ガールズバンドの子たちに甘やかされる日常【完結】 (薮椿)
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Poppin'Partyに甘やかされる

 某月某日、土曜日の真昼間。

 

 今日も今日とてネットで逐次的欲求発散行為、いわゆるマスターベーションのネタ探しが始まる。外は雲1つない快晴なのに、部屋に籠ってオナネタの探求だなんて、自分が陰キャの中のド陰キャだって自覚はしているんだ。でも、オナネタを探している時の時間が何よりも至高だからやめられない。ベッドの上で1人で耽っている時もそりゃ気持ちいいけど、今日はどんなネタを使うか物漁りをしている時の背徳感に勝る快感はないよね。

 

 それに、偉い人がこう言っていた。美味しいモノを食べるのは楽しいが、一番楽しいのはそれを待っている間だって。さっき僕が言っていたことと少しニュアンスは違うかもしれないけど、自慰行為でも同じことが言えるんじゃないかな? 毎日同じ時間帯にPCの前に座り、目を皿にしてネタを探す。いいネタを見つけたらとりあえずブックマークし、ある程度集まったらブクマしたネタの中から今日のオカズに使用するモノを選定する。このサイクルを毎日やってるけど、決して飽きることがない。むしろ毎日のこの時間が楽しみすぎて、このためだけに生きているって感じがするよ。

 

 

 …………うん、分かってる。自分でも最底辺な人生を歩んでいるって。でも仕方ないじゃん、身体に迸る快感が気持ちいんだから!!

 

 

 ちなみに、さっき同じサイクルを毎日繰り返していると言ったけど、その言葉に偽りはなく1年中365日通してだ。平日も休日も休むことなく、昼間はベッドの上で1人格闘技を披露している。ここまで聞いてお察しの通り、僕は学校にも行っていなければ働いてもいない。まぁ、いわゆるニートってやつだ。自分でニート宣言するほど恥ずかしいことはないけど、事実は事実だし、それに隠していたとしてもこの後すぐにバレるだろうから……。

 

 

 とりあえず、その"すぐ"が来る前にやることはサッサとやっておかないと。

 僕が一番嫌いなのはニートである自分自身でも、僕を社会に適合させてくれないこの世の中でもない。オカズ探しから格闘技のフィニッシュまでのひと時を邪魔されることだ。ニートであることをどれだけ咎められてもいいけど、マスベの妨害だけは誰であろうとも許さないから。

 

 ……う~ん。今日は新しいオカズを探す予定だったけど、僕の目に敵うモノが見つからず時間を食っちゃったから、仕方ないけどお気に入りの時間停止モノのAVで我慢しよう。

 

 ティッシュの在庫はOK。ゴミ箱も近くに配置。イカ臭い匂いを誤魔化す用の消臭スプレーも準備完了。あとはベッドに寝転んで、スマホに保存してあるこの動画を再生するだけ。ダメだ、動画の内容を知っているだけに、想像しただけで下半身の一点に血の気が……!! 待て待て落ち着いて我が息子。もうすぐその興奮を解き放ってあげるからね。

 

 

 さぁ、今日も僕に最高の興奮を――――――

 

 

「おっはよーーーーっ!!」

 

 

「うわぁ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああ!?」

 

 

 ベッドに寝転がって動画を再生しようとした、まさにその時だった。僕の部屋のドアが壊れるくらいの勢いで開け放たれ、そこから5人の女の子たちが乱入してくる。

 

 どうやって鍵のかかっている僕の家に侵入したのか、どうしてノックもせずに部屋に入ってくるのか、もはやそんなことは()()()()()()だ。でも、今日に限って()()()()()早い時間に来るなんて……!!

 

 

「か、香澄ちゃん!? いつも言ってるけどノックくらいしてよ!!」

「えへへ~ゴメンゴメン。早く秋人(あきと)くんに会いたくって!」

「会いに来てくれるのは嬉しいんだけど、事前に連絡するとか、せめて部屋の前で声をかけてくれると嬉しいんだけど……」

 

 

 こうして、こちらの事情なんてお構いなしに突撃してくるのが香澄ちゃんたちだ。本人たち曰く、『どうせニートなんだし、予定も何もないから暇でしょ』らしい。確かにニートで予定もないから何も言い返せないけど、親しき中にも礼儀ありだ。それに全く予定がない訳でもなく、僕だってほらそのぉ……マスベの予定がね?? だったらその時間をズラせばいいんじゃなかと思うかもしれないけど、僕は昼間のこの時間帯にやるのが好きなんだ。特に平日の昼間は学校や仕事に行っている人が大半で、その人たちが汗水垂らしている時間に自慰行為に耽るのがこれまた爽快感。それに香澄ちゃんたちに合わせて時間を変えちゃったら、それって負けた気分にならない? ニートでもゴミクズくらいのプライドはあるんだよ。

 

 

「そういや、今日はPoppin'Partyのみんなが勢揃いだね」

「ゴメンなさい秋人くん、突然押しかけちゃって。ビックリしちゃったよね……?」

「そう言ってもらえるだけでも嬉しいよ、りみちゃん」

「香澄が秋人に連絡を入れたって言ってたんだけど、その様子を見ると嘘だったみたいだね……」

「そうだったんだ。沙綾ちゃんに嘘をついてまで、僕にサプライズしたかったのかな……」

「あはは、香澄のことだからあり得そう」

 

 

 こうやって僕のことを考えてくれるのは、りみちゃんや沙綾ちゃんと言った真面目な子たちだけだ。現に香澄ちゃんと、同じバンドメンバーのたえちゃんは早速僕の部屋に山積みされてるゲームで遊ぼうとしている。アポなしで人の部屋に上がり込んで、しかも部屋のモノを勝手に物色するなんて失礼極まりないけど、これが日常になってるからもう慣れた。だからと言って、アポなし訪問が許されるとか、そういうことじゃないからね?

 

 

「全く、またこんなに散らかして……。洗濯物も溜めたままかよ」

「あっ、有咲ちゃん。掃除は僕がするからいいのに」

「しないから部屋が汚くなるんだろ? ほら、洗濯物貸して。部屋掃除のついでに洗濯もしてやるから」

「その優しさは嬉しいんだけどね……」

「べ、別にお前のためじゃねぇから! こうしないと他のみんながうるさいから仕方なく……」

 

 

 有咲ちゃんたちは僕の部屋に来るたびにこうして世話を焼いてくれる。正直に言って僕は掃除ができない人間なので、部屋をキレイにしたり洗濯をするには誰かの手を借りなければならない。だから有咲ちゃんたちの好意はとっても嬉しいんだけど、今はちょっとマズいことがあるんだよね……。

 

 

 とりあえず、この洗濯物だけは何とか死守しないと……!!

 

 

「……おい秋人、そこにいたら洗濯物が取れないんだけど?」

「い、いやぁ今日はまだ洗濯しなくてもいいかなぁ~って」

「その山積みの洗濯物を見てよくそんなことが言えるなお前……。どう見ても3日分くらいは溜まってるだろ」

「ま、まぁニートだから服くらいどうなっても……」

 

 

「あっ、これは2日前の服だ。そしてこれは昨日の服」

「うひゃぁ!? た、たえちゃん!? その服は――――って、どうしていつ着てた服なんて分かるの!?」

「何でも分かるよ、秋人のことなら。大好きだもん」

「あ、ありがとう――――って、そういうことじゃなくて!!」

 

 

 さっきまでゲームをしていたはずなのに、いつの間にか僕の後ろに忍び寄っていたたえちゃん。有咲ちゃんとの対決に集中し過ぎて、彼女が忍び寄っていることに気付かなかった。たえちゃんは既に僕の洗濯物を握りしめており、今にも僕の手から奪取しようとしている。そのことに気付いた時には時すでに遅く、僕が抵抗する前にたえちゃんに洗濯物をひったくられてしまった。

 

 

「私たちが洗濯してあげるから、秋人は休んでて……あれ?」

「ん? どうしたおたえ? 洗濯物なら早くこっちに……」

「あっ、そ、それを見たらダメ!」

 

 

 たえちゃんが持っている洗濯物の中から雑誌が零れ落ち、近くにいたりみちゃんの足元に散らばる。

 やってしまった……と、僕は頭を抱えそうになった。だって、洗濯物から落ちた雑誌はただの雑誌ではなく―――――

 

 同じく近くにいた香澄ちゃんが、落ちた雑誌のタイトルを読み上げる。

 

 

「『猫耳少女をペットに堕とすまで』、『ツンデレの金髪ロリ巨乳を躾けたい!』、『天然少女を騙して玩具にしてみた』、『お姉ちゃんのような同級生を催眠指導』、『臆病で気弱な少女を時間停止してヤりまくり』……なんか、変わった漫画だね!」

「それだけで片付けんなお前!! 秋人、お前も何考えてんだ!?」

「あ、有咲ちゃん顔近いって!!」

 

 

 しまった……。ネタ探しに夢中になっていたせいで、薄い本を健全な雑誌の表紙でカモフラージュすることをすっかり忘れていた。彼女たちはいつもこの時間帯に来ると分かっていたはずなのに……。やっぱり人間って、性欲に憑りつかれると正気を失っちゃうよね。だからこそこの世に強姦事件が蔓延っているんだろう……な~んて、冗談を言ってる場合じゃないか。

 

 

「なるほどね。秋人は私たちにこんなことがしたかったんだねぇ~ふ~ん」

「さ、沙綾ちゃん? どうして笑ってるの……? それに私たちって、どういうことかなぁ……あはは」

「さぁ? どういうことだろうねぇ~?」

 

 

 バ、バレてる! 床に散らばった雑誌の内容のモチーフが、()()()()()()()に似ていることを。だけど沙綾ちゃんは真実を口にすることはなく、ただ悪戯な笑顔で僕を見つめるばかりだ。ちょっとばかりからかい癖があるのが沙綾ちゃんの悪い癖だよ……。

 

 そして、余裕そうな彼女とは対照的に、りみちゃんが顔を真っ赤にして震えている。

 

 

「えっ……ふえぇ!?」

 

 

 某幸せの国バンドにいるクラゲの先輩が発するような呻き声で、あまりの衝撃に生まれたてのヒヨコみたいな声しか出ていない。顔の沸騰は止まらず、今にも蒸発しきって気絶してしまいそうだ。

 

 ある子は怒ったり、ある子はからかってきたり、ある子は沸騰しそうになっていたりと、僕の部屋がてんやわんやしてきた。

 そんな慌ただしい状況に一石を投じたのは、さっき散らばった薄い本のタイトルを読み上げて場を滅茶苦茶にした香澄ちゃんだ。

 

 

「な~んだ、そんなことなら早く言ってくれればいいのに!」

「へ? な、なに!?」

「んっふっふ~そういうことだったんだねぇ~」

 

 

 香澄ちゃんは悪い笑顔を浮かべながら、僕の両肩に手を置く。女の子特有のいい匂いに思わず打ちのめされそうになるも、彼女がこの顔をする時は決まって碌でもないことが起きると知っているので、何とか正気を保って警戒態勢に入る。

 

 とは言うものの、僕はニートをやっているせいか力がなく、日々バンドの練習で自然と体力が鍛えられている香澄ちゃんたちは到底敵わないだろう。だから警戒態勢に入ると言っても、僕には彼女たちに抵抗できるほどのパワーはない。つまり、一度こうして捕まってしまったら、彼女たちのされるがままになってしまうんだ。まぁ、こうなるのもほぼ毎日のことだからもう慣れたけどね……。

 

 すると、香澄ちゃんに気を取られていたせいか、またしても背後に忍び寄る陰に気付かなかった。

 

 

「言ってくれれば、私たちが相手したのに」

「うわっ、ちょっ、何言ってるの!? って、たえちゃん!? 耳かじらないでよ!?」

「相変わらずウブだね。男の子なのに、とっても可愛い」

「耳元で囁かないで! くすぐったいから!!」

 

 

 みんなは自分たちをモチーフにした薄い本を見ても嫌悪せず、何故か卑しい桃色のオーラを放出させていた。妖艶な表情をしている子もいれば、頬を赤らめて如何にも恋する思春期女子のような表情をしている子もいる。例え高校生のガールズバンドと言えども、多くの人にその存在を知られている子たちだ。だからニートの男に対してそんな表情をするのはどうかと思う。だけど、またこれが()()()()()()なんだ。

 

 ガールズバンドのみんなは僕の部屋に来ている時だけ()()()()()()()()。バンドの映像を見る限りでは輝かしい清純な乙女たちなのに、どうして僕の部屋だと思考回路が逝っちゃうんだろうなぁ……。それに普通じゃないのが日常って、なんか矛盾してるような気もするけど……。

 

 するとその時、突然後ろから抱き着かれた。

 この母性を感じられるほどのふわっとした暖かい感触は――――――!!

 

 

「沙綾ちゃん!?」

「えへへ、あったりぃ~! ていうか、後ろを見てないのによく分かったね」

「そ、そりゃあ……ねぇ?」

「私の胸、気持ちいいでしょ?」

「そりゃもちろん――――って、あ゛っ!?」

 

 

 マズい、僕が変態だってバレてしまう!! と思ったけど、散らばった雑誌から余裕でバレバレか。

 沙綾ちゃんはしてやったりの顔で、僕をより強く抱きしめる。自分で胸を自ら僕に押し付けてるってことは、もはやその行為に恥など感じていないのだろう。同時に香澄ちゃんとたえちゃんにも囲まれ、女の子たちの甘い雰囲気に酔って今にも気絶してしまいそうだ。

 

 ふと有咲ちゃんとりみちゃんを見てみると、香澄ちゃんたちの異質な行動なんてさぞ当たり前かのように部屋の片付けをしていた。ガールズバンドとしてとか、華の女子高校生として慎みある行動を取るとか、そんなことは一切考えていないっぽい。特に有咲ちゃんなんてこの状況を見たら真っ先に怒りそうなのに、何食わぬ顔で散らばった薄い本を片付けているんだから、やっぱりこの部屋に来たみんなは異質だ。

 

 

「あ、有咲ちゃん? 無理してそれを片付けなくてもいいんだよ……?」

「お前に任せたら一生片付けないだろ。私のことは気にしないで、お前はゆっくりしてていいから。家事周りは私たちが全部やってやる」

「一生って……」

「それじゃあ私はゴミを出しに行ってくるね」

「そ、そんな! ゴミ出しなんて、りみちゃんの手を汚す訳には……」

「秋人くんを放っておいたら、一生ゴミ出しなんてしないって分かってるから。だから全部私たちに任せて……ね?」

「だから、一生って……」

 

 

 そりゃね、僕だってやる気さえあれば部屋の片づけもゴミ出しも1人でできるんだよ……多分。でもそのやる気を奮い立たせる前に、ガールズバンドのみんなが全部やっちゃうものだからどうしようもない。1人暮らしだと1日でそこまでゴミは溜まらず、かと言って2~3日置きくらいに掃除しようと思ったら、その間隔でガールズバンドのみんなが訪問してくる。だから詰みなんだよ詰み。だから一生、僕のやる気は湧き立たず仕舞いなんだ。

 

 自分自身の不幸さを嘆いていると、いつの間にか台所に移動した沙綾ちゃんがたえちゃんに声をかける。

 

 

「おたえ、私たちはお昼ご飯でも作ろうか」

「了解。秋人のために私、頑張るからね」

「お昼ご飯でそこまで全力にならなくても……」

「うぅん、秋人のためだから全力になるんだよ。それに、お世話に来たら秋人の服とか貰えるし……」

「おたえ」

「あっ、今の忘れて何でもないから」

「えぇ……」

 

 

 な~んか怪しいなこの2人。そういや最近、ちょいちょい僕の服がなくなっているような気がしたんだけど、まさかたえちゃんたちが……? 僕が着る服はみんなが自主的に買ってきてくれるので、自分でも服を何枚持っているのか、どんな種類があるのかは詳しく把握していない。だけど最近は目に見えて服が消えているので、もしかしたらこの2人以外にも犯人はいるかも……?

 

 ちなみに、服以外にもみんなが買ってきてくれたモノがある。生活必需品はもちろん、食品や飲料、漫画やゲームなどの嗜好品まで、僕の好みに合わせて持ち込んでくれる。そもそもこの家自体が弦巻家の会社の系列で、家賃や電気代など、その辺諸々はこころちゃんのお気遣いで全部タダだ。部屋の片付けも料理も作ってくれるし、そこまでされたらニートにもなるよねぇ……。

 

 

「そういえば、この前私たち海に行ったんだよ! その時の写真、見てくれた?」

「え゛っ!? み、見たよ……一応ね」

 

 

 さっきからずっと僕を抱きしめている香澄ちゃんが、何故か目を輝かせながら質問をしてくる。

 海に行ったということは、送られてきた写真はもちろん香澄ちゃんたちの水着写真。うん、確かに携帯に送られてきたよ。どうやら最近ポピパのみんなで海合宿をしたようで、その時に撮ったであろう写真を僕にたくさん送り付けてきたんだ。集合写真を始めとして、個人の写真まで送られてきたんだけど、それらを集めたらPoppin'Partyの写真集として売りに出してしまえるほどの代物だった。

 

 しかし、問題はそこではなく、かなり際どいポーズの写真もあったってことだ。肩紐の片方を外したり、オイルを塗っている姿など、アダルティックな写真に思わず度肝を抜かされてしまった。現代の女子高生は、高度な情報化社会の煽りで性知識が豊富だと聞く。でもそれを考慮したとしても、思春期の女の子が男にそんな写真を送り付けるなんて正気の沙汰じゃない。

 

 だけど悲しいかな、その写真を見た瞬間に不覚にも下半身が反応してしまった事実は揉み消せない。知り合いの女の子の際どい姿を、ガールズバンドとして活躍する女の子の扇情的な姿をこの目に焼き付けているという背徳感が、より一層僕の興奮を煽るのだ。もちろん、このことはみんなには内緒だけどね。バレたら最後、悪夢のようなからかい地獄が待ってるだろうから……。

 

 その時だった。突然僕の耳元が吐息が吹き掛けられる。

 

 

「ふぁあああんっ!! な、なに!? 香澄ちゃん??」

「わっ! 思ったより可愛い悲鳴で、私の方がビックリしちゃったよ!」

「もう脅かさないでよ! いきなり息を吹きかけてきて何を企んでるの!?」

「そんなことよりも。何回やったの?」

「う゛っ!? や、やったって……何を?」

「本当は意味分かってるんでしょ? だったらイントネーションを変えてみようか? 何回……ヤったの?」

「そ、それはぁ……」

 

 

 バレてる!? 香澄ちゃんって普段は何も考えてなさそうな天真爛漫キャラなのに、有咲ちゃんや僕をからかう時だけはどうしてここまで小悪魔になるんだろう……?

 とにかく、みんなの尋問に負けちゃダメだ。さっきも言ったけど、ニートにだってプライドはある。陰キャのニートだからって陽キャにされるがままだなんて我慢できない。ここからなんとか逆転の策を考えないと。逆にこちらがみんなを赤面させて追い込むような、決定的な一手を。

 

 しかし、追い打ちをかけるかのように、香澄ちゃんが僕の耳元で囁く。

 しかも頭を撫でられて……。

 

 

「もっと素直になっていいんだよ。だって私たち、秋人くんに使ってもらうために水着写真を撮ったんだから。あんな姿、秋人くんにしか見せないんだよ?」

「つ、使うって……どうやって?」

「もうっ、女の子に言わせる気?」

「あっ、いやゴメン、そんなつもりじゃ……あ、あれ、どうして僕が謝ってるんだ……?」

 

 

 さっきまで僕を尋問する気満々だったのに、突然優しくなったので気が動転してしまった。

 でも頭を撫でられながら抱き着かれているせいで、みんなを追い込む一手を打たなければならないのに強く言い返せないのが事実。女の子の腕の中はまさに魔性で、抱きしめられているだけでも安心しちゃうんだ。

 

 

「私も抱きしめても……いいかな?」

「りみちゃん!? どうしたのいきなり!?」

「香澄ちゃんに抱きしめられてる秋人くんがその、とっても愛おしくなっちゃって……。そんな可愛い顔を見せられたら、私も……悪い子になっちゃいそう」

「ちょっ!? りみちゃんはポピパの良心なんだから、そんなこと言ったらダメだって!」

 

 

 どちらかと言えば、りみちゃんは愛でるより愛でられる立場の子だ。そんな健気な子が今は肉食系女子と化しており、目がいつもと違って少し怖い。まるで獲物を狙う獣のような、そんな眼光をしている。ポピパのマスコットであるりみちゃんが、まさかここまでSっ気を醸し出すとは……。

 

 すると、ゴミ捨てのためにゴミをまとめていた有咲ちゃんが、包まれたティッシュを手に持って僕に見せつけてきた。

 

 

「あ、有咲ちゃん? それ僕のゴミ箱に入ってたやつだよね……? ばっちぃから捨てなさい」

「これ、匂いと香りの残量的に、捨てられたのは2日前と推測できる。そして、その2日前は私たちの水着写真が秋人に送信された日。つまり、このティッシュの使い道は……。さぁ、白状してもらおうか。今自白すれば罪は軽くなるぞ?」

「どうしてそんなこと分かるのさ!? 今までみんなを傷付けると思って敢えて言わなかったけどもう言うよ? 変態だよ!!」

「それがどうした? 秋人に奉仕できるなら、どんな罵倒でも受け入れる覚悟くらいあるから」

「開き直らないでよ!! ねぇ沙綾ちゃんはどう思う??」

「私たちの水着でやったにしては、出してる量がちょ~っと少ないかな?」

「僕に何を期待してるのさ!?」

 

 

 もうみんなの水着写真でやっちゃったことを自白したようなものだけど、みんなも思考回路がぶっ飛んでいるせいで僕の失言に気付いていない。さっきまでは純粋な反応を見せていた子が多いのに、話が猥談に切り替わった途端にこれだよ。みんなの脳内が突然ピンク色になるのは今に始まったことではなく、この部屋に来て話題がそっち方面に乱れると、全員キャラが変貌する。どうしてだかは知らないし、知りたくもないけどね。

 

 女の子にお世話をされるのは確かに嬉しいよ? 嬉しいけど性欲の管理までしてもらおうとは思わない。これはニートの意地ではなく、男としての最低限のプライドだ。自分の性のコントロールは自分でしたい。このまま性処理まで香澄ちゃんたちに任せてしまうと、本当に彼女たちの身体でないと満足できなくなりそうだから……。

 

 しかし、僕には抵抗しようにもその力はない。ニート生活をしてるしてない以前にそもそも僕自身の身体が小さいので、年頃の女の子でも僕を簡単に組み伏せられてしまう。例えガールズバンド内で小柄なりみちゃんや有咲ちゃんであったとしてもだ。

 

 

 こんな状況を、何て言うのか知ってるよ。

 

 

 …………詰み。

 

 

 そんな背水の陣の僕に、前から抱き着いている香澄ちゃんは囁くように呟く。もちろん、頭を撫でながらだ。

 

 

「別に隠さなくてもいいのに。私たちの写真でたくさん白いのを出しちゃったって。私たちはね、秋人くんのすることはなんだってさせてあげたいの。だから、秋人くんは自分のやりたいことを好きなだけやればいいんだよ。身の回りのお世話は私たちが全部やってあげるから……ね?」

「うぅ……確かに香澄ちゃんたちの好意はありがたいし、もうみんなのお世話がないと生きていけないようになってるかもしれない。でも、穢すことはできないよ! 例え写真であろうとも、大好きなみんなを汚すことなんて絶対!!」

 

 

 とは言っても、実際にやっちゃったから言葉に説得力がない。でも、みんなを穢したくないというのは事実なんだ。だから、みんなの写真を自慰のネタにするのは今回だけ。2日前に賢者モードに入った時、そう誓った。

 

 

 その時、みんなの様子が一変していることに気が付く。

 さっきまではピンク色の雰囲気が部屋を支配していたのに、今はすっかり元通り。それどころか、部屋の温度が少し上がっているような……? 見ればみんなの顔が真っ赤なので、部屋の冷房が切れちゃったのかな……って、切れてないじゃん。散々僕を弄って遊んでいた香澄ちゃんもおとなしくなり、沙綾ちゃんたちは覚束ない手付きで家事をしている。

 

 

 ど、どうしようこの空気?? 女心に触れるデリカシーのない発言をしちゃったとか……?

 

 

「し、仕方ないなぁ~! 秋人くんのために、私も家事手伝っちゃおうかなぁ~なんて」

「香澄ちゃん急にどうしたの!? いつもは僕に抱き着いてばかりで、あまり家事はしないのに」

「ちゃんと歯磨きしてる? 私が後ろからやってあげようか……?」

「沙綾ちゃん!? そこまで不清潔じゃないから大丈夫!」

「今日はお風呂まだだよね? だったら私が背中を……ダメ?」

「そ、そんな目で見ないでりみちゃん……。流されそうになる」

「私は何をすればいい? この雑誌では、私に似た女の子が男の子の命令を何でも聞く玩具みたいになってるけど……」

「たえちゃん、丁寧に解説しなくていいからそれは忘れて……」

「服、洗濯するからな。ま、まぁお前の服なんて汚くて触りたくもないけど、溜め込んでたら服の方が可哀想だと思っただけだから! そう、だからこれは私の家でしっかり洗ってやる」

「ちょっと有咲ちゃん!? カバンに僕の服入れようとしてない!?」

 

 

 なんだろう、急にみんなが僕を甘やかしてる気がする……。いや、いつも甘やかされてるんだけど、今この瞬間がこれまでよりも一番甘々だ。

 

 しかし、そんな彼女たちの誘惑に乗せられてしまうのが僕だ。自分でやらなきゃとは思うけど、香澄ちゃんたちの優しさに触れると途端に身体の力が抜けちゃうんだよね。自分がどんどんダメ人間になっていくのが目に見えて分かるよ。まぁ、その背徳感が快感でもあるんだけどさ。

 

 こうして、今後もガールズバンドのみんなに甘やかされる日々が続くんだろうなぁと思う反面、みんなと一緒に生活できることに嬉しさを感じてる僕がいた。

 

 でも、人生は楽しんだもの勝ちだから、この日常はこの日常でいいの……かも??

 




 初めましての方は初めまして、薮椿と申します。
 普段は『ラブライブ!』で『ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~』という小説を投稿しているのですが、あちらの執筆の息抜きとして『BanG Dream!』の小説を投稿してみました。

 私自身ハーレムというジャンルが大好きなのですが、皆さんは今回のお話どうでしたでしょうか?
 『ラブライブ!』の方では肉食系の主人公でハーレムを描いていたので、こちらでは草食系の主人公として物語を展開してみました。男の方からガッツリ攻めるハーレムも好きですが、こうして見ると女の子から甘やかされるくらい攻められるシチュエーションも悪くないですね(笑)

 バンドリはアニメやアプリのストーリーを見るくらいですが、どのキャラも非常に魅力的なので、この小説で1人でも多くキャラの魅力を伝えられたらと思います。まあその過程で少々キャラ崩壊しちゃうのは、もう『ラブライブ!』小説時代からのお決まりなので許してください(笑)
 もちろん考えもなしにキャラを改変するのではなく、公式の設定を踏襲しつつ、更にその子が魅力的に映るようにしていくつもりです。

 先程もお伝えした通り、『ラブライブ!』小説の執筆の息抜きとして執筆しているので、次回の投稿日は未定です。皆さんからの反響が高ければ早まるかも……?

 それでは、今後ともよろしくお願い致します!


更新予定等は以下のTwitterにて
https://twitter.com/CamelliaDahlia
Twitterアカウント名「薮椿」(@CamelliaDahlia)で活動しています。


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Roseliaに甘やかされる

 Roseliaって他のガールズバンドと比べて年上でお姉さんタイプが多いから、甘やかされたいって人が多そうですね()


 僕の生活リズムはニートだからと言って、早朝に寝て昼過ぎに起きるような不規則なサイクルではない。別にニートなんだからいつ寝ていつ起きようが関係ないと思う人がいるかもしれないけど、これはただ単に気分の問題だ。何となくだけど、朝に起きて夜に寝るサイクルの方が1日が長い気がしない? 朝に寝て昼に起きると1日の半分を潰してしまったような感覚に陥り、『もう午後だ……』と軽くショックを受けてしまう。いつ寝ていつ起きようが僕の睡眠時間も活動時間も変わらないんだけど、感覚的な問題で1日の時間が全く違うように感じちゃうよね。

 

 ニートでも1日1日を大切にしてるから、僕自身生活サイクルを崩さないように努めている。

 だけど、僕がそのサイクルを意識しようがしまいが、朝になると目覚めてしまうのが常となっていた。

 

 どういう意味かって? それは――――

 

 

「ゆ、友希那ちゃん!? どうして僕のベッドに入ってるの!?」

「おはよう、秋人(あきと)。お目覚めはどうかしら?」

「おはよう。暖かいしいい香りだし最高――――じゃなくて、どうして添い寝してるのかって聞いてるんだけど!?」

「最高……。そうね、あなたは私を抱き枕にするどころか、寝惚けながら私のカラダの隅々まで弄って……最高だったわ」

「お願いだから会話しよう? ね……?」

 

 

 目覚めた瞬間に友希那ちゃんと目が合ったんだけど、もしかして添い寝しながらずっと見つめていたのだろうか……。

 友希那ちゃんが勝手に添い寝してくるのは過去に何度もあった。さっきポロっと本音が出ちゃったように嬉しいのは嬉しいんだけど、こうしてベッドの中で顔を合わすたびに、やれ昨晩はお楽しみだっただの、やれカラダをめちゃくちゃにされただの、ありもしない嘘をついては僕を困らせてくる。もう聞きなれたから困るどころか呆れてるんだけど、ここまで積極的にアピールしてくるってことは、まさか本当に……? い、いやそれはないか……多分。

 

 

「あなたを起床から睡眠までをサポートするのが私の役目だから、あなたは何も気にせず私に身を委ねればいいのよ」

「女の子にここまでくっつかれたら、男なら誰でも気になると思うけど……」

「なるほど、秋人は私をオンナとして見ている訳ね」

「さっき"女"のイントネーションがねちっこくなかった……?」

「ちょっと何を言っているのか分からないわね。日本語が分からないから」

「またベタな言い訳を……」

 

 

「そうだね。友希那の言ってること、ちょ~っと間違ってるかなぁ~」

 

 

「わっ、リサちゃん!?」

「おはよう秋人! もう少しで朝ご飯できるから、もう少し待っててね」

 

 

 いつの間にベッドに忍び寄ったのか、リサちゃんに後ろから声を掛けられ思わず驚いてしまう。

 リサちゃんは制服+エプロンという、健全な男子なら誰もが夢を見る格好を披露していた。特にエプロンの裾の部分とスカートが重なって、同時にひらひらしている様はヤバい。リサちゃんの見た目だけでも興奮が唆られるのに、そこから見える綺麗な生脚のせいで全体が扇情的に見える。そもそもスタイルからしてエロい彼女に、制服+エプロンなんて組み合わせは卑怯すぎでしょ……。

 

 

「そういえば、さっき友希那ちゃんの言ってることが間違ってるって言ったよね? やっぱり添い寝されてると起きた時の衝撃が大きいから、そろそろ自重すべきだって言ってあげ――――」

「友希那、秋人の起床から睡眠をサポートするのが"私"って言ったでしょ? それは"私たち"の間違いだよ」

「えっ、そっち!?」

「確かに、言葉足らずだったわ。秋人を何1つ不自由なく生活してもらえるよう、ご奉仕するのが私たちの役目。秋人の寝顔が可愛すぎたせいで少し正気を失ってたわ。ゴメンなさい、リサ」

「うんうん、分かればよろしい!」

 

 

 こうして僕をダメ人間にする計画は、Poppin'PartyやRoseliaだけでなく他のバンドグループにまで普及している。

 その中でもRoseliaの子たちは大人っぽいお姉さんキャラも多く、言っちゃ悪いけどポピパの子たちよりも激しいお世話にならない――――――と思っていた時期が僕にもありました。

 

 リサちゃんは僕にウインクをしてキッチンへと向かう。

 同時に、背後から謎の気配を感じたので後ろを振り向いた。

 

 

「あ、あのぉ……そろそろお着替えの方を」

「うわっ、り、燐子ちゃん!? いつの間にそこに……」

「す、すみません! 秋人さんがいつ起きてもいいように、ずっとお傍にいたのですが……」

「秋人はヒドい子ね。燐子を放置プレイだなんて、趣味がいいのか悪いのか」

「うん、友希那ちゃんはちょっと黙ろうね」

 

 

 僕を抱き枕にしている友希那ちゃんは、卑しく微笑みながら僕を偏屈性癖に持ち主に仕立て上げようとしている。もういつものことだから慣れっこだけど、燐子ちゃんはその手の話題には弱いんだから自重して欲しいよ。

 

 燐子ちゃんは他のみんなとは違って至って健気で、僕へのお世話も無難に熟してくれる。それが普通のことなんだけど、その普通のことで安心している辺り、他のみんなのお世話がまともではないことが分かってもらえると嬉しい。例えばほら、未だに僕から離れない友希那ちゃんとか。あまり強く抱きしめられると、彼女の控えめな胸でも形を感じられるから、思わず欲求が高鳴ってしまいそうだ。

 

 

「秋人さん、お着替えをお持ちしました。まず、パジャマのボタンを外しますね」

「う、うん……」

「……? どうか……されましたか?」

「い、いや何でもないよ何でも! あはは……」

 

 

 燐子ちゃんは僕の背後から腕を回してパジャマのボタンを外そうとしているんだけど、そうすると必然的に彼女から抱きしめられる形となる。つまり、ガールズバンドでも1、2を争うほどの豊満な果実が僕の背中に押し付けられることに……。マズい、彼女の服装が薄着のためか、その胸が僕の背中で自在に形を変える感触まで伝わってくる。3度の飯よりおっぱいが好きな僕にとって、これを我慢することは拷問に近い。素直に気持ちよさに浸れたらどれだけ楽だろうか……。

 

 だって、あの純粋無垢な燐子ちゃんに『おっぱいが当たって気持ちいいよ、ぐへへ』なんて言える訳ないじゃん! そんなことをしたら世界史に残るほどの重犯罪だよ!!

 

 そうやって僕が耐え忍んでいることなんて知らず、燐子ちゃんは次々と僕のパジャマのボタンを外していく。上から順番に下へ、そのたびに彼女の胸が僕の背中をスライドする感触も心地良かった。興奮が暴発する前に少しでも背中と胸の距離を離したいのは山々だけど、この感触を味わいたいという欲望塗れの自分もいる。女の子におっぱいを当てながら着替えさせてもらうって、まさにご奉仕だよこれが。

 

 それに前からは友希那ちゃん、後ろからは燐子ちゃんに抱き着かれているためか逃げることはできない。だから僕は永遠にこの生き地獄、または極楽天国を堪能させられる。どちらにせよ死ぬ気で欲求を抑え込むしかないか……。

 

 

「あぁぁああああああああっ!? りんりんと友希那さんが秋兄にハグしてる!! あこもやりた~い!!」

「あこちゃん!? い、いやそんな遊園地のアトラクションみたいに言わないで……」

 

 

 隣の部屋から出てきたのは、Roseliaのムードメーカーであるあこちゃんだ。

 紛うことなきロリっ子で、こうして自分の家に上げていること自体が犯罪に思えてくる。まぁ、いつもあこちゃんの方から勝手に家に上がり込んでいるんだけどね……。

 

 

「友希那さん! いつまで秋兄に抱き着いてるんですか!?」

「許しが出ている限り永遠によ。いや、許しが出なくても永遠にこうしてるつもりだわ」

「秋兄の寝起きまで見られたんだからもう十分じゃないですかぁ~! 早く変わってください!」

「もう少し、あと1時間」

「それ練習時間になっちゃいますよぉ~!!」

「あ、あの、友希那さんもあこちゃんも落ち着いて……」

 

 

 なんだろう、友希那ちゃんもあこちゃんも、玩具を取り合う幼稚園児のようなやり取りをしている。あこちゃんが友希那ちゃんにここまで突っかかるのは珍しく、友希那ちゃんがここまで頑固になるのも珍しい。それだけ(おもちゃ)で遊ぶのが好きなのか……。もう燐子ちゃんが幼稚園児を見守る先生みたいだよ。

 

 友希那ちゃんとあこちゃんの幼稚園児姿か―――――ダ、ダメだ! 友希那ちゃんはともかく、あこちゃんは普通に似合いそうだから犯罪臭が半端ない。余計な想像を膨らませちゃうと次回のオナネタがロリモノになりかねないので、ここでなんとか振り切らないと!!

 

 

「さっきから騒々しいですよ。近所迷惑でしょう」

「紗夜ちゃん? どこにいたの?」

「隣の部屋です。宇田川さんと一緒に掃除をしていたのですが、那須原(なすはら)さんの部屋が騒がしいと彼女が飛び出して言ったものですから、私も様子を見に来ました。結果はまぁ、大方予想通りでしたけど……」

「ゴ、ゴメン……」

「いや、別に那須原さんが謝ることではないですが……」

 

 

 こうして友希那ちゃんやあこちゃんの暴走を止めるのは、いつも紗夜ちゃんの役目だ。燐子ちゃんやリサちゃんは性格上そこまで強く叱るタイプではないので、もはや紗夜ちゃんこそRoseliaの良心と言ってもいい。彼女がいなかったら僕は間違いなくお騒がせ2人+何故か今でもずっと背中に胸を押し付けている燐子ちゃんに揉みくちゃにされていただろう。リサちゃんはリサちゃんでキッチンからこちらの様子を見てクスクス笑ってるだけだし、Roseliaって本当に誇り高き孤高のバンドって言われてるのかな……?

 

 

「湊さん。いつまでも那須原さんに抱き着いていないで、こちらの掃除を手伝ってください。那須原さんの身の回りのお世話をすること、それがガールズバンドとしての使命なのですから」

「そこまで仰々しく言わなくても……」

「ご奉仕ならしてるわよ。秋人に快適な朝を迎えてもらうために、こうして私の抱き枕になってもらっているんじゃない」

「確かに女の子に抱きしめられるのは暖かくて好き、というか大歓迎だけど、それを言うなら自分が抱き枕になるんじゃ……」

「あこは秋兄とりんりんにギュってしてもらいた~い! そうやってあこを抱きしめてる秋兄を友希那さんが抱きしめる……うん、いい考え!」

「天才だわ、あこ。こうすることで、誰も不幸になることなく幸福を感じられるわね」

「は、恥ずかしいですけど、私も頑張ります!」

「何を言ってるのですかあなたたちは。白金さんまで……全く」

 

 

 友希那ちゃんと燐子ちゃん、それにいつの間にか2人の隙間から僕に抱き着いていたあこちゃんは、3人同時に抱擁の力を強くする。もはや3人は自分のカラダのどこが僕に当たっているのか、そんなことは全く気にしていないのだろう。いや、気付いていてわざとやっている可能性も無きにしも非ずか。どちらにせよ、食べちゃいたいくらいの柔らかい二の腕、むしゃぶりつきたくなるような太もも、今にも鷲掴みにしたい衝動に駆られる胸など、女の子のあらゆる柔らかいところが僕の全身を包んでいた。

 

 ダメだ、ただでさえ寝起きで下半身に血の気が溜まって――――いわゆる"朝立ち"の現象が起こってるのに、それが発散できないままこれだけの女の子に擦り寄られると……本当に爆発する!!

 

 

「とにかく、今井さんがもうすぐ朝食を作り終えるので、それまでに各部屋の掃除を済ませてください。湊さんも宇田川さんも、そして白金さんも」

「わ、私もですか……!? 私は秋人さんのお着替えを手伝う役目が……」

「それは私がやっておきます」

「えっ? それって氷川さんが単にやりたい――」

「私がやっておきます」

「…………はい」

 

 

 押し切った! 燐子ちゃんが威圧に耐えられない子だからって、無理矢理押し切ったよこの子!!

 とは言っても燐子ちゃん自身もこの騒ぎの一端となったのは事実。本人もそれが分かっているのか、渋々ながら僕の背中から離れた。友希那ちゃんもあこちゃんも不服そうな顔をしながらも、ガチ粛清モードに入った紗夜ちゃんには抵抗できないと知っているので、名残惜しそうに部屋の掃除へ向かった。

 

 あぁ、なんだか急に寒くなった気がするよ。さっきまで女の子たちの抱き枕になっていたせいか、彼女たちの暖かい体温を僕も共有していた。女の子のありとあらゆるお肉が僕のクッションにもなっていたため、それが全て離れてしまったために思わず身震いしてしまう。

 

 

「寒いのですか? それでは早く着替えを済まさなければいけませんね。お手伝いしますから、下も脱いでください」

「し、下!? そこは自分でやるって!!」

「那須原さんのお手を煩わせる訳にはいきません。ほら、早く脱いでください」

「ちょっ、引っ張らないで! 僕のズボンひっぺ替えして何をするつもりなのさ!?」

「それはお持ち帰り――いや、着替えの手伝いです」

「言い直しても遅いからね!? 欲望全部口に出ちゃってるよ!」

 

 

 紗夜ちゃんが執拗に燐子ちゃんを掃除へ行かせるよう強制したのはこのためだったのか。いや、こうなることは過去の経験上からなんとなく予想できたけどね。

 紗夜ちゃんはみんながいる前だと超常識人で良心でもあるんだけど、僕と2人きりになった途端にボロが出ちゃうことが多い。程度の違いはあれど、結局みんなどこかのネジが外れちゃってるみたいだ。

 

 それにこうやって冷静に解説してるけど、意固地な紗夜ちゃんをここからどう言い包めようか……。

 

 

「もう紗夜ったら、そんなにがっついたらそりゃ秋人も驚くって」

「今井さん……。那須原さんのお食事の用意は終わったのですか?」

「ほとんどね。あとはオーブンのタイマーが止まればそれで完了!」

「なるほど。それでは早く那須原さんのお着替えを済まさなければなりませんね」

「だ~か~ら! 男の子の事情も考えてあげなって。ね、秋人」

「えっ、あぁ、うん、そうだね……」

 

 

 思わぬところから助け船が出されたけど、リサちゃんの言っていることの意味が分からない。でもこのままだと紗夜ちゃんにズボンを奪われるばかりか、情けなく下着姿を晒すハメになるので、とりあえずその船に便乗させてもらおう。Roseliaのお姉さんでもありお母さんでもあるリサちゃんなら、余計な騒ぎを起こすことはない……はず。

 

 でも、その考えはすぐに払拭される。なぜならリサちゃんは口角をあげて、何故か不敵な笑みを浮かべていたからだ。

 

 

「男の子にはね、朝の生理現象ってものがあるんだよ」

「あ、あれ……? なんか不穏な流れに……」

「今井さん! そ、それって……!!」

「紗夜もようやく気付いたみたいだね。という訳で秋人、お姉さんがその興奮を鎮めてあげよう!」

「えっ、ちょっと!? リサちゃん!?」

「逃げるな逃げるな。ほらほらいい子だねぇ~」

「む、胸が……!!」

 

 

 リサちゃんは僕を赤ちゃんをあやすように抱きしめる。年相応以上に成長している自慢の胸を武器に、僕を快楽攻めさせようとしているのは恐らくリサちゃんの作戦だろう。彼女が僕を甘やかす時は、こうして己の武器を巧みに駆使して僕をトリップさせようとする。そうして気付いた頃には、僕はリサちゃんのいい玩具に……。

 

 

「ほ~ら、いい子だから脱ぎ脱ぎしようね」

「ま、待って! 今は本当にマズいんだって!」

「マズいから私が鎮めてあげるんだよ? 私のどこを使いたい? 口、胸、太もも、足、趣向を変えて髪? それとも、()()()を期待してるかのかなぁ~?」

「う゛っ……」

「よく考えてみれば、秋人にとっては女の子が朝ご飯だったね」

「そんなヤリチンみたいに言わないでよ!?」

 

 

 最初は紗夜ちゃんと止めてくれるものとばかり思ってたけど、まさかここでリサちゃんのスイッチが入っちゃうとは……。下着が見えるか見えないかのギリギリのラインまでスカートを捲って誘惑してくるくらいだもん。

 逆にここで止めてくれるのが紗夜ちゃんなんだけど、紗夜ちゃんは顔を赤くしながら僕とリサちゃんのやり取りを見ているばかりで役に立たない。やっぱり紗夜ちゃんも僕のズボンを奪うだけでなく、()()()()()も期待していたのか……??

 

 

「あれ、今日はいつもよりズボン膨らんでない? さぁ~て、昨晩は誰を想像してヤったのかなぁ~?」

「そ、そんなことなんて……する訳ないじゃん?」

「ふ~ん……。紗夜、隣の部屋の掃除をしていて気になったことあるでしょ?」

「えぇ、男性の部屋なのに女性モノの下着が落ちていました」

「え゛っ、昨日のオカズはそれじゃないはず――――――って、あ゛っ!?」

 

 

 やってしまった。リサちゃんも紗夜ちゃんもしてやったりの顔で、僕を捕食する獣のような目で見つめてくる。

 2人のコンビネーションにしてやられた僕は、あまりの焦りに寝起きなのに汗が大量に溢れていた。確かに僕は昨晩己の性欲を発散した。でも、なるべくなら女の子たちにその情事を知られたくはない。深い理由がある訳じゃなく、ただ単に女の子に自分の性事情を話すなんて後ろめたいって話だ。

 

 しかし、知られてしまった。そう言っても既に周知の事実みたいになってるけど、こうして罠に嵌めらた上で自分の性事情を大っぴらにされると羞恥心が半端ない。

 

 ダメだ。このままだと、ベッドの上で絞り尽くされる……!!

 

 

 すると、どこから聞きつけたのか、腕組みした友希那ちゃんが如何にも怒ってますよオーラを醸し出しながら僕の元へやって来た。別の部屋の掃除をしているはずだったのに、もしかして聞き耳を立ててた……?

 

 

「秋人。私、怒ってるわ」

「ゴ、ゴメン。男の性事情なんて暴露されても気持ち悪いだけだよね……」

「どうして1人で処理したの? 私たちを呼んでくれれば、いつでも相手をしたと言うのに」

「そっち!? それにいつでもって……」

「嘘偽りはないわ。そうでしょ、リサ、紗夜?」

「うん! 性欲に駆られて悶々としたらすぐに連絡してね。いつでも飛んでくるよ?」

「そうですね。秋人さんに何1つ不自由はさせませんから。日常生活であろうとも、夜の事情であろうとも」

「こういうことよ」

「どういうこと!?」

 

 

 ダメだ。このままだと本格的に精の搾取をされ兼ねない。しかもガールズバンド屈指のドSと名高いこの3人のことだ、僕をベッドに張り付けにして精がすっからかんになるまで搾取し続けるだろう。まぁそれはそれで興奮できるシチュエーションだけど、ここで流されたらこの先一生そのシチュエーションでしか満足できない身体になるかも……。

 

 自分はどちらかと言えばM思考の持ち主だと思うけど、だからと言って女の子の玩具にはなりたくない。ニートにプライドもへったくれもないのは承知だけど、この塵に等しいプライドだけは絶対に守らないと! 男性版ダッチワイフは嫌だ男性版ダッチワイフは嫌だ男性版ダッチワイフは嫌だ男性版ダッチワイフは嫌だ男性版ダッチワイフは嫌だ――――――!!

 

 

「友希那さん! サボってないで部屋の片づけを――――って、あぁぁあああああっ!? またあこがいないところで秋兄といちゃついてる!!」

「あこちゃん、いちゃついてないからね。イジメられてるんだ」

「イジメているなんて心外ね。秋人なら私たちを好きなように使っても構わない。つまり、立場的にはあなたの方が上なのよ?」

「女の子を自由にできるなんてそんな羨まし――――じゃなくて、僕がベッドの上で取り囲まれてるこの状況を見ても同じこと言えるの……?」

「ねぇねぇ、あこも混じっちゃダメ? 他のみんなとは違って身体もちんちくりんだけど、下の方は狭くてキツくて締りも――――」

「だぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁああああああああああああああっ!! それ以上は言っちゃダメ!!」

「えぇ~事実なのに。秋兄もそっちの方が好きでしょ……えへへ」

「う゛、ぐっ……事実だからこそダメなんだよ!」

 

 

 もうほとんど言いかけてた気もするけど、さっきのあこちゃんのセリフは今日の騒動の中でも1、2を争うほどヤバい発言だ。最近の世間は男に対する風当たりが強く、今回のように明らかに女の子側が騒動の種だというのに、何故か男のせいにされたりする。通学中の女の子に挨拶するだけでも通報されるくらいだから、もう女の子と会話することすら許されない世の中となっている。

 

 まぁ、ニートの僕は外に出ないから関係ないんだけどね。それでもあこちゃんの危険な発言は本能的に止めた方がいいと察知したのだ。

 

 

「あ、秋人さん、私も良ければお手伝いします……」

「燐子ちゃん、またいつの間に隣に……」

「Roseliaのみんなを選り取り見取りなんて、贅沢な男の子だね秋人は! でも、私たちがこんなことをするのは秋人だけなんだから」

「私、男性の方は苦手ですけど、秋人さんだけは平気です……。なので、頑張りますね」

「白金さんが男性に対してここまで積極的だなんて、やはりRoseliaの成長には那須原さんが必要不可欠ですね」

「Roseliaは頂点を目指す存在よ。それはバンドだけでなく、あなたへのご奉仕でも頂点を極めるわ」

「輝かしい夢と欲望に塗れた欲求を同じにされると、僕にもちょっと罪悪感が……」

「心配ないよ秋兄。だって、秋兄の幸せはあこたちの幸せなんだから!」

「そ、そう……」

 

 

 なんかいい話に聞こえるけど、要するにこれって僕を今から襲おうとする口実を作ってるだけじゃない……? 彼女たちの好意を素直に受け取れよと文句が飛んできそうだけど、みんなの目を見ていれば分かる。ずっと僕の下半身を見てるから。しかも卑しい眼光で。Roseliaの夢は確かに素敵だけど、そんな目をしてたらガールズバンドとしての誇りも輝きもあったもんじゃないよ!!

 

 

「あっ、オーブンが止まったかな? ねぇ、秋人とヤるのは朝食の後にしようよ。朝食冷めちゃうしね」

「そうですね、私も賛成です。秋人さんにはたっぷり食べていただかないと、激しく動けませんから」

「ちょっ、僕に何をさせるの!?」

「食後の運動……でしょうか? き、緊張しますけど、秋人さんなら私……」

「顔赤いよ燐子ちゃん!? 妄想し過ぎだって……」

「あこたちが練習中に考えた、秋兄へご奉仕するための最強フォーメーションを見せてあげるね!」

「いやいや練習しようよ!? CiRCLEでそんなことしてたら怒られるでしょ!?」

 

 

 Roseliaは誇り高きガールズバンドで、練習中も余計な無駄口は叩かず練習に集中していて超真面目――――だと思ってたよ、最初はね。それ以外にも、どうやらCiRCLEでは定期的にガールズバンドたちが集まって謎の集会が行われているらしいんだけど、どんな議論がなされているかは機密事項。それは僕も知らないし、知りたくもないけどね……。

 

 

「ここはみんなの意見を汲み取って、先に朝食にしましょう。もちろん秋人は何もしなくてもいい。私たちが手ずから食べさせてあげるから、あなたはメイドを使役するご主人様のようにどっしり構えていればいいわ。それにもし希望すれば口移しでも構わないし、むしろそっちの方が歓迎よ」

「い、いや、普通でいいです……」

「あなたがそう言うのなら従うわ。さて、それじゃあ今日もガールズバンドとしての頂点を目指すため、Roselia、行くわよ」

 

 

 友希那ちゃんを先陣に、Roseliaのみんなが声を合わせて意気込みを込める。

 正直、僕への奉仕とガールズバンドの頂点ってどんな因果関係があるんだろう……? と思いつつ、みんなの寵愛を素直に受け入れちゃうから、やっぱり僕ってプライドないよね……。

 




《主人公の紹介》
【名前】那須原(なすはら) 秋人(あきと)
【職業】ニート
【性格】SよりのM
【特技】止まぬ性欲、ツッコミスキル
【口癖】ダメだ……、マズい……


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 第1話にたくさんの評価、感想をありがとうございます!
 ハーメルンのランキングをちょくちょく監視していたのですが、なんと1話投稿日の月曜日から金曜日の5日間もランキングに滞在していました。これもバンドリというコンテンツの人気と、意外とハーレム好きが多いって証拠ですかね? こちらも合わせて感謝します!


 次回はPastel*Palettes編です。


 この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
 小説を執筆するモチベーションに繋がります!

【高評価をくださった方々】
チアトさん、咲野 皐月さん、仮面ライダーウルムさん、ゴルゴムと乾巧の仕業さん、アテヌさん、ネインさん、秋田麻弥さん、とりっぴさん、ようやくサラダの逆さん、深々さん、新庄雄太郎さん、ミルクココアさん、mokkeさん、空想劇さん、三日月重教さん、プロスペシャルさん、雨西さん、ルートさん、Clear2世さん、セイモスさん、ユダキさん

ありがとうございました!



更新予定等は以下のTwitterにて
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Pastel*Palettesに甘やかされる

 甘やかすってよりは、超過保護になってる気がするパスパレ編。


「こ、これは!? この本にはこんな特典が付くのか……!!」

 

 

 僕はパソコンのモニターに顔を近付け、目の前に広がる情報に歓喜していた。

 相変わらず昼間っからお菓子を片手にネットを徘徊している訳だが、たまたま目に入った情報に衝撃が走る。それは僕が好きな同人作家さんの単独単行本が発売されたという情報だ。その情報自体は前々から仕入れ済みだったんだけど、僕が驚いたのは単行本の特典の方だ。まさか本に登場するヒロインのタペストリーが出るとは……しかも全裸姿、これは特典付きで買うしかない。そういや単行本が発売するって情報に歓喜して、続報を見るのを忘れちゃってたな。

 

 どうしよう、ネットで注文するか……? いや、でも今すぐに見たい! ネットで注文しても届くのは2、3日後だろうし、それまで禁欲することなんて不可能だ。だけど、買いに行くとなると外に出ないといけないし……。

 

 僕はニートであり、しかもガールズバンドの女の子たちに身の回りのお世話までしてもらっている立場だ。そんな僕だからこそ外へ出るのは過酷な試練。ただ近くのオタクショップへ行くだけなのに、『はじめてのおつかい』に出てくる子供のように緊張してしまう。

 でも、ここで逃げたら特典のタペストリーが配布終了となり手に入らないかもしれない。それに宅配だと到着までに時間がかかる以前に、ガールズバンドのみんなの検閲が入る可能性がある。みんなが来る時間に規則はあるけどランダム性も捨てきれないため、いくら時間指定で荷物を受け取ろうとしても、その時間にみんながいる可能性もある。

 

 そうなると、やはり今みんながいないこのタイミングで出かけるのがベストだろう。速攻で店へ向かい速攻で本を購入、その後はみんなに見つからないように速攻で隠し、みんながいない深夜のタイミングで本を読み耽ける。うん、いい作戦だ。

 

 

 思い立ったが吉日。僕は適当な服に着替え、自室から玄関へ向かい、家から――――――出られなかった。

 なんで!? 何故だか分からないけど、ドアの鍵が壊れているのか開けることができない。いくら鍵の摘まみを回しても、ドアが開く気配すらない。

 

 それに、さっきからどこからか目線を感じる。そういえば、僕の家って防犯カメラってあったっけ? 家の中の玄関に取り付けられているのが見えるんだけど、そもそも防犯カメラって外の玄関に取り付けないと意味ないんじゃ――――――

 

 そう考えた瞬間、大方の事情を察した。

 同時に背後から気配を感じ、その気配と距離を取りながら後ろを振り向く。

 

 

「どこへ行こうとしているのかしら、秋人くん……?」

「ち、千聖ちゃん!?」

 

 

 ガールズバンドの子たちは忍びの術でも身に着けているのだろうか。いつの間にか僕の背後に千聖ちゃんが、笑っているけど笑顔ではない表情で僕を見つめていた。

 そう、僕は明らかに監視されていた。家主の許可もなく家の中に監視カメラを設置して、僕が外出しないように見張っていたのだろう。僕の性事情を赤裸々にしたり、隠してある薄い本を探そうともしてくるので、みんなにプライバシーという言葉はないんだろうか……。

 

 

「黙ってないで、質問に答えてくれるかしら?」

「う゛っ……。ちょ、ちょっとコンビニに……」

「それなら私が行ってくるわ。何が欲しいの?」

「い、いや、女優の千聖ちゃんが外をウロウロするのはやめておいた方が……」

「それじゃあ私が行ってくるよ!」

「うぇっ!? 彩ちゃんまでいたんだ……」

 

 

 家のドアの鍵、閉まってるよね……? いや壊れてるのか。なんにせよ、どうして2人がここにいるんだろう……。そんなことを言ったら合鍵を渡していないのに、ポピパやRoseliaのみんなが家に入れる理由も分からない。まあガールズバンドのバックにはあの弦巻家がいるので、僕の家の鍵ごときなんて簡単に複製できるだろう。相変わらず、僕にプライバシーもプライベートもないよね……。

 

 彩ちゃんも千聖ちゃんも、僕を取り囲んで尋問体勢に入っている。どちらも自分が納得するまで物事を追及するタイプだから、適当な受け答えではまず許してくれないだろう。だからと言って『R-18の本と好きなキャラの全裸姿が写ってるタペストリーが欲しい』とは流石に言えない。しかも芸能事務所に所属するPastel*Palettesの子たちにならなおさらだ。

 

 

「秋人くん、私残念だよ。まさか勝手に外出しようとするなんて……」

「いや別に禁止令なんて出されてないんだけど……」

「だったら今出すよ! 秋人くんは私たち、ガールズバンドの全員から許可を貰わないと外出しちゃダメ!」

「えぇっ!? それじゃあ絶対に無理じゃん! 25人もいるんだよ!?」

「みんなはそれくらいあなたのことを心配してるのよ。万が一外に出て、転んで膝を擦りむいたらどうしようとか、汚い車の排気ガスを吸って体調が悪くなったらどうしようとか、誰とも知らない雌猿にナンパされらどうしようとか……」

「過保護すぎるよそれ!!」

 

 

 みんなが僕に対して甘々なのはいつものことだが、まさかここまで甘やかされるとは……。いや、これは甘やかされるってよりは束縛されているだけのような気も……。女の子に甲斐甲斐しくお世話されるのも心配されるのも、嬉しいと言えば嬉しいんだけどね。

 

 それにしても千聖さんの最後の言葉。雌猿って……相変わらず容赦ないけど、千聖ちゃんの笑顔も怖いし触れない方が良さそうだ。

 

 

「そもそもさ、誰がいつ、何の目的であの防犯カメラを設置したの? お金持ちの家じゃないんだし、家の中に設置しても意味ないんじゃ……」

「それはガールズバンド会議で決まったからだよ。秋人くんを盗撮――――勝手に外出しないように監視するためにね!」

「言い直しても遅いよ!? 明らかに犯罪目的だよねそれ!?」

「秋人くんは何も気にしなくてもいいのよ。あなたのお世話は私たちが全てやってあげるから……ね?」

「そんなことで誤魔化されたりは――――って、ふぁ……」

 

 

 いきなり千聖ちゃんに頭を抱き寄せられ、胸を枕にするように押し当てられる。言ってもそこまで豊かな胸ではないのだが、人気女優の胸に包まれているってだけでも高揚感が半端ない。盗撮の事実を暴露されて気が動転していたけど、こうして女の子に抱きしめられておとなしくなるあたり、僕ってまだまだ子供なんだって思うよ。それに僕でなくとも、若手女優のパスパレのメンバーに抱きしめられたら、そりゃ心地良くなっちゃうって。

 

 

「ズルいよ千聖ちゃんだけ、私にも秋人くん貸してよぉ~」

「そうだよそうだよ! あたしもやりたい~!」

「ひ、日菜ちゃん!? 急に入ってきたね……」

「秋人くん! 次はあたしね!」

「ちょ、ちょっと日菜ちゃん、順番抜かしはダメだよ! 次は私の番なんだから!」

「えぇ~!? 最近仕事で忙しくて会えなかったら、早く秋人くん分を補充したいのに~!」

「フフ、モテモテね秋人くん」

 

 

 僕も本心を曝け出していいのなら、今すぐにでも女の子たちに求められるこの快感に浸りたいんだけどね……。でも、本心を露わにすると、ただでさえニートの僕が更にダメ人間になってしまいそうで躊躇われる。もうクズニートなんだから堕ちるところまで堕ちちゃえって言う子も多いけど、前にも言った通り、ニートにだってゴミクズ程度のプライドはある。だからそれを守るためにも、ここはみんなの玩具になる訳にはいかないんだ!

 

 

「そういえば秋人くん、まだ私たちの質問に答えてないよね? どうして外出しようとしてたの?」

「彩ちゃん、思い出さなくてもいいことを……」

「あたしも知りたいな~。だってさぁ、秋人くんがして欲しいことは全部あたしたちがやってあげるんだよ? もし買い物に行きたいんだったら、あたしたちに頼めばいいのに」

「そうね。仮に何か食べたい物があれば、私たちが総力を上げてお料理するわよ? もしかして、私たちのご奉仕が及ばず秋人くんに不満を抱かせてしまったかしら……」

「い、いやそうじゃない! そうじゃなくてね……」

 

 

「落ち着いてください皆さん! 秋人さんがひっそり隠している謎、ジブンたちが解き明かしてみせましょう!」

「はい! アキトさんの忍びの極意、私が全て赤裸々にしてみせます!」

 

 

「麻弥ちゃん、イヴちゃん!?」

 

 

 これは2人の登場に驚いたのではない。僕の外出の動機を自信満々に晒そうとするその行動に焦りを感じただけだ。だけとは言っても、その動機を知られることで僕にどんな仕打ちが襲い掛かってくるのかを想像すると、もう冷汗が止まらない。もしかして僕、もう一生外出できなくなるかも……。それにエッチな本を買いに行くとみんなが知ったらどんな反応をされるのか、ちょっと怖いな……。

 

 

「麻弥ちゃんもイヴちゃん、秋人くんの秘密を知ってるってホント?」

「本当っす。なんたってジブンは、防犯カメラの調整役なんですからね」

「えっ、じゃあ家の中に防犯カメラを設置したのって麻弥ちゃんなの!?」

「いやぁ皆さんの強い要望で、機械に強いジブンがその役目に抜擢されちゃいまして。家の中にカメラを設置するなんて、ジブンも心苦しかったんですよ?」

「いやいや、今すっごく笑顔だからね!? どうせカメラを調整しながら、『ちょっとスパイごっこみたいで楽しい、フヘヘ……』とか思ってたんでしょ!?」

「秋人さんにそこまでジブンのことを理解してもらえているなんて、光栄です!」

「あの、褒めてないからね……。ていうか本当だったんだ」

 

 

 パスパレのみんながいる時点で大体予想できてたけど、やっぱりカメラの調整役は麻弥ちゃんだった。いつもは周りの状況を伺って丁寧に会話に混ざる麻弥ちゃんだけど、機械絡みの話になると途端に暴走してオタク特有の早口になる。現に今も彩ちゃんたちと笑顔で怪しい会話をしているけど……。

 

 

「いい映像がたくさん撮れたので、今晩は徹夜で編集する予定です!」

「その編集が終わったら、あたしの携帯にも動画を送ってね!」

「ず、ズルいよ日菜ちゃん! 私も私も!」

「えへへ、大人気ですねアキトさん!」

「こんなので人気になっても嬉しくないんだけど……」

 

 

 そういや、このカメラっていつから取り付けられてたんだろう? もしかしてもしかするとだけど、玄関以外にも盗撮されていたりする?? だって玄関でいい映像なんて撮れるわけないし……。だったらどこ? まさかお風呂やトイレじゃ……ないよね? ここで麻弥ちゃんに問い詰めてもいいけど、笑顔で盗撮の事実を暴露しそうでちょっぴり怖い。後で確認してカメラを壊しておこう、うん。

 

 

「そういえばイヴちゃん、さっき秋人くんの秘密を暴いたと言っていたけれど、それは本当?」

「はい。麻弥さんのカメラがバッチリ映像を記録し、さっき私がアキトさんの部屋でその物証を掴みましたから」

「えっ、いつの間に部屋にいたの!? 僕が部屋を離れたのってさっきのことだよね!?」

「アキトさんの目を盗んで、素早く部屋に忍び込みました! これぞブシドーの極意です!」

「いや、そんな自慢げに言われても……。それにブシドーの心得が不法侵入って、自分で自分の信念を穢しちゃってるよ……」

「アキトさんのための行動なら、どんなことでも正義なのです!」

 

 

 本当の正義は自分が抱く信念だってよく言われるけど、傍から見たら僕がイヴちゃんを調教して従順にさせてると思われても仕方ないよね……。

 それはそうと、もう僕の部屋が近所の公園かのように出入り自由で好き勝手に遊ばれている。もはや僕の部屋に何が置いてあって何がなくなっているのかなんて、僕よりも彼女たちの方が詳しいくらいだ。まあ生活に必要なモノも嗜好品もみんなが進んで買ってきてくれるので、僕よりもみんなの方が詳しいのは納得できるけどね。

 

 

「アキトさんの部屋から拝借しました。これを見てください!」

 

 

 イヴちゃんは持っていたチラシを僕たちに見せびらかす。まだ僕が何を隠しているのかを知らない彩ちゃん、千聖ちゃん、日菜ちゃんは、差し出されたチラシを目を見開いて覗き込む。

 その時、彩ちゃんと千聖ちゃんは顔を真っ赤にし、日菜ちゃんは呆れたような笑みで僕を見つめてきた。

 

 そりゃそうだ、だってそのチラシは――――――

 

 

「そ、それ、女の子が見ちゃダメなやつだから!!」

「なるほどねぇ。秋人くん、これを買いに行きたかったんだ~へぇ~」

「そ、そそそそんな秋人くん、こんなにエッチな……」

「人の趣味はそれぞれだから咎めはしないけど、これは刺激が強すぎるわ……」

「ジブンもそのチラシを見た時に驚きました。まさか秋人さんがエッチな本と特典のタペストリーを買いに行く気だったとは……」

 

 

 つ、遂にバレてしまった……。そのチラシには、今日僕が買いに行く予定だった単行本と特典のタペストリーがでかでかと記載されていた。もちろんR-18モノなので、そのエロ本に出てくるメインヒロインの全裸姿が鮮明に描かれている。モザイクや秘所を隠す加工もされておらず、紛れもなく僕のようなアンダー18歳が手にしてはいけないモノだった。

 

 バレてしまった以上、弁解はできない。だったら少し強気に、むしろ清々しさを感じるくらいの勢いでみんなに対抗してみよう。そうでないと、僕はこれから一生外出できなくなるだろうし……。

 

 

「ほ、ほらね。こんなのみんなに頼んで買いに行かせられないでしょ? だから僕が行ってくるよ……ダメ?」

 

 

 みんなはチラシに描かれている全裸のヒロインを眺めたままで、僕の質問に答えることはなかった。

 これはもしかして――――勝ったか!? 今まで女の子に甘やかされっぱなしで、女の子に玩具として扱われることもあったけど、遂にこの時が来たんだ! 女の子を論破し、何も言い返せなくなるこのシチュエーションこそ僕は待ち望んでいた。言うなればそう、自由を手にしたんだ! みんなにはちょっと意地悪しちゃったかもしれないけど、これで心置きなく外を歩くことができる。そして待望のエロ本とタペストリーを入手し、今日の夜はそれでしっぽりと――――――

 

 すると、急に彩ちゃんが僕の両肩を掴んで壁に追い詰めてきた。あまりに突然だったので、僕は抵抗できずにただただ彩ちゃんを見つめるしかない。

 

 

「秋人くん、私たち悲しいよ……」

「た、たかが外出くらいで大袈裟だよ。ほら、さっき千聖ちゃんの言ってた心配事も分かるけどさ、ちょっと近所まで行くだけだから大丈夫だって」

「うぅん、違うの。どうしてこんな本で欲求を満たそうとするのか、って話だよ」

「ふぇ?」

「目の前にイキのいいアイドルがいるんだよ! どうして私たちを使わないの!?」

「そっちぃ!?!?」

 

 

 他のみんなも頷いているところを見ると、彩ちゃんの意見はパスパレの意見として昇華されているようだ。みんなの発言はいつも奇想天外で、もう何度『そっち!?』とツッコミを入れたのか分からない。もちろんパスパレのみんなだけでなくどのバンドの子たちもこんな感じなので、もはや僕の発言の方が間違っているのかと錯覚してしまいそうだ。これが民主主義の圧力ってやつか……。

 

 彩ちゃんの発言に対しては、そりゃできるなら生身の女の子の方がいいに決まってる。だけどそんなことはみんなに頼めないし、そもそもみんなには純潔のままでいて欲しい。据え膳食わぬは男の恥と言われたとしても、このまま女の子たちの誘惑に乗ってしまったらもう僕は人間じゃなく、ただの犬だ。飼い主にエサを与えられて尻尾を振って喜ぶ犬にだけはなりたくない。これ、ニートが抱くちっぽけなプライドね。

 

 

「もう、水臭いなぁ秋人くんは。あたしたちがいるのに、こんな二次元の女の子で気持ちよくなっちゃってさ」

「そうね。目の前にこれだけの女の子が揃っているのに、何もしないなんて同性愛者と思われても仕方ないわよ。そう思われたくなければ、早く私たちをベッドに連れ込みなさい」

「一応指摘するけど、君たち芸能人だよね!? 1人の男に、しかもニートに身体を売っていいの!?」

「好きな男性にカラダを捧げるのは、武士の極意だと聞きました! なのでアキトさんは何も気兼ねする必要ありません!」

「なにその筋も何も通ってない極意! 嘘教えられてるよイヴちゃん!?」

「撮影機材は豊富に揃えてありますから、いつでも好きな女の子からどうぞです!」

「いやいや、撮影してどうするの!? 機械に強い麻弥ちゃんに撮られたら、本物のAV撮影になっちゃうよ!?」

「そこまでジブンの腕を認めてもらえるとは、恐縮です」

「褒めてないよ!! っていうかどうして顔赤くしてるの!?」

 

 

 もうみんな口々に好きなことを言い出すから、会話に追いつくだけでも大変だ。いや、もういっそのこと追い付かずに彼女たちだけ先走らせておけばいいのかな……? このままだと僕が過労死しちゃいそう。ニートなのに過労死するとはこりゃいかに……。

 

 

「あのね秋人くん。私たちは秋人くんの身の回りのお世話をして、何1つ不自由のない生活をさせてあげたいの」

「う、うん知ってる……」

「だからね、ちょっとでも性的にイライラしたら、私たちを呼んで欲しいなぁって。だってほら、1人で白いのをたくさん出したって虚しいだけでしょ?」

「それ、全世界でオナニーをしてる人が聞いたら一気に萎えそう……」

「そうですよ秋人さん! 男性の白液の中にはたくさんの生命が宿っているんです。秋人さんはそれをティッシュに無駄に吐き出しているんですよ? それは生命の大量虐殺となんら変わりません」

「それじゃあ世界で何度行われているか分からないオナニーのせいで、毎日世界人口並の生命が死んでることになるね……」

「でも秋人くん。あなたにはその生命を無駄にしない方法がある。目の前にいる私たちは、一体何のために存在するのか理解してるかしら?」

「ぼ、僕のお世話をするため……」

「そうね。でも一言でお世話と言っても、家事だったり掃除だったり、もちろんあなたの健康管理もその対象。つまり……この先は言わなくても分かるわよね?」

 

 

 なんだろう、どうして僕が言い包められる形になっているんだろうか……? 正しい発言をしているのは僕のはずなのに、何故か彼女たちの意見に妙な説得力を感じてしまう。そのせいで何が正しいのかそうでないのか分からなくなっちゃいそう……。

 

 千聖ちゃんが僕にどんな発言を求めているのか、それはもう分かっている。でもこの流れに乗ってしまったが最後、僕の生活は今よりも更に堕落したものになるだろう。もう少し詳しく言えば、常に誰かしらの女の子が僕の性的イライラを処理してくれるような生活ってことだ。もちろんそれは男の夢だし、僕としても憧れる生活だと思っている。思ってるだけで、決して口には出さないけどね。

 

 

「…………そう。ここまで誘惑されても靡かないのは意外だわ」

「でも、私たちは秋人くんのそういうところが好きになったんだよね」

「こんな優柔不断な僕のことを?」

「優柔不断なんかじゃないです! アキトさんは自分の中で正しいと思うものを貫き通しています。女性からどんな甘言を受けたとしてもです」

「あたしも秋人くんのそういうところを見習いたいなぁ。ほらあたしって、彩ちゃんほどじゃないけどふわふわしてるでしょ?」

「日菜ちゃん、それって私の悪口……?」

「さぁ~て、どうでしょ~?」

「あはは……ともかく、ジブンも秋人さんのこと、もっともっと好きになっちゃいました!」

「あ、ありがとう……」

 

 

 いきなりこうして褒められるとは思ってなかったら、背中が痒くなっちゃうな。さっきまでは散々僕のことを誘惑していたのも、僕を試そうとしていた――――ってことは流石にないか。でも、みんなが僕のことを純粋に想ってくれることは嬉しい。それでも自分のことは優柔不断な変態野郎としか思えないけど、それはニートをやっている以上仕方のない話だ。

 

 

「そうだ、あたしいいこと思いついた! 秋人くんはあたしたちと直接スるのは躊躇われるんだよね? だったら、あたしたちのタペストリーを作っちゃおうよ!」

「は……?」

「どうせ女の子の裸が載ってるタペストリーを買う予定だったんでしょ? だったら、その代わりにあたしたちがモデルになればいいんだよ!」

「そ、それってつまりみんなの全裸姿が僕の部屋に……!? でもそんなの、他のみんなが許すはずが――――」

「いいアイデアだよ日菜ちゃん! 私も賛成!」

「確かに、そうすれば秋人くんが余計な雌猿で自慰行為をすることもなくなる。うん、いい手だと思うわ」

「この時のために私はモデルの仕事を続けてきたのです! 頑張ります!」

 

 

 モデルはモデルでも、このままだとAVのパッケージの撮影みたいになっちゃうよ……。パスパレのみんなは芸能人だから撮影には慣れているんだろうけど、これまで培ってきた魅せ方を全裸タペストリーに捧げるなんて実力を無駄遣いさせているような気がしてならない。まあ芸能人の女の子たちが僕1人のために脱いでくれるってシチュエーションはとっても興奮できるんだけどね。それに僕自身もちょっぴり期待しちゃっている。これで彩ちゃんたちの芸能人魂が腐らなければいいけど……。

 

 

「そうと決まったら、早速撮影の準備に取り掛かりましょう! 撮影用のカメラや照明は、事務所の方が貸してくれるそうです」

「えっ、事務所OKでたの!? こんなことに対して!?」

「はい。事務所の方は秋人さんのことを大変気に入ってますから!」

「それに秋人くん、『こんなこと』じゃないよ。これは秋人くんが二次元の女の子に囚われないように、そして外出して他の女性に靡かないように、私たちをより身近に感じられるモノを提供するだけだよ。それ以上でもそれ以下でもない。私たちからのプレゼントだから」

「素直にその気持ちを受け取りたいんだけど、結局それって……」

「うん。だからね、秋人くんは外に出なくてもいいの。ずっと、私たちがお世話をしてあげるからね」

「で、ですよね……」

 

 

 彩ちゃんたちの笑顔は凄く眩しいが、捉えようによってはヤンデレ発言にも聞こえそうだよねこれ。芸能人の女の子が自らオナネタを提供してくれるなんて狂喜するくらいだけど、彩ちゃんたちの全裸タペストリーが部屋に飾られていたらずっと興奮しっぱなしで眠れなくなっちゃうよ……。

 

 

「秋人くんと一緒にいると、るん♪って来ることばかりだね! タペストリーで私たちを感じてもらうんじゃなくて、いっそみんなで一緒に暮らせたらいいのに~」

「そんなことになったら、僕が干からびちゃうよ……」

「でも日菜ちゃんの言う通り、おっきな家で1つ屋根の下で生活できたら楽しそう。そうすればもっと秋人くんと一緒にいられるし、1日中お世話できるもんね」

「そこまで行くと、もう介護じゃん……」

 

 

 そうやってパスパレのみんなは夢を語るが、僕にとってはありがたくもあり恐ろしい夢だったりする。ガールズバンドのみんなと一緒にいられるのはもちろん嬉しいけど、夜なんて中々寝かせてもらえなさそう……。

 

 

 そんな訳で彩ちゃんたちの一糸纏わぬ姿のタペストリーが作成されようとしていたんだけど、どこからかその話を聞きつけた他のみんなが自分たちの分も作ると大騒ぎになったので、騒ぎを抑えるためにひとまず僕の部屋に全裸絵が置かれる異常事態は避けられた。ガールズバンド全員の全裸タペストリーが置かれる事態になったかもしれない未来を考えると、この結果で良かったんだと思う。部屋一面が女の子の全裸絵なんて、自室なのに目のやり場すらなくなっちゃうから……。

 

 

 でも、興味はあるからちょっと名残惜しいかな……? ちょっとだけだよ??

