

 

 体がヘドロである為、ダメージは無いが何かが自分の身体に入った感覚にヘドロの男は顔をしかめた。

 

「どうした?」

「何でもねぇ、何か俺の体の中に入ってきてなぁ。多分埃か何かじゃ・・・」

 

―CLAP!

 

「ギャアアアアアアアッ!!?」

 

 最後まで言わせず蒼い雷光がヘドロの男を貫いた。

 断末魔の叫び声を上げて倒れ伏す、ヘドロの男。

 

「なっ!?これは・・・!?」

 

 驚きの声を上げるリーダーの男。仲間の男達も反射的に銃を構えたり、個性を発動したりなどして周囲を警戒する。

 

「やぁ」

「ん?」

 

 男の一人が上から声をかけられ、その方を向いた瞬間。目の前には靴の裏。

 

―Wham!

 

「ぶげっ!?」

 

 それがヘドロの男を襲ったものの靴だと気づくよりも早く。その靴の裏と熱いキスをかわし意識を失う。

 仲間がもう一人やられ、男達はその下手人の姿を見た。輝くような金髪のオサゲ髪。蒼いコートとズボンを着た14歳くらいの少年だった。

 

「誰だテメェ?」

「君達に教えると思う?」

 

 リーダーの男の問いに少年は不敵に笑って返す。

 

「僕としては、その女の子をこっちに渡して欲しいんだ。そしたら、穏便に済ませてあげるけど?」

「ガキ、この状況が分かってんのか?こっちの数は8人どう見ても、こっちの方が上だぜ?それに、銃もある。丸腰で何ができ」

 

―Blam!

 

「いてっ!?・・・何だコレ!?」

「針!?」

「ってよく見ろ、アイツ銃持ってんぞ!?」

「アレから発射されたのか・・・?」

 

 リーダーの男の言葉が最後まで言われることは無く、銃声が鳴った。

 8人のうちの6人の手や首筋に針のようなものが刺さっている。針の飛んできた方向を見やると、少年の手にはいつの間にか銃が握られていた。

 男達は、すぐさま理解する。この針は少年の卓越した射撃技術(早撃ち)によってあの銃から放たれたものだと。

 

「はっ!」

 

 次の瞬間、少年は銃を持っていない手をかざす。

 

―CLAP!

 

「「「「「「ウギャアアアアアアアアアアッ!!?」」」」」」

 

 再び蒼い雷光が、針の刺さった6人に放たれた。蒼い雷光に焼かれ、倒れ伏す。

 

(-蒼い雷光・・・。あの凄まじいまでの射撃技術(早撃ち)・・・!まさか、まさか・・・あのガキは・・・!?)

 

 少年を見ながらリーダーの男は顔面蒼白となった。なぜならば少年は裏社会では知らぬものなどいないからだ。

 

「こ、このガキがぁ!!!」

「スミス!?」

 

 男の最後の仲間がバットを振りかぶり、少年に踊りかかる。そしてそのまま少年の頭目掛けてフルスイング。だが、

 

―すかっ!

 

「え?」

 

 バットは少年の頭を砕くことは無く、空を切った。

 外したのか?否、すり抜けたのだ。

 突然の事にほうけた様子のスミスの腹に少年の拳がめり込り意識を刈り取る。

 

「『電磁結界カゲロウ』、これによって誰も僕を傷つけることは出来ない」

「!?や・・・やっぱりそうだ。さっきの蒼い雷光といい・・・射撃技術(早撃ち)といい・・・、お前まさか『蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト』!?」

 

 顔面蒼白になりながらリーダーの男は、少年の名を叫んだ。

 

「そうだよ」

「ひっ・・・!?く、くそぉ!ガンヴォルトがなんだ、ぶっ殺してやる・・・ヴヴヴヴヴ、アオォォォォォォォォン!!!」

 

 リーダーの男はそう言って、近くにあった丸いものを見つめ、その体が変わった。身体は毛深く狼のような姿へと変わる。

 

「俺の個性は『狼男』!この姿になった俺は誰にも止められねぇ!」

 

 そう言って、狼男はガンヴォルトに向かっていく。ガンヴォルトもまた銃を構え針のような弾丸を放った。それをジグザグに走ってそれを回避する。

 

「ガウッ!?」

「ッ!?」

 

 ガンヴォルトに肉薄し、爪の生えた手で持っていた銃を弾き飛ばす。

 

「銃が無ければ、得意の射撃も出来ねぇな!例の手品も使わせねぇ、このまま首を掻き切ってやらぁ!!!」

 

 そして、そのまま空いている手でガンヴォルトの首目掛けて爪を振るおうとする狼男。だが、それは敵わなかった。

 

―CRACK!

 

「ぶご・・・!?」

「お生憎様。こちとら射撃や、蒼の雷霆だけで修羅場をくぐってきた訳じゃないんだよ」

 

 カウンターで放たれたガンヴォルトの右拳が狼男の顎を打ち抜き、ノックアウトさせた。

 

―のび太・・・もといGVSIDE

 

「ふぅ・・・、何とかなったか。・・・こちらGV、ヴィランチームの全滅完了した」

 

 ヴィランチームを全滅させた僕は、アシモフに通信を入れる。

 

『グッジョブだ、GV。警察には通報した、間もなく警察とヒーローが来るだろうから帰還してくれ』

「了解、誘拐されてた少女の縄をほどいたら帰還するよ」

 

 そう言って、アシモフとの通信をきる。狼男に弾き飛ばされた愛用の銃『ダートリーダー』を拾い、ホルスターにしまう。そして、縛られてる女の子の元に行き、縄と猿轡をほどいてあげた。

 

「もう大丈夫だよ」

「・・・ありがとうございます。貴方が来てくれなかったら、私はどうなってた事か・・・」

 

 自由となった女の子は、そう言って僕にお礼を言う。気にしないで、と送還装置を使ってフェザー本部に戻る準備をしながら僕は女の子にそう言った。

 

「これが仕事だからね。後は、警察やヒーローに任せるよ」

「警察やヒーローに・・・って、貴方はヒーローじゃないのですか?」

 

 ・・・。

 まぁ、『個性』を使って悪者(ヴィラン)やっつけてるんだからそう思うのも無理は無いか。

 だけれど・・・、

 

「僕は、ヒーローなんかじゃないよ」

「え・・・?」

 

 そう僕は、彼女に自嘲気味に言った。それはどう言う意味なのか?と問いかけようとする女の子。その時、僕の足元が光り始める。送還が始まったようだ。

 

「時間か。・・・じゃ、そう言う事で。今度はヴィランに捕まらないように、帰る時は友達と一緒に帰るんだよ」

「ま―」

 

 女の子が引きとめようとしていたが、遅かった。そのまま僕は光に包まれフェザー本部へと帰還した。

 

 

 改めて自己紹介をしよう、僕の名は『野比のび太』。そしてもう一つの名前は『蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト』。

 これは、僕が世界人口8割が超常能力『個性』を持っている超人社会で生きる物語。

 そして、自分の『罪』と向き合い、『歩き始める』物語だ。

 

 ドラえもん×僕のヒーローアカデミア×蒼き雷霆ガンヴォルト

 

 蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト~のび太のヒーローアカデミア~

 

―始まります。




 おかしい!ヒロアカとのクロスなのにレギュラーヒロアカキャラがオールマイトしかいねぇじゃねぇか!しかも回想!(自分で書いてて何だけど・・・)
 本格的にヒロアカキャラ出すのは次回くらいかな・・・?

次回もお楽しみに。


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チャプター1『進路』

 中学3年、それは人生の分かれ道。
 少女が選ぶ進路(みち)は、雄英高校ヒーロー科。
 それは『平和の象徴(オールマイト)』を生み出したヒーロー界の登竜門。
 最高のヒーローを目指す『無個性』だった『謡精』の少女は過去へと思いを馳せる。


― 出久SIDE

 

―人は生まれながらにして平等ではない。

 それは()緑谷 出久(みどりや いずく)が、4歳の頃に直面した現実だ。

 

「うーん、諦めた方がいいね。今の世代には珍しい何の『個性』宿ってない型だよ」

 

 オールマイトのようなヒーローになりたいと思っていた私に突きつけられた『無個性』と言う事実がそれだ。

 『無個性』という事実を告げられても、私は諦めなかった。否、諦めきれなかった。

 

「『無個性』の癖にヒーロー気取りかよ、『デク』!」

「勉強だけじゃヒーローにはなれねーよ!」

 

 例え、クラスメートや幼馴染にバカにされようとも私は必死に頑張った。

 いつか、『無個性』でもヒーローになって・・・、

 

「出久・・・ごめんね、ごめんねぇ・・・」

 

 4歳の頃から私に謝ってばかりのお母さんに、「『無個性』でも、ヒーローになれたよ!」って胸を張って言える様に。

 そんな私に転機が訪れたのは9歳の頃。

 

「『個性研究所』・・・ですか?」

「はい、御宅のお嬢さんをウチでお預かりしていただければ、『無個性』だったお嬢さんがあっという間に『個性』を持つ事が出来るようになります」

 

 『個性研究所』と名乗る白衣の人達、彼らの所に行けば『個性』を持つ事が出来る。もう、『無個性』だなんて言わせないし、『ヒーロー』になれる!度重なるいじめで精神的に追い詰められていた私は藁にも縋る思いで、お母さんを説得し、了承を得た後、彼らに連れられた。

 そして、実験の末、手に入れたのは『電子の謡精(サイバーディーヴァ)』と言う『個性』。

 だけれど、待っていたのは更なる地獄。

 家に帰ることも許されず、来る日も来る日も、かつての私と同じ『無個性』の人達をおびき出す為の『歌』を歌わされた。

 連行され様々な実験を受けさせられる『無個性』の人々の苦痛の叫び声。大抵の人は過度の実験に耐え切れず、一人、また一人と死んでいった。

 皆を救うヒーローになりたかったのに、皆を苦しめる歌を歌い続ける事になるなんて何と言う皮肉だろうか。

 

「そんなにヒーローになりてぇなら、効率いい方法があるぜ!

 来世に『個性』が宿ると信じて、屋上からのワンチャンダイブ!」

 

 幼馴染のかっちゃん。・・・『爆豪 勝己(ばくごう かつき)』に言われた事を思い出す。

 こんな事になるんだったら、現実をみればよかった・・・。ヒーローを目指す事を諦めれば良かった。そうすれば、こんな事にならなかったのに。

 

「私を、殺して下さい・・・。

 もう、この人達のための歌は、皆を苦しめるための歌は歌いたくない。

 ・・・だから、私を殺して下さい」

 

 13歳の運命の日。後悔と罪悪感に苛まれ思いつめた末に、助けに来た人に私はこう言った。

 これは『罰』なのだと。『無個性』の癖に一丁前にヒーローになりたかった私に対する、報いなのだと。そう死にたくないと叫ぶ私の本心に言い聞かせて。

 だけれど、

 

「そう自分の命を、簡単に投げ出すな!君が自由を望むなら僕が(チカラ)を貸す!

 僕は君を助けたい・・・、だから教えてくれ!君の本当の願いは何?」

 

 『彼』はそう言って、私に手を差し伸べてくれた。後の事は言うまでもないだろう。彼の活躍によって、私は助けられ、『自由』を得た。

 私に自由をくれた『ヒーロー』、彼の名は・・・。

 

 

―現在。蒼炎中学校。

 

「皆さんはもう3年生。なので、将来の事を考える時期です。そう言う訳で、進路希望のプリントを配りますよ」

 

 ホームルーム。私達の教室で、担任のライチ先生が、そう言ってプリントを配る。

 全部配り終えると、わいわいガヤガヤとクラスメート達が、進路を何にするか話し合った。

 

「なぁ、お前進路何にする?」

「俺は○○高校のヒーロー科かな?」

「奇遇だなぁ、俺もだ」

 

 この超人社会でヒーローは人気の職業だ、大体の人達がヒーロー科を希望する。かく言う私も、その一人だ。

 

「イズクは、何処のヒーロー科に行くの?」

 

 そう問いかけてきたのはリス耳にリスの尻尾をした茶髪の女の子、『七夜 真琴(ななや まこと)』。この蒼炎中学に転入してきて始めて出来た友達の一人だ。

 

「私は雄英(ゆうえい)にするつもり。なんたって、オールマイトの出身校だし」

「オールマイト好きだよねぇ、イズクって。・・・にしても雄英かぁ・・・。大丈夫?雄英って、結構難しいって聞くし」

 

 雄英・・・国立雄英高等学校

 ヒーロー養成校と名高い高校で、オールマイトを始めとした名だたるヒーロー達を輩出し、偉大なヒーローには雄英卒業が絶対条件と言われるほどヒーローになるための登竜門として認知されている。

 特に、ヒーロー科は、入試倍率は300倍と超難関らしい。

 以前の『無個性』だった私ならば、『「無個性」なのに雄英だなんて無理でしょ』と一笑されてただろうけど、今は違う。

 

『大丈夫よ、出久は模試A判定だったし』

 

 そう言って、私の身体から蒼い蝶のような羽を生やし金髪のポニーテールをした、蒼い着物をアレンジしたような服を着た女性が現れる。若干私よりも大人っぽい。

 彼女は『モルフォ』。私の『個性』である『電子の謡精』が自我をもった存在だ。

 

「A判定か、それなら大丈夫かもね」

「うん。実技の方も、トレーニングとか色々やってるし」

 

 走りこみとか、筋トレとか。まぁ、そのお陰で体力とかはついてきているので実技の方も大丈夫だろう。

 

『背はあまり伸びてないけどね。アタシよりもちっちゃい』

「モルフォ!」

 

 人が気にしている事を!

 過去、研究所で行われた実験の所為で背が伸びにくい体質となったのだ。お陰で、今の身長は130cm。その事でモルフォやクラスメートに弄られる毎日だ。・・・まぁ、過去のいじめよりかはマシだが。

 

「それ、言うの止めてよ。気にしてるんだから」

『あはは、ゴメンゴメン。っと、これ以上外に出てると先生が五月蝿いから中に戻っておくわよ』

 

 そう言って私の中に吸い込まれるようにして消えていくモルフォ。こう言う風に勝手に出てくるのは本当に止めて欲しい、自我を持っていても『個性』は『個性』なのだ。見つかって怒られるのは私の方なのだから。

 運よくライチ先生に見つかっては・・・。

 

「緑谷さん、モルフォさんと随分仲良くお話してたみたいね」

 

 ・・・バレてた。ついてないなぁ、私。

 

「『個性』の発動は原則禁止よ。雄英志望なんだからしっかりモルフォさんの手綱は握っておくように、いいわね?」

「は、はい」

 

 しかもしっかり、進路希望まで見てるよ。おまけに進路も言っちゃってるし!何で言っちゃうのかな!?

 

「ウッソ、マジで・・・」

「雄英って難しいんじゃねぇの?」

「だけど、勉強とかできるから大丈夫なんじゃない?」

 

 ざわざわとざわめきと共に、一斉に視線が私に向く。ううう、先生がバラした瞬間から覚悟はしてたけど恥ずかしい・・・。

 

「ま、まぁ模試もA判定だったから受けるつもりだよ。・・・それに、ヒーローになって多くの人を助けたいし」

 

 そんな気持ちを抑えながらも、私は皆にそう言った。オールマイトのようなヒーローになって、私の歌と想いで、人々に(チカラ)を与えたい。

 それが、私の『償い』でもあるし、あの時、助けてくれた『彼』に対する恩返しでもあるから。

 

「偉いぞ、緑谷!」

「流石、我が蒼炎中学希望の星!」

 

 私の言葉に、皆がそう称賛の声を漏らす。・・・ううう、この蒼炎中学校に転校してきて1年・・・、やっぱりこうやって称賛されるのは慣れないなぁ。今まで『無個性』だからとバカにされてきたから、尚更だ。

 ふと、先生がある男の子を見ながら口を開いた。

 

「そう言えば、貴方も雄英だったわよね?野比君」

「・・・んあ?ええ、まぁ・・・」

 

 ついさっきまで寝ていたのだろう、眠そうに眼を擦りながら先生に返答したのはメガネをかけた黒髪の男の子、『野比のび太』。そんな野比君に、先生は呆れたように口を開いた。

 

「はぁ・・・また、居眠りかしら野比君」

「すいません、ちょっと昨日、バイトだったもので寝てなくて・・・」

 

 ふぁぁ・・・と欠伸をしながら、野比君は続ける。

 

「さっきの話ですけど、雄英は雄英ですけど僕は普通科を受けるつもりですよ」

「そ、そう?でも、貴方の『個性』なら充分ヒーロー科でもやっていけると思うけど・・・」

「流石に、買いかぶりすぎですよ。ろくに『個性』を使いこなせてないし、そんな僕がヒーロー科に入ってもたかが知れてます・・・それに・・・」

「?」

「いえ、何でもありません。兎に角、僕は普通科を受けるつもりなので」

「そう・・・先生も無理強いはするつもりはないわ」

 

 残念そうに先生はそう言うと、教壇へと戻っていく。

 

「こんなご時勢なのに、ヒーロー目指さないなんて変わってるよなぁ・・・野比の奴」

「無理も無いよ。小学5年の時、ヴィランが家に押し入ってきて家族が殺されたんだって」

「それって、『すすきが原一家惨殺事件』の事か?ヤな事件だったよなぁアレ」

「噂じゃあ、ヒーローが何人かそのヴィランに加担してたんだって?そりゃあ、ヒーロー嫌っちまうよなぁ。信じてたヒーローに裏切られりゃあ嫌いもするわ」

 

 それと同時に、ざわざわと周りがざわめきだす。

 

―すすきが原一家惨殺事件

 

 東京都練馬区すすきが原にて、野比家にヴィランが押し入り家主である『野比 のび助』、妻の『野比 玉子』を殺害。その後、彼らが住んでいた家屋に火を放った事件である。

 当初、野比君も放火に巻き込まれ死亡したと思われていたが、警察とヒーローの捜査の元、生存していると判明。収容されている研究施設にオールマイトらが突入し、救出した。と言うのが一連の顛末だ。

 

 皆は、野比君がヒーローを目指さないのはヒーローに裏切られたからだ。と言っているけど、本当は違う。先生に理由を話すとき、彼は一瞬悲しそうな顔で、

 

「僕に、ヒーローを目指す資格なんてないから・・・」

 

 とかすかに呟いたのだから・・・。

 それに私は知っている。何故、彼がヒーローを目指したがらないのかも・・・。

 

 

―時間は流れ、放課後。

 

「ねぇ、野比君」

「どうしたの?緑谷さん」

 

 みんなが帰路に着いたり、それぞれの部活動を行ったりしている放課後。私は野比君に声をかけた。

 

「今日、さ。一緒に帰らない?」

「いいけど、七夜さんは一緒じゃないの?」

「真琴は部活だよ」

 

 ちなみに彼女が所属しているのはラクロス部。ちなみに彼女の趣味でもある。

 

「それに、話したい事もあるから・・・。良いかな?」

 

 私の言葉に、野比君はしばらく考えた後。

 

「分かった」

 

 そう頷いた。

 

―少年、少女帰宅中・・・。

 

「ねぇ、『GV』」

 

 校舎から出て、暫く歩いた後、周囲に誰もいないことを見計らって私は野比君を『もう一つの名前』で呼んだ。

 

―GV・・・正式なコードネームは『蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト』

 今、世間でまことしなやかに語られている都市伝説。

 蒼き雷を纏い、ヴィランを屠り、人を助ける謎多きヒーロー。

 そして、あの時、私を助け、自由をくれた『蒼き翼(ヒーロー)』だ。

 

「GVはさ・・・、本当にヒーロー科を受けないの?」

「うん。出久も知ってるだろ?世間じゃ、僕はどう言われてるかって」

 

 彼の言う事は尤もだ。

 GVは、『フェザー』と言う政府直属の暗部に身を置いている。

 その上、ヒーロー登録もされていないので『ヴィジランテ』であると世間では認識されているのだ。ヒーロー界でのルール上では違反者である為、公式なヒーロー達は快く思っていない。

 

「雄英のヒーロー科だと、僕がガンヴォルトだってバレてクラスメイトになるであろう皆に迷惑がかかる可能性がある。だから、普通科に行った方がいいのさ」

「でも、このままだとずっとヴィジランテ呼ばわりされちゃうよ」

「高校卒業してからひっそりと免許は取るつもりだから大丈夫だよ」

 

 3年間ガマンすれば、いいだけの事さ。と自嘲気味に笑うGV。

 

「それに、償わなきゃいけないから・・・『あの時』の事を」

 

 あの時、と言うのはすすきが原一家殺害事件の事だろう。そう確信していると、分かれ道に差し掛かった。私の家に続く道と、GVが住んでいる『翼の家』に続く道である。

 

「じゃあ、僕は家こっちだから、じゃあね出久」

 

 GVがそう言って、『翼の家』へと帰ろうとしている。そんな彼を、

 

「待って!GV!」

 

 私は勇気を振り絞って引き止めた。振り返るGVに私は言葉を考えながら口を開いた。

 

「GVは・・・自分の事をヒーローじゃないって言うけど・・・私はGVの事をヒーローだと思ってるよ!だって、あの時私を助けてくれたのは紛れもない貴方だから・・・!」

 

 気休めにもならないかもしれない、余計なお世話かも知れない。だけれど言わずにはいられなかった。どうにかしなきゃって思ったから。

 そんな私に、GVはニッコリと微笑むと、

 

「ありがとう。・・・そう言ってくれると僕は凄く嬉しい」

 

 そう言って、踵を返すと翼の家に帰っていった。

 

 

―SIDE のび太

 

「・・・ヒーロー・・・か」

 

