魔法少女リリカルなのは 魔法と未来を繋げる者たちの物語 (ソーナ)
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prologue
はじまり


こんにちは、又ははじめましてかな?
私ソーナの第5作品《魔法少女リリカルなのは 魔法と未来を繋げる者たちの物語》です。
それではどうぞ!


~???side~

 

「ここは・・・・・・」

 

目を覚ますと、そこはなにもない場所だった。

 

「確か、僕は死んだはず・・・・・・」

 

最後に覚えているのは空が眩しく光ったこと。

周囲を見渡すが一面白一色。

自分の身体は生きていた頃と同じで、透けたりしていない。ちゃんとした肉体だ。

上体を起こし、そう思っていると。

 

「よかった。目が覚めましたか」

 

そんな声が聞こえ、突如目の前がキラキラと輝き、一人の女性が現れた。

その女性は髪が長く緋色と金を合わせた色をしていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「貴女は・・・・・・?」

 

「ごめんなさい、自己紹介がまだでしたね。わたしの名はアマテラス。一応、神となっています」

 

「アマテラス・・・・・・さん」

 

「はい、そうです」

 

確かアマテラスって日本神話の主神じゃなかったかな?僕はアマテラスさんに挨拶をしてそう考える。

 

「あの、アマテラスさん。ここは一体どこですか・・・・・・」

 

僕が訪ねるとアマテラスさんは顔を曇らせて頭を下げてきた。

 

「ごめんなさい」

 

「え」

 

「ここはわたしたち神が住まう天界の中。そしてその最上層のわたしの居場、天神庭園です」

 

そう言うと周囲が晴れ、次の瞬間には当たり一面草花が生い茂った場所にいた。

 

「天神・・・・・庭園・・・・・・」

 

「そうです。そして、あなたはわたしの手違いで死んでしまったのです。本当に、ごめんなさい!」

 

アマテラスさんが必死に頭を下げて言う。

どうやら本当に死んじゃったみたい。

 

「謝ってすむことではないとわかっています。本当にごめんなさい」

 

「あ、あの、頭をあげてくださいアマテラスさん。僕は気にしてませんから」

 

「どうしてなにも言わないんですか!わたしはあなたを殺してしまったのですよ!?あなたの未来をわたしは奪ってしまった!」

 

「死んでしまったのなら仕方ないですし、それに僕は向こうにいても1人、でしたから・・・・・・」

 

「で、ですが・・・・・・!」

 

「ですからアマテラスさんが気にすることじゃないです」

 

僕はアマテラスさんに笑顔を見せて言う。

 

「そう・・・・・・ですか・・・・・・」

 

「はい」

 

「ありがとうございます。あなたは優しいのですね。殺してしまったわたしにそんなこと言うなんて」

 

「そんなことないですよ」

 

「フフ。(やっぱり、この子は心が優しい。それなのにわたしは・・・・・・)」

 

最後の当たりアマテラスさんがなにか言ったみたいだけど聞こえなかった。

 

「こんなところでもなんですからこちらへ」

 

アマテラスさんの案内のもと付いていくと、辿り着いたのは白亜の東屋だった。

アマテラスさんを対面して僕は反対側に座った。

 

「あのアマテラスさん、どうして僕はここに?」

 

「ごめんなさい、まだ言ってませんでしたね。あなたにはこれから転生してもらいます」

 

「転・・・・・・生・・・・・・?」

 

「はい。転生です」

 

「それって別の世界で再び生きられるってことですか?」

 

「はい、そうなります」

 

「そうなんですか・・・・・・。ところで僕が転生する世界って・・・・・・?」

 

「あ。あなたが転生する先の世界は『魔法少女リリカルなのは』の世界です。知っていますか?」

 

「う~ん・・・・・・うろ覚えかな」

 

確か『魔法少女リリカルなのは』って何年か前に流行ったアニメでここ最近も映画が出てなかったかな?

 

「そうですか・・・・・・それで、転生するのですがその際に特典がつくのですが・・・・・・」

 

「特典?」

 

「はい、神様の加護・・・・・・みたいなものですね」

 

「なるほど・・・・・・」

 

「普通は2つまでなのですが、あなたはわたしの手違いで死んでしまったのでせめものお詫びとして5つ得られます」

 

「え!そんな、悪いですよ」

 

「いえ、受け取ってください。そうでないとあなたに申し訳がありません」

 

「じゃ、じゃあ・・・・・・」

 

「ありがとうございます」

 

「あの特典ってなんでもいいんですか?」

 

「はい」

 

「それじゃあ、『魔法先生ネギま!』の全魔法を使えるようにしてください」

 

「わかりました。『魔法先生ネギま!』の全魔法ですね」

 

「はい」

 

「二つ目はなににしますか?」

 

「SAOの全ソードスキルが使えるようにしてください」

 

「わかりました」

 

「3つ目が家事スキル最大で」

 

「わかりました」

 

「4つ目が成長補正最大で」

 

「はい。5つ目はどうしますか?」

 

「え~と・・・・・・」

 

「はい」

 

「・・・・・・保留にする事出来ますか?」

 

「保留・・・・・・ですか?」

 

「はい」

 

「・・・・・・フフ。良いですよ、わたしはあなたが気に入りました。5つ目が決まったらわたしに連絡してください」

 

「ありがとうございます、アマテラスさん」

 

「いえ、そしてこれはわたしからの餞別です」

 

アマテラスさんが僕を優しく抱き締めたかと思うと、僕の身体がアマテラスさんと同じように明るく光った。

 

「あなたの身体能力と記憶力を上げました。あちらの世界で鍛えるほどあなたは強くなりますよ。本当はもう少しあなたにあげたいのですが、ごめんなさい」

 

「いえ、ありがとうございますアマテラスさん」

 

僕は少し顔を赤くしてお礼を言う。

 

「それではあなたに転生してもらいます。準備はいいですか?」

 

「はい」

 

するとアマテラスさんの横に純白の扉が姿を表した。

 

「これから二度目の人生、頑張ってください」

 

アマテラスさんは優しい微笑みを浮かべて言った。

 

「ありがとうございます、アマテラスさん。頑張ります」

 

「では、行ってください」

 

アマテラスさんの横の純白の扉のノブを回し、僕は扉の中へ入った。

 

~???side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~アマテラスside~

 

「行ってしまいましたか・・・・・・」

 

彼が行ったのを見届けるとわたしはそう呟いた。

彼には色々とわたし個人として特典を与えた。

と言っても記憶力や身体能力が上がることや、向こうの世界での魔力値を上げたということだけなのだが。

 

「彼は今まで見てきたどんな人よりも優しかったですね」

 

そういうとわたしは東屋の椅子に座る。

 

「あ、彼にわたしへの連絡手段を伝えないと」

 

そしてわたしは目覚めているであろう彼に手紙を書いた。頑張ってください、あなたの活躍を願ってます。

 

 

 

 

 

 



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Beginning
転生です!


~???side~

 

「んん・・・・・・」

 

目元に光が入り、うめき声を出して目を開ける。

 

「ここは・・・・・・」

 

体を起こし周りを見渡す。どうやら家の中の部屋のようだ。

そして僕が今いるのはベットの上らしい。

 

「そうか・・・・・・たしか僕、転生したんだっけ・・・・・・」

 

僕はアマテラスさんとのやり取りを思いだし呟く。

 

「よっと・・・・・・」

 

身体を起こしベットから降り立ち上がった。

すると。

 

「ん・・・・・・?」

 

立ち上ると視界の端から黒く長い髪が垂れた。

近くにあった鏡に自分の身体を写して自分の身体を見る。するとそこには。

 

「な、なにこれぇぇえええええ!!!?」

 

一人の美少女がいた。

 

「え!?ちょっと待って!これ僕!?もしかして女の子に転生したの!?」

 

5歳くらいの身体に線の細く肌の白い、長い黒髪の姿に僕は戸惑った。

取り敢えず落ち着こうと机に手をつく。

 

「ん?」

 

机の上になにかがあるのに気がついた。

 

「これは・・・・・・手紙と・・・・・・デバイス?」

 

そこには一通の手紙と白銀に煌めく宝石のペンダントと蒼白色宝石の入ったブレスレット、そして黒と白の色の宝石のネックレスがあった。

手紙を開くとそこにはアマテラスさんからのメッセージが書かれていた。

 

 

 

【目は覚めましたか?そちらが≪魔法少女リリカルなのは≫の世界となります。なお時間軸の関係で、あなたの年齢は5歳となっています。容姿に関しましては男子なので気を付けてください。そちらの家はあなた個人の家となっています。地下にシミュレーションルームなどがあるので活用してください。置いてあるデバイスはわたしからの贈り物です。ペンダントのデバイス名は〈リンカーネイト〉、ブレスレットは〈ステラメモリー〉ネックレスの方は〈レイオブホープ〉で、どれもインテリジェントデバイスです】

 

 

 

「〈リンカーネイト〉に〈ステラメモリー〉、〈レイオブホープ〉・・・・・・」

 

僕は手紙に書かれているデバイス名をデバイスを持って言う。

 

 

 

【あなたのこれからの活躍を天界から期待して見ています。なにか困ったり相談したいときはこちらに連絡してください】

 

 

 

手紙の最後の部分にメールアドレスと電話番号らしきものが綴られていた。

それを見た僕は少し苦笑を浮かべた。

 

「ありがとうございますアマテラスさん。アマテラスさんにもらった二度目の人生。精一杯生きていきます」

 

僕は読み終えた手紙をしまい、デバイスを身につけて下に降りる。

 

「ところで僕の戸籍とかどうなってるんだろう」

 

手紙に書かれていなかったことを思いだし僕は首をかしげたが、すぐにそれは解決した。

何故なら下のリビングのテーブルの上に僕の戸籍や銀行口座、カード類が置いてあったのだ。

 

「僕の名前は・・・・・・」

 

戸籍が書かれた紙を確認する。

そこに書かれていた名前は。

 

 

 

「――――――天乃宮零夜・・・・・・」

 

 

 

 

と書かれていた。

続いて預金通帳を見ると。

 

「うわっ!すごっ・・・・・・」

 

0の桁が結構あった。

これもアマテラスさんがしてくれたのかな?

 

「それにしてもここに僕1人で暮らすのか・・・・・・まあ、慣れてるからいいかな」

 

僕は時間を確認して手っ取り早くお昼を済ませ、家の地下に向かった。

地下には広大なトレーニングルームがあった。

 

「かなり広いな~。耐久性はどうなんだろ」

 

一応アマテラスさんが用意してくれた家とはいえちょっと気になり僕は早速試すことにした。

 

「えっと確か・・・・・・こうするんだっけ?」

 

僕は首から下げているペンダントをとり掲げ唱える。

 

「リンカーネイト、セットアップ!」

 

唱えるとペンダントの白銀の宝石が光り、僕の身体も光った。

光が収まり、目を見開くと純白の服装とコートに包まれた僕の姿があった。そして手には錫杖のデバイスが。

 

「これが僕のバリアジャケット・・・・・・。えっと、それじゃあ・・・・・・」

 

僕はリンカーネイトを構え詠唱する。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。光の精霊11柱。集い来たりて、敵を射て。魔法の射手・連弾・光の11矢(サギタ・マギカ・セリエス・ルーキス)!」

 

リンカーネイトの周囲に光の球があらわれ、矢となって飛んでいった。

壁に魔法の射手が当たると衝撃の煙がたったがキズは全くついてなかった。

 

「耐久性はいいみたいだね」

 

バリアジャケットを解除しリンカーネイトを待機状態のペンダントに戻して僕はそう言う。

 

「耐久性も確認したし、明日からの予定はどうしようかな・・・・・・」

 

僕は1人いるリビングでそう呟いて、明日からの予定を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数カ月後

 

 

 

僕がこの世界に転生してすでに数ヵ月が過ぎた。

僕の住んでいる市の名前は海鳴市だと言うそうだ。

海鳴市は近くに海があり、自然豊かな場所だ。

そして、今僕の目の前には一人の少女がいた。

 

「どうしたのキミ?」

 

「にゃ!?わ、私のこと?」

 

「うん」

 

僕はただ1人ブランコに座り、哀しげの表情を浮かべて

顔を俯かせていた少女に声をかける。

 

これが転生した僕、天乃宮零夜と≪魔法少女リリカルなのは≫の主人公、高町なのはとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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はじめての友達

 

 

~なのはside~

 

 

私の名前は高町なのは。

今私は一人で公園にいるの。公園にいる理由は、お父さんがある事故で大ケガをして入院しちゃって、お母さんとお姉ちゃん、お兄ちゃんは最近開店した"翠屋”という喫茶店のお仕事を手伝っていて大忙しだからなの。

それで、お母さんたちに迷惑を掛けないようにしないと思って一人で公園のブランコに座っていたら、いきなり知らない子に話しかけられて驚いたの。私は急に声を掛けられて俯かせていた顔を上げてその子を見たの。

 

「どうしたのキミ?」

 

「にゃ!?わ、私のこと?」

 

「うん」

 

私はその子を見てまず始めに思ったのは綺麗で可愛い子だなって思ったの。長い黒髪で線が細く肌が白かったの。私と多分同い年だと思うんだけど女優さんみたいなの。そのままその子を見ていると。

 

「どうかしたの?」

 

その子が首をかしげて私に尋ねてきたの。

少し凝視しすぎちゃったみたい。

 

 

~なのはside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

偶々立ち寄った公園の中でたった1人でブランコに顔をうつむかせているツインテールの女の子を見つけた僕は少し声をかけてみた。

 

「どうしたのキミ?」

 

「にゃ!?わ、私のこと?」

 

「うん」

 

女の子は驚いたみたいで俯いていた顔を上げた。

僕はその女の子に頷いてかえすと、女の子はなにも言わないで僕のことをジッと見た。

僕は首をかしげながら尋ねた。

 

「どうかしたの?」

 

「う、ううん。なんでもないの!」

 

「そう?」

 

「うん」

 

「急に声を掛けてごめんね。驚かせちゃったかな」

 

「ううん。大丈夫」

 

「ありがとう。あ、僕の名前は天乃宮零夜。零夜って呼んでくれると嬉しいな。キミの名前は?」

 

僕は取り敢えず自己紹介をした。

 

「私の名前は高町なのは。なのはって呼んでほしいの」

 

「よろしくね、なのはちゃん」

 

「なのは、でいいの」

 

「うん。よろしくね、なのは」

 

「こちらこそ。よろしくなの零夜ちゃん」

 

あれ?なのはって言う名前に少し聞き覚えがある気もするけど・・・・・まあ、気にしないでおくとしよう。

僕はそう思い考えるのをやめた。

そこで僕はなのはにちゃんと呼ばれたことに不思議に思った。もしかして僕が女の子だって思っていたり・・・・・・

 

「零夜ちゃん?」

 

「うん」

 

「え、え~と、なのは。もしかして僕のこと女の子だって思ってたりする・・・・・・?」

 

「え?そうだよ」

 

予感的中。

 

「あのね、僕これでも女の子じゃなくて男の子なんだけど・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・ええっ!?そうなの!?」

 

「うん・・・・・・」

 

少し慣れてきているとはいえ未だに初対面の人に、僕は女の子だって間違えられる。

その度になのはと同じような反応が返ってくるのだ。

 

「ご、ごめんね。てっきり女の子だと思ってたの」

 

「気にしないで。ところで隣、いいかな?」

 

「え。うん、いいよ」

 

「それじゃあ、失礼するね」

 

僕はなのはの隣のブランコに座って、なのはを見て聞く。

 

「なのははどうして1人でここにいるの?お母さんやお父さんは?」

 

「えっと、その・・・・・・実はね―――――」

 

僕がなのはから1人でいた理由を聞いた。

なのはのお父さんがある事故で大ケガをして入院してしまい、なのはのお母さんとお姉ちゃん、お兄ちゃんは最近開店したらしい喫茶店、"翠屋”のお仕事を手伝っていて大忙しらしい。それで、お母さんたちに迷惑を掛けないようにしないと思って1人でここにいたらしい。

 

「―――それで、零夜くんに話し掛けられたの」

 

「なるほどね。そういうことだったんだね」

 

「うん・・・・・・」

 

なのははまた寂しそうに顔を俯かせて地面を見ていた。

 

「でも、なのはは寂しくないの?」

 

「それは・・・寂しくないとのって言われると寂しいけど・・・・・・」

 

「なら家族にその事を伝えようよ」

 

「で、でも・・・・・・」

 

「だってなのははまだ子供なんだから。家族に甘えないと。遠慮しちゃダメだよ」

 

「・・・・・・うん、そうする」

 

なのははしばらく迷ったように考えたけど、小さく頷いて答えくれた。

 

「なら、早速行こうよ」

 

僕はブランコから立ち上り、なのはの前に立って右手を差し伸ばす。

 

「うん」

 

なのはも僕の差しだした右手を掴んで立ち上り、案内をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その道中。

 

「そう言えば零夜くんはなんで私に声を掛けてくれたの?」

 

「え?なんでって言ってもなぁ・・・・・・。なのはが哀しそうで寂しそうだったから、かな」

 

「そんな理由?」

 

「そうだよ」

 

そんなことを話しているとあっという間に目的地の"翠屋"という喫茶店に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが"翠屋"?」

 

「うん・・・・・・」

 

なのはは少しモジモジと躊躇うようにしていた。

 

「なのは、ぶつからないと伝わらないこともあるよ。だから大丈夫、僕も一緒にいるから、ね」

 

僕はなのはに優しく微笑んで言った。

 

「うん・・・そうだね。ありがとう、零夜くん」

 

「どういたしまして、かな?」

 

僕はなのはの手に引っ張られて"翠屋"の店内に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お店の中に入ると、中にお客さんは誰もいなく眼鏡をかけた女の店員さんがテーブルを拭いている姿があった。

どうやら閉店準備をしているらしい。

 

「あのすみません、もう本日は閉店となってしまって――――――って、なのは!」

 

眼鏡をかけた女の店員さんは、なのはを見て驚いた声をだした。

なのはの知り合いかな?

 

「お姉ちゃん・・・・・・」

 

どうやらなのはのお姉さんみたいだ。

確かにどことなくなのはと似ている感じがする。

 

「なのは、どうしてここに・・・・・・」

 

「どうしたんだ美由季?何かあった――――――って、なのは!」

 

なのはのお姉さんの声につられて厨房辺りの方から1人の男の人が来た。

恐らくこの人は、なのはのお兄さんなのだろう。

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

「なのは、どうしてここにいるんだ?」

 

「そ、それは、その・・・・・・」

 

なのはが言い淀んでいると。

 

「どうしたの二人とも?早くしちゃいなさい。って、あら?なのは?」

 

新たに出てきたのは女の人だった。

随分と若いけど、なのはのもう1人のお姉さんかな?

僕がその人を見ていると、隣のなのはから。

 

「お母さん・・・・・・」

 

そんな声が聞こえてきた。

えっ!?お母さん!?若っ!えっ!ちょっ!若すぎませんか!?これで子供3人の母親!?お姉さんの方がしっくり来るんだけど!?て言うか歳いくつ!?

僕はなのはのお母さんらしき人を驚きながら見る。

 

「ウフフ。はじめまして、なのはの母の桃子です」

 

「は、はじめまして、僕は天乃宮零夜です」

 

「よろしくね零夜ちゃん」

 

「こんにちは零夜ちゃん。私はなのはの姉の美由季って言うの。よろしくね」

 

「俺はなのはの兄の高町恭也だ。よろしくたのむ、零夜ちゃん」

 

なのはの母の桃子さんが挨拶すると、お姉さんとお兄さんも挨拶してきたんだけど・・・・・・

 

「あの・・・・・・僕、女の子じゃなくて男の子なんですけど・・・・・・」

 

何故か、ちゃん付けで呼ばれた。

多分なのはと同じように僕が女の子だって思ってる。

僕が桃子さんたち3人にその事を言うと・・・・・・

 

「「「ええぇぇぇええええええええ!!?」」」

 

案の定、3人から驚きの声が上がった。

もう泣いていいかな?これで今日何度目だろう?あれ、目から水が出てきたよ。

僕は床に座り込んで鬱状態になっていた。そこへ苦笑いを浮かべて背中を優しく擦るなのはの姿があった。

 

 

 

 

その10分後

 

「え、えっと、零夜君?でいいのかしら?」

 

「はい・・・・・・」

 

僕らは閉店した"翠屋"の店内の椅子に座って桃子さんたちと対面していた。隣にはなのはが座っている。

 

「ごめんなさい、てっきり女の子かと・・・・・・」

 

「いえ。気にしないでください、慣れてますから・・・・・・」

 

そう言う僕の目に少し涙が出てきた。

その僕へなのはが再び背中を撫でてくれた。

桃子さんと美由季さんは戸惑い、恭也さんは苦笑を浮かべながらも僕を見ていた。

僕は涙を拭い去り、僕は桃子さんたちを見て伝える。

 

「あの、実は、なのはから桃子さんたちに聞いてほしいことがあるそうなんです」

 

「聞いてほしいこと?」

 

「はい。さ、なのは」

 

「うん・・・・・・あのね、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん。私、みんなに聞いてほしいことがあるの・・・・・・」

 

そのあと、なのはは自分の気持ちを桃子さんたち3人に伝えた。寂しかったことや悲しかったこと、辛かったことを全て吐き出して伝えた。それを聞き途中からお母さんの桃子さんとお姉さんの美由希さんは涙を流してなのはを抱き締めて謝り、お兄さんの恭也さんは悔しそうに自分を責めるように拳を静かに握りしめながら黙々と涙を流していた。

 

「よかったね、なのは」

 

「うん!これも全部零夜くんのお陰だよ!ありがとうなの零夜くん!」

 

なのは、始めて見せる満面の笑みを浮かべて僕に抱き付きながら言った。

その際恭也さんからすごい殺気が来た感じがしたんだけど・・・・・・気のせいかな?

 

「私からもお礼を言わせてちょうだい。ありがとう零夜君。零夜君のお陰でなのはの本当の気持ちが知ることができたわ」

 

「いえ、気にしないでください。僕はただなのはの背中を押しただけですから。結果的にはなのはが自分で決めたことですし」

 

「それでもよ、本当にありがとう」

 

「私からも、ありがとう零夜君」

 

「俺からも言わせてほしい。ありがとう零夜。君のお陰だ」

 

僕は桃子さん、美由季さん、恭也さんにお礼を言われ少し赤くなりながらも戸惑った。

始めてお礼を言われたのだ、戸惑うのも無理ない。

 

「ねえ、零夜くん」

 

「ん?なに、なのは?」

 

「私と・・・・・・友達になってくれる?」

 

「え?友達?」

 

「うん」

 

「えっと、僕なんかでいいなら」

 

「ありがとう零夜くん!これから私と零夜くんは友達なの!」

 

「うん、僕となのはは友達」

 

僕となのはは笑顔で言い合う。

転生して始めて出来た友達に僕は嬉しさが走った。

そこで思い出した、この世界の名前は≪魔法少女リリカルなのは≫そしてこの子の名前は、高町なのは。つまり、この子が≪魔法少女リリカルなのは≫の主人公、なのは、だということを。

けど、それより今は僕に始めて出来た友達のなのはに嬉しかった。

 

「あ、そろそろ帰らないと」

 

壁に掛けてあった時計を見て僕は不意にそう言った。

いくら一人暮らしだからと言ってもあまり帰りが遅くなるのはヤバい。

 

「え、もう帰っちゃうの?」

 

「うん、時間も時間だしね」

 

今にも泣き出しそうな表情のなのはに少し罪悪感が生まれるが時間だから仕方ない。

するとそこへ。

 

「なら、零夜くん。家でご飯、一緒に食べないかしら?」

 

「え?」

 

「そうだよ!そうしようよ零夜くん!」

 

「え、えっと・・・・・・」

 

「ダメ・・・・・・かな?」

 

「うっ・・・・・・!」

 

なのはのウルウルとした瞳に見られては断ることもできず。

 

「そ、それじゃ、お邪魔します」

 

「やった~!」

 

僕の了承になのはは嬉しそうにその場で跳び跳ねて、その光景を桃子さんと美由季さんはなのはを喜ばしそうに見ていて、恭也さんは肩をすくめてなのはを優しく見ていた。

こうして僕は高町家で夕飯を食べることになった。それで帰れるかと思ったのだが・・・・・・・

 

「夜も遅いし今晩は泊まっていったらどうかしら?」

 

と桃子さんに言われ、時間を見ると時間は9時を指していた。

 

「け、けど、今日始めてあった人の家に泊めてもらうわけには・・・・・・」

 

「私は大丈夫よ」

 

「ええ、私も賛成よ」

 

「俺も賛成だな。なのはは・・・・・・聞くまでもないか」

 

「え?」

 

「零夜くん、今日泊まってくれないかな・・・・・・?」

 

なのはをはじめ、桃子さんたちにも言われてはさすがに断ることもできず、この時間を僕1人で帰るのは危険だと思い、

 

「それじゃ、今晩お世話になります」

 

急遽高町家に泊まることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高町家で泊まることとなったのだが・・・・・・何故か僕はなのはの部屋でなのはと一緒にベットで寝ることとなった。

まあ、同い年だし別にいいかなと思ってはいるが。

 

「――――――なの。それでね――――――」

 

「へぇ。なるほど―――――」

 

僕は久しぶりに長々と会話をし、気付いたときにはすでに時間は11時を回っていた。

さすがに眠くなり、僕は少し恥ずかしくなりながらもなのはと一緒に寝た。

そして翌朝、また会う約束をなのはとして高町家をあとにし、自宅へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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無印
魔法少女なのは


~零夜side~

 

 

 

 

 

「ハッ・・・・・・!」

 

目を覚ました僕は自分の部屋にいることを確認すると、軽く伸びをした。

 

「なんか変な夢だったな。やけにリアルだったと言うか・・・・・・なんだろう・・・・・・」

 

僕はさっきの夢の中で見たことと聞こえた声を思い出していった。

 

「そう言えば時間は・・・・・・」

 

近くにあった時計を見ると時間は朝の六時半をさしていた。

 

「んんー・・・・・・・!っと・・・・・・。起きようかな」

 

そう言うとベットから下りて着替え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月日が流れ、僕がこの世界。≪魔法少女リリカルなのは≫の世界に来て早4年。今年で九歳になる僕は私立聖祥大附属小学校三年生として通っていた。

今思い返してみればこの4年間、様々な人とふれあい、友達が出来た。

そして、今も・・・・・・。

 

 

「零夜くん!おはようなの!」

 

「おはよう、なのは」

 

「うん!」

 

ある時偶然出会った、僕の最初の友達。

彼女の名前は高町なのは。僕と同じ、私立聖祥大付属小学校に通う小学三年生だ。

そしてもう二人。いや、三人、僕には友達がいる。

 

「おはよう、なのはちゃん。零夜くん」

 

「おはよう、なのは。零夜」

 

「すずかちゃん!アリサちゃん!おはよう!」

 

「おはよう、すずか、アリサ」

 

聖祥大付属小学校に行くバスに乗った僕となのはに声をかけてきたのは、一年生の頃から同じクラスで友達の月村すずかとアリサ・バニングスだ。二人ともちょっとしたお嬢様で、あることが切っ掛けで友達になった。そのため、よくすずかの家やアリサの家でお茶会が開かれ、よくなのはとともに招かれるのだ。

ちなみにはじめて出会った頃、僕は女の子と間違われていた。その際、僕が男の子だと言うことを伝えると、案の定二人とも驚きの表情と声を上げた。

ちなみになのはたちにはまだ僕が転生者だってこと、そして、魔法が使えることは言っていない。

理由はなんとなく。だけど、いつか言える日が来ると良いなと思ってる。

そしてもう一人の僕の友達は、今ここにはいない。それについてはまたの機会に話すことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私立聖祥大付属小学校 

 

 

 お昼休み

 

 

 

「将来か~」

 

お昼休み、僕たち4人はいつもと同じように屋上の一角でお弁当を食べていた。一年生の頃から一緒だったため三年生になった今もこうして4人で食べている。

そのときなのはがさっきの授業の、この町について調べていて将来についてのことを言った。

 

「アリサちゃんとすずかちゃんはもう、結構決まってるんだよね?」

 

「うちは・・・お父さんもお母さんも会社経営だし・・・・・・。一杯勉強してちゃんと跡を継がなきゃ、くらいだけど?」

 

「私は機械系が好きだから・・・・・・工学系で専門職が良いな~って思ってたりするけど」

 

「そっかぁ、二人ともすごいね。零夜くんは?」

 

「僕?僕は・・・・・・まだ、決まってないかな?」

 

僕は自分で作ったお弁当の卵焼きを食べて言う。

確かにまだ転生したときにアマテラスさんからもらった預金通帳のお金は当面問題ないくらいある。けど、それも何時まで持つかわからないし、将来は絶対何らかの職に就かないといけない。けど、自分が何をやりたいのかハッキリと決まらないのだ。

 

「なのはは?」

 

「このままいけば翠屋二代目よね?」

 

「うん。それも将来のビジョンの一つではあるんだけど。やりたいことは何かあるような気がするんだけど・・・・・・まだそれがなんなのかハッキリしないんだ。私、特技も取柄も特にないし・・・・・・」

 

「そうなんだ・・・・・・」

 

なのはも僕と似たような答えだった。

すると、

 

「バカちん!」

 

アリサがレモンの身をなのはの頬に投げ当てた。

 

「自分からそう言うこと言うんじゃないの!」

 

「そうだよ、なのはちゃんにしか出来ないこと。きっとあるよ」

 

「大体あんた、理数の成績このあたしより良いじゃないのよ。それで取り柄がないとかどの口がいってるのよ!」

 

そう言う否やアリサがなのはの背後に回りなのはの両頬を後ろから引っ張り始めた。

 

ほんなこといふぁれてもぉ(そんなこといわれても)

 

頬を引っ張られて呂律の回ってないなのはの答えとアリサの行動にすずかはおろおろして、僕は何時もの見慣れた光景に苦笑を浮かべた。

 

「あわわ。二人ともダメだよ。ねぇ、ねぇってば~」

 

「あははは」

 

そしてこうして僕らの何気ない日常が過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後

 

 

「どうしたんだろう?」

 

「ほんとだ」

 

僕はいつも通り歩いて帰り、なのはたち三人はこのあとの塾のために歩いていた。ちなみに僕は塾には行っていない。その帰り道、公園に入り池の近くに行くと数人の人の姿があった。

 

「これは・・・・・・」

 

近づくと公園内の池の桟橋辺りが壊されているのが目に入った。どうやら、これの調査のために来ているみたいだ。見ていると、近くにいた公園管理委員さんらしき人が声をかけてきた。

 

「あ、君たちここから先は危険だから入らないでね」

 

「あの、何があったんですか?」

 

「うん、どうやら昨夜の間にボートが壊されちゃったみたいなんだよ」

 

「いたずらですか?」

 

「う~ん、そうだと思うんだけどね。けど、いたずらにしては限度が越えているからね。警察の人たちと一緒に調査をしてるんだ」

 

「そうなんですね」

 

「だから君たちも気を付けるんだよ」

 

「「「はーい」」」

 

「わかりました」

 

僕たち4人は管理委員さんの人と分かれ、その場を後にした。

だが、その中僕はさっきの光景に見覚えがあった。何故なら、昨夜の夢で見た光景と全く同じだったからだ。

 

「ここよ塾への近道は」

 

考えながら歩いているとアリサが立ち止まって横に道を指した。

 

「へぇ、こんなところにあったんだ」

 

「ちょっと道は悪いけどね」

 

そう言いながらその道を進んでいくアリサのあとを、僕たちはついていく。

しばらく進んでいくとまたしても夢で見た光景が広がった。

 

「(ここも・・・・・・。さっきの池といいこの場所といい、あの夢と聞こえた声って・・・・・・)」

 

そう思っていると。

 

 

〈助けて・・・・・・〉

 

 

夢で聞こえた声と同じ声が聞こえた。

 

「今の声・・・・・・」

 

「なのはも聞こえたの?」

 

「零夜くんも?」

 

「うん」

 

どうやらなのはにも僕と同じ声が聞こえたみたいだ。

 

「どうしたの二人とも?」

 

「なあに、急に立ち止まって」

 

「二人には今の声聞こえなかったの?」

 

「声?」

 

「聞こえなかったわよ」

 

すずかとアリサは顔を見合わせて首を横に振って否定した。

するとまた。

 

 

〈助けて・・・・・・!誰か・・・・・・助けて!〉

 

 

さっきの声が聞こえてきた。

 

「やっぱり聞こえる・・・・・・」

 

そういうとなのはが道の先へと駆け出していった。

 

「なのは」

 

僕はなのはを追い掛けるようにして走る。

 

「え、なのはちゃん!?零夜くん!?」

 

「なのは!零夜!」

 

後ろから少し遅れてすずかとアリサが走ってきた。

しばらく走ると、道の先にキラリと光るなにかを見つけた。その場所に駆け寄ると、すでになのはがその場でなにかを見ていた。

 

「なのは!」

 

「零夜くん、この子・・・・・・」

 

なのはの傍に駆け寄ると、なのはの前には一匹のフェレットが横たわっていた。

 

「フェレット・・・だよね?」

 

「たぶん」

 

そのフェレットの首には赤い宝石がぶら下がっていた。どうやら遠くから光って見えたのはこの宝石みたいだ。

 

「怪我している?」

 

「うん。大丈夫かな・・・・・・」

 

「コラ~!どこ行くのよ~」

 

「待ってよ~なのはちゃん、零夜くん」

 

フェレットを見ているとすずかとアリサが、追い付いてきた。

 

「急に走らないでよ・・・・・・って、そのフェレット怪我してるじゃない!」

 

「みたいなんだ。アリサ、確か近くに動物病院なかった?」

 

「え、え~と・・・・・・」

 

「私、場所知ってるよ!」

 

「ほんとう!?お願いすずか案内して!」

 

「うん!こっちだよ!」

 

僕はフェレットを綺麗な汚れ一つないハンカチで優しく包み込み、急いですずかの案内のもと近くの動物病院に駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すずかに案内されやって来た槙原動物病院に着いた僕達は中にいた院長の槙原先生に事情を説明して、フェレットを預け治療して貰った。院長先生が言うには安静にしていれば良くなるみたいだ。

 

「ありがとうございました、院長先生」

 

「いいえ。どういたしまして」

 

「それにしてもフェレットにしては見た事ない種類ですね。新種ですか院長先生?」

 

「新種・・・なのかしらね?私にもよくわからないわ・・・・・・」

 

「先生、このフェレットなんですけど・・・どこかのペットなんですか?」

 

「う~ん、そうなのかしら。ごめんなさい、私にもよく分からないわの」

 

診察台で治療して包帯を巻いて寝ているフェレットを囲んで話していると、フェレットが起きた。

 

「起きたみたいだよ」

 

フェレットを見ると、フェレットはあたりを見回し僕となのはの所で動きが止まった。

 

「えっと・・・・・・」

 

「触ってみても大丈夫・・・なのかな・・・・・・」

 

なのはと僕は恐る恐る指を差し出してみた。するとフェレットはなのはと僕の指を舐めた。が、また気を失ってしまい横に丸くなった。

そのあと、院長先生の提案で一応このフェレットは明日までがここで預かる事になり、また明日ここに来ることとなった。

時間に気づいたなのはたちは急いで塾へ行き、僕は近くのスーパーで買い物してから帰ることにした。

その道中。

 

「あ!零夜くんやない」

 

車イスに乗った女の子がやって来た。

 

「はやて!」

 

その女の子の名前は八神はやて。僕と同い年の小学三年生なんだけど、訳あって今は学校に行ってない。

そのため、よく僕がはやての家に行って勉強を教えてあげたりしている。そして僕がなのはの次に出来た二人目の友達でもある。

僕がはやてと知り合ったきっかけは図書館での出会いが切っ掛けだ。昔から足が不自由らしく、基本車イスで生活して病院に通っている。そして、彼女は僕と同じ独り暮らしだ。はやての両親は何年か前に事故で亡くなってしまった。それからはやての両親の知人と言う人から援助を受けて生活している。

 

「はやて、今日は病院?」

 

「そうやよ。零夜は学校帰りなんか?」

 

「うん」

 

はやての車イスを押しながら僕ははやてと話す。

 

「はやては今日の夜どうするの?」

 

「いつも通りや」

 

「そうか~」

 

「零夜くんもやろ?」

 

「あはは、まあね」

 

僕とはやては一緒に買い物をする。

 

「えーと、どっちがいいと思う?」

 

僕はお魚とお肉を持ってはやてに聞く。

 

「そうやね~、お肉の方がいいと思うやよ」

 

「そう?」

 

「そうや。丁度特売みたいやし」

 

はやての言う通り、僕が手にしているお肉には特売のシールが貼ってあった。

 

「じゃあ、ちょっと多く買おうっと。はやてもこれでいい?」

 

「ええよ」

 

はやてと自分の分を取ってはやての持つ籠に入れる。

 

「そうや。零夜くん、今日わたしの家で一緒に夕飯食べへん?」

 

「え?僕はもちろんいいけど・・・・・・いいの?」

 

「もちろんや。たまには零夜くんと食べたいしな」

 

「じゃあ、お邪魔するね」

 

「うん!」

 

はやては笑顔で振り向いて言った。

けど、その裏で辛いことや悲しいことを一人で抱え込む癖があることを知っている僕は少し顔を曇らせる。

出来ることなら僕の治癒魔法ではやてを直してあげたい。けど・・・・・・・。

スーパーでの買い物を終え、はやてとともに八神家へと行き、二人で夕飯を作るとテーブルへと運び、夕飯を食べた。食べてる間は、はやてがここ最近あったことや僕のことを話したりして楽しく談笑して過ごした。

そして時間が8時を過ぎた頃。

 

「もう行ってまうんか?」

 

「ごめんね。明日も学校だから」

 

僕は八神家を後にするため玄関口にいた。

 

「けど・・・・・・」

 

「今週は泊まれると思うからそのときに、ね?」

 

「約束やよ」

 

「うん。約束」

 

僕とはやては小指と小指をあわせて約束する。

 

「それじゃ、またねはやて。あまり夜更かししちゃダメだからね」

 

「わかってよ。ほな、またな、零夜くん」

 

「うん」

 

僕ははやてと分かれ八神家をあとにし、自分の家へと帰っていった。

その道中。

 

「ん?メール?」

 

携帯にメールの入った着信音が鳴った。

 

「なのはから?」

 

携帯を開くとなのはからメールが来ていた。

メールには 『あのフェレットは家で飼えることになりました。明日、迎えに行こうね』 と書かれていた。

 

「なのはの家で飼えることになったんだ」

 

僕はメールの内容に少し表情が和らいだ。

なのはの家なら安心できる。

なのはからのメールを見て、携帯を閉じポケットにしまいそのまま帰ろうとすると、

 

 

〈誰か・・・お願いです!僕に・・・僕に力を貸してください!〉

 

 

また、頭のなかにあの声が響いた。

 

「もしかして、昨日の夜の声と夕方の声と同じ・・・・・・?」

 

 

〈お願いです!僕の声が聞こえてる方、僕に、少しだけ力を貸してください!〉

 

 

また、頭に必死の声が聞こえてきた。

 

「まさか・・・・・・」

 

僕は嫌な予感がして周囲を確認して首から下げてるペンダントを取り出す。白銀に煌めく宝石を右手に持ち、

 

「いくよ、リンカーネイト!」

 

右手の宝石を掲げあげる。そして、

 

「リンカーネイト!セットアップ!」

 

《了解!バリアジャケット展開します》

 

リンカーネイトの声とともに僕は純白のバリアジャケットを纏った。そして、僕の右手に錫杖のデバイスが現れる。

 

「いくよ!」

 

《はい!》

 

僕は飛行魔法を使用して空を飛んで、目的地の槙原動物病院へと向かう。

 

「リンカーネイト。近くに魔力反応はある?」

 

《反応ありです。っ!マスター結界が張られました》

 

リンカーネイトの言う通り、周囲の空間が紫色に包まれた。結界が張られた証だ。

槙原動物病院に着くと、入り口になのはがいて、窓ガラスが割れ、中から夕方のフェレットが化け物のような存在に襲われていた。

 

「まずい!リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!」

 

化け物の視線がなのはに向いているのを見た僕は、すぐさま詠唱を唱えた。

 

「(周りに影響がない魔法にしないと!)風の精霊18人。集い来たりて敵を打て!」

 

狙う場所はあの化け物の足元付近。

目的は動けなくさせること。

 

「なのは!避けて!」

 

僕は上空からなのはに声をあげ、

 

魔法の射手・連弾・雷の18矢(サギタ・マギカ・セリエス・フルグラーリス)!」

 

雷の矢を化け物に向けて射つ。

放たれた魔法の射手は全弾化け物の足元付近にあたり、化け物の動きを阻害する。

 

「零夜くん!?なんでここに!?それになんで飛んでるの!?」

 

「ごめん!事情は後で話す!今はとにかく逃げて!あれは僕が引き付ける!」

 

「え、う、うん!わかった!」

 

なのはは抱えていたフェレットとともにその場から走って離れる。

 

「さて・・・・・・どうリンカーネイト?」

 

《対象の反応、問題なく存在します》

 

「そう。仕方ないかな、ちょっと強めにいくよ!」

 

《イエス、マスター!》

 

化け物が再生し動いたのを確認した僕は場所を移動しながら化け物の注意を惹く。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!来たれ氷精、爆ぜよ風精!―――氷爆(ニウィス・カースス)!」

 

 

ある程度病院から離れた場所で僕は氷属性の魔法を化け物を中心に放つ。威力を抑えているから、そこまで氷爆の効果は周囲に広がってない。氷爆を受けた化け物はその全体が凍りついて動きを止めた。

 

「よし、これで・・・・・・」

 

《マスター!もうひとつ魔力反応があります!》

 

「え!」

 

リンカーネイトの言葉に驚愕していると、なのはが逃げていった方からものすごい音が聞こえてきた。

 

「な!?なのは!」

 

《マスター!》

 

「とにかく今は目の前の化け物をどうにかしないと」

 

僕は氷付けで動けない化け物に視線を戻すと、

 

術式解放(エーミッタム)!―――凍てつく氷塊(ゲリドゥスカプルス)!」

 

貯めておいた凍結魔法を解放して化け物に放ち、化け物を凍らせる。

 

「これで一旦良しと」

 

僕は完全に凍らせた化け物に近づき粉々に粉砕する。

すると、そこから青い宝石が出てきた。形は植物のタネの感じだ。

 

「これは・・・・・・?とにかく、今はなのはのもとに向かわないと」

 

僕はそれを掴みポケットにしまってなのはのもとに向かう。

向かっている最中、天に伸びるピンクの柱が目に入った。

 

「あれは・・・・・・」

 

《ものすごい魔力反応ですマスター》

 

その光の元に辿り着くとそこには、フェレットが持っていたと思われる赤い宝石を空にあげているなのはの姿があった。

そしてその近くには、さっき討伐した化け物と同じ感じの化け物が地面に皹と穴をつくってそこにいた。

 

「まさかあれ、デバイス?」

 

正直原作の知識がわからない僕はなのはを見てそう呟いた。

そして光が収まるとそこには、聖祥大付属小学校の制服をモチーフにしたらしいバリアジャケットと魔法の杖らしきものを握ったなのはの姿があった。

 

「うそ・・・・・・」

 

《あらら》

 

「ええっ!?なにこれえぇぇぇぇぇえええええええ!!?」

 

僕とリンカーネイトの声となのはの戸惑いの声が辺り一面に響きわたった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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物語の始まり

 

~零夜side~

 

 

「うそ。なんなのこれ!?」

 

なのはがバリアジャケットとデバイスを展開したのを上から見ていた僕は呆気にとられていた。

なのはの魔力値が高いと反応でたからだ。

なのはが手にもつ杖に驚いていると。

 

「来ます!」

 

フェレットがしゃべってそう言った。。

フェレットがしゃべったことに驚きながらも僕はあわててなのはの前に立つ。

それと同時に跳ね上がった化け物が墜ちてくる。

 

「―――風盾(デフレクシオ)!」

 

僕がなのはの前に立ち風の防御魔法を唱えるのと同時に、なのはのデバイスから。

 

《protection》

 

と機械音声が流れた。

それと同時に風盾の上からピンク色のバリアが張られた。

 

「くうぅぅ・・・・・・!」

 

「リンカーネイト!」

 

《イエス、マスター》

 

僕となのはがしばらく耐えると化け物は跳ね返り幾重にも散らばってあちこちに突き刺さったりした。

僕はなのはに気を配りながらも、散らばった化け物に注意深くする。

 

「なのは、無事?」

 

地面に降りてなのはの前にたった僕は視線をなのはに向けながら聞く。

 

「零夜くん!」

 

「とにかくここを離れるよ!」

 

僕はなのはの手をつかんで、風魔法で付与(エンチャント)して脚力をあげてその場から離れる。僕一人だけなら問題ないだろうが、なのはとフェレットを庇いながらだと少し部がわるい。

理由は単純に巻き込まれる可能性があるからだ。

なのはとフェレットを連れてその場から離れること数分、僕たちは住宅街の十字路に来ていた。

 

「取り敢えずしばらくは大丈夫だろうけど・・・・・・」

 

立ち止まり走ってきた方を見て言うと、フェレットが喋って言った。

 

「はい、すぐに追ってくると思います」

 

「だろうね。詳しく話を聞きたいけどその前にまずはあれを倒そう」

 

「う、うん。わかったなの」

 

「取り敢えずなのはに魔法を教えてくれるかな、フェレットさん?」

 

「は、はい。えっと、まず僕らの魔法は発動体に組み込んだプログラムと呼ばれる方式です」

 

僕はなのはが抱えているフェレットに視線を向けて言う。フェレットはすぐに返事を返してなのはに教えてる。

 

「そして、その方式を発動させるために必要なのが、術者の精神エネルギーです。そして、あれは忌まわしい力の元に生み出された思念体・・・あれを停止させるにはその杖で封印して、もとの姿に戻さないといけないんです」

 

「と、取り敢えずあれを何とかしないといけないのはわかったけど・・・どうすれば・・・・・・」

 

「さっきみたいに攻撃や防御などの基本魔法は心に思うだけで発動しますが、より大きな力を必要とする魔法には呪文が必要なんです」

 

「呪文?」

 

「心を清ませて・・・・・・心にあなたの呪文が浮かぶはずです」

 

フェレットの言葉になのはは目を閉じた。

どうやら心を清ませて集中しているみたいだ。

意識を少しそっちに向けながらも、僕は周囲への警戒を劣らない。まあ、索敵魔法を使ってるからすぐに分かるんだけどね。

なのはが目を閉じしばらくして。

 

「・・・・・・・・・・来た」

 

僕の範囲内に気配を感じた。

物凄い速さでこっちに迫ってきてる。

化け物が見えると、その化け物はジャンプし、毛むくじゃらの体から触手のような物を四本だして、僕らに向けて伸ばした。

僕は焦らず右手を伸ばし、

 

風盾(デフレクシオ)

 

風盾で防御する。

すると左隣のなのが杖の先を僕の右手に列べるように差し出した。

そして杖から。

 

《protection》

 

機械音声が響き風盾を覆うようにピンクのバリアが張られた。

四本の触手はピンクのバリアと風盾の前に憚れ、僕となのはには届かない。

触手が全て消え去ると、

 

「―――リリカル、マジカル」

 

「封印すべきは忌まわしき器。ジュエルシード!」

 

なのはと足元のフェレットが唱えた。

 

「ジュエルシード、封印!」

 

《Seling mode Set up》

 

なのはの杖の宝石が光ると、機械音声が響いた。

さらに、なのはの杖から一対の翼のようなものが現れた。

 

「へぇ。可変可能型なんだ」

 

僕はなのはの杖を見てそう呟く。

なのはの杖から幾本のピンクの帯が化け物に迫ると、帯が化け物を縛り上げた。

すると化け物の額に【ⅩⅩⅠ】の文字が現れた。

そう言えばさっきのにもあの化け物と同じ文字が現れていた。

 

《standby redy》

 

「リリカル、マジカル。ジュエルシード、シリアル21・・・・・・封印!」

 

《Seling》

 

なのはの杖からさらにピンクの帯が現れ、その帯は化け物の体を刺し貫いた。

化け物は耳障りな悲鳴をあげるとその体が光り、つきの瞬間には、その場に何もなく消え去っていた。

 

「あれは・・・・・・」

 

化け物が消えたところには一つの宝石のようなものが落ちていた。それはさっき僕が拾った宝石と同じやつだった。

 

「レイジングハートで触れて」

 

なのはがその宝石に近づき、フェレットの声になのはが杖。レイジングハートと言うらしきデバイスを前に出すと、宝石が浮かび上がるとレイジングハートの中に入った。

 

《licensing No.ⅩⅩⅠ》

 

レイジングハートの機械音声が答えると、なのはの身体が目映く光り、バリアジャケットからさっきまでの私服姿に戻っていた。レイジングハートも同様に杖から宝石の待機形態へと戻っていた。

さらに結界が解除されたみたいだ。

 

《マスター、結界が解除されました》

 

「ありがとうリンカーネイト」

 

《どういたしまして》

 

「あ、あれ。終わった、の?」

 

「はい。あなたのお陰です。ありがとう・・・・・・」

 

フェレットはかなり無理をしていたのか、その場に倒れてしまった。

 

「ちょっと!ねえ!大丈夫!?」

 

なのははフェレットに声をかけるが、そんな中僕の耳にパトカーや消防車のサイレン音が聴こえてきた。

 

「なのは、その前にここを移動しないと」

 

「え、う、うん。そうだね・・・・・・・ふぇ!?」

 

僕はなのはの右手を掴むと、飛行魔法でなのはとフェレットを連れてその場から素早く立ち去った。

なのはが途中驚いていたが取り敢えず今は我慢してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

化け物と戦闘した区域から離れ、なのはの家の近くの公園に降り立った僕はバリアジャケットとリンカーネイトを解除して、制服姿に戻る。

 

「ふぅ。ここまで来れば大丈夫かな。なのは、大丈夫?」

 

「もうなにがなんだか・・・・・・」

 

なのはは理解が追い付いていない見たいで頭を押さえていた。

 

「あはは、まあ、突然魔法なんかに出会ったらそうなるよね。さて、そろそろ話してもらえるかな、フェレットさん?一体これはどういうことなのかな?」

 

「は、はい」

 

意識を取り戻していたフェレットにそう聞くと、フェレットは素直に答えてくれた。

 

「僕の名前はユーノ・スクライア。スクライアは部族名なのでユーノって呼んでください」

 

「ユーノくんって言うんだ。私の名前は高町なのは。家族や零夜くんたち友達はなのはって呼んでくれるよ」

 

「僕の名前は天ノ宮零夜。零夜って呼んでほしいかな」

 

「はい」

 

「それでユーノ、あの化け物とあの宝石は何か知ってるの?」

 

「全てお話しします・・・」

 

フェレット・・・・・・いや、ユーノは自分が別世界の人間だということ。そして、この種の形をした宝石のようなものはジュエルシードといって高魔力の結晶体。ジュエルシードは人の願いなどに反応し、あのような姿になるということ。ユーノは発掘したジュエルシードを管理局と呼ばれる場所に輸送しようとしていたらしいが、途中で事故に遭い、その影響で21個のジュエルシードがこの海鳴市の周囲にばらまかれたということ。そして、ジュエルシードの一つを封印しようとしたが怪我を負い力がなくなってしまいフェレットの姿になり、なのはの協力をもってジュエルシードの一つを封印出来たということ。全てを話してくれた。

 

「なるほどね。これはジュエルシードっていうんだ」

 

僕はポケットからジュエルシードを取り出して見せる。

 

「はい」

 

「なのははどうするの?」

 

「どうするのって?」

 

「このジュエルシード集めに協力するの?ってこと」

 

「うん。ユーノくんを助けたいし、またあんなのが現れて周りの人が被害にあったら大変だから・・・・・・」

 

なのはは決意に満ちた瞳と趣で答えた。

じゃあ、僕のやることは決まりだね。

 

「なら、僕も手伝うよ」

 

「え!いいの!?」

 

「うん。なのはだけだと無理しそうで心配だからね。それにあんな化け物を野放しにできないよ」

 

「ありがとう零夜くん!」

 

「そう言うことだけどいいかな、ユーノ?」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

 

フェレットが頭を下げると言うのもなんかおかしいけど、取り敢えず僕となのははユーノのジュエルシード集めを手伝うこととなった。

 

「ところでなのは」

 

「なに零夜くん?」

 

「いや、なのは時間大丈夫なの?」

 

「へ?」

 

僕はずっと疑問に思っていたことをなのはに聞いた。

するとなのは公園内の時計を見て顔を青ざめた。

 

「もしかして・・・・・・誰にも言わないで来てたり・・・・・・?」

 

「うっ・・・・・・・!」

 

図星らしい。

なのはらしいって言えばらしいけど。

 

「だと思ったからここはなのはの家の近くの公園だよ」

 

「ほんと!?ありがとう零夜くん!」

 

嬉しいのは良いんだけど、急に抱きつかれるのは未だに少しなれない。

 

「ところでユーノはなのはが引き取るの?」

 

「うん。お母さんたちもいいって言ってるから」

 

「了解」

 

「それじゃまた明日ね~!」

 

なのははユーノを連れて公園の出口へ行きそこから高町家へと帰っていった。

 

「それじゃあ僕も帰ろうかな」

 

僕は辺りを見渡して、家へと転移して帰った。

こうして僕らのジュエルシードを巡る事件が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはが魔法に出会って数日のある日の休日。

僕は家の地下のトレーニングルームでなのはの魔法の練習のアシストをしていた。ここでなら周囲に被害がないからだ。

 

「それじゃもう一回」

 

「わかったの」

 

なのははレイジングハートを待機状態にさせたまま自身の周囲にピンク色の球体を作り出していた。

今の練習は魔力操作と配分と把握能力の向上だ。

このあとは体力向上のトレーニングがある。

 

「今のところ集めたジュエルシードは4つ、か~」

 

「はい」

 

僕はクリアな床にいるユーノに言った。

 

「残り17個・・・・・・次はどこなんだろ」

 

「わかりません。発動するまで分からないので」

 

そうジュエルシードは発動すると高密度の魔力を放つからすぐ分かるが、発動していない状態だと何故か見つけにくいのだ。

 

「ところでユーノから見てなのははどう?」

 

「彼女は才能があるかと。この間の直射砲撃魔法には驚いたので」

 

「だよね~」

 

なのははこの間の4つ目のジュエルシード捕獲の際、遠距離からの砲撃でジュエルシードを封印したのだ。しかもとてつもない高密度の魔力砲撃を放って。ある意味これには驚いた。

 

「(あのときの砲撃、中位クラスの魔法と同レベルの威力だったな~。これは鍛えたらかなりすごい魔導士になるかも)」

 

なのはの練習を見ながら僕は不意にそんなことを思った。

 

「さてと、僕もトレーニングしようっと」

 

僕はなのはから少し離れたところに移動し、ターゲットの的を標示させる。ちなみに僕の家の地下のトレーニングルームは何故かかなり広い。しかもこういうオプションまで付いているのだ。アマテラスさんには感謝しかない。

 

「あれ、零夜くんもやるの?」

 

「まあね」

 

するとなのはは僕のトレーニングが気になったのかこっちを見ていった。

的の数は100。しかも移動している。

僕のトレーニングはこの的全てをどのくらいの時間で落とせるかだ。

僕の耳にルーム内のカウントダウン音が入る。

ポン・・・ポン・・・ポン、となりアラームが鳴った。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。光の精霊100柱。集い来たりて、敵を射て」

 

僕は自身の周囲に光の球を出し、

 

魔法の射手・連弾・光の100矢(サギタ・マギカ・セリエス・ルーキス)!」

 

それを100個の的に向けて飛ばした。

100個の的は動き回るが、僕は一つ一つを操作して追尾させるようにして的を撃ち抜く。

やがて全ての的を撃ち終え、終了のアラームと掛かった時間が表示された。

 

「12.6秒か~。もっと反応速度とか上げないとな~」

 

僕がそんなこと呟くと、

 

「す、すごい・・・・・・」

 

「こ、これは・・・・・・」

 

なのはとユーノの唖然のする声が聞こえた。

ん~、やり過ぎたかな?

 

「れ、零夜くん、あんなに魔力弾放ったのに大丈夫なの?」

 

「え?うん、あんまり魔力は減ってないよ」

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)系や氷爆(ニウィス・カースス)などの魔法なら大して魔力は減らない。まあ、魔法の射手を500程出したらさすがに少しは魔力は減るけど、最上位クラスならいざ知れず、中位クラスまでなら問題ない。

 

「ほ、他にどんな魔法が出来るの」

 

「う~んとね・・・・・・」

 

僕はなのはの問いに少し考えてから詠唱する。

 

「―――来たれ雷精、風の精!!雷を纏いて、吹きすさべ、南洋の嵐!」

 

僕は右手を正面に出して、

 

「―――雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!」

 

 

中位クラスの魔法を壁に向かって放った。

雷の暴風は風属性と雷属性の二つを合わせ持つ。強力な旋風と稲妻を発生させて攻撃する魔法だ。

恐らくこの間、なのはが放った直射砲撃魔法と威力は同程度だろう。

 

「こんなのかな?」

 

「わ、私のより強力かも・・・・・・」

 

なのはは僕の雷の暴風を見て肩を落としたようなった。

 

「いやいや、なのはもトレーニングすれば大丈夫だから!そう気落ちしないで、ね!」

 

「零夜くんがそう言うなら・・・・・・///」

 

僕はなのはの頭を撫でて言った。

その際なのはの顔が若干赤らんだのが気になった。

 

「それじゃあ続きを・・・・・・って、もうこんな時間だ」

 

時計を見ると時間はすでに午後17時を越えていた。

 

「それじゃあ今日はここまでね」

 

「はーい」

 

僕はなのはとユーノともにトレーニングルームをあとにし、なのはとユーノを見送る。

 

「それじゃまた明日ね」

 

「うん。あ、明日はすずかちゃんの家でお茶会だからね」

 

「了解。じゃ、また明日、なのは、ユーノ」

 

「うん、またね零夜くん!」

 

なのははフェレットのユーノを連れて高町家へと帰っていった。

 

「さてと、僕ははやての家に行かないと」

 

中に戻った僕は着替えなどの入った鞄を持って、戸締まりをしっかりとしてはやての家、八神家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八神家

 

 

八神家に着いた僕はインターホンを鳴らした。

 

「待っとったよ零夜くん」

 

「約束通り来たよはやて」

 

玄関から現れたはやてはいつもと変わらず車イスに乗っていた。

なのはの家の高町家にも何度かお泊まりしたことあるが、依然としてこういうのに慣れてない僕である。

 

「ささ、早うなかに入ってぇな」

 

「うん。お邪魔しま~す」

 

現在八神家ははやての独り暮らしの状態だ。

車イスのはやてのために家のあちらこちらにスロープや2階に通じるエレベーターがある。

 

「治療の方はどう?」

 

「依然として変わらんよ」

 

「大丈夫なの?」

 

「ん~、まあ、石田先生も経過を見てみないと分からん言うとるしな」

 

「そうか~」

 

リビングに入ると、夕飯の支度をしていたのか、まな板の上に野菜と包丁が置かれていた。

 

「ほな、少し待っててな」

 

「あ、手伝うよ」

 

鞄をソファーに置き、はやてと協力して夕飯を仕上げ、夕飯を食べ終えると順にお風呂に入り、はやての部屋に向かった。

 

「ありがとうな零夜くん」

 

「気にしないで」

 

はやてを車イスからベットの上に寝かせた僕はベットの端に腰掛けた。

 

「それにしても・・・・・・」

 

「ん?どないした?」

 

「いや、はやての部屋って本が多いな~って」

 

「まあ、そりゃ私の趣味やからね」

 

「僕もかなり本持ってるけどね。ん?」

 

僕ははやての部屋を少しだけ視線で見渡し、机の上に置いてあった本に注目する。

 

「はやて、あの本って?」

 

「ああ、あれな。生まれたときからあるんやけど・・・・・・」

 

その本は鎖で封印のようにされており開ける状態ではなかった。

 

「見ての通り何故か読めんのや」

 

「へぇー」

 

僕は視線をその本に置きながらも答えた。

 

「(あれって魔導書?でも・・・・・・)」

 

僕は魔導書らしき本を思考しながらリンカーネイトと思念する。

 

「(リンカ、あれから魔力って感じる?)」

 

《僅かにですが魔力らしきものを感じますね》

 

「(そう。ステラとレイはどう?)」

 

《リンカと同じですわね》

 

《私も同じだよマスター》

 

僕はステラメモリーとレイオブホープとも思念通話する。

ちなみにリンカーネイトはリンカ。ステラメモリーはステラ。レイオブホープはレイと呼んでる。

僕はその魔導書が少し気になったが特に害は無さそうなのでそのままにした。実際、その魔導書が使えるか分からないし、それで壊れたりしたら大変だからだ。

そのあとはやてと読書したりお話ししたりして気が付くと日付を跨ぐ頃合いだった。

 

「それじゃあ僕は一階のソファーで寝るから」

 

そう言って立ち上がると、

 

「零夜くんも一緒にここで寝たらいいやん」

 

はやてが服の裾を掴んで言ってきた。

なんだろ前になのはにもされたような気がするような・・・・・・。

僕ははやての行動にそんなことを思った。

 

「ダメ、かな?」

 

「うっ・・・・・・・!」

 

さすがにこの状態のはやてにイヤと言えるわけもなく。

と言うよりなのはのこれにも断れないのだが。

僕って単純なのかな・・・・・・?

 

「はやてがいいなら・・・・・・」

 

僕がそう言うと、はやての曇っていた表情がパアッと明るくなった。

 

「ほな、一緒に寝よ」

 

「ちょっ、はやて!」

 

僕ははやてに引っ張られベットに横になった。

 

「そんじゃ電気消すで」

 

「う、うん」

 

「ほな、お休みな」

 

「お、お休み」

 

はやてが電気を常夜灯にすると部屋が薄暗くなった。

女子と二人、一緒に寝ている僕が眠れるはずもなく、なんとか寝ようとしていると。

 

「・・・・・・・零夜くん、まだ起きとる?」

 

はやてが声をかけてきた。

 

「なに、はやて・・・・・・」

 

「私な、こうやって零夜くんと一緒に寝れるの嬉しいんや」

 

「どうして・・・・・・?」

 

「お母さんもお父さんがお星さまに成ってもうてから私はずっと一人やったんや。けどな、図書館で零夜くんと出会ってから私は今までの日々が変わって見えるようになったんよ」

 

「変わって見える?」

 

「せや。何て言うんやろ、零夜くんといると心がこう、落ち着くんや」

 

「そう、なんだ・・・・・・・」

 

「やからね零夜くん。お願いや」

 

「お願い?」

 

「うん。私をまた一人にせんといて欲しい。また、大切な人を失うのはイヤや。やから、お願いや零夜くん」

 

「・・・・・・わかった。はやてを一人にしないよ、約束する。と言っても、僕が出来ることなんて限られるけどね」

 

「構わへん。零夜くんがいてくれるだけでいいんや」

 

「出来る限りのことはするよ」

 

「約束や」

 

「うん。約束」

 

はやての差し伸ばした右手を僕は左手を伸ばして握る。

はやての気持ちは分かる。僕も一人だったから、ずっと。

やがてはやては手を握ったまま眠ってしまった。

僕は苦笑しながらもその手を離さず、僕も眼を閉じ眠ることにした。すると、案外すんなりと眠りに堕ちていった。

その光景を見守るのは正体不明の魔導書と僕の身に付けてるデバイスのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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ライバルの登場なの!?

 

~零夜side~

 

 

 

はやての家。八神家にお泊まりした翌日。

僕はなのはとフェレット姿で肩にいるユーノ、なのはのお兄さんの恭也さんとともにすずかの自宅。月村家の豪邸に着ていた。

 

「う~ん、何回来てもすずかの家って大きいな~」

 

「だよね」

 

すずかの家、月村家の豪邸に来た僕は何度も来ているはずなのに何度もこう思ってしまうのはなんでだろう。

まあ、それは隣にいるなのはもみたいだけど。

 

「あ、でも零夜くんの家も大きいよね」

 

「そうかな?」

 

僕の家もなのはの家の高町家もそれなりに敷地内の面積は大きい。だが、すずかとアリサの家はさすがご令嬢だことで規模が違いすぎる。

歩きながらそう思っていると、いつの間にか玄関に着いていた。

恭也さんが呼び鈴をならすと。

 

「恭也様、なのはお嬢様、零夜様、いらっしゃいませ」

 

メイド服を着た女性が出迎えてくれた。

 

「ああ、お招きに預かったよ」

 

「こんにちは~」

 

「こんにちは、お邪魔します」

 

出迎えてくれたメイドさんの名前はノエルさん。

この月村家のメイド長さんだ。

基本は無口だけど、とても頼りになるお姉さんみたいな人だ。

 

「―――どうぞ。こちらへ」

 

ノエルさんに案内された部屋にはお茶を飲んでるすずかとアリサ、すずかのお姉さんの忍さん、側にはメイドさん、そして部屋にはたくさんの猫がいた。

 

「零夜くん!なのはちゃん!恭也さん!」

 

「すずかちゃん」

 

「キュ」

 

「こんにちはすずか」

 

「なのはちゃん、零夜くん、いらっしゃい!」

 

「こんにちはファリンさん」

 

「こんにちは~」

 

すずかの側にいるメイドさんの名前はファリンさん。メイド長のノエルさんの妹で明るくて優しいお姉さんだ。

 

「恭也・・・いらっしゃい」

 

「ああ」

 

ちなみに恭也さんと忍さんは高町家と月村家、両家公認の恋人さんだ。初めて知った時は少し驚いてしまったが今はもう見慣れてしまったとてもお似合いの恋人二人だ。

 

「お茶をご用意いたしましょう。なにがよろしいですか?」

 

「任せるよ」

 

「なのはお嬢様は?」

 

「私もお任せします!」

 

「零夜様はどういたしますか?」

 

「僕もノエルさんに任せます」

 

「畏まりました。ファリン」

 

「はい、お姉さま」

 

ノエルさんとファリンさんにお茶をお任せして、恭也さんと忍さんの二人は忍さんの部屋に行くみたいでノエルさんとともに出ていった。

 

「おはよう」

 

「おはよう、すずか。アリサ」

 

「うん、おはよう」

 

「相変わらずすずかのお姉ちゃんとなのはのお兄ちゃんってラブラブだよね~」

 

「あはは。うん。お姉ちゃん、恭也さんと知り合ってから幸せそうだよ」

 

「うちのお兄ちゃんは・・・・・・どうかな?」

 

「恭也さんも忍さんと同じ気持ちじゃないかな」

 

「確かに・・・・・・前と比べると優しくなったかな。よく笑うようになったかも」

 

「そっかぁ~」

 

僕たちはなんの変哲もない何時もの会話をする。

その頃ユーノは床に降りてなにかをしていた。チラリと見たところ猫に驚いているようだった。

 

「そう言えば、今日は誘ってくれてありがとうね」

 

「ううん。来てくれてありがとう」

 

「・・・・・・今日は・・・元気そうね」

 

「え?」

 

「なのはちゃん、ここ最近元気なかったから」

 

「そうかな?」

 

「そうよ。零夜もそうでしょ」

 

「う~ん、確かにアリサの言ったとおり何時もの元気が無かったかな?」

 

ちょっと魔法の練習やり過ぎたかな?と思ってしまった。そうなるとなのはの不調の原因は僕にあることになる。

 

「ほら!零夜もこう言ってるわよ」

 

「わ、私ってそんなに分かりやすい?」

 

「ええ」

 

「ちょっと、分かりやすいかな?」

 

「ええっ~。れ、零夜くんは!?」

 

「う~ん、ちょっとだけ分かりやすいかな?パッと見はわからないかもだけど」

 

「そうなの!?」

 

「逆に零夜って分からないわよね」

 

「そう?」

 

「うん。零夜くん、何時も優しくて明るいけどなんだろう・・・・・・内面って言うのかな。本音がわからないかな」

 

「あ、それ私も思ったの!」

 

「そうかな~?」

 

自分じゃわからないけど付き合いの長いなのはたちがいうならそうなのかな?

僕はなのはたちに言われそう思考した。

するとそこへ。

 

「キュィィィ~~!!」

 

「へっ!?」

 

「えっ!?」

 

ユーノの悲鳴が聞こえてきた。

床を見ると一匹の猫に追い掛けられているユーノの姿があった。

 

「ユーノくん!」

 

「ユーノ!?」

 

「あ、アイ、ダメだよ!」

 

そして更にそこへ。

 

「は~い。お待たせしました~。イチゴミルクティーとクリームチーズクッキーで~す!」

 

トレーを持ったファリンさんが戻ってきた。

そしてファリンさんの足元をユーノと子猫のアイが駆け回る。

 

「わあっ!」

 

ファリンさんは足元覚束ない感じでユーノと子猫のアイを避けるが、

 

「や、ヤバッ!」

 

「ファリン、危ない!」

 

「うん!」

 

ファリンさんは回りすぎて眼を回してしまった。

そして手元のトレーが落ちそうになるところを僕がなのは、すずかは仰け反ってしまったファリンを支えた。

 

「う・・・・・・」

 

「セーフ」

 

「危なかった~」

 

幸いにも床に落ちて割れたものはなく、九死に一生を得たという感じだった。

 

「ハッ!はわわわっ!!すずかちゃん!なのはちゃん!零夜くん!ごめんなさいぃ!」

 

ちなみにファリンさんは少しだけドジっ娘なのである。

まあ、原因はユーノと子猫のアイなんだけどね。

それから場所を移して中庭へ移動してたくさんの猫と戯れながら過ごすお茶会。

僕は猫は嫌いじゃないからこうやって子猫が寄ってくるとつい撫でてしまう。

 

「しっかし、相変わらずすずかの家って猫天国よね」

 

「ウフフ」

 

「でも子猫たちって可愛いよね」

 

「ホント。子猫たちといるとなんか、こう、癒される感じがするね」

 

「うん!里親が決まってる子もいるからお別れもしなきゃならないけど・・・・・・」

 

「そっか・・・・・・。ちょっと寂しいね?」

 

「でも、子猫たちが大きくなっていってくれるのは嬉しいよ」

 

「そうだね」

 

「そっか~」

 

少し雰囲気が暗くなっていくその時。

 

「っ!」

 

僕の身体に僅かにだけど電気が走った感じがした。

 

「(この魔力・・・もしかしてジュエルシード・・・・・・!?リンカ)」

 

《確認できましたよマスター。ジュエルシードの反応です》

 

思念通話でリンカと会話しなのはを見る。

なのはもどうやら感じたらしく金縛りのように動かない。

すずかとアリサは気付かないみたいで楽しそうに子猫を抱き抱えて遊んでいた。

 

〈なのは・・・・・・。零夜・・・・・・〉

 

〈確認したよ。近くにジュエルシードがある〉

 

〈ど、どうするの?〉

 

〈う~ん・・・・・・ユーノ、この場から離れられる?〉

 

〈え?あ、うん〉

 

〈なのは。ユーノが離れたらそれを追いかけるようになのはも追って。すぐに僕も行くから〉

 

〈わかったの〉

 

〈じゃあユーノ、お願い〉

 

〈うん〉

 

なのはとユーノと思念通話で話終えるとユーノはなのはの膝の上から降りてジュエルシードの方へ走っていった。

 

「ユーノくん?」

 

「あらら?ユーノどうかしたの?」

 

「うん。なにか見付けたみたい。ちょっと探してくるね」

 

「一緒に行こうか?」

 

「大丈夫だよすずか。僕がなのはとユーノを探しに行くよ」

 

「そう?じゃあ零夜くんお願いね」

 

「うん。すぐ戻ってくるから二人とも、少し待ってて」

 

僕はなのはとともにユーノを追い掛けるようにジュエルシードの反応があった方へ向かった。

ユーノを追い掛けてすずかの家の森林に入るとジュエルシードが発動したのを感じ取った。。

 

「発動したね」

 

「うん」

 

「ユーノ、結界を張れる?」

 

「え?うん、張れるよ」

 

「じゃあお願い。範囲はすずかの家周辺で」

 

「わかった」

 

ユーノはフェレットの小さな両の手を地面に向けるとそこから白い魔方陣が現れ結界が張られた。

結界が張られると、僕らの右側の森林から白い光が輝きそこから。

 

 

「ニャーー」

 

 

―――巨大化した猫が現れた。

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

僕らはその巨大化した猫に言葉を失い目が点になった。

 

「あ・・・あ、あれは・・・・・・」

 

「た、多分。あの猫の大きくなりたいって思いが正しく叶ったんじゃないかなと・・・・・・」

 

「そ・・・そっか・・・・・・」

 

「そ・・・そうなんだ・・・・・・」

 

僕となのはもう訳がわからず頭を押さえた。

さすがにこれに関しては僕も予想外・・・・・・と言うか今まで封印してきたジュエルシードが発動したのが毛むくじゃらの化け物や巨大な樹だったりとこう・・・目の前のがなかったのだ。

 

「大きいね・・・・・・」

 

「うん・・・大きいね・・・・・・」

 

「大きいですね・・・・・・」

 

「どうやってジュエルシード取り出そうか?」

 

「う~ん、すずかちゃんの家の猫だからあまり傷付けたくないし。襲ってくるようすもないから」

 

「う~ん・・・・・・・なら、眠らせた方がいいかな」

 

「え、眠らせるってどうやって?」

 

「まあ、眠らせるのは僕がやるからなのはは取り敢えずレイジングハートとバリアジャケットを発動させといて」

 

「う、うん。レイジングハート、セットアップ!」

 

《StandbyReady Setup》

 

「じゃあ、僕も・・・・・・!」

 

《マスター!》

 

なのはがバリアジャケットを展開し、僕もリンカーネイトを持ち、展開させようとしてその時後方から、僕やなのは、ユーノとは違う魔力反応を感じた。

僕はバリアジャケットの展開より先に猫の前に立ち、

 

「―――風楯(デフレクシオ)!」

 

防御系の風魔法を使う。

そして次の瞬間、何処からか放たれた魔力弾が風楯にぶつかった。

 

「零夜くん!」

 

「零夜!」

 

「大丈夫。いくよ、リンカーネイト、セットアップ」

 

《了解。展開》

 

僕はリンカーネイトを起動してバリアジャケットを纏った。そして、魔力弾が放たれた場所を見る。そこには手に黒い斧のようなデバイスを持って、死神のような黒いマント。長い艶やかな金色の髪をツインテールにして、寂しげな表情と赤い眼をした僕らと同い年くらいの女の子がいた。

 

「君は誰?」

 

僕は視線を鋭くして少女に尋ねる。

少女の答えは言葉ではなく動作だった。

 

「バルディシュ、フォトンランサー、電撃」

 

《PhotonLancer FullAutoFair》

 

女の子は斧の先をこっちに向けてそこから魔力弾を幾つも放ってきた。

 

術式解放(エーミッタム)―――魔法の射手・連弾・光の22矢(サギタ・マギカ・セリエス・ルーキス)

 

僕は保存(ストック)していた術式を解放して迎え撃つ。

 

「魔法の光・・・・・・?そんな・・・・・・」

 

「なのは、あの猫をお願い!あの子は僕が相手する!」

 

「零夜くん一人で!?」

 

「無茶だ零夜!彼女は実戦相当積んだ魔導士のはずだ!」

 

「いいから!まずはジュエルシードの封印を優先して!大丈夫、僕はそう簡単に負けないよ・・・・・・誰にも、ね」

 

僕は後半部分を小さな声で言って猫をなのはとユーノに任せ、僕は目線の先にいる女の子に向ける。

 

「もう一度聞くよ。君は誰?なんでいきなり攻撃してきたのかな?」

 

「・・・・・・」

 

またしても女の子は無言で魔力弾を放つ。

 

「リンカーネイト、形態変更(モードチェンジ)剣形態(ソードモード)に移行」

 

《イエスマスター。剣形態に移行します》

 

僕の声にリンカが答え今手にしてる錫杖の通常形態から剣形態に可変する。

剣形態のリンカーネイトは柄と刀身の間にリンカーネイトのコアがあり、刀身は純白に輝いていた。

 

「せいっ!」

 

そしてそれを振るい、迫り来る魔力弾を二つに斬り割く。

 

「!!・・・・・・魔導士?」

 

女の子は近くに来てそう呟いた。

 

「・・・・・・やはりロストロギア探索者か」

 

「ロストロギア?」

 

僕は女の子のロストロギアという単語に首をかしげた。

ロストロギア探索者、探索者というのは僕たちのことで、ロストロギアってのはジュエルシードのことなのかな? これは後でユーノに詳しく話を聞く必要があるね。

そう思っていると女の子の目線が僕のデバイスに移った。

 

「バルディシュと同型のインテリジェントデバイス」

 

同型のってことはあの女の子が持っているデバイスも僕やなのはのレイジングハートと同じインテリジェントデバイス型。名前はバルディシュって言うらしい。

 

「対象ロストロギア、ジュエルシード捕獲。バルディシュ」

 

《ScytheForm Setup》

 

女の子の持つデバイス。バルディシュの機械音声が流れるとバルディシュが変形して黄色い刃が出てきた。

その姿は斧と言うより、鎌、サイスに似ていた。

 

「申し訳ないけど頂いていきます」

 

そういうと否や女の子は僕めがけて突っ込んできた。

 

「っ!」

 

僕は迫り来るサイスの軌道に剣形態のリンカーネイトを置き受け止める。

 

「っ!?」

 

女の子は避けると思っていたのか眉を少し動かすがすぐに元の無表情に戻った。

 

《ArcSaber》

 

女の子は後ろに離れるとデバイス音声のあと、鎌を横薙ぎに薙ぎ振り払ってきた。

すると、そこから光の斬撃が半円のように迫ってきた。どうやら遠距離攻撃みたいだ。

 

「―――風楯」

 

僕は右手を中心に障壁を張り、攻撃を防ぐ。

攻撃を防ぐと次の瞬間、目の前には鎌を振り下ろしてくる女の子がいた。

僕は少し驚きながらもリンカーネイトで受け止める。

女の子の顔を鍔迫り合いの中、見て僕は思った。なんて悲しい瞳なんだろ、と。

 

「君の目的は何?」

 

「あなたに答えても・・・たぶん、意味はない」

 

「なら、なんで君の眼はそんなに悲しそうなの」

 

「悲しそう?」

 

「そうだよ。君の眼はとっても綺麗なのになんだか悲しそう。なんで?」

 

「そんなことない・・・・・・っ!」

 

「くっ・・・・・・!」

 

僕と女の子は互いに同時に距離を取り、女の子は樹の枝の上に、僕は女の子と同じ高さに。

 

《Device mood》

 

「リンカーネイト、形態変更(モードチェンジ)通常形態(デバイス)

 

《イエス。通常形態(デバイスモード)

 

僕と女の子は互いに形態を変え、相手に向ける。

 

《PhotonLancer Get Setup》

 

バルディシュの機械音声が響くと、バルディシュの先に電撃の球体が現れた。

そして僕のも黄色い電撃系の球体だ。

そして同時に放たれようとしたとき女の子は向きを僕からその右横へと変えた。

 

「(まずい!)」

 

その方向はなのはとユーノが猫といる場所だ。

だが、そう思ったのもつかの間、女の子は電撃をなのはたちに向けて放った。

 

「くっ!なのは!」

 

「零夜くん!」

 

僕はなのはたちに当たるギリギリの所で入り込み防ぐ。

だが上手く防御魔法が展開できずそのまま受け、その衝撃でなのはとともに大きく吹き飛ばされた。

 

「しまった!」

 

僕はなんとか体勢を立て直そうとするが、それより先に。

 

「ジュエルシード、シリアル14・・・・・・封印」

 

女の子が猫を電撃で麻痺させてそこからジュエルシードを取り出してバルディシュに封印していた。

 

「くっ!って、ヤバッ!」

 

なのはが気絶しているのに気づいた僕は直ぐ様、意識を女の子からなのはに切り替え、なのはを抱き抱えて空中でバランスをとり、地面に着地する。

そしてその間に女の子はジュエルシードの封印を完了してこっちを見ていた。

 

「・・・・・・ごめんね」

 

女の子はただそう一言言うと踵を返してどこかへ行ってしまった。

 

「零夜、なのはは?」

 

「大丈夫、気絶しているだけだよ。さすがにあれは僕も完全じゃない障壁じゃ完全には防げなかったけどね」

 

なのはを抱き抱えたまま僕はユーノに苦笑いを浮かべて言った。

 

「ジュエルシードはあの子が持って行っちゃったし、取り敢えずみんなのところに戻ろうか。そのあとの話はなのはが目覚めてからだね。特にユーノにはロストロギアやさっきの女の子のこと詳しく聞くよ?」

 

「う、うん。僕に答えられることなら」

 

僕はユーノとともに気絶したなのはと元に戻った子猫を連れてすずかとアリサのところに戻った。

その際すずかとアリサがかなり慌てたが僕が飛び出してきた猫に驚いて気絶して寝ているだけと言うと二人は少し安堵してノエルさんやファリンさん、恭也さん、忍さんを呼んでなのはをすずかの部屋に運び寝かせた。

時が過ぎ、なのはが起きたのは日が沈む時間帯だった。

起きたなのはには思念通話で、飛び出してきた猫に驚いて気絶したと言うことを伝え、口裏を合わせてもらった。すずかとアリサはかなり心配していて、みんなに嘘をついているということに少し罪悪感が出た。

そしてユーノからロストロギアとあの女の子について聞き、これからのトレーニング方針などを決めその日はそれぞれの帰路についた。

家に着いて中に入ると、リビングのテーブルの上に荷物があった。

 

「これは・・・・・・」

 

その荷物には宛先はおろか送り主も書かれていなかった。すると、そのとき。

 

「ん?」

 

携帯の着信音が鳴った。

携帯を開くと掛けてきたのは。

 

「アマテラスさん?」

 

なんとアマテラスさんだった。

 

「もしもし、アマテラスさんですか?」

 

『あ、繋がりました。こんばんわ零夜君』

 

「こんばんわ、アマテラスさん」

 

『零夜君、そちらに荷物が届いてませんか?』

 

「荷物・・・ですか?」

 

『はい』

 

荷物ってもしかしてこれのことかな?

僕は目の前の荷物に視線を向けて思った。

 

「もしかしてこの宛先や差出人が書かれてない荷物ですか?」

 

『あ、はい!それです!』

 

どうやら送り主はアマテラスさんみたいだ。

 

「これってなんですか?」

 

『零夜君、仮契約(パクティオー)カードって知ってますか?』

 

「仮契約カード、ですか?」

 

『はい』

 

「確かそれって相手と主従契約のようなものを結んで主の魔力を従者に与えたり、契約を結んだ従者に特別な武器が与えられるアーティファクトですよね?」

 

『大体あってます』

 

「それとこれとなんの関係が?」

 

『取り敢えず開けてみてください』

 

僕は電話越しにアマテラスさんに言われるがままに荷物の荷をほどき中身を開ける。

そこには一つの箱が有り、中を開けるとそこには仮契約カードがあった。

 

「え!?こ、これって仮契約カードですか!?」

 

『少し違いますね。それは仮契約カードの武器だけが取り出せる特殊固有武器(アーティファクト)カードです』

 

「と、特殊固有武器カード」

 

『はい。それに描かれているアーティファクトを呼び出せば使えます。ちなみに私が作成したので問題ありませんよ』

 

「そ、そうですか・・・・・・って、そんなことして大丈夫なんですか!?」

 

『まあ、平気ですよ。私からのプレゼントだと思ってください。それにそれはこれから零夜君に必要だと思いますよ?』

 

「え?」

 

『取り敢えずこれからも頑張ってくださいね。私もこちらから応援してます』

 

「あ、はい。ありがとうございます、アマテラスさん」

 

『いえいえ。あ、最後に、そっちの世界でも仮契約は出来ますよ』

 

「へっ?」

 

『では、また』

 

そう言うとアマテラスさんは通話を切った。

僕はアマテラスさんの最後に言った言葉が理解できず方針状態になっていた。

そしてようやく理解できると僕はすっとんきょうな悲鳴をあげてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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みんなで海鳴温泉なの!

 

~零夜side~

 

 

すずかの家でのお茶会と悲しそうな瞳の女の子と遭遇した日から数日。

 

「どこからでも掛かっておいでなのは」

 

「うん。いくよ、零夜くん!」

 

僕の家の地下のトレーニングルームでなのはのトレーニングをしていた。

なのはの声とともに、なのはの周囲に浮いていた桃色の魔力弾が僕に向かって放たれる。

 

魔法の射手・連弾・光の5矢(サギタ・マギカ・セリエス・ルーキス)

 

僕はそれを魔法の射手で撃ち落とし相殺させる。

 

「は、速すぎるよ零夜くん」

 

「これでもかなり落としてるよ?」

 

「ええっ!?それで!?」

 

「うん」

 

実際僕は自身にリミッターを掛けてる。

掛けてる間は中位クラスまでの魔法なら問題なく使えるが上級は一部だけ、最上位魔法は使えない。まあ、使えるは使えるが威力は元の十分の一くらいだろう。というか上級はともかく、最上位は天災クラス場合によっては地形が変わるからおいそれと使えないしね。

 

「なのはも最初の頃に比べると速くなってるし魔力操作も上手くなってるよ」

 

「えへへ。ありがとう零夜くん」

 

「けど、まだあの女の子には追い付いてないかな」

 

「やっぱり?」

 

「うん。あの女の子の戦闘スタイルはスピードタイプだから攻撃は障壁で防いでカウンターで攻撃するか、こっちもあの女の子のスピードに追い付けるようにするか、だね」

 

僕はあの女の子の戦闘スタイルを見て思ったことをなのはに伝える。

なのははう~ん、と唸り考える。

 

「ユーノはどうしたらいいと思う?」

 

「僕はなのははカウンタータイプがいいと思うよ。なのはの防御は結構高いから」

 

「やっぱりユーノも僕と同じだね。そうなると近接戦闘も教えた方がいいかな?」

 

「そうかもだけど、僕、近接戦闘は・・・・・・」

 

「それなら僕が教えるよ、ユーノ。なのは!」

 

僕はユーノと話し終えるとなのはを呼んだ。

 

「なに零夜くん?」

 

「なのはにはこれから僕とちょっとだけ模擬戦をするよ」

 

「零夜くんと!?」

 

「うん。時間は10分で、基本的にあの女の子と同じ速度で動くから僕の攻撃を防御したり避けたりして僕に一撃でも当てられたらなのは勝ちだよ」

 

「わ、わかったの」

 

「じゃあやるよ。ユーノ、お願いね」

 

「わかった」

 

僕はなのはと距離をとり、レイオブホープの発動帯を握り締める。

 

「いくよ、レイオブホープ」

 

《うん!》

 

「レイオブホープ、セットアップ!」

 

《いくよ~!》

 

レイオブホープを起動すると黒く長いコートのバリアジャケットが現れる。そして右手には黒と白の織り混じった両刃の片手剣。柄と刀身の間にはレイオブホープの発動帯が埋め込まれている。

右手に握る剣を軽く振り、半身を傾けて構える。

 

「零夜くん、もう一個デバイス持っていたの!?」

 

「うん。それじゃあ、いくよなのは」

 

「う、うん!わかったの!」

 

なのははレイジングハートを両手で持ち杖先をこっちに向ける。

 

「・・・・・・!」

 

「っ!!」

 

《protection》

 

僕の上段斜め斬り下ろしはプロテクションで防がれる。

 

「やあぁっ!」

 

そして直ぐ様そこになのはからの魔法攻撃が来る。

だが、当たる直前に僕はその場にいなくなのはの横にいた。そして軽く横薙ぎに斬り払う。

 

「くっ!」

 

だが、それをなのはギリギリのところで反応して大きく飛び退った。

 

「速い・・・・・・けど、あの子もこれと同じくらいの速さ・・・・・・。零夜くん」

 

「なに、なのは?」

 

「もう少しだけ速く出来る?」

 

「え?出来るよ」

 

「じゃあ、お願いなの!私はあの子とお話をして聞きたい事があるの」

 

「・・・・・・わかったよ。なのはの決意ちゃんと受け止めたよ」

 

「じゃあ!」

 

「うん、少しだけ速くしてあげるね。でもねなのは・・・・・・」

 

そう言うと僕は一瞬でなのはの前に迫りレイオブホープの刀身を振り下ろす。

 

「お喋りばかりしていたらダメだよ。相手をキチンと捉えないと」

 

「う、うん」

 

僕はなのはの目前で剣を振り下ろすのを止めて言う。

 

「魔法も撃たないと意味ないよ」

 

「わかってる。レイジングハート!」

 

《Divine Buster》

 

「ディバインバスター!」

 

距離を取ったなのはからの魔法砲撃が来る。

 

「来たれ氷精、闇の精。闇を従え、吹雪け、常夜の氷雪。闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!」

 

なのはのディバインバスターと僕の闇の吹雪が中央でぶつかった。

しばらくそのまま耐えるとディバインバスターの桃色の魔力と僕の闇の吹雪が対消滅して消えた。

 

「やっぱり魔力高いな~」

 

「零夜くんこそ凄い魔力だよ」

 

「ありがとうなのは」

 

するとそこへ。

 

「二人ともそこまで!」

 

ユーノの声が聞こえてきた。

どうやら制限時間の10分経ったみたいだ。

 

「お疲れ様、レイ」

 

僕はレイオブホープを待機状態のネックレスに戻してバリアジャケットを解除する。

 

「今日はここまでにしようか」

 

「え、でも・・・・・・」

 

「体調の管理もしっかりしないといつか倒れちゃうよ?」

 

「わかったの」

 

しぶしぶなのはがバリアジャケットから元の服に、レイジングハートが待機状態のペンダントに戻ったのを見て僕は軽くうなずいて頬笑む。

 

「それじゃまた明日なの」

 

「うん」

 

玄関でなのはを見送り家の中に入り僕は夕飯の準備をして一人で食べて寝る。そして今日が終わった。

それから数日後。

 

「うわぁ~、綺麗だね、アリサ!すずか!」

 

「うん。空気が清んでいるね」

 

「ホントね~、新鮮で美味しいわ。なのはもそう思わない?」

 

「うん!そうだね!」

 

僕はなのはたちと海鳴市の森の中にある温泉宿に来ているんだ。

参加者は僕、なのはたち高町家の桃子さん士郎さん、恭也さん、美由紀さん。そしてアリサとすずか、忍さん、月村家のメイドさんのファリンさんとノエルさんだ。

あの女の子と会ってあれから僕らは1つもジュエルシードを見付けていなかった。

それもあって休息という名目で僕たちは今日この温泉宿でのんびり過ごせる手筈になっているのだ。

 

「早速温泉いきましょうよ!」

 

「うん!」

 

「わかったの!」

 

どうやらなのはたちは温泉に行くようだ。

 

「じゃあ僕も温泉に行こうかな?」

 

部屋で浴衣と着替えを持って、僕らはそう言うと温泉のある場所に向かった。

すると。

 

〈ちょ、零夜!お願い僕もそっちに連れてって!〉

 

なのはに抱かれているユーノが慌てた感じで念話してきた。

 

〈え?あー・・・・・・〉

 

僕はなのはたちとユーノを見て何となく事情を察した。

 

「あのね、なのは。ユーノを温泉に連れていくのは・・・・・・」

 

「え~、ユーノくん、連れてっちゃダメなの?」

 

「別にここ動物大丈夫よ?」

 

「え?そうなの?」

 

アリサの言葉に僕は問い返した。

 

「うん。犬とかそう言うのはダメみたいだけど、フェレットとか小動物ならお客さんの迷惑にならなければ良いって」

 

「そうなんだ~」

 

僕が説明してくれたすずかの言葉にうなずいていると。

 

〈お願い!零夜本当にお願い!僕を助けて!〉

 

かなり必死のユーノの声が念話越しに伝わってきた。

なのはを見る限りどうやらこの念話は僕だけにしか聞こえないらしい。

 

「あー、なのは、ユーノがなんか苦しそうだから僕が預かっておくよ」

 

僕は苦笑しながらなのはに言った。

 

「ええっ!?ユーノくん、大丈夫!?」

 

「きゅ~」

 

「よっと」

 

僕はなのはからユーノを預かり肩に乗っける。

 

「あ、どうせなら零夜も一緒に入ったらどうよ」

 

「へ?」

 

突如アリサの言った意味がわからず僕は変な声を出してしまった。

 

「あー、確かに。零夜くん、髪の毛長いし女の子みたいだから」

 

「え、えっと、それは・・・・・・」

 

「ちょ、ちょっと待って!僕は女の子じゃなくて男の子だからね!」

 

「ええ、知ってるわよ。男の娘でしょ?」

 

「漢字と言い方が違うよアリサ!?僕は男の娘じゃなくて男の子だからね!」

 

「ええ~、そうなの?」

 

「なのはまで!?お願いすずか、二人をどうにかして!」

 

「え、えっと、そ、その~・・・・・・」

 

僕の声にすずかはあたふたと戸惑う感じと、またいつもの感じになった。

結果としてユーノは僕と一緒にいることになったんだけど、僕は何故か温泉に入れなかった。理由は僕が女の子だからだそうだ。

って、なんですかその理由!?僕はちゃんと男の子なんですけど!?第三の性別の秀吉じゃないですよ!

僕がそう思っていると。

 

 

『儂は普通に男じゃ!』

 

 

何処からかそんな声が聞こえてきた気がした。

周囲を見渡すが何もなかったから気のせいだと思う。というか気のせいだと思いたい。

仕方なく僕は着ていた服から浴衣に着替え、なのはたちをユーノとともに待つことにした。ちなみにユーノからは肩を軽く叩かれて同情の意念を送られた。

そしてなのはたちが温泉から戻ってきてこの事を伝えると。

 

「プッ!」

 

「ククク」

 

「アハ、ハハハ・・・・・」

 

「そんなに笑わなくても良いじゃないアリサ、なのは」

 

「ごめんごめん。だってあんたここでもそうなの」

 

「学校も零夜くん専用の更衣室があるよね」

 

「そうなんだよね。もう勘弁してほしいよ」

 

「なら、後で入ったらどう?誰もいない時間帯なら問題ないはずよ」

 

「そうするよ」

 

僕は肩を落として気落ちした様子でアリサに返した。

その僕をすずかは慰めるように背中を優しく撫でながら苦笑いをしていた。

なんとか立ち直った僕はなのはとアリサ、すずかとこのあとどうしようかと相談しながら廊下を歩いていた。そしてしばらく歩いていたそのとき。

 

「ハァーイ!おチビちゃんたち」

 

前から来た額に宝石のようなものを付け橙色の長い髪のした僕らより年上の女の人が声をかけてきた。

 

「「「「???」」」」

 

僕らは突然声を掛けてきた女の人に驚いて足を止めその人を見る。

すると、その人はゆっくりとした足取りで近づいてきた。

 

「フンフン。キミたちかね?ウチの子をあれしてくれちゃってるのは?」

 

女の人は僕となのはの顔を見るとそう言ってきた。

そしてなのはの顔に自分の顔を近づけると。

 

「あんま賢そうでも強そうでもないし・・・・・・ただのガキンチョに見えるんだけどな~」

 

じっくりと何かを視るようにして言ってきた。

 

「でもってキミは・・・・・・」

 

その人はなのはから視線を外すと僕を見てきた。

 

「なるほどね~。確かにキミはこの子より強そうだね。どうりでウチの子が警戒するわけだよ~」

 

「ウチの子?」

 

僕はこの人の言ったウチの子と言うのが誰か分からなかったがだいたいの予想はついた。

僕がそう思っているとアリサが僕らの前にたって女の人を警戒心を露に威嚇するような視線で立ち塞がった。

 

「なのは、零夜。この人と知り合い?」

 

「ううん」

 

「う~ん、なんとなく知ってるかな?」

 

「え?」

 

僕の言葉にアリサとすずかはともかくなのはとユーノ、そして目の前の女の人は驚いた表情をした。

 

「あなた、あの子の知り合い、と言うより関係者、ですよね?」

 

僕はアリサの前に出て尋ねた。

 

「へぇー」

 

その人は興味深そうに目を細めて僕を見る。

すると。

 

〈なんで私があの子の関係者だって分かったのかな?〉

 

頭の中に目の前の女の人の声が響いてきた。

念話越しに話し掛けてきたみたいだ。

 

〈あなたは最初、キミたちかね?ウチの子をあれしてくれちゃってるのは、と言いました。ウチの子と言うのは僕らがこの前であったあの女の子のことで、あれと言うのは邪魔してくれちゃってるのは、という意味ですよね?〉

 

〈アハハハ。スゴいねキミ。それだけで私があの子の関係者だってわかったんだ〉

 

〈いえ、少しカマをかけましたよ。あなたは僕の言ったあの子の知り合い、と言うより関係者ですよね?という言葉に表情が驚いたようにしていたので。それで確信しました〉

 

〈ふぅ~ん〉

 

〈それで、一体なんのようでしょう?のんびり温泉に浸りに来ただけ、と言うわけでは無さそうですし〉

 

〈それは秘密だよ。まっ、温泉に浸りに来たってのはあながち間違いじゃないね。けど、キミはスゴいね~〉

 

〈それはありがとうございます〉

 

僕は目の前の女の人の念話に礼を言う。が、それは次の言葉で僕は動きを止めた。

 

〈みんなと同じ女の子なのに〉

 

〈はい?〉

 

みんなと同じ女の子なのに、ってもしかしてまた?

 

〈あの~、僕女の子じゃなくて男の子なんですけど〉

 

〈え?〉

 

僕の念話に目の前の女の人はこれまた一番驚いた顔を出した。

 

〈いやいやいや、そんなわけないでしょ~。キミみたいな女の子が男の子な分けないじゃん〉

 

〈いえ、本当です〉

 

〈・・・・・・・・・・ホントに?〉

 

〈はい・・・・・・〉

 

信じられない者でも見たような顔になった女の人に僕はもう泣きたくなった。

 

〈ま、まあ今は取り敢えず挨拶だけしておくよ〉

 

気を取り直したように女の人は念話で言う。

するとなのはとユーノの顔付きが変わった。

 

〈忠告しとくよ。子供はいい子にして、お家で遊んでなさいな。おいたが過ぎるとガブッといくわよ〉

 

「それじゃあね~」

 

念話で言い終えると女の人は肉声でいい、僕らが来た方向に歩き去っていった。

 

〈なのは・・・零夜・・・〉

 

〈うん・・・・・・〉

 

〈わかってるよ・・・・・・・〉

 

「なのはちゃん・・・零夜くん・・・」

 

「もう!なんなのあれ!昼間っから酔払ってるんじゃないの?気分悪!」

 

「アハハ、まあまあアリサ。ここは寛ぎの場だから。いろんな人がいるんだよ」

 

「そうだけど節度ってもんがあるでしょうよ!節度ってもんが!・・・・・・それより零夜。あんたあの人とどういう関係よ」

 

「零夜くん・・・・・・」

 

「う~ん、一言で言うなら僕のちょっとした知り合いの関係者、かな」

 

「ふぅ~ん」

 

「そうなんだね」

 

「うん。さっ、行こ、なのは、アリサ、すずか」

 

「そうだね」

 

「はーい」

 

「うん」

 

僕はなのはたちと旅館の探索に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから時間が過ぎ夜。

 

〈・・・・・・眠れないのなのは?〉

 

〈零夜くん・・・うん・・・〉

 

僕となのは、アリサ、すずかは同じ部屋で寝ていた。士郎さんたちに僕と男ですよ!?って言うと満場一致で問題なし、と言われた。と言うか恭也さんは止めてくれると思ったけど忍さんに言われてか何故か賛同側に回っていた。ちなみに桃子さんや美由紀さん、忍さん、ファリンさん、ノエルさんは何故かノリノリで一緒に寝たらいいよと言っていた。

ホント、ここ最近僕女の子と見られることが多いい気がする。

 

〈少しは眠っとかないと。もしかしたらなにか起きるかもしれないから〉

 

〈うん・・・・・・〉

 

〈・・・・・・昼間の人のこと?〉

 

〈・・・・・・うん。やっぱりあの人、あの子の関係者なのかな〉

 

〈それは間違いないと思うよ〉

 

〈零夜くんはなんで分かったの?〉

 

〈なんとなく、かな?まあ、ちょっとカマは掛けたけどね〉

 

〈そうなんだ・・・・・・〉

 

なのはと念話で会話しているそこに。

 

「「!!」」

 

〈今のは!〉

 

〈ユーノくん、この魔力・・・もしかして〉

 

〈間違いない、ジュエルシードが発動したんだ〉

 

ジュエルシードが発動したのを感じると僕らは手早く着替えこっそり旅館から出て反応があった場所に向かう。

 

「なのは、レイジングハートを起動して!」

 

「うん!お願いレイジングハート!」

 

《Standbyready Setup》

 

「僕もいくよリンカ」

 

《了解ですマスター》

 

僕となのははデバイスを起動させてバリアジャケットと杖を手に取る。

 

「リンカーネイト、いくよ」

 

《イエス、マスター》

 

「なのは掴まって、ユーノは振り落とされないようにね」

 

「「え?」」

 

頭上にハテナマークを浮かばせている二人を尻目に、僕はなのはの右手を握ると凄まじい速さで駆けた。

 

「~~~~っ!!!」

 

なのはが何か言っているがそれは後で聞くとして、とにかく今はあの場所へ。

そのまま駆けていくと蒼白い光が天に向かって走ったのが見えた。

 

「くっ!遅かったか」

 

僕は急ブレーキを掛けてその光を見る。

目的地まではもうすでに目と鼻の先だった。

 

「どうやら先を越されたみたいだね」

 

僕は目的地に着いてそこにいる、お昼に旅館で会った橙色の髪の女の人と以前であった悲しい目をした女の子がデバイス。バルディシュを持っていた。そしてその手にはジュエルシードが握られていた。

 

「あーらあらあら・・・・・・子供ははいい子で、って言わなかったけか?」

 

「それを・・・ジュエルシードをどうする気だ!それは、危険なものなんだ!」

 

「さあね。答える理由が見当たらないよ?」

 

「確かにあなたの言うとおり答える理由はないかもね」

 

「でしょ?それに私、親切に言ってあげたよね?いい子でないと、ガブッといくよって」

 

そう言うと否や女の人は目を見開き姿を人から狼へと変えた。

 

「やっぱり・・・あいつ、あの子の使い魔だ」

 

「使い魔?」

 

「へぇー」

 

「そうさ私はこの子につくってもらった魔法生命。製作者の魔力で生きる代わり、命と力のすべてを掛けて守ってあげるの!先に帰ってて、すぐに追い付くから」

 

「うん、無茶しないでね」

 

「オーケー!」

 

女の子にそう言うと狼になった女の人は僕らに向けて襲い掛かってきた。

 

風盾(デフレクシオ)!」

 

だが、それは僕の張ったバリアによって防がれる。

 

「さらに―――拘束(バインド)!」

 

「なにっ!?」

 

バリアで防ぎ動けないところに、拘束で動きを完全に止めた。

 

「零夜、そのまま動きを止めてて!」

 

「なにする気ユーノ?」

 

「あいつは僕が引き受ける。零夜は彼女となのはをお願い!」

 

「わかったよ!ユーノも気を付けて」

 

「もちろん!」

 

そう言うとユーノは動けない狼の足元に白い魔方陣を出し、自分とともに何処かに転移していった。

 

「あなた、いい使い魔を持ってる」

 

「ユーノくんは使い魔ってやつじゃないよ。私の大切な友達」

 

あらら。ユーノ使い魔って思われてるね。

僕がそう思っていると。

 

「で・・・・・・どうするの?」

 

「話し合いでなんとかできるってこと、ない?」

 

「私はロストロギア・・・・・・ジュエルシードを集めてる。そしてあなたたちもまたジュエルシードを集めてる。なら、私とあなたたちは敵同士」

 

「そういうことなくて!」

 

「言葉だけじゃ、伝わらないことだって・・・ある!」

 

交渉は決裂し、女の子がなのはに向けて攻撃を仕掛けてきた。

 

「僕がいるってこと忘れてない?」

 

僕はリンカーネイトを剣形態(ソードモード)にして女の子の薙ぎ払ってきた攻撃を受け止める。

 

「くっ!」

 

女の子はすぐさま後ろに飛び退る。

僕はリンカーネイトを左手に持ち右手を懐に入れあるものを取り出す。

それは一枚のカードだった。そして。

 

来たれ(アデアット)―――匕首・十六串呂(シーカ・シシクシロ)!」

 

僕はそのカードに記載されている武器。アーティファクトを呼び出す。

 

「なにっ!?」

 

「いけっ!」

 

僕は呼び出した16本の短刀を女の子に向けて放射状に攻撃する。

だが、さすがスピードタイプで当たる直前に避けたり、弾いたりして見事にかわしている。

匕首・十六串呂を持ち前のスピードでかわしつつ僕と撃ち合う。

 

「賭けて。お互いのジュエルシードを、一個ずつ」

 

「残念だけど、僕はジュエルシードを持ってないよ。だから賭けは不成立になるね」

 

「そう」

 

《PhotonLancer GetSet》

 

去れ(アベアット)―――魔法の射手・連弾・雷の25矢(サギタ・マギカ・セリエス・フルグラーキス)!」

 

女の子の魔力弾と僕の魔法の射手がぶつかり、女の子の表情が険しいものとなった。

 

「なら!―――これは!バルディシュ!」

 

《Thnuder Smasher》

 

下がり女の子は雷の砲撃を放ってくる。

 

「―――雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!」

 

対する僕も雷の暴風で応戦する。

ぶつかった中心点でしばらく互いの砲撃が拮抗する。しばらくして拮抗が破れた。雷の暴風が女の子の雷の砲撃を掻き消したからだ。

だが、雷の暴風が当たる直前女の子は上空に昇っていきかわした。

 

《Scythe Slash》

 

やがてそんな機械音声が聞こえると上空からなのはに向けて雷の纏った鎌を振り下ろしてきた。

 

「なっ!?しまった!なのは!」

 

僕はその行動に隙を突かれなのはの元に急いで駆け寄るが、すでになのはの首元に鎌が置かれていた。

僕はリンカーネイトの刃を無くした状態でその女の子の首元になのはと同じように当てる。

 

「やるね」

 

「さすがにそれは僕も虚を突かれたよ」

 

僕は軽く女の子と話す。すると、なのはのレイジングハートから。

 

《Pull out》

 

そんな機械音声が流れ、レイジングハートからジュエルシードが一個出てきた。

 

「レイジングハート!なにを・・・・・・?」

 

「きっと主人思いのいい子なんだ」

 

そう言うとレイジングハートから出たジュエルシードを掴み、なのはの首に当てていた雷の鎌を退け解除した。それを見た僕は女の子に連なって、リンカーネイトを剣形態から通常形態(ノーマルモード)へと戻した。

空から地面に降りた僕に、女の子が聞いてきた。

 

「ねえ、あなた名前は」

 

「天ノ宮零夜。キミは?」

 

「フェイト。―――フェイト・テスタロッサ」

 

「フェイト、か。いい名前だね」

 

「ありがとう。零夜、一つだけ言っておく」

 

「なにかな?」

 

「できるなら、私たちの前にもう現れないで」

 

そう言うとフェイトは僕らに背を向けた。

 

「帰ろう、アルフ」

 

「さっすが、私のご主人様!じゃあね、おちびちゃんたち」

 

あの狼はアルフという名前なのか狼から人間の女の人の姿になったアルフはフェイトに駆け寄った。

 

「待って!」

 

「零夜にも言ったけど、もう私たちの前に現れないで。もし次現れたら、止められないかもしれない」

 

「その場合は僕が止めるよ。フェイト、キミに人を殺させない」

 

フェイトの言葉に僕は少し声を低くして言う。

 

「そう。なら、止めてみて零夜」

 

「もちろんだよ」

 

「あ、あの、私の名前は・・・・・・」

 

フェイトは僕の台詞を聞くとなのはの声に耳を傾けず、使い魔のアルフとともに立ち去っていった。

そしてあとに残ったのは意気消沈しているなのはと、戻ってきたユーノ、そして月を見ている僕だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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分かりあえない互いの気持ち

 

~零夜side~

 

 

 

「フェイト!」

 

「フェイト!今すぐそれから手を離して!」

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

今目の前ではフェイトが発動中の。と言うか暴走中のジュエルシードをつかんで抑え込んでいる姿があった。

何故こうなったかは少し前の出来事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈零夜、ジュエルシードが強制発動した!〉

 

「こっちでも確認してるよ!ユーノは結界をすぐに張って!」

 

〈わかった!〉

 

僕はジュエルシードの捜索中、突然の魔力流とジュエルシードの発動を感じた。

そしてその場所に向かっている最中にユーノから念話が来た。

 

「仕方無い、ステラ、いくよ!」

 

《わかりましたわ!》

 

僕はブレスレットを掲げステラメモリーに言う。

ブレスレットが蒼白い閃光を輝かせる。光が治まると僕は蒼銀コートのバリアジャケットと白い杖が現れる。

 

「いくよ!」

 

《ええ!》

 

僕はかなり近い場所から立ち上るジャケットシードの光に向けてステラを構える。

 

「ステラ、封印形態!」

 

《わかりました。封印形態に移行しますわ!》

 

そう言うとステラの先の部分が変形し細長くなり照準がついた。

 

「ステラ!」

 

《ええ!》

 

僕の放った蒼白色のレーザーを放つ。

すると他の2方からもレーザーが放たれた。

 

「まずい!ステラ、今すぐ中断!」

 

《わかりましたわ!》

 

僕はとっさの判断で封印を中断しステラの形態をもとに戻す。

 

「今のはなのはとフェイトの魔力・・・・・・」

 

僕は視線の先のジュエルシードの目映い光にそう呟いた。

 

《マスター》

 

「取り敢えずジュエルシードのところに行こう。多分そこになのはとフェイトがいると思うから」

 

僕はステラにそう言うと歩いてジュエルシードのところに向かった。

ジュエルシードのもとにたどり着くとすでに全員揃っていた。ユーノはアルフの相手を。なのははフェイトに話し掛けていた。

 

「なのはの目・・・決心がついた目をしてる」

 

僕はなのはの目を見て言う。今のなのはの目はアリサとすずかと出会って友達になったときと同じ目をしていた。

 

「私なのは。高町なのは。私立聖祥大付属小学校3年生」

 

《Scythe form》

 

なのはがフェイトに自己紹介するなか、フェイトのデバイス。バルディシュが発声する。

バルディシュになのははレイジングハートを構える。

しばしの沈黙後、フェイトがバルディシュを構え飛び上がってなのはに迫った。

 

《flier fin》

 

その攻撃をなのはは空に飛び上がってかわす。

 

「あれ~・・・もしかして僕忘れられてる?」

 

僕は空に飛び上がって魔法砲撃を繰り出して攻撃しているなのはとフェイト。アルフの相手をしているユーノを見て僕はジュエルシードの近くでそう呟いた。

 

「う~ん、今封印してもいいけどさすがにそれは二人に悪いしな~」

 

上空で連続で魔法砲撃を放つ二人に僕はそう独り言を言う。

高速で動き回るフェイトになのははギリギリなんとか追い付いて攻撃している。フェイトが眼にも止まらぬ早さでなのはの背後に回ると。

 

《Flash move》

 

なのはも高速移動魔法でフェイトの背後を取り、レイジングハートの先をフェイトに向け。

 

《Divine Shooter》

 

桃色の魔力砲撃。ディバインシューターを撃つ。

対するフェイトもバルディシュをなのはに向けて。

 

《Defensor》

 

高速自動防御魔法でディバインシューターを防ぐ。

なのはとフェイトはディバインシューターとディフェンサーで少し押し返されるが空中で上手く姿勢を保ちながらデバイスの先を互いに相手に向ける。

 

「フェイトちゃん!」

 

するとなのはがフェイトの名前を大きな声で僕にも聞こえる声で呼んだ。

その瞬間、フェイトの表情に同様が走ったのに気づいた。

 

「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ足りないって言ってたけど・・・・・・だけど話さないと、言葉にしないと伝わらないことだってきっとあるよ!」

 

なのはは自分の想いをフェイトに伝えようとしていた。

 

「ぶつかり合ったり、競い合うことになるのはそれは仕方無いことなのかもしれないけど。だけど、なにも知らないままぶつかり合うのは、私イヤだ!」

 

なのはの言葉の中にはなのは自身の想ってる、フェイトに対する感情や気持ちが含まれているのが伝わってくる。

 

「私がジュエルシードを集めるのはそれがユーノくんの探し物だから。ジュエルシードを見つけたのはユーノくんで、ユーノくんはそれを元通り集め直さないといけないから!私はそのお手伝いで!だけど、お手伝いをするようになったのは偶然だったけど・・・・・・今は自分の意思でジュエルシードを集めてる!自分の暮らしてる街や、自分の周りの人たちに危険が降り掛かったら嫌だから!これが・・・私の理由!」

 

「私は・・・」

 

「フェイト!答えなくていい!」

 

なのはの理由にフェイトが答えようとすると近くからアルフの声が聞こえてきた。

見てみるとユーノも一緒にそこにいた。

 

「優しくしてくれる人たちのところでぬくぬく甘ったれて暮らしてるガキンチョになんか、なにも教えなくていい!私たちの最優先事項はジュエルシードの捕獲だよ!」

 

アルフの言葉にはどこか必死さが含まれていた。

でもその言葉に僕は何故か共感のようなものが走った。

 

「ああ、そうか。少しだけ似てるんだ前世の僕と・・・・・・」

 

この世界に来る前の僕は全てにおいて絶望していた。理由は言わずとも分かってる。今でも思い出すからだ。

 

「でも、フェイトにはアルフがいるんだよね・・・・・・」

 

僕はフェイトとアルフを見てそう呟いた。

 

《マスター・・・》

 

《零夜くん・・・》

 

《大丈夫ですかマスター・・・》

 

その呟きにステラ、レイ、リンカが念話で話してきた。

 

「大丈夫・・・」

 

僕はそう言い視線をなのはとフェイトに移す。

 

「なのは!」

 

「大丈夫!」

 

アルフの近くでユーノが心配そうに声をかけ、なのはは元気よく返事する。

しばらく二人とも動かなかったが、フェイトが急反転したかと思うとものすごい早さでジュエルシードに向かって降りていった。

 

「あっ!」

 

そのあとをなのはも追い掛ける。

ジュエルシードに着いたのは二人同時だった。

二人はジュエルシードを中心に互いのデバイスを交差するようにした。

 

「あ・・・」

 

「え・・・」

 

ユーノとアルフの声が聞こえてきた。

そのまま交差しているとなんと言うことか二人のデバイス。レイジングハートとバルディシュに罅が入った。

 

「なっ!?」

 

僕はその光景に唖然と驚きを浮かべた。

そして。

 

「キャアアアアアアアアアアア!」

 

「くっ・・・ウッウウウウウウ!」

 

ジュエルシードを中心に目映い閃光と魔力の奔流が二人を襲った。

 

「フェイト!」

 

「なのは!」

 

「なのは!フェイト!」

 

ユーノ、アルフ、僕が二人を呼ぶ。

なのはとフェイトはジュエルシードの魔力の奔流に押し出されながらも体勢を整え、なのはは地面に着地しフェイトは空中で上手く止まる。

 

「大丈夫、バルディシュ。戻って」

 

《Yes sir》

 

フェイトの方を見るとバルディシュをデバイスの待機状態に戻していた。バルディシュの待機状態はフェイトの右手の甲のグローブに嵌まったようだ。

少しだけバルディシュを見たフェイトは目の前のジュエルシードを見つめた。

 

「フェイト?」

 

フェイトの表情が焦りを出していたのに気づいた僕は怪訝な表情をしてフェイトを見る。

ジュエルシードと同じ高さにまで高度を下げるとフェイトはクラウチングスタートのような体勢を空中でとり、思いっきりジュエルシードに向けて飛んでいった。

 

「なっ!?ま、まさかフェイト・・・・・・!」

 

僕はフェイトの行動に嫌な予感がした。

 

「まずい!フェイト、それだけはダメだ!」

 

僕は慌ててフェイトに言うが時既に遅し、フェイトはジュエルシードの目の前にまで迫り、両手で掴み握り締めた。

するとフェイトの手の間から青い目映い光が漏れた。恐らくジュエルシードが暴走しているんだ。

 

「フェイト!」

 

「フェイト!ダメだ危ない!」

 

僕とアルフはフェイトにそう声掛けをするが、フェイトは両手に掴み締めたジュエルシードを離そうとせずに、ジュエルシードの暴走を抑え込んでいた。

 

「止まれ!止まれ、止まれ!」

 

フェイトの足元に魔方陣が描かれジュエルシードの魔力暴走を強引に抑え込んでいるのが分かる。

けど、あのままじゃフェイトが危ない。

 

「アルフ、協力して!」

 

「な、何をするつもりだい!?」

 

「フェイトを助ける。だからアルフも手伝って!」

 

「わ、わかった!」

 

「お願い、レイ!」

 

《了解、零夜くん!》

 

僕の身体が光、バリアジャケットとデバイスが展開された。

 

「フェイト!それを離して!」

 

「フェイト!」

 

アルフがフェイトをジュエルシードから引き離す。

フェイトの手は怪我を負って血が出ていた。

ジュエルシードは未だに魔力暴走をし続けていた。

僕は懐から一枚の特殊固有武器(アーティファクト)カードを取り出し。

 

「―――来たれ(アデアット)―――エンシス・エクソルキザンス(ハマノツルギ)!」

 

一振りの剣を召喚する。

 

「ハアアアアアアアアッ!!―――ヴォーパル・ストライク!」

 

ハマノツルギを肩の高さに構え、カタパルトのように右腕を折り畳みクリムゾンレッドの輝きがまとったハマノツルギを全力で撃ち放つ。

 

「セヤアアアアアアアア!!」

 

ジュエルシードを打ち砕かんとするばかりに全力で撃ち放つ。ジュエルシードから漏れでる魔力がハマノツルギの魔法無効化とヴォーパル・ストライクの威力で徐々に消えていく。やがて、魔力暴走が収まり元のジュエルシードの状態になったジュエルシードを左手で掴んだ。

 

「ハア、ハア、ハア・・・・・・」

 

さすがに疲れた僕はハマノツルギを下ろして息を吐いて呼吸を整える。

そこへ。

 

「そんな・・・暴走していたジュエルシードを元に戻すなんて・・・・・・」

 

「なんてやつだよ・・・・・・」

 

「零夜くん・・・・・・」

 

ユーノとフェイトを抱えるアルフ、なのはが有り得ないと言わんばかりの感じで言うのが耳に入った。

 

《大丈夫ですかマスター!?》

 

《大丈夫零夜くん!?》

 

《マスター、お変わりありませんか!?》

 

「大丈夫、だよ。ハア・・・去れ(アベアット)

 

デバイスの三人に心配されながら、ハマノツルギをカードに戻して懐にしまってフェイトとアルフに寄る。

近寄るとフェイトはアルフの腕の中で気絶していた。

僕はフェイトの側に寄り、

 

「―――治癒(クーラ)

 

治癒魔法でフェイトの怪我をある程度治療する。

これで特に目立った外傷はないと思う。

 

「あ、あんた・・・」

 

「はい、これ・・・・・・」

 

アルフが何か言いたげに言うなか僕はジュエルシードをアルフに渡す。

 

「零夜!?」

 

「ごめんユーノ、今回は彼女たちに渡すよ。なのはもいい?」

 

「う、うん。零夜くんが言うなら・・・・・・」

 

「ありがとう・・・。アルフ」

 

「あ、ああ」

 

アルフは気絶したままのフェイトを抱き抱えながらジュエルシードを受け取った。

 

「それと、アルフ」

 

「な、なんだい?」

 

「フェイトに言っといて。外傷は治したけど体力や魔力までは回復できてないって」

 

「う、うん」

 

「それと、無理はしないようにって、ね」

 

「わ、わかった。そ、それと、フェイトを助けてくれてありがとう」

 

アルフはそう言うとフェイトを抱えてその場から立ち去った。

二人が立ち去ったのを見送り、僕はバリアジャケットを解除して元の服に戻った。その瞬間、少しよろめいたがなんとか両足で立った。

 

「だ、大丈夫なの零夜くん・・・?」

 

「あ、うん。なんとかね」

 

そう言いながら僕は近寄って来たなのはに微笑み頭を優しく撫でた。

 

「あ・・・///」

 

何故かなのはの顔が赤くなったが何かあったのかな?

 

「大丈夫なのは?顔赤いけど、熱?」

 

「う、ううん!なんでもないよ大丈夫!」

 

「そう?ならいいけど」

 

僕はなのはの頭を撫でながら心配そうに言う。

 

「とにかく帰ろうか」

 

「うん!」

 

「はい」

 

ユーノが結界を解除し、空間を元に戻してなのはとユーノは高町家へ、僕は自分の家へと帰った。

その道中。

 

《マスター、近くの空間に未確認飛行物体があります》

 

「未確認飛行物体?」

 

《ええ》

 

「それとの遭遇確率は?」

 

《恐らくほぼ100%かと》

 

リンカと会話しているとステラが捕捉してきた。

 

《マスター、データ参照完了しましたわ。その未確認飛行物体は艦船ですわね。艦船名はアースラ。所属は時空管理局ですわ》

 

「時空管理局?たしかユーノがジュエルシードを持っていこうとしたところも時空管理局だったけ?」

 

《ええ。恐らくですが先程のジュエルシードが発した次元振動を感知したのでしょう》

 

「次元振動、ね」

 

僕はさっきジュエルシードが発した暴走した魔力を思い出した。

恐らくなのはとフェイトのデバイスもジュエルシードの膨大な魔力に当てられて破損したんだろう。

幸いにもデバイスには自己修復能力があるから明日には治っているとは思うけど。

 

「時空管理局、ね~。厄介なことにならないといいんだけどね」

 

自宅へと通じる道に僕は独り言を呟いた。

その独り言は誰もいない虚空への中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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時の庭園

 

 

~零夜side~

 

 

 

 

 

 

 

「待ってよ、―――お姉ちゃん、―――」

 

「ほら―――くん、早く来ないと置いていっちゃうよ♪」

 

「―――、早く行こうよ♪」

 

「うん!」

 

「―――くんはお姉ちゃんと―――ちゃんのこと好き?」

 

「もちろんだよ!僕、―――お姉ちゃんと―――のこと大好きだよ!」

 

「私もだよ―――くん♪」

 

「私もだからね―――♪」

 

「うん!大好きだよ、―――お姉ちゃん!―――!ずっと一緒にいようね!」

 

「ええ!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・・・・」

 

眠りから起きた僕は上体を起こして周囲を見渡す。

そして自室の部屋だと確認すると、眼から何かが頬を伝ってくるのが感じた。

そっと頬を触ると、眼から出た涙が手に付いた。

 

「―――お姉ちゃん、―――」

 

僕は今しがた夢で見た前世での、楽しかった、幸せだったときの時間を脳裏に思い出した。

多分、昨日のアルフがフェイトに言った言葉が原因だと思う。

 

「グスッ・・・・・・会いたいよ・・・―――お姉ちゃん、―――」

 

僕は泣き止まない瞳を擦りながらただ一人の家の自室でそう言った。

僕の声はカーテンから漏れでる朝日の光が入る自室に静かに虚空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《マスター、目標を見付けたみたいです》

 

一階に降りて朝食を取っていたところにリンカがそう言った。

僕は昨夜から特殊固有武装(アーティファクト)の1つ渡鴉の人見(オクルス・コルウィヌス)を使ってフェイトとアルフの行方を探していた。

あそこまで必死になるフェイトとあの言葉が気になったからだ。

 

「場所は?」

 

《遠見市、住宅街のマンションの1つです》

 

「そう・・・」

 

《マスター?》

 

《零夜くん?》

 

《どうか致しましたかマスター?》

 

「ううん。それよりリンカ、レイ、ステラ、いける?」

 

《はい!》

 

《もちろんだよ!》

 

《何時でも行けますわ!》

 

「じゃあ行こうか。フェイトがなんでジュエルシードを集めているのか」

 

僕は学校に体調不良で欠席する旨を伝え自宅を後にして隣市の遠見市へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 30分後

 

 

「さてと。ここか・・・・・・」

 

遠見市に来た僕は渡鴉の人見から伝えられたデータを元にフェイトとアルフのいる場所の近くに来ていた。

 

「それじゃあ今度はこれだね」

 

僕は懐から一枚の特殊固有武装カードを取り出して呼び出す。

 

来たれ(アデアット)

 

僕が取り出したアーティファクトは孤独な黒子(アディウトル・ソリタリウス)。隠密系のアーティファクトだ。

孤独な黒子は大きな物音や攻撃さえしなければ相手に見つからないという隠密系、最高クラスのアーティファクトだ。

僕は出てきたの棒付きの片眼仮面を右目に持ってきて覆う。

そしてそのまま中に入り屋上を目指す。

屋上に辿り着くと、ケーキの箱をフェイトから受け取ったアルフと眼を瞑っているフェイトの姿があった。

どうやら何か詠唱しているみたいだ。

静かに近くによるとフェイトの言っている内容が聞こえた。

 

「次元転移、次元座標。"876C 4419 3312 D699 3583 A1460 779 F3125"」

 

するとフェイトの足元に転移座標への黄色い転移魔法陣が現れた。

 

「開け、誘いの扉。時の庭園。テスタロッサの主の元へ!」

 

その魔法陣はフェイトとアルフはもちろんのこと、僕も範囲に入れて半球体みたいになると僕らを何処かへ転移と転移させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時の庭園

 

 

「ここは・・・・・・」

 

次に眼を開けるとそこは幻想的な雰囲気はあるがどこか不気味さも醸し出している屋敷の中だった。

そんな中、フェイトとアルフは奥へと進んでいっていた。だが、何故かアルフの表情は不安げだった。

 

「フェイト・・・取り敢えずここを調べないと」

 

僕は奥へと進み、二人の後ろ姿が見えなくなるのを確認して周囲を探索し始め―――

 

『あなたはだれ?』

 

ようとした。

 

「ッ!?」

 

僕はいきなり話し掛けられ警戒を高め周囲を見渡す。

 

『フフフ。ここだよ』

 

僕は声のした方を振り向くとそこには一人の女の子がいた。フェイトによく似た、それこそ双子と言えるくらいに。年齢は5、6歳程だと思う。けど、その女の子の身体は実体を持っていなかった、幽霊と言うべきなのだろうか?

 

「キミは・・・・・・」

 

僕はその女の子に聞く。

 

『わたしはアリシア。アリシア・テスタロッサだよ』

 

「アリシア・テスタロッサ・・・。僕は天ノ宮零夜。ところでテスタロッサ、ってことは君とフェイトは・・・」

 

『うん。フェイトはわたしの妹』

 

「妹?でも、アリシアさんって・・・・・・」

 

『アリシアでいいよ。まあ、わたしにも色々事情があってね、実はわたし死んでるんだよ』

 

「ど、どういうこと?」

 

僕はアリシアに言われたことが理解できず尋ねた。

 

『う~ん、見てもらった方がいいかな?付いてきてくれる零夜?』

 

「え?う、うん」

 

僕はアリシアに連れられてフェイトとアルフが向かった先とは別の道を通りある一つの部屋にたどり着いた。

 

「ここ?」

 

『うん』

 

僕はアリシアに確認して周囲を警戒しながら中に入る。

中に入るとすぐ目につくものがあった。中央に大きなガラス管があった。そしてその中には。

 

「アリシア・・・?」

 

女の子の亡骸が培養液に浸かって保存されていた。その亡骸は隣で浮いているアリシアと瓜二つだった。いや、恐らくこの女の子の亡骸がアリシアの実体なのだろう。

 

「アリシア、これは・・・・・・」

 

『これでわかった?わたしは死んでいるの。今のわたしは思念体、かな?』

 

「どういうことなの」

 

『・・・・・・零夜、あなたにお願いがあるの』

 

「お願い?」

 

『ええ。お願い、お母さんと妹のフェイト、そしてアルフを助けて』

 

「助けて?」

 

『フェイトはわたしの・・・アリシア・テスタロッサのクローンなの。アリシア・テスタロッサの記憶を引き継いで産まれたのが妹のフェイト』

 

「なっ!?」

 

『そしてお母さんは・・・・・・』

 

アリシアが言おうとしたところに。

 

 

バシン!

 

「うっ・・・・・・」

 

バシン!

 

「あっ・・・・・・」

 

 

何かを叩く音とフェイトの苦しそうな声が聴こえてきた。

 

「この声は・・・フェイト?」

 

『お母さん、また・・・・・・』

 

「またってどう言うこと!?」

 

『詳しくは行きながら話すわ。今はとにかくお母さんを止めてフェイトを助けて!』

 

「わ、わかった!」

 

僕はアリシアのあとを追いかけるように部屋から出ていく。

 

『この音はお母さんがフェイトを鞭で叩いている音なの』

 

「鞭で?なんで?」

 

『・・・・・・お母さんだってほんとはやりたくないはずなの。けど、お母さんはフェイトがわたしの、アリシアの変わりだと言うことを認めたいけど認めたくないの。そして今回のジュエルシードもお母さんがフェイトに命じたこと』

 

「なるほどね・・・・・・」

 

そのまま音のする方に行くと、奥に大きな扉がありその側でアルフが耳を塞いで苦しそうにしていた。

 

「アルフ」

 

「!?」

 

僕はアルフに近づき、左手でアルフの手を握った。

 

「なっ!?あ、あんた!」

 

「しっ!静かにして。今騒ぐとフェイトを助けられないから」

 

僕はアルフに注意して言う。

アルフの反応を見る限りどうやらアリシアの姿は見えてないみたいだ。もし見えていたら驚いているはずだ。

 

「あんた、どうやってここに」

 

「フェイトとアルフと一緒に来たんだよ?」

 

「ハァ!?」

 

「静かにして!あまり騒ぐとこれ解けちゃうから」

 

僕は再度アルフに言う。

 

「ところでなんでフェイトが鞭で叩かれているの?」

 

「フェイトの母親の何時ものだよ。昔からあの母親はフェイトを虐めてるんだ。今日だって、ちゃんとジュエルシードを持って帰ったのに!」

 

「アルフはフェイトの事が大事なんだね」

 

「当然だよ・・・・・・」

 

「・・・・・・アルフ、僕が部屋の中に入ってフェイトを助けるから、フェイトを連れてこの場所に転移して」

 

僕は懐から一枚の紙を取り出してアルフに渡す。

それは僕の住所が書かれた紙だった。

 

「ここは僕の家だから、フェイトを連れても大丈夫」

 

「け、けど・・・・・・。大体なんであんたはあたしやフェイトを助けてくれるんだい。私たちは敵同士だろ」

 

「・・・・・・敵も見方も関係ないよ。僕は、フェイトを助けたい、ただそれだけだよ」

 

僕はそう言うとアルフから離れ、大扉の前に立つ。

 

「ねえ、アリシア」

 

『なに、零夜?』

 

「アリシアの姿って他の人に見えてないの?」

 

『うん・・・・・・』

 

「そうなんだ・・・・・・」

 

僕はアリシアと小声で話、大扉に手を付け大扉を押した。

 

「―――来たれ」

 

新たにアーティファクトを呼び出し手にもつ。

ガタン、と音を立てながら扉が開き中に入った。

中に入ると、中には両手を左右に吊し上げられているフェイトとその奥に4、50歳くらいの女の人がいた。

 

「誰だい?」

 

女の人の手には鞭が握られていた。

そしてその前には鞭で叩かれた痕が多数あるフェイトが。

 

「―――去れ(アベアット)

 

僕は孤独な黒子を解除してフェイトに近づいた。

 

「れい・・・や・・・?」

 

フェイトの眼は焦点が合ってなく、朧気に見えているみたいだ。

 

「フッ!」

 

僕はフェイトを吊し上げている鎖を断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)で斬り裂いてフェイトを自由にする。

 

「フェイト!」

 

自由になったフェイトをすぐさまアルフが駆け寄り、フェイトを抱き締める。

 

「アルフ・・・・・・」

 

フェイトはアルフを見て小さく言う。

 

「アルフ、フェイト連れて行って」

 

「ああ」

 

アルフは足元に転移魔方陣を輝かせ、フェイトを連れてその場から転移した。

これでこの場には僕と、フェイトとアリシアの母親、そして幽霊状態のアリシアが残った。

 

「あなたはだれなのかしら?」

 

「初めまして、ですね、フェイトのお母さん」

 

僕はフェイトのお母さんに挨拶をする。もちろん警戒は怠らずに。

 

「僕の名前は天ノ宮零夜。フェイトの知り合いです」

 

「ふぅ~ん。それで、あなたはどうやってここに来たのかしら?」

 

「それは教えられないですね」

 

「・・・・・・まぁ、いいわ。あなたをここに閉じ込めておけば問題ないのだし」

 

そう言うとフェイトのお母さんは雷球を幾つか飛ばしてきた。

 

「―――魔法の射手・連弾・光の15矢(サギタ・マギカ・セリエス・ルーキス)

 

それを僕は魔法の射手で相殺する。

放たれた雷球の威力は高かった。恐らく、高レベルの魔導士なのだろう。

 

「今のを防ぐとはね」

 

「僕はあなたと戦闘しに来た訳じゃないよ。あなたに聴きたいことがあるんだよ」

 

「私に聴きたいこと?」

 

「ええ。あなたはなんの目的でジュエルシードを集めているんです?」

 

「あなたに言う必要はあるのかしら?」

 

「・・・いえ。ですが、僕が本当に聴きたいことはこれです」

 

僕は言葉を一旦区切り、小声でアリシアに聞く。

 

「お母さんの名前って」

 

『お母さんの名前はプレシア・テスタロッサだよ』

 

「ありがとう」

 

アリシアから名前を聞いた僕は、右手に持つアーティファクト、いどのえにっき(ディアーリウム・エーユス)を広げる。

 

「プレシア・テスタロッサさん!あなたはフェイトの事をどんな風に思っているんですか!」

 

「なっ!?」

 

いきなり名前を呼ばれて驚いたのか顔を驚いた表情をするプレシアさんはなにも言わない。

けど、僕の手に持ついどのえにっきにはちゃんとプレシアさんの本当の気持ちが書かれていた。

それも両面びっしりと。

 

「いったい何が目的なのかしら」

 

「僕の目的はあなたの本当の気持ちを知ることですよ。プレシアさん、もう少しフェイトに素直になったらどうです。僕からはこれだけです」

 

「くっ!」

 

さらに迫りくる雷球を無詠唱の魔法の射手で相殺して言い続ける。

 

「それでは僕はこれで失礼します」

 

「逃がすと思うの!」

 

さらに撃ってくる雷球や雷を障壁や魔法の射手で防ぎ、転移陣が起動させる。

 

「じゃあまたね、アリシア」

 

『うん、フェイトとアルフをお願いね』

 

アリシアと軽く小声で会話し僕は時の庭園から転移した。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~なのはside~

 

 

「零夜くん、大丈夫かな?」

 

「珍しいね、零夜くんがお休みなんて」

 

「うん」

 

何時もは一番後ろの席に座っているはずの零夜くんがいなくクラスがまた違って見えた。

朝のホームルームの時に聞いたとき、私やすずかちゃん、アリサちゃんは零夜くんがお休みだということに驚いた。零夜くんは滅多なことでは休まないからだ。

アリサちゃんの方を見ると、やっぱり昨日の事があったからかすぐに眼を背けられてしまった。

 

「なのはちゃん、零夜くん何あったのかな?」

 

「どうしてすずかちゃん?」

 

「あのね、ここ最近零夜くん様子がおかしいと思ったの」

 

「そう言えば零夜くん、ここ最近意識此処に有らずって感じだったような気がする」

 

私はすずかちゃんと話ながら零夜くんの事を思った。

 

「(大丈夫だよね、零夜くん)」

 

教室の窓の外から降り注ぐ夕日の光に照らされながら私は窓の外を見上げながらそう思った。

 

~なのはside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

時の庭園から転移した僕は幾つかの転移を経由して自宅へと転移した。

 

「ただいま」

 

リビングにはソファーで寝ているフェイトと、それを心配して見るアルフの姿があった。

 

「アルフ、フェイトは大丈夫?」

 

「あんた・・・・・・ああ、大丈夫だよ」

 

「そう。よかった」

 

僕はフェイトに近づき昨日と同じように治癒魔法をかけて治療する。

 

「あんたは・・・無事なのかい・・・・・・?」

 

「僕は大丈夫だよ。何回か戦ってるなら知ってるでしょ?」

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

アルフと会話していると、寝ていたフェイトが軽く身動きをして起き上がった。

 

「アルフ・・・」

 

「フェイト・・・よかった・・・」

 

「ここは・・・・・・」

 

「起きた?フェイト?」

 

「零・・・夜・・・・・・?」

 

「ここは僕の家だよ。セキュリティーも万全だから安心して」

 

「どうして零夜が・・・」

 

「フェイトを助けてくれたんだよ」

 

「私を・・・?」

 

「気にしないでいいよ。それよりフェイト、アルフから聞いてないの?」

 

「なにを?」

 

「僕はフェイトに無理しないように、一日安静にしているようにって伝えてって言ったはずなんだけど?アルフ?」

 

「あ、アタシは言ったよ。けど・・・・・・」

 

「大丈夫、問題ない」

 

「ハァー・・・・・・。フェイト、今日このあとは家で休んで」

 

「なんで?」

 

「フェイト、このままの状態で魔法を行使したらいつか大変なことになるよ?」

 

「そうだよフェイト。少し休まないと」

 

「けど、母さんが待ってるから・・・」

 

「仕方ないかな」

 

僕はフェイトに近付き手をフェイトに向け、

 

「大気よ水よ。白霧となれ、この者に、一時の安息を。眠りの霧(ネブラ・ヒュプノーテエイカ)

 

フェイトを眠らせた。

 

「これでゆっくり休んでくれるといいんだけど」

 

「今のはなんだい?」

 

「あれは相手を眠らせる魔法だよ」

 

「そうかい。それじゃあアタシらはこれで失礼するよ」

 

「うん。フェイトに無理しないでって伝えて」

 

「ああ。それと、昨日に続いて今日も助けてくれてありがとう」

 

「気にしないで」

 

アルフは深い眠りについたフェイトを抱き抱えると転移魔法で転移して去った。

一人残った僕はいどのえにっきを見る。

いどのえにっきにはプレシアさんのフェイトに対する本当の気持ちが書かれていた。

 

「やっぱりプレシアさんもキツいんだね」

 

僕はいどのえにっきに記載されたプレシアさんのフェイトに対する本当の気持ちを全て見てそう呟いた。

認めたいけど認めたくない。認めてしまうと、忘れてしまうから。

プレシアさんの心情が書かれたいどのえにっきを僕は静かにしまった。

 

「―――去れ」

 

いどのえにっきをカードの状態に戻した僕はソファーに寄り掛かって息を吐いた。

 

《マスター》

 

《零夜くん》

 

《マスター、どうしました》

 

「プレシアさんのあの行動、自分のためでもあるんだなって思ってね。・・・・・・悲しいよね、フェイトもアリシアもアルフもプレシアさんも。僕がなんとかしないといけないかな」

 

僕はソファーに寝っ転がりながら眼を手の甲で覆って言った。

 

「(プレシアさんの気持ち分かる気がする。大切な人をなくしたら僕も多分プレシアさんと同じ行動を取るかもしれないから)」

 

そう思いながら僕は瞼を閉じて眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 



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四人目と時空管理局

 

~零夜side~

 

 

 

 

海鳴市臨海公園

 

 

 

時の庭園に行ってフェイトたちの事情を知った翌日の放課後。発動したジュエルシード封印のため僕たちは海鳴市臨海公園に来ていた。

ジュエルシードの発動を止めたは止めたんだけどどっちが封印するかでなのはとフェイトが同じ高さに飛んで話していた。

 

 

「ジュエルシードには衝撃を与えたらダメみたいだ」

 

「うん、この間みたいなことになったら私のレイジングハートもフェイトちゃんのバルディシュも可哀想だもんね」

 

「・・・だけど、譲れないから」

 

《Device form》

 

「私は・・・フェイトちゃんと話がしたいだけなんだけど」

 

《Device mode》

 

封印形態から通常のデバイス形態に戻した二人はそれぞれデバイスを構えた。

 

「私が勝ったら・・・私がただの甘えた子じゃないってわかったらお話、聞いてくれる?」

 

「・・・・・・」

 

なのはの問いにフェイトは無言で返す。

 

「零夜、なのはは勝てると思う?」

 

足元にいるフェレットのユーノが心配そうに聞いてきた。

 

「う~ん、実戦のレベルはフェイトの方が高いからね。なのはにも知恵と戦略を考えるように言ってあるけど・・・・・・・それに僕が相手してあげたから少しは大丈夫じゃないかな?」

 

ここ最近、僕はなのはにフェイトより少し速く動いて攻撃をして、それをなのはは状況判断で回避したりカウンターで攻撃を食らわせたりする練習をしていた。

 

「まあ、確かに。あのさ零夜」

 

「なに、ユーノ?」

 

「零夜って、まだ本気じゃないよね?」

 

「・・・・・・なんで?」

 

「なんとなくだけど、そう思ったんだ」

 

「・・・・・・さすがだねユーノ。でも、今その話はしないでおこう?そろそろ、始まるみたいだし・・・・・・ん?」

 

視線をなのはとフェイトに向けた僕は不意に感じた別の魔力反応を感じ取った。

 

「やれやれ・・・・・・・レイ・・・」

 

《はぁ~い》

 

僕は少しユーノから離れ、レイオブホープを展開させて二人の行動を見守る。

やがて二人が同時に互いに向かって動き出した。

 

「・・・・・・!」

 

「・・・・・・!」

 

そして互いの距離がゼロになろうとしたその瞬間。

 

「ストップだ!」

 

二人の間に青白い光が降り注ぎそこから、黒いバリアジャケットとデバイスを右手に持ち、なのははとフェイトのデバイスを受け止めた少年が出てきた。

 

「ここでの戦闘行動は危険すぎる!」

 

そしてさらに、

 

「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ」

 

なのはとフェイトをバインドで拘束した。

 

「詳しい話を聞かせてもらおうか」

 

予想通り、案の定第三者の横やりが入った。

 

「・・・・・・レイ」

 

《うん》

 

僕がレイに一言言うと、飛び込んできたクロノ・ハラオウンくんの周囲に光の球体を現出させた。

 

「なっ!?」

 

「あのさクロノ・ハラオウンくん?であってるのかな?いくら仕事だからって言ってもさ、少しは空気読もうよ」

 

僕は驚いた表情をしているクロノくんに呆れた風に言う。まあ、それが時空管理局の仕事だって言うのは分かるんだけどさ。

するとその時。

 

「・・・!」

 

フェイトから少し離れた場所にいるアルフが魔力弾を放ってきた。僕とクロノくんはとっさにその魔力弾を防ぐ。

 

「退くよフェイト!」

 

アルフはそう言うとさらに魔力弾をクロノくんに浴びせる。魔力弾が当たり、砂煙が立ち上る。

防御しているためかバインドが解けると、フェイトはジュエルシードの方へと向かっていった。

 

「フェイト!?」

 

さすがのその行動は僕も予想外だった。

その一瞬の隙に砂煙が立ち上るところから青白い輝きの魔力弾がフェイトに向かって飛んだ。

 

「くっ!」

 

魔力弾を放ったのはクロノくんみたいだ。

あの土煙の中からよく撃てるなぁ、と思った。

クロノくんの放った魔力弾はフェイトに当たり、フェイトはその衝撃で地面に墜ちる。

 

「フェイト!」

 

アルフが慌てて墜ちたフェイトを抱き抱える。

フェイトを見ると右腕から血が出ていた。どうやら非殺傷設定じゃなかったみたいだ。

 

「動かないで!」

 

僕はフェイトとアルフにデバイスの先を向けるクロノくんの前に立ち右手に持つレイの切っ先を突き付ける。

 

「なにをする!」

 

「なんで非殺傷設定じゃないわけ?」

 

僕は眼光を鋭くしてクロノくんに聞く。

それから僕は後ろにいるアルフに言った。

 

「行って!」

 

「くっ・・・」

 

アルフがフェイトを連れて転移して去ったのを確認すると僕はレイの切っ先を下ろす。

 

「どういうつもりだ!」

 

「それはこっちの台詞だよ。あの子の腕から血が出てたの分からなかったの?」

 

「そう言う意味じゃない!なぜ邪魔をした!」

 

「もう少し立場を考えた方がいいよ?」

 

僕はさらにクロノくんの周囲に光の刃と氷の刃を現出させ突き付ける。

 

「れ、零夜くんが怒ってるの・・・」

 

「れ、零夜が怖すぎる・・・」

 

バインドの解けたなのはと側のユーノが怯えたように言ったのが耳に入った。そこまで怖くないと思うんだけど?

僕がそう思っていると。

 

 

『すみませんがそこまでにしていただけますか?』

 

 

僕とクロノくんの間に空間ウインドウが現れ、そこから一人の女性が映し出された。

 

「あなたはリンディ・ハラオウンですね。時空管理局所属、次元航行船アースラの艦長の」

 

僕のその言葉にクロノくんとウインドウの女性が驚愕の表情を出す。それはなのはとユーノもだった。

 

 

『何故、私のことを知っているのでしょうか?確か初対面のはずですよね?』

 

 

「調べたので。時空管理局のデータベースを」

 

「なっ!?」

 

 

『なんですって!?』

 

 

クロノくんとリンディさんが有り得ないと言う風に声を出す。

僕は以前、特殊固有武器(アーティファクト)世界図絵(オルビス・センスアリウム・ビクトゥス) 力の王笏(スケプトルム・ウィルトゥアーレ)で時空管理局とアースラのことを調べたのだ。正確にはアースラの乗務員のデータとアースラについて、だけど。

 

 

『取り敢えずクロノ。この子たちをアースラに案内してくれるかしら?色々とお話が聞きたいので』

 

 

「分かりました、艦長」

 

そんなこんなで僕たちはアースラに行くことになったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アースラ内部

 

 

 

「ここがアースラの中・・・・・・」

 

転移部屋から移動中の僕は周囲を見渡してそう言う。

僕らはクロノくんに案内されて、目的地にまでついていく。僕の横ではなのはが腕にしがみついて僕の左隣にいるユーノに驚いていた。

ユーノはどうやら変身してフェレットになっていたらしく、本当の姿は僕らと同じ十歳くらいの普通の男の子なのだ。それを見たなのははあまりの驚きで僕の腕にしがみついて来たと言うわけだ。ちなみに久しぶりになのはの「ふぇええええええ!?」が聞けた僕はつい苦笑をしてしまった。

クロノくんに言われ僕らはバリアジャケットは解除している。まあ、僕はバリアジャケットが無くても問題ないしね。向こうが何かしてきたらすぐさま反撃できるようにして僕はなのはとユーノとともにクロノのあとを着いていく。

 

「艦長、来てもらいました」

 

目の前の扉が開き中にはいると。

 

「え?」

 

「これは?」

 

僕となのはは部屋の中を見て固まった。なぜなら、そこには日本文化の盆栽や野点、桜の樹が小さいがあったからだ。というか、外国人が日本文化を見様見真似で再現したような感じの部屋だ。

 

「あ、あのクロノくん?」

 

「なんだ?」

 

「この部屋って艦長部屋、だよね?」

 

「そうだが?」

 

クロノくんの返しに僕となのははさらに唖然する。

そして中にはさっき映っていた女性。リンディさんが野点の赤い敷地の中で正座していた。

 

「お疲れ様。まあ、三人ともどうぞどうぞ楽にして」

 

リンディさんに言われたように僕、なのは、ユーノはリンディさんの反対側に座り、クロノくんはリンディさんの横に座った。

 

「では改めて。リンディ・ハラオウンです」

 

「クロノ・ハラオウンだ」

 

「あ、高町なのはです」

 

「ユーノ・スクライアです」

 

「僕は天ノ宮零夜です」

 

簡単に互いの自己紹介をするとリンディさんが作ったらしきお茶をクロノが羊羮とともに僕らの前に出してきた。

 

「どうぞ」

 

クロノくんから出されたお茶と羊羮に僕となのはは微妙な返事を返した。

 

「あ・・・は、はい」

 

「あ、ありがとう」

 

そこから先はユーノが大体のことを話し、僕となのはがある程度の事を説明した。

 

「なるほど、そうですか。あのロストロギア。ジュエルシードを発掘したのはあなただったんですね」

 

「はい・・・・・・それで、僕が回収しようと」

 

「立派だわ」

 

「だけど、同時に無謀でもある!」

 

クロノの言葉にユーノは項垂れたように気落ちする。

 

「あの、ロストロギアって?」

 

「あ、なのはは聞いてなかったんだよね。あのねなのは、ロストロギアってのは・・・・・・」

 

僕はなのはに以前ユーノから聞いたことと世界図絵で調べて知ったことを簡単に分かりやすく伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なるほど。そんなに危険なものなんですね」

 

僕と途中でのリンディさんの説明になのはは少し恐ろしいと思ったのか声に緊張が走っていた。

 

「ああ。以前君とあの黒衣の魔導士がぶつかった際に起きた震動と爆発。あれが次元震だ。あのときは次元震が小規模だが起こった。たった一個のジュエルシードでもあれだけの影響なんだ、複数個集まって起こったらそれは計り知れない。場合によっては最悪、あの事件より酷いものになるかもしれない」

 

「あの事件?」

 

クロノの言ったあの事件と言うものがわからず僕となのはは首をかしげた。世界図絵を使えばわかると思うけど、それをしようとする前にユーノが答えてくれた。

 

「聞いたことあります。旧暦の462年に起こった次元断層のことですよね」

 

「ええ。あれは酷いものだったわ。幾つもの隣接する並行世界が消え去った。歴史にも残る悲劇」

 

リンディさんとクロノくん、ユーノのからその事件が酷いものだとわかった。一応僕も調べてみることにした。

 

「―――来たれ(アデアット)

 

僕は懐からアーティファクトカードを取り出し世界図絵を取り出して調べる。

 

「「!?」」

 

それを見たクロノくんとリンディさんは動きを止めて目を見開いていた。

 

「零夜くん、それってあの時のと同じもの?」

 

「うん。えっと・・・・・・旧暦462年の次元断層事件・・・・・・あ、あった、これだね」

 

なのはの質問に答えながら僕は世界図絵でその事件のことを調べる。

 

「なるほどね。確かにこれは悲劇としか言えないね」

 

「そんなになの?」

 

「うん。リンディさんが言ったように幾つもの並行世界が消え去ってるよ。ほら・・・」

 

「ほんとなの・・・・・・」

 

調べたばかりの情報をなのはに見せ、僕となのははあまりの事件に驚きしかでなかった。

 

「お、おい、それは一体なんだ?」

 

「え?これのこと?」

 

「あ、ああ」

 

「ええ。あの、零夜さんそれは一体なんなのでしょうか?」

 

「んー。企業秘密です。さすがに今は言えないですね、あなた方を信用していないと言う訳じゃないんですけど、あなたたちの上層部。管理局の上の人たちが知ったら何をするかわからないので」

 

僕は冗談を言うように言う。もちろんその中には軽めの殺気を出しておく。理由は釘を差しておくためだ。

 

「わ、わかりました。それともうひとつ聞きたいのですが」

 

「なんでしょう?」

 

「どうやって私たちのことを知ったのですか?」

 

「そう言えばそうだよ。零夜、どうやって知ったの?」

 

「ん?あぁ、それはこれだよ」

 

僕は懐からもう一枚のアーティファクトカードを取り出して展開する。

 

「この力の王笏の能力でね」

 

僕はそう言うと力の王笏をしまいカードにして懐にしまう。

 

「それで、これからどうするつもりなんですかあなたたち管理局は?」

 

お茶を飲みながら僕はリンディさんに訪ねた。

 

「そうね~」

 

そう言いながら僕となのははリンディさんの動きにギョッ!?とした。何故なら、

 

「ね、ねえ零夜くん」

 

「な、なになのは」

 

「わ、私の気のせいかな、リンディさんがお茶に、お、お砂糖入れてるように見えるんだけど・・・・・・」

 

「うん、僕もそう見える」

 

リンディさんは近くにあった入れ物から角砂糖を何個も取り出してそれをお茶の中にポトポトと入れているからだ。さすがの僕も驚きを通り越して唖然しかない。

 

「・・・あら?あなたたちもお砂糖使う?」

 

「い、いえ・・・」

 

「お、お構い無く・・・」

 

「あら、そう?それにしても、どうしてか誰もお砂糖入れないのよね~。美味しいのに・・・・・・」

 

僕はリンディさんの言葉にとっさにクロノくんに視線を向ける。僕の視線に気づいたのかクロノくんは若干眼を反らした。どうやらリンディさんの行動は今に始まったものではないらしい。

 

「・・・・・・これより、ロストロギア、ジュエルシードの回収については、時空管理局が全権を持ちます」

 

お砂糖を入れたお茶を飲んだリンディさんは真剣な表情でそう言った。

 

「え!?でも!」

 

「次元干渉が関わっているんだ。民間人の出るレベルの話じゃない。君たちも今回のことはすべて忘れて君たちの世界に、普通の日常に戻るといい」

 

「けど・・・・・・!」

 

「まあ、急に言われても気持ちの整理がつかないでしょう? 一度家に戻って、今夜一晩三人でゆっくり考えて。改めてお話しすることにしましょう?」

 

「送って行こう、もといた場所でいいね」

 

リンディさんの言葉に強制的に会話を終わらせるようにクロノくんはいい立ち上がった。

けど、悪いけどそうはいかないよ。クロノくん、リンディさん。

 

「ストップだ!」

 

「ッ!?」

 

「れ、零夜くん!?」

 

「零夜!?」

 

僕は無詠唱でクロノくんの周りに光の球体を現せた。

 

「座ってクロノくん。まだ、話は終わってないよ?」

 

「なに?」

 

「いいから、座って、ね?」

 

僕はにこやかに言いながら軽く殺気を入れてクロノくんに言う。

クロノくんが大人しく座るのを見ると僕はリンディさんに視線を向けた。

 

「リンディさん、一つ良いですか?」

 

「な、なんでしょう?」

 

「何故、さっきあんなこと言ったんですか?」

 

「あんなこと?」

 

「ユーノ、さっきリンディさんは"一度家に戻って、今夜一晩三人でゆっくり考えて。改めてお話しすることにしましょう?"って言ったでしょ?」

 

「あ、ああ」

 

「さて、ここでクロノくんに聞くよ」

 

「な、なんだ?」

 

「なんでさっきの場所にクロノくん一人だけ来たの?」

 

「それは、迅速に戦闘行為を止めるためだ」

 

「うん、確かに迅速に戦闘行為を止めるのは当然だね。でもさ、二人ともあれが、ジュエルシードが危険指定のロストロギアだって気付いてたよね?なのにクロノくんは一人で来た。普通、もう何人か連れてきません?僕だったらあと最低五人は連れていきますね」

 

「そ、それは他の人員は他の任務で出払ってて・・・・・・」

 

「管理局の最優先任務はロストロギアの確保じゃないの?」

 

にこやかに言う僕に、なのはとユーノは引きつった笑みを出していた。逆にクロノくんとリンディさんは顔を青くしていた。何でだろう?

 

「それに、さっきクロノくんは"次元干渉が関わっているんだ、民間人の出るレベルの話じゃない"って言ったよ。そして後からリンディさんが、"一度家に戻って、今夜一晩三人でゆっくり考えて。改めてお話しすることにしましょう?"って言ったんだ。ここまで言われて気付かないユーノ?」

 

「・・・・・・・・・・!」

 

「わかった?」

 

「ど、どういうことなの零夜くん?」

 

「えっと、なのはにも分かりやすく言うと、クロノくんとリンディさんの話は矛盾してるんだよ」

 

「矛盾?」

 

「うん、例で出た旧暦462年の事件みたいなこと起こしてはならないって言ってるのに、ね」

 

「「ッ!」」

 

僕の声にクロノくんとリンディさんはビクッ、と身体を震わせるのに気付いた。

 

「けど、さすがですねリンディさん。さすがはこのアースラの艦長を任せられてる人です。人の上に立つ能力があります、ですが・・・・・・」

 

僕は予め出しておいたアーティファクト、いどのえにっきを見せる。

 

「僕を甘く見過ぎです」

 

いどのえにっきの能力は、対象となる人物の名前を呼んでから開くと、その人物の表層意識を読むことができる。また、複数の相手に縮刷版を一冊ずつ割り当て、リアルタイムで思考をトレースすることも可能だ。

そしてさらに僕は右耳に読み上げ耳(アウリス・レキタンス)を着けている。読み上げ耳は鬼神の童謡(コンプティーナ・ダエモニア)と一緒にいどのえにっきに付いていたアーティファクトだ。

つまりクロノくんとリンディさんの思考はリアルタイムで僕に伝わっていたということだ。

 

「あなたたち二人の思考はリアルタイムで僕に伝わっています。そして、リンディさん。あなたはそう言えばなのはがあなたたちに協力すると践んで言ったんですよね。なのはなら絶対協力すると思って、そしてなのはと一緒に僕も協力するだろうと思って」

 

僕はそう言うと展開していたいどのえにっきをしまう。

 

「ふざけるなよ?」

 

僕の冷たい声に周囲に緊張が走る。

 

「なのはの協力するという純粋な思いをあなたたちの勝手な思惑で汚すな。なぜ、普通に手伝ってくださいって言わなかった?それほどまでに管理局というプライドが重要か?」

 

つい感情的に口調が荒くなってしまったが気にしない。さすがにこれは僕もちょっとイラッときたから。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「艦長!」

 

僕の言葉にリンディさんは何も言わずただ黙っていた。図星みたいだね。

 

「はぁ。呆れたよ。帰ろうかなのは、ユーノ。僕たちだけでジュエルシードを見つけるよ」

 

「え!?ちょっ、零夜!?」

 

「ま、待って零夜くん!」

 

僕のあとを追い掛けるように慌ててなのはとユーノが追い掛けてきた、するとそこへ。

 

「待ってください」

 

リンディさんの声が引き留めた。

 

「なんですか?」

 

「ごめんなさい。私はあなたの言う通り、あなたたちから協力が申し出るように言いました。そうでなければ私の立場上、あなたたちへ協力を要請できないならです」

 

リンディさんは僕らに頭を下げてそう言った。

 

「か、艦長!?なんでですか!?」

 

「理由はなんでですか!?聞かせてください!」

 

リンディさんにクロノくんとなのはが聞く。そしてそれを答えたのは、

 

「人員不足による、戦力の不安。ですよね?」

 

僕だ。

クロノくんが一人で来たように今の管理局の戦力は足りないと情報があった。

 

「クロノくん、一人で対処できないだろう。そう思って僕らに協力を要請するように言ったんですよね?」

 

「・・・その通りです・・・・・・。以前、貴方達の魔力を観測したとき二人から強力な魔力値が検出されました。片方は管理局に数えるほどしかいないAAAランクの魔導師。そしてもう片方は管理局にもいないSSSランクの魔導師。なのはさんと零夜さんのことです」

 

「と、SSSランク!?」

 

「ユーノくん、ランクって何?」

 

「ランクってのは魔導師に付けられるランクのことで一番下がF、そして現段階の最大が・・・SSS」

 

「ええ、私も眼を疑いました。現在管理局にもSSSランクの魔導師はいないのです」

 

「そもそもSランクより上は滅多にいないんだ」

 

「零夜くんって、そんなにすごかったんだ」

 

「そう言われても実感出来ないんだけどなあ~」

 

「(もしかしてアマテラスさんの加護のお陰?さすがにSSSはやり過ぎませんかアマテラスさん!?)」

 

声に出しながらその脳裏で僕はアマテラスさんにつっこんだ。さすがにここまでとは思わなかった。

 

「お願いします!事件解決のため私たちに手を貸してください!」

 

「零夜くん・・・・・・」

 

「零夜・・・・・・」

 

「なのははどうする?」

 

「私は協力してあげたいかな?フェイトちゃんとの決着もついてないし」

 

「ユーノは?」

 

「僕は管理局が手伝ってくれると助かるかな」

 

「なら、決まりだね」

 

「それでは!」

 

「ええ。僕たちも協力させてもらいます」

 

なのはとユーノから聞き、僕ははにかむ笑みを出しながらリンディさんに言う。

 

「ありがとうございます!」

 

「そのかわり、僕らの行動に多少は目を瞑ってください。現時点でもあまり、管理局は信用できないので」

 

いくら世界図絵や力の王笏やいどのえにっきがあるとはいえさすがに信用できるとは思ってない。

念には念のためだ。

 

「わかりました」

 

「あ、あと、上層部が無理矢理従わせようとしたら・・・」

 

「し、したら?」

 

「その人を社会的に抹殺するので。場合によっては管理局を壊すのでそこをお忘れなく」

 

「わ、わかったわ」

 

「わ、わかった」

 

「零夜くん、ちょっと怖いの」

 

「なのはに同意だよ」

 

僕の言葉に引きつった笑みを浮かべながら答えるリンディさんとクロノくんに、若干怯えながら言うなのはとユーノの声が聞こえるがそんなに怖いかな?

 

「と、ところでなんだが」

 

「ん?なにクロノくん?」

 

「クロノでいい。零夜、君、男なのか女なのか性別、どっちなんだ?」

 

「え?男だよ?」

 

不思議そうな表情を出して言う僕に、クロノとリンディさんは艦内に響くんじゃないかと思うほどの驚きの声をあげた。

うん、久しぶりにその反応見た気がするよ。

僕はそう思いながら鬱状態になり、そこをなのはが苦笑いを浮かべながら背中をさすってくれた。

 

 

 

 

 

 



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決戦は海の上で

 

~零夜side~

 

 

 

 

「―――てなわけでしばらく来れないんだ。って言ってもそんなに長い間これない訳じゃないけど」

 

「それなら仕方ないのやけど・・・・・・」

 

僕、天ノ宮零夜は今、八神家ではやてにしばらく来れないと言うことを話していた。

理由はジュエルシード捜索をリンディさんたち管理局、アースラが行うため、拠点をアースラに移すからだ。僕としては拠点をアースラに移さなくても、ジュエルシードの場所まで転移出来るから自宅の方がいいんだけど、そうなると学校に行っている最中に発動した場合、現地に向かえないのと、近所の人に見つかったら大変なのと、なのはたちがそっちに移動するからだ。

そんなわけでしばらくはやての家に来れないと言うことを魔法のことなどは伏せて、説明していたのだ。

 

「でも、気を付けてな零夜くん」

 

「うん。わかってるよはやて。はやてこそ無理しないでね。唯でさえはやて危ないんだから」

 

「もちろんや。ちょっとは私を信用してくれてもいいんちゃう?」

 

「それで前に風邪を引いて倒れたのは誰だったかな?」

 

「うっ・・・・・・。それは言わんといてぇな・・・・・・」

 

「ハハハ」

 

間が悪そうに目を反らすはやてに僕は軽く笑った。

 

「あの時は心配したんだからね?」

 

「その節はご心配お掛けして・・・・・・」

 

「まぁ、はやてが大丈夫ならいいよ」

 

「零夜くん///」

 

言いながらはやての頭を撫でると、何故かはやては顔を赤くした。

 

「ん?大丈夫はやて?顔赤いけど・・・もしかして熱!?」

 

「だ、大丈夫や!気にせんといて!」

 

「う、うん」

 

はやての顔を赤くしながら言う剣幕にちょっと引きながら、はやての言葉にうなずいた。

 

「あ、私からもお願いや」

 

「?」

 

そう言うとはやては僕の両手を握って顔を近づけて言った。

 

「また、私のところに戻ってきてや。ちゃんと、元気な姿で」

 

「ッ!」

 

はやての言葉にはある重みがあった。それは僕が抱えている重みと同じだ。

失ないたくない。大切な人を失ないたくない、そんな想いの重み。

 

「うん、約束する。絶対、はやてのところに戻ってくるから」

 

「約束や」

 

「うん、約束」

 

僕ははやてと右手の小指を重ねて指切りをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十日後

 

 

 

僕となのは、ユーノがアースラに来てから十日が経過した。はやてに言った翌日、僕たちはアースラに来ていた。

現在、こっちに来て確保したジュエルシードは3つ。フェイトの方は2つのジュエルシードを確保していた。これで残りは6つ。それは今、エイミィさんたちアースラのクルーが捜している。

そして僕は、待機中の間に世界図絵などアーティファクトをフルに使ってプレシア・テスタロッサについて調べていた。この事はなのはにもユーノにも。もちろん、リンディさんやクロノたちにも言っていない。

そして、調べていくなかで分かったことが幾つかあった。まず、フェイトはプロジェクトFと呼ばれる研究成果でアリシアに聞いた通り、アリシアの記憶をもって生まれた女の子。そして、プレシア・テスタロッサがこんなことをした理由も大体把握できた。彼女は娘のアリシアを生き返らせようとしているのだ。アリシアが命を落とした理由も判明した。

当時、プレシア・テスタロッサが所属していた組織『アレクトロ社』がすべての元凶かつ大元だ。プレシア・テスタロッサは仕事上の重圧や、所属していた組織、『アレクトロ社』上層部からの無茶で無謀な指令の数々に追われていた。そして、当時プレシアが開発していた駆動炉への上層部からの安全基準をほぼ・・・・・・と言うか完全無視した命令の結果であり、本来なら来月に行われるはずの実験を十日後に行い、駆動炉が暴走。それにより発生した放射能汚染によりアリシアと飼っていた山猫が亡くなった。それからプレシア・テスタロッサはプロジェクトFに参加し人造生物の開発と記憶移植の技術を学び、アリシアのクローン、フェイトを生み出した。

すべてを理解した僕は怒っていた。

それはプレシア・テスタロッサにじゃなく、すべての元凶の『アレクトロ社』にだ。

 

「くっ!ホント、許せないね。あり得ない以外ないよ・・・・・・」

 

歯を食いしばって僕は怒りを抑える。

 

「絶対に助ける。フェイトもアルフも。そして、アリシアもプレシア・テスタロッサさんも・・・・・・!こんな悲しいことなんて・・・・・・僕は絶対認めない!」

 

僕はフェイトたちを助けるための準備に取りかかった。

 

「ステラ」

 

《はい》

 

恐らくだが、プレシアさんはなんらかの攻撃魔法をこのアースラに放つだろう。フェイトを助けるために。だが、それは公務執行妨害となる恐れがある。だから、そうならないために、僕はアースラの周囲に防御魔法を張る。これで、アースラ内部に衝撃は多少来るだろうが問題ない。詰まるところ、アースラに攻撃したという事態をなくせば良いのだから。つまり、アースラに当たらなければいいと言うことだ。

 

「―――これでいいかな・・・・・・?一応、これで大丈夫だと思うけど」

 

僕はステラを起動させてアースラの周囲3メートルに多重障壁を張る。念のため強度をかなり上げて、三層に展開しておく。

 

《多重障壁を展開したので、マスターほどのクラスの威力の魔法でなければ破壊されることはないかと思いますわ》

 

「ありがとうステラ。あとはアリシアを助けないと。あー、でも、僕のアーティファクトに死者を生き返らせる・・・・・・蘇生系ってあったかな・・・・・・?」

 

僕はステラと会話しながら脳裏に所持しているアーティファクトを浮かばせる。

普段アーティファクトは異空間収納に入れてる。そしてアーティファクトは以前アマテラスさんから送られたものだ。

 

「いや、待てよ・・・・・・」

 

と言ったところに。

 

『エマージェンシー!捜索区域にて大型の魔力反応検知!』

 

艦内にアラーム音とそんな放送が響き渡った。

 

「まさか・・・・・・フェイト・・・」

 

嫌な予感がした僕は急いで艦橋に向かった。

艦橋に向かうと正面スクリーンに海鳴市の海が映し出されていた。だが、その海は荒れ狂い、6つの竜巻らしき水流が出ていた。

そしてそこに、バルディシュを展開しているフェイトと狼姿のアルフがいた。

 

「なんとも呆れた無茶をする子だわ」

 

艦長席に座っているリンディさんが呆れたような声で言った。

 

「無謀ですね。あれでは、間違いなく自滅します。あれは、明らかに個人の出せる魔力の限界を越えている」

 

その下のクロノもリンディさんに同意のようだ。

するとそこへ。

 

「フェイトちゃん!」

 

なのはが艦橋にやって来た。

 

「あの、私すぐに現場に!」

 

「その必要はないよ。放っておけばあの子は自滅する」

 

「は・・・?」

 

クロノの言葉に僕はつい声に出していた。

 

「仮に自滅しなかったとしても・・・力を使い果たしたところで叩けばいい」

 

「でも・・・!」

 

「今のうちに捕獲の準備を」

 

「了解」

 

確かにそれは最善な選択なのかもしれないが・・・・・・。

僕がそう思っていると、

 

「私たちは常に最善な選択をしなければならないの。残酷かもしれないけど、これが現実よ」

 

リンディさんがそうなのはに言った。

 

「(ちょっとさすがに僕もそれは看過出来ないね)」

 

僕はそう思うのと同時に、後ろのなのはに振り向いて言い、

 

「はぁ~。・・・・・・なのは」

 

「零夜くん・・・・・・」

 

「行くよ、フェイトのいる場所に」

 

「うん!」

 

なのはと転移ポータルに向かう。

 

「ユーノ、お願い」

 

「任せて零夜。だからなのはと一緒に彼女を・・・」

 

「わかってるよ、ユーノ」

 

僕はユーノにうなずいて転移ポータルへなのはと向かう。

 

「何をしている!」

 

だが、そこへクロノの声が響いた。

僕は少しため息をついてクロノたちの方に向き直る。

 

「何をしている、って、現場に行くだけだよ?それ以外何があるの?」

 

「さっきの話を聞いてなかったのか!」

 

「聞いていたよ。でもね・・・・・・」

 

僕は一旦言葉を区切り、以前クロノに向けた殺気より強く出してクロノたちに言う。

 

「まず人の命の方を優先しなよ」

 

酷く冷たく、絶対零度、永久凍土を彷彿させるような声と殺気を乗せて言う。

それを聞いたクロノは後退り、リンディさんは顔を真っ青にして僕の方を向いた。それは他の人たちも同様だった。

 

「それとも管理局の方針は、人の命よりジュエルシードとかのロストロギアが最優先なの?違うよね?ロストロギアとかそんなのよりまず第一なのは人の命・・・なんじゃないの?」

 

僕の声にクロノたちは何も言えずにいた。

 

「それじゃあ行こうか、なのは。フェイトのいる場所へ」

 

「う、うん」

 

僕となのはは転移ポータルに入り、

 

「ユーノ!」

 

「わかった!あの子の結界の中へ!」

 

ユーノにフェイトたちの結界の中へと転送してもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行くよ。なのは!」

 

「うん!零夜くん!」

 

結界内に転移した僕となのははデバイスを展開させる。

 

「いくよ、レイジングハート」

 

なのははレイジングハートのペンダントを取り出して、起動パスを唱える。

 

「風は空に、星は天に。輝く光はこの腕に。不屈の心はこの胸に!レイジングハート、セーットアーップ!」

 

《Stand by lady》

 

「僕らも行くよ、リンカーネイト!」

 

《イエス、マスター!》

 

「リンカーネイト、セットアップ!」

 

僕はなのはと同時にバリアジャケットとデバイスを展開し、下にいるフェイトたちのもとへ一直線に、真っ直ぐに向かった。

 

「フェイトの・・・邪魔を・・・するなぁーーー!!」

 

風盾(デフレクシオ)!」

 

僕に向かってアルフは攻撃してくるが僕はそれを風盾で受け止める。

 

「待ってアルフ!僕らは戦いに来たんじゃない!君たちを助けに・・・ジュエルシードを止めに来たんだ!」

 

「なに?」

 

「フェイト一人じゃ6つのジュエルシード封印は無理だ!こんな状況で戦うほど僕らは冷たくないよ!」

 

「あんた・・・・・・」

 

僕の言葉にアルフは爪を引き、うなずいた。

 

「わかった。お願い、フェイトを助けて」

 

「任せて。ユーノ!」

 

僕はアルフの言葉にうなずいてユーノを呼ぶ。

 

「わかった!」

 

ユーノは僕の言いたいことが分かったのか拘束系の魔法で ジュエルシードの引き起こした竜巻を抑える。だが、ユーノの拘束魔法はすぐに破壊されてしまう。

 

「アルフもユーノに協力してほしい!」

 

「わかった」

 

「なのははフェイトにジュエルシードを封印するくらいの魔力を分け与えてあげて!」

 

「わかったの!」

 

なのははフェイトのいる場所に向かう。

 

「さてと。しばらくは僕が引き付けないとね。いくよ、リンカーネイト!」

 

《はい!》

 

僕はなのはたちに指示を出してジュエルシードの方へ飛ぶ。

 

「ちょっと本気でやるよ・・・・・・。リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。来たれ氷精、闇の精。闇を従え、吹雪け、常世の氷雪。闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)×(セクス)!」

 

闇の吹雪をジュエルシードの起こしている竜巻とぶつけ、威力を落として阻害する。

 

「さらに・・・・・・。来たれ雷精、風の精。雷を纏いて吹きすさべ、南洋の嵐。雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)×(セクス)!」

 

そこに立て続けて雷の暴風を放つ。

闇の吹雪と雷の暴風で竜巻はある程度威力を相殺した。これで、ユーノとアルフの拘束魔法が効くはずだ。

 

「ユーノ!アルフ!」

 

「うん!」

 

「あいよ!」

 

僕の声に後方からユーノとアルフの拘束魔法が竜巻の動きを止め縛る。

 

「なのは、フェイト、いける?」

 

「もちろん!」

 

僕はなのはとフェイトに近づきそう聞く。

 

「私と零夜くん、フェイトちゃんの3人でキッチリ半分こ。それでいい?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「いいよ、なのは!」

 

なのはの言葉に僕はうなずき、フェイトは無言の沈黙戸惑ったように答えた。

 

「ユーノとアルフが止めてくれてる。僕たち3人で同時に封印するよ」

 

僕がそう言うとなのはのレイジングハートはシューティングモードに。フェイトはバルディシュの形を変えて。

 

「いける?リンカーネイト」

 

《もちろん!》

 

「うん。それじゃあ、リンカーネイト、砲撃形態(シューティングモード)!」

 

《イエス!砲撃形態》

 

リンカーネイトの形態を砲撃形態に切り替える。

僕となのは、フェイトの前にそれぞれ白黒色、ピンク色、金色の魔方陣が現れる。

 

「ディバインバスター、フルパワー。いけるね」

 

《Allright My master》

 

「リンカーネイト、いける?」

 

《イエス!》

 

それぞれの魔方陣はどんどん大きくなっていき、ある程度の大きさで止まった。

なのはの前のピンク色の魔方陣からはピンク色の魔力が、フェイトの前の金色の魔方陣からは雷が迸っている。そしてその中で、僕の前にある白黒の魔方陣からは魔力があふれでていた。

 

「せーの・・・!」

 

なのはの声を合図にして、

 

「サンダー・・・!」

 

「ディバイン・・・!」

 

「マテリアル・・・!」

 

「レイジ!」

 

「バスター!」

 

「ブラスター!」

 

同時に砲撃魔法を放った。

僕らの魔法砲撃はジュエルシードとぶつかり、呑み込んでいった。僕らの砲撃とジュエルシードがぶつかった結果、凄まじい衝撃波が僕らを襲う。

それが収まると、目の前には6つのジュエルシードが浮遊していた。

僕はジュエルシードに近づき、6つのジュエルシードのうち3つを取り、もう3つをフェイトに渡す。

 

「はい。フェイトたちの分」

 

「あ・・・いいの?」

 

「いいの?もなにも。言ったでしょ?半分こだって。だから、はい」

 

「あ、ありがとう///」

 

顔を少し赤らめたフェイトはそう礼を言うと、僕からジュエルシードを受け取った。

僕はずっと静かにフェイトを見ているなのはに視線を向けた。

 

「なのは?」

 

「友達に、なりたいんだ」

 

「え・・・・・・?」

 

なのはの呟きに僕は疑問符を浮かべたが、すぐに理解できた。なのはは小さな頃の自分とフェイトを重ねているんだ。僕とはじめて出会ったときのなのはに。

なのははフェイトに手を差し出した。それに対してフェイトも恐る恐るゆっくりとなのはに手を差し出そうとする。そのとき、

 

「ッ!?」

 

「(この魔力反応は・・・・・・!)」

 

僕は感じた魔力に覚えがあった。

僕は瞬時にフェイトの側に移動しようとしたが。

 

「くっ!」

 

上空から、巨大な紫色の雷が僕とフェイトに向かって一直線に降りそそがれた。

 

「零夜くん!フェイトちゃん!」

 

「くっ!フェイト!」

 

僕は無詠唱で発動させた風盾で雷を防ぐがフェイトはそうはいかずに。

 

「くうぅぅぅううううう・・・・・・!」

 

紫雷を浴び、苦悶の表情に満ちていた。

 

「くっ!」

 

「(確かプレシア・テスタロッサさんの魔導師ランクは条件付きのSSだったけ。これならSSだとなっとくいくね)」

 

僕は調べた情報を思い出して脳裏に思った。

実際、この雷は僕の雷系統魔法の白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)と同レベルだ。

さすがに白き雷と同レベルの魔法は風盾じゃ完全に防ぎきれない。

さらに上空から巨大な雷が降り注ぎ、視界が見えなくなった。やがて視界が回復すると目の前にはフェイトもアルフも。もちろん、ジュエルシードも無くなっていた。

 

「ミスったね。あそこまでの力だとは思わなかったよ」

 

僕は雷の止んだ空を見上げてそう呟いた。

 

「大丈夫!零夜くん!?」

 

「無事、零夜!?」

 

「なのは・・・ユーノ・・・大丈夫だよ」

 

「(あの紫雷、本気のレベルじゃなかった。たぶん、僕を牽制するための雷だ)」

 

僕は心配してくるなのはとユーノに言いながらさっきの雷について考えていた。

辺りは先程の戦いが嘘のように空から太陽の光が降り注がれていた。

 

 



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それぞれの胸の誓い

 

 

~零夜side~

 

 

フェイトととのジュエルシード封印を終えた僕らは、突如降り注いだ雷により攻撃され、フェイトとアルフは去り、僕となのは、ユーノはフェイトたちを見失うこととなった。

そして今、僕、なのは、ユーノはリンディさんとお話ししていた。

 

「指示や命令を守るのは個人のみならず、集団を守るためのルールです。勝手な判断や行動があなたたちだけでなく周囲の人たちも危険に巻き込んだかもしれないと言うこと。それはわかりますね」

 

「「はい・・・」」

 

「本来なら厳罰に処すところですが、結果として幾つか得るとすることがありました。よって今回のことは不問とします」

 

「一つ良いですかリンディさん」

 

「なんですか?」

 

「僕はあなたたち管理局に協力する代わりに幾つかの条件を出しました。それを忘れてませんか?」

 

僕はリンディさんを見ながらそう言う。

僕が、管理局に協力する代わりにだした幾つかある条件の一つに、多少のことは眼を瞑るようにと言った。何故、こんなことを言ったのかと言うと、さっきもそうだったように管理局は必要とあらば犠牲すらも有無を問わないからだ。さすがにそれは僕としては到底許容できない。そのため眼を瞑るようにと条件に出したのだ。

 

「それに、このアースラにも次元干渉攻撃が来たはずですよ」

 

「何故その事を?」

 

リンディさんの眉がわずかに動いたのを僕は見逃さなかった。隣に立つなのはとユーノは驚いたように僕の方をみた。

 

「このアースラの周囲3メートルには僕が張った障壁が3重に展開されています。攻撃を受ければ気付きます」

 

「・・・確かに攻撃を受けました。ですがそれとこれとなんの関係が?」

 

「一つ、僕は条件に多少のことは眼を瞑るようにと言いました。そしてもう一つ、今回の次元干渉攻撃、アースラに直接攻撃はされてません。つまりは無傷です。何故なら僕の張った障壁が受けたんですから。つまり、今回の僕らの行動と、次元干渉攻撃を防いだ、というので両者とも今回のことは無しとしましょう」

 

「・・・・・・わかりました。確かに、あなた方からの条件ですし、結果的にアースラはあなたに護られたと言うことになりますしね」

 

「ええ。ですが、一つだけ言っておきたいことが」

 

「なんでしょう?」

 

「優先すべきことを間違えないでください。今回のこと、僕はまだあなたたち管理局の行動と判断を許したわけじゃありません。人の命と、ロストロギアの捕獲どっちが大事か、判断を見誤らないように。もし、またあのような判断した場合は・・・」

 

「場合は・・・・・・?」

 

「管理局を破壊します。ちなみにこれは脅しではなく本気ですからね」

 

僕は軽くリンディさんに殺気を送って言った。

正直、管理局のこと調べると調べるほど管理局の上層部は腐っていることが分かった。だからリンディさんたちに警告したのだ。リンディさんたちがその上層部の連中の色に染まらないようにも含めてだが。

僕の言葉に、リンディさんは少しだけ退いたがすぐにうなずき返した。

 

「わかりました。肝に命じましょう。さすがに私たちとしても零夜さんを敵に回したくありませんからね」

 

「ええ。僕も少なくとも今はリンディさんやクロノたちと争いたくありませんから」

 

僕はリンディさんの言葉にうなずき返しそう返す。

そのあとエイミィさんとクロノからこの事件の首謀者、フェイトとアリシアの母親、プレシア・テステロッサのことがなのはとユーノに伝えられた。

まあ、僕はもう知っているんだけどね。と言うか、今更なんてちょっと遅すぎないかな?

エイミィさんの話を聞きながらそう思う。やがてリンディさんの提案で一度自宅のほうに帰ってはどうかと聞かれた。確かに、いつまでも学校休んでいると回りの人に心配かけるから一度戻った方がいいかもしれないね。

リンディさんの提案を受けた僕となのは、明日アースラから海鳴市に戻ることにしなのはとユーノは会議室から出ていった。

僕は少しだけリンディさんたちに話があるから残った。

 

「エイミィさん」

 

「なにかな零夜くん?」

 

「なのはとユーノに言ってないことがあるんじゃありませんか?例えば・・・・・・プレシアさんの家族が巻き込まれた駆動炉の事件・・・とか」

 

僕の言葉にエイミィさん、クロノ、リンディさんは驚いた表情を浮かべた。

 

「どうしてその事を知っているんだ!?」

 

「どうしてって、調べたからだけどクロノ?」

 

「し、調べただと!?」

 

「うん。エイミィさんが調べる前からね」

 

「ど、どういうこと?!なんで零夜くんはプレシア女史のことを知ってるの!?プレシア女史のことは今日、今この場で言ったんだよ?!」

 

「なんでって言われても・・・」

 

「もしかして零夜さん、初めから知っていたのですか?プレシア女史のこと。そして彼女がアースラに攻撃することを・・・・・・?」

 

「予想だけはしてましたから。障壁を張っておいて正解でした」

 

僕は苦笑してリンディさんに返した。

正直、行く前に張っておいて良かったと思うよ。

僕の言葉に何故かクロノ、リンディさん、エイミィさんは顔を真っ青にしていた。

やがてクロノが僕に聞いてきた。

 

「・・・・・・零夜、2つだけ聞かせてくれ」

 

「なにクロノ?」

 

「君の魔法・・・あれは一体なんなんだ?観たところミッド式でもベルカ式でもない・・・君の魔法の種類は一体なんなんだ?」

 

「えっと・・・ミッド式とかベルカ式とかよく分からないんだけど・・・・・・」

 

僕はさすがにこの世界の魔法については調べてなかったため、クロノの言ったミッド式とベルカ式ってのがよくわからなかった。

 

「(その2つについては後で調べるとして、何て言おう)」

 

僕はクロノの問いの答えを模索していた。

 

「う~ん・・・・・・何て言ってらいいかな・・・。たぶん、この世界じゃ僕だけが使える魔法・・・かな?」

 

「そうか・・・・・・まあ、いい。だが、この質問にはキチンと答えてもらうぞ」

 

「なに?」

 

「―――君は僕らの敵か、味方か、どっちだ?」

 

「そうだね・・・・・・。どっちでもないよ。今はクロノたちに協力してるけど、それは僕がなのはがユーノの助けしているのを手伝いたいと思ったから。僕は自分の行動は自分で決めてるよ」

 

「そうか・・・・・・」

 

「それに、このことをなのはに伝えなかったのは余計なこと言って迷わせたくないから・・・ですよね」

 

僕は視線をリンディさんに向け訪ねる。

 

「え、ええ・・・」

 

「ま、その事が聞けただけでも良しとしますか。あ、リンディさん」

 

「なにかしら?」

 

「今回のプレシアさんのアースラへの攻撃って、公務執行妨害に入ります?」

 

「・・・・・・いえ。直接、アースラに被害があったわけではないので公務執行妨害ではありません」

 

「ならいいです。あ、エイミィさん」

 

「なあに?」

 

「その情報本当に合ってるんですか?」

 

「え・・・?」

 

「エイミィさん、ヒントは『アレクトロ社』です」

 

「アレクトロ社って確かプレシア女史が勤めていた・・・・・・」

 

「僕からはこれだけです。あとは、あなたたち管理局の出番なのでは?それじゃあリンディさん、明日お願いします」

 

そう言うと僕は会議室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜が会議室から出ていったあと。

 

 

「ふぅ」

 

「大丈夫ですか艦長?」

 

「ええ。それにしても零夜さんのことホントよく分からないわ」

 

「はい、異常なまでの魔力値。さらに指揮官としての判断力。そして、あの信じられないほどの冷たい殺気。どう考えても普通の一般人には見えません」

 

「そうね。エイミィ、彼のことは調べたの?」

 

「そ、それが・・・・・・」

 

「?」

 

「調べようとすると何故かエラーが出るんです。こんなこと今まで無かったのに」

 

「恐らく警告なんだろう。これ以上探るなという」

 

「でしょうね。彼の使う魔法やあの魔導具にも興味はあるのだけど、さすがにこれ以上したら私たちが危ないわ」

 

「ええ、彼のあの目・・・。あれは冗談で言ってる眼じゃなかった」

 

「それに最後のあの言葉・・・・・・一体どういう意味なの・・・・・・」

 

「アレクトロ社か・・・・・・」

 

「エイミィ、ちょっと調べてみてくれる」

 

「わかりました」

 

「それにしても零夜・・・君は一体・・・・・・」

 

「ホント、一体何者なのかしらね・・・・・・」

 

 

クロノ、リンディ、エイミィは恐る恐るとそんな会話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 

 

翌日アースラから海鳴市に帰ってきた僕となのははアリサとすずかにメールで連絡して、なのははフェレット姿のユーノと私服姿のリンディさんと一緒に高町家へ。僕は3人と分かれて自分の家に帰ってきていた。

家に着くと僕はすぐさま洗濯など掃除をする。それが終わると僕ははやてにメールを送った。

すると、メールを送った30秒後、はやてから電話がかかってきてすぐに家に来てと言われ、今僕は八神家に来ていた。

そして・・・・・・

 

「え~と・・・・・・あの、はやてちゃん?」

 

「なんや零夜くん」

 

「なんで僕はこんな服を着ているんでしょうか?」

 

「そんなの決まってるやろ」

 

「と言いますと?」

 

「私を心配させたバツや」

 

「だからって・・・・・・なにも女装させなくても良いのではないでしょうか?」

 

僕ははやてから渡されたはやての服。つまり女子の服を着ていた。と言うより着せられていたりする。

なんでも、僕から連絡が来なくて心配だったそうだ。そう言われると僕もぐうの音も出ないのだが・・・・・・。

 

「それに明後日にはまた行くんやろ?」

 

「まあね」

 

「なら、今日1日私の言うこと聞いてや」

 

「まあ、いいよ。あれ、でも、今日って確か午後から病院じゃ・・・・・・」

 

「そうやよ。やから、零夜くんにも着いてきてほしいんや」

 

「ハハ。わかったよ、はやて」

 

一応何かあったら念話で来るようになっているし、僕ははやての行動に付き合うことにした。

 

「ところで、何時まで僕はこの服を着ていればいいの?」

 

「あ、次はこの服な」

 

「え・・・・・・?」

 

「他にもまだ仰山あるからなぁ~」

 

「マジで・・・?」

 

「うん」

 

そのあと僕はお昼頃まではやての着せ替え人形になっていたのだった。ちなみにほとんどの服がはやての服と言うか何て言うか、女子の服だった。

はやての服を僕が着ることに違和感があるのだがはやて曰く、零夜くんが私の服を着てもなんの関係あらへんで、だそうだ。さすがにそれは僕が気恥ずかしくなる。ちなみに何故かそのときはやての顔が少し赤くなっていたのが不思議だった。

そんなこんなで午後。

 

「それじゃ僕は石田先生とちょっと話してくるからはやては少し待ってて」

 

「わかったで」

 

海鳴大学病院にはやての付き添いで来た僕ははやての主治医である石田先生に呼ばれ、先程までいた部屋で石田先生と話していた。

 

「家や零夜君と一緒にいるはやてちゃんの様子はどうかな?」

 

「普通の女の子変わらない様子ですよ」

 

「そう・・・よかったわ」

 

「はい。石田先生、はやての病気のほうは・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

僕の問いに石田先生は眼を瞑って首を横に振った。

つまり、変わってないってことだ。

 

「そう・・・ですか・・・・・・」

 

はやての病気は何故か知らないが僕のアーティファクトでも治せなかった。治せなかった・・・・・・というより何かに掻き消されたような感じだった。

 

「私たちも頑張ってはいるんだけど・・・・・・」

 

「わかってます。石田先生、はやてのことこれからもお願いします」

 

「もちろんそのつもりよ」

 

石田先生と話終えた僕は廊下で待っているはやてと一緒に途中図書館に立ち寄って八神家に帰った。

その道中。

 

「ん?」

 

僕は何処からか視線を感じた。

 

「どうしたん、急に立ち止まって」

 

「ううん。気のせいだと思うから気にしないで」

 

「ならいいわ」

 

僕ははやての車イスを押して八神家に入る。

そしてその姿を一匹の猫が視ていたのを僕は視界の端で捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 

 

〈それで・・・なのははどうするつもり?・・・・・・まぁ、聞かなくても分かることだけどね〉

 

アースラから海鳴市に戻った翌日、僕は学校に行った放課後の今、アリサの家になのはとすずかとともにお邪魔していた。

そしてアリサの家には怪我をして包帯を巻いて治療している狼姿のアルフの姿があった。その訳を聞くため、フェレット姿のユーノとアースラにいるクロノがアルフから事情を聴いていた。

アルフは今回のことの顛末を話した。そして、フェイトを助けてほしいと頼んできた。

それを念話越しで聞いた僕となのはは念話で会話していた。

 

〈うん。私は・・・フェイトちゃんを助けて、友達になりたい!〉

 

〈そう言うことらしいよクロノくん?〉

 

〈わかってる。それと君にクロノくん?と呼ばれると寒気が走るのだけど・・・・・・〉

 

〈気のせいじゃないかな?エイミィさんに呼んでもらったら?〉

 

〈だってよクロノくん〉

 

〈はぁ・・・エイミィまで・・・・・・。なのは、フェイトのことは君に任せる〉

 

〈ありがとうクロノくん〉

 

〈それじゃああれを完成させないとね、なのは?〉

 

クロノからフェイトのことをなのはに任せられ、僕はなのはにそう訪ねた。

 

〈うん〉

 

〈あれ?〉

 

クロノが疑問声で聞いてきた。

 

〈秘密だよ。多分だけどなのは最強の魔法かもしれないよ〉

 

〈なにを企んでいるんだ君は〉

 

〈クロノほどじゃないよ〉

 

呆れた様に言うクロノに僕は意地の悪い声で返した。

 

〈まあ、いい。それよりエイミィ〉

 

クロノが僕だけに念話で話してきた。

 

〈うん。零夜君、確かに零夜君の言っていた通り調べたら零夜君の言っていたのと同じだったよ〉

 

〈もう調べたんですか!?〉

 

〈気になったからね。本局に問い合わせたりして超大急ぎで調べたよ。・・・・・・あの事件のことを〉

 

どうやら知ったみたいだね、すべてを。

 

〈それで、時空管理局としてはどうするつもり?〉

 

〈プレシア・テステロッサを捕縛する。すべてはそこからだ。フェイト・テステロッサのことはなのはに任せているから、零夜、君にはこっちを手伝ってもらうよ〉

 

〈初めからそのつもりだよ。僕としても、フェイトやアルフ、プレシアさんを助けたいからね。(もちろん、アリシアも)〉

 

〈そう言ってもらえると助かる。アースラへと帰還は明日の朝だ。それまでにフェイト・テステロッサと遭遇した場合は・・・・・・〉

 

〈わかってるよ。すべてはなのはに掛かってるから〉

 

〈だな。もし戦闘になる場合は僕たちが・・・・・・〈クロノ、それについては僕に任せてくれないかな?〉・・・・・・どう言うことだい?〉

 

〈クロノ、戦闘になった場合は周囲に被害が出ないようしてって言おうとしたでしょ?〉

 

〈ああ〉

 

〈なら、そのまえにフィールドを構築した方がいい。幸い僕の持ってるアーティファクトに広域結界形があるしね。そうすれば周囲を気にすることなく戦えるけど?〉

 

〈ふむ。確かに一理ある・・・・・・わかった。君に任せよう。頼むぞ零夜〉

 

〈ありがとうクロノ〉

 

僕とクロノはそう会話すると念話を切り、すずかとアリサ、なのはと一緒に子供らしく(まあ、子供なんだけど)ゲームをしてほんの一時の安らぎを僕となのはは得た。なにもない純真無垢な気持ちで。僕にとっては懐かしいような、なのはとすずか、アリサ、はやてと友達になってからずっとこんな心が安らぐような気持ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日 早朝

 

 

 

 

「準備はいい、なのは?」

 

「バッチリだよ。ね、レイジングハート」

 

《Yes。No problem My master》

 

「それじゃ・・・・・・始めるよ」

 

僕は懐から特殊固有武器(アーティファクト)カードを1枚取り出し、起動ワードを言う。

 

来たれ(アデアット)

 

僕が展開したアーティファクトは無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)。広域結界タイプのアーティファクトだ。これにより、この空間と外界は別次元となり、僕が指定した人や物以外はこの閉鎖空間に侵入できないし、外に出ることもできない。

無理やり出ようとするならば、術者である僕を倒すか次元を無理矢理捻じ曲げこの空間ともとの空間を繋げるということだけなのだが・・・・・・正直後者のやり方は理論だけなので確証はない。と言うか絶対無理なはず。

そして僕のいる場所は高層ビルの屋上。近くにはユーノとアルフが人の姿で、なのはがいる場所を見ていた。なのはがいるのは半壊された庭園のような場所で、中にある噴水の前でバリアジャケットとレイジングハートを装備してフェイトが来るのを待っていた。ちなみに、クロノたちはこの空間内をアースラから観ている。

 

「お願い・・・出てきてフェイトちゃん」

 

なのはのそんな声が耳に入りしばらく待つ。

やがて、なのはの後ろの丸い台の頂点部分にフェイトがデバイスのバルディシュを握って降り立った。

 

〈フェイト!もうやめようフェイト。あんな女の言うことなんてもう聞いちゃダメだよ・・・。フェイト、このまんまじゃ不幸になるばかりじゃないか・・・。だからフェイト・・・!〉

 

フェイトに念話で話すアルフに、フェイトは静かに首を横に振った。

 

〈それでも・・・私はあの人の・・・母さんの娘だから・・・・・・〉

 

静かにそういうフェイトになのはが声を発して言う。

 

「ただ捨てればいいってわけじゃないよね?逃げればいいってわけでももっとない。きっかけは・・・きっとジュエルシード。だから賭けよう。お互いが持ってる・・・全部のジュエルシードを!」

 

《Release Jewelseed》

 

なのはの声にレイジングハートがジュエルシードを出して、それぞれ今まで集めてきたジュエルシードが現れる。

 

「それからだよ・・・全部、それから」

 

レイジングハートを構えてなのはフェイトを見る。

 

「私たちのすべてはまだ始まってもいない。だから・・・本当の自分を始めるために・・・」

 

一旦区切ると、なのはは真剣な眼差しでフェイトを見て言った。

 

「始めよう・・・最初で最後の本気の勝負!」

 

 

 

 

 



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なのはvsフェイト

 

~零夜side~

 

 

ジュエルシードを賭けてなのはとフェイトの戦いが始まった。

フェイトがデバイス、バルディシュでなのはに切掛かる。なのははフェイトの攻撃を後ろに飛び退いて、上空に飛び上がる。それに続いてフェイトもなのはを追いかけるように飛び上がる。

 

「零夜、なのはは勝てると思う?」

 

「一応、なのはにも秘策はあるからね。とっておきのが・・・・・・」

 

「フェイト・・・・・・」

 

なのはとフェイトの戦闘区域から離れた場所で僕たちは二人の戦闘を見守る。

 

「それにしても・・・・・・」

 

僕は二人の戦闘した跡を見てため息が出た。

 

「結界を張っておいて正解だったね。ここならいくら壊しても外に影響はないから」

 

あちこちになのはのピンクの魔力弾とフェイトの黄色の魔力弾が炸裂する。

遠距離からの魔力弾の攻撃。近接戦ではなのはのレイジングハートとフェイトのバルディシュ。互いの持つデバイスが鍔迫り合う。

 

「(プレシアさんも見てるよね。この戦いの光景・・・)」

 

空を見上げて声には出さずに発した。

なのはとフェイトの魔法で結界内のレイヤー建造物はほぼ半壊と化していた。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~プレシアside~

 

 

 

「フェイト・・・」

 

目の前の空間ウインドウに映る映像を見ながら、(フェイト)を心配する。

 

「始まったんですか」

 

「ええ」

 

見ていると、アリシアを見てきた使い魔のリニスが声をかけてきた。

 

「プレシア、本当に良いんですか?」

 

「ええ。あの娘にこれ以上罪を重ねてもらうつもりはないわ。それより、ジュエルシード転送の準備は整ってるのかしら?」

 

「出来てますよ。何時でも」

 

「そう・・・・・・」

 

スクリーンを見る私の中には前にどうやって侵入したかわからない少年の言葉がよみがえった。

 

「・・・本当の気持ち・・・ね・・・」

 

座っている椅子の横にある小さなテーブルの上にはアリシアと私の写真があった。

 

「あと少しで・・・全てを取り戻せる・・・・・・」

 

あの娘には伝えなくてもいい。恐らく私を憎んでいるから。なら、この気持ちは伝えない方がいい。

 

「うっ・・・!」

 

「プレシア!」

 

「ケホ、コホ・・・」

 

口からは少量だが血が出た。

 

「もう時間がないわ・・・・・・。急がないと」

 

「プレシア、そのままゆっくりしてください」

 

「けど・・・」

 

「なにかあったら呼びますから。それまではここにいてください」

 

「・・・・・・わかったわ。お願いするわリニス」

 

「はい」

 

「フェイト・・・無理しないで・・・・・・」

 

 

~プレシアside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~なのはside~

 

 

フェイトちゃんとの勝負が始まってすでに数分が経っていた。

 

《PhotonLancer!》

 

「ファイア!」

 

後ろから迫り来るフェイトちゃんの魔力弾を私は上に上がって回避してフェイトちゃんの背後をとる。

そしてすぐさま。

 

《Divine Shooter!》

 

「シュート!」

 

五つのうち四つをフェイトちゃんに向けて放つ。

フェイトちゃんはこれを巧みにかわしていき、

 

《ScytheForm!》

 

放った魔力弾を一文字に切り裂いて、反転してこっちに向かってきた。

 

「シュート!」

 

私はそれを残しておいた残り一個のディバインシューターを放つ。

けど、それはフェイトちゃんにかわされてバルディシュの雷の鎌で攻撃される。だが、私は右手を前に出して障壁を張って受け止める。

しばらくそのままの亀甲状態が続き、私は最後に放ったディバインシューターを誘導して、背後からフェイトちゃんに攻撃する。

けど。

 

《Thunder Ballet》

 

「ファイア!」

 

それは当たる前に、至近距離からの魔力弾によって私が吹き飛ばされ、フェイトちゃんはそれを首を傾けてかわし、私が吹き飛ばされた場所へと落ちていった。

爆発により、白煙がもくもくと立ち込め視界が困難ななか、私はフェイトちゃんが降り立った屋上の手摺りに向かって砲撃を放つ。

 

《(Divine Buster!》

 

けど、それはフェイトちゃんに当たる直前にかわされて、フェイトちゃんがいた手摺を丸く消し飛ばす形で消えた。

 

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

 

いくらここ最近零夜くんと体力作りをしているとはいえ、元々私は運動が苦手でそんなに体力はない。まあ、以前と比べたら少しはあるけど。そうなると長期戦は私が不利だ。

そんなこと私が思っていると。

 

《やはり実力的には彼女の方が上です。簡単には勝てません》

 

レイジングハートがそう言ってきた。

 

「知恵と戦術はフル回転中。切り札だって零夜くんと一緒に用意してきた。それに零夜くんからの助言もある。だからあとは、負けないって気持ちで向かっていくだけ、でしょ?」

 

《All light master》

 

レイジングハートの機械音声を聞いて、私はフェイトちゃんに向かって飛んでいく。

フェイトちゃんの後ろに回った私は、周囲に魔力弾を10個ほど作り出して、そのうちの五個をフェイトちゃんに向かって射つ。

かわされたディバインシューターの魔力弾は零夜くんが展開した結界の中の建物に当たり、その建物に大きな傷がつく。

ディバインシューター五個をかわしたフェイトちゃんは上に上がって行く。私はそれを追いかけるように、残りの五個のディバインシューターを時差を出して射つ。

そのままフェイトちゃんを追い掛けるように雲の中に入っていく。雲を抜けると、後ろにフェイトちゃんがいて、フェイトちゃんの放った魔力弾をうまく避ける。そして、フェイトちゃんとレイジングハートとバルディシュで唾競り合い。何度か打ち合って、鍔迫り合いの衝撃で後ろに退く。

 

「まだいける、レイジングハート?」

 

《Yes Master》

 

レイジングハートの声とともに、フェイトちゃんとまたぶつかり合う。

しばらく互いがぶつかり、フェイトちゃんのバルディシュの鎌と私のバリアがぶつかった。

そのまま亀甲状態が続いたが、フェイトちゃんのバルディシュの切っ先を逸らして滑るようにし、私は横に逸れてかわした。

私の横を通りすぎていき、距離を開けて浮かぶフェイトちゃんの口から声が聞こえた。

 

「勝つんだ・・・勝って母さんのところに。帰るんだ・・・!」

 

そういい終えると、フェイトちゃんがバルディシュを横に薙ぎ振るった。

 

~なのはside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

 

「勝つんだ・・・勝って母さんのところに。帰るんだ・・・!」

 

「フェイト・・・」

 

なのはと闘っているフェイトの声が僕の耳に入ってきた。

フェイトはそういい終えると、バルディシュを横に薙ぎ振るった。すると、フェイトの足元に黄色の魔方陣が浮かび、なのはの周囲に幾つかの魔方陣が浮かんでは消え、フェイトの周囲に雷球が左右に並んで複数現れた。その数は今までの数よりも何倍も多い。

さらに、なのはの両腕に黄色い四角い箱のような物が現れた。

 

「設置型のバインド・・・・・・」

 

なのはの両腕に現れた物を見て隣に立つユーノが答えた。

 

「・・・それにあれは・・・・・・?」

 

「あれはちょっとヤバい・・・・・?」

 

「フェイト・・・・・・」

 

「ファランクス・・・・・・撃ち、砕けぇ!!」

 

フェイトの声とともに周囲にある雷球がなのはに向かって撃ち出された。しかもその威力は僕の魔法の射手・連弾300矢ほどのクラス。恐らく、前面範囲攻撃魔法。

なのはも自身の前にピンクの障壁を張って防ぐ。

そのまま撃ち出されていると、フェイトが左手を掲げ上げ、その手に魔力弾が集まっていき、一本の細長い黄色い槍が現れた。

 

「スパーク・・・」

 

フェイトは左手の槍を全力で投げ、

 

「・・・エンド!」

 

最後にそう言った。

フェイトの放った細長い雷槍、スパーク・エンドは物凄い速さでなのはに跳んでいき、なのはの障壁に当たると、一瞬収まったかと思うと次の瞬間、弾け飛んだように爆風が吹き荒れた。

 

「はあ・・・」

 

フェイトが息を吐くと、バルディシュは形を変え通常の形態に戻った。

爆風が収まり煙が立ち込めるなか、少しずつ煙が収まっていくと中から、ほぼ無傷のなのはが出てきた。

 

《行けますか?マスター?》

 

「行けるよ、レイジングハート」

 

《Canon mode!》

 

レイジングハートの機械音声とともにレイジングハートは形態を変え、砲撃形態になった。

 

「くっ・・・!ウアァァアアア!!・・・!?」

 

なのはに向かって飛んでいこうとしたフェイトだが、フェイトの両足と右手にはなのはの丸いバインドが仕掛けられていて動けなかった。

 

「バインド!?いつ・・・?」

 

フェイトが戸惑いの声を上げるなか、なのはは魔力のチャージを始めていた。レイジングハートの砲撃形態の切っ先にピンク色の魔力が集まっていき、レイジングハートの持ち手にトリガーが現れ、なのはがそれを握る。

 

「ディバィィィィィン・・・・・・バスターーーーー!!」

 

なのはの声とともにレイジングハートから凄まじい魔力の奔流がフェイトに向かって放たれた。

フェイトは咄嗟に自由の利く左手を前に出して障壁を張って防ぐ。

 

「あの子だって、もう、限界なはず・・・・・・。これを、耐えきれば・・・・・・」

 

なのはのディバイン・バスターとフェイトの障壁の耐え比べは10秒ほど続いた。なのはの放ったディバイン・バスターをフェイトはなんとか防ぎきったが、フェイトの羽織っていたマントはちぎれ、下の水面へと落ちていった。

安堵の息を吐くフェイトは、次の瞬間キラキラとピンク色の燐光が周囲に浮かんでいるのに気づいた。

 

「これは・・・」

 

「周囲に漂っている魔力残滓・・・?」

 

〈零夜、これは・・・〉

 

「ふふ。ユーノ、アルフ、クロノ、これがなのはの切り札だよ。驚くよ、みんな・・・今からの攻撃に」

 

僕はアルフとユーノ、この映像をアースラから見ているクロノたちにそう返して上空を見上げる。

そこはフェイトの遥か上。上空にはなのはがレイジングハートを構えていた。

 

《Starlight Breaker》

 

レイジングハートの音声とともに浮かんでいた大きなピンクの球体を囲むようにピンクの帯が現れる。

 

「使えきれずにばら撒いちゃった魔力をもう一度自分のところに集める」

 

「集束・・・砲撃・・・・・・」

 

フェイトの驚く声が聞こえてきた。

 

「零夜くんとレイジングハートと考えて。零夜くんが手伝ってくれた、知恵と戦術、私の最後の切り札!」

 

なのははレイジングハートの切っ先をフェイトに向け、

 

「受けてみて!これが私の全力全開!」

 

「くっ!ハアァァアアア!!」

 

フェイトもなのはのスターライト・ブレイカーに対抗するように障壁を5層に分けて張る。

 

「スターライト・ブレイカーーーーー!!」

 

集まった魔力を一点に凝縮して撃ち放たれた砲撃は、ディバイン・バスターより遥かに大きな魔力流となってフェイトに迫った。

フェイトの張った5層の障壁にぶつかると、周囲にも拡散し辺りのレイヤー建造物を破壊していく。

フェイトはしばらく耐えていたが、やがて5層、4層、3層と障壁を破壊されていき、スターライト・ブレイカーのピンクの魔力流がフェイトを呑み込んだ。

やがてスターライト・ブレイカーの奔流が収まると、周囲にはスターライト・ブレイカーの余波で崩壊目前の建造物があり、フェイトのいた場所には煙が立ち上っていた。

 

「フェイトちゃん!」

 

スターライト・ブレイカーをまともに受けたフェイトはそのまま水へと墜ちていった。だが、そのまえに。

 

「やれやれ。やり過ぎだよなのは」

 

予め予測していた僕が、フェイトを抱き抱えていた。そして左手にはフェイトのデバイス、バルディシュがある。

 

「零夜くん・・・・・・」

 

「でも・・・・・・」

 

僕はなのはに近づき、

 

「見事な闘いだったよなのは」

 

「ありがとう///」

 

「フェイト、大丈夫?」

 

「う・・・れい・・・や・・・?」

 

僕の声に気絶していたフェイトが目を覚ました。

 

「そうか・・・負けたんだ私・・・」

 

「うん」

 

フェイトは僕からバルディシュを受け取り、僕となのはから少し離れた。

その時。

 

《零夜くん!》

 

「!」

 

僕は咄嗟に感じた魔力に反応してフェイトのところへ向かう。

 

「零夜!?」

 

「零夜くん!?」

 

フェイトをなのはへと突き飛ばしてその場を離れさせる。

 

「―――術式解放(エーミッタム)障壁最大(バリエース・マーキシム)!」

 

そして上空に障壁を張って、突如として降り注いだ紫雷を防ぐ。

紫雷が止むと、そこにはジュエルシードが21個のうちの半分、10個しかなかった。

 

「やられた。まさかさっきの雷が囮だなんて」

 

さすがの僕も予測してなかったことに舌を巻く。

 

〈クロノ!追跡は!〉

 

〈バッチリだ!今、武装局員を突入させてる最中だ。零夜たちはそこの彼女。フェイト・テスタロッサを連れてアースラに戻ってきてくれ〉

 

〈わかった〉

 

クロノとの念話を終え、僕はなのはたちの方に振り向く。

 

「取り敢えずアースラに戻るよ」

 

僕の言葉になのはたちは無言でうなずき、

 

「―――去れ(アベアット)

 

アーティファクトを閉まって空間を元に戻して、アースラへと転移した。

 

 



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真実

 

 

~零夜side~

 

 

「お疲れ様みんな。零夜君は大丈夫?」

 

アースラに戻った僕らは、艦橋に着くとリンディさんからそう言われた。

 

「大丈夫ですよ」

 

「そう。よかったわ」

 

僕の言葉にリンディさんは安堵すると視線を艦橋の奥、モニターに移した。

そのモニターには時の庭園に突入した武装局員とフェイトの母親、プレシア・テスタロッサさんが映っていた。

 

 

『プレシア・テスタロッサ。貴女を時空管理局法違反の疑いで逮捕します。武装を解除し、ご同行をお願いします』

 

 

武装局員の一人がプレシアさんにそう呼び掛けると、他の武装局員がプレシアさんを包囲し、残り数人の武装局員はプレシアさんのいる、玉座の間の後ろに走っていった。

 

「(確かあの後ろって・・・・・・)」

 

僕は前に時の庭園に行ったときにアリシアに案内されて、別のルートから行ったが。

僕がそう思っていると、画面のプレシアさんの表情が変わった。

 

 

『こっちに何かあるぞ!』

 

 

武装局員の一人が見つけたみたいだ。

アリシアの遺体が保存されている部屋を。

武装局員が中に入り、その映像がこっちにも送られ部屋の中が映し出された。その部屋の中にある巨大ポットの中の液体に漬かっているアリシアを見た瞬間、僕以外の人は驚きを隠せていなかった。

 

「(当然か。僕以外だと、リンディさん、エイミィさん、クロノ以外知らないんだから。けど、さすがのクロノたちもアリシアの遺体があるとは思わなかったみたいだね)」

 

明らかな同様を隠せてないクロノたちを見て僕はそう声に出さずに発した。

 

「えっ!?」

 

「う、うそ!?」

 

「わ、わたし?」

 

「な、なんでフェイトが?」

 

隣からなのは、ユーノ、フェイト、アルフの動揺と驚きの声が聞こえてきた。

 

「あれはフェイトじゃないよ」

 

「ど、どういうこと零夜くん!?」

 

僕の言葉になのはが聞いてくるが僕は視線をモニターに向けたままなにも言わなかった。

すると。

 

 

『私のアリシアに近付かないで!リニス!』

 

『はい!』

 

 

武装局員の一人がアリシアのポットに近づき、プレシアさんとリニスと呼ばれた女性がアリシアを守るように、プレシアさんが武装局員を雷で攻撃し、リニスと呼ばれた女性はプレシアとアリシアのポットを守るように防御魔法を張った。

 

「リニス・・・?」

 

「知ってるの?」

 

「・・・・・・バルディシュを創ってくれてわたしに魔法を教えてくれた母さんの使い魔」

 

「プレシアさんの・・・・・・使い魔・・・・・・」

 

僕はフェイトからの情報に少し驚いた。

と言うより今はじめてリニスさんの存在知った。

 

「(アリシアからは聞いてないけど・・・・・・もしかしてアリシアいい忘れた・・・とか?)」

 

脳裏にそんなことが過ったが、スクリーンのプレシアさんとリニスさんに意識を向けた。

画面では武装局員がプレシアさんの魔法で倒れ付している姿が映し出されていた。

 

「いけない!局員たちを送還して!」

 

リンディさんの焦った、慌てた声を聞きエイミィさんが武装局員を次々とアースラに転移送還させた。

 

 

『もう駄目ね。時間が無いわたった半分のジュエルシードではアルハザードにたどり着けるかどうか分からないけど・・・でも、もういいわ。終わりにする。この子を亡くしてからの暗鬱な時間を・・・この子の身代わりの人形を娘扱いするのも。聞いていて? 貴女の事よ、フェイト』

 

 

スクリーンから聞こえるプレシアさんの言葉にフェイトは身を強張らせ、アルフは驚きのままそのまま立ち、スクリーンのプレシアさんの隣に立つリニスさんは顔を俯かせていた。

けどそんなことより僕はプレシアさんの言葉に微妙な引っ掛かりを抱き、目を少し細めてみる。

 

 

『折角この子の、アリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずで、ちっとも使えない私のお人形』

 

 

「ど、どういう事?」

 

「リンディさん、どういうことですか?」

 

なのはとユーノの問いにリンディさんではなく、僕が二人の質問に答えた。

 

「なのは、ユーノ。前に、プレシアさんに関する事故の話はエイミィさんがしたでしょ? 」

 

「うん」

 

「それでね、その時、プレシア・テスタロッサは実の娘の、アリシア・テスタロッサを亡くしているの」

 

「そんな!それじゃあフェイトちゃんは」

 

「言ったでしょ、フェイトはアリシアではないって。プレシアさんが最後に行っていた研究は使い魔とは異なる、使い魔を超える人造生命の生成」

 

「人造・・・生命・・・」

 

「まさかフェイトは・・・・・・!」

 

「そうだよ、アルフ。プレシアさんがしていた研究は、死者蘇生の秘術。そして、その研究につけられた開発コードの名前が―――プロジェクトFate。通称、プロジェクトF」

 

「プロジェクト・・・F・・・」

 

 

『ええ、フェイトはプロジェクトFateの研究成果で生み出されたアリシアのクローン。よく調べたわね。そう、私の目的は、アリシアの蘇生。ただそれだけよ』

 

 

僕の言葉にプレシアが続く。

 

 

『だけどダメねちっとも上手くいかなかった。所詮作り物は作り物。アリシアの代わりにはならない。ただの偽物。贋作でしかないわ』

 

 

プレシアはモニター越しにフェイトに目を向けた。

僕はそれをじっと見つめる。

 

 

『失った者の代わりにはならないわ。アリシアはもっと優しく笑ってくれた。アリシアは時々我儘も言ったけど、私の言うことをよく聞いてくれた』

 

 

「やめて・・・」

 

なのはは小さく呟き、僕は眼を更に鋭くして拳を握る。

 

 

『アリシアはいつも私に優しかった・・・。フェイト、やっぱり貴女はアリシアの偽物よ。折角あげたアリシアの記憶も貴女じゃダメだった』

 

 

「やめて・・・やめてよ!」

 

 

『フェイト、貴女はアリシアを蘇らすまでの間、私が慰みに使うだけのお人形・・・。だからあなたはもう要らないわ。何処へと消えなさい!』

 

 

「お願いもうやめて!」

 

なのはは必死に叫ぶがプレシアさんは続けて言う。

プレシアさんは高らかに、不気味に笑いそして、言った。フェイトの心を折る言葉を。

 

 

『ふふふ、最後にいいことを教えてあげるわ。フェイト。貴女を作った時からずっと思っていたの。私は貴女が・・・大ッ嫌いだったのよ!』

 

 

「あっ・・・」

 

「フェイトちゃん!」

 

「フェイト!」

 

手からバルディシュが床に落ち、崩れ落ちたフェイトをなのはとアルフが両側から支える。僕はじっとプレシアさん見た。

 

「それがあなたの本心なのか!プレシア・テスタロッサ!」

 

さすがの僕も怒りは臨界点を突破していた。

 

「ふふふ、ははははははっ!」

 

プレシアさんはただ笑いアリシアの方を向いていた。

 

「リンディさん、武装局員の回収は」

 

「終わっているわ。何故?」

 

僕の質問にリンディさんは疑問顔を浮かべて答えた。

 

「僕をあそこに転送してください」

 

「まさか・・・零夜くん一人で!?」

 

「はい。ちょっとお話ししてきます。あの、自分に素直になれないあの人に!」

 

僕がそう言うと。

 

《Set up!》

 

僕の身体が光、次の瞬間にはバリアジャケットを纏った姿の僕がいた。

そのとき。

 

「どうしたの!?」

 

アースラに警報音が鳴り響いた。

リンディさんの声にエイミィさんが答えた。

 

「庭園内に魔力反応を複数確認、いずれもAクラス、数は・・・何これ!?100、150、どんどん増えていきます!」

 

「ジュエルシードの発動を確認!」

 

「しょ、小規模ながら次元震を確認しました。徐々にですが規模が大きくなっていきます!」

 

「まさか!」

 

 

クロノの声にスクリーンのプレシアさんが答えた。

そしてその近くにはリニスさんと、ポットに入ったアリシアが。

 

 

『そう、私たちは旅立つの。忘れられた都・・・アルハザードに!誰にも私たちの旅立ちの邪魔はさせないわ!』

 

 

「くっ!そうは行かせない!クロノ!」

 

「分かってる!エイミィ、ゲート開いて!」

 

「クロノくん!?零夜くん!?」

 

僕の言葉にクロノは瞬時に返し、転送ポートへと移動した。

 

「なのは、君はどうする」

 

「私は・・・」

 

「僕は行く。あの、自分に素直になれない人にお話ししに行くために!」

 

「零夜くん・・・」

 

「決めたんだ。この能力(魔法)を使い始めたときから・・・。もう、二度と僕みたいな人を出さないために」

 

「零夜くん・・・?」

 

「いや、なんでもないよ。どうする」

 

「もちろん・・・行くに決まってる!」

 

「僕も!」

 

なのはとユーノの言葉に僕は頷く。

 

「アルフ、フェイトをお願い。それとこれをフェイトに・・・」

 

「ああ。アタシもすぐに行く」

 

「わかった。リンディさん」

 

「ええ。私も現地に行きます。みんな気を付けて」

 

リンディさんの許可も得たことだし、僕たちはクロノと合流して、時の庭園へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時の庭園

 

 

 

時の庭園に転移した僕らを待ち構えていたのは、庭園内に配備された機械人形だった。

 

「クロノ、あれって只の機械人形で合ってる?」

 

「ああ。近づいてきた者を倒すためだけの機械人形だ」

 

「そう。なのは、ユーノ、クロノ、下がって・・・僕がやる」

 

「零夜!?確かに君の魔力はSSSだ。だが、幾らなんでも一人では無理だ!」

 

「―――クロノ、一つだけ言っておくね。僕は・・・・・・一度も本気を出したことないよ?」

 

「なに?」

 

「見せてあげる。僕の本気」

 

僕はそう言うとなのはたちから少し距離を取った。

 

「いくよ、レイ、ステラ、リンカ」

 

《もちろん!》

 

《何時でも往けますわ!》

 

《大丈夫だよ!》

 

「じゃあ、往くよ!リンカーネイト!レイオブホープ!ステラメモリー!リミッター解除!セットアップ」

 

()S()e()t() ()u()p()

 

次の瞬間、凄まじい魔力の嵐が吹き荒れた。

魔力嵐が収まると、リンカたちを展開した僕の姿が現れる。

 

「零夜・・・その姿は」

 

僕の姿を見てクロノが聞いてきた。

僕の今の姿は夜のような鮮やかな黒と白が織り混じったような感じのバリアジャケット姿だった。

 

「僕に施していたリミッターを解除して、リンカーネイトたちを同時展開したんだよ」

 

「み、三つのデバイスを同時展開!?」

 

「そう。じゃあ始めるよ」

 

クロノにそう言うと僕は機械人形たちの方へと歩きだした。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!契約に従い我に応えよ、闇と氷雪と永遠の女王、 咲きわたる氷の白薔薇、 眠れる永劫庭園、来れ永久の闇、永遠の氷河、氷れる雷をもて、魂なき人形を囚えよ、妙なる静謐、白薔薇咲き乱れる、永遠の牢獄」

 

静かに、僕は詠唱をする。

向かってきた機械人形は剣形態のリンカーネイトと、レイオブホープでソードスキルを使って幾重にも切り刻む。

そして、終の詠唱呪文を言い放つ。

 

「―――終わりなく白き九天(アペラントス・レウコス・ウラノス)!」

 

次の瞬間、僕を中心に氷と雷を纏った竜巻が起こる。

その竜巻は次々と、薔薇の茨見たいに機械人形に絡み付いていく。絡み付かれた機械人形は完全に身動きが取れなくなり、氷の中に閉じ込められた。

機械人形が閉じ込められたのをみた同種の別の機械人形は逃げようと慌てて走るが。

 

「無駄だよ」

 

蔓のように伸びた雷氷に捕まり呆気なく氷の中に閉じ込められた。そしてそのまま正面玄関の扉を破壊し、蔓を内部にも侵入させ、エントランスにいた機械人形を瞬時に氷の中に閉じ込めた。

 

「これで終わりだよ」

 

そして更に終の言葉を言った。

 

「―――終われ(ラスト・エンド)

 

そう言い放つと、氷の中に閉じ込められた全ての機械人形が爆散して碎け散った。そしてそれは、閉じ込めていた氷も同様で、キラキラと怪しく光る外灯に煌めいて散った。

 

「こんなところかな?」

 

そう言って後ろを振り向くと。

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

唖然としていた三人が呆然と立っていた。

 

「今はじめて零夜が敵でなくて良かったと思うよ」

 

クロノの言葉になのはとユーノが瞬時にコクコクとうなずいた。

 

「???どうしたの?いくよ」

 

「あ、ああ」

 

「う、うん」

 

「わ、わかった」

 

僕の言葉にクロノたちは何処か怯えたような感じで答えた。

ホントなんでかな?