 




 ポピパ編とRoselia編の2話の時点で、この小説の評価バーが赤MAXとなりました。バンドリ小説全体の中でも総合評価順位で上位5%に入ったので、ハーメルンでも勢いのあるジャンルだとひしひし感じます。


 次回はAfterglow編の予定です。


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Afterglowに甘やかされる

 争うほど仲が良いってね!


 僕の家はそこそこ広く、1人暮らしするには勿体ないくらいの大きさだ。それもこれも弦巻家の好意によるものだけど、結局僕の1日は自室に閉じこもってネットにのめり込むか自慰をするかのどちらかなので、この家がどれだけ広かろうが関係なかったりする。むしろ、みんなの掃除の手間が増えるだけだ。全く使わない部屋だから掃除しなくてもいいとは言ったんだけど、みんなは律儀だから僕の家に埃1つ許さない。みんなは僕が住みやすい快適な環境作りを心掛けてくれているのだ。

 

 だけど、僕の自室以外の部屋が全く使われないかと言われたら、一部はそうでもない。実はガールズバンドのみんなが泊りがけで僕のお世話をしてくれることもあるんだ。翌日が休日だったり、親から外泊の承諾を得た子たちが僕の家に集まることもある。その時のみ自室以外の部屋が寝室として使われる……かもしれない。

 

 かもしれないと言ったのは、大抵の場合こうなるからで――――――

 

 

「あ~ん! また負けたぁ……」

「ひーちゃん弱すぎ~」

「これで5連敗だな。ということで、ひまりは隣の部屋で寝ること」

「女なら、最初に交わした約束は守るべきだよね~」

「も~う! 巴もモカもヒドいよぉ……」

 

 

 巴ちゃんとモカちゃんがふんぞり返り、ひまりちゃんが2人に縋り付く、何とも分かりやすい上下関係が目の前で繰り広げられている。

 3人は某赤い帽子の髭オヤジが主人公のレースゲームで勝負していた。しかし、普段ゲームを嗜まないひまりちゃんにとって勝負事に強い2人に勝てるはずもなく、完膚なきまでにボコボコにされた。ていうか巴ちゃんもモカちゃんも、最初からひまりちゃんを敗北の底に突き落とすつもりで勝負を仕掛けたよねこれ……。

 

 ちなみにその様子は僕だけでなく、彼女たちと同じバンドメンバーの蘭ちゃんとつぐみちゃんも傍観していた。

 

 

「あはは、ひまりちゃんも必死だね……」

「仕方ないよ。秋人と一緒のベッドで寝られる権利なんて、死に物狂いでも奪いたくなるから」

「そ、そこまでして僕と……」

「当たり前でしょ。ま、あたしもつぐみも既にその権利を持ってるし、ゲームの結果がどうだろうが関係のないことだけど」

「なんだか嬉しそうだね、蘭ちゃん」

「べ、別にそんなことない!」

 

 

 地味なツンデレを発揮して頬を染める蘭ちゃんって、ずっと見ていたくなるよね。とは言っても僕のようなちんちくりんでは、誰かを煽っても煽り返されるだけだけど……。

 

 蘭ちゃんたちAfterglowは、誰が僕とベッドで一緒に寝るかの権利をかけてバトルをしている。最初はジャンケンだったけど、早々に蘭ちゃんとつぐみちゃんが勝ち抜け。だから巴ちゃんとモカちゃんは自分たちだけが勝利を掴もうと、非道にもゲームが苦手なひまりちゃんにテレビゲーム勝負を持ち掛けた。恐らくひまりちゃんの乗せられやすい性格を利用したんだろうけど、その作戦は見事に的中、自分たちが僕の部屋で寝る権利を掴み取ったんだ。

 

 ちなみの3人が行っていた勝負は何故か追加ルールが設けられており、負けた1人が隣の部屋へ隔離されるというものだった。ひまりちゃんもゲームと聞いて熱くなっていたためか、その提案にあっさり乗ってしまったのが運の尽き。あとは巴ちゃんとモカちゃんのシナリオ通りに事が運び、現在に至るという訳だ。

 

 ジャンケンで既に勝ち抜けた蘭ちゃんとつぐみちゃんは呆れた様子で3人を眺めるが、面持ちが余裕そうなあたり、どうやら高みの見物と洒落込んでいるようだった。

 

 

 このように、僕の家でお泊り会をすると言っても、他の部屋はほとんど使用されず僕の部屋でみんな一緒に寝ることが大半だ。だから他の部屋が使用されるのは、今回のように罰ゲームか何かで隔離される他ない。宝の持ち腐れっていうのはこのことなんだろうね……。

 

 

「ひまりちゃんたちはひまりちゃんたちで楽しんでるみたいだし、私たちはそろそろ寝よっか」

「えっ、流石に早くない?」

「健康第一だよ。毎日決まった時間に寝て決まった時間に起きないと、体内時計ってすぐに狂っちゃうからね。それに秋人くん、朝遅く起きると朝食と昼食を一緒に取ろうとするでしょ? しっかり3食取らないと、胃腸の調子が整わなくなってお腹を壊しやすくもなるんだよ。そうならないためにも、秋人くんの健康は私が守ってあげるからね」

「あ、ありがとう……」

「つぐみがいつも以上にツグってる……」

「そうと決まったら――――ちょっとゴメンね」

「えっ……わっ!?」

 

 

 つぐみちゃんはベッドに上がり込み、背後から僕の頭を自分の胸に抱き寄せてきた。その直後、僕の頭を胸から下ろし、そのまま膝の上に置いた。そう、これぞ紛うことなき膝枕だ。つぐみちゃんの膝はとても柔らかく、まるで自分が赤ちゃんになってあやされている気分だ。でも、こんな心地良い感覚を味わえるのなら、赤ちゃんになってもいいかなぁと思ってしまう。ここまで献身的に尽くしてくれるところを見ると、やっぱりつぐみちゃんっていいお嫁さんになりそうだよね。

 

 ベッドの上で女の子に膝枕されるこの構図。いきなり過ぎて驚いたけど、夢のようなシチュエーションに興奮して眠れなさそう……。

 

 

「つ、つぐみ……」

「ん? 蘭ちゃんもやる?」

「あ、あたしは別にいい……」

「あはは、顔赤くなってるよ? 秋人くんと添い寝できる権利を勝ち取ったんだから、せっかくだし堪能しちゃおうよ!」

「あのぉ、蘭ちゃん? イヤならあまり無理しなくてもいいんだよ……?」

「いや、むしろこれはチャンスだと思ってるから。つぐみが秋人の枕になるのなら、私は掛布団になってあげる」

「ふぇっ!? そ、それって蘭ちゃんが僕に覆い被さるってこと?」

「流石にそれだと苦しくて寝れないだろうから、添い寝しながら抱きしめてあげる」

「そ、そう……」

 

 

 あの堅物でもあり恥ずかしがり屋でもある蘭ちゃんが、まさか自ら添い寝をしてくれるなんて……。ここまでキャラが違うってことは、もしかしてここはパラレルワールドかどこか?? 蘭ちゃんは割とクーデレなところがあるけど、これほどデレの感情を表に出すのは初めて見たかもしれない。それほどまでに僕との添い寝の権利が嬉しかったのかな?

 

 そして、蘭ちゃんも僕のベッドに上がり込んできた。つぐみちゃんに膝枕をされながら、蘭ちゃんが布団になってくれる最高のシチュエーション。どうして女の子ってここまで柔らかいんだろう……? この感覚を知っちゃうと、もう普通の布団では寝られなくなっちゃいそうだよ。

 

 

「ちょっ、ちょっと蘭! 何してるの!?」

「ひまり……。いや、秋人と一緒に寝ようかと……」

「こっちがピンチなのに、見捨てて自分だけ寝る気!?」

「だって、秋人と添い寝する権利があるのは私だし」

「そうだよ~。往生際が悪いね~ひーちゃん」

「6連敗もしてるんだから、もう諦めろって」

「うぅ~~~~!!」

 

 

 さっき5連敗って言ってた気がするけど、僕たちがベッドの上で色々やっている(意味深ではない)間に連敗記録を更新したみたいだ。ゲームでは大敗を喫し、蘭ちゃんからは見捨てられたから、ひまりちゃんっていつも損な役回りだよね……。もうそれが普通の光景となっているアフグロの日常って、意外とブラックな一面があるのかも? もちろんイジりイジられの関係は仲が良いとできないから、会話を聞いてるだけでもみんなの仲の良さが伝わってくるよ。

 

 

「蘭もつぐも秋人くんを堪能しちゃってぇ~~!! こうなったら、例の秘策で対抗しちゃうんだから!」

「あぁ、なんだか嫌な予感が……」

「秋人くんは男の子だからね。つまり、秋人くんに選ばれた女こそベッドに上がる資格があるんだよ!」

「あぁやっぱり、ひまりちゃんの悪い癖が……」

 

 

 ひまりちゃんって追い詰められると、香澄ちゃんやはぐみちゃん並にぶっ飛んだ発言をすることがある。そして、今まさにその性格が遺憾なく発揮されていた。蘭ちゃんたちは『何言ってんのコイツ……』みたいな面持ちでひまりちゃんを見つめてるけど、当の本人は何故か勝ち誇った様子。なんだかこれからとんでもないことに巻き込まれそうで、少し怖いんだけど……。

 

 そう思って僅かに冷汗をかいていると、つぐみちゃんが微笑みながら僕の頭を撫でてくれた。膝枕されながら頭を撫でられるなんてお母さんに甘える子供のような気分になるけど、それが気持ちいいんだから仕方ない。もう一生このままでいいかも……? ひまりちゃんには悪いけど、余計なことはせずにこのまま就寝でいいんじゃないかな?

 

 

「ベッドに上がる資格って、それはジャンケンで既に決まったじゃん。あたしとつぐみに」

「私たちは華の女子高生なんだよ? ジャンケンなんて運の要素だけで決まるような戦いで満足しちゃダメだよ!」

「おぉっ、ひまりもたまには良いこと言うじゃん! そうだよな、もっと熱くなれよ!!」

「たまにって……」

「モカちゃんもひーちゃんとトモちんにさんせ~い。ということは、多数決でさっきのジャンケン勝負はなかったってことで可決されました~」

「それ女子高生関係ないじゃん。それに、ただ秋人と一緒に寝たいだけでしょ……」

「「「「もちろん」」」」

「もう我儘を言ってることを隠さなくなったね3人共……」

 

 

 一度決着がついた勝負を、我儘を言って無効にしてまで僕に添い寝をしたいのか……。いや、もちろんこちらから頼みたいくらいには嬉しいんだけど、プライドってものがないのかな……? 蘭ちゃんもつぐみちゃんも呆れた様子だが、この3人が暴走したら止められないと分かっているのだろう。2人がここまで潔いのは幼馴染の性格を熟知しているが故なのか。そう考えると、蘭ちゃんとつぐみちゃんって普段から苦労してそうだね……。

 

 すると、僕の頭に再び暖かい感触が伝わってきた。

 お相手はまたしても僕に膝枕をしてくれているつぐみちゃんで、完全に蘭ちゃんにひまりちゃんの応対を任せていた。

 

 

「つ、つぐみちゃん!? いきなりどうしたの……?」

「ゴメンね、秋人くん。ひまりちゃんたちが騒がしくて寝られないよね? どうせなら、私たちだけ別の部屋に移動しちゃおっか?」

「つぐ! そこだけイチャイチャしない!!」

「ひまりちゃん、夜に大声を出すと近所迷惑だよ」

「つ、冷たい!!」

「なんか今日のつぐ、やけに淡々としてるよな……」

「いつもはひーちゃんを慰める役なのに、今日はあまりにも冷酷だよね~」

「私も添い寝する権利を獲得したんだけど、サラッとハブられてるし……」

 

 

 つぐみちゃんは僕にとって聖母のような存在で、今もこうして膝枕をしてもらっていることで軽いバブみを感じているところだ。

 だけど、彼女は僕が絡むと少々幼馴染たちに毒舌になる節がある。現にこうしてひまりちゃんに対しても冷酷であり、普段彼女のフォローをしているつぐみちゃんだとは思えない。でも、多少Sっ気にあるつぐみちゃんかぁ……うん、ちょっといいかも。

 

 

「こうなったら、とっておきの秘策を発動させちゃうんだから!」

「そういえばひまりちゃん、さっきもそんなこと言ってたよね? 秘策ってなに?」

「秋人くん、それは愚問だよ。秋人くんはきっとこう思ってるはず。『どうせ女の子に添い寝されるなら、肉付きが良くて身体が柔らかい子がいいなぁ~』ってね」

「え゛っ!? そ、それは……」

「さっきも言ったけど、秋人くんと添い寝をするなら秋人くんに選ばれた人がベッドに上がるべきだよ。それはつまり、Afterglowで一番胸が大きい私ってこと!!」

「「「「「……!?!?」」」」」

 

 

 僕とひまりちゃん以外の子たちが衝撃を受ける。みんな唖然として、しばらく彼女に何も言い返せないでいた。

 確かに、その勝負ならバストサイズを測るまでもなくひまりちゃんの圧勝だ。Afterglow内だけでなくガールズバンド内でも圧倒的なボリュームがあるその胸。ひまりちゃんの言う通り、その胸を枕にして寝られたらどれだけの快眠が得られるのか、想像するに余りある。ダメだ、想像するだけで鼓動が高鳴ってきた……!!

 

 

「秋人くん!? おっぱいお化けの誘惑に負けちゃダメ!!」

「もうつぐったら、負け惜しみは良くないよ」

「そうだぞ」

「ほらね? 巴も私に賛成だって――――」

「ただの脂肪の塊なんかに屈するな秋人!」

「えぇっ!? 巴はこっち側じゃなかったの!? さっきは私に同調してくれたよね??」

「そもそも、最初からひまりの味方をするとは一言も言ってないけど?」

「ぐぅ……」

 

 

 巴ちゃんの気持ちは分からなくもない。こんなことを本人に直接言えないけど、彼女は胸が小さいタイプだ。それはつぐみちゃんも同じで、2人は恐らくガールズバンド内で争っても下位に位置するだろう。ひまりちゃんが規格外のデカさだから、彼女と同じバンドメンバーの胸が小さいと余計に目立っちゃうんだよね。

 

 対して、モカちゃんは年相応、蘭ちゃんは高校生の基準値よりもちょっと高めと見立てている。特に蘭ちゃんに至っては添い寝の最中にも何度か胸が当たり、その大きさと感触がモロに伝わってきてた――――って、僕は何を真剣に女の子の胸を測ってるんだ!? 変態じゃん僕!? いや、変態だったか……。

 

 

「ふふん、何と言われようと、私はおっぱいお化け、秋人くんはおっぱい魔人だから、2人は引き合う運命なんだよ。ね、秋人くん?」

「ここで僕に振るの!? そりゃあ好きか嫌いかで問われたら好きだけどさぁ……」

「秋人くん、私の膝枕じゃ……ダメ? やっぱり生の太ももを味わいたい? 下を脱いだら満足してくれる??」

「ちょ、ちょっと落ち着いてつぐみちゃん! やけになりすぎだから!」

「アタシだって脚には自信があるぞ! ダンスや和太鼓で引き締まった脚なら、秋人もきっと興奮できるから。な??」

「な? って言われても……。まぁ興味がない訳じゃないけど……」

 

 

 ひまりちゃんもつぐみちゃんも巴ちゃんも、もはや我を忘れて僕に自分の艶めかしいと思う部位をこれでもかとアピールしてくる。思春期女子がここまでの痴態を晒すなんて、本当なら悶えるほどに恥ずかしいはずだ。だけど、誰も羞恥の色など一切見せない。

 

 しかも、みんなは寝間着を少し開けさせ自分の素肌まで晒している。深夜、同じ部屋、同じベッドで女の子たちが脱いでいるその光景は、もはや芸術的。沸々と滾る情欲に、この先の1週間はもうオナネタに困ることはなさそうだ。思春期女子の身体って、熟された大人の身体へ発達している最中だけど、その発達過程こそ至高なんだよ。もうこの妄想だけで1日を潰せそうだ。

 

 

 みんなが臨戦態勢に入っている最中、後ろから頬を突っつかれた。

 振り向いてみると、その犯人はモカちゃんで、物珍しいモノを見るように僕にちょっかいを出している。

 

 

「おぉ~秋人の頬っぺ柔らか~い。これだけスベスベぷにぷにだと、女の子として嫉妬しちゃうなぁ~」

「そ、そりゃどうも……」

「頬っぺを堪能させてもらった代わりに、秋人もモカちゃんの超スペシャルボディを堪能していいよ~」

「それってどういう意味――――って、うわぁ!?」

 

 

 質問を投げかける前に、モカちゃんは僕をつぐみちゃんの膝枕から引き剥がして自分の身体に抱き寄せてきた。

 いきなり頭を胸元に押し付けられて驚いたけど、こうして密着してみると、モカちゃんも意外とサイズあるんだな……。それに彼女のふんわりとした雰囲気は体温にも表れており、こうして軽く抱きしめられているだけでもとても暖かい。

 更に、彼女の甘い香りが僕の鼻孔をくすぐってくる。パン好きのモカちゃんのことだから、抱きしめたらきっと甘い匂いがするんだろうなぁと思っていた時期があった。でも、まさかこのタイミングでその事実を確認できるなんて……。もう程よい暖かさと甘い香りでこのまま眠っちゃいそうだ。

 

 

 ちなみに、当たり前だけどモカちゃんの抜け駆けをみんなが許すはずもなく――――

 

 

「モカちゃん!? なんで私の秋人くんを取っちゃうの!?」

「いやいや~。秋人はあたしたちの共有財産ですから~」

「でも、つぐの膝枕よりも気持ちよさそうな表情してるぞ。つまり、秋人は脚フェチじゃなかったと……」

「うぅ……お化けと魔人のおっぱい同盟がぁ~」

「ふっふっふ。おっぱいだけで男の子を釣ろうだなんて、女の子は全身で語るものなのですよ~。所詮は脂肪の塊お化けってことだね~」

「ヒ、ヒドい!?」

 

 

 なんか、このままだと僕が異常性癖者扱いされそうなんだけど……。みんなを擁護しておくと、僕は女の子の胸は大小問わず好みだし、引き締まった艶めかしい脚も食いつきたくなるくらいに好きだ。だから、みんなの身体に魅力がないってことは絶対にない。相手が誰であろうとも、その子の魅力的な部分に興奮できる自信がある――――って、僕、どうしてこんなことを力説してるんだろ……。ひまりちゃんが秘策を発動させた時から、僕もヒートアップしてしまっているらしい。こんなことをみんなの前で言ったら、今よりももっと騒がしい暴走の引き金を引いてしまうだろう。

 

 だが、このままでもAfterglowの戦争は更に苛烈を極めかねない。ここは穏便に『みんな良くて、みんな良い』作戦で、この場を宥めた方が良さそうだ。

 

 

「と、とりあえず落ち着こう、ね? みんなが僕と一緒に寝てくれるのは嬉しいけど、お泊り会は今日だけじゃないんだし、毎回交代すればいいと思うんだ。添い寝してもらっている僕が言えた立場じゃないけど……」

 

 

 女の子に代わる代わる添い寝してもらえるなんて、いい立場のくせに制度まで決めて図々しい奴だと自分でも思う。

 だけど、僕の言葉に場の雰囲気は自然と落ち着いた。多少ピリついていた空気も静まり、緊張の糸も解れたようだ。

 

 

「確かに、ちょっと熱くなり過ぎたかもな。思い返せば、この前はアタシが秋人と一緒に寝たから、今日はみんなに譲るよ」

「そうだね。私も口が悪くなってたかも……」

「モカちゃんも反省かな~」

「うん。私も大人気なかったよ……」

 

 

 突如として始まった反省会。でも、そのおかげで場が和んだし、僕の選択は間違っていなかったのだろう。

 こうして自分の非を認めてすぐに仲直りできるのも、やっぱり幼馴染同士だからなのかもしれない。僕のために争わないで! という女の子から求められて調子に乗る気持ちがあったことはあったけど、やはりこうしてみんなが仲良くしてくれている方が居心地がいい。それに、どうせ添い寝をしてもらえるならみんな一斉にとか思ったり思わなかったり……。

 

 流石にそんなことは言えないので、ここは適当にまとめて今日は寝よっかな。

 

 

「せっかくだし、今日はみんな同じ部屋で寝ようよ。少し狭くなるけど、ポピパやRoseliaのみんなもよく川の字で寝てるから多分大丈夫だよ」

「この部屋で6人か……。結構というか、かなり窮屈だな」

「そうなんだよね。だから友希那ちゃんとか、いつの間に僕を抱き枕にして――――」

「湊さん……?」

「蘭ちゃんどうしたの? あっ……い、いや何でもないよ何でも!!」

「あちゃ~。秋人くんやっちゃった……」

 

 

 今まで騒ぎを静観していた蘭ちゃんが、遂に口を開いた。それは蘭ちゃんの前では禁句とされている言葉で、僕もみんなも一触即発の危険性は熟知している。だからこそ、僕の失言に空気が再び凍り付いたのだ。

 

 

「湊さん、いつも秋人にそうしてるの?」

「そ、それはぁ……」

「答えて」

「友希那ちゃんは友希那ちゃんで、蘭ちゃんは蘭ちゃんだから気にするほどでも……」

「答えて」

「うっ、い、いつもされてます……」

「あっそ。別にどうでもいいけど」

「えぇ……聞いてきたのそっちじゃん」

「何か言った?」

「いえ、何も……」

 

 

 蘭ちゃんはいつもはクールで冷静だけど、友希那ちゃんが絡むと途端に戦闘狂になる。さっきまで蘭ちゃん以外の4人が作り出していた空気よりも更に重い空気を、しかも1人で作り出せるから、彼女が抱く友希那ちゃんへの闘志の度合いが感じられた。

 でも、その度合いはかなり斜め上。今回のように友希那ちゃんに添い寝をされてるかされてないかって話題で食いつくこともあれば、アンプのコードを友希那ちゃんより先に巻き終わることでマウントを取ったこともある。つまり、闘争心を出す方向を間違えているんだけど、普段以上に硬派になった蘭ちゃんに対して口出しできる者は誰もいない。それが例え幼馴染たちであっても……。

 

 だけど、ここで助けを呼ばないと蘭ちゃんのペースに飲まれてしまう。

 ここはみんなの力を借りたいので、何故か僕と蘭ちゃんと距離を取っている4人にアイコンタクトを送ろう。

 

 

(蘭ちゃんが怖いんだけど、みんな助けて!!)

(いや、自分の失言は自分で尻拭いしないとダメだろ)

(蘭はこうなったら自分がマウントを取り返すまで収まらないから、秋人くんよろしくね!)

(あはは……ゴメンね、秋人くん)

(いやはや、剣闘士の戦いを見ながら食べるパンは美味しいですな~。部外者の余裕サイコー)

(はぁ? ここで裏切るの!?)

 

 

 誰のおかげでさっき仲直りができたと思っているのやら。いくらなんでも恩知らずにも程があるよ!!

 いくら眼力を強くしてアイコンタクトを送ろうが、みんなは苦笑いで傍観しているだけだ。モカちゃんに至っては夜食のパンを嗜んでるし、もはや他人の不幸は蜜の味と言わんばかりに無関係を装っている。確かにこうなった蘭ちゃんに関わりたくない気持ちは分からなくもないけどさぁ……。

 

 

「蘭ちゃん? 顔強張ってるよ……?」

「別に強張ってないし。湊さんのことなんて何とも思ってないし」

「いや、そこまでは言ってないけどさ……」

「湊さんよりあたしの方が秋人を気持ちよくできるし。朝までとは言わず、秋人が望む限り添い寝し続けられるし。なんならこれから一生、あたしを好きに使ってもらってもいいし」

「蘭ちゃん!? 段々発言が過激になってるから!?」

「湊さんは一晩中添い寝してたんでしょ? だったらあたしは1日中してあげるから」

「何の勝負してるの!?」

 

 

 もはや音楽で勝負せず、とりあえず何かしらでマウントを取れば勝ちだと思っているらしい。普段は硬派で大人っぽく見える蘭ちゃんだけど、こうやって子供っぽい性格も持ち合わせてるのが可愛いよね。初見で彼女を見た人は不良と思われがちだが、負けず嫌いで必死になっている様子を見てると微笑ましくなってくる。だけど、こうして友希那ちゃんに対抗せんとする勢いは凄まじく、僕も身体が震え上がっちゃうけど……。

 

 

「そういうことで、今日秋人に添い寝するのは私だから」

「えぇっ!? そんな勝手に決めないでよ!?」

「あのね蘭ちゃん。さっき決めたんだけど、今日はみんなで一緒に……」

「なんか言った……?」

「「い、いぇ……」」

「今日の蘭、いつも以上に秋人にお熱だねぇ~」

「秋人と湊さんが両方絡んでるからな。ま、今日は蘭に譲った方が身のためか……」

 

 

 これにてアフグロの添い寝番騒動は、蘭ちゃんの圧力により無理矢理幕を閉じた。

 傍から見ると喧嘩っぽく見えたけど、これも争うほど仲が良いってやつなのかな? でも、ようやくゆっくり寝られそうだ。

 

 

「蘭!? 秋人くんにくっ付きすぎだって!」

「湊さんの匂いを消さないと――――い、いや、こっちの方が秋人が気持ちよくなれると思っただけ」

「さっき、思いっきり本音漏れてたよね……」

 

 

 ゆっくり、寝られるかなぁ……?

 




 バンドリに出てくるキャラの仲は誰を見ても良好だとは思いますが、アフグロの5人の仲の良さが一番好きだったりします。4年半以上も小説を執筆してきてるのに上手く表現できないのですが、こう幼馴染同士で相手を尊重し合っているところが見ていて微笑ましくなるんですよね。
 今までの話は『秋人←女の子たち』の描写が多かったのですが、今回はそれを含めメンバー間の掛け合いが多かったのはアフグロの仲の良さが好きってことが影響していたりします。


 次回は問題児が多いハロハピ編です。
 次でグループが1周して一区切りなので、小説を続行するかどうかは投稿後の動向を見て決めようと思います。


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ありがとうございました!



【よくある質問】
Q.作者さんの推しキャラは誰ですか?
A.全員が好きと言ってしまうと元も子もないので、バンドグループ別で。

 ホピパ:有咲
 Roselia:リサ
 パスパレ:千聖
 アフグロ:蘭
 ハロハピ:美咲

Q.どうして主人公は甘やかされる立場になったのですか?
A.その理由や前日単のストーリーを考えてはいるのですが、そこそこ真面目な話になります。なので、まずは私の小説の雰囲気を皆さんに知ってもらったうえで、もしこの小説が軌道に乗ってきたらそのストーリーも進めていこうと思っています。



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ハロー、ハッピーワールド!に甘やかされる

 この暴走こそがハロハピって感じがします()


 

「今日は秋人にせっくす……? っていうのを教えてもらおうと思って来たの!」

「ぶっ、こころちゃん!? いきなり何言ってるの!?」

 

 

 この開幕爆弾発言は、如何にもハロハピらしいロケットスタートだって思うよ……。

 今日僕の家にやって来ているのは、ガールズバンド界隈でも変人ばかりが集まっていると言われる『ハロー、ハッピーワールド!』の子たちだ。彼女たちのライブはいつも奇想天外で、ライブ中に会場内を飛んだり、観客たちの波の中を泳いだりは日常茶飯事。ある時はスカイダイビングをしながらライブをしたって話だから、彼女たちの行動に予想を立てられる人はいないだろう。

 

 だからこそ、さっきのこころちゃんの発言も予想外過ぎて、思わずジュースを噴き出すなんて古典的な驚き方をしてしまった。さすが、ガールズバンドの台風の目と言われるだけのことはあるね……。

 

 一応擁護しておくと、こころちゃんは純粋無垢な子で、俗に言われる穢れた知識は一切持ち合わせていない。『セックス』という単語すらもたった今知ったくらいだ。

 ただ、純粋無垢で好奇心旺盛な性格が災いして、僕に火の粉が降りかかっているのが今の状況である。あぁ、R-18本をしっかり隠しておかなかったせいで、まさかこんな事態になるなんて……。

 

 

「あら? この本だと、女の人が男の人を膝枕しながら胸を吸わせて、下半身を手でしこしこしてるシーンがあるわね。もしかして秋人、あたしたちにこれをやって欲しいのかしら?」

「え゛っ……!? そ、そりゃやってくれるならやって欲しいけど……って、今のなし!!」

「分かったわ! 秋人の笑顔のために、私が腕を振るってあげる!」

「え、笑顔って言うよりイキ顔になっちゃう気も……いや、なんでもない」

 

 

 こころちゃんにバブみを感じるって人は少ないだろうけど、意外や意外、彼女はそこそこスタイルがいい。胸も大きいし、全体的にもっちりとした肉質感だってことは彼女の身体をまじまじと見つめていればすぐ分かる。それに、こころちゃんはイイトコの令嬢だ。お嬢様に膝枕をされながら性欲処理って、それほど極楽なシチュエーションがあるだろうか。いや、ない。

 

 

「こころ~ん! 何見てるの??」

「あら、はぐみ。秋人が持っていた保健の教科書を見てお勉強中よ!」

「わっ! 裸の男の人と女の人がこんな――――って、これは何をしてるのかなぁ?」

「さぁ、でも2人共すっごく興奮してるっぽいし、とっても楽しいことよね!」

 

 

 マ、マズい!! はぐみちゃんまで登場した挙句、また性知識に疎い子が来たせいで話がややこしいことに……。

 実はこころちゃんにエロ本を見られた時に、下手に追及されないよう『それは保健の教科書だよ』って嘘を付いたんだけど、それこそが運の尽きだった。まさか『あたしは保健の成績が良くないから、秋人に教えてもらうわ!』なんて言い出すとは想像もしてなかったよ。ガールズバンドのみんなの言動は予想できないことが多いけど、こころちゃんだけは別格だ。そこにほぼ同格のはぐみちゃんが加われば、場が混沌とするのはもはや自明の理だった。

 

 

「それじゃあ早速やってみようよ! はぐみがあきくんを脱ぎ脱ぎさせてあげるね!」

「はぐみちゃん!? ズボンに手をかけないで!!」

「そもそも、あきくんパジャマのままだよね? もうお昼なのにそんな格好してちゃダメだよ!」

「だって今日はどこも出掛けないし……って、今日もか……」

 

 

 僕はみんな(主に彩ちゃんと千聖ちゃん)から外出禁止令が出されているため、外に出ることはできない。事実上の監禁なんだけど、元々僕には外に出る用事なんて皆無だったりもする。だって生活必需品を始め、趣向品までみんなが買ってきてくれるから、わざわざ僕が外に出る必要がないんだ。唯一あるとすれば、とてもじゃないけど女の子に見せられないエッチな本を買う時くらいだ。まぁパスパレのみんなが来た時が特別な状況だっただけで、いつもはネットで注文するからその用事が発生すること自体が珍しいんだけどね。

 

 とにかく、早くこの状況を打破しないと、こころちゃんとはぐみちゃんに性指導をするはめになってしまう。純粋なこの子たちに性知識を叩き込むって、世界史上に残る犯罪になっちゃうよ……。

 

 

「おやおや、子犬くんに子猫ちゃんたち。集まって何をやっているんだい?」

「薫ちゃん……。い、いや、何でもないよ何でも!!」

「あら、薫も来たのね!」

「薫くんも一緒にお勉強しよう! はぐみ、勉強は苦手だけど、あきくんが教えてくれるなら頑張れるよ!」

「秋人が教えてくれるのかい? それは興味深いねぇ」

 

 

 マズい。俗に言われる3バカが集まってしまったせいで、混沌としていた空気が更に渦巻いてしまう。

 最悪、そのエッチな本に何が描かれているのか、男と女が何をしてるかくらいは話したって構わない。もちろん恥ずかしいんだけど、それ以上にこころちゃんたちにあれこれ質問をされて、それに答えるって状況が物凄く恥ずかしいんだ。純粋な子ほど恐ろしいとは良く言ったもので、子供のような好奇心で男女の性行為について質問されるなんて、それもう羞恥プレイだよ……。

 

 

「薫、あなたもこの教科書で予習しておくといいわ」

「教科書? 随分と薄い本のようだけど、一体何の教科書――――って、えっ!?」

「薫くんどうしたの? 顔真っ赤だよ?」

「こ、これはその……教科書なのかい?」

「そうよ! 秋人が保健体育の教科書だって言ってたわ」

「ゴ、ゴメン薫ちゃん。別に騙すつもりは一切なかったんだ……」

「い、いやぁ秋人の気持ちは分かるよ。こころとはぐみにこの本をどう説明したらいいのか分からず、咄嗟にそう言ってしまった。そんなところかい?」

「当たってる……」

 

 

 普段は優雅な振る舞いで周りを魅了している薫ちゃんだけど、自分の羞恥が刺激されることには滅法弱い。そのせいか、教科書という名のエロ本を見た瞬間、冷汗が止まらず顔も噴火しそうなくらい真っ赤にしていた。

 

 対して、こころちゃんとはぐみちゃんは平常運転。薫ちゃんがどうして動揺しているのかも分かっておらず、2人の興味は僕に保健体育の授業をして欲しいって気持ちでいっぱいなのだろう。もちろん本人たちは、それが性指導だとは微塵も思ってないだろうけど……。

 

 

「薫ちゃんゴメン。変なことに巻き込んじゃって……」

「構わないさ……。こころとはぐみが笑顔でいてくれれば……あぁ、儚い」

「えっ、か、薫ちゃん!?」

「あら? 薫が倒れちゃったわ」

「大変だ! みーくん! かのちゃんせんぱーい! ちょっとこっちに来てー!!」

 

 

 あまりに羞恥心に遂に沸点を超えたのか、薫ちゃんはその場で気絶してしまった。倒れて気絶するモーションも美麗なあたり、さすが役者魂が籠っているというか……。まぁ顔が青ざめたままだから、カッコよさの欠片もないんだけど……。

 

 はぐみちゃんの号令により、隣の部屋を掃除してくれていた美咲ちゃんと花音ちゃんが僕の部屋にやって来た。

 2人はこの状況を見て驚くのかと思ったら、意外や意外、反応は僕の想像より薄かった。花音ちゃんは少し慌ててるけど、美咲ちゃんに至っては呆れた様子で如何にも面倒くさそうな顔をしている。

 

 

「か、薫さん、どうしちゃったの……?」

「教科書を読んだだけで倒れちゃったの。どうしてかしら?」

「教科書……?」

「あぁ、なんとな~く察しが付いたよ。薫さんってこういうのに耐性なさそうだからなぁ……」

「美咲ちゃん。なんか冷静だね……」

「いやぁ、3バカと一緒にいるとこういう騒動って日常茶飯事だし、慣れてない方がおかしいでしょ……」

 

 

 なるほど、美咲ちゃんと花音ちゃんの反応が薄かったのはそういうことか。確かにこころちゃんたちと一緒にいれば、嫌でも騒動の中心に吸い込まれてしまう。そうなったら最後、3バカ旋風からは抜け出せず流れに身を任せるしかない。そりゃ倒れてる薫ちゃんを見て平然とするほど逞しく成長する訳だよ。逞しくなりたいのかは別として……。

 

 そして、美咲ちゃんは薫ちゃんの隣に落ちている教科書(エロ本)を手に取る。

 こころちゃんやはぐみちゃんみたいに不思議そうな顔もしなければ、薫ちゃんのように動揺したりもしない。つまり、その本が何の本なのかを理解しており、この手の話題に耐性を持ってるに違いない。

 

 ちなみに横からその本を覗き込んだ花音ちゃんは、薫ちゃんの辿ったルートを歩み始めていた。

 

 

「ふ、ふぇぇ……。そ、それって……」

「まぁ、男の子なら持っていてもおかしくないんじゃない? あたしたちがいるのに、秋人がこれで満足してるのは解せないけど」

「そ、そんなこと言われたって……」

「もしかして秋人、この本に描かれているようなシチュエーションをやってみたいの?」

「え゛っ!? そ、そりゃあできるならやってみたいと――――って、そんなことは断じてない!!」

「言い直しても遅いって。ふ~ん……エッチ」

「う゛、ぐっ……!!」

 

 

 ダメだ。思わずマゾ心をくすぐられてしまった。別に女の子から攻められるのが好きな訳じゃないんだけど、普段は甘やかされてることが多いから、必然的に女の子からの寵愛は受け入れちゃうんだよね。例えそれが冷たいセリフだったとしても。あれ、これがマゾなのか……?

 

 勝手にそんな疑問を抱いていると、美咲ちゃんが僕のベッドに上がって腰を下ろしていることに気が付く。

 

 

「美咲ちゃん? 何やってるの……?」

「何って、するんでしょ?」

「しないよ!!」

「どうせ夜な夜なこの本を見ながら1人でしてるんでしょ? あたしたちの誰かに膝枕されて、授乳されながら下半身をしこらせてるシチュエーションを想像して」

「ぶっ!? そ、そんなこと……する訳ないじゃないかぁ……」

「目が泳いでるし、素直になりなって」

 

 

 美咲ちゃんはこの状況に置いても冷静で、顔色1つ変えず僕を誘惑してくる。よく見てみれば美咲ちゃんの格好はかなりの薄着で、短パンからしなやかに伸びる太ももと生脚が艶やかなの何のって……!! 美咲ちゃんが甘やかしてくれながら性処理してくれるなんて、ようやく妄想が現実になるのか!?

 

 

「美咲と秋人が実践してくれるのね。だったらあたしはしっかり勉強させてもらうわ」

「はぐみも! あきくんを気持ちよくする方法を学んだら、これからあきくんのお世話が捗るもんね!」

「そ、そういうことなら私も……」

「そういうことってどういうこと!? これじゃあ公開処刑だよ……」

「いいんじゃない。この本のシチュエーションを覚えてもらえば、はぐみの言う通りこれからみんなにやってもらえるよ?」

 

 

 イイ! 凄くイイ! とっても魅力的な提案ではあるんだけど、これから毎日膝枕+授乳プレイ+性欲処理って、日に日に僕の精神年齢が下がっていく気がする。そうなったらもう全面的の僕のお世話を女の子に任せるしかなくなってしまう。ただニートだけどゴミクズ並みの自尊心はあるため、それだけは少し躊躇われるのも事実。

 でも、夢にまで見たシチュエーションだ。ここで断ってしまうと、一生その妄想で自慰をしなくてはならない寂しいことになってしまう。

 

 そうだよ、別に性行為をする訳じゃない。だから女の子の身体が傷付く訳でもないんだ。

 だったら、ちょっとくらい夢を見ても……いいよね? それに美咲ちゃんもやる気満々だし、こころちゃんたちも興味津々だから、ここで断ること自体許してもらえないだろう。

 

 とにかく、いきなり下半身を晒すのはハードルが高いので、ここは1つ妥協案で――――

 

 

「とりあえず、保健体育の授業ってことで、お互いに服を脱がずにやってみない?」

「それでもいいけど……。やっぱり最初から裸同士だと、童貞くんには刺激が強いか」

「ど、童貞って……。そんなこと言ったら、美咲ちゃんは処女でしょ?」

「そうだよ。いつか秋人に破ってもらうために、大切に取ってあるから」

「そんなこと真顔で言わないで……」

 

 

 これがオタク界隈で言われるクーデレって属性か。美咲ちゃんの告白を聞いていると、据え膳食わぬは男の恥って言葉が僕のためにあるような気がしてならない。本人にそのつもりがあるのか分からないけど、誘惑の仕方が上手いよね美咲ちゃん……。

 

 

「そうだ、せっかくだから花音さんにやってもらえば? ほら、この本に登場してるキャラも先輩の女性と後輩の男の子だし」

「ふえぇっ!? わ、私が秋人くんと!?」

「そ、それは流石に……」

「どうしますか、花音さん?」

「う~ん……は、恥ずかしがったら秋人くんのためにならないもんね。や、やってみるよ!」

「ホントに!? 勢いに乗せられてない!?」

「あの花音がここまでやる気を出すなんて、きっと今後のためになる授業なのね。楽しみになって来たわ!」

「そうだね! あきくんもかのちゃん先輩もがんばれ~!」

 

 

 こっちはこっちで純粋な応援をしているが、声援を受けながら性欲処理をするってレベル高すぎるでしょ……。

 とは言ったものの、僕以外のみんなはやる気なのでこの流れには逆らえない。いつもは暴走特急を止める役の美咲ちゃんも、今回に限ってはこころちゃんたちと同じ側なので、暴走を止める役どころか抑えつけてくれる人すらいなかった。

 

 花音ちゃんは恥ずかしがりながらも僕のベッドに上がり、おずおずと正座をする。

 そして、無言のまま自分の膝を軽く叩き、僕を膝枕へと誘ってきた。僕はその甘い誘惑に息を飲みながらも、花音ちゃんの母性を感じられる誘惑に耐えられず、自然とベッドに上がってしまった。

 

 みんなの注目を浴びている中、僕は花音ちゃんの膝に頭を降ろす。その瞬間に彼女のふんわりとした雰囲気に見合う甘い香りが僕を包む。花音ちゃんも初めての膝枕で緊張しているものの、僕と見つめ合っているうちに次第に表情も緩くなり、みんなに見られているこの状況にも慣れてきたようだった。

 

 

「最初は服を着た状態でってことで、とりあえず花音さん、上半身を前に倒して」

「えっ、こ、こう?」

「む、むぐっ……」

「ふえぇっ!? あ、秋人くん、くすぐったいよぉ……」

 

 

 花音ちゃんの上半身が僕の方に倒れてくる、つまり、胸が僕の顔にダイレクトアタックされる訳だ。いくら衣類越しとは言えども、女の子の柔らかい胸を顔面で感じられるなんてマジ天国。直接吸うことはできないのに、今にも舌が彼女の胸の先端に伸びてしまいそうなくらいだ。もう紛うことなき変態だけど、今の僕には花音ちゃんのおっぱいを味わうこと以外の思考は一切存在しなかった。

 

 

「ふむふむ、女の子の胸は、赤ちゃんにミルクを上げる時以外にこうやって使うのね!」

「運動する時に胸があると邪魔だなぁって思ってたけど、あきくんに使ってもらえるなら……いいかも。はぐみ、女の子で良かったよ!」

「秋人、とっても気持ちよさそうね! だったら、あたしたちの誰かが毎日おっぱいを枕にして秋人を寝かしつけてあげるっていうのはどうかしら?」

「あきくんが気持ちよくなってくれるなら、はぐみ、毎日だってできちゃうよ!」

 

 

 あぁ、健気で純粋なこころちゃんとはぐみちゃんがどんどん穢されていく。誰のせいかと言われたら、あんな本を隠さずに放置していた僕の責任なんだけどさ……。

 女の子が穢れていくのを恐れる反面、毎日授乳膝枕で就寝できる夢のようなシチュエーションに興奮を抑えきれない僕もいる。こころちゃんとはぐみちゃんは笑顔で胸を吸わせてくれそうだし、花音ちゃんは恥ずかしそうに、美咲ちゃんはヤレヤレと言わんばかりの様子で授乳プレイさせてくれそう。薫ちゃんは……うん、そもそも膝枕の段階で気絶しそうだ。

 

 

「秋人……やっぱり思春期の男の子だねぇ」

「えっ、どうして?」

「秋人くん、私のせいでそうなっちゃったんだよね……? だったら私が責任を取らないと……」

「え、えっ!?」

「それって、男の子にしか付いてないモノよね? いきなり大きくなるなんて、不思議で面白いわ!」

「はぐみも小さい頃ににーちゃんのを見たっきりだけど、あきくんのはとても大きいね!」

「そ、それって……あっ、ち、違うんだよこれは!!」

 

 

 これだけ興奮してたら、下半身がどうなっているかなんて説明するまでもない。僕の下半身は、花音ちゃんに膝枕+授乳プレイをされたことでズボンを破るかの勢いでそびえ立っていた。

 それを見たこころちゃんとはぐみちゃんは、僕と違った方向で大興奮。美咲ちゃんは呆れ、花音ちゃんは羞恥の色を見せながらも何故か覚悟を決めている。女の子に甘やかされながら下半身を立たせるって、もう情けないことこの上ない。でも仕方ないじゃん、健全な男の子だもん。

 

 すると、今まで気絶していた薫ちゃんが、くらくらする頭を抱えながら起き上がってきた。

 ようやく様態が回復したのかと思って安心したけど、今のこの状況って、薫ちゃんからしてみればヤバいんじゃ……。

 

 

「ふぅ、私としたことが気絶してしまうとは、これでは子猫ちゃんたちに格好が付かないね。でも、あれは悪い夢だったんだ。そうでなければ私の愛する子犬くんと子猫ちゃんたちが、そ、その……如何わしいことをするなんてあるはずないからね」

 

 

 薫ちゃんはいつも通りに優雅な決めポーズを取りながら現実逃避する。

 だけど、薫ちゃんも気付いているはずだ。目の前の僕たちが何をしているのか。花音ちゃんが僕に膝枕をし、胸を吸わせようと身体を屈め、僕は不本意にも下半身にテントを張っている。あの本で気絶するくらい性知識があるってことは、この光景を見たら僕たちのしていることくらいは容易に想像できるだろう。

 

 現に、薫ちゃんの顔色はどんどん青ざめている。さっき気絶から回復したばかりなのに、なんかゴメン……。

 

 

「あぁ、なるほど。これは悪い夢のようだね。ということは、まだ私が目覚める時ではないということだ。うん、そうに違いない……」

「薫さん、現実と虚構の区別が付かなくなってる……。お~い、薫さ~ん」

「み、美咲……。美咲も悪い夢の中に閉じ込められてしまったのかい? で、でも大丈夫、寝て起きれば全てが解決するだろう。さ、怖がってないで、私が一緒に寝床を共にしてあげよう」

「え~と、怖がってるのは薫さんの方じゃない……? それに、ここは現実だし……」

「えっ? でも花音が男の子に対してあんなことは……」

「ゆ、勇気を出してみたの! 秋人くんのためなら私、何だってできるようになりたいから……」

「へ、へぇ……それは儚い心意気だね」

 

 

 薫ちゃんはどうにも現状を夢オチにしたいようだが、残念ながら現実である。まぁ僕としても夢のようなシチュエーションだけど、この下半身に集まる血の気は紛れもなく情欲が沸いて出たもの。夢ではこんな興奮を味わえないだろう。

 

 

「薫くん、これを夢だと思ってるの? だったらかのちゃん先輩の代わりに、薫くんがあきくんをご奉仕してみれば?」

「えっ? そ、それは……」

「それはいい提案かも。薫さんも色々耐性を付けないと、これから秋人を満足させてあげられないよ?」

「それはそうだけどね……。み、美咲はどうなんだい?」

「あたし? 正直、あたしは何もかも秋人に差し出す気満々だけどね。秋人がその気になったら、いつでも許可なくあたしを使ってくれていいから」

「うっ……」

「あっ、秋人のココ、また大きくなったわね! でも、美咲の言葉のどこに興奮する要素があったのかしら?」

「秋人くん、私の膝枕と胸より言葉で攻められた方がいいの……?」

「な゛ぁ!? ち、違うそんなのじゃないって!!」

 

 

 あぁ~もうメチャクチャだよ!! もはや誰も収集できないこの状況、どうすればいいの??

 女の子の膝に寝ころんで下半身をおっ立てている僕が言えた義理じゃないけど、みんなが暴走状態にある現状はとても危険だ。これぞハロハピの日常って感じだけど、この先どれだけ事態がエスカレートするのか見通せないのが一番怖い。下手をすると、目が覚めたらハロハピの5人と致していたってことにも余裕でなりかねないような気がする……。

 

 

「薫がやらないなら、次はあたしがやるわ! 秋人、今度はあたしで気持ちよくなってね!」

「ちょっ、えっ、こころちゃん!?」

「あっ、秋人くんが離れちゃった……」

 

 

 こころちゃんはベッドに飛び乗り、僕の頭を自分の膝の上に乗せる。花音ちゃんは僕を引き剥がされて名残惜しい様子だった。

 僕はこころちゃん持ち前の肉付きの良い太ももを使って寝転がるが、花音ちゃんの膝枕に負けないくらい心地いい。天真爛漫な彼女に母性を感じるのも珍しいため、花音ちゃんの時とはまた違った快楽を感じる。

 

 

「美咲、上は脱いだの方がいいのかしら?」

「そうだね。そろそろ本番に行ってみようか。それに女の子の胸って、服の上から堪能するものじゃないでしょ?」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

「お風呂以外の場所で脱ぐなんて、なんだか新鮮ね! 女の子の胸で男の子を楽しませることができるってことも勉強できたから、これから外でライブをする時はみんな脱ぎましょう!」

「ふぇ!? そ、それはちょっと……」

「そ、そうか、これも悪い夢のようだね……」

「はぐみもちょっと恥ずかしいかも……」

「うん、流石にそれはちょっとね……」

 

 

 今まで三位一体で盛り上がっていたハロハピだが、こころちゃんの大胆過ぎる提案には誰もついていけなかったようだ。そのせいか、こころちゃんの頭には『?』マークが浮かんでいる。

 

 

「う~ん、いいアイデアだと思ったけど……」

「うん、僕もそれはやめておいた方がいいと思う。だ、だって、みんなは僕のモノで、僕はみんなのモノで、みんなの恥ずかしい姿を他の人に見せたくない……って、何を言ってるんだろう僕……」

「秋人……」

「えっ、な、なに??」

 

 

 自然と己の欲望が漏れてしまったけど、そのせいかみんなから一斉に注目されてしまう。

 だが、みんなは僕の突拍子もない言葉に驚いているっていうよりかは、何故か目を輝かせていた。さっきまで冷静さを失っていた薫ちゃんも、ここまでクールに振舞っていた美咲ちゃんも含めてだ。

 

 僕、また変なこと言っちゃったかな……?

 

 

「秋人くんが私たちをそこまで想ってくれているなんて……。これからもっともっと、ご奉仕頑張るね!」

「フフッ、なんとも儚い告白だ。私の心をここまで揺さぶるとはね、恐れ入ったよ」

「はぐみもあきくんの悦ぶことをたくさん勉強するから、楽しみにしていてね!」

「秋人ってやっぱり秋人だよね。だからあたしも人生をかけて尽くしたくなっちゃうんだけど……」

「あたしも大好きな秋人のために、一生懸命ご奉仕するわね! そうと決まったら、早速みんなで脱ぎましょう!」

「い、いや、心意気は嬉しいんだけど――――って、こころちゃん!? 勝手に僕のズボン脱がさないで!! ちょっ、みんなも見てないで止めてよぉーーーーっ!!」

 

 

 このあとメチャクチャ抵抗した。

 急にみんなの勢いが強くなり、あの花音ちゃんや薫ちゃんまで積極的になっていたけど、やっぱり何か変なこと言っちゃったかな……?

 

 でも、みんなの気持ちは素直に嬉しかったり。

 いつになるか分からないけど、僕もみんなの愛を素直に受け止められる時が……来たらいいな。

 




 ガルパピコ等でもハロハピ回でとてもカオスなことが多かったのですが、この小説も負けじと他のバンド以上の騒がしさでした(笑)
 そんな日常がドタバタしているハロハピですが、バンドのメインストーリーは超いい話だったりするんですよね。こころのセリフに泣いちゃうこともしばしば……



 そんな訳で、とりあえず5バンドが1周しました。
 本来はラブライブ小説の息抜きのために執筆する予定だったので、5話執筆したら完結する予定でした。
 しかし、想像以上に反響があったことから、個人的な目標(バンドリ小説の総合評価検索1ページ目に載ること)を達成するまで続けてみようかなぁと思っています。
 ただ、今度はラブライブ小説に主にしたい&この小説でやりたいことは描ききったという都合上、ひとまず完結扱いにさせてください。また、次回以降の投稿は不定期となりますので、ご了承ください。

 RASのキャラやサブキャラの登場も考えてはいますが、イマイチキャラを掴み切れていない子もいるので、とりあえずはメインの25人で物語を進めていくつもりです。25人のヒロインって聞くだけでも大変そうですが、ラブライブ小説の方では30人以上のヒロインを扱ってきたので問題はないです(笑)




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流離う旅人さん、天下不滅の無一文さん、歩く舞茸さん、如月 妖斗さん、茅玖里 しあさん、音糸さん、黒刃さん、ルナ@アニメ好きさん、紗井斗さん、Raven1210さん、 ユマサア@現在執筆休止さん、竹田 いのりさん、夜霧さん、annsoni925さん、KRリバイブさん、しづキングさん、モルモット☆さん、三日月重教さん、シフォンケーキさん、白玉あんみつ(粒餡)さん、病み美少女の操り人形さん、名ナシさん、無限正義頑駄無さん

ありがとうございました!



本日はラブライブ小説の方も同時に投稿していますので、是非そちらもご覧ください!



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巨乳ちゃんたちに甘やかされる

 

 こんなことを言ってしまうと年寄り臭いけど、僕はお風呂が大好きだ。ニートとして日中帯はずっと部屋にいる都合上、どうしても籠った空気の中で1日を過ごさなければならない。そうなると身体が鈍ってしまい、眠くもないのにベッドに横になったり、何も考えず椅子に座ってぼぉ~っとしていることも多い。これが俗に言われる『ニートは1日に1ターンしか動けない』のスキルで、身体を動かしていないのに疲労が溜まってしまうんだ。

 

 だからこそ、心身ともにリラックスできるお風呂の時間が至福だったりする。お風呂のおかげで『行動に1ターン追加』のスキルを得られ、『1日に2ターン行動』できるようになる。そして、その追加の1ターンを逐次的自慰行為、つまりオナネタ探しから絶頂フィニッシュまでの行動に費やするのが何とも至高なんだ。もはや、僕はこのためだけに生きていると言っても過言ではない。お風呂で火照った身体に興奮の熱が加わり、欲情によってもたらされる熱気が自慰行為に拍車をかける。その背徳感が何とも言えない快感なんだよ。

 

 しかし、それはお風呂を出てからのこと。

 今の僕は、お風呂に入っている最中なのにその熱気に苛まれていた。

 

 

「リサさんってスタイルいいですよね~。羨ましいなぁ~」

「そう? ひまりの方がいいと思うけど? あっ、でも燐子と比べちゃうとなぁ~」

「わ、私ですか!? 私なんて大したことないですよ……。市ヶ谷さんの方が素敵かと……」

「わ、私!? 私なんて背も低いし、皆さんに比べたら……」

「有咲ったら謙遜しちゃって! こんなに胸大きいのに~」

「ひゃっ!? ひまりちゃんどこ触って!?」

 

 

 な、なんじゃこりゃぁあああああああああああああああああああああああ!?!? って言いたくもなるよこの状況。どうして僕はガールズバンドのみんなとお風呂に入ってるんだ……? 確かみんなが僕の家にやって来て、いつも通りご飯の用意や掃除をしてくれていたところまでは覚えている。そういや、その間に眠くなって少し仮眠を取ったんだっけ。そうして目覚めたら、何故か全てを脱がされてお風呂にいた――――という流れだ。

 

 いやいや、全く以って意味が分からん!! ただでさえ女の子と混浴ってだけでも鼻血を噴き出すレベルなのに、胸がトップレベルに大きい女の子4人となんて、もはやこのまま昇天してしまうレベルだよこれ……!! そもそも、どうしてこんなことになってるんだろう……。

 

 

「あっ、秋人。おっはよ~」

「おはよう……じゃなくて、どうしてお風呂!? 確か僕、ベッドで昼寝してたよね!?」

「いやぁそれがね、みんなでお菓子作りをしていた時に、私が手を滑らせちゃって牛乳を溢しちゃったんだ」

「それを私たちの頭にぶっ掛けられたから、こうしてお風呂に入ってるんだよ」

「でもあの時は凄かったねぇ。みんな牛乳を頭から被って大興奮だったもん。あんなエッチな絵面なかなかないよ?」

「そうですね、写真撮っておけば良かったなぁ~」

「意外と余裕あったんだね……」

 

 

 牛乳を頭から被るとかどんな地獄絵図かと思ったら、当の本人たちは卑しいシチュエーションに巻き込まれて興奮していたようだ。まぁ僕も男だから、女の子が白濁液に塗れている姿は見たいと言えば見たいけどね……。

 

 

「事情は分かったけど、どうして僕までお風呂に……?」

「そ、それはゴミ箱を見て――――あっ、何でもありません!!」

「燐子ちゃん? どうしたのそんなに慌てて」

「い、いえ、ゴミ箱の中に新鮮な使用済みのティッシュがあったので、もしかしたら私たちが来る前に……そのぉ、やられたのかと……」

「ぶっ!? そ、それはぁ……」

「つまり燐子が言いたいのは、秋人が自家発電したまま事後処理もせずに寝ちゃったんじゃないかってこと。燐子は気付いたんだよ、秋人の下半身から男の匂いが――――」

「い、今井さん!! 恥ずかしいのでそれ以上は……!!」

「いや、もう99%喋っちゃってるよ……。ていうか、そんなに匂ったの……?」

 

 

 これは答えは気になるけど実際には聞きたくないパターンのやつだ。自分の体臭が気になるけど他人には聞けないパターンは良くあるけど、自分の局部の匂いを女性に聞く羞恥はそれを余裕で上回る。そういえば、自家発電した後のことなんて考えたことなかったよ。天国に昇りそうなくらいの快感を得ているため、事後処理をすること自体が頭から抜け落ちていた。

 

 でも、燐子ちゃんは気付いてたんだよね……。彼女の嗅覚がいいのか、それとも僕の果てた後の匂いがキツかったのか……。

 

 

「そっちの事情も分かったけど、できればタオルとか巻いて欲しかったなぁ~って。僕も君たちも……」

「そんな、私たちの間に無粋なモノはいらないよ! 裸の関係ってやつだね!」

「つ、つまり……見たってこと? 僕のモノ……」

「別に恥ずかしがることないだろ。いずれは目に穴が空くほど見ることになるんだし」

「ま、アタシたち女の子に穴を開けるのは、男の子である秋人の役目だけどね」

「全然上手くないけどね……」

 

 

 男1人、女の子4人のこの状況において、みんなは羞恥心を感じたりしないのだろうか? あの燐子ちゃんでさえ一糸纏わぬ姿で身体を洗っている。さっき僕の下半身の話をしていた時は顔を赤くしていたのに、どう考えてもそれよりも恥ずかしいこの状況で顔が赤くならないのは何故だろう……。いつも思うけど、みんな羞恥心の感じ方が普通の女の子とは違うよね。いい意味で図太いし、悪い意味で変人だ。

 

 

 しかし、改めて見るとこの状況は目のやり場に困る。

 この風呂場自体が一般家庭と変わらぬ広さだから、5人が同時に入れるようには設計されていない。洗い場には1人が限度だし、湯船には精々2人が限度だ。だから洗い場に燐子ちゃんと有咲ちゃん、湯船に僕とリサちゃん、ひまりちゃんがいるこの風呂場は明らかに窮屈過ぎる。それこそ肌と肌が触れ合うくらいで、現に僕はリサちゃんとひまりちゃんに挟まれるように湯船に浸かっていた。

 

 ただでさえ女の子と裸で触れ合っているのに、それが肉付きの良い女の子だったらなおさら情欲が沸く。彼女たちの二の腕、太もも、それに胸といった女の子の柔らかい部分の感触が手に取るように分かる。少しでも手を伸ばしたら、女の子のどこにでも手が届きそうだ。

 

 

「なぁ~に秋人、さっきからエッチな目でジロジロ見ちゃってさぁ~」

「な゛っ!? そ、そんな目で見てないよ……?」

「顔を赤くしながら言っても説得力ないって。別にアタシは秋人にどんな目で見られてもいいし、むしろ肉食系になってくれた方がゾクゾクするっていうか……」

「ぼ、僕がそんな節操なしになる訳ないじゃないか……。だってほら、女の子の身体なら薄い本とかで見慣れてるし……」

「「「「…………」」」」

「あ、あれ? みんな急に黙ってどうしたの??」

 

 

 リサちゃんが煽ってくるから少し強がってみたけど、もしかして失言だった?? でも本当のことしか言ってないし、僕に非があるようには思えない。でもみんなはその場で俯いて、前髪で表情を隠したまま黙っている。このシチュエーション、アニメや漫画で見たことがある。女の子がこうなるのは、本気で怒っている時だ……!!

 

 

「秋人、お前やたらいい気になってるな。たかが薄い本ごときで生身の女を知った気でいるなんて……」

「いや、そんなに生々しいことは考えてないけどさ」

「秋人さんにとっては、身近にいる私たちよりも二次元の女性の方が好みなんですね……」

「えっ!? 流石に二次元と三次元の区別はできてるって!」

「でも、秋人くんにとって私たちは薄い本と同じくらいにしか興奮できないってことだよね? 女の子として、ちょっと落ち込んじゃうなぁ……」

「だから、そんなつもりで言ってないから誤解しないで!」

「分かった。目の前に裸の女の子がいるのに、薄い本を妄想して興奮しちゃう秋人には教育が必要だね」

「な、なんでそうなるの!?」

 

 

 僕の想像以上に斜め上の方向でみんなが怒っていたという事実。どうやらみんなは僕が二次元の女の子に現を抜かしていることが気に食わないみたいだけど、逆にここで僕が鼻の下を伸ばしてみんなを襲ったら、それはそれで問題じゃないかな……? まぁみんなはそういうプレイをご所望っぽいから、少なくとも犯罪にはならないかもしれない。

 

 据え膳食わぬは男の恥とはよく言ったものだけど、こんな状況で性欲を沸き立てられる訳ないじゃん! だって、目の前にいるのはガールズバンドの中でもトップクラスの巨乳ちゃんたち。その子たちが一糸纏わぬ姿、髪を纏め、お風呂場の熱さによる火照った頬、汗が滴るうなじetc……もう見ているだけでも刺激が強すぎてぶっ倒れちゃいそうだ。そんな僕に女の子を襲う度胸も体力も気力もあったものじゃない。

 

 だけど、彼女たちは僕の事情なんて関係なく()()を施そうとしてくる。思わずポロっと口に出した『薄い本』の単語がここまでの事態を引き起こすなんて……。

 

 

「秋人くんには、もっと生身の女の子を知ってもらわないといけないよね」

「うひゃぁ!? ひ、ひまりちゃん!?」

「どう? 二次元の女の子は抱きしめてなんかくれないよ?」

「そ、それはそうだけど……当たってる」

「秋人くんのために大きくなったんだもん。だから、触ってもいいんだよ?」

「ぐっ……」

 

 

 お風呂の中で密着し合いながら、耳元で誘惑してくるこの構図。やっぱり『据え膳食わぬは男の恥』って言葉通り、ここで獣にならないと男が廃っちゃうのか……?

 しかし、いくら女の子の身体の仕組みに詳しくても、それは薄い本やAVにおける虚構の世界でのことだ。実際にこうして女の子に攻めらると、どう接していいのか分からずにパニックになる。あぁ、だから童貞なんだろうな僕。でもね、女の子におっぱいを押し付けられて平常心でいられる方がおかしいんだよ!!

 

 そうやって僕が必死に煩悩と戦っている最中、追撃でリサちゃんも僕に密着してくる。

 

 

「うわっ!? ちょっ、ちょっとリサちゃんまで……!!」

「んふふ~相変わらずいい声で鳴くよね」

「リサちゃん、僕を人形か何かと勘違いしてない……?」

「あはは、確かに秋人はお人形さんみたいで可愛いよね。でも、お人形さんにこんな機能はないよねぇ~」

「ちょっと!? どこ触ろうとしてるの!?」

「いやぁ秋人がどれだけ興奮してるか確かめたくってさぁ~。実際に……どうなの?」

「そ、そりゃ女の子に挟まれて入浴してる時点で察してよ……」

 

 

 濃い入浴剤のおかげで僕たちはお互いの身体を目視することはできないものの、湯船にはひまりちゃんとリサちゃんのおっぱいの半球がぷかぷか浮いているので、目の前の光景が扇情的なことこの上ない。それに目に見えなくとも、少しでも手を動かせば2人の身体のあらゆるところを触ることができる。だけどそれは、女の子側からも同じことだった。

 

 そのせいか、さっきからやたらと2人の手が僕の身体に当たる。具体的には下半身の部分。どうやら僕の局部を手で弄って探しているようだけど、触れられた瞬間にどうなるかなんて目に見えていた。そう、それくらい僕はこの状況に興奮しているんだ。むしろ、興奮しない方がおかしいでしょ……。

 

 

「あ、秋人さん! ずっと浸かりっぱなしものぼせちゃうと思うので、そろそろお身体を洗われては……?」

「えっ、そ、そうしたいのは山々なんだけど……」

「安心してください! 私が洗ってあげます!」

「燐子ちゃんがここまでやる気に満ち溢れてるなんて……。でも、今湯船から出るのはちょっと……」

「大丈夫です、私が秋人さんを抱っこします。秋人さんは何もしなくても、私たちが全部やりますから……」

「い、いや、そうじゃなくってね……」

「燐子先輩。秋人が言いたいのは、性欲の限界で下半身が膨張して出るに出られないってことですよ」

「ふぇ……? ふぇえええええええええええええええええええええええええっ!?!?」

「なんか花音ちゃんみたいになってる……」

 

 

 やはり根は純粋な燐子ちゃんのことだから、男の性事情を深くまで把握はできていなかったようだ。対して有咲ちゃんは至って冷静に僕の事情を吐露したことから、()()()男の情事について詳しいみたいだ。

 

 有咲ちゃんから真実を聞かされて燐子ちゃんは目を回してしまっているが、それでも何とか持ちこたえて、僕を誘うように両手を伸ばす。おいでおいで、と言わんばかりのジェスチャーだが、今しがた身体を洗っていたためか泡が燐子ちゃんの全身を包み込んでおり、もはやエロいの一言で片付けるのもおこがましい。あぁ、これが巷で噂のソーププレイってやつなのか……。

 

 

「お前、燐子先輩に恥をかかせる気か? やっぱり薄い本しか興味がない男は度胸もこんなもんか」

「言っておくけど、挑発には乗らないからね……?」

「ったく、目の前でヤれる女がたくさんいるってのに、下半身を膨らませてるだけで何もしないなんて本当に男か?」

「なんか、もうヤケクソになってない有咲ちゃん……?」

「そんなツンツンしちゃって、秋人と一緒にお風呂に入るのを一番楽しみにしてたのは有咲なのにねぇ~」

「な゛ぁ!? リサさん、それは言わない約束だって!!」

「楽しみに、してたんだ……」

「してねぇ!! お前の裸姿を見て興奮してるとか、そんなこと絶対にある訳ねぇだろ!!」

 

 

 ツンデレ名物、自分で自分の首を絞めるが発動しちゃってるよ……。まぁ、何となく有咲ちゃんがそんな子だってことは分かってたけどね。この前だって僕の洗濯していない服を勝手に持ち出そうとしていたし、なんならお風呂に誘われたことは幾度となくある。普段は清楚なお嬢様キャラを演じてるってポピパのみんなから聞いたけど、僕にとっては清楚の『せ』の字も感じられないどころか、もうただの淫乱少女だ。

 

 

「えぇい、もうこうなったら実力行使だ! 秋人、身体を洗ってやるから早くこっちへ来い!」

「ちょっと待って! 引っ張らないでよ!」

「お前の身体を洗ってやる代わりに私の身体も洗っていいから! むしろ洗え!! 洗ってください!!」

「もう怒ってるのか低姿勢なのか分からないよ!?」

「わ、私の身体も秋人さんに洗ってもらいたいです……!! できれば手で……」

「燐子ちゃんまで!? し、しかも手って、つまりそういうことだよね……」

「肌荒れが激しくなる季節なので、スポンジよりかは人肌の方が……」

 

 

 もうヤケになって僕を洗い場に引き摺り込もうとする有咲ちゃんと、意外なる積極性を見せる燐子ちゃん。2人共顔を真っ赤にしているところを見ると羞恥心を感じているはずなのに、そこまでして僕と身体の洗いっこをしたいのか……? やはりここは男として、これまでの妄想で培ってきたテクニックを見せるべきなのかな……?