 出久と別れ、翼の家へと向かう最中僕は出久の言葉を思い返していた。

 確かに、彼女にしてみれば僕はヒーローなのかもしれない、だけれど・・・、

 

「僕は・・・そんな綺麗な人間じゃないよ・・・」

 

 自分勝手な願いで、両親を・・・ドラえもんを死に追いやったのだから。

 映画で見たヒーローに憧れドラえもんに無理を言って『もしもボックス』で『この世界』に来なければ、来ていても、僕が『無個性』だと分かった時点で、元の世界に戻れば、死なずに済んだんだ。

 僕は・・・人殺しだ。自分が手を下した訳じゃないけど、僕が殺したようなものだ。

 だから、僕はヒーローになる資格は無い・・・なっちゃいけないんだ僕は・・・。

 ・・・でも、その反面『ヒーローになりたい!』と叫ぶ自分がいる。・・・僕は、

 

「どうすればいいんだろうね・・・。ドラえもん」

 

 懐のポケットから親友の形見である鈴を取り出し、それを見詰めながら僕は呟いた。

 鈴は何も答えず、ただ・・・チリン。と音を鳴らすだけだった・・・。

 

 

 続く・・・。




 はい、と言うことで。
 今回、登場したヒロアカ主人公こと緑谷 出久君を・・・TSさせちゃいました。
 しかもポジションはガンヴォルトほんへのヒロイン、シアンちゃんポジ。・・・初期のプロットでは、シアンちゃんを出久君の妹として出すつもりだったのですが、色々と考えた挙句、出久君をTSさせてシアンちゃんポジにしようと言う暴挙に・・・。ヤメテ!石投げないで!
ちなみにTS出久ちゃんの外見はシアンちゃんの髪の色、眼等を出久君風にした感じです。そばかすも勿論ありますよ。
 ちなみにこの小説でのGVのび太君とシアン出久ちゃんの出身校、蒼炎中学やクラスメートの真琴ちゃん、担任のライチ先生の元ネタは格闘ゲームの『ブレイブルー』から、所謂『蒼』つながりです。

次回も楽しみに!
それでは~。


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チャプター2『旧友』

 家に帰った出久を待っていたのは母親だけではなかった。
 かつて一緒にいた幼馴染『爆豪 勝己(ばくごう かつき)』。
 無個性だと蔑まれ、虐められた過去が『謡精(出久)』にもあったように、勝己にも心の傷は存在した。
 少女の悲壮な決意に、少年の秘められた『本音()』が爆発する。


―SIDE 出久

 

「ただいまー」

「お帰り、出久」

 

 家に帰ると、私の母さんである『緑谷 引子(みどりや いんこ)』が出迎えてくれた。

 昔はやせてたけど、暴飲暴食が祟って一時期太ってしまっていた。

 だけれどあの事件の後、私に個性が宿った事を知り一念発起。ダイエットを始めて少しずつだけど、やせてはいる。

 

「よぉ、今帰ったんかデク」

「うわっ!?かっちゃん!?」

 

 ぬっと、母さんに続いて現れたツンツン頭の金髪に、赤い瞳の男の子に私は驚いた。

 かっちゃんこと、『爆豪 勝己(ばくごう かつき)』それが彼の名前。私の幼馴染だ。・・・色々あって、通っている中学校は違うけれど、まぁ休みとかはこうしてちょくちょく家に遊びに来ている。

 

「そこまで驚く事か?」

「いや、そう言う事じゃ・・・。ところで、学校はどうしたの?かっちゃんの通ってる折寺中学も今日、休みじゃないはずだよ?」

 

 ギロリと睨むかっちゃんに私は、すこしたじろきながらも答え、問いかける。

 昔は、よく『無個性』だなんだとかっちゃんに虐められていたから、すこし彼の事が苦手だ。今は、虐めなくなったけれど、やはりこういう威圧感は警戒を禁じえない。

 

「今日は、早く終わったから帰って来たんだよ。

 んでもって、帰り道にたまたまお前んちが見えたからお邪魔しただけだ。ベツにお前に会いにきたって訳じゃねぇわ」

 

 フン!と鼻を鳴らしながらかっちゃんはそう答えた。

 そして、ぶっきらぼうに私に問いかける。

 

「ところで、デク。お前、最近学校のほうはどうだよ?」

「普通だよ。今日、授業で進路希望があったんだ。もう、3年だからね」

「進路・・・なぁ、俺の学校でもあったよ」

 

 かっちゃんの学校でもあったのか。・・・多分、かっちゃんも雄英かな?昔っから、『オールマイトを超えるヒーローになるんだ』って言ってたし。

 そう思っていると、かっちゃんが問いかけてきた。

 

「お前、進路どうすんだ?まさか、ヒーロー目指すとか抜かしてんじゃねぇだろうな?」

 

 ギロリと、鋭い眼光で睨む。その気迫に、私はうっと怯むけれど、引き下がるわけにはいかない。

 だって、なんと言われようとヒーローになりたいのだから。オールマイトのようなヒーローになって、この色鮮やかな世界を守っていきたいから。

 ただならぬ雰囲気に心配そうにこっちを見る母さんに大丈夫。とアイコンタクトを取り、私はかっちゃんに言った。

 

「そのまさかだよ、かっちゃん。私は雄英のヒーロー科を受けるつもり」

「んで、オールマイトのようなヒーローになりてぇってか?・・・笑わせんじゃねぇぞ、クソナードが!!

 ちょいとばかり『個性』が発現したからって調子のんなや!」

 

 怒声を上げ、私を睨むかっちゃん。

 すぐにでも、『爆破』の『個性』を使わんばかりの勢いだ。

 その勢いのまま、かっちゃんは続ける。

 

「確かにお前の『個性』は特殊だろうけど、使いこなせてねぇだろうが!

 それをつけ込まれて、1年前まで『奴ら』に捕まってたのを忘れたんか!?ア”ァ!?」

 

 かっちゃんの言うとおりだ。9歳の時に実験で『電子の謡精』が発現してからずっと『無個性』の人をおびき寄せる為の歌を無理矢理歌わされていた。

 だけれど・・・、いやだからこそ・・・・。

 

「それでも・・・、私はヒーローになりたいの!ううん、ならなくちゃいけないの!」

 

 自分の思いをかっちゃんに打ち明ける。

 

「あの日、私に自由をくれたGVに報いる為にも!そしてなにより、私が歌った所為で捕まって殺された『無個性』の人達に報いる為にも!それに・・・」

「・・・ッ!・・・ふざけんな!!!」

 

 私の言葉を遮って、かっちゃんが叫ぶ!立ち上がって、今にも泣きそうな顔で私に言った。

 

「それは・・・、テメェの所為じゃねぇだろうが・・・!何で、お前はそうやって・・・」

 

 クソナードが!と吐き捨て、かっちゃんは家を飛び出していった。

 

「かっちゃん!」

 

 それを見た私は思わず、家を出て彼の後を追いかけた。勿論、母さんに一言断って行った。

 どれ位、追いかけたのだろう・・・気がついたら、路地裏に来ていた。そこで、息を切らせているかっちゃんを見つけた。

 

「かっちゃん・・・」

「・・・デク!?何でついて来た!?」

 

 振り返ったかっちゃんの顔は涙で濡れていた。泣いていたのだろう。

 ひょっとしたら、私は知らない間にかっちゃんを傷付けてしまったのだろうか?

 

「・・・ごめん」

「・・・なんで、お前が謝ンだよ・・・」

 

 私の謝罪の言葉に、かっちゃんは俯いたままそう返した。

 

「俺が勝手にキレて出てっただけだ。それなのに、何でお前が謝ンだよ!

 テメェは昔っからいつもそうだ!全部自分が悪いって背負い込んで!あの時だって・・・」

 

 ポロポロとかっちゃんの瞳から涙が溢れる。

 

「あの時、お前が『奴ら』に『個性』を植えつけられて利用されたのは俺の所為なんだ!!

 俺がお前を追い込んじまったから!実験にされて死んだ『無個性』の連中だって俺が殺したようなモンなのに・・・!何でお前もおばさんも皆、俺を責めねぇんだよ!!!」

 

 そう言って、かっちゃんは私に食って掛かる。まるで、今まで押し殺してきた自分の心をさらけ出すように。

 

「お前が、俺を責めてくれれば楽になるのに・・・!

 言えよ、デク!全部お前が悪いんだって!お前の所為で私は辛い目にあってきたんだって言ってくれよォ!」

 

 涙でグシャグシャの顔で、私に言うかっちゃん。

 あの時の事がここまでかっちゃんを追い詰めていたんだ・・・。いつも、皆を引っ張っていた時とは違う、弱弱しいかっちゃんに私は何も言えなくなった。

 何て言葉をかけてやればいいんだろう。そう思っているとふと、かっちゃんの背後に蠢く何かがいた。それはまるでヘドロのような・・・。

 

「いい感じの・・・隠れ蓑・・・」

 

 それは品定めするように呟く。・・・これはヴィランだ!ハッとかっちゃんが気づくより先に取り込もうとするヘドロヴィラン。

 

「かっちゃん!!!」

 

 私は考えるよりも早く、かっちゃんを押しのけた。目の前にはヘドロのヴィランが。

 

「このチビちゃんも、いい隠れ蓑になりそうだァ・・・。大丈夫、ちょっと体を借りるだけさ・・・」

 

 そう言って、私に向かって体を広げ、襲い掛かった。

 

 

―のび太SIDE。出久が、自宅に帰ってきた頃に遡る。

 

「ただいま」

「分かった、ちょうど今からのび太が帰って来たみたいだから彼をそちらに向かわせよう」

 

 僕が、翼の家に帰ってくると、蒼一郎さんが誰かと電話で話していた。

 話の内容からするに、急の任務だろうか?

 僕を一瞥し、電話を切ると蒼一郎さんは僕に向かってこういった。

 

「のび太、帰って来てすまないが頼みがある」

「何?ひょっとして急な任務?」

「いや、そう言う訳じゃない。俊典(としのり)の迎えに行ってもらいたいだけだ」

 

 どうやら、蒼一郎さんの弟でありヒーローをやっている俊典さんこと八木 俊典(やぎ としのり)の迎えだったようだ。

 でも、一つ疑問が残る。あの人が迷子になったとしてもヒーローなのだから『個性』を使って跳んで行けば問題ないと思うんだけど・・・。そんな疑問は蒼一郎さんの次の言葉で霧散した。

 

「町を散々駆け回った挙句に『限界』が来た上に子供たちのプレゼントに(マネー)を使いすぎてタクシーは愚か、バスにも乗れないらしい」

「・・・あの人らしいや」

 

 理由を聞いて、深くため息をつく。あの人の悪い癖・・・、何でも他人を優先する性格はどうにかならないものか・・・。

 まぁ、ヒーローと言う職業柄、人を助けるのは仕事なのだが、彼の場合は度が過ぎてるのだ。ある戦いで、重傷を負い、『個性』があまり使えない体となってもそれは変わらない。

 誰かが助けを呼ぶ声を聞けば、真っ先に駆けつけ人を助ける。それが彼なのだ。

 

「彼のああいう性格は、永遠(フォーエバー)に直らんよ。そう言うわけだから、迎えに行ってやってくれ、のび太」

「了解。んで、俊典さんは何処にいるの?」

「GPSの反応はここを指していた」

 

 そう言って、蒼一郎さんはスマホの画面を見せる。僕達が住んでいる町『新横崎市』の地図が描かれており、そこのある場所から俊典さんの持っているスマホの信号が出ていた。

 

「横崎公園か、了解。今から迎えに行ってくるよ」

「ああ、グッドラックのび太」

 

 僕は蒼一郎さんにそう言うと、俊典さんのいる横崎公園へと向かった。

 

~30分後~

 

 横崎公園は、『翼の家』を出て30分ぐらいかかる距離にある。

 遊具はブラんこに滑り台と言ったスタンダードなものが置いてあるなんの変哲もない公園だ。

 

「ここに俊典さんがいる筈だけど・・・」

 

 そんな公園に僕は俊典さんを探してやって来ていた。ふと、ベンチを見やると、何かVの文字を前に折ったような2本の前髪が特徴的な金髪のやせ細った男がベンチに座っていた。

 そう、彼が俊典さんだ。一見、お世辞にもヒーローっぽくない外見ではあるが、こう見えてもヒーローである。

 

「迎えに来たよ、俊典さん」

「ん?」

 

 俊典さんに声をかける。その声に、俯いていた俊典さんは顔を上げ、僕を見ると・・・、

 

「のび太少年がァ!来てくれたァ!!!」

 

 やせ細った身体が膨れ上がり、筋肉ムキムキマッチョマンのような姿となった。折れ曲がった2本の前髪はピン。とリッパなVの字となり、その顔はアメコミヒーローのように逞しい。

 一応、説明しておこう。俊典さんのヒーローネームは『オールマイト』、No.1ヒーローであり、『平和の象徴』と呼ばれているヒーローだ。

 

「ゴフッ!?」

 

 だけれど、すぐさま元のやせ細った姿になり、吐血する。全く、『限界』が来てるのに無理してマッスルフォームになるからだよ。

 

 おっと、ちょっと説明しておいた方がいいかな?

 俊典さんは5年前のあるヴィランとの戦いで、呼吸器官半壊、胃の全摘出をしなければならない重傷を負った。本来ならば、そこでヒーローは引退しなければならないのだが、俊典さんはヒーローを続けた。俊典さん曰く、「私は平和の象徴なのだから」だそうだ。

 その為、度重なる手術と後遺症によって、現在のやせ細った姿となっている。この時の姿は『トゥルーフォーム』、んで、今さっき僕と会ったときにムキムキマッチョマンの姿になったのが『マッスルフォーム』だ。ちなみにマッスルフォームになれるのは今の時点で3時間にしかなれない。

 

「大丈夫ですか?『活動限界』とっくにオーバーしてるのに無茶しないで下さいよ」

「あー、ゴメンね。何か、無理してでもマッスルフォームにならなきゃいけない衝動に駆られちゃったのさ」

「何ですか、それ?」

 

 そんな理由で、ただでさえ少ない活動時間がさらに減ったら元も子もなかろうに・・・。

 意味不明な言い訳にジト目になりながらも、僕は俊典さんに言う。彼と共に『翼の家』に帰れば、それでミッションクリアだ。・・・ミッションって程でもないけど。

 

「兎に角、『翼の家』に行きますよ。蒼一郎さんも待ってますし」

「その事だけれど、のび太少年。『翼の家』に行くのは待ってくれないか?」

「・・・理由を聞かせてもらっても?」

 

 いつになく真剣そうな表情で、俊典さんが僕に言う。若干嫌な予感を感じつつ、僕は俊典さんに問いかけた。

 

「『翼の家』の子供達にプレゼントを買って、『翼の家』に直行しようとした時、悲鳴を聞いたんだ。駆けつけてみたら、ヘドロのようなヴィランが通行人を襲っていた」

「ヘドロ・・・」

 

 何だろう・・・、それを聞いて妙に引っ掛かるような気がするが・・・。

 

「どうかしたかい?のび太少年」

「いえ、何でも。続けて下さい」

「わかった。それでいつもの如く『私が来た!』って言って、そのヴィランを退治した後、ペットボトルにそのヴィランを詰め込んで、警察署に寄ったんだ。

 そしたら・・・、飛んでいた拍子にそのペットボトルを落としてしまったようでね。気がついたのは警察署についてからだったんだ。」

「成る程、それでそのペットボトルを探し回ってたら『活動限界』が来て今に至る、と・・・。この事蒼一郎さんに言った?」

「ニイサンニハイッテナイデス」

 

 僕の問いかけに、顔面蒼白となり片言で答える俊典さん。蒼一郎さんは俊典さんが頭の上がらない人の一人であるからだ。

 

「そう言うわけだから、あのヘドロヴィランの入ったペットボトルを探してくれないか?頼む、この通りだ!」

 

 両手を合わせて僕に頼む俊典さん。・・・正直、そんなのお構い無しに俊典さんの願いを断っても良かったのだが、ヘドロと言う単語に妙な気がかりを覚えた。そう言えば、昨日の令嬢救出ミッションでヴィラングループの中にそのヘドロのヴィランがいたような・・・。

 もし、そのヴィランがソイツならば・・・、取り逃がした僕の責任だ。ひょっとしたらヴィラン違いかもしれないが、憂いは取っておきたい。

 

「分かりました、一緒に探しましょう」

 

 僕はそれを二つ返事で受けた。パァっと俊典さんの顔が明るくなる。

 

「受けてくれるのかい!?助かるよ!」

「ただし、報酬(お駄賃)下さいね。危険手当込みで14万8000円ほど」

「ファッ!?金取るの!?」

「冗談ですよ」

 

 茶目っ気たっぷりに俊典さんにそう言って、そのヘドロヴィランの入ったペットボトルを探す事にした。さりげなく、俊典さんが目が本気だったよ!?と抗議していたが、気にしていない。

 まぁ、それは兎も角、どうやって探すか俊典さんと話し合おうと思ったその時だった。

 

『Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』

「うわっ!?びっくりした!?」

「なんだ、この声は!?」

 

 突如耳を劈くような声が聞こえてくる。それと共に、窓ガラスの割れる音、人々の悲鳴が聞こえてきた。

 発信源は、新横崎市の中心部だ!

 そして、再び響く歌のような声。・・・この声はまさか!?

 

「行きましょう、俊典さん!」

「ああ、分かった!」

 

 嫌な予感を覚えつつも、新横崎市の中心へと向かった。

 そこで見たのは地獄だった。割れた窓ガラス、吹き飛ばされた車。そこからガソリンが漏れ出し、炎が噴出す。怪我をした人達をヒーロー『シンリンカムイ』や『マウントレディ』などのヒーローが救助していた。

 その地獄に野次馬が群がりその光景を見ている。

 

「ちょっとすいません!失礼します!」

 

 俊典さんと一緒に野次馬を押しのけて、一体誰がこの地獄を作り上げたのかを見る。そこにいたのはヘドロのような姿をしたヴィランだった。

 

「Holy Shit!やはり逃げ出していたか!」

「それに、見たことあると思っていたら・・・昨日の連中の一人だ」

 

 嫌な予感的中だ・・・。だけれど、アイツにはここ一帯を地獄に変える力は無かったはずだが・・・、ひょっとして、アイツの中に取り込まれている誰かの『個性』か?

 そう思っていると、

 

『Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』

 

 再び歌が響き、そのヘドロが一瞬だけ引き剥がされ、その人物の顔が露になる。

 

―ドクン!

 

 その人物の顔を見た瞬間、僕の心臓が跳ね上がった。なぜならば、その人物は・・・。

 

「出久・・・ッ!?モルフォ・・・!?」

 

 出久と彼女の『個性』であるモルフォだったのだから。

 

 続く・・・。




 今回は、かっちゃんとオールマイトこと、八木 俊典=サンが登場。
 かっちゃん、結構丸くしすぎィ!と言われそうだけど、実際に原作でもデク君がシアンデクちゃんと同じ事になったら、こうなりそうじゃね?と思ったり。
 原作でも、オールマイト終わらせたのは自分の所為だって責めてましたからねぇ。
 本作のオリ設定である蒼一郎さんことアシモフと、オールマイトの兄弟関係。プロローグで複線張ってました(アシモフの本名が『八木 蒼一郎』である事)
 ちなみに、今回のび太申したとおり、アシモフはオールマイトが頭の上がらない人物の一人であります。
 それと、今回、のび太たちの住んでいる町が判明。『新横崎市』の元ネタは『BLAZBLUE』の流を組んだアドベンチャーゲーム『XBLAZE』の舞台となっている同名の町です。まぁ、これもまた『蒼』つながりでございます。
 さて、次回はデクちゃん救出大作戦!
 お楽しみに!
 それでは~。


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チャプター3「野比 のび太:RE.オリジン」

 『謡精(出久)』の幼馴染の叫びが、少年の『原点(オリジン)』を呼び起こさせる。
 蒼き雷霆(アームドブルー)を迸らせ、少年は守るべきものの為に立ち向かう!


SIDE のび太

 

 一体どうして、出久が!?・・・そんな考えが頭の中を埋め尽くす。

 ヒーローである『デステゴロ』がモルフォの歌の衝撃波によってヘドロの拘束が緩んだ隙を狙って、ヘドロヴィランへと駆け出すが・・・、

 

「残念でしたァ~」

 

 手を掴もうとした瞬間、再び出久がヘドロヴィランに取り込まれてしまう。

 

「クソッ!ダメだ、やはり奴とは相性が悪すぎる!

 ここは、彼女には申し訳ないが相性のいい奴が応援に来るまで待つしかない!」

 

 ヘドロヴィランの攻撃をかわしながらデステゴロはそんな事を言った。

 確かに、それは合理的かもしれないが・・・、出久はそれまでどうすればいいんだ?歌で引き剥がせると言っても、モルフォの喉は出久の喉とシンクロしている。

 先ほど、ヘドロを引き剥がした時の歌も若干声が掠れていた。いつ、喉が潰れて歌えなくなるか分からない。そうなれば・・・、言わなくても分かるだろう。

 頼みの綱であるオールマイトこと俊典さんは、活動限界でマッスルフォームになれない。

 僕が出ればいいのだが、僕もまた動けずにいた。・・・助けなければならないのは分かっている。だけれど、身体が動けずにいた。

 大勢の前でガンヴォルトとしての姿を見せればどうなるのか?

 ヴィジランテは世間ではヴィランと同類に思われている。つまりは、ヒーローに追われる立場となってしまうのだ。そうなれば、翼の家に迷惑をかけてしまい、いられなくなってしまう。・・・雄英のヒーロー科に入るというのであれば話は別だが、生憎僕が入ろうとしているのは普通科だ。

 出久を取るか、翼の家の皆を取るか?その二つを天秤にかけてしまい、動けなくなっていた。

 

(-情けない・・・!)