そう思っていると。

 

『零夜くん』

 

「アリシア」

 

目の前にアリシアが現れた。

もちろん、アリシアの姿は僕だけにしか見えていなく、僕はアリシアにだけに聞こえる声で返す。

 

『お願い零夜くん、お母さんを止めて!』

 

「わかってるよアリシア。そのつもりでここに来たんだから」

 

アリシアに返事を返しながら、僕はなのはたちと次々と迫り来る機械人形を破壊する。

 

「フェイトもアルフもプレシアさんもリニスさんも。もちろん、アリシアも助ける!」

 

僕は2体の機械人形をソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》で斬り裂いて答える。

 

「僕はこんな結末を認めない!絶対に!」

 

魔法の射手を無詠唱で放ちながら両のデバイスで斬り裂いて僕はそう言った。

こんな悲しくて、虚しい結末を変えるために。

 

 

 

 

 



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真実と愛

 

~零夜side~

 

 

「クロノは下層に行って!」

 

「わかった!零夜たちは上の駆同炉を止めに!」

 

「わかったの!気を付けてクロノ君」

 

僕たちは庭園内部の上層と下層に分かれる場所でそれぞれ分かれた。

下層にいるであろうプレシアさんの所にはクロノが。上層の駆同炉には僕たちが。

上層部に入るとさっきと同機械人形がわんさかいた。

 

「くっ!」

 

「ディバインシューター!」

 

僕は魔法の射手(サギタ・マギカ)を連続で放ちながら両手のデバイス、リンカーネイトの剣形態(ソードモード)とレイオブホープで切り裂く。

なのははユーノのチェーンバインドで動きを止められた機械人形を次々と破壊していく。

 

《もう~、しつこいな~!》

 

「ごめん、レイ。もう少しだけお願い」

 

《もちろんだよ零夜くん!》

 

「リンカもステラもお願い」

 

《もちろんです》

 

《わたくしももちろんですよ》

 

「うん。・・・・・・・往こうっ!」

 

僕はデバイスであるリンカたちに声をかけてさらに機械人形を破壊していく。

今いる場所は螺旋階段のような場所だ。もちろん、僕たちの近くにはアルフもいる。アルフはさっき、ここに転移してきたのだ。

 

「零夜くん、さっきの魔法で一掃できないの?」

 

機械人形を破壊しながらなのはが隣り合わせで聞いてきた。さっきの魔法とは、終わりなく白き九天(アペラントス・レウコス・ウラノス)のことだろう。

 

「こんなところであの魔法はだせないよ」

 

終わりなく白き九天は広範囲対象殲滅魔法だ。属性は氷と雷。この魔法は人には害はないが、ああいう魂や意思のない機械人形とかを一気に殲滅するのには効果的だ。

だが、今いる場所は螺旋階段のようなところのため、さすがに終わりなく白き九天は発動できない。出せるとするなら雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)のような広範囲ではなく、一点に放てるような魔法だろう。

一応、魔法の射手を連続で放ちながら、機械人形を何体か切り裂いてはいるがあまりにも数が多い。しかも、何体かは巨大な機械人形までいる。

 

「しまった!なのは!」

 

ユーノが慌てたようになのはを呼ぶ。見ると、ユーノが縛って拘束していた巨大な機械人形がなのはの前に立ちその手にもつ巨大な斧を振りかぶっていた。

 

「くっ!」

 

すぐに向かおうとするが、対空型の機械人形が邪魔をする。

なのはに斧が当たるその瞬間。

 

《ThunderRage》

 

デバイスの機械音声と共に、上空から雷の砲撃がなのはを攻撃しようとしていた機械人形に降り注いだ。

 

「この魔法は!」

 

視線を上に向けると、そこにはバリアジャケットを身に纏い、愛機であるバルディシュの先端をこっちに向けているフェイトの姿があった。

 

《Getset》

 

「サンダー・・・レイジ!」

 

フェイトはさらに同じ魔法を放ち、巨大な機械人形を破壊した。

 

「フェイト?!」

 

機械人形を狼の姿で屠っていたアルフがフェイトを見て驚きの声を漏らす。

フェイトは僕となのはと同じ高さに来ると、視線を気恥ずかしそうに逸らした。

そのとき。

 

「うわっ!なんかすごいのが出てきたよ」

 

壁を破壊して、さっきの機械人形よりさらに大きい機械人形が姿を表した。

 

「大型だ。バリアが強い」

 

「うん・・・それにあの背中の・・・」

 

その機械人形の背中には巨大な砲撃機があった。しかも、砲撃を放つためにチャージをしている。

 

「だけど、私たち三人なら」

 

「うん!うん!うん!」

 

「そうだね!それじゃ、僕からいくよ!」

 

僕は懐からアーティファクトカードを取り出して、

 

来たれ(アデアット)!」

 

一振りの剣を召喚する。

 

ハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)!」

 

ハマノツルギを手に持った僕は、背中の砲撃機をチャージする機械人形に素早く迫る。

 

「遅いよっ!」

 

僕は素早く小刻みに動き、近寄らせまいと機械人形な放つ魔力弾をかわしていく。

 

「せりゃ!」

 

近づき、魔力チャージをし続ける背中の砲撃機の一つを僕は魔力障壁ごと斬り裂く。

斬り裂かれ、チャージし続けて溜めた魔力が爆発し、左肩がごっそりと削れた。

 

「なのは!フェイト!」

 

「うん!」

 

「わかった!」

 

僕はこの瞬間を逃さず、砲撃準備をしている二人に声をかける。

 

「いくよバルディシュ!」

 

《Yes sir》

 

「お願い!レイジングハート」

 

《Stand by ready》

 

「サンダー・・・・・・バスター!」

 

「ディバイン・・・・・・バスター!」

 

フェイトのサンダーバスターとなのはのディバインバスターが機械人形に当たるがその手前で障壁により止められる。

 

「させないよ!ハアアアア!」

 

僕はそこへハマノツルギを振りかぶって障壁を破壊して、

 

「いけるね、リンカ、レイ、ステラ」

 

《はい!》

 

《もちろん!》

 

《いつでも!》

 

「ルミナス・・・・・・バスター!」

 

なのはとフェイトに合わせるように純白の砲撃を繰り出す。

 

「「「せーーーのっ!!!」」」

 

純白とピンク、黄色の砲撃が一つとなり、機械人形を粉々に破壊する。それは同時に、後ろの壁なども破壊した。

 

「フェイトちゃん!」

 

フェイトの横でなのはは嬉しそうにフェイトの名前を呼び、

 

「フェイト!フェイト!フェイト!!」

 

アルフは泣きながらフェイトに近寄って、フェイトを抱き締めた。

 

「アルフ・・・心配かけてごめんね。ちゃんと自分で終わらせて始めるよ。本当の私を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

螺旋階段の先を進み、広間に出るとそこには大量の機械人形兵が待ち構えていた。

 

「あそこのエレベーターから駆動炉に向かえる」

 

「わかったの。フェイトちゃんはお母さんのところにいくんだよね」

 

「うん」

 

「なのは、僕もフェイトと一緒にプレシアさんのところに行ってくるよ」

 

「零夜くんも?」

 

「うん。プレシアさんの本心が聞きたいからね。あの人の口からちゃんと」

 

「わかったの」

 

「ユーノ、なのはのフォローをお願い」

 

「任せて零夜」

 

「うん。なのは、ユーノ、突破口は僕が作る。その隙に行って」

 

「了解!」

 

術式解放(エーミッタム)凍る大地(クリュスタリネー・テルストリス)!」

 

僕は氷属性の範囲魔法を放ち、機械人形兵を大地から突き出た氷で貫かせる。

そしてそこに。

 

「これで終わり!マテリアル・・・・・・ブラスター!」

 

黒と白の魔力砲撃で機械人形兵を呑み込み消滅させる。

 

「行って!」

 

「うん!」

 

僕の声になのはとユーノは飛行魔法でエレベーターまでいき、そこから駆動炉へと向かっていった。

 

「僕たちも行こう。先にクロノが行ってるはずだよ」

 

「わかった」

 

「ああ!」

 

僕とフェイト、アルフはそこから下層に降りて、クロノが行ったプレシアさんの場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プレシアさんとクロノのいる場所に駆けていく途中、次元振動が収まってきたのが感じた。

そして、頭のなかにリンデイさんとプレシアさんの声が聞こえてきた。

 

 

≪アルハザードに行けば、過去を変えられると?自分の犯した罪を無くせると?≫

 

 

≪そうよ。こんなはずじゃなかった。私とアリシア、リニスの未来と過去を・・・世界を取り戻すの≫

 

 

二人の会話を聞きながら僕はある壁の一片に視線を向けた。

 

「見付けた!」

 

探索用に出していたアーティファクト、渡鴉の人見(オクルス・コルウィヌス)の反応があった場所を見据え、そこに魔力砲撃放ち、そこにある瓦礫などを吹き飛ばして道を作る。

瓦礫の奥には額から血を流しているクロノと、プレシアさんとリニスさん、そしてポットに入ったアリシアがいた。

 

「母さん!」

 

「ッ!!」

 

フェイトがプレシアさんに話しかけるとプレシアさんはフェイトの方を向いた。

 

「母さん」

 

「何しに来たのかしら?」

 

「あなたに言いたいことがあって来ました」

 

僕とアルフは黙ってフェイトを見る。今のフェイトからは怯えも、恐怖も感じられない。ただ己の信念と想いだけ。

 

「私は、アリシア・テスタロッサではありません。貴女が作ったただの人形かもしれません。だけど私は・・・フェイト・テスタロッサはあなたに生み出してもらって育ててもらったあなたの娘です」

 

「だから何だというの?今更あなたの事を娘と思えと言うの?」

 

「あなたがそれを望むなら。私は世界中の誰からも、どんな出来事からもあなたを守る。私があなたの娘だからじゃない。あなたが私の母さんだから」

 

「ふ。愚かね、今更あなたを愛するなんて」

 

「愚かなのはどっちかなプレシアさん。そんなことで本当にアリシアが喜ぶと思っているの?」

 

フェイトの横に立ち、僕はプレシアさんに言う。

 

「あなたは天ノ宮零夜・・・・・・だったわね。以前、ここに来た」

 

プレシアさんの言葉にクロノは驚愕で目を見開いて僕を見た。僕はそのクロノに軽くうなずいてプレシアさんを見据える。

 

「あなたに何がわかるの。知りもしないで、私のアリシアのことを好き勝手に言わないで!」

 

「好き勝手に言ってない!あなたはアリシアの本当の気持ちを知っているんですか!」

 

「なにを言っているの?本当の気持ち?アリシアは死んでいるのよ!どうやって知るって言うの!」

 

プレシアさんの言葉に僕は静かに、ずっと起動していたアーティファクト、いどのえにっき(ディアーリウム・エーユス)を取り出してプレシアさんに見せる。

 

「ここにはアリシアの本当の気持ちが書いてあります。アリシアはあなたにこんなことしてほしくないって言っていました。だから彼女は僕に言ったんです。フェイトやアルフ、リニスさん、そしてあなたを助けてって。その中にアリシアは自分の名前を言わなかった。アリシアはとっても優しい子ですね。自分のことより、家族を大切にしてるんです」

 

僕は風魔法でいどのえにっきをプレシアさんに渡していう。

プレシアさんは静かにそこに記されていた文を読む。

 

「そんな・・・アリシア・・・・・・あなたはずっと見ていたの・・・・・・?ずっと側にいたの・・・・・・?」

 

「プレシア?」

 

「母さん?」

 

いどのえにっきを読むプレシアさんにプレシアさんのとなりに立つリニスさんとフェイトが声をかける。

 

「それを読んでもまだあなたはアリシアの本当の気持ちを無視するんですか!」

 

僕のその言葉にプレシアさんの眼からは涙が溢れ出ていた。

 

「アリシア・・・私は・・・・・・私はあなたとの約束を・・・・・・」

 

『お母さん・・・・・・・』

 

プレシアさんを隣で浮かんでいるアリシアは静かに呼んだ。

 

「それにあなただってほんとはフェイトのことを愛しているんじゃないんですか?」

 

「そ、そんなこと・・・」

 

「愛していなかったらフェイトの話は聞かないし、入ってきた途端にさっきの雷で攻撃するなりするはずです。それにさっきの雷、フェイトが怪我しないように手加減されていた。それは決してフェイトがお人形だからじゃない!あなたははもうフェイトをアリシアと同じように大切な娘だと認識しているから!違いますか!」

 

「零夜・・・」

 

『零夜くん・・・』

 

「ええ・・・・・・ええ、そうよっ!私はフェイトを娘として愛してる!けど、今更フェイトに愛してるなんて言えるわけないでしょ!あんな・・・あんな、実の娘に対するようなことじゃない、酷いことをやった私を。言えるわけないじゃない!私にそんな資格はないわ!」

 

「資格?そんなの必要ない!」

 

プレシアさんの言葉に僕は自分でも驚くほどの大きな声が出た。

 

「人を・・・ましてや自分の子供を愛するのに資格なんか必要ない!必要なのはただ相手を思うことただそれだけです!それに、親なら尚更です!」

 

「わ、私は・・・・・・」

 

「言ってあげてください!フェイトに!こんなにもあなたのことを想っている娘に!あなたの本心を!取り返しがつかなくなる前に!今ならまだ、間に合います!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

僕の言葉にプレシアさんは手にもついどのえにっきを見て、アリシアを、そしてフェイトを見る。

隣にいるフェイトもプレシアさんのことを見る。

 

「フェイト」

 

「はい」

 

「私はあなたに酷いことを・・・とても許されないことをしたわ」

 

「はい・・・」

 

「それでも、あなたは私のことを親だと・・・母親だと認めてくれる?」

 

「もちろんです。私にとって・・・フェイト・テスタロッサはあなたの、プレシア・テスタロッサの娘です。そして、あなたは私の世界でたった一人の、とても大切な母さんです」

 

フェイトの言葉に、プレシアさんは涙を流し、フェイトに近寄り、ギュッと抱き締めた。

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさいフェイト!」

 

「母さん・・・母さん!」

 

プレシアさんは今まで溜めていた涙を流し、フェイトを抱き締める。フェイトもプレシアさんを抱き締めて返す。その光景に、リニスさんはもちろんのことアルフやクロノも涙していた。クロノが涙を流しているなんて珍しいと言うかとてもレアな気がするけど。よく見てみると、開いている空間ウインドウのリンディさんも同じ母親としてなのか涙を流していた。

それを見ているとアリシアが話し掛けてきた。

 

『ありがとう、零夜くん。お母さんとフェイトを救ってくれて』

 

「まだだよアリシア」

 

『え?』

 

「まだ、キミを助けてない。フェイトたちにはアリシア、キミが必要なんだ」

 

『で、でも、私はもう死んで・・・・・・』

 

「ま、それは後でね。今はとにかくここからでないと」

 

そう言うと、上部の壁が爆発しそこからなのはとユーノが出てきた。

 

「お待たせ零夜くん!」

 

「お疲れ様なのは、ユーノ」

 

「フェイトちゃんは」

 

「・・・・・・・・・・」

 

僕は静かに視線を抱き締めて涙を流しいる親子に向ける。それを追ってなのはとユーノも視線を送る。

 

「よかった・・・よかったよ」

 

「うん」

 

なのはもフェイトの姿を見て嬉しそうにうなずいていた。

 

「さて、取り敢えずここから出ませんか?」

 

「そうだな」

 

僕の声にクロノは泣いていたのを隠しているのか目元を袖で拭いて同意した。その瞬間、とてつもない地響きが僕らを襲った。

 

「この揺れは・・・!」

 

≪まずいわみんな!≫

 

「ジュエルシードが暴走している。このままじゃ大規模な時空断層が起こるわ!」

 

僕の戸惑いにリンディさんとプレシアさんが答えた。

その証拠に浮かんでいるジュエルシード11個は目映い青い光を放っていた。とてつもない魔力エネルギーだ。

 

「くっ!全員避難するぞ!エイミィ頼む!」

 

≪任せてクロノくん!≫

 

「こっちよ!・・・・・・ゴホッ、ケホッ!」

 

「母さん!」

 

「プレシア!」

 

脱出しようするが、プレシアさんが地に膝をつけて咳き込んだ。そしてその手には少なくない血が付着していた。

 

「くっ!リニスさん、プレシアさんをお願いします!フェイトとアルフはアリシアのポットを!」

 

「かしこまりました!」

 

「うん!」

 

「わかったよ!」

 

僕は瞬時にフェイトたちに指示を出して更に光が強くなっているジュエルシードに視線を向ける。

 

「時間がない。やるしかないね」

 

僕は再びハマノツルギを召喚して右手で握り締める。

 

「リンカ、レイ、ステラ、いける?」

 

《いけます!》

 

《任せてよ!》

 

《もちろんです!》

 

「じゃあ・・・・・・やるよ!」

 

僕は静かにジュエルシードに近寄る。

 

「零夜!?なにをしているんだ!?」

 

「零夜くん!」

 

「零夜!」

 

『零夜くん!』

 

クロノ、なのは、フェイト、アリシアが僕に声をかけてくるが僕は返さず意識を集中する。

すると右手に握るハマノツルギに純白のライトエフェクトが煌めいた。

僕はそれを片手から両手で握り締め横薙ぎに切り払った。

 

「はあああああああ!―――無極而大極斬(トメー・アルケース・カイ・アナルキアース)!!」

 

一閃。

11個のジュエルシードをハマノツルギで切り裂き、放出していた魔力エネルギーを無に還した。

一瞬、目映い輝きが起き、次の瞬間にはジュエルシードは魔力を放出していない状態で浮かんでいた。それに続いて、ゆっくりと地響きが収まっていき、やがて地響きが収まり静かになった。

それを確認すると僕はリンカたちにジュエルシードを封印してしまう。

そこへエイミィさんからの通信が入った。

 

≪じ、ジュエルシード、封印確認。次元振動確認できません!≫

 

どうやら次元振動も収まったみたいだ。

 

「ふぅ。お疲れ様リンカ、レイ、ステラ」

 

僕は息を吐いてリンカたちに労いの声をかける。

 

《マスターもお疲れ様です》

 

《お疲れさま零夜くん》

 

《お疲れさまでした》

 

「うん」

 

なのはたちの方を見ると何故かみんな口を開けて驚愕の表情をしていた。なんでだろ?

 

「い、一撃でジュエルシードの放出していた魔力エネルギーを消すなんて・・・・・・」

 

「今更ながら本当に零夜が敵じゃなくてよかったよ」

 

『『『うんうん!』』』

 

プレシアさんとクロノの言葉に全員が首を縦に振って答えた。って、アリシアも!?

 

「さてと、まずはプレシアさんの病気を治して、それからアリシアの蘇生かな?」

 

「え!?あ、あなた今なんて」

 

「プレシアさんの病気の治療とアリシアの蘇生?」

 

「あ、アリシアを生き返させられるの!?」

 

「恐らくは・・・」

 

僕はプレシアさんに声のトーンを落としながら答えた。

 

「エイミィさん、アースラへの転送出来ますか?」

 

≪何時でも転移出来るよ≫

 

「プレシアさん、この時の庭園はどうしますか?」

 

「そうね・・・・・・」

 

僕の質問にプレシアさんは思案顔になって考え込んだ。

 

「ちょっと待っててくれるかしら」

 

「わかりました」

 

プレシアさんはリニスさんを連れて何処かに行った。

そしてその10分後、プレシアさんとリニスさんは戻ってきた。

 

「もう大丈夫よ。壊しても構わないわ」

 

「わかりました。クロノいいかな?」

 

「ああ」

 

クロノの許可も得り、僕は軽く延びをする。

 

「エイミィさん、アースラへの転送陣お願いします」

 

≪了解≫

 

僕がそう言うと、クロノの近くに転移魔方陣が構築される。

 

「クロノ、さきにみんなと乗っていて。僕もすぐ乗るから」

 

「わかったが何をするつもりなんだ?」

 

「何時までもこれがあると大変だからね。消すよ」

 

「わかった。エイミィ、零夜が乗り次第すぐに転移してくれ」

 

≪任せてクロノくん≫

 

全員が転移魔方陣に乗ったのを確認した僕はリンカを砲撃形態にして構える。

 

「―――ディメンション・イクリプス・ゼロエミッション!」

 

リンカから放たれた白と黒の交じった砲撃は一直線に時の庭園を貫き、

 

≪転送!≫

 

僕が転移魔方陣に入るのと同時に光った。

そして、アースラに転移されるのと同時に時の庭園は跡形もなく、最初からそんなものが無かったかのように消し去られた。

後には何もない空間だけだ映し出された。




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名前と友達

 

~零夜side~

 

時の庭園が僕の魔法、【ディメンション・イクリプス・ゼロエミッション】で消滅したのをアースラからの映像で確認すると、リンディさんやエイミィさん、クロノたちと一緒にフェイトたちをアースラの医務室に運んだ。

 

「それじゃ、まずプレシアさんの病気を治しましょう」

 

医務室に全員が入ると、僕はさっそくそう言った。

 

「できるの零夜?」

 

フェイトが首をかしげて聞いてきた。

 

「うん。ステラ、スキャンして」

 

《わかりました》

 

僕はフェイトに軽くうなずくと、ステラをリニスさんに支えて貰いながら座っているプレシアさんに向けた。

そのまましばらく立ち。

 

《スキャン、完了しました》

 

ステラからそんな声が聞こえてきた。

 

「どう?」

 

僕が訪ねると。

 

《プレシア・テスタロッサさんの病気は肺ガン、ステージⅣ。全身に転移してますね。リニスさんの治療などが効を期していたのか、よく今まで動けたと思います》

 

「結論から言うと?」

 

《このまま治療を行わなかったら余命あと1ヶ月です。例えリニスさんが治療しようとしても変わらなかったでしょう》

 

「そ、そんな」

 

「フェイトちゃん」

 

ステラの結果にフェイトは動揺しなのははフェイトの側により、手を握る。

 

「零夜、キミは治せるのかい?」

 

クロノが心配した顔で聞いてきた。

 

「大丈夫。あと少し遅かったらダメだったと思うけど今なら・・・・・・」

 

僕はクロノにそう言うと、一枚のカードを取り出し、目を閉じて一言唱える。

 

「―――来たれ(アデアット)

 

カードが一瞬光り、僕以外のみんなは目元を手で覆った。

目を開けると、着ていた服が巫女服のような装飾に変わり、両手には神楽舞に使うような双方異なる扇子が一対握られていた。扇子はそれぞれ、木製の薄板を絹糸で束ねている扇子と紙製の扇面と扇骨を組んでいる扇子だ。

 

「―――コチノヒオウギ(フラーベルム・エウリー)ハエノスエヒロ(フラーベルム・アウストラーレ)

 

二つで一つの、回復系のアーティファクトを僕は召喚した。木製の薄板を絹糸で束ねている扇子がコチノヒオウギ。紙製の扇面と扇骨を組んでいんのがハエノスエヒロだ。

 

「さてと、今回はこっちのハエノスエヒロの出番だね」

 

状態異常を治すのに使うハエノスエヒロを掲げ、プレシアさんにハエノスエヒロを向けて詠唱しながら舞う。

その光景をなのはたちは静かに、見惚れるように眺める。実際使ってみるのは初めてだけどね。

舞いは2分ほどで終わった。

 

「えっと・・・・・・これで治ったの?」

 

「はい。ステラ」

 

プレシアさんの戸惑いに僕は答え、ステラにも確認をとる。

 

《確認しました。プレシア・テスタロッサさんのガン細胞は完全に除去、消失しています。問題ありません、完治しています》

 

「確かになんだか身体が軽いがするわ。今までの気怠さが嘘のよう」

 

「ほ、ほんと?」

 

「ええ」

 

「よかった!」

 

不安気な表情から一転、嬉しそうな表情になったフェイトはプレシアさんに抱き付いた。

 

「これでプレシアさんは大丈夫だね。あとアリシアだけど・・・・・・」

 

僕は視線をリンディさんに向ける。

視線を受けたリンディさんは少し苦笑気味な表情でうなずき返してくれた。

 

「リニスさん、アリシアをポットから出してください。あと、出来ればアリシアに服を着させてほしいです」

 

「わかりました」

 

ポットの中のアリシアは産まれたままの姿のため服を着させてベットの上に横たわらせる。

 

「さてとアリシア、準備はいい?」

 

『ええ。けど、本当に出来るの?』

 

「大丈夫、僕を信じて」

 

『うん。零夜くんを信じるよ』

 

僕は生身の体を前に、横に浮かんでいるアリシアに声を掛ける。

意識を集中させて一つの武器を喚び出す。

 

「―――時律の双銃(クロノス・デュオピストリス)

 

両手に黒と白銀の銃が現れた。

僕は右手に持つ白銀の銃をアリシアに向けて弾丸を放つ。

放たれた弾丸はアリシアに当たると、アリシアを傷付けること消えた。

僕が射った弾丸はアリシアの肉体の成長促進。つまり、肉体の年齢をフェイトと同じ年齢にしたのだ。

アリシアの肉体がフェイトと同じくらいに成長したのを確認した僕は双銃を懐のホルスターにしまい息を吐く。

 

「ふぅ・・・・・・来たれ」

 

意識を集中させて一つの武器の名前を告げる。

 

「―――天生牙」

 

目映い輝きを以て現れたのは1本の黒革の鞘に収まっている流麗な刀。

 

「天生牙は癒やしの刀。たとえ武器として振るう時も、命の重さを知り、慈悲の心を持って、敵を葬らねばならぬ。それが百の命を救い、敵を冥道に送る、天生牙を持つ者の資格」

 

僕は静かに言う。

そして、腰に差した天生牙の鍔を握りしめ、静かに抜き放つ。抜き放たれた刀身は細く銀色の刀色はキラリと部屋の明かりが反射する。

天生牙に魔力を流しアリシアを見る。

 

「(いた)」

 

アリシアの身体の側には不気味な悪魔のような鬼みたいな妖怪らしきものがいた。

 

「(あの世からの使い・・・。プレシアさんがアリシアの遺体を綺麗に保存してくれていたお陰もあるけど、アリシアの霊体がここにあるからかまだ連れ去られてない。けど、何時までも連れ去られないと言うわけでもないからね)」

 

僕は静かに天生牙を構え、アリシアの側にいるあの世からの使いの邪鬼5匹を見据え、刀身にクリアブルーのエフェクトが煌めかせる。

 

「(消えろ。アリシアに近寄るな)」

 

静かに2回切り払う。

あの世からの使いを切り裂き、天生牙を鞘に納刀する。

 

「ふう・・・・・・」

 

集中していた意識を止め、アリシアに近寄る。

 

「アリシア」

 

僕はアリシアの名を呼ぶ。

 

「ん・・・んん・・・・・・」

 

呼ぶとアリシアは静かに身動きと声を出して起き上がった。

 

「アリ・・・シア・・・・・・?」

 

プレシアさんが上体を起こしたアリシアに恐る恐る声をかける。

アリシアはプレシアさんに顔を向けて笑顔で声を発した。

 

「おはよう・・・・・・ううん、久し振りお母さん」

 

「っ・・・・・・!アリシア!」

 

プレシアさんは泣きながらアリシアを抱き締めた。

アリシアもプレシアさんを抱き返して、フェイトとアルフ、リニスさんを見る。

 

「リニス、久し振り。アルフははじめましてだよね。そしてフェイトも・・・・・・」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「アリシア・・・」

 

フェイトとリニスさんは涙を流しながらアリシアに近寄り、プレシアさんと同じように抱き締めた。アルフも近寄りながらも抱き締めはしないが嬉しそうに泣いていた。

 

「よかった・・・よかったよ」

 

「うん」

 

泣きながらいうなのはに僕も貰い泣きをしたみたいで目元が濡れた。

 

「あとはプレシアさん」

 

「なにかしら?」

 

「ちょっとその場を動かないでくださいね」

 

「?ええ」

 

僕の言葉にプレシアさんは疑問顔を浮かばせながらも動かないでくれた。

僕はホルスターから双銃を取り出し、アリシアに向けて射った白銀の銃ではなく、左手の黒の銃を向けて弾丸を放つ。

放たれた弾丸はアリシアと同じように、プレシアさんを傷付けることなく虚空に消えた。

すると次の瞬間、プレシアさんの肌が健康そうになり、若返ったかのようになった。まあ、実際若返っているのだが。

僕がプレシアさんに射った弾丸は時間遡行の弾丸。射った相手の時間を戻すということだ。簡単にいうと、プレシアさんの元の年齢から、リンディさんと同じくらいの30歳後半くらいまでの年齢に戻したということだ。

これからフェイトやアリシアと暮らすんだから、できるだけ長く一緒にいてほしいからね。

 

「終わりっと」

 

僕は双銃と天生牙をしまい、息を吐いた。

息を吐いた瞬間、僕の身体に凄まじい疲労感と脱力感が訪れた。

まあ、当然だね。時の庭園内でかなり魔法連発したし最上級の魔法も放ったし、今もかなり魔力を喰らわれたからね。

僕がそう判断していると、不意に眩暈が訪れた。

 

「零夜くん!」

 

「お、おい零夜!」

 

両隣をなのはとクロノが慌てて支えてくれたお陰で、地面に倒れることはなかった。

 

「ごめん、さすがに疲れたよ・・・・・・」

 

「え!?ちょっ!?れ、零夜くん!?」

 

僕は一言そう言うと、深い眠りに落ちた。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~なのはside~

 

「え!?ちょっ!?れ、零夜くん!?」

 

私とクロノ君に支えられながら、零夜くんは力が抜けたように意識を失った。

 

「お、おい、零夜!?」

 

反対側のクロノ君も心配して零夜くんに声をかけ呼び掛ける。

すると。

 

《安心してください。マスター零夜は眠りについているだけです》

 

突如部屋の中にそんな声が響き渡った。

声の主は零夜くんが身に付けてるペンダントからだった。そして他にも。

 

《さすがにあんなに魔力を使ったら零夜くんでも疲れるよ~》

 

《さすがに今回は事情が事情ですかからね》

 

残り二つのネックレスとブレスレットからも声が聞こえてきた。

 

「あなたたちは・・・零夜君のデバイスかしら?」

 

リンディさんが訊ねると。

 

《ええ。私の名前はリンカーネイトです》

 

《わたしはレイオブホープだよ》

 

《わたくしはステラメモリーです》

 

デバイスたちは何故か分からないが人みたいに流暢に挨拶をしてくれた。

 

「ちなみに眠りについているのは・・・・・・」

 

《はい、時の庭園内での上位クラス並の魔法の連発。さらに最上位クラスの魔法や質量消滅魔法。そして、プレシアさんの治療とアリシアの蘇生と二人の時間遡行と促進。さすがにここまでするといくら零夜くんでも疲労困憊になります》

 

《そこにわたしたちと自分のリミッターも解除したからね~》

 

『『『『『・・・・・・・・・・』』』』』

 

えっと・・・、リンカーネイトさんとレイオブホープさんが然り気無くとんでもなくすごいこと言っていた気もするんだけど・・・・・・。

私はそう思いながらユーノ君やクロノ君を見る。二人は驚きを通り越して驚愕?なのかな。そんな表情をしていた。よく見るとアリシアちゃんと私以外のその場の全員が口を開けてあんぐり状態だった。

 

「つ、つまり零夜くんは魔力の使いすぎで寝てるってこと?」

 

《はい》

 

「そ、そうなの」

 

私の問いに即答したリンカーネイトさんに私はなんとも言えなかった。

 

「そ、それじゃあプレシアさんたちの事情聴取をしちゃいましょうか」

 

「え、ええ」

 

大人のリンディさんとプレシアさんも言葉の端切れが悪かった。

そのあと、目覚めたばかりのアリシアちゃんと、その看護のリニスさん。そして零夜くんを医務室に寝かせて、フェイトちゃんとアルフさん、プレシアさんはリンディさんとクロノ君、エイミィさんと一緒に別室に、私とユーノ君は自由に過ごしてもいいとのことだった。

そして零夜くんが起きたのは翌日のことだった。

 

~なのはside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

 

プレシアさんの起こした事件の解決から数日が経った。

あのあと、僕が寝ている間、プレシアさんを主として事情聴取をリンディさんたちが行ったらしい。その際に僕が調べ、エイミィさんが管理局本局からのデータを見極めて、プレシアさんの事件についてのことも聞いたらしい。しかし管理局のデータは大半が改竄されたデータになっておりこれに対してのプレシアさんの容疑晴れは難しいとされていた。だが、その状況を大きく引っくり返したのが僕が調べあげた情報だった。その情報を見たプレシアさんは驚きながらも合っていると断言したそうだ。そして、そこにプレシアさん自身のその際のことが事細かに書き込まれた資料や元の同僚の証言も役に立ち、結果として『アレクトロ社』は事実上の解散。倒産した。さらに今回のことに加担した管理局上層部数十名が逮捕、検挙された。アレクトロ社と検挙された管理局上層部はプレシアさんらに多額の賠償金を支払い、プレシアさんの駆動炉実験の冤罪は見事に晴れたのだった。

そして、今回の事件のことだがフェイトとアルフはプレシアさんの証言でただ言われたままに集めていたこともあり保護観察処分となった。アリシアに関しては特になく、アリシア蘇生に関してはアースラ全乗務員に箝口令がリンディさんによって敷かれた。報告書にはアリシアは死亡ではなく、植物状態での昏睡として書かれ、僕のレアスキルによって昏睡から目覚めたと書かれた。その際、僕のレアスキルに関しては重要機密となったらしい。リニスさんはフェイトとアルフ同様、主であるプレシアさんの指示にしたがったということでフェイトとアルフと同じように保護観察処分だ。そして、プレシアさんに関しては予想外にも罪が大きく減刑され、保護観察処分となった。主な理由としては、ジュエルシード暴走に関しては不十分管理として厳重注意として処理され、アースラの武装局員攻撃に関しては、後ろにアリシアがいるのにも関わらず先に武装局員が攻撃したこともあり、親が自分の子供を守るというのは当然だという理由から正当防衛が成立した。ちなみに、この時攻撃した武装局員は後程、アースラでアリシアさんとプレシアさんに謝罪をしたそうだ。なんでも自分も同い年の子供がいるのだとかで、自分のした行動が同じ親としてしてはならないと悟ったからということだ。

その他、冤罪事件のことなど諸々から刑が大きく減刑されたのだ。

そして、今回の事件の発端となったジュエルシードに関しては厳重に封印を施した上に本局に移送された。結果として、ユーノがしようとしたことがちゃんとなされたのだ。

この事から、今回の事件は後の歴史にJ・S(ジュエルシード)事件として記録される事となった。

現在テスタロッサ家5人はアースラで生活している。一応裁判があるらしく、その為だ。アリシアは基本は医務室でエイミィさんとリニスさんの検査を受けている。何年も寝たきりで、起きたのだから身体に異常がないのか調べるためだそうだ。だが、アースラでできる検査も限られるらしく、ミッドチルダに着き次第、本局の治療室、もしくはミッドチルダの本局の病院に移送される予定らしい。フェイトはクロノやアルフと仲良く過ごしているらしい。まあ、同年代の友達がいなかったフェイトにとっては嬉しいのだろう。それはもちろんクロノもみたいだ。そして、プレシアさんはリンディさんと一緒に裁判に必要な書類を日夜作成しているらしい。

まあ、なにかと大雑把な気がするけど、僕としてはフェイトたちが嬉しそうに過ごせるのならそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラから海鳴市に戻ってきて数日。

僕となのはは何気ない日常を過ごしていた。はやての家に行き、終わったことを伝えるとはやては満面の笑みを浮かべて車椅子に座って僕に抱きついてきた。まあ、そのあとがいろいろと大変だったけど。

とまあ、こんな日が過ぎていったある日・・・・・・

 

 

 

 

 

海鳴臨海公園

 

 

 

僕となのはは海鳴臨海公園に来ていた。

理由は、今日フェイトたちが本局へと向かうからと、フェイトとアリシアが会いたいと懇願したからだそうだ。

臨海公園に着くと、フェイトと車椅子に座っているアリシアの姿があった。そして少し離れたところにはクロノやプレシアさん、リニスさん、アルフの姿が。

 

「久し振りだねクロノ」

 

「ああ。君も元気そうだね」

 

「まあね」

 

「僕たちは少し離れているから四人で話すといいよ」

 

「ありがとう、クロノ」

 

「構わないさ」

 

クロノはそう言うと、プレシアさんたちと一緒に近くの東屋まで下がった。よく見るとそこにはフェレット姿のユーノがいた。

 

「なんだかいっぱいフェイトちゃんと話したいことあったのに・・・変だね。フェイトちゃんの顔を見たら忘れちゃった」

 

「私は・・・そうだね。私もうまく言葉にできない。だけど嬉しかった。真直ぐに向き合ってくれて」

 

なのはとフェイトは海が見える場所で手摺に手を置いて並んで話している。僕はその隣で同じように手を掛けて海風に吹かれながら聞く。

 

「うん。友達になれたらいいなって思ったの。でも・・・今日はもう、これから行っちゃうんだよね?」

 

「うん、そうだね。なのはと零夜達のおかげで罪は凄く軽くなったけど・・・・・・少し長くなる」

 

「また会えるよね?」

 

「うん、大丈夫。やっと...本当の自分を始められるから」

 

フェイトははっきりとなのはに断言し、それを聞きなのはは微笑みかえした。

 

「今日来てもらったのは、返事をするため」

 

「え?」

 

「君が言ってくれた言葉『友達になりたいって』って・・・」

 

「あ・・・うん!」

 

「もしかしてなのは・・・忘れていたり・・・・・・」

 

「そ、そんなことないよ!・・・・・・たぶん・・・」

 

「ふふ。私にできるなら、私でいいならって・・・だけど分からない。私にはアルフ以外に友達がいなかったから。リニスは先生って感じだから友達じゃなかったし。だから教えてほしんだ。どうやったら友達になれるか」

 

「簡単だよフェイト」

 

「うん。とても簡単。友達になるのはすごく簡単。名前を呼んで・・・初めはそれだけでいいの。君とか、あなたとかそう言うのじゃなくて、ちゃんと相手の目を見て、はっきりと相手の名前を呼ぶの。全部はそこから始まるの」

 

「名前」

 

「うん。じゃあ、フェイトちゃん。私、高町なのは。なのはだよ」

 

「・・・なのは」

 

「うん」

 

「なのは」

 

「うん!」

 

「なのは!」

 

「うん!」

 

なのはは嬉しくなり、その目から涙があふれ出す。

隣に車椅子に座っているアリシアも嬉しいのか涙が出ていた。

 

「よかった。フェイトに友達ができて」

 

「そうだね」

 

「少し分かったことがある。友達が泣いていると・・・・・・同じように自分も悲しいんだ」

 

「フェイトちゃん!」

 

なのはは感極まったかのようにフェイトに抱きつく。フェイトは優しくなのはを抱きしめた。

 

「ありがとうなのは。今は離れてしまうけど、きっとまた会える。そうしたら・・・また君の名前・・・呼んでもいい?」

 

「うん!うん!」

 

なのはの嬉しそうな表情に僕もそっと笑みを浮かべ空を見上げた。

 

「僕にも守ることができたよ。愛奈美お姉ちゃん、華蓮」

 

そっと静かに、誰にも聞かれることのないように僕は名前を呼んだ。前世での僕の大切なお姉ちゃんと、幼馴染みを。

 

「零夜?」

 

「ううん。なんでもないよアリシア」

 

「そう?ならいいんだけど」

 

アリシアは不思議半分心配半分な表情で聞いてきた。

 

「アリシアはフェイトとなのはの会話に混ざらなくていいの?」

 

「いいの?っていうか私まだ目覚めたばかりだからなのはさんのことも知らないんだよね。フェイトがよく話してるから大体はわかるのだけど」

 

「あはは。なるほどね」

 

アリシアと何気無いそんな会話をしていると。

 

「零夜」

 

なのはと話していたフェイトが声をかけてきた。

 

「どうしたの?」

 

「ありがとう零夜。零夜のお陰で母さんと仲直りできた。アリシアお姉ちゃんとも、リニスとも一緒にいられる」

 

「そんなことないよ。僕はただ手伝っただけ。決め手となったのはフェイトだから」

 

「そんなこと・・・!」

 

「ふふ。大切にしてね。今いる時間は決して、もう一度過ごせる訳じゃない。過去ではなく、未来へと僕らは進んでいるんだから」

 

「うん。わかった」

 

「わかった!」

 

「うん!」

 

「なのはまで返事しなくても・・・」

 

苦笑いで返事をするフェイト、アリシア、なのはを見る。

すると。

 

「すまないがそろそろ時間だ」

 

「もうそんな時間なんだ」

 

クロノが申し訳なさそうにやって来た。

 

「ごめんクロノ、あとちょっと待ってて」

 

「わかった」

 

僕はクロノからもう少しだけ時間をもらい、なのはと僕、フェイトとアリシアの2対2に並ぶ。

 

「フェイトちゃん」

 

なのはは自分の髪を縛っている白いリボンを手解き、フェイトに渡した。それをみたフェイトも同じように髪を縛っていた黒い紐をほどいて、なのはの白いリボンと交換した。

 

「僕からはこれを」

 

僕はフェイトに黒と金のブレスレットをアリシアに白と水色のブレスレットをそれぞれ渡した。

 

「お守り、また会えるように」

 

僕の右腕には蒼色と緋色の織り混じったお揃いのブレスレットが、そしてなのはの右腕にも白とピンクのブレスレットを着けていた。

僕は目尻に涙を少しだけ浮かべて言った。

そのあと、僕たち四人はリニスさんに写真を撮ってもらい、後日報告書と共に送ってもらうことにして、フェイトとアリシアから数歩離れた。

 

「ありがとう零夜君。あなたのお陰でアリシアともフェイトともまた一緒に過ごせるわ」

 

「ありがとうございました、零夜さん、なのはさん」

 

「今までありがとな二人とも」

 

プレシアさん、リニスさん、アルフの順にお礼を言われ、

 

「またね、零夜、なのは」

 

「また会おうね、零夜くん、なのはさん」

 

フェイトとアリシアが満面の笑みで手を振って言った。

 

「うん。またねフェイトちゃん、アリシアちゃん」

 

「また、会おうね。フェイト、アリシア」

 

そう言うと、クロノとユーノたちはその場から転移していなくなった。

 

「それじゃ、帰ろうかなのは。僕たちの日常に」

 

「うん!また、フェイトちゃんとアリシアちゃんに会う日まで!」

 

僕たちはそのまま臨海公園をあとにし、帰路についた。

 

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~アマテラスside~

 

 

「予想通り、零夜くんが変えてくれましたね。原作の時間線からIFへと」

 

目の前にある鏡に映し出されている映像をみてわたしは言った。

 

「それに見ていても零夜くんは面白いです。だからこそ、わたしは零夜くんに肩入れするのかもしれませんね」

 

鏡に映る映像を保存して、東屋から出て広がる花畑を見渡す。

 

「一度、零夜くんに会いに行きましょう。本当なら駄目なんですけど、零夜くんの心は始めてみたときとあまり変わってませんからね。心配もありますけど」

 

もし、わたしのこの姿を他の神が見たら親バカではないかと苦笑いで聞くだろう。

わたしはそう思いながら東屋からで本殿の居へと移動した。

 

 

 

 

 

 




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女神降臨!?

 

 

~零夜side~

 

 

え~と、みなさんこんにちは。今作の主人公の零夜です。実は今目の前でとんでもない人たちがいるのです。

それは。

 

「どうかな零夜くん」

 

「零夜くん、遠慮することないのよ?」

 

「まあまあ、二人とも落ち着こうよ」

 

「そうよ、少し落ち着きましょうよ」

 

四人・・・・・・ではなく4神の女神たちがいるからなのです。

 

「最初はアマテラスさんだけだったのになんでこんなことに?」

 

あまりの光景に驚きを通り越してなにも言えない僕でした。

時は遡ること2時間前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2時間前

 

 

ジュエルシード事件から数日たったある日。

 

 

「はい」

 

『あ、零夜くん。アマテラスです。お元気でしたか?』

 

「こんにちはアマテラスさん。一応は元気です」

 

僕のスマホの着信音が鳴り、繋げると相手は僕を転生させてくれたアマテラスさんだった。

 

「それで今日はどうしたんですか?」

 

『あ、実は今から零夜くんの家に伺おうかなって思ってまして』

 

「え!?あ、アマテラスさん僕の家に来れるんですか!?」

 

『ええ、まあ。詳しいことは3分後に玄関でお会いしましょう』

 

「わ、わかりました」

 

そう言うと通話が切れ、その3分後ジャストに。

 

 

"ピンポ~ン"

 

 

インターホンがなった。

玄関に行き扉を開けると、

 

「お久しぶりです零夜くん」

 

アマテラスさんがいた。

 

「こ、こんにちはアマテラスさん。お久しぶり・・・・・・です」

 

「ええ」

 

「取り敢えず中へどうぞ」

 

「では、お邪魔しますね」

 

アマテラスさんを家の中に入れ、リビングに案内した僕は、台所からお茶とお茶菓子をもって戻った。

 

「え~と、粗茶ですがどうぞ」

 

「あ、いえ、そこまでお気遣いしなくても・・・・・・」

 

アマテラスさんは微笑んでそう言った。

 

「それで・・・・・・今日はどうしたんですか?」

 

アマテラスさんと対面する形で座りお茶を飲んでアマテラスさんに訪ねる。

 

「零夜くんの様子を見に来ました」

 

「へ?」

 

僕はつい変な声を出して返事をしてしまった。

 

「そ、それだけですか?」

 

「はい」

 

微笑みながら言うアマテラスさんに僕は動きを止めた。

 

「そう言えば零夜くん」

 

「はい」

 

「見事!原作破壊(ブレイク)しましたね♪」

 

「ゲホッ!コホッ!ケホッ!は、はい!?げ、原作破壊!?」

 

「はい♪」

 

「え、マジですか」

 

「はい♪大マジです♪」

 

僕は知らず知らずのうちに原作を破壊していたことに驚き、つい飲んでいたお茶を吹き出すところだった。

 

「え、えっと、それって大丈夫なんですか?」

 

恐る恐る聞いてみると。

 

「大丈夫ですよ。そもそも、零夜くんをこの世界に転生させたときから本来の時間軸ではなく、全く違う時間軸になってますから。それに本来ならアーティファクトはこの世界にはありませんし、原作では先日のプレシア・テスタロッサさんとアリシア・テスタロッサちゃんが生きているなんて無かったので」

 

「そ、そうなんですね」

 

つまり、原作の『リリカルなのは』の時間軸と今僕のいる『リリカルなのは』の時間軸は全くの別の時間軸になっているということだ。言うなれば、僕のいるこの世界はもしもの世界。原作のIFということだ。

 

「ご、ごめんなさい。なんか原作破壊しちゃったみたいで」

 

「あ。いえ、いいんですよ零夜くん。出来ることなら零夜くんにはこれからも自分の正しいと思うことをして、色んな人を助けてあげてください。私は零夜くんに幸せになってもらいたいんです」

 

「アマテラスさん」

 

僕はアマテラスさんの優しさに、どこか母性を感じた。

 

「あの、アマテラスさん。聞いてもいいですか?」

 

「はい」

 

「どうして僕にそこまで肩入れしてくれるんですか?」

 

僕は前々から気になっていたことを尋ねた。

するとアマテラスさんは少し考えた感じに手を頬に当て言った。

 

「う~ん・・・わたしが零夜くんを気に入った、ってのも一つの理由なんですが・・・・・・そうですね・・・何故か零夜くんを放っておけなかったんです」

 

「僕を放っておけなかった・・・ですか?」

 

「はい。零夜くん。零夜くんは転生する前、死んでしまう前のことは覚えてますか?」

 

「ええ。一応たまに夢に見ます」

 

「実のところ、わたしはあなたが死ぬ前から見ていたんです」

 

「え?」

 

「あなたほど哀しみに満ち溢れている人は見たことありませんでした。これからも観察を続けて行く矢先にあんなことがありまして」

 

「なるほど・・・・・・」

 

「だからですかね。わたしはここであなたに第二の人生を謳歌してもらいたいんです」

 

アマテラスさんはなんでもお見通しみたいだ。さすが神様だね。

 

「大丈夫です。現に今、僕はこの世界で楽しく過ごしてます。確かにちょっと・・・・・・いえ、かなり寂しいですけど、僕にはなのはやはやて、アリサやすずかたち。それに、この間友達になったフェイトやアリシア、クロノ、ユーノたちや色んな人がいますから。大丈夫ですよ。これも全部アマテラスさんが僕のことを色々と気遣ってくれて助けてくれるからです。むしろ、僕の方がお礼を言いたいです」

 

「零夜くん」

 

「だからアマテラスさん。僕をこの世界に転生させてくれてありがとうございます」

 

僕はアマテラスさんに十分この世界を謳歌していることを伝え、お礼を言う。

 

「いえ・・・・・・。零夜くんが楽しんでいるのならわたしも嬉しい限りです」

 

アマテラスさんは慈母の微笑みを浮かべて言った。

すると、その途端。

 

「あ~!やっと見つけたよアマテラス!」

 

「一人だけ降りるなんて狡いわよ」

 

二人の女性の声が響き渡った。

 

「こ、この声は・・・・・・」

 

アマテラスさんはどうやらこの声の主が誰か知っているみたいだけど。

そう思っていると、ソファーの横に純白の扉が現れその扉のなかから二人の女性が姿を表した。

 

「まったく、会いに行こうとしたらいないんだもん」

 

「かなり探したわよ」

 

出てきた女性は二人ともかなり美しく、アマテラスさんと同じほどだった。

右側の女性の格好は淡い青と白を混ぜたワンピースにカーディガンを羽織った感じで白金の長い髪の毛を凪がしていて。左側の女性はラフな白いシャツとブラウス、銀のスカートで長い白銀の髪を一つ縛りにしてポニーテールにしていた。

 

「あ、アフロディーテ、アテナなんでここに・・・・・・っていうかどうやってここに来たの!?」

 

現れた二人の女性に眼を見開きながら聞くアマテラスさんは驚きを浮かべていた。

あれ、アフロディーテにアテナって確かギリシャ神話のオリュンポス十二柱の女神だったような・・・・・・。

とっさに脳裏にそんなことを思い浮かべていると。

 

「二人とも、速すぎです!」

 

またしても純白の扉が現れ、その中から一人の女性が現れた。

 

「が、ガブリエル!?ガブリエルまでなんでいるのですか!?」

 

「いやー、まあ、いろいろあって」

 

ガブリエルと呼ばれた女性は臼緑色のチュニックを着てその上にカーディガンを羽織り、長い若葉色のスカートを着ていた。髪は長く、淡い緑色の髪を靡かせていた。

 

「あの、アマテラスさん。お知り合いですか?」

 

「ええ。右からアフロディーテ、アテナ、ガブリエルよ。わたしの友達なのよ」

 

「なるほど」

 

「それで、三人とも今日はどうしたの?」

 

アマテラスさんがいつの間にか座っていたアフロディーテさんたちに聞いた。

僕はその隙に、アフロディーテさんたちのぶんのお茶とお茶菓子を用意して持ってくる。

戻るとアマテラスさんが額に手を当ててため息をついていた。何かあったのかな?

 

「え~と、粗茶ですがどうぞ。アフロディーテさん、アテナさん、ガブリエルさん」

 

僕は持ってきたお茶とお茶菓子をアフロディーテさんたちの前置いた。

 

「あ、ありがとう♪」

 

「ありがとう」

 

「ごめんなさいね」

 

僕はアマテラスの隣に行き尋ねた。

 

「あの、アフロディーテさんたちはなぜここ?」

 

「三人とも、零夜くんがどんな子なのか知りたかったみたいです。それで来たと」

 

「な、なるほど・・・・・・」

 

僕なんか見てもあんまり意味無い気がするけどなぁ。と思ってしまった。

そこへガブリエルさんが。

 

「ねえねえ、君がアマテラスが気にかけている転生者くん?」

 

「あ、はい。天ノ宮零夜です」

 

「天ノ宮零夜くんか。零夜くん、って呼んでもいいかな?」

 

「はい。いいですけど」

 

「ありがとう零夜くん。私のことはガブリエルって呼んでね」

 

「えっと・・・ガブリエル・・・・・・さん・・・・・・」

 

「"さん"はいらないよ~」

 

「えっと、ガブリエル・・・・・?」

 

「うん♪これからよろしくね」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

ガブリエルさん・・・・・・ではなく、ガブリエルと挨拶をしていると。

 

「あー、ガブリエルだけずるい~。零夜くん、私のことはアフロディーテって呼んでね。もちろん、"さん"付けはいらないよ」

 

「えっと・・・・・・アフロディーテ・・・・・・?」

 

「はい♪良くできました」

 

「零夜くん、私のことはアテナって呼んで。私も"さん"づけじゃなくていいわよ」

 

「は、はい。えっと・・・・・・アテナ・・・・・・?」

 

「ええ」

 

「狡いです。わたしは未だにアマテラス"さん"付けなのに。ガブリエルやアフロディーテ、アテナは呼び捨てなんて。零夜くん、わたしのこともアマテラスでいいですよ!」

 

「ええ・・・・・・」

 

「さあ!」

 

「えっと・・・・・・アマテラス・・・・・・」

 

「っ!はい♪良くできましたですね。もういっその事、零夜くんのお姉ちゃんになっちゃいましょうか」

 

「はい!!?」

 

唐突に言ったアマテラスさんの言葉に素っ頓狂な声を上げた僕は決して悪くないはず。たぶん。

 

「いいわねアマテラス!」

 

「どうせなら私たちも零夜くんのお姉ちゃんになりますか?」

 

「いいかも」

 

知らぬ間に話があっという間に進んでいってしまっている。唖然とその光景を見ていると。

 

「ねっ、零夜くん」

 

「はい。どうしたんですか・・・アフロディーテ?」

 

「ちょっと、私のことお姉ちゃんってつけて呼んでみてくれるかな?」

 

「えっと・・・・・・アフロディーテお姉ちゃん・・・・・・?」

 

アフロディーテをお姉ちゃん付けで呼んでみた。すると、お姉ちゃんと呼ばれたアフロディーテさんは顔を赤くして、何故か悶えていた。なんで!?

 

「うっ・・・。こ、これはかなりいいかも」

 

なんか小声で言っているけど大丈夫かな?

 

「あ、じゃあ私のこともお姉ちゃんって呼んでくれる?」

 

「私もお姉ちゃんって呼んでほしい」

 

さらにガブリエルとアテナが眼をキラキラさせて言ってきた。

 

「ガブリエルお姉ちゃん・・・・・・?」

 

「はうっ・・・・・・!」

 

「アテナお姉ちゃん・・・・・・?」

 

「ひうっ・・・・・・!」

 

二人をお姉ちゃんと呼ぶと、またしても何故かアフロディーテと同じように顔を赤くして悶えていた。ガブリエルにいたっては鼻血?をだしていた。

なんで!?

 

「(お姉ちゃん・・・か・・・・・・。懐かしいなあ。僕がお姉ちゃんって呼んだのって愛奈美お姉ちゃんだけなんだよね。華蓮は幼馴染で同い年だったし)」

 

僕は"お姉ちゃん"という言葉に不意にそう脳裏に思い出して懐かしんだ。

そう懐かしんでいると。

 

「あ、あの零夜くん。出来ればわたしのことお姉ちゃんって呼んでくれますか」

 

アマテラスがモジモジと体を震わせて言ってきた。

 

「え、えっと、アマテラスお姉ちゃん・・・・・・?」

 

「ひゃっ・・・・・・!お姉ちゃん・・・・・・この響きいいですね」

 

「「「うんうん!」」」

 

アマテラスたちは顔を赤くしながらうなずいている。

 

「そんなわけで私たちと家族にならない?」

 

「え、え~と・・・・・・」

 

「どうかな零夜くん」

 

「零夜くん、遠慮することないのよ?」

 

「まあまあ、二人とも落ち着こうよ」

 

「そうよ、少し落ち着きましょうよ」

 

とまあ、ここで最初のところに戻る訳で。

何故かアマテラス、アフロディーテ、アテナ、ガブリエルから家族にならないかと言われています。

 

「ど、どうしたらいいかな」

 

僕は戸惑いながら自分のデバイスのリンカーネイト、レイオブホープ、ステラメモリーの三人に聞いた。

 

《私たちに聞かれても・・・・・・》

 

《零夜くんが良いと思うなら良いと思うよ》

 

《わたくしはマスターにお任せしますわ》

 

「ええ・・・」

 

デバイス三人からはあまりいい答えが聞けなかった。

やっぱり僕が考えるしかないみたいだ。

 

「えっと、ちなみにアマテラスたちはここに住むんですか?」

 

僕は一番疑問に思っていたことを聞いた。

 

「わたしとしてはここに住みたいんですけど・・・・・・」

 

「あまり私たちは下界に干渉してはならないからね~」

 

「家族と言っても、一緒に住むとかではなく保護者のような感じです」

 

アマテラスたちの言葉を聞いた僕は、少しだけ悩んでから答えを言った。

 

「あ、あの、僕でよければ」

 

「「「「いいの(んですか)!?」」」」

 

「はい」

 

「「「「よしっ!」」」」

 

アマテラスたちはガッツポーズを取っていた。

僕としても家族が増えるのは嬉しいから良かったと思ってる。

 

「じゃあ、今度から私たちのことはお姉ちゃんって呼んでくださいね♪」

 

「わかりました、アフロディーテお姉ちゃん」

 

一気に家族が四人も。それも義理とは言えお姉ちゃんが出来たことに僕は嬉しかった。

 

「そうなるとわたしたちのこの世界での呼び名を考えないといけないですね」

 

「そうね。名字は零夜と同じ天ノ宮で良いとして、名前を考えないと」

 

「そうだね」

 

どうやら、この世界での呼び名。名前を考えるらしい。けど、名字が僕と同じ天ノ宮でいいのかな?

僕がそう考えていると。

 

「決まりました」

 

どうやら決まったみたい。速い。

そう思っているとアマテラスお姉ちゃんから順に。

 

「わたしのここでの名前は明莉(あかり)です」

 

「私は美咲(みさき)ですよ♪」

 

「私は知智(ちさと)ね」

 

「私は(つばさ)です」

 

アマテラスお姉ちゃんが明莉。アフロディーテお姉ちゃんが美咲。アテナお姉ちゃんが知智。ガブリエルお姉ちゃんが翼となった。

 

「これからこの世界ではそう呼んでください零夜くん」

 

「わかりました。アマテラス・・・じゃなかった明莉お姉ちゃん」

 

「あ、敬語とかもそう言うのも無しですよ♪」

 

「うん。わかった、美咲お姉ちゃん」

 

こうしてこの世界での僕の従姉としてアマテラスお姉ちゃんたちは、天ノ宮明莉、天ノ宮美咲、天ノ宮知智、天ノ宮翼と名乗るようになった。

お姉ちゃんたちは基本は天界で僕を見守るそうで、危ないときや行事など何かあったときは来るらしい。

そして、さらにそこに新しく家族が増えた。しかも3人も。その3人とは。

 

「こんにちはリンカーネイトとこと天ノ宮凛華(りんか)です」

 

「はじめまして!レイオブホープこと天ノ宮澪奈(れいな)です!」

 

「わたくしはステラメモリーこと天ノ宮星夜(ほしよ)です」

 

僕のデバイスの3人だった。

明莉お姉ちゃんたちが僕のデバイスに擬人化インターフェースを付けてくれて、何時でもデバイス型や人型となることが出来るようになったのだ。

これに関してはリンカーネイトこと凛華たちは大喜びだった。それはいいんだけどこれで僕の家族が女子7人、男子は僕一人となってしまっていた。まあ、前世では基本、愛奈美お姉ちゃんと華蓮と過ごしていたから慣れていたりする。ちなみに、凛華は長女、星夜は次女、澪奈は三女らしい。

 

「あはは・・・。これからもよろしくね、凛華、星夜、澪奈」

 

「もちろんです零夜くん」

 

「もちろんだよ零夜くん♪」

 

「わかっていますよ零夜」

 

こうして僕の家、天ノ宮家は従姉の明莉お姉ちゃんたち4人と、凛華たち姉妹3人と僕と8人家族になりました。まあ、基本は僕たち4人で過ごすんだけどね。

そのあと、明莉お姉ちゃんたちは天界に帰っていき、僕たちは凛華たちの服や日用品を買いに街に出掛けたのだった。

 

 



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A´s
起動


 

~零夜side~

 

 

「こんにちは~」

 

「待っとったよ零夜くん」

 

ジュエルシード事件から1ヶ月半程経ったある日。僕ははやての家を訪ねていた。

その理由は。

 

「お待たせはやて。グレアム叔父さんは?」

 

「もういるで。それとアリアとロッテも来とるで」

 

「え!アリアさんとロッテさんもいるの!?」

 

はやての今の保護者のグレアム叔父さんが来てるとはやてから連絡を受けたからだ。

 

「やあ。久しぶりだね零夜君」

 

「お久しぶりですグレアム叔父さん!」

 

リビングに入ると優しい微笑みを浮かべた50歳後半の男性がいた。この人がはやての叔父のグレアム叔父さんだ。

 

「息災でなによりだよ」

 

「グレアム叔父さんこそ。元気そうで良かったです」

 

僕とグレアム叔父さんが知り合ったのは今から二年前の一年生の夏頃だ。はやてに呼ばれて家に行ったときにそこにいたのがギル・グレアム叔父さんなのだ。

 

「ひっさしぶりだにゃ~、零夜」

 

「久しぶりだね零夜」

 

「ロッテさん!アリアさん!お久しぶりです!」

 

グレアム叔父さんと挨拶していると後ろから、グレアム叔父さんの娘のロッテさんが抱き付いてきた。台所からはアリアさんが顔を出してきた。

 

「うーん、やっぱり零夜の抱き心地は最高だにゃ」

 

「く、苦しいですロッテさん」

 

抱き着かれるのはいいんだけど頬刷りをしてきたり強く抱き締めてくるのはちょっと勘弁してほしいかな。

僕がそう思っていると。

 

「ははは。これこれロッテ。零夜君が苦しそうだぞ」

 

「狡いでロッテ」

 

「ロッテそこまでにしときなさい」

 

グレアム叔父さん、はやて、アリアさんが助けてくれた。のはいいんだけどはやてさん?なんであなたは膨れっ面をしているんですか?

 

「はーい」

 

3人に言われて渋々ロッテさんは僕を放してくれた。

僕は苦笑いをしながらはやての横に座った。

 

「それでグレアム叔父さん、今日はどうしたんですか?」

 

僕は海外。確か英国に住んでいて滅多にこれない筈のグレアム叔父さんに聞いた。

 

「なに、ここ最近忙しくてね。やっと休暇が取れたから君たち二人の様子を見に来たのだよ」

 

「僕もですか?」

 

「ああ。私は零夜君の保護者ではないが、それに近いと私は勝手だが思ってる」

 

「勝手だなんて・・・・・・」

 

「まあ、叔父さんと呼んでくれて嬉しいと言うのもあるよ」

 

「それは父様だけじゃないよ」

 

「あたしたちも零夜のことははやてと同じ様に弟だと思ってるからね」

 

「アリアさん・・・ロッテさん・・・」

 

「それに、はやてはきみといるとすごく嬉しそうだからね」

 

「ちょっ!ぐ、グレアム叔父さん!」

 

笑いながら言うグレアム叔父さんにはやては顔を赤くしていた。

 

「?はやて、顔赤いけど熱?」

 

「な、なんでもないで!」

 

「そ、そう?」

 

はやての額に手を当てて熱を測ると更に顔が赤くなったが、はやては熱ではないと言っているから大丈夫かな?

 

「あらら。これははやても大変だ」

 

「とんだ朴念仁だにゃ」

 

「ははは。若いっていうのは良いことだ」

 

「???」

 

グレアム叔父さんたちが何か言ってるけどどういう意味だろう?意味の理解できない僕はただ首をかしげるしかなかった。

そうして時間は過ぎていき、夜7時ぐらいになるとグレアム叔父さんたちは英国に帰るために八神家を後にした。もちろん、僕とはやてはグレアム叔父さんたちと夕飯を食べた。料理を作ったのは僕とはやてで、アリアさんとロッテさんはそれを見物してグレアム叔父さんはお仕事関係なのかな?電話を5分ほどしてから僕たちのことを見守ってくれていた。

 

「よかったね。グレアム叔父さんたちが元気そうで」

 

「せやな~。毎月手紙は送ってるけど実際に会うのは随分と久しぶりやからね」

 

僕はグレアム叔父さんたちが帰った後も、はやてと一緒にいた。ちなみにリンカーネイトこと凛華たちは天ノ宮家でお留守番中だ。今度はやてに紹介したいな。

 

「最後にあったのは去年の冬ごろ・・・・・・だったかな?」

 

「うん。まあ、ここ最近零夜くんが来て来れはるから私は寂しくないで」

 

「それは僕もだよはやて」

 

「ふふふ、おおきにな」

 

僕とはやてはリビングで暖かい紅茶を飲みながら話す。僕としてもはやてといると楽しいからこの時間は心地いい。

 

「そういえばそろそろはやての誕生日だよね」

 

「そういえばそうやったな」

 

「何か欲しいものとかってある?」

 

「う~ん・・・・・・せやな~・・・・・・あ!零夜くん!ってのはどうや?」

 

「なんで僕なのさ・・・・・」

 

僕は呆れたようにひきつり笑いを浮かべて苦笑した。

 

「あはは。冗談やで冗談」

 

はやては面白そうに笑って答えた。

 

「特にないかな。私は今の日常が続いてくれればそれでええよ」

 

「はやて・・・・・・」

 

はやての今の日常というのに僕は表に出さずに少し影を内心募らせた。

今僕の友達の中で苦しんでいるのははやてだから。

僕はそう思いながら楽しそうに話すはやてを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月3日 

 

 午前10時  海鳴大学病院

 

 

時は過ぎはやての誕生日前日。僕ははやての付き添いで海鳴大学病院に来ていた。

検査が終わった後、僕は石田先生と二人だけで話していた。

 

「それで石田先生。はやては」

 

「前回と同じよ」

 

つまり変化なしと言うことだ。

 

「原因は分からないんですか」

 

「足の筋肉が麻痺してるんだと思うんだけどよくわからないのよ。一応、治療法もいろんなところから探しているんだけど・・・・・・」

 

石田先生は顔を俯かせて首を横に振る。

 

「そうですか・・・・・・」

 

「ええ」

 

雰囲気が暗い感じになる中、僕は石田先生に言った。

 

「ところで石田先生、このあと予定とかありますか?」

 

「いえ。明日は忙しいから無理だけど、今日はお昼までだから。その後は特にないわね」

 

「よかったらですけど、この後はやてのお誕生日を一緒に祝いませんか?」

 

「いいわよ。わたしも丁度はやてちゃんと零夜くんにそう提案しようと思っていたところよ」

 

「じゃあ、今日午後6時からはやての家でいいですか?」

 

「ええ」

 

「それじゃあはやてのことお願いします。僕は誕生日の準備をしますので」

 

「わかったわ。まかせてちょうだい」

 

僕は石田先生にそう言うと、はやてのことを石田先生に任せ、海鳴大学病院からショッピングモールに行って食材を買い込み、翠屋に行った。理由は。

 

「ありがとうございます、桃子さん」

 

「いいのよ。友達の誕生日なんでしょ?」

 

はやての誕生日ケーキを翠屋のパティシエである桃子さんに頼んだからだ。

 

「はい。あ、この事はなのはには秘密で」

 

「ふふ。わかったわ」

 

片目を瞑って悪戯っ子のような笑みを浮かべて桃子さんは答えてくれた。はやてのことをなのはに言わないのは、なんとなくイヤーな予感がするからだ。ちなみに桃子さんにもはやてのことは言ってなく、ただ友達の、としか言ってない。

 

「さてと、後は料理だね。ここは、明莉お姉ちゃんからもらった特典で、うんと美味しい物を作らないとね」

 

僕は翠屋で受け取ったケーキを持って、一度自分の家に戻ってからはやての家に向かった。

家に戻った理由は。

 

「凛華、星夜、澪奈、いる~?」

 

「いますよ~」

 

「いるよ、零夜くん」

 

「いますわ、マスター」

 

「これからはやての家ではやての誕生日をするんだけど3人も来ない?」

 

「「「もちろんいきます!」」」

 

「じゃ、行こうか」

 

凛華たちを連れていくためだ。

凛華たちのことは一ヶ月近く前に、親戚の従姉のお姉ちゃんとはやてに説明した。もちろん、石田先生も面識はある。僕が学校ではやてに着いて行けないときに凛華たちに付き添ってもらってるのだ。はやてと凛華たちはすぐに打ち解けて、姉妹や昔からの友達のようにとても仲が良い。ちなみに凛華たちのことはまだなのはたちには言ってない。なのはは既に魔法のことに踏み込んでいるからもあるし、僕のデバイスを知っているからだ。まあ、近いうちに説明するつもりだけど。

凛華たちと話ながら歩くと、あっという間に八神家に着いた。はやてから貰った鍵で開け中に入った僕らは早速行動を開始した。

 

「さて、始めちゃおうか」

 

「「「はい!」」」

 

 

「凛華は僕と一緒に料理を。澪奈は掃除を、星夜は飾り付けとかお願い」

 

「わかりました」

 

「まかせて」

 

「畏まりました」

 

「うん。それじゃ、開始!」

 

ケーキを冷蔵庫に入れて、僕らはそれぞれの役割行動をした。

そしてその数時間後。

 

 

『ただいま~』

 

『お邪魔します』

 

 

はやてと石田先生の声が玄関から聞こえてきた。

 

「お帰りはやて」

 

「あ!零夜くん!」

 

僕の姿を見るなりはやては少し怒ったように僕に詰め寄った。

 

「なんで勝手に帰ったん?ちょった寂しかったんよ」

 

「ご、ごめんはやて。ちょっとやることがあって」

 

「やること?」

 

「うん。さ、中に入って」

 

「ええけど。なんや?」

 

僕に促されて不思議そうな表情を浮かばせてはやてはリビングに入った。

入ったそのとき。

 

 

"パンッ!パンッ!"

 

 

何かが破裂したような音がした。

そして。

 

「一日早いけど。誕生日おめでとう、はやてちゃん!」

 

「おめでとう、はやて~!」

 

「おめでとうございます、はやてさん」

 

凛華、澪奈、星夜がクラッカーをその手にもってはやてに声をかけた。

 

「こ、これは一体・・・・・・」

 

戸惑うはやてに僕は後ろからはやてに説明した。

 

「明日、はやての誕生日でしょ?ほんとは明日祝いたかったんだけど石田先生、明日は忙しくて来れないみたいだから、一日早いけど今日お祝いすることにしたんだ」

 

「黙っててごめんなさい、はやてちゃん」

 

僕ははやてに説明して、石田先生は両手を合わせてはやてに謝っていた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「はやて?」

 

僕は先程から静かなはやてに声をかけた。

 

「え~と、お気に召さなかった、かな?」

 

「ちゃう・・・。その逆や」

 

「逆?」

 

「うん。とっても嬉しいで、零夜くん!」

 

はやてはとびきりの満面の笑みで僕を見た。

 

「石田先生も凛華ちゃんも澪奈ちゃん、星夜ちゃんもありがとな。私とっても嬉しい」

 

「はやてちゃん・・・」

 

石田先生ははやての嬉し泣きに当てられたのか、目元に手の甲を当て、目元から出た滴を拭った。

 

「さっ、こっちだよはやて」

 

「うん!」

 

僕ははやてをテーブルの席に押して、料理を次々ともってきた。

 

「うわぁ~。さすがやな零夜くん」

 

「相変わらず凄いわね。女として自信なくすわよ」

 

はやては目をキラキラと輝かせ、石田先生は苦笑いを浮かべていた。

 

「それじゃ食べようよ」

 

「せやな。そんじゃ、いただきます」

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

はやての合掌により、僕らはさっそくご飯を食べた。ちなみに凛華たちはデバイスだが普通に食事もできる。

基本的には僕と凛華が作ったから味とかは問題ないはずだ。元にはやてと石田先生は美味しそうに食べていた。この姿を見ていると作ったかいがあるよ。

それからしばらくしてデザートの桃子さん特性翠屋のケーキを6人で分けて食べ、はやてにプレゼントを渡した。石田先生ははやてによく合う白色のスカーフを、凛華はブックカバーを、星夜は写真立てを、澪奈は髪飾りを、そして僕はペンダントを渡した。

はやてのプレゼントはこの間、凛華たちと出掛けたときに買ったものだ。プレゼントを受け取ったはやてはまたしても涙を浮かべ笑みになり僕に車イスごと抱き付いてきた。抱きついてくるのは良いんだけど、石田先生のその母親みたいな表情はなんですか!?

僕は石田先生にそう思いながら抱きついているはやての頭を優しく撫でた。

そして数時間後。

 

「えーと、はやてさん?」

 

「なんや零夜くん」

 

「なんで僕はまたはやてのベッドの上にいるのでしょうか」

 

僕は何故かはやての部屋にいた。

凛華たちは隣の部屋で寝ている。もちろん念話をすればいつでも来れる。

 

「いいやんか。それとも零夜くんは私と一緒に寝るの嫌なん?」

 

「そういう訳じゃないけど・・・・・・って、なんか前にもあった気がするよこのやり取り」

 

「ははは。そうやったけか」

 

「うん。まあ・・・・・・いいよ」

 

「やった!」

 

僕がそう答えるとはやてはしてやったりと言わんばかりの表情になった。もしかして嵌められた?

そう頭の片隅に思いながら、はやての貸してくれた本を読む。

それから時は過ぎ。

 

「あ。もう12時」

 

「ホントだ。そろそろ寝ないと」

 

「そうやね」

 

僕とはやてがそう会話し、時計の針が12時に。6月4日、午前0時を指したそのとき。

 

「「ん?」」

 

急にはやての部屋の机の方から紫色の光が光ってきた。

僕らは恐る恐る光の発生元を見た。

光の発生元は、一冊の本だった。

 

「(あれは・・・・・・確かはやてが読めないって言っていた本だよね?しかも魔力も少しあったけ?)」

 

僕はその本を見てはやてを庇いながら警戒するように見る。

その瞬間。

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

地震のような揺れが僕らを襲った。

 

「はやて!」

 

僕ははやてをギリギリのところで支え未だに光、更に燐光が強くなっていく本を見る。

 

「(今の魔力振動?!まさか・・・・・)」

 

今の振動をそう判断していると、本は宙に浮きはやての方に近寄ってきた。

 

「え、ええ。れ、零夜くん、こ、これって・・・・・・」

 

「ぼ、僕にもわからない」

 

怯えるはやてと、戸惑う僕をよそに不気味に光る本は内部からなにか出るように四方を鎖で縛られているのを強引に引きちぎった。

そしてついに開かれた本のなかの頁は真っ白。なにもかかれていなかった。

そのまま白紙の頁がパラパラと捲られていき本が閉じると。

 

Ich hebe das Siegel auf(封印を解除します)

 

そう機械音声が本から聞こえた。

 

「(まさかこの本って魔導書!?)」

 

僕がそう思うのと同時に。

 

Anfang(起動)

 

魔導書らしき本が再び機械音声を発した。

すると。

 

「えっ!?」

 

はやての胸から小さな明るい光輝く球体が出てきた。

 

「まさかリンカーコア?!はやてのなかに!?」

 

僕ははやての中から魔導士の源であるリンカーコアが出てきたことに驚いた。

そんな僕の驚きを他所に、魔導書とはやての中から出てきたリンカーコアが同じ高さになると、見たことない黒紫色の魔方陣が現れ、目映い閃光を放った。

次に目を開けるとそこには少し大きくなったはやてのリンカーコアらしきものが浮かび上がっていた。

 

「!」

 

「はやて・・・・・・・!?」

 

息を呑んだはやての視線の先にはさっきの黒紫色の魔方陣があり、その上に4人の男女がいた。

 

「闇の書の起動を確認しました」

 

「我ら、闇の書の蒐集を行い。主を守る守護騎士でございます」

 

「夜天の主のもとに集いし者」

 

「ヴォルケンリッター、なんなりと命令を」

 

上から順に一番前にいるピンクの長い髪をした女性がいい、そこから左の緑の髪の女性がいい、その隣の白髪の男性、赤い紙の女子?が言った。

 

「ヴォルケンリッター・・・・・・(凛華!澪奈!星夜!今すぐはやての部屋に来て!)」

 

行きなり現れた4人の男女を見ながら、すぐさま念話で凛華たちを呼ぶ。

そういえばさっきからはやての声が聞こえないような・・・・・って!

はやてを見るとはやては目を回して気絶していた。

 

「は、はやて!?だ、大丈夫、はやて!?」

 

僕はすぐさま視線をはやてに移してはやての様子を見る。

すると、小さな赤い髪の女の子が近寄ってきた。

どうやらなんの反応のないはやてを見にきたみたいだけど。

 

「動かないで!」

 

僕は警戒心を高くしてその女の子に言う。

その瞬間。

 

「お待たせしました零夜くん!」

 

凛華たちが扉を開けて入ってきた。

 

「な、なんだお前たち!」

 

「それはこっちの台詞だよ。あなたたちどこから入ってきたの」

 

赤い髪の女の子の問いに凛華が聞き返す。

はやての家の周囲には僕の家と同じ結界を張っている。結界の種類は、侵入者防止、内部転移不可などだ。たとえ転移してきてもすぐさま僕に伝わるようにしている。それが伝わってないと言うことは転移ではない。僕がはやての家に結界を張っている理由は、幾ら独り暮らしとはいえ、はやてはまだ10歳にも満たない女の子だ。さすがに友達として心配するからだ。

 

「何者だお前ら。ただの一般人ではないな・・・・・・魔導士か」

 

先頭の恐らくこの人たちのリーダーと思う女性が聞いてくる。

 

「だとしたら何かな?それにあなたたちは何者?」

 

「我らは主を守る守護騎士、ヴォルケンリッター」

 

「守護騎士?」

 

「それはこの闇の書と呼ばれる魔導書のプログラムってことでいいのかな?」

 

「ああ」

 

僕の未だに浮かんでいる魔導書、闇の書に視線を向けて問う。

闇の書に視線を向けたその瞬間。

 

「うっ・・・!」

 

目映い光に包まれた。

次に目を覚ますと、そこはなにもない海のような感じの場所だった。

 

「ここは・・・」

 

周囲を見渡し、自身の体を見ると服装ははやての部屋で着ていたのと同じだった。

 

「凛華!澪奈!星夜!」

 

3人のデバイスを呼ぶが応答はなかった。

すると。

 

「ここではなにも喚べません」

 

後ろから声が聞こえた。後ろを振り向くとそこには、闇の書を脇に抱えた銀髪の一人の女性がいた。

 

「あなたは・・・・・・」

 

「私はこの魔導書の管制人格です。我が主の親友」

 

「闇の書の管制人格?」

 

僕はその女性に訪ねる。

 

「はい」

 

「それで何故あなたは僕をここに?」

 

「あなたにはお願いがあります」

 

「お願い?」

 

「はい。守護騎士たちは望まぬ戦いを繰り広げていました。ただ、主の望むままに何年も・・・何年も・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「ですから今回の我が主、マスターはやてを助けてほしいのです。あの心優しい主を」

 

「わかってるよ。大丈夫、はやてのことは必ず助ける。そして、あなたがあの守護騎士たちもはやてと同じように助けてほしいのなら、僕は助けるよ。僕の魔法はそのためにあるんだから」

 

「よろしくお願いします」

 

「まかせて」

 

そう言うと辺りが急に光、その場から消え去った。

次に目を覚ますと、はやての部屋に戻っていた。

 

「零夜くん、大丈夫?」

 

「大丈夫だよ澪奈。星夜、はやての様子は」

 

「気絶してるだけですわ」

 

「そう。取り敢えず病院に連れていこう」

 

僕ははやてに暖かい服を着せてお姫様だっこで抱き上げた。

 

「主をどこに連れていくつもりだ?」

 

「病院だよ。君達が出てきて驚いて気絶したみたいだからね。どうする、君たちは?」

 

「我々も行こう」

 

「わかった。凛華、はやての車イスをお願い」

 

「はい」

 

僕ははやてを抱き抱えて石田先生に連絡して海鳴大学病院に凛華、澪奈、星夜と守護騎士たちと一緒に向かった。

 

 

 

 



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闇の書

 

~はやてside~

 

 

 6月4日 午前9時

 

 海鳴大学病院 

 

 

 

「あれ。ここは・・・・・・・」

 

目が覚めると目に映ったのは見たことない天井やった。

すると。

 

「はやてちゃん!よかったわ目が覚めたのね」

 

石田先生が安堵したように言ってきてくれた。

 

「えっと・・・・・・すんません。あれ、零夜くんは・・・・・・?」

 

私は零夜がいないことに気付き、石田先生に聞いた。

 

「零夜くんならほら、そこで」

 

石田先生の視線の先にはうつ伏せになって寝ている零夜くんの姿があった。そしてその後ろの椅子には凛華ちゃんたちが仲良く揃って寝ていた。

 

「う~ん・・・・・・はやて・・・・・・」

 

「クスッ」

 

「あらあら」

 

零夜くんの寝言に私と石田先生はくすりと笑みを漏らした。

 

「零夜くん、はやてちゃんが起きる30分ぐらい前まで起きていたのだけど、私がちょっと寝かせたわ」

 

「そうだったんですか」

 

「ええ。零夜くん、かなり心配してたわよ」

 

「ほなあとでちゃんとお礼せなあかんとなぁ~」

 

「そうね」

 

私は零夜くんの、長い黒髪を撫でてそう言った。

ホンマこうしてると零夜くんが女の子みたいに思えてくるわ。まあ、初めてであったとき女の子と間違えてもうたからなあ。

零夜くんを撫でながらそう思っていると、突如零夜くんが身震いして何か言った。

 

「愛奈美・・・お姉ちゃん・・・・・・華蓮・・・・・・」

 

「?」

 

どうやら人の。女子の名前みたいだけど聞いたことない名前やった。

そう考えていると。

 

「ん・・・・・・はや・・・て・・・・・・?」

 

零夜くんは目元を擦って身体を起こした。

 

~はやてside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

「ん・・・・・・はや・・・て・・・・・・?」

 

目元を擦ってなんとか起きる僕は、あまり意識がはっきりしない中視界に映った女の子の名前を言った。

 

「おはよう零夜くん」

 

「うん。おはよう、はや・・・て・・・・・・?」

 

あれ。いつの間にかはやて起きてる!?

だんだん意識と視界がクリアになっていき僕はここが海鳴大学病院のはやての病室で昨夜起こったことを思い出した。

 

「だ、大丈夫?!はやて?!」

 

「うん。私は大丈夫やで」

 

「ほっ。よかった」

 

はやてが大丈夫だということに安堵した僕はホッと息を吐いた。

すると石田先生が。

 

「ところで二人とも・・・・・・誰なのあの人たちは?」

 

警戒したような表情で扉の方を指差した。

僕とはやてが視線を向けると、そこには病院の男性職員数名に囲まれている四人の男女がいた。

 

「「あ・・・・・・!」」

 

僕とはやては今更ながら思い出したように声を出した。

 

「どういう人たちなの・・・・・・?零夜くんたちのあとに着いてきたんだけど、変な格好してるし・・・言ってることはワケわかんないし。どうも怪しいわ・・・・・・」

 

そう言えば彼女たちのこと説明するの忘れてた。

僕は今更ながら石田先生に説明するのを忘れていたことを思い出した。

後ろを見るといつの間にか起きていた凛華たちも思い出したかのような表情をしていた。

 

「あー・・・えっと・・・その・・・なんと言いましょか・・・・・・」

 

はやてもさすがに困惑している。

まあ、当然と言えば当然だけど。

するとそこに。

 

〈ご命令をいただければお力になれますが。いかがいたしましょう?〉

 

頭のなかにそんな声が響いた。

どうやら一番前にいる彼女が念話で話してきたみたいだ。

というかいきなり念話で話しかけたらはやてが戸惑うと思うんだけど!?

そんなこと思いながらはやてを見ると案の定。

 

「え・・・・・・?え・・・・・・?」

 

戸惑いと困惑の表情を出していた。

 

〈落ち着いてはやて〉

 

僕も声に出さずに彼女と同じ様に思念通話で話す。

するとはやてが僕の方を見てきた。

 

〈これは思念通話。心で、声に出さないで思ったことを念じれば会話ができるよ〉

 

〈え、えっと・・・こうで合ってるん?〉

 

〈うん。今から僕が話すからはやてはそれに合わせて。そっちの四人も僕に合わせて〉

 

〈わかった〉

 

僕の念話にはやては思念で、彼女たちは軽くうなずいて答えた。

 

「えっと、石田先生。実はあの四人ははやての遠い親戚の人なんです」

 

「え、親戚?」

 

「はい。以前、はやてからとっても優しくて頼りになる親戚のお姉ちゃんたちがいるって聞いてまして。前に写真で見たことがあるので」

 

「そ、そうなのはやてちゃん?」

 

「は、はい。そうなんです。なぁ~」

 

「え、ええ。そうなんですよ」

 

「その通りです」

 

僕の言葉にはやてはもちろんのこと、金髪の女性と念話で話していた女性が同意してくれた。

 

「そう・・・・・・でもまだ春先なのにあんな薄着で寒くないのかしら?」

 

「あ、それなら」

 

僕が凛華たちに目配せすると。

 

「私たちが四人分ちゃんと持ってますから大丈夫です」

 

凛華たちは荷物の中から羽織を出して四人に渡した。

凛華たちが渡している間に、僕は石田先生に苦笑いをしながら言った。

 

「あの格好、どうやら南の国から来ているらしくて」

 

「そ、そうなのね」

 

石田先生はひきつり笑いを浮かべて納得したようにうなずいた。

正直、我ながら良くできた話だと思う。はやてに限ってはひきつり笑いをして同意していて、凛華たちは苦笑していた。

そのあと軽く検査をして、はやてに何の異常も無かったのが確認でき僕たちは八神家へと帰宅した。

 

「そっかあ・・・この子が闇の書っていうものなんやね・・・・・・」

 

「はい」

 

「そう言えばはやて、その本何時からあったの?」

 

「物心ついたときには棚にあったんよ。綺麗な本やから大事にはしてたんやけど」

 

「覚醒の時と眠ってる間に、闇の書の声を聞きませんでしたか?」

 

「んー・・・・・・。私は魔法使いやあらへんし、漠然とはせえへんけど。あ、あった」

 

はやては机の引き出しをがさごそ探ると何か目的のものを見つけたのか、車イスをこっちに走らせて戻ってきた。

 

「でも、私が闇の書の主として守護騎士みんなの衣食住の面倒を見なあかん言う事は分かった。幸い、住むところはあるし、料理は得意や。後はみんなのお洋服買うてくるからサイズ計らせてな」

 

「いいのはやて?」

 

「もちろんや」

 

「はやてが良いなら僕はなにも言わないよ」

 

「ありがとな零夜くん」

 

そんな会話をする僕らをよそに、守護騎士たちはポカンと理解できないと言っているような表情だった。

 

「ところではやて」

 

「なんや?」

 

「守護騎士のみんな話に付いていってないみたい」

 

守護騎士たちは未だにポカンとしていた。

すると、一番前のポニーテールの女性が。確か名前はシグナム、だったけ?

 

「ところで主。この者は?」

 

僕を見てはやてに聞いた。

 

「零夜くんのこと?」

 

「零夜?」

 

「そう言えばまだ自己紹介してなかったね」

 

それなりに時間が経っているのに、未だに自己紹介してなかったことに気付き、自己紹介をした。

 

「僕の名前は天ノ宮零夜。一応、男だからね」

 

「零夜くんは男の娘やろ?」

 

「違うよ!?僕はれっきとした男の子だから!」

 

はやてと久し振りのこのやり取りに凛華たちは笑みを浮かべて、守護騎士たちは困惑していた。

 

「で、こっちの女の子たちが右から・・・・・・」

 

「天ノ宮凛華です」

 

「天ノ宮澪奈だよ」

 

「天ノ宮星夜ですわ」

 

僕のあとに続いて凛華たちも順に挨拶をした。

 

「それとあの時言ったように魔道士だから」

 

「え!?零夜くん、魔法使いやったん!?」

 

「いや、魔法使いじゃなくて魔道士ね。ちなみに凛華たちは人間じゃないよ」

 

「「「「「はい?」」」」」

 

僕の言葉にはやてと守護騎士たちは同じ言葉を同時に発した。

 

「え、えっと、どういう意味なん?」

 

「実際に見せた方がいいかな。凛華、澪奈、星夜」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

「わかりました!」

 

凛華たちが返事すると、凛華たちの身体が光、次の瞬間にはデバイスの待機形体のアクセサリーに変わっていた。

 

「これが凛華たちの本来の姿かな?」

 

《本来の姿ではないですけどね》

 

僕の言葉に凛華が苦笑混じりの声で返し、再び光ると元の人間の姿でそこにいた。

 

「これでわかったかな」

 

「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」

 

僕がはやてたちに訪ねると五人とも動きを止めて固まっていた。

 

「ほんまに・・・人やないんやね・・・・・・・」

 

「ごめんはやて。黙ってて」

 

「ううん。零夜くんにも言えない事情があったわけやしかまへんよ」

 

「ありがとうはやて」

 

僕は軽く微笑んではやてにお礼をいう。

 

「さてと。零夜くんたちのこともわかったことやし、さっそくみんなの服のサイズを測ろか」

 

「それじゃ、僕とザフィーラは下にいるから終わったら来て」

 

「了解や」

 

僕とザフィーラははやての部屋から出て一階のリビングに行った。

 

「・・・・・・ザフィーラ」

 

「なんだ?」

 

「ザフィーラたちははやてを絶対に護るって・・・・・・約束できる?一人にしないって?」

 

僕はザフィーラに視線を鋭くして聞いた。僕にとってこれは一番重要なことだ。

 

「っ!?」

 

「どうなの?」

 

「ああ。もちろんだ。我ら守護騎士は主を守るための騎士だ」

 

「そう・・・・・・ならいいよ」

 

ザフィーラから確認もとれた僕は視線の眼光を戻した。

それからしばらくしてはやてがシグナム、シャマル、ヴィータ、凛華、澪奈、星夜と一緒にリビングに来た。

ちなみにはやてには凛華たちのサイズも測ってもらった。前回、服を買いに行ったときはお店の人にお願いしたため今回ははやてにお願いしたのだ。幾らデバイスとは言え、三人とも女子だから僕が測るというのはちょっと、なのだ。

そう思っていると。

 

〈私は零夜くんに測ってもらいたいです〉

 

〈わたしもわたしも!〉

 

〈わたくしも同じてすわ〉

 

凛華たちからそんな念話がきた。

というか、そんなことより。

 

〈って!なんで僕が思ったことを分かったの!?〉

 

僕が考えていたことを凛華たちがわかったことに驚いた。

そんな僕の驚きに対する三人の返答は。

 

 

〈〈〈零夜(くん)のデバイスですから〉〉〉

 

同じ答えだった。

 

〈それ答えになってないよ!?〉

 

三人の答えに僕はとっさに念話で返して、はやてたちと衣服などを買いに行った。

その間誰かに見られているような視線と気配を感じたが、こんなところでアーティファクトを出すわけにもいかずに気配の主が誰かはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎ夜。

あのあと近くの大型ショッピングモールで買い物した僕たちは、服など生活に必要な物を買い揃えはやての家へと帰り、軽く豪華な料理(僕とはやて作)を食べ、僕と凛華、澪奈、星夜は天ノ宮家へ帰宅していた。

理由は、明日は月曜日。つまり学校があるからだ。まあ、はやてには何かあったらすぐに連絡してと言ってあるし、基本家には凛華たちがいるし、今のはやての家にはシグナムたち頼れるヴォルケンリッターがいるのだから大丈夫だと思う。念のため、はやての家の周囲の結界は強化しといた。

そして、凛華たちと帰っている最中。

 

〈凛華、澪奈、星夜。気付いてる?〉

 

〈ええ。視られてますね〉

 

僕は凛華たちと念話して会話していた。

 

〈はやての家を出てからずっと視られてる〉

 

〈どうしますかマスター〉

 

〈そうだね・・・・・・ちょっと様子を探ろうか〉

 

僕はそういうと二つのアーティファクトを同時展開する。

 

「―――来たれ(アデアット)―――無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)―――渡鴉の人見(オクルス・コルウィヌス)

 

無限抱擁で広域結界を張り、渡鴉の人見で偵察する。

渡鴉の人見を各地に散開させてしばらくして。

 

「見付けた」

 

対象を見付けた僕はその場から転移して、僕を見ていた監視者の後ろに現れる。

 

「っ!?」

 

急に現れたことに驚いたのか監視者は驚きの気配を出して距離をとった。

 

「ねえ、あなた誰?何が目的で僕のこと監視しているわけ?」

 

仮面を被った恐らく男だと思う監視者に僕は訪ねる。これで素直に話してくれると嬉しいんだけどなあ。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「はあ。もしかして無視?じゃあ、少し強引だけど尋問しようかな?」

 

僕は静かにそういうと、監視者の周囲に光と氷の刃を現出させ動けないようにした。

 

「一歩でも動いたらその刃があなたを貫くから。気を付けてね」

 

一応警告はする。

僕だって無闇に人を斬りたくはないし。

すると、ようやく監視者が喋った。

 

「くっ!ここまでとはな。さすが、SSSランクだと言うことか。聞いていたより恐ろしいな」

 

「聞いていた?」

 

僕は監視者の聞いていたという単語と、ジュエルシードの時にリンディさんから聞いた僕のランクを知っていたことからある仮説が浮かび上がった。それは―――。

 

「まさか管理局?」

 

この男が時空管理局所属だということだ。

 

「管理局がなぜここに・・・・・・。しかも、何故はやてのことを・・・・・・」

 

そう呟く僕の脳裏には一つの魔導書が浮かび上がった。

 

〈星夜、ちょっと"闇の書"について調べてみてくれる?〉

 

〈わかりました〉

 

僕はすでにデバイス形体の星夜に念話で伝える。

 

「これはちょっと・・・・・・おいそれと返せなくなったね。あなたに聞きたいことがいろいろありますし」

 

「悪いがここで失礼させてもらう」

 

「この結界から出られると?」

 

「出させてもらう」

 

「なら、僕を倒さないと」

 

そう言うや否や非殺傷設定にした魔力球を飛ばせる。

監視者はその魔力球をかわして僕に接近してきた。

 

「(いつの間にかあの刃の中から抜け出したんだろう?)」

 

そう、さっきまで光と氷の刃に囲まれていたはずなのに、監視者はいつの間にかそこから抜け出していた。

 

「(それにこの速さと威力・・・・・・なるほど身体強化(フィジカルエンチャント))」

 

監視者の攻撃を僕は多重障壁で受け止めそう分析した。

 

「―――氷爆(ニウィス・カースス)!」

 

分析しながら速攻魔法で攻撃する。

 

「ぐっ!」

 

監視者はギリギリ氷爆の範囲から離れたようだが、所々に氷爆のあとが残っていた。

そしてそこに追撃で。

 

「―――氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!」

 

監視者の頭上に巨大な氷塊を作り出し、監視者に落とす。

しかし、巨大な氷塊が監視者に当たる直前。

 

「っ?!」

 

何処から放たれた魔法攻撃によって防がれ、落下速度が落ち、その隙に監視者は十分な距離をとって退避していた。

 

「(今のはどこから)」

 

放たれた魔法の位置を探っていると。

 

《零夜くん!上!》

 

澪奈からの警告が聞こえた。

瞬時に頭上に障壁を張ると、その瞬間障壁に魔法攻撃が当たった。

 

「くっ!」

 

魔法攻撃を受け止めきり上を見上げると、そこにはもう一人、仮面を着けた男がいた。

 

「もう一人!?」

 

さすがにもう一人いたことは予想外だったため僕は驚愕した。

 

「すまない。助かった」

 

「かまわない。だが、彼の使う魔法は厄介だな」

 

「ああ。我々の魔法とは違うようだ」

 

「対策が必要だな」

 

「そうだな」

 

仮面を着けた二人の男はそう話すと、僕が戦っていた男が言ってきた。

 

「一つ忠告しておこう」

 

「忠告?」

 

「これ以上、あの娘に関わるな」

 

「なっ!?」

 

「それがお前のためでもある」

 

「なに好き勝手に言っているの?はやてに関わるなだって・・・・・・?・・・・・・ふざけるなよ?」

 

僕はそう口走るのと同時に魔法の射手(サギタ・マギカ)の多重魔法攻撃を放った。

魔法の射手の攻撃が収まり、二人の男がいた場所を見るとそこには誰もいなかった。

 

「逃げられた・・・・・・。まさか、この結界から転移して逃げるなんて」

 

《恐らくもう一人の監視者が転移の準備をしていたんだと思います》

 

「だろうね。そして強化(エンチャント)で魔力を強化して転移したんだと思う」

 

僕は誰もいなくなった結界。無限抱擁を解除し、渡鴉の人見とともに、カードに収納した。

 

《マスター、"闇の書"の検索結果が出ました》

 

「どうだった?」

 

《そ、それが・・・・・・》

 

「どうかしたの?」

 

《"闇の書"は時空管理局の第一級捜索遺失物に指定されていることがわかりました》

 

「第一級捜索遺失物?つまり闇の書はロストロギアってこと?」

 

《はい》

 

「闇の書か・・・・・・家に帰ったら詳しく調べる必要があるね」

 

僕はそう呟いて、再び人の姿になった凛華たちと家に帰った。

 

 



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再会と日常そして戦闘

~零夜side~

 

 

 

 

 12月2日 午前6時

 

 

 

 

自室の時計のタイマーが鳴るのを未覚醒の意識のはっきりしないなか伸びをして止める。

 

「ンンーッ・・・・・・・っと・・・・・・・」

 

「おはよう零夜くん♪」

 

「おはよう零夜くん」

 

「おはようございますマスター」

 

「うん。おはよう、凛華、澪菜、星夜」

 

僕の横には凛華、澪菜、星夜が寝巻き姿で寝ていた。

あれ・・・・・・?僕はそこでなんで三人がいるのか疑問に思った。

 

「あの~、三人ともなんで僕のベットの中に・・・・・?」

 

「零夜くんと寝たかったので」

 

「零夜くんと寝たかったからだよ」

 

「マスターと寝たいと思いましたので」

 

と、三人が息をぴったりと会わせてリズム感を奏でながらいった。

 

「デスヨネー・・・・・・」

 

うん。大体予想していた通りだった。

凛華たちが僕のベットに潜り込んでくるのはよくあることだから慣れた。まあ、最初の頃は驚いたけど。

一緒に寝るなんて、なのはやはやて以外だと愛奈美お姉ちゃんと華蓮だけだったからな~。

そんな前世のことを思い返して服を着替える。

 

「さて、と・・・・・・。僕はこのあとちょっと出掛けてくるから凛華たちは朝食の準備をお願いできる?」

 

「わかりました。零夜くんは今日の約束を楽しみにしてましたしね」

 

「うん。今日は、彼女たちが帰ってくる日だから・・・・・・ね」

 

「零夜くん、帰ってくる便りが届いたとき真っ先になのはちゃんに知らせてたもんね~」

 

「なのはさんにも伝わっていたときは二人のはしゃぎようはとても嬉しそうでしたわね」

 

「うっ・・・・・・。それは言わないでよ澪菜、星夜」

 

澪菜と星夜に微笑みながら言われ、僕は恥ずかしくなり、視線を横にそっとずらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海鳴海浜公園 午前7時

 

 

時は進み、僕は"彼女たち"と分かれた海鳴海浜公園に来ていた。そして隣には、ここに来る途中に合流したなのはがいる。

 

「いるかな・・・・・・」

 

僕は海浜公園に入り周囲を見る。

すると、息を整えていたなのはが。

 

「いたよ。零夜くん」

 

そう言った。

その視線の先には二人の女の子がレディーススーツを着てが"立って"いた。

 

「フェイト・・・・・・アリシア・・・・・・」

 

「フェイトちゃん・・・・・・アリシアちゃん・・・・・・」

 

僕となのはは静かに目の前の女の子たちの名前を呼んだ。

すると、その声が彼女たちにも聞こえたのか二人はこっちの方を同時に見た。

 

「零夜・・・・・・なのは・・・・・・」

 

「零夜・・・・・・なのはちゃん・・・・・・」

 

対する二人もこっちのを見て、そんな声が朝陽の昇る冷たい空気を通して聞こえてきた。

さすがに我慢の限界だったのか、なのはとフェイト、アリシアが同時に走り重なる位置でギュッと抱き締めあった。

 

「お帰り、フェイトちゃん、アリシアちゃん」

 

「うん・・・・・ただいま、なのは」

 

「ただいま、なのはちゃん」

 

感動の再会に僕も嬉しくなり、走りはしないが歩きながら目尻に浮かぶ涙をそっと拭う。

 

「零夜・・・・・ただいま」

 

「ただいま、零夜」

 

抱き締めあっていたフェイトとアリシアが笑みを浮かべて僕にそういう。

 

「うん・・・・・・。フェイト・・・アリシア・・・お帰りなさい」

 

対する僕も笑みを浮かべて二人に、お帰り、の言葉をかけた。

その様子を見ていたのは、僕らしかいない海浜公園を照らす朝霜の太陽と、優しく吹く冷風だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後 私立聖祥大附属小学校

 

 

 

 

 

「は、はじめまして、フェ、フェイト・テスタロッサです」

 

「アリシア・テスタロッサだよ~!一応フェイトのお姉ちゃんだからよろしくね!」

 

フェイトとアリシアと再会した2日後の月曜日、フェイトとアリシアが僕となのは、すずか、アリサの通っている私立聖祥大附属小学校の三年生のクラス。僕たちのクラスに転入してきた。

2日前の再会したあと、フェイトとアリシアたちは本格的に地球の海鳴市に住むらしく、なのはの家の近くにえる高層マンションにプレシアさんとリニスさん、アルフ、リンディさんと暮らしている。何故リンディさんも一緒に住んでいるのかというと、リンディさんがプレシアさんたちの保護観察責任者だからだそうだ。クロノとエイミィさんもそこに住むらしいが、基本的には時空管理局本局の方に行っているみたいだ。

ちなみにリンディさんは現在休暇中らしい。航行船のアースラは本局でメンテナンス中なんだとか。

半年前のあのあと、プレシアさんとアリシアは病院で検査を受けたが特になんにもなく、アリシアの回復に少し時間がかかっただけだった。まあ、何年もポットのなかで眠っていたら当然そうなるのは当たり前だけど。

とまあ思考を戻して今現在、フェイトとアリシアは転入生に訪れる質問攻めにあっていた。

 

「だ、大丈夫かな二人とも・・・・・」

 

僕は質問攻めにあっている二人を見て、いつも一緒にいるなのはとすずか、アリサに言った。

 

「あはは・・・・・」

 

「す、すごい・・・・・」

 

目の前の光景になのはとすずかはかなり引き気味だった。そしてそこに。

 

「はいはい!あんたたち。そんないっぺんに聞いたら答えられないでしょう。順番に聞きなさい!」

 

アリサが強めの口調でよく通る声で言った。

 

「さすがアリサだね」

 

「うん。アリサちゃん、すごい」

 

アリサの声にフェイトとアリシアの回りにいたクラスメイトは少し離れ、静かになった。その中、一人のクラスメイトの男子が手を上げ質問した。

 

「海外の学校ってどんなところなの?」

 

クラスメイトの質問にフェイトは戸惑い、アリシアは少し悩む仕草をして答えた。

 

「えーとね、私たちちょっと家庭の事情で学校に行けなかったの。だから、ちょっと答えられないかな?ゴメンね」

 

「はい、次!」

 

そこからはアリサがリードして質問タイムが行われて行き、その光景を僕となのは、すずかは苦笑いを浮かべて眺めていた。

 

 

 

 

 

 

昼休み

 

 

 

「つ、疲れたあ~」

 

「うん・・・・・」

 

屋上のいつもの場所にフェイトとアリシアの疲れた声が響く。

 

「大丈夫、二人とも?」

 

「すごい人数からの質問だったからね。無理もないと思うよ」

 

心配するなのはに僕は質問タイムの光景を思い出してそう答えた。

二人がここまで疲れている理由は、クラスメイトたちだけでなく隣のクラスや他のクラスの子達にも質問されたからだ。そしてその度にアリサが―――

 

「まったく。なんでああも訊いてくるのかしらね」

 

「アリサちゃん、お疲れさま」

 

すずかが疲れてため息を吐いたアリサを気遣う。

アリサが疲れている理由は言わずもがな、アリシアとフェイトに質問がある度に仲裁を買って出ているからだ。

 

「さすがアリサ。鬼委員長と呼ばれることだけあるね」

 

僕は一部で呼ばれているアリサの名前を言った。といってもついさっきクラスメイトがそう呼んでいるのを聴いたんだが。

 

「ちょっと待ちなさい!誰が鬼委員長よ!」

 

「えっ?アリサのことだけど?」

 

「零夜、喧嘩売ってるかしら!?」

 

「ちょっ、ちょっとストップ!!売ってないから売ってない!」

 

「そもそも何よ、鬼委員長って!学級委員は零夜とすずかでしょ?!」

 

そう、何故か僕のクラスの学級委員は僕とすずかなのだ。そこにすずかが。

 

「え、え~とねアリサちゃん。アリサちゃんが裏の学級委員みたいだから、ってことでその名前がついたみたい」

 

「はあ!?」

 

「言っておくけど僕もさっきはじめて聞いたんだからね?!」

 

疑うように睨み付けてくるアリサに僕は慌ててそう言う。

するとそこに二人分の楽しげな笑い声が聞こえてきた。

 

「フェイトちゃん?アリシアちゃん?」

 

「ご、ごめん。なんかみんな仲がいいんだなって」

 

「私とフェイトは体験したことなかったからね。とても新鮮だよ」

 

「ま、まあ、私たち四人って一年生からの付き合いだし」

 

「なのはと僕に限っては5、6歳の時からの友達だから」

 

「そうなんだ。なんかいいね、アリシアお姉ちゃん」

 

「うん」

 

フェイトとアリシアは羨ましそうにそう言った。

そんな二人へなのは、アリサ、すずかが。

 

「大丈夫なの二人とも!」

 

「ええ。私たちがついているんだから大丈夫よ」

 

「うん!」

 

と、言う。

 

「これから思い出をたくさん作っていけばいいんだから。ね、二人とも」

 

片目を瞑って微笑みながら僕は二人にそう言った。

 

「うん。そうだね」

 

「そうだね!」

 

フェイトとアリシアは同時に返してきた。

なのはとすずか、アリサ、フェイト、アリシアの楽しそうな会話を見て僕は、ここにいないはやてのことを思った。

 

「(はやてもいつか・・・・・・この、輪の中に入れたら・・・・・・)」

 

出来ればはやてにもなのはたちと友達になってほしい。

僕はそう思いながら青空を見上げた。

 

「(そのためにも早く完成させないと・・・・・・。はやてを助けるために。一刻も早く・・・・・・!)」

 

空を見上げながら僕はそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日 午後16時 海鳴大図書館

 

 

「それじゃ、またね」

 

「ええ。また明日、すずか、零夜」

 

「うん。なのはとフェイト、アリシアもまた明日ね」

 

「うん。また、明日」

 

「またね~、零夜、すずかちゃん」

 

僕とすずかはアリサの執事である鮫島さんに図書館まで送ってもらい、車の中にいるなのはたちと分かれた。

僕は図書館までの道なりを歩くなか、隣のすずかに話し掛けた。

 

「それにしてもすずかと一緒に図書館に来るなんて久しぶりだね」

 

「うん。最近はお稽古が忙しくてあまり来れてなかったから」

 

「さすが、すずか」

 

お稽古と聞いて僕はさすがすずかと感じた。

 

「零夜くんはよく来ているの?」

 

「うん。最近は友達とね」

 

「そうなんだ~」

 

図書館に入り僕とすずかはそれぞれの本を借りに分かれた。

しばらくして目的の料理本やラノベを借り、すずかと合流しようすると。

 

「あれ、はやて?隣にいるのはすずか?」

 

はやてとすずかが仲良く話している姿が見えた。

 

「すずか~」

 

「あ、零夜くん」

 

「お待たせすずか」

 

「ううん。そんなに待ってないから大丈夫だよ。あ、零夜くん、この女の子は・・・・・・・「はやて」・・・・・・そう、はやてちゃん・・・・・・え?」

 

すずかのはやての名前を遮り、はやての名前を言う。

僕の姿を見たはやては嬉しそうな表情をしてこっちに近寄ってきた。

 

「零夜くんも来とったん?」

 

「まあね。はやても帰りに?」

 

「せや」

 

今日はやては病院で検査を受ける日なので、その帰りに立ち寄ったんだろう。

 

「零夜くん、はやてちゃんと知り合いなの?」

 

首をかしげて聞いてくるすずかに僕ははやてのことを話した。

 

「あ。すずか、はやてが僕がさっき言った友達だよ」

 

「そうなんだ~」

 

「ところですずかはなんではやてと一緒に?」

 

「あ、それは・・・・・・」

 

「零夜くん、すずかちゃんは本を取ってくれるのを手伝ってくれたんや」

 

そう言ってはやては膝元にあった本を見せてきた。

その本を見て僕は大体の事情を察した。

 

「なるほどね」

 

そのあと僕も交えてすずかとはやてと図書館に迷惑にならないほどの声量で色々なことを話した。特に何故か僕の学校でのことが多かった気がした。

楽しく話終え図書館の入り口までいくと、壁にシャマルが冬のコートを着て立っていた。

 

「あ、すずかちゃん此所まででええよ」

 

「そう?じゃああとは零夜くんお願いね」

 

「うん」

 

「ほな、またなすずかちゃん」

 

「また、明日学校でねすずか」

 

「うん。またね零夜くん、はやてちゃん」

 

すずかと分かれ、シャマルと一緒に駐車場の方に向かった。駐車場にはシャマルの着ているコートと似たコートを着たシグナムが待っていた。

 

「あ!シグナム!」

 

「はい」

 

僕はシャマルに押してもらうはやてと一緒にシグナムの近くに行き、シグナムも交えて八神家へ帰る。

 

「今日の夜ご飯はなにがいい?」

 

「そうですね、悩みます」

 

「食材は凛華ちゃんたちが買いに行ってますよ」

 

「あ、凛華たちが買いに行ってるんだ」

 

僕は何故かいない凛華たちの行動を聞き呟いた。

 

「あれ、ヴィータは?」

 

「あー、えーと・・・・・・」

 

「少し遠くまで遊び歩いているみたいです。ザフィーラが付いているので、夕飯までには帰ると思います」

 

「そっかあ」

 

「寂しいのはやて?」

 

「ちょっとな」

 

「大丈夫ですよ。私たちは離れていてもあなたの近くにいます」

 

「ええ。我々はあなたと共に」

 

「ありがとな、シャマル、シグナム」

 

少し頬を赤らめて嬉しそうに頬笑むはやてを見ながら、僕は念話でシグナムに聞く。

 

〈今、なん頁まで埋まった?〉

 

〈三百頁ほどだ。天ノ宮のでかなり埋まったからな予想外に埋まっている〉

 

〈そう。今夜も出るんでしょ〉

 

〈ああ。ヴィータとザフィーラが他の管理外世界集めている最中だ〉

 

〈わかった〉

 

念話でシグナムと話終え、僕らはそのまま八神家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜

 

 

 

 

「零夜くん、封絶結界が発動しています」

 

「封絶結界?こんなところで?」

 

僕は天ノ宮家の自宅でソファーに座っている凛華からそう言われ眉を潜めた。

封絶結界ということはヴィータたちが誰かを閉じ込めているはずだが。

 

「凛華、澪菜、星夜、今すぐ出るよ」

 

「はい」

 

「わかったあ~」

 

「わかりました」

 

凛華たちがデバイス形態に戻ったのを確認すると、僕は靴を履き外に出る。外に出ると、封絶結界が見えた。

それと同時に7つの魔力反応が確認できた。

 

「この魔力・・・・・・なのはとフェイトとアルフ?」

 

僕はちょっと急いで封絶結界へと向かった。

封絶結界内部から確認された魔力はなのは、フェイト、アルフ、そしてヴィータたち守護騎士の魔力だったからだ。

 

「っ!これは・・・・・・!」

 

封絶結界内部に侵入し、なのはたちの魔力反応があるところに行くと、そこにはなのはが半壊された噴水にぐったりと横たわっており、そしてその近くに空いたクレーターにはフェイトが横たわっていた。その目の前にはシグナムが闇の書を出してフェイトのリンカーコアから魔力を蒐集していた。

 

「そこまでだ!」

 

僕は凛華を起動させてバリアジャケットを纏ってシグナムたちにそう言う。

 

「誰だっ!?」

 

僕の声にヴィータが声を出す。

 

「彼女たちは僕の友達だ。今すぐ離れてもらうよ!」

 

僕は声に出してそう言うなか、ヴィータたちに念話で会話する。

 

〈なのはをやったのはヴィータ?〉

 

〈あ?ああ、あたしだ〉

 

〈シグナムはフェイトだね〉

 

〈そうだ〉

 

〈シャマルとザフィーラもいるんでしょ?〉

 

〈ああ、もう一人の魔導士を倒したらしくな〉

 

〈そう、わかった。四人とも聞こえる?なのはとフェイト、アルフを僕に渡して、四人は早くはやての家に帰って〉

 

〈わかった〉

 

〈おうよ〉

 

〈わかったわ〉

 

〈承知した〉

 

そう言うとアルフをシャマルが連れてきて、シグナムたちは飛んでどこかに行った。

 

「なのは!フェイト!アルフ!」

 

僕は急いで三人の手当てをする。

封絶結界は元の世界とは隔離されているからどれだけ壊しても元界に影響はない。だが、それは建物など無機物に対してだ。

 

「(三人ともリンカーコアを蒐集されてるね)」

 

僕は三人の傷の手当てをしながらそう診断する。やがて、封絶結界が解かれると。

 

「零夜君!」

 

「リンディさん!プレシアさん!」

 

リンディさんとプレシアさんが走ってこっちに来る姿が見えた。

 

「零夜君、なのはさんたちは」

 

「一応傷の手当てはしました。けど・・・・・・リンカーコアが極端に小さくなってます」

 

僕の言葉にリンディさんとプレシアさんは目を見開いた。

 

「一応回復力も上げたんですけど、今は安静にしとかないと」

 

「そうね。三人を家に運びましょう」

 

「そうね」

 

リンディさんが言うと、プレシアさんは直ぐ様転移の準備をして僕たちをテスタロッサ&ハラオウン家に運んだ。

その最中、僕はリンディさんとプレシアさん。なのはたちに声に出さずに謝っていた。この事は僕も関わっているし協力しているから。それがどんだけ他人に迷惑がかかるのか分かっていながらも。けど、もう止められない。否、止めることなんてできない。すべては、はやてを助け、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラも助けるために。

 

 



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再戦に向けて

 

 

~零夜side~

 

 

 

 

時空管理局本局

 

 

 

シグナムたちに倒され、リンカーコアを蒐集されたなのは、フェイト、アルフは時空管理局本局の医務室で治療を受けて眠っていた。

 

「なのはたちの様子はどうですか」

 

僕は出てきたリンディさんたちに聞く。

 

「零夜君が治療してくれたお陰で命に別状はないわ。リンカーコアが小さくなっていること以外はね」

 

「そうですか・・・・・・。レイジングハートとバルディシュは」

 

「フェイトたちのデバイスなら今リニスとここのマリーって人が修復してるわ」

 

僕とリンディさん、プレシアさんは医務室近くの休憩室でなのはたちの容態を確認していた。アリシアはフェイトとなのは、アルフのお見舞い中だ。

 

「それで、零夜君はなのはさんたちを襲った犯人は見てないのかしら?」

 

「見たは見たんですけど、どうやってリンカーコアを小さくしたかまでは・・・・・・」

 

これはもちろん嘘だ。

リンディさんの質問に僕は前もって考えてあったことを言う。リンカーコアが小さくなったのは闇の書に魔力の源であるリンカーコアを蒐集されたから。

 

「そうなの・・・・・・」

 

「でも、リンディここ最近は魔導士の襲撃が多くないかしら?」

 

プレシアさんがいくつかの資料をウインドウに表示して言った。

 

「ええ。襲われた人に共通する点は全員、リンカーコアが極端に小さくなっていること。確か、クロノが今回の任務に就くはずよ」

 

「そう」

 

「ところで襲撃していた人たち見たことない魔方陣を展開していたんですけど・・・・・・こう・・・・・・三角形の頂点部分に丸があって・・・・・・」

 

僕はリンディさんたちに気付かれないように会話を続けシグナムたちの魔方陣について聞く。もちろん、すでに調べてあるから知ってはいるけど。

 

「それはベルカ式よ」

 

「ええ。しかも近代のベルカ式ではないわね。古代ベルカの正真正銘のベルカ式魔方陣。・・・・・・エンシェントベルカ」

 

「エンシェント・・・ベルカ・・・・・・・」

 

「ええ。中でももっとも優れているベルカの魔導士には騎士の称号が付くわ。そして、ベルカ式は一対多ではなく一対一に特化しているわ」

 

「"一対一のベルカの騎士に負けなし"・・・・・・・昔からベルカの騎士に言われる言葉よ」

 

リンディさんとプレシアさんは神妙な顔つきでそう答えた。

そう聞いている傍らで僕はシグナムたちがちゃんと八神家へと帰れたか心配だった。

 

「(シグナムたち、さすがに今ごろはもう家についているよね)」

 

その後もしばらくリンディさんとプレシアさんの話を聞き、僕はリンディさんとプレシアさんに帰るように言われた。理由は明日も学校があるからだそうだ。さすがに親二人にそう言われては、僕もなにも言い返せず(というか言い返さないけど)一人で地球への転移装置まで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――というのは嘘で。リンディさんとプレシアさんと分かれた僕はある場所に向かっていた。

その場所は転移装置がある部屋ではなく。

 

 

 

 

「――――――お久しぶりですね。・・・・・・・・・・グレアム叔父さん」

 

 

 

 

 

グレアム叔父さん。いや、時空管理局顧問官ギル・グレアム提督のいる部屋だった。

 

 

 

 

「そろそろ君が来る頃だと思っていたよ、零夜君」

 

 

 

 

中にはグレアム叔父さんがいつもの優しそうな微笑みと共に室内のソファーに座っていた。

 

「立ち話もなんだね、座ったらどうだい?」

 

「そうですね」

 

僕はグレアム叔父さんの言葉通り、グレアム叔父さんと対面するようにソファーに座った。

そのまま互いになにも喋らずただ沈黙が辺りを覆う。

先に喋ったのはグレアム叔父さんだった。

 

「・・・・・・いつからわたしが時空管理局の人間だって気付いていたんだい?」

 

「はやてが闇の書の主となったその夜、仮面を被った二人に襲われてからです。そのあと、闇の書について調べましたので。そして、そこに記されてあった11年前のことも・・・・・・」

 

「そうか・・・・・・」

 

グレアム叔父さんは息を吐いて宙を見上げた。

 

「あの仮面を被った二人はアリアさんとロッテさん、ですよね」

 

「ああ。アリアとロッテだ。わたしが命じてはやての周囲を監視させていたんだ」

 

グレアム叔父さんがそう言うのと同時に、扉が開き中からアリアさんとロッテさんが入ってきた。

 

「久しぶりです。アリアさん・・・ロッテさん・・・」

 

「そうね、零夜・・・・・・」

 

「零夜・・・・・・」

 

「やっぱり二人は使い魔だったんですね・・・・・・」

 

僕は視線を二人のお尻部分と頭部を見て言う。二人には猫耳と尻尾が生えていた。

 

「ああ。二人ともわたしの使い魔だ」

 

グレアム叔父さんも僕の言葉を肯定するように言った。

 

「目的は復讐・・・・・・ですね」

 

「ああ」

 

「そのためにはやてに近付いたんですか?はやての親の知人だって偽って」

 

「その通りだ・・・・・・」

 

「そうなんですね・・・・・・・」

 

「軽蔑するかい?それともショックかい?」

 

「そうですね・・・・・・今の気持ちを表せと言われたらショックです」

 

「そうか・・・・・・」

 

「でも僕がショックなのは、はやて一人犠牲にして終わらせようとしていることです。そしてそれを僕にも相談してくれなかったことです」

 

僕は顔を俯かせてグレアム叔父さんに言った。

 

「グレアム叔父さんははやてと闇の書を一緒に封印しようとしたんですよね」

 

「ああ。闇の書の破壊が無理なら封印させてしまえばいい」

 

「封印させるには極めて強力な凍結魔法か次元の狭間に送るしかない。ということですよね」

 

「そうだ」

 

グレアム叔父さんは僕の質問にすべて答えてくれた。

 

「でも、それは完全とは言えないはずです。凍結魔法は内部、もしくは外部からの破壊で。次元の狭間もいずれ誰かが見つけてしまう」

 

僕は闇の書の封印についてデメリットを答えた。

 

「なら、零夜君ならどうすると言うのだい」

 

「僕なら・・・・・・・僕なら闇の書を元の姿に戻すことができます」

 

「闇の書の原形・・・・・・夜天の魔導書にかい?」

 

「はい」

 

僕は世界図絵などアーティファクトで調べ、自分的に導き出した解決方法を言う。

 

「闇の書は防衛プログラムによって、破壊と殺戮の書物となっています。なら、その防衛プログラムを切り離せばどうです?」

 

「確かに、防衛プログラムを切り離せば一時的にではあるが闇の書は暴走しなくてすむだろう。だが、防衛プログラムを管制プログラムと闇の書から切り離すには、管理者、はやてがやらなければならないはずだ」

 

さすがグレアム叔父さん。伊達に10年という長い年月、闇の書を調べていただけある。

 

「ええ。それに今回の僕らの行動ははやてには行動は伝えてません。それにもう時間がないんです」

 

「どう言うこと零夜?」

 

「・・・・・・急いで闇の書を完成させなければはやてが死にます」

 

ロッテさんの言葉に返すと目を見開いて驚きの言葉を漏らした。

 

「そ、そんなはずは・・・・・・!」

 

「はやてのリンカーコアは闇の書によって動きを阻害されてます。恐らく、持ってあと1ヶ月・・・・・・」

 

「「「っ!」」」

 

アリアさんとロッテさんはともかく、グレアム叔父さんもこの事は知らなかったのか眉を潜めていた。

 

「だから僕は今日、グレアム叔父さんにお願いに来たんです」

 

「わたしに・・・・・・お願い?」

 

「はい。はやてを・・・・・・はやてとシグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、そして夜天の魔導書を助けるために力を貸してください」

 

僕は今日の本題を切り出した。

 

「なぜ、わたしたちにお願いするのかね?わたしたちは君を攻撃し、あわよくば君をはやてと一緒に封印させるつもりだったのだぞ」

 

「確かにはやて一人だけ封印されるなら、はやてだけでなく僕も一緒に封印された方がいい。けど、手があるなら僕はそれで助けたいんです!はやてを!僕の大切な友達を!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

僕の言葉にグレアム叔父さん、アリアさん、ロッテさんは静かにうつむいた。

辺りを静寂が覆い、やがてグレアム叔父さんが喋った。

 

「・・・・・・ わかった」

 

「父さま!?」

 

「父さま、なんで!?」

 

グレアム叔父さんの言葉にアリアさんとロッテさんは戸惑うように聞いた。

 

「アリア、ロッテ、落ち着きなさい」

 

「でも父さま!それだと父さまの悲願とクライド君の犠牲が・・・・・・・!」

 

「確かにそうだ。だが、わたしたちははやて一人を・・・・・・魔法の魔の字も知らないただの女の子を犠牲にしようとしていた。恐らくそんなこと彼は望むまい」

 

「けど!」

 

「それに零夜君になら出来るかもしれない。わたしはそこに賭けてみようと思う」

 

「たしかに・・・・・・零夜の魔法なら出来るかもしれない」

 

「アリア!」

 

「ロッテ、私だってアリアと同じよ。だが、妹のはやてと弟の零夜を犠牲にするのは私も気が引く。ロッテだってわかってはいるんでしょ?」

 

「そ、それはそうだけど・・・・・・・!」

 

「ロッテの言うとおり私達と父様の悲願が達成できたら零夜はどうなるの?また私達のような人が出るだけよ」

 

「・・・・・・・っ!」

 

アリアさんとロッテさんは表情を暗くして話した。

確かに僕のこの行動はグレアム叔父さんたちの悲願と復讐を邪魔している。けど、それより僕は友達のはやてを助けたい。なにをしても。例え禁忌に触れるような事をしたとしても。

 

「・・・・・・・零夜君」

 

「はい」

 

「わたしは、わたしたちは君とはやてを騙していた。それでも君はわたしたちを信じるのかい?」

 

グレアム叔父さんの言葉に僕はなんの躊躇もなくすぐに返した。

 

「もちろんです。如何にあなたたちがはやてに嘘を偽ってきたとはいえ、それは僕にもあります。僕も半年前まではやてには魔導士だと言うことは黙ってました。けど、はやてはそれを笑って許してくれたんです。なら、僕もグレアム叔父さんたちを許しますし信じます。グレアム叔父さんたちがはやてに今まで行ってきた行動で、はやてと僕は出会えたんですから」

 

「その行動が例え偽善だとしてもかい・・・・・・?」

 

「はい。例え偽善だろうと、僕はグレアム叔父さんたちの優しさが本物だと言うことを知ってますから」

 

僕はそこで隠していた、いどのえにっきを取り出してグレアム叔父さんたちに見せた。

 

「それは?」

 

「これは僕のアーティファクトの一つ、いどのえにっきです。能力は相手の心、真相心理を読み解くことです」

 

「つまり読心術、ということだね」

 

「はい」

 

「はは・・・・・・・さすが零夜君だ。と言うとはわたしたちのこともすべてお見通しということだね」

 

「ええ」

 

「完敗だよ。わたしたちの敗けだ零夜君」

 

グレアム叔父さんは諦めたように宙を見上げ軽く笑った。

 

「アリア、ロッテ、わたしたちは零夜君を手伝う事にするよ」

 

「父さまがいうなら」

 

「ええ、父様がそう望むのなら」

 

啀み合っていたアリアさんとロッテさんは、僕のいどのえにっきを見て神妙な表情を出し、グレアム叔父さんの言葉にうなずいた。

 

「ありがとうございます、グレアム叔父さん、アリアさん、ロッテさん」

 

お礼を言い、僕は時間が許す限りこのあとの算段について話し合い、家に帰った。

そして翌日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日 テスタロッサ・ハラオウン家

 

 

 

 

「え?ごめん、もう一回言ってくれる?」

 

「私たちを鍛えてほしいの!」

 

「あの人たちに負けないために!」

 

「え、え~と、アリシア?」

 

「あはは・・・・・・。ごめんね、あと、私も鍛えてほしいかな?」

 

「・・・・・・・・・・マジですか」

 

僕は学校帰りに寄ったテスタロッサ・ハラオウン家のフェイトとアリシアの部屋でなのは、フェイト、アリシアに特訓相手をしてほしいと頼まれていた。

うん、ナンデコウナッタ?

遡ること数十分前。

 

 

 

 

「二人とも体調の方は大丈夫?」

 

フェイトとアリシアの私室に入り、なのはとフェイトに昨日のことを聞いた。

なのはとフェイトがヴィータとシグナムと闘ったのは知っていたがどういう闘いだったのかはレイジングハートが記録として撮っておいてくれたデータでしか知らないからだ。

 

「身体の方は大丈夫だよ」

 

「うん、私も」

 

「よかった」

 

「うんうん。よかったよ~。フェイトとなのはちゃんが運ばれたとき私ショックのあまり気絶しそうになったもん」

 

「お、お姉ちゃんそれは母さんも倒れそうだよ」

 

「あー、確かに今のプレシアさん、絶賛親バカ発動中だからね」

 

僕はフェイトとアリシアが学校にこの2回の登校で、心配してか遠距離から監視しているプレシアさんを思いだして苦笑いを浮かべた。でもってその度にリニスさんに怒られていたはず。

なぜ僕がそんなこと知っているのかというと、昨日と今日で視線を感じ、アーティファクト渡鴉の人見で遠距離監視確認をしたからだ。

さすがにその姿を見た僕はコケそうになったほどだ。

 

「それにしてもあの人たち強かった」

 

「うん。確かカートリッジシステムを組み入れたデバイスを使っていたね」

 

「カートリッジシステム?」

 

「カートリッジシステムって、魔力の込めた弾丸をデバイス内に入れて一時的に爆発的に魔力を高めるシステムだよね?」

 

「うん。私の障壁もそれで破れちゃったし」

 

「えっ!?なのはの障壁が破れたの!?」

 

「うん」

 

なのはの障壁が破れたことには驚いた。

まあ、確かにカートリッジシステムを使えばなのはの障壁を破壊することは可能だ。逆に言えば、カートリッジシステムを使わなければ破れないほど、なのはの障壁は強力だということだ。

まあ、フェイトのあのスパークエンドや本気ではないがAAランクなら倒せる威力の雷の暴風もギリギリとはいえ受け止める障壁を破壊したのは驚きだ。

 

「(ヴィータ、一体何発カートリッジ使ったんだろう・・・・・・・)」

 

ふと脳裏で僕はヴィータが何発カートリッジの弾丸を使ったのか疑問に思った。

するとなのはが真剣な眼差しで話し掛けてきた。

 

「それでなんだけど、零夜くんにお願いがあるの」

 

「お願い?僕に?」

 

「うん」

 

よく見るとフェイトとアリシアも同様だった。

 

「私たちを鍛えてほしいの」

 

僕はなのはの言った意味を理解するのに5秒ほどかかりもう一度聞いた。

 

「え?ごめん、もう一回言ってくれる?」

 

「私たちを鍛えてほしいの!」

 

「あの人たちに負けないために!」

 

どうやら聞き間違いじゃないらしい。

 

「え、え~と、アリシア?」

 

「あはは・・・・・・。ごめんね、あと、私も鍛えてほしいかな?」

 

「・・・・・・・・・・マジですか」

 

僕は思わずそう呟いてしまった。

 

「え~と、なんで僕?」

 

「この中で零夜が一番強いから」

 

「うん」

 

「だね」

 

フェイトの言葉になのはとアリシアも同意する。

 

「まあ、僕はいいけど。フェイトたちが戻ってくるまでもなのはの特訓にはよく付き合っていたし」

 

「それじゃあ!」

 

「うん、いいよ。あの人たちに負けないようにするのに付き合ってあげる」

 

僕がそう言うと、なのはたちはガッツポーズを取った。

 

「それじゃ早速・・・・・・・」

 

「うん。特訓開始だね」

 

フェイトとアリシアの私室から出た僕らは、テスタロッサ・ハラオウン家のベランダで気の棒をデバイスに見立てて訓練を始めた。

 

「はあっ!」

 

「せいっ!」

 

「なのはもう少し速度を上げて!フェイトは動きが単調過ぎるから攻撃にフェイントも組み込んで!」

 

僕は二人を相手に大立ち回りをしてなのはとフェイトにアドバイスをする。

アリシアは現在、魔法の練習中だ。アリシアにもフェイトと同じ様に魔法の素質は合ったんだけど、しばらく使って無かったためか、魔力操作があやふやなため星夜ことステラメモリーに任せている。まあ、星夜はデバイス姿だけど。

 

「くっ!」

 

「はあ、はあ、はあ・・・・・・・」

 

「どうする?まだやる?」

 

「「もちろん!」」

 

「じゃあ、あと少しだけね」

 

僕はなのはとフェイトにそう言うと、二人に合わせた速さで二人に攻撃したり受け止めたりする。

なぜ、なのはとフェイトの二人を相手しても大丈夫なのかというと。

 

「(知智お姉ちゃんに鍛えてもらったからかな、二人の動きが止まって見える)」

 

半年前に家族になったアテナお姉ちゃんこと知智お姉ちゃんたちに時々鍛えてもらっているからだ。

未だに白星を取れないが、動きは良くなっているらしい。並大抵の魔導士では相手にならないと言っていた。

そんなこんなで三人の特訓には付き合い、終わったのは日が暮れ、月が登りかけていた時間だった。

 

「星夜、アリシアの魔力操作の方はどう?」

 

《問題ありませんわ。さすがプレシアさんの娘ですね、魔力操作と制御が上手です》

 

なのはとともにテスタロッサ・ハラオウン家をあとにし、なのはととも高町家で分かれ僕は一人で帰るなか星夜にアリシアの様子を聞いた。

 

「へえ。なのはとフェイトもだけど凄いね。僕の予想を遥かに越えるよ」

 

僕は嬉しそうに口調を高くて言った。

 

「さて、と。グレアム叔父さんたちも僕たちに手伝ってくれるみたいだし、これで蒐集の効率も上がるといいんだけど・・・・・・・」

 

元の声の高さに戻して、僕は誰もいない月に照らされた道を歩きながら星の浮かぶ冬空を見上げてそう呟いた。

 

 



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再戦

 

~零夜side~

 

 

 

 時空管理局本局 技術室

 

 

 

時空管理局で改修メンテナンス中のレイジングハートとバルディシュを見に来た僕は、一緒にメンテナンスしているリニスさんとマリーさんとともに浮かんでいるモニターウインドウを見て動きを止めていた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「レイジングハート・・・・・・バルディシュ・・・・・・二人とも本気?」

 

 

 

System check damages...All clear.(破損箇所システムチェック・・・問題なし)

 

Functions diagnostics...Problem detected.(機能問題点・・・問題あり)

 

 

 

「確かにね、修理については全面的に任せるって言ってもらっている。だけどこれは、いくらなんでも ・・・・・・・」

 

「二人とも無謀すぎます」

 

マリーさんとリニスさんは不安げにモニターに表示されている文を見た。そこには―――

 

 

 

A serious problem has arisen in functions.(機能に重要な問題点が発生しています)Please insert systems including "CVK792"(問題点解決のための部品CVK792を) component to eliminate problem.(含むシステムを組み込んでください)

 

 

 

と表示されていた。

 

「"CVK792"・・・ベルカ式カートリッジシステム・・・・・・」

 

"CVK792"ベルカ式カートリッジシステム。それはシグナムやヴィータがデバイスに組み込んでいるシステムだ。

本来ならレイジングハートやバルディシュのようなインテリジェントデバイスに組み込むようなものではないが・・・・・・。そもそも、ベルカ式カートリッジシステムはベルカ式に対応したシステム。なのはやフェイトのようなミッド式に使うとなると・・・・・・・・。

 

「レイジングハート、バルディシュ。本気なんだね」

 

僕の問いかけに二人は。

 

 

 

『『Please(お願いします)』』

 

 

 

そう自分の意思を表していた。

 

「マリーさん、CVK792のシステムデータを見せてください。なのはとフェイトに影響が無いように手を加えます」

 

「いいけど・・・・・・出来るの?」

 

「一応やってみます。それと、予備のCVK792のカートリッジを幾つかくれますか?」

 

「え?」

 

「零夜さん、まさか・・・・・・」

 

リニスさんが顔を青くして言った。どうやら僕の考えていることが分かったみたいだ。

 

「ええ。僕も・・・・・・CVK792。ベルカ式カートリッジシステムを使います」

 

僕はそう言って5日前の凛華たちとの会話を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5日前 天ノ宮家

 

 

「え、え~と、もう一度お願い」

 

僕は凛華たちと夕飯を済ませたあと、リビングでお風呂上がりの凛華、澪奈、星夜から真剣な眼差しで言われた。

 

「零夜くん、私たちにベルカ式カートリッジシステムを組み込んでください」

 

「・・・・・・・・・・本気?」

 

僕はかなり驚きながら聞いた。

 

「本気です!」

 

「本気だよ!」

 

「本気ですわ!」

 

「一応聞くけど理由は・・・・・・」

 

僕がひきつった笑みを浮かべながら訪ねると。

 

「「「零夜(くん)の力になりたいから(です)(ですわ)!」」」

 

と、三人同時に返してきた。

さすがにこれには僕も引いた。

 

「あー・・・えーと・・・ちょっとまってて」

 

僕はそう言うとスマホを取り出してある人物へと電話を掛ける。その相手とは―――

 

 

『もしもし。どうしました零夜くん?』

 

「夜分遅くにごめんなさい、アマテラスさん」

 

『零夜くん、私のことはアマテラスではなく明莉お姉ちゃんでお願いします』

 

「あ、うん。ごめん明莉お姉ちゃん」

 

『はい♪』

 

 

僕のお姉ちゃんの一人。アマテラスお姉ちゃんこと、明莉お姉ちゃんだ。

 

「え~と、実はね・・・・・・」

 

僕は凛華たちを改造しても大丈夫か訊ねた。

凛華たちを創ったのは僕ではなく、明莉お姉ちゃんだからだ。

で、一応凛華たちにも明莉お姉ちゃんと会話して数分。

あ、ちなみに通話はスマホを媒介にしたテレビ電話です。

 

『なるほど~・・・・・・いいと思いますよ』

 

「え、あ、いいの?」

 

『ええ。それに凛華ちゃんたちはもう零夜くん専用のデバイスなんですから私に確認しなくても大丈夫ですよ』

 

「え~と、一応、明莉お姉ちゃんが創ったから確認しておきたくて・・・・・・」

 

僕は顔を少し赤らめて明莉お姉ちゃんに言う。

 

『そ、そうなんですね・・・・・・・///』

 

対する明莉お姉ちゃんも顔を真っ赤にしてもじもじとして返してきた。

 

「明莉お姉ちゃん?大丈夫、顔真っ赤だよ?」

 

『だ、大丈夫ですよ零夜くん!』

 

「お姉ちゃんがそう言うなら・・・・・・」

 

『あ!そうそう、零夜くん。改造、についてなんですが・・・・・・』

 

「あ、うん」

 

話題を逸らすように言ってきた明莉お姉ちゃんに返事を返して。

 

『デバイス。凛華ちゃん、澪奈ちゃん、星夜ちゃんは大丈夫ですけど、特殊固有武装(アーティファクト)は改造できないので注意してくださいね』

 

「わかりました」

 

『それと、あまり無茶をしないようにお願いしますね。ガブリエルたち・・・・・・じゃなくて翼たちが心配しますから。もちろん、私も心配するので気を付けてください』

 

「うん。ありがとう明莉お姉ちゃん。翼お姉ちゃんたちにも伝えてくれる?」

 

『ええ。それじゃあ、また近いうちにみんなで零夜くんの家に遊びに行きますね♪』

 

「うん。待ってるね」

 

僕はそう言うと明莉お姉ちゃんに手を振って、通話を止めた。

通話を終えた僕は凛華たちの方を向き。

 

「え~と、明莉お姉ちゃんから許可が貰えたので凛華たちの案を取り入れるね」

 

そう言うと、凛華たちはパアッ、と表情を明るくした。

 

「「「やった!」」」

 

「ただし!」

 

喜ぶ凛華たちに僕はちょっとだけ、声の音を上げて言う。

 

「三人になにか以上があったらすぐに外すからね!もちろん、出来る限り三人に負荷はかけないようにするけど」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

「わかりました!」

 

凛華たちの返事を聞き、僕は苦笑しながら今は材料が無いため、今度リニスさん辺りに聞いてもらえたらやると言うことを伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今  天ノ宮家地下メンテナンスルーム

 

 

 

マリーさんからCVK792、ベルカ式カートリッジシステムのシステムデータとなのはとフェイトの稼働データなど諸々のデータを受け取った僕は、自宅の地下メンテナンスルームで二人にあった波長にカートリッジシステムを星夜に手伝ってもらいながら組み上げていた。

 

「星夜ごめん、助かるよ」

 

「いえ、私は元々支援系が得意ですから」

 

僕のデバイスは凛華は万能型、澪奈は近接型、星夜は支援型だ。そして星夜の得意分野は情報収集などシステム関係だ。

僕も一応翼お姉ちゃんからこういうメンテナンスなどは教えてもらっている。だから凛華たちのメンテナンスは僕が行っているのだ。

 

「零夜くん、なのはちゃんとフェイトちゃんのデータ整理終わりました」

 

「ありがとう星夜。あとはこのデータにカートリッジシステムと同期させて・・・・・・」

 

端末を操作してしばらくして。

 

「んんー・・・・・・終わった~」

 

なのはとフェイトのが終わり伸びをして凛華が淹れてくれたココアをのんだ。隣では星夜が同じようにココアを飲んでいた。さすがに頭を使ったため凛華が気を使ってくれたのだろう。

 

「なのはのはCVK792-A。オートマチック、マガジンタイプ。フェイトのはCVK792-R。リボルバータイプだね。あとはこれをマリーさんとリニスさんに送れば・・・・・」

 

僕は管理局本局技術室へと、このデータを送った。あとはマリーさんとリニスさんがやってくれるはずだ。

 

「あとは凛華たちだね」

 

「はい!」

 

そう言うと、星夜は嬉しそうに返してデバイスの待機形態へとなった。

 

「凛華と澪奈のはもうあるから、早く終わらせよう」

 

僕はカートリッジシステムを自分のデータと同期させて凛華たちにインストールする。

 

「三人ともカートリッジのタイプはオートマチックタイプだね」

 

僕はそう判断するとオートマチックタイプのカートリッジを再入し、適切なサイズへと変える。

結果的として、デバイス内でも凛華たちが手伝ってくれたため二時間ほどで終わった。

 

「終わった~。凛華、澪奈、星夜、調子はどう?違和感とかある?」

 

僕は伸びをして人形になって凛華が淹れてくれたハーブティーを飲んで聞いた。

 

「いえ、ですけど前より処理システムが上がったのと効率が上がったのを感じます」

 

「うん。わたしも」

 

「ええ。零夜くんの魔力波長とリンクしてるからかと」

 

「そう?ならよかった~。それと新しい形態も組み込んだんだけど・・・・・・」

 

僕はそこで意地の悪い笑みを浮かべて凛華たちに言った。僕の言葉に凛華はやや呆れ顔を、澪奈は嬉しそうに跳び跳ねて、星夜は苦笑を浮かべていた。

そして数日後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後 時空管理局技術室

 

 

「いやー、なんとかまにあってよかったよ~」

 

「ま、マリーさん?大丈夫ですか・・・・・・?」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

「「いやいや、絶対大丈夫じゃないでしょ(です)!!」」

 

僕とリニスさんはマリーさんの大丈夫に即刻ツッコんだ。目の下に隈はあるし髪はボサボサ。どう考えても一日二日徹夜しただけじゃないね!?

 

「リニスさん?」

 

「私もさすがにあそこまでやるとは・・・・・・」

 

「ああ・・・・・・」

 

リニスさんの本気で驚いた目でマリーさんを見る視線に意図が分かった僕は乾いた笑みを浮かべた。

その間になのはとフェイトは愛機のレイジングハートとバルディシュと挨拶していた。

そのとき。

 

 

『あ、フェイト』

 

 

ウインドウが開いてアルフとアリシアが映った。

 

「アルフ?それにお姉ちゃん?どうしたの?」

 

 

『実は今日、リンディさんとお出掛けする予定だったんだけど、まだリンディさん来てないんだ。約束の時間はとうに過ぎてるのに』

 

 

アリシアがそういい終えるのと同時に。

 

 

『当該区域で結界を確認!この術式は・・・・・・エンシェント・ベルカ!』

 

 

アラーム音とともにアースラ観測班のアレックスさんの声が響いた。

 

「(当該区域で・・・・・・って、まさか海鳴市?!)」

 

僕はアレックスさんの放送を聞きながらそう思考する。

 

「なのは!フェイト!出撃だ、いくよ!」

 

「うん!」

 

「わかった!」

 

「アリシアとアルフは急いでこっちに帰ってきて!」

 

 

『わかった!』

 

 

そう言うと継っていたウインドウが閉じた。

 

「二人とも、いきなり実戦だけど大丈夫?」

 

「問題ないよ!」

 

「うん。大丈夫!」

 

なのはとフェイトの頼もしい声を聞き、僕らは技術室から転移装置のところに行き、海鳴市。封絶結界が展開されてる場所の上空へと転移した。

上空に転移し風を浴びながら僕らは封絶結界へと向かっていく。その中、なのはとフェイトはレイジングハートとバルディシュと話していた。

 

「ごめんね、レイジングハート。いきなり本番で 」

 

All right. That's what I'm here for.(オーライ。そのための私です)

 

「バルディッシュも 」

 

《 No problem. 》

 

This is the first launch of the new system.(新システムの初起動です)Requesting a renewed activation call.(新たな名で起動コールを)

 

レイジングハートに言われ、なのはとフェイトは新しいレイジングハートとバルディシュの起動名を呼んだ。

 

「うん。レイジングハートエクセリオン! 」

 

「 バルディッシュアサルト! 」

 

「「セーットアーップ!」」

 

「それじゃあ僕らもいこうか、リンカーネイト」

 

《はい》

 

「リンカーネイト!セーットアーップ!」

 

僕はなのはとフェイトに続いて凛華を展開してバリアジャケットを身に纏う。

 

「どう?機能面に問題はある?」

 

《大丈夫です。問題ないですよ》

 

僕は凛華にそう聞き通常形態のまま、なのはとフェイトとともにシャマルの張ったと思わしき封絶結界の内部へと強引に侵入する。

 

「(さて・・・・・・リンディさんは・・・・・・と)」

 

内部に入った僕はなのはとフェイトと分かれ、結界内にいるリンディさんを捜した。

 

「いた。なのはとフェイトはあの騎士たちと再戦するんでしょ?」

 

「うん」

 

「もちろん」

 

「あまり無理しないでね」

 

僕はそう言うとなのはとフェイトから離れ、リンディさんがいる建物に着地する。

 

「大丈夫ですかリンディさん」

 

「ええ。大丈夫よ」

 

少し服が埃被っているが、特に目立った外傷は無いようだ。

リンディさんの様子を軽く見て、空に浮かんでいるヴィータやシグナムたちを見る。

 

「あいつらっ・・・・・・!」

 

ヴィータの視線の先には、レイジングハートエクセリオンとバルディシュアサルトを構えたなのはとフェイトがいた。

 

 

Activation... Normal.(起動状態・・・異常なし)

 

Cartridge unit, functioning normally.(カートリッジユニット、動作正常)

 

 

レイジングハートとバルディシュはなのはとフェイトに問題ないことを伝えた。

そこに、二人を見たシグナムが。

 

「二人とももう魔力が回復したのか。呆れた回復速度だな」

 

やや呆れたように言った。

そしてその少し離れたところにいるザフィーラにはアルフがいつもの戦闘スタイルで相対した。

 

「アルフがいるってことは・・・・・・」

 

僕がそう呟くと同時に後ろからアリシアの声がした。

 

「零夜~!」

 

「アリシア、やっぱりいたんだね」

 

「うん」

 

後ろを振り向くと、案の定アリシアがリンディさんといた。

 

「リンディさんそこでじっとしていてください。アリシアも」

 

「ええ、わかったわ」

 

「うん」

 

僕はリンディさんとアリシアに簡易的な魔力障壁を張り、視線をなのはたちに向ける。

 

「なんだろうと関係ねぇ!邪魔する気なら、ぶっ叩く!」

 

「フェイトちゃん」

 

「うん」

 

ヴィータの声を合図に、なのはとフェイトは互いにうなずき、なのははヴィータと、フェイトはシグナムと闘いを始めた。

なのはとヴィータの方の闘いに視線を向ける。

最初の衝突として、なのはのレイジングハートとヴィータのグラーフアイゼンがぶつかっていた。

 

「私たち闘いに来た訳じゃないの。話を聞きたいの!」

 

「笑わせんな!やる気の新型武装をぶら下げて言うことかよ!」

 

「この間も今日もいきなり襲い掛かってきた子がそれを言う?!」

 

なのはとヴィータは鍔迫り合いをしながら会話をしていた。鍔迫り合いからやがて二人は大きく距離をとる。

 

「こっちはもうテメエに用はねーんだ! 」

 

《Explosion! 》

 

ヴィータのグラーフアイゼンがカートリッジをロードしジェットハンマーのような形に姿を変えなのはに迫った。

 

「これでも食らって、おとなしく寝てろ!」

 

対するなのはは近場のビルの屋上に降り、足元にピンク色の魔方陣を展開させた。

 

「レイジングハート! 」

 

Commencing cartridge load.(カートリッジロード、行きます)

 

レイジングハートのデバイス音とともに、レイジングハートからカートリッジの空薬莢が排出された。

 

「はああああっ!」

 

迫り来るヴィータの攻撃を、なのはは右手を中心に出した防御魔方陣を展開させて、ヴィータのグラーフアイゼンを防ぐ。

 

「堅ぇ・・・・・・」

 

ヴィータのグラーフアイゼンをなのはは見事に防いでいた。

 

「簡単に倒されちゃうわけにはいかないから! 」

 

「このヤロウ! 」

 

「スマッシャー! 」

 

ヴィータが出した鉄球をなのははレイジングハートをぶつけて防ぐ。

その余波で、二人のいた建物から爆発が起こった。

その爆煙と同時に二人は空に上がり、互いに距離をとる。

なのはがヴィータを探している間、ヴィータは鉄球を自分の周囲に出していた。

おくれてなのはがヴィータを見付けると。

 

「このぉ・・・・・・ぶっ飛べー! 」

 

ヴィータがグラーフアイゼンで鉄球をぶつけ、なのはに向けてものすごい早さで鉄球を跳ばす。

対するなのはは落ち着いて、カートリッジを二発ロードし自分の周囲にピンクの魔力弾をだす。

 

《Accel shooter》

 

「アクセル・・・・・・シュート!」

 

なのはの声とともに、なのはのアクセルシュートがヴィータの射った鉄球が互いの中央でぶつかり、連鎖爆発を起こした。

 

「ほんとにお話を聞かせてもらいたいだけなの」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「帽子のことも、謝りたいと思ってたの」

 

「ぁ・・・・・・・・」

 

なのはの帽子と言う単語にヴィータの眉が少し動いたところを見た。

 

「(帽子?・・・・・・・・あ、もしかしてなのはあのときヴィータの帽子になにかしちゃったのかな・・・・・・)」

 

僕はヴィータと帽子で、あのときのなのはの惨状を思い出した。恐らく、なのはがヴィータの帽子を消し飛ばしたりなにか傷付けたりして、ヴィータが激怒。それで手加減の効かない攻撃でノックダウンしたのだろう。

 

「(まあ、それならなのはが悪いかな?ヴィータ、あの帽子かなり気に入ってるし・・・・・ね)」

 

僕は二人の戦闘を観ながらそう思考する。

 

「ね、いい子だから」

 

「・・・・・うっせえ、チビガキ!邪魔するやつはぶっ潰す!」

 

ヴィータはその声と同時に、なのはに向かって突進していく。その間。

 

「(ヴィータ・・・・・・ぶっ潰すって。お願いだから本気で潰さないでよ・・・・・・)」

 

僕はヴィータにそんなことを願っていた。

 

「(さて、フェイトとシグナムの方は・・・・・・)」

 

僕は視線をなのはとヴィータからフェイトとシグナムに移した。

 

「はああっ!」

 

視線を移すと、フェイトのバルディシュがシグナムのレヴァンティンとぶつかっていた。

フェイトの攻撃をシグナムはさすが、ヴィータたちの返将。身を反らしてかわして、すぐさまレヴァンティンでフェイトを攻撃する。

対するフェイトも、シグナムのレヴァンティンを障壁で防いで攻撃する。

二人とも三次元戦闘真っ最中だった。

 

「(気のせいかな、シグナムが楽しそう・・・・・・)」

 

僕はシグナムを見て不意にそう感じた。

そう思っている間もフェイトとシグナムは、なのはとヴィータから少し離れたところで空中戦闘をしていた。

フェイトの電撃の魔力弾をシグナムは器用にかわして、レヴァンティンの鞘のカートリッジをロードする。

 

《Schlange, beißen.》

 

レヴァンティンを鞘に納め、一気に抜き放ちフェイトに向かってレヴァンティンの刃を伸ばす。

 

《Angriff.!》

 

シグナムのレヴァンティンが放つシュランゲバイセンの連結鎖状刃をフェイトはギリギリのところをかわしていく。

 

「(シグナムのシュランゲバイセンってもしかしてアングリフかな?あれって空間攻撃なんだよね~。フェイトは大丈夫かな?)」

 

シグナムの攻撃をかわすフェイトを視ながら僕はそんなこと思った。

するとフェイトはかわしながらバルディシュをサイスモードにしてシグナムに向かった。

 

「はあああああっ!」

 

シグナムはバルディシュの刃をレヴァンティンの鞘で受け止め、バルディシュの軌道をずらしてフェイトを蹴り飛ばしてフェイトを離れさせる。

そしてすぐさまレヴァンティンをシュランゲバイセンのままフェイトに追撃しに向かう。

フェイトもなんとか体勢を建て直し、バルディシュを構え直してシグナムに向かっていった。

 

「はあっ!」

 

「はああっ!」

 

二人がぶつかり、その直下の建物の窓ガラスがすべて破壊されたのを見た。

 

「(さ、さすがシグナムとフェイト・・・・・・ここが封絶結界内で良かった)」

 

僕は戦闘の惨状を見て他人事のように思った。

そこへ。

 

「ふむ・・・・・・先日とはまるで別人だな。相当鍛えてきたか?それとも、前回の動揺が酷すぎただけか?」

 

「ありがとうございます。今日は落ち着いてますし、鍛えても来ました」

 

「ヴォルケンリッターが将、シグナムだ。お前は?」

 

「フェイト・テスタロッサです」

 

「テスタロッサか。こんな状況でなければ心踊る戦いだっただろうが、今はそうも言っておられん。殺さずに済ませる自信はない。この身の未熟を、許してくれるか?」

 

「構いません。勝つの・・・・・・私ですから!」

 

フェイトとシグナムの会話が聞こえてきた。

って言うか!

 

「(いやいやシグナム!フェイト殺しちゃダメだからね?!"この身の未熟を、許してくれるか?"じゃないよね!!フェイトもフェイトで"構いません、勝つの・・・・・・私ですから!"じゃないよー!シグナムがバトルマニアなのは知ってるけどフェイトもバトルマニアなの?!)」

 

僕は声に出さずに脳内でそう二人の会話にツッコんでいた。

 

《零夜くん、大丈夫?》

 

〈ごめん、無理。ぜんぜん大丈夫じゃない〉

 

凛華の心配にも覇気のない念話で返した。

 

《あはは・・・・・・》

 

僕の返しに凛華は乾いた苦笑を出すだけだった。

するとそこに。

 

〈零夜、あと少しだけ待ってくれ!もう少しでそこにつく!〉

 

武装隊を引き連れてクロノの顔がウインドウ越しに見えた。

 

「わかった」

 

僕がそう返すと、結界内に緑色の球体が現れた。

 

「(あれはシャマルの・・・・・・。シャマルたちも気づいたね)」

 

シャマルが出したと思わしき球体をみてそう思っていると。

 

「ヴォルケンリッター鉄槌の騎士、ヴィータだ!話があるならそのうち出向いてやるよ。だから、今は邪魔すんな!」

 

「あ!」

 

「すまんテスタロッサ。この勝負、預ける」

 

「シグナム!」

 

球体に向かってヴィータ、シグナム、ザフィーラが飛んでいった。そしてその瞬間、結界内にシャマルの放った閃光魔法が光輝いた。

 

「(この魔法、たしかクラールゲホイル、だっけ?さすがシャマルだね)」

 

目元を手で被いながらそう思っていると、次の瞬間には結界が解かれていて、元の空間に戻っていた。

そしてその上空をクロノたちが飛んでいた。

 

〈エイミィ、追跡頼む!〉

 

〈わかってる!どこに逃げたって追い掛けるよ!〉

 

〈随時、座標ポイントを送信します!〉

 

そこにクロノたちの声が聞こえてきた。

けど、悪いけど。

 

〈星夜、お願い〉

 

《かしこまりました》

 

僕はこの場にいない星夜に念話で言う。

そのつぎの瞬間。

 

〈なっ!?〉

 

〈システムが受け付けません!〉

 

〈外部からハッキングを受けています!抑えきれません!〉

 

エイミィさんたちの慌てる動揺の声が聞こえてきた。

 

〈エイミィ!〉

 

〈ごめんクロノくん!ハッキングを受けて追い掛けられない!〉

 

〈くそっ!〉

 

〈対象ロスト。見失いました・・・・・・〉

 

〈外部からのハッキング停止、システム復帰しています!〉

 

〈ハッキングの追跡は〉

 

〈無理です。逃げれました〉

 

エイミィさんたちの声を聞きながら僕は星夜に念話を送る。

 

〈お疲れ様星夜〉

 

《いえ。零夜くんのアーティファクトのお陰です》

 

エイミィさんたちの妨害をしたのは僕だ。そして、星夜にはアーティファクト、力の王笏(スケプトルム・ウィルトゥアーレ)を渡していた。

もちろん、星夜だけでなくグレアム叔父さんにお願いしてアリアさんとロッテさんにも手伝ってもらった。

グレアム叔父さんには基本裏方。サポートをお願いしている。そうじゃないとこのあとの予定が大変だからだ。

 

〈アリアさんとロッテさんにもお疲れ様ですって言っておいて〉

 

《わかりました》

 

僕は星夜とのやり取りを終え、リンディさんとアリシアに掛けていた障壁を解く。

 

「零夜くん」

 

「ごめん、逃げられた」

 

「みたいだね。それにクロノたちの方も何かあったみたいだ。クロノ、大丈夫?」

 

〈すまん零夜!対象を逃した!〉

 

「そう。じゃああとはクロノに任せるね。僕たちはリンディさんと帰るから」

 

〈わかった〉

 

僕はクロノにそう言うと、なのはたちの方を向いて。

 

「取り敢えず、家に帰ろうか」

 

そう言った。

 

 

 




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動き出す零夜

~零夜side~

 

 

 

 八神家

 

 

「蒐集のほうはどう」

 

「ある程度進んだ。あと3分の1程だ」

 

「そう」

 

昼間の戦闘が終わったあと、テスタロッサ・ハラオウン家でリンディさんからクロノが追い掛けてるロストロギア"闇の書"について聞き(もうすでに知っている)なのはたちは今後の方針を決めていた。リンディさんは明日からお仕事復帰で、なのは、フェイトは嘱託として出るみたいだ。アリシアはまだデバイスが出来てないためお留守番だ。そして僕は、なのはたちと別行動を取ることにした。

テスタロッサ・ハラオウン家を出た僕はそのまま八神家に向かい今に至る。

 

「そういえばはやては?」

 

はやての姿が見えないことに疑問を持ち、シグナムたちに訪ねる。

 

「お友だちのすずかちゃんのお家に今日はお泊まりに行ってるわ」

 

「すずかの?いつの間に・・・・・・」

 

シャマルの言葉に、いつの間にかすずかの家に止まるほど仲良くなっていたはやての行動力に驚きながら返した。

 

「さて、それじゃシグナムとヴィータはお説教ね」

 

「なに?」

 

「なんで?」

 

疑問顔の二人に僕は呆れた口調で理由を言った。

 

「あのねえ二人とも。いくらなのはたちでも、ぶっ潰したり、殺さずに済ませる自信がないとかじゃないからね?」

 

「「うっ!」」

 

「言ったよね、瀕死程度ならまだいいけど、出来るだけ手加減して殺さないようにするようにって?」

 

「い、いやしかしだな」

 

「しかしもなにもないよシグナム。ていうかシグナム、フェイトととの戦闘楽しんでたでしょ」

 

「うっ!」

 

「はぁー。まあ、なのはたちは僕が鍛えたからね、ヴィータとシグナムの判断は正しいよ。よって、今回のことはこれ以上あれこれ言うつもりはないから」

 

「そ、そうか」

 

「た、助かった」

 

どこか助かったような表情のシグナムとヴィータにシャマルが紅茶のおかわりをカップに注いだ。

 

「さてと。グレアム叔父さん」

 

僕は空間ウインドウを開きグレアム叔父さんにデレビ電話をする。

 

『どうかしたかね』

 

「例の"オートクレール"の方はどうですか?」

 

『準備は出来ているよ。いつでも使用できる』

 

「ありがとうございます」

 

『なに、基本的に零夜君たちに任せっきりだからね。これくらいはしなければ』

 

「いえ、今日はアリアさんとロッテさんにも手伝ってもらいましたから」

 

『そうかい。ああ、それと零夜君の知り合いのユーノという子がアリアたちと無限書庫に行ったよ。では、また何かあったら連絡してくれ』

 

「わかりました」

 

会話を終え、ウインドウを消去してカップの紅茶を飲んで喉を潤わせる。

 

「零夜くん、オートクレールって?」

 

シャマルが不思議そうな表情で聞いてきた。

 

「"闇の書"を元の"夜天の魔導書"に戻すのに必要な武装だよ」

 

僕がグレアム叔父さんに頼んでいるのは"闇の書"の防衛プログラムを消すために必要な武装だ。武装に必要な術式は僕が用意したが、武装自体はグレアム叔父さんが用意してくれた。

 

「それにしても信用できるのか?あのグレアムって人?」

 

「大丈夫。その点は僕が保証するよ」

 

ヴィータの怪しむ声に僕はそう答える。

 

「まあ、零夜がいうならいいけどよ」

 

ヴィータは渋々納得するような感じで答えた。

 

「さて、それじゃ行こうか」

 

「ああ」

 

「もちろんだ」

 

「ええ」

 

「わかってる」

 

僕らは戸締まりをして、僕は魔法で変身して八神家の庭に出て他の世界へと跳んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

「いやー、今日が休日で助かったね」

 

《それは丸一日、蒐集に使えるからですか?》

 

「うん」

 

今、僕はある別世界で蒐集をしていた。もちろん、変装はしている。

そして目の前には僕が倒した大型魔獣が転がっていた。

 

「さて、そろそろ一度帰ろうか」

 

時空転移魔方陣を描き出し転移しようとしたその瞬間。

 

「スティンガーブレイド、エクスキューションシフト!」

 

「ッ!」

 

上空より青白い刃が飛び掛かってきた。

 

「(この魔法はクロノのかな?)」

 

飛び掛かってきた刃をすべて避け、発生源を見るとそこにはクロノとクロノ率いる武装局員の姿があった。

そのままクロノの姿を見ていると。

 

「動くな!武器を下ろして大人しく投降しろ」

 

僕を武装局員が方位してそう言った。

続いて降りてきたクロノが。

 

「危険指定ロストロギア所有の罪で逮捕する。大人しく従えば弁護の余地はある」

 

と、自分のデバイス、S2Uを向けながら言ってきた。

 

《だそうですよ?》

 

そんなクロノたちを見ながら星夜が念話で言ってきた。

ちなみにだが、僕の変装している姿はローブを着ていて、さらに変身魔法≪仮装行列(パレード)≫を使っていて女の子みたいな姿になっている。そして、今僕の手には通常形態の星夜ことステラメモリーがある。だが、僕はデバイスにも認識阻害魔法をかけているため、これがステラメモリーだとは僕以外にはわからないはずだ。

 

〈やれやれだね〉

 

星夜の言葉に僕も念話で返す。

その間にも武装局員はジリジリとにじり寄って来ていた。

 

「おい!聞いているのか!」

 

「・・・・・・いきなり攻撃魔法で襲い掛かってきて謝罪の一つもないのかしら?」

 

クロノの問いに僕は、本来の口調ではなく女の子のような口調で答えた。

声の声帯も魔法で変えているから僕だとバレる必要はない。

 

「まあ、あの程度でやられると思っているのならそれは大間違いなのだけど」

 

「なに?」

 

「それにしても・・・・・・」

 

僕は周りを見渡してクロノ以外の武装局員を見る。

 

「その程度の戦力で私が捕まえられると本気で思ってるの?」

 

正直、手応えがありそうな相手がクロノしかいない。

 

「なんだと?」

 

「まあいいわ。私は帰るし、出来れば邪魔しないでほしいわね」

 

「逃がすと思うか!」

 

そう言うとクロノは僕の周囲にさっきの魔法と同じのような刃を出した。

 

「(これって前に僕が見せた・・・・・・なるほど、あの一回で覚えたのかな?)」

 

このやり方は以前僕がクロノにやったやり方だ。

 

「動くならその刃があなたを貫く。安易に動かないことだ」

 

「で?」

 

「なに?」

 

「この程度の刃の包囲で私を動けなくさせることができると、本気で思ってるの?」

 

そう言いながら僕はステラメモリーを軽く一閃してクロノの魔法を消す。

 

「なんだと!?」

 

その間にはすでに僕は帰る準備が出来ていた。

 

「それでは私はここで失礼しますわ。次会えるときはもう少し歯応えを期待しますね」

 

「ま、待てっ!」

 

そう言いながら魔法を仕掛けてくるクロノを見ながら僕はその場から転移した。

 

「やれやれ、そろそろヤバイかな」

 

その後、転移を繰り返して八神家へと帰った。

そして、翌日僕らは思い知った。はやての時間がもう残り僅かだと言うことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 

「はやて!しっかりしてはやて!」

 

「はやて!」

 

シグナムたちと話していたところに、上から何かが倒れるような物音が聞こえ、その発生場所。はやての部屋に行くと、ベッドの脇ではやてが胸を押さえて倒れている姿があった。

その痛みが尋常じゃないことに気づき僕はシャマルに、

 

「シャマル、急いで救急車!」

 

急いでそう言った。

 

「わかったわ!」

 

「シグナムは石田先生に電話して!」

 

「ああ!」

 

僕ははやての様子を見ながらシグナムにもそういう。

 

「ヴィータ、はやてを揺らしちゃダメだ」

 

「け、けど!」

 

「落ち着けヴィータ。零夜の言う通りだ」

 

「ザフィーラ・・・・・・わかった」

 

その十分後。僕らははやてを迎えに来た救急車に乗り込んで海鳴大学病院へと向かった。

はやてが目を覚ましたのはお昼を過ぎた頃だった。

 

「ん・・・・・・」

 

「はやて!」

 

「大丈夫、はやて!」

 

目を覚ましたはやてにヴィータは駆け寄り、僕はベッド脇から訪ねる。

 

「ここは・・・・・・」

 

「病院だよ。大丈夫、はやて?」

 

「大丈夫やで」

 

そう笑いながら言うはやてに。

 

「はやてちゃん!目が覚めたのね」

 

石田先生が病室に入ってきた。

 

「すんません石田先生。ただ、足と腕と胸がつっただけなのにみんな大袈裟や」

 

「あのねはやて。足と腕がつるのは分かるけど、胸がつったなんて聞いたことないからね」

 

はやての言葉に呆れ半分口調でそうツッコんだ。

 

「あのねはやてちゃん」

 

そこに石田先生がはやてに告げた。

 

「入院?」

 

「ええ。一応、検査をしたいからしばらくの間入院してほしいの」

 

「せやけど・・・・・・」

 

「はやて、その事は僕がお願いしたの」

 

「零夜くんが?」

 

「また、はやてに今日みたいなことがあったら大変だからね」

 

「け、けど」

 

「大丈夫、家のことは僕がやるから。心配しないで」

 

「零夜くんがそう言うなら・・・・・そんなら石田先生、お願いします」

 

「ええ」

 

石田先生にはやてのことを任せて僕らは八神家へと帰り、このあとのことを相談することにした。

 

「シャマルは基本こっちに残ってはやての側にいて」

 

「わかったわ」

 

「それと、僕も本気で行く」

 

「零夜も出るのか」

 

「うん。はやてのあの様子を見る限り闇の書の呪いがかなり進行している。もう珍多羅している場合じゃない」

 

「そうか」

 

「けど、学校の方はどうすんだよ」

 

「学校の方は休むよ。ありがとうヴィータ、心配してくれて」

 

僕は心配してきたヴィータの頭を優しく撫でた。

 

「シャマル、なにかあったら連絡して」

 

「ええ」

 

僕はそのあとシグナムたちの夕飯と翌日の朝食を作り、天ノ宮家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてはやてが入院して数日。

 

 

「シグナム、一度家に帰ってゆっくり休んで」

 

「だ、だが!」

 

「ヴィータとザフィーラにも言ってあるから」

 

シグナムにそういう僕に上から。

 

「どういうつもりだ零夜!」

 

クロノのそんな声が聞こえてきた。

上を向くとそこにはクロノ、なのは、フェイト、アルフがいた。

 

「どういうつもりも、僕は最初から知っていた。ただそれだけだよクロノ」

 

そう言いながら僕は以前クロノに見せた姿を見せた。

 

「その姿は・・・・・・!」

 

「蒐集をする際はこの姿が便利だからしていたんだけど、もういいかな」

 

仮装行列を解除してクロノたちを見据える。

 

「零夜くん、どうして!」

 

「どうしてこっちにいるか、ってことなのは?」

 

「そう!」

 

「闇の書を完成させるため。それが僕の目的」

 

「それがどんなものなのか知らないわけないでしょ零夜」

 

「うん、知ってるよフェイト。よく・・・・・・ね」

 

「零夜、君を逮捕する、その場を動かないでほしい。出来れば君を傷つけたくない」

 

「傷つけたくない、か。優しいねクロノ。でもね、クロノ、君には分かっているよね?僕に勝てないってことが」

 

そう言うや否や、僕は魔法の射手(サギタ・マギカ)の雨をクロノたちに浴びせた。

 

「これが答えだよ。悪いけど、今回僕は君たちの敵だ」

 

ことの始まりは数十分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分前

 

 

「やれやれ、なにやってんのだか」

 

 

別の世界にいた僕はシグナムとヴィータの魔力が低くなっていることに気づき、まずは魔力が低くなっているヴィータのほうに転移した。

 

「ん、あれはなのは?」

 

転移するとちょうど、ヴィータに向かってなのはが長距離砲撃を放とうとしていたところだった。

 

『ディバインバスター!』

 

なのはがディバインバスターを放ったその瞬間に、ヴィータとの間に入り、なのはの砲撃を防いだ。

 

「え!?」

 

驚くなのはを他所に僕はヴィータに話し掛ける。

 

「ヴィータ、ザフィーラと一緒に家に帰って。それで、明日は一日休んで」

 

「な!?い、いや、いいのかよ零夜!アイツにあたしたちとの関係が!」

 

「うん、もういいよ。いずれバラす手筈だったし。それに、はやてが心配してたから」

 

最後の部分をヴィータだけに聞こえるように言って、ヴィータを転移させた。

 

「零夜・・・・・・くん・・・・・・?」

 

「ごめんね、なのは」

 

「ま、まって!」

 

なにか言おうとするなのはを無視して、僕はシグナムの方へと転移した。

シグナムの方に転移すると、何故かフェイトと闘っていた。

 

「バインド」

 

「なっ!?」

 

僕が仕掛けたバインドに驚くフェイトにゆっくりと姿を表した。

 

「零夜?」

 

「おまえ・・・・・・」

 

フェイトとシグナムが僕に向かって言うなか、僕はフェイトの方を向かずシグナムに歩いていき、シグナムの前に立つと治癒魔法をかけた。

 

治癒(クーラ)

 

驚きに目を見張るシグナムに僕は。

 

「まったく、ここまで無茶するなんて」

 

そう言った。

 

「零・・・・・・夜?」

 

「言ったよね、無茶しないでって。なのにヴィータもシグナムも無茶して。魔力が底つきかけてたよ?」

 

「す、すまん」

 

「シグナム、一度家に帰ってゆっくり休んで」

 

「だ、だが!」

 

「ヴィータとザフィーラにも言ってあるから」

 

シグナムにそう言うと上から。

 

「どういうつもりだ零夜!」

 

クロノの声が聞こえてきた。

 

 

 

 

そして今に至る。

 

 

 

 

シグナムが転移して帰ったのを確認した僕は、クロノたちに魔法の射手の雨を降らせていた。

やがて魔法の射手の雨が止むと、そこにはバリアを張って防いだ四人がいた。

 

「今のはさすがに防ぐよね?クロノとアルフはともかく、なのはとフェイトにはこれくらい防いでもらわないと」

 

なのはたちに聞こえるようにそう僕は言った。

僕が言い終えると、なのはとフェイトが接近して攻撃してきた。

 

「僕と闘うんだ。いいよ、やってあげる。リンカーネイト、レイオブホープ」

 

《わかりました》

 

《はーい》

 

僕の声に応じて凛華と澪奈が答え、デバイスを展開した。

 

「はあっ!」

 

「やあっ!」

 

左右から仕掛けてきたなのはとフェイトの攻撃を凛華と澪奈で防ぐ。

 

「「っ!?」」

 

「確かに前より速いし重い。けど、動きが単調すぎるよ」

 

そう言い二人のデバイスを弾き上げ、ライトエフェクトの光、凛華と澪奈で薙ぎ払い。

 

「アインクラッド流≪二刀流≫エンド・リボルバー」

 

静かにそう言った。

そこへ。

 

「蒼窮を駆ける白銀の翼、疾れ風の剣」

 

クロノの声が聞こえてきた。

その瞬間、僕の身体を不可視のなにかが縛り上げた。

 

「へぇー、設置型の拘束術式。なのはとフェイトが攻撃している間に仕掛けたんだ」

 

冷静にそれを見て分析していると。

 

「アタシを忘れてもらっちゃ困るよ!」

 

アルフも拘束魔法を放って僕を拘束してきた。

そしてさらに。

 

「なのは!フェイト!」

 

《ブレイズキャノン》

 

「ごめん零夜くん!」

 

《ディバインバスター》

 

「ごめん!」

 

《サンダーレイジ》

 

クロノの声を合図に、クロノとなのは、フェイトが砲撃魔法を仕掛けてきた。

そのまま当たるかと思われた、砲撃が当たるその直前。

 

「ステラ」

 

《はい》

 

「―――支配領域(インペル・マジェスター)

 

静かにそう一言言った。

 

「やったか」

 

そう砲撃によって生じた煙を見てクロノが言った。

そのクロノに向けて。

 

「―――雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)

 

僕は雷の暴風を放った。

雷の暴風は煙を一瞬で払い、クロノに向けて向かっていく。

 

「なにっ!?」

 

クロノは驚きながらも障壁を張って受け止めた。

 

「へえ、受け止めたんだ」

 

軽くそう言う僕に対して、なのはたちは信じられないと言う感じだった。

 

「そんな・・・・・・!」

 

「あれを受けても無傷なのかよ!」

 

なのはとアルフが驚き声を出し、フェイトは声には出さないがなのはと同じだった。

そんななか。

 

「零夜!」

 

クロノが僕の名前を呼びながら攻撃してきた。

 

「やるねクロノ。ちょっと驚いているよ。さすがアースラの誇る切り札だね」

 

「お世辞はいらない。零夜、君は何が目的なんだ!」

 

「目的ね。答えてどうするの?」

 

「協力できることがあるなら協力する。それだけだ」

 

「そう・・・・・・」

 

クロノの言葉にがっかりしたようなトーンで答えクロノを見る。

 

「悪いけど、今回クロノたちが出来ることなんて最後以外ないよ」

 

「なに?それはどういう意味だ!」

 

「いずれ分かる時が来るよ」

 

クロノとの鍔迫り合いから同時に下がる。

下がって構えたその瞬間。

 

《零夜くん、上空から砲撃魔法来ますわ》

 

星夜からそう念話が来た。

それと同時に、視界を眩い光が包み込んだ。

 

「どうだ」

 

クロノのそんな声が聞こえてくるが、僕は歩いて姿を見せる。

 

「今のはプレシアさんの次元跳躍魔法かな?なるほど、確かに前より威力が上がってるね」

 

「そ、そんな。母さんの次元跳躍魔法を受けてもまったくの無傷なんて・・・・・・!」

 

フェイトの言う通り、僕はまったくの無傷だった。

理由は単純に上空に障壁を張ったからと、自身の周囲に常に魔力障壁、対物障壁など張っているからだ。

 

「どうする、まだやるの?そろそろ帰りたいんだけど」

 

「くっ!零夜、この質問には答えてもらうぞ。君は闇の書の主か?」

 

「僕が闇の書の主?」

 

クロノの言葉に僕は持っていた闇の書を見る。

 

「どうなんだろうね。それと、これを闇の書や呪われた書って言うの止めてくれる?本来の名前で言ってほしい」

 

「本来の・・・・・・名前、だと・・・・・・?」

 

「詳しくはユーノに聞いたら?管理局の無限書庫にいるんでしょ。それじゃ、僕はこれで」

 

「ま、まて零夜!」

 

「待って零夜くん!」

 

「待って零夜!」

 

クロノ、なのは、フェイトの声を無視して僕は展開した時空転移魔法を発動させてその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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決意

 

~零夜side~

 

 

「シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、調子はどう?」

 

クロノたちと戦闘して追跡されないように様々な世界を転移経由して、ついでに蒐集を済ませて八神家に帰ってきた僕はリビングにいたシグナムたちに聞いた。

 

「少しは回復した」

 

「そう。じゃあ明日はシャマルも入れて全員蒐集に行かないでゆっくりすること。それとはやてのお見舞いに行ってくること」

 

シグナムの言葉を聞いて僕はそう言った。

 

「だ、だがしかし・・・・・・・!」

 

「シグナムたちの主がはやてなのは分かるよ。けど、みんなが傷付いたらはやてが悲しむ、それを忘れないで。みんなははやての守護騎士、なんでしょ?」

 

シグナムの文句に僕は冷静にそう言い返した。

するとそこにヴィータが。

 

「零夜はいいのかよ!」

 

「なにが?」

 

「なにが、って・・・アタシたちとの関係をあいつらに知られたんだぞ。はやてが助かっても零夜は・・・・・・」

 

「覚悟の上だよ。はやてが助かるなら僕はなんでもする。例え禁忌に触れようともね」

 

僕はヴィータに覚悟の眼をして言う。

いい終えた僕は表情を崩し、

 

「それにすべてが終わったら管理局に行くつもりだったし」

 

そう言った。

 

「なっ!」

 

「ま、まさか零夜・・・・・・今回の事件すべてお前一人で・・・・・・・」

 

シグナムの言葉を聞いて僕は小さくうなずく。

 

「そうじゃないとはやての願いが叶えられないでしょ?シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、そして夜天の書の管制人格の彼女と一緒にいることが」

 

「はやての願いには零夜も含まれてんだぞ!」

 

「そうだね。でも、それは叶わないかな・・・・・・・」

 

ヴィータの言葉に僕は悲しい眼をして静かに言った。

 

「僕はねヴィータ、はやてに僕みたいな人生を送ってほしくないんだ」

 

「ど、どういう意味だ」

 

「いつか話すよ。はやても交えてね」

 

僕はそう言うとその場から転移して天ノ宮家に帰った。

家に帰った僕は、シグナムたち守護騎士がはやてと僕の前に現れてからの日々を思い出した。そして、蒐集を始める切っ掛けも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半年前

 

 

「守護騎士たちとの生活はどうはやて?」

 

「めっちゃ楽しいで。家族が増えたからな」

 

「はは。よかったね」

 

「うん」

 

僕ははやての誕生日の日に闇の書の中から出てきた守護騎士。シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマルを見てはやてと話していた。

今シグナムたちは凛華たちと話していた。ザフィーラは狼の姿で床に座っていた。

 

「零夜くんもここ最近ずっと私のところに来てくれはるけど学校のほうは大丈夫なん?」

 

「大丈夫だよ。日中は学校に行ってるし、はやてたちのことは凛華たちに任せてるからね。それよりほら、あと少しなんだから終わらせよ」

 

「ううっ・・・・・・」

 

ちなみに今、僕は学校から出された宿題を。はやては僕が用意した問題集を解いている最中なのだ。

 

「やっぱ難しゅうわ。零夜くんたちはいつもこんなん受けてるん?」

 

「いや」

 

「はい?」

 

「はやてのは少し難しくしてるよ」

 

「なんでや!?」

 

「だって、そうじゃないといつか復学したとき、追い付けないよ?」

 

「そ、そう言われるとなんも言い返せへんわ・・・・・・」

 

「まあ、はやてなら大丈夫だと思うけどね」

 

宿題を解き終え、僕は凛華の入れてくれた紅茶を飲んではやてに言った。

正直、昔からはやてには勉強を教えているけど、はやては身につける速度が早い。これなら何時か復学しても問題ないはずだ。

そこへ。

 

「はやて、なにしてるの?」

 

ヴィータが首をかしげて聞いてきた。

 

「これはな、零夜くんからの贈り物という拷問書や」

 

「な、なんだって!?」

 

「なに言ってくれちゃってるのはやて!?」

 

はやての悪ふざけの言葉にヴィータは驚き、僕は面喰らったように呆れた声で言った。

僕らの反応に満足したのか、はやてはクスクス笑うとヴィータに言った。

 

「冗談や冗談。これはなヴィータ、問題集というものや」

 

「問題集?」

 

「せや。私は学校に行ってへんやろ?せやから零夜くんが私のために用意してくれた、学校代わりのもんや」

 

「へえ」

 

「はい、これで終いや」

 

「了解」

 

僕ははやてから問題集を受け取るとすぐさま答え合わせをした。そしてその10分後。

 

「うん、9割ほど出来ているね。でも、惜しいところもあるから見直しといてね」

 

答え合わせを終えた問題集をはやてに返した。

 

「了解や」

 

「さてと、このあとは出掛けるんだっけ?」

 

「せや。みんなの服や騎士甲冑のモデルとなるもんを探せなあかんやからな」

 

「う~ん、でも僕がいてもあんまり意味ない気が・・・・・・」

 

「そんなことないで。零夜くんにもアドバイスとかもらいたいんや」

 

「はやてが言うなら・・・・・・」

 

僕は苦笑をしてはやてに返して食器と自分の宿題を片付けた。

そのあと僕らは出掛ける準備をして、まず始めにデパートへと向かった。

 

「それじゃ僕とザフィーラ、ヴィータ、澪奈は外にいるから、終わったら連絡してね」

 

「了解や」

 

はやてはシグナムとシャマル、凛華、星夜を連れて店の中に入っていった。ちなみに今更だが、凛華と星夜の人間での姿は女子高校生のような姿だ。でもって澪奈は僕と似た感じの小学生って感じだ。

 

「さてと、はやてたちが戻ってくるまでの間僕らはどうしようか」

 

「なにも考えてないの零夜くん?」

 

僕の言葉に澪奈が首をかしげて聞いてきた。

 

「う~ん、ヴィータとザフィーラは行きたいところある?」

 

「いや、特にないな」

 

「我も同じく」

 

「澪奈は?」

 

「あはは、私も考えてないかな」

 

と、三人に聞いてみたが全くのノープランだった。

 

「ん~・・・・・・あ、三人ともクレープ食べない?」

 

「クレープ?」

 

「なんだそれは?」

 

僕の言葉にヴィータとザフィーラは案の定疑問符を浮かべていた。それに答えたのは僕ではなく澪奈だ。

 

「クレープってのはねパンケーキの一種で、薄い生地にアイスや甘いフルーツ、生クリームを巻いて食べるデザートなんだよ」

 

「アイスもあるのか!?」

 

アイス、の単語にヴィータが目を輝かせて言ってきた。

 

「うん。まあ、種類はいっぱいあるから見てみてから選んだ方がいいよ」

 

「零夜、クレープ食べてみたい!」

 

「はは。了解。ザフィーラは?」

 

「では、我も」

 

「オッケー、じゃあ行こうか」

 

僕は澪奈、ヴィータ、ザフィーラとともにクレープ屋に向かった。

 

「こ、これがクレープなのか」

 

クレープ屋の前についた僕らは、驚くヴィータにメニューを見せた。

 

「うん。種類はここから選べるよ」

 

「こんなにあるのか・・・・・・ん、なあ零夜、これは?」

 

「ん?・・・・・・ああ、これはお肉やウインナーなどフルーツ以外を挟んだのもあるんだ。まあ、クレープって言ったらこっち側なんだけどね」

 

ヴィータの問いに僕は苦笑を浮かべながら説明した。

 

「へえ。・・・・・・・・・・決めた、あたしはこれにする」

 

ヴィータが選んだのは『豪快ストロベリークレープ』という、ストロベリーアイスや苺、苺ソースがふんだんに使われたクレープだった。

 

「オッケー。ザフィーラは?」

 

「では、このブルーベリークレープというのを」

 

「了解。澪奈は?」

 

「私はこのミックスベリークレープ!」

 

「ふふ。うん。それじゃちょっと買ってくるから待ってて」

 

僕はそう言うと澪奈たちから離れてクレープ屋の注文窓口に向かい注文をした。

 

「すみませ~ん。この『ミックスベリークレープ』と『ブルーベリークレープ』、『豪快ストロベリークレープ』と『カスタードクリームクレープ』を一つずつ」

 

注文を終え、代金を払ってクレープを受け取ると澪奈たちのところに戻りクレープを渡した。

 

「はい、これがヴィータのでこっちがザフィーラの」

 

「ありがとう」

 

「すまぬ」

 

「で、これが澪奈のね」

 

「うん♪」

 

正直、凛華や星夜はお姉さんって感じがするけど澪奈は妹って感じだ。

まあ、ベースが僕だから仕方ないけど。

 

「うまい!零夜、これめっちゃうまい!」

 

「美味」

 

「二人が喜んでくれて嬉しいよ」

 

二人の声に僕は微笑みながらそう答えた。

ザフィーラは素っ気なく答えたが美味しそうに食べていて、ヴィータは子供みたいに食べる。

 

「はやてと零夜の料理もうめぇがこっちもうめぇ!」

 

「ふふふ。あ、ヴィータ」

 

「ん?」

 

ヴィータのほっぺに苺ソースが付いていたのを見た僕はハンカチでそっと拭った。

 

「美味しいのはわかるけど、もう少し落ち着いて食べてね」

 

「う、うん。わかった」

 

「うん」

 

恥ずかしそうに顔を赤くするヴィータを見て僕はうなずき、手元のクレープを食べる。

するとそこに澪奈が念話で。

 

〈零夜くん、お母さんみたいだよ〉

 

〈なんでお母さんなのさ・・・・・・・〉

 

〈お父さんの方がよかった?〉

 

〈いや、どっちも勘弁して・・・・・・〉

 

澪奈と軽く念話で話し、僕らはクレープを食べ終えるとはやてたちと合流して、はやてはヴィータと澪奈の。僕はザフィーラの服を買いにいった。はやてのほうは大丈夫だったが僕とザフィーラの方は大変だった。主に僕が。

見た目が女の子だからか店員さんにも女の子の服を勧められるわとにかく大変だったのだ。一応、ザフィーラに合う服を買ったが、基本ザフィーラは狼形態でいる方が楽だとの事だ。それを聞いた際に僕は少し苦笑いをしてしまった。

その話をはやてたちにするとはやてとヴィータから同情された。澪奈たちは引きつり笑い気味の苦笑を浮かべ、シャマルとシグナムはなんとも言えない表情だった。唯一知っていたザフィーラは無言でポンと僕の肩に手を置いた。

とまあそんなこんなで服や雑貨品など日用品を買い、騎士甲冑の参考に僕らはおもちゃ屋に来ていた。

 

「こんなところに・・・・・・?」

 

「ええからええから」

 

不思議そうに言うシャマルにはやては笑いながら言った。

 

「ヴィータ?」

 

僕は不意にヴィータがある一点をジーっと見ていることに気づいた。視線の先にはポツンとウサギのぬいぐるみが置かれていた。品名には『のろいうさぎ』と書かれていた。

 

「ふふ、はやて」

 

「わかってるで零夜くん」

 

僕とはやては顔を見合わせて意思疎通をしてうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その帰り、公園を歩いている最中。

 

「もう袋から出してもええでヴィータ」

 

シャマルの押す車椅子から振り向いてはやてがヴィータに言った。

はやての言葉を聞くと、ヴィータは抱き抱える袋からある人形を取り出した。それはおもちゃ屋でヴィータが見ていた『のろいうさぎ』のぬいぐるみだった。

取り出したヴィータは満面の笑みを浮かべてぬいぐるみに抱き付いた。

 

「それと僕からはこれ」

 

それと同時に僕はおもちゃ屋で買った小袋をヴィータに渡した。

 

「開けてみて」

 

僕の言葉にヴィータは不思議になりながらも開けた。

 

「こ、これは・・・・・・」

 

小袋の中からはヴィータが持っている『のろいうさぎ』の小さいバージョンがあった。

それを見たヴィータは満面の笑みをさらに輝かせた。

 

「はやて!零夜!ありがとう!」

 

「良かったな、ヴィータ」

 

「うん、どういたしまして」

 

ヴィータの笑みを見れて買ったかいが合ったというものだ。

で、八神家に帰り台所でははやてとシャマルが料理をしていた。正直不安しかない。何故なら。

 

「あのさシグナム」

 

「なんだ?」

 

「シャマルの料理って昔からあんなんなの?」

 

シャマルの料理はあれを料理と言っていいのかと言う程なのだ!ここ重要。始めて食べたときは知らずに食べて大変だった。

僕の問いの答えは無言の視線そらしだった。

 

「・・・・・・・・・・」

 

どうやらシャマルの料理の腕は昔からあんなんらしい。

 

「だ、大丈夫だよね」

 

「主がいるから大丈夫だとは思うが・・・・・・・」

 

「今度シャマルに料理教室開いた方がいいかも・・・・・・」

 

シグナムの言葉にふとそう呟いてしまった。

結果、基本はやてがやったらしく問題はなかった。そのことにシャマルに気づかれずに僕らはホッと胸を撫で下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月日は流れて数ヶ月。

シグナムたち守護騎士ははやてのお願いで闇の書の蒐集を行わず、平和に過ごしていた。

はやてはよくザフィーラの毛並みに埋もれて寝ていて、それにつられて僕も寝てしまったりその逆も然り。と、僕も交えてみんなで旅行に行ったりなどとても平和だった。だが。

 

「シグナム・・・・・・それは本当なの?」

 

「事実だ」

 

「くっ・・・・・・・!」

 

その平和はなんの前触れもなく終わりを向かえた。

 

「はやての病気の原因がまさか闇の書の呪いだなんて・・・・・・!」

 

はやてが寝静まった深夜。僕はシグナムから大事な話だと言われ公園に呼び出されそれを聞いた。

 

「助けなきゃ・・・・・・はやてを助けなきゃ!シャマルは治療系得意なんだろ!はやてを治してよ!」

 

「私の力じゃ・・・・・・」

 

ヴィータの懇願にシャマルは自分の指にあるデバイス、クラールウインドを見てそういった。

 

「零夜は!」

 

ヴィータは泣きながら僕の方を見て、服の裾を掴んで言った。

 

「零夜はすげぇ魔導士なんだろ!あたしらよりもすごい魔法使えんだろ!ならはやても治療できるよな!」

 

「ごめんヴィータ・・・・・・。はやての病気が闇の書の呪いなら治療できない」

 

ヴィータの懇願に僕は視線をそらして答えた。

 

「そんな・・・・・・!」

 

「くっ!こんなことならもう少し調べとけば・・・・・・!」

 

僕は近くにあった木に八つ当たり気味に拳をぶつける。

 

「どうりでアーティファクトでも治療できない訳だ・・・・・・!」

 

僕の言葉にヴィータたちは怪訝な表情をしていた。

 

「みんな、僕の家に来て。大事な話がある。ここだと他の人に聞かれるかもしれないから」

 

僕はそう言うとすぐさま転移魔方陣を構築して自宅にヴィータたちを連れて転移した。

そして、帰ってリビングのソファに座ってすぐさまシグナムたちに聞いた。

 

「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、みんなは闇の書の本来の名前を覚えてる?」

 

「闇の書の・・・・・・」

 

「本来の名前・・・・・・?」

 

「じゃあ、闇の書の防衛プログラムは?」

 

「多少は知っている」

 

「じゃあ一から話そうか。まず、闇の書って言うのは本来の名前じゃない。闇の書の本当の名前は―――"夜天の魔導書"」

 

「夜天の魔導書・・・・・・・?」

 

ヴィータの反応を見て僕は予想通りだったと実感した。

 

「やっぱり忘れていたね。いや、これは忘れられたって言った方がいいかな」

 

「どう言うことだ?」

 

「シグナムたちの記憶の欠損は、防衛プログラム"ナハトヴァール"によるものだよ」

 

僕はそこから空間ウインドウを出した。

ウインドウには様々な文字があり、そこの一つには写真があった。

 

「彼女が管制プログラムで間違いない?」

 

「ああ」

 

「で、その腕についているパイルバンカーのような物がナハトヴァール」

 

僕の言葉にヴィータは頭を押さえ始めた。

 

「そうだ、ソイツがいたから・・・・・・」

 

その言葉を聞いた僕はハッと察した。

 

「思い出したの?」

 

「ああ」

 

ヴィータのうなずきにシグナムたちもどうやら思い出したようだ。

 

「何代か前の所有者がどういうつもりで着けたのかはわからない。だが、はやての病気の原因は自動防衛システムに間違いない」

 

「ああ。主はやての未成熟な身体を自動防衛システムが圧迫しているんだ」

 

「そうだね。でも、これを治すには闇の書を完成させないといけない」

 

「なら今すぐ・・・・・・!」

 

「それだけじゃダメなんだよヴィータ」

 

「どういうこと零夜くん」

 

「闇の書は完成した途端はやてを呑み込んで暴走するだろう。はやての魔力をすべて使って」

 

「そ、それじゃあはやては・・・・・・」

 

「闇の書が完成するとはやては・・・・・・死ぬ」

 

「「「「ッ!」」」」

 

僕のこの言葉にヴィータたちは息を呑んだように目を見開いた。

 

「けど、そんなことは僕がさせない」

 

「なんだと・・・・・・?」

 

「今まで僕がなにもしてこなかったと、シグナムたちはそう思ってるわけ?」

 

僕はそこで一つのウインドウを展開する。

 

「はやてを生かせるためには闇の書を完成させて、内部から自動防衛システムと管制プログラムを切り離さないといけない。これはいくら僕でも無理だね。はやてがやるしかない」

 

「ま、まさか零夜・・・・・・」

 

「そのまさかだよ」

 

ヴィータの声に不適に笑い僕は顔を引き締める。

 

「だから聞く。シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、はやてを助けるために、はやてとの誓いを破る覚悟はある?」

 

「言われるまでもない!」

 

「ああ!はやてを助けられるためならなんだってやってやる!」

 

「はやてちゃんを助けるためなら!」

 

「あの優しい主が生きてくれるなら我はなんでもする!」

 

僕の問いにシグナムたちは即座にそう返してきた。

 

「みんなの決意はわかった。だけど、みんなだけで闇の書を完成させるわけにはいかない」

 

「どうするんだ」

 

「僕もやる」

 

「いいのか?」

 

「今更だねシグナム。なんで僕がこの話をしたと思うわけ?はやてを助けるために決まってるからだよ!」

 

僕はそう言うと変装魔法《仮装行列》を使って姿を変えた。

 

「基本僕はこの姿で蒐集をする。それと、はやてを心配させることはさせないでね」

 

僕の言葉に無言のうなずきが帰ってきた。

それから僕らは屋上に行き、シグナムたちは僕を中心に四方に立った。

 

「申し訳ありません、主。ただ一度だけ、あなたとの誓いを破ります」

 

「ごめんねはやて。絶対に助けるから!」

 

そう言うと僕は純白のコートのバリアジャケットを、シグナムたちはそれぞれ騎士甲冑を見に纏った。

 

「凛華たちもごめんね」

 

《そんなことないです零夜くん!》

 

《そうだよ零夜!はやてちゃんを助けるためなら!》

 

《わたくしたちは零夜くんを精一杯助けるだけですわ!》

 

「ありがとう、凛華、澪奈、星夜」

 

「我らの不義理を、お許しください」

 

「行こう、はやてを助けるために!」

 

「「ああ!」」

 

「おう!」

 

「ええ!」

 

()()()()

 

こうして僕らは闇の書を完成させるために他世界へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在

 

 

 

半年前のはやてたちとの日々と、はやてを助けるための決意をした日を思い出して、僕は闇の書を持って他の世界へと来ていた。

 

「あと、一七〇頁・・・・・・なんとしても間に合わせる」

 

ここ最近僕は不眠不休で蒐集をしていた。

シグナムたちのことを言えた義理じゃないが、僕も基本は蒐集をしていた。

 

「この辺りは集め終わったかな」

 

《はい》

 

「じゃあ次の世界に行こうか」

 

転移魔方陣を構築して僕は別の世界へと転移した。ただ、リンカーコアを。魔力を集めるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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クリスマスイブ

 

~零夜side~

 

 

「ふぇ!?はやての病室になのはたちが来た!?」

 

別世界で蒐集している最中、シャマルからの通信が来た僕は話の内容を聞いて思わず変な声を出してしまった。

 

『ええ!すずかちゃんのお友だちだから一緒にお見舞いに来たらしいのよ』

 

「(あちゃー!その辺りのことすっかり忘れてたあ!)」

 

シャマルの話を聞いてそのことをすっかり忘れていた僕はそう脳裏に出す。そこから素早く考えシャマルに伝える。

 

「取り敢えずシャマルは石田先生に僕たちのことを話さないように言っておいて!あと、すずかたちが来るときはシャマルたちは席を外しといて!」

 

『わかったわ!』

 

シャマルにそう言うと、僕はシャマルとの通信を切り辺りを見回す。

 

「綺麗な場所だね」

 

辺りは一面花畑で側には湖岸があった。

蒐集が一段落して移動している最中、眼に留まり幾つか花をはやてのお見舞いに持っていこうとしたときにシャマルから連絡があったのだ。

 

《ええ》

 

《うん》

 

《そうですね》

 

「また・・・・・・来たいな。今度はゆっくりと・・・・・・はやてたちも一緒に・・・・・・」

 

僕の呟きに凛華たちが静かに一言答えた。

そよ風に吹かれながら足元に転移魔方陣を構築して僕はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

海鳴大学病院 

 

 

「そろそろクリスマスだけど、はやては外出できる?」

 

クリスマスイブを間近に控えたある日、僕は朝の早い時間帯にはやての病室を訪れていた。

 

「う~ん、石田先生に相談せなあかんけどたぶん大丈夫やと思うで」

 

「なら、クリスマスの日はやてか僕の家でシグナムたちと一緒にパーティーをしない?」

 

「ええな、それ!やろ!」

 

「ふふ、了解」

 

僕ははやての剣幕にクスッと笑い、枕元にある闇の書を見る。

 

「その本の名前・・・・・・もう決めたの?」

 

「うん。ずっと考えていたんよ」

 

「へぇ、どんな名前?」

 

「う~ん、零夜くんになら言ってもええかな?」

 

そう言うとはやては僕の耳に顔を近づけて闇の書もとい、夜天の魔導書の名前を言った。

 

「――――――かぁ。いい名前だね。彼女も気に入るんじゃないかな」

 

「せやろ。そうだと嬉しいわ~」

 

はやてには闇の書の本来の名前と、管制人格のことなどは伝えてある。

 

「・・・・・・なあ、零夜くん」

 

「なに?」

 

「零夜くん、私になにか隠し事してへん?」

 

「っ!」

 

唐突に言ったはやての言葉に僕は表情が固まった。

 

「零夜くん、以前は毎日来てくれたのにここ最近来てくれへんし、シグナムたちに聞いても何も答えてくれへん。それに零夜くん、隈ができとる」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「すずかちゃんから聞いたけど学校も休んどるみたいやん」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「今日だって私が入院して二回目や」

 

はやての言葉を僕はただ黙って聞いた。

 

「・・・・・・もしもや、もしも零夜くんが私のためになにかしてるのなら止めて。私のために零夜くんが犠牲になることないんや」

 

「はやて・・・・・・・」

 

はやてに蒐集のことと病気の原因のことは伝えてない。けど、それでもなにか感じ取ったのかはやては僕の両手を握ってそう言った。

 

「ごめんはやて、今は言えない。けど、すべてが終わったら絶対言う。だからそれまで待ってて」

 

「・・・・・・わかった。零夜くんがそう言うなら私は待つ」

 

「ありがとう、はやて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月24日

 

クリスマスイブ当日

 

 

はやてのお見舞いに行った日からさらに数日が過ぎ、日付はクリスマスイブ当日の12月24日になっていた。

その日、僕の通う私立聖祥大付属小学校も終業式を向行い、明日からの冬休みを迎えていた。もちろん終業式には僕も参加した。その際、極力なのはとフェイト、アリシアと関わらないようにした。なにせ今の僕となのはたちは敵なのだ。

とまあそんなこんなで午前中の内に終業式と来学期についてなどの説明が終わり、僕は一度家に帰ってから八神家に来ていた。

 

「零夜、学校のほうは今日で終わりなのか?」

 

「うん。今日からしばらくは冬休みって連休になるから学校はないよ」

 

「そうなんですね~。あ、ヴィータちゃん、はやてちゃんへのプレゼントはこっちにですよ」

 

「すまんシャマル」

 

家の中ではシャマルとヴィータが家の掃除やらなんやらをしていた。

 

「シグナムとザフィーラはもうすぐ帰ってくる?」

 

「ええ。そのあとはみんなではやてちゃんへお見舞いに行きましょう」

 

シャマルがそういうのと同時に。

 

「ただいま帰った」

 

玄関からシグナムの声が聞こえてきた。

 

「噂をすれば」

 

「それじゃお昼を食べてからはやてのところに行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴大学病院

 

 

お昼ご飯を食べてはやての病室に向かっていた僕はシグナムに闇の書のことについて聞いていた。

 

「蒐集はもうすぐ?」

 

「ああ。今は主のところにあるはずだ」

 

「そう」

 

「しかし零夜。ここ最近寝てないのではないのか?」

 

シグナムに疑惑の視線を向けられ咄嗟に視線をずらす。

 

「うっ・・・・・・そ、そんなことないよ」

 

「凛華?」

 

「零夜くんはここ最近二時間も寝てないよ」

 

「酷いときだと不眠不休ですわね」

 

「ちょっ!凛華!?星夜!?」

 

シグナムの問いに凛華と星夜が答えた。

ちなみに凛華たちは人間形態だ。

 

「私が言えたことではないが、無理し過ぎだ」

 

「シグナムが言えたことじゃないよねほんと!?」

 

僕とシグナムはそんな漫才のような話をして、僕らはやての病気の前についた。

 

"コンコン"

 

「はやて~、入るよ~」

 

ノックをしながら言って中に入った。

 

「あ!零夜くん!」

 

「元気そうだね、はや・・・・・・て・・・・・・!」

 

中に入るとそこには学校帰りなのかすずかとアリサ、そしてなのはとフェイト、アリシアがいた。

その事に驚いた僕は言葉を途切れさせた。

そしてなのはたちの姿を見たとたん、シグナムとシャマルは目を見開き、ヴィータははやてを守るようになのはたちの前に立ちはだかった。

するとそこに。

 

「なんでここにいるのよ零夜!?」

 

アリサが驚いた表情で聞いてきた。

アリサの言葉に僕は、

 

「あれ、すずかから聞いてないの?」

 

疑問符を浮かばせながら聞いた。

 

「聞いてないわよ!」

 

「ごめんアリサちゃん。いい忘れてたよ」

 

アリサにすずかは早速天然を出した。

すずかはフェイト程ではないが天然だ。まあ、たまにわざとでは無いかと思う日もあるが・・・・・・。

 

「で・・・・・・ヴィータ、いつまでも睨まないの」

 

「に、睨んでねえよ!」

 

「こら。嘘はアカンでヴィータ」

 

「ううっ・・・・・・痛い」

 

ヴィータの頭にポカンと軽く叩いたはやてにヴィータはそう言った。対していたくないと思うのだけど。

そう思いながら僕はシャマルに念話で指示を飛ばしていた。

 

〈シャマル、通信妨害の結界を〉

 

〈わかったわ〉

 

〈シグナム、ヴィータ、手は出さないでね〉

 

〈わかった〉

 

〈ああ・・・・・・〉

 

シャマルたちに念話で指示を送ると、今度はなのはたちに念話を飛ばした。

 

〈通信が通じない・・・・・・?〉

 

〈通信妨害の結界を張ってるから通信は通じないよフェイト〉

 

〈零夜・・・・・・〉

 

〈零夜くん・・・・・・〉

 

〈なのは、フェイト、アリシア、ここでは妙な動きはしないでね〉

 

軽く殺気の込めた忠告を念話で飛ばした。

その間にシャマルはすずかたちの荷物を預かっていた。フェイトはシグナムにお見舞いをしてもいいかの許可をもらっていたが僕が小さくうなずき許可を出す。

 

「ところでみんなはなんでここに?」

 

「それはね・・・・・・」

 

「?」

 

「「せーの」」

 

アリサとすずかは僕の疑問に、手に持っていた荷物に被していたコートを取るとはやてにその中身を見せて言った。

 

「「サプライズプレゼント!」」

 

アリサとすずかのサプライズプレゼントにはやては嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「よかったね、はやて」

 

「うん!」

 

「ところではやてと零夜っていつから知り合いなの?」

 

はやての側に腰掛けながら言うと、アリサが疑問符を出して聞いてきた。

 

「あー、2、3年くらい前かな?」

 

「図書館で出会ったんよ。ちょうどすずかちゃんと同じ出会いやな~」

 

「そうだったんだ~」

 

すずかとアリサがはやてと話すなか、警戒している魔導士組に関しては。

 

〈言っておくけど、こんなところで実力行使なんかしたら僕がお話しするからね?〉

 

〈〈〈〈〈〈そ、それだけは勘弁して(してくれ)(してください)!〉〉〉〉〉〉

 

その一言で解決した。

なんで全員怯えてるのかな?ただお話するだけなのに?