 

 あぁ、ダメだ、薄い本の女の子が相手なら妄想でいくらでもメチャクチャにできるのに、リアルの女の子を相手にするとどう攻め込んでいいのか分からない。これがチェリーボーイの限界か……!?

 

 

「燐子先輩と有咲だけズルいよ! 私たちもやりましょう、リサ先輩!」

「そうだね。いっそのこと、アタシたち4人で秋人を洗ってあげよっか! エッチなビデオ風に、こ~んな感じで」

「ぶっ!? そ、そんな……!!」

 

 

 なんとリサちゃんは、石鹸を胸に谷間に挟んで泡立て始めた。そして僕の腕を抱き寄せるものだから、当然ながら胸の感触としっとり泡で腕がマッサージされているかのよう。リサちゃんは艶やかに微笑みながら、こちらの目をじっと見つめたまま僕の腕を洗う。もはや男が悦ぶポイントを完全に熟知しており、自らの健康的な肢体を武器にして僕を攻め立てる。ここは僕の家の風呂なのに、もうR-18のお店みたいになってるよ……。

 

 

「リ、リサさん大胆だな……よし、私も」

「あ、秋人さんが望むなら、私は下半身でもどこでもいいですよ……?」

「みんなズル~い! だったら私は秋人くんのお顔をエステしてあげちゃおうかなぁ~」

「ひ、ひまりちゃん!? うぶっ……!!」

 

 

 ひまりちゃんは僕の顔を抱き寄せると、そのまま自分の胸の谷間に挟み込んだ。

 もはやお湯に浸かっているのか、ひまりちゃんの胸に浸っているのか、どちらか判別が付かないほどに僕は気が動転していた。そこに有咲ちゃんと燐子ちゃんまで乱入して、その後の出来事はあまり覚えていない。

 

 1つ言えるのは、僕の身体の隅々までが綺麗になったことだ。

 そう、()()が、()()まで……。

 

 

 そして、ひまりちゃんたち4人も艶々とした身体、表情、雰囲気になっていた。

 一体あのお風呂場で何が起こったのか、思い出すと羞恥心で死にそうになるから知らない方が良さそうだ……。

 




今回登場したキャラ以外にも、こころや蘭も参戦可能なくらいの大きさですが、あまり登場させ過ぎるとキャラを扱い切れないというジレンマが……

それにしても、公式でキャラのスリーサイズが非公開になっているあたり、こういった生々しいお話はご法度なんでしょうね(笑)

次回の話は未定ですが、バンドリはキャラが多いのでネタには困らないのがいいですね!
貧乳ちゃん回、おバカちゃん回、お姉さんキャラ回、妹キャラ回、先日ガルパにも本格登場した明日香や六花の回も考え中です。


この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
小説を執筆するモチベーションに繋がります!


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不器用ちゃんたちに甘やかされる

 今一度確認しておこう、ここは僕の家だ。確認せずとも僕はガールズバンドのみんなから外出を禁止されているので、僕が僕の家以外の場所にいることはない。でも、どうしても確認しておきたかったんだ。この張り詰めた空気、流れる緊張感、重い雰囲気。もはや僕のプライベートな空間だとは思えない。どうしてこんなことになってしまったんだ……。

 

 

「湊さん、秋人の歯ブラシを持ってどこへ行くんですか?」

「どこって、歯ブラシを持ったら歯を磨くに決まっているじゃない。秋人の歯を磨いてあげるのよ」

「でも、自分の荷物が置いてあるところに行こうとしていましたよね? 持って帰ろうとしていたんじゃないですか?」

「そんなことする訳ないじゃない。変態じゃあるまいし」

「リサさんが言ってましたよ。『友希那の部屋に遊びに行ったら、男物の服がたくさんあった』って。写真を見せてもらいましたけど、同じ服が秋人の部屋にもあった記憶があります。その件についてはどう弁解します?」

「最近男装が趣味なのよ。まさか、美竹さんは人の趣味に文句を言うような人じゃないわよね?」

「湊さんが何をしようが関係ないですが、往生際の悪さには文句を言いたいですね……」

 

 

 なんか凄くギスギスしてるぅうううううううううううううううううううう!!

 友希那ちゃんと蘭ちゃんは、お互いの相性が良くもあり悪くもある。音楽への情熱の入れ込み方は似てるんだけど、それ故に衝突し合うことが多い。それも2人が不器用なのが一番の原因で、言ってしまえばお互いにコミュ障である。だからこそ、こうして会話をすると自分の主張の意図が上手く相手に伝えられない。その結果、傍から見ると喧嘩をしているように見えるのだ。しかも2人は喧嘩をしているとは思っていないので、余計にギャラリーが焦ってしまう。

 

 音楽の方向性とか、お互いのコミュ障が祟ったとか、それで喧嘩をするのはまだいいよ。お互いの考えをぶつけ合うことで、相手の音楽性も広がるだろうから。

 でも、今回ばかりは何の生産性もない。僕の服を盗んだのか盗んでないのか、どうでもいいようなやりとりでお互いが熱くなっている。とは言え、友希那ちゃんが盗んだことは会話の流れからして明らかだけどさ……。

 

 

 そんな訳で、今日は友希那ちゃんと蘭ちゃんが僕の家に来ている。

 2人は特に連絡をし合ってここに集合したのではなく、偶然たまたま僕の部屋で鉢合わせた。2人の制止役であるリサちゃんとモカちゃんがいてくれればこんな空気にはならなかったんだろうけど、今日はこの2人だけなので、これから部屋の空気がどれだけ重くなるのか分かったものじゃない。話によれば別に会うたび会うたびに喧嘩をしている訳じゃないらしいんだけど、今日は目を合わせた瞬間から2人は臨戦態勢だ。リサちゃん曰く、『いくらアタシでも、友希那と蘭が秋人を取り合う現場にはいたくない』そうだ。あのリサちゃんまでもが避けようとしているこの状況、一体どれだけ激しい戦闘が繰り広げられるって言うんだ……。

 

 

「湊さんにこれ以上何を言っても無駄ですから、もう諦めます。秋人の面倒は私が見るので、それを持って帰っていただいても構いませんよ」

「何を言っているのかしら? 今日は私が秋人のご奉仕役なのよ? 美竹さんこそ邪魔しないでくれるかしら?」

「あたしは事前に秋人に連絡を入れていました。無断で秋人に会うのはルール違反ですよ」

「あら、私も連絡を入れていたわ。しかも1ヵ月も前から、秋人と2人きりになれるこの日を予約していたのよ」

 

 

 あの、この空気で発言しづらいから心の中で叫ぶけど――――――どっちからも連絡来てないんですけど!? どうして平気で嘘つくの、ねぇねぇ!?

 お互いに相手のマウントを取りたいがために、如何にもアポを取ったかのような流れで会話をしている。しかも嘘を吐いていることに何の躊躇いの色も見せず、ひたすらありもしない事実を並べてマウントを取り合っている。怖い、女の子の争いほど怖いモノはないよ……。

 

 

「いくら話し合っても埒が明かないわね。こうなったら、どっちが秋人により良いご奉仕ができるかで決着をつけましょう」

「ちょ、ちょっと待ってよ2人共! 何も争わなくても……」

「いいですよ。湊さんとはいつか白黒をハッキリさせる必要があると思っていましたし、いい機会です」

「えぇ……お互いにそんなに殺伐としてたの……?」

「いつもはリサや青葉さんがいた手前、表面では交遊的に取り繕っていたわ」

「同じく。あたしたちの事情に、他のみんなは巻き込めないから」

「でも今日という今日は違う。どちらが秋人を満足させられるのか、あなたへの愛の力が試されるの」

「だから負ける訳にはいかない。特に湊さんだけには」

 

 

 女の子から求められるのはとても嬉しいんだけど、どうせならプライドをかけている音楽で勝負をしてもらいたいよ。対バンをするくらいだから、一応お互いに相手の音楽は認めているはずだ。だからこそ、お互いに譲れないもので衝突するのが理想だと思うんだけど……。

 

 2人の目を見てみると、音楽に情熱を注いでいる時よりも燃えている気がする。2人共不器用なくせに変なところで頑固だから、これは僕が何を言っても2人は止まらないだろう。むしろ、そんな不器用な2人に何をされるのか、ちょっと怖い……。

 

 

「最初の勝負は、たまたま私の手に歯ブラシが握られていたから、まずはこれを使いましょう」

「たまたまって、それ友希那ちゃんがパクろうとしてたやつだよね……?」

「ゴメンなさい、日本語が分からないの。私、楽譜しか読めないから」

「あのねぇ……」

「御託はいいですから、早く始めましょう。どちらが秋人の歯を綺麗に磨けるか。そして、どれだけ秋人を気持ちよくさせることができるか。判定はこれでどうです?」

「き、気持ちよくってなに!?!?」

「いいわよ。どんな条件であれ、Roseliaとして頂点を掴み取るのは当たり前だもの」

「こんなことを君たちの素敵な夢と一緒にしないで……」

 

 

 友希那ちゃんは僕をお世話する時にいつもRoseliaの夢と僕を並列に扱うけど、そのせいで相対的にRoseliaの夢の品位が下がっている。僕みたいなニートのお世話をすることにどんな価値を見出しているのかは知らないけど、まぁこれも友希那ちゃんらしい。どんなことでも手を抜かず全力で取り組むのが、如何にも彼女っぽい。

 

 

「先手必勝。まずは私からよ」

「よ、よろしく――――って、ちょっとちょっと!? どうして歯ブラシを自分の口に入れるの!?」

「んっ……どうしてって、歯ブラシには歯磨き粉が必要なことくらい、普通に考えれば分かるでしょう」

「い、いやそれって友希那ちゃんの、だ、唾液じゃん……」

「私のご奉仕は身の回りの世話だけではないわ。あなたの内面までお世話してあげたいの。だから私の唾液で、あなたの歯と口内を綺麗にしてあげるわ」

「湊さん、意外と変態なんですね……」

「愛する人のためなら最善を尽くすのは当然よ。それに、私の体液が秋人の身体に――――い、いけない。私としたことが、つい興奮して我を忘れていたわ……」

「興奮してなくても十分に変人だから……」

 

 

 これには張り合っていた蘭ちゃんも思わずツッコミを入れてしまうほどだった。友希那ちゃんが僕に並々ならぬ愛情を注いでくれているのは知ってるし、僕も彼女のご奉仕には感謝してるけど、こうして常人とは思えない行動を真顔でしちゃうのが玉に瑕なんだよなぁ……。しかも、本人はそれを奇行とは思っていないところがまた恐ろしい。しかもRoseliaのみんなも基本こんな感じだから、普段はツッコミを入れるメンバーが誰1人としていないことにも、友希那ちゃんの奇行に拍車をかけているんだと思う。

 

 するといつの間にか、僕の目の前に友希那ちゃんが近づいていた。もちろん歯ブラシを僕の口へ差し出して、口を開けろと言わんばかりに歯ブラシを軽く上下させる。歯ブラシは友希那ちゃんの唾液で輝いており、ガールズバンドでもトップクラスと言われた歌姫の唾液に思わず息を飲む。適当に100円の歯ブラシを買ってきて、友希那ちゃんに咥えさせたそれをビルの屋上から投げ捨てるだけで、多くのファンが争って奪い合うだろう。それくらいの価値を誇る歯ブラシを、僕が独り占めできるのだ。ちょっと興奮するじゃん……?

 

 

「ダメです。こんなのは認められません」

「あら、美竹さん。嫉妬は見苦しいわ」

「挑発には乗りませんよ。そもそも、公序良俗に反したプレイは無効です」

「プレイって、言い方がちょっとアレなんだけど……」

「だったら、美竹さんはどう秋人にご奉仕してあげるのかしら?」

「よくぞ聞いてくれました。秋人、あたしが一番あんたを満足させられるって証明してあげるから」

「た、楽しみにしてるよ……」

 

 

 あ、危ない……。このまま流れに身を任せていたら、あのまま歯ブラシを咥えていただろう。友希那ちゃんを味わえると思うと惜しかったけど、僕まで変態扱いされるのはよろしくない。蘭ちゃんからも超睨まれそうだったし、これで良かったんだろうな……。

 

 そして、今度は蘭ちゃんのターンだ。

 そう思った矢先、歯ブラシを持った蘭ちゃんは僕の後ろに回り込んだ。それから息つく暇もなく、蘭ちゃんは僕を優しく抱きしめてきた。

 

 

「ふぇぁっ!? ら、蘭ちゃん!?」

「秋人は女の子に抱きしめられながらご奉仕されるのが大好きなんだよね。あたし、知ってるから。秋人の部屋にあった薄い本でたくさん勉強したんだ。ほら、こんな感じに――――」

「な゛っ!? 蘭ちゃん、む、胸が……!!」

「こういう時って、『当ててるんだよ』って言って恥ずかしがればいいんだよね。そのセリフ自体が恥ずかしくて言えないんだけど、ドキドキしてるのはホントだよ。胸を密着させてるから聞こえてるでしょ? あたしの鼓動」

「う、うん……」

 

 

 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!! 女の子に後ろから抱きしめられるシチュエーションは、僕の中でベスト3に入るくらいに興奮する。女の子から母性を感じられると言うか、全身を包み込んで甘やかしてくれているのが何とも心に響く。しかも、蘭ちゃんの意外に大きな胸が僕の背中に密着し、柔軟にその形を変える。その感触も相まって、僕も彼女と同じく心臓の鼓動の高鳴りが止まらない。

 

 

「秋人、口を開けて。そうそう、いい子だね。秋人はあたしの身体をクッションにして、ゆっくりしていればいいよ」

「ら、蘭ちゃん……? あまり子供扱いしないで……」

「だって、今の秋人が凄く可愛いから」

「うわぁっ!? む、胸が……」

「身の回りのお世話は全部あたしがやってあげるから、秋人はその間好きだけあたしの身体を触っていてもいいよ」

「そ、そんなこと……」

 

 

 蘭ちゃんって普段は素っ気ない態度だけど、だからこそ、こうやって穏やかな雰囲気で優しくされると心が高鳴ってしまう。しかも、僕の耳元で甘く囁いて誘惑してくるので、もう思考停止で彼女に身を委ねてしまいそうだ。蘭ちゃんのおっぱいを枕にしながら歯磨きをしてもらうこのシチュエーション。うん、悪くない。

 

 

「ちょっと美竹さん」

「湊さん……あぁ、そういえばいましたね」

「私を忘れていたのは百歩譲っていいとして、あなた、公序良俗に反したプレイは無効とか言っていなかったかしら?」

「これのどこが違反していると? 赤ちゃんに歯磨きをする時のお母さんたちは、みんなこうやっていますけど」

「僕、赤ちゃんだったんだ……」

「秋人を見ていると、明らかに興奮してるじゃない。ほら、下半身を見てみなさい。赤ちゃんにこんな生理現象は起き得ないわ」

「あっ、本当だ……。まさか秋人、赤ちゃんプレイで興奮したの?」

「ちょっ!? それじゃあ僕が変態みたいじゃないか!! そういうのを見るのはそこそこ好きだけど、決してやってもらって悦ぶような変態じゃないから!!」

「「いや、見るのが好きでも十分に変態だから」」

「どうしてそこだけ息が合うの!? さっきまでいがみ合ってたよね!?」

 

 

 普段は友希那ちゃんや蘭ちゃんの方が変態染みてるのに、僕を弄る時だけは真っ当な人間に戻るのはズルいよ……。これまで自分たちが行ってきた猥褻行為を棚に上げ、如何にも僕だけが社会の外れ者だと言わんばかりに蔑んでくる。まぁ、こんな扱いに慣れたと言えば慣れちゃったけどね。だからなのか、僕は未だにみんなからM男の称号を叩き付けられるんだろうなぁ……。

 

 

「ご主人様へご奉仕するなら、ご主人様に最も喜んでもらわなければ意味がないわ。だから、歯磨きはまたの機会にするとして……」

「ちょ、ちょっと待って!? 友希那ちゃん、どこ触ろうとしてるの!?」

「下半身をこんなに大きく膨らませて、辛いでしょう?」

「な゛ぁ!? そ、それは自分でやるから……」

「そうですよ、湊さんは手出ししないでください」

「ら、蘭ちゃん! 助かっ――――」

「秋人のここが大きくなったのはあたしのせいだから、あたしが鎮めてあげるのが普通だと思います。そうだよね、秋人?」

「え゛っ!? そんな質問をされても……」

 

 

 ここで蘭ちゃんに同意すると友希那ちゃん、友希那ちゃんに同意すると蘭ちゃんの機嫌を損ねてしまう。できれば穏便に済ませたいところだけど、こういった優柔不断なところばかり見せていると、いつか誰かに刺されそうで怖いよ……。それにぶっちゃけて言ってしまえば、蘭ちゃんのおっぱいを堪能しながら抱きしめられているこの状況をもっと楽しみたい自分がいる。でもそれを正直に言ってしまうと負けな気がするし、友希那ちゃんに白い目で見られるのは確実だ。

 

 それもこれも、僕の下半身が節操なしだからだろう。ほぼ毎日美女美少女に囲まれ、こうして誘惑されているんだから、そろそろ僕の性欲も耐性を付けてもらいたいものだ。みんなが帰った後なら好きなだけ扱いてあげるから、今は何としてでも収まって欲しい。

 

 ――――と言っても、思春期男子の性欲が気力だけで鎮められるはずないんだなこれが……。

 

 

「全く、男って単純ね。脂肪の塊を押し付けられただけで、下半身でしか物を考えられなくなるお猿さんに成り下がるのだから」

「う゛、ぐっ……。否定はできないけどさ……」

「別に蔑んでいる訳ではないわ。むしろ、私は嬉しいのよ。秋人が私たちで興奮してくれていることに。脳内で私たちを襲う妄想をしてくれていることに」

「そ、そんな激しい想像はしてないから!!」

「ちょっと待ってください。今、私たちって言いましたよね? 秋人を興奮させているのは私であって、湊さんではありません。さも2人の力みたいに言わないでくれますか?」

「あら、気付いていなかったのかしら? あなたが秋人にご奉仕する前から、彼は私の唾液の付いた歯ブラシを凝視して息を荒くしていたことに。秋人自身は気付いていないようだったけれど」

「えぇっ!? そ、それってホント……??」

「えぇ。だから、秋人の性欲を発散させる役目は私にあるのよ」

「そんな証拠もない主張は認められません!!」

 

 

 蘭ちゃんはそう言いながら、より強く僕を抱きしめる。

 ダメだ、蘭ちゃんの身体が気持ち良すぎて、このまま眠ってしまいそうなほど心地いい。2人の争いを止めたいのは山々だけど、現在絶賛女の子に懐柔されてダメ人間になっている僕では役不足だろう。

 

 

「仕方ないわね。あまり強引な手を使いたくはなかったけど、秋人の精をいただくために多少の無理をさせてもらうわ」

「それって何を――――って、ちょっ!?」

「み、湊さん!?」

 

 

 友希那ちゃんは僕の脚と脚の間に入り込むと、僕のズボンのチャックを口で咥えた。

 そして、そのまま手を使わず、口だけでズボンのチャックを降ろし始めた。僕は幸か不幸か、蘭ちゃんに抱えられているせいで動けない。そのせいで友希那ちゃんの奇行を見ていることしかできなかった。

 

 

「秋人の部屋にあった薄い本で、このようなシチュエーションがあったわ。てっきり私にやってもらいたいのかと思っていたけれど、違ったかしら?」

「うっ……好きなプレイではあるけど、みんなにやってもらおうなんて……」

「私は秋人の趣味がどれだけ変態だろうと、受け入れる覚悟があるわ。秋人が私をペットにしたいと言うならば、首輪をつけて夜中の公園を四つん這いで散歩するのも大歓迎。ペットなのに服なんていらないと命令されれば、一糸纏わぬ姿を晒すのも厭わないわ。美竹さん、あなたにその覚悟があるかしら?」

「バカにしないでください、それくらい余裕です。何なら、どちらが秋人に可愛がられるペットになるかで勝負してもいいんですよ?」

「女に二言はないわね? なら、早速準備を――――」

「ちょっとちょっと!? 勝負云々以前に、僕がペットプレイ好きって前提で話を進めないでよ!?」

「……? ならこの『催眠調教~憧れの先輩と同級生をペット奴隷に~』という本は何かしら?」

「そ、そんなものまで見つけてたの……?」

 

 

 R-18関連の書籍は全部隠してあるのに、ガールズバンドのみんなはまるで隠し場所を知っているかのようにあっさりと見つけ出す。そして今の友希那ちゃんのように、僕が本に描かれているシチュエーション好きだと思い込み、いつの間にかそのシチュエーションに沿うようなプレイを身に着けてきたりもする。さっきの口だけでズボンのチャックを降ろす行為も、友希那ちゃんが見つけ出した本のシチュエーションの一部だ。

 

 度し難い趣味だってことは自分でも理解してるけど、こうして女の子直々に指摘されると羞恥心が半端ない。友希那ちゃんや蘭ちゃんに攻められている興奮よりも、この恥ずかしさで身体が熱くなってきちゃったよ……。

 

 

「あ、あのね! 僕の趣味が変なのはもう否定しないけど、みんなにまで押し付けるようなことは絶対にしないから! だから、もっと自分のことを大切にして。そ、それに、2人が全裸で外を歩くなんて、他の人に見られたくないっていうか……」

「秋人……。そこまであたしたちのことを考えてくれていたんだ」

「そうだよ! だからね、業が深すぎるプレイは避けてもらえると助かるんだけど……」

「嬉しいわ。私たちには純潔でいて欲しいということなのね。いつか自分がその純潔を奪うから待っていろ、というあなたのメッセージ、しっかりと受け取ったわ」

「秋人のために初めてを取っておくなんて当たり前だけど、秋人からそう告白されると少し恥ずかしいかな……」

「い、いや、そこまで考えてはなかったんだけど……」

「あなたの優しさを感じたら、今まで争っていたのが馬鹿らしくなってきたわね」

「そうですね。あたしたちは協力して秋人のお世話をしなければならない。あたしたちが争っていたら、秋人を満足させることなんて到底できないですから」

 

 

 あ、あれぇ? なんか僕の伝えたいことが、微妙にズレた形で2人に受け止められた気がする……。

 でも、それで2人が仲直りしてくれたんだったら結果オーライだ。これでこれからも2人仲良くしてくれるといいんだけど――――――

 

 

「秋人がその気になったら、いつでも私の純潔を貫いてくれて構わないわ。なんなら、今すぐにでも」

「湊さん、抜け駆けは許しませんよ。秋人の初めてとあたしの初めては同時に失おうって、秋人と約束しましたから。そうだよね?」

「えっ、そんな約束は――――むぐっ、む、胸が……」

「美竹さん、また姑息な手で秋人を……。いや、私たちの初夜のために、秋人を興奮させてくれているのね。素晴らしい余興に感謝するわ」

「あたしが湊さんの前座……? 面白いことを言いますね。湊さんは食後のデザートがお似合いですよ。もちろんあたしがメインディッシュで」

「なるほど、それならば始めるしかないようね」

「はい。あたしたちの戦争を。どちらが秋人の初めてを奪い、自分の初めてを奪われるのかを――――」

「ど、どうしてこうなった……」

 

 

 さっきは一蓮托生の雰囲気を醸し出してたのに、またしてもお互いに戦意を燃え上がらせている。まぁ、友希那ちゃんと蘭ちゃんはこうして競い合っている方が似合っているのかもしれない。こうして仲間を気兼ねなく競争相手にできるのは、それだけ相手のことを信頼している証だ。喧嘩するほど仲が良いって言葉があるけど、この2人こそまさにその言葉を体現している気がするよ。

 

 

「なら、今回も先行は私からでいいわね?」

「はぁ? 秋人の童貞をかけているのに、それだと勝負がついちゃうじゃないですか!」

「流石に騙されなかったようね」

「人を舐めるのもいい加減にしてくださいよ……」

「舐めるのは秋人のあそこだけよ。秋人も私の歌声が発せられる口を自分の剛直で埋めることができて、さぞ興奮するに決まってるわ」

「そんな小さな口で、秋人のを咥えられるとでも? あたしはいつ秋人のものを咥える時が来てもいいように、発声練習がてらにバナナを咥えて練習していますから。湊さんは引っ込んでてください」

 

 

 でも、その喧嘩の内容がこれだから、せめて人前で自重してくれるのを祈るばかりだよ……。

 

 

 ちなみに、このあとすぐにリサちゃんとモカちゃんが遊びに来てくれたおかげで、2人の争いは無事に終息した。

 役得な状況を逃したと言うべきか、一時の興奮でお互いに純潔を捨てずに良かったと安心するべきか。とにかく、これからは僕の家に来る子がこの2人だけにならないよう、みんなに注意喚起しておかないと……。

 




 バンドリのキャラはみんな和気藹々としているので、友希那と蘭の関係は他のキャラ同士にはない特別な関係って感じがしますね。だからこそ、私は2人のこの関係が好きだったりします。
もっとお互いに会話をしているシーンを見てみたいのですが、友希那はRoseliaと香澄以外に絡むキャラが少なすぎるのが問題な気が……。


 どうでもいいですが、1話の登場キャラが少ないと話の展開が描きやすくて非常に楽だったりします(笑)
 でも1話でたくさん出してあげないと、投稿ペース的に次に登場するのが半年後とか余裕でありそうなのが怖いところ……



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ありがとうございました!


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おバカちゃんたちに甘やかされる

 今回は山なし谷なしのほのぼの系です。


 別にニートだからって、毎日ゲームに明け暮れていたりとか、自慰行為によって何億もの生命を無駄に吐き出していたりはしない。これでも僕は高校生の人たちと同じ年齢の身だから、一応勉学に勤しんではいるのだ。もちろんニートだから学校は愚か塾や予備校にも通っていないため、勉強法は1から10まで全て我流。今ではネットを駆使すれば効率の良い自宅での勉強法なんていくらでも転がっているので、自分なりの勉強スタイルを身に着けるのは簡単だ。そのおかげか模試の成績もそこそこ良好で、大学の合格判定もそれなりに良い評価だったりする。まぁ、学校に行ってないから学力が良くても意味ないんだけどね……。

 

 日々の努力で割と成績がいいおかげか、僕の家でこのようなことがしばしば起こったりもする。

 

 

「秋人くん助けて! このままだと追試の波に飲み込まれそうだよぉ~」

「香澄ちゃん、だから部屋に入る時はノックしようね……」

「数学に英語、日本史に化学!! うぅ、何から手を付けていいのやら……」

「そ、それは選り取り見取りで贅沢だね……」

「もうっ、こっちは真剣なの!」

「真剣になるんだったら、追試にならないようにすれば良かったんじゃあ――――あぁあああああゴメンゴメン! 謝るから泣かないで!」

 

 

 香澄ちゃんは涙目で、頬を膨らませながら怒っている。そりゃそうか、追試となった本人からしてみれば僕が言ったような正論なんてどうでもよく、目の前に広がっている地獄の乗り越え方を聞きたいだけだろうから。普段から勉強をしてこなかった自業自得なんて言葉こそ、今の彼女に投げかける言葉として最も不適切。有咲ちゃんが聞いたら、『香澄を甘やかしすぎ』って言われるんだろうなぁ……。

 

 

「分かった、一緒に勉強しようか。誰かに教えるのも自分の勉強になるし、一石二鳥だからね」

「ホントに!? 秋人くぅ~ん大好きぃ~!」

「ちょっ、香澄ちゃん苦しい……むぐっ!」

 

 

 香澄ちゃんは僕の頭を自分の胸に抱き寄せて、そのまま思いっきり抱きしめた。女の子特有の甘い香りと胸の柔軟な感触が、僕の顔面から直に伝わってくる。

 この赤ちゃんをあやすように抱きしめられるのはいつものことだけど、未だに慣れることはない。抱きしめ方も女の子によって違いはあって、力が強かったり弱かったり、胸の大きさを感じたり感じられなかったりと、誰1人として同じ抱きしめ方をする子はいないんだ。

 

 ――――って、なんかソムリエみたいになっているような……。女の子に頭を包まれながら抱きしめられることが普通だなんて、男としてのプライドが擦り減っちゃうよね……。

 

 

「そうだ! 勉強を教えてくれる代わりに、1教科につき1回こうやって抱きしめてあげるよ! それだったら秋人くんもやる気が出るでしょ?」

「そ、そりゃ抱きしめてもらうのは嬉しいけど、そんな不純な理由じゃなくても勉強くらい教えるから……」

「不純じゃないよ! 好きな人同士でスキンシップし合うのは普通のことじゃない?」

「香澄ちゃんの中だとそうかもしれないけど、僕からしてみると恥ずかしいと言うか……」

「それ、あっちゃんも有咲も同じこと言ってた。なんでだろうね?」

「その2人も僕と同じ気持ちだと思うよ……」

 

 

 スキンシップにも色々あると思うけど、香澄ちゃんの場合は頬を擦り付けてきたり、さっきみたいに男の僕に躊躇なく胸を貸したりする。恐らく彼女の中ではそれが普通で、そもそも羞恥心すら感じることがないのだろう。僕もそんな屈強な精神を身に着けていたら、こうしてガールズバンドのみんなのお人形にされることもなかったんだろうね……。ま、それを役得と思っている僕もいるから、迷惑だなんて微塵も思ってないけど。

 

 

「さて、まずは何から始めよっか? 数学? 英語? 秋人くんの得意な科目からでいいよ!」

「なんか香澄ちゃん、部屋に入ってきた時とは違ってテンション上がってない……? あからさまに目が輝いてるんだけど……」

「そうかな? えへへ、秋人くんとお勉強できるのが楽しくって! そうか、毎回追試になれば秋人くんと一緒にいる時間が増えるのか……なるほどなるほど」

「勉強して!? そんなことしてたら、また有咲ちゃんに怒られちゃうよ?」

「大丈夫。もしそうなったら有咲も秋人くんとのお勉強会に誘うから。有咲のことだから、秋人くんと一緒にいられると知ったら絶対に乗ってると思うよ」

「うん、ありえそう……」

 

 

 そもそもの話、香澄ちゃんがそんな策を練っている時点でまともに勉強する気はなさそうだ。このままだと僕と一緒にいたいがために、彼女がテストの成績を上げることを拒んでしまうかも……?

 

 

 すると、再び僕の部屋のドアが破れる勢いで開け放たれる。

 そして、またしても女の子がこの世の終わりのような表情で部屋に飛び込んできた。

 

 

「は、はぐみちゃん!?」

「あ、ああああああああああきくん!! もうあきくんしか頼れる人がいないんだよぉおおおおおおおおおお!!」

「えっ、何があったの? そんなに切羽詰まってるってことは、よほど重大な問題が――――」

「追試になっちゃったんだよ! しかも3教科も!!」

「へ……?」

 

 

 この流れ、さっきと全く同じじゃない……? デジャヴを感じるとはまさにこのことかも……。

 はぐみちゃんは僕の胸に飛び込んで、涙目で己に降りかかっている危機を訴える。香澄ちゃんとはぐみちゃんって似た者同士だと思ってたけど、揃って追試になるところとか、こうして涙目で助けを乞うところとか、正直ここまでシンクロしているとは思わなかったよ……。

 

 

「えっ、はぐも追試になったの!?」

「もしかしてかーくんも? 仲間ができて良かったぁ~」

「私もだよ~。はぐが一緒だと心強いもん。赤信号、みんなで渡れば怖くないよね!」

「大丈夫だよ。もしはぐみが追試じゃなくても、かーくんのためなら一緒に赤信号を渡ってあげるから!」

「お~心の友よ~」

 

 

 想像を絶する会話に、引きつった顔が元に戻らない僕。そもそも、何故赤信号を渡る前提で話をしているんだろうこの子たち……。

 ツッコミどころだらけだけど、この2人の言うことにいちいち口を出していたらこっちが先に参ってしまう。いつも2人の相手をしてあげている有咲ちゃんと美咲ちゃんが逞しく見えてくるよ……。

 

 

「でも良かったね、はぐ。今なら秋人くんに勉強を見てもらうと、1教科につき1回秋人くんを抱きしめていいんだって!」

「ホントに!? それならはぐみ、毎回のテストで追試になっちゃうよ!」

「ダメだからねそれ!? ていうか、香澄ちゃんと全く同じこと言ってるし……」

「おおっ!? やっぱり私とはぐは一心同体。う~んと、こういうの何て言うんだっけ――――あっ、ソウルメイトだよ!」

「そうるめいと……? なんかカッコいいねその言葉! かーくんとの絆を確かめられたから、追試になるのも不幸なことばかりじゃないね!」

 

 

 ソウルメイトって男女の関係を表す言葉なんだけど、ツッコミを入れるとまた余計な話題で話が膨らみそうだからやめておこう。ただでさえ追試を前向きに捉えて楽しんでいるこの状況が異常なのに、自分からこれ以上ややこしくする必要はない。追試になって精神的に追い込まれているのは彼女たちの方なのに、どうして僕がここまで気を使っているんだろうか……。

 

 

 すると、またしても僕の部屋のドアが勢いよく開け放たれる。

 もう今日だけで3回目なので、いよいよドアが壊れそうな気がする……。

 

 

「秋兄助けて!!」

「あこちゃん……。もしかして、追試?」

「えぇぇっ!? 何も言ってないのにどうして分かったの!? もしかして、あこの知らないうちに予知能力を身に着けた……とか? ズルい! そんなカッコいい能力を勝手に習得してるなんて、あこにも教えてよ~!」

「あこちゃんが教えて欲しいのは、予知能力じゃなくて勉強でしょ……」

「あっ、そうだった……」

「どうして追試の子たちって、ここまで危機感がないの……?」

 

 

 僕の推理だけど、恐らく危機感が薄いからこそ追試になるのだろう。こう言っては申し訳ないけど、自分たちの学力が赤点の境を彷徨っているにも関わらず、勉強してこなかったのは危機感がないと言わざるを得ない。だから追試になっても楽観的なところがあるのだろう。今だって3人で何故か意気投合してるしね。

 

 

 そんなこんなで勉強に入ろうとした、その時だった。

 僕の背後から大声で声を掛けられる。

 

 

「秋人くん!!」

「わっ、あ、彩ちゃん!? いきなり登場したね……」

「た、大変大変! 大変なんだよ秋人くん!!」

「あぁ、追試ね……」

「えぇっ!? どうして分かったの!?」

「いやこの流れもうやったから、早く席に着いてね」

「なんか、私の扱い雑じゃない……?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんな訳で、僕は追試ちゃんたち4人の勉強を見ることになった。渋々ではあるんだけど、女の子に泣きつかれたら逆らえないのが僕の弱いところだ。それに、僕が教えることでみんなのやる気が上がるのであれば、それはそれで何の問題もない気がする。いつも甘やかしてもらっているから、たまには甘やかしてあげてもいいよね。

 

 

 ――――と、そう思っていた時期が僕にもありました。

 

 

「あ、あのぉ……彩ちゃん? どうして僕に抱き着くの……?」

「香澄ちゃんから聞いたよ? 問題を1つ解き終えたら、秋人くんに抱き着いていいって」

「過去が捻じ曲げられているような……。1科目につき1回のはずだったと思うけど?」

「そんな! この問題集、1科目で何十個も問題があるんだよ!? そんなの途中で秋人くん分がなくなっちゃうよぉ~」

「燃費悪すぎでしょ……」

 

 

 彩ちゃんは僕の頭を撫でながら、後ろから包み込むように抱きしめてくる。それも今日で何度目か分からない。さっき彩ちゃんが言っていた通り、誰かが問題を1問解くごとに熱いハグをされるため、もう何回抱きしめられているのか、数えるのを途中でやめてしまった。

 

 

「問題解き終わった~!! あやさん、次はあこの番だよ!」

「え~もっと秋人くんと一緒にいたいのにぃ~」

「はぐみも終わったよ! あこちん、後が詰まってるんだから早くしてね」

「そんなこと言われても、あやさんが秋兄から離れないんだよぉ~」

「だって私もさっき解き終わったばかりだもん。まだ1分も経ってないのに……」

「みんないいなぁ~。ねぇ秋人くん、この問題分からないから教えてよぉ~!」

「この状態だから教えられないんだけど……」

 

 

 このようにどんな簡単な問題でも1回とカウントされるため、簡単に解けるような問題が連発している箇所だと今みたいに僕の周りで渋滞が起こる。もちろん女の子に囲まれているこの状況では、勉強を教えることもままならない。もうみんなの目的が勉強よりも如何に問題を早く解き、僕を抱き枕にするかに代わっていた。

 

 しかし、よく考えてみればそれでみんなの勉強が捗るならそれはそれでいいような気がしてきた。現にみんなは恐るべきスピードで問題集を進めているため、効果的であることは確かだろう。でも、それだけの集中力があるならテスト前の勉強で発揮して欲しいものだよ。このままだと本当に僕を抱き枕にしたいがために、わざと追試になる子が増えそうだから……。

 

 

「むぅ~後ろがダメなら前から抱き着いちゃうもんね! あっ、どうせなら秋兄があこを抱きしめてよ!」

「えっ、僕が!?」

「うんっ! こうすれば――――――ほら、これでよし!」

 

 

 あこちゃんは胡坐(あぐら)をかいている僕に背を向け、そのまま僕の身体に倒れ込むように座った。僕はかなり背が低い方だけど、流石にあこちゃんのロリボディよりは一回り大きいので、あこちゃんの身体が僕の身体にすっぽりと入ってしまう。そして、その彼女を僕が後ろから抱きしめると、もはや恋人同士でイチャついているようにしか見えない。同じことを考えているのか、あこちゃんは頬を赤くして、僕の腕をきゅっと優しく掴んだ。

 

 

「えへへ、なんかカップルみたいだね」

「そ、そうだね……。ちょっと、いや、かなり恥ずかしいけど……」

「あこも、こんなにドキドキするのは久しぶりだよ……」

 

 

 この初々しい会話、この甘い雰囲気、もはやモノホンの恋人同士としか思えなくなっちゃうよ。あこちゃんのありとあらゆるところが密着しているせいで、彼女が暖かくなっていることも、珍しく緊張しているのも肌を通じて伝わってくる。恋人持ちは毎日こんな気持ちの良いことをやっているのか……ちょっと羨ましいかも。

 

 しかし、この空気を良く思わない子たちももちろんいる。そう、この場にはあこちゃん以外の女の子が3人もいるのだ。その子たちがこの甘々な空気の中で黙っているはずもなく――――

 

 

「もうっ、あこちゃん! 今は私の番なんだよ!?」

「はぐみだって、あきくんにギュってされたいのに~!!」

「あぁ、このままだと私だけ秋人くんと遊べずに終わっちゃう……!! でも、この問題分からないし……。わぁ~ん! 秋人くぅ~ん!!」

 

 

 そりゃこうなるに決まってるよね……。1人だけ別の問題で苦しんでるけど、あこちゃんと彩ちゃんにサンドイッチされているこの状態ではどうしようもないから、今は耐えて欲しい。このままずっとみんなに抱きしめられて、勉強を教えるどころじゃなくなるかもしれないけど……。

 

 

「あこちゃんも彩ちゃんも、そろそろ勉強に戻ってね。1つの問題を解くたびに何分もこうしてたら、追試までに勉強間に合わないよ?」

「む~~秋兄がそう言うなら……」

「仕方ないよね。うん、分かった。私、もっともっと頑張って勉強して、秋人くんが私から離れたくなくなるくらい抱きしめてあげるから!」

「それはそれでどうかと思うけど……まぁ、勉強を頑張ってくれるのなら別にいいか」

「ねぇねぇ、はぐみもお預けなの!? せっかく待ったのに……」

「そ、そうだね……。だったら、少しだけ……する?」

「いいの!? やっぱりなしはなしだからね!」

「分かってる――――って、ちょっ!?」

「わっ!?」

 

 

 まだあこちゃんと彩ちゃんが僕に抱き着いているのも関わらず、はぐみちゃんは僕たちに覆い被さる形で抱きしめてくる。そもそもはぐみちゃんの身体はかなり小柄だから、僕たち3人を抱きしめるというよりかは、むしろのしかかってきたと言った方がいいかもしれない。彼女のダイブ攻撃にあこちゃんも彩ちゃんも驚いたのか、その勢いでさっきよりも更に強い力で僕を抱きしめている。前を見ても後ろを見ても上を見ても女の子、女の子、女の子で、幸せ……なのかな?

 

 もはや僕たちの身体は複雑に絡み合って、もはや知恵の輪レベルになっていた。そうなればもちろん、女の子のあらゆる柔らかいところが僕の身体に密着する訳で……。あぁ、ダメだダメだ、こんなところで発情したら彼女たちにすぐバレる。そうなれば最後、勉強なんて放って余計に僕と触れ合おうとしてくるだろう。だから何とか耐えてくれ、僕の情欲!!

 

 

「ひゃっ!? あ、秋人くん、変なところ触らないでぇ……」

「ゴ、ゴメン!? どこ触ったか分からないけどゴメン!!」

「あ、秋兄……抱きしめてくれるのは嬉しいんだけど、秋兄の腕があこの胸に当たりそう……」

「へっ、あっ、ゴメン!! もう誰のどこに触れてるのか分からないんだよ!」

「うひゃん!! あ、あきくん、耳元で声出さないで、くすぐったいよぉ……」

「ええっ!? はぐみちゃんの顔が近いからどうしようもないといいますか……」

 

 

 四方八方から女の子に囲まれているせいで、僕は自分で自分の身体を動かすこともできない。それでも無理矢理手や脚を動かそうとすると、彼女たちの敏感な部分を刺激してしまう。あれ、これ……詰んだ? 僕が下手に刺激を与えてしまったことで、みんなの力が抜けきっているのが密着しているとよく分かる。そのせいでここから脱出することもできず、僕たちは永久にこのまま……??

 

 

「秋人くん、なんか嬉しそうだね」

「か、香澄ちゃん!? そうだ、まだ希望は残ってた!」

「こっちは忘れられて悲しいよ。隣で秋人くんとみんなが楽しそうにしてるのに、私は1人で解けない問題に頭を悩ませている。あぁ、可哀想な私……」

 

 

 正直、香澄ちゃんの存在をさっきまで忘れていた。そのせいで香澄ちゃんが不機嫌になっちゃったけど、ここは彼女に救出を依頼するしかない。そのためにはまず、何とか彼女の気を落ち着かせないと……。

 

 

「ゴ、ゴメン! あとでいくらでも勉強を見てあげるから、とにかく今は助け――――」

「だから、私もみんなに混ざりたい! えいっ!!」

「えっ、そっち――――って、うぐぅ!!」

「かーくん重い! 重いよーーーっ!!」

「香澄ちゃん、あまりこっちに体重をかけると――――うわぁあああっ!?」

「ちょっ、秋兄!? 強く抱きしめすぎ――――って、ひゃぁっ!?」

 

 

 僕にはぐみちゃんと香澄ちゃんを同時に支える力はなく、僕たちは香澄ちゃんがのしかかってきたのと同時にバランスを崩して倒れてしまった。さっきまで女の子たちに囲まれて息苦しかったせいか、みんなから解放されたと同時に空気が僕の鼻と口に流れ込み、思わず咳き込んでしまう。なんか、これだけで体力の限界なんだけど……。

 

 

「いてて……。勉強会なのに、どうしてこんなことに……」

「でもみんなでおしくらまんじゅうができて、はぐみ、子供の頃に戻ったみたいで懐かしかったよ!」

「あこも何だかんだで楽しかったぁ~。秋兄やみんなとたっぷり遊べたしね!」

「私はもうちょっと秋人くんと一緒にいたいかな……。秋人くん、もう1回抱きしめてもいい? いいよね!?」

「待って、まだ私だけ秋人くんによしよししてないよ!? 私もいいでしょ!?」

「元気だねみんな……」

 

 

 あんなことがあったのにも関わらず、みんなの体力はあまりに余っているらしい。やっぱり普段からバンド練習をしている彼女たちと、ニートの僕では体力の付き方がまるで違う。僕はさっきの一件だけでもグロッキー状態なので、みんなの逞しさが羨ましいよ……。

 

 ていうか、香澄ちゃんたち絶対に勉強のことを忘れてるよね……? いや、最初からそうだったか……。

 

 

「みんな、そろそろ勉強に戻ろうよ。早くしないと1教科を終える前に日が暮れちゃうよ?」

「えぇ~!? 私にも秋人くんをギュッとさせてよぉ~! それとも、秋人くんが私をギュッとしたい? 私はそれでもいいけど……えへへ」

「私もまだ秋人くん分を満タンまで補給できていないから、もう1度後ろから抱きしめさせてね……?」

「みんなズルい!! あこも秋兄ともっと遊びたいのにぃ~!」

「はぐみだって! こ、今度はあきくんからギュってして欲しいなぁ……なんて」

「分かったから、みんな落ち着いて! 次の問題を解き終えたら好きにしてくれていいから」

「「「「好きにしていい!?!?」」」」

「あっ、しまった!? ち、違うんださっきのは――――」

 

 

 僕が喋り終える前に、みんなは机に向かった。さっきまであれだけ騒がしい雰囲気だったのに、今部屋に流れている空気は超真剣ムード。やっぱり、勉強する動機が追試を回避するためじゃなくて、僕で遊ぶためなんて不純すぎるよ……。それでみんなの成績が上がってくれれば願ったり叶ったりなのかもしれないけどさぁ……。

 

 今日で1つ分かったのは、追試ちゃんたちのやる気を上げるには、僕というアメをたくさんあげるしかないみたいだ。それだけ僕が疲弊するって意味でもあるんだけどね……。

 

 

 

 

 ちなみに、このあとメチャクチャ揉みくちゃにされた。

 

 




 別に卑下するつもりは全くないですが、香澄とはぐみの知能指数が低い会話が好きだったりします(笑)

 ちなみに、話ごとに前の話とキャラ被りがないようにしているので、そろそろどんな括りの女の子たちが登場するのか予想できるかも……?



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微ヤンデレちゃんたちに甘やかされる

 ヤンデレの甘やかされるとか、人生の終焉に近い。


 

 オタク界隈には『ヤンデレ』という言葉がある。オタク趣味に浸かっていない健全な人が聞くと意味不明な言葉だけど、僕たちのようなオタク陰キャの世界では知らない人いないってくらいメジャーな言葉だ。

 その意味は字面通りで、対象の人物への愛情が凄まじく深く、深すぎて病みに病んでる人を差す言葉である。特に二次元の女の子のキャラとして採用されることが多く、病み成分が軽度で可愛らしい性格のキャラから、重度の病み成分で猟奇的な性格のキャラまで様々。一言で『ヤンデレ』と言っても、一枚岩ではないんだ。それ故に『ヤンデレ』は人によって好みが大きく分かれ、特に血生臭い展開を平気で引き起こすようなキャラは賛否が分かれやすい。確かに、そんな子がリアルでいたらゾッとしちゃうよね……。ツンデレと同じく、2次元だからこそ許されるキャラだろう。

 

 しかし、何事にも例外というものは存在する。

 僕の周りには、病みとはまでは行かないけど異彩な愛情を注いでくる子たちがいる。身の回りのお世話をしてくれるのはありがたいんだけど、愛情に愛情が募り過ぎて奇行に走ることも多い。気を抜いたら骨の髄まで面倒を見られそうで、ちょっと怖いんだよ……。

 

 

「秋人くん? どうして震えているのかしら?」

「ち、千聖ちゃん……。別になんでもないから、心配しないで」

「そう? もし寒いのなら抱きしめてあげましょうか?」

「あ、ありがとう……。でももうすぐ夕飯だし、気持ちだけ頂いておくよ……」

 

 

 一般の男性が人気女優にハグしてもらえるのなら、何百万、何千万と大金を叩くだろう。でも、僕の場合は千聖ちゃんが自ら求めてきている。そんなシチュエーションに少し独占欲が満たされながらも、彼女の表情を見ると我に返ってしまう。

 なんたって、彼女の表情は常に真顔。善意で僕を暖めてくれようとはしてくれているんだろうけど、千聖ちゃんの場合は裏で何を考えているのか分からないのがね……。

 

 

「そういえば、郵便物がたくさん届いていたわよ。夕刊、ガス使用量、近くのスーパーの広告、クレジットカードの会員継続の催促状は……あなたがサインをして返送しないといけないわね」

「ゴメンね、取りに行くの忘れてたよ」

「あとは白鷺千聖との婚姻届も入っていたわ。これもあなたがサインをして、送り主に送り返さないとね」

「うん、分かったよ――――って、ちょっと待って! 自然な流れ過ぎて今気づいたけど、人の家の郵便受けに何を入れてるの!?」

「…………気付いたわね」

「あからさまに威圧するのやめてよ!? 怖いから!!」

 

 

 気付かれたから諦めようじゃなくて、気付かれたから圧力をかけて押し通そうとするのが千聖ちゃんの常套手段だ。これまでも何度も僕を今のような罠に嵌めようとしてきたことがある。今回のように、サイン1つでお互いの人生が大きく揺らぐかもしれない罠なんて日常茶飯事。千聖ちゃんとのコミュニケーションは常に一触即発で、隙あらば僕を自分のモノにしようと画策してくるんだ。

 

 ちなみに千聖ちゃんが手に持っている婚姻届には、ご丁寧に僕と千聖ちゃんの名前からお互いの情報まで事細かに記入されている。そのため、僕がサインをするだけで後は市役所に駆け込むだけ。他の子たちのようにただ甘やかしてくるだけではなく、しっかりと将来を見据えた行動をするのが千聖ちゃんらしい。そこまで作戦を張り巡らされると末恐ろしいけど……。

 

 

「あのぉ~白鷺先輩? 秋人を弄って遊ぶのは楽しいですけど、そろそろやめてあげてください。白鷺先輩の黒さは、秋人1人だと浄化しきれないんで」

「あら、美咲ちゃん」

「美咲ちゃん、いつの間に来たの……」

「来たのはついさっき。白鷺先輩が秋人に婚姻届を渡しているところくらいからかな」

「今回は上手くいくと思ったのだけれど、秋人くんの察しの良さのせいで失敗してしまったわ。でも、諦めないから。絶対に婚姻届にサインをさせるまで、私はあなたの側を離れないわ絶対に」

「なんで絶対を2回言ったの……? それが怖いんだよ……」

「好きな人に一途な愛を向ける、先輩のその気持ちは分かりますけどね。あたしも未だに秋人に婚姻届を受け取ってもらえないですし」

 

 

 千聖ちゃんと美咲ちゃんは、どちらも現実派、つまりリアリストだ。だからこそ僕と籍を入れるために色々と画策をして、あの手この手で僕に迫ってくる。そのたびに僕は『まだ早い』と言ってその場を回避するのだが、次の日には前日の記憶がリセットされているかのごとくアタックしてくる始末。想いの人を手に入れるために諦めない、その気持ちはとっても嬉しいんだけどね……。

 

 

「そういえば秋人、この前クッションが破れたって言ってたでしょ? だから作ってきたよ」

「えっ、美咲ちゃんが? わざわざそんなことをしなくても自分で買うのに……」

「いやいや、秋人には自分のためにお金を使って欲しいの。それにあたしは人形や小物を作ったりするのが趣味だから、むしろあたしから作らせてとお願いしたいくらいだよ」

「そっか……。だったら遠慮なくいただくよ、ありがとう」

「あっ、そうだ。他にも枕カバーに手袋、シャツも作ってきたから」

「た、たくさんあるね……。ありがとう、嬉しいよ」

「せっかくだし、このクッションに座ってみて。自分で感触を確かめても良かったんだけど、やっぱり最初は秋人に座って欲しいなぁと思って、完成したのをそのまま持ってきたんだ」

「そうなんだ。じゃあ、お言葉に甘えて――――」

 

 

 こうして会話をしていると、至極普通の女の子に見える。ちょっと押しが強い時もあるけど、こうして献身的に接してくれることも多い。ヤンデレは見方を変えると一途だと肯定的に捉えることもできるので、今の美咲ちゃんがそんな感じなんだと思う。うん、流石に病んではいないのかな……?

 

 僕は美咲ちゃんからお手製のクッションを受け取ると、早速椅子に敷いて座ってみる。

 座ってみたんだけど――――――

 

 

「あ、あれ……?」

 

 

 なんだろう、あまり柔らかくない。手触りも布というよりかは、どちらかと言えば紙のような薄っぺらさを感じる。作ってくれた美咲ちゃんには悪いけど、座っていて気持ちいいかと言われたらそうでもない。でも裁縫が好きだって言ってたし、柔軟性のないクッションを作るなんてミスを犯すのは有り得ない――――って、え゛っ!?

 

 

「み、美咲ちゃん、これって……」

「座り心地はどう? 秋人への愛を込めて作った最高傑作なんだけど」

「そもそもこれクッションじゃないよね!? 婚姻届を固めてあるだけじゃん!?」

「市役所に何枚も婚姻届を貰いに行くの、結構恥ずかしかったんだよ。でも、秋人のためを想うと我慢できたんだ」

「人生の一大決心みたいな言い方してるけど、普通に市役所が迷惑してるからね……」

「気が向いたらでいいから、その婚姻届クッションにサインしてくれると嬉しいよ。それに座りながらゲームしたり自慰行為したりする最中でも」

「いやしないから……」

 

 

 千聖ちゃんもそうだったけど、美咲ちゃんは僕に婚姻届のサインを求めることに何の躊躇いもない。他の女の子なら恥じらうようなことでも、彼女たちは真顔で、さも婚姻届にサインをさせるようアタックするのが普通と思っているに違いない。淡々とした言動に思わず流されちゃいそうだけど、やっていることはまさに狂気の沙汰。愛のカタチは人それぞれなのは分かるんだけどね……。

 

 

「ほら、他にも枕カバーに手袋、シャツもあるんだから使ってみてよ」

「これも全部婚姻届じゃん!! しかもご丁寧に全部に僕と美咲ちゃんの名前が書いてあるし、どれだけ手間かけたの!?」

「そりゃ愛する人のためなら、どれだけでも手間をかけるのは当然でしょ」

「凄いわね美咲ちゃん。秋人くんへの気持ちが良く伝わってくるわ」

「ありがとうございます。でも、これくらい普通だと思いますけど」

「そうね。秋人くんの私物をみんな婚姻届で作ったら、彼もサインせざるを得ないのではないかしら?」

「あぁ~確かに。だけど、それだと秋人が生活しにくくなりません? サインはしてもらいたいですけど、秋人の快適な生活を阻害するなんて万死に値します」

「私もそこが課題でずっと悩んでいて、最近仕事が手に付かないわ……」

「いやいや、仕事して! パスパレのみんなやスタッフさんが困るから!!」

 

 

 想像を絶する会話に、もう開いた口が塞がらない。しかも当の本人が目の前にいると言うのに、この子たちはそんなこともお構いなく自分たちの作戦を漏らしている。いや、もはや僕に作戦を公開することで、遠回しに婚姻届にサインをしろと圧力をかけているのかもしれない。2人共普段は超絶常識人なんだけど、真面目過ぎるが故に裏で恐ろしい策を企てる能力に秀でている。これまでは何とか回避できたものの、2人に結託されるともう終わりかもしれない……。

 

 

 そんな中、僕の部屋に香辛料が効いた香ばしい匂いが漂ってきた。

 今この家にいるのは僕と千聖ちゃん、美咲ちゃんだけのはず。そして、2人は食べ物らしきものは一切持ち合わせていない。となると、僕の家にこの2人以外の誰かが……!?

 

 そう察した時、僕の部屋にエプロン姿の女の子が入ってきた。

 

 

「千聖先輩も美咲も、秋人を弄るのはほどほどにしておいた方がいいよ? あまりしつこいと嫌われちゃうかもしれないし」

「さ、沙綾ちゃん!? いつの間に僕の家に……?」

「細かいことはいいじゃん。それよりもほら、カレー作ってきたよ。勝手にキッチン借りちゃってゴメンね」

「あ、ありがとう……」

 

 

 サラッと流されたけど、もう女の子が僕の家に無断で侵入することは日常茶飯事なので、今更その理由を追及する気にもなれない。ベッドで目覚めたら誰かが添い寝していたりとか、勝手にゲームで遊んでいたりとか、もはやいつものことだ。別に迷惑とは思っていなくて、むしろ起床したら目の前に女の子がいたりとか、キッチンで料理を作ってくれたとか、男なら誰もが夢見るシチュエーションにちょっと興奮しつつもある。

 

 エプロン姿の沙綾ちゃんは、お盆にカレーを盛り付けたお皿を人数分乗せて僕の部屋に持ってきた。つまり、ここにいる4人分。でも、千聖ちゃんも美咲ちゃんもアポなしで来ているから、沙綾ちゃんは人数を把握できなかったはず。なのにカレーは人数分ある。どういうこと……?

 

 

「ねぇ沙綾ちゃん。千聖ちゃんも美咲ちゃんも今来たばかりなのに、どうしてカレーが人数分あるの?」

「…………知りたい?」

「えっ、なにさっきの無言タイム!? 怖いんだけど!?」

「私、秋人のことなら何でも知ってるんだよ。秋人が誰と会って、誰と喋っていたとかもね」

「へ……えぇっ!?」

「あはは、そんなことよりこのカレーを食べてみてよ。秋人のためにずっと練習していて、最近やっと自分の納得がいく味になったんだ」

「い、いや、そんなことって……」

「食べてみて……ね?」

「う、うん……」

 

 

 いつもなら聖母と崇められるほど温和な沙綾ちゃんだけど、今日は凄まじい圧力を放っている。結局どうやって人数分のカレーを用意できたのかも分からないし、今日の彼女には普段通りに甘えられないかもしれない。

 

 

「美咲と千聖先輩もどうぞ。せっかくなので、みんなで食卓を囲みましょう」

「ありがとう、沙綾ちゃん。それならお言葉に甘えようかしら。それにこの4人でお食事だなんて、なんだか新鮮だもの」

「そういえば、私たちだけが集まることってなかったですよね。それぞれバンドの担当も違うし、珍しいかも」

「その点、夢だけは一緒ですよね。秋人のお嫁さんになるって夢は……ね?」

「どうして僕に聞くの……?」

 

 

 サラッと告白したけど、恥ずかしくないのかな……? みんなは何事もなかったかのようにカレーに手を付けており、目の前の日常的な光景を見ていると、さっきまで狂気の沙汰に巻き込まれていたのが嘘のようだ。この子たちの裏の顔を知っているからこそ、こうして何食わぬ顔で自然に振舞っているのが怖く感じるんだけどね……。

 

 とは言っても、料理を作ってくれるだけではなく、一緒に食卓を囲めるのはありがたい。みんながお世話してくれると言っても僕は一人暮らしのニートだから、誰かが側にいてくれるだけでも心が温かくなる。さっきまでは婚姻届の連打で冷汗をかきまくってたけど、流石に今日の猛攻はあれで終わりだよね……? ()()()と言っている時点で、色々察して欲しいけど……。

 

 

「ほら、秋人も食べてみて。それとも、食べさせて欲しい?」

「いや、自分で食べられ――――」

「食べさせて欲しい?」

「い、いや、自分で――――」

「食べさせて欲しい?」

「はい……」

 

 

 何が怖いって、笑顔を全く崩さないところだよ。ガールズバンド内の甘えたい女子ランキングNo.1の沙綾ちゃんに『あ~ん』をされる権利なんて、ファンからしてみれば殴り合いの乱闘をしてでも勝ち取りたいものだ。それを当然のように有している僕は優越感に浸りたいところだけど、彼女から放たれる凄まじい圧力に、僕は萎縮せざるを得ない。

 

 

「はい秋人、あ~ん」

「あ、あ~ん……。お、美味しい……」

「そう? 良かった。いくら練習していいモノができたと思っても、実際に感想を聞くまではちょっと心配だったから。もし口に合わなかったらどうしようかなってね」

「そんな心配は全然いらないよ。沙綾ちゃんの料理もパンもいつも美味しいし」

「ふふっ、ありがと」

 

 

 この甘口カレー、僕の口に合い過ぎてビックリしてしまった。僕の好みを知ってくれていることも嬉しいけど、沙綾ちゃんは小さい弟や妹がいるから、必然的に甘口カレーを作るのが上手いのだろう。それのおかげか、スプーンを持って食べさせてくれる様も板についている。特にエプロン姿で食べさせてくれる、この光景から彼女の母性が伝わってくる。なるほど、これがバブみを感じるってことなのか……。

 

 

「秋人くん、私のカレーも食べてくれるかしら?」

「えっ、でも千聖ちゃんのカレーも僕のカレーと同じじゃないの?」

「食べてくれるかしら?」

「僕は自分の分があるから――――」

「食べてくれるかしら?」

「はい……」

 

 

 あまりにゴリ押しが過ぎて、もう抵抗する気さえ失せちゃうよ……。別に千聖ちゃんに悪気がある訳じゃないと思うけど、笑顔の圧力って怖い。それだけで僕が逆らえなくなるとは思われたくないけど、こうして屈服しちゃうあたり僕ってM体質なのかな……? でも、女の子に手ずから食べさせてもらうことを楽しみにしている自分もいるから、抵抗できたとしてもしないかもしれない。

 

 

「はい、秋人くん。あ~ん」

「あ~ん……。あ、ありがとう……」

「はい、よくできました」

「どうして撫でるの……」

 

 

 千聖ちゃんは僕の頭を優しく撫で回す。ただ差し出されたカレーを1口食べただけなのにこの甘やかし様だから、甘口のカレーがより甘く感じてしまう。僕のカレーと同じ味のはずなのに、沙綾ちゃんに食べさせてもらった時とは別の味のような気がするのはそういうことだろう。

 

 

「最後はあたしだね。はい、あ~ん」

「み、美咲ちゃんも……? でもそのスプーンって、さっき美咲ちゃんが口を付けてたよね……?」

「はい、あ~ん」

「関接キスになっちゃうけど――――」

「はい、あ~ん」

 

 

 うん、もうこの展開も慣れっこだね。途中で抵抗しても無駄だと思ったけど、身体が今までの流れを覚えていたせいで謎に反抗しちゃった。

 しかし、美咲ちゃんが差し出してくるスプーンを見ると緊張してしまう。既にさっき彼女が口を付けていたのはこの目で見ているため、ここで僕が口を開けば間接キスになるのは明白。ここにいる真面目ちゃんたちって、平気でこういうことをやってくるから毎回ドキドキさせられるんだよね……。

 

 このまま黙っていても美咲ちゃんが引くとは思えないので、勇気を振り絞って差し出されたカレーを咥える。

 

 

 うん……美味しい。それに、ちょっぴり美咲ちゃんの味も――――って、ダメだダメだ、これだと僕が変態みたいじゃないか! せめて僕だけは真の真面目でいなければ!!

 

 

「ありがとう秋人。これであたしの目的が達せられたよ」

「ちょっ、ちょっと!? そのスプーン、どうして袋に入れてるの!?」

「どうしてって、普通のことだと思うけど……」

「もうね、普通って何なのか分からなくなってくるよ……」

「秋人くんは何も難しいことを考える必要はないわ。面倒なことは全て私たちに任せて、あなたは自分の好きなように生きてくれればいいの。好きなだけ私たちをこき使って、悠々自適に過ごしてもらえればそれが私たちの幸せだから」

「そう言いながら、僕の咥えたスプーンをカバンに入れないでよ!?」

「もう秋人ってば、食事の時に騒ぐなんてウチの弟たちを見てるみたいだよ。そんなところも可愛いけどね」

「騒いでるのはみんなのせいだけどね。それと、スプーンをポーチに入れるのもやめてね……」

 

 

 ここにいる3人みんな同じ行動をしているなんて、控えめに言ってゾッとする。カレーを作ってくれた沙綾ちゃんは作戦通りだったかもしれないけど、千聖ちゃんと美咲ちゃんは食卓を囲むとなった瞬間にさっきの行動を取ろうと思ったのか……。あ~んをされている最中は至福のひと時だったのに、その後の行動で全部台無しだよ……。

 

 

「秋人、口汚れちゃってるよ。はい、これ使って」

「ありがとう、沙綾ちゃん――――って、これ婚姻届じゃん!? まだ続いてたのこのくだり!?」

「秋人がそれに口を拭ってサインをしてくれたら、晴れて私と秋人は……。そうしたら、毎日あ~んしてあげるからね」

「ちょっと魅力的な条件だけど、そんな婚姻届は受け付けてもらえないでしょ……」

 

 

 沙綾ちゃんから手渡されたのは、もう今日で何度見たかもわからない婚姻届。中々見られないよ? これだけ紙という資源が無駄遣いされているところ……。まぁ、彼女たちのとってはその1枚1枚が幸福な人生への片道切符なので、決して無駄ではないと思ってそうだけどね。でも、これで口を拭ったらもうゴミでしかないよ……。

 

 

「ここまでで秋人くんが受け取ってくれた婚姻届は、3人合わせても0枚ね」

「な、なんかゴメン……」

「いいえ、むしろもっとあなたのことが好きになったわ。女性の誘惑にも靡かず、逞しく自分を貫くあなたに惚れ惚れしちゃったもの」

「そうですね。そっちの方が堕とし、いや落とし甲斐がありますし、あたしも俄然やる気になります」

「ねぇ、さっき変なイントネーションじゃなかった……?」

「細かいことは気にしない気にしない。あたしたちの愛の深さに、そんな細かいことなんて入り込む余地がないんだよ」

「なんか、まとめ方が雑過ぎる気が……。ま、もういっか」

 

 

 僕にツッコミを入れられるたびにみんなは大人っぽい発言をするけど、その大抵が意味不明なので、もはやツッコんだら負けな気がしてきた。言うなればほら、薫ちゃんの謎発言に逐一ツッコミを入れているような感じだ。ほぼ毎日あれに付き合っている美咲ちゃんや薫ちゃんの気持ちがようやく分かったよ。実際、目の前にその1人がいて、その子が薫ちゃんの立場になっているのは苦笑いするしかないけど……。

 

 

 そしてその後、沙綾ちゃんが新しいスプーンを持ってきて食事を再開した。とは言っても、結局僕は沙綾ちゃんに食べさせてもらって、美咲ちゃんにお茶を飲ませてもらい、千聖ちゃんに口を拭ってもらったりして、何1つ手を動かしていないんだけどね……。なんか僕、五体不満足になっても普通に生きていけそうな気がしてきた。

 

 

「ごちそうさまでした。沙綾ちゃん、美味しかったよ」

「お粗末様でした。食後のデザートは何がいい?」

「気持ちは嬉しいんだけど、カレーを作ってもらったのにデザートまで作ってもらうなんて悪いよ」

「だったら、沙綾ちゃんの代わりに私がデザートを作るわ。さて、何を作ろうか、何を入れるか迷うわね」

「ちょっ、入れるって、ちゃんとした調味料にしてよ!? 婚姻届や体液とかは禁止だから」

「それなら、あたしも秋人にデザートを振舞うよ」

「って、いきなりシャツ脱ぎだしてどうしたの!? 早く着なおして!!」

「ん? 思春期の男の子のデザートと言ったら女の子じゃないの?」

「そんな知識をどこで覚えてきたの……」

「あはは、みんな欲望を丸出しにし過ぎですよ。お手拭きをあげるから、千聖先輩のデザートができるまで待っててね」

「ありがとう――――って、これ婚姻届!!」

 

 

 この好き放題っぷりに前言撤回。いくら五体不満足になったとしても、僕が普通に生活できる日は永遠になさそうだ……。

 




 ヤンデレの女の子を描写するのは久々だったので、今回はリハビリがてらに割と軽度なヤンデレにしてみました。実は4年前には『ラブライブ!』の方で血生臭い方のヤンデレを描いていた時期があるので、ヤンデレを描くこと自体に慣れてはいるんですけどね。ヤンデレ好きな人がみたら物足りないかも……?

 今回登場した3人をチョイスしたのは、真面目ちゃんたちほど異性に惚れ込んだ時に依存しそうだという私の勝手な思い込みからです。ガルパのストーリーなんかを見ていると、この子たちって心の中で溜め込みやすい性格ですから、いざ欲望を吐き出した時には今回のようになるのでは……と思ったりしています。


 次回は皆さん大好き紗夜日菜回の予定です。
 そろそろ秋人くんを外に出してあげないと、ずっと家の中だと小説のネタが尽きそうで私が困る件()




この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
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さよひなに甘やかされる(前編)

 なんだかんだで10話目です。
 そして、ようやくニートの秋人くんが外に……!?


「秋人くん秋人くん! 一緒にお出かけしようよ!」

「はい……?」

 

 

 僕の部屋にいきなり転がり込んできた日菜ちゃんが、目を輝かせてとある提案をしてきた。

 『お出かけ』って、あの『お出かけ』だよね? いや、言葉の意味は知ってるんだけど、ずっと引き籠りニートだったから外出をするってことがどういうことなのかを忘れていた。そうだよ、この世界は僕の家だけじゃないんだ。当たり前のことだけど、引き籠りのせいで『外出』をするという概念が存在すること自体を失念していたよ……。

 

 でも、僕はガールズバンドのみんなからお出かけ禁止令を出されている。なのにどうしてこんなことを……?