 

 いざと言う時に尻込みしてしまう意気地なしの自分に僕はそう、胸中で呟いた。

 

「離せっつってんだろうが!!!」

 

 その時、叫び声が響く。そこを見やると、金髪の凶暴そうな男の子がマウントレディによって羽交い絞めにされた。

 

「ダメに決まってるでしょ!?ここはヒーローに任せて、じっとしてなさい!」

「だったら、何で助けやがらねぇ!テメェらヒーローなんだろうが!

 だったら助けろや!!助けを求めてる奴を助けんのがヒーローだろうが!!!応援来るまで、デクが死んだらどうすんだ!?ア”ァ!?」

「大丈夫よ、すぐに有利な個性を持ったヒーローが・・・キャアッ!?」

 

 男の子が個性-恐らく爆破だろう-を使って、マウントレディから無理矢理自身を引き剥がすと乱暴に吐き捨てた。

 

「それまで待てるか、ボケ!もういい、誰も助けねぇんなら俺がデクを助ける!!!」

「あたたた・・・ちょっと!待ちなさい!こらぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 マウントレディの制止を振り切り、走り出す男の子。その姿を見た僕の頭の中で、ある言葉がリフレインしていた。

 

『助けを求めてる奴を助けんのがヒーローだろうが!』

 

 その言葉と共に、僕はあることを思い出す。・・・そう、僕が『この世界に来よう』と思った切欠だ。

 

-4年前、もしもボックスで『個性のある世界』へ向かう前の事・・・。

 

「う~ん、面白かった。やっぱりヒーロー映画は最高だよ」

 

 僕はその時、あるヒーロー映画を見てヒーローに憧れを持っていた。

 

「のび太君はヒーローが好きだねぇ」

「そりゃあね、ヒーローってどんな時でも諦めないし、最後はかっこよく悪をやっつけて困ってる人を助けるんだ。憧れない訳がないよ」

 

 そして、そんな会話をドラえもんとしていたっけ。

 

「いつか僕も、ヒーローになりたいなぁ・・・。そして、困ってる人や助けを求めてる人を助けるんだ。・・・だからさ、ヒーローになれる道具出してよ~、ドラえも~ん」

「全く、のび太君ってばそんな都合のいい道具ある訳ないだろ?」

「ええ~、ドラえもんのケチ!」

 

 ああ、そうだ。思い出した、僕は『困ってる人や助けを求めてる人を助ける為』にヒーローを目指したんだ。

 そして、この世界に来て、フェザーに入って・・・色んな事があったな。・・・そして出久を助ける時に僕はこう言った。

 

「そう自分の命を、簡単に投げ出すな!君が自由を望むなら僕が(チカラ)を貸す!

 僕は君を助けたい・・・、だから教えてくれ!君の本当の願いは何?」

 

 今までずっと、忘れていた僕の原点(オリジン)

 家族の命を踏み台にして個性(ちから)を得た僕にはヒーローになる資格はないかもしれない。だけれど、僕は・・・。

 

「俊典さん、これを・・・預かってもらえませんか?」

「のび太少年、どうし・・・っ!?」

 

 僕は、カツラと眼鏡を外し俊典さんに渡し、自分の想いを俊典さんに告げた。

 

「一寸、あの男の子の言葉で思い出しました。自分の原点(オリジン)を・・・。

 あの日、家族を死なせてしまった僕にはヒーローになる資格はないかもしれない・・・。だけど、家族と引き換えに得た蒼き雷霆(このチカラ)で、助けを求めてる人を助けたいんです」

 

 そう言って、僕は金のお下げをなびかせヘドロヴィランの元へ走り出した。

 ・・・助けを求めている出久(少女)を助ける為に。

 

-SIDE 出久

 

 どれほど、モルフォの力でヘドロのヴィランを引き剥がそうとしたのだろう。隙をついて逃げ出そうにも、すぐに纏わりつかれてしまう。

 この場を何とか出来るヒーローもいない。デステゴロは相性のいいヒーローが来るまで待つしかないと言っているが、それまで喉が持つだろうか・・・?

 モルフォの喉は、私の喉と連動している。モルフォが何度も叫び続ければ、それだけ私の喉も掠れていってしまうのだ。

 

(モルフォ、『謡精の雄叫び(ハウリング・オブ・ディーヴァ)』はあと何回できる?)

(少し、喉が掠れて来たからもって後1,2回ほどね)

 

 1,2回・・・か、それまでヒーローは助けてくれるのだろうか・・・。

 

「だぁ~れも来ねぇよ。俺様にビビッて近寄りもしねぇ、見捨てられたんだお前は」

 

 そんな事を考えていると勝ち誇ったヘドロヴィランの声が聞こえる。

 

「だから、諦めて俺に乗っ取られちm「デクから離れろや!クソヘドロが!!!」うげぇっ!?」

 

 だが、最後まで言う前にBOOOOM!!!と言う爆音と共に、ヘドロヴィランが吹き飛ばされた。ヘドロに覆われた視界が晴れ、目に映ったのは泣きそうな顔をして、こっちを見るかっちゃんの姿。

 

「掴まれ!デクッ!!!」

 

 そう言って手を差し出すかっちゃん。

 どうやら、先ほどの爆発で上半身がヘドロの拘束から解放されたらしい。私は必死に掴む。

 掴んだのを確認し、かっちゃんは私を引っ張り出そうと力を入れた。

 

「かっちゃん・・・どうして?」

「別にお前の為じゃねぇわ!頼んでもいねぇのに、俺を庇いやがって・・・。

 まだ、俺はお前に謝ってもいねぇ!それなのに勝手に庇って死に掛けてんじゃねぇよ!このクソナードが!」

 

 私の問いに、泣きそうな顔でかっちゃんはそう叫んだ。あと少しで、全身が抜ける。そう思った次の瞬間・・・、

 

「おっとぉ、この嬢ちゃんは渡さねぇぜ?なんせ大切な隠れ蓑だからなぁ」

 

 復活したヘドロヴィランが、私の足を掴む。

 

「死ィ「おっとォ・・・」ッ!?」

 

 かっちゃんがもう一度引き剥がそうと爆破の個性を使おうとするが、先にヘドロの触手によって腕を封じられる。

 

「そう何度も爆破させると思うかよ。・・・しかし、いい個性だなァ。この際だから、お前も取り込んでやろうか・・・?」

「く、クソがァ!」

 

 そう言って、ヘドロヴィランがかっちゃんごと私を取り込もうとその身体を広げようとした、その時だ。

 

―BLAM!

 

「痛ッ!?何だ、目に・・・」

 

 銃声と共に、ヘドロヴィランが目に違和感を感じ、取り込むのを中断し擦ろうとした。そして、

 

―CLAP!

 

「ギャアアアアアアアッ!?目が!?俺の目がァ!?」

 

 蒼い雷光がヘドロヴィランの目に向かって迸り、直撃した。目を押さえヘドロヴィランはもがき苦しむ。

 

「安心して、ちょっとバチってしただけだよ。失明した訳じゃないから大丈夫さ。・・・多分ね」

 

 そう言って、声の主は私達の元にやって来る。長く伸ばし、お下げにした金髪。そして、蒼い瞳の少年。

 

「おい、アレって・・・!?」

「本当に居たんだ・・・」

「都市伝説じゃなかったのかよ・・・」

 

 多くの人が都市伝説だと思っている幻のヴィジランテ。そして、あの時、私を助けてくれた蒼き翼・・・。

 

「蒼き雷霆・・・ガンヴォルト!!!」

 

 周りがざわめき立つ中、GVは私とかっちゃんを見て優しく微笑んでこういった。

 

「お待たせ、よく頑張ったね出久も、そっちの子も」

「『そっちの子』じゃあねぇ、俺には『爆豪 勝己』って名前があんだよ。覚えとけ」

 

 吐き捨てるようにいうかっちゃんに、GVは苦笑いで返した。

 

「分かった、覚えておくよ。兎に角、ここは僕に任せて」

 

 そう言って、ヘドロヴィランの方に向き直る。

 

「ここからは、僕のステージだ!

 迸れ、蒼き雷霆よ(アームドブルー)!我が友を守る為に、その力を示せ!!!」

 

 GVの身体に蒼き雷光が迸らせ、ヘドロヴィランに向かって駆け出した。

 

―SIDE のび太

 

「ガンヴォルトォォォォ・・・殺すゥ、殺してやるゥ!」

 

 ヘドロヴィランが、憎しみを募らせて僕を刺し貫こうと触手を伸ばして攻撃する。だけれど・・・遅い。

 

「はっ!」

「なっ!?」

 

 飛び上がって回避、そのままヘドロヴィランに接近し、右手に『蒼き雷霆(アームドブルー)』を収束させる。

 

「僕の友達を人質に取ろうとしたんだ、少し痛い目にあってもらうよ!」

 

 天体の如く揺蕩え雷

 是に至る総てを打ち払わん

 

「ライトニングスフィア!!!」

 

―CLAAAAAAAAAAAAAAP!!!

 

「あんぎゃああああああああああっっっ!!!?」

 

 僕の身体を包み込めるほどの雷球を発生させ、それをヘドロヴィランに叩きつける。

 本来『ライトニングスフィア』は、僕の周りを3つの雷球が回るだけで、敵に囲まれたとき等に使う技なのだが、その3つを右手に収束させ先ほど僕がやったように相手にたたきつける事も出来るのだ。

 それをマトモに喰らったヘドロヴィランはライトニングスフィアが収まった時には、見る影もなくその身体をしぼませて気を失った。

 

―その後・・・。

 

「・・・君がガンヴォルトだったとはな、まだ子供じゃないか」

 

 ヘドロヴィランが逮捕された後、僕はデステゴロと面と向かい合っていた。

 出久はと言うと、周りのヒーローからやれ「凄い個性だ!」など、「是非、ウチのサイドキックに!」と引っ張りだこ。対する爆豪君は、「君が危険を冒す必要は無かった!」と説教を喰らっている。

 

「本来ならヴィジランテ活動は、法に違反する行為だ。それは分かるな?」

「はい」

 

 デステゴロの言葉に、僕は頷く。

 

「それは君の様な未成年でも、決して軽い罪じゃない。

 本来なら君も逮捕しなければならないが・・・、今回だけは大目に見てやるよ」

「・・・?」

 

 何故?

 デステゴロにそう言われて、僕はそう思った。そんな僕の心情を察してか、デステゴロは僕に語る。

 

「あの時、嬢ちゃんを人質に取られ、その上誰もヴィランとの相性が悪いからと応援を待つって言う最悪の判断をしちまった。その所為で、あの坊主や君に危険を冒させる羽目になった」

「でも、それはしょうがない事じゃないですか。現時点であのヘドロヴィランに対抗できる『個性』を持ったヒーローはいなかったし・・・」

「だけれど、だ。ヒーローとしてはあんな判断をするべきじゃなかった。この件については俺が責任を取って「ちょっと待ってくれないか?」オールマイト!?」

 

 デステゴロの言葉を遮って、マッスルフォームになった俊典さんが現われる。

 『限界時間』を過ぎているのに、マッスルフォームになった為か、若干脂汗をかき、プルプルと震えている。

 

「その件に関しては私にも責任がある。あのヘドロヴィランは、私の不手際で取り逃がしてしまったものだ。

 その所為であの事態を引き起こした。この際、責任を負うべきなのは私だよ」

 

 そう言って、僕とデステゴロに頭を下げて謝罪した。

 そんなこんなで、僕と爆豪君はお咎め無しとなり、帰路へつく事となった。

 

「GV!」

 

 その帰り道、出久とバッタリ出くわした。

 出久は僕を見るなり涙を浮かべて僕に抱きついた。

 

「GV・・・、良かったぁ。警察に連れて行かれたのかって思ったよ」

「大丈夫、お咎め無しになったみたいだし」

「そっか・・・。ああ、でもこの一件で、GVの正体が知られちゃったってことだし、卒業まで色々と面倒な事になりそうだよね。マスコミもそうだけど、クラスメート・・・特に真琴とかが騒ぎそうだよなぁ。GVって今まで都市伝説のような存在だったし、それが実在していたって知ったら誰だって驚くから(以下略」

 

 僕から離れ、出久はブツブツブツブツと、呟き始める。彼女のこうやって考えている事をブツブツと呟く癖は昔かららしい。

 

『ごめんなさいねGV、またイズクの悪い癖が出たみたいで』

「アー、ウン。大丈夫だよ」

 

 出久から具現化したモルフォが申し訳なさそうに苦笑いしながら僕に言う。

 とりあえず、出久に話しかけるのは落ち着いてからにするか・・・。そう思っていると・・・、

 

「私が来たァ!」

 

 ひょっこりと、マッスルフォームのまま俊典さんが顔を出す。僕らが帰るまで、凄くマスコミいたような気がしたけど・・・。

 

「よく抜け出せましたね、俊典さん」

「HAHAHA、あの程度のマスコミを抜け出すのはわけないさ。なぜなら私はオールm・・・ゲフゥ!?」

 

 僕の問いに答え終わる前に、トゥルーフォームに戻り吐血する俊典さん。ホント無茶するよなぁ・・・。

 

「ひゃあっ!?オールマイト、いつの間に!?」

 

 先ほどの吐血に驚いてブツブツモードから復活し、出久が俊典さんを見やる。

 

「ついさっきだよ、緑谷少女。のび太少年いなきゃ、私翼の家に帰れないし・・・」

 

 出久の問いに、俊典さんは口元の血を拭いながら答えた。

 そう言えば、説明していなかったね。何故、トゥルーフォーム状態でも出久が俊典さんをオールマイトだとわかったのかと言うと、以前、俊典さんが翼の家に帰って来たとき、出久が遊びに来たことがあった。

 その際に、マッスルフォームの『活動限界』を迎えてしまい、出久の目の前でトゥルーフォームに戻ってしまったのである。突然、ムキムキマッチョマンだった憧れのヒーローが、目の前でガリガリのゾンビモドキになったのだ。その時の出久のショックっぷりはハンパなかった。

 まぁ、そんなこんなあって、出久もまた俊典さんの秘密を知る一人となったのである。

 

「それと、すまなかった。のび太少年、緑谷少女・・・私の不手際で君達に迷惑をかけてしまった!」

 

 そう言って、俊典さんは僕達に頭を下げて謝罪した。

 

「い、いえいえ・・・そんな事ないですよ!」

「頭を挙げてください、俊典さん。

そもそも、僕があの任務であのヘドロヴィランを逃がしてしまったからこの事件が起きたんですし・・・、謝るべきなのは僕です」

 

 出久は慌てながら、僕は頭を下げながら俊典さんに言う。だが、俊典さんはいいや。とかぶりをふって返す。

 

「私が、あの時ヘドロヴィランの入ったペットボトルを落とさなければこんな事にはならなかったんだ。

 その結果、『限界』が来た挙句後始末を君に任せてしまった。だから、謝るべきなのは私の方さ」

「俊典さん・・・」

「それと、もう一つ言いたい事がある。

 あの時、君は言ったね、『家族を死なせてしまった僕にはヒーローになる資格はないかもしれない』と」

 

 頷く。

 

「それは違うぞ、のび太少年」

「えっ?」

 

 俊典さんの言葉に、僕は眼を丸くした。

 

「トップヒーローの数多くは学生時代から多くの逸話を残している。そして、彼らの多くがこう言っていたんだ。

 『考えるよりも先に身体が動いていた』ってね。君もそうだったんだろう?

 あの時、あの少年が言っていた事を聞いて、自分の原点(オリジン)を思い出して身体が動いたんだろう?」

「・・・はい。でも、僕に資格なんて・・・」

 

 震える声で、僕は俊典さんに返す。だけれど、

 

「そんな事はない」

 

 俊典さんは、優しい言葉でそう言った。

 じわり。と僕の視界が涙で滲む。

 

「あの時、緑谷少女とあの少年を守る為に立ち向かった君は、誰よりもヒーローだった」

 

 その言葉で、僕の眼から涙が溢れ出し、罪と後悔に塗れた心を洗い流していく。

 

「のび太少年、世界の全てが君の事を『ヒーローになる資格はない』と言っても、私は君にこう言おう。

 ―君は、ヒーローになれる。その資格があるんだ君には」

 

 その言葉を聞いて、僕は感情が抑えきれなくなり、泣き崩れた。

 こんな僕でも、ヒーローになれる事が嬉しくて、泣いて、泣いて泣き続けた・・・。

 

―これが、僕の再出発(RE.オリジン)。一度は罪の意識から挫折した、だけれどここからもう一度始まる、

 僕が、仲間達と共に目指す最高のヒーローになるまでの物語だ。

 

 続く・・・。




 年号が令和となって一発目の投稿!…つ、疲れた…。

 今回あまりデクちゃんとモルフォちゃんが喋ってないなぁ・・・と反省。
 かっちゃんの凸は、次回になるかもです。まぁ、原作と違って多少丸くはなってるので罵詈雑言の嵐ではありませんが・・・。
 あ・・・でも、ワンフォーオール誰に継がせようか・・・。ちょっとそれが悩みどころです。
 次回もお楽しみにそれでは~。


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チャプター4「和解」

 勝己と出久、かつては虐め、虐められていた関係の二人。
 そして今は、自分の罪に囚われ続ける者と、罪を償う為に『憧れ(ヒーロー)』を目指す者。
 『謡精(モルフォ)』の本音が長年隔てていた二人の溝を埋めていく。


―のび太SIDE

 

「落ち着いたかい、のび太少年」

「ええ、まぁ・・・」

 

 ひとしきり泣いた後、俊典さんに僕は涙を拭いながらそう返した。あの涙は長年積もっていた僕の迷いを洗い流してくれたようだ。

 罪悪感や後悔は無いといえば嘘になる。でも、俊典さんは言ってくれた『君はヒーローになれる』って。そして、出久も言ってくれていた『GVは私にとってヒーローなんだ』と。

 ならば、僕はヒーローの道を往こう・・・。胸をはってヒーローだと言える様に。それがパパやママ、ドラえもんに対する僕の償いなのだから。

 

「大丈夫、GV」

「ああ」

 

 僕を気遣う出久に、そう言って微笑むと僕は彼女に自分の決意を告げた。

 

「出久・・・、僕決めたよ。僕はヒーローになる。・・・なりたいんだ、ヒーローに。

 後押ししてくれた俊典さんや、出久に恥じないように・・・胸を張ってヒーローだって言えるように・・・ね」

「GV・・・。GVならなれるよ、凄いヒーローに!」

『アタシ達も負けてられないわね』

 

 目を輝かせながら言う出久とモルフォを見つつ、来週、ライチ先生に進路先を普通科からヒーロー科に変更する事を言わなきゃなぁ。と思っていると、俊典さんが口を開いた。

 

「うんうん、のび太少年がヒーローになる決意をした事だし私から一つ提案があるんだ」

「提案?何ですか?」

 

 俊典さんの言葉に、コテンと首をかしげる出久。

 

「あの爆豪と言う少年を助けるためにその身を張った君と、君を助ける為に『ガンヴォルト』だという事がばれることも厭わず助け出したのび太少年。どちらも、私の『力』を受け継ぐに値する・・・そこでだ!」

 

 そう言って、俊典さんは僕らにある提案をする。

 

「君達のどちらかが、私の『力』を受け継いで見ないか!?」

 

 俊典さんの言う『力』と言うのは、恐らく『アレ』の事だろう。でもまぁ、僕の心は決まってる。

 

「俊典さん、悪いけど僕はその提案を断らせてもらうよ。

 過去の事もあると言えばあるけれど、『蒼き雷霆』だけで目指したいんだ、俊典さんみたいなNo.1ヒーローに。だから、出久に継がせてあげてよ」

「成る程な、その心がけ・・・Goodだぜ、のび太少年。それで、のび太少年から推薦が来たけど、君はどうするんだい?緑谷少女!」

「ええ!?私ですか!?私は・・・」

 

 ズビシっと指を指しながら問いかける俊典さんに、出久は目を瞬かせながらも、答えようとして・・・、ふと何かに気づいた。

 

「・・・あれ?かっちゃん?」

「・・・え”」

 

 その一言に、俊典さんは大量の冷汗を流しながら固まりギギギ・・・と錆びた機械のように後ろを振り向く。僕も俊典さん同様、出久の視線の先を追ってみると・・・。

 

「な・・・あ・・・!?」

 

 居た。アングリと口を開け、目を白黒させている爆豪君の姿が。嫌な予感が頭をよぎる、何気に彼の反応が、初めて俊典さんがマッスルフォームからトゥルーフォームへと戻った所を見てしまった出久とそっくりだったからだ。・・・杞憂であって欲しいが。

 

―BOOOM!!!