そんな疑問を持ちながら、僕ははやての側ですずかたちの話を聞いていた。

そして帰る際。

 

〈アリシアはすずかとアリサを送っていって。なのはとフェイトは話がある〉

 

そう念話を飛ばしてなのはたちを病室から見送った。

室内には僕とヴィータとはやてだけになった。シグナムとシャマルはなのはたちを病院玄関まで送ってる。

 

「どうしたんヴィータ?」

 

「なんでもないよ」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

はやてに顔を埋めるヴィータをはやては優しく撫でた。

僕はその光景を静かに見守った。この一時だけは、誰にも邪魔されたくなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎ、とあるビルの屋上。

そこには僕とシグナム、シャマル。そして目の前になのはとフェイトがいた。

 

「はやてちゃんが、闇の書の主・・・・・・」

 

「悲願はあと僅かで叶う」

 

「邪魔をするなら、例え、すずかちゃんのお友達でも!」

 

「待って、話を聞いてください!闇の書が完成したら、はやてちゃんは・・・・・・!」

 

「はあああぁっ!」

 

言葉を発するなのはに上空からヴィータがグラーフアイゼンで攻撃してなのはをフェンスまで吹き飛ばした。

 

「なのは!」

 

「うおおぉぉっ!」

 

そして、なのはを心配するフェイトにシグナムがレヴァンティンで切りつける。

シグナムの攻撃をフェイトは避け、フェイトが立っていた場所にはレヴァンティンによる切れ込みが出来ていた。

 

「シグナム!」

 

「管理局に我らが主のことを伝えられては困るのだ」

 

「私の通信防御圏内から出すわけにはいかない」

 

シグナムとシャマルの言葉に少しだけ呆れながら僕は言葉を発する。

 

「シグナム、シャマル、ヴィータ、落ち着いて。今さら管理局にバレたところで問題ない」

 

そう言って僕は支配領域(インペルマジェスター)でシャマルの通信防御結界を上書きして消す。

 

「シャマルはバックアップを。シグナムとヴィータは殺さない程度に闘っていいよ」

 

「わかったわ」

 

「ああ」

 

「・・・・・・わかった」

 

「ヴィータ、ちゃん」

 

「邪魔、すんなよ・・・・・・後ちょっとで助けられるんだ。はやてが元気になって、あたし達の所に帰ってくるんだ。だから―――」

 

そう呟くとヴィータは騎士服を身に纏った。

そのままヴィータはグラーフアイゼンを振り上げ、カートリッジをロードし。

 

「邪魔すんなーーー!!!」

 

なのはに向けて振り下ろす。

振り下ろされたグラーフアイゼンの影響で屋上に爆発が起こり、炎上した。

なのはのいる場所では炎が立ち上る。

すると、その炎の中から、白いバリアジャケットを纏ったなのはが現れた。

 

「悪魔め・・・・・・!」

 

「悪魔で、いいよ」

 

なのはが左手を真横につき出すと、レイジングハートが展開された。

 

「悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらうから!」

 

なのはのその言葉でヴィータとなのははその場から飛び上がり空へ上がった。

 

「零夜どうして!」

 

僕の言葉にフェイトが聞いてきた。

 

「悪いけどフェイト。僕ははやてを助けるためにどうしても闇の書を完成をさせないといけないんだ」

 

「闇の書は悪意ある改変を受けて壊れている。今の状態で完成させたら、はやては・・・・・・」

 

「そんなこととっくに知ってるよ。僕も・・・・・・シグナムもヴィータもザフィーラもシャマルも・・・・・・」

 

「なら・・・・・・!」

 

「お前達があれをどう決め付けようと、どう罵ろうと聞く耳は持てん 」

 

「そうじゃない。そういうことじゃ・・・・・・」

 

「聞く耳はないと言った。これ以上邪魔をするなら・・・・・・斬り捨てて通るだけだ! 」

 

シグナムがそう言うとフェイトは愛機のバルディシュを展開させバリアジャケットを身に纏う。

 

《Barrier Jacket Sonic form. 》

 

だが、次に現れたのはレオタードのような露出の激しいバリアジャケットだった。

 

《Crescent.》

 

「薄い装甲を更に薄くしたか 」

 

「その分、速く動けます 」

 

「ゆるい攻撃でも当たれば死ぬぞ 」

 

「あなたに・・・・・・勝つためです」

 

「こんな出会いをしていなければ、私とお前は良き友になれていたろうにな 」

 

「まだ間に合います 」

 

「止まれん・・・・・・我ら守護騎士、主の笑顔のためなら騎士の誇りさえ捨てると決めた。この身に代えても救うと決めた! 」

 

静かに一筋涙を流すシグナムからは紫色の魔力が立ち上ぼり、

 

「こんなところでは止まれんのだ!」

 

次の瞬間には騎士甲冑とレヴァンティンの鞘を着けていた。

それと同時にシャマルも騎士甲冑を身に纏う。

それを見た僕は少しだけ離れ、

 

「凛華、澪奈、星夜、展開」

 

《はい》

 

《うん》

 

《かしこまりました》

 

デバイス姿の凛華たちにそう言い、バリアジャケットを身に纏う。

さらに続けて。

 

「星夜、双翼形態(ウイングモード)

 

《はい》

 

星夜こと、ステラメモリーの形状を変化させて二対四翼の双翼へと変化させる。

 

「もう僕らは止められない。いや、止めるわけにはいかないんだ!」

 

「そんなことない!私たちが必ず止める!」

 

「シグナム!」

 

「ああ!」

 

僕の言葉にシグナムがレヴァンティンを構え、フェイトに切りかかる。

だが、ソニックフォームと呼ばれたバリアジャケットを身に纏ったフェイトの速度は今までのものより段違いだった。

 

「(へえ。機動力重視・・・・・・・ね)」

 

そのまま上空に上がって戦闘する二人を見てそう思う。

僕も空に上がりシグナムとフェイト、ヴィータとなのはの先頭を見守る。

やがて、ヴィータがなのはのバインドに捕まった。

 

Restrict Lock activated.(レストリクトロック発動)

 

「こっ・・・・・・のぉっ!」

 

ヴィータはなんとか逃げようともがくが全くびくともしない。そこへ。

 

《Divine Buster Extension. 》

 

「シュート!」

 

ヴィータに向けてなのはがディバインバスターを放った。

目を見開き衝撃に備えるヴィータになのはのディバインバスターの砲撃が当たる瞬間。

 

「なっ!?」

 

「闇の書・・・・・・・」

 

ヴィータの前にはやてのところにあった闇の書が現れ、ヴィータをなのはのディバインバスターから守ったのだ。

 

「(この感じ・・・・・・・まさか!)」

 

闇の書の異様な雰囲気に嫌な予感がしたその瞬間、闇の書から不気味な蜷局を巻いた蛇のようなものが現れた。

 

「あれは・・・・・・? 」

 

「まさかあれは・・・・・・!?」

 

「ナハトヴァール・・・・・・何故!?」

 

「まさか!」

 

僕の嫌な予感が的中し、自動防御システム、ナハトヴァールが現れた。

 

Das Anwendungssystem für automatische Verteidigung(自動防衛運用システム) „Nachtwal“ lässt an.(ナハトヴァール)起動》

 

「待て!今は違う!我らはまだ戦える! 」

 

「こいつ・・・・・・そうだこいつがいるから」

 

ヴィータが怒りに満ちた表情でナハトヴァールを睨み付ける。そこにナハトヴァールが。

 

Erhaltung des Schutzrittersystems vernichten.(守護騎士システムの維持を破棄)

 

と機械的な口調で告げた。

その事に僕らは目を見開く。

 

Vollendung der (闇の書)Schrift der Dunkelheit hat die oberste Priorität.(ストレージの完成を最優先)Das Schutzrittersystem eliminieren.(守護騎士システムは消去)

 

「ふざ・・・・・・けんな!ふざけんなー!」

 

「ヴィータちゃん!」

 

「待ってヴィータ!」

 

僕となのはの声を無視してヴィータはグラーフアイゼンを振り上げてナハトヴァールを攻撃する。

ナハトヴァールから血のような飛沫が上がった。

 

Die Kräfte des Feindes wegschaffen(敵勢力排除). Den Kern aus den Sammlungsobjekten sammeln. (蒐集対象より、コアの蒐集)

 

そう告げるとなのはたちを黒い帯のようなもので拘束した。僕はギリギリのところで避けたが、僕以外は全員バインドされていた。

 

Anfangen.(開始)

 

ナハトヴァールがそう告げると、シグナムとシャマル、ヴィータのリンカーコアが現れ、シグナムとシャマル、ヴィータの魔力が闇の書に蒐集されていった。

 

「シャマル!シグナム! 」

 

「澪奈!」

 

《うん!》

 

ヴィータたちを解放させるためにナハトヴァールに向けて片手剣ソードスキル《ソニックリープ》を放つ、それと同時に。

 

「オオォーッ! 」

 

「ザフィーラ!」

 

ザフィーラが飛んで来て、そのままナハトヴァールに向けて拳をぶつけた。

 

Ein zurückbleibendes System bestätigen.(残存システム確認)

 

「!」

 

Sammeln.(蒐集)

 

「逃げてザフィーラ!」

 

僕がそう叫ぶが既に遅く、ザフィーラはナハトヴァールのバインドによって身動きが取れない状態になり、魔力を蒐集されていった。

 

「くっ!うわっ!」

 

僕はいきなり来た衝撃波で遠くにまで飛ばされた。

最後に見たのはなのはとフェイトがそのまま隔離結界に閉じ込められる姿だった。

 

「くっ!グレアム叔父さん!」

 

僕は至急グレアム叔父さんに連絡を取る。

 

『どうしたかね』

 

「ナハトヴァールが動きました!」

 

『なんだと!』

 

「急いでオートクレールをお願いします!」

 

『わかった。アリアとロッテに持っていかせる。それとすまない、わたしと君たちのことがクロノに知られてしまった』

 

そうグレアム叔父さんが言うのと同時に。

 

『事情はすべてグレアム提督から聞いた、零夜』

 

「クロノ」

 

もう一つウインドウが開きクロノが現れた。

 

『言いたいことは山程あるがそれはあとにする。僕も現地に向かう、アリアとロッテと一緒に行くからそれまで待ってくれ』

 

「わかった」

 

そう言うとクロノはウインドウを閉じた。

 

「グレアム叔父さん」

 

『わかっている。君のやり方は間違っていない。わたしとは違うのだから。だから頼む、はやてを助けてあげてくれ』

 

「わかってますグレアム叔父さん!」

 

そうグレアム叔父さんに告げると僕はウインドウを消し、凛華たちを見る。

 

「リンカーネイト、レイオブホープ、ステラメモリー。いや、凛華、澪奈、星夜、いけるね」

 

《はい!》

 

《もちろん!》

 

《ええ!》

 

「リミッター・・・・・・・解除」

 

そう静かに唱え、僕はナハトヴァールのところへと向かっていった。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~はやてside~

 

「ここは・・・・・・」

 

さっきまで病院の病室にいたと思ったら急に床が明るくなり、次に目を開けたときにはここにいた私は周囲を見渡す。

 

Den Kern aus dem Schutzrittersystem beschlagnahmen.(守護騎士システムよりコア還元)

 

声のした方を見るとそこには闇の書が浮かんでいた。

 

Die Sammlung der Seiten ist fertig.(頁蒐集完成)

 

「なんや・・・・・・それ、あんた・・・・・・誰?」

 

いつもと府陰気の違う闇の書に訪ねると、闇の書の頁が見開かれた。そこには文字が書かれていた。理解できない私はさらに奥を見た。

 

「ヴ、ヴィータ・・・・・・・シグナム、シャマル、ザフィーラ・・・・・・・」

 

そこには木の蔦のようなものに縛られていたシグナムたちの姿があった。

 

Es ist die Zeit der Erweckung, mein Herr. (覚醒の時です。我が主)

 

「そんなんええねん!シグナムたちに何したん?みんなを下ろして!返して!」

 

...Einverstanden....(・・・・・・了解・・・・・・)

 

私がそう懇願した。

 

Das Schutzrittersystem ist völlig ausgestrichen,(守護騎士システムを完全抹消)

 

しかし、次に告げられた言葉に顔を青ざめた。

 

und wird mit dem Kernmodus(コアモードで) für meinen Herrn wiederhergestellt.(主に還元します)

 

「あかん!ちゃう!そんなんちゃう!やめて・・・・・・やめて!やめてーっ!」

 

Ausstreichen.(抹消)》》

 

次の瞬間、木の蔦がシグナムたちを刺し貫いた。

刺し貫かれたシグナムたちはそのまま虚空へと消え去った。

 

Es ist die Zeit der Erweckung.(覚醒の時です)

 

「あ・・・・・・あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

『はやてぇぇ!!』

 

私は絶叫し意識をなくした。

最後に聞こえてきたのは、大好きな零夜くんの声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――――

 

 

 

Verwaltungseinheit.(管制ユニット)Verschmelzen.(融合)

 

 

 

 

 

 

 

「また・・・・・・すべてが終わってしまった」

 

 

 

 

 

 

闇が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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闇の書の意志

 

~零夜side~

 

 

「はやて!」

 

リミッターを解除し、吹き飛ばされた場所から急いで戻ってくると、何故かはやてが闇の書の前に病院着のままそこにいた。そしてその前にはシグナムたちが着ていたコートが木の蔦に貫かれていた。

それを見た瞬間、はやてがここにいる事とシグナムたちの姿が見えないことを理解した。

 

「まさか・・・・・・!」

 

嫌な予感がしたその瞬間、はやての足元に黒いベルカ式の魔法陣が展開した。

それと同時に、

 

「あ・・・・・・あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

はやての絶叫が響き渡った。

 

「はやてぇぇ!」

 

黒い、闇の色の魔法陣からはやてを包むように黒い魔力の本流が立ち上った。

 

「はやてちゃん!」

 

「はやて!」

 

ガラスが壊れる破砕音とともになのはとフェイトが出てきた。

 

「なのは!フェイト!」

 

「零夜くん!」

 

「零夜!」

 

僕の声に、なのはとフェイトが反応して傍に来た。

二人が僕と合流したその瞬間。

 

「また・・・・・・すべてが終わってしまった」

 

すさまじい魔力風が僕たちを襲い、風が収まるとはやてのいた場所にはやてではない女の人がいた。女の人の左隣には闇の書が、右隣にはナハトヴァールがあった。

 

「まさかあれは・・・・・・!」

 

女の人を見てそう言うと。

 

「我は魔導書。我の力のすべて・・・・・・」

 

Diabolic Emission(ディアボリック・エミッション)

 

「忌まわしき敵を打ち滅ぼすために」

 

掲げた右手に黒く蠢く闇の球体が現れ、どんどん膨れ上がっていった。

 

「空間攻撃!」

 

「マズイ!」

 

僕とフェイトが瞬時にあれが何なのかわかり動揺が走った。

 

「闇に沈め」

 

一言そう綴られると闇の球体が大きくなり、すさまじい魔力が彼女を中心に膨れ上がり僕らに襲い掛かってきた。

それを見てすぐさまなのはがレイジングハートを中心に障壁を張った。それと同時に僕もなのはの障壁に重ねるように多重障壁を構築して展開する。

 

Excelion Shield(エクセリオンシールド)

 

最大(バリエース)障壁(マーキシム)!」

 

障壁がビリビリと震えるが、なんとか攻撃を防ぎきった。

攻撃の余韻が残る中、僕の耳に彼女の声が聞こえた。

 

「自動防衛一時停止。これよりしばらくは、わたしが主をお守りする。ナハト・・・・・ただの防衛プログラムのお前を責めはしない。すべては、わたしの責任だ」

 

そう言うと彼女はナハトヴァールに左手を入れ、左手にナハトヴァールが絡み付きそこから手甲のようなパイルバンカーが現れた。

 

「せめてあと少しおとなしくしていろ」

 

右手を胸に、願うように言う彼女の言葉を僕はなのはとフェイトとともに移動して聞いた。

 

「我が主、どうかしばしわたしの中でお休みください」

 

彼女からある程度離れた僕はなのはとフェイトに声をかけた。

 

「なのは、フェイト大丈夫?」

 

「大丈夫だよ」

 

「なんとか。ありがとう零夜、なのは」

 

「よかった」

 

二人が怪我してないことに安堵した。

フェイトはなのはのレイジングハートを渡し、

 

「バルディシュ」

 

《Lightning form》

 

いつものバリアジャケットに戻った。

 

「あの人は・・・・・・?」

 

「あれはベルカの融合騎だよ。主とともに戦う人格型管制ユニット」

 

なのはの問いに僕が静かに答える。

 

「え、じゃあはやてちゃんは」

 

「彼女が出ているということははやては意識を失っている。そうだよね零夜」

 

「うん。今のはやては意識がない。恐らく僕たちが何を言ってもはやてには聞こえない」

 

「はやてちゃんを助けるには・・・・・?」

 

「わからない。零夜は?」

 

「・・・・・知ってる」

 

僕は苦虫を噛み潰したような表情をしていった。当初の予定からかなり予定外なことが起きているからだ。

 

「どうすれば助けられるの」

 

「・・・・・・はやての意識を呼び起こすしかない。けど、さすがに・・・・・・」

 

恐らく今のはやてはシグナムたちが消えた・・・・・・いや、目の前で消し去られたことに絶望して意識をなくしたんだ。

 

「なのは、フェイト」

 

「零夜くん?」

 

「零夜?」

 

「お願い!はやてを・・・・・・ううん、はやてたちを助けるのを手伝ってほしい」

 

「「え!?」」

 

「今さらこんなこと言うのはお門違いだということはわかってる。けど、どうしても助けたいんだ。僕の友達を!お願い!」

 

僕はなのはとフェイトに必死にお願いした。この状況を打開するにはなのはとフェイトの力が必要だから。

 

「零夜くん」

 

「零夜」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「もちろん、私たちもはやてちゃんたちを助けるの手伝うよ」

 

「うん」

 

「え・・・・・・いいの?」

 

「もちろん!」

 

「当然!」

 

「ありがとう・・・・・・なのは、フェイト」

 

「それで、どうするの・・・・・・」

 

フェイトの問いに僕は、すぐさま作戦を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、闇の書さん!」

 

作戦を伝え終わったあと、僕らは闇の書の意志のいるところにやって来た。

なのはが闇の書の意志に声をかけるが。

 

「私たちはやてちゃんとヴィータちゃんたちと・・・・・・」

 

「我が騎士たちは・・・・・・お前たちを打ち破り、ナハトの呪いを解き、主を救うと誓った。そして我が主は、目の前の絶望が悪い夢であってほしいと願った。我はただ、それを叶えるのみ」

 

彼女はなのはの声を遮り静かに。だが、よく通る声で言った。

 

「主には穏やかな夢の内で永遠の眠りを・・・・・・。そして、我らに仇なすもの達には、永遠の闇を!」

 

闇の書の意志の足元に黒い魔方陣が展開され、そこから張られていた結界とは別の結界が張られた。

 

「げっ!これ絶界!?」

 

僕は張られた結界を見て悪態ついた。

 

「絶界?」

 

「僕の結界構築の魔法の中で、前になのはとフェイトが闘ったときのアーティファクトには劣るけど、それでもかなり強固な結界だよ」

 

「れ、零夜くんの魔法なの!?」

 

「あー、実は・・・・・・そうなんです」

 

闇の書は、蒐集した相手の魔法を使える。僕は一番最初に蒐集させた。つまり、僕の魔法を少しは使えるということだ。けど、まさか絶界が使えるとは想定外だった。

 

「と、とにかく、これで周りを気にすることなくできる。いけるね、二人とも」

 

「うん」

 

「もちろん」

 

「じゃあいくよ!」

 

そう言うと僕は闇の書の意志へ向かって飛んでいき、

 

「先手必勝!氷爆(ニウィス・カースス)!」

 

氷属性の魔法で攻撃する。

 

「からの―――白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!」

 

そこに追撃で白き雷を放つ。

 

「盾」

 

闇の書の意志は氷爆を空に上がって交わし、白き雷を魔力障壁で防いだ。

障壁に白き雷がぶつかり衝撃波が来る。

 

「はああああっ!」

 

その間に闇の書の意志に接近して左手に持つレイオブホープ(澪奈)の片手剣形態で斬りつける。

 

「ふっ!」

 

闇の書の意志の左手の手甲に剣がぶつかり金属音が響く。

剣と手甲がぶつかり合うなか、僕は闇の書の意志に話しかける。

 

「はじめまして・・・・・・じゃないよね」

 

「お前は・・・・・・」

 

「朧気だけど、あの時きみからお願いされたこと覚えてるよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「きみははやてとシグナムたちだけ助かれば自分はどうなってもいいと思ってるの?」

 

「やむを得ない。ナハトの力は強大だ、これをどうにかするなんて不可能だ」

 

つばぜり合いから距離を保ち、僕は闇の書の意志と話す。

 

「言っておくけど、僕が助けるのははやてたちだけじゃなくて、きみも入ってるんだからね」

 

「そうか・・・・・・」

 

僕の言葉に闇の書の意志は一言そういい、魔力弾を放ってきた。

 

「くっ・・・・・・!」

 

放たれてきた多段魔力弾をかわす。だが、その間に闇の書の意志はなのはとフェイトの方に飛んでいった。

 

「させないっ!」

 

魔力弾をすべて魔法の射手(サギタ・マギカ)で対消滅させる。

 

「なのは!上!」

 

魔法の射手で魔力弾を消滅させ、僕はなのはに警告を促す。

声に反応し、レイジングハートで攻撃してきた闇の書の意志のパイルバンカーを防ぐが、闇の書の意志は杭から魔力弾を放ち、なのはを攻撃した。

 

「なのは!」

 

速度をあげて、なのはが落下するのを受け止める。

 

「大丈夫なのは!」

 

「うん、大丈夫」

 

なのはを受け止めている間に、フェイトはカートリッジを六発リロードし、

 

「クレセント・・・・・・セイバーッ!」

 

クレッセント形態で、三日月状の魔力刃を闇の書の意志向かって放った。

放たれたクレセントセイバーを手甲で防ぎ、その間にフェイトは素早い速度で後ろに回りこみ、攻撃しようとするが、闇の書の意志はクレセントセイバーを受け流して、後ろのフェイトにフェイト自身が放ったクレセントセイバーを浴びせる。とっさにフェイトもバルディシュで受け止めるが、つづけて放たれた攻撃で後ろに吹き飛ばされる。

だが、その間に。

 

「コンビネーション2、バスターシフト!」

 

なのはが砲撃準備を整えていた。

 

「ロック!」

 

受け身を取り、体勢を整えたフェイトと同時になのはが闇の書の意志をバインドした。

 

「「シュートッ!」」

 

そこになのはとフェイトの砲撃魔法が同時に放たれ、闇の書の意志に向かう。

二人の砲撃魔法が当たる直前、闇の書の意志はバインドを破壊して砲撃魔法を障壁で防いだ。

 

「僕もいるよ!」

 

左右に障壁を展開させて砲撃を防ぐ闇の書の意志に僕もカートリッジをロードした砲撃を放つ。

 

リンカーネイト(凛華)、カートリッジロード!」

 

《はい!》

 

「いくよ!マテリアルブラスター!」

 

凛華から放たれたマテリアルブラスターの白黒の魔力砲撃は一直線に闇の書の意志に向かい、直撃しようとしていた。だが。

 

「くっ!」

 

当たる直前になのはとフェイトの砲撃の障壁を解除し、後ろに退いた。放たれた三つの砲撃は丁度闇の書の意志がいた場所でぶつかり衝撃波と爆発を起こした。

そこに。

 

「貫け、ブラッディーダガー」

 

血のように赤い短剣をいくつも出し、その短剣を僕らに向かって飛ばしてきた。しかしそれをとっさに障壁を張って防ぐ。

障壁とブラッディーダガーがぶつかり爆発が起き爆煙が発生したが、爆煙を吹き飛ばして闇の書の意志を見た。

闇の書の意志を見ると、闇の書の意志はミッドチルダ式の魔法陣を展開していた。しかもその魔方陣色は桜色だ。

 

「咎人たちに滅びの光を」

 

「あれは・・・・・・」

 

魔方陣と詠唱を聞いた僕は嫌な予感がした。闇の書の意志はその予感を的中させるかのように、展開した魔方陣を中心に魔力を収束し始めた。

 

「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ」

 

「スターライト・・・・・・ブレイカー?」

 

そう、それはまさしくなのはの現最強の魔法。フェイトの5重の障壁を貫き、結界内のレイヤード建造物の大半を破壊した、スターライトブレイカーだった。

 

「フェイト!」

 

「うん!」

 

僕とフェイトはなのはを連れて大急ぎで距離をとる。

 

「ちょっ、零夜くん、フェイトちゃん。こんなに距離をとらなくても・・・・・・」

 

「バカなのなのは?!あの魔法は至近距離から受けたらいくら多重障壁を張っていても貫かれるの!僕だけだったなんとかできるけど、なのはとフェイトも守るとなると、距離をとらないとダメなの!」

 

「そ、そんなになのフェイトちゃん?」

 

「うん・・・・・・」

 

なのはの同様にそれを実際に受けたことのあるフェイトは顔を青くして答えた。

さすがにあの戦いを見て実際にスターライトブレイカーを見たら誰でもそう判断すると思う。わからないのは砲撃者であるなのはだけである。

そのまま高速で飛翔して距離を保っていると。

 

《零夜くん!左方向に一般人・・・・・・いえ、これは・・・・・・!》

 

「どうしたの?」

 

《左方向に人がいます!》

 

「「えっ!?」」

 

「絶界の中に入ってこれたってことは・・・・・・。ステラメモリー(星夜)、ルート算出!すぐに向かう!」

 

《ルート算出完了しましたわ!》

 

「オッケー!なのは、フェイト」

 

「「うん」」

 

僕らは急いで人の反応があった場所へと飛んでいった。

 

「なのは、フェイト」

 

僕がそう言うとなのはは地面に、フェイトは信号機の上に降りて辺りを見渡す。

 

「いた!」

 

一番最初に見つけたのは僕だった。

浮かびながら気配を探っていると、反応があったのだ。

そう認識したその瞬間、近くの路地から三人の人影が出てきた。シルエットからして僕らと大して変わらない女の子だと思う。

 

「あのーすみません! 危ないですから、そこでじっとしててください」

 

なのはも見つけたのかその子達に声をかける。

声をかけた相手の姿を見た瞬間、僕らは驚いた。何故ならそこにいたのは。

 

「なのは?」

 

「フェイトちゃん?」

 

「え・・・・・・アリサとすずかとアリシア?」

 

病院で分かれたはずのアリシアたちだったからだ。

僕らが互いを見たその瞬間。

 

「スターライト、ブレイカー」

 

遠くからそう声が聞こえ、収束砲が放たれ、着弾。余波が広がり僕らの方に迫ってきた。

 

「なのは!フェイト!アリシア!今すぐ障壁展開!アリサとすずかを守るようにして!」

 

僕はすぐさまなのはたちに指示を出す。

 

Defenser(ディフェンサー )plus(プラス).》

 

Wide(ワイド) Area(エリア) Protection(プロテクション)

 

フェイトとアリシア、なのはが同時に障壁を張りアリサとすずかを守るようにする。

 

「アリサ!すずか!絶対にそこからから動かないで!」

 

僕はアリサとすずかに重ねがけするように多重障壁を構築する。

 

来たれ(アデアット)!―――ハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)!」

 

僕はハマノツルギを喚び出して両手で握り、なのはたちの前に立つ。

 

《来ます!》

 

星夜の声と同時にスターライトブレイカーの余波が僕たちに襲い掛かってきた。

 

「はああああっ!」

 

僕はハマノツルギを上から振り下ろし、スターライトブレイカーの余波を斬り裂く。

それとほぼ同時に、星夜のカートリッジをロードして多重障壁を正面に張って防ぐ。

多重障壁とハマノツルギで防いでいるはずなのに、威力がバカ高いのか、息が詰まる感じだった。

やがて余波が収まったのを確認し、障壁を解いた。

それと同時にある予測が脳裏に浮かんだ。

 

「(絶界に入るには魔力が・・・・・リンカーコアが無いと入れないはず。もし、闇の書の意志の彼女が構築した時に入ったのだとしたら、アリサとすずかにも恐らくリンカーコアが・・・・・・ある!)」

 

脳裏にそんな考えを浮かばせてアリサとすずかに話しかける。

 

「アリサ、すずか無事?」

 

「え、ええ」

 

「う、うん」

 

「なのは、フェイト、アリシアは?」

 

「大丈夫」

 

「うん」

 

「問題ないよ」

 

「アリシア、すずかとアリサをお願いできる?」

 

「うん」

 

アリシアにアリサとすずかのことお願いしていると。

 

「ちょっ、ちょっと、待ちなさいよ零夜!」

 

「零夜くん、これどういうこと・・・・・・」

 

アリサとすずかが聞いてきた。

 

「ごめん、アリサ、すずか。あとでちゃんと話すから、今はとにかくアリシアと一緒にいて」

 

そう言うと僕はアリシアを中心に、アリサとすずかを範囲に入れて転移魔方陣を構築する。

 

「アリサ、すずか、またあとでね。アリシア、二人をお願いね」

 

僕はそう言うと、構築が完了した魔方陣を起動させて三人を絶界の内部から外部へと転移させる。

三人を転移させると、僕はなのはとフェイトに視線を向ける。

 

「バレちゃったね・・・・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

「なのは、フェイト、今はそれよりも目の前のことに集中しないと。確かにアリサとすずかにはバレたけど・・・・・・二人とも、あとで話せば分かってくれるはずだよ」

 

「そうだね・・・・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

視線を闇の書の意志の彼女の方に戻したその瞬間。

 

「!」

 

「え!」

 

「これは!」

 

突如足元が揺らぎ、地面に皹が入り、そこから火柱のようなものが立ち上った。

 

「予想より早い!」

 

立ち上る火柱を飛びながら交わしていきながら、この状況を把握する。

 

「崩壊の予兆・・・・・・」

 

そう見解したその時。

 

「なっ!」

 

いつの間にか僕の身体にオレンジ色のチェーンが纏わりついていた。

 

「これってアルフの!?」

 

認識した瞬間、引っ張られるような感覚を感じ、そのまま近くの建物に叩きつけられた。が、衝撃はあまり感じなかった。視界の端に見えるなのはとフェイトは地面に叩きつけられ、それぞれのバインドで動きを止められていた。

 

「星夜、バインドブレイク!」

 

《かしこまりました!》

 

アルフの束縛魔法で動きを止められていた僕は、バインドブレイクでアルフの束縛魔法を破壊して身動きをとれるようにした。

身動きをとれるようすると、すぐになのはたちの方に向かう。

 

「お前達に咎がないことは分からなくもない。だがお前達さえいなければ、主は騎士達と・・・・・・そして大切な人と静かな聖夜を過ごすことができた。残りわずかな命の時を温かい気持ちで過ごせていた・・・・・・」

 

「はやてはまだ生きてる! シグナム達だってまだ・・・・・・!」

 

「もう遅い。闇の書の主の宿命は始まったときが終わりの時だ」

 

「まだ、終わりじゃない。終わらせたりしない!」

 

近づくとなのはたちの声が聞こえてくる。

 

「泣いてるのはかなしいからじゃないの!諦めたくないからじゃないの!そうじゃないとおかしいよ、ほんとに全部諦めてるなら、泣いたりなんか、しないよ!」

 

なのはの言葉に闇の書の意志は一筋涙を流すと、なのはに黒い魔力弾を放った。

 

「させないっ!」

 

「バリアジャケット、パージ!」

 

フェイトがバインドから抜け出し、なのはとともにそこから離れるのと、なのはと魔力弾の間に割り込み、魔力弾を真っ二つに切り裂いたのはほぼ同時だった。

 

「伝わらないなら伝わるまで何度でも言うよ!助けたいんだ、はやてことも!そして、その中にはきみも入ってるんだ! 」

 

魔力弾を切り裂いて、なのはとフェイトの前に立って闇の書の意志に向かって言う。

しばし僕らと闇の書の意志は無言の沈黙が包むなか、闇の書の意志の左手の手甲。ナハトヴァールが一瞬脈打った。

それと同時に辺りから地響きが聞こえ、地面から火柱とは別の、石柱のようなものが次々に競り出てきた。

 

「早いな、もう崩壊が始まったか。私もじきに意識を無くす。そうなればすぐにナハトが暴走を始める。意識のあるうちに主と騎士たちの望みを叶えたい」

 

闇の書の意志はそう言うと、闇の書を広げ再びブラッディーダガーを出してきた。

 

「眠れ・・・・・・」

 

闇の書の意志が言うとフェイトに向かってブラッディーダガーが飛んでくる。

 

「この駄々っ子!」

 

《Sonic drive. 》

 

「待ってフェイト!」

 

闇の書の意志に向かっていくフェイトに声をかけるが、フェイトは止まらずそのまま闇の書の意志に向かっていった。

 

「星夜!カートリッジロード!」

 

《了解しました!》

 

光速翼(ライトスピード)!」

 

星夜にカートリッジをロードして移動速度をあげてフェイトを追い越し、

 

リンカーネイト(凛華)!カートリッジロード!」

 

《はい!》

 

付与(エンチャント)断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)!」

 

右手の凛華を剣形態にして、カートリッジをロードし断罪の剣を付与して斬りかかる。

断罪の剣を付与した凛華を闇の書の意志は闇の書の前に展開した黒いベルカ式の魔方陣で受け止めた。

 

「我はお前を傷付けたくはない。我が主の大切な人だから。故に・・・・・・」

 

「!」

 

「零夜くん!」

 

「零夜!」

 

「くっ・・・・・・!」

 

「主とともに静かに眠ってくれ・・・・・・」

 

Absorption(吸収)

 

「「零夜(くん)ーーーーーー!!」」

 

なのはとフェイトの叫びが僅かに聞こえるなか、僕はそのまま闇の書の中へと吸収されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううぅ・・・・・ん・・・・・・」

 

目を覚ました僕の視界に映ったのは薄暗い天井だった。

 

「ここは・・・・・・」

 

上体を起こすと。

 

「あ~、やっと起きた!」

 

「ほんとだ!」

 

傍から聞きなれた声が聞こえてきた。

視線をそこに向けるとそこには。

 

「おはよう♪零夜くん♪」

 

「おはよう零夜♪」

 

「うん。おはよう、愛奈美お姉ちゃん、華蓮」

 

私服姿のお姉ちゃんと幼馴染みが笑顔を浮かべて、僕を視ている姿があった。

 

 

 

 

 

 



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夢と想い出

 

~零夜side~

 

 

僕の名前は天ノ宮零夜。ここ、天ノ宮家でお父さんとお母さん、愛奈美お姉ちゃんと四人で生活している。そしてお隣は緋愛神(ひめがみ)家。幼馴染みの華蓮とそのお父さんとお母さん三人家族の家だ。

僕の家の天ノ宮家と緋愛神家はそれぞれの親が親友ということもあり、昔から家族ぐるみの付き合いだ。

そしてみんな、僕を残して今はいない人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ・・・・・・愛奈美お姉ちゃんと・・・華蓮・・・・・・?」

 

僕は目蓋を擦りながらまだ夢を見ているのと思いながら目の前の二人を見る。

 

「そうだよ、零夜くん♪」

 

「どうしたの零夜、まるで幽霊でも見つけたような顔して。夏はもう過ぎたのよ?」

 

「う、ううん。なんでもないよ華蓮」

 

「さっ、早く起きて♪お母さんもお父さんも伯母さんと伯父さんも下にいるんだから」

 

「うん、わかったよ愛奈美お姉ちゃん。すぐ着替えるね」

 

僕はそう言うと伸びをしてベットから降り、服の裾に手を掛けた。

 

「で、あの、二人とも?」

 

「なあに?」

 

「どうしたの?」

 

「えっと、着替えたいから部屋から出てほしいんだけどな~」

 

「私は別に気にしないよ?」

 

「私も」

 

「いやいや!僕が気にするから!すぐに着替え終わるから部屋の外で待ってて!」

 

僕はお姉ちゃんと華蓮を強引に外に出してすぐに着替えた。

 

「(この姿・・・・・・僕が死ぬ前の姿・・・・・・だよね。それに愛奈美お姉ちゃんと華蓮も)」

 

着替えながら高校生の姿の二人を思い出してそう想う。

着替え終わり、部屋の外に出るとお姉ちゃんと華蓮と一緒に一階のリビングへと向かった。

リビングに入ると、そこには。

 

「お、零夜。やっと起きたのか」

 

「おはよう零夜君」

 

「零夜君、おはよう~」

 

「愛奈美ちゃん、華蓮ちゃん、零夜君をどうやって起こしたのかな~」

 

僕の両親と華蓮の両親がいた。

お母さんたちは台所で朝食を、お父さんたちはソファでチェスをしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「零夜くん、大丈夫?」

 

「え?」

 

「だって、零夜くん、泣いてるよ?」

 

お姉ちゃんに言われて僕は目元を拭った。手の甲には僕の涙が付着していた。

 

「ううん、なんでもないよお姉ちゃん」

 

そう、これが僕の一番ほしかった日常。愛奈美お姉ちゃんがいて、華蓮がいる。そして、お父さんとお母さん、伯父さんも伯母さんもあるこの暖かい、当たり前のような一面が。

僕は心配そうに見てくるお姉ちゃんと華蓮に微笑んでそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば三人はこのあと出掛けるんだよな?」

 

朝食を食べ終えたところにお父さんがコーヒーを飲みながらそういってきた。

 

「うん。今日をずっと待っていたからね」

 

「ええ。今日は私と零夜、愛奈美お姉ちゃんとのデートの日だもん」

 

「ははは!元気があっていいな」

 

「ほんとね~」

 

「三人とも気を付けていってらっしゃいね」

 

「わかってるよお母さん」

 

リビングに朗らかな笑いが包まれた。

そして時は進み。

 

 

「うわっ、外寒いね」

 

「そりゃもう十二月だからでしょ?」

 

「そうね~」

 

「でも中は温かいね」

 

僕たちは大型のデパートに来ていた。

外を歩いてきた僕らは外の寒さにそう言い、デパートの中に入った途端に感じた暖かい空気にそう言った。

 

「それで、最初はどこに行くの?」

 

僕は両隣の二人に聞く。

 

「う~ん、手始めにアクセサリーでも見ようよ」

 

「いいと思うよ華蓮ちゃん。零夜くんもそれでいいかな?」

 

「僕はそれでいいよ」

 

「じゃあ、いこう」

 

僕とお姉ちゃんは華蓮に連れられてデパート内の三階にあるアクセサリーショップに来た。

 

「これなんかどうかな?」

 

来るなり、僕は華蓮とお姉ちゃんにアクセサリーの感想を言っていた。

 

「う~ん、華蓮の朱色の髪に合わせるなら、こっちの白がいいんじゃないかな?」

 

「そう?」

 

僕は近くにあった白い髪留めを華蓮の髪に付けた。

 

「うん、よく似合ってるよ」

 

「ありがとう零夜♪」

 

「零夜くん、私はどうかな?」

 

呼ばれて振り向くと、そこには長い蒼い髪を一つ結びにしてサイドテールにしたお姉ちゃんがいた。

 

「うん、よく似合ってるよ愛奈美お姉ちゃん!」

 

「ほんと♪」

 

「うん!お姉ちゃんの蒼い髪に銀色のシュシュがよく似合ってる!」

 

「やった!」

 

「愛奈美お姉ちゃんは学校で結構人気だもんね」

 

苦笑いをしながら華蓮がお姉ちゃんにそう言った。

 

「そうなのよね。お陰でよく告白させられてるから困っちゃうよ」

 

「へぇ。お姉ちゃんに手を出すなんて。・・・・・社会的に抹殺しようかな・・・・・」

 

お姉ちゃんの言葉を聞いた僕は後半部分の声を冷たくして呟くように言った。

 

「ちょっ、零夜くん!?」

 

「あ、なら私も手伝うよ零夜」

 

「華蓮ちゃんまで!?」

 

「ほんと?」

 

「うん」

 

「二人とも、それはさすがにダメだよ~!」

 

僕と華蓮の声に慌てたように言うお姉ちゃんを一緒に見て、クスッと笑ってしまった。

 

「な、なんで笑うのよ二人とも~!」

 

「ご、ごめんお姉ちゃん。でも、お姉ちゃんの反応が面白くて・・・・・・」

 

「うん。思わず笑っちゃったの。さすがブラコンとシスコンの姉弟だね♪」

 

「~~~!///ふ、二人の意地悪~!!」

 

お姉ちゃんの子供のような仕草に僕と華蓮は楽しそうに笑った。

 

「もう!・・・・・・あ、零夜くん、これどう?」

 

「ん?」

 

僕はお姉ちゃんに呼ばれて近くによった。

お姉ちゃんが手に持っていたのは白銀に煌めく宝石のペンダントだった。

そのペンダントを見た瞬間、不意に脳裏に声が響いた。

その声は優しく、暖かみのある、どこか愛奈美お姉ちゃんに似た声だった。

 

「っ!」

 

「だ、大丈夫零夜くん?!」

 

声を聞いた途端に頭痛がし、顔をしかめるとお姉ちゃんが心配した様子で聞いてきた。

 

「あ、うん。大丈夫だよ、お姉ちゃん」

 

「そう?ならいいけど。それで・・・・・・どう、かな?」

 

ペンダントを首に掛けて首をかしげて聞いてくるお姉ちゃんの姿に思わず僕は見惚れてしまった。

 

「零夜くん?」

 

「う、うん、可愛いよお姉ちゃん」

 

「ありがとう零夜くん♪」

 

お姉ちゃんは嬉しそうに声を弾ませるとそれを持って何処かへ行ってしまった。

するとそこへ。

 

「ねえ、零夜。これどうかしら?」

 

華蓮が傍にあった蒼白色宝石の入ったブレスレットを腕につけて聞いてきた。

 

「っ!」

 

華蓮の付けているブレスレットを見た瞬間、さっきと同じ頭痛が襲ってきた。

そしてまたしても声が聞こえた。その声は可憐で、どこか華蓮に似た声で健気な感じだった。

 

「だ、大丈夫零夜?!」

 

「う、うん、大丈夫。すごく似合ってるよ華蓮」

 

ブレスレットを付けて聞いてくる華蓮が可愛くて見惚れてしまったのを隠しながら言う。

 

「そ、そう。ありがとう零夜」

 

そう言うと華蓮もどこかへと行ってしまった。

お姉ちゃんと華蓮の後ろ姿を見ながら僕はさっきの声を思い出していた。

 

『行きましょう零夜くん』

 

『待っていますわマスター零夜』

 

その声を思い出していると。

 

『零夜くん』

 

「っ!?」

 

またしても何処からか頭に声が響いてきた。

とっさに周囲を見渡すが、あるのは小物類やアクセサリー、その中でも一際目立っているのが、黒と白の色の宝石のネックレスだった。

 

「気のせい・・・・・・かな?」

 

そう静かに呟くと、僕はお姉ちゃんと華蓮の方に歩いていった。もうその頃には頭の中に違和感は霧のようになくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜が夢の中にいるころ・・・・・・・・・・

 

 

 

なのはとフェイトは闇の書の意志と相対していた。

 

 

「零夜くんをどこにやったの!」

 

「わが主も彼も覚めることない眠りのうちに終わりなき夢を見る。生と死の狭間の夢、それは永遠だ 」

 

「永遠なんて・・・・・・ないよ」

 

「なのはの言うとおり、永遠なんてない」

 

なのはとフェイトがそれぞれデバイスを構えるなか、闇の書の意志は目尻に涙を一滴浮かばせた。

 

「おまえたちにわが主と彼の悲しみが分かるとでも言うのか?」

 

「はやてちゃんと・・・・・・」

 

「零夜の、悲しみ・・・・・・?」

 

なのはとフェイトは闇の書の意志の言葉が理解できずにいた。

 

「彼は主以上の心の闇がある。彼は二度と目覚めないであろう」

 

零夜を闇の書に吸収した闇の書の意志は零夜の抱えている闇の少しが感じ取れたのだ。

 

「そんなことない!零夜くんならきっと・・・・・・!」

 

「それはおまえの願望だ」

 

そう言うと、闇の書の意志はなのはとフェイトに向かって話はこれで終わりだとでも言うように黒い魔力砲撃を放った。

 

「くっ・・・・・・!」

 

魔力砲撃をプロテクションでフェイトごと防いだなのははレイジングハートを構え直してキャノン形態に。

 

「私たちは絶対に諦めない!」

 

「はやてと零夜はかならず助ける!」

 

フェイトもバルディシュをクレッセント形態にした。

そして、なのはとフェイト、闇の書の意志はぶつかり、そのまま戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクセサリーショップを出たあと、僕らはブティックショップや化粧品や本屋でライトノベルのソードアート・オンラインや漫画本のネギま!?など本などを見て回り、お昼を食べ、そのあとはボウリングやらゲームセンターで遊んだりして、今はクレープ屋さんのクレープを食べながら次の相談をしていた。

 

「次はどこに行こっか?」

 

「う~ん、この時間帯だと・・・・・・」

 

空には星が見え、時刻は黄昏時だった。

 

「あ、あそこに行かない?」

 

「あそこって・・・・・・あそこのこと?」

 

「うん」

 

「いいと想うよ、この時間帯からならよく見えると思うし」

 

「じゃあ、遅くならないように早く行こっ!」

 

「うん!」

 

僕らはクレープを食べ終えると、目的地に向けて歩いていった。

目的地はデパートから少し離れた、徒歩三十分の距離にある山の頂上だった。

 

「うわ~・・・・・・きれい・・・・・・」

 

「ほんとだね・・・・・・」

 

「空気が冷たくて清んでいるからより綺麗に見えるのかも」

 

「確かに♪」

 

山頂に来た僕らは近くにあるベンチに腰かけた。

この山はさほど高いわけではなく、さらに設備も整ってるうえ、舗装や安全対策もされているため天体観測にもってこいの場所なのだ。といっても、環境に問題がでないように大それたことはしてないが

 

「三人で見る星って、どんな事よりもきれいだよね」

 

「うん」

 

「そうね」

 

「あ、零夜くん」

 

「なに?」

 

「はい、これ」

 

僕はお姉ちゃんと華蓮に渡されたものを受け取った。

 

「これは・・・・・・」

 

「開けてみて」

 

お姉ちゃんと華蓮に即されて渡された袋を開けた。

 

「これ・・・・・・」

 

中には一つのネックレスが入っていた。そのネックレスは白と黒の色の宝石が付いた、アクセサリーショップにあったネックレスだった。

 

「私と華蓮ちゃんからプレゼント♪」

 

「私と愛奈美お姉ちゃんだけじゃなくて零夜とも一緒に付けたかったから、愛奈美お姉ちゃんと一緒に選んで買ったんだよ」

 

お姉ちゃんと華蓮の声を聞きながらそのネックレスを眺める。

すると、頭に声が響いてきた。

その声は優しく可憐で、どこか懐かしくもあり、元気が出るような声だった。そして、それと同時に、色々な映像が流れ込んできた。

 

「!」

 

映像が流れ込んでくるのを見ながらネックレスを見た僕は、空を見上げた。

空はもう暗く、空一面に満面の星々が散らばっていた。

それを見た僕は、すべてを思い出した。

 

「(やっと・・・・・・ようやく思い出したよ、みんな)」

 

僕はお姉ちゃんと華蓮に聞こえないように声に出さずに言い、両隣のお姉ちゃんと華蓮に声をかける。

 

「ねえ、お姉ちゃん、華蓮」

 

「ん、なあに零夜くん?」

 

「どうしたの零夜?」

 

「聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「いいよ?」

 

「うん?」

 

「ここは現実じゃないよね。僕の・・・・・・僕が望んだ夢の世界」

 

僕の言葉にお姉ちゃんと華蓮は静かに僕を見る。

 

「愛奈美お姉ちゃんがいて華蓮がいる。お父さんとお母さんと伯母さんと伯父さんもいる。とっても楽しい、日常の夢」

 

僕がそう言うと、風が少し吹き、お姉ちゃんの長い蒼い髪と華蓮の長い朱色の髪がフワリと舞った。

 

「何時までもここにいたい。お姉ちゃんと華蓮と一緒に過ごして年を取って、いろんな場所に行きたいしいろんな事がしたい。けど・・・・・・それじゃいけないんだよね」

 

僕は哀しい眼をして空を見る。

 

「時は未来に進んでも、過去には戻らない。時間は停まっても何時か必ず動く」

 

僕の声に無言で聞いていたお姉ちゃんと華蓮は僕を見ながら言った。

 

「いいじゃんない、夢の中でも。外に・・・・・・現実に行ったら、また零夜くんに残酷な現実が待ってるかもしれない。また何かを・・・・・・大切なものを失ってしまうかもしれないんだよ?ここにいたら・・・・・・零夜くんは幸せで楽しくいられるよ。何も失わずに済めるし、華蓮ちゃんだって、お母さんとお父さんも伯母さんも伯父さんとも一緒にいられるんだよ?」

 

「そうだよ零夜。この夢の中でなら零夜は何も失わせずに済むし、夢も叶うんだよ?私と愛奈美お姉ちゃん、零夜で一緒に過ごして、結婚して子供をつくって、そして一緒に年を取って、子供たちが大きくなっていくのを見守る。いろんな場所に行けるし、いろんなことも出来るんだよ」

 

お姉ちゃんと華蓮は僕を見ながらそう言う。

 

「確かにお姉ちゃんと華蓮の言うとおりなのかも・・・・・・。ここで過ごして、お姉ちゃんと華蓮と結婚して子供をつくっていって仲良く過ごす・・・・・・。僕が望んでいて、叶わなかったこと・・・・・・」

 

「「なら・・・・・・!」」

 

「でも、ダメなんだ。何時までも停まっていちゃ。進まないと行けないんだ。乗り越えないと行けないんだ」

 

「零夜くん・・・・・・」

 

「零夜・・・・・・」

 

「それに、今の世界も嫌いじゃないんだ。ずっと欲しかった友達が出来て、そこからいろんな人たちと触れ合えて・・・・・・。義理だけど、家族も出来た。僕はいろんな人に恵まれて、励まされて、手伝ってもらった。それに僕を待っている人もいるし、助けたい人もいるんだ。だから、ここには・・・・・・・・・・愛奈美お姉ちゃんと華蓮と一緒にはいられない」

 

僕の声に愛奈美お姉ちゃんと華蓮は一瞬悲しい表情をして涙を流した。

 

「わかってたよ零夜くん。零夜くんがそう決めるって」

 

「うん。零夜は昔から決めたらやりとげる、って言っていたからね」

 

「愛奈美お姉ちゃん・・・・・・華蓮・・・・・・」

 

「だてに十年以上零夜くんのお姉ちゃんじゃないってことだよ♪」

 

「ずっと一緒にいた幼馴染みだから零夜のことは分かってる♪」

 

そう言うと愛奈美お姉ちゃんは首に下げていたペンダントを、華蓮は右手首に付けていたブレスレットを外して僕に渡してきた。

それはどっちも昼間のアクセサリーショップで買ったものだった。

 

「返さないといけないね。零夜くんの大切な物を」

 

そう言うと愛奈美お姉ちゃんはペンダントを首に、華蓮は僕の右手を取ってブレスレットを嵌めてきた。

 

「お姉ちゃん・・・・・・華蓮・・・・・・」

 

「例え私たちが離ればなれでも、私たちは零夜くんとずっと一緒だよ」

 

「うん。私たちはずっと一緒」

 

「お姉ちゃん・・・・・・華蓮・・・・・・!」

 

僕はお姉ちゃんと華蓮を抱き締めると涙を流す。

 

「うん・・・・・・うん!僕らはずっと一緒だ!どんなときだって!思い出はいつもここにあるから」

 

「そうだよ零夜くん」

 

「そうだよ零夜」

 

「ありがとう、愛奈美お姉ちゃん、華蓮。大好き、愛してる。今も、これからもずっと、ずーっと!」

 

「私も、大好きだよ。愛してる!」

 

「私も零夜のこと大好き。ずっと愛してる!」

 

涙を長し、涙声で言い抱擁を続ける。

しばらくして僕は二人から一歩離れた。

 

「お別れだね」

 

「うん」

 

「そうだね」

 

「零夜くん」

 

「?」

 

お姉ちゃんに呼ばれて、お姉ちゃんを見た僕は突然視界が真っ暗になった。真っ暗になった理由はお姉ちゃんが顔を近付かせてきたからだ。

 

「ん・・・・・・」

 

真っ暗になった途端に唇にお姉ちゃんの唇があたった。

 

「お姉ちゃん・・・・・・」

 

「私だけじゃなくて華蓮ちゃんも、だよ」

 

「華蓮・・・・・・・」

 

「零夜・・・・・・ん・・・・・・」

 

再び唇に華蓮の唇があたった。

お姉ちゃんと華蓮からキスされたのを分かると少し顔が赤くなった。

 

「私と華蓮ちゃんから零夜くんへの餞別」

 

「それとお守りと応援だよ零夜」

 

「はは。ありがとう、愛奈美お姉ちゃん、華蓮」

 

僕は二人から少し距離を取ってバリアジャケットを展開する。それと同時に、僕の身体は元の身体に戻っていた。

 

「カッコいいよ零夜くん」

 

「うん、カッコいいよ零夜」

 

「ありがとう、愛奈美お姉ちゃん、華蓮」

 

僕のバリアジャケットは今までのとは違い、愛奈美お姉ちゃんと華蓮の髪の色の蒼と朱を織り混ぜた、ロングコートを羽織っていた。

 

「それじゃ、行ってくるね。愛奈美お姉ちゃん、華蓮」

 

「行ってらっしゃい零夜くん。頑張ってね」

 

「行ってらっしゃい、零夜。頑張りなさいよ」

 

「うん!ありがとう愛奈美お姉ちゃん!華蓮!行ってきます!」

 

僕は二人から離れて空を上がっていった。

ある程度上がり、街が見下ろせる位置まで来た僕はデバイスたちに声をかける。

 

「凛華、澪菜、星夜、お待たせ」

 

《大丈夫ですよ零夜くん♪》

 

《うん!零夜のこと信じていたもん!》

 

《迷いは飛んだみたいですわね、零夜くん》

 

「うん。僕はもう大丈夫。愛奈美お姉ちゃんも華蓮がずっとここにいるから」

 

僕はそう言うと心臓の部分に手をあて目を閉じる。

 

「お父さんもお母さんも伯父さんも伯母さんもずっといる。僕は一人ぼっちじゃない!」

 

目を見開き凛華たちを展開する。

凛華は右手に、澪菜は左手に、星夜は背中にそれぞれ展開していた。

 

「僕にこれからも力を貸してくれる、みんな?」

 

《もちろんです!》

 

《もちろんだよ!》

 

《もちろんですわ!》

 

「ありがとう、みんな・・・・・・」

 

僕はキリッと視線を治して言う。

 

「それじゃここを出ようか・・・・・・。凛華、澪菜、絶対切断(ワールド・エンド)、発動!」

 

そう言うと、凛華は剣形態になり、澪菜と同時に剣の長さが伸び、それぞれには蒼と朱色のライトエフェクトが煌めいていた。

 

「ありがとう、お父さん、お母さん、伯父さん、伯母さん。僕はみんなのお陰で、最高に幸せ者だよ。愛奈美お姉ちゃん、華蓮、大好き、愛してる」

 

僕はそう言うと双剣を左右に広げ、

 

「そして・・・・・・これからも僕を見守っていてね」

 

確固たる決意の声とともにそう言い放つ。

すると。

 

「「「「行ってらっしゃい、零夜(くん)頑張って(りなさい)」」」」

 

「「行ってらっしゃい零夜(くん)」」

 

頭の中に愛奈美お姉ちゃんと華蓮たちの優しい、励ましの声が聞こえ、みんなの声に背中を押されるともに、

 

「うん・・・・・・・行ってきます!」

 

涙を一滴流して。

 

「幻夢・・・・・・二閃!」

 

僕は凛華と澪菜を振るってこの夢の世界から出た。

その瞳にはもう迷わない、意志の秘めた強い輝きが出ていた。

僕は進んで行った。今度こそ大切なものを失わないように。無くさないように。愛奈美お姉ちゃんと華蓮の思い出とともに、すべてを守るために。

 

 

 

 

 

 



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覚醒

 

~???side~

 

 

「もうやだ・・・・・・!誰か助けて・・・・・・お願い、誰か彼女たちを助けて・・・・・・」

 

暗い、ただ闇が包むなか私は何度言ったか忘れるほど言った言葉を言った。

私の声は闇に沈み込み、返ってくることはなかった。

そのとき。

 

「きみは・・・・・・だれ?」

 

私の目の前に一人の少年が両手にデバイスをもって優しく問い掛けてきた。

 

~???side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

夢の世界から脱出した僕は、暗く周囲になにもない空間にいた。

 

「はやてたちはどこだろう」

 

この空間の中では索敵もできないため人力で捜すしかない。

捕らわれたはやてたちを探して歩いていると、女の子の鳴き声が聞こえてきた。それと同時に懇願するかのような悲痛の声が聞こえてきた。

 

 

『もうやだ・・・・・・!誰か助けて・・・・・・お願い、誰か彼女たちを助けて・・・・・・』

 

 

声のした方に向かって歩くと、そこには一人の少女が泣きながらうつむい座っていた。

 

「きみは・・・・・・だれ?」

 

僕は目の前の少女に優しく声をかけた。

少女はずっと泣いていたのか目が充血しているほど赤く、涙声で聞いてきた。

 

「あなたは・・・・・・」

 

「僕の名前は天ノ宮零夜。そして、こっちは僕の家族でデバイスの凛華、澪奈、星夜だよ」

 

僕は自身の名前をいうと、デバイス姿の凛華たちを見せて教える。

 

「きみの名前は」

 

「私の名前は・・・・・・ナハトヴァール」

 

「ナハトヴァール・・・・・・!?」

 

目の前の少女の名前に僕は息を飲んで驚いた。

ナハトヴァールとは闇の書の自動防衛プログラムだからだ。まさかナハトヴァールに自我があるとは汁ほど思わなかった。これはさすがのグレアム叔父さんたちも知らなかったであろう。

 

「ナハトヴァール・・・・・・きみはなんで泣いているの?」

 

「私は・・・・・・ほんとは、彼女たちを殺したくない!歴代の人たちも私はすきでやった訳じゃない!もう、誰かが傷付いたり、泣いたりしているのは・・・・・・耐えられない!」

 

「・・・・・・そっか」

 

「だからお願い!零夜くん、私のこと消して!」

 

「それって、きみを殺すってこと?」

 

僕の問いにナハトヴァールは涙を流しながらうなずいた。

 

「そうじゃないと、この苦しみは永遠に続いていく。終わらない無限怨嗟がずっと続くの!だから・・・・・・!」

 

ナハトヴァールの懇願に僕は首を横に振って返した。

 

「なんで・・・・・・」

 

「それじゃ、きみだけが哀しいだけ。僕はきみを助けたい」

 

「そんなの・・・・・・!」

 

不可能だと言うかのようなナハトヴァールに僕は、ナハトヴァールを優しく抱き締めて言った。

 

「出来るできないかじゃないの。・・・・・・やるんだよ。僕は決心した、きみを助ける。そして、この事件を終わらせる」

 

「零夜くん・・・・・・」

 

決心した僕を見てくるナハトヴァールに僕は優しく微笑みかけて、ナハトヴァールの黒紫(アメジスト)色の瞳を視て。

 

「きみに新しい名前をあげる」

 

「新しい名前・・・・・・?」

 

「うん。もうナハトヴァールなんて呼ばせない。ナハトヴァールは闇の書の闇。こんなにも優しいきみにそんなの可哀想だよ。だから、きみさえ良ければどうかな?」

 

「うん・・・・・・お願い、新しい名前を付けて・・・・・・!」

 

「もちろん!きみの新しい名前は、聖良(せいら)

 

「聖良・・・・・・」

 

「うん。綺麗で美しく、優しくて、思いやりのあるきみにピッタリな名前だよ」

 

「聖良・・・・・・ありがとう零夜くん」

 

「ううん。それじゃあここから出ようか聖良」

 

「うん!あ、待って、もう一人・・・・・・あの人もつれていかないと」

 

「あの人?」

 

ナハトヴァール・・・・・・いや、聖良の言葉に首をかしげると、聖良の前に一人の人間が出てきた。

 

「この人は・・・・・・」

 

僕は出てきた男性を見て驚きの表情を浮かべた。何故ならその人はクロノに似ていたからだ。

そう思っていると。

 

「う・・・・・・」

 

「大丈夫ですか」

 

「ここは・・・・・・」

 

クロノ似の男性が目を覚まし、声をかける。

 

「確か僕は闇の書を・・・・・・」

 

闇の書という単語と、彼の服装から僕はこの人が11年前に闇の書に呑み込まれたクロノの父親。クライド・ハラオウンだとわかった。

 

「すみません。あなたの名前はクライド・ハラオウンですか?」

 

「え。あ、はい。確かに僕の名前はクライド・ハラオウンです。あなたは?」

 

「僕の名前は天ノ宮零夜。あなたの子供、クロノの・・・・・・その、知り合いです」

 

「クロノの?」

 

「はい」

 

クライドさんはあまり意識がハッキリしないのか宙をしばし見つめると。

 

「天ノ宮君、でしたね?」

 

「はい」

 

「ここはどこなんですか?」

 

「ここは闇の書の内部です。彼女があなたを助けてくれたんですよ」

 

「彼女?」

 

僕はずっと横にいた聖良をクライドさんにいう。

 

「あ、あの、わ、私は聖良です。あなたにはナハトヴァールと言った方がいいかもしれませんが・・・・・・」

 

「そうか。君が・・・・・・」

 

クライドさんはようやくハッキリしてきたのか首をうなずいて言った。

 

「プログラムに侵食される前にあなたを私が取り込んだんです」

 

「そうなのか・・・・・・ありがとう聖良さん」

 

「そ、そんな・・・・・・!私は・・・・・・」

 

クライドさんのお礼に聖良は表情を暗くしてうつむいて返した。

 

「聖良、そんなに自分を責めたらダメだよ。クライドさんは聖良が護ったんだから」

 

「零夜くん・・・・・・」

 

聖良は僕の言葉に涙を浮かべ、僕に抱きつくと涙を流した。

 

「大丈夫だよ聖良」

 

僕は優しく聖良の背中を撫で言う。

しばらく聖良をそのままにし、やがて泣き止んで離れた聖良と並び。

 

「それじゃ、ここから出ましょうかクライドさん」

 

「出られるのですか?」

 

クライドさんの問いに僕は。

 

「任せてください」

 

デバイス状態の凛華と澪奈を持ち、目の前に広がる暗闇の空間を薙ぎ払った。

僕が薙ぎ払った場所はピシリと、ガラスにヒビが入るような音がし、穴が開いたように奥に空間が現れた。

 

「行きましょう」

 

僕は呆気に取られているクライドさんにそう言って、聖良とクライドさんとともにその空間に入り込んだ。

 

「見つけた」

 

その空間には車イスに座って半覚醒状態のはやてと銀髪の女性がいた。服は違うが、外で戦っている闇の書の意思と同じ女性だ。

僕たちに気付いたのか、その女性は視線を僕らの方に向けてきた。

 

「そんな!あなたは・・・・・・」

 

驚いた表情を浮かべていう彼女に僕は近づいた。

 

「ありがとう。夢の中だとはいえ、お姉ちゃんと華蓮と一緒に過ごせた。僕が求めていた幸せを体験できたよ」

 

僕は彼女にお礼を言った。夢の中だけど、またお姉ちゃんと華蓮に会えたから。

彼女にそう言うと僕ははやての前に立った。

 

「はやて」

 

「う、ううん・・・・・・零夜、くん・・・・・・?」

 

「起きた?」

 

「うん。けど、ここは・・・・・・」

 

「ここは闇の書の中だよ」

 

「闇の書・・・・・・!」

 

思い出したかのようにはやては目を見開いて僕と管制人格を見る。

 

「そうや・・・・・・全部思い出した」

 

「どうかお眠りを我が主。あと数分ほどで、私は私自身の呪いであなたを殺してしまう。ですから、その前に、幸せな、心のなかで・・・・・・!」

 

「それはダメや。私はこんなん望んでない!あなたも同じはずや!違うか?」

 

「私の心は、騎士たちと深くリンクしています。だから騎士たちと同じように私もあなたを愛おしく思います。だからこそ、あなたを殺してしまう自分自身が許せない。自分ではどうにもならない力の暴走。あなたを侵食することも、暴走してあなたを喰らい尽くしてしまうことも、止められない」

 

「覚醒の時に少し分かったんよ。望むように生きられへん悲しさ。私にも少し分かる。シグナムたちも同じや!ずっと悲しい思い、寂しい思いしてきた・・・・・・せやけど忘れたらあかん。つらい日々ばかりだったかもしれへんけど・・・・・・悲しい日々ばかりだったかもしれへんけど・・・・・・その日々があった今の私や、あなたがおるんや!」

 

はやてと管制人格の会話を僕らは静かに聞く。

すると、はやてが僕に視線を向けてきた。

 

「それに零夜くんもおる。零夜くんのお陰で私は一人じゃなかった・・・・・・。あなたもおるから私は一人じゃなかった!」

 

そう言うとはやては管制人格に右手を伸ばして、頬に手を添えた。

 

「あなたのマスターは今は私や。マスターの言うことは、ちゃんと聞かなあかん」

 

そう言った次の瞬間、はやての足元に白い三角形の魔法陣―――シグナムたちと同じ、ベルカ式の魔方陣が現れた。

 

「名前をあげる。もう、闇の書とか、呪いの魔導書なんて言わせへん。私が呼ばせへん」

 

そう言うはやてに僕は話し掛けた。

 

「はやて、僕たちは先に戻ってるよ」

 

「うん。ありがとう零夜くん」

 

「ううん。それと、先に言っておくね、この子の名前は聖良。ナハトヴァールの意思だよ」

 

僕の言葉に管制人格は驚いた表情を浮かべた。

 

「そうなんやな。聖良、いい名前や」

 

「でしょ?」

 

はやてに微笑み、僕は聖良とクライドさんのの手をつかむ。

 

「じゃ、先に行ってるね。はやて、お願いね」

 

「うん。任せて」

 

はやてと会話を終えると、僕は足元に白黒の魔方陣を展開して、その場から消え去った。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~はやてside~

 

零夜くんたちが行ったのを見て、私は目の前の管制人格に言う。

 

「ずっと考えていた名前があるんや」

 

「ですがナハトが止まりません・・・・・・!暴走も・・・・・・・!」

 

「止まって!」

 

私がそう言うと、足元の白い魔方陣が光輝き、目映い光を発した。

 

~はやてside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

外に戻ってくるなり、僕が目にしたのはアルフの魔法の楔によって縛られ、身動きのとれない状態のなのはとフェイトの姿だった。

そして上空には巨大な禍々しい螺旋状の剣が浮かんでいた。

 

「クライドさん、聖良とここにいてください。僕は彼女たちを助けてきます」

 

「わかりました。天ノ宮君、気を付けて」

 

「ええ」

 

聖良をクライドさんに預け僕は螺旋状の剣の真下のなのはとフェイトへと飛んでいった。

 

「眠れぇ!」

 

闇の書の意思の声とともに、回転を加えられた螺旋状の剣が縛られているなのはとフェイトの元へと墜ちていく。

その光景になのはとフェイトは目を見開いた。

そこに。

 

「スターバースト・ストリーム!」

 

僕が絶対切断と断罪の剣を付与した凛華と澪奈で螺旋状の剣を粉々に斬り砕いた。

 

「お待たせ、なのは、フェイト」

 

「零夜くん!」

 

「零夜!」

 

縛られていたなのはとフェイトの鎖を破壊し、なのはとフェイトとともに闇の書の意思と相対する。

 

「おまえ・・・・・・何故ここに・・・・・・?」

 

「夢から覚めただけだよ。少しの時間だったけど、お姉ちゃんと華蓮とまた一緒にいられて嬉しかった。けど・・・・・・」

 

僕は再度構えを取り直して、闇の書の意思を見据える。

 

「―――僕にはやることがあるからね」

 

僕はそう言ってなのはとフェイトを見た。

その瞬間、闇の書の意思の左腕に巻き付いているナハトヴァールがうねりを見せ、闇の書の意思がそれを押さえていた。どうやらはやてが内側からなにかしたみたいだ。現に、闇の書の意思の左腕に巻き付いているナハトヴァールが闇の書の意思を呑み込もうとしていた。そこへ。

 

『外の方!零夜くん、聞こえる?!』

 

はやての声が聞こえてきた。

 

「はやてちゃん!?」

 

「はやて!?」

 

「聞こえるよはやて!」

 

『零夜くん、何とかその子止めたげてくれる?魔導書本体からはコントロールを切り離したんやけどその子が動いとると管理者権限が使えへん。今そっちに出てるのは、自動行動の防衛プログラムだけやから!』

 

「わかった!」

 

はやての声とともに、闇の書の意思。防衛プログラムは無差別に攻撃を撒き散らした。どうやらナハトヴァールの侵食に抗っているみたいだ。

そこに。

 

『なのは!フェイト!』

 

『フェイト聞こえる!』

 

「ユーノくん!」

 

「アルフも!」

 

ユーノとアルフが目の前のウインドウに映った。

 

『融合状態で主が意識を保ってる。今なら防衛システムを融合騎から切り離せられるかもしれない』

 

「本当? 」

 

「具体的に、どうすれば?」

 

『二人の純粋魔力砲でその黒い塊をぶっ飛ばして!全力全開、手加減なしで!』

 

「さすがユーノ」

 

「わかりやすい!」

 

Indeed.(全くです)

 

「だね!」

 

ユーノの言葉になのはとフェイトは笑いながら同意し、それにそれぞれのデバイスも同意した。

それと同時になのはとフェイトは自分たちのそれぞれの魔法陣を重ねる。二人の周りには大量のスフィアが浮かびフェイトはザンバーフォームのバルディッシュの刃を伸ばし、なのははレイジングハートの先に魔力を収束させる。

 

「いくよ凛華!澪奈!星夜!」

 

《はい!》

 

《うん!》

 

《ええ!》

 

僕の声に凛華は、剣形態から砲撃形態に、澪奈は凛華の砲撃形態と合体して、星夜は翼を砲撃の周囲に舞わせる。シフトチェンジした凛華たちの砲口を暴走している闇の書の意思へと向ける。

 

「N&F、中距離殲滅コンビネーション!」

 

「L&R&S、リミットブレイク!」

 

「ブラストカラミティ・・・・・・!」

 

「カタストロフィブレイザー・・・・・・!」

 

「「ファイアーーー!!」」

 

「フルバースト!!」

 

なのはとフェイトは砲撃を同時に放ち、遅れて周囲に浮かぶスフィアから魔力弾が発射された。僕はなのはとフェイトに続いて虹色の魔力砲撃を放つ。なのはとフェイトの砲撃は闇の書の意思を飲み込みスフィアから発射された魔力弾はナハトヴァールの蛇を吹き飛ばし、僕の砲撃は闇の書の意思を呑み込んで、吹き飛ばされた蛇ごと消し飛ばした。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~はやてside~

 

「強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール。リイン、フォース」

 

闇の書。いや、リインフォースに名前を授けた私は、目映い輝きのあと、辺りが白い空間にリインフォースに裸で抱き抱えられていた。

 

「夜天の魔導書と、その管制融合騎、リインフォース。この身をかけて御身をお守りいたします。ですが・・・・・・」

 

同じく裸のリインフォースが声を募らせた。

 

「ナハトヴァールの暴走が止まりません。切り離された膨大な力が直に暴れだします」

 

「うん。まあ、なんとかしよか」

 

そう言って左手を宙に伸ばすと、夜天の魔導書が現れ、スッと私の手に収まった。

 

「行こうか、リインフォース」

 

「はい!我が主」

 

リインフォースが私の体の中に入り、私は夜天の魔導書を広げる。

 

「管理者権限、発動」

 

パラパラと捲られる頁の一つを開き指でなぞるように、空白の場所を撫でる。

 

「リンカーコア復帰。守護騎士システム、破損回帰」

 

私の周囲に五つのリンカーコアが現れるのを見て。

 

「おいで、私の騎士たち」

 

次の瞬間、リンカーコアが目映い輝きを放ち私はその場から消え去った。

 

~はやてside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

闇の書の意思に絡み付いていた黒い塊を消し飛ばすと、海に現れた黒い穴のようなもの周りに触手のようものに警戒しながら、それと同時に現れた宙に浮かぶ白い光を見守る。

 

「・・・・・・この感じ・・・・・・クロノとプレシアさんにアリアさんとロッテさんかな」

 

闇の書の意思が消え去り、構築していた絶界が解かれ元の結界空間になったのを確認し、反応のあった魔力元を言う。

その瞬間、白い光が縦に貫き、その周囲に四つのベルカ式魔方陣が現れた。その魔方陣はそれぞれ、紫、紅、白、緑の魔力光が煌めき、その魔方陣の上にはシグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマルが立っていた。

そして、中央の白い光の球体に罅が入ると、そこから黒いバリアジャケットを身に纏い、右手に先端に円と十字が合わさっている杖をその手に握っていた。

 

「はやてちゃん!」

 

なのはの声に、はやてはなのはとフェイトを見て、右手の杖を掲げた。

 

「夜天の光に祝福を!リインフォース、ユニゾン、イン!」

 

はやての声に明るい黒い光が現れ、はやての胸に入っていった。次の瞬間、はやてのバリアジャケットにさらにベレー帽やらが追加され、背中からは闇の書の意思が生やしていたものと同じ黒い三対六枚の羽根が付き、髪の色が茶色から亜麻色に、目の色は蒼から水色に変化した。

 

「はやて・・・・・・」

 

「すいません・・・・・・」

 

「あの、はやてちゃん・・・・・・私たち」

 

リインフォースとユニゾンインしたはやてにヴィータたちが口ごもったように言い淀んでいた。

まあ、それは僕にも言えることではある。僕たちのせいではやてにつらい思いをさせてしまったから。

 

「ええよ。全部わかってる、リインフォースが教えてくれた。だから、今は・・・・・・」

 

はやては全部わかってるという風にヴィータたちに言い。

 

「お帰り・・・みんな」

 

両腕を広げて迎え入れるように言った。

 

「・・・・・・っ、うわあぁぁぁん!はやて!はやて!はやてー!」

 

ヴィータは、子供のようにはやてに抱きついて思いっきり泣いていた。この中で一番はやてのことを思っていたのがヴィータだから。僕はその光景を静かに見守っていた。

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんもごめんな。うちの子達が色々迷惑かけてもうて」

 

はやての側まで行ったなのはとフェイトに、泣いたままのヴィータを抱き締めたままはやてが言った。

 

「ううん」

 

「へいき」

 

「ありがとう。それで、零夜くんはいつになったら来てくれるん?」

 

「うっ・・・・・・!」

 

傍観者としていた僕にいきなり声をかけてきたはやてに僕は気まずそうにしながら近寄る。

 

「はやて・・・・・・」

 

「うん」

 

「ごめん。はやてに黙っていて」

 

「ううん。リインフォースが教えてくれたよ。零夜くんが私のために必死になってくれたこと」

 

「はやて・・・・・・」

 

「だから・・・・・・ありがとう、零夜くん」

 

はやてはそう言うと、僕に抱き付いてきた。すでにヴィータはシグナムたちのほうにいる。

 

「あ、あの、はやてさん?さすがに今されても・・・・・・」

 

と、戸惑っていると。

 

「あー。水を指すようで悪いんだが。時空管理局のクロノ・ハラオウンだ」

 

クロノが微妙な表情で降りてきた。

それに続いて。

 

「フェイトの母親のプレシア・テスタロッサよ」

 

「あー、久しぶりだね、はやて」

 

プレシアさんと、アリアさんとロッテさんが降りてきた。

アリアさんとロッテさんに驚くはやてを他所に僕はプレシアさんに聞いた。

 

「ところでプレシアさんは何故ここに?」

 

「それはもちろん、私の大事な娘のフェイトがしんぱ・・・・・・・・・・フェイトを助けるためよ!」

 

「あ、そうですか」

 

フェイトのことが心配、と言おうとしたことにツッコまなかったのは得策だろう。もしツッコんでいたら、プレシアさんお得意のサンダー・レイジが僕に降り注いでいた頃だろう。

 

「あ、クロノ」

 

「なんだ?」

 

「彼をアースラに転送してくれる?」

 

「彼?」

 

僕の言葉に怪訝を浮かべるクロノに、僕は転移魔法で聖良とクライドさんを召喚する。

 

「っ!?」

 

「ま、まさか・・・・・・!」

 

「そ、そんな・・・・・・!」

 

クライドさんを見たクロノとアリアさん、ロッテさんは目を見開いてクライドさんを見る。

 

「ま、まさか・・・・・・父・・・・・さん・・・・・・?」

 

「クライド君・・・・・・なの?」

 

「クロノ・・・・・・久しぶり。アリアさんとロッテさんもお久しぶりです・・・・・・」

 

『あなた・・・・・・』

 

「リンディ・・・・・・」

 

クライドさんに驚きながらクロノたちが声をだすと、空間ウインドウが開き、そこから顔を真っ青にしたリンディさんが映った。

あんまりこの時間を邪魔したくはなかったんだけど。

 

「あのー。取りあえず、クライドさんをアースラに転送してもらってもいいですか?」

 

気まずそうに僕はクロノたちに言った。

 

『そ、そうですね。エイミィ』

 

『は、はい!』

 

エイミィさんの声が聞こえたかと思うと、クライドさんがその場から消え、アースラの方に転移したのがわかった。

 

「エイミィさん、あれの暴走までの時間は?」

 

『え、えっと、あと20分!』

 

「わかりました。そんなわけで、クロノ、あとよろしく」

 

「おい!」

 

説明をクロノに任せると、クロノからツッコミが来たが無視。親指を立てて返す。

 

「はぁ。まぁいい。時間がないので簡潔に説明させてもらう。あそこの黒い淀み。あれは闇の書の防衛プログラムがあと数分で暴走する。それは間違いないか?」

 

「うん。自動防衛プログラム、ナハトヴァール」

 

「正確には、切り離されたナハトヴァールの殺戮という名目で与えられたプログラムだね」

 

「なるほどな。僕らはそれを何らかの方法で阻止しなければならない。停止のプランは今のところ二つ」

 

そう言うとクロノは蒼いデバイスの待機形態のカードを取り出した。

 

「一つは極めて強力な凍結魔法で停止させる。もう一つは軌道上に待機しているアースラのアルカンシェルで消滅させる」

 

「これ以外に良い方法はないかしら?」

 

クロノとプレシアさんの問いにはやてと守護騎士たちが悩みこんだ。

 

「一つ目の、凍結魔法で停止させるは無理だと思うよ」

 

「どういう意味だ零夜?」

 

「あれは単純な魔力暴走状態。例え凍結したとしても、内部から新しく入れ換えられたらきりが無い。凍結魔法で有効なのは、内部も完全に凍結させる魔法だね。石化でも、しばらく動きを止めるのが精一杯だと思う」

 

「なるほどね。じゃあ二つ目の案はどうかしら?」

 

「アルカンシェルもダメ。こんなところで撃ったらあとでこの空間にどんな影響が出るか・・・・・・」

 

僕の説明にクロノとプレシアさんは難しい表情をした。

そこになのはが。

 

「零夜くん、アルカンシェルってなに?」

 

「アルカンシェルってのは、発動地点を中心に半径百数十キロの空間を湾曲させて反応消滅を起こす魔導砲・・・・・・・って言ったら大体わかるかな?」

 

「駄目!絶対駄目!」

 

「アルカンシェルなんて撃ったらはやての家まで消し飛んじゃうじゃんか」

 

なのはとヴィータが両手を×にしてクロノに言う。

そこにフェイトが思い出したかのように僕に聞いてきた。

 

「あ、零夜のあの魔法は?」

 

「あの魔法?」

 

「時の庭園を消し飛ばした魔法」

 

「・・・・・・"ディメンション・イクリプス・ゼロエミッション"のこと?」

 

「そうそれ!」

 

僕の言葉に、全員が僕の方を向いてきた。

 

「あの魔法はあまりここでは使いたくないんだよね・・・・・・」

 

僕は苦虫を噛み潰したように険しい表情で言った。

 

「どういうこと?」

 

「"ディメンション・イクリプス・ゼロエミッション"・・・・・・質量消滅魔法の魔法はアルカンシェルと似た魔法なんだよ」

 

「???」

 

「アルカンシェルは発動地点を中心に半径百数十キロの空間を湾曲させて反応消滅を起こす魔導砲でしょ?"ディメンション・イクリプス・ゼロエミッション"は発動地点を中心に物質全てを消滅させる魔法なんだけど、その影響でこの辺りの空間がヤバイことになる」

 

「具体的には・・・・・・?」

 

「・・・・・・良くて、磁場が乱れる程度なんだけど、最悪、この辺りの物質すべてが消える」

 

僕の言葉にクロノたちは唖然としたように見てきた。

 

「それにあれは単純な魔力の塊だからね。時の庭園は物質だったから良かったけど、あれはさすがに予測できないかな・・・・・・」

 

なにせこの魔法の元は、前世のライトノベルにある、ある本の戦略級魔法が元だからだ。その戦略級魔法は質量をエネルギーに変換する魔法だったが、僕のはそれをアレンジして質量をエネルギーではなく、消滅に変換している。原理はブラックホールと似た感じだ。

 

「つまり、ここでその魔法は放てないと?」

 

「放ってもいいけど、どうなるかはわからないよ?」

 

「「「「「絶対駄目!」」」」」

 

僕の言葉になのは、フェイト、はやて、ヴィータ、ユーノが声を揃えて言った。

 

「まあ、撃つとした宇宙かな・・・・・・あ、ねえ、クロノ」

 

「なんだ?」

 

「アルカンシェルって宇宙でも撃てる?」

 

「は?」

 

「アースラのいる軌道上で撃てる?」

 

『ふふふ。管理局の技術、なめてもらっちゃあ困りますなぁ・・・・・・。撃てますとも、宇宙だろうがどこだろうが!』

 

僕の質問に答えたエイミィさんは誇らしげにそういってきた。

 

「じゃあ、決まりだね」

 

「お、おい零夜、まさかおまえ・・・・・・」

 

「そのまさかだよクロノ」

 

悪巧みでもするかのような笑みを浮かべクロノに言う。

 

「作戦を伝えるよ。今度こそ、この事件に終止符を打つ!」

 

僕は全員を見据えて言った。

 



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決戦

~零夜side~

 

最終決戦へ向けての作戦会議が終わると、クロノが疑問符を浮かべて聞いてきた。

 

「ところで零夜」

 

「なにクロノ?」

 

「その子はいったい誰なんだ?」

 

クロノの視線は僕のバリアジャケットの裾を掴んでいる聖良がいた。

 

「聖良のこと?」

 

「聖良」

 

「あー、この子の名前は聖良。ナハトヴァールの意思だよ」

 

「は?」

 

僕の言葉にはやてとリインフォース以外の全員が目を見開いてこっちを見た。

その数秒後。

 

『『『『『はあああああああああああ!!!?』』』』』

 

なのはたちの絶叫が響き渡った。

 

「ナ、ナハトヴァールの意思だと!?」

 

「うん」

 

「じゃ、じゃああれは!?」

 

「あれはただの魔力の塊って言ったじゃん。コアはあるけど、意思なんかないよ?」

 

僕はシグナムとヴィータの問いに普通に返した。

それと同時に言い忘れていたことを言った。

 

「あ、それと、聖良は僕の新しい家族だから」ふ

 

凛華たちにはすでに伝えていたけど、なのはたちには言ってなかったからね。

僕の言葉になのはたちはまたしてもあんぐりと口を開けて固まった。

 

「あ、あの、零夜くん」

 

「なあに、聖良?」

 

「私とユニゾン、お願いしてもいい?」

 

「うん、いいよ」

 

恐る恐る言った聖良に僕は、聖良の頭を撫でて言い返す。

 

「じゃあいくよ。・・・・・・聖良、ユニゾン、イン!」

 

僕の声に、聖良は小さな白い球体となって僕の胸の中に入った。次の瞬間、僕の長い黒髪が白銀に染まり、両目がそれぞれ右が蒼、左が紅と、オッドアイになった。身長は変わらなく、バリアジャケットも少し丈が伸びたりとしただけで、変化はあまりない。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

≪零夜くん、大丈夫?≫

 

「うん、大丈夫だよ」

 

≪よかった~≫

 

ユニゾンして、頭の中に直接聞こえてくる聖良の声に僕は大丈夫だと言うことを伝えた。

聖良とユニゾンして変わった姿を眺めていると、クロノたちが固まっているのが目に入った。

 

「クロノ?」

 

「零夜・・・・・・」

 

「ん?」

 

「きみはいったいどれだけチートなんだい!」

 

クロノのツッコミにその場の全員がうなずいた。

え?なんで?

疑問に抱いていると僕に。

 

「零夜、これ」

 

アリアさんがデバイスの待機状態の薄紅色のカードを渡してきた。

 

「あ、ありがとうございます、アリアさん」

 

「気にしないで。それと、それの設定をするなら早くした方がいいよ」

 

「ですね」

 

アリアさんから待機状態のカードを受け取り。

 

「オートクレール、展開!」

 

オートクレールを展開した。

 

「オートクレール、使用者承認登録。ユーザー名、天ノ宮零夜。デバイス名オートクレール。愛称はクレハ」

 

オートクレールのシステム認証を一分で終わらせ、オートクレールの杖の柄を持つ。

 

《承認完了》

 

「よろしく、クレハ」

 

《よろしくお願いします、マスター》

 

設定が終わり、クレハに声をかけるとクレハたちが呆れた眼差しで見てきたのが視界に入る。

 

「はぁ。零夜の常識外れは放っといて・・・・・・そろそろ時間だ、各自準備を頼む」

 

なにか失礼なことを言われた気がするのをクロノを視て感じたが今は、闇の書の闇に集中する。

 

「あ、なのは、フェイト。ちょっとこっちに来て」

 

「「?」」

 

「あー、なるほどな~」

 

僕の意図を読んだはやてはシャマルを見ながらうなずいていた。

 

「シャマル、二人の治療、お願いできる?」

 

「はい!任せてください。クラールヴィント、本領発揮よ」

 

Ja(ヤー)

 

シャマルが指輪のクラールヴィントに言うと、なのはとフェイト、僕の身体を暖かい優しい翠の光が包み込んだ。

 

「ありがとう、シャマル」

 

「ありがとうございます!」

 

「助かります」

 

シャマルの治療が完了し、魔力も全部回復したのを感じとると。

 

「―――始まる」

 

海面から黒い澱みを囲うように黒い柱が立ち上った。

 

「夜天の魔道書を呪われた闇の書と呼ばせたプログラム、ナハトヴァールの浸食暴走態―――闇の書の、闇」

 

黒い柱が消え、黒い澱みが膨れ上がったかと思うと、その中から異形な怪物が現れた。

 

「ケイジングサークル!」

 

「チェーンバインド!」

 

まずはユーノのケイジングサークルとアルフのチェーンバインドの拘束魔法が組み合わさって、ナハトヴァールを拘束する。

そしてそこに。

 

「囲え!鋼の軛!」

 

盾の守護獣、ザフィーラが鋼の軛で縫い付ける。

だが、ナハトヴァールは少しの間止まっただけで、軽く動くと突き刺さっていた鋼の軛の白い光の杭は砕かれ、ユーノとアルフの拘束魔法も粉々に破壊された。そこにナハトヴァールは黒い光線を僕らに向けて放ってきた。

立っていた岩場から浮き上がり、空中で避ける。

 

「先陣突破!なのはちゃん、ヴィータちゃん!」

 

シャマルの指示にヴィータとなのはがナハトヴァールに先行する。

 

「おう!合わせろよ、高町なのは」

 

「うんっ!」

 

「やるぞ!アイゼン!」

 

《Gigantform. 》

 

ヴィータはカートリッジを二発ロードしてグラーフアイゼンをギカントフォームに変え、ナハトヴァールの触手が放つ黒い光線を避けて接近する。

 

「アクセルシューター、バニシングシフト!」

 

《Lock on.》

 

なのははレイジングハートから伝えられる情報を元に、標的(ターゲット)捕捉(ロック)し、アクセルシューターを触手に向けて放つ。なのはの放ったアクセルシューターはヴィータの進路先や光線を放とうとする触手を的確に撃ち抜いていく。

 

「シュート!」

 

なのはのアクセルシューターにより道が開け、ヴィータはナハトヴァールの直上に到達して、紅のベルカ魔方陣を展開する。

 

「轟天、爆砕!」

 

カートリッジをさらに一発ロードし頭上に掲げたグラーフアイゼンのギカントフォームはその大きさをさらに増していき元の大きさの数倍は巨大化し、

 

「ギガント、シュラーク!」

 

ヴィータはそれを思いっきりナハトヴァールに向けて振り下ろす。

ヴィータの攻撃は、ナハトヴァールの障壁に当たり、見事障壁の一つを破壊し、その下の二層目も僅かだがダメージを与えることができた。

 

「シグナム、フェイトちゃん!」

 

なのはとヴィータによる最初の攻撃が終わり、シャマルの指示でシグナムとフェイトが空を駆け、ナハトヴァールに迫る。

 

「―――魔法の射手・連弾・光の22矢(サギタ・マギカ・セリエス・ルーキス)!」

 

シグナムとフェイトはナハトヴァールの放つ光線を避けながら飛ぶが触手の数が多い。しかし、後方から僕が魔法の射手で触手を撃ち抜いていき、シグナムとフェイトは安全な場所を飛んで迫る。

 

「行くぞ、テスタロッサ」

 

「はい、シグナム」

 

シグナムを抜かしたフェイトはザンバーフォームのバルディシュを遠心力を利用して、斬撃の衝撃波を飛ばしてナハトヴァールを怯ませて動きを一時的にだが止める。

フェイトはそのままナハトヴァールの後ろに移動して、黄色い魔方陣を展開する。

 

《Bogenform.》

 

シグナムは紫のベルカ魔方陣を展開して、レヴァンティンとレヴァンティンの鞘を縦にあわて、カートリッジを一発ロードしてレヴァンティンを弓の形にする。

シグナムがそのまま弓の紫の弦を引き絞ると、矢が形成され、フェイトはバルディシュを高く掲げあげる。

 

「翔けよ、隼!」

 

《Sturmfalken.》

 

「貫け雷神!」

 

《Jet zanber.》

 

カートリッジをさらに二発ロードしたシグナムは矢を放つ。放たれた矢は炎を纏い、姿は隼だった。放たれた炎の隼()はナハトヴァールの二層目のバリアを一直線に貫き、バリア内部で爆発が起きる。そこにフェイトの雷を纏ったバルディシュの魔力刃が上から振り下ろされ、二層目のバリアを破壊する。

バリアが破壊されたナハトヴァールは周囲に黒い光線を放ちながら新しく追加された翼のようなもので宙に浮かび上がった。そこに僕はアリアさんとロッテさんに指示を出す。

 

「アリアさん!ロッテさん!」

 

「おうよ!」

 

「まかせて!」

 

二手に分かれ、ロッテさんはナハトヴァールの正面に、アリアさんはその後ろに翔んでいき。

 

「ブレイズカノン!」

 

ロッテさんが青い魔力砲撃を放つ。

すでに、身体強化(フィジカルエンチャント)が施されているロッテさんの魔力砲撃はそのまま宙に浮かんでいるナハトヴァールのバリアに当たる。

バリアに当たった魔力砲撃は、バリアを貫きはしなかったが罅が入り、その直後、ナハトヴァールの背後からアリアさんが攻撃しナハトヴァールの動きを阻害する。

 

「いくよ、ロッテ!」

 

「おうよ、アリア!」

 

二人はそのままナハトヴァールを連続で攻撃し、バインドで拘束し動きを阻害して。

 

「「ミラージュ、アサルト!」」

 

アリアさんが魔法攻撃を、ロッテさんが物理攻撃の同時攻撃でナハトヴァールが展開していた五層の内三つのバリアを破壊する。

そこにさらに。

 

「ザフィーラ!」

 

「ウォォッ!」

 

ザフィーラが鋼の軛で宙に浮かぶナハトヴァールの攻撃を阻止し、四層目のバリアを拳で破壊する。

しかし、ザフィーラの物理攻撃を持ってしても、最後の五層目のバリアは破壊できなかった。

 

「プレシアさん!」

 

「ええ」

 

プレシアさんは手に握る杖を掲げ上げ、ザフィーラの鋼の軛で動きを止められているナハトヴァールの頭上に紫色の雷を作り出し。

 

「・・・・・・くらいなさい!サンダー、レイジ!」

 

巨大な紫の雷を落とした。

プレシアさんの強力なサンダーレイジにより五層目のバリアが砕け散り、ナハトヴァールは再び海に落下した。

しかし、ナハトヴァールは再び曼荼羅のようなバリアを展開してきたが。

 

「遅い!無極而大極斬(トメー・アルケース・カイ・アナルキアース)!」

 

僕がそのバリアをハマノツルギですべて破壊して無に還す。

すべてのバリアを破壊され、無防備なナハトヴァールに。

 

「はやてちゃん!」

 

「彼方より来たれ、宿り木の枝」

 

≪銀月の槍となりて撃ち貫け≫

 

「石化の槍」

 

「≪ミストルティン!≫」

 

上空で待機するはやての足元に純白のベルカ魔方陣が輝き、その近くに同じ純白のベルカ魔方陣が浮かび上がりその周囲に光の球体が現れ、はやてとリインフォースの詠唱が終わり、はやてが杖を振り下ろすと、その光は槍の形になり次々とナハトヴァールを貫いていった。

光の槍に貫かれたナハトヴァールは石化していき動きが止まる。だが、石化して外部が崩壊すると、内部から新しい身体を補充するかのような肉塊が出てき、さらにその姿は醜悪になっていった。

 

「いける、クロノ?」

 

「ああ、もちろんだ!」

 

隣に並び立つクロノに聞き、僕はオートクレール、クレハを。クロノはデュランダルを握り締める。

 

『クロノくん、やっちゃえ!』

 

「はぁっ・・・・・・」

 

「ふぅ・・・・・・」

 

クロノがデュランダルを掲げるとナハトヴァールの周囲にデュランダルの付属ピットが浮かび、ナハトヴァールを包囲する。

 

「―――凍てつけ!」

 

「―――凍て吹雪け!」

 

《Eternal Coffin.》

 

「《ニブルヘイム!》」

 

僕とクロノの同時の凍結魔法は一直線にナハトヴァールを多い、凍らせていく。

クロノのデュランダルから放たれた凍結魔法は、ナハトヴァールに直撃すると、広範囲に拡散するがナハトヴァールの周囲に浮かぶピットが、デュランダルの凍結魔法を増幅させてさらに凍らせていく。クレハから放たれたニブルヘイムはナハトヴァールの身体をクロノのデュランダルの凍結魔法を覆うようにさらに冷たくしていき、内部まで凍結させていった。僕とクロノの凍結魔法にナハトヴァールは呻き声を上げるが、やがて僕とクロノの凍結魔法がナハトヴァールを完全に凍りつかせた。

凍りつかせたのを確認した僕はクロノとアイコンタクトして、転移魔法ですでに上空に待機して準備しているなのは、フェイト、はやてのところまで行き、クレハから凛華と澪奈、星夜が一つに合わさった姿の杖に変える。

 

「なのは!フェイト!はやて!零夜!」

 

下から、デュランダルの凍結魔法の影響を僅かに浴びたクロノの声が聞こえるのを確認した僕らは、ナハトヴァールに向けて最大級の魔力砲撃を放つ用意をする。

 

《Starlight Breaker.》

 

「全力全開、スターライト・・・・・・」

 

なのはは、目の前にあるピンク色の巨大な球体に、魔力残滓を集束させていき。

 

《Plasma zanber.》

 

「雷光一閃!プラズマザンバー!」

 

フェイトはザンバーフォームのバルディシュを直上にあげ、降り注いだ雷をバルディシュに纏わせて魔力を込めていき。

 

集い来れ(つどいきたれ)星々よ。悠久の果てに、永遠(とわ)に願いて、彼方へと!インフィニット・・・・・・」

 

僕は凛華たちの前にある、虹色のスフィアになのはと同じように魔力を集束させて集束させた魔力を増幅させる。

 

「ごめんな・・・・・・おやすみな・・・・・・」

 

はやてはナハトヴァールにお別れの言葉を告げると、杖を掲げ。

 

「響け終焉の笛、ラグナロク!」

 

振り下ろした杖の先に白いベルカ魔方陣が浮かび、その魔方陣の頂点部分に魔力を集め。

 

 

 

 

「「「「ブレイカァァァァァァァァァァ!!」」」」

 

 

 

 

なのははピンク色の集束魔力砲撃を。

フェイトは雷の纏ったバルディッシュを振り下ろして砲撃のような黄色い、雷の斬撃の砲撃を。

僕は虹色の、集束した魔力を増幅させた、なのはと同じ集束魔力砲撃を。

はやては白に黒い雷が混じり入った砲撃を。

僕らは同時に、凍りつかせたナハトヴァールに向けて放った。

放たれたフォースブレイカーにより、ナハトヴァールの身体は徐々に崩壊していった。

フォースブレイカーにより、外側から見えるようになったナハトヴァールの核を、シャマルが旅の鏡で探し出す。

 

「捕まえ―――った!」

 

旅の鏡でナハトヴァールのコアを補足したシャマルは、ナハトヴァールの核を隔離してユーノとアルフの前に出す。

 

「長距離転送!」

 

「目標、軌道上!」

 

ユーノとアルフの魔法陣がナハトヴァールのコアを挟み転送準備を整える。

 

「「「転送!!」」」

 

ユーノたちの力を合わせた強制転送魔法が発動し、虹色に光る環状魔法陣が闇の書の闇の残骸とナハトヴァールのコアを囲み、ものすごい速度で軌道上に打ち上げる。

それを僕らは心配するように見る。

 

「大丈夫やよな・・・・・・」

 

「なにも起こらなければ・・・・・・」

 

不安そうに言うはやてに僕も同じように不安げに言ったその瞬間。

 

≪っ!≫

 

「聖良?」

 

ユニゾンしている聖良がなにかを感じ取ったような反応を出した。

 

≪そ、そんな・・・・・・まさか・・・・・・≫

 

「どうしたの聖良?」

 

声に震えが入っているのを感じ取った僕は周りに聞こえないように静かに聞いた。

 

≪ナハトヴァールのコアは・・・・・・まだ生きてる!≫

 

「なっ!!」

 

聖良はナハトヴァールの意思だ。その聖良が言うということは、恐らくそうなのだろう。

 

「くっ・・・・・・!」

 

聖良の言葉を聞き歯を噛み締めていると。

 

「零夜くん?」

 

はやてが心配するように見てきた。

 

「はやて、僕はまだやることがあるみたいなんだ」

 

「え・・・・・・?」

 

「だから、行ってくるね」

 

「ま、待って!」

 

「大丈夫、必ず戻ってくるから」

 

「零夜くん!」

 

僕はそう言うと、後ろから聞こえるはやての声や僕を呼ぶクロノやなのはたちに返事を返さずナハトヴァールのコアを追って、アースラのいる軌道上。宇宙へと飛んでいった。

 

「凛華、澪奈、星夜、クレハ。これで終わらせるよ!」

 

《はい!》

 

《うん!》

 

《ええ!》

 

《イエスマスター!》

 

凛華たちの声を聞きながら僕は宇宙へと駆け昇っていったのだった。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~outer side~

 

 

「コアの転送、来ます!」

 

アースラの中ではアレックスとランディが、ユーノとアルフ、シャマルによって転送されてるナハトヴァールのコアをモニタリングしていた。

 

「転送しながら、生体部品を修復中!は、速いっ!」 

 

「アルカンシェル、バレル展開!」

 

アレックスの言う情報を聞きながらリンディはアルカンシェルの起動準備に入った。バレルには環状魔法陣が取り巻き魔力球が現れる。

 

「ファイアリングロックシステム、オープン」

 

リンディが手を掲げると、目の前に小さな四角いウインドウが浮かび上がった。アルカンシェル発動シークエンスの最終コードだ。

 

「アルカンシェル、発射!」

 

リンディがそう告げると、アースラのバレルからアルカンシェルが発射され、闇の書の闇の残骸とナハトヴァールのコアに向かっていく。魔力球が着弾するのをモニター越しに観たリンディたちは緊張の趣でモニターを観る。その数秒後――――

 

 

 

 

 

 

『そ、そんな・・・・・!艦長!対象から再生反応確認!魔力反応検知!魔力ランク・・・・・・・・・・・・・測定不能!』

 

 

 

 

リンディたちにエイミィからそう告げられた。

 

「測定不能!?」

 

「まさかEX・・・・・・!」

 

EXは魔導士ランク上限であるSSS+ランクをはるかに越えている・・・・・・魔導士の測定不能領域のランクなのだ。

リンディたちが観るモニターには、闇の書の闇の残骸の代わりに人の姿が確認された。その姿は、リインフォースとよく酷似していた。

リンディたちが絶望感に浸り、青ざめているその中。

 

『やっぱり、か・・・・・・聖良の言った通りだったね』

 

モニターから声が聞こえてきた。

 

「こ、この声は零夜君!?」

 

『リンディさん、今すぐその場から離れてください。巻き添えを食いたくないでしょう?』

 

驚くリンディを他所に、零夜はリンディにそう告げた。

モニターに映る零夜の姿はアースラを守るように背を向けていた。

そこへ。

 

『う、嘘でしょ・・・・・・』

 

「どうしたのエイミィ」

 

『れ、零夜君の魔力ランク測定不能です!』

 

「なんですって!?」

 

エイミィから伝えられた報告にリンディたちはまたしても目を見開く。

そんな驚いているのを無視して零夜は呪文をの詠唱を始めた。

 

『リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。契約に従い、我に従え、高殿の王。来たれ、巨神を滅ぼす燃え立つ雷霆。百重千重と重なりて、走れよ稲妻!』

 

零夜が詠唱している最中、アースラには警報が鳴っていた。この警報は巨大な魔力反応があったときに起こるものだ。つまり、今それが鳴り響いていると言うことは。

 

千の雷(キーリプル・アストラペー)固定(スタグネット)!!掌握(コンプレクシオー)

 

とんでもない魔力が吹き荒れていると言うことだ。

リンディたちがモニターの零夜を見ながら思っていると。

 

術式兵装(プロ・アルマティオーネ)、雷天大壮!!』

 

零夜の声とともに凄まじい魔力衝撃がアースラを襲った。

 

『さあ。―――決着をつけよう!』

 

零夜の声に、ナハトヴァールはただ奇声を上げるだけだった。



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最後の戦い

 

~零夜side~

 

「・・・・・・!この感じ・・・・・ヤバイかな」

 

軌道上を目指すため、大気圏を昇っている僕は、行き先から感じ取れる魔力を感じとり、そう声に出した。

そのまま軌道上に到達すると、目の前にはリインフォースと似た姿の人影があった。

そしてその人影からはとんでもない魔力とプレッシャーが感じ取れた。

 

「やっぱり、か・・・・・・聖良の言った通りだったね」

 

ユニゾンしている聖良が言った通りになったことに少々驚きながら、目の前のナハトヴァールを見ていると。

 

『こ、この声は零夜君!?』

 

空間ウインドウが開き、そこにリンディさんが映った。

後ろを見ると、アースラが滞空していた。

僕はそのままナハトヴァールを見ながらアースラにいるリンディさんにウインドウ越しに警告する。

 

「リンディさん、今すぐその場から離れてください。巻き添えを食いたくないでしょう?」

 

そう言うと僕は一方的に通信を切った。

通信を切るのと同時に、年のためにアースラに魔力障壁を施しておく。

 

《零夜くん、対象の魔力ランク測定不能です》

 

「測定不能・・・・・・ね・・・・・・」

 

星夜からの分析結果に僕は冷や汗を流せながら見据える。

 

「・・・・・・やるしかないね」

 

静かにそう呟くと、少しの間目を閉じて、カッと見開いてナハトヴァールを鋭く見据え唱える。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。契約に従い、我に従え、高殿の王。来たれ、巨神を滅ぼす燃え立つ雷霆。百重千重と重なりて、走れよ稲妻!」

 

周囲にはバチバチと雷が飛び散る。

 

千の雷(キーリプル・アストラペー)固定(スタグネット)!!掌握(コンプレクシオー)

 

千の雷の魔力を放出せずにその場に固定して、体内に取り入れる。

千の雷を取り入れた僕の身体は眩い輝きを放って、白く光はじめた。

 

術式兵装(プロ・アルマティオーネ)、雷天大壮!!」

 

僕のとっておきにして奥の手の一つ、闇の魔法(マギア・エレベア)。知智お姉ちゃんたちが手伝ってくれた、僕の魔法の奥の手の一つだ。ちなみに前世にあったマンガでのこれの弱点は明莉お姉ちゃんが何とかしてくれたらしい。してくれたらしい、ってのは具体的に何をしたのか聞いてないからだ。聞きたかったがただ笑うだけで聞かないほうが得策だと判断したからだ。

一応まだ奥の手のはいくつかあるが、今はこれで。

 

「さあ。―――決着をつけよう!」

 

術式兵装を身に纏い、クレハはカード状態の待機形態にして、星夜は背中の双翼形態に、凛華と澪奈はそれぞれ片手剣形態の僕に対面するナハトヴァールは奇声をあげた。

 

≪零夜くん、あれはコアをなんとかしないと無限に回復するよ!≫

 

「わかったよ聖良。じゃあ、なんとかしようか!」

 

ユニゾンしている聖良に話し、僕は先手必勝とばかりにナハトヴァールに攻撃を仕掛ける。

 

「はああっ!」

 

千の雷を取り込んだ、雷天大壮の効果により、スピードが上がり、一瞬でナハトヴァールの正面に接近して右手の凛華を横薙ぎに振りかぶる。

雷天大壮の効果によって得た雷速機動は雷の速度で移動することが出来る。思考反応速度は上がらないが、その点は知智お姉ちゃんとの訓練で身に付いてる。

一瞬。一閃の合でナハトヴァールの脇腹には切り傷がついていた。

しかし。

 

「あの程度じゃ、大したダメージにならないんだ・・・・・・」

 

「―――――――――!!」

 

耳障りな断末魔の声を上げて、ナハトヴァールは傷を治していた。

それと同時に僕を睨み付けながらドス黒いオーラを纏い殺気を出すと、自身の周りに魔力スフィアを大量に出してきた。

 

「フェイトになのは、ヴィータの魔法かー・・・・・・」

 

≪あれは今まで蒐集してきた魔法の全てがつかえてるよ!≫

 

「あー・・・・・・やっぱりそうなんだ」

 

ハマノツルギで消すことも出来るが、ハマノツルギの無極而大極斬(トメー・アルケース・カイ・アナルキアース)は全方位ではなく、正面にしか出来ないから無理だ。

 

「なら・・・・・・魔法弾には魔法弾でね!」

 

僕はそう言うと周囲に複数の魔方陣を展開させる。

展開させ終わるのと同時に、ナハトヴァールは僕に攻撃してきた。

そして。

 

「―――魔法の射手・連弾・精霊の1001矢(サギタ・マギカ・セリエス・スピリトゥス)!」

 

僕もオリジナルの魔法で攻撃する。

精霊の矢は魔法の射手の雷や氷、光、闇、などのすべての攻撃を合わせた魔法だ。まあ、魔力はかなり持っていかれるが、こういう複数の攻撃には効果的だ。

 

「やあぁぁっ!」

 

そしてそれと同時に断罪の剣を付与した凛華と澪奈でソードスキルで攻撃する。

だが。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「まあ、僕の魔法も使えるんだからそりゃ使えるよね・・・・・・。―――断罪の剣を」

 

ナハトヴァールは手刀にした右手から闇色に輝く断罪の剣を見せて、僕の攻撃を受け止めた。

 

「なら―――氷爆!」

 

氷爆で攻撃すると、ナハトヴァールはそれをギリギリのところで上に避けた。

そこへ。

 

「―――雷氷の戦鎚!」

 

オリジナル魔法の氷でできた巨大な球体に雷を纏わせた氷球を落とす。

しかしナハトヴァールは、落下してくる雷氷の戦鎚を一刀両断して真っ二つに切り裂いた。雷氷の戦鎚は単純な物理攻撃であるからこういう風に対処されるのは予測済みだ。

 

「―――戒めの鎖(レージング)!」

 

雷氷の戦鎚を切り裂いたところに拘束魔法、戒めの鎖で縛り上げて拘束する。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「嘘でしょ・・・・・・」

 

しかし、ナハトヴァールは戒めの鎖を強引に引き千切って攻撃してきた。とっさに避け、距離をとり、星夜に指示を出す。

 

「星夜、スタービット!」

 

《了解ですわ!》

 

双翼形態の星夜から八つの小型砲撃機(ビット)が飛び出しナハトヴァールを囲むように飛び回る。

 

「スタービット、飛星剣(フェグラディア)!」

 

飛び回るスタービットからナハトヴァールに向けて剣のように光弾が放たれる。

 

「澪奈、形態変更(チェンジ)細剣(レイピア)!」

 

《うん!》

 

澪奈にそう指示をして、刀身の形を細身の剣。細剣にして、細剣ソードスキル《シューティングスター》でナハトヴァールに迫って貫かせる。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

シューティングスターの突進力と雷速機動によって一瞬でナハトヴァールの背後に回る。ナハトヴァールは左手に傷を負って甲高い声を上げるがすぐに傷を治した。

ナハトヴァールはそのまま幾重の魔法陣を起動させると攻撃を仕掛けてきた。

 

「くっ!」

 

正直言って面倒。

魔法陣から放たれる魔力弾や、魔法の射手などを捌きながらそう悪態つく。

 

「っ!?」

 

視界にナハトヴァールの姿がないことに驚いて辺りを見渡すと。

 

「がっ・・・・・・・!」

 

後ろから衝撃がきて吹き飛ばされた。

 

「えぇーいっ!」

 

吹き飛ばされながらも、雷槍や氷槍を飛ばして攻撃する。しかし、それは当たる直前に障壁によって防がれ、逆にこっちが拘束された。

 

「(この魔法はユーノとアルフの・・・・・・)星夜、バインドブレイク!」

 

《はい!》

 

星夜が魔法の解析をして、僕が支配領域(インペルマジェスター)でバインドを破壊した。

その間にナハトヴァールは。

 

「―――契約に従い、我に従え、炎の覇王。来たれ、浄化の炎、燃え盛る大剣。ほとばしれよ、ソドムを焼きし火と硫黄。罪ありし者を死の塵に」

 

「なっ!?ヤバッ!」

 

炎系統の最上位魔法を詠唱していた。

 

「スタービット、星盾(スクレーティア)!」

 

八つのビットを一つに合わせて正八角形の盾を作り出して障壁を発生させる。

 

「凛華、障壁お願い!」

 

《わかりました!》

 

ハマノツルギを出して防いだり、雷速機動で避ける時間も無いため、僕は瞬時に障壁を張って防御に備えるが、どこまで持つかわからない。

障壁を張り終えるのと同時に。

 

「―――燃える天空(ウーラニア・フロゴーシス)

 

ナハトヴァールの広範囲焚焼殲滅魔法が放たれ、焚焼が僕を襲う。

 

「くっ・・・・・・!!」

 

障壁を張ってなんとか防ぐが、威力が高い。

そのまま障壁ごと僕は、焚焼に包み込まれ、爆発が起こった。

しばらく耐えると爆発が収まり、視界が張れた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。・・・・・・障壁を張ってなかったらヤバかったね。みんな大丈夫?」

 

バリアジャケットが所々破かれながら、僕は凛華たちに聞く。

 

《大丈夫です!》

 

《私もなんとか!》

 

《平気ですわ!》

 

≪わたしも大丈夫だよ!≫

 

クレハはカード状態の待機形態にしてポケットにしまっているから安全だが、凛華たちはなんとか無事みたいだ。

 

「それにしてもあれは僕を挑発してるのかな?」

 

正直、僕の知識と記憶した魔法と戦闘技術をコピーしているとしか思えないナハトヴァールの戦いにイラついていた。

 

「断罪の剣だけでなく、燃える天空や魔法の射手まで・・・・・・さらにはソードスキルまで使ってくるなんて・・・・・・・」

 

そう、幾分か打ち合ったりしている最中、ナハトヴァールは手刀にした右手の断罪の剣からソードスキルを出してきているのだ。

 

「・・・・・・・・・・ふざけんな」

 

「ッ!!?」

 

目付きを鋭くして殺気を出してナハトヴァールを見ると、ナハトヴァールは威圧感に気落とされたように少し後ろに下がった。

 

「その魔法とスキルは僕とお姉ちゃんと華蓮を繋ぐための大切な能力だ。なにもしらないヤツが使うなよ」

 

静かにそう言う僕に、ナハトヴァールは脅えたように下がる。

 

「もうここからは手加減しない。全力全開で、手加減なしでお前を滅ぼす。覚悟しな」

 

口調が荒くなっているが気にせず、僕は左手を広げ、新たな詠唱をする。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。契約に従い、我に従え、氷の女王。疾く来たれ、静謐なる、千年氷原王国。明けぬ夜、吹きすさぶ冬の嵐。咲き乱れ、舞い散れ、永遠の白き薔薇園!」

 

辺り一体を絶対零度の氷点下が包むなか、僕は終の一言を発する。

 

千年氷華(アントス・パゲトゥ・キリオン・エトーン)!!固定(スタグネット)!!掌握(コンプレクシオー)

 

 

千の雷と同じように、千年氷華の魔力を放出せずにその場に固定して、体内に取り入れる。

千年氷華を取り入れた僕の身体は眩い輝きを放って、蒼白く輝きはじめ、周囲は吹雪と放電が吹き荒れる。

 

術式兵装(プロ・アルマティオーネ)!天雷氷華!」

 

千の雷と千年氷華を取り込んだ術式兵装。

僕の現時点での奥の手中の奥の手。それが天雷氷華。

天雷氷華の能力は雷速機動。氷と雷系統の上級までの無制限行使。最上級は詠唱しなければならないが、上級までは無詠唱で行使可能だ。

 

「まずはこれだよ」

 

「ッ!!」

 

そう言うと僕はナハトヴァールに向けて魔法の射手の雨を降らせ、氷槍と雷槍で攻撃する。

 

「来たれ炎の精。穿きたる鋭き槍となりて敵を焼き尽くせ!連槍・炎の52槍!」

 

さらに炎の槍でナハトヴァールを攻撃する。

防御に全力を注いでいるナハトヴァールは攻撃する暇もなく、防御に手を回していた。

 

「言ったでしょ?全力全開、手加減なしでお前を滅ぼす、って?この程度はまだ序の口だよ!」

 

そう言うと僕はスタービットを飛ばしてナハトヴァールを囲むように指示を出す。

 

「スタービット、星砲(スティングーラ)!」

 

スタービットの砲口から強力な光の砲撃がナハトヴァールに浴びせられる。

さらにそこに。

 

「凛華、砲撃形態(シューティングモード)!」

 

《はい!》

 

「カートリッジロード!―――ルミナスバスター!」

 

凛華のカートリッジを2発ロードした、純白の魔力砲撃がナハトヴァールに当たった。

ナハトヴァールに当たると爆発が起き、宇宙空間なのに煙が立ち上がる。

 

《零夜くん、現在の天雷氷華が維持できるのはあと8分!》

 

そこに凛華からの警告が入った。

まだ天雷氷華は未完成なのだから仕方がないのだが、僕は凛華に返事を返す。

 

「了解。それまでにあれを倒す!」

 

視線の先の煙が徐々に晴れてくると。

 

「っ!」

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ナハトヴァールは突進して僕に攻撃してきた。

しかも、左手にも断罪の剣を出していることと、さっきのライトエフェクトからソードスキルだとわかる。

 

「それの元をしらないお前がソードスキルを使うな!」

 

僕は凛華と澪奈を片手剣形態にし、≪二刀流≫カウンターソードスキル《スペキュラー・クロス》で攻撃してきたナハトヴァールの攻撃を受け流して、逆に斬りつける。そしてそこから連続で攻撃を始める。

 

「ぜりゃあ!」

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

二刀の光速の連続攻撃をナハトヴァールはギリギリのところで捌く。しかし、徐々にその反応も遅れていっていた。

 

「はああっ!」

 

両手の断罪の剣を破壊して、怯んだところに連続でソードスキルを叩き込む。

 

「スターバースト・ストライク!」

 

ラストにスターバースト・ストリームとヴォーパル・ストライクを合わせたオリジナルのソードスキルを叩き込む。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

既にボロボロで、所々から闇のオーラが洩れているナハトヴァールは絶叫を上げ、そのまま僕に魔法攻撃をしてくるが。

 

「遅い!」

 

ナハトヴァールの足元から氷の石柱を出現させる。

そしてそこに。

 

「―――術式解放(エーミッタム)こおる大地(クリュスタルザティオー・テルストリス)奈落の業火(インケンディウム・ゲヘナエ)冥府の(ホ・モノリートス・)石柱(キオーン・トゥ・ハイドゥ)白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!」

 

連続で上級魔法を連発する。

ナハトヴァールの足元には氷の槍が出来上がっていて、ナハトヴァールを闇色の炎が包む。その上からは物質による巨大な石柱が降り注ぎ、白い雷がナハトヴァールを襲う。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ナハトヴァールは絶叫しながら、天地万雷の魔法の数々を防ぐがその障壁にも皹が入る。

 

「まだだ!―――術式解放!燃える天空(ウーラニア・フロゴーシス)引き裂く大地(テッラ・フィンデーンス)千年氷華(アントス・パゲトゥ・キリオン・エトーン)!」

 

そこに保存(ストック)しておいた最上級魔法を連続で放つ。

超高温の焚焼がナハトヴァールを焼き、大地からの奔流がナハトヴァールを襲い、絶対零度の氷の華園がナハトヴァールを閉じ込める。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「これで!―――術式解放!千の雷(キーリプル・アストラペー)!」

 

千年氷華の氷の華園に閉じ込められたナハトヴァールに強力な雷が降り注ぐ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

ここまで連続で魔法を行使したのは始めてなためさすがに息が上がった。

ナハトヴァールの方を見るとすでに構成されていた身体はボロボロで何時崩壊してもおかしくないほどだった。

 

「もう、静かに眠れ」

 

そう言うと僕は凛華たちを合わせたデバイスの砲口をナハトヴァールに向ける。

 

《ごめんね・・・・・・今まで苦しかったよね。そして、ありがとう》

 

聖良はお別れの言葉を言い、僕はナハトヴァールに。

 

「お疲れさま、そして、安らかな、幸せな眠りを」

 

そう静かに言った。

 

「聖良」

 

《うん》

 

「《ディメンション・イクリプス・ゼロエミッション!》」

 

聖良と同時に、質量消滅魔法を言い、砲口から白と黒の混じった魔力砲撃がナハトヴァールを貫き包み込んだ。

そして――――

 

「・・・・・・・・・・おわったね」

 

ナハトヴァールをコアごと消滅させ、もう反応が無いのを確認した僕は、ナハトヴァールがいた場所を見ながらそう言った。

ナハトヴァールが消滅する最後、僕は脳裏にありがとう、とナハトヴァールからの声が聞こえた気がした。

 

《零夜くん》

 

「なに聖良?」

 

《あのね、さっきあの子からありがとうって聞こえたよ》

 

「うん。僕も聞いたよ」

 

《零夜くんのお陰で終わったの。だから、ありがとう零夜お兄ちゃん》

 

「零夜お兄ちゃん、か。はは、少し嬉しいかな」

 

聖良にお兄ちゃんと呼ばれて少し照れ恥ずかしくなり、頬を掻いて言う。

それと同時に、術式兵装の天雷氷華が解除され、聖良とユニゾンした状態に戻った。

そうなったのと同時に、僕の身体が痛いくらい悲鳴を上げた。

 

「くっ!さすがにやり過ぎたかな・・・・・・」

 

術式兵装の雷天大壮。そして、未完成とはいえ、術式兵装、天雷氷華。さらにオリジナルソードスキルと、魔法の連続行使。普通の人なら脳が耐えきれなくて焼け死んでいるだろう。明莉お姉ちゃんたちのお陰でなんとかなっている感じだ。

そう思っているところへ。

 

『無事か零夜?』

 

クロノから連絡が来た。

 

「これが無事に見える、クロノ?」

 

『いや、まったくだな』

 

「でしょ?悪いんだけど回収してもらっていい?」

 

『わかってる、エイミィ』

 

『了解!ちょっと待ってね零夜君』

 

クロノとエイミィさんの声が聞こえたかと思うと、不意に目眩が訪れ視界が揺らいだ。次に目を開けると、そこはアースラの艦橋だった。

そう視界に入り、一安心したところに一気に身体が重くなり、意識を失った。最後に聞こえたのは、聖良のお兄ちゃんと、呼ぶ声だった。

 

 



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夜天の魔導書

 

~なのはside~

 

「あれ、零夜くんなの・・・・・・?」

 

アースラに転移された私たちは、アースラのスクリーンに映っている映像に呆然としていた。

 

「間違いあらへん・・・・・・零夜くんや・・・・・・せやけど・・・・・・」

 

私の問いに、リインフォースさんに抱き抱えられてるはやてちゃんが言った。

そこにエイミィさんが。

 

「零夜君、魔力ランク測定不能!さらに魔力が上昇しています!」

 

驚愕の声を上げていった。

信じられないと思っていたそこにシグナムさんが。

 

「リインフォース、あの魔法はなんなのかわかるか?」

 

「すまないが、私にも分からない。ただ、我らの使う魔法とは全く違う魔法だということはわかった」

 

「だろうな。あたしから見ても零夜の魔法はあたしらとは違う系統だ」

 

「炎に氷に雷。少なくとも零夜は三つの・・・・・・もしかしたらそれ以上の変換素質を持っているのかもしれないな」

 

「変換素質持ちなんて、管理局に百人もいないのに・・・・・・。それこそ、二つ持ちでも十分珍しいのにそれ以上だなんて」

 

「しかも個人でアルカンシェル並の砲撃を放てますからね」

 

「質量消滅魔法・・・・・・ね」

 

スクリーンに映る零夜くんはデバイスのリンカーネイトさんたちを駆使して、闇の書の闇と闘っていた。

零夜くんの姿は白く光輝いていて、目にも留まらぬ速さで闇の書の闇と相対し、連続で魔法を使っていた。

正直言って、私たちと次元が違いすぎる。

 

「次元が違いすぎるな・・・・・・」

 

「ええ。けど、かなり身体に負担が掛かっているはずよ」

 

シグナムさんとシャマルさんがスクリーンを観ながらそう呟いた。

その瞬間、スクリーンの映像が目映く光り、ブラックアウトしたかと思った数秒後、零夜くんがデバイスを満身創痍の闇の書の闇に向けていた。

 

「どうやら決着がついたそうだな」

 

クロノくんがそう言ったその瞬間。

 

『≪ディメンション・イクリプス・ゼロエミッション!≫』

 

零夜くんと、確か聖良ちゃん?の声が聞こえ、零夜くんの持つデバイスから白と黒の砲撃が放たれ、闇の書の闇を呑み込んだ。

次にスクリーンには闇の書の闇はどこにも映ってなかった。

そこに。

 

「対象・・・・・・反応ありません!完全消滅確認!周囲の空間に異常なし!」

 

エイミィさんからの声に一瞬の間が明いた次の瞬間、あちこちから歓声が上がった。

 

「無事か零夜?」

 

そんななかクロノくんは通信ウインドウを開き零夜くんに話しかけていた。 

 

『これが無事に見える、クロノ?』

 

「いや、まったくだな」

 

『でしょ?悪いんだけど回収してもらっていい?』

 

「わかってる、エイミィ」

 

「了解!ちょっと待ってね零夜君」

 

エイミィさんがコンソールを操作すると、後ろの転移装置が光り、そこから満身創痍の零夜くんが表れた。

 

「零夜くん、大丈夫?」

 

私は、心配して零夜くんに声をかける。

が、零夜くんからなんの反応もなかった。

不安に思ったその時。

 

「零夜お兄ちゃん!」

 

零夜くんのユニゾンが解け、零夜くんの目の前に私たちと同い年ほど小さい女の子が現れ、倒れてきた零夜くんを支えた・・・・・・・・・・ん?

 

『『『『零夜お兄ちゃん?!』』』』

 

私たちは一斉にそうツッコんだ。

クロノくんなんか珍しく目を見開いている。

私たちがそんな反応していると。

 

「やれやれ、相変わらず騒がしいですわね」

 

「まぁまぁ。聖良ちゃんの言葉に驚いているんだから?」

 

「なんでそこで疑問符が着くの~?」

 

零夜くんのデバイスが光り、そこから三人の女の人が出てきた。

 

「え、ええ?」

 

「えっと・・・・・・どちら様?」

 

「あ、これは失礼しました。はやてちゃんたち以外は初めましてですね。マスター・・・・・・零夜くんのデバイス、リンカーネイトこと、天ノ宮凛華です」

 

「私は、レイオブホープこと、天ノ宮澪奈だよ!」

 

「同じく、ステラメモリーこと、天ノ宮星夜ですわ」

 

どうやらこの人たちは零夜くんのデバイスみたい。

うん、どういうこと?

はやてちゃんやヴィータちゃんたちは知ってるみたいだけど、リンディさんやプレシアさんは驚きを醸し出していた。

 

「って、そうじゃなくて!零夜くん大丈夫なの!?」

 

唖然としていた私は思い出したかのようのに言った。

 

「大丈夫か大丈夫じゃないか、と言われたら、大丈夫じゃないですね」

 

「「「「えええぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」

 

凛華さんの言葉に私とフェイトちゃん、はやてちゃん、ヴィータちゃんが声をあげる。

 

「まぁ、しばらく休ませたら大丈夫だよね?」

 

「ええ。今は魔力の過剰行使による魔力不足と、闇の魔法(マギア・エレベア)、行使によって身体が動かないだけですから」

 

「ってな訳で、零夜くんをベットに運びたいんですけど・・・・・・」

 

「あ、はい。こちらです」

 

聖良ちゃんと澪奈ちゃん?に支えられながら、リンディさんの案内のもと零夜くんは艦橋から運ばれていった。

私たちはそれを呆然と見ることしか出来なかったのであった。はっきり言って、処理が追い付かないよぉ~!!

 

~なのはside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~聖良side~

 

「―――どういうことだ?」

 

「消えるのは私だけだと言うことです」

 

私は目の前にいるリインフォースさんたちにそう告げた。

 

「闇の書の防衛プログラムは私という意思が無くなったことと、コアが消滅してもまた新しく防衛プログラムを作ってしまうでしょうね」

 

そう言うと私は闇の書の背表紙を撫でた。

 

「やっぱり、破損は致命的な部分にまで至っています」

 

「やはり、そうなのか?」

 

「はい」 

 

私たちが居るのはアースラ内部の会議室のような部屋。

 

「防御プログラムは停止しましたけど、歪められた基礎構造はそのままなんです。夜天の魔道書、本体は、遠からずまた新たな防御プログラムを生成して、また暴走を始めるでしょう。今度は、予備動作なしではやてさんも取り込むはずです」

 

私の言葉に、辺りは沈黙が覆った。

 

「修復はできないんですか?」

 

リンディさんが思案顔で訪ねてきた。

私はそれに首を横に振って答えた。

 

「無理です。管制プログラムであるリインフォースさんの内部データからも。私も、ナハトヴァールと呼ばれた防衛プログラムによって、夜天の魔道書、本来の姿は消されてしまってます」

 

「元の姿が分からなければ、戻しようが無いという事か」

 

「その通りです」

 

ザフィーラさんの問いに私は静かに答える。

 

「けど、零夜はそれを・・・・・・闇の書を夜天の魔導書に戻せるって言っていたぞ?」

 

ヴィータさんは思い出したかのようにそう言った。

それに対して答えたのは。

 

「確かに零夜くんの魔法なら、闇の書を改変される前の夜天の魔導書本来の姿に戻すことが出来ます」

 

「けど、現時点ではそれは出来ませんわ」

 

「凛華さん、星夜さん、どういうことですか?」

 

「零夜くんはここ最近の無理が多々って、しばらく動けないんだよ」

 

リンディさんの疑問に、澪奈さんが答えた。

 

「確かに、ここ最近、我らの変わりに零夜が蒐集の大部分を補っていた」

 

「ええ。学校を休んでまで蒐集してくれていたものね」

 

シグナムさんとシャマルさんがどこか悲観めいた感じで言う。

 

「そんな・・・・・・!」

 

「そんなに・・・・・・!」

 

「私のために・・・・・・・」

 

事情を知らなかったのであろう、なのはさんとフェイトさん、そしてはやてさんが悲痛の趣で言う。

 

「さらに、零夜くんははやてちゃんが魔法を使っても大丈夫なよう、はやてちゃんに魔力を宇宙に上がる前のあの時に譲渡しています。今の零夜くんの魔力はほぼゼロです」

 

「最短でも、一週間は目を覚まさないと思うよ」

 

「そんな・・・・・・っ!」

 

はやてさんが驚愕めきながら言う。

そこに、シグナムさんとザフィーラさんが問い掛けてきた。

 

「だが、それでおまえだけが消えると言うのはどういうことだ?」

 

「我らも消えるのではないのか?」

 

「いいえ。私は、闇の書の内部から出るとき、管制人格のリインフォースさんと守護騎士であるシグナムさんとシャマルさん、ヴィータさん、ザフィーラさんを、別プログラムとして闇の書から切り離しました。今のみなさんは、プログラムではなく、はやてさんと同じ存在です」

 

私がそこまで言うと、管制人格のリインフォースさんはなにかに気づいたかのように私を見てきた。

 

「ま、まさかと思うが・・・・・・・」

 

「ええ。闇の書のすべてを私一人が背負っているんです」

 

「?どういうことなんリインフォース?」

 

「聖良は・・・・・・闇の書の本体でもあると言うことです主」

 

『『『『『!!??』』』』』

 

今の私は、闇の書の防衛プログラムなのではなく、リインフォースさんの変わりに闇の書の本体を管理している、情報管制端末でもあるのだ。

 

「じゃ、じゃあリインフォースはなんなん?!」

 

「リインフォースさんはシグナムさんたちと同じで騎士という存在です。はやてさんとユニゾンは問題なく出来ます」

 

私がそう言うとリインフォースさんは驚いたように自分を見た。

 

「そして、闇の書が新しく防衛プログラムを作り上げるのにそう猶予はありません。予測であと五日・・・・・・」

 

幾ら防衛プログラムのコアを破壊したとはいえ、それは私のプログラムであったコアだ。また新しく作られてしまえばそこに上書きされる。そうなってしまえば、私という存在は消滅してしまうだろう。

そうなったら、あの苦しみを新しい私に味合わせることになる。それだけは絶対に阻止したい。私は話ながらそう思った。

 

「その前に私を・・・・・・なのはさん、フェイトさん、はやてさん。三人の魔法で私を闇の書ごと消してください」

 

「そんなのダメだよ!」

 

「できない!」

 

「そうや!零夜くんが悲しむ!」

 

なのはさんたちがそう言ったそのとき。

 

「なに勝手に消えようとしてるの聖良!」

 

『『『『『!?』』』』』

 

部屋の入り口からよく響く声が聞こえた。

声の発生場所を見ると、そこには。

 

「零夜お兄ちゃん・・・・・・」

 

私服姿の零夜お兄ちゃんがいた。

 

~聖良side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

「ん・・・・・・」

 

目を覚ましてまず最初に目に入ったのは、アースラの天井だった。

 

「ったたた・・・・・・・よっと」

 

身体があちこち痛いが、少し寝たため動けないほどでもなく、寝ていたベットから降り医務室らしき部屋を後にする。

 

「あれ、凛華たちどこにいったのかな。クレハ、知ってる?」

 

《いいえ。行き先までは不明です》

 

「じゃあ探そっかな?」

 

クレハの答えに僕はちょっと苦笑して広範囲索敵魔法を使う。

 

「見つけた、会議室かな?」

 

僕は凛華たちの反応があった部屋へと向かった。

扉の前に立った僕は、中から聞こえてくる声に眉を寄せた。

 

『なのはさん、フェイトさん、はやてさん。三人の魔法で私を闇の書ごと消してください』

 

「聖良?」

 

僕は聖良の言った言葉が瞬時には理解できなかったが、その一秒後理解できた。聖良が闇の書、夜天の魔導書ごと消えようとしていることに。

さすがにこれには僕も怒る。

そう思いながら中に入り、

 

「なに勝手に消えようとしてるの聖良!」

 

僕は聖良に向かってそう言った。

 

「零夜お兄ちゃん」

 

「なんで、僕に相談もなく消えようとしてるの!」

 

僕は聖良の前に立ってかなり本気で怒っていた。

なのはたちが驚いているがそれは視界に入らない。

 

「聖良はもう僕たちの家族なんだよ!天ノ宮聖良って言う、ちゃんとした名前があるの!」

 

「零夜くん落ち着いてください」

 

「凛華」

 

「聖良ちゃんの話を聞いてあげてください」

 

凛華の制止の声に僕は声を止め、聖良を見る。

 

「だって、お兄ちゃんが目を覚ます頃にはもう無理だと思ったから・・・・・・」

 

聖良はうつ向きながら涙声で言ってきた。

 

「はやてさんにもリインフォースさんにも、お兄ちゃんにも迷惑かけないためには私が・・・・・・・・・私自身の罪でもある闇の書と一緒に消えないと・・・・・・・!」

 

「聖良・・・・・・」

 

「最後に、聖良っていうちゃんとした名前を貰えて、お兄ちゃんたちと一緒に闘えて、空を飛べてよかった。だから・・・・・・!」

 

僕は聖良の涙声で言う言葉を抱き締めて無理矢理止めさせた。

 

「大丈夫。大丈夫だから。聖良の罪は僕も背負っていくから。一人で消えようとしないで・・・・・・・!お願いだから勝手にどこかに行かないで!もう、家族がいなくなるのは嫌だから・・・・・・!」

 

聖良を抱き締めながら、僕は心に思っていた本心を言う。せっかくの新しい家族が、また消えるのは嫌だから。そんな辛い思いをするのはもう嫌だから。

 

「零夜・・・お兄ちゃん・・・・・・」

 

僕の言葉に聖良はさらに強く抱き締め返してきた。

そした頬に、少し冷たい聖良の涙が流れているのが伝わってきた。

 

「ごめん・・・なさい・・・・・・ごめんなざいお兄ちゃん・・・・・・ご()んなじゃ()い」

 

「うん。うん」

 

嗚咽声を上げながら、涙を流す聖良に僕は赤子のように優しく背を叩いて、頭を撫でた。

幼い聖良は今まで耐えてきた涙を吐き出すように泣き続けた。僕はそれを優しく抱き締めたまま聖良の好きなようにさせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと。それじゃあさっそく始めちゃいましょうか」

 

僕はアースラの中にある訓練室でそう言った。

聖良が泣き終えたあと、僕はリンディさんに話し、この訓練室を借りたのだ。この場にいるのはリンディさん、クロノ、エイミィさん、クライドさんたちアースラ乗組員。なのはやフェイト、はやてにユーノたち。そしてグレアム叔父さんとリーゼ姉妹だ。この事件の関係者ほぼ全員が訓練室の壁際に並んで立っていた。

 

「だ、大丈夫なの零夜くん?!」

 

「大丈夫だよなのは」

 

心配そうに聞いてくるなのはに、僕は微笑み返して宙に浮かぶ闇の書もとい、夜天の魔導書を見る。

 

「お兄ちゃん」

 

僕の傍に立って不安げに見てくる聖良に、僕は聖良の髪を撫で微笑み返す。

 

「大丈夫だよ」

 

「・・・・・・うん!」

 

そう言うと聖良はニコッと笑い返してくれた。

 

「さあてと。凛華、澪奈、星夜、最後の一仕事張り切っていくよ!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

「ええ!」

 

人形の凛華たちにそう言い、僕はバリアジャケットを身に纏う。

 

「聖良、いくよ!」

 

「うん!お兄ちゃん!」

 

「「ユニゾン、イン!」」

 

聖良とユニゾンしたことにより、僕の長い黒髪が白銀に染まり、両目がそれぞれ右が蒼、左が紅と、オッドアイになった。身長は変わらなく、バリアジャケットも少し丈が伸びたりとしただけで、変化はあまりない、決戦の時と同じ状態だ。

 

支配領域(インペルマジェスター)!」

 

僕はさっそく支配領域で夜天の魔導書を囲う。

 

「澪奈、結界構築!星夜、情報解析!凛華、情報整理!」

 

《うん!》

 

《はい!》

 

《わかりました!》

 

支配領域の領域結界を澪奈が増強し、星夜は夜天の魔導書内部の情報を解析し、凛華が星夜の解析した情報を整理する。そして、それを僕が内部構造を把握し防衛プログラムの本体を捜し出し、それを分離する。

流石にこれは僕一人だけでは無理だ。凛華たちの能力が合ってこそだ。

しばらくして――――

 

「見付けた!」

 

防衛プログラムを分離してそのプログラムを防壁で囲う。

 

「クレハ、セットアップ!」

 

《イエスマスター!》

 

そしてクレハを展開して。

 

「内部干渉・・・・・・完了。領域を固定」

 

《干渉確認、いつでも行けます》

 

「それじゃあいくよ。クレハ!」

 

《イエス!》

 

「クレハ、コキュートス発動!」

 

《イエス。コキュートス、発動します!》

 

クレハに搭載した防衛プログラムを完全に破壊する魔法。それがコキュートス。このコキュートスは人体にも有効だが、それを支配領域で改変、防衛プログラム内部に干渉して発動させる。

 

《防衛プログラム、内部凍結破壊を確認》

 

《内部凍結破壊完了まであと、47%》

 

「了解、三人ともそのままそれを維持!」

 

凛華と星夜の解析にそう指示を出して、コキュートスの発動を確認し続ける。

防衛プログラムもコキュートスに抗っているみたいだが無駄になってる。このコキュートスは如何なる防護プログラムも無効化し、それを凍てつかせる。凍てつかせた先にあるのは破壊と永遠の死。それは人だろうと無機物だろうとシステムだろうとプログラムだろうとなんだろうと関係ない。外部から凍り付かせるのではなく内部から凍り付かせるのだ。

 

《内部凍結破壊完了まで、残り5%》

 

《内部凍結完了しました。凍結破壊を開始します》

 

内部が完全に凍りついたのを確認し、内部凍結破壊を実地する。夜天の魔導書と分離し本体を破壊するのだからこれにより、新たに防衛プログラムが作られることもない。

 

《防衛プログラムの完全破壊を確認しました》

 

《夜天の魔導書内部に防衛プログラムの反応はありません》

 

「了解。クレハお疲れさま」

 

クレハの展開を解除してクレハに言う。

防衛プログラム関連以外のプログラムやシステムは全て処理、整理済みだ。内部修復を行い破損を改変させる。

 

来たれ(アデアット)―――時律の双銃(クロノス・デュオピストリス)

 

眼に意識を集中させて喚び出す。両手に黒と白銀の銃が現れ、左手の黒の銃の銃口を夜天の魔導書に向ける。

 

「時律の双銃、時間遡行改変弾(クロノ・プラエテリトゥムバレット)

 

時律の双銃の黒の銃の時間遡行(タイムバック)の能力をフルに発動。夜天の魔導書が改変される前の姿に戻す。防衛プログラムの本体がないため問題なく可能だ。

放たれた黒金に輝く一発の時間遡行の弾丸は夜天の魔導書に命中し、虹色の輝きが夜天の魔導書を包み込んだ。

目映い虹色の輝きは一瞬で終わったが、これで夜天の魔導書が闇の書に改変されたという事象は改変された。改変された事象を支配領域で固定する。

 

「澪奈、結界解除」

 

支配領域の領域結界を解除し、支配領域だけにする。

支配領域の中心に浮かぶ夜天の魔導書を手に取り。

 

「支配領域、解除」

 

展開していた支配領域を解除する。

手に持つ魔導書は、闇の書の原本夜天の魔導書の姿になって、闇の書が醸し出していた禍々しさは無くなっていた。

 

「ふぅ。成功した」

 

夜天の魔導書の背表紙を撫でて僕は小さく呟いて、なのはたちの方を向いて一言。

 

「おわったよ」

 

そう言った。

それと同時に、バリアジャケットから元の私服に、聖良とのユニゾンを解除した。

 

「はい、はやて」

 

「え・・・・・・?」

 

「これははやての魔導書だよ。闇の書じゃなくてちゃんとした、夜天の魔導書。まあ、リインフォースはユニゾンできるけど夜天の魔導書の管制人格じゃなくなっちゃったから、また今度夜天の魔導書のユニゾンデバイスを作らないといけないとだけどね」

 

僕は夜天の魔導書をはやてに渡してそう言った。

はやては夜天の魔導書を大事に抱え込みながら僕を見た。

 

「ありがとう零夜くん!」

 

「うん」

 

はやての礼に僕は微笑み返して、グレアム叔父さんを見る。

 

「これでやっと闇の書事件が終わりましたねグレアム叔父さん」

 

「ああ。わたしたちの悲願は遂に叶ったよ。ありがとう零夜君」

 

「ありがとう零夜」

 

「零夜、ありがとう」

 

グレアム叔父さんとリーゼ姉妹もお礼を言ってきたため、僕は少し恥ずかしくなった。

 

「さてと。後はクロノに任せていいかな?」

 

「はぁ。まあいい。僕も父さんを助けてもらったからな。感謝する零夜」

 

「それは聖良に言ってあげて。聖良がクライドさんを護ってあげたんだから、って、と。リンディさん、クライドさんちょっと動かないでくださいね」

 

「え?はい」

 

「はい?」

 

僕は思い出したかのようにリンディさんとクライドさんにそう言うと、時律の双銃の黒の銃の銃口リンディさんに向けて射った。

 

「よしと。次は」

 

リンディさんに射ったあとら、もう一つの白銀の銃の銃口をクライドさんに向けて射つ。

 

「これで完了っと。リンディさんとクライドさんの歳をそれぞれ六歳ほど変えました。クライドさんにはすみませんが、六歳ほど歳を取ってもらいました」

 

僕は以前アリシアとプレシアさんにした同じことを二人にしたのだ。これまで一緒に要られなかった時間をこれから作ってほしいからね。リンディさんだけだとちょっと違和感があるから二人に射ったのだ。

当の二人は驚いていたりしていた。

 

「ところでさ」

 

『『『『『???』』』』』

 

「はやて、病院に戻らなくて大丈夫なの?なのはは桃子さんたちが心配すると思うし、プレシアさんはアリシアを放ったらかしですか?」

 

『『『『『あ!』』』』』

 

僕の問いにみんなようやく動き出したのだった。

まあ、驚いたりしているが、はやては病院に、なのはとフェイト、アルフ、プレシアさんはアリシアの所へと、僕らはそれぞれ帰ったのだった。

 

 



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事後と秘密、そして・・・・・・

~零夜side~

 

「結局、僕らはどうなるのクロノ?」

 

僕はアースラの医務室でベットに横になりながら見舞いに来たクロノに聞いた。

 

「シグナムたち守護騎士の面々は、まあ、人命がかかっていた事もあるからな。そう重い処遇にはならないだはずだ。守護騎士達はある程度の保護観察で手が打てる」

 

「そう、よかった」

 

「だが、問題は零夜、君だ」

 

「やっぱり?」

 

「ああ」

 

クロノは苦虫を噛み潰したような表情をとった。

 

「前回のJ・S(ジュエルシード)事件で君の名前は管理局の一部の上層部に知れ渡ってしまってるんだ」

 

「もしかして、そいつらが身柄を引き渡せとか?」

 

「ああ」

 

予想通りの返しにか僕はため息が漏れた。

 

「しかも、その連中は管理局の中でも良くない噂を聞く一派なんだ」

 

「なるほどね」

 

僕はアーティファクトカードの一つを出して。

 

来たれ(アデアット)―――世界図絵(オルビス・センスアリウム・ビクトゥス)

 

世界図絵を展開する。

 

「なるほどね。ほんと、なんでこうもまあ腐ってるんだろうね」

 

僕はそう呟くと。

 

「クロノ、デバイスをだして」

 

「なにするつもりだ?」

 

「僕の身柄を引き渡せって言ってるその一派のデータを送るから、あとは執務官の出番でしょ?」

 

「なに?」

 

怪訝そうに眉を浮かばせるクロノに僕は、その一派が今まで行ってきた犯罪を全て送る。

 

「見ていてわかったけど、これでもまだほんの少しなんだよね」

 

「お、おい零夜、これはほんとなのか?」

 

「ホントだよ。まさか管理局の上層部がこうもだとは・・・・・・認識を改める必要があるかな?」

 

クロノはデバイスに送られたデータを見て驚愕の表情を出していた。まあ、仕方無いかな。管理局上層部の連中が犯罪に加担していたんだから。しかもそのことは巧妙に隠されていた。ま、僕が明莉お姉ちゃんから貰ったアーティファクトたちには隠せないけど。

 

「ほかにも管理局のネットワークを調べれば出てくると思うけど?」

 

「いや、いい。取りあえずはこれだけでもかなり重要なデータだ」

 

「そう」

 

「ああ。これで、恐らく君の身柄は管理局本局預りになると思う」

 

「そっか」

 

「一応、僕も君の処遇に関してはなにかと言うつもりだ」

 

「ありがとうクロノ」

 

「いや、父さんを助けてもらったからな。また、家族でいられるというのは嬉しいんだ」

 

「そっか・・・・・・」

 

クロノの家族、という言葉に僕は少し影を募らせた。

今の家族も大切だけど、前世での家族が心残りだから。

 

「それより、そろそろ行かなくていいのか?クリスマスパーティーがあるのだろ?」

 

「あぁ、そう言えばそうだった」

 

「おいおい」

 

クロノの苦笑いに笑みを浮かべると、世界図絵を閉まってベットから降りる。

 

「歩けるか?」

 

「大丈夫、歩けるぐらいまでは回復してるから」

 

クロノにそう返して、両足でアースラの床を踏みしめる。

 

「クロノも行くでしょ?」

 

「まあな。フェイトとアリシアから誘われてるから」

 

「ふふ。なんかお兄さんみたいだよ?」

 

「よしてくれ。君はあの子のお兄ちゃん、なんだろ?」

 

「まあね。家族が増えて嬉しいよ」

 

「零夜、君は・・・・・・」

 

「ん?」

 

「いや、なんでもない。行くぞ零夜」

 

「ああ」

 

僕とクロノは軽口を言いながら海鳴市へと転移していった。

これからもよろしくね、クロノ。僕の親友。

転移しながら僕はクロノに声に出さずにそう告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

クリスマスパーティーの翌日、僕の家、天ノ宮家では僕となのはとフェイト、はやては関係者、つまり、なのはの家族とアリサとすずかの家族に僕たちのことを話していた。

その場には、クロノやユーノ、リンディさんやクライドさん、プレシアさんやグレアム叔父さんたちもいた。リンディさんたちはなのはの魔法関係者として、プレシアさんはフェイトとアリシアの、グレアム叔父さんははやての保護者として。

 

「みんな、黙っていてごめんなさい」

 

「ごめんなさい!」

 

「ごめんなさい」

 

「ごめんなさいみんな」

 

僕となのは、アリシア、フェイトはアリサとすずかたちに頭を下げた。隠し事をしていたのだから。

 

「いや・・・まあ、リンディさんたちから事情を聞く限り仕方がなかったからしょうがないが・・・・・・」

 

「出来れば話してほしかったわね」

 

「うん」

 

「まったくだな」

 

「ごめんなさい、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

 

「申し訳ありませんでした。こちらとしても、機密事項が多すぎたものでして」

 

桃子さんたちになのはとリンディさんが謝る。

そこに士郎さんが。

 

「いえ、こうして話してくれたのでよかったです。それになのはがこうして無事なら構いません」

 

「そう言ってもらえると私たちとしても助かります」

 

リンディさんと士郎さんの会話が一段落したところに。

 

「アリサ、すずか」

 

僕がアリサとすずかの顔を見て呼ぶ。

 

「なあに?」

 

「なに零夜くん?」

 

「二人に言うことがある。アリサとすずかの中にはリンカーコアがある」

 

「「え?」」

 

僕の言葉にアリサとすずかはともかく、その場の全員が僕を見た。

 

「どういうこと零夜くん?」

 

「あのときの闘いで張られた結界。絶界は、リンカーコア持ちじゃないと入ってこられない結界なんだ。例え、アリシアと手を繋いでいたとしても、それだけでは絶界に入ってこられない」

 

僕は全員に、アリサとすずかについて話した。

 

「つまり、私たちにそのリンカーコアってのがあるからあの空間に入れたってこと?」

 

「そういうことになるね」

 

僕のその言葉にアリサとすずかは驚いたように見てきた。

 

「それで、アリサとすずかに聞きたいんだけど」

 

「「?」」

 

「二人はどうする?」

 

「どうするって?」

 

「僕やなのはと同じように魔導士になるか、そのまま過ごすか。もちろん、二人が魔導士になってもそのまま過ごしても僕が二人を守るよ。けど、ここは管理外世界、他の世界から来た人がアリサとすずかの中にあるリンカーコアを狙わないとは言い切れない」

 

僕の言葉にアリサとすずかは目を見開き、デビットさんたちはそんな、とでも言う感じだった。

そこにすずかの母親の春菜さんがリンディさんたちに視線を向けて訪ねた。

 

「それは本当なんですか?」

 

「はい・・・・・・。零夜君の言う通り、無いとは言い切れません」

 

「何時何処で時空犯罪者に目を付けられるかわかりませんから」

 

春菜さんの問いにはリンディさんとグレアム叔父さんが答えた。

管理局の艦長と特別顧問という立場の二人はよく知っているからだ。

 

「だから二人に決めてほしい」

 

僕は真剣な眼差しでアリサとすずかを見る。

アリサとすずかは、しばらく互いの顔を見合いそれぞれの家族を見た。

やがて。

 

「零夜」

 

「零夜くん」

 

二人は僕を見て告げた。

 

「私も零夜たちと同じ魔導士になる!」

 

「私も、零夜くんたちと同じ魔導士になるよ!」

 

「・・・・・・・・・いいの?」

 

「もちろん!」

 

「うん!」

 

二人の答えに、リンディさんたちを見るとリンディさんたちは軽く頷き、二人の両親に、お願いするよ、と言われた。

 

「わかった。二人の魔導士としての訓練は僕が付けるよ。いいですよねリンディさん?」

 

「ええ。なのはさんをあそこまでの魔導士として育て上げた零夜君なら大丈夫でしょう」

 

「それにこの中で最強の魔導士は零夜、君だ」

 

「え?」

 

クロノの言葉に僕は変な声を出してしまった。

 

「それにそろそろ話してくれないか零夜」

 

「なにを?」

 

「君の魔法について」

 

「!」

 

クロノの言葉に僕は衝撃が走った感じに陥った。

 

「そう言えば零夜くん、お母さんとかは?」

 

「そう言えばそうやな、私も零夜くんが一人暮らししているということしか聞いてへんし」

 

「今まで会ったことないわね」

 

「うん。学校の授業参観とかにも来てなかったよね」

 

なのはとはやて、アリサ、すずかの言葉に僕は口が淀んだ。

両隣に座る凛華たちを見て、頷いたのを確認して僕は話した。

 

「そうだね・・・・・・そろそろ話してもいい頃だったのかも知れないね」

 

僕の言葉になのはたちは首をかしげていた。

僕はそんななのはたちを横目にスマホを取り出して、電話を掛ける。

掛けた相手は。

 

『どうかしましたか零夜くん?』

 

「明莉お姉ちゃん、今からこっちに来られる?」

 

『ええ。ちょうど私もそっちに行くところでしたから』

 

「そうだったんだ。それと、なのはたちに話してもいい、かな」

 

『信用できる人たちなんですね』

 

「うん」

 

『わかりました。私が直接話しましょう』

 

そう言うと明莉お姉ちゃんは通話を切り、画面がブラックアウトした。

それと同時に、僕の後ろの空間に白い扉が現れた。

その白い扉を見たなのはたちは一斉に警戒体制を取った。

 

「大丈夫だよ、警戒しなくても」

 

「け、けど・・・・・・」

 

「僕の家族だから」

 

「家族?」

 

なのはが疑問符を浮かばせながら言うのと同時に、扉のノブが回り、扉が開きそこから明莉お姉ちゃんが出てきた。

 

「初めましてみなさん。私の名前はアマテラス、この世界では天ノ宮明莉と言う名前です。零夜くんの保護者です」

 

出てくるなりいきなり自己紹介した。

 

「ごめんなさい明莉お姉ちゃん」

 

「いいえ、零夜くんのことだからいづれ話さないと思っていたのでしょう?」

 

「うん」

 

「なら、私はそれに答えるだけですよ」

 

「ありがとう明莉お姉ちゃん」

 

僕は出てきた明莉お姉ちゃんにそう言って謝った。

 

「れ、零夜くん今この人アマテラスって言わなかった・・・・・・?」

 

なのはが震えた声で聞いてきた。

それによくみるとなのはだけでなく、僕や凛華、澪奈、星夜以外全員が怯えている感じだった。

 

「言ったよ、なのは」

 

「アマテラスって確か、日本神話の天照大御神やよな・・・・・・」

 

「う~ん、日本神話の天照大御神・・・・・・なのかな?」

 

明莉お姉ちゃんを見て少し考えた。

思い返してみればそれは聞いてなかったのを思い出したからだ。

 

「一応日本神話に語られてる天照大御神は私のことですね」

 

「あ、やっぱりそうだったんだ」

 

明莉お姉ちゃんの言葉に僕はそう返した。

 

「う、嘘やろ・・・・・・」

 

はやては明莉お姉ちゃんに驚きをだしていた。

 

「今から話すことは零夜くんに関することです。絶対に他言しないということを誓いできますか?」

 

明莉お姉ちゃんは僕の横に座ると、なのはたちにそう言った。

 

「零夜くんが信用できる、というあなた方だからこそ私は話せる事です。誓えないと言うのであれば、私はあなた方に話せません」

 

明莉お姉ちゃんの言葉に、なのはたちは一斉に顔を見合わせる。しばらく相談したのか、全員がこっちに向き士郎さんが言った。

 

「わかりました。この場で聞いたことは他言無用とすることを誓います」

 

士郎さんに続いてなのはたち全員がうなずいて肯定した。

 

「わかりました。もしその誓いが破られた際は私自身がそれ相応の罰を与えます、よろしいですね?」

 

明莉お姉ちゃんの更なる言葉にもなのはたちは無言のうなずきで返した。

明莉お姉ちゃんがうなずいて、僕を見たのを確認して僕はみんなに告げた。

 

「僕は本来この世界の人間じゃありません」

 

『『『『『!?』』』』』

 

「僕の名前の天ノ宮零夜、と言うのは前の世界での名前です。この世界でも天ノ宮零夜という名前ですけど」

 

「ど、どういうこと?」

 

「僕はアマテラスさん・・・・・・明莉お姉ちゃんによってこの世界に転生した人間です」

 

僕の告げた言葉に、なのはたちは息を呑んで衝撃を受けていた。

そこにすずかが。

 

「転生、って?」

 

「死んだ人間がまた、別の世界で生きられること。輪廻転生って言ったらはやてやクロノたちはわかるかな?」

 

「うん・・・・・・」

 

「ああ・・・・・・」

 

はやてとクロノは理解したようにうなずいて返してくれた。

 

「つまり零夜、君は・・・・・・」

 

「うん。僕は本来この世界にはいない存在、イレギュラーな人間なんだ」

 

「私が零夜くんをこの世界に送り込んだ時点で、この世界は本来の時間軸とは違う時間軸になっています」

 

「違う時間軸?」

 

「ええ。本来の時間軸の世界線ではプレシア・テスタロッサさんやアリシアさん、リニスさんは存在していません」

 

「「「ッ!?」」」

 

「さらに言いますと、クライドさんとリインフォースさんもいないんです」

 

明莉お姉ちゃんの告げた言葉にアリシアたちは驚愕の表情で衝撃を受けていた。

 

「さらに、聖良ちゃんという存在も本来の時間軸には存在していません。これらは零夜くんによって本来の時間軸の世界線から違う世界線になったからです」

 

「それはつまり、零夜が私やお母さんを助けてくれたから?」

 

「はい」

 

明莉お姉ちゃんの言葉に辺りが沈黙を貫いた。

 

「これが僕にお母さんやお父さんがいない理由。そしてクロノ、君が聞いた質問に答えられるよ」

 

「君の魔法か?」

 

「うん。あの魔法は前世で知った魔法なんだ。そして、あの剣技もそう」

 

正確には明莉お姉ちゃんから転生特典として貰ったんだけど、それは話さないことにした。明莉お姉ちゃんもこの事は知っている。

 

「そして、あの魔法と剣技は僕のお姉ちゃんと幼馴染みを繋ぐ大切なものなんだ」

 

僕は眼を沈みがちにして膝元に座ってる聖良の頭を撫でる。頭を撫でられた聖良は気持ち良さそうに笑顔で僕の方を向いてニコッと笑ってくれた。

 

「もう、会えないけどね」

 

僕の沈んだ気持ちの含んだ言葉になのはたちが戸惑っていた。少し、悲しげな僕に隣に座る明莉お姉ちゃんが優しく頭を撫でてくれた。

 

「大丈夫ですよ零夜くん。私たちがいます。零夜くんは一人ぼっちじゃないんです」

 

「そ、そうだよ零夜くん!」

 

「そうや!私は零夜くんのお陰で今までこうして生きてこられたし、みんなと出会えたんや!」

 

「零夜は私たち家族を救ってくれた。そして、姉さんと私にとって大切な友達だ」

 

「フェイトの言う通りだよ!」

 

「そうよ!あんたがいなかったら私たちが今こうしていられるなんてないはずよ!」

 

「そうだよ零夜くん。私たちは友達だよ。だから零夜くんは一人じゃないよ」

 

明莉お姉ちゃんに続いて、なのは、はやて、フェイト、アリシア、アリサ、すずかが必死になって言ってくれた。

 

「僕も、同年代の子と友達なんていなかったから、零夜と友達になれて嬉しいよ」

 

「僕は同世代の親友とかいなかったからな。いるとしてもエイミィだけだし。零夜、君と言う親友が出来て嬉しいんだ」

 

さらにユーノとクロノも言ってくれた。

 

「零夜くんにはこんなに触れあえる人がいるんです。だから大丈夫ですよ」

 

「そう・・・・・・だね。ありがとう明莉お姉ちゃん。みんなもありがとう」

 

そのあと、明莉お姉ちゃんが翼お姉ちゃんたちを呼んだりしてそれに驚いたなのはたちが固まったりと、色々一悶着あったが、結果として以前と変わらない形で接してくれた。

そのあと。話が終わった翌日、僕はなのはたちとはやてのお見舞いに行き、はやてが退院する日を石田先生から伝えられた。その時はみんな嬉しそうに、特にヴィータが嬉しそうにはしゃいでいた。

それからすずかとアリサの魔法練習のために僕の家の地下のトレーニングルームで特訓したり、基礎トレーニングをしたりした。この中にはアリシアやクロノやユーノ、ヴィータたちもいつの間にか入っていた。一度全壊になりそうになったときは冷や汗が出たけど。それと、なのはたちに僕の魔法。【ムンドゥス・マギクス式】と簡単な剣技、ソードスキルを教えることにした。まあ、習得にはかなり時間がかかりそうだけど。今時点でのムンドゥス・マギクス式の使用者は僕だけだ。

そして、アリサとすずかのデバイスは僕が作成することになった。少し時間はかかったが問題なく出来た。その時にクロノやリンディさんたちが唖然としていたのは気のせいだと思う。それに、明莉お姉ちゃんたちがよく僕の家に泊まりに来るようになったのと家族が増えた。

それと僕となのは、フェイト、アリシア、はやて、アリサ、すずかと守護騎士たちは管理局に入局した。それと同時にユーノは管理局の無限書庫の司書になっていたりする。

そんなこんなで時間が過ぎていき―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二年後

 

 

 

「あれからもう二年も経つんだ・・・・・・」

 

僕は海鳴市の高台にいた。

長い黒髪は変わらず、体型も背が伸びたぐらいであまり変わってない。

そして。

 

「うん。お兄ちゃんたちと出会えてもうそんなに経ったね」

 

「ですね」

 

「こうして家族が増えて、ね」

 

「変わらない日々ですけど」

 

「それがいいです」

 

僕の手を繋いでいる聖良と、楽しそうに微笑みながら言う凛華、聖良とは反対の手を繋いでいる澪奈、凛華と同じように微笑ましそうに言う星夜、そして聖良と澪奈を羨ましそうに見る紅葉。

さらに。

 

「零夜くん~!」

 

「待ちなさいよ零夜!」

 

僕の後ろから駆け寄ってくる、なのは、アリサ、すずか、フェイト、アリシア、そして元気になって自分の両足で歩いているはやて。そのはやての肩にはリインフォースによく似た小さな子が。

 

「大丈夫か、リイン?」

 

「大丈夫ですよはやてちゃん!」

 

「そっか。そらよかった~」

 

彼女の名前はリインフォース・ツヴァイ。リインフォースの二代目にして、夜天の魔導書の管制融合騎。リインフォースの妹だ。

 

「みんなもそろったことだし、行こうか」

 

集まったなのはたちを見て僕はそう言った。

 

「うん!」

 

「ええ!」

 

「そうだね!」

 

「もちろん!」

 

「いくよ!」

 

「そうやね!」

 

「はいです!」

 

順になのは、アリサ、すずか、フェイト、アリシア、はやて、リインが元気よく答えそれぞれデバイスを握り締める。

 

「いくよ、凛華、澪奈、星夜、聖良、紅葉」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

「ええ!」

 

「もちろん!」

 

「はい!」

 

僕は傍にいる凛華たちに。

 

「レイジングハート!」

 

《Yes Mymaster》

 

なのははペンダントの宝石型のレイジングハートに。

 

「バルディシュ!」

 

《Yessir》

 

フェイトは手甲の待機形態のバルディッシュに。

 

「いこか、リインフォース」

 

「はい、はやてちゃん!」

 

はやては夜天の魔導書を持ってリインフォース・ツヴァイに。

 

「いくよフレイムハート!」

 

《Yes Master》

 

アリサは腕に付けているブレスレットのフレイムハートに。

 

「お願いねスノーフェアリー!」

 

《Sure》

 

すずかは指に嵌めている指輪のスノーフェアリーに。

 

「ヴォルテックス、いくよ!」

 

《OK Master》

 

アリシアは首から下げているペンダントのヴォルテックスに。

そして同時に。

 

「「「「「「「セーット、アーップ!」」」」」」」

 

僕らはデバイスを起動して大空へと駆け抜けていった。

 

「行こう!」

 

「「「「「「うん!(ええ!)」」」」」」

 

 

それはたった一つの物語。

魔法と剣。そして固い絆で結ばれた僕らの物語。

 

 

 

 

 



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Apertio
初詣


 

~零夜side~

 

闇の書事件が終わって数日。

ここ海鳴市にある僕の家、天ノ宮家ではあることが起こっていた。それは―――。

 

 

「似合うかなお兄ちゃん?」

 

「うん。とってもよく似合ってるよ聖良」

 

「やった~!」

 

「わ、わたしはどうですか零夜くん・・・・・・」

 

「明莉お姉ちゃんも翼お姉ちゃんも似合ってるよ。て言うか全員似合いすぎだよ!」

 

僕の家族全員が、着物を着ているからである。

明莉お姉ちゃんたちは神様、女神様だからとして、凛華や澪奈、星夜、聖良そして新しい家族オートクレールこと紅葉(クレハ)は美少女と言うほどの可愛さなのだ。

僕の新しいデバイス、オートクレールはいつの間にか凛華たちと同じ人形へのインターフェイスが組み込まれていた。初めて紅葉を見たとは近所迷惑になりかける程の絶叫が響き渡った。

 

「零夜くんも着ますか?」

 

「美咲お姉ちゃん!?僕は男の子だからね!?」

 

「男の娘でしょ?」

 

「違うからね知智お姉ちゃん!僕は、れっきとした男の子だから!」

 

とまあ、天ノ宮家の家族勢揃いで新年を迎え、これから初詣に行くところなのだ。

 

「紅葉、聖良、大丈夫?」

 

「大丈夫ですマスター」

 

「うん。ちょっと動きにくいけど大丈夫!」

 

「そう?何かあったら言ってね」

 

僕は着物姿に戸惑いながらも嬉しそうにはしゃぐ聖良と紅葉に声をかけて、リビングから玄関へと向かう。

必要なものと巾着をそれぞれに渡して。

 

「それじゃあ行こうか。外寒いから温かい格好でね」

 

『『『はーい!』』』

 

僕の声に全員が返事をして、靴を履いて外に出た。

外は前日の雪が降り積もっていて、さすがに下駄では行けないため動きやすい靴で行くことにしたのだ。

 

「聖良と澪奈は手を繋ごうか」

 

この中で比較的幼い聖良と澪奈の手を握って行く。

聖良と澪奈は光の速さで手を握りしめてきたのにはクスッと微笑んだ。

その光景に明莉お姉ちゃんたちは笑みを浮かべて見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴神社

 

 

神社に着いた僕は辺りを見渡す。

 

「初詣だから人が多いな~」

 

辺りは人、人、人と辺り一面、人がいっぱいだった。

海鳴神社は古くからあり結構大きな神社なため、この季節は人がたくさん訪れるのだ。

そう毎年思っていることを思っていると。

 

「零夜くん」

 

「はやて!」

 

シャマルに車椅子を押されながら、シグナムとヴィータ、ザフィーラ、リインフォース、アリアさん、ロッテさん、グレアム叔父さんとともにはやてがやって来た。

 

「明けましておめでとうや零夜くん」

 

「うん。明けましておめでとうはやて」

 

「にしても零夜くん以外全員着物姿なんやな」

 

「似合ってるでしょ」

 

「似合いすぎや。明莉さんたちはともかくや、なんで零夜くんの家族は全員美人さんなんや!?」

 

「僕に聞かれても・・・・・・」

 

はやての剣幕に引かれながらも、頬をかいて戸惑い答える。

 

「明けましておめでとう零夜君」

 

「おめでとう零夜」

 

「あけおめ零夜」

 

「グレアム叔父さん、明けましておめでとうございます。アリアさんとリーゼさんもおめでとうございます」

 

「まさか今年もこうやって初詣に来れるとはね」

 

「はい。一週間ほど前のことが嘘のようです」

 

はやてたちと楽しそうに話す明莉お姉ちゃんたちや凛華たちを見て、一週間ほど前のことを思い出す。

あのときの闘いからそんなに経ってないのに、もう数ヵ月経ったような感じだ。

 

「グレアム叔父さんは大丈夫だったんですか?」

 

実行犯ではないとはいえ、グレアム叔父さんは僕に協力していたのだ、なにかしら管理局であったはずだ。

 

「うむ。クロノが掛け合ってくれてね、特にはないさ」

 

「そうだったんですか。よかったです」

 

「わたしも、それなりの罰を覚悟していたのだが零夜君、君にすべてを背負わせてしまった。すまない」

 

「いいえ、気にしないでください。僕が望んでやったことなんですから」

 

楽しそうに話しているはやてたちを見ながら、僕とグレアム叔父さんは会話した。

その光景はまるで父親、もしくは保護者のようだったと、はやてとアリアさんにあとで言われたのだった。

そうしていると。

 

「おーい、零夜~!」

 

「零夜くん!」

 

「アリサ、すずか!明けましておめでとう!」

 

「明けましておめでとう零夜」

 

「うふふ。明けましておめでとう零夜くん」

 

アリサとすずかが忍さんたちと一緒にやって来た。

 

「どお?」

 

「似合ってるかな?」

 

「うん、二人ともよく似合ってるよ」

 

「そ、そお、よかったわ」

 

「うん。よかった」

 

アリサとすずかは凛華たちと同じ着物姿だったのだ。

さすがにはやてたちは着物姿ではないが、羨ましそうに見ていた。まあ、はやての脚が治って一人で立ち上がることが出来たら存分につき合う約束はしてあるけど。

 

「明けましておめでとう零夜君」

 

「おめでとうございます零夜様」

 

「明けましておめでとうございます零夜君!」

 

「明けましておめでとうございます忍さん、ノエルさん、ファリンさん。あれ、春奈さんたちは」

 

「お母さんたちはあとから来るそうよ」

 

「そうなんですね」

 

「ええ」

 

忍さんとそう談議していると。

 

「明けましておめでとう零夜くん」

 

「おめでとう零夜」

 

「あけおめ零夜!」

 

後ろから声をかけられた。

後ろを向くとなのは、フェイト、アリシアとクロノたちが勢揃いしていた。

 

「明けましておめでとうなのは、フェイト、アリシア」

 

「明けましておめでとう、でいいんだったよな零夜」

 

「あ、うん。明けましておめでとうクロノ。エイミィさんも明けましておめでとうございます」

 

「明けましておめでとう~零夜君。今年もよろしくね」

 

「はい。と言っても、僕らはこれからかなり長い付き合いになると思いますけどね」

 

「ま、それもそうだな」

 

苦笑気味でいった言葉をクロノは肩を竦めて答えた。

そのあと僕らはそれぞれお詣りに行き、おみくじを引いた。ちなみに僕と聖良、明莉お姉ちゃんは中吉、澪奈と紅葉、翼お姉ちゃんは大吉、凛華と星夜、美咲お姉ちゃん、知智お姉ちゃんは小吉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お詣りが済んだあと、僕らは一度家に帰って着替えてから海鳴市にあるデパートに来ていた。

 

「それじゃ明莉お姉ちゃんみんなをよろしくね」

 

「ええ。零夜くんたちも気を付けてくださいね」

 

「うん。それじゃ二時間後にここでね」

 

僕はそう言うと聖良の手を握って、明莉お姉ちゃんたちとは分かれた。

 

「零夜お兄ちゃん、どこ行くの?」

 

「初詣の掘り出しセールだよ。聖良もなにか買いたいものがあったら言ってね」

 

「うん♪」

 

そんな僕と聖良の会話を横から眺めている人たちがいた。それは。

 

「零夜くんすっかりお父さんみたいやな」

 

「ほんと。お兄ちゃんってより親ね」

 

「あはは・・・・・・」

 

「零夜、スゴい」

 

「フェイト~、それはちょっと違う気がするけど」

 

「にゃはは・・・・・・」

 

「僕は聖良の保護者謙お兄ちゃんだよ?親じゃないよみんな?」

 

「???」

 

はやて、アリサ、すずか、フェイト、アリシア、なのはの6人だった。

はやてたちの言葉の意味を理解できないのか、聖良は可愛らしく小首をかしげてた。うん、可愛いい。

 

「それとはやて」

 

「なんや~?」

 

「聖良に変なことしないでね?」

 

「変なこと?」

 

「はやて、あんたなにしたのよ」

 

僕の忠告に、なのはとアリサが半眼顔ではやてを見る。

 

「何もせえへんって。そんなに私信用ないん?」

 

「・・・・・・・・・」

 

はやての問いに僕は視線を逸らした。

 

「え?そんなに私信用されてへんの!?」

 

「いや、はやて昔から隠し事するし病気なの黙ってるしいたずらっ子だし、耳年増だし」

 

「ぐはッ!」

 

はやてに言い返すとはやては胸を押さえて大袈裟に、吐血したようになった。

 

「隠し事してたんは零夜くんもやろ!?ちゅうか耳年増ってなんや!?」

 

「そのままの意味」

 

シグナムたちが来る前、はやては僕と一緒にいるとき以外基本家の中で本を読んでいるため、こういう耳年増的なことばかり知識が増えているのだ。正直、アリアさんとロッテさんに感化されたんじゃないかとここ最近思わざるを得なくなっている。

 

「れ、零夜くん、さすがにこの年で耳年増ってのは・・・・・・」

 

「なのはが疑いたくなるのは分かるんだけど、はやての近くにいた大人の女性って石田先生と、アリアさんとロッテさん?なんだよ?石田先生はともかくアリアさんとロッテさんは・・・・・・ね。クロノならなんとなくわかってくれると思うけど」

 

僕は遠い目をしてはやてを見てなのはに言う。

当のはやては苦笑いを浮かべて視線を逸らしていた。

 

「あ、あはは・・・・・・」

 

「まぁ、はやてのそれは置いといてどこに行くの?」

 

「置いとくのね・・・・・・。まず最初はアクセサリーショップよ」

 

僕の問いにアリサが淡々と答えた。

 

「了解。それじゃ四階のアクセサリーショップに行こうか」

 

聖良の手を握り、はやては車椅子をすずかに押してもらって、僕らは四階のアクセサリーショップへと向かった。

 

「うわぁ・・・・・・」

 

「お兄ちゃん、いっぱい人がいるね」

 

アクセサリーショップに着いた僕は、店内の様子を見て唖然としていた。さすがに人が多い。特に、女子。

 

「それじゃさっそく見に行きましょ」

 

「お兄ちゃん、私に似合うの選んでくれる?」

 

「うん、いいよ」

 

「やった♪」

 

なんだろ、聖良や澪奈っていう妹みたい存在が今までいなかったから新鮮なんだけど、愛奈美お姉ちゃんとは違う感じ。

僕はそう思いながら聖良の頭を撫でる。

 

「やれやれ。とんだシスコンね」

 

「零夜くんの以外な一面が見られたよ」

 

「零夜って、もしかして年下好きなのかな?」

 

「ど、どうなんだろ姉さん」

 

「ヴィータも零夜くんのこと好きやからなぁ~。ひょっとしたら零夜くんは年下の女の子に好かれやすいのかもしれへんな」

 

「そ、それはそれで・・・・・・」

 

なんだろなのはたちから大変失礼なこと言われてる気がする。後ろから聞こえるなのはたちのボソボソとした声に僕はそう思った。

 

「お兄ちゃん、これどうかな」

 

そう思っているうちに、聖良は近くにあった淡い蒼と銀色のシュシュを持ってきた。

今さらだが、聖良の髪は長く色は白銀で雪景色のような色だ。

 

「うん、似合ってるよ聖良」

 

「ありがとうお兄ちゃん♪」

 

「あ、これなんてどう?」

 

「うん!」

 

僕は目についた雪の結晶の髪飾りを聖良の髪の左側に着けた。

 

「わあっ・・・・・・!」

 

「気に入った?」

 

「うん!」

 

「じゃあこれとそれは購入決定ね」

 

「ありがとうお兄ちゃん!」

 

ほんの一週間ほど前から一緒に暮らしているけど、聖良は闇の書の呪いに縛られていたときとは違い、感情や表情が豊かで、ほんとちゃんとした女の子だ。僕は聖良の笑顔を見ながらそう感じた。

そう感じていると。

 

「(な、なんか見られてるような)」

 

僕らに向けて視線が集まっている気がした。

 

「(気のせいかな?)聖良、明莉お姉ちゃんたちにも似合いそうなアクセサリー買っていってあげようか」

 

「うん!」

 

そう言って僕と聖良はなのはたちから離れて明莉お姉ちゃんたちに似合いそうなアクセサリーを探しに行った。

探してる間、ずっと見られているような気がしたが気にしないことにした。けど、その中に妙な気配があったのを僕は見逃さなかった。

 

「(魔導士・・・・・・じゃないね。ストーカー?こんな新年の始まりからって・・・・・・)」

 

僕は呆れながらも視観してくる気配に注意をした。

 

「お兄ちゃん、これ紅葉ちゃんにどう?」

 

聖良が見せてきたのは白と薄紅の紅葉を模った髪飾りだった。

 

「うん、いいかも。僕の家族はみんななんでか髪が長いからね」

 

苦笑しながら家族を思い浮かべた。

僕はともかく、聖良や凛華、明莉お姉ちゃんたち全員髪が長いのだ。

 

「お兄ちゃんは聖良の髪の毛好き?」

 

「うん好きだよ。聖良の髪の毛はツヤツヤしているし柔らかいからね」

 

「やったー♪ありがとうお兄ちゃん♪」

 

聖良といるとここ最近の疲れが癒やされる。そう思いながら聖良と家族みんなのアクセサリーを探した。

そんなこんなでなのはたちと初詣初売りセールを回って二時間後、僕らは待ち合わせの場所に戻っていた。

 

「零夜く~ん」

 

「うわっ!澪奈!美咲お姉ちゃん!?」

 

合流するなり、澪奈と美咲お姉ちゃんに抱きつかれた僕は急に抱きつかれて驚いた。

 

「美咲、なにしてるのよ!?」

 

「澪奈ちゃんもなにしてるの!?」

 

驚いている聖良たちを他所に、翼お姉ちゃんと凛華が美咲お姉ちゃんと澪奈にツッコんだ。

 

「零夜くん成分補充?」

 

「なんで疑問系なんですか・・・・・・」

 

澪奈に紅葉が荷物を持って言った。

 

「あはは。みんなは良いもの買えた?」

 

「それはもう!」

 

「バッチリ!」

 

「抜かりなし!」

 

凛華たちの親指を立てて言う答えに微笑みながらその手に持つ荷物を見てうなずいた。

もちろん、僕の両手にも荷物はあったりする。

 

「なのはたちは?」

 

「私たちは・・・・・・」

 

「ちゃんと買ってあるよ」

 

「ていうか一緒にいたから知ってるでしょ零夜」

 

「それはそうなんだけどね」

 

アリサの言葉に苦笑しながら答えた。

その間、僕の意識の一部は周りの人間にいっていた。

 

「(やっぱり視られてる・・・・・・。視線は・・・・・・聖良?)」

 

話ながら、聖良に向けられる視線に警戒していた。

今のところとくに害はないため見逃しているが、もし何かしてきたときのために、僕は警戒心を高くしていたのだった。

 

「それでこのあとどうしようか?」

 

「そうね~・・・・・・・」

 

「もう見て回ってもうたし、丁度お昼の時間だからお昼にせえへん?」

 

「それもそうだね。って、はやて、ヴィータたちのお昼はどうするの?」

 

「し、しもた。シャマルに任せてもうたらアカン」

 

『『『『え?』』』』

 

はやての青ざめた顔になのはたちは疑問符を出していた。

 

「はやてちゃん、シャマルさんにお昼任せたらどうしてアカンなの?」

 

「シャマルの料理はどうしてかようわからへん料理になってしまうんや」

 

「以前は激甘い唐揚げだっけ?」

 

「うん。その前は白い焼きそばや」

 

まあ激甘い唐揚げは食べれなくも無くもなかったが、白い焼きそばはソースとマヨネーズを間違えたとかで、食べれなかった。

たまにシャマルらに料理を教えてるが、ヴィータは出来てはいるのだが、何故かシャマルは出来ないのだ。ちなみにシグナムに一度包丁を持たせたらレヴァンティンを出してきたりなどして、出来なかった。ザフィーラは簡単なものなら出来るようになっていたりする。

 

「はやてちゃんと零夜くんの眼が遠い目をしてるよ・・・・・・」

 

なのはが立ったままはやてと同じ方向を見ながら遠い目をする僕と車椅子に座るはやてに引き笑いをしながら言った。その様子を、凛華と澪奈、星夜はあー、と納得した顔つきで見ていた。

 

「苦労してる・・・・・・」

 

「あはは・・・・・・。私もお料理頑張らないと・・・・・・」

 

アリシアの最後の言葉が聞こえなかったが、フェイトたちの同情じみた表情に少し癒された。

 

「ご、ごめんなみんな。私家に帰らなあかん」

 

「じゃあ今日はここでお開きにしようか」

 

「そうね」

 

「そうだね」

 

はやてのお家の事情こと、ヴィータたちのお昼ご飯のために今日はここでお開きになった。

僕らははやてと。なのははフェイトとアリシアとすずかとアリサとで分かれた。

 

「じゃあ、またね~」

 

「うん、またね」

 

僕らはそう言って、凛華ははやての車椅子を押して、デパートから自宅にへと帰った。

はやてを八神家に送り、自宅である天ノ宮家に着いた僕はさっそくお昼ご飯の準備をした。と言ってもすでに準備はできているんだけどね。

 

「えっと、知智お姉ちゃんこれ持っていってくれる?」

 

「わかったわ」

 

「凛華、お雑煮の方はどう?」

 

「もう大丈夫ですね」

 

「了解。あとは、お餅を入れて・・・・・・と。よし、星夜、これ向こうにお願い」

 

「わかりました」

 

みんなで協力して、すぐに出来上がり僕らはそれぞれ席に着いた。

 

「それじゃ、いただきます」

 

『『『いただきまーす』』』

 

僕の合図でみんなお節を食べたり、お雑煮を食べたりしはじめた。

 

「美味しい~」

 

「ほんと、零夜くん料理上手ね」

 

「あはは。明莉お姉ちゃんから貰った家事スキル最大のお陰ですよ」

 

「う~ん、それだけじゃここまでにはならないと思うわよ?」

 

「知智の言う通りよ零夜くん。零夜くんの料理が美味しいのは私のお陰ではなくて、日頃からやっているからだと思うの」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

家族での会話が弾み料理に舌づつむ。

 

「聖良、紅葉、どう?」

 

「美味しいよ、お兄ちゃん♪」

 

「とても美味しいですマスター」

 

聖良は伊達巻きを紅葉はお雑煮のお餅を食べて言ってくれた。

 

「よかったぁ。まだあるからどんどん食べてね」

 

「うん!」

 

「はい」

 

聖良と紅葉の喜びに安堵して、僕も新年の始まり最初のご飯を食べることにした。

食べ終わって、それぞれで洗い物などをし終わったあと、僕はみんなにアクセサリーショップで購入したアクセサリー類を渡した。

 

「え~と、気に入るといいんだけど・・・・・・・・・・どうかな?」

 

「さすが零夜くんだよ!」

 

「ええ。とっても気に入りました」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

美咲お姉ちゃんと知智お姉ちゃんの言葉に僕は顔を少し赤くして答えた。それぞれに合ったようなアクセサリーを渡したが少々不安だったのだ。

 

「あ、明莉お姉ちゃんに別としてこれ」

 

「わたしに・・・・・・?」

 

実は明莉お姉ちゃんのためにもうひとつ、内緒で前々から買っておいたのが合ったのだ。ラッピングされてるプレゼントを受け取った明莉お姉ちゃんは首をかしげながら中身を開けた。

 

「あら・・・これは・・・・・・」

 

中に入っていたのは淡い緋色のストールだ。

 

「明莉お姉ちゃんに感謝のお礼、かな。僕をこの世界に転生させてくれて本当にありがとう明莉お姉ちゃん」

 

「零夜くん・・・・・・」

 

「よかったわね明莉」

 

「うん。ありがとう零夜くん、とっても嬉しいですよ」

 

さっそく首もとにストールを巻いて明莉お姉ちゃんは微笑みながら言ってくれた。その光景に、嬉しくなり喜んでもらえてよかった、と思ったのだった。

 

 

 

 

 



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試験

 

~零夜side~

 

 

『それじゃ、今から試験始めるよ』

 

「わかりましたエイミィさん」

 

正月が過ぎ、冬休み終了間際のある日、僕はミッドチルダにある時空管理局地上本部の試験フィールドにいた。

理由は僕の入局試験とランク測定の為だ。

 

『まずは試験の内容を説明するね。零夜君はここからゴールのある場所まで標的(ターゲット)をすべて破壊して、最後そこにいる試験官と戦ってね』

 

「了解です」

 

『ちなみに試験官は五人いるので、頑張ってね~』

 

「それどんな無理ゲーですか!?」

 

エイミィさんの最後の言葉についツッコミを入れてしまったのは絶対間違ってないはずだ。一人でベテラン五人相手は無いと思う。

 

『ちなみに発案者はクロノくんだからね』

 

「クロノ!?」

 

クロノは僕になにか恨みでもあるのだろうか。僕はそう思いながらエイミィさんの告げた犯人(クロノ)にあとでお話することを決めた。

 

『デバイスの使用制限はないけど、天災級の魔法は使わないでね』

 

「使いませんよ!」

 

たぶんだけどエイミィさん、悪ふざけで言っている気がする。まず第一に質量消滅魔法は論外だし、千の雷や千年氷華などの最上級魔法はなのはのSLBより強いので使用不可。それ以前に周囲一体が大変なことになる。

つまり使用できるのは上位魔法までということになる。

 

『とまあ、内容は以上になるよ。で、破壊する的はこれね。それと破壊しちゃダメな的もあるからそれは破壊しないでね』

 

そう言って出てきた空間ウインドウに表示された二種類の的を覚える。

 

『他に質問はあるかな』

 

「特には無いです。あるとすればクロノに伝言をお願いします」

 

『?いいよ』

 

「えっと、じゃあ。クロノ、あとで覚悟しといてね~。以上です」

 

『あはは。了解、一字一句違えずにクロノくんに伝えるよ』

 

僕の伝言にエイミィさんはひきつり笑いをしながら言った。

 

『それじゃあ、始めるよ』

 

エイミィさんがそう言うと、目の前の空間ウインドウにカウントダウンのタイムが流れた。

 

「さてと、凛華、澪奈、星夜、紅葉、聖良、往けるね」

 

《はい!》

 

《もちろん!》

 

《いつでも行けますわ!》

 

《問題ありませんマスター》

 

《大丈夫だよお兄ちゃん》

 

すでにバリアジャケットを装着して聖良とユニゾンしている僕はみんなに声をかけて確認する。

凛華と紅葉は通常の杖状態で、澪奈は片手剣形態で腰の鞘に、星夜は背中に双翼形態として準備万端だ。

そうこうしている内に、カウントは五秒を切っていた。

 

「それじゃ・・・・・・・・・・行くよ!」

 

カウントがゼロになるのと同時にスタートラインから飛び立ち移動する。

 

「さっそく・・・・・・星夜、スタービット展開!」

 

《はい!》

 

背中の双翼形態の星夜から十個の小型砲撃機(ビット)を展開させて視界に写る標的に向けて射つ。

 

「スタービット、星砲(スティングーラ)!」

 

スタービットから放たれた砲撃は一直線に標的に向かい、標的を貫く。

 

魔法の射手・連弾・精霊の25矢(サギタマギカ・セリエス・スピリトゥス)!」

 

星砲で狙えない場所を魔法の射手で狙い標的を破壊する。

 

「っと!危ない危ない」

 

偏向射撃(フレキシブル)で星砲から放たれた砲撃を制御して標的の目の前にあった破壊してはならない的を避けて標的の真横から破壊する。

 

《試験開始から5分経過ですマスター》

 

「了解紅葉」

 

紅葉からの試験経過時間を告げられ、さらに標的を破壊していく。

並列思考(マルチタスク)で制御し弾道を操る。

そのまま続けて行くこと数分、僕はゴール近くの広場らしき場所に立っていた。

 

「四・・・・・・いや五人。これが試験官でいいのかな」

 

僕は周囲を探り、人の気配を感知する。

 

「出てきてください。そこにいるのは分かってます」

 

僕がそう呼び掛けると、数人から驚きの気配が漏れでたのがわかった。だが、ただ一人だけ驚きの気配が漏れでてなかった。

 

「あ、出てこないなら問答無用で攻撃しますね」

 

そういうのと同時に僕はスタービットを二機ずつ配置し、

 

「―――飛星剣(フェグラディア)!」

 

スタービットから光弾を剣のように撃つ。

同時に相手に命中すると、

 

「「ちょっと待ってくれてもいいんじゃないかな~!?」」

 

「え、アリアさんとロッテさん!?」

 

上からアリアさんとロッテさんが降りてきた。

そして、それと同時に薙刀のデバイスを構えた男の人と両手足にアームドデバイスを装備した女の人と両手に手甲のようなグローブを身につけた女の人が出てきた。

 

「アリアさんたちが試験官なんですか!?」

 

「いや~、実はそうなんだよね」

 

「クロ坊に頼まれちゃってさ~。それに私も零夜の実力、この身で味わってみたかったからね」

 

「あ、そ、そうなんですか」

 

アリアさんとロッテさんの答えに呆気に取られながら返し、残り三人の人に視線を向ける。

 

「それで、この方たちは?」

 

僕がそう訪ねると。

 

「俺はミッド地上首都防衛隊所属のゼスト・グランツだ。こっちは部下のメガーヌ・アルピーノとクイント・ナカジマだ」

 

薙刀型のデバイスを持った男の人が答えた。

 

「首都防衛隊?」

 

「あー、ミッドチルダの防衛部隊だよ」

 

「なるほど」

 

僕の疑問にはアリアさんが答えてくれた。

 

「それで、これは一対一で闘うんですか?」

 

「あー、いやー・・・・・・」

 

「すまんが、君には俺たち五人を一度に相手してもらう」

 

「あー、やっぱり」

 

嫌な予感的中。

僕は思っていたことが当たり、あとでクロノへのお話を長くすることにした。

 

「さっそくで悪いが、始めさせてもらう」

 

「わかりました」

 

「言っとくけど、手加減しないからね零夜!」

 

「ええ。こっちも手加減無用です!」

 

ロッテさんと僕のその言葉を皮切りに、ゼストさんとアリアさんが僕に迫ってくる。そしてその後ろから。

 

「行くわよ!ウイングロード!」

 

クイントさんが地面に右の拳をぶつけたかと思いきや、そこからベルカ式の魔方陣が展開され、帯のようなものが出てきた。

 

「メガーヌ、俺とクイントに身体強化頼む」

 

「わかりました」

 

「はあっ!」

 

「せあっ!」

 

ゼストさんの薙刀の一撃を凛華で受け止め、

 

「せりゃっ!」

 

横から来るアリアさんの拳を紅葉で受け止める。

 

「はああっ!」

 

迫り来るクイントさんの拳をゼストさんとアリアさんの攻撃の軸をずらして避け、クイントさんの拳を掴んでカウンターでアリアさんへ薙ぎ飛ばす。

 

「うわっ!」

 

「なっ!」

 

「スタービット、星砲!」

 

魔法で援護射撃してくるロッテさんとメガーヌさんの二人にスタービットで牽制する。

 

「―――氷爆(ニウィス・カースス)!」

 

ロッテさんの足元に氷爆を発生させて攻撃する。

そこに。

 

「よそ見をしていていいのか」

 

ゼストさんが薙刀を振るってきた。

 

「凛華!」

 

《はい!》

 

僕はすぐさま凛華を剣形態にして薙刀の刃を受け止める。

 

「その歳でその技量。さすがに驚いたぞ」

 

「いえ、それほどでも」

 

鍔迫り合いを行いゼストさんと会話する。

鍔迫り合いをして分かったことがあった。それは。

 

「(この人とんでもなく強い!シグナムより強いんじゃないかな・・・・・・)」

 

ゼストさんの薙刀の。剣の重みが強いと言うことだ。生半可な訓練や覚悟じゃこの重みにまでいかない筈だ。それくらい、ゼストさんが剣に込める想いが強いということなのだろう。

 

「(見た感じこの薙刀はシグナムやヴィータと同じアームドデバイス。つまり、ベルカ式の魔導師)」

 

鍔迫り合いの最中観察しながら僕はそう考察する。

するとゼストさんが。

 

「すまないが、俺一人で戦ってもいいか?」

 

アリアさんたちにそう言った。

 

「「隊長!?」」

 

「「ゼスト!?」」

 

そこにクイントさんたちからの驚きの声が入る。

 

「コイツ。いや、天ノ宮と言ったか?天ノ宮の実力が知りたい」

 

「いやいや、これ一対一の戦闘じゃないんですよ!?」

 

「一対一なら私もやりたいわ!」

 

「クイント~!?」

 

なんだろメガーヌさんがツッコミキャラになってる気がする。この人絶対ツッコミキャラじゃない筈だけど・・・・・・。

 

「まあ、 時間はまだあるけど・・・・・・」

 

さすがにこの展開にアリアさんとロッテさんは互いの顔を見合わせる。そこに。

 

「あの~、あとで手合わせってことでいいのでは?」

 

僕が気まずそうに提案する。

 

「ではそうすることにするか。クイントもそれでいいな」

 

「ええ」

 

「え~・・・・・・」

 

「じゃあ試験の続きってことでなんだけど・・・・・・」

 

「?なんでしょうアリアさん」

 

「いや、零夜本気じゃないでしょ?」

 

アリアさんの質問に視線を少しずらして答えた。

 

「いや、まあ、さすがに闇の魔法(マギア・エレベア)は使えないので・・・・・・」

 

「?使ってもいいけど」

 

「いや、使ったらアリアさんたちすぐに終わっちゃいますから」

 

さすがに試験でそれはダメだろうということで闇の魔法は使ってないのだ。

 

「すまないが天ノ宮。その闇の・・・魔法?というものも使ってくれ。そうでなければ意味がない」

 

「え、えっと、そのクイントさんとメガーヌさんもいいですか?」

 

ゼストさんがそう言うが、一応僕はクイントさんとメガーヌさんにも聞く。

 

「いいわよ」

 

「ええ。噂の能力を見てみたいわ」

 

二人もそう言うことみたいなので、僕はゼストさんたちから少し離れた。

 

「わかりました。では―――」

 

眼を閉じて、意識を集中させカッと眼を見開いて詠唱する。

 

「―――右腕(デクストラー)解放固定(エーミッサ・スタグネット)千の雷(キーリプルー・アストラペー)左腕(シニストラー)解放固定(エーミッサ・スタグネット)千年氷華(アントス・パゲトゥ・キリオン・エトーン)!」

 

周囲を小さな雷が飛び散り、冷気が漏れでる。両の掌には千の雷と千年氷華の魔力の塊がある。そしてそれを。

 

双腕掌握(ドゥプレクス・コンプレクシオー)!」

 

二つ同時に体内に取り入れる。

それと同時に、僕の身体から眩い輝きが辺りを照らし、蒼白く輝きはじめる。そして周囲は吹雪と放電の魔力余波が吹き荒れる。

 

術式兵装(プロ・アルマティオーネ)!天雷氷華!!」

 

そう最後の式句を述べた。

 

「それでは・・・・・・・・・・行きます!」

 

そう言うのと同時に、僕はメガーヌさんに一瞬で迫り。

 

「―――戒めの鎖(レージング)!」

 

紫色の鎖で拘束して動けないようにする。

 

「っ!?」

 

ようやく気づいたみたいなアリアさんたちは驚愕の表情で僕の方見てきた。ロッテさんはすぐさま攻撃魔法を放ってきたが。

 

「―――支配領域(インペルマジェスター)!」

 

支配領域を展開して攻撃魔法を解析、構築を分解して消す。

 

「なっ?!」

 

「すみません。眠りの霧(ネブラ・ヒュプノーテエイカ)

 

メガーヌさんを睡眠魔法で眠らせて、ロッテさんに雷槍を翔ばす。

 

「メガーヌが一撃だと!?」

 

「これが噂の・・・・・・!」

 

ゼストさんとクイントさんが驚くなか、アリアさんは拳を握りしめて身体強化(フィジカルエンチャント)で強化したスピードで僕に迫ってきた。

 

「これならどう零夜!」

 

「ふふ。遅いですアリアさん!」

 

僕はアリアさんの拳を避け、一瞬で背後に回り込む。

 

「アリア後ろ!」

 

「ハッ!」

 

ロッテさんが警告するが時既に遅し。

 

「――術式解放(エーミッタム)白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!」

 

威力を弱めた白き雷でアリアさんを麻痺させて気絶させる。

 

「そんなアリアまで・・・・・・」

 

「行きますよロッテさん!」

 

「くっ!」

 

「これ以上させないわ!」

 

ロッテさんに向かっていくと途中でクイントさんが脚のローラーブレードで滑って素早く迫ってきた。

 

「はあっ!」

 

「せあっ!」

 

クイントさんの蹴りを受け止め、クイントさんのお腹に掌底を喰らわせる。

 

「ぐっ!」

 

「大丈夫かクイント」

 

「大丈夫です隊長」

 

「俺が天ノ宮の動きを止める。その間にロッテとともに攻撃しろ」

 

「了解!」

 

「オッケー、ゼスト!」

 

「うおおっ!」

 

「!」

 

ゼストさんは薙刀に炎を纏わせて迫ってきた。

 

「(フェイトやアリシアと同じ変換素質持ち?!しかも炎熱属性!)澪奈!」

 

《うん!》

 

驚きながらもゼストさんの攻撃を避けずに受け止める。

 

「ぐっ!」

 

とっさに氷属性の付与を澪奈の刀身に施したが、ゼストさんの炎熱と互角だった。

 

「クイント!」

 

「はい!」

 

ウイングロードと呼ばれた移動拡張魔法で、その帯の上をローラーブレードで滑りながらクイントさんは両手のガントレットを握りしめて殴ってくる。

 

「ブレイズカノン!」

 

そして後ろからはロッテさんが魔法攻撃をしてきた。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

呼吸を整え、意識を極限にまで集中させる。

まずは目の前のゼストさんの薙刀の軌道を横に滑らせて、足元を氷で動けなくさせる。そして迫り来るロッテさんのブレイズカノンを無詠唱の雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)で迎撃。終いにクイントさんの動きを軽く阻害する。

この一連の動作を五秒も経たずに終わらせた。

 

「なに?!」

 

「うわっ!」

 

「にゃっ!?」

 

上からゼストさん、クイントさん、ロッテさんが驚きの悲鳴をあげる。

 

「にゃぁ!?」

 

ロッテさんのブレイズカノンを打ち消した雷の暴風はそのままロッテさんにせまり、ロッテさんは雷の暴風に呑み込まれ、眼を回して気絶していた。

 

「せあっ!」

 

次に動きを軽く阻害されて、凭れたクイントさんの背後に一瞬で回り込んでアリアさんと同じように弱めた白き雷で麻痺させて動けなくさせる。もうスピードで突っ込んでくる相手には足元に簡単な罠を仕掛けておくのが一番の効果的だ。クイントさんは僕が支配領域で構築した地面の揺れを軽く体感してよろめいたのだ。

 

「クイントまで倒されたか」

 

「あとはゼストさんだけですね」

 

「ああ」

 

「では、参ります!」

 

僕は魔法は使わず(天雷氷華はすでに魔法なのだが)純粋な剣での勝負をゼストさんとし始めた。

ゼストさんの薙刀の突きを右手の凛華の剣の腹で受け止め、左手の澪奈で薙ぎ払う。だが、それは薙刀の長束の変則ガードで防がれる。

 

「はあっ!」

 

「てりゃあ!」

 

あちこちで金属音が鳴り響く。

戦闘の舞台は地面だけでなく、空中でも行われた。八の字を描くように、丁度交差位置でぶつかり合う。

 

「りゃあ!」

 

「うおおっ!」

 

幾度となく打ち合わせていくと、残り時間が短くなっていた。

 

「はあ、はあ、はあ。時間がないね」

 

《大丈夫、お兄ちゃん?》

 

「大丈夫だよ聖良。サポートお願いね」

 

《うん!》

 

聖良にそう言い、両手の凛華と澪奈に断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)を付与して片手剣ソードスキル《ソニックリープ》を放つ。

 

「ぜあっ!」

 

「ぬうんっ!」

 

ゼストさんは《ソニックリープ》を受け止めるが、顔を険しくさせた。

 

「まだです!」

 

そこから連続攻撃を絶え間なく、交互に繰り出していく。二刀流ソードスキルと片手剣ソードスキルを駆使して息の吐かせる間もなく放つ。

 

「ぬおっ!?」

 

「(いまだ!)ヴォーパル・ストライク!」

 

ついに崩れたゼストさんの体勢に、ゼストさんのデバイスの薙刀の刃先に向けて片手剣ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》を撃ち込む。

 

「なに!?」

 

ヴォーパル・ストライクを受けた薙刀の刃は二つに分かれた。軽く動揺しているその間に。

峰打ちでゼストさんの身体を打つ。

肺の中の空気があっという間に出て、ゼストさんは前のめりに倒れた。

 

「見事だ」

 

そう言うとゼストさんは地面にへと落下していった。

 

「危ない!」

 

僕はとっさにゼストさんの手を取り、ゆっくり安全に地面に寝かし付けた。

それと同時に、天雷氷華が解けたようで身体は元に戻った。

 

「うーん、このままにしておくわけにはいかないし・・・・・・」

 

僕は気絶させて戦闘不能にしたアリアさんたちを集めて治癒魔法をかけながらそう呟いた。

 

特殊固有武装(アーティファクト)は今持ってないし・・・・・・どうしよ」

 

この試験ではアーティファクトが使用できないそうなので今アーティファクト類は明莉お姉ちゃんのところにあるのだ。

どうしようか考えていると。

 

「あたた」

 

「あ、アリアさん」

 

アリアさんが目を覚ました。

 

「やられたよ零夜。さすがね」

 

どうやらもう戦闘するつもりはない様子で、起き上がってそう言った。

 

「そ、そんなことないです。アリアさんたち強かったですし。僕のはちょっとチートですから」

 

正直闇の魔法は使わないつもりだったのだが、ゼストさんたち促されてつい使ってしまった。もし、闇の魔法が無ければ恐らく僕は負けていた筈だ。

 

「そんなことないさ。それより速くゴールに行ったら?時間なくなるよ。ここは私が見ておくからさ」

 

「じゃ、じゃあすみませんがお願いします!」

 

アリアさんにゼストさんたちを任せて僕はゴールにへと飛んでいった。

一分程とんで、ゴールに辿りついた僕を待っていたのは。

 

「ク~ロ~ノ~!」

 

「うわっ!ちょっ!いきなりなにするんだ!」

 

無理ゲーを押し付けたクロノだった。

僕はゴールに着くさま、クロノを発見し次第すぐに魔法の射手で攻撃をした。

 

「問答無用!そこに正座!」

 

「え、エイミィどうにかしてくれ!」

 

「いや~、今回はクロノくん自業自得だと思うよ?」

 

「さて、クロノ。よくもアリアさんたち五人を一度に相手にさせてくれたね!」

 

「勝ったんだから良いじゃないか!」

 

「そういう問題じゃないわぁ!」

 

逃げ待とうクロノをエイミィさんとこの試験を見ていたリンディさんとその親友らしいレティさんは苦笑していた。

あのあと結局クロノは僕の凍結魔法に捕まり、氷付けにされそこから僕のお話と言うOHANASHIが始まったのだった。

ちなみに試験結果は。

 

「文句なしの合格ね。というかこれで不合格なら見てみたいわ」

 

「ええ。首都防衛隊のS+ランク魔導師にAAランク魔導師二名。そして、教導官最強と言われてるアリアとロッテを倒したのだから当然といやそうね」

 

らしい。リンディさんとレティさんからはじめて知った事実に僕はゲンナリした。というかよく勝てたと、思った。

 

「それにランクは空戦魔導師としても陸戦魔導師としてもSSS」

 

「総合ランクはSSSね」

 

「魔力ランクは測定不可。EXランクかしらね」

 

「でしょうね」

 

ということらしい。はっきり言っていいなら、不幸だぁぁぁぁぁぁ~!!と、学園都市の誰かさんみたいに叫びたい。

理由としてはS+ランク魔導師とAAランク魔導師二名と教導官の二人を倒したからのと、標的がすべて破壊されているかららしい。

こうして僕の不安混じりの管理局入局の試験が終わったのだった。



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役職

 

~零夜side~

 

 

「あなたには私たち直属の役職に就いてもらいたいと思ってます」

 

「はい?」

 

クロノに呼ばれて時空管理局に来た僕は、クロノの案内のもと管理局の一室に連れていかれそこにいたお婆さんにそう言われた。

うん。ドウイウコト?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間半前

 

 

時空管理局 本局

 

 

「どうしたのクロノ?」

 

朝いきなり呼び出された僕は、凛華たちを連れて時空管理局本局に来ていた。

 

「いきなり呼び出してすまない」

 

「別にいいけど・・・・・・。なんのよう?」

 

「あー・・・・・・。実は君に会いたいと、言う人がいてな」

 

歯切れの悪いクロノに疑惑の視線を向けると、クロノは何ともいいがたい表情をした。

 

「取り敢えず僕についてきてくれ」

 

「???」

 

訳が分からないが、取り敢えずクロノについていくことにして僕は凛華たちとともにクロノの後を着いていった。

しばらく歩き、クロノが止まった目の前の扉を見る。

 

「ここ?」

 

「ああ」

 

どこか疲れた感じで中に入るクロノの後を追い室内に入ると、そこにはリンディさんやエイミィさん。さらにグレアム叔父さんが座っていた。そしてその真ん中には三人のお年寄りめいたお爺さんとお婆さんが座っていた。

 

「失礼します。天ノ宮零夜を連れてきました」

 

「ご苦労様ですクロノ・ハラオウン執務官」

 

クロノの言葉を返したのは真ん中に座っている三人のお年寄りのお婆さんだった。

クロノはその人に一礼するとリンディさんたちの方に歩いていった。

 

「初めましてですね、天ノ宮零夜君」

 

戸惑っている僕にクロノに声をかけたお婆さんが挨拶してきた。

怪しみながら聖良たちを護るように立って見る。

すると、僕が怪しんでいると言うことに気付いたのかグレアム叔父さんが声をかけてきた。

 

「零夜君、そう警戒しなくても大丈夫だよ」

 

「・・・・・・本当に大丈夫なんですか?」

 

「ああ。そこはわたしが保証するよ」

 

「・・・・・・・・・・グレアム叔父さんがそう言うのなら」

 

警戒をほんの少しだけ解き改めて声をかけてきたお婆さんを見る。

 

「なるほど、クロノ執務官とリンディ提督、グレアム特別顧問が言った通りですね」

 

「どういうことですか?」

 

グレアム叔父さんたちから聞いたと言うことはどういうことか僕は訪ねる。

 

「私の名前はミゼット・クローベルです。両隣の二人は、それぞれレオーネ・フィルス。ラルゴ・キールです」

 

目の前のお婆さん。いや、ミゼットさんがそれぞれ名前を言った。だが、少なくともその名前を聞いたことは一度もなかった。

 

「星夜?」

 

僕は横にいる星夜に訪ねた。

 

「零夜くん、目の前三人は恐らく『伝説の3提督』と呼ばれる方たちと思いますわ」

 

「『伝説の3提督』?」

 

「はい。管理局の黎明期に活躍した方みたいです。左のラルゴ・キールが武装隊栄誉元帥。右のレオーネ・フィルスが法務顧問相談役。そして、真ん中にいるミゼット・クローベルが本局統幕議長ですわ」

 

「ええ。さすがですね、天ノ宮星夜さん。ですよね」

 

星夜の説明に肯定するようにミゼットさんが言った。

 

「何故、星夜の名前を知っているんですか?」

 

星夜の名前を知っていたと言うことに僕は警戒度を高め、少し殺気を出す。グレアム叔父さんが大丈夫だと言っていたが、僕はこの人たちのことをよく知らないため100%安全だとは限らない。もちろん、グレアム叔父さんのことは信用しているが。

 

「リンディ提督やグレアム特別顧問からお聞きしました。もちろん、そちらにいる女の子たちが貴方のデバイスだと言うことは存じてます」

 

ミゼットさんが何故知っているのか答えた。

とっさにリンディさんとグレアム叔父さんを視た。二人は軽くうなずいて、肯定を示した。

 

「そして、その女の子が闇の書事件の元。闇の書の闇、ナハトヴァールだと言うことも知ってます」

 

「!」

 

ミゼットさんの視線と言葉に僕らはすぐに聖良を守る陣形を取る。

 

「この子はナハトヴァールという名前じゃない。天ノ宮聖良という名前だ」

 

僕はさらに殺気を高めてミゼットさんを見据える。

聖良のことをナハトヴァールだと知っている人はあの時あの場にいた僕らとアースラの乗務員。そしてグレアム叔父さんとリーゼ姉妹だけだ。

 

「ごめんなさい。軽率でしたね。謝罪します」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「あの事件のことはリンディ提督たちから報告を受けてます。もちろん、この事はこの場にいる私たちしか知りません」

 

僕は嘘かどうか確かめるため懐から一枚の特殊固有武装(アーティファクト)カードを取り出す。

 

「―――来たれ(アデアット)

 

いどのえにっきを取り出してミゼットさんが嘘を言っていないか確認する。

 

「・・・・・・・・・嘘は言ってないみたいですね」

 

僕は殺気のレベルを幾分か下げミゼットさんを見る。

 

「それがアーティファクト・・・・・・」

 

「クロノたちから報告を受けているのなら知ってますよね。僕の前で嘘はつけません、その事をお忘れないよう」

 

僕はそう言っていどのえにっきの頁を閉じる。

 

「それで僕は何故呼ばれたんでしょう」

 

右耳にいどのえにっきの付属アーティファクト、読み上げ耳を着けてミゼットさんに聞く。

 

「あなたには私たち直属の役職に就いてもらいたいと思ってます」

 

「はい?」

 

ミゼットさんの言葉にすっとんきょうな声が出てしまったが、当然だと思う。

 

「零夜君には、私たち直属の部隊として管理局を変えてほしいと思ってます」

 

「どういうことですか?」

 

「我々のことを調べたのなら知っているとは思いますが、我々管理局も一枚岩ではありません。プレシア女史の件も含め、管理局の高官や上層部は様々な汚職などに手を染めています」

 

「それは調べたので知ってますけど、それと僕がミゼットさんたちの直属の部隊となんの関係が?」

 

戸惑っている僕にミゼットさんは、先日の僕の試験結果をウインドウに開いて見せた。

 

「あなたはグレアム特別顧問の使い魔にして、戦技教導官のリーゼ姉妹と地上本部、レジアス中将の部隊三人を一人で、尚且つ相手に怪我が無いように戦い勝ちましたね。この時点で、あまり本気では無いということが受け取れます」

 

「!」

 

まさか本気では無いということが見抜かれるとは思わなかった僕はかなり驚いた。事実、ナハトヴァールと戦ったときと比べたらかなり力はセーブしていた。まあ、闇の魔法の術式兵装、天雷氷華はやむ終えず使ったが。

 

「私たちには、貴方のような人が必要なのです天ノ宮君。今の管理局を変えるためには」

 

いどのえにっきでミゼットさんの本心を調べたが、その言葉に嘘詐りはなかった。

 

「その言葉に嘘詐りはありませんよね、ミゼットさん」

 

「ええ」

 

ミゼットさん本人から直ぐ様返ってきた言葉といどのえにっきで覗いたことからミゼットさんが本気で、偽りなど無いということが判明した。

 

「分かりました」

 

しばらく考え、僕はミゼットさんの言葉にうなずき返した。

 

「ありがとうございます、天ノ宮君」

 

ミゼットさんは深々と頭を下げ、それに伴って両隣の二人も頭を下げた。

お年寄りに頭を下げられるとなんか変な感じというかなんというか、微妙な感じになったのだった。

 

「天ノ宮君は私たち直属の部隊。【特殊執務管理室第0課】、通称、特務0課に所属してもらいます。この部隊は天ノ宮君のための部隊です」

 

「僕の、ですか?」

 

「はい。現在は部隊員は天ノ宮君の関係者。つまり天ノ宮君のデバイスさんたちになります」

 

「なるほど」

 

「基本的には普通の魔導士と変わりませんが、緊急事態のときは直属の特務0課の室長となってもらいます」

 

「というと?」

 

「ロストロギアなどの危険指定やテロなどがあった際、それを対処してください」

 

ミゼットさんの言葉にクロノたちがギョッと目を見開いてミゼットさんを見た。

 

「ミゼット統幕議長、それはつまり零夜君に現場対処を任せる、と言うことですか?」

 

「ええ。ですが、これは本当に危険なときだけです。私としても今の天ノ宮君をそこまで危険なところに送りたくはありません」

 

ミゼットさんの言葉にグレアム叔父さんが気難しい顔をした。

 

「それと天ノ宮君にはある特別な任務をやって欲しいんです。正確には特務0課本来の任務です」

 

「特別な任務?」

 

「はい。管理局上層部の内情調べです」

 

ミゼットさんの言葉に僕らは首をかしげたがグレアム叔父さんやクロノは驚愕の顔をしていた。

 

「私たちは公に調べられない他、査察官が調べてもそれには限りがあります。ですが、天ノ宮君にはそれが可能ですよね」

 

「なるほど、そう言うことですか」

 

確かにミゼットさんが言ったようにアーティファクトを使えば調べられなかったことも調べられるだろう。ミゼットさんたちはそれを使って管理局を変えたいのだろう。

 

「天ノ宮君にはいきなりで申し訳ありませんが、引き受けて貰っても宜しいでしょうか」

 

「分かりました。それで管理局が変えられるのなら」

 

僕としても管理局の高官や上層部は腐りすぎているのを確認してどうにかしたいところだったのだ。けど、ミゼットさんたちならなんとかできるかもしれない。僕はそこに賭けてみることにした。

 

「ありがとうございます。便宜上はグレアム特別顧問が上司となります。後継人はリンディ提督とレティ提督が。指示があるまでは基本グレアム特別顧問から指示を仰いでください」

 

「分かりましたミゼットさん」

 

「グレアム特別顧問もそれでお願いしますね」

 

「うむ。かしこまりました統幕議長」

 

「よろしくお願いします。天ノ宮君も無理をなさらないようにお願いしますね」

 

「分かりました」

 

その後、ミゼットさんたちから部隊について説明を受け、その2時間後僕らは会議室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「零夜君・・・・・・」

 

「どうしたんですグレアム叔父さん?」

 

ミゼットさんたちから説明を受けたあと僕らはグレアム叔父さんとともに本局のカフェテリアに来ていた。

 

「すまない。本当なら君やはやてにはこういう危ない目には遇わせたくなかった。本当にすまない」

 

「い、いえ。そんなことないですグレアム叔父さん。それに、僕はこの魔法と言うのがあったからクロノたちと知り合えたんですし、はやても助けることが出来たんです。グレアム叔父さんのせいじゃないですよ」

 

「しかし・・・・・・」

 

「それに、グレアム叔父さんもミゼットさんが言っていたようにここがどんな状況かは知っていますよね」

 

「ああ。それはもちろんだ」

 

グレアム叔父さんは表情を悔しそうにして手を握りしめた。

 

「だから、僕はこの管理局を変えます。元の、グレアム叔父さんやクロノたちのように芯が真っ直ぐで誰かを想い合っている、そんな管理局に」

 

「そうか・・・・・・。君になら出来るかもしれんな。わたしももう年だ。いつまでも現役って訳にもいかないしね。それまでは零夜君を立派な管理局員になるよう鍛えてあげよう」

 

「お願いしますグレアム叔父さん」

 

「ああ。もちろんだ」

 

僕とグレアム叔父さんは互いの手を握りしめ、決意の眼差しを浮かべあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後

 

 

天ノ宮家 地下トレーニングルーム

 

「・・・・・・頭痛い・・・・・・」

 

「だ、大丈夫零夜くん?!」

 

「大丈夫、零夜?」

 

「あはは・・・・・・」

 

僕は目の前にいるすずかとアリサを見て遠い目をしながら頭を抑えた。

 

「予想はしていたけどなんなんだろ・・・・・・。どうして僕の友達はこんなに魔法適正が高いの・・・・・・」

 

僕は氷柱を作り出したすずかと、掌に炎を出しているアリサに視線を向けたあとなのはたちに視線を向けた。

 

「私たちに言わないでよ!」

 

「あ、あはは・・・・・・」

 

「というかあんたの方がすごいでしょうが!」

 

「あー、うん。そうだね」

 

僕はアリサの言葉に弱々しく返した。

 

「まさかアリサとすずかに炎熱属性と氷結属性があるなんて・・・・・・」

 

フェイトが言ったように、アリサには炎熱属性が。すずかには氷結属性があったのだ。正直言って頭が痛い。

 

「取りあえず、アリサは炎系統の、すずかは水や氷系統、フェイトとアリシアは雷系統の適正が高いね。なのはは風系統ではやては光と闇系統だね」

 

【ムンドゥス・マギクス】式の検査で、なのはたちの適正が高かった属性を言った。

 

「零夜くん、ムンドゥス・マギクス式ってミッド式やベルカ式とはちゃうん?」

 

「あー、かなり違うね。ムンドゥス・マギクス式は周囲に漂うエレメントや魔力を自身の魔力で結合して使うからね。例えばこんな風に―――」

 

はやての質問にそう答えると、僕はトレーニングルームの壁の方に体を向け右手を前に出した。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。風の精霊18人。集い来たりて敵を打て。魔法の射手・連弾・雷の18矢」

 

放たれた18本の雷の矢は真っ直ぐ壁に飛んでいき、壁にぶつかると小さな爆発が起きた。

 

「とまあ、今の魔法の射手は初級魔法なんだけど、魔力が高くなって練度も高くなれば500くらい出せるようになるよ」

 

『『『500!?』』』

 

「うん」

 

「ちなみに零夜くんはどのくらいだせるの」

 

「えっと・・・・・・今の最高は1000かな?」

 

すずかの質問に返すと、何故かなのはたちが床に膝をついていた。

 

「やっぱり零夜くんはチート」

 

「うん」

 

「まったくやなぁ」

 

「勝てる気がしない」

 

「私も改めて零夜がすごいってわかったわ」

 

「私も」

 

「そこの6人!聞こえてるよ!」

 

僕は用意していた書物。魔導書を持ってなのはたちにツッコんだ。

 

「えっと、なのはにはこれではやてはこれ。フェイトとアリシアはこれで、アリサとすずかはこれね」

 

僕が渡した魔導書にはムンドゥス・マギクス式の初級魔法から中級魔法が記述されてる。

 

「一応、起動キーは無しにしてるけどどっちでもいいよ?」

 

「起動キーって?」

 

「あ、零夜くんが最初に言っていた、リク・ラク、なんとかってやつ?」

 

「うん。なのはにもリリカル・マジカルの起動キーがあるよね?」

 

「あ~、ユーノくんに言われてとっさに思い浮かんだんだよね」

 

「あはは。そう言えばそうだったね」

 

「零夜くん、起動キーってのはあった方がいいん?」

 

「一応、あった方がいいと思うよ?僕はその方が使いやすいし。まあ、無詠唱も使えるけど」

 

「なるほどね」

 

「一先ず、この一番最初の魔法の射手が出来るようになってから考えよ。言っとくけど、僕の使う魔法かなり扱いが難しいからね?」

 

僕は苦笑いぎみにそう言うと、さっそくなのはたちのトレーニングに取り掛かった。

その数時間後。

 

「だ、大丈夫みんな」

 

僕はマインドダウンで倒れているなのはたちに治癒魔法を掛けながら心配した。

 

「む、難しい・・・・・・」

 

「ミッド式でもベルカ式でもない魔法やからキツいわ~」

 

「つ、疲れた・・・・・・」

 

「零夜くんも、こんな努力してたんだね」

 

「あ~、まあね」

 

ぶっちゃけ前世の方でこれのやり方は記憶していたから最初なら中級までは使えたけど、上級や最上級はかなり苦労した。知智お姉ちゃんのお陰でなんとか闇の魔法とか使えるようになったけど、かなりキツかった。

そんなことを思い出しながらなのはたちに飲み物を配る。

 

「そう言えば零夜くん、管理局の方でなにすることになったん?」

 

「あー、グレアム叔父さんの元で学ぶことになったんだ」

 

「へぇー、そら羨ましいわ~。私もグレアム叔父さんに教えてもらおう」

 

「はは。グレアム叔父さんなら喜んで教えるんじゃないかな」

 

僕ははやてに軽く笑いながら言った。グレアム叔父さんは闇の書事件以降、八神家に訪れることが頻繁にあるのだ。以前までは数ヵ月に一回程だったが今はよく来ているためはやてがとても嬉しそうだと、ヴィータとシャマル経由で聞いたのだ。ちなみにシグナムはリーゼ姉妹とよく模擬戦をしているらしい。それを聞いた僕は呆れ半分予想通りの結果に苦笑半分だった。

 

「もう遅いし、今日はここまでにしようか。明日は普通に学校があるんだし」

 

僕のその一言で今日の訓練は終わり、なのはたちはそれぞれ自分の家へと帰っていった。

僕も、そのあとは凛華たちの夕飯を作り、いつも通りの夜を過ごした。

 

 



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上層部

 

~零夜side~

 

 

【特殊執務管理室第0課】通称、特務0課に入ってから、僕は与えられた仕事をすべてこなしていた。特務0課は今は公に公表されておらず、一部の管理局員。ミゼットさんたち数名しかしらない。2、3年は表向きはグレアム叔父さんの部下として働くらしいが、裏は、特務0課室長として動く。僕らが調べ、黒か白を付けて裏付け調査をして黒だと分かった上層部や高官は、執務官であるクロノに捕縛させてる。僕が捕縛しない理由は、今はまだ執務官の資格を持ってないからだ。一応グレアム叔父さんから提案を承け、お願いはしているが。

そして今も。

 

「星夜、裏付けの方はどう?」

 

「こっちの方は白ですわね」

 

「ってことは押し付けられた?」

 

「恐らくは」

 

僕たちは管理局内情調査をしていた。

 

「零夜くん、情報改竄の痕跡があったよ」

 

「オッケー澪奈。サルベージ出来る?」

 

「う~ん、ちょっと時間がかかるかも」

 

「そうか・・・・・・。取りあえずサルベージして、改竄前の情報を引き出しといて」

 

「任せて~!」

 

「お兄ちゃん、この書類は?」

 

「あ、それはこっちにお願い」

 

「うん!」

 

「マスター、グレアムさんから伝言を承けたまってます」

 

「?」

 

「え~と。執務官試験の件は了解した。残りの件は追々話す。だそうです」

 

「オッケー。ありがとう紅葉」

 

「零夜くん、ミゼットさんから電話が入ってるよ」

 

「了解。凛華、繋げて」

 

凛華にそう言うと僕の目の前に空間ウインドウが現れ、そこからミゼットさんが映し出された。

 

『こんにちは天ノ宮君』

 

「こんにちはミゼットさん」

 

『グレアム特別顧問から聞いていますけど、早速お手柄そうですね』

 

優しそうに、お祖母ちゃんのように言うミゼットさんに僕は少し照れながら答えた。

 

「そんなことないですよ。基本的に、検挙はクロノに任せてますし。みんなが居てくれるから出来ることですし」

 

『なるほど。天ノ宮君は家族想いなんですね』

 

「まあ、女の子ばかりですけど、それでも一緒に生活してますから」

 

ミゼットさんにそう言うと凛華たちの顔が真っ赤に染まっているのが視界に入った。

不思議に思ったが、今はミゼットさんからの用件を聞くことを優先することにした。

 

「ところでなにかようですか?」

 

『実は、グレアム特別顧問が上層部から天ノ宮君の呼び出しがあると連絡を受けまして』

 

「上層部?もしかしてその上層部って」

 

『はい。予測していると思いますがその上層部は非人道的な事をしていると噂されている一派です』

 

僕はすく様星夜に目配せをして情報を集めてもらった。

 

「確認しました。なるほど・・・・・・。星夜、ミゼットさんにもデータを」

 

「かしこまりました」

 

星夜に言うと、瞬時にスクリーンウインドウに映るミゼットさんの前にウインドウが表示させた。

 

『これは・・・・・・』

 

「ミゼットさん、裏付けも完了してますけどどうせなら実質的証拠を持って捕らえませんか?」

 

『・・・・・・わかりました。では特務0課に命令します。直ちにこの者たちを捕縛なさい!手段は問いません。但し、物的証拠を得てから確保するように。補佐としてクロノ執務官を向かわせます』

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

ミゼットさんの指示に僕らは同時に敬礼して返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

 

クロノとグレアム叔父さんと相談したりして翌日。僕は予定通り管理局上層部に呼び出されていた。

しかし、部屋にいるのは僕だけだ。呼び出した張本人たちはウインドウの向こう側にいる。しかしその顔は見えないようにされていた。

 

「本日は一体なんのご用でしょうか?」

 

僕は冷静に問いた。

 

『今日君を呼び出したのは他でもない。君の能力を我々のために役立ててもらいたいのだ』

 

「それはどういう意味でしょうか?」

 

『これを見たまえ』

 

そう言う一人の上層部の高官は僕の周囲に様々なデータのウインドウを表示させた。

そこに表記されているデータはすべて非人道的な実験や実験結果の内容だった。

 

『君にはここにかかれているプロジェクトに参加してもらいたい』

 

「ほう・・・・・・。まさかと思いますがあなた方が考えて行っているプロジェクトですか?」

 

『当たり前だ。何をいっているのだ?』

 

「管理局の上層部がこんなことしていいんですか?」

 

『正義に犠牲は付きものだ。むしろ、我々の正義の礎になるのだから誇らしく思いたまえ』

 

『その通り。今の管理局には必要なのだ』

 

周囲に浮かぶスクリーンに映る上層部の面々が次々に言う。正直言うと呆れてきた。

 

「はぁ」

 

『なんだねその声は?』

 

「いえ。余りにも呆れたので。あ、言っときますけどあなた方に対する答えはNO、ですよ」

 

『ほう。では、君の家族や知り合いを人質にとったらどうかな?』

 

「は?」

 

上層部の一人が言った言葉に間の抜けた声が飛び出た。

今この人なんて言った?

家族や知り合いを人質に取るって言った?