 

 

「お出かけって、日菜ちゃん、この前パスパレのみんなと僕の外出を阻止しようとしてなかったっけ……?」

「前は前、今は今だよ! それに秋人くん、外に出たくないの?」

「別に用事がなければいいかなぁって……」

「用事ならあるよ! あたしとお姉ちゃんと秋人くんで、デートをするんだから!」

「デ、デート!?」

 

 

 デートって、あのデート?? ヒキオタニートの僕にとって、デートなんて夢のまた夢だと思っていた。これまでは精々アニメや漫画で2次元キャラがイチャコラとデートしているのを眺める程度だったので、生の女の子からいきなり誘われて心臓の高鳴りが止まらない。遂に僕にも春が来たのか……!!

 

 だけど、僕と日菜ちゃんから一歩引いたところにいる紗夜ちゃんが頭を抱えている。

 厳格な紗夜ちゃんのことだから、デートどころかそもそも外に出ることを許してもらえるか分からない。あぁ、早速夢が潰えてしまうのか……。

 

 

「日菜、顔が近すぎて那須原さんが困っているでしょう。まずは離れなさい」

「えぇ~!? だって秋人くんっていい匂いがするんだもん! あたし、この匂い好きぃ~」

「ちょっ、日菜ちゃん!? いきなり抱きしめられると苦しいって!!」

「あたしだけ秋人くんを堪能するのは悪いから、秋人くんもあたしで楽しんでいいよ!」

「日菜ちゃんで楽しむ……? そ、それってどういう……」

「さぁ~て、どういう意味でしょ~?」

 

 

 日菜ちゃんは口角を上げて、憎たらしい笑顔を向ける。

 からかっているのか、それとも誘っているのか。どちらにせよ、人気アイドルにここまで誘惑されると童貞の僕は簡単に臆してしまう。こうして女の子に抱きしめられるのは日常茶飯事だけど、決して慣れることはない。もう僕に男の尊厳というものは残っていないのかも。いや、ニートの時点でプライドもへったくれもないけどさ……。

 

 

「そ、それよりも、日菜ちゃんはどうして僕とお出かけしたいの?」

「元々1人で出かける予定だったけど、秋人くんとお姉ちゃんが一緒の方が、るん♪ってくるでしょ? お姉ちゃんも一緒に出掛ける気満々だしね」

「え~と、よく分からないけど、楽しいから……なのかな? でも、紗夜ちゃんが僕と一緒に外出したいだなんて意外だね。てっきり僕が外出するのを禁止するかと思ったよ」

「別に私も鬼ではありません。外出を禁止しているのも、あなたの身を案じているからこそです。しかし、日菜も楽しみにしていますし、それに私もあなたと一緒にいられるなら……い、いえ、なんでもありません」

「紗夜ちゃん? 顔赤いよ?」

「つまり、お姉ちゃんも秋人くんとデートしたいってことだよ」

「ひ、日菜!? 余計なことを!?」

「えへへ。あまりグズグズしてると、あたしが秋人くんを独り占めにしちゃうよ?」

「そ、そんなこと、許されるはずがないわ!!」

 

 

 日菜ちゃんは僕を抱き寄せて、紗夜ちゃんに我が物アピールをする。日菜ちゃんにとっては紗夜ちゃんをからかっているだけのようだが、紗夜ちゃんは顔を真っ赤にして僕と日菜ちゃんを必死に引き剥がす。

 

 相変わらずモノみたいに扱われている僕だけど、女の子の抱擁リレーのバトンになる役目も慣れてきた。たまには僕から抱きしめて女の子の感触を味わってみたいけど、肉食系になるほどの度胸はない。薄い本ではヘタレ男が女の子に屈辱的な誘惑をされまくったが故に逆上して、性欲に身を任せその女の子を襲う展開も多い。さっきまでドMだった人がいきなりドSになるなんて、三次元ではあり得ないからね……。

 

 

「あはは、嘘だよお姉ちゃん。お姉ちゃんって、秋人くんのことになると本当に可愛くなるよね!」

「双子とはいえ、妹に可愛いと言われると微妙な気持ちだわ……」

「それは別に誇ってもいいんじゃないかな。今日の紗夜ちゃん、とっても可愛いよ。いや、いつもだけど今日は特に……」

「な゛っ!? な、那須原さん、あなたって人は……」

「あっ、お姉ちゃん照れてるぅ~。やっぱりあたしから言うより、秋人くんの口から言った方が効果は抜群かぁ~」

「うぅ……」

 

 

 もう紗夜ちゃんの顔は今にも沸騰して蒸発してしまいそうなくらいだ。いつもは凛然とした態度で厳粛な風格すら感じられる彼女だが、今はもう単なる思春期の女の子。どちらかと言えば、余裕を見せつけて彼女を煽っている日菜ちゃんの方が大物に見えてしまう。いつもは日菜ちゃんが紗夜ちゃんに甘えに甘えているから、この立場の逆転は珍しい。

 

 ちなみに、紗夜ちゃんが思春期女子っぽいのは表情だけでなく服装からでも分かる。普段は高校生の身の丈に合った無難なファッションしかしない彼女が、今日はなんとスカートだ。そもそもスカートなんて持っていたことにも驚きだけど、それ以上にビックリしたのは少し丈が短いこと。水着ですらひたすら露出を隠したがるのに、スカートを短くするなんて思春期男子の欲情を煽る格好をしていることに驚きを隠せない。

 

 

「秋人くん、お姉ちゃんのスカートを見てるの? やっぱり気になっちゃうよね、男の子だもん」

「ちょっ、日菜ちゃん何言ってるの!? ち、違うんだよ紗夜ちゃん! 決して卑猥な妄想をしていたとかじゃなくて、ただ単に珍しい格好をしているからビックリしたと言うか……」

「別に怒ってはいません! むしろ、普段との違いを見つけてくださって嬉しい……です」

「えっ、そうなの……?」

「そうだよ。だってお姉ちゃん昨日の夜、秋人くんとのデートで着る服を悩みに悩んで1人ファッションショーをしていたもんね」

「ひ、日菜!? あなた見ていたの!?」

「えへへ~」

 

 

 紗夜ちゃん、もう完全に日菜ちゃんの手玉だね……。日菜ちゃんに振り回されるのはいつものことだろうけど、ここまでの恥辱を受けるのは初めてに違いない。紗夜ちゃんって地味に煽り耐性なさそうだからなぁ……。

 

 それにしても丈の短いスカートは、僕とのデートのために選んでくれたものだったのか。てっきり日菜ちゃんのワガママに負けて半ば無理矢理着せられたのかと思っていたけど、自分で見繕ったファッションだとは意外だ。それだけ今日のお出かけが楽しみだった、ということかな?

 

 

「紗夜ちゃんもノリ気だったんだね。Roseliaのみんなでプールに行こうってなった時は、不服ばかり漏らしていたって聞いてたから。もしかしたら誰かとお出かけするのは好きじゃないのかなぁと思って」

「確かに何の生産性もない外出をするよりかは、バンドの練習をしていた方が効率的だと思っています。いや、思っていました。しかし、たまにはこうして羽を伸ばしてみるのも悪くないと知ったのです。それはRoseliaや日菜、そして、あなたが教えてくれました」

「え、僕? そんなことあったか――」

「お姉ちゃん」

「と、とにかく、意外かもしれませんが、私も日菜と同じくあなたとデートする気は満々ですから」

「そうなんだ……」

 

 

 僕が特別何かをした記憶はないけど、こうして一緒に過ごしてきた時間こそが紗夜ちゃんを変えたのだろう。ヒキオタニートの僕でもみんなの役に立つことがあるなら、それほど嬉しいことはないよ。

 

 

「秋人くんは、あたしたちと一緒にお出かけしたくない?」

「そりゃしたいけど、外に出るのは怖いと言うか……。それに勝手に外へ出たら、みんなを心配させちゃうし……」

「大丈夫、あたしたちがしっかりエスコートしてあげるから!」

「男として、女の子にエスコートされるデートって情けない気が……」

「心配ありません。女性に手を引かれている那須原さんも素敵ですよ。抱きしめて守りたくなってしまうほどに……」

「さ、紗夜ちゃん? なんかトリップしてない……?」

「お堅いお姉ちゃんをここまで腑抜けにさせるなんて……。それにあの千聖ちゃんや薫くんですらメロメロにさせちゃうんだから、秋人くんって結構ヤり手だよね」

「言い方!! イントネーションが違うと別の意味になるから!!」

 

 

 それだと僕があちこちの女の子に手を出して、無責任に篭絡させていると捉えられても仕方がない。それに僕がそこまでのプレイボーイだったら、童貞なんかとっくに卒業してるんだよなぁ……。そんな度胸があればどれだけ良かったことか、そのせいでニートな上に夜な夜な1人で自慰行為してるんだけどね……。これだけの美女美少女にデートに誘われるなんて人生勝ち組なのか、毎日猿のように自慰行為をしている負け組なのか、もうどっちか分かんないや。

 

 

「それじゃあ、早く着替えて外出しようよ! ほら、秋人くんの洋服を持ってきたから!」

「わざわざ!? 確かに僕は外に着ていく用の服は持ってないけど、もしかして、この時のために買ってくれたの?」

「そうだよ。お姉ちゃんと2人で選んだんだけど、秋人くんに着せたい服がたくさんあって何時間も悩んじゃった」

「そ、そこまで気遣ってくれなくてもいいのに! あっ、お金を渡すよ」

「いえ、私たちが勝手に買ってきたのですから、あなたが気兼ねする必要はありません。私たちはあなたが望むモノだけでなく、これから望むであろうモノを先取りして買ってきますので、あなたは私たちのことを都合のいい財布として見ていれば良いのです」

「な゛っ!? 見れる訳ないよそんなの!!」

「当然のことです、これくらい」

 

 

 豊かに生活できるのは嬉しいことなんだけど、女の子のヒモになっている現状はニートのちっぽけなプライドを歪ませる。とは言っても、僕は自分で使えるお金がほとんどないので、生活必需品から食事までを女の子に頼らないといけないというこの状況だ。うん、いつか絶対にアルバイトでも何でもしてお金を稼ごう。もう手遅れかもしれないけど、このままだと本当のダメ人間になってしまいそうだから。

 

 でも、今だけは……許されてもいいよね? 紗夜ちゃんと日菜ちゃんが時間をかけて選んでくれた服なんだから、受け取らない選択肢はないだろう。

 

 

「よ~し、早速着替えちゃおうよ! あたしたちも手伝うから!」

「えっ!? 着替えくらい1人でできるから――――って、このやり取り何回やってるんだろう……」

「いえ、手伝います。あなたがもしボタンをかけ間違えてしまったら、外出先で色んな人に笑われることになるでしょう。あなたの屈辱は私たちの屈辱。到底耐えられるものではありません」

「いや赤ちゃんじゃないんだし、それくらいできるよ流石に……。現にこの部屋着もボタンがあって、自分で着られてるし……」

「もしあなたがズボンのチャックを閉めていなかったら、あなたの逞しい剛直が社会の窓から外へ……」

「顔が赤くなってるよ。ていうか、恥ずかしいのなら言わなきゃいいのに……。ちなみにパンツは履くからその心配はいらないからね」

「もしそうなったら、あたしが口で閉まってあげるから大丈夫」

「さっき心配いらないって言ったよね!?」

 

 

 思春期男子からしてみれば夢のようなシチュエーションなのだが、流石に野外でそんなプレイをする勇気はない。いくら数多の薄い本やAVを探ってきたニートと言えども、現実世界で望むのは健全な純愛。決して野外プレイで喜ぶような変態じゃないから、そこのところは勘違いしないで欲しいな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おぉ~!」

「これは……」

「あ、あのぉ……そんなにまじまじと見つめられると恥ずかしいんだけど……」

 

 

 日菜ちゃんは目を輝かせながら、紗夜ちゃんは情熱的な目で僕を凝視する。

 その理由は僕自身も分かっており、それは自分が自分でないみたいだからだ。2人が買ってくれた服に着替えてみたんだけど、最初の感想として、服に着られている感が半端ない。これまでオシャレをしてこなかったためか、陽キャっぽい服を着ている自分に違和感しかない。鏡の向こうの自分が他人のようだ。

 

 

「はっ、思わず秋人くんに見惚れちゃった。いつもは小っちゃくて可愛いから、別人かと思ったよ」

「僕もだよ……。変じゃないかな?」

「いいえ。むしろ、あなたの魅力がより一層引き出されていますよ」

「あ、ありがとう」

 

 

 2人から貰った服はそこそこいいブランドモノのようで、背の低い僕でも服に着られることによってカッコよく仕立て上げられてしまう。正直に言ってしまうと陽キャっぽい服は全然落ち着かないんだけど、女の子に褒められると悪い気はしない。こうして見ると、いい服を着ると外出したくなっちゃうね。

 

 

「しかし、那須原さんが魅力的過ぎると、道行く女性たちを虜にしてしまう危険性がありますね。私たちの那須原さんが如何に素晴らしい人なのかを世の女性たちに知らしめたいのは事実ですが、あちこちで惚れられても困りますから」

「いやいや、催眠や洗脳モノじゃないんだから、そんなことある訳ないでしょ……」

「那須原さんは自分のことが分かっていないんですね。那須原さんが外を歩けば、幼児から大人の女性まであなたの魅力に憑りつかれて、もはやあなたなしでは生きていけない身体になってしまいます」

「百歩譲って大人の女性はありとしても、明らかに含んではいけない年代の子がいたよね……」

「それどころか、道行く夫婦や恋人たちから女性を奪ってしまうかもしれません。いくら心に決めた男性がいるとは言えども、那須原さんを前にしたらどんな女性でも堕ちてしまいます」

「寝取りモノじゃんそれ!? もしかして紗夜ちゃんってそういうのが趣味なの!?」

「いいえ、事実を語っているまでです」

「それだったら僕、出掛けない方がいいよね……」

 

 

 道を歩くだけで寝取りハーレムが作れるって、昨今の同人誌でも見かけないようなクズ展開すぎるよ……。女性とすれ違うたびに惚れられたら、それはそれで生活しにくいとは思うけど……。

 

 

「まぁ、嘘ですけどね」

「そうだろうね……。紗夜ちゃんのテンションが高いことだけは分かったよ」

「うん! お姉ちゃん、今とってもウキウキしてるでしょ? だって声が弾んでるもん」

「そ、そう? 自分では平静を保ってるつもりだけれど……」

 

 

 あんな長ったらしいジョークを挟んでおいて、平静を保っているとはよく言ったもんだ。ジョークの設定があまりにも練り込まれているから、一瞬だけ自分には催眠の特殊能力があると勘違いしちゃいそうだったよ。いつもは淡々と会話をする紗夜ちゃんが、話の中でここまで遊びを入れるのは珍しい。だから彼女のテンションが上がっていると分かったんだけどね。

 

 

「外出するのはいいけど、麻弥ちゃんが作った監視カメラがあるかもしれないんだよね。この前パスパレのみんながここに駆け付けたのも、そのカメラで僕の行動を観察していたからでしょ? それを突破しないと、とてもじゃないけど外出できないよ」

「安心して、その対策も考えてあるから。秋人くん、ちょっと後ろ向いて」

「こ、こう? ――――って、うわぁぁああっ!?」

「あはは、暴れない暴れない♪」

 

 

 日菜ちゃんは僕を自分の身体で包み込むように抱きしめる。僕の背丈は一般の女子高校生よりも一回りか二回りも小さいため、彼女の身体に僕の身体がすっぽりと入ってしまう。そうなればもちろん彼女の胸も僕の背中に押し付けられる訳で、それがとても柔らかくて、それがアイドルのおっぱいだと悟った瞬間に昇天しそうになる訳で――――――

 

 

「ひ、日菜? あなた一体何をしようとしているの?」

「こうやってあたしの身体で秋人くんを隠せば、監視カメラにも見つからないでしょ? この体勢で外に出れば完璧だよ! それともこの役、お姉ちゃんがやりたかった?」

「ふぇっ!? そ、そんなこと……ある訳ないじゃない。男女の交際は健全であるべきであって、そんな密着しなくても……」

「目が泳いでるよお姉ちゃ~ん」

「さっき催眠や寝取りモノのシチュエーションを平然と語っていた人の発言とは思えないね……」

「それはそれ、これはこれです!!」

 

 

 もはや言い訳にすらなってないけど、僕たちから目を逸らしながらもこちらをチラチラと覗き見するあたり、紗夜ちゃんも同じことがしたいのかな……? 今は恥ずかしがってるけど、さっき僕にジョークとを飛ばしていた時は澄ました顔をしていたし、紗夜ちゃんの表情変化を見ていると面白い。本人にこれを言うと怒られそうだから絶対に言わないけど……。

 

 

 そんな感じで、僕と氷川姉妹のデートが始まった。

 今はとても和気藹々としているけど、これから修羅場が待ち構えているとは、この時の僕は夢にも思わなかった――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




やめて! 外出先でガールズバンドのみんなに見つかったら、ただちに強制連行されて自宅に連れ戻されちゃう!

お願い、見つからないで秋人! あんたが今ここでみんなに見つかったら、紗夜ちゃんと日菜ちゃんとのデートはどうなっちゃうの? みんなはまだこちらに気付いていない。ここを耐えれば、デートを続行できるんだから!

次回、「秋人死す」。デュエルスタンバイ!



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仮面ライダー4:21さん、ナモさん、黒い阿修羅さん、黒セツさん、リゾートさん、夜名赤さん、ponkichiさん、川崎ノラネコさん、カリュクスさん

ありがとうございました!


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さよひなに甘やかされる(後編)

 遂にニートくんが外に!


「いいですね那須原さん。もし外の空気を吸って体調が悪くなったり、歩き続けて疲れることがあれば、すぐ私と日菜に言ってください。早急に弦巻家系列の病院に連絡を入れますので。ちなみにどれだけ予約が入っていようとも、あなたを優先的に診察してもらえるように手筈は整っていますから安心してください」

「安心できないから!! 僕なんかより他の患者さんを見てあげて!!」

「自分より他人を優先するなんて、相変わらずあなたはお優しい人……」

「いやいや、普通に予約順なだけだから……」

 

 

 むしろ相変わらずはこっちのセリフで、ちょっと外に出るだけでもこの過保護具合。心配してくれるのはもちろん嬉しいんだけど、これだと僕の体調を気遣うばかりでデートにならない気がする。それに全世界から有能な医者が集まると言われている弦巻病院まで抑えてあるなんて、逆に体調を悪くして行ってあげなきゃ損に思えちゃうよ……。

 

 僕は氷川姉妹に連れられ、遂に外出を果たした。これまではガールズバンドのみんなから外に出ることを禁止されていたため……というか、そもそも外に出る用事がなかったため、こうして外の土を自分の足で踏み締めるのは久しぶりだ。何か欲しいモノがあっても、みんなが先読みして買ってくれるから僕が外に出る必要はない。それにみんなに買ってきてもらうのが憚られるモノ、例えばR指定の本やゲームは通販を利用すればいい。料理はみんなが作ってくれるし、外に出る必要は全くなかったんだ。

 

 そんな状況で外に出た感想は、とにかく目が疲れる。

 これまでずっと家にいたためか、遠くの景色を見るという行為が久々だ。だからこそ、周りの情報をインプットする処理が僕の中で追いつかない。家の中はあらゆるモノがいつも決まった場所に置かれているため、周りの状況変化がない。それに慣れてしまっているためか、目まぐるしく変わる状況に目も脳もメモリの使用量が半端ないことになってるんだ。

 

 

「秋人くん大丈夫? こんなところでへばってたら、今日のデート全然楽しめないよ?」

「そうだね、2人に満足してもらえるように頑張るよ」

「那須原さんの心意気は嬉しいですが、日菜、あまりこの方の負担になるような行動はしないように。私たちにとって、この方の健康と安全が第一なのだから」

「分かってるって! 男の子だからと言って荷物持ちにはしないから安心して。それと、秋人くんが気になるモノがあったらあたしたちが好きなだけ買ってあげるから。最近パスパレの活動が軌道に乗ってきて、お金もたくさんあるし」

 

 

 なんか女の子に働かせてる最低野郎みたいで心が痛いんだけど……。いや、生活必需品から料理の食材、趣向品に至るまで全部買ってきてもらっているのに、そう思うのはもはや今更か。むしろ、日頃みんなにお世話されっぱなしだから、今日はその恩返しができるといいな。僕と一緒にデートをして楽しいのかは分からないけど、せめて2人が退屈な思いをしないように頑張ろう!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 僕たちは早速街へと繰り出した。

 ショッピングモール街のためか、やたらと若者が多い。もう歩いているだけでも、陰キャの僕は陽キャたちの楽しそうな雰囲気に押し潰されそうだ。周りは僕のことなんて気にしちゃいないどころか目にすら入っていないだろうけど、僕の場違い感が半端ないよこれ……。さっき紗夜ちゃんと日菜ちゃんを喜ばせようと意気込んだばかりなのに、もう挫折しそうだ。

 

 

「ねぇねぇ秋人くん! このゲームって面白い? CMや雑誌での宣伝が凄いから、ちょっと気になってるんだよね」

「あっ、これか。うん。1人用のストーリーモードも、複数人の対戦もどっちも面白いよ」

「それでしたら、近いうちにみんなで遊びましょう。那須原さんに手取り足取り教えてもらいながら……」

「なんで少し含みのある言い方なの……? それに、紗夜ちゃんってゲームやるんだね」

「いやいや、お姉ちゃんは隠れゲーマーだよ。あこちゃんと燐子ちゃんがやってる、NFOだっけ? 最近それにハマっちゃってるから」

「知ってたの!? あなたに話したことはないのに……」

「お姉ちゃんのことなら何でもお見通しだって! 秋人くんと一緒にゲームがしたいから、コントローラーを握ってゆっくり遊べるRPGでゲーム慣れしてるんだよね?」

「そんなことまで……。当たりだから何も言い返せないわ……」

「あたしもゲームは大好きだから、いつか秋人くんとお姉ちゃんと一緒にやりたいよ」

 

 

 とても単純な感想だけど、今もの凄く楽しい。

 何が楽しいって、2人が僕の趣味に合わせて会話をしてくれることだ。しかも紗夜ちゃんは僕と一緒にゲームがしたいがために、日々ゲームを嗜みながらも慣れようとしているらしい。僕は外に出ないせいか、会話で発揮できる話題がオタク趣味かSNS、ネットのまとめサイトで得た知識くらいしかない。紗夜ちゃんの印象的にゲームもしなければネットに入り浸ったりもしないだろうし、わざわざ僕に合わせてくれるのがありがたいと言うべきか、余計な時間を使わせて申し訳ないと思うべきか……。

 

 

「じゃあまずはここのゲーム屋さんに入ってみようよ! 見たところレトロゲームもたくさんあるみたいだし、楽しみだね」

「そうだね―――――ん? あれは……」

 

 

 ゲームショップから見たことのある女の子2人が出てきた。

 1人はツインテのロリっ子、宇田川あこちゃん。もう1人は綺麗な黒髪にスタイル抜群の白金燐子ちゃんだ。

 

 

「そっか、2人もゲーム好きだもんね。お~~~い――――むぐっ!!」

「ちょっと那須原さん!? 何をしているのですか!?」

「わわっ、お姉ちゃん、そっちから秋人君を抱きしめて! あたしはこっちから……」

「えっ、2人共!? んっ、ぐっ……」

 

 

 どうしてこうなったのかは分からない。気付いたら僕は紗夜ちゃんと日菜ちゃんにサンドイッチにされていた。

 もう何度も味わっている感触だけど、女の子の象徴ともいえる胸がね……。僕の身体はみんなより一回り以上小さいため、背もそこそこ高くてスタイルのいい2人に挟まれたら、周りからは僕の存在が包み隠されてしまう。しかも背丈の差もあってか、高低差のないところで抱きしめられると僕の顔が丁度女の子の胸に押し潰されちゃうんだよね……。

 

 息苦しいけど気持ちいい。これが生き地獄ってやつ……?

 ていうか、どうしていきなりこんなことを!?

 

 

「何をしているのですか那須原さん! あなたは本来家にいなければならないお方なんですから、軽率に誰かに声をかけられては困ります!」

「あちゃ~。あこちゃんと燐子ちゃん、こっちに気付いたみたいだよ。秋人くん、苦しいかもしれないけどちょっと我慢してね」

「うっ、ぐぅ……」

 

 

 ダメだ、2人の胸に押し潰されて呻き声しか出せない。女の子の胸で圧死しそうになるなんて、幸せ者なのかお気の毒なのか……。どちらにせよ、興奮が漲って居ても立っても居られなくなっているのは確かだ。

 

 そもそも、そこらの物陰に僕だけを隠れさせるという選択肢はなかったのだろうか? そうすればわざわざ2人で抱き合う必要もないうえに、僕が女の子の胸で生死の境を彷徨うこともなかったはずだ。でもまぁ、これはこれで悪くはない……かな?

 

 

「紗夜さんにひなちん、やっほーっ!」

「やっほーあこちゃん! 燐子ちゃんも!」

「こ、こんにちは。お二人は……このゲームショップに?」

「え、えぇ、実は少し興味がありまして……」

 

 

 遂に僕たちはあこちゃんと燐子ちゃんの2人とエンカウントした。とは言っても、僕は氷川姉妹によって包み込まれているため、2人は僕がいるなんて想像もしていないだろう。今この瞬間だけは、自分がチビで良かったと思ってるよ。僕が一般の思春期男子と同じ成長過程を辿っていたら、氷川姉妹の身体に隠れることができず、間違いなくここでアウトだったはず。そうなればガールズバンド全体に連絡が行き渡り、家に連れ戻されることは必至だろう。

 

 

「ひなちんはともかく、紗夜さんがゲームに興味津々なんて意外かも。あっ、もしかしてNFOの影響……ですか?」

「そ、そうね。それに那須原さんがゲーム好きですから、私もある程度の知識は身に着けておこうかと……」

「そうなんですね! だったらNFO以外でも、あこたちと一緒に遊びましょうよ!」

「それ、あたしもさんせーい! パスパレのみんなはゲームをする人がいないから、こうしてガールズバンドのみんなでゲームをするのは るんっ♪ だよね!」

 

 

 紗夜ちゃん、ちょっと堅くなってるけど大丈夫かな? 元々そこまで緊張するタイプには見えないんだけど、今は切羽詰まっているからか声が若干高めだ。見るからにお堅い雰囲気だから、お芝居とかは苦手そうだもんね……。

 

 対して日菜ちゃんは芸能界でアイドルをしていることもあってか、僕を匿いながらもあこちゃんとの会話をいつも通りに熟している。さすが天才と言われる存在、突発的な演技もお手の物らしい。

 

 2人が頑張ってくれているのは嬉しいんだけど、2人の身体の僅かな隙間から、燐子ちゃんが不思議そうな顔をしているのが見えた。

 もしかして、気付かれちゃった……??

 

 

「あ、あの、氷川さんたち、近くないですか……? 近いからどう、ということではないですけど……」

「そ、そそそうですか?? し、姉妹の距離感はこんな感じだと思いますが……」

 

 

 く、苦しいよ紗夜ちゃん!? 動揺してるのが目に見えて明らかなんだけど!?

 燐子ちゃんのあまりの察しの良さにも驚いてしまったが、幸いにも僕の存在には気付いていないみたい。でも少しでも紗夜ちゃんと日菜ちゃんが動けば僕の身体がチラ見する可能性はあるため、ここは何としてでも2人に耐え抜いてもらうしかない。つまり、僕はまだ氷川姉妹のサンドイッチを堪能できるって訳だ。まぁ、状況が状況だから楽しんでいる余裕なんてないんだけど……。

 

 

「あたしとお姉ちゃんは仲良しこよしだから、さっきまで手を繋いで歩いてたもんね?」

「み、道の真ん中でそんな恥ずかしいこと――――い、いえ、そうね、そうだったわね」

「氷川さん、いつもより声が高いような……? 大丈夫……ですか?」

「大丈夫よ本当に! え、えぇ、大丈夫……」

 

 

 せっかく日菜ちゃんが自然にアシストしてくれたのに、紗夜ちゃんが緊張しっぱなしのせいでプラマイゼロ、いや、むしろ不自然に見えてしまう。しかも燐子ちゃんにまでテンパっていることを心配される始末。紗夜ちゃんって嘘を吐いたり演技をするのが苦手そうなイメージだったけど、ここまで取り乱すとはね……。

 

 

「ん~? それにしても紗夜さんとひなちんが近すぎるような……。抱きしめ合っていると言った方がいいかも……?」

「それだけあたしとお姉ちゃんの絆が深いってことだよ! あこちゃんと燐子ちゃんも仲が良いでしょ? だったら一度でいいから手を繋いで歩いたりしてみなよ。相手のことをもっと好きになれるから!」

「えぇっ!? あことりんりんが!?」

「そ、それは恥ずかしい……い、いや、あこちゃんと手を繋ぐのがイヤとか、そういう意味ではなくて……!!」

「あこもりんりんと同じだけど、いざ繋ぐとなると……。うぅ、恥ずかしい……」

 

 

 2人は赤面しながらそわそわしている。そこはかとなく漂う桃色の百合オーラは、一部界隈の人が見たら悶絶しそうだ。あこちゃんと燐子ちゃん、純粋っ子同士か……うん、いいかも。

 

 そんなことはどうでもよくて、2人が怯んでいる間にここを離脱しよう。日菜ちゃんもそれが目当てだったようで、紗夜ちゃんを目配りで諭し、僕を身体で挟み込んだままこの場を脱出した。この体勢だと歩きにくくてカニ歩きになってしまい、周りの人の目が痛かったけど、最悪あこちゃんと燐子ちゃんにバレなければいいのでこれでいい。

 

 そして、当の本人たち2人は、僕たちが目の前からいなくっても顔を真っ赤にしたまま俯いていた。

 なんかとてつもなく申し訳ないことをしたから、後で謝っておこう……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ふぅ~。何とか切り抜けられたね。燐子ちゃんの察しが良くてヒヤヒヤしたよ~」

「こうなると、知り合いが行きそうな場所は避けるべきね。そうなると、喫茶店や映画館に居座るのが無難なところかしら……?」

「でも同じところにいたら、デートにならないんじゃ……。せっかく僕を誘ってくれたのに、僕のせいで行き先が限定されるのは申し訳ないけど……」

「あたしはそれでもいいけどね。秋人くんと一緒にいられれば、それはどこでもデートだよ!」

「そうですよ。私たちの一番の楽しみは、買い物でもお食事でもない、あなたと一緒にいることなんですから」

「そ、そっか、ありがとう」

 

 

 こうやって唐突に自分への好意を示されると、心がくすぐられて吃ってしまう。そもそも女の子への耐性が激弱なのに、メンタルを揺さぶられるともうされるがままだ。さっきのあこちゃんや燐子ちゃんのように、身体を熱くして俯くしかない。慣れない外にいるからこそ、なおさら緊張しているんだよ……。

 

 

「秋人くんってば、照れちゃって可愛い~♪」

「ちょっ、ちょっと日菜ちゃん!? 頭を撫でないでもらえると嬉しい……かな」

「無理♪」

「いい笑顔をありがとう……。紗夜ちゃんも、可愛い子猫を触る時のような顔しないで……」

「私だって、那須原さんにあんなことやこんなことを……」

「何をしようとしてるの!?」

「破廉恥な意味ではありません! 猫をお腹を撫でるように可愛がりたいだけですから!」

 

 

「猫? どこにいるのかしら?」

 

 

「「うわぁっ!?」」

「ひゃっ!? み、湊さん!?」

「う゛っ、また……」

 

 

 突然の友希那ちゃん登場で、僕たちは地から足が浮きそうなほど驚いてしまった。

 それでも紗夜ちゃんと日菜ちゃんは、咄嗟に僕を自分たちの身体と近くの壁で匿った。あまりにもいきなりだったためか、またしても2人の身体の一部、言ってしまうと臀部(おしり)に僕は押し潰されている。この状況、なんか尻に敷かれてるみたいで情けないことこの上ないな……。もちろん、そんなことを言ってる場合ではないんだけど……。

 

 元々友希那ちゃんからは2人の身体が邪魔をして僕が見えなかっただろうから、彼女にはバレていないだろう。

 

 

「さっき猫って言っていなかったかしら? 見たところ、そのような影はないけれど」

「き、気のせいでは……? こんな街中にいる訳がないじゃないですか」

「それよりも、友希那ちゃんはお買い物? 結構荷物を持ってるみたいだけど……?」

「えぇ。秋人に服を作ってあげようと思って、そのための材料を買っていたのよ。リサや燐子から助言を貰って必要なモノを買っていたら、意外と多くなってしまったわ」

 

 

 僕のために両手が荷物で塞がるくらい大量買いをするなんて、もうガールズバンドのみんなの優しさには頭が上がらないよ。こっちが感謝の言葉をかけたら、女の子たちは必ず『秋人(くん)のためなら普通のこと』と返されてしまう。その菩薩のような心はどこで身に着けたんだろうか……。

 

 そんな友希那ちゃんを騙すようで心苦しいけど、氷川姉妹とのデートを完遂するためにも、ここはやり過ごすしかない。

 

 

「あら……?」

「湊さん? どうかされましたか?」

「秋人の匂いがするわ」

「「え゛っ……!?」」

 

 

 早速バレそうなんですけどぉおおおおおおおおおおおおおおお!?!? しかも匂いって犬か!!

 確かに僕は氷川姉妹の後ろにいるけど、友希那ちゃんからは絶対に見えないはずだ。でも、謎の嗅覚により僕の存在を察知するなんて、そこらの犬より絶対に鼻が効くよ……。

 

 友希那ちゃんの野生本能に紗夜ちゃんだけではなく、あの日菜ちゃんまでもが冷や汗を流している。あこちゃんと燐子ちゃんの登場時には全く動揺していなかったから、それだけ友希那ちゃんの本能に驚いたのだろう。僕は手助けも何もできないから、何とか2人で切り抜けて欲しいところだ。

 

 

「近くに秋人がいるわね。どこにいるのかしら?」

「それこそ気のせいではないですか……? 周りに人も多いですし、単なる勘違いかと」

「いいえ。私が秋人の匂いを間違える訳ないじゃない。もう何度あの子と一緒にベッドを共にしたか……。そのたびにあの子を抱き枕にして、秋人のフェロモンに包まれて眠る。この世にあれほどの幸福はないわ」

「えぇ~いいなぁ~私もやりたい!!」

「日菜! 今はそんなことを言ってる場合ではないでしょ!?」

「……? 別にいいのではないかしら? もしかして、急いでる最中に私が呼び止めてしまった……とか。それなら悪いことをしたわね」

「い、いえ、湊さんが謝ることでは……」

 

 

 流れが一切好転しない。友希那ちゃんの勘は鋭いから、氷川姉妹の様子が少しおかしいことには気づいているだろう。

 これだけ苦労するなら、やっぱり自宅デートの方が精神的にも100倍マシだったかもしれないね……。

 

 

「そういえばあなたたち、やけに近くないかしら? 姉妹で仲睦まじいのはいいけど、そっち系の趣味だと思われるわよ」

「あたしはお姉ちゃんとなら、別にいいかなぁ~なんてね♪」

「ちょっと日菜!? あまり誤解を招く発言をしないで欲しいわ……。那須原さんもいるのに……」

「さ、紗夜ちゃん!? あっ!?」

「あら? さっき秋人が紗夜を呼ぶ声が聞こえた気がするけど……」

「あはは、気のせいじゃないかな……」

「いいえ。秋人が発した言葉を一字一句聞き逃さないように日々自分の耳を訓練しているから、そんなはずはないわ。そのために、毎晩こっそり盗聴――録音した秋人の声を子守歌代わりにして寝ているのよ。この世にあれほどの幸福はないわ」

 

 

 さっきもこれ以上の幸福がないとか言ってなかったっけ?? 更に盗聴って言いかけたどころか言っちゃってるし。それ以前に、盗聴されていたことを初めて暴露されたんだけど……。もし僕がこのまま隠れ続けていたら、友希那ちゃんのあることないことを全部引き出せそうだ。絶対にまだ叩けば埃が出てくるよね……。

 

 そうしたいのは山々だけど、彼女が僕の存在に勘付いているのも事実。下手に隠れ続けるよりかは、早めにご帰宅をお願いした方がいいかもしれない。このまま長期戦にもつれ込んだら、確実に嘘を付いている側がボロを出す。ここは何とか紗夜ちゃんと日菜ちゃんに僕の考えを伝えて、言葉巧みに友希那ちゃんにご帰宅を促してもらおう。

 

 そうは言っても、2人のおしりに挟まれているこの状況では動くに動けない。友希那ちゃんが妄想に耽っている間に、2人に僕の作戦を伝えられるといいんだけど……。

 

 その時だった。この場を切り抜けることに集中していた僕は先走ってしまい、少し手を動かしてしまった。

 

 

「「ひゃあっ!?」」

 

「えっ、2人共どうしたの……? いきなり大声を出して、驚いたじゃない……」

 

 

 やってしまった……!! 少しでも動いたらダメだってことくらい分かっていたのに、作戦を伝えることに集中し過ぎて身体が揺れ動いてしまった。2人のおしりに挟まれているこの状況で身体を動かしたらもちろん、肉付きの良い双丘をこの手が鷲掴みにしてしまう訳で……!!

 

 

 うん、柔らかかった!

 

 

 じゃなくて、状況を更に悪化させちゃったよどうするのこれ!?

 紗夜ちゃんは頬を赤くしながら僕を睨み付けてくるし、日菜ちゃんは恥ずかしそうにこちらを見つめている。こうなったのは僕のせいだけど、そこまで背後に注目してたら僕の存在が友希那ちゃんにバレるって!!

 

 

「紗夜、日菜。あなたたちの後ろに誰かいるのかしら?」

「な、何でもないよ何でも!」

「何でもないような奇声には聞こえなかったのだけれど……」

「わ、私たち、最近しゃっくりが良く出るのです。突然発症して突然治るので、心配はいりません……」

「そう。でもさっきからずっと後ろを気にしているじゃない。隠し事をされているようで気になるから、ちょっと確かめさせてもらうわ」

「「あっ……」」

 

 

 マズい、このままでは僕が無断外出していることがバレてしまう!!

 まさに背水の陣。この絶望的な状況を打開できる決定的な一打は何かないのか? これまで幾多のアニメや漫画で見てきた、危機回避のシチュエーションを思い出せ。どんな窮地にも負けない、二次元主人公たちの勇気と英知を集結させて考えろ、考えろ……!!

 

 

 うん、もうこれしかない。どうせこのまま黙っていてもバレるだけなんだから、ここで賭けに出るしかないだろう。

 僕はありったけの息を吸い込んで深呼吸をし、喉が潰れること覚悟で伸びの良い高音を出した。

 

 

「にゃぉ~~~ん」

 

 

 は、恥ずかしい……!! 顔が沸騰して今にも爆発してしまいそうだ。この方法で結局ボロを出してしまったら、何のために襲い来る羞恥心に耐えて猫の真似をしたのか分からない。紗夜ちゃんも日菜ちゃんも、目を大きく見開いて僕を見つめようとしている。一応友希那ちゃんに見つからないよう気を配ってはいるが、あまり注目されると僕の渾身の作戦が……。

 

 

「秋人の声色をした猫がいるわ!! 声の大きさから察するにまだ近くにいるはず。紗夜、日菜、申し訳ないけど、ここで失礼させてもらうわ。もしその猫を見つけたら、連れ帰ってRoselia第6のメンバーにするつもりだから、よろしく」

「み、湊さん!? あっ、行ってしまいました……」

「秋人くんのおかげで、何とか助かった……かな?」

 

 

 ふぅ~よかったよかった。あのまま友希那ちゃんに見つかっていたら、猫の真似をしていたという辱めを感じるだけでなく、勝手に外出した罰として猫のコスプレをして彼女へご奉仕させられる展開になりかねなかった。まぁ、結果的に助かったから万々歳だろう。そうだよ、過去を振り返るより、今から本格的なデートができることを楽しもう。

 

 すると、紗夜ちゃんがまたしても顔を真っ赤にしながらこちらを睨み付けてきた。日菜ちゃんも頬を染めながらもじもじとしているし、2人共危機的状況を脱して嬉しくないのか??

 

 

「那須原さん。すっきりとした顔をしていますが、さ、さっき私たちの臀部を触ったことに関して、何か言うことはあるでしょうか……?」

「あっ、そういえば……」

「あ、あはは……私は別に構わないって言うか、むしろ秋人くんが興味を持ってくれて嬉しいって言うか……」

「い、いや、そういうつもりで触ったんじゃないよ!? あれは紛れもない不可抗力で……」

 

 

 2人の様子がおかしかったのは、僕が不意におしりを触ってしまったからか。確かに不可抗力とは言えど、異性に痴漢紛いなことをされるのは女性として黙っていられないのだろう。

 

 でも、その時の光景を思い出せば思い出すほど僕の手にあの時の感触が蘇る。あぁ、女の子の身体って胸だけではなくて、ありとあらゆるところが柔らかいんだなぁとしみじみと感じた瞬間だった。あの時は切羽詰まっていた状況だったけど、2人のおしりに触れた時は時間が止まったみたいだったからね。背水の陣に立たされていたってことを忘れるくらいには程よい柔軟性だったよ。

 

 ――――って、なんで解説してるんだ僕!? 変態か!?

 

 

「私も触るなとは言いませんが、事前に一言いただけないと心の準備というものが……」

「えっ、触られたかったの……?」

「時と場合と場所によります!!」

「でもお姉ちゃん、ちょっと嬉しそうな顔してたよ? 秋人くんも気持ちよかったでしょ?」

「そりゃもうね――――あっ、こ、これは違う!!」

「な、那須原さん!!」

「ちょっ、日菜ちゃん!? 誘導尋問はやめてよ!!」

「もう、やっぱりお姉ちゃんも秋人くんも可愛いなぁ♪」

 

 

 一難去ってまた一難。

 僕たち、このあとちゃんとデートできるのかな……?

 




 もっと甘い雰囲気のデートを描きたかったのですが、ラブコメのコメに寄っているこの小説ではまともな恋愛描写はほぼ皆無です(笑)


 登場キャラの配分に関してですが、全員のキャラを均等に登場させるのは話のネタ的にも難しいので、登場キャラの頻度に差があっても怒らないでくださいね(笑)



この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
小説を執筆するモチベーションに繋がります!

新たに☆9以上をくださった

ホンギィさん、よっぺーさん、uruTUBEさん、ムーンフォースさん、辛いさんさん、Forestさん、ディセプティコンさん、多田野エミリアさん、ティアナ000782さん、ヒローキさん、タチャンカ田村さん、megane/zeroさん、

ありがとうございました!


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閑話01:変態は現行犯逮捕

 短編集の中の短編集みたいな。
 基本的に一本の話にするには文字数が少なくなるネタや、特に甘やかされ要素がないときは閑話として投稿します。


 

 最近、みんなに主導権を握られることが多くなってきた気がする。日常生活を全面的にお世話してもらっている都合上、あまり強く文句は言えないんだけど、やれ混浴だの、やれ婚姻届など、女性や恋愛に対して耐性が全くない僕からしてみれば刺激が凄まじ過ぎる。それに一番気がかりなのは、僕が知らないところで謎の会議が開かれていたり、僕の私物を勝手に持ち出して物々交換が行われていたりと、徐々に怪しい行動が浮き彫りになっていることだ。

 

 以上のことを踏まえ、みんなにちょっとした悪戯を仕掛けてみようと思う。

 

 その名も、寝たフリ大作戦。

 

 テーブルに腕を乗せて寝たフリをして、女の子たちがどんな行動を取るのかを薄目で観察しようという作戦だ。僕が見ていないと分かれば、みんなは本性を曝け出すはず。そこを咎めてやろうという算段だ。女の子の欲望ほど怖いモノはないって聞くけど、今日の僕は甘やかされてばかりの僕とは一味違う。ガールズバンドの子たちはどうも変態思考な面があるから、そろそろ僕がその変態から解き放ってあげよう。騙すような真似をするのは、少し心苦しいけどね。

 

 

 

【市ヶ谷有咲の場合】

 

 

「おーい秋人――って、寝てるのか」

 

 

 最初のターゲットは有咲ちゃんだ。彼女に気付かれないように薄目で観察してるけど、両手にスーパーの袋を持っている辺り、今晩の夕食のために買い込みをしてくれたのだろう。頼んでもいないのに僕に尽くしてくれている彼女を見ると、こうして寝たフリをして動向を探ろうとしていることに罪悪感を抱いちゃうよ……。

 

 でも、今日の僕は鬼と化している。変態的行動を取った子には容赦なく現行犯逮捕を叩き付け、羞恥心に駆られながら反省してもらうんだ。いつもはみんなの手玉にされてるんだから、たまには僕がマウントを取っても……いいよね?

 

 

「まさか、ゲームしながら寝ちまったのか? あれほど寝落ちには注意しろって言ったのに……。このままじゃ風邪引くぞ全く……」

 

 

 相変わらずの優しさに惚れ惚れして、早速だけど鬼から恋する純粋な思春期男子に戻ってしまいそうだ。もし僕が有咲ちゃんと同じ学校に通っていたら、間違いなくガチ惚れして悶々とした学校生活を送っていただろう。そういう意味では、こうして彼女がご奉仕してくれるこの生活に感謝するべきなのかもしれない。

 

 そうして有り得もしない学生姿を想像していると、僕の背中が突然暖かくなった。妄想に耽って彼女の行動を見ていなかったけど、背中の感触から有咲ちゃんが毛布を掛けてくれたらしい。この暖かさは毛布のものだけではなく、彼女の優しさも含まれているように感じた。やっぱり僕のお世話をしてくれる女の子を疑って、寝たフリをして騙すような真似をしたのは申し訳ないかな……。

 

 

「秋人、寝てるんだよな……? お~い、起きてるか~?―――――うん、やっぱり寝てるのか……そっか……」

 

 

 有咲ちゃんは僕の顔を覗き込むと、何故か納得した様子で僕のベッドに近づく。

 なんだろう、流れが変わったような気がするぞ……。

 

 そう思った矢先の出来事だった。有咲ちゃんは前のめりになりながら、僕のベッドに倒れ込んだ。

 いきなりどうしたんだろう……? ま、まさか、彼女の身に何か起こったとか!? 何もしていないのに突然気絶する人もいるらしいし、もしかしてその類かも!?

 

 

「すぅ~~はぁ~~」

 

 

 …………うん、心配は杞憂だったみたいだ。

 有咲ちゃんは僕のベッドに置いてあった枕に顔を埋め、大きく深呼吸をしていた。その表情は良く見えないが、背中を見つめているだけでも満足そうな雰囲気を漂わせている。もうどこからどう見ても変態。このような変態的行為を現行犯で裁くために寝たフリをしていたけど、いざ目の前にしてみると、ここで飛び出すのが逆に怖い。このまま様子を窺うしかないのか……。

 

 

「すぅ~~はぁ~~。どうしてコイツ、こんなにいい匂いがするんだろ。香澄やおたえが秋人の服や下着を勝手に持ち帰る理由も分かるよ。これは癖になるよなぁ……」

 

 

 なにその事実!? 初耳も初耳なんですけど!? しかも盗みの情報を堂々と仲間内で共有しているあたり、悪気があるとは思ってなさそうで怖いよ!!

 あぁ、聞きたくなかったそんな情報。いや、その情報を得るためにこのシチュエーションをセッティングしたんだけど、想像以上の取れ高でもうこのまま本当に寝て全てを忘れ去ってしまいたいと思うくらいだ。

 

 もうね、ドッキリ大成功をバラさずこのまま静観した方がいいのかな……?

 まぁ、真面目な有咲ちゃんなら盗みを働くなんてことは――――――

 

 

「あぁもう我慢できねぇ。秋人には悪いけど、この枕は頂いていこう。普段からお世話してやってるんだ、このくらいの対価は貰ってもいいだろ」

「アウトォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!? あ、秋人!? お前まさか起きてたのか!?」

「はい、現行犯逮捕ね……」

 

 

 見事なフラグ回収で、さっきまで渋ってたのに勢いで飛び出しちゃったよ。真面目な子だと思っていたけど、やっぱり脳内お花畑の香澄ちゃんやたえちゃんと一緒のグループメンバーなだけのことはある。そのお花畑の花に種を巻き散らされ、彼女も脳内にお花畑を広げていたようだ。

 

 

「こ、これは違うんだ!! 枕に変な匂いが付いていたから掃除してやろうと思ってさ……」

「じゃあ、どうして自分のカバンに入れようとしたの……?」

「そ、それは、私がこの枕から秋人の匂いを吸い出してやろうと思っただけだ! 文句あるか!?」

「開き直らないでよ!? ていうか、サラッと性癖を暴露したね……」

 

 

 このあと、有咲ちゃんの弁解は1時間以上続いた。

 初っ端からこれって、他の子の動向を探るのが億劫になってきたよ……。

 

 

《調査結果》

 僕の匂いが付着しているモノを盗もうとする。

 

 

 

 

【奥沢美咲の場合】

 

 

「秋人、寝てるの……?」

 

 

 次のターゲットは美咲ちゃんだ。

 美咲ちゃんの問題点は何食わぬ顔でえげつないこと、例えば婚姻届にあの手この手で僕にサインさせようとしてきたりするから、今回の動向調査対象としては持ってこいの子だ。僕が眠りこけていたらどんな行動を取るのか、薄目ながらに監視させてもらおう。

 

 

「寝てるんだ。ふ~ん……」

 

 

 美咲ちゃんは僕をじっと見つめてくる。そうやってまじまじと観察されると恥ずかしいというか、どうして寝ているだけの僕にここまで興味津々なんだろう……?

 そんなことを考えている間に、美咲ちゃんは僕へと近づいて来る。そして、なんと僕の隣に座り込んできた。

 

 

「普段も可愛いけど、寝顔は格別だね。毎日の3食のおかずにしたいくらいだよ。あわよくば夜のオカズにも――――なんてね」

 

 

 ちょっ、一体何言っちゃってるの!? と声を上げそうだったけど、己の職務を全うするためにここは何とか堪える。

 全く、冗談だとしてもジョークが重いよ……。それ以前に、僕なんかを夜のオカズに使うなんて趣味が悪いって。いや、僕の下着を盗んでいる子もいるくらいだから、ガールズバンド界隈では当然のことなのかもしれない。できることであれば、僕の汚い下着が女の子の夜の情事を捗らせているなんて想像したくもなかったけどね。

 

 

「あぁ、秋人の寝顔を見てたら我慢できなくなってきちゃった。どうせ寝てるんだし、いいよね?」

 

 

 誰に聞いてるの!? ていうか、何するつもり!?

 婚姻届にサインをさせるためにはどんな手でも使う彼女のこと、このまま静観していたら何をされるのか想像もできない。でもここで寝たフリをしていたことをバラしてしまうと、彼女が何かをやらかす前に行動を止めてしまう。それすなわち、現行犯逮捕ができないということだ。

 

 ちょっと怖いけど、ここは我慢するしかない。

 

 

 ――――と思っていた矢先、美咲ちゃんの顔が僕の顔にどんどん近づいてきた。僕の眼前に彼女の顔、いや、綺麗な唇が接近してくる。

 こ、これってもしかして……!? うぅん、もしかしなくてもこれは……!!

 

 

「付き合ってもないのに、こんなことをするのはダメだ!!」

 

 

 さっき我慢するって言ったばかりなのに、唇が奪われそうになる寸前で僕は座りながら後退りした。

 対して美咲ちゃんは寸止めされて残念そうな表情をするのかと思っていたら、呆れたような表情を見せていた。

 

 

「やっぱり起きてたんだ」

「えっ、し、知ってたの!?」

「まぁね。あたし、秋人のストーキングが趣味――――じゃなくて、秋人のことなら何でも分かるから」

「言い直しても無駄だけど、恐ろしい言葉が聞こえたような気がするから聞かなかったことにしてあげるよ……」

 

 

《調査結果》

 キスしようとしてくる。

 余罪として、ストーキングしているらしい。

 

 

 

 

【青葉モカの場合】

 

 

「あれぇ~? せっかく遊びに来たのに、寝ちゃってる?」

 

 

 次なるターゲットはモカちゃんだ。

 ガールズバンド界隈において、思考回路が読めないランキングに間違いなく上位に食い込む彼女。そんな彼女がこの状況でどんな行動を起こすのか、もちろん僕には予想が付かない。有咲ちゃんや美咲ちゃんの時も予想はできなかったけど、彼女は別のベクトルで変人ちゃんだからなぁ……。

 

 

「気持ちよくお昼寝しているところを起こすのも申し訳ないし、モカちゃんは何をしようかなぁ~?」

 

 

 うん、ここまではまだ予想できる範囲だ。最初はみんなそうだったんだよ。寝ている僕を起こさないよう足音を最小限に留めてくれたり、自分たちのワガママで僕を無理矢理起こしたりはしない。そう言った優しさを垣間見ることができたんだ。まぁ、その後の展開はお察しだけどさ……。

 

 すると、モカちゃんは僕が寝込んでいるテーブルに近づいてきた。

 あれ? これって美咲ちゃんの時と同じ展開では?? ということはまさか、また僕が寝ていることにつけ込んでキスをされる……!? 彼女からは美咲ちゃんのような理不尽な積極性を感じたことはないけど、ガールズバンドきっての変人ちゃんだから油断はできない。

 

 そして間もなく、モカちゃんは僕の隣に座り込む。

 来る……そろそろ来るぞ。キスをしてもいい男として認識されているのは嬉しいんだけど、口付けはやっぱり愛を確かめ合ってからじゃないとダメなんだ!

 

 

「すぅ……」

「えっ……?」

 

 

 モカちゃんは僕の肩に頭を乗せると、そのまま眠ってしまった。ていうか、寝るの早くない!? 僕の家に来る前から眠たかったんだとしても、この早さはニートの僕でも流石に追いつけない。それにてっきりキスされるものとばかり思っていたから、ただ眠りこけたことに対して余計に驚きだ。

 

 あっ、もしかしてモカちゃんも僕を試しているのかも? 彼女も美咲ちゃんと同じく僕が寝たフリをしていることに気付いて、それで自分も敢えて寝たフリをして逆に僕の反応を見ているのかもしれない。さっきは睡眠に入る爆速さに驚いちゃったけど、よく考えてみれば人間こんなに早く寝られる訳ないし、これはもう僕を試しているとみて間違いないだろう。

 

 僕は軽いジャブとして、モカちゃんの頬を人差し指で軽く突っついてみる。

 

 

「う、ぅん……」

 

 

 柔らかい、可愛い。だけど、モカちゃんが起きる気配は全くない。ここでドッキリ大成功とか言って目を覚ましそうなのに……。

 その後も何度か頬を突っついてみたけど、可愛い反応を見せるだけで特に現状は変わらなかった。

 

 こうなったら最終手段だ。女の子の象徴であり、異性に触られると凄まじい羞恥心を感じられるであろう『胸』を攻めてみよう。もし彼女が寝たフリをして僕を観察しているのであれば、僕のこの行動は流石に咎めてくるはず。いくら天然な彼女と言えども、乙女の羞恥心には逆らえないだろう。

 

 僕は人差し指の矛先を彼女の頬から胸に変える。改めて見てみると、今日の彼女は薄着のためかいつも以上に胸が強調されているように思える。普段は着痩せするタイプなのかは分からないけど、想像以上に大きかった胸に僕の興奮が煮えたぎり始めていた。こんなの、絶対に柔らかいに決まってるじゃん……。

 

 でもいいのか? さっきは向こうからキスをしてくる行為を咎めたのに、今度は僕から攻めてしまっても……。しかもよくよく考えてみれば、眠っている女の子の胸を触るなんて強姦と何ら相違がないんじゃないだろうか。ニートをやっている時点で自分はクズ人間だって認めてるけど、ここで無抵抗の女の子を攻めたらもう戻れない気がする。

 

 こ、ここは……!!

 

 

「ゴメン、モカちゃん。一瞬の気の迷いだったよ……」

「すぅ……」

「えっ……? ここまでして起きないってことは、本当に寝てるんだね。変なことをしようとしてるのがバレなくて、一応良かったかな」

 

 

(秋人、意外と意気地なしだねぇ~。でも、そういう優しいところが好きなんだけど……)

 

 

《調査結果》

 添い寝する。

 実は起きていた。

 

 

 

 

【湊友希那の場合】

 

 

「秋人が寝てる? なるほど、目を覚ます前にお持ち帰りしないと……。とりあえず、抵抗されないようにこのロープで手だけは縛らせてもらおうかしら」

「行動が早いし、何がなるほど!? ていうか、目の瞳孔が開いて怖いんだけど!? 飢えた獣の目じゃん!!」

 

 

《調査結果》

 犯罪に走るまでが早すぎる。

 そして、誘拐する。

 




 小説の内容を甘やかされる系のネタに縛るとマンネリ化するので、必然的に奇行に走る女の子に惑わされる秋人くんネタが増えるかもしれません。甘やかされる時代もそんな感じだったかもしれませんが……。

 ちなみに私のラブライブ小説を読んでくださっている方なら知っているかもしれませんが、変態思考の女の子キャラが大好きなので、この小説でもその毛色がどんどん強くなる予定です。
 公式でガルパピコとかいう電波アニメを出しているので、バンドリキャラのキャラ崩壊には慣れている方も多いのは私としても安心ですね(笑)


この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
小説を執筆するモチベーションに繋がります!

新たに☆9以上をくださった

ミラノさん、鋼のムーンサルトさん、AinScarletさん、神操機さん、Azure Plumさん、 SUPERNOVAさん

ありがとうございました!


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母性溢れる淫乱っ娘に甘やかされる

 もはや甘やかされるの定義が分からなくなってきた……


 

「秋人! 今日はこれで遊びましょう!」

「わっ、こころちゃん!? いつも言ってるけど、ノックしてね……」

 

 

 僕の部屋を出入り自由にしているのが悪いんだけど、たびたび女の子たちがいきなり突撃してくるから心臓に悪い。特に性欲を高めている途中や、性欲を発散している途中に乱入してくることもあるので油断できない。今日はただゲームをしていただけなので助かったが、こころちゃんみたいな好奇心旺盛で穢れた知識を知らない純粋な子に見られたら……うん、想像するのはやめよう。なんか僕が恥ずかしくなってくるから。

 

 それはそれとして、こころちゃんはお高そうな装飾が施された小さいビンを持っている。ラベルを見るとアロマオイルのようだけど、どう見ても遊び道具ではない気が……。

 

 

「えぇ~と、それでどうやって遊ぶの……? そもそも、どうしてこころちゃんがアロマオイルなんか……」

「秋人の家に遊びに行こうとしたら、黒服の人たちが渡してきたのよ。これがあれば秋人を喜ばせることができるって」

「僕が喜ぶ……?」

 

 

 清涼剤は陽キャの御用達。つまり、陰キャの僕には不要の産物って訳だ。黒服の人たちが何を考えているのかは分からないけど、身長が女の子サイズでカッコ良くもない僕にアロマオイルなんて、絶対に似合わないと思う。それとも、僕ではなくてこころちゃんに使うものだったり……? 海水浴場でよくある光景で、女の子にオイルを塗ってあげる展開とか……??

 

 

「早速開けてみましょう! ずっと気になって仕方なかったのよ」

 

 

 こころちゃんはウキウキしながらアロマオイルのビンの蓋を開ける。

 その瞬間だった。何やら甘い香りが僕の部屋中に広がる。アロマって、ここまで分かりやすく匂いが充満するものだっけ? こんな匂いを身体に振り撒いたら、匂いがキツすぎて外歩けないよ……。

 

 そして、こころちゃんの様子がおかしいと気付いたのはその直後だった。

 頬が赤くなっており、目がとろんとしている。いつも元気いっぱいの彼女と今の彼女は別人みたいで、僕を見つめたままぼぉ~っとしていた。それになにより、今の彼女はなんか色っぽい。元々身体付きはエロいんだけど、それ以上に彼女から漂う雰囲気に見惚れちゃいそうだ。

 

 でも、どうしていきなりおとなしくなったんだろう……。

 

 

「秋人ぉ~♪」

「ちょっ!? こ、こころちゃん!?」

 

 

 これまた突然、こころちゃんが僕を包み込むように抱きしめてきた。彼女の小さな身体に見合わない大きな胸に顔を押し潰され、もう幾度となく経験したシチュエーションだけど未だに慣れない。だけどそんな僕の意志とは無関係に性欲は高まるって、節操なしとはこのことか……。

 

 いや、そんなことを言っている場合ではない。

 アロマのビンの蓋を開けた瞬間から、こころちゃんはまるで酔っているかのような舌足らずな言動になっている。声色もいつも以上の脳トロボイスになってるし、体温もとても暖かい。大胆な行動を取るところは彼女っぽいけど、それ以外は何もかもが異常だ。黒服の人、一体彼女に何を渡したんだ……!?

 

 

「秋人様」

「うわぁ!? えっ、ガスマスク!?」

「黒服の人でございます」

「あっ、ホントだ――って、自分でもその呼び方なんだ……」

 

 

 もう次から次へと展開が移り変わり過ぎて追いつくのがやっとだけど、今度はガスマスクを被った黒服の人が現れた。一瞬僕の家がテロの現場になったのかと思ったけど、確かにいつもの黒服さんの声で安心したよ。でも、どうしてそんな物騒な格好を……? それにいつの間に僕の部屋にいたんだろうか……? もう本格的に僕のプライベートがないような気がするよ……。

 

 

「お嬢様は今、発情しております」

「はぁ!? どうして!?」

「このアロマには女性の理性を煽り、恋焦がれる男性に対する母性と性欲を同時に高める代物なのです」

「危険すぎるでしょそれ! どうしてそんなものをこころちゃんに持たせたの!?」

「お嬢様と秋人様の仲を接近させるためです。お嬢様が猛アピールしているのにも関わらず、秋人様は未だに童貞でいらっしゃる。この世界的な問題を解決するため、弦巻家が巨額の資産をつぎ込んで完成させたのが、そのアロマでございます」

「そんなどうでもいいことのために弦巻家を動かしたの!? ていうか、童貞はほっといてよ!」

 

 

 もはや何から突っ込んでいいのか……。はっきりしているのは、僕の童貞を卒業させるという無駄なことに世界規模である弦巻財閥が労力を割いてるってことだ。確かにこころちゃんから猛烈なアピールは受けてるけど、その場のノリで彼女に流されてしまったら、それこそ何をされるのか分かったものじゃない。性知識がない彼女のことだ、僕がレクチャーしながら性行為を指導するハメになることは目に見えている。あぁ、想像するだけでも恥ずかしい……。

 

 そんなことを考えている間にも、僕はこころちゃんの胸に押し潰されている。ここまで冷静だと賢者モードだと思われるかもしれないが、これでも我慢してる方だからね? 気を抜いたら僕まで彼女のように欲に溺れてしまいそうだ。

 

 

「お嬢様と秋人様のお時間を邪魔しないよう、私はそろそろ退散します。それに、アロマが充満しているこの部屋にいると私まで……」

「えっ、そうならないためのガスマスクじゃなかったの??」

「想像以上に効果が強すぎて、私まで秋人様のことを……」

「ちょっ、黒服さんまで!?」

「ですが今はお嬢様のターン。私はこれにて失礼!」

「い、いやちょっと待って――――消えた……」

 

 

 黒服さんはそう言い残すと、まるで忍者のように目の前から消えてしまった。黒服さんの語る事実の何もかもが衝撃的で、これからどんな展開が待ち受けているのか覚悟する必要があるかもしれない。現にこころちゃんの顔はかなり蕩けており、今にも僕を美味しく召し上がろうとしている。そんな物惜しそうな目で見つめられたら、抵抗したくてもできないよ……。

 

 

「秋人、相変わらず可愛いわね。食べちゃいたいくらい」

「本当の意味で食べちゃうの!? それはマズいって!」

「不味くはないわ。秋人のことだもの、きっとどこを舐めても美味しいに決まってるわ。んっ……」

「わっ!? い、いきなり頬舐めないで!?」

 

 

 頬に水気と体温を感じたと思ったら、こころちゃんに舌で軽く舐められていた件について。彼女から猛烈なアピールを受けるのはほぼ毎回のことだけど、今回は明らかにスキンシップが激しすぎる。童貞の僕にとっては女の子とほぼ毎日一緒にいることすら緊張するのに、ここまで身体接触が多いともう気絶してしまいそうだ。それになにより、女の子に舐められるこのシチュエーション、ちょっといいかも……。いや、マゾじゃないけどね?

 

 

「あら、秋人のここ、随分と大きくなってるわね?」

「あっ、そ、そこは気にしなくてもいいから!」

 

 

 遂にバレてしまった……。こころちゃんの胸に抱きしめられた時からずっと性欲が滾らないように我慢していたんだけど、僕の下半身だけは正直だった。大きくしているところを彼女に見られたら、こうなることは予測できたからだ。純粋な彼女は、僕が自分に興奮してこうなっていることにすら気付いてないだろう。彼女のことだから下半身の膨らみを見ても知的好奇心以上の感情はないと思うけど、それはそれでタチが悪いんだよね……。

 

 

「こんなにも腫れちゃって、私が治してあげるわね!」

「触っちゃダメだって! 今は絶対にダメ!!」

「もうっ、ワガママ言わないの! ママの言うことを聞きなさい!」

「誰がママ!?」

 

 

 そういえば黒服さんが、このアロマは母性と性欲を刺激するとか何とか言っていた気がする。なるほど、それが原因でこころちゃんはそんなこと……って、凄く迷惑な話なんですけど!? でも彼女に抱きしめられているこの状況は、傍から見たらお母さんと子供に見えなくもない。しかも僕の身長が並の女の子以下のせいで余計にそう見えてしまう。

 

 こころちゃんが騒がしいのは日常茶飯事だけど、今日はアロマのせいでいつにも増してテンションが高い。このままでは弦巻旋風に飲み込まれてしまうので、どこかで手を打ってここから脱出しないと僕の貞操が……。

 

 

「さぁ秋人、服を脱ぎ脱ぎしましょ!」

「脱がないよ!?」

「どうして? 脱がないと治療ができないわ」

「だから、これは自然に治るから問題ないって……」

「ダメよ! 変な病気だったらどうするの?」

「ちょっ、そこ触らないで!? うっ……」

 

 

 大丈夫、まだ果ててはいない。でもこころちゃんはズボンの上から僕の下半身を優しく弄ってくる。彼女からしてみれば善意なんだろうが、僕にとっては生き地獄すぎる。しかも、優しい顔をしながら下半身を撫で回してくる彼女を見ていると、どこからか彼女に母性を感じてしまう僕がいた。これ、黒服さんの策略にまんまとハマっているのでは……?

 

 こころちゃんから与えられる刺激に、僕の性欲は更に滾っていた。下半身の膨張具合も最高潮に達し、このままではズボンがびしょ濡れになるのは時間の問題だ。そしてこうして欲と戦っている間にも、彼女は僕の下半身を興味津々に弄ってくる。このまま快楽に溺れてしまうのも1つの選択肢かもしれないが、僕としては純粋な彼女を穢したくない思いの方が強い。だから耐えてみせる!

 

 それにしても、これは母性というよりかは風俗嬢に思えるんだけど……どうかな? でも純粋無垢な財閥令嬢に抱きしめられながら局部を弄ってもらえるとか、一部の界隈の人たちには需要ありそうな……。現に、僕もこのシチュエーションは悪くはないと思い始めてるし。そう、シチュエーションだけはね。

 

 

「もう、秋人ったら文句ばっかり。どうしてこんなにもワガママに育っちゃったのかしら?」

「そりゃ抵抗するでしょ……」

「でも秋人、心なしか喜んでいるようにも見えるわ。さっきから顔が蕩けているもの」

「う゛っ……」

「それに私も、身体中がムズムズしてきたわ……。私の身体がもっと気持ちよさを求めてる」

「そ、それ発情し過ぎじゃ……」

「ねぇ秋人、触って……」

「ふぇっ!?」

 

 

 こんな色っぽい声、艶やかな表情、妖艶な雰囲気。いつもの無邪気なこころちゃんじゃないみたいだけど、普段とのギャップを感じられるのが逆にいい。これが俗に言われるギャップ萌えってやつか……。

 そんなことよりも、僕は今、男を試されている。女の子たちから誘惑されることは数あれど、ここまで発情されて攻められたのはこれが初めてだ。ここは男として、彼女を満足させてあげるべきなのか?? でも、彼女に穢れて欲しくないと思っている自分もいる。

 

 どうする……? どうする??