 

 あ、頭が爆発した。そして、倒れた。多分、突然の出来事にショックやその他もろもろで頭の処理が追いつかずオーバーヒートを起こしてしまったのだろう・・・。これ、見ちゃってるな。

 

「わぁーッ!かっちゃーん!どうしよ、モルフォ!救急車呼んだほうがいいかな?それとも霊柩車!?」

『イズク、落ち着いて!前者は兎も角後者は違うわよ!』

 

 突然、目の前で倒れた事により出久は慌てふためいて、モルフォにツッコミをいれられる。

 

「モ、モモモモモモモモルフォ少女の言うとおりだ、緑谷少女。まずはリラックスするんだ」

 

 ガクガクブルブルと、めちゃくちゃ震えながら出久をさとそうとする俊典さん。いや、出久よりも貴方の方が落ち着くべきだとおもうんですが・・・。

 

「お、オールマイトも落ち着いてください!」

「出久、今ここでその名前で呼んだら拙い」

「え?・・・あっ!?」

 

 俊典さんを落ち着けようと言う出久にツッコミを入れる。ここで、オールマイトの名前を出せば大騒ぎだ。その事に出久が気づいた時にはもう遅かった。

 

「えっ、何々!?オールマイト来てるの!?」

「うっそぉ!マジで!」

 

 ざわざわと遠くから声が聞こえる。

 俊典さん・・・つまりオールマイトが居ると思い、こっちに来てる様だ。・・・言わんこっちゃない。

 

「み、緑谷少女、リピートアフターミー!『人違いでした!』さんはい!」

「人違いでした!」

 

 それと同時に、『なーんだ』と残念そうな声と共に遠ざかっていく。・・・ひとまずはコレで安心だが、問題は爆豪君をどうするかだ。

 

『とりあえず、翼の家とかはどうかしら?

 あそこなら、アシモフさんやモニカさん・・・オールマイトの事情を知ってる人が多いから、カツキに事情を説明するのにうってつけじゃない?』

「それもそうだな。元々、今回の事件がなければ俊典さんを翼の家に連れて行く予定だったし」

 

 モルフォの提案に僕は頷く。それを聞き、うっ。と俊典さんが青ざめた。

 もし、今の状況で僕、俊典さん、出久・・・それに気絶している爆豪君を連れて来れば何事かと蒼一郎さんに問われるからだ。

 

「の、のび太少年。くれぐれも、ヘドロの件やこの件等は兄さんにはご内密に・・・」

「蒼一郎さんには包み隠さず話しますよ。キッチリ怒られちゃってください」

 

 顔面蒼白で、頼み込む俊典さんの申し出を決断的に切り捨てる。

 慈悲?無いよそんなもの。

 

「Holy Shit!君には血も涙もないのかい、のび太少年!?」

 

 血涙を流し、俊典さんが抗議するが気にしない。それよりも早く、爆豪君を連れて行かなければ・・・。

 

Side Out・・・。

 

 

Side 勝己

 

 夢を見る、デクの奴が戻ってきてからここの所ずっと見ている夢だ。

 俺の足元には何十人・・・いや、何百人もの死体が転がっている。それが何なのか、俺にはわかっている。

 デクの『個性』、『電子の謡精(サイバーディーヴァ)』の歌によっておびき出されつれてこられた挙句、実験により死んだ『無個性』の奴らだ。

 そしてそいつらは、ゆっくりと起き上がり、俺を睨みつけて言う。

 

「何故、私達は死ななければならなかった・・・?」

「やりたい事がいっぱいあったのに・・・」

「俺達が一体何をしたんだ・・・?」

「僕達が『無個性』だからいけないのか・・・?」

「あ・・・あああ・・・」

 

 俺に向けられる怨嗟の声、声、声・・・。その声に俺は、言い返す事も出来ず後ずさるしかない。

 

「お前の所為だ」

「お前があの子を追い詰めたから」

「あの子をあそこまで追い詰めなければ、あの子は『謡精』にならず俺達は死ななくて良かったんだ・・・」

「知らなかったんだよ!デクの奴があそこまで思いつめてたなんて!」

 

 苦し紛れの言い訳が口をついて出る。我ながら情けないと思う。

 

「そんなものは言い訳だ」

「返せ・・・」

「返せ、僕達の未来を・・・」

 

 そんな言い訳を奴らはあっさりと切捨て、俺を責め苛む。それはまるで呪詛の津波のようだった。

 

「呪ってやる」

「呪ってやる」

「呪ってやる」

「「「「呪ってやる」」」」

 

 そして、そのままそいつらは俺に押し寄せてきた。俺にありったけの呪いを吐きながら・・・。

 

「うわああああああああああああっ!!?」

 

 叫びと共に、目覚める。あの悪夢は何度見てもなれない。・・・自分が悪いのだと分かっててもだ。

 

「かっちゃん!?大丈夫、うなされてたみたいだけど・・・」

 

 聞きなれた声、聞こえた方に視線を向けるとデクがいた。

 

「デク・・・?お前何で・・・あ」

 

 言いかけて、意識を失う前の事を思い出す。あのガンヴォルトと言うビリビリ野郎に一言言おうと思い、追いかけていったら、丁度オールマイトが居た。

 そして、オールマイトが目の前で急に萎んだものだから何が何だか分からなくなって・・・。

 

「我ながら情けねぇや・・・」

「その様子だと、見ちゃったみたいだね。オールマイトがあの姿になった事・・・」

 

 私も始めてみた時は、頭が真っ白になっちゃったし。と苦笑いを浮かべるデク。

 

「お前、アレについて何か知っとるんか?」

「まぁ、知ってるといえば知ってるけどコレばかりは私の口からは言えない。オールマイトがかっちゃんに話すよ」

「そうかよ。・・・ところでここ、何処だ?お前の家でもなさそうだが・・・」

 

 今更気づいたが辺りを見廻しながらデクに問いかける。知らない部屋だ。

 

「ここはGVが住んでる『翼の家』、その空き部屋だよ」

「GV・・・?ああ、あのビリビリ野郎の呼び名か」

「う、うん」

「んで、ビリビリ野郎とオールマイトは何処にいんだ?」

「僕はここにいるよ」

 

 ガチャリとドアを開け、金髪のオサゲにをしたあのビリビリ野郎が姿を現す。

 

「GV、オールマイトは?」

「蒼一郎さんから説教受けてる。うっかり、ヴィランの入ったペットボトルを落として被害を出した上にトゥルーフォームを爆豪君に見られてるからね・・・」

『ご愁傷様ね、オールマイト』

 

 デクの問いに、ビリビリ野郎は答える。・・・何か、オールマイトには悪い事しちまったな。そう思っていると、蝶々女がジッと俺のほうを見てきた。

 

「モルフォ?」

『ごめんね、イズク。アタシ、どうしてもカツキに言いたいことがあるの』

 

 不思議そうに見るデクに、蝶々女はそう言った。そして、再び俺のほうを見る。

 

「ンだよ」

『カツキ、貴方あのヘドロが現われる前、言ったわよね。「俺がデクを追い詰めたから、俺の所為でデクは辛い目にあったんだ」って、確かにその通りよ』

「ッ!?」

「も、モルフォ!?」

 

 至極当然な、それでいて残酷な事を言われ俺の顔は歪む。デクは慌てて、蝶々女を止めようとするが、黙ってて!と一蹴された。

 

『アンタが、イズクを追い詰めた所為でこの子は辛い目にあってきた。歌いたくもない、皆を苦しめるだけの歌を歌わされ続けた。全部アンタの所為よ、カツキ』

「・・・ハハ、そうか。・・・そうだよな」

 

 分かってはいた。だけれど、実際に言われると少々キツイのはある。だけどね。と蝶々女は表情を和らげて俺に言った。

 

『そのお陰で「電子の謡精(アタシ)」はこの世に存在する事が出来たし、イズクはGVにも出逢う事ができた。悪い事ばかりじゃないのよ、カツキ。だから、ありがとうね』

「ハハ・・・何だよ、それ。訳わかんねぇよ・・・」

 

 視界が滲む。気がついたら、俺は泣き崩れていた。

 

「デクぅ・・・ごめんなぁ・・・ごめんなぁ・・・」

 

 口をついて出るのはデクへの謝罪。デクは俺の手を握ってうん、うん。と目に涙を浮かべながらただただ頷いていた。

 

―それから数十分後。

 

「お、お待たせ・・・。わ、私が少々やつれながら来た・・・」

 

 大分落ち着いてきた頃、ドアを開けてオールマイトがやって来た。気を失う前にみた萎んだ姿ではなく、いつもの姿だ。

 

「気を使わなくてもいいぜ、オールマイト。見ちまったんだからよ」

「うん、まぁそうだね・・・っと」

 

 BON!と言う音と共に、オールマイトがあの萎んだ姿になった。やはり、見間違いじゃあなかったんだな。

 

「爆豪少年、何故私がこうなったのか?知りたいようだね」

「ああ一体どうしてそうなっちまったんだ?もしかして、前からこうだった・・・とか?」

 

 俺の問いに、オールマイトはいや。とかぶりをふった。

 

「爆豪少年、これから話す事は決して誰にも言ってはいけない。勿論、親にもだ。いいね?」

「ああ」

 

 オールマイトの言葉に俺は頷く。それを見て、オールマイトは口を開いた。

 

「それじゃあ、爆豪少年にも話そう。何故、私がこうなってしまったのかを」

 

 

続く・・・。




 一応、サブタイは『和解』ってなってますけどあまりサブタイが仕事をしてない感がハンパないなぁこれ・・・(汗)
 まぁ、何はともあれ早い段階で出久と和解した上にオールマイトの秘密を知る事になったかっちゃん(後者は、次回本格的に知る事になりますが・・・)、GVとはいいライバルにしていきたい予定です。
 さて、次回はいよいよオールマイトの『個性』についての説明と、それの継承となります!一体、誰が継ぐのか・・・?
次回もお楽しみに!
それでは~。


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チャプター5『継承-ワン・フォー・オール-』前編

『ワン・フォー・オール』、それは代々受け継がれてきた正しき怒りのカタチ。
それを、『象徴(オールマイト)』は『謡精(少女)』へと託す。
彼女を次なる、『平和の象徴』とする為に。

今回は前後編となっております。


-SIDE のび太-

 

「5年前、私はある大物敵と戦って傷を負った」

 

 俊典さんはそう言って、服をめくってそれ(・・)を見せた。

 胸から腹にかけてある、見ていて痛々しい傷跡。正直僕自身や出久も目を背けてしまうほどの手術痕だ。それを見て爆豪君は息を呑んだ。

 

「これにより、呼吸器全壊、胃袋摘出・・・今、私がヒーローとして活動できる時間は1日3時間程なのさ」

「あー、言っておくけど5年前と言っても毒々チェーンソーとの戦い負ったわけじゃないからね」

「ンなのわぁっとるわ。オールマイトが、あんなチンピラヴィランに負ける訳無ェだろが」

 

 横から割り込むように言って来た出久に、爆豪君はそう答える。

 

「って言うか毒々チェーンソーとの戦いを知ってるなんて、詳しいね緑谷少女」

「そりゃあ、オールマイトの大ファンですから。オールマイトの事は何でも知ってるんです。例えば・・・」

「ストップ。それ以上は話が脱線しちゃうからやめよう。いいね?」

「アッハイ」

 

 俊典さんの言葉に、えっへん。と胸を張りながら出久は答える。そんでもって、オールマイト薀蓄を始めようとした為、僕は慌てて止めた。一度、出久がオールマイトの事を語りだせば止まらなくなるからだ。

 酷い時には、夜が明けて朝になるまで話してしまうことだってあるのだ。・・・あの時はホント参ったよ。

 

「話を元に戻そう。先ほど見せた傷の所為で、私が『平和の象徴(オールマイト)』としていられる時間は少ない。

 ・・・だが、このまま引退してしまえばこの日本に平和の象徴が完全に消え去ってしまう・・・」

 

 だからこそ。と僕と出久を見ながら俊典さんは続ける。

 

「のび太少年と、緑谷少女。どちらか二人に私の『個性』を継がせようと提案を持ちかけたのさ。

 ・・・まぁ、のび太少年には見事に振られてしまったがね」

 

 HAHAHA!と笑う俊典さんに爆豪君は一瞬呆気に取られ、困ったように言った。

 

「すまねぇ、話が全然見えてこねぇんだが・・・」

「世間には爆笑ジョークで筋力だのブーストだのと誤魔化してはいるが実際は違う。

 この『個性』は聖火の如く受け継がれてきたものなんだ」

 

 俊典さんのカミングアウトに、驚きのあまり声が出ない爆豪君。まぁ、無理もない。僕や出久もその事を知ったとき、同じだったから。・・・否、出久の場合はブツブツモードになってたっけ?

 

「それは『個性』を譲渡する『個性』。光差す未来(あす)を信じ、先人達が代々受け継ぎ磨いてきた邪悪を憎む正しき怒りの結晶。

 その名は『ワン・フォー・オール』!それが、私の『個性』さ」

「マジか・・・。ンで、それをデクの奴に継がせる・・・と?」

 

 爆豪君の問いに、ああ。と俊典さんは答えた。

 

「彼女には、その素質があるからね。

 『困っている人や助けを求めている人』を見ると身体が勝手に動いて助けてしまう。それが彼女の素質さ」

「そっか・・・、ならその『ワン・フォー・オール』をよ。デクに継がせてやってくんねぇか?」

「か、かっちゃん!?」

「勘違いすんな。今のお前じゃあ、どう逆立ちしたってオールマイトのようなヒーローになるにはザコすぎるから言っただけだ。別にお前の為じゃあねぇよ」

「ざ、ザコって酷い!?」

 

 感謝の篭った眼差しで見る出久に、爆豪君はそっぽを向きながら答えた。上げた瞬間に落とされたような顔で、出久が叫ぶ。・・・あれ?これひょっとして・・・、

 

「爆豪君ってツンデレかい?」

「誰がツンデレだァ!?別にツンデレてねぇわ!!!」

 

 しまった、ついつい口に出ちゃったか。BOOM!と爆豪君が僕の顔面目掛けて爆破の『個性』を使ったが、カゲロウのお陰でノーダメージ。

 

「ンなァ!?傷一つついちゃいねぇ!?」

「無駄だよ、『電磁結界カゲロウ』がある限り僕を傷つける事は出来ない」

「ムカツク能力だなァ!それも『アームドなんちゃら』って『個性(ヤツ)』の応用かよ!」

「『蒼き雷霆(アームドブルー)』ね」

 

 そんなやり取りを爆豪君としていると、俊典さんがあの~・・・。と申し訳なさそうに声をかけた。

 

「そろそろ話を本筋に戻していいかい?思いっきり脱線しちゃってるんだけど」

「「あ」」

 

 ・・・すっかり忘れてたや。

 

―閑話休題。

 

「さてと、のび太少年と爆豪少年から君を後継者にしてくれ。と言われたが、君はどうしたいんだい?

 後継者にするには君の意見も聞かないとね」

 

 話を元に戻し、出久と向き合った状態で俊典さんはそう言った。出久は、暫く考えた後しっかりと強い眼差しで口を開いた。

 

「私、今回の事件でモルフォに頼りっぱなしだなって思いました。

 あのヘドロヴィランに捕まった時、引き剥がす時にモルフォの歌だけが頼りで、私は何も出来ない木偶の棒だった・・・。私、変わりたいです!だから・・・、『ワン・フォー・オール』を継ぎます!」

「いい返事だ!君はこれより『ワン・フォー・オール』の9代目継承者となる。ちょっと失礼」

 

 そう言って、出久の腕をポンポンと触る俊典さん。ふむ。と満足そうに頷いた。

 

「しっかりと鍛えてるな!その割にはちっちゃいけどね!」

「オールマイト、気にしてるんですけど・・・」

「・・・あ、ゴメンね?だけど、まだまだ『ワン・フォー・オール』を受け継ぐレベルじゃない。だからもっと鍛えなきゃいけないぜ」

「う~ん、やっぱりそうですかぁ・・・」

 

 俊典さんの言葉に、はぁ~・・・。とがっくりうなだれる出久。その傍らで・・・、

 

「なぁ、ビリビリ」

「・・・ビリビリって僕の事?」

「テメェ以外に誰がいんだよ」

 

 爆豪君が僕を小声で呼ぶ。・・・ビリビリと言う変な仇名で。まぁ、『蒼き雷霆』使う時ビリビリしてるけどさ・・・。だけど解せぬ。

 

「オールマイトがさっきから身体鍛えてるだのどーのこーの言ってるけど、どう言う意味なんだ?」

「俊典さん曰く、身体鍛えてないと四肢が爆発四散するらしいんだって」

「俊典?・・・ああ、オールマイトの本名な。・・・それマジなんか?」

「マジ」

「何それこわい」

 

 僕らがそんなやり取りをしている最中、俊典さんは出久にある提案を出す。

 

「そこでだ、君にとっておきのトレーニングプランを考えているんだがやってみるかい?」

「トレーニングプランですか?」

 

 出久の言葉に、そうだ。と俊典さんは答えた。

 

「地域の為になって、『ワン・フォー・オール』を受け継げるレベルにまで身体が鍛えられる。実質アブハチトラズなトレーニングプランさ」

『それを言うなら、一石二鳥じゃない?』

「そ、そうとも言うね」

 

 ツッコミを入れるモルフォに、震え声で答える俊典さん。とにかく!と出久を見やり、続けた。

 

「このトレーニングを受けてみるかい、緑谷少女?」

「お願いします!」

 

 元気よく、答える出久に俊典さんはうむ!と満足そうに答える。

 

「いい返事だぜ、緑谷少女。・・・さて、そろそろ親が心配する時間だから二人ともそろそろ帰りたまえ」

「あ・・・もうそんな時間か」

「だな。ババァが心配してら」

 

 俊典さんに言われて、出久と爆豪君は時計を見てそう溢した。

 

「それじゃあ今日はこれで解散だ!トレーニングの詳細は明日教えるぜ!それと集合場所は市内の海浜公園、遅刻しないようにね!」

 

 そんなこんなで、解散となり出久と爆豪君は家に帰宅。こうして、僕達の長い一日は終わりを告げたのであった・・・。

 

SIDE OUT

 

SIDE 出久

 

―その翌日。

 

「来たね、3人とも!」

「おはようございます、オールマイト!皆!」

「おはよう」

「はよ。・・・んでよぉ、ここで何すんだオールマイト?」

 

 市内の海浜公園。見渡す限りのゴミの山であるここにオールマイト(ちなみにマッスルフォームだ)、私、GV、かっちゃんが来ていた。かっちゃんの問いかけにオールマイトは答える。

 

「今から緑谷少女にはここの掃除をしてもらおうと思うんだ、モルフォ少女の『歌』の力を使わずにね」

「掃除・・・ですか?」

「Yes!だが、ただ掃除するだけじゃあない。この区一帯の水平線を蘇らせる、それが君のヒーローへの第一歩だ!」

『成る程ね。確かに地域の為にもなるし、イズクの身体も鍛えられる。一石二鳥のトレーニングプランね』

「だろ?それが終われば、君に『ワン・フォー・オール』を渡そう。出来るかい?」

 

 モルフォの歌を使わずに、自分の力でここを掃除する。・・・上手く出来るだろうか?

 不安が、私を襲う。・・・だけれど、決めたんだ!絶対にヒーローになるんだって!弱気になる心を奮い立たせ、私は笑顔でオールマイトに言った。

 

「出来ます!」

「その意気だ、緑谷少女!入り口に兄さんの部下がトラックを持ってきてるからそれにゴミを運んでくれ」

「はい!」

 

 オールマイトの言葉に、大きく頷きながらゴミの山へと向かう。

 

―よーし!頑張るぞ!

 

 

続く・・・。




前書きでバレバレですが、アンケートの結果、出久ちゃんに決まりました!
最初はそのまま『個性』を引き継がせようかと思いましたが、色々考えた結果オールマイト式トレーニング(ゴミ拾い)をやってから『個性』を継がせる事にしました。
その結果、長くなってしまうため前後編に分ける事に・・・。
次回は、トレーニング終了からの『個性』譲渡となります!お楽しみに!
それでは~。


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チャプター5「継承-ワン・フォー・オール-」後編

お待たせしました、後編!
ここで、遂に出久ちゃんがワン・フォー・オールを継承します。
若干グダグダな感じですが、温かい目でお願いします。


―出久SIDE

 

「つ、疲れた・・・」

『お疲れ、イズク』

 

 時計が12時を指した頃、私はヘトヘトの状態で座り込み、モルフォから渡されたタオルで汗を拭いている。

 キツイ、はっきり言ってキツイ。私が今までやってきたトレーニングとは比にならないくらいだ。

 

「お疲れ、出久ちゃん。ホイ、差し入れ」

「ありがとう『ジーノ』さん」

 

 コンビニの袋を手渡して来たのはツンツンヘアーの陽気そうな青年。GVが所属している『フェザー』の構成員の一人で、新横崎市を拠点に活動している現役ヒーローをやっている『ジーノ』さんだ。

 アニメ、ゲーム等が大好きでチャリティイベントやオフで『翼の家』に来た時等は、よく子供たちとゲームしたりして遊ぶ事が多い。・・・但し、たまに大人気なく本気を出しすぎて連戦連勝やらかしてしまい、子供を泣かせ、モニカさんや蒼一郎さんに怒られることがあるが、私にとっても、GVにとっても頼れる兄貴分だ。

 

「わ、カツ丼だ!」

「出久ちゃんの大好物だろ?それを食って、この特訓に『勝つ』。なんてな」

「あはははは・・・」

 

 ジーノさんの洒落に苦笑いしながら割り箸を割り、カツ丼を食べる。う~ん・・・このサクサクとしたトンカツのころもがたまらない・・・。

 カツ丼の味をかみ締めながら食べていると、ジーノさんから声をかけられる。

 

「所でどうよ?この特訓やってみて」

「う~ん、まだまだかな?『あの時』以来、ずっとトレーニングとかしてたけど・・・運べたのがこれだけだからなぁ・・・」

 

 ため息をつきながら、先ほどまでゴミ拾いをしていた場所を見やる。まずは大きいものからやってそれから小さいものをやろうとした為、あまり減ってないなぁ・・・。まだ、大きいゴミが半分ほどある。

 

「そうか?俺としては大きいものを12時までに半分に減らせるってのはスゲーと思うんだけど」

「私としては、12時までに全部仕上げたかったんだけどなぁ・・・」

「意気込むのはいいけど、無茶はダメだぜ。あまり根つめすぎると倒れちまうよ」

 

 ジーノさんに言われ、思わずうぬぅ・・・。と唸ってしまう。ふと、モルフォがGVとかっちゃんのことを思い出し、問いかけた。

 

『そういえばGVとカツキは?』

「あの二人は、向こうで組み手やってる。・・・たださぁ」

「はい?」

「あのバクゴーって奴さぁ、ヒーロー志望なんだよな?