 

『君の家族や知り合いは調べ済みなのだよ。さすがの君も家族や知り合いがどうにかなってもいいのかね?』

 

「はぁ・・・・・・。あのさ、あんたら僕を怒らせてるわけ?」

 

『幾らここで喚こうが外には聞こえんよ』

 

「知ってるよ?けど、あなた方を捕まえることはできる」

 

『何をいっているのかね?』

 

周囲のスクリーンに映る上層部の面々の怪訝そうな表情に、ニヤッと含み笑いを浮かべる。

 

「では、改めましてここで僕の役職を言いましょうか。まあ、どうせ二度と会うことはありませんけど」

 

『何を言っているんだ?』

 

「僕は【特殊執務管理室第0課】通称、特務0課の室長、天ノ宮零夜です。あなた方全員、管理局法違反の重罪で捕縛させていただきます」

 

『『『なにっ!?』』』

 

僕のその声と同時に、宙に浮かぶスクリーンの6つからそれぞれドアが開く音が聞こえた。

 

『そこまでだ!管理局法違反の重罪で逮捕する!』

 

『な!?』

 

『あなたを逮捕させていただきます!』

 

『なに!?』

 

『抵抗はしないで投降してくださいね』

 

『なぜここがっ!?』

 

上からクロノ、凛華、星夜の声が聞こえた。そして残り三つからも紅葉と澪奈、聖良の声が聞こえてくる。

 

『貴様っ!』

 

「あなた方のことは初めから調べ済みなんですよ」

 

『おい!ソイツを始末しろ!殺せ!』

 

捕縛されながらも指示を出す上層部の一人の声と同時に、後ろと前の入り口から武装した局員が数十人流れ込んできた。

 

『零夜、そいつらも全員捕縛してくれ』

 

「オッケー、クロノ。クロノは凛華たちと合流して」

 

『わかった』

 

捕縛した上層部を動けないようにしてクロノが僕にそう言って、ウインドウを閉じた。

 

「さあ、それじゃ、やりますか」

 

僕はそう言うと無詠唱の雷系統の魔法の射手を一斉に、全方位に放った。

 

「ふふ。僕を相手にしたいならもう少し努力しなさい。それと、君たちは相手の力量を測れないのかな?」

 

そう言うと、辺りからドサドサと人が倒れる音が立て続けに起こった。

 

「バインド」

 

動けない人をバインドで縛って拘束して武装を取り上げる。

 

「やれやれ、管理局上層部がここまでとはね」

 

僕は物的証拠として小型カメラを起動させていた。さらに、上層部が出した悪戯非道の非人道的な実験などのデータをすべて保存した。これで彼らは言い逃れはできないはずだ。

倒れている全員を縛り上げて数分して、グレアム叔父さんとアリアさんとロッテさんが部屋に入ってきた。

 

「グレアム特別顧問。無事終わりました」

 

「お疲れ様だね零夜君。アリア、ロッテ」

 

「はーい」

 

「ええ」

 

アリアさんとロッテさんが拘束されてる局員を連れて部屋から出ていき、僕とグレアム叔父さんも部屋から出ていった。

 

「グレアム叔父さん、これが彼らの行っていた実験のデータです」

 

「ふむ・・・・・・。なるほど、人体実験に禁忌とされてる生命操作・・・・・・。ありがとう零夜君、これで彼らは言い逃れできないな」

 

「いえ。しかしその中で少し気になるのが」

 

「ん?」

 

「詳しく調べられなかったのですが、管理局の地上本部と繋がってる形跡があったんです」

 

「なに?」

 

周囲に人がいないのを確認して、僕は小声でグレアム叔父さんに言った。

 

「生命操作は彼らはだけでなく、一部の上層部も行ってるらしいんですがその中で地上本部との繋がりが幾つか。ですがどれだけ調べても地上本部との繋がりが幾つかあるってだけでそのパイプ先が誰なのかまでは・・・・・・」

 

「ふむ・・・・・・。わたしら海と陸は常に啀み合っているのだが・・・・・・」

 

「恐らくすべての黒幕が地上本部にいるのかと」

 

「それもかなり高い権力の持ち主ってことかい?」

 

「ええ」

 

本局内部の調べでも、地上本部と本局は長年啀み合っているのが分かる。まあ、それも一部の局員だけみたいだが。調べていくなかで地上本部の何者か。それも高い権力の持ち主が隠蔽している。

 

「この事はミゼット統幕議長たちにも知らせたほうが良さそうだな」

 

「ええ」

 

「零夜君、わたしの予感だが現状ではあまり深入りしないほうがいいと思う」

 

「ええ、僕もそうかと」

 

嫌な予感がした。今のままこれに深入りすると何かとてつもないものを敵に回すのではないかと思ったのだ。今の自分の地位や魔法では恐らく足りない。ランクはSSSだろうが、そんなの関係なく経験の問題だ。魔法も知識も人脈も何もかもが今の僕には足りない。

そう思いながら歩を進めていき。

 

「それではわたしはこれで。零夜君も気を付けくれたまえ」

 

「はい。グレアム叔父さんも気を付けて」

 

グレアム叔父さんと分かれた僕は凛華たちの待っている特務0課の部屋へと戻った。

 

「ただいま~」

 

特務0課に戻ると、既に凛華たちが戻ってきていた。そしてそこにはクロノもいた。

 

「お疲れ様クロノ」

 

「君もな零夜」

 

軽く拳をぶつけ合って僕とクロノはそう言った。

 

「しかし零夜。ここ最近無理してないか?」

 

「そう・・・・・・かな?闇の書・・・・・・いや、夜天の書の頁蒐集のときは不眠不休だったけど」

 

「それはそれで問題だが・・・・・・」

 

クロノは引き笑いを浮かべながら言った。

 

「それに僕はまだ入局して半年も経ってないからね」

 

「いや、正直なところ零夜の検挙数は入局半年の局員なのに対してかなり高いぞ?そもそも普通はこんな3提督直属の部隊になんか配属されないんだからな?」

 

「うん、それは僕も驚いているよ」

 

正直こんな直属の独立部隊に、しかも室長として配属されるなんて夢にも思わなかったのだ。

 

「けど、今にしてみればミゼットさんには感謝しかないよ」

 

僕は部屋の端の方で楽しく談笑しながらお茶をしている凛華たち家族を見る。

 

「そういや君は・・・・・・」

 

そんな僕をクロノは影が落ちたような悲痛の眼差しで見てきた。

 

「そう言えばクロノたちには話したんだっけ」

 

クロノやなのはたちには僕の家族のことを話していた。

 

「ああ」

 

「クロノが気にすることじゃないよ。まあ、会えないのはすごく哀しいけど、ね」

 

凛華が淹れてくれた紅茶を飲みながら、カップの紅茶に視線を落として言う。

 

「ところでクライドさんは元気?」

 

「父さんは相変わらず母さんとやってるよ」

 

「はは。それは良かったよ」

 

闇の書事件のあと、クライドさんは管理局員として復帰したあとリンディさんの補佐として入ったのだ。まあ、グレアム叔父さんがクライドさんをそこに配属させたのだが。

 

「そういや零夜は執務官試験を受けるんだったか?」

 

「あはは、まあね。あった方が良いって言われたから。あとは戦技教導官の資格と司令官の資格とデバイスマイスターかな?」

 

「あいかわらず君はチートだな。只でさえ無限書庫の司書の資格も持っているのにな」

 

「ふふ。明莉お姉ちゃんからもらったこの二度目の命。自分や誰かのために使いたいからね」

 

「君らしいな。ところですずかとアリサのデバイスの方は大丈夫か?」

 

「8割がたは出来上がってるよ」

 

「は、速いな」

 

「あー、星夜と紅葉に手伝ってもらったからね。フレームとかのパーツは僕がクロノから貰ったのを使って作成したけどシステム面は星夜がやってくれたよ」

 

「ほんと、君は夜天の主みたいだな」

 

「はやてと一緒にしないでよ」

 

クロノの言葉に僕は苦笑して返した。

そこで僕は思い出したかのようにクロノに聞いた。

 

「はやてといえば、なのはたちの方はどう?」

 

「なのはたちは今地上の訓練校に短期講習を受けにいってるよ」

 

「まさかなのはたちも入るなんてね」

 

「まあ、そうだな」

 

「アリサとすずかと僕が教えてるし、ほんと僕の知り合いは魔法適正が高いね」

 

「まったくだ。僕はここ最近君に原因があるのでは、と思うようになってるぞ?」

 

「はは。僕も少しそう思ってたよ」

 

「ところで彼女たちが付けていた武器はなんだ?」

 

そこにクロノが凛華たちのほうを見て、ふと気付いたことを聞いた。

 

「ああ。あれは僕が作成した凛華たちのデバイス・・・・・・ってより、補助装置みたいなものかな?」

 

「補助装置だと?」

 

「うん。凛華たちの魔法を使うときの補助かな。一応、近接戦闘にも対応してるけど」

 

「なるほどな。まったく君というヤツは」

 

苦笑して紅茶を飲むクロノに肩を竦めて無言で返した。

そのあとは簡単な業務連絡等をして、僕は管理局を後にして自宅へと転移し、いつも通りの日常を終えた。

 



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異世界へ

 

~零夜side~

 

 

「ロストロギア回収・・・・・・ですか?」

 

『ええ』

 

特務0課の室内で仕事をしているとミゼットさんから連絡が来た。僕は疑問符を浮かべながら回線を開くとミゼットさんからロストロギアの回収任務を言われた。

 

『今回天ノ宮君にお願いするロストロギアは準一級ロストロギア、≪天の操槍(ヘブンリィスピア)≫です』

 

「≪天の操槍≫・・・・・・ですか。名前から察するに天候操作系のロストロギアでしょうか?」

 

『はい。八神はやてさんが所持している夜天の魔導書。その前の、闇の書は管理局の第一級捜索遺失物に指定されてたことはしってますね?』

 

「ええ」

 

『闇の書の本体は破壊されたため、現在夜天の魔導書はロストロギアではありますが闇の書とは違い第一級捜索遺失物には指定されてません。まあ、ロストロギアのランクではトップクラスのランクではありますけど』

 

「そう言えばそうでしたね」

 

苦笑気味に頬を引きつりながらミゼットさんの言葉に反応した。

 

『それよりランクは僅かに低いですが、この≪天の操槍≫は使用すれば最悪災害を引き起こしかねないロストロギアです』

 

「!」

 

僕はミゼットさんの言った、災害、にすぐさま凛華に視線を向けた。すぐさま凛華は目の前の端末に向き直り、管理局のネットワークにアクセスし≪天の操槍≫について検索する。それと同時に起動していたアーティファクト、世界図絵を開く。

 

「≪天の操槍≫・・・・・・なるほど」

 

世界図絵で調べた結果にはこう書かれてあった。

 

 

 

 

≪天の操槍≫ 準一級遺失物

 

天候を操作する能力を持つロストロギア。

元は生活に必要な天候を操作する武具だったが、戦乱により所在は不明。

使用者の力量によっては天災を引き起こすこともできるロストロギア。

 

 

 

 

 

 

 

『さらに何者かがこの≪天の操槍≫を所持していると報告が上がっています』

 

「まさか行方不明とされていたこのロストロギアを見つけた人がいたと」

 

『はい』

 

ミゼットさんの言葉を聞き、内心舌打ちしたくなった。

この文を見る限り、使用者の力量によって天災を引き起こしかねないと言うことだ。つまり、それはたった一人でその場を、悪く言えば最悪世界すら支配することができると言うことだ。

 

「場所は分かってるんですか?」

 

『ええ。情報では第57管理世界外の隅にある世界にあると。そして件の所有者もいると。しかし、その所有者の全貌は不明です』

 

「分かりました」

 

『お願いします。権限は私の名の元、可能な限り与えます』

 

「了解しました」

 

ミゼットさんは僕の本来の直属の上司故こう簡単に権限が行使できるのだ。

ミゼットさんと簡単な打ち合わせをして、僕はすぐさま準備をして第57管理世界外の隅にある世界へと、凛華たちとともに転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第57管理世界外

 

 

特務0課の室内からこの世界に転移した僕たちは視界が開けると、周囲を見渡した。

そして目に入った光景に驚愕した。

 

「こ、これは・・・・・・!」

 

目の前の場所にはまるで何かに抉り取られたかのような、丸いクレーターが幾つも出来ていたのだ。そしてその周囲には土が盛り上がっていて木々が薙ぎ倒されていた。

 

「まるで竜巻の群れがあったみたいだ・・・・・・」

 

僕は茫然と、呆気に取られて言った。

 

「マスター、エネルギー残留があのクレーターから感じられます」

 

「どういうこと紅葉?」

 

「たぶん、あれ自然に発生したものじゃない無いんじゃないかな」

 

「まさか、人為的に起こしたものってこと?」

 

紅葉たちの言葉に僕はロストロギア、≪天の操槍≫を思い浮かんだ。

 

「これ・・・・・・全部、≪天の操槍≫によって出来たものなの・・・・・・?」

 

確かに文脈には使用者の力量によっては天災を引き起こすことも可能と書かれてあったが、此処までとは思わなかったのだ。それより、これを一人でできるとは思わない。

 

「・・・・・・帰って良いかな」

 

僕は目の前の光景に一言そう洩らした。

 

「だ、ダメだよお兄ちゃん!」

 

「マスター、さすが帰ってはならないかと」

 

「うん知ってる。言ってみただけ。星夜」

 

「はい」

 

気疲れしながら、星夜に周囲の索敵をお願いする。

それと同時にアーティファクトの渡鴉の人見(オクルス・コルウィヌス)を出して周囲に散らせる。

しばらくして星夜が。

 

「零夜くん、ここから北西十キロ先に巨大なエネルギー反応があります」

 

「巨大なエネルギー反応?」

 

星夜の言った場所に渡鴉の人見を向かわせ、その場の映像を見る。

 

「これは・・・・・・!」

 

「まずいよお兄ちゃん!村が!」

 

映像には荒れ狂う竜巻が村を破壊している惨状が映し出されていた。

 

「急いでいくよ!」

 

僕は凛華たちにそう言うと転移魔方陣を展開して、映し出された場所へと転移した。

転移して、目に入ったのは人々が逃げまとう姿と破壊の惨状だった。

 

「凛華の澪奈、紅葉、聖良は人々の非難と安全確保を!星夜は僕と一緒にあれを対処するよ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

指示を出すと、凛華たちは各地に散開して逃げまとう人々の非難をし始めた。

 

「星夜、お願い!」

 

「はい!」

 

僕が星夜にそう言うと、星夜の身体が光り僕の背中に双翼形態となって現れた。それと同時に僕の服装も蒼と緋のバリアジャケットを身に纏った。

バリアジャケットを着て、星夜を装備した僕は空に上がり竜巻を対処し始めた。

 

「星夜、スタービット、全展開!」

 

〈了解しました、全スタービット展開します!〉

 

背中の翼から今出せるすべての小型砲撃機が射出され、竜巻の周囲を揺蕩う。

 

「風は汎用性が高いからね・・・・・・竜巻には竜巻を!」

 

僕はそう口走るのと同時にスタービットから砲撃を放ち、竜巻の威力を落とす。

 

「星夜、あと15秒もって!」

 

〈はい!〉

 

星夜に竜巻の抑止をお願いして、僕は高速詠唱して術式を展開、構築、エレメントと魔力の結合をする。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。来たれ風精、集い来たりて巻き起これ天白の暴風。祖は颶風の巫女、風を司るもの!」

 

竜巻の四方と自身の正面に橙色の魔方陣を構築して終の呪文を紡ぐ。

 

「―――颶風の暴風(ラファエル・テンペスタ)!」

 

五つの魔方陣から目の前の竜巻より少し小さい竜巻を発生させた。狙いは竜巻と同威力の竜巻を発生させて対消滅を引き起こすことだ。四方からの竜巻に勢いを削り取られ、スタービットから放たれる砲撃で威力はかなり落ちてる。そして止めの正面からの竜巻によって対消滅を引き起こさせる。

予め周囲には防護障壁を張っているため、周囲にこれ以上被害が広がる恐れはない。

しばらくして、二つの竜巻は静かに、ゆっくりと虚空へと消え去った。

 

「終わった~。星夜、データは取れた?」

 

「はい」

 

星夜が双翼形態から人形形態に変わりながら聞き、バリアジャケットを着たまま凛華たちがいる場所に降りる。

 

「凛華、村の人たちの治療は?」

 

「あと少しで終わります!」

 

「了解、僕も手伝う」

 

すぐさま近くの人に治癒魔法を掛けて治療する。

 

「大丈夫ですか」

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

「いえ」

 

全員に治癒魔法を掛けると澪奈がやって来た。

 

「澪奈、村の人たちはこれで全員?」

 

「うん。村長さんが言うにはそうみたいだよ」

 

「一応、紅葉と一緒に周囲を捜索して。星夜は解析を、凛華と聖良は僕と一緒に来て」

 

みんなにそう言うと、僕は村長さんの元へと向かった。詳しい話を聞くためだ。

 

「初めまして。時空管理局特務官の天ノ宮です。詳しいお話をお聞かせ願いたいんですが。よろしいですか?」

 

僕はミゼットさんから与えられた異世界での役職名を伝える。

 

「はい」

 

村長さんはそう言うと僕に頭を下げてきた。

 

「この度は村を救ってくださりありがとうございます」

 

「いえ」

 

「お話とはあの竜巻のことですね」

 

「はい。なにか知りませんか?」

 

「・・・・・・申し訳ありません。わたくしたちも分からないのです。あの竜巻は急に現れまして」

 

「急に?」

 

「はい」

 

「この辺りではあのような竜巻などの災害がよく起きるんですか?」

 

「まさか。そんなことありませんよ。あのような物など此の方始めてみました」

 

「そうですか・・・・・・」

 

怯えている様子から生まれてはじめて竜巻などの驚異に曝されたのだろう。

 

「あの竜巻が起こる際、村の人以外に誰か見ませんでしたか?」

 

もしあれが自然発生したものでなく人為的なものなら、それを発生させた。即ち、捜索ロストロギア≪天の操槍(ヘブンリィスピア)≫を所持している人がいると言うことだ。

僕の問いに村長さんはしばらく考えるようにして思い出したかのように言ってきた。

 

「・・・・・・そう言えば昨日、村の人ではない。見慣れない人々がこの村にやってきました」

 

「昨日?」

 

「はい。確か今日も・・・・・・あれが起こる際にあの岩場から観ていたような・・・・・・」

 

村長さんが指差した方向にあるのは高々い岩場で、丁度村がすべて見下ろせる位置にあった。

 

「その人たちの特徴は何かありましたか」

 

「ええと・・・・・・確か全員同じ白いローブのような物を着ていました」

 

「白いローブ・・・・・・」

 

「はい。あ、それと先頭の人が確か銀色の槍のような物を持っていましたね」

 

「槍・・・・・・」

 

僕は村長さんの槍と言う言葉に空間ディスプレイを出して、≪天の操槍≫の画像を見せる。

 

「もしかしてこの槍ですか?」

 

画像は荒いが、槍はくっきりと写っていた。

 

「ええ、そうです。この槍です」

 

「・・・・・・」

 

村長さんの言葉で確信した。これを引き起こしたのはその白いローブを着た集団だと。そして恐らく槍を持っていた人がリーダーだろう。そうとっさに考えると内心舌打ちしたくなった。

 

「(これは一度ミゼットさんに連絡を取った方が良いかな。集団だとすると面倒だしね・・・・・・)」

 

恐らく組織だっての行動。僕はそう考えてこのあとの行動のことを考えたのだった。

村長さんから話を聞き終えたあと、僕らは村の再建復興を微力ながら手伝うことにした。とはいっても、対処が早かったため、竜巻によって倒壊した建物の残骸の後片付けや食事などをしただけだが。幸いにも倒壊した建物は僅かで、竜巻が起こった場所の範囲だけだった。とは言うものの惨状はとても良いと言えるものではないが。

その夜、僕は凛華たちと共に村の宿屋の一室にいた。

村長さんがお礼として用意してくれたのだ。最初は断わろうとしたのだが、また何かあっては大変なため今日一晩だけ村長さんのご厚意に甘えることにしたのだ。

部屋の中は僕ら全員が寝れるようになっていて豪華とは言わないが、綺麗な部屋だった。

そんな中、僕らはあの災害のことについて話し合っていた。

 

「さて、あの竜巻のことについて何かわかったことはある?」

 

僕の問いに答えたのは分析していた星夜だ。

 

「あの竜巻は自然発生したものではありませんでした。僅かですが魔力の痕跡がありました」

 

「ふむ。他は?」

 

「はい」

 

「はい、紅葉」

 

「マスター、村人から話を聞いたのですが、あの竜巻は突然、なんの前触れもなくいきなり現れたそうです」

 

「村長さんが言っていたとおりだね」

 

「お兄ちゃん」

 

「なに、聖良」

 

「私と澪奈ちゃんでそのロストロギアを保持していたと思う人がいた場所に行ってみたんだけど」

 

「そこには何人かの足跡があったのと、微量の魔力痕跡があっただけだったよ」

 

「なるほど・・・・・・」

 

凛華たちの調査結果から考察して相談しあいながら、僕はミゼットさんに連絡を取る。

 

『天ノ宮特務官、どうかしましたか?』

 

「ミゼット統幕議長、状況報告を致します」

 

僕はミゼットさんにこの世界に来てからのことを報告、それと村でのことやロストロギア、そしてそれを所持していた集団のことを話した。

 

『なるほど・・・・・・』

 

「ミゼット統幕議長、アースラをこちらに寄越すことは出来ますか?」

 

『アースラですか?』

 

「はい」

 

記憶が正しければ、アースラは今本局でメンテナンス中で、確か今日にメンテナンスが終わるはずだ。

 

『・・・・・・分かりました。私の方からリンディ提督にお願いします』

 

「ありがとうございますミゼット統幕議長」

 

『いえ。そちらに到着は恐らくお昼頃になると思いますが・・・・・・大丈夫ですか?』

 

「問題ありません。それまでには終わらせておきます」

 

『分かりました、無理をしないようにしてください』

 

「はい」

 

ミゼットさんと対応策と今後の事について話、ミゼットさんとの通話を切ったのはその40分後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

「・・・・・・凛華」

 

「はい」

 

僕は凛華と手分けして周囲を索敵していた。

聖良たちは今村の子供たちの相手をしてくれている。

村の中央広場で索敵している僕と凛華の索敵範囲内に複数の魔力反応を検知した。

すぐさま魔力反応を検知した場所にアーティファクト、渡鴉の人見を飛ばせ確認する。

 

「この辺りだね」

 

渡鴉の人見から伝わってくる映像をもとに反応があった周囲を映す。

 

「これは・・・・・・」

 

映像の中で一つ奇妙なものが映ったのに僕は目を止めた。

 

「(こんな場所に何で家が・・・・・・?しかも人避けの結界が張られてる)」

 

渡鴉の人見から伝わってくる情報を解析して声に出さずに言う。もし人避けの結界ではなく断絶結界だったりしたら幾ら渡鴉の人見でも侵入出来なかっただろう。入れたのは人避けという、"人"と言う単体での結界だからだ。

そのまましばらく様子を見ると、一人の男性が現れた。そしてその後ろには白いローブを着た人が複数いた。

 

「・・・・・・!」

 

一番前にいる白いローブを着た男性の手に持っている槍を見て僕は息を呑んだ。何故なら、その男性が持っている槍こそ、今回僕が探している準一級ロストロギア≪天の操槍(ヘブンリィスピア)≫だからだ。

 

「見付けた・・・・・・・!」

 

座標を特定して、観察したそのとき。

 

「あの、すみません」

 

若い女性から声をかけられた。

 

「どうかしましたか?」

 

「あの、七歳くらいの女の子を見ませんでしたか」

 

「女の子・・・・・・ですか?」

 

「はい。さっきから姿が見えなくて・・・・・・」

 

女性の言葉から僕は聖良を呼んだ。

 

「その女の子の特徴ってなにかありますか?」

 

「えっと、セミロングの紺の髪を紫のリボンで縛っているんですけど・・・・・・」

 

「ごめんなさい・・・・・・見てません」

 

「そうですか・・・・・・」

 

「その子のお名前は?」

 

「ルナです」

 

「ルナちゃん・・・・・・!?」

 

女の子のたぶん母親らしき女性からその子の名前を聞いたその時、渡鴉の人見の映像に二人の女の子の姿が映った。

 

「聖良、今すぐルナちゃんの他に、いない子供がいないか確かめてきて」

 

「え?うん、わかった」

 

僕の声に聖良は不思議そうに首をかしげて星夜たちの方に駆けていった。

しばらくして星夜と聖良、そして一人の女性がやって来た。

 

「お兄ちゃん、いないのはルナちゃんとこのお母さんの娘のユミナちゃんみたい」

 

聖良と星夜と一緒に来た女性は不安げな顔をしていた。

 

「突然すみません。そのユミナちゃんのことで聞きたいのですが」

 

「ええ」

 

「その子、もしかして蒼い髪に赤いカチューシャを着けてませんでしたか?」

 

「え、ええ。そうです」

 

「!」

 

女性の言葉で僕は渡鴉の人見に映った女の子がルナちゃんとユミナちゃんだと言うことが分かった。

 

「凛華、今すぐ乗り込むよ」

 

「はい」

 

「星夜、紅葉と澪奈を呼んできて」

 

「わかりました」

 

僕の慌てた声に凛華たちは迅速に動いてくれた。

 

「あ、あの、ルナになにが・・・・・・」

 

「大丈夫です、僕たちが探してきますのでお二人は待っていてください」

 

「はい・・・・・・」

 

「ええ・・・・・・」

 

二人の母親がいなくなるのと変わって星夜が紅葉と澪奈を連れてきた。

 

「みんな今から≪天の操槍≫の回収をするよ」

 

「わかりました」

 

「それと、その近くにルナちゃんとユミナちゃんがいるみたいだ。澪奈と紅葉は二人の捜索を。凛華と星夜は敵の無力化を。聖良は僕と≪天の操槍≫保持者の相手をするよ」

 

僕の言葉に凛華たちはうなずいて返した。

 

「行くよ!」

 

僕はすぐさま転移魔方陣を構築して、渡鴉の人見に映った集団のすぐ近くへと転移した。

 

 

 

 

 

 

 



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会合

 

~零夜side~

 

 

「全員、準備はいい?」

 

すでに聖良とユニゾンしている僕は近くの木々から対象の木製の家を見つつ、念話で各地に散会している凛華たちに訪ねる。

 

〈大丈夫です〉

 

〈こちらも問題ありませんマスター〉

 

代表して、凛華と紅葉が念話で答えた。

 

「じゃあ作戦開始!」

 

僕の言葉と同時に木製の家に向かって左右から凛華と星夜の放った魔法が放たれる。

 

「時空管理局です!危険指定ロストロギア所有の罪で逮捕します!全員、抵抗をやめて大人しく出てきなさい!」

 

恐らく家に魔力障壁が張ってあったのだろう。凛華と星夜の全力ではないとはいえ、魔法が当たっても対してダメージがない。僕は家に向かってなるべく大きな声で言う。

すると、家の扉が開き中から白いローブを着た人が複数出てきた。そしてその先頭にいる人はロストロギア≪天の操槍≫を手に持っていた。

 

「ほお、時空管理局ですか。一体なんのご用でしょうか」

 

≪天の操槍≫を手にしている男が話しかけてくる。

 

「時空管理局特務官天ノ宮です。あなた方を危険指定ロストロギア所有の罪と時空法違反の罪で逮捕します」

 

恐らくこの集団はこの世界ではない、別世界の人間だ。基本別世界の人々に危害を加えることは時空法違反だ。まあ、ユーノは事情が事情だし、それはプレシアさんと僕らも然り。そんなわけで、昨日のあの村のようなことは禁止されているのだ。

 

「あなた方の名前と出身世界を答えてください」

 

僕の問いに対する答えは。

 

「お断りします」

 

魔力弾による攻撃だった。

 

「予想通りだね~」

 

もちろんその行動は予測済みで、僕は放たれた魔力弾を霧散させ、代わりに僕の魔力弾をおみまいした。

 

「(凛華、星夜!)」

 

僕の念話とともに凛華と星夜が敵を無力化しに動く。

 

「なっ!?」

 

「もう一度問います。あなた方の名前と出身世界を答えてください。それと、なにが目的なのか」

 

一気に制圧され驚いている先頭の男に僕は再び言う。

 

「・・・・・・まさか、一瞬で制圧されてしまうとは思いませんでした。では、その敬意を表して名のらせていただきましょう」

 

そう言うと男はローブに付いていたフードを取り、恭しく頭を下げてきた。

 

「わたしの名はクルト・ファレウム。天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)、上位三翼が一翼、序列一位熾天使(セラフィム)の一人です」

 

天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)・・・・・・?」

 

聞いたことのない名前だった。

研究会ということは何らかの研究をするための集団なのだろう。だが、今はそんなことより彼らの捕縛が最優先事項だ。

 

「その天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)方のあなたたちはなぜこの世界に?」

 

「いえ、ちょっとした実験ですよ」

 

「実験?」

 

「ええ。この、≪天の操槍(ヘブンリィスピア)≫のね!」

 

「!」

 

そう言うと否や、男・・・・・・クルト・ファレウムは≪天の操槍≫の矛先を僕に向けて、竜巻を生み出した。

 

支配領域(インペルマジェスター)!」

 

とっさに支配領域を展開して竜巻の構造を解析、分析して無に帰す。

 

「ほお・・・・・・中々やりますねあなた。その若さでこの攻撃を防ぐ、いえ、消し去るとは」

 

「一応聞きますけど、昨日のあの竜巻やここから少し離れた場所にあった惨状はあなた方の仕業と言うことで間違いありませんね?」

 

「ええ。昨日の竜巻はあそこで行った実験よりも強力にしたんですがまさか村の家を数件壊すだけで終わってしまうとは・・・・・・いやはや、残念でしたね」

 

目の前の男の言葉に僕は殺気を高める。

 

「それで村の人が死んでも良いと言うんですか!」

 

「ええ。わたしたちには何の関係もありませんから。彼らはただのモルモット、我ら天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)の目的の礎になるだけですからね~」

 

「っ!氷爆(ニウィス・カースス)!」

 

クルト・ファレウムの言葉に僕はいてもたっても入られなくなり魔法を放つ。

 

「クルト・ファレウム、あなた方を逮捕します。抵抗は止めて武装を解除しなさい!」

 

「お断りするよ!」

 

「くっ!」

 

クルト・ファレウムの魔法をとっさに横に避けてかわす。僕が立っていた場所は土が盛り上がり、岩までも削れていた。

 

「かわしますか・・・・・・なるほど、あなたただの魔導士ではありませんね」

 

「ちっ!」

 

喋りながら、余裕ぶっこいて話しているクルト・ファレウムに僕は舌打ちした。

 

〈澪奈、紅葉!二人は見つかった?!〉

 

〈すみませんマスター!こちらも何者かに襲われてます!〉

 

〈なに!?〉

 

〈くっ!・・・・・・マスター、捜索している女の子二人は私たちが相手している者らに捕まってます!〉

 

紅葉の念話に僕は目の前のクルト・ファレウムを睨み付ける。

するとその視線に気付いたのか、クルト・ファレウムはヘラヘラとおちゃらけた感じに言った。

 

「あなたのお仲間を相手しているのは中位三翼が一翼、序列五位力天使(ヴァーチュース)のセル・シニアです」

 

「どういうつもりであの娘たちを捕まえてるんです」

 

僕はクルト・ファレウムの周囲に様々な属性の刃を突きつけて聞く。

 

「実験ですよ」

 

「実験?」

 

「ええ!わたしたちの目的は時空管理局が定めた今の世界を変えること。そのための実験に使うんですよ」

 

「くっ!外道が・・・・・・!」

 

クルト・ファレウムの言葉に僕は胸糞悪くなった。正直、外道過ぎる。

 

「(紅葉、澪奈、リミッターを二つ解除して敵を制圧。目的は女の子二人を奪取すること。奪取したら僕のところまで来て!)」

 

〈了解!〉

 

〈了解しましたマスター!〉

 

澪奈と紅葉にそう指示を出して念話を切る。

凛華と星夜は他の天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)を相手していた。

 

「二人とも、リミッターを二つ解除!」

 

「了解!」

 

「かしこまりました!」

 

凛華は腰の細剣(レイピア)を、星夜は双銃を取り出して目下の相手と戦う。

 

「さあ、はじめましょうか時空管理局の特務官さん」

 

「ええ」

 

両手を手刀にして、断罪の剣(エンシス・エクセスエンス)を発動する。

 

「・・・・・・っ!」

 

「・・・・・・しっ!」

 

一瞬で間合いを積め、僕とクルト・ファレウムはぶつかった。

槍と断罪の剣を付与した手刀。

断罪の剣は大気中に浮かぶ液体の物質を無理やり気体に相転移(フェイズトランス)させて自身の手に顕現させる魔法だ。断罪の剣は扱いが難しいに加え、御するのが困難なため超高等呪文だ。

この辺りに被害を出さないためには力を制御しなくてはならない。そして、早く片付ける。

僕はそう決め、闇の魔法(マギア・エレベア)を使用しないで相手することに決めた。今、ここで僕の奥の手を見せるのは得策ではない。そう判断して。

 

「くっ・・・・・・!」

 

身長差もそうだが、リーチが違いすぎる。

 

「時空管理局の特務官というのはその程度の実力なんですか?」

 

クルト・ファレウムはバカにするように言ってくる。

 

「(聖良、まだ行ける?!)」

 

《うん!まだ大丈夫!》

 

聖良の声に更に魔力を高め、クルト・ファレウムに攻撃する。

 

「ちっ!」

 

左右からの攻撃を上手くかわして、バックステップで後ろに下がったクルト・ファレウムは忌々しそうに見てきた。

 

「魔力量が上がりましたね・・・・・・!」

 

連槍(コンテンス)雷の13槍(ライトニング)!」

 

「くっ・・・・・・!」

 

雷の斧(ディオス・テュコス)!」

 

「やっかいですね・・・・・・・っ!」

 

雷の槍で逃げ場を封じ、動きが止まったところに雷の斧で攻撃する。しかしそれをクルト・ファレウムは障壁で防いだ。

 

「くらいなさい!」

 

雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」

 

クルト・ファレウムの出した魔法の竜巻と、僕の雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)がぶつかる。互いの魔法が拮抗しているそんなところに。

 

「っ!?」

 

上空から何者かが降りてきた。

それと同時に。

 

〈マスター、すみません!一人逃がしました!〉

 

紅葉のそんな声が念話を通じて伝わってきた。

 

「(わかった!紅葉は澪奈と一緒にその子達を保護していて!)」

 

〈了解ですマスター!〉

 

女の子たちは無事に保護できたみたいで、一安心した僕は意識を切り替えて凛華と星夜の方を見る。

凛華と星夜の方はすでに大抵の者が地に倒れ付していた。

そんな僕の耳にクルト・ファレウムともう一人の声が聞こえてきた。

 

「クルト様、申し訳ありません。少女二人、敵に奪い返されました」

 

「お疲れ様ですセル。あなたがやられるとは驚きです。まあ、それはわたしもですが」

 

「ええ。それと、時空管理局の増援がこちらに来ていると」

 

「そうですか・・・・・・わかりました、ここは退くとしましょう」

 

「わかりました」

 

「逃がすか!」

 

クルト・ファレウムとセル・シニアの二人に僕は、魔力刃を突きつけて言った。

すくなくともロストロギア、≪天の操槍(ヘブンリィスピア)≫だけは回収する。

 

「ええ。わたしたちはここらで失礼させてもらいます、時空管理局の若き特務官君。君の名前は・・・・・・・なんでしたっけ?」

 

「・・・・・・天ノ宮零夜」

 

「では天ノ宮君、また会うことがあればいずれ」

 

「待て!クルト・ファレウム!」

 

とっさに魔力弾を放ったが、魔力弾はクルト・ファレウムとセル・シニアに当たらず、二人が転移して消え去った地面に当たった。

 

「くそっ!逃がした!」

 

反応と気配が消えたことで、クルト・ファレウムとセル・シニアは本当にこの場、いやこの世界から消えたと言うことがわかった。

悪態吐いていると。

 

『零夜君、聞こえる?』

 

空間ウインドウが開き、そこにリンディさんが映し出された。

 

「リンディさん」

 

『ミゼット統幕議長から言われて零夜君を迎えに来たんだけど・・・・・・なにがあったの?』

 

「すみませんリンディさん。ロストロギアの回収に失敗しました」

 

『え』

 

「それとすみません。武装隊を何人か送ってくれますか。捕縛した者がいるので」

 

『わ、わかったわ。エイミィ』

 

『了解です!』

 

空間ウインドウを閉じてしばらくして、何人かの武装隊が転移してきた。僕は捕まえた天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)の構成員をバインドしながら武装隊に引き渡し、リンディさんに言伝を頼んでから僕は澪奈と紅葉の保護した二人の女の子とともに村に帰った。

村に入ると、村長さんを初めとした村の人全員から心配された。どうやらあそこでの戦いはこの村にまで聞こえていたらしい。そこで僕は結界を張るのを忘れたことを思い出した。とまあそれは置いといて。

 

「ルナちゃん、ユミナちゃん、着いたよ」

 

僕は澪奈の手を握っている二人の少女に言った。

澪奈が手を離すと、ルナちゃんとユミナちゃんは一目散にお母さんのところに駆けていった。

二人のお母さんは僕らの方を見ると頭を下げていってきた。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

「いえ、気にしないでください。二人とも、怪我はないようなのでたぶん大丈夫だと思うんですけど、怖い目に遭ったので・・・・・・・」

 

僕は逆に二人のお母さんに頭を下げた。

二人を怖い目に合わせてしまったのは自分のせいだからだ。そんな頭を下げる僕に。

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃんが助けてくれたから!」

 

「は、はい。大丈夫・・・・・・です。助けてくれて・・・・・・ありがとうございました・・・・・・」

 

ルナちゃんとユミナちゃんがそう言ってきた。

 

「ありがとうルナちゃん、ユミナちゃん」

 

僕は優しく微笑むと、二人の頭を優しく撫でた。

 

「あ、二人とも、もし何かあったら僕に連絡してね」

 

そう言うと僕は二人に僕の電話番号の入った紙を渡した。

 

「うん!」

 

「は、はい!」

 

「村長さん。もしも何かありましたらこちらにご連絡してください」

 

「何から何まで・・・・・・ありがとうございます」

 

「いえ。それじゃあ僕たちはこれで」

 

僕はそう言うと凛華たちとともに村を後にしてアースラに直接転移した。村をあとにする前に聞こえたのは、村の人たちからの感謝の声と、助けた二人の少女の元気な声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラ内部

 

 

アースラに転移して、僕はリンディさんに簡単に説明し、アースラ内の会議室を使ってミゼットさんに報告していた。

 

「申し訳ありませんミゼット統幕議長。ロストロギア≪天の操槍≫の回収失敗しました」

 

『いえ。天ノ宮特務官のせいではありません。私の情報が足りませんでした。申し訳ありません』

 

「いえ・・・・・・」

 

暫しの間、空間ウインドウ越しの僕らに沈黙が走った。

 

『天ノ宮特務官、いえ、天ノ宮君。怪我とかはしてませんか?』

 

「大丈夫です。凛華たちも同様です」

 

『そうですか。良かったです』

 

「ミゼットさん、天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)とは一体なんなんですか?」

 

僕はミゼットさんに気になっていたことを聞いた。

ミゼットさんは険しい顔付きで暫し考えたのち言ってくれた。

 

天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)とは管理局黎明期から暗躍している最低最悪、外道魔導士の集団です』

 

「っ!」

 

『彼らはそれぞれ天使と言われる階級を持ち、指導者と呼ばれるものは(デュークス)、と呼ばれて研究会全体の全貌は不明です。そしてその階級はそれぞれ上位三翼が熾天使(セラフィム)智天使(ケルビム)座天使(オファニア)。中位三翼が主天使(ドミニオンズ)力天使(ヴァーチュース)能天使(エクシーア)。下位三翼が権天使(アルケー)大天使(アークエンジェル)天使(エンジェル)と九つの位に分かれてます。基本下位三翼か中位三翼が動くのですが、まさか上位三翼が・・・・・・それも上位三翼の序列一位熾天使が動くとは思いませんでした』

 

話を聞く限りかなり危険な組織みたいだ。

しかもクルト・ファレウムのような魔導士が他にもいるらしい。

 

「ミゼットさん、クルト・ファレウムはこう言ってました、わたしたちの目的は時空管理局の定めた今の世界を変えることだと」

 

『なるほど・・・・・・上位三翼の一翼しかも熾天使の階級を持つその者。クルト・ファレウムが言うなら恐らくそれは真実でしょう。天ノ宮君、すみませんが予定より早く特務0課を公表することになると思います』

 

「わかりました。早くてもどのくらいですか?」

 

『天ノ宮君が執務官試験の合格が出来次第ですね』

 

「わかりました」

 

『それと、あまり無理を為さらないようお願いします』

 

「はい」

 

『では、報告ご苦労様です。次の指令があるまではいつも通りお願いします。それと管理局の内情調査はしばらくは大丈夫です』

 

「は!了解しました」

 

『では失礼します』

 

そう言うとウインドウが消え、ミゼットさんとの通話が終わった。

 

「今日はこのまま帰ってもいいのかな~」

 

会議室の椅子に腰掛けて僕はそう呟いた。そんなところに、凛華がお茶を淹れてやって来た。

 

「零夜くん、お疲れさま」

 

「凛華もお疲れさま」

 

凛華の淹れてくれたハーブティーを一口飲み、疲れを取らせる。

 

「うん、いつも美味しいよ」

 

「ありがとう零夜くん」

 

「聖良たちは?」

 

「今は寝ています。さすがに疲れたのでしょう」

 

「凛華は寝なくても大丈夫?」

 

「ええ。私はまだ大丈夫です」

 

そう言うと凛華は僕の横に座ってきた。

 

天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)・・・・・・。そして熾天使(セラフィム)のクルト・ファレウムか・・・・・・。強かった・・・・・・」

 

「零夜くんがそこまで言うんですか?」

 

「うん。たぶんクルト・ファレウムは手を抜いていたと思う」

 

「そんな・・・・・・!」

 

「彼が本気で来たらたぶん、闇の魔法を使わないと勝てなかったと思う。いや、もし≪天の操槍≫を最大限に発揮されたら・・・・・・」

 

僕はクルト・ファレウムとの戦闘を思い出して言った。正直今の僕じゃ勝てない。知智お姉ちゃんとのトレーニングでなんとか対応できたが、向こうは殺すのを躊躇わないはずだ。つまるところ、戦闘経験がまだ足りないのだ。

 

「家に帰ったら凛華たちの武装のメンテナンスしないとね」

 

「お願いします零夜くん」

 

「うん」

 

僕と凛華はそう言うと目を閉じ、あっという間に深い眠りの底に落ちていった。

次に目を覚ましたのは、リンディさんが管理局本局に着いたことを伝えに来てくれて、リンディさんが起こしてくれた時だった。

 

 

 

 



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地上本部

 

~零夜side~

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

「―――と言うわけで零夜君、地上本部にしばらく行ってください」

 

「は、はあ・・・・・・。わかりました」

 

モニター越しではなくずいぶんと久しぶりなミゼットさんとの面ごしの会話に僕は微妙な返事をした。

 

「美味しいですね・・・・・・。これは凛華ちゃんが?」

 

そんななかミゼットさんは凛華の淹れた紅茶を飲んでそう言った。

 

「はい。地球のスリランカ産のキャンディ茶葉です」

 

凛華が澪奈たちにも配りながらミゼットさんに言った。

ここ最近凛華の家事スキルはかなり高くなっているのだ。みんなの長女としてなのか、料理や裁縫にメンテナンスなど興味津々なのだ。ちなみに星夜はネットワーク関連が得意だ。澪奈は聖良と一番仲良しで、紅葉は僕の秘書のようなことをしてくれる。まあ、凛華も秘書のようなことをしてくれるけど。

 

「なるほど、確かに地上のミッドでも地球の食べ物は有名ですからね」

 

ミゼットさんは紅茶を飲みながら微笑みながら言った。

まあ、リンディさんみたいな人もいるからミッドチルダでも地球の食べ物は有名なんだろうとは思っていたけど。

 

「あ、これをレジー坊や・・・・・・いえ、レジアス中将に渡してください」

 

そう言ってミゼットさんは封が貼られた書簡を渡してきた。

 

「わかりました。お預かりします」

 

ミゼットさんから預かった書簡を、デスクの引き出しにクリアファイルに入れてしまう。

 

「ああそれと、恐らくレジアス中将は零夜君たちになにかキツイ言ってくると思いますが気にしないでください。彼は自分に力がないことに嘆いているのです」

 

「はい」

 

ミゼットさんの言葉に、特務0課の仕事として地上本部のレジアス中将こと、レジアス・ゲイスを調べたときに知ったことを思い出した。

そしてそこに記された己の無力さに悔やんでいることを。

 

「零夜君も知っていると思いますが、出来ることなら彼には、昔と変わらぬ思いでミッドの平和を守ってほしいです」

 

ミゼットさんの声には悲痛感が含まれていた。

調べた限りここ最近レジアス中将はあまり良い噂を聞かないのだ。僕としてはこの人を変えたいと思う。今はあまり管理局の闇に脚を踏み込んでは居ないみたいだけどいずれ彼のような性格の人間はそこに踏み入れ、やがて破滅する。

僕はそう思いながらレジアス中将のデータを空間ウインドウに表示させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後

 

ミッドチルダ首都クラナガン

 

管理局地上本部

 

 

 

「時空管理局本局特務官の天ノ宮です」

 

「初めまして、レジアス中将の秘書を勤めてるオーリスです。階級は三佐です、以後お見知りおきを」

 

地上本部にやって来た僕は出迎えに来たオーリス三佐に挨拶をし、オーリス三佐の案内のもと首都防衛隊トップのレジアス中将の部屋に案内されていた。ちなみに凛華たちも人形になって一緒にいる。それは聖良もだ。もちろん、みんなに何か有ったときのためにみんなの周囲には僕が予め魔法障壁と物理障壁を張ってある。

オーリス三佐に案内されて数分後。

 

「キサマが天ノ宮零夜か」

 

地上本部のトップ。レジアス中将と対面していた。

 

「初めましてレジアス中将。本局特務官の天ノ宮零夜です」

 

「それで、本局のキサマがなんのようだ」

 

「まず一つ目にミゼット統幕議長からレジー坊や?・・・・・・いえ、レジアス中将宛に書簡を預かってます」

 

「統幕議長からだと?」

 

「はい」

 

持っていた荷物からクリアファイルに挟まれたミゼットさんからの書簡をレジアス中将に渡す。

 

「ふむ、確かに統幕議長からだ。直筆のサインがある」

 

そう言うとレジアス中将はペーパーナイフで書簡の封を開き中を読む。

読んでいる最中、レジアス中将の表情が変わったのに気付いた僕は無表情のまま読み終わるまで待つ。

 

「なるほどな。それでキサマが派遣されてきたという訳か」

 

「???」

 

「見ればわかる。キサマに見せるよう書いてあったからな」

 

疑問符を浮かべる僕にレジアス中将は書簡の中の紙を渡してきた。

書簡の中身はレジアス中将に警告と僕が派遣された理由が記されていた。

 

「なるほど。じゃあ僕本来の役職で改めて言います」

 

書簡の中身を見た僕は、紙をデスクの上に置き改めてレジアス中将とその隣に秘書として立つオーリス三佐を見る。

 

「時空管理局本局【特殊執務室第0課】通称、特務0課の室長の天ノ宮です」

 

「特務0課ですって!?」

 

僕の言葉にオーリス三佐は驚きの声をあげる。

 

「噂で聞いたことがあります。本局の統幕議長直属の独立部隊にして管理局最強の魔導士部隊と噂されてる課です。できて間もないのに本局上層部の汚職などを解決。ロストロギアの回収などの数多の功績。その課全体の素性や部隊員は一切不明。噂では時空管理局初のSSS魔導士が率いていると・・・・・・。まさかそれがあなたなのですか」

 

「ええ。まさか地上本部にまで有名にされているとは思いませんでしたけど」

 

「オーリス、今の情報は本当なのか?」

 

「はい。それとこれは最近耳にした話ですが天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)の上位三翼が一翼、序列一位の熾天使(セラフィム)の構成員を単独で撃破したと」

 

「なに?!」

 

オーリス三佐の言葉にレジアス中将は目を見開いて僕を見た。恐らくそれはこの間のロストロギア≪天の操槍(ヘブンリィスピア)≫回収任務での事だろう。あの時戦ったときクルト・ファレウムを捕縛するため僕も特訓しているが今はまだ足りない。

そう思っているところに。

 

「まさかキサマがあの天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)の上位三翼の一翼をだと・・・・・・!?」

 

「逃がしましたけどね・・・・・・。それに回収するはずだったロストロギアも奪取できませんでしたし」

 

そんな僕に。

 

「い、いや、確かにロストロギアを回収できなかったのは痛いが、キサマのような子供が天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)を撃退したのか・・・・・・?」

 

レジアス中将は信じられないものを見たような表情で僕に聞いた。

 

「逃げられましたけどね」

 

「信じられんな・・・・・・」

 

レジアス中将はあり得ないと言う風に言って目を閉じた。

 

「それで、特務官のキサマはわたしをどうするつもりだ?」

 

「どうするつもりだ、とは?」

 

「すでに調べているのであろう」

 

どうやら僕の目的は理解しているつもりらしい。

 

「そうですね・・・・・」

 

そう言って僕は周囲にウインドウを表示させる。

 

「まず、レジアス中将あなたはそこまで管理局の闇に踏み込んではいないみたいですね」

 

「ああ」

 

「ですので、僕から一つだけ。・・・・・・闇から手を洗ってくれませんか?」

 

「なに?」

 

「あなたのような正義感に溢れている上層部の人は早々いないんです。あなたはゼストさんの親友ですよね?」

 

「ああ、共に地上の平和を守ろうと誓った戦友だ」

 

「今のままですとその誓いは叶えられません。いずれあなたは破滅します」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「この事はミゼット統幕議長も望んでません。それにそれはあなたの娘のオーリス三佐も同じなのでは?」

 

そう言って僕はレジアス中将の傍に控えるオーリス三佐に視線を向ける。

 

「オーリス・・・・・・」

 

はっきり似ても似つかない親子だと思うが恐らく二人の信念は変わらないのだろう。

レジアス中将は娘のオーリス三佐をしばらく見て。

 

「・・・・・・わかった。闇から手を退こう」

 

僕に視線を移して言った。

 

「ありがとうございます。僕としてもあなたを捕縛したくなかったので助かります」

 

「そうか・・・・・・」

 

レジアス中将は一言そう呟くと、視線を宙に上げ傍に控えるオーリス三佐に言った。

 

「オーリス、ゼストを呼んできてくれ」

 

「畏まりました」

 

レジアス中将の言葉にオーリス三佐は礼をして部屋から出ていった。

そして残った僕たちとレジアス中将の間に沈黙が走った。

 

「・・・・・・俺はいつから道を踏み違えていたんだろうな」

 

独り言のように呟くレジアス中将に、僕たちは何も言えなかった。

 

「陸と海。地上世界と次元世界の差。地上の平和を守るために今までやって来たと思ったが・・・・・・」

 

「確かに、あなたはミッドチルダ出身ですけどリンカーコアが存在しません。・・・・・・・・・・・ですが、あなたはそれでも足掻いて足掻きまくって、今の地位に昇り詰めたのでしょう?それは並大抵の覚悟をもった人には出来ない事です。それにあなたと同じ志を持つ者も多くいるではないですか。それはあなたが他者から信頼されて、尊敬されているからでは無いのですか」

 

レジアス中将の声に、僕は静かにそう言った。

 

「キサマ・・・・・・・」

 

レジアス中将は少し驚いた表情を浮かべると、フッ、と笑っていった。

 

「そう言ったのはキサマ・・・・・・いや、天ノ宮だったか。天ノ宮で三人目だ」

 

「そうですか・・・・・・」

 

「ああ・・・・・・。どうやらお前は本局勤めでありながら俺たちを見下さないようだな」

 

「?見下す必要ってあるんですか?」

 

僕はレジアス中将の言葉の意味がわからず首をかしげる。

 

「そもそも地上の平和が守られてるのはレジアス中将たちが守ってくれてるからですよね?地上に事件がまったくないのは地上本部のみなさんのお陰だと思うんですけど・・・・・・。ね、みんな?」

 

僕の言葉に後ろにいる凛華たちもさも当然のようにうなずいた。

 

「そもそも本局と地上本部がいがみ合うこと事態あり得ないんですけど。確かに本局は次元世界に干渉して事件を解決してますけど、地上本部だって市民の平和を守ってるんですよ?何が違うんでしょうか。それに本局に引き抜かれるレアスキル持ちだって、基はと言えば地上本部にいた人ですよ?なら、レアスキル持ちが多数いる地上本部は優秀だと、僕はそう思います」

 

「・・・・・・・・・・」

 

僕の言葉にレジアス中将は呆気に取られたように愕然として僕を見た。

 

「まさか本局の、同じくレアスキル持ちのお前にそう言われるとはな・・・・・・」

 

「あ、すみません。ばかすかと言ってしまって」

 

「構わん。そういうこと言ったのはお前がはじめてだ天ノ宮」

 

「そうですか」

 

僕とレジアス中将の会話が一段落したところに。

 

「失礼します。ゼスト隊長をお連れしました」

 

「失礼するぞ」

 

オーリスさんとゼストさんが部屋に入ってきた。

 

「来たか」

 

「ああ。それでなにかよう・・・・・・・なぜ、天ノ宮がここにいる?」

 

「お久しぶりですゼストさん」

 

「む、ああ、久しぶりだな」

 

ゼストさんは厳めしい顔を微妙な感じにして答えた。

 

「それでレジアス。なぜ天ノ宮がここにいる?」

 

「天ノ宮はしばらく地上本部に出向だそうだ。統幕議長からそう通達が来た」

 

「統幕議長からだと?」

 

レジアス中将の言葉にゼストさんが眉を上げ、オーリスさんは驚いた顔をした。

 

「なぜ統幕議長から通達されたんだ?いつもはお前が嫌う本局人事部からだろ?」

 

「・・・・・・天ノ宮の上官がミゼット統幕議長だからだ」

 

「は?」

 

ゼストさんは間抜けな表情で僕らとレジアス中将の顔を交互に往き来してみる。

 

「天ノ宮の上司が統幕議長、だと・・・・・・?」

 

「ああ」

 

「マジか・・・・・・?」

 

「マジだ・・・・・・」

 

レジアス中将の言葉にゼストさんは驚き100%の表情を出した。よく見ればオーリスさんもクールな表情を一転させて驚きで口に手を当てていた。

 

「それと言っとくぞ、天ノ宮は【特殊執務管理室第0課】通称、特務0課の室長らしい」

 

「・・・・・・・・・・すまん、驚きすぎてなにも言えん」

 

「安心しろゼスト。俺も同じだ」

 

どうやら僕の事に驚いているみたいだけど。

 

「これって僕が原因なのかな?」

 

そう言うと。

 

「そうだ」

 

「ああ」

 

「そうですね」

 

「零夜くんが原因ですね」

 

「零夜くんの原因だよ」

 

「マスターが原因かと」

 

「零夜くんが原因ですわね」

 

「お兄ちゃんが原因かな~?」

 

その場にいた僕を除いた全員が同時に僕を見てそう言った。

 

「あー、それで俺を呼んだわけは?」

 

「地上本部にいる間、天ノ宮をお前のところに入れてほしい」

 

「わかった」

 

「頼んだぞ」

 

どうやら僕がこの地上本部での部隊はゼストさんの部隊らしい。まあ、ゼストさんの部隊ならゼストさんの他、メガーヌさんとクイントさんがいるから安心かな。

それから三言ほど話してから、僕らはゼストさんのあとに着いていった。

しばらく歩いていると、ゼストさんが話しかけてきた。

 

「久しぶりだな天ノ宮」

 

「はい。試験の時以来ですね」

 

「ああ。ところでそっちの女子たちはお前の関係者か?」

 

後ろから着いてくる凛華たちに視線を向けてゼストさんが聞いてきた。

 

「あー、僕の家族ですね。職場も同じですし」

 

「なるほどな。そういえば天ノ宮は統幕議長直属の部隊だったな」

 

どうやらレジアス中将から聞いたらしいゼストさんは納得したようにうなずいた。

 

「これからしばらくよろしく頼むぞ」

 

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 

僕はゼストさんに向き合って互いの手を握り、握手した。

 

 

 



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模擬戦?

 

~零夜side~

 

 

レジアス中将の部屋から出て、ゼストさんの後ろを付いていくこと数分。僕らはとある部屋にいた。

そして僕の目の前には、アームドデバイスを装備したまま正座しているクイントさんがいた。

 

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

「え、え~と・・・・・・」

 

「クイントさん?」

 

「は、はいっ!」

 

「なにか言うことはありますか?」

 

「ご、ごめんなさい・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・白きいか(フルグラティオー・アルビ)・・・・・・」

 

「ちょっ、お兄ちゃんストップ、ストップ!」

 

「止めないで聖良!一度クイントさんにはお話(OHANASHI)が必要なんだ!」

 

「わ、私は大丈夫だから~!凛華ちゃんたちもお兄ちゃんを止めてぇ~!」

 

「隊長、止められませんか」

 

「俺が止められると思うかメガーヌ?」

 

「・・・・・・無理ですね」

 

「だろ」

 

部屋の中は殺伐とした空気で溢れ還っていたのだった。

事の始まりは数分前。僕らがこの部屋に入ってくる前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前

 

 

「今の時間帯、あいつらはここで訓練しているはずだ」

 

そう言うゼストさんの目の前にはトレーニングルームの扉があった。

 

「わかりました」

 

そう言って扉を開くと。

 

「えっ?」

 

目の前にいきなり魔法弾が飛んできた。

 

「は?えっ!?なんで!?」

 

とっさに無意識に構築して展開した支配領域(インペルマジェスター)で魔法弾をすべて無に帰す。

そう安堵したところに。

 

「えっ!?ど、どいてぇ~~!!」

 

目の前からクイントさんが突っ込んできた。

隣にいる聖良のところに。

 

「聖良!」

 

瞬時に聖良と位置を交換して、クイントさんの迫り来る拳を柔法の応用で受け流してカウンターアタックでそのまま反対に突っ込んできた勢いをさらに上乗せして吹っ飛ばした。

その結果、クイントさんはトレーニングルームの反対側の壁に吹き飛ばされトレーニングルームの一角に放射状の皹が入ったのだった。

あまりの出来事に僕らはともかく、気絶しているクイントさんを除いたその場にいた全員が僕を見てきた。

 

「・・・・・・大丈夫、聖良?」

 

『『『何事もなかったかのように聞いた!?』』』

 

聖良に聞くと部屋の中にいた全員からツッコミが来た。

 

「う、うん。私は大丈夫だけど・・・・・・」

 

聖良の視線の先には気絶して眼を回しているクイントさんの姿があった。そしてその横ではメガーヌさんがあたふたしていたりする。

 

「クイントさんにはお話してこよう、っと」

 

そう言って僕はメガーヌさんが介抱しているクイントさんのところに向かった。

ちなみにゼストさんは額に手を当ててため息を吐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまあそんなこんなであって、今に至る。

 

今現在、僕は正座しているクイントさんとお話の真っ最中だった。

 

「あのですねクイントさん」

 

「はい・・・・・・」

 

「別に、僕にやる分には構いませんけど、聖良に手を出したらどうなるか、分かりましたか?」

 

「はい・・・・・・」

 

「まあ、それは聖良だけじゃなくて凛華たちにもなんですけど」

 

「はい・・・・・・」

 

「次はありませんのでご注意くださいね?」

 

「サ、Sir、Yessir!」

 

「なんで英語なんです・・・・・・・?」

 

クイントさんの直立不動をしながら敬礼していう姿に首をかしげた僕であった。

そんな疑問を持っているところに。

 

「お、お兄ちゃん、ちょっと怖かったよ」

 

聖良がおずおずと言ってきた。

 

「え!?そ、そうだった!?」

 

「うん」

 

「ご、ごめんね聖良。聖良が心配だったからその、あの・・・・・・・」

 

「お、お兄ちゃん・・・・・・」

 

ニコッ、と笑顔で僕に抱きついてきた聖良に、僕も抱き返したその瞬間。

 

『『『どんだけブラコンとシスコンなの!?』』』

 

とてつもなく不名誉なこと言われた気がする。

けどまあ、別にいいではないか。あるラノベの主人公もこう言っていた。"千葉の兄が妹を大切にするのは当たり前だ!"と。生憎、僕の住んでいるところは千葉ではないけどね。けど、この言葉には共感できる!

とまあ、そんなこんなで時は過ぎて。

 

「大丈夫クイント?」

 

「大丈夫に見える?メガーヌ」

 

「え、え~と・・・・・・」

 

「そろそろいいかお前たち」

 

「あ、はい!」

 

「大丈夫です隊長!」

 

クイントさんとメガーヌさんの言葉に、ゼストさんはうなずき。

 

「これからしばらく、天ノ宮たちが俺たちの部隊に本局の出向という形で入る。天ノ宮、挨拶を頼む」

 

「はい」

 

ゼストさんに促され、僕はゼストさんの部隊の人々に挨拶をする。

 

「初めまして。時空管理局本局特務官天ノ宮零夜です。彼女たちは右から凛華、澪奈、星夜、紅葉、そして聖良です。しばらくの間、よろしくお願いいたします」

 

凛華たちの自己紹介もするとパチパチと拍手が鳴り響いた。

そこに。

 

「特務官・・・・・・?」

 

「隊長、特務官という役職ありました?」

 

部隊員の二人が疑問符を出しながらゼストさんに聞いた。

 

「あ~、天ノ宮。悪いんだが、天ノ宮の所属先も言ってあげてくれ」

 

「?良いですけど・・・・・・」

 

ゼストさんの言葉に質問してきた二人を含め、ゼストさん以外の全員が疑問符を出していた。

 

「えっと、では。僕の所属は時空管理局本局【特殊執務管理室第0課】通称、特務0課です」

 

『『『特務0課!?』』』

 

僕の言葉に部隊員全員が絶叫をあげた。

 

「ちなみに言っとくが、天ノ宮は特務0課の室長だ」

 

『『『室長!?』』』

 

「さらに言うが、天ノ宮たち特務0課は統幕議長直属の独立部隊だ」

 

『『『直属の独立部隊!?』』』

 

部隊員たちが絶叫を上げる度に耳を押さえているんだけど、それすらも通り越して聞こえてくる。澪奈や紅葉は耳がキーン、とやられたのかフラフラとしていた。

 

「大丈夫澪奈、紅葉?」

 

「う、うん」

 

「大丈夫ですマスター」

 

なぜ全員があんなにも息ピッタリに言うのか疑問だったが、今はそんなことより澪奈たちの心配が先だ。

 

「隊長、もしかしてこの子が噂のランクSSSの持ち主ですか」

 

「ああ」

 

「ところで気になってたんだけど」

 

「どうしたクイント?」

 

「いえ、この子って男の子なの?女の子なの?」

 

クイントさんの今さらの疑問に僕は普通に。

 

「男ですよ?」

 

と言った。

 

「・・・・・・いやいや、女の子でしょ?」

 

「正真正銘の男の子です」

 

「・・・・・・マジなの?」

 

「はい」

 

僕がそう言うと、クイントさんとメガーヌさんが床に崩れ落ちた。なんで?!

 

「あの外見で男の子って・・・・・・」

 

「女子として負けた気分よ・・・・・・」

 

なんかクイントさんとメガーヌさんの言葉に他の部隊員の人たちも頷いているけど、なんでだろ?

 

「はぁ。まあ、とにかくしばらくの間天ノ宮がここに配属されることになったから各員よろしく頼む」

 

『『『はい!』』』

 

「それでだ、天ノ宮の実力を知りたいと思ってるヤツもいるだろうから、これから模擬戦を行う」

 

ちなみにこれはゼストさんが事前に僕に言っていたため、僕は大して驚かない。

 

「誰かやりたいヤツはいるか・・・・・・」

 

ゼストさんがそういった瞬間。

 

「はい!」

 

クイントさんが勢いよく手を上げた。

 

「・・・・・・言うと思った」

 

ゼストさんは予測していたようで隣に立っていた僕にしか聞こえなかったが小声でそう呟いていた。

 

「ではクイントに任せるとするか」

 

「やった!」

 

「クイントと天ノ宮以外は全員観覧席に移動するぞ」

 

ゼストさんがそう言い、僕は凛華たちに視線を向けた。

 

「誰がやる?」

 

「はいは~い!零夜くん、私やりたい!」

 

「じゃあ澪奈にお願いしてもいいかな?」

 

「うん!」

 

「わたくしたちはゼストさんと一緒に観覧席で見守ってますね」

 

「マスターの勇姿は私が録画します」

 

「頑張ってお兄ちゃん、澪奈ちゃん」

 

「うん。ありがとうみんな。凛華、みんなのことお願いね」

 

「はい。零夜くんも気をつけて」

 

「うん」

 

そう言うと、凛華たちはゼストさんたちのあとに続いてトレーニングルームから退出した。

しばらくして、僕と澪奈、クイントさんだけのルームに。

 

『それではこれからクイント対天ノ宮の模擬戦を始める。ルールはどちらかが戦闘不能か降参したら終了だ。それでは双方用意を』

 

ゼストさんの声がスピーカーから聞こえてきた。

 

「展開!」

 

目の前のクイントさんがそう言うと、両手にリボルバーナックル型のアームドデバイスが。足にはローラのついたブーツが装着されていた。

 

「ふう。天ノ宮君も展開しちゃって・・・・・・ところでなんで天ノ宮澪奈ちゃんがそこに?」

 

首をかしげて聞くクイントさんに、僕と澪奈は軽く笑みを出して。

 

「それじゃ僕らもやろうか澪奈」

 

「うん!零夜くん!」

 

「澪奈、セットアップ!」

 

そう言うと澪奈の身体が光だし、僕の服装が緋色と蒼色の混じったバリアジャケットになり、右手には両刃の片手剣のデバイスが握られていた。

 

「ええっ!?」

 

驚いているクイントさんを他所に僕は澪奈に訪ねる。

 

「大丈夫澪奈?」

 

《問題ないよ~。いつでも全力で出来るよ♪》

 

「ふふ。でも今日はリミッターは掛けてね」

 

《は~い》

 

軽く話して、構えを取りクイントさんを見る。

 

「天ノ宮君、天ノ宮澪奈ちゃんってデバイスだったの?」

 

「ええ。ちなみに澪奈だけじゃなくて聖良以外はみんなデバイスですよ。聖良はユニゾンデバイスですね」

 

「ええっ!?」

 

「それじゃ、始めましょうか」

 

「え、ええ。そうね」

 

僕がそう言うと、クイントさんは歯切れが悪かったが自身の構えを取った。

 

「(あの構え・・・・・・確かストライクアーツ、だったかな?なるほどね)」

 

クイントさんの構えを観察して声に出さずに言う。

そして。

 

『始めっ!』

 

ゼストさんの声の合図で始まった。

 

「ウイングロード!」

 

クイントさんが開幕早々、地面に拳をぶつけるとそこからベルカ式の魔方陣が展開され帯状の魔方陣が伸びた。

 

「はあっ!」

 

「ふっ!」

 

一直線に迫り来るクイントさんの拳を片手剣の澪奈で軌道を滑らせるようにして受け流して背後に回り込む。

 

「せあっ!」

 

背後に回り込んだ僕は断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)の魔力を凝縮して付与した掌底で吹き飛ばす。

 

「ぐっ!」

 

不意打ちに近い感じで背中に掌底を喰らったクイントさんはバランスを崩してそのまま壁に激突した。

 

「あ」

 

さすがにその予想外の光景に間抜けな声が漏れでた。

 

「やり過ぎちゃったかな?」

 

壁に思いっきり激突したクイントさんを見て僕はそう呟いた。

 

《零夜くん、いくらなんでも断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)を付与した拳で吹き飛ばすにしてはやりすぎだと思うよ?》

 

「う、う~ん、一応手加減はしたし本来の能力の5分の1ぐらいしか出力は出してないはずだけど」

 

《無意識に若雷を使っちゃったんじゃないの?》

 

「そんなはずはないんだけど・・・・・・」

 

さすがに若雷は使わない。

若雷は僕が編み出した戦闘技法の一つで、魔法と物理を合わせた徒手空拳での攻撃の一つだ。若雷の属性は雷と物理。雷属性を纏わせた掌から相手の軸を通じて衝撃を与える攻撃だ。今回の場合で言うならば、纏っていたのは無属性に設定した断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)だ。僕の断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)は属性変換でさまざまな属性に変更できる。つまり、無属性の断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)ならば若雷には及ばないが相手を吹き飛ばすことはできる。のだが・・・・・・。

そう思っていたところに。

 

「イタタた」

 

クイントさんが腰を擦って現れた。

 

「まさかカウンターを食らうなんて思ってなかったわ」

 

クイントさんは驚いたように言う。

 

「上手くいくかは分からなかったですけどね」

 

「そう。けど、同じ手は二度も通じないわ!」

 

そう言うとクイントさんは再びウイングロードを発動して、足のローラブーツでその帯状の魔方陣の上を移動しだした。

 

「はあっ!せあっ!」

 

「澪奈、武装変更(ウェポンチェンジ)(ランス)!」

 

《了解!》

 

澪奈の武装を片手剣から槍に変え、長い持ち手を巧みに操って、クイントさんの拳と蹴りを対処する。そしてその隙間を縫って高速の連続突きを放つ。

 

「・・・・・・っ!」

 

クイントさんは障壁を張って高速突きを防ぐが、その障壁には罅が入っていた。

 

「澪奈、武装変更、両手剣(ツーハンデットソード)!」

 

僕の声に槍から両手剣になった澪奈を握り、横から切り払う。

 

「うそっ!?」

 

その一撃でクイントさんの張っていた障壁がパリンと、音を立てて砕け散った。

 

「ゼアあっ!」

 

驚いて目を見開いているクイントさんに横から薙ぎ払って振り払った両手剣を、振り切った勢いを増幅させて斜め右上から振り下ろした。

 

「くっ!」

 

しかしそれはわずかにクイントさんのアームドデバイスを傷つけるだけで直撃には往かなかった。

 

「まだだ!武装変更、細剣(レイピア)!」

 

そのまま足と攻撃を止めずにクイントさんに向かっていく。武装は速度の速い細剣だ。

細剣の澪奈の切っ先を、槍以上の速度で刺突を繰り出す。

 

「うっ!・・・・・・カートリッジロード!」

 

クイントさんはそれをギリギリのところで避けながら、リボルバーナックルのカートリッジを一発ロードした。

 

「リボルバーシュート!」

 

声とともにクイントさんの周囲に小さな魔力球が現れ、そのすべてが一斉に僕に向かった飛んできた。

 

「(至近距離の魔法射撃!?)」

 

予想外のことに少し目を見開きながらも、迫り来る魔法弾を細剣の澪奈ですべて斬り裂く。

 

「リボルバーシュートを切り裂いた!?」

 

澪奈にはあらかじめ断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)を付与しているため、あの程度の魔法なら切り裂くことが出来る。

驚きでわずかに反応が遅れたクイントさんに縮地で一瞬で背後に回り込み、その首もとに細剣から片手剣に変えた澪奈を当てる。

 

「っ!」

 

「チェックメイト、ですね」

 

僕がそう言うと。

 

『そこまで!この模擬戦、勝者天ノ宮!』

 

観覧席からゼストさんの声がスピーカーから聞こえてきた。

その声が聞こえると、僕はクイントさんの首もとに当てていた澪奈を外し、澪奈は武装形態から人形形態へと戻った。

 

「お疲れ様澪奈」

 

「零夜くんもお疲れ~」

 

ハイタッチをかわして僕と澪奈はそう言う。

そこに。

 

「まさか負けるなんてね」

 

クイントさんがそう言ってやって来た。

 

「試験のあのとき全力じゃなかったでしょ?」

 

「そんなことないですよ。アリアさんたちに言われて闇の魔法(マギア・エレベア)使いましたし」

 

「じゃあさっきのは?」

 

「そうですねぇ・・・・・・全力の5分の1ですかね?」

 

「5分の1!?」

 

「はい」

 

「クイントさんに怪我がないよう、私にももちろん零夜くんにもリミッターが施されてますから」

 

「リミッター付き!?」

 

クイントさんがはやてが驚いた時みたいに言うから僕と澪奈は声には出さないが声を圧し殺して笑った。

 

「(ここ最近はやての家に行ってないな~。たまには行こうかな。リインフォースの様子も気になるし)」

 

このあとはやての家に行くことにして、僕はクイントさんとゼストさんたちが来るのを待つ。

しばらく待つと。

 

「お兄ちゃ~ん♪」

 

「うわっ!」

 

「お兄ちゃんお疲れさま!カッコよかったよ♪!」

 

「あ、ありがとう聖良」

 

聖良が勢いよく僕に駆け寄ってきた。

そしてその後ろにはゼストさんたちがいた。

 

「お疲れさんクイント、天ノ宮。どうだったクイント?」

 

「はい。完敗です。あの状態で自分にもデバイスにもリミッターを掛けているんです。それで勝てなかったですからね」

 

「なに?」

 

クイントさんの言葉にゼストさんは眉を上げ驚きを出していた。

 

「お、おい天ノ宮」

 

「はい?」

 

「お前とデバイスにリミッターを掛けてるってほんとか?」

 

「ええ。基本リミッターは掛けてますね。まあ、解除するとしてもせいぜい全力の8割程までかと」

 

「・・・・・・さすが一人で天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)熾天使(セラフィム)を撃退したことだけはあるな」

 

「ちょっと待ってください隊長!今、天ノ宮君が一人でなにをしたって言いました!?」

 

クイントさんの声にゼストさんはああ、と言う風な顔つきになった。

 

「天ノ宮は以前一人で天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)熾天使(セラフィム)を撃退したことがある」

 

ゼストさんが言うと辺りからざわめきが起こった。

 

「それほんとなんですか?!」

 

「ああ」

 

ゼストさんのうなずきに又してもざわめきが起こる。

どうやら僕がクルト・ファレウムを撃退したことに驚いているみたいだけど。

天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)については調べているが今のところ分かっているのは組織の名前とクラスが9つとその上の(デュークス)と呼ばれる人物がいることだけ。構成員の人数や全体については一切不明。

僕が思い出していると。

 

「取りあえず、これで天ノ宮の実力もわかっただろう。そう言うことで、しばらくの間よろしく頼むぞ」

 

『『『はい!』』』

 

ゼストさんたちがそう言っていた。

それから僕たちはしばらくの間、地上本部のゼスト隊に出向するのだった。

 

 

 



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バレンタイン

 

~はやてside~

 

「―――よし!これで完成や」

 

トッピングをして、箱に詰めてリボンをして完成したものを私は満足気に微笑む。

 

「ふふ。喜んでくれはるかな零夜くん」

 

みんなが寝静まった静かな家の台所で私は目の前にある、今しがた自分が作ったものを見る。そこには水色の包装紙で包まれ、白いリボンテープでラッピングされた一つの箱があった。

 

「今年のはいつもと違うからなあ~」

 

零夜くんのお陰で治った足を視てそう呟く。

 

「みんなにも作ってはるけど零夜くんのだけは特別製や」

 

そう静かに呟くと、私はカレンダーを見る。

そのカレンダーの2月の欄にある14日の場所には決戦日と書かれていた。

 

「明日は本番やし、それに零夜くんたちが家に久しぶりに泊まりに来てはるからな楽しみや」

 

時刻は夜11時。

明日の乙女の聖戦(戦い)まで残りあと僅か。そして、会うまで残り約17時間。すべてはこの想いがあるから。

 

「絶対に負けへんよ・・・・・・!」

 

誰にも聞かれることなく、私の言葉は虚空へと消えた。

 

~はやてside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~なのはside~

 

「お母さん、これで大丈夫なのかな?」

 

「ええ。上手に出来てるわ」

 

今私は自宅のキッチンでお母さんに教わりながら明日の準備をしている最中です。

 

「零夜くん、喜んでくれるかな~」

 

「大丈夫よ。零夜君も喜んでくれるはずよ」

 

「だといいなあ~」

 

目の前に出来上がった物を見ながら不安そうに呟きます。

 

「お。完成したのかなのは」

 

「お父さん。うん、出来たよ」

 

「そっか。明日は頑張れよ」

 

「うん!」

 

元気にうなずいて答える私をお母さんとお父さんは微笑ましそうに眺めていました。明日は絶対に負けられない日になりそうです。

 

~なのはside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~プレシアside~

 

「お姉ちゃん、出来た?」

 

「うん、出来たよ~!フェイトは?」

 

「わ、私も一応・・・・・・」

 

私の視線の先では今娘のアリシアとフェイトの二人が仲良くキッチンに立って明日に備えた準備をしていた。

そんな愛娘二人を見ていると。

 

「―――プレシア、アリシアとフェイトを見るのは良いですけど、せめて鼻血を拭いてください」

 

使い魔のリニスがティッシュを持ってそう言ってきた。

 

「アルフも手伝ってください」

 

「りょ~かい」

 

アルフも苦笑いをしながらリニスを手伝っていた。

そこに。

 

「あらあら。プレシアは絶賛親バカ発動中みたいね」

 

「だってリンディ!私の可愛い娘たちが仲良くキッチンで明日の準備をしているのよ!母親として嬉しいわ!」

 

「そ、そうね」

 

「こうしちゃいられないわ。カメラとビデオカメラの準備をしないと。それと、明日二人がちゃんと渡せるか確認しないと・・・・・・」

 

「はぁ。いい加減にしてくださいプレシア」

 

明日のことを考えていると呆れた顔でリニスが言ってきた。

 

「(明日は頑張るのよ、アリシア、フェイト)」

 

~プレシアside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~アリサside~

 

「よしっ!これで完成!」

 

厨房に立って目的のものを作り上げたあたしは自信満々で言った。

 

「零夜はどんな反応してくれるのかしら」

 

あたしは目の前に置かれたものを見ながら楽しそうに零夜のことを思いながら微笑んだ。

 

「け、けど、いつ渡そうかしら・・・・・・」

 

そこであたしは一番重要なことに気付き悶々とするのだった。

 

~アリサside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~すずかside~

 

「上手に出来た、かな」

 

目の前に置かれたものを見ながら不安そうに私は呟いた。

すると。

 

「大丈夫ですよすずかちゃん!すずかちゃんが一から作ったんですから絶対零夜君も喜んでくれますよ!」

 

ファリンが自信付けるように言ってくれた。

 

「そうよね。うん。ああ、早く明日にならないかなあ~」

 

後ろの窓から見える月を眺めて私は楽しそうに言ったのでした。

 

~すずかside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

~零夜side~

 

「ううっ・・・・・・やっぱり寒いなぁ」

 

私立聖祥大附属小学校の制服の上からコートとマフラーを着けてはいるが、やはりこの季節は寒い。

天気は少し曇りがかっているが天気予報では雨や雪などの心配はないと言っていた。

 

「それにしても、なのはたち今日は珍しく早く行ったなあ~。まあ、いいけど。今日の夜ははやての家にお泊まりだし、久しぶりだな~」

 

明日の休日は久し振りに管理局の仕事はオフだ。

今僕たちは地上本部の首都防衛隊のゼスト隊に出向している。まあ、ロストロギアの回収任務はここ最近余程のことがない限り出撃しない。

 

天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)のヤツらの動きはここ最近無いみたいだけど・・・・・・警戒は必要だね」

 

最近はアリサとすずかの魔法練習やなのはたちの【ムンドゥス・マギクス式】の練習にも付き合っている。やはり、この世界の魔法と僕の使う【ムンドゥス・マギクス式】は系統が違うためかかなり苦戦している。【ムンドゥス・マギクス式】は【ミッド式】や【ベルカ式】とは違い、デバイスは発動媒体。使いこなせればデバイスを使わなくても可能だ。そして【ミッド式】と【ベルカ式】、【ムンドゥス・マギクス式】の最大の違いは前者の【ミッド式】と【ベルカ式】と後者の【ムンドゥス・マギクス式】は術式の根本が根本的に違うと言うことだ。前者の【ミッド式】と【ベルカ式】が自動だとするならば、後者の【ムンドゥス・マギクス式】は手動だ。

僕自身は、主本が【ムンドゥス・マギクス式】に加えなのはたちと同じ【ミッド式】や【ベルカ式】の魔法を行使できる。しかし、魔法の練習を始めたアリサとすずか、はやて、魔法のブランクのあるアリシアはなんとかなるが、なのはとフェイトに関してはかなり厳しい。機械を使って作業していた人がいきなり、機械ではなくすべて手作業でするようなものだからだ。【ムンドゥス・マギクス式】は周囲に漂うエレメントに干渉して発動する魔法だ。対して、【ミッド式】と【ベルカ式】はプログラムに記述されたものを行使している。用は、前提条件から違うと言うことだ。

そんなこんなでやってはいるが、なのはたちが【ムンドゥス・マギクス式】を習得できるのは早くても半年はあとだろう。

しかし。

 

「なんかここ最近なのはが焦っているような気がするんだよなぁ~。なんど言ってもあのハードワークを止めないし・・・・・・なにかに取り憑かれてるみたい」

 

なのはの異常なまでの過剰訓練に僕はどこか恐れを持っていた。なにかに取り憑かれてるみたいに、自分のことを犠牲にしている気がする。正月が明けてから今に至るまでそう感じていた。

 

「ただでさえなのはは無茶しているのに・・・・・・しかも集束魔法なんて身体にかなり負担が掛かるのに」

 

何時かとんでもないことが起こりそうな気がした僕は、これからのなのはの動きに気を付けることにした。

 

「・・・・・・クロノとユーノには相談しておいた方がいいかな」

 

数少ない男の親友二人を思い出して、僕はボソッと呟いた。

この時僕はその予感がまさかあんな形で当たることになろうとは誰も知らなかった。そして、それがあんな悲劇をもたらすことになろうとは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎて放課後。

 

 

「―――これ、どうしよう・・・・・・」

 

目の前には袋一杯に詰まった箱があった。箱はどれも大きくても両手サイズで、小さくて掌サイズだ。しかし、数が以上にあった。

そう、僕は今日がなんの日かすっかり懸念していたのだ。

 

「はぁ・・・・・・今日がバレンタインってことすっかり忘れていたよ」

 

バレンタイン。つまり、目の前にある箱の中身は女子からのチョコだ。

 

「凛華がこの袋持たせてくれて良かったよ・・・・・・」

 

目の前にある袋は今日の朝、凛華が渡してくれたものだ。

渡された当初は疑問符を浮かべたが、学校に着いて周囲の異様なまでの異質感。特に男子。男子の行動と、昇降口にある僕の下駄箱にギッシリ詰まった箱と教室の机の下に入っていた箱と、他学年他クラスの女子に呼ばれて手渡された箱と、なのはたちの様子、そして仲の良いクラスメイトの言葉でようやく気付いたのだった。

 

「う~ん、やっぱりここ最近疲れで日付の感覚が鈍ってるのかも・・・・・・」

 

正直、あまり笑えない状況に僕はなんとも言えなかった。

なにせ、クラスメイトに教えてもらって気付いたときに今日がなんの日なのか忘れていたことを言ったらクラスメイト全員が転け、ツッコミとなんとも言えない顔で見られたらだ。

 

「それよりどうやって帰ったら良いのかな・・・・・・」

 

この袋を持って帰るとしたら絶対に目立つ。悪い意味で目立つ。

なにせ今日はほぼすべての男子から威圧されていたからだ。まあ、一応クラスの男子からは同情的とも言えるなんとも言えない視線もあったが。

 

「異空間にしまった方がいいかな・・・・・・あ、でもそれだと疑われるか・・・・・・うん、ホントどうしよう。これじゃ帰れない・・・・・・」

 

僕が困惑して悩んでいると。

 

「まだいたの零夜?」

 

「アリサ」

 

後ろから声がかけられた。後ろには今日の日直だったアリサが呆れた眼差しで見ていた。

 

「それにしても・・・・・・スゴいわね、量が」

 

「うん・・・・・・どうやって持って帰ろう」

 

そう悩んでいると。

 

「去年も悩んでなかったかな零夜くん」

 

もう一つの扉から声が聞こえてきた。

 

「すずか!」

 

「あれ、すずかまだいたの?てっきり帰ったのかと思ったよ」

 

「ひ、酷いよ零夜くん。零夜くんを待っていたのに・・・・・・」

 

「え、あ、え、ちょっ、泣かないですずか」

 

「零夜~、女の子を泣かせるのはよくないと思うよ」

 

「アリサさん!?」

 

なぜかアリサに弄られ、僕はさらに困惑する。

そしてさらにそこに。

 

「零夜~・・・・・・ってなんですずか泣いてるの!?」

 

アリシアがやって来た。

その後ろには。

 

「お、お姉ちゃん、早いよ・・・・・・」

 

「アリシアちゃん廊下走っちゃダメだよ」

 

フェイトとなのはがいた。

なにこの混沌(カオス)。とっさに僕はそう思い浮かんだ。

それからうそ泣きだったすずかがアリシアに説明し、アリサはすずかがうそ泣きだったと言うことが分かっていたみたいで爆笑していた。で、なのはは苦笑いをして、フェイトはおろおろしていた。

 

「明日のアリサとすずかの特訓は倍にしようかな」

 

そう呟くと。

 

「「ごめんなさい!!」」

 

瞬時に謝ってきた。冗談なのに。

 

「それで・・・・・・なのはたちまだ帰らなかったの?」

 

「う、うん」

 

訪ねると、なのはたちは言いづらそうに視線を泳がしていた。

 

「と、ところで零夜くん、今日何人の女の子からチョコもらったの?」

 

「え?えっと・・・・・・分かんないけどたぶん50は越えてると思う・・・・・・」

 

なにせ今日は休み時間になるたびに呼び出されたり、下駄箱や机の下に入れられていたのだ。正直数えるだけで頭が痛い。

 

「そ、そんなに・・・・・・」

 

「去年より増えてないかな」

 

「ってことは来年はさらに増えるの!?」

 

去年や一昨年のことを知っているなのは、すずか、アリサの三人は呆れ半分驚き半分で答えた。

 

「というか、もらっても困るんだよな~」

 

「なんで?」

 

「いや、今年は凛華たちがいるから良いけど、去年までは一人だったからさ、全部を食べるのに苦労したんだ。それに保存も大変だった」

 

僕は去年と一昨年のバレンタインを思い出して遠い目をして言った。一応全部食べたけど。

 

「それにしてもなんで僕に渡すんだろ?」

 

不思議に思っていたことを声に出して言うと。

 

「あー、え~と・・・・・・」

 

「あ、あはは・・・・・・」

 

「何て言ったらいいのかな・・・・・・」

 

なのは、アリサ、すずかが戸惑っていた。

なんでなのはたちが戸惑うのか疑問に思っていると、なのはたちが突然後ろを振り向いて円を組んだ。

 

「ねぇ、零夜ってずっとああなの?」

 

「う、うん」

 

「もしかして零夜ってかなり鈍感なの?」

 

「いやいや、鈍感ってレベルじゃないでしょ」

 

「むしろ超が10個付くほどの無鈍感かも」

 

「あ、でも、零夜くんはやてちゃんにはかなり優しいみたいだよ。よく泊まりに行っていたみたいだし」

 

「はあ!?」

 

「ええっ!?」

 

「???」

 

「そ、そうなの!?」

 

「う、うん。はやてちゃんが言ってたよ。一緒に寝たこともあるし旅行にも行ったことあるって」

 

「二人で旅行!?」

 

「そ、それってもしかして零夜ははやてのことが好きってこと!?」

 

「うわぁ。すごいよ。ってフェイト、顔が真っ赤だよ!?」

 

「お、お姉ちゃん、零夜ははやてのことが好きではやても零夜のことが好きで・・・・・・・・・・ふわぁ」

 

「フェ、フェイト~!?」

 

「フェイトちゃんの頭から煙が出てるよ!?」

 

「処理が越えたみたいね」

 

「それよりなのはちゃん、旅行行ったときって零夜くんとはやてちゃんの二人だけ?」

 

「それよりってすずか、あのね・・・・・・・」

 

「あはは・・・・・・。旅行に行ったのはヴィータちゃんたちも一緒みたいだよ」

 

「へぇー、そうなんだ~」

 

「て言うかさ、今更だけど零夜ってかなり優良物件よね」

 

「確かに・・・・・・家事スキル高いし」

 

「見た目が女の子みたいだし」

 

「料理が上手いもんね」

 

「零夜の料理食べてから私と姉さん母さんに料理教わってるけど未だに零夜に勝てる気がしないよ」

 

「たぶん、零夜に料理で勝てるのってはやてぐらいじゃないかしら?」

 

「う~む、今のところはやてちゃんがトップってことだよね」

 

「勝ち目あるかな・・・・・・?」

 

「が、頑張るしかないわ・・・・・・!」

 

「そ、そうだよね!」

 

なにかヒソヒソと話してるけど時々寒気が走るのは何でだろ?

不思議そうな眼でこそこそ話しているなのはたちを見てると。

 

「―――って、思い出した!」

 

突如アリサがそう言った。

アリサはカバンをごそごそすると。

 

「はい、零夜」

 

ラッピングのかかった掌サイズの箱を渡してきた。

 

「?これは?」

 

僕が何時ものように聞くと。

 

「気づきなさいよバカ!」

 

呆れた表情で少し怒りながらアリサが言った。

 

「バレンタインのチョコよ。まったくもお、去年と一昨年も渡したでしょ」

 

「あ、そう言えばそうだった。ごめんアリサ」

 

「はい!お返しは三倍返しでお願いね♪」

 

「うぇ!?」

 

「冗談よ♪」

 

「ア、アリサが言うと冗談に聞こえないよ・・・・・・。けど、ありがとう、アリサ」

 

「~~っ!///い、いいわよ別に!そ、それと男だと零夜だけなんだからね渡したの!」

 

「?うん、ありがとう」

 

顔を真っ赤にして言うアリサの後半部分がよくわからなかったけど、お礼を言った。

よく分からないままお礼を言うとアリサは微妙に呆れていた。なんでだろう?疑問符を出していると。

 

「あ、あのさ、零夜、渡したいものがあるんだけど・・・・・・いいかな?」

 

フェイトがもじもじとしながら言ってきた。

 

「いいけど・・・・・・?」

 

そうフェイトに返すと、

 

「はい。えっと、バレンタインのチョコ・・・・・・。お姉ちゃんと一緒に作ったんだけど、始めてだったから上手くいってるか分からないけど・・・・・・・。あ、味の方は保証するから大丈夫だよ!」

 

「あ、ありがとうフェイト。まさかフェイトからもらえるなんて思ってなかったから嬉しいよ」

 

「う、うん///喜んでもらえてよかった」

 

軽く微笑んで言うと、フェイトは赤面して言った。

 

「もお~、フェイトったら~。はい、零夜、私からのバレンタインチョコだよ」

 

「ありがとうアリシア」

 

「どういたしまして♪」

 

フェイトに続いてアリシアからもバレンタインチョコを貰えるとは思ってなかったからかなり驚いた。そんな心中のなか。

 

「零夜くん」

 

「すずか?」

 

「はい。私からのバレンタインチョコだよ」

 

「あ、ありがとうすずか」

 

「うん!どういたしまして♪」

 

すずかからもバレンタインチョコを貰うと。

 

「零夜くん、これ」

 

なのはが一つの箱を渡してきた。まあ、大体状況からわかるけど。

 

「えっと・・・・・・もらってもいいの・・・・・・?」

 

「うん!」

 

「ありがとうなのは。嬉しいよ」

 

「っ~~///!その顔は反則だよ~・・・・・・・」

 

「???」

 

少し微笑んで見つめ返しただけなのに、なぜかなのはは顔を真っ赤にしていた。

そのあと僕は、なのはたちからもらったチョコを自分のバッグに入れ、なのはたちと校舎をあとにした。

で、家に着くと。

 

「お帰りなさい零夜くん・・・・・・・・・・・ず、ずいぶんとたくさんありますね」

 

「え・・・?あ、明莉お姉ちゃん!?」

 

明莉お姉ちゃんがいた。

 

「なんで明莉お姉ちゃんが!?」

 

僕がそう驚きながら言うと。

 

「あ、零夜くんヤッハロー♪」

 

「ヤッハロー・・・・・・・って!違うでしょこの挨拶~!」

 

翼お姉ちゃんが手を振ってどこかの由比ヶ浜さんのような挨拶をした。

 

「あはは!すごいツッコミね零夜くん」

 

「やれやれ」

 

「知智お姉ちゃんも美咲お姉ちゃんも、いるんだったら連絡ぐらいしてよ~」

 

「ごめんね零夜くん。翼と明莉に押しきられちゃったのよ」

 

「あぁー・・・・・・・」

 

美咲お姉ちゃんの言葉になんとも言えなくなり、苦笑しかできなかった。

 

「それでなんで明莉お姉ちゃんたちがこっちの世界に?」

 

リビングで荷物を置いて、はやての家に行く準備をしながら聞くと。

 

「今日はバレンタインじゃないですか」

 

「え、あ、うん」

 

「なので、私たちからも零夜くんにバレンタインチョコを渡しに来たんです♪」

 

そう明莉お姉ちゃんが言うと、翼お姉ちゃんたちがラッピングされたチョコを渡してきた。

 

「あ、ありがとう翼お姉ちゃん、知智お姉ちゃん、美咲お姉ちゃん」

 

「どういたしまして~♪」

 

「凛華ちゃんたちと一緒に作ったんだけど上手くいってるかは分からないから・・・・・・」

 

「不味かったらごめんね」

 

「ううん。そんなことないよ、ありがとう。ていうか凛華たちと作ったんだね」

 

驚きのカミングアウトに余ったチョコでホットチョコを飲んでいる凛華たちに視線を向けた。

 

「はい、零夜くんのために心を込めて作ったよ」

 

「マスターのために作りました」

 

「お兄ちゃんのために作ったんだ。受け取ってくれるかな?」

 

「うん。ありがとうみんな。とっても嬉しいよ」

 

僕はニコリと微笑んで言うと、凛華たちは嬉しそうにはしゃいだ。これを見てると愛奈美お姉ちゃん、華蓮からもらったバレンタインのことを思い出す。毎年二人とも僕に内緒で手作りのチョコを作っていたのだ。しかもお母さんたちも巻き込んで。ちなみに僕のお父さんと華蓮のお父さんには秘密にされていた。その事でお父さん二人が酌を交わしていたのは恒例の日々となっていたのを覚えてる。

 

「(愛奈美お姉ちゃんと華蓮に会いたいな・・・・・・。会って、今の僕の家族を紹介したい)」

 

凛華たちを僕は微笑ましそうに見ながら不意にそう思った。

 

「じゃあ、私たちは帰りますね」

 

「あ、うん。またいつでも来てね明莉お姉ちゃん、翼お姉ちゃん、知智お姉ちゃん、美咲お姉ちゃん」

 

そう言うと、明莉お姉ちゃんたちは目の前に現れた純白の扉のなかに入って天界へと帰っていった。

 

「それじゃ、僕たちははやての家に行こうか」

 

明莉お姉ちゃんたちが帰って、僕はみんなから貰ったチョコを冷蔵庫に入れてはやての家に、凛華たちともに向かっていった。

はやての家に着くと。

 

「いらっしゃい零夜くんにみんな」

 

「お邪魔するねはやて」

 

車椅子から起き上がって、歩けるようになったはやてが迎えに来てくれた。

 

「今日は来てくれてありがとな」

 

「大丈夫だよはやて。リインフォースたちは?」

 

「みんないるで」

 

はやてはそう言って、リビングの扉を開け中に入った。僕らも続けて中に入ると。

 

「ああ、来てたのか零夜」

 

「いらっしゃいみんな」

 

「よっ、零夜」

 

「久しぶりだな」

 

「シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ、久しぶり・・・・・・かな?」

 

確かにここ最近忙しくてあってなかったから久しぶりになるのかな?そう考えていると。

 

「あ、主はやて、この格好は一体・・・・・・」

 

「あ!よう似合ってるで」

 

キッチンの方から声が聞こえた。

声が聞こえた方を向くと。

 

「元気そうだねリインフォース」

 

「れ、零夜。あ、ああ、一応な」

 

「それと、似合ってるよそのエプロン」

 

エプロンを着たリインフォースがいた。

するとヴィータが。

 

「最近リインフォースのやつ、はやてに料理を教えてもらってるんだ」

 

「へぇ。じゃあ今度僕も教えてあげようかな」

 

「いいんじゃねぇか?あたしも少し教わりてぇしな」

 

「ヴィータは料理の腕いいから教え外があるよ」

 

「まあ、シャマルがあんなんだしな」

 

「な、なんですかヴィータちゃん、零夜君!私だって努力してるんですよ!」

 

「なら、お前は調味料を間違えないことから覚えて方が良いだろうな」

 

「シグナムだってこの間野菜をレヴァンティンで切ろうとしてたじゃない」

 

「そ、それはだな・・・・・・!」

 

いつもの、あの時と変わらない様子に僕は嬉しかった。

 

「ははは。みんな元気そうでなによりだよ」

 

「まあな~。それより零夜くんもかなり管理局で噂になってはるよ」

 

「噂?」

 

「ああ。そう言えばあたしも零夜の噂聞いたことあるな。確か、上層部を一人で壊滅させたとか」

 

「はい?」

 

「そう言えば私も聞いたわね。確か、ロストロギアを単独回収したとか」

 

「唯一つのSSS魔導士だとか、聞いたことあるな」

 

「なにそれ・・・・・・・」

 

まさか入局して間もないうちに噂されているとは思いもよらなかった僕は膝をついて嘆いた。

 

「ま、まあ、そんなことより零夜くんは私らにとっては大切な友達や。気にすることあらへんよ」

 

「ありがとうはやて」

 

「うん」

 

そのあと、僕とはやて、サポートでリインフォースと凛華で夕食を作り、いつもより合勢なご飯を食べ、ヴィータたちからバレンタインのチョコをもらった。ヴィータはともかく、シグナムもとは驚いたがはやてに促されたそうだ。で、問題はシャマルのチョコだったけど、その点ははやてがきっちり監修したそうで問題ないはずだ、とザフィーラから教えられた。うん、よかった。それと、リインフォースからももらった。なにげに、リインフォースも聖良と仲良くく、今までの闇の部分がなくなり明るくなっていた。

その光景を見た僕とはやては年を食ったかのように笑った。

最後に、はやてからははやての自室で二人きりの時に渡された。

なのはたちから連絡が来てたのか、僕が学校でもらったチョコのことで朗らかに楽しそうに笑いながら話した。それからはやてが学校に行くことについても聞いた。来学期の4月から、僕たちの通う私立聖祥大附属小学校に通うそうだ。今は、これまでの勉強のお復習と、体育でも動けるようにするためリハビリを頑張っているそうだ。そのことを庭に面するベランダで聞き、僕は今までのことが報われたのか嬉しかった。それと同時に、今度こそは大切な友達を守ろうと誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 



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転入生。そして新たなる季節と始まり

 

~零夜side~

 

 

管理局の仕事を兼任しながら学生生活を送っている僕、天ノ宮零夜は新学期の始まる今日、いつもとは違う気分でクラスの一番後ろの椅子に座っていた。そこに。

 

「なんか楽しそうね零夜」

 

「そう?」

 

「うん。アリサちゃんが言う通りだよ」

 

「なにか良いことでもあったの?」

 

「う~ん、ちょっとね」

 

なのはたちが声をかけてきた。

 

「そう言えば私とすずかとアリシアも管理局に入ったけど、まだどこに配属されるか聞いてないんだけど」

 

「そう言えばそうだったね」

 

アリサが僕らに聞こえる声で言った通り、アリサとすずか、アリシアは僕やなのはたちに少しだけ遅れて管理局に入局した。遅れた理由は魔法の扱いを習っていたからだ。レベルで言うならば二人とアリシアはなのはたちに近いレベルだ。正直、局の新人相手なら楽に勝てると思う。

 

「たぶんそろそろ教えられると思うよ?まあ、恐らくだけどなのはたちと同じかな?」

 

僕の特務0課はある意味例外中の例外だ。

幸いにも僕の秘密を知っているのはあの時あの場にいた人物だけなため、局の高官らに知られることはない。そもそも現時点での特務0課はレジアス中将ら一部の高官のみ知っていることだ。そして、僕たちについては最重要機密扱いになっている。凛華たちがデバイスだと言うことは周囲にはあまり知られてないに加え、聖良が闇の書のナハトヴァールだった言うこともあの場にいた人物と3提督しか知り得ないことだ。なにせ凛華たちは単独での行動が可能であり、その能力ランクはオーバーSランクなのだ。聖良に加えてはSSランク近くになってる。まあ、ベースが僕だから仕方無いのだが。そんなわけで、シグナムたちヴォルケンリッターよりもランクが違うためはやてたちよりも特級の機密となっていたりする。もし知られたらこれを悪用する人物がいる可能性があるからだ。この事は3提督自らが承認した。もちろん僕もこの事には同意した。家族が不当な扱いを受けるのは堪ったものじゃないからだ。

そう思いながらなのはたちと話していると。

 

「みんな~席についてね~」

 

先生がやって来た。

なのはたちが自席に戻り、周囲も静かになってしばらくして先生が点呼を取った。

 

「え~と、新学期早々このクラスに新しく二人のクラスメイトが入りまーす」

 

先生の言葉にクラスメイトの声が湧きだった。

 

「それじゃ入ってきてくださ~い」

 

先生が廊下の方に声をかけると扉がスライドし二人の女の子が入ってきた。

 

「八神はやてです。よろしくお願いします」

 

一人は両足が完治して、ついに学校に来れるようになったはやてだ。

そしてもう一人は。

 

「あ、天ノ宮聖良です。よ、よろしくお願いします!」

 

そう聖良だ。

事の顛末は1週間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1週間前  天ノ宮家

 

 

「え!?せ、聖良もう一度言ってくれる・・・・・・?」

 

「う、うん。お兄ちゃん、私もお兄ちゃんと一緒に学校行きたいんだけど・・・・・・・・・いいかな?」

 

ある日の昼下がり、唐突に言った聖良の言葉に部屋にいた全員、天ノ宮家家族全員が動きを止めた。ちなみに明莉お姉ちゃんたちも居たりする。

 

「え、えっと聖良、僕と同じ学校に行きたいの?」

 

「うん」

 

「ちなみに理由は・・・・・・?」

 

「お兄ちゃんが学校でどんな風に過ごしてるのか知りたいってのもあるんだけど・・・・・・」

 

「あるんだけど?」

 

「今はお兄ちゃんたちがいるから一人じゃないけど、前までは一人だったから・・・・・・。外の風景を。私が知らない事を・・・・・・今まで知り得なかったことを自分の目で視たいと思ったの!」

 

聖良の言葉に僕は胸が締め付けられる感じがした。聖良は聖良と僕から名前が与えられるまではあの暗くてないもない孤独の中にいた。ずっと、望んでないことをやらされ続け、終わりのない絶望の日々を見続け、僕と出会わなければ聖良の心は摩耗し消滅していただろう日々を。確かに聖良と比べるとリインフォースはまだ少しよかったと思う。もちろんどちらも酷いことには変わりなかったが。でも、リインフォースは認識できるに対して、聖良は認識されず僕があそこで出会わなければナハトヴァールのコアと一緒にこの世にいなかった。そして、聖良の視ていたのは自分が破壊をし続けることだけ。望まない、やりたくない日々の連鎖のみ。

僕は聖良の言葉にそう悲痛の思いで思い出した。

 

「―――うん。聖良の気持ちは良く分かったよ」

 

聖良を抱き締めて優しくそう言った。

 

「お兄ちゃん」

 

「僕は聖良がそう望んだなら否定しないし、もちろん手伝うよ」

 

「お兄ちゃん・・・・・・!」

 

「僕らはもう家族なんだから思いっきり甘えていいんだよ。聖良の望みはなに?」

 

「私は・・・・・・私はお兄ちゃんと同じ学校に行って、お兄ちゃんの視ている光景や、なのはちゃんたちと同じように過ごしたい!」

 

「うん。聖良の望み、僕が叶えてあげるよ」

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

「明莉お姉ちゃんたちも良いかな」

 

「ええ。零夜くんがそう決めたのなら、私はなにも言いません。と言うか逆に零夜くんたちのことを応援します♪」

 

「はい。私たちは零夜くんが望むことならなんでもしますから」

 

明莉お姉ちゃんと凛華の言葉にみんなうなずいて返してくれた。

 

「ありがとう、みんな」

 

明莉お姉ちゃんたちに笑顔を浮かべてお礼を言い。

 

「それじゃ、聖良が学校に通えるようにしよっか♪」

 

「うん♪」

 

そう言ったあと、僕は学校に電話して聖良の転入手続きをして必要な物を買い揃え、一応上司であるミゼットさんに連絡した。ちなみにミゼットさんからは気にしないで年頃の子供のように学校生活を楽しんで下さい、と言われた。その時のミゼットさんの口調がどこかお祖母ちゃんを思い起こさせたのはきっと気のせいじゃないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあって今。

視線先、壇上でははやてと聖良が並んで自己紹介をしていた。

はやてと聖良の自己紹介にクラスメイトはフェイトとアリシアが転入してきたときと同じように盛り上がった。

 

「はい、ありがとうございます。八神さんは天ノ宮君の前の、天ノ宮さんの席は天ノ宮君の横になります」

 

「はい!」

 

「わ、わかりました!」

 

先生の言葉にはやてと聖良は前から移動してきて、はやては僕の前の席に、聖良は横に座った。

 

「それではこれから全校集会がありますのでみなさん移動してください」

 

それから全校集会があり、新学期初日のため今日は諸々の連絡事項を伝えたら下校となって放課後。まあ、まだお昼前なんだけど。

 

「お、お兄ちゃん・・・・・・」

 

今僕は聖良に抱き付かれて身動きがとれない状態です。

理由は・・・・・・・・・。

 

「はいはい、あんたたち、聖良が怖がってるでしょ。そんなに一辺に質問したらダメでしょうが」

 

そう、転入生が来たとき、恒例の質問攻めに合っているからだった。ちなみにはやての方にもいるのだが、はやてはまあなんとか答えたりしていた。

 

「アリサごめん、助かったよ」

 

「いいわよ。それに聖良の怯えを見たらね」

 

さすが一部でクラスの裏鬼委員長と呼ばれることもあって、アリサの指示で統一が成された。

 

「質問するときは一人ずつね!」

 

「はい。質問良いかな?」

 

「はい、どうぞ」

 

アリサの慣れた動作に苦笑しながら、クラスメイトの女の子の質問を聞いた。

 

「天ノ宮さんと天ノ宮君って名字が同じだけど、もしかして兄妹なの?」

 

「うん。聖良はこの間までちょっと事情があってね。学校に通えなかったんだよ」

 

女の子の質問に少し嘘を混ぜて聖良の代わりに答える。

 

「そうなんだ~」

 

「はい!次良い?」

 

「どうぞ」

 

「天ノ宮さんは好きな人っているの?」

 

次に質問してきたクラスメイトの男の子の質問には聖良が。

 

「え、えっと、好きな人はお兄ちゃん・・・・・・かな」

 

抱き付いたまま少し顔を赤らめて言った。

 

「いきなりなんつう質問してるのよ!?」

 

聖良が答えるとアリサが呆れたようにそのクラスメイトの男の子に言った。

それからクラスメイトの質問に僕が答えたりとして時間は過ぎて、僕らは学校をあとにして喫茶・翠屋にいた。

 

「それにしても聖良も転入してくるなんてね~」

 

「ホンマビックリしたで。今朝職員室に行ったら聖良ちゃんが居てはるんやもん」

 

「ふふふ。ビックリしたでしょ」

 

「うん。それはもう」

 

「あ。もしかして零夜が楽しそうだった理由って」

 

「正解だよフェイト」

 

隣に座って、支給された教科書を楽しそうに読む聖良の頭を撫でフェイトに言う。

 

「零夜くんもすっかりお兄ちゃんやね」

 

「シスコンじゃないかしら?」

 

「あはは・・・・・・」

 

「もしこれで聖良ちゃんに好きな人とか、聖良ちゃんに告白してきたら人がいたらどないすんやろ」

 

「え?」

 

はやての言った言葉が僕の頭の中を反響した。

 

「(聖良に好きな人・・・・・・?聖良に告白・・・・・・?)」

 

「れ、零夜くん?」

 

なのはがおどおどと聞いてくるが耳に入らない。

何故なら聖良に好きな人が出来たときの事や、聖良に告白してきた時のことを考えているからだ。その処理速度は並のスーパーコンピューターを超えたと自負している。

やがて出た処理結果は。

 

「聖良は絶対に渡さない!」

 

だった。

 

『『『『ズコーーー!!』』』』

 

「え?えっ!?」

 

僕の答えに、今入ってきた明莉お姉ちゃんや凛華たちに加え、カウンターにいた桃子さんや少しは慣れた場所にいるリンディさんやクロノたち、さらになのはたちまでもがその場にずっこけた。そしてその当事者の聖良は困惑状態だった。

 

「いやいや零夜、君はどうやったらそんな答えが出てくるんだい!?」

 

最初に立ち上がったのはクロノだった。

 

「え?だって当然でしょ?」

 

何を当たり前のことを、という風に返した。

 

「と言うか聖良に告白してきた人がいたら、即刻抹殺するよ。もちろん社会的にもだけど」

 

『『『『抹殺!?しかも社会的にも!?』』』』

 

「お、おおおお兄ちゃん!?」

 

「て言うか僕の大切な家族で妹の聖良を僕から奪いたいなら、少なくとも僕に勝てる人じゃないと。最低基準で財力があって聖良が苦労しなくて、家庭的で、優しい人で、とか、僕の繰り出す条件を全部クリアしてないと渡さないから!」

 

『『『『えぇぇ・・・・・・』』』』

 

「もっとも、聖良をお嫁に出す気は更々ないけどね!」

 

胸を張ってクロノに返すと、何故か全員から引かれた眼差しで見られた。なんでだろ?

 

「れ、零夜くん。さすがにそれは私も引きますよ」

 

「え?そうなの明莉お姉ちゃん?」

 

「はい」

 

「あはは。まあ、零夜くんの言いたいこともわかりますけどね~」

 

「翼の言う通りなのだがもう少し押さえてほしいわ。現に聖良ちゃんは戸惑っているわよ零夜くん」

 

「え!?」

 

知智お姉ちゃんの声に隣に座る聖良を見ると、聖良は顔を真っ赤にしてまるで湯気でも出ているのではないかと言うほど暑かった。

 

「あわあわあわ・・・・・・!」

 

聖良が真っ赤になっているのを見てあわふためいているそんなところに。

 

「う~ん、零夜くんが前とは違って喜怒哀楽ハッキリしてるね」

 

「ホンマやね。私の時もそうやったけど、零夜くんどこか押さえ隠している気がしたんよ」

 

「もしかしてそれって・・・・・・」

 

「ええ。聖良たちのお陰なのかもしれないわね」

 

「ふふふ。やっぱり、零夜くんは零夜くんなんだね」

 

「かもね~」

 

なのはたちが楽しそうに微笑みながら話していた。そしてその光景を明莉お姉ちゃんたちは微笑ましそうに眺め、桃子さんたちは見守るように優しく見ていた。

これは僕らの新しい日常への、始まりの順丈。そして第一歩だ。

 

 

 

 

 

 

 



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性別変化で大パニック!?

 

~零夜~

 

「な、ななななななななにこれぇぇええええええええええええええ!!?」

 

どうもこんにちは。朝から近所迷惑になるのではないかと思うほどの驚き声を発した天ノ宮零夜です。何故、近所迷惑になるのではないかと思うほどの声を出したのかと言うと。

 

 

 

 

「なんで性別が変わってるのーーーー!!??」

 

 

 

 

僕の性別が男の子から女の子になってしまったからです。

元々女の子の声に近かった声が完全に女の子のような声を発して目覚めたばかりの思考をフル活用して考えてます。そんな僕の声で目が覚めたのか―――

 

「んん・・・・・・。お兄ちゃん、朝からどうしたの~?なにかあった・・・・・・・の―――――え?」

 

一緒に寝ていた聖良が眠気眼を擦りながら僕の方を見てきた。

聖良は眼をパチクリとして何度も僕を見直した。

 

「あ、あれ、あの、どちら様でしょうか・・・・・・?」

 

「聖良僕だよ!僕!零夜だよ!」

 

「え?お兄ちゃん?え?えええ!?起きたらお兄ちゃんがお姉ちゃんになっていて、そのお姉ちゃんがお兄ちゃんで・・・・・・イミワカンナイヨ~!」

 

混乱して聖良の眼が回り始めるその時。

 

「朝からどうしたの零夜くん―――――え?」

 

「零夜くん近所迷惑になるわよ―――――へ?」

 

「どうしたんです澪奈ちゃん、知智。零夜くんと聖良ちゃんがどうかした――――――あら?」

 

澪奈と知智お姉ちゃんとエプロンをした明莉お姉ちゃんが扉を開けて部屋に入ってきた。

 

「あ、明莉お姉ちゃんこれなんとかならないかな!?」

 

僕はすぐさま明莉お姉ちゃんに切羽詰まった様子で聞いた。

 

「あ、あの、もしかして零夜くんですか?」

 

「そうです・・・・・・」

 

「え?この女の子が零夜くん!?」

 

「あ、あああ明莉、それほんとなの!?」

 

「ち、知智、貴女ならわかるはずでしょう」

 

「いえ、その。ごめんなさい、動揺しすぎて忘れてたわ」

 

「ま、まあ、それには同意するけど・・・・・・取り敢えず零夜くんはそのままで下に行きましょう」

 

「うん」

 

聖良は澪奈に任せて、僕は着替えられないため寝巻着のまま一階のリビングに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――明莉ちゃん、どうなったら澪奈くんが女の子になるのでしょう?」

 

一通り事情を説明した僕は凛華たちはともかく、翼お姉ちゃんちゃんたちはなんとも言えない表情をしていた。

 

「う~ん。たぶん、零夜くんの中にある膨大な魔力が暴走してそうなったと思います」

 

美咲お姉ちゃんの言葉に明莉お姉ちゃんが僕を検査してわかったことを言った。

 

「魔力が暴走ね~」

 

「そう言えば明莉。零夜くんをここに転生させるとき何かしなかったかしら?」

 

「何か?」

 

「ええ。例えば・・・・・・神霊力(デウニウス)を、与えたとか」

 

「!?」

 

知智お姉ちゃんの言葉に明莉お姉ちゃんたちは眼を見張った。

 

「神霊力?」

 

「知智さん、神霊力とはなんですか?」

 

星夜が僕たちを代表して聞いてくれた。

 

「――――神霊力とは、わたしたち神々が持っている力の事よ。神霊力はそれぞれ神々によって違うの。例えば、わたしは知と戦略の神霊力を。美咲は美と武の。翼は空と生命。そして明莉は――――」

 

「――――私の神霊力は太陽と豊穣、そして干渉」

 

「干渉?」

 

「干渉とは、そのままの意味ね。下界の人間に干渉できるの。この"干渉"の権限を与えられてるのは神々(私たち)でもほんの一握り。それも神話世界の主神クラスじゃないと与えられないわ」

 

「さらに言うと、この干渉は干渉した人間を自分の眷属にできるのよ」

 

「え~と・・・・・・つまり、僕は明莉お姉ちゃんに転生させてもらって、その時に明莉お姉ちゃんの神霊力が僕に混じっちゃったってこと?」

 

知智お姉ちゃんと美咲お姉ちゃんの言葉を僕なりに解釈して聞き返す。

 

「たぶん意図したものじゃないはずよ。恐らく、零夜くんがわたしたちにも接触したから。いえ、わたしたちが零夜くんに接触したため混じっていた神霊力がこの世界に適応させるため魔力となったのよ」

 

今一知智お姉ちゃんたちの言葉はよく分からないけど、僕がこの姿になった理由はその神霊力が原因みたいだ。

 

「それに零夜くんが闇の魔法(マギア・エレベア)を使っているのも原因の一つかもしれないわね」

 

「え!?」

 

「確か(原作)闇の魔法(マギア・エレベア)は副作用があるのよね」

 

「えっと・・・・・・うん。闇の魔法は元々人間が扱うことに長けてなく、例え扱うとしても副作用として人間では無くなるハイリスクがあるよ」

 

「それを明莉が副作用を無くしたのよね」

 

「ええ」

 

「ん~、ってことは知智ちゃん。明莉ちゃんの、無くしたはずの副作用が別の形で、零夜くんの魔力と神霊力が交じることになっちゃってこと?」

 

「わたしの予想だとね」

 

翼お姉ちゃんの言葉を知智お姉ちゃんは肩を竦ませて言った。

 

「も、もしかして零夜くん、私の眷属化となり始めちゃってる・・・・・・・?」

 

「まだそれはないと思うわよ―――って、言いたいのだけど・・・・・・」

 

「明莉ちゃんの緋色の神霊力が零夜くんにもあるね~」

 

「って、ことはもしかして・・・・・・」

 

「眷属化し始めちゃってるね」

 

翼お姉ちゃんたちの言葉に明莉お姉ちゃんは驚愕を受けたように膝を着いて倒れた。

 

「???どうしたの明莉お姉ちゃん?」

 

「その、私は零夜くんを私の眷属にしてしまったみたいです」

 

「・・・・・・・・・・え?」

 

明莉お姉ちゃんの言葉に、更に高い声で変な声を出してしまった。

 

「あはは。え~と、つまりね、今の零夜くんは明莉の眷属に成りかけてる。―――分かりやすく言うと、アマテラスである明莉の従属者に成りかけてるってことかな」

 

美咲お姉ちゃんの言葉に僕は、静かだった凛華たちに視線を向けてしばらくして。

 

「マジですか」

 

一言そういった。

 

「はい。マジなのです」

 

「ちなみに眷属化って具体的には・・・・・・」

 

「具体的に言うと、ある程度成長したらもうそこからは成長しないんです。さらに言いますと何らかの形で死なない限り死ぬことはなく、寿命の限界が無くなります」

 

「まあ、明莉の眷属ってことになるわけだからね。それに今はまだ半神化かな?半分人間、半分従属神ってなるかな」

 

明莉お姉ちゃんと翼お姉ちゃんの説明に理解していると。

 

「でもこうなると、向こうの方はかなり騒ぐんじゃないかしら?」

 

知智お姉ちゃんがそう言った。

 

「あー。確かにそうかも」

 

「確かに、今まで明莉が眷属を作ったことは有りませんでしたからね~」

 

「まあ、大丈夫だと思うわ。何せ、わたしたちがいるのだからね。下手に刺激してきたりはしないはずよ」

 

「ま、それもそうですね」

 

よくわからない会話に首をかしげていると。

 

「あ、取り敢えず、零夜くんは今日一日その姿ね」

 

「え!?」

 

知智お姉ちゃんが言い忘れたかのように伝えてきた。

 

「明日になったら元に戻ってると思うわ。それと、たまに時々またその姿になると思うけどその辺りはごめんね」

 

「あ、はい」

 

どうやら僕は今日一日この姿でいることになるらしい。

まあ、最悪仮装行列(パレード)を使えば良いのだが。

 

「ところで僕は何を着たら良いのかな?」

 

僕がそう言うと。

 

『『『それはもちろん私の服を!』』』

 

Orz状態の明莉お姉ちゃんを除いて、その場にいた全員が同時に同じ言葉を言った。

 

「零夜くんは私の服を着ますから安心してください」

 

「違うよ凛華ちゃん!零夜くんは私の服を着るんだよ!サイズも丁度ピッタリだもん!」

 

「何を言ってるんです二人とも。着るのは私の服です」

 

「いいえ、マスターの服は私が用意します」

 

「零夜くんの服は私とお揃いが一番よ」

 

「いいえ、私だよ知智ちゃん!」

 

「違います、わたしです」

 

あたふたしている聖良を他所に凛華たちは激しく言い争っていた。

明莉お姉ちゃんもひきつり笑いを浮かべていた。

 

「聖良、ごめん。聖良の服貸してくれる?」

 

「うん♪持ってくるねお兄ちゃん!あ、お姉ちゃん・・・・・・の方がいいかな」

 

「お兄ちゃんでお願い」

 

「うん♪」

 

聖良に服をお願いして、僕は明莉お姉ちゃんが持ってきてくれたホットミルクを一緒に飲んだ。

 

「今日は休日だからいいけど、はやてたちに知られたらどうしよう」

 

「あれ、でも零夜くん今日は確かはやてちゃんたちとお出掛けじゃありませんでしたか?」

 

明莉お姉ちゃんのそんな言葉に僕はサアッ、と顔を青ざめた。

 

「(マズイマズイマズイマズイマズイマズイッ!!超激ヤバマズイッ!!)」

 

今日は久しぶりになのはやはやてたちと出掛ける予定なのだ。幸いにも時間はまだあるから大丈夫だけど、さすがに今の姿はマズイ。

そう思っていると。

 

 

『いらっしゃいです、はやてちゃん♪!』

 

『ごめんな聖良ちゃん。零夜くん向かいに来たんやけど居てはる?』

 

『うん、お兄ちゃんちゃんならいる・・・・・・よ?なのかな?』

 

『どうして疑問形なんや?それにその服はいったい』

 

『う~ん、見てみれば分かると思うよ』

 

『???』

 

 

インターホンの音がなり、扉を開け聖良とはやての声が聞こえてきた。

 

「あ、あああ明莉お姉ちゃん、なんとかならない!?」

 

「ごめんなさい零夜くん。その・・・・・・ムリかも」

 

明莉お姉ちゃんがそう言い終えると同時にリビングの扉が開き、聖良とはやてが入ってきた。

 

「お邪魔します、零夜くんは居てはります?」

 

「いらっしゃいはやてちゃん。零夜くんならそこに・・・・・・あれ?」

 

いつの間にか口争論を止めていた凛華たち。知智お姉ちゃんが僕の方に視線を向けるが、ギリギリで僕は気配を極力消して隅の方にいた。そのままリビングから出ようとしたのだが。

 

「あ、お兄ちゃん、服持ってきたよ」

 

聖良に見つかってしまった。

既にお気付きだろうが僕の家族の中で聖良は一番天然だ。純粋無垢と言うのか、なんと言うか、悪気はないのだろうが聖良はふとした瞬間に突拍子のことをたまに言うのだ。

聖良に見付かってしまった僕は動きを止め、そこを。

 

「来たで零夜くん・・・・・・・んんんっ!!?」

 

はやてにも見付かられてしまった。

 

「ま、まさか零夜くんなんか・・・・・・?」

 

「う、うん。そうだよはやて」

 

諦めた僕の頼り無い声にはやては眼をパチクリ物凄い速さですると。

 

「なのはちゃん、いますぐすずかちゃんたちと一緒に零夜くんの家に来てほしいんや!」

 

はやてが一瞬でスマホを取り出してなのはに連絡していた。

 

「はやてさん!?」

 

あわててはやてに近寄りスマホを取り上げようとするが、はやてはタヌキのように逃げ回った。

 

「ちょっ、はやて!」

 

「はよ来てななのはちゃん!」

 

僕とはやてがリビングで追い駆けっこをしている間、凛華たちはソファに座ってのんびりしていた。はやてがそのままスマホをしまい止まり、僕も止まろうとしたが。

 

「あ・・・・・・」

 

足が縺れてはやてに向かって転んでしまった。

 

「「ふにゃぁ!」」

 

猫のような鳴き声を出して僕と僕に巻き込まれるような形ではやては転んだ。

ドタンッ!と大きな物音がして、リビングの床に僕とはやては倒れていた。

 

「あらら、昼間からお盛んね零夜くんとはやてちゃんは」

 

「何言ってるのよ美咲・・・・・・」

 

美咲お姉ちゃんの声が聞こえ前を見ると。

 

「「え?」」

 

目の前にははやての顔があった。

 

「れ、れれれ零夜くんんっ////!!!??」

 

「あれ、なんではやての顔が目の前に・・・・・・」

 

言っている最中で、僕は今の自分の状況を確認した。

目の前にはやての顔。そして床のフローリング。倒れた。つまりここから導き出される答えはただ一つ。

 

「(あれ、この体勢って僕がはやてを押し倒しているように見えない?)」

 

そう思うと同時に。

 

「お兄ちゃん、はやてちゃん倒れてるけど大丈夫?」

 

聖良の一言が貫いた。

すべてを認識した僕はあまりの処理量の多さにエラーを起こし。

 

「ふ・・・・・・・」

 

「零夜くん!?」

 

はやてに体を預けるようにして気絶した。

あれ、普通気絶するのって逆じゃないっけ?そんなことが過ったのは気のせいだと思う。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~聖良side~

 

 

こんにちは!お兄ちゃんの妹の聖良です!

今、私の目の前では、お姉ちゃんになったお兄ちゃんがはやてちゃんを押し倒している姿があります。

 

「二人とも怪我してない?」

 

不安に思った私が訪ねると、お兄ちゃんが糸が切れたかのようにはやてちゃんの上体に倒れました。

 

「零夜くん!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

あわててお兄ちゃんに寄ると、お兄ちゃんははやてちゃんの上で気絶してました。

 

「なんやろ、普通逆やないかな」

 

はやてちゃんの言葉に明莉お姉ちゃんたちが頷いているのが見えますけどよくわからないです。

首をかしげながら私はお兄ちゃんの頭を私の膝に持ってきてそのまま乗せました。女の子みたいな顔は今は完全に女の子になっていてその寝顔はとても可愛かったです。

 

~聖良side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

「んん・・・・・・」

 

目を覚まして周囲を見渡すと、そこは何もなくただ白い空間だった。

 

「この感じ、もしかしてここって夢遊空間?」

 

体が少し軽いのを感じて起き上がりながらそう呟いた。

 

「確かはやてと倒れて、はやてに覆い被さるようになって・・・・・・」

 

声に出しながら思いだしていると。

 

「まったく、相変わらずね零夜は」

 

「あはは。仕方ないよ華蓮ちゃん。私の弟だもん」

 

「まあ、愛奈美お姉ちゃんもそうだったもんね」

 

「自分で言ってなんだけどね」

 

後ろからとても聞きなれた声が聞こえてきた。

後ろを振り向くと、そこには。

 

「愛奈美お姉ちゃん!?華蓮!?」

 

「ヤッホー、零夜く~ん♪」

 

「久しぶりね零夜」

 

前世での僕の大切な二人がいた。

 

「なんで二人がここに!?」

 

「言っとくけどここは零夜の精神の中よ。夢遊空間じゃないわ」

 

「言うなら精神空間かな?」

 

「そ、そうなんだ。―――じゃなくてなんで二人がここに!?」

 

「何でって言われてもね~」

 

「零夜くんの精神。つまり、零夜くんの霊魂の中に私と華蓮ちゃんの魂があるからかな」

 

愛奈美お姉ちゃんの言葉に僕は愕然とした。天地が引っくり返るほどの驚きだ。

 

「それにしてもまさか零夜が転生してこの【魔法少女リリカルなのは】の世界に来るなんてね」

 

「しかも家族がいっぱいいるみたいだもんね」

 

「ちょ、ちょっと待って二人とも、二人はどこまで知ってるの?」

 

「「全部(だよ)」」

 

「もしかして二人ともずっと僕のなかにいたの?」

 

「そうだよ~」

 

「まあ、こうして零夜と会話ができるのはあの明莉お姉ちゃん?。いや、アマテラスさんのお陰なんだけどね」

 

「明莉お姉ちゃんの?」

 

「うん。アマテラスさんの神霊力と零夜くんの魔力が交じりあったお陰で、私と華蓮ちゃんがこうして零夜くんとお話しできるようになったの」

 

「ま、予期せず事態だったけどね」

 

「そうね~」

 

「あ、相変わらず二人はほのぼのとしてるな~」

 

変わらない二人に優しい眼差しを向けてそう言った。

 

「それで、浮気してる零夜くんはなにか言いたいことありますか?」

 

のだが、いきなりムスッ、とした表情で愛奈美お姉ちゃんがそう言ってきた。

 

「ま、愛奈美お姉ちゃん!?浮気ってなにさ!?」

 

「だって今の状況、八神はやてちゃんを押し倒しているんだよ零夜くん。誰がどう見ても浮気でしょ」

 

「ちょいまち凛華!転んだの見てたよね!?」

 

「うん、見てたよね。けどそれとこれは別だよ。それに愛奈美お姉ちゃんへのシスコンレベルが、聖良ちゃんっていう可愛い妹が出来てさらにシスコンレベルがランクアップしてない?」

 

「ソ、ソンナコトハナイヨ」

 

「口調が変よ。片言だし」

 

「うっ・・・・・・!」

 

無自覚だと思いつつ、愛奈美お姉ちゃんへのシスコンもだが、聖良や澪奈へのシスコンもランクアップしてるのは気のせいじゃなかった。

 

「しかも、高町なのはちゃん、だっけ?他にもフェイト・テスタロッサちゃんやアリシア・テスタロッサちゃん、月村すずかちゃん、アリサ・バニングスちゃんも無自覚に落としてるでしょこの朴念仁唐変木、零夜」

 

「グハッ!なんかよくわからないけどとてつもなくバカにされてる気がするよ!?」

 

「当然でしょ?」

 

「そこは嘘でも否定しようね華蓮!?」

 

「ふふふ。二人はほんと仲がいいよね」

 

そんなこんなで姉と幼馴染みによる尋問のようなお話から数時間後。

 

「さてと、そろそろ時間かな」

 

華蓮がそう告げた。

 

「時間?」

 

「そ。この空間にいる、ね」

 

「まあ、私と華蓮ちゃんの魂魄はすでにこうして零夜くんの霊魂とパイプが出来たから何時でも話せるよ」

 

「そうなんだ・・・・・・」

 

「どうしたのよ零夜。嬉しくないの?」

 

「嬉しいけど・・・・・・実体で話せないからさ」

 

「大丈夫だよ零夜くん。私と華蓮ちゃんは何時でも零夜くんの側にいるから」

 

「そうだよ。それにもしかしたらまた話せるかもしれないでしょ。私と愛奈美お姉ちゃんの霊魂はあるんだから」

 

「そう・・・だね・・・・・・」

 

「ふふ。零夜に何かあっても必ず私と愛奈美お姉ちゃんが助けてあげるから。それに今の零夜は独りじゃないでしょ?」

 

「そうだよ。特典として私と華蓮ちゃんの好きなあの二つの能力を持ってるんだから」

 

「それに、寂しくなったら頭の中で念じたり、夢の中で出会えるから」

 

「うん・・・・・・」

 

「もお、ほらシャキッとして零夜くん。零夜くんは私のたった一人の弟なんだから」

 

「それと、私と愛奈美お姉ちゃん二人の彼氏、なんだからさ」

 

「そうだね。お姉ちゃん、華蓮。―――よし!頑張るよ!そして決めた!絶対愛奈美お姉ちゃんと華蓮を僕のいる現実に来させる!」

 

「ふふ。その意気よ零夜」

 

「うんうん。やるっと言ったらやる。それが零夜くんだもんね」

 

その瞬間、僕の体が白く光、霧のように解れていくのを感じた。

 

「それじゃ、またね零夜」

 

「零夜くん、またね。全力ファイトだよ♪」

 

「なんかその台詞デジャブだよお姉ちゃん・・・・・・。またね、お姉ちゃん、華蓮」

 

そう告げると、僕の意識は上へと昇って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん・・・・・・」

 

「あ、やっと起きた」

 

「はやて?」

 

目を覚ますと、そこにははやての姿があった。

 

「あれ?」

 

起きた僕は、体に違和感があるのを感じ右手を持ち上げた。

右手を持ち上げると、まず最初に目に入ったのは、服の袖だった。

 

「これって聖良の服?」

 

「そうですよ零夜くん」

 

さらに上を見ると明莉お姉ちゃんがいた。

 

「どのくらい寝てたの?」

 

「30分ほどやね」

 

「そう」

 

起き上がり自分の格好を確認する。

薄い蒼色のトップスに、紺のパンツスタイルだった。

 

「そろそろ行かないと遅れる?」

 

時計を見てそう言うと。

 

「その必要はないわよ零夜」

 

「へ?」

 

すぐ近くからほぼ毎日聞いている声が聞こえてきた。

 

「可愛いね零夜くん、その服装」

 

「にゃはは。なんだろう、女の子として負けた気分」

 

「な、なのは落ち着いて、大丈夫だから・・・・・・・多分?」

 

「フェイト~、それさらに止め刺してるよ」

 

壊れた機械のような、ギギギと音が出てるみたいに首をそっちに向けると、そこにはなのはたちがこっちを見ている姿があった。もちろんみんな私服姿だ。

 

「な、ななななんでなのはたちがここにいるの!?」

 

「はやてちゃんに零夜くんが面白い姿になってるって言ってたから」

 

「それで来てみたら、はやてに覆い被さって気絶してるあんたの姿があったわけよ」

 

「ちなみにお着替えは私と聖良ちゃんがやったよ」

 

なのは、アリサ、すずかの言葉に僕は顔が真っ赤になった。

口をパクパクと呼吸する魚みたいな反応を思わず取っていると。

 

「それにしても違和感がまったくないわね」

 

「ほんと。どこからどうみても女の子だね」

 

「素体が女の子みたいやからな~」

 

「しかも家事が出来るしね」

 

「優良物件」

 

「婿と言うより嫁にほしいね」

 

アリサたちが次々にそう言っていた。

瞬時に高速演算してこの場を乗りきることを探し、背に腹は代えられず。

 

「と、取りあえず出掛けようよみんな!そのために来たんでしょ!?」

 

まあ、前世でもたまに、よくたまーに愛奈美お姉ちゃんと華蓮の着せ替え人形になっていたためなんとかなる。うん、なれって怖いね、ほんと。

 

「それもそうね。それじゃ、行きましょうか」

 

アリサのその一言で僕はなのはたち出掛けていった。

その際、明莉お姉ちゃんたちが苦笑いを浮かべていたのが視界に入った。それと同時に知智お姉ちゃんと星夜らがこそこそとなにか話していたのを見付けた。耳を済ませてみると、着せ替え人形やら女装、やら不穏な言葉が飛び交っていたため全力でスルーした。

その後、翌日には無事にもとに戻れたが、その日は僕にとってとんでもなく疲れる一日になったと伝えておこう。

 

 

 

 

 

 

 



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ようこそ、特務0課へ

 

~零夜side~

 

『―――と言うわけで、特務0課に3名ほど転属となりますのでよろしくお願いいたしますね』

 

「わかりました」

 

地上本部への出向・・・・・・(出向というなの研修みたいなもの)・・・・・・も1週間前に終わり、僕らは本局内部の上層区画にある【特殊執務管理室第0課】通称、特務0課の室内に戻っていた。

地上本部ではレジアス中将を初めとして、ゼスト隊のみなさんと懇意になった。一応、こっちに戻ってもレジアス中将とはパイプがあるため、地上本部での情報や緊急事態のことなどが伝わるようになっている。

そんななか、直属の上司であるミゼットさんからそんな通信が来た。

ミゼットさんからそれから軽く手続きをして通信を切り、明日に向けてのもろもろの準備をして、凛華たちと家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

僕は特務0課の室長デスクの椅子に座りながら目の前の三人を見て、頭が痛くなった。

 

「お、お兄ちゃん大丈夫?」

 

「無理・・・あとは任せた・・・ガクッ・・・・・・」

 

「え、ちょっ!?お、おおお兄ちゃぁん!?」

 

隣にいる聖良はあたふたとして、凛華たちは苦笑を浮かべていた。

何故僕がこうなっているのかと言うと。

 

「大丈夫なの零夜?」

 

「あはは。大丈夫かな零夜くん」

 

「あはは・・・・・・・」

 

目の前にはものすごく見慣れた三人。アリサ、すずか、アリシアがいたからだった。

刻は数分前に移る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前

 

 

「そう言えば誰がここに来るんだろ?」

 

思い出したこのように呟いた僕の言葉に聖良が。

 

「そういえばそうだね」

 

自分も思いだし、不思議に思ったかのように答えた。

そこに紅葉が。

 

「マスター、そろそろ時間です」

 

「了解」

 

紅葉の言葉にうなずいて、来るであろう三人を待った。

待って5分して。

 

「どうぞ~」

 

扉がノックされる音が響き、入室を許可しロックを解除した。

 

「失礼します。本日からこちらに配属されることになりました・・・・・・・って、え!?」

 

入ってきて挨拶をした一人が驚いたかのように声を上げた。

というより。

 

「(ん?この声って・・・・・・)」

 

入ってきた三人を見上げると。

 

「アリサ!?すずかとアリシアも!?」

 

そこにいたのは局の制服に身を包んだアリサ、すずか、アリシアの三人だった。

 

「え!?なんで三人がここに!?」

 

予想外の人物に僕は慌てて聞いた。

 

「なんでって言われても・・・・・・」

 

「ここに配属されたんだよ私たち」

 

「はい!?」

 

驚愕している僕のところに。

 

「マスター、ミゼットさんから文が来ました」

 

紅葉が一枚の紙を渡してきた。そこには、アリサとすずか、アリシアの特務0課への配属を証明するものだった。

 

「(もう少し早く渡して欲しかったんだけど)」

 

そう思いつつ紅葉から渡された紙を読み進める。

読み終えた僕ははぁ、とため息をついた。

とまあ、ここまでが冒頭だね。

それじゃ、時間を戻して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず三人ともようこそ【特殊執務管理室第0課】へ。この課を任されてる長として歓迎するよ」

 

そう一応立場上の歓迎の言葉を言う。

 

「よし。とまあ、んなわけでアリサ、すずか、アリシアこれからよろしくね」

 

「ちょいまちなさい!」

 

「ほえ?」

 

「あまりにもギャップがすごいんだけど!?」

 

「あーー・・・・・・・うん、僕も始めてやったけど形式上みたいなものだから。あ、それとここは上下関係無しだからね」

 

「そ、そう。それにしてもあんた相変わらずね。さすがとは言えないわ」

 

「アリサちゃんの言ってること何となくわかるかも」

 

「確かにね」

 

三人の言葉に凛華たちは同意するようにうなずいていた。

 

「あはは。取り敢えず、三人のデスクはそこにあるから席はどこでもいいよ。あと、聞くけど【特殊執務管理室第0課】の通称はなにかわかる?」

 

「え?」

 

「ううん」

 

「しらないよ」

 

「通称、特務0課だからそう呼ばれた際は此処ってことだから覚えておいてね」

 

僕の言葉に三人は、ああ、と理解してうなずいた。

 

「それと基本的には暇なんだよねこの部署、今」

 

そう。ここ最近この部署は暇すぎるのだ。地上本部への出向ときはゼスト隊のみなさんと訓練に当たったり、犯罪者の摘発や違法行為の取り締まりなどし暇はなかったのだが、ここに帰ってくると一気に暇になった。本当なら管理局の内情調査をしなくてはならないのだが、ミゼットさんから指示によりここしばらくは内情調査をしてないのだ。どうやら、他の上層部が摘発され身の危機を感じ取ったのか、こっちに探りを入れているようなのだ。まあ、情報管理は完璧だし、基本はグレアム叔父さんからの指示を仰ぎ、緊急事態の時はミゼットさんから指示が来るが。ルーツはミゼットさんからの指示をグレアム叔父さんが伝言づてで僕に言ってるにすぎない。まあ、たまに昨日みたいにミゼットさんから連絡が来たりはするが。

そんなこんなで現在特務0課は暇すぎるのだ。もちろん、仕事はしているがまだ10歳以下だからなのが配慮されてるのかあまり量はそこまで多くない。

 

「暇、ってあんたねぇ・・・・・・」

 

「やっぱり私たちより歳上だね」

 

「それは精神年齢でしょすずか。今の僕の肉体はまだ9歳だからね」

 

「いやいや、9歳の時点で一つの部署を持つなんてあり得ないから」

 

「うん。その点は僕もそう思うよ」

 

アリサの言葉に、何度も悩まされた事実を僕はもう慣れてしまった。慣れって怖いねほんと。

 

「そんなわけで、今日はトレーニングをしようと思いまーす!」

 

僕がそう言うと、澪奈がどこからか持って来た紙吹雪を巻き上げ、星夜はトランペットを吹き、凛華は拍手をした。

うん、いつのまにそんな連携を。さすが最初からいた三人。

 

「いきなりすぎるわ!」

 

そこにアリサから、ツッコミと。

 

「アイタッ!」

 

どこから取り出したのか、ハリセンを食らった。

うん、さっきまでハリセン持ってなかったよね!?

 

「どうしていきなりトレーニングになるのよ!」

 

「だって今日のやるぶん終わってるし暇だから」

 

「暇だから、じゃないわよ!」

 

「あ、アリサちゃん落ち着いて」

 

「おお。これがハリセンツッコミ・・・・・・ハラショー」

 

「ちょいまち!なんでアリシアがハラショーなのさ!?中の人入れ替わってない!?」

 

「メタ発言はダメだよお兄ちゃん!?」

 

とまあ阿鼻叫喚のようなハチャメチャな日々がまた始まるのでした。

チャンチャン♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『勝手に終わらせるなぁ!!』』』』

 

その場にいた全員が(聖良は苦笑していた)僕に向かって同時に叫んだ。

ところ変わって僕の家、天ノ宮家の地下トレーニングルーム。

そこ、いきなりすぎとは言わない!

あれ、僕は誰に言ってるんだろ・・・・・・・。

 

「三人ともデバイスの方はどう?」

 

管理局の特務0課から家に来た僕らはそのまま地下のトレーニングルームにいた。もちろん、服装は動きやすい服装だ。

 

「ええ。特に問題ないわ」

 

「うん。すごい・・・・・・一応私も工学系お姉ちゃんに教えてもらってるけどこんなの見たことないよ」

 

「私の方もリニスに創ってもらったから大丈夫!」

 

三者三様の回答に僕はうなずいた。

ちなみにアリシアのデバイス『ヴォルテックス』はフェイトの『バルディシュ』同様リニスさんがアリシア専用として作り上げた。そして、アリサの『フレイムハート』とすずかの『スノーフェアリー』は僕が作成した。

 

「そんじゃまあ、トレーニング始めようか」

 

ルーム内のシステムウインドウを表示して、遠距離魔法の的を用意する。

 

「それじゃあ私からいくよ!」

 

元気よくアリシアがそう言うと。

 

「いくよヴォルテックス!」

 

《OK Master》

 

「セーット、アーップ!」

 

アリシアのバリアジャケットは、フェイトのバリアジャケットに少し似ているが、フェイトのように露出面が多くなく、空色の軍服のような服に、アイボリー色の少し丈の短いスカート。そしてフェイトと同じ純白のマントを羽織り、その手には二丁銃のデバイス、ヴォルテックスがあった。

 

「(確か、アリシアのデバイス、ヴォルテックスの形態は基本形態の二丁拳銃、《デュアリス》。近接戦闘形態の双剣、《デュアルブレード》。中距離戦闘形態の槍、《ストライクランチェス》。だっけ)」

 

リニスさんから教えてもらったヴォルテックスの形態を思い出してアリシアを観る。

 

「いくよ!」

 

アリシアが二丁拳銃を的に向けて構えると、足元に空色の魔方陣が浮かび上がった。アリシアの周囲に空色のスフィアが数個出現し。

 

「ファイアー!」

 

アリシアの声とともに空色のスフィアは的に向かって飛んでいった。飛んでいったスフィアはすべて的に命中し、的を貫いた。

 

「次いくよアリシア」

 

「うん!」

 

システムウインドウを操作して新たに的を用意し、アリシアに声をかける。

 

「フィルス・ラ・ステイル・フェイルタス!風の精霊45人。集い来たりて敵を打て!魔法の射手・連弾・雷の45矢!」

 

アリシアの放った【ムンドゥス・マギクス式】の魔法の、魔法の射手・連弾・雷の45矢は的に向かって雷を纏って飛んでいき的を貫いて粉砕した。

 

「どう零夜!」

 

「うん。魔力コントロールも雷の変換資質も大丈夫みたいだね。魔法の射手も良くできてるよ」

 

「えへへ」

 

「目標は魔法の射手が100は出せるようにね」

 

「う、うん」

 

僕が微笑んでそう言うと、アリシアは頬を少し赤らめてうなずいた。

 

「次はあたしね!」

 

「了解」

 

アリシアが下がると、今度はアリサが前に出てきた。

 

「いくわよフレイムハート!」

 

《Yes Master》

 

「セットアップ!」

 

アリサのバリアジャケットは薄紅のブレザーの上に赤いジャケットを羽織り、ジャケットと同じく赤いスカートを着用している。そして手には片手剣のフレイムハートがあった。

 

「アリサ、違和感とかある?」

 

「ないわ。なんていうか、昔から使っていたような感じよ」

 

「オッケー。一応、おさらいしておくよ。アリサのデバイス、フレイムハートの形態は現時点では3つ。一つは今の基本形態の片手剣、《ヴォルカノフ》。二つ目が刀形態の《フレイムアイズ》そして三つ目が遠距離砲撃形態の《アーティリフ》。なにか違和感とかあったら遠慮なく、隠さずに言って。すぐに調整するから」

 

「わかったわ。―――アーティリフ!」

 

アリサの声にアリサのデバイス、フレイムハートは形態を基本形態の片手剣型からスナイパーライフルに似た遠距離形態に変わった。モデルとしては、なのはのレイジングハートのキャノンモードに酷似している。

 

「穿て!―――フレイムバスター!」

 

アリサの声に、アーティリフの先端に炎の球が現れ一直線に的に向かって貫いた。

 

「次よ!アグニス・ラルタス・スティングル!来たれ炎の精霊14柱!穿きたる鋭き槍となりて敵を焼き尽くせ!連槍・炎の14槍!」

 

アリサの放った【ムンドゥス・マギクス】式を見て僕はギョッ!?とした。

 

「(れ、連槍!?まさか中級魔法まで使えるようになったの!?)」

 

まさか初級を通り越して中級魔法の炎の槍。しかも連槍を使うなんて思わなかったのだ。

アリサの放った炎の槍は奥にある的を的確に射ち貫き、さらに副次効果でその的を燃やして消滅させた。

 

「ふぅ。どう零夜」

 

「あ、ああ、うん。すごい、ね」

 

予想外の出来事に僕は呆気に取られ、間の抜けた返事を返した。

 

「なによ。あんまりすごいって言ってるように見えないんだけど」

 

「あ、うん。スゴすぎて何て言ったらいいのか分かんないんだよね」

 

トレーニングルームのシステムを操作して的を新しいのにしてアリサに言う。

 

「て言うかいつのまに中位魔法。しかも連槍なんて使えるようになったのさ」

 

「いや~、やってみたらできたって感じかな?」

 

「やってみたらできたって・・・・・・」

 

アリサの言葉に僕はなんとも言えなかった。どんだけ天才なのと言いたかった。

 

「言っておくけど、まだアリサたちには上位魔法やその上の最上位は早いから教えないよ?て言うか教えるとしても上位だけだからね。・・・・・・まあ、それぞれ得意なタイプの最上位なら一つぐらいはいいかなと思うけど」

 

「わかってるわよ。あたしもまだあんたみたいにうまく魔力コントロールできるって訳じゃないからね」

 

肩を竦めてそう言うとアリサはすずかと変わった。

 

「すずか、いける?」

 

「うん。お願いねスノーフェアリー」

 

《Sure》

 

「セット、アップ!」

 

すずかのバリアジャケットは青と紫、白を基調にしたもので白と紫のドレスに似たワンピースに、その上に僕のバリアジャケットと同じ丈の長い青いコートを着用している。さらに長い髪をひとつ縛りにしてポニーテールにしていた。そして手には槍のスノーフェアリーを握っていた。

 

「どうすずか?」

 

「うん、大丈夫。違和感は感じないよ」

 

「オッケー。それじゃアリサと同じようにスノーフェアリーのおさらいしておくよ」

 

「うん」

 

「スノーフェアリーの形態はアリサのフレイムハートと同じく現時点では3つ。ひとつ目は今の基本形態の斧槍型、《トリアイナ》。二つ目は細剣型の《フロスティング》。三つ目は遠距離形態の弓、《アイシクルコーラ》。なにか違和感とかあったらすぐに言って」

 

「うん。特にないよ」

 

「オッケー。それじゃすずか、お願い」

 

「うん。―――アイシクルコーラ!」

 

すずかの声にスノーフェアリーは形態を斧槍から流麗な弓へと変わった。その弓は氷のように煌めいていた。

 

「貫いて!―――アイシクルレイン!」

 

弦を引き絞り、現れた氷の矢をすずかは的に向けて射ち放つ。放たれた矢は分裂し次々に的に突き刺さった。

 

「―――レスト・ラスト・フィンベルス!来たれ氷精、爆ぜよ風精!氷爆!」

 

すずかの魔法は正面の的の床を氷付けにし、さらに散開した氷の礫が上の的を貫いた。

 

「次は――――魔法の射手・集束・氷の37矢!」

 

「!?」

 

すずかの放った魔法にまたしても僕は目を見開いた。

 

「(え、詠唱省略!?)」

 

まだ教えてないはず略式詠唱をすずかが使ったからだ。略式詠唱は一見簡単に思われがちだが、実際は難しい。何故なら略式詠唱はイメージと魔力操作が重要だからだ。【ムンドゥス・マギクス】式はイメージと詠唱、そして魔力操作が重要だ。声に発して詠唱するということは、詠唱の意味とどうなるかのイメージ、つまり過程を想像し、自身の魔力と周囲の空間に漂うエレメントを構築する、ということが簡単にできるが、略式詠唱は終の術式部分だけを言う。無詠唱よりはまあ楽だが、それでもイメージと魔力操作が大変になる。もしこれで少しでもイメージが崩れたり、魔力操作がダメになると術者に反動が反ってくるのだ。略式詠唱の構築は一つの工程でイメージと魔力操作を同時に行う必要がある。もちろん、その中には意味を瞬時に理解し過程を構築する必要があるのだ。

すずかの詠唱省略に肝を冷やしながらも僕はすずかに。

 

「お疲れさますずか」

 

と言った。

 

「うん。それにしてもすごいねこの子。私が何も言わなくてもやってくれるよ」

 

「その子やアリサのフレイムハートもインテリジェント型だから持ち主。使用者と一緒に成長していくんだよ」

 

「へぇ。まるでAIみたいだね」

 

「まあ、インテリジェントにはAIが組み込まれてるから」

 

「そうなんだ~。これからもよろしくねスノーフェアリー」

 

《Yes.master》

 

「(う~ん。どうせなら英語じゃなくて日本語にしようかな)」

 

すずかとスノーフェアリーを見ながら僕はそう考えた。

 

「ところで零夜はやらないの?」

 

「僕?」

 

「あ!私、零夜の戦闘見てみたいんだけど!」

 

「私もいいかな?」

 

「まあ、いいけど・・・・・・」

 

アリサとすずか、アリシアを下がらせてからシステムウインドウを開き的を消去してゴーレムを8体用意する。

 

「それじゃあやりますか」

 

そう言って僕は凛華たちに視線を向ける。

 

「いくよ凛華、澪奈、星夜!」

 

「はい!」

 

「うん零夜くん!」

 

「わかりましたわ!」

 

「セット、アップ!」

 

凛華たちを一度デバイスの待機形態にし、そこから基本形態へと変えバリアジャケットを羽織る。

 

「う~ん、一撃で終わらせような~」

 

僕がそう呟くと。

 

「一撃で終わらせないでよ零夜~!」

 

アリサがそう言ってきた。

え、なんで聞こえてるの!?

 

「顔に出てるよ~」

 

何て考えてたらアリシアに言われた。

え!?なに!?エスパー!?

 

「う~ん、零夜くんが分かりすぎるんじゃないかな?」

 

「ちょいまち!何さらっと人の心読んじゃってくれてますのすずかさん!?」

 

「いや、今のは声に出してたわよ」

 

「マジですか」

 

驚きながら凛華と澪奈を片手剣形態に、星夜を双翼形態にする。

 

「始めるよ」

 

小さく言うと。

 

「―――絶対切断(ワールド・エンド)発動」

 

凛華と澪菜は同時に剣の長さが伸び、それぞれには蒼と朱色のライトエフェクトが煌めく。

 

「はあああっ!」

 

まずは一番近くにいるゴーレムを上から真っ二つに切り裂く。

もちろん、ゴーレムたちは人形のように止まったままではなく普通に動いたり攻撃してきたりしてくる。

 

「次!」

 

横から迫り来る拳を多重障壁で防ぎ。

 

「ぜりゃああ!」

 

そのゴーレムをソードスキルを使用して破壊する。これで残り6体。

 

「―――雷氷の戦鎚!」

 

ほぼ無詠唱の略式詠唱を発動して魔法を後衛のゴーレムに落とす。

ちなみに雷氷の戦鎚の大半は質量攻撃。つまり物理攻撃です。

雷氷の戦鎚をゴーレムたちは防ぐがさすがに上空からの落下と重力によってか少しずつ押されていた。まあ、僕自身にリミッターを掛けてるのもあるんだけど。

 

「―――連槍・炎氷の74槍!」

 

立て続けに炎と氷の複合魔法を放つ。

さらに。

 

「―――魔法の射手・拡散・雷光の140矢!」

 

これまた雷と光の複合魔法を放つ。

拡散によって広範囲に渡って雷光の矢がゴーレムを貫く。

ちなみにこれだけの魔法で後衛のゴーレムは全滅。残り2体となりました。

 

「んじゃあ、これで終わりっと!」

 

ゴーレム2体をバインドで動きを止め、凛華を肩の高さまで上げ引き絞る。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」

 

凛華にクリムゾンレッドのライトエフェクトが煌めき重低音の轟音が鳴り響く。

 

「うあああああっ!!!」

 

絶叫を迸らせながら引き絞った腕を思いっきり前に突き出す。

凛華から放たれた一条のクリムゾンレッドの槍は僕の位置から5メートル強伸び、ゴーレム2体の腹部分を貫いた。

クリムゾンレッドの槍はしばらくして虚空へと消えていき、2体のゴーレムは他のゴーレム同様システムへと消えた。

 

「ふぅ」

 

息を吐き出し凛華と澪奈を軽く振ってデバイスを解除する。

掛かった時間は5分も立ってなかった。

 

「まあ、このくらいかな?」

 

アリサたちの方に視線を向けると。

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

アリサたちは目が点になっていた。

 

「あんたねぇ・・・・・・」

 

「うっそ~・・・・・・」

 

「す、すごい・・・・・・」

 

「???」

 

「あのね、確かにあんたの戦闘見せてっていったけどここまでって・・・・・・・」

 

「私夢見てるのかな~」

 

「うん。私もアリシアちゃんと同じ」

 

そのあと僕はアリサに呆れた眼差しで見られ、今の戦闘について説明することになった。まあ、その際リミッターのことも説明すると、え~、と言う声が上がったのは予想通りだったが。

そんなこんなで今日も僕の日常は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 



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新魔法

 

~零夜side~

 

「い、今何て言った・・・・・・?」

 

久しぶりに男3人、僕、クロノ、ユーノは特務0課でお茶をしていた。お茶をしている理由は、用件が終わったからである。ちなみに今日は休日に加え出勤日ではないのだが、アリサたちの手続き関係で僕はこっちに来ていた。凛華たちは今日は女の子だけでのショッピングだそうでなのはたちとお出掛け中だ。

そんな中、僕の言った言葉でクロノとユーノの動きが止まった。

 

「ん?そろそろ新しい魔法作ろうかな~って思うんだけど」

 

「ぐ、具体的にはなにを作るんだい?」

 

恐る恐るとクロノが訪ねてきた。

 

「質量消滅魔法の他に質量分解魔法や、重力魔法とか色んな魔法かな?」

 

一応、重力魔法は使えるがそれは広範囲のではないため現在開発中。そして質量分解魔法は質量消滅魔法の真反対の対となる魔法だ。分解魔法は消滅魔法とは根本的に違うため現在かなり困難してる。

 

「おいおい、すでに戦星級魔法(ロストステラ)をいくつも持っていて、管理局唯一つの戦星級魔導士の称号を持っているのにさらに戦星級作るつもりか?」

 

呆れたようにクロノが言う。

ちなみに戦星級魔導士というのは僕に付けられた称号の一つでもある。ちなみにこれを付けた本人は目の前にいるクロノやミゼットさんだったりする。

 

「零夜の戦星級魔法って確か、質量消滅魔法【ディメンション・イクリプス・ゼロエミッション】と【千の雷(キーリプル・アストラペー)】、【千年氷華(アントス・バゲトゥ・キリオン・エトーン)】、【燃える天空(ウーラニア・フロゴーシス)】、【引き裂く大地(テッラ・フィンデーンス)】・・・・・・だっけ?」

 

「ああ。一人で星すら滅ぼせる魔法なんてロストロギアものだぞ。闇の書ですからそうだったんだからな」

 

「さすがに戦星級魔法は作らないと・・・・・・・思うよ」

 

この世界での戦略級魔法・・・・・・いや、戦星級魔法はひとりで。単独で広範囲や一国、それどころか星すらも制圧、また破壊できる魔法のことを言う。そして戦星級魔法はあの闇の書の自動防衛システム、ナハトヴァールと同等だ。

さすがにこれ以上は作らないと思うがと思いながら答えると。

 

「今の間はなんだい!?」

 

すばやくクロノがツッコんできた。

 

「いや、だって戦星級魔法なんてかなり魔力食うんだよ?」

 

「そりゃそうだよ。あんな、なのはのスターライトブレイカーやクロノのデュランダルより強力な魔法なんだから」

 

なのはのスターライトブレイカーは集束魔法としては極めて強力であり、クロノのデュランダルの魔法、エターナルコフィンも戦星級魔法に匹敵するほどの魔法だ。

 

「それをポンポン出せる君は相変わらずチートなんだが、と、あの人から話を聞くまでは思っていたんだけど」

 

「あの話を聞いちゃうとね」

 

「まあ、僕も驚いてるんだけどね」

 

明莉お姉ちゃんの話のことを言っているのだとわかり、苦笑いで答える。

 

「やれやれ。それで僕とフェレット擬きを呼び出したってことは大体は出来てるのか?」

 

「だれがフェレット擬きだ!だれが!」

 

「まぁまぁ。うん、大体は出来てるよ」

 

「それで、なにを作ったんだい?」

 

質量(ディメンション・)消滅(イクリプス・)魔法(ゼロエミッション)の簡易版の魔法だよ」

 

「ということはあれのグレードダウンした魔法ってことか?」

 

「うん。他には闇属性の最上位魔法と同じく光属性の最上位魔法。それと複合魔法かな。あ、あと、ニブルヘイムの対、ムスペルスヘイムも出来てたっけ?他には・・・・・・・・」

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

「ん?」

 

「零夜、君は一体幾つ魔法を作ったんだい!?」

 

「う~ん、今回は約10個かな?すずかとアリサのデバイスを作るときに同時に」

 

クロノの言葉に思い返しながら言う。

 

「じゅっ・・・・・・・!」

 

「君は一体どんだけ強くなるつもりなんだ・・・・・・管理局で君に勝てるものなどいないんじゃないかい?」

 

ユーノとクロノはため息をついて言うが。

 

「どうだろ。少なくとも、天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)のやつら。熾天使(セラフィム)クラスのやつらと相対するならまだ足りないと思う」

 

僕は真剣な眼差しをして答える。

 

「天翼の終焉研究会か」

 

「管理局でも特急の事案だよね」

 

さすがに天翼の終焉研究会、長いから研究会と略す。研究会のことは執務官であるクロノと無限書庫司書のユーノも知ってるようだ。

 

「ああ。あいつらのせいで次元世界が崩壊した事すらもある。それに局の魔導士もたくさん殺されてるからな」

 

「ミゼットさんから研究会の情報は最新情報で来るんだけど未だに構成員がどのくらいいるのかわからないんだよね」

 

「僕の方にはあまり来ないが・・・・・・ああ、そう言えば零夜は以前ロストロギア回収任務の際研究会の熾天使クラスと戦ったんだな」

 

「逃げられたけどね。・・・・・・それに手加減されてた」

 

「零夜に手加減!?」

 

闇の魔法(マギア・エレベア)は使わなかったのか?」

 

「うん。あれは今見せるべきじゃないと思ってね。それに闇の魔法は僕の切り札の一つだから・・・・・・」

 

「闇の魔法・・・・・・一応、零夜のレアスキルとして最重要機密情報として保管されてるが。まあ、そもそも零夜たち全体が最重要機密扱いなんだけどな」

 

「はやてたちよりも重要なのかい?」

 

「ああ。はやてやヴォルケンリッターらは重要機密だが、零夜ほとじゃない。それに閲覧権限も僕ら以外は3提督ら一部だけだ」

 

「そこまでされてたのね僕らの」

 

「まあ、当然と言えば当然かな?」

 

「ユーノの言うとおりだな。それと、すまんが零夜頼みがある」

 

「なに?クロノが頼みなんて珍しいね。まさか厄介事じゃないよね?」

 

クロノの頼みに疑問符を浮かばせて聞いた。

 

「さすがにそれはないが・・・・・・。頼みというのはフェイトやアリシアたちに教えてる君の魔法。【ムンドゥス・マギクス】式を教えてほしい」

 

「いいけど?」

 

「は?」

 

「いいよって言ったけど」

 

「あ、いや、いいのか?」

 

「クロノから言ったんじゃん」

 

「それはそうなんだが」

 

「それにしても以外だね。クロノがまさか頼んでくるなんて」

 

「まあ、君やフェイトたちの強さを見ていると僕もまだまだだなと思うんだ」

 

「そう。いいよ。あ、ユーノも使ってみる?」

 

「僕も?」

 

「うん。僕の魔法は汎用性がかなり高いからね。それにミッド式やベルカ式とは別系統だから、魔法が使えないような場所でもたぶん僕の魔法は使えると思うよ」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「あー、僕の魔法は自身の魔力と周囲のエレメントを構築して発動するものなんだよ。つまり、自身の魔力と周囲にエレメントさえあればどこでも使えるってこと。まあ、魔力結合がうまく出来ないと無理だけど」

 

「なるほどな。つまりAMF(アンチマギリックフィールド)でも大丈夫ということか」

 

「理論上はね。だけど、純度の高い魔法無効化空間では恐らくそんなに使えないと思う」

 

理論では出きるはずのことを伝える。実際、ミッド式とベルカ式にたいして、ムンドゥス・マギクス式は別次元に該当するといっても他ない。なにせ、ムンドゥス・マギクス式は僕がこの世界に持ち込んだ魔法だから。そして、この魔法を使えるのは僕やなのはたちだけ。つまるところ、対抗策がないのだ。

 

「二人ともこの後ってなにかある?」

 

「いや、僕の方はもうないな」

 

「僕も今日のところはなにもないよ」

 

「じゃあ早速僕の家のトレーニングルームでやってみる?」

 

「いいのか?」

 

「僕は大丈夫だよ」

 

「なら、言葉に甘えさせてもらおう」

 

「そうだね」

 

「決まりだね」

 

手早く片付け、特務0課の室内で行われた男子だけのお茶会は終わり、僕の家に転移して帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はい、やって来ました地下のトレーニングルーム!」

 

「君は誰に言ってるんだそれは?」

 

「さあ?」

 

ここ最近情緒不安定な僕。そんなことは置いといて。クロノとユーノとともに自宅地下のトレーニングルームに来ていた。

 

「そんじゃ最初っからいってみよ~!」

 

口調がかなり変になりながら言うと。

 

「おい零夜、頭大丈夫か?」

 

「もしかしてどこか打った?」

 

クロノとユーノが本気で心配した眼差しで見てきた。

というか二人ともかなり失礼な気がする。

 

「頭を打ってないし大丈夫、僕は平常だよ」

 

「あれのどこが平常なんだ・・・・・・」

 

「いや~、なんかよくわからないんだけどたまにああなるんだよね」

 

「もしかして前に身体が女の子になったから?」

 

「ああ、そういえばそんなのがあったな・・・・・・って、お、おい零夜、大丈夫か?」

 

ユーノの言葉に僕は身体が硬直した。

 

「え、うん、大丈夫。でも、なんだろうね、その事を思い出すと震えが止まらないんだよ」

 

「一体なにをされたんだ・・・・・・!?」

 

僕の動作に尋常じゃないのを感じたのかクロノが引きながら聞いた。

 

「着せ替え人形だけは勘弁してほしいよ・・・・・・」

 

「着せ替え人形・・・・・・ああ」

 

どうやら着せ替え人形と言う言葉でクロノにはわかったらしい。

 

「クロノ、わかったの?」

 

「あ、ああ。僕も昔零夜と似たようなことをアリアとロッテにされたんだ。しかもエイミィまで悪乗りしてきてさ」

 

どうやらクロノは経験者だったらしい。

 

「それ以来なにかとアリアとロッテは僕を弄ってくるし、エイミィもその場にいたら止めないで一緒にやって来る始末」

 

「苦労したんだねクロノ」

 

「ああ」

 

「なんかクロノと零夜が意気投合しているように見えるよ」

 

クロノと珍しく意気投合した僕は、同士の握手をした。

だって僕とクロノの共通点はあの悪戯猫・・・・・・・ではなくアリアさんとロッテさんだからだ。ちなみにアリアさんとロッテさんの影響をはやては少なからず受けていたりする。それが聖良や澪奈たちに向かないことを願うしかない。

 

「よし、零夜!早速やってしまおうではないか!」

 

「そうだなクロノくん!」

 

「二人ともキャラ変わってない!!?」

 

ユーノのツッコみを聞き流しながらシステムウインドウを開いて準備をする。

 

「そう言えば零夜の新魔法ってどういうのなんだい?」

 

「ん~、じゃあ少しだけ見せようか?」

 

「出来れば」

 

「りょ~かい」

 

軽く返し前に出てターゲットを用意する。

一応この部屋はなのはのスターライトブレイカー程なら余裕・・・・・・で耐えると思う。

 

「んじゃやろっか」

 

ストレッチして視線をターゲットに向ける。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。集え、星の輝き!」

 

「あれは・・・・・・なのはのスターライトブレイカー?」

 

「いや、違うな・・・・・・」

 

ユーノとクロノが驚くなか意識を集中しイメージし、魔法を構築する。

 

「―――光ありて降り注げ光舞(こうま)閃叢(せんそう)(そら)の輝きに、照らめく御霊(みたま)煌燗(こうらん)!すべくは蒼天(そうてん)(つるぎ)!」

 

座標を固定して威力を調整する。

 

「―――輝煌天槍(グロリアスレイ)!」

 

上空から放たれた高密度の熱光線が幾重にもなり床を穿つ。

最後に集まった熱光のエネルギーの塊を一直線に振り下ろした。真下に向かって放たれた高密度のエネルギーは直撃すると爆発し広範囲に広がった。それはさながら核弾頭ミサイルが着弾したような感じだった。

 

「よし」

 

輝煌天槍(グロリアスレイ)の結果を見て僕は軽く、小さく言った。

後ろのクロノとユーノを見ると二人とも唖然としていた。

 

「ま、またやってくれたな君は・・・・・・」

 

「こ、これも戦星級魔法じゃないかい・・・・・・」

 

「クロノ?ユーノ?」

 

首をかしげながら二人に視線を向けると。

 

「戦星級魔法は作らないんじゃなかったのかい!?」

 

「あー、うん。そうなんだけどね」

 

クロノの言葉に口を濁らせる。

 

「ナハトヴァールの多重防壁や再生能力に対応したのを考えてね。それにいつまた闇の書みたいなのが現れるとはわからないから」

 

「それを言われるとそうだが・・・・・・」

 

「それに言っておくよクロノ、ユーノ。あの外道研究会どもは自分の目的のためならその世界に住む人なんてどうでもいいって思ってる。僕はそれを絶対に許さない。決してね」

 

真剣な声と眼差しで二人を見て告げる。

 

「この世界には僕のムンドゥス・マギクス式を除けば、存在する魔法は現時点で二つ。ミッド式とベルカ式。研究会のやつらのほとんどはミッド式か近代ベルカ式だ。シグナムたちが使う正真正銘のベルカ式はないはずだ。けど、もし人外の・・・・・・この二つ以外を魔法を使っていたらどうする。たぶんそれに対抗できるのはムンドゥス・マギクス式だけだ」

 

「確かに、零夜の使うムンドゥス・マギクス式は使えるものが今のところ零夜やなのはたちだけだ。しかし満足に震えるのは君だけだからな」

 

「それに零夜はミッド式とベルカ式も使えるみたいだからね」

 

「まあね」

 

僕の魔法のメインはムンドゥス・マギクスだが、サブとしてミッド式とベルカ式を使ってる。主に、近接戦闘はベルカ式を。ベルカ式にソードスキルを組み合わせて放つ、魔導剣技(マギアソード)を現在開発している。そして遠距離にはミッド式を。ミッド式とムンドゥス・マギクス式を合わせて使用する魔法複合魔導(コネクティブマギア)も開発している最中だ。

 

「さてと、クロノとユーノの適正は・・・・・・・・」

 

軽く二人のムンドゥス・マギクス式の適正を調べると。

 

「え~と、クロノは氷。ユーノは風だね」

 

一応全属性なのはたちにも教えてるが、そのなかでも得意の属性を言う。

 

「はい、これが教本ね。一応なのはたちのと同じで中位クラスまで書かれてるから。それと、今言ったのは二人の得意な属性だから、他の属性が使えないなんてことはないから」

 

僕はそう二人に言い、さっそく二人のトレーニングを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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設定レポート (前回までの時点)

 

名前 天ノ宮零夜 

 

年齢 9歳

 

性別 男 

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

魔導士ランク SSS (測定不能 事実上のEXランク)

 

魔力ランク SSS (測定不能 事実上のEXランク)

 

陸戦ランク SSS

 

空戦ランク SSS

 

 

希少技能(レアスキル) 

 

闇の魔法(マギア・エレベア) 特殊固有武装(アーティファクト) 剣技(ソードスキル) 全属性変換資質 絶対切断(ワールド・エンド) 魔力収束 質量消滅 分解 

 

 

使用魔法 

 

ムンドゥス・マギクス式 ミッドチルダ式 ベルカ式

 

 

デバイス 

 

リンカーネイト(凛華) レイオブホープ(澪奈) ステラメモリー(星夜) オートクレール(紅葉) 融合機(聖良)

 

 

備考 

 

時空管理局本局所属特殊執務管理室第0課(通称、特務0課)室長兼部隊長 無限書庫司書 デバイスマイスター資格所持 戦星級魔導士 

 

 

詳細 

 

アマテラス(明莉お姉ちゃん)によって転生した主人公。黒く、艶のある長い髪に女顔と、初対面の人に度々性別を聞かれるがれっきとした男の子。一部では男の娘だと言われてる。

現在の家族は明莉たち天界の女神4人と、凛華たちデバイスの4人、融合機である聖良、そして零夜と一男九女と10人家族。さらに、零夜の霊魂には前世の姉と幼馴染みの二人の霊魂が癒着している。

公にはされてないが、闇の書事件の際の首謀者としてその罪を償うため3提督(実質、ミゼット統幕議長)直属の部隊。特殊執務管理室第0課、通称特務0課の室長兼部隊長として時空管理局本局に所属。主な役割は管理局の内情調査。さらにロストロギア回収任務や次元犯罪者捕縛任務などがある。表での上司ははやての叔父、グレアム提督となっているが、実際はミゼット統幕議長が上司。管理局唯一の戦星級魔導士となっている。

なのはは一番最初の友達であり、はやては二番目の友達と幼馴染みである。アリサとすずかとは小学生一年生の時のある出来事で友達になった。フェイトらとはジュエルシード事件の際に、守護騎士たちとは闇の書の際に知り合う。

命を大事にし、友達など自分の大切なものは絶対に守ると心に誓ってる。人命など大切にしない人間には嫌悪をだし、嫌う。なのはたちに好意を持たれてるが全く気づかない朴念仁。さらに重度・・・・・・を通り越して極度のシスコンでもある。

 

 

 

名前 天ノ宮凛華

 

性別 女

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

魔導士ランク SS++

 

魔力ランク SS+

 

陸戦ランク S++

 

空戦ランク SS+

 

 

詳細

 

零夜のデバイス、リンカーネイトであるが擬人化システムによって人型へと変わることが可能になり人型へとなってからはデバイス形態になることはあまりなくなった。人型の時の名は天ノ宮凛華と名乗ってる。現五姉妹の長女でありみんなのお姉さんと特務0課では基本は零夜の秘書を勤めてる。デバイスの能力は万能と近接戦闘、遠距離戦闘すべてが可能。自身も戦闘が可能であり、指揮を執ることが多く戦闘の際は遠近両方が可能。

 

 

 

名前 天ノ宮星夜

 

性別 女

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

魔導士ランク SS+

 

魔力ランク S++

 

陸戦ランク S+

 

空戦ランク SS

 

 

詳細

 

零夜のデバイス、ステラメモリーであるが擬人化システムによって人型へと変わることが可能になり人型へとなってからはデバイス形態になることはあまりなくなった。人型の時の名は天ノ宮星夜と名乗ってる。五姉妹の次女。おっとりとした感じでお嬢様のような口調を使う。後方支援を得意とし、戦闘でも遠距離からのサポートが多い。

 

 

 

名前 天ノ宮澪奈

 

性別 女

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

魔導士ランク SS++

 

魔力ランク SS+

 

陸戦ランク SS+

 

空戦ランク SS

 

 

詳細

 

零夜のデバイス、レイオブホープであるが擬人化システムによって人型へと変わることが可能になり人型へとなってからはデバイス形態になることはあまりなくなった。人型の時の名は天ノ宮澪奈と名乗ってる。五姉妹の四女であり活発的な零夜のことが大好きな娘。近接戦闘を得意とし、零夜に造ってもらった武装で敵を圧倒する。

最近は聖良のお姉さんとして聖良とともに頑張ってるらしい。

 

 

 

名前 天ノ宮紅葉

 

性別 女

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

魔導士ランク SS+

 

魔力ランク SS++

 

陸戦ランク SS+

 

空戦ランク SS+

 

 

詳細

 

零夜のデバイス、オートクレールであるが擬人化システムによって人型へと変わることが可能になり人型へとなってからはデバイス形態になることはあまりなくなった。人型の時の名は天ノ宮紅葉と名乗ってる。五姉妹の三女。零夜のことをマスターと呼び凛華の補佐として零夜を支えている。中距離戦闘が得意で、主に魔法。氷と炎を使う。

 

 

名前 天ノ宮聖良

 

性別 女

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

魔導士ランク SS+

 

魔力ランク SSS (測定不能 EXランク)

 

陸戦ランク SS

 

空戦ランク SS

 

 

詳細

 

零夜の融合機であり元闇の書の防衛プログラム、ナハトヴァールの意識体。破壊と殺戮のプログラムだが、本質はとっても優しい女の子。無理矢理プログラムによってやらされ見ているだけしか出来ず意識が破壊されそうになっていたところに零夜と遭遇。自身の死を頼んだが零夜は拒否し、逆に聖良と新しい名前を与えられ天ノ宮聖良として後に零夜によって自由になる。五姉妹の五女であり、兄である零夜のことが大好きで少しだけシスコンを拗らせてる。天ノ宮家随一の天然であり、たまに唖然とすることもしばしば。現在は零夜やなのはたちと同じ、私立聖祥大附属小学校に通う。戦闘では主に魔法戦闘が得意だが、基本は零夜とユニゾンして戦う。なお、聖良とユニゾン出来るのは零夜のみである。

 

 

 

名前 天ノ宮明莉

 

性別 女

 

 

詳細

 

零夜を≪リリカルなのは≫の世界に転生させた神物であり前世で間違えて死なせてしまった張本人。日本神話の天照大御神(アマテラス)その人であり、零夜の姉兼保護者でもある。零夜のことを人一倍気にかけており親バカならぬ神バカではないかと同神であり女神でもある知智たちに言われてる。基本、この世界に干渉することなく、零夜たちを見守り続けてる。零夜を転生させる際、自身の神霊力(デウニウム)を零夜に混じれさせてしまい零夜を自身の眷族としてしまったと、少しばかり抜けてる部分がわずかにある。

 

 

 

名前 天ノ宮知智

 

性別 女

 

 

詳細

 

明莉と同じく天界の女神の一人。ギリシャ神話のアテナ本人であり明莉の神友。零夜の戦闘の師でもあり知識や武に関しても一級である。零夜たちの姉として明莉どうよう零夜たちを気にかけてる。性格は姉4人の中で一番落ち着いておりクールビューティーであるが、てんぱるとアホっぽい子になってしまう。

 

 

 

名前 天ノ宮美咲

 

性別 女

 

 

詳細

 

明莉と同じく天界の女神の一人。ギリシャ神話のアフロディーテ本人であり明莉の神友。自身が美の女神であるからなのかファッションセンスが人一倍高く、凛華やなのはたちによく服のアドバイスをしていたりする。お姫様といった感じで、ほんわりと優しい性格の持ち主。明莉同様、零夜たちの姉として零夜たちを気にかけてる。

 

 

 

名前 天ノ宮翼

 

性格 女

 

 

詳細

 

明莉と同じく天界の女神ではなく天使の一人。上位天使のガブリエル本人である。ほんわかとした性格でおっとりとした神物。零夜の技術面での師でもある。家庭的でよく凛華と天ノ宮家の台所にいたりと一家の大黒柱のような立ち位置にいる。通称みんなのお母さんでもあり、明莉たちも頭が上がらないとか。明莉同様、零夜たちの姉として零夜たちを気にかけてる。

 

 

 

 

名前 高町なのは

 

年齢 9歳

 

性格 女

 

所属 時空管理局本局武装隊

 

 

希少技能

 

魔力収束

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 (ムンドゥス・マギクス式は現在特訓中)

 

 

デバイス

 

レイジングハート・エクセリオン

 

 

詳細

 

言わずと知れた≪魔法少女リリカルなのは≫の主人公。またの名を、管理局の白い悪魔(呼ばれる予定)零夜がはじめて出来た友達であり、幼馴染みでもある。小学三年生の春でのジュエルシードを巡った事件で偶然魔法に出会ってしまった、普通の女の子。

希少技能、魔力収束を保持し切り札であり奥の手の集束魔法、スターライトブレイカーは、なのはの代名詞とも呼ばれる。零夜とユーノに魔法と近接戦闘を教わり、メキメキと実力を伸ばしていった高機動砲撃魔導士。家族構成は、父親の士郎と母親の桃子、長男の恭也、長女の美由紀、なのはと五人家族。両親は喫茶・翠屋を経営しており零夜たちのお気に入りの喫茶店でもある。はじめて出来た同世代の友達の零夜のことを意識しているが、零夜が朴念仁なのに加え好敵手が多いのがここ最近の悩みだとかなんとか。

 

 

 

名前 フェイト・テスタロッサ

 

年齢 9歳

 

性別 女

 

所属 時空管理局本局武装隊

 

 

希少技能

 

電気変換資質

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 (ムンドゥス・マギクス式は現在特訓中)

 

 

デバイス

 

バルディシュ・アサルト

 

 

詳細

 

零夜の友達。ジュエルシード事件の際に知り合い、一時は離ればなれになるが、同年の12月に家族全員で帰ってきた。元は、母親のプレシア・テスタロッサがプロジェクト:Fによって生まれたアリシアのコピー。当初はプレシアとは色々複雑な関係だったが、ジュエルシード事件の際に零夜によってプレシアの想いを知り和解同然に改善。家族構成は母親のプレシアと姉のアリシア。使い魔のアルフとプレシアの使い魔、リニスと五人家族。聖良と同じく超の天然でありたまに予想外のことをする。家族を助けてくれた零夜に恩義を感じており、なのは同様零夜のことを意識しているが零夜は気付いてくれないらしい。

 

 

 

名前 八神はやて

 

年齢 9歳

 

性別 女

 

所属 時空管理局本局人事部

 

 

希少技能

 

蒐集行使

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 ベルカ式 (ムンドゥス・マギクス式は現在特訓中)

 

 

デバイス

 

"騎士杖"シュベルトクロイツ 夜天の魔導書 融合機:リインフォース・ツヴァイ 蒼天の書

 

 

詳細

 

なのはに続く、零夜の二人目の友達にして幼馴染みでもある。

図書館での偶然の出会いから友達になり、頻繁に八神家へとお泊まりに行ったりと保護者のような役割も担っているが、事情を知らない人から見たらそのようすは兄妹か恋人のようだとご近所でも噂になっていた模様。はやての叔父であるギル・グレアムとアリア、ロッテとは小学一年の夏ごろに知り合い、アリアやロッテから零夜も弟のように触れられるようになる。なのはと同様、何の因果か、魔法を全く知らないが闇の書の主となってしまいそれが原因で身体の機能不全に陥り病院通いとなる。4人の守護騎士と夜天の魔導書の意思でもあるリインフォースと、管理局で罪の贖罪をしつつ仲良く暮らしている。現在は休学していた私立聖祥大附属小学校に零夜たちと通う。零夜のことをかなり意識しているが当の本人は気付いてくれなく、主治医である海鳴大学病院の石田先生によく相談しているらしい。アリアとロッテに影響されて少しだけ常識がずれてしまっている狸な女の子。最近の零夜の悩みは聖良や澪奈がはやての毒牙に触れないかと言うことらしい。なのはたちによると、好敵手のなかで一番の強敵とのこと。

 

 

 

名前 アリシア・テスタロッサ

 

年齢 9歳

 

性別 女

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

希少技能

 

電気変換資質

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 (ムンドゥス・マギクス式は現在特訓中)

 

 

デバイス

 

ヴォルテックス

 

 

詳細

 

零夜の友達にしてフェイトの姉。一時は死亡していたが、零夜の特殊固有武装の一つ《天生牙》の能力によって生き返る。天真爛漫で、フェイトととは性格が正反対であり母親であるプレシアやリニス、アルフ、妹のフェイトが大好き。死亡当時は、プレシアがアリシアの身体を清潔なまま保全していたため、霊体となって時の庭園内を徘徊しており、零夜以外に認識できるものがいなかった。ジュエルシード事件終結の際に零夜によって生き返った。現在はフェイトと同様プレシアたちと保護観察責任者のリンディたちと海鳴市のマンションで暮らし、私立聖祥大附属小学校に通う。

 

 

 

名前 アリサ・バニングス

 

年齢 9歳

 

性格 女

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

希少技能

 

炎熱変換資質

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 (ムンドゥス・マギクス式は現在特訓中)

 

 

デバイス

 

フレイムハート

 

 

詳細

 

零夜の友達の一人。小学一年の春頃にあったあることからなのはとすずか、零夜と友達になりそれ以来友達の枠を越えた絆が生まれほぼ毎日一緒にいる。なのは同様一般時だったが、闇の書との最終戦の際闇の書の意思が張った結界。絶界にアリシアとすずかと一緒に招かれ零夜たちの秘密を知る。後に、自分にもリンカーコアが有ることを零夜から知らされすずかと一緒に魔導士になることを決意した。家はすずか同様、ちょっとしたお嬢様で家の庭に犬を十数匹飼っている。通称犬天国。性格はハキハキとし、喧嘩っ早くしばしば問題を起こすこともあるが基本は超が付くほどのツンデレお嬢様。なのはたち同様零夜に好意を持ってるが当の本人に気づかれないに加え、自分が正直でないため苦労が耐えないとか。

 

 

 

名前 月村すずか

 

年齢 9歳

 

性別 女

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

希少技能

 

氷結変換資質

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 (ムンドゥス・マギクス式は現在特訓中)

 

 

デバイス

 

スノーフェアリー

 

 

詳細

 

零夜の友達。小学一年の春頃にあったあることからなのはとアリサ、零夜と友達になりそれ以来友達の枠を越えた絆が生まれほぼ毎日一緒にいる。アリサと同じくちょっとしたお嬢様でお金持ち。家はアリサとは逆で猫天国と言われるほど猫に溢れてる。はやてとは零夜と同じ感じで図書館で知り合い友達となった。なのは同様一般時だったが、闇の書との最終戦の際闇の書の意思が張った結界。絶界にアリシアとアリサと一緒に招かれ零夜たちの秘密を知る。後に、自分にもリンカーコアが有ることを零夜から知らされアリサと一緒に魔導士になることを決意。性格はおっとりとしたおしとやかなふんわり系少女で微妙に天然がある。なのはたち同様零夜に好意を持ってるが当の本人に気づかれてない。

 

 

 

名前 ユーノ・スクライア

 

年齢 9歳

 

性別 男

 

所属 時空管理局 無限書庫司書

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 (ムンドゥス・マギクス式は現在特訓中)

 

 

デバイス

 

不明

 

 

詳細

 

なのはの魔法の師。スクライア一族の人間で遺跡調査が得意。闇の書事件の際に無限書庫に行き、それ以降無限書庫司書として活躍している。零夜の数少ない男友達で、クロノからはフェレット擬きと言われてる。

 

 

 

名前 クロノ・ハラオウン

 

年齢 14歳

 

性別 男

 

所属 時空管理局 執務官

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 (ムンドゥス・マギクス式は現在特訓中)

 

 

デバイス

 

S2U デュランダル

 

 

詳細

 

零夜の数少ない男友達の一人で、零夜の友達のなかで唯一の歳上。次元航行船アースラの切り札であり、魔導士としての能力は高い。デバイスを二つ所持し、デュランダルによって氷結変換資質も行使できる。魔法と近接戦闘の師であるアリアとロッテには会うたびに可愛がられ、エイミィとは士官学校からの付き合い。

 

 

 



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新たなる祝福の風(リインフォース)

 

~零夜side~

 

 

「いらっしゃ~い、はやて、リインフォース」

 

ある日の休日。正確には夏休みにすでに入ってるのだが。時間が物凄い速さで過ぎ去っていきます。

 

「お邪魔するな~零夜くん」

 

「お邪魔する零夜」

 

とまあ、それは置いといて。今、我が家にははやてとリインフォースが来ている。シグナムたちは今日は局で仕事だ。

 

「さっそくで悪いんだけど夜天の書持ってきてる?」

 

「もちろんや。ほらここに」

 

地下のメンテナンスルームに移動し、僕の声にはやては夜天の書を収納している剣十字のペンダントを取り出して、そこから夜天の書を取り出した。

 

「ちょっと借りるね」

 

「うん」

 

はやてから借りた夜天の書をコンソールの横にある装置に入れる。

 

「――――――やっぱり、夜天の書のデータの大半は?」

 

「ああ。ナハトヴァールの消滅と共に大半が無くなってしまった」

 

「そう・・・・・・」

 

時間があるとき、はやてやリインフォース、聖良とともに夜天の書を解析してるが、闇の書事件の際に大半のデータは消えてしまった。さすがの聖良もデータを保全することは出来なかったのだ。さらに言うと、時間改変でも失われた物を元に戻すのは困難を極める。しかもそれが大量なデータたとしたら尚更だ。

 

「さて、二人に今日来てもらった理由は、ついに完成したからだよ」

 

「もうできたん!?」

 

「うん。聖良~」

 

『はーい。なぁ~にお兄ちゃん』

 

僕の声にウインドウが表示されて、そこから聖良が出てきた。

 

「あの娘を連れてきてくれる?」

 

『うん。任せて~』

 

聖良との通信を切って1分後。

 

「お兄ちゃん、連れてきたよ~」

 

聖良が小さな50センチほどのカプセル型のポットを持ってやって来た。

 

「ありがとう聖良」

 

「えへへ~」

 

聖良からポットを受け取り、聖良の頭を撫でる。

そんなほのぼのしいところに。

 

「なにシスコン、ブラコンスキル発動させてるんや!?」

 

はやてのツッコミが貫いた。

 

「我が主、そこはツッコミを入れてはダメかと。最早零夜のシスコンは重症なので」

 

「それもそうやな」

 

「ちょい待ちやリインフォース!重症ってなにさ!はやてもそれもそうやな、じゃないわ!」

 

リインフォースとはやてにツッコミを入れながらも聖良を撫でるのを止めない。

 

「というかなんでずっと聖良ちゃんのこと撫でてるんや!?」

 

「え?・・・・・・いや、だって聖良可愛いし、妹だから?」

 

「なんやその、俺ガイルの某主人公の台詞は!?」

 

「我が主、それはメタ発言かと・・・・・・」

 

「リインフォース、その発言は少しおかしい」

 

ちなみにこんなやり取りをしている間も聖良は気持ち良さそうに、頬を少し赤くして照れていた。

 

 

 

とまあそんなこんなで閑話休題。

 

 

 

「はい。この娘が夜天の書の新しい管制融合騎だよ」

 

僕がはやてに見せたポットの中には、サイズが30センチほどの水色の髪の、小さなリインフォースに似た娘がいた。

 

「ちなみに、設計担当は僕で、AI部分はリインフォースと聖良が、基礎構造(メインフレーム)や外装などは僕と星夜がやってくれました。そして外観は幼いリインフォースです」

 

「わぁぁい♪」

 

僕の声に聖良はどこから出したのか、紙吹雪を舞い上がらせて拍手する。というか、その紙吹雪以前澪奈たちが持っていたものと同じような・・・・・・。

 

「ついでに、はやてのデバイスも完成しました」

 

「ついでなんかい!」

 

はやてのツッコミをスルーして、はやてのデバイスを取り出す。

 

「元は闇の書事件の際の最終決戦のときにはやてが使っていた錫杖のデバイスと同じだよ」

 

そう言うと、デバイスを起動してはやてに渡す。

 

「これが私の・・・・・・」

 

「デバイス名はシュベルトクロイツ。ストレージ型の夜天の書と連携デバイスだね。はやては魔力量が多い分、魔力操作が上手くないようだからね」

 

はやての基本魔法はベルカ式のため仕方ないのだが。ベルカ式はミッド式に比べて、広範囲への魔力操作があまり得意でない。まあ、リインフォースはある意味例外だが。はやてはデバイス無しでは広範囲の攻撃はあまり得意でないのだ。

はやてが渡したシュベルトクロイツを持って感覚を確かめている間、僕は夜天の書の背に触れた。

そのとき。

 

「っ!?」

 

何処からかとんでもない魔力反応を感じた。

はやてとリインフォース、聖良を見る限り今の魔力反応を感じたのは僕だけみたいだ。

 

「(今のはいったい・・・・・・。夜天の書とリンクした魔力反応を感じたけど・・・・・・・いや、違うね。リンクしたのは夜天の書本体じゃなくて夜天の書の中身か・・・・・・)」

 

考えながら今感じことを思う。

 

「(なにかある・・・・・・この夜天の書のなか。僕でも見つけられなかったってことは相当奥深くにあるのか・・・・・・もしくは封印されてるのか。どちらにせよ、リインフォースか聖良に聞いてみるか)」

 

そう思いながら夜天の書から手を離した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、海鳴市沖の海底で一つの巨大な赤紫色のクリスタルが不規則に光輝いていた。それは、まるでなにかに反応しているように。

それがなんなのか、そして零夜たちが知り、会合するのはそう遠くない、1年後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、リインフォースははやてに融合騎にリンカーコアを入れることについて説明しといて」

 

「わかった。我が主、まずは自分のリンカーコアをですね――――――」

 

リインフォースがはやてに説明している間、僕は融合騎の最終チェックを行った。

それから約30分後。

 

「―――あ、ところでこの娘の名前どうするの?」

 

僕が思い出しようにはやてとリインフォースに聞くと。

 

「それなんだがな―――」

 

「零夜くんに付けてほしいんよ」

 

「え?僕?」

 

「うん。リインフォースと相談してな、新しいその子の名前は絶対、零夜くんに付けて貰おうと決めてたんよ」

 

「え、でも、僕なんかでいいの?主のはやてかこの娘のお姉さんのリインフォースがつけた方がいいんじゃ」

 

「我の名前は主から頂いたものだけど、それ以前に零夜は我や主、騎士たちのために身を削るようにしているのだろう。あのときも今も・・・・・・」

 

「な、なんのことリインフォース?蒐集のことなら僕がはやてたちを助けたいからやったことだから・・・・・・」

 

リインフォースの言葉に僕はドキッとした。

何故なら、闇の書事件の、真実を知る管理局上層部らにはやてが下げ荒まれたり酷いことを受けているのを知っているからだ。本局でもそうだが、地上本部に出向していたときも何も知らないくせに、はやてのことを悪く言ったり、保身のためにシグナムたちを使ってやらせていたとか、身も蓋もないことばかり聞こえていた。最も、それも一部の人間だけだが、真実を・・・・・・いや、闇の書事件をひきおこした僕としては我慢ならなかった。レジアス中将も最初ははやてのことを余り悪くは言わなかったが、所々批判しているところがあり、僕はレジアス中将に本当の事を話した。レジアス中将も初めは驚いていたが理由を話すと納得してくれた。武闘派と言われてはいるがそれに見合わずレジアス中将は知能的だ。常に先の事を考えており、人々の平和を願ってる。正直、そこまでの信念を抱える人を僕はあったことがない。闇の書事件の本当の事を知っているのは3提督と、レジアス中将、オーリスさん、ゼストさん、そしてあの場にいたアースラ乗務員と僕らだけだ。そして、ミゼットさんにあることをお願いしていた。それは公にされていなかったことを伝えることだ。そうすればはやてたちに非難がいくことは少なくなるはずだ。

ちなみに、はやてのことを悪く言った人間は徹底的に調べて、真っ黒だったらクロノを通じて査察官らに捕縛させたり、僕自身が捕らえにいく。まあ、はやてのことを悪く言った人間の99%が真っ黒なんだけど。はっきり言って、やれることなら僕はあいつらを―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

  跡形もなく消し炭にして殺してやりたかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

ハッと今何を思ったのか分からなかった僕は頭を振った。

 

「(なんで今、あんな黒い感情が出たんだろう・・・・・・)」

 

愛奈美お姉ちゃんや華蓮、家族以外のことであんな風に黒い感情が出たことは昔だったらあり得なかったことだ。

 

「(・・・・・誰かにはやてをあんな風に思われたり・・・取られたく無かったから・・・・・・?)」

 

愛奈美お姉ちゃんや華蓮、家族以外で感じたことない気持ちに僕は少しだけ戸惑っていた。前世の僕は愛奈美お姉ちゃんと華蓮、そして僕の家族と華蓮の家族、叔父さんと叔母さんさえ入れば他のことなんてどうでもよかったのだ。けど、今の僕は凛華たちに明莉お姉ちゃんたち家族。なのはやフェイト、はやて、アリシア、アリサ、すずか、クロノ、ユーノ、そして今まで関わってきたすべての人を思うようになっていた。

そう不思議に思っていると。

 

「大丈夫か零夜くん?」

 

管制融合騎の娘に自身のリンカーコアを入れたはやてが心配そうに見てきた。

 

「あ、うん、大丈夫だよはやて」

 

気を取り直すようにして思考をもとに戻す。

 

「え、え~と、それでこの娘の名前は本当に僕が付けていいの?」

 

「うん!」

 

「ええ」

 

はやてとリインフォースから言われ、僕は名前を考える。

 

「(リインフォースの妹だから・・・・・・・・・・あ!これにしよう)」

 

この娘の名前を決めた僕は、システムウインドウを開く。

 

「よし。それじゃあさっそく起動させるね」

 

ポットの中の女の子を取り出して、システムを起動させる。

あ、ちなみにこの娘はすでに服は着てます。

 

「―――システムの起動を確認しました。名称―――未登録。使用者名(マスター)――――未登録」

 

「え~と、名称は―――リインフォース(ツヴァイ)愛称(マスコットネーム)はリイン。使用者(マスター)は八神はやて」

 

音声で夜天の書の管制融合騎―――リインフォースⅡの設定をし。

 

「はやて、手を」

 

「うん」

 

差し出されたはやての手を取り、リインフォースⅡに触れさせる。

 

「お目覚めの時間だよ。新たなる祝福の風、リインフォースⅡ」

 

そう言うと、リインフォースⅡの体が光、眼を開けた。

リインフォースⅡの眼は綺麗な青い瞳をしていて、瞳の色は違うが聖良に似ている雰囲気を感じた。

 

「マスター認証完了。個体名リインフォースⅡ、起動します」

 

リインフォースⅡが無機質にそう告げ一度目を閉じる。

再び目を開けると。

 

「・・・・・・」

 

眼をパチリとさせて辺りを見渡し。

 

「おはようございますマスターはやて!これからよろしくお願いしますです!」

 

はやてを見てそう言った。

 

「はやて」

 

「うん。おはようなリイン。あとそんなに堅苦しくしなくてええよ」

 

「えっと、じゃあ、はやてちゃん?」

 

「うん。そうやでリイン」

 

「はいです!」

 

うん。はやてとリインはすぐに打ち解けたみたいだ。

 

「あ、リインフォース」

 

「ん?」

 

「はやてたちにも言っておくけど、リインフォースとリインフォースⅡは姉妹だから、Ⅱの方はリインって呼んでリインフォースは(アインス)って呼ぶね」

 

「アインスか・・・・・・。いいぞ」

 

「うん。それと、聞きたいことがあるんだけど」

 

「?」

 

一瞬はやてとリインの方に視線を向ける。聖良もはやてとリインの輪の中の入って楽しそうに話しているを見て僕はアインスに聞いた。

 

「この夜天の書に誰か付き添っていなかった?」

 

「!」

 

小声でアインスに聞くと、アインスは眼を見開いて僕を見た。

 

「ああ。確かに、付き添っていた人物がいた。・・・・・・いや、人物というより、彼女は私と同じ存在か」

 

「彼女ってことは女の子?」

 

僕の問いにアインスはコクりとうなずいた。

 

「名前は?」

 

「彼女の名前は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ユーリ・エーベルヴァイン。心優しい、夜天の書の付添人だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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みんなでバカンス!

 

~零夜side~

 

「ヤッホー!海だ~!」

 

「ね、姉さん、引っ張らないで~!」

 

「あはは・・・・・・。それにしてもいい天気ね~」

 

「そうね~」

 

「ほんとだね~」

 

「はやてちゃん!アインスお姉ちゃん!早く行きましょう!」

 

「待ってなリイン。まずは日焼け止め塗らなあかんよ」

 

「は~い」

 

「あ、アインスも塗らなあかんよ」

 

「私は別に良いのですが・・・・・・」

 

「お姉ちゃんにはリインが塗るのです!」

 

「アインス、さすがに日焼けしたら大変だぞ。リインに塗ってもらえば?」

 

「ヴィータの言う通りだな」

 

「ヴィータちゃん、前に日焼け止め塗り忘れて大変だったもんね」

 

「あのときは零夜がなんとかしてくれたな・・・・・・」

 

「う、うむ・・・・・・。では、リインすまないが頼む」

 

「はいなのです!」

 

みなさんこんにちは!

僕たちは今、アリサの家。バニングス家が所有する別荘に来ています。毎年夏にみんなでバカンスに来るのですが、今回の参加者は以前より多く参加者は、なのはたち高町家のみなさんにユーノ、フェイトとアリシアたちテスタロッサ・ハラオウン家のみなさん、バニングス家に月村家のみなさん、さらにはやてたち八神家御一行。そして僕たち天ノ宮家です。ちなみに今回のバカンスは二泊三日の予定です。

今回のバカンスは凛華たちも初めてでとってもはしゃいでますね。ちなみに、凛華たちはデバイスですが、人型となったことで泳げます。もちろん防水加工もしてあるため海に入っても錆びたりしないので大丈夫なのです。よって、凛華たちも思う存分遊べると言うことです!

青空の広がる空の下。僕たちの目の前には海があり、それぞれ水着に着替えて遊んでいる。

 

「お兄ちゃん、早くいこう♪」

 

「うん。でも、まずは日焼け止め塗らないとね」

 

水着に着替えてきた聖良に僕は日焼け止めを持って言う。お肌の対策は万全なのです!ちなみに何故こうも女子力が高いのかは。

 

「〈私と華蓮ちゃんがそうだったもんね~〉」

 

「〈うわっ!?いきなり話し掛けてこないでよ愛奈美お姉ちゃん〉」

 

「〈え~!いいじゃない零夜くん〉」

 

「〈あはは・・・・・・〉」

 

というわけです。

僕の霊魂に愛奈美お姉ちゃんと華蓮の霊魂が癒着しているためこうして話すことができるのだ。つまり、ひとつの肉体に三つの魂があるということだ。

 

「〈あ~あ、私も泳ぎたいな~〉」

 

「〈最後に泳いだのって、中学三年生の時の夏休みだったけ〉」

 

「〈あー、そういえばそうだったね〉」

 

「〈愛奈美お姉ちゃんがナンパされてていて零夜が殺気出しまくってたよね〉」

 

「〈うっ!〉」

 

「〈え~!そうだったの!?〉」

 

「〈愛奈美お姉ちゃんは天然だからな~〉」

 

「〈ほんとう・・・・・・・華蓮の言う通りだよね〉」

 

聖良に日焼け止めクリームを塗りながら頭のなかで二人と話す。会話は念話に近いからなんとかなる。

 

「はい。終わったよ」

 

「ありがとうお兄ちゃん」

 

「次は澪菜ね」

 

「は~い」

 

それから澪菜、星夜、紅葉、凛華と日焼け止めクリームを塗っていき。

 

「よし。・・・・・・僕は少しここにいるから思いっきり遊んでおいで」

 

凛華たちにそう言って、パラソルの日影部分で日焼け止めの為のパーカーを着たまま横になった。

凛華たちはそれぞれ浮き輪やら水鉄砲やらを持って海に向かっていった。もちろん何かあった際はすぐに分かるようにしている。

 

「ふわぁ~。少し寝ようかな」

 

ここ最近は局や地上本部の方に行ったり来たりと多忙だったためあまり睡眠が取れてないのだ。正直、小学生にこの扱いは酷いと思うが、まあ、あの多忙さも暫くはないため大丈夫だと思う。

軽く休むつもりで、眼を閉じ意識を奥深くにまで潜らせるとあっという間に深い眠りについた。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~はやてside~

 

シグナムたちと少しの間だけ分かれた私は零夜くんのところに向かっていた。

 

「え~と、零夜くんはどこやろ・・・・・・あ、いた」

 

パラソルの下で横になっている零夜くんを見つけた私は小走りで零夜くんに近寄る。

 

「あれ、零夜くん寝てはる」

 

猫のように丸くなって寝ている零夜くんを見た私は何も考えずに零夜くんの横に腰かけた。

 

「疲れてはるんやろな~。私らのときもそうやけど」

 

自然の動作で私は零夜くんの頭を優しく持ち上げて、自分の膝の上にのせた。いわゆる膝枕やな。

余程深く眠っているのかスヤスヤと寝息を立てていた。

 

「(ホンマ、あの話を聞いて驚いたわ。零夜くんが本当はこの世界に居てはらなんて)」

 

赤子をあやすように眠る零夜くんの長い、艶のある黒髪を撫でながら私はそう思った。

 

「(零夜くんが居なかったら私はどうやったんやろ・・・・・・ただひとりで居てはったのかな・・・・・・)」

 

明莉お姉さんから聞いたことを思い出しながら私はそう考える。

 

「(そういや、私っていつから零夜くんのこと好きになってたんやろ)」

 

思い返すようにしてると。

 

「んん・・・・・・」

 

「零夜くん?」

 

軽く身動し、眼をゆっくりと開けた。

 

「あら、ここは・・・・・・」

 

零夜くんの口から零夜くんの声だけど、どこか違う声が聞こえてきた。私は少ししてその人が零夜くんじゃないことに気付き警戒する。

 

「あんた誰?零夜くんやないな?」

 

警戒しながら聞くと。

 

「そうだよ。あなたは八神はやてちゃんであってるよね」

 

「!?何故私の名前を」

 

「あれ、零夜くんから聞いたことないかな」

 

「?」

 

「私の名前は―――――天ノ宮愛奈美」

 

「天ノ宮、愛奈美・・・・・・!?天ノ宮って零夜くんたちと同じ・・・・・・!それに愛奈美って・・・・・・」

 

目の前の人が言ったことが私の頭のなかで反響する。

 

「(天ノ宮愛奈美って、零夜くんの本当のお姉さんやよな!確か、もう亡くなってはるはずや)」

 

私は目の前の人が零夜くんの本当のお姉さんだということが分かり、すぐに姿勢を改めた。どうして零夜くんの中にいるのか疑問が尽きないがまずは。

 

「は、初めまして!八神はやてです!零夜くんにはいつもお世話になって・・・・・・!」

 

お姉さんへの挨拶からだ。

 

「そんなに固くならなくてもいいよ~」

 

「で、ですが、零夜くんのお姉さんですから・・・・・・」

 

「う~ん。そうなんだけど、私ははやてちゃんのことを最初から知ってるから」

 

「へ?」

 

間の抜けた声を出すと。

 

「ふふ。いい反応だよはやてちゃん」

 

「あ、あの、私のこと知ってはるって・・・・・・?」

 

「それはね・・・・・・」

 

愛奈美さんが言おうとしたそのとき。

 

「おい、貴様何者だ?」

 

「!」

 

アインスの声が響いた。

 

「貴様、零夜ではないな。何者だ?主はやてになんのようだ?」

 

「あらら。後ろにいるのはアインスさんだよね」

 

「なっ!?なぜ私の名前を」

 

「ん~。他の人たちは・・・・・・」

 

愛奈美さんが海の方を見てなのはちゃんたちを見る。

 

「まあ、いいか~。取りあえず、その殺気を抑えてくれるかなアインスさん」

 

「アインス、この人は大丈夫や」

 

「しかし・・・・・・」

 

「この人は零夜くんのお姉さんみたいや」

 

「零夜の姉!?」

 

「零夜くんがいつもお世話になってるね~」

 

「・・・・・・・・・・主はやて、一つ言ってもよろしいですか?」

 

「なんや?」

 

「まったく違和感を感じられないのですが・・・・・・」

 

アインスの言葉に私は固まった。何故なら、それは私がさっきから思っていたことだからだ。

正直なところ、目の前の人が零夜くんのお姉さんと言われてもまったく違和感を感じなかった。雰囲気は少し違うけど。

 

「前は零夜くんここまで髪の毛長くないし女顔じゃなかったんだけどね~。これ、たぶん私と零夜くん二人をベースにしてるんじゃないかな~」

 

愛奈美さんの言葉に私は強引だが納得させた。

 

「さて、今私が零夜くんの身体を借りて貴女たちの前に出た理由は単純に、私の大切な弟を守ってほしいからだよ」

 

「「!?」」

 

言葉と同時に薄く張られた遮音結界に驚きながら、私とアインスは愛奈美さんを見る。

 

「アインス、今何をされたかわかった・・・・・・?」

 

「い、いえ、気付きませんでした。魔法の発動予兆すらも感じさせずに高密度の遮音結界を張るとは・・・・・・」

 

「さすが零夜くんのお姉さんと言うべきやのか・・・・・・」

 

もしこれが攻撃魔法だったらと思うとゾッとした。そして、零夜くんのお姉さんが出来るということは零夜くんも出来るということで。

 

「あ、あの、零夜くんを守ってほしいって・・・・・・・」

 

「うん。言葉の意味そのままだよ」

 

「零夜のお姉さん、質問いいだろうか」

 

「うん、いいよアインスさん」

 

「我らに零夜を守ってほしいと言うことだったが、何故私と主はやてにその事を言うのだ?高町やテスタロッサにも言った方が良いと思うが」

 

「あはは。うん、確かになのはちゃんやフェイトちゃんたちにも言った方が良いと思うんだけどね」

 

「な、なんでしょう」

 

アインスの言葉にジッと愛奈美さんは私を見てきた。

 

「二人より、零夜くんが一番信用しているはやてちゃん、貴女に頼もうと思ったんだ」

 

「な、なんで私なんです?」

 

「零夜くんが一番信用しているって言ったでしょ?なのはちゃんやはやてちゃんたちと関わって零夜くんはかなり変わった。昔のこの子だったら誰かのために動いたりしないもん。・・・・・・・・・・私や華蓮ちゃん、私たちの両親のこと以外はね」

 

愛奈美さんはどこか懐かしむように、零夜くんの顔で言った。

 

「それにこの子、はやてちゃんのこと誰よりも気にかけてるの」

 

「私のことを?」

 

「ええ。この子の中でもう一人、華蓮ちゃんと一緒に見てたけど、異性の、しかも同年代の女の子の家に泊まりにいくなんて前のこの子だったら考えられないわ。まあ、華蓮ちゃんは除くけどね」

 

「どういうことだ?」

 

「この子とはやてちゃんは色々共通しているのよ。両親が居なくてひとり暮らしってね。二人はそれぞれ、二人目の零夜くんでもあり、はやてちゃんでもある。・・・・・・この子は無意識にはやてちゃんに寄り添っていたんだと思うわ。この子は意外に寂しがり屋だから」

 

寂しがり屋という言葉に、私は胸にズキッと痛みが走った。

私自身が寂しがり屋だからというのもあるが、零夜くんがそうだったのを知らなかったからだ。

 

「私、なにも知らなかったんやな・・・・・・。いつも、自分のことばかり・・・・・・零夜くんのこと、何も知らへんかった・・・・・・」

 

「はやてちゃんが分からなくても仕方ないわよ。この子、溜めておく傾向があるから。それもはやてちゃんと同じかな」

 

「うっ・・・・・・」

 

「それに、いずれこの子はやり過ぎて大変なことが起こるはずなの。だから、はやてちゃんにはこの子の心の拠り所になってほしいな」

 

「私が零夜くんの・・・・・・」

 

「いいかな?」

 

「・・・・・・・・・・はい!」

 

「うん。アインスさんもお願いね」

 

「ああ」

 

「それじゃあお願いね」

 

愛奈美さんはそう言うと眼を瞑り。

 

「次に目が覚めたときは零夜くんだから、二人ともこの話は内緒ね♪」

 

そう言った。

それと同時に遮音結界が解除され元の空間に戻った。

そして、愛奈美さんはまた眠りに入った。

 

「主・・・・・・」

 

「わかってるよアインス。あのときは私らが助けてもろうたんや、なら、今度は私らが零夜くんを助けないとな」

 

「はい」

 

私とアインスがそう話していると。

 

「ふわぁ~あ・・・・・・・あれ、はやてとアインス?」

 

「おはような零夜くん」

 

「目が覚めたか零夜」

 

今度こそちゃんと零夜くんが目を覚ました。

 

~はやてside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

「ふわぁ~あ・・・・・・・あれ、はやてとアインス?」

 

眠りについていた意識が浮かび上がり、頭上から声が聞こえたのを不思議に思いながら目を開けると、そこにははやてとアインスの姿があった。

 

「おはような零夜くん」

 

「目が覚めたか零夜」

 

「うん。ところでなんで二人はここに?遊ばなかったの?」

 

「いや~零夜くんと一緒に遊ぼうと思ってな。零夜くんを探してたんよ」

 

「私は主はやての付き添いだ」

 

「そうなんだ~」

 

軽く延びをして上体を起こす。

そこに。

 

「零夜~!はやて~!」

 

「二人とも一緒にビーチバレーしない?」

 

アリサとすずかの声が聞こえてきた。

声のした方を向くと、そこにはビーチボールを持ったアリサとすずかたちの姿があった。

ちなみに、今更だけどこのビーチには僕たちしかいない。何故なら、このビーチはアリサの実家のバニンクズ家の所有する、いわゆるプライベートビーチというやつだからだ。

二人の他にも水着姿のなのはやフェイト、アリシア、聖良たちがいた。まあ、海だから水着なのは当然だけど。

 

「さてと・・・・・・。行こうか、はやて、アインス」

 

「せやな」

 

「はい」

 

はやてとアインスとともに日焼け防止のため薄いカーディガンを羽織ってアリサたちの方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

「ふふ。みんなよく寝てるね~」

 

「ですね」

 

あのあとみんなでビーチバレーやビーチフラッグなどなどして思いっきり遊んだ。特にビーチバレーではすずかがヤバかった。何がヤバかったのかと言うと、身体能力が抜きん出ているのだ。で、どんどん白熱していき、ついには身体強化(フィジカルエンチャント)込みのビーチバレー(魔法有り)となってしまったのだ。ちなみに、恭也さんや美由紀さん、士郎さんたち高町家の方たちは身体強化ありの僕たちと対等にやりあっていた。ほんと、高町家の遺伝子ってどうなってるの!?と、改めて思い知らされたのであった。クロノやリンディさんは目が飛び出るほどの驚きをして士郎さんたちを見ていたが、僕たちとしてはもう慣れた。慣れたんだけど、言わせてほしい、ほんと高町家の遺伝子っておかしすぎませんかね!?あ、ちなみにシグナムやヴィータも参加しました。シャマルは運動が苦手なので見学、ザフィーラも一応参加したはしたけど。最近ザフィーラの影が薄くなっているのは気のせいではないだろうかと思っている。そんなこんなでとても楽しいバカンスを過ごせました。まあ、明日もあるんだけどね。

そんなことを思い返して、僕は僕たちの部屋で寝ている聖良たちを観て、僕は凛華と一緒に静かに扉を閉めた。そのまま別荘の1階にあるリビングに行くと。

 

「聖良ちゃんたちはもう?」

 

「ええ。聖良と紅葉はとってもはしゃいでましたから」

 

桃子さんたち大人組がいた。

 

「娘たちもはしゃいでいたわ。フェイトもだけど、アリシアも私の仕事のせいで海や旅行に連れていけなかったから」

 

リニスさんにお茶のお代わりを淹れてもらったプレシアさんが言った。そこに。

 

「凛華さんは寝なくてもいいの?」

 

リンディさんが聞いてきた。

 

「はい。私は大丈夫です。それに零夜くんを一人には出来ませんから」

 

「ちょっと~それどういう意味さ凛華」

 

「そのままの意味ですよ零夜くん。一昨日まであまり寝てませんよね」

 

「仕方無いでしょ~。終わらせないといけない案件があったんだから~」

 

「また無理して倒れられたら大変です。聖良ちゃんや澪奈ちゃんが泣きますよ」

 

「うっ・・・・・・そ、それは・・・・・・」

 

凛華の言葉に反論できなかった僕は口を濁した。

そこに。

 

「あらあら」

 

「うふふ」

 

「ははは」

 

士郎さんたちの笑いが響き渡った。

 

「わ、笑わないでください~」

 

「いやいや、すまないな。零夜くんのそれが少し面白くてな」

 

士郎さんの言葉に僕は複雑な心境に陥った。

 

「ところでプレシアさんは今何をされてるんですか?」

 

そこにすずかの母親の春菜さんがプレシアさんに聞いた。

 

「今はいままで与えることができなかった時間をあの子達にあげてるわ」

 

「そうなんですね~。私も最近娘たちと会ってませんでしたから羨ましいです」

 

「子っていうのは親と一緒にいたいものですからね」

 

「ええ」

 

プレシアさんたちは親らしい顔をしていた。

 

「プレシアさん」

 

「?なにかしら?」

 

「プレシアさん、僕のところで働きませんか?」

 

『『『え?』』』

 

僕の言葉にプレシアさんだけではなく、リンディさんも含めた全員が、え?と驚いた顔をした。

 

「貴方のところって確か、アリシアが配属された場所よね?」

 

「はい。時空管理局特別執務管理室第0課、通称特務0課です」

 

「何故か・・・・・・聞いてもいいかしら?」

 

「えっとですね、実はうちの課技術者がいないので・・・・・・」

 

僕がそう言うと。

 

「確かに・・・・・・特務0課は現在公には知られてない部署ですからね。本局技術者を所属させるのは無理ですね」

 

「ええ。今のところは僕が何とかしてますけどね」

 

「それで、私にかしら?」

 

「ええ。プレシアさんの技術力や知識があれば助かると、私と零夜くんは思ってるんです」

 

「あ、もちろん、入るか否かはプレシアさん自身が決めてください!プレシアさんが決めたことなら僕は何も言いませんし・・・・・・アリシアとフェイトのために使ってください」

 

「・・・・・・・・・・少し・・・考えさせてくれるかしら」

 

「あ、はい!」

 

「ありがとう」

 

「それじゃあ、僕らもそろそろ寝ますね」

 

「ええ。お休みなさい」

 

「はい、お休みなさい」

 

「失礼します」

 

僕と凛華はリンディさんたちにそう告げて、聖良たちが寝ている部屋へと戻った。なのはたちはもう既に寝ているはずだ。ちなみになのはたち女の子はアリサの部屋で、シグナムたちは別室で、ザフィーラは士郎さんたちと、ユーノはクロノとだ。で、僕は家族である聖良たちとだ。部屋へと続く道を歩いていると。

 

「零夜くん」

 

「ん?なに凛華」

 

「零夜くん、この間遅くまで一人で何してたんですか?」

 

「・・・・・・なんのこと?」

 

「惚けないでください零夜くん。この間の深夜、みんなが寝静まったあと、地下のメンテナンスルームとトレーニングルームでなにかしてましたよね」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「明莉お姉さんと一緒にたまたま見てしまったんですけど・・・・・・一体何をしていたんですか?」

 

凛華の言葉に僕は視線を逸らす。

 

「まさか、また無茶なことしてるんじゃありませんよね」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「明莉お姉さんから言われてますよね、無茶しないでって。今無茶したらいつか取り返しのつかないことが!」

 

「分かってるよ!」

 

少しだけ声を荒げ、凛華に言う。幸いにも誰にも聞かれていなかったようで、誰かが来たりはしなかった。

 

「分かってるよ凛華。けど、これだけは僕の手でやらないといけないんだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「お姉ちゃんと華蓮と約束したんだ、絶対二人に僕の家族を会わせるって!」

 

「零夜くん」

 

「そのためには多少の無茶なことはするしかないよ・・・・・・。それに、時間と空間、物質などの魔法も早く完成させないと」

 

「時間と空間に物質・・・・・・?・・・・・・まさかと思いますけど、時間と空間に干渉する魔法・・・・・・時空間魔法(クロスパティウムマギクス)を使おうとしてるんじゃ・・・・・・!」

 

「だとしたら?」

 

「幾らなんでもそれは危険すぎます!時間と空間に干渉するなんて」

 

「空間への干渉は空間魔法でなんとかなるよ。時はもう少し時間がかかるね」

 

「当然ですよ!時空間魔法(クロスパティウムマギクス)なんて秘術中の秘術です!それに物質干渉だって」

 

特殊固有武装(アーティファクト)は万能じゃないからね。いくら、時律の双銃(クロノス・デュオピストリス)を持ってるとはいえね」

 

「お願いですから無茶なことはしないでください。零夜くんが倒れたら聖良ちゃんや澪奈ちゃんが・・・・・・・私ももちろん、明莉お姉さんもみんなが悲しみます」

 

「分かってるよ凛華」

 

凛華の言葉を聞きながら僕は凛華と一緒に部屋に戻って寝た。

 

 



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公開

 

~零夜side~

 

「・・・・・・・・・・・」

 

夏休みのある日、僕はミッドチルダ管理局地上本部のある部屋にいた。そして隣には。

 

「大丈夫ですか、天ノ宮君?」

 

僕の上司のミゼット提督がいた。

 

「はい・・・・・・大丈夫です」

 

「・・・・・・ほんとうに、よろしいんですね」

 

「はい。はやてへの非難は、元はと言えば僕が原因ですから」

 

「わかりました・・・・・・出来る限り私たちも擁護しますので、無理はしないでください」

 

「ありがとうございます、ミゼット提督」

 

僕がここにいる理由は、今日特務0課を公に公表するからだ。それと同時に、今回の闇の書事件の首謀者であるということを発表する。秘書の役割を兼ねている凛華は一緒にいるが聖良やアリサたち部員は特務0課の室内にいる。

さらに言うと、階級もいつの間にか昇格して三佐になり特務官並びに特務三佐となっていた。ちなみにこの事は今日さっき伝えられた。さすがにそれには僕も唖然としたけど。というか、まだ10歳なのに階級がオーリスさんと同じ三佐でいいの!?と思った。

とまあ、そんなこんなで時間は過ぎていき特務0課公開の時間になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、時間は過ぎていき今僕の目の前には。

 

 

「ふざけんな!」

 

「そんなのその小娘が命じただけだろ!」

 

「ガキの癖になぜ一部隊を率いているのだ!」

 

「ミゼット統幕議長、それは職権濫用になるのではないですか!」

 

 

と僕に対する罵詈雑言の嵐が飛び交っていた。

そのなかにははやてや守護騎士たち、ミゼットさんに対するものも入っていた。

 

「はぁ・・・・・・・・・・」

 

溜め息を吐き、壇上の横の席にいるミゼットさんたちにチラリと視線を向け、うなずいたのを確認して僕は言葉を発する。

 

「―――いい加減黙りなさい!」

 

『『『『『!!!?』』』』』

 

僕のその一言に罵詈雑言の嵐が収まり、一斉に視線が僕に向かった。

 

「まず、第一に今回の闇の書事件の主犯はこの僕だ!はやてや守護騎士たちじゃない!僕が命じさせてやったことだ!言いたいことがあるなら直接この僕に言え!」

 

相手の階級が上だろう歳上だろうが関係なく言った。正直、もう我慢の限界だ。

 

「はやてたちをそんなに悪く言うのは何故?決まってるよね、そんなの。―――あんたたちから見たらはやては悪者なんだろ。・・・・・・まだたった10歳の女の子・・・・・・魔法の魔の字も知らなかった女の子にどう対処しろって言うんだ!危険なロストロギアを持っているだけで犯罪者呼ばわり・・・・・・いい加減にしろよ!!」

 

口が悪くなっているがもうどうでも良い。大切な友達をバカにされたり、悪く言われるのはもう嫌だから。

 

「今まで何回チャンスがあった?闇の書をどうにかするチャンスが管理局には一体幾つあった?何度もチャンスがあるのに毎回毎回、アルカンシェルで蒸発させて・・・・・・・それで何度悲劇が起きた!前回ではギル・グレアム提督やリーゼロッテ姉妹、ハラオウン家など、様々な人が悲しい、辛い思いをした!こんな結果を招いたのは管理局の対処が甘かったからじゃないのか!?口先だけの、上辺だけの言葉なんて意味なんて無いんだよ!実際に行動に移した者だけがそれを口にできるんだ!それこそ、常にミッドチルダの平和と安全を願い行動しているレジアス中将や、ミゼット統幕議長たちだ!そこにいるあんたたちの内、何人がこの人たちと同じくらいの信念を持ってる!言っておくけど、僕が知らないと思う?管理局上層部はどす黒いってことを!禁忌とされてる生命操作に、人体実験や汚職。自分の正義が正しければ何をしても良いと思ってるのか!そんなの天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)の奴らと何も変わってない!法と秩序を守る、それが時空管理局じゃないのか!」

 

僕がそう言い、一息入れると。

 

「なにも知らないガキが意気がるんじゃねえよ!」

 

ある席からそんな声とともに魔法弾が放たれた。

 

『『『『『きゃあぁっ!』』』』』

 

『おい!君!』

 

魔法弾を放った人の周囲から悲鳴が上がり、制止する声が上がるが遅く、放たれた魔法弾は一直線に僕に向かってきた。

そのまま当たるかと思われるがしかし。

 

「零夜くんに危害を加えさせません」

 

傍にいた凛華がすぐさま魔法弾を消滅させた。

 

「なっ!?」

 

防がれるでもなく、かわされるでもなく、消滅させられたことに驚いたのか魔法弾を放った人物は目を見開いて唖然としていた。

 

「ありがとう凛華」

 

「いえ、もっとも、私がやらなくても零夜くんならなんとかなりましたね」

 

「ふふ、まあね」

 

軽く会話をし、無詠唱で立ったまま唖然としている人物を拘束する。

 

「まさかこんなところで魔法を放ってくるなんて・・・・・・予想はしてたけど、まさかほんとうに当たるとはね」

 

そう言うと。

 

「その者をすぐに連れていきなさい。他のものはそのまま座わるように」

 

ミゼットさんの凛とした声が響き渡った。

すぐに係の者が来て、魔法弾を放った人物を連行していき会場はもとに戻った。

 

「さて、迷惑な人が居たが別に僕は気にしない。僕に言いたいことがあるならハッキリ言えばいい。何を怯えているの?僕が管理局初めてのSSSランクの魔導師だから?星戦級魔導師だから?それとも、ミゼット統幕議長たちがいるから?なんなの?影ではこそこそ言っていて、光のある場所ではなにも言わない。ずいぶんと姑息だね。改めて言う!己を考え直せ!自分が何のために管理局に入ったのか!陸と海、確かに事情がそれぞれあるのは分かるが、それだけでいざこざを起こすな!海の人間は陸の人間のことをちゃんと見ろ!陸の人間は海の人間に負けないようにすればいい!自分が何のために、どうしてここに居るのか今一度考えろ!――――――以上を持って私から言葉は終わりにします」

 

そう告げ壇上から降り、凛華とともにミゼット提督の傍による。

すると。

 

『『『『『――――っ!!!』』』』』

 

辺り一面から拍手の音が響き渡った。

 

「「!?」」

 

まさかの展開に僕と凛華は目を見張る。

一部の人間は憎悪を醸し出して僕を見るが、この会場にいる殆どの人が立ちあがり、拍手をしていた。

訳が分からず驚いていると。

 

「いい言葉でしたよ天ノ宮君」

 

ミゼットさんが孫を誉めるかのような眼差しで見詰めながら言ってきた。そしてその隣のラルゴ元帥とレオーネ相談役もミゼットさんと同じようにうなずいていた。しかも、レジアス中将もその厳めしい顔を和らげて頷いていた。護衛としているゼストさんたちも満足気な表情だ。

 

「貴方は今までの誰も言わなかったことをこのような大衆の面前でハッキリと、恐れることなく言いました。まさかまだ子供の貴方にそう言われるとは思わなかったのでしょうね。私が目を付けただけの事はあります」

 

ミゼットさんはそう言うと立ち上がり、壇上へと上がっていった。

 

「さて、今の天ノ宮特務三佐に私たち大人は何を感じましたか?歳端もいかない彼に言われたのです、我々も少しずつ改善するべきではないのでしょうか。私たち三提督は天ノ宮特務三佐たちを全目的に支持します。今こそ、陸と海が互いに手を取り合うべきなのです!」

 

ミゼットさんのその言葉でさらに拍手のボリュームが膨らみ、あちこちから割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

「ふぅ~。緊張した~」

 

会議が終わり、会場から特務0課の室内に戻っていた僕は今まで張り詰めていた緊張した空気を吐き出した。

 

「お疲れさまでした零夜くん」

 

「うん。凛華もありがとうね」

 

凛華の淹れてくれた砂糖多めのミルクティーを飲んで一息つく。

そこに。

 

「まったく・・・・・・あんな大勢の前で啖呵切って、本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

「アリサちゃんの言う通りだよ。いくら、はやてちゃんのためだからって・・・・・・・」

 

「ミゼット統幕議長が零夜くんを支持してくれるっていっても限度があると思うよ」

 

アリサ、すずか、アリシアの言葉を紡ぐ。

 

「そうだね~。もう少し立場を上げないとね」

 

そう言う僕に。

 

「あのな、普通その歳で三佐なんてあり得ないんだからな!?まあ、確かに零夜の力量とこの半年の成果を上げたら仕方ないとは言えるが・・・・・・」

 

いつの間にか居たクロノが突っ込んできた。

 

「さすがツッコミのクロノ」

 

「僕はそんな変な名前じゃないぞ!?」

 

ツッコムクロノと僕に。

 

「あんたたちはなんで毎回毎回コントしてんのよ!」

 

アリサがツッコミを入れた。

 

「「コントしてないわ!」」

 

「その返しはおかしいでしょ!?」

 

僕とクロノの返しにもアリサはツッコミを入れる。

 

「さっきまでシリアスはどこにいったのかな・・・・・・」

 

「あははは!何時ものことだね」

 

そこにすずかとアリシアが呑気にそう呟いたのが聞こえた。

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

「―――これで君は執務官の資格も手に入れたか・・・・・・はぁ、君はどんだけチートなんだい」

 

ヤツレた様子のクロノは溜め息をついて言う。

クロノが言ったとおり、僕はつい先日執務官試験に合格したのだ。しかも一発合格だ。実技の方は問題なかったが(リミッターをかけて威力はかなり落としたけど)筆記の方はかなりギリギリだった。グレアム叔父さんやロッテさんやアリアさんから教えてもらわなかったら落ちていたと思う。いや、絶対落ちていた。グレアム叔父さんたちの教えは分かりやすく、要点を纏めたりなど細かいところまで教わった。まあ、さすがに現実時間じゃ足りなかったからダイオラマ球を使って勉強時間を伸ばした。ダイオラマ球の中では時間の流れが違うため、現実の一時間がダイオラマ球の中では一日なのだ。時間魔法と空間魔法の複合魔法の品物だが、これは僕が創ったのではなく、元から在ったものなのだ。

そんな試験の前のことを思い出していると。

 

「まったく、さすがね貴方は。難しい執務官試験に一発で合格するのだから」

 

「ええ。しかも入局してまだ一年未満の子供ですからね」

 

「か、母さ・・・・・・艦長!?」

 

「あれ、ママ?」

 

プレシアさんとリンディさんが扉から入ってきた。

 

「ママどうしたの?」

 

入ってきたプレシアさんにアリシアが不思議そうな顔をして尋ねた。

それに答えたのは。

 

「マスター、まだ言ってなかったのですか?」

 

「?どういうこと紅葉さん?」

 

「今から言うところだよ。―――実はプレシアさんには特務0課(ここ)の非常勤の部隊員として所属してもらうことになったんだ」

 

「ええ!?そうなのママ!?」

 

「黙っててごめんなさいアリシア。アリシアの驚く顔が視たかったのよ」

 

「ぶ~~」

 

膨れるアリシアの表情を見たプレシアさんはドッキリ大成功とでもいいそうな表情を浮かべていた。

 

「まあ、基本はプレシアさんは自身の研究の方に行っちゃうけど、メンテナンスや武装の更新とかはプレシアさんに任せてるんだ。ちなみにリニスさんも一緒だよ」

 

「ええ!?リニスも!?」

 

またまた驚愕したアリシアは目が飛び出るほど驚いていた。

そこにカメラ音が貫いた。音のした方を見ると。

 

「アリシア、もう一回今の表情してちょうだい!」

 

プレシアさんがどこか取り出したのか、一眼レフを持ってアリシアを撮っていた。うん、いつの間に。ていうかどこから出したんですそれ?

 

「ちょ、ママ、止めてよ!恥ずかしいから!」

 

手で顔を被うがプレシアさんの勢いは止まることなくどんどん一眼レフの連写速度が上がっていっていた。

 

「「「「・・・・・・・・・・」」」」

 

あまりの光景にポカンとしていると。

 

「いい加減にしてくださいプレシア!」

 

「アイタッ!」

 

またまた何処から現れたのか、ハリセンを持ったリニスさんが現れプレシアさんの頭をハリセンで叩いた。

 

「リ、リニス!?」

 

「まったく、あなたと来たら娘のこととなると本当に周りが見えないんですね!この間もフェイトとアリシアの後を着けていって警察沙汰になりかけたのを忘れてますか!私がギリギリのところで情報操作したから良かったもののしなかったらあなたは今頃警察に捕まってますからね!罪状はストーカーですかね?私の主がストーカーとか恥ずかしくて表を歩けませんよ!そもそも、プレシアは自分のことよりフェイトとアリシアの事ばかり考えてます!別に考えてるのは構いませんがそれであなたが体調を崩したら元も子もないですよね!だいたいプレシアはですね―――――――――」

 

『『『『『・・・・・・・・・・・・・・・・』』』』』

 

突如始まったリニスさんによるプレシアさんへのお説教に僕らは目を点にする。というか今リニスさんから警察沙汰って言葉が聴こえたような・・・・・・。呆然とするなかプレシアさんの娘のアリシアは顔を真っ赤にして俯いていた。

 

「ま、まあ、向こうは置いといて。昇進おめでとう零夜君」

 

「置いとくんですね・・・・・・・。あ、ありがとうございますリンディさん」

 

「いえいえ。それにしても史上最年少で左官になった局員としてこれから零夜君はかなり注目されるでしょうね」

 

「ええ。まあ、一気に階級が上がったのは本気で驚きましたけど」

 

「これなら一気に将クラスに上がるんじゃないか?」

 

「そうなると前線に出れないよ」

 

「まあ、基本的に左官や将クラスの者は後方で指揮を執るからな。艦長がそうだし」

 

「はぁ~・・・・・・やりにくくなりそう」

 

「まあ、君ならなんとかなるだろ?最大の後ろ楯の3提督が付いてるんだから」

 

「あまりミゼットさんたちには迷惑かけたくないんだよね」

 

「今更か!?」

 

「???」

 

「ミゼット統幕議長には迷惑かけたくなくて、僕には迷惑かけても良いって言うのか!?」

 

「だって、クロノだし」

 

「なんだそれは!?」

 

僕とクロノの会話をリンディさんは微笑ましそうに見守り、凛華たちは見慣れた様子でお茶を飲んでいた。

ちなみにプレシアさんとリニスさんは・・・・・・・・

 

 

「これを機にですね、少しは改めてください!他にもですね――――――――――」

 

「うぅ・・・・・・」

 

 

 

プレシアさんが正座して未だにリニスさんのお説教を受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

ドガンッ!!

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・出来た」

 

自宅に帰り、ダイオラマ球の中に入った僕はすぐに未完成だった術式を完成させた。もっとも基礎構造は既に出来ており、イメージ構成が巧くいかなかっただけなのだが。

 

「ついに出来た・・・・・・僕の新しい魔法」

 

魔力がほぼゼロになり息を調えながら今自分が引き起こした魔法の惨状を見る。

そこは、だだっ広いクレーターが出来ており、クレーターを中心に氷の華園があちこに広がり、その華園を虹色の雷が静電気を放電するかのように迸り、陽炎のように燃え上がる薄紅の炎が氷の華園を照らした。炎に当たりながらも氷の華園は一向に熔ける気配がなかった。さらに放電する雷と燃え上がる炎が合わさりどこの魔界かと言われるような惨状になっていた。

 

「これが最上位魔法を複合(コネクティブ)した最上位を越える新たなる魔法―――、―――――――。」

 

正直、もう最上位なんて越えてるほどの魔法だ。その分魔力消費が激しいけど。

 

特殊固有武装(アーティファクト)の方も問題なく使えるし、明莉お姉ちゃんには感謝しかないよ」

 

そう呟くと。

 

「―――完成したんですね零夜くん」

 

明莉お姉ちゃんが建物の中から出てきた。

 

「うん」

 

「流石ですね。この魔法は正直―――クラスです。私の神霊力(デウニウム)と魔力を結合させて、ですね?」

 

「うん。明莉お姉ちゃんの眷族だから」

 

「そう・・・・・・・ですね」

 

「どうしたの?」

 

「いえ、本当なら零夜くんには普通の人並みを過ごしてほしかったのですが」

 

「気にしないで明莉お姉ちゃん。明莉お姉ちゃんのお陰で今僕はここにいるんだから。それに、愛奈美お姉ちゃんと華蓮もいる」

 

「――――本当に五つ目の願いがそれでいいんですね」

 

「うん。二人の魂があるなら・・・・・・・・・・出来る?」

 

「ええ」

 

「なら、お願い明莉お姉ちゃん」

 

「分かりました。ですが、しばらく時間が掛かります」

 

「大丈夫だよ」

 

僕は今引き起こした魔法の惨状を見て明莉お姉ちゃんと会話しながらダイオラマ球の中にある建物の中に入っていった。

 

 

 

 



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もう一人の転生者

 

~零夜side~

 

「―――あなた何者?この世界の人間じゃないわね」

 

「それはこっちの台詞だよ。その魔法、ミッド式でもベルカ式でもない・・・・・・さらに言うなら僕の使うムンドゥス・マギクス式でもないね。一体君何者?」

 

結界が張られた海鳴市の高台で僕は襲撃者の女の子を見る。

女の子の足元には見たことない複雑怪奇な魔方陣が描かれており、白く光輝いていて紫と白を基調としたコート型のバリアジャケットを身に纏っていた。

ことの発端は数分前になる。僕が高台でのんびりしていたところに急に結界が張られ目の前の女の子が現れたのだ。

 

「ムンドゥス・マギクス式ですって!?」

 

僕のムンドゥス・マギクスという言葉に目の前の女の子は目を見開く。

 

「あなた、今ムンドゥス・マギクスって言った?」

 

「言ったけど?」

 

「何故ムンドゥス・マギクス・・・・・・・裏火星の呼び名を知っているの?その言葉はネギま!?の単語のはずよ」

 

「っ!?今ネギま!?って言った!?」

 

「え、ええ」

 

「君、もしかして転生者?」

 

「!何故その事を・・・・・・まさか、あなたも?」

 

「どうやら明莉お姉ちゃんに話を聞く必要があるみたいだね」

 

「明莉お姉ちゃん?」

 

「ごめん、ちょっとだけ待ってて」

 

「ええ」

 

互いに武装を解除し、僕は目の前の女の子に断りを入れて明莉お姉ちゃんに電話して呼びだす。

 

「あ、明莉お姉ちゃん?ちょっと今すぐ海鳴市の高台に来てくれないかな?―――――うん、実は今僕の目の前に転生者らしき人物がいるんだ―――――うん、わかった。待ってるね―――はーい」

 

スマホをポケットに仕舞うと。

 

「!?」

 

僕と女の子の間に純白の扉が現れた。扉が開くと中から明莉お姉ちゃんが出てきた。

 

「ごめんね明莉お姉ちゃん、お仕事中に」

 

「いえ。それより、その転生者らしき人物はどこに?」

 

「彼女だよ」

 

僕の視線の先にはバリアジャケット姿の女の子がいた。

 

「はじめまして、私の名前はアマテラス。この世界ではこの子の保護者兼お姉ちゃんです」

 

明莉お姉ちゃんが自己紹介をすると。

 

「!?ア、アマテラス!?アマテラスって日本神話の天照大御神ですか!?」

 

「ええ。そうです」

 

明莉お姉ちゃんの言葉に目の前の女の子は驚愕したように目を見開いた。

 

「さて、貴女は何者ですか?転生者みたいですけど、誰が送ってきたんです?」

 

眼を鋭くして目の前の、僕と同い年くらいの女の子に聞く。

 

「あ、あの、その」

 

あまりの事態なのか目の前の女の子はあたふたとしていた。

そこに。

 

「!この気配は・・・・・・!」

 

明莉お姉ちゃんが視線を真横にずらした。僕たちも続けてみると、そこから明莉お姉ちゃんたちと同じ純白の扉が現れた。

やがて扉が開き、中から一人の女性が現れた。

 

「うげっ!」

 

その女性の姿を見ると明莉お姉ちゃんは女の人が出してはいけないような声をあげた。

 

「いきなりうげっ!ってないと思うんだけど?ねぇ、アマテラス?」

 

どちら様?

僕が不思議に思っていると。

 

「ア、アアア、アルテミス!?」

 

明莉お姉ちゃんが驚いたように言った。

 

「(アルテミス?アルテミスって確か、知智お姉ちゃんと同じギリシャ神話の女神の一人だっけ?)」

 

そう思い返していると。

 

「なんでアルテミスがここにいるの!?」

 

「なんでって、私がこの娘の保護者だからだけど?」

 

「はぁ!?え!?何時から!?」

 

「5年前からかしら?」

 

「まさか零夜くんと同時期!?」

 

「ああ、そういえばもう一人転生者がいたわね。もしかしてその子?」

 

「そうよ!私の弟の零夜くんよ!」

 

「明莉お姉ちゃん!?」

 

「ほぉ。アマテラスをお姉ちゃん呼び、しかもこの世界での名前までとは」

 

「他にも、ガブリエルやアテナ、アフロディーテが居るわよ!」

 

「・・・・・・・は?」

 

明莉お姉ちゃんの言葉にアルテミスさん?は眼をパチクリとした。

 

「え?今、ガブリエルとアテナ、アフロディーテが居るっていったの?」

 

「ええ」

 

「ええっ!?あの三人がいるの!?なんで!?え!?ちょっ、アマテラス、なんであの三人がいるの!?」

 

「なんでって言われても・・・・・・・ちなみに私たちは零夜くんのお姉ちゃんですから」

 

「はぁぁあ!?」

 

「ゆ、弓月(ゆづき)姉さま!?どうしたの!?」

 

「い、いえ、なんでもないわよ夜月(よつき)

 

「そ、そう・・・・・・?」

 

夜月と呼ばれた女の子がアルテミスさんのことを弓月姉さまと呼んだ。ということはつまり。

 

「アルテミス、あなたこっちで弓月って名前なのね」

 

「それがなに?」

 

「いえ。あなたがこっちで暮らしてるなんて知らなかったわ」

 

「別にいいでしょ。それに、ゼウスには許可もらってるわ」

 

「ええっ!?そうなの!?・・・・・・って、ゼウスさんならそうなるわね」

 

「でしょ?」

 

「ええ」

 

話がさっぱり分からないけど・・・・・・

 

「はぁ。零夜くん、あの娘は敵ではありません。貴方と同じ転生者。そして、恐らくアルテミスの眷族です」

 

明莉お姉ちゃんがそう言うと。

 

「よくわかったわねアマテラス。この娘・・・・・・桜坂(さくらざか)夜月は私のはじめての眷族よ」

 

「貴女の銀色の神霊力が見えたのよ」

 

「ふふ。そういう貴女だってその子が貴女のはじめての眷族なのでしょう?」

 

「ええ。この子は天ノ宮零夜くんよ」

 

「そう。よろしくね、天ノ宮零夜君。あなたの活躍は知ってるわ。時空管理局特務0課室長にして、最年少で執務官試験を合格して階級は三佐兼特務官。そして管理局唯一の星戦級魔導士」

 

「どこでそんなの調べたのよ?」

 

「ん?ついさっきだが?」

 

「はぁ。貴女って女神は本当に・・・・・・」

 

なんか明莉お姉ちゃんが窶れてるけどなにかあったのかな?