 

 

「秋人ぉ~私、切ないわ……。さっきからずっと身体が疼いて疼いて仕方がないの」

「そんなことを言われても……」

「秋人も辛いわよね? だって、こんなにも膨らんでいるんだもの」

「ふぇぁ!? だ、だから触るのはやめて……」

「もう我慢できないわ。秋人から来てくれないんだったら、私から行くわね」

「へ? ダ、ダメだって!! 流れに身を任せたら、こころちゃん絶対に後悔しちゃうよ!?」

「しないわ。だって相手が秋人だもの。私、秋人以外とはこういうことをしたくないわ」

「こころちゃん……」

 

 

 こ、これって、もしかしてもしかしなくても……告白!? そりゃ僕だって、こころちゃんみたいな美人で可愛い子と添い遂げたい気持ちはある。いいところの令嬢なんて肩書はどうでもよく、弦巻こころという1人の女性に惹かれていることも間違いない。そんな彼女に手籠めにされるのなら、それはそれで1つの幸せだとは思う。

 それにこころちゃんの告白。アロマの影響で母性と性欲が増幅しているにしても、そんな告白は相手のことを本気で想っていなければ言葉に出さないだろう。

 

 そして、今気づいたのだが、いつの間にか僕はこころちゃんに抱きしめられながら押し倒されていた。もはや抵抗することも声を発することもできず、ただただ彼女の顔を見つめるばかりだった。

 

 

「もし私と1つになってくれたら、今まで以上に秋人の望むことは何でもしてあげる。どれだけ私に甘えてもいいの。もうこの先ずっと、何1つ不自由のない生活があなたを待っているわ」

 

 

 あまりにも魅力的な提案すぎる。今でも相当こころちゃんや弦巻家には頼っているけど、彼女と1つになれば将来が安泰なんて誰の目から見ても分かる。男なら女性の権力に甘えるなと言われそうだけど、そりゃ弦巻家の富を考えたら甘えたくもなるよ。それに彼女が伴侶になれば、笑顔が絶えない夢のような幸福が待っていることも容易に想像できる。

 

 いやいや、そんな打算的な考えで流れに乗ってはいけない。今ならまだ引き返せる。あと少しでも僕の性欲を刺激されたら、もう取り返しのつかないことになるだろう。だったら手遅れになる前に、彼女をこのアロマの支配から解き放たないと。

 

 

「いよいよお嬢様と秋人様のクライマックス。栄光なる弦巻家の子孫の種が誕生する瞬間、しかと記録させていただきます」

「黒服さんいたの!? ていうか、そのカメラなに!?」

「輝かしい弦巻家の生命の誕生を、伝記として残そうと思いまして」

「完全にハメ撮りだよね!? しかもそんな映像を記録して、どこに需要があるの!?」

「それはもちろん、私たち黒服部隊のオカズ――――いえ、性教育の参考として世界中に発布を」

「言い直す前も後もアウトだよ!!」

 

 

 やっぱり、これって黒服さんの罠だったんじゃ……。

 黒服さんとやり取りをしている間にも、こころちゃんは切なそうな表情で僕を見つめるのをやめない。そんな目をされると、手をこまねいているのが申し訳なくなってくる。男としては彼女の想いに答えてあげるのがベストなんだろうけど――――――

 

 

「秋人、もう、いいわよね……?」

「…………ダメだよ」

「えっ、どうして……?」

「やっぱり、僕は今のこころちゃんと1つにはなれない。もし1つになったら今は満足できるかもしれないけど、冷静になったらお互いに絶対に後悔するよ。大好きな人と、勢いだけであんなことをしちゃったんだって。それに、今の君はいつもの君じゃない。どんな君でも魅力的だけど、僕はいつも猪突猛進で、でもみんなの笑顔のためにひたむきに努力する。そんな君が大好きなんだ。だからこんな形じゃなくて、お互いに笑顔で想いを伝えられたらって思う。こ、これじゃあダメかな……?」

「秋人……」

「こころちゃん……?」

 

 

 これは僕のワガママだけど、本心でもある。これが彼女に受け入れてもらえなかったらどうしようだけど、どうやら、その心配はいらないみたいだ。

 何故かって? さっきまで蕩けに蕩けていた彼女の表情に、明るさが戻ってきたから。

 

 

「秋人! 秋人ぉ~♪」

「元に戻ってる!? ぐっ、く、苦しいって!」

「私も大好きよ、秋人!」

「僕も大好きだけど、そんなに強く……うぐぐ」

 

 

 突然笑顔の戻ったこころちゃんにまたしても抱きしめられる僕。

 何が原因で元に戻ったのかは分からないけど、さっきみたいに下半身を弄ってこないのは僕としても大助かりだ。クサいセリフを吐いておきながら、性欲の高鳴りだけはもう最高潮だったからね……。キザに決めている間に果ててしまわなくて本当に良かったよ……。

 

 その後、元に戻った彼女に手料理を振舞ってもらったり、その料理を食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、添い寝してもらったりした。

 なんかもう、一般的に添い遂げている夫婦よりも親密なことをしてないかな……? 肉体的に1つになろうがなるまいが、僕が彼女に甘やかされる日々はこの先ずっと続きそうだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「秋人様、まさかお嬢様の心をあのアロマから解放するとは。実験段階ではどんな女であろうとも性の虜となり、丸1日は発情状態から元に戻らなかったというのに……。やはり、お嬢様やガールズバンドの皆様への想いは、あの頃から健在のようですね」

 

 




 性格改変ネタはギャグ小説の王道なのですが、中には原作レイプするなと怒る方もいると思ったので、敢えて話数が積み重なってきた今このネタを解禁してみました。私からしてみればこの手のネタは大好きなので、これからもちょいちょい描いてみようと思います。

 それにしても、どこかのラブライブ小説に作風が似てきた気がする……。どことは言いませんが()



この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
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新たに☆9以上をくださった


やさぐれショウさん、カール・クラフトさん、やみかぜさん、ネインさん、Forestさん、エロ本さん、小バッタさん、 鬼灯摩利支天さん、インレさん

ありがとうございました!
中には何度も☆10評価を付けてくださっている方もいますが、何度付けてくださっても1人1回カウントなのでご注意ください。



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ビーチサイドで甘やかされる

 ただ座っているだけで女の子たちが群がってきて、肌を擦り付けられたり抱きしめられたり膝枕される男。


 

 僕の目の前に広がるのは、たくさんの女体。

 と言ってしまうと淫猥な響きに聞こえるが、実際にそうだから目のやり場に困る。だって、彼女たちはみんな水着姿なんだから。もちろん肌の露出も多いし、太陽の光に照らされた綺麗な肢体はやはり女子高校生と言わんばかりの張りの良さ。発展途上から熟した身体まで選り取り見取りの光景だ。こんな美少女たちの楽園を眺めようと思ったら、何十、何百、何千万払っても足りないくらいだし、実際にそれくらい払ってでも見たい人はいるだろう。そんな楽園を僕が独り占めできていると思うと、ちょっぴり優越感に浸れたり。

 

 今日はガールズバンドのみんなと海に来ている。普段は別々で練習しているバンド同士が一緒に練習をすることにより、新たな刺激や発想を得るために考案された合宿だ。25人もの休日を調整するのは至難であったため、偶然にもみんなの休みが一致した日を見つけた時は奇跡かと思ったよ。それでその合宿に僕も誘われて現在に至る。

まぁ合宿と言いながら早速海で遊んでいる訳だけど、日菜ちゃんを始めとしたワガママ組が遊ばないとやる気が出ないと言い張るばかりなので、仕方なく練習は後回しになった。とは言っても、みんな楽しそうだけどね。

 

 ちなみに僕の外出の件について、氷川姉妹がガールズバンドのみんなを説得して外出の許可を貰ってくれた。どうやらみんなは氷川姉妹が僕とデートをしたことが羨ましかったらしく、許可が降りたのも多分そのせいだろう。そのおかげで自由に外出できるようにはなったんだけど、ずっとニート生活をしていたせいかやはり外の光は刺激が強い。慣れるまでは誰かと一緒に出掛けないと、途中で倒れちゃいそうだな……。

 

 そんな訳で、僕はビーチパラソルの下から遊び回っているみんなを眺めている。一緒に遊びたいのは山々だけど、男としては海で遊んでいる女の子を視姦している方が有意義なんだよね。ここは弦巻家所有のビーチであり、僕たちの貸切ってところがみんなを解放的にしている。そうやってハメを外していつもより元気にはしゃいでいる女の子たち、うん、いい。

 

 

「秋人くん! そんなところに座ってないで、こっちで一緒に遊ぼうよ!」

「香澄ちゃん。僕は遠慮しとくよ、体力ないからすぐ疲れちゃうし……」

「えぇ~せっかく来たのに休んでるだけなんて勿体ないよぉ~」

「僕もみんなと遊びたいのは山々なんだけどね。こうしている方がほら、そのぉ……」

「ん? 顔が赤いよ?」

「わわっ、香澄ちゃん顔近いって!」

「あはは、ゴメンゴメン。もしかしたら熱中症になってるんじゃないかって心配したんだよ。でも元気そうで良かった」

「う、うん、全然元気だよ全然!」

 

 

 香澄ちゃんって無自覚にこういうことをするから侮れないんだよね。もし彼女の通っている高校が共学だったら、このあどけない行動に惚れてしまう男がたくさんいただろう。本人は全く自覚していないと思うけど、相当罪作りな子だと思うよ……。

 

 それはそれとして、幸いにも僕の目が犯罪者の眼光を放っていることに彼女に気づかれていないようだ。僕がガールズバンドのみんなに欲情の籠った目線を送っていることがバレたら、後でどんな仕打ちが待っているか想像するのも怖い。恐らく女の子たちの玩具にされるのは確定で、もはやあらゆる意味で絞り尽くされる可能性が高い。でも仕方ないじゃん、目の前に肌を曝け出した女の子がたくさんいるんだから! これで欲求を抑えろという方が無理難題だよね……。

 

 

「香澄、あまり秋人を困らせたらダメだよ」

「沙綾ちゃん?」

「もうっ、それは言い掛かりだよさーや。秋人くんが私を見つめたまま顔を赤くしてたから、どうしたのかなぁって思っただけだよ」

「へぇ、香澄の身体をねぇ~?」

「か、身体を見たとは言ってないでしょ……」

「間違ってるの?」

「う゛っ、ノ、ノーコメントで……」

 

 

 バレてる! 香澄ちゃんの言動にドキドキしていただけでなく、水着姿に思わず興奮を抱きそうになったことも……。こうやって察しが良すぎるのが沙綾ちゃんのいいところでもあり、今の僕にとっては脅威でもあるんだよ。なんか、何もかも見透かされている感じがしてならない。さすが、お姉ちゃんにしたい女の子のトップクラスに位置するだけのことはあるよ。

 

 

「沙綾ちゃんも、あまり秋人くんを困らせないようにね……?」

「りみちゃん。そう言ってくれるのは嬉しいけど、別に困ってないから平気だよ」

「あはは、ゴメンゴメン。それより秋人、私たちから誘っておいてこう言うのもアレだけど、今日は無理しないでね。今朝ウチで作ったパンを持ってきたから、これを食べながらくつろいでて」

「わぁ~チョココロネがいっぱいだぁ♪ 沙綾ちゃん、私も貰っていいかな?」

「もちろん、みんなにもおすそ分けしようと思ってたくさん作ってきたからね」

「よ~しっ、それじゃあさーや印のパンでお昼にしようよ! 秋人くん、私が食べさせてあげるね! はい、あ~ん」

「あっ、香澄ズルい。私のパンなんだから、最初は私にやらせてよ」

「そ、それなら私も……!! 秋人くん、ダメかな……?」

「ちょ、ちょっと落ち着いてねみんな。さっき朝ごはん食べたばかりだし、流石に入らない……かな」

 

 

 水着姿の女の子たちに手ずから食べさせてもらえるなんて、王級貴族並のシチュエーションで嬉しくはあるんだけど、如何せん僕の胃は思春期の女の子以下レベル。ニート生活で身体を動かさない日々を送っていたためか、一般の思春期男性は愚か、女性よりも食べる量が少ない。別に食欲が湧かないという訳ではなく、ただ単に少食なだけだ。そのせいで、僕の家にみんなが来るときはお手製のお菓子やパンを貰うことが多いんだけど、それが溜まりに溜まって食べきれないことが良くあるんだよね。流石に残すのは申し訳ないから2、3日かけて食べてはいるけど、男としてももう少し胃拡張したいところだ。

 

 それにしても、みんなが近すぎて肌と肌が触れ合ってしまっている。ただでさえ水着姿のみんなを眺めているだけでも興奮しそうなのに、ここまで密着されると欲求が爆発してしまいそうだ。しかも今日1日はずっとみんなと一緒にいるため、1人で自家発電する暇もない。つまり、性欲はずっと溜まりっぱなしになるんだ。毎日1回は発散しないと生きていけない身体なのに、禁欲に耐えられるかな……?

 

 

「みんな、いくら貸切で誰もいないからって、はしたない真似はやめなさい」

「千聖ちゃん!? リサちゃんも」

「今日は秋人と一緒にいられるから、はしゃぎたくなる気持ちは分からなくもないけどね」

「そうですよ! せっかくのバカンスなんですから、千聖先輩もリサさんも楽しみましょうよ~」

「香澄ちゃん。仮にも私たちは弦巻家のご厚意でここに遊びに来ているのだから、不純異性交遊で問題を起こすと先方に迷惑がかかってしまうわ」

「うぅ、そう言われると……」

「う~ん、相変わらず千聖は手厳しいなぁ~」

「リサちゃんも、周りが知っている人ばかりだからって、あまり際どい格好をしないように。さっきあまりに露出が多い水着を着ようとして、紗夜ちゃんに注意されていたでしょう?」

「み、見てたんだ……。まぁほどほどに我慢するよ、ほどほどにね」

「せっかくのバカンスだからこそ、しっかりと節度を守って楽しみましょう」

 

 

 よく言うよ。僕の家だと所構わず婚姻届を押し付けてくるくせに。千聖ちゃんって、家の中と外では全然キャラが違うんだなぁ。外にいる時の彼女はあまり見たことがないけど、幼い頃から芸能界にいた影響か、精神年齢がとても大人だ。これには同じ姉キャラとしてのリサちゃんや沙綾ちゃんもたじたじのようだ。

 

 それにしても、際どい水着ってどんな感じだったんだろうか……? リサちゃんが今着ている水着も相当イマドキ女子っぽくて、本人のスタイルの良さや胸の大きさ込みであまりにも男の欲情を湧き立たせる。これ以上の水着となると、もう僕のか弱い性欲では1分も持たなかったかもしれない。そう考えると、止めてくれた紗夜ちゃんナイスだね。

 

 

「仕方ない。香澄、りみりん、私たちも遊びに行こっか。ほら、おたえが手を振ってるし」

「あっ、ホントだ。おたえ~っ! すぐ行くから~!」

「そうだね。秋人くんも良かったら、後でもいいから一緒に遊ぼう?」

「うん。ありがとう、りみちゃん。ちょっと休んだら行ってみるよ」

 

 

 香澄ちゃんたちは既に海で大はしゃぎしているおたえちゃんやこころちゃんたちに合流した。後で行くとは言ったけど、あの集団に巻き込まれると一気に体力持っていかれそうだな……。有咲ちゃんと美咲ちゃんもいるみたいだけど、いくら2人がかりでも暴走特急たちには付き合いきれないだろう。ツッコミが追い付かないという意味でも……。

 

 

「さてと、ここからが本題ね」

「えっ、ち、千聖ちゃん……? 近いんだけど……!?」

「日焼け止めを塗ってくれるかしら。背中の方は1人で塗り切れないから」

「ぼ、僕が!? それなら男の僕じゃなくて、そこにいるリサちゃんに頼めばいいんじゃ……」

「ねぇ秋人、アタシもお願いするよ」

「ぶっ、ど、どうして上脱いで寝そべってるの!?」

「秋人くん、外なんだからあまり大声を出すものではないわ」

「な゛ぁ!? 千聖ちゃんまで脱いでる!?」

 

 

 リサちゃんは水着の上を脱いで、ビーチパラソルの下でうつ伏せになっている。彼女の身体とレジャーシートで胸が押し潰され、身体から横乳がはみ出ている様が何とも淫猥だ。それに妙に水着が食い込んでいるおしりも卑猥で、引き締まっていながらも水着から少し飛び出ているおしり肉は見ているだけで柔らかそう。ただでさえエッチなボディをしているのに、そんな格好をされたら健全な男なら今すぐにでもトイレに行って性欲を発散しているだろう。僕だって今同じ気持ちだ。

 

 そして、リサちゃんと同じくらい際どい格好で僕の隣に座っている千聖ちゃん。水着の上を脱いで、左腕で胸を隠し、右手で髪をかき上げてこちらに背中を曝け出している。透き通るような白い肌は、流石芸能人と言わんばかりの手入れっぷり。あまりにも艶めかしすぎて、むしゃぶりつきたい衝動に駆られそうだ。普段では絶対に見られないうなじや肩甲骨も……。今の言葉で言えば、えちえちってやつだ。

 

 とても高校生とは思えない美女2人のこんな姿、どれだけの大金を積めば見られるのだろうか……。いや、ガードが固い2人にはどれほどの金をチラつかせようが靡かないだろう。その身体に触れられる権利を今、僕だけが持っている。据え膳食わぬは男の恥とはよく言ったものだが、ここは男を見せるべきなのか……!?

 

 

「ふえぇ!? 2人共、何してるの!?」

「花音ちゃん!? いやこれは僕が疚しいことをしようとしてた訳じゃなくて、2人が勝手に脱ぎだしたというか……。とにかく変なことをしようとしてる訳じゃないから!」

「ん~? 変なことって何かなぁ~? アタシたちはただ、日焼け止めを塗って欲しいとしか言ってないけど?」

「ウフフ、秋人くんってば、私たちで一体何を考えていたのかしら?」

「な、何も考えていないって!!」

「えぇっと、秋人くん、もしかして……」

「違うんだ花音ちゃん! これは男なら誰にでも湧く感情欲求で、決して変なことを考えてた訳じゃ……」

 

 

 毎回思うけど、花音ちゃんの困り果てた表情を見ていると申し訳なさが半端ない。子供っぽい言動で可愛らしいと思う反面、幼さしか見えないからこそ罪悪感も抱いてしまう。特に彼女は思い込みが非常に激しいので、今回のようにあらぬ誤解を妄想してしまうことも多い。このままでは、彼女の中で僕が野外で千聖ちゃんとリサちゃんを脱がした鬼畜野郎と思われたままだ。ここは何としてでも誤解を解かないと……!!

 

 そんなことを考えている間にも、花音ちゃんはぷるぷると震えて今にも感情が爆発しそうになっている。誤解された挙句に失望されるなんて、それは何としてでも避けなければ……!!

 

 

「もう2人共ズルいよ……」

「へ?」

「そ、それなら私だって……私だって脱ぐもん!!」

「え゛ぇ゛ぇ゛ぇえええええええええええええ!? どこからその発想に――――ちょっ、本当に脱がないで!? 千聖ちゃんもリサちゃんも、黙ってないで助けてよ――――って、いないし!? どこ行ったの!?」

 

 

 今にも水着のヒモを外そうとする花音ちゃん。彼女を止めるためにも2人に力を貸してもらおうと思ったが、既に形も影もさっぱり消えていた。これは面倒事に巻き込まれまいと逃げ出したな……。脱いでいた水着はこの場に残っていないので、あの短時間のうちに着け直して逃げたのか。ってことは、暴走する花音ちゃんを僕1人で止めないといけないの!?

 

 でもよく見てみると、花音ちゃんの身体って至るところが柔らかそうで、抱き枕にしたら気持ちよさそう。普段は裸を見る機会なんてないけど、今は水着の上もほぼほぼ脱いでいる状態で、半裸どころか9割裸の状態。もちろん健康的な身体に淫らさを感じるけど、それ以上に抱きしめたいと思う衝動が強い。彼女を止めないといけないのに、思っていることとやろうとしていることが一致しなくてもどかしいよ……。

 

 

「いやいや~。秋人がしっかりと健全な男の子で、モカちゃん安心しましたよ~」

「わっ、モカちゃんいたの!? って、勝手に沙綾ちゃんのパン食べてるし……」

「いやぁ慣れ親しんだ香りがするなぁ~と思ったら、まさかのまさか、山吹ベーカリーの出張店があったからビックリしたよ~」

「沙綾ちゃんがみんなの分にって持ってきたモノだけどね……」

「それにしても秋人、野外で花音先輩を脱がすとはお主も中々やりますな~。全然あたしたちに靡かないから、もしかして女の子に興味ないのかと思ってたよ~」

「脱がしてないし、男同士に興味もない!」

 

 

 いつの間にか僕の隣にモカちゃんが座り込んでおり、パンを頬張りながら僕たちを観察していた。しかも出会い頭にまた根も葉もない嘘を……。このままでは、また花音ちゃんに誤解されてしまう。僕が性の対象として見ているのは、今も昔も未来も女の子だけだ。それもガールズバンドのみんなのような美女美少女――――って、相当気持ち悪い発言してるな僕……。

 

 そうだ、今はそんなことよりも――――

 

 

「花音ちゃん、いつまでその格好なの!? 早く水着を着て!」

「ふぇ? 千聖ちゃんやリサちゃんみたいに、私の相手はしてくれないの……?」

「だからあれは日焼け止めを塗ろうとしてただけで、欲情してたとかじゃないから……」

「ポロっと本音が漏れてるよ~? 花音先輩、秋人に性的な目で見られてますよ~♪ 男の性欲は発散しないと獣になると言いますし、これは先輩が責任を取るしかないですなぁ~」

「責任……うん、そうだよね。秋人くんはこれからずっと私が面倒を見てあげるから!」

「うわぁあっ!? 上半身裸で迫って来ないで!?」

「おっと、秋人の頭が急に膝の上に……。そこまでして膝枕をして欲しかったの~?」

「ち、ちがっ、これは不可抗力で……!!」

 

 

 花音ちゃんの勢いに圧倒され、僕の身体が後ろに倒れ込んでしまう。その時、僕の頭が偶然にもモカちゃんの膝の上に乗ってしまうという美味しい(?)展開に。女の子に膝枕されながら、別の女の子の迫られるこの構図。状況が状況じゃなかったら最高なんだけどなぁ……。

 

 花音ちゃんは腕で胸は隠しているものの、見せていないのが逆にエロスを感じられる。ただでさえさっきから女の子たちに惑わされっぱなしなのに、その格好で迫って来られると理性の糸が切れちゃいそう……。まぁ切れたところで女の子たちの手玉にされるのは目に見えているので、ここは何とか耐え凌がないと。しかし、モカちゃんが花音ちゃんを暴走させているせいで、このままだと僕の理性が崩壊する時も近い。自分1人ではこの状況をどうしようもできないため、誰か、誰かに助力を……!!

 

 

「な、なにをしているんだお前ら……?」

「えっ、えっ? これどういう状況!?」

「巴ちゃん、つぐみちゃん!? 良かった、ちょうどいいところに! ちょっと助けてくれない??」

「膝枕をされながら上半身裸の先輩に抱き着かれようとしているなんて、両手に花だな。いいご身分じゃないか。2人の相手、頑張れよ」

「違うんだよ!! 僕は被害者なの!!」

「巴ちゃん、秋人くん困ってるみたいだし、助けてあげよう?」

「分かってるって。秋人の反応が可愛くてさ、ついつい弄りたくなってくるんだよ」

「やっぱりトモちんもこっち側だったかぁ~。愛らしすぎて、一家に1人秋人が欲しいくらいだよねぇ~」

「それ、僕をサンドバッグにしようとしてない……?」

 

 

 僕を家に連れ込んだところで働くことも家事もできないし、ただただ家計を圧迫するだけで何1ついいことはないと思うんだけどね……。それでもみんなはよく僕を家にお持ち帰りしたいとか言ってるんだよなぁ、なんでだろうね……?

 

 それにしても、助けを求める人を間違えちゃったかな? つぐみちゃんはいいにしても、巴ちゃんまでモカちゃんとノリノリだし、そのノリに乗じて花音ちゃんがどんな行動を起こすかも分からない。おとなしく風紀委員である紗夜ちゃんを呼べばよかったけど、あの子もあの子でちょっと斜め上の思考回路を持ってるからなぁ……。

 

 

「とりあえず、花音さんもモカちゃんも秋人くんから離れてね。このままだと今日1日どころか、お昼までに秋人くんが疲れちゃうから」

「そ、それはダメだよね……ゴメン、秋人くん」

「あはは、別にいいよ。花音ちゃんって割といい身体をしてるんだなぁって分かったし……」

「ん? なんか言った?」

「う、うぅん! 何でもないよ何でも!」

「仕方ないから、あたしもひーちゃんたちのビーチバレーに合流しようかな~。だからこれ、秋人にあげる~」

「こ、これ、食べかけのパン……?」

 

 

 モカちゃんはさっきまで自分が口にしていたチョココロネを僕に渡して、みんなのところへ向かった。花音ちゃんも水着を着け直すと、こころちゃんやはぐみちゃんたちに呼ばれて遊びに行ってしまう。残ったのは、間接キスしろと言わんばかりのチョココロネのみ……。僕は思わず唾を飲み込んだ。

 

 そして、さっきまで女の子の温もりを身体で感じていたせいか、少し涼しくなったことに違和感を覚える。でもまぁ、嵐が過ぎ去ったのは良かったかな。巴ちゃんとつぐみちゃんのおかげで、何とか性欲を爆破させずに済んだ。普段はニートで引き籠ってるから無害なのに、外に出た瞬間にセクハラで逮捕なんて畜生過ぎるもんね……。

 

 

「秋人くん大丈夫だった? また何かあったらすぐに言ってね。授業中でも家のお手伝い中でも、連絡をくれればすぐに飛んでいくから」

「ふえぁっ!? どうして抱きしめるの!?」

「あっ、ズルいぞつぐ。私だって、何があってもお前を守ってあげるからな。なんなら、ずっと一緒に暮らしてもいいんだぞ?」

「ひゃっ!? だからどうして頭を撫でるの!?」

「秋人くんの反応が可愛いから、衝動的に抱きしめたくなっちゃうんだよね」

「分かる、分かるぞその気持ち。モカがいつも『一家に1人秋人』って言ってるけど、全くその通りだよ」

 

 

 あ、あれ……? これってさっきの状況とあまり変わってないような……? 騒がしくはなくなったけど、結局女の子の肌と触れ合っている状況は変わっていない。つぐみちゃんのほんわかとした包容力と、巴ちゃんの心から安心できる姉力に、今にも僕は堕ちてしまいそうだ。この物凄く甘えたくなってくる気持ちは、単にこの2人の甘やかし性能が高すぎるせいかも。まるでゆるふわ系のお母さんと、頼れるカッコいい姉に抱きしめられているみたいだ。もしこの2人に甘やかされたら、確実に己の日常は堕落していくだろう。まぁ、それはそれで幸せか……。

 

 

「つぐみママ、巴お姉ちゃん……」

「えっ、あ、秋人くん、流石にその呼び方は恥ずかしいかな……」

「えっ、もしかして声に出てた!? い、いや別に変なことは考えてないから!!」

「あこ以外にお姉ちゃんって呼ばれるのは新鮮だな。でも秋人が弟か……いいかも」

「いいかもじゃなくて、空耳だよ空耳!」

「つぐみママかぁ……えへへ♪」

「ちょっ、なんかトリップしてるよつぐみちゃん!?」

「あぁ~これは秋人が責任を取るしかないな」

「僕、今日だけでどれだけ責任を取らされるの……?」

 

 

 なんだろう、誰と一緒でもこうして騒がしくなっている気がする。

 今日はずっとみんなと一緒だけど、朝からこれだと今日が終わる頃には僕の体力がすっからかんになってそう……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 どの話でもそうですが、1話中に秋人くんが一歩も動いていない回が多すぎる気がする。それでも女の子側から集まってくれるので、話のネタに困らないのが助かりますね(笑) まぁそれが作者の私からしても羨ましいシチュエーションだったりするのですが……

 次回は今回の続きで、出てきていないキャラは次で全員登場する予定です。



この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
小説を執筆するモチベーションに繋がります!

新たに☆9以上をくださった or 評価の数値を上げてくださった

麗衣さん、ボルンガさん、あんパン食べたいマンさん、プラウダさん、sin0408さん、ディセプティコンさん、シャチ大好きさん、八咲 朔さん、マンゴスチンさん、黒白夜さん

ありがとうございました!
中には何度も☆10評価を付けてくださっている方もいますが、何度付けてくださっても1人1回カウントなのでご注意ください。


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温泉旅館で甘やかされる

 頭を空っぽにして読めるハーレムモノの小説が好きです。


 

 みんなと海で遊んだ日の夜、僕たちは海辺の旅館に宿泊することになった。当初は日帰りの予定だったのだが、一部の子たちがはしゃぎすぎて帰宅時間を大幅に超過、そのため弦巻家が所有している旅館にお邪魔することになったのだ。別にお金持ちをとやかく言うつもりはないが、こういう時のお金持ちちゃんって都合がいいよね……。

 

 そんな訳で、豪華な夕飯を嗜んだ僕たちは各々自室に戻っていた。女の子たちは複数人で1部屋だけど、男の僕だけは1人で1部屋だ。正直なところ、女の子の誰かと一緒の部屋じゃなくて安心している。だって、ガールズバンドのみんなって大なり小なり性に興味津々の子たちばかりだよ? 絶対に寝かせてもらえないよ……。

 

 

「今日全く動いてないのに疲れた。温泉にでも入って癒されよう……」

 

 

 今日は日中ずっとビーチパラソルの下にいたのだが、次から次へと流れてくる女の子に揉みくちゃにされたため疲労が半端ない。リサちゃんや千聖ちゃんのように意図的に僕のスケベ心を弄ってくる子や、モカちゃんや花音ちゃんのようにナチュラルに男心を煽ってくる子など、僕は三者三様の誘惑に耐えていた。もちろんあんな可愛い子たちに言い寄られるのは悪い気はしないけどね。

 

 

 1日の疲れを癒すため、僕は浴衣に着替えて温泉に向かう。

 女の子たちと一緒の旅館なのに1人で温泉ってのも寂しいけど、混浴だとそれはそれで恥ずかしい。二次元の女体なら舐め回すように見られるのに、現実の女体はまともに直視できないんだよね……。生の艶と張りを目の当たりにする想像をするだけでも興奮しちゃうもん。

 

 そんなことを考えながら男湯に入る。

 ラッキーなことに、他のお客さんはいないようで実質貸切だ。海岸部にある旅館だからか、温泉に入りながら海が一望できる。夜だから海がダークに染まって見えるが、それはそれでまた月明かりと相まって風情がある。温泉にまったりと浸かりながら海を眺めるなんて、ニートにとっては優雅すぎて贅沢をしていいのか疑問に思っちゃうよ。

 

 女の子たちとの騒がしい日常も好きだけど、たまには1人でのんびり過ごすのも――――――

 

 

「秋人! 一緒に入りましょう!」

「うわぁあああああああああああああああああああああああああ!?!?」

 

 

 温泉の扉が勢いよく開け放たれる音が聞こえたと思ったら、こころちゃんが笑顔で飛び込んできた。

 ていうか、裸!! 僕の目には綺麗な肌色しか見えないんですけど!? 大切な部分はバスタオルで隠れているけど、逆に言えば大切な部分しか隠れていない。どうして男湯にこころちゃんが乱入してきたかは分からないけど、目の前の現実に目を奪われてそんなことを考えている暇すらなかった。

 

 

「ちょっとこころ! いくら秋人しかいないからって自由すぎるって!」

「むしろ美咲は隠しすぎよ。せっかくの露天風呂なんだから、身も心も開放的になりましょ!」

「心はいいけど身はダメでしょ……。ほら、秋人がこころの身体を見てあらぬ妄想をしてるよ」

「し、してないよ!!」

 

 

 確かに僕は妄想癖があるけど、今この状況だけはこころちゃんたちの登場に驚いてそんなことをしていないと断言できる。できるんだけど、妄想してるって指摘されたことによって桃色の妄想をしてしまいそうだ。よく見たら美咲ちゃんもバスタオル1枚であり、しかもこころちゃんを止めることに意識を集中しているせいか、タオルの端からうっすらと胸の膨らみが―――――あっ、これはダメなやつだ。下半身に血液が溜まってしまう。ダメだダメだ、純情な彼女たちに穢れた目線を送るのは!!

 

 

「男って、疲れていると溜まりやすいって本当だったんだ」

「そりゃ男は性欲に従順な生き物――――って、蘭ちゃん!? いつの間に僕の隣に!?」

「こころたちが入ってくる前からずっといたけど」

「気付かなかった……」

「これも秋人にバレずにベッドに潜り込んでいた成果かもね」

「そんなことを自慢気に言われても……」

 

 

 蘭ちゃんは自分の肩を僕の肩に密着させながら、何の自慢にもなっていないことを誇らしげに語る。

 近い、とにかく近い。しかも温泉で程よく身体が火照っているためか、漂ってくる雰囲気も妖艶で見惚れてしまう。特にお湯にぷかぷか浮いている上乳。意外と大きい部類だってことは薄々思っていたけど、まさかお湯に浮くほどの大きさだったとは……。

 

 

「もうっ、蘭ってば、秋人くんを1人占めしないでよ!」

「ひ、ひまりちゃん!? ちょっ、あ、当たってるんですけど!?」

「こういうのが好きなんでしょ? 部屋に置いてあった薄い本に、こういうシチュエーションのものがあったもん」

「う、ぐ……」

 

 

 ひまりちゃんは僕を蘭ちゃんから奪い取るように抱きしめる。僕の右腕がひまりちゃんの双丘に挟まれ、至極の柔軟性を感じた。

 もはやどうやって僕に気付かれず隣に忍び寄ったのか、そんなことはどうでもよくなっていた。今の僕には女の子に囲まれながら温泉に入っているという興奮と、あまりにも近すぎるみんなの身体に緊張しか覚えていない。

 

 そんなこんなしている間にも、こころちゃんと美咲ちゃんも温泉に入ってこちらに近づいてきた。

 あぁ、耐えられるかな僕の性欲……。

 

 

「別に1人占めしてるつもりはないんだけど……」

「いい? 秋人くんはみんなの秋人なんだから、独占は禁止です」

「そうね、これだけ大きな温泉なんだからみんなで楽しみましょう♪」

「楽しむって……何を?」

「むしろ秋人は私たちと何がしたいのかしら?」

「ここで僕に振るの!?」

 

 

 こころちゃんの予想外の反撃に戸惑う僕。

 そりゃ裸の男と女がいたら、やることは1つしかない。これば僕が性欲の塊だからじゃなくて、裸の男女が向かい合っているこの状況で思い当たる行為と言えば常識的に1つに決まってる。もちろん性欲の『せ』の字も知らないこころちゃんにそんな意図はないだろうけどね。

 

 逆に言えば、蘭ちゃんとひまりちゃん、美咲ちゃんは僕がどんな反応をするのかを楽しそうに見守っている。うん、絶対にエロいことを考えている顔だね……。

 

 すると、またしても温泉の扉が開く音が聞こえてきた。

 

 

「あっ、みんなもう秋人と一緒に入ってる。ズルい」

「相変わらずアキトさんは大人気ですね。まるで光源氏のような性豪でご立派です!」

「そ、それ褒めてないよね……」

 

 

 次に入ってきたのはたえちゃんとイヴちゃんだ。

 2人は共に背が高く、モデル映えする美麗な肢体の持ち主だ。そんな子たちのバスタオル1枚姿なんて、目の保養どころか眩し過ぎて逆に毒になるかもしれない。だからと言っても目を逸らしたとしても、周りには一糸纏わぬ蘭ちゃんやこころちゃんたちがいるため、どこを見渡しても女の子、女の子、女の子、女の子――――――これで興奮しない男はいない。普段からみんなをオカズにしないように精神力を鍛えていなければ、今頃僕の性欲が周りに汚らしく迸っていただろう。

 

 

「…………たえちゃん? そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど……」

「ねぇ、私も秋人に抱き着いていい? みんなだけ抱き着いてズルい」

「ズルいって言われても、僕はただ温泉に浸かっているだけだし……」

「既にランさんたちがいるので、私たちの場所はないようですね。だったら――――潜りましょう!」

「ちょっ、ダメだって! 色んな意味でダメだって!!」

「まぁ、大きくなっているところを見られちゃうしね」

「蘭ちゃん、せっかく言葉を濁したのにはっきり言わないでよ……」

 

 

 僕の両隣に蘭ちゃんと美咲ちゃん、後ろにひまりちゃん、前にこころちゃんがいて、両手に花どころか全身に花状態だ。前後左右から女の子の柔らかい部分を押し付けられているためか、お湯で暖まっているというよりも人肌によって暖められている感が強い。僕が感じている熱が女の子から伝わってくるものなのか、それとも温泉からなのか、それとも自分が興奮しているせいないのか、もう何が何だか分からなくなっていた。

 

 それになにより、僕の愚息が雄々しくなっていることが問題だ。これだけ女の子にくっつかれたらこうなってしまうのも仕方ないけど、ここは裸の付き合いも辞さない温泉だ。ちょっとばかり性欲の強いこの子たちにこれを見られたら、どんな辱めを受けるのか想像するだけでも怖い。ただ幸いにもこの温泉のお湯は少し着色されているので、直接この性欲の権化を見られることはなかった。でも蘭ちゃんも言っていた通り、僕の欲求が爆発しそうなのはバレてるんだよね……。

 

 そして、またしても温泉の扉が開く。

 これ以上女の子たちに囲まれたら、もう耐えられる気がしないんだけど……。

 

 

「あなたたち、公序良俗に反する真似はやめなさい。日菜も、あまりハメを外さないように」

「えぇ~せっかく秋人くんと一緒に温泉に入れると思ったのに~」

「紗夜ちゃんと日菜ちゃんか……」

 

 

 紗夜ちゃんはバスタオルを纏った状態で腕を組み、仁王立ち状態で温泉に浸かっている僕たちを見下す。

 そりゃ風紀委員の彼女からしたら、この状況は見るに堪えないよね……。温泉に入っているってことは、もちろんバスタオルなんかは身体に巻いていない訳で、その状態でみんな引っ付き合っている訳で、そうなればもちろん女の子の胸という胸が僕の身体に押し付けられている訳で――――――

 

 

「いくらこの温泉が私たちの貸切だと言っても、ここは公共の施設です。淫らな男女交遊は、我々の尊厳だけでなく学校にすら迷惑がかかりますよ」

「相変わらずお姉ちゃんは堅いな~。ここが混浴だと知って入ったくせに、今更風紀委員ぶられてもねぇ~」

「ひ、日菜!? 余計なことは言わなくてもいいのよ!」

「こ、混浴……?」

 

 

 あれ、僕が入る前に確認した時はここは男湯だった。入口に『男湯』の暖簾がかかっていたから間違いない。

 でも()()混浴になっているらしい。もしかして、いやもしかしなくても……騙された?? 思い返せばこの旅館は弦巻家の系列だから、混浴のシチュエーションが発生するように仕込みを入れることなんて造作もないはずなんだ。

 

 

「フヘヘ、ようやく真実に気付いたみたいですね、秋人さん」

「ま、麻弥ちゃん!? いつの間に僕の後ろに……!? そこにはひまりちゃんがいたはずじゃぁ……」

「秋人さんを驚かせたいって相談したら、快く場所を譲ってくれたんです」

「ホントだ。いつの間にか身体を洗いに行ってる……」

「紗夜さんに怒られる前に湯船から離脱したっぽいですね」

 

 

 いつの間にやらひまりちゃんたちは湯船から出ており、その空いたスペースにたえちゃんやイヴちゃんが陣取っていた。これだけ広い温泉なのに、僕のいる一角にしか人がいないから凄く勿体なく感じちゃうよ……。

 

 

「そういえばさっき言ってた真実って、やっぱり計ったの……?」

「ジブンは大したことはしていませんよ。ただ弦巻さんにこの旅館のメインシステムをちょこっと触らせてもらえることになったので、色々細工をしてしまいました。それを皆さんにお伝えしたらそれはもうノリノリで……♪」

「だからこの時間の露天風呂は男湯だったはずなのに、混浴に切り替わってたのか……」

 

 

 あっさりと事が済んでいるような気もするが、常識的に考えれば犯罪だよねこれ?? いや、経営者が自らシステムを改変するように依頼してたらしいから大丈夫なのか……? 何にせよ、ただ一緒にお風呂に入りたいだけだったら僕の家でいくらでも入れるのに……。それはそれで恥ずかしいけどさ。

 

 

「あたしも秋人くんと一緒に入りたい! お姉ちゃんはどうする? せっかく混浴するチャンスなのにそこで待ちぼうけ?」

「本来なら男女が同じ湯船を共にするのは不純ですけど、服を脱いでここまで来てしまったのなら仕方がありませんね。那須原さん、失礼します」

「えっ、ちょっ……!?」

 

 

 またしても湯船の中で僕を取り囲む包囲網が出来上がる。それもただの包囲網ではなく、女の子の肌で形成された楽園のような空間。たえちゃんは僕の肩に頭を乗せてきているし、イヴちゃんは腕を絡めてくる。それに麻弥ちゃんの隠れ巨乳を背もたれにしている状態で、氷川姉妹にまで寄り添われたら――――今度こそ男が爆発してしまうかもしれない。

 

 

「ゴ、ゴメンみんな! 僕もうそろそろ出るよ!」

「えっ、秋人くん言っちゃうの!?」

「ほ、ほら、さっきからずっと浸かりっぱなしだったし、このままだとのぼせちゃいそうで……。そ、それじゃあね!」

 

 

 僕との入浴を楽しみにしてくれていたみんなには悪いけど、このままだとみんなの純潔を散らしかねない。それを防ぐためには、興奮によって無駄に大きくなっているこの愚息を鎮めるしかない。もちろんここで精を放つ訳にもいかないので、急いで部屋に戻ってこの欲求を発散しよう。もうはち切れそうだよ、性欲も()()もね……。

 

 だが僕が温泉から出ようと扉に手をかけようとした時、無慈悲にも先に扉が開かれた。

 

 

「彩ちゃん、有咲ちゃん……」

「秋人くん……。もうっ、そんなに大きくしちゃって、もしかして期待してたの? ここで……やっちゃう?」

「ち、ちがっ、これはその……」

「秋人お前、腰に巻いてるタオルがはち切れそうだぞ? そこまで溜まってんのなら、私がいくらでも相手にしてやるっていつも言ってるだろ? ほら、早く出せ」

「出すわけないでしょ!? 全部見えちゃうよ!?」

 

 

 彩ちゃんと有咲ちゃんは僕の下半身を見て全てを察したようで、頬を赤くしながら僕のタオルに手をかけようとする。僕は男だけど虚弱なニートだから、バンド練習で体力がついている彼女たちに力で敵うはずがない。つまり、このままではこの2人だけでなく、今温泉にいるみんなに情けなく大きくなったこの愚息を晒してしまう羽目になる。そんな恥辱、絶対に受けたくない!!

 

 そんなタオル攻防戦を繰り広げる中、彩ちゃんと有咲ちゃんに続いて他の子が入ってきた。

 

 

「あこちゃん……。友希那ちゃんに燐子ちゃんも……これはマズい」

「むぅ~秋兄ってば、人の顔を見るなりその顔は失礼じゃん! それより、何をやってるの?」

「見たところ、秋人が女性ばかりの混浴に興奮して、性欲をガチガチに溜めた息子をどう処理しようかと悩んでいたところに市ヶ谷さんと丸山さんと鉢合わせた――――そんなところかしら?」

「まるで見てたかのような的中っぷり……!!」

「あなたが性的に興奮していることくらい、下半身から漂わせる雄の香りですぐに分かるわ。タオル越しでも隠しきれていないもの」

「嘘!?」

 

 

 もしかして先走りが出ちゃってる……?? 自分の下半身が性欲に対して耐性がなく節操もないことは自分自身がよく分かっているけど、この状況で男の匂いを巻き散らすのは相当マズい。ただでさえ性的欲求に従順な子たちに火を点けかねないからだ。でも男性なら分かってもらえると思うけど、性欲を抑えるというのは難易度が高く、並大抵の自制では到底無理な話。こんなところで発散する訳にもいかないし、これってもしかして――――詰み??

 

 友希那ちゃんは顔色や表情を1つも変えず、僕の下半身を凝視しながら話を続ける。

 

 

「その情欲を解消するのであれば、1人でやるのも誰とやるのでも変わらないわ。むしろ部屋に戻る前に精を噴き出してしまったら、旅館の人に申し訳ないと思うの」

「そ、それはそうだけど……」

「あ、あの……秋人さん」

「な、なに燐子ちゃん……」

「友希那さんの言っていることは合理的だと思います。ここにはたくさんの女性がいますし、わざわざ1人でする必要は皆無かと……。それに、秋人さん自身も満足できないと思うんです。これだけたくさんの女体を見た後に1人でするなんて、一時的に快楽は得られても悶々とした気持ちはずっと残ります。せっかく一緒に旅行に来ているのですから、秋人さんに寂しい思いをさせたくないんです。そして――」

「ちょっと待って!? こんなに饒舌だったっけ燐子ちゃん!?」

「りんりんは秋兄のことになると興奮してこうなっちゃうんだよ。それにりんりんが書いてる秋兄の管理方法をまとめたノートなんて、もうダンボール1箱分くらいあるんだから!」

「えぇ……」

「あ、あこちゃん、恥ずかしい……」

 

 

 それにしてはやけに楽しそうだけど、燐子ちゃんの妄想の中で僕はどんな恥辱を味わってるのかな……。興味はあるけどそれを知ったら最後、燐子ちゃんを純粋な目で見られなくなるだろう。

 それ以前に、ここにいる女の子たちの中で僕を純粋な目で見ている子は1人もいない。せめて僕だけはまともでいようと意気込んではいるけど、この今にも天を向きそうな愚息が全てを台無しにしている。なんとかタオルで隠してはいるものの、みんなの視線が集中することでなおのこと興奮が止まらず、もはや隠していることに何の意味があるのかってくらい形が浮き彫りになっていた。

 

 

「秋兄、そんなに大きくしてるってことは触って欲しいの?」

「うえぇっ!? そ、そんなこと……」

「お前もいい加減に観念しろよな。そんなに角度をつけてビンビンにしてるってことは、握ってくださいって言ってるようなもんだろ」

「ちょっ、有咲ちゃん!? あ、危なかった……」

「アイドルの私に触られたら、背徳的でとっても気持ちよくなれると思うんだけど……ダメ?」

「うぐっ……彩ちゃんの提案は嬉しいけど、ダメなものはダメだから……」

 

 

 触って欲しい!! 今すぐにでも触って僕の欲情を解き放ってもらいたい!!

 とは口が裂けても言えず、沸き立つ欲情を溜め込むことしかできない。目の前にこれだけの女の子がいるのにも関わらず我慢してるから、これは燐子ちゃんの言う通り悶々とした夜を過ごすことになりそうだ。

 

 

「ゴメン! やっぱりもうここから出るよ! あとはみんなでごゆっくり!」

 

 

 このままここにいては性欲が溜まるばかりで余計に我慢が辛くなるだけだ。みんなの前で無様な姿を晒すくらいなら、寂しいけど1人で欲求を鎮めた方がまだマシだろう。

 うん、帰ろう。1人で抜いてすぐに寝れば、悶々とした心残りすらも忘れられるはずだ。

 

 

 そう自分に言い聞かせ、温泉と脱衣所を繋ぐ扉に手を賭けたその時だった。

 僕が扉を開けようとしたその直前、不幸にもまた誰かが温泉に入ってきた。

 

 うっすらと影は見えていたけど、全力で逃げるように動き出していた僕の身体はもう自制が効かない。そうなれば温泉に入ってきた人とどうなるかはもうお察しのこと。目の前に肌色の肌が見えた瞬間、僕は足を滑らせてしまい勢いよくその子たちに倒れ込んだ。

 

 

「子猫ちゃんたち、待たせてしまってすまない――――って、うわあっ!?」

「どうしたの薫くん――――わぁっあああっ!?」

 

 

 僕は薫ちゃんとはぐみちゃんの胸に思いっきり飛び込んでしまった。2人共凹凸の少ない身体付きなのだが、こうして直に触れてみるとやっぱり女の子だってことが実感できる。この艶と張りのある肌はまさしく女の子が持つ極上の肉付きだ。

 

 なんて言っている場合ではない。女の子の肌に触れてしまったのもそうだが、最も触れてはいけないところまで触れてしまっている。さっきまで僕の下半身がどうなっていたのか、それだけで想像してもらえるだろう。正面衝突して倒れた反動で、2人の手が僕のあれをタオル越しに触れていた。

 

 

「あっ、くっ……あぁ!!」

「いたた……ん? こ、これって……あ、あきくんの!?」

「こ、この大きさは儚……くはないね……うん、立派だ。凄く立派だ。秋人がここまで成長しているなんて、とっても嬉しいよ……」

「わっ!? 薫くん顔が青くなってるよ!? って、こんなとこで気絶しちゃダメだよ!! かおるく~~~ん!!」

 

 

 薫ちゃんのことはもちろん心配だけど、もっと気が気でないことがある。

 はぐみちゃんと薫ちゃんが動くたびに、僕の身体のとある一点にとてつもない刺激が走ってしまう。

 

 

 

 

 そう。

 

 

 

 

 もう。

 

 

 

 

 ――――――出る!!

 

 

 

 

「そろそろのようね」

「ゆ、友希那ちゃん……」

「フフッ、覚悟しなさい秋人。ここにいる全員が満足するまで、ここから出られないわよ」

「へっ……? ちょっ、うわぁあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 その後の記憶はない。

 何かとてつもない快楽を得たことだけは覚えているが、気付いたら自分の部屋の中の布団で寝ており、翌日の朝を迎えていた。

 

 

 夢か、現実か。

 考えたらまた勃ちそうだったので、もう何も考えないようにした。

 




 また入浴回ですが、女の子と家のお風呂に入る回と温泉の回ってのはまた違った楽しみがあるんですよね。まぁ艶めかしい女体が見られる点では変わらないので、私としてはずっと女の子とお風呂に入っているアニメが登場しないかなぁとずっと期待しています()


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潜入!羽丘女子学園

 ニートが遂に学校へ行く!?


「これ、誰の忘れ物だろう……?」

 

 

 時間はお昼前。今日も今日とてニート生活を嗜んでいた僕は、小腹が空いたので2階の自室から1階のリビングに降りて食料を物色していた。その時、テーブルに手提げ袋が置いてあることに気付く。見たところ自分のではないので、恐らく今朝家に来た女の子たちの誰かが忘れていったものだろう。

 

 とりあえず名前が書いていないか確認をするために手提げ袋を見回してみたけど、流石に高校生にもなって私物に名前を書くような人はほとんどいない。こうなったら申し訳ないけど、中身を取り出して確認するしかないか……? 女の子の私物を見るのは少し躊躇われるけど、もしかしたら授業で必要なモノが入っているかもしれないしね。

 

 

「こ、これは……」

 

 

 手提げ袋から出てきたのは、紺色のポリエステルの物体――――そう、男の興奮を大いに煽る『スクール水着』だった。まさかすぎる代物の登場に、僕は思わず手に握られたスクール水着を手提げ袋に戻してしまう。もはや男がスクール水着を手に取っているだけで犯罪者扱いされるこの時代、男の家にスク水があるって時点でもアウトすぎる。しかもこれは、ガールズバンドの美少女たちの誰かのモノだ。そう考えると背徳的な興奮がふつふつと煮えたぎってくた。

 

 

「落ち着け、冷静になれ。名前を確認して連絡してあげるだけでいいんだ……」

 

 

 こんなものは昨日の時点ではなかったから、今朝僕の家に来た誰かが忘れていったもの。水泳の授業がなければ水着を持ち運ばないはずなので、つまり今日は水泳の授業があるってことだ。ということは、これを忘れていった子は水着がないことで授業を欠席してしまうことになる。今の時間はお昼前だから、もし水泳の授業が午後からなら事前に連絡をしてあげれば僕の家に取りに来ることができるだろう。だったらなおのこと、この水着の持ち主を特定しなければならない。

 

 そう思って改めて水着を確認したけど、やはりというべきか名前は書かれていなかった。そりゃそうだ、このご時世、スク水に名前が書いてあるなんてエッチなビデオのコスプレかよって話だからね。むしろ書いてあったら書いてあったでドン引きしてたかも……。

 

 こうなったら、連絡用アプリのグループチャットで水着の忘れ物が誰かを聞いてみるしかない。思い出せば今朝この家に来てた子たちはみんな羽丘の生徒なので、ある程度聞く相手は絞り込めそう――――――

 

 

「あっ、携帯の充電がなくなっている。あぁ、充電器壊れてるのに……」

 

 

 昨晩、寝惚けたままトイレに立った時に充電器を踏んで壊してしまっていた。だから今日買いに出かけようと思っていたんだけど、不幸な出来事というのは積み重なるものなんだよね……。

 みんなに連絡ができないとなれば、僕が直接羽丘に出向いて届けてあげるしかない。女子高に行くのは気が引けるけど、本来なら家主である僕が担うべき家事をみんながやってくれて、その過程での忘れ物だから、このままこれを放置するのは恩を仇で返すようなものだ。

 

 うん、行こう。せっかく最近外出許可が出たんだし、少しでもみんなの役に立たなくちゃね。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うっ、やっぱり緊張する……」

 

 

 意気込んで羽丘の校門前まで来たのはいいものの、やっぱり男が女子高に入るのは躊躇われる。アニメや漫画で良くあるお嬢様学校のように警備員が目を光らせているわけではないみたいだが、やはり場違い感が半端ない。ただ忘れ物を届けに来ただけなんだけど、僕にとってはここがRPGのラストダンジョンかのように緊張が止まらなかった。

 

 

「こういうときって、まずは職員室に行けばいいのかな……? いや、いきなり男が入ったら通報されるかも……。来客用の入口とかあるのかな……。うぅ、ニートだから学校の内に何があるかなんて分からないよ……」

 

 

 こうなるなら事前に訪問時にどこへ行くのかくらい調べてくれば良かったよ。

 ちょっと手間だけど、一旦ここから離れて落ち着こう。こんなところでウロウロしている方がよっぽど怪しく見えるしね。

 

 

「あなた、こんなところで何してるの?」

「うわぁああああっ!? ゴメンなさいゴメンなさい怪しい者じゃないんです!! 女子高を目の前にして淫らなことなんて考えていませんから!!」

「いや、そこまで考えてなかったけど……」

 

 

 女の子に挨拶をしただけで通報される理不尽なご時世、女性に声を掛けられた瞬間に人生の終わりを感じてしまった。咄嗟に振り向いて謝ってしまったが、思い返せば余計なことを口走りすぎてそれこそ逮捕一直線なのでは……? あぁ、男の人生って儚いよ……。

 

 

「ちょっとちょっと、何この世の終わりみたいな顔してるの? 君、この学校に用があるんじゃないの?」

「えっ、あっ、そ、そうですけど……」

 

 

 意外や意外、下手なことを口走ってしまった僕に対し、この女性はまだ僕に生きるチャンスをくれるようだ。

 さっきまで慌てふためいてよく見てなかったけど、この人とっても綺麗だな……。綺麗な短い黒髪、スタイルもいいし、雰囲気も穏やかで人当たりが良さそうだ。こんな人がお姉ちゃんにいてくれたらいいのにと、一目見ただけでそう思ってしまった。

 

 

「はぁ~ん、さては誰かの忘れ物を届けに来たけど、女子高だから入りづらかったんでしょ?」

「えっ、どうしてそれを……?」

「だって君が持ってる手提げ袋のデザイン、明らかに女の子っぽいもん。流石に男の子が持つには……と思ったけど、君可愛いからありえるかもね♪」

「そ、そんなことないですって……」

 

 

 ガールズバンドのみんなからもよく『可愛い』って言われるんだけど、これでも僕も一応男だ。そりゃカッコよくもなければイケメンでもないけど、可愛いなんて言われるとなんか恥ずかしい。だってみんなの方が圧倒的に綺麗で可愛いのに……。

 

 

「そういえば君、学校は? 今日は平日なのに……」

「え゛っ……!? あ、そ、そのぉ……」

「あっ、もしかして君――――」

「ゴ、ゴメンなさい!! クソチビニートでゴメン――――」

「学校の創立記念日とか?」

「えっ……? あっ、そ、そう、です……」

「いいよねぇ創立記念日。他のみんなが学校や仕事に行ってるのに、自分だけ悠々としていられる優越感がさ――――ん? そういえばさっき何て言いかけたの?」

「な、なんでもないですハイ……」

 

 

 もう完全にニートって言っちゃったけど、会話の流れによって掻き消されたおかげで助かったよ。自分がヒキオタクソチビニートだってことは自覚してるけど、なるべくなら誰かに知られたくない。相手にとってもニートが知り合いだなんてマイナス要素を抱えたくないだろうしね。

 

 

「事情は分かったよ。それじゃあ行こっか」

「行くって、お姉さんもここに用事ですか?」

「うん。文化祭をウチの店と合同で行うようになってね、今日はその打ち合わせに来たの。だから、君もついでにどうかと思ってね」

「ありがとうございます。助かります」

「うんうん。そういや、君の名前をまだ聞いてなかったね」

「あっ、申し遅れました、那須原(なすはら) 秋人(あきと)です」

「え……?」

 

 

 あれ、聞こえてなかったかな……? 一般的なニートは引き籠りの性質上、声を出す機会がないから声量が自然と小さくなるらしい。でも僕は毎日ガールズバンドの子たちに対して大量のツッコミを入れているせいか、一般のニートどころかそこらの人よりも声がハキハキしている自信がある。これぞ俗に言われる無駄じゃないけど無駄なスキルだよね……。

 

 お姉さんはさっきから僕の顔を眺めながら黙ったままだ。さっきみたいにニートだのクソチビだの爆弾発言もしていないし、この間は一体なんだろう……。

 

 

「なるほど、君がねぇ……」

「な、なんですか……?」

「うぅん、別に何でも。私は月島まりな、よろしくね」

「あっ、よろしくお願いします……」

「それじゃあ行こっか」

 

 

 お姉さん――まりなさんは優しく微笑むと、僕を先導するように歩き始めた。

 少し雰囲気が変わったけど、もしかしてニートってことがバレてたり!? 誰かから僕のことを聞いて、ようやく弄り甲斐のある人間の底辺に会えて嬉しくなった……とか!? まりなさん、なんだかからかい上手っぽいし、これからどんな弄りが待っているのか……こ、怖い。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はいこれ。この入館証を首からかけていれば、少なくとも変質者に間違われることはないから」

「だ、だから変質者でも何でもないですって! 確かに最初にそう口走ったのは僕ですけど……」

「あはは、ゴメンゴメン。君可愛いからついつい弄りたくなっちゃうんだよね♪」

 

 

 こんな感じで早速弄ばれながらも、何とか来客用の窓口から入館証を手に入れることができた。まりなさんがいなかったら、今頃僕は警備員に取り押さえられていただろう。

 

 

「私はこれから打ち合わせだけど、秋人くんはどうする――――って、そんなにおどおどしてたら怪しく見えちゃうよ?」

「だ、だって女子高ってだけで緊張しちゃって……」

「それなら打ち合わせが終わるまで待合室で待ってる? 終わったら一緒に忘れ物の持ち主を探してあげるから」

「そうしてもらえると助かります」

「了解。待合室はこの廊下の突き当りにあるから、そこで待っててね。それじゃあまた後で」

 

 

 まりなさんはウインクをして打ち合わせ室に入っていった。

 なんかまりなさんってコミュ力の塊すぎて、ド陰キャの僕は会話について行くだけでも精いっぱいだ。ただ言われたことに対して返答を行っているだけってところがとても陰キャらしい。一応ガールズバンドのみんなとは普通に話せているけど、逆に言えばみんな以外の人とは全然話さないからそのせいだろう。せっかく最近外出の許可を貰ったのに、このままのコミュ力だと結局外出が億劫になるかもしれないな……。

 

 そんなことを考えながら、僕は待合室へと向かう。ここでこの学校の先生や生徒に出会ったらどうしようかとビクビクしながら歩いているため、周りから見たら僕は紛うことなき不審者だった。

 

 

 するとその時、突然視界が真っ暗になる。

 何が起こったのかとあたふたしていると、耳元に綺麗な声で囁かれた。

 

 

「動かないで」

 

 

 僕は女性の手で視界を遮られているようだ。しかも足を絡められ、身体と身体も密着しており、完全に身動きを封じられていた。

 も、もしかして不審者だと思われてる!? 確かに女子高にいる年頃の男なんて下心を持っていてもおかしくない。首にかけている入館証を見せれば危機は脱出できるかもしれないが、既に捕獲されているこの状況では文字通り手も足も出なかった。

 

 あれ……? この声どこかで聞いたことがあるような……。

 

 

「もしかして……友希那ちゃん?」

「こっちに振り向いてはダメよ。私、今全裸だから」

「なんで!? ここ学校だよ!?」

 

 

 ま、まさか、この女子高……何者かに操られてたりするの!? ほら、エロ同人ではよくあるじゃん。催眠を使って学校中の美女美少女を操り、奴隷を躾けるが如くエッチなことをしまくる展開が。女の子が校内で全裸になるとか、まさにそのようなシチュエーションでしかありえない。僕はただ忘れ物を届けに来ただけなのに、こんな大変なことに巻き込まれるなんて……。でもちょっと興奮しちゃうのは内緒だ。

 

 

「とりあえずそこの空き教室に行くわよ。そう、あなたが他の女子の目に晒される前にね……」

「えっ、う、うん……」

 

 

 僕は視界を遮られたまま、友希那ちゃんに誘導される形で歩を進める。

 女子高の空き教室と言えば、エロい同人や小説ではヤリ部屋と化している場合が多い。もしかしたらそこに催眠術師がいて、この学校の女の子を食っている光景を見せつけられるのかもしれない。そして無様に勃起した僕は女の子たちに弄りに弄られ、はしたなく精を放出させられるんだ……。あぁ、想像するだけでも恐ろしいけど興奮する。自分は決してMではないけど、こういった妄想で性欲が滾ってしまうあたり多少マゾ属性も持ち合わせてるのかも? 認めたくないけど……。

 

 空き教室の扉が空き、その瞬間に友希那ちゃんの手が僕の目から離れる。

 覚悟はできてないけど、どんな酒池肉林の光景が広がってるんだ……? もう展開は分かり切ってるんだ、絶対に驚かないぞ――――――

 

 

「……あ、あれ? リサちゃん?」

「やっほ~秋人。まさか本当にいるとはねぇ~」

「ほら、私が言った通りだったでしょう」

「『秋人の匂い』がするなんて半信半疑だったけど、やっぱり友希那の嗅覚は本物だったか……」

「えっ、え、どういうこと??」

 

 

 空き教室は本当に空き教室で、友希那ちゃんとリサちゃん以外には誰もいなかった。当然ながら、催眠術師による乱交現場になってもいない。それどころか、友希那ちゃんはしっかりと制服を着こなしている。もはや何が何だかさっぱりなんだけど……。

 

 

「何が起こったのか分からないって顔をしてるけど、私たちからしてみればどうしてあなたがここにいるのかが分からないわ。まさか、とうとう性欲が我慢できなくなって女子高に侵入、トイレや更衣室にカメラを仕掛け盗撮するつもりだったとか? そんなリスクを背負わなくても、私たちの排尿や着替えの映像ならいくらでも提供してあげるというのに。もちろん盗撮モノっぽく魅せるために、小型カメラで僅かな隙間から撮影したものをお届けするわ」

「話が飛躍し過ぎだよ!? そりゃ興味がない訳じゃないけど、今日はみんなに用事があってここに来たの!!」

「アタシたちに? それなら携帯で連絡してくれればいいのに。授業中でもトイレの途中でも飛んで行くよ」

「携帯の充電がなくて充電器も壊れちゃってるから直接ここにきたんだよ。それにどうしてさっきからトイレ推しなの……」

「あなたの要望なら、盗撮風でなくとも生でトイレシーンを堪能させてあげてもいいわよ。その代わり、そこで溜まった性欲は全部私たちで発散するという約束で」

「いやいや、流石にアブノーマル過ぎるのはストライクゾーンから外れてるんで……」

「なるほどねぇ、秋人は生よりも盗撮映像の方が興奮できるタイプかぁ~。背徳感が性欲を助長させるってやつ?」

「もうっ、そろそろトイレの話題から離れようよ!!」

 

 

 下手に肯定してしまうと、この子たちのことだから本気でそのような映像を送り付けられかねない。オナネタとしてはそれだけで1週間くらいは食べていけると思うけど、みんなが便乗して排尿映像を送り付けてくる可能性もある。その場合、もう僕は女の子の盗撮風放尿映像でしか自身の性欲を満たせなくなるだろう。それを危惧すると、性欲が偏る前に未然に防いでおくべきだ。

 

 

「それで、秋人の用事というのは何かしら?」

「じ、実はこれなんだけど、僕の家に置きっぱなしになってたんだ。今朝誰かが持ってきて、学校に行く時に忘れたんだと思うけど……」

「なるほどねぇ。でも今日アタシは忘れ物してないなぁ、友希那は?」

「特に思い当たる節はないわ。ちなみに、その手提げ袋の中には何が入っているのかしら?」

「水着だよ。スクール水着」

「「スクール水着……?」」

 

 

 なんかマズった気がする。もしかして安直にスク水なんて言わない方が良かった? 確かに男がスク水を持ち歩いているだけで大問題だし、やっぱり何も知らないふりをしておく方が正解だったかも……? 

 

 

「なるほど、それじゃあその中には秋人が使用したスクール水着が入っているのね」

「ちょっ、どうして使用した前提なの!? 中身は確認したけど、それ以外のことは何もしてないから!!」

「でも秋人、ロリっ子がスクール水着を着ている同人ゲームをやってたよね。ほら、秋人のパソコンにインストールしてあるじゃん?」

「なんで知ってるの!? 部屋の掃除はしてもらっても、パソコンの中身だけは絶対に覗かせないようにしてるのに!?」

「通い妻たるもの、主人の性癖を理解しておくのは当然だからね♪」

「そんな理解のために脳にメモリを割くなら、もっと有意義なことを覚えようよ……」

 

 

 僕のパソコンにはそれ以外にもたくさんのR-18指定のゲームが入っている。ということは、ロリ水着以外の性癖もみんなにバレちゃってるってこと……?? もう僕の私生活はみんなに赤裸々公開されてるけど、今まさにプライベートというプライベートを骨の髄まで搾り取られた感じがするよ……。

 

 

「そこまでスクール水着が好きなのね。だったら私がいくらでも着てあげるわ。AVのようなヤラセではなく、本物のスク水女子をその目で拝めるのよ」

「やめて! AVは男のロマンなんだ! いくらヤラセっぽいくても、ヤラセじゃないと思って見れば興奮は無限大なんだよ!!」

「おぉ、珍しく秋人がテンション高く熱弁してるね。まぁどのみちアタシたちでは秋人のロリ系水着趣味には応えられないかもね、身体の大きさ的な意味で。こうなったら、あこにスク水を着てもらうようにお願いしてみようか?」

「あこちゃんの……スク水!?」

 

 

 見たい……物凄く見たい!! 以前からスクール水着を着させてみたいという欲望はあったけど、流石に犯罪的すぎてそんなことを頼めるわけがなかった。彼女は僕に懐いているため必死に頼み込めば着てもらえるかもしれないが、自分から淫らな欲を晒すのはなんか負けた気がするからやりたくない。だからみんなで海に行った時に少し期待していたのだが、やはりプライベートのためか彼女はスク水ではなかった。まぁ可愛い水着だったからそれはそれで眼福だったんだけどね。

 

 

「あこのスク水姿で勃起するなんて、なんて嘆かわしいこと……」

「えっ、嘘!?」

「嘘よ。でもその反応を見るに、スク水に並々ならぬ執着があるようね。これは秋人の家でスク水パーティを開くしかないかしら。女子は全員スク水着用、あなたは全裸でね」

「どうして僕だけ裸なの!? せめて水着くらい着させてよ!?」

「どうせすぐに勃起して私たちが処理をしてあげる展開になるんだから、水着を着るだけ無駄でしょう。それにあなたの下半身が丸出しではなかったら、いつでもどこでもスク水女子にぶっ掛けられないじゃない」

「いやいやそんな下半身でものを考えてるみたいな言い方しないでよ!! リ、リサちゃんからも何か言ってあげて……」

「今グループチャットでパーティの連絡をしようとしてるから、ちょっと待って」

「待って欲しいのはこっちだよ!!」

 

 

 リサちゃんは相変わらず行動力の塊で、危うく僕の性欲が枯れ果ててしまいそうなパーティを実行に移されるところだった。流石はイマドキギャルと言うべきだけど、行動が早く情報の拡散も早いのは時には困りものだよ。

 

 

「とりあえず、もうすぐ休み時間も終わるからそっちの処理だけはやっておいてあげるよ」

「そっちって……どっち?」

「もう、分かってるくせに~。スク水の女の子の姿を妄想して卑しく大きくなっちゃってる、秋人のココだよ♪」

「うわぁああああっ!?」

「むっ、どうして逃げるの?」

「そりゃいきなりセクハラされそうになったら誰でも逃げるでしょ!?」

「普段私たちのあられもない姿をオカズにしてオナニーしてるあなたがよく言えたわね」

「ぐっ……。妄想は人の自由だから……」

 

 

 ダメだ、友希那ちゃんもリサちゃんも野生の眼光を放っている。このままではスク水を持って女子高に忍び込んだ変態という汚名だけでなく、女子高の空き教室で女の子たちに無様に拘束されてイカされたというブラックエピソードまで付属してしまう。ただでさえニートでチビで人間の最底辺なのに、これ以上余計な黒歴史は増やしたくない。いや、ロリ+スク水のゲームを嗜んでいることがバレた時点で下がるところ下がり切った気もするけど……。

 

 とにかく、早くこの忘れ物を持ち主に渡して帰ろう。そうと決まれば――――――

 

 

「ゴメン、今日のところは勘弁をぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ちょっ、秋人!? あぁ、少し刺激が強すぎちゃったかぁ……」

 

 

 僕は空き教室を飛び出した。

 このまま下半身をハンターに狩られていたら、間違いなくここで果ててしまい忘れ物を届けるミッションは達成できなくなっていただろうから……。

 

 

「これは困ったことになりそうね」

「えっ、どうして?」

「秋人が校内を彷徨う。それはすなわち――――」

「あぁなるほど、他の子たちが黙っちゃいないかぁ……。秋人可愛いから、この学校の女の子たちに揉みくちゃにされちゃうかもねぇ~。どうなるのかなぁ……」

 

 

 どうやら僕に降りかかる試練は、むしろここからが本番らしい……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 これは私だけかもしれないですが、淫乱と化した友希那とリサが小説のネタとして非常に扱いやすいので、1話から通して出番が多くなっているのはそのせいです。流石に25人+αを均等に出演させることはできないので、多少の偏りがあるのはご了承ください。



この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
小説を執筆するモチベーションに繋がります!


新たに☆9以上をくださった or 評価の数値を上げてくださった(過去2話分)

ぺい×2さん、慶滋保胤さん、Pureピークさん、feruzenさん、ファントムベースさん、バリスターズさん、病み美少女の操り人形さん、ワド団長さん、青ガメラさん、
ハラーラさん

ありがとうございました!