 何で、ヒーロー目指してんのに『死ね!』とか言ってんの?それにあの悪人面だし、ヴィラン目指してるっていわれてもしょうがねぇぞアレ・・・」

「そ、そうですね・・・。でも、かっちゃんもかっちゃんでストイックな一面がありますし・・・。

 まぁ、パッと見、ガラが悪いし。人によってはクソを下水道で煮込んだような性格とか言われるかもしれませんけど、優しい所だってあるんですよ?例えば、最近私の家に遊びに来て、最近の調子とか聞いてきたりするし。・・・しょっちゅう、暴言吐かれたりしますけど」

 

 遠い眼で、そんな事を言うジーノさんに精一杯のフォロー。

 

『それ、フォローになってる?』

 

 モルフォから手痛い指摘。うう、フォローだもん・・・、フォローになってるもん。多分、きっと、メイビー。

 

「随分、言ってくれてんじゃあねぇか。デクゥ」

「ふぇ?か、かかかかかかっちゃん!?」

 

 背後から、ドスの効いた声。別段、大きい声でもないのに響くような声に私は身を震わせた。振り向くと、かっちゃんがいた。獰猛な笑みを浮かべこっちを睨んでいる。

 

「い、何時からいたの?」

「そこのジーノっつぅビリビリの仲間が、俺の事を悪人面だとかヴィラン目指してるだの言ってる最中だ。テメェもテメェで俺の事好き放題言ってたよなァ?」

「ビリビリって誰?」

『GVの事よ』

「あー、成る程な」

 

 ぜ、全部聞かれてた・・・。と、兎に角弁明しなきゃ・・・。

 

「ち、ちちちちちち違うよ!私は、かっちゃんの事をフォローしてただけで」

「全然フォローになっとらんわ、クソナード」

 

 ひ、一言で斬って捨てられた。・・・ぐすん。

 

「やぁ、緑谷少女。ゴミ拾いは進んでいるかい」

「なんか、出久うなだれてるけどどうしたの?」

 

 そこへ、オールマイトとGVもやってきた。うなだれている私を見て心配そうに声をかけるGV。そんなGVに私は答えた。

 

「私としては、かっちゃんを精一杯フォローしたつもりだったんだけどね・・・」

「「フォロー?」」

 

 オールマイトとGVが異口同音で問いかける。

 

「はい。かっちゃんは口は悪くてどっちかって言うとヴィランっぽいですけど、優しい一面もあるんだって事を言ってたんです。

 例えば、さっきジーノさんに言った事もありますけど、小さい時に友達を苛めた年上相手に勇敢に立ち向かってやっつけたり凄いんですよ!」

「何でンなクソ恥ずかしいエピソード覚えとんじゃ、デクゥ!」

「ひえぇ、ゴメンかっちゃん」

 

 ついうっかり熱弁してしまい、目を吊り上げたかっちゃんに怒鳴られてしまった。思わず萎縮して謝る。だけれども、かっちゃんの怒りは収まらないのか、怒声はまだ続く。

 

「テメェに凄いなんて言われてもぜ、全然嬉かねーわ!

 それになぁ!最近お前ん家来るのは、たまたま帰り道で通るついでだって言ってんだろうが!べ、別にテメェが気になって来てる訳じゃねぇんだよ!!!」

「HAHAHA、のび太少年の言うとおり典型的なツンデレだね爆豪少年」

「だ、誰がツンデレだァ!ビリビリテメェ、オールマイトに変な事吹き込んでんじゃあねぇよ!!」

 

 オールマイトの言葉に、かっちゃんは顔を怒っているのか顔を真っ赤にして反論し、GVに怒鳴った。だが、GVは何処ふく風で返す。

 

「変な事も何も本当の事じゃないか」

「~~~~~~ッ!!もういいわ!さっさと飯にすっぞ、飯!」

 

 GVの言葉に顔を真っ赤にしながら、かっちゃんはジーノさんが持っていたビニール袋の一つを奪い取るように受け取り、袋の中の弁当を開け、食べ始めた。そんなかっちゃんを見て、GVは苦笑交じりにオールマイトに言った。

 

「それじゃあ、僕らも昼ごはんにしましょうか俊典さん」

「そうだな」

 

 オールマイトも苦笑し、GVと共に弁当を受け取りに向かったのであった。その後、昼ご飯を食べ終え私はごみ拾いを、GVとかっちゃんは組み手を再開した。

 その翌日も、その次の日も、私達は訓練を続けた。オールマイトの『個性』である『ワン・フォー・オール』を受け継ぐ為の訓練のキツさは生半可なものではなく、あまりのキツさに筋肉痛や疲労で思うように動けない・・・と言う事態となり母さんや皆に心配された。

 正直に言うと、辞めたいと思ってしまったこともあった。・・・でも、あの時の無力感、そしてGVに誓った言葉を思い出し、もう二度と繰り返さないために、そして『ワン・フォー・オール』を受け継ぎ、GVやかっちゃんと並ぶヒーローになる為に一生懸命頑張った。

 

―そして、7ヶ月の月日が流れた。

 

「終わったァァァァァァァ!」

 

 最後のゴミをジーノさんの持ってきたトラックの荷台に積み込んだ後、私は振り返り、蘇った水平線を見ながら大声で叫んだ。

 やった。私はやったんだ!モルフォの歌を借りずに、たった一人でこの水平線を蘇らせたんだ!

 

―SIDE OUT

 

―SIDE のび太

 

「いやぁ・・・凄いな」

「ええ、僕も驚いています」

 

 水平線に向かって叫ぶ出久を見て、僕と俊典さんはそう言葉をかわす。

 

「まさか多少鍛えてたとはいえ、指定した区画以外・・・否、この公園全てのゴミを片付けちゃうなんてね!しかも、7ヶ月で!ちっこい身体に反して凄いタフガールだよ、緑谷少女は!」

 

 オーマイゴッドネース!とマッスルフォームになり叫ぶ俊典さんを尻目に、僕は感慨深く出久を見て過去の事を思い出していた。

 

『私は、外の世界で・・・ヒーローになりたい』

 

 あの時、彼女は涙ながらに僕にそう言った。そして今、こうしてヒーローとしてのスタートラインに立っている。そう思うと、涙が滲んできた。

 

「よかったね、出久」

 

 僕はそう呟き、涙を拭うと出久の元へと向かった。俊典さんも、爆豪君も出久の元へと向かっている。

 

「おめでとう、緑谷少女!だいぶ、いい身体になってきたじゃあないか」

「あ、ありがとうございます!」

「うん、これなら『ワン・フォー・オール』を引き継ぐのに問題は無さそうだよ。よく頑張ったね」

 

 俊典さんに、言われ出久の目にじわり・・・と涙が滲みあふれ出す。それを見て慌てる俊典さん。

 

「え!?ちょ、緑谷少女!?どうしたの!?」

「いえ・・・、嬉しくて・・・。GVに助けてもらってから、オールマイトに『個性』を貰う今まで・・・私って恵まれてるんだなぁ・・・って思うと涙が止まらなくて・・・」

 

 ぐすぐすと、涙を拭いながら俊典さんにそう言う出久。そんな彼女の背中に、

 

―バッシィィィィィン!!!

 

「あいたぁ!?」

 

 鋭い張り手が、爆豪君だ。

 

『ちょっと!カツキ、アンタ何すんのよ!!!』

「騒ぐんじゃあねぇよ、気合入れてやっただけだ。ったく、ピーピー泣くなや。

 テメェはもう、『デクノボーのデク』なんかじゃあねぇ、『ワン・フォー・オール継承者のデク』なんだから、情けねぇツラすんなや。シャキっとせんかい」

 

 怒鳴るモルフォにそうあしらいつつ、爆豪君は出久にそう言った。出久は、ハッとした表情になり涙を拭うと爆豪君に笑いかけた。

 

「そうだね、ありがとうかっちゃん」

「・・・別にお前のためじゃねぇわ」

 

 そう言ってプイと顔を背ける爆豪君。・・・ホント、ツンデレだよなぁ・・・。

 

「さて、改めて緑谷少女。君に『ワン・フォー・オール』を授けたいと思う。だけど、注意しなきゃいけないのは『ワン・フォー・オール継承者』としてスタートラインにたっただけって事。

 まだまだ今の君じゃあ『ワン・フォー・オール』を十分に使いこなせない!明日から、雄英受験まで『ワン・フォー・オール』を使いこなせるまで特訓だぜ!」

「はい!」

 

 俊典さんの言葉に、出久は元気よく答える。うむ!と俊典さんは力強く頷いた。

 

「いい返事だ、緑谷少女!それじゃあ、早速・・・」

 

 そう言って、俊典さんは髪の毛を一本抜く。そして、それを出久の目の前に差し出して・・・、

 

「食え」

 

 ・・・・・・・・・・・・・。

 

『「・・・えっ?」』

「・・・は?(威圧)」

「へあ?」

 

 一瞬で空気が凍った。

 そりゃそうだろう、いきなり髪の毛食えとか言われたら誰だってそーなる。僕だってそーなる。

 

「あー、説明してなかったね。『ワン・フォー・オール』を譲渡するには渡したい相手に自分のDNAを摂取させる必要があるのさ」

「そ、ソーデスカ」

 

 HAHAHA、と笑う俊典さんに考えていたのと違ってたのだろう、めっちゃショックだったのかカタコトで出久は答えた。

 

「ま、とりあえずグイっと行っちゃいな!」

 

 そんな訳で、色々と台無しではあったが『ワン・フォー・オール』継承は無事に終了した。

 後に、出久は僕達に俊典さんの髪の毛についてこう述べていた。

 

「めっちゃ酸っぱかった」と・・・。

 

続く・・・。




やっと、出久ちゃんにワン・フォー・オールを継承させれました。・・・長かった。
次回からやっと、雄英受験となります。はてさて、GV達は無事に合格できるのか?
次回もお楽しみに!
それでは~。


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チャプター6『入試 その1』

 ついに始まった雄英高校入試。
 必要な鍛錬は済ませた。予習復習もバッチリ。
雷霆(のび太)』は(ドラえもん)と誓った『困っている人を救うヒーロー』となる為に。
謡精(出久)』は『平和の象徴(オールマイト)』の願いを継ぐ為に。
紅蓮(爆豪)』は己の罪と向き合い、その上で『平和の象徴(オールマイト)』をこえるヒーローとなる為に。
 様々な思いを胸に、次代の平和の象徴達は入試へと挑む!


-のび太SIDE

 

 出久が『ワン・フォー・オール』を継承して、さらに月日が流れた。

 その間、『ワン・フォー・オール』を上手く使える体になる為にトレーニングをしたり、僕達に混じって『ワン・フォー・オール』を使っての模擬戦を行ったりといろいろやった。

 トレーニングの甲斐もあってか、『ワン・フォー・オール』の許容量が上がったり、上手く使える方法を見出したりしたが、その方法が何なのかは内緒だ。まぁ、後から知る事になるからね。何故かって?そりゃあ、勿論今日が雄英高校の入学試験だからさ。

 

「のび太、受験票は持ったか?」

「持ってるよ」

「筆記用具も忘れてない?」

「大丈夫、バッチリだよモニカさん」

 

 玄関先で、蒼一郎さんと、モニカさんから何度目かの重要物の確認。心配性だなぁ、と軽く苦笑いする。

 

「そりゃ、リーダー達も心配するだろ。オマエ、肝心な時に抜けてるからさ」

「前よりかはマシだよ」

 

 ニヒヒっと茶化すように言うジーノに、少しムッとしながら言う。そんなに僕って抜けてるかな?・・・うん、抜けてるや(白目)

 自問自答してて、軽く凹んだが受験前に沈んだままではいけない。気を取り直し、僕は皆に笑顔で言った。

 

「行ってきます、皆」

「行ってらっしゃい」

「頑張れよ!」

「グッドラック、のび太」

 

 皆からのエールを受け、僕は『翼の家』を出た。暫く歩いていると、見覚えのある小柄な女の子が。言わずもがな出久だ。

 

「おはよう、出久」

「あっおはよう、GV」

 

 くるっと、僕の方に振り向き出久は僕に挨拶を返す。

 

「頑張ろうね受験!」

「ああ、確か僕と出久と爆豪君でワンツーフィニッシュならぬ、ワンツースリーフィニッシュだったっけ?」

 

 花咲くような笑顔で言う出久に、僕は笑顔で返しながら試験前日の事を思い返していた。

 

 

―時は遡り、昨日。

 

 

「これで、トレーニングは終了だ。3人ともよく頑張ったね!」

 

 マッスルフォームの状態でスマイルを浮かべながら、僕達にそういう俊典さん。知ってると思うが、と腕を組みながら続ける。

 

「明日はもうすぐ、雄英高校の受験日だ。そこで、君達には『成績上位』で合格して欲しい!」

「どォ言うこった?」

 

 爆豪君が、首をかしげ問いかける。前に言ったと思うけど、と俊典さんはPON!とトゥルーフォームに戻り、答えた。

 

「ぶっちゃけ、私が『平和の象徴(オールマイト)』としていられる時間は少ない。だからこそ、私は君達こそが、次の『平和の象徴』となってくれる事を願っているんだ。

 その第一歩として、『君達が来た!』と言うことを世間に知らしめて欲しい。って事なのさ」

「成る程なァ。だが、納得行かねェ」

「え!?何で!?」

 

 爆豪君の反応に、眼を見開きながら驚く俊典さん。だけどまぁ、何となく彼の言いたい事は大体分かった。

 

「だってよォ、『成績上位』っつーのは小さすぎるだろうが。

 合格するんなら、俺とデクとビリビリでワンツースリーフィニッシュだぜ!」

「な、成る程・・・そう言う事か」

 

 そう言って不敵に笑う爆豪君。粗暴で、傍若無人に見える彼だが遥かな先を目標にしている。『何れはオールマイトを超えるヒーロー』となる為に。

 その為に、努力を惜しまない姿勢は僕も尊敬している。・・・僕も負けてられないな。

 

「って事は、僕が1位って事でいいかな?」

「馬鹿抜かせ、俺が1位に決まってら」

 

 僕もまた不敵な笑みで、爆豪君に言う。鼻をならしながら、それを返す爆豪君。

 

「わ、私だって譲れないよ!私が1位になるもん!」

「オメェは無理だアホデク。精々2位ぐらいが関の山だな。チコっと『ワン・フォー・オール』使いこなせるようになったぐれーで、調子のんなや」

「かっちゃん酷い!」

 

 出久も負けじと名乗りをあげるが、爆豪君にあっさり一蹴された。

 

「僕だ!」

「俺だ!」

「私だって!」

「あのー、三人とも?三人ともー!!」

 

 そこから火がつき、誰が一位を取るのかでギャーギャーと大モメ。

 ヒートアップしすぎて、口論が何故か3つ巴のバトルロイヤル形式の模擬戦にまで発展。結局決着つかずで、くたくたで動けなくなってしまい、親(僕の場合は両親がいないので、蒼一郎さんとモニカさん)が迎えに来るハメになったのであった。

 

 

―回想終わり。

 

 

「あの後、いろいろ大変だったなぁ・・・」

 

 蒼一郎さんとモニカさんに『受験前に何やってんだ!(要約)』と正座で長々と説教を食らわされたなぁ・・・。あの後の足の痺れと言ったら・・・。

 

「あはははは、ドンマイ。でも、一位を譲る気は無いよ」

「それは僕も一緒だよ」

 

 互いに、笑い合い拳を軽く当てる僕と出久。その後、電車に乗り、入試会場である雄英高校へとたどり着く。

 

「ここが、雄英高校か・・・」

「うわぁ、大きいね・・・」

 

 荘厳にそびえ立つ雄英高校の校舎を見上げ、僕と出久はそう呟く。ここで、俊典さんや蒼一郎さんはヒーローとしてのイロハを学び、そして『平和の象徴』とそれを支える者となった。

 そして、これから僕達が挑み、通らなければならない登竜門。不安がない、といえば嘘になる。ぶっちゃけ、『こんな時、ドラえもんがいたら・・・』と考えてしまう。・・・だけれど、ドラえもんはもういない。僕自身の力でやり遂げなきゃならないんだ。

 

「ドラえもん、見守っててくれよ・・・」

 

 懐からドラえもんの形見である鈴を取出し、祈るように握り締めた。いつも、不安な時や誰かに縋りたい時はこうしている。こうすれば、ドラえもんが近くにいるような気がして頑張れるから。

 ・・・よし、これで大丈夫だ。出久のほうを向く。

 

「それじゃあ行こうか」

「うん!」

 

 そうして、会場へ向かおうとしたその時だった。

 

―ガッ。

 

「うわわっ!?」

「出久!?」

 

 つまづいて出久が転びそうになる。咄嗟に支えようとした次の瞬間―。

 

「なっ!?」

「こ、これは・・・」

 

 出久が転びそうな姿勢で浮いていた。出久も出久で、驚いている。これは『個性』だろうか?一体誰が・・・?

 

「大丈夫?入試で転んじゃったら縁起悪いもんね」

 

 少女の声と共に、出久の姿勢は直立の状態に戻された。声がした方に視線を向ければ、丸顔の可愛らしい少女が立っていた。

 

「あ、ありがとうございます」

「ええよええよ、好きでやってるんやし。それに、こんなちっちゃい子が転んで泣いたりしたら後味悪いもん」

「ちっちゃッ!?」

 

 お礼を言う出久に、少女は麗らかな笑顔でそう答える。その言葉に、ショックで固まる出久。

 

「あれ?どうしたん?」

「えーと、彼女僕と同級生なんですよ。んで、入試を受けに雄英に来た訳で」

「ええ、そうやったん!?ウチてっきり、この子の事キミの見送りに来た妹か何かと思ったわ!小学生かそれ位の」

「小学ッ!?」

 

 ショックで固まる出久の代わりに、僕が少女に説明をする。彼女の驚きようはごもっともだ、出久には悪いが彼女の見た目は小学生位のような身長と体型である。

 彼女の言葉に、さらにショックを受けガクリと膝から崩れ落ちる出久。両手をつき、「ズーン」と言う効果音が出そうな雰囲気を出し落ち込んでいた。

 

「ご、ごめんね。そこまでショック受けるとは思ってなくて」

「いえ、いいですよ・・・。実年齢よりも低く見られるのは慣れてますし。あはははは・・・」

「いや、全然大丈夫やないよ!?何か目から血涙出とるし!?」

 

 ケタケタと血涙流しながら笑う出久に、慌てて謝る少女。・・・なんとも、カオスな光景だ。

 

「そ、それじゃあウチ先に行くね。お互い入試頑張ろうね!」

 

 若干引き気味になりながらも、少女は僕等にそう言って、会場へと向かっていった。それと入れ違いに、

 

「何だ、この状況?」

 

 爆豪君がやって来て目の前の状況を問いかけるのだった。

 

 

―閑話休題。

 

 色々あったけど、会場へと赴きまずは筆記試験。まぁ、これは勉強とかしてたから特に問題もなく終わった。

 以前のグータラだった頃の僕ならば、「ヤバイ!分からない!」と大慌てだったかもしれないが、今は違う。予習も復習もちゃんとしているため分からない事とかは無いと言っていいだろう。

 そして、実技試験・・・。

 

『今日は俺のライブにようこそ!エヴィバディセイ、ヘイッ!

 

―し~ん・・・。

 

『コイツはシヴィーッ!受験生のリスナー、実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!アーユーレディ!?

 

 試験を始める前に、始まった概要の説明。それを行っているのは、絶妙なトークで色んなラジオやテレビ番組に引っ張りダコなボイスヒーロー『プレゼント・マイク』だ。

 

GV!かっちゃん!見て見て、生プレゼント・マイクだよ!生プレゼント・マイク!

出久、気持ちは分かるけど落ち着こう

ルセー!黙って説明聞いてろや、クソナード!

 

 先ほどの落ち込みは何処へやら、興奮気味に僕と爆豪君に話す出久を僕達は宥めていた。と言うか、爆豪君。ヴィランめいた形相で小声で怒鳴るって凄いな。

 そうこうしているうちに、プレゼント・マイクの説明は続く。

 実技試験では、市街地を模した演習場で10分以内に仮想敵を倒していく。と言うものである。もちろん、他人の妨害や他人に攻撃と言ったアンチヒーロー紛いの行為はNG、それを聞いた出久と僕はチラリと爆豪君を見て、爆豪君に、「何で俺を見るんじゃゴルァ!」と言いたげな眼差しを向けられた。・・・だって、ねぇ。爆豪君ならやりかねないし。

 なお、アイテムの持込は自由だそうだ。ダートリーダーが使えるのはありがたい、ダートリーダーが無くても『蒼き雷霆(アームドブルー)』は使えるが、ある方が色々と使い勝手がいい。

 

「質問宜しいでしょうか?」

 

 そこへ、プレゼントマイクに手を挙げ立ち上がったのは眼鏡をはめた体格のいい真面目そうな少年だった。

 質問の内容はこうだ。しおりに記載されていた仮想ヴィランと説明の数が一致していないとの事らしい。そう言えば、しおりには4種類の仮想敵が記載されてあるにもかかわらず、説明では3種類の仮想敵がどーのこーのと言っていたっけ?