 

「ああ、一応自己紹介しておこう。私の名はアルテミス。こちらの世界では桜坂弓月と名乗ってる。一応、この娘の姉兼保護者だ。夜月」

 

「うん、姉さま。はじめまして、先程はごめんなさい。私の名は桜坂夜月。天ノ宮くんと同じく転生者よ。これからよろしくね」

 

「こちらこそよろしく。僕の名は天ノ宮零夜。桜坂さん、これからよろしくね」

 

「夜月でいいわ」

 

「じゃあ僕も零夜で」

 

「ええ」

 

こうして、僕ともう一人の転生者である夜月は友達になった。

そこから、僕と夜月を取り巻く様々な事、そして神々をも巻き込んだ事件が巻き起こるとはこの時、僕と夜月は露ほど思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって夜月と弓月さんの家、桜坂邸へと訪れていた。

あ、アルテミスさんのことを弓月と呼んでいるのはアルテミスさんがそう呼んでほしいと言ったからだ。

 

 

 

桜坂家

 

 

 

「それじゃ、二人の能力を開示しますね」

 

「そうね」

 

同じ転生者同士、能力は知っておいた方が良いということで転生者特典の能力をそれぞれ明莉お姉ちゃんと弓月さんが紙に書いて渡した。

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

僕と夜月はその紙を見て唖然とした。

 

「まず私からいい?」

 

「どうぞ」

 

「ありがとう。じゃあ――――――レイくん、あなたどれだけチートなの!?」

 

夜月の絶叫が響き渡った。

 

「転生特典としてSAOのソードスキルにネギま!?の全魔法、家事スキル最大に、成長補正最大って・・・・・・・しかも希少技能(レアスキル)絶対切断(ワールドエンド)特殊固有武装(アーティファクト)に質量消滅に分解・・・・・・・さらに闇の魔法(マギア・エレベア)・・・・・・チートすぎよ!」

 

「まあ、確かにチートすぎないか明莉?」

 

「あなたにだけは言われたくないわよ」

 

そう言うと明莉お姉ちゃんが今度は夜月の紙を見て言った。

 

「夜月ちゃんの転生特典はトリニティセブンの魔術とデート・ア・ライブの天使に成長補正最大・・・・・・・希少技能に天魔融合(ヘブンリィマギクティス)未来視(コグニス)など・・・・・・・充分チートね」

 

「そうかしら?レイくんよりはまだ良いと思うけど?」

 

「どっちもどっちよ弓月」

 

姉同士?なのかやつれているように見える。

 

「そう言えば夜月は今までどこにいたの?」

 

ここ五年間、夜月の姿を見たことない僕は夜月に聞いた。

 

「今まで別の場所で弓月姉さまと過ごしてたのよ」

 

「じゃあ、原作に介入はしなかったんだ」

 

「ええ。弓月姉さまからもう一人の、つまりあなたが原作を見事に崩壊させたことは知っていたから」

 

「うぐっ・・・・・・!」

 

原作崩壊という言葉に僕は思わず言葉を濁らせた。

そこに。

 

「お。なんだ、マスターと弓月は帰って来ていたのか?」

 

「ソ、ソラ入って行ったらダメですよ!」

 

「別にいいじゃんよイリア」

 

二人の少女が入ってきた。

 

「あら、ソラとイリア」

 

「申し訳ありません夜月ちゃん!一応止めたんですけど・・・・・・」

 

「別にいいわよイリア」

 

「んん?マスター、この二人は誰だ?」

 

「あ、弓月姉さまの前に座っているのが明莉さんで、その横にいる男子が天ノ宮零夜くんよ。レイくんはこの二人のこと知ってるわよね?」

 

「うん。ソラが『アスティルの写本』、イリアが『イーリアス断章』でしょ?」

 

「あ、トリニティセブンのこと知ってたんだ」

 

「まあね。特にすっぽんぽん魔術が有名だよね」

 

「あはは・・・・・・すっぽんぽん魔術って名前じゃないんだけどね」

 

すっぽんぽん魔術―――別名、支配魔術。対象の魔力や魔法の構成を解析、分析し無効化するアンチマジック。トリニティセブンの主人公春日アラタの最初に会得した、傲慢(スペルビア)のアーカイブに属するテーマ支配(インペル)の魔術である。そしてそれを昇華させたのが僕も使う、支配領域(インペル・マジェスター)である。

もっとも僕の支配領域は凛華たちを介して、魔法の術式構成とシステム構成やらを解析してそれを分解、無しにしているのと、事象を改変して構築されてる魔法の上から領域干渉をして僕の領域(テリトリー)にしている。

 

「マスター、コイツ何者だ?」

 

「どうして私やソラのこと知ってるんでしょう?」

 

「ああ、レイくんは私と同じ存在よ」

 

「!?なるほどな・・・・・・」

 

「そういうことですか」

 

「ええ」

 

どうやら転生のことについては話してあるみたいだ。

そこで僕は少し疑問に思った。

 

「ん?ねぇ夜月」

 

「なに?」

 

「ソラとイリアが居るってことは、『黒皇剣ジュデッカ』と『赫皇剣カイーナ』も居るの?」

 

「え?あ、うん、いるよ。ジュデッカ、カイーナ」

 

夜月がそう呼ぶと。

 

〈はい。なんでしょうマスター〉

 

〈おはようございますマスター〉

 

夜月の首もとに、二本の剣のペンダントが現れた。

 

「おはようジュデッカ、カイーナ。二人とも、目の前の彼は私と同じ存在だよ。名前は天ノ宮零夜くん」

 

〈なるほど〉

 

〈わかりましたマスター。これからよろしくお願いします天ノ宮さま〉

 

「あ、うん。よろしくねジュデッカ、カイーナ」

 

剣に挨拶されるというなんとも奇妙な体験に僕は思わず口を淀漏らせた。

そこに。

 

「ねえ。零夜君、夜月と模擬戦、してみない?」

 

「え?」

 

「いいと思いますよ。それに零夜くんも夜月ちゃんの実力を知りたいですよね。同じ転生者として」

 

弓月さんと明莉お姉ちゃんの言葉に、僕と夜月は顔を見合わせる。

 

「「ぜひ!」」

 

こうして僕と夜月、二人の転生者による模擬戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜坂邸地下空間 トレーニングルーム

 

 

「それにしてもまさかアルテミスがいるとはね」

 

「ええ。それにあのアルテミスが眷属を持つだなんて」

 

お父様(ゼウス)から聞いてなかったことについてはあとでお母様(メティス)奥様(ヘラ)と一緒に聞かないといけませんね」

 

「あはは・・・・・・手加減してあげてね知智」

 

「それは・・・・・・お母様と奥様しだいね」

 

「ゼウスさん生き残れるかしら・・・・・・」

 

そんな会話を耳にしながら僕はデバイス姿の凛華たちを構えて、目の前の夜月を捉える。

 

「それじゃあ始めようか夜月」

 

「ええ。手加減なしの全力前回でいくわよ」

 

「もちろん。―――封印解除(リミッターリリース)

 

自分と凛華たちデバイス施しておいた封印を解除し全力を出す。

 

「じゃあ、私たちも。ソラ、イリア!いくよ!」

 

「〈ああ!〉」

 

「〈はい!〉」

 

傲慢(スペルビア)のアーカイブに接続。テーマを実行いたします!」

 

夜月がそう言うと、純白の魔方陣が足元に現れ、夜月の服がメイガスモードの白銀のドレスローブに黒のローブを羽織った姿に切り替わった。

 

「私のメインテーマは支配(インペル)。さらに、テーマ正義(ユースティティア)審判(アルビテル)を持ってるの」

 

「つまり、トリニティ・・・・・・」

 

「ええ。まあ、他にもあるのだけど・・・・・・そして、―――――神威霊装・十番(アドナイ・メレク)!―――鏖殺公(サンダルフォン)!」

 

夜月の声に上から紫の雷が一本貫き、夜月の後ろに巨大な玉座と、玉座に納められた一振りの流麗な大剣が現れた。

 

「はああっ!」

 

背後の玉座に登り、出ている大剣の柄を握り締め勢いよく抜き放った。

 

「天使―――鏖殺公」

 

茫然と呟いて、その大剣。天使の名を言う。

 

「なら、僕も。―――、来たれ(アデアット)!鉄砕牙!」

 

僕は一本の流麗な刀。剣の付け根部分には純白の白毛があり、その姿は牙のような刀。それは天生牙と対をなすもう一振りの刀、鉄砕牙。一振りで百の軍勢を凪ぎ払うとされてる魔剣にして・・・・・・妖刀。本来鉄砕牙は妖力で使用できるが、ここの鉄砕牙は妖力の代わりに魔力で補っている。

 

「それじゃあ―――」

 

「うん―――」

 

「「いくよ!」」

 

僕と夜月はほぼ同時にその場から動き切り結んだ。

 

「はああっ!」

 

「やああっ!」

 

気迫の篭った声で鉄砕牙を振り下ろす。

ガキンッ!と金属がぶつかる甲高い音が響く。つばぜり合いから同時に後ろに下がり。

 

「―――風の傷ッ!」

 

大気の裂け目に向かって、上から勢いよく鉄砕牙を振り下ろし衝撃波を放つ。

 

鏖殺公(サンダルフォン)ッ!」

 

対する夜月も鏖殺公に魔力を込めて撃ち放った。放たれた魔力の斬撃は一直線に風の傷とぶつかり、爆発と衝撃波を起こした。

 

「うっ・・・・・・!」

 

「・・・・・・っっ!」

 

衝撃波を手で顔を被って防ぎ、すぐさま。

 

「ソラ!イリア!補助お願いね!」

 

〈おうよ!任せとけマスター!〉

 

〈お任せください!〉

 

「―――紅星峻厳柱(スカーレット・ゲブラー)!」

 

「なにっ!?」

 

夜月から放たれた魔力のエネルギーの奔流に眼を見開く。

ギリギリのところで避け、僕のすぐ横を夜月の放った紅星峻厳柱(スカーレット・ゲブラー)が通過し、後ろの壁を抉る。

 

「今のはソラの魔術!まさかソラの紅星峻厳柱(スカーレット・ゲブラー)を使うなんて」

 

予想外の攻撃に驚ながらも鉄砕牙を杖にして立ちたがる。

 

「今度はこっちの番!星夜、いくよ!」

 

《ええ!》

 

「スタービット、飛星剣(フェグラディア)!」

 

星夜から飛び出た小型ユニットが夜月の周りを飛び交い、剣のような光弾を放つ。

 

「これは!?」

 

〈おいおい、こんな数のビットをアイツは一人で操作してるのかよ!?〉

 

〈いくらなんでもあり得ません!これでは集中力が持たないはずです!〉

 

今飛び交う小型ユニットの数は全部で30。このユニットは僕の操作でも動くが、イリアが言ったように僕一人では無理だ。だが、星夜とともにやれば問題ない。星夜の突発している能力は演算能力と空間把握だ。後方支援が得意な星夜は空間把握と演算を使いユニットを操作している。

さらに。

 

術式解放(エーミッタム)蒼き雷(フルグラティオー・カエルレウム)!」

 

白き雷の蒼バージョンを繰り出す。

 

「蒼い雷・・・・・・!?」

 

「まだこんなもんじゃないよ夜月!鉄砕牙!」

 

鉄砕牙に声をかけ視線を向けると、鉄砕牙の刀身がドクンッ、と脈打ち刀身が変わった。

 

「その刀身は・・・・・・っ!」

 

「いくよ夜月!はああっ!―――金剛槍破!」

 

鉄砕牙を左上から斜めに切り下ろすと、鉄砕牙から短槍(ショートスピア)のような槍が飛び出した。そして、この金剛槍破は単純な物理攻撃。金剛とは硬度10の最も硬い宝石―――ダイヤモンドだからだ。

 

「っ!―――氷結傀儡(ザドキエル)贋造魔女(ハニエル)!」

 

夜月は咄嗟に氷結傀儡(ザドキエル)贋造魔女(ハニエル)で金剛槍破を無効化する。

 

「なら、これはどう!」

 

そう言うと再び鉄砕牙の刀身がドクンッと脈打ち、金剛の刀身から宇宙のような刀身に変わった。

 

「まさかっ!?」

 

「―――冥道残月破!」

 

鉄砕牙から放たれた冥道の斬撃が夜月向かっていく。

 

「―――刻々帝(ザフキエェェル)!!」

 

斬撃が夜月に飛んでいくなか、夜月の背後に機械仕掛けの時計盤が現れた。

 

刻々帝(ザフキエル)一の弾(アレフ)!」

 

自分の影から出てきた古式の歩兵銃の短銃と長銃の二つを時計の針のようにし、短銃を自身の頭に着け、引き金を引き弾丸を撃ち込んだ。すると次の瞬間、姿がぶれたかと思うほどの視認できない速度で目の前から消え去った。

 

「っ!?どこ!?」

 

慌てて周囲を探る。

すると。

 

「うぐっ!」

 

背中に衝撃を受けた。

瞬時に振り替えるが、何もなくまたしても背中に衝撃を受ける。しかも今度は連続でだ。

 

「(―――もしかして)」

 

そこで僕はなんの攻撃か判別する。

 

絶滅天使(メタトロン)の攻撃・・・・・・もしくは刻々帝(ザフキエル)の銃弾・・・・・・いや、もしくは魔法・・・・・あぁっ!選択肢が多すぎる!)」

 

思考の片隅で考えながら意識を集中させる。考えが何もないというのはなんて言う為体なのか、さすがに候補が少ない!

そう思っていると。

 

「!」

 

背後から気配を感じ、瞬時に振り向く。

しかしそこには何もなかった。

 

「(今のは・・・・・・そっか!そういうことか!)」

 

眼を閉じ意識を集中させ、五感をフル作動させる。

 

「(ここ!)」

 

意識を集中させ、現れた気配を捉える。

 

「もらったよ!」

 

夜月の声が響くなか。

 

「・・・・・・!」

 

「そんなっ!?」

 

夜月の凪ぎ払った鏖殺公(サンダルフォン)を避けた。

そして。

 

「はああっ!」

 

「ぐぅっ!!」

 

夜月の背後を取り、鉄砕牙で斬り着ける。

しかしそれはギリギリのところで鏖殺公(サンダルフォン)で受け止められた。

 

「なんでわかったの!?」

 

驚愕の表情を浮かべる夜月の周囲には絶滅天使(メタトロン)の天使が浮いていた。

 

「空気の流れと気配、あとは勘かな?」

 

「それだけで!?」

 

「まあ、伊達に知智お姉ちゃんに稽古を付けてもらってる訳じゃないよ」

 

そう言うと強く踏み締め、その反動で後ろに下がった。

 

「くっ・・・・・・!まだ闇の魔法(マギア・エレベア)も使ってないのにこんなに強いなんて・・・・・・!」

 

「夜月こそ強いよ。僕とここまで打ち合えるなんて・・・・・・管理局に入ったらランクはSSSじゃないかな?」

 

「レイくんにそう言ってもらえると嬉しいな」

 

「じゃあ、ここからは手加減無しで」

 

「ええ」

 

鉄砕牙を仕舞い、眼を閉じて集中し。

 

「―――右腕(デクストラー)解放固定(エーミッサ・スタグネット)千の雷(キーリプルー・アストラペー)左腕(シニストラー)解放固定(エーミッサ・スタグネット)千年氷華(アントス・パゲトゥ・キリオン・エトーン)!」

 

カッと眼を見開いて術式詠唱を始める。

周囲を小さな雷が飛び散り冷気が漏れでる。両の掌には千の雷と千年氷華の魔力の塊がある。そしてそれを。

 

双腕掌握(ドゥプレクス・コンプレクシオー)!」

 

二つ同時に体内に取り入れる。

それと同時に、僕の身体から眩い輝きが辺りを照らし、蒼白く輝きはじめる。そして周囲は吹雪と放電の魔力余波が吹き荒れる。

 

術式兵装(プロ・アルマティオーネ)天雷氷華(ローズィリング・フルグラティオヘブン)!!」

 

終の術式詠唱を唱え、片手剣形態の凛華と澪菜の柄を握りしめる。

 

「これが僕の現在の切り札――――千の雷と千年氷華を闇の魔法で取り込んだ形態、―――それがこの、天雷氷華(ローズィリング・フルグラティオヘブン)

 

天雷(ローズィリング)・・・・・・(・・・・・・)氷華(フルグラティオヘブン)・・・・・・」

 

「能力は雷と氷属性の上級まで魔法無制限行使と雷速機動」

 

「っ!?」

 

僕の言葉に夜月は眼を見開いて驚愕した。

 

「じゃあ、私も今出せる本気を見せて上げるよ。ソラ、イリア、サポートお願いね」

 

〈あいよ!〉

 

〈はい!任せてください!〉

 

「―――我今ここに天と魔を融合し行使するものなり。我が魔術、七つの大罪のアーカイブ、傲慢(スペルビア)。そして傲慢のテーマ支配(インペル)にて、天使を実行する」

 

祝詞のような言葉を紡いでいく夜月からは凄まじい魔力が吹き荒れていた。

 

「―――天魔融合(ヘブンリィマギクティス)・・・・・・・・・・発動(アクティブ)

 

最後にそう告げると、夜月の服装が変わり白銀のドレスローブから白金のドレスローブに黒紫色の裾の長いコートを羽織り、セミロングのベージュ色の髪が虹色に変わりふわりとなびいた。そして足元には複雑怪奇な白黒の魔法円が構築されていた。

 

「これが夜月の天魔融合(ヘブンリィマギクティス)・・・・・・」

 

夜月の姿に驚嘆半分恐れ半分で視ていると。

 

「いくよ、レイくん?」

 

「っ!」

 

夜月がそう言うと、一瞬にして夜月の姿が視界から消え失せた。

 

「っ!?」

 

とっさに、ほぼ勘のような感じで夜月の両手に握るジュデッカとカイーナを受け止める。

 

「ソラ、やるよ」

 

〈おうよ!ぶちかましてやれマスター!〉

 

「うん」

 

受け止め、夜月が後ろに下がると夜月の足元に白黒の魔方陣が浮かび上がり。

 

「―――堕ちた天使の祝福(ダウンフォール・ブレッシング)

 

黒い砲撃が放たれた。

 

「っ!?―――術式解放(エーミッタム)精霊の破重閃風(スピリトゥス・エルブレイクス)!」

 

対するこっちも虹色の砲撃を放つ。

夜月の黒い砲撃と僕の虹色の砲撃がぶつかり、衝撃波が発生する。

 

「くっ!」

 

「うっ!」

 

威力はほぼ互角と言ったところか、どちらも拮抗していた。

そしてそこに。

 

「なら―――イリア、いくよ!」

 

〈はい!夜月ちゃん!〉

 

聖天使の極光爆(セラフィカル・ライトブレイクス)!」

 

「っ!聖良!」

 

「《うん!魔力集束完了!》」

 

「了解!凛華、カートリッジロード!集束魔力砲ミストルテイン!」

 

《ええ!カートリッジロード!》

 

砲撃形態の凛華のカートリッジを4発ロードして正面に金色の複雑な魔方陣を書き出す。

 

「―――発射!」

 

放たれた高密度の魔力砲撃は一直線に夜月の放った同じく高密度の魔力砲撃の聖天使の極光爆(セラフィカル・ライトブレイクス)とぶつかる。

 

「くっ!!」

 

「うっ!!」

 

二つの巨大な、高密度の魔力砲撃がぶつかりルームの床は放射状にひび割れ魔力余波で辺りが散々な状況になった。そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ごめんなさい、やり過ぎました」」

 

僕と夜月は正座して弓月さんと明莉お姉ちゃんに謝っていた。

 

「いくら模擬戦でもここまでやらなくてもいいでしょうが二人とも」

 

「まったくもお、まさかここまで破壊するなんて」

 

明莉お姉ちゃんの視線の先には半壊状態のトレーニングルーム跡があった。あのあと様々な遠距離からの魔法や近接戦闘で戦い、手加減なしの全力戦闘をしたのだ。

最後は明莉お姉ちゃんと弓月さんのストップで止まったが。

 

「うわ~、私たちとんでもない子達を育てちゃったのかしら」

 

「う、うん。弓月ちゃんと知智ちゃんはどっちも戦闘が得意だからね。その二人に教えてもらっているならこうなるのかな・・・・・・」

 

美咲お姉ちゃんと翼お姉ちゃんが半壊状態のトレーニングルームを修復しながらそう苦笑いで言うのが耳に入った。

 

「とにかく、二人とも仲良くね」

 

「うん」

 

「ええ」

 

「よろしくね夜月」

 

「ええ、私もよろしくレイくん」

 

 



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夏祭りと思い出

 

~零夜side~

 

みなさんこんばんわ。今作の主人公の天ノ宮零夜です。さて、みなさんは夏と言えば何を想像しますか?海や旅行、プールに肝試し、そして学生は夏休みの課題、など色々ありますね。

そんな夏休みもあと半月の僕らは今、地元の海鳴市で開催されてる夏祭りに来ています。

 

「た~まや~~!」

 

「はは。まだだよ聖良。まだ花火が射ち上がってないからね。それは花火が射ち上がってから言うものだよ」

 

「そうなのお兄ちゃん?」

 

「うん」

 

間違った覚え方をしている聖良に苦笑しながら正しい知識を教える。大方、はやて辺りが間違った知識を教えたんだと思うけど。

聖良に正しい知識を教えていると隣から。

 

「あはは。相変わらずレイくんは聖良ちゃんに甘いね」

 

「そうかな夜月?」

 

「ええ」

 

浴衣姿の夜月が微笑みながら言ってきた。

ちなみに、聖良たちもちゃんと浴衣姿です。浴衣が何処にあったのかと言うと、自宅の倉庫にありました。

夜月と喋っていると。

 

「お、マスターたこ焼きがあるぜ!」

 

同じく浴衣姿のソラが興奮気味に言った。

 

「ほんとね。はい、ソラ幾つかたこ焼き買ってきたらどう?」

 

そう言うと夜月は手提げからお金を取り出してソラに渡した。

 

「サンキューだぜマスター!イリアも行こうぜ!」

 

「え!?ちょっ!?ソラ~?!」

 

戸惑うイリアを無視してソラは浴衣姿のイリアの手を引っ張って屋台のたこ焼き屋に駆けていった。

 

「イリアはソラに引っ掻き回されてて大変だね」

 

「まあ、イリアも楽しそうだからね。ソラもさすがに滅茶苦茶なことはしないから」

 

「はは。ジュデッカとカイーナは?」

 

「あの二人は・・・・・・」

 

夜月が見る先には。

 

「ジュデッカ、勝負です」

 

「いいでしょう。負けませんよカイーナ」

 

「こちらもです」

 

金魚すくいの屋台で何か対戦している、同じく浴衣姿のジュデッカとカイーナの姿があった。二人とも人型になったのね。

 

「あはは・・・・・」

 

金魚すくい勝負をしている二人を視て乾いた笑みを出す。

そんなところに。

 

「なんや、二人とも。まるで夫婦みたいやな」

 

浴衣姿のはやてがやって来た。

夜月と弓月さんのことに関してはあの模擬戦が終わったあとはやてたちに伝えてある。僕と同じ人間だと伝えたため、僕が転生者だと知っているはやてたちは夜月も転生者だとわかったみたいだ。一応、同じ女の子同士すぐになのはたちとも仲良くなったんだけど・・・・・・。

 

「え!?ちょっ!タヌキちゃん!?」

 

「ちょいまち!誰がタヌキや!?」

 

「?はやてちゃんのことだよ?」

 

何故かはやてのことをタヌキちゃんとたまに呼ぶ。

まあ、何故呼ぶのかと言うと、会ったときに一悶着というか、はやてがアリアさんとロッテさんの影響を受けて夜月に抱き付いたとか色々あったからです。

 

「なんでや?!私のどこがタヌキなん!?」

 

「え~、いや、だって・・・・・・ねぇ、レイくん」

 

「零夜くん!私タヌキなんかやないやよな!」

 

「あー、その、・・・・・・ゴメン、ノーコメントで」

 

「零夜くーん!!??」

 

夜月の言葉をフォロー出来なかった理由は、まあ、あれです。事実というかなんと言うか・・・・・・。

 

「私まだタヌキやないもん・・・・・・・タヌキやない・・・・・・」

 

しょぼんしてその場に座り込むはやて。まだってことはこれからなるってことなのかな?そう不安に思わざるをえなかった僕だった。

そこに。

 

「主はやて?」

 

「はやて?」

 

シグナムたちがやって来た。

 

「シグナム~、ヴィータ~!私タヌキやないやよな!違うよな!」

 

シグナムたちに泣き付くようにして必死に聞くはやてにシグナムたちは引いていた。

 

「零夜、これは一体」

 

「あ~、実はね」

 

アインスに先程の事情を説明し。

 

「なるほど・・・・・それで主はこの状態と」

 

「うん」

 

「安心してください主」

 

「アインス?」

 

「主がタヌキなのはみんな知ってますから」

 

「アインス~!?」

 

「あれ?」

 

『『『『(アインスが止めを指した)』』』』

 

アインスの言葉にそこにいたリインと聖良、澪奈を除く全員が同時にそう思った。

 

「アインス、主はやてに止めを指してどうする」

 

「あ!」

 

「まあ、アインスはおっちょこちょいだからな」

 

「妹のリインちゃんもそれを引き継いでますからね」

 

「似た者同士」

 

「あの~、アインスたちみんなはやてを気に掛けてあげて、ね」

 

はやての方を見るとはやてはもう影というより闇が落ちたかのような雰囲気を周りに出していた。

それを必死に宥めるリインと聖良と澪奈。

 

「はやてちゃんどうしたんですか?」

 

「はやてちゃんはタヌキじゃないから大丈夫でよ!」

 

「そうだよ!」

 

「リイン~!聖良ちゃん、澪奈ちゃん~!!」

 

泣くほど悲しかったみたい。純真無垢な三人にはやては抱き付いた。あ、今更だけど、リインはちゃんと人間形態で何時もの30センチほどじゃなくて聖良と同じ背の高さです。

そんな光景に苦笑をまたまた溢していると。

 

「なにやってんのよアンタたちは」

 

「あはは。目立ってるよ」

 

赤い浴衣姿のアリサと青紫色の浴衣姿のすずかがやって来た。

あ、今更だけどはやての浴衣の色はアイボリー色で僅かに黒も混じっています。シグナムは紫の、ヴィータは濃い赤、シャマルは碧色の、ザフィーラは珍しく狼姿ではなく人型で紺色の甚平姿で、アインスは黒銀色の、リインは白と空色の混ざった浴衣だ。はやて曰く、夏祭りと言うたらそりゃ浴衣やろ。とのことだ。

シャマルは似合いすぎて、リインは聖良や澪奈と同じく可愛らしく、シグナムは動きにくそうだ。ヴィータは気に入ってるのか嬉しそうで、アインスは着なれてないからか裾を直したりしている。そんな中ザフィーラはかなり似合っていた。というより、似合いすぎてる。褐色色の肌に紺色の甚平姿、そこに団扇やらなんかを持っていたら違和感が全くないと思う。

 

「あ、アリサちゃんとすずかちゃん」

 

「こんばんわ夜月ちゃん。似合ってるよその浴衣」

 

「えへへ。ありがとうすずかちゃん。すずかちゃんも浴衣姿似合ってるよ。ね、レイくん」

 

「え、あ、うん。似合ってるよすずか」

 

「ありがとう零夜くん////」

 

「ちょっと、あたしにはなんかないの?」

 

「アリサももちろん似合ってるよ」

 

「なんか取って付けたような言い方ね。まあ、いいわ。ありがとう零夜」

 

頬が少し赤いすずかとツーンとそっぽを向きながらも微妙に顔が赤いアリサに首をかしげていると。

 

「なるほど。レイくんは朴念仁の唐変木と」

 

「ん?」

 

夜月が何か言ったような気がした。

 

「そう言えば明莉さんたちは?」

 

「ああ、お姉ちゃんたちなら・・・・・・・」

 

アリサの言葉にこの場にいない僕と夜月のお姉ちゃんたちの言っていたことを思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前 天ノ宮家

 

 

「じゃあ、私たちはちょっと向こうの方にいってるわね」

 

「うん。気を付けてね弓月姉さま」

 

「大丈夫ですよ夜月ちゃん。用件は知智のゼウスさんへのお説教ですから」

 

「そ、それはそれで大丈夫なのかな」

 

「それじゃ行ってきます」

 

「「行ってらっしゃい」」

 

現れた純白の扉を潜って向こうに行くお姉ちゃんたちを見送る。

明莉お姉ちゃんたちが消えると、スゥと扉は溶けていった。

 

「それじゃ僕らも着替えてお祭りに行こうか」

 

「ええ。みんなの着付けは任せてね」

 

「お願いね夜月」

 

「うん。レイくんもやってあげようか?」

 

「ぼ、僕はいいよ」

 

「遠慮しなくていいんだよ?」

 

「い、いや、遠慮とかじゃなくて・・・・・・ってなにその浴衣・・・・・・?」

 

「一度レイくんに着せてみたかったんだ~」

 

「!?」

 

夜月が何処からか取り出した白銀と黒の混じりあった浴衣を取り出してきた。

 

「え、ちょ、夜月、まさかそれを僕に着せたりなんて・・・・・・」

 

にじり寄ってくる夜月に逆に恐る恐る下がりながら聞く。

 

「うふふふ。逃げられないよレイくん」

 

「え!?」

 

夜月の言葉に一瞬驚くと。

 

「すみませんマスター」

 

「零夜くん、逃げないでくださいね」

 

紅葉と凛華が僕の細腕を握りしめていた。というかいつの間に!?

 

「あ、あの、もしかして・・・・・・」

 

「はい、私たちも零夜くんの浴衣姿が見たいのです」

 

「ちなみにこれは明莉お姉さんたちも満場一致でしたマスター」

 

「ホワッツ!?」

 

「何故英語なのかは置いといて・・・・・・それじゃあ、いくよレイくん」

 

「え、ちょっ、ま、まって夜月」

 

「ん~、ごめん、無理。それじゃあいただきます」

 

「え!?なに!?食べられるの!?」

 

「凛華ちゃん、紅葉ちゃん!しっかりレイくん押さえていてね」

 

「はい」

 

「かしこまりました」

 

「え!?ちょっ!?いやぁぁぁぁぁ~~~!!」

 

そこから先の記憶はない。

女の子のような悲鳴をあげたあと、再び眼を開けると僕は夜月の着せたと思わしき浴衣を着ていた。さらに言うと聖良たちも着終わっていた。またまたさらに言うと、夜月の表情はやりきった、というような表情で肌がツヤツヤしていた。うん、一体夜月キミは僕に何をしたんだい??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまあそんなことを思い出しながらいて今。

 

「あ、あははは・・・・・・」

 

「だ、だから零夜浴衣なのね。似合ってるけど・・・・・・」

 

「いやいや、これは似合いすぎてるで」

 

「でしょ」

 

「うん」

 

はやてと夜月がグッと手を握りしめ、すずかとアリサは同情半分、呆れ半分となんとも微妙な表情をしていた。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜と夜月たちが海鳴市のお祭りを楽しんでいるその頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~明莉side~

 

「さて、お父様(ゼウス)なにか申し分はありますか?」

 

「あ、いや、あのだなアテナよ」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「何故わしは正座させられておるのじゃ・・・・・・?」

 

「あら貴方(ゼウス)なんで正座しているのか分からないと?」

 

奥様(ヘラ)の言うとおりですね」

 

ど、どうもこんにちは零夜くんのお姉ちゃんにして日本神話の主神、天照大御神(アマテラス)こと天ノ宮明莉です。今わたしは(ガブリエル)知智(アテナ)美咲(アフロディーテ)弓月(アルテミス)と一緒に天神庭園(アルカディアムガーデン)にある一区画、ギリシャ神話のオリュンポスエリアに来ています。来ている理由は、えっと、なんと言ったらいいのでしょうか。今目の前では、知智とそのお母さんメティスさんと正座させられてるゼウスさんの奥さん。あ、第一婦人って言ったらいいのかな・・・・・・それとも本妻?まあ、とにかくゼウスさんの奥さんの一人ヘラさんがゼウスさんにお説教しています。一応、ゼウスさんはギリシャ神話の主神にしてオリュンポス十二神の一柱なのですが、今のゼウスさんは主神として威厳が全くないです。寧ろ、浮気がバレて嫁に怒られてると言った方が正しいのかもしれないです。まあ、ゼウスさんがお説教されるのはしょっちゅうありますからね。

え~と、ではみなさんにこの天神庭園について説明しますね。天神庭園は、各神話の神たちが住まう空間で、それぞれわたしが主神を務める日本神話、今目の前でお説教されてるゼウスさんが神話のギリシャ神話、他にもオーディンさんが主神の北欧神話や、クトゥルフ神話やローマ神話などなど、様々な神話の神々が住んでいるのです。基本、神々は地上。つまり、下界には手は出さないのですが何かしらの問題があったときは介入します。他にも、死んでしまった人を転生させたりなど多岐にわたりますね。そして神々がには眷族という特別な力があります。眷族とはその神の家族みたいになることですね。もちろん、眷族を持った神はキチンとその役目を果たさなくてはなりません。役目とは、高圧的に接するのではなく家族のように接し、地上に影響がないようにします。まあ、眷族を持たない神もいますが。その中で、わたしは零夜くんがはじめての眷族と言うことでかなりここで騒がれました。なにせ、わたしは過去一度も眷族を持ったことがないからです。主神にして珍しいと言われてましたね。他にも、知智や美咲、翼はもちろんのこと弓月も夜月ちゃんがはじめてです。まあ、眷族を持ってる神はあまりいませんが。とまあ、天神庭園や私たちに関してはこんな感じですね。

さて、知智たちは・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「あ、あら?」

 

再び知智たちに眼を向けるとそこには屍のように延びてるゼウスさんの姿があった。死んでないですよね?あ、神だから死ねないんですよね。いや、神を殺す・・・・・・いえ、滅ぼすと言った方がいいのでしょうか、神滅武装と言うものは有るにはあるのですがあれは何かしらの問題があったときに使用するもので、主に邪神が現れた際に使用しますね。ではなくて。

 

「い、一体なにがあったのです?」

 

ホンの少しだけ目を離した隙に何故かゼウスさんが延びていてわたしはかなり驚いている。悲鳴も聞こえなかったけど・・・・・・・あ、神霊結界使ったのかな?

 

「あら、アマテラスさん」

 

「ヘ、ヘラさん、なぜゼウスさんが延びてるんです?そしてその手にある槍は一体・・・・・・?」

 

「ああ、これはこの人がまた浮気をしていたからよ」

 

「またですか!?」

 

ヘラさんの浮気という単語にわたしはすっとんきょうな悲鳴をあげた。

 

「ええ。しかも娘にアルテミスが下界にいるってこと事態教えてなかったみたいだし」

 

こんどは赤い鎌を持ったメティスさんが言った。

 

「まあ、この人のことは放おっておいて。アルテミスの初めての眷族とアテナの弟について聞きたいわ」

 

「ええ。私も聞きたいですね。折角ですから今日は女神同士楽しく過ごしましょうか」

 

「そうですね」

 

そう言い、わたしたちはその場から立ち去った。

あとに残ったのは倒れたままで屍のようなゼウスさんだけだった。

 

~明莉side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

「ん?」

 

「どうしたの零夜くん?」

 

「いや・・・・・・なんでもないよなのは。(気のせいだよね)」

 

「???」

 

一緒いるなのはが怪訝な表情を浮かべるが僕は一瞬感じた魔力を気のせいだと割り振った。

 

「ところで零夜くん、話ってなにかな?」

 

「なのは。なのはに聞くよ」

 

「いきなりだね。なに?」

 

「―――なのはにとって魔法はなに?」

 

「え」

 

僕の質問になのはは歩くのを止めて僕を見た。

 

「なんでそんなこと?」

 

「答えて」

 

戸惑うなのはに僕は強引に聞くようにする。

 

「私にとっての魔法は――――――誰かを助けたい守りたい・・・・・・みんなに認めてもらいたい・・・・・・」

 

「・・・・・・そう」

 

なのはの言葉に僕は一言、そう一言言った。

 

「零夜くん?」

 

「なのは、君に魔法を教えた僕が言うのもあれなんだけど、あえて言うよ。なのは、君は何時か必ず後悔する日が来る」

 

「え・・・・・・」

 

「僕は君に後悔何てしてほしくない。けど、何時までもなのはがその魔法を使っているならいずれ後悔する日が来る」

 

「ど、どういうこと・・・・・・?言ってる意味が分かんないよ」

 

「いずれ分かるよ。何時か、その日が来たときにね」

 

「零夜くん」

 

「ごめん。折角の夏祭りなのに暗い話にさせたね。もう少しで花火が始まるからみんなのところに往こう」

 

僕はそう言うと、ピンク色の浴衣を着たなのはの手を優しく握って夜月たちのいる場所に向かった。

僕が何故なのはに言ったのかというと、夜月が教えてくれたからだ。夜月は原作の三期。つまりStrikerS編までのことを知ってるらしくいずれ起こることを教えてくれた。もっとも、この世界は原作とはかなりかけ離れてしまっているが。原作にはいない組織、天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)がそうだ。そして僕の部隊、特殊執務管理室第0課、通称特務0課。

だが、必ずしもそうだとは限らないとも教えてくれた。だから僕は念のために布石を打っておいたのだ。僕が居なくなっても夜月がいればなんとかなるはずだ。そう信じて。

そう思いながら歩いて、夜月たちと合流してしばらく待っていると。

 

 

ヒューン   ドーンッ!!

 

 

満天の星空に花火が打ち上がった。

 

「た~まや~!」

 

打ち上がった花火を見て聖良がそう言う。

 

「ふふ」

 

それを微笑ましそうに見ながら僕は心のなかでずっとこの日々が続けばいいなと、そう願っていた。

 

 

 

 

 

 

 



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聖王教会

 

~零夜side~

 

ある日僕らはミッドチルダ郊外の山岳地帯に仕事できていた。任務は凶悪な指定魔導犯罪者集団の捕縛だ。

 

「―――こちら特務0課室長の天ノ宮です。今から初手として範囲魔法を放ちますので放ち終えたら内部に突入、魔導犯罪者を捕縛してください」

 

指揮官の僕は目標が見渡せる場所で各部隊に連絡をして指示を出していた。

 

『『『『『了解!』』』』』

 

「夜月、聞こえる?」

 

『聞こえるよ~』

 

何故夜月が居るのかと言うと、夜月は管理局の僕の部隊に入ったからだ。更にいうと、夜月の魔導士ランクは僕と同じくオーバーSSSだ。試験を見たリンディさんやクロノたちはあんぐり状態で唖然していた。で、更にいうと夜月は僕たち、特務0課の副部隊長だ。

 

「無理しないでやってよ」

 

『うん。レイくんもね』

 

「わかってるよ。・・・・・・はじめるよ」

 

通信を一度切り、魔力を練り周囲に被害がいかないように調整する。もちろん、威力は元の威力の十分の一以下だ。目的は足止めと行動の阻害。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。契約に従い、我に従え、氷の女王。疾く来たれ、静謐なる、千年氷原王国。明けぬ夜、吹きすさぶ冬の嵐。咲き乱れ、舞い散れ、永遠の白き薔薇園!千年氷華(アントス・パゲトゥ・キリオン・エトーン)!」

 

放たれた最上級の凍結魔法は目標の内部から凍りついていった。もちろん、威力はかなり抑えてあるから食らっても後遺症とかない。さらに言うと、この氷は永久氷解の氷のため壊したりするのは困難だ。とまあ、そんなこと思っていると。

 

『こちら首都防衛隊のゼストだ。中にいた魔導犯罪者全員の捕縛を完了した』

 

共同で対処しているゼストさんから通信が来た。

 

「こちら天ノ宮。了解しました。ゼスト隊長たちはそのまま内部の調査を。夜月はゼスト隊長たちと同行。アリサとすずか、アリシアは陸士108部隊と外部の警戒及び残りのテロリストを捕縛」

 

『了解した』

 

『わかったよ』

 

『任せておきなさい!』

 

『うん!』

 

『わかった!』

 

『了解しました』

 

それぞれに指示を出して周囲の警戒を強める。

そこに。

 

「さすがだな。さすが管理局最年少で三佐になるだけある」

 

「いえ、こちらこそ。そちらの部隊の人たちの動きが速いので行いやすいです、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐」

 

僕の補佐なのかな。陸士108部隊の隊長のゲンヤ・ナカジマさんが称賛の声をかけてきた。夜月曰く、本来ならまだゲンヤさんは108部隊の隊長ではないそうなんだが、この世界では何故か隊長になっているそうだ。恐らくこれは僕が関係していると思う。まあ、それはさておき、そこに。

 

『こちら特務0課のアリサ・バニングス。西南より未確認飛行物体を確認。どうしますか?』

 

アリサからの通信が入った。

 

「未確認飛行物体?」

 

「あれじゃねぇか?」

 

ゲンヤさんとともに西南の方を見ると、そこには管理局の次元航行船に少し似た空中艦がこちらに接近していた。

 

「ゲンヤさん、あれの所属は分かりますか?」

 

「いや、俺もわかんねぇな」

 

「星夜」

 

「はい」

 

僕の声にすぐさま星夜が検索する。

少しして。

 

「少なくとも管理局の艦ではありませんわね。所属不明です」

 

そう答えた。

 

「ふむ。状況から考えるに魔導犯罪者たちの増援か?」

 

「恐らくは。撃ち落としましょうか?」

 

「ふむ・・・・・・」

 

ゲンヤさんと暫く相談していると。

 

「マスター、所属不明艦からなにかが来ます」

 

紅葉がそう言った。

 

「なに?」

 

「ん?」

 

見ると、艦のハッチと思わしき部分から複数の機械のようなものが飛び出していた。

 

「あれは・・・・・・」

 

「ロボットか?」

 

そう感じていると、そのロボットがこちらに攻撃してきた。

 

「なにっ!?」

 

「ふむ」

 

攻撃は張られていた障壁で霧散した。

 

「星夜、レジアス中将に増援要請。航空魔道士部隊と陸士部隊をそれぞれ1部隊ずつ申請」

 

「了解」

 

すぐさま星夜に指示をして通信を開く。

 

「全員聞こえますか?捕縛した魔導犯罪者は陸士108部隊が連行してください。ゼスト隊長たちは地上に下りたあの所属不明の機械人形を破壊、すずかは108部隊の人たちの護衛。アリサとアリシアは空であの機械人形を撃破、夜月も機械人形の破壊をお願い」

 

『『『『『了解!』』』』』

 

指示を出し終えると。

 

「零夜くん、レジアス中将からすぐに増援を寄越してくれるそうです」

 

「オッケー。ゲンヤさん、ここの指示をお願いします。僕はあれの対処を」

 

「おう」

 

「星夜と紅葉はここでゲンヤさんの護衛と援護を」

 

「はい」

 

「畏まりましたマスター」

 

そう指示をすると僕は凛華と澪菜のデバイス形態を持って空に上がった。ちなみに既に聖良とのユニゾンをしています。

 

「さて・・・・・・あんまり大きくないね」

 

間近で見た空中艦を見て僕はそう呟いた。

 

「それじゃまずはあの艦を墜とそうか」

 

そう言うや否や。

 

「全員、対魔法障壁を全力で張ってください。今からわたしが極大魔法を放つので」

 

冷たい声でそう全員に言った。

すると。

 

『ちょ!レイくんまさか雷系統のアレを使うの!?』

 

夜月の慌てた声が聞こえてきた。

 

「うん。あ、威力は調整するから」

 

『当たり前だクラッカーだよ!』

 

シリアスじゃなくなった!?

夜月の声にそうツッコミながら。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。契約に従い、我に従え、高殿の王。来たれ、巨神を滅ぼす燃え立つ雷霆。百重千重と重なりて、走れよ稲妻!」

 

威力を調整した雷の最上級魔法を構築する。

本来ならここで詠唱の終なのだが。

 

「四電より降り注げ、幾重にもかさなる雷轟を持ちて汝の敵を撃ち落とせ!」

 

追加の詠唱で空中艦を囲むように構築された魔方陣が現れる。

 

千の雷(キーリプル・アストラペー)四方電雷(テトラディカウム)!」

 

放たれた千の雷・四方電雷は四方から対象の空中艦に命中し煙をあげて撃墜した。

まあ、中の人は死にはしないだろう。

千の雷・四方電雷の影響で空中艦の周囲にいた機械人形は連鎖で次々に爆発していった。

 

「対象空中艦の撃墜を確認。艦内部の人間の捕縛をお願いします」

 

『『『『『り、了解!』』』』』

 

「アリサ、アリシア、残りの残存兵力の無力化をお願い。夜月はこっちに来て」

 

そう言うと通信を切りゲンヤさんたちの居るところに戻った。

戻ると。

 

「噂通りおっかない魔法だな。あの規模の艦を一撃で撃墜かよ」

 

引きつり笑いを浮かべたゲンヤさんがそう言った。

 

「一応威力は調整しました。中の人は無事だと思いますよ。まあ、気絶はしてるでしょうが」

 

「おいおい」

 

冷や汗を流しているゲンヤさんを軽く見て。

 

「こちら特務0課。対象の空中艦の撃沈及び艦内部勢力の無力化を確認。あとは大丈夫ですか、レジアス中将」

 

レジアス中将との回線を開いて訪ねる。

 

『あ、ああ。あとはこちらが処理しておく』

 

回線を開くと唖然とした感じのレジアス中将が出てきた。

 

「わかりました。それとあの機械人形を一機特務0課(こちら)で回収してもよろしいですか?」

 

『それは別に構わないが・・・・・・』

 

「ありがとうございます。何かわかりましたら連絡しますので」

 

『ああ』

 

「では、失礼します」

 

レジアス中将との回線を切り目の前の眼下を見る。

眼下には撃墜した空中艦と氷の氷原が広がっていた。

 

「ふむ」

 

指をパチンと鳴らすと、千年氷華の氷が跡形もなく虚空に消えていった。なぜ消えたのかと言うと、千年氷華の氷だけを分解して酸素と水素に変換したからだ。

それが終わると。

 

『こちらメガーヌ・アルピーノ。艦内にいた残党の捕縛を完了したわ』

 

「わかりました」

 

開いていたウインドウを消去して。

 

「みなさんお疲れ様でした。本日の任務はこれで終わりです」

 

そう全員に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上本部の局員たちと魔導犯罪者を捕縛した数日後。

 

 

 

「聖王教会?」

 

「そうや。実はなそこで仲良くなったお姉さんが零夜くんに興味を持っててな」

 

特訓中の休憩の最中はやてからそう言われた。

 

「出来れば零夜くんに紹介したいんよ」

 

「ふぅ~ん」

 

聖王教会という組織に僕は微妙な表情を浮かべた。

以前調べたときに聖王教会の上層部と管理局上層部が極秘に繋がって何かをやっていたのを見つけたからだ。一応、聖王教会と管理局は友好関係にあるが、その裏では非人道的なことをやっている。

 

「(警告を入れる意味でもこれはいいかもね)」

 

少し考えながら思考を巡らせる。

 

「まあ、別にいいけど」

 

「ほんまか?!」

 

「うん」

 

「なら、このあとでもかまへん?!」

 

「まあ、いいけど」

 

こうして僕ははやてとともに聖王教会に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖王教会

 

 

 

「はい、やって来ました聖王教会」

 

「誰に言うてんの零夜くん?」

 

「ん?読者のみんなにだけど?」

 

「それはメタ発言にならんの!?」

 

「さぁ?」

 

そんな軽い漫才をして。

 

「それではやて、来たのはいいけどこのあとどうするの?」

 

「確か迎えが来るはずなんやけど・・・・・・」

 

はやてがそう言うと。

 

「お待たせしました」

 

後ろから声がした。

 

「ん?」

 

「あ、シャッハ!」

 

「ご無沙汰してます騎士はやて」

 

「せやな」

 

「騎士はやて、そちらがひょっとして・・・・・・」

 

「せや、天ノ宮零夜くんと妹の聖良ちゃんや」

 

「はじめまして、天ノ宮零夜です。こっちは妹の聖良」

 

「はじめまして」

 

シャッハと呼ばれた女性に僕は聖良と一緒に自己紹介する。聖良が何故居るのかというと、聖良に視たことない風景を見せてあげようと思ったからだ。ちなみに凛華たちさ地球の家の方で明莉お姉ちゃんたちと一緒にいる。

 

「はじめまして、私は聖王教会修道騎士のシャッハ・ヌエラといいます」

 

差し出された手を握り握手を交わす。

 

「それじゃあシャッハ案内頼んでもええか?」

 

「はい。ではこちらに」

 

僕らはシャッハさんの後ろを付いて行き、聖王教会のなかに入った。

シャッハさんに案内されある部屋に通されるとそこには二人の男女がいた。

 

「はじめまして、聖王教会騎士団所属の騎士。カリム・グラシアと申します」

 

「はじめまして、天ノ宮零夜です」

 

「天ノ宮聖良です」

 

「今日はお忙しいなか来ていただきありがとうございます」

 

「いえ。―――で、一つ良いでしょうか」

 

「なんでしょう?」

 

「入ったときから気になってたんですけど・・・・・・」

 

騎士カリムから視線をずらしてその隣の、優雅にティーカップに淹れられた紅茶を飲んでる男性に移す。というか、超知ってる人だし。

 

「―――なんでクロノがここにいるのさ!?」

 

そう、クロノが何時ものバリアジャケット姿で座っていた。

 

「僕と騎士カリムは友人だ。一緒にお茶を飲んでいてはおかしいか零夜?」

 

「いや、友人なら可笑しくはないけどさ、これって浮気とかにならないの?」

 

「ぶほっ!な、ななな、何故浮気の言葉が出るんだ!?」

 

「え?だってクロノ、エイミィさんと付き合ってるんじゃないの?」

 

「そんなわけあるか!」

 

「あら、違ったんですか?」

 

「騎士カリム!?何故君まで?!」

 

「クロノ君、さすがに浮気はあかんよ」

 

「女の敵ですね」

 

「クロノ君、浮気してるの?」

 

僕に続いて、騎士カリム、はやて、シャッハさん、聖良がクロノに非難の視線を向けて言う。

 

「はあ、それでなんで聖良まで連れてきたんだ零夜?」

 

「ん?ダメだった?」

 

「いや、別に僕は良いと思うが・・・・・・」

 

「問題ありませんよ」

 

「―――だそうだ」

 

「うん」

 

肩を竦めて言うクロノに普通に返す。

 

「シャッハ、みなさんに紅茶を」

 

「はい、騎士カリム」

 

騎士カリムの言葉にシャッハさんがすぐさま僕らの分の紅茶を淹れてくれた。

そのあとは他愛ない話をしたり、僕とクロノを除いた女子同士で楽しそうに話をしたりした。ちなみに、超久しぶりに女の子と間違えられました。うん、これは慣れないよねホント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――はずだったんだけど。

 

 

「さあ、早く構えてください」

 

「どうしてもやるんですか?」

 

「はい!」

 

僕は聖王教会内部にある訓練施設でシャッハさん・・・・・・いや、騎士シャッハと対峙していた。

ことの発端ははやての言葉で・・・・・・。

 

「シャッハ、さっきから零夜くんと戦いたくてうずうずしとらん?」

 

「!?そ、そんなことは・・・・・・・・・・・・・はい」

 

「シャッハがそこまでうずうずするなんて珍しいわね。やっぱり、彼がオーバーSSSランクの魔導士だからかしら?」

 

「それもありますが、零夜さんの魔法にも興味があります」

 

「なら、実際に戦ってみればいいだろう」

 

「は?」

 

クロノの言葉に変な声を出してしまったがそれが正しいと思う。

とまあそんなこんなで僕が口を挟むまもなく突拍子で騎士シャッハとの決闘が行われようとしていた。

聖良ははやてたちと一緒に観戦している。のだが。

 

「僕デバイス持ってきてないんですけど?」

 

そう、今日は今僕はデバイスを持ってないのだ。まあ、デバイス無しでも出来るけど。

僕がそう告げると。

 

「君はデバイス無しでも充分強いだろ!?」

 

クロノの声が聞こえてきた。

そこに。

 

「お兄ちゃ~ん!頑張ってぇ~!!」

 

聖良の応援が入った。

うん、これは。

 

「よし!聖良にそう言われたら兄として負けるわけにはいかないね!」

 

拒否れないね。

 

「クロノ執務官、はやて、彼はもしかして俗にいう・・・・・・」

 

「そうやでカリム」

 

「ああ。零夜は・・・・・・」

 

「「誰もが認めるシスコンだ(なんや)!」」

 

「そ、そうなんですか・・・・・・」

 

はやてとクロノ、騎士カリムの声が聞こえてきたが気にしない。

 

「それじゃ始めましょうか騎士シャッハ」

 

「あ、いえ、ジャケットは・・・・・・?」

 

「問題ありません。騎士シャッハの攻撃は僕の身体に当たりませんから」

 

「???」

 

怪訝な表情と、少しムッとした表情で僕を見る騎士シャッハ。

 

「それじゃ、行きますよ!」

 

騎士シャッハは自身のデバイス、ヴィンデルシャフトを構えて向かってくる。

 

「(あのデバイス、双剣・・・・・・・いやトンファー型かな?形状から見てカートリッジシステム搭載のアームドデバイス。つまり、騎士シャッハの使用術式はベルカ式)」

 

そう冷静に分析していると。

 

「はああっ!」

 

騎士シャッハが距離を詰め右のデバイスから横凪ぎを仕掛けてきた。

対する僕はなにもしなく、そのまま騎士シャッハの攻撃が当たるかと思われたその瞬間。

 

「!?」

 

僕の目の前に多重魔方陣が展開され騎士シャッハの攻撃を防いだ。

 

「な!?なんですあの魔方陣!?」

 

騎士カリムが驚く声が聞こえる。

対するはやてとクロノは苦笑いを浮かべていた。

 

「くっ!」

 

攻撃を防がれた騎士シャッハはさらに攻撃を仕掛けてきた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

仕掛けてきた攻撃を僕は無表情ではなく、口角を少しだけあげる。

 

「か、固い!」

 

「もう終わり?なら、今度はこっちから行くよ」

 

そういうや否や、僕は周囲に軽く百を越える魔方陣を展開した。

 

「!?!?」

 

「―――魔法の射手・連弾・精霊の369矢(サギタ・マギカ・セリエス・スピリトゥス)

 

終の術式を言うと、魔方陣から雨のように次々と魔法の射手が騎士シャッハに向かっていく。

 

「っ!」

 

高速で飛んでいく魔法の射手を騎士シャッハはギリギリのところで避ける。

 

「まだまだ行きますよ~」

 

「!?」

 

避ける騎士シャッハに容赦なくいい、さらに無詠唱の連槍を連続で放つ。

 

「ぐぅっ!!」

 

「ふむ」

 

膝を着く騎士シャッハを見て、攻撃の手を止める。

 

「あ、あのシャッハがこんな一方的なんて」

 

「しかも零夜のやつ、かなり手加減してるな。一歩も動いてないし」

 

「そうやね~。陸戦AAAランクのシャッハでもこうもあしらわれるとはなぁ」

 

「頑張ってお兄ちゃ~ん!」

 

観客の聖良たちの声を聞きながら騎士シャッハに声をかける。

 

「まだ、やりますか騎士シャッハ?」

 

「当然です!」

 

「ふふ。その意気や良しです。では、それに敬意を表して少しだけ本気を出します」

 

「本気・・・・・・?」

 

そう言うと、今まで魔法攻撃だったのを近接戦闘、両手に断罪の剣を現出させて一瞬で騎士シャッハの懐に潜り揉む。

 

「な!?はやっ・・・・・・!?」

 

「若雷!」

 

両手を騎士シャッハのお腹に重ね合わせて衝撃波を放つ。

 

「ぐはっ!」

 

放たれた衝撃は騎士シャッハの身体を揺るがして後ろに吹き飛ばした。

 

「シャッハ!」

 

勢いよく吹き飛ばされ、ルームの壁に背中から激突した騎士シャッハを騎士カリムが心配して声をかける。

 

「あの~、大丈夫ですか騎士シャッハ?」

 

「は、はい・・・・・・なんとか」

 

治癒(クーラ)

 

騎士シャッハに治癒魔法を掛けて手を伸ばす。

 

「すいません、最後の方ほぼ手加減なしで放ちました」

 

「いえ・・・・・・こちらこそありがとうございました」

 

「今度はデバイスを使ってやりましょう」

 

「お手柔らかにお願いします」

 

握手をし再戦を誓っていると。

 

「教会騎士団でも指折りのシャッハをああも簡単に倒すなんて・・・・・・」

 

「あれくらいで驚くにはまだ早いとおもうでカリム」

 

「だな。零夜やつ、リミッター掛けたままだからな。しかも最後の攻撃以外全く動かなかったしな」

 

「リミッターを施してあの強さなのですか!?」

 

「まあな」

 

「さすが星戦級魔導士ですね・・・・・・あの強さならあの若さで左官に任命され三提督直属の部隊を率いるだけあります」

 

「ほんまや」

 

「まったく、まるで"魔王"、だな」

 

「魔王?」

 

「魔法の王や恐怖としてとかいろんな意味を合わせて魔王だ」

 

「魔王なぁ~・・・・・・魔王もそうやけど、星戦級やから、星戦と魔王を合わせて。―――星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)ってのはどうや?」

 

「星戦の魔王か・・・・・・いいかもな」

 

クロノたちの声が耳に入った。

というか星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)ってなにさ!?

そう心にツッコミつつ、近寄って抱きつきながらさっきの模擬戦のことを言う聖良の頭を撫でる。ここ最近、妹ができたからかかなり聖良や澪菜に過保護かも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました。また来てくださいね」

 

「ええ。今度はみんなできますよ」

 

あのあとはそのまま時間も時間な為帰ることになり今は聖王教会の裏口にいた。表でない理由は一般客がいるのと、僕がなにかしらと有名だから、だそうです。全く見に覚えがないのだけど?

 

「あ、騎士カリム」

 

「はい、なんですか?」

 

「ちょっと教会の上層部に言伝てを頼んでもいいですか?」

 

「言伝てですか?」

 

「はい」

 

はやてやクロノ、騎士シャッハが怪訝な表情をするが、騎士カリムは僕の気迫に押されてか背筋をピンっと伸ばしていた。

 

「―――手を出すのは構わないけれど、手を出すならそれ相応の代償を覚悟しなさい。もし手を出すならば私は地の果てまでも追いかけて貴公らを討滅しよう。全てを失う覚悟がないのなら無謀なことはしないようにしなさい、と」

 

僕の纏っている空気はオーバーSSSランクや一部隊を率いる者としてやらの圧倒的な空気を醸し出していた。

 

「は、はい、わかりました。一字一句違えずに伝えます」

 

騎士カリムは冷や汗を流して言った。

 

「お願いしますね。あ、それと」

 

「は、はい」

 

「僕は騎士カリム、あなたとは個人的な友好関係を結びたいと思ってますのでお願いしますね」

 

「ええ。私個人としてもあなたとは友好的な関係を結びたいと思ってますから」

 

「ええ。ではまた」

 

僕の台詞にはやてと騎士シャッハはなんの事か解らないようだったけど、言伝てをお願いした騎士カリムとは別にクロノにも思うところがあったようで僕の台詞を聞いて騎士カリム同様冷や汗を流していた。それを最後に僕と聖良、はやて、クロノは聖王教会を後にした。

 

 



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ジェイル・スカリエッティ

え~、コホン。どうもソーナです。
ここ最近悩みがあります。それは、A,s編が終わってから全く感想が来ないと言うことです!!
出来れば感想とか欲しいので、よろしくお願いします!


 

~零夜side~

 

ある日の休日、といってももう冬休みを迎え新年の始まりを迎えようとしているが。

そんなある日の夜。僕と夜月は転生者同士で話をしていた。

話の内容は今どうなっているかなど、原作の知識を持つ夜月に聞いてる。そんななか夜月からある名前が出た。

 

「ジェイル・スカリエッティ?」

 

「うん」

 

「ジェイル・スカリエッティって確か広域指名手配されてる次元犯罪者だよね?」

 

以前見た次元犯罪者のデータベースを思い出しそう答える。

 

「こっちの世界でもそうなんだ・・・・・・」

 

「ということは原作でも?」

 

「うん」

 

どうやらジェイル・スカリエッティという人は原作の世界でも、そしてこのIFの世界でも同じらしい。

 

「で、その人がどうかしたの?」

 

「あのね、私ジェイルさんを助けたいんだ」

 

「どういうこと?」

 

理解できずに夜月に訪ねると、夜月は原作での知識で教えてくれた。

曰く、ジェイル・スカリエッティは今から約10年後のStrikerS編の敵でそれと同じくナンバーズと呼ばれる女の人たちもいるらしい。で、その女の人たちは戦闘機人と呼ばれるものらしく並大抵の魔導士では相手にならないらしい。さらに言うと、原作ではSランクのゼストさんを一対一で倒したとか。で、そのジェイル・スカリエッティという人は管理局地上本部にいると思われる最高評議会という組織がアルハザードの技術を使って作り出した人造生命体、プロジェクト【アンリミテッド・デザイア―無限の欲望】の研究で作り出された存在らしい。

 

「―――なるほどねぇ。最高評議会の連中か黒幕は」

 

夜月の言葉で今まで辿り着けなかった黒幕の正体に辿り着けた。僕の調べでも管理局の上層部に影響がある人物としか分からなかったが、さすが原作の知識保持者。

 

「うん。だから今ならまだジェイルさんたちを助けられないかなって。それに味方にも出来るかもしれない」

 

「確かに。そんなにすごい人なら僕たちの陣営に加わればかなりの戦力になるかも」

 

今の僕が保持してる手札(カード)はミゼットさんたち三提督にレジアス中将やゼストさんたち一部の地上部隊、そして聖王教会の教会騎士団所属にして管理局の少将としての地位を持つカリム・グラシア。あとはマリーさんたち技術部、リンディさんやレティ提督たちだ。まあ、一応僕も特務三佐や星戦級魔導士としての地位もあるが。ちなみに夜月も星戦級魔導士の資格を保持してる。というより、半ば強引に付けられた。まあ、それは僕もなんだけど。

 

切り札(ジョーカー)はお姉ちゃんたちだけどお姉ちゃんたちの力は借りられないし」

 

「姉さまも、さすがにこの世界に干渉することは出来ないって。まあ、私たちがいることですでに干渉しているみたいだけど」

 

「あー、うん、確かに」

 

僕らというイレギュラーな存在のため、この世界では不確定要素が多数存在する。その中でも最大のイレギュラーが原作にも存在しなかったという天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)だ。

 

「でも、姉さまたちがいうには、この世界の切り札は私とレイくんだって言ってたよ」

 

「確かに、僕と夜月が闘ったら星一つは無くなるよね」

 

「全力でやればね」

 

「お姉ちゃんたちもこの世界に干渉するのは何らかの事態、邪神とかが出たときだって言ってたし」

 

「邪神・・・・・・ね。レイくんはその邪神についてどのくらい知ってるの?」

 

「え~と、神とか神聖なものが反転した存在で邪神がいると世界どころか次元すらも崩壊するってことぐらいかな」

 

「私も同じ。だから、邪神が現れた際は早急に、速やかに対処しなくてはならないって言ってた」

 

「でも、邪神なんて滅多に現出しないでしょ?」

 

「うん。何万年かに一度とかそんな割合だって」

 

「まあ、そんなのに出くわしたくないけどね」

 

「同感だよ」

 

僕と夜月は溜め息を吐いてそう願った。

 

「そう言えばどうしてなのはちゃんたちにレイくんの魔法教えたの?」

 

不思議そうな顔をして夜月がティーカップを片手に聞いてくる。

 

「最初は教える気は無かったんだけどね」

 

「そうなの?」

 

「うん。只でさえ僕の魔法は扱いが難しいから」

 

「この世界では、自分の魔力と周囲に漂うエレメントに干渉してるんだっけ?」

 

「うん。夜月の天使も霊力じゃなくて魔力でしょ?」

 

「ええ」

 

僕の魔法も然り、夜月の天使や霊装はこの世界に適応される形で成り立っている。

 

「そもそも明莉お姉ちゃんから教えてもいいって言っていたから教えたんだよね」

 

「どういうこと?」

 

「この世界は僕らが入り込んだことによってIFの世界でしょ?現に原作になかった敵や存在がいる」

 

「聖良ちゃんや研究会のこと?」

 

「うん。だから考えた。そして、なのはたちの今の魔法では何れ限界が来るって分かった」

 

まあ、それは僕が別次元の強さを持っているからというのもあるだろうが。

 

「まあ、そりゃそうでしょうね。レイくんの魔法は汎用性が高いし。防御にも攻撃にも、支援にも、回復にも適して万能だから」

 

「だから、少しでも自衛の為にね」

 

「ふぅ~ん。それで、なのはちゃんたちは使えるようになったの?」

 

「一応、上級までの一部は教えたし使えるようになったから使用許可は出したよ。但し、それは補助的なものだと考えてって言ったよ」

 

「補助的なもの、ね~」

 

「ん?」

 

半目で見てくる夜月に疑念の視線を向ける。

 

「いえ、レイくんの魔法は補助的というより主魔法になるんじゃないかなって」

 

「それは僕だけだよ。なのはたちは本来なら僕の魔法を使えないはずなんだけど、どんな因果かこの世界だと使えるみたいだけど。もっともなのはたちには適正属性ってのがあるみたいだし」

 

「適正属性?」

 

「うん。なのはとユーノなら風、はやてなら光と闇、フェイトとアリシアなら雷、すずかは氷と水、アリサは炎、クロノは氷ってね」

 

「・・・・・・あー。なるほどね」

 

何となく分かったのか夜月は納得したようにうなずいた。

 

「あ、レイくん一つ提案があるんだけど」

 

「なに?」

 

そのあと夜月の言った言葉に僕は驚愕するも同意し、明莉お姉ちゃんと弓月さんの協力もあって僕と夜月は――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヵ月後。

 

 

「ここは―――」

 

「戦闘機人プラント?」

 

僕と夜月は二人である世界にある戦闘機人プラントらしき場所に来ていた。すでに戦闘体勢は万全で、僕は聖良とのユニゾンは疎か凛華たちを装備、夜月はメイガスモードと霊装を合わせた霊魔装を着ていた。

 

「アリサちゃんたちがいなくてよかったね」

 

「だね。アリサたちにはまだ早い」

 

当たりに散らばってる、僕と夜月が破壊した機械の残骸を見て言う。

 

「アリサたちはまだここまで対応できないからね」

 

「ええ。それにしてもこの機械もしかして」

 

「たぶんそうだろうね」

 

僕と夜月がそういうと同時に。

 

「あら~?僕たちそんなところで何してるのかしら」

 

後ろから女の人の声がした。

 

「どうしたクアットロ――――ん?何者だ?」

 

「チンク?クアットロ?――――ん?」

 

さらに二人の声も。

 

「(夜月、後ろの三人ってもしかして)」

 

三人の声に僕は念話で夜月に訪ねる。

 

「(うん。恐らくナンバーズ3のトーレ、ナンバーズ4のクアットロ、そしてナンバーズ5のチンク)」

 

念話で意思疏通をしていると。

 

「おい、聞こえてないのか?お前たちこんなところで何をしている?」

 

チンクと思わしき声が再度聞こえてきた。

僕と夜月は目線で意思疏通をして頷き。

 

「僕は時空管理局特務0課所属、特務官の天ノ宮です」

 

「同じく時空管理局特務0課所属、桜坂。あなた方こそここで何を?」

 

「管理局だと!?」

 

「おいクアットロ、特務0課ってまさか・・・・・・」

 

「ええ、恐らくあの特務0課でしょうね」

 

どうやら特務0課というのはかなり有名らしい。

 

「ああ、妄りに動かない方がいいよ」

 

僕がそう言うと。

 

絶滅天使(メタトロン)

 

夜月が天使、絶滅天使(メタトロン)を顕現させて、三人を囲むようにして飛び交い、砲口を三人に向ける。

 

「この状況ではどっちが優勢かわかるよね?」

 

「こんなもので私たちを止められると?」

 

「なら、これなら?」

 

トーレの言葉に僕は三人に濃密な殺気と魔力を放つ。

 

「「「っ!?」」」

 

「こ、これは・・・・・・」

 

「あんな子供がこんな・・・・・・」

 

「くっ・・・動けない・・・・・・」

 

まるで金縛りにでもあったように膝をつく三人。

 

「わかった?僕としてもあまりやりたくなかったんだけど。まあ、いっか。さて、僕たちの質問に答えてもらうよ」

 

「し、質問だと?」

 

「君たちの保護者、ドクタージェイル・スカリエッティはどこ?」

 

単刀直入に聞いた。

 

「な、なぜドクターを知って・・・・・・!」

 

「それは秘密だよ。トーレさん」

 

「!?」

 

「僕たちはジェイル・スカリエッティと話がしたい」

 

「話だと?」

 

「うん」

 

僕がそう言うと。

 

 

『ふむ。その年でトーレたちを膝まつかせるか。さすが最年少で時空管理局の左官になっただけあるね』

 

 

僕たちと彼女たちの間に空間ディスプレイが開きそこから一人の男が出てきた。

 

「まさか本人が出てきてくれるとは・・・・・・。あなたがジェイル・スカリエッティですね?」

 

 

『いかにも。わたしがジェイル・スカリエッティだ。君たちは?』

 

 

「ああ、失礼しましたね。僕は天ノ宮零夜、時空管理局特務0課所属の特務官です」

 

「同じく時空管理局特務0課所属の桜坂夜月よ」

 

 

『なるほど。君たちが管理局で噂のオーバーSSSの魔導士コンビ。―――星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)魔天使の女王(クイーン・オブ・マギアエンジェリック)か』

 

 

僕と夜月に付けられた二つ名を知ってるみたいだ。まあ、さすがに有名になりすぎたかな?

 

 

『まあ、構わないだろう。トーレ、クアットロ、チンクへの殺気らを納めてくれないかね?』

 

 

「話し合いを応じますか?」

 

 

『ああ、もちろん。但し、君たちに聞きたい』

 

 

「なんですか?」

 

出していた濃密な殺気と魔力を納めディスプレイに写るジェイル・スカリエッティに訪ねる。

そこで僕たちは予想外のことを聞かれた。

 

 

『君たちは―――天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)に属する者か?』

 

 

「なに?」

 

「え?」

 

ジェイル・スカリエッティの質問に僕と夜月は戸惑いの声を出す。

 

 

『すまないがこれだけは聞いておきたくてね。どうなんだい二人とも』

 

 

「・・・・・・天翼の終焉研究会は僕らの敵ですよ」

 

「同じく。私たちの部隊が追ってる組織ですね」

 

 

『嘘は吐いてないみたいだね。・・・・・・トーレ、彼らを私のもとに連れてきてくれたまえ』

 

 

「は!」

 

 

『では、後程会おうか。星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)、そして魔天使の女王(クイーン・オブ・マギアエンジェリック)

 

 

ジェイル・スカリエッティがそう言うとディスプレイが消え、僕らとトーレたち五人になった。

 

「まずは謝罪しておこう。すまなかった」

 

「え?」

 

「なぜ?」

 

「かの星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)魔天使の女王(クイーン・オブ・マギアエンジェリック)の噂は私たちにも届いている」

 

「かの者たちは魔王にして女王。この次元世界最強の二人とね」

 

「そして、たった二人だけの星戦級魔導士」

 

「我らの中でもそなたらに勝てるはずはない」

 

「先程の殺気と魔力でわかった。次元が違うとな」

 

「ドクターが言ってました。この二人は恐らくこの世界の希望なのだろうと」

 

「希望?」

 

「私とレイくんが?」

 

予め夜月から聞いていたトーレたちと態度が違い僕たちは戸惑う。

 

「(夜月、これってもしかして)」

 

「(うん。彼女たちから悪意が感じられない)」

 

「(また、世界が違うってことか)」

 

IFの世界だからか原作と違うみたいだ。

それからトーレたちとともに転移し、ジェイル・スカリエッティの居ると思われる場所に来た。

 

「ここは・・・・・・」

 

「着いてきてくれ」

 

チンクの後ろを着いていきしばらくすると。

 

「ようこそ。はじめまして星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)魔天使の女王(クイーン・オブ・マギアエンジェリック)

 

ドクタージェイル・スカリエッティが現れた。

 

「こちらこそはじめまして、ドクタージェイル・スカリエッティ」

 

「会うことができて嬉しいよ」

 

「わたしも同じさ。かの星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)魔天使の女王(クイーン・オブ・マギアエンジェリック)に対面してるんだからね」

 

なぜか知らないが好印象てきなジェイル・スカリエッティと握手をする。

 

「トーレ、クアットロ、チンクすまないが席を外して貰ってもいいかな?」

 

「わかった」

 

「は~い」

 

「了解した」

 

ジェイル・スカリエッティの台詞にトーレたちが返事をしてその場から立ち去る。

残ったのは僕と夜月、そしてジェイル・スカリエッティとその傍らに秘書のように立つ女性の4人だけとなった。ちなみに凛華たちはすでにデバイスの待機形態だ。

 

「まずは聞かせてもらおうか。君たちはあそこで何をしていたんだい?」

 

「僕たちに与えられた任務は戦闘機人のプラントと思われる場所の調査です」

 

「なるほど」

 

「それを私たちに言っても良いのですか?」

 

「ええ。大丈夫ですよウーノさん」

 

「なぜ、私の名前を?」

 

「ああ、それは・・・・・・」

 

夜月に視線を向けて。

 

「おいで―――囁告篇帙(ラジエル)

 

夜月は天使を顕現させた。

 

「私のこれは私が知りたいと思っていることを教えてくれます。いわゆる超々高性能な検索エンジンですね」

 

「それでわかったと?」

 

「ええ。それに、あなた方のことは・・・・・・」

 

今度は夜月が僕に視線を向けてきた。

 

「この本。いどのえにっきで筒抜けですから」

 

事前に展開しておいた特殊固有武装(アーティファクト)が一つ、いどのえにっきを見せる。

 

「まあ、それは置いといて。今度はこちらの質問です」

 

「ああ」

 

「彼女たちトーレは彼処で何をしていたんです?」

 

「彼女たちには君たちと同じく戦闘機人プラントの破壊をお願いした。そして、研究会の者が関わっているかどうか調べさせていたのさ」

 

「レイくん?」

 

「嘘は吐いてない。ジェイル・スカリエッティの言っていることは事実だよ」

 

夜月に確認を迫られ、僕はいどのえにっきからの回答を答える。

 

「私からいいかな?」

 

「どうぞ」

 

「そこにいるウーノさんも、トーレさんたちもあなたが作った戦闘機人で間違いない?」

 

「!・・・・・・さすがだ。そんなことまでわかるのか。確かに、ウーノをはじめ彼女たちはわたしが作った戦闘機人だ」

 

「目的は?管理局を滅ぼすため?」

 

「確かに、管理局にいや、正確には最高評議会の連中を滅ぼしたいと思っている。だが、調べていく過程ですべての元凶が研究会にあるとわかった。今のわたしの目的は研究会を潰すことだ」

 

「「!!?」」

 

慌てていどのえにっきを見るが、そこに記述されてるのは今ジェイル・スカリエッティが言った言葉と同じだった。

つまり嘘を吐いてないと言うことだ。

 

「君たちのことだ、当然わたしの事についても知っているのだろう?」

 

「ええ。最高評議会が行ったプロジェクト。プロジェクト名【アンリミテッド・デザイア―無限の欲望】その人造生命体、それがあなた、ジェイル・スカリエッティ」

 

「その通りだ」

 

ウーノも知っていたのかあまり変化は見られない。

 

「なら、これは知っているかい?―――プロジェクト【エターナル・ルーラー―永遠の支配者】」

 

「プロジェクト【エターナル・ルーラー―永遠の支配者】・・・・・・?」

 

聞いたことないプロジェクト名に僕と夜月は戸惑う。

 

「レイくん知ってる?」

 

「いや・・・・・・夜月は?」

 

「私も知らないよ」

 

「やはりかそうかい」

 

僕と夜月の反応にジェイル・スカリエッティは嘆息したように、予想通りだとでも言うような反応をした。

 

「ドクター、私も【エターナル・ルーラー―永遠の支配者】などというプロジェクトはじめて聞いたのですが?」

 

「ああ。すまないウーノ、君にも言うのを忘れてたよ」

 

「はあ・・・・・・」

 

「では、説明しよう。プロジェクト【エターナル・ルーラー―永遠の支配者】というのはわたしが作り出された【アンリミテッド・デザイア―無限の欲望】の対となるプロジェクトだ」

 

「あなたの?」

 

「ああ。【エターナル・ルーラー―永遠の支配者】の目的はそのプロジェクトの名の通り、変わらない今の世界の永遠な支配者を作り出すこと。それはわたしと同じくアルハザードの技術によって作り出された。そして作り出された存在のコード名は、ルフィア・エルヴァレスタン。そしてこのプロジェクトで生み出された人造生命体はわたしの妹だ」

 

「「「!?」」」

 

僕とウーノはともかく夜月までも驚いているということは原作にない展開なのだろう。

 

「無限と永遠。対をなすプロジェクト。わたしと彼女は、実際の血の繋がりはないが確かに妹だ」

 

「では、ドクター。ドクターが以前から行っている研究はもしかして・・・・・・」

 

「その通り。彼女、ルフィアを目覚めさせるためだ」

 

「どういうことです?」

 

「ルフィアは今は眠ってる。もう何年もね。彼女はプロジェクトの名の通り、永遠な支配者となるべく脳に過剰なデータを最高評議会の連中にインプットされた。そしてそれが原因で眼を覚まさなくなってしまったのだ。わたしは、妹を守るためにウーノをはじめとした彼女たちを作り出した。わたしはただルフィアが目覚めてくれればそれでいい。わたしのことを兄と慕ってくれる彼女の顔をもう一度見たいのだ。その為ならわたしは何にだって手を出す」

 

「もしかしてその為にプロジェクトFを?」

 

「それを知っているのか。・・・・・・ああ、プロジェクトF、記憶転写型クローン技術は元はと言えばそのためだった。しかし、基礎理論は出来ても上手くはいかなかった。プレシア・テスタロッサが行ったのと同じくね。もっとも、わたしはクローンを造り出しはしなかったが」

 

思い返すように言うジェイル・スカリエッティ・・・・・・長いからジェイルさんでいいか。ジェイルさんに僕はどこか似ているような気がした。そう思っていると。

 

「では、もしかしてこれまでの犯罪は・・・・・・・」

 

「ドクターはなにも悪いことはされてません!あなた方の知っているドクターの罪は最高評議会によるものです!」

 

「ありがとうウーノ」

 

「ドクター・・・・・・」

 

声を荒げたようにいうウーノをジェイルさんは手で制す。

 

「わたしから以上だ。それで、君たちはなぜわたしと話がしたかったんだい?」

 

「ドクタージェイル・スカリエッティ、我々特務0課はあなたをスカウトしに来ました」

 

「ほう」

 

「特務0課の後ろ楯は統幕議長をはじめとした三提督です。そして、僕と彼女は星戦級魔導士の称号を持ってます。更に言うと、僕と彼女は特務0課の室長兼部隊長と副部隊長です」

 

「!?まさかあなた方二人が特務0課を率いているとは・・・・・・」

 

「さすがのわたしも驚いてるよ」

 

「ええ。なので、外部の者はそう簡単に手を出せません」

 

管理局の上層部や高官は僕ら特務0課を恐れてるからだ。統幕議長直属の部隊にして、星戦級魔導士がいるからだ。

 

「ここでドクタージェイル、あなたには選択肢があります」

 

「選択肢かい?」

 

「ええ。一つ目は、今のまま広域次元犯罪者として追われる身のまま過ごす」

 

「二つ目は私たちの元に来るか」

 

「そして三つ目は、僕らと協力関係を結び特務0課に属せず別々に行動する。もちろん、僕らは強制はしません。ドクタージェイル、あなたが選んでください」

 

僕と夜月はそれぞれ交互に言いジェイルさんに聞く。

 

「ふむ・・・・・・・・・・・・・・・・・ならば我々は第3の選択肢を取ろう」

 

「ドクター!?」

 

「落ち着きたまえウーノ。今は、だよ」

 

「つまり、後で僕たちの元に来ると?」

 

「ああ。その方が君たちにとっても我々にとっても今はまだいい」

 

「・・・・・・なるほど、確かにそうかもしれませんね」

 

ジェイルさんの言葉に僕はうなずく。確かに、今ジェイルさんたちが来たら恐らく特務0課にとっては痛手だ。何故なら、ジェイルさんは広域次元犯罪者だからだ。例え事実とは違っているとしても周りがそうとは思わないだろう。

 

「では、現時点では僕たちとジェイルさんたちは別々で動くということで」

 

「ああ」

 

「協力関係は結ぶということでよろしいですね?」

 

「それはこちらとしても願ってもないよ」

 

こうして僕らとジェイルさんたちの間に秘匿同然の協力関係が出来上がった。

そこに。

 

「―――レイくん、もしかしたら私の刻々帝(ザフキエル)ならルフィアさんを目覚めさせられるかも」

 

なにか思い付いたように夜月が言った。

 

「なに?」

 

「刻々帝?・・・・・・・・・・あ!四の弾(ダレット)!」

 

「うん!」

 

刻々帝の能力を思い出す。

 

「ジェイルさん、もしかしたらルフィアさんを目覚めさせられるかもしません」

 

「本当かいそれ!」

 

「確証はありませんけどやってみる価値はあるかと」

 

「わかった!ウーノ、彼らを連れてきてくれたまえ!」

 

「え?ちょ、あ、ドクター!?」

 

慌てたように飛び出してどこかにいくジェイルさんにウーノは眼をパチクリさせて戸惑う。

 

「あ、えっと、取り敢えずこちらへ」

 

「あ、はい」

 

「は、はい」

 

まあ、その戸惑いは僕らもなんだけど。

まあ、そんな戸惑いつつ僕と夜月はウーノに連れられて奥に向かった。

奥に向かうと、広い場所に出た。そこはあちこちに医療機械があり、すべてのコードが真ん中のベットに向かっていた。そしてジェイルさんがそのベットの傍に立っていた。

ベットの中には僕らとあまり変わらない少女が眠っていた。

 

「ジェイルさん、もしかしてその娘が・・・・・・?」

 

「ああ。わたしの妹だ」

 

生きてはいるのだろうけど仮死状態か植物状態。正直、見ていられない。これならジェイルさんが必死に目覚めさせようとするのも分かる。

 

「ジェイルさん、今から私がやることはルフィアちゃんの時間を戻すことです」

 

「時間を戻す?」

 

「はい。それで、ルフィアちゃんに過剰インプットされたことを無かったことにします」

 

「わかった。お願いする」

 

「はい。レイくん」

 

「うん。夜月、いける?」

 

「たぶん・・・・・・」

 

「僕も協力する。二人でやろう」

 

「うん」

 

ジェイルさんとウーノが少し離れるのを確認し、僕と夜月は魔方陣を展開する。

 

「おいで!―――刻々帝(ザフキエル)!」

 

夜月の背後に機械仕掛けの巨大な時計が現れ、両手に古式の銃が現れる。僕は夜月に魔力を流すため、夜月の左腕に触れる。

 

刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)

 

夜月の左手に持つ短銃から一発の弾丸が放たれ、ベットで眠ってるルフィア・エルヴァレスタンに命中する。

僕たちの予測通りなら、これでルフィアさんに施された過剰なデータをインプットされる前に戻したことになる。つまり、彼女はただの少女になるということだ。

 

「ぅ・・・・・・」

 

「夜月、大丈夫?」

 

「うん。でも、かなり魔力を持ってかれた」

 

「え!?」

 

僕と夜月の魔力は明莉お姉ちゃんと弓月さんのお陰でEXランクだ。いくら刻々帝の使用代償が魔力とはいえ夜月の魔力なら半分も減らないはずなのだが、今の夜月の魔力は半分を切っていた。というか、僕の魔力と掛け合わせて半分以下だ。つまり、ルフィアさんが眠ってから10年以上は経過しているということになる。

そう脳裏によぎらせてると。

 

「ん・・・・・・」

 

ルフィアさんから小さな、ほんの小さな声が聞こえた。

 

「っ!ルフィア!」

 

声が聞こえたのかジェイルさんはベットの端に駆け寄る。

 

「ルフィア!」

 

ジェイルさんの呼び掛けに答えるかのようにルフィアさんは眼をゆっくりと開けた。

 

「お・・・・・・にい・・・・ちゃん・・・・・・?」

 

「ああ、兄だ!もう大丈夫だからなルフィア!安心してくれ!」

 

「う・・・ん・・・・・・」

 

そう小さくいうと再びルフィアさんは眠りについた。いや、寝たきりだった身体が今ので限界だったのだろう。

ジェイルさんは顔をクシャっとさせて涙を流していた。そしてルフィアさんの手を握り「良かった・・・・・・本当に良かった!」と言った。

それを見て僕や夜月はもちろんウーノも目尻に涙を浮かべていた。それから数時間後。

 

「では、そちらに合流する際はこちらから連絡を入れよう」

 

「わかりました」

 

ジェイルさんはルフィアさんの検査やらをし、僕と夜月はウーノたちとともに時間を過ごした。

 

「それと、プレシア・テスタロッサに伝えてほしい」

 

「?」

 

「すまなかった、と」

 

「え・・・・・・」

 

「彼女の気持ちを知りつつあの、プロジェクトFを教えたことずっと後悔していた」

 

「わかりました」

 

「では、また会おうか零夜君、夜月君」

 

「ええ」

 

「はい」

 

そう言い、僕と夜月は転移でジェイルさんのアジトをあとにした。あ、ちなみにプライベートアドレスは教えてある。

それから本局に戻りミゼットさんに通信ではなく直接伝え、家に戻った。

その夜。

 

「夜月、あれは・・・・・・」

 

みんなが寝静まった深夜僕と夜月は話し合いをしていた。

 

「うん。この世界の歴史とかが少しおかしくなってる。原因は恐らく研究会、そして―――」

 

「僕たち」

 

「ええ。本来の歴史からかなり外れてるよ」

 

「このまま何もなければいいんだけど」

 

「そうね」

 

そう言って話していき夜が過ぎ去っていった。

 

 

 



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Reflection
夏休みのある日


 

~零夜side~

 

 

ジェイルさんたちとの会合から数ヶ月、学校生活を始め管理局での仕事やら多忙な毎日を過ごし、季節はもう夏。僕らの通う私立聖祥大付属小学校は夏休みに入っていた。すべての始まりの日からもう二年が経過し、学年は5年生。僕たちは充実した毎日を過ごしている。

 

「おはよう、夜月」

 

「おはよう、レイくん♪」

 

私立聖祥大付属小学校に夜月も去年の二学期から転入し、僕らはますます楽しい毎日を送っている。

 

「それじゃ、行こっか」

 

「ええ」

 

家がいつの間にか隣同士になっていた僕らは家からランニングを開始する。はじめてみたときは僕たち全員目が飛び出るほど驚愕した。

走りはじめてしばらくして。

 

「零夜!夜月!おはよう!」

 

「零夜くん、夜月ちゃん、おはよう♪」

 

「アリサ!すずか!」

 

「二人ともおはよう♪」

 

アリサとすずかと合流した。

そのまま4人で早朝のランニングをしていくと。

 

「おーいはやて~!」

 

海鳴海浜公園ではやてがいるのを見つけた。

 

「あ!零夜くん!夜月ちゃん!アリサちゃんとすずかちゃんも!」

 

「おはようはやてちゃん」

 

「ヤッホーはやて」

 

「おはよう♪」

 

「うん!なのはちゃんたちは」

 

はやてがそう言うと。

 

「噂をしたらほら」

 

左側からなのは、フェイト、アリシアが走ってくるのが見えた。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、おはよう!」

 

「みんな!もう来てたんだ」

 

「今来たところだよなのは」

 

「そうなんだ~」

 

「あ、今日は練習場ウチで準備してもらってるからな」

 

「ありがとうはやてちゃん」

 

「今日も頑張ろうみんな。ね、姉さん」

 

「うん♪今日も1日頑張っていこぉー!」

 

「「「「「「「おおーーっ!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八神家

 

 

海鳴海浜公園でなのはたちと合流した僕らはそのままランニングではやての家に向かって走った。

 

「ただいま~」

 

「「「「「「「お邪魔しまーす」」」」」」」

 

家主のはやてを先頭に僕らは八神家に入る。

 

「シグナム、ヴィータ、ただいま」

 

リビングにいくと、そこにはコーヒーを飲みながら新聞を読んでるシグナムと、テレビの天気予報を見ながら牛乳を飲んでるヴィータがいた。シグナムは本局の航空隊所属で、ヴィータは陸上隊所属だ。

 

「おかえりなさい、主はやて」

 

「「「「「「おはようございます」」」」」」

 

「あぁ、お前たちも」

 

「おはようシグナム、ヴィータ」

 

「おーす!おはようさん零夜」

 

「ふふ。ヴィータ、口元タオルで拭いた方がいいよ。面白いことになってるから」

 

「なっ!?」

 

赤面しながら慌てて口元を拭うヴィータにはやてたちはクスッと笑みをこぼし。

 

「ザフィーラもおはよう~」

 

「ああ」

 

八神家の守護獣ザフィーラにも挨拶をする。ザフィーラは相変わらずの狼姿だった。まあ、ザフィーラらしいって言ったらそうなんだけど。

そしてもう一人。

 

「おはようございます主はやて」

 

「あ!アインスもおはような!」

 

「はい」

 

台所からエプロンを着けたアインスがやってきた。

そして2階にいくと。

 

「おはようみんな。練習場の用意、出来てるわよ」

 

同じくエプロンを着た、本局医療部所属のシャマルが声をかけてきた。

 

「転送ゲートはこちら」

 

「「「「「「ありがとうございます」」」」」」

 

「ありがとうシャマル」

 

「おおきになシャマル」

 

「いいえ~」

 

「あ、ヴィータちゃんも一緒にやらない?」

 

「パース。あたしはもう出勤すんの」

 

「ええ~」

 

「シグナムも?」

 

「私もだよ。新装備のテストが忙しくてな」

 

「あー。そう言えば僕らも昨日新装備のテストで忙しかったっけ」

 

シグナムの言葉に僕は苦笑をして思い出した。

今管理局では、第3管理世界ヴァイゼンを中心に活動する総合メーカーC・W(カレドヴルフ・テクニクス)社に依頼したAEC武装のテストをしているのだ。AEC武装は魔力無効に対抗するために生み出された武装でCWXシリーズとも呼ばれている。そしてそのテストの主任が、本局技術部主任の―――――。

 

「昨日は大変だったわね~」

 

「ま、まぁ、マリーさんよりは大丈夫だったよ」

 

「あはは。マリーさん、結果的にレイくんが無理矢理眠らせたんだっけ?」

 

「無理矢理寝かせないと倒れるまでやるって言われてるみたいだからね」

 

「あはは」

 

その場にいる全員がマリーさんのことを知っているため微妙な顔になった。そこに空気を変えるためアインスが。

 

「あ、朝ごはんはもう出来てるから早く食べないと冷めてしまうぞ二人とも」

 

シグナムとヴィータに言った。

 

「む、すまんなアインス」

 

「おう。ほら、おまえらいいからさっさと行け~」

 

「さぁ、どうぞ~」

 

「それじゃあ」

 

「「「「「「「「行ってきまーす」」」」」」」」

 

シグナムたちにそう言って、僕らはシャマルの開けた扉の中に入った。

中に入った僕らはそこから練習場の空間へと転移した。まあ、正確には管理局の練習用空間を使ったのだが。

上空から降りて小島に着地する。

 

「今日は久し振りにこのステージにしてもらったよ」

 

今日のステージは僕となのは、フェイトにとってはとても懐かしいようなステージだった。何故なら。

 

「うん、ちょっと懐かしい感じ」

 

「懐かしいって?」

 

「あのねアリサ、このステージは二年前になのはとフェイトがガチンコ勝負をしたステージなんだよ」

 

「ちょっ!零夜!」

 

「零夜くん!?」

 

僕の言葉に当の本人のなのはとフェイトは気恥ずかしそうに顔を赤くする。

 

「まあ、僕の特殊固有武装(アーティファクト)も使ったけど。いや~、あのときのなのはのスターライト・ブレイカー初撃だったけどレイヤー建造物の大半が破壊されたからね~。さすが、白い悪魔」

 

「わ、私白い悪魔じゃないよ!?」

 

「いや、なのははあながち間違ってない気がするわ」

 

「アリサちゃん!?」

 

そんな何時もの会話を交わしていると。

 

「お兄ちゃ~~ん!!」

 

「聖良!」

 

ステージに予めいた聖良が抱きついてきた。

そしてさらに。

 

「待ちくたびれました零夜くん」

 

「ごめんごめん」

 

凛華たちもやって来た。

 

「それじゃあ、今日のトレーニングを始めようか」

 

「「「「「「「はいっ!」」」」」」」

 

「まずは、なのはとフェイトのタッグとアリサとすずかのタッグの模擬戦ね。それ以外は観客席で観戦しようか」

 

僕がそう言うと、なのはたちは飛行魔法でレイヤー建造物の方に飛んでいった。降り立った小島に残ったのは僕と聖良、そしてはやてだけになった。凛華たちは先に夜月たちとともに観客席に行ってもらってる。

 

「はやて、リインは?」

 

「まだ寝てると思うよ」

 

苦笑しながらそう言うと、はやては首から下げていた剣十字のペンダントを首からはずして。

 

「さあ、うちらも行こうかリインフォース」

 

ペンダントに向かってそう呼んだ。

すると、ペンダントから白い光の球体が現れ、そこから小人というより妖精のような。枕を持って寝巻きの姿でグッスリと眠っているリインフォースが現れた。

 

「あらら。ホントに寝てるよ」

 

「ふふ。リイン、朝やで」

 

「ふぇ」

 

はやての声に眠気眼を擦るリイン。やがて意識がはっきりしたのか、

 

「ふぁ!は、はい!はやてちゃん!」

 

直立不動の体制をとった。まあ、寝巻き姿と左手に抱える枕で可愛らしくなってるけど。

 

「ふふ、おはよう」

 

「おはようさん、リイン」

 

「おはようリインちゃん!」

 

「えへへ。おはようございます!」

 

元気よく挨拶をすると、リインの服装が寝巻きから私服姿に変わった。

そしてそれと同時にレイヤー建造物の方からは衝撃音やらが聞こえてきた。どうやら模擬戦が始まったみたいだ。

 

「私たちも行こうか」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

なのはたちのいる方に、はやてたちが飛んでいったのを見て僕も飛んでいこうとしたその時。

 

「ん?」

 

視界に通信のウインドウが開いた。通信先は。

 

「クロノ?」

 

今は、ここ地球の東京の新宿にある時空管理局東京臨時支局の支局長を勤めるクロノからだった。東京臨時支局が出来たのはつい最近のことで、支局の局員の大半はアースラの乗務員だ。クロノが支局長を勤め、エイミィさんが支局長補佐の支局主任を勤めてる。アレックスさんたちもオペレーターとしてそこに勤めている。まあ、僕もここ最近は東京支局の方に行ったりしてるけど。

 

「どうしたのクロノ?」

 

クロノからの通信を開くと。

 

『ああ、すまない零夜。ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?』

 

「ん?なに?」

 

『江戸川区で起きた今日未明の廃車場の爆発についてどう思う?』

 

「江戸川区の廃車場の爆発?」

 

『ああ』

 

朝のニュースで今日未明にそんなことがあったのを思い出す。

そしてニュースでの映像を見た僕は一つの考えを言う。

 

「・・・・・・・・・・たぶん、異世界渡航者の次元跳躍だと思う」

 

『やはりそうか』

 

「何かあったの?」

 

どうやらクロノも異世界渡航者だと思っているようだ。

 

『爆発のあった廃車場から工事車両らが無くなってるんだ。しかも、そこから未確認のエネルギー反応が確認されてる。まだ確証はないが・・・・・・・』

 

「そう・・・・・・一応、捜査官を手配した方がいいと思う。良かったら、特殊固有武装(アーティファクト)貸そうか?」

 

『いや、大丈夫だ。捜査官に関してはアルフとザフィーラに頼む手筈となってる』

 

「了解。何かあったら知らせて」

 

『ああ。リンディ次長たちにはまだ知らせないでおいてくれ。こっちで分かったら知らせる』

 

「わかった」

 

リンディさんが何故提督ではなく次長になっているのかと言うと、リンディさんが提督業を引いたからだ。

 

『それと、フェイトとアリシアに社会科見学楽しんでおいでと伝えてくれ』

 

「それは自分の口から言った方が良いと思うぞ、お義兄さん?」

 

『っ!!そ、それじゃ頼んだぞ!』

 

赤面した顔を映して、クロノは通信を切った。

 

「そう言えば、夜月がそろそろReflectionとDetonationだっていってたっけ?」

 

原作知識保持者の夜月から前に言われたそんなことを思い出しながら、未だに激しい模擬戦。というかもはや模擬戦ではなくなってる気がする模擬戦の行われてる場所に飛んでいった。

模擬戦が行われていた場所につくと。

 

「えぇ~・・・・・・・・・・・・・」

 

着くなり僕はそう声に出した。

何故なら、辺り一面倒壊寸前の建物だらけだからだ。しかも、凍りついていたり、炎が上がっていたりしている。

これを引き起こした、その当の本人たちはというと。

 

「勝てると思ったんだけどなぁ~」

 

「負けちゃったぁ」

 

「う~ん、くやしい」

 

「私も。行けると思ったのになぁ」

 

白い膜のようなものに包まれていた。

 

「一体なにがあったのよ・・・・・・」

 

ひきつり笑いを浮かばせてそう呟いた。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜月side~

 

 

 

降り立った小島からなのはちゃんたちと飛んでいる私は空で思いっきり伸びをした。

 

「ん~。気持ちいいね~」

 

「〈ずいぶん気持ち良さそうだな、マスター!〉」

 

「うん。やっぱ空を飛べるのって気持ちいいね」

 

「〈あ、それ分かる気がします〉」

 

首に掛けてる魔導書、アスティルの写本ことソラとイーリアス断章ことイリアと会話しながら、私は凛華ちゃんたちと観客席に向かう。

 

「あそこが観客席だね」

 

「ホントだ~」

 

アリシアちゃんと一緒に観客席に降り立ち、モニターを広げてなのはちゃんたちを映す。

画面には。

 

『いくよ、レイジングハート!』

 

《All right,master》

 

『バルディシュ!』

 

《Yes sir》

 

『いくわよ、フレイムハート!』

 

《Yes master》

 

『お願いね、スノーフェアリー!』

 

《Sure》

 

『『『『セーット!アーップ!』』』』

 

なのはちゃんとフェイトちゃん。アリサちゃんとすずかちゃんのペアに分かれ、それぞれ二対二で相対してバリアジャケットを展開。デバイスを起動させる。なのはちゃんたちは聖祥小学校の制服をモデルとした白と青をメインとしたバリアジャケットを着て、レイジングハートをエクセリオンモードで構える。フェイトちゃんは以前の露出の激しいレオタードのようなバリアジャケットから一転、黒を基調とした女性用の軍服のような服に、表は白く裏が赤いマントを羽織り、バルディシュは斧型になっている。対するアリサちゃんとすずかちゃんは、それぞれ炎のように真っ赤とは言わないが、淡い朱色のブレザーに白とオレンジを基調とした裾の短いジャケットを羽織り、ブレザーと同じく淡い朱色の少し短いスカートを着用してデバイスのフレイムハートを片手剣形態のヴォルカノフにしている。すずかちゃんは薄い青と淡い紫、白を基調にした白と淡い紫のドレスに似たワンピースに、その上にレイくんのバリアジャケットと同じ丈の長い薄い青いコートを着用していた。さらに長い髪をひとつ縛りにしてポニーテールにして動きやすい髪型をしていた。そして手にはスノーフェアリーを槍斧型のトリアイナにした姿があった。

4人がそれぞれバリアジャケットとデバイス展開を終えると。

 

『アリシアちゃん、夜月ちゃん、合図をお願い』

 

なのはちゃんが私たちにそういってきた。

 

「うん、わかった!」

 

「了解なのはちゃん!」

 

「それじゃあ・・・・・・」

 

「レディー・・・・・・」

 

「「ゴーー!!」」

 

私とアリシアちゃんの合図で4人とも動きだし模擬戦が始まった。

まず最初に動いたのはフェイトちゃんとアリサちゃんだ。なのはちゃんとすずかちゃんは遠距離からの攻撃をしようとしている。

 

『いくわよフェイト!』

 

『うん!アリサ』

 

フェイトちゃんとアリサちゃんが近接戦闘を行い、なのはちゃんとすずかちゃんは。

 

《Axel shooter》

 

《Icicle strike》

 

それぞれ周囲になのはちゃんはピンク色のスフィアを、すずかちゃんは蒼白い矢を展開し、なのはちゃんはアクセルシューターを、すずかちゃんはアイシクルストライクを放った。

二人の魔法がぶつかり、小規模な爆発を起こす。

フェイトちゃんとアリサちゃんはというと。

 

『バルディシュ!』

 

《Photon lancer》

 

『フレイムハート!』

 

《Flame lance》

 

近接戦闘の合間に、遠距離からの魔法攻撃を放っていた。今もフェイトちゃんはフォトンランサーを、アリサちゃんはフレイムランスを繰り出している。

その四人の姿を見て。

 

「フェイト楽しそう~」

 

一緒に見ているアリシアちゃんがそう言った。

 

「うん。なのはちゃんもアリサちゃんもすずかちゃんも楽しそうだね」

 

「ホント~。私も早くやりたいな~」

 

「あはは。アリシアちゃんは戦闘狂にならないでね」

 

「いやいや!ならないよ!フェイトと一緒にしないでよ」

 

「それって然り気無くフェイトちゃんが戦闘狂だって言っちゃってるような・・・・・・」

 

「あ・・・・・・」

 

しまった!と言ってるような表情にクスリと笑った。

その間にも模擬戦はどんどん繰り広げられていき。

 

「んん?」

 

「どうしたんです凛華?」

 

「いえ・・・・・・。星夜ちゃん、このステージってブレイカーを使っても問題ないはずですよね・・・・・・・?」

 

「え?」

 

「たぶん大丈夫だと思いますけど・・・・・・」

 

そんな不穏な会話が聞こえてきた。

画面を見てみると。

 

『いくよ、フェイトちゃん!』

 

『うん、なのは!』

 

『すずか!あれ、やるわよ!』

 

『うん、アリサちゃん!』

 

なのはちゃんたちが大技を放とうとしていた。

それぞれのデバイスには魔法円が構築されていて。

 

『『エクストリームブラスター!』』

 

『『ファイアーブリザード!』』

 

なのはちゃんとフェイトちゃんの複合魔法砲撃と、アリサちゃんとすずかちゃんの複合魔法砲撃がぶつかりあった。

二つの砲撃は互いに拮抗し。

 

「「「「「「たーまやー!」」」」」」

 

大きな花火となって空に輝いた。

次に見るとステージのレイヤー建造物はほぼ半壊状態になっていた。

 

「うわぁ~・・・・・・・」

 

「うっそぉ・・・・・・・・・」

 

驚きで眼をパチクリして私たちはそう声に出した。

そんなところに。

 

「ママ?」

 

外部との通信モニターが開き、そこからプレシアさんが現れた。

 

『アリシア、フェイトたちはまだ模擬戦の最中かしら?』

 

「いま丁度一回目が終わったところだよ」

 

『わかったわ。もうすぐで朝御飯が出来るから切りが良いところで上がってみんなで朝御飯を食べましょうって伝えてくれるかしら?』

 

「うん。任せてママ」

 

『お願いね。って、リンディ、鍋の水が溢れてるわよ!』

 

『あらあら!大変大変!』

 

最後にそんな会話が聞こえプレシアさんとの通信が切れた。

そのあと合流したはやてちゃんと聖良ちゃん、レイくん全員とのバトル・ロワイアルをして私たちは訓練用のステージからフェイトちゃんとアリシアちゃんの家、テスタロッサ・ハラオウン家に転移して行った。

このあと私とレイくんたちは一度家に戻り弓月姉さまと明莉さんの乗る車で先に行ったなのはちゃんたちと合流した。

目的地は、アリサちゃんとすずかちゃんのご両親が開発に携わった海鳴市沖の埋め立て地に出来た施設。

 

 

 

オールストン・シー、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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オールストン・シー

 

~零夜side~

 

「!」

 

「どうしたの夜月?」

 

明莉お姉ちゃんの運転する車の後部座席に座っていたそのとき、隣の夜月の身体が一瞬ビクンと震えたのを見逃さなかった僕は夜月に訪ねる。

 

「今、見えたの・・・・・・」

 

「見えたって・・・・・・まさか未来視?」

 

「うん」

 

夜月の希少スキルの一つである未来視は発動条件が不明なためいつ発動するのか分からない。そもそも、発動させるためのプロセスすら分からないのだ。そして、夜月の未来視はかならず当たる。

 

「何が見えたの」

 

「はやてちゃんが倒れるところ・・・・・・」

 

「はやてが!?」

 

「うん。今の世界はReflectionとDetonationの世界だけど、それで見たのとは違う・・・・・・・」

 

「どういうこと?」

 

「世界が不安定だから未来視が分からない・・・・・・。見えたのははやてちゃんが倒れていてそこに何か太いワイヤーみたいなものが絡み付いていたところ」

 

「一応、用心しておくとしようか」

 

「うん」

 

一応はやてたちに渡してある、あのブレスレットは僕のブレスレットとリンクしており、危険だということもすぐに分かる。もっとも、ブレスレットに付与しているのは簡易的な障壁と装備者が危なくなったら分かるということだけだが。この事に関しては予めはやてたちには伝えてある。過保護かもしれないけどね。

 

「夜月、何かあったときはやての方には僕が行く。だから・・・・・・」

 

「うん。なのはちゃんたちのことは任せて」

 

「お願い」

 

そんな会話をして、僕たちはオールストン・シーへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オールストン・シー 駐車場

 

 

「お待たせしました。遅れてすみません」

 

先に着いていた桃子さんたちに明莉お姉ちゃんが運転席から降りてそう言う。

 

「い~え~。私たちも今着たところですから」

 

「お久しぶりです明莉さん、弓月さん」

 

「ええ。久しぶりですね春菜さん」

 

お姉ちゃんたちは桃子さんたちと保護者談義をし始めていた。というか、ママ友とでもいうような雰囲気だ。

そんな気恥ずかしくもなっているところに。

 

「それじゃ、早速見て回ろうか」

 

デビットさんが苦笑を少しだけして車から降りた僕らに言った。

 

『『『『『はぁーい!』』』』』

 

デビットさんの台詞に僕たちは元気よく返事をして、デビットさんのあとに続いてオールストン・シーの内部へと入っていった。

入ってまず案内されたのは近くにある水族館のエリアだ。

 

「うわぁ~!お兄ちゃん!お兄ちゃん!スゴいよ!お魚がいっぱい!」

 

「うん。スゴいね」

 

隣で無邪気にはしゃぐ聖良と写真を撮りながら目の前の水槽を見る。

 

「そう言えば聖良って水族館初めてだっけ?」

 

「あ、うん。近くに水族館が無かったってのもあるんだけど、中々日程があわなくてね」

 

アリサの言葉に僕はそう返す。

そう言う僕も水族館などかなりの久しぶりなのだが。

 

「なら、今日はたくさん観ていくと良いよ」

 

「はい。ありがとうございますデビットさん」

 

眼を輝かせてるのは聖良だけでなく凛華たちもで、夜月の方は。

 

「お!すげーなマスター!」

 

「ええ!こんなにたくさんの種類の魚はじめてです」

 

「マスター、あの魚は食べられるのですか?」

 

「いえ、食べれないと思いますよジュデッカ」

 

ソラたちと一緒に観ていた。

まあ、ジュデッカへのカイーナのツッコミに笑ってしまったが。

 

「はやてとリインも来れたら良かったのに」

 

「仕方ないよアリサ。今日は病院の検査とかあるんだから」

 

今はやては海鳴大学病院で定期検診を受診している。一応はやての足は闇の書の呪いが解けたことにより治ってはいるが、その後遺症が無いとは限らないため今もこうして時々、病院で石田先生の検診やカウンセリングを受けているのだ。今日はアインスが付き添っているはずだ。何故僕が付き添ってないのかというと、はやてからこっちを優先してと言われたからだ。まあ、はやてはこのあと本局の技術部でリインのチェックにも行かなければならないのだが。というわけではやてが僕たちに合流するのは夜からなのだ。

そのまま、僕たちは係りの人の説明を聞いたりして写真をスマホやカメラで撮ったり、その写真を本局の資料部無限書庫司書のユーノに送ったりとした。

次に僕たちが訪れたのは180度前面が巨大なアクリル板に遮られた水槽と部屋の中央に巨大な紫色の鉱石がある場所だった。

 

「これがこの水族館の目玉の一つ。海鳴沖で発掘された巨大鉱石!」

 

「私たちの会社が、発見したの!」

 

「すごい」

 

「こんな大きな宝石はじめて見た!」

 

「研究のテーマにいいかもしれないね」

 

「うん!」

 

なのはたちが鉱石を見て興奮してるなか夜月だけは少し違った。

 

「夜月?」

 

然り気無く傍により、小声で聞く。

 

「この鉱石がどうかした?」

 

「あ、うん。実はこれ鉱石じゃないの」

 

「え?」

 

「この中にはユーリ・エーベルヴァインっていう女の子がいるの」

 

「ユーリ!?」

 

夜月の言葉に小さな声で僕は驚く。ユーリというと、夜天の魔導書に付き添っていたという子だ。アインスから、今ユーリがどうなっているのかは分からないって聞いてはいたけどまさかこんな身近なところにいるなんて。

 

「この事、誰にも言っちゃダメたからね。原作が変わっちゃうから。みんなには私たちはただの転生者ってことにしてるんだから」

 

「わかってる。それで未来が余計に変わるのは不味いからね」

 

僕と夜月は小声で会話をし、なのはたちとともにその場をあとにした。

次に僕らが来たのは。

 

「で、水族館の次はこっち。地上の遊園地エリア!」

 

「オールストン城でーす!」

 

『『『『わぁ!』』』』

 

水族館から出て、地上の遊園地エリアだ。

奥には大きな西洋風のお城が見える。

 

「遊園地ゾーンも今日は関係者だけの貸し切りモード!」

 

「まあ、アトラクションやライドはあんまり動かせないんだけど・・・・・・」

 

「ごめんね~!」

 

「とんでもないです!」

 

「寧ろ、自由研究のテーマとしては今の方が」

 

「確かにそうかも」

 

「さあ、取材やっちゃいましょ!」

 

『『『『おーう!』』』』

 

アリサの声に僕ら小学生組は元気よく返事して、デビットさんのあとに着いていった。僕らが取材やらなんやらやっていたその間お姉ちゃんたちはというと。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~明莉side~

 

 

零夜くんたちが社会科見学というのにいっている間、私と弓月はなのはちゃんたちのお母さんたちと、近くのカフェでお茶をしていました。世間で言うママ友談義と言うやつですね。と言っても、このようなママ友談義というのは経験したことないんですけどね。

 

「それにしても、みんな楽しそうですね」

 

「ホントね。フェイトとアリシアがああいう風にはしゃぐなんて久しぶりに見たわ」

 

「なのはもです。あまりこういうところに連れてきてあげられませんでしたから」

 

「家もです」

 

「私も同じですね。明莉さんと弓月さんはどうですか?」

 

「そうですね・・・・・・私たち自身こういう場所に来たことはなかったんですけど、零夜くんたち楽しそうです」

 

「ええ。夜月も零夜君の他にも友達がたくさんできて嬉しかったみたいだし、昨日は楽しみですあまり眠れなかったみたい」

 

「あらあら。なんともまあ、微笑ましいですね」

 

「はい」

 

手元にある紅茶の入ったティーカップのソーサーを持って紅茶を飲みます。

 

「そう言えば、テスタロッサ家とハラオウン家が合併族してしばらく経ちましたけど、フェイトちゃんとアリシアちゃんどうですか?」

 

そう、テスタロッサ家とハラオウン家は名前は違うが家族となったのだ。説明はめんどくさいと言いますかややこしいので端折りますが、クロノ君はフェイトちゃんとアリシアちゃんのお義兄さんとなったわけです。

 

「まだ少しぎこちない感じがあるわね。まあ、仕方ないといや、そうなんだけどね」

 

少し苦笑してプレシアさんが答えました。

そのまま談笑していると。

 

「あら、会社から。ちょっと失礼しますね」

 

「はーい」

 

「あらら、あたしも」

 

春菜さんとジョディさんの携帯が鳴り、二人は席を立って通話をした。

そこに。

 

「ん?」

 

「翼から?」

 

私と弓月の携帯に翼からのメッセージが届きました。

メッセージには、異世界渡航者についてと、この世界にない、正確にはこの地球にはないエネルギーを感知したとのことです。

そのあと、電話が終わった春菜さんとジョディさんから会社の工事車両が盗まれてることと、リンディさんに掛かってきたクロノ君の言葉から何らかの事件が起こっていること聞いたのでした。

 

~明莉side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

オールストン・シーに来て数時間後。僕らは水族館エリアから遊園地エリアへと移動し、社会科見学を満喫?(でいいのかな)をした。

そして、今はオールストン・シー近くのホテルに滞在していた。

 

「んん~。楽しかったね~」

 

「ええ」

 

ホテルのベランダで夜月と一緒に夜景を眺めていると。

 

「ん?」

 

室内のテレビから、ニュース速報が聞こえてきた。そしてそれと同時に。

 

「っ!」

 

「レイくん?」

 

「夜月、なのはたちのことお願い。お姉ちゃんとクロノたちにも説明しといて」

 

「ハッ!わかったわ。気をつけてね」

 

僕の言葉の意味がわかった夜月はうなずいた。

 

「(聖良、凛華、僕と一緒に行くよ。澪奈と紅葉はここに残ってお姉ちゃんたちの警護。星夜は情報収集をお願い)」

 

凛華たちに念話で伝え、凛華と聖良がベランダに出てくるのを確認し。

 

「聖良、ユニゾンいくよ!」

 

「うん!」

 

「「ユニゾン、イン!」」

 

すぐさま聖良とユニゾンし。

 

「夜月、あとお願い!」

 

「うん!」

 

夜月にあとを任せユニゾンした聖良と凛華ともにその場から転移した。

転移し、次に目を見開くと。

 

「れ、零夜くん!?」

 

「なっ!?」

 

そこには数両の工事車両らしき車両と、その工事車両の上に乗った赤い髪の女の子がいた。そして後ろには、倒れ伏しているはやてがいた。

 



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襲撃者

 

~零夜side~

 

ホテルから転移して、目の前の様子を見た僕は状況を理解する。

 

「ふぅ~ん。時空管理局本局特務0課の天ノ宮零夜です、その場から動かないでください」

 

小さくそう言い、断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)ではやてを拘束しようとしているワイヤーを切断し、はやてと襲撃者の間に立つ。

 

「大丈夫、はやて?」

 

「う、うん。私はなんとか・・・」

 

「そう。よかった。―――で、あなた誰?」

 

冷たい眼差しで、はやてを襲ったと思われる女の子を見る。

 

「何故、天ノ宮零夜ちゃん、あなたがここに!?」

 

あり得ないとでもいうかのような表情をする女の子に。

 

「僕は男だよ・・・・・・」

 

そう訂正した。

それと同時に目の前の工事車両らしき機械を無詠唱の魔法の射手(サギタ・マギカ)で攻撃し、地属性と氷属性の魔法で破壊する。

 

「なぁ・・・・・・っ!?」

 

「はやてに怪我させたんだから――――――覚悟できてるよね?」

 

驚いている女の子に冷たい声で言い放つ。

そこに。

 

「っ!封鎖領域に入ってきた・・・・・・?この反応キリエじゃない・・・・・・・アミティエ!」

 

女の子がそう言った。

あ、ちなみに僕も誰かが来たことは分かってました。

そんなところに。

 

「はやてさん!大丈夫です・・・・・・・か?」

 

後ろからバイクに乗った中学生くらいかな?そのくらいの紅い髪の女の子がやって来た。

 

「あ、あれ、この状況は・・・・・・」

 

なんとも言えない場面に女の子は唖然としている。

そこに、後ろの生き残っていたらしい車両がガトリングのような銃器の砲口を向けて来た。

 

「へぇー。その車両、盗んだ工事車両になにか手を加えたんだ」

 

弾丸を射出してきた車両を見ながら言う。もっとも、その程度の攻撃、僕の多重障壁の一つも破れてないけど。

 

「くっ!アームリセット!螺旋徹甲弾!」

 

女の子がそう言うと、今度は砲弾のような弾丸が飛んできたが、それすらも僕の多重障壁は防ぐ。

 

「そんな、あり得ないわ!解析できないなんて・・・・・・ここは一度退くしかないわね」

 

そう言うと女の子はスゥっと空気に消えた。

 

「ふぅ~ん、逃げたか。まあ、あの子本物じゃなかったみたいだし追い掛けるのも面倒だしいいか」

 

そう呟き。

 

「凛華」

 

「はい」

 

「あれ、全部破壊しちゃっていいよね?」

 

「良いと思いますよ」

 

「じゃあ消そうか」

 

そう言うと、僕は工事車両をすべて動けないようにし。

 

終焉分壊(ロスト・ディスブレイク)

 

跡形もなく、塵一つ残さず消し飛ばした。

正確にはその存在そのものを無かったことに・・・・・・いや、崩壊させた。これが僕の新しい、質量消滅と分解を複合させた物質分壊魔法の一つ――――――終焉分壊(ロスト・ディスブレイク)だ。

まあ、まだ改良するべき点は幾つかあるけど。

 

「ふむ。それで、あなたはどちら様ですか?」

 

工事車両を分壊して消し飛ばした僕ははやての介抱をしているアミティエと呼ばれた女の子に訪ねる。

 

「あ、あの、えっとですね」

 

「はい」

 

アミティエと呼ばれた女の子が言い淀んでいると。

 

〈はやて!〉

 

〈我が主、ご無事ですか!〉

 

突然、空間ディスプレイが展開しそこにアルフとザフィーラが映し出された。

 

「アルフ!ザフィーラ!」

 

「どうしたのアルフ、ザフィーラ?」

 

〈零夜!?〉

 

〈何故零夜がそこに!?零夜は今日オールストン・シーに行ってたはずでは?!〉

 

僕が此処にいることが予想外だったのか驚きの声を出す二人に説明する。

 

「あ、僕がここにいる理由は、はやてを助けに来たから。ホテルからここまで転移してきたの」

 

〈な、なるほど〉

 

〈零夜なら納得してしまう自分が恐ろしいと言うかなんと言うか〉

 

「それで、二人ともどうしたの?」

 

〈あ、そうだった。今、大型トレーラーが暴走してこっちの警察が大騒ぎしてるの〉

 

〈我が主、現在私とアルフはこの事件を引き起こしていると思われる少女を空路にて追跡しています〉

 

〈この人〉

 

アルフから送られてきた画面には、恐らく鳴坂高速道をバイクに乗って走っていると思われる女の子が映っていた。しかし、顔はヘルメットを被っていて見ることができなかった。

 

「なるほどね。っ!ザフィーラ、アルフ!後ろ!」

 

〈〈!?〉〉

 

僕の警告にザフィーラとアルフはさすがの反応速度で後ろを振り向くが、後ろのヘリから放たれたミサイルは捕縛用だったらしく爆発するとワイヤーが二人を絡みとり、身動きがとれないところに。

 

〈ごめんね、邪魔されると厄介なの〉

 

そんなヘルメットを取り素顔を見せたピンクの髪の女の子が高高度からの踵落としでアルフとザフィーラを地面に撃墜させた。そして、二人が高速道路にぶつかると、高速道路が真っ二つに割れ、崩壊した。

 

「アルフ、ザフィーラ!」

 

「まずい、急いで助けにいかんと!」

 

はやてがアルフとザフィーラの元に向かおうとすると、はやての腕をアミティエと呼ばれた少女が掴む。

 

「故あって、私はあのピンクの髪の女の子、私の妹を止めなければなりません」

 

「妹?」

 

「はい。妹の目的ははやてさん、あなたの持つその魔導書なんです」

 

「夜天の書?なぜあなたの妹ははやての魔導書を?」

 

「あ、自己紹介が遅れました。私の名前はアミティエ・フローリアン。良ければアミタとお呼びください。妹がはやてさんの魔導書を狙うのには、妹の目的にその魔導書が必要不可欠だからです。そして、なのはさんとフェイトさんからは無断でその力を借りようとしています」

 

「なるほどね。あ、僕のことは知ってるよね?」

 

「はい、天ノ宮零夜さんですよね」

 

「うん。色々アミタさん、あなたには聞きたいことがあるけど、取り敢えず、はやて。はやてはアミタさんと一緒にアミタさんの妹のところに向かって。僕もすぐに行くから」

 

「了解や」

 

「それではアミタさん、はやてのことお願いしますね」

 

「はい!お任せください!」

 

そう言うと、アミタさんははやてが落っこちないように、自分の腰とはやてをロープで固定し。

 

「では、行きます!」

 

バイクに乗ってものすごい速度で走り去っていった。

 

「あれ、法定速度違反してないかな・・・・・・」

 

アミタさんのバイクの速度に思わずそう呟くと。

 

「なんとかなるんじゃないでしょうかね天ノ宮君?」

 

僕と凛華のいる場所から90度横から声が聞こえてきた。

その声の主は静かに、姿を表した。

 

「お久しぶりですね、天ノ宮特務官。いえ――――――星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)

 

「ええ。約一年半ぶりですね・・・・・・天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)序列一位熾天使(セラフィム)の―――クルト・ファレウム」

 

そこには、以前相対し殺し合いをした研究会の序列一位熾天使のクルト・ファレウムが私服姿で立っていた。

 

「こんなところに研究会がなんのよう?」

 

「いえ、今回は完全なプライベート、バカンスです。私の」

 

「は?」

 

「バカンスです」

 

「うん、それは聞いた」

 

「バカンスです」

 

「・・・・・・三回も言わなくて良いよ・・・・・・」

 

クルト・ファレウムの表情一つ変えないで言う言葉に肩を落とした感じで返す。

 

「・・・・・・≪天の橾槍(ヘブンリィスピア)≫は?」

 

以前取り返せなかったロストロギアについて聞くと。

 

「それなら私が持ってますよ」

 

あっけらかんに答えた。

 

「それを返す気は?」

 

「少なくとも今、現時点ではありませんね」

 

「そ」

 

現時点では、ということは今は返さないということでなにかしらの役目が終わったら返すつもりなのだろう。

 

「おや、取り返さないのですか?」

 

「・・・・・・バカンスで来てんでしょ。なら今はいい。本来は問答無用で取り返すところだけど」

 

実際のところは面倒だから。それに無抵抗の人間相手にしても意味ないし。もっとも次出逢ったときは全力で行くけど。

 

「それはそれは。ありがとうございます」

 

「別にいい」

 

「では、お礼に二つほど、良いことを教えて差し上げましょう」

 

「なに?」

 

「今回の事件、一筋縄ではいきませんよ」

 

「どういうこと?」

 

「君も気づいていますよね。先程の少女が人間ではないということに」

 

「・・・・・・・・・・」

 

クルト・ファレウムの言葉に無言の沈黙を持って返す。

 

「それと、もう一つ我々の序列二位智天使(ケルビム)の筆頭がこの件に関して動いてますよ」

 

「なに?!何故その情報を僕に教えるの?同じ研究会の仲間でしょ?」

 

「我々研究会も一枚岩ではないということですよ。もっとも、私はあの方を信じて、信用しています。言っておきますけど、私こう見えてもあの方の側近ですよ?」

 

「なっ!?」

 

「ふふ。ちょっとお喋りが過ぎましたね。ではまた何れ何処かでお会いしましょうか天ノ宮君とそのお仲間さん」

 

そう言うとクルト・ファレウムは何処かに転移していった。

色々と疑問が深まるなか、僕はクルト・ファレウムの言葉を脳裏に繁昌させた。

 

智天使(ケルビム)が動いてる・・・・・・何故これに・・・・・・?それにあの人、ほんと掴み所がない・・・・・・」

 

「零夜くん、あの人はあのまま逃がしてよかったんですか?」

 

「さっきのクルト・ファレウムからは敵意も殺気も感じられなかった。ここで余計な面倒を起こせば後々面倒になりかねない」

 

「そうですね」

 

「なのはたちのいる場所は特定できた?」

 

「ええ。座標の特定出来てます。結界を張っているみたいですけど」

 

「了解。それじゃ行こうか」

 

そう言って、僕と凛華はなのはたちのいる場所向かって転移した。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜月side~

 

 

レイくんたちが転移ししばらく立ってから、クロノ君から事件の一報が来た。

 

『―――というわけですまないが緊急出動だ。付近に結界を張る。―――でだ、零夜は何処に行った!?』

 

最後の方は、何でいないのさ!?とでも言うような声だったけど。

 

「レイくんと凛華ちゃん、聖良ちゃんならはやてちゃんのところだよ」

 

『はぁ!?まあ、零夜のことだからいいとして』

 

「(あ、良いのね・・・・・・というより、諦めかけてるわね)」

 

そんなことを思いつつクロノ君の言葉を聞く。

 

『現場にはなのはとフェイト、夜月が行ってくれ。アリシアとアリサ、すずかは念のためにここで待機。後方部隊として、何時でも出撃できるようにしといてくれ』

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「ええ」

 

クロノ君の言葉にそう返し、私となのはちゃんとフェイトちゃんは現場に転移した。

結界が張られてる現場に転移してしばらくし、正面から大型トレーラー数台と先頭のバイクがやって来た。

まず最初は。

 

「ロック」

 

なのはちゃんのバインドで車体の動きを止め。

 

「時空管理局です。抵抗はしないでください」

 

バイクに乗っている少女を拘束してフェイトちゃんが取り押さえる。そして私は後方で見ていた。

 

〈おい、マスター〉

 

「なあに、ソラ?」

 

〈マスター自らやった方がよかったんじゃねぇの?〉

 

〈そういえばそうですね。トレーラーは贋造魔女(ハニエル)で物質変換して、破軍歌姫(ガブリエル)であの子を拘束すればよかったのでは?〉

 

「確かに、私一人でもあの子くらい簡単に相手できるよ。私が苦戦するのはレイくんだけだもん」

 

〈そりゃそうだろうな〉

 

〈はい。零夜くんは夜月ちゃんと同じ転生者ですし、お姉さんたちの指導を受けてますから〉

 

「でしょ?それに、本当に私の知っている知識だけで終わるならいいけど、それ以外の対策もしとかないとね」

 

〈なるほどな〉

 

〈そう言うことですか〉

 

「うん」

 

そうこうしている内に少女はなのはちゃんとフェイトちゃんのバインドを破って学生服からバリアジャケットに似たようなピンク色の服を着て、手には少し反った片手剣が握られていた。

 

「あれがフォーミュラスーツね」

 

私が見ているなかで少女とフェイトちゃんの戦闘が始まった。なのはちゃんは少女の連れていたトレーラーから放たれたワイヤーロープに拘束されていた。

 

〈そろそろ行くかマスター?〉

 

「ええ」

 

ソラの問いにそう返し。

 

「おいで―――絶滅天使(メタトロン)刻々帝(ザフキエル)塵殺公(サンダルフォン)

 

3つの天使を顕現させ。

 

傲慢(スペルビア)のアーカイブに接続、テーマを実行します」

 

テーマを実行させた。

 

「いくよ」

 

そう一言言うや否や、私は一瞬で戦闘区域に入り込み、フェイトちゃんとピンク色の髪をした少女の間に入り込んだ。

 

「あ、あなたは―――!」

 

「手こずってるみたいだねフェイトちゃん」

 

「うん。ありがとう夜月、助かったよ」

 

「なのはちゃん、そっちは大丈夫?」

 

「うん!平気!」

 

「そう、よかった」

 

目の前の少女を無視してフェイトちゃんとなのはちゃんに声をかける。幸いにも目立った外傷はない。

 

「―――桜坂夜月ちゃん!」

 

「どうも、こんばんわって言った方がいいかしら?違法渡航者さん?いえ、――――――キリエ・フローリアンちゃん」

 

「どうして私の名前を!?」

 

「―――囁告篇帙(ラジエル)

 

少女、いえ、キリエちゃんの問いに新たな天使を顕現させる。

 

「何故私がキリエちゃんの名前を知っているのかというのは秘密だよ」

 

キリエちゃんにそう言うと。

 

「さてと、それじゃああなたを拘束させてもらおうかな。の前に――――」

 

「なっ!?」

 

一瞬でキリエちゃんに近づいて。

 

「少しだけ遊んであげる!」

 

キリエちゃんに向かって塵殺公を振り下ろした。

とっさに後ろに下がったキリエちゃんは目を見開き、すぐに突っ込んできた。

 

「夜月!?」

 

「夜月ちゃん!?」

 

「悪いけど、今少しだけ機嫌悪いのよ。私の大切な友達に怪我させたお礼はチャンとしないとね!」

 

そう言うや否や私は塵殺公の斬撃を、絶滅天使の砲撃を、刻々帝の銃弾をリズムよく、奏でるかのように放っていった。

 

「フェイトちゃんとなのはちゃんは後ろのやつお願いね」

 

「う、うん」

 

「わ、わかったの」

 

なのはちゃんたちにトレーラーをお願いして、キリエちゃんと切り結ぶ。

 

「このっ!」

 

「へぇー。少しはやるね」

 

キリエちゃんは全力なんだろうけど、私は全然本気を出してない。

それから幾重か斬りあったところに。

 

「つ、強い!みんな、手伝っ―――――!」

 

キリエちゃんがそう言おうとした、そんなところに。

 

「!?」

 

突然、キリエちゃんの持っていた銃が何処からか飛んできた光弾によって弾け飛ばされた。

 

「やっと見つけました、キリエ」

 

「アミタ・・・・・・」

 

新たに現れた少女に、キリエちゃんが驚いたように言う。

アミタと呼ばれた少女は上の台から降り、こっちに歩いてきた。

 

「なのはさんとフェイトさん、そして夜月さんですよね」

 

「は、はい」

 

「そ、そうです」

 

「ええ」

 

「みなさんがご無事でなによりです。お友だちのはやてさんは私がちゃんと保護しました、零夜さんもご無事です」

 

「それはよかったわ。ありがとうアミタさん」

 

「いえ」

 

私がアミタさんにお礼を言うとキリエちゃんが。

 

「追い掛けてこないでって、私言ったよね?」

 

「私は行っちゃダメだっていいました」

 

「アミタまで来てママのことどうすんのよ?!なに考えてるの!」

 

「家出した妹を連れて帰る、それだけです」

 

「言ったでしょ!パパとエルトリアを助けるんだって!」

 

「・・・・・・帰りましょうキリエ」

 

「~っ!!このぉ!!バカ、アミタ!」

 

顔をくしゃくしゃにして、バク転しながら地面に落ちていた銃を拾い、着地と同時にアミタさんに向かって銃を撃った。

その銃弾はそのまま当たり大丈夫かと思いきや。

 

「聞き分けてください、キリエ」

 

キリエちゃんと似たような青い服を着たアミタさんが無傷で現れ、キリエちゃんにそう言った。

 

「~っ!永遠結晶を持って帰らなかったら、パパが死んじゃうのよ!」

 

そのまま激しい空中戦と姉妹の口論が行われていった。

その間、私はその場で観察していて。

 

「悲しくて苦しいのは私も母さんも一緒です!それにあなたを連れ出したあの子を、私は信用できません!」

 

「このぉ!」

 

「キリエさん落ち着いて」

 

「落ち着いてお姉さんのお話を・・・・・・」

 

なのはちゃんとフェイトちゃんはキリエちゃんを説得しようと取り押さえたが、キリエちゃんは靴裏からマシンガンのような弾丸をアミタさんに放ち、なのはちゃんとフェイトちゃんを振りほどいて地面に投げ返した。

 

「邪魔を、しないで!」

 

「きゃっ!」

 

「っ!」

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん、大丈夫!?」

 

地面に当たる直前に、私は颶風騎士(ラファエル)の颶風で受け止め、衝撃を緩和する。その間にも上空では姉妹の口論闘争が続いていた。

 

「永遠結晶があれば、みんなを救えるのに!」

 

「父さんと母さんが、私たちにくれた力は!強い身体と防備は!星と人々を助けるための力です!人に危害を加えてまで目的を叶えるためのものじゃない!」

 

「だから迷惑に掛けないように頑張ってる!みんな、手伝って!」

 

キリエちゃんがなのはちゃんとフェイトちゃんが相対している工事車両らしき物に向かって言うと、それは少しずつ動いてなのはちゃんたちに近づいていった。

なのはちゃんとフェイトちゃんが警戒するなか。

 

「そろそろかな」

 

私はそうボソッと呟いた。それと同時に。

 

「え!?」

 

なのはちゃんに近づこうとした車両が一つなにかに貫かれたかのように穴を開けて横に倒れた。

そして。

 

「初弾命中!お前らじっとしとけよ、今助けてやるから」

 

「ヴィータちゃん!」

 

応援に駆けつけてくれたヴィータちゃんの武装から放たれた雷弾が新たに車両を突き破り、上からは。

 

「はあああっ!!一閃!」

 

高高度から降りてきたシグナムさんによる振り下ろしで一刀両断され。

 

「はあっ!!」

 

その後ろにいた二車は真っ二つからのバラバラに切り刻まれた。

 

「ふむ。とんだ試し斬りだ」

 

「シグナム!」

 

「うおおおおっ!!でりゃ!!」

 

さらに上から勢いをつけて降りてきたザフィーラさんがその拳を地面に叩き付け、地面を不安定にさせ車体のバランスを取れなくさせたところに。

 

「ワイヤーロック!」

 

シャマルさんのバインドで残りの車両の動きを封じた。

 

「応援お待たせ~!ザフィーラとアルフも無事よ~!」

 

「フェイト~!!」

 

「不覚を取ったがな」

 

これでキリエちゃんの用意したすべての道具なのかな?を封じられた。そう思っていると。

 

「っ!?」

 

「八神はやてと夜天の守護騎士、応援に駆けつけたよ~!」

 

はやてちゃんが夜天の書を持ってリインちゃんとアインスさんとともにやって来た。上空にいたキリエちゃんははやてちゃんの凍結魔法で動きが止められていた。

そんなところに。

 

「お待たせしました」

 

転移魔方陣が現れ、そこから聖良ちゃんとユニゾンしたレイくんと凛華ちゃんが姿を表した。

 

「さて・・・・・・覚悟は出来てるかな、キリエ・フローリアン?次元法の違反であなたを逮捕させてもらうよ」

 

私の隣に並び立って、氷付けにされたキリエちゃんにそう言って。

 

 

 

 



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序列二位智天使(ケルビム)と敗退

 

~零夜side~

 

「お待たせ、夜月」

 

「もう・・・・・・遅いよレイくん。ちょっと心配したよ」

 

「はは。ゴメン」

 

現れた僕は、霊装とメイガスモードを掛け合わせた霊魔装を着ている夜月に近づいて会話をする。

 

「それで、アリシアたちは待機?」

 

「うん。念のため、星夜ちゃんと澪菜ちゃん、紅葉ちゃんもね」

 

「まあ、三人にはお姉ちゃんたちの護衛任せたからね」

 

「そう言えばなんで遅れたの?」

 

「ああ。実は――――――」

 

研究会序列一位熾天使(セラフィム)のクルト・ファレウムから聞いたことを手短に伝える。

 

「なるほど。それより、どうするレイくん。キリエちゃん、まだ何かやるつもりみたいだよ」

 

「みたいだね」

 

視線の先では、はやての凍結魔法で氷付けのまま浮いているキリエとアミタさん、そしてそれを囲んでいるシグナムたちの姿があった。そんなところに。

 

「(ん?なんだ、この禍々しいまでの気配・・・・・・ナハトヴァールのよりは低いけど・・・・・・これ、人間じゃ・・・ない・・・?)」

 

結界内に妙な気配を感じた。

 

「レイくん」

 

「気付いた?」

 

「うん・・・・・・なに、これ」

 

夜月の声が僅かに震えてるのを感じ、僕は気配を更に探る。

そんなところに。

 

「―――イリスがくれた・・・・・・最後の奥の手・・・・・・・っ!!」

 

キリエがそう言うのが聞こえた。

そして、それと同時に嫌な予感が過った。

 

「―――システムオルタ・・・・・・」

 

キリエがそう声に出したのと同タイミングで、術式を解放する。

 

「―――術式解放(エーミッタム)千の雷(キーリプル・アストラペー)!」

 

そしてさらに。

 

固定(スタグネット)掌握(コンプレクシオー)!!」

 

高速詠唱し。

 

術式兵装(プロ・アルマティオーネ)!!(ヘー・アストラペー)(・ヒューペル・ウーラヌー)太壮(・メガ・デュナメネー)!」

 

「―――バーストドライブ!!」

 

同時に終を終えた。

僕からは金色のオーラが、キリエからは水銀色のオーラがそれぞれを覆った。

 

「キリエ!あなた・・・・・・っ!」

 

アミタさんがそう言い。

 

「夜月!」

 

「うん!おいで、刻々帝(ザフキェェェル)!」

 

「シグナム!ヴィータ!シャマル!ザフィーラ!下がれ!」

 

僕はシグナムたちとキリエの間に入った。

 

「零夜!?」

 

「シグナム、はやてたちを!」

 

「っ!わかった!」

 

シグナムは僕の言いたいことが分かったのかすぐにはやてたちのところに向かった。

 

「さて、と」

 

正面を向くと、かなり体に負荷が掛かっているのか手足が小刻みに振るえているキリエがいた。

 

「っ!」

 

一瞬激しい風が巻き起こると、キリエは物凄い速さで動き出した。速さは僕の雷速に匹敵するほどだ。

それに伴って僕も雷速で動く。

 

「はあっ!」

 

「なっ?!イリスから貰ったこれに追い付けるなんて!」

 

雷速同士のぶつかりに衝撃波が起こる。

 

「くっ!」

 

「キリエ!止めてください!」

 

僕とキリエの戦いを見ていたアミタさんがキリエに制止の声を掛けるが。

 

「お姉ちゃんは黙ってて!」

 

「なっ!?きゃあっ!」

 

「アミタさん!」

 

一瞬でアミタさんの背後に回ったキリエはアミタさんをそのまま蹴り飛ばした。とっさにアミタさんを受け止め、魔法の射手で牽制する。

 

「ちっ!」

 

「あ、ありがとうございます零夜さん」

 

「いえ。大丈夫ですか?」

 

「はい、平気です」

 

アミタさんと会話していると。

 

「っ!?」

 

いきなり、途轍もない悪寒が走った。

 

「・・・・・・っ!夜月!」

 

「うん!―――刻々帝(ザフキエル)一の弾(アレフ)!」

 

僕の声を聞いた夜月はすぐさま自分に一の弾を撃ち込み、キリエの突進を受け止める。

 

「邪魔を・・・・・・しないでっ!!」

 

「うそっ!?」

 

しかし、キリエは速度を更に上げ、夜月を一瞬で追い越し。

 

「させないっ!」

 

はやての前に現れたところを雷速瞬動で追い越してはやての前に立つ。そこに。

 

「ガハッ!?」

 

後ろからの攻撃が直撃し、僕のお腹を穿った。

 

「(なっ!?今のは高密度のAMFを凝縮して圧縮した弾丸!?僕の多重防御魔方陣を貫通させるなんて!)」

 

僕の常に展開している多重防御魔方陣はなのはの砲撃やフェイトの電撃、シグナムの斬撃やヴィータの物理攻撃をすべて防いでる。もちろん、それにも例外はある。それは。

 

「(まさかさっき、多重防御魔方陣が一瞬薄くなったところを狙った?!)」

 

そう常時展開しているとはいえ、障壁がいつも万全に展開している訳ではない。しかし、そんな万全ではない障壁など、時間にしてみれば一秒にも満たない、0.5秒程だ。それを一転の曇りもなく狙い打つとなると。

 

《お兄ちゃん!!》

 

「零夜くん!」

 

「っ!?」

 

聖良と凛華の声が上がる。

いきなりの狙撃にキリエを始めとした全員が動きを止め、僕の方を見る。

 

「レイくん!―――刻々帝、四の弾(ダレット)!」

 

瞬時に夜月が刻々帝の四の弾、時間戻しの弾丸で戻してくれたが、流れ出た血までは戻せない。

 

「っ!誰だ!」

 

僕が墜ちたことに狙撃位置を見てシグナムが声を上げる。

シグナムの視線の先には一つの何かがあった。

 

「な、なんだあれは・・・・・・!」

 

「なに・・・・・・・あれ・・・・・・!」

 

視線の先には巨大な機械人形が浮いていた。

 

「―――――――――」

 

機械人形からの機械のような声に、治癒力を高めて立ち上がって見る。

 

「っ!夜月、今すぐ全員をこの場から転移させて!」

 

感じ取れた気配に僕はすぐに夜月に言った。

 

「零夜くん?」

 

怪訝そうな顔をするなのはの方を向かずにシグナムに聞く。

 

「シグナムから見てあれはどう」

 

「あれは異質だ。ナハトヴァールと比べたら幾分か低いが・・・・・・」

 

「少なくともあたしらが勝てる確率は低い」

 

「そう。シグナムたちもなのはたちと一緒にここから離脱して!」

 

「零夜はどうする?」

 

「僕はあれを対処する」

 

「わかった。無理はするなよ」

 

「分かってるよ」

 

そう会話していると。

 

「キリエ!」

 

「っ!?」

 

この隙にキリエがはやてから夜天の書を強奪していた。

はやては気絶しているのか倒れていて、その近くにはリインが倒れ付していた。

 

「キリエ、今すぐ返しなさい!」

 

「少し借りるだけ!終わったらすぐに返す!だから、邪魔しないで」

 

キリエはそう言うとアミタに向かって光弾を放ち、自分が乗って来たと思わしきバイクに跨がって走り去っていった。

 

「させるか!――――っ!?」

 

そこに浮遊していた機械人形から攻撃が仕掛けられキリエへの攻撃を止められた。

 

「――――――!!」

 

「邪魔をするなぁ!!」

 

僕はすぐに目の前の機械人形に標的を移し、攻撃を仕掛ける。

 

「――――――!!」

 

「くっ!」

 

「レイくん、転送準備できてるよ!」

 

「了解!シグナム、向こうに行ったらはやてとリイン、アミタさんの治療、それからクロノに連絡を!」

 

「わかった!全員退くぞ!」

 

シグナムの号令でなのはたちは夜月の展開した転移魔方陣に乗り。

 

「零夜くん!」

 

「零夜!」

 

「夜月!」

 

「うん!」

 

なのはとフェイトの方を向かずに夜月に転移を促して転移させた。

そしてこの場には僕と凛華、夜月、それから目の前の機械人形だけになった。

 

「レイくん、まだあまり動いちゃダメ!」

 

「そう言ってられない!目の前のこれが奴らからなのなら死ぬ気で行かないと殺られる!」

 

そう言うと、機械人形の放ってきたビームを上に翔んでかわす。

 

「夜月、あれの動きを止めて!凛華、デバイスモード!」

 

「はい!」

 

「任せて!さあ、いくよ!―――刻々帝(ザフキェェェル)!―――七の弾(ザイン)!」

 

夜月の古式銃から放たれた時間を止める弾丸が機械人形に当たり、機械人形の動きが止まった。

 

「レイくん!」

 

「ああ!はあああああっ!」

 

凛華をデバイス形態の、二刀流にし、ライトエフェクトを煌めかせて機械人形を攻撃する。

 

「ぜりゃあああっ!」

 

アインクラッド流二刀流ソードスキル、《ジ・イクリプス》を放ち細切れにした。そして機械人形の時間が動きだし。

 

「――――――!!?」

 

機械人形は原型を止めず地に附した。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

「レイくん!幾らなんでもあんなに血が出たあとにそのソードスキルは身体に負担が!」

 

「大丈夫。それに知ってるでしょ夜月も。僕らはもう普通には死ねない・・・・・・死ぬことはないって」

 

「そういう問題じゃないよ!」

 

地面に片膝を付きながら夜月から言われると。

 

「ほう。さすが特務0課の者だけあるな」

 

頭上から声が聞こえた。

 

「誰!」

 

視線を向けるとそこには一人の人間がいた。

 

「ふふふ」

 

そしてその手には禍々しい剣が握られている。

 

「あなた誰?武装を解除して所属世界と名前をいいなさい!」

 

「我の名はガハト・レグリスタ。天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)序列二位智天使(ケルヴィム)に属する者だ。平伏すがいい!」

 

「な・・・・・・っ?!」

 

まさかこんなところで研究会が出てくるとは思わず僕と夜月は目を見開く。

 

「ふっ。安心するがいい。今日は貴君らに挨拶に来ただけだ」

 

「挨拶?」

 

「そうだ。いけ好かないクルトの野郎に対等でやり合った貴君らにな」

 

「挨拶に来ただけだけでレイくんのお腹に穴を開けたっていうの!」

 

「その点に関しては謝罪しよう。だが、我らもあの少女の目的とやらの物が必要なのでな」

 

「永遠結晶を!?」

 

「永遠結晶か・・・・・・・あれは永遠結晶なんかではないのだが、貴君らは知っているのだろう?」

 

「ええ」

 

「ふっ。では、我はここで失礼しよう。次会うときは―――――」

 

そう区切るとガハト・レグリスタは殺気を出して。

 

「――――存分に殺し合うとしよう、星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)魔天使の女王(クイーン・オブ・マギアエンジェリック)よ」

 

禍々しい剣を突きつけてそう言い、蜃気楼のように薄れて消えていった。

 

「智天使のガハト・レグリスタ・・・・・・・かなりの実力者ね」

 

「そう・・・・・・だね・・・・・・」

 

ガハト・レグリスタが去っていき残された僕たちは会話をする。が、さすがの僕も限界だった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「零夜くん!」

 

「レ、レイくん!しっかりして!」

 

ユニゾンが解除された聖良とデバイスから人型になった凛華が慌てて僕を支え、夜月が治癒を施してくるが僕の意識はそこから遠のいていった。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜月side~

 

 

「レイくん!」

 

私の腕の中で倒れるようにして気絶したレイくんに私は必死に呼び掛けた。

 

「だから言ったのに・・・・・・」

 

私とレイくんは姉さまたちの眷族になったことによって普通に死ぬことは無くなった。いや、今はまだ半神半人だから死ににくい体なのかな?とにかく、私とレイくんは基本的に死ぬことがない。寿命自体もなく、今はまだ体は成長しているが20歳ぐらいになったら成長は止まるらしい。その辺りは個人差らしい。

 

「急いで帰らないと」

 

「夜月ちゃん、転移魔方陣はもう出来てるよ!」

 

「ありがとう聖良ちゃん!」

 

私は、凛華ちゃんと一緒にレイくんを支えて聖良ちゃんの構築した転移魔方陣に入り、その場から姉さまたちのいるホテルに戻っていった。

再び目を開けると、そこはホテルの一室だった。

 

「夜月、大丈夫かしら!?」

 

「ええ、私は大丈夫姉さま。でも、レイくんが・・・・・・」

 

「話は聞いてるわ。零夜くんはこっちで寝かせましょう」

 

「うん」

 

レイくんを姉さまが抱き抱え、寝室の方に連れていった。

そこに。

 

「弓月、零夜くんは!」

 

「大丈夫よ明莉。傷は夜月が時間を巻き戻して無かったことにしたから、ただ、流れ出た血は元に戻らないけど」

 

「そう。ありがとう夜月ちゃん」

 

「ううん」

 

レイくんの事を姉さまたちに任せ、私はなのはちゃんたちのいる部屋に向かった。

 

「夜月ちゃん!」

 

部屋に入ると、なのはちゃんが声をかけてきた。

 

「なのはちゃん、大丈夫?」

 

「うん。私とフェイトちゃんは大きな怪我はしてないから」

 

「そう、よかった」

 

なのはちゃんから怪我とか聞いていると。

 

『夜月、零夜の様子はどうだ?』

 

「今は眠ってるよ。まあ、さすがに流れ出た血までは戻せないから、貧血状態だけど」

 

『そうか』

 

「そう。それで、なにか情報はあるクロノ君?』

 

画面にクロノ君とエイミィさんがいた。

 

『ああ。アミタと呼ばれた少女は今、本局の医務室で治療を受けている』

 

「怪我の様子は?かなり重症だったけど」

 

『今のところ命に別状はないそうだ』

 

「了解」

 

『零夜はこっちじゃなくていいのか?』

 

「大丈夫、今聖良ちゃんたちが治癒魔法で治してるから」

 

『そうか』

 

「それに、本局だとなにかと厄介でしょ」

 

『確かに、な』

 

私とレイくんの事情を知っているクロノ君は苦笑して同意する。

 

「それで、現状どのくらいまで把握してるの?」

 

『現時点では以下の通りだ』

 

クロノ君の表示したウインドウにはこれまでの出来事のデータが記述されていた。

それを一通り閲覧し。

 

「なるほどね」

 

『ああ』

 

そう言った。

そこに。

 

「クロノ、そこに追加。・・・・・・研究会がこれに動いてる」

 

後ろから声が聞こえてきた。

 

「レイくん!?」

 

『零夜!?』

 

「零夜くん!」

 

「零夜!」

 

声のした後ろを向くと、少しだけ顔色が悪く壁に寄りかかってこっちを見ているレイくんの姿があった。

 

~夜月side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

「クロノ、そこに追加。・・・・・・研究会がこれに動いてる」

 

「レイくん!?」

 

『零夜!?』

 

「零夜くん!」

 

「零夜!」

 

眼が覚めて、夜月たちのところに向かうと丁度クロノと話していた声が聞こえた。

 

『怪我の方はいいのか!?』

 

「まだ本調子じゃないけど、問題ないよ」

 

『ならいいが・・・・・・』

 

納得がいかないと言う感じの表情のクロノに僕は苦笑いを浮かべる。

 

「正直、僕の多重障壁がぶち抜かれるなんて思わなかったよ」

 

『夜月から聞いた。高密度のAMFを込めた弾丸らしいな』

 

「うん。しかも不意打ちだったからね・・・・・・予め備えていれば幾つかは破壊されただろうけど、肉体に当たることはなかったと思う」

 

『そこまでなのか?』

 

「あれは研究会が作ったものだからね・・・・・・。まさか、研究会にあんなものを作る知識があったなんて」

 

『そうそれだ。研究会が動いているとはどういうことだ?』

 

「・・・・・・さっき、研究会序列二位智天使のガハト・レグリスタにあった」

 

『なっ!?』

 

僕と夜月を除く全員がその言葉に眼を見開いた。

 

「目的は彼女たちと同じみたいだけど、なんか違う気がする」

 

『そうか・・・・・・』

 

「現時点で研究会相手に立ち回れる武装隊ってどのくらい?」

 

『本局からの増援も考えれば・・・・・・・結界魔導師部隊と防衛部隊、索敵部隊・・・・・・』

 

クロノが考えるようにブツブツと呟く。

 

「地上本部からは来れないの?」

 

『あ~、実はだな・・・・・・』

 

クロノが言いにくそうにしていると、突然僕の目の前で空間ウインドウが開いた。

そこに映っていたのは。

 

「レジアス中将?」

 

ミッド地上首都防衛部隊代表のレジアス中将だった。

 

『いきなりですまないな天ノ宮特務三佐』

 

「その敬称で言うと言うことはそちらでなにかあったのですかレジアス中将」

 

僕の事を特務官ではなく本部敬称の階級である特務三佐と呼んだことに僕は立ち合いを直す。

 

『天ノ宮特務三佐、地上本部の首都防衛隊代表として、貴殿の所属する特務0課に協力要請を願いたい』

 

「何があったのですか」

 

『テロだ』

 

「テロ?」

 

『うむ。その為、星霊武装(アストラルウェポン)が一つ、【星罪の剱槍(アスティカル・ジ・グライムスピア)】の使用許可をもらいたい』

 

レジアス中将の言葉に僕と夜月は眼を見開いた。

星霊武装(アストラルウェポン)とは、僕と夜月が主軸として本局の技術部のマリーさんたちとともに共同開発した武装だ。この武装の設計コンセプトは使用者の強化と補助だ。現在この星霊武装は全部で10。その内の6つは僕たちが所有している。残りの4つの内、2つは地上本部に。そして、残す2つは聖王教会に。それぞれ所有者は、地上本部はゼストさんとメガーヌさん。聖王教会はシスターシャッハと騎士カリムだ。ゼストさんは槍、メガーヌさんは手甲、シスターシャッハは双短剣、騎士カリムは魔導書だ。

星霊武装――――それは何時か来るべき戦いに備えた武装。使用者は僕と夜月、もしくは武装自体が選ぶ。デバイスでいうのならインテリジェントデバイスだ。そして、認められた使用者(マスター)、もしくは制作者である僕ら以外は使用出来ない、唯一(ワンオフ)の武装。現在、使用するには僕らの承認が必要だ。何せ、この武装は現在のデバイスの世代を何世代も越えた能力を持っているからだ。例えば今でた、【星罪の剱槍(アスティカル・ジ・グライムスピア)】の能力は切断。この槍はありとあらゆる物を切断することが出来る。それは、木や鉄、鋼などはもちろんのこと次元渡航艦もだ。そして、ありとあらゆる物を切断するということは、空間も切れるということになる。もっとも、理論の上なだけなため今のゼストさんは無理だけど。それでもこれ一つあれば大抵の敵は簡単に制圧できる。この他にも、メガーヌさんの手甲型の【星蘭の聖奏者(スターズ・レイ・シンフォギア)】、シスターシャッハの双短剣型の【星断の嵐双剣(オプティカル・ジ・スターブレイク)】、そして騎士カリムの魔導書型の【星詠の預言書(プリディクション・オブ・ステラ)】がある。この星霊武装の特徴は、どの武装にも【星】を有する名が入っていることだ。

故に星霊武装は別名、(スター)シリーズと呼称されている。

 

「わかりました、【星罪の剱槍(アスティカル・ジ・グライムスピア)】の使用を承認します。ついでに、【星蘭の聖奏者(スターズ・レイ・シンフォギア)】の使用も承認しときます」

 

夜月と素早く意思疏通し、星霊武装の承認をする。

 

『すまない、助かる』

 

「いえ」

 

『後程、星霊武装のデータを送る』

 

「助かります」

 

『そっちも大変みたいだが、すまない。こちらは局員を遅れる状況ではなくてな・・・・・・・・』

 

「わかりました」

 

『すまないな。では』

 

そう言うと僕はレジアス中将との通信を切りクロノに向き直る。

 

「―――みたいだねクロノ」

 

『ああ』

 

「研究会が出てきたら僕と夜月が対処する」

 

『わかった。キリエ・フローリアンらの方はこっちでやる』

 

「了解。それと、クロノにこれ送っとく」

 

『ん?』

 

そう言うと僕は異空間に収納していた一つの杖をクロノに転送した。

 

『これは?』

 

「星霊武装と対をなす武装、月雫武装(ルナティアルウェポン)が1つ、月雫杖装(ルナティアルワンド)。銘は―――【煌月の氷月華(ザ・ルナティシクル・ムーンライト)】」

 

『【煌月の氷月華(ザ・ルナティシクル・ムーンライト)】・・・・・・』

 

月雫武装は星霊武装の対をなす武装だ。

もっともとこの月雫武装は僕と夜月による完全なワンオフだ。そしてこの武装は別名、(ルナ)シリーズ。すべての武装に【月】を有する銘が入っている。現在の月シリーズは全部で4つ。【煌月の氷月華(ザ・ルナティシクル・ムーンライト)】はその一つだ。

 

「クロノならそれ、使いこなせるでしょ?」

 

『使ってみないとわからないが・・・・・・これの能力はなんだ?』

 

「それの能力は大気中の水と氷、光の操作。まあ、デュランダルのサポートみたいなものだね。もっとも、デュランダルのエターナル・コフィンよりも凄い術式がその中には入ってるから、扱いには気を付けてね」

 

『おい、今物騒な言葉が聞こえたが・・・・・・。わかった、借りるよ』

 

「うん」

 

それからクロノと僕、夜月で作戦を立て。

 

「それじゃあ全員出撃準備に入って!」

 

『フェイトとアリシアは別室であの少女から聴取を頼む』

 

「みんなの武器は改装済みだから、それぞれの班で空の上で受け取ってね」

 

僕、クロノ、夜月の順に傷が癒えたなのはたちに言う。

あ、ちなみにお姉ちゃんやなのはのお母さんたちは全員僕の家に居てもらってる。士郎さんたちも後で僕の家に居てもらうつもりだ。何故かというと、そこが一番安全だからだ。

 

「それと、なのは、フェイト、はやて、アリシア、アリサ、すずか。6人ともムンドゥス・マギクス式使っていいよ。但し、あまり無理しないように」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

「アインスさんとユーノ君もすぐ来るそうだから安心してね」

 

アインスは今、ちょっとした野暮用で本局のほうにいる。ユーノは結界魔導師としてこっちに来るみたいだ。

 

「それじゃ、各員出撃!」

 

僕の声でフェイトとアリシアを除いた全員が空に上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、天ノ宮家のある一室で。

 

 

 

「あら、目が覚めたのね」

 

「えっと・・・・・・」

 

「これは・・・・・・」

 

「ふふ。はじめましてかしらふたりとも。私の名前はアフロディーテ、ここでは美咲って名前よ。こっちはガブリエル、この世界では翼よ」

 

「えっと、私の名前は――――――です」

 

「私は――――――」

 

 

 

 

 

 

眠っていた二人の少女が今、目を覚ましたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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激戦

 

~零夜side~

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

空に上がって小一時間が過ぎ、僕は海鳴市の高高度上空で索敵をしていた。そしてその隣には。

 

「見つけた?」

 

「ううん、いないよレイくん」

 

夜月がいた。基本的に僕と夜月はコンビを組むことが多い。理由は色々あるが、もっともな理由としては相性がいいのだ。もちろん僕と夜月、二人とも単独行動は可能だ。何故相性がいいのかという

と、二人とも万能型だからである。遠近両方とも高度にこなせる僕と夜月は相性がなのはたちよりも高い。一応、僕も夜月もなのはたち全員との相性はいい。しかし、それが殺し合いのようなものとなると話が変わってくる。なのはたちは元のこと、危機的状況になったときの対処がまだ甘い。というかそのときの反応が遅いのだ。そのため、星戦級魔導師である僕と夜月が組まされているということだ。

 

「そう言えば夜月、今航行艦整備部と一緒になにか新しい艦作ってるんだって?」

 

そこで僕は思い出したかのように夜月に聞いた。

 

「うん。ミゼットお祖母ちゃんに言われてね、私たちの課専用の次元航行艦はどう?って聞かれたんだ」

 

「ミゼットさんに?」

 

「うん。そこで折角だから私たちだけの航行艦を作ろうってことになって」

 

「それで今航行艦整備部の人たちとやってるってことね」

 

「そういうこと~」

 

「ちなみに聞くけど、まさかその艦って【フラクシナス】とかじゃないよね」

 

「ギクッ」

 

「え・・・・・・?!」

 

半ば適当に言ったのだが、夜月の反応を見る限り当たりだったようだ。

 

「ま、まさか本当にフラクシナス作製してるの?」

 

「い、いや~、え~と・・・・・・・」

 

あからさまに目を逸らす夜月に、僕はジト目になる。

 

「夜月?」

 

「あ~、え~と、その~・・・・・・・はい、デアラのフラクシナスです」

 

「マジで?」

 

「マジです」

 

夜月の嘘なし、冗談なしの表情に僕は天に仰いだ。

 

「正式名称はXL級次元航行艦【フラクシナスEX】です、はい」

 

「頭が痛い・・・・・・・」

 

まさかのフラクシナスEXに僕は頭が痛い。

 

「ていうかミゼットさんもこのこと噛んでたの?」

 

「うん。レイくんには秘密にしときましょうって言ってたよ。今バレちゃったけど」

 

「ミゼットさぁぁぁんっっっ!!??」

 

お茶目なミゼットさんに僕は全力でツッコんだ。というかここでツッコミをしたのは間違ってないはずだ。

そこに。

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、この魔力・・・・・・ああ、これが(ディアーチェ)殲滅者(シュテル)襲撃者(レヴィ)か」

 

僕の超広範囲索敵スキャンに三つの巨大な魔力反応が出たのだ。

 

「あ、私も感じたよ」

 

どうやら夜月も感じ取ったようだ。

 

「なのはたちは大丈夫かな」

 

「多分大丈夫じゃないかな?だってなのはちゃんたちみんな、レイくんとあれ(・・)したでしょ?私もだけど」

 

「うぐっ・・・・・・・」

 

夜月の言葉に今度は僕がバツが悪いように視線を逸らす。

 

「それにしても、あれ(・・)をなのはちゃんたちとするとはねぇ~」

 

「べ、別に僕はしなくても良かったんだけど・・・・・・!」

 

「まあ、あのときのを見てたらね~」

 

「・・・・・・夜月、何か楽しそうだね」

 

「そんなことないよ~♪」

 

「やれやれ」

 

夜月の笑みに僕は呆れ半分の気疲れ半分の視線で言った。

そこに。

 

「二人とも緊張感が無さすぎだぜ」

 

「まあ、何時も通りと言いますかなんといいますか・・・・・・・」

 

「もう、見慣れた光景ですわね」

 

「ほんとね。あ、紅茶のおかわりはこっちだよ」

 

「わぁーい!凛華ちゃんありがとう!」

 

「あ、私もお代わりを」

 

実体化と人型の凛華たちがのんびりと過ごしている会話が流れた。

 

「そういう凛華たちも何時も通りだね」

 

「そりゃそうだろうな」

 

「子は親に似るって言いますからね」

 

ソラとイリアの返しに僕と夜月は微妙な表情をとった。

そして。

 

「――――来る」

 

「!」

 

突如現れた多数の反応に僕は目付きを鋭くする。

 

「さあて。お仕事はじめようかみんな」

 

『『『『はい!』』』』

 

僕と夜月はすぐさまバリアジャケットと魔霊装を展開し、装備をフル装備に換装した。

 

「いくよ、夜月!」

 

「うん!レイくん!」

 

僕と夜月はそう言い、接近してきた多数の機械人形を破壊し始める。

 

「はああっ!」

 

「やああっ!」

 

一機、二機と迫り来る研究会の機械人形を破壊する。

 

「凛華、カートリッジロード!」

 

〈はい!〉

 

「―――ルミナスバスター!」

 

「ソラ、やるわよ!」

 

〈おうよ、マスター!〉

 

「―――紅星峻厳柱(スカーレット・ゲブラー)!」

 

僕の純白の砲撃が機械人形を数機貫き、夜月の紅の魔力の放流が機械人形を呑み込む。

 

「かかってきなさい」

 

「僕と夜月はそう簡単に落とされないよ」

 

そう言うと僕と夜月は背中合わせに並び立ち。

 

「「撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるヤツだけだ(だよ)!!」」

 

そうハッキリと、宣言するように告げた。

それと同時に。

 

「「合技(コネクティブ)!――――エクスカルペイト・ザ・バスター!!」」

 

僕と夜月の合技魔法で一瞬ですべての機械人形を塵に変えた。

 

「さて・・・・・・残りは――――」

 

今来た機械人形全てを消し炭にした僕は視線を頭上に向ける。そこには数人の魔導師が浮かんでいた。

 

「さすがというかなんと言うか・・・・・・。いやはや、噂に違わぬ能力だな」

 

拍手をして降りてきた先頭の魔導師が僕と夜月にそう言う。

 

「ありがとうって言うべきかしら?」

 

「そうだね」

 

「いやいや。これでも褒めているのだよ。さすがあのクルトとやり合っただけのことはある」

 

「それはどうも。それで、僕たちとやると言うことでいいんだよね?―――ガハト・レグリスタ」

 

降りてきた魔導師。研究会の序列二位智天使(ケルビム)の位を持つガハト・レグリスタと再び対面した。

 

「ああ」

 

一言。ただそう言うと、ガハト・レグリスタは手に持っていた剣を構えた。その剣は血のように赤く、不気味な雰囲気を露にしていた。その視線に気づいたのか、ガハト・レグリスタは。

 

「これはロストロギアの一つ、≪破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)≫だ」

 

そう答えた。

 

「っ!?ロストロギア!?」

 

「しかも≪破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)≫!?」

 

破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)≫とは、同種のロストロギアである、≪天の操槍(ヘブンリィスピア)≫と同クラスのロストロギアだ。しかも指定捜索ロストロギアなのだ。

能力は≪天の操槍(ヘブンリィスピア)≫より派手ではないが、対人戦となるとかなり強い。何故なら。

 

「我が所有する≪破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)≫は敵対する者の血を獲るまで止まらぬ。もっとも、これを操作するのにかなりの時間を要したがね」

 

「くっ!」

 

「なんてこと・・・・・・!」

 

「さあ、始めようか。我々の血塗られた舞台を!妖艶なる殺し合いを!」

 

ガハト・レグリスタがそう高らかに言うと、背後にいた魔導師が魔法を放ってきた。

 

「夜月、僕はガハト・レグリスタの相手をする!」

 

「うん!残りは任せて!」

 

二手に散開して僕と夜月はそれぞれの相手をとる。

 

星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)が我の相手か」

 

「ええ」

 

ガハト・レグリスタに視線を向けながら、特殊固有武装(アーティファクト)の鉄砕牙を展開する。

 

「では・・・・・・」

 

「よかろう。掛かってくるが良い!」

 

「参ります!」

 

鞘に鉄砕牙を納刀したまま腰だめに構え、一気に振り抜く。

 

「ふっ!」

 

破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)≫と鉄砕牙の鍔迫り合いが起き、接近戦が始まる。

 

「ふむ・・・・・・≪破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)≫と互角に切り結ぶその刀、余程の業物と見える」

 

「それはどうも!」

 

礼を言いながら、鍔迫り合いから大きく後ろに翔んで風の傷を放つ。

 

「ははっ!面白いっ!」

 

しかしそれは寸前に張られた障壁で防がれる。

 

「なら、これはどうですっ!」

 

鉄砕牙の刀身を金剛石と宇宙を掛け合わせた刀身に変化させ。

 

「―――冥剛鋭槍破!」

 

冥道斬月破と金剛槍破を合わせた、本来ならあり得ないことをやってのけた。

冥道の槍が一直線にガハト・レグリスタに向かう。

 

「むっ!」

 

ガハト・レグリスタは直感的に嫌な予感がしたのか障壁は張らず、迎撃の魔法弾や≪破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)≫の斬撃を跳ばしてきた。

ガハト・レグリスタの放った魔法弾や斬撃に当たった冥剛鋭槍破はぶつかると、小さな冥道を開き連鎖反応で爆発し、閉じていった。

 

「なるほど。今のは喰らうとさすがの我も一溜りも無いようだな」

 

今のを見てガハト・レグリスタが警戒するようにして言う。

 

「へぇー。さすが、研究会の序列二位の智天使筆頭だ。今のを避けるでもなく相殺するなんて」

 

「お褒めに預かり光栄だ。―――さて、遊びの時間はもう終わりだ。ここから先は、全力で往かせてもらおう」

 

「では、僕も本気でやりましょう」

 

鉄砕牙をしまい、凛華たち全てのデバイスを展開し、星夜は双翼形態、凛華と澪菜の片手剣形態の二刀流にし、紅葉は待機形態のカードとなってしまってる。

対するガハト・レグリスタも≪破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)≫を構える。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

互いに身動きせずタイミングを見計らい。

 

「「!」」

 

近くで起きた爆発音とともに動き出した。

 

「ハアアアッ!」

 

「うおおおっ!」

 

接近戦からの遠距離戦と、遠近両方を行っていく。

 

「ハアアアッ!―――――蝴蝶焔乱舞(こちょうえんらんぶ)!」

 

幾多の魔法とともに、無数の斬撃を放ちガハト・レグリスタを攻撃する。知智お姉ちゃんに教えてもらった剣技の経験を生かして、僕自身が編み出した剣技の一つ。魔法と斬撃が蝶のように舞い、焔が踊っていることから付けた名前。それが、僕のオリジナル剣技の一つ。天陽流(てんようりゅう)剣技、蝴蝶焔乱舞だ。

 

「なんのっ!」

 

ガハト・レグリスタはギリギリのところを避ける。

そしてさらに。

 

天陽流(てんようりゅう)剣技――――蒼天嵐舞・炎獄(そうてんらんぶ・えんごく)!」

 

風と水、炎を合わせた合技と剣技(ソードスキル)、片手剣剣技ハウリング・オクターブを放つ。

そしてさらに、天陽流は明莉お姉ちゃんからもらった剣技と魔法を融合させた魔導剣技が含まれているのだ。これはその一つだ。

 

「ぬおっ!?」

 

「やあああっ!」

 

風の檻に閉じ込められたそこに、水と炎で足止めをし、足止めをしたところに高速の剣技を放つ。

蒼天嵐舞・炎獄を喰らったガハト・レグリスタはそのまま真下へと墜ちていった。幸いにも関東全域に広域結界を張ってあるため一般人はもちろん、現実の建造物とかに影響はない。

 

「ふぅ。やっぱりまだ荒いなあ」

 

蒼天嵐舞・炎獄を思い返してそう呟く。天陽流の剣技は殆どがまだ未完成なのだ。もっとも、魔法と剣技を融合させるというのが未完成の原因なのだけど。

そう思っていると。

 

《お兄ちゃん下!》

 

「ハッ!?」

 

聖良からの忠告と魔力反応でとっさに多重障壁を張った。

魔力弾と思わしきものを防ぐと。

 

「後ろががら空きだぞ!」

 

背後から声がした。

 

「っ!?」

 

瞬時に自身の魔力を多重障壁に注ぎ、背後からの攻撃を受け止める。僕の多重障壁は幾重にも曼陀羅に防御魔方陣を敷いたものだ。そう簡単に破壊されたりはしない。

現に。

 

「なっ!?一枚も破壊できなかった、だと?」

 

後ろで≪破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)≫を振り切った状態のガハト・レグリスタは目を見開いていた。

 

「危ない危ない。とっさに障壁に魔力を注いどいて正解だったね」

 

空間転移を使って少し離れた場所に現れて僕はそう言う。

 

星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)、貴様、本当に人間か?」

 

「人間ですよ。少なくとも、分類学上的にはね」

 

「だが、この力・・・・・・あの方に匹敵・・・・・・いや、それ以上の・・・・・・・!」

 

ガハト・レグリスタはぶつぶつと、どこか恐れているとでも言うような狼狽えを見せた。

 

「仕方ありませんね・・・・・・我々は一度退かせてもらおう」

 

「逃がすと思ってる?」

 

僕がそう、ガハト・レグリスタに言ったその瞬間。

 

「!?」

 

とてつもない魔力の波動を感じた。

 

「今のは・・・・・・」

 

魔力の波動を感じた方に視線を向けると、そこには一筋の光の柱が現れていた。

 

「あれは・・・・・・」

 

思わずそう呟き、ガハト・レグリスタの方を向くと。

 

「なっ!?いない・・・・・・!」

 

いつの間にか、ガハト・レグリスタは影の形すら無かった。逃げ足は速いみたいだ。そこに。

 

「ごめん、レイくん。何人か逃げられた」

 

数人を拘束術式を幾重にも展開して捕縛した夜月がやって来た。

 

「いや、僕もガハト・レグリスタには逃げられた。逃げ足が早いやらなんやら・・・・・・」

 

肩を竦めて夜月にそう告げる。

 

「それで、あれは・・・・・・」

 

「うん。あれは・・・・・・・あの娘だね」

 

僕と夜月はうなずいて。

 

「お願いねレイくん」

 

「うん。まかせて」

 

夜月に後をまかせて、僕は光の柱が現れた場所に飛んでいった。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は零夜と夜月が研究会と戦う少し前に逆上る。

 

 

 

 

 

 

~フェイトside~

 

 

〈シグナム班、上空に注意してください!上空から巨大な質量反応が・・・・・・!〉

 

シグナムと合流した私とアリシアは、東京支局からのオペレーターからによる通信に空を見上げた。

見上げると、そこには雲に隠れているが確かな巨大な質量物。蒼い光を光らせながら堕ちてくる隕石があった。

 

〈落下予想地点は・・・・・・オールストン・シー、エリアD!〉

 

「私が止める!」

 

オペレーターの言葉にシグナムはスピードを上げ、隕石の落下コースの前に立ち。

 

「行くぞレヴァンティン!」

 

改装したデバイスのレヴァンティンをボーガンフォームに変えた。

弓となったレヴァンティンの弦を引くと、そこに一本の長い矢が現れた。

 

「駆けよ、隼!」

 

《Sturmfalken.》

 

シグナムの放った一筋の炎の矢は一直線に隕石に向かい、隕石を中心部から貫き、破壊した。

シグナムにより破壊された隕石は海上に堕ち、私たちもシグナムに追い付いた。そこに。

 

「!?」

 

「なんだよもぉ~。せっかく運んできた僕の鉄団子を壊してくれちゃってさあ~。何者だ?!名を名乗れ!」

 

一筋の蒼い雷が降り注いだかと思うと、隕石があった場所から声が聞こえた。

 

「時空管理局本局魔導師シグナムだ。大規模破壊現行犯で逮捕する」

 

「あなたの出身世界と氏名は?」

 

「武装を解除して投降して」

 

シグナムに続いて、私とアリシアが声をかける。

 

「どこから来たかだって?そんなの僕だってしらない。誰が呼んだかしらないが・・・・・・!僕の名は、レヴィ!雷光のレヴィとは、僕のことさ!」

 

レヴィと名乗った、蒼い髪の少女の姿に私たちは驚いた。

なぜなら。

 

「どういうこと、フェイトそっくり・・・・・・」

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

レヴィと名乗る少女は、私と似ていたからだ。髪の毛の長さと、バリアジャケットの色など、違うところもあるけど。

そう思っていると。

 

「そして、僕がわざわざ運んできた僕のしもべ!海塵のトゥルケーゼ」

 

レヴィの言葉に、シグナムが落とした隕石から巨大な機械人形のようなものが現れた。

 

「さあ、遊んで上げるよ~!」

 

そう言うと、レヴィは私たちと戦い始めたのだった。

 

 

 

 

 

 



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星夜の海上での激闘

 

~なのはside~

 

零夜くんと夜月ちゃんたちが研究会の人たちと戦っている間、私とヴィータちゃん、アリサちゃんたちは突如現れた巨大な機械兵器を相手にしていた。

 

「っのやろう~~!!そっちに行くんじゃ、ねぇ~~っ!!」

 

「パパとママたちが作ったあそこには行かせないわよ!」

 

ヴィータちゃんのグラーフアイゼンによる打撃と、アリサちゃんのフレイムハートによる炎を付与した斬撃で巨大な機械兵器の歩みが少し止まったところに。

 

「パイルスマッシャー、フルチャージ!」

 

遠距離からの電磁カートリッジユニットでフルチャージしたパイルスマッシャーを射つ。放たれた砲撃は超電磁砲撃(レールガン)のように、僅かに雷を帯びて一直線に機械兵器の頭部に当たった。

 

「よっしゃ!」

 

「ナイスよなのは!」

 

ヴィータちゃんとアリサちゃんがそう言うのが聞こえ、耳に着けていたイヤーマフを外す。

 

『冷却ユニットを起動します。バッテリーを交換してください』

 

「パイルスマッシャー、再発射困難。装備、換装します!」

 

パイルスマッシャーから聞こえたシステムアナウンスを私は二人に伝えた。

 

「おうよ!止めは任せろ!」

 

「行くわよヴィータ!」

 

「おうよアリサ!」

 

動けない機械兵器に止めを刺そうとヴィータちゃんとアリサちゃんが構える。その瞬間、ヴィータちゃんのはるか頭上に、赤い魔方陣が構築されたのが見えた。そして、その上には赤と黒のバリアジャケットを着てデバイスを構えた少女の姿があった。

 

「!?ヴィータちゃん!」

 

私の声にヴィータちゃんとアリサちゃんも気付いたのか頭上を見る。しかし。

 

 

 

「殲滅しますよ、ルシフェリオン。ディザスターヒート!」

 

 

 

一歩遅く、少女から砲撃が放たれた。

私は換装したストライクカノンを構えてヴィータちゃんの前に行き防御障壁を張った。

 

「「うぐぅぅ!!」」

 

「なのは!ヴィータ!」

 

「大丈夫だ!」

 

「アリサちゃん!お願い!」

 

「わかった!」

 

とっさにアリサちゃんが張ってくれた防御魔方陣のお陰で、私の防御魔方陣に当たって辺りに拡散した火の粉はなんとか被害を最小限にすることができた。

 

「・・・・・・」

 

煙がまだ立ち込める中、私とアリサちゃんは砲撃を放った少女に向かって魔法弾を放ち。

 

「えぇぇいっ!」

 

「はあぁぁあっ!」

 

一気に距離を詰めた。

 

「え、えっと・・・・・・」

 

「え!?」

 

距離を積め、デバイス同士のつばぜり合いで少女の顔を見た私とアリサちゃんは少しだけ戸惑った。

 

「なるほど、良き連携です」

 

「あなた誰!なぜ攻撃したの?」

 

私から離れた少女にアリサちゃんが追求する。

 

「名乗らせてもらいましょう。我が名はシュテル。殲滅のシュテル」

 

「シュテル・・・・・」

 

「名前は違うけど、容姿はなのはそっくりね・・・・・・」

 

少女・・・・・・・シュテルと名乗った少女に私とアリサちゃんはそう呟いた。その時、動いてなかった機械兵器が再び動き出した。しかも、私が吹き飛ばした部分の修復までしている。

 

「っ!」

 

「そして、我が王から賜った、城塞のグラナート。なぜ、攻撃したのかという質問に対しては、あなた方に恨みはありません。ですが我が王からの指示のため・・・・・・」

 

シュテルはそう答えると、体から真っ赤な魔力光と炎を放出させた。

 

「ここで消えていただきます」

 

「!」

 

「炎熱属性持ち!」

 

私とアリサちゃんはそう言って、シュテルとの戦闘を始めた。

 

~なのはside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~はやてside~

 

 

なのはちゃんたちがいるオールストン・シー郊外の森林部の上空で、私とすずかちゃんは一人の少女と相対していた。

 

「貴様が闇の書の主か」

 

「夜天の書の主、八神はやてです」

 

「そっちの貴様は」

 

「時空管理局本局特務0課所属、月村すずかです!あなたの名前は?」

 

すずかちゃんの問いに、目の前の少女は。

 

「我が名はディアーチェ。失われた力を取り戻すために甦った王の魂」

 

「王?」

 

「失われた力?」

 

ディアーチェと名乗った少女の意味が分からず、私とすずかちゃんは疑問符を浮かべた。

 

「我が力を取り戻すには、貴様らが目障りだとかでな」

 

「キリエさん・・・・・・いや、イリスの差し金やね?」

 

「答える必要はないな」

 

「「っ!」」

 

ディアーチェ、なんか偉そうにしてるから王様でいいか。

王様の目の前に現れた、私の持つ夜天の書のデバイス、シュベルトクロイツに酷似した一本の杖が現れ、私とすずかちゃんの周囲に黒い穴が現れた。

 

「ドゥームブリンガー!」

 

穴からの黒紫の槍が次々と現れ私とすずかちゃんに襲い掛かってくる。私とすずかちゃんはそれを。

 

「そうはいかん。キリエさんもイリスも止めなあかんし!」

 

《盗まれた宝物も、返していただかなければなりません!》

 

「零夜くんが命を懸けて守った、はやてちゃんと零夜くんの大切なの宝物、絶対に返してもらうよ!」

 

私はリインとユニゾンして、すずかちゃんと一緒に防御障壁を張って防ぎ、王様にそう言う。すずかちゃんの言った通り、夜天の書は零夜くんが二年前私たちのために命を懸けて、それこそ、全次元世界を敵にして守ってくれた大切な宝物だ。そして、私とリイン、アインス、零夜くん、聖良ちゃんの想い出の書だ。せやから。

 

「王様にも、お話を聞かせてもらうで!」

 

私は絶対に夜天の書を取り返すと誓った。

 

「ふっ。頭が高い!」

 

王様の言葉に、王様の頭上の空間が歪みそこから一頭の黒竜が現れた。

 

「我が僕、黒影のアメティスタが貴様らを嬲り殺してくれよう!」

 

~はやてside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~outer side~

 

 

零夜・夜月ペア、なのは・アリサペア、フェイト・アリシアペア、はやて・すずかペアそれぞれが目下の敵と相対している最中、シグナムたちは機動外郭を相手にしていた。

 

 

 

 

 

オールストン・シー エリアD付近

 

 

 

「はあぁぁあっ!」

 

上空から炎を纏って振り下ろされたシグナムの剣は、機動外郭の右肩部から切り落とした。

 

「っ?!」

 

しかし切り落とされた部分は瞬く間に修復が入った。どうやら機動外郭を制御しているコアをどうにかしないと止まらないようだ。

しかも。

 

「再生スピードがどんどん速くなっている!?」

 

そう、欠損部分の再生速度が上がっているのだ。

機動外郭が元に、修復されると機動外郭はレーザーを発射しようとした。

 

「っ!させるか!」

 

そこに瞬時にシグナムが入り、レーザーを受け止めるが勢いに押し負け、改装したレヴァンティンの鞘と刀身が砕け散り、背後の建造物にぶつかり背中に衝撃を受けた。

 

「ぐぁっ!」

 

肺の中の空気が一気に吐き出される感じをしシグナムは痛みに顔をしかめる。

そのころ、少し離れた場所にいるシャマルはというと。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

クラールヴィントの旅の鏡で機動外郭を検分していた。

 

「(どこかにコアがあるはず・・・・・・それを破壊すれば!)」

 

機動外郭をスキャンし、ようやく シャマルはコアを見つけた。

 

「―――見つけた!そして・・・・・・!」

 

機動外郭の前に、旅の鏡からライムグリーンの非実体の腕を出し、機動外郭の心臓部であるコアへと障害物を無視して伸ばしコアを掴む。

 

「これが全身を操作しているコアパーツ!―――はああああっ!」

 

直接コアに。いや、非実体の腕を通してコアに触れたシャマルはそのコアを握り潰すかのように力を込めていき。

 

「!やったわ!」

 

やがて、そのコアは破壊され機動外郭の外部の光が落ちた。後に残ったのは動かない機械だけだ。

 

「シグナム、あとお願い!」

 

「ああ!零夜から受け取ったこれで終わりだ!」

 

シャマルの声を聞いたシグナムは懐から紫色のカードを取り出し。

 

「―――起動(アクティブ)!」

 

一言そういった。

すると紫色のカードが光、そこから一本の流麗な鞘に納まられた刀が現れた。

 

「いくぞ!」

 

そう言うと、シグナムは鞘から刀を抜き、刀に魔力を通した。

すると刀はシグナムの魔力に反応し赤紫色に輝き、刀身に炎熱変換で発現した炎が燃え盛った。

 

「はああああっ!―――紫電、一閃!」

 

シグナムの一閃は機動外郭を二分割し、炎熱によって爆発を起こして機動外郭は破壊された。

 

「シグナム!」

 

「ああ、シャマル」

 

「レヴァンティンの方は」

 

「さすがに刀身の換装が必要だ。まさか、鞘だけでなく刀身まで壊れるとはな」

 

「そう・・・・・・。それで、零夜君から受け取った星霊武装(アストラルウェポン)、≪紫星の焔惺刀(スターティング・フレメアディス)≫の方は使い心地どうかしら?」

 

治癒をシグナムに施しながらシャマルはシグナムの手に握られている一振りの流麗な刀を見る。

シャマルの問いにシグナムは。

 

「ふむ・・・・・・何故か分からんが、手に吸い付くように馴染むな。まるで昔から使っていたみたいだ。このようなこと、レヴァンティン以外で初めてのことだ」

 

驚いたようにして言った。

 

「そんなに・・・・・・!?」

 

「ああ。実際、私も驚いている」

 

シグナムが持っている刀は、出撃前に零夜から渡された武装。星霊武装が一つ、刀型の≪紫星の焔惺刀(スターティング・フレメアディス)≫だ。この刀の能力は炎熱属性強化と切断だ。焔の名が入っていることからこの刀は炎熱属性持ちの人にとっての武装だ。しかし、炎熱属性持ちだからと言ってこれを使いこなせるわけではなく、シグナムのような剣の使い手だからこそ使いこなせる代物だ。例えるなら、刃こぼれしている刀を素人が使ったところで対象を斬れるはずないが、一流の達人ならば刃こぼれしていようが問題なく斬れるというものだ。つまるところ、技術と経験がモノを言うと言うことだ。

 

「それよりシャマル。ヴィータとザフィーラにもこのことを伝えてやらねば。いくら、ヴィータが私と同じ零夜からあれ(・・)を受け取っているとはいえ・・・・・・」

 

「大丈夫よ。もうすでに伝えてあるわ。今ヴィータちゃんのところにザフィーラが向かっているはず」

 

「そうか・・・・・・ならいいが」

 

安堵したようにシグナムは言い、すぐに気を引き閉め直した。

 

「まだ、終わってない。次にいくぞシャマル」

 

「ええ」

 

シグナムの言葉にシャマルもさらに気を引き閉め次の場所へと飛んでいった。

 

~outer side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜月side~

 

レイくんが光の柱の方に翔んでいったあと、私は捕縛した数人の研究会の人間の武装を解除し、本局から送られた武装隊の人に引き渡し、再び空に上がっていた。

 

「映画通りなら、このあとクロノ君は重傷を負ってイリスが肉体を得て、なんやかんやなんだよね」

 

空に上がり、私はそう静かに呟いた。

それに返したのは。

 

〈心配なのかマスター?〉

 

魔導書姿のソラだった。

 

「うん。少しね」

 

〈零夜くんが向かったので重傷を負ってもなんとかなるとは思いますけど・・・・・・〉

 

「まあ、ね」

 

事実、レイくんなら重傷でも治療できると思う。といっても、応急手当を取るぐらいだけだろうけど。

 

〈にしてもマスター〉

 

「んん?」

 

〈さっきの戦い、ありゃ相手に同情するぜ?〉

 

ソラのその言葉に私は心外だよ、とでも言うような表情を取った。

 

「そうかな~」

 

ソラの言葉に私は首をかしげる。

するとそこに追撃として。

 

〈いえ、マスター。さすがの私もあれはやりすぎかと〉

 

〈申し訳ありませんマスター。私もジュデッカとどう意見です〉

 

同じく剣のペンダントとなっているジュデッカとカイーナからも言われた。

 

「そ、そんなことないよ!ね、ねえ、イリア?」

 

〈え、えっと・・・・・・・〉

 

3人の言葉に私はイリアに助けを求めた。

 

〈あの、夜月ちゃん〉

 

「なに、イリア?」

 

〈いえ、その・・・・・・さすがに刻々帝(ザフキエル)一の弾(アレフ)で自身を加速させて、二の弾(ベート)で相手の動きを遅滞させ、七の弾(ザイン)で時を止めてその間に、氷結傀儡(ザドキエル)で凍らせたり、破軍歌姫(ガブリエル)で気絶させたりするのはさすがにどうかなあ~・・・・・・って思ってたりしますよ〉

 

「うぐっ・・・・・・!」

 

イリアの言葉に私は思わず胸を押さえた。今は余り膨らんでないけど、少しは成長していると自負している胸を押さえながらイリアのイリアの言葉に思い返す。

 

「た、確かにやり過ぎた気もするけど・・・・・・」

 

〈だからって言って、攻撃は贋造魔女(ハニエル)で物質変換するわ、破軍歌姫(ガブリエル)で相手を音の拘束をするわ、封解主(ミカエル)でそれを返すのはどうかと思うぜ?〉

 

〈最悪トラウマになりかねないかと思いますマスター〉

 

「だ、だって、向こうからやって来たんだよ!?それに殺しに来てる人に手加減なんて出来るわけないよ!」

 

〈いや、そりゃまあ、そうなんだがな・・・・・・・〉

 

私の返しにソラは微妙なニュアンスを入れていた。

 

〈夜月ちゃんはまだ天使を全て使いこなしてる訳ではないんでしたっけ?〉

 

「え?あ、うん。今上手く使いこなせないのは、雷霆聖堂(ケルビエル)凶禍楽園(エデン)。全ての天使の中でも、【万物を殺める】万象聖堂(アイン・ソフ・オウル)に【あらゆる条理をねじ曲げる】輪廻楽園(アイン・ソフ)、【全てを消滅させる】   (アイン)はまだまだ全然使いこなせないよ」

 

〈まあ、最初の二つはともかく、最後の三つはな〉

 

〈最悪、世界そのものが滅びますからね〉

 

ソラのイリアの言葉に私はうなずいて返した。さすがの私もこの三つは使いこなせないのだ。いや、正確には使いこなすことが出来ないのだ。理由は、姉様に使うなと言われているからだ。

姉様は、この力はいずれ貴女を滅ぼすことになる、と言っていた。確かに驚異でいえばレイくんより、私の方がよっぽど危険だ。まあ、念には念のため私とレイくんはあることをしているけど。そのあることとはまだ秘密だ。

 

〈まあ、その分マスターは私らの方は結構スゲーからな〉

 

〈トリニティですからね。しかも、七つの大罪のトリニティを越えようとしてますからね〉

 

〈まったく、マスターらはほんとどこまで強くなるのやら〉

 

「さあね~」

 

ソラとイリアの言葉に含み笑いを返して答えた。

 

「(それに、私の天使は反転の恐れもあるからね・・・・・・)」

 

私の特典であるデアラの天使はデアラと同じように反転がある。基本的に反転をさせないように何重にも封印を掛けているが、いつそれが解かれるかわからない。

過剰な力は身体に毒となる。姉様が言っていた言葉だ。

そう思っていると。

 

「ん?」

 

こっちに向かってものすごい速さで飛んでくる反応を感じた。

すると。

 

「夜月!」

 

「アインスさん?」

 

目の前にアインスさんが現れた。というかその反応がアインスさんだった。

 

「夜月、零夜は?!」

 

「レイくんならあの光の柱の方に飛んで行ったよ」

 

「な!?」

 

私の言葉にアインスさんは目を見開いた。

 

「アインスさん、あの光が何か知ってるの?」

 

私は一応アインスさんに聞いた。

 

「あれは彼女・・・・・・ユーリのだ」

 

どうやら本当にさっきの光はユーリちゃんのだったみたいだ。

 

「マズいぞ・・・・・・ヤツらの目的がユーリならかなりまずい!」

 

「え?なんで?」

 

「ユーリの能力は相手の生命エネルギーを結晶化する力・・・・・・結命樹だ。しかも彼女の魔力値はおまえたちと同等だ!」

 

「!?」

アインスさんの言葉に私まで驚く。そこまでとは思ってなかったのだ。

 

「とにかく私は速く彼女の元に行かねば!夜月はどうする!」

 

「私はちょっとなのはちゃんの所に行ってから行くよ!」

 

「わかった!」

 

そう言うとアインスさんは再びものすごい速さで飛んで行った。

 

「私も速く行かないと・・・・・・」

 

そう呟いて、私はオールストン・シーの駐車場に設置された管理局の救護施設に向かった。

 

 



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星光の殲滅者(シュテル)星翔ける少女(なのは)


こんにちはソーナです。
皆さんこの緊急事態ともいえる日々にどうお過ごしですか?
良ければ私の投稿小説を読んでくださると嬉しいです。そして、ぜひ感想をお願いします。些細なことでも構いませんので、待ってます!


 

~なのはside~

 

「リリカル・マジカル・スターライト!魔法の射手・連弾・風の54矢(サギタ・マギカ・セリエス・アエーリウス)!」

 

オールストン・シーの上空では私とアリサちゃんがシュテルと名乗った少女と戦闘していた。

 

「やりますね・・・・・・」

 

私の魔法の射手を回避また迎撃しながら攻撃してくるシュテルはかなり強かった。少なくとも、私より強い。零夜くんや夜月ちゃんと模擬戦とかしてなかったらやられていたかもしれない。

 

「なのは、合わせるわ!」

 

「うん!」

 

アリサちゃんの声に私はさらに術式を詠唱し始める。

 

「敵を捕らえ、閉じ込めよ!―――風璧の牢獄(エアリアル・プリズン)!」

 

「これは・・・・・・」

 

まずはムンドゥス・マギクスの魔法で風の牢獄を作り、シュテルを捕え。

 

「焚けれ、猛れ、業火に焼かれ身を焦がせ!灼熱業火の焱よ、荒れ狂いなさい!―――炎極の鎮煌姫(フレア・レクイリセス)!」

 

アリサちゃんの高威力の炎魔法でシュテルを攻撃する。

 

「威力は抑えてあるけど、かなりダメージを食らうはずよ」

 

私の横に飛んできたアリサちゃんがそう言う。

 

「ねえ、アリサちゃんあの魔法ってもしかして・・・・・・」

 

アリサちゃんの魔法に少し見覚えがある気がした私はアリサちゃんに訊ねた。

 

「ええ。零夜の奈落の業火(インケンディウム・ゲヘナエ)を私なりに改良した魔法よ」

 

「やっぱりそうなんだね」

 

「それを言うならなのはの魔法もでしょ?」

 

「うん、零夜くんに手伝ってもらってできたんだ」

 

「やっぱりね。(ほんと、零夜いつか倒れるんじゃないか心配よ。なのはもそうだけど、ほんと、嫌な予感がするわ。何時か何かが起こりそうで・・・・・・)」

 

「?」

 

最後の方、アリサちゃんが何か言ったみたいだけど聞こえなかった私は首を少し傾げた。するとそこに。

 

「―――お見事です。さすがですね」

 

「「!?」」

 

シュテルの声が響いた。

そして。

 

「うそ」

 

「まさか、レジストしたの!?」

 

私とアリサちゃんの魔法が破られ、その上にシュテルがいた。

 

「いえ、レジストは出来ないと判断したので、とっさに障壁を張り威力の弱い場所を突いて抜け出しました」

 

シュテルのその言葉に私とアリサちゃんは目を見開いた。そんなことが出来るのは零夜くんや夜月ちゃんだけだったからだ。いや、零夜くんは魔法の構造を解析してそれを分解して無効化または多重障壁で防ぐ。私は一人で一度も零夜くんの多重障壁を突破したことは無い。フェイトちゃんやはやてちゃん達も合わせた六人の同時攻撃なら突破出来たことはあるけど。シグナムさんやヴィータちゃんでも突破したことない。唯一、零夜くんの多重障壁を突破できたのは夜月ちゃんだけだ。

 

「なのはに似ている割には頭の回転が速いわね・・・・・・」

 

「アリサちゃん!?それどういう意味?!」

 

アリサちゃんのそんな呟きに私は心外だと言うかのように声を荒らげた。

 

「そんなことより。厄介ね、彼女かなり強い」

 

「私にとってはそんなことより、じゃないんだけど。そうだね、確かに強い・・・・・・でも!」

 

「この位でへこたれてちゃ、すずかたちに示しがつかないわね!やるわよなのは!」

 

「うん、アリサちゃん!」

 

「いいでしょう。お相手致します」

 

そう冷静に言うシュテルに私とアリサちゃんは連携して向かっていった。

 

「行くわよシュテル!」

 

そう言うとアリサちゃんは初撃からフルスピードでシュテルに攻撃した。

 

「ハアアアッ!」

 

「ヤアアアッ!」

 

互いの炎がぶつかり、私にまで熱い風が伝わってきた。

アリサちゃんの魔法弾とシュテルの魔法がぶつかり消える。

 

「やりますね」

 

「シュテル、あなたもね!」

 

「ええ、ですが・・・・・・」

 

「っ!?」

 

「まだまだ私には遠く及びません」

 

シュテルは一瞬でアリサちゃんの背後に回り込み。

 

「ルシフェリオン―――ヒートブラスト!」

 

炎の砲撃を放った。

 

「くぅ!」

 

とっさに私が割り込み障壁を張る。

 

「なのは!」

 

「大丈夫!」

 

「さすがです、なのは」

 

砲撃を防ぐと、シュテルが満足そうに言った。

そのまま、私とアリサちゃんは目配せをしてシュテルに攻撃し始める。それから少ししてシュテルから。

 

「なのは、アリサ、質問してもいいですか?」

 

とそう聞かれた。

 

「え、今?」

 

「今聞くこと?」

 

「はい」

 

シュテルの問いに私とアリサちゃんは驚いていた。まさかこんな戦闘中に質問してくるとは思わなかったのだ。

 

「あなた方二人は先程から地上の建造物に余り被害がないようにしています。生命反応は感じられず。無人の建造物ですが、何故ですか?」

 

「私はここを作ったのがパパとママたちだから。パパとママたちが丹精込めて作ったここを壊されたくないからよ」

 

「なるほど。なのはは何故ですか?」

 

「それはまあ・・・・・・。アリサちゃんの言うこともあるんだけど、ここはみんなが一生懸命作ったもので、完成を楽しみに待っている人がいる。沢山の人の努力と期待がこもっている場所だから壊したくないの!」

 

アリサちゃんより少しスピードを速くしてシュテルに攻撃をする。

 

「それを守りながら、私の攻撃を受け止められるとでも?」

 

「やってはみるよ」

 

互いに同時に放った直射砲撃を当たる直前に、当たるギリギリの所で左右に避けまたぶつかる。

 

「無理でもなんでも・・・・・・ものわかり良く諦めちゃうと後悔するから。だから決めたんだ、どんな時でも諦め悪く食らいついて、私の魔法が届く距離にあるものは全部守っていくんだって!」

 

鍔迫り合いをしながら私はシュテルに自分の思いを伝える。

そのまま拮抗状態の後。

 

「ふっ!」

 

シュテルがデバイスで力任せに押し込み、すぐさま左手に装備していた手甲型デバイスで私の頭を掴んだ。

 

「・・・・・・それがあなたの覚悟ですか」

 

目の前の掌部分に赤い魔力光が見えた私はすぐに右手を突き出して反撃する。が。

 

「っ!」

 

ほぼ同時に私とシュテルの近距離の攻撃が当たり、私とシュテルはそれぞれ後ろに吹き飛ばされた。

 

「なのは!」

 

「大丈夫!」

 

声をかけてくるアリサちゃんにそう言い、反対側に吹き飛ばされたシュテルに視線を送る。

 

「私にも覚悟があります。王を守り、王の願いを叶えると言う、炎である覚悟です」

 

デバイスの形状が変わり、デバイスの先端に真っ赤な魔力光が輝き始めたかと思うと。

 

「っ!?バインド?!」

 

突然、私の両手足がいつの間に展開したバインドで縛られた。

 

「―――集え、赤星」

 

「集束魔法?!」

 

シュテルの呪文に私はすぐさまそれが集束魔法だとわかった。

 

「あなたと私の心と魔道、どちらが強いか比べ合うとしましょう」

 

強引にバインドを引きちぎり、私はすぐさま反撃の体制をとる。

 

「こっちも集束砲で相殺するしかない。だけど・・・・・・」

 

ストライクカノンの先端を二矛に開き、そこに魔力を集める。

けど、私はこんなところで集束砲を撃ち合ったらと思い地上の建造物を見る。

 

「こんな距離で撃ち合ったら地上の施設が・・・・・・」

 

零夜くんがいてくれたら何とかなったのかもしれない。

それに、相殺と言ってもこの集束量では恐らく私の方が威力が低いはずだ。どうしようか悩んでいたそのとき。

 

〈なのは大丈夫!地上の施設は僕が守る〉

 

「私も全力で障壁を張るわ!」

 

ユーノくんとアリサちゃんの声が聞こえてきた。

二人は協力して防御魔法を張っていた。

 

「ユーノくん!アリサちゃん!」

 

〈だからなのははこっちを気にせず、全力でぶっぱなして!〉

 

「ここで負けたら承知しないからね、なのは!思いっきりやっちゃいなさい!」

 

「ありがとう二人とも・・・・・・!」

 

二人にお礼を言い、私は魔力集束に魔力をふる。

現状ではかなりギリギリだ。けど、一つだけなんとか出来る方法がある。それは―――

 

「(零夜くんが使っちゃダメって言っていたけど、やるしかないよね)」

 

私は再び自身の魔力を練る。

 

「集え、星の輝き!」

 

集まった魔力残滓は少しずつ集まっていく。

けど、このままでは押し負ける。

 

「(自分の限界を超えるために・・・・・・。彼に・・・・・・零夜くんたちに追い付くために!)――――――限界突破(リミットブレイク)!」

 

そう言うと、魔力収束が速くなり自身の魔力をも上乗せしている感じが取れた。やがて私とシュテルは同時に。

 

「ルシフェリオン―――!」

 

「スターライト―――!」

 

「「ブレイカー!!」」

 

超近距離のブレイカーを同時に放った。

シュテルの真っ赤な集束砲(ルシフェリオンブレイカー)と私のピンクの集束砲(スターライトブレイカー)は私たち二人の間にぶつかり合った。

二つの集束砲は膨れ上がり、衝撃と風を巻き起こす。

 

「打ち切れ!この砲撃に耐えられる人間など!」

 

そうシュテルが言うなか、私は砲撃の中を一直線にシュテルに向かって飛んでいた。

 

「ストライクカノン、ACSモード!そして、・・・・・・限界突破(リミットブレイク)ッ!!」

 

ストライクカノンの形状を変え、先端に細長い光状の槍を展開し、さらにもう一度限界突破を使う。

 

「ドライブ・・・・・・イグニッション!!」

 

身体に痺れるような痛みが迸るがそれを耐え、全力でシュテルに向かっていく。

 

「はああああああああああ!!」

 

「っ!?」

 

しかし当たる直前に、驚いた表情をしたシュテルに受け止められた。シュテルは受け止めたまま右手に握ったデバイスを向けて真っ赤な魔力球を作り出した。

 

「ヒート―――!」

 

「バースト―――!」

 

シュテルに対抗するように私も至近距離から魔力球を構築し。

 

「「―――エンド!!」」

 

同時にぶつかった。

二つの魔法はそのまま膨れ上がっていきオールストン・シーを飲み込むほどの灼熱の球体となった。

 

~なのはside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~アリサside~

 

 

「―――限界突破(リミットブレイク)!」

 

 

「!?限界突破(リミットブレイク)!?」

 

ユーノと一緒に辺り一帯への魔力障壁を張っていた私の耳に、集束砲の撃ち準備をしているなのはのその声が聞こえた。

 

「あの、バカなのは!」

 

つい私はなのはに向かってそう小さく悪態ついた。

限界突破とはその名の通り、自分の限界(リミット)を超え、突破(ブレイク)すること。しかし、限界突破は自分の限界一時的に超えただけのものでそれを・・・・・・魔力をコントロールするのはかなり難しい。コントロール一つ間違えば、ただの自爆装置にしかなりかねない。何故こんな危険なものを知っているのかと言うと、零夜と夜月から一時的な魔力強化について教わった時に教えられたのだ。しかし、二人からは使ってはダメだと言われていた。まあ、それは最もだ。私達は二人みたいに上手く魔力操作が出来るわけじゃない。特にはやては魔力操作に困難している。その為、基本限界突破の仕様は禁じられている。が、なのははそれを使った。

 

「ユーノ、さらに障壁を張るわよ!」

 

「!わかった!」

 

ユーノも私の言いたいことが分かったのかすぐに重ねるように防御魔法陣を多重展開してオールストン・シー全域に展開する。そして、上空にいるヴィータたちにも。

 

「ヴィータ、全力で障壁を張って!」

 

「!お、おう!」

 

ヴィータ達も全力でなのはの集束砲に巻き込まれないように障壁を張った。全力で障壁を張り終わったのと同時に。

 

 

「ルシフェリオン―――!」

 

「スターライト―――!」

 

「「ブレイカー!!」」

 

 

シュテルとなのは二人の集束砲が放たれた。

 

「「っぐ!!」」

 

二人の集束砲に私とユーノは息が詰まる感じがした。

やがて、二人の集束砲は一つの巨大な火の玉となりオールストン・シー全域を覆い尽くす大きさとなった。

 

「―――はぁ、はぁ、はぁ。アリサ大丈夫?」

 

集束砲の余波等が収まり、ユーノが息を整えながら聞いてきた。

 

「ええ、大丈夫」

 

ユーノにそう返して、辺りを見渡す。

 

「私とユーノが障壁を張ったのにここまで・・・・・・」

 

幸い建造物に傷は付いたり壊れたりしてないが、辺りはオールストン・シーにあったゴミ箱やベンチ、樹々などが無造作に倒れていた。樹に関しては折れていたりしている物もあった。

辺りの惨状を見渡して、ふと頭上を見上げると。

 

「ヤバっ!」

 

ボロボロになって満身創痍のシュテルが堕ちてくる姿が写った。

私はとっさに空に上がり、シュテルを抱き抱える。

 

「っと」

 

「アリサちゃん、シュテルは」

 

「大丈夫、気絶してるだけよ」

 

「そう、よかった」

 

近寄ってきたなのはにそう言い。

 

「取り敢えず救護班の所に行くわよ」

 

「え、なんで?」

 

「あのね、なのは。あんた零夜から使っちゃダメって言われていた限界突破使ったでしょ」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

私の言葉になのははたじらうように目線を逸らした。

 

「しかも二回も限界突破使って・・・・・・!」

 

「うっ・・・・・・気づいてたの」

 

「当たり前でしょ!何考えてるの!?限界突破の上にさらに限界突破を重ねるなんて・・・・・・。魔力暴走(オーバーロード)を引き起こす可能性があるのよ!」

 

自分の限界を超える限界突破は魔力が増幅するが、一つコントロールを間違えれば魔力暴走を引き起こす可能性があるのだ。つまり、よほど魔力操作が上手くなければ使えないのだ。そして、限界突破の重ねがけは私の記憶が正しければ使えたのは零夜ただ一人。だが、さすがの零夜も限界突破の重ねがけはキツいのか、すぐに解除ししばらくは動けなかったのだ。夜月も一応限界突破は使えるが、彼女は基本『天使』と呼ばれる装備や七つの大罪をテーマとした書庫(アーカイブ)というものに接続?してるらしくあまり使わないらしい。私でも限界突破は身体にかなりの負担が掛かるため正直あまり使いたくない・・・・・・というか、魔力操作が上手くないから使いこなせないのだけど。

 

「とにかく、あんたは一度救護の人に見てもらいなさい!」

 

「け、けど・・・・・・」

 

「ああ!もう!いいから行くわよ!引き摺ってでも連れていくんだから!」

 

「え、ちょっ!あ、アリサちゃぁん!?」

 

抵抗するなのはを無視して、私はヴィータとユーノとともに気絶しているシュテルとなのはを連れて最寄りの救護班の場所に飛んで行った。

 

~アリサside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜月side~

 

 

 

零夜くんと分かれた私はオールストン・シー駐車場に設置された救護施設に向かって飛んでっていた。

 

「なのはちゃん、限界突破使ったんだね」

 

その道中、私は研究会との戦闘中に感じた膨大な魔力について呟いた。あれはなのはちゃんが限界突破した証だ。おそらく零夜くんも気付いていると思うけど。

 

「限界突破は諸刃の剣なのに・・・・・・」

 

私が言うのもなんだけど、正直限界突破は禁じ手に部類されるとおもう。簡単に言うなら、繊細なインテリジェントデバイスに、CVK792・・・・・・ベルカ式カートリッジシステムを組み込むということと同じものだ。まあ、なのはちゃんとフェイトちゃんのレイジングハートとバルディシュは零夜くんが直接チューニングしたカートリッジシステムを組み込んだみたいだけど。限界突破はカートリッジシステムより危険度は高い。しかしその分得られるものは高い。カートリッジシステムは魔力を込めた弾丸をデバイス内で爆発させて瞬間的に魔力を高めるものだ。それに対して限界突破は自身の魔力を一時的に数倍から数十倍にまで高める、自身の限界を越えるものだ。簡単に言うなら、ジャグリングで四つから一気にその倍の八つや十二個にまで増えるというのと同じことだ。そして、それはかなり繊細な作業が必要だ。ジャグリングでも一つミスったら連鎖的に崩れていくのと同じように、魔力操作を少しミスったら最悪、魔力暴走が起こる。零夜くんもこの技術については教えたくなかったみたいだけど・・・・・・。

 

「ほんと・・・・・・なのはちゃん。なのはちゃんの選択は、いつか後悔する日が必ず来るよ」

 

私がそっと呟いたその一言は風に流れて消えた。

記憶と未来をから私はそんなことを呟いて、オールストン・シーの駐車場に設置された救護施設に私は降りた。

 

 

 



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雷刃の襲撃者(レヴィ)優しき雷光の少女(フェイト)

 

~フェイトside~

 

 

レヴィと名乗る女の子と姉さんと私二人で相手して既に数分が経過していた。

 

「イヤッホーイ!」

 

「ああ!もう!」

 

私と姉さんのアリシアはレヴィを追って、昼間に来た水族館にいた。辺りはレヴィの攻撃や余波でガラスが割れた水槽がある。

 

「フェイト、私が周囲に障壁を張るからあの子をお願い!」

 

「うん!お願い姉さん!」

 

姉さんに水槽などを任せ、私はバルディッシュの代わりのAEC武装のフォートレスの汎用デバイスを使ってレヴィを止める。

 

「物を壊さない!ここは遊んじゃいけない場所です」

 

「ええ?なんで~?」

 

「なんでも!どうしても!」

 

「ふっ!」

 

「ああ!また、こんなに水槽が・・・・・・!」

 

私の忠告に、レヴィは無視してさらに水槽を破壊する。破壊された水槽からは昼間に見たお魚さん達が水とともに水槽の中から流されてきた。姉さんが障壁を張っているのに、と思っていると。

 

「ごめんフェイト!その子手加減無しでやってるから障壁貫かれちゃう!」

 

すぐ近くから少し苦しそうな姉さんの声が聞こえてきた。

 

「そんな!」

 

姉さんのその言葉に私は辺りを見渡す。

幾ら結界を解除したら戻るとはいえ、ある程度は修復をする必要があるのだ。もっとも、別次元の結界。零夜の広域結界型アーティファクトなら問題ないけど、零夜曰くあれはかなりの魔力を必要とするらしく、零夜以外関東全域にまでは広げられないとのことだ。その為、本局から結界魔導師十数人とユーノが張ってくれてる。

私は姉さんの負担を少しでも減らすためレヴィに近づき、破壊を止めるように説得する。

 

「この辺の物、壊しちゃダメなの?」

 

不満げのレヴィは納得いかないのかそう訊いてきた。

 

「ダメなの!みんなが一生懸命作ってる途中なんだから!」

 

「よっ」

 

「うっ!」

 

「フェイト!」

 

レヴィの一撃を受け、水槽の水であちこちが水浸しの水族館の床を滑るように後ろに下がった私に、姉さんが心配そうに声を掛けてくる。

 

「大丈夫!」

 

フォートレスの汎用デバイスを握り直して姉さんに返す。

その私にレヴィが。

 

「それ、なんかボクに関係ある?」

 

「それは・・・・・・」

 

レヴィの言葉に、私は口が淀んだ。

確かに、私たちの事情にレヴィが関係あるがないかと言われれば、無いだろう。それでも、私はレヴィにこの場所の物を壊して欲しくなかった。

 

「まあ、狭い場所だとやりづらいっちゃあそうだけど・・・・・・場所変えようか」

 

「え・・・・・・」

 

そう言って目を閉じたレヴィは。

 

「―――いい場所、みーっけ!着いてきて!」

 

そう言うと、何処かに飛んでいった。

 

「あ、ちょっと!」

 

「追ってフェイト!」

 

「姉さんは?!」

 

「私もすぐに追いかけるから!早く!」

 

「・・・・・・うん!」

 

姉さんに任せ、私はレヴィを追いかける。

やがて、私はレヴィを追い掛けるようにして水族館の地下エリアから、地上エリアに出た。

 

「ここ、ここ!」

 

辺りはなんかの水族館のアトラクションで使うステージがあり、まだ建設中なのかクレーン車が数台止まっていた。

 

「場所はいいけど、暗くてつまんないね」

 

レヴィの言う通り、ここはまだ電気が通ってないのか暗くて見づらい場所だ。そう思った次の瞬間。

 

「な、なに!?」

 

空から蒼い雷がクレーン車に当たり、そこから辺り一面にパッパッと、電気が点いていった。

 

「できたぁ~!ここならいいでしょ?綺麗で楽しぃ~!」

 

レヴィの言葉から今のは彼女がやったみたいだ。

これほどの技量を持ちながら、何故レヴィがここに居るのか気になり私は再度問い掛けた。

 

「ねえレヴィ、あなたどこの子?」

 

「どこの子って、ボクは王様の臣下でシュテルンのマブだち!王様がね、キミらをなるべく足止めして、出来ることならやっつけて来い、って言うからボクとシュテルンは頑張るの」

 

「王様っていうのは、キリエさんの関係者?」

 

「王様は王様だよ!」

 

レヴィの言葉から察するに、どうやらレヴィとシュテルンというのは王様?という人の臣下で、キリエさんとは無関係らしい。

そう今の会話から推察してると。

 

「もういい~?ずっと眠ってて退屈だったからさ、いい遊び相手が見つかってボクは結構ご機嫌なんだ。遊んであげるから、かかってこい!」

 

「っ!」

 

私はレヴィから発せられた魔力に息を飲んだ。魔力ランクでなら、軽くAランクはいってる。

 

「レヴィ、遊ぶのは後じゃダメ?」

 

レヴィと戦いながら、私はそう問いかける。

 

「なんだよ、しつこいぞ!」

 

「今キリエさんを中心に事件が起きてて、たくさんの人が困ることになるかもしれないの!私は、それを止めたくて」

 

「ダメだってば。ボクは王様に君をやっつけろって、命令されてるんだし!」

 

「だけど!」

 

「だいたい、人が困るって言ったって、ボクの知らない人だし、ねっ!」

 

「っ!」

 

レヴィの放った戦輪(チャクラム)のような魔力輪刃をフォートレスの汎用デバイスで対応し、全部を打ち消す。

バルディッシュがいてくれたら何とかなったのかもしれないけど、今手元にあるのは汎用デバイスだ。壊れないようにしないといけないから全力では戦えない。

 

「はあっ!」

 

「おぉ~!」

 

私の動きに、レヴィは歓喜の声を上げた。どうやら私の対処にレヴィは楽しいみたいだ。私は煙が晴れるのを待って、レヴィに。

 

「今は知らない人でも、何時かレヴィと出会うかもしれない。大切な人になったりするかもしれないよ」

 

「・・・・・・その発想はなかった。う~ん、大切な人が困るのは困るねぇ」

 

私の言葉に、レヴィは、あ!というような表情を浮かべ頬を軽くかいた。

 

「そう!人に迷惑をかけたり、物を壊したりするのは悪いことなの!」

 

「う~ん」

 

「例え、それが命令されたことでも・・・・・」

 

「ん~・・・・・・お。ちょい、ちょい待ちフェイト。それってさ、ボクの王様が悪い人だって言ってるの?」

 

「え、いや、違っ・・・・・・」

 

「王様はさ、ボクは良い子だって言ってくれた。ご飯もおやつもくれたし、うんと優しくしてくれた・・・・・・一緒に眠ってくれた!」

 

「っ!」

 

「ボクが世界中でたった一人、この人に着いていくって決めた人だ。そんな王様を、悪い人だとか言うヤツは、ボクがこの手で、ブチ転がす!」

 

「レヴィ、待って!」

 

レヴィから感じられた魔力が急激に高まっていくのが分かり、私はレヴィに今言った言葉の意味がそういう意味じゃないと説得しようとする。

 

「レヴィ違うの!そうじゃなくて!」

 

「違わない!王様をディスるヤツは悪いヤツ!ボクはそれぐらいシンプルで良いってシュテルンが言ってくれたもんね!」

 

「っ!雷盾(ライトニングシールド)!レヴィ、私は・・・・・・!」

 

激怒して突っ込んで来たレヴィのテバイスを、雷盾で受け止める。

雷盾と併用して、汎用デバイスを横にして受け止める。

しかし。

 

「っっ!うっさい!!」

 

「うっ、あ・・・・・・っ!」

 

レヴィの再度強攻撃に私は思い切り後ろに吹き飛ばされた。

とっさに自身に魔力の膜を作り、衝撃を緩和させる。

 

「いいから黙って!やっつけられろぉ!」

 

「うっ・・・・・・!」

 

追撃としてきた下からの一撃に私は上に飛ばされる。が、すぐに体勢を直しレヴィを見る。

 

「えっ!!」

 

レヴィの持つデバイスの刀身が伸びたのを見て私は驚愕に目を開く。あれはバルディッシュのザンバー形態(フォーム)に似ていたからだ。レヴィのデバイスの長さは既にもとの長さの10倍以上はある。

 

「蒼刃!極光斬!」

 

「っ!!最大障壁(バリエース・マーキシム)!」

 

レヴィから放たれた、一刀両断の攻撃に私は直ぐにムンドゥス・マギクス式の防御魔法を最大で張った。普通なら、ある程度は拮抗するはずが、威力がかなり強いのか一瞬でデバイスごと叩き割り、私をそのまま押し込んだ。

 

「ドオッッセェェェイッ!」

 

~フェイトside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~アリシアside~

 

 

「ドオッッセェェェイッ!」

 

フェイトから幾分か遅れて追い付いた私が目にしたのは、レヴィという女の子がフェイトを汎用デバイス事、ステージの海に叩き込んだところだった。

 

「フェイト!」

 

レヴィの繰り出した攻撃の余波で、あちこちが破壊されてる惨状の中、私は降り注ぐ水しぶきを受けながら妹のフェイトの名を呼んだ。

 

「ふ~。スッキリした~」

 

声が聞こえ、上を見るとそこにはスッキリした表情のレヴィが浮かんでいた。手に持つデバイスは元の大きさに戻り、フェイトのバルディッシュと同じ形態になっていた。

 

「フェイト、どこ~?死んじゃった~?」

 

レヴィのその声に私もすぐにフェイトを探す。

少しして、破壊されてるステージに横たわっているフェイトの姿を見つけた。

 

「フェイト!」

 

横たわっているフェイトの姿を見て急いでフェイトの元に向かう。

その直前。

 

「あ、まだ生きてる」

 

レヴィもフェイトを見つけた。

 

「レヴィ!」

 

「ん?あれ?フェイトが二人いる!?」

 

目を大きく開いて私を見るレヴィに。

 

「フィルス・ラ・ステイル・フェイルタス!連槍・雷の35槍!」

 

略式詠唱で発動させた連槍をレヴィに向けて牽制のつもりで放つ。

 

「え!?ちょ!まっ!うわぁ!」

 

術式解放(エーミッタム)!魔法の射手・連弾・雷の53矢!」

 

立て続けに魔法の射手を放ちフェイトから遠ざける。

けど。

 

「もおぉ!!邪魔しないで、よっ!」

 

「っ!きゃあ!」

 

レヴィの薙ぎ払いに私はとっさに障壁を張ったけど、後ろの方に吹き飛ばされた。

元々私はフェイトみたいに攻撃力が高いという訳では無い。私たちの中で一番攻撃力が高いのは零夜と誰もが口にすると思う。それは魔法だけでなく、確かソードスキルというものも強力だからだ。次に高いのは誰かと言うと夜月。まあ、二人を除いてだと、フェイト、アリサ、はやて、なのは、すずか、私の順になる。逆の防御でも、6人だと、なのは、すずか、はやて、私、アリサ、フェイトとなる。フェイトは高機動移動攻撃型(スピードアタッカータイプ)。対して私は高機動拡張支援型(サポートタイプ)だ。なのはは高機動砲撃型(フォートレスタイプ)。アリサは高機動高火力型(パワーアタッカータイプ)。すずかは高機動支援防御型(サポートディフェンスタイプ)。はやては万能型(マルチティカルタイプ)。と、私はどうしても他のみんなより火力が足りないのだ。

レヴィに吹き飛ばされ、フェイトから離されフェイトが横たわっている場所を見ると。

 

「もお、邪魔が入った!先にあのフェイトに似てるのを・・・・・・ああ、いやいやいや。王様のため、シュテルンのため・・・・・・先にこっちを。フェイトに一応トドメをね」

 

フェイトに向けてデバイスの光刃の切っ先を向けているレヴィの姿があった。

 

「そんじゃ。バイバイ、フェイト」

 

「ダメぇ!」

 

私がそういうのと、レヴィがデバイスの切っ先をフェイトに向け刺したのは同時だった。

レヴィのデバイスの切っ先がフェイトを貫くと、小さな煙が巻き上がった。やがて、煙が晴れ目にしたのは。

 

「ん?」

 

「え」

 

フェイトの姿がなく、レヴィのデバイスの切っ先がたった今までフェイトがいた場所を貫いている光景だった。

それと同時に。

 

「え!?あ?!なにこれ?!」

 

「え、バインド!?」

 

レヴィの手足を紫のリングがバインドした。

 

「あれってもしかして・・・・・・!」

 

レヴィをバインドした紫のリングを見てそう呟くと。

 

「アリシア、大丈夫ですか!」

 

「リニス?」

 

リニスがすぐ近くに来て、手を貸してくれた。

 

「フェイトは・・・・・・」

 

リニスの姿を見てステージを見ると、レヴィからそう離れてない場所に、フェイトと私服姿のママの姿があった。

 

「フェイト!ママ!」

 

私はすぐに妹とママのところに飛ぶ。

 

「フェイト!ママ!大丈―――!」

 

ママの背中を見て私は言葉をとぎらせた。ママの背中にはフェイトの変わりに受けたと思われる傷があり、そこから血が流れていたのだ。

 

「母・・・さん?・・・・・・っ!母さんその傷!」

 

「大丈夫よ、フェイト。この程度の傷・・・・・・あなたにした仕打ちに比べたらなんとでも・・・・・・ないわ」

 

ママのその途切れ途切れの言葉に、私は二年前のあの時期のことを思い返した。

 

「母さん・・・・・・」

 

「それに、また私の大切な娘を失うなんて嫌だもの。もう、二度と、あんな思いをしたくないの。フェイトにも、アリシアにも、私と同じ思いをしてほしくないから」

 

「ママ・・・・・・」

 

ママの言葉に私は何も言えなかった。

ママはあの時から、ずっと後悔していたのだ。フェイトにした仕打ちや、私のことを。今、私たちがここに居るのは零夜のお陰。零夜が私たち家族を救ってくれたから。

何も言えずにママとフェイトを見る。

 

「大丈夫だよ、母さん。私、今が一番幸せだから」

 

「フェイト・・・・・・」

 

「母さんがいて姉さんもいる。リニスとアルフと一緒に過ごせて、あんなに沢山の友達が出来た。だから、母さんが悔やむ必要なんてもう無いんだよ」

 

フェイトの言葉に反応するように、ママが持ってきたと思うシルバーのアタッシュケースの鍵が開き、そこから金色の輝きが溢れ出た。やがて、完全に開いたアタッシュケースから、一つのデバイスが浮かび上がり、フェイトの手元に収まった。

 

「だから、大丈夫。私はもう、幸せだから」

 

ママの背中の傷を治癒したフェイトはデバイスを持って立ち上がり、ママの前に出た。

 

「あの子を説得してくるから。アリシア、母さんのことお願い」

 

「うん、わかった」

 

「フェイト」

 

「大丈夫だから。行ってきます、母さん」

 

フェイトは私たちにそう言うと、ママのバインドを解き、抜けなかったデバイスを抜いたレヴィの前に移動した。

 

「レヴィ、お待たせ」

 

「待ってないし、なんだよもお!仲間の手を借りるとか、ずるっ子だし!」

 

「レヴィもロボット使ってたから、おあいこ」

 

フェイトの言葉に、私はあれはロボットなのかな?と思った。

そう思いつつ、フェイトとレヴィを見ると、レヴィの視線がママに向いているのに気付いた。いや、正確には私たちかな?