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狂乱!羽丘女子学園

 年内に上がれぇええええええええええええええ!!
 お久しぶりです()


「ねぇねぇボク、どこから来たの?」

「この子とっても可愛い~♪ お持ち帰りした~い♪」

「誰かの弟かな? こんな可愛い弟がいるなんて羨ましいなぁ~」

「く、苦しい……!!」

 

 

 僕は何故か羽丘の女の子たちに揉みくちゃにされていた。

 友希那ちゃんとリサちゃんの誘惑から逃れるために必死で校内を走り回っていたんだけど、その勢いで教室の近くにまでやって来てしまいさぁ大変。案の定ここの生徒さんたちに見つかってしまった。最初は女子高に男が侵入しているってことで通報すると思っていたけど、女の子たちはまるで赤ちゃんをあやすような雰囲気で僕を抱きしめてきたんだ。どうしてそうなったのかはよく分からないけど、このまま騒ぎ続ければ学校の先生にバレて今度こそ通報されてしまう。

 

 でも、女の子たちは僕を離してはくれない。むしろ友達を呼んでいるのか、次から次へと女の子がこの場に集まってくる始末。年頃の女の子に囲まれるシチュエーションは嫌いではないけど、校内でこんなことをされるとあまりにも目立ちすぎる。あぁ、やっぱりヒキオタニートはおとなしく家で引き籠ってた方が良かったな……。

 

 

「みなさーーん! もうすぐ授業ですから早く教室に戻ってくださーーい!」

「みんなとっても楽しそうだね。るんっ♪ ってきた!」

「いやいや、どうして日菜先輩まで混じろうとしているんですか!?」

 

「そ、その声は……」

 

 

 聞こえてきたのは僕の耳に馴染む声。さっきまでお祭り騒ぎ状態だったけど、その2人の登場で場が一気に沈静化した。1人は普通of普通、真面目of真面目、もう1人は変人of変人、超人of超人の相反するコンビが僕の前に現れる。

 

 

「つぐみちゃん、日菜ちゃん! いいところに……」

「なんか秋人くんげっそりしてるね。女の子に囲まれてるのにそんな顔をするなんて、やっぱり普段から女の子たちを侍らせていたらそうなるかぁ~♪」

「ちょっ、それは流石に語弊があるって! そんなことをみんなの前で言ったら――――」

 

 

「えっ、もしかして意外と肉食系なの? こんなに小っちゃいのに……」

「肉食系ショタ……うん、いいかも!」

「やっぱり男の子だもんね。こんな小さい子に攻められるとか……ゾクゾクしちゃう!」

 

 

 あ、あれ? てっきりドン引きされるかと思っていたんだけど、僕の想像に反して女の子たちは大盛り上がりだ。しかも僕が女の子を食い散らかすヤリチン野郎と勘違いまでされて……。

 女子高は世の男性が理想を描くようなお嬢様学校ではなく、生々しく性に飢えた子が多いと噂で聞いていたけど、まさか本当だとは思わなかったよ。見た目は遊んでそうな子たちには見えないのに、僕の姿を見た途端にみんなの目に野生の光が宿った。なるほど、処女ビッチとはまさにこの子たちのような人のことか……。

 

 

「そんなことよりも、どうして秋人くんがここに? ここ女子高だよ?」

「それには色々用事がありまして……」

 

 

 つぐみちゃんに最もらしい疑問を投げつけられるが、女の子のスク水を持ってきたとはこれだけたくさんの女の子がいる前では言えない。ただでさえ思春期特有のピンク脳を持つ子たちなのに、ここで弱みを見せたら今度はどれだけ弄られるのか分かったものじゃないからね。

 でも、何の用事もないのに女子高にいる方がヤバい気が……。

 

 

「分かった、あたしに会いに来てくれたんでしょ? も~う、秋人くんってば寂しがり屋さんなんだから~♪」

「えっ、ち、違うって――――むぐぅ!?」

「あたしの胸に飛び込んでくるなんて、甘えん坊さんだね♪」

「そ、それは日菜ちゃんが勝手に――――うっ、ぐぅ……!!」

 

 

 女の子のおっぱいってどうしてこんなに柔らかいんだろう。これは赤ちゃんが本能的に求めちゃうわけだよ。それにさっきから僕、女の子の胸の中にいる時間の方が長いような……。

 

 

「もう日菜先輩! そんな羨ま――生徒会長なんですから、不純異性交遊は慎んでください!」

「そうだよ、あたしは生徒会長なんだよね。だからいつでもどこでも秋人くんを抱きしめていいって校則を作るよ、今ここで!」

「えぇっ!? そんな最高――い、いくら生徒会長だからって、そんな横暴は認められませんって!」

「えぇ~? でもみんなも賛成って言ってるよ? ねぇみんな?」

「す、凄い同調圧力……!? 皆さん落ち着いてください! そりゃ私も秋人くんを抱きしめ――――えぇっと、とにかく皆さん教室に戻ってください!」

 

 

 つぐみちゃん、さっきからちょくちょく本音が漏れているような気がするんだけど……。あんなにド真面目なのに、自分の中の欲望を抑えられていないのが可愛いな。いつも自らの欲望を丸出しにしている日菜ちゃんとは大違いだけど、だからこそこのコンビで生徒会が成り立っているのかもしれない。気が合う仲間っていうのは波長が完全に合う人よりも、多少ズレていた方がいいっていうからね。

 

 まぁ今はそんなことよりも、日菜ちゃんの謎校則によって大盛り上がりしているこの場を静めるのが先決かな……。日菜ちゃんの唐突な一言で女の子たちのテンションは爆上がり。さっきから女の子たちの目付きに背筋が凍るというか、このままだとみんなに食べられてしまいそうだ。なんか舌舐めずりしている子もいるし、女子高の子たちって男に飢えてるのかな……? それとも子犬が学校に迷い込んできたみたいな感覚で可愛がられているだけなのか。

 

 

「おや? どうしたんだい子猫ちゃんたち? なるほど、私のお出迎えをしてくれているんだね。あぁ、子猫ちゃんたちの眼差しが熱すぎて、今にも火傷してしまいそうだよ」

「えぇっと、薫さん? 誰1人として薫さんに注目していませんけど……」

「そんな、私よりもこの学校で輝いている子は――――えっ、秋人?」

「秋人さん!? どうしてここに!?」

「薫ちゃん、麻弥ちゃんも」

 

 

 羽丘ってそこそこ生徒がいるはずなのに、どうしてこうも知り合いとエンカウントするんだろう……。未だに日菜ちゃんに抱きしめられ、女の子たちに囲まれているこの状況をあまり見られたくはない。いや、いつも自分の家でこうされているんだけど、野外でこうも迫られると恥ずかしすぎて死んじゃいそうなんだよ。

 

 

「これほどまでに大衆の注目を集めるとはね。秋人、やはり君には人を惹きつける才能があるようだ。現にこれほどまでの女の子たちを手玉にしているんだからね」

「そうなんだよね~。さっきから秋人くんにおっぱいを攻められて、気持ち良すぎて困ってるんだよ♪」

「ちょっ、何言ってるの日菜ちゃん! 手玉にもしてないし攻めてもいないから!!」

「秋人は見た目は幼いけど、いざという時に男らしくなるその野獣さが魅力的だね。私は女の子に対してそこまで尖ることはできないから、とても憧れるよ」

「そんなに肉食系じゃないからね僕!? むしろ草食系の要素しかないような……」

 

 

 僕がそう言った瞬間、日菜ちゃん、つぐみちゃん、薫ちゃん、麻弥ちゃんの4人は黙り込む。もしかして何かデリカシーのない発言をしてしまったのではないかと記憶の糸を手繰り寄せてみるが、特に不祥事発言はしていない。でもみんなの顔が少し赤くなってるし、一体僕が何をしたの……!?

 

 

「秋人くん、私とお風呂に入っている時にたまに手や腕が私の胸に当たってたんだよね。求められているかと思って、ちょっと興奮しちゃった……」

「つぐみちゃん!? そんなこともあったかもしれないけど、僕の家のお風呂は狭いから事故だよきっと!!」

「ジブンは秋人さんと一緒に寝ている時に、何度も何度も胸に頭を擦り付けられて新手のプレイを希望しているのかと思いました……」

「そ、そんな完全にセクハラじゃん……」

「私が『秋人と一緒にステージに上がりたい』と言った時、君はこう言ったね。『お姫様役の薫ちゃんと一緒だなんて、僕には釣り合わないよ』って。君が初めてだったんだよ、舞台の私を女性として見てくれたのは。いつも男性役ばかりやってるから、自分でも自分が麗しき乙女だということを忘れていたよ。そういうところが男らしいね」

「別に普通のことを言っただけだけど……」

「ほらね! これだけ肉食系なのに、まだ自分でも草食系だって思うの? さっきだって私のおっぱいをこねくり回してきたのに」

「どれもこれも狙ってやったわけじゃないからセーフ!!」

 

 

 みんなが話をどんどん誇張させているけど、薫ちゃんの話以外は完全に不可抗力だ。あぁ、痴漢冤罪っていうのもこうやって生まれるんだね……。どこからどう聞いても僕が悪いようにしか聞こえないから、そりゃ痴漢冤罪から逃れる術がないわけだよ。でも女の子たちにお世話されている情けない人生を歩んでいる時点で、みんなに反論することすらおこがましいのかもしれない。

 

 そんなこんなでもうすぐ授業の時間らしいけど、女の子たちは一向に教室に戻ろうとしない。迷子の子犬のように教室棟を彷徨っている僕や、カリスマ生徒会長の日菜ちゃん、羽丘のスターである薫ちゃんと濃いメンバーが勢揃いしているから、むしろ噂を聞き付けた子たちがこの場に集まってくる始末。早く用事を済ませてここから立ち去らないと、騒ぎが大きくなってもっと大変になりそうだ。

 

 

「そういえば、どうして秋人がここにいるんだい? まさか私に会いたくなって、居ても立てもいられず学校に忍び込んだ……というところかな? 女子高に忍び込むその勇敢さは見習いたいものがあるよ」

「いや見習わなくていいですから……。でも、三度の飯より自宅が好きな秋人さんがここにいるって確かに珍しいですよね」

「そりゃ出掛けるのは今でも怖いけど……」

「さっき用事があるって言ってたけど、誰に用事があるの? その手に持ってる手提げ袋と何か関係があるの?」

「それならそうと早く言ってくれればいいのに! 中に何が入ってるの?」

「ちょっ、日菜ちゃん勝手に見ないで!?」

「えぇ~? もしかして、何か見られちゃいけないものが入ってるのかなぁ~?」

「ひ、日菜ちゃんそんなに押さないで――――あっ!?」

 

 

 日菜ちゃんにスク水が入った手提げ袋をひったくられそうになったので、僕は慌てて彼女から離れようとした。

 

 しかし、その行動が命取りだった。

 彼女のハグから抜け出した際に、その反動で手提げ袋が手から離れて女の子たちの集団の方に飛んで行く。そして、それはたった今人混みを掻き分けてきた1人の女子生徒の足元へと落下した。

 

 

「あっ、ホントに秋兄いた! やっほーっ! こんなところで何してるの?」

「あ、あこちゃん!?」

「ん……? なんだろこれ……」

「あっ、み、見ちゃダメだ!!」

 

 

 あこちゃんは足元に落ちてきた手提げ袋を拾い上げると、何の躊躇いもなく中身を除く。僕の叫びも虚しく、この世で一番見られたくないモノをこの世で一番見られたくない子に見られてしまった。

 あぁ、これで僕の人生も終わりか……。こんな大勢の女の子の前でスク水を所持していたことがバレるんだから。間もなく僕は女の子たちに罵詈雑言を浴びせられ、ドMに調教されてしまうんだ。そして僕はこの女子高の生徒の玩具として、これから一生奴隷として生きていくことになる。あまりにも恐ろしい……。

 

 あこちゃんが手提げ袋に突っ込んだ手を引き抜こうとしている。あぁもうダメだおしまいだ……!!

 

 

「あれ~? 中に何も入ってないよ?」

「えっ、そんなことは……」

 

 

 僕はあこちゃんから手提げ袋を受け取り、袋の中に手を突っ込んでみる。

 あ、あれ……? 確かに何もない。一応中を覗き込んでみるけど、袋の中には何1つ入っていなかった。

 

 もしかして、どこかに落としちゃった?? 思い返してみると、友希那ちゃんとリサちゃんの誘惑から逃げるので精一杯で、袋の口がどうなっていたのかまでは確認してない。袋の口が空いており、逃げる過程で校内のどこかに落とした可能性は十分にある。となると、スク水が剥き出しのままこの辺のどこかに……。

 

 いや、でもこれは僥倖かもしれない。このままスク水が放置されれば、僕が持ってきたという証拠はなくなる。友希那ちゃんやリサちゃんが意図的にバラさない限り、僕の安寧は保たれるんだ。スク水を忘れた子には申し訳ないし、日頃お世話になっておきながらこんな裏切りをするなんて心苦しいけど、今日だけはクズ野郎の僕を許して欲しい。スク水を女子高に届けるミッションは、ニートの僕にはあまりにもハードルが高すぎたんだ。

 

 

「秋兄、何も入ってない手提げ袋を持ってたの? 変なの」

「そ、それは……」

 

 

 まぁ、そりゃそうなりますよねぇ……。スク水騒動を回避できたのはいいんだけど、だったらお前は何をしにやって来たんだって話になる。スク水を持ち込んだってだけでも犯罪級なのは分かってる。でも何の目的もなく女子高に来たってのも、それはそれでマズいような……いや、ただの変質者じゃん。どちらにせよ僕の立場が危ういのは変わりなく、気が動転してそれに対する言い訳すら考えつかない。あれ、これ詰んだのでは……?

 

 みんなの目が一斉に僕へ向く。これだけ注目されてしまったら、もう逃げることは許されない。ここにいる女の子たちの納得のいく理由を説明しなければ、この場を離れることはできないだろう。

 どうする? このまま豚箱行きになるのを待つ……? そうなれば毎日のオナニーライフも、エロ同人もエロ動画もエロゲーも嗜むことができなくなってしまう。それだけは絶対にダメだ!! そのためには、ここにいるみんなが満場一致で納得するような素晴らしい言い訳を考えないといけない。この崖っぷちから一発逆伝できるような最強の言い訳を――――――

 

 

「きょ、今日はみんなに会いに来たんだ。みんなが帰ってくるのが待ちきれなくて寂しくて、気付いたら羽丘に……。この手提げ袋は何かお土産を入れようと思ってたんだけど、みんなに早く会いたい気持ちが先行して忘れちゃって……」

 

 

 く、苦しい!! 咄嗟に出た言い訳だけど、女の子に会いたいから女子高に侵入するって、それそこらの変質者でも到底やらないような所業だ。少なくとも日菜ちゃんや薫ちゃんといった学校のカリスマたちの心を揺さぶれれば、その雰囲気に同調して周りの子たちも納得させられると思ったけど、流石にこの言い訳はマヌケ過ぎる。極端に言い方を変えれば、自分の欲求、いや性欲を満たそうとしているようなものだから。

 

 すぐさま周りから罵倒されたり冷たい目で見られる――――と思っていたけど、そんなことはなかった。

 むしろ何故か女の子たちは頬を赤くして、微笑みながら僕を見つめていた。予想外の反応に僕は唖然としてしまう。

 

 

「もう秋人くんったら、可愛いね~♪」

「うわっぷっ、日菜ちゃん!? く、苦しいって!!」

「秋兄、あこたちに会いに来てくれたの! 嬉しいな~♪ あこもぎゅってしてあげるね!」

「そ、そんなくっついたら色んなところが色んなところに……!!」

 

 

 左右から日菜ちゃんとあこちゃんに抱き着かれ、またしても僕の身体は女の子によって包み込まれた。アイドルバンドとして活躍してる日菜ちゃんのおっぱい、小さいけど密着すればその成長が程よく感じられるあこちゃんのちっぱい。どうしてこうなったのかは分からないけど、天国に昇ることに理由はいらなかった。

 

 

「わざわざ学校にまで来てジブンたちに会いたいだなんて、なんだか気恥ずかしいですね……」

「君の中には常に私たちがいるようだね。私たちの中にも常に君がいるから、これはその……両想いってやつかな」

「そこまで私たちと一緒にいたいだなんて……だったら、学校がある時間以外はずっと一緒にいるね♪」

 

 

 麻弥ちゃんも薫ちゃんもつぐみちゃんも同じく、僕の苦しい言い訳に対して咎めるどころか寛容な雰囲気を醸し出している。それは周りの女の子たちも同様であり、『私も秋人くんに会いに来てもらいた~い♪』とか、『秋人くんに求められるなんて羨まし~い♪』とか、黄色い声があちこちから聞こえてきた。何度も言ってるけど、本当にこの学校の女の子たちの思考回路はどうなってるんだか……。この状況に浸っている僕が言うのもおかしいけどさ。

 

 しかし、これはこれで結果オーライかもしれない。これでスク水騒動に悩む必要もなくなったので、あとは授業の時間になってみんなが教室に帰ったところで僕も家に帰ればいいだけだ。スク水を忘れてしまった子には申し訳ないけど、ここは僕の立場と名誉の保身のために許して欲しい。ド底辺のクズニートに名誉も尊厳もあったものじゃないけど、プライドだけはいっちょ前に高いのがニートの特徴だからね。

 

 これでとりあえず一安心。友希那ちゃんとリサちゃんが口を滑らせなければ、僕の犯罪行為がバレることもない。そのためには1日だけ2人の性奴隷になれって要求が来るかもしれないけど、それはそれでまぁ……いいかな。決してドMじゃないよ? ただ自分の立場を守りたいだけだから!

 

 

「ん? 秋兄、ポケットから何か出てるよ? ハンカチ?」

「えっ、持ってきた記憶が――――――あ゛っ……!!」

 

 

 あこちゃんにそう指摘され、僕は後ろポケットからはみ出ていた紺色のポリエステル物体を手に取った。

 これは見たことがあるどころか、今まで僕を惑わしてきた忌まわしき物体。この世の男が憧れる神秘の服――――スク水だった。

 

 

 ここで全てを思い出す。

 そうだ、友希那ちゃんとリサちゃんから逃げる時、スク水を袋に入れる時間を惜しんでズボンのポケットに入れたんだった。後から入れ直そうと思っていたけど、逃げるのに必死でそのことをすっかり忘れてしまっていた。

 

 今、僕の手にはスク水。誰がどう見てもスクール水着。学校指定されていて全国で流通しているはずなのに、とっても卑猥に見えるスクール水着。それが僕の手にある。

 そして、みんなの目線の向きもスクール水着。さっきまで異様なまでに騒がしかったが、今は異様なまでに静かだ。

 

 

「あ、それあこの水着だ! そういえば、今朝秋兄の家に行った時に置いてきちゃったんだよね。まさか、届けに来てくれたの?」

「あ、う、うん、そうだけど、そうなんだけど……」

「わぁ~い! ありがとう!」

 

 

 どうやらあこちゃんのモノだったらしいので、これで僕の本来の目的は達成された。

 達成されたのはいいんだけど、みんなが静まり返っているこの状況。冷汗が止まらない。

 

 

 もう言い訳は通用しない。今度こそ本当に人生の終わり……!?!?

 

 

「なるほど、秋人くんがあこちゃんの水着をねぇ……」

「なんでニヤニヤしてるの日菜ちゃん……??」

「いやぁ、溜まった性欲を処理したスク水をわざわざ持ち主に返しに来るなんて、秋人くんへんた~い♪」

「ちょっ、何言ってるの!?」

「秋人くん、そんなに溜まってたんだね。ゴメンね、気付いてあげられなくて……」

「つぐみちゃん、ち、違うんだ!!」

「言ってくだされば、いくら忙しい朝と言えどもお相手しましたのに……」

「ま、まぁ思春期の男の子なら健全だと思うよ。う、うん……」

「だ、だから誤解だって!!」

 

 

 ガールズバンドのみんながまたしても斜め上の反応をする中で、周りの女の子たちも『秋人くんのエキスが詰まった水着なら、喜んで着ちゃう!』とか、『どんな匂いがするのかな? お持ち帰りしたい!』とか、もう手が付けられないくらいに阿鼻叫喚の現場となっていた。もし手が付けられても触れたくないけどね……。

 

 

「秋兄の想いがたっぷりつまったこの水着、大切に着させてもらうね!」

「どんな想い!? 絶対に卑猥なこと考えてるよね!?」

「秋兄が使ってくれた水着だぁ……♪」

「うっ……」

 

 

 もうダメだ、この学校。早く何とかしないと……。

 




 投稿にかなり間が空きましたが、新年からアニメ3期も始まるってことで投稿もコンスタントに再開するつもりです。
 アニメ3期ではRASのメンバーもクローズアップされると思うので、この小説でも登場させられたらいいなぁと思っています。個人的には六花ちゃんが好きなので、信念一発目のメインは六花ちゃんになるかも……


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閑話02:巨乳貧乳大戦争

 あけましておめでとうございます!
 今年もまったりと更新していきますが、新年早々こんなネタで大丈夫なのだろうか……?


 

 今日も今日とてガールズバンドの子たちが僕の家に遊びに来ている。とは言っても部屋掃除をしてくれたり料理を作ってくれたりと、相も変わらずお世話をされているだけなんだけどね……。

 みんながせっせと家事に勤しんでいる中、僕は部屋に落ちていたとあるモノに集中力を削がれていた。

 

 

「どうして女の子の下着がここに……」

 

 

 僕は部屋に転がっていた水色の下着を摘まみ上げる。一般の女子高校生のサイズに比べれば一回り大きい気もするけど、ガールズバンドの中には巨乳の子が何人もいるので誰のかは検討が付かない。これがいつから落ちているのかも分からないし、僕の部屋は連日みんなが出たり入ったりしてるから、持ち主を特定することは不可能だ。

 

 この前のスク水の件といい、どうしてみんなは女の子として見られて恥ずかしいモノを忘れるのだろうか。今回の件はスク水の件とは違って、学校に届ける必要がないのは救いだけどね。このブラジャーもみんなの見える位置に置いておけば、わざわざ僕から声をかけなくても誰かが持ち主に届けてくれるだろう。スク水の件で学んだ、僕は余計なことをしない方が良いと。羽丘の時のように辱めを受けるのだけはゴメンだからね。

 

 

「なんだお前、私のブラに興味あるのか? 言ってくれればいくらでもあげるのに」

「えっ、これ有咲ちゃんのだったの!? って、いつの間に!?」

「そりゃ部屋の真ん中で男が女の下着摘まんでれば目立つだろ……」

「ぼ、僕は家主として部屋に落ちている得体の知れないモノの正体を確かめようと……」

「お前最近大胆になってきてるよな。聞いたぞ、女のスク水を片手に羽丘に乗り込んだって話。変態かよ~」

「事実を捻じ曲げすぎでしょ!? !!」

 

 

 有咲ちゃんはニヤつきながら僕をからかってくる。

 変態なのはそうかもしれないけど、僕は忘れ物のスク水を届けてあげただけだ。つまり善行であり、自分で変態って言うのはいいけど他人に言われる筋合いはない。役得な状況が多々あったことは事実だけどさ……。

 

 そんなことよりもこのブラジャーのサイズ、かなり大きいな。これが有咲ちゃんのってことは、僕が思っている以上に彼女の胸が大きいってことだ。確かに小柄な体型に対してこのおっぱいのボリュームは、誰の目から見ても巨乳に見えるよね。

 

 

「どうした私のおっぱいをジロジロ見て。そんなに触りたいのなら触ってみるか?」

「ホントに!? い、いや、そんなことは……」

「やっぱりお前も男だから、おっぱいが大きい女が好きなんだよな。いやいいんだぞ。男としてなら当然の欲望だから」

「僕がおっぱい魔人みたいな言い方しないでよ……」

 

 

 違う、僕はおっぱい魔人だ。甲斐甲斐しくニートの僕のお世話をしてくれるガールズバンドのみんなに対し、並々ならぬ劣情を抱いたことは何度もある。僕も健全な思春期男子だから、同じ年代の女の子のおっぱいに目が行っちゃうのは仕方のないことなんだよ。それは思春期男子の本能であり、決して矯正することはできない欲求だ。だから悔い改めることはない……はず。

 

 なんてことは、口が裂けてもこの場で言えないけどね。言った瞬間にまたからかわれるのがオチだろうから……。

 

 

「秋人くん、やっぱり大きいおっぱいの方が好きなんだね……」

「りみちゃん!? そ、そういうのじゃないから……」

「そうだぞ。いつも秋人からの卑しい目線が私のおっぱいに集中してるから」

「え゛っ、どうして知ってるの!?」

「なんだ、やっぱりそうだったのか」

「もしかして、騙された……?」

「秋人くん……」

「りみちゃんはどうして物悲しそうな顔してるの!?」

 

 

 僕の変態的行動に落胆したのか、それともりみちゃん自身が貧乳だからコンプレックスを抱いているのか……。

 それにしても女の子って、本当に男の下劣な目線を感じ取ることができるんだね。単に噂話かと思ってたけど、欲情を抱いている男が淫らったらしいオーラを放っているからかもしれない。そりゃ鼻の下を伸ばして気持ち悪い顔をしてる奴が近くにいたら気付くか。

 

 

「秋人は巨乳好きだからなぁ。残念ながらりみのおっぱいじゃ無理だ」

「何が無理なの!? 絶対に僕を辱める想像したでしょ!?」

「無理じゃないもん! 私だって秋人くんのを挟めるもん! 多分……」

「は、挟むってそんな……」

「こう見えてりみはむっつりだからな。清純なイメージは捨てておいた方がいいぞ」

「ち、違うの! ただ秋人くんに何をやってあげたら気持ちよくなってくれるかを考えてただけだから!」

「それがむっつりだって言ってんだよ……」

 

 

 僕が有咲ちゃんをエロい目で見ているように、りみちゃんも僕のことをエロい目で見てたんだね。

 うん、それってちょっとだけ興奮する……!! さっき有咲ちゃんも言った通り、りみちゃんはガールズバンドの中でもトップクラスに純粋無垢で清純なイメージが強い。そんな子に劣情を向けられるなんて、思春期男子としては快感にしかならないだろう。これは僕だけじゃないはず。僕だけじゃない……よね?

 

 

「巨乳は敵。全面戦争も辞さない」

「おたえ……お前急に入ってきて物騒なこと言うなよな」

「女の子はおっぱいだけじゃない。例えおっぱいだけだとしても、大きさなんて関係ない。そうだよね秋人?」

「いや僕に聞かれても……」

 

 

 突然会話に乱入してきたたえちゃんだが、何故か好戦的だ。いつもは澄ました顔で我関せずな発言をする彼女なので、ここまで臨戦態勢なのは珍しい。どうしてそこまでやる気に満ち溢れてるのかは知らないけど、そもそも脳内お花畑ちゃんの彼女の発言意図を知ろうとするだけ時間の無駄かもしれない。

 

 そういやよく見てみれば、たえちゃんもりみちゃんと同じく胸は慎ましやかな方だよね。なるほど、だから巨乳の有咲ちゃんに対して戦争を仕掛けようとしているのか。ていうか、貧乳ちゃんって巨乳ちゃんを目の敵にすることが良くあるよね。やっぱり女の子の象徴が慎ましやかだと、多少なりとも気にしたりはするのだろうか。うん、女の子って複雑だ。それでいて迂闊に足を踏み入れない方が良い話題かもしれない。

 

 

「秋人くんは大きい方が好き? それとも小さい方が好き?」

「りみちゃんまでそんなことを……。でも、その質問って安直に答えちゃダメな気がするんだけど」

「大丈夫、ポピパはおっぱい不祥事でグループ解散になったりしない」

「さっき有咲ちゃんに戦争を仕掛けようとしてなかったっけ……?」

「有咲が羨ましかっただけ。金髪ツインテールのロリ巨乳とか、男子の妄想の性奴隷でしかないそのキャラに」

「おい、それ褒めてねぇだろ! そんなこと言われても全然嬉しくないからな!?」

 

 

 そりゃ一般の男子高校生だったら、同年代の胸が大きい子をオナネタにして自慰をするなんて日常茶飯事だろう。最近の子は発育もいいので、もし僕が学校に通っていたら毎日のオナニーが止まらなくなっていたかもしれない。そこに有咲ちゃんがいればなおのこと……。

 

 ちなみに言っておくけど、僕はガールズバンドのみんなをネタに1人でしたことはないからね? 彼女たちによく似たキャラが登場している同人誌は何冊か持ってるけど、それとこれとは話が別だから!!

 

 

「有咲の身体って犯罪臭が凄いよね。一緒にお風呂に入った時に見入っちゃったもん、私変態じゃないのに」

「いやお前は十分変態だぞ。それに人の身体をジロジロ見んなよ」

「でも有咲ちゃんの身体ってとても綺麗だと思うよ。肌も白いし髪も綺麗だし、おっぱいは大きいしお尻は小ぶりだし」

「真顔で人の身体を解説すんな! 分かった、これから私の身体を見る時は金取ってやるからな」

「むしろお金を払えば見せてくれるんだね……」

「なんだ、私と一緒に風呂入りたいのか? お前とだったら特別にタダで一緒に入ってやるよ」

「タダで……?」

「やっぱりおっぱいか……」

「秋人くん、おっぱいに負けたんだね……」

「違う、そういう意味じゃない!」

 

 

 もはやどう答えたらこの場を宥められるのか分からない。でも男ならおっぱいに負けてしまうのは当然の欲望だと思うけど、それをはっきりと公言したら本当に負けた気になるのでやめておこう。

 

 

「そういえばお風呂の準備できたから、秋人一緒に入ろ?」

「えっ、たえちゃんと?」

「ちょっと待て。私が先に予約してたんだけど?」

「私たちに内緒での予約は無効」

「それは僕も聞いてない……」

「だったら、今お買い物に行ってる香澄ちゃんと沙綾ちゃんが帰ってきたらみんなで入ればいいんじゃないかな?」

「それは流石に窮屈だと思う……」

 

 

 以前は僕を含めて5人でお風呂に入ったことがあったが、案の定まともに動けるような状況ではなかった。まぁあの時はみんなに抱き着かれていたし、その意味でも湯船から出られなかったんだけど……。風呂場のどこを見渡しても女の子の裸ばかりで、左右からおっぱいを押し付けられ、目の前では身体を洗う女の子が――――今思えば異常だけど楽園だったな……。

 

 

「みんなで湯船に浸かるとなると、どれだけお湯を入れても溢れるから無駄そうだな。水道代の節約にはなるかもしれないけどさ」

「その場合、有咲がおっぱいをもっと削ればいい。おっぱいが無駄に大きいからお湯が溢れちゃうんだよ」

「はぁ? おっぱいの分だけかさ増しされてんだよ。巨乳の私に感謝するんだな」

「私たちなら湯船が窮屈じゃない。つまり私とりみが秋人とお風呂に行くべき」

「なにこの平行線……」

 

 

 しょーもないことで争っているポピパ勢。それほどまでにおっぱいの大小は女の子にとって重要ってことなのかな? 男が自分の局部の大きさでマウントを取り合うのと同じことなのかもしれない。どちらにせよ醜い争いなことには変わりないけどさ……。

 

 

「逆におたえとりみが湯船に入っても入らなくても、お湯の量は大して変わらなそうだよな」

「良く言えばスレンダーボディとロリボディだもんね。特に他意はないけど……」

「悪く言えばすっかすかだってことだろ」

「せっかく秋人くんがオブラートに包んでくれたのに、どうして言い直したの!?」

「りみ、これが乳肥やしの本性だよ」

「あぁん? 私のおっぱいには秋人の夢がたっぷり詰まってんだよ」

「サラッと僕を争いに巻き込むのやめてくれないかな……」

 

 

 そりゃね、ロリ巨乳のおっぱいを触ってみたいと問われれば頷く自信がある。思春期だろうがそうでなかろうが、男ならおっぱいの大きい子がいたら触りたくなる衝動に駆られるだろう。それこそ有咲ちゃんが言うように一種の夢のようなものだ。あの双丘を摘まんでみたい、揉んでみたい、挟まれてみたい、鷲掴みにしたいetc……男の夢は止まらない。その欲望を素直に曝け出せれば今頃極楽浄土の世界に浸れていたのかもしれないが、未だに羞恥心があるあたり僕もまだ男としては未熟なのかもしれない。

 

 

「結局、秋人は巨乳派なのか貧乳派なのかどっちなんだよ? お前の選択次第でこの戦争は終結するんだぞ」

「僕にそんな重大な決定権があっただなんて……」

「秋人の決定でこの世の貧乳が救われるか、巨乳が余計に無駄口を叩けるようになるか、どちらかが決まるよ」

「まさかの世界規模!? なおさら選びにくいよ!!」

 

 

 何番煎じかも分からないおっぱい騒動だと思っていたけど、いつの間にか国際問題になるまで発展していたらしい。逆におっぱいの話題だけで暇つぶしできるんだから平和なのかもしれない。

 そもそも、巨乳と貧乳の境界ってどこなんだろう……? 女性の年代ごとに平均バストが公開されているので、それを基準にしているのだろうか。それとも自分の所属するコミュニティの中で大きさを競っているのか。うん、考えるのはやめよう。女性たちの闇が垣間見えそうだから……。

 

 

「秋人くん、おっぱいが小さくて悲しんでいる女の子ってたくさんいると思うんだ。だからね、私を選んでくれると嬉しいな」

「り、りみちゃん近い……!!」

「おいりみ、情で訴えかけずに正々堂々胸で勝負しろ。それに自分だけ抜け駆けすんな」

「抜け駆けはダメだよりみ。それに胸だったらりみより私の方が小さいはず。だから秋人、私を選んで」

「おたえちゃんよりは私の方が小さい……はず」

「さっきまでおっぱいが小さいことを悔やんでなかったっけ!? どうしてこうなったの!?」

 

 

 胸の大きさでマウントを取る戦争かと思ったら、今度は急に小ささでマウントを取り始めた2人。もうこの戦争の結末をどこに着陸させればいいのか分からなくなってきた。まぁ最初から結果なんてどうでもいいような争いなんだけどさ。

 

 

「それじゃあ質問の仕方を変えて、秋人的にはちっぱいの女の子はアリ? なし?」

「どうありなのかを聞きたいけど、僕はいちいち気にしないよ。それにちっぱいに興奮してたら、あこちゃんの目の前で平静を保っていられないでしょ」

「良かった、秋人がロリコンじゃなくて。でもロリ巨乳の有咲には興奮するんだよね?」

「ちょっと待って! この流れはマズい」

「秋人、お前やっぱロリコンだったのか。それでいて胸が大きい子に欲情するなんて……変態」

「そう来ると思ったけど、違うからね」

「私も背は有咲ちゃんと同じくらいだよ! 私はどう??」

「りみちゃん今日ちょっとおかしいよ。落ち着こうね」

 

 

 僕が幼児体型好きとあらぬ汚名を着せられる展開になるのは読めていたから、至って冷静にツッコむことができた。さっきまでやいのやいの争っていたのに、急に結託して僕のことをロリコン扱いしてくるんだもんなぁ……。女の子たちの同調圧力って怖い。それとも争うほどに仲が良いと安心するべきなのか。

 

 

「僕は別に女の子を身体で見たりはしないよ。当たり前のことかもしれないけど、それだけは絶対だから」

「「「…………」」」

「えっ、なに!? 僕なんか変なこと言った!?」

「いや、意外だなぁと思ってさ。この前風呂に入った時はおっぱいに埋もれて嬉しそうにしてたから」

「あれは恥ずかしがってただけだって! そりゃあれだけのおっぱいに挟まれたら誰でも恥ずかしいでしょ!」

「でも秋人のおかげで、ちっぱいでも頑張れるんだって分かったから自信出てきた」

「そうだね、私たちでもお風呂に入れば秋人くんを興奮させられるんだって」

「ちょっといい話になりかけてたのに、どうしてそっち方面に行くかなぁ!?」

 

 

 この戦争を平和的に終結させるいいセリフだと思ったのに……。なんかもう僕よりもみんなの方が性欲も欲望も強い気がする。普段からみんなに『オナニーするな自分たちをオカズに使え』だの文句を言われてるけど、僕よりも情欲が強い子たちにそんなことを言われる筋合いはないんじゃないかな……。

 

 

「ということで秋人、お風呂行こ」

「ということってどういうこと!? また一緒にお風呂入るの!?」

「もしかしてお前、おっぱいの話題のせいで意識してるのかぁ?」

「そ、そりゃするに決まってるでしょ!」

「私、前よりも大きくなったもん! だから秋人くんに見られても恥ずかしくないよ!」

「いや見ないから! そこまで下心はないからね!?」

「とか言いながら毎回下半身抑えて悶えてるくせに。ほら、ワガママ言ってないで行くぞ」

「有咲ちゃん腕絡めないで!? ちょっとぉおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

 

 僕はみんなに引き摺られて無理矢理お風呂場に連行された。おっぱい尽くしのあんな話題があった後で混浴だなんて、僕の目線がどこへ向くかなんて火を見るよりも明らかだ。正直巨乳だろうがちっぱいだろうがおっぱいはおっぱい。こんな可愛い子たちのおっぱいだったら大きくても小さくても興奮が湧き上がるのは確実。もはや欲情と恥辱の熱で全身が干上がってしまってもおかしくない。僕、生きて帰って来られるのかな……?

 

 ちなみにその直後に香澄ちゃんと沙綾ちゃんが買い物から帰ってきて、一緒に混浴することになったことでお風呂場が僕の想像していた未来以上の肌色空間になったのは別の話。

 そして、僕がどうなったのかも別の話……。

 

 




 もうすぐバンドリのアニメ3期が始まりますね。
 私が一番怖いのは、この小説からバンドリを知ってアニメを見始めた人がキャラの違いに驚いてしまうことです(笑) 当たり前ですがこんなに下ネタが横行するアニメではないので安心してください。

 私のラブライブ小説の方で前科があるので、一応懸念してたりします(笑)


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お寝惚け少女たちを甘やかす

 たまには甘やかす側になっても良くないですか??
 とは言っても主導権は女の子たちに握られっぱなしですけど()


 

「秋人様」

「わっ、黒服さん!?」

 

 

 あまりにも唐突な登場に、僕は椅子から転げ落ちてしまう。耳元で囁かれるまで彼女の接近に全く気付かなかったんだけど、どうやって僕の部屋に忍び込んだんだろう? こころちゃんを影ながら見守るのが仕事だから、そのスキルを活かして隙だらけの僕の背後に忍び寄るのは余裕なのかもしれない。

 

 黒髪、黒スーツ、黒サングラスの黒服さんは、弦巻こころちゃん専属のボディガードだ。噂によるとどうやら四六時中見守っているらしく、時折ライブの手伝いで美咲ちゃんにも接触しているみたい。見た目は麻薬Gメンのような厳つい風貌なのだが、実際には自分たちの主人やその友人たちをこっそりとサポートする優しい人たちなんだ。まぁその裏で何やら怪しいことを画策しているみたいだけど……。変なアロマを開発し、それを僕の部屋に振り撒いてこころちゃんを発情させ、僕に襲い掛からせたのは記憶に新しい。

 

 もしかして、今日もまた何か厄介事を持ち込んできたのか……?

 

 

「突然のご訪問、申し訳ございません。今日は秋人様を実験台――いえ、日頃の感謝の気持ちとして、我が弦巻財閥の新製品をお届けに参りました」

「ねぇ、さっき不穏な言葉が聞こえたんだけど? ねぇねぇ??」

「日々お嬢様が笑顔でいられるのもあなたのおかげです。あなたこそお嬢様の婿殿に、そして弦巻家の未来を担うに相応しい。そんな秋人様のために我が弦巻財閥は、予算数億をつぎ込んだ新製品を開発したのです」

「スケールが大きすぎる!! ニート1人を相手にする規模じゃないでしょ!?」

 

 

 弦巻家の人たちは僕をどんな目で見ているのか知らないけど、自分たちの未来を担う人材に僕を選んだのは明らかな人選ミスと言わざるを得ない。それにいつの間にか僕の未来を勝手に決められちゃってるし。もちろんこころちゃんと結婚すれば弦巻家がバックに付くから怖いものなしになるけど、ニートの僕が財閥を背負うには余りにも重すぎる。こころちゃんの思考回路がぶっ飛んでいるのって、もしかして弦巻家の血筋によるものなのかな? そうと言わざるを得ないくらいおかしいよ弦巻家。

 

 

「こほん、話が脇道に逸れてしまいました」

「その割にはテンションが高くてノリノリだったけどね……」

「秋人様の前だとどうしても舞い上がってしまいまして……。それよりも、今日は弦巻財閥特製の新製品を――――」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ふわぁ~もうこんな時間だね」

「このメンバーでお泊り会をするのは初めてだったから、ついつい話し込んじゃったね」

「明日も学校があるから、今日はもう寝ましょうか」

 

 

 黒服さんが襲来した日の夜、僕の家ではパジャマパーティが行われていた。とは言っても、僕は女の子たちが楽しそうに喋っている様子を見ているだけだったんだけど……。

 この場にいるのは僕を除いて彩ちゃん、花音ちゃん、千聖ちゃんの同学年仲良しトリオだ。同じバイトだったり同じクラスだったり同じバンドメンバーだったりと、輪を描くような繋がりを持っているのがこの3人。そして赤、青、黄色で信号機メンバーでもある。3人の頭だけを見てると目がチカチカするんだよね。そのせいで目が覚めちゃいそう。

 

 

「秋人くん、何か失礼なことを考えてない?」

「えっ!? い、いや別に?? 僕も眠たいから早く寝たいなぁって思ってただけだよ」

「いいえ、卑猥な顔をしていたもの。罰として、今日は私の抱き枕になってもらうわ」

「こじつけでしょそれ!? 目的を達成するためなら難癖でも何でも良かったやつだよね!?」

「そうだね。秋人くんエッチな顔してたし、私の抱き枕にもなるべきだよ」

「秋人くんに舐め回されるような目線で見られてたし、私の抱き枕にもなって欲しいな」

「2人も乗ってくるんだ。ていうか3人も抱き着けるような身体の大きさしてないからね……」

 

 

 それ以前に卑猥でエッチで女の子を舐め回す目線を送っている男に抱き着きたいって、矛盾しまくりでもう訳分からないな……。やはり僕を抱き枕にするための口実が欲しかっただけらしい。

 しかし、僕の身体は一般の女子高校生よりも一回り小さい。りみちゃんや千聖ちゃんとどんぐりの背比べができるくらいなので、僕の背丈がどれだけ男子離れしているのか分かってもらえるだろう。もちろんそんな反論をしたところでみんなが引く訳ないのは重々承知してるけどね。

 

 そんな感じで相変わらず女の子たちの勢いに流されそうになった僕だけど、流石にベッドに4人は窮屈過ぎるため彩ちゃんたちは布団で寝ることになった。とは言うものの一緒の部屋で寝ることには変わりなく、部屋もそれほど広くないため人口密度はそれほど大差ない。まぁこんな可愛い子たちと同じ空気を吸いながら睡眠が取れるだけでも役得だと思っておこう。

 

 そして、僕はここで黒服さんから貰った弦巻財閥の新製品を取り出した。それは安眠効果のあるアロマミストを放出するデフューザー。これの電源を入れて置いておくだけでアロマミストが部屋中に散布され、その効能により快適な睡眠が取れるとのこと。僕が日々女の子に囲まれて性欲が溜まり、夜な夜な自慰行為をしているせいで睡眠不足になっているだろうとのことで開発されたらしいんだけど、余計なお世話だよ……。

 

 そんな余計なことを考えながらも、僕のために作ってくれたのなら無下にするのは弦巻家に申し訳ないと思い使ってみることにした。

 効果は思ったより凄く、プラシーボ効果かもしれないけどベッドインしてから熟睡までの時間はあっという間で寝心地も良かった。いくらプラシーボ効果であっても、気持ちよく睡眠が取れるのならそれに越したことはない。彩ちゃんたちも同じようにすぐに眠ってしまったので、体感だけじゃなく本当に効果があるみたいだ。

 

 

 夜も更け、当然ながら部屋は静けさに包まれていた。僕は寝る際に部屋の電気を完全に消灯させる派閥のため、夜更けになると部屋の中は闇に支配され何も見えなくなる。でも眠っているのだから何も見えようが見えまいが問題ない。そう思っていた。

 そんな中、耳元で何かを囁かれる声が聞こえたことで僕は目を覚ます。

 

 

「秋人くん、秋人くん……」

 

 

 声を掛けられるのと同時に身体を軽く揺らされているせいか、眠気が残りつつも意識が目覚めるのは早かった。視界も最初は真っ暗闇に支配された空間に遮られながらも、部屋に僅かに残る電源タップのスイッチの光を目が吸収し、徐々に僕を起こした張本人が明らかとなる。

 

 

「彩ちゃん? どうしたの……?」

 

 

 僕を起こしたのは彩ちゃんだったんだけど、何やらやけにそわそわしている。普段から慌ただしい彼女だけど、こんな夜中にこれほどまでに焦燥に駆られているのには理由があるのだろう。暗い部屋の中では彼女の表情を完全には窺えないが、相当困った様子なのは確かだ。

 

 

「あのね秋人くん……」

「う、うん……」

「おしっこ……」

「はい?」

「おしっこ……」

「いや2回言わなくていいから! 聞こえた上での『はい?』だよ!?」

 

 

 麗しき女の子が決して口にすることのない言葉を実際に聞いてしまったから、思わずツッコミを入れることすら忘れて聞き返してしまった。もしかして僕は夢を見ているんじゃないかと思ったけど、残念、これは現実だ。

 

 彩ちゃんがどうしていきなりこんなことを言いだしたのかは分からない。仮にもアイドルなんだし、アイドルでなくとも思春期女子として相当マズい発言であることは確かだ。

 

 

「トイレに行きたいの? だったら1人で行けばいいでしょ……」

「暗くて何も見えないから、千聖ちゃんや花音ちゃんを踏み付けちゃったら悪いなぁと思って。だから秋人くん、連れてって」

「踏み付けちゃ悪いのは分かるけど、僕がついて行く必要はないっていうか……」

「秋人くんは私のおしっこ見たくないの? 私のおしっこが見られないっていうの??」

「酔っ払いの絡みみたいになってるよ!? ん……?」

 

 

 ここで気付いたことがある。彩ちゃんの顔が赤い。トイレを我慢しているからとか、そんな理由では片付けられないくらい赤かった。女の子のこの表情は見覚えがある。そして、彩ちゃんがこうなっている原因はすぐに分かった。

 

 

「秋人様」

「黒服さん、やっぱり――――って、またガスマスク着けてるし……」

 

 

 今朝と同じように、黒服さんが僕の背後からにゅっと現れる。ただでさえ部屋が暗いのに、黒のスーツに黒のガスマスクだとカメレオンのような擬態のようで近くにいても気付きにくい。正直声を掛けられるまで気配すら察知できなかったよ……。

 

 

「また何か仕組んだでしょ……」

「仕組んだとは人聞きの悪い。秋人様がお嬢様に手を出されなかったのが原因だといいますのに……」

「こころちゃんが発情して母性たっぷりになっちゃったあの事件ね。ていうか僕関係なくない?」

「秋人様がお嬢様と子作りしなかった理由、それはお昼だったから気分が乗らなかったのだろうと判断しました。性夜という言葉があるように、人間の性欲が最も活発になるのが夜。つまり、秋人様が性欲に支配された獣になる夜こそ性行為のヤり時。そのため女性の方々には積極的になっていただくよう、少々細工を加えさせていただきました」

「なるほど――――ってなると思う!? それに全然少々じゃないじゃん! 彩ちゃん今にもお漏らししちゃいそうだよ!?」

「排尿プレイもまた一興ですよ」

「どこが……」

 

 

 僕の予想通り、彩ちゃんがこうなってしまったのは黒服さんが持ち込んだアロマのせいだ。どうやら今回は発情の促進と同時に女の子の尿意を加速させるような成分が含まれているらしく、彩ちゃんを見てみると股をもじもじさせているのでその効力が良く分かる。性行為を促すなら促すで、もうちょっとノーマルなプレイになるように仕向けてくれないかな……。いや別にみんなと性交渉をしたいなんて欲望はないけどさ。

 

 

「ちなみに皆さんは夢見心地の状態です。これもアロマの効力ですね」

「それって寝惚けてるってこと?」

「そういうことです。つまり、今ならどんなアブノーマルなプレイをしようが皆さんの記憶には残りません。端的に言えばヤり放題なのです」

「弦巻家は僕に感謝の気持ちを送りたいのか、それともレイプ魔に仕立て上げたいのか分からなくなってきたよ……」

「どちらにせよ、秋人様が女性との性交渉に興味を持っていただければ私たちの勝利でございます。その勢いでお嬢様としっぽりとなさってくだされば、もう何も言うことはありません」

「もう裏事情を隠す気全くないよね……」

 

 

 僕に何を期待しているのかは知らないけど、こんなニートの相手をする時間なんて無駄だと言ってやりたい。ただこの家を貸してもらっている手前、弦巻家の人たちには強く出られないのが実情。そのため定期的に送られてくる謎の新製品の実験に素直に付き合うしかないんだ。知ってはいたけど、ヒモって尊厳ないよね……。

 

 

「それでは私はこれにて失礼します。ガスマスクをしているとは言えども、この空間にいたら私まで秋人様に排尿を手伝ってもらうはめに……。悪くはないですが」

「ちょっ、悪く思ってよ!?」

「あとは皆様とごゆっくり。お子さんのお名前、明日にでも教えてくださいね」

「教えないよ!? そもそも作らないし!!」

 

 

 言いたいことだけを言い放ち、黒服さんは部屋から姿を消した。相変わらず音もなく消えていったけど、やはり弦巻家の黒服さんたちはみんな特殊な訓練でも受けているのだろうか……。

 

 

「秋人くん、トイレ……行こ?」

「1人でも行けるでしょ、彩ちゃん」

 

 

 黒服さんとの会話が終わったのも束の間、また彩ちゃんとトイレプレイの駆け引きが始まる。

 どうやら寝惚けているのは間違いないようで、顔を見るだけでも眠そうにしているのが分かる。それでもトイレに誘ってくるあたり、弦巻家特製のアロマが強く効きすぎている影響だろう。

 

 

「仕方ないなぁ秋人くんは。だったら私も秋人くんのおしっこを手伝ってあげるよ」

「どうして僕が妥協される立場になってるの……。それに私『も』って、僕は彩ちゃんのトイレを手伝うって承諾した覚えはないからね」

「もう~秋人くん文句が多いよ。女の子のおしっこに興味があるって素直になった方がいいよ」

「素直になったら僕が異常性癖の持ち主だと思われるからヤダ」

「だったらここでしちゃうよ? それでもいいの?」

「うっ、それは……」

 

 

 彩ちゃんは寝惚けているのでどこまで本気なのかは分からないけど、寝惚けているからこそ判断が鈍ってここで垂れ流すという暴挙に出てしまいそうだ。それがご褒美なのかそうでないのかは個人の性癖に委ねられるけど、少なくとも僕は女の子のお漏らしで悦ぶような変態ではない。かと言ってトイレに行くとなれば一緒に個室に入ることになる訳で……。それはそれで彩ちゃんが寝惚けているから誤ってぶっ掛けられそうなんだよね。

 

 とにかくここで垂れ流されては困るので、トイレについていくフリをして、いざトイレの前に付いたらやや強引だけど彩ちゃんだけを個室に押し込む。この作戦で行くしかない。

 

 

「ほらほら、秋人くんも一緒にすっきりしよ? なんなら一緒にトイレ入る?」

「入らないから!! トイレの前までは一緒に行ってあげるから、それで勘弁してくれない?」

「え~おしっこした後に拭いてくれないの~?」

「ふ、拭くわけないでしょ!? 変なこと言ってないで、早く行くよ!」

 

 

 ダメだダメだ、想像しちゃダメだ!! 彩ちゃんは清きアイドルなんだから、例え妄想であっても彼女を穢すことだけは許されない。してないしてない、あそこをふきふきするような妄想は絶対にしてないから……。

 

 雑念を振り払うため、彩ちゃんを連れてこの部屋から出ようとする。

 しかし、何故か僕の足が動かない。部屋はみんなが片付けてくれているはずなので、散らかっているモノに足を封じられているってことはないはず。いや、それどころか僕の足を拘束する力がどんどん強くなっている。そういえば彩ちゃんとのゴタゴタで忘れてたけど、このアロマの効いた部屋にはまだ2人ほど――――――

 

 

「秋人く~ん、おしっこ~」

「花音ちゃんもか……」

「彩ちゃんだけおしっこのお世話をしてもらうとかズルいわよ……」

「千聖ちゃんも起きてたのか……。ていうかお世話しないからね」

 

 

 僕の両脚をがっちりとホールドしていたのは予想通り花音ちゃんと千聖ちゃんだった。2人もアロマ効果でお寝惚け状態に入っているのは間違いなく、声にイマイチ覇気がない。それでもなお本能的に用を足そうとしているのはアロマのもう1つの効果、興奮状態の促しによるものだろう。ただでさえ彩ちゃん1人を相手にするだけでもやっとなのに、これから3人を同時に相手しなきゃいけないのか……。無理じゃない??

 

 

 そんな訳で、僕とお寝惚け少女たちの熾烈なトイレプレイ攻防戦はこれからが本番だ。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 もはや『甘やかす』というよりかは『お世話をする』と言った方がいいかも……
 甘やかそうが甘やかされようが、秋人くんが苦労するのは分からないですがね()


 バンドリのアニメ3期も始まり、バンドリ界隈が再びお熱になっていますね。この小説を読んでしまうとアニメのキャラをまともな目で見られなくなってしまう弊害がありそうですが……




この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
小説を執筆するモチベーションに繋がります!


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お寝惚け少女たちとのトイレ攻防戦

 前回からの続きです。
 ぶっちゃけ個人的に神回()

 ちなみに例のごとく甘やかされ要素は一切ありません!!


「秋人くん、そろそろおしっこに行きたいんだけど……一緒に来て?」

「うん、1人で行ってきたらどうかな?」

 

 

 彩ちゃんに何度目か分からないおねだりをされる。

 さてと、一体この状況をどうしたものか。僕が女の子の尿意に興奮できる性癖異常者だったらこの状況を楽しめたと思うけど、生憎ながら僕は正常性癖の持ち主である。そのため目の前で美少女がお漏らししそうになっていても何も感じない。感じない……と思いたい。

 

 

「秋人くん、彩ちゃんとのトイレが終わったら私とも一緒に行ってくれる? 寝ぼけてウトウトして、ちゃんと拭き拭きできないかもだから……」

「花音ちゃん僕よりお姉さんなんだから、自分の下の世話くらい1人でしなさい」

「秋人くん、あなたの選択肢は2つに1つよ。私たちのおしっこを手伝うか、それともこのまま自分の部屋に乙女の聖水が漏れ出すのを指を咥えて見ているか。どっちが賢い選択かしらね」

「千聖ちゃん本当に寝惚けてる? それにどうして頼み込む立場なのに上から目線なの……」

 

 

 黒服さんたちが言うには、今部屋に充満しているアロマは女性限定でお寝惚け状態にし、無意味に尿意を刺激させて興奮させる代物らしい。だが彩ちゃんたちの様子、特に千聖ちゃんはいつもと雰囲気が変わらないような気がするんだけど気のせい?? まぁ『おしっこ』なんて下品な言葉を使っている時点で、彼女たちは平常ではないってことくらい分かってるけどね……。

 

 

「ね~秋人くん一緒に来てよ~ねぇねぇ~」

「ちょっ、彩ちゃん力強いって! パジャマ引きちぎれそうなんだけど!?」

「もうっ、女の子に力が強いとかデリカシーないよ!」

「おしっこ発言の方がデリカシーないでしょ……」

「だってしたいんだもん」

「したいと言われても……。分かった、行けばいいんでしょ行けば」

 

 

 このままだとみんなに服を引っ張り破かれて裸になりかねないので、仕方なくトイレに着いて行くことにする。本当に垂れ流されても困るし、夢見心地状態だからやり兼ねないのが怖いところだ。それにみんなはニートの僕とは違って明日も予定があるだろうから、こんな真夜中に興奮してしまい眠れなくなるという事態だけは避けたいからね。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「秋人くんも一緒に中に入る?」

「入らないから!?」

 

 

 なんやかんやあってトイレの前に来たのだが、どうやらみんなはトイレの中まで僕を引きずり込む気が満々らしい。未だに彩ちゃんからは手を繋がれ、千聖ちゃんには腕を絡められ、花音ちゃんに後ろから抱きしめられている。トイレの前でこの構図、どう考えてもお姉さんたちにトイレに連れてきてもらったショタの図だけど、現実は立場が全くの逆。おねショタを期待するだけ無駄なんだよね……。僕にそんな趣味はないけどさ。

 

 

「男性のおしっこは残尿すると聞くわ。男性器の構造上おしっこが性器の中に溜まってしまい、赤く腫れあがる。最悪の場合は病気になる可能性があるらしいの」

「どうして千聖ちゃんが男性器にそこまで詳しいの……。エレガントな女優のイメージが現在進行形で崩れ去ってるんだけど……」

「千聖ちゃんを責めないであげて秋人くん。千聖ちゃんはいつか秋人くんの下のお世話をするのが夢で、そのために勉強を頑張ってる途中なの」

「夢が汚い!! もっと女優として輝かしい夢とかないの!?」

「好きな相手なら何でもしてあげるのが私よ。それが例え下のお世話であっても一切の妥協は許さないわ」

「千聖ちゃんのストイックさが変な方向に……」

 

 

 ダメだコイツ、早くなんとかしないと――とは今の千聖ちゃんのためにある言葉だと思う。テレビではあんなに可憐で華があるのに、僕の家に来た時だけはこうなるもんなぁ……。アロマの効果ってのもあるけど、僕と一緒にいる時は普段から割とこんな感じだ。それでも下品な言葉を連発するあたり、やはり弦巻財閥の悪知恵を集結させたあのアロマの効果は凄まじい。

 

 

「私たちがあなたの下のお世話をしてあげる。だからあなたも私たちの下のお世話をする。当然の等価よね」

「いやいや、僕は頼んでないんですけど??」

「秋人くんは私たちのお世話をするの……イヤ?」

「イヤっていうか、そのぉ……倫理的、社会的、その他諸々がマズいっていうか……」

 

 

 花音ちゃんのしょんぼりとした顔を見ていると物凄く罪悪感が湧いて来る。こっちが正論を言っているのにも関わらず、何故かこっちがイジメてるみたいな感覚に陥ってしまう。

 正直に言ってしまうと別にイヤって訳じゃないけど、ここでみんなの性器を目の当たりにしてしまうと正気を保っていられる自信がない。見るだけなら最悪まだしも、おしっこさせた後に紙で拭う作業までやるとなるとその時の自分がどうなってしまうか想像もつかない。性欲が暴走してしまうか、あまりの恥ずかしさに気絶してしまうか。何にせよ平静を保っていられないことは確かだ。

 

 

「というわけで、最初は私と入ろ?」

「彩ちゃん……。女の子としてその誘いはどうかと……今更だけどさ」

「一緒に用が足せるなんて一石二鳥だね」

「それは利益が得られる時に使う言葉であって、少なくとも連れションの時に使う言葉じゃないよ」

「ほら、早く入るよ」

「聞いてないし……」

 

 

 彩ちゃんに無理矢理手を引かれ、そのままトイレの中へと侵入する。

 遂にトイレの個室で女の子と2人きりになってしまった。こんなシチュエーションは薄い本やAVでしか見たことがないため、いざ自分がその立場になってみると緊張する。まだ一緒に入っただけなのにここまで心が乱れてるとか、この先僕の理性が保てるか不安なんだけど……。

 

 

「とりあえず僕は耳を塞いで後ろ向いてるから、終わったら教えてね」

「えぇ~見ててくれないと私、上手くおしっこできないよぉ~」

「むしろ見てないと用を足せないとか痴女じゃん……。とにかく、一緒に入ってはあげたんだからそれくらいは我慢して」

「む~仕方ないなぁ~」

 

 

 相変わらず何故僕が妥協される側になっているのか分からないけど、ここで下手に駄々をこねられないで良かったよ。自分は押しに強くないと自覚しているから、あまり粘られるとこっちが折れてトイレ中の彩ちゃんと対面しちゃってたかも……。

 

 彩ちゃんに背を向け目を瞑り耳も塞いでいるので、今の僕は無我の境地に立っている。それなのにも関わらず、背後からパジャマの脱ぐ音が薄っすらと聞こえてくる。彼女が僕をここに連れ込んでトイレをするってのは冗談なんかじゃない。本気で僕がいる前で用を足そうとしている。アイドルの女の子が男と2人きりの個室でおしっこ。もうこの文章の響きだけでも背徳感が半端なく、そこはかとなく興奮しちゃうね。

 

 そんなこんなでしばらく時間が経った。もう彩ちゃんのトイレは終わっただろうか? しかし確認もせずに下手に振り向いてしまうと、下半身のみ生まれたばかりの彩ちゃんと真っ向から対面しかねない。幸いなことに用を足している時の音は耳を全力で塞いでいるおかげでシャットアウトできている(と思う)ので、放尿音による刺激的欲求を揺さぶられることはなかった。そうそう、僕は変態かもしれないけど決して偏屈趣味ではない。確かにそういうのを嗜むことはあるけど、あくまで正常な人間なんだ。

 

 そう自分に言い聞かせて勝手に安堵した僕。そのせいで少し気が緩んでしまったのか、耳を抑えつける手の力が弱まっていることに気付かなかった。

 

 

「あっ、んっ……」

 

 

 ちょっ、何さっきの声!? 気持ちよくなった時に発せられる吐息にしか聞こえなかったんだけど!? トイレを我慢し過ぎて放尿時に思わず淫猥な声が漏れ出してしまったのか、それとも僕がいるのにも関わらずイケナイことをやっているのか……。

 

 僕は咄嗟に耳を塞ぐ手に力を入れるも、脳内では彩ちゃんのさっきの甘い声が響き渡る。そのせいで雑念を振り払おうにも余計に意識してしまい、彼女のトイレシーンが勝手に脳内再生されてしまう。事故も事件もなく穏便に事が済みそうだったのに、まさか女の子の吐息1つでここまでドキドキさせられるなんて……。

 

 

「秋人くん、秋人くん」

「な、なに……?」

 

 

 僕の名前を呼ぶ声が薄っすらと聞こえたため反応したが、ここで勢い余って振り向かなかったのは英断だったと思う。これまで必死に理性を保ってきたのに、下半身が生まれたままの彩ちゃんと対面したら理性の「り」の字が残るかも怪しいから……。

 

 

「拭いて」

「無理」

「え~そういう約束だったのに」

「僕の任務はトイレについて行くことであって、下の世話は契約外だから」

「お金ならたくさん出すから! 事務所に頼み込んでギャラの前借りするから!!」

「アイドルがギャラとか生々しい言葉使っちゃダメでしょ!? ていうかお金払って下の世話をしてもらうとか恥ずかしくないの!?」

「恥ずかしかったら一緒にトイレに入ってないよ」

「急に冷静になるのやめてよ……。本当に寝惚けてる?」

「ふぁ~」

「取ってつけたような欠伸!?」

 

 

 よく考えてみれば例のアロマは僕の部屋に置いてあるわけで、トイレにまで効果は行き届いてないんじゃないだろうか? あの弦巻財閥の考案したものだから想像以上の威力なのかもしれないけど、僕との会話に普通に受け答えできているところを見るとお寝惚け状態ってのも疑わざるを得ない。

 

 その時、トイレのドアがノックする音が聞こえた。同時に外から千聖ちゃんと花音ちゃんが中にいる僕たちに話しかけてくる。

 

 

『ちょっと秋人くん、彩ちゃん、いつまでおしっこしてるの? まさか私たちを除け者にして、2人でエッチなことをしているのではないでしょうね?』

『ええっ!? 彩ちゃんだけ拭いてもらってズルいよ! 私だって秋人くんに拭き拭きして欲しいのに……』

「いや何もしてないから!! どうして何かやらかしてる前提なの!?」

『ということは秋人くん、彩ちゃんのあそこを見て襲うどころか興奮もしてないってこと? むしろ健全な思春期男子としてどうかと思うわ……』

「千聖ちゃんの中での健全のレベルが高すぎるでしょ……」

 

 

 もしかして僕がニートだから知らないだけで、この世の陽キャ高校生たちは女の子とそういうプレイをするのが普通だったりするのかな……? 自分たちが未成年であることを盾にすれば、多少行き過ぎたプレイをしようが名前も公表されず社会的に消されることはない。もしかして僕もその領域に足を踏み入れようとしているのかも……。いやいや、僕は正常僕は正常僕は正常僕は正常僕は正常僕は正常僕は正常僕は正常僕は正常僕は正常僕は正常――――――

 

 

「秋人くん、早く拭いてくれないとトイレから出られないんだけど……」

「なんでさも僕が拭いて当然の雰囲気になってるの……?」

「じゃあ拭く代わりに飲んでいいよ。まだ少し垂れてるから」

「拭いて!! 早く拭いて!! 聞こえなかったフリしてあげるから!!」

「飲むのが抵抗あるなら舐めてもいいよ?」

「結局最後には僕の体内におしっこが入ってきちゃうよねそれ!?」

「今日の秋人くんワガママばっかり。私たちの手料理を笑顔で美味しいって言って食べてくれる純粋な秋人くんはどこに……」

「むしろおしっこを美味しいって言って飲んでる方が気持ち悪いでしょ……」

 

 

 彩ちゃんたちの中の僕って、堂々と変態行為を実行するような変質者なのかな……? でも笑顔で飲尿プレイなんて催眠モノのAVじゃないんだから、そんなの悦ぶ人はいないだろう。いない……よね?

 

 

『秋人くん、いい加減に出てこないと私たちのおしっこをあなたに飲ませるわよ』

「また飲尿させようとしてる!? そんなことしても誰にも何のメリットもないでしょ!?」

『私たちは秋人くんを使って尿意も性欲もスッキリできる。秋人くんは女性のおしっこに興奮して情欲を発散できる。まさにwin-winね』

「お互いに賢者モードになる前提じゃん!! どれだけ性に飢えてるの!?」

『高校生なら誰でも抱く当然の欲求だと思うのだけれど……』

 

 

 どうやら僕と千聖ちゃんは住んでいる世界もその世界の常識も違うようだ。元々ニートの僕と女優の彼女では天と地ほどの世界の差があるんだけど、やはり陽キャが性に関して抵抗が薄いというオタク知識は当たりなのかもしれない。

 

 

『秋人くん、御託はいいから早く出てこないと花音が風邪を引いてしまうわ』

「えっ、なに? 外で何が起こってるの!?」

『もうね、おしっこが我慢できないの……』

「まさかとは思うけど脱いでるの!? 百歩譲って脱ぐのはいいけど垂れ流さないでね!?」

『じゃあ秋人くんが手で受け止めてくれる?』

「また新しいプレイが……。絶対にしないけど、垂れ流しもしないでね」

『うぅ、でももう……』

「秋人くん、このままだと花音ちゃんが辱めを受けちゃうよ? お漏らししたことが黒歴史として一生記憶に残るんだよ? だから早くトイレを変わってあげた方がいいよね? だったらすぐにでも私のここを拭いた方がいいよ?」

「その脅しはズルいでしょ!? それにニートに下のお世話をされるのは黒歴史じゃないの!?」

「一生の思い出にするよ♪」

 

 

 ここで彩ちゃんを説得すれば花音ちゃんがお漏らしをし、かと言って花音ちゃんを止めようと外に出るためには彩ちゃんの下のお世話をしなければならない。どちらにしても八方塞り、まさに背水の陣で究極の2択を迫られている。どの選択肢を選ぼうとも女の子の痴態を拝むエロルートに進むのは確定なのがまたね……。エロゲーなら両分岐のCG回収のためにいったんここでセーブを挟むところだけど、残念ながらここは現実。しかもCGではなく生で拝まなければならない。

 

 だけど現実だからこそ、レールに乗って進むだけのゲームとは違って第3の選択肢を取ることもできるはず。考えろ……これまで培ってきたギャルゲーやエロゲーの知識をフル動員してこの状況を切り抜けるんだ!!

 

 

「分かった、拭いてあげるよ」

「ホントに!?」

「ただし僕からは拭かない。僕は目を閉じてトイレットペーパーを持つから、彩ちゃんは僕の手首を掴んで自分で拭いてね。この妥協案なら拭いてあげてもいいよ」

「う~ん……仕方ない、秋人くんがOKしてくれるならそれで!」

「だけど約束。絶対に僕の手を自分の下半身に触らせないこと。密着させるのはトイレットペーパーだけね」

「分かってる分かってる♪」

 

 

 この笑顔、本当に分かってるのか裏切る気満々なのか……。どちらにせよ選択肢のどちらを選んでもR-18ルートの危険は回避できたけど、第三の選択肢も結局は彩ちゃん次第だ。

 僕はトイレットペーパーを適当に巻き取り目を瞑る。するとすぐさま彩ちゃんは僕の手首を掴んだ。そして、僕の手が徐々に引っ張られていくのが分かる。段々と彼女の下半身に近づいているのだろう。目を瞑って何も見えないけど今日一番の緊張が襲い掛かってくる。

 

 もうすぐ、もうすぐ触れる。

 自分の手が直接触れる訳じゃないのに、本当にこんなことをしていいのかと自問自答してしまうくらいには謎の罪悪感に襲われる。でもここまで来てしまった以上もう引き返せない。無心となって腹を括るしかないか……。

 

 僕の心は無。何も聞こえないし何も感じない。

 今の僕は心頭滅却の状態。雑念なんてあるはずが――――――

 

 

 そして―――――

 

 

 

「あっ……んふぅ……」

 

 

 

 ………………

 

 ………………

 

 ………………

 

 ………………。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あら、やっと出てきたわね――――って、秋人くんどうしたのかしら?」

「顔を赤くして目を瞑ったまま喋らないね。もしかして寝ちゃったの?」

「そうなんだよね、さっきからずっとこの状態なの。なんでかなぁ?」

 

 

 僕が目を覚ましたのは翌朝だった。当時のことはあまり覚えていない。

 唯一脳裏に刻み込まれているのは、人差し指にほんのり感じた……いや、これ以上はやめておこう。僕の記憶の片隅も片隅に仕舞い込んでおいた方が良さそうだから……。

 




 千聖と花音のトイレ描写はないのかよと文句を垂れたくなる気持ちは分かりますが、圧倒的に尺が足りませんでした(笑) 本当は1話に3人分詰め込む予定だったのですが、ちょっと彩ちゃんにヒートアップしてしまった……


 そういえばもうすぐこの小説が一周年となります。1年で20話しか更新していない亀速度ですが、これからもお暇な時に覗きに来てくださると幸いです。


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RAISE A SUILENに甘やかされる(前編)

 要望も多かったRASの子たちが遂に登場します!
 相変わらず甘やかされてはいないような気がしますが……





※元々予定していた『ラブライブ!』側とのコラボ回は諸事情により中止となりました。詳しくは活動報告をご覧ください。


「Hello秋人! よく来たわね!」

「勝手に連行しておいてよく言うよ……」

 

 

 社長椅子に座っているチュチュちゃんに歓迎されるが、僕の心は曇り空だ。

 それもそのはず、今朝届いた新作のエロゲーをプレイしようとしていたその矢先にパレオちゃんが乗り込んできて、有無を言わせず僕を連行、そしてチュチュちゃんが住む高級マンションの最上階の部屋に放り込まれた。今日のために昨日性欲を発散する行為は慎んできたのに、まさか寸止めをされるとは思わなかったよ……。

 

 

「申し訳ございません秋人様。チュチュ様が本日どうしても秋人様にお会いしたいとのことでしたので……」

「いやパレオちゃんのせいじゃないからいいんだけどね。ちゃんと無事に帰れればそれでいいかなぁって」

「No Problem! 秋人、今日は私たちのスキルアップに手伝ってもらうわ!」

 

 

 チュチュちゃんは人差し指をビシッと僕に向ける。

 あぁ、これ厄介事に巻き込まれるやつだ。香澄ちゃんとこころちゃんの『イイことを思いついた』と同レベル程度と言えば、チュチュちゃんの無茶振りの危険度を分かってもらえるだろう。本来なら今頃新作のエロゲーを嗜んでいた頃なのに、どうしてこんなことに……。いやいや考えたらダメだ。考えたら溜まっていた欲求が……!!

 

 そういえばチュチュちゃんって短いスカートを履いているのにも関わらず、足を組んでいることが多いよね。今だってその体勢だし、何ならちょっと目線をズラせばもしかしたら中身が見えるかも……??

 エロゲーをプレイできない欲求不満は僕の思考回路を大きく乱していた。

 

 

「いい目ね秋人。まるで女を真っ向から捕食したいと言わんばかりの性欲に従順なその目、悪くないわ」

「ちょっ、何言ってるの!? ぼ、僕がそんなこと……思う訳ないじゃん?」

「調べはついているのよ。パレオ!」

「はいチュチュ様!」

「えっ、なになに? 何が始まるの??」

 

 

 パレオちゃんはプロジェクターを起動し、スクリーンに何やら研究発表のような資料が映し出される。

 何が始まるのかと警戒していたのも束の間、その心配はすぐに現実のものとなった。その研究資料には僕のありとあらゆる姿が映っており、食事シーン、睡眠シーン、入浴シーン、そして最も知られたくない僕のプライベートシーン――――――って……!!