 

「これは、雄英としてあるまじき失態ですよ!」

 

 そう叱責する少年。・・・確かに説明としおりの内容が一致してないが、流石に失態だとかそういうのは言い過ぎのような気がするが・・・。

 そう思っていると、「それからそこの君!」と少年がこちらを向いた。その視線の先には出久。

 

「ふぇっ!?」

「さっきから、ブツブツうるさいぞ!物見遊山のつもりなら帰りたまえ!・・・それと」

 

 やはり、あの癖が出ていたのだろう。それを叱責し、今度は僕のほうを向く。

 

「君は何でこんな所にいるんだ、『蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト』!この雄英は君のようなヴィジランテが来るところじゃないぞ、さっさと出て行くんだ!」

 

―まぁ、そういう人もいるか・・・。

 

 少年の怒号と、ざわざわと受験生達のざわめきを聞きながら、僕はため息と共にそう思った。

 ヴィジランテ、世間の一般的な(ガンヴォルト)の認識はそんな感じだ。幸い、蒼炎中学の皆は僕がガンヴォルトだと明かした後も、普通に接してくれた。だが、一部の人間は僕の存在を快く思わないものもいる。

 ・・・まぁ、出て行けといわれて出て行くつもりは無いけどね。

 

「おい、クソメガネ」

 

 反論しようと重い腰を挙げたそんな時、響いた声。叫んだ訳でもないが、それはよく響き周囲のざわめきを掻き消した。

 爆豪君だ、爆豪君が少年を睨みながら口を開いたのだ。

 

「だ、誰がクソメガネだ!?」

「テメェ以外に誰がいんだよ。今すぐビリビリに謝るか、眼鏡をカチ割られるか選べ」

 

 眼を血走らせ、少年に凄む爆豪君。怒りを隠さぬまま、続ける。

 

「一般的には、コイツはヴィジランテかもしれねぇさ。

 だけどな、あの時誰も頼んでねぇのにアイツは他のヒーローよりも誰よりも率先してヘドロ野郎の前に立ちはだかって俺とデクを助けたんだよ。

 それなのに何だァ?ヴィジランテだから雄英に来るな?出て行けだァ?コイツの事何もしらん癖に偉そうにほざくなや!!!」

 

 有無を言わせぬ、爆豪君の気迫に少年は何もいえなくなる。そこへ、プレゼントマイクからストップがかかる。

 

おおーっと!ケンカはダメだぜお二人さん!そうだな、まず先ほどの質問から答えていこうじゃないか。まぁ、説明に出ていなかった仮想敵は0P敵。所謂お邪魔キャラって奴さ。

 それと、ここ雄英の校風は「自由」。つまり、ヴィジランテだろうとなんだろうと入試を受けるのも拒まない!悪いが自分の意志じゃない限り、そこのリスナー・・・ガンヴォルトは退出させられないぜ!』

 

「・・・ありがとうございます、失礼いたしました」

「・・・チッ」

 

 プレゼントマイクの言葉を聞き、ペコリと律儀に頭を下げながらイスに座る少年。そして、舌打ちをしながら爆豪君も座った。

 

「別にお前の為じゃあねぇからな。

 あのクソ眼鏡が、お前の事をよく知らんでしゃあしゃあほざいてたからムカついただけだ。勘違いすんじゃねぇぞ、ビリビリ」

「そう言う事にしておくよ、ありがとう爆豪君」

 

 横目で僕を見ながら爆豪君は、そう言った。僕は笑いながら御礼を言うと「るっせ」とプイと横を向く。本当に素直じゃないな、爆豪君は。

 

「まぁ、それがかっちゃんだからね」

「さりげなく、人の心読むのやめようか出久」

「ちと、テメェら黙れ」

「「アッハイ」」

 

 そうこうしていると、プレゼントマイクの説明も終わりに差し掛かる。

 

『さて、そろそろ時間だ!最後にリスナーの皆へ、我が雄英高校の「校訓」をプレゼントだ!

 ―更に向こうへ、プルス・ウルトラ!!!

 願わくばお前らがこの試練を乗り越え、ヒーローの卵へとならんことを!シーユー!』

 

 そして、実技試験が始まる!

 

続く・・・。




本来なら先週の日曜か土曜に書き上げるはずが、リアルが忙しいのと、最初に出会うことになるお茶子ちゃんと飯田君との絡みをどうするか考えていたら予定よりも遅くなってしまった・・・(汗)
自分で書いててなんですが、飯田君のGVに対する言動がちと酷い感じに。「GVって一応ヴィジランテって立場なんだし、飯田君ならコレくらい言うだろう」とおもって考えた結果がこれだよ!飯田ファンの皆様、本当に申し訳ない(メタルマンの博士風に)
次回は、本格的に始まる実技試験!果たしてのび太達は合格できるのか!?
まて、次回!
それでは~。


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チャプター7『入試 その2』

ついに始まった実技試験。
タイムリミットは10分。
限られた時間の中で、少年は奔る!


―SIDE のび太

 

「さてと、僕の会場はここか・・・」

 

 レクチャーを終え、各々が試験会場へと向かう。

 目の前に広がるのは会場・・・と言うより街だった。そして、何よりも・・・、

 

(広いな・・・、10分以内にこのエリアをうろついている敵ロボを倒さなきゃならないのか・・・)

 

 恐らく、他の会場もこれほどの規模なのだろう。やはり、雄英は凄いな。と改めて思う。だけれども、圧倒されてばかりじゃいられない。

 いつでも開始と同時に、『蒼き雷霆(アームドブルー)』を発動できるように身体をほぐしつつ、ウォーミングアップ。ホルスターに収められているダートリーダーをいつでも抜けるようにし、装備の確認をする。

 

 ちなみに僕が、今現在装備しているのは

 

・抑制のレンズ

・活性のレンズ

・セラフリング

・不屈のペンダント

 

 である。これらは全て、僕が『個性(アームドブルー)』を使用する上で重要な装備であり、特にペンダントは『電磁結界カゲロウ』を使用するのには欠かせない。

 これがなければ、『電磁結界カゲロウ』は使えないのだ。

 

『ハイ、スタートォ!』

 

 装備を確認し終えたと同時に、プレゼント・マイクが開始の宣言を始める。

 突然の開始の合図に、虚を突かれた受験生達を尻目に僕は走り出した。実戦(ミッション)ではカウントダウンなんてものはない。現地に着いたらすぐに始まるものだ。

 

『オラオラ、走れェ!もう試験は始まってるんだぜ!?』

「こ、こうしちゃいられねぇ!」

 

 プレゼント・マイクの言葉と同時に、泡を食った受験生達が走り出したようだ。

 

『目標捕捉!ブッ殺ス!!!』

 

 おっと、目の前に仮想敵が出現。それと同時に、素早くホルスターからダートリーダーを抜き、仮想敵にダートを撃ち込んだ。

 

―BLAM!

 

『イテッ!?』

 

―CLAP!

 

『ギャン!』

 

 そして、電流を流し仮想敵をノックアウト。屈んで確認して見ると1Pの敵のようだ。

 

「さてと、これで1ポイント。ジャンジャン稼がないとね。・・・ん?」

 

 僕がそう言って立ち上がった次の瞬間、潜んでいたのだろう、何処からか仮想敵が5体ほど現れ僕を包囲するように襲い掛かった。

 

「無駄だッ!迸れ、蒼き雷霆よ(アームドブルー)!」

 

 天体の如く揺蕩え雷

 是に到る総てを打ち払わん

 

「ライトニングスフィア!」

 

―CLAAAAAAAAP!!!

 

 『『『『『アバババババババババ!!!?』』』』』

 

 襲い掛かる仮想敵をライトニングスフィアで一網打尽にする。ちなみにヘドロとの戦いで使ったような右手に収束させる奴ではなく、僕の周りを3つの球体が回転する本来のライトニングスフィアだ。

 黒焦げになって、行動不能となった仮想敵を見てみると・・・1Pが3体、2Pと3Pが1体ずつのようである。これで、9Pか・・・。このまま一気に追い上げよう。

 

「ん?」

 

 ふと別の場所へと向かう道中、サイドテールの少女が仮想敵の群れと大立ち回りをしているのが見えた。迫り来る仮想敵の攻撃を回避し、『個性』を使ったのだろう、巨大化した拳で沈めた。

 身のこなしからして何かしらの拳法を習っているのだろう、動きに隙がないなぁ。そんな事を考えていると、彼女に狙いを定めている仮想敵を確認した。拙いな、狙撃するつもりだ。一方の少女は気づいていない。『蒼き雷霆《アームドブルー》』で脚力を強化し、その仮想敵と少女の間に割り込む。

 それと同時に、ミサイルが放たれた。ミサイルならば、これで防げる!

 

「ふっ!」

 

 手をかざすと僕を包み込むように電気の球が現れ、ミサイルはそれにより爆発した。勿論僕には無傷だ。

 電磁フィールド『雷撃麟(らいげきりん)』、これが僕を包み込んだ電気の球の正体だ。実弾兵器を防ぐ事も出来るし、これを纏って体当たりを仕掛ければ相手にダメージも与えられる、正に攻防一体だ。

 

「何今の音?・・・ってアンタはガンヴォルト!?」

「危ない所だったね、今さっき仮想敵が君を狙ってたんだよ」

 

―CLAP!

 

 『ギャン!』

 

 爆発に反応し、振り向いた少女に僕は話ながら仮想敵にダートを撃ち込み電流を流した。仮想敵は即座に沈黙、3P敵のようだ・・・ラッキー。

 

「えっ?あっ、本当だ。・・・気づかなかったなぁ、サンキューな」

「・・・意外だな、てっきり『余計な事をするな!』って怒られるかと思った」

 

 本当に意外な反応に、僕が戸惑っているとまさか。と少女は笑って返す。

 

「助けてくれた恩人にそんな恩知らずな事は言わないよ。・・・っとぉ!」

 

―CLASH!

 

『アバーッ!?』

 

 そう言いながら、迫ってきた仮想敵を殴り飛ばした。後は彼女一人でも対処出来そうだ。

 

「それじゃあ、僕は別の場所に移動するよ」

「分かった、お互い受かるといいね」

 

 少女と言葉を交わししばしの別れを告げる。そして、僕は仮想敵を探して走り出した。

 

 

―それから暫くして・・・。

 

 

「ふぅ・・・結構倒したな」

『『『』』』

 

 倒れ伏した仮想敵を見て、僕は呟いた。あの後、試験会場内と駆け回り多くの仮想敵を倒した。

 その際でも、ピンチに陥っている受験生をサポートをしながらだ。・・・まぁ、問題はないだろう。僕がやってるのはサポートだし。

 それは兎も角、あれから時間も経ちポイントも結構貯まった。まぁ、合格は間違い無しかな?・・・だけど何か忘れてるような・・・そんな気がする。何だろうか?

 

―ゴゴゴゴゴゴゴ・・・。

 

 突如轟音を響かせ、ビルのようにデカイ仮想敵が現れた。そうだ!コイツを忘れてた!レクチャーで言っていた0P敵。なんてデカさなんだ!?

 

「うわあああ!?何だアレ、デカすぎんだろ!?」

「に、逃げるんだァ!あんなのに勝てる訳がない!」

「それにアレは0Pだ、倒したって何の得にもなりゃしねぇよ」

 

 周りの受験生達はその0P敵を見て、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 確かに彼らのいう事も一理ある、あの敵はわざわざ倒したとしてもポイントなんて入らないしメリットも全くない。

 ・・・だけど、それが『ヒーロー』として『正しい事』なのだろうか?

 周りからすれば「たかが試験で・・・」なんて思う人もいるだろうが、逆に考えてみよう。もし、あの0P敵が本物のヴィランで、試験会場が本物の町だとするのなら・・・。

 戦術的撤退なら、まだ分かる。だけど、「0Pだから」だとか、「得にもならないから」で0P敵に立ち向かわないのはいかがなものだろうか・・・。『ヒーロー』を目指すのなら立ち向かうべきだろう、ヴィランを野放しにすれば犠牲が増える一方なのだから。

 

「迸れ、蒼き雷霆よ(アームドブルー)

 

 幾たびのミッションで紡いできたこの言霊。・・・かつては、償いの為に人知れず目の前の敵を貫き滅ぼす為に紡いできた。

 ・・・だけど今は違う。

 ヒーローだと言ってくれた少女がいた。

 ヒーローになれると言ってくれた人がいた。

 だからこそ、彼らに胸を張れるような立派なヒーローになりたい。

 

「我が敵を、貫き滅ぼせッ!!!」

 

 『個性』を迸らせ0Pに向けて走り出した。

 

『死ネヨヤァァァァァァ!!!』

 

 対する0P敵も大きく腕を振りかぶり、僕に殴りかかる。それを僕は飛び上がって回避した。

 

―BLAM!BLAM!BLAM!

 

 ダートリーダーを抜き、頭部目掛けて三連射。ダートは狙い違わずに突き刺さった。

 

「これでどうだッ!」

 

 そして、着地と同時に電流をこれでもかと流し込んだ。だが・・・、

 

『カスガ、効カネェンダヨ!』

 

 装甲が厚いようで、0P敵はビクともしない。このままチマチマと装甲を削るようじゃ時間が無くなってしまう。

 ならば、どうするか?簡単だ、頭部に強大な一撃を叩き込めばいい。だとするなら・・・『アレ』だな。

 

―CLASH!

 

 再び攻撃が来た。軽く飛んで回避し、腕に飛び乗ると一気に頭に向かって走る。五月蝿い蝿を叩き潰そうと0Pヴィランがもう片方の腕を振り上げようとし・・・止まった。

 ショートでも起こしたのか?そう思ったが違う、何故ならばその腕にいつの間にかテープがロープのように巻かれてあったからだ。0P敵はそれをほどこうともがいている。

 

「おーい、無事かー!?」

 

 声が聞こえた、聞こえた方を見やると、そこにはテープを引っ張っている黒髪の痩せ型の少年、大柄でタラコ唇の少年がいた。二人とも、僕が仮想敵退治を援護した受験生だ。

 よく観ると、痩せ型の少年の両肘にリール状の器官とスリットがあり、そこからテープが出ているので、恐らくこのテープは彼の個性なのだろう。

 

「恩人を見殺しに出来なくてな、ちょいと手伝いに来たんだ。余計なお世話だったか?」

「まさか、助かったよ。ありがとう」

「ま、これで借りは返したぜ。っとと、おい!もうちょっと踏ん張れねぇのか!?」

 

 ニカっと笑いながら僕にそう返すが、0P敵がもがいた為グラリとつんのめった。痩せ型の少年の言葉に、タラコ唇の少年は脂汗をかきながら答える。

 

「む、無茶言うな・・・、コイツパワーすげぇんだよ・・・」

 

 このままじゃ近いうちに0P敵が拘束を振りほどいてしまうな。彼らが作ったチャンスを無駄にするわけにはいかない。

 僕は、再び頭へと向かって駆け出す。それと同時に、0P敵がテープの拘束を振りほどくのは同時だった!

 

『潰レロォ!!!』

 

 僕のいる方向に平手にした0P敵の手が迫る。それを僕はカゲロウで回避!それと同時に大きくジャンプし、0P敵の顔面まで肉薄する。

 

「これで、終わりだッ!!!」

 

 煌くは雷纏いし聖剣

 蒼雷の暴虐よ敵を貫け

 

スパークカリバー!いっけェェェェェェェェェッ!!!

 

―SLASH!!!

 

『ギ・・・ガッ・・・!?!?!?!』

 

 巨大な蒼い剣を腕から召喚し、放つ。僕の切り札である「スパークカリバー」

 それは、0P敵の顔面を貫き両断した。頭部を貫かれ、0P敵は動きを止めるとそのまま倒れ伏した。

 

『終了ー!』

 

 それと同時に、プレゼント・マイクの終了アナウンスが聞こえた。さてと、この高さはちと危ないし、雷撃麟でゆっくりと・・・。

 

「・・・あれ?」

 

 雷撃麟が・・・出ない。出そうとしても、プスン。と変な音が出るだけだ。・・・あ、これってまさか・・・、

 

「やば、オーバーヒート起こしちゃった・・・」

 

 『蒼き雷霆(アームドブルー)』も完璧な『個性』ではない。長所があれば短所も存在する。

 その短所が、これだ。使いすぎると、暫くは発動できない状態に陥ってしまう。・・・所謂、オーバーヒート状態って奴だ。

 よりによって高所・・・しかも落ちている最中でオーバーヒートするなんて最悪だ。何でかって?オーバーヒート状態は『蒼き雷霆(アームドブルー)』の全般が使えないからだ。つまり、今の僕は『無個性』となんら変わりないと言う事。

 そんで今現在、僕は高所で絶賛オーバーヒート中。勿論、雷撃麟によるホバリングも出来ない。・・・つまりは、

 

「わあああああああああああああっ!!!?」

 

 真っ逆さまに落ちる。と言うことだ。そのまま僕は地面に激突・・・にはならなかった。

 

「間に合えっ!!!」

 

 その声と同時に、僕は何かに受け止められた。下を見てみると、僕は巨大な掌の上にいた。これはもしかして・・・。

 

「や、大丈夫かい?間一髪だったね」

 

 始めに僕が援護したサイドテールの少女だった。恐らく、自身の手を巨大化させてクッション代わりにしたんだろう。・・・何はともあれ助かった。

 

「ありがとう、君のお陰で助かったよ」

「いいって、ヒーローってのは助け合いでしょ?それに、これで貸し借りは無しって事で」

 

 ストン。と彼女の手から降りながら僕はお礼を言った。彼女も笑ってそう返した。

 

 ちょっと、最後の辺りでポカをやらかしたがこれで僕の実技試験は終了した。時間までに多くの仮想敵を倒したし合格だと思うけど・・・何位になっているのやら・・・。

 

 

続く・・・。




今回はのび太GVの実技試験風景、のび太と一緒に受験しているキャラ(名前は伏せてあります)をどうするか悩んだり、0P敵戦にて、援護をつけるかどうか?等を考えていたらいつの間にか遅くなっていた・・・(汗)本当に申し訳ない(メタルマンの博士風に)
さて、次回は出久ちゃん&かっちゃんの受験風景となります。お楽しみに!
ではでは!


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チャプター8「入試その3」

雷霆(のび太)』が受験に挑んでいた同時刻。
何の偶然か、同じ受験会場となった謡精の少女と爆炎の少年。
『自分が1番で合格する!』
その思いを胸に、少女と少年は受験会場(戦場)を駆ける!


 時は試験開始前に遡る・・・。

 

―Side 出久

 

「試験会場、かっちゃんと一緒か・・・」

 

 試験会場で、かっちゃんの顔を見かけ思わず呟いた。

 同じ中学ではない為、私とかっちゃんがこうして試験会場が一緒なのは仕方がないと言えば仕方ないのだが・・・。

 

―ギロリ・・・。

 

(・・・殺気が凄い)

 

 物凄い殺気の篭った目でこちらを睨んでくるのだ。あわよくばこっちをぶっ潰そうと、そんな感じで。

 そんな野獣の如き眼光を放つかっちゃんから目をそらすと、こちらに来た直後、転びそうになった私を助けてくれた女の子がいた。どうやら彼女も同じ試験会場である。

 あの時は色々あってお礼が言いそびれてしまったが、あわよくばお礼を言えればいいな。そう思っていると。

 

「君達もこの試験会場だったか」

「ん?」

「あん?」

 

 声をかけられ、見やると説明会で質問をしていた眼鏡をかけた男の子が立っていた。

 

「なんだァ・・・、てめェ・・・?またイチャもんつけに来たんか?」

「かっちゃん!止めなって!」

 

 ケンカ腰で、男の子に凄むかっちゃんに私は慌てて止める。ケンカになったら一大事だ。

 対する男の子は、かっちゃんの言葉に目くじらを立てる様子は見せずかっちゃんに問いかけた。

 

「そのつもりはない。少し、聞きたい事があるだけだ」

「聞きたい事だぁ?」

 

 男の子の言葉に、かっちゃんは眉を潜める。

 

「君とガンヴォルトの関係の事についてだ。何故君はアイツを庇った?」

「・・・別に、アイツとは何の関係もねーわ。それに庇ってもいねー、アレで庇ってるとか目ェ腐っとんのか?」

 

 かっちゃんはそう吐き捨てる。そんなかっちゃんに、かみつこうとした男の子を遮るように今度はかっちゃんが問いかけた。

 

「そう言うお前は、やけにビリビ・・・ガンヴォルトの奴を眼の敵にしてんな。

 アイツに酷い目に合わされたんか?」

「・・・君には関係のない事だ」

「・・・そーかよ」

 

 ちょっとケンカになりそうな雰囲気だったけど、何事もなくて良かった・・・。おっと、安堵するのはまだ早い。いつ試験が始まってもいいように身構えないと・・・。

 そう思い、私が目の前の会場に目を向けると同時に、

 

『ハイ、スタートォ!!!』

 

 プレゼントマイクの声が響く。それと同時に、私とかっちゃんは既に飛び出していた。

 後ろを振り向くと、何がなんだか分からないとうろたえる受験生達が。

 

「ハッ、実戦にカウントダウンなんかありゃしねーっての!」

 

 他の人達に悪いけど、かっちゃんの言う事はごもっともだ。それに追い討ちをかけるように、プレゼントマイクのアナウンスが。

 

『オラオラ、走れェ!もう試験は始まってるんだぜ!?』

 

 それと同時に、慌てて受験生達が走り出した。っと、他の受験生達に気を取られるわけにはいかない。

 

『『目標捕捉、ブッ殺・・・』』

「SMASH!!!」

「死ねェ!!!」

 

 目の前の仮想敵を、倒さないと。現れた2体の仮想敵を、私は『ワン・フォー・オール』で強化(勿論、100%ではなく、許容量である10%程)した拳で、かっちゃんは爆破で撃破する。

 

「ちっ、ポイントも同時か!」

 

 倒した仮想敵を見てかっちゃんが舌打ちする。同じポイントの仮想敵だったようだ。

 

「だけど、まだ試験は始まったばかりだよかっちゃん」

「ンなのわぁっとるわ!」

 

 テメェには負けねぇからな、デクゥ!と捨て台詞めいた言葉を発し、別の場所へと向かうかっちゃん。

 さてと、私もポイントを稼がないと。そう思い、『ワン・フォー・オール』を全身に漲らせ走る!