 

「―――あれ、フェイトのお母さん?」

 

「うん。私のお母さん。そして、大切な家族」

 

「・・・・・・」

 

フェイトの言葉に、少しだけレヴィが顔を緩ませて羨ましそうにみたのに気付いた。しかし、すぐにレヴィは顔を引きしめ直して。

 

「子供の喧嘩に親を呼ぶとはますます卑怯な!僕が成敗してやる!」

 

デバイスを構えてそう言った。

レヴィの言葉に、ええ~、と思ってしまったのは仕方ないと思う。対するフェイトはというと。

 

「レヴィとお話するの楽しいな。王様と、シュテルン?」

 

微妙に抜けてる返事を返した。

 

「ああ、それはボクだけが呼んでいいあだ名!シュテルンはシュテル」

 

「シュテルたちと一緒にお話したいな」

 

「無理だね!何故なら、ボクがキミをぶち転がすからだ!」

 

「じゃあ、そうならないように・・・・・・頑張るよ!」

 

レヴィから蒼い雷が立ち上り、辺りに余波として凄まじい魔力が吹き荒れた。フェイトも新しい形をしたバルディッシュを両手で構える。

同時にぶつかりあった二人はそのまま空に上がり剣をぶつけていった。

 

「っ!?」

 

空に上がったレヴィの目に驚きの表情が見えたのを見て、私は視線をレヴィの持つデバイスに注目する。

 

「あれは・・・・・・」

 

デバイスを見ると、今の切り結びでできたと思われる傷があった。

 

「ふっ!」

 

「はあっ!」

 

二人の戦闘に、私はフェイトの考えを模索した。

 

「もしかして、フェイト・・・・・・」

 

「なるほど、フェイトはあのデバイスの機能不全を狙っているんですね」

 

私の言葉を引き継ぐようにリニスがママの傷の手当をしながら言う。

 

「機能不全?」

 

「はい。アリシアも考えてる通り、デバイスとは一つ一つが繊細です。特定の部分が破損したら、動かなくなります。そのため、デバイスには基本そうならないよう、強固な障壁が張られています。しかし、これにも例外があります」

 

「コアと、機関部の破損・・・・・・」

 

「その通りです。デバイスにはある程度破損しても持ち主の魔力で修復する機能が付いてます。ですが、修復機能でも、機関部やデバイスの心臓部であるコアは修繕出来ません。もちろん、修復することは可能ですが、コアの傷具合によって時間が掛かります。もし、それを無視して使用し続けば場合によっては暴発し大変危険な恐れすらあります。今回、フェイトが取っている策は恐らく機関部への攻撃によるデバイスの機能不全でしょう」

 

リニスのその説明を聞きながらフェイトとレヴィの戦闘を見る。

やがて、リニスの言葉通り。

 

「こっの!ブレイバー!」

 

レヴィのデバイスがカチンカチンとなるだけで、動かなくなった。

どうやら、デバイスの機関部がダメージを受けて可変機能が動かなくなったのだろう。そして、そこに。

 

「えぇ?あ、あ!もう!縛るやつ、これ嫌いぃ!」

 

レヴィの両手足にフェイトのバインドが現れ、レヴィを身動き出来ないようにした。

 

「いくよ、レヴィ」

 

「え?いくって?え?ええっ・・・・・・!?」

 

慌てふためくレヴィに、フェイトはバルディッシュの切っ先をレヴィに向け、槍の形に変え、先端部の下部から出た留め具で位置を固定し。

 

「受けてみて、これが私とバルディッシュの全力全開!ホーネットジャベリン!フルファイアー!!」

 

金色の砲撃の魔力流がレヴィを飲み込んだ。

バインドで身動きが取れないレヴィは為す術なく、そのままフェイトの砲撃に呑まれ。

 

「うっそおぉぉぉぉぉっ!!うわぁぁぁっ!」

 

やがて、気絶し目を回してレヴィが落ちてきた。

私はとっさにレヴィを受け止め。

 

「お疲れ、フェイト」

 

バルディッシュをさっきの元の片手剣の形態にしたフェイトに合流した。

 

「うん」

 

フェイトはやりきったような表情を浮かべて、私と一緒にママとリニス、そしてリンディさんと来たアルフの所へとレヴィを抱えて戻った。

 




些細なことでも構わないので、読んだ感想などよろしくお願いします!


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闇を統べる王(ディアーチェ)夜天の少女(はやて)

 

~はやてside~

 

 

ディアーチェこと王様と戦闘してから早く数分が経った。

私は王様の、すずかちゃんは王様の呼び出した、確か黒影のアメティスタとかいう黒いドラゴンみたいなのを相手していた。

 

「くっ!このっ!ええいっ!小賢しい!」

 

「それはお互い様やで王様!」

 

「子ガラスが!」

 

幾度となく魔法をぶつけ合っていく。

その一方。

 

「せやぁっ!」

 

「―――!」

 

黒竜相手にすずかちゃんは、ムンドゥス・マギクス式を巧みに使って一人で相手していた。

 

「レスト・ラスト・フィンベルス!来たれ氷精、舞え風精!敵を凍てつかせ、舞い散らせ!風滅の永獄園(フリーズヴェルグルエル)!」

 

すずかちゃんから放たれた極寒の息吹きのような風が黒竜を襲い、黒竜の身体を凍り付かせる。

 

「(さすがすずかちゃんや。一人であの黒竜を相手にできるなんて)」

 

実際、すずかちゃんの実力は私らの中でも郡を抜いている。特にすずかちゃんはミッド式やベルカ式よりも、零夜くんから教えて貰ってるムンドゥス・マギクス式(略してM・M式。またはムンドゥス式)の相性が一番いいのか、能力がずば抜けてる。私らの中で、零夜くんや夜月ちゃん達を除いてすずかちゃんに一対一で勝てるとなると、相性で言えばアリサちゃんやけどアリサちゃんはすずかちゃんの戦術と真逆の攻撃特化型。ウチのシグナムと同じやな。まあ、フェイトちゃんも同類やけど(戦闘好きということで。アリサちゃんは除いてな)。まあ、勝てると言えばなのはちゃんか私ぐらいやろか?アリシアちゃんは支援型だからか火力が少し足りない。まあ、その分手数が多くて厄介やけど。正直、私らの中で1番やりにくいのはアリシアちゃんなのだ。本人は自覚してないんやけど。

そう思いながら王様とデバイス同士をぶつける。

 

「ええい!いい加減にせんか!」

 

「なにがや!?」

 

「この子ガラスが!我の邪魔をするなと言うとろうが!」

 

「別に私は、なにも王様の邪魔をしてとるわけやないよ!」

 

「これのどこが邪魔をしてないというか!このたわけが!」

 

「王様がお話聞かせてくれたら何もせえんよ!」

 

「誰が話すかこの子ガラス!いや、子狸!」

 

「なっ!?だ、誰が子狸や!」

 

「貴様だ、このっ!」

 

どんどん過激になっていく私と王様の魔法合戦。

というか、なんで私狸って呼ばれんやろ!?しかも初対面の王様にも!私、タヌキやないのに。まあ、子ガラスというのもなんやけど、子狸よりはマシやな。

そんな会話をしている最中、すずかちゃんはというと。

 

連槍(コンテンス)氷の集束・89槍(フロストレイ)!」

 

「―――!」

 

「まだだよ!術式解放(エーミッタム)氷槍弾雨(ヤクレーティオ・グランディニス)!」

 

氷魔法を多用して黒竜を追い詰めていた。黒竜の外装は殆どが霜に覆われていて、飛ぶ速度も遅くなっていた。

そこに。

 

《はやてちゃん!コアの位置、発見しました!》

 

あの、黒竜の解析を頼んでいたリインからそう言われた。

リインの声を聞き、私は直ぐにすずかちゃんに伝える。

 

「すずかちゃん!コアの位置発見したよ!」

 

「ホント!わかった!」

 

黒竜への攻撃を止めたすずかちゃんはこっちに向かって飛んでくる。

 

「ちっ!させるか!」

 

「そうはいかないよ!」

 

王様の魔法をすずかちゃんは氷の盾で防ぎ、その間に私が光の魔法で、王様の視界を封じる。

 

「コントロールは任せたよ!」

 

《はいです!》

 

リインにコントロールを任せ、私は直射砲撃を王様に向けて放つ。しかし、この砲撃は王様に転移でかわされる。けど、本命はこっち。

 

「すずかちゃん!」

 

「うん!」

 

「「ファイアっ!!」」

 

電磁カートリッジユニットで魔力を増幅(ブースト)させた私の純白の砲撃と、すずかちゃんのスノーフェアリーの弓形態《アイシクルコーラ》の矢先の部分に蒼銀の魔力球が現れ、蒼銀の砲撃が私のと同時に放たれる。

 

「―――!」

 

私とすずかちゃんの砲撃が直撃した黒竜は、コアごと破壊された。

 

「ちぃっ!面妖な真似を!」

 

「これであとはディアーチェちゃんだけだよ!」

 

「わ、我をちゃん付けするでないわ!」

 

「え?じゃあ、王様ちゃん?」

 

「結局ちゃん付ではないか?!」

 

すずかちゃんの発言に王様も私も思わず止まってしまう。というか―――。

 

「すずかちゃん、もしかして計算してる?」

 

「え?計算?なんのはやてちゃん?」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

はい、これ確定やな!これ天然や!こんな所でフェイトちゃんなみの天然発動してしもうたわ!

すずかちゃんの言葉に私と王様は呆然とする。

 

「おい、子ガラス」

 

「なんや王様」

 

「こやつは何時もこんな性格なのか?」

 

「あ~・・・・・・まあ、そうやな」

 

「そうか・・・・・・」

 

「???」

 

私と王様の言葉に首を傾げるすずかちゃん。

そこに。

 

「って!そうではなくてだな!」

 

「うわっ!」

 

「わっ!」

 

首を横に振って頭を切り替えるようにして魔法を放ってくる王様。私とすずかちゃんは左右に散開して避ける。

 

「こんなところでは使いたくなかったが・・・・・・」

 

そう言う王様の足元に紫黒色の、私と同じベルカ式魔法陣が現れた。

 

「高まれ、我が魔力!震える程に暗黒!」

 

「っ!」

 

王様の周りに現れた黒い穴から放たれた黒い槍を受け止める。

 

「なっ!」

 

受け止め、視界が見えなかったその一瞬に接近してきた王様のデバイスによる打撃を受け、後ろに吹き飛ばされた。

 

「絶望に足掻け!アロンダイトォ!!」

 

「っ!」

 

「はやてちゃん!」

 

王様の高まった魔力から放たれた極大な砲撃と幾重の魔法弾を、飛んできたすずかちゃんとともに障壁を張って受け止める。

 

「っ!」

 

《させません!》

 

「リインちゃん!」

 

障壁が貫かれると、すぐにリインが私の変わりにダメージを受けた。

 

「リイン、無事!?」

 

《きゅう~》

 

「良かった・・・・・・気絶してるだけみたい」

 

「よかったわ~」

 

リインが気絶してるだけで、すずかちゃんと私はホッと安堵した。それと同時に、私はまだまだだと実感した。リインが身代わりになってくれたから、私は少しの傷で済んでいるのだ。そうじゃなかったら恐らく倒れていたに違いない。

やがて周囲を包んでいた煙が晴れ、空にいる王様と視線が合う。

 

「ちっ。融合機とそこの仲間に救われたか。だが、もう戦えまい!」

 

「王様こそ、随分とお疲れなようで」

 

王様の言う通り、私もすずかちゃんももう魔力は尽きかけていた。少し休めば回復するが、王様と戦うのは少し厳しい。まあ、あってもすずかちゃんの足を引っ張るだけやと思うし。そう思っていたその時。

 

「「っ!?」」

 

「あれは・・・・・!?」

 

オールストン・シーの方角から一筋の大きな光の柱が立ち上がった。

 

「はやてちゃん、あれって・・・・・・」

 

「わからん・・・・・・なんやあれ・・・・・・」

 

私とすずかちゃんが戸惑っていると。

 

「あれはまさか・・・・・・!」

 

空にいる王様のそんな声が聞こえた。それと同時に、王様はその場から、あの光の方に飛んで行った。

 

「あっ!」

 

「待って!追うよはやてちゃん!」

 

「了解!」

 

そして、私とすずかちゃんも王様を追いかけて行った。

 

~はやてside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side~

 

 

「こ、これは・・・・・・っ!」

 

空高くに貫く光の柱を見た僕は、すぐさまその発生場所に飛んできた。発生場所はやはり、昼間来たオールストン・シーの水族館エリアだった。そして、中央にあるはずの結晶が無くなっていた。その場には、結晶の変わりに局の武装隊十数人とそれを率いていたと思うクロノが、なにか木の根っこのような物で貫かれている姿があった。そして、少し離れた場所にはキリエ・フローリアンが倒れていた。

 

「零菜と紅葉はキリエ・フローリアンの怪我の手当を!凛華と星夜、聖良は他の人達を見て!」

 

僕はそう言って聖良とのユニゾンを解き、凛華たちを人型にした。

 

「クロノ!大丈夫、クロノ!?」

 

身体のあちこちを穿かれてるクロノに声を掛けるが、意識を失っているのか返事がなかった。

 

「この木の根っこみたいなのなに・・・・・・」

 

クロノたちを刺している物に僕は声をだす。

それは木の根っこのような物だが、表面はキラキラと結晶のように光って脈だっていた。それを見ていると。

 

「零夜くん、これは木の根っこじゃありませんわ!」

 

それを人型になって検分していた星夜が言った。

 

「木の根っこじゃない?じゃあこれは!?」

 

僕の声に返したのは。

 

「これって・・・・・・!」

 

「聖良?」

 

わなわなと震えた声で呟いた聖良だった。

 

「お兄ちゃん・・・・・・これ、結命樹だよ!」

 

「結命樹?」

 

「これはヒトの生命力が結晶化したものなんだよ!」

 

「っ!?」

 

聖良の言葉に僕は驚愕した。つまり、クロノたちを貫いているこれはすべて、クロノたちの生命力が結晶化した樹木ということだ。

 

「なんで結晶樹が・・・・・・これはあの子の能力なのに・・・・・・!」

 

「!聖良、もしかしてこれユーリの!?」

 

「うん。でも、ユーリがこんなことするはずないよ!話したことないけど、あの子は優しい子なんだから!」

 

「聖良・・・・・・」

 

涙目で言う聖良に、僕は優しく抱きしめてあやす。昔から、あの頃から優しい妹が言うのだから、ユーリという子はこんなことをする子じゃない。

 

「零夜くん!解析完了しました!支配領域(インペルマジェスター)で上書きするか、この結晶を吹き飛ばすほどの魔力をぶつければ消滅します!」

 

「了解!零菜、キリエ・フローリアンは?!」

 

「こっちは胸の当たりを撃たれてるけど大丈夫だよ!今、治癒魔法で治してるから!」

 

「わかった!」

 

それぞれ状況を聞き、本部に通信を入れる。

 

「こちら、天ノ宮。クロノ・ハラオウン以下武装隊十数名が負傷!至急医療班をお願いします。そして、同じく負傷しているキリエ・フローリアンを確認。こちらも同様にお願いします。尚、同行者のイリスの行方は不明。捜索班に対象の追跡を」

 

『了解。ただちに急行させます』

 

帰ってきた通信を聞き、僕はすぐに支配領域でその場を上書きして結晶を破壊する。結晶から解放されたクロノたちはその場に崩れ落ちる。

 

「血があまり流れてない・・・・・・?」

 

クロノたちの傷から、血があまり流れていないことに気づき不思議に思う。その答えを言ったのは。

 

「お兄ちゃん、クロノ君たちを穿かれていた結晶樹はクロノ君たち自身の生命力が結晶化した、内部から貫かれたものだから、血はあまり出ないの。外部から貫かれたらかなり出るけど・・・・・・。でも、その分生命力が奪われるからしばらくは動けないよ」

 

「なるほどね。ありがとう聖良」

 

「うん」

 

クロノたちを治療しながら、結晶の行方とキリエ・フローリアンと一緒にいたと思われるイリスの行方を考えた。そして、なにかがおかしいと頭で思いながら。

 

~零夜side~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜月side~

 

 

「───何処に行こうとしてるのなのはちゃん」

 

「夜月ちゃん・・・・・・」

 

医療班のところに着いた私は、クロノ君たちが負傷しているレイくんからの通信を聞きながら、救急車から降りたなのはちゃんに刻々帝(ザフキエル)の銃身を向けて訊ねる。

 

「さっき、ユーノ君とヴィータちゃん、アリサちゃんに安静にしてろって、言われてなかったかな?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「それに、レイジングハートになにをしたの?」

 

眼を鋭くして、なのはちゃんの前に浮かんでいるレイジングハートの発動体を見る。

 

「シャーリーちゃん、なにをしたわけ?」

 

「そ、それはですね・・・・・・」

 

答えないなのはちゃんに、私はレイジングハートを持ってきたと思うシャーリーちゃんに聞く。シャーリーちゃんのすぐ近くには医療着姿で手に拘束具を嵌められてるアミティエさんがいた。

 

「答えて」

 

「は、はい!レイジングハートにアミタさんの使うフォーミュラシステムを組み込みました!」

 

私の冷たい声に、シャーリーちゃんはビクンッと体を震わせて答えた。そして、その答えは、私の知っていたとおりだった。

 

「───刻々帝」

 

「ま、待って!」

 

フォーミュラシステムを消そうとする私の前に、腕に包帯を巻いたなのはちゃんが立ち塞がった。

 

「そこを退いてなのはちゃん」

 

「待って夜月ちゃん!お願い、私を現場に行かせて!」

 

「ダメよ」

 

「なんで?!」

 

「今のなのはちゃんは魔力も十分に回復してないのよ?しかも、怪我までしてる。友達として・・・・・・。そして、局の特務0課のNo.2してあなたを行かせるわけにはいかないわ」

 

ここで私は初めて、特務0課のNo.2としての権限を行使した。特務0課は伝説の三提督である統幕議長ミゼットさん直属の、どの課にも属さない独立部隊だ。そして、特務0課のNo.1であり、特務官にして、特務三佐のレイくんの権限レベルは指揮官クラスある。まあ、基本的にはレイくんが権限を行使することなんてないけど。そして、その特務0課のNo.2の私は、星戦級魔導士としてある程度の権限を持つ。その一つが、その人物の出撃の可否だ。

 

「そんな・・・・・・」

 

「アミティエさん、あなたも何故ここに?」

 

「それは、私がお願いしたんです」

 

「お願い?」

 

「はい。こんな事態になったのは妹のせいです。ですから、姉としてなんとかしないと、と」

 

「そうですか」

 

何故かここにいるアミティエさんに事情を聞き、膝を着くなのはちゃんに問う。

 

「なのはちゃん、私の質問に答えて」

 

「え・・・・・・」

 

「なのはちゃん、貴女の魔法はなんの為の能力?」

 

「それは───諦めて後悔するのも、それで誰かが後悔するのを見るのももうイヤだから。私の魔法はそんなのを見ない、誰かを助すけるためのチカラ!」

 

なのはちゃんの答えた言葉に、私はジッとなのはちゃんを見る。

私の冷たい、殺気を交じ入れた視線に、少しは怯みつつもその眼は、諦めない覚悟の目をしていた。そして、その奥にある自己犠牲の感情も読み取れた。

 

「まったく・・・・・・ホント、バカ・・・・・」

 

「え・・・・・・?」

 

私の呟きが少し聞こえたのか怪訝な表情をするなのはちゃん。

それを見て、私は視線をレイジングハートに移す。

 

「レイジングハート、フォーミュラシステムとの同調率はどのくらいかしら?」

 

Completion60%(完成度は6割程度ですが)Capable of operations(運用は可能です)

 

「そう。───おいで、刻々帝。───刻々帝(ザフキエル)、《三の弾(ギメル)》」

 

レイジングハートの言葉を聞いて、私は刻々帝を顕現させ、刻々帝の三の弾をレイジングハートに向けて撃った。

 

「れ、レイジングハート!夜月ちゃん、なにをしたの!?」

 

「すぐにわかるわ」

 

私が言い終えると。

 

Master (マスター)Be full of operation(フォーミュラシステムの完全) Formula system(運用が可能となりました)

 

「え!?」

 

驚いているなのはちゃんたちに私は答える。

 

「今私が撃った弾丸は、刻々帝《三の弾》。能力は対象を成長させること」

 

「もしかして、レイジングハートの処理速度を早めてシステムの完全運用を可能にしたんですか!?」

 

「ええ」

 

私の言葉に、アミティエさんが聞いてくる。

そう、今私はレイジングハートの処理速度を一時的に早め、フォーミュラシステムの運用をフルに発揮できるようにしたのだ。

 

「そして───刻々帝《四の弾(ダレット)》」

 

今度はなのはちゃんに対象の時間を戻す弾、《四の弾》を打ち込んだ。

 

「夜月ちゃん・・・・・・」

 

「これで、なのはちゃんの怪我や魔力は失う前までに戻したわ。・・・・・・行ってきなさい」

 

「え」

 

「聞こえなかった?あなたの魔法は誰かを助けたいための魔法なんでしょう?なら行ってきなさい」

 

「っ・・・・・!うんっ!レイジングハート!」

 

《Yes,Master》

 

私の言葉を聞いたなのはちゃんは、レイジングハートを展開して空に上がって行った。それを見つつ、今度はアミティエさんの監視の局員に声をかけ命令する。

 

「アミティエ・フローリアンさんの拘束を解除。彼女の持ち物を返却して下さい」

 

「は、はい!」

 

私の声に、怯えたようにしてアミティエさんの拘束を解き彼女の持ち物を返却した。

 

「夜月さん・・・・・・」

 

「アミティエさん、行きますよ」

 

「!はい!」

 

「シャーリーちゃん、あとはお願いね」

 

「わかりました」

 

シャーリーちゃんにあとは任せ、私はなのはちゃんを追うためフォーミュラスーツを着たアミティエさんと一緒に空に上がっていった。

 

 



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目覚めと希望の魔法(ほうげき)

 

~零夜side~

 

 

水族館エリアで負傷したクロノたちを他の局員たちに引き渡した僕らは、広範囲の索敵を掛けてイリスを探し。

 

「っ!見つけた!」

 

索敵に反応があった場所にものすごい速度で飛んで行った。その途中。

 

「零夜!」

 

「ん?アインス?」

 

アインスと遭遇した。

 

「零夜、ユーリは?!」

 

アインスの問いに、僕は首を振って。

 

「───いなかった。たぶん、イリスが連れていったんだと思う」

 

そう言う。そして、そこにユーリの能力があったということを伝える。

 

「くっ!」

 

それを聞いたアインスは表情を歪ませて。

 

「アインス!?待って!」

 

僕の行き先の方に光の速さのような速度で飛んで行った。僕も慌ててアインスを追い掛ける。

 

「待ってアインス!」

 

「急がないと不味い!ユーリの総魔力は聖良と同じくらいだ!」

 

「なっ・・・・・・!?」

 

「もしユーリが悪用でもされたら・・・・・・!」

 

アインスの言うとおり、ユーリの総魔力が聖良と同等なら不味い。並大抵の魔導師では恐らく、相手にならないはずだ。僕とアインスはさらに速度を上げて目的地に向かう。

目的地着いてそこを見ると、そこには四人の少女と一つのなにか大きな機械のような物を囲んでいる、はやてとすずか、アリサたちがいた。

 

「あれは・・・・・・!」

 

赤い髪をした少女の後ろにある機械を見たアインスが目を見開く。

 

「見つけたぞ!」

 

そう言うとアインスははやてたちのところに向かって行った。僕は少女の前に降り立ち少女を見る。

 

「君は・・・・・・」

 

「ちっ。まさかここであんたが入ってくるなんてね。それより───」

 

近くで見て、僕はその少女が誰かわかった。イリスだと。イリスはそう言って左腕を上げ、そこにヴィータが警告する。

 

「おい、動くな」

 

しかし、ヴィータの警告を無視し。

 

「いつまで寝てるの。起きなっ、さいっ!!」

 

イリスは思いっきり、左手の握り拳でそれを叩きつけた。

そして。

 

「!?」

 

《これ・・・・・・!》

 

僕たちになにかの反動が来た。僕と聖良はそれを感じ取ると同時に、はやてたち周囲の武装隊を何か朧気な黒い光が包み込んだ。

 

「な、なんだ!?」

 

「!?」

 

「な、なに!?」

 

辺りからも動揺の声が上がる。そして、イリスが叩き付けた機械のような物が開いた。開くと同時に。

 

『ぐあああっ!!』

 

『あああっ!!』

 

『がああぁっ!!』

 

辺りから、クロノたちが貫かれていたのと同じ結命樹が武装隊を内部から貫いた。その一撃で、僕とアインスを除くその場にいた全員が行動不能になった。

 

「我が主!」

 

「くっ!」

 

それを無効化していると、完全にそれが開き中から一人の金髪の幼女と言っても過言でない少女が現れた。そしてその後ろに羽のように機械のようなものが追随した。

 

「やっと会えたわねユーリ」

 

「・・・・・・っ!イリス!」

 

「目が覚めた?」

 

イリスの冷たい瞳を見て僕はゾッとした。なにせ、昔の僕のような瞳をしていたのだから。今は明莉お姉ちゃんたちや、なのは達がいるから大丈夫だが、昔の・・・・・・それこそ、この世界に来る前の僕はすべてを憎んでいた。お姉ちゃんや幼馴染を亡くしたから。絶望と言っても過言ではない。そう思いながら二人を様子見る。

 

「イリス、あなたは・・・・・・!」

 

イリスに近づこうとしたしたユーリが突然何かに動きをとめられたかのように止まった。そして、イリスの赤い瞳にはなにかの数式のようなものが高速で、プログラムコードのような羅列が浮かんでいた。

 

「あんた専用のウイルスコードを打ち込んである。すべては私の思いどおりのまま」

 

そう言って怪しく光る瞳のままイリスはユーリを殴った。

 

「うっ!」

 

ユーリを殴ったイリスは、そのままユーリの長い金髪を掴み、無造作に引き上げる。

 

「抵抗は不可能」

 

「イリス・・・・・・わたしは・・・・・・」

 

「これは復讐よ。私はあんたから全てを奪う。あんたが私にそうしたように。まずは邪魔者の片付け・・・・・・手伝ってもらうわよ!」

 

「うぐっ・・・・・・!ぐうううっ!ああああああああぁぁぁっ!!」

 

ユーリの悲鳴とともに更なる魔力振動が僕らを襲った。そこに。

 

「止めるぞ!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

助っ人に来たらしいシグナム、フェイト、アリシアがイリスに迫った。

 

「ユーリ・・・・・・」

 

「っ!まずい!」

 

イリスの声を聞き、無表情のユーリを見て僕は焦った。完全にユーリがイリスの支配下に置かれているからだ。

ユーリは突っ込んできたフェイトを掴み、後ろにいたアリシアとシグナムにぶつける。

 

「シグナム!フェイト!アリシア!今すぐそこから離れろ!」

 

僕はそういうのと同時にユーリの前に空間転移し障壁を張る。シグナムたちが気付いたのとユーリが砲撃を撃つのは同時だった。ユーリの放った砲撃を受けて僕はシグナムたちとともに海に撃ち落とされた。

すぐに海から上がり空に上がるが、シグナムたちは余波でかなりダメージを受けたらしく上がってこなかった。そこに。

 

「っ!シグナム!フェイト!アリシア!」

 

海上に浮かんだ三人の内部から突き破るようにして周囲の武装隊たちと同じ結命樹がフェイトたちを貫いた。

 

「生命力を結晶にして奪いさるのがこの子の能力(ちから)のひとつ。近付くだけで皆殺しよ」

 

「イリス・・・・・・わたしは・・・・・・」

 

「意思も力も自由にはさせない。大切な命も無関係な命も全てを殺して・・・・・・誰もいなくなった世界で泣き叫びなさい」

 

「イリス!」

 

ユーリにそう言うイリスに、デバイスで片手剣形態の凛華の切っ先を突き付ける。

 

「・・・・・・なぜあんたにはユーリの能力が効いてないのかしら?」

 

「さあね。イリス、君に教える義理はない」

 

僕にユーリの能力が効いてない理由は、僕の周囲に消滅による無効化という障壁を張っているからだ。さらに加えて言うならば、ユーリの能力を防ぐように魔力障壁を薄く。しかし、硬く張っているからでもある。

 

「それもそうね。───あら?」

 

以外というふうに声を上げたイリスの後ろには救護班で治療を受けてるはずのキリエの姿があった。さらに、キリエはユーリの能力を受け付けてないようだった。

 

「驚いたぁ。そっか、フォーミュラスーツのお陰でユーリの能力を受けにくいのね」

 

「イリス・・・・・・私は・・・・・・」

 

銃を構えるキリエに、イリスは恐るわけでもなくただ担と話す。

 

「どうする?撃ってみる?今なら見逃してあげるわ。だけど、もし撃ったら死ぬより酷い目にあわせてあげる」

 

「っ!」

 

「あんたのパパとママやお姉ちゃんにも同じことをする。それでもいい?」

 

「イリス・・・・・・!」

 

イリスの言葉に、僕は凛華の切っ先をイリスの首筋に当てる。

その行動にイリスは僕の方を見て。

 

「なに?私を斬るつもり?」

 

「それそっくり返すよ。斬られたい?」

 

「ふふ、まさか」

 

そう笑ってイリスは再びキリエの方をむく。

 

「キリエ、あんたは結局なにも変わってない。私がいなきゃなんにも出来ない。自分じゃなんにも決断できない。弱くて、泣き虫で、冴えない子」

 

「違う・・・・・・!違う・・・・・・!私は・・・・・・!」

 

「現実は絵本とは違うの。一人じゃなんにもできない女の子は大人になってもそのままだし。どんな夢も叶う指輪なんて絵空事。願いは叶わないまま、哀しい物語は哀しいまま終わる。だからあなたには引けないわ、そのトリガーを」

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

イリスの言葉にキリエは涙を流して銃口を下げる。

しかし、それとは別にして今のイリスの言葉は、どこか自分が体験したような物言いだった。そう感じていると。

 

「っ!?」

 

イリスに弾丸が放たれた。

僕は撃った本人を見ているからあまり驚かないけど、イリスとキリエは驚いていた。弾丸が掠り、イリスの左頬には一筋の切れ筋が流れた。撃ったのは、キリエの姉、アミティエさんだった。まあ、キリエさんがここにいるし、アミティエさんもかな~って思っていたから対して驚かんが。

 

「っうぅ・・・・・・!」

 

「あなたは、そうやって色んなことを諦めてきたんですね。可哀想です、あなたはとても・・・・・」

 

「アミティエ・・・・・・!」

 

「っ!」

 

イリスの声と同時に、ユーリが動いたのを見て、凛華の切っ先を下ろしてユーリに向かおうと動こうとする。そこに。

 

〈レイくん!そこを動かないでね!〉

 

念話で夜月の声が響いた。

 

〈え!?〉

 

あまりのことに驚いていると同時に。

 

 

《Fire!》

 

鏖殺公(サンダルフォン)───最後の剣(ハルヴァンヘルヴ)!!」

 

 

二つの声が耳に入った。

そして、二つの砲撃と斬撃が一直線にユーリの進行直線上に向かい、ユーリとぶつかった。

衝撃による光が晴れ、放たれた場所を見るとそこには一振の巨大な大剣を握っている夜月と、バリアジャケットが少し変わって、パイルスマッシャーのようなデバイスを構えているなのはの姿があった。そして、二人も僕らと同じくユーリの能力を受け付けてないようだった。

 

「なのは!?夜月!?」

 

驚いているそこに。

 

 

《System drive,formula mode.》

 

「フォーミュラカノン、フルバースト!」

 

 

レイジングハートの音声が聞こえ、なのはから直射砲撃が放たれた。放たれた砲撃はユーリに衝突し、僕らを包み込むほどの大きなピンクの光となった。なのはの砲撃の光を受けると、フェイトたちを穿いていた結命樹の晶木が消えていった。まるで分解されていくように。

 

「っ!あの力!あの武装!まさか、アミティエのフォーミュラを?!」

 

イリスの言葉に、僕はなのはを見る。なのはの姿はアミティエさんのフォーミュラスーツと酷似していた。僕は直ぐに夜月に念話を送る。

 

〈夜月!なのはのあれどういうこと!?〉

 

〈あー、ごめんねレイくん。止められなかった〉

 

〈いや、それはいいんだけど・・・・・・。あれ、フォーミュラシステム組み込んでない?!〉

 

〈実は、なのはちゃんがシャーリーちゃんとアミティエさんに頼んだみたい〉

 

〈はあっ!?〉

 

夜月の言葉に驚きながらなのはを見る。

なのはを見る限り、魔力はある程度回復しているらしかった。恐らく夜月が刻々帝の能力を使ったのだろう。まあ、それは置いといて、今のなのはにアミティエさんの使うフォーミュラと魔導を合わせた物が使えるとは半々だった。遠目から観るなのはの瞳は、必ず助けるという、固い決意が現れていた。現に。

 

「待っていてください。今度は、必ず助けます!」

 

と、言っていた。

その身に決意を実らせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、天ノ宮家では。

 

 

 

「───二人とも、大丈夫かしら?」

 

「ええ」

 

「大丈夫ですよ」

 

「そう、それは良かった」

 

「そうね。───それで、行くの?」

 

「もちろんです。零夜くんが待っていますから」

 

「当然!零夜を助けたいから」

 

「ふふ。私たちの弟は本当、昔から愛されていたのね。ね、明莉?」

 

「そうですね。・・・・・・───さん───さん、二人に話しておくことがあります」

 

「???」

 

「なんでしょう?」

 

「あの子・・・・・・零夜くんの能力のことです」

 

「「え?」」

 

「それは、零夜くんの能力の一つである『消滅』についてです」

 

 

 

二人の少女が女神である明莉から話を聞いていた。

 

 



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Detention
衝突


 

~零夜side~

 

 

なのはのフォーミュラカノンで元に戻ったらしいはやてたちは、ダメージを負いつつも油断しないようにイリスを見ていた。

その間に。

 

来たれ(アデアット)

 

あるアーティファクトを顕現させ、

 

我、汝に真名を問う(アナタノオナマエナンデスカ)!」

 

イリスの本当の名前を問う。

 

「な・・・・・・っ!?」

 

僕の事に驚愕したイリスは目を見開いて僕に対面して顔を見る。

僕の右人差し指に装備されてるアーティファクト、『鬼神の童謡(コンプティーナ・ダエモニア)』に小さな光が灯り、『鬼神の童謡』の尖端から白い文字でイリスの真の名が書かれる。書かれた文字は。

 

IRーS07(アイアールーエスゼロセブン)・・・・・・?」

 

と書かれた。

どう考えても人の名前じゃない。そう思っていると。

 

「イリスさん!わたしたちと来てください!困っていることがあるなら力になりますから!」

 

レイジングハートの先端を向けてるなのはがイリスにそう言った。まあ、なのは的にはイリスを助けたいんだと思うんだけど・・・・・・。

 

「ユーリ」

 

イリスはと言うと興味無いようにユーリに命令する。

イリスに命令されたユーリは服装がかなり露出の激しいものになり、羽のように付き添っていた機械が変形して、大きな両腕アームになった。さらに。

 

「あれは・・・・・・!」

 

ユーリの中心から樹木林が現れた。その樹木は青白く光りを放っていた。範囲を広げていく樹木に僕はすぐに全員に指示をする。

 

「全員、その場から離れろ!その樹木に触れないで!」

 

僕の指示にその場を離れ、上に上がって距離を取っていく。

 

「困っていることも助けて欲しいことも無い!私は離脱する、危険度が高い順に排除して」

 

イリスの言葉にユーリは無表情で話す。その言語を聞いたはやてたちたちは驚く。何故なら。

 

Bestellung erhalten.(命令受諾)

 

「っ!?ベルカ語?!」

 

ユーリの言語がベルカ語だけらだ。

アインスからユーリについては聞いてなかったようで、はやてだけでなくシャマルたちも驚いていた。

 

Vorbereitung der Tötungsaktion(排除行動準備)

 

ベルカ語で言うユーリは一瞬なのはに視線を向けたあと、僕に視線を向けて身体を僕の方に向けてきた。

 

Maschinenpanzerung(機鎧起動)

 

「ユーリちゃん・・・・・・」

 

「ユーリ」

 

Beginnt zu töten(排除開始).」

 

そう言うとユーリはものすごい速度で僕に迫ってきた。

 

「っ・・・・・・!」

 

瞬時に多重障壁を張りユーリの突進を防ぐが。

 

「なっ!?」

 

ユーリは多重障壁を数枚破壊して一直線に僕に突き進んで来る。

 

「くっ・・・・・・!星夜、スタービット展開!星盾(スクレーティア)!」

 

ユーリの突進を受け止めるように、星夜(ステラ)に指示しビットを射出してビットによる盾、星盾を形成する。

 

「うっ・・・・・・!ユーリ、少しの間だけ我慢して!」

 

ユーリの攻撃を受け止めながらそう言い。

 

術式解放(エーミッタム)精霊の破重閃風(スピリトゥス・エルブレイクス)!」

 

虹色の魔力砲撃をぶちかます。

砲撃が直撃し、ユーリの両腕アームは破壊されたと思ったら、すぐにまた修復して元通りになった。

 

「自己修復機能?!」

 

予測していたとはいえ驚いているところに。

 

「───バースト!」

 

左側から魔力砲撃がユーリに向かって放たれた。

 

「!なのは!」

 

「手伝うよ零夜くん!」

 

「・・・・・・わかった!言っとくけど、なのはは後でお説教するからね!」

 

「なんで!?」

 

「理由は自分が1番知ってるでしょ!って、そんなこと言ってる場合じゃない。なのは!限界突破(リミットブレイク)を使って!」

 

「え!?あ、うん!了解!───限界突破(リミットブレイク)!」

 

僕はなのはに限界突破の使用を許可する。何故かと言うと、さっきなのはが限界突破使ったからだ。なら、大丈夫だと判断して言う。

そこに。

 

〈レイくん!イリスは私とアミタさんが追ってるよ!〉

 

夜月から念話で通信が来た。

 

〈了解!〉

 

「零夜くん、イリスさんはアミタさんが───」

 

「知ってる!夜月から聞いたから───来るよ!」

 

「っ!」

 

僕の言葉に、なのはは再び砲撃を撃つ。しかし、その砲撃をユーリはギリギリの所で避け。

 

Pfeil abfeuen(炎の矢)

 

かわりに、赤白い矢のような魔法攻撃を仕掛けてきた。

 

「っ!」

 

「(数が多い!全部を斬るのは・・・・・・!)リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!───魔法の射手・連弾・光の568矢(サギタマギカ・セリエス・ルーキス)!」

 

障壁を張って防ぎながらユーリに魔法の射手を撃つ。しかしユーリの魔法攻撃範囲は僕となのはだけでなく。

 

「我が主!」

 

「っ!シャマル!」

 

「はい!」

 

包囲していたはやてたちにも被害が行った。はやてたちはの攻撃は、シャマル達が障壁を全員の前に張り防ぐ。

 

「ちっ!凛華、ユーリの洗脳を解くことは出来る?!」

 

《今のユーリちゃんは、恐らくイリスちゃんの使うフォーミュラシステムの行動強制プログラムでコントロールされてます!なので、それを上書きすれば!》

 

「了解!なら、まずはユーリを止めないとね!」

 

デバイス状態の凛華に訊ね、凛華の言葉を聞いた僕はさらに脳のギアを上げた。

 

「はあああああっ!!」

 

認識範囲を拡張したため、相手がどこにいて、味方がどこにいるのかすべてを把握出来る。正直、脳の処理が足らなかったらパンクしてたかも。

ユーリの周囲にスタービットを配置し、光弾を放つ。しかしそれは全て避けられる。

 

「しかたない、最上位魔法で一掃するか」

 

ボソッと、そう呟くと。

 

「零夜くん、それだけはダメだからね!?」

 

なのはが本気で言ってきた。

 

「え、冗談だよ?」

 

「零夜くんのは冗談に聞こえないよ!?」

 

冗談なのに本気にされた。解せぬ。

そう思いながらも、無詠唱の高等魔法を連発し、ソードスキルを撃ち込む。対するユーリはというと。

 

「わたしと零夜くん、二人がかりでやってるのにユーリちゃんどれだけ強いの!?」

 

両腕アームとその後ろの翼のようなものを使い、さらにベルカ式の魔法を乱用して僕となのはの二人に立ち回っていた。

 

「なのは、連携で行くよ!」

 

「!うん!」

 

左右に分かれてからの同時攻撃を仕掛ける。

 

「はあああああ!」

 

「やあああああ!」

 

僕の純白の砲撃を避けたところに、反対側からなのはが砲撃を放つ。

 

「───っ!」

 

「せええええいっ!」

 

動きを止めたところに、縮地で接近し剣形態の凛華と澪奈を振るう。僕の剣戟とユーリの両腕アームがぶつかる度に衝撃波が発生する。

 

「天陽流剣技───華幻風雪(かげんふうせつ)!」

 

ホワイトブルーのエフェクトを煌めかせて、ユーリに向けて放つ。風と氷属性の二つを合わせて、斬撃を繰り出す。風のように素早く、雪が舞い散るかのように斬られる。ユーリには僕の動きが複数あるように見えてるだろう。風を纏い、雪華のごとく斬り、幻影をみせているような剣技。それが、天陽流剣技が一つ、『華幻風雪』。

 

「───白き雷!」

 

華幻風雪から続けて、白き雷を放つ。白き雷をユーリは障壁で防ぎ対象を僕からなのはに移した。

 

「っ!」

 

なのはは接近してきたユーリの両腕アームをレイジングハートに付属して付いた盾で防ぐ。

 

「───闇の吹雪!」

 

なのはとユーリの距離が空いたところに一発放ち。

 

「なのは、稼動限界まであと何分?!」

 

「あと2分!」

 

「了解!それじゃあ、2分でやるよ!」

 

「うん!」

 

ユーリの作り出した、海上の森林の中を飛びユーリの動きを翻弄する。そんな中。

 

「っ・・・!ああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

なのはは身体にかなり負担のかかるやり方でユーリを相手にしていた。1歩間違えれば危ういというのに、それを平気でやってのけていた。

 

「なっ!?バカなのは!」

 

いくら限界突破で能力が上がっているとはいえ、なのははまだ完全とは言い難い。正直言って、なのはの限界はとっくに超えていた。

 

「ちっ!───術式解放(エーミッタム)双腕固定(ドゥプレススタグネット)双腕掌握(ドゥプレスコンプレクシオー)術式兵装(プロ・アルマティオーネ)天雷氷華(ローズィリング・フルグラティオヘブン)!」

 

僕はすぐに奥の手の闇の魔法の術式兵装を使用した。

 

「させないっ!」

 

「なのは!ユーリは僕が引き付けるからフルチャージの一発お願い!」

 

「で、でも・・・・・・!」

 

なのはが問答していると。

 

「零夜!連携行くぞ!」

 

「ヴィータちゃん!」

 

ヴィータが飛んできた。僕はすぐに指示を出す。

 

「ヴィータは上から!」

 

「おう!」

 

「フェイトとアリサは左右から動きを止めろ!」

 

「うん!」

 

「まかせなさい!」

 

「アリシア!すずか!はやてはユーリが動きを止めたところを攻撃しろ!」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

「わかったで!」

 

ヴィータたちに指示を出すと、すぐにユーリの動きを阻害する。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!来たれ氷精、爆ぜよ風精!氷爆(ニウィス・カースス)!」

 

「ッ!」

 

手加減無しの氷爆を繰り出しユーリの動きを止める。

そこに。

 

「今だ!」

 

「はあああああっ!!」

 

「クラウ・ソラス!!」

 

氷槍弾雨(ヤクレーティオ・グランディニス)!!」

 

奈落の業火(インケンディウム・ゲヘナエ)!!」

 

雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」

 

フェイト、はやて、すずか、アリサ、アリシアが魔法を放ち、ユーリを下の樹木らに墜す。

 

「くっ・・・・・・!」

 

「はああああ!」

 

そして、シグナムがボウガンフォームのレヴァンティンでユーリをその木に縫い付ける。

 

「っ!」

 

縫い付けられたユーリはそこから先程と同じ矢を連続でシグナムたちに撃ってきた。それは。

 

「ううっ!!」

 

「はあっ!!」

 

ヴィータとシャマルが防御障壁を張って、ユーリの攻撃を受け止めていた。

その間、僕となのははと言うと。

 

「───うおおおおおおおおッ!!」

 

僕は上空でデバイスで、片手剣の凛華と澪奈に深紅のライトエフェクトを輝かせて魔力を練り込んでいた。

 

「(普通の剣技(ソードスキル)じゃ駄目だ・・・。もっと鋭く、速く、威力の高い・・・・・・ユーリの動きを完全に抑え込める程じゃないと・・・・・・!)」

 

周囲のエレメントに干渉し、両のデバイスに魔力を充填させる。

 

「凛華!澪奈!カートリッジロード!」

 

《はい!》

 

《うん!》

 

「星夜、ビットを全部出して正面に集めて!」

 

《分かりました!》

 

そう言うと、両のデバイスからガシャン!ガシャン!と弾丸がロードされる音が響く。星夜のビットが僕の正面に集まり。

 

「よし・・・・・・!」

 

はやてたちの攻撃で動きが止まってるユーリの真上に移動し、

 

「───エクシーズ・ストライク!!」

 

深紅に染まった剣による純粋魔力砲撃を撃った。その威力はブレイカーに匹敵するほどの威力でもあった。

ビットにより、1箇所に集まったエネルギーを砲撃として撃ち放つ。基本ベースは片手剣ソードスキル、ヴォーパル・ストライクだ。エクシーズ・ストライクは、ヴォーパル・ストライクの倍以上の威力を有し、魔法と剣技を融合させた技だ。欠点があるとすれば、それは放つまでにしばしのチャージご必要だという事だ。そして、これはかなりの魔力を必要とする。正直、これは奥の手のひとつでもある。他にも幾つか奥の手はあるが、最大の奥の手である、あれはあの時出来て以来、一度も使ってない。なにせあれは、威力を軽く抑えても半径数十キロに被害を及ぼすからだ。

僕の放ったエクシーズ・ストライクはユーリの張った障壁を破壊、貫通し。

 

「ぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

純粋魔力によるダメージを与えた。そして、そこに畳み掛けるように。

 

「───エクシード!・・・・・・ブレイカー!」

 

なのはがユーリの真上からブレイカーを放った。

 

「(あー・・・・・・オーバーキルかも・・・・・・)」

 

なのはのブレイカーを見て、僕はふとそう思った。幾らなんでもやりすぎたかも。

はやてたちによる足止めの魔法に、僕の魔力砲撃、そして止めのなのはのブレイカー。

 

「(うん。これ、ユーリがトラウマにならないかな・・・・・・)」

 

実行した当人だが、そう思わざるをえなかった。

なのはのブレイカーはユーリを呑み込み、ユーリの作り出した樹木を全て焼き付くし消滅させた。巨大な白い光の球体が僕たちの視界を塞ぎ。

 

「・・・・・・・ん・・・・・・」

 

再び視界が開けると、そこには樹木もなく、あるのは気絶しているユーリとその周囲を保護するかのように浮かんでいる紙・・・・・・夜天の書の頁だけだった。

 

「あれは・・・・・・!」

 

「夜天の書ページ!」

 

「ユーリ!!」

 

僕とはやて、アインスはすぐにユーリの元に向かった。それに続いて、ディアーチェ、シュテル、レヴィが来る。

 

「聖良!」

 

「うん!」

 

聖良とのユニゾンを解き、実体化する。

なのはたちはユーリを囲むように、上で待機する。

 

「ユーリ!」

 

「ユーリ、大丈夫!?」

 

「ユーリ」

 

「おい、ユーリ!」

 

アインス、僕、はやて、ディアーチェがユーリに声を掛ける。やがて、ユーリは軽く身動きをし。

 

「ぅ・・・・・・」

 

少しずつ瞼を開けた。

 

「ユーリ、大丈夫か?」

 

はやてが訊ねると、ユーリはディアーチェたちの方を向き。

 

「まさか・・・・・・ディアーチェ?・・・・・・シュテル。・・・・・・レヴィ。それにあなたたちは・・・・・・」

 

「八神はやて、夜天の書主です」

 

「天ノ宮零夜、この子の兄だよ」

 

ユーリに名前を教えて、隣に立つ聖良を紹介する。

 

「この子・・・・・・」

 

「ユーリ、私がわかる?!」

 

「あなたは・・・・・・もしかして・・・・・・・ナハト・・・・・・」

 

話したことないと言っていたが、どうやらユーリは聖良のことを知っていたみたいだ。

 

「うん。今は聖良って名前だよ」

 

「聖良・・・・・・」

 

慈しむように聖良を見て。

 

「ユーリ・・・・・・」

 

「あ・・・・・・黒羽・・・・・・」

 

アインスを見てそう言った。

アインスを見たユーリは起き上がり、僕とはやてに1枚の紙片を出して言った。

 

「はやて!そして零夜!お願いがあります!ディアーチェたちをどうか・・・・・・そして、イリス・・・・・・」

 

そうユーリが言い終える前に。

 

「っ!」

 

「ちっ!」

 

ユーリの背後にいきなり現れたイリスの剣を受け止めた。しかし。

 

「邪魔をしないでくれるかしら!」

 

「うぐっ・・・!」

 

「あがっ!!」

 

イリスの突き出した剣に障壁が貫かれ、僕とユーリの腹に剣が突き刺さった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「零夜くん!」

 

「ユーリ!零夜!」

 

「「「っ!?」」」

 

突然のことに驚くはやてたち。

 

「(くっ!まさか物理攻撃で障壁を貫かれるなんて!)」

 

腹を貫かれながら、僕はそう頭で言う。

正直、障壁が貫かれるなんて思わなかった。そう思いつつ。

 

「くっ・・・!イリス!」

 

「あなたは危険ね。今ここで排除しといた方がいいかもしれないわね。それと、ユーリ。嘘はもう聞きたくない。いい加減黙ってなさい」

 

「それは!」

 

イリスの取り出した本を見て目を見開く。

 

「便利な本よねぇ。用済みになるまで使わせてもらうわ」

 

「そうは・・・させるか!」

 

「その体でどうやってかしら?」

 

「こうするんだ、よ・・・・・・っ!!」

 

「っ!?」

 

支配領域を展開し、一瞬のうちに僕はイリスの手から夜天の書を回収し、イリスの剣に貫かれた状態から抜け出す。さすがにこの傷ではユーリまでとはいかなかった。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・・はぁ」

 

「まさかそんな手で逃げるなんて。予想外ね」

 

正直、今の僕では上手く戦えない。魔力が底を尽きかけてるのだ。魔力の大半を傷の治癒に移してるためさすがに長時間は無理だ。

 

「まあ、いいわ。取り敢えずユーリは貰っていくわね」

 

「待て!イリス!」

 

「逃がすか!」

 

「させない!」

 

イリスの撤退宣言の直後、はやて、アインス、聖良の魔法がイリスを襲う。が。

 

「私がなんの対策もしてないと思う?」

 

ユーリの手には新たな本が握られていた。

 

「なっ!?夜天の書をコピーしたのか!」

 

「ええ、そうよ。時間はあったもの」

 

イリスの言葉で確信した。

先程の障壁貫通は、夜天の書の知識から得たものだと。

 

「うっ・・・・・・イリス・・・・・・」

 

ユーリが最後そう言うと、眩い閃光が走り、僕たちの目を眩ませた。次に目を開けるとそこにはユーリとイリスはいなく、ユーリが渡そうとしてきた夜天の書の頁の切れ端が飛んできた。

逃げられたことに、僕は拳をにぎりしめ。

 

「くっ!!」

 

悪態を吐きながら、奥歯を噛みしめた。その僕の掌には、ユーリからの紙片が握られていた。

 

 

 



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会話とわずかな勇気

 

~零夜side~

 

 

 

時空管理局本局

 

 

 

イリスがユーリを連れて逃亡した後、それぞれ傷の手当やらをし、なのはは本局の医務室で治療中。イリスとの戦闘で怪我をしたアミタさんも同じく、キリエは治療室で眠っている。夜月も少し傷を負っていたが、自身の能力で回復し今ははやてとすずか、アリシアたちと一緒に地球の東京湾で航海中の船で待機し、フェイトとアリサは負傷したなのはの付き添い(僕によるお説教済み)。そして僕はというと。

 

『───なるほど。事件の容疑者は未だ逃亡中、と』

 

「はい」

 

特務0課の部屋でレティ本部長らと通信会議を行っていた。何故僕がここで会議に参加してるのかと言うと、単純に特務0課室長にして当事者だからだ。そして、その画面には包帯を巻いているクロノとそれに付き添うエイミィさんが映っていた。

 

『関係者五名は確保しています』

 

『エルトリアから来た、アミティエとキリエのフローリアン姉妹。正体不明の三名も、事情聴取と情報共有には協力してくれるそうです』

 

『現場の拠点は?』

 

『東京湾に指揮戦を配置しました。主要メンバーはもうそちらに』

 

『そう。零夜君、研究会については』

 

「はい。今回の事件に、研究会の序列二位智天使(ケルビム)のガハト・レグリスタらが関与してきています。狙いは恐らくユーリ、かと」

 

僕の言葉に、画面に映る局員の表情に焦りと戸惑い、動揺が広がる。

 

「さらにガハト・レグリスタはロストロギア《破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)》を所持していることが確認できました」

 

『なっ!?』

 

僕のさらなる言葉に驚愕の雰囲気が出た。

 

『よりにもよってあの《破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)》とは』

 

画面の局員の全員が驚愕しているのも当然である。《破血の鋭業剣》はロストロギアの中でもかなり厄介な部類だ。魔剣の部類に入るだろう。特に、対人戦闘では絶大な効果を発揮する。

 

『零夜君、すみませんが戦闘区域に研究会が入ってきた時は』

 

「分かってます。研究会が入ってきた時は僕と夜月で対処します」

 

『お願いします』

 

レティ本部長がそう言った途端。

 

『割り込み失礼しますね』

 

『!ミゼット統幕議長!』

 

ミゼットさんが通信会議に入ってきた。ミゼットさんが出た瞬間、レティ本部長含む全員、僕以外の全員が直立不動を取った。

 

『統幕議長、なにか御用でしょうか?』

 

『天ノ宮特務官に少し』

 

「僕に?」

 

『はい。天ノ宮特務官』

 

「はい」

 

『統幕議長として命じます。天ノ宮特務官及び桜坂さんは今回の事件で、再びロストロギア《破血の鋭業剣》を所持しているガハト・レグリスタなる者が現れた際、真っ先にこれを対処してください。可能なら《破血の鋭業剣》の回収を。ガハト・レグリスタの拘束は無理に行わくても構いません』

 

「ハッ!了解しました!」

 

ミゼットさんの命令に、僕は敬礼して返す。ミゼットさんの命令により、僕と夜月の第一任務は研研究会による干渉の対処。その次がイリスたちの捕縛と事件解決だ。ロストロギア《破血の鋭業剣》の回収とガハト・レグリスタの捕縛はおまけのような物だ。

 

『以上となります。レティ本部長、構いませんね』

 

『はい。クロノ執務官もいいですよね』

 

『はい』

 

『では、お願いします』

 

そう言うとミゼットさんは通信を切った。

そのあとはイリスや研究会の対処などの話し合いをして通信を終えた。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

通信会議を終えた僕は椅子の背もたれに背中を預け息を吐く。

デスクの上にはアーティファクト、『いどのえにっき(ディアーリウム・エーユス)』のページが広げられていた。開かれているページにはイリスの深層心理が書き綴られていた。そして、その一文には「復讐」という文字が書かれていた。

 

「四十年前か・・・・・・」

 

発端は、アミタさんとキリエ、そしてイリスの故郷である惑星エルトリアで、四十年前に起こった惑星再生委員会壊滅のことらしい。

そう思っているところに。

 

「失礼します」

 

「ん?」

 

一人の女性局員が入室してきた。

 

「天ノ宮特務三佐、レジアス中将より書簡が届いてます」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

女性局員から渡された書類を受け取り、中身を確認する。書類には、星霊武装(アストラルウェポン)がひとつ、【星罪の剱槍(アスティカル・ジ・グライムスピア)】と【星蘭の聖奏者(スターズ・レイ・シンフォギア)】の成果が記されていた。

 

「(さすがゼストさんとメガーヌさんだ。二人とも僕の予想を大きく超えているよ)」

 

文面を見ながらそう思考する。

やがて。

 

「はい、確認できました」

 

僕は女性局員にそう言う。

そして。

 

「それで、それだけじゃないですよね、ドゥーエさん?」

 

僕は立ちすくむ女性局員───ドゥーエさんに笑みを浮かべて訪ねる。

 

「ええ」

 

そう言うとドゥーエさんは姿を変え、元の姿に戻った。

 

「相変わらずドゥーエさんのIS『偽りの仮面(ライアーズ・マスク)』は凄いですねー」

 

「私やドクターに言わせてもらうと、零夜君、あなたの方がすごいわよ」

 

ドゥーエさんと話す僕の表情はふっ、と柔らかくなる。

 

「ジェイルさんは元気?」

 

「ええ。ドクターはルフィアちゃんばかり構っているから最近、ウーノ姉さんが窶れてる姿が多いそうよ」

 

「ええー・・・・・・。ウーノさん大丈夫なの・・・・・・?」

 

ドゥーエさんの言葉に僕は思わずひきつり笑いを浮かべる。

 

「ふふ。ドクターもシスコンになっちゃってるみたい」

 

「あはは」

 

どうやらジェイルさんはかなりの妹好きみたいだ。まあ、それには同感するけど。

僕とドゥーエさんの出会いは、ジェイルさんたちとの会合から数日後の事だ。コンタクトして来たのは僕ではなく、ドゥーエさん・・・・・・二乃さんからだ。二乃と言うのは局員として潜入しているドゥーエさんの名前だ。

 

「にしても、今のドゥーエさんを見たら、初めてあった時のことが思い返されるよ」

 

「その節は迷惑をかけたわ」

 

「ふふ。だって、いきなり攻撃してきたもんね」

 

「言わないでほしいわねそれは・・・・・・///」

 

頬を紅潮するドゥーエさんはどうやら黒歴史になっているらしい。

 

「あの時はドクターの言葉が信じられなかったから、確かめるためにやったけど」

 

「見事に負けたもんね」

 

「ええ。返り討ちにされたわ」

 

そう、あの時僕がひとりでいた所をドゥーエさんがIS『偽りの仮面(ライアーズ・マスク)』と自身の固有武装『ピアッシングネイル』で襲いかかって来たのだ。襲いかかって来る瞬間、予め気配で察知していたこともあり多重障壁で防ぎ、カウンターの徒手空拳でドゥーエさんを吹き飛ばし、多重拘束魔法で縛り上げて聞いたのだ。

 

「今にしても女性に対して手加減無さすぎよ?」

 

「ははは。いやー、敵対者にはどうも手加減が・・・・・・」

 

ドゥーエさんの呆れた声に僕は苦笑しつつ返す。手加減しない理由は、油断して負けたら全くもって意味が無いからだ。

 

「さて、世間話はここまでにして」

 

「そうね」

 

僕とドゥーエさんは雰囲気を正して話す。

 

「報告としては、今のところ聖王教会と管理局には研究会の仲間(シンパ)はいないようね」

 

「そう」

 

「ええ。それと、あの老害たち───最高評議会の連中がどこにいるのか分かったわ」

 

「それはそれは」

 

最高評議会については夜月から話を聞いてるだけでどこに居るのかは不明だった。もちろん、僕もアーティファクト『世界図絵』で調べてるが。

 

「場所は、管理局地上本部の地下にある最深部」

 

「最深部?地上本部に地下エリアなんかあったかな・・・・・・」

 

「最重要機密らしく、知ってる者はあまり居ないみたいよ」

 

「ふーん」

 

「さらに最高評議会の連中は全員、もう生身の人間では無いようね」

 

「つまり」

 

「ええ、あるのは脳だけよ」

 

ドゥーエさんの報告に僕は予想通りとうなずく。

 

「それと、最高評議会は聖王教会の一部上層部と結託してなにか新しいプロジェクトを計画してるみたい」

 

「なに?」

 

ドゥーエさんの言葉に僕は眉が上がった。

 

「【アンリミテッド・デザイア―無限の欲望】と【エターナル・ルーラー―永遠の支配者】だけでなくまだなにかしようとしてるのか最高評議会は?」

 

「ええ。でも、どうも難航してるみたいね」

 

「どういうこと?」

 

「遺伝子が見つからないみたいよ。最適な遺伝子が」

 

「遺伝子か・・・・・・」

 

「ええ。あと分かってるのはそのプロジェクトの名前が、【コズモ・エンテレケイア─完全なる世界】だということよ」

 

「【コズモ・エンテレケイア─完全なる世界】!?」

 

ドゥーエさんの言った、プロジェクトの名前に僕は驚愕する。なぜなら、『コズモ・エンテレケイア』という単語は前世でネギま!?に出てくる悪役の組織名にして計画の名前だからだ。

 

「(なんでここで完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)が・・・・・・。まさか計画の裏に誰かいる・・・・・・?いや、しかし、ネギま!?については前世の漫画だ。この世界には無かったはず・・・・・・考えられるとしたら裏に転生者がいるという事だけど・・・・・・)」

 

考えを巡らせていると。

 

「いまのところ分かってるのはこのくらいかしらね」

 

ドゥーエさんがそう言った。

 

「あ。ありがとうドゥーエさん。この事ミゼットさんには?」

 

「これから報告するつもりよ」

 

ジェイルさんのスパイとして潜入していたドゥーエさんは、僕たちとの同盟を組んでから非公式の特務0課の諜報員として地上本部と本局を行ったり来たりしてもらってる。このことは既にミゼットさんたち三提督の耳に入っており、地上本部だとレジアス中将とオーリス三佐、ゼストさんのみが知っている。

 

「ところでそっちの事件はどうなの?」

 

「ああー、かなり厄介かも」

 

僕のデスクの上には未だにアーティファクト『世界図絵』が広がっている。そのページに視線をスっと落して言う。

ドゥーエさんも視線を『世界図絵』に移し、文章を見る。

 

「・・・・・・なるほどね。確かに、これはかなり厄介かもしれないわね」

 

「うん。それに・・・・・・」

 

「?」

 

「いや、なんでもないよ。そろそろ僕も戻らないと」

 

「そうね。じゃあ、私はこれをミゼット議長に届けてから地上本部に戻るわね」

 

「お願いね」

 

「ええ」

 

再びIS『偽りの仮面(ライアーズ・マスク)』を起動させたドゥーエさんは変装した姿で特務0課の室内から退出して行った。

 

「さてと、僕もそろそろ戻らないとかな」

 

そう言って特務0課の室内から出て言った。

しばらく歩くと。

 

「あ!零夜くん!」

 

後ろから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

声のした、後ろを振り向くとそこには私服姿のフェイトとアリサ、アミタさん、そして松葉杖を付いているなのはがいた。

 

「なに?」

 

「キリエさんが目を覚ましたそうなの。だから一緒にお見舞いに行かない?」

 

「ん、わかった」

 

僕はなのはたちとともにキリエ・フローリアンがいる治療室に向かって行った。

少しして、

 

「「お邪魔しまーす」」

 

「失礼するよー」

 

「お加減いかがですか」

 

部屋に入ったなのはたちのあとに続いて僕もキリエのいる部屋に入る。部屋に入ってベットの上で上体を起こしているキリエの表情がくらいのに気づいた。

 

「ごめんなさい、全部私のせい・・・・・・。この星のみんなにひどい迷惑をかけて・・・・・・どんな風に償ったらいいか・・・・・・?お姉ちゃんの言うことちゃんと聞いてればよかった」

 

キリエの言葉になのはたちはなんの反応はしないけど、僕は少しだけピクっと眉根を動かした。

 

「わたしも、ちゃんと伝えるべきでした。私の責任でもありますよ」

 

「お姉ちゃん」

 

「だけどねキリエ。父さんのことも、母さんのことも、故郷のことだって、わたしはまだ何も諦めてなんかいないんですよ。父さんと母さんがもう一度元気になること・・・・・・。家族みんなでエルトリアをもう一度甦させること。いつか、父さんと母さんが眠る日には・・・・・・あの家の、温かいベットで幸せな気持ちで眠ってもらう。子供の頃の夢のように、わたし達が育てた花をたくさん添えて。失敗は取り戻せばいい。自分を責めすぎても出来ることが減っていくだけです。わたし達に出来ることはまだあります。この星に起こる被害をくい止めて、ユーリを止めて、イリスに話をちゃんと聞く。空を見上げれば背筋が伸びます。ほら、ちゃんとして!」

 

アミタさんの言葉に持ち直したのかキリエの表情は少しだけ明るくなった。なのはたちもキリエが明るくなったに気づき顔を見合わせた。

そこに。

 

「True magic results from courage of the heart.Boys and girls be ambitious,One step can change the world」

 

小さな声で、しかしなのはたちに聞こえるようにハッキリと言う。

 

「零夜くん?」

 

突然の英語に不思議に思ったのか、なのはが首をかしげている。フェイトやアリサ、アミタさんもキリエも同じ表情をしていた。

僕は表情を和らげ、

 

「『わずかな勇気が本当の魔法。少年少女よ大志を抱け。その一歩が世界を変える』・・・・・・ある人が言った言葉だよ」

 

と五人に言う。

 

「キリエ・フローリアン、君はさっきどうやって償ったらいいか、と言ったよね」

 

「うん・・・・・・」

 

「アミタさんの言葉で立ち直ったみたいだけど、アミタさんが言わなかったら君はずっとそこでメソメソしていたのかな?」

 

「それは・・・・・・」

 

「ちょっと零夜!」

 

「零夜くん?!」

 

僕の声に、アリサとなのはが止めにかかるが。

 

「アリサ、なのは、少し黙って」

 

「「っ!?」」

 

僕は二人に、静かにそう言う。まあ、威圧感は出してるけど。

僕の質問に答えられないキリエに。

 

「───『わずかな勇気(アウダーキア・パウア)』」

 

僕は一言そう言う。

 

「『わずかな勇気』・・・・・・?」

 

「そう、勇気とは人は誰もが持ってるもの。その『わずかな勇気』で人はなんにでもなれるし、どんなことにも挑戦できる。君はどうなのかなキリエ・フローリアン」

 

「私は・・・・・・」

 

「なのは、アリサ、フェイト、アミタさん、君たちは?『勇気』がある?」

 

僕の問いになのはたちはしばし考え込む。

やがて。

 

「あるよ、零夜くん。勇気・・・・・・私のなかに!」

 

「うん。ここに、ちゃんとある」

 

「ええ。あたしたちの勇気はいつもここにあるわ」

 

なのは、フェイト、アリサの三人は左胸に・・・・・・心臓に手を当てて答えた。

 

「ふふ。三人ならそう言うと思ってたよ。アミタさんとキリエ、君たちは?」

 

「・・・・・・あります。わたしにも、なにものにも負けない、諦めない勇気がここに」

 

「うん」

 

「私も・・・・・・あるわ、わずかな勇気、それがここに」

 

二人の言葉に僕は笑みを浮かべる。

 

「おめでとう。キリエ・フローリアン、君は今『わずかな勇気』を手にした。その勇気は何人にも壊されることはない。その勇気は力になる、今の君にならイリスも話を聞くんじゃないかな」

 

威圧感を消して笑顔で祝福する。

 

「覚えといて。たとえ魔法が使えなくても、『わずかな勇気が本当の魔法』だということを」

 

僕はアミタさんとキリエに伝える。魔法が使えなくても、ほんの少しの勇気でもそれは魔法に成りうるということを。

そこに。

 

「ん?(明莉お姉ちゃんから?)」

 

地球にいる明莉お姉ちゃんからメールが来た。

内容を見た僕は、表情には出さずに驚きと嬉しさを出した。

メールにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『二人とも目を覚ましたよ。二人とも、今起きてる事件を手伝うみたいです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 



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出撃と助っ人

 

〜明莉side〜

 

 

「さて、どこから話したらいいのかしら・・・・・・」

 

目覚めた二人を連れて私は自室に向かい、自室の扉の鍵を閉めて二人に話す。

 

「まずは、お二人に謝罪しますね」

 

私は1番初めに言うとしたらこれだと思い、二人に頭を下げる。

 

「前世で零夜くんを死なせてしまって、申し訳ありません」

 

「あ、頭を上げてくださいアマテラスさん!」

 

「そうですよ!別にアマテラスさんが謝ることなんて・・・・・・」

 

「ですが、私は間違えて零夜くんを・・・・・・」

 

「零夜くんはこの世界で生きています。それでいいと、私は思います」

 

「私も。零夜がここで生きてくれてるならそれでいいです」

 

「・・・・・・やはりお二人とも、零夜くんと同じこと言うのですね」

 

もう五年ほど前の・・・・・・初めて会った時に零夜くんが言った言葉と同じ台詞に私は表情を緩める。私の言葉に、二人はふふっ、と微笑んでいた。

 

「ありがとうございます、愛奈美さん、華蓮さん」

 

二人・・・・・・愛奈美さんと華蓮さんに頭を下げてお礼を言う。

 

「明莉さん、教えてください。言っていた、零夜くんの能力の一つ『消滅』について」

 

「そうですね」

 

居住まいを正して私は愛奈美さんと華蓮さんに話す。あの子、零夜くんの持つ、最も危険な能力について・・・・・・。

 

「あの子の『消滅』はただの消滅ではありません。存在そのものを消す、最凶の能力です」

 

「最凶・・・・・・」

 

「はい。ヘタしたら、私たち神々も消滅しかねないでしょう」

 

「「っ!?」」

 

零夜くんの持つ消滅は、普通の消滅とは違う。普通の消滅は、そのモノを分解して消すが、零夜くんの消滅はすべてを消す。分解し、無に返してそのモノ自体の存在を消す。そもそも、消滅という能力自体、保持してるものがいないのだ。破壊なんて生温い、その気になれば世界そのものを虚無の果てにまで消し、無と返すことだって可能だろう。

 

「零夜くんはの消滅は、とてつもない絶望と虚無感により目覚めたと思います」

 

「絶望と・・・・・・」

 

「虚無感・・・・・・」

 

「はい。おそらく、トリガーとなったのは前世での・・・・・・」

 

私のその言葉に二人はハッ!となり、口に手を添えた。

 

「ま、まさか・・・・・・」

 

「もしかして、私たちが死んで・・・・・・」

 

「はい・・・・・・」

 

零夜くんの『消滅』の発動となる切っ掛けとなったのは愛奈美さんたちが亡くなったことだ。それも家族を亡くしたのだから。虚無感と絶望に浸れ、負の感情が増幅したため現れたのだと私は思う。

 

「幸いにも、今のあの子は友達とも言える人がたくさんいますから大丈夫ですけど・・・・・・。もし、また何か・・・・・・大切なものが失くなったら、あの子は無作為に消滅を使うでしょう。それも無意識に」

 

「「・・・・・・」」

 

二人は私の言葉に息を詰まらせた。この事は零夜くんにも、なのはちゃん達にも言ってない。言ってるとすれば、それは同じ転生者である夜月ちゃんだけだ。あの娘はアルテミスの眷族だから信頼出来る。

 

「お二人は正規の手順ではないのだけど、それぞれ愛奈美さんが美咲の。華蓮さんが知智の、眷族になっています」

 

私が引き受けてもよかったのだけど、美咲と知智が引き受けるといったため下がった。この事は零夜くんも承知済みだ。ちなみに、零夜くんのことに関しては天界でも一部の神や天使の間で有名だ。というか、私が弟を自慢してるんですけどね。そのうちファンクラブなんか出来るのではないかと思っていたりします。

 

「そしてこれが、お二人のデバイスです」

 

背後に置いてあった二つのペンダントをそれぞれひとつずつ渡す。

 

「愛奈美さんのデバイス名は『エタニティメサイア』。華蓮さんのは『エリュシオンネイト』」

 

「エタニティメサイア・・・・・・」

 

「エリュシオンネイト・・・・・・」

 

「ちなみに二つとも零夜くんのお手製ですよ」

 

「「ふぁいっ?!!」」

 

二人は私の言葉に目を大きく広げて驚いていた。私自身驚いているのだから、当然だろう。これであの子のハンドメイドのデバイスは四つ。最初のふたつはあの娘たちに。そして残りのふたつはこの子たちに。正直、あの子の才能には驚かされる。『天才』と言っても過言ではない。幾ら、知智たちに教えて貰ってるからとはいえ、特典だけではここまでいかないはずなのだ。

 

「二人にお願いします。その力で零夜くんを守ってあげてください」

 

「「もちろん!」」

 

私が言わなくても、この子たちは零夜くんを守るだろう。何がなんでも。今度は、絶対にこの手から離さないために。二人の目に浮かぶ決意の瞳を見て、私はそう思った。

 

〜明莉side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜零夜side〜

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

「あ、あのー、零夜さん?」

 

ぼぉー、っとしてデータベースやらなんやらを検索していた僕にアミタさんが恐る恐る声をかけてきた。

 

「・・・・・・ん?なんでしょう?」

 

「あ、あの、失礼ですけど零夜さん、あなた本当に十一歳ですか?」

 

「十一歳ですよ?(肉体年齢は)」

 

アミタさんの質問の意図が分からず普通に返す。最後の方は心に出して言ったけど。

僕の年齢を聞いたアミタさんとキリエは。

 

「あれで私より歳下・・・・・・!?」

 

「どうみても歳上にしか見えません・・・・・・」

 

と言っていた。

さらに。

 

「ホント、いつ見ても十一歳には見えないわよね〜」

 

「うん。九歳で一部隊の隊長を引き受けたんだからね〜」

 

「え、えっと、その、あの・・・・・・」

 

ニヤニヤして言う僕の実年齢を知っているアリサとなのは、オドオドするフェイト。フェイトはともかく、アリサとなのはに呆れた眼差しを向けて、技術室でなのはたちの武装の改装を手伝っている凛華たちにデータを送る。

 

「ふぅー。これでなのはたちの武装の改修データは完了、っと。あとは・・・・・・クロノ、そっちはどう?」

 

クロノに通信を開いて訊ねる。

 

『デュランダルの調整があと少しだ。さっきは【煌月の氷月華(ザ・ルナティシクル・ムーンライト)】を使用しなかったからな・・・・・・言い訳に聞こえるかもしれないが、不意を着かれた。だが今度はそうはいかない』

 

「頼りにしてるよクロノ」

 

『ああ、任せとけ』

 

自信満々というか、いつものクロノに戻ったようだ。そのまま会話を続けていき。

 

「それで、結界については?」

 

『それなら問題ない。すでに母さんたちが関東全域に広域結界を張ってくれてる。ユーノも協力してくれてるからな、問題ない』

 

「そう。それならよかった」

 

『出来ればあの広域結界型アーティファクトを使って欲しかったのだが・・・・・・』

 

「それは無理。あれ使いながら長時間の戦闘は厳しいから。それに、僕以外が使用して関東全域を覆うとなると、Aランククラス並みの魔導師最低三十人分の魔力が必要。しかも魔力が無くなったら解除されるから」

 

僕の持つ広域結界型アーティファクト『無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)』は確かに関東全域くらいなら楽々に結界の中に閉じ込めることが出来る。そもそも、このアーティファクトは『無限』と名の付くとおり、結界内は無限に広がっており果てが無い。

 

『相変わらずキミのはえげつないと言うか、チートというかなんというか・・・・・・』

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

クロノのその言葉にはもう聞き慣れてるため不敵に笑って返す。

 

「ああ、クロノ」

 

『なんだ?』

 

「助っ人の二人が行くから、その二人には攻撃しないでね」

 

『は?助っ人?』

 

「うん、助っ人」

 

僕の言葉に疑問符をうかべるクロノとその後ろにいるエイミィさん。そして話を聞いていたなのはたち。

 

『助っ人、って誰が来るんだ?』

 

クロノの問いに。

 

「───僕のお姉ちゃんと幼馴染み」

 

僕は笑みを浮かべて言った。

 

『は?』

 

何言ってるんだ?と言うような表情のクロノたちを見ながら、含み笑いを浮かべて凛華達のシステム調整を始めた。

 

 

 

それから数時間後。

 

 

 

『───対象イリスを発見したわ。全員出撃よ』

 

四十年前の出来事とイリス、ユーリの関係を知った僕らにレティさんの声が響いた。地球にいるはやてたちはすでに出撃し、僕らは局の技術室に向かった。

移動する間。

 

「うん───うん───あ、了解。僕らもこれから出撃だから。あ、うん、わかってるよ〜。うん。───あはは、うん。まかせて。それじゃ、お姉ちゃんたちにも伝えてくれるかな?───ありがとう明莉お姉ちゃん。うん、気を付けるね」

 

地球にいる明莉お姉ちゃんとスマホで連絡を取り合っていた。

 

「ふふ、ふふふふふ」

 

「れ、零夜、あんたどうしたの・・・・・・?さっきから様子が変よ?」

 

「そんなことないよアリサ〜」

 

アリサの問いに普通に返す。

 

「っ!?あ、あんたその眼・・・・・・!?」

 

「ん〜?」

 

「い、いえ、なんでもないわ。気の所為だったみたい・・・・・・」

 

なにか怯えるようなアリサに不思議を感じながら前にいるなのは達を追い掛けて歩く。

 

「・・・・・・零夜のあの眼・・・・・・不気味・・・・・・いえ、恐怖を感じたわ。それに、あの虹彩・・・・・・ユニゾンしてないのに・・・・・・」

 

隣を歩くアリサが何かを言ったみたいだが、この時僕は聞こえなかった。

僕はただ楽しみなのだ。ようやく、お姉ちゃんと華蓮に会えるから。僕の前から亡くなった二人と、ようやく再会できるから!そのためにはまず、イリスの起こしたこの事件に蹴りを付けないとね。

僕がそう思っている数時間前、地球の東京湾で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜夜月side〜

 

 

 

東京湾に配置された指揮船の船のテラス部分で、私は一人で夜空を見ていた。そこに。

 

「どうかしたのかいマスター?」

 

「夜月ちゃん、顔色が優れないようですけど・・・・・・もしかしてまだ快復して・・・・・・」

 

「ううん。大丈夫。ありがとうソラ、イリア」

 

私の魔導書であるソラとイリアがやって来た。

 

「ただちょっと、はやてちゃんたちの話を聞いてね」

 

「ああ、二年前の闇の書事件のことか」

 

「うん」

 

その事は詳しくは知らなかったけど、今日はじめて聞いて如何にレイくんが凄いのか分かった。

 

「まさかたった一人の女の子の為にこの世界・・・・・・というより、次元世界全てを敵に回すなんて・・・・・・」

 

「普通じゃありえないだろ・・・・・・。てか、その時零夜はまだ九歳だったんだろ?並大抵の覚悟じゃ出来ないぜ」

 

「うん・・・」

 

正直言って、私じゃそんな覚悟は出来ない。レイくんが対人戦や指揮が上手いのは転生特典や転生したからじゃなくて、ただ単に本当の命のやり取りをしたから。その実戦経験が今のレイくんなんだと思う。ホント───

 

「適わないなぁ・・・レイくんには・・・・・・」

 

スキルもそうだけど、魔法の応用と汎用性、身体能力や頭脳も、全てがレイくんに劣ってる。もし本気でレイくんが私を殺しに来たら、私は手も足も出ないと思う。キャパシティが違い過ぎる。私もそれなりに訓練してるし、魔法の応用や汎用もしてるけど、やっぱり適わない。この気持ちは初めてだった。憧れとも言える好意に。

そう思っているところに。

 

『夜月ちゃん、悪いんやけど今すぐレクリエーションルームに来てくれへんかな?』

 

空間ウインドウが開きはやてちゃんが言ってきた。

 

「分かったよー」

 

はやてちゃんにそう告げてディアーチェちゃんたちのいるルームに向かおうする。そこに。

 

「マスター、零夜に気を付けとけよ」

 

真剣な声でソラが忠告してきた。

 

「ソラ?」

 

「イリア、あんたも気づいてるんだろ?アイツの異常さに」

 

「それは・・・・・・」

 

「ジュデッカとカイーナも分かるだろ、零夜の異常とも言える性格に」

 

《知ってますよソラ》

 

《もちろんです》

 

ソラの言葉にペンダント状態のジュデッカとカイーナが答える。

 

「マスター、あいつは次に何か・・・・・・親しい人が亡くなったり何かあったら、今度こそ壊れるぞ」

 

「ソラ」

 

ソラの忠告に私は何も言えなかった。それは、私も気づいていたからだ。レイくんの異常さとあの顔の下を。あれは大切な人を亡くした者の、壊れた瞳だった。ゆえに、私はソラに。

 

「わかってるよソラ。レイくんが例え全ての人を敵にしても、例え壊れても、私が絶対に治して護るから。レイくんにこれ以上苦しみは与えない」

 

そう言ってレクリエーションルームに向かった。

明莉さんから聞いた話を脳裏に思い出して私は歩いた。自分に誓い立てて。それは、どんなことがあってもレイくんは守るということ。別に同情心とかじゃない。守りたい。ただ、それだけのこと。

その数時間後。

私たちは甲板に出ていた。理由はこれから出撃だからだ。

 

「───ディアーチェちゃんにはこれね」

 

そう言って、さっき送られてきたレイくんが作成したデバイスの入ったアタッシュケースを渡す。

 

「む?なんだ?」

 

「レイくんが夜天の書をモデルとして作り出した魔導書(グリモワール)型デバイス」

 

「なに?」

 

「それと、レイくんから伝言があるよ」

 

「伝言?」

 

「うん。『ユーリの事はディアーチェたちに任せる。けど、イレギュラーが発生したらすぐに知らせて』だってさ」

 

この文からに、レイくんは嫌な予感が頭に浮かんでるみたいだ。

 

「ふん。余計なお世話だ。だが良かろう、わかったと伝えてくれ」

 

「オッケー」

 

ディアーチェちゃんからの伝言を覚え、後でレイくんに伝えるようにする。

 

「それじゃあ行くよ。みんな、準備はいい?!」

 

『『『『おう!(はい!)(ええ!)』』』』

 

「それじゃ、いくよ!」

 

はやてちゃんたちはバリアジャケットを。私は霊魔装を展開して空に上がって行った。事件を解決し、残りの夏休みを楽しく過ごすために。

 

 

 



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戦闘と再会

 

〜零夜side〜

 

本局からなのはたちとともに出撃した僕はみんなと分かれて、一人でイリスのコピー。軍隊イリスとやらと戦闘していた。

 

「ねぇ、そろそろイリスに連絡取ってもらえない?」

 

僕の周囲には切り刻まれた軍隊イリスが転がっており、視線の先には三人の軍隊イリスの指揮官がいた。指揮官クラスのコピーイリスは他の軍隊イリスとは違っていた。

 

「断る!」

 

「あなたはここで排除します!」

 

「最優先目標としてあなたを倒しますわ」

 

一人目は微妙にシグナムに似て刀型の武装をし、二人目は如何にも魔導師というような魔導書のような物を持ち、三人目は二丁銃型の武装を持ち、お嬢様のような雰囲気だった。

 

「(この三人、出来ることなら無傷で捉えて僕のところに入れたいなぁ〜)」

 

三人を見て僕はそう思った、もっとも、三人はマスターであるイリスの言う事しか聞かないと思うけど。

 

「凛華、澪奈、あの三人は無傷で捉えたいから手加減してね」

 

「はい!」

 

「まかせて!」

 

ちなみに僕は聖良とユニゾンしており、デバイスである凛華たちは人型形態で各個軍隊イリスを相手していた。凛華たちは並大抵の魔導師には負けない強さを持つ。まあ、マスターが僕だからね。

 

「星夜、紅葉、そっちはどう?」

 

後方で同じく軍隊イリスと戦っている星夜と紅葉に聞く。

 

「問題ないわよ」

 

「マスター、こっちは大丈夫です」

 

「オッケー」

 

喋りながら、星夜は光属性の魔法で軍隊イリスを攻撃し、紅葉は炎と氷を多様に使って軍隊イリスを翻弄していた。

 

「それで、僕の相手は誰?」

 

と三人に訊ねる。

 

「「「あなたの相手は私たちだ!」」」

 

そういうや否や、三人は同時に攻撃してきた。

 

「ははっ!いいよ!凛華、澪奈は他の軍隊イリスやエクスカベータを相手して。彼女たちは僕と聖良がやる!」

 

「はい!」

 

「うん!気を付けてね!」

 

そう告げると、二人は他の軍隊イリスたちに向かって行った。

 

「行けるね聖良」

 

《うん!お兄ちゃん!》

 

聖良と確認して、僕は断罪の剣(エンシス・エクセスエンス)を両手に発動して手刀で構える。

 

「推して参る!」

 

「はああっ!」

 

「やああっ!」

 

「ははっ!面白い!」

 

刀を構えた子の突進を受け止めて、銃を放った子の弾丸を切り裂く。

 

「いいよ!面白いよ!」

 

「そんな余裕もいつまで持つかな!」

 

「行きなさいエクスカベータ!」

 

後ろの魔導書のようなものを持った子がエクスカベータを作り出した。作り出されたエクスカベータは命令のもと、僕を攻撃しようとするが。

 

「ふふ」

 

「なっ!?」

 

「な、なにをしたの!?」

 

指を鳴らすと、一瞬のうちに消えてなくなった。

 

「物質分解魔法───終焉分壊(ロスト・ディスブレイク)

 

僕は単純に、エクスカベータの存在を無かったことに・・・・・・というより、エクスカベータという物の物質を分解し、無に返したのだ。有り体に言うなら、水が気体になって、水という液体物質が無くなったのと同じだ。水は水素と酸素で出来ている、それを元に、水が出来る前の元素、水素と酸素に戻した、それのエクスカベータ版だ。もっとも、エクスカベータは造られる鋼材のまえ、元素にまで戻して消したんだけど。

 

「ぶ、分解・・・・・・だと・・・・・・!?」

 

「そう。ありとあらゆるものを分解し、始原へと戻す。始まりはどれも同じだからね、それが途中で変化したのがそれらだし」

 

「なんて魔法なの・・・・・・」

 

「あなたは本当に人間か・・・・・・?!」

 

驚く指揮官クラスのイリスたち。

正直言って、この『分解』って、『消滅』の下位互換なんだよね。『破滅』ぐらいにまで上げようかな?

 

「あ、言っとくけどこの魔法は君たちには使わないから」

 

「なに?」

 

「どういうつもりですの」

 

「私たちに手を抜くつもり?」

 

「まあ、そうなるかな?だって、これ使ったら君たち、もう存在してないよ?この空間に」

 

僕の『消滅』系統の力は、人だろうと物だろうと、なんだろうと一切関係ない。例え防御魔法を張ったとしても、防御魔法ごと消滅してしまえばなんの問題ない。言うならば、この能力は防ぐことがほぼ不可能だという事だ。まさに最凶最悪の魔法である。

 

「ま、もう君たち終わってるし」

 

僕がそう言うと。

 

「「「っ!?」」」

 

彼女たちを囲むように、結界が張られた。

 

「封絶結界───《永零絶界(アストラルゼロ)》」

 

永零絶界は封絶結界のひとつである絶界の範囲を狭め、対象を捕らえる捕縛する魔法だ。中からも外からも、この結界を破ることは出来ないため、範囲は狭いがかなり使える捕縛魔法である。もっとも、術者である僕しか破れないけど。

 

「悪いけど、少し眠ってて」

 

それと同時に、三人の意識を落とす。

意識を落とした理由は単純に、僕が結界内部に催眠魔法を流したからに過ぎない。

 

「さてと───」

 

凛華たちの方を見ると、すでに軍隊イリスの掃討が終わっていた。

 

「この三人、どうしようか・・・・・・」

 

「まさか考えてなかったんですか?」

 

「いやー、捕獲だけが頭の中に入ってたよ」

 

「えぇー・・・・・・」

 

僕の言葉に凛華は引き攣り笑いを浮かべる。

そんな緊張感も全くないところに。

 

《お兄ちゃん、また増援が来たよ》

 

聖良の声が聞こえてきた。

 

「ありがとう聖良」

 

《うん!どういたしまして!》

 

聖良にお礼を言い終えると同時に。

 

「数は───1、2──────全部で10体かぁ」

 

エクスカベータの大群が押し寄せてきた。

それが見えると、僕は懐から二丁拳銃型の特化型デバイスを取り出した。

 

「うーん、どうする?あれ?」

 

僕が片付けてもいいけど、敢えて凛華たちに問う。

そんなところに。

 

「「はああああああああああ!!」」

 

上空から降りてきた何かがエクスカベータを破壊した。

 

「何事!?」

 

「っ!?今の声、まさか・・・・・・!!」

 

警戒する凛華たちを他所に、僕は今聞こえてきた声に目を見開く。

衝撃で土煙が上がる中。

 

「「合技魔法!───双魔極滅(ダブルデリート)!」」

 

そんな声と同時に甲高い音が鳴り、一瞬で大半のエクスカベータが消えてなくなった。

 

「えっ!消滅した!?」

 

「いや、違うよ澪奈。今のは高威力の炎系統の魔法と同威力の氷系統の魔法ふたつが相重なって、対極して消滅したんだ!」

 

現に、目の前は僅かに白い煙を残して後はすべて無くなっていた。

僕の使う『消滅』とは違う『消滅』。いや、これは『対極消滅』と言うべきかな、二つの相反する属性の魔法をぶつけて対象を崩壊させる合技魔法。

 

「(あれはアリサとすずかもまだ使えないのに使えるなんて・・・・・・!)」

 

内心驚きつつ視線の先を見る。

やがて煙が晴れると───

 

「もお!いきなりやるって言われてかなり焦ったんだよ華蓮ちゃん!」

 

「ご、ごめんなさい愛菜美お姉ちゃん。私もちょっとノリ気で」

 

「あはは。まあ、私もだけどね」

 

そんな呑気な会話が耳に入ってきた。

そんな二人のところに。

 

「!危ない!」

 

「「っ!?」」

 

生き残っていたエクスカベータが巨大な腕を振り下ろした。

しかし、その攻撃は当たらなかった。何故かと言うと。

 

「───その薄汚い腕で僕の大切な家族に触れないで欲しいな」

 

超高速の連弾魔法でエクスカベータの巨体を穴だらけにし、元素分解して消滅させたからだ。

 

「───元素崩壊(ディス・マテリアレーション)

 

そう言うと同時に風が巻き起こり、辺り一帯の煙が振り払われた。煙が振り払われると、そこには。

 

「あ!助けに来たよ零夜!」

 

「零夜く〜ん!お待たせ〜!」

 

長い、艶のある髪と同じバリアジャケットを纏ったお姉ちゃんと幼馴染の姿があった。手にそれぞれデバイスを握り締めて。

 

「ふふ。待っていたよ、お姉ちゃん、華蓮」

 

僕は嬉しさを強引に内に押し留め、お姉ちゃんと華蓮と話す。

まあ、さすがにそれもすぐに無駄になり───。

 

「会いたかったよ零夜くん〜!!」

 

「会いたかったわ零夜!!」

 

「おわぁっ!!」

 

飛んで抱きついてきた二人に押し倒された。く、苦しいぃ。あと危ない!

なぜ危ないのかと言うと、二人は今デバイスを手に持ってる=刃が付いてる=刃物=危険。というわけである。具体的に言うなら、包丁を持っている状態で抱きつかれてるのと同じ感じだ。

 

「ふ、二人ともストップ!ストーップ!」

 

僕が慌てる中凛華たちは呆然としていた。ちなみにユニゾンしている聖良にはあまり影響が出てなかったりする。

とまあ、しざらく二人に抱擁されていたけど。

 

「あ、あの〜、今そんなことやってる場合じゃないような・・・・・・」

 

澪奈がオドオドと言ってきた。

そこに。

 

「っ!時空の揺籃(クロノ・プレジディムス)!」

 

高魔力の攻撃が襲いかかって来た。とっさに時空魔法の障壁を360度全方位に張り攻撃を防ぐ。そして。

 

「お返しだよ!時空の揺籃(クロノ・プレジディム)逆刻の反戟(リフレクトタイム)!」

 

防いだ攻撃を、威力や速度などを倍にして返した。

 

「うわぁ・・・・・・」

 

「よ、容赦なし・・・・・・」

 

跳ね返った魔法を見てお姉ちゃんと華蓮が若干引きながら言った。

 

「お姉ちゃんと華蓮。僕の・・・・・・大切な家族に手を出そうものなら僕は容赦しない」

 

さっきのタジタジから一転して、視線を鋭くして攻撃が放たれた場所を見る。そこには数人の白いローブを纏った人間がいた。

 

「やあ。さっきぶりかな?天翼の終焉研究(ラストヘブンオーダー)序列二位智天使(ケルビム)筆頭、ガハト・レグリスタ」

 

星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)・・・・・・!」

 

手に《破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)》を握ったガハト・レグリスタが睨みつけるように見てくる。

 

「さて、今回は逃がさないよ。ま、第一の目標はそのロストロギアの回収だけど・・・・・ねっ!」

 

そう言うと僕は遠慮なしに氷結魔法をぶちかました。

 

「っ!その場から離れろ!」

 

しかし、直前にガハト・レグリスタの言葉でかわされてしまった。

 

「へぇ。なら、今度はこれはどう!」

 

全方位からの攻撃。

研究会全員を囲むように展開する。そして、一斉に放つ。

 

「ははっ!かかって来い!」

 

そう言うと僕はその場を蹴り、研究会のいるところに瞬道で一瞬で付く。付くなり。

 

「「っ!」」

 

「まずは二人・・・・・・」

 

近場にいた研究会の人間二人を拘束魔法で拘束する。

もちろん、魔法無効化も忘れない。

 

「そして・・・・・・」

 

光魔法と時空間魔法を合わせて移動し、瞬く間にその場の人間をすべて捕まえていく。

 

「手も足も出ないだと・・・・・・!?」

 

「あとはあなただけだねガハト・レグリスタ?」

 

「貴様、分かっているのか!?その力は人の身には有り余る能力だ!それを行使し続けるということは・・・・・・!」

 

「あれ?意外に優しいんだね。わかってるよ、あなたに言われなくても」

 

ここ最近の僕の能力の上昇は郡を抜きすぎている。理由は恐らく、明莉お姉ちゃんの眷属化が始まっているからだろう。つまり、今の僕は半人半神という事だ。

 

「さあ、やろうかガハト!」

 

そう言うと、僕は両手に断罪の剣を現出させてガハト・レグリスタに迫る。

 

「ちっ!」

 

《破血の鋭業剣》と断罪の剣がぶつかり衝撃波が走る。

 

「(聖良、魔力のコントロールお願いね!)」

 

《うん!任せてお兄ちゃん!》

 

ユニゾンした聖良と共にガハト・レグリスタを攻撃する。

 

「くっ!」

 

魔法を放つガハトの攻撃を、魔力弾なら斬り、範囲攻撃なら範囲外にまで避けるか、無効化を張る。

 

「この化け物───っ!」

 

「化け物だなんて心外だなぁ〜───っとぉ!!」

 

喋りながら高等魔法を連続で放つ。

後ろで見るお姉ちゃんや凛華たちの安全も考慮しているけど。やがて戦闘舞台は空へとなった。

 

「はああっ!」

 

「せやあっ!」

 

超高速で移動する僕に、ガハト・レグリスタはギリギリのところで追いついていた。僕達の戦闘で、辺りの建物が壊れていく。まあ、結界内だから現実世界は問題ないけど。

 

「《破血の鋭業剣》!」

 

「ん?」

 

ガハト・レグリスタが《破血の鋭業剣》に向かって叫ぶと、驚いたことに、ガハト・レグリスタの傷と魔力が回復していっていた。

 

《っ!血液を媒体にした治癒能力!?》

 

「(血液?)」

 

《うん!恐らく、自身か《破血の鋭業剣》で吸い取った血液を媒体にして回復してるんだと思う!》

 

「(へえ)」

 

聖良の言葉を聴きながら僕は驚く。冷や汗も少し流す。

 

「今度はこちらの番だ!」

 

「───っ!」

 

攻撃パターンが変わったガハト・レグリスタに驚きながら攻撃を捌く。

 

「うおおお!」

 

「っ!───来れ、虚空の雷、永蒼の氷!凍て纏いて、薙ぎ払え!氷雷の戦斧!!」

 

砲撃魔法を氷と雷の複合魔法で相殺し、

 

「───集束・精霊の息吹!」

 

お返しに精霊魔法の砲撃を放つ。

 

「《破血の鋭業剣》!」

 

「っ!?今度は盾!?」

 

《破血の鋭業剣》の能力なのか、《破血の鋭業剣》の前に現れた盾にぶつかり、直撃とまではいかなかった。

 

「はっはっ!面白い!貴様との戦闘はやはり心震え湧き上がる!」

 

「それはどうも!」

 

何度目か分からない《破血の鋭業剣》と断罪の剣の打ち合い。

 

「(聖良、ほかのところの様子は?)」

 

《えっと───なのはちゃんたちはそれぞれ軍隊イリスを捕縛をしてるよ。あ、ディアーチェちゃんたちユーリちゃんと戦ってる!》

 

「(了解!)」

 

聖良から戦況を聞きながら次々に攻撃動作を模索する。

 

「天陽流剣技───蒼天乱舞(そうてんらんぶ)氷月(ひょうげつ)!」

 

『蒼天乱舞・炎獄』の反対、『蒼天乱舞・氷月』は氷属性の剣技だ。『蒼天乱舞・炎獄』と違うのは、風の檻に閉じ込められたそこに、水と炎ではなく、氷で足止めをし、足止めをしたところに高速の剣技を放ち、対象を氷漬けにすることだ。しかし、

 

「っ!?へぇ」

 

ガハト・レグリスタは『蒼天乱舞』の軌道を見切り、《破血の鋭業剣》で自身に当たらないように軌道を逸らしたりして避けた。

 

「なら───!」

 

僕は断罪の剣を集中させ、周囲のエレメント・・・・・・精霊の力を借りる。断罪の剣に精霊の力を取り入れ、手刀から実態化を行う。思い描くのは長い片手剣。イメージの剣士は彼の黒の剣士。なにも全てを黒の剣士と同じにする必要は無い。イメージを作り、集中させ剣を形作る。

やがて───。

 

「───精霊武装、精霊の剣(スピリットソード)───二双(ダブル)!!」

 

二本の長剣のような形をした剣が現れた。

手刀から手に持つ剣。斬れ味や性能は断罪の剣より上だ。僕の魔法と周囲に漂うエレメント、そして精霊の能力を使用して形作り現出化した剣。

 

「そ、その剣は・・・・・・!」

 

驚くガハト・レグリスタに、

 

「───いくよ」

 

僕は一筋の風のように抜けさり、抜け際に軽く斬り裂いた。

 

「なっ───!!?」

 

「うーん。やっぱり、もうちょっと調整が必要かな〜?」

 

《だね。私も頑張るよ!》

 

「(うん!お願いね聖良)」

 

再び意識を集中させ、漏れ出ていた精霊と魔力を体内に留める。いや、貯蔵すると言った方が正解か。必要な時に放ち、不必要な時は放たない。0から1、1から0のON/OFFへの切り替え。

 

「(・・・・・・よし)」

 

閉じていた眼を開き、自身の身体を確認する。

身体からは魔力(マナ)と精霊の加護が纏わり付いていた。

 

「な、なんだ、その莫大な魔力は・・・・・・!しかも魔力だけじゃない!これは・・・・・・!」

 

「自身の魔力と周囲のエレメント、そして精霊の力を借りて、それを統一化。名付けるならそうだな〜」

 

《精霊の加護を受けし魔法の外套───『魔法と精霊を統一しせし王の外套(マナスピリット・コンバーティオローブ)』、かな?》

 

「(あ、いい名前だねそれ!じゃあそれにしよう!)───『魔法と精霊を統一しせし王の外套(マナスピリット・コンバーティオローブ)』」

 

そう言うと僕は二双を振り払う。

 

「いくよ!」

 

「っ!」

 

僕は一言そう言うと、再びガハト・レグリスタに向かって飛んで行った。

 

 

 



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魔王の片鱗

 

〜零夜side〜

 

 

「───『魔法と精霊を統一しせし王の外套(マナスピリット・コンバーティオローブ)』」

 

白銀に光り輝く外套を羽織り、実体化させた精霊武装、精霊の剣(スピリットソード)を構える。精霊の剣は外套と同じく、白銀の光を放ち神々しい眩い光を輝かせていた。

 

「(ふぅ。精霊魔法・・・・・・ようやくできた)」

 

ガハト・レグリスタに向かって飛びながら、僕は心に出して言った。

僕の今使ってる魔法は、精霊魔法。精霊魔法は大気のあちこちにいる精霊の加護を受けた魔法だ。元々、ムンドゥス・マギクス式は自身の魔力と周囲にあるエレメントに干渉して繰り出す魔法だ。精霊魔法はムンドゥス・マギクス式でも使う、エレメントの上位、精霊に力を貸してもらって使う。まあ、僕の使う精霊魔法はムンドゥス・マギクス式と一体化させてるけど。だから、この外套は『魔法と精霊を統一しせし王の外套』なのである。

そのためか、僕の目には魔力の流れや周囲のエレメントの流れが手に取るように分かっていた。

 

「はあああーっ!」

 

「うぐ・・・・・・っ!」

 

高速で空を飛びながら、ガハト・レグリスタと戦う。場所は移動し───。

 

「っ!?零夜君!?」

 

「零夜!?」

 

首都、東京の東都スカイタワーの辺りにまで来ていた。

目下にはシャマルとザフィーラたち局の武装隊が軍隊イリスらを捕縛していた。

 

「おのれっ!」

 

「ぜりゃあ!」

 

ガハト・レグリスタの放つ魔法弾を魔法の射手(サギタ・マギカ)で迎え撃ち、

 

「うおおおおぉ!」

 

「やああああっ!」

 

ガハト・レグリスタのロスト・ロギア《破血の鋭業剣(ダインスレイヴ)》と僕の精霊の剣がぶつかり衝撃波を巻き起こす。

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

「キャッ!」

 

衝撃波は下のシャマルたちにも襲い、シャマルたちは悲鳴を小さく上げた。

 

「──術式解放(エーミッタム)雷神の一刀閃(メギンギョルズ)!」

 

雷光の光による斬撃が一直線にガハト・レグリスタに向かう

 

「くそ・・・・・・っ!」

 

「さらに!―――雷神の一刀閃、七戟閃(セブンズエッジ)!」

 

追加で、雷神の一刀閃を七撃放つ。

 

「―――調子に乗るなああっ!!」

 

しかしその斬撃は、《破血の鋭業剣》を使った斬撃で相殺された。けど―――。

 

「(聖良、そっちは大丈夫?)」

 

《うん!というより、凄いよ!力が漲ってきてる!》

 

『魔法と精霊を統一しせし王の外套』の効果は僕だけでなく、ユニゾンしている聖良にも及んでいるようだ。僕と聖良は、単体でももちろん強いが、僕と聖良がひとつに―――ユニゾンしたら、その力は何倍にも、何十倍にも膨れ上がる。他の人が聖良とユニゾンしたらおそらく自滅するだろう。とういうより、そもそも他の人は聖良との適合率がないんだけどね。ていうか、誰が好き好んで他人と聖良をユニゾンさせるか。まあ、夜月やなのはたちならいいけど。

そんなことを考えながらもう幾度ともしれぬ《破血の鋭業剣》と精霊の剣がぶつかり、魔法が連続で撃ち合う。

 

「(聖良、残りの魔力ってどのくらい? )」

 

《えっとね〜。まだかなりあるよ。というか、減っても精霊さんが回復してくれてる》

 

「(マジですか!?)」

 

道理でさっきから全然魔力が減らないわけだ。バンバン高等魔法を撃ってはいるのに減らないから不思議だったけど。これについては、あとで調べるとしますか。そう思って辺りを見渡す。

辺りは、結界を張ってなかったらどうなっていたかとし思うほどの参上だった。すでに場所も東都スカイタワーのところから移動して、どこかの森林の上空だった。遠目から見ても、嵐の過ぎ去ったような感じで、僕らの戦闘の余波でここまでなるとは思ってなかった。

まったく息の切れていない僕に対して、ガハト・レグリスタは少しだけ息を荒くしていた。まあ、あんだけやってたらそうなるよね。

 

「く・・・・・・っ!まさか、この我が・・・・・・ここまでやられるとは・・・・・・」

 

「もう魔力は残り少ないでしょう?そこまでにしたら」

 

僕がガハト・レグリスタに投降勧告を告げる。

そこに。

 

「───やれやれ。情けないですねガハト?」

 

僕とガハト・レグリスタ以外の声が響いた。

 

「誰だ!」

 

「この声は・・・・・・」

 

それぞれ、今の声について問答していると。

 

「───わたしですよ」

 

僕とガハト・レグリスタを間の空間が揺らぎ、そこから槍を握った人物が現れた。

 

「(っ!?空間を切ってだと!?)」

 

空間を切って現れた人物を見て、僕は目を見開いた。

 

「―――なんのようだクルト・ファレウム・・・・・・」

 

「あの方が、貴方に帰還を命じてます」

 

「なに?」

 

「まったく、せっかくの休暇だと言うのに・・・・・・。ガハト、貴方のせいで台無しですよ」

 

「む・・・・・・そ、それは・・・・・・」

 

「はい?」

 

「―――すまなかった」

 

一瞬感じたとてつもない寒気に、僕はクルト・ファレウムを凝視する。

 

「(やっぱり・・・・・・。あの時あいつは全然本気を出してなかった!)」

 

クルト・ファレウムから感じた濃密な殺気と魔力に僕は冷や汗をかく。

 

「さて。早く済ませてわたしは休暇を満喫したいのです。なのでガハト、貴方はそのまま一直線に帰還しなさい。いいですね?」

 

「あ、ああ」

 

「ま、待ちなさい!逃がすと思う?!」

 

撤退しようとするガハト・レグリスタに捕縛魔法を放つ。

が。

 

「悪いのですが、彼はまだ必要な人物なのです。ここで捕まらさせるわけにはいきません」

 

クルト・ファレウムの妨害魔法で消えた。

それと同時に、ガハト・レグリスタがこの空間から消えていなくなった。

 

「ちっ!クルト・ファレウム!」

 

「いやー、すみませんね天ノ宮君」

 

「どういうつもり!」

 

「わたしに文句を言わないでくださいよ・・・・・・」

 

「あ、ごめん」

 

どこかやつれた表情に不貞腐れた表情のクルト・ファレウムに、さすがの僕も謝ざるをえなかった。なにせ、あいつは今日はバカンスとやらに来てたのだから。というか、本来はすぐに捕まえないとならないのだが・・・・・・。

 

「それで・・・・・・やる?」

 

チャキッ!っと、音を小さく鳴らして精霊の剣の切っ先をクルト・ファレウムに向ける。

対するクルト・ファレウムも槍を小さく動かし―――

 

「―――いえ、遠慮しておきますよ」

 

と言って、槍をしまった。

 

「そ」

 

僕も、殺気を消し切っ先を下に向けた。

 

「戦っても、おそらく今のわたしは、あなたには勝てないと思いますし」

 

「どの口が言うか・・・・・・あの時だってあなた、本気を出してなかったでしょうが」

 

「あらら。さすがですね、そこまで気づかれてるとは」

 

クルト・ファレウムの言葉に肩を竦め。

 

「さっき、ガハト・レグリスタに向けた威圧感で分かったよ」

 

「なるほどなるほど。やはり、君は面白いですね」

 

「・・・・・・それはどうも」

 

やっぱりやりにくい。クルト・ファレウムと話しながら僕はそう脳裏に過ぎらせた。

 

「さて、それではわたしもバカンスに戻りますか」

 

「お好きにどうぞ」

 

「では、これにて・・・・・・あ、ひとつ言い忘れていました」

 

「ん?」

 

思い出したかのように言うクルト・ファレウムに眉を上げる。

 

「―――最高評議会。あの者らには気をつけなさい」

 

「なに?」

 

「やつらは、目的のためなら平気であなた方を切り捨て、利用しますよ」

 

そう言うと、クルト・ファレウムは空間を切り裂いて何処かへと消えていった。

 

「あいつ、一体なにを知ってるんだ・・・・・・」

 

全貌も分からない存在に僕は様々な不安と思惑が過ぎった。が、今は。

 

「―――さっさとこの事件を終わらせないとね」

 

そう呟いて、僕は別の場所へと飛んで行った。

 

〜零夜side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜たちが空で高等戦闘をしてる中、凛華たちはというと―――

 

 

 

〜Outer side〜

 

 

「行っちゃった・・・・・・」

 

「行っちゃったね・・・・・・」

 

「行っちゃいましたね・・・・・・」

 

飛んで行ってしまった零夜の軌跡を見て凛華たちはボソッと呟いた。

その周囲には、すでに多重拘束魔法で縛られている天翼の終焉研究会のメンバーが気絶させられていた。そして、その後ろには零夜の魔法で捕えられて眠ってる、軍隊イリスの司令塔の個体がいた。

 

「えーと、貴女達は弟の・・・・・・零夜くんのデバイスなんだよね」

 

「はい。お二人は、私達のマスターである零夜くんの、実のお姉さんと、幼馴染・・・・・・ですよね」

 

「ええ、そうよ」

 

凛華の問いに返す華蓮。

二人は武装であるデバイスを下げ、刃を収めていた。

 

「まあ、私たちが目覚めたのってついさっきの事なんだけどね」

 

「あはは。目覚めていきなり戦闘、ってのはキツいよ〜。いくら少し練習したとはしても・・・・・・」

 

肩を竦める華蓮と苦笑いを浮かべつつ、ほんわかな感じで言う愛奈美。その二人に凛華達は何も言えずにいた。

 

「もしかして、家にあったダイオラマ球でですか?」

 

「そうだよ」

 

ダイオラマ球は一時間が球体の中では一日というとんでもない魔道具だ。が、原作のダイオラマ球は、ダイオラマ球での一日は現実の一時間だが、この世界のダイオラマ球は、現実の十分がダイオラマ球での一日となっている。元々は原作と同じだったのだが、零夜による時空間魔法と明莉によって、すきなように設定が出来るようになったのだ。

ちなみにそれを行った際、零夜と明莉は翼や知智たちにお説教されたらしい。

 

「とりあえず、この人たちを他の局員に引渡しましょうか」

 

「そうだね。念の為、魔法禁止(マギアロック)を施しておこうか」

 

「そうね。星夜ちゃん」

 

「ええ。わかってるわ」

 

頼まれた星夜は、研究会の人間全員に魔法禁止を施した。

魔法禁止は魔法の流れを阻害し、それ自体を霧散させるものだ。 より正確に、簡単に言うならば、魔法の使用を出来なくさせるものだ。

やがて、すべての研究会の人間に術を施し、転送魔法で局の人がいる場所に凛華たちは送り届ける。それを見送ると、凛華が話す。

 

「さて。それじゃあ、私達は各地に散った軍隊イリスの捕獲並びに対処。それと、結界防衛の魔道士の援護を行います」

 

「ってことは、何ヶ所かに分かれるの?」

 

「はい。二手に分かれます」

 

そう言うと、凛華は。

 

「まず、私と愛奈美さんと星夜ちゃん。もうひとつは、澪菜ちゃんと紅葉ちゃん、そして華蓮さん」

 

空間ウインドウを出して言った。

 

「私達も行っていいのかな」

 

「私たちと一緒なら大丈夫ですわ」

 

愛奈美の疑問には星夜が返す。

 

「それじゃ、各地散開!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

凛華の声の元、それぞれ三人二組になってそれぞれ飛んで行った。

 

〜Outer side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜なのはside〜

 

「───はやてちゃん、ユーノ君・・・・・・さっきのって・・・・・・」

 

「あ、ああ、間違いなく・・・・・・」

 

「零夜くんやろ。さっきの・・・・・・」

 

イリスさんのコピーである軍隊イリスさんたちを相手していた私達のところに、ものすごい速さで高速魔法戦闘をした人物がやって来たのだ。

生憎、声は掛けられなかったけど、顔はハッキリと見えた。その顔はほぼ毎日見ている、私の大切な人だった。もう一人は分からなかったけど、零夜くんと戦闘していた。

 

「なんて魔力や・・・・・・こっちにもビンビンきたで」

 

「うん。正直、あれは魔力とは違う何かを感じたよ」

 

「魔力とは違う?」

 

「どういう意味や?」

 

ユーノ君の言葉の意味が理解できなかった私とはやてちゃんは、ユーノ君に訪ねる。

 

「なんていうか、エレメントその物みたいな感じかな・・・・・・」

 

「エレメント?」

 

「それって、ムンドゥス・マギクスで干渉する?」

 

「たぶん。あ、でも、それよりもっと濃い・・・・・・濃密な感じがした」

 

「───遠いなぁ・・・・・・」

 

ユーノ君の言葉を聴きながら、私はふと、そう呟いた。

私の魔法の師は、ユーノ君と零夜くんだ。そして、私の目標は零夜くんである。

 

「それにしても、あの戦闘技術。並大抵の魔導師じゃ相手にならないんじゃないかな?」

 

「せやろなあ。なにせ、あのシャッハを一撃で戦闘不能にしたからなあ」

 

「シャッハって、聖王教会騎士の陸戦AAAランクの騎士シャッハ?」

 

「うん。本気じゃなかったとはいえ、ああも手玉に取るようにやってたからなあ」

 

「───なにかを得るには代償が必要なんだよね」

 

はやてちゃんとユーノ君が話す中、私は二人に聞こえないほど小さな声で、ボソッと呟いた。

私も隠れてかなり無茶な特訓をしてるけど彼みたいに強くは、なれない。なにをしたら、あそこまで強くなれるのか私は知りたかった。いつも、私は零夜くんの足を引っ張ってるから。少しでも、役に立ちたい。そう思っているから。

 

「やっぱり、もっとやらないと・・・・・・」

 

私のその言葉は、誰にも聞かれることなく空に流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そう遠くない日に、私は今までの事を後悔することが起こるとは、今の私は全く思ってもなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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真の黒幕

 

〜零夜side〜

 

 

「───ん?シュテルの魔力が急激に下がってる・・・・・・?」

 

ディアーチェたちがユーリと戦っている場所から程遠くないところで、僕は急激にシュテルの魔力が下がってるのに気づいた。そして、さらに。

 

「今度はレヴィまで?」

 

シュテルだけでなく、レヴィの魔力も減っているのに気づいた。

 

「イヤな予感がする・・・・・・。聖良!」

 

《うん!座標は把握してあるから何時でも行けるよ!》

 

「オッケー!」

 

すぐにその場から転移し、ディアーチェたちの近くに転移する。

転移すると、今まさにディアーチェに何者かの刃が振られるところだった。

 

「っ!ディアーチェ!」

 

とっさにディアーチェとその者の間に割り込み、精霊の剣(スピリットソード)で振られた刃を受け止める。

 

「なにっ?!」

 

「貴様・・・・・・っ!」

 

予想外だと言うような表情のその人物と、何故ここにいるのか分からないと言うような表情のディアーチェ。

それを見ながら、辺りを見る。

 

「っ!シュテル!レヴィ!ユーリ!」

 

シュテルは左手を失って、お腹から血を流して倒れ、レヴィも腹部から血を流して倒れ伏していた。そして、ユーリも蹴らるたような痕を残して倒れていた。

 

「貴様・・・・・・っ!!よくもユーリたちを!」

 

ユーリたちの惨状を見て、僕は激昴していた。

 

「くっ!」

 

「逃がすか!」

 

離れた人物を追撃し、精霊の剣の二刀を振るう。

そんな中。

 

「───やはりイリスでは君を抑えることは出来なかったか」

 

「なに?」

 

目の前の人物がそう言ったのが聞こえた。

 

「ユーリと猫と魔術師と魔女たち・・・・・・。そのすべてを彼女一人で抑えるのには限界があったみたいだ」

 

「一体何を言っている・・・・・・」

 

「まあ、それでも良しとしよう。こうして私の元に、この子が戻ってきたからね」

 

「っ!ユーリ!」

 

気絶しているユーリを抱き抱えた人物。

僕はその人物の顔を見て、どこかで見た気がした。

 

「その顔・・・・・・どこかで・・・・・・っ!まさか、おまえは!」

 

人物の顔を見て、何で見たのか思い出した。

それは数時間前に見たばかりだ。───ユーリが残した、夜天の書のページの切れ端を復元した映像で。ユーリとイリスの、四十年前のエルトリアでの日々を・・・・・・。そして、今回の事件のその発端を。

目の前の人物は、その映像で何度も出てきた人物だ。その名は───。

 

「───エルトリア惑星再生委員会所長、フィル・マクスウェル!」

 

ユーリが殺害したエルトリア惑星再生委員会所長、フィル・マクスウェルだ。そして、何故ユーリがフィル・マクスウェルを殺害したのかも僕らは知っている。ユーリがエルトリアとの通信手段を残してくれたから、エルトリアにいるアミタさんとキリエのお母さんから送られた情報で知った。

 

「予定外ばかりではあったが、なに・・・・・・最後に笑えばいいのさ・・・・・」

 

「っ!ユーリをどこに連れていく気だフィル・マクスウェル!」

 

フィル・マクスウェルは空気に溶けるように、ユーリを連れて消えていった。瞬時に、サーチを掛けるが。

 

《お兄ちゃん、サーチに反応がないよ!》

 

「くっ!逃げられた!」

 

サーチに引っかからないほどの隠蔽をしてるのか、それとも何らかのフォーミュラシステムを使ったのか分からないが、フィル・マクスウェルはこの場から消え去っていった。

 

「はっ!ディアーチェ!」

 

僕はすぐにディアーチェたちのことを思い出し。

 

「ディアーチェ!」

 

ディアーチェたちのところに戻る。

 

「シュテル!レヴィ!しっかりしろ!」

 

ディアーチェはシュテルとレヴィに治癒を施していた。

 

「聖良、ユニゾン解除!すぐにシャマルと医療班を呼んで!」

 

僕は聖良とのユニゾンを解除し、

 

「うん、お兄ちゃん!───シャマルさん!聞こえるシャマルさん!」

 

聖良はすぐにシャマルへと通信を開いた。

 

「くっ!傷が深い・・・・・・」

 

シュテルとレヴィの傷を見て、僕はそう悪態吐く。

レヴィはまだ良いが、シュテルの方は重症だった。左手は無く、お腹を貫かれているのだ。下手したら命を落としていたかもしれないほどだった。

 

「(アーティファクトで片方は回復出来ても、もう片方は・・・・・・!それに手まで治るか・・・・・・。夜月が居てくれたら刻々帝(ザフキエル)の《四の弾(ダレット)》でなんとか出来るのに!)」

 

今夜月が居るのは、ここからかなり離れた場所だ。転移で来てもらうこともできるが・・・・・・。

 

「とにかく、処置を施さないと。ディアーチェはレヴィをお願い!僕はシュテルをやる!」

 

「我に指図するな!分かっておるわ!」

 

文句を言いながらも、ディアーチェはレヴィに治癒を施す。僕も、急いでシュテルに治癒を掛ける。

例え傷は塞がれても、流れ出た血は元に戻らない。シュテルとレヴィのこれ以上の戦闘は不可能だ。

 

「っ・・・・・・!夜月!」

 

シュテルの様子から、僕はすぐに夜月に通信をする。

 

『どうしたのレイくん?』

 

「夜月、今すぐこっちに来られる?!」

 

『もしかしてなにかあったの?!』

 

「シュテルとレヴィが重症!シュテルは左手を切られてる!」

 

『っ!わかった!すぐ行くよ!座標を教えて!』

 

「お願い!座標は───」

 

すぐに夜月に伝え、僕は座標を教える。

 

『うん、五秒後に行くから!』

 

そう言って夜月は通信を切った。

そして、その五秒後。

 

「お待たせ!すぐに治療するから!」

 

刻々帝を出した夜月が転移してきた。

 

「お兄ちゃん!シャマルさんたち着いたよ!」

 

「わかった!夜月、シュテルに《四の弾》を!」

 

「うん!───刻々帝、《四の弾》!」

 

夜月の持つ古式の長銃から黒い弾丸がシュテルに命中する。

予め、切られた左手の互いの切断面を合わせてある。これで、時間が巻き戻り、シュテルの左腕が切られたということは時間が巻き戻って、切られたという事が無くなった。

さらに夜月は。

 

破軍歌姫(ガブリエル)鎮魂歌(レクイエム)!」

 

もうひとつの天使、破軍歌姫を顕現させた。

破軍歌姫の能力は、音を媒介に発動するものだ。そして、鎮魂歌は鎮痛作用のある。

 

「Laaa〜〜〜・・・・・・♪」

 

優しい声で、歌うように紡ぐ夜月。

夜月のおかげで、シュテルとレヴィは落ち着いて来たようだ。

 

「よし、あとは───!」

 

シャマルたちに任せる前に、シュテルとレヴィの自然治癒力を高め、魔力をある程度流し渡す。

 

「シャマル!」

 

シュテルとレヴィを抱き抱えて、岸にいるシャマルと医療班に引き渡す。

 

「あとは任せて零夜君。夜月ちゃんも」

 

「はい。お願いしますシャマルさん」

 

「あなたもよ」

 

「だ、だが我は行かねばならぬのだ!」

 

シャマルの言葉に、ディアーチェは反論する。

ディアーチェの想いは最もだ。けど。

 

「ディアーチェ、今のディアーチェではユーリには勝てないよ」

 

「なんだと?」

 

「魔力が圧倒的に足りてない。それに怪我をしてる。その状態で行っても、無駄な足掻きになるだけだよ」

 

「ふざけるな!この程度の傷、我にとってはどうってことなど・・・・・・!」

 

言葉を言いつつも、ディアーチェは痛みに顔を顰めた。ディアーチェの体力と魔力はすでに限界に近いのだ。

 

「はぁ。シャマル、ディアーチェたちのことお願い」

 

「ええ、まかせて」

 

「聖良、夜月」

 

「うん」

 

「ええ」

 

聖良と夜月とともに行こうとし、

 

「───ディアーチェ。もし君に、覚悟があるのなら戦場に出てきて」

 

「なに・・・・・・?」

 

ディアーチェに背を向けたままそう言い放つ。

 

「ユーリを助けたければ、これを使うといい」

 

僕は懐から一枚のカードを取り出してディアーチェに投げ渡す。

 

「これは・・・・・・」

 

投げ渡されたカードを手にしたディアーチェは、困惑の表情を浮かべる。

 

「そのカードは・・・・・・零夜君、このカードもしかして・・・・・・」

 

カードを見たシャマルはなにか分かった見たいだけど、僕が目線で言わないように伝えると、シャマルはそれ以上なにも言わなかった。

 

「それは君の願いを叶えるだろうモノだよ。使いこなせるかは、ディアーチェ、君次第だ」

 

「我次第・・・・・・」

 

「行こう、二人とも」

 

今度こそそこから飛び立ち、別の場所に移動する。

移動している最中夜月から質問が来た。

 

「レイくん、あれ渡してよかったの?」

 

「夜月も気づいてたんじゃないの」

 

「・・・・・・まあ、ね」

 

「お兄ちゃん、ディアーチェちゃんに渡したカードって確か・・・・・・」

 

「うん。星霊武装(アストラルウェポン)のひとつだよ」

 

僕がディアーチェに渡したカードは、星霊武装がひとつ、『三星の煌奏翼(トリニティ・ハーモニクスステラ)』。

 

「でも、確かあれってひとりでじゃあまり意味ないんじゃなかったっけ?」

 

思い出したかのように言う夜月。

 

「うん。でも───」

 

夜月の言葉に、期待を込めて僕はさっきまでの場所に目をやる。

 

「ディアーチェなら使いこなせるはずだよ」

 

ディアーチェにカードを渡したのは僕だが、それを決めたのは『三星の煌奏翼』自身だ。

 

「これで、残ってる星霊武装はあと四つ・・・・・・」

 

月雫武装もそうだが、星霊武装も所有者はその武装が選ぶ。もちろん、僕と夜月は全ての武装が使える。が、しかしそれは100%の能力ではない。せいぜい99%までだ。100%と99%の1%は数字面では近いが、実際は物凄く遠い。ほんの1%の差が性能の違いを分けるのだ。

 

「───残りの所有者の候補は決まってるの?」

 

「うーん・・・・・・二つほどいるにはいるんだけど・・・・・・」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、それが、その、二つの候補の二人は管理局員じゃないんだよね」

 

「え?」

 

「どういうことお兄ちゃん?」

 

二人の疑念に満ちた目に僕は言いにくそうにして告げる。

 

「・・・・・・ルナちゃんとユミナちゃんだよ」

 

「えっ!?あの二人!?」

 

「誰?」

 

「あ、夜月ちゃんは知らないんだっけ。以前、私達が訪れた世界の女の子だよ」

 

「へぇー」

 

ルナちゃんとユミナちゃんと初めてであったのは、約一年半前の研究会と出会った時だ。それから、たまに二人と連絡したりして交友関係が続いてる。僕としても、聖良たちに友達が出来るのは嬉しいことだ。

二人は今、僕達のところ・・・・・・管理局特務0課に来ようと。つまり、魔導師になろうとしてる。そのため、たまにそこに行って魔法の指導をしたりしている。まあ、その事についてはまた後日話すとして・・・・・・。

 

「二人の適性が異様に高かったんだよね」

 

「そうなの?」

 

「うん。というか、あの二人をこのカード(この子)たちが選んだ、って感じかな」

 

収納していた亜空間から二枚のカードを取り出して言う。

二人にはまだこれは渡してない。せめて、あともう二、三年ぐらいしたら渡せるかもしれない。ディアーチェに渡したのは、なんとなくだ。なんとなく、彼女なら使いこなせる。そんな気がしたのだ。

 

「(まあ、僕としては味方になってくれる人が大勢居てくれた方が助かるんだけどね)」

 

僕の知り合いの中で、現時点で魔導師最強と思うのはゼストさんだ。僕や夜月たちを除いてだが。そしてクロノ、騎士シャッハ、シグナムたちだ。なのは達は位で表すなら中の半ばほどかな?理由は単純に、戦闘経験が足りないからだ。まあ、なのは達だけなら、一位ははやてだろう。次に、アリサ、すずかときてフェイト、アリシア、最後になのはだ。はやては小さい頃からシグナム達と会うまで僕か石田先生と限られた人としか接してないため、かなり精神力が高い。正直、僕ははやてに無理して欲しくない。今のはやては、どこか生き急いでいる感じがして不安でまばならない。そして、次にアリサとすずか。二人は小さい頃から社交界とかに参加してるためか、かなりキモが据わってる。それに加え、人の動きなど細かいところも観察しているため状況判断力が高い。そして、フェイトとアリシア。フェイトは言わずもがな、リニスさんという専属教師がいた為戦闘スキルが高く、アリシアもここ最近徐々に頭角を顕にしている。まあ、フェイトはものすごく天然で偶に、え!?と思うことがあるけど。最後に、なのは。今となってもユーノととも後悔していることがある。それは、なのはを魔導師にしてしまったということだ。それはなのはに関わらず、はやてやアリサ、すずかにもなのだけど、僕らの始まりはなのはが魔法を発現させたことから始まった。有り体に言えば、なのはに魔導の道を進ませた僕の責任だ。別に、なのはの魔法に関する全ての記憶を封印、もしくは削除することは容易い。そうすれば、なのははあの時より前と同じ、普通の一般人。唯の女の子になる。もちろん、なのはに手を出そうとするヤツらは僕が一人残らず消し去るけど(魔導師か犯罪者に限る)。

けど、なのはは恐らく拒むだろう。なのはの力の根源は、まるで呪いのようなものだ。認めてもらいたい。見てもらいたい。誰かを助けたい。この手の届くものは全て守りたい。・・・・・・七つの大罪で表すなら、なのはのそれは『傲慢(スペルビア)』もしくは『強欲(アワリティア)』だ。僕ですら、今のなのはには微々たる恐怖を体感する。執念のような力の欲しさに。

僕がそう思っていると。

 

「───レイくん」

 

夜月がウインドウを表示して見せてきた。

 

「───なるほど。そこか───」

 

ウインドウに表示されたものを見て、僕と聖良は納得し。

 

「聖良、ユニゾンいくよ」

 

「うん。お兄ちゃん、ユーリを絶対助けよう!」

 

「もちろん!」

 

「「ユニゾン、イン!」」

 

僕と聖良は再びユニゾンした。

 

「・・・・・・いこう、夜月。この事件を終わらせに」

 

「ええ」

 

僕と夜月は結界の張られた首都の空を高速で駆け、目的地へと飛んで行った。

 

 



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反撃の狼煙

 

〜零夜side〜

 

 

ディアーチェ達をシャマルに任せ、僕と夜月、僕とユニゾンした聖良はある場所に向かって飛んでいた。

場所は───

 

「見つけた!フィル・マクスウェル!」

 

「っ!?」

 

首都、東京の東京駅だ。

 

「キミは・・・・・・!」

 

東京駅の屋根にいるフィル・マクスウェルに鋭い視線を向ける。

 

「れ、零夜さん・・・・・・!」

 

後ろには左頬に真新しいアザが出来てるアミタさんがほぼ瀕死の状態で倒れていた。

僕がアミタさんの前に降り立つと同時に、その後方からなのはが飛んで、隣に降り立った。

そしてそれと同時に、周囲にいたフィル・マクスウェル配下の軍隊イリスが次々に戦闘不能となっていった。

 

「(へぇ。やるね、みんな)」

 

遠距離からの攻撃に、僕は感心を抱いた。

 

「警告です。武器を捨て、投降してください!」

 

なのはがフィル・マクスウェルに警告する中、フィル・マクスウェルは不敵な笑みを浮かべる。それと同時に、フィル・マクスウェルを紫色のオーラが包み込んだ。

 

「あれは・・・・・・!」

 

「っ!」

 

僕とアミタさんは息を飲み、一瞬でフィル・マクスウェルとの距離を詰めた。

 

「私と同じアクセラレーターを・・・・・・!」

 

「───同じではないよ」

 

僕とアミタさんの突進を弾いたフィル・マクスウェルは武装を銃に変形させ、弾丸を放ってきた。

 

「っ!アミタさん、手を!」

 

「!」

 

瞬時にアミタさんの手を掴み、フィル・マクスウェルの放った弾丸を、集束・魔法の射手で相殺する。

 

「(っ!?なんて威力!今の集束・魔法の射手は十は魔法の射手を集束したんだよ!?」」

 

距離を取って、元の位置に戻った僕は、今しがたの手応えからさそう判断した。

性能は恐らく、アミタさんのアクセラレーターよりさらに上だ。

 

「───稼動効率は君のより遥かに上だ。それに・・・・・・」

 

「っ!ユーリ!」

 

フィル・マクスウェルの不敵に微笑みながら言う言葉を聞いてると、ユーリの保護をしていたフェイトの声が聞こえた。

 

「っ!?」

 

バッとフェイトの方を見ると、そこには機装腕を展開した時よりも一回り大きい、まさに機装外装を展開したユーリの姿があった。

 

「フィル・マクスウェル!ユーリになにをした!」

 

僕の激怒の問いにフィル・マクスウェルは変わらず不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「私は手にしたもの全てを操る事が出来る。それには、ユーリも含まれている。もちろん、イリスもね」

 

「っ!」

 

フィル・マクスウェルの言葉を聞いた瞬間、僕はその意味が理解出来た。フィル・マクスウェルは、自身の手にしたもの全てを操る事が出来る。つまり、全てを操りし者(マリオネットコンダクター)。今のユーリは洗脳に近い。おそらく、それはキリエが相手しているイリスもだろう。

 

「夜月、キリエのところに!」

 

「うん!」

 

すぐにキリエの所に夜月を送る。

もし何かあっても夜月なら余程のことがなければ対処出来るはずだ。

転移して行った夜月を視線の端で見ながら、空に浮いてるフィル・マクスウェルをキッ!と睨みつける。

 

「さあ、君たちも私の手駒に出来るかな」

 

そう言うと、フィル・マクスウェルはユーリを連れ去った時と同様にその姿を透明にして消えた。

さっきは何も出来なかったけど、今回は───

 

「聖良、マーカーの方は?」

 

《大丈夫!ちゃんと追尾しているよ!》

 

「了解」

 

現れたエクスカベータ級の機動要塞のひとつを破壊して、ユーリの動きを止める。

 

戒めの鎖(レージング)!」

 

フィル・マクスウェルがこの場から離脱すると同時に、機動要塞が多数現れ、ユーリが僕らに攻撃しだしたのだ。さらに、下では軍隊イリスの群れがいる。

 

「───!」

 

「フェイト!アリサ!」

 

「うん、」

 

「ええ!」

 

ユーリを鎖で動きを止めたところに、フェイトとアリサがそれぞれ攻撃する。

 

「「はああああーーっ!」」

 

「!」

 

フェイトとアリサによるデバイスの刀剣近接攻撃はユーリの張った障壁により阻まれる。

ユーリの力がさっきより上がっているのに気づき、僕はアミタさんに声をかける。

 

「くっ!アミタさん、動けますか?!」

 

「はい!大丈夫です!」

 

「アミタさんはフィル・マクスウェルを追ってください!場所はこれで!」

 

「はい、分かりました!」

 

軽く回復魔法を施しながら話、フィル・マクスウェルの追跡をアミタさんに任せる。アミタさんがバイクに乗って行くのを見つつ、アミタさんの邪魔をしようとする軍隊イリスの個体を撃破する。

 

「───数が多い!」

 

今この場の戦力は、僕となのは、フェイト、はやて、アリシア、アリサ、すずかの七人だ(聖良は僕とユニゾンしてるため、カウント外)。エクスカベータ級の機動外殻、その数は数十。軍隊イリスの個体数は百は軽く超えてる。

その気になればすぐに殲滅できるが、ユーリに関しては手加減しなければならない。全力を出しつつ、手加減をする。自分で言ってのんだが、かなり厳しい。この状況を打開するために、考えを巡らせなのはたちに指示を出す。

 

「アリサ、すずか、はやては地上の兵力の対処!フェイトとアリシアはユーリを引き連れて!無理に倒そうとはしないで、引きつけるだけでいいから!なのはは僕と一緒にフィル・マクスウェルを追い掛けるよ!」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

「聖良、まだいける?」

 

《うん。大丈夫!まだいけるよ!だからお兄ちゃん───!》

 

「そうだね・・・・・・!」

 

聖良の懇願するように言う言葉を聞いて、僕は意識を研ぎ澄ます。

自身の中の魔力(マナ)と精霊の力。それを周囲に漂うエレメントと魔力を結合する。そして───

 

「───リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!」

 

起動キーを発する。

それに続いて、詠唱を始め右手の人差し指を動かし空中に文を記す。

術式詠唱と術式記唱の同唱術式(ダブルスペル)。高速詠唱を高速記唱でそのまま空中に写す。三十秒ほどの同唱術式により、その術式は完成した。そして、短い最後の式区を唱える。

 

「───流精群(ミーティアスピリットレイン)!」

 

天から降り注ぐ流星。

その一つ一つが凄まじい威力を保有する。だが、まだこの術式は未完成だ。

 

「(くっ!やっぱり、まだこの魔法は未完成・・・・・・!速度も威力も足りない!)」

 

軍隊イリスを次々貫いて破壊し、機動外殻の外装に穴を開け崩していく流精群を見ながら僕はそう思った。

その場にいた全ての軍隊イリスと機動外殻を破壊した僕は、なのはに視線を向けて。

 

「いくよ、なのは!」

 

「うん!」

 

「はやて、あとお願い!」

 

「まかせてや!」

 

なのはとともにフィル・マクスウェルを追い掛けてるアミタさんの所へと飛んで行った。

 

〜零夜side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜夜月side〜

 

 

「───傲慢(スペルビア)のアーカイブに接続!テーマを実行いたします!」

 

転移した私は、天使の霊装の上にメイガスモードの服飾。霊魔装を羽織る。

 

「ソラ、イリア!」

 

〈おうよ!〉

 

〈はい!〉

 

「―――我今ここに天と魔を融合し行使するものなり。我が魔術、七つの大罪のアーカイブ、傲慢(スペルビア)。そして傲慢のテーマ支配(インペル)にて、天使を実行する!」

 

祝詞のように紡いでいく言葉は静かに辺りに響き、私の中の膨大な魔力を吹き荒らす。

 

「―――天魔融合(ヘブンリィマギクティス)!」

 

私の服装が変わり纏っていた白銀のドレスローブから神々しいほどの白金のドレスローブに、その上から黒紫色の裾の長いコートを羽織る。セミロングのベージュ色の髪が少しずつ虹色に変わり、ふわりと魔力余波で吹き荒れなびいた。そしてその足元には複雑怪奇な白黒の魔法円が構築される。

白黒の魔法円はすぐに消え去り、私は破壊されてる東都タワーの展望フロアに降り立つ。

 

「大丈夫かな、キリエちゃん?」

 

「えっ!?」

 

「っ?!」

 

私の登場に驚くキリエちゃんと、頭を抑えながら僅かに目を見開くイリス。

 

「ああ。やっぱり、イリスもか」

 

何かを必死に押しとどめようとしている様子のイリスに、私はそう呟く。

 

「なんで・・・・・・あなたがここに・・・・・・」

 

「うん?レイくんにお願いされたからだよ」

 

「え」

 

「まあ、それは後で話すとして・・・・・・」

 

私は視線を目の前のイリスに移す。

 

「イリス、本当の事を知ってもまだやる?」

 

「ぐうぅぅ・・・・・・っ!」

 

「本当はもう気付いてるんでしょ。ユーリちゃんがなんの為にやったのか」

 

「うるさいっ!うるさいうるさいっ!!」

 

激昴したまま、イリスは私に鞭を振るって来た。私は臆すること無く、それを多重障壁で受け止める。

 

「イリス!夜月ちゃん!」

 

「大丈夫だよキリエちゃん」

 

私は冷静に多重障壁を張りながらイリスに声を掛け続ける。

 

「イリス!あなたの事はまだそこまで分からないけど、あなたがユーリちゃんやキリエちゃんに向ける本当の心はなに?!」

 

「あああああっ!!」

 

「くっ・・・・・・!ソラ!」

 

〈おうよ!〉

 

「───白き時冬の季節(ホワイト・ユニバース)!」

 

フィル・マクスウェル所長の精神支配を懸命に抑え込んでいるのであろうイリスを、イリスにエネルギー放出して吹き飛ばす。

 

「イリス!」

 

「心配なんていらないわキリエ!」

 

吹き飛ばされた体を起こして、薄紅色のオーラを纏うイリス。イリスは武装を鞭から両手銃に切り替え、銃口を私たちに向けてきた。

 

「イリス・・・・・・」

 

キリエちゃんに向かって言うイリスの眼からは、涙が流れ、顔はくしゃくしゃだった。

 

「教えてあげようかキリエ。私はね、最初からあんたを利用するつもりだった!チビなあんたを見た時、その時にはどうすれば信用を得られるか、どう騙そうか、もう考えていた」

 

涙を流しながら言うイリス。そして、それを静かに聞くキリエちゃん。私も何も言わずにイリスの言葉を聞く。

 

「あんたが私を頼ってくる度に・・・・・・くだらない悩みを打ち明ける度に、また信頼させられるって思ってた。あんたの面倒を見てやったのも。一緒になって笑ったのも。全部、あんたを、利用するため、だったんだから!だから、さっさと!逃げなさいよぉぉ!!」

 

「っ!」

 

涙ながらに言いながらイリスの銃から放たれた光弾は私とキリエちゃんに直撃した。予め障壁を展開していたため、そこまでダメージはないが、後ろの窓ガラス等は余波で吹き飛び、破壊された。やがて、煙が晴れ。

 

「逃げないよ!」

 

私の前に出てきたキリエちゃんが水色のオーラを纏わせ、剣を振り払って言った。そして、剣を持っている手とは違う、もう片方の手には一冊の本が握られていた。

 

「その本は・・・・・・!」

 

キリエちゃんの持つ本に見覚えがある私は眼を軽く見開いて呟く。

 

「その本・・・・・・まさか・・・・・・!」

 

「零夜君から借りたけど、もうここから先は必要ない!私は、イリスを・・・・・・大切な友達を助ける!」

 

キリエちゃんの持つ本は、レイくんの所持する特殊固有武装(アーティファクト)のひとつ、いどのえにっき(ディアーリウム・エーユス)だ。

 

「(いつの間に渡してたんだろ?)」

 

いどのえにっきを見た私は、ふとそんな場違いな事を考えていた。その間にも、キリエちゃんはイリスに。

 

「イリスがどう言おうが、本心だろうがなかろうか、そんなの関係ない!だって、イリスと一緒に過ごした時間は嘘じゃないもの!イリスに色んなことを教わった。一緒に笑った。あの時間は・・・・・・私の宝物だから!」

 

「う・・・・・・うわぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ!」

 

涙を流しながら、連続で撃ってくるイリスの光弾を私は防ぎ、キリエちゃんはそのまま突っ込んで行き。

 

「イリスがどんなふうに思っていたって、私にとっては大切な友達なんだもん!大好きな友達を!泣いてる友達を!放ってなんておけないよ!」

 

東都タワーの展望フロアから飛び出し、高速で空を舞ってイリスと剣を交じわせていた。

その二人のやり取りを私たちは破壊された展望フロアの端から観ていた。

 

「うーん。私たち必要なかったかなぁ?」

 

キリエちゃんの手から落ちたいどのえにっきを拾って私は自虐気味にそう呟く。

 

〈はははっ!見事に置いてきぼりを食らってるなマスター〉

 

〈ソ、ソラ!き、気にしちゃダメですよ夜月ちゃん!あの戦いに、私たちが手を出すなんて無粋ですから〉

 

「ふふっ。分かってるよイリア。さすがに、あの戦いは二人の舞踏会。部外者(オブサーバー)である私たちが入る資格もないからね」

 

苦笑しつつイリスの言葉に返す。

 

「まあ、それはそれとして───」

 

視線を下の地上に向けると、そこには複数のエクスカベータと軍隊イリスがいた。そして、その武器の先はキリエちゃんとイリスに向けられていた。

 

「あの二人の戦いの邪魔をするものを排除しないとね」

 

私は少し眼を細めてそう一人口走り、クスッと微笑みを浮かべる。

 

「ジュデッカ。カイーナ」

 

〈はい〉

 

〈ここに〉

 

二振りの皇剣の名を呼ぶと、私の両隣に二振りの皇剣が現出した。

片や漆黒の皇剣───支配武装(インペルアーム)黒皇剣ジュデッカ。片や真紅の皇剣───虚無武装(ヴァニタスアーム)赫皇剣カイーナ。魔王にのみ許された剣にして、魔王兵器。

私は静かに。優しく包み込むようにして二振りの皇剣の柄を握る。

 

「第一の門を具現せし剣、赫皇剣カイーナ。第四の門を具現せし剣、黒皇剣ジュデッカ。我が命に従い、我に力を貸したまえ」

 

〈我が名はジュデッカ。第四の門を具現せしもの!〉

 

〈我が名はカイーナ。第一の門を具現せしものです!〉

 

傲慢(スペルビア)のアーカイブに再接続。テーマを実行いたします!」

 

そう発すると、私の足元に複雑な魔法陣が浮かび上がり、その光が私を包み込んだ。

 

「───いくよ。ソラ。イリア。ジュデッカ。カイーナ」

 

〈あいよ!〉

 

〈はい!〉

 

〈了解しました!〉

 

〈はい、マスター!〉

 

展望フロアから外に身を乗り出した私は両手にジュデッカとカイーナを携えて、目下に飛び降りた。飛び降りながら、私は天使を顕現させる。

 

絶滅天使(メタトロン)颶風騎士(ラファエル)!」

 

絶滅天使の砲撃機と颶風騎士の颶風を顕現して軍隊イリスとエクスカベータの集団に降り立つ。

 

『『『っ!』』』

 

「二人の戦いの邪魔はさせないよ!」

 

そう言うや否や、私は周囲にいた軍隊イリスをジュデッカとカイーナで切り裂き、絶滅天使の砲撃し、颶風騎士の颶風で動きを阻害する。

 

「はあああああああっ!」

 

周囲の軍隊イリス達に大立ち回りをし。

 

「ジュデッカ!カイーナ!」

 

〈〈はい!〉〉

 

二振りの皇剣を構え。

 

「(あの人が使った技を───!)」

 

魔力を皇剣に込め。

 

黒皇(ルシエル・)赫皇(アシエル・)永獄斬(コキュートス)連獄(ローケルム)!」

 

勢いよく振り抜いた。振り抜いたまま、さらに斬撃を重ねていき周囲に多重斬撃とも言える斬撃を飛ばした。

放たれた斬撃は射線上にいたエクスカベータを消し飛ばし、一撃でほぼ全てのエクスカベータを討滅した。

 

「ふぅ」

 

息を軽く整え、残りの軍隊イリスを破壊して行く。

やがて、全てを破壊し終えると、周囲の痕には私の戦闘余波が刻まれていた。

 

「───これで終わり、かな?」

 

二振りの皇剣を軽く振って、私は戦闘余波が刻まれた惨状を眼にしつつそう呟いたのだった。

そんな中、頭上の空ではイリスとキリエちゃんが戦っていた。

 

 

 



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魔王(零夜)(なのは)渡航者(アミタ)VS操りし者(フィル・マクスウェル)

 

〜零夜side〜

 

はやてたちと分かれた僕となのはは、先行しているアミタさんを全速力で追い掛けていた。

 

「なのは、僕の手を!」

 

「うん!」

 

「───光速翼(ライトスピード)!」

 

左手になのはの手を握った僕は、高速飛行術式で速度を上げて行く。後には、僕となのはの飛んだ、光の軌跡が残った。

しばらくして。

 

「アミタさん!」

 

「っ!零夜さん!なのはさん!」

 

「アミタさん、私と零夜くんがこっちの担当になりました!一緒に捕まえましょう!」

 

「はい!お二人ともお願いします!」

 

バイクに乗って移動するアミタさんに追い付き、軽く作戦を立てる。

 

「最初に僕が先行します。ですから、なのはとアミタさんは不意を突くようにして攻撃してください」

 

「わかりました!」

 

「了解なの!」

 

「アミタさん、バイクはこのまま囮として使います」

 

「っ!なるほど。わかりました」

 

「それじゃあ行くよ!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

僕はさらに速度を上げてフィル・マクスウェルを追い掛ける。

そのまま飛んで行くと、不可視迷彩(インビジブル)で飛んでいるフィル・マクスウェルの後ろ姿があった。もっと、僕にはそんなの意味無いけど。

僕は二人に視線を向け、無言で頷くとさらに速度を上げてフィル・マクスウェルに接近する。

 

「(聖良!)」

 

《うん!》

 

精霊の剣(スピリットソード)二双(ダブル)を再び両手に顕現し。

 

「天陽流剣技───熾閃一穿(しせんいっせん)!」

 

呼吸を整え、一度魔力をゼロにし、息を吸い込むと同時に一気に魔力を全開にまで上げる。そして、息を吐き出すと同時に駆ける。

『熾閃一穿』は連撃のない、単発の突進技だ。しかし、突進故にその速度と威力は高い。そして、魔力のON/OFFをすることにより、威力はさらに高くなる。その効果はただ威力を足すだけの足し算では計り知れないない。

 

「はあああああーーっ!!」

 

「っ!?」

 

追ってに気付いたらしいフィル・マクスウェルは振り向くと、下の高速道路を走るバイクに目をやる。そして、今ここで始めて僕の気配に気づいたようだ。とっさに防御を取るが。

 

「遅いっ!」

 

それより速く僕の刺突がフィル・マクスウェルの武装を破壊し、フィル・マクスウェル本体にもダメージを与える。

 

「ぐっ!」

 

魔力のON/OFFによって得られる威力は───乗算・・・・・・掛け算だ。

威力が1の攻撃は、掛け算でいくら1を掛けたって1のままだ。なら足し算の方がいいのではないか?そう思うだろう。けど、威力100の攻撃をさらに100掛けたら、その威力は10000だ。単純な足し算より複雑な掛け算の方が得られるものが多い。しかも、それは永続ではなく一瞬で放つ。それ故に身体にダメージも少なく、一撃の威力が高い。まあ、いうなれば、擬似限界突破かな。

放たれた一穿は碧光のエフェクトの軌跡を残してフィル・マクスウェルの背後に移動する。そして、僕の攻撃が終わると同時に。

 

「はああああああっ!」

 

「やああああああっ!」

 

「っ!?」

 

フィル・マクスウェルへアミタさんの刺突となのはの砲撃が直撃した。

二人の連携攻撃により、フィル・マクスウェルは下の道路に落とされ、すぐさまその手足をなのはがバインドする。

 

「ハッ!」

 

「はああああーっ!」

 

「っ!───アクセラレイター・オルタァァ!」

 

アミタさんの接近に気づいたフィル・マクスウェルは強引になのはのバインドを引きちぎり、アミタさんの上位互換のアクセラレイター・オルタを発動させた。

 

「っ!?バインドを引きちぎった!?」

 

驚く僕の目に、攻撃を止めようとしたが遅く剣を振り下ろしたアミタさんと、そのアミタさんの振り下ろした剣を避け背後に現れたフィル・マクスウェルが写る。

 

「マズッ!」

 

すぐにアミタさんの前に移動し、フィル・マクスウェルの攻撃を受け止めようとする。が。

 

「なっ・・・・・・」

 

フィル・マクスウェルは僕より速く移動し、剣でアミタさんを攻撃し、アミタさんの持っていた剣を破壊。そして、そのまま空に吹き飛ばした。

 

「くっ・・・・・・!」

 

すぐに追いかけるように移動し、フィル・マクスウェルの刃がアミタさんの腹部を貫こうと動作を取るのを見て。

 

「聖良、フルドライブ・イグニッション!!」

 

《うん!!》

 

リミッターを解除し思考と速度を倍以上に引き上げる。それと同時に。

 

「アクセラレイターァァァ!!!」

 

離れた場所にいたなのはの絶叫の声が耳に入った。

なのはは僕の反対側から、今まさにアミタさんに刃を突き立てようとするフィル・マクスウェルに突っ込んで行った。

 

「あああああぁぁぁぁっ!!」

 

僕と交差するように飛び、方向転換したなのははそのままブレイカーに匹敵するほどの砲撃を撃った。

 

「ぐっ・・・・・・!ぐあああああああぁぁぁ!!」

 

砲撃に飲み込まれ地面に落ちていくフィル・マクスウェルを見つつ、僕は瀕死状態のアミタさんを回収する。

回収したアミタさんに軽く回復魔法を施していると。

 

「うぅ・・・・・・。なのはさん・・・・・・。零夜さん・・・・・・」

 

目を開けたアミタさんが僕と、近くにきたなのはに声をかけた。

なのはの身体は、かなり負荷が掛かったのかあちこちからスパークのようなものが、なのはの体を走っていた。

 

「なんども見せてもらったから、出来るかなっと思ったんですが・・・・・・。うぐっ・・・・・・。ちょっとだけキツイですね?」

 

そう耐えるように言うなのはに僕は。

 

「何やってるのなのは!そんな身体に負荷がかかる能力を使って・・・・・・・!」

 

なのはにも回復魔法を掛けて言う。

なのはがやったのは、アミタさん達の使う【エルトリア式フォーミュラ】と僕達の【魔導】の融合。全く違うシステムと術式をなのはは、無理やりというか強引に引き出したのだ。その代償ともいえる体の負荷は凄まじいものだろう。正直、常人がこれをしたら1回発動するだけでもかなりの疲労や痛みが伴い、精神に異常をきたすはずだ。

 

「大丈夫。まだ行けるから」

 

「けど・・・・・・!」

 

「アミタさんは支援に回ってください」

 

僕の言葉になのはは「大丈夫」と言ってアミタさんに支援に回るようにお願いする。

まあ、僕も今の状態のアミタさんを前線に出す訳には行かない。

 

「そんな・・・・・・私もまだ・・・・・・!」

 

「大丈夫なのは分かってます」

 

《Unit,set》

 

レイジングハートからデバイス音声が流れると、形が砲撃型から槍の形態になった。

 

「私の方が、もっと大丈夫だってことです」

 

「アミタさん、その傷じゃあまり激しく動けません。なので、後ろからサポートお願いしますね」

 

「零夜さん・・・・・・わかりました。お二人とも、気をつけて」

 

アミタさんを後方にやり、僕となのはは前に出て、二刀と槍を構える。

 

「素晴らしい。君たちは素晴らしいね!」

 

下から、傷を負ったフィル・マクスウェルが僕となのはを見上げてそう言ったのが聞こえた。

 

「欲しいね、その力」

 

「「っ・・・・・・」」

 

僕となのはは無言で構えを取り、フィル・マクスウェルと相対する。

 

「君たち二人も私の子供にしてあげよう」

 

そう言って接近してきたフィル・マクスウェルの剣を、精霊の剣で受け止める。

 

「それについてはお断りだねっ!ふっ!」

 

僕の親は、僕を産んでくれたお母さんとお父さん。そして、この世界に転生させてくれた明莉お姉ちゃんだけだ。なのはの親も、桃子さんと士郎さんだけだ。

受け止めたフィル・マクスウェルの剣を、フィル・マクスウェル事弾き飛ばし、追撃を仕掛ける。

 

「行くよなのは!」

 

「うん!」

 

左手に握った精霊の剣を前に出し、右手に握った精霊の剣は剣先を少し後ろに下げフィル・マクスウェルに迫る。

 

「はあああああっ!」

 

「ふんっ!」

 

右の精霊の剣を下段から真横に移し、薙ぎ払いをする。しかし、それはフィル・マクスウェルの左に装備された銃盾(ガン・シールド)に防がれる。

 

「せりゃあ!」

 

「やあああっ!」

 

すぐさまそこから離れ、死角から追撃を繰り出す。そして、僕に追随するように、なのはの魔力弾が来る。

 

「ふっ!」

 

対するフィル・マクスウェルは落ち着いて、銃盾の銃でなのはの魔力弾を迎撃し僕の斬撃を右に装備した剣で反撃する。

 

「おおおっ!」

 

「はあっ!」

 

フィル・マクスウェルの攻撃を精霊の剣の二刀で捌き、

 

「───連槍・氷炎の159槍!」

 

近距離から略式詠唱した連槍を放つ。

 

「くっ!」

 

何発か食らったフィル・マクスウェルは反転して、その場から離れて連槍を回避していく。

 

「ふっ!」

 

連槍を回避したフィル・マクスウェルは勢いを付けてなのはに迫る。

 

「っ!」

 

「させない!下がってなのは!」

 

闇の魔法(マギア・エレベア)の術式兵装《雷天大壮》を発動させ、なのはの前に移動しフィル・マクスウェルの攻撃を受け止める。

 

「っのおぉぉっ!」

 

受け止め、思いっきり跳ね返し、互いの距離が離れる。

 

「零夜くん!」

 

心配の声を掛けてくるなのはの声を聴きながら、バランスを取り近くのビルの側面に足をつけて、右の精霊の剣をカタパルトのように折りたたみ、

 

「ぜりゃあああっ!!」

 

深紅のエフェクトを輝かせて魔力を勢いよく爆発させ突き放つ。

 

「っ!?」

 

片手剣ソードスキル、ヴォーパル・ストライク。それをさらに魔力で増幅(ブースト)させた一撃。

深紅の突きは銃盾でガードしたフィル・マクスウェルを地面へと堕とす。

 

「なのは!」

 

「うん!」

 

堕とした直後、なのはから強力な砲撃が放たれる。

 

「ぐううっ!」

 

フィル・マクスウェルはガードしたまま、なのはの砲撃を浴び吹っ飛んで行った。

 

「ふぅ」

 

なのはの砲撃に呑み込まれて吹き飛んでいくフィル・マクスウェルを見つつ、気を抜かずにしながら呼吸を整える。

 

「聖良、まだ行けるかな?」

 

《もちろん!まだまだ行けるよお兄ちゃん!》

 

「オッケー」

 

聖良の声を聞き、僕は意識を集中する。

大気に存在する魔力(マナ)を感知し、自身に衣のように纏わせる。ゆっくりと目を開き。

 

「おおおっ!」

 

「零夜くん!」

 

「───壱」

 

「───っ!」

 

剣を突き付けてきた迫ってきたフィル・マクスウェルをカウンターで切りつける。そして。

 

「───弐」

 

振り向いてからの薙ぎ払い。

 

「───参」

 

中心部に高速の突き。

 

「───肆」

 

右袈裟斬り。

 

「───伍」

 

逆袈裟斬り。

 

「───陸」

 

反転して垂直斬り。

 

「───漆」

 

左逆袈裟斬り。

 

「───捌」

 

袈裟斬り。

 

「───玖」

 

横斬り。

 

「───拾」

 

最後、神速の突き。

流れる水かのように滑らかに、立て続けに繰り出した剣技を受け、フィル・マクスウェルは再度吹き飛ばす。

 

「天陽流───胡蝶(こちょう)神楽桜(かぐらざくら)

 

静かに。右手に顕現させてる精霊の剣を振り払ってそう口に出す。

『胡蝶・神楽桜』未完成だった剣技だ。

できるかなぁ〜、って思って無念夢想状態にしてやってみたんだけど、まさか上手くいくとは思わなかった。

未完成だった理由は、剣技の型が上手く続かないのだ。ひとつでもリズムが乱れればそれ以降は続かなくなる。ひとつひとつが繊細なのだ。

息を整えていると。

 

「ふふっ。はははっ。やはり君は欲しいね」

 

フィル・マクスウェルが地面に両足で立って言ってきた。

かなりダメージを浴びせたはずだけどなー?

 

「そこの魔女もだが。魔導師。君は何としても欲しいね」

 

どこか不気味な笑みを浮かべて言うフィル・マクスウェル。

なのははその言葉にレイジングハートの槍を構え、足下に桃色のミッド式の魔法陣を展開させる。

その一方、僕はと言うと。

 

「何度も言うけど、僕となのははあなたの元に着く気は無いから」

 

と言って、両手に握って顕現させていた精霊の剣二刀を消した。

 

「僕となのはにはちゃんとした親や兄弟姉妹・・・・・・家族がいるからね!」

 

そう言い終えると同時に、僕の右横に一つの転移魔法陣が現れ、そこから。

 

「お待たせしました零夜くん」

 

「ううん。ちょうどいいタイミングだよ。凛華」

 

僕のデバイスであり、家族である凛華(リンカーネイト)がやって来た。

 

「お姉ちゃん達は?」

 

「愛奈美さんたちははやてちゃんの所に行きましたよ」

 

「了解」

 

「はい」

 

「それじゃあ、お願いできるかな凛華」

 

「もちろんですよ零夜くん。私は零夜くんの相棒(デバイス)なんですから」

 

笑顔でそう言うと、凛華は自身を人型形態からデバイス形態に切り替え、

 

「凛華、セットアップ。全力で行くよ!」

 

《はい!》

 

久し振りに凛華一人をセットアップした。

凛華をセットアップすると、凄まじい魔力が僕から溢れ、魔力暴風をなのはとフィル・マクスウェルを襲った。

 

「きゃっ!」

 

「ぬおっ!?」

 

やがて魔力の暴風が治まると。

 

「零夜くん、その姿・・・・・・!」

 

「ふふ。結構久し振りだね。この姿は」

 

僕のバリアジャケットは純白に銀を交えさせた、白銀の姿だ。服は長いコートを羽織り、軽鎧のような物を着けてる。

 

「なのは」

 

「うん!」

 

凛華を基本形態の錫杖から細身の片手剣に変え、なのはのレイジングハートの切っ先と重ね合わせる。

 

「いくよ!」

 

「行きます!」

 

そう言うと同時に、僕となのははフィル・マクスウェルへと接近した。

 

「なにっ!?」

 

「はあああああっ!」

 

「やあああああっ!」

 

交差するように切り裂き、

 

「ぐはっ!」

 

フィル・マクスウェルの動きを止める。

 

「ふふ・・・・・・はははっ・・・・・・。やはりいいね」

 

不敵な笑みを浮かべ、左手の銃盾の砲口を向けた。

向けると同時に放たれた紫の光弾を僕となのはは空を駆け回って回避する。

 

「はっ!」

 

「うあっ!」

 

「なのは!」

 

物理攻撃を食らったなのはを受け止め、

 

「っ!」

 

「おおっ!」

 

上段から振り下ろしてきた剣を、なのはを連れて雷速瞬道でその場から退避し距離を取る。

退避すると、なのはがチャージしていた魔力砲撃をフィル・マクスウェルに向けて解き放った。

 

「うぅぅ・・・・・・ああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「っ!」

 

なのはから放たれた魔力砲撃は辺りの建物類を倒壊、破壊してフィル・マクスウェルを襲った。

なのはの砲撃を間一髪の所で避けたらしいフィル・マクスウェルは眼下の状態を見て、ニヤリと不敵な笑みを再度出した。

なのはの手から離し、僕は片手剣形態の凛華を八双の構えを取り、周囲に魔力球を展開させてフィル・マクスウェルを睨みつけるように、視線を鋭くして見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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終結へ向けて

 

〜夜月〜

 

 

「はあああああっ!」

 

私の両手に握っている二振りの皇剣による斬撃を受け、動かなくなるエクスカベータを見ながら私は周りを見た。

 

「うわぁ・・・・・・・。まだいるね」

 

数は減ってきていると思うけど、それでもまだかなりの数がいた。

 

〈こりゃ、マスターの魔力が先に尽きる方が速いか?〉

 

「いやいや。ソラ。私の魔力はまだ十分あるからね?」

 

ソラの言葉に笑って返すと。

 

〈それはそうですけど、このままじゃ、物量で圧されます〉

 

戦況を分析しているイリアが心配そうに言った。

まあ、確かに私自身一人でこのままだと圧されるかなと思うけど。

そう思ったその瞬間。

 

「───っ!?」

 

〈なっ!?なんだ、この魔力!?〉

 

凄まじい魔力の衝撃を感じた。

 

〈この魔力・・・・・・零夜くんのです!〉

 

「え・・・・・・!こ、この魔力、レイくんのなの!?」

 

イリアの言葉が信じられなかった私は思わず聞き返した。

この感じる魔力比は私の保有する最大値のはるか倍以上だったからだ。

 

〈おいおい・・・・・・。なんだよこの魔力。こんなの、個人で出せる魔力を超えてやがる!〉

 

〈はい。夜月ちゃんでも、ここまでは・・・・・・・!〉

 

ソラとイリアが驚く中、私は分かってしまった。

これはレイくんが努力して得た能力だと。

明莉お姉さんから貰った転生特典だけではここまではならない。なら、これは努力して得た能力。血反吐の滲む、今まで研鑽してきた成果。普段でも十分脅威なのに。

 

「ソラ。イリア」

 

〈ん?〉

 

〈はい?〉

 

「私も全力でやることにするよ」

 

二振りの皇剣。黒皇剣ジュデッカと赫皇剣カイーナの柄を握り締めながら、私は魔導書の二人に告げた。

止められるかと思ったけど。

 

〈・・・・・・だと思ったぜ〉

 

〈はい。夜月ちゃんのことだからそう言うと思ってました〉

 

その予想は外れて、二人とも予期していたのかと言うような感じで返した。

そんなに私って分かりやすいのかな?

 

「コホン。それじゃあ───!」

 

呼吸を整えて、意識を集中させる。

周囲の魔力(マナ)を自身に取寄せる。魔力を高め───。

 

制限解除(リミッターリリース)!」

 

自らに施していた制限を解除する。

 

「さあ。いくよ!」

 

そう言うや否や、瞬く間に私は周囲のエクスカベータが殲滅させて行った。

ある個体は、絶滅天使(メタトロン)の砲撃や刻々帝(ザフキエル)の銃弾で穴だらけになり。またある個体は囁告篇帙(ラジエル)の記載によって動きを見切られ、破軍歌姫(ガブリエル)の音によって動きを封じられ、贋造魔女(ハニエル)の物質変換によってまったく別の物に変えられ。またある個体は氷結傀儡(ザドキエル)の氷と灼爛殲鬼(カマエル)の炎によって追極消滅し。またある個体は颶風騎士(ラファエル)の颶風と矢によって動体を貫かれて地に伏し。またある個体は封解主(ミカエル)によって空間を抉られ、抉られた部分ごと崩れ落ち。またある個体は鏖殺公(サンダルフォン)の斬撃で真っ二つに断ち切られた。そして───。

 

雷霆聖堂(ケルビエル)───《滅殺皇(シェキナー)》!」

 

制限解除によって、限定的だけど行使することが出来るようになった雷霆聖堂の、滅殺皇によって放たれた雷霆によって、残った全てのエクスカベータは破壊された。

 

「ふぅ。終わった終わった〜」

 

行使していた天使をすべて戻し、大きな息を吐いた。

 

「さすがに、全同時使用(マルチオーバー)の天使の行使は疲れるなぁ〜」

 

天使の多重行使の余波影響で、周囲の建物は完全に崩れていた。いやー、結界内で良かった〜。

そう思っていたところに。

 

〈なあ、マスター〉

 

「んー?」

 

〈別にコイツら、刻々帝の《4の弾(ダレット)》か、贋造魔女の《千変万化鏡(カリドスクーペ)》。封解主の《(セグヴァ)》で十分だったんじゃね?〉

 

ソラの、今更のような感じの疑問が来た。

そのソラの言葉に私は「あ」、とそうすれば良かったと思い返した。

確かにそれらを重点的に使えば簡単だったかもしれない。

 

〈ったく、マスターといい、零夜といい・・・・・・。なんで、この二人は火力重視なんだ?〉

 

〈まあ、確かに火力がかなり高いですよね二人とも〉

 

呆れたよう言うソラに対して、苦笑して言うイリア。

た、確かに私自身火力重視かも、って思ってるけど・・・・・・。べ、別に、火力だけじゃなくて、防御も、機動力も、器用も高いよ?!

 

〈火力だけで言うなら・・・・・・どっちだ?〉

 

〈え、えーと・・・・・・どっちもどっち。ですね〉

 

確かに、攻撃系天使である鏖殺公(サンダルフォン)絶滅天使(メタトロン)灼爛殲鬼(カマエル)颶風騎士(ラファエル)の必殺の一撃はかなり強力だし。二振りの皇剣による斬撃は言わずがな。他にも、ソラの紅星峻厳柱(スカーレット・ゲブラー)をはじめ、堕ちた天使の祝福(ダウンフォール・ブレッシング)聖天使の極光爆(セラフィカル・ライトブレイクス)等といった、魔法も強力だ。まあ、他にも色々あるけど。

もっとも、これでもレイくんの戦星級魔法の千の雷(キーリプル・アストラペー)千年氷華(アントス・バゲトゥ・キリオン・エトーン)輝煌天槍(グロリアスレイ)等々。他にも強力な剣技(ソードスキル)やオリジナル剣技術である天陽流もある。正直言って、ここまで強い、チート級な人見た事ない。まあ、レイくんの師匠とも言える人達が、弓月姉さまと同じ人たちだからな〜。私も、弓月姉さまが師匠だけど。いやー、今にしても、弓月姉さまの鍛錬はキツかったよ。だって、実践訓練込みの鍛錬だからね〜。

そんな事を思い返していると。

 

「ん?」

 

〈なんだ?〉

 

〈これは・・・・・・〉

 

少し離れた場所から巨大な魔力が四つ・・・・・・いや、二つ離れたから二つの魔力反応が確認できた。その内の一つはユーリちゃん。もう一つは───。

 

「この魔力、ディアーチェちゃん?あれ、でも、シュテルちゃんとレヴィちゃんの魔力も感じるけど───あ」

 

そこで私は思い出した。

 

「そう言えば最後はああだった。すっかり忘れてたよ。あれ?でも、シュテルちゃんとレヴィちゃんの魔力反応、小さいけどちょっと遠くから感じる・・・・・・あぁ、もしかして」

 

そこで私は一つの予想が頭に浮かび上がった。

それは、シュテルちゃんとレヴィちゃんがまだ元の猫ではなく、ヒトの形を取っていることだ。ディアーチェちゃんたちは、魔力によってヒトの形を取っている。魔力が全て無くなれば、ヒトの形を保てなくなり、元の猫の姿になる。つまり、魔力さえあれば問題ないということだ。もっとも、魔力はもうわずかだと思うけど。

 

「(レイくんがある程度二人に魔力を譲渡したけど・・・・・・大丈夫なのかな・・・・・・)」

 

そんな不安を抱きつつ、私は頭上で繰り広げられてる喧嘩。もとい、キリエちゃんとイリスの戦いを眺めたのだった。

 

〜夜月side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜はやてside〜

 

 

「───なんやこれ・・・・・・。どんどん増えとる」

 

〈目視範囲の敵の数、百を超えてます!〉

 

「地上と空。両方って・・・・・・」

 

「これはちょっとキツいかも・・・・・・」

 

零夜くんたちと分かれた私とユニゾンしてるリイン、アリサちゃん、すずかちゃんは今も尚増え続けてる地上戦力のエクスカベータやその飛行型機動外郭を相手に背中合わせに戦っていた。目視できる範囲でも、その数は百をゆうに超えている。

 

「大型はウロボロスで消し飛ばせるやけど、中型や小型は・・・・・・」

 

「私たち三人だけじゃ足りないかも・・・・・・」

 

「それでもやるしかないわ!」

 

遠距離からの魔法を放つ私ら。

私はリインの支援を受けて地上にクラウ・ソラスを放ち、アリサちゃんはデバイスのフレイムハートを遠距離砲撃形態の《アーティリフ》で次々と航空戦力を撃ち落としていき、すずかちゃんはデバイスのスノーフェアリーを遠距離形態の《アイシクルコーラ》で私とアリサちゃんの援護をしてくれる。

が、それでも数は多すぎて、

 

「くっ・・・・・・。ちょっとヤバいかも」

 

私たちはかなり追い詰められていた。

冷や汗が背中を伝う。そこに───。

 

「「合技!───双魔極滅(ダブルデリート)!」」

 

「───氷炎刃の雨(エッジズレイン)!」

 

「───純白の暴嵐(ホワイトハリケーン)!」

 

「───ノヴァ・ストライク!」

 

 

四つの魔法と五人の声が響き渡った。

 

「「「っ!!?」」」

 

突如として訪れた魔法と声に驚く中、私らの目には次々と破壊されていく機動外郭郡が映った。

ある場所では空間が抉り取られたのかというほど、そこにいた機動外郭が消え、また別のところでは炎と氷の刃のような雨に穿かれて穴だらけになって地に伏す機動外郭。またまた別のところでは、純白の暴風が空の機動外郭を飲み込み崩壊させていき。別のところでは斬撃により切り裂かれて下に落ちていく機動外郭があった。

突如として訪れたことに目を見開く私らの耳に、五つの声が入った。

 

「さすがに数が多いわね」

 

「ですが、今ので大半が消し飛ばせましたわ」

 

「うわぁ〜。凄いね澪奈ちゃんたち」

 

「もちろん!だって私たち零夜くんの相棒だもん!」

 

「マスターの為に全力で参ります」

 

五人の内、三人は聞き覚えのある声だが、残り二人の声は聞き覚えが無かった。

 

「あ!はやてちゃーん!すずかちゃーん!アリサちゃーん!」

 

声のした方を向くと、そこには五人の少女たちが空を飛んでいた。

 

「れ、澪奈ちゃん!?紅葉ちゃんに星夜ちゃんまで!」

 

その内の三人は零夜くんのデバイスだ。零夜くんのデバイスの四つは私らと同じように人型になる事ができる。そして、四人の潜在能力は零夜くんに匹敵する程だ。

 

「お待たせしましたわ」

 

「いや、かなり助かったんやけど・・・・・・」

 

遅れたことに謝罪する星夜ちゃんにそう言いつつ、私ら三人は星夜ちゃんたちと一緒にいる二人の少女に目を向けた。

 

「あ、あのー。その二人はどちら様?」

 

アリサちゃんが尋ねると。

 

「ん?あ、ごめんごめん!まだ自己紹介してなかったわね」

 

長い朱色の髪を靡かせ、細身の片手剣の形のデバイスを腰に挿した少女が私らに言う。

 

「私の名前は緋愛神華蓮(ひめがみかれん)。零夜の幼馴染よ。そして、こっちが」

 

「何時もれー君がお世話になってます。れー君・・・・・・零夜くんの姉の天ノ宮愛菜美(あまのみやまなみ)です」

 

朱色の髪の少女に続いて、長い蒼い髪の少女が私らにそう言った。

その名を聞いた私らは驚愕に目を見開き、すずかちゃんとアリサちゃんは声を少し高くして言う。

 

「れ、零夜くんの幼馴染!?」

 

「零夜のお姉さん!?」

 

声には出さないけど、私も二人と同じ気持ちだった。すると。

 

「あ。はやてちゃん!」

 

愛菜美さんが手を振って近づいてきた。

 

「久しぶり・・・・・・なのかな?こうして面と向かって話すのは初めてだね」

 

「は、はい。お久しぶりです、愛菜美さん」

 

「うん。リアルで会えて嬉しいよ〜」

 

愛菜美さんはほんわかとしていて、さすが零夜くんのお姉さんなだけある。どことなく零夜くんと似ている。

私がそう思っていると。

 

「久しぶりってどういう事よはやて」

 

アリサちゃんが怪訝な表情で聞いてきた。

私がアリサちゃんの問いに答える前に───

 

「お話はそれまでですわみなさん」

 

星夜ちゃんが真剣な声で遮った。

 

「私が指揮を取ります。まずはやてちゃんはリインちゃんとともにウロボロスの発動準備を。アリサちゃん、すずかちゃんは華蓮さん、澪奈ちゃんとともにそれぞれ機動外郭の対処を。紅葉ちゃんと愛菜美さんは遠距離から援護とはやてちゃんのサポートを。間も無くシグナムさんたちも来るそうなので、それぞれ無理はしないようにして各個対処してください」

 

『『『了解!』』』

 

星夜ちゃんの指示に従い、私らはそれぞれの対処を始めた。

私がウロボロスのチャージをしている中、アリサちゃんは得意の炎系統魔法で、M・M(ムンドゥス・マギクス)式とミッド式を使い。すずかちゃんは氷や水系統の魔法でアリサちゃんと同じくM・M式とミッド式を多用して、澪奈ちゃんは身体強化魔法を付与して高速で動いて機動外郭を切り刻んで行く。紅葉ちゃんは私の近くから空戦戦力に向かって炎と氷などの複合魔法を放ち撃破していき、星夜ちゃんは指示を出しながら、数十機の小型砲撃機を操作して的確に破壊していく。

そして華蓮さんと愛菜美さんはというと。

 

「───アイシクルネイル!」

 

「───ファイアボルト!」

 

華蓮さんは細身の片手剣を操りながら魔法を放つ、魔導剣士として次々と機動外郭を破壊し。愛菜美さんは多種多様の魔法を連続して繰り出し、時たまに接近戦でデバイスの細剣を使用する。正直言って、凄いとしか言えない。華蓮さんは、シグナムのような達人の腕前では無いものの次々と機動外郭を斬り、鋭い魔法を放つ。愛菜美さんは細剣の腕は素人さながらながら多種多様な魔法を繰り出していく。

まあ、この中で一番すごいのは。

 

「紅葉ちゃん、四時方向に敵影二十!澪奈ちゃん、八時方向敵数増大!対処を!」

 

「わかりました!」

 

「任せて星夜お姉ちゃん!」

 

「アリサちゃん、敵を追いすぎないで下さい!すずかちゃん、アリサちゃんの援護を!」

 

「ええ!」

 

「うん!」

 

指示を絶え間なく出す星夜ちゃんだ。

 

「はやてちゃん、ウロボロス発動までの時間は?」

 

「あと100秒程や!」

 

「了解しましたわ。シグナムさんとヴィータちゃんは飛行戦力の破壊をお願いします!」

 

「ああ!レヴァンティン!」

 

「おうよ!アイゼン!」

 

《 《Jawohl!》 》

 

「シグナム!ヴィータ!」

 

いつの間にか援護に来てくれたシグナム達にも星夜ちゃんは的確に、素早く指示を出す。

 

「シャマルさんとザフィーラさんは対空兵装の破壊を!」

 

「任せて!」

 

「ああ!」

 

星夜ちゃんの指示によって、シャマルとザフィーラは地上に配置されていた対空兵装をひとつ残らず破壊して行った。

 

「軍隊イリスの生産拠点の制圧は?」

 

「クロノ支局長が制圧して行ってる。間も無く全て制圧完了になるはずだ」

 

「了解しましたわ。各員、はやてちゃんのウロボロス発動までの時間稼ぎをお願いしますわ!」

 

『『『了解っ!!』』』

 

「はやてちゃんはウロボロス発動に集中を!」

 

「了解や!」

 

私は星夜ちゃんの言葉に力強く頷き、リインとともにウロボロスのチャージをしたのだった。

ウロボロス発動まで、残り、約80秒。

 

 

 

 



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時を超えた想いと感謝

 

〜アインスside〜

 

 

「ユーリ・・・・・っ!」

 

主はやてと別行動を取ってる私は、ユーリの魔力反応を追い掛けて飛んでいた。途中多少の障害があったが、元夜天の書管制融合機であった私の前には意味をなさない。現在は主とのユニゾンする機会は無くなり、主とのユニゾンは妹のリインが担っている。

本来ならば、私はここにいないはずだが、それを闇の書であった夜天の書の防衛プログラムのナハトヴァールの意識体───聖良がプログラムを書き換え、自身を闇の書の情報管制端末にしたため私や守護騎士たちは消滅することなく今もこうして主と共にいる。そして、私たちを救ってくれたのは他の誰でもない、主の想い人である零夜だ。零夜は主や私たちだけでなく、聖良をも救った。そして、時間を逆行するという神にも等しい魔法を使って、夜天の書を闇の書としてなる前に戻し、それだけでなく防衛プログラムの存在自体も破壊した。

聞くところによれば、フェイト・テスタロッサの実姉であるアリシア・テスタロッサを生き返らせたのも、ガンにより余命僅かのプレシア・テスタロッサを救ったのも零夜だという。

プレシア・テスタロッサのガンだけならば夜天の書でも何とかなると思う。だが、既に死んでいたアリシア・テスタロッサを生き返らせたのはさすがの夜天の書でも不可能だ。夜天の書は大抵のことは出来るが、それでも【時間に干渉すること】と【生命操作】、【死者の蘇生】は不可能なのだ。アルハザードの技術ならば可能かもしれないが詳細は不明だ。なにせアルハザードとは『失われた都』なのだから。

ハッキリ言ってしまえば、零夜という存在は規格外と言えるだろう。彼の所持する特殊固有武装(アーティファクト)は一つ一つが特一級品の魔道具だ。それを数十・・・・・・いやそれ以上かもしれない。そんなのを保持して行使するだけで有り得ないとしかいいようがない。

さらに彼の使う魔法。あれはミッド式やベルカ式とはまったく違う未知の魔法だ。術式もそうだが、威力や速度、性能など全くもって遥か上を行ってる。それをあの零夜が使うのだ、能力は半端ない程だ。

もっとも、彼の力の源や、彼が何者なのかはあの時、零夜の保護者である女神に教えて貰ったのだが。

だが私は、それだけではあそこまで強くはなれないだろうと感じていた。闇の書の管制融合機として幾数百年の時を過ごし、様々な魔女や魔導師を見てきたが、大抵の人間は強大な力を保持すると、それに溺れてしまい努力を劣らせてしまう。中にはそれでも努力を惜しまず続けて行った者もいるが、そんな者十人にも満たない。零夜はあの神物から力を授かったが、零夜はその努力を怠らなかった。そして、零夜は今に至る。

時空管理局の最年少の左官になり、伝説の三提督───統幕議長直属の部隊を率いて多大な成果を上げ、特務三佐の地位を得た。もっとも、ここまでなるとは零夜も予想外だったようだが。そして星戦級魔法魔導師としての称号。

もしかしたらはじめて出会った。あの微睡みの時の中での会合の時から、私は零夜がどういう人間なのか分かっていたのかもしれない。まあ、零夜からしたらあの時がはじめてなのだが、私は魔導書の中からずっと見てきていたからな。主はやてと零夜の馴れ初めからあの時まで、ずっと。主はやてと親交のあった人間はそう多くない。すでに他界されてしまった主はやてのご両親。現在も親交を持つ主治医の石田女史。それと主の叔父ギル・グレアムとリーゼロッテ姉妹。そして零夜。この中でご両親以外に主はやてとの時間が多いのは断トツで零夜だ。その次に石田女史、ギル・グレアムらと来る。

同年代という事もあったのだろう。主と零夜はすぐに打ち解け、よく一緒に過ごす事が多くなった。買い物から生活まで、泊まることもあった。私が零夜にまずはじめに送りたいのは、ありがとう、の言葉だけだ。零夜のお陰で、主は一人ぼっちでは無かった。魔導書から見ていても、主の気持ちは何となく感じ取れた。ま、まあ、主の他にも高町なのはやフェイト・テスタロッサ、アリシア・テスタロッサ、アリサ・バニングス、月村すずかなどが零夜に好意を抱いているようだが・・・・・・その肝心の零夜はまったく気付いてないというのだ。無自覚にも程があるとしか言えないのがここ最近の悩みの種だ。というか、彼女達の親は誰が零夜とくっつくか楽しみだと、以前話で話題に上がった程だ。まったく。罪な男だな。

そんな訳で、私は主はやての許可・・・・・・というより、零夜の指示でユーリを止める役を務めていた。基本的には主であるはやての指示が第一なのだが、私の中では零夜の指示も主はやてと同等の権限を持つのだ。守護騎士たちも零夜の指示には積極的だしな。まあ、零夜はあまり指示とか出さないんだが・・・・・・(非常時や任務などの時を除いて)

 

「見つけたぞ・・・・・・!」

 

索敵で探っていた所に、テスタロッサ姉妹を追い掛けてるユーリの魔力反応を探知した。

 

「絶対に助ける・・・・・・!闇の書との因縁はこれで終わらせてやる!」

 

私たちと闇の書の因縁をこれで終わらせる為、私は零夜から渡されたある黒銀のカードを取り出す。

 

展開(アクティブ)!」

 

黒銀のカードが光り、そこから一冊の本が現れる。さらに、私の背中から黒銀の三対六翼の翼が顕現した。

月雫武装(ルナティアルウェポン)、《月夜の黒銀翼書(ザ・アルニグルムノクティス・ルナアーリス)》。魔導書型の武装だ。

正直に言うと、この武装はかなり凄い。

開発者が零夜と桜坂夜月という最強タッグだからか、これは現存するどのデバイスより、何世代も上に位置すると言ってもいいほどだ。しかも使い勝手がいい。馴染むという言葉だけでは、とても言い表せない。

 

「ふむ・・・・・・。こうか・・・・・・・」

 

魔導書から一振りの流麗な黒銀の剣を取り出しそれを右手に握る。

予めこれがどういう武装なのか説明は受けていたが、実際にこうして行使して驚嘆する。

 

「よし・・・・・・・」

 

剣のグリップを握り、私はさらに速度を上げる。

速度を上げたものの数分で、私はテスタロッサ姉妹とユーリ、そしてディアーチェと遭遇した。

 

「ユーリを助けるのは貴様一人だけではないぞディアーチェ」

 

遭遇した私は、テスタロッサ姉妹に向かって「ユーリの相手は我に任せよ」と言ったディアーチェにそう告げる。

 

「貴様は・・・・・・」

 

「「アインス!」」

 

「テスタロッサ姉妹は零夜と我が主はやての救援に向かってくれ。ここは、私とディアーチェが引き受ける」

 

「で、でも・・・・・・」

 

「二人でなんて無理だよ!」

 

そう言う二人に、ディアーチェは。

 

「我は一人ではない。シュテルとレヴィもいる。それに───」

 

「安心しろ。これは私の役目でもある」

 

視線をこっちに向けてきたディアーチェに、剣のグリップをさらに強く握りしめて言う。

そう、これは私の役目でもあるのだ。初代夜天の書の管制者として。そして、ユーリの友として。

 

「それにな。今の私は、ユーリを一人で相手にしても負ける気なぞ、微塵もないぞ!」

 

そう言って、私は《月夜の黒銀翼書》を開き、パラパラと頁を捲り。

 

「───来たれ氷精。爆ぜよ風精!氷瀑(ニウィス・カースス)!」

 

M・M式の風氷複合魔法、《氷瀑》をユーリに向かって放った。

 

「───っ!」

 

ユーリは咄嗟に後退して退避したが僅かに氷瀑の影響を受け、展開していた装甲腕部に氷が張り付いた。

 

「今のは───!」

 

「氷瀑!?」

 

テスタロッサ姉妹が驚いた顔で見てくる。

 

「二人とも、私が元はなんだったのか忘れたか?」

 

「「っ!!」」

 

私は元は夜天の書の管制融合機だ。そして聖良は元ナハトヴァールの意識体。聖良の使える魔法が、私に使えないはずない。と言っても、新たな魔法は使えないが。しかし、すでに記録されてる魔法は行使できる。まあ、M・M式に関しては《月夜の黒銀翼書》の助けもあるが。

 

「というか助けが必要なのは、なのはや子ガラスたちの方だろう」

 

私の《氷瀑》に「ほう・・・」と言ったディアーチェの言葉にテスタロッサ姉妹は思案な顔を浮かべる。

 

「行ってやれ。ここは我らが受け持つ」

 

「主たちを頼む」

 

ディアーチェと私がテスタロッサ姉妹にそう言うと。

 

「うん。わかった」

 

「気をつけてね。ディアーチェ、アインス」

 

そう返してきた。

 

「ああ」

 

「無論だ」

 

二人の心配して掛けてきた言葉に私とディアーチェは同時に言う。

私とディアーチェの言葉を聞いたテスタロッサ姉妹は、姉のアリシアは主はやてたちの方に。妹のフェイトは零夜と高町たちの方に向かって飛んで行った。

 

「さて───聞け、ユーリ!」

 

テスタロッサ姉妹が行ったのを見たディアーチェが凛々しく声を出す。

 

「シュテルとレヴィから受け取った力でお前を助ける!もう少し辛抱しておれ!」

 

「───!ディアーチェ・・・・・・ッ!」

 

「それに癪だが・・・・・・彼奴から渡されたこれもお前を助けるために使おう!」

 

ディアーチェが取り出したのは一枚のカードだ。

そのカードは、紫天の色をしていた。そのカードは零夜が持っていた星霊武装(アストラルウェポン)の待機形態のカードだ。

 

「我が願いに応え、来たれ!」

 

そう叫び、カードを頭上に突き上げるとカードが光り輝き、ディアーチェの背に元からあった小さな翼に加え、紫天に輝く翼が現れた。

 

「───三星の煌奏翼(トリニティ・ハーモニクスステラ)!」

 

ディアーチェが終の言葉を口走ると、ディアーチェの魔力が高まったのを感じた。

 

「ディアーチェ、私も居ることを忘れるな」

 

「わかっておる。行くぞアインス。ユーリを助けに!」

 

「ああ。行くぞディアーチェ!」

 

私とディアーチェは同時にユーリに接近し、ユーリの動きを止める。

 

「はあああーっ!」

 

「せあああーっ!」

 

「───ッ!」

 

私とディアーチェの同時攻撃を、ユーリは展開している腕部で受け止め、跳ね返した。

 

「───っ!」

 

「おのれっ!───高まれ、我らの魔力!」

 

ディアーチェがそう高々に叫ぶと、ディアーチェの背中の紫天の翼に眩い輝きが走り。

 

「っ!?これは───!魔力が・・・・・・!」

 

ディアーチェの魔力がさらに高まったのを感じた。

どうやら、周囲に拡散されてる魔力残滓を紫天の翼から吸収しているようだ。

さらに包み込むように、紫天のオーラがディアーチェを覆った。

 

「なら私も───!」

 

ディアーチェを見た私は、私も負けじと。

 

「《月夜の黒銀翼書》よ。私の願いを叶えて欲しい。友を救うために・・・・・・!」

 

そう言うと、私の願いを聞き届けたのか《月夜の黒銀翼書》から猛々しい魔力が溢れ出た。

私もディアーチェと同じく、黒銀のオーラが体を覆った。

 

「ディアーチェ・・・・・・!黒羽・・・・・・!」

 

それを見てユーリは、絞り出すような声で言う。

 

「二人とも、やめて下さい!これは私がなんとかします!だから───!」

 

「バカものが!今の貴様の状態で何ができようか!」

 

「私は!もう誰にも!黒羽に!ディアーチェ、シュテル、レヴィにも!苦しんでほしくないんです!!」

 

「ユーリ!私はもう大丈夫だ!私は君にたくさん助けられた!だから、今度は私がユーリ。君を助ける番だ!」

 

「ッ!あああぁぁぁあああああああっ!!」

 

「ディアーチェ!」

 

「ああ!力を借りるぞ、シュテル、レヴィ!」

 

絶叫を上げながら振りかぶって来たユーリの腕部を、ディアーチェは左手に出したシュテルのブラストクロウで受け止め、ゼロ距離砲撃を放ち、ユーリの右腕部を破壊する。

 

「させるか!」

 

ユーリから放たれた魔法を、私は次々に相殺する。

 

「うぐっ!───っ!」

 

「はあああああああっ!」

 

再び繰り出した左腕部を、ディアーチェは今度は右手に握ったレヴィのバルフィニカスのスラッシャーの一撃で破壊する。

 

「っぐ!」

 

「はあああああああ!───闇の雷!」

 

《月夜の黒銀翼書》の頁をユーリの周囲にばら撒き、ユーリの動きを阻害して、頭上から漆黒の雷がユーリに降り注いだ。

 

「ああああぁぁぁぁぁあああああああーーっ!!」

 

私の闇の雷に続いて、ディアーチェが漆黒の槍を連続で放つ。

悲鳴を上げるユーリに心苦しくなりながら、私はディアーチェと同時にユーリをバインドする。

 

「───ッッ!!?」

 

「これで終わらせるぞディアーチェ!」

 

「ああ!」

 

私とディアーチェは足下にベルカ式の魔法陣を展開させ、同時に魔力を上げていく。

ディアーチェの前には黒、朱、蒼の三つの魔力球が。

そして私の前には、白桃色の魔力球が。

 

「咎人たちに滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ」

 

周囲に拡散してる魔力を掻き集め、収束する。

ディアーチェも全魔力をそれぞれの魔力球に集めていた。

 

「聞けユーリ!シュテルとレヴィから預かった力・・・・・・そして、我が魔力のすべてをこの一撃に込める、必ず貴様を救ってみせる。あともう少しだけ辛抱しておれ!」

 

「───っ!ディアーチェ、ダメです!そんなことしたら・・・・・・!黒羽もやめて下さい!」

 

「悪いがそれはできない!」

 

「もとより拾った命と仮初の力。お前の涙を止められるのなら投げ捨てたとて、悔いは無い!貴様がくれた、心と命は。貴様とともに過ごせた日々は・・・・・・誠に。幸福であった!」

 

「───!」

 

「故に今度は、我らが貴様の明日を切り開く!」

 

「私たちがユーリ。君の未来を切り開いてみせる!」

 

「っ───ディアーチェ!黒羽!」

 

「我らが渾身の恩返し!受けとれぇぇぇぇえーー!!!」

 

「闇を打ち砕け、星々の輝き!スターライト・・・・・・ブレイカァァァァーー!!」

 

私の渾身の集束魔力砲、高町なのはの代名詞であるスターライトブレイカーとディアーチェの強大な砲撃はユーリに向かう間にも、辺りの建造物やらを破壊していき、ユーリを呑み込んだ。

やがて、私とディアーチェの砲撃により、私たちをも包み込むような爆発が起きた。

 

「っぐ!」

 

全魔力を集束砲に回した私にその爆発の余波を防ぐことは出来ず、私とディアーチェは爆発の余波に巻き込まれて行った。

私とディアーチェがユーリに全力の魔法を放ってからそう時間が経たず、やがて───

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

息を整えながら目を開けると、私を黒銀の薄い膜が覆っていた。

 

「これは・・・・・・」

 

黒銀の膜が私を守ったのか、私自身には大してダメージは無かった。しばらくして私を包んでいた黒銀の膜は消え去り。

 

「ユーリとディアーチェは・・・・・・」

 

爆煙による煙が少し晴れた、辺りが更地となってる周囲を見渡す。

我ながら凄まじいといえる。先程のディアーチェの砲撃は、闇の書事件の終わりの際に放った零夜、主はやて、高町なのは、フェイト・テスタロッサの四人のフォースブレイカーに匹敵する程だ。もっとも、今の零夜なら単独でこのくらい放てると思うが。

 

「ディアーチェ!黒羽!」

 

全魔力を使い切り動けずにいるところに、ユーリの悲鳴じみた声が聞こえてきた。

どうやら洗脳は解けたようだ。

 

「元に戻ったかユーリ」

 

「黒羽・・・・・・!」

 

「黒羽か・・・・・・。懐かしいなその呼び名は。今はリインフォース・アインスという名を主より賜ってな、出来ればアインスと呼んでくれ」

 

「アインス・・・・・・。そうなんですね、あなたが無事でなによりです・・・・・・!」

 

涙を浮かべてユーリは言う。

ユーリは私の記憶の中にあるのと同じで、優しくて、少し涙脆くて、健気。そしてなにより、人の生命の重たさを尊んでいる。

 

「ユーリ・・・・・・」

 

涙を浮かべるユーリを優しく撫でる。

ようやく煙が全て晴れると、すぐ傍にディアーチェが私の時と同じく、紫天の膜に覆われたディアーチェが横たわっていた。幸いにも、ディアーチェからは微量な程の魔力を感じた。どうやら、ディアーチェの背の紫天の翼が周囲の空間の魔力リソースを吸収したから見たいだ。

 

「ディアーチェ!」

 

ディアーチェを見たユーリは急いでディアーチェに駆け寄った。

 

「ディアーチェ・・・・・・!こんな・・・・・・!」

 

ユーリが近づくと、ディアーチェを護っていた紫天の膜は消え、ディアーチェがその場に横たわる。その傍に一枚のカードがポトっ、と落ちた。

 

「恩返しなんて・・・・・・!私の方が、たくさんの幸せを貰ったのに・・・・・・!」

 

涙ながらに紡ぐユーリ。

私は、ユーリとディアーチェに回復魔法を施しながら傍に座る。

すると。

 

「ディアーチェ・・・・・・!」

 

「泣くでない・・・・・・ユーリ・・・・・・」

 

ディアーチェが朧気に目を開け、右手をユーリの頬に添えた。

 

「単に我の魔力が尽きただけの事・・・・・・元よりこの体は仮初。気にすることは無い」

 

「ディアーチェ・・・・・・」

 

「ふっ・・・・・・。あとは任せても構わないな、アインス」

 

「ああ。ゆっくりと休めディアーチェ」

 

そう言うとディアーチェは再び瞼を閉じ、眠りについた。どうやら休眠状態になったようだ。

 

「ありがとう、ディアーチェ・・・・・・!シュテルとレヴィも・・・・・・!」

 

涙を流しながら言うユーリを見ながら、私は救援の部隊に連絡して、この戦いが終わるのを待った。

 

「(申し訳ありません我が主。どうやら私はそちらに行けそうにありません)」

 

魔力が尽きかけている私では何も役に立たない為、私は主はやてに謝りながら空を見上げた。

 

 

 



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終幕への砲撃

 

〜零夜side〜

 

 

「なんだ・・・?なんなんだコイツらは!?」

 

動揺するフィル・マクスウェルに連続で魔法を放ちながらなのはとともに追い詰めていく。

けど。

 

「(なのはもそろそろ限界だ。いくら限界突破(リミットブレイク)を使っているとはいえ、さすがにこれ以上はなのはの身体がもたない!)」

 

飛びながら、レイジングハートをフィル・マクスウェルにぶつけていくなのはに僕はそう思考する。

現に、なのはの顔は少しだけ苦痛に歪んでいる。

 

「なのは、スイッチ!」

 

「うん!」

 

なのはと前後を交換してフィル・マクスウェルに強烈な一撃を食らわせる。

 

「はあっ!」

 

「っぐ!」

 

アインクラッド流細剣ソードスキル、リニアー。

魔力のON/OFFを切り替えて放つ、神速の一撃。

 

「雷よ!」

 

吹き飛ばされるフィル・マクスウェルに上空から雷を降らせて追撃する。

 

「ちっ!」

 

雷を高機動で避けるフィル・マクスウェル。

けど、それは予測していた。

 

「咲け、花たち!」

 

「っ!?」

 

周囲に散布していた魔力残滓が氷の花となり、フィル・マクスウェルを囲う。

 

氷華の牢獄(ウニヴェルソ・カルチェーレ)!」

 

氷の花々が広がり、フィル・マクスウェルを捕らえようとする。

 

「く・・・・・・っ!アクセラレイター・オルタァァァ!!」

 

「!」

 

しかしその直前に、フィル・マクスウェルは再びアクセラレイター・オルタを発動して、閉じる氷華の牢獄の隙間から逃れた。

 

「(やっぱりまだ改良が必要か)」

 

離れるフィル・マクスウェルを追いながら、氷華の牢獄を消してそう考える。

 

「はあああっ!」

 

「っ!一体、なんなんだコイツらの力は!!?」

 

動揺がさらに大きくなるフィル・マクスウェル。

まあ、確かに相手からしてみれば僕となのはは脅威だよね。

 

「なのは、まだいける?」

 

「大丈夫!まだ行けるよ!」

 

「───わかった」

 

なのはを見ながら僕は、片手剣形態の凛華を構えて。

 

「後ろは任せたよ!」

 

そう言った。

 

「うん!」

 

なのはのその声を聴きながら、僕はフィル・マクスウェルへと迫る。

 

「凛華、カートリッジロード!あれをやるよ!」

 

《わかりました!》

 

片手剣の凛華からガシャン!ガシャン!とカートリッジが排出され、魔力が増幅する。

 

「精霊の剣はまだ無理だけど・・・・・・。これなら!」

 

凛華に二つの術式が展開される。

 

断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)絶対切断(ワールドエンド)。これをひとつに結合する・・・・・・!」

 

フィル・マクスウェルとの距離は約二十メートル。

その間にこの二つをひとつの物として統合する。

 

「うおおおおーっ!」

 

体勢を建て直したフィル・マクスウェルが上段から剣を振り下ろしてくる。

距離を詰め。やがて───。

 

「はあああっ!」

 

「───ぜりゃあ!!」

 

「っ!」

 

後ろから飛んできたフェイトとともにフィル・マクスウェルの剣を弾き飛ばした。

 

「なにっ!?」

 

「ナイスフェイト!なのは!」

 

「うん!」

 

目を見開くフィル・マクスウェルの体をなのはがバインドし、僕も重ねがけるように戒めの楔(レージング)を掛け。

後方からアミタさんが狙い済ましたように、フィル・マクスウェルの武装を狙い撃ちして破壊する。

 

「凛華、聖良・・・・・・いくよ!」

 

《はい!》

 

〈うん!お兄ちゃん!〉

 

僕が凛華に予めしていた術式は、付与魔法じゃない。

ならそれはなにか?

その答えは───。

 

「なのは、フェイト!」

 

「「うん!」」

 

「───ホーネット・ジャベリン!」

 

「───エクシード・エストレア!」

 

なのはとフェイトがそれぞれのデバイスを上に掲げ、足元には二人の魔法陣が重なり合って構築されている。

そこに僕も加わり。

 

「───エンド・オブ・エクセクエンス!」

 

凛華の片手剣形態の刀身が伸び、その切っ先に巨大な魔力球が構築され、足元に多重魔法陣を描かれる。

 

「「ブラストカラミティー!」」

 

「カタストロフィブレイザー!」

 

僕となのは、フェイトの合体中距離殲滅集束魔力砲撃。『ブラストカラミティー』と『カタストロフィブレイザー』を同時に撃ち放つ。それはやがてひとつとなり。

 

「「「合技───カオスブレイカー!───ファイヤーー!!!」」」

 

ひとつの巨大な砲となった。

以前『カタストロフィブレイザー』を使った際は、凛華と星夜、澪華と一緒に放ったが、今回は凛華だけの単独で放った。では何故今回単独で放てたのか?それはさっきの術式が鍵だ。

さっきの術式は断罪の剣と絶対切断の効果やパワーなどを凝縮し、ひとつに統合したものだ。さすがについ今さっき(?)出来た精霊の剣は無理だったけど。

断罪の剣と絶対切断の能力の共通点は『斬撃』つまり切断だ。他にも、僕の断罪の剣にはあらゆる属性の付与や魔力吸収+放出らがある。元々断罪の剣は《固体・液体》の物質を無理矢理気体に相転移(フェイズトランス)した剣だ。【ネギま!?】では相転移しただけだったが、僕の場合は気体に相転移し凝縮した剣に魔力吸収と拡散の術式を挿入してある。理由は、周囲にある魔力残滓を吸収し、さらに自らの糧とするためと、拡散により、相手に悟られずに自分の支配下ある残滓をバラ撒けるからだ。拡散された残滓は、大気中に漂う。それを相手が視認や確認するのはほぼ無理に等しい。まあ、魔力探知に長けた者なら把握できるかもしれないけど、逆に把握しても回避するのはほぼほぼ不可能だ。なにせ、散布された大気中の全てが僕の攻撃範囲なのだから。といっても、まだまだ未完成だけどね。

そして絶対切断の能力は純粋に『斬』属性の極地。斬れないものはないという、イマジネーションによって刃を強化し具現化させてる。

そして、その二つをひとつに合わせ、強大なエネルギーを作り出し、それを撃ち放つ。それが僕の合体集束魔力砲『カタストロフィブレイザー』だ。

フェイトの気配を感じていたから出来たことだ。もしこれでミスったらちょっと面倒臭いことになっていたかも。

放たれたひとつに合わさった高魔力砲撃は一直線にバインドされ動けずにいるフィル・マクスウェルへと突き進み。

 

「ぬおっ!うおおおぉぉぉーーーっ!!」

 

フィル・マクスウェルを呑み込んだ。

そこに。

 

「「「はああああア!シューーット!!」」」

 

桃色と金色、白黒の小さな球体が僕らの周囲に現れ、そこから高密度の魔力レーザーが放たれた。

 

「うああああぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」

 

純粋魔力砲によって、フィル・マクスウェルの四肢は破裂し、フィル・マクスウェルは絶叫の声を迸らせる。そしてフィル・マクスウェルを中心点にして爆発を引き起こした。

爆心地から、ひとつの影が地面に落下して行くのを見ながら、僕たちはそれぞれのデバイスの構えをといた。

そこに。

 

『ウロボロスの発動準備まで残り三十秒!まだ退避してない味方各員は、すぐにウロボロス効果範囲内から離脱してください!』

 

星夜の指示する声が通信越しに伝わってきた。

やがて。

 

『ウロボロス発動します!はやてちゃん!』

 

『了解!ウロボロス、発動!』

 

結界に包まれた首都圏の空に純白の流星が降り注ぎ、機動外郭と量産イリスを包み込んだ。

ウロボロスの光に包まれた機動外郭らはバラバラになって消滅していった。

ウロボロスの光の柱が収まると。

 

『ウロボロス発動。範囲内の機動外郭、及び量産型の反応消滅を確認!』

 

との声が通信越しに聞こえた。

どうやら管理局の本部でも確認出来たようだ。

 

「こちら天ノ宮。首謀者、フィル・マクスウェルの撃破を確認」

 

僕も本部にフィル・マクスウェルの確保の連絡を入れる。

僕ら三人の合体中距離殲滅集束魔力砲『カオスブレイカー』を魔力ダメージとはいえ、かなりのダメージを負った。しかも四肢も断ち切られている為、動けるはずがない。

 

「フェイト、フィル・マクスウェルの捕縛を」

 

「うん。なのはは・・・・・・」

 

「なのはは僕がやっとくよ」

 

「うっ・・・・・・」

 

僕の言葉にビクンっとするなのは。

本来はお説教ものなんだけど・・・・・・。理由は言わずがな。

 

「お疲れなのは」

 

「え、えっと、その・・・・・・」

 

「うん?」

 

「お、怒ってない、の・・・・・・?」

 

「え、怒ってほしいの?」

 

「ううん!」

 

僕の問いに首を大きく横に振るなのは。

そこに。

 

「なのはさん!零夜さん!」

 

「アミタさん!体は大丈夫ですか?!」

 

アミタさんが飛んでやってきた。

アミタさんのあの援護射撃のお陰でフィル・マクスウェルの武器が破壊できたのだが・・・・・・。

 

「アミタさん、すぐに回復魔法掛けるのでちょっと待っててください。あ、なのはも掛けるから待ってて」

 

「あ、はい。お願いします」

 

「う、うん。お願い零夜くん」

 

この二人はほんと、自分を顧みずにやるもんだから怒りを通り越して呆れるしかない。

現に、アミタさんは足元がピクピク痙攣して、体力の限界は近いことが分かるし、なのははふらふらしてレイジングハートを支えに立っているような状況だ。

フェイトの方をチラリと見るが、フェイトは大丈夫そうで、下半身が無く、両手を失い、目も破壊されその場に機械の体部品を出すフィル・マクスウェルと話していた。

 

「聖良、なのはとアミタさんに回復魔法を」

 

「はーい!」

 

二人の治療を聖良に任せ、デバイス形態から人型に戻った凛華と話す。

 

「───身体の方は大丈夫なんですか?」

 

会口一番に凛華が僕にそう聞いてきた。

 

「特に問題は無いよ。これが終わったら、事後処理の書類や後始末の片付け。星霊武装と月雫武装のデータ処理とかかな。あ、あと、報告もか」

 

考えるだけでも頭が痛くなるほどの後始末の数々。

肩を竦めて言うと。

 

『クロノ支局長。天ノ宮特務官。こちらはオールストン・シーの捜索班です』

 

通信が開き、そこからオールストン・シーを捜索している局員から連絡が来た。

僕の所にまで連絡が来た理由は、単純に僕がクロノと同じだからである。

 

『はい』

 

「どうかしました?」

 

僕とクロノが連絡してき局員に聞くと。

 

『施設の一部が、奇妙な状態になっていまして・・・・・・。レール状の乗り物にも手が加えられています』

 

局員の声と、映像が映った。

映像には、オールストン・シーにあるジェットコースターの一部に手が加えられていた。

 

『今処理班が、中身を確認しています』

 

連絡してきた局員がそう言うと・・・。

 

『なっ!動き出した!?』

 

映像からひとつの乗り物がロケットの発射装置のようになってるレールの上を動きだした。

 

 

「───やめてくださいっ!!」

 

 

「ん?」

 

局員からの通信を見ていると、フェイトの声が通信越しではなく、直接聞こえた。

フェイトの珍しい大きな声に驚きながら耳を傾けると。

 

「間に合わないよ、なにも。空をごらん」

 

フィル・マクスウェルのそんな声が聞こえてきた。

 

「空?」

 

フィル・マクスウェルの声に疑問を持ちながら空を見上げた。

空を見上げると、特になにもおかしな──────いや、ひとつだけおかしな所があった。

 

「ねえ凛華。あんな明るい星・・・・・・あったっけ」

 

「いえ・・・・・・。あのような星はありません。しかも、今は曇っていて星は全く見えないはずです・・・・・・」

 

「だよね・・・・・・」

 

空の一点が、明るく光っていたのだ。

しかし、あんな明るい星を僕らは見たことない。

えっ。と、戸惑う僕らの耳に。

 

「この星にも衛星技術があってよかった。イリスがここを訪れる時に、種を仕込んでおいたのさ。イリスを生み出すための素材をね」

 

「衛星技術に種、素材・・・・・・?・・・・・・まさか!」

 

フィル・マクスウェルの言葉にハッとした僕は再び空に視線を向け明るい星の一点凝視する。

僕の予想が正しければ、あれは星ではなく───

 

「衛星砲だよ。今はちょうどここを狙える位置に来てる。小型だが、この街を吹き飛ばす位は容易い」

 

よりにもよって最後に最悪なモノが来た。

衛星砲は宇宙からの砲撃だ。しかもエルトリアの技術を使っているときてる。威力も、この街を吹き飛ばす位は容易いと言ってることから、フルチャージされた一撃は間違いなくこの街を・・・・・・いや、関東一帯の地形を変えてしまうほどかもしれない。

冷や汗を流しなが見上げていると、宇宙へと向かうロケットが見えた。どうやら、オールストン・シーから打ち上げられたものみたいだが。

 

「打ち上げは気にしないでくれ。宇宙にいる娘へのちょっとした差し入れだよ」

 

「あなたは!」

 

「取引といこう。ここにいる私とイリスとユーリ。三人をここから離脱させてもらいたい。そうすれば、ここにいる君たちとこの街のことは見逃そう。それを許さないのなら、この一帯に向けて衛星砲を撃つ。君自身の命が失われるのはもちろん。友達も家族もいるんだろう?」

 

「あなたも死にますよ!」

 

「死なないのさ。少なくとも。私の記憶と意思はね。五分あげよう。選択の余地は無いはずだが」

 

確かにフィル・マクスウェルは今僕達とこの街、そして人々の命を握っている。もし衛星砲が放たれたらとてもじゃないが、この街にかなりの影響が出る。

だが、その取り引きは成立しない。何故なら───。

 

「っ!なのは!?アミタさん!?」

 

フェイトとフィル・マクスウェルの会話からそう想っていたところ、なのはとアミタさんが空に上がったのが視えた。

 

『ごめんみんな!勝手に空に上がった!』

 

『なのはちゃん!?アミタさん!?』

 

『逆転なんて許しません!私たちが止めてきます!』

 

『危険だ!二人とも戻れ!』

 

通信を送ってきたなのはとアミタさんをはやてとクロノが引き止める。しかし、二人はそれを無視してさらに上がっていく。

 

「もう、あの二人は!聖良はフェイトに付いていて!凛華!」

 

「うん!気をつけてお兄ちゃん!」

 

「はい!」

 

聖良にフェイトを任せ、僕と凛華はなのはとアミタさんを追い掛ける形で空に上がる。

 

「なんで勝手に上がるのかな二人とも!」

 

悪態を吐きつつ、僕は凛華とともに空を駆け上がる。

 

「凛華、お願い」

 

「はい」

 

凛華が光ると、次には再びデバイスの片手剣形態の凛華がそこにいた。片手剣形態の凛華の握り手を掴んで、さらに速度を上げる。

さて、何故フィル・マクスウェルの取り引きが成立しないのかと言うと、それは彼の行動にある。彼は、イリスたちを使ってこの結界の外に出ようとした。それはつまり、結界から出なければ逃げられないからである。それは今宇宙にいる衛星砲への発射命令が結界内からは出せないという事だ。そして、さっき打ち上がったロケットの中身は恐らくフィル・マクスウェルの記憶のバックアップと結界内との通信を繋ぐ衛星だろう。もしロケットが届いたらそれこそ取り返しのつかないことになる。なるんだけど───。

 

「僕の限定した【質量消滅魔法】なら地上からでも撃てるのに」

 

なのはとアミタさんが宇宙(そら)に上がったため、これは使えなくなった。

僕の【質量消滅魔法】、《ディメンション・イクリプス・ゼロエミッション》をさらに改良し、離れた場所から対象の地点をマークしてその対象に向かって放てるようにしたのだ。けど、それにはその情報が必要になるに加え、場所の映像とのリンクが必要なのだ。そのため、この場合は本局で指揮をとってるレティ本部長から映像やデータを送ってもらわないといけないんだけど───。

 

「なのはとアミタさんが宇宙に上がったから無理か」

 

【質量消滅魔法】は威力を抑えたとしても、少なからず周囲に影響を与える。ましてや、周囲に人がいるとなると、使用は全くの他だ。【質量消滅魔法】は例え障壁を展開していようと、周囲の空間ごと消し去ってしまうから無意味なのだ。アルカンシェルと脅威でいえば、こっちの方が遥かに脅威だろう。なにせ、防御不可。あらゆる障壁は意味をなさず、カウンターも不可能。反転も不可。唯一、これを回避できるとすれば、それは距離を大きく取るという事のみ。もしくは、術者である僕の戦闘不能か同威力の消滅で対消滅することだけ。もっとも、後者のこれはほぼ不可能だけど。

思考しながらなのはとアミタさんを追い掛けていく。追い掛けながら、通信を開き。

 

「クロノ!クロノは地上をお願い。なのはとアミタさんは僕が!」

 

『待て零夜!高々度戦闘なら僕が!』

 

「クロノがそこを離れたら誰が指揮を執るの!それの高々度戦闘は僕の方が経験してる!僕の方が適材適所だ!それに、今からクロノが行っても間に合わない!」

 

『くっ・・・・・・。わかった。地上の方は任せろ。宇宙のほうは任せる!』

 

「了解クロノ!星夜、クロノのサポートをお願い!」

 

『かしこまりました!』

 

昇りながらクロノに地上を任せ、星夜にクロノのサポートを頼む。

やがて、先に行くなのはとアミタさんがロケットを破壊したのが見えた。

それと同時に───

 

「っ!」

 

「アミタさん!」

 

アミタさんに、宇宙から放たれた砲撃が腹部に被弾した。

 

 



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ReflectionとDetention

 

〜零夜side〜

 

「っ!」

 

「アミタさん!」

 

目の前で腹部を撃ち抜かれたアミタさんを見て僕は目を大きく見開いた。

今のは明らかに致命傷だ!