 

 

「ちょっと!? これいつ撮ったの!?」

「私たちは秋人のことなら何でも知ってるの。そして、秋人のことなら何でも知りたいのよ」

「なにそのヤンデレ染みたセリフ……」

「安心しなさい。盗撮なんて品位が低い行為は断じてしていないわ。この写真もパスパレの麻弥大和から譲ってもらったもので、合法的な取引の元で入手したものだから」

「その取引のブツ自体が違法でしょ!? どうしてそこまで胸を張れるの!?」

「胸? 14歳の私の胸に興味津々……。なるほど、ロリコン趣味もあるとは恐れ入ったわ」

「もう帰っていいかな?」

 

 

 さっきからずっとそうだけど、僕の中で警報が轟音で鳴り響いている。ここにいたら間違いなく僕は羞恥心ごと精神をズタズタにされるに違いない。だから早急に帰宅したいんだけど、ここは高層マンションの屋上でありチュチュちゃんの砦。つまりここに連れ込まれた時点で監獄に囚われているのと同じことだろう。端的に換言すれば――――詰みだ。

 

 

「どうやら諦めたようね。ま、どちらにせよ私たちRASのスキルアップに貢献してもらうつもりでいたけど」

「さっきも同じこと言ってたよね? 僕がみんなのスキル向上に繋がるとは思えないんだけど……」

「そんなことありませんよ! 秋人様こそRASのやる気の源なんですから! ほらこうやって―――ぎゅっ!」

「ちょっ、えっ!? パレオちゃんいきなり抱き着いて……!!」

「パレオ!? いきなり抜け駆けとはいい度胸じゃない!!」

「いくらチュチュ様でも秋人様だけは譲れません! あぁ~秋人様、暖かい……♪」

「うっ、ぐぅ……」

 

 

 パレオちゃんは同年代の女の子よりも一回り背が高い。そして僕の背丈は思春期の一般男子よりもかなり低い。そのため彼女に抱きしめられると僕は彼女の身体にすっぽり収まってしまい、ちょうど胸のあたりに自分の顔が来てしまうわけで……。ただでさえエロゲーおあずけの欲求不満で情欲が危険信号なのに、こんなことをされたら僕は……僕は……!!

 

 

「秋人様のアドレナリンがパレオの身体に流れ込んできてますぅ~♪ あぁ~女の子としての魅力がレベルアップしていますぅ~♪」

「えっ、なにその気が抜けるような声?? 温泉に浸かっている時みたいになってるよ??」

「つまりそういうことよ秋人。あなたには女の魅力を上げる能力が備わっている。ガールズバンドとして舞台に上がる以上、その姿が大衆の目に晒されるのは逃れられない。だからこそ磨く必要があるのよ、女としての魅力を。そしてその手段こそが秋人、あなたよ。ライブの練習は私たちだけでもできるけど、女としてのチャームを上げるには男との交流が手っ取り早いもの。言わば、身体接触ね」

「その通りです! 女性の魅力をアップさせるには好きな男性からドキドキを貰うことが重要と、色々な論文でも証明されています! 分かってもらえました?」

「なんか無茶苦茶なようなそうでないような……」

 

 

 とどのつまり、僕と触れ合って女の子としての魅力を上げるってことか。それは男として役得と言うか、むしろこっちからお願いしたいと言うか……と素直に喜べたらいいんだけど、さっきも言った通り僕の欲求不満はエロゲーおあずけ事件により未だに解消されていない。そんな状況で可愛い女の子たちと触れ合う?? 意識を保っていられるか分からないんだけど!?

 

 

「そろそろ皆さんが来る頃ですね――――あっ、そんなことを言っているうちに来たみたいですよ。パレオ、お迎えに上がりに行きますね! 秋人様、あとでまたぎゅっとさせてください♪」

 

 

 パレオちゃんは笑顔で僕に手を振りながら部屋の玄関へと向かった。

 彼女の笑顔や振る舞いは純粋無垢と言うか、打算的なものが一切ないからいきなり抱き着かれても抵抗するのが申し訳ないんだよね。もっとほら、友希那ちゃんとか千聖ちゃんみたいに裏がありそうな子や、香澄ちゃんやこころちゃんのような勢いだけの子なら咄嗟にツッコミを入れることはできるんだけど、彼女のような純真の持ち主にはどうしても臆してしまう。もう少し肉食になればとは思うんだけど、やっぱり女の子に抱きしめられると気が動転してしまう。どうやら僕が粋がれるのはR-18ゲームや同人誌の主人公に自己投影したときだけのようだ。

 

 自分の惨めさを改めて実感していると、RASの他のメンバーが部屋に入ってきた。

 

 

「こんにちは。秋人もいらっしゃい」

「よぉ秋人。お前が来るって聞いたからバイク飛ばしてきたぞ」

「こんにちは秋人さん。ご無沙汰しています」

「こんにちは、レイちゃん、ますきちゃん、六花ちゃん」

 

 

 これでRASのメンバーが全員集合したけど、僕は意外にも全員がいる場に居合わせることは少ないから新鮮でもある。RASはチュチュちゃんの意向でRoselia並かそれ以上のガチバンドだから練習も多く、それ故に他のバンドメンバーに比べると顔を合わせる機会は少ない。そして僕がRAS全員が揃っている場に居合わせるのは大体チュチュちゃんの無茶振りによるもの。だから今の僕はみんなに会えた喜びよりも、今から何をされるのだろうという危機感の方が大きかったりもする。

 

 

「これで全員揃ったわね。パレオ、改めて企画の趣旨を説明してあげなさい」

「はいチュチュ様!」

 

 

 チュチュちゃんの計画が六花ちゃんたちにも知らされていく。その過程で六花ちゃんは顔を真っ赤にし、レイちゃんとますきちゃんは納得した表情を見せるなど、誰もこの企画を疑問視する子はいない。やっぱりガールズバンドって変人の集まりなのか……?

 

 

「この計画は秋人があってこそ。だからあなたにそれなりの報酬は支払うつもりよ」

「えっ、いいよお金なんて別に……」

「誰がお金なんて言った? あなたも思春期という猿並みの性欲が押し寄せる多感な時期でしょ。だから私たちの身体に触れる際、あなたの好きなシチュエーションで触れ合わせてあげる。お互いにwin-winでしょ?」

「猿って……。ていうか、普通でいいよ普通で」

「隠さなくてもいいのよ。秋人の好みのシチュエーションもしっかり調査してあるから。パレオ!」

「はいっ!」

 

 

 人権っていうのはいとも簡単に踏みにじられるものなんだね……。自分の家なのにどこで誰に監視されいるとかプライベートもへったくれもあったものじゃない。しかも僕自身それに慣れてしまっているというのが怖いところで、どんな状況であっても住めば都になるんだと身をもって実感してしまっている。だけど決して女の子に監視されることが大好きなドMではないはず、うん……。

 

 

「秋人様が最近お買い上げになった本は『田舎少女調教物語』。田舎から都会に出てきた純粋無垢な少女を言葉巧みにホテルへ連れ込み、エッチな調教で奴隷にしちゃうシチュエーションですね!」

「はぁ!? ちょっとそんな解説いらないから!! タイトルをバラすのは百歩譲ってもいいけど内容を公開する必要あった!?」

「でも我々が秋人様のお好きなシチュエーションにお応えするには、こうした情報が必要なのです」

「ふ~ん。秋人お前、こういうのが好きなのか。へぇ~」

「ますきちゃん? なにその笑みは……」

「いやぁ草食系だとばかり思ってたからさ、意外と肉食系の趣味もあるのな。むしろ思春期男子としてしっかり興味があって安心したよ」

「ますき、可愛いから弄りたくなる気持ちも分かるけど、秋人が困ってるでしょ」

「レイちゃん、もしかして僕を助け――――」

「秋人は草食系だからこそ可愛いのであって、肉食系の秋人はもう秋人じゃないから。堕落という言葉を具現化した存在のような生活を送り、女の子たちにたっぷりお世話される。それが秋人だよ」

「僕が思っていた救出方法とは違う……」

 

 

 レイちゃんは自分なりに僕を擁護してくれたんだろうけど、別の角度から精神攻撃を受けたような感じがするのは気のせい? それにますきちゃんよりも攻撃力が高いんだけどそれは……。

 そんなことよりも、まさか僕の買ったエロ同人までリサーチされているとは思わなかったよ。パレオちゃんにタイトルを読み上げられた瞬間に血の気が引いたけど、マジモノの絶望を味わうのは人生で初めてもかもしれない。思春期男子によってオナネタをバラされるのは一番の死刑宣告だから……。

 

 

「つうか田舎少女って聞き覚えがあると思ったら、それロックのことじゃね??」

「ふぇっ!? わ、私!? レイさんもそう見えますか!?」

「確かにこの本に出てくる女の子を見てみるとそうかも。髪型はおさげで眼鏡っ子、背も低くて純粋無垢。うん、どこからどう見てもロックだね」

「I see、つまり秋人はロックに己の欲望を身体の芯にまで注ぎ込みたいのね。ロックが自分からエッチなことを懇願してくるようになるまで調教し、日常生活では常に全裸でいるように命令する。その鬼畜さ、嫌いじゃないわ」

「なにその妄想の飛躍!? いくらその本でもそこまではやってないからね!?」

「秋人さんが私を調教……。私をペットに……??」

「六花ちゃん……? 目がぐるぐるしてるけど大丈夫……じゃないか」

 

 

 身も心も純潔の塊のような六花ちゃんに対して猥談は効果抜群で、もはや顔が茹でられたトマトのようになっている。そして案の定彼女はその手に話題に耐性がなかったようで、あっという間に酔い潰れたかのごとく目を回してフラフラしていた。

 

 

「これでシチュエーションは決まったわね。それじゃあそこにキングサイズのベッドを用意しておいたから、思う存分暴れなさい。理性を失った下劣な獣のようにね」

「わざわざこのために買ったの!? ていうか僕が呼ばれたのってみんなの魅力を上げるためだよね? こんなので本当に魅力が上がるの……?」

「性知識が豊富な秋人様なら知っているはずですよ。女の子はエッチをするとよりチャーミングになると」

「えっ、もしかして今回ってそういう裏の趣旨があったの……?」

「女の子がドキドキするシチュエーションは個人個人で千差万別ですからね。ほらほら、ロックさん待ってますよ!」

「うえぇえっ!? ほ、ホントだ……」

 

 

 六花ちゃんは借りてきた猫のように縮こまりながらベッドに腰を掛けている。それはまさに今からエッチなことをされるのを待っているかのような、そんな雰囲気だ。奥手そうにしか見えない彼女が本気でやる気、もといヤる気を……? 周りにRASのみんながいるのに? 正気か??

 

 

「六花ちゃん、本気なの……?」

「そ、その、秋人さんに貰ってもらえるなら本望と言いますか、私、部屋のお掃除からお食事の準備、エッチなことも頑張りますんで!!」

「えっ、えぇ……」

「秋人さんが喜んでくださるのであれば、どれだけ痛いことでも我慢できますから!! ムチで打たれても笑顔のままでいますから!!」

「どんな調教を想像してるの!? 六花ちゃんが嫌がることは絶対にしないから安心して、ね??」

 

 

 ダメだ、六花ちゃんがイケナイ方向に暴走している。調教を受け入れる覚悟は逞しいけど、残念ながら僕にそのシチュエーションを実行する勇気はない。確かに調教モノのエロ同人を読む時は読むけど、僕は二次元と三次元をしっかり区別できる男だから。こうやって自分を正当化していかないとチュチュちゃんやパレオちゃんの勢いに飲み込まれそうなので、自分は正しい発言しかしていないと自分で言い聞かせるしかない。

 

 その流れで自分で自分を擁護しておくと、その調教モノに出てくる女の子を六花ちゃんと重ねたことは一度もない。自分は現実世界で草食系だからって、二次元の世界では肉食系として妄想することもない。過去にポピパのみんなに似ている女の子が出るエロ同人を買っちゃった記憶はあるけど、あれは若気の至りだから。思春期特有のやってはいけない背伸び感覚だから犯罪履歴としてはノーカンだ。

 

 

「あ、あの、秋人さん!!」

「な、なに?」

「差し出がましいようで申し訳ないんですけど、抱きしめさせてもらえませんか? その、緊張を解したいので……」

「そ、そうなんだ……。いいよ、それで緊張が取れるなら……」

「ありがとうございます! それでは失礼します」

 

 

 そして僕は六花ちゃんに優しく抱きしめられる。

 まず第一の感想だけど、とても暖かい。香澄ちゃんたちに抱き着かれた時もそうなんだけど、こうして抱きしめられるとその女の子の雰囲気によって湧き出る感情が変わってくる。いい匂いがして惚けそうになったり、より扇情的な欲求が増したりする。六花ちゃんの場合は彼女が温厚で純真な子だけあってか、抱きしめられると身体だけでなく心まで温かくなりどこか安心してしまう。そう、まるでお母さんに優しく抱きしめられている幼き頃を思い出すような……。

 

 

「ママ……」

「マ、ママ!?」

「へ? あっ、ち、違うんださっきのはその……!!」

 

 

 やってしまった……!! 学校の先生に『お母さん』と言ってしまった時と同じくらいの失態を犯してしまった。六花ちゃんから母性を感じてしまったのは否めないけど、それを口に出しちゃうなんて人生の汚点過ぎる。年上の女の子に対してならまだしも、相手は年下の女の子。こんなの羞恥心が爆発せざるを得ないんだけど!? せっかく六花ちゃんの緊張が解れたと思ったのに、こんな発言をしちゃったらまた戸惑わせちゃうよね……。

 

 

「秋人さん……」

「ゴメンね、変なこと言っちゃって――――」

「でら可愛ぇなぁ~~♪」

「うぐっ!? ちょっ、六花ちゃん苦しい……!!」

 

 

 いきなり六花ちゃんに顔を抱きしめられ胸に引き寄せられる。案の定彼女の胸に僕の顔が押し付けられるわけだけど、意外と胸あるんだね……って、違う違う!! どうしていきなりテンションが上がったの!? もしかして六花ちゃんに母性が生まれちゃったとか?? なんか調教の話題が繰り広げられていた時よりもヒートアップしてるみたいで、僕の抵抗にすら気付いていないみたいだ。これはチュチュちゃんたちに助けを求めないと、女の子のおっぱいで窒息する羨まけしからんことに……。

 

 

「正直こんな甘々な展開よりももっとハードなプレイを求めていたんだけど、ロックの女としての魅力が上がっているのが目に見えて感じられるから我慢してあげるわ」

「どんなシチュエーションでも女性を魅せることができる、流石は秋人様です! 美少女ゲーム『年下の後輩が母親のいない僕のママになった件』を、隠しルートである授乳ルートまで完全攻略しているおかげですね!」

「ちょっと、それをバラすのはマズいって!!」

「なんだお前、調教モノが好きなのかと思ったらそっち方面もいけるのか。もうSなのかMなのか分からなくなってきたな」

「甘やかされてばかりの秋人も素敵だと思うよ。ほら、ロックも楽しそうだし」

「ますきちゃんもレイちゃんもなんで微笑ましい表情でこっち見てるの!? 早く助けてよ!?」

「これはいいデータが取れたわね。ここからもとっても楽しみだわ」

 

 

 いやもう僕は男としてのプライドがズタズタに引き裂かれたんですけどそれは……。

 それからしばらく六花ちゃんは僕を抱きしめ続け、甘い声色の美濃弁でうっとりとしていた。これが1人目ってことは、このあと僕はどうなっちゃうのだろう……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 アニメ3期を見ているとRASのキャラがどんどん好きになってきたので、この小説が一周年記念ということもあり登場させてみました。
 アニメをじっくり見てRASのキャラの性格を掴みましたが、この小説はキャラ崩壊がデフォなのであまり必要なかったかもしれません(笑)




この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします! 
小説を執筆するモチベーションに繋がります!


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RAISE A SUILENに甘やかされる(後編)

 相変わらず甘やかされてないし、いつもより下的なネタが多い気がする……


「ロックの奴、顔真っ赤にして昇天してるけど大丈夫か……?」

「色気がたんまり放出されていい感じじゃない。女としての魅力が上がっている証拠ね」

「ロック普段はふわっと穏やかなのに、今は思わず見入っちゃうくらい綺麗だよ」

「これも秋人様のお力があってこそですね!」

「ホントかなぁ……」

 

 

 さっきまで僕を抱きしめていた六花ちゃんは、まるで性行為後の余韻に浸るかのような放心状態となっていた。目はとろんとしており、口を半開きにして僕から得た快楽を全身で感じているようだ。もちろん本番行為は一切していないけど、僕に抱き着くだけでこうなるって僕自身が麻薬のような気がする……。

 

 

「次はレイヤ、あなたの番よ。シチュエーションはまた秋人の好きなジャンルから選定してあげるわ」

「もういいって!? どれだけ僕のプライバシーを侵害するの!?」

「だったら私がいつも自慰行為をする時に何をネタとして使っているのか教えてあげてもいいわ。その代わり、ここであなたのオナネタを全て赤裸々にする。いい取引でしょ?」

「そもそもチュチュちゃんってそのぉ……オ、オナニーとかするんだ……」

「気になる?」

「それは……」

 

 チュチュちゃんは口角を上げ、小悪魔の笑顔で僕を挑発してくる。

 彼女は高校生だけど、飛び級のため実年齢はまだ一般の中学生と同じのはずだ。見た目は小学生と間違われてもおかしくないくらいの小柄。そんな子が夜な夜な自分を性欲を慰めている? どんなネタで何を使ってどのように?? ダメだ、あらぬ妄想がチュチュちゃんのあられもない姿と共に僕の脳内を支配する。考えちゃダメだ考えちゃダメだ……!!

 

 すると、僕の全身を優しい温もりが包み込んだ。振り向いてみると、レイちゃんが僕を後ろから抱きしめていた。

 

 

「もうチュチュってば、あまりイジメたら可哀想でしょ。ね、秋人?」

「べ、別に僕は構わないというか、迷惑してないから……」

「優しいね。そんなところが好きだよ」

「えっ、す、好き!?」

「そうやって素直に真に受けちゃうところ、とっても可愛い」

「ちょっ、レイちゃんまで……」

 

 

 結局レイちゃんにまでイジられてしまう。普段冗談を言わない彼女だからこそからかわれた時の羞恥が大きく感じる。

 そして僕の心を揺さぶりながら、レイちゃんは僕を抱きしめる力をより一層強くする。RASの中ではお母さんポジションの彼女。そんな子に抱きしめられると六花ちゃんの時とは違って本当に母親に抱っこされているような感じがする。『可愛い』とか言われて優しく囁かれてるからなおのこと幼児退行してしまいそうだ。

 

 

「秋人様、レイヤさんにとっても甘えたそうにしていますね。年上のお姉さんにいい子いい子されながらおっぱいに顔を埋めるプレイが大好きなだけのことはあります!」

「パレオちゃん!? むやみやたらに人のプライベートを晒して楽しい!?」

「事実を語ったまでです! 秋人様のスマホの検索履歴を見てみると、お姉さんに甘やかされるネット小説をたくさんご覧にっているそうで」

「だから口を開くたびに僕のプライベート新情報を漏らすのはやめてよ!!」

「秋人、そうだったんだね。ゴメン気付かなくて。普段からもっとこうして抱きしめてあげたら、秋人が欲求不満になることはなかったんだよね」

「べ、別にレイちゃんが悪いわけじゃ……。あれ、誰が悪いの……?」

 

 

 何が怖いって、ガールズバンドのみんなは僕をからかう時であれ何であれ、悪気は一切ないというところだ。現に僕のプライベート情報を赤裸々にするパレオちゃんも終始笑顔のままだし、一応僕の性癖にドストライクするシチュエーションをこの場で再現するために情報を暴露しているのだろう。つまり『良かれと思って』だと思うから、もはや誰が悪いのかそうでないのか分からない。もしかして僕のこの考え方、聖人すぎる……??

 

 

「秋人はやって欲しいの? さっきパレオが言ってた、いい子いい子されながらおっぱいに顔を埋めるプレイ」

「そ、それは……やって欲しくないと言えば嘘になるけど……。ほら、みんな見てるし……」

「なるほど、だったら2人きりの時ならいいんだ?」

「えぇええっ!? そ、それはそれでどうかと思うんだけど……」

「フフッ、冗談だよ。本当に可愛いね」

「男に可愛いって言葉は似合わないよ……」

「男?」

「えっ、なにそのマジな反応!? もしかして僕、男として見られてない??」

「嘘ウソ。でも見た目も反応も女の子っぽいから、稀に勘違いしちゃうことはあるかも」

 

 

 確かに僕はチビ助だから男っぽく見えないってのはあるかもしれないけど、流石に女の子扱いされたことは一度もない。いや、なかったと言うべきか。それとも僕が知らないだけで、ガールズバンドのみんなから見れば手間のかかるニート兼赤ちゃん扱いだったのかもしれない。実際に身の回りのお世話をされてるから赤ちゃん扱いされても仕方ないけどさ……。

 

 

「たっぷり秋人分を補充できたし、今回はこれで十分かな」

「十分って、ただ抱きしめていただけだろ。お前それで満足なのかよ」

「私はますきみたいに激しいプレイは好みじゃないから、これくらいでも満足だよ。それに、そういうことは2人きりの方が色々捗るから」

「色々ってなに!? もしかして本当にいい子いい子したり、胸に顔を埋めさせてくれる……とか?」

「秋人が今以上に私を求めてくれたら……ね?」

 

 

 マジで? 本当にやってくれるの? 男は年を食っても母親に甘えたいというマザコンの精神が抜け落ちないとよく聞く。だけど高校生で同い年の彼女に母の温もりを求めるのは……いや、一周回ってアリか??

 

 

「秋人、今度は私の番だ。覚悟しとけよ!」

「ますきちゃんかぁ……」

「オイ、どうしてそんなにイヤそうなんだよ……」

「だってさっきレイちゃんが『ますきちゃんは激しいプレイが好き』みたいなこと言ってなかったっけ? 流石の僕でも痛いのとかは勘弁なんだけど……」

「お前、私をどんな目で見てるんだ……?」

「スパンキング好きなスケバン女子」

「あ゛ぁ゛ん!? 私のどこに鬼畜ドS要素あるんだよ!?」

「いやその勢いだよ……」

 

 

 人は見た目が9割らしいけど、まさにそれをひしひしと感じてるよ。いや彼女は根が純情だってことは知ってるけど、外見だけ見ればSM好きにしか見えないじゃん? 今だって僕を睨み付け、顔をこれでもかってくらい近付けられて今にもシメられそうだもん。僕は慣れてるからいいけど、小心者の六花ちゃんとか初対面は緊張しただろうなぁ……。

 

 

「おいチュチュ、秋人の性癖の中に私に合うシチュエーションがあるかどうか調べてあるだろ?」

「Don't worry、私のリサーチに抜かりないわ。秋人、あなたがパソコンやスマホからどれだけ履歴を消そうが無駄なこと。大人のお姉さんに優しくリードされ、時には激しく搾精されるシチュエーションが好きなことくらいお見通しよ」

「もうね、僕のライフはゼロなんだよ。今更そんなことをバラされても痛くも痒くもないから」

「おっ、随分とやる気じゃねぇか。だったらベッドに来いよ!」

「なにその色気もへったくれもない誘い方!? ていうか引っ張らないで――――あっ!」

「おいどうしてこっちに倒れて――――うわぁっ!?」

 

 

 ますきちゃんに無理矢理腕を引かれた反動か、僕の身体が彼女に倒れ込んでしまった。そして、僕たちはその勢いでベッドの上へとダイブする。ますきちゃんが下、僕が上でお互いに見つめ合っているこの状況。そう、この状況はエッチな本や小説で何度も見てきた。

 

 

「なんとまあ素晴らしい光景でしょう! チュチュ様、パレオたちは今から公開生セッ○スをお目にかかれるらしいですよ!」

「落ち着きなさい。でもあの強面のますきが軟弱な秋人に喘がされるのは見物ね」

「あわわ……私が気絶している間にもっと大変なことに……!!」

「ロック起きたんだ。ますきの痴態が見られるなんて相当珍しいから、しっかり目に焼き付けておかないとね」

「みんなノリノリ過ぎない……? ていうか、ますきちゃんがこんなことで取り乱すはずが――――――」

「お、おう、そ、そそそうだな……」

「めっちゃ動揺してる!?」

 

 

 彼女の顔を見てみれば、まるで熱湯風呂に長時間浸かっていたかのように火照っている。まさかあのますきちゃんがここまで乙女を見せるなんて……。いや、サバサバしている子ほどこうして男から迫られると意外と弱いというのは恋愛創作では鉄板だ。だけど現実でも本当にその性格の子がいるなんて……ちょっとアリかも?

 

 

「秋人……分かった、お前がやる気だったら私も腹を括ってやる。ほら、来いよ。女にここまでさせてんだから、男としてどう答えればいいか分かってるよな?」

「いやいや不可抗力だからねこれ!? それにますきちゃん強がってるけど、目が泳ぎまくってるよ?」

「う、うるせぇ!! いいからとっとと脱がせ!!」

「自暴自棄になり過ぎだって!?」

「マスキングの女としての魅力が上がっていくのが感じられるわ。ほら秋人、ぼぉ~っとしてないでもっとHardなPlayに持ち込みなさい」

「味方がいない……」

 

 

 最初から分かってはいたけど、みんな性に関して躊躇いがなさ過ぎない?? 僕はニートだから分からないけど、最近の高校は性教育がお盛んなの?? RASのみんなを見ている限りでは余りにも性欲が滾り過ぎて手に負えないんだけど??

 

 とにかく、これ以上ますきちゃんに跨っているとあらぬ誤解が冗長してしまう。僕は彼女の身体から離れ、ベッドから降りた。

 

 

「なんだ襲ってこないのかよ。女があれだけ求めてるってのに、チ○コ付いてんのか?」

「女だからこそ下品な言葉は使わないでね。それにますきちゃん、ちょっと緊張してたじゃん」

「か、関係ねぇだろ!! 男ならベッドに倒れた女の服ひん剥くくらいしろよな」

「そこまで肉食系になれたらニートになんてなってないから……」

 

 

 そんなレイプ紛いなことをさせるとか、僕を犯罪者に仕立て上げたいのかこの子は。ていうか僕が拉致されてみんなに痴女されてるこの状況を警察にリークしたら、何の迷いもなくこちらが勝てると思うんだけど……。

 

 

「次はパレオの番ですね! 秋人様のシチュエーションは全て把握済みですから、お好きなシチュエーションでパレオを辱めてください!」

「そんな畜生なことしないからね!? ていうか、何で脱ごうとしてるの!?」

「だって秋人様はこういうシチュエーションもお好きでしょう?」

「こ、こういうシチュエーションって……」

「じれったいわね。聞きなさい秋人、パレオは有名エロゲー『清楚な後輩を性奴隷に堕とすまで』のヒロインを演じているのよ。あなたのパソコンにもインストールされているのは調査済み。本当は私がパレオの飼い主だけど、今日だけは秋人に貸してあげるわ。存分に恥辱を与えてあげなさい」

「しないよ!? それにどれだけ僕のプライベートに踏み込んでるの!?」

「秋人のことが好きだからに決まってるじゃない」

「そ、そう……」

「ちょろ」

「おい!!」

 

 

 僕としたことが思わず汚い言葉でツッコミを入れちゃったけど、もはやチュチュちゃんのペースから逃れる術はないらしい。そもそも僕の性癖や購入したエッチな本やゲームまで赤裸々にされている以上、その情報を人質として僕をRASのレベルアップ(割と性的な意味で)に貢献させるつもりだろう。なんとも策士というか、ズル賢いというか……。

 

 

「秋人様はパレオをどうしたいですか? メイド服を着させてご奉仕させたいとか、パレオをスポンジにして身体を洗いたいとか、トイレに行くのを禁止にして我慢させたいとか、パレオに首輪を付けて深夜の公園を散歩させたいとか」

「どんどんプレイがハードになってるんだけど!? どれもやらなくていいからね」

「えぇ~!? このパレオの満たされない気持ちはどう発散すれば良いのですか!?」

「チュチュちゃんのお世話をして忠誠心を満足させればいいんじゃない……?」

「だってチュチュ様はパレオに首輪を付けてくださらないですし……」

「そんなことする訳ないじゃない。変態じゃあるまいし」

「いやこの状況を作り出した本人が言わないで……」

 

 

 チュチュちゃんは相変わらず社長椅子に座ってふんぞり返っているけど、僕とRASのみんなが性的に交わる様を一番求めているのは彼女だ。そんな子が自分のことを変態じゃないとか片腹痛い。まぁ僕も変態じゃないかと聞かれたら呻っちゃうんだけどさ……。

 

 そして僕の隣にも、首輪を持って目を輝かせているツインテールの変態が1人。性欲真っ盛りの思春期男子に速攻で純潔を散らされそうなくらいのドMさを感じる。まだ僕が草食系だったから良かったものの、ちょっとでもヤンキー精神があればパレオちゃんはあっという間に中古になっていただろう。

 

 って、何言ってんだろ僕。ちょっとみんなに毒されてきちゃったかも……。

 

 

「一生のお願いです秋人様! この首輪を何卒パレオの首に! 深夜の散歩はしなくてもいいので!!」

「そんなことで一生を使わないで……。どうしてもして欲しいの?」

「はいっ! もし満足できないのであればドッグフードの犬食いもやります!」

「やらなくていいから!! もう、首輪を付けるだけだからね……?」

「さっすが秋人様! 女の子をペットにしたいだなんて鬼畜ですね♪」

「自分から申し出てきたくせに!?」

 

 

 もうね、ツッコミ放棄していいかな……? 僕の周りには暴走する女の子ばかり揃ってるから、ニートなのに無駄に精神力が身に付いてしまっていた。それに毎度大声を張り上げているせいで、演劇部に所属できるかってくらいの声量も手に入れている。ニートを卒業した後の就職先が見えてくるとは思ってもいなかったよ。

 

 パレオちゃんの目は輝いているというよりも怪しい眼光が迸っており、このままでは逆に彼女に食われ兼ねない。仕方ないので首輪を付けて満足させてあげることにしたのだが、案の定というべきか周りからの注目のせいで心底やりづらい。

 

 

「も、もしかしてあの伝説のSMプレイというものを生で観られちゃうんですか!? め、目を背けないと……!!」

「ロック、指の間からガン見してるのバレバレだから……」

「パレオに首輪付けるんなら、私の時ももっとそのドS根性見せろよな」

「男ってのはね、誰しも女を虐めたいと思っている生き物なのよ。どれだけM男に見えても、ちょっと嗜虐心を突っついてやればすぐ肉食獣に変身するの。今の秋人がまさにその状態だわ」

 

 

 なんかもう言いたい放題だなこの子たち。それはRASだけじゃなく他のバンドの子たちでもそうかもしれないけどさ……。そろそろ僕も羞恥プレイに慣れていかなければ精神力のアップは期待できないレベルに到達している。今回はその経験値集めだと思って我慢するしかないか……。

 

 そう、僕は誓って鬼畜男じゃない。ご主人様プレイを仕掛けて悦ぶようなサディストでもない。確かにそういうネタの本を読んだことはあるけど、僕は性癖の守備範囲が広いだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。うん、これだけ言い聞かせておけば十分だ。

 

 パレオちゃんは目を瞑ってこちらに顔を突き出す。まるで結婚式の誓いの口付けのようで少しドキッとしてしまうが、僕の手に握られているのは彼女に渡された首輪。そんな晴れやかなシチュエーションではない。僕は首輪のロックを外し、彼女の首に輪っかを通す。そして首の後ろでロックをし、遂にペットとなったパレオちゃんが完成した。

 

 

「うっ、ちょっとキツイです……」

「あっ、ゴメン!」

「いいえ、むしろパレオは嬉しいです。だって秋人様はパレオを痛めつけようとしてくれたんですよね? やはり秋人様は隠れたドS心を持っていらっしゃるのですね!」

「ち、違うって!! そもそもこの首輪、最初から小さいと思ってたんだよ!!」

 

「秋人の奴、私を押し倒してから味を占めてやがる。ま、男ならパレオやロックみたいな従順で可愛い奴を見たら調教したくなる気持ちも分かるけどよ」

「えぇえっ!? 私もいずれ秋人さんのペットに……!? そ、そんな……そんな……」

「なんだ? 意外と満更でもない顔してるじゃねぇか」

「し、してないです!!」

 

「ちょっと勝手に僕を巻き込んで盛り上がらないでよ!?」

 

 

 あっちでも暴走しこっちでも暴走し、もはや手が付けられないどころか手を付けたくない。パレオちゃんはマゾ精神故に興奮してるし、ますきちゃんは僕を勝手にドSと決めつけ、六花ちゃんは自分がペットになる妄想で沸騰している。今やたくさんのファンがいるRASだけど、こんな姿を見せたら果たしてどうなるだろうか……? そういったサディスティックな考えなら浮かぶんだけどね。

 

 

「ありがとうございます秋人様! 首に付けていただいたコレ、一生の家宝にします!」

「いやいいから!! ていうか、こんなことでRASの魅力が上がるのかな……」

「性的欲求を満たすこと、それが女子力にも繋がるのです!」

「暴論だけど悦んでいるのならいっか……」

 

 

 もうこれ以上彼女を刺激すると何を言い出すか分かったものじゃなく、口を開かせれば僕がどんどんドSキャラにされていくのでここで話を切り上げる。まぁ性癖は人それぞれだし、他人に迷惑を掛けなければどんな趣味だろうと否定するつもりはない。現在進行形で僕自身が被害を被っている気もするけど……。

 

 

「最後は私ね。待ちくたびれたわ」

「言っておくけど、あまりにセンシティブなのは禁止だからね。それにチュチュちゃんは高校生だけど年齢はまだ中学生なんだから、そこのところも考慮していただけると……」

「何言ってるのよ、女子中学生こそ男子高校生の大好物じゃない。まさに食べ頃、旬を逃した果実は二度と元の味には戻れないのよ」

「自分の身体売っちゃったよ!! 別に僕、JCモノが好きとかじゃないから!!」

「嘘ばっかり。女子中学生どころか小学生までストライクゾーンのくせに。女児に甘やかされておっぱいを吸いまくりたいとか思ってるでしょう?」

「そ、そんなことは……」

「凹凸のない小さな女の子の胸、その先端にむしゃぶり付きたい?」

「な、ない。絶対にない……」

「やらせてあげなくもないわ。吸ってる間は頭をなでなでして甘やかしてあげる。どう?」

「うっ……」

 

 

 興味があると言われたらそうだと言える。だが僕がそういった願望を持っているのではなく、そういったプレイを見るのが好きなだけだ。決して自分から犯罪者に転身するような真似はしない。しない……と誓いたいんだけど……。

 

 チュチュちゃんは服を少し捲り上げている。まるで僕にここへ頭を突っ込めと言わんばかりの行動だ。あそこに頭を入れれば夢のおっぱいを吸いながら頭を撫でられる赤ちゃんプレイが実現できるらしい。でもそんなことをしていいのか? 男として、性癖としては確かに魅力的な提案だけど、人間として地位、名誉、尊厳etc……ありとあらゆるものを失う気がする。

 

 僕を誘うように妖艶な笑みを浮かべるチュチュちゃん。一時の快楽のために全てを失うか、それとも未来を守るために自分の欲求を裏切るのか。魔王に世界の半分を譲ると言われた勇者のような感覚だ。

 

 僕が取るべき選択肢。それは――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「秋人さん、大丈夫ですか……?」

「頑張った。頑張ったね秋人」

「私は秋人様のそういうところも大好きですよ♪」

「チュチュも興奮してたしな。よくやったよ秋人は」

「そ、想像よりは良かった……と思うわ」

 

 

 JCには、勝てなかったよ……。

 




 RASのキャラを暴走させちゃったけど、私はちゃんと彼女たちのことが好きですよ(笑)
 ガルパで実装されるのを楽しみにしている勢なのです。


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閑話03:戸山姉妹は思春期

 ア○ジャッシュ的な何か。
 先に話のネタの意味が知りたい人は独自で検索してお楽しみください。


「一緒に調査して欲しいんです!」

「えぇっと、とりあえず落ち着いて……ね?」

 

 

 明日香ちゃんは両手でテーブルを叩き、対面で座っている僕に上半身を乗り出した。

 いつもは冷静沈着でクールな明日香ちゃんがここまで取り乱しているのは珍しい。突然僕の家に乗り込んで来たかと思えば、割と深刻な面持ちで相談事を持ち掛けられた。そして開口一番にはこの通り。要領を得ず感情だけで喋るなんて姉の香澄ちゃんじゃあるまいし、彼女らしくもない。一体何があったんだ……?

 

 

「すみません、取り乱しました」

「それほど切羽詰まってるんだね。僕であればいくらでも協力するから」

「ありがとうございます。実は……」

「うん」

「六花が……六花がその、ひ、卑猥な言葉を連発するんです!!」

「はい……?」

 

 

 一瞬聞き間違いだと思ったけど、その内容が事実だとすれば明日香ちゃんが取り乱すのも分かるので恐らく聞き間違いではないだろう。となると六花ちゃんがそんなはしたない真似を?? 確かに少しむっつりさんなところはあるかもしれないけど、彼女は田舎から出てきた純粋無垢な少女だ。だからそんな痴女みたいな言動をする訳がない。現に僕と抱き合っただけでも顔を赤くしてトリップするくらいだし、卑猥な言葉を発すること自体彼女にとっては難しいことだろう。

 

 

「信じられないって顔をしていますけど、本当のことなんです。もしかしたら、何か悩み事があって精神に異常をきたしているのかも……」

「この前会った時はストレスを抱えてそうな感じじゃなかったんだけどなぁ。六花ちゃんがRASに入ってからちょっと内輪揉めがあったらしいけど、それも解決して今は5人仲良くやってるみたいだしね」

「そうなんですけど、やっぱり心配で……」

「明日香ちゃんは優しいね」

「ふえぁ!? そ、そんなことないですよ! 友達として当然のことをしているまでで……」

「そうやって些細な問題でも解決しようと頑張って、誰かに相談することこそ凄いと思うよ。うん、だから僕も協力するよ」

「あ、ありがとうございます! このお礼は秋人さんに一生ご奉仕することで清算します!」

「重すぎるでしょ!? 無償でやるから!!」

 

 

 でもそれくらいの覚悟を持って友達のお悩み解決に臨んでいるのだと思うと、僕も是非協力したくなってくる。彼女をここまで慌てさせるほど痴女になってしまったらしい六花ちゃん。正直そんな姿の六花ちゃんに会うのは怖いけど、ここは僕を頼ってくれた明日香ちゃんのためにも事態解決に向けて奔走してみよう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなで翌日、僕は戸山家へとやって来た。どうやら今日は六花ちゃんと勉強会をするらしいので、ついでに僕も参加させてもらい事態の解決に乗り出そうという算段だ。ちなみに僕はニートだけど勉強はそれなりにできるからね? ニートだからこそ時間もあるし、最近はネットで勉強の教材なんていくらでも転がっている。だから年下の勉強を見るくらいはいくら賢い明日香ちゃんや六花ちゃん相手でも問題ない……はず。

 

 とにかく、まずは六花ちゃんの様子を窺うところから開始かな……と思ったんだけど――――

 

 

「秋人くんいらっしゃ~~い♪」

「か、香澄ちゃん!? うっ、苦しいって……!!」

 

 

 戸山家に乗り込んだ瞬間、玄関先で早速香澄ちゃんに捕まってしまった。いい匂いするし身体も柔らかくて気持ちいいし、胸も当たってるしで相変わらず無防備極まりない。でもそんな無自覚さが男を惑わせるんだからタチ悪いよなぁ……。

 

 

「もうお姉ちゃん! 秋人さんは私たちの勉強会に参加してもらうんだから邪魔しないで!」

「そうなんだ。だったら私も参加する!」

「お姉ちゃん、高一の勉強分かるの?」

「あっちゃん、もしかしなくてもバカにしてるね……?」

「自分の成績表と睨めっこしてみなよ。どっちが勝つかは明白だけどね」

「わぁ~んロックぅ~!! あっちゃんがイジメるぅ~~!!」

「えぇっと……私たちと一緒にもう一度お勉強頑張りましょう!」

 

 

 六花ちゃんもう来てたんだ……ていうより、その言葉は香澄ちゃんに更なる追い打ちをかけてない? また高校一年生の勉強をさせられるなんて香澄ちゃんのプライドが……いや、彼女はそんなことを気にするタマじゃないか。

 

 

「秋人さん、お姉ちゃんは放っておいて私の部屋に行きましょう」

「えっ、うん……。六花ちゃんも今日はよろしくね」

「は、はいっ! わざわざご足労いただきありがとうございます!」

 

 

 六花ちゃんは礼儀正しく僕にぺこりと頭を下げる。明日香ちゃんから聞いた事前情報では彼女が淫語を連発する事態が発生しているらしいんだけど、今はいつもの可愛い六花ちゃんだ。どう見てもそんな痴女っぽい言動は見受けられない。明日香ちゃんの勘違いだったり、その時たまたま様子がおかしかっただけとかなら取り越し苦労で良かった良かったなんだけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなわけで明日香ちゃんの部屋で勉強会が始まった。結局香澄ちゃんも参加したんだけど、高一の範囲を明日香ちゃんや六花ちゃんから教わっていることは彼女の名誉のために黙っておこう。もう後輩勢の勉強会というよりかは、香澄ちゃんの高一範囲復習会と化している気がするけどまぁいっか。

 

 ある程度時間が経ち休憩時間。明日香ちゃんは人数分のお茶をトレイに乗せて部屋に戻ってきた。そして香澄ちゃんと六花ちゃんが仲良く談笑している隙を突き、僕に話しかける。

 

 

「秋人さん、お茶をどうぞ」

「ありがとう――――熱っ!?」

「すみません。でもこれが六花の秘密を解き明かす作戦なんです」

「作戦? こんなに熱いお茶が?」

「はい。私の事前調査では、熱いものを手にしたり口にした時に例の事象が発生するみたいで……。とにかく、これを六花に仕掛けてきます」

「う、うん……」

 

 

 明日香ちゃんは六花ちゃんにお茶を振舞う。淫語を放つってことは淫猥な気持ちになるってことだと思うけど、熱いお茶でそんな状態になるのかな……?

 

 

「ひゃっ!? 明日香ちゃん、ちんちん!!」

「「えっ……?」」

 

 

 あまりにも唐突過ぎる下ネタに、初見である僕と香澄ちゃんの驚きの声がハモる。

 なんていうかその……想像以上にド直球すぎて唖然としてしまう。もっと捻りがあるとか、知る人ぞ知る淫語とかなら女子の猥談で炸裂してもおかしくないものの、まさか小学生以下の淫語が飛び出すとは思ってもいなかった。しかも淫猥なことに耐性がなさそうな六花ちゃんが何の躊躇いもなくそんな言葉を……。

 

 

「ロックが……ロックが悪い子になっちゃた!!」

「えぇっ!? わ、私、何かやっちゃいましたか……?」

「やっちゃったっていうか、いきなりすぎてビックリしたというか……」

「…………?」

 

 

「秋人さん、聞きましたか? この前町内会の焼き芋パーティに参加したときもこんな感じだったんです。幸いにも人がたくさんいて盛り上がっていたので聞いていたのは私だけでしたけど、あの時はハラハラしました……」

「災難だったねそれは……」

 

 

 大勢が参加した焼き芋パーティでも淫語発言。もはや鋼のメンタルどころか変質者にしか思えないんだけど……。

 

 

「すっごいちんちんやわぁ……」

「だって秋人くん」

「ちょっ、どうして僕の下半身を見るの!?」

「大きいもんね、秋人くんの」

「へ? 見たことあるの!?」

「そりゃ……ねぇ?」

「何その意味深なセリフ!?」

 

 

 香澄ちゃんは不敵な笑みを浮かべる。正直叩けば埃がたくさん出てくるだろうけど、それは彼女に限ったことではない。僕のベッドに勝手に入ってくる子もいれば、一緒にお風呂に入ろうとする子もいる。だからいつどこで僕の裸体が彼女たちの眼に晒されているのか分かったものじゃない。しかもそれが本気で有り得そうなのがまた怖いんだよね……。

 

 

「ちんちんだからまだ飲まないでおこうかな……」

「ち、ちん……!? ロック飲んじゃうの……?」

「えっ、は、はい。差し出されたものですから、ありがたくいただきます」

「そ、そんな……秋人くん!!」

「うわぁっ、なになに!?」

 

 

 僕は香澄ちゃんに部屋の隅っこに追いやられた。そして六花ちゃんに聞こえないくらいの小さい声で話す。

 

 

「ロックが秋人くんの貞操を狙ってるよ!? どうする? どうする??」

「どうして目を輝かせてるの……? 変なこと期待しないでよ……」

「ロックが飲んでくれるんだって! あっ、もしかして今日はもう抜いてきちゃったとか……?」

「性欲がないからテンションが低いんじゃあないよ……」

「でも男の子って女の子に飲んでもらうのが好きなんでしょ? 秋人くんの部屋にあったエッチな本に描いてあったもん」

「それはまぁ……否定はできないけどさ……」

 

 

 そりゃ可愛い女の子にそんなことをしてもらえたら男なら誰でも興奮するって。どんなに体裁を取り繕ったとしてもどうせ男は性に飢えた獣。女の子から与えられる快楽には身を委ねるしかないんだ。

 ていうか、どうして香澄ちゃんとこんな会話をしているんだろう……。六花ちゃんの異変を調べに来たはずなのに、彼女の例の発言以降僕たちの方が猥談を繰り広げてしまい目的が脱線している。むしろ肝心の調査対象はいつも通りのほほんとしているし、これどうすればいいんだか……。

 

 

「あのぉ……部屋の隅っこで何をしているんですか?」

「えっ、いや何でもないよ何でも!」

「それならいいんですけど、秋人さんも香澄先輩も今日はテンションが高いので何かいいことがあったのかなぁと」

「いいことあったよ! だって今日はロックが大人になった記念日だもんね! あぁ、出会った頃はまだ子供だったのに、いつの間にか男性のあそこに興味を持つほど大人になって……昔を思い出すだけで涙が出ちゃう」

「いやいやまだ出会って半年も経ってないでしょ……。それに大人ってよりかは子供寄りの発言じゃない……?」

「子供? 大人?」

 

 

 香澄ちゃんの嘘泣きはさて置き、ここまで言われても六花ちゃんは自分の発言に羞恥心を感じていないらしい。いくら彼女がド天然だろうとも小学生が叫びがちな男性器の名前くらい知っているはずだし、エロ耐性が高くない六花ちゃんがそんな下品な言葉を使うはずがない。僕が知らないだけで実は猥談が好きなムッツリスケベなのかもしれないけど……。

 

 

「明日香ちゃん、今の六花ちゃん普通に落ち着いてるみたいだけど、焼き芋パーティの時もこうだったの?」

「はい。もしかして、ああいう言葉を使ってお喋りするのが今の女子高校生のトレンドなんでしょうか……? 私、そういった界隈の流行りには疎くて……」

「いや絶対にない」

「でもあこは出会った時からそういった話題が好きでしたよ? 大体が秋人さんとしっぽりしたって話でしたけど」

「待って! あこちゃんと濡れ場シーンを共にしたことはないからね!? デマを真に受けないでね!?」

 

 

 僕がいないからって学校でなんて話をしているんだあのロリっ子堕天使は……。あこちゃんとは1つ違いだけど、どうも彼女を下劣な目で見るのは罪悪感がある。決してこちらから手を出そうとしているわけではなく、向こうから積極的に肢体を押し付けてくるから困っているんだよなぁ……。

 

 

「ロックはその『ちんちん』っていうものが好きなの?」

「ちょっ、何聞いてるの香澄ちゃん!?」

「だってあのロックがそんなことに興味を持ってるなんて面白いじゃん♪」

「興味本位が過ぎる……。素直に答えてくれるわけ――――」

「好きですよ」

「えっ?」

「そっかぁ~~って、ええっ!?」

「六花、そんな……」

 

 

 香澄ちゃん、自分から質問を振っておいて驚いてるし……。あそこまでドストレートな答えが返ってくるとは想定もしていなかったのだろう。

 でもあの清純潔白な六花ちゃんが……好き? 男性器を? 意外過ぎて開いた口が塞がらない。それは戸山姉妹も同じだった。純粋無垢な顔をしておきながら、家ではこっそりアレを咥えるプレイの動画とか視聴しているんだろうか……? 六花ちゃんのそんな姿を想像するとこっちも興奮してきたりしてこなかったり……。

 

 

「ロックは『ちんちん』のどこが好きなの?」

「どこがと言われるとそうですね、小さい頃から慣れ親しんだ味なので、もはや生活の一部みたいなところはありますね」

「小さい頃から!? そ、そんなロックがそこまで進んでたなんて……!!」

「まぁ田舎者っぽいですよね……。でも私の家族や周りの人たちはみんな好きですよ」

「みんな!? そ、それって俗に言う乱交ってやつ……?」

「何か言いました、香澄先輩……?」

「うぅん、なんでもないよ!! 秋人くん!!」

「また!?」

 

 

 香澄ちゃんは再び僕を部屋の隅っこに追い込む。ほんのり顔を赤くしながらも焦っている様子だけど、無駄にテンションが高いのが丸分かりだ。目も輝いてるし、六花ちゃんの爆弾発言に驚きながらもこの状況を全力で楽しんでいるようだ。妹の明日香ちゃんはずっと唖然としているというのに……。

 

 

「これってヤリマンって言うんだっけ……?」

「いやその汚名は酷すぎるでしょ。流石にそこまで汚れてはないと思うけど……」

「でもでも、周りの人たちもみんな好きなんだって! ロック、もしかして経験人数凄いのかな?」

「田舎は貞操観念が低いところもあるってのは聞いたことがあるけど、六花ちゃんに限ってそれは……」

「私、油断してたよ。ロックのことを自分の子供のような温かい目で見てたけど、今良く見てみるとなんだか大人のお姉さんっぽいもん」

「それは無理があるような……」

「とにかく、秋人くんの貞操が狙われているのは確かだよね。だって田舎にいた頃は大乱交でお祭り騒ぎをしてたくらいだから、都会に出てきて何もしないはずがないよ! 秋人くんみたいな草食系男子なら特に!」

「もう香澄ちゃんの中では六花ちゃんがヤリマンになってるね……」

 

 

 偏見に偏見を重ねているけど、六花ちゃんの発言を鑑みるに否定できないのもまた事実。田舎から出てきた清純な少女だと思っていたけど、僕たちより遥かに進んだ人生の先輩だったのだ。これからは六花『ちゃん』ではなく六花『さん』とお呼びした方がいいのかもしれない。

 

 

「あっちゃんはいい先輩を持ったね。これからロックに、いやロックさんに人生をたくさん学ばせてもらうんだよ」

「真に受け過ぎだから! もっと六花のことを信じようよ!」

「ロックさんは経験豊富で素敵な女性なんだよ? 私たちのような一般女子高生なんて子供同然なんだよ? 今まで向けていた笑顔も、もしかしたら子供っぽい猥談をしてる私たちを嘲笑っていたのかも……」

「どうして遠い目をしてるの……。お姉ちゃんもいい加減元に戻ってよ。六花だけじゃなくてお姉ちゃんまでおかしくなったら私まで病みそうだから……」

「そっか、私にはロックを煩悩から解放する使命がある! ロックがあまりにも大人の色気を振り撒くから忘れちゃってたよ。ありがとう、あっちゃん。私、大切なことを忘れてた。大切な友達を救うって!」

「なんかお姉ちゃんの方が情緒不安定に見えるんだけど……」

 

 

 六花ちゃんの『ちんちん』発言には驚きだけど、香澄ちゃんが奇行に走るのは日常茶飯事なので今更ツッコミを入れる気にもなれない。でも彼女の無謀な積極性こそが問題の解決に繋がることがあるため、ここは彼女に事の行く末を託してみよう。

 

 

「ロック!!」

「は、はいっ!」

「私はあなたをそんなエッチな子に育てた覚えはありません!! 今すぐ援助交際はやめなさい!!」

「えぇっ!? エ、エッチって……」

「なんか無駄にスケール大きくなってるけど、確かにまぁ……今の六花ちゃんはちょっとアレかな……」

「アレって何ですか!? そんな私、ひ、卑猥なことを……」

「だってロック、ずっと『ちんちん』って連呼してたから……」

「ち、ちん……!? そんな恥ずかしいこと言う訳ないじゃないですか!?」

「え? だってでもさっき……」

「へ?」

「ん?」

 

 

 香澄ちゃんと六花ちゃんはお互いに顔を見合わせる。どうやら話の意図が上手く伝わっていないみたいだ。六花ちゃんはさっきまで澄ました顔で『ちんちん』発言をしていたのに、今更になって恥ずかしがっているのはどうして……? まさか二重人格じゃあるまいし……。

 

 ずっと気になっていたけど、もしかしたら僕たちって物凄く勘違いをしているのかも……?

 僕は手早くスマホで気になることを調べてみた。するとすぐに今までの違和感が消える。

 

 

 全てを知った今、肩の力がどっと抜けしまった。

 このまま話を拗らせたままにするわけにはいかないので、未だに混乱を極めている3人に事のあらましを説明した。

 

 

「へぇ~そんな意味があったんだ」

「なんか……騒ぎ立てて申し訳ないです……」

「わ、私こそ誤解させてしまったみたいで……」

 

 

 騒ぎの種を振り撒いた六花ちゃんと騒ぎの場を作った明日香ちゃんは僕に平謝りする。そりゃそうだ、まさか『ちんちん』が岐阜の美濃弁で「ものすごく熱い」って意味があっただなんて現地に住んでいた人じゃないと誰も分からないからね……。香澄ちゃんが六花ちゃんに『ちんちん』が好きかと質問したけど、六花ちゃんはお茶を手にしていたせいか「熱いお茶」が好きなのかと質問の内容を勘違いしたらしい。僕たちと会話が噛み合っていなかったのはそのせいだ。

 

 それにしても、六花ちゃんがヤリマンに染まっていなくて良かったよ。いつもの清楚な彼女のままでいてくれたってだけでもこの勘違いは水に流せる。

 

 

「そういえば、最初に勘違いしたのはあっちゃんだよね? いやぁ~あっちゃんも思春期だねぇ~♪」

「う、うるさいよ! ていうかお姉ちゃんも真っ先にあっちの意味で勘違いしてたじゃん!!」

「ムキになるのも分かるよ、多感な時期だもんね」

「うぐっ、お姉ちゃんのくせに悟らないで、生意気だよ!」

「あわわ……わ、私のせいで本当にゴメンなさい!!」

 

 

 お互いの誤解は解けたものの、戸山姉妹に小さな障壁を残す結果となった。誰が悪いとかそんなのはないんだけど、しばらく六花ちゃんは謎の責任を感じちゃいそう……。

 

 

「そういえばロックって『ちんちん』は好きなの?」

「それはどっちの方ですか!? そ、その……人によります」

「だって、秋人くん♪」

「何が!?」

 

 

 そして六花ちゃんはしばらく今回のネタでイジられ続けそうだ……。あっ、それは僕もか……。

 




 すれ違いネタは大好きなのですが、ネタを調達してくるのが大変という罠がありまして……。今回のネタは六花ちゃんに方言を喋らせる際の素材集めとして色々調べていた時に見つけたもので、発見した瞬間に今回の話をやるしかないと思いました(笑)



この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします! 
小説を執筆するモチベーションに繋がります!


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閑話04:○○しないと出られない部屋

 イラストやSSなんかでは良くあるネタですが、この小説ではやったことがなかったので。
 今回は閑話01のような短編集の中の短編集です。


 

【奥沢美咲の場合:キスしないと出られない部屋】

 

 

「なるほどね。だったらさっさとしようか」

「一切躊躇いがない!?」

 

 

 美咲ちゃんは何の躊躇いもなく僕に顔を近付けてくる。普段は気だるそうな言動をしてるけど、何故か僕との身体接触だけはやけに積極的なのが彼女。今も謎の力によって2人して変なミッションが掲げられた部屋にぶち込まれたというのに、それに対しての動揺は微塵もないようだ。いつも奇行の多いこころちゃんたちを相手にしてトラブルには慣れているのか、それとも……。

 

 

「秋人は私とキスしたくない?」

「その質問はズルいでしょ……。そもそも軽いノリですることじゃないと思うけど」

「欧米では挨拶みたいなものだから。この世はグローバル社会、日本の閉鎖的な習慣はもう古いんだよ。視野を広げてもっとオープンにならないと」

「それ、美咲ちゃんがただキスしたいだけだよね? ただのワガママだよね?」

「だからなに? ほら、余計なこと言ってないで準備して。それとも私からした方がいい?」

「開き直らないでよ……」

 

 

 いつにも増して美咲ちゃんの圧がヤバい。キスすることがさも当然かのような感じだし、何より無表情でこちらに迫ってきているのでかなり怖い。もはやキスするだけのbotと言われてもおかしくないくらいにはどこか事務的で、そして何の躊躇いもないようだ。彼女からの圧力に僕は少し後退りしてしまう。

 

 

「逃げるのはいいけど、こんな狭い部屋の中で逃げ切れると思わない方がいいよ。それにいざとなったら華奢な秋人なんていつでも押し倒せるしね。普段テニスやミッシェルで鍛えてる私とニートの秋人、どっちが強いと思う?」

「何その脅し!? 完全にエロ同人展開じゃん!!」

「あぁ~もしかしてキスの先までお望みの感じ? しまったなぁ、今日はそんなに可愛い下着じゃないんだよね。秋人と一緒の密室に閉じ込められるって分かっていたら喜びそうな下着を着けてきたのに」

「そんな用意いらないから!! 別にその先なんてしないからね!?」

「あぁなるほど、可愛い下着よりも私が普段使いしてる下着の方がいいってことか。だったらテニスが終わった後の蒸れた下着でやるってのはどう?」

「そういう意味じゃないって!! 美咲ちゃん今日テンションおかしいよ……」

「そりゃ秋人と密室空間だなんてテンション上がるよ」

 

 

 その割には淡々としているというか冷静に見える。彼女のテンションはいつもそこそこに冷めてるけど、今日は冷めながらも口数や言葉選びだけはハイテンションだ。変に雰囲気だけ高揚されるより、こうして淡々とした口調で迫られる方が断然怖いんだけどね……。

 

 

「もうグダグダと話すのは面倒だからキスしていい? するよ? するね」

「ちょいちょいちょい!? 待って待って待って!!」

「あのね秋人、キスはムードなんだよ。そんな大声を出されたらムードが台無しになるの分かってる?」

「事務的な感じでキスしようとしてる人が良く言うよ……」

「本気だよ、これでも」

「えっ……?」

「隙あり」

 

 

 このあとメチャクチャ○○した……かもしれない。

 

 

 

 

【白鷺千聖の場合:混浴しないと出られない部屋】

 

 

「ちょっと!? どうしていきなり脱ぐの!?」

「脱がないとお風呂に入れないじゃない。もしかして秋人くん、着衣したままの入浴に興味があるの? あまりいい趣味とは言えないわね」

「いきなり男の前で脱ぎ出す奇行をしている上にあらぬ誤解を振り撒かないでよ……」

 

 

 それほど広くない部屋に小さい湯船が1つ。どう見ても2人で入るには密着するしかないのに、千聖ちゃんは何の躊躇いもない。いつものことと言ってしまえばそうなんだけど、もっと女優としての威厳や、そもそも女の子の貞操観念としてどうなんだ……。

 

 

「私、このあとドラマの撮影があるのよ。だから一刻も早くこの部屋から出たい。つまり、どうすればいいのか分かってくれるわよね?」

「そう言いながら僕の服に手をかけないでよ!? それに若干息荒くなってるし、絶対に興奮してるでしょ!?」

「そんなはしたない真似をするわけないじゃない。私は女優よ? 例えプライベートであろうが平静を乱すことはないわ」

「ちょっ、力強いって!! 異性を無理矢理脱がそうとしてる時点で煩悩塗れだよ!!」

 

 

 冷静さを気取っているが、やっていることはただの犯罪である。自分が情欲に支配されていることを押し隠そうとするのは女優としての性なのかもしれないけど、残念ながら滲み出る性的興奮は抑えられていない。僕が絡まなければ高潔で清楚な女の子なのに、一体どっちが千聖ちゃんの本当の顔なんだろうか……。

 

 

「秋人くん、よく考えて。女子高校生が自ら一緒にお風呂に入ろうと誘っているのよ。それなのにあなたは拒んでいる。健全な思春期男子ならば返答すらせず女の子を抱くと思うけど?」

「それは流石に年頃の男性をケダモノ扱いし過ぎだよ……。まぁ中にはそんな人もいるかもしれないけど、少なくとも僕は違うからね」

「あなた、まだ自分がどれだけ優遇された立場にいるのか分かっていないようね」

「え……?」

「タダで女優と混浴できるのよ? 白鷺千聖と一緒にお風呂に入りたいと思っている人はこの世で何人いると思う? それも自分の今後の人生を潰してでも大金を支払う人が多いでしょうね。そんな私とタダで、しかも私の方から誘っているというのにあなたは拒んでいる。全世界の男性よりも優位な立場なのにも関わらずね。私を抱きながら入浴して、全ての男性を見下すような優越感に浸たることだってできるのに……」

「しないよそんなこと!? 千聖ちゃんのファンに殺されちゃうよ僕!?」

 

 

 背徳を感じられるという点であれば魅力的かもしれないけど、それで優越感に浸れるほど僕は堕ちぶれていない。そりゃ僕だって男だから女の子と同じ湯船に浸かるのは嫌というわけじゃないけど、千聖ちゃんの場合は別の問題があるから怖いんだ。今も僕を捕食するかのような眼光。そう、僕は彼女に襲われないか心配なんだよね……。

 

 

「口で言っても分からないのであれば、身体で分からせるしかないわね」

「な、何する気!?」

「この世にはソーププレイというものがあるらしいわ。そしてこの部屋には私たちと泡が満ちた湯船が1つ。その意味は分かるわよね?」

「せめて普通にお湯を張って欲しかった……!! でも千聖ちゃんってソープできる身体じゃない……い、いや、聞かなかったことにして」

「なるほど、私の身体が貧相と言いたいのね。確かに間違ってはないけど、だったら余計に私という存在をあなたに刻み込んであげる……」

「じょ、冗談だって!! ちょっ、あっ……あああっ!?」

 

 

 このあとメチャクチャ逆レ……されたりされなかったりした。

 

 

 

 

【弦巻こころの場合:セッ○スしないと出られない部屋】

 

 

「ねぇ秋人、セッ○スって何かしら?」

「ぶっ!!」

 

 

 良くも悪くも純粋なこころちゃんの口からそんな単語が飛び出すなんて……。いいところの娘だから汚らわしい言葉の意味を知らなさそうだとは思ってたけど、まさかここまでとは……。流石に学校の授業でも『セッ○ス』なんて直接的な言葉は使わないだろうから仕方ないと言えば仕方ないけどさ。

 

 そして、今回は今までとはパターンが違う。これまでは女の子から襲われる展開だったけど、今回は僕が導かなくちゃいけない。こんなに純粋なこころちゃんを? 本当にやるの??

 

 

「どうしたの秋人、顔が赤いわよ? もしかして熱でもあるのかしら?」

「な、なんでもないよなんでも!!」

「ならいいんだけど。それよりセッ○ス? っていうのをしないとこの部屋から出られないらしいじゃない。私、このあとハロハピの練習があるから早く行かないといけないのよ。でもセッ○スって良く分からないし……。だから秋人に全部任せるわ」

「全部!?」

「えぇ、秋人の好きにしていいわ」

 

 

 好きにしていいって、それ僕が善良な男子だから良かったものの、僅かでも性欲に溺れた思春期男子だったら間違いなく騙されるよ……。そもそも好きにしろと言われても未だ童貞(だと思う)の僕には女の子を襲う度胸はないんだけどね。

 

 それにしても、この状況をどう脱しようか。美咲ちゃんや千聖ちゃんの時のようにただ受け流すだけでは事態は解決せず、僕から何かを提案して切り抜けなければならない。もちろんこころちゃんに余計な汚らわしい知識を植え付けたくないため、セックスの意味は伏せる必要がある。うん、どう足掻いても無理ゲー。

 

 

「もしかして、秋人もセッ○スをしらないのかしら?」

「えっ、あ、あぁ実はそうなんだよ。知らないことをやれって言われてもできないから、それを伝えればここから出してもらえるんじゃないかな。どうせこれも黒服さんの仕業だろうし……」

「ん? 何か言った?」

「う、うぅんなんでもないよ!! とにかくもうこんなおふざけに付き合ってる暇は――――」

「あっ、こんなところにタブレットが落ちてるわ。何か書いてあるわね――――『セッ○ス初心者講座』?」

「え゛っ……!?」

 

 

 なんでそんなものがここに!? と思ったけど、黒服さんのことだからこころちゃんが性知識に無知なことを知っていてタブレットを仕込んでおいたのだろう。彼女は物事に一度興味を持ち出すと他のことを忘れてそれに一直線になるから、もしここで性行為の知識を得たら非常にマズい。美咲ちゃんや千聖ちゃんも大概積極的だったけど、こころちゃんに付き纏われたら逃げ切れる気がしない。だとしたら今すぐに彼女を止めなければ……!!

 

 

「こころちゃんそれ僕に貸して!!」

「待って、今いいところだから! ふむふむ……うん、なるほど。秋人!」

「な、なんでしょうか……」

「とりあえず服を脱ぎましょう!」

「こうなると思った! ていうかとりあえずのハードルが高いよ!!」

 

 

 こうなってしまったらもう腹を括るしかないのか……? 密室にセックス指南書を置くくらいだから、これはもう本格的に性行為をしなければ部屋から出してもらえそうにない。男の欲望という観点では最高のシチュエーションかもしれないけど、社会的、倫理的、その他諸々を考えるとこの状況は大変危険だ。

 

 

「こころちゃんは恥ずかしくないの? 僕の前で裸になるって……」

「恥ずかしい……? 確かにドキドキしてるかも? ライブの時のような楽しいドキドキじゃない変な感じ……」

 

 

 これだ! こうやってこころちゃんの羞恥心を引き出すことができればセックスを嫌がって回避するはず。黒服さんも彼女の拒む姿を見れば流石に諦めてくれるだろう。というかこころちゃんにもしっかり羞恥心があるんだね。ただひたすらに猪突猛進な女の子だと思ってたけど、年頃の女の子っぽさも残っていたと安心したよ。

 

 美咲ちゃんや千聖ちゃんの時は僕の敗北で終わっちゃったけど、今回は完勝できそうだ。今もこころちゃんは頬を赤くしてこちらを見つめている。つまり羞恥心を感じ始めていると言うこと。それをあと少しくすぐってあげれば……よし、勝った!

 

 

「身体が熱いわ……。こんな気持ちになったのは初めてかも……」

「うん、それが普通なんだよ。だから――――」

「この気持ちが何かを確かめるためにも、秋人とセッ○スするのがよさそうね! それじゃあ秋人、早く服を脱いで!」

「へっ……? ど、どうしてそうなるの!? ちょっ、無理矢理脱がさないで――――あ、あぁっ!?」

 

 

 そうだった。こころちゃんは自分の分からないことがあればとにかく行動する子だったよ……。

 

 

 

 このあと何とか踏み止まり、性行為の代わりに性知識を与えることで難を逃れた。

 彼女の純潔は守ったけど、余計なことを教えてしまったから清純を穢す大罪を犯してしまった気がする……。

 



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Morfonicaに甘やかされる

 ガルパでMorfonica登場からかなり時が経ってしまいましたが、本作でもようやく登場です。
 モニカのみんなは全員高校1年生なので、本作では思いっきり後輩感を出してみましたが……流れはいつもと変わらない気がします(笑)

 ちなみにキャラ紹介はサラッとしているだけなので、性格など詳しく知りたい方は事前に調べておいた方がより楽しめるかと思います。


「秋人さん。はい、あ~ん」

「あ、あ~ん……」

「もう1口どうですか? あ~ん」

「ま、また? あ~ん……」

「まだありますよ。 あ~ん」

「あ~ん……って、ペース早すぎるから!!」

「ふえっ!? ゴ、ゴメンなさい私なんかが出しゃばっちゃって……」

「いやそこまで怒ってないけどさ……」

 

 

 何故か僕は倉田ましろちゃんにビーフシチューを食べさせられていた。飲み込む前にどんどんスプーンを向けられたため、もはや食べるというよりかは流し込まれていた感覚に近い。

 今日はMorfonicaのみんなが僕の家に遊びに来ている。食事を作ってくれたり部屋の掃除をしてくれたりと至れり尽くせりの状況だけど、まだ出会ったばかりのこの子たちにお世話をしてもらうのは何だか気が引ける。それでもなお彼女たちが身の回りの世話をしてくれるのは、どうやら『秋人さんを一目見た時からやらなくちゃいけないと思った』からだそうだ。それってどんな催眠モノ??

 

 そんなわけでMorfonicaのみんなも定期的に僕の家に上がり込むようになった。最初香澄ちゃんに彼女たちを紹介してもらったのだが、その時のみんなはかなり緊張気味だった。でも今では家政婦のごとく僕の家の内情、例えば物が置いてある場所から埃が溜まりやすく掃除しなければならない場所などに詳しくなっている。他のバンドのみんなもそうだけど、もう僕よりもこの家のことを知ってるんじゃないかな……。

 

 

「シロってば、秋人さんに手料理を振舞いたくってずっと楽しみにしていたんですよ」

「わわっ!? 透子ちゃんそれは言わない約束……」

「いやぁあまりにもシロが必死だったからつい。秋人さんに手料理を食べてもらって嬉しいんでしょ?」

「う、うん……。頑張って練習したから……」

「ありがとう、美味しいよ。ビーフシチュー好きなの?」

「はい。だから秋人さんにも美味しいビーフシチューを食べていただきたくて……」

「それでお店のビーフシチューじゃなくて自分で作るって言い出すんだから健気だよねぇ~」

「もう透子ちゃんからかわないでよぉ……」

 

 

 モニカのメンバーの1人、桐ヶ谷透子ちゃんに弄られましろちゃんは耳まで顔を赤くし慌てふためいている。彼女は元から守ってあげたくなるような弱々しい感じなのだが、今は思わず抱きしめたくなるくらいだ。いつも女の子に抱き着かれる側の僕だけど、Morfonicaのメンバーは全員年下なこともあり妹のように思えちゃうんだよね。それだけに年下の女の子に甲斐甲斐しくお世話をされるのが情けないというか何と言うか……。まあそれに甘んじてるのはいつものことだけども。

 

 

「そうだ、秋人さんのために新しい服をデザインしたんですよ。着てみてくれませんか?」

「わざわざ僕のために? そんな気を使わなくても――――って、なにこれ!?」

「実は幼稚園児向けのデザインの依頼が来てまして、作っている間に『あっ、これ秋人さんにも似合いそうだなぁ』と思って秋人さんサイズに合うように調整したんですよ!」

「なに作っちゃってんの!? 僕高校生だよ!? ニートだから学校には行ってないけど……」

 

 

 透子ちゃんが手に持っているのは水色の園児服にスモック、そして黄色の園児帽だ。典型的な幼稚園児の服だけど、彼女の言う通り僕サイズのため一般の園児サイズよりも目に見えて大きい。明らかにコスプレ用と分かるものだけど、あれを僕が着るの!? 絶対にイヤなんだけど!?

 

 

「高校生と言っても、秋人さんって背丈がふーすけと同じくらいでそこそこ低いじゃないですか? だったら似合いますって!」

「そうなんだよねぇ……男なのに女の子と同じくらいだし、何なら女の子よりも低いからねぇ……」

「秋人さんがダークサイドに!? ゴメンなさいそんなつもりで言ったんじゃないんです! そ、そうだ、これで開き直りましょう!」

「いやそれ園児服!! 流れで着させようとしないで!?」

「えぇ~秋人さんの園児姿の写真を撮ってくるって、他のバンドの先輩たちにも言っちゃったしなぁ……。皆さんとても期待してましたよ?」

「なに約束しちゃってるの!? それ僕の黒歴史が増えるだけだから! かくなる上は――――」

「あっ、逃げた!!」

 

 

 ただでさえ普通に生活しているだけでも僕の隠し撮り写真が出回っているくらいなのに、園児姿なんて爆弾を投下されたら次はこの格好、次はこのコスプレをしてくれと迫られるのは確実。それは何としてでも避けなければならないので、自分の家だけどとにかくエスケープするしかない。

 

 隣の部屋に避難しようとした時、ちょうどその部屋から出てくる人影が見えた。しかし逃げ惑っていたためか勢いを止められず、思わず――――

 

 

「うっ、ぐっ……」

「……? 那須原さん……?」

 

 

 隣の部屋から出てきたのはモニカのメンバーの1人である八潮瑠唯ちゃんだった。背の高い彼女と背の低い僕が正面から衝突すればどうなるのかお察しのこと。僕の顔が彼女の胸に飛び込むように密着してしまった。

 うん、結構大きいな。さっきモニカのみんなは妹っぽいって言ったけど、彼女だけは違う。威厳のある風格に成熟したスタイル、出るところは出ている身体。彼女だけはお姉さんみたい――――じゃなくて、これは怒られる……!!