 GVが『蒼き雷霆(アームドブルー)』を発動させてる時、電気を全身に迸らせているのをヒントに編み出した『フルカウル』だ。・・・とは言っても、まだまだ完成には程遠いけれどね。

 

『『『目標捕捉、ブッ殺ス!!』』』

 

 仮想敵が3体、徒党を組んで私に襲い掛かってくる。散開して囲まれる前に、叩く!

 

「SMASH!!!」

 

―ブッピガン!!!

 

 『ワン・フォー・オール』で強化した右ストレートで一体目をぶち抜く。そして、その残骸を持ち上げて・・・、

 

「でえええええい!」

 

 思いっきりブン投げた!狙い違わず2体に直撃。そのまま、機能停止する仮想敵。この調子でドンドン行くぞ!

 

「ん?」

 

 ふと、視界に仮想敵の群れと戦っているパッと見エレガントそうな受験生の男の子が見えた。

 ヘソ部分にあるパーツから恐らく『個性』であるビームを撃って攻撃しているが、如何せん数が多い。それに、心なしか顔色が悪そうである。

 

『あの子、ちょっと拙そうね・・・。どうする、イズク』

 

 ひょっこりとモルフォが出てきて、私に問いかける。勿論、私の答えは決まっている。

 

「助ける。ヒーローとして当たり前の事だからね」

『OK、それじゃあアタシもサポートするわ』

 

 モルフォとそう言葉を交わし、走り出す。仮想敵が気づく前に、モルフォが大きく息を吸い込む。

 

「耳塞いで!」

『Laaaaaaaaaaaaa!!!』

 

 私が、男の子に叫ぶと同時に、『謡精の雄叫び(ハウリング・オブ・ディーヴァ)』を使う。モルフォの叫びが、衝撃波となって、仮想敵を吹き飛ばした。

 だけれど、何体か討ちもらしがいる。そんな場合は、

 

「S・・・MAAAAAASH!!!」

 

 『ワン・フォー・オール』でぶっ飛ばす!そして、振り向き様に、男の子に問いかけた。

 

「大丈夫?怪我はない?」

「め、メルシー・・・怪我はないよ。ただ・・・」

 

 男の子はお腹を押さえながら続ける。

 

「『個性』の使いすぎで腹を壊しちゃって・・・、でももう大丈夫。ノープロブレムさ☆」

 

 青ざめた表情で、プルプルと震えながら彼はそう言う。・・・どう観ても、大丈夫じゃないと思うけど。

 

『本人が大丈夫なら、それでいいんじゃない?』

「そうかなぁ・・・」

 

 彼に聞こえないような声音で、モルフォと会話する。私とモルフォの会話を他所に、男の子は何気に『キラッ』と言う効果音が似合いそうなしぐさで私達に言う。

 

「それじゃあ、僕はこれで☆お互いに頑張ろう☆」

 

 そう言うと、男の子は去っていった。

 ホントに大丈夫かなぁ・・・?と心配になるが、まぁ、これは野暮なものだろう・・・。

 

『さてと、私達もガンガン稼がないとねポイント!』

「そうだね、私がGVやかっちゃんを抜いて1位にならなきゃ!」

 

 フンス!と鼻息を出して、モルフォに言う私。・・・よーし!頑張らなきゃ!!!

 

 

―そして・・・。

 

 

「ふぅ・・・これで大方は稼いだかな・・・?」

 

 一息つきながら、私は呟く。

 時折、ピンチになっている受験生を助けたりしながらポイントを稼いでいたんだけど・・・、

 

「小さいのに、凄いパワーだ!」

「まるで、ア○レちゃんみたいだ・・・」

 

 などとお礼を言われた後に、こんな事を言われた。・・・はぁ、早く大きくなりたい。

 

『無理ね』

「酷い、モルフォ!」

 

 キッパリとモルフォに一刀両断された!?ちょっと辛辣すぎない、モルフォ!?

 

―KABOOOM!!!

 

 そんなやり取りをしていると、背後で轟音が響いた。振り返ってみると、ビルを破壊し妨害用の0P仮想敵が暴れている。

 

『イズク!あれ見て!』

「ッ!!?」

 

 何かを見つけたモルフォが、その方向を指さしながら私に言う。その方向にはあの時の女の子が蹲っていた。しかも、0P敵の進行方向だ!

 それを見た瞬間、私は一目散に0P敵に向かって駆け出していた。

 

―SIDE OUT

 

―SIDE 爆豪

 

「うわあああああ!?逃げろォ!」

「あ、あんなのありかよォ!?」

「ン?」

 

 爆音と、受験生(モブ)共の怒号を聞き、後ろを振り返る。そこには、ビルを破壊し暴れまわっている巨大なロボットがいた。

 成る程、あれが0P敵か・・・。デカイな・・・。

 あまりのデカさに、受験生(モブ)共は恐れをなして逃げている。誰一人立ち向かおうとしているものはいない。・・・いや、一人だけいた。デクのヤロウだ。

 何故、デクが倒しても得の無い0P敵に立ち向かおうとしているのか?答えはすぐに分かった。0P敵(あのヤロウ)の進行方向に、丸顔の女が蹲っているからだ。恐らく、そいつを助けに行こうとしているのだろう。

 

「ったく、あのアホナード・・・!」

 

 あれほどの巨体だ。デク一人で相手にするにはいささか骨が折れる。急いで俺も救援に向かおうとしたその時だった。

 

「何やってんだ、あのチビ!?」

「ほっとけ、どうせ自殺志願者だよ。アイツが囮になってるうちに早く行こうぜ」

 

 受験生(モブ)共が言った言葉で足が止まる。・・・こいつ等何を言ってるんだ?

 仮にもヒーロー志望なんだろうが!自殺志願者だとかのたまうだけじゃなく、あろう事かデクを()として、自分(テメェ)は逃げるだァ!?

 

「君達、それでもヒーロー志望か!?」

 

 ふざけんな!と叫ぼうとした俺を遮るかのように、怒鳴り声が響く。

 その声に受験生(モブ)共はビクっとした表情で、その方向を見るとメガネ野郎が怒りの形相で睨んでいた。

 

「あの0P敵の進行方向に、女の子が蹲っているのが見えないのか!?

 彼女はその子を助けようとしているのに、その言い方は何だ!?」

「だってこれは試験じゃねぇか、ガチでやってんじゃないんだぜ?」

 

 メガネの言葉に、受験生(モブ)の一人が小ばかにしたような感じで反論する。

 

黙りたまえッ!!人を助けるのに、試験もガチもあるか!

 君の様なヤツはヒーローになる資格はない!即行に立ち去りたまえ!!!」

 

 そう言うと、メガネは0P敵に向かって走っていった。・・・なんつーか、俺があの受験生(モブ)共に言いたかった事全部言われちまったな。

 

「・・・っとこうしてる場合じゃねぇな。早くデクの元にいかねーと」

 

 そう言って、俺もデクのもとへと向かったのであった。

 

続く・・・。




いかがだったでしょうか?
青やm・・・ゲフンゲフン、ビームを撃つ受験生のキャラがイマイチ掴めない・・・。
本来ならば、お腹を壊してウ○コをもらしそうになってしまい、出久とモルフォを大急ぎで彼をトイレに連れて行く・・・と言う展開にしようと思いましたが、前述の理由と『そもそも、試験会場にトイレつけてあったっけ?』って言う疑問から、それをカットしました。
飯d・・・メガネ少年のキャラが大きく変わっておりまする・・・。当初ではこんなキャラにするつもりじゃなかったのに・・・どうしてこうなった(汗)
次回は、VS0P敵!乞うご期待!

ではでは~。


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チャプター9「入試 その4」

もう、あの時とは違う。
優しき少女を救うため少女(出久)は、謡精(モルフォ)と共に翔ける。
彼女の歌を(チカラ)にして。


―SIDE 出久

 

「大丈夫!?」

「キミ、あの時の・・・!?あの時と逆になっちゃったね」

 

 女の子の側に駆け寄り、抱き起こす。

 私を見るなり罰が悪そうに、女の子はそう言った。そう言えばこけそうになったのを助けてもらったね私・・・。

 そんな事を思い出しながら私は問いかけた。

 

「歩ける?」

「うーん、歩けるのは歩けるけど早くは走れんかな。足挫いちゃってさ」

 

 速くは走れない・・・か。かと言って、0P敵は待ってくれない。

 今にも私達を押しつぶそうと迫ってきている。

 

『ブッコロス!!!』

 

 0P敵は、そう叫ぶと同時に右手を振り上げ、私達を叩き潰そうと思いっきり振り下ろした!

 逃げても間に合いそうにない・・・、ここで立ち向かうか!?そう思い、身構えたその時だった。

 

「させるかァッッ!!!」

 

 振り下ろされた0P敵の腕を、誰かが蹴り飛ばす。蹴られ、ポイントがずれた腕は、狙い済ました場所とは違う所に叩きつけられた。

 

「君達、怪我はないか?」

 

 そう言って、こちらを見るのは眼鏡をかけた男の子。ガイダンスの時に、私とGVに食って掛かった男の子だ。

 

「私は大丈夫だよ。だけど、この子が足を挫いちゃって」

「・・・成る程な。俺が、この子を安全な場所に連れて行こう。君はどうするんだ?」

 

 どうするかか、そんなのは決まっている。

 男の子の言葉に、私はまっすぐと0P敵を見ながら答えた。

 

「私は、あの0P敵を食い止める」

「そんなん無茶や!あれ、凄くデカイよ!」

 

 私の言葉に、女の子が驚きながら制止してきた。

 そんな彼女に、私は安心させるように笑顔で答えた。

 

「大丈夫!私には、奥の手があるから」

「奥の手・・・?それは一体・・・」

『それはアタシの事よ』

 

 男の子の問いに答えるように、私の背後からいきなりモルフォが現われる。

 

「な・・・あ・・・!?」

「モ、モモモモモモモルフォオ!?何で、モルフォがここにおるん!?

 ってアレ?モルフォって確か、2年前に誰かに破壊されたんじゃ・・・?って事はウチ、夢でも見とるんやろか・・・」

 

 男の子は驚きのあまり開いた口が塞がらず、女の子に至っては、目を瞬かせながら、頬をつねったりしていた。

 ・・・まぁ、それもそうだろう。何故ならば、モルフォは2年前までは当時をときめく『国民的アイドル』だったのだから。そして今現在、表向きでは何者かに『殺害』された。となっている。

 

『そりゃあ、アタシこの子の「個性」だもの。

 この子の想いが具現化した「電子の謡精(モルフォ)」と言う名の「個性(マボロシ)」、それがアタシよ』

「そ、それじゃあ・・・2年前、彼に・・・ガンヴォルトに殺されたって言うのは・・・」

『勿論、嘘ね。恐らく研究所(プロダクション)の連中が、GVをこき下ろす為に言ったガセ情報よ』

 

 しどろもどろに問いかける男の子に、モルフォはそう言った。

 そういえば、ネットニュースとかで『人気バーチャルアイドルモルフォを殺害したのは、ヴィジランテ「ガンヴォルト」である』ってあったっけ?

 ・・・あれ?って事は、GVに食って掛かったのはもしかして・・・。

 

『イズク、気持ちは分かるけど今は後。敵さん待ってるんだから、早く行くわよ』

 

 私の考えを察するように、モルフォがいう。そうだったね、忘れてた・・・。

 気をとり直し、モルフォに頷きながら答える。

 

「うん、モルフォ『謡精の歌(ソング・オブ・ディーヴァ)』よろしくね!」

『OK!今回は久々だから思いっきり歌っちゃうわよ!2年ぶりの新曲、「蒼の彼方」!

 

 そう言うと同時に、モルフォが歌を紡ぐ。それを聞くと、体中から自然と力が湧いて来る感覚がした。

 これが、私の・・・いや、()()の奥の手『謡精の歌(ソング・オブ・ディーヴァ)』。モルフォが歌を歌う事で、対象者の身体能力を限界まで引き出す事が出来る『SPスキル』

 これにより、身体能力が引きあがっている為、こう言った芸当が出来る。

 

「ワン・フォー・オール・・・フルカウル、100%!!!」

 

 通常では、10%が限界だった『ワン・フォー・オール』もこの通り、デメリットなく100%が使えるという訳だ。ただし、あくまでも、これはモルフォが歌っている間だけ。

 モルフォが歌い終わったり何らかの理由で中断されたりしたら、元に戻ってしまう。その前に一気にケリをつける!!!

 

「それじゃあ、彼女を安全な場所によろしく!」

 

―ダッ!!!

 

 私は彼らにそう言うと、返事を言う前に地を蹴って0P敵に向かっていく。

 

『死ネヤァ!!!』

 

 対する0P敵は、ストレートで私を迎えうつ。私は慌てずに、ジャンプして回避。

 そのまま肉薄して拳を叩き込もうとするが、それを読んでいたのか、左腕で私を握りつぶそうと迫る!

 

「くたばれェ!!!」

―BOOOOOOOOOM!!!

 

 その時だ。聞き慣れた声と爆音と共に突如0P敵の腕が吹き飛んだ。

 声と爆音がした方を見やると、ツンツン頭の凶悪そうな顔。・・・かっちゃんだ。

 

「かっちゃん!」

「ハッ、何だ?そのだらしねぇツラは?別に、お前を助けた訳じゃねぇよ。

 このクソッたれをぶっ倒そうとしたらたまたま、テメェを掴もうとしていたあの手に当たっただけだ。勘違いすんなやクソナード」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、私にそういうかっちゃん。そんなかっちゃんに私は笑い返して言った。

 

「分かってるよ、そんな事は。・・・だけど、かっちゃんが吹っ飛ばしてくれたお陰で・・・」

 

 そう言って、再度0P敵の顔面目掛けて拳を振り上げ迫る!

 

「このまま、まっすぐ・・・アイツをぶん殴れるッ!」

「そう言う事かよ・・・。

 だがなぁ、コイツをぶっ殺すんは俺だ!ジャマすんじゃねぇぞデクゥ!!!」

 

 かっちゃんも負けじと、掌から爆発を起こしその反動で0P敵に向かって進み私と並んだ。

 やがて、同時に拳が届く距離に近づき・・・そして、

 

「S・・・MAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAASH!!!!!」

「死・・・ねエェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」

 

―ドワオッッ ! ! ! ! 

 

 私は拳を、かっちゃんはその手を繰り出した。全てを虚無へと返すような轟音と共に、0P敵は沈黙。それと同時に・・・。

 

「終了ー!」

 

 プレゼント・マイクが終了を告げたのだった。

 

―SIDE OUT

 

 

 

―SIDE のび太

 

「って事があったんだよ」

 

 試験が終わり、出久と爆豪君と合流した後、二人の試験の顛末を聞いた。

 

「それでね、後でその女の子から『助けてくれてありがとう』って言われたんだ。嬉しかったなぁ〜」

「そっか」

 

 僕にそう言う出久の顔は、ニコニコと満面の笑顔だ。自分の力で、誰かを助けられた事がよっぽど嬉しかったのだろう。つられて僕も自然と笑みを浮かべていた。

 

「ケッ、何かほんわかした雰囲気出しやがって・・・見せつけてんじゃねぇぞクソビリにクソデク!

 試験終わったからって浮かれんな!周りの目も考えんかい!!!」

「いきなりなんだよ、爆豪君。僕はただ、出久と喋ってるだけなんだけど」

「ええっ!?見せ付けてるって、一体何なのかっちゃん!?そそそ、そんなんじゃないよ!」

 

 唐突に、爆豪君が突っかかってくる。見せ付けてるって一体なんだ・・・?あれ?何で、出久顔を真っ赤にして慌てた様子で言ってるんだろうか?

 

(オイラの目の前でイチャコラしやがってェェェェェェェェ・・・、リア充死ね!氏ねじゃなくて死ねッッ!!!)

 

 周りと聞いて気づいたけど、何か突き刺すような視線を感じる・・・。なんと言うか、嫉妬とかそう言ったドス黒い感情が渦巻くそんな視線だ。本当に・・・一体何なんだ?

 

「ちょっといいだろうか?」

 

 そう思っていると、試験の説明で僕と出久に注意してきた眼鏡の少年がやってきた。

 

「あ?ンだテメェ、またビリビリに突っかかろうってか?あ?」

「ちょ、ちょっとかっちゃん」

 

 ドスの効いた声で、少年にすごむ爆豪君。それを止めようとする出久。・・・一触即発の空気だ。その時である。

 

「すまなかった、ガンヴォルト!!!」

「「えっ?」」

「あ?」

 

 突如、頭を下げて謝りだしたのだ。これには、僕も、爆豪君も、出久も、呆気にとられていた。

 

「ネットでの出任せを鵜呑みにして、君を『ヴィジランテ』だの『この雄英を受ける資格はない』だのと糾弾してすまなかった!」

「やっぱり、あの時モルフォを見て驚いたのはそう言う事だったんだ」

 

 少年の言葉に、出久が合点がいった感じに言った。

 

「君って、モルフォの大ファンなんでしょ?

 そのネットニュースで、GVがモルフォを殺したって思ってGVを敵視していたんじゃない?」

「・・・そうだ。ぼ・・・じゃないや俺は、彼女の・・・モルフォの歌が好きだった。

 ヒーローとしての勉強に勤しむ手前、ライブにも欠かさず行っていたんだ。2年前、ニュースでモルフォが何者かに殺害された。と知ったときは嘆き悲しんだんだよ。

 それで、ネットニュースで知って君を憎み、あの時あんな事を言ってしまったんだ」

 

 少年は再び、頭を下げ、続けた。

 

「許してもらえないとは思うが、本当にすまなかった!この通りだ!」

「もういいよ、別に気にしてないし、過ぎた事だから頭をあげてくれ」

 

 ヴィジランテだから。と糾弾されるのは慣れているが、こうやって謝罪されるとなんだか変な感じだ・・・。

 僕の言葉に、少年はパッと顔を上げると、おずおずと問いかける。

 

「ゆ、許してくれるのか?」

 

 コクリ。と頷く。少年は感無量。と言った感じで、僕にまくし立てた。

 

「君って奴は何て優しいんだ・・・!君もまたこの雄英に相応しい人間だ!

 よければ名前を教えてもらってもいいだろうか?ガンヴォルトではない本当の名前を!」

「・・・のび太。野比のび太って言うんだ」

 

 ズイっと寄ってくる彼に僕は若干引きながらも、自分の名前を教える。

 

「野比君か!いい名前だな。俺の名前は、飯田 天哉(いいだ てんや)!お互い受かってるといいな!それじゃあ!」

 

 少年、飯田君は僕にそう言うと、足早に去っていった。悪い人みたいだが・・・、何ともとっつきづらいな。

 

「でもまぁ・・・、何はともあれ後は試験結果を待つだけだな」

「うん・・・」

 

 僕の言葉に、出久が頷く。確か諺では『人事を尽くして天命を待つ』って言うんだっけか・・・。

 

「ハッ、決まってらぁ。俺が1位、お前らが2と3だ」

「さぁ?それはどうだろうね。ひょっとしたら僕が1位だったりするかもよ?」

 

 爆豪君の言葉を軽く笑いながら、そう返す。

 ムキになった爆豪君と口論になりながら家への帰路へと向かうのであった・・・。

 

続く・・・。




気づいたらゴールデンウィークも最終日。
だけれど、コロナの所為で何処もいけず・・・これも全てコロナが悪いんや・・・(血涙)
さて、今回は本作初の謡精の歌(ソング・オブ・ディーヴァ)発動回。ヒロアカ原作では、壊理ちゃん無しでは出来なかったワン・フォー・オール・フルカウル100%がソロで出来ちゃったりと結構なチート能力となっております。歌は今回歌った『蒼の彼方』だけでなく、何パターンもあります。勿論、水没のテーマもありますよw
そして、メガネ少年の名前が明らかに・・・まぁ、飯田君ですけどね。・・・キャラあってるかなぁ、不安である。
さて、試験結果はどうなのか・・・?それは作者()のみぞしる。
次回もお楽しみに、それでは~。


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チャプター10『帰郷』

すすきが原―
 蒼き雷霆(のび太)の故郷。そして、親友達と少年時代をすごした場所。
 雄英合格の報告の為、そして、過去(ツミ)と向き合う為。
 少年は再び、その地に降り立つ。


−SIDE のび太

 

『すすきが原~、すすきが原です。お降りの際はお荷物をお忘れないようにご注意下さい』

「ふぅ・・・」

 

 電車のアナウンスを聞きながら、電車を降りる。

 視界の先には、生まれ育ったすすきが原の懐かしい街並みが広がっていた。

 

「あまり変わってないな、この街も」

 

 4年ぶりの故郷を見て、僕はポツリと呟く。

 今までは行こうと思ってもドラえもんを、家族を死なせてしまった罪悪感で行けなかったこの街。

 何故、僕がここに来たのかと言うと、ヘドロ事件にて迷いに踏ん切りがついたのと、ある事をパパやママ、ドラえもんの墓前に報告しに来たからだ。

 そう、『雄英高校入試合格』の報告に。

 

ー昨日、翼の家にて。

 

「のび太、結果通知が来たぞ」

「来たか・・・」

 

 蒼一郎さんから手渡された雄英高校から来た封筒を手に取りながら僕は呟いた。

 合格はしてはいるだろうが、やはり緊張はする。深呼吸しながら、僕は封を切り封筒の中身を取り出した。入っていたのは何かの機械。これで合否の報告をするのだろうか?そう思いながら、ボタンを押してみる。

 

『私が、投影されたッ!!!』

 

 映し出されたのは、マッスルフォーム姿の俊典さん。合否発表に彼が出るのはやっぱり、雄英のOBだからだろうか・・・?そんな僕の疑問に答えるように、映像の中の俊典さんは、こう答えた。

 

『何故、私がここに映っているのか?って顔をしているだろうね。何故なら、今年から雄英高校で教師を務めるからさ!』

「マジで!?」

「ええっ!?」

「ウッソだろォ!?オールマイトが教師やるのかよ!?」

 

 思わずそう呟いてしまった。俊典さん、そんな事一言も話してなかったしなぁ。いつの間に来ていたモニカさんとジーノも驚いている。ただ一人驚いていないのがいた。そう、蒼一郎さんだ。

 

「・・・あれ?何で、蒼一郎さん驚いてないの?」

「驚くもも何も、知っているからな。俊典がティーチャーをすると言うのは。

 何せ、私も雄英でティーチャーをやらないか?と『根津校長』からオファーが来たんだ」

「へぇー、リーダーも雄英で教師になるのか。・・・うわ、当たっちまった生徒が可愛そうだな

 

 僕の問いに、答える蒼一郎さんに思わず驚くジーノ。・・・最後、ボソリと呟いたみたいだけど聞こえてるよ。

 

「ジーノ、後でみっちりと鍛えてやろう」

「すいません許して下さい何でもしますから」

 

 勿論、蒼一郎さんにもばっちり聞こえていたようだ。それを聞いたジーノは顔面蒼白で即座に土下座した。

 そんな事は気にせず(映像なので当たり前だが)俊典さんは話を続ける。

 

『さて、いろいろ話したいところだけど時間が押しているからね。単刀直入に結果発表と行こうじゃないか!