 

「アミタさん!」

 

「なのは、シールドを張れ!」

 

地上に落ちようとするアミタさんを抱き抱えたなのはに強い口調で言った。それと同時に、宇宙からアミタさんを撃ち抜いたのと同種の砲撃が僕らを襲った。

 

「くっ!最大障壁(バリエース・マーキシム)!」

 

魔法じゃないため、ハマノツルギは使えない。だから、現状最硬の障壁を多重展開してなのはとアミタさんの前に出て防ぐ。

 

「ぐっ・・・!?な、なんて威力の砲撃!」

 

一撃、一撃の砲撃の威力がバカ高い。

しかも、高々度上空の宇宙からの狙撃なのに、狙いが的確だ。さらに、僕の多重展開した障壁も幾つか破壊されてる。あいにく貫通はされてないが、破壊されたことに内心驚いていた。

 

「厄介だね。───術式解放(エーミッタム)時空の揺籃(クロノ・プレジディム)霧散(バニッシュ)!」

 

時空の揺籃・霧散で迫ってきたビーム砲撃を霧散させる。

ビーム砲撃が障壁に当たった瞬間、それを無しにさせる。つまり、あらゆる攻撃の無効化。それがこの時空間魔法に部類する、時空の揺籃・霧散だ。

時空間魔法は時間と空間に干渉して発動する魔法だ。時空の揺籃は防御系だ。攻撃系は・・・・・・また今度披露した時に話そう。まあ、時空の揺籃にも色々あるけど。

 

「なのは、アミタさんを見せて」

 

「うん」

 

なのはからアミタさんを見せてもらうと、アミタさんの腹部から血が流れ出ていた。重症だ。

すぐに回復魔法を施し。

 

「凛華、予定変更。アミタさんを地上の医療班。出来ればシャマルか夜月の所に連れて行って」

 

片手剣形態の凛華にそう言う。

予定では凛華を連れてなのは、アミタさんとともに宇宙の衛星砲をどうにかする予定だったのだが、アミタさんがここまで重症となると大きく予定を変更せざるを得ない。

 

「零夜くん一人で大丈夫なんですか!?」

 

人型になった凛華が慌てて聞いてくる。

 

「なのはがいるから大丈夫だよ」

 

「・・・・・・わかりました。それではアミタさんは私が責任をもって地上まで送ります」

 

「うん、お願いね」

 

アミタさんを零華にお願いし。

 

「なのは、いくよ」

 

「え、あ、うん!」

 

僕はなのはとともに宇宙に上がった。

 

「こんなに高い空を飛ぶのはなのはは初めてかな」

 

宇宙から次々とエネルギー砲撃が来る中、上に上がりながら僕はなのはにそう尋ねた。

 

「うん。初めてだよ」

 

「そっか。レイジングハート、なのはに生命維持フィールドを展開して」

 

No problem.(問題ありません)Already deployed around the master(既にマスターの周囲に展開してあります)

 

「さすがだね」

 

Thank you(ありがとうございます)

 

「こんな状況じゃなかったら快適な空の旅なんだけどねー」

 

「あははは」

 

僕の軽口になのはは笑みを漏らす。

 

「零夜くん。零夜くんは凛華さんがいなくても大丈夫なの?」

 

「ん?まあ、大丈夫だよ。一応僕の身体を生命維持フィールドに似た術式で展開した膜で包んであるし」

 

「すごいねほんと」

 

「いやいや。なのはの方が凄いから」

 

ほんと、なのはは凄いよ。

僕は明莉お姉ちゃんから貰った能力を使っているだけなんだから。

そう、自虐気味に心に漏らす。

 

「なのは」

 

「なあに?」

 

「今度さ、一緒に空の旅に行かない?」

 

「え・・・・・・。それって、私と零夜くんの二人だけで?」

 

「うん。イヤかな?」

 

「う、ううん!そんな事ないよ!大歓迎だよ!」

 

「よかった。じゃあ、今度二人だけで空の旅をしようか」

 

「うん!でもそのためには」

 

「そうだね。そのためには───彼女を止めないとね」

 

僕となのはの視線の先には一人の少女。いや、量産型イリスが砲を持って佇み、その後ろには小型の衛星砲があった。

 

「なのは、彼女は破壊しないでくれる?出来れば彼女は捕らえたい」

 

衛星砲を守るように砲口を向ける彼女の目を見て、僕はなのはにそう言った。

彼女の瞳はなんていうか。暗く。光を受けつけない、感情のない感じだった。モデルがイリスだからか、彼女も可愛らしいのだが、今の彼女からは生気を全く感じない。

はっきり言って、その瞳は嫌いだ。例え、人間じゃなかろうと、彼女は生きているのだ。だから、彼女は一人の人。女の子だ。

 

「分かったの」

 

僕の言葉になのはは頷いて返してくれた。

 

「さて」

 

「はじめまして。武器を下ろして、少しお話出来ないかな?」

 

なのはの問いに対する答えは、無言の沈黙と右手の砲口を向けエネルギーをチャージした事だった。

どうやら、話す気がない・・・・・・というより、恐らく彼女には話すというアルゴリズムが組み込まれてないのだろう。彼女を作ったのはフィル・マクスウェルだ。彼にしてみれば彼女はただの道具としか思ってないのだろう。

彼女の動作に僕はなのはに。

 

「なのは」

 

「うん」

 

一言言った。なのはは返事をしつつレイジングハートの砲先を向ける。

やがて二人は同時にトリガーを引き、砲撃がぶつかった。

それと同時に僕も動き出し術式を構築する。

 

「(聖良も凛華もいないけど、やらなくちゃ)」

 

飛びながら緑のエネルギー砲撃を躱す。

右手に断罪の剣を現出させて接近する。

 

「っ!」

 

「せあっ!」

 

なのはと同時に砲撃を放ち、彼女の砲撃を相殺。

すると、頭の中なのはの声が響いた。

 

「(いろんな場所で、いろんな人が考えて。時々こんな風に、分かり合えずに・・・・・・。折り合えずにぶつかる事があって。戦って意志を通すなんて本当は良くない。だけど、戦わなきゃ護れないものもある!護りたいもの。守れなかったもの。私の背中にある大切なものを守るため・・・・・・)」

 

それはなのはの魔法の原動力とも言える思い。

 

「はあああああ!」

 

「───」

 

彼女の砲はなのはによって破壊された。

そこにすかさず。

 

「なのは、スイッチ!」

 

「うん!」

 

「───!?」

 

僕はなのはと場所を入れ替え、術式を起動する。

 

「封絶結界───《永零絶界(アストラルゼロ)》・五式(クインテット)!」

 

彼女を囲むように障壁を展開した周囲から隔絶した結界を構築。それを五重に張って、術者である僕以外に解けないようにする。内部からの干渉はもちろんのこと、外部干渉も出来ない。これで、彼女は一時的にフィル・マクスウェルからの支配から解放された。

そして、彼女に睡眠魔法を施し眠らせる。

 

「なのは終わらせるよ!」

 

「うん!零夜くん!」

 

封絶結界に閉じ込めた彼女を通り越して、僕は右手を。なのはは左手の掌を前に突き出す。

 

「───私たちの魔法は」

 

「───僕たちの魔法は」

 

「・・・・・・そのためにあるんだ!」

 

「・・・・・・誰かを守るためにあるんだ!」

 

「はあああああああああ!!」

 

「やあああああああああ!!」

 

無詠唱のルミナスバスターとディバインバスターを同時に放つ。

放たれた二つのバスターは螺旋状に合わさって、1つの巨大な砲撃となり、衛星砲を飲み込んで宇宙の彼方へと突き進んで行った。

バスターが消えると同時に、衛星砲を中心に爆発が起き僕となのはを襲った。

 

「きゃあっ!」

 

「なのは!」

 

咄嗟になのはを庇い、シールドを張る。

シールドを張るが、熱までは消す余裕がなく、身体の至る所に微々だが熱傷の痕をおった。

もし自分のHPが見えていたら徐々に減っていってるだろう。至近距離から爆発を受けたんだ。当然ともいえる。

しばらくして・・・・・・

 

「う、うう・・・・・・」

 

目を開けると、視界に衛星砲の残骸らしきものが周囲を漂っていた。少し離れたところには衛星砲の護衛役だった量産イリスを閉じ込めてある結界があった。どうやら、問題なく眠っているようだ。

 

「(魔力残りわずか・・・・・・。維持フィールドと結界で今も減ってるけど・・・・・・あと少しは大丈夫かな)」

 

僕の膨大な魔力はこれまでの戦闘によって消費し、今では残りわずかとまで減っていた。

魔法と精霊を統一しせし王の外套(マナスピリット・コンバーティオローブ)』は聖良とユニゾンを解除した時に解いている。一応、精霊さんのお陰で魔力は回復してたけど、魔力のON/OFFは魔力を結構持っていく。そのため、フィル・マクスウェルを撃破した時には総魔力の半分以下にまで減っていた。さらにいうと、体力の限界だ。ここまで連戦での戦闘。それも踏まえても魔力が減っているのだろう。

 

「なのは、大丈夫?」

 

抱きしめたままのなのはに聞く。

なのはは左手にレイジングハートの発動体である赤い宝石を握りしめたままいた。

 

「う・・・・・・零夜くん・・・・・・」

 

「待ってて、すぐに回復魔法を・・・うっ・・・・・・」

 

幾ら自身の周りに対物、対魔、対干渉障壁を張っていたとしても、熱波による熱傷は防げなかった。熱傷により、痛みが走るが苦痛に耐えて、なのはに回復魔法を掛ける。それと同時に、自分にも少しずつ回復魔法を施す。

 

「っ!零夜くん、その傷・・・・・・!」

 

「大丈夫。なのはが負うよりは僕が負った方がいいでしょ?なのはは女の子なんだから」

 

昔、僕と愛奈実のお父さんと華蓮の叔父さんに言われたことがある。「何があっても大切な女の子を守れ」と。「女の子一人守れずに、なにが漢か」とも。

なのははこの世界で初めて出来た友達。幼馴染みだ。とっても大切な女の子だ。

それは、なのはだけじゃなく、はやてやアリサ。すずかにフェイト、アリシアもだ。他にも、凛華たちやアルフやクロノやユーノたち。いろんな守りたいと思う人が異性問わず出来た。

高町家のみんなや、学校でのクラスメイトたち。プレシアさんたち。

そして、僕の家族になってくれた明莉お姉ちゃんたち。

いろんな人の助けや支えがあって、今の僕はここにいる。

 

「なのは。なのはは今幸せ?」

 

「え」

 

僕の唐突の質問になのはは驚いたような声を出す。

 

「なのは、君は自分が好きじゃないでしょ?」

 

「そ、そんなこと・・・・・・」

 

僕は宇宙で横になるように身体を横たわらせ、その上にいるなのはの顔を見る。

 

「誰かを助けてあげられる自分じゃないと満足出来ないし、好きになれない。・・・・・・違う?」

 

「・・・・・・そうなのかも」

 

「辛い?」

 

「少しだけ・・・・・・」

 

「なのは、僕は本来はこの世界にいるはずのない人間だって、前に言ったよね」

 

「うん」

 

「なのはは僕と出逢って良かったって思う?」

 

少し前から周囲に薄い遮音結界を張り巡らせているため、この会話は誰にも聞かれることは無い。僕となのは二人だけの会話だ。

 

「僕はね、なのは。君に出逢えて良かったって思うよ」

 

「え」

 

「少し昔話をしようか。僕はね、この世界に来る前。前世では、僕の家族と華蓮。華蓮の家族他一部以外興味が無かったんだ。無関心とも言える程ね」

 

そう言うとなのはは信じられないとでも言うように目を見開いた。

 

「理由はなんでかな。どれも同じに見えたからかもね。いや、愛奈実お姉ちゃんと華蓮たちしか目に入らなかったからかもしれないや」

 

思い返すように苦笑して言う。

 

「けど、この世界に明莉お姉ちゃんが転生させてくれたお陰で、なのは。君に出会った」

 

思い返すのは約五年前のこと。

日暮れの公園で、偶然出会った転生者()主人公(なのは)。初めてで出会った。なのはと出会った当初、僕はどこか素知らぬ振りをするのが出来なかった。だからなのか、声を掛けた。

 

『どうしたのキミ?』

 

『にゃ!?わ、私のこと?』

 

『うん』

 

それから、僕となのはは友達になり、幼馴染みになった。そして、僕となのはは同じ小学校に入学してアリサとすずかと出逢った。はやてとは、入学してからしばらく経ってから出逢った。

それから数年が経ち、フェイトやアリシアをはじめ、アルフ、ユーノ、クロノ。シグナムやヴィータ、シャマル、ザフィーラ、アインスたち色々な人と出逢った。いろんな経験があった。

 

「その全ての関わりがあって、今の僕がいるんだと思う。まあ、お姉ちゃんたちを失って初めて気付いたってのにはちょっとだけど」

 

最後の方を苦笑しつつ言う。

正直、自分でも情けないとしかいえない。こんなことに後から気付かされるなんて。

 

「ふふ。ちょっと難しかったかな?まあ、ようするに、僕はなのは。君が大切だということだよ」

 

「ふぇ!?」

 

「幼馴染み。友達としてね」

 

「あ、うん。そういう」

 

あれ、なんか一瞬なのはの顔に影が入ったような。

そんなことを思いながらなのはを見る。

 

「私は、零夜くんとあの時出会って良かったって思う。何時も一人だった私に零夜くんが声を掛けてくれたから、あの時お母さん達とも話し合えたし、それから一人じゃなくなった」

 

「そっか」

 

身体中が痛む中、それを顔に出さないようにして言う。

視界には宇宙だからこその、景色が広がっていた。

満点の星々に、何も無い暗闇の空間。幻想的にも見える景色。

 

「それに、魔法に出会ったからユーノ君とも友達になれた。リンディさんやプレシアさん。クロノ君やエイミィさん、リニスさんたちは今もいろんなことを教えてくれる。楽しそうにしてるはやてちゃんたち八神家のみんなを見ていると、切なくなるぐらい幸せな気持ちになる。アリサちゃんとすずかちゃんがいつも話を聞いてくれて、心配してくれて。アリシアちゃんとも友達になれた。夜月ちゃんや聖良ちゃん。凛華さんや明莉さんたちが・・・・・・・。零夜くんが居てくれたから、私はここまで来れた。フェイトちゃんと友達になれた時・・・・・・。みんなが、私の名前を呼んでくれるのが本当に嬉しくて・・・・・・」

 

「自分を好きになれなくてもいい。だけどなのは。君のことが好きで、大切に思っている人は沢山いるって事を忘れないで。大切な人を泣かせるのはイヤでしょ?」

 

「うん・・・・・・」

 

僕の言葉に、なのはは少しだけ嗚咽の声を洩らして頷く。

 

「自分をきっと好きになれる日が、いつかきっと来るよ。大丈夫。なのはならきっと・・・・・・いや、絶対くる。僕たちの人生はまだまだこれからなんだから」

 

「零夜くん・・・・・・」

 

「そろそろ地上に・・・・・・みんなの所に帰ろうか。それに、迎えも来てくれたみたいだし」

 

「え」

 

視線を地球の方に向けると、地球から複数の光が登ってくるのが見えた。それぞれ、金色、白、紅、青紫、水色、白銀、朱、蒼の光だ。やがてそれらは僕らの所に来て───。

 

「待たせてごめんなあ二人とも。迎えに来たよ」

 

「いや、助かったよはやて」

 

少し笑みを浮かべてはやてに言う。

 

「零夜、変わるわ」

 

「お願いアリサ」

 

「ええ」

 

なのはをアリサに任せ、封絶結界に閉じ込めてある量産型イリスを引き寄せる。

 

「すずか、アリシア、悪いんだけど彼女のことお願いできるかな」

 

「うん。まかせて」

 

「ええ」

 

封絶結界の強度はそのままにして、支配領域(インペルマジェスター)を封絶結界内に展開して量産型イリスを調べる。調べると、彼女の中に自壊ユニットが組み込まれていることがわかった。

それを知った僕は心で舌打ちし、自壊ユニットそのものを凍結消滅させた。これは、嘗て闇の書を夜天の書に戻した際に使った術式であるコキュートスの応用だ。もっとも、繊細な魔力操作を必要とするが。

それが終わると。

 

「お兄ちゃん!」

 

背中から白銀の翼を広げた聖良が抱き着いてきた。

 

「聖良」

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん。お兄ちゃん!」」

 

「ごめん。心配かけたね」

 

泣きながら抱き着く聖良に謝る。

 

「もう。妹を泣かせるなんてお兄ちゃん失格だよれーくん」

 

「ははは。いつの間にか、見ないうちにシスコンブラコン家族が増えてるわね」

 

「お姉ちゃん・・・・・・華蓮・・・・・・」

 

軽く怒ってますよ、的な感じのお姉ちゃんとやれやれと呆れている華蓮。二人も来てくれたみたいだ。

 

「やれやれ。ここまでするなんてね。なにか大切かモノでも見つけたの?」

 

「華蓮・・・・・・まあね」

 

華蓮の問いに、視線をフェイトに治療してもらってるなのはたちに向けた。

 

「そ。ま、よかったわ」

 

「れーくん。あまり無茶しちゃダメですよ」

 

「れーくんは止めてよお姉ちゃん」

 

「ふふふ」

 

お姉ちゃんに少しだけ窘められながら、聖良の掛けてくれる回復魔法を受ける。

 

「それじゃあ、地上に帰ろうか。みんなで」

 

「うん」

 

僕の言葉になのはが答え、僕となのははみんなに連れられて地上へと帰って行った。

地上に戻ると、丁度朝日が上り。新しい一日の始まりを告げる朝の日差しが僕たちを迎えた。

そのまま、朝の日差しを浴びながら僕たちは東京湾に配置された管理局の指揮船の甲板に降り立った。

 

 

 



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事後処理

 

〜零夜side〜

 

 

短かったようで、長かったような一日が終わり、僕らは帰還した。

戻ってから待っていたのは検査だった。

僕は火傷などの治療、なのはも同じく。はやてたちは特に無く。

大まかな事後処理はクロノやリンディさん、レティ本部長が担当してくれた。まあ、僕も書類やらなんやらをしたけど。

そして、エルトリア勢についてはというと。まず、重患者であるアミタさんは夜月によって、撃たれる前に戻ったが、念の為検査のために本局の医務室で入院することになった。キリエとイリス、ディアーチェ、レヴィ、シュテル、ユーリもしかり、それぞれ検査をしたりして本局預かりとなった。イリスに関しては騙されていたとはいえ、事件の主犯格なため本局による事情聴取が。裁判やなんやらで別室で拘束され警備が厳重だ。無断でこちらの世界にやってきたキリエとアミタさんに関しては一応、事情聴取を形という形で行い、特にお咎めはなしだ。

ユーリについても同様で、シュテル、レヴィ、ディアーチェは多少検査に時間がかかった。なにせ、三人とも子供の姿になってしまったから。どうやら、魔力が回復するまでしばらくはその身体とのことらしい。

そんなこんなで、全てがようやく片付いたのは七月下旬を過ぎた頃になった。

そして僕は今───

 

 

「天ノ宮君、お疲れ様でした。体調の方は問題ありませんか?」

 

「はい。ご心配おかけしました、ミゼットさん」

 

本局の特務0課の室内でミゼットさんと話していた。

今この場にいるのは僕とミゼットさんの二人だけだ。他のみんなは出払ってもらってる。

 

「今回の件、ご苦労様でした。研究会のメンバーの捕獲は喜ばしいことです」

 

「いえ。彼らを率いていたガハト・レグリスタは邪魔が入り取り逃しました。喜べるものでは・・・・・・」

 

「そんなことありませんよ。研究会のメンバーを捕えられたのですから」

 

「はい・・・・・・」

 

ミゼットさんが労ってくれるが、僕としてはまだまだだと感じていた。

 

「あの、ミゼットさん」

 

「はい」

 

「クルト・ファレウムについてなんですけど」

 

僕はあの時出会ったクルト・ファレウムについて語った。

 

「───なるほど。そんなことが」

 

「はい。僕らはなにか根本的なことを見落としてるような気がするんです」

 

クルト・ファレウムのあの眼が頭から離れずにいた。あの眼は固い。決心を。決意を込めてる眼だ。

 

「少しこちらで調査をしてみましょう」

 

「お願いします」

 

その手の情報を集めるなら統幕議長であるミゼットさんが動くのが得策だろう。

 

「さて。天ノ宮特務三佐。現状、人員が足りてないと思ってませんか?」

 

「はい。アリサたちも頑張ってくれているんですが・・・・・・」

 

確かに、現状特務0課の人員は少ない。

室長兼部隊長である僕。副長兼副隊長である夜月。僕のデバイスである凛華、星夜、澪奈、紅葉、そして聖良は僕の固有戦力であり、一応管理局に登録はしているが、基本的は僕の指揮下にある。それは夜月のとこの、ソラとイリアもしかり。部隊員であるアリサ、すずか、アリシア。開発部はプレシアさんとリニスさん。そして、諜報員の二乃さんことデューエ。以上がこの特務0課の人員だ。

僕としても、出来ればもう少し人員を増やしたい。

 

「では、スカウトをしてみてはどうでしょう?」

 

「スカウト・・・・・・ですか?」

 

「はい。もちろん、相手が承諾すればですが・・・・・・」

 

「・・・・・・わかりました。一応、何人か心当たりがいるので声を掛けてみようと思います」

 

「ええ。それがいいでしょう。これから、次元航行船に乗って別世界に行くことが多くなる思いますから。もちろん、現状そこまで行ってもらうことは無いようにします。天ノ宮君達はまだ子供ですからね」

 

ミゼットさんは最後の方を柔らかく、おばあちゃんのように言った。

 

「あ、それと、特務0課専用の次元航行艦、あと一週間ほどで完成するとの事のようですよ」

 

「へっ?」

 

「ですが、どうやら他の次元航行船と違うみたいでかなり特殊なようですよ・・・・・・」

 

「(そう言えば夜月が次元航行艦を次元航行整備課の人たちが作ってるって言ってたっけ。しかも、モデルがフラクシナス)」

 

XL級次元航行艦【フラクシナスEX】。それが、僕たちの船になるらしい。時空管理局の技術ってホントすごいね。

そう思いながら、僕はミゼットさんと話して行った。

世間一般的なことから、研究会、管理局の内情など。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

「っ!あ、天ノ宮特務三佐!?」

 

僕は本局のとある部屋にいた。

そこには、数人の局員と、真っ白な服を着た少女がいた。

僕の姿を見た局員たちは、全員その場に直立不動の姿勢を取り、驚いた声を上げた。

僕は局員たちに苦笑しながら手を軽く上げ。

 

「彼女───イリスと話をさせてくれないかな?」

 

と言った。

 

「え、あ、彼女とですか?」

 

「うん。出来れば、二人だけで話がしたいから全員退出してくれると助かるな」

 

「で、ですが・・・・・・」

 

僕の言葉に局員たちは少し戸惑ったような感じをする。

 

「君たちも少し休憩してきたらいいよ。まだ、休憩を取ってないでしょ?ここは僕に任せて」

 

「そ、それでしたら・・・・・・」

 

しぶしぶと言った様子で局員たちは一礼して部屋から出ていった。

 

「さて。これでようやく落ち着いて話せるね、イリス」

 

局員たちが部屋から出ていったのを確認した後、僕はイリスの前に座った。

 

「あんた、ここでかなり地位があるのね」

 

「あはは。まあね。僕自身も驚いてるよ」

 

管理局のネームタグをホロウインドウでイリスに見せて言う。

 

「特務三佐・・・・・・って。あんた、佐官なの!?」

 

「うん。まあ、そういうの興味ないんだけど、なにかと便利だからね」

 

「いや、ちょっと待って!あんた、今歳幾つ!?」

 

「今年で11だよ(肉体はね)」

 

「じゅっ・・・・・・!?」

 

愕然としたように目を見開くイリスに、僕は持ってきたお弁当を渡す。

 

「はい」

 

「これは・・・・・・?」

 

「まだお昼食べてないでしょ?一応、僕の手作りだよ」

 

「はぁ。万能すぎるわねあんたって」

 

「ありがとう」

 

お昼は簡単に摘めるサンドイッチだ。

これなら、食べながら話せるし、手も汚れない。

 

「それで?わざわざ、これを届けに来ただけじゃないでしょ?」

 

「まあね」

 

そう言って僕はイリスと向き直る。

 

「イリス、僕は君を、僕の部隊。特務0課にスカウトしたいと思う」

 

「はっ?」

 

何言ってるんだとでも言いたげな表情をするイリス。

 

「君のそのテラフォーミングの力を僕のところで活用してみないか?」

 

そう言う僕は、一つの部隊を率いる長としての威厳と風格を醸し出していた。

 

「つまり、あんたはこのあたしを、あんたの部隊に引き入れたいってこと?」

 

「そうだね」

 

「あのね!あたしはあんた達を沢山傷つけた!あんた達の住んでいる場所や星にたくさん迷惑なことをしたの!そのあたしをなんで引き入れようとするわけ!?」

 

「特に理由はないよ?」

 

「はあっ!?」

 

「強いて言えばそうだね。君が欲しいからだね」

 

「は?」

 

「強さとか能力とかそんなのどうでもいいんだよね。僕は、イリス。君という人物が欲しいんだ」

 

「あんた、何言ってるの・・・・・・」

 

「この世界には数多の次元世界がある。中には貧困に満ちた世界があるだろう。別世界の人間に破壊されるかもしれない場所がある。僕はそれを防ぎたい。まあ、本音は僕のところの人員が少ないから僕に手を貸して欲しいってことなんだけどね」

 

あはは。と笑いながら惚けにとれるイリスに言う。

 

「もちろん、強制はしない。君自身が考えて欲しい」

 

サンドイッチを一切れ取って、口に含んで言う。うん、我ながら美味しくできてるね。

 

「・・・・・・少し考えさせてくれないかしら」

 

「もちろん。さ、堅苦しいはなしはこれでおしまい!なにか聞きたいことはある?」

 

掌をパンっ!と叩いて話を変える。

イリスはサンドイッチを一切れ手に取って僕に聞いてきた。

 

「ねえ、あんたって一体何者?」

 

「何者って?」

 

「あの機動外郭を塵も残さずに消し飛ばしたり、ユーリの能力を寄せ付けなかったり・・・・・・天ノ宮零夜君、あんたは一体何者?本当に人間?」

 

イリスの言葉に僕はなんて答えようか考えた。

 

「一応人間だよ。ただ、使う魔法や魔力が他の人たちと違うだけさ」

 

表情に曇りを入れて返す。

イリスもそこまで詮索せず、そうと言って聞いてこなかった。

 

「・・・・・・ねえ。ユーリやキリエたちはどうなるの?」

 

「キリエとアミタさんについては、形だけの事情聴取だけだよ。ユーリやディアーチェたちは特にないかな。ああ、ディアーチェたちは今子供の姿になってるんだっけ」

 

「子供?」

 

「そっ。魔力の使いすぎで、一時的に身体が子供の・・・・・・うーん、ちょっと小さくなったって言った方がいいかな?」

 

「そう」

 

「みんな、今は地球に滞在してもらってるよ。あと、一週間は居てもらうかな」

 

六人とも、現在は僕の家に一時的に暮らしてる。

なのはたちの家で暮らすことも上がったが、諸々の事情で僕が預かることになった。幸い、部屋はまだあるし、地下には研究室やメンテナンスルーム、トレーニングルームなどもあるから何かあった時にはすぐに対処できる。

ちなみに、僕の家は凛華たちにもそれぞれ個別の部屋があって、明莉お姉ちゃんたち地上での部屋もある。まあ、聖良と澪奈は僕の部屋で寝ることが多いいけど。あ、ちなみに、お姉ちゃんと華蓮も一緒に暮らしていたりする。うーん、ほんと、ウチって女子の比率が多いいよね。学校だったら男子の友達もいるんだけど。

そう考えていると。

 

「所長・・・・・・フィル・マクスウェルは・・・・・・?」

 

恐る恐るとイリスが聞いてきた。

 

「・・・・・・フィル・マクスウェルは、今回の事件の最重要容疑者として本局の特別監獄に収容されてるよ。手足も一応、復元したから歩いたり動けたりは出来るけど・・・・・・やっぱり気になる?」

 

「・・・・・・」

 

僕の質問にイリスは小さく頷いた。

イリスの記憶には四十年前の記憶があるのだ。楽しかったり、悲しかったりした記憶が。そして、フィル・マクスウェルはイリスの形とはいえ生みの親だ。もし、四十年前、エルトリア政府が委員会を継続させていたら、もしかしたらこんな事は起こらなかったのかもしれない。イリスとユーリが敵対することもなかったし。悲劇は起きなかった。そう考えると、一応フィル・マクスウェルも被害者なのかもしれない。けど、データからはフィル・マクスウェルによっ

て、いろんな人が殺害されてる。そうなると、なんとも言えない感じがする。

 

「・・・・・・フィル・マクスウェルに逢ってみる?」

 

「え」

 

「レティ本部長に頼めばやってくれると思うけど・・・・・・どうする?」

 

「・・・・・・」

 

「少し考えてから答えを出してほしい」

 

僕はそう言うと立ち上がり。

 

「また話したい時は局員の人に言って。僕と何時でも話せるようにしとくから」

 

そう言って僕は部屋から退出した。

部屋から出ると。

 

「天ノ宮君」

 

「レティ本部長」

 

レティ本部長が部屋の前の壁に寄りかかっていた。

 

「彼女───イリスの様子はどう?」

 

「特に変わった様子はありませんね。ただ、付き物が取れたような感じです」

 

「そう。天ノ宮君は彼女を引き入れたいと思うのかしら?」

 

「ええ、まあ」

 

「まあ、確かにあなた程の実力者なら問題無いでしょうけど」

 

レティ本部長は少し心配そうに見てくる。

 

「リンディも心配してたけど、大丈夫なの?今の重圧。統幕議長だって天ノ宮君には無理して欲しくないんじゃ・・・・・・」

 

「問題ありませんよ。では・・・・・・」

 

一礼して僕はそこから立ち去った。

後ろでは。

 

「・・・・・・なにがあなたをそこまで縛り付けているの天ノ宮君・・・・・・」

 

レティ本部長が心配な眼差しで見つめていた。

本局から地球の自宅に戻った僕はそのまま自室に戻り、軽く仮眠を取る事にした。さすがに身体が限界だったのだ。

なにせ、ここ暫くは書類整理や事後処理、デバイスのメンテナンス等など普通の小学生の日常をはるかに超えた激務だったのだ。

部屋に辿り着くと、僕は着替えも忘れてそのままベッドにダイブするように倒れ、あっという間に眠りについた。

 

〜零夜side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜愛奈実side〜

 

 

「れーくん・・・・・・」

 

弟の部屋に入って中を見た私は、着替えもせずにベッドで横になっている弟を見て、優しく毛布を掛けた。

 

「やっぱり、身体が小学生の頃にまで戻ってるかられーくんを抱き抱えるのは無理なのね」

 

私と華蓮ちゃんは目が覚めた時、身体が小学生ぐらいにまで縮んでいたのだ。ま、れーくんと同じなのは嬉しいからいいけどね!

 

「私たちが居なくなったあと、れーくんはずっと一人だったんだね」

 

ここに来てからのことは明莉さんに聞いているが、それ以前のことは聞かなかった。いや、聞く必要がなかったって言うべきなのかな。

 

「ほんと、無理しちゃって」

 

ベッドに腰掛けながら、眠ってるれーくんの頭を撫でる。

前世では、髪はここまで長くなかったんだけど、今は私と同じで伸ばしてる。もしかしたら、髪を伸ばした理由は私とお揃いにするためなのかもしれない。

 

「久しぶりに一緒に寝ましょうか」

 

そう言って、私は眠ってるれーくんの布団の中に潜り込み、一緒に横になって、そのまま抱き締める。

 

「これからはずっと一緒だからね、れーくん」

 

大切な弟の頬を撫で、私も眠りについたのだった。

 

〜愛奈実side out〜

 

 



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一時の別れ

 

〜零夜side〜

 

 

「ふぅ。これで終わり、っと」

 

特務0課の室内で必要書類に記入をし終わった僕は手を伸びして固くなっていた身体を伸ばす。

 

「レイくん。さすがに今回は多過ぎない?」

 

「あー。うん、ごめん」

 

「怒ってるわけじゃないんだけど・・・・・・まさか彼女たちをウチに入れるなんて・・・・・・」

 

呆れたように言う夜月の手元の書類には特務0課の部隊員増加の書類があった。

 

「夜月も真っ先に言ったじゃん」

 

「いや、それはそうだけど〜」

 

展開している空間ディスプレイには、約十数人の少女が映っていた。

それは、先の戦いで捕獲した量産型イリスの指揮官型だ。もちろん、衛星砲を護衛していたあの子もいる。

 

「あの子たちには普通の人と同じ生活をして欲しいからね。一応、身元引受け人にミゼットさんやラルゴ元帥。レオーネ相談役が引き受けてくれたから。最終的には僕が彼女たちの保護者になるけど、十五をすぎるまではね」

 

当初は僕が彼女たちを引き取る予定だったんだけど、ミゼットさんたちが十五を過ぎるまでは自分たちが。と言って、ミゼットさんたちが限定的な引受人になったのだ。

 

「はぁ。レイくん。その引受人、私にも半分させてよね」

 

「え、それはいいけど・・・・・・」

 

「あのねえ。これだけの人数一人で引き受けたらお金や家が大変なことになるでしょ!?」

 

「あ、そうか」

 

「やれやれ」

 

肩を竦めて呆れる夜月に苦笑して返す。

 

「そう言えばフラクシナスがそろそろ完成するみたいだけど・・・・・・?」

 

「あははは。うん、まあ」

 

笑いながら夜月はフラクシナスの設計図面を出した。

 

「へぇ。居住施設にトレーニングルーム。メンテナンスルームに転送ポート。色々あるね」

 

「うん。大型の基礎魔力輪環装置(ベーシック・マギリックシステム)搭載。この独立汎用ユニット世界樹の葉(ユグド・フォリウム)も小型だけど同じのを搭載してるよ。さらに艦の周囲に恒常魔導領域(パーマネント・マギアエリア)を展開してるから、常に不可視迷彩(インビジブル)自動回避(アヴォイド)が発動してる。そして、対物、対魔の障壁があるから防御も万全」

 

「つまり、原作のと同じってことね」

 

「まあね。搭載されてる兵装も収束魔力砲〈ミストルティン〉はもちろんのこと、精霊霊力砲〈グングニル〉、迎撃用ミサイル〈ブリューナク〉も使えるね。まあ・・・・・・グングニルは霊力じゃなくて、直接魔力を流しこんで放つんだけどね。だから、正確には集束魔導砲だね」

 

夜月は兵装画面を広げながら言う。

それを見ながらフラクシナスの画面を見ていると。

 

『お兄ちゃーん、もう時間だよ?』

 

すぐ側の空間にウインドウが開き、そこから妹の聖良の声が聞こえてきた。

 

「あれ、もう時間?わかった、すぐ行くね」

 

『うん♪』

 

眩しいほどの笑顔で言った聖良に癒されていると。

 

「じー・・・・・・・」

 

「な、なに夜月」

 

「ううん。シスコンだなぁーって」

 

「ふぐっ・・・・・・」

 

夜月のシスコンという言葉に僕は息を詰まらせた。

 

「ま、私にもあんな可愛い妹が出来たらシスコンになる可能性が大だから仕方ないけどね」

 

「だよね!」

 

「調子に乗らないの。まったく。いつもなのはちゃんたちの前ではしっかりしてるのになんでこう、二人きりの時とかは緩んじゃうのかなー」

 

「だって、いつも肩貼ってたら疲れちゃうよ?」

 

「肩が凝るよりはいいと思うけど?」

 

「え?」

 

「あと数年たったらわかると思うわ」

 

自虐気味に呟く夜月に首をかしげながら、部屋の整理をして電気を落とす。

室内から外に出て、部屋を厳重にロックし鍵を持ってる人しか入れないようにして。

 

「それじゃ帰ろうか」

 

「そうね」

 

僕と夜月は局の転移ポータルへと向かいそこから地球に転移して帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

朝の少し早い時間。僕たちはエルトリア勢を送り出すため、海鳴海浜公園にいた。

この場には僕の他、聖良、愛奈実お姉ちゃん、華蓮、凛華、星夜、澪奈、紅葉、夜月、ソラ、イリア、なのは、はやて、フェイト、アリシア、アリサ、すずか、リンディさん、プレシアさん、リニスさん、アルフ、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リイン、アインス見送り組に。エルトリア勢のアミタさん、キリエ、ユーリ、シュテル、レヴィ、ディアーチェがいる。

今はそれぞれ思い思いに話をしていた。

 

「怪我の方は大丈夫なんですかアミタさん」

 

「はい。頑丈ですので!」

 

「いや、頑丈だから大丈夫ってのは・・・・・・」

 

アミタさんの言葉に僕は引き攣り笑いを浮べた。

確かに、夜月の刻々帝の能力で傷は戻ったが、体力とかそういうのは戻らないのだ。それ以前に、アミタさんは怪我をあちこちにしていたのだが。

 

「おい」

 

「ん?」

 

突如呼ばれ振り向くと。

 

「あれ、ディアーチェ。どうしたのー?」

 

はやてが小一の頃着ていた服を着てるディアーチェの姿があった。

 

「これ」

 

「ん」

 

ディアーチェが取り出したのは一枚のカードだ。

そのカードは僕がディアーチェに渡した星霊武装(アストラルウェポン)が一つ、三星の煌奏翼(トリニティ・ハーモニクスステラ)だ。

 

「遅くなったが、これは貴様に返す。元々貴様から借り受けていたものだ」

 

たしかに、ディアーチェに貸し与えていた物だけど───。

 

「・・・・・・・・・・」

 

僕はそディアーチェからカードを受け取り、その内部情報を管理者権限で観る。

 

「(へぇ。上手く使いこなせたみたいだね。これ、星霊武装でも扱いが難しいんだけど・・・・・・。さすが、ディアーチェだ)」

 

記されている情報を観ながらそう思い。

 

「───いや。これは、もう君のだディアーチェ」

 

管理者権限らを秘匿してしまい、ディアーチェにそう言って渡す。

 

「なに?」

 

ディアーチェのその言葉が聞こえたのか、なのはたちの視線が僕とディアーチェに集まった。

 

「これは君を主として認めているそうだからね。大事に扱って欲しい」

 

「いや・・・・・・しかしだな!」

 

「シグナム。アインスの二人もだから聞いて。その武装は使用者である君たち以外、使うことは出来ないから」

 

「なんだと」

 

「どういうことだ?」

 

「すでに、使用者(マスター)登録がされてるからね。例外は僕と夜月が管理者権限を行使すること。と言っても、そんなのメンテナンスの時ぐらいしか無いだろうけど。まあ、メンテナンスもそんなに必要ないと思うし」

 

僕の言葉に唖然とするなのはたち。

してないのは夜月や聖良たちだけだ。

 

「その武装らは簡単に都市一つを制圧出来るほどの能力を持ってる」

 

『『『っ!?』』』

 

僕の言葉に驚愕するなのはたち。しかし、ユーリとアインスの二人と、夜月たちだけは違った。

 

「ユーリとアインスは分かってるみたいだね」

 

「は、はい」

 

「ああ。これを使ってそれを実感した。これを使えば簡単に都市一つ・・・・・・いや、国家すら制圧出来るとな」

 

アインスの言ってることは概ね正しい。

が、一つ訂正だ。それは、都市や国家など生温い。星一つを制圧出来るということだ。まあ、シグナムたちに言う必要は無いけど。だって、この武装は僕らの信用・・・・・・信頼にあたる人にしか渡してないんだから。それは、ゼストさんやカリムさんたちも然り。

 

「もっとも、そんなことディアーチェはしないでしょ?」

 

「当たり前だ!何をとち狂ったことを言っておる!?」

 

「だから、それを君から取り上げることはしない。それは、誰かを守るために僕と夜月が創り上げた武装だからね」

 

そう。この武装たち。

星霊武装(アストラルウェポン)月雫武装(ルナティックウェポン)のそもそもの目的は『守る』ためにある。制圧など、そんなのそもそもどうでもいいのだ。というか、そんなもののために僕と夜月が創るわけない。

 

「ひとつだけ約束して欲しい。絶対に、それを武力行使のために使わないと」

 

「無論だ。我が名において誓おう」

 

僕の言葉に、ディアーチェはすぐさま返す。

ディアーチェがそう宣言すると。

 

「まったく。何やってるのよレイくん」

 

僕の背後から声が聞こえてきた。

どうやら、来たみたいだ。

 

「いやいや。星霊武装と月雫武装についてちょっと話していただけだよ」

 

声の主を見ずに僕はそう言う。

なのはたちは声の主をえっ!?と驚いた表情で見る。

何故なら、声を掛けてきた人物はもうこの場にいるのだ。

僕は振り返り。

 

「お疲れさま───夜月」

 

もう一人の夜月に声を掛けた。

そして、その夜月の隣にはイリスが私服姿で立っていた。

 

「なっ!?」

 

「ど、どういうこと!?なんで夜月ちゃんがもう一人!?」

 

「ど、どういうことや!?」

 

「夜月って姉妹だっけ!?」

 

「え!?ここにも夜月ちゃんはいるし、そこにも夜月ちゃんがいる・・・・・・え、どういうこと!?」

 

慌てふためくなのはたちにドッキリ大成功とでも言うように笑うもう一人の夜月に、さっきからこの場にいた夜月が近づく。

 

「お帰りなさい『私』」

 

「うん。お疲れ『私』」

 

二人の会話に僕や聖良たちはなんとも言えずにいるが、なのはたちは頭がこんがらがって居るようで呆然としていた。

 

「もしかしてみんなに言ってなかったの『私』?」

 

「ええ。レイくんからその方が面白いからって」

 

「『私』ってほんとレイくんに甘いねー」

 

「そりゃ、『私』は『私』ですからね」

 

二人の夜月の会話。

これはこれで中々面白い。

 

「あははは。そろそろなのはたちに教えて上げて夜月」

 

「だね」

 

僕の言葉に返したのはイリスを連れてきた方の夜月だ。

 

「えっとね。この『私』は私の能力で生み出した、もう一人の『私』だよ。・・・・・・分身って言った方がわかりやすいかな?」

 

そう。これは夜月の持つ天使がひとつ、時の天使【刻々帝】の《八の弾(ヘット)》で生み出された夜月の分身。いや、もう一人の夜月だ。まあ、正確には過去の夜月だけど。

もっとも、この夜月は本物の夜月よりスペックは低いし、天使は愚か、七つの大罪のアーカイブ接続すら出来ない。出来るのは本物の使える魔法か魔術を一部使えるだけと、生み出した天使である刻々帝の影の銃弾を放つことが出来るだけだけど。

一応、原作であるデアラのと同じで。活動時間もその分身体の魔力が尽きるまでである。

 

「それじゃ、あとはお願いね『私』」

 

「うん」

 

本物の夜月にそう言うと、分身体である夜月は本物の夜月の影の中へと吸い込まれるように入っていった。

初めて見たけど、そこも原作も同じなんだ。

みんなもポカーンとしていて、事態を飲み込めないみたいだ。イリスがいることも忘れられてる。

 

「あのさ、あたし帰っていい?」

 

「いやいや。帰っちゃダメでしょ」

 

「でもなんか忘れられてるし」

 

「うん、それについてはホントごめん。夜月のことでみんな事態が追いついてないみたい」

 

「それは分かるけど」

 

イリスと軽く会話して十秒後。

 

「っ!イリス!?」

 

ユーリがようやくイリスの存在に気づいた。

予めなのはたち見送り組にはイリスのことは伝えていたけど、夜月が迎えに行くことは伝えてなかったからね。

そう思い出していると、イリスにユーリとキリエが近づいた。

 

「私は裁判とか色々あるから、当分はこっちに残るんだけど。終わったあとのこと・・・・・・今のうちに相談しとかなきゃ、って」

 

「終わったあとのこと?」

 

「嘘に踊らされて、みんなに迷惑かけて。取り返しのつかないことをたっくさんした。法で裁かれることはもちろんだけど、みんなには本当に酷いことをしたから・・・・・・。キリエにも、ユーリにも私はもう・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

イリスのその言葉に、ユーリは無言で悲しげに俯く。

キリエは。

 

「今回のことは、イリスが私のお願いを聞いてくれたのが始まり」

 

近づいてそう言葉を出す。

 

「だからそんなに一人で背負わないで。償うのも、謝るのも一緒にやって行こう。お姉ちゃんや王様たち・・・・・・ユーリも一緒にいてくれる」

 

「はい!」

 

「空を見上げて頑張ろう!みんな一緒に」

 

「!ぅ・・・・・うん・・・・・・!」

 

キリエとユーリの言葉にイリスは涙を流して、小さく嗚咽を漏らした。

イリスが泣き止むのを待って。

 

「イリスについては僕らに任せて」

 

キリエとユーリにそう言った。

 

「ええ」

 

「お願いします、零夜さん」

 

そうこうしている間に、エルトリア勢が帰還する時間となった。

 

「アミタさん、あれは持った?」

 

「はい。ここにあります」

 

「戻ったら設置をお願いね。あと、この薬をグランツ博士に飲ませて上げて」

 

「何から何まで・・・・・・ありがとうございます零夜さん」

 

「ううん。これくらいはしないと。アミタさんたちにも僕の所を手伝ってもらうんだしね」

 

「はい」

 

帰還する直前に、僕はアミタさんと二人だけで話、星夜と僕が調合した回復薬(エリクサー)を渡した。一応、一ダースほど。

そして。

 

「みなさん、本当に。お世話になりました」

 

「こちらこそ」

 

「みなさん、お元気で」

 

「気をつけてね」

 

僕らが見送る中、アミタさんたちは次元跳躍転移で自分たちの星へと帰って行った。

アミタさんたちが星に帰るのを見届けた僕らは。

 

「さてと。それじゃあ、僕らは残りの夏休みを満喫しますか!」

 

『『『おーう!!』』』

 

元気よく、僕ら子供は手を挙げたのだった。

こうして、まだ裁判とかはあるけど、夏のある日に起こったエルトリアと地球を結ぶ事件は終わりを迎えたのだった。

 

 

 



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フラクシナス

 

〜零夜side〜

 

アミタさんたちが次元跳躍転移でエルトリアに帰った二日後、僕たち特務0課は、本局の次元航行艦発艦所の一エリアにいた。理由は目の前にある、巨大な次元航行艦が目的だ。

 

「どう、レイくん?」

 

「あ、うん。完全にフラクシナスEXだね」

 

目の前にあるのは正しく、デアラに出てきた空中艦『フラクシナスEX』だ。まじかで見ると迫力があって凄い。

後方部分は樹木の枝のように先分かれになっていて、先端には葉が付いていた。

それを見て。

 

「うわぁ〜!華蓮ちゃん華蓮ちゃん!見て見て!フラクシナスだよ!フラクシナス!」

 

「お、お落ち着いて愛奈美お姉ちゃん」

 

「うわぁぁ〜♪」

 

はしゃいでる愛奈美お姉ちゃんとそれを落ち着かせようとする華蓮。うん、愛奈美お姉ちゃんもデアラ好きだったからね。そのお陰で僕も知ってるんだけど。

で、その一方アリサ、すずか、アリシアはというと。

 

「な、ななな・・・・・・!?」

 

「え、えぇぇぇ・・・・・・・」

 

「うっそぉー・・・・・・」

 

目が飛び出るほど仰天していた。

聖良たちは興味深そうに眺めている。

 

「ね、ねえ、零夜。もしかして、この艦私たち専用なわけ?」

 

「え?あ、うん。そうだけど」

 

恐る恐るといった感じで聞くアリサに首をかしげて答える。

それを聞いたアリサは額に手を置き。

 

「そうだったわ。零夜は常識外れの塊だったわね。忘れていたわ」

 

「おい」

 

アリサの失礼な言葉に僕は半眼で視てツッコム。

 

「あはは。とりあえず、中に入ろう?」

 

夜月に言われ、僕らは艦のハッチから中に入った。

中に入ると、外から観るより予想以上に広く、大きかった。

 

「えっと、確かこっちが艦橋・・・・・・」

 

先頭を行く夜月を追い掛けて、僕らはフラクシナスのブリッジへと向かった。

たどり着くと、ドアが自動で横にスライドして開き中が見えた。

ブリッジ内部は完全にデアラのフラクシナスと同じだった。まあ、設計したのが夜月だからしかたないけど。

そう思っていたところに。

 

「あ、やっと来た」

 

「はい。ようやく来ましたね」

 

二人の女の子の声が聞こえてきた。

聞こえてきた声は二人とも、同じような感じだったが声のイントネーションや口調が違っていた。

 

「あ!いたいた!もう、探したよ二人とも〜」

 

声の主に手を振る夜月。

 

「紹介するね。こっちの白い服を着てる子が或守鞠亜(あるすまりあ)。で、こっちの黒い服を着ている子が或守鞠奈(あるすまりな)。どっちもこのフラクシナスの管理制御AIなんだよ。今は二人の人型インターフェイスマシンに乗ってるけど」

 

そう、そこにいたのはデアラの登場するキャラの二人。或守鞠亜と或守鞠奈の姉妹だった。

 

「まさか夜月。彼女たちを作ったのって・・・・・・」

 

「私だよ?」

 

「なあっ!?」

 

まさかの或守姉妹の登場に驚く僕ら。

そして、僕はこうなることを予想してなかった自分に呆れた。フラクシナスを作るのに協力してたのが夜月なんだからこうなることぐらい予想できたのに。

そんな僕に、或守姉妹が。

 

「あんたが夜月の言っていた零夜?」

 

「こら鞠奈。そんな聞き方はダメですよ。初めまして。私は或守鞠亜。鞠亜と呼んでください。あなたの事はお母さんから聞いています」

 

と言ってきた。ってちょっと待って!

 

「お母さん!?」

 

鞠亜のお母さんという言葉に全員の視線が夜月に向かう。

 

「はい。私たちの生みの親ですから。ちなみに、お父さんは───ムグゥ!?」

 

「ま、鞠亜!?何を言おうとしてるのかなぁ!?」

 

唐突の夜月の行動に呆気に取られる僕ら。

そしてそれを面白げに見るお姉ちゃん。お姉ちゃん、何か言ってるけど・・・・・・何言ってるんだろ?

 

「おほん!というわけで、この子たちも特務0課の一員だからよろしくね」

 

慌ただしく過ぎていく中、ようやくアリサたちも戻り鞠亜と鞠奈に挨拶していた。

その隙に僕は。

 

「ちょっと、夜月。この事ミゼットさん知ってるの!?」

 

「え?うん、知ってるよ」

 

そう言うと、空間ディスプレイに或守鞠亜と或守鞠奈の部隊が書かれた文が現れた。

しかも、僕と夜月の直属。

 

さて、ここで特務0課の構成について説明するよ。

 

まず───部隊長の僕。特務0課No.1。

次に───副部隊長の夜月。特務0課No.2

その僕直属に、聖良、凛華、澪奈、星夜、紅葉。夜月直属にソラとイリア、ジュデッカ、カイーナ。とそれぞれのデバイスが来る。

次に実働部隊に、アリサ、すずか、アリシアの三人。そしてそこに、新たに配属されることになる軍隊イリスの指揮官型の一部。

次に後方部隊の技術開発課にプレシアさんとリニスさんと同じく軍隊イリスの指揮官型の一部。諜報部隊に二乃さんことデューエさん。そして、同じく軍隊イリスの指揮官型の一部の予定。

予定ではジェイルさんこと、スカさんの所の子たちもウチらの部隊に引き入れる予定だ。スカさんにはプレシアさんと同じく技術開発課に。ウーノやクアットロは指揮の補佐。トーレやディエチは実働部隊に配置するつもりだ。まあ、スカさんからの情報ではまだ増えるみたいだけど。あ、スカさんの妹のルフィアちゃんは考えてる最中だ。

一応、これの他にもあちこちスカウトするつもりだ。

で、そこに新たに僕と夜月の直属に或守姉妹が来る。まあ、それも当然といえば当然だけど。

とまあ、現時点ではこのくらいかな?

あ、あと、お姉ちゃんと華蓮はまだ局に入ってないからね。

 

その後、船内を周った僕らは航行船整備部の人たちに任せて、鞠亜と鞠奈を伴って特務0課の室内へと移動した。

室内に戻ると、プレシアさんとリニスさん、リンディさんがいた。

 

「あ、ママ!」

 

「あらアリシア。艦はもう見てきたのかしら?」

 

「うん!」

 

もう見慣れたアリシアさんのプレシアさんへの甘えに僕達はホッコリする。

 

「それにしてもまさか専用の艦を持つようになるなんてね」

 

「御三方もここに専用の艦を持たせようとしていたみたいだし───あら、そっちの二人は?」

 

「あ、彼女たちは新しく特務0課に配属された或守鞠亜と或守鞠奈の姉妹です」

 

リンディさんの問いに僕が答えると、リンディさんとプレシアさんの大人二人は、また?とでも言うようなため息を出した。

それを視て鞠奈は。

 

「ちょっと、なんで今ため息なんか吐いたわけ?」

 

と目を鋭くして聞いた。

 

「鞠奈。そういう聞き方はいけませんよ」

 

「じゃあ聞くけど鞠亜は気にならないわけ?」

 

「それは・・・・・・気になりはしますけど、その聞き方はダメです」

 

「はぁ・・・・・・わかったわよ」

 

さすがお姉さんなのか、鞠亜は上手く鞠奈の手綱を引いていた。

それを見ていたリンディさんとプレシアさんはというと。

 

「ごめんなさい。特に意味があったわけじゃないのよ。ただぁ・・・・・・」

 

「ただね・・・・・・」

 

何故か二人の視線は僕に向いていた。ナゼ?

 

「?僕の顔に何かついてます?」

 

疑問符を浮かばせながら聞くが。

 

「いえ。そういう意味じゃないんだけど・・・・・・」

 

「アリシア、頑張るのよ」

 

「ま、ママ!?」

 

「???」

 

リンディさんとプレシアさんの言葉の意味がさっぱり分からず僕はさらに疑問符を頭上に浮かばせる。

が、アリサたちはそれの意味が分かったのか、ああ〜、と頷いていた。ほんとどういう意味???

とまあ、そんなこんなで時間は進んで行き───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───夜。

天ノ宮家の地下トレーニングルームでは。

 

「はあっ!」

 

「ふっ!」

 

僕と華蓮が剣を打ち合っていた。

 

「はああっ!」

 

「っ!」

 

一息に繰り出された刺突四連撃を情報強化している模擬刀でパリィする。

 

「え!?今のカドラプル・ペイン視えてたの!?」

 

「さすがお兄ちゃん!」

 

四連撃をパリィすると、お姉ちゃんと聖良の声が聞こえてきた。

 

「やるわね零夜」

 

「華蓮もね」

 

僕と華蓮は片手剣の状態で戦闘をしていた。

 

「はあっ!」

 

「くっ!」

 

縦切り四連撃、バーチカル・スクエアを放つが、それを華蓮は三撃目まで躱し、四撃目をバーチカルで受け止めた。

 

「ふふ!」

 

「はは!」

 

「うわぁ。二人ともいい笑顔してるよ・・・・・・」

 

「やれやれですわね」

 

澪奈と星夜の声を無視してさらに剣戟を続ける。

 

「ぜりゃ!」

 

「せいっ!」

 

ソードスキルを連続で放ち、魔法無しの純粋な剣技でやって行く。

 

「いいね華蓮!」

 

「これでも運動神経には自信があるからね!しってるでしょ?!それに、これの元のSAOを教えたの私だよ?」

 

「知ってるよ!」

 

ノヴァ・アセンションを放った華蓮の剣を同じノヴァ・アセンションで相殺し。

 

「うおおおおぉ!」

 

「っ!?」

 

ラストに一番得意の片手剣ソードスキル、ヴォーパル・ストライクで華蓮に接近し。

 

「はーい、そこまで〜!」

 

「「っ!」」

 

僕の剣が華蓮にぶつかる直前、明莉お姉ちゃんの声で静止しそれぞれの剣を収めた。その際、僕は軽く左右に振って剣を収めるのだが、華蓮は右下に剣を振って左腰の鞘に収めた。

 

「はぁ〜。まさか最後、あそこでヴォーパル・ストライクが来るなんてね」

 

「華蓮だって、やれば出来るんじゃないの?」

 

「あんな、剣技連携が今の私に出来るわけないじゃん」

 

僕と華蓮が話し合っていると。

 

「お兄ちゃ〜ん♪!」

 

「うわっ!?聖良」

 

「あらあら」

 

「ううっ。出遅れた・・・・・・」

 

聖良が僕に抱き着いてきた。

その後ろでは凛華が微笑んでいて、澪奈が不貞腐れていた。

それを見た僕は苦笑して。

 

「おいで澪奈」

 

「っ!うん!」

 

澪奈を受け止め、右手で澪奈の頭を撫でた。

 

「〜〜♪」

 

「お兄ちゃん、私にもナデナデして」

 

「いいよ」

 

「やった♪」

 

聖良の頭も澪奈と同じように、左手で撫でてあげる。

二人とも気持ちよさそうにしていた。

 

「聖良ちゃんと澪奈ちゃんは本当零夜くんの事が大好きですね」

 

「明莉お姉ちゃん」

 

優しい眼差しで見つめる明莉お姉ちゃんに。

 

「ま、いいんじゃないかしら明莉」

 

「ええ。見てください。フフ、二人とも、とっても幸せそうです」

 

知智お姉ちゃんと翼お姉ちゃんも同じような感じだ。そこに。

 

「みんな〜。夜ご飯出来ましたよー」

 

「マスター、夜ご飯の準備が整いました」

 

美咲お姉ちゃんと紅葉がトレーニングルームにやってきた。

 

「あ、もうそんな時間なんですね」

 

時間を見ると、もう八時近くになっていた。

お姉ちゃんと華蓮とやっていたらいつの間にか時間がかなり経っていた。

 

「今日は遅くなりましたが、お二人の歓迎会ですからね。結構豪華だと思いますよ」

 

「え!?そうなんですか?!」

 

「ええ」

 

明莉お姉ちゃんとお姉ちゃんが歩きながら話しているのを聴きながら僕たちは一階のリビングに向かう。

向かいながら、僕は今の家族のことを思う。

 

「(ここに来た時は一人だったのに、いつの間にかお姉ちゃんが増えて、妹も出来た。この世界で家族が出来たよ。ほんと、人生何があるかわからないものだね)」

 

そう、思いを馳せて僕はリビングへと向かった。

これが、今の僕の。いや、僕達の日常。

この世界で、生きていると言う証なのだ。

 

 

 



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レポートデータ (Detentionまで)

 

 

名前 天ノ宮零夜 

 

 

年齢 11歳

 

 

性別 男 

 

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

二つ名 星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ) 

 

 

魔導士ランク SSS (測定不能 EXランク)

 

魔力ランク SSS (測定不能 EXランク)

 

陸戦ランク SSS

 

空戦ランク SSS

 

 

 

希少技能(レアスキル)

 

闇の魔法(マギア・エレベア) 特殊固有武装(アーティファクト) 剣技(ソードスキル) 全属性変換資質 絶対切断(ワールド・エンド) 魔力収束 質量消滅 分解 精霊術 ??? ???

 

 

 

使用魔法 

 

ムンドゥス・マギクス式 ミッドチルダ式 ベルカ式 精霊魔法 時空間魔法

 

 

我流剣技

 

天陽流剣技

 

 

デバイス 

 

リンカーネイト(凛華) レイオブホープ(澪奈) ステラメモリー(星夜) オートクレール(紅葉) 融合機(聖良) 他、銃型デバイス×二  刀剣型デバイス×二(名称不明)

 

 

 

備考

 

 

時空管理局本局所属特殊執務管理室第0課(通称、特務0課)室長兼部隊長 無限書庫司書 デバイスマイスター資格所持 特務官兼特務三佐 戦星級魔導士 

 

 

 

詳細

 

おなじみ、今作の主人公。

二年前と比べ幾段か逞しくなった。

デバイスは保護者兼姉である明莉(アマテラス)から送られた凛華(リンカーネイト)澪奈(レイオブホープ)星夜(ステラメモリー)。そして紅葉(オートクレール)聖良(融合機)の五つ。さらに銃型と刀剣型がそれぞれ二種ある。凛華、澪奈、星夜、紅葉はそれぞれ電磁カートリッジユニット搭載。銃型と刀剣型にもカートリッジユニットが搭載されてる。

管理局に入局して一年足らずで、三佐と特別執務官を合わせた、特務三佐階級を得た。また、特務三佐ではなく、そのまま天ノ宮三佐とも呼ばれる。現時空管理局最強の魔導師にして特務0課No.1。地上本部、ゼスト隊での研修期間の間にオーリス三佐やゼスト隊長、レジアス中将たちから様々なことを学び、それを生かし特務官として活躍中。特務0課が公に公開された為、表立って行動出来るようになり、設立当初からは幾分か動きやすくなっている。

姉と幼馴染二人の霊魂が癒着していたが、明莉によってその霊魂はそれぞれの肉体に宿り、零夜の五つ目の願いとして蘇った。現在は一男十一女家族だが、家族仲はとても良好。隣に住む、もう一人の転生者である桜坂夜月と桜坂弓月(アルテミス)とも仲は良い。

戦闘の際には、近接戦闘は我流剣技である《天陽流剣技》と剣技(ソードスキル)を駆使し。遠距離・魔法等では主体のムンドゥス・マギクス式(M・M式)をベースに、ミッド式とベルカ式。さらに、精霊魔法や時空間魔法を使用し、敵を圧倒する。

また、希少技能である闇の魔法や特殊固有武装を使用せずとも、オーバーSランクを圧倒。教会騎士団のAAランクの騎士シャッハを一撃で倒した非公式の模擬戦記録もある。

闇の魔法を使用した場合、それに対処できるのはほんのひと握りの人物だけと、チートにさらにチート補正が掛かっている。

鍛錬を諦めずにやってきた結果でもある。

圧倒的な魔法や剣技なため、クロノとはやてにより『星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)』という二つ名を付けられ、それが周囲に浸透し、管理局だけでなく、次元世界でも名だたる二つ名となった。また『星王』という略名や、『魔王』、『規格外』等々ある。(本人非公認)

基本的に頭は良いが、超が付くほどのシスコンと朴念仁、唐変木で、未だになのはたちの想いには全くといっていいほど気付かない。寧ろ、無自覚になのはたちをさらに墜としている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 天ノ宮凛華

 

 

年齢 (外観)18歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

二つ名 戦場の舞姫(シグルドリーヴァ)

 

 

魔導士ランク SS++

 

魔力ランク SS+

 

陸戦ランク SS

 

空戦ランク SS+

 

 

武装

 

銃剣可変一体型武装《フォールクヴァング》

 

 

詳細

 

零夜のデバイス五姉妹の長女。

特務0課では零夜の秘書として活躍中。魔導士ランク等は念の為測定し与えられてる。並の魔導士では相手にならなく、シグナムたちなどでなければ対等に戦えないほどのスペックを有する。戦闘では基本的に零夜と同じく指揮を執ることが多い。闘いでは遠近両方が可能と、万能型(オールラウンダー)である。零夜に創ってもらった固有武装、『銃剣可変一体型武装《フォールクヴァング》』の使用者。形態は銃盾と盾剣の二種。攻防一体型の武装。

剣と銃を巧みに使うその姿は舞い踊っているようと言われ、『戦場の舞姫(シグルドリーヴァ)』という二つ名が付けられてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 天ノ宮星夜

 

 

年齢 (外観)17歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

二つ名 星天の狙撃姫(スターリュミエール)

 

 

魔導士ランク SS+

 

魔力ランク S++

 

陸戦ランク S++

 

空戦ランク SS

 

 

武装

 

双翼型可変砲撃武装《ギャラクシーレイ》

 

 

詳細

 

零夜のデバイス、五姉妹の次女。

特務0課では実働部隊の後方支援部隊で活躍中。また、零夜や凛華の代わりに代理指揮を執ることもある。姉である凛華同様、並大抵の魔導士では相手にならないほどのスペックを有し、空間認識能力と空間把握能力が高く、並列処理(マルチタスク)にも優れている。零夜に創ってもらった固有武装、『双翼型可変砲撃武装《ギャラクシーレイ》』の使用者。

形態は基本の双翼から小型砲撃機や翼を剣にする様々な形態はさがある、支援型武装。

戦闘では遠距離からによる支援型(サポートタイプ)。双翼型の砲撃を巧みに操り、相手を翻弄し的確に狙い撃つ姿は天を駆け巡る星々のようだと言われ、『星天の狙撃姫(スターリュミエール)』という二つ名が付けられてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 天ノ宮澪奈

 

 

年齢 (外観)11歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

二つ名 閃光の剣姫(ラディウスプリンセス)

 

 

魔導士ランク SS++

 

魔力ランク SS+

 

陸戦ランク SS+

 

空戦ランク SS+

 

 

武装

 

剣型思考可変型武装《ナイトコンステレーション》

 

 

詳細

 

零夜のデバイス、五姉妹の四女。

特務0課では実働部隊の前線部隊で活躍中。単独でAAランク魔導師三十人を制圧出来るほどのスペックを有するが、基本的には単独での戦闘はせず、誰かとペアを組んで戦う。移動速度が高い。妹の聖良と並んで兄である零夜の事が好きで堪らないブラコン子。零夜に創ってもらった固有武装、『剣型思考可変型武装《ナイトコンステレーション》』の使用者。

形態は、状況に応じて様々な近接武装に切り替えることができ、基本の片手剣形態に、短剣や刀、細剣、大剣、棍など頭に思い描いた武装になる、近接特化型武装。

幾多の剣を自由自在に操り振るう姿は姫のように見えるということから『閃光の剣姫(ラディウスプリンセス)』という二つ名が付けられてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 天ノ宮紅葉

 

 

年齢 (外観)17歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

二つ名 氷炎の姫君(イグニートネーヴェ)

 

 

魔導士ランク SS+

 

魔力ランク SS++

 

陸戦ランク SS+

 

空戦ランク SS++

 

 

武装

 

魔導書型武装《カオスティックインベーション》

 

 

詳細

 

零夜のデバイス、五姉妹の三女。

特務0課では姉の凛華と同じく零夜の秘書をしている。他の姉妹に比べ、近接戦闘は能力が低いが、その分魔法戦に置いては随一の才能を持ち、氷と炎の魔法を主に使用する。戦闘では後方部隊で魔法による援護を行う。また、単独で澪奈と同じく、AAランク魔導師三十人を一人で制圧できるなどすぐれたスペックを有する。姉妹の中で唯一、家族外に作成してもらった子。マスターである零夜の役に立ちたくて、独力で現在までスキルを上げた努力の塊のような子。

零夜に創ってもらった固有武装、『魔導書型武装《カオスティックインベーション》』の使用者。

形態は魔導書型のみ。術式詠唱省略など様々なサポートがある、魔法特化型。

氷と炎の魔法を使い相手を圧倒する姿は魔女というより、可憐な姫君のようだと見えることから『氷炎の姫君(イグニートネーヴェ)』の二つ名が付けられてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 天ノ宮聖良

 

 

年齢 (外観)11歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

二つ名 銀月の聖姫(セイントシルヴァルナ)

 

 

魔導士ランク SS++

 

魔力ランク SSS (測定不能 EXランク)

 

陸戦ランク SS+

 

空戦ランク SS+

 

 

武装

 

思念型可変煌式武装《セイントエレメンタルナ》

 

 

詳細

 

零夜の融合機。五姉妹の五女。

特務0課では姉の澪奈と二人でマスコットのような感じ。(零夜が過保護過ぎてあまり書類とか二人に回さないため)戦闘では基本的には零夜とユニゾンして戦う。ユニゾンしなくても他の姉と顕職ないほどに強く、純粋魔力だけなら姉妹の中で一番。回復魔法や補助魔法などを主に使用し、攻撃系も使えるがあまり使わない。澪奈と同じかそれ以上に零夜のことが好きで堪らない超絶ブラコン子。異性で好きな人と聞かれると、お兄ちゃんと言うほどである。零夜に創ってもらった固有武装、『思念型可変煌式武装《セイントエレメンタルナ》の使用者。

基本形態はペンダントで、頭に描いた武装が顕現する、万能思念型武装。

雪のように白銀の髪を靡かせて戦い、負傷者を聖母のような笑顔で癒すことから『銀月の聖姫(セイントシルヴァルナ)』の二つ名を付けられてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 天ノ宮愛奈美

 

 

年齢 12歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

二つ名 ???

 

 

魔導師ランク S++

 

 

希少技能

 

剣技(ソードスキル)

 

 

使用魔法

 

ムンドゥス・マギクス式

 

 

デバイス

 

エタニティメサイア

 

 

詳細

 

零夜の実姉。零夜の願いによりこの世界で生き返った。

魔導師ランクは零夜の姉らしくかなり高い。年齢と肉体は零夜と同じように若返ってる。デバイスは零夜のお手製。

デバイスは零夜作のエタニティメサイア。

形態は基本の細剣に砲撃型と槍型の三種。

基本的には魔法戦が得意で、近接戦闘は得意という程ではないが一応は出来る。零夜どうよう頭が良く、頭の回転が速い。その分、運動は少し苦手。

前世から零夜の事を溺愛していて超絶のブラコン。(またその逆も然り)。さらに天然がかっているため零夜と華蓮のツッコミが止まらないとか。

この世界では美咲(アフロディーテ)の眷属となってる。

零夜と華蓮。この世界での家族の事が大好き好ぎて、零夜たちに過保護な面が多々ある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 緋愛神華蓮

 

 

年齢 11歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

二つ名 ???

 

 

魔導師ランク S+

 

 

希少技能

 

剣技(ソードスキル)

 

 

使用魔法

 

ムンドゥス・マギクス式

 

 

デバイス

 

エリュシオンネイト

 

 

詳細

 

零夜の前世での幼馴染み。零夜の願いによりこの世界で生き返った。

魔導師ランクはそれなりに高い。零夜同様、元の年齢より若返ってるため零夜たちと同年代。この世界では知智(アテナ)の眷属。

デバイスは零夜作のエリュシオンネイト。

形態は基本の片手剣に、短剣型と銃剣の三種。

基本的に、近接戦闘が得意。魔法は補助のような感じで使用する。運動神経が高く、その身体能力を生かし、剣技で相手を圧倒する。デバイスは零夜のお手製。

前世から零夜のことが好きで、微妙にツンデレ。

現在は零夜たちの天ノ宮家に住んでる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 桜坂夜月

 

 

年齢 11歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局 特務0課

 

 

二つ名 魔天使の女王(クイーン・オブ・マギアエンジェリック)

 

 

魔導師ランク SSS (測定不能 EXランク)

 

魔力ランク SS++

 

 

希少技能

 

天魔融合(ヘブンリィマギクティス) 未来視(コグニス) ??? ???

 

 

使用能力 魔法

 

七つの大罪アーカイブ接続(トリニティセブン) 天使権能行使(デート・ア・ライブ) 独自術式

 

 

魔導書

 

アスティルの写本(ソラ) イーリアス断章(イリア)

 

 

武装

 

黒皇剣ジュデッカ 赫皇剣カイーナ

 

 

デバイス

 

???

 

 

詳細

 

零夜に続いてこの世界に転生した少女。

弓月(アルテミス)の眷属にして、零夜の友人。特務0課のNo.2。前世のことは零夜と同じく話したがらないが、この世界『魔法少女リリカルなのは』の原作を知っている。また、前世ではオタクという程ではないらしいが、それなりにアニメやらを観ていたようでかなり詳しい。

零夜と同じく、原作開始の約五年前にこの世界に家族にして姉である弓月と来ていたが、原作には介入せず、原作開始の約一年半程後に零夜と遭遇し、今に至る。

原作介入しなかった理由は、零夜が意図せず介入したのと住んでいたのが海鳴では無かったためである。

零夜と同じく戦闘能力も高く、零夜同様〈星戦級魔導師〉の称号を保持。主に天使の権能とアーカイブ接続を使用する。

零夜と本気の勝負をすると最悪、星一つが壊滅するほどの能力を保持。その為、零夜同様自身に封印を施してる。模擬戦はイーブン。

現在は零夜たちと同じく私立聖祥大付属小学校に通う。なのはたちとも仲は良好。また、万が一零夜に何かあった時の最後の砦でもある。(理由、対処できるのが夜月のみの為)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 高町なのは

 

 

年齢 11歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局武装隊

 

 

希少技能

 

魔力集束

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 ムンドゥス・マギクス式

 

 

デバイス

 

レイジングハート・S・エクセリオン

 

詳細

 

今作の舞台。『魔法少女リリカルなのは》の世界の本来の主人公にして、この世界での零夜の幼馴染の一人。

魔法に出会って二年足らずで零夜に匹敵するほどの能力を身に付けた魔法少女ならぬ、魔砲少女。

デバイスはエルトリア式フォーミュラートを組み込んだ、レイジングハート・(ストリーマ)・エクセリオン。

フォーミュラカノンを再調整し、レイジングハートが自身の一部として管制を務めるフォーミュラⅡの主武装。

対フォーミュラ戦だけでなく、魔法戦にも使用できる、対魔導・フォーミュラ戦仕様となっている。

形態は砲撃型と突撃武装の槍の二種。さらに付属としてCWディフェンサーが二機がある。魔導にエルトリア式フォーミュラートを組み込んだため、スペックがさらに向上。また、内蔵されてる電磁カートリッジユニットと零夜と夜月により教わった秘技、限界突破(リミットブレイク)によりユーリをも上回る魔砲を放つことが可能。但し、体力と魔力を大きく持っていかれる。

メイン魔法はミッドチルダ式。サブにムンドゥス・マギクス式の風系統属性を使用する。

零夜と似たような魔導の原動力を持つ、零夜のこの世界での幼馴染。師である零夜の背中を追い掛けてるが中々距離が縮まらないどころか、逆に離されてることに危機感を覚え、周囲に内緒で過密な特訓を行ってる。

零夜に好意を昔から持ってるが、未だに言い出せず、逆に引き気味。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 フェイト・テスタロッサ

 

 

年齢 11歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局武装隊

 

 

希少技能

 

電気変換資質

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 ムンドゥス・マギクス式

 

 

デバイス

 

バルディッシュ・H・アサルト

 

 

詳細

 

零夜の親友にして、なのはの一番の好敵手(ライバル)

二年前と比べかなり成長した優しき雷光の少女。

デバイスはなのはと同じく、エルトリア式フォーミュラートを組み込んだ、バルディッシュ・(ホーネット)・アサルト。

型式、ストレートセイバーの派生系。アウトプットチェーンが施され、片手でも両手でも使える仕様になってる。調整者が作製者であるリニスであるため、フェイトの癖などを把握しそれを取り入れ、対フォーミュラ戦仕様だけでなく魔法戦にも使用できる、対魔導・フォーミュラ戦仕様となった、新しいバルディッシュ。

元々の戦斧形態はもちろんのこと、片手剣形態、大剣形態も可能。なのは同様、電磁カートリッジユニット搭載。

メイン魔法はミッドチルダ式。サブにムンドゥス・マギクス式の雷系統属性を使用する。

現在は義理兄であるクロノや零夜と同じく執務官になるため目下勉強中。なのはが毎度のこと無茶をするのでその度にアリサや零夜とともにお説教する母親のような一面がある。

かなりの天然でたまに空気が冷たくなることもしばしば。

今は母親のプレシアと姉のアリシア。プレシアの使い魔のリニスと自身の使い魔であるアルフとともに、クロノやリンディ、クライドたちハラオウン家と一緒にすんでいる。同じ家に住んでいるため、クロノの事をお義理兄ちゃん(おにいちゃん)と呼ぶ。

零夜に対して感謝とも言える好意を持っているが、自身が姉のアリシアとは逆に引き気味のため、未だに言えずにいる。

ちなみに、フェイトのバリアジャケットがこれ以上露出面積が多くなったらどうしようかとプレシアとリニスが頭を悩ませてるとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 八神はやて

 

 

年齢 11歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局人事部

 

 

希少技能

 

蒐集行使

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 ベルカ式 ムンドゥス・マギクス式

 

 

デバイス

 

シュベルトクロイツ 夜天の魔導書 融合機=リインフォース・ツヴァイ 蒼天の書

 

 

詳細

 

この世界での零夜の幼馴染の一人。

色々なことを乗り越え一段と逞しくなった夜天の主。

デバイスは夜天の魔導書と、闇の書事件の最終決戦の際に使用した騎士杖を零夜がはやてに合わせてチューニングしたアームドデバイス、シュベルトクロイツ。融合機にリインフォース・ツヴァイと、リインフォース・ツヴァイの補助端末魔導書デバイス蒼天の書の計四つ。シュベルトクロイツには付属でなのはと同じくCWディフェンサーが二機あるが、なのはのとは違い小振りで機動性に優れてる特注性。

さらに零夜や夜月と同じく独自の戦力として守護騎士ヴォルケンリッターと元夜天の書管制人格の五人を保有。烈火の将シグナム、鉄槌の騎士ヴィータ、湖の騎士シャマル、盾の守護獣ザフィーラ、そしてツヴァイの姉リインフォース・アインスの五人である。

零夜と夜月を除けばなのは達の中で最強とも言わ占める能力を持つが、範囲攻撃などに関してはリインの補助無しではスペックが下がるや制御が上手く出来ないと何かと欠点がある。

ミッドチルダ式、ベルカ式と両方使用できるが、メイン魔法はベルカ式。ミッドチルダ式はあまり使用しない。サブにムンドゥス・マギクス式の、光・闇系統属性を使用する。

現在はツヴァイも含めた七人で暮らし、休学から復学し零夜たちと同じ学校に通う。シグナムやシャマル、アインスなどの胸をよく揉むことから『揉み魔』という不名誉な名前がアリサから付けられたり、タヌキという名前が付く、かなり残念少女。アリサとアリシアと同じくツッコミ役

零夜に続いて料理の腕はなのはたちの中で一番。よく零夜と二人で過ごしたりしていたため、なのはたち一番の強敵。

自身も零夜の事が好きなため、なのはたちにも零夜絡みでは容赦しない。この世界での零夜の一番の理解者でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 アリシア・テスタロッサ

 

 

年齢 11歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局特務0課

 

 

希少技能

 

電気変換資質

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 ムンドゥス・マギクス式

 

 

デバイス

 

ヴォルテックス・イノベイト

 

 

詳細

 

零夜の親友。フェイトの姉。

天真爛漫でハチャメチャ。心優しき蒼雷の使い手。

デバイスはフェイトと同じくリニスに作ってもらい、リニスと零夜によって新しくなったヴォルテックス・イノベイト。対フォーミュラ戦などを想定した新たなヴォルテックス。電磁カートリッジユニットを搭載し、妹のフェイトとは違い遠近両方の万能型。

メイン魔法はミッドチルダ式。ムンドゥス・マギクス式も使え、なのはやフェイト、はやてよりも多用すると、結果ミッド混合M・M術式を使用する。ムンドゥス・マギクス式は主に雷属性を使用する。

一緒に住んでる、義理兄のクロノをフェイト同様お義理兄さんと呼んでいる。

天真爛漫でみんなのムードメーカーであるが、アリサやはやてと同じくツッコミ役でもある。

零夜に妹のフェイトと同じく好意を抱いてるが、色々複雑な感じだとか。(強敵が多いため)母親のプレシアにフェイトと一緒に料理を学んでいる姿が度々見られるらしい。

ちなみに、今一番の悩みは自身の身長に関することだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 アリサ・バニングス

 

 

年齢 11歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局特務0課

 

 

希少技能

 

炎熱変換資質

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 ムンドゥス・マギクス式

 

 

デバイス

 

フレイムハート・アヴァンギャルド

 

 

詳細

 

零夜の親友。

熱く燃え盛る。熱い志を持った炎熱の少女。

デバイスは零夜作のフレイムハート・アヴァンギャルド。

対フォーミュラ戦などを想定し改装し新しくなったフレイムハート。電磁カートリッジユニットを搭載。

メイン魔法はミッドチルダ式。ムンドゥス・マギクス式も使え、なのはやフェイト、はやてよりも多用すると、結果ミッド混合M・M術式を使用する。ムンドゥス・マギクス式は主に火や炎属性を使用する。

ツンデレと言うのが似合うほどのツンデレ少女。強気な面があるが、優しい一面もある。

日々日常的にツッコミや締りが多く、零夜たちの中で母親のような。というより、オカン属性が高い(はやて曰く)

零夜のことが好きではあるが自身が素直になれないためもどかしさが続いてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 月村すずか

 

 

年齢 11歳

 

 

性別 女

 

 

所属 時空管理局本局特務0課

 

 

希少技能

 

氷結変換資質

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 ムンドゥス・マギクス式

 

 

デバイス

 

スノーフェアリー・クリスタライト

 

 

詳細

 

零夜の親友

冷たくも熱い。不屈の闘志を宿す氷黎の少女。

デバイスは零夜作のスノーフェアリー・クリスタライト。

対フォーミュラ戦などを想定し改装した新しくなったスノーフェアリー。電磁カートリッジユニットを搭載。付属にCWディフェンサーが三機あり、機動力と防御性に優れてる特注性。。

メイン魔法はミッドチルダ式だが、ムンドゥス・マギクス式も使用。相性ではミッドチルダ式より、ムンドゥス・マギクス式の方が良く、どちらも半々と言った感じで使用。ムンドゥス・マギクス式では主に氷や水系統の属性を使用する。

オドオドとしているが、芯は強く優しい少女。見た目にそぐわず身体能力が高く、やや天然。

基本的に見守るような位置で見ており、零夜とよく話をしている。

零夜の事が好きで一応積極的にアピールしてるが気付いてもらえず、姉である忍やメイドのファリンに相談しているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 ユーノ・スクライア

 

 

年齢 11歳

 

 

性別 男

 

 

所属 時空管理局本局無限書庫司書

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 ムンドゥス・マギクス式

 

 

デバイス

 

???

 

 

詳細

 

零夜の親友にして、なのはの魔法の師の一人。

仲間を護る翡翠の守護者。

デバイスは不明だが、デバイスが無しでも結界魔導師としての能力は管理局の中でもトップクラス。単独で張れる結界としては零夜以外では最強。

メイン魔法はミッドチルダ式を使用する。ムンドゥス・マギクス式の風属性も得意とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 クロノ・ハラオウン

 

 

年齢 17歳

 

 

性別 男

 

 

所属 時空管理局東京臨時支局支局長

 

 

使用魔法

 

ミッドチルダ式 ムンドゥス・マギクス式

 

 

デバイス

 

S2U デュランダル 月雫武装(ルナティアルウェポン)=【煌月の氷月華(ザ・ルナティシクル・ムーンライト)

 

 

詳細

 

零夜の親友。

デバイスは三つ。零夜から譲渡された煌月の氷月華(ザ・ルナティシクル・ムーンライト)以外はすでに扱いこなしてるが煌月の氷月華(ザ・ルナティシクル・ムーンライト)は扱いこなしてない。戦闘力は管理局の中でもトップクラス。

メイン魔法はミッドチルダ式。サブにムンドゥス・マギクス式を使用する。主に氷と風属性を使用する。

 

 

 

 



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Magus×Sword maiden
刀使ノ世界ヘト


 

〜零夜side〜

 

「───ということですので、天ノ宮特務三佐以下特務0課はこのロストロギアの回収をお願いします」

 

夏休みが終盤に差し掛かったある日。

僕はミゼットさんの執務室でその指令を受けていた。

 

「分かりました。ちなみにですが、そのロストロギアの名称はなんでしょう?」

 

「ロストロギアの名前は───《赤羽刀》」

 

「《赤羽刀》・・・・・・」

 

「はい。場所は第103管理外世界。通称───地球」

 

「っ!?地球!?」

 

ミゼットさんの言葉に僕は驚愕した。まさか、地球が出るとは思わなかったのだ。だが。

 

「ですが、地球は第97管理外世界じゃ」

 

そう。僕らの星地球の番号は第97管理外世界のはずなのだ。

つまり、その第103管理外世界の地球というのは───。

 

「察してる通り、その地球は別世界の地球です」

 

「やはり・・・・・・」

 

この世界は数多の次元世界があるのだ。なら、僕らの星の地球に似た、別世界の地球があっても何のおかしくもない。

 

「詳細はこちらにあります」

 

渡されたクリアファイルを受け取り中身を確認する。

 

「それから、今回の回収の指揮は天ノ宮君が執ってください」

 

「っ!わかりました。最善を尽くします」

 

つまりフラクシナスでその世界に行くという事だ。

 

「それと、助っ人として高町なのはさんとフェイト・テスタロッサさん、八神はやてさんを同行させます」

 

「わかりました」

 

「指令は以上です。それでは検討を祈ります」

 

「ハッ!」

 

ミゼットさんの言葉に、僕は敬礼して応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

「うわぁ〜!これが零夜くんたちの艦なんだね」

 

「もうめちゃくちゃやな」

 

「でも、スゴい・・・・・・!」

 

僕たちはなのは達とともにフラクシナスに乗って第103管理外世界の地球に向かっていた。

艦に乗ったなのはは興奮したように周りを見渡し、はやては呆れた様子で僕を見て、フェイトは目をキラキラ輝かせていた。

 

「あははは。鞠亜、後どのくらいで着きそう?」

 

僕が鞠亜にそう訪ねると。

 

『あと二時間半ほどで到着します』

 

とモニターから声が帰ってきた。

そこに追随するように鞠奈も。

 

『まあ、向こうについても時間帯は夜なんだけどね』

 

と言う。

 

「なるほどね。じゃあ向こうに着いたらまずは情報収集からかな?」

 

「?囁告篇帙(ラジエル)や世界図絵を使えば簡単なんじゃないの?」

 

「まあ、そうなんだけどね」

 

不思議そうに言う夜月に僕は苦笑して応える。

確かに囁告篇帙や世界図絵を使えば簡単だけど、その世界には赤羽刀というのは沢山あるらしいのだ。僕らの探してる赤羽刀はそのひとつということになる。つまり、世界図絵でも探すのは困難なのだ。そして囁告篇帙は夜月の魔力を使うからあまり使いたくない。有事の際に戦えなくなったら大変だからね。まあ、魔力不足なんて大規模な戦闘とかじゃないとならないけど。

つまるところ、なんでも万能ではないということだ。

そう思っていたところに。

 

「天ノ宮提督、ひとつ訊ねてもいいですか?」

 

僕のいる場所のすぐ下から声が聞こえてきた。

 

「はい。なんでしょうクライドさん?それと、僕は提督という程じゃないですよ」

 

最後の方を自虐気味に言って、質問者であるクライドさんに聞く。

 

「なので、僕のことはいつも通りでお願いします」

 

「わ、わかりました。では、天ノ宮君。天ノ宮君は何故自分をここに?」

 

「というと?」

 

「自分は特務0課の人間ではありません。全くの部外者です。なので───」

 

「自分がここにいるのはおかしい、と?」

 

「はい」

 

クライドさんの言葉に僕は。

 

「場所を変えましょう」

 

と言って夜月に目配せして艦橋からフラクシナス内にある執務室に向かった。

執務室に入り鍵をかけた僕はソファに座るとクライドさんに。

 

「話を続けましょう」

 

と言い。

 

「クライドさん。いえ、クライド・ハラオウン次長補佐。僕は形だけの役職を与えられてるだけに過ぎないんですよ」

 

ははっ、と乾いた笑みを漏らして応えた。

 

「本来なら提督などという役職についてないし、特務三佐なんて高階級が僕みたいな11歳の子供に与えられるわけないでしょう?」

 

「そんなこと!実際天ノ宮君の実績や能力ではすでに高階級で・・・・・・いえ、それすらまだ軽い───」

 

「ありがとうございます。ですが、僕が管理局の中でなんて呼ばれてるのか噂では知ってますよね」

 

「・・・・・・『魔王』」

 

「ええ」

 

こんな11歳の子供が『魔王』などと歳不相応な名前を付けられてる理由は僕が他の管理局員たちから畏怖されてるからだ。

特務0課は元々、ミゼットさんたちが僕のために作ったの課だ。理由は僕を御するのが誰も出来ないからだ。そして、闇の書事件を幾度となく引き起こしたナハトヴァールの意識体、聖良を隠す為でもある。もし、僕の家族に手を出そうなんてすれば僕は躊躇無く、その人物、組織を根こそぎ滅ぼし消し飛ばす。僕の目的はただ一つ、家族や友達。みんなで仲良くいつもと同じように過ごすこと。だから、その平穏な日々を破壊しようというものが現れるのなら、僕は躊躇わずにそれを排除する。それは僕の中で最優先事項だ。

 

「まあ、僕は別に『魔王』なんて呼ばれても気にしないんですけど・・・・・・」

 

僕自身は気にしてないが、何人かの人はそう呼ばれることを良くしない。

 

「注目の視線を自身に向けさせることで、彼女たちにいかないようにしてるんですか?」

 

「ええ」

 

僕たちの能力は管理局の中でもずば抜けている。

なのはは収束魔力砲スターライトブレイカー。フェイトやアリシアは電気変換資質や機動力。アリサは炎熱変換資質。すずかは氷結変換資質、等々。そしてはやてはロストロギア、夜天の魔導書の所持者。

管理局は一枚岩という訳では無い。現に僕の役割のひとつに管理局の内情調査がある。本来は管理局の監査部がするんだけど・・・・・・。僕は脳裏にひとりの監査員を思い浮かべた。

騎士カリムとクロノから紹介されたんだが、その人物はなんと言うか、優秀なんだが、不真面目というか。まあ、兎に角気苦労が耐えない人なのだ。ま、面白いからいいけど。

あ、ちなみにその人物とはすでに友人になってます。

 

「それに、僕がクライドさんを呼んだのは、僕が貴方を望んだからです」

 

「自分を?」

 

「ええ」

 

そこまで言うと僕は雰囲気を直し。

 

「クライド・ハラオウン次長補佐。貴方に、我々の特務0課への配属を希望します」

 

と室長たる趣で言う。

 

「現状、我々特務0課の人員は数足りません。フラクシナスの操作もフラクシナスの管理AIに任せています。正直、に言うと人手が欲しいんです。それも、僕が信用出来る経験者の人が」

 

最後の方を苦笑してクライドさんに告げる。

 

「この事はすでにミゼット統幕議長も承認済みです」

 

そう、今回僕はミゼットさんに誰か艦隊指揮経験のある人を。クライドさんを特務0課に配属してもらうように手配してもらったのだ。ま、僕が考えていることなんてお見通しだったみたいで、レオーネ相談役とともに既に手配していたのだ。

ホント、ミゼットさんたちには苦労を掛けます。すみません。

今度キール元帥もいる時に菓子折りでも持参しようと思った。キール元帥にもフラクシナスの件やらでなにかと手を煩わせてしまったからね。

 

「ですので、あとはクライドさんさえ承諾してくれれば大丈夫です。どうでしょう。引き受けてくれませんか?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

僕の言葉にクライドさんは少し思案顔になった。

予期せざる出来事で頭がこんがらがっているのだろう。

少しした後───

 

「こちらこそ、よろしくお願いします天ノ宮君」

 

クライドさんはそう言った。

 

「ありがとうございますクライドさん!」

 

僕はクライドさんの差し出した右手を掴み握手をした。

今ここに、僕らの新しい仲間がまた一人加わったのだった。

 

「───ところでなんですけど」

 

「はい」

 

「もしかして天ノ宮君、これのこと知らないんですか?」

 

「???」

 

クライドさんの質問に首を傾げると、クライドさんはウインドウを出しその一面を見せてきた。

 

「管理局新聞?」

 

「ええ。管理局の広報部が発行してるやつなんですけど」

 

そう言って見せてきた一面には。

 

「なぁっ!?!!?」

 

 

 

 

『時空管理局左官、最年少記録を更新!』

 

『全属性を使える最強の魔導師現る!?』

 

『若干10歳で伝説の三提督直属の部隊を率いる少年!』

 

『その姿は少年というより、少女か!?』

 

『ランクオーバーSSS!?EXランク者出現!』

 

 

 

 

などという見出しの元、僕の写真や戦闘時の姿が写っていた。

 

「な、なななな!なんですかこれぇぇぇーーーーーっ!?!?」

 

僕のその声は艦橋にいる夜月たちにも聞こえたらしく、後でめっちゃ心配された。

 

「こ、こんなの聞いてませんよぉ!?」

 

「あははは。まあ、実際これを見た時クロノも同じようなこと言ってましたからね」

 

クライドさんの言葉に僕は絶対それだけじゃないと思った。

あのクロノの事だ。絶対笑ったに違いない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜がそう思っていたその頃

 

 

 

「くしゅ!」

 

「大丈夫クロノくん?もしかして風邪?」

 

「いや、そんなはずは無いんだが・・・・・・」

 

「まったくもお。少しは休んだらどう?ここ最近、エルトリア事変の事後処理で働きっぱなしでしょ?」

 

「そういうがなエイミィ。僕はここの支局長だぞ?」

 

「ほらまた。こうなったら、零夜君にお願いしてクロノくんを強制的に休ませようかな?」

 

「お、おいおい!それはないだろ!?それと零夜にだけはやめてくれ!」

 

「クロノくん、すっかり零夜君のお話がトラウマになってるね」

 

「当たり前だ・・・・・・。あんな氷の中に閉じこめられて何時間もされたんだぞ」

 

「それはクロノくんの自業自得でしょ?」

 

「そ、それはそうだが・・・・・・」

 

「はぁ。とにかく、もうお昼だから食事ぐらいはとろう」

 

「ああ」

 

「はい。今日も作ってきてるから」

 

「いつもすまん」

 

「いえいえ〜」

 

 

 

地球の日本。東京臨時支局の支局長室でそんな会話がされていたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまあ、そんなこんなで色々あって時間は過ぎて───

 

 

 

 

第103管理外世界───地球

 

 

 

『当該世界。第103管理外世界───地球に到着しました』

 

「了解鞠亜。現在のフラクシナスの位置は?」

 

『第103管理外世界の地球の日本。その首都である東京からすぐ近くの神奈川県鎌倉市上空高度8000メートルの位置です』

 

『床に目下の画像を出すわ』

 

鞠亜の後に鞠奈が言い、鞠奈が言い終わると同時にフラクシナスの艦橋の床に鎌倉市の画像がリアルタイムで映し出された。

 

「OK。鞠亜、基礎魔力輪環装置(ベーシック・マギリックシステム)で生成した魔力を恒常魔導領域(パーマネント・マギアエリア)に回して。不可視迷彩(インビジブル)自動回避(アヴォイド)はそのままに」

 

『了解しました』

 

「さて。これから今回の任務について話すよ」

 

鞠亜に指示を出した僕は艦長席からたちなのはたちに説明する。

 

「今回僕たちの任務はこの世界にあるロストロギア《赤羽刀》の回収。けど、調べによるとこの世界にはそのロストロギアと同じ《赤羽刀》という錆びた刀が沢山あるらしい。僕たちが探してるのはそのうちのひとつ。データはそれぞれに送るね」

 

そう言って僕は今回の任務の詳細なデータをなのはたちに送った。

 

「なあ、零夜くん。この【荒魂】とか【刀使】ってのはなんや?」

 

「あ、それは───」

 

はやての質問に応えようとしたその時。

 

『実際に見てみれば分かるわよ?丁度今すぐ下でやってるみたいだし』

 

鞠奈がそう言ってきた。

 

「やってる?」

 

「どういうこと?」

 

なのはたちが首を傾げ。

 

「鞠奈、その映像を映して」

 

『ええ』

 

鞠奈に言うと、すく上のスクリーンモニターに映像が映った。

場所は森林だろうか、暗い中、禍々しい化け物のような赤い物が数体?いた。そしてその前には何人かの僕らとそう年の離れていない、学生服を着た女子たちが腰に刀を帯刀していた。

 

『あの禍々しい化け物のような物が【荒魂】です。そして、それに相対するのが、荒魂を祓い清める巫女【刀使】です』

 

「あれが荒魂と刀使・・・・・・」

 

モニターには常人では出せない速度で駆け、その手に握る刀で荒魂を斬る少女が映っていた。

 

「(へぇ。あの刀・・・・・・面白い)」

 

どうやらこの世界は結構波乱な世界らしい。

やがてモニターでは少女たちが刀を振るい、荒魂を全て討伐し終わった姿が映っていた。

 

「ほぇー。なんかカッコイイね」

 

「せやね。まるでヒーローみたいやわ」

 

「でも、荒魂ってお化けみたいで怖い」

 

なのはたちはそれぞれ思ったことを口に出して言っていた。

そこに、僕の副官的な位置に立つクライドさんが。

 

「天ノ宮君。現在の時間は現地時間で夜の二十三時過ぎです。探索は明朝からが良いかと」

 

「ですね。それに・・・・・・」

 

視線をモニターに向けて僕は一考する。

 

「クライドさん、明朝朝八時から探索にしましょう」

 

「はい」

 

特務0課では夜月が副室長だが、フラクシナスではクライドさんが副官だ。何故かと言うと、クライドさんの艦隊指揮経験がこれから重要になってくるからだ。まだ僕には足りないからね。一応グレアム叔父さんに色々学んでるけど、勉強と実戦は全く違うのだ。

 

「みんな、明日の朝八時からそれぞれチームを組んで《赤羽刀》の捜索に入ってもらうよ」

 

「「「了解!」」」

 

僕の言葉になのはたちはすぐに答え、それぞれの部屋へと戻って行った。

僕はそのまま艦橋で本局の無限書庫にいるユーノに連絡を取り、《赤羽刀》について調べてもらうことにしクライドさんと軽く打ち合わせをして凛華たちとともに眠ったのだった。

 

 

 

 

 

 



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刀使との会合

 

〜零夜side〜

 

 

第103管理外世界───地球に来て、現地時間の午前十時半過ぎ。僕は現地の神奈川県鎌倉市の高度8000メートル上空に滞空しているフラクシナスで次々入る情報をクライドさんと星夜とともにまとめていた。

 

『こちら高町なのは。対象ロストロギアまだ未発見です』

 

『こちらアリサ・バニングス。こっちもまだロストロギアを発見できてないわ』

 

『同じくこっちもまだ発見出来てないよレイくん』

 

定時連絡の報告をなのは、アリサ、夜月から受けた僕は。

 

「了解。引き続き捜索をお願い」

 

そう言ってクライドさんに視線を移す。

 

「今のところは特に問題はなさそうですね」

 

「ええ。ですが、範囲が広すぎます。一応神奈川県全域にエリアサーチを放ってますけど・・・・・・」

 

対象のロストロギア《赤羽刀》がこの神奈川県のどこかにあるということは反応で分かったが場所まではわからなかったのだ。

そんな訳で人海戦術を強いて捜索してるのだ。

 

「零夜くん、少し気になることが」

 

「ん?」

 

「この周辺でなんでも、ドッペルゲンガーというものが現れるみたいです」

 

「「「「ドッペルゲンガー?」」」」

 

星夜の言葉に僕と聖良、澪奈、クライドさんは疑問符を浮かばせながら言った。

 

「ドッペルゲンガーって、あのドッペルゲンガー?」

 

「ええ。あのドッペルゲンガー、らしいです。ですが、目撃例が少なく、話題としてるのは刀使の一部らしいです」

 

「刀使・・・・・・ね」

 

星夜の説明に僕は席の背もたれに深く沈み、足を組み考える。

 

「・・・・・・クライドさん、万が一僕が出ることになったらここの指揮お願いしてもいいですか?」

 

「わかりました」

 

「星夜。星夜もクライドさんとともにここで待機して指示を出して」

 

「わかりましたわ」

 

「鞠亜、鞠奈」

 

『はい。聞いてましたよ』

 

『言われなくても分かってるわよ』

 

「よろしくね」

 

念の為の指示をみんなに出してエリアサーチを再びする。

地上にいる班はそれぞれ、なのは・フェイト・はやてのチームにアリサ・アリシア・すずかのチーム、夜月と凛華・紅葉のチームだ。そして、ここフラクシナスには僕、聖良、星夜、澪奈、クライドさんがいる。星夜は艦橋の解析席に座って調べ、僕とクライドさんは情報のまとめや指揮を。聖良と澪奈はエリアサーチを使って探してる。

それからさらにしばらく時が経ち。

 

「かれこれもう二時間以上になるけど、全然見つからないね」

 

「うん。お兄ちゃん、一度お姉ちゃんたちに戻ってきてもらったらどうかな?休息もかねて」

 

エリアサーチを使ってなのはたちが探してる以外の地域を検索してる澪奈と聖良がそう提案してきた。

確かに一度戻ってきてもらった方がいいかもしれない。

 

「そうだね。みんなに一度戻ってきて───」

 

僕がそう言いかけたその時。

 

『こちら高町なのは!対象ロストロギア、赤羽刀と思わしき刀を持った少女を発見!現在交戦中です!』

 

なのはの緊迫した声が通信越しに聞こえてきた。

 

「っ!澪奈、なのはたちが今いる地点は?!」

 

「鎌倉市の北北西の森林地帯!」

 

澪奈が報告してくるとさらに。

 

『零夜!こちらアリサ・バニングス!ロストロギアと思われる《赤羽刀》を発見したわ!今、その《赤羽刀》を持った人と戦闘中!』

 

アリサの通信が来た。

 

「同時に二箇所で?!」

 

ほぼ同時に来た連絡に僕とクライドさんは目を見開く。

 

「まさか複数あるのか・・・・・・?」

 

クライドさんのつぶやきに僕もそう思った。

何せロストロギアとはオーバーテクノロジーの塊なのだ。僕らが知らない。予想も付かないことを起こす可能性は極めて高い。

 

「これは分裂・・・・・・いや、複製か?」

 

声に出して言いながらも思考は回っていた。

 

「夜月、すぐにアリサたちの方に行って!」

 

『っ!わ、わかった!』

 

「それと、その人物はなるべく傷つけないようにね!」

 

『了解!』

 

夜月に指示を送った僕はクライドさんに視線を送り。

 

「こちらは自分が」

 

「お願いします。聖良!」

 

「うん!」

 

星夜と澪奈をそこに残して僕と聖良はなのはたちの所に向かってフラクシナスの外に出た。

 

『零夜くん。なのはちゃんたちは場所を移動してそこから北西部の廃ビルにいます』

 

「わかった!」

 

星夜からの通信ともに場所のデータを確認した僕はさらに速度を上げた。

 

「聖良、大丈夫!?」

 

「うん!大丈夫だよお兄ちゃん!」

 

「キツかったら言ってね」

 

「うん。ありがとうお兄ちゃん♪!」

 

こういう時じゃなかったら聖良の写真を撮りたいんだけど、我慢。

そのまま飛んでいきやがて。

 

「っ!?」

 

なのはたちが五人の少女と交戦してるのが目に入った。

はやては後ろにいるけど、フェイトは白髪の白い制服少女と。なのはは茶髪の赤と白の制服を着た少女とやりやっていた。

他にも、緑の制服の少女とフェイトと同じ白い制服を着た少女。そして、白と紫の隊服のような他の少女達とは違う制服を着た少女がいた。少し離れたところには《赤羽刀》を持った三人の姿があったが、この三人の気はどこか違った。

 

「(ん?なのはの相手してる少女の反応・・・・・・これってまさか・・・・・・!)」

 

なのはが相手してる少女の気から僕はそれが生身の。正真正銘本物の人だとわかった。僕がそう思うのと同時になのはは。

 

 

 

「───ディバイン・・・・・・シューター!」

 

 

 

相手の少女たちに向かってディバインシューターを放っていた。

 

「って!ちょっ!?」

 

僕は急いで地面に向かい。

 

「なのは!フェイト!はやて!攻撃中止!下がって!!」

 

なのはのディバインシューターが相手の少女に当たる前にディバインシューターを消し、なのはたちに指示を出す。すでに片手には具現化した断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)を一振出している。

 

「零夜くん!?」

 

「零夜!?」

 

「零夜くん!?」

 

なのはたちと少女たちの間に降り立つと、後ろからなのはたちの驚きの声が聞こえた。

目の前の少女たちからは。

 

「誰!?」

 

「新手・・・・・・?」

 

「え・・・・・・いまあの人、あのなんか球体みたいなの消してなかった?」

 

「ていうか、今あの人空から落ちてきませんでしたかぁ!?」

 

「彼女たちの仲間でしょうか?それにあの剣は・・・・・・」

 

という困惑の声が伝わる。

 

「零夜くん、なんでここにおるん!?」

 

「三人の援護に来たんだよ」

 

「それは助かるけど・・・・・・それより、攻撃中止って?」

 

「なのはならもう分かってると思うけど、彼女たちは全員本物の人間だよ」

 

「え!?そうなん!?」

 

「うん。なんとなく、さっきの人たちとは様子が違ったから・・・・・・」

 

「確かに・・・・・・さっきの三人とは様子がまったく違うたな」

 

「じゃあ、本当に・・・・・・?」

 

「うん」

 

「どうや、フェイトちゃん?私は零夜くんとなのはちゃんが嘘を言ってるとは思わんけど?」

 

「うん。私もそう思う。なのはと零夜を信じるよ」

 

「ありがとう二人とも」

 

なのはたちに説明し話し終えた僕は一歩前に出て目の前の少女たちに声をかける。

 

「いきなり攻撃を仕掛けてしまってすみません。少しお話をさせてもらえませんか?」

 

僕がそう声を掛けると、少女たちは。

 

「お話・・・・・・」

 

「・・・・・・どうしよう?」

 

「聞いてみよう。あの金髪の子と剣を交じえた時・・・・・・悪い子じゃないって思ったんだ。だからまずはお話を聞いてみよう」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

「よく見て、よく聞いて、よく感じ取って・・・・・・それから判断しようよ」

 

「うん・・・・・・。加奈美に賛成」

 

「取り敢えず聞いてみましょう」

 

少女たちの方でも話がまとまったのかそれぞれ刀を腰の鞘に収めこっちを見た。

 

「はじめまして。僕の名前は天ノ宮零夜。彼女たちは右から高町なのは。フェイト・テスタロッサ。八神はやてです。それと───」

 

僕が視線を上に向けると。

 

「お兄ちゃん!みんな!」

 

空から聖良が翼を出してゆっくりと降りてきた。

 

「せ、聖良ちゃんまで!?」

 

「聖良まで来たの?!」

 

「うわぁ。過剰戦力やわこれ・・・・・・」

 

後ろから驚く声二つと苦笑する声がひとつ聞こえた。

聖良は僕の隣に降り立つと。

 

「あ、妹の天ノ宮聖良です♪よろしくお願いしますね刀使の皆さん」

 

そう自己紹介をした。

その自己紹介の姿に───

 

「あ、あのぉ・・・・・・」

 

「はい」

 

「なんで携帯でその子を撮ってるんですか?」

 

オドオドと、緑色の制服を着た少女かが聞いてきた。

 

「(え?携帯?)」

 

疑問に思っていると。

 

「零夜くん、シリアスな場面をぶち壊さんといてくれる」

 

はやての呆れた、非難めいた声が聞こえてきた。

視線を手に移すと、僕の手にはいつの間にか自身のスマホが握られてあり、カメラモードが起動されていた。

 

「あれ、いつの間に」

 

僕がそう言葉に出すと。

 

「「「いつものシスコンが発動した(やね)(ね)」」」

 

後ろからなのはたちの呆れた声が伝わった。

当の本人と妹は知らぬぞんりであるが。

なにせ天ノ宮家ではこのような事など日常茶飯事なのだから。

親バカならぬ神バカ兼姉バカである朱莉お姉ちゃんをはじめ、澪奈にお姉ちゃんに、凛華、星夜、知智お姉ちゃんなどシスコンブラコンなど日常なのだ。

そんな僕らを見て。

 

「可奈美、シスコンってなに?」

 

「えっ!?えーと、それは・・・・・・」

 

「シスコンって、本の中だけなのかと思ったけど本当にいるんだ」

 

「仲がいいですね・・・・・・」

 

「皐月さん、その反応は少しおかしいです。っていうかあの子のあの羽はなんですかぁ!?」

 

五者五様の反応だった。

 

 

 

───閑話休題───

 

 

 

「コホン。気を取り直して。僕たちは時空管理局の魔導師で、この世界にはとある任務で来ました」

 

「時空・・・・・・管理局・・・・・・?」

 

「そのようなの聞いたことありませんね」

 

「私も・・・・・・」

 

僕の言葉に彼女たちは少しの戸惑いを見せた。

まあ、そりゃそうどよね。はじめの頃は僕たちだってそうだったんだし。

 

「魔導師ってことはあの力はもしかして・・・・・・」

 

「はい。魔法です」

 

「魔法って・・・・・・あの、ゲームとか物語の中に出てくる?」

 

「そのイメージで大丈夫です。私たちは、零夜くんが先程言ったように、こことは違う地球から来ました」

 

「魔法に魔導師にこことは違う地球?い、いきなりファンタジーな話になってきた・・・・・・」

 

「でも、嘘はついてないと思う」

 

「・・・・・・そうだね」

 

いきなり魔法や魔導師なんてファンタジーな言葉に困惑気味な彼女たち。

 

「ほのちゃんたちを攻撃した理由は?」

 

緑色の制服を着た少女の問いに僕はなのはたちに視線を送る。

僕の視線を視たなのはが少女の問いに応えた。

 

「それは・・・・・・先に、あのお姉さんたちが攻撃してきたから自衛のために反撃させてもらいました」

 

どうやら先に攻撃してきたのは向こうらしい。

 

「それで、すみませんが、あなた達の名前を教えてもらっていいですか?」

 

まだ名前を聞いてなかったことを思い出し、僕は彼女たちに訪ねる。

 

「あ、私は衛藤可奈美。で、こっちから糸見沙耶香ちゃん、六角清香さん、伊南栖羽ちゃん、皐月夜見さん」

 

「ありがとうございます衛藤さん」

 

赤と白の制服を着た少女───衛藤さんにお礼を言う。

 

「あの、可奈美さんたちもさっきの人たちの仲間かと思って反撃したんですけど・・・・・・なんか違う感じで・・・・・・」

 

「ところでなのは。あの人たちは気絶してるってことでいいの?」

 

なのはの言葉の後にそう問うと。

 

「え、気絶?」

 

「あ、はい。非殺傷に設定してるから、怪我はないはずです!」

 

「非殺傷設定・・・・・・魔法ってそんなことも出来るんだ・・・・・・」

 

「・・・・・・安桜さんたちを確認して、気絶してるだけなら一致します。六角さん、一緒にお願いします」

 

「あ、はい!」

 

「あ、私も!」

 

気絶している三人に近づく皐月さんと六角さんと衛藤さん。

 

「そういえば・・・・・・なんで美炎ちゃんたちはこんなところにいたんだろうね?」

 

「そうなんだよね。今頃、地方に遠征してるはずなんだけど・・・・・・あれ?御刀・・・・・・加州清光じゃない」

 

「これは赤羽刀ですね」

 

六角さんの言葉に、気絶していた三人を視る皐月さんが言うと。

 

「っ!」

 

「きゃっ!?」

 

安桜と呼ばれた少女らしき人が急に起き出し、その手に握る《赤羽刀》を振るってきた。

すぐに反応出来てない六角さんの前に縮道で移動し、展開していた断罪の剣で受け止める。

 

「っ!?」

 

「えっ!?」

 

「大丈夫ですか六角さん」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「え?今、迅移を使ったの・・・・・・?」

 

「いえ、迅移を使ったようには見えませんでしたけど」

 

呆然と、何が起こったのか分からないような衛藤さんと皐月さんに。

 

「一応聞きますけど、この人たちあなた達の知り合いなんですか?」

 

と断罪の剣で振り下ろされた赤羽刀を弾き飛ばして聞く。

僕の問いに答えたのは、後ろにいる六角さんだった。

 

「ち、違います!この人ほのちゃんたちじゃないです!荒魂です!」

 

「なら、斬っても問題ないですね」

 

「え・・・・・・?」

 

六角さんの言葉を聞いた僕は左手にもう一振の断罪の剣を現出させ。

 

「せやっ!」

 

「っ!」

 

「はっ!」

 

「っ!」

 

「はあっ!」

 

「っ!?」

 

赤羽刀を握った三人。いや、三体の荒魂をそれぞれ二刀の元に斬り伏せた。

 

「ふぅ」

 

人型の荒魂を斬り伏せた僕は息を整えて現出していた断罪の剣を消した。

 

「え。今、なにをしたんですか彼・・・・・・いや、彼女?」

 

「彼であってると思うよ。あの子がお兄ちゃんって呼んでたし」

 

「はい。それより、御刀ではない剣で荒魂を斬った・・・・・・?」

 

「信じられない・・・・・・」

 

「いやいや、あの子躊躇なく斬りましたよいまっ!」

 

またまた驚愕している刀使さんたちを置いといて、僕は地面に落ちた人型の荒魂が持っていた赤羽刀を手に取る。

 

「(これ・・・・・・赤羽刀の複製(コピー)?)」

 

検分して分かったことを思考し、振り返る。

 

「さて。出来ることならここの司令官の人に話をしたいんですが」

 

「え、どうして?」

 

「あ、言ってませんでしたか?今回の任務の総指揮官は僕なんです」

 

衛藤さんの疑問に応えると。

 

「「「指揮官!?!?」」」

 

衛藤さん、六角さん、伊南さんは絶叫を上げ。皐月さんは大きく目を見開いていた。糸見さんも驚いた表情を出していた。

その後ろではなのはたちが、あははと苦笑してたっている姿があったのだった。

 

 



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魔導と巫女


新年明けましておめでとうございます。
今年も本作や私の他作品をよろしくお願いします。
なお、感想などを絶賛募集しています!


 

〜零夜side〜

 

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

「はじめまして。時空管理局本局所属。特殊執務管理室第0課───特務0課の天ノ宮零夜特務三佐です。今回の任務の総指揮をしています。どうぞよろしくお願いします。こっちは僕の家族の天ノ宮凛華です」

 

僕は今、刀使たちの総司令部がある鎌府女学院と呼ばれる学院の近くにある家。折神家と呼ばれる場所の一室で、僕は三人の女性と対面していた。

隣には凛華もいる。

 

「はじめましてでいいのでしょうか。特別刀剣類管理局局長代理の折神朱音と申します」

 

「あたしは特別祭祀機動隊の総指揮官、本部長の真庭紗南だ」

 

「折神紫だ。故あってこの体勢で失礼する」

 

折神紫と名乗った女性は、体調が良くないのか勇ましい顔つきだが、ベットに寝たきりの状態だった。

そして、折神ということは、この紫という人は朱音という人の縁者。家族。姉妹なのだろう。何処と無く雰囲気や顔立ちが似ている。そして、真庭紗南と名乗った人はなんというか、かなり男勝りな気がする。まあ、初対面の人に失礼かもしれないけど。

 

「あ、別に固くしなくてもいいですよ。そういうの苦手なので」

 

「零夜くん、ここは公式の場です。礼節は弁えないとかと」

 

「うーん。やっぱりそうしないとダメ?」

 

「多分」

 

凛華の言葉に僕はうへぇとなる。

正直、僕はこういう堅苦しいのは苦手なのだ。苦手というか嫌いだ。だから、僕は課の中では上下関係を無しにしている。だって、みんな同じ人間なんだから。

そう思っていると。

 

「はははっ。中々面白いんなお前たちは」

 

真庭さんが大きな声で笑っていた。

 

「真庭本部長・・・・・・」

 

「初対面の者にお前呼ばわりとはな紗南」

 

その横では折神姉妹が微妙な表情をしていた。

 

「ふふ。別にお前でも構いませんよ。僕の年齢は11歳なので」

 

クスリっと笑って応えると。

 

「11歳!?」

 

朱音さんが驚愕の顔を浮かべた。

 

「はい」

 

そう応えると、僕は空間ウィンドウを出して管理局の自分のネームタグを見せた。

 

「なっ!?その歳で課の長だと・・・・・・!?」

 

「しかも階級が三佐の左官ですか・・・・・・!?」

 

折神姉妹が僕の役職と所属タグに驚く中、真庭さんは。

 

「んんっ!?性別男!?女ではなくか!?」

 

全く別なところに驚いていた。

その真庭さんの言葉を聞いた折神姉妹も。

 

「えっ!?」

 

「その容姿で男とは・・・・・・!」

 

と驚嘆の顔を出していた。

うん。かなり久しぶりなその反応。

 

「いや、失礼した。天ノ宮で良いか?」

 

「ええ。構いませんよ真庭さん」

 

「うむ」

 

一応一段落したところで、話をはじめた。

 

「さて。僕らはこことは違う世界。違う地球からこの世界にやって来ました。目的はとある物の回収です」

 

「とある物、ですか?」

 

「はい」

 

「それは一体なんなんだい?」

 

「僕たちではそれを、【失われた世界の遺物】───ロストロギアと呼んでいます」

 

「ロストロギア・・・・・・」

 

「その遺物がこの地球にあるというのか?」

 

「ええ。今回僕らの回収するロストロギアは、名を《赤羽刀》といいます」

 

「なにっ」

 

「っ!?」

 

「ほぉ」

 

僕の言葉に三者三様の反応。

 

「今、刀使たちの間でドッペルゲンガーという噂が流れてるのは知ってますか?」

 

「あ・・・・・・ああ。ドッペルゲンガーに会ったとかの噂は耳に入ってるが・・・・・・まさかそれがか?」

 

「はい。先程、僕たちもそのドッペルゲンガーらしきものと交戦しましたから間違いないでしょう」

 

「なんてこと・・・・・・」

 

朱音さんは悲嘆するように呟く。

まさか自分たちの住んでる場所でそんなことがあるなんて思いも知らなかったのだろう。

 

「このドッペルゲンガーはどうも刀使に姿を変えるらしく、先程交戦した刀使も、安桜さんという方の姿をしていましたから」

 

「なるほどな」

 

腕を組む真庭さん。

 

「ひとつよろしいでしょうか?」

 

「なんでしょう?」

 

唐突の朱音さんの質問に首を傾げはせずとも疑問符を浮かべて聞く。

 

「衛藤さんたちの報告から、あなたは刀使ではないのに荒魂を斬った、とありました。一体どうやって荒魂を祓ったのですか?」

 

「あー・・・・・・」

 

朱音さんの質問に僕は悩む。

何せ僕が荒魂を斬れた理由は、断罪の剣に付与してる絶対切断と僕の能力である支配領域による事象改変によって齎されたものだからだ。

絶対切断はその名の通り、斬れないものはないというイマジネーションを具現化した剣の極致ともいえるものだ。

そして断罪の剣を中心に発動させた極微小の支配領域による事象改変という魔法で絶対切断を補助。よって、本来は刀使と御刀にしか斬り祓えない荒魂という事象を改変し僕でも斬れるようにしたに過ぎないのだ。

言ってみればこれはかなりの機密だ。なにせ、世界の法則すらも塗り替えられるという事なのだから。まあ、荒魂についての解析が済めば、なのはたちの魔法でも荒魂を倒せるから問題ないけどね。

現に今、ここの上空に滞空しているフラクシナスの艦内で星夜が荒魂について解析して、それを元になのはたちでも荒魂に対処できるようにしてくれている。

どう応えようか考えていると。

 

「その事については零夜くんの魔法という事だけ申し上げます」

 

「凛華?」

 

隣にいる凛華が険しい眼差しで応えた。

 

「それはどういう意味でしょうか?」

 

「具体的な説明はでき兼ねますという事です。一つ申し上げますと、この世界で荒魂を祓えるのは刀使の方だけらしいですが、その外から来た私たちにはその常識が通じません。なにせ、私たちは魔法というファンタジーなものを使っているのですから」

 

凛華は僕に代わってキッパリと言った。

拒絶とも言える言葉に不思議に思っていると。

 

〈零夜くん。荒魂を斬ったスキルに関しては内緒にしといた方がいいです〉

 

念話でそう忠告してきた。

 

〈一応聞くけど、理由は?〉

 

〈まず第一にこの方たちが100%信用出来る訳では無いからです。この世界の特別祭祀機動隊は政府に属しています。つまり、この世界の政府に知られる可能性があるんです〉

 

〈なるほどね〉

 

凛華の理由に僕はすぐさま理解した。

確かに、荒魂を倒せるのは刀使だけ、というのがこの世界での理だ。この世界の外側から来訪した僕たちはその理に利してない。つまり、もしここで僕の魔法について説明すると、この世界の因果や理が崩壊する可能性があるという事だ。

しかもここは管理外世界。基本的には僕たちが関わることが無い、というより、魔法文化が無い世界だ。僕が原因でこの世界の理が乱れたら、それは僕だけの問題ではない。ミゼットさんたちにも迷惑が掛かるし、明莉お姉ちゃんたちにも何かしらの被害が行くだろう。

 

「すみませんが、それについての解答はノーコメントで。僕の秘密に関わることなので」

 

僕は朱音さんにそう言って断る。

 

「そうですか。こちらこそ、不躾な質問をしてしまい申し訳ありませんでした」

 

「いえ、こちらこそ失礼しました」

 

朱音さんと凛華もそれぞれ謝罪し、この話を終わらせる。

 

「それで、そちらが我々に逢いに来た目的というのはなんなんだ?」

 

紫さんが問うように聞いてくる。

 

「しばらくの間こちらに滞在する許可と、情報交換をと思いまして」

 

「ほう」

 

「なるほどな。確かに、件の赤羽刀についてはこちらの情報とそっちの情報は交換しといて問題は無いだろうな。朱音さま、紫さま、あたしとしては彼らに今回の件については協力を求めるのがよろしいかと思います。魔法というものが関わっている以上、あの子達だけに任せるのは荷が重いかと」

 

「ふむ・・・・・・」

 

「そうですね・・・・・・」

 

真庭さんの意見に折神姉妹は考え込む。

僕としては現地の協力者───刀使に手伝ってもらった方がいいと思う。荒魂というこの世界に存在するものについては僕たちはまだ対処し兼ねるからね。

しばらくして。

 

「お姉様。私は本部長の意見に賛成します。もし彼の言うロストロギアという物が関わっているとなると、もはや刀使たちでは手がつけられません。ここは魔法という物が使える彼らに協力を願うのがいいかと」

 

「ふむ・・・・・・」

 

朱音さんの意見に紫さんは更に目を瞑り考え込む。

 

「天ノ宮と言ったな」

 

「はい」

 

「ひとつ聞きたい」

 

「なんでしょう?」

 

「君はなんの為に戦う。何故戦うのか聞かせてもらいたい」

 

「・・・・・・・・・・」

 

紫さんから出た言葉に僕は呆然とする。

そんな質問をされるとは思わなかっのだ。

もしこれが普通の11歳の子だったら分からないと答えるだろう。なのはに関しては例外だ。

しばし呆然とした後、僕はすぐに応えた。

 

「守るため。僕の大切な家族や友達。親友、お世話になった人や支えてくれた人。そんな様々な、いろんなかけがえのない、大切なものを守るために、僕はこの力を振るい、戦う」

 

僕が戦う理由の根源はなのはと同じだ。

守りたい。傷つけたくない。誰かを助けたい。そう言う、心があるから戦う。僕は前世でお姉ちゃんや華蓮たち家族を。なのははお父さんである士郎さんが亡くなりそうになった。そんな、誰かを守れるようになりたい。守りたいという気持ちがあるからこそ僕やなのはは戦う。

それははやてやフェイト、アリシア、アリサ、すずかを然り、凛華たちや夜月たち。プレシアさん。リンディさん。クロノ。ミゼットさん。ゼストさん。レジアス中将。アミタさん。キリエ。ユーリ。イリス。ディアーチェ。シュテル。レヴィ。

今まで出逢ってきたすべての人が持っている気持ちだ。何かを守りたいからこそ戦う。失わないように。大切なものを無くさないようするために。

 

「・・・・・・・・・・」

 

僕の言葉を聞いた紫さんは少々驚いた顔をしていた。それは真庭さんと朱音さんもで。

 

「紗南、朱音。私も二人の意見に賛成だ。いや、寧ろ今回の件はこちらから協力願いたいほどだ」

 

「紫さま・・・・・・」

 

「お姉様・・・・・・」

 

紫さんの言葉に真庭さんと朱音さんの二人は互いの顔を見合わせ。

 

「天ノ宮特務三佐、こちらこそよろしくお願いする」

 

真庭さんが右手を伸ばしてきた。

 

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

僕も右手を伸ばし、真庭さんの右手を掴み握手をする。

今ここに、魔導師と刀使による協力が轢かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

「───という事になり、現地の協力者である刀使の方々と合同で今回の任務に当たることになりました」

 

僕はフラクシナスの中にある会議室のモニターでミゼットさんと通信していた。

 

『分かりました。本来なら、誰か大人が会談するのが良いのですが・・・・・・』

 

「いえ、大丈夫ですミゼットさん」

 

ミゼットさんが心配してるのは大人の役割を子供である僕に押し付けてしまったことだろう。まあ、別に僕は気にしてない。

 

『そうですか・・・・・・。では、天ノ宮特務三佐、健闘を祈ります』

 

「はっ!」

 

ミゼットさんの言葉に敬礼をして応えると、モニターが暗くなり通信がきれた。

通信を終えると、僕は艦橋にいきクライドさんに指示を出し、鞠亜、鞠奈に現状維持をお願いして僕は一旦地上に降りた。

フラクシナスには鞠亜と鞠奈が居るとはいえ、最低でも一人は居なければならないからだ。ローテーションは僕、クライドさん、夜月、凛華、星夜にしてる。この五人にした理由は単純に指揮能力が高いからだ。僕は言わずがな。艦隊指揮経験のあるクライドさん。夜月、凛華、星夜は頭の回転から。

地上の鎌府女学院に降りた僕は、なのはたちのいる学院の食堂に向かった。

食堂に入ると。

 

「やあぁぁぁぁぁーーーっ!!」

 

「っ!?」

 

いきなり小さな。皐月さんと同じ制服を着た薄紫色の長い髪を左側にサイドテールにした女の子が御刀を振りかぶってきたのだ。

咄嗟に両手に断罪の剣を顕現させ、上段から振ってきた御刀を受け止める。

 

「アハッ♪」

 

女の子は楽しそうに声を上げると、素早い速度で御刀を振るってきた。

 

「っ!」

 

僕も瞬時に意識を戦闘モードに切り替え、次々と迫り来る女の子の御刀と打ち合う。

何合続いたのか分からないころに、僕は戦闘モードの思考を加速させる。

 

「(速い!この子、フェイトより速いんじゃないかな?しかも剣の重みが凄い!シグナムと同等・・・・・・いや、それ以上!)」

 

切り結びながらそう判断して場所を食堂から外に移動する。

 

「アハハ♪すっごーい!キミすごいね!私とこうして撃ち合えるなんて♪」

 

「それはどうも」

 

女の子の言葉にそう応えると。

 

「結芽!」

 

右側から鋭い声が響いてきた。

 

「ん?」

 

視線を右側に向けると、そこには皐月さんや目の前の女の子と同じ制服を着た二人の少女がいた。

一人は少し男勝りっぽい少女、一人は可憐という言葉が似合うほどの優雅に立っている少女だ。

 

「真希おねーさんと寿々花おねーさん!?」

 

目の前の女の子の知り合いのようだが・・・・・・。

そう思っていると。

 

「刀使でもない相手・・・・・・というか君より小さな子に何してるんだ!?」

 

「いやー・・・・・・そのー・・・・・・」

 

「お待ち下さい真希さん。あの方の持っている剣・・・・・・もしかしてあの方真庭本部長と朱音様、紫様が仰っていた・・・・・・」

 

「なっ!」

 

「???」

 

よく分からないでいる僕のところに。

 

「零夜くん!」

 

「ん?なのは?はやてたちみんなも」

 

なのはたちが慌てたようにやって来た。

 

「だ、大丈夫お兄ちゃん!?」

 

「え?うん。別になんともないけど?」

 

「よかったぁ・・・・・・」

 

「ところでこれ、どういう事?」

 

僕はイマイチ分からない中みんなに聞いたのだった。

 

 

 



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刀使との話し合い

 

〜零夜side〜

 

「本っ当にすまなかった!!」

 

「あ、いえ・・・・・・」

 

どうも零夜です。

僕は今任務で別世界の地球にいるんですが、その世界の人。刀使と呼ばれる少女の一人にものすごい勢いで謝られています。土下座でもするような勢いで、周りの人は何事かと僕らの方を注目していますね。

 

「ほら結芽。あなたも謝りなさい」

 

「むー・・・・・・。ごめんなさい」

 

続けて結芽と呼ばれた女の子と、それを促した少女にも謝られています。

 

「あの、別に僕は気にしてないので・・・・・・」

 

さすがの僕も年上の女性にこうも土下座する勢いで謝られるとなんとも言えない。

それから少しして。

 

「改めて自己紹介をしよう。ボクの名前は獅童真希。特務警備隊の一人だ」

 

「わたくしは此花寿々花と申します。こっちは燕結芽ですわ」

 

皐月さんと同じ制服を着た少女二人。燕さん除き、が僕たちに自己紹介をしてくれた。

 

「は、はじめまして。天ノ宮零夜です」

 

未だにどういう状況なのか抜け出せない僕は困惑気味に自己紹介を返す。なのはたちも同様にし。

 

「で・・・・・・燕さん?ですよね?燕さんは何故僕に襲い掛かって・・・・・・?」

 

一番の疑問を聞くと。

 

「あー・・・・・・それはやなー・・・・・・」

 

「はやて?」

 

はやてたちに視線を向けると何故か全員視線を合わせてくれない。隣にいる聖良は僕の方を見ているけど。

そこに。

 

「説明しますと、燕さんが天ノ宮さんに襲い掛かった理由は、燕さんが天ノ宮さんの実力を知りたかったからです」

 

「はい?」

 

皐月さんが無表情のような顔で応えた。

 

「実はねお兄ちゃん。お兄ちゃんが来る前にこんなことがあって───」

 

〜零夜side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜が来る数刻前

 

 

〜なのはside〜

 

「ほぇー」

 

「いろんな刀使さんがいるんやね〜」

 

刀使さん達との会合を終えた私たちは、ここの本部長っていう人達と零夜くんが話してる最中、可奈美さんたちに連れられて鎌府女学院と呼ばれる学校の食堂に合流した夜月ちゃんたちとともに来ていた。

 

「ねえねえ。みんな着ている服が違うけど、あれってどうして?」

 

質問をしたのはアリシアちゃんだ。

アリシアちゃんの質問に可奈美さんが応える。

 

「この制服はそれぞれの学校の制服なんだ」

 

「学校?」

 

「うん。私が着てるのは美濃関学院で。沙耶香ちゃんと栖羽ちゃんが着てるのは鎌府女学院。六角さんのは平城学館。あと───」

 

「ワタシたちの長船女学園と、もう一つ綾小路武芸学舎デース!」

 

可奈美さんの後を言ったのは可奈美さんの後ろから現れた金髪のオレンジ色の制服を着た少女だった。

見た感じからハーフだと思う。

 

「あ!エレンちゃん!」

 

「やっほーかなみん!さあや!」

 

「・・・・・・うん」

 

可奈美さんと沙耶香さんに抱き着いた少女は天真爛漫という言葉がピッタリな感じがする。アリシアちゃんといい勝負かもしれないと思ったのは秘密だ。

 

「おいエレン。一人で勝手に行くな」

 

「ねー」

 

「オー!ごめんデス薫」

 

さらにもう一人来たけど・・・・・・あの子の頭の上に乗ってるのってなんだろう?

なんかとっても可愛いいんだけど!

そう思っていると。

 

「ね?ねねー!!」

 

「わっ!?」

 

なんか可愛い生き物なのかな?生物が私に飛び掛ってきた。

 

「だ、大丈夫なのは?」

 

「うん。大丈夫だよフェイトちゃん」

 

「なんだろうその子。なのはちゃんの胸に止まってないかな?」

 

「え?」

 

聖良ちゃんの言葉に視線をその生き物に向けると、その生き物は私の胸に抱き着いていた。え。なんで?

不思議に思っていると。

 

「おー。ねねが飛びつくってことは将来胸が大きくなるな」

 

薫と呼ばれた少女がそう口にした。

それを聞いた私たちは全員。

 

『『『はい?』』』

 

と口にした。

 

「ねねには胸の大きい人物や胸が将来大きくなる人物を見分ける特技があんだよ」

 

さらに聞かされた言葉に私は視線をねねと呼ばれた生き物に向ける。

 

「ねー」

 

そう一声?鳴き声でいいのかな?声を出すと、その生き物は次はフェイトちゃんに飛び付いた。

 

「わ、私にも!?」

 

「ねー」

 

「なのはとフェイトに飛び付いたってことは・・・・・・」

 

「将来二人とも胸が大きくなるってことなん・・・・・・!?」

 

アリサちゃんとはやてちゃんが驚愕の表情で言う。

その間にもねねと呼ばれた生き物はフェイトちゃんからすずかちゃんへ。夜月ちゃん、アリサちゃん、アリシアちゃんに飛び付き。

 

「ね?ねー♪!」

 

「ひゃっ!こ、今度は私ですか!?」

 

今度は星夜ちゃんにも抱き着き。

 

「ひゃう!くすぐったいです」

 

「んんぅ!え、えっと・・・・・・」

 

凛華ちゃんや紅葉ちゃん。さらには澪奈ちゃんや。

 

「きゃっ!わ、私も!?」

 

聖良ちゃんにも抱き着いた。

これで抱き着かれてないのははやてちゃんだけなんだけど。

 

「ね」

 

「な、なんで私んとこには来んのや!?」

 

なんでかはやてちゃんには抱き着かなかった。

 

「あー。多分、成長はするんだろうけど、コイツらみたいに大きくはならないってことじゃないか?」

 

そこに薫さん?が言う。

それを聞いたはやてちゃんは。

 

「ガーン!」

 

まさにorzという感じだった。

 

「そんな・・・・・・零夜くんに色仕掛けもできひんのか・・・・・・」

 

今なんか不穏な言葉が聞こえた気がするけど気のせいかな?

 

「だ、大丈夫だよはやてちゃん。私たちはまだ子供なんだから、ね」

 

「そうよ。これで決まるわけないわ」

 

「けやけどすずかちゃんとアリサちゃんはその子に抱き着いてもらってたやん」

 

「あー・・・・・・それは・・・・・・」

 

いじけたように言うはやてちゃん。

それに対し、なんとも言えない私たちであった。

 

 

 

 

 

─閑話休題─

 

 

 

 

 

「あー。こほん。オレは益子薫。でこっちはねねだよろしくな」

 

「ねー!」

 

「ワタシの名前は古波蔵エレンデース!よろしくお願いするデス!」

 

「は、はい。よろしくお願いします・・・・・・」

 

なんとも対照的な二人に私は引き攣り笑いを浮かべるしかなかった。

こんな時零夜くんがいてくれたら助かったんだけど・・・・・・。

 

「(って!いつまでも零夜くんにすがってちゃダメだよね!)」

 

そう自分に言いつけるように出しこっちも自己紹介をする。

 

「そう言えば薫さん、任務の報告は?」

 

「もう終わってる。ったくあのブラック本部長のヤツ。なにが、しばらくこっちで待機してろ、だ!んなことより休暇をくれ!休暇を!」

 

どうやら薫さんはかなり苦労してるみたい。

 

「んで。可奈美、コイツら刀使じゃねぇよな?なんでここにいるんだ?」

 

「薫。それはさっき紗南センセイから言われたじゃアリマセンカ」

 

「あ?あー、そう言えばんなこと言ってたな」

 

「イエス!確か、別世界の地球から来た魔法少女なんですよね!」

 

「え、ええ」

 

エレンさんのノリに引き気味のアリサちゃん。

私も苦笑いを浮かべるしかない。

そこに。

 

「ねえねえ。あなた達の中で誰がいちばん強いの?」

 

『『『え?』』』

 

幼い、多分私たちと歳の近い女の子の声が聞こえてきた。

声のした所を見ると、そこには薄紫色の長い髪を左側にサイドテールした、夜見さんと同じ制服を着た女の子がいた。

 

「あ、結芽ちゃん!」

 

「あ、千鳥のおねーさん!」

 

千鳥のおねーさんというのは可奈美さんのことなのかな?そう思っていると。

 

「ねえねえ。質問に答えてくれない?」

 

催促するような言葉を言われた。

 

「え、えーと、私たちの中で誰が一番強いのかって言われたら・・・・・・」

 

私の頭の中には零夜くんが思い浮かんだ。

零夜くんの徳一した魔法と剣技、思考の回転・・・・・・。

私は自分の師であり幼なじみでもある零夜くんがこの中で最強だと思った。それはフェイトちゃんたちもで。

 

「零夜かな」

 

「零夜くんやね」

 

「零夜ね」

 

「零夜だと思うよ」

 

「零夜くん、かな・・・・・・」

 

「レイくんね」

 

上から、フェイトちゃん、はやてちゃん、アリサちゃん、アリシアちゃん、すずかちゃん、夜月ちゃんが次々に応える。

 

「零夜くん?誰?」

 

「えっと、私たちの友達かな」

 

「ふうん。その人どこにいるの?」

 

「えっと・・・・・・あ」

 

視線をふと食堂の入口に向けると、そこには零夜くんがちょうど入ろうとしてる姿があった。

 

「あ、お兄ちゃん♪」

 

聖良ちゃんがそう言うと、結芽さん?は私たちの視線を追って零夜くんを捉えた。

 

「ふうん♪あの子が・・・・・・」

 

「え」

 

結芽さんのそんな声が聞こえると同時に、結芽さんの姿が消え、次に見えたのは零夜くんに御刀を振り下ろしてるところだった。

 

「やあぁぁぁぁぁーーーっ!」

 

「っ!?」

 

いきなりの、不意討ちに近い形の攻撃を零夜くんは驚いたように目を広げながらも両手に瞬時に剣を創り出し迎撃った。

周りの刀使の人達は慌てたようにその場所から離れる。

 

「お、お兄ちゃん!」

 

「零夜くん!」

 

私たちも唖然としてる中、可奈美さんと薫さんが。

 

「ウソっ!?結芽ちゃんの剣を受け止めてる!」

 

「いや、それどころか反撃すらしてるぞ・・・・・・!しかも二刀流だと?折神紫の二天一流・・・・・・じゃねぇな。我流か?」

 

驚愕の声を顕にした。

 

「おいおい。あの燕結芽と互角に撃ち合ってるって・・・・・・あいつ何者だよ。可奈美と同じバケモンか」

 

「薫さん!?」

 

心外とでも言う感じの可奈美さん。

いや、実際零夜くんって実力のソコがまだ見えないんだよね。本気で戦ったことのある夜月ちゃん曰く、『無理無理無理。レイくんが本気で私を殺しに来てたらすぐに終わっちゃうよ』との事らしい。

って、そうじゃなくて!

 

「急いで止めないと!」

 

「そうや!このままやと被害が広がるで!」

 

「レイくんが手加減してくれてるといいんだけど」

 

夜月ちゃんのボソッと言った言葉には私たち魔導師組は大いに賛成する。のだが、刀使たちの反応は。

 

「て、手加減?」

 

「お、おい。今手加減って言葉が聞こえた気がするんだが・・・・・・」

 

「わ、ワタシもそう聞こえました」

 

「燕さんを相手に手加減・・・・・・」

 

信じられないことを聞いたような反応だった。

 

「じゃなくて!お、お兄ちゃーん!!」

 

「零夜くーん!!」

 

聖良ちゃんと澪奈ちゃんの、零夜くん大好き絶賛ブラコン発動中(常中)二人が慌てて外に出た二人を追い掛け、私たちも後を追ったのだった。

 

〜なのはside out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜零夜side〜

 

 

「───というわけで、今に至る訳だよ」

 

「な、なるほど・・・・・・」

 

聖良からことに至るまでのあらすじを聞いた僕は引き攣り笑いを浮かべるしか無かった。なぜなら。

 

「(ツッコミが多すぎる・・・・・・!)」

 

だからである。

取り敢えず。

 

「益子さん、そこの淫獣を少し貸してくれる?大丈夫です、痛くしませんから」

 

聖良たちに抱き着いたこの、ねねとかいう生き物にOHANASIする必要がある!

 

「お、おい、ハイライトが消えてんぞ」

 

「お、お兄ちゃん、大丈夫だから!だからハイライトを戻して!」

 

おっと。

聖良に言われて僕はハイライトをONにする。

 

「まあ、ねね?にOHANASIするのは後にして」

 

「結局すんのかよ」

 

益子さんのツッコミを無視して。

 

「僕と戦いたいなら言ってくれればいつでも相手しましたのに」

 

「え!それホント!?」

 

「ホント!?」

 

「え、あ、はい。こっちで任務が終わるまでなら」

 

僕の言葉に目を輝かせて来た衛藤さんと燕さんに身を後ろに引きながら応える。

 

「身体強化の魔法は使いますけど、それ以外の魔法は使わないので剣技だけで戦いますけど」

 

「「なら今すぐ!!!」」

 

「ええ・・・・・・」

 

衛藤さんと燕さんに詰め寄られている僕を他所に、なのはたちはと言うと。

 

「───へぇ。そんなことがあったんですね」

 

「ああ。もう今から半年ぐらい前のことだけどな」

 

「あれから色々ありましたわね」

 

「そうだね・・・・・・」

 

獅童さんたちと仲良く会話をしていた。それは夜月たちもで。

 

「ちょっとこっちを助けてくれませんかねえぇぇぇぇ!!」

 

思わず僕はそう声をあげたのだった。

ちなみに妹の聖良と澪奈はというと。

 

「「スー・・・・・・スー・・・・・・」」

 

疲れちゃったのか、さっきまで起きていたはずなのにいつの間にか二人仲良く眠りこけていた。

二人は仲良く頭を互いに合わせ、小さな寝息を立てていた。

 

「(ホント、この世界でもシリアスブレイク満載なのか)」

 

そう思いながら僕は二人に遮音結界を薄く張り、目の前の二人に視線を合わせたのだった。

 

 

 

 



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模擬戦、魔導師(メイガス)VS刀使(メイデン)

 

〜零夜side〜

 

 

「それじゃあまずは、私から行くよ」

 

「ええ」

 

食堂での騒動の後、僕は学院の修練場にて燕さんと相対していた。

ギャラリーにはその場にいたなのはや凛華たち魔導師組に、衛藤さんや獅童さんたち刀使勢がいる。

今僕の手には何も無いが、燕さんの腰には自身の御刀、銘『ニッカリ青江』がある。

 

「さてと・・・・・・」

 

僕はひと息つき、自身の異空間から二振りの長剣を取り出し背中に吊るす。

 

「あれ、さっきのあの光る剣じゃないの?」

 

「ええ。あっちより、実剣の方がいいと思うので」

 

背中にクロスして背負う長剣は剣先から握り手までそれぞれ黒と白銀の色をしていた。

モデルは彼がUWで使っていた長剣だが、剣の飾らが違う。

黒い剣は刃文に薄く数多の星々が描かれており、白銀の剣には同じく刃文に薄く幾多の薔薇が描かれてる。

銘はそれぞれ、『黒聖(こくせい)』と『白庭(はくてい)』となってる。(ちなみに、命名したのは知智お姉ちゃんと明莉お姉ちゃんである。作成者は、僕と翼お姉ちゃんだけど。)

僕は二刀を静かに抜き放ち、何時ものバリアジャケットを展開する。そして左手足を前に出し、右足を少し下げ右手を右足より前に、剣と剣が段違いの交差するような体勢を取る。

その光景に獅童さんや衛藤さんたちは息を飲んだのが伝わった。それは目の前にいる燕さんもで───

 

「・・・・・・」

 

対する燕さんも腰から御刀を抜刀し、刃を左側にして御刀を横にして構える。

 

「最初は身体強化無しでいきます。獅童さん、合図を」

 

「わかった」

 

獅童さんが僕と燕さんの間位置に立ち。

 

「それでは───始めっ!!」

 

「っ!」

 

「はああっ!」

 

獅童さんの開始の声とともに、燕さんは突っ込んできた。

 

「(へぇ・・・・・・)」

 

初手の突きを横に避けて躱し、次手の袈裟懸けを弾く。そしてさらに来る剣戟を弾いていく。

 

「(すごい。この子、こんな歳でここまでの技量・・・・・・シグナムよりスゴいかも!まるで知智お姉ちゃんとやってるみたい!)」

 

僕の剣の師匠は知智(アテナ)お姉ちゃんだ。

知智お姉ちゃんの教えはホントすごい。体の運び方から呼吸法。先読みや相手の構えや呼吸からの反撃などなど。まあ、そのぶんキツイけど。でも、知智お姉ちゃんの教えもあったからここまでいけてる。

 

「今度はこっちから行くよ!」

 

「っ!」

 

「ふっ!」

 

反撃に、左右からの剣の雨を御見舞する。

僕の剣の型は我流だ。故に、相手に見切られる可能性は少し低い。

 

「このっ!」

 

「はあっ!」

 

右突きからの左切り上げ、そのままの逆切り下げ右払い。

 

「はああっ!」

 

「うっ!」

 

わざと隙を作り、大きく振りかぶってきた所を思いっきり二刀で弾き飛ばす。

 

「っう・・・・・・!」

 

弾き飛ばされた燕さんは修練場の奥の方に吹き飛ばされ、床に倒れた。

その燕さんを見て。

 

「結芽とここまで互角だなんて・・・・・・」

 

「まるで紫様みたいですわ」

 

「結芽ちゃん、大丈夫かな・・・・・・」

 

獅童さんたちは驚愕と心配感を出していた。

で、なのはたちはと言うと。

 

「うわぁ。相変わらず速いね」

 

「うん。私より速い」

 

「いやいや、二人とも。それより、零夜くんの速度について行ってるあの子がすごいと思うで」

 

「どっちもどっちよ」

 

「あはは・・・・・・」

 

って感じだった。

ちなみに、凛華たちはいつの間にかビデオレコーダーを手にしてこっちを撮っていた。うん、いつのまに。

 

「・・・・・・あは!いいね、零夜くん!こっから私も本気で行くからね!」

 

「じゃあ、僕も身体強化有りで行きますよ。───戦いの歌(カントゥス・べラークス)三重奏(トリア)

 

身体強化魔法を施し、再び燕さんと向き合う。

そして。

 

「っ!」

 

「っ!?」

 

刀使の能力、【写し】を張った燕さんの速度はさっきまでの速度とは段違いに早く、咄嗟にしゃがんで後ろからの突きをやり過ごした。

 

「(うわっ!速い・・・・・・。これが刀使の能力、【写し】による身体強化と能力のひとつ【迅移】か・・・・・・。なるほどね。これなら荒魂と戦えるのにも納得が行くよ。そしてこの子、かなり速い。フェイトに匹敵するほどかも。三重奏じゃなくて五重奏(クインテット)にすれば良かったかな)」

 

そう感じながらも次々来る神速の攻撃を受け流し、反撃する。

 

「ふふ」

 

「はは」

 

自然と僕と燕さんの口角は上がっていた。

 

「(もっと、もっと速く!限界を越え、さらにその先の領域に・・・・・・!)」

 

斬り結びながら僕は意識をさらに加速させていく。

 

「はああっ!」

 

「ぜりゃああっ!」

 

一域高い金属音が鳴り、僕と燕さんは後ろに滑って下がる。

 

「・・・・・・あはは♪面白いし楽しい!こんなの千鳥のおねーさんや紫様と戦った時以来だよ!」

 

「僕も楽しいよ!ここまで僕についてこれる人なんて居なかったからね!」

 

「アハハはっ!いいよ!ねえ零夜くん、まだ本気じゃないでしょ?全力で私と戦おうよ!私も全力の君と戦いからさ!」

 

「・・・・・・バレちゃったか。いいよ。本気を見せてあげる!」

 

僕はそう言うと、夜月に視線を向け。

 

「夜月、この修練場に障壁展開して。あれ使うから」

 

「えっ!?あれ使うの!?」

 

「うん。あんな好奇な視線を向けられたら僕も全力でやりたくなった」

 

「はぁー。仕方ないなぁ」

 

夜月はそうため息を吐くと、手を前に出して障壁を張ってくれた。

 

「これでいい?」

 

「うん。ありがとう夜月」

 

「あれは氷雷?それとも雷だけ?」

 

「スピードには雷、でしょ?」

 

「はいはい」

 

視線を夜月から再び燕さんに向けて。

 

「じゃあいくよ?───術式解放。両腕固定・掌握!術式兵装・雷天大壮・・・・・・発動!」

 

『『『っ!』』』

 

僕の闇の魔法・術式兵装、雷天大壮を見た燕さんや衛藤さんたちは全員揃って目を大きく見開いた。一部の人たちはペタンと、床に崩れ落ちていた。

 

「な、なんだあれは・・・・・・雷の鎧・・・・・・?」

 

「いえ、膨大な雷を自らの中に取り込んだんだと思いますわ」

 

「彼は本当にひと・・・・・・なのか?」

 

呆然として呟く獅童さんたちの声を耳にして、

 

「いくよ、燕さん───いや・・・・・・結芽!」

 

「・・・・・・っ!いいよ・・・・・・零夜くん!」

 

「「っ!!」」

 

再び僕と結芽は同時に動いた。

片や雷速で。片や神速の如く。雷速と神速。どちらも普通の人間には出せない、到達出来ない領域。

僕と結芽は剣と御刀を撃ち合いながら、足払いなど体術も仕掛ける。

 

「っ!」

 

「!」

 

一瞬で背後に回って放たれた突きを見ないで右の星黒で反らし、そのまま左の白庭で振り返りざまに薙ぐ。

しかし、それは結芽に当たることなく空気を切るだけになった。僕はそのまま雷速で移動し、結芽がいる場所の正面から突きを放つ。それを結芽はしゃがんで避け、足祓いを仕掛けてくる。僕はすぐに足祓いを上に飛んで避ける。が、上からいつの間にか移動した結芽が御刀を振り下ろしてきた。

 

「っ!?」

 

「はあああっ!」

 

とっさに虚空瞬動でその場から右に雷速で避ける。

 

「逃がさないよ!」

 

「うそっ!」

 

避けるが結芽は僕の速度にだんだん追いついて来ていた。いや。これは。

 

「(先読み・・・・・・!結芽、さすがだよ。でも・・・・・・!)」

 

「えっ!さらに速くなった!?」

 

僕は思考のギアをもう一段階上げ、結芽の視界から消える。

 

「っ!後ろ!」

 

「へぇ」

 

背後を取ったつもりだけど、さすがの反応速度。見事に受け止められた。

 

「次々行くよ!」

 

「っの!」

 

僕は結芽の剣技を見て、自分なりにアレンジを加える。天陽流は型に囚われない。柔軟態様になっている。そしてそれは。

 

「はっ!」

 

「と、捉えきれない!?」

 

結芽たち刀使にとって、相性がとてもいい。

結芽たちの剣技は型に則られた物だ。なら、それに外れた剣技である僕の天陽流なら柔軟に行ける。

だから、

 

「これで終わらせるよ結芽」

 

「っ!」

 

「天陽流剣技───胡蝶(こちょう)神楽桜(かぐらざくら)!───双舞(そうぶ)!」

 

連続16連撃。双舞は二刀の時の剣技だ。一刀は普通に10連撃である。

合計16連撃を食らった結芽は写しが剥がれ床に膝を着いた。

 

「ハッ!しょ、勝者、天ノ宮零夜!」

 

僕は獅童さんの声を聞きながら二刀を軽く振って背中の鞘に仕舞う。それと同時に雷天大壮をきる。雷天大壮をきり、意識が戻ると。

 

「はぁっ・・・・・・」

 

床に座り込む。

さすがに疲れた。ここまで疲れたのは昔の知智お姉ちゃんの特訓以来だ。脳の過剰行使。さすがにキツイ。が、動けないほどではないし、衛藤さんと戦えない訳でもない。

そこに。

 

「大丈夫、零夜くん?」

 

「あぁ、なのは」

 

なのはが心配そうに尋ねてくる。

結芽のところには衛藤さんたちが行っていた。

 

「スゴかった。雷天大壮使わなかったら負けてたかも」

 

「え、そんなに!?」

 

「うん」

 

最終的に、速度で勝ったため勝てたようなものだ。ホント、恐ろしい。そう思いつつ、水を飲んでいると後ろから。

 

「はぁー。それで、私になにか言うことは無いかしらね〜レイくん?」

 

夜月の冷たい声が聞こえてきた。怒り心頭の声だ。

 

「あ、えっと、その・・・・・・」

 

「ん〜?」

 

「ありがとうございます・・・・・・?」

 

「レイくん」

 

「は、はいっ!」

 

夜月のニコッと笑ってるが目が笑ってない顔に怖くなりながらも直立不動をして夜月を見る。

夜月は自分の両脇に二本の皇剣を現出し。

 

「ねえ、この子たちの技を食らうのと、私の天使の全ての攻撃食らうの・・・・・・どれがいい?」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

笑ってない瞳で言われた僕はジャンピング土下座をした。

いや、だって、夜月の目が本気だったんだもん!

 

「はいはい、夜月も零夜で遊ばないように。零夜もこんな所でジャンピング土下座しないでよね」

 

「じょ、冗談だよアリサちゃん」

 

「ハイライトOFFにしてたくせに何言うか」

 

アリサの言葉に視線を横にずらす夜月。

 

「それと零夜!」

 

「は、はい!」

 

「こんな所であんたの奥の手使ってどうすんの!何かあった時に対処できないでしょ?!この中での最高戦力はあんたなのよ?少しは考えて!」

 

「すみませんでした・・・・・・」

 

僕と夜月はアリサに叱られた後、僕は夜月の刻々帝(ザフキエル)の【四の弾(ダレット)】によって魔力らを回復し、次は衛藤さんと模擬戦することになった。

 

「えへへ。よろしくね零夜くん」

 

「ええ。お願いします衛藤さん」

 

「可奈美でいいよ」

 

「では、可奈美」

 

「うん。・・・・・・それじゃ、はじめようか」

 

「ええ」

 

僕は再度背中の鞘から『黒聖』と『白庭』を抜き何時もの戦闘スタイルをとる。

可奈美も腰から自分の御刀、確か銘を『千鳥』を抜き構える。

すると。

 

「零夜くん、魔法っていうのも有りでいいよ」

 

「え?!」

 

可奈美さんがそんなことを言ってきた。

 

「零夜くんの魔法がどんなのか見てみたいんだ。それに、零夜くんの剣術は魔法と併用するんでしょ?」

 

「っ!?」

 

可奈美の言葉に僕は衝撃を受けた。確かに僕の剣術は魔法と併用する。所謂、魔導剣術だ。だが、それはシグナムやヴィータ、ゼストさんもで基本ベルカ式の魔導師多い。が、それでも僕の剣術は異様だ。まあ、なんせ師匠が女神なんだからね。

 

「いいの?」

 

「うん!」

 

可奈美の眼は好奇心旺盛の眼をしていた。

なら。

 

「わかった。夜月、お願いできるかな?」

 

「はいはい。でも、分かっていると思うけど使うのは低級のやつだけだからね?」

 

「わかってるよ」

 

苦笑しつつ応え、可奈美に視線を向ける。

 

「じゃあ、少しだけ。あ、それと可奈美」

 

「ん?」

 

「可奈美、本気で来てね?」

 

「え・・・・・・」

 

「じゃないと、怪我するよ」

 

そう言い終わると、獅童さんが。

 

「それでは───はじめ!」

 

と発した。

その声が聞こえるやすぐに、僕は自身の周囲に白桃の魔弾を現出させる。

 

「いくよ!───アクセルシューター!」

 

放たれた白桃の魔力弾は素早い速度で可奈美に襲い掛かる。

 

「ふっ!」

 

可奈美は最低限の躱すだけで、僕に接近してきた。

けど。

 

「遅いよ」

 

「っ!?」

 

可奈美の御刀が僕に触れる寸前、僕は瞬動で可奈美の背後に回る。

そして。

 

「フォトンランサー&アクセルシューター・ダンシングエッジ!」

 

二つの魔法を同時に発動して二十発の魔力弾を可奈美の全方位から攻撃する。

 

「───!!?」

 

驚く可奈美に、僕は右手の『黒聖』を肩の高さにまで持ち上げカタパルトのように肘をおり畳む。

 

「はあああああっ!!」

 

真紅のエフェクトを輝かせながら思い切り『黒聖』を突き放つ。

 

「ヴォーパル・ストライク!」

 

アインクラッド流片手剣ソードスキル、ヴォーパル・ストライク。

それを遠慮せずに可奈美に向けて撃つ。

 

「えっ!?」

 

可奈美はとっさに『迅移』で移動してヴォーパル・ストライクの射線上から立ち退き、ヴォーパル・ストライクは空を貫くだけになった。

それを見た此花さんたちは。

 

「これが、彼の魔法と剣技を合わせた力・・・・・・」

 

「ちなみにだが、君たちは彼のようなことが出来るのかい?」

 

「いえ。ここまで出来るのは零夜くんだけだと・・・・・・」

 

「そうやなあ。シグナムやヴィータも零夜くんには敵わんって言うてたし」

 

「私もムリ・・・・・・かな?ていうか、あれ私となのはの魔法だよね」

 

「うん。いつの間に私とフェイトちゃんの魔法が使えるようになったんだろう」

 

そんな会話をしていた。

僕がなのはとフェイトの魔法を使えた理由は、二人が夜天の書(旧闇の書)にリンカーコアを蒐集されたからだ。

あの時、闇の書を基本的に僕が保持していた。データ閲覧は出来なかったが、聖良が使えたことにより僕も使えるようになった。

まあ、なのはの魔法は基本的に僕が教えていたから簡単だったけど。

 

「まだやる可奈美?」

 

「あ、あはは・・・・・・」

 

僕の問いに引き攣り笑いを浮かべる可奈美。

『黒聖』と『白庭』を軽く回して床に突き立てる。

 

「どうする?」

 

「もちろん、まだやるよ。私の全力、まだ見せてないから!」

 

「了解。それじゃあ、僕も可奈美に合わせて剣術だけで行こうかな」

 

そう言うと、『黒聖』と『白庭』を抜きさっきとは違う構えをとる

左手足は前に、『白庭』をそのまま直線に。左足は少し引いて重心を少し前に倒して、『黒聖』を垂直に右に向けて置く。

意識と呼吸を整え、可奈美も同様に呼吸を整える。

そして───。

 

「「───!!」」

 

僕と可奈美はほぼ同時に動き、その中央でぶつかった。

 

 



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天ノ宮零夜と折神紫

〜零夜side〜

 

 

予約(アポイント)も無しに済まないな」

 

「いえ、構いません」

 

「本来なら私がそちらに出向くのが筋なのだろうが・・・・・・」

 

「あまり無茶をしないでください。身体があまり優れないのですよね?」

 

「すまない」

 

こちらの世界に来て三日目の昼下がり。

一日目は到着したも、夜分遅くのためフラクシナスで待機し翌日の二日目から捜索したが、そこで現地の刀使と遭遇。一悶着あったが、刀使の局長代理や本部長といった偉い人と面会をし、刀使でも最強と言われてる燕結芽と衛藤可奈美と模擬戦をし、荒魂の討伐の補助及び、ロストロギア『赤羽刀』の捜索をして二日目を終え、今日三日目、なのはたちはそれぞれ刀使の人と組んだりして赤羽刀の捜索及び荒魂の討伐をして行っている。現在フラクシナスには、クライドさんと星夜、紅葉が残り解析と地上の刀使の本部と通信を行ってる。そして僕はというと。

 

「それで、今日はどのような要件でしょう。折神紫さん?」

 

この世界にある機関、警察庁刀剣類管理局局長である折神紫さんと話をしていた。

事の発端は数時間前、折神紫さんの実妹である朱音さんに紫さんが話したいことがあると言われて来たのだ。しかも、二人きりで。

そして今───。

 

「僕になにか話でも?」

 

「そう礼節を弁えんでも構わん。普段通りに話してくれ」

 

「ではそのように───んっん。それで、要件は?貴女はまだ療養が必要なんでは?」

 

「ほう。さすが、その事は知っていたか」

 

「ええ。肉体は回復してるようですが生命力があまりにも低いので」

 

そう、この人からは覇気を全く感じなかった。

昨日見た時から感じていたが、今の紫さんからは何も感じられなかった。昨日調べると、折神紫というのは今から約二十年前に起きた相模湾岸大災厄の英雄らしい。

各学院の学長は全員、当時17歳の折神紫が率いていた特務隊のメンバーでそれぞれ───。

可奈美らの通う美濃関学院の学長、羽島江麻。

六角清香らの通う平城学館の学長、五条いろは。

糸見沙耶香らの通う鎌府女学院の学長、高津雪那。

まだ在学生徒に会っていないが綾小路武芸学舎の学長、相楽結月。

そして、古波蔵エレンや益子薫らの通う長船女学園の学長にして、現特別祭祀機動隊の本部長、真庭紗南。

以上六名が記録に残されてる。

───が、調べたところ二名ほど記録から除名されてるのがわかった。

僕の特殊固有武装(アーティファクト)がひとつ、『世界図絵』によって調べた結果、この六人に加えあと二人。藤原美奈都と柊篝という人物を加えた以上八名が当時の特務隊のメンバーだとわかった。それと同時に、その大災厄がアメリカによって起こされた人災だということも判明した。

このアメリカの起こした人災についてはかなりイラッて来たけど、もう二十年前のことであり、僕たちに全く関係無いことのためどうこうするつもりは無い。

 

「話というのは天ノ宮、おまえについてだ」

 

「僕?」

 

「ああ。天ノ宮零夜、おまえは本当に人間か?」

 

「っ!?」

 

紫さんの質問に僕は息を飲んだ。

まさか、初対面の人にこう問われるとは思いもせなかったのだ。

 

「すまない。だが、おまえから感じる気配は人だけではない」

 

「・・・・・・」

 

紫さんの言葉に僕は何も声が出なかった。

 

「(バレた?いや、そんなはずはない。たった二回しか会っていないのに僕が人ではないと分かるはずが・・・・・・!)」

 

僕と夜月、お姉ちゃんと華蓮の四人は半分神半分人と、半人半神だ。原因は、明莉お姉ちゃんたちの眷属化だが、大抵の人は分からない。というより、この事は僕ら以外誰も知らないのだ。

分かるとすれば、それは神の領域に触れた者だけだと明莉お姉ちゃんたちが言っていた。つまり、紫さんは───。それに微妙に感じるこの感じ───。

 

「紫さん。貴女、荒魂───それも上位・・・・・・大荒魂に憑かれてましたね」

 

「───っ!」

 

紫さんの何故それを!?とでも言いそうな表情に僕はビンゴと頭中でいう。

 

「どうりで貴女から荒魂に近い空気を微妙に感じるはずだ。そして、その感じから憑かれていたのは一年前まで。さらにその肉体年齢は17歳程・・・・・・。17歳といえば、貴女が救国の英雄と呼ばれる由縁となった大災厄が起きた年ですよね?つまり、貴女はその当時、何かしらの事情があって大荒魂が憑依しており、今から一年前ほどに何かがあってその憑依が解かれた・・・・・・。貴女の生命力が低いのはこれも関係があるんでしょうね。憑依されていた代償・・・・・・。ああ、なるほど。納得だ」

 

他にも色々あるのだろうが、恐らくは憑依されていたのが原因だろう。

 

「おまえは一体・・・・・・」

 

「ふふ。ちょっと他の人より凄い、ただの転生者(魔法使い)ですよ」

 

おちゃらけたように、かた目をつぶって言う。

もしここに他の魔導師組がいたらこう突っ込むだろう。

 

『そんなわけあるか!!』

 

と。

そして、そんな心情を知らぬ零夜であった。

僕は周囲に目配せをして、結界魔法を構築して張る。

 

「ふう。これで外部にこの部屋での声は聞こえないし、盗聴や盗撮など機械類も無効化。今ここにいるのは僕と貴女だけです」

 

「・・・・・・」

 

「気楽にいきましょう。紅茶でも飲みますか?」

 

そう言うと、自身の異空間から簡易的なティーポット類を取り出す。カップは予め蒸らしており、熱が逃げないようにしてある。それはティーポットも同様で───

 

「砂糖とミルクはここに。お好きに使ってください」

 

手早く終わらせ、カップに僕と紫さんの分の紅茶を注ぐ。

 

「いただこう」

 

紫さんもカップの取手に手を掛け紅茶を飲む。

 

「・・・・・・うまい」

 

「ふふ。ありがとうございます」

 

僕も続けて紅茶を一口飲み。

 

「貴女は・・・・・・一度死んだ事がありますか?」

 

僕は紫さんにそう問いた。

 

「なに?」

 

紫さんはなにを言っているのかわからない感じを出す。

まあ、当然と言えば当然だ。

普通、死んだことがある人間なんていない。・・・・・・例外を除き。

僕と夜月は、明莉お姉ちゃんたちによって転生。二度目の生を受けた。お姉ちゃんと華蓮は僕のお願いによって生き返った。他に生き返ったのは、僕の特殊固有武装がひとつ『天生牙』によってアリシアを蘇生した事のみだ。

生命の死というのは誰しも背負う運命だ。それは逃れられない宿命であり、そのヒト個人の終わりとも言える。

だが、僕たちは明莉お姉ちゃんたちに導かれてこの世界で2度目の生を受けた。本来の常識の概念をぶち壊す定義だ。

だから僕はほんの少しだけ話す。

 

「僕は元々この世界にいない。所謂、異世界から来た存在です」

 

と。

転生者のことはなのはたちにも厳命している。

第三者に漏らした場合、その時は明莉お姉ちゃんたちによって直接罰が執行される。もっとも、みんなを信頼してるからあの時話した。明莉お姉ちゃんが直々にね。

 

「つまり、おまえはこの世界・・・・・・いや、おまえたちの世界にすら居ない、別の場所から来た存在・・・・・・そういう事だな?」

 

「ええ。この世界で言うと、この世とあの世。現世と隠世ですね」

 

紫さんの言葉に僕は例えを入れて応える。

 

「僕は気が付いたら今の世界にいた。それも、歳が十歳近く若返って。それに対してなにか抱かないのかと言われたら、なにも抱かない」

 

「なぜだ?元いた世界にも親友や家族がいるだろ」

 

「・・・・・・いませんよ家族。全員、僕を残して亡くなったから」

 

「な・・・・・・」

 

「それに親友なんか、いなかった」

 

顔に曇りを入れて言う。

実際、今でこそなのはたちというかけがえのない友達が沢山いるが、前の世界では友達なんか居なかった。いや、作らなかったの方が正解か。

正直、あの時僕は僕の家族と華蓮の家族がいれば特に問題なかった。もちろん、クラスメイトと喋ったりはする。が、気心の知れた友人と呼べる人間は居なかった。

まあ、もう過去のことだ。未だに母さんや父さんたちのことは悲しいが、今はなのはたちもいるし、お姉ちゃんと華蓮がいる。だから、もう大丈夫。

 

「すまない。軽薄だったな」

 

「気にしないでください。気にしてませんし」

 

そう応える。

 

「・・・・・・おまえの質問。私は死んだことは無いが、死にたいと・・・・・・悔やんだことが何度もある」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「おまえには話しておこう。二十年前の相模湾岸大災厄での出来事と、それからのことを」

 

そう言って紫さんは話し始めた。

 

「あの頃・・・・・・学生時代の私は周囲からの重圧に疲れていた。折神の当主として・・・・・・。だが、それでも平気だったのは私の大切な学友のおかげだ。とっくに調べているのだろうが、藤原美奈都と柊篝。そして各五箇伝の学長たち。特務隊のメンバーは誰一人、私の大切な仲間だった」

 

「だった?」

 

「ああ。相模湾岸大災厄で私は、折神家の当主として、後輩であり柊家の任を背負った篝に大荒魂を封じることを命じた」

 

「命じた・・・・・・ハッ!!まさかそれって・・・・・・!」

 

紫さんの言葉に僕はしばらく分からなかったが理解出来た。

紫さんが、柊篝さんに大荒魂を封じることを命じた。つまり───

 

「そうだ」

 

「人柱・・・・・・」

 

柊篝さんの命と引き換えに大荒魂を封じる。いや、封じる代償が命。───生け贄(サクリファイス)

その時の紫さんの気持ちが僕にはすぐに理解出来た。

 

「人柱的な役目を命じなければならなかった私はその事で精神を削られた。大切な友の命を代償に封じなければならなかったから。さらに何も知らされていなかった、柊家でも折神家でもない、親友の美奈都が篝を助けるため反射的に篝を追いかけていってしまったことで、私は絶望の底に叩き落とされた。しかし、大切な友人を同時に失い失意の私に声をかけてきたものがいた。それが大荒魂───タギツヒメだ」

 

「タギツヒメ・・・・・・」

 

「私の絶望した心の隙につけ込んだ大荒魂(タギツヒメ)の甘言に私は耳を貸し、そのまま同化する道を選んだ。その後は、タギツヒメから与えられた十数年の猶予を経て私自身の意識の自由を奪われ、さらに数年の間に徐々にタギツヒメによる侵食を受け、私の意識はその殆どが封じ込められてしまった。あとは調べた通りだ。一年前に二人の娘の衛藤可奈美と十条姫和たちによって私とタギツヒメは分離された」

 

そう言うと紫さんは紅茶を飲み、息を吐いた。

 

「同化した理由は・・・・・・」

 

「・・・・・・タギツヒメから、美奈都と篝を返すと言われたんだ」

 

「なるほど・・・・・・」

 

紫さんの言葉に僕は納得する。そう言われたら僕でも同化する道を選ぶだろう。例えそれが、間違った道だとしても・・・・・・。

そこから紫さんはその後のことを話してくれた。

鎌倉特別危険廃棄物漏出問題のあと、年の瀬の災厄までのこと。一連の事件のことを。

 

「───これがすべてだ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

想像以上にも絶したことに僕は声も出なかった。

 

「やはり、あなたは僕と少し似ている気がする」

 

紅茶を飲みながら僕はそう呟く。

すべてを自分一人で抱える事。大切なものを失ったこと。

僕ははやてを助けるためになのはたちの敵になった。いや、次元世界全ての敵になった。たった一人、大切な友達を助けるために。そして前世で家族を失った。

紫さんを助けたのは可奈美と十条姫和。僕を助けたのはなのはとフェイト。どちらも誰かの助けがなければならなかった。紫さんは親友の娘が。僕は幼馴染と友達が。

 

「何故僕にそのことを?」

 

「・・・・・・何故だろうな。たぶん、昨日会った時、雰囲気が私と似ていただからだろうな」

 

「それは・・・・・・嬉しいですね」

 

クスッと微笑みが自然に出て言う。

それから僕は紫さんと世間話や様々なことを話した。

 

「───ふ。零夜、おまえも大変なんだな」

 

「ええ、まあ。慣れたら楽だけどね」

 

「慣れとかの問題では無いだろ・・・・・・」

 

呆れたように言う紫さん。もとい紫。

僕と紫はそれぞれを名前で言い合うようになった。

ちなみにだが、紫の好きな食べ物はカップ焼きそばらしい。それを聞いた僕は少し驚いた。カップ焼きそばとは意外だったのだ。

そんなこんなで話していると、突然携帯端末が震えた。

 

「ん?なんだろ」

 

首を傾げて端末を開くと。

 

『天ノ宮特務三佐、至急戻ってきてください!』

 

クライドさんが焦った声が響いてきた。

 

「何事ですか!?」

 

『現在、フラクシナスは敵艦による攻撃を受けています!さらに地上にて研究会の下位交戦員と交戦中です!』

 

「なっ!」

 

クライドさんの言葉に僕は言葉を失う。

こんな所で研究会と会うなんて思わなかったのだ。

 

「急いで戻ります!現在下で指揮を執っているのは?!」

 

『魔導師組は桜坂さんが。刀使組は獅童さんが執っています!』

 

「了解!クライドさん、フラクシナスの基礎魔力輪環装置(ベーシック・マギリックシステム)をNo.1からNo.7まで臨界駆動!不可視迷彩(インビジブル)を解除。その分の生成魔力を世界樹の葉(ユグド・フォリウム)に!世界樹の葉(ユグド・フォリウム)の半分を地上への防御結界に!残り半分は牽制として射出!星夜、聞こえる?!」

 

『はい!聞こえますわ!』

 

「星夜、残り半分の世界樹の葉(ユグド・フォリウム)の操作を任せる!」

 

『わかりました!』

 

「クライドさん、すぐに向かいます!」

 

『はい!』

 

端末を慌ただしく終い、紫へと向き直る。

 

「紫、すまないが」

 

「構わん。急いで行け」

 

「わかった。あとでまた話そう。カップ焼きそばも加えて」

 

「!・・・・・・はは。そうだな」

 

驚いたような表情を浮かべながらも楽しそうに返す紫。

 

「頼んだぞ零夜」

 

「ああ。任せといて」

 

そう言って僕は急いで部屋を出て、外へと駆け出した。

 

 

 



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捜索者

 

〜夜月side〜

 

「えーと。それじゃあ、今日は刀使と一緒に捜索してね」

 

私は予め渡されていたチームの紙を持ち、隣の獅童真希さんに視線を送る。

 

「桜坂が言ったように、ここにいる全員でロストロギアと呼ばれる危険物の《赤羽刀》を捜索する。メンバーはそれぞれチームに分ける。まず、一チームめ。魔導師は高町なのはとアリサ・バニングスの二人。刀使は衛藤と夜見。二チームめは、魔導師はテスタロッサ姉妹。刀使は糸見沙耶香と古波蔵エレン。三チームめは、魔導師は八神はやてと月村すずか。刀使は益子薫と伊南栖羽」

 

「四チームめは、澪奈ちゃんと紅葉ちゃん。刀使は此花さんと六角さん。五チームめは、私で刀使は獅童さんと燕さん。凛華ちゃんと星夜ちゃん、聖良ちゃんはフラクシナスで待機。クライドさんの補佐をお願い・・・・・・だそうです」

 

現在食堂にいる私の前には魔導師組と刀使組がいる。

本来はレイくんが指揮を執るんだけど・・・・・・。今ここにいないし。

刀使は本部長って人からこっちを荒魂討伐と並行して行うように言われてるみたい。もちろん、私たちもサポートに回るよ。

 

「それと、刀使は各自この通信端末を持つように」

 

獅童さんがみんなに渡したものは、私たちの課。特務0課に配備されてる通信機だ。私たちは思念通話が出来るけど、刀使の人たちは出来ないからね。

 

「それでは各チーム捜索に入ってくれ!」

 

『『『了解!!』』』

 

獅童さんの言葉に全員勢いよく声を上げ、それぞれのチームで捜索へと行った。

 

「さて、ボクらチームはこの学院周辺だったな」

 

「ええ。非常時にすぐに指示が送れるようにと」

 

私と獅童さんが会話していると。

 

「えぇー。つまんなぁーい。ねえねえ、零夜くんはどこに居るの?」

 

「結芽、キミは彼女より歳上だろう?少しは歳上らしくしたらどうなんだ」

 

「そう言ってもー」

 

「それに、天ノ宮は今紫様のところだ」

 

「えっ!?紫様のところ?!なんで!?」

 

「なんでも、紫様が直々に話したいことがあるらしい。二人きりでだ」

 

そう。レイくんは今折神紫という人のところにいるのだ。そのため、よほどのことがない限り地上では魔導師の私と刀使の獅童さんが指揮を取り、上空8000メートルで滞空しているフラクシナスではクライドさんが執る。

ま、まあ、レイくん自身も捜索へと行くつもりだったみたいだけど。それはさすがに止めたよ。

 

「ははは。ソラ、イリア」

 

首から下げている魔導書───【アスティルの写本】と【イーリアス断章】に声を掛ける。

 

「んー?なんだ〜マスター」

 

「おはようございます夜月ちゃん!」

 

眠そうにしているソラとシャキッとしているイリア。対称的な二人に私は笑みがでる。二人ともやる時はやってくれるよ?ソラは攻撃系を。イリアはサポートや防御系を。ちなみに、イリアと聖良ちゃんはとても仲良しだ。あ、いや、正確には澪奈ちゃんと聖良ちゃんだね。よく二人で遊んだりしてるし。私とレイくんから見ても微笑ましいよ。

 

「おはようソラ、イリア」

 

「あれ、マスター他のやつらは?」

 

「みんなもう捜索に行ったよ」

 

「ふーん。んで、こっちはこの二人とか?」

 

「うん。あ、イリアはフラクシナスで凛華ちゃんたちの補佐をお願いしてもいい?」

 

「わかりました」

 

イリアは元気よく堪えると周囲から見えないように、私を陰にフラクシナスへと転移して行った。

 

「ソラ、行くよ」

 

「あいよ〜」

 

ソラは気だるそうに返事をしつつ、伸びをして付いてきた。

こうして私たちも捜索を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああっ!」

 

「───!」

 

「燕さん後ろ!刻々帝(ザフキエル)七の弾(ザイン)〉!」

 

「わかってるよ〜!」

 

「マスター、次五時方向から二体くるぜ!」

 

「ありがとうソラ!凍てつけ、氷結傀儡(ザドキエル)!」

 

「───!!」

 

「次!───貫け!」

 

捜索を初めて数時間後、私たちは森の中で荒魂討伐をしていた。

その数は小型が15。中型が5、とかなりの数がいた。

私たちは連携、もしくは各個撃破で荒魂討伐をしていた。

氷で動きを止めたところを斬り、対象の時を止め斬るなど。魔法でそのからだを穿いたり、二本の皇剣で払ったりとしていた。

そして───

 

「獅童さん!」

 

「ああ!」

 

バインドして拘束したところに、迅移で移動した獅童さんが一刀の元に斬り伏せた。

 

「ふぅ。討伐完了だな」

 

「ソラ、周囲に荒魂はいる?」

 

「いんや。反応はないな」

 

ソラの言葉を聞いて安堵した私は、両手の皇剣を元のペンダントに戻し、戦闘意識を解除する。

 

「んん〜〜!」

 

固ばった肩を伸びをして解しつつ獅童さんを見る。

 

「この荒魂の残骸・・・・・・どうしますか?」

 

「ノロの回収班を今手配している。しばらくはここで待機だな」

 

「なるほど」

 

さすが荒魂討伐のエキスパート。私たちじゃ分からないことを知ってる。

私はそう思いながら、今討伐したばかりの荒魂を視る。

 

「(やっぱり、規格外の能力。天使とアーカイブ接続は効くんだね。レイくんの予測した通りね)」

 

事実、私の能力は荒魂に効いていた。

そもそも、私はレイくんたちみたいにデバイスを所持してない。あるのは、魔導書であるアスティルの写本(ソラ)イーリアス断章(イリア)二人と、皇剣の黒皇剣ジュデッカと赫皇剣カイーナの二人だけだ。天使はそれぞれ武装があるけど。レイくんと私は元々デバイス無しでも戦闘出来る。

そもそもの話、デバイスというのは【補助装置】のようなものであり、並大抵のでは私たちの魔力に耐えられず、逆に壊れてしまう。レイくんは前はデバイスを使用していたみたいだけど、今ではデバイスなど最後に使ったのは、この間のエルトリア事変の時でありそれ以降は聖良ちゃんとのユニゾンするだけで、デバイスを使ってない。というか、レイくんのデバイスそれぞれが独立稼働しているんだよね・・・・・・。みんな基本的に人型でいるし。レイくんはその方が嬉しいみたいだけど。・・・・・・家族が増えて。

私は自前の武装、皇剣や天使があるし、レイくんはもう無茶苦茶というのが言葉に出るくらいの魔導師だからね。武装は普通に作り出すし。断罪の剣や精霊の剣、昨日使ってた黒聖と白庭の剣等々・・・・・・。

 

「もう終わり〜?つまんなぁーい」

 

「あはは。それじゃあ後でレイくんに付き合ってもらったらどうかな燕さん?」

 

「え!?いいの!?」

 

「あー・・・・・・レイくんなら多分喜んで付き合ってくれるんじゃないかな?」

 

燕さんの反応に私は苦笑を浮かべる。

そんなにレイくんと剣を打ち合わせるのが楽しいんだね。私はちょっと遠慮願うけど・・・・・・(理由:接近戦では適わないため)

 

「結芽、敵が今荒魂だけとは限らないんだぞ。もう少し落ち着いていろ」

 

「はぁーい」

 

獅童さんの言葉に素直に従う燕さんを見て、私は獅童さんが燕さんのお姉さんみたいだと思った。思い返してみれば、獅童さんだけでなく此花さんや皐月さんも燕さんのことを心配していたし過保護みたいだった。たぶん、獅童さん達にとって、燕さんは大切な妹みたいなものなんだろう。ちょっと微笑ましく思えた。

そのまま周囲を警戒しつつ話していき。

 

「にしても遅いな・・・・・・。近くの回収班から十五分以内に着くと連絡があったんだが・・・・・・」

 

ふと獅童さんが時計を見て呟いた。

獅童さんの言う通り、連絡してからもう既に二十分以上過ぎてる。確かに少しおかしい。

そう思ったその瞬間。

 

「っ!なんだ!?」

 

「なにっ?!」

 

「これは・・・・・・っ!」

 

「なっ・・・・・・!?」

 

私たちを何かが包み込んだ。

視界は特に変わりないが、空気の感じや魔力を感じることからこれは───。

 

「封絶結界!?」

 

「おいおい。なんでここで封絶結界に取り込まれるんだ!?」

 

すぐさま意識を戦闘警戒に移し、皇剣を現出させる。

 

「桜坂、これは・・・・・・!」

 

「封絶結界です!私たちはこの結界に取り込まれました!」

 

「なんだと!」

 

「真希おねーさん、通信が繋がらないよ!」

 

「なっ・・・・・・!───ボクのもダメだ」

 

「多分、電気系の通信機器はジャミングされて通じない!通じるのは───あった!直通通信!」

 

通信をフラクシナスやなのはちゃんたちに繋げると。

 

『夜月ちゃん!?大丈夫!?』

 

なのはちゃんの班に通信が繋がった。

通信からはなのはちゃんの慌てふためく声と、爆発音が聞こえた。

 

「なのはちゃん、そっちで何があったの!」

 

『私たち今襲われて───!皐月さん!』

 

「なのはちゃん!?なのはちゃん!!」

 

ザザザ、と音がなり通信が切れた。どうやら向こうでなにかあったようだ。

 

「一体何が・・・・・・!」

 

訳が分からないというところに。

 

「マスター、誰か来るぜ!数は五人!」

 

「え」

 

ソラが警戒心を最大にして言った。

 

「獅童さん、燕さん!私の後ろに!」

 

「ええ〜!なんでぇー?」

 

「いいから!」

 

「っ!?」

 

納得出来ないと言った感じだった燕さんも、私の気迫に息を飲み。

 

「結芽、ここは彼女の言う通りにしよう。おそらくボクらでは相手にならない」

 

「真希おねーさん?」

 

獅童さんとともに私の後ろに隠れた。

 

「(ここが封絶結界の中なら、全力でも問題ないよね)」

 

手加減無しだと判断した私は警戒心最大にして、気配のある所へ視線を向ける。

少しして───

 

「あら〜?なんでここに子供がいるのかしらぁ〜?」

 

甲高く、声音の高い女の人の声が響いた。

 

「「「「っ!?」」」」

 

その声を聞いた私たちはすぐに警戒をとる。

私とソラは何時でも戦闘できるようにして。

 

「もしかして、この世界の【刀使】と呼ばれる子供かしらぁ。不運だったわね〜、この封絶結界に呑まれるなんて」

 

クスクスと笑いながら言う女の人。

私はその人から感じる魔力と殺気に警戒心を怠らずに視る。

そしてその後ろに、白いローブを着た人間が四人。その人の後ろにいた。女の人の格好は、赤黒いドレスのような服装にハイヒール。まるで舞踏会に参加する貴族のような服装だ。が、手には一振の赤い長槍が握られている。

 

「あら?そっちの女の子二人は・・・・・・まさか、管理局の魔導師・・・・・・っ?!」

 

私とソラに視線を移した女の人は驚いた眼差しをする。

 

「それにその魔力!ま、まさか、あんた・・・・・・!時空管理局のランクSSSオーバー魔導師の一人!?」

 

動揺が後ろの四人にも伝わるなか、震えた声で女の人は言う。

 

「───魔天使の女王(クイーン・オブ・マギアエンジェリック)・・・・・・っ!!?」

 

なんでこんな所にいるの、とでも言いたげな表情で僅かに下がる。

 

「なぜ、時空管理局最強の魔導師の一人がこんな世界にいるの・・・・・・っ?!彼女がこの世界にいるということはまさか、もう一人の・・・・・・!!───星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)も・・・・・・っ!!」

 

恐怖で下がる女の人たちに対し、獅童さんと燕さんは後ろで。

 

「ランクSSSオーバー?」

 

「最強の魔導師?」

 

と疑問符を浮かべていた。

 

「ま、不味いわ。こんな所でこんなのに出くわすなんて!」

 

最初の余裕がまったく。微塵も無いところに。

というか失礼だよ。私はこんなのじゃないのに!

 

「貴女、研究会のメンバーね。後ろの四人も。白いローブを着てないことから、貴女中位三翼か下位三翼の上位のメンバーね」

 

そう言う。

研究会のメンバーは、白いローブを着ている構成員は下位三翼と、下っ端中の下っ端だ。しかし、下位三翼でもローブを着てない下っ端ではない構成員もいる。それは下位三翼の中の指揮官クラスの人間だ。下位三翼のメンバーは最高でもランクB++。中位三翼のメンバーはそれぞれ最高Aランク、最低Bランク魔導師。そして、上位三翼はAランクより上の魔導師が所属しているらしい。しかも、上位三翼の序列一位や一部二位の魔導師はオーバーSがいるらしい。レイくんが戦ったクルト・ファレウムはオーバーSランクの魔導師だ。けど、レイくん曰く、まだ実力を隠しているらしい。

が、今目の前にいる五人に関しては、魔力などからあの女の人以外はC+ランク。女の人に限ってはB-。つまり、私一人でも対応が出来る。

 

「(イージーね)」

 

そうほくそ笑みながら相手に問う。

 

「あなた、研究会のどこの所属?」

 

「私は能天使(エクシーア)のリエル・スリアズラよ!」

 

「能天使・・・・・・中位三翼の一番下。序列六位ね。私のことは知ってると思うけど、時空管理局所属、桜坂夜月。あなた達のこと、捕縛させてもらうわ」

 

「っ!なめないで!」

 

声を荒らげると同時に、リエル・スリアズラたち五人はそれぞれデバイスやら武装を構え魔法を発動し───

 

「───っ!?ま、魔法が発動しない!?」

 

───しなかった。

リエル・スリアズラたちは魔法が発動出来ないことに戸惑っていた。

何故魔法が発動出来なかったのかは単純に、この周囲の空間が私の支配下に置かれているからだ。

 

「───広域支配領域(ハイ・インペルマジェスタ)

 

それに。

 

「これは・・・・・・氷か・・・・・・?」

 

私の天使のひとつ、氷結傀儡(ザドキエル)でこの周囲に魔力の氷結領域を展開していたのだ。これらの事から彼女たちは魔法が使えない。もっとも、高位の魔導師に広域支配領域の魔法封じは効かないけど。(理由、一つ一つの支配が大変だから)

 

「これに気づかないなんてね・・・・・・それじゃあ、じゃあね」

 

「「「「「っ!!」」」」」

 

黒氷獄絜伽(コキュートスネイル)

 

氷結捕縛睡眠魔法を発動し彼女たちを拘束する。

が。

 

「へぇー・・・・・・」

 

「なめないでって言ったわよね」

 

一人だけ、リエル・スリアズラだけはその場から離れて、《黒氷獄絜伽》から逃れていた。うん、流石の反応速度だね。

残りのメンバーはその場に崩れ落ち、深い眠りに落ちていた。

 

「ソラ」

 

「ああ。こっちは任せときなマスター」

 

「ジュデッカ、カイーナ。二人もソラとお願い」

 

「わかりました」

 

「はい」

 

現れたジュデッカとカイーナにも任せ、私はリエル・スリアズラと対峙する。

 

「時間が無いから、さっさとやらせてもらうね!」

 

「くっ!」

 

そう言うと同時に私はその場を蹴り、リエル・スリアズラへと接近した。

なのはちゃんの通信からおそらく他の場所にも研究会のメンバーがいる可能性がある。凛華ちゃんたちは大丈夫だと思うけど、なのはちゃんたちは大丈夫じゃないと思う。

フラクシナスとも連絡が取れないことからこの辺りにジャミングや魔力通信妨害が張り巡らされているのは確かだ。急いで片付けて他のチームと合流しないと。

あとは・・・・・・。

 

「(レイくんが早く来てくれるといいんだけど・・・・・・)」

 

そう思いながら、右手に魔力で作った簡易魔剣を出して束を握り締める。

 

「はあっ!」

 

息を吐きながら、身体強化をしてリエル・スリアズラと切り結んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜が合流するまで、残り─── 一時間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Encounter

 

〜凛華side〜

 

捜索が始まって小一時間。

私たちフラクシナスでの待機組は、フラクシナスでオペレーターとして地上との通信のやり取りをしていました。

 

「ふう。それにしても、この荒魂というのは不思議な生物ね」

 

荒魂という生き物についての資料を読み返す中、私はそう声に出しました。

荒魂とは、刀使が持つ御刀から。いえ、正確には、希少金属【玉鋼(たまはがね)】を精錬する際に砂鉄から出る不純物であり、これがノロ。そして、そのノロが多数結合して現れたのが荒魂。

荒魂が人を襲うのは、神性たる玉鋼を奪われた───いや、引き裂かれた恨みによるものではないかと、言われている。

そして御刀。御刀とは特殊な力をもった日本刀であり、神聖な希少金属【玉鋼】から作られる刀である。御刀は刀使が持つことにより、珠鋼に秘められた【隠世】と呼ばれるこの世界の異世界から様々な物理現象を引き出す力を介して、様々な超常の力を引き出し使役できる。また、荒魂に対抗出来る唯一の武器。

攻撃術の一つ。移動速度を人間の数倍以上に引き上げる【迅移】。

刀使の基本戦術であり、最大の防御術である【写シ】。

刀使の攻撃術の一つ。御刀を媒介として筋力を強化する【八幡力(はちまんりき)】。

刀使の攻撃術の一つ。御刀を媒介として肉体の耐久性度を上げる【金剛身(こんごうしん)】。

基本この四つが刀使の戦闘基本術らしい。

 

「興味深いわね・・・・・・けど、同時に恐ろしいわ」

 

「どういう意味ですか?」

 

私のそんな呟きを聞いたのか、クライドさんが聞いてきた。

 

「この荒魂に唯一対処できるのが、御刀という日本刀を持った刀使だけであるということと、このノロは人間に投与すればとんでもないチカラを得るということです」

 

「ノロを投与・・・・・・ですか・・・・・・」

 

クライドさんが恐れるように言った。

 

『実際にノロを人間に・・・・・・いえ、刀使に投与した件が二つ存在します』

 

『データに出すわ。それぞれのモニターに視線を移しなさい』

 

鞠亜ちゃんと鞠奈ちゃんに言われ視線をモニターに移すと、画面の中央に文章が現れた。

その文章にはノロを刀使に投与した実験結果が一面を埋めつくしていた。

 

「これは・・・・・・」

 

「へぇ。『人体にノロを投与した結果、身体能力の向上。荒魂の産出を確認』ね。第一の被験者は───」

 

下に進めていくと、四人の名前が表示された。

 

「これ、今の特務警備隊の四人の名前・・・・・・なるほど、そういう事ね。あの四人が、ノロの投与した刀使の第一被験者ということ」

 

そこには、折神紫親衛隊第一席・獅童真希。第二席・此花寿々花。第三席・皐月夜見。第四席・燕結芽。と書かれていた。

そしてその更に下には、第二の被験者たちの名前が綴られていた。

 

「(冥加刀使?)」

 

ある一文に私は眉根を寄せました。

 

「(ノロを投与したタギツヒメの護衛隊=冥加刀使・・・・・・。なにこれ。こんなのをまだ年端もいかない女の子たちに投与したっていうの!?)」

 

文脈に書かれている文章から、私はすぐさま結論づけた。この冥加刀使は、所謂、タギツヒメという荒魂を守るために結成された刀使の部隊。つまり、生も死もこのタギツヒメが命じれば疑うこと無く、進んで引き受ける部隊だ。

これを創ったのは───。

 

「(綾小路武芸学舎学長相楽学長に、鎌府女学院学長高津学長ね・・・・・・。いえ、率先して作ったのは鎌府学長。綾小路学長は、生徒たちを守るため止むを得ず、ってなってるわね。鎌府学長はどうでもいいけど、綾小路学長とは話してみたいわね。この人、たぶん苦渋の決断だったのでしょうね。これを見る限り)」

 

鞠亜ちゃんと鞠奈ちゃんの特技は、ネットワークに数多ある情報の収集だ。それは、ネットワーク構築が分かってしまえば、どの星のネットワークも自由自在に入り込んでしまうこと。ある意味、一種の戦略級AIだ。もっとも、作成者は夜月ちゃんであり、そうでなくてはこのフラクシナスを操作することなんて出来ないんですけどね。

表示されてる文章を読みつつそう思っていると。

 

「あれ?」

 

「イリアちゃん、どうしたの?」

 

ふいにイリアちゃんが声を出した。

 

「いえ、地上との通信が急に切断されて」

 

「え?」

 

イリアちゃんの言葉に、私はデスクを操作して地上との通信を取る。けど。

 

「ほんとうだ・・・・・・なんでかしら?」

 

通信は繋がらず、ノイズ音が鳴り響くだけ。

 

「鞠亜ちゃん、地上になにか妨害電波出てない?」

 

『ちょっと待ってください。───これは・・・・・・!』

 

『ちょっと!地上に強力な通信妨害が出てるわよ!』

 

『鞠奈、これこの世界の技術じゃないですよ!』

 

『わかってるわ!な、なによ、この術式・・・・・・!AMFを応用した妨害電波?!』

 

「鞠奈さん、それは対抗(レジスト)出来ますか?」

 

『今これの対抗術式を構築しています!』

 

「わかりました。直接世界樹の葉(ユグド・フォリウム)を使って通信回線を開きます」

 

『了解しました。不可視迷彩(インビジブル)を解除。世界樹の葉を射出します』

 

小さな駆動音とともに艦隊が動き、モニターにフラクシナスの後部にある世界樹の葉が二機射出されるのがわかった。

射出されるのと同時に、すぐに不可視迷彩が発動します。

 

「っ!地上に封絶結界が発動されていますわ!」

 

「なっ・・・・・・!」

 

慌ててモニターに地上の映像を映し出すと、確かに封絶型の捕獲結界が出来ていた。

 

「一体何が・・・・・・」

 

クライドさんが艦長席の横に立って言う。さすがにこの状況は想定外です。

 

「地上との通信が繋がったよ!夜月ちゃんと!」

 

「わかりました聖良さん!聞こえますか桜坂さん!こちらフラクシナスのクライドです!」

 

クライドさんが呼びかけると、ノイズだらけの音が段々クリアになっていき。

 

『───こちら桜坂夜月です!現在、地上では研究会と遭遇。戦闘に入ってます!』

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

『高町班は研究会の攻撃を受け刀使とともに避難してると思います!他の班は不明です!強力なジャミングのせいで通信が繋がりません!今私は研究会の序列六位のリエル・スリアズラと交戦。他研究会四名は捕縛し獅童さんたちとともにソラが預かってます!』

 

「わかりました!通信回線はここに集約します!」

 

クライドさんが夜月ちゃんにそう言ったその瞬間。

 

 

 

ドガンッ!!

 

 

 

「きゃあっ!」

 

「っ!?」

 

「な、なにごと!?」

 

「今のは一体!」

 

艦に突然衝撃が走った。

 

「鞠亜ちゃん、なにごと!?」

 

『右舷領域(テリトリー)に被弾!領域の強度、87%にまで低下!』

 

『二時方向、距離、当艦から10,000メートル先!・・・・・・識別反応は無し・・・・・・管理局に登録されてない戦艦・・・・・・敵艦よ!』

 

「なっ・・・・・・・!すぐに生成魔力の配分を防御領域(プロテクトテリトリー)に切り替えて下さい!」

 

『もうやってるわ!!』

 

領域(テリトリー)を防御領域に変更しました』

 

「了解です。桜坂さん、地上の指揮をお願いしてもいいですか」

 

『わかりました!刀使の方は獅童さんと協力して執ります』

 

「お願いします。すぐに天ノ宮君を向かわせます!」

 

通信を切り、モニターに敵艦が映る。

敵艦の形は管理局の次元航行艦に酷似していて、艦のカラーリングは黒銀。管理局の艦のカラーリングが白や白銀に対して対極的な黒。サイズはXL級であるフラクシナスより一回り大きく、管理局の艦に酷似しているが、所々が違っています。

その間にクライドさんは地上に居る零夜くんと通信を取り───。

 

「鞠亜さん、鞠奈さん、反撃に入りますよ!」

 

『わかってます』

 

『そのつもりよ!』

 

指示を受け、すぐに行動に入った。

星夜ちゃんも椅子に座りヘッドホンのような端末機を付け、意識を集中させる。

 

基礎魔力輪環装置(ベーシック・マギリックシステム)、No.1からNo.7まで臨界駆動!不可視迷彩(インビジブル)を解除。その分の生成魔力を世界樹の葉(ユグド・フォリウム)に換装!鞠亜さん世界樹の葉(ユグド・フォリウム)の半分を地上への防御結界に回してください!残り半分は星夜さん。牽制として操作お願いします!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

『『了解!!』』

 

クライドさんの、零夜くんからの指示の復唱に私たちは声を上げて、気を引き締めて取り掛かる。

 

「っ!二時方向より魔力砲撃!当艦到達まで残り八秒!」

 

『防御領域の強度を強化します!』

 

「二・・・一・・・来ます!」

 

星夜ちゃんの忠告声と同時に、艦に地震のような揺れが軽く訪れた。今度は防御領域がはたらき、振動と衝撃があまり来なかった。

 

「領域強度、以前87%に変わりありません!」

 

「地上の通信の集約を完了しました!すべての指示を夜月ちゃんから出せるようにします!」

 

「では、こちらからも攻撃に入りましょう!収束魔力砲〈ミストルティン〉、用意!」

 

『了解しました。魔力収束を開始します』

 

基礎魔力輪環装置(ベーシック・マギリックシステム)No.8からNo.12を魔力収束。基礎魔力輪環装置(ベーシック・マギリックシステム)並列駆動!No.13からNo.15は魔力制御に移すわ!』

 

「了解。敵艦の位置を転送します!」

 

『───位置情報を確認。照準補正・・・・・・完了。魔力充電完了。〈ミストルティン〉、発射できます』

 

「収束魔力砲〈ミストルティン〉、発射!!」

 

『〈ミストルティン〉、発射します』

 

次々とやり取りをし、フラクシナスから敵艦へ収束魔力砲ミストルティンが放たれました。

放たれた魔力砲は一直線に敵艦へと向かい───。

 

『〈ミストルティン〉の直撃を確認』

 

「油断できません。続いてミストルティンの第二射の準備を」

 

『分かったわ。再発射まで残り百秒』

 

慌ただしく。しかし冷静に次の一手へと組み立てていく。

 

「っ!同方向、防御領域範囲指定147・159!」

 

『了解しました。防御領域範囲指定147・159、展開!』

 

星夜ちゃんの指定した位置に防御領域が展開されると、そこに敵艦からの砲撃が炸裂した。けど、その砲撃による衝撃や振動は全くせず、無傷だった。

 

「今の砲撃、先の砲撃よりも強力でした・・・・・・」

 

「ピンポイントで防御領域を展開して防いだ・・・・・・さすがですね星夜ちゃん」

 

イリアちゃんと私が星夜ちゃんを、さすがと見ていると。

 

「次が来ます!同じく同方向、範囲指定96・104。多重防御領域を追加!」

 

『わかったわ。範囲指定96・104。さらに多重防御領域を展開』

 

続けてきた言葉に鞠奈ちゃんが反応して、艦の外にピンポイントで防御領域の多重防御領域が展開された。

展開されてすぐさま、多重防御領域に敵艦からの砲撃が直撃した。

威力は多重防御領域が無ければ貫かれていたほどだ。恐らく、一点に集中して、凝縮した砲撃なのでしょう。けど、こちらの多重防御領域は一点に多重領域したため貫かれることなく、敵艦の砲撃を受け止めた。

 

「クライドさん、〈ミストルティン〉発射出来ます!」

 

端末を操作していた聖良ちゃんがクライドさんにそう告げる。

 

「わかりました。主砲〈ミストルティン〉、第二射発射用意!敵艦の中央部!」

 

「了解。・・・・・・〈ミストルティン〉の座標指定を完了」

 

「〈ミストルティン〉発射できます!」

 

「───〈ミストルティン〉、発射!!」

 

クライドさんの号令で放たれた〈ミストルティン〉は一直線に。膨大な魔力を纏った砲撃は吸い込まれるように敵艦へと到達し、張られていた防御障壁を穿いたのだった。

 

〜凛華side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空、フラクシナスと所属不明の敵艦が交戦をしていた頃───

 

 

 

〜零夜side〜

 

 

「っ!ったく!急がないといけない時に・・・っ!」

 

「───!!」

 

術式解放(エーミッタム)雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!」

 

外に出た僕は今、エルトリア事変の時に戦った研究会の機械と交戦していた。サイズは一回り小さく、人型のようだが・・・・・・。今も、雷の暴風で五体を纏めて吹き飛ばしたところだ。

場所は鎌府女学院の敷地内のため辺りには刀使の生徒達がいる。

 

「無関係の星の人にまで危害を加えて!」

 

恐らく今回研究会の交戦員を率いているの序列はそこまで高くない。五位くらいまでの人間だろう。まさかここに来るとは思ってもみなかった。

けど、思ってもみなかっただけで、予想をしてなかった(・・・・・・・・・)わけじゃない。だから。

 

《───そろそろ私の出番ですね》

 

突然頭の中に声が響いた。

 

「(うん。お願いね、───)」

 

その声に僕は動じることなく、いつも通りに返した。

 

《はい》

 

そしてそれは相手もで。

 

「──────『魔法と精霊を統一しせし王の外套(マナスピリット・コンバーティオローブ)』・・・・・・!」

 

両手に握られてる剣、『黒聖』と『白庭』に。そして僕を包み込むようにバリアジャケットの上から白銀に光り輝く外套を羽織る。白銀に光り輝く外套は明るいも、キラキラしていてハデというわけでなく、落ち着いていてバリアジャケットにマッチしている。

 

「いくよ、───」

 

《はい!》

 

閉じていた眼を開け、双剣を構えて僕は飛び出した。

新たな能力を発動させて。そして、新しい仲間───とともに。

 

 

 



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魔導士と刀使の共闘

 

〜なのはside〜

 

「───っ!」

 

「くっ!なんなのアイツら!」

 

「衛藤さん、こっちです」

 

「は、はい!」

 

今私たちはかなり危機的な状況に陥っている。

何故なら。

 

「あははは!何処まで逃げるんだよ管理局の魔導士!オレたちから逃げられると思っているのかよ!」

 

後ろから何者かに魔法攻撃を喰らっているからです!

正直今までの中で一番ヤバいかも。

 

「ここは私が・・・・・・。荒魂で目くらましを」

 

「待ちなさい皐月夜見!それは貴女の身体が傷つくこと前提なのよ!そんなのこのあたしが許さないわ!」

 

皐月さんが腕を前にして御刀で切りつけようとしたその時、アリサちゃんが険しい表情で皐月さんを止めた。

 

「問題ありません。大した傷にならないので」

 

「そういう問題じゃないわよ!あのね、貴女だって女子なの!女子はね、見えないところにも気を使ったりするのよ!大した傷にならないのでじゃないわよ!傷は残るの!例え小さな切り傷でも残るのよ!」

 

「あ、アリサちゃん落ち着いて」

 

「なのは、あんたはちょっと黙ってて」

 

「うぐっ」

 

いつもと違う様子のアリサちゃんに私はなにも言えなかった。

それは衛藤さんもで、静かにアリサちゃんと皐月さんを見る。

 

「貴女っていい、なのはっていい、零夜っていい・・・・・・ああ!なんであたしの周りにいる人は全員自分のことを考えないわけ!?」

 

今までの鬱憤を晴らすかのように言うアリサちゃん。

アリサちゃんの言葉に、思い当たる節が幾つもある私はぐうの音も出ない。

 

「はぁ。まあ、この話は後にして・・・・・・あたしに策があるわ」

 

「「「っ!」」」

 

冷静に、落ち着いて話すアリサちゃんに私たちは息を呑んだ。

 

「けど、チャンスは一度だけ。恐らく、アイツらは零夜の言っていた天翼の終焉研究会のメンバー。なら、手加減は出来ないわ」

 

「バニングスさん、策って?」

 

「あたしとなのはが遠距離からアイツらを攻撃する。その隙に衛藤と皐月がアイツらを不意打ちで倒す。出来ることなら私もやるわ」

 

確かに、私の魔法構成は遠距離攻撃に片寄っている。フェイトちゃんやシグナムさん、ヴィータちゃんたちみたいに近接戦闘の心得はあまりない。昔、フェイトちゃんと戦った時に零夜くんとユーノ君に基礎的なことは教えてもらったけど。(ちなみに、零夜くんの我流近接戦闘術は誰にも真似出来ないので、除外です)

逆にアリサちゃんは高機動高火力型で、やや近接戦闘に傾いている。

 

「アイツらをもう少し引き付けるわ。あたしがトラップ魔法を仕掛けるから、なのはは予め遠距離から魔法攻撃の準備をして」

 

「で、でも、それだとアリサちゃんに攻撃が」

 

「心配ないわ。あたしたちは零夜に鍛えられてるのよ?なら、並の魔導士の攻撃くらい避けられるわ。それに、アイツらは今までの攻撃から、直接ではなく間接的に・・・・・・あたしたちを動けなくさせることが目的のようね。なら、問題ないわ」

 

未だに放たれる魔法弾をチラッと見ながらアリサちゃんはそう口にする。

 

「二人は対人戦。出来るわよね?」

 

「え、うん。御前試合とかあるし、私たち刀使は荒魂討伐以外にも何かと駆り出されるから」

 

「もっとも、メインは荒魂討伐ですが」

 

「OK。じゃあ、作戦を伝えるわね」

 

そう言って、アリサちゃんは炎の隠蔽魔法を行使しながら作戦を話し始めた。

 

「───いい?」

 

「う、うん」

 

「わかりました」

 

「まかせて」

 

「もう一回言うけど、チャンスは一度きり。失敗は許されないわ。これは命を懸けた戦いよ。心して!」

 

「「「っ」」」

 

アリサちゃんの真剣な言葉に私たちは小さく頷いた。

そしてそれと同時に零夜くんと夜月ちゃんが体感していたことがわかった。今のこれ。この状態が、二人がいつも体感していた感じ。命と命のやり合いなのだ。そして、零夜くんはそれを二年前の、あの闇の書事件の際からヴィータちゃんたちとしていたんだ。この殺伐とした空気を・・・・・・たったの九歳の時から。あれ、零夜くんの精神年齢って十八歳くらいだったけ?まあ、兎に角、零夜くんの強さはここから来ているのだろう。

 

「五秒後に始めるわ。いいわね」

 

再びアリサちゃんの言葉に私たちは頷き。

 

「三・・・二・・・一・・・作戦開始!」

 

アリサちゃんの声に、私は奥の方へと低空飛行で飛び、衛藤さんと皐月さんは左右に分かれる。そしてアリサちゃんは。

 

〜なのはside out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜アリサside〜

 

なのはたちが散開したのを確認してあたしはブルブルと震える脚を抑え、深呼吸してアイツらの前に出た。

 

「そこまでよ!大人しく投降なさい!」

 

「ああん?ガキの魔導士が一人?しかも女かよ」

 

数は四人。その内前に出ていた男はなんかチンピラっぽいけど、ガタイの感じから歴戦の猛者とも言える空気を感じた。後ろの三人は白いローブを纏っている。つまり、あの一番前にいる男がこの四人の中で一番強く、リーダーというわけだ。

 

「(ふぅ。落ち着きなさいあたし。訓練を思い出すのよ)」

 

あたしは顔に出さないようにして、零夜と特訓の日々を思い出した。

 

「(あたしはやれる!)」

 

何時もの自信を持ち、目の前の四人に向かって声を出す。なのはたちはの注意をあたしに移すために。

 

「アンタたちの相手はこのあたしよ。時空管理局特務0課所属の私がね!」

 

「あ?特務0課だと?それって、ま、まさか・・・・・・・!」

 

「が、ガラ様!まさか時空管理局の特務0課というのはあの・・・・・・!」

 

「落ち着けオマエら。こんなチンケな管理外世界に特務0課の連中がいる訳がねえ。それに例えヤツがいるとしても、もう遅せぇよ」

 

「あら、それはどういう意味かしら?この状況からアンタたち以外にも居るわね」

 

「だとしたら?」

 

「いえ、ならアイツの部下であるあたしたちが負けるわけにはいかないわね!」

 

「ハッ!威勢だけはいいなガキ!てめぇ・・・・・・名前はなんだよ」

 

「時空管理局本局所属、特務0課のアリサ・バニングスよ!アンタは?」

 

天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)序列六位能天使(エクシーア)、ガラ・ルヴァリアだ。覚えておけ、アリサ・バニングス!」

 

「ええ!アンタたちを捕らえて、アイツに自慢してやるわ!」

 

「ハッ!なら、掛かってこいや!時空管理局の魔導士!!」

 

「言われなくても!!」

 

声に出すと同時に、あたしの炎熱を魔力として溢れさせる。それは相手のガラ・ルヴァリアもで。

 

「いくわよ!フレイムシューター!」

 

幾つ物の魔力弾を作り出し放つ。真っ赤な魔力弾は素早い速度でガラ・ルヴァリアらに向かって飛んでいく。

 

「ふんっ!」

 

飛んで行った魔力弾をガラ・ルヴァリアは右手を前に突き出して、障壁で受け止める。

 

「中々な威力だ。・・・・・・だが、まだ足りないな!」

 

「っ!」

 

返ってきた砲撃をあたしはとっさに右に避ける。

 

「(・・・これが、アイツらの魔法・・・・・・!術式はミッド式ね。並大抵の魔導士ならやられてるわね、これ・・・・・・)」

 

砲撃から情報を処理し次に備える。

師である零夜からは、戦闘中は立ち止まるな、常に動き回れと言われている。だから───!

 

「(接近戦は難しい!なら、ムンドゥス・マギクス式で!)」

 

瞬時に次の一手を判断し、起動キーを唱える。

今いるこの辺りは結界に被われてる。つまり、現実世界には影響はでない。なら───!

 

「悪いけど、手加減無しで行かせてもらうわね!アグニス・ラルタス・スティングル。焚けれ、猛れ、業火に焼かれ身を焦がせ!灼熱業火の焱よ、荒れ狂いなさい!」

 

「なにっ!?」

 

あたしの唱える呪文に聞いたことがないガラ・ルヴァリアたちは動揺を隠せずにいる。まあ、それは当然か。

範囲指定をして、終の言葉を発する。

 

「―――炎極の鎮煌姫(フレア・レクイリセス)!」

 

あたしは炎熱変換資質を持っていることから、炎系統の魔法が得意だ。そして、ムンドゥス・マギクス式の炎系統の魔法を自分でアレンジした。そのひとつがこの、炎攻撃魔法―――『炎極の鎮煌姫』。モデルはムンドゥス・マギクス式の炎系統上位魔法『奈落の業火(インケンディウム・ゲヘナへ)』。

地面に描かれた魔法陣から灼熱の炎が吹き出し攻撃する。それが、『炎極の鎭煌姫』。

『炎極の鎭煌姫』が発動している隙に、あたしはその場から離れるようにする。

 

「(そろそろあの二人の幻影が消える頃ね)」

 

目標地点まではあと一五〇メートル。

あたしはそこまで駆ける。

その後ろで。

 

「ハッ!いい炎だ!このオレに傷を負わせるとはな!」

 

「っ!」

 

「どこ行こうとしてんだ?逃がさねぇよ!」

 

「くっ!」

 

一瞬で距離を詰められたあたしは咄嗟にデバイスのフレイムハートを刀形態の《フレイムアイズ》にしてガラ・ルヴァリアの突き出した短剣を受け止める。

 

「ほおっ。いい反応だ。気に入ったぜ!」

 

「気に入らなくて結構だわ!」

 

鍔迫り合いから重心を後ろに下げてそのまま後ろに下がる。

 

「連槍・炎の82槍!」

 

後ろに下がりながら、炎の槍を放つ。

そしてさらに。

 

「《弾けて・吹き飛べ》!」

 

即興呪文で発動した炎の矢を繰り出す。

即興呪文は基本難しいって言われていたけど、あたしは修練の末、簡単な魔法だったら呪文を即興して発動出来るようになった。零夜だったら上位クラスまで出来るみたいだけど。

 

「(ホント、今更ながら零夜ってとんだ化け物レベルよね。普段はあんなに唐変木の朴念仁なのに、いざって時はカッコイイんだから)」

 

そんなことを考えながら目標地点まで行く。

 

「(あと少し!)」

 

あと少しで目標地点のはずだが───

 

「なぁ、何企んでんだ?」

 

「っ!?」

 

いつの間にか目の前にいたガラ・ルヴァリアに驚き大きく後ろに飛んだ。

 

「いつの間に・・・・・・!」

 

「おいおい。オレをあまり舐めんなよ?さてはてめぇ・・・・・・実戦経験があんまりねぇだろ?」

 

「っ!」

 

「はっ。図星か」

 

コイツの言う通り、あたしには・・・・・・いや、あたしたちには実戦経験が全くって言うほどではないが、ほとんど無い。しかも、今回の任務は初めての他世界での任務。零夜は以前一人だけの時に聖良たちとともに他世界に言ったようだけど。

まあ、それは置いといて。

 

「だったらなに?」

 

言葉を発しながら、微調整をする。

ここはギリギリ目標地点の範囲に入る。あとは、その目標地点の場所を変え、コイツら全員をターゲットにして。

 

「どうせ、トラップでも仕掛けて居るんだろうが、残念だったな。オレたちには通じねぇよ」

 

「(よし、これで入った!)あら、それはどうかしらね?」

 

「なに?」

 

「あたしの魔法の師が誰か知らないの?あたしの・・・・・・いえ、あたしたちの魔法の師匠はあの星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)よ?アンタたちに見破られることなんて・・・・・・そんな事、はじめから分かっているのよ!」

 

「なっ!」

 

「掛かったわね!」

 

あたしがニヤリとすると同時にあたしを中心に半径四メートルほどの魔法陣が展開され。

 

「今よ!」

 

あたしが飛ぶと同時に遠くからなのはのスタンモードでのディバインバスターがガラ・ルヴァリアたちを襲った。

 

「く・・・・・っ!ちょ、長距離砲撃だと?!」

 

「「「ぐああっ!!」」」

 

「───焔華爆炎陣(フレアサークル)!」

 

さらに地面の真っ赤な魔法陣から炎の柱が立ち上り、ガラ・ルヴァリアたちを呑み込んだ。

そしてそこに。

 

「はあっ!」

 

「やああっ!」

 

両側の森から皐月と衛藤が飛び出して、収束した白煙の中に入り瞬く間に三人を行動不能。気絶させた。

だが。

 

「ふっ!」

 

「「っ!」」

 

ガギンッ!と音がなり、衛藤と皐月の二人が下がり、白煙の中から。

 

「まさかオレ以外の三人をやるとはな。これはさすがに予想してなかった」

 

ただ一人、ガラ・ルヴァリアだけは所々ジャケットが破れていたり、焦げ付いていたりしているが、ほぼ無傷とも言えるような状態だった。

 

「さてと。中々な作戦だったが、あと一歩足りなかったな。だが、てめぇらの作戦に驚かされたのは事実だ。ハッ!褒めてやるよ」

 

「アンタに褒められても嬉しくないわ」

 

「そうかよ」

 

はぁ、と息を吐くガラ・ルヴァリア。

 

「───遅せぇよ」

 

「っ!───ガハッ!」

 

一瞬で皐月の正面に肉薄したガラ・ルヴァリアはそのまま皐月を蹴り飛ばして背後の樹に打ち付けた。

 

「「っ!?」」

 

一瞬の出来事に反応できなかったあたしたち。

 

「まずは一人。次は・・・・・・」

 

「!衛藤!」

 

衛藤に視線を向けたガラ・ルヴァリアに気づいたあたしは、衛藤の前に移動して障壁を張る。が。

 

「な・・・・・・っ!!」

 

「アリサちゃん!?」

 

あたしの張った障壁は簡単に壊され、あたしと衛藤は思いっきり吹き飛ばされた。

 

「くっ・・・・・・!」

 

「だ、大丈夫アリサちゃん」

 

「え、ええ」

 

あたしと衛藤はなのはのすぐ近くにまで吹き飛ばされ、皐月との距離が大きく開いた。

 

「アリサちゃん!可奈美ちゃん!」

 

「なのは!」

 

「なのはちゃん!」

 

「アリサちゃん、皐月さんは?!」

 

なのはがあたしたちに聞いてきたところに。

 

「皐月ってのはこのガキのことか?」

 

「!皐月さん!」

 

ガラ・ルヴァリアが皐月を掴んでやってきた。

 

「離して、くだ、さい・・・・・・!」

 

途絶え途絶えに言う皐月。

 

「悪いけど、しばらくそうしてもらうわ」

 

冷めた眼差しで返すガラ・ルヴァリア。

そんなところに。

 

「なら、今すぐ彼女を解放してもらうわね」

 

一人の女の子の声が響き渡った。

 

「っ!?誰だ!」

 

「今の声・・・・・・!」

 

「この声もしかして・・・・・・!」

 

辺りを見渡すガラ・ルヴァリアと今の声に心当たりのあるあたしたち。そして。

 

刻々帝(ザフキエル)七の弾(ザイン)

 

「な・・・・・・っ!」

 

左手に鍵のような錫杖を持ち、右手にはフリントロック式の古式銃を握った夜月がガラ・ルヴァリアの後ろから現れ、瞬く間にガラ・ルヴァリアの動きを封じ、皐月を解放した。

 

「さてと。大丈夫?」

 

「は、はい」

 

「そう。よかったわ。じゃあ、三人のところに行ってて」

 

夜月はそう言うと、まるでそこだけ時が止まっているように微糖打にしないガラ・ルヴァリアに視線を向けた。

 

「さ、皐月さん!大丈夫ですか!?」

 

「はい。問題ありません」

 

衛藤の言葉に淡々と答える皐月。だが、疲れているのが目に入る。

 

「夜月、あたしたちも!」

 

「大丈夫よ。問題ないからねアリサちゃん」

 

こっちを向かないで普通に、いつもの様に返す夜月。

正直、夜月からはとてつもない殺気を感じる。今のあたしたちでは敵わないわ・・・・・・。

そう思っていると。

 

「───っ!な、いつの間に・・・・・・!」

 

ガラ・ルヴァリアは再び動き出し、状況が理解できないのかアタフタとしていた。

 

「はじめまして、かな?私の名前は桜坂夜月。時空管理局本局所属、特務0課のNo.2って言った方が分かるかしら?」

 

「な、No.2・・・だと・・・・・・!!?」

 

「ええ。悪いけど、いきなり最後通告させてもらうわ。今すぐこの星から立ち去りなさい。他の人たちも一緒にね」

 

「・・・・・・断ったら?」

 

「そうねえ。そうなったら、私があなたを捕まえるわ」

 

夜月の言葉に、ガラ・ルヴァリアはもちろんのこと、あたしたちも緊張が走る。有言実行。夜月ならやりかねない。

しばしの沈黙の後。

 

「はぁ。わぁった。言う通りにする」

 

ガラ・ルヴァリアは短剣を仕舞い、溜息を吐いて言った。

 

「そう」

 

「だが、他の連中は知らん。好きにしろ」

 

「あら、意外」

 

「うっせぇ。ったく、んでこんな所にテメェらがいんだよ・・・・・・。この命令を出したのは・・・・・・、いや、まさかな・・・・・・」

 

「?」

 

「なんでもねえ」

 

「そう?あ、そうそう。この人もついでに持って帰る?」

 

「あ?」

 

そう言って夜月は足元の影の中から、拘束されてる女の人を出した。え、あの影どうなってるの!?あれ、そう言えばさっき夜月が現れた時、どうやって現れたの?

 

「はっ!?えっ!?り、リエル!?」

 

「あれ、お知り合い?」

 

「いやいやいや!リエルは能天使の中でも上位に位置する魔導士だぞ!?まさかやられたのか!?」

 

「私を相手にするには、まだレベルが足りなかったわね」

 

「ば、バケモノかよ・・・・・・!」

 

ガラ・ルヴァリアの言葉にはあたしたちも同意する。正直、夜月と零夜はバケモノ級の強さだ。

 

「ぐっ・・・・・・ガラ。すまない、まさか彼女の強さがあそこまでとは・・・・・・」

 

「構わない。オレも、アイツを相手に手間取ったからな」

 

ガラ・ルヴァリアの視線を受けたあたし。

 

「ま、本来なら二人とも捕らえるんだけど、あなたたち中々見どころがあるわ」

 

そう言うと夜月は信じられない言葉を口にした。

 

「ねえ、あなたたち二人とも、ウチに来ない?」

 

「「「「・・・・・・はぁっ!?」」」」

 

「え、ちょっ!よ、夜月!?何言ってんのよあんた!」

 

「リエル・スリアズラの強さは私自身が確認したし、ガラ・ルヴァリアはアリサちゃんたちが確認したでしょ?」

 

「それはそうだけど!犯罪者を引き入れるの!?」

 

「犯罪者っていう意味では、レイくんも元犯罪者よ?知ってるでしょ、闇の書事件のこと」

 

「「っ!」」

 

確かに、零夜もはやてのため仕方が無いとはいえこの全ての次元世界を敵に回した一時とはいえ犯罪者だった。当時のあたしは全く知らなかったけど、あの時零夜がよく学校を休んでいたのは病気ではなく、はやてのためだった。

正直、はやての事が少し羨ましい。病気の件は無しにしても、あたし達のなかで一番アイツを知っているのははやてだ。それが何処と無く羨ましい。そしてそれと同時に、あたしの胸に痛みが走る。

 

「テメェ・・・・・・オレたちを引き入れてどうするつもりだ?」

 

ガラ・ルヴァリアの問いに夜月は。

 

「別に。ただの戦力増強よ。ただでさえ私たちのところは人手が少ないから。もっとも、承認は私じゃなくてレイくんと統幕議長なんだけど」

 

そう。夜月の言う通り、承認するには零夜と統幕議長さんの承諾が必要。

 

「(夜月、何を企んでいるの?)」

 

敵であるはずの二人にそんな提案をする夜月に、あたしは不思議に思った。

 

「まあ、いいわ。どっちでも。ウチに来たかったら何時でも連絡して。ただし、よく考えてね。あなた達のした罪が消えることはないんだから」

 

そう夜月が言うと、ガラ・ルヴァリアと女の人は立ち去って行った。

 

「さて。みんなの回復をしないとね」

 

「いやいや!そんな場合じゃ!」

 

「大丈夫。すでに『私たち』を向かわせているから」

 

「「「「え?」」」」

 

夜月の言った言葉の意味が分からず、あたしたちは一言疑問声を出したのだった。

 

〜アリサside out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜零夜side〜

 

 

「はあっ!」

 

幾多破壊したか分からない中、僕は最前線でこの研究会の機械群と戦っていた。

 

「ったく!数は無駄に多いいね!」

 

機械群のサイズは人型である中型と、数は多くないが巨大な大型がいる。

 

「きゃあっ!!」

 

「っく!頭を下げて!」

 

殺られそうになっていた刀使に言い。

 

「魔法の射手・集束・光の101矢!」

 

高速詠唱で魔法を発動。撃つ。

 

「負傷者は最優先で後ろに!無理に倒そうとはしないで!」

 

強い口調で、周りに拡散するように言う。

 

「(落ち着け!ヤツらはここにこんなのを送り込んできたってことは、恐らくここにある何かを奪いに来たって事だ。なんだ?何を奪いに来たんだ・・・・・・?この世界にしかないもの・・・・・・それって荒魂・・・・・・?ならヤツらは荒魂を奪いに来た・・・・・・?いや、荒魂討伐は簡単だろうけど、回収は出来ないはずだ。なら、僕らと同じくロストロギアか?けど、この鎌府女学院・・・・・・刀使たちの総本部にコイツらを仕掛けてきたってことはここにあるもの・・・・・・いや、まてよ。確かここにはノロの貯蔵庫が・・・・・・)まさか・・・・・・!」

 

背筋に冷たい汗が流れる。

そこに。

 

「おい、おまえ!」

 

少し離れたところから少し高圧的な、注意を喚起する女子の声が聞こえてきた。

声を発したのは、翠の制服。平城学館の生徒だ。

しかし、声が聞こえてきたと同時に僕は───。

 

「───邪魔だ」

 

僕を襲って来た。いや、襲おうとした機械を破壊した。

 

「なっ・・・・・・!なんだ今のは・・・・・・!」

 

唖然とする声を掛けてきた女子。その女子に。

 

「十条さん!」

 

「!舞衣か!」

 

可奈美と同じ、美濃関学院の制服を着た子だ。

多分可奈美と同じくらいの年齢だと思うんだけど。

 

《うわぁ。すっごい胸ね・・・・・・》

 

「(何故そこに注目するの・・・・・・)」

 

突然頭の中に声が響いた。

 

《だって、あの子。多分中学生くらいだと思うんだけど、その割には発育がいいというか》

 

「(・・・・・・・・・)」

 

《どうしたの?》

 

「(あ、いや。はやてがあの子と遭遇したら絶対なにか起こすなぁーって)」

 

《・・・・・・否定出来ないわね》

 

「(まあ、それは置いといて。一気に片付けるよ)」

 

《はい》

 

会話を終わらせると、僕は地面を蹴って空に上がり。

 

「───戒めの楔(レージング)

 

空から、眼下にいる機械群すべてにバインドを仕掛け動きを封じる。

 

「さて、一撃で終わらせる」

 

そう、一言呟き、術式詠唱と術式記唱の同唱術式(ダブルスペル)をする。高速詠唱を高速記唱でそのまま空中に写し、十五秒ほどの同唱術式により、その術式は完成する。そして、短い最後の術式区を唱えた。

 

「───流精群(ミーティアスピリットレイン)!」

 

と。

 

 



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さらなる戦闘

 

〜零夜side〜

 

「───流精群(ミーティアスピリットレイン)!」

 

上空からの流星。いや、流精が次々と辺りの機械群を貫き、穿き、破壊していく。

上位精霊魔法が一つ。流精群(ミーティアスピリットライン)

全ての機械群を破壊したのを見て、地上に降りると。

 

《さすがね零夜。もう私の力をものにしてるなんて》

 

頭の中に声が響き渡った。

 

「いや。まだまだだよ───ミリア」

 

声を掛けてきたのは、僕と契約している精霊。いや、正確には、新たに仲間になった、始源の精霊にして、あらゆる属性の精霊の頂点に立つ精霊の女王が一人、ミリアだ。

彼女との出会いはエルトリア事変が終わって一週間も経ってない頃に出逢った。まあ、彼女と出逢い、仲間になった経緯に関してはまた今度話そう。

 

「───派手にやったねレイくん」

 

「夜月」

 

僕の影の中から霊魔装を見に纏った夜月が姿を現した。

その夜月を見た僕はすぐに苦笑し。

 

「夜月、キミ刻々帝での分身でしょ」

 

「あ、分かっちゃった?」

 

「そりゃ分かるよ」

 

「ふふふ」

 

互いに軽口を叩き、小さく笑う。

 

「さて。マジな話をしようか」

 

「ええ」

 

僕と分身隊の夜月は表情を引き締め会話に入る。

 

「そっちの状況は?」

 

「研究会の交戦員と各自戦闘中。序列六位の能天使、リエル・スリアズラはすでに撃破して『私』の本体が確保しているわ。それと、各地に『私』を出してるわね」

 

「そう」

 

夜月の持つ能力はある意味僕より優れている。

僕が『個』とするならば、夜月は『群』だ。

個人能力では勝っていても、夜月は『個』ではなく『群』。圧倒的な物量攻撃が高い。

以前一対一で本気に近い戦いをした際は、展開したフィールドの大半・・・・・・九割近くが崩壊したのだ。勝負は明莉お姉ちゃんと弓月さんの制止により決まらなかったけど。

 

「それで、こっちの方は?」

 

「さっきから来るのはあの機械群だけ。魔導士がどこにいるのかはわかんないよ」

 

「そう。敵の目的に予想は?」

 

「アイツらがロストロギアのことを知ってるのかわからないけど、ここにコイツらを送り込んできたってことは・・・・・・」

 

「っ!まさか、研究会の目的は───ノロ」

 

「恐らく。刀使に投与してスペックが跳ね上がったなら、それを魔導士に投与したら・・・・・・」

 

「しかも、実験サンプルにもなる・・・・・・」

 

「ああ」

 

夜月と会話を重ねていると。

 

「っ!この気配、まさか・・・・・・!」

 

突然機械群のひとつから荒々しい魔力が吹き荒れたのを感じた。

 

「まずい!」

 

「くっ!」

 

「夜月!」

 

「わかってる!」

 

すぐさま分身体の夜月が周囲に障壁を張る。

 

「───ミリア!」

 

《わかってるわ!》

 

時空の揺籃(クロノプレジティム)時縳の停り(レバイド)!」

 

時空間魔法、時空の揺籃・時縳の停りを発動させ、対象の時間を止めた。そして。

 

元素崩壊(ディス・マテリアレーション)!」

 

無防備な機械群に元素崩壊術式を叩き込み、その物質の構成を元素へと還し崩壊させた。

叩き込まれた機械群は一瞬の内に砂のようになり、その巨体を無くした。

 

「ふぅ。危ない危ない。こんな所で魔力爆発なんか起きたら周囲にどれだけ被害が行くか」

 

時縳の停りで機械群を停止させたのは、そのまま元素崩壊術式を叩き込むと、連鎖して魔力暴発が起こる可能性があったからだ。元素崩壊術式はその名の通り、元素の構成を崩壊させる術式だ。

簡単に言うなら、一種の破壊魔法だ。あれ、端折りすぎたかな?

あ、ちなみに時縳の停りは対象の時間を止める術式だ。刻々帝の《七の弾(ザイン)》と同じだと思ってくれ。まあ、効果時間は刻々帝より長いけど。

 

「ミリア、他に反応はある?」

 

《ないわ。どうやら、あの機械群だけトラップが仕掛けられていたようね。まったく。ここにあなたが居なかったら被害は尋常じゃなかったでしょうね》

 

「たぶんね」

 

残りの機械群の幾つかを異空間に仕舞い、残りはすべて元素崩壊術式で分解した。

仕舞ったのは局のマリーさんたちへの手土産兼研究物として。分解した理由は、この世界の人があれを作ったりする可能性があるからと、他世界の物を手に入れさせない為。

 

「夜月」

 

「なに?」

 

「『本体』に連絡って出来る?」

 

「『私』なら出来るわ」

 

「ならお願い。そっちはそっちで判断を任せるって」

 

「了解よ」

 

そう言うと夜月は再び影の中に潜りこの場から立ち去った。

指揮官としては落第点かもしれない。そう、自分に言うように思いながら、負傷した刀使たちの元に向かった。

 

「すまない。負傷した刀使は?」

 

近くにいた美濃関学院の服を着た女生徒に声を掛け訊ねる。

 

「え、えっと、それならあっちで手当を受けてるよ」

 

「ありがとう。あなたたちは怪我はしてない?」

 

「ええ、私は大丈夫」

 

女生徒がそう言うと。

 

「おまえ何者だ?」

 

突如首元に一振の御刀が当てられた。

当ててきたのは、あの時声を掛けてきた平城学館の服を着た生徒だ。目付きを鋭くし警戒して僕を見ている。

 

「じゅ、十条さん!?」

 

「離れていろ舞衣。・・・・・・質問に答えろ。おまえは何者だ。何故あの機械を破壊出来た?それにあの力はなんだ」

 

「十条・・・・・・?」

 

舞衣と言われた女生徒の言った言葉に眉を小さく上げ、御刀を首元に当てる生徒を視る。

 

「十条・・・・・・ああ、あなたが十条姫和ですか。柊篝の娘。可奈美とともに大荒魂タギツヒメを討滅した、英雄の一人」

 

「なっ・・・・・・!何故私のことを・・・・・・!それに、何故母さんの事まで知ってる?!」

 

「紫から聞いたので」

 

「紫・・・・・・折神紫か!」

 

「ええ」

 

「紫様を呼び捨てって・・・・・・」

 

目の前にいる舞衣・・・・・・さん?でいいのかな?舞衣さんは唖然としている。のは、いいんだけど。

 

「あの〜、見てないで十条さんをどうにかしてくれます?」

 

「え!あ!はい!十条さん、こんな小さな子にいきなり御刀を向けたらダメだよ!」

 

「しかしだな舞衣」

 

舞衣さんに宥められてる十条さん。そこに。

 

『あー、聞こえるだろうか?』

 

僕の持つ通信機から声が響いてきた。

すぐに通信機を持ち。

 

「はい。その声は真庭さんですか?」

 

『ああ。ようやく繋がったか』

 

「ええ。今、学院に侵入した機械をすべて討滅したところです。刀使の方にも十数名負傷者が出たとの事です」

 

『了解した。今医療チームを向かわせてる』

 

真庭さんと会話をしていると。

 

「本部長、コイツは一体何者なんです」

 

『ん?その声は十条か?』

 

「はい。あと、舞衣も近くにいます」

 

『柳瀬もか。そう言えばおまえたちは任務で出ていて知らなかったな。・・・・・・彼の名前は天ノ宮零夜。アタシらの世界とは別の世界にいる、魔導士だよ』

 

「ま、魔導士!?」

 

「本部長、冗談を言ってる場合ではないんですが」

 

『冗談ではない。すでに彼の力は目にしただろう。それに、彼はあの燕結芽に勝ち、衛藤とも引き分けたんだぞ』

 

「なにっ!?」

 

「可奈美ちゃんと引き分け!?」

 

信じられないものを見たような眼差しを向ける二人。

 

「可奈美ちゃんと引き分けたなんて・・・・・・」

 

「あの剣術バカや燕と同等の剣技の持ち主・・・・・・にわかには信じられん」

 

『事実だぞ。それに、紫様や朱音様も彼を認めてるからな』

 

「一体何があったんですか、私たちがいない間に!?」

 

『色々あったんだ柳瀬』

 

そんな会話をしている中。

 

「ん?」

 

妙な魔力反応を検知した。

 

「(なんだ、この魔力?場所は───鎌府女学院の中?)」

 

検知したその瞬間。

 

 

ドガンッ!!