 

 と思ったけど、彼女は何故か僕を胸に抱き寄せたまま離さなかった。

 

 

「ルイ! 秋人さん捕まえておいて!」

「ちょっ、まだ諦めてないの!? 瑠唯ちゃんゴメン、離してもらえると助かるんだけど……」

「…………」

「えぇ~と、どうしたの?」

 

 

 瑠唯ちゃんは口数が多い方ではなく、いつもクールで表情も崩さない。そのせいで何を考えているのか分からない時も多いけど、今回はいつも以上に彼女の行動が意味不明だ。僕のことを胸に抱き寄せたままじっとこちらを見つめている。そのせいで僕も彼女の胸の中から相手の顔を見つめる不思議な構図となっていた。

 

 

「秋人さんがルイの胸に顔を埋めて悦んでる……うん、やっぱり園児服似合いそう! なおさら子供っぽいし!」

「ち、違うこれは瑠唯ちゃんが離してくれない――――って、力つよっ!?」

「これが母性というものですね。ずっとこうしていたいくらいです」

「僕としてもそれは悪くない――――じゃなくて、このままだと幼稚園児になっちゃうんだって!」

「ルイも認めてるし、そろそろ諦めたらどうですか? シロも秋人さんの園児姿、見たいよね?」

「ましろちゃんは健全だから。そんな邪なことは考えないから」

「秋人さんが幼稚園児……無邪気な笑顔……はわぁ……」

「ましろちゃん!?」

 

 

 ましろちゃんに助けを求めようと思ったけど、お得意の空想に耽ってしまい何の役にも立ちそうにない。瑠唯ちゃんも頬をじんわりと紅くしながら僕を無言で抱きしめてるだけだし、これってもしかして詰んでる……?

 

 

「あっ、こんな楽しそうなことに私を混ぜないなんていけずですよ~」

「な、七海ちゃん!? いや全然楽しくないからね……」

 

 

 メンバーの1人、広町七海ちゃんの登場でまたこの場がややこしくなる。彼女の性格的にこの事態を解決してくれるとは思えないので、更に僕の立場が悪化してしまうのは必至。なんか僕、いつも四方八方なピンチに立たされてる気がするんだけど気のせい……?? しかもそれで僕が逆転勝利した記憶もないんだけど……。

 

 

「るいさんだけ秋人さんを抱きしめてるのズルい。私もやっていいですか?」

「やっていいと言われても、これ僕が許可してるわけじゃないからね……」

「あっ、それだったらあたしも抱きしめたい! 一度でいいから秋人さんを抱きクッションにしてみたかったんだよね~」

「透子ちゃんまでそんなことを……」

「わ、私もお願いします! い、意外と胸あります……よ?」

「なにその申告!? そ、そうなんだ……」

「那須原さん、倉田さんに反応しましたね。私の胸の中で男が出ていました」

「秋人さんって意外とエッチなの? さっきからるいさんから全然離れようとしないし」

「エッチでもなければ自分から抱き着いているわけでもない!!」

 

 

 後輩たちがあまりも積極的過ぎる件について。この子たちが通っている月ノ森女子学園は名門のお嬢様学校だ。そんなお嬢様たちが自分の欲求を開き直るくらいに曝け出すこの光景、同じ学校の生徒や先生に見つかったらどう思われるんだろう……。最初出会った頃はお嬢様たちだから人付き合いも難しそうだと思ったけど、今は逆の意味で大変だよ……。人懐っこくはあるけど懐かれ過ぎて対応に困っちゃうくらいだ。

 

 誰か窮地に陥った僕を救ってくれる子は誰かいないのか?

 そう思った時、リビングの入口に救世主が現れる。

 

 

「もうみんな! 掃除サボって何してるの!?」

 

 

 僕と同じ背丈くらいで威厳はないものの、その声の張りの良さとみんなを注目させるくらいの統率力はさすが学級委員長であり、バンドのリーダーといったところか。Morfonica最後のメンバーである二葉つくしちゃんが左手を腰に当て、右手でモップを床に立てるように持ちながら現れた。どうやらみんなが僕のところに集まってしまい、掃除の手が足りなくなったのを怒っているようだ。

 

 

「それに秋人さんもまた女の子を侍らせてるし……」

「だから、これは僕の意志じゃないんだって!」

「つーちゃんもこっちに来て秋人さんを愛でようよ~」

「なんか目的変わってない!? 自分で言うのもアレだけど、今日は家事をしに来てくれたんだよね!?」

「そうですよ。だからみんな、秋人さんを困らせたらダメ。一時解散!」

「えぇ~せっかく秋人さんに似合う服持ってきたのに!」

「わ、私はまだ秋人さんにビーフシチューをあ~んしてる途中だし、胸で抱きしめてもないのに……」

「私はこうして那須原さんをあやすので忙しいから、そっちは任せたわ」

「目的を忘れた私的理由があまりにも多すぎる……」

 

 

 お礼を言うべき行為はビーフシチューを作ってくれたことくらいで、それ以外は己の欲求を満たすためだけの果てしなく迷惑な行為だ。まあ女の子に求められるのは悪い気はしないんだけどね……。

 ここに来てMorfonica全員集合。みんな後輩たちで『秋人さん秋人さん』と慕ってくれるのはいいんだけど、もはや愛情を超えた何かを感じるのが怖いところだ。透子ちゃんとか園児服を片手に目がギラついてたし、瑠唯ちゃんは無表情ながらも熱い抱擁で僕を離さない。ましろちゃんも七海ちゃんもこの空気に便乗しちゃってるし、まともなのはつくしちゃんだけだよ……。

 

 実際につくしちゃんはみんなを家事の従事に戻らせる偉業を成し遂げた。残っていたましろちゃん作のビーフシチューをありがたくいただきつつ、気付けばいつの間にかリビングには僕と彼女だけになっていた。

 

 

「ありがとうつくしちゃん、助かったよ」

「どういたしまして」

「あ、あの……つくしちゃん? ちょっと近いような……」

「みんなの魔の手から解放してあげたんです。私にご褒美……あげてもよくないですか?」

「ふぇ……? ち、ちかっ!?」

 

 

 つくしちゃんは僕の眼前に顔を近付け、俗に言われるガチ恋距離になる。少しでも動けばキスが成立するくらいに近く、女の子特有の甘くいい香りが僕の鼻孔をくすぐる。彼女の顔は赤くなっているが、その熱が直に伝わってくるほどだ。

 改めて見ると、つくしちゃんやっぱり可愛いな。いやガールズバンドはみんな可愛いんだけど、こうして間近で見るとド底辺ニートの僕には到底釣り合わない女の子たちだって思う。そんな子たちが毎日僕の家に出たり入ったりしているので、これ以上の贅沢はないだろう。だけどそれに甘んじてここでキスなんて……いいの??

 

 僕が戸惑っている間にもつくしちゃんは唇を徐々に近付けてくる。やっちゃうのか……本当にやっちゃうの??

 

 僕は目を瞑った。そして暖かい感触が僕の唇を塞ぐ。まさか後輩の子にファーストキスを奪われるなんて……。でも美少女に奪われたのなら本望かな――――あれ?

 

 

「はい、抜け駆け禁止」

「と、透子ちゃん!?」

「うぅ、もうちょっとだったのに……」

 

 

 僕とつくしちゃんの唇の間に透子ちゃんの人差し指が差し込まれていた。良くも悪くもナイスタイミングだけど、僕なんかにつくしちゃんが穢されなくて良かったよ。でも当の本人は目に見えて落ち込んでいる。そこまでして僕とキスしたかったんだと思うと申し訳なさもあるような……。

 

 見れば僕たちの周りにはモニカのみんなが集まっていた。ということは――――何をやっていたのかバレちゃった??

 

 

「つーちゃん自分だけ秋人さんとキスするなんてズルい~」

「最初からこれが狙いだったのね。でも下心が見え見えだったからすぐに分かったわ」

「ルイがリビングに戻った方がいいって言わなきゃ危なかったよ」

「あともう1秒あれば……もう1秒あればぁ……」

「そんなに僕としたかったの……?」

「はいっ!!」

「い、いい返事だね……」

「ていうかふーすけ近いって!! この期に及んでまだ諦めてないの?」

「秋人さんと1つになれるなら例え火の中水の中だもん!」

 

 

 みんなに邪魔をされたのにも関わらず、まだ僕に身体を密着させたままのつくしちゃん。なんか今日の僕、ずっと誰かに抱き着かれている気がする。いや役得と言えば役得なんだけど、やっぱり女の子に接近されるのはそれだけでドキドキする。だから思考停止で会話も頭に思い浮かんだことを衝動的に放つことしかできなかった。

 

 場が騒然としている中、服の袖を指先で摘ままれ小さく引っ張られる感触がした。顔を向けてみると、ましろちゃんが恥ずかしそうにこちらを見つめている。

 

 

「な、なに……?」

「わ、私、常日頃からイメージトレーニングで秋人さんと1つになる特訓をしてますから、キスも多分上手い……ですよ?」

「ましろちゃんって妄想力豊かだね……」

「そ、そんなことは!? でも胸もそこそこある方だと思うから抱きしめてあげられるし、そうやって秋人さんと抱き合いながら唇を――――ふわぁ……」

「ちょっと勝手に自分で妄想してトリップしないでよ!?」

「はっ……!! 私ビーフシチューくらいなら作れますし、つまりは秋人さんを養えるってことです。家事も全部しますしお金も私が稼ぎますから、秋人さんは自分の好きなようにしてくださってもいいので……」

「いやそのラインは絶対に超えないからね。絶対に」

 

 

 とは言いつつも、この家の家具や日用品、料理の食材もみんなが買ってきてくれるので貢ぎに貢がれてるんだけどね……。女の子たちに養われる現状を脱却したいとは思うんだけど、それに甘んじてる僕もいる。そういうところ意志が弱いんだよねやっぱり……。特にましろちゃんは好きになった人にとても依存しそうだし、それはそれでいいシチュエーションなのかも。

 

 

「あれ、秋人さんもしかしてシロにお熱? 確かにこんな可愛い子に養ってもらえるなんて男性の夢だよね~」

「か、可愛いってそんな私なんて……」

「何言ってるのしろちゃんは可愛いよ~。でもしろちゃん、秋人さんと結婚するならエッチなことも覚えないとね~。ほら、さっき部屋を掃除した時にベッドの下からエッチな本いっぱい出てきたし」

「ちょっと何見つけちゃってんの!? 毛布でぐるぐる巻きにして隠してたのにわざわざそれを漁る普通!?」

「那須原さんの趣味が良く分かりました。特に『巨乳の美人JKに搾精される日々』という本に出てくるヒロイン、私にそっくりでしたから。もしかしてそういうプレイをご所望ですか?」

「そ、それはたまたま瑠唯ちゃんに似ているだけであって、そういう意図はないから!!」

「だったら『ちょっとドジな学級委員長に性指導』って本は私にそっくりですけど。秋人さんってMかと思ってたらSっ気もあるんですね」

「それもたまたまつくしちゃんに似ているだけだし、変な趣味趣向はない……はず」

 

 

 まさか見つかっちゃうなんて……。最近知り合った子たちだから大人の本は何が何でも見つからないようベッドの奥底に封印したのに、意外にもあっさりと見つかってしまった。でもドン引きされるどころかみんな興味津々なので、こういうところ先輩ガールズバンドたちの魂を受け継いでいるって感じがする。そんな無駄なソウルまで真似しなくてもいいし、真似して欲しくないんだよなぁ……。

 

 ていうか、僕が買う本のヒロインがみんなガールズバンドの誰かに似ている現象をなんとかしたい。本当に決して狙って購入しているわけではなく、たまたま似ちゃっているんだ。そのせいで見つかった時に大いにからかわれちゃうんだけど……。

 

 

「さて、料理も掃除もひと段落したからみんなでお風呂に入りますか!」

「そ、そうだね、そうしたらいいと思うよ。ごゆっくり」

「何言ってるんですか、秋人さんも一緒ですよ」

「ふぇ!?」

「ふっふっふっ、聞いてますよ~。いつも先輩たちと一緒に入ってるって。それに自分で身体を洗えないから誰かに洗ってもらっているってことも」

「なにそのデマ!? それに1人で入る時の方が多いけど!?」

「まぁまぁ今日はあたしたちと入りましょうよ! せっかくモニカみんな集まってるんだし。みんなもそれでいいよね?」

「オ~ケ~」

「これが裸の付き合いってやつだね」

「那須原さんと一緒に入れるならもちろん」

「わ、私も賛成です。私の身体で秋人さんをたくさん洗いますから……」

 

 

 ましろちゃんがサラッと爆弾発言をしたけどスルーしておこう。この流れになると僕は毎回逆らえない。そりゃ反対派はいつも僕1人だから多数決で敗北は確定なんだけども……。

 そんなこんなでMorfonicaとの日常もスタートしたが、早速みんなの勢いに飲まれてるけど大丈夫かな……。力強くて積極的にアピールしてくる後輩たち。それだけ聞くと可愛いけど、単純なパワーで負けてるんだよね。やはりお嬢様学校でバンドを組むリア充と、ヒキオタニートの僕では勝敗は目に見えてたか……。

 

 

「あっ、そういえば秋人さんのパジャマさっき全部洗っちゃったかも!?」

「大丈夫だよふーすけ。秋人さんにはこれがあるから!」

「それ園児服!! 絶対に着ないからね!?」

 

 

 新しい女の子たちの日々にワクワクしつつも、やっぱり不安を覚えるこの瞬間だった。

 




 これで秋人くんのヒロインは35人。私の連載しているもう1つの小説でのヒロインの数を追い越し追い越せになっているのが面白くも恐ろしい……


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バイトしたくてMyGO!!!!!

 3年半ぶりくらいの投稿。
 この正月休みに2023年のアニメでも名作と言われたMyGOを観てたら、そういやこんな小説もあったなと気づき、いつの間にかキーボードを打ってました(笑)

 ちなみにバンドリ知識は3年半前で止まってるので、その間にキャラが進級したり卒業したりしたみたいですが、そのあたり設定はあまり知りません。
 でも今回はMyGO以外のキャラは出てこないので多分関係ないです。



「僕、バイトをしようと思うんだけど……」

「えっ?」

 

 

 ちゃぶ台を挟んで大地を揺るがすような告白をする僕と、その言葉に驚く高松燈ちゃん。

 驚くのも無理はない。だって僕は長年自宅警備員であり、ここ数年でも外に出た記憶は指で数えるほどしかなかった。そんなド底辺の環境に身を置いていたくせにバイトをしたいなんて豪語するものだから、そりゃ彼女が目を丸くするのも当然だ。

 

 燈ちゃんは割と最近知り合ったガールズバンドグループ『MyGO!!!!!』のメンバーで、ボーカル担当の子。このグループがまともに結成してライブするまでに精神が干からびるかってくらい紆余曲折あったけど、今では特に問題なくバンドを続けられているみたい。僕もそのゴタゴタに巻き込まれたけど、まあ最終的に何とかなって良かったよ。

 

 

「ど、どうしてバイトを……?」

「僕ももうすぐで大学生の歳でしょ? だからこのまま引きこもってばかりでいいのかって危機感を覚えちゃって。だったら何をやるかと言われたら、とりあえず社会貢献してる実感が得られるバイトかなって」

「なるほど……」

 

 

 いつの間にか高校卒業(通ってないけど)に近い年齢になってきて、ようやく危機的状況を理解し始めた。特に最近だとみんなから外出許可が出て外に出ることもあったから、そこでバイトをしてる学生さんを見つけちゃうとそりゃ引きこもりに対して懐疑的になっちゃうよね。

 

 こんなニート野郎にバイトができるかって話だけど、幸いにもコミュニケーション力はあると思っている。だって普段からガールズバンドのみんなと交流して、その奇々怪々な行動にいつもツッコミを入れてるから声も張っている。おかげで陰キャ特有の口ごもった声にはなってないので、そこだけは安心だ。

 

 

「で、でも、どうしてそのことを私だけに……?」

「それは一番相談しやすかったから、かな。ほら、僕この前風邪引いちゃったでしょ? それは外出したのが原因だってみんなが大袈裟に心配するものだから、あれ以降僕が外に出ようとすると警報が鳴っちゃう設備がこの家の周りに導入されたらしくて……。そんなことされたらバイトなんてできっこないよ。だから抜け出すための練習をしておきたいんだ」

「は、はぁ……」

「でもまだ心が黒に染まり切ってない燈ちゃんなら、僕がここから脱出する手助けをしてくれると思って。どうかな?」

「私が、ですか……!?」

 

 

 正直、押しに弱い燈ちゃんであればこっちの主張を押し通せると思った。彼女には悪いと思ってるけど、他の『MyGO!!!!!』メンバーじゃないとダメなんだ。そもそも『MyGO!!!!!』メンバー以外は論外。僕をここに幽閉した元凶なんだから、そもそも交渉をする相手候補にすらならない。

 

 

「これは燈ちゃんにしか頼めないことなんだ。愛音ちゃんも立希ちゃんもそよちゃんも、なんか僕を見る目がギラギラして怖いし、楽奈ちゃんは野良猫だから……」

「私に……私にしか……? 秋人(あきと)さんが私だけに……!!」

「そうだよ燈ちゃん。なんなら、1時間くらい僕をキミの好きにしてくれても構わない――――あっ、やっぱこれなし……にはできないか」

「言質取りました。私が秋人さんを好きに……!? 1時間だけ……何をする? はふはふする? ぎゅってする?? 持って帰る?? 妄想が止まらない……歌詞書きたくなったきた……!!」

 

 

 うえぇ、目が血走ってるよ燈ちゃん。頼む相手間違えた??

 勢いが付き過ぎて好きにしていいって言っちゃったけど、こうなるって途中で思い出した時にはもう遅かった。動物とか好きな話題になるといつもの寡黙さがウソのように饒舌になるからなぁ……。

 

 

「協力、します。さっきの条件であれば……」

「分かった、これで契約成立だね」

 

 

 とりあえず協力者を確保できたので最初の関門は突破した。

 燈ちゃんは僕の知り合いのガールズバンドの中でもまだ話が通じやすい人だし、それに押しにも弱いから協力を取り付ける相手としてはうってつけだった。こう見ると彼女を利用しているように思えるけど、その代わり自分の身体を差し出しているから許して欲しい。さっきの目の血走り具合、一体何をさせられるのやら……。

 

 

「それで、一体どうやって家から抜け出すんですか……?」

「これ、3泊の荷物も余裕で入るカバンなんだけど、これに僕を入れて抜け出してくれないかな? ほら僕って身体小さいから、旅行カバンにも余裕で入れちゃうんだよね……」

「でも、秋人さんが抜けだしたらセンサーが作動するって話じゃ……」

「監視カメラに直接映り込まなかったら大丈夫……だと思う。だからカバンに僕を詰めて、安全圏まで運んで欲しいんだ」

 

 

 浅はかな作戦かもしれない。でもこれしか方法はないし、燈ちゃんが外に出ただけであれば見逃してくれる可能性が高い。彼女は最近自宅ではなく僕の隣で歌詞を書くのが日常となっているくらいなので、今更この子がこの家に出入りしていても何もおかしくないしね。

 

 そして、早速作戦の準備をする。

 僕がカバンの中に入り、燈ちゃんがファスナーを閉める。ただ完全に密閉すると酸欠になるため、カメラに映り込まない程度に外気の通り道を確保するようにした。

 燈ちゃんがカバンを持ち上げる。一瞬小さい声で『軽い』と聞こえたが、自分の身体が小さいことに対してここまで感謝したことはない。男としてこんな未熟な身体なのはどうかと思ってこれまで生きてきたけど、もしかしたら自分の人生でこういった脱出劇があることを想定されていたのかもしれない。まさに運命だ。

 

 

「秋人さん、苦しくないですか……?」

「うん、問題なし。身体を丸めてるからちょっと痛いところがあるけど、長時間ここに居るわけじゃないから大丈夫だよ」

「それじゃ、行きます―――――ッ!?」

「燈ちゃん……?」

 

 

 早速部屋から出ようとした矢先に、燈ちゃんの様子が少し変わったような気がした。カバンの開いている隙間からチラッと見えたけど、スマホを見ていたような気がする。

 

 何があったのかはよく分からないけど、少しして燈ちゃんは部屋を出て、階段を降り、そして玄関のドアを開けて外に出た。センサーに引っかかる心配は恐らくないだろうけど、念のためカバンの隙間からカメラに見つからないよう限り身体を縮める。

 そして、予想通りセンサーは感知せず警報は鳴らなかった。これで燈ちゃんが離れた場所へ僕を連れて行けば、そこでミッションコンプリートとなる。

 

 意外と簡単だったなぁと余裕をこいていると、カバンの揺れが収まったように感じた。燈ちゃんが足を止めたのだろう。

 安全圏に到着したっぽいので、僕はカバンの開いているところからこっそり声をかける。

 

 

「もう出ていいの?」

「はい……。でも、先に謝っておきます……」

「へ?」

 

 

 カバンのファスナーがゆっくりと開かれる。一気に日差しが入り込んできたから手で光を遮ると、すぐにまた影がかかった。

 手を顔から離してみると、そこには可愛い女の子の顔面があった。

 

 燈ちゃん――――ではなく、愛音ちゃんの。

 

 

「はい、つっかまえた~♪」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいっ!?!?」

 

 

 僕はカバンから飛び出て後退りした。

 僕の眼前に映るのはにこやかな笑みを浮かべる愛音ちゃんと、如何にも怒ってますよ感を放っている立希ちゃん、そして手を合わせて申し訳なさそうに首を垂れては上げてを繰り返す燈ちゃん、そう『MyGO!!!!!』のメンバーだ。

 

 見つかってはいけない人たちに見つかったことによる驚きもそうだけど、それ以上にまだ逃げられると心のどこかで思っていたのだろう、みんなから顔を逸らさずゆっくり後退する。

 

 しかし、急に身体に火照りが走る。誰かが後ろから抱き着いてきた。

 そして、僕がまだ『MyGO!!!!!』のメンバーを3人しか視認できていないと把握するのが遅いと感じた瞬間でもあった。

 

 

「ダメですよ~、逃げたら」

「そ、そよちゃん!?」

 

 

 メンバーの1人であるそよちゃんに後ろからガッツリ抱き着かれる。そのせいで胸が僕の背中で形が変わるくらいに当たっているけど、向こうはそんなおかまいなしだ。

 それに彼女の本性を知っている今だからこそ見せているゆったりとした笑顔が怖い。だから話したくなかったんだよ!!

 

 

「燈ちゃん、どうしてこんな裏切りを……」

「すみません。でも……でも――――秋人さん1日優待券を貰うためには仕方なかったんです!!」

「えっ、なにそれ!?」

 

 

 い、1日!? 1時間じゃなくて?? 一体何がどうなって!?

 燈ちゃんの裏切りの真相。それはニヤついている愛音ちゃんが知っているみたいだ。

 

 

「ともりんだけが今日お呼ばれしたのが気になって、もしかしたら秋人さんがよからぬことを企んでいるんじゃないかってみんなで結論付けたんですよ」

「それで事前に燈と交渉して、もし秋人さんにガールズバンド界隈の条約を破る手助けを持ち掛けられた場合、同調するフリをするように話をしました」

「それだけだと押しの弱い燈ちゃんが流されてしまうのではないかと危惧し、さっきメッセージでダメ押ししておきました。もしバレずに秋人さんを捕獲できたら、ガールズバンド界隈で流通しているとても貴重な『秋人さん1日自由にできる優待券』を燈ちゃんに進呈するという条件付きを」

「そ、そんな……。あの心優しい燈ちゃんを利用したの!?」

「いや思いっきり利用したのは秋人さんの方ですよね!? まぁ、ともりんも相当欲望が出てましたけど……」

 

 

 燈ちゃんを見てみると、俯きながら『1日あれば秋人さんを〇〇〇できる……』(※放送禁止用語なので言えない)みたいなことを幸せそうに永遠に呟いているので、欲望に駆られていたのは本当みたいだ。おとなしそうに見える子ほど欲望が爆発した時に激しい性格になるんだよね。知ってるんだ、何人ものガールズバンドの子たちと交流があるからね……。

 

 

「ここで立ち話もアレですから、戻りましょうか♪」

「そよちゃん何その笑顔!? こわっ!? ていうか抱き上げるな!!」

「早くベッドに戻りまちょうねぇ~♪」

「赤ちゃん言葉やめぃ!!」

「そよりん! 私にも秋人さん抱っこさせてよ~!」

「赤ちゃんじゃない!! お~い離してぇええええええええ!!」

 

 

 そんなわけで、そよちゃんに抱き上げられたまま自宅にリターンすることになった。

 年下の女の子に赤ちゃん扱いされる男とはこりゃいかに。作戦も失敗するし、何とも情けない姿をさらしてしまった。いやまぁ、引きこもりの時点で情けなさは振り切ってるけども……。

 

 そういやこのバンドのメンバーはもう1人いるはず。

 楽奈ちゃんっていうエキセントリックで自由気ままな子がいるんだけど、どこに――――

 

 

「ほら野良猫。猫ばかり見てないで行くよ」

「うん」

 

 

 いた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おいしい……」

 

 

 ところ戻って僕の部屋。

 ちゃぶ台の肘をついて不貞腐れている僕の隣で、楽奈ちゃんが抹茶パフェを頬張っていた。最近よく遊びに来るので冷蔵庫に備蓄してあるんだけど、毎回何も言わずに勝手に食べてしまう。まあそのために買いだめしてあるから別にいいんだけど、そういうところ本当に身勝手な野良猫っぽいな……。

 

 

「あきと、食べる?」

「食べる」

「あ~ん」

 

 

 楽奈ちゃんがスプーンを向けてきたのでありがたくパフェをいただく。

 一応間接キスの類に入るんだろうけど、僕が不機嫌タイムなのと楽奈ちゃんがそう言ったことを気にする性格でないのも相まってスルーした。

 

 そして反対側の隣では、愛音ちゃんが笑顔で僕の膨れた頬を突っついていた。

 

 

「もう秋人さん、そろそろ機嫌治してよ~」 

「年下に図られた自分に腹が立つ……」

「出し抜けると思ったんだ。でも秋人さんって引きこもりなのに意外と賢いよね。私だってたまに勉強見てもらってるし」

「だからプライドがあったんだよ、ちっぽけだけどね」

 

 

 引きこもりクソニートが一般の方々と同じくプライドなんて持っていいのかという議論が発生するが、いいんだよ。いつも自堕落な生活で己の底辺さを身に染みて感じているから、プライドの1つや2つ持ってないと自我が保てなくなり精神が潰れてしまう。

 まあ今回それを容赦なく叩き潰されちゃったわけだけど……。

 

 そうやって不貞腐れてる中で、正面に座る立希ちゃんが自慢のツリ目で僕を睨みつけてきた。

 

 

「どうしてバイトを?」

「え、えぇっと、社会との繋がりを感じたくて……」

「繋がりなら私たちや、他のガールズバンドの先輩たちがいるので大丈夫です」

「自分でお金を稼ぎたいって言うか……」

「欲しいものがあるなら言ってください。買ってくるので」

「立希ちゃんと一緒にバイトしたいなぁ~なんて」

「ッ~~!? う゛っ……うぅ……ダ、ダメです! ぐぅ、ホントはダメじゃないけどダメ……!!」

 

 

 今ちょっと、いや結構揺らいだよね……? 僕に何を言われても淡々と反論しようと思ってたけど、予想外の攻撃に対して僕と働く妄想をしてしまって動揺している感じだ。顔真っ赤だし、これでさっきしてやられて荒んだ僕の心もちょっとスッキリした。

 

 立希ちゃんが使い物にならなくなったので、代わりにそよちゃんが会話に割って入って来た。

 何故か立ち上がって僕の背後に移動し、また後ろから抱きしめてくる。

 

 

「好きだね、僕をこうするの……」

「ここが私の居場所だって感じがして、死んでも離したくないんですよ。もう秋人さんの背中に住んでもいいかもしれません」

「うわぁ、メンドくさいそよちゃん出ちゃってる……」

 

 

 過去の出来事から自分の居場所に拘る彼女。気持ちは分かるけど、だからと言って人の身体を居住区にするのはやめてもらいたい。何かにつけて僕をこうして抱きしめて自宅宣言するものだから、ずっと木に抱き着いてるコアラみたいだ。

 いやこんな長身清楚美少女に包まれてるのは嬉しいんだけどね。待てよ、清楚……う~ん、まだギリ清楚か。腹黒いところあるけど。

 

 このままだとバイトをさせてもらえない。

 でも許可を得られる可能性がある提案が1つだけある。それに賭けるしかない。

 

 

「じゃあさ、バイトするなら『RiNG』でならどうかな? それだったらみんなと会う時間も増えるし、ここにいるのとそんなに変わらないと思うけど……どう?」

 

 

 どう、と聞いた瞬間からダメそうな雰囲気が漂っていた。パフェに夢中な楽奈ちゃん以外の4人が不機嫌になっているが、不機嫌になりたいのはこっちだとツッコミを入れたい。今そんなことをしたらこの子たちの不満の導火線に火をつけるだけだからやらないけど……。

 

 

「秋人さんが『RiNG』でバイトすると他のガールズバンドが惚れまくって、営業にならなくなるのでダメです。私のバイト先を潰す気ですか?」

「いや、んなことないでしょ……」

「でも私たちがごたごたしてた頃、秋人さん頻繁に『RiNG』に来てたよね? あの時なんて熱い視線を送りたいがために女の子が集まって大変だったんだよ?」

「秋人さんを見たバンドの子たちの荒れた心が浄化され、解散寸前になっていたグループが速攻で一致団結し出したって話もありました」

「なにその打ち切り展開みたいな雑な解決方法!? バンドのいざこざ展開ってもっと複雑でしょキミたちみたいに!? 創作物にしてももっとマシなエピソードあるよ!」

「私がまたボーカルできたのも、私たちがここにいるのも秋人さんのおかげですから……」

「だったら僕の考えも尊重して欲しいなって……」

「します。なので秋人さんも私にしたいことがあれば何でも言ってください。その代わり、私も1日秋人さん好きにさせてもらうので……」

 

 

 燈ちゃんは僕を図って獲得した1日優待券を見せびらしてくる。こんな性格の子だったっけと疑ってしまうが、好きなものに対しては周りが見えなくなるくらい盲目になるので、現在も絶賛欲望を解放中なのだろう。

 

 そんなこんなで『RiNG』でバイトをする提案もあっさり蹴られてしまった。もはや僕はあぶく銭で人の好意を貪り食う生活しかできないのか。

 そんなことを考えていると、楽奈ちゃんが頬を突っついてくる。パフェの容器は綺麗に空になっていた。

 

 

「バイト、したいの?」

「うん、まぁ自分でお金稼ぎたいなって」

「だったら膝枕して、眠いから」

「えっ?」

「「「「へ?」」」」

「枕代払う。100円くらいでいい?」

「「「「ッ!?!?」」」」

 

 

 楽奈ちゃん、まさか僕を買おうって言うの……?? いや能天気な彼女のことだ、僕がお金を欲しいと言ってるからお小遣いを渡す感覚なんだろう。現に硬貨1枚で僕を釣ろうとしてるわけだし。しかも『100円くらい』だから払わない可能性だってあるわけで。

 

 そんなことよりも、もっとヤバいのはバイトの代わりに僕に金を渡す、つまり僕を買う発想をこの4人に与えてしまったことだ。燈ちゃんたちは『その手があったか』と口を開けて唖然としながらも、沸き立つ欲望オーラが部屋中を包み込みそうなくらい充満させていた。

 

 そんな中、真っ先に動き出したのは愛音ちゃんだった。

 

 

「じゃあこの洗濯カゴにあったこのシャツ、1000円で買っちゃう!」

「ダメだよ!!」

「だったら2000円で!」

「値段の問題じゃないよ!!」

 

 

 それでも愛音ちゃんは諦めきれないのか、今月のお小遣いの支出を計算し始めた。計算とは言いつつも、女の子の命である美容代や洋服代などをどこまで削って僕の服の買値を上げられるかを検討しているようで、もうなりふり構ってはいないようだ。

 

 次は立季ちゃんが僕の下着を持ってきた。もはや他の子たちもやっているいつもの光景過ぎてツッコミをする気にすらなれない。いつの間にか下着が新品になってるが常だから……。

 

 

「5000円で。手持ちがないので電子マネーでいいですか?」

「円滑に決済しようとするんじゃないよ!!」

「でもいい匂いがするので、更に上乗せたいです。10,000、20,000、いや30,000以上は固いかも。でもバイト代が……」

「そうだよ思い出して! キミのバイト代はドラムの質を一回り上げるとか、親孝行したりとか、華やかな青春を送るために放課後お出かけするためとか色々あるでしょ!? こんなことに金使っちゃっていいの!?」

「ドラム、親孝行、お出かけ、パンツ……うぅ!!」

「天秤にかけてる。敗けるな立希ちゃん!!」

「パンツ! 40,000で!!」

「負けたぁああああああああああああああ!!」

 

 

 天秤にかけてた割には値段をいい張る時に超堂々としてたけど?? もしかして天秤してたってのは僕の妄想で、どれだけの値段で買おうか迷ってたってこと?? もうめちゃくちゃだ……。

 

 そして、次は燈ちゃんがおずおずとしながらやって来た。

 

 

「何かな……?」

「わ、私が商品として売られます……」

「パパ活みたいなこと言ってるけど大丈夫……? 商品? 燈ちゃんが?」

「はい。お金を出すので、私を秋人さんの物にさせてください」

「ちょっとどこから得たのその知識!? とんでもないこと言ってるよ!?」

「床下収納から出てきたこの本を見ました。『不思議ちゃん系少女が僕を買おうとしてきたので逆にこっちから好き勝手する話』。土下座すればエッチしてくれそうな女の子がヒロインって書いてあったので……。容姿も似てるし、もしかしたら、わ、私のことなのかなって……。秋人さんならいいですけど……」

「そ、それはマジでゴメン!! 僕が書いたわけじゃないけど!!」

 

 

 どうして隠してあるのにあっさり見つけるかなぁ、って責任転嫁はよくない。僕も知り合いの子に似た子のR指定本を買う癖をやめないと、今回みたいに超ド級の恥をかくだけだから……。

 

 そんな中、まだ僕に抱き着いているそよちゃんが勝手に服を脱がそうとしてきた。思わず彼女の拘束から逃れて部屋に隅に逃げる。

 

 

「な、なにするの!?」

「秋人さんの貞操を買います。いくらですか? お値段、好きに設定してもいいですよ」

「今度は僕自身を売れってことか。いや売らないけども」

「そう簡単には秋人さんを買えないか。そうですよね、簡単だったらもう既に先輩のガールズバンドの皆さんに食べられちゃってますよね」

「意志は強いんだ。期待に沿えず申し訳ないね」

「そういう強気なところを堕とすのもまた一興……うふふ」

 

 

 また黒いところ出ちゃってるよ大丈夫!?

 ていうか流石はお嬢様学校の生徒、僕を直接買おうとするとは……。でもさっきも言った通り僕はギリギリのラインを死守できるタイプだ。そう簡単に脱いだりはしない。お風呂には女の子と一緒に入ること多いけども。

 

 

「お風呂、入る?」

「えっ、楽奈ちゃん? ちょっ!?」

 

 

 お風呂のことを考えていたせいなのかどうなのか、いつの間にかまた隣に来ていた楽奈ちゃんだったが、なんといきなり脱ぎ始めようとした。

 驚き過ぎて一瞬硬直したけど、捲り上げようとしていた服を急いで元に戻してやったおかげで事なきを得た。ていうか胸元まで捲れ上がっても下着が見えなかったんだけど、この子ちゃんと着けてるよね……?

 

 

「あきととお風呂、何円?」

「えっ、そ、それは……」

 

 

 全く何も考えてないような純朴さで、綺麗なオッドアイの瞳で僕を見つめる楽奈ちゃん。

 まさかこの子、ソーププレイって言葉を知ってる……!? いや流石に世間知らずなこの子がエロ同人みたいな展開を――――

 

 

「こうすれば男が嬉しいって知ってる」

「ホントに!? 意外と俗に飲まれてた……??」

「この本に書いてあった。『もう1人の不思議ちゃん系少女を騙して一緒に風呂に入って禁断プレイ』。興味深かったよ」

「マジでゴメン。何度でも言う。マジでゴメン」

 

 

 そうです続編も買ってしまいました。よく燈ちゃんが不思議ちゃん系って言われるけど、楽奈ちゃんの方がよっぽど不思議ちゃんだと思う。それに加えてその本のヒロインが楽奈ちゃんっぽい気まぐれ少女だったから、勝手に彼女を憑依させて妄想してたら昂っちゃって――――って、男の性的な話はどうでもいいか。

 

 先決なのはお風呂プレイを止めること。このままだとみんなまで――――

 

 

「あぁ~そういえば、今日は体育のあとシャワー浴びてないからなぁ~。入りたいなぁ~」

「バンドの財布から光熱費を出します。なので行きましょう」

「プ、プレイとか良く分からないですけど……頑張ります!!」

「女の子と入浴するバイトだと思えば大丈夫ですよ」

「どこが!?」

 

 

 あぁ、ダメだ。みんなやる気だ。これもう一緒に入らなきゃ帰らないやつだよ絶対。

 

 

「初バイトが女の子とお風呂する仕事って、これから履歴書になんて書けば……。見られたらなんて思われるんだろ……」

「おもしれー男」

「その程度で済めばいいけどね……」

 

 

 このあとめちゃくちゃ入浴した。

 




 なんか完結してないのが気持ち悪いので、次回くらいで完結予定です。
 今月中には投稿できればなぁと見通しの悪い予定を立ててます。




 そういやアニメの続編で「Ave Mujica」メインもやるみたいで。
 すっごいギスギスしそうですけど、この小説にその子たちが出たらどうなるのか……


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これが真実

 前回の後書きで次は最終回にしますと宣言しましたが、一応伏線っぽいのを投げておきながら回収しないのは後残りがあってモヤモヤしそうだったので、まあ長年投稿が開いた小説で気にしてる人はほとんどいないだろう読みで伏線回収しました。

 なのでシリアス回です。
 ネタアニメと思わせておいて最終回付近で謎シリアスに入る例の現象ってやつです(笑)



 結局のところ、バイトするかどうかは保留となった。

 『MyGO!!!!!』のみんな(楽奈ちゃんは除く)に外出を阻止されたのもあったし、それが悪行としてガールズバンド界隈に広まったことで再び外出禁止令が下ってしまった。

 最近は割と寛容だったのに、『MyGO!!!!!』のみんなと関わり始めてからまた縛りが強くなり始めた感がある。燈ちゃんたちが悪いとかそういうことじゃないと思う、多分僕のせい。みんなが心配しているのであれば心配をかけないようにするだけだ。

 

 そんなこんなでここ数日はずっと家にいる。外に出る日々が続いていた時はそれはそれは新鮮で、引きこもってばかりの生活には戻れないと思っていた。だけどこうしてまた巣ごもりしていると、無意味に思春期を食いつぶしていた忌まわしき時期なのにも関わらず懐かしさを覚え、ほんの数日でまたこの環境に適合してしまった。やはり僕は元々ニート体質でそっち方向に適正があったのかもしれない。

 

 ただ何もせずに暇を貪り食っているだけってのも抱く危機感が半端ない。もうすぐで大学生と言われる歳にもなるし、外に出ていた時間もそこそこあった影響で何か外的な刺激を欲している。

 だから僕がやっていること。それは――――

 

 

「ようやくここは片付いたかな」

 

 

 掃除だ。

 大してお金もかからず、しかも外に出る必要もなく、それでいて身体を動かして運動もできれば時間も潰せるコスパ最強の作業。綺麗にすることなんて突き詰めれば青天井だし、終わりのない更新が断続的に入るソシャゲのようなものだ。これほど引きこもりに適した仕事も中々ない。掃除の技術なんてネットで調べればいくらでも出てくるし、特に練習いらずですぐに実践で試せるのも期待が膨らむ。今までダラダラするだけのニート生活だったけど、一時期外に出て刺激を受けた影響からか割とアグレッシブになっていた。

 

 とは言いつつも、掃除は家に来てくれるガールズバンドのみんながほとんどやってくれている。だから掃除とは言っても散らかったモノを片付けるくらいしかなく、ぶっちゃけそれすらも整理整頓されるので毎日やるほどかというレベル。

 ただそんな中でも突出してモノに溢れているのが押し入れの中。そこには女の子がドン引きするくらいのフィギュア、本、ゲーム等々、まだ僕の年齢で扱うことは許されない異物が大量に混入している。

 ガールズバンドのみんなは恥ずかしがったり平気だったり人によって反応は様々だけど、そういうモノであろうとも片付けてはくれる。だけどやはりみんなは麗しき女の子、多少は抵抗があるのか異界の生物がたくさん飼育されているであろうこの押し入れに近づく子は少なかったりする。だから僕が不要なモノをこの中にどんどん押し込めても整理整頓される機会は少ないんだ。

 

 そんな感じで男のロマンがたっぷり詰まった押し入れを整理することで、自分が怠惰であることから目を背けようとしていたんだけど――――

 

 

「これは……?」

 

 

 押し入れの奥の奥。中をちょっと整理しただけでは見つかりそうもない端っこに、小汚いアルバムがひっそり鎮座していた。

 埃を被っており、こんな奥の方にあってもこんな惨状になるんだと思った。まあ家主の僕が存在を知らないから当然と言えば当然か。

 

 思い返してみると、僕にはアルバムに写真を残しておくような思い出はない。ガールズバンドのみんなとの出会いは思い出と言えば思い出だけど、今時は携帯の保存するのが主流なのでわざわざアルバムに実媒体として残すようなことはしていないはず。

 そもそもの話、このアルバムにどんな写真があるのか全く記憶にない。思い出そうとするも記憶に靄がかかっているようで、いつの間にか昔のことは気にならなくなっていた。アルバムを元の場所に戻そうとする。

 

 しかし、ふと何かの流れが変わったかのような気がした。何を思ったのか、僕はもう一度そのアルバムを引き出した。この中身を見たら何かが変わりそうな気がする。でも見なきゃいけない。そんな焦燥に駆られる。

 そして、意を決して中を見る。

 

 写真がたくさんあった。しかも僕の写真ばかり。

 でも、何かがおかしい。写真の中に制服を着ている僕がいる。僕は中学の頃から引きこもりで学校には行っていなかったはずだ。

 いなかったはず……だよね?

 

 いや、本当か? 昔のことを思い出そうとするといつもこうして疑いが走る。そしていつのまにか思い出そうとすることすら忘れてしまう。その感覚すら本当なのか分からないけど、今に限っては思い出す行為に対して忘却が襲ってこないので、いつもとは違う何かが起きているのだろう。

 

 もしかして、このアルバムの写真って昔の僕だったりする? 引きこもりだったのに制服を着ているはずないだろって言われるかもしれないけど、この写真を見ていると懐かしさを感じてしまう。いつもとは違って記憶の軌跡を辿ることができているのも、こうして実際に自分の昔の姿を見ているからかもしれない。

 

 真実が何かは分からない。

 でも今のこの生活がおかしいことだってことは分かる。

 分からないことは大きく2つ。僕はどうしてこんな生活をしている? どうしてガールズバンドのみんなは僕のお世話をしてくれる? 今まで何故か普通のことだと認識していたためか、根本的な疑問に気付かなかった。

 いや違う、気付かないようにされていたのか……?

 

 その時、背後から手が伸びてきてアルバムを奪われる。

 後ろを振り返って見上げてみると、そこには弦巻家の黒服の女性が1人。

 いつの間にか音もなく家に入って来た驚きよりも、どうしてアルバムを取り上げたのかが気になっていた。

 

 

「こちらは、秋人(あきと)様が見る必要のないものです」

 

 

 いつもはこころちゃんのために冷徹に職務を全うする黒服さん。

 だけど今日は深刻そうな面持ちながらも、どこか悲しげな雰囲気を醸し出していた。

 

 

「何か、知ってるんだね……」

「…………はい」

「隠さないんだ」

「あなたは賢いお方です。ここまで踏み込んでしまった以上、全てを明らかにするまで私たちに接触し続けるでしょう。(しがらみ)が残ったままでは気が済まない。それで幾多のガールズバンドを救ってきたのがあなたですから」

 

 

 救ってきたって、そんな大層なことはやっていない気がする。ただガールズバンドの子たちと出会って、普通に交流して、()()()()()()仲良くなっていた。

 だけど、よく考えてみれば普通に接していただけでは今のように男の世話なんてするはずがない。つまり、僕が女の子たちの心境に圧倒的な変化をもたらしたのだろう。ただその記憶は全くないし、今まで思い出そうとしてもすぐに忘れてしまっていた。

 

 でも、黒服さんは知っている。僕の身に何が起こっているのかを。僕がこんな生活を送っている、その真相を。

 

 

「話して欲しい、知っていることを全部」

「その前に1つだけ。今のこの状況のことを全て忘れれば、あなたはいつもの生活に戻ることができます。たくさんの魅力的な女性が献身的にご奉仕してくれる、男性としては夢のような生活に。それでも聞きますか?」

 

 

 重要な選択のような気がする。

 僕が選ぶのは――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うん、聞くよ」

「そう、ですか……」

 

 

 他人事じゃない、自分のことだ。知る必要があると思った。

 それにガールズバンドのみんなが義務的に僕のお世話をしてくれているのであれば、そんな無生産な日々から解放してあげたいとも思っている。

 

 黒服さんは相も変わらず表情の変化はない。というより職務柄そういった感情の類は見せないようにしているのだろう。

 でも、僕の前向きな意気込みを受け取ったのか半ば諦めの雰囲気を感じた。話を聞かない選択肢の方を期待していたに違いない。

 

 

「承知しました。お話ししましょう」

 

 

 僕の意向は受け入れてくれるようだ。無理矢理にでもこちらを捻じ伏せ、全てを忘れさせようなんて恐喝まがいなことはしないらしい。こころちゃんのところの黒服さんだし、そんなドメスティックではないと思うけどね。

 

 お互いに向かい合うように座って仕切りなおす。

 それでも口が重いのか中々喋り出さなかった黒服さんだけど、僕にじっと見つめられっぱなしで耐えられなくなったのかようやく口を開いた。

 

 

「秋人様は相当なお人好しで、ガールズバンドの皆様個々人の悩み事、グループ内の揉め事、その他諸々、様々な問題の解決に奔走されていました。しかし、その過程であなたは毎回大きく疲弊した。文字通り、身も心も削って……」

「みんなと出会った頃のことはうっすらと覚えてる。だけど、その時の僕がどうだったのかは思い出せない。自分がそんなことになっていたのなら忘れるはずないのに……」

 

 

 みんなとの思い出は確かに思い出せる。

 しかし、考えてみればそれは楽しかったことや嬉しかったことのみであり、ネガティブ要素は一切思い出せない。思い出せないのは特に苦労がなかったのだと認識していたけど、今の話を聞くとその認識ですら人為的なものを感じてしまう。みんなとどうやって仲良くなったのか、そこまでの道筋とは一体……。

 

 

「秋人様は優しすぎました。それも100%の善意。他人に優しくすることで自己顕示欲を見たし、承認欲求の高ぶりで愉悦を味わう、まるで道具として他人を見る偽善者とは訳が違います。あなたは紛うことなき聖人です」

「そんな、僕はただの引きこもりで……。いや、こうなったのは僕の意志じゃないのか……」

「はい。あなたを縛り付けたのは皆様や私たちの意志です」

「でもどうして?」

「あなたの優しさは数えきれない人を救った。しかし、その優しさが故にあなたの心は繊細で、同時に人の気持ちに寄り添えすぎました。相手の心の痛みと同じ苦痛を自分も感じることでその人に寄り添う。それがあなたのやり方だった。その方法は相手の一番の理解者になって慰めてあげられるメリットはありますが、自分も相手と同様に精神を疲弊してしまうデメリットもあります。ただ1人や2人を救うだけであれば傷つきはしますが、特に大きな問題にはならないでしょう。しかし、何十人と救う場合は話が異なります」

 

 

 淡々と説明を続ける黒服さん。

 本当は僕に打ち明けたくない話なのだろう。話すと覚悟をしたものの、普段顔色1つ変えない人がずっと悲しそうな表情をしている。それでも真実を話してくれることに感謝しつつ、相手の話に聞き入っていた。

 

 

「何十人をも救うとあれば、それだけあなたは何回も大きく傷つく。女性の方は救われれば傷が癒えてそれで終わり。その後は真っ当な人生を歩むことができるでしょう。ただし、あなたは1人の救出を終えればまた次の誰かのSOSに応え、傷つく。前の傷が癒えていなかったとしても。そんなことを続ければ行きつく先は1つ。あなたの精神は――――崩壊してしまった」

「過去形……ってことは」

「はい、あなたは一度放心状態となって寝込んでしまいました。植物人間とまではいかないものの、意志疎通不能になる直前にまで追い込まれて……」

「そんなことが……」

「あなたがそんな状態になって、救われた側が黙って見ているわけがありません。それにあなたは意識朦朧となりながらも、それでも救った女性たちのことを心配していました。『そんな悲しい顔しないで』『笑っていて欲しい』と、自分が陥っている状況なんて目もくれずに相手のことを気遣うばかり」

 

 

 自分が過去にそんな状況に陥っていたなんて……。

 でも今の自分でもその時と同じ状況になった場合みんなを心配させまいとするように振舞うと思う。この気持ちももしかしたらその話に引っ張られているだけかもしれないけど……。

 

 

「自分たちのせいであなたがこうなってしまった。あなたに救われた女性たちはそう考えました。もうあなたに苦痛を感じて欲しくない。もうこれ以上あなたを傷つけたくない。だからあなたの記憶の中から精神汚染に関わる事柄を全て消しました。弦巻家の権力をフルに活用し、あなたのためだけに」

「わざわざそのために力を振りかざすなんて……」

「『そのため』とは言いますが、皆様にとっては救世主であるあなたこそ人生だったのです。多少行きすぎな愛情はありますが……」

「それは今とあまり変わらなかったんだ……」

「とにかく、皆様にとっては『そのため』というちっぽけな言葉で片付けられるほど小さな問題ではありませんでした。何十人をも救っておきながら自分だけ病に伏せるなど、当の本人たちからすれば重大な事だったのです。それだけあなたの無事とこれからの平穏を望んでいた。だから辛いことを忘れさせて家の中に引きこもらせ、救ってくれたお礼に自分たちがお世話をする。外界との接触を絶たせ、あなたがまた助けを求める誰かに寄り添って傷つくのを避けさせる。だから外へ出るのを禁じていた。学校へ行くことさえも……。以上が事の真相です」

 

 

 全てが繋がった。たくさんの情報が一気に流れてきたので整理するだけでいっぱいっぱいだけど、とりあえず納得はできた。提示された情報と情報の間にも不整合はなさそうだ。

 ただ、1つ気になることがある。

 

 

「こんな大切な話、今しても良かったの? みんながいる前とかタイミングは選べたと思うけど」

「記憶操作も完璧ではないのです。このアルバムを見た時の様に、秋人様が自身の忘却された記憶に触れた際に思い出してしまう可能性がある。疑問に思ってもその疑念が消えるようにあなたの脳を操作するようにしていますが、一度で全て思い出さなくても、思い出す細かいきっかけが積み重なればいつか疑念が消えなくなる。なので、万が一そういった状況になった際は事情を話しても良いと皆様の中での取り決めがあったのです。何食わぬ顔でまた記憶を消せばいつもの生活に戻すことはできますが、ガールズバンドの皆様も流石にそこまであなたの尊厳を奪うことはできなかったようです。あなたが自力で気付いた時、というのがトリガーでした」

「でも、まだ思い出せるかどうか分からない状況だった。放置することもできたんじゃ……」

「最初に言ったではありませんか。あなたは全てを明らかにするまで私たちに接触し続けるでしょう、と。皆様を助ける時もそうでした。時には鬱陶しいと拒絶されながらも、絶望へ至ろうとする彼女たちを見捨てずに追いかけ続けた。その1から10まで知りたいという執念はもうあなたの性格であり、信念なのでしょう。あなたのそんなアイデンティティに救われた人ばかりなのです、誰がそれを壊そうと思うでしょうか」

 

 

 拒絶されても追い続けた、か。僕にそこまでの執念深さがあるとは思わなかったな。今の僕からすると別人みたいだけど、実際に誰かが塞ぎ込んじゃったら多分同じことをするのだろう。

 

 

「そういえば、みんな僕に外出禁止令を出してたよね。でも最近は許可が出たりまた禁止になったり、入れ替わり立ち代わりしてるみたいだけどどうして?」

「さっきも言った通り、あなたの尊厳に関わります。ずっとこのまま監禁しておいて良いのかと疑問視する声も出ていました。その意見を汲み取った故の外出許可でしたが、その後に出会ったので『MyGO!!!!!』です」

「あぁ、なるほど。今までのどのユニットよりもドロドロしてたあのグループと出会ってしまったことで、また僕の精神が崩壊すると思って外出禁止にしたんだね。あれ、でもあの子たちは僕に救われたって言ってたような……」

「出会って関わってしまった以上、途中であなたの姿を消すのはあの人たちに申し訳ないと皆様は考えたようです」

「だから最後まで関わらせて、救われたのを見届けてまた辛い記憶は消したと」

「そういうことです」

 

 

 完全に僕を縛り付けるつもりはなく、これはあくまで僕をもう辛い目に遭わせないようにするためのみんなの優しさなんだ。僕がまた誰かを救おうとした時は無理に引きはがそうとしない。自分たちが助けてもらってどれだけ救われたのか知っているからだろう。

 

 ここまでの話を聞いてこれからどうするのか、これからみんなとどう接していくのか、僕は考えていた。

 しばらく無言の時間が続いた後、黒服さんはおもむろに立ち上がる。

 

 

「これが真実です」

「…………」

「そして、これが最後の問いかけです。まだ戻れます、夢のような生活に。このままのあなたでいる限り、あなたはいつかまた誰かを助けて自分を傷つけるでしょう。そうなるといずれ行きつく先は……」

「また倒れる……」

「あなたの選択は2つに1つ。記憶を消してあの生活に戻るのか、それとも苦痛を受け入れてでもあの頃の自分に戻るのか」

 

 

 これもまた、重要な選択のような気がする。

 僕が選ぶのは――――

 




 次回はマジの最終回にします。
 2月のどこかで投稿予定です。


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【最終話】これが僕なりのハッピーエンド

 意外にも、ガールズバンドのみんなは僕の決定を受け入れてくれた。てっきり猛反発を受けてまた監禁されるかと思ってたけど、ヤンデレのような思考回路にはなってなかったみたいだ。

 

 結局、僕は辛い頃の記憶を消さないことにした。嫌なことを全て忘れて女の子たちからご奉仕される生活は男として夢のようだけど、僕が女の子たちと心を通わせた上での痛みであれば、それはどんなにつらかったとしても忘れてはいけないことだと思ったんだ。これがいわゆる思い出と呼ばれるもので、みんなと過ごした日々は例えどんなことだろうと消したくない。

 

 そんなわけで、なんやかんやで無事に引きこもりから脱却することができた。

 そして、今はライブハウス『RiNG』でアルバイトをしている。ここにいるとまた心に迷いを抱えた子たちと出会ってしまって、僕もその子の心にまた寄り過ぎてしまって傷つくかもしれない。でもそれでいい。今度は折れないから、絶対に。

 

 

「あ、あの、秋人(あきと)さん……」

「燈ちゃん。久しぶり……ではないけど、久しぶりな感じがするね」

「そう、ですね。前の秋人さんも今の秋人さんも一緒なのに、ちょっと懐かしい気がします」

「あはは、まあ一皮剝けたってことで」

 

 

 建物裏でゴミ出しをしていると、いきなり燈ちゃんに話しかけられた。どうしてこんなところにいるのかと思ったけど、そういえば日陰が好きな子だったな。

 

 彼女が言っていた『懐かしい』という言葉、それは自分も実感できる。記憶が復活して元の自分に戻ったはずなのに、どこか違う感じがするから。情けない引きこもり生活から脱却できたからか、それともみんなが抱いていた思いを知ったからなのか。どちらにせよ、我武者羅に人を助けるだけだった過去の自分から成長で来ていると思う。

 

 

「そ、その、すみませんでした。記憶のこと、皆さんから聞いていたのに黙ったままで……」

「別にいいよ。僕が無理しないようにって、みんなとの約束だったんでしょ。黙ってるのだって辛いと思うし、むしろ罪悪感に負けずに隠し通せたことを誇るべきだよ。『MyGO!!!!!』を結成するときに鍛えた忍耐力のおかげだと思うな」

「秋人さん……。そういうところだと思います、皆さんがあなたに入れ込む理由。そういうところだからこそ、好きに……あっ、い、いえ、なんでもないです……」

「うん」

 

 

 最後の方は何を言おうとしていたのか分からなかったけど、彼女も主張するべきタイミングでしっかり主張できるから大切なことだったらいつか言ってくるだろう。

 

 それにしても、最近はみんなからこうして謝られることばかりだ。そりゃ勝手に人の記憶を消したんだから申し訳なさがあって当然だけど、全員が善意で決めたことなので咎める気なんて起きなかった。それくらい僕のことを考えて心配してくれていたのであれば、むしろ感謝すべきことだ。だから謝られたら逆にお礼を言ったんだけど、みんな漏れなくさっきの燈ちゃんと同じ反応をした。まあ被害者が感謝してるんだからそうなるか。

 

 そんな感じで燈ちゃんと話し込んでいると、『RiNG』の裏口から元気な声が聞こえてきた。

 

 

「あぁああああっ!! 秋人くんサボってる!!」

「香澄ちゃん!? いやサボってない!!」

「あれ、燈ちゃんもいる?」

「は、はい、こんにちは……」

 

 

 裏口から出てきたのは僕が関わってるガールズバンドの1人であり、同じバイト仲間でもある香澄ちゃんだった。

 相変わらず高いテンションと元気の良い大きな声。日陰属性の燈ちゃんは彼女の存在を見ただけで圧倒されていた。指で僕の服の袖を掴んでるし、そんなに陽キャが怖いのかな……? まあ分からなくもない。

 

 

「燈ちゃんはどうしてここに?」

「え、えぇっと、秋人さんに謝りたくて……」

「ふむふむ。でも逆に感謝されちゃった、とか?」

「えっ、どうしてそれを?」

「みんなに言ってるからね。気を付けた方がいいよ」

「はい。危険です、あの優しさは。キュンとする、という女々しい言葉を自分が使う時が来たんだと本気で思っちゃいました……」

「なんか失礼なこと言われてない僕……」

 

 

 しかもこの2人いつの間にか隣同士で会話してるし。燈ちゃん、さっき香澄ちゃんのこと避けようとしてたのに。共通の敵が現れたから手を取り合ったとかそんな話か。まあそれで2人が仲良くなれるのならいいけどさ。ただ納得はいかないよね、うん。

 

 

「香澄ちゃんはどうしてここに?」

「どうしてって、秋人くんに会いたがってるバンドの子たちがいるから呼びに来たんだ」

「またか……」

「またかって?」

「秋人くんに接客してもらったり、コーヒーを入れてもらったり、バンドの指導をしてもらいたい子たちが結構いるんだよねぇ~。そのおかげで凛々子さんは売上が上がるって喜んでるけど、その分こっちは大変なんだよ~」

「あぁ、なんとなく想像できます……」

 

 

 ホストみたいなご指名方式ってライブハウスにあるものなの? いや絶対にない。何も知らない人が見たらライブハウスじゃなくて怪しいクラブかと勘違いされそうだ。

 

 

「最近はね、存続の危機に陥ってるバンドのお悩み相談もしてるんだ。秋人くんのカウンセリングやアドバイスがズバズバ的中しちゃって、仲直りしてまたバンドを組みましたって人たちが何人もいるんだよ!」

「私たちもお世話になりました。秋人さんのお悩み相談室……」

「てかさ、さっきからライブハウスの仕事関係ないこと混じり過ぎてない?? それでいて他のバイトの人たちと同じ給料っておかしくない??」

「『RiNG』も経営が厳しいからねぇって、凛々子さんいつも言ってるよ? だから秋人くんがバンドをたくさんウチに引き入れてくれて助かるって!」

「客寄せパンダだったの僕!?」

 

 

 凛々子さんがやたら僕をバイトに誘ってたのはそのせいか。何かしらどこかでバイトをしたいと漏らした瞬間に怒涛の勧誘だったし、顔馴染みも多いからって理由でここにしたけど、僕を宣伝に使うために囲んでおく作戦だったのか。案の定ライブハウスに見合わない作業ばかり押し付けられるし、完全にやられた。

 

 

「でも秋人がいるおかげでガールズバンド全体の士気が上がり、レベルも格段に上昇している。そこは誇るべきよ」

 

 

「えっ、なに? どこからか声が……」

「この声は、友希那先輩?」

「上、です……」

 

 

 見上げると、非常用階段に腰を掛けてこちらを見下ろしている友希那ちゃんがいた。

 まず何からツッコめばいいんだ……。本来なら存在するだけで絵になる美麗な彼女も、屋外の別に綺麗でもない非常階段で堂々とされても全く目を奪われない。むしろ高いところに上るのは煙と何とやらって言うし、なんか滑稽に見える。口には出さないけど……。

 

 

「とりあえず、下りてきたら……?」

「えぇ。遠くから会話に入るタイミングを見計らうのも疲れたわ」

「なにやってんの……」

 

 

 コミュ障は相変わらずのようだ。今やプロのバンドで大学でも人気があるらしいけど、このコミュ障具合で上手くやれてるのか心配になるよ……。

 

 

「こんにちは友希那先輩!」

「えぇ、こんにちは戸山さん。高松さんも」

「は、はいっ、こんにちは!」

「秋人も、相変わらず女の子を侍らせているようで何よりだわ」

「なんで僕だけそんな挑発的な挨拶なの……」

「あなたの能力を最大限に評価している、紛うことなき誉め言葉よ」

「それ他の人がいるところでは絶対に言わないでね。変な勘違いされそうだから……」

 

 

 ガールズバンド界隈での僕の立ち位置はかなり知れ渡っており、なんなら他県から会いに来る人もいるみたいだけど、それはあくまで限定のコミュニティの話。そこから逸脱すれば僕だってどこにでもいるただの男だ。なんら特別じゃない。だから外にそういった話題を持ち出すのは避けたいんだ。動画投稿者がちょっと有名になってイキってるけど、世間からしたら『誰ソイツ』レベルの認知度なことは良くあるし、それと同じだ。つまりは目立ちたくないんだよ。

 

 

「友希那ちゃんも久しぶりだね。プロになったから忙しいの?」

「そうね。だから今日は久しぶりに顔を出したわ。秋人分を補充するために……ね」

 

 

 何故か僕の頬に手を当ててくる。

 妖艶な表情をしているけど、中々にドン引き発言をしてることに気が付いてるのかな……。

 

 ただ、彼女の気持ちが分からなくもない。

 大切な人が精神崩壊して植物人間状態になってしまったら、次は二度と同じことが起きないように策を弄するはずだ。それくらい相手のことが好きであれば、しばらく会えなかった相手に会えてドン引きされるほどのテンションと発言をしてしまうのはギリ分かるし許せる。

 

 

「あなたの前向きな意見を尊重したいのは当たり前。だけど、同時に心配してしまうのよ。また無理をしていないか、また傷ついていないか。電話とかではなく、こうして直接会って確かめたいの」

「私も! 私も秋人くんが元気にアルバイトしている姿を見ないといつだってハラハラしちゃうもん!」

「私も心配です。いつも誰かを救っている秋人さんが、自分だけ傷ついている姿はもう見ていられませんから……」

「みんな……」

 

 

 傍から見たら過保護過ぎると思われるだろう。

 でも、僕はそれだけみんなに心配されることをしたんだ。見境なく誰かに手を差し伸べて、心の中を覗き込んで、勝手にその子の痛みを自分で抱えて、そして自傷する。共感性が高すぎる故の弊害。毎回最終的には手を差し伸べた子は救えたものの、その代償として自分が倒れたりするなど決して後味が良い終わり方ではなかった。

 それで僕の心配をしない人がいないわけがなく、みんながここまで気を遣ってくれるのは至極当然のこと。むしろそんなことがあったのに気にするなと言っている僕の方が何倍もおかしいんだ。

 

 だから記憶を封印された。僕は誰かを救っているように見えて、実は自分がその痛みを肩代わりしているだけだったから。そんな自傷行為は僕が救われない。その身を案じたみんなが至った結論。

 そう考えると、こうして記憶を返してもらったのは奇跡かもしれない。記憶がない僕に対してウソをつき続ける罪悪感もあっただろうけど、それ以上に引きこもりだった僕はみんなが知る僕ではない、ということに気付きつつあり、更に僕が元の自分に戻ることを望んだというのが大きいと思う。

 

 そんな経緯があるからこそ今も心配される。自分の共感性の高さ故、自分でも自分を心配してしまうほどだ。

 だけど――――

 

 

「僕は今までのことは後悔していない。だって、誰かを助けることは間違いなんかじゃないんだから。だから多分この先も傷つく誰かを放ってはおけないと思う。でも、今度は完全なハッピーエンドを目指すよ。相手も自分も、誰も傷つかずに笑顔で問題が円満に解決する、そんな結末を描いて見せる。ただ、それでも相手の気持ちを汲み取り過ぎて心にヒビが入りかけるかもしれない。その時こそみんなの力を貸して欲しい。誰かを助けるのに1人でやらないといけないなんてことはないから。頼ってもいい……かな?」

 

 

 最後の最後で他人頼り。

 でもそれでいい。記憶を消してまで僕の傷を塞ごうとしてくれた子たちだ、そこまで人のことを信頼できる子なら僕も信用できる。

 

 それに、こんなこと聞くまでもない質問なことは分かっている。だけど親しき中にも礼儀あり、絆と愛を深めるための意志疎通。決意を表明し、相手の納得を得るのは必要なことだ。

 そんな僕の意志を受け取ってくれたのか、みんなは笑みを浮かべる。

 

 

「もちろんだよ! 秋人くんが誰かの手助けをするなら、私たちは秋人くんの手助けをするよ!」

「えぇ。あなたが誰かの笑顔を守るなら、私たちはあなたの笑顔を守るわ」

「私は皆さんのように力になれるか分からないですけど、お話の相手なら、ちょっとでも秋人さんの思いを一緒に抱えられたらって! こんなことくらいしかできなくてちっぽけですけど……」

「ありがとう、みんな」

 

 

 受け入れてくれるのは分かっていたけど、実際に口に出してもらえるとより一層安心感が増す。ここまで二転三転あったけど、僕が記憶を失う前も、失った後も、元に戻った後もみんなの優しさは変わらない。

 前の僕に足りなかったのは誰かの痛みを引き受ける覚悟とそれに耐えうる精神、そしてそれすら誰かと共有できる繋がりだったんだ。厳密には繋がってはいたけど、全部1人で引き受けることに固執していた、と言った方がいいかもしれない。そう考えると、一度記憶を失ったのはいい経験として昇華できるかな。

 

 

「よし、ゴミ出しも終わったからそろそろ戻らないと。僕に会いたがっている子、いるんでしょ?」

「は? 会いたがっている?」

 

 

 友希那ちゃんの眼光が鋭くなる。今にもこちらを貫いてきそうなくらいに……。

 

 

「困っている人を救うのはいいけれど、色目を使ってくる雌すら1人1人構う気かしら?」

「いや、もしかしたら何かアドバイスを欲しているかもしれないよ……?」

「でもでも、最近は連絡先交換を求めて遠路はるばる来てる子たちもいるみたいですよ」

「はぁ?」

「だからその目やめて……。ていうか余計なことを……」

「あなた、これ以上女を増やしたらあの家に入りきれなくなるわよ?」

「えぇっ!? それは困るよぉ~秋人くぅ~ん!」

「そっち!? なにこのテンション……」

 

 

 一番冷静だと思われる燈ちゃんに目を向けるが、僕と目が合った瞬間に首と激しく左右に振った。やはり彼女のような小心者の性格ちゃんでは先輩たちのノリはついていけないようだ。

 

 

「こうなったら余計な女に靡かないよう、また私たちという存在を教え込んだ方がいいのかしら? 料理、洗濯、入浴、睡眠、やはり私たちが付きっきりでないとダメのようね」

「前半2つはキミできないでしょ……」

「なにか言ったかしら?」

「うぅん、なんでも……」

「じゃあまたみんなで秋人くんの家にお泊りだね!」

「どうしてそうなる!? あの時も泊りがけってのは少なかったのに!? ねぇ燈ちゃん?」

「私は泊ったことないので泊ってみたい……です」

「えぇ……」

 

 

 もはや誰も止める人がいない。そもそもこの3人以外でも僕の家に再び上がり込もうと画策している子が多く、こころちゃんとか自慢の財力を駆使して色々計画ならう暗躍しているっぽいし、リサちゃんみたいに僕のお世話ができなくなって日々のやりがいを喪失した子もいる。

 

 

「そうと決まれば全員がいるグループチャットで多数決を取るわ。また秋人のお世話になりたい人を」

「そんなの絶対に反対票いないでしょ!? 記憶が消えてニートになった僕をお世話する目的だったんじゃないのあの押しかけ!?」

「秋人くんが好きだからやってたんだよ!」

「そ、そんな元気な笑顔で言われたら……」

「わ、私もグループチャットに入れてください……」

「あっ、そうだった! ゴメンね気付かなくて! 今入れるね!」

 

 

 これもう、記憶を失った時と何も変わらないのでは……?

 ただ、一連の出来事を経て絆は深まったと思う。そして、僕がみんなに抱く気持ちも――――

 

 生活は今までと変わらなくなるっぽいけど、今度は楽しいことも辛いこともみんなと分かち合って、ありのままの自分で前に進むんだ。無茶をしてまた記憶を消されないようにね。

 

 

「賛成票、100%よ」

「もう好きにして……」

 

 

 そう投げやりになりつつも、またみんなと一緒にいられることに嬉しさを覚える僕だった。

 




 最終回なので全キャラ登場させたかったのですが、尺の都合と執筆時間の都合で新旧主人公勢のみとなりました。
 数年をかけて完結させて最近の投稿分は超久々でしたが、やっぱりバンドリも魅力的なキャラが多くて執筆していて楽しかったです!

 何年もブランクがあったのでここまで見てくれている方がいるのか不明ですが、もし再度追いかけてくださった方がいらっしゃいましたら最後までありがとうございました!



 公式の方ではave mujicaのアニメがやるとのことで、バンドリはまだまだ終わらないみたいですね。
 もしその時にやる気があれば番外編として書いてみようかなとか思ってます。


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