 筆記試験は可も無く不可も無く合格点。実技は70Pこれも文句なしで合格点だ!』

 

 うーむ、70ポイントか・・・。爆豪君とかは、結構倒してそうだし・・・ちょっとこれは負けたかな・・・。

 そう思っていると、だがしかし!と俊典さんは続けざまにいう。

 

『先の試験で見ていたのはヴィランポイントのみならず!実は、レスキューポイントと言う救助活動をした事による審査制のポイントも加算されるという訳さ!ヒーローと言うのは、困っている人を助けるのが仕事だからね!

 と言う訳で、野比のび太!レスキューポイントは90P!合計で130P、おめでとう!文句なしの合格、しかも主席合格者・・・その3人のうちの一人だ!』

 

 それを聞いてすぐさま察した、残りの二人は出久と爆豪君なのだと。・・・爆豪君、今頃悔しがってるだろうなぁ・・・。

 

『さぁ、来いよのび太少年!雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!!』

 

「合格おめでとう!」

おめでとう(コングラッツレーション)、のび太」

「首席合格ってやるじゃねぇか!」

 

 モニカさん、蒼一郎さん、ジーノが合格発表を聞き、そう言って祝福した。これから始まるんだ、僕のヒーローになる為の長い道のりが・・・。でも、その前にやらなきゃならないことがある。

 

「ありがとう。・・・あのさ、明日なんだけど」

 

 僕がヒーローとしての道を歩むのに眼を背けてはいけない事。そう・・・、

 

「僕が前にいた街に行ってもいいかな?すすきが原に」

 

 ドラえもん達に報告をしに・・・。蒼一郎さんは、合点がいった感じで答えた。

 

「・・・成る程。自分の中の罪悪感と、決着をつけに行くのか」

「・・・うん。そうじゃないと、前に進めないって思うからね」

 

 頷きながら、僕はそう答えた。蒼一郎さんは、フッと短く笑い続けた。

 

「ならば、旅費は私達が持とう。のび太、明日は久々の帰郷を楽しみたまえ」

「・・・ありがとう、蒼一郎さん」

 

 

~そして、現在へと至る。

 

 子供の頃歩いていた街並みを歩く。

 お菓子屋、本屋、八百屋・・・エトセトラエトセトラ、どれも僕がこの町を出てからというものあまり変わっていないようだった。

 ふと、とあるお店が目に入り立ち止まる。少々古ぼけたお店だ。

 

「ここもまだあったんだな・・・『剛田雑貨店』」

 

 僕の昔なじみの友達、剛田タケシ。通称『ジャイアン』が住んでいる家である。

 新横崎市(こっち)に引っ越してから4年間も音沙汰無しだったから、怒ってるだろうなぁ・・・。鉢合わせでもしたら、拳の一発も貰いそう・・・。カゲロウがあるから痛くもないが。あの一発は今でもトラウマだ。でもまぁ・・・。

 

「仕方ないか、連絡も寄越さなかった僕が悪いし。当たって砕けろだな」

 

 ため息をつきながら、僕は4年ぶりの再会をするべく雑貨店の中へと入る。

 

「こんにちは〜・・・」

「いらっしゃい、何をお探し・・・あら?」

 

 出迎えたのは何処となくジャイアンに瓜二つなジャイアンママ。僕を見て訝しげな表情を浮かべた。

 ・・・やはり、変装しないで来たのは間違いだったかなぁ・・・。

 ジャイアンママを見ながら、そう思っていると懐かしそうに手を合わせ、こう言った。

 

「ひょっとして、野比さんの所ののび太ちゃんかい!?久しぶりだねぇ!」

「は、はい」

 

 僕がのび太だと、気づいたようだ。・・・と言うか何で、分かったんだろうか。金髪だし、眼鏡かけてないしで結構、原型留めてないと思うんだけど・・・。

 まぁ、そんな事はさておきだ。ジャイアンは何処にいるのか聞かないと。

 

「僕、ジャイア・・・じゃないや、タケシ君に用があって来たんですが、タケシ君は何処ですか?」

「タケシかい?タケシはこの時間帯だと・・・『あそこ』だねぇ」

 

 僕の問いに、ジャイアンママは時計を見ながら僕に言う。

 

「あそこ?」

「のび太ちゃん家の跡地だよ。

 のび太ちゃんは知らないだろうけどあそこに、ドラえもんちゃんのお墓を建てて、今の時間帯に、友達と一緒に花やマンガとかをお供えするのさ」

 

 ・・・皆そんな事をしてたのか。それを聞いて、僕は自分が情けなくなった。

 僕が罪悪感を理由に、逃げ続けていた間にも皆はドラえもんのお墓を建てて、お墓参りをしていたんだ・・・。

 

「皆に謝らなきゃな・・・。おばさん、ありがとうございました」

 

 僕は、そう小さく呟くとジャイアンママにそう言って、雑貨店を出た。

 しばらく歩くと、見慣れた塀があるのが見えた。昔ならば、僕の家がある所。・・・でも、今は焼け落ちてしまって、塀を遺して何もない場所だ。

 その場所に、三人の男女がいるのが見えた。体の大きい少年、キツネのような少年、そして、どこか優しそうな少女。・・・言うまでもない、ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんの三人だ。

 

「久しぶりだね、皆」

 

 僕の声で、3人が僕のほうを振り返る。

 

「「「の、のび太(さん)!!!」」」

 

 驚きながら、僕を見る三人。何故、僕の事が分かったのかと言うと、4年前のあの事件でオールマイトに救出された後、病院に入院していた時に見舞いに来たことがあったからだ。

 その時に、変わり果てた僕の姿を見ている為、僕だと分かったのである。

 暫くしてから、僕は3人に頭を下げた。

 

「今まで、4年間連絡を寄越さないでゴメン」

 

 僕に出来る精一杯の謝罪、謝って済む問題では無いのはわかってる。でも言わずにはいられなかった。

 

「・・・のび太」

 

 長い沈黙の後、口を開いたのはジャイアンだった。顔を上げると、無表情でこちらを見ていた。

 

「4年間、今まで何してた?」

「・・・ちょっと色々とね。新横崎市に引っ越したんだよ」

「そうか・・・」

 

 再びの沈黙、次の瞬間には拳が飛んでくるのだろうか・・・?などと思っていると、ジャイアンは静かに僕に告げた。

 

「本当なら、退院後にいきなり行方をくらまして、4年間もろくすっぽ連絡を寄越さなかったお前をギッタンギッタンにしてやろうかな。・・・って思ってた」

 

 ・・・やっぱりそう思ってたのか。

 そう思って顔をこわばらせている僕とは裏腹に、ジャイアンはだけど・・・。と小さく言葉を紡いで続けた。

 

「何でかな、お前の元気そうな顔を見てたらそんな気持ちも失せちまったよ。・・・お帰り、のび太」

「―――」

 

 そう言って、肩に手をポンと置きながらニッカリと笑顔を見せるジャイアン。僕はそれを見て、何か胸に熱いものがこみ上げてくるのが分かった。

 それと同時に、視界が歪み、何かが頬を伝って落ちていくのが分かった。・・・どうやら僕は泣いているらしい。ヘドロ事件後で泣いたときと同じように今まで、抑えていた感情が制御できない。

 ありがとう、そしてゴメン・・・。そう言葉を紡ごうにも出てくるのは嗚咽だけだった。

 

「・・・ったく、4年経ってものび太はのび太だなぁ」

「ホントにね」

 

 苦笑交じりに、僕の背中をさすりながらジャイアンは言う。それに同意するスネ夫。・・・うーん、反論出来ないのが辛い・・・。

 

「でも、元気そうで良かったわ。のび太さん」

 

 そんな僕を見ながら、しずかちゃんはウフフっと笑った。そして、その笑顔で僕に言った。

 

「おかえりなさい、のび太さん」

「うん、ただいま・・・皆」

 

 こうして、僕は旧友達と4年越しの再会を果たしたのであった。

 

―そして、暫くして・・・。

 

 僕は、一人墓前の前に立っている。ジャイアン達は帰る頃だったらしく、暫く昔話に花を咲かせた後帰って行った。雄英に合格した。と僕が話したときは凄く驚かれたものの、頑張れよとエールを貰ったのは嬉しかった。

 

「ドラえもん、パパ、ママ・・・久しぶりだね」

 

 墓前に手を合わせながら、僕は語りかける。

 

「4年間も連絡に来なくてごめん。・・・4年前、僕の所為でこうなってしまったから皆に会わせる顔がないって思ってたんだ。その事実に耐えられなかったんだ。

 だから、蒼一郎さんの申し出を二つ返事で答えて、引越しと言う形で、すすきが原から逃げ出した」

 

 そして贖罪を口実に、ヴィジランテ『蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト』として戦い続けた。表舞台には姿を見せず、隠れるように、逃げるように。

 

「僕はずっと、あの日からヒーローになる資格なんかないって思ってた。

 だけど、出久や俊典さんが言ってくれたんだ・・・、『君はヒーローになれる』って。だから僕は決めたんだ、ヒーローになるって」

 

 そう言って、微笑みを浮かべながら、僕は続けた。

 

「それで、僕雄英を受験して合格したんだ。

 これからもっと頑張ってヒーローになって、多くの人を救ってみせる。ドラえもん達の分まで・・・、それが僕に出来る償いなんだ。・・・だから、見守っててくれよ・・・ドラえもん、パパ、ママ・・・」

 

 誓いを立てるようにそう言って、僕はその場を去った。その去り際に、

 

『のび太君』

 

 と、ドラえもんの声が聞こえたような気がした・・・。

 

 そして、時は流れ・・・。僕達の雄英高校入学式が始まろうとしていた。 

 

続く・・・。




ようやく、ドラえもんキャラを出せたなと思っております。
だけど、あまり喋れてなかったのは少し反省。彼らがヒロアカサイドとどう絡んでいくのかは・・・、まだ未定ですね。
さて、次回から漸く雄英高校入学・・・となりますが、ちょっとオリジナル展解とかも考えております。(ヒント、蒼一郎さんのセリフに伏線がはっております)
では、また次回お会いしましょう。ではでは~。


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チャプター11『入学』

狭き門をくぐり抜け再び、少年少女達はこの学舎(ヒーローアカデミア)へと集う。
さぁ、踏み出そう。
平和の象徴(ヒーロー)への一歩を。


-SIDE のび太

 

「ハンカチとティッシュは持った。その他の準備も・・・OKだな」

 

 なんだかんだあって入学式当日。雄英の制服に袖を通した僕は、持っていくものの入念チェックを行っていた。

 

「ホントに大丈夫か?お前、肝心な時に忘れ物するからな」

「大丈夫だよ、ジーノ。昔の僕じゃ無いんだからさ」

 

 それを見ていたジーノに茶々を入れられるが、僕はサラリと返す。

 この歳になって、忘れ物などは滅多にしなくはなったが、念のためだ。せっかくの雄英生デビューが、忘れ物やらかしてパー。と言う訳にはいかない。

 よし、忘れ物は無いみたいだ。蒼一郎さんは一足早く出ているから、僕も早く行かないとな。僕はカバンを手に取って立ち上がると、ジーノとモニカさんに向き直りながら言った。

 

「それじゃあ行ってきます!」

「「行ってらっしゃい!」」

 

 そして、勢いよく『翼の家』を出る。さぁ、雄英生生活第1日目、頑張るぞ!

 

ー雄英高校。

 

「中も結構広かったね・・・」

「ああ、拳藤(けんどう)さんの案内がなかったら迷ってたよ。ありがとう拳藤さん」

「いいよ、ヒーローってのは助け合いだからね。じゃ、私はB組だからそっちの教室に行くね」

 

 あの後、出久と合流し何事もなく雄英高校へとたどり着いた。のはいいが、さすがは天下の雄英。凄く広すぎて1-Aの教室がさっぱりと言っていいほど分からなかった。

 そんな僕達に声をかけたのが、実技試験の時に僕を助けてくれたサイドテールの女の子、拳藤 一佳(けんどう いつか)さんだった。

 先輩経由で、雄英高校の内部を知っていた彼女の案内で、僕らは1-Aの教室に着いた。

 

「凄く・・・大きいなこのドア」

「うん」

 

 クラスが違う拳藤さんと別れた後、改めて大きめなドアを見ながら言い合う。まぁ、様々な個性があるから『巨大化』とか、そう言った個性に応じてこんな大きさなんだろう。

 こんな所で立ち止まってたら迷惑になるので、ササっとドアを開けて入る。その先には・・・。

 

机に足をかけるな!

 偉大な先輩方と机の製作者に申し訳ないと思わないのか!?」

「思わねーよ、机をどうしようが俺の勝手だろ?」

 

 一足先に着いたであろう爆豪君と、飯田君が言い争っているのが見えた。何やってんだか爆豪君・・・。

 

『てい』

 

―スパァン!

 

「んがっ!?」

「モルフォ!?」

 

 そう思っていると、いつの間にかモルフォが爆豪君の背後に立ってハリセンで叩いた。・・・どっから持ってきたんだ、そのハリセン?

 頭を抑えながら、爆豪君は振り向くと、モルフォに怒鳴った。

 

「この蝶々女!いきなり何しやがる!?」

『それはコッチのセリフよ。何入学初日にテンヤと揉めてるのよ』

「何もしてねーわ!あのメガネが勝手に俺に食ってかかってるだけだ!」

 

 ギャーギャーと言い争うモルフォと爆豪君。

 飯田君は飯田君で、「あのモルフォに名前呼び・・・、感激だ!」と男泣きしていた。よっぽどファンだったみたいだね、彼。

 その一方で、ざわざわとギャラリーが集まりざわめき出した。

 

「見ろよ、モルフォだ。生モルフォだぜ!」

「試験会場で、モルフォが居たって噂は本当だったんだね」

「サイン貰おっかな私!」

「間近で見ると良いオッパイしてるぜ・・・」

 

 殆どがモルフォ目当てのようだ。最後らへんに欲望丸出しなセリフがあったけど・・・そっとしておこう。

 

「おっ?お前もA組みたいだな」

「ん?君は確か・・・」

 

 不意に声がかかり、振り向くと実技試験で0P敵の足止めをしてくれた痩せ型の男の子が居た。

 

「自己紹介がまだだったな、俺は瀬呂 範太(せろ はんた)ってんだ。3年間宜しくなガンヴォルト」

「改めて自己紹介するけど、僕は野比 のび太。

 ガンヴォルトでも本名呼びでも構わないよ、宜しくね、瀬呂君」

 

 互いに自己紹介する僕と瀬呂君。もう1人にたらこ唇の彼は、どうなったのだろうか?と思っていたら、あっさりと見つけられた。

 たらこ唇の彼の名は、砂藤 力道(さとう りきどう)と言う名前だそうだ。瀬呂君の時と同じく、自己紹介をする。

 その後、出久が実技試験で助けたらしい丸顔の女の子、麗日 お茶子(うららか おちゃこ)を初めとする、1-A組の面々と挨拶を交わした。皆、殆どが中学の時のクラスメート同様友好的に接してくれて来てくれた。若干、入試前の飯田君みたいな対応されたらどうしようと焦っていたが杞憂に終わったらしい。

 そこへ・・・、

 

Be quiet(静かにしろ)。ここはヒーロー科だ、私語は慎むように。全員、席にシットダウンするんだ」

 

 ガラリ。と、ドアが開き、1人の男が入ってきた。その男は僕にとっても、出久にとっても、よく知っている人だ。

 

「「蒼一郎さん!?」」

「スクールでは先生と呼ぶようにしたまえ、野比に緑谷」

 

 まさかの担任が、蒼一郎さんだった。出久共々驚いてついうっかり名前で呼んでしまい、注意を受ける。

 そんでもって、全員が席に座るのを見届けて、蒼一郎さんは黒板に自分の名前を書いた。

 

「今日からこのクラスの担任となる八木 蒼一郎だ。宜しく頼む」

 

 蒼一郎さんは自己紹介をすると、おもむろに体操服を取り出して続けた。

 

「さて、突然ではあるが体操服を着てグラウンドに集合するんだ」

「え?グラウンド・・・ですか?」

 

 蒼一郎さんの言葉に、飯田君が問いかける。

 

「うむ、ちょっとしたテストだ」

「え!?入学式とかはどうするんです!?」

「ヒーローに、そんな非合理的な行事は不要だ」

 

 驚くように問いかける飯田君に、答えたのは蒼一郎さんでは無く第三者の声。その声がした方を見やると、蒼一郎さんの足元にその人物はいた。

 黄色い寝袋であろう、そこからひょっこりと顔を出してるボサボサ髪に無精髭を生やした男がこちらを見ていた。蒼一郎さんはその男を見るとこう口を開いた。

 

「ふむ、ここに居たのか。諸君、紹介しよう。こちらの方は副担任の相澤 消太(あいざわ しょうた)先生。

 見てくれは不審人物みたいではあるが、れっきとしたティーチャーだ」

 

 蒼一郎さんの紹介を受けて、寝袋から這い出るとよろしくね。と相澤先生はそう言った。

 

「雄英は自由が校風の売り文句。先生もまた然りって事さ。つー訳で、さっさと着替えてグラウンドに集合しろ。時間は有限だからな」

 

 そんなこんなで、僕達は入学式そっちのけで体操服に着替えた後、グラウンドに集合する事になった。

 

 

―場所は変わってグラウンド

 

「「「「「個性把握テスト????」」」」」

 

 グラウンドに集まって相澤先生と蒼一郎さんから告げられたテスト内容は、『個性把握テスト』と言うもの。

 一体それは何なのか?というA組全員の疑問を解消するように、相澤先生が答えた。

 

「簡単に言えば、中学の頃にやってた体力テストの個性を使用していいバージョンって言えば分かりやすいか?」

 

 『この世界』での中学の体力テストは、個性の使用は禁じられている。謂わば、『僕が元居た世界』と何ら変わらない体力テストだ。

 

「つまり、個性を使用する事で自分の『最大限』を知るって事ですかね?」

「ま、そー言う事。それが、ヒーローとしての素地を形成する合理的手段って事だ」

 

 僕の言葉に、頷くように相澤先生が答える。

 

「えっ!思いっきり個性使って良いのか!?」

「スッゲー!流石ヒーロー科!」

「オモシロそー!」

 

 個性が使えると知って、一気にざわめき出すA組の面々。

 最後に誰かが言った「面白そう」と言う言葉に、相澤先生の目が僅かに鋭くなった。・・・何かやな予感。

 

「面白そう、ねぇ・・・。

 お前らこの3年間、そんな腹積りで過ごす気か?なら、もっと面白くしてやろう。このテストで、最下位の奴は見込み無しと判断し除籍ってのはどうだ?」

「「「「はァァァァァッ!!?」」」」

 

 相澤先生の爆弾発言に、蒼一郎さん、僕、爆豪君、出久を除いたA組全員の絶叫がグラウンド内に響いた。

 

「やな予感的中だ・・・」

 

 突如としてやってきた試練に、僕はため息混じりに呟いて天を仰いだ。

 

続く・・・




お待たせしました。
やっとこさ雄英入学にこぎ着けました。ここまで来るのに結構掛かったような気がする・・・。
まぁ、他の小説も並行してやってるのでしょうがないと言えばしょうがないですが・・・。うーむ、早く書けるようになりたい(切実)
次回は個性把握テストとなります。果たして除籍されるのは一体誰か!?
次回もお楽しみに!それではー。


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