 

 

「「「っ!?」」」

 

地面が揺れたような衝撃音が響いた。

 

「なんだ今の音は!?」

 

十条さんが視線を衝撃音が響いた方向。学院を見て言う。

通信機からは。

 

『おい、今の音はなんだ!』

 

『わ、わかりません!』

 

『当内部で爆発が発生!場所は・・・・・・っ!え、エリアE─Ⅴ。ノロの貯蔵施設扉からです!!』

 

『なんだと!爆発の原因は!』

 

『わかりません!人為的かと思われます!』

 

『っ!エリアE─Ⅲ~Ⅴまでのシステムダウン!防災システムがダウンしています!』

 

そんな切羽詰まった、オペレーターたちの声が響く。

 

『監視カメラの映像を確認しろ!』

 

『ダメです!E区画のカメラがすべて破壊されています!』

 

『なぁ・・・・・っ!』

 

『貯蔵施設内部の映像を映します!』

 

『し、侵入者は一人!・・・・・・え。ひ、人・・・・・・?』

 

『大至急無人機をE─Ⅰに向かわせるんだ!侵入者を捕縛!』

 

『了解!』

 

『刀使はD─Ⅷに集結させろ!』

 

『はい!』

 

通信機からの音はアラートが鳴り響き、目まぐるしく声が飛び交っている。

 

「このタイミングで爆発・・・・・・まさか!二人とも、すみませんが僕の手を掴んでください!」

 

「え、え?!」

 

「な、なんだと?」

 

「時間が無いのでちょっと強引に行きます!」

 

柳瀬さんと十条さんの手を掴み、僕はすぐさま転移術式を発動して指令本部に転移した。

転移して本部に着くと。

 

「システムの復旧はまだか!」

 

「ダメです!システムが受付ません!」

 

「侵入者、E─ⅤからE─Ⅱ区画に移動!まっすぐ外に向かっています!」

 

あちこちで人が慌ただしく動いていた。

 

「真庭さん!」

 

「っ!おまえ達か」

 

「本部長、これは一体なんなんですか?!」

 

「わからん。だが、言えることは何者かがノロを奪いに来たという事だ」

 

「まさか、大荒魂・・・・・・!」

 

「そんな・・・・・・!」

 

動揺を隠せずにいる二人。

しかし僕は。

 

「いや、大荒魂じゃない」

 

と真剣な眼差しでモニターを見ていた。

 

「はは。まさか単身でこの中に来るとはね」

 

「おまえ?」

 

「天ノ宮?」

 

乾いた声で笑う僕を怪訝に見る真庭さんと十条さん。

 

「真庭さん、すぐに刀使たちを下がらせてください」

 

「なに?何故だ?」

 

「刀使では相手にならないからですよ。いや、正確には一握り、結芽や可奈美クラスの剣術の腕が無いと相手にならないかと。まあ、それも相手によりますけどね・・・・・・」

 

僕の背中に冷たい汗が流れる。視線はあるモニターに集中していた。そして、そのモニターには一人の人間が映っていた。両手に短剣を二刀構えた姿が。

 

「(ヤバい。相手の実力、実際対峙してるわけじゃないのにすごい圧を感じる・・・・・・!研究会の中位の上か上位メンバー・・・・・・!)」

 

実際にその人は向かってきた警備ロボを瞬く間に切り、行動不能にした。

 

「む、向わせた無人機、全十五機行動不能!侵入者、一直線にE─Ⅱ区画からD─Ⅸ区画に移動!」

 

オペレーターの震えた声が耳に入る。

 

「急いで刀使を全員下がらせてください。じゃないと、死にますよ。ヤツの相手は僕がやります」

 

そう言うやいなやオペレーターの一人に声を掛け。

 

「D─Ⅲ区画までの最短ルートをお願い」

 

という。

 

「で、D─Ⅲ区画ですか?」

 

「そう。あと、C─ⅤからD─Ⅱまで進入禁止にして」

 

「本部長・・・・・・」

 

「・・・・・・はぁ。わあった。直ちにD─Ⅷ区画に向かっている刀使全員を避難させろ!C─ⅤからD─Ⅱまでの区画を侵入禁止だ!急げ!」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

真庭さんの指示にすぐさまオペレーターは行動に入る。

 

「こちら本部!D─Ⅷ区画に向かっている全刀使に通達!直ちにその場から避難してください!繰り返します!全刀使は直ちにその場から避難してください!」

 

「刀使の避難が完了次第、進入禁止をします!」

 

「やれるんだな?」

 

「ええ。みんながやってる中、部隊長である僕がやらない訳ありませんから」

 

そう真庭さんに言って、僕は指令本部から出て目的地のD─Ⅲ区画へと向かった。

 

《いけるの?》

 

向かってる最中、ミリアが問うようにして聞いてきた。

ミリアの問いに。

 

「わかんない」

 

と応える。

見る限り、相手の力量はシグナムに迫る程だった。しかも、モニターから見るに恐らく身体強化の魔法しか使ってない。情報が少ない。

つまり、僕が勝つには───

 

「全力でやる・・・・・・!」

 

最初から手加減無しでやるしかない。

しかし、闇の魔法(マギア・エレベア)魔法と精霊を統一しせし王の外套(マナスピリット・コンバーティオローブ)はまだ使わない。いや、使うわけにはいかない。あれは僕の奥の手の中の奥の手だから。

身体強化魔法をさらに積み重ねしながら、僕は相手と向かう場所に移動して行った。

 

〜零夜side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜凛華side〜

 

 

『〈ミストルティン〉、敵艦の障壁を貫通!敵艦中央下部に被弾!』

 

鞠亜ちゃんの言葉に私たちはモニターを確認する。

モニターには艦船下部から白煙が出ている姿が映し出されていた。

 

「敵艦、戦闘区域を離脱。追撃を仕掛けますか?」

 

「いえ、追撃はしません。引き続き警戒態勢を・・・・・・」

 

『待って!敵艦からなにか来るわ!』

 

クライドさんの言葉を遮り、鞠奈ちゃんの鋭い声が貫いた。

画面を見ると、敵艦から何かがこっちに向かってくるのが見えた。

 

「ロボット・・・・・・?」

 

『その数、十・・・・・・三十・・・・・・八十・・・・・・ひゃ、百!?いえ、総数二百五十!!』

 

「不味いですね・・・・・・コッチに戦力はあまり・・・・・・」

 

クライドさんが顔を顰めて言う。

こっちに居るのは私とクライドさん、聖良ちゃん、星夜ちゃん、イリアちゃんだけ。鞠亜ちゃんと鞠奈ちゃんはこの艦を操縦して、クライドさんは指揮を。星夜ちゃんは世界樹の葉(ユグド・フォリウム)を操作している。聖良ちゃんとイリアちゃんは地上とのやり取りなど。つまり―――。

 

「私が出ます」

 

「「「「っ!」」」」

 

『凛華!?』

 

『ちょっと!あんた一人で出来るの!?』

 

「大丈夫です。それに、零夜くんからこれ(・・)借りてますから」

 

そう言って懐から二枚のカードを取り出す。

 

「凛華ちゃん、そのカード」

 

「ええ。だから、大丈夫です」

 

そう言って私はフラクシナスの中から外へと転移した。

 

「さあてと。始めますか」

 

口角をキッと上げて、二枚のカード全てを。

 

来たれ(アデアット)!!」

 

武装全てを展開した。

まずは。

 

「冥道へ墜ちなさい!───冥道残月波!!」

 

一つ目の武装。『鉄砕牙』を使う。

予め零夜くんから渡されていた『鉄砕牙』。さすがの威力ですね。

三十多くが冥道へと送られて行く。

 

「次は───匕首・十六串呂(シーカ・シシクシロ)!」

 

周囲に滞空していた十六の刃が次々と自在に空を舞い、迫ってくるロボットを切り裂いて行く。

そして、私自身の武器、銃剣可変一体型武装《フォールクヴァング》を銃盾形態にして、右手に『鉄砕牙』左手に《フォールクヴァング》、周囲に匕首・十六串呂(シーカ・シシクシロ)を。

 

「はああああっ!!」

 

風の傷を放ち、幾つかのロボットを破壊。《フォールクヴァング》で的確にロボットを狙い撃ち、匕首・十六串呂で切り裂く。

空を高速で翔け、エネルギー弾を撃ってくるロボットの攻撃を避ける。

 

「金剛槍破!」

 

《フォールクヴァング》を上に投げ、両手で『鉄砕牙』を握り締めて金剛(ダイヤモンド)短槍(ショートスピア)を射つ。

射つなり《フォールクヴァング》を掴み取り、魔力弾を放つ。

 

「消えなさい!───マテリアルバスター!」

 

零夜くんのマテリアルブラスターを元にした私たち(・・・)の魔法だ。

一騎当千。私たちは全員が、零夜くんの力になりたいため、それぞれの長所を伸ばし、澪奈ちゃんは近接戦闘、星夜ちゃんは遠距離戦闘、紅葉ちゃんは魔法戦、聖良ちゃんはあらゆる分野(主にサポート系)を。そして私は───。

 

「私のスペックは、他の姉妹の子たちよりも、上なんですよ」

 

遠近両用戦闘(オールラウンダー)

辺りにいた十機近くのロボットを《フォールクヴァング》の盾剣の剣と『鉄砕牙』で薙ぎ払い、私はさらに破壊して行った。

数分後、その場にいたのは私ただ一人だけだった。

 

 



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白舞の剣魔

 

〜???side〜

 

「ふぅ。やはり、この世界の文明ではこの程度ですか」

 

妨害のつもりなのか、自分に向かって攻撃してくる警備ロボットを魔力弾と両手の刃で破壊する。

周りや背後にはその残骸が残されている。

 

「表は・・・・・・おかしいね?反応消失?いえ、存在を消滅されたということ・・・・・・?。アイツが仕込んでいた魔力爆発も起こってないようですし・・・・・・ん?」

 

出口へとただ歩くと、目の前に一人の少年が此方へと向かってくるのが見えた。

 

「ふっ。なるほど」

 

その少年を見て、全て理解した。

あの少年は───

 

「はじめまして。管理局の魔導師・・・・・・いえ、『星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)』と言った方がいい?」

 

自分たちの敵だ。

 

〜???side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜零夜side〜

 

 

迎え撃つ為に歩いていると、反対側から両手に短剣を二本。双短剣を携えた人物が現れた。

 

「はじめまして。管理局の魔導師・・・・・・いえ、『星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)』と言った方がいい?」

 

その人物は僕から離れた距離で立ち止まり言葉を発してきた。

僕も相手と同じくその場で歩みを止め。

 

「ええ」

 

相手の言葉に返す。

 

「はじめまして。知ってるみたいだけど、僕は時空管理局本局所属、特務0課室長の天ノ宮零夜。お見知り置きしなくてもいいよ」

 

「ふふ。そんなつれないこと言わないで欲しいな。じゃあこっちも言っておこうか。・・・・・・自分は天翼の終焉研究会(ラストヘブンオーダー)序列三位。上位三翼が一翼座天使(オファニア)のメイラ・アールストレイン。キミにはこの名の方が分かるかな?自分のまたの名は───『白舞の剣魔のメイラ』」

 

「っ!『白舞の剣魔のメイラ』・・・・・・!?」

 

目の前の人物。女性───メイラ・アールストレインの二つ名に僕は目を見開いた。何故ならその名を聞いた事あるからだ。

メイラ・アールストレイン───『白舞の剣魔のメイラ』。彼女は元時空管理局の魔導師。それも、数少ないランクオーバーSの魔導師だ。いや、だった。

 

「その表情、どうやら自分の事を知ってるみたいね」

 

「ええ・・・・・・。メイラ・アールストレイン。・・・・・・元時空管理局地上本部所属。首都防衛航空武装隊第108部隊のエース魔導師。階級は一等空尉。華麗なる双短剣の担い手にして、当時の魔導師の中でトップにはいる実力の魔導師」

 

「ええ」

 

「しかし、数年前に起きた首都郊外での事件の際部隊は壊滅。生存者及び原因は不明。そして、その事件は未解決事件として処理されてる」

 

「その通りよ・・・・・・」

 

「何故貴方が研究会に!」

 

以前見た彼女の経歴からしたら、研究会になど絶対協力しないはずだ。しかも、上位三翼ということはかなりの地位がある。

 

「・・・・・・復讐・・・・・・いえ、償いよ。みんなの」

 

「償い?」

 

「ええ。自分のせいで部隊のみんなは亡くなった。そのね」

 

彼女は悲痛の声を出した。

 

「・・・・・・」

 

「あなた達は研究会が悪。外道魔導師の集団とか言ってるけど、それは一部の派閥の連中だけ。自分たちはそこまで外道ではない」

 

「なに」

 

「自分たちの目的はあの老害・・・・・・みんなを亡き者にしたあの老害ども・・・・・・!」

 

「老害ども・・・・・・まさか・・・・・・!」

 

彼女の言葉に僕はハッ!する。

つまり、その事件を引き起こしたのも・・・・・・。

 

「・・・・・・喋り過ぎたわ。さぁ、そこを退きなさい」

 

「・・・・・・嫌だって言ったら・・・・・・?」

 

「悪いけど、無理矢理通らせてもらう」

 

「・・・・・・!」

 

メイラは腰の双短剣を取り出して構え、濃密な殺気放った。殺気を感じ僕は意識を切り替える。

 

「なら、僕はあなたの前に立ちはだかります」

 

「いいでしょう。かかって来なさい後輩」

 

「っ!」

 

そう言うやいなやいきなり斬りかかってきたメイラの攻撃を瞬時に黒聖と白庭で受け止める。

 

「ほう・・・・・・今のを止めますか」

 

「いきなりはないでしょう、センパイ・・・・・・ッ!」

 

ガキンッ!と甲高い音がなり、両者にまたしても距離が離れる。

 

「目的の為には手段を選ばずにはいられない。それが人の摂理!」

 

「っく!」

 

壁を蹴って横からの切りつけをバックステップで下がる。

 

「だからって、無関係の星の人たちを巻き込んでいい理由にはならない!あなたなら知ってるでしょ!」

 

バックステップから右足に重力を掛けて、一気に飛び出す。

 

「そんなこと知ってる!けど、自分の目的のためなら、自分は・・・・・・!」

 

「くっ!」

 

体術も織り込んで迫る双短剣に僕は顔を顰める。

短剣は一撃の威力がやや低い代わりに小回りの利く武具なのだ。

対して僕の剣は長剣。

 

「はアッ!」

 

「───!」

 

メイラに向けてムーンソルトで意識をずらさせ、片手剣ソードスキル《バーチカル・スクエア》四連撃を繰り出した。

しかし。

 

「っ!氷?!」

 

僕とメイラの間にいつの間にか氷の壁があり、《バーチカル・スクエア》はその氷の壁に当たった。

 

「ふぅ。なるほどね。まだ年端もいかない子供に何故特務三佐という高階級が与えられたのか疑問だったけど、納得したわ」

 

氷の壁が消え、そこからメイラが現れる。

 

「自分から言わせてもらうと、後輩くんには特務三佐なんてまだ低過ぎるわ。まあ、ミゼット統幕議長の配慮でしょうけど」

 

メイラの言葉を聴きながら、僕は油断しないようにしていた。

 

「ああ、そうだ。後輩くん、一つだけ伝言をお願いしてもいいかな」

 

「伝言?」

 

突然のその言葉に僕は唖然とする。

 

「そう。ミゼット統幕議長に」

 

「ミゼットさんに?」

 

「ええ。【自分は修羅の道を行く。あなたから教えて貰ったことは今でも自分の大切な宝物です。けど、自分は自分の目的のためにやります。申し訳ありません先生】と」

 

「先生!?」

 

正直頭の整理が追いつかない(いや、追いついてはいるけど)。

 

「どういう事?あなたミゼットさんとなんの関係が・・・・・・」

 

「言葉通りの意味。さぁ、これで話は終わり。いくよ、後輩くん」

 

「まだ話を・・・・・・!」

 

「必要ない・・・・・・!いくよ、凍雪の双劔(ミーチェリア)!」

 

メイラの声に呼応するように、メイラの持つ双短剣に淡い水色の光が迸った。

 

「っ!来たれ(アデアット)!」

 

距離を取ってアーティファクトの世界図絵を顕現する。

顕現するなり、メイラの双短剣を検索する。

検索結果は───。

 

「(なっ!?ロストロギア?!しかも準Sクラス!)」

 

データに僕は目を見開く。

世界図絵の能力は検索。しかも、これ一冊で管理局の無限書庫に匹敵するのだ。

 

「(管理局時代の彼女には無かった。なら、この十数年の間に!)」

 

声に出さないで舌打ちする。

しかしデータは少ない。

なら───。

 

「はあっ!」

 

やるしかない!

双剣に断罪の剣を付与して再び地を蹴る。

 

「!速い!」

 

速度はさっきのより段違いに速い。

何せ瞬動を使ったのだから。短距離ならば、身体強化、脚力強化魔法よりこの瞬動の方がいい。

 

「っ・・・・・!」

 

一瞬で距離を詰めた僕の剣はメイラの双短剣の刃の柄に辺り金属音が高く鳴る。

 

「ちっ!」

 

初撃を防がれ舌打ちする。

追撃はせず距離を取り。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。来たれ氷精、爆ぜよ風精!氷瀑(ニウィス・カースス)!」

 

メイラに向けて氷瀑を放つ。

 

「っ!凍雪の双劔!」

 

対するメイラも凍雪の双劔の能力なのか、氷の槍を下から突き出した。

その間には既に僕は次の詠唱に入っていた。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!魔法の射手・連弾・雷の101矢(サギタ・マギカ・セリエス・フルグラーリス)!」

 

雷系統の魔法の射手で多段攻撃を行う。

 

「なっ・・・・・・!」

 

メイラはさすが元エース。魔法の射手の雨を上手く避けていた。

しかし、この場所では僕が圧倒的に不利だ。

何せこの場所は狭いのだ。あまり派手な魔法は使えない。

そんな考えをしていたからか、メイラは。

 

「この場所狭いわね・・・・・・場所を変えましょう」

 

と言った。

どうやらメイラも同じことを思っていたようだ。

 

「そうですね」

 

僕も返し、僕とメイラに魔法陣を展開して転移する。

転移した場所は鎌府女学院の外だ。

 

「ここなら思う存分に出来る」

 

「ええ」

 

再び構えを取り、僕とメイラは火花を散らせる。

まず最初に仕掛けたのは───

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!」

 

僕からだ

 

「集え氷の精霊。槍もて迅雨となりて敵を貫け!」

 

呪文を詠唱し。

 

氷槍弾雨(ヤクラティオー・グランディニス)!」

 

氷槍の雨を降らせる。

氷槍は地面を穿つように鋭い。

 

「ちっ!」

 

メイラも魔力弾で反撃してくるが、如何せん数はこちらが多い。

幾らかの氷槍がメイラの身体をかする。

しばらくして氷槍弾雨が止み。

 

「はぁ。なんていう威力の魔法・・・・・・」

 

「そっちも。まさかまだ動けるなんて」

 

正直氷槍弾雨を受けて動けるのは驚きだ。

なにせ今までの者はこれを受けて動けたことがないのだから(例外はあるけど)

 

「仕方ないね。自分も本気で行かせてもらうよ」

 

そう言うとメイラは目付きを鋭くした。

 

凍雪の双劔(ミーチェリア)、フルドライブでいくよ」

 

メイラの言葉に反応するように、メイラと凍雪の双劔から凄まじい魔力の風が吹き上がった。

 

「っ!?」

 

《これは・・・・・・!》

 

「行くからね、後輩くん・・・・・・!」

 

「っ!」

 

「凍れ!」

 

メイラの声と同時に辺りに冷気が漂い、僕を襲って来た。

 

「っく!」

 

咄嗟に後方に飛んで下がる。先程まで僕がいた所は巨大な氷柱があった。

 

「っ!?」

 

「次いくよ」

 

その言葉が聞こえると同時に、僕の周囲を氷の槍が取り囲んでいた。

 

「いつの間に・・・・・・!いや、違う、これは・・・・・・!」

 

僕の自問に答えたのは。

 

《まさか、大気中の水分を瞬間冷却させた!?》

 

僕の中にいるミリアだ。

僕とミリアの答えは同じだった。

世界図絵にはデータ不足だからなのか詳細なデータは無かったが、能力は氷と書かれていた。けど、まさか大気中の水分に干渉するとは思わなかった。

 

「防がないと死ぬよ?」

 

「っ!」

 

言葉と同時に放たれた氷の槍。

躱すこと不可。反撃不可。ならやれることは一つだけ。

 

「っぐぅ!」

 

常時展開してる多重障壁で防ぐしか無い。一応保存(ストック)してある術式の中には防御(プロテクト)反撃(カウンター)のものがあるが、発動するよりも先にメイラの氷の槍が僕を貫くだろう。

回復(ヒール)術式(マクロ)はあるが、この波状攻撃には恐らく回復の方が持たない。

氷の槍を多重障壁で受け止めていると。

 

「っ!?(三層までが破壊された!?)」

 

五重に多重展開している障壁の内、三層までが破壊された。

 

「(ミリア行ける?)」

 

《ええ。問題ないわよ》

 

「(了解)」

 

ミリアに確認して、僕は小さな声で術式を詠唱に入った。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル。疾く来れ、雷精と氷精よ。迸りて煌めけ、白雷の閃光。凍源表土の果てに、素はありたる。永久凍土の氷塊。我が望むは静寂。終わりなき闘争の果てにある勝利の綺羅星。この手に宿りて、我が敵を討滅せよ。───白氷の天雷星(アイテール・アストラムアルブム)!」

 

氷の槍が終わると同時に詠唱が終わり。

 

「っ・・・・・・!?うそ・・・・・・?!」

 

固定(スタグネット)掌握(コンプレクシオー)術式兵装(プロ・アルマティオーネ)───氷霸白雷星(クリュスタリネー・アルビカンステラ)

 

蒼白い輝きを纏って、メイラの前に姿を現した。

驚く表情を浮かべるメイラに。

 

「今度はこっちの番です」

 

と言い、一歩を踏み出す。

 

「がはっ・・・・・・!?」

 

その一歩で僕はメイラの腹部に拳を叩き込んでいた。

なんとか体勢を整えたメイラは左膝を地に着き。

 

「今のはクイックムーブ・・・・・・!?いや、違う。それより速い・・・・・・!しかも氷・・・・・・?!」

 

回復しながら呟いた。

 

「瞬動術を知ってるんだ」

 

「瞬動?ああ、クイックムーブのこと?」

 

「ええ」

 

「まあ、自分もクイックムーブは出来るからね。もっとも、習得に困難したのだけど」

 

目を少しだけ細めてメイラは僕を検分するように観てくる。

 

「なるほど。それがあなたを最強と言わしめる、希少能力(レアスキル)

 

納得したように言い、メイラは双短剣を構える。

 

「本気で相手する」

 

「同じく」

 

メイラの言葉に僕も黒聖と白庭を構える。左脚を前に出し、右脚は一歩半下げて重心を落とす。右手の黒聖と左手の白庭の剣先が交差するように構え。

 

「「───っ!」」

 

同時にその場から消えた。

互いに同時に瞬動したのだ。

 

「はアッ!」

 

「せアッ!」

 

双剣と双短剣を打ち合わせ目に見えない速度で切り結ぶ。

切り結びながら。

 

「クロスファイア───バースト!」

 

「っ!アクセルシューター、バニシングシフト!」

 

高密度の魔力弾を放つ。

 

「凍雪の双劔!」

 

術式解放(エーミッタム)───雷の斧(ディオス・テュコス)!」

 

メイラの放った氷の刃を『雷の斧』で相殺。

 

「術式解放!───雷神の一刀閃(メギンギョルズ)七戟閃(セブンズエッジ)

 

黒聖から雷系統の魔法の斬撃に七閃繰り出す。

 

「くっ・・・・・・!」

 

メイラは七撃の魔法の斬撃を身を翻すようにして避ける。

 

「せっ!」

 

「ふっ!」

 

脚を地面に着けて地上戦を行う。

右から振り下ろされた短剣を左に避け、足祓いをジャンプで躱す。そのまま回転をつけて、左から薙ぎ払いを仕掛ける。

メイラはそれを障壁で受け止める。が、障壁はほんの数秒拮抗して砕け散る。しかし、その間にメイラはバックステップで距離を取り、魔法を放つ。

 

霧散せよ(バニッシュ)!」

 

術式詠唱省略を行い、迫り来る魔法を霧散させる。

そのまま瞬動で近づき。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!来れ雷精(ウェニアント・スピーリトゥス) 風の精(アエリアーレス・フルグリエンテース)!」

 

平行詠唱に入る。

双剣を自在に操りながら詠唱を行う。

 

雷を纏いて(クム・フルグラティオーニ) 吹きすさべ(フレット・テンペスタース)南洋の嵐(アウストリーナ)!」

 

肉薄し掌底を喰らわせ、距離を取り。

 

「─── 雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」

 

放たれた『雷の暴風』は一直線にメイラへと迫る。しかし。

 

「───っ!凍雪の双劔!」

 

突然メイラの目の前に氷山のような氷の壁が現れ、直撃を阻んだ。

 

「なら───!リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!影の地 統ぶる者(ロコース・ウンブラエ・レーグナンス) スカサハの(スカータク)我が手に授けん(イン・マヌム・メアム・デット) 三十の棘もつ(ヤクルム・ダエモニウム) 愛しき槍を(クム・スピーニス・トリーギンタ)!─── 雷の投擲(ヤクラーティオー・フルゴーリス)!」

 

貫通力のある『雷の投擲』を高速詠唱して五秒も経たずに撃つ。

 

「マズいっ・・・・・・!」

 

貫通力の高い『雷の投擲』は氷の壁を貫通した。が、メイラはすぐさま上空に逃げ直撃を避けた。氷の壁を貫通した『雷の投擲』は氷の壁の背後の地面に突き刺さり、拳二個半程の窪みを創り消えた。

 

「お返し・・・・・・っ!」

 

「っ!」

 

メイラは上空から数多の氷の刃を振らせてきた。

 

「───来れ、深淵の闇(アギテー・テネプラエ・アビュシィ)燃え盛る大剣(エンシス・インケンデンス) 闇と影と(エト・インケンディウム)憎悪と破壊(・カリギニス・ウンブラエ)復讐の(イニミー・キティアエ・デーストル)大焔(クティオーニス・ウルティオーニス) 我を焼け、彼を焼け(インケンダント・エト・メー・エト・エウム)其はただ焼き尽くす者(シント・ソールム・インケンデンテース)!─── 奈落の(インケンディウム)業火(ゲヘナエ)!!」

 

対して僕は相性で有利な炎属性の魔法、『奈落の業火』を発動させた。

氷と炎。相反する属性の魔法がぶつかり、水蒸気を発生させる。そこに追撃を仕掛けるように、新たな魔法を繰り出す。

 

「───闇の(ニウィス・テンペス)吹雪(タース・オブスクランス)!」

 

闇と氷属性を持つ『闇の吹雪』を放つ。

漆黒の吹雪は水蒸気を吹き飛ばすように突き進み。

 

「っ!」

 

メイラに直撃しようとしたその瞬間───。

 

 

 

「───ノドゥス・ロス・ディメンション」

 

 

 

「なにっ!?」

 

何処からか声が聞こえ、メイラに当たろうとしていた『闇の吹雪』は突如として現れた裂け目に呑み込まれた。

驚いている僕に。

 

「っ!」

 

真横から迫り来た槍を後ろに宙返りして大きく避けた。

 

「!?天の操槍(ヘブンリィ・スピア)!?まさか───!」

 

槍を見た僕は目を見開いて槍を持つ操者に視線をやる。

 

「やれやれ。まさかここであなたに会うとは・・・・・・。あなたとの遭遇率が高くありません?」

 

「クルト・ファレウム!」

 

そこに居たのは呆れたような驚いたような表情を浮かべ、槍を地面に着くクルト・ファレウムの姿があった。

 

「そっちこそ。それで?今回もまさかこの星に遊びに来たなんて言うつもりじゃないでしょうね?」

 

「あははは。いえ、今回は違いますよ」

 

「なら何しに来たの」

 

「彼女の迎えです」

 

「何?」

 

「クルト・ファレウム・・・・・・」

 

「大丈夫ですメイラ?」

 

「ええ。大丈夫。助かった、ありがとう」

 

「礼には及びません。さて、わたしは彼の相手をします。あなたは先に帰還を」

 

「・・・・・・わかった」

 

「不服ですか?」

 

「少しね」

 

「けど、あなたの目的はあの老害共でしょう?こんな所で挫けてる場合は・・・・・・」

 

「わかってるわよ」

 

転移魔法を発動しようとしているメイラに。

 

「させるか!はああああっ!!」

 

魔力ブーストさせた片手剣ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》を放つ。

深紅のエフェクトを輝かせて深紅の槍は一直線に突き進む。

 

「そうはいきません。───ノドゥス・ロス・ディメンション」

 

しかし深紅の槍は突如現れた裂け目に吸い込まれ、メイラに当たらなかった。

その隙にメイラは転移魔法を発動させてこの星から居なくなった。

 

「(ちっ。二本回収しそこねた!)」

 

居なくなったメイラを見つつ僕は舌打ちを打った。

メイラが保管庫から持ち出したと思われるノロは八本あったが、そのうちの六本は戦闘の最中に掠めとって、自分の異空間収納に保管していた。

 

「メイラは帰還しましたか。では───」

 

「っ!」

 

一瞬の内に肉薄したクルトの槍術を黒聖と白庭で受け止めて距離を取る。

 

「久しぶりにお手合わせ願いましょうか、天ノ宮特務官!」

 

「望むところだ!クルト・ファレウム!」

 

互いに魔力を吹き上がらせて、僕とクルト・ファレウムは二度目の闘いを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 



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相反する者

 

〜零夜side〜

 

「はあアッ!」

 

「おおぉっ!」

 

既に戦闘が始まって五分も経ってない。

にも関わらず、周囲には僕らの戦いの余波が造られていた。

 

「ふっ!」

 

「せあっ!」

 

双剣と槍がぶつかり衝撃波が起こる。

身体にかかる衝撃を上手く体勢を整えて緩和し、

 

「くらいなさい!」

 

「───雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!」

 

竜巻と暴風をぶつける。

 

「蒼雷!」

 

「っ!」

 

さらに上空から蒼い雷を落とすがそれは避けられる。

 

「なら!───冥府の支柱!」

 

下。地面から細長い支柱を飛び出させ、上空に押しやる。

 

「なっ・・・・・・!」

 

驚愕の表情を浮かべるクルト。

そこに。

 

「咲き誇れ!───氷華の牢獄(ウニヴェルソ・カルチェーレ)!!」

 

大気中の魔力残滓に干渉し、空間範囲捕縛魔法を放つ。

 

「これは───!」

 

周囲に目を見開くクルト。クルトはそのまま逃げるように空を駆ける。

 

「逃がさない!───咲け(ブルーム)!」

 

最後の一言により、一気に花々が満開のように咲き誇る。

牢獄のように花どうしで結合し閉じていく。

本来ならこれで終わり(チェクメイト)なんだけど。

 

「───さすがですね、天ノ宮君」

 

「そっちこそ」

 

空に上がった僕の目の前に空間の裂け目が現れそこから息も絶え絶えのクルトが出てきた。

まさかそんなやり方で氷華の牢獄から逃げるとは思わなかった。

 

「では今度はこちらから」

 

「っ!」

 

空間の裂け目から絶え間なく刃のような風や魔法を放つクルト。

僕はその全てを五感だけでなく、第六感まで全てをフル活用して避ける。

 

「では全方位からは」

 

「なにっ!?」

 

僕を取り囲むように全方位囲む空間の裂け目に翔ぶのを止める。

 

「(ヤバい・・・・・・!)」

 

そう思うのと同時に。

 

「ノドゥス・インドゥエレ!」

 

空間の裂け目から漆黒の槍が矢のように次々と飛び出してきた。

 

「くっ!」

 

黒聖と白庭で迫り来る漆黒の槍を斬り破壊していくが数が多い。

いくら自身の周り、半径1メートルは自分の絶対領域とはいえこのままでは押し切られる。

 

時空の揺籃(クロノ・プレジディム)逆刻の反戟(リフレクトタイム)!」

 

時空間魔法の反撃(カウンター)で迫り来る漆黒の槍を跳ね返す。

 

「ほう・・・・・・!」

 

淡々と驚きの声を漏らすクルト。恐らくこれを防がれたのは初めてなのだろう。まあ、確かにこの全方位からの多重魔法攻撃は並大抵の魔導師では回避、防御不可だ。

可能性があるとすれば、空間転移か結界による防御とかだろう。ま、それを踏まえてもこれはかなり高難易度の魔法だ。

けど、

 

「やられっぱなしは・・・・・・!」

 

《私たちの性にあわないわ!》

 

僕とミリアはこのままやられっぱなしというのは好きじゃない!

 

「《くらえ(いなさい)!───流精群(ミーティア・スピリット・レイン)!!》」

 

ミリアと同時に放つ宇宙からの槍。流星群為らぬ、流精群。精霊魔法とムンドゥス・マギクス式を合わせた魔法。

威力は上級クラスを超える。

 

「りゅ、流星・・・・・・!?」

 

「受けてみなさい、宇宙からの槍を!」

 

右手を上げてて言い、勢いよく右手を振り下ろす。

 

「な・・・・・・!」

 

振り下ろされると、流精群はさらに数を増し、重力に引かれるように堕ちてきた。

 

「この数を捌ききれるかな?!」

 

「ぬぅ・・・・・・!」

 

「術式解放!千刃黒曜剣!」

 

流精群を捌くクルトに周囲に展開した黒曜石の刃と共に接近する。

 

「小癪な・・・・・・!」

 

宇宙からの流精に、僕の攻撃。さすがのクルトもこれには顔を顰める。

 

「行けっ!」

 

僕の声とともに黒曜石の刃が空を翔び、自由自在に駆ける。

 

「ノドゥス・インドゥエレ!」

 

その刃をクルトは漆黒の槍で迎撃する。

 

「僕が居て余所見するとはね!」

 

「なにっ!?」

 

流精群と共に接近した僕はクルトに黒聖と白庭による斬撃。二刀流ソードスキル《インフェルノ・レイド》を放つ。

 

「ぐはっ!」

 

「まだだ!」

 

《インフェルノ・レイド》九連撃をたたきこむや、次の攻撃に入る。

 

「《疾く在れ・吹き荒れ・穿ちてよ》!!」

 

疾風と暴風。そして閃光のような魔法を即席呪文で発動させる。

 

「ぐおっ・・・・・・!」

 

クルトはその三種の魔法と流精を受け、地面に叩き付けられる。

 

「術式解放!精霊の霊槍(スピリット・ランス)!」

 

追い討ちを掛けるように、幾多ものの《精霊の槍霊》を展開。

 

「装填!」

 

右の黒聖に《精霊の霊槍》を装填し、魔力を一気に爆発させクルトに突っ込む。そのまま地面にいるクルトに当たろうとしたその瞬間。

 

「っ!?」

 

突然クルトの前に巨大な光の柱が現れ、地を震わすほどの衝撃を与えた。

 

「この魔法は・・・・・・!」

 

突然のことに急停止して大きく後ろに飛びずり目を見開く僕。

 

《な、なに。この魔法の威力!こんなの常人に出せるレベルじゃないわよ・・・・・・!》

 

僕の中にいるミリアも驚いている。

その僕たちの目の前に。

 

『──────』

 

一人の人間が降り立った。

いや、人間かどうかも分からない。何故なら、何かの魔法を行使しているのか、その輪郭が分からないのだ。性別も容姿体型すらも不明だ。

その何かはゆっくりとクルトの方に降りて行き。

 

『苦戦してるね』

 

ノイズ混じりの声を発した。

その言葉にクルトは。

 

「申し訳ありません」

 

その場に膝を着いて頭を伏していた。

 

『原因はあれ?』

 

「っ・・・・・・!??!」

 

視線を向けられたのだろう。その何かに見られた僕は一瞬心臓を握られたような錯覚を感じた。

 

「左様です」

 

『キミが苦戦するなんて久しぶりじゃない?』

 

「はい。申し訳ありません」

 

『ふふ。別に怒ってないよ。驚いてるのさ。キミにそこまでの手傷を追わせるなんてね』

 

「はい」

 

『それで、あれは一体何者?』

 

「はい。時空管理局の魔導師。以前報告した際に話しました、《星戦の魔王(メイガス・オブ・ロスティライズ)》です」

 

『へぇ。あの子が・・・・・・』

 

「はい。御身と同じく『王』の名を保持する者です」

 

『そう・・・・・・。ついに来たんだ。ボクと同じ者が』

 

「ええ」

 

『長かったねー。あの日から・・・・・・』

 

「ええ。長い年月でした・・・・・・」

 

彼らの言っていることが理解出来ない。

僕はゆっくりと空から地面に降り立ち警戒心をMAXにして様子を見る。

 

「(今動いたら殺られる・・・・・・!何なのあれ・・・・・・本当に人間・・・・・・?有り得ないとしか言えない・・・・・・!)」

 

僕の頭の中で危険信号が桁増しく鳴っているのだ。

 

『それじゃあ帰ろうか』

 

「宜しいのですか?」

 

『うん。目的の物はメイラが持って帰ってきたしね。それにデータは取れたから』

 

「御意」

 

恭しく頭を下げるクルト。そのままクルトは転移魔法陣を構築しだした。

 

「ま、まてっ!」

 

『ああ。動かない方がいいよ』

 

「っ!」

 

『今のキミじゃ、ボクには勝てない』

 

「───!」

 

『それに、キミはボクたちが長年待っていた人物だ。今ここで摘むのは惜しい』

 

「ど、どういう意味?!」

 

『ボクとキミはいずれ戦う。それは決して逃れられない運命だ。ボクは、ボクの目的の為。そしてキミは、自分の目的の為』

 

「何を言って・・・・・・」

 

『待ってるよ。キミがキミ自身のチカラを完全に扱え、全てを超越してボクの所に来るのを!』

 

僕と何かが話している間も、クルトの発動させた転移魔法陣は光を増していく。

 

『さぁ!始めよう!これからの、ボクたちとキミたちの聖戦を!!ボクは研究会の序列0、(デュークス)

 

「なっ!?」

 

『ボクたちは必ず悲願を達成させる・・・・・・!その邪魔をするなら───!』

 

そう言うとその何かはクルトとともに消え去って行った。

後には戦闘の余波と、今ここで戦闘があったとは思えないほどの静寂が漂った。

 

「あれが研究会のトップ、『神』の地位・・・・・・」

 

彼らが立ち去った今でも僕はその場を動けずに居た。全身を鳥肌が立ち、背筋に冷たい汗が流れる。

 

「一体研究会は何をしようとしてるんだ・・・・・・」

 

呟きは風に流されるように消え、僕の問いに答えるものは誰一人と居なかった。

 

「兎に角今はここの後始末をしないと・・・・・・」

 

術式兵装を解いて言うと。

 

『『『───』』』

 

「えぇぇ・・・・・・」

 

僕の周囲にいきなり荒魂が数体現れた。

サイズは中型から小型。

 

《疲れてるところに現れるって・・・・・・》

 

ミリアの意見にはもっともである。

 

「はぁ」

 

僕は溜め息を吐き。

 

「《邪魔(・・)》」

 

と一言言った。

すると、現れた荒魂はすべてその存在が抉られたように消え、この空間から消えていった。

その光景を一別し。

 

「フラクシナス。こちら天ノ宮零夜。フラクシナス、応答願います」

 

上空に居るであろうフラクシナスに連絡をとったのだった。

そしてその背後に。

 

「───もう終わった、って感じかな?」

 

空間を広げて、右手に大きな錫杖の鍵を持った夜月が現れた。

 

〜零夜side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜なのはside〜

 

「───そう。わかったわ。そっちの『私』たちはそのまま各地に散開して研究会の残存を確保、無力化して。で、そっちの『私』たちは、ロストロギアの捜索。て、残りの『私』たちははやてちゃん達の所にいる私と合流して、合流しだい全員帰還よ」

 

『『『『『了解!』』』』』

 

今私の目の前には、夜月ちゃんが複数人いる。

みんな、過去の夜月ちゃんらしいけど。なんていうか───

 

「こうして見ると、夜月もバケモノレベルよね」

 

「いえ、バケモノ、というのを遥かに超えていると思いますが」

 

アリサちゃんと皐月さんが声に出して言う。

 

「アハっ!今度夜月ちゃんとも戦ってみたいな」

 

「おお!?すげぇな。夜月の強さは零夜に匹敵するレベルだっつのに」

 

さらに結芽ちゃんとソラさんが言う。

 

「はぁ。結芽、夜見。もう少し緊張感を持て。今の状況は今までの荒魂討伐の比ではないのだぞ」

 

「はぁーい」

 

「わかってます」

 

うーん。さすが獅童さん。威厳があるなぁ。

結芽ちゃんと皐月さんに忠告する獅童さんに私はそう思った。

 

「ねぇ、夜月ちゃん」

 

「なに、なのはちゃん?」

 

「零夜くんたちは大丈夫なのかな」

 

私は未だに連絡が取れない零夜くんの事を尋ねた。

その言葉にアリサちゃんたちもこっちを見てきた。

 

「私の分身からだと、接触は成功したけど向こうも色々面倒なことが起こってるみたいだからね・・・・・・まあ、大丈夫だと思うよ」

 

「思うよ、って」

 

「だって、あのレイくんだよ?そう簡単に殺られるなんてありえないよ」

 

夜月ちゃんの言葉に私たちは確かにと感じた。

私の初めて出来た友達にして幼なじみ、そして魔法の師である零夜くんのチカラは今の私たちより遥かに上だ。現に、何時もトレーニングの最後にやる模擬戦では私たちが束になっても、零夜くんを倒せない。二年前からランクSSSの零夜くん。そこからさらに修練して、もうランクはEXと、未定な領域。憧れでもあり、情景。羨ましい面もあり。と、様々な感情が入り乱れる。

ああ。私にもっとチカラがあれば、って。

出来ることなら、私は零夜くんに守られるだけじゃなくて、守ってあげたい。もしくは、対等に。傍で並んでいたい。

そういつも感情が溢れる。それは私だけじゃなくて、フェイトちゃんやはやてちゃん。アリサちゃんにすずかちゃん、アリシアちゃん。私たち全員が思っていることだ。

 

「あのぉ、ちょっと聞いてもいいかな?」

 

「ん?なに衛藤さん」

 

「どうして零夜くんがそう簡単に殺られるわけないって思うの?」

 

突然の可奈美さんの質問に私たちは動きを止めた。

 

「確かに・・・・・・彼は結芽に勝ち、現刀使の中で最強と言われる衛藤と引き分けた。だが、彼はまだ11歳なのだろう?」

 

当然と言えば当然な質問が獅童さんからも来た。

事情を知らない人からしたら、零夜くんの魔法や剣技のレベルや戦闘技術は異様だ。魔法は得一級。ミッド式にベルカ式も使え、ムンドゥス・マギクス式は基本魔法。更に精霊魔法や時空間魔法などというものも編み出している。これだけ見ると、零夜くんは五種類の魔法を使っている事になる。さらに剣技もシグナムさんに引けを取らない。シグナムさん曰く、『二年前の当初は互角だったが、今零夜と純粋な剣での勝負となったら恐らく私は負けるだろう。それは魔法も加えたら尚更だ。あいつの剣技は既に私たちの届かない極地にまで到達しているのかもしれないな』と言っていた。

確かに、零夜くんの師匠とも言える人があの女神さん達だから仕方ないけど。

それは別にしても、零夜くんの能力のスペックは未だに底が見えない。

 

「あなた達の疑問や不安はもっとも。だけど、彼は・・・・・・レイくんはそんじょそこらの人に比べたら遥かに高い位置にいる。それに、レイくんが本気で殲滅しようとしたなら、最初からそれを使って、跡形も残らずにこの世界から消し去ってるからね」

 

夜月ちゃんの言葉に刀使組はみんな息を飲んでいた。

その瞬間。

 

 

ドンっ!!

 

 

「「「「「「っ!!?」」」」」」

 

何かが落ちたような、地鳴りと衝撃音が襲ってきた。

 

「おいおい!なんだよあの光の柱は!」

 

ソラさんの指さす先には、衝撃音が聞こえて方角だった。そしてそこには巨大な光の柱が。まるで聖域を護る守護結界のような純白の光の柱がそこに顕現していた。

 

「なんだ・・・・・・あれは・・・・・・」

 

「位置的に鎌府女学院の方ですね」

 

「ちょっと・・・・・・!あそこって今零夜が戦闘してる場所じゃ・・・・・・!」

 

「───封解主(ミカエル)(ラータイプ)!」

 

驚いている私らを他所に夜月ちゃんは再び、右手に錫杖の鍵を顕現させ、その先を何も無い空間へと突き刺し、鍵を回すように右に回した。

するとそこから。

 

「───なんや、一体」

 

「あの光の柱は一体なんなの」

 

「はやてちゃん!すずかちゃん!」

 

はやてちゃんとすずかちゃんたちが出てきた。

 

「お疲れ様『私』」

 

「いえいえ。それじゃあ私はこの辺で」

 

夜月ちゃんは年の割には落ち着いていて、さらに同じ行動を2回取った。

そしてその2回で私たちは全員揃った。というか、あれって空間転移じゃなくて、空間と空間を繋げてるんじゃ・・・・・・。私はそう思うのと同時に、タラりと冷や汗が背中を流れた。零夜くんもだけど、夜月ちゃんも恐ろしいよね。

 

「みんな揃ったわね。今からレイくんのいる所に空間を繋げるから着いてきて」

 

そんな夜月ちゃんの言葉に驚く私たち。

そんな私たちを他所に夜月ちゃんは再び手に持つ錫杖の鍵を目の前の何も無い空間に突き刺して。

 

「───開」

 

と言った。

そのまま夜月ちゃんは自分で開けた空間に入り、私たちもあとに続く。すると一瞬で、私たちはこの世界の刀使の人たちの学校の一つである鎌府女学院へと来ていた。そして、すぐ近くには両手に黒と白の長剣を携えた零夜くんがいた。周囲は戦闘の余波らしきものでボロボロだけど。それは零夜くんもで、展開しているバリアジャケットはあちこちが切り裂かれ、ジャケットのコートの裾には霜や氷などが付着していた。

そんな状態に驚いている中、夜月ちゃんはいつも通りに零夜くんに、話しかけていたのだった。

 

 



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一時の休息・・・・・・

 

〜零夜side〜

 

「────やっぱり、耐久値が落ちてる」

 

研究会との戦闘。そして研究会の指導者である『神』の地位を持つ何かと対峙した夜、僕はフラクシナスのメンテナンスルームに一人いた。目の前には純白と漆黒の二振りの剣が置かれている。

 

「やっぱ、ロストロギア級の武具と斬りあったから・・・・・・。それと僕の術式兵装に耐えられなかった・・・・・・からかな」

 

目の前のホロウィンドウには双剣のデータが表示されている。

そのデータのひとつに、双剣の耐久値が記されていた。耐久値はフルから半分以下にまで下がっていた。この双剣にはある特殊能力がある。それが、自動回復(オートリペア)だ。鞘に納めている間、少しずつだが剣の耐久値が回復していくのだ。まあ、他にもあるのだが・・・・・・。

 

「一日鞘に収めておけば大丈夫かな。家に帰ったらまた調整しないとだけど」

 

双剣を鞘に納めデータを仕舞う。

ここで調整やらすれば、それはログに残り他者に知られる可能性がある。もちろん、このフラクシナスは管理局の戦艦で最高クラスのセキュリティ一を誇る。だが、可能性が0ではない。

 

「しかし、今回の任務は完全に僕の油断が原因だ。帰ったら始末書やお小言かな。まあ、それは甘んじて受け入れるしかないね」

 

立ち上がり、ルームのシステムをダウンさせ、室内の照明を消しルームを出る。

 

「聖戦・・・・・・魔法大戦が始まろうとしてるのか・・・・・・?・・・・・・・やはり、あの魔法・・・・・・。───。あれを使うしかないのか・・・・・・。だが、アレは・・・・・・」

 

そんな言葉を残して僕はルームから立ち去った。

とてつもない、嫌な。不安が過ぎる嫌な予感を感じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

「───ふっ!」

 

「なにっ!?」

 

「そこまで!勝負あり!勝者、天ノ宮!」

 

審判の判定声に僕は片手剣。黒聖を軽く振って腰に挿した鞘に収める。

 

「まさかこのボクまでやられるなんてね。さすがだ」

 

同じく自身の御刀を鞘に収める獅童さんが呆気に取られたように言う。

 

「いえ、僕の方こそ負けるかと思いましたよ」

 

獅童さんと向き合って僕はそう返す。

実際、今の模擬戦は紙一重の勝利だ。何せ、獅童さん、全く隙が無いのだ。

 

「まさか真希さんまで敗れてしまうとは思いませんでしたわ」

 

「寿々花」

 

「まあ、私も負けてしまいましたし」

 

「仕方ないさ。彼は結芽や衛藤に匹敵するんだから」

 

「あははは・・・・・・お二人も十分強いですよ」

 

嘘偽りの無い、本音の本心を言葉にする。正直、瞬動や虚空瞬動が使えなかったら負けてた。瞬動と虚空瞬動は一番最初に知智お姉ちゃんから教わった。これが出来るか出来ないかとでは戦術の幅に大きく違いが出る。実際、昨日の戦闘や今の模擬戦も然り。

まあ、この世界にも瞬動術はあるみたいだけど。多分だけど、士郎さんや恭也さんは瞬動が出来るんじゃないかな?ということはその家族であるなのはも出来る可能性が高いという訳であり・・・・・・・。

そんなとんだ超人一家に心の中で苦笑していると壁際から。

 

「はぁ。のんびりしてるわね〜あんたは」

 

「あはは。まぁまぁアリサちゃん。さっき任務も完了したんだし、いいじゃない」

 

呆れた表情をしているアリサとそれを宥めてながら微笑むすずかの声が聞こえてきた。

 

「暇なら次、アリサ・・・・・・・やる?」

 

首を傾げながら訊ねると。

 

「やらないわよ!」

 

と、コンマの隙に言ってきた。

 

「あんたとやったら疲れるじゃない」

 

「そういう問題じゃないような・・・・・・」

 

アリサの言葉に苦笑するすずか。

 

「じゃあ、すずかやる?」

 

「私?いいよ。丁度新しい魔法を使ってみたかったんだ」

 

「おい」

 

すずかの言葉に半眼でつっこむ。すずかって偶にトンデモ発言するんだよね。

 

「うーん。じゃあ・・・・・・ここの方がいいね」

 

そう言って僕は自分の固有空間から一つの巨大なガラス球を取り出した。

 

「え!?て、ちょっ!?零夜、なんでこんな所にダイオラマ球出してるのよ!?」

 

慌てふためくアリサ。

 

「えー、だって、魔法戦闘するならこっちの方が安全でしょ?それにこれ一時間が中では一日だから休みも取れるし」

 

「そういう問題じゃないわよ!?なにサラッと機密級の魔導具を出してくれちゃってるのよ!」

 

「いや、別にこれそこまで機密って訳じゃないよ?一応僕のアーティファクトシリーズの一つだし」

 

「それはそうだけど・・・・・・・」

 

「アリサちゃん、零夜くんの事は今に始まった事じゃないから諦めよう?」

 

「すずかさん?何を言ってるのでしょうか?」

 

すずかの言葉に僕は少しだけ戸惑いつつ尋ねる。

 

「まあ、どの道、僕達は最低でも後五日はこの世界に居ないと行けないんだからさ」

 

「はぁ。それもそうね」

 

そう。僕達はこの世界から今現在帰れない状況なのだ。

管理局本局へと通じる次元路に次元渦という磁気嵐のような物が発生しているためこの世界から帰れずにいるという訳だ。しかもその次元渦の規模がデカいらしく、最低でも後五日はこの世界に留まっていないとならないのだ。そんな訳で、僕達魔導師組は今もこうしてこの世界の人達と色々やっているのだ。あ、ちなみに今フラクシナスには凛華たちがいる。クライドさんは今この世界の鎌倉辺りを散策していると思う。まあ、最近はずっとクライドさんにフラクシナスでの留守を任せて居たからね。

 

「じゃあ、全員連れていくか」

 

「はい?」

 

「ぜ、全員?」

 

「ええ。せっかくなので、紫や朱音さんたちも連れて行きましょう!」

 

僕がそう言うと。

 

「「「「「はいぃぃぃぃぃぃぃっ!!??」」」」」

 

学園全体に響き渡るのではないかと思うほどの声がアリサたちから飛び出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後

 

 

『『『『『・・・・・・・・・・・・・』』』』』

 

「ようこそ!僕たちのダイオラマ球の別荘へ!」

 

僕はとある一室に設置されたダイオラマ球の中へとみんなを招待していた。

なのはたちは来たことあるから大丈夫だけど、刀使組勢は殆どの人がポカーンとしていた。

 

「この中の一日は外ではたった一時間足らずなので、ゆっくりしてください。あ、必要なものはあらかた全て揃ってますので」

 

それじゃ!とでも言うふうに手を挙げて爽やか?に立ち去ろうと(すずかとの模擬戦)した所に。

 

「「「「「ちょっとまてぇぇぇい!」」」」」

 

獅童さんや十条さんたちといった人たちに鋭いツッコミが来た。

 

「もうなんでもありか!?ありなのか!?」

 

「もう少し説明をしてくれ!」

 

「零夜!いくら何でもいい加減自重を覚えて!音撃(ゴスペル)するわよ!?」

 

「いやいや、アリサちゃん音撃使えないでしょ・・・・・・」

 

「それに、その魔法、レイくんの振動反響魔法だし」

 

アリサの言葉にすずかと夜月が返す。

振動反響魔法───音撃(ゴスペル)。空気の振動波。つまり、音を相手に直撃させる魔法。音のため見えないし距離も無いに等しく無視。さらに長い詠唱無く、一言言えば発動する超短文詠唱魔法でもある。

【音撃】は僕が以前から工夫網作していた魔法だ。属性は風と光の二属性を有しあらゆる場所において発動可能と万能魔法でもある。そして、空間魔法でもある。

と言っても、【音撃】が出来るようになったのは今日なんだけど。もし昨日の戦いで【音撃】が使えたら戦況はさらに変わっていただろう。

魔法には必ず一つは属性がある。基本的な四元素の風、水、火、地。さらに氷と雷、光と闇の計八属性。またそこに貫通や物理、斬撃などの属性を含めたりもするが。その辺はまた今度。

魔法の八属性を僕は今まで使用してきた。というのも、ムンドゥス・マギクス式は必ず属性が一つはある。【魔法の射手】は基本一属性で、中級より上の【雷の暴風】は風と雷。【闇の吹雪】は氷と闇。【奈落の業火】は闇と火。【氷瀑】は風と氷。

属性には派生があるがそれについてもまた今度話すとして。

僕にはそれとは別に本来なら有り得ない二属性がある。いや、夜月たちも持ってはいるけど、あと一つは誰も持ってない。それは僕だけの属性───。僕だけの能力。何人足りとも使うことの出来ない、唯一無二の属性。

とまあ、それは置いといて。

 

「アリサ、これでもかなり自重してるよ?」

 

「何処が?!」

 

「いやー、確かに零夜、自重は微妙にだけどしてるよね。偶にその枷がなくなるけど」

 

「せやなぁ。星戦級魔法や新魔法をポンポン創るし。武器もとんでもないもん出すからなぁ」

 

「あ、あはは。まあ、零夜くんって、昔からちょっと思考が離れたところに居たから」

 

なのはたちの言葉に僕はグサッグサッと何かが身体中に突き刺さるような感じを覚えた。

でも反論出来ない。

そこに。

 

「え、えーっと、その。あ、あまりお兄ちゃんをイジメないで!」

 

聖良が涙目でなのはたちにそう言った。

 

『『『『『うグッ・・・・・・』』』』』

 

その仕草に僕だけならぬ、その場にいたほぼ全員が胸を抑えた。

ちなみに星夜たちは聖良のその姿をいつの間にか構えたカメラでバッチリ撮っていたりする。ナイスッ!

 

「取り敢えず、天ノ宮さんのご好意に甘えるとしましょう。それで良いですよね、お姉様」

 

パンっ!と手を叩いて朱音さんがいい。

 

「ああ。久方振りの休日だ。各自、今はのんびりし、身体を休めろ」

 

紫が威厳を持って答えた。

うん。さすが、元とはいえ刀剣類管理局の最高責任者。

 

「さてと。それじゃあすずか・・・・・・戦おう(やろう)

 

「うん」

 

「・・・・・・まって零夜。その戦い、あたしも参加するわ」

 

「アリサちゃん?」

 

「え、アリサもやるの?」

 

「いいでしょ。あたしもすずかとの連携をさらに上げたいし」

 

「わかった。それじゃあやろう」

 

「うん!」

 

「ええ!」

 

「「「僕(私)(あたし)たちの戦争(模擬戦)を!!」」」

 

言い終えると同時に僕たちはバリアジャケットを展開し空に上がる。

可奈美や結芽は混ざりたそうな顔していたけど、それぞれ柳瀬さんや獅童さんに窘められていた。

観客席には夜月たちが障壁を張っていて、僕達の攻撃は通らないようにしてくれてる。

それぞれ武装を構え。

 

「それじゃあ行くわよ零夜!」

 

「何時でもどうぞ」

 

「はあああっ!!」

 

僕たちは模擬戦を始めた。

アリサの近接戦とすずかのサポート及び遠距離攻撃はとても息がいい。属性が炎と氷と相反するというのも理由だろう。

先制として来たアリサの魔法弾を使えるようになった【音撃】で相殺。アリサのデバイスの刀を構えている黒聖と白庭で受ける。お返しにこちらも魔法の射手の連弾を放つ。

 

「ちょっと!数多過ぎない!?」

 

「そんなことないよ〜」

 

「れ、零夜っ!後で覚えておきなさいよー!」

 

「聞こえないぁーい」

 

「あははは・・・・・・」

 

僕とアリサの言動にすずかは後ろから苦笑していた。

 

「もう!零夜!大人しくサンドバッグになりなさい!」

 

「サンドバッグ!?今サンドバッグって言ったよねアリサ!?」

 

「とりゃああぁ!!」

 

「アリサさぁんっ!?」

 

アリサの猛烈な攻撃に僕はツッコミを入れながら返す。

その光景に下の観客席では。

 

『『『『『・・・・・・・・・・』』』』』

 

みなさん唖然と。呆然として眺めていた。

うん。そうじゃなくて。

 

「毎回毎回!ここであたしの今までの鬱憤を晴らさせてもらうわよ大バカ零夜!!」

 

「ちょっ!す、ストップアリサ!」

 

「誰が止めるかぁ!───連槍・炎の243槍!!」

 

「っ!?ご、音撃(ゴスペル)音撃(ゴスペル)音撃(ゴスペル)音撃(ゴスペル)!!」

 

「まあぁぁだぁぁ!!」

 

「っ!?!?水雹の衣(アクアベール)!!」

 

もはや手のつけようのないアリサの(魔法)に僕は自分を覆うように水の膜を構築した。

 

「すずか、耳を塞いで!」

 

「えっ!?」

 

「───響き渡れ(ハウリング)!」

 

【音撃】の派生魔法、振動反響魔法【音撃(ゴスペル)】─【響き渡れ(ハウリング)】。貯蓄した音の振動余波に干渉して、より高い音を響き出させる派生魔法だ。使用にはある程度の魔力の音余波が無ければならなく、使えば使うほど、発動言(スペル)を言った時の威力が高くなる。

ちなみに【音撃】は汎用性が高く万能魔法であるため、【響き渡れ】の他にも幾つかの起動ワード(スペルキー)があったりする。

とまあ、それは置いといて。スペルを言うと、アリサの周囲に音の爆発が発生する。それは音と風の衝撃波の嵐をつくり、それらがアリサへと襲う。

 

「ふにゃっ!?」

 

アリサにしては珍しい変な声を上げ、アリサは落ちていく。

ていうか───。

 

「あ、やば・・・っ!やりすぎた!」

 

落ちてるアリサ、気絶してるし!!

多分音の暴力で三感器官にダメージがあるらしい。あー、うん。この魔法は模擬戦では使わないようにしよう。うん。アリサには後で謝らないと。うん。

落ちていったアリサを抱き抱え、なのは達のいる場所に転送する。

 

「え、えっと、アリサちゃん大丈夫なの・・・・・・?」

 

「あ、うん。感覚が混乱してるだけだと思うから」

 

すずかの問いに僕は苦笑気味に返す。

 

「とりあえずあれは模擬戦では使わないようにするよ、うん」

 

「だ、だね〜」

 

なんとも言えない中、模擬戦は続行し、タイムアップですずかとは引き分けに終わった。

うん。すずかさんや、いつの間にそんなに高等魔法や高等技術を獲たんですかい・・・・・・。

すずかの連続詠唱や略式詠唱などなど、かなりの高等技術に驚きながら僕はいた。

もしかしたらとんでもない魔導士が出来ちゃったかも・・・・・・。

そんな冷や汗脱ぐる不安というかなんというか、そんな気持ちを持って僕はすずかとともになのは達のいる場所に向かったのだった。

結論!今日も変わらず、ツッコミのある日であった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃

 

 

 

「───久しぶりです姉様」

 

「お邪魔しているよ天照」

 

「────ええ、ツクヨミ。ミカエルも久しぶりね」

 

零夜たちの故郷の地球の天ノ宮家に一人の女神と一人の天使が降りたっていた。

 

「それで。わざわざここに来るってことは・・・・・・何かあったの?」

 

「ああ。かなり面倒なことが・・・・・・な」

 

「姉様。もしかしたらなんですが、ここ十年も経たないうちに、アレが目覚めるかもしれません」

 

「アレ?・・・・・・・まさか!」

 

「ああ。天照、君の予想している通りだ」

 

「まさか、本当に・・・・・・!」

 

「ええ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────厄災(カタストロフ)が目覚めようとしてます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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新タナル二振り

 

〜零夜side〜

 

 

この世界に来て数日が経ち、目的のロストロギアを確保し帰還したいのだが、現在帰還は不可能(転移による帰還は可能)というわけで、帰還までの間僕たちは彼女たち刀使のお手伝いをすることにした。あ、ちなみに捕獲した研究会の連中はまとめて本局の警備部に転送して引渡してある。

そして───。

 

「───すずか、氷で荒魂の動きを止めろ!」

 

「了解!!」

 

「なのは、魔力のチャージ!はやてはすずかと共に石化で動きを止めろ!」

 

「「了解!!」」

 

「零夜くん、五時方向と八時方向から荒魂の増援!」

 

「了解。可奈美!」

 

「うん!」

 

僕たちは荒魂が突如大量発生した場所で戦闘をしていた。

 

「左!糸見さん!柳瀬さん!」

 

「はいっ!」

 

「まかせて!」

 

「っ!天ノ宮、後ろだ!」

 

「───終焉分解(ロストディスブレイク)!!」

 

「────」

 

背後から来る荒魂をその存在を崩壊(・・)させる。

 

「その程度で後ろを取ったと思うなら甘いね。可奈美や、結芽の方が強いよ」

 

それと同時にその後ろにいたもう一体の荒魂を断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)を展開した手刀で断つ。

 

「合わせろ結芽!行くぞ!ハアあぁぁぁぁっ!」

 

「オッケ〜零夜くん!」

 

瞬動を行使し、結芽とともに残りの荒魂を片付ける。

結芽とのこういう戦闘はやりやすい。僕も結芽もスピード特化というのもあるけどね。まあ、僕は攻撃、速度、防御も高いんだけど。いうなら万能型だね。

ま、それは置いといて。

 

「零夜くん、チャージ完了だよ!」

 

「了解!全員その場から離脱!」

 

なのはの声に僕ははやてたちに指示を出し、その場から離れたはやてたちを見て。

 

「凍てつけ!!───氷華!」

 

荒魂を全て凍り付かせる。

 

「撃てなのは!」

 

「うん!・・・・・・いくよ!───ソウルブレイカーッ!」

 

なのはの放った純粋魔力砲撃。荒魂に効果のある、特攻魔砲ソウルブレイカー。なのはのソウルブレイカーは荒魂たちを飲み込み。

 

「───荒魂の討滅を確認」

 

「了解。周囲に荒魂の反応は無し。任務完了です」

 

索敵をし、周囲に反応が無いのを確認してみんなに報告する。

 

「こちら天ノ宮。荒魂の討滅を完了しました。被害はゼロ。ノロの回収班をお願いします」

 

『こちら司令部。了解しました。天ノ宮さんたち、御協力ありがとうございます』

 

通信を終え、僕らは回収班が来るのを待つ。

ちなみにここに居るのは僕を含め、なのは、はやて、すずかの魔導師四人と、可奈美、結芽、十条さん、柳瀬さん、糸見さんの刀使五人、計九人だ。夜月たちは別の場所で獅童さんたちとともに分かれて荒魂の対処をしている。

 

「夜月、そっちは終わった?」

 

『終わったよ〜。獅童さんの指揮のお陰で早く終わっちゃたよ。あ、七之里さんまだ物足りなさそうにしてる・・・・・・』

 

どうやら向こうの方はかなり曲者揃いらしい。

いや、それはこっちもかぁ〜。

視線をそぉーっと動かすと。

 

「・・・・・・舞衣、クッキーある?」

 

「あるよ沙耶香ちゃん。戻ったら持ってくるね」

 

「・・・・・・うん!」

 

「ねぇねぇ結芽ちゃん。戻ったら手合わせしてくれないかな」

 

「いいよぉ〜!私も千鳥のお姉さんとやりたかったんだ!」

 

「私たちも帰ったらお茶にしよっか」

 

「賛成!」

 

「ウチもや。丁度なのはちゃんのトコのケーキがあるしなぁ」

 

「うふふ。いっぱい持ってきたから大丈夫だよ」

 

「翠屋にはいつもお世話になってます」

 

みんなもうのんびりモードになっていた。

柳瀬さんまで・・・・・・・。

その光景に苦笑しつつ夜月と通信をして切る。

 

「さて・・・・・・本局に帰れるまであと二、三日掛かるし・・・・・・全く夏休みだったから良かったけど学校ある日だったら大変だったよ。いや、僕らは(・・・)次元転移で帰ればいいのか。あ、でもフラクシナスは次元路通らないと帰れないんだよなぁ・・・・・・。今度整備部に戦艦の次元転移装置について提案してみようかな」

 

そんな独り言を漏らしていると。

 

 

 

【───なるほど。君か。この世の理から外れた存在】

 

 

 

「え」

 

突如何処からか不思議な声が聞こえてきた。

なのはたちを見るが、なのはたちは今の声が聞こえてないのかさっきと変わってなかった。

 

 

 

【ふふふ。無駄よ。この声は君にしか聞こえない。いえ、君の頭に直接語り掛けているのだから」

 

 

 

その声に僕はすぐさま声に出すのではなく、念話をするのと同じように声の主へ問い返す。

 

「(誰。何処から声を掛けているの)」

 

 

 

【ふふ。辺りを見渡しても意味無いわ。言ったでしょ、君の頭に直接語りかけているって】

 

 

 

問い掛けるが尚もその声の主は笑うように、面白そうに答える。

 

 

 

【私の名前を言ってもいいけど、それは直接会った時にしましょう?】

 

 

 

「(どういうこと)」

 

 

 

【ふふっ。戻ったら、折神の家がある山の山頂へ向かいなさい。そこでまた会いましょう】

 

 

 

そう告げるとその声は聞こえなくなった。

 

「(折神家の山の山頂?何故・・・・・・)」

 

疑問に思いながらも、後で行くことにし、僕たちは回収班と護衛の刀使にあとを任せその場を後にした。

戻ってから事後処理等をし、僕は声のあったように折神家の山の山頂へと向かっていた。

 

「(聖良たちは置いて来たけど・・・・・・なんとかなるかな)」

 

事前に紫に許可を貰い僕は一人でその道を歩いていた。

しばらくして山頂に着くと。

 

「ここが山頂か・・・・・・結構いい眺めだなぁ」

 

少し開けた場所に出、目下の鎌倉市域が見渡せた。

 

「山頂に来たはいいけど・・・・・・誰もいない・・・・・・?」

 

辺りを見渡しても何も無く、誰もいない。

気配感知を使っても何も無かった────

 

 

【───来たね】

 

 

「っ!」

 

はずなのだが、突然後ろの方から声と気配が感じた。

バッ!と後ろを向くとそこにはさっきまで何も無かったはずなのだが、そこには大きくはないが紅い。赤というより朱色。紅色に近い鳥居が存在していた。

僕は何となくその鳥居がなんなのか分かり、警戒を高めながらも鳥居を潜った。

鳥居を潜ると、景色が一変した。

 

「(結界・・・・・・いや、異空間か。なんか僕の絶界の領域空間に似ている気がする)」

 

恐らくあの鳥居が入口だったのだろう。鳥居を跨いだ時感じた何かがぶれた感覚は、結界に囚われる感じだった。

そう思いながら周りを見渡すと。

 

「はじめまして、ね」

 

視界の奥から紅と白の混じった着物のような戦闘衣装を来た、少し黒の交じった白髪の女性が現れた。

その女性の姿を見て僕は警戒を高める。なぜなら。

 

「───っ!まさかこんな所で出会えるなんて・・・・・・!」

 

「へぇ。私の正体にもう気づいたの?」

 

「ええ。あなた・・・・・・・・・・『大荒魂』・・・・・・ですよね」

 

「正解」

 

目の前の女性は大荒魂だからだ。しかも、気配が濃密だ。とてつもない年月を生きていることが分かる。

 

「我が名はトヨタマヒメ。君の言う通り大荒魂よ」

 

「っ!」

 

冷や汗の流れるのを感じていると。

 

「そして、原初の大荒魂でもあるわ」

 

「原初・・・・・・!?」

 

とてつもないことを聞いた。

原初ということは、一番初めの大荒魂ということになる。

 

「まあ、私自身人の営みや繁栄に興味が有るから一度も相対した事は無いのだけど。記録でもないんじゃないかしら?」

 

確かに彼女の言う通り、彼女からは殺気のようなものは全く感じず。他の荒魂立ちと同じような穢れた気配は無く。むしろ、ネネに近い・・・・・・というより、酷似したような気配を感じる。

 

「ま、大荒魂というのは人が付けた名称なんだけど・・・・・・・私は気に入ってるから大荒魂でいいわ。なんかその方がカッコイイわ」

 

「あ、そ、そうですか」

 

なんだろう。彼女、とてつもない天然な気がする。

そう感じつつ引き攣り笑いを浮かべる僕。

 

「ええ。ああ、私のことはトヨタマヒメと呼び捨てで構わないわ」

 

「わかった」

 

「ふふ。それじゃあ、今度は君のことを教えて貰えるかしら」

 

「───僕は天ノ宮零夜。時空管理局本局所属、特務0課に属してる」

 

「ふうん。天ノ宮零夜、いい名前ね。零夜と呼ばせてもらうわ」

 

「どうぞ」

 

「ありがとう。さてと、何故私が零夜。君を呼んだのかと言うと、単純に君にある剣を渡したいの」

 

「剣?」

 

「ええ。この二振りよ」

 

そう言ってトヨタマヒメは着物の裾から二振りの剣。いや、刀を現出させた。片や流麗な銀の光を放つ刀。片や神々しいとも言えるような輝きを纏わせる黒銀の刀。

 

「その二振りは・・・・・・」

 

「片や『天羽々斬剣(あめのはばきりのつるぎ)』、『布都斯魂剣(ふつしみたまのつるぎ)』として伝わる剣。───『天羽々斬(アメノハバキリ)』。片や『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』、『草那藝之大刀(くさなぎのたち)』とも言われる剣。───『天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)』。君の言うところのロストロギア級よ」

 

「なっ・・・・・・・!」

 

その銘は日本人ならほぼ全ての人が知っている名前だ。

どちらも日本神話やゲームなどに出てくる有名な剣だからだ。

 

「もっとも、この二振りは現世ではなく幽世に。私が保持していたのだけど」

 

サラリと。なんでもないようにいうトヨタマヒメ。

僕は彼女にとある質問をした。

 

「・・・・・・二十年前の【相模湾大災厄】の時や【年の瀬の災厄】では手を出さなかったの?」

 

「私は基本的には手を出さないの。もちろん、私のこの世界にまで影響が来るのなら対処はするわ。けど、それ以外のことは基本傍観するだけよ」

 

「何故・・・・・・・」

 

「言ったでしょ。基本傍観するだけって。まぁ、タギツヒメの件は万が一のことがあったら対処する予定だったけど」

 

クスクスと笑って言うトヨタマヒメ。少し寒気のような物を感じたが、それはタギツヒメについてだけで、それ以外は温かみを感じる。

 

「さて。私は君に他所の世界へと持ち出された荒魂の残り。ノロでいいのだったかしら?ノロを回収。もしくは完全消滅をして欲しいの」

 

「・・・・・・それは僕の中でも最大級の優先事項だよ。僕のせいでヤツらに渡ったんだから」

 

「別に君のせいじゃないわよ?君は元々この世界の人間じゃない。この世界の人間じゃない君に責任を押し付けるなんて烏滸がましいわ」

 

肩を竦めて呆れたように告げるトヨタマヒメ。

 

「別に私自身がノロを持ち去った人間からノロを取り返せばいいのだけど、生憎だけど私は出来ないのよね。もう既にこの世界に持ち去られて、此処に無いものは、この世界の住人たる私には手出しが出来ないし。けど、君たちは違う。この世界の住人ではなく、別の世界から来た人間なら出来る。いえ、寧ろ君たちに頼まなければダメね」

 

トヨタマヒメは歯痒そうな表情を浮かべつつ腕組みをする。

 

「さてと。君にこの二振りを渡す前に───」

 

トヨタマヒメはそう言うと、天羽々斬と天叢雲剣の柄を握りしめ。

 

「一つ、私と手合わせ願おうか」

 

と切っ先を向けて言った。

それに並ぶように僕も背中に、二本の長剣。『黒聖』と『白庭』を現出させ吊す。

 

「いいよ。僕もあなたの力量を知りたかったから」

 

言い終えると同時に背中の長剣の柄を握り勢いよく抜き放つ。

 

「(なんだあのトヨタマヒメの構え・・・・・・。紫の二天一流のように見えるけど違う。僕と同じ我流?天陽流は僕だけのだし・・・・・・・。とにかく、今の自分のやれることを全力でやるだけだ)」

 

トヨタマヒメの構えは、右手の『天叢雲剣』を逆手に握り、左手の『天羽々斬』はそれに追ずるように刃先を右下に向けていた。

対する僕は何時ものスタイルである、身体の重心を少し落とし左手の『白庭』を前に右手の『黒聖』を交差するように下にする。

やがてどちらも音が無くなり、辺りを静寂が包み込む。

ほんの数秒が数分にも引き伸ばされたような感覚の中、僕とトヨタマヒメは合図もなしに同時にその場を蹴り動き出した。

 

 

 



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トヨタマヒメ

 

~零夜side~

 

「ふっ!」

 

「はっ!」

 

最初はお互いに小手調べ。軽く打ち合い(と言いうが、その剣速は尋常じゃないが。並の人なら着いていけずに終わってるレベルである)互いの力量を識る。

 

「なるほど。その若さでこの剣。さすが、イレギュラーね」

 

「そっちこそ。今まで戦った中で一二を争うよ」

 

ガキンッ!と甲高い音を鳴らして僕の『黒聖』と『白庭』。トヨタマヒメの『天羽々斬』と『天叢雲剣』は次々とぶつかり合う。

トヨタマヒメの初手の左薙ぎからの回転して右斜め切りには驚いた。今まで色んな剣技を見てきたけど、そんな剣技は見たことないからだ。しかも、左薙ぎはブラフ。本命は右斜め切り、と普通の人だったらこの一撃で終わっていただろう。僕は咄嗟に変則クロスガードして防いだが、あれはヤバかった。知智お姉ちゃんとのぶつかりでも初手からそんな剣技はしないからだ。

僕のアインクラッド流二刀流ソードスキル《ダブルサーキュラー》に少し似ている気はするけど。

 

「はああっ!」

 

右下ろしから左突き。足払いしてから右回転して薙ぎ。それに追撃で右薙ぎ。クロスして切り裂く。

しかし僕の剣をトヨタマヒメは見切っているように最短で的確に反らしたり防いだりする。

 

「重い・・・・・・。なるほど。君は既にその極地にまで到達しているのか。余程、師が良かったのかしら?」

 

カウンターで『天叢雲剣』を振るってきたトヨタマヒメの攻撃をバックステップで避ける。宙返りしてさらに距離をとり、地面に脚が着くと同時に瞬動でトヨタマヒメとの距離を詰める。それは短時間最速にする技法、超縮地。

 

「っ!」

 

一瞬の刹那。ギリギリトヨタマヒメは避けるがトヨタマヒメの戦闘装束の裾に一筋の切り傷が描かれる。

 

「驚いた。今のは視えなかったわ」

 

淡々と驚いたように切れた一筋の傷を見る。

 

「なら、私も少しギアを上げるわよ」

 

そういうやいなや、トヨタマヒメはさらに速度を上げ無数の連撃を繰り出してきた。

 

「ぐっ!!」

 

その攻撃を僕は半ば勘で捌く。

僕の展開しているバリアジャケットにも僅かに傷が付けられる。

 

「ふむ。今のを防ぐか・・・・・・」

 

少し驚いたように眉を上げ呟くトヨタマヒメ。

 

「なら、もっと行くわよ!」

 

「こちらこそ!」

 

さらにお互いにギアを上げていく。

 

「はあっ!」

 

「せあっ!」

 

互いに息付く暇も無い剣戟が舞う。

実際、僕とトヨタマヒメによって周囲には放射状にひび割れた地面が少しある。小手調べの内からいつの間にか真剣になっていた。

だが、僕もトヨタマヒメも互いに全力を出してはいない。

 

「りゃアッ!」

 

「ふっ!」

 

僕の右突きからの左回転逆切りをトヨタマヒメは突きを『天羽々斬』の刀身で受け止め、その勢いを利用して後ろに下がる。

左回転逆切りは空を切り、そこにトヨタマヒメによるカウンターが迫る。

 

「っぅ!!」

 

瞬時にカウンターで迫り来る『天叢雲剣』を左回転逆切りの回転の勢いを利用して右の『黒聖』で受け止める。

ガキンッ!と甲高い金属音が鳴り、鍔迫り合いになる。

 

「く・・・・・・ぅ!」

 

「っ・・・・・・ぅ!」

 

鍔迫り合いから離れ、さらにその場で双剣を振るい互いに切り刻む。

 

「(もっとだ・・・・・・・。もっと速く・・・・・・っ!今ここで・・・・・・限界を超えるっ!)」

 

自分に言い聞かせるように頭に反響させさらに速度を上げていく。

 

「っ!?さらに速くなった・・・・・・?!」

 

「はああぁっ!!」

 

「なっ!?」

 

何十にも及ぶ切り合いの元、僕がトヨタマヒメの剣を弾き身体を開けた。

そこに右肘を喰らわせ。そこかは左の『白庭』で逆薙ぎ払い、『黒聖』を上に投げ上げ右手で掌底。『白庭』で突き、ラストに上に投げ上げた『黒聖』を右手に握り振り下ろす。

 

「アインクラッド流。片手剣・体術複合スキル!【メテオ・ブレイク】!!」

 

『黒聖』を振り下ろしたのと同時に技名を言う。

ドガンッ!と重低音の音が響き土煙が上がる。

結構なダメージを与えたと思うが。

 

「(最後の攻撃、当たった感じがしなかった!避けられた?!)」

 

そんなことが脳裏に過ぎるや。

 

「───っっ!!」

 

一気に土煙が晴れ、目の前から『天叢雲剣』と『天羽々斬』を握ったトヨタマヒメが現れた。

 

「っ!?」

 

「やぁっ!!」

 

「(マズイ!この体勢だと・・・!)

 

剣を振り下ろした体勢からとなると・・・・・・・。迫り来るトヨタマヒメの二刀の横薙ぎを思考を加速して検見しすぐ様今できることをする。

右手の『黒聖』を逆手に握り変え、左手の『白庭』をトヨタマヒメの双剣の軌道上に添える。

 

「?」

 

疑問顔のトヨタマヒメに僕はそのまま迎え撃つ。

右から来る双剣に『白庭』をぶつけて受け止め、ぶつかった勢いを利用する。そしてそのまま回転し、逆手に握った『黒聖』をトヨタマヒメにぶつける。

 

「なるほど・・・・・・!」

 

トヨタマヒメは迫り来る『黒聖』をしゃがんで避ける。

そして僕はそのまま足の軸を使い距離を取る。

 

「・・・・・・!」

 

距離を取り、構えをし直す。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・やっぱり、強い・・・・・・!」

 

息を整えつつトヨタマヒメを見る。結構なダメージを与えたはずなのだけど、衣服が少し汚れたり切れたりしているだけで、肉体にはダメージがあまりいってないようだった。

 

「さっきの技。【メテオ・ブレイク】だったかしら?まさか剣術と体術の複合技とはね。ちょっと驚いたわ」

 

「はは」

 

トヨタマヒメの賛辞に僕は乾いた笑みを洩らす。

 

「とっさに迅移で下がらなかったら危なかったわ」

 

トヨタマヒメの言葉に僕はやはり、と心に出す。

最後の一撃。あれはトヨタマヒメに当たらなかったのだ。迅移を使って後ろに移動したのなら道理だ。

さすが原初の大荒魂。なんの予備動作なく実行した。

ヒトは何かを行う際、必ず実行する前に何らかの予備動作をする。

しかしそれは極めれば動作(プロセス)は必要無くなる。術式で言うなら、詠唱してから位置固定、予備動作、発動という一連の流れを、詠唱発動という一つの括りで締められるということである。もっとも、そんな芸当武術を極めた人でなければ出来ないのだが、さすが原初の大荒魂。ちゃっかり極めている。僕も魔法なら略式詠唱などできるけど、まだ武術に関しては知智お姉ちゃんたちには及ばない。

 

「なら───!!」

 

トヨタマヒメとの距離は約十メートル。剣の間合いでは届かない。しかし。

 

「はあぁぁ!!」

 

『黒聖』を右肩に担ぎ、ライトブルーのライトエフェクトを輝かせる。

 

「───【バーチカル・スクエア】!!」

 

縦切り四連続の正方形(スクエア)がトヨタマヒメに向かって飛ぶ。

 

「喰らわないわ!」

 

一直線に来る正方形の斬撃(バーチカル・スクエア)をトヨタマヒメは少し横に逸れるだけで躱す。

が。

 

「それは予測していた!」

 

「っ!」

 

トヨタマヒメが避けた場所に僕の『白庭』が迫る。

しかし、ガキンッ!とトヨタマヒメが咄嗟に『天羽々斬』で受け止める。

 

「さっきのは囮だったのね」

 

「ええ」

 

互いに硬直状態が続く中、僕とトヨタマヒメは会話をする。

 

「私の思考でも読んだの?」

 

「いや、ただの勘さ」

 

「第六感・・・・・・・超感覚(ハイパーセンス)とでも言うのかしら?君にそこまでの能力があるなんてね」

 

「ただの偶然だよ」

 

そうこれはただの偶然に過ぎない。トヨタマヒメが左右どちらに避けるのか分からない。二分の一の確率。けど、僕は自分の直感を信じた。結果トヨタマヒメとこうして剣を結んでる。

 

「でも、その勘がどこまで通じるかしら?」

 

「さあね。やれるだけのことをやるだけ、さ・・・・っ!」

 

切り結んでる剣をはね上げ、僕はトヨタマヒメから距離を取った。

 

「(ふぅ・・・・・・。これだけやっても大きなダメージは与えられてない・・・・・・か)」

 

声には出さず、息を整えつつ脳裏に言葉を走らせる。

チラリと視線を両手の双剣。『黒聖』と『白庭』に移す。

 

「(二振りとも最大値だった耐久値が六割にまで減ってる。トヨタマヒメの双剣・・・・・・『天叢雲剣』と『天羽々斬』がロストロギア級なら、能力が何かしらあるはずだ。現状、あの二振りのランクはわかんないけど、トヨタマヒメが使う以上、ランクはSSかそれより上のランク相当とカテゴリーする)」

 

視線を良く凝らすも、トヨタマヒメの構えは全く持って先読みが出来ない。僕と同じ独特な構えに臨機応変な対応の剣技。そして二刀流。型は違えど、僕と対象的な感じだ。

トヨタマヒメは魔法が使えない。剣一筋でここまでやってる。身体強化魔法を常に使用している僕では素のままでは勝てない。

 

「(マズイなぁ。双剣の耐久値はせめて一割以下にまで減らしたくはない)」

 

耐久値が0になった剣は刃が鈍り、切れ味も無くなり、崩壊する。

この二剣は『剣』という訳ではなく正確には『魔導剣』に酷似する。断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)精霊の剣(スピリット・ソード)といった剣は不可実剣に類するため魔法剣に値する。が、『黒聖』と『白庭』に関しては実際に物質化しているため実剣となり、それに魔法を使っているため魔導剣になる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

静かに佇むトヨタマヒメ。目を瞑り、精神を集中させているのだろう。

 

もう少し段階を上げようかしら?今は二段階までだけど、もう一段階上げようかしらね?

 

トヨタマヒメと僕の間に沈黙が走る。

先に動いたのはトヨタマヒメの方だった。

 

「ふっ!」

 

「っく!」

 

トヨタマヒメの突きを紙一重で避け、トヨタマヒメの背後に回る。

そのまま『白庭』で切りつけるが、トヨタマヒメには当たらず、当のトヨタマヒメはその先にいた。

 

「(さらに速度を上げた?!)」

 

剣の握り手を直し、トヨタマヒメを観る。

 

「(今の、【迅移】の三段階速目?それをノーモーションでだなんて・・・・・・・!)」

 

「次行くよ」

 

「くぅ・・・・・・っ!!」

 

閃光。

まさにそう言わんばかりの速度で剣を突き出してきたトヨタマヒメの突きを今度は『黒聖』を車線上に置き起動を反らす。

が。

 

「(危なかった・・・・・・。油断してたらやられてたよ)」

 

バリアジャケットのコートの裾にチラリと視線をやる。

コートの裾には幾つかの斬り痕が入っていた。

僕のバリアジャケットは自身の魔力で構築された物だ。まあ、最初はなのはたちと同じようにデバイスである凛華たちによって纏っていたけど、今となっては凛華たちの補助無くても構築展開が可能。僕のバリアジャケットを展開している周りは僕の絶対領域だ。

黒衣のコートを見やりトヨタマヒメに視線を移す。

 

「どうしたの?君のチカラはそんなモノ?魔法は使わないのかしら?それとも私に遠慮してる?」

 

「それは・・・・・・」

 

事実今使ってる魔法は常時掛けている身体強化だけだ。

 

「遠慮なんか要らないわよ?君の全てを見せなさい。これは私からの君への試練(・・)なんだから。だから──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      今の君のすべてを私に見せなさい、天ノ宮零夜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

トヨタマヒメの言葉に僕は目を見開く。

ああ、そうだ。彼女は僕の今の全力を知りたいんだ。そんな彼女に手加減は、最大級の侮蔑だ。なら。

 

「───術式解放(エーミッタム)

 

『黒聖』と『白庭』を一度背中の鞘に納め、目を閉じ、意識を集中させる。

 

「───術式固定(スタグネット)掌握(コンプレクシオー)!」

 

トヨタマヒメと言う最強の存在に僕の今出せるチカラを全て発揮する。これはその一つ目。

 

「───(ヘー・アストラペー・)(ヒューペル・ウーラヌー)大壮(・メガ・デュナメネー)!!」

 

雷系統の魔法で最大級の威力を誇る魔法。【千の雷(キーリプル・アストラペー)】を体内へと取り込む。

闇の魔法(マギア・エレベア)、術式兵装が一つ【雷天大壮】。

明るく光り輝くスパークを少し迸らせ目を開く。

 

「トヨタマヒメ。ますはこれで行く」

 

「ふふっ。面白いね・・・・・・。いいよ・・・・・・、キミの全力を全てこの私に見せて!そして、キミの輝きを私に魅せなさい!」

 

「ああ。そうするっ!」

 

言葉が終わると同時に背中の剣の柄に手を掛け、勢いよく抜刀し何時もの戦闘スタイルを取ったのだった。

 

 

 



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転生魔導剣士(零夜)VS原初の大荒魂(トヨタマヒメ)

 

~零夜side~

 

「行くよっ!」

 

「ええ!」

 

闇の魔法(マギア・エレベア)、術式兵装【雷天大壮】を発動させ『黒聖』と『白庭』を構えてトヨタマヒメへと迫る。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!」

 

トヨタマヒメへと迫りながら平行詠唱を実地。

 

「はあぁぁ!!」

 

「せああぁっ!」

 

トヨタマヒメも先程とは打って変わって速い。

 

「来たれ雷精、氷精よ。集い来りて敵を討て!」

 

平行詠唱を速くし、魔力を練る。

 

「鋭き槍持ちて、我が敵を穿て!!」

 

追加の詠唱をし、

 

雷氷の穿狩槍(ヘイルインパルス)!!」

 

雷を帯びた幾多の氷の槍をトヨタマヒメへと飛ばす。

 

「ふっ!」

 

しかし【雷氷の穿狩槍】をトヨタマヒメは迅移による高速移動と、剣技で破壊して無効化した。

 

「なら!」

 

接近戦に移行し、縮地も使用してトヨタマヒメの懐に潜り込み。

 

「せあっ!」

 

「うっ!」

 

トヨタマヒメの腹部へと魔力を込めた打撃を喰らわす。

肺の中の空気を一気に吹き出しトヨタマヒメは後ろへと滑って下がった。

 

音撃(ゴスペル)!」

 

さらに追撃で振動反響魔法【音撃】を放つ。

 

「っ・・・・・・!」

 

ゴォン!と正鐘楼のような重い音が鳴り、トヨタマヒメは地面に崩れる。

が。

 

「いやぁー。今のは聞いたわ」

 

「えぇ」

 

トヨタマヒメはゆっくりと立ち上がった。

 

「不可視の音による魔法ね。なかなか面白いわ、なら使わせて(・・・・)もうわね」

 

「?」

 

トヨタマヒメの言葉に疑問符を浮かべると。

 

「目覚めて『天羽々斬』」

 

「っ!?」

 

トヨタマヒメの左手に持つ『天羽々斬』から白銀のオーラが立ち上った。そのまま『天羽々斬』の切っ先をこちらに向け。

 

「───音撃(ゴスペル)

 

「なっ・・・・・・!!?」

 

トヨタマヒメが言うと同時に僕に凄まじい音の暴力による風が叩いた。

 

「今のは僕の【音撃】?!」

 

自動で展開した障壁でなんとか衝撃を緩和した僕は目を大きく見開いてトヨタマヒメを見た。

 

「なんで!?あれは僕しか使えない・・・・・・・・・・ハッ!まさか!」

 

あるひとつの考えが過ぎるり。が、それはこの魔法のない世界で可能なのか?とも過ぎる。

 

「考えてる暇なんかないよ!」

 

「っ!」

 

「はあぁぁ!!」

 

トヨタマヒメの声に僕は意識を戻す。

 

「(なっ!?あの構えは)」

 

トヨタマヒメの構えを見た僕は思考が一瞬止まった。なにせ、その構えは。

 

「【バーチカル・スクエア】!」

 

「(アインクラッド流ソードスキル【バーチカル・スクエア】だと!?)」

 

トヨタマヒメの発声と共に正方形の斬撃が飛んでくる。

 

「くっ!【ホリゾンタル・スクエア】!」

 

トヨタマヒメの【バーチカル・スクエア】に対抗するように、こちらも同じ四連撃の【ホリゾンタル・スクエア】を繰り出す。

 

「・・・・・・どういう理屈。僕の剣技をまるっきり同じく出してくるなんて。それに魔法も」

 

苦笑しながらトヨタマヒメに問う。

 

「ヒミツ」

 

クスッと笑ってトヨタマヒメは返す。

 

「(『天羽々斬』があれなら『天叢雲剣』は一体・・・・・・)」

 

考えるも首を軽く振って意識を集中させる。

 

「(集中しろ。いくら闇の魔法を使っても勝てるかはわからない。認めろ。彼女は今までにない最強の存在だと)」

 

背筋にスゥーと、冷たい汗が流れる。

そして。

 

「ふっ!」

 

初動作なしでトヨタマヒメへと接近する。

 

「(ストックしてある魔法も全て使う!)」

 

すぐさまストックしてる術式を構築する。

 

「蒼雷!」

 

「ふっ!」

 

幾重にも降り注ぐ蒼き雷をトヨタマヒメは避け、『天羽々斬』で切り裂く。

 

「氷槍!」

 

さらに氷の槍を幾千槍にも放つ。

だが、それもトヨタマヒメは涼しい顔で迅移で避けある程度を『天羽々斬』で切り裂く。

 

魔法の射手(サギタマギカ)集束連弾(セリエス)精霊の500矢弾(スピリトゥス)!!」

 

集束した魔法の射手が弾丸のようにトヨタマヒメへと襲い掛かる。

対するトヨタマヒメは立ち止まり、『天羽々斬』の尖端を、迫り来る魔法の射手に向け。

 

「目覚めて、【氷槍】、【蒼雷】」

 

トヨタマヒメの言葉に呼応するように『天羽々斬』が光り、トヨタマヒメの周囲に二種類の魔法陣が幾重にも展開され、そこから氷の槍と蒼き雷が放たれた。

 

「(また・・・・・・っ!)」

 

トヨタマヒメの放った魔法はどちらも僕がさっき使用した魔法だ。威力はオリジナルである僕のよりやや弱いが、それでもかなり強力だ。

 

「なら、術式解放!【千刃黒曜陣】!」

 

黒曜石の短刀程の長さの剣を飛ばす。

その間にも平行詠唱を行い次に備える。

 

「なるほど、物量攻撃か」

 

動きながら、【千刃黒曜陣】の刃を砕き斬るトヨタマヒメはそのまま僕に迫ってくる。

対する僕も無詠唱でミッド式やベルカ式の魔法を行使する。

 

「来たれ氷精。爆ぜよ風精。氷瀑(ニウィス・カースス)!」

 

短文詠唱の【氷瀑】を発動し、障害を創る。

 

「炎槍!」

 

さらに魔法で炎の槍を創り出し飛ばす。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!来たれ風精、集い来たりて巻き起これ天白の暴風!祖は颶風の巫女、風を司るもの!」

 

自身の正面に橙色の魔方陣を構築して終の呪文を紡ぐ。

 

「―――颶風の暴風(ラファエル・テンペスタ)!」

 

風系統魔法の上位クラスの威力を誇る。

さらにそこに。

 

「水鳳!炎帝!」

 

水と炎の魔法を追加で重ね合成。

そして出来たのが。

 

「合体魔法!焔颶の璻叢砲(カラミティアバースト)!!」

 

螺旋の竜巻。

その竜巻から次々と小型の旋風が砲撃のようにトヨタマヒメへと向かう。

 

「はあぁぁ!!」

 

トヨタマヒメは向かって来る砲撃旋風を右手の『天叢雲剣』を向け。

 

「起きて、『天叢雲剣』」

 

と言った。

その瞬間『天叢雲剣』に金色のオーラが纏い。

 

「切り裂きなさい」

 

『天叢雲剣』で砲撃旋風を斬り裂いた。

いや、あれは斬り裂いたというより、無効化した、というのが正解なのか?

 

「うーん、やっぱり扱いが難しいわね」

 

霧散した【焔颶の璻叢砲】の魔力残滓がキラキラと光って漂う中トヨタマヒメは右手の『天叢雲剣』を見て言った。

 

「(【焔颶の璻叢砲】を無効化・・・・・・いや、無力化した?あれが『天叢雲剣』の能力・・・・・・)」

 

合体魔法である【焔颶の璻叢砲】が無効化されたのを見て驚きだす。が、それと同時に『天叢雲剣』の能力を考察する。

 

「(『天羽々斬』の能力は恐らくアレだと思う。けど、『天叢雲剣』は・・・・・・切断?いや、僕の絶対切断(ワールドエンド)と同じ・・・・・・。いや違うな。あれは・・・・・・っ!まさかっ!いや、そんなはずはない・・・・・・!)」

 

『天叢雲剣』の能力を思考し僕はまさかの考えに辿り着く。

 

「(もし僕の考えが合っていたとしたらとんでもない代物だぞ!)」

 

そう、もし本当に僕の考えが当たっているのならトヨタマヒメにとっての不利が全く無くなる。

 

「キミにはこの二振りの剣の能力。分かったかな?」

 

クスクスと笑いながらトヨタマヒメは僕に問いかけた。

 

「大体は」

 

「へぇ」

 

「『天羽々斬』の能力は───[再現]。僕の魔法やソードスキルを使っていたことからその剣は、見たものや斬ったものを再現することが出来る」

 

「・・・・・・・・・」

 

「そして『天叢雲剣』は───[事象の改変]または[因果律の改変]。さっきの【焔颶の璻叢砲】は斬れるはずはない魔法だ」

 

基本【風】という属性は実体がない。

炎や水といったものは実体。具現化されたものだ。それは地や氷、雷然り。だが、光や闇といった不確定属性のものは実体はなく、可視不可実体というものになる。そして、それは大気である風もそうで。

 

「けど、あなたはそれを斬った」

 

炎や水などは具現化しているため、切れることは斬れる。

しかし、不可実体である風は斬る(・・)ということが出来ない。───例外を除き。

その例外は───

 

「いや、より正確に言うなら、あれは斬ったのでは無くて、【焔颶の璻叢砲】という存在した魔法の事象。または因果を変えた。そして、それを斬った(・・・)ということにした。どう?」

 

事象を改変したということ。

僕は自分の考えを出しトヨタマヒメに問う。

事象の改変は僕も保持している能力だ。事象の改変は例えるなら、[対象A]という存在を[対象B]という全く違うものへと改変するこど。そしてもう一つ、事象の上書きというものもある。上書きは改変とは違い、[対象A]という存在を上書き。既に存在する[対象A]の上から、新たな[対象A]という存在に書き換えられるものだ。

そして今回トヨタマヒメが使ったのは[事象の上書き]ではなく、[事象の改変]だ。

[事象の改変]により、【焔颶の璻叢砲】という存在を『天叢雲剣』を支点に断ち切る。当たるはずの攻撃を当たらないようにしたのだ。

僕の言葉にトヨタマヒメは。

 

「『天羽々斬』については正解だよ」

 

『天羽々斬』を持ち上げ答える。

 

「けど、『天叢雲剣』については半分正解・・・・・・かな?」

 

「半分?」

 

「そう。『天叢雲剣』には二つの能力がある。その一つは、[事象の改変と上書き]。そしてもうひとつは・・・・・・・・・[因果]」

 

「・・・・・・[因果]」

 

「そう。[因果律]ではなく[因果]よ」

 

[因果律]ではなく[因果]。

[因果律]は哲学で、すべての出来事は、ある原因から生じた結果のすがたで、その間には一定の必然的関係があり、原因がなくては何ごとも起こらない、という原理。 また、同一条件下ではつねに同一の現象が起こるという法則。

そして[因果]は原因と結果。すべての行為は後の運命を決定するということ。

似てるようで違う。

 

「そしてこの二つを合わせて、私はこう呼んでるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────天理超越(オーバー・ストライド)、と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天理、超越・・・・・・!?」

 

トヨタマヒメの言葉に僕は手が震え、冷や汗が背中を流れた。

[事象]と[因果]。つまり、この二つの能力を持つ『天叢雲剣』は最強にして最凶の剣という事だ。

『天羽々斬』の[再現]は何かしらの条件があるのだろうが、『天叢雲剣』の《天理超越》は片方だけでも厄介なのに、それが二つも。正直ロストロギアの中でも旧闇の書クラスと言っても過言ではない。

 

「(あの双剣に対応するには『黒聖』と『白庭』のアレを使うしか・・・・・・!けどあれはかなりの耐久値を持ってかれる!)」

 

お姉ちゃんたちと一緒に造った僕のこの双剣は、現状ではまだ僕はすべての力を引き出せてない。そして、この二振りの素材はお姉ちゃんが持って来たものだ。つまり、この二振りは神造武装に類する。ま、まあ、完全な神造武装じゃないんだけどね。(理由。僕の魔導も結構入っているため)結論として擬似神造武装になる。

この二振りは、二つで一つなのだ。『白』と『黒』。表裏一体。相反する属性。『光』と『影』。

 

「(だが、それでもやるしかないね)」

 

双剣のグリップをギシッと握り直しそう心にだす。

 

「(出来るチャンスは一度だけ・・・・・・)」

 

トヨタマヒメに視線を戻し再度構えを取る。

意識を集中し、雑音を消す。

 

「・・・・・・・」

 

トヨタマヒメも僕の雰囲気を感じたのか表情を直し、構えを取り直す。

やがて、静寂が僕らを包み。

 

「「──────っ!!」」

 

同時にその場を動き接近した。

雷速瞬動と迅移。

 

「せあああっ!!」

 

「はああっ!」

 

一瞬の内に幾度となく切り結ぶ、ヒトの限界を超えた剣撃。

ガキンッ!ガキンッ!、と剣と剣がぶつかり合い金属音と火花が飛び散る。

 

音撃(ゴスペル)!」

 

そこに織り交ぜ魔法も放つ。

 

「氷瀑!」

 

片や音の衝撃波が。片や氷と風による攻撃が。

嵐のような天変地異のような光景が繰り広がる。

もう出し惜しみ無しと決め、

 

術式解放(エーミッタム)千の雷(キーリプル・アストラペー)!───固定(スタグネット)掌握(コンプレクシオー)!」

 

もう一つ、【千の雷】を解放する。そして、それを取り込み。

 

術式兵装(プロ・アルマティオーネ)!───雷天(タストラパー・ヒューペル)双壮(・ウーラヌー・メガ・デュナメネー)!!」

 

雷天大壮のさらに上の形態。雷天双壮を発動させる。そして、

 

「《降り注げ!》」

 

術式詠唱省略の即興による魔法の射手を空から降り注がせる。

 

「っ!」

 

空からの攻撃に目を見開くトヨタマヒメ。しかし。

 

「甘いわ!」

 

それは尽く防がれ、阻まれ、躱される。

 

「っ!因果改変か!」

 

自身に当たるという因果を改変し、当たらないようにしていることに舌打ちする。

 

「なら!───《踊れ!舞え!》」

 

風による魔法を使う。

その威力は直撃すれば大岩さえ粉々に砕く程のものだ。

 

「ふっ!───《反転せよ!》」

 

しかしそれは瞬時に無効化され風が僕とトヨタマヒメを撫でる。

 

「「・・・・・・っう!!」」

 

だがそれはとてつもない風だ。

 

「雷槍!炎槍!氷槍!風槍!」

 

その間にも同時詠唱省略による魔法を幾重にも放つ。

 

「みんなの魔法使わせてもらうよ!」

 

声にそう出すや足元に虹色のミッド式魔法陣を展開し。

 

「アクセルシューター!」

 

なのはの魔法のひとつ、アクセルシューターを二十近く出しホーミングも付け合わせて放つ。

 

「『天叢雲剣』!」

 

トヨタマヒメは視線を『天叢雲剣』に一瞬移し声に出すとアクセルシューターは同士討ちのようにぶつかり消えた。

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト!」

 

今度はフェイトの魔法だ。

さらに。

 

「彼方より来たれ、宿り木の枝!銀月の槍となりて撃ち貫け!石化の槍!」

 

白黒のベルカ式魔法陣を構築し、

 

「ミストルティン!」

 

石化の槍を無数に放つ。

立て続けて。

 

「フレイムランス!」

 

アリサの魔法。

 

「アイシクルストライク!」

 

すずかの魔法。

 

「スパークレイン!」

 

アリシアの魔法をなどを立て続けに繰り出す。

トヨタマヒメはズバ抜けた身体能力で次々と迫る魔法の数々を避け、『天叢雲剣』で斬り、『天羽々斬』で相殺する。

 

「これはどう!」

 

自身の周囲に五つの白桃の魔法陣を展開し。

 

「放て!ディバインバスター!!」

 

なのはの砲撃魔法を放った。

さらに追随するように。

 

「サンダーレイジ!」

 

フェイトの金色の砲撃を。

 

「マテリアルブラスター!」

 

僕の白黒の砲撃を幾多にも放つ。

もう既にこの周囲は戦闘の余波で地面は抉れ、氷が着いたり炎が燃えていたりとすごい惨状だった。

三つの砲撃を切り裂きトヨタマヒメが迫る。

 

「せあああっ!!」

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

ガキンッ!と剣と剣が交差しギリギリッ!と低い金属音が響く。

交差から離れ。

 

「───雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!───闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!」

 

雷を纏った暴風と闇を含んだ吹雪がトヨタマヒメを襲う。

しかしそれはトヨタマヒメに当たることなく奥へと飛んでいき、トヨタマヒメは僕の背後に回っていた。

 

「ふうぅっ!」

 

切り薙ぎを仕掛けるトヨタマヒメの攻撃をしゃがんで避け足払いを仕掛け、そのままトヨタマヒメの腹部に蹴りをして吹き飛ばす。

 

「まだよ!」

 

トヨタマヒメは吹き飛ばされながらも『天羽々斬』の[再現]で僕の魔法を再現して放ち、体を捻って上手く地面に降り立つ。

対する僕も魔法を時空間魔法で無力化し。

 

「「せあああっ!!」」

 

トヨタマヒメと同時に僕は右手の『黒聖』を。トヨタマヒメは『天叢雲剣』を振りかぶる。

そして僕の『黒聖』には真紅のライトエフェクトが煌めいていた。

片手剣ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》。僕がアインクラッド流片手剣ソードスキルで一番好きな剣技だ。

ジェットエンジンのような重低音の音が響き、一直線にトヨタマヒメの『天叢雲剣』とぶつかる。やがて、僕とトヨタマヒメは互いの位置を交換した。

 

「(今だ!ここしかない!)」

 

距離を取って位置を交換した僕とトヨタマヒメ。そしてアレを使うタイミングは今しかないと判断する。

 

「力を貸して『黒聖』!『白庭』!」

 

両手の相剣を頭上に掲げる。

 

「何をする気?!」

 

僕の動作に警戒するトヨタマヒメ。

静かに。目を閉じて心を落ち着かせ。

 

「逝くよ、トヨタマヒメ!!これが・・・・・・僕の・・・・・・!」

 

この世界で最初の友達にして幼馴染みである彼女のセリフを借りる。

 

「全力!全開っ!!」

 

左手の『白庭』の剣先をトヨタマヒメへと向け。

 

「───白き庭園の華園(エンハンス・アーマメント)!!」

 

言い終えると同時に地面に突き刺す。

その途端、僕を。いや、『白庭』を中心に純白の魔法陣が描かれ、そこから純白の庭園が広がり、様々な花が咲き誇れた。そしてそれはトヨタマヒメへと牙を。いや、この場でいうなら棘を向いたの方が正しいか。

花の蔦はトヨタマヒメへと襲い彼女を攻撃する。そして、僕の周囲にも花は咲き、それは癒しの香りを飛ばした。

 

「え、ええぇっ!?な、何なにこれぇ!?すっごぉーい!!」

 

トヨタマヒメは面白そうに、笑いながら次々と来る花たちの茨や蔦を切り裂き、『天羽々斬』の[再現]で破壊。『天叢雲剣』の[因果]で当たらないようにしていた。

やがて、動きを止め。

 

「アハハは!!うん!面白いよ!なら、私もこの双剣のとっておきを見せてあげるわ!」

 

『天叢雲剣』と『天羽々斬』の剣先を交差させた。

対する僕も右手の『黒聖』の剣先をトヨタマヒメへと向ける。

 

「いくよ、天ノ宮零夜!」

 

「こっちこそ!」

 

トヨタマヒメは金色と白銀の二色が混ざり合い白金に光り輝く『天叢雲剣』と『天羽々斬』を上に掲げ。

 

「───天理超越(オーバー・ストライド)覇煌輝(ヘブン)

 

天高くそびえ立つ程の巨大な一振の剣を創り、その白金の大剣を振り下ろしてきた。

迫り来る白金の大剣に僕は微動他にせず意識を集中させ。

 

「───黒き星夜の煌天(エンハンス・アーマメント)!!」

 

『黒聖』を中心に幾つものの魔法陣が描かれ、『黒聖』が眩く光、その姿を長剣から漆黒のものへと変える。

漆黒の。だが、それは温かい光を放つ黒。

そこに幾千ものの煌めきがあり、それが夜空のようにも見える。

僕はそれを勢いよく先端部分をトヨタマヒメへと向ける。すると、トヨタマヒメへ帯状の巨大な星夜の大軍が向かった。

漆黒の、帯状の砲撃はトヨタマヒメの白金の大剣と途中でぶつかり今日一番の衝撃波と衝撃音を放つ。

バチバチとプラズマが火花のように飛びぶつかり合う中心部は衝撃によって凹みが出来る。

 

「はああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「やああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

互いの気勢の入った声が響く。

その間にも二つの超威力の攻撃はバチバチと攻めぐりあって。

 

「「っ!!」」

 

さらに衝撃波や音が広がり、ちゅっどーんっ!と盛大な爆発がぶつかり合う支点で起き、その瞬間。

 

「なっ!?これは!?わ、私の空間が・・・・・・!?!?」

 

「な、なんだ!?」

 

この空間にノイズが走り衝撃が訪れた。

動揺するトヨタマヒメに驚愕に眼を見開く僕。

そして。

 

「うそ・・・・・・!?私の結界空間が壊れた・・・・・・!?」

 

パリンッ!と一際高い音がなり、僕とトヨタマヒメは結界から現実世界へと押し出された。

 

「この場所は・・・・・・!」

 

周囲を見て押し出された場所を把握する。

押し出された場所は刀使たちの御前試合を行う場所だった。

 

「山の山頂からここに押し出されるなんて・・・・・・!」

 

別空間の座標から、強引に押し出されるとランダムで場所に追いやられるが、座標がここで良かったと思う。もし全くの別空間や場所だったら大変なことになる所だった。

だが、この現実空間ではさっきみたいに大規模な全力の魔法や剣技は使えない。いや、使うわけにはいかない。

そしてそれは、トヨタマヒメもで。

 

「アハハハ・・・・・・・。あらら~。参ったわねこれは。ここじゃ二振りのチカラ使えないわね」

 

苦笑をして言う。

 

「僕も使えないよ」

 

「けど、純粋な剣技だけなら出来る。そうでしょ?」

 

「そうだね」

 

再び構えを取るトヨタマヒメに僕もつられるように構えを取る。

 

「さあ。ラストダンスを始めましょう!」

 

「そうしようか!」

 

言い終えると同時に僕とトヨタマヒメは地を蹴り接近する。

僕は常時雷化による雷速瞬動を。トヨタマヒメは迅移の速度を更に上げ。

僕とトヨタマヒメのぶつかり合う旅にキュイーン!キュイーン!と高い音やキンッ!キンッ!と金属音がぶつかり合う音が鳴る。それは何度も続いたが、やがて体力も魔力も限界に達しようとしていた僕とトヨタマヒメは。

 

「はあぁぁぁぁっ!!───天陽流剣技!星覇連流双嵐撃(スターエンド・イクリプス)!!」

 

「せあああぁぁっ!!」

 

それぞれ最後の剣技を放ち終え、剣を互いに突き刺すと同時に、僕のバリアジャケットは解かれ、トヨタマヒメの写シは剥がれ、僕とトヨタマヒメは同時に横に倒れ、それぞれの双剣はカランッと金属音を立てて使い手たる主の横に添えるように並び倒れたのだった。

 

 

 

 

 

 



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戦乙女達の休息

 

~夜月side~

 

「お兄ちゃん、帰ってきたと思ったらどっか行っちゃったよ」

 

「うん。どこ行ったんだろう零夜君」

 

今私たちがいるのはこの世界で滞在中によくお世話になる鎌府女学院の食堂だ。この場にはレイくんを除いたほぼ全ての人がいる。

さっき話していたのはレイくんの事が大好きな二人、聖良ちゃんと澪奈ちゃんの妹コンビだ。

二人とも心配そうな表情を浮かべている。

 

「桜坂は彼がどこに行くとか聞いてないのか?」

 

隣に座ってお茶を飲んでる獅童さんが問うてくる。

 

「うーん。聞いてないよ。あ、でも、ちょっと所用が出来た、って言ってたね」

 

「そうか。帰ってきたら結芽が彼に斬りかかりそうだ」

 

溜め息を吐いて燕さんを見る獅童さん。

燕さんは楽しみそうに足をばたつかせていた。

 

「早く来ないかなぁー」

 

そんな声も聞こえてくる。それに私は思わずひきつり笑いを浮かべる。

そんな所に。

 

「零夜なら、屋敷の山頂に向かったぞ」

 

後ろから威厳のある声が響いた。

振り向くと、そこにはスーツを着て凛々しく、勇ましい姿の折神紫さんの姿があった。

 

「ゆ、紫様!」

 

獅童さんや此花さんたち特務隊人はすぐに直立不動の姿勢をとる。

 

「楽にしろ真希、寿々花、夜見。私は彼女たちに、このデータを渡しに来ただけだ」

 

そう言うと折神さんは私に二つのUSBメモリをクリアな箱に入れた物を渡してきた。

 

「一応その中にはノロやノロの投入によって起こったことなどあらゆるデータが入っている。さすがにS装備らの情報は渡せないが」

 

「ありがとうございます。奪われたノロは私たちが必ず、責任をもって消滅させます」

 

礼を言いながら私は折神さんからUSBメモリの入った箱を受け取る。

 

「頼む。あれが悪用されることはもう決してあってはならない」

 

「ええ。分かっています」

 

私はレイくんから自身の失態だと昨日の襲撃後の会議で聞かされた。そして、レイくんは折神さんたちに土下座でもするような勢いで謝罪をしていた。

折神さんたちは険しい表情をしていたが、相手が相手。荒魂ではなく私たちと同じ魔導士ということで、奪われたノロについては私たち特務0課が全面的な対処をすることになった。そして今渡されたデータはノロについての大まかなものだ。

これはかなり有難い。私たちでは知らないことが知れるから。よって対策も取れる。

私は受け取ったメモリを自身の異空間に厳重に保管しフラクシナスに戻り次第開封することにした。

 

「あの、宜しければ折神紫さんもご一緒に食べませんか?家のケーキなんですけど」

 

なのはが翠屋のお持ち帰り用の箱を持って訪ねる。

なのはの問いに折神さんは非常に残念そうな顔をして。

 

「すまない。この後会議があるんだ」

 

と言った。

刀剣類管理局局長という立場を退いても折神さんは予定が沢山あるらしい。

 

「そうですか。でしたら、こちらだけでもどうぞ」

 

「すまないな」

 

一言お礼を言い、なのはから持ち帰り用の箱を受け取り、折神さんは立ち去った。

 

「零夜くん、どこいったんやろなぁ」

 

「ホント零夜って最近勝手にどっか行っちゃうわよね」

 

折神さんが立ち去ってからはやてちゃんとアリサちゃんがそう口走る。

 

「みんな零夜くんと一緒じゃなくて寂しい?」

 

「す、すずかちゃん!?」

 

「な、何言ってんのよすずか!わ、わたしは別に零夜と一緒じゃなくてなんて・・・・・・!」

 

「そ、そうだよすずか!?」

 

「う、うんうん!」

 

「何言ってんのすずかちゃん?!」

 

すずかちゃんの言葉に、なのはちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、はやてちゃんの順に赤面して返す。

というか寂しいってことバレバレだよみんな?

 

「わ、私はお兄ちゃんがいなくて寂しいよ?」

 

「うん、私も」

 

レイくんの妹二人は相変わらずの天然発言。

うん、二人がレイくん好き好きなのはみんな知ってるから。

 

「へぇー。じゃあ零夜くんが戻ってきたら私、零夜くんと一緒にお風呂でも入ろうかなぁ~」

 

「はい?」

 

すずかちゃんの言葉に私は思考がフリーズした。

え、お風呂?お風呂って入浴とかのやつだよね。決して新種の武器やゲームやモンスターとかじゃないよね?え、OHURO?

 

「え、えっと、すずかさん?もう一度言ってくれます?」

 

「?零夜くんと一緒にお風呂入る?」

 

あ、聞き間違いじゃなかったわ。

すずかちゃんの言葉を理解して十秒後。

 

『『『ええええええええええええっ!!!!?』』』

 

その場に私たちの。ていうか、獅童さんや衛藤さんたちの声も入った絶叫が響き渡った。(聖良ちゃんと澪奈ちゃんの二人は除いて)

 

「す、すすすす、すずかちゃん!?な、なななな、何を言ってるのかな!?」

 

「お、落ち着いてなのは!そうよ、聞き間違いよ!そ、そうに違いないわ!」

 

「あ、あああ、アリサも落ち着いて。顔が凄いことになってるから」

 

「フェ、フェイトもだよそれ」

 

「み、みんな落ち着くんや。そうや、きっと幻聴や。うん」

 

いやいや、みんなが落ち着こうよ。

五人の慌てふためく姿に私は苦笑しながら声に出さずに言う。

で、刀使の方たちはというと。

 

「い、今どきの小学生ってそこまで進んでるんですのね」

 

「いやいや、多分それは彼女たちの星でだけだと思うぞ」

 

「はい。この星では多分ないと思い・・・・・・ます。はい」

 

「ねぇ姫和ちゃん、零夜くんって男の子だよね?」

 

「あ、ああ。男・・・・・・のはずだ?」

 

「・・・・・・うん。零夜は女の子に似てる」

 

「ま、まあ私たちも最初は彼が男の子だって分からなかったしね」

 

「ていうか、女装させたら分からないんじゃねえか?」

 

「それはナイスアイディアです薫!戻ってきたらやってもらいましょウ!」

 

「それはそれでおかしいような・・・・・・。それと、零夜くんを女装させていいのは私たちだけです!」

 

「えっと、凛華?そういう問題ではない気がしますわよ?」

 

最後の方は凛華ちゃんと星夜ちゃんが言ってるけど。

というか女装なんて聞いたらレイくん逃げるんじゃないかな?まあ、でも、私も見たいからレイくんには言わないでおくけどね♪

 

「はぁ。マスターもマスターだな」

 

「あ、あははは・・・・・・」

 

ソラとイリアが何か言ってるけど聞こえないふりをする。

とまあ、閑話休題。

 

「レイくんには悪いけど、さきに食べちゃいましょうか」

 

「うん」

 

なのはちゃんは空中に手をやり、そこから自分の固有空間を広げて目当ての物を取り出す。

 

「異空間収納。使いこなせてきたみたいね」

 

「うん。二人のおかげだよ」

 

異空間収納は私たち全員できる芸当だ。

最も、大型なものや多数は入れられないけど。(レイくんは別である)

その後、一悶着があったが無事解決しなのはちゃんの御両親が経営している喫茶店『翠屋』のスイーツを食べ疲れをとっていた。

そんな中。

 

「ちょっと聞きたいんだけどよ、天ノ宮ったか?なんで彼はあんなに強ぇんだ?」

 

ショートケーキを食べている稲河さんが唐突に聞いてきた。

 

「うーん、一応あれでもレイくん自分にリミッター掛けてるけどね。レイくんの強さの根源は『自分の大切なものを護りたい』って事だからかな?」

 

私も紅茶を飲みながら応える。私の応えにみんな静かに聞く耳を立てて聞いていた。

 

「私たちは全員魔法の原動力となる根源を持ってる。それは『大切な人を護りたい』や『もう二度と失わないように』や『恩返しのために』など沢山。もちろん、私にもその根源がある」

 

そう。魔法を使うにはリンカーコアというのが必要だって言われているけど、正直そんなのはお飾りに過ぎない。というのが私とレイくんで話し合った結果だ。一番重要なのは、何を思っているのか。自分を奮い立たせる原動力となる根源が最も重要なものなのだ。

 

「俺も聞きたいんだけどよ、そっちの世界には天ノ宮みたいな人間が沢山いるのか?」

 

今度は益子さんが訪ねる。

 

「あー、いやー・・・・・・」

 

「零夜レベルなのは夜月だけね」

 

「うん。夜月ちゃんも零夜くんと同じくらい凄いんだ」

 

「ていうか、二人みたいなレベルの魔導師が沢山いたら世界崩壊してるよー」

 

「うん。二人とも、星戦級魔導師だから」

 

目線を外らす私を他所にアリサちゃんたちが次々に言う。

お願いだから言わないで!星戦級魔導師なんて称号私には似合わないの!!

そんな心の懇願を無視するように言うみんな。

 

「ん?星戦級魔導師とはなんだ?普通の魔導師とは違うのか?」

 

十条さんが聞いてくる。

その応えはをなのはちゃんたちは私には視線を寄越して来た。

私はその視線から逃れるようにする。そんな私たちのやり取りを見て苦笑しながら星夜ちゃんが。

 

「星戦級魔導師というのは、たった一人で広範囲や都市国家を掌握及び制圧。もしくは壊滅破壊出来る魔導師の事ですわ」

 

と簡単にホロウインドウを出して説明した。

私たちの魔法には星戦級(プラネット)の他に戦闘級(アサルト)戦術級(タクティクス)戦略級(ストラテジー)と言う具合にカテゴリーがある。それぞれ───

 

戦闘級は対人又は対小規模団体を戦闘不能にする威力を持つ魔法。(魔法例─アクセルシューター、フォトンランサー、魔法の射手300矢以下、氷瀑、鋼の軛、など)

 

戦術級は一個中隊を無力化及び無効化、又は輸送機や魔導機動歩兵部隊などの機動魔導機器を破壊することが可能な威力を持つ魔法。(魔法例─ディバインバスター、クラウ・ソラス、スパークエンド、雷の暴風、闇の吹雪、マテリアルブラスター、ギガントシュラーク、シュトュルムファルケン、白き雷、奈落の業火、など)

 

戦略級は一個大隊あるいは基地を制圧、又は破壊することが可能な威力を持つ魔法。(魔法例─スターライト・ブレイカー、ラグナロク、プラズマザンバー、エターナル・コフィン、インフィニット・ブレイカー、魔法の射手1,001矢以上、上位魔法、加減した最上位魔法千の雷や千年氷華、など)

 

そして星戦級はたった一人の一撃で一都市や国家。次元航行艦の艦隊を殲滅。最悪、小さな惑星なら掌握及び制圧可能な威力を持つ魔法だ。(魔法例─ディメンション・イクリプス・ゼロエミッション、千の雷、千年氷華、燃える天空、引き裂く大地、輝煌天槍、など)

 

 

「現状、この星戦級魔法を行使できる魔導師は管理局で零夜くんと夜月ちゃんのみです。まあ、これに類する魔法を扱う人はかなり居ますけど」

 

「ええ。例えばなのはちゃんのスターライト・ブレイカーがこれに値します。他にははやてちゃんのラグナロクやフェイトちゃんのプラズマザンバー。クロノ君のデュランダルによるエターナル・コフィン。なのはちゃんとフェイトちゃんの合体魔法、中距離殲滅魔法ブラストカラミティも同じですね」

 

紅葉ちゃんの言葉になのはちゃんたちはええっ!?と声を上げる。

 

「わ、私たちの魔法って星戦級魔法に匹敵するものだったの!?」

 

「正確には準戦略級魔法ですわね。特に、限界突破して放つなのはちゃんのスターライト・ブレイカーは零夜くんの戦略級魔法レベルの集束魔力砲インフイニット・ブレイカーに匹敵しますわ」

 

「まあ、なのはのアレは何となく予想していたわ」

 

「だよね。なのはちゃんのアレはぶっ壊れ性能だもんね」

 

ガーン!って感じが今まさに見えるなのはちゃん。スターライト・ブレイカーは正直言って化け物クラスの魔法だ。もし私やレイくんがいなかったらこの魔法が史上最強の個人で放てる魔法だったかもしれない。いや、まあ、十歳足らずであんな馬鹿魔力砲撃を放てるなのはちゃんの方がよっぽどおかしいんだけどね?!

 

「えっと、零夜くんの本気ってどれくらいなの?」

 

今度は衛藤さんが聞いてくる。

衛藤さんの質問に刀使勢は聞き耳を立てる。

衛藤さんの質問になのはちゃんたちは難しい顔を浮かべる。なにせ。

 

「うーん。零夜くんって今まで数える程しか本気出てないよね?」

 

「せやなぁ。私が覚えてる中だと、闇の書の最後の戦闘の時とこの間の件ぐらい?」

 

「私の時も多分現状での本気だったと思う」

 

「確かにそうね。模擬戦でも基本、身体能力強化とかしか付与してないし、最上級魔法も使わないわね?」

 

「うん。使うとしても雷天大壮だけ?」

 

「あれでも結構手加減してるよね」

 

そう。レイくんは基本、本気も本気を出さないのだ。

最後はつい先日の研究会との戦闘かな?うーん、私自身レイくんと全力戦闘なんて数回しかないからなぁ。

 

「そう言えば夜月、前に零夜と全力の模擬戦してたわよね?」

 

「ギクッ」

 

突然のアリサちゃんの言葉に私は肩がすくみ上がった。

 

「そう言えばそうだね。確か模擬戦のフィールドの九割を破壊したんだっけ?戦闘の余波で」

 

「ああ。そんなこともあったね」

 

私は今すぐにでもここから逃げ出したい気分だった。だってみんなこっち見てるんだもん。

そこに天の助けとも言える声が響いた。

 

「零夜くんが本気で殺った事ならついこの間もありましたよ」

 

ん?今なにかやったの字が殺ったに聞こえたような・・・・・・。

凛華ちゃんの言葉にみんな凛華ちゃんを見る。

 

「ああ、ありましたわね。思わず相手を殺しそうなことが」

 

んんっ!?

勢いよく普通に話す二人。凛華ちゃんと星夜ちゃんを見る。

聖良ちゃんと澪菜ちゃんはいつの間にか寝ていて、その二人を紅葉ちゃんが見守っていた。で、そのすぐ側では読書をしているレイくんの新しい家族ミリアちゃんがいる。

 

「え、えっと、二人とも?今のってどういう・・・・・・」

 

「言葉とおりの意味ですわよ?」

 

「あの時は零夜くんを宥めるのが大変だったよね」

 

「ですわねー。というかほぼ半殺し状態でしたし相手を」

 

クスクスと笑っている二人。

い、一体何があったの?!

 

「そのですね。以前ミッドチルダ中央第七区画で銀行強盗事件があったの覚えてます?」

 

紅葉ちゃんが苦笑しながら説明する。

 

「えっと、確か犯人が質量兵器を多数保持していて人質を取って立て篭もっていたんだっけ?」

 

「ええ、それです」

 

私は記憶を頼りに言う。その事件は私たちが地球に居てなのはちゃんたちといた時のことだ。あれ、確かその時ってレイくんミッドチルダに行っていたような・・・・・・。

 

「あれ、でもそれってすぐに犯人が捕まったんじゃなかった?」

 

フェイトちゃんが首をかしげて言う。

が、私は何となく分かってしまった。多分それを解決したのって・・・・・・。

 

「ええ。捕まりましたよ。───マスター零夜が一人で全員捕縛して」

 

『『『『え?』』』』

 

やっぱり!!

紅葉ちゃんの言葉に私以外みんな唖然としてるけど、私は分かってしまった。

 

「あの時、中に私と澪菜ちゃんと聖良ちゃんが居たんです」

 

星夜ちゃんが思い返すように話す。

 

「零夜くんは後から合流の予定だったんですけど、合流する前に銀行強盗が起きて」

 

その時一緒にいたらしい凛華ちゃんは苦笑をしつつ言う。

 

「聖良ちゃんたちが事件に巻き込まれた、って知った時零夜くんすごい形相で事件現場の前に行ってその場の局員に聞いたんです。そらで事件の内容を知って・・・・・・」

 

「しかも聖良ちゃんと澪菜ちゃんが傷つけられて」

 

それを聞いた私たちは眠っている二人を見て思う。

ああ、これはレイくん怒って当然だな、と。

当の妹二人ともレイくんの事大大大好きだからね。

 

「零夜くんが本気で闘うのは、それが零夜くん自身の根源だからですわ」

 

「ええ。零夜くんの原動力となる根源は『自分の大切なものを二度と失わない』『この手が届く距離はすべて護る』『平穏な日々ご過ごせるように』ってことです」

 

「・・・・・・それが零夜の根源、なのか?」

 

言い終えた凛華ちゃんの言葉に獅童さんが小さな声で言う。そんな獅童さんの言葉に凛華ちゃん、星夜ちゃん、紅葉ちゃんは頷いた。

 

「ま、まあ、アレはちょっとやり過ぎだった気もしますけどね」

 

え?

突然の凛華ちゃんの言葉。私は思考が止まる。

 

「えっと、確か・・・・・・氷と地の魔法で頭以外を拘束して、顔の周囲に光と闇と雷、炎の魔法の剣を出して目前で滞空させ、睡眠魔法で強制的に眠らせてから闇属性の睡眠干渉魔法の悪夢を見させたんだっけ?」

 

「ええ。正直言ってあれはやり過ぎですわよね?」

 

「でも、二人を傷つけた人よりかは幾分かマシでは?」

 

「あー。そうですわねぇー」

 

「まあ、確かにね。実際、半殺しになってたし」

 

なんとも恐ろしい会話をする二人。

そしてそれを実行するレイくん。伊達に管理局内で『魔王』や『星王皇』と呼ばれてない。曰く、『天ノ宮特務官を怒らせたら終わりだとか』と局内で噂されてる。

そんなわけで基本怒らないレイくんを怒らせたら私たちでも震えが止まらないのだ。

実際クロノ君は一度それをされたらしく、思い返すだけでブルブル震えるらしい。(エイミィさん談)

そんな様々な話をして数十分がたった頃。

 

『『『『『『!!!?』』』』』』

 

突如とてつもない魔力を感じた。

その魔力の反応を感じた私たちは全員その場を立ち上がった。

 

「な、何今の!?」

 

「この魔力反応、まさかレイくん?!」

 

「っ!?お兄ちゃんが誰かと戦ってる・・・・・・?!」

 

レイくんと直接パスを繋いでいる聖良ちゃんが視線を上にやって、何かを感じたのか言う。

 

「この魔力・・・・・・零夜くんが本気で闘ってますわ!」

 

「それに加えてもう一つ、なにか反応があるわね」

 

確かになにかもう一つ感じる。

けど、それはヒトじゃない気だ。

 

「───夜月ちゃん!」

 

「っ!ええ!任せて!」

 

聖良ちゃんの声に私はすぐに気配の位置を探知し、

 

「───封解主(ミカエル)!」

 

封解主(ミカエル)の能力を使い空間を繋げた。

繋げやいなやすぐさまそこに飛び入る。私の後に続くように他のみんなも入り。

 

「っ!?!?」

 

出た瞬間に訪れた暴風に私は髪を押さえる。

視線を先に見やるとそこにはレイくんが本気の全力で戦闘している姿があった。

私は姿を見てすぐにこの周囲一体に封絶型の領域結界を展開して構築し張り巡らせる。

張り巡らせると周囲の空間が変わり、私たちを包み込む。

それをし終えレイくんの姿を見た私は───

 

「うそ・・・・・・レイくんのあの速度に着いて行ってるなんて・・・・・・っ!!」

 

その光景に私は目を見開く。

今のレイくんは闇の魔法(マギア・エレベア)、『雷天大壮』の上位形態『雷天双壮』を使ってる。『雷天双壮』は常時雷化に思考加速、身体能力強化とチートもチート級の戦闘技法だ。それを使っているということは、本気も本気の全力でやらなければならない相手だということで・・・・・・。

レイくんの雷速瞬動は瞬間的に秒速約150kmを出す。その速度に追いついているということは少なくても、相手は迅移の第四段階以上を使っていると思う。第四段階の迅移は39.06倍速だと先日データで見た。第四段階の迅移はライフル弾の弾速を超えると言われる。ライフル弾の弾速は秒速1000メートルだ。ちなみに拳銃弾の弾速はライフル弾の三分の一、秒速350メートルである。

その戦闘に私たちは声も出せずにただ眺めているだけだった。

そんな私たちの耳には剣のぶつかり合う金属音と、キュイーンっと甲高い音が絶え間なく流れ、風が暴風のように私たちを襲う。

それがしばらく続き。

 

「はあぁぁぁぁっ!!───天陽流剣技!星覇連流双嵐撃(スターエンド・イクリプス)!!」

 

「せああぁぁぁぁっ!!」

 

レイくんは現状二刀流で最速にして最強クラスの天陽流剣技を放つ。

確かアレはアインクラッド流二刀流ソードスキルの『スターバースト・ストリーム』と『ジ・イクリプス』の速度と威力を掛け合わせた剣技だと前にレイくん自身が言っていた。現状最速にして最強クラスの天陽流二刀流剣技。

まったく、いつの間にあんなのを?、と聞いた当初は思ったけど。

 

「あれを受け止めてる・・・・・・?それどころか捌いてすらいる・・・・・・!?」

 

それを防ぐ相手も相手だ。

けど、さすがに全部は不可能なのな、少しずつ抜けて相手にダメージを与える。が、それと同じく、レイくんにも相手からの攻撃によるダメージが蓄積されていた。

やがて互いの最後の刺突攻撃がそれぞれの衣服の脇を掠り、一気に視界が晴れる。

ドバッ!ととてつもない風が周囲に流れ、目を瞑る。

次に目を開けると。

 

「っ!!?!れ、レイくん!!」

 

「お、お兄ちゃんっ!!」

 

レイくんと戦っていた相手が静かに、それぞれ地面に倒れる所だった。そしてその両脇にレイくんの愛剣の『黒聖』と『白庭』と相手の双剣が並んで倒れた。

二人が倒れるのを見た聖良ちゃんたちは慌ててレイくんの方に駆け寄る。その間に私はこの結界空間の惨状を見る。

 

「あの短時間でここまでの惨状を・・・・・・?!ていうかなんで急に・・・・・・?もしかしてここに出たのは何らかのアクシデント?本当はもっと別な場所で戦闘していた?」

 

そう推理し結界空間を解除し元の空間へと帰還する。

帰還するやいなや、衛藤さんたちがレイくんの相手をしていた人物を見て警戒心を高くしていた。

 

「こ、この人大荒魂!?」

 

「おいおい・・・・・・天ノ宮はコイツを一人で相手していたのか・・・・・?!」

 

「コイツは少なくともタギツヒメより上の力だぞ」

 

「・・・・・・零夜くんって一体どこまで強いの・・・・・・?」

 

「えっと・・・・・・イリア!」

 

「は、はい!」

 

「そっちの人にも回復魔法掛けといて」

 

「わかりました!」

 

「イリアちゃん、私も手伝います!」

 

「ありがとうございます凛華さん!」

 

イリアと凛華ちゃんが相手の人を回復させ、聖良ちゃん、星夜ちゃんはレイくんに回復魔法を施す。

レイくんの様子を私は魔力の流れを視る。

 

「(かなり魔力が減ってる・・・・・・ていうか枯渇寸前じゃない。身体に結構無茶なことをしたみたいね。それに雷天双壮を使ったようね)」

 

レイくん自身は気づいてないかもしれないけど、レイくんは尋常ではない速度で様々な技法を会得しているため、身体が追いついてないのだ。今の私たちの肉体年齢は11歳。とてもじゃないが、会得速度と身体の成長速度が反比例している。このままでは最悪魔法が使えない、なんてことにもなりかねない。だから、基本的にはレイくんには戦闘してほしくないんだけど。

幸いにも質量消滅魔法は使ってないらしいから安心した。

 

「(それにアレ(・・)も使ってないわね)」

 

レイくんの。いや、この世界で最強で最凶かもしれない魔法。質量消滅など生温いと感じる超長文詠唱魔法。

思い返しながらレイくんを見ていると。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「目が覚めたレイくん?」

 

レイくんが目を開けた。満身創痍だけど、気がついたみたいだ。

 

「・・・・・・夜月・・・・・・?」

 

「ええ。夜月です」

 

「なんでここに・・・・・・」

 

「それはこっちのセリフよ?なんであの人と戦闘してたの?」

 

「それは・・・・・・」

 

言葉に覇気がなく、疲労困憊なのは一目で分かる。

そこに。

 

「───ふふふっ。君もさすがに疲労困憊のようね?まあ、それは私もなのだけど」

 

大荒魂と呼ばれた相手が倒れた状態から起き上がり、クスッと笑ってレイくんを見ながら言っていた。

その光景に私たち全員唖然と、言葉を失っていた。

ただ一人を除いて───

 

「お互い様だよ。君もそうじゃない?」

 

ただ一人。レイくんは苦笑しながら会話する。

 

「そうね。ここまでやったのは何時以来かしら?」

 

「同じく。お姉ちゃん太刀を除けばここまでやったのは久しぶりだ」

 

レイくんもゆっくりと起き上がり自身の身体を確認し立ち上がった。それに並んで相手も立ち上がり。

 

「───来て、『白庭』、『黒聖』」

 

「おいで、『天叢雲剣』、『天羽々斬』」

 

レイくんは自身の双剣を。相手も自身の剣を呼び寄せた。

手も使わず、ただ言葉(・・)だけで。

 

 

 

 



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契約(テスタメント)

 

〜零夜side〜

 

 

「はぁ・・・・・・」

 

何故自分は今こうなっているのだろう?

まあ、確かに無茶はかなり・・・・・・・・・・いや、結構したと自分でも思う。けど、この仕打ち・・・・・・あれ、仕打ちかな?まあ、いいや。この展開は誰が予想できた。確かにあまり身体は動かせないけど・・・・・・。

 

「お兄ちゃん、ため息ついてると幸せが逃げちゃうって愛菜美お姉ちゃんが言ってたよ?」

 

「そうですよ。それにこれは、零夜くんがこれ以上無理をしないようにってことなんですから」

 

両隣にいる聖良と凛華がそう言う。

 

「うん・・・・・・それは分かってる。分かってるけどさ・・・・・・!」

 

一旦言葉を区切り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで・・・・・・。なんで・・・全員一緒にお風呂に入っているのさ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りに響くように言った。

そう今僕がいるのはダイオラマ球の中にある大浴場なのだ。

しかも、周りには僕や凛華、聖良たちの他になのはやはやて、フェイト、アリシア、アリサ、すずか、夜月までいるのだ。いや、ここまではいい。(よくはないと思うけどね!?)

けど、

 

「しかも、なんで可奈美たちまでいるの!?」

 

そう!なんでか!この場には可奈美たちまでいるのだ!!

え、うん。なんで!?

 

「落ち着いてくださいな零夜君。傷が広がりますよ?」

 

「いやいやいやいや!!!違和感を感じないんですか此花さん!?」

 

「諦めろ零夜。ボクも頭が痛い」

 

「獅童さぁぁん!!」

 

常識人纏め役の獅童さんならなんとかしてくれると思ったけど、もう諦めた眼差しをしていた。

そこに。

 

「まあまあ。零夜くんからしたらこれはご褒美なんやない?」

 

「ご褒美?なんのはやて?」

 

悪巧みを考えてそうな顔を浮かべているはやてが来た。

 

「同年代のウチらだけやのうて、衛藤さんや柳瀬さんたち年上の女の人とお風呂に入っとるんやからな」

 

「・・・・・・・・・・キミは一体僕に何を求めるのかな?」

 

はやてのキシキシと笑う言葉に僕は半目で問いた。

 

「はやて、なんか最近オッサンみたいになってるよ?」

 

「なあっ!?」

 

「もう前から耳年増気質あったけど、今なんてもう完全に耳年増だよ?」

 

「グハッ!!」

 

「今のその年でそんなんだと、十年後とかどうなってるのよ。アリアさんやロッテさんたちの影響受けすぎだよ?」

 

「がっハッ!!」

 

ん?あれ、なんかはやて湯船の上に浮いてない?

 

「む、無自覚ではやてを言葉の槍で突き刺したわ」

 

「で、でも、まあ、事実だし・・・・・・」

 

「アワワワ。は、はやてしっかり!溺れちゃダメだよ?!」

 

「にゃはは。フェイトちゃんは優しいなぁ」

 

「当然だよなのはちゃん。私の自慢の妹だもん!」

 

いや、二人も見てないでフェイトを手伝いなさいよ。なのはとアリシアを見つつそう心に出す。

それを見ながら眼を瞑り、ほんの2時間も経ってない出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二時間前

 

 

「───トヨタマヒメ」

 

「ええ」

 

戦闘から立ち上がり、僕とトヨタマヒメは中央で会話をしていた。

僕が呼ぶと、トヨタマヒメは両手の双剣。『天叢雲剣』と『天羽々斬』を腰の鞘に仕舞った。

カチンっ!と鞘に収まる音がなり、僕もそれに連なって、背中の鞘に『黒聖』と『白庭』を仕舞う。

 

「キミの強さは見させてもらったよ」

 

「それは僕もさ」

 

「まさか奥の手の第六段階の迅移を使うことになるなんて思わなかったわ。ホント・・・・・・キミは面白いね」

 

「僕も、ここまで本気出したのは久しぶりだから」

 

互いに満身創痍だが、気分は晴れやかだ。こんな、本気も本気の闘いなんて思い返せば、あの時。二年前の闇の書事件の時の最後。闇の書の魔力体と戦った時かもしれない。

やはり、まだまだ世界は広い。そう改めて実感させられた。

 

「このコ達もキミを認めたみたいだ」

 

そう言うとトヨタマヒメは腰の双剣を鞘ごと外し、僕に渡してきた。

 

「約束通り、この双剣はキミの剣だ」

 

「───」

 

僕は静かにトヨタマヒメから『天叢雲剣』と『天羽々斬』を受け取る。

受け取ると、双剣から優しい。暖かい光が溢れ僕を包み込んだ。

その光は僕とトヨタマヒメを包み込み───

 

「アンタが俺たちの新しい相棒か?」

 

僕とトヨタマヒメは真っ白い空間にいた。

すると、突如目の前には光の球体が現れ、そこから男の声が響いた。

声が響くと、目の前に一組の男女が現れた。その二人にトヨタマヒメは。

 

「まったく。その喧嘩口調は変わんないわね羽切(はぎり)?」

 

といい、トヨタマヒメに続くようにもう片方の女性も。

 

「ホントよね。相変わらずというかなんというか」

 

と言った。

 

「あ、はじめましてね。わたしは天雲(あまくも)。そっちの羽切は『天羽々斬』で、わたしは『天叢雲剣』よ。よろしくね、わたしたちの新しい主様」

 

「はい?」

 

天雲と名乗った彼女の言葉に僕は頭に疑問符を浮かべ唖然としていた。

剣に意思があるというのは別に驚きはせんけど、主様とはなんぞやである。

 

「主様って・・・・・・僕のこと?」

 

「そうだぜ?」

 

「ええ」

 

問う僕の答えを肯定する二人。トヨタマヒメは笑みを浮かべている。

 

「えっと、その・・・・・・これからよろしく『天雲』、『羽切』」

 

「ええ。よろしくね主様」

 

「おう!よろしく頼むぜマスター!」

 

「・・・・・・・出来れば主様とか以外で呼んで」

 

「うーん、なら、零夜君って呼ぶわね」

 

「なら、俺は零夜って呼ぶぜ!」

 

「あはは・・・・・・うん。よろしくね二人とも」

 

『天雲』と『羽切』の二人に苦笑いをしつつ挨拶をする。

 

「二人とも、これからは彼のチカラになってあげてね」

 

「おうよ」

 

「ええ。ありがとうトヨちゃん」

 

「トヨちゃんは止めてよねアマちゃん?」

 

「お互い様だよー♪」

 

女子同士の会話に僕と『天羽々斬』こと羽切は。

 

「えーと、羽切?」

 

「ん?なんだ零夜」

 

「いや、あの二人ってずっとあんな感じなの?」

 

「あー。まあ、そうだな。アイツに・・・・・・トヨタマヒメに出会ってから数百年以上たってるけど、ずっと俺たちだけだったからな」

 

「なるほどね」

 

トヨタマヒメは悠久の年月を生きてきたのだろう。それがあの強さに秘訣する。数百年。もしくは数千年生きているのかもしれない中、羽切と天雲の二人はトヨタマヒメにとって最大の仲間。いや、家族なのだ。

『天羽々斬』と『天叢雲剣』を僕が受け取るということはまたトヨタマヒメを───。

 

「───心配しないで」

 

「え」

 

「もう事前に二人には話してあるし、了承も取ったの」

 

「ええ。ずっと一緒だったトヨちゃんと離れるのは少し寂しいけど、私たちは貴方について行くわ」

 

「ああ。俺もだ。それにだ、さっきの戦いで俺はアンタの力を見てスゲェやつだってわかったしな。正直、生半可なヤツじゃ、俺たちを使っても身を滅ぼすだけだしな」

 

「そういうこと。キミならこのコ達の能力をフルに活用出来るはず。その双剣・・・・・・・。まだ、全てを出し切れてないでしょ?」

 

腰の鞘に収められてる『黒聖』と『白庭』を見てトヨタマヒメは言う。

トヨタマヒメの言葉は正解だ。僕はこの双剣の能力をフル活用出来てない。いや、正確には無理矢理行使すれば出来ないこともないが、その代償に恐らく一生魔法が使えない身体になるか、心神喪失状態になるだろう。故にリミッターを施してある。

《エンハンス・アーマメント》は非常に強力ではあるが、所詮は《──────》のスキルの下位互換のスキルだ。

この双剣。『黒聖』には、明莉(アマテラス)お姉ちゃんがくれた『陽輪の漆閃華』と、知智(アテナ)お姉ちゃんがくれたかつて長年の時をかけてこの宇宙を渡った『隕石(ミーティア)』の隕鉄を。

『白庭』には美咲(アフロディーテ)お姉ちゃんがくれた天界にある、お姉ちゃんが自分で手入れをしているらしい神聖樹(ウェヌス)と呼ばれる『神樹の枝』と、(ガブリエル)お姉ちゃんがくれた『想聖の白花(アントリオン・エイディオミルゴ)』。そして、そこに僕の魔法とお姉ちゃんたちの力を少しだけ入れている。

この双剣はほぼお姉ちゃんたちが創ってくれたものに近く、僕のお誕生日プレゼントととしてくれた。まあ、僕がしたのって形や魔力を流すだけなんだったけどね。

うん。お姉ちゃんたち結構過保護だよね。いや、まあ、有難いけどさ。

 

「少しその双剣・・・・・・見せてもらってもいいかしら?」

 

「え、あ、うん」

 

ショルダー式の掛けから双剣を外し、鞘ごとトヨタマヒメに見せる。

 

「・・・・・・ふうん。なるほどね・・・・・・」

 

鞘からそれぞれ抜きゆっくりと検分してる。

 

(神聖を含んだ擬似神造武器・・・・・・。)(しかも、彼の魔力だけじゃなくて、)(それぞれ二つの神の属性を与えられてる?)(これは・・・・・太陽と戦知)(。美と大天使・・・・・・?)(なかなか面白いわね。)(それにこの太陽の煌めき)(ってもしかしてあの御方の・・・・・・?)(ああ、そうか・・・。)(この子、あの人の・・・・・・・・・・)

 

なにか小声で呟いていたがよく聞き取れず、トヨタマヒメは双剣を軽く振ったりしていた。

 

「重い・・・・・・けど、手に馴染む。そっか、アナタたちも彼と一緒に成長しているのね」

 

トヨタマヒメの言葉の意味はわからない。

けど、もしかしたら彼女は『黒聖』と『白庭』と対話しているのかもしれない。剣との会話。普通の人に言ったら笑われるかバカにされるのがオチだ。けど、シグナムやヴィータといった武の人たちは自分の(武器)と対話が出来る。この対話は実際に話すのではなく、感じるのだ。パートナーともいえる武器と心を通わせて話す。心と心での会話。

 

「なら、私のも少し分けてあげる」

 

「トヨタマヒメ?」

 

一瞬。トヨタマヒメが光ったかと思うと、次の瞬間には何も無く、特に変わった様子はなかった。けど、トヨタマヒメは満足したような感じだった。

 

「あなた達がこれからどうやって行くのか・・・・・・楽しみにしてるよ」

 

そう言うとトヨタマヒメは『黒聖』と『白庭』を僕に返した。

 

「さ、そろそろ元に戻ろうか」

 

「え、どうやって?」

 

「それは〜・・・・・・・・・・って、まだこのコ達とのマスター契約してないじゃん」

 

「「あ」」

 

思い出したかのように言うトヨタマヒメ。マスター契約とはなんぞや?

 

「えーと、キミはそのままいて?」

 

「え?あ、うん」

 

「それじゃあ始めるよ。まずは、私との接続を───────よし」

 

トヨタマヒメを中心に摩訶不思議な複雑怪奇な魔法陣が構築され、半径5メートル弱の虹色の魔法円が描かれる。それは羽切と天雲の2人も包み。

 

「───我、最後に汝らに命を出す!汝らに、次世代への未来と希望、可能性を託す!汝ら、次なる主にその身を捧げ、主の剣となれ!そして、幾千万年先へと繋げよ!!!」

 

「「その主命!然と受け取った!!」」

 

「───今ここに、我、トヨタマヒメ。『天叢雲剣』と『天羽々斬』との契約を解除する!!」

 

トヨタマヒメの言葉が終わると、パッ!と光が弾け二人服が変わり、さっきの服から一転、動きやすい和服の姿になりその手に自身の姿である剣を手に持っていた。

 

「これで、二人と契約を解除した。さぁ、二人とも」

 

「おう!」

 

「ええ!」

 

二人はトヨタマヒメの元から離れ、僕の目前に来る。目の前に着くと僕に頭をたれるように右膝を地面につける。その姿は中世の、従者が主君に忠誠を誓うさながらだ。

 

「我が真名『天叢雲剣』。今ここに、汝、天ノ宮零夜を主とし我が剣を捧げる」

 

「同じく、我が真名『天羽々斬』。今ここに、汝、天ノ宮零夜を主とし我が剣を捧げる」

 

二人はそのまま腰の剣の柄を僕に向かって差し出す。

僕は少し戸惑いトヨタマヒメを見る。トヨタマヒメは軽く頷くだけで何も言わない。

僕は直感的にどうするべきか察して、そのままその二人の差し出す剣柄を握り。

 

「『天叢雲剣』。『天羽々斬』。両名の宣告然と受け取った。───汝ら、我が剣となりて我に・・・・・・」

 

そこまで言い、僕はふと言葉を止めた。

我ってことは僕。僕だけでいいのかと。そして、二人をこのまま束縛していいのかと。

ほんの少しだけの時間考え、出した答えは。

 

「───汝ら、我が家族となり我らとともに行こう」

 

家族になること、だ。

僕の答えに二人は呆気に取られていて、トヨタマヒメはニヤリと微笑んでいた。

 

「そして、僕らの明日へと。未来へと続く次の日のために。今一度僕に力を・・・・・・。いや、僕とともに来て欲しい、天雲、羽切」

 

そう言い終えると虹色の魔法陣は一際大きく光り輝き、辺りを照らした。弾けるように照らし、消えると魔法陣は空気に溶けるように消え───。

 

「───これで主従契約は完了よ」

 

トヨタマヒメが拍手とともに告げた。

それと同時に、僕の左手首に白と黒の交差したリングが現れブレスレットのような形となった。

 

「これは・・・・・・」

 

「そのリングはこの子達との契約の証。そして、認められた証でもある」

 

「証・・・・・・」

 

左手首に装備されたブレスレットを感慨しくみる。

 

「そう。キミは名実とともにこの子達の主になった」

 

微笑ましそうに告げるトヨタマヒメ。

やがてトヨタマヒメは視線を僕から天雲と羽切に向け。

 

「───で、あのね二人とも」

 

左手首を二人に見せる。その左手首には僕と同じ白と黒のリングが着けられていて。

 

「なんで私にもまだ着いてるの?」

 

苦笑しながら訊ねていた。

 

「?」

 

頭上にハテナマークを浮かべる僕。

え、どういう意味?

 

「あはは。これ、正確には黎剣の漆白輪(リインカーネーションメモリア)って契約具なんだ」

 

「黎剣の漆白輪?直訳すると、記憶の輪廻?」

 

「そうそう。その名の通り、『これまでの戦いの記録を記憶しておける』とか、そんなリングなんだけど」

 

いや、そんなリングで済ましていいレベルではない。これも一種のロストロギア級の魔導具並の物である。

 

「他にもあの子たち関連なら色々できるんだよね」

 

「はい?」

 

え、なにその万能リング!?

あははー、と喋るトヨタマヒメに僕はポカンとする。

 

「まあ、それはさておき。二人とも私は二人との契約を解除したからこのリングはないはずなんだけど?」

 

「あー、それはだな」

 

「簡単なことだよ。私たちがトヨちゃんにわざと残したの♪」

 

「わざと!?」

 

「当然だろ?俺たちは数百年お前と一緒に居たんだぜ?契約を解除してサヨナラ、なわけないだろ」

 

「ええー」

 

「大丈夫だよトヨちゃん!これ、二個までなら問題ないし!」

 

「それに俺らが認めたヤツじゃねぇと渡さねぇしな」

 

あっけらかんに言う二人。

これからが面白くなると予感して僕はトヨタマヒメたちを見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在

 

 

あの空間での事を思い返して天井を見上げると。

 

「ん?どうしたの?」

 

「夜月・・・・・・」

 

バスタオルを身体に巻き付けた夜月が覗き込んできた。

 

「いや、ちょっと、ね・・・・・・」

 

「ちょっと、ねぇ~・・・・・・・・」

 

半目で視てくる夜月の視線を顔をずらして逸らす。

そこに。

 

〈こっちで話す?〉

 

頭の中に夜月の声が響いた。念話だ。

 

〈それで何悩んでるの?〉

 

〈特に悩んでるってわけじゃないよ。ただ、疲れたなぁ~って〉

 

〈はい、ダウト〉

 

〈うぇぇっ!?なんで!?〉

 

〈あのねぇ、顔を見ればすぐ分かるわよっての。それともなに?この場を楽しんでるのかな?〉

 

〈夜月さん!?〉

 

〈まあ、この状況は男の子にとって見れば目の保養にもなって眼福でしょうねぇー(笑)残念でした、私の身体がなのはちゃん達と一緒で、子供体型で〉

 

〈夜月さん?あなた楽しんでません・・・・・・?〉

 

〈さぁ?どうかしらぁ~。本当の私の体型なんて柳瀬さんと同じくらいなんだから〉

 

隣に座って来た夜月と念話をしながら身体を休める。

全く。夜月は偶にこうしてからかって来る癖がある。その都度心臓に悪いから尚悪い。まあ、すずかやフェイトの天然よりはマシだけどね。

 

〈・・・・・・明後日には帰還できるらしいわ〉

 

〈そう〉

 

〈ええ。彼女たちとやりたいことがあるなら明日の内に済ませておいたほうがいいわよ。なのはちゃんたちにも伝えるけど〉

 

〈だね。・・・・・・例のデータは?〉

 

〈私の固有空間に封印してあるわ〉

 

〈了解。帰還したらデータから対装備の開発をマリーさん達開発部や整備部に依頼しないと。まあ、多分プレシアさんが中心になってやるんだろうけど〉

 

〈そうね〉

 

なのはや可奈美たちを見ながら僕と夜月はさらに決心した。

 

〈〈もっと・・・・・・もっと強くならないと・・・・・・!〉〉

 

と。

来るべき戦いに備えるために。そして、僕らの世界のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、遠く離れた次元時空の片隅で何百十にも固く封印されているそれ(・・)は小さな胎動を告げようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────まで後────年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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集団模擬戦

 

 

~零夜side~

 

「───α─1(ワン)そのまま敵を引きつけろ!γ─(ツー)はその場で待機。合図を待て!Δ─1は敵を遊撃!β─1、2は遠方から支援!」

 

『『『了解!!』』』

 

現在僕はとあるシミュレーションルームで指揮を執っていた。相手は───。

 

 

「──────よし。各員そのまま指示通りに」

 

 

反対側で僕と同じく指揮を執ってる獅童さんだ。

事の発端は一時間前のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間前

 

 

「───えー、せっかくなので、刀使と魔導士の混合チームで模擬戦をして貰おうと思います」

 

唐突の折神朱音さんの言葉に僕を除く全員の表情がポカンとなる。

 

「メンバーはそれぞれこちらの紙に書いてあります。司令塔は名前の横に⚫のある方が、補佐は○のある方がお願いします」

 

朱音さんの出した紙にはそれぞれAチームとBチームに分かれており、その下にそれぞれ名前が書かれていた。

 

 

 

  Aチーム        Bチーム

 

 

 ⚫天ノ宮零夜      ○桜坂夜月

 

  高町なのは       天ノ宮星夜

 

  月村すずか       アリサ・バニングス

 

  アリシア・テスタロッサ フェイト・テスタロッサ

 

  八神はやて       天ノ宮紅葉

 

  衛藤可奈美       十条姫和

 

  此花寿々花      ⚫獅童真希

 

  糸見沙耶香       古波蔵エレン

 

 ○柳瀬舞衣        益子薫

 

  皐月夜見        燕結芽

 

 

 

 

各チーム十人ずつ公平になっている。

あ、あれ?夜月と紅葉、星夜がいて公平なのかなと思うけど。まあ、凛華や澪奈はいないから大丈夫かな。

書かれてないほかの人たちは外で見学だ。

って、

 

「んん??」

 

司令塔のマークに僕の名前があることに目を見開く。

まあ、与えられたからにはやるしかない・・・・・・よね?

そんなこんなで話進んでいき、魔導士と刀使の混合による模擬戦が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在

 

 

『こちらγ─2、高町なのはです。射程範囲内に対象入りました』

 

「了解。α─1が離脱次第魔力砲撃を発射。発射次第その場を離脱、β─1と合流」

 

『了解!』

 

「α─1。三秒後に(トラップ)を発動。直ちに離脱し、β─2の方に」

 

『はい!』

 

レイヤー建造物の屋上から通信に答え、次々に指示を出す僕の目の前にはこのフィールドの全体図が空間ウインドウで表示されていた。

全体図には黒と白のマークがあり、黒が相手の。白がコチラのチームのマークだ。さらに、自陣のマークにはその人物の名前が表記されている。

 

「獅童さんと夜月は所定位置が動いてないか・・・・・・」

 

「ええ。現在交戦中は可奈美ちゃんと燕さん。姫和ちゃんと此花さん。アリシアさんとアリサさんの三組ね」

 

「ええ。結芽は可奈美が抑えてくれてますからね。問題は星夜と紅葉の二人なんですよね」

 

「二人?あ、それとその、別に敬語を使わなくても大丈夫だよ?」

 

柳瀬さんは思案顔で僕を見てくる。

 

「そうですか?えっと、じゃあ────んっん!えっと、話を戻すね。いくら制限(リミッター)を掛けているとはいえ二人とも今はAA(ダブルエー)ランクなんだよね」

 

「へ?AAランク?」

 

「そう。この世界だと───獅童さんクラスかな?あ、可奈美や結芽はSランクですね。紫はSSランクだったかな?」

 

恐らくではあるが、純粋な剣技となると紫に勝てる確率は半々以下。可奈美や結芽となると五分だが、紫だけは別格だ。

資料などから紫の戦闘技法は僕と同じく二刀流。型は、かの剣豪・宮本武蔵が創始者である二天一流だ。

僕の我流剣技である天陽流は元は明莉お姉ちゃんから貰ったSAOの剣術───ソードスキルを更に効率よく。僕の魔法と合わせたものだ。この天陽流の最大の特徴は変幻自在であるということと、我流ゆえに相手に見切られる可能性が低いことだ。。もっとも、それは使用者である僕が多彩だということなのだが。星戦級魔導士の称号を持つ者としては(半ば強引に与えられたのだけど)多彩でなければならない。

だが、紫は二十年も前線に立ち続けたこの世界の・・・・・・この日本の防人だ。さらに肉体は大荒魂タギツヒメによって17歳と全盛期近い。幾ら女神である知智お姉ちゃんに教わったからと言っても、経験値では紫に郡が上がる。

 

「一度、紫と手合わせ願いたいな。純粋な剣で」

 

これは僕の本心だ。

この世界最強の剣士と戦いたい。(あ、トヨタマヒメは除いてね)僕は紫の活躍した経歴を見てそう闘志が滾った。別に戦闘狂って訳じゃないんだけどね?

 

「え!?」

 

僕の呟きが耳に入ったのか柳瀬さんはギョッ!?とした眼で僕を見た。

 

「れ、零夜くん、もしかして紫様と闘いたいの?」

 

「ええ」

 

「ほ、本気?!」

 

「もちろん本気だよ。これは魔導士、魔導剣士としてじゃなくて僕個人。───一人の剣士としてやりたい」

 

柳瀬さんに言う僕の瞳には熱い闘志が。滾る熱が溢れていた。

 

「ま、今はこっちに集中しないとね」

 

「そ、そうだね」

 

意識を模擬戦に移し視線をスクリーンウインドウに向ける。

戦況は変わりない。

今回の混合チーム模擬戦ではDSAAのルールを採用している。

DSAAとは【Dimension(ディメンジョン)Sports(スポーツ)Activity(アクティビティ)Association(アソシエイション)】の略であり、次元世界のスポーツ競技の運営団体である。

DSAAが開催する公式魔法戦競技会として、全管理世界の10歳~19歳の魔導師が出場する『インターミドル・チャンピオンシップ』というものがあり、今回の模擬戦のルールはこのルールを一部採用している。

魔導師組にはLP(ライフポイント)の10,000をそれぞれ各員に、LPが0になったら。刀使は写しが解かれ行動不能になったら敗北だ。

その他、魔導師組には制限として、ブレイカークラスの魔法は禁止。ただし、バスター系は可だ。さらに僕や夜月は魔力ランクをSランク相当にまで制限を掛けられおり、魔法にも制限がある。現に僕は闇の魔法や中位の一部、上位魔法の使用禁止。武装も、夜月は皇剣や一部の天使───鏖殺公、灼爛殲鬼、封解主、囁告篇帙は使用禁止。僕は凛華たちやトヨタマヒメから譲り受けた双剣を使用できない。

なので今僕が装備しているのは自作の双剣双銃のデバイスだ。インテリジェンスではないとはいえ、並のデバイスやり性能ははるかに上だ。

双銃は魔力による弾丸(ブレット)が込められている。ま、このデバイスについては後で話すとして。

 

「零夜くん、私は沙耶香ちゃんと合流するね」

 

「ええ。お願いします柳瀬さん」

 

「舞衣でいいよ」

 

「じゃあ、舞衣」

 

「うん」

 

舞衣は満足気に頷くと今までいたビルの屋上から去って糸見さんのところに向かった。

 

「さてと───」

 

改めて空間ウインドウを見て顔を引き締める。

 

「(第一関門である戦況把握は完了。各員に予め作戦は伝えてある。問題は夜月の作戦だな)」

 

向こうは獅童さんと夜月が指揮を執っている。さて、どう来るか。

一応プランは幾つか考えてある。が、相手が相手であるためどうなるかは不明だ。

 

「───各員に通達!これより、作戦プラン2(フェーズツー)に移行する」

 

『『『了解!!』』』

 

チームの全員からの返事を聴きながら左手に銃、右手に片手剣を構え後ろを向く。

そこには。

 

「来たね。星夜、紅葉」

 

星夜と紅葉の姉妹がそれぞれのデバイスを構えて立っていた。

 

「マスター、すみませんが全力で参ります」

 

「零夜くん、私も紅葉も本気でいくわよ」

 

どうやら二人とも全力全開らしい。

 

「あははは。二人をここに寄こしたのは夜月の采配かな?いや、それとも獅童さん?もしかして、二人とも・・・・・・かな?」

 

相手が一番警戒する相手だとすればそれは僕だろう。僕自身、敵にいれば真っ先に対処する。

曰く一騎当千。また曰く、天下無双。また曰く、百戦錬磨。また曰く、万夫不当。管理局最強にして最凶。

僕につく不本意な渾名はもう数え切れない。まったく・・・・・・11歳の子供に付ける二つ名じゃないでしょ?

そんなことを思いながら目の前の姉妹を見る。

 

「まあ、僕にぶつけるなら夜月か・・・・・・群か・・・・・・。もしくは・・・・・・二人だと思ったからね」

 

『個』ではなく『群』。僕をぶつけるならそう対策すると思っていたし予想していた。

いや、結芽なら単独で僕を相手できるかもね。

 

「それじゃあ───」

 

片手剣片手銃を握り直し、左手の銃の銃口を向け。

 

「始めるよ!」

 

言うやいなや、連続で魔弾を撃ちだした。

高速で放たれた弾丸はそれぞれ計四発ずつ二人に向う。

 

「「っ!」」

 

二人はその場から散開して回避する。

今ので八発放ち、残り弾数は五発。

この銃型デバイスのマガジンは一三発。それぞれ一発ずつに魔力が込められている弾丸であり、弾倉は僕の魔力で補えてる。つまり、僕の魔力が尽きない限り無限に。なくなり次第瞬時に弾丸をリロード出来るということだ。

 

「次々行くよ二人とも!!」

 

右手の片手剣を仕舞い、二丁拳銃に切り替え立て続けに撃ち続ける。

一人一つずつ銃を向け魔弾を撃つ。

 

術式付与(エンチャント)!───魔法の射手(サギタマギカ)(フルグラーリス)(グラキアーリス)!」

 

魔法の射手を付与した弾丸を射出する。

この双銃の設計思想は速度威力特化型。そして、単純な術式強化。この双銃は魔法の射手の強化。元々魔法の射手は一発ではストレートパンチ程度の威力しかないと言われてる。故に魔法の射手は連弾がキーと言われる。が、この弾丸によって強化された魔法の射手は、使用者の魔力にもよるが現状では弾丸一発で、魔法の射手25矢程の威力だ。しかも、属性を付与することも付与しなくても良いと万能なのである。

 

「マスター、いきます!」

 

魔法の射手の威力を込めた弾丸をかわした紅葉は得意の氷と炎の魔法を使い攻撃してきた。

 

「凪げ」

 

その魔法を右手で薙ぎ払う動作をして防ぐ。

 

「っ!?風?!」

 

「紅葉!発動速度が遅い!さらに威力、速度が弱い!手加減するな!僕を本気で叩き潰す感じでこい!!」

 

「は、はい!」

 

「星夜!なぜ今の攻撃で波重攻撃を仕掛けない!紅葉にも言っただろ。僕を相手に手加減をするな!本気でこい!!」

 

「分かってますわ!」

 

僕の怒気に二人は手加減を辞めたのか辺り一体を巻き込むほどの魔法を放ってきた。

 

「凍てつけ!燃え尽きろ!吹き払え!」

 

対する僕は氷、炎、暴風で対抗し紅葉の魔法をなぎ飛ばす。

 

「術式解放───白き雷・氷の迅柱!」

 

二つの術式を複合させた氷雷の魔法を遠慮なくぶっぱなす。

 

「させません!」

 

紅葉の前に星夜が立ち、自身の武装の盾と障壁を重ねて防ぐ。

 

「紅葉ちゃん!」

 

「はいっ!」

 

「───!」

 

上から紅葉による魔法。

それを視認した僕は無詠唱による時空間魔法を発動させる。

術式は加速。

 

「っ!?」

 

紅葉の魔法は僕のいた場所を的確に貫く。

自分以外の空間の時間を遅くすることで自身の動きを数倍にする。

驚く紅葉に向けてマガジンの魔弾を全て放つ。

 

「ぅぐっ!!」

 

時間が戻ると同時に紅葉に高密度の魔弾が迫り直撃する。

多弾攻撃によって紅葉のLPが勢いよく減る。

 

「それじゃ!」

 

それと同時に瞬動と脚力強化魔法によりその場から離脱。

 

「っ!れ、零夜くん!?」

 

「ま、マスター!?」

 

まさかの離脱は予想していなかったのか二人は驚きつつも追い掛けてくる。しかし。

 

「───!紅葉ちゃんと、止まって!」

 

「星夜ちゃん!?」

 

紅葉が止まると同時に紅葉の目の前で小規模な爆発が起きる。

 

「っ!?(トラップ)!?」

 

「対象接触型の設置罠!?いつの間に───!!」

 

そう、紅葉と星夜の周囲には罠を仕掛けてあるのだ。

ちなみに───

 

「って!対空罠も!?」

 

頭上にも設置してあるのであしからず。

術式名称は能動震風機雷源(アクティブ・マルティク・マイン)。風と音の複合魔法。超小型の竜巻を音によって増幅させ、接触と同時に反応、起動させる。欠点といえば、術者である自分がどこに仕掛けてあるのか覚えてなければならないという事だけど。さらに言うなら、普通にやればダメ。さっきの時空間魔法で加速したから可能な魔法でもある。だって、これ一応罠だからね、ま、攻撃にも使えるけど。

まあ、あの二人ならそう時間はかからずに脱出するだろうけど。その間に───。

 

「───すずか、行くよ!」

 

「うん!」

 

すずかと合流し次の相手へと向かって行った。

さらに戦況は激化していき、あちこちで戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

結論からいうと、勝負は制限時間が過ぎたため引き分けとなった。

フィールドは半壊───とまではいかないが、あちこちボロボロだ。ま、一日もあれば自動で修復できると思うけど(多分)

最後はもう作戦などなしの総力戦とまでいった。乱闘騒ぎにも似た戦闘で、結芽や夜月、星夜たちを相手によくここまでできたと思う。いや、マジで。制限付で。いや、闇の魔法とか使えたら多分もっと余裕だったと思うよ?

 

「いやー、このコ達の新たなデータも取れたし、みんなの連携も上がってよかったよかったー」

 

データの羅列が流れてるスクリーンを満足気に見ながら棒読みで言う。

夜月は空を眺めているのか、視線を上に向けていた。

 

「───やっぱり。彼は姉様の言った通りの・・・・・・。『───』の素質が・・・・・・。私は彼の役にたっているのかな・・・・・・」

 

何か言っていたようだが所々しか聞き取れなかった。

 

「夜月?」

 

「え?あ、レイくん、どうしたの?」

 

「あ、いや・・・・・・」

 

「?」

 

可愛く首を傾げる夜月に僕は口を淀らせる。

 

「?あ、それより、レイくん強かったよー」

 

「・・・・・・僕の一手先を読んでいた夜月に言われたくないよ」

 

そうまさか夜月に僕の作戦が看破されていたとは思わなかったのだ。危うく負けるところだった。

 

「けど、それを強引に引っくり返したでしょ?まさか味方全員に支援魔法を掛けるなんて」

 

「あはは・・・・・・まあ、ね」

 

全体支援魔法はこの作戦にとっては奥の手だったんだけどね。

そんなことを心の中でいいながら双銃を見る。

 

「ふむ・・・・・・もう少し改造するか」

 

いっその事、弾丸数を無しに・・・・・・。魔力から無限に補給できるようにするかと考える。が、残念。さすがに、現時点では無理だ。

 

「さてと・・・・・・」

 

息を吐き、伸びをしていたところに紫から声がかかった。

 

「零夜」

 

「ん?」

 

振り返って紫を見ると、そこには左腰に愛刀である二本の御刀を挿した紫がいた。

 

「零夜。私と一つ、手合わせをしてもらえないか?」

 

「えっ?」

 

紫の言葉に思わず裏返った声が出る。

さらに周囲の視線が僕らに集まる。

 

「お前が強いというのは知っている。今の私でお前の相手ができるか分からない・・・・・・。だがそれでも。一介の剣士として、お前と剣を打ち合わせるのを躊躇わずにはいられない」

 

剣士の性なのか、紫の瞳には熱い闘志が激っていた。

その瞳は正しく僕と同じで。

 

「奇遇だね。僕も紫に手合わせをお願いしようと思っていたところだよ」

 

「!」

 

僕の返答に小さくも目を見開く紫。

 

「改めて───紫、僕は貴女に勝負を申し込みます!」

 

その言葉と同時に僕と紫の間にはバチバチと火花が散った。

今ここに最強の剣士と転生した魔導剣士の、最強対最強の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Outer side~

 

 

「はぁ・・・・・・。やれやれね・・・・・・。でも、最高の剣士同士の戦闘。レイくん、キミのチカラをさらに開花させる試練になるかもしれないわね」

 

 

 

 

零夜と紫がバチバチと火花を散らせるのを見守る夜月は小声で。誰にも聞かれない声で呟いた。

 

 

零夜と紫の試合は一時間後に行われることとなり、それぞれ調整に入った。

そして一時間後───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───時空管理局特務官・・・・・・いえ、天ノ宮零夜・・・・・・参ります!!!」

 

「───折神紫、参る!!」

 

御前試合の決勝が行われる会場で、二人の最強クラスの剣士が関係者に見守れながらそれぞれの武器。剣の柄を握り鞘から解き放った。

片や二刀の刀。片や二刀の長剣。

紫は『童子切安綱』・『大包平』の二振り。両刀とも『日本刀の最高傑作』と称される刀。

零夜は姉たちから送られた長剣。『黒聖』と『白庭』。SSSロストロギアクラスを超える擬似神造に類する長剣。

そして片や救国の英雄。片や転生し、姉である女神たちの加護を過保護(無意識に与えられていた)とも言えるほどに受けた転生魔導師。

今、二人の。最強クラスの剣士による最高にして最大の、決闘が始まった。

 

 

 

 

 



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頂上決戦という名の最強(零夜)vs最強()

 

~零夜side~

 

「───準備は出来たか?零夜」

 

「ええ」

 

それぞれ腰と背中に剣を吊るし五メートルほどの距離を撮って会話する。

場所は御前試合の決勝が行われるらしい折神家の敷地内。観戦所には多くの見物人がいる。

この敷地内には夜月と僕によって強固な防護フィールドが張り巡らされている。

僕と紫の間には審判を買ってくれた朱音さんがいる。

 

「それでは、これより天ノ宮零夜と折神紫による模擬戦を行います。勝敗はどちらかの戦闘不能。または戦闘続行不可能。もしくはどちらかのギブアップによって判定します。両者よろしいですね」

 

朱音さんの言葉に僕と紫は無言で頷く。

 

「それでは───両者構えを!」

 

紫は左腰から二刀の御刀を。僕は背中の鞘から相剣の双剣ではなく、片手剣。『黒聖』を。それぞれ、ほぼ同時に抜き放つ。

それと同時に紫には写しが。僕には黒衣のバリアジャケットが展開される。

 

「?二刀流では無いのか?」

 

訝しげに聞いてくる紫。その表情はポーカーフェイスであまり変わってないけど。

 

「ええ。最初は片手剣だけで」

 

最近強敵ばかりで二刀で戦っていたけど、今はまず最初は片手だけだ。

そう言うと、右手を前にし左足を後ろに下げる。構えは、剣の切っ先が上を向き斜め四十五度に剣を構えてる。

僕たちの準備が出来たのを確認した朱音さんは、右手を上げ。

 

「それでは───始めっ!」

 

宣言とともに勢いよく振り下ろした。

それと同時に僕は姿勢を低くして地を蹴り、瞬動で距離を詰め切りかかる。勢いよく『黒聖』を振り。

 

「「!」」

 

対する紫も必要最低限の動きだけで『黒聖』の振り下ろしを受け止めカウンターを繰り出す。

瞬時に下がり、カウンターを避け左足をバネにして横から連続攻撃を仕掛ける。

斬撃、刺突を交互に組み合わせ絶え間なく剣戟を紡ぐ。

 

「速い」

 

紫は流石の動体視力。救国の英雄の名は伊達じゃない。見事に反応し、打ち漏らさずに捌いてくる。

〈スター・スプラッシュ〉。〈カドラプル・ペイン〉。〈デットリー・シンズ〉。〈ホリゾンタル・スクエア〉。〈オーバーラジェーション〉。〈サベージ・フルクラム〉。細剣と片手剣のソードスキルを次々と行使する、絶え間ない連続攻撃。

それぞれ、7。4。7。4。10。3。と連撃のあるソードスキルだ。どれも威力や速度は高い。それを一つも残さずに捌くとはすごい技量だ。

互いによる、『技と駆け引き』の攻防戦。常に相手の動きを先読みすることが必要とされる。

両手や片手で『黒聖』を握り、振る。

あちこち動き、少しずつ速度が上がる。

 

「せあっ!」

 

「はあっ!」

 

互いの剣がぶつかる金属音が鳴り響き、高音質の響きが鳴る。

地面の砂利が小さく盛り上がりそこにいた(・・)証となる。

そのまま幾重にも斬り結び。

 

「───」

 

バックステップで下がり紫と距離を取った。

紫も追撃はせず、息を整える。

 

「さすが英雄・・・・・・。だから───!!」

 

息を整えつつ言い、左手をもうひとつの剣。『白庭』の柄をへと持っていき、握りしめ勢いよく抜き放つ。

 

「やっぱ双剣(これ)じゃないとね!!!」

 

双剣を構え、笑って言う。

この戦いを笑わずにはいられない。待ち望んでた最強の剣士。

今僕の目の前にいるのは正真正銘の【英雄】。誰かを救い、助け、人が求め、世界が必要とした英雄。

ゆえに───

 

「紫、貴女を超えさせてもらう!!」

 

(貴女)を今ここで超え、僕は更なる高みへ行く!

身体能力で更に強化し速度をあげる。

対する紫も、掛かってこい。とでも言うような表情をする。

 

「はああっ!」

 

そこからはさらに速度を上げ、威力を上げた。

連続で瞬動を行い周囲を駆け、連続で切り裂く。

 

「───」

 

紫はギリギリのところで避け直撃を避ける。

紫も迅移で僕の速度に追いついてくる。

あちこちに移動し、戦闘場所全体を。空間をフルに使っていく。

 

「せああっ!!」

 

「はあっ!」

 

闘気を声に出し互いの双剣をぶつけ合う。

そこに剣技だけではなく体術も組み合わせる。

 

「はああっ!!───宸星(しんしょう)惺破(せいは)!」

 

足祓いからのムーンソルト。そして左肘打ち。

基本魔力を込めて放つ技だが、今は魔力を込めず素で放つ。

 

「ぐっ!」

 

バランスを崩すが、紫はバク転して回避し距離を置く。

 

「逃がさないっ!」

 

追撃を仕掛けようとする。が、

 

「───っ!?」

 

紫の眼を視て瞬時に下がった。

 

「ほう。察知したか」

 

危なかった。

あのまま追撃していたら紫のカウンターを喰らっていた。

 

「今のを避けられたのは美奈都(アイツ)しかいなかったんだがな」

 

「態と隙を作って飛び込んできた相手を斬る・・・・・・か」

 

「正解だ」

 

あのまま突っ込めば紫の策の餌食だった。恐らく起死回生の一手。奥の手の一つでもあったのだろう。

 

「は、はははっ・・・・・・!!あァー」

 

気怠い感じに双剣をブランとさせ、空を見上げる。

 

「あーぁあ・・・・・・───本気で行く」

 

「っ!!?来いっ!」

 

紫の言葉と同時に強化(ブースト)を全開放して瞬きの間に迫った。

 

〜零夜side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Outer side〜

 

零夜と紫の剣がぶつかり合う前、観客席では関係者が観覧していた。

 

「夜月ちゃん、零夜くん勝てると思う?」

 

「うーん・・・・・・良くて五割かなぁ〜?」

 

「五割?」

 

「あー・・・・・・これ、身体強化の魔法だけでその他使わないからね。雷天大壮(アレ)を使えば九割勝ちね」

 

雷天大壮は思考・反射速度を引き上げ雷速軌道を可能とする魔法だ。しかしこれを使えるのは零夜のみであり、零夜しか使えない。

 

「紫さんは私たちの何倍も剣を振るってきた。けど、零夜の師匠はあの女神たち(お姉さんたち)だからねぇ」

 

苦笑しながら告げる夜月の頭上には零夜の四人の姉である女神が描かれていた。

そんなこんなで会話していると、ついに零夜と紫の戦闘が始まった。

 

「あれ、なんで零夜くん二刀流じゃなくて一刀なんだろ?」

 

零夜の基本戦闘スタイルは二刀流による高速剣技戦闘だ。そのカレが二刀流ではなく一刀だというのにほとんどの人疑問符を浮かべた。

しかし。

 

「お兄ちゃん、今は軽くやるみたい」

 

「ええ。二刀流ではないのは一刀での戦闘経験を積むためでしょうね」

 

「零夜くんはいつも二刀ですからね」

 

零夜の家族である姉妹たちは違った。そしてそれは夜月もであり。

 

「―――」

 

真剣な眼差しで戦闘を見る。

眼前には高速で移動する二人。耳には金属の、剣が当たる金属音が鳴り響く。

 

「速い・・・・・・」

 

「私たちとしていたのは手を抜いていたいいますの・・・・・・」

 

零夜の速度を見て、零夜と剣を交えた獅童真希と此花寿々花がふと洩らした。

 

「お兄ちゃん・・・今連続で瞬動してる・・・・・・」

 

「ええ。連続での瞬動はかなり体力をつかうのですが・・・・・・」

 

「それほどまでに本気ということですわね」

 

「はい。現に、マスターは片手剣だけでも全く手を抜いてません」

 

「彼の年齢であの技量は正直バケモノ級なのだけどね」

 

零夜の姉妹である聖良たちは少し不安げな表情を浮かばせつつも、自分たちの大切な兄。家族である少年を見守る。

 

「あれ、零夜全然剣技(ソードスキル)使ってないわね」

 

「うん。最初の剣技連携(スキルコネクト)剣技複合(ダブルスキル)以外、そのあと全部技術だけ」

 

「剣技は発動に特定の動き(モーション)が必要やからね。あの極限状態の戦闘じゃさすがに無理やな」

 

「あれ?でも確か零夜、動き(モーション)無しでイメージだけで発動出来なかったけ?」

 

「確かに?レイくんは出来るけど、今は―――」

 

夜月たちの視線の先では神速の境地に入ろうとしている速さで剣を交えてる二人がいた。

 

「彼はその余裕すら【()】はない―――」

 

「今は、だと・・・・・・?」

 

「ええ。そして恐らくそろそろ―――」

 

夜月の言葉を裏付けるように、突如零夜が高笑いを発した。

 

 

 

『は、、はははっ・・・・・・!!あァー』

 

 

 

突然の零夜に全員(一部を除き)驚きの表情を出す。

やがて。

 

 

 

『あーぁあ・・・・・・───本気で行く』

 

 

 

その場全体を支配するかのような威圧感をその身から発し、二本目の長剣の柄に手を付け勢いよく振り抜いた。

それは零夜が本気の状態になった証拠であった。

 

「来た―――」

 

可視化してはいないが、夜月の瞳には零夜を包み込む緋色のオーラが見えた。それは彼の保護者にして姉。そして神話の主神たる太陽と豊穣を司る女神の神威。

自覚はしてないのだろう。彼を優しく包み込むようなオーラ。

 

「やっぱり・・・・・・ね」

 

夜月の呟きを聞き取れた者はいない。それほどまでに目の前の戦いに全員魅入られていた。

 

〜Outer side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜零夜side〜

 

背中に吊るしたもうひとつの長剣『白庭』の柄に左手を掛け、握りしめると同時に抜き放つ。

太陽の光に照らされて純白の華の画かれた刀身が現れる。

 

「さあ、行くよ『黒聖』『白庭』。全力全開で!!」

 

僕の言葉に応えたのか、両手の『黒聖』と『白庭』はキランッ!と陽の光を反射して答えた。

 

「はああああアッ!!」

 

気声を上げ右手を突き出し紫へと突進する。

 

「―――!」

 

受け止めようとする紫。しかし。

 

「なっ!?」

 

「はあっ!」

 

コンマ一秒。左上からの斜め切り追撃に目を見張る。下がろうとするがほんの一瞬。その一瞬が遅くなり。

 

「くっ―――!」

 

二撃目の斬撃が紫を切りつけた。

しかし当たる直前に刀使の能力が一つ。『金剛身』を紫は発動させ防いだ。

 

「ちぃッ───!」

 

舌打ちを漏らしつつも脚力強化で飛び上がり距離を取る。

 

「まさか『ダブル・サーキュラー』を見切られるとはね」

 

そう今放ったのはアインクラッド流二刀流ソードスキル『ダブル・サーキュラー』だ。初見でこれの対処は難しいはずなんだけど、紫は刀使という利点を使い一時的に防御力を上げる『金剛身』で塞いだ。

 

「単発は破れないか・・・・・なら、破れるまでぶち込む」

 

この戦いで攻撃や防御と言った戦闘系魔法は使えない。使えるのは身体強化などの補助系だ。ゆえに。

この場では各々の技術と技。そして駆け引きと先読みが必須となる。

すでに何合とも数え切れないほど剣を切り結んでる。

体術も組み合わせた剣術・体術複合でやってはいるが、さすがの一言に尽きる。

だから僕は今この状況で使える唯一の魔法(・・・・・・・・・・・・・・)を発動させる。

 

「───旋律(せんりつ)刻む戦慄(せんりつ)に。疾く翔け、舞い踊る。(てん)の陽と夜の月。巡る、廻る(めぐる)輪還(りんかん)に。陽は緋に。月は蒼に。願い奉る我が神明(しんめい)。理を越え、我が理想を追い求めん。響くは、祝福の音色。福音よ、()れ。破魔の極光。天照(ひかり)よ、顕現(いま)在れ」

 

「詠唱・・・・・・いや、祝詞だと?」

 

今の僕が出来る最高級の身体強化を発動。

 

「紫。これは貴女への敬意を称してだ」

 

目を閉じ双剣を地面に突き刺し詠う。

そして。

 

「いくよ───天照の神星束(アマテラス)!!」

 

終の言の葉を紡いだ。

足元に複雑怪奇な星型魔法陣が現れ、それは緋色に輝く。その光はお姉ちゃんの色だ。お姉ちゃんを表す緋色の輝き。

 

「───」

 

「紫、逝くよ?」

 

声に出さない驚きの紫に僕は目を開けて淡々と言う。

 

「───っ!!」

 

「───シューティングスター」

 

紫の反応出来ない速度で突進。紫の止まると同時にドウッ!と風が吹き荒れた。

 

「なっ・・・・・・!?なんだ今のは・・・・・・!」

 

「細剣突進ソードスキル『シューティングスター』」

 

恐る恐る背後を見てきた紫。

 

「これが今の僕の本気。紫。貴女に僕の全力をぶつける!」

 

「っ!」

 

そこから先は言葉を交わす必要はなかった。

緋色の閃光の軌跡を描き移動する。

瞬動と虚空瞬動を駆使し、ブーストをかける。

剣技連携に先読み、剣技増幅とうを行使。

けど、今の僕がこの状態。『天照の神星束』を維持できるのは後一分。つまり六十秒。この六十秒は一秒たりとも無駄にはできない。

 

「(思考を加速させろ。相手の挙動を。動きの一手一手を見ろ)」

 

カウンターを食らっても空中で体制を整え、背後の壁を足の力場にしさらに加速。

致命傷以外は最低限を防御。

 

「ヴォーパル・ストライクっ!!」

 

魔力の込めない剣技だけで放つ。

 

「!攻撃特化だと!?」

 

『ヴォーパル・ストライク』からの連携剣技。

 

「っ!な、なんて速さだ・・・・・・!」

 

「(あと四十五秒!)」

 

急制動して方向転換。

双剣を絶え間なく振るう。

 

「はああっ!!」

 

「せああっ!!」

 

もはや人智を超えた戦いとなる。

足払いを上に避け回転して切り払う。

目で追えない剣も多く勘で避ける。

視野を広く。状況を把握。

 

「「───っ!!!!」」

 

互いの衝突により同時に後ろに押し戻される。

 

「ぐはっ!」

 

「かハッ!」

 

「まだだ!!」

 

「こちらもだ!」

 

『白庭』を紫目掛けて投げつけ、それを追随するように駆け付ける。投げつけた『白庭』を紫は悠々に弾く。弾かれた『白庭』は空を舞う。

その間に接近し『黒聖』で切り結ぶ。

 

「ふっ!」

 

クルクルと回って落ちて来た『白庭』を左手で掴み振り下ろす。

 

「はぁっ!!」

 

土煙が巻き起こり視界が潰れる。

けどそれがどうした?基本魔法戦闘においてこんな目くらましなど序の口。そして、基本相手を視認しなければ放てない魔法に有効な土煙などの妨害に今更僕がどうのこうのする訳がない。

それは紫もだろう。熟練の剣士にとって土煙などの目潰しは意味をなさない。そしてそれは僕の知り合いでもあるシグナムや騎士シャッハ。ゼストさん達も同様。

そのまま土煙の中に突っ込み。

 

「───っ!」

 

「───しっ!」

 

剣戟の奏でる金属音だけが何をやってるのか周囲に伝える。その剣戟による剣風で土煙は晴れる。

 

「(あと三十・・・・・・!)」

 

残り制限三十秒。

ここで畳み掛ける。

 

「これで・・・・・・!」

 

双剣を構え、一瞬で懐に潜り。

 

「おおおおぉぉぉっ!!」

 

剣技連携を発動させる。

剣技連携の一番のメリットは、繋げる度にその次の剣技の威力と速度が増幅するという事だ。

ゆえに。

 

「っ────!」

 

片手剣のソードスキルと天陽流を左右交互に。そして二刀流を組み合わせて放つ。これだけで既に連撃数は十五連を超えている。

 

「(残り二十秒!)」

 

弾かれても大きくブレさえしなければ。

 

「幾らでも軌道修正できる!!!甘く見るな!!」

 

足裏に魔力で作った力場を簡易的に作り、虚空瞬動で爆発的に加速する。

 

「はあああああっ!!───スターバースト・ストリーム!!」

 

すでに連撃数は五十を超え、威力と速度は元の2.5倍近い勢いになっている。

 

「(残り十五秒!)」

 

アインクラッド流二刀流上位ソードスキル『スターバースト・ストリーム』を五秒も掛からずに全十六連撃を放ち。

 

「まだだ!おおぉぉっ!!───ジ・イクリプス!!」

 

さらなる二刀流最上位ソードスキル『ジ・イクリプス』を繰り出す。太陽コロナを彷彿させる勢いの全二十七連撃。

 

「(あと十秒!)おおおおぉぉぉっ!!」

 

舞い踊るように。全力で。全てをかけて。

一撃一撃を。

 

「(まだ。あと少し!)」

 

ラスト一撃その瞬間。

 

「───え・・・・・・?」

 

急に身体の力が抜けたような気がした。

それのせいなのか、その一撃の威力と速度は今までの物にならないほど遅く。

 

「せあああああっ!」

 

最後の突きを跳ね上げその空いたがら空きの腹部に紫の一撃が直撃した。それもこの上ないほどのクリーンヒットがだ。

「───!!かハッ!」

 

肺の中の空気が一気に吐き出される。

カウンターでヒットしたその一撃は背後の壁へと吹き飛ばされ、壁に直撃した。

そして。

 

「ハッ!───あ、天ノ宮零夜戦闘不能!よって勝者、折神紫!!」

 

審判である朱音さんのコールが響いたのだった。

 

~零夜side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Outer side~

 

「うそ・・・・・・零夜が負けた・・・・・・?」

 

「そんな・・・・・・」

 

零夜が負けたことに呆然とするなのはたち。

それは当然だ。彼女たちにとって天ノ宮零夜という人物は最強の剣士にして魔導士なのだ。いくら攻撃や防御魔法を使えない条件とはいえまさか負けるとは思わなかったのだ。

 

「お、お兄ちゃんが・・・・・・」

 

「れ、零夜くん・・・・・・」

 

家族である姉妹達。聖良と澪奈は唖然として吹き飛ばされた零夜を見る。

 

「やっぱり、条件付きの戦闘では零夜くんはキツイですかね」

 

「うーん。でも、なんか最後の攻撃零夜くんも予想外って顔していたね」

 

「マスターの魔力が底尽きかけてます。恐らく先程のは常時魔力を放出しているタイプの身体強化なのかと」

 

「・・・・・・紅葉ちゃんの言葉が正解よ」

 

夜月が紅葉の言葉を引き継いで言う。

 

「さっきのアレは普通の身体強化の数十倍から数百倍にまで上げる魔法。そして、あれはレイくんだけ使える最後の奥の手」

 

「?どういうこと?」

 

「アレはさっきみたいな戦闘に向いてない。本来の扱いは周囲の魔力残滓を吸収して放出っていう一種のエネルギー循環システムみたいな感じなの。けど、今のは魔法を全く使ってないから、レイくん自身の魔力を放出してそれを吸収っていう滅茶苦茶強引なやり方で発動させた」

 

夜月の言う通り零夜の『天照の神星束』は今のような戦闘には不向きだ。しかし何故零夜がそれを使用したのか。それを知っているのは夜月や凛華たち一部だけだ。

やがて零夜が吹き飛ばされたところから。

 

 

 

『ケホッ!コホッ!コホッ!あぁーーあ。負けちゃったかぁー』

 

 

 

女の子の声(・・・・・)が響いた。

 

「「「「「え!?」」」」」

 

その声音にその場の全員が驚く。

何故なら。

 

 

 

『いやー。まさかあそこで魔力不足で効果が切れるなんてなぁ・・・・・・。もうちょっと調整しないとダメだね』

 

 

 

その声は零夜が居る。場所から聞こえるのだから。

 

「ま、まさか・・・・・・!!?」

 

慌てる夜月たち。

その場の全員がその声の聞こえるところに視線を向けると、そこから。

 

 

 

『けど、いい戦いだったよ紫』

 

 

 

一人の少女が姿を現した。

両手に黒と白の双剣を携え、黒衣のバリアジャケットを羽織って。

 

 

 

『ん?あれ、みんなどうしたの?』

 

 

 

唖然としてる全員を見る少女。

やがて、自分の姿に気づき。

 

 

 

『あーー。なるほどね』

 

 

 

苦笑して納得する。

 

 

 

『えーと・・・・・・。ゴメン夜月、しばらくこの姿みたい。どうにかできる?』

 

 

 

その数秒後。

 

「「「「「どちら様ァァァァァァ!!!?!?」」」」」

 

その場にいた事情を知る人以外全員の悲鳴が響き渡ったのだった。

 

 

〜Outer side out〜

 

 

 

 

 



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この剣と魔法(邂逅の思い出)は忘れずに。そして新たなる序章

 

〜零夜side〜

 

「あははは。いやー、まさか今これが来るなんて思わなかったよー」

 

「・・・・・・そろそろだと思ってましたけど、まさかこのタイミングでとは・・・・・・」

 

「すっかり懸念してましたわ・・・・・・」

 

あははは、と苦笑する僕に頭に手を置いて痛恨のミスとでも言うような表情を出す凛華と星夜。

何故ならこんな会話をしているのかと言うと―――

 

「れ、れ、れれれれ―――」

 

「零夜くんが女の子になってるぅぅぅ!?!?」

 

「あ、あれ?零夜さんは男の子ですわよね真希さん」

 

「あ、ああ。い、いや、男の娘だったか?あ、あれ?」

 

「此花さん獅童さん落ち着いてください。彼は確かに男の娘です」

 

「おい、男の子が男の娘になってないか?いや、あながち間違いではないんだが・・・・・・」

 

というわけである。

現に刀使勢は困惑している。現在進行形で。しかも滅茶苦茶動揺してまでもいる。

 

「レイくん。仮装行列(パレード)は使えないの?」

 

夜月がそう聞いてくる。

確かに仮装行列なら何とかなるかもだけど。

 

「あー。ゴメン、今魔力が足りなすぎて仮装行列使えない」

 

「まあ、仮装行列って魔力喰うからね」

 

そう。仮装行列は一応それなりの魔力を喰うのだが、何時もなら大した問題ではない。のだが、今は体力や魔力不足など色んな問題があって使用不可である。というか、この状態だとどうも上手く魔力が練れない。まあ、女の子の身体っていうのが未だに慣れないからだと思うけど。いや、慣れたら慣れたらでそれはなんというかかなり・・・・・・・いや、結構、複雑な気持ちだけどね?

未だに両手に黒と白の双剣。『黒聖』と『白庭』を携えているのを、軽く左右に振って背中の鞘に戻す。パちんっ!と納刀された音が小さく鳴る。

 

「うーん、何時までもバリアジャケットって訳には行かないかな?」

 

右手の指をパちんっ!と鳴らして魔力で編んだ服を展開する。

 

「ふむ。お姉ちゃんたちの服をモデルにしてみたけど・・・・・・なんか落ち着かないね。まあ、動きやすいからいいかな」

 

構築した服は白と銀をまじ合わせた華美な装飾もないシンプルな落ち着いた服だ。

 

「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」

 

「―――もう何でもアリだな・・・・・・」

 

「だな」

 

そんな会話が耳に入る。そこに。

 

『もしもし零夜くん?今いいですか?』

 

「あれ、鞠亜?どうしたの?」

 

突然空間ウインドウが開きそこから上空で滞空している《フラクシナス》の管理制御AIの一人、鞠亜が写った。

 

『はい。実は、三十分ほど前に管理局へ通じる次元路に発生していた次元渦が終息しました。何時でも本局へ帰還できます』

 

「予想よりも速いね?予測だと明日に収まる感じだったけど」

 

『ええ。ですので予定はどうしますか?』

 

「んーーー。ちょっと待ってて」

 

鞠亜にそう言うと、僕はなのはたちに何時でも帰還出来るということを話した。

 

「―――予想より早いわね?あたしも零夜と同予測だったのに」

 

「でも、私たちの夏休みも後二週間程しかないし、あまり長居は・・・・・・」

 

「それにお母さんたちも心配してるよね」

 

「そうやなぁ。クライドさんがいるとは言っても、ここに居るんは子供と言われてもしゃあない歳やからなあ」

 

「いや、僕らは子供でしょ・・・・・・」

 

「・・・・・・普通の子供は一部隊を率いたりはしないよ」

 

「でもいきなりってのは・・・・・・」

 

「うん。刀使のみなさんにちゃんとお別れとかしないと」

 

いきなりの事に少し困惑するなのはたち。

 

「・・・・・・鞠亜、出立までどのくらい時間掛かりそう?」

 

『そうですね・・・・・・。今からですと、基礎魔力輪還装置(ベーシック・マギリックシステム)を全て稼働さたり次元路への障壁を張ったりとかあるので二時間ですね』

 

「また次元渦が出る可能性は?」

 

『現在の確率は10%以下です。ですが、次元渦は突発的なものが多いので・・・・・・』

 

「ふむ・・・・・・。なら、帰還は明日の朝ぐらいにしようか」

 

『分かりました。では、そのように手配しますね』

 

「お願いね。あ、クライドさんに、この後はフリーで大丈夫って伝えといて」

 

『了解です!こっちも私と鞠奈だけでも大丈夫なので言っておきますね』

 

空間ウインドウを消しなのはたちにこの後について説明する。

 

「レイくん、私は別にいいけどレイくん大丈夫なの?」

 

「なにが?」

 

「いや、だってそろそろ本線じゃないのアレの?」

 

「あー。まあ、なんとかなるでしょ」

 

「そう言えば零夜、あの大会に管理局の代表としていつの間にか登録されてたんだっけ?」

 

「そういやそうやったなぁ。でもまあ、零夜くんなら大丈夫やないか?」

 

「とういうより相手の方が可哀想に思えてくるよ?」

 

「まあ、幾らか制限受けてるし大丈夫でしょ。それに、ミゼットさんからは同年代の魔法技術を観てきても欲しいって言われてるしね」

 

「それ単純に仕事じゃない」

 

クスッと笑いあいながら紫たちへと向かい明日帰還することを伝える。

 

「―――そうか・・・・・・」

 

「はい」

 

「具体的には明日の何時ほどなのでしょう?」

 

「明日の午前10時に出立する予定です。できれば人目の避けたところで」

 

フラクシナスへの内部にはいるためにはフラクシナスから直接による転移や自身が転移魔法を発動させるしかない。一応転移ではない直接入ることも可能だが、それは本局の次元航行艦着艦所出なければならない。故に基本的にフラクシナスへの出入りは転移によるものなのだ。

そして、フラクシナスへの転移は何処かに止まっていなければ出来ない。いや、正確には移動してる相手に直接転移も出来るのだけど、リスクが大きい。現に架空幻想シュミレーションシステムを使ってやってみた所、まあ・・・・・・なんだ、あれだね。さすがに危険ということで余程のことが無い限りは禁止、となった。

ま、まあ、僕や夜月は普通にそんなことも出来ちゃうんだけどね。

とまあ、そんなこんなでこの後はレッツ・フリーターイム☆

みんなそれぞれ各地に。この世界の鎌倉周辺へと出掛けて行った。

そして僕はと言うと。

 

 

「―――ふうん。明日帰るの」

 

「ああ」

 

「そう。私はこの世界から出れないからね。この間言ったように任せるわ」

 

「分かってるよ、トヨタマヒメ」

 

トヨタマヒメの居城である空間にいた。

あの後僕は本局のミゼットさんに帰還する旨を報告。事後処理などを済ませ、地上に降りトヨタマヒメの空間へと入った場所に来た。

来るなり空間が開き、そこに入ると前回とは違って草木の広がる草原に豪邸。とは言えないが立派な家が存在した。そして草原のある一角でその場所の主である彼女が優雅にお茶を飲んで座っていた。その光景に唖然としながらも苦笑しトヨタマヒメの向かいに座り、予め用意されていたお茶を飲み会話しだしたのだ。

 

「ところでこの場所は?」

 

正直いってここまでの穏やかな楽園など、現実にはないだろう。いや、探せばあるかもしれないけどそんなの両の指で数えるくらいだろう。

 

「ああ。此処は私が基本暮らしてる空間よ。現世と幽世の狭間の空間かしらね」

 

「ここに居るのってトヨタマヒメだけ?」

 

「ええ。基本は私だけね。まあ羽切と天雲も一緒に過ごしていたけどね」

 

「なるほどね。そう言えば、あの二人とは何処で出会ったの?」

 

「そうねぇー。今から何百年前になるのかしら・・・・・・・もう1000年くらい前かしらね」

 

「1000年!?」

 

まさかの年数に僕はギョっとした。

 

「【私】という存在には初めから、他の荒魂とは違って【悪意】という存在がなかった」

 

「【悪意】がなかった?」

 

「そう。現世(むこう)にもいるでしょ?長い時間を掛けて荒魂の悪意を祓い清め、悪意というものを無くし守護獣として共に生きる家が」

 

「益子家・・・・・・・」

 

「ええ。あの子はヒトが長い時間を掛けて浄化した。けど、私の場合はその必要すらなかった。私が産まれたのは今からもう1000年以上前かしらね」

 

思い懐かしむようにトヨタマヒメは語り始める。

それは彼女の歴史。ヒトでもなく、荒魂でもない、トヨタマヒメという存在の存在した証。

 

「私が生まれた時代。現代で言うところの古墳時代の少し後辺りかしらね。その時代には荒魂は全く現世に現れなかったわ。現れるようになったのは・・・・・・・・・確か平安時代の辺り、だったかしらね。

平安時代、荒魂はほんのごく稀に発生していた。当時の人々は荒魂のことを怨霊や悪霊、悪鬼って呼んでたわ。ごく稀に出現したとしても、当時の人にとっては脅威でしかない。それも当然ね。攻撃が効かないのだから。投げ石や槍、剣。当時も今もね。でも、それでも戦う人はいた。それが、今《刀使》と呼ばれている【祓い清め】戦い人々を守る巫女。戦巫女たち。そして・・・・・・陰陽術師」

 

「陰陽術師?」

 

「そう。今の時代では廃れてしまった、過去の遺物にして遺産。そしてひとの手による奇跡・・・・・・。けど、その血筋は今でも受け継がれている。折神や益子、柊、安桜といった戦巫女の家系や、奇跡を引き出した陰陽術師の血筋を引く者が・・・・・・」

 

トヨタマヒメは過去を振り返るように語る。

 

「彼女たちを観た時は驚いたね。あの当時の巫女に似ていたから」

 

クスッと笑みを浮かべる。

確かに世界には同じ顔の人が三人はいるって言うし、過去に紫たちと同じ人が居てもおかしくないよね。

 

「荒魂が何時の時代からいるのかは分からない。けど、少なくともその当時の荒魂はヒトが間接的に関わっている」

 

「?どういうこと?」

 

「荒魂は刀使が使う御刀から切り離されて出来たと言われてるわ。なら、【私達】はなに?・・・・・・この世界にはヒトの住む《現世》と、その裏側の私たちの住む《幽世》。そしてその間にある現世と幽世を繋ぐ空間、《次元の狭間》。この空間は丁度その次元の狭間にあるわ。故にいかなる干渉も受けない。私が認めた者以外は、ね」

 

確かにこの空間に入る際、別空間に入る時と同じような揺らぎを体感した。それは慣れ親しんだ次元転移だ。

 

「話を戻すわね。けどその少しした後、とある人間が古びた剣を見つけた。その人間は剣を再生させようと、あらゆる事をした。普通の刀と同じようにしてみたがそれでも再生せず。打っても全く変化がなく、ね。しかし、その人間は研ぎ師の性なのかしらね。数年後、古びた剣は神聖を帯びた神刀へと変わった」

 

「まさか、それが御刀?」

 

「そう。それ以降、日本のあちこちでそれと同等の古びた剣。いえ、刀が幾つか見つかった。それと同時期に荒魂の出現数が飛躍的に上がった。けど、まぁ・・・・・・・馬鹿な国はどこにも居るわね。現に米国のせいで20年前はタギツヒメが臨界したんだから」

 

ホント余計なことをしてくれたものよ、とトヨタマヒメは若干怒りを含ませて言った。

それには僕も同意するけど。米国政府が余計なことしなければあんな悲劇は起こらなかったし、年の瀬の災厄に至るまでの

 

「そして今に至るわ。タギツヒメに関しては彼女たちに感謝してるわ。もっとも、最悪の場合は私自らがあの子を封滅するつもりだったのだけどね」

 

「ははは・・・・・・・」

 

「ところで気になってたんだけど・・・・・・」

 

「ん?」

 

「―――なんで女の子なの?キミ女の子だったけ?」

 

「今ごろぉ!!?」

 

唐突の質問に僕は立ち上がってツッコミを入れた。

いや、それ最初に聞く質問だよね!?

そう思いつつトヨタマヒメに事情を説明する。説明するとトヨタマヒメは苦笑しながら納得してくれた。

 

「厄介な体質(?)ね」

 

「あははは。ま、まあ、慣れればいいんだけどね。いや、慣れちゃダメなんだけど・・・・・・」

 

苦笑を浮かべながら横目で言いつつ紅茶を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃現世では―――

 

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

「二人とも何時までむくれてるんですの?」

 

「「だってぇー・・・・・・」」

 

「あははは。聖良ちゃんと澪奈ちゃんは本当に零夜くんが好きなんだね」

 

「「当然!!」」

 

「はぁー・・・・・・ブラコンここに極まりやね」

 

「ま、いつもの事だからたいして気にしないけど」

 

「アリサちゃんそんな言い方はダメだよぉ・・・・・・」

 

「にゃははは」

 

「あーあ。もっと戦いたかったなぁ」

 

「私も!私ももっと剣を合わせたかったな」

 

「こっちはこっちで剣術バカが・・・・・・」

 

零夜を除いたみんなが話していた。

そんなか、零夜大好き妹二人の聖良と澪奈はむすーっと可愛らしく頬を膨らませていた。

何故なら、二人とも兄である零夜と一緒に居たかったからである。家族にして最愛の兄との触れ合いが減っているからかなのか絶賛不機嫌なのだ。

 

「なら、この後満足するまでレイくんとやるって言うのはどうかな二人とも?」

 

剣術バカと言われた可奈美と結芽に夜月が人差し指を立てて言う。

 

「聖良ちゃんと澪奈ちゃんはレイくんが戻ってきたら・・・・・・ね」

 

さらに聖良と澪奈にもイタズラな笑みを浮べて告げる。

それを見た聖良と澪奈はパァ、と嬉しそうに笑みを浮かべ可奈美と結芽は今すぐにでも戦いそうな顔をした。

 

「零夜が今女の子の姿なのだけど、忘れてないかしら・・・・・・」

 

アリサのその呟きは周りの耳には入らず消えた。

女の子の姿の零夜は戦闘能力がガクンと下がるのだ。だが、それでもアリサたちを相手取っても全く問題ないくらいの戦闘能力は備えているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次元の狭間の住処

 

 

 

現世でそんな会話がされてるなど露知らず、僕はトヨタマヒメと軽く剣の打ち合わせをしていた。

 

「はアッ!」

 

「ふっ!」

 

キンッ!キンッ!と金属音が響き、それに伴うように僕とトヨタマヒメの覇気が小さく伝わる。

 

「せやアッ!!」

 

アインクラッド流細剣ソードスキル《スター・スプラッシュ》八連から《カドラプル・ペイン》四連。《オーバーラジェーション》十連。片手剣ソードスキル《サベージ・フルクラム》四連、《ノヴァ・アセンション》十連。と細剣と片手剣のソードスキルを組み合わせて連携を紡ぐ。

 

「隙だらけよ!」

 

「―――っ!」

 

下からの貫手に剣が手から離れる。けど。

 

「僕の武器は剣だけじゃないよ!―――術式解放(エーミッタム)、断罪の剣!」

 

両手から魔力で構築展開し具現化させた【断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)双剣(ツイン)】を握る。

 

「それは知ってる―――よっ!」

 

対するトヨタマヒメも自身の周囲に幾重にも刀を現出しその内の二振りの柄を握る。

 

「そっちがそれならこっちも!」

 

トヨタマヒメの真似をして僕も周囲に剣を魔力で構築して編み出し周囲に突き立てる。

 

「「いくよ!!」」

 

同時に地を蹴り接近する。

近接戦闘音がなり、時折パキンっ!と剣が砕かれる音が響くが僕らはすぐに近くにある剣を手に取り、絶え間ない剣と剣のぶつかり合いをする。

 

「はアッ!」

 

「せやアッ!!」

 

魔法に拳に剣。ありとあらゆる物で互いを口撃する。

(ちなみにこれは模擬戦である)

そんなこんなで模擬戦とも言えぬ模擬戦が終了し―――

 

 

「―――調整はどう?」

 

「うん。ありがとう助かったよ。なんとかこのカラダでも戦闘出来るように慣れたよ」

 

元の私服(女子Ver)を着て同じく私服を着てるトヨタマヒメに感謝する。

やはり男子の時と女子の時とでは体感や魔力操作、筋肉の付き方など・・・・・・・違いがありその感覚のズレを慣れるためにトヨタマヒメと模擬戦をしていたのだ。(攻防魔法有り、身体強化魔法有り、剣技有りの模擬戦とも言えぬ模擬戦ではあるが)

 

「そう?よかったわ。幾らこの空間が時間の進みを遅くできるとは言っても現実世界ではもう二時間近く経ってるからね」

 

「あー、もうそんなに経ってたんだ」

 

自分の体感時間ではまだ1時間弱しか経っていないと思っていたのだけどかなり時間が経っていたらしい。

そろそろ戻らないと妹たちが嫉妬しそうだ。(澪奈と聖良)

各方面にも協力のお礼や挨拶もしないといけないから急がないといけない。

 

「あ、そうだトヨタマヒメ」

 

「ん?」

 

「はい」

 

「―――?これは?」

 

「僕と連絡出来る通信機。一応周囲のエレメントがバッテリーだから故障したりはしないと思う」

 

「へぇ。―――ありがとう、何かあったら連絡させてもらうわ」

 

「うん」

 

簡単な説明書も付属してあるから大丈夫だろう。

 

「さてと、それじゃあ―――」

 

トヨタマヒメが右手を上げ突き出すとその場に緋色の鳥居が顕現した。

 

「この鳥居(ゲート)を出れば元の現実空間に帰れるわ」

 

「分かった。色々ありがとう、トヨタマヒメ」

 

「ええ。零夜・・・・・・・・・・あの子たちをお願いね」

 

「ああ。任せて!」

 

ハイタッチをし、パァン!といい音が鳴り僕はトヨタマヒメが顕現した緋色の鳥居を潜った。数秒後僕はトヨタマヒメの居城空間から現実空間へと戻ってきていた。

 

「さてと―――それじゃあ・・・・・・行くか」

 

私服の白銀のロングカーディガンをたなびかせながら僕はその場から立ち去った。その光景をそよ風に吹かれて草木だけが観ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時刻別の異世界で――――――

 

 

 

 

『―――対象を発見し次第撃て、対象の生死は問わん!』

 

『―――こちら・・・・・・対象を発見。森林地帯を北北西に移動』

 

『―――了解。必ず始末しろ!』

 

『『『―――YES』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はぁ・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・!こんな所で殺られる訳には・・・・・・!誰かに・・・伝えないと・・・・・・!このままじゃ・・・・・・!」

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・に、兄様・・・・・・」

 

「大丈夫か■■■」

 

「は、はい・・・・・・」

 

「・・・・・・っ!(なんとかして■■■だけでも何処か別の世界に・・・・・・!」

 

「兄様、あの人は大丈夫でしょうか・・・・・・」

 

「・・・・・・分からない。上手く逃げてくれてるといいんだけど・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・!兄様、あれ!」

 

「?あ、あれは!?まさか・・・・・・!」

 

「引きずり込まれる!兄様!」

 

「■■■絶対に手を離すなよ!―――お願いっ!□□□□□□□!!」

 

「兄様!!きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

 

 

 

 

悲鳴をあげ、二人はこの世界から消えていった。

その場から跡形も残らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

「―――数日の間、お世話になりました」

 

「いえ、こちらこそ色々助けていただきありがとうございました」

 

鎌府女学院の駐車場で僕たちはこの世界で関わった人たちに最後の挨拶をしていた。(一応来れることは来れるけど、また来れるかは分からないからね。まあ、僕は多次元転移術式が使えるけど)

僕が朱音さんと話す中、なのはたちは可奈美たちと話していた。

 

「零夜、ノロのことは―――」

 

「ええ。分かってます。必ず、僕らが・・・殲滅、抹消、消滅させます」

 

「頼む」

 

紫の懇願に僕も力強く返す。

この世界のモノが他世界で振るわれるのは良くない。下手をすれば最悪その世界の破滅へと繋がる。

だからこそ他世界のモノを他世界へと流出させるのは重罪なのだ。

拳を固く握り紫に誓うと。

 

「ねーねー。最後私ともう一回戦ってくれなぁい?」

 

「結芽・・・・・・」

 

結芽が御刀を握り締めながら言ってきた。

昨日五十戦くらいしたつもりなんだけどね。(ちなみに可奈美たちともやって合計百戦近くやっていたりする)

 

「結芽、まだ言うのかい?」

 

「だって真希おねーさんたちとは何時でも戦えるけど、零夜くんとはこれで最後になるのかもしれないんだよ・・・?それに零夜くんに私という存在を刻み付けておきたいの・・・・・・。そうじゃないと私が居なくなったら・・・・・・・」

 

「結芽・・・・・・」

 

結芽の言葉に僕は言葉を亡くす。以前、獅童さんから聞いたことがあった。結芽がなんであんなに勝負するのに固執するのか。僕も結芽との勝負は楽しいし嬉しいからよかったけど。

獅童さんから聞いたのは結芽の過去。それを聞いた時、なんて過酷な。なんて残酷な運命を与えたんだろうって神を。結芽にそんな呪いのような運命を与えたモノに殺意を抱いた。

 

「結芽大丈夫。もう僕の中に結芽はしっかり、刻み込まれてるから」

 

「え・・・・・・?」

 

「忘れない・・・・・・。忘れるはずがないよ。結芽を」

 

今の僕の歳は11。結芽は13。2歳差だ。

けど、それがどうした?前世も含めると僕の年齢は20歳を越してる。だが、そんなのはどうでもいい。僕は目の前にいる儚い少女を決して忘れることは無い。いくら時が経ってもそれは変わらない。そしてそれはこの場にいる全員に当てはまる。

僕の魔法は『僕に関わりのある人たちとの繋がりと思い出』が根源だ。

名は―――『思霊相乗魔法(アストラル・スピリットマギア)』。

繋がりを思えば思うほど強くなる。これは誰にも言ってない僕の秘密だ。だって恥ずかしいしね。

だから忘れない。忘れることは無いのだ。

 

「約束しよう」

 

「約束?」

 

「うん。また、思う存分戦うことを」

 

「そんな日が来るの?」

 

「来るよ。絶対ね。今僕たちは『生きている』だから未来がある。ね」

 

「・・・・・・分かった。じゃあ―――」

 

右手の小指と小指を合わせ

 

「指切りげんまん、嘘ついたら滅多斬りにすーるよ!!」

 

「怖っ!?」

 

結芽の言葉にビクッと震え上がった。だって眼が本気なんだもん。

 

「ふ、ふふふっ。あはははははっ!!これじゃあ、あはは・・・、破れないね」

 

目尻に浮かんだ笑い涙を拭いつつ笑顔で言う。

 

「ああ。約束だよ」

 

「うん」

 

「「また、何時か、必ず!」」

 

パァン!とハイタッチする大きな音が響き僕らは約束した。

その後それに便乗して可奈美も約束してきたから三人の約束になった。この光景をみんなは微笑ましそうに見ていたことを忘れない。

そして―――

 

「それじゃあ皆さん!」

 

「「「「「ありがとうございました!!」」」」」

 

お礼を言うと同時に僕たち魔導師組を中心に大きな魔法陣が描かれ、頭上に滞空していたフラクシナスへと繋がりその場から転移しフラクシナス内部へと帰還した。

帰還して艦長席に着くなり、

 

「鞠亜、鞠奈。帰還するよ!」

 

『了解しました』

 

『了解〜』

 

管理AIである二人に指示をする。

 

『本局帰還予定時刻は現時刻から約五時間半後です』

 

「了解。みんな、いい?」

 

僕の問いにみんなは頷き返し、凛華たちはそれぞれの席に。クライドさんは僕の隣に立つ。

 

「それじゃあ―――特務0課フラクシナス、時空管理局へと帰還する!!」

 

その言葉と同時に僕たちはこの世界の地球から去った。

 

 

〜零夜side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜結芽side〜

 

 

「―――行ったな・・・・・・」

 

零夜くんたちが目の前から転移の魔法とかで居なくなってから暫くして紫さまが一言言った。

頭上を見上げても何も無いが、さっきまでは、そこに、確かに何かがあった。多分周囲の風景に同化させて視覚出来ないようにしていたんだと思う。

 

「結芽・・・・・・」

 

「真希おねーさん・・・・・・」

 

「行ってしまいましたわね」

 

「ええ」

 

「寿々花おねーさん・・・・・・夜見おねーさん・・・・・・」

 

私のおねーさんの三人。紫さまはおねーさんというよりお母さんにちかいかも。それは、相楽学長もかな。

私を捨てたあの人たちのことはもうどうでもいいと思う。今の私の居場所は、この紫さまやおねーさん達がいるところだから。

 

「大丈夫だよ結芽ちゃん。約束したんだから、必ずまた会えるよ」

 

「可奈美そんな安易に会えるもんでは無いだろう彼らには」

 

「そうだな。アイツらはオレたちとは違う世界で生きてるからな。この世界に来たのも例のロストロギアってヤツの回収任務だろう?」

 

「そうですネ。私たちの間に噂されてたドッペルゲンガー騒動も、そもそもそのロストロギアが原因だったようですし」

 

「・・・・・・けど、なんでそんなのが出たのかな」

 

「さあな。けど、これで取り敢えずはドッペル問題は解決した」

 

「ドッペル問題って・・・・・・」

 

なんとも言えない空気が辺りを覆った。

そこに。

 

「ん?わたしだ。―――ああ、分かった」

 

真庭本部長に連絡が来た。

 

「お前たち。悪いが、早速任務だ」

 

荒魂発生報告らしい。

 

「首都近郊の山岳地帯に荒魂が大量発生したらしい。アイツらが居なくなって戦力不足だとは思うが、一部を除いて全員出動してくれ」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

「特務隊も全員出動だ。現地指揮は獅童、お前に頼む。補佐は柳瀬だ」

 

「分かりました」

 

「はい!」

 

おねーさんたちが張り切る中、私は一人ぼおっとしていた。

戦えるのは嬉しいし楽しい。みんなに私の強さを見せつけられるから。けど、何故か分からないけど、今の私にはぽっかりと穴が空いた感じになっていた。多分、零夜くんという私より強い剣士と会えないからだと思う。

私のそんな心情を察したのかもう一つの自分でもある御刀の鍔に付けたストラップ。イチゴ大福ネコがもう一つの小さなイチゴ大福ネコとともにチリンと鈴の音が鳴る。

 

「結芽ちゃーん!行くよー!!」

 

「あ、うん!」

 

千鳥のおねーさんに返事をしてみんなの後をついて行く。

愛刀である『にっかり青江』と二つのイチゴ大福ネコともに。そして、ポケットに最後に撮ったみんなの集合写真を入れて。

また、あの強い剣士に会える事を思って、私は駆けて行った。

 

〜結芽side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後

 

 

 

『これより、インターミドル・チャンピオンシップ都市本戦第一試合を始めます!組み合わせはこの二人!!片や、ミッドチルダ出身の拳士(ファイター)、ルオン・イリゼリット選手!!ルオン選手はこれまでの試合全てを一ラウンドで制してる今大会の優勝候補の一人です!前回のインターミドルでは都市本線ベスト4の成績を残してます。

そして、そのルオン選手の相手はこの人!!若干10歳で時空管理局特務三佐の地位を得、史上初めての戦星級魔導師の称号を持ち、現時空管理局最強の魔導師として活躍中の魔導師!!《規格外》、《魔王》、《星皇》等など様々な二つ名が通ってる、管理外世界地球出身の魔導師!!天ノ宮零夜選手!!天ノ宮選手は初参加ながら全試合もルオン選手同様一ラウンド最短で制してます!さらに!彼の背中の双剣を両方とも抜かした選手は未だにいません!』

 

 

「・・・・・・始めよう」

 

 

『それでは両者位置について。―――READY・・・・・・FIGHT!!!』

 

 

「―――術式解放(エーミッタム)奈落の業火(インケンディウム・ゲヘナへ)!and、白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!!魔法融合(コネクティブ)。合体魔法―――炎業迅雷(アルヴァーナ)白華(フラン)!!!」

 

 

「ナニッ!?」

 

 

『・・・・・・・・・・・え、え??ハッ!―――し、試合終了!?しょ、勝者、天ノ宮零夜!!試合時間僅か、じゅっ、18秒!?』

 

 

「よし」

 

 

『強いっ!速いっ!しかも魔法融合という一部の者しか扱えない超高等技法による一撃で相手をダウンッ!!?こ、これが現時空管理局最強と言われる魔導師の実力の一端なのかぁぁぁぁっ!!!??』

 

 

 

 

「あははは・・・・・・・。―――やりすぎよーレイくん・・・・・・」

 

 

 

 



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while Time
IMCS(インターミドル・チャンピオンシップ)


 

〜零夜side〜

 

「―――以上が事の顛末と報告になります」

 

「なるほど・・・・・・。ご苦労様でした。本来なら誰か大人が着かなければならないのですが、あなた達に色々とさせてしまいましたね・・・・・・・」

 

「いえ。クライドさんが補佐してくれたのでなんとかなりました」

 

「そうですか・・・・・・」

 

刀使の世界から本局に帰還した僕は帰還後、直属上司であるミゼット統幕議長に事後報告を直接していた。

丁度その場にはミゼットさんの他にラルゴ元帥にレオーネ相談役と、管理局の最重要重鎮三人が揃っていたのである。

 

「・・・・・・ミゼット」

 

「なんですかラルゴ?」

 

「いやだな、我々が彼を任じたのもあるが・・・・・・」

 

「さすがに、この成果は・・・・・・・」

 

「―――常軌を逸してると?」

 

「ああ。いや、正直研究会の上位三翼の序列一位と遭遇して五体満足でいること自体が可笑しいんだが・・・・・・・10歳でだぞ?」

 

「今更でしょう?」

 

「(なんだろう。褒められてない)」

 

目の前の上司の会話に僕は目を遠くにやる。

 

「まあ、それは置いといて」

 

「(置いとくんかい・・・・・・!)」

 

心の中でで色々なことにツッコミを入れる。

 

「何時までも立ち話はなんです。零夜くんも座ってください」

 

「あ。えっと・・・・・・し、失礼します」

 

礼をしてミゼットさんの目の前の椅子に座る。

 

「ここから先は業務連絡ではなく、我々個人の話し合いです」

 

「へ?」

 

ミゼットさんの言葉に呆気に取られていると。

 

「零夜よ、数日後にはIMCS(インターミドル・チャンピオンシップ)都市本戦じゃが自信の方はどうじゃ?」

 

「大丈夫ですレオーネ相談役」

 

「ホッホっ。我々だけの時はレオーネで良いと言っておるのじゃがのぉ」

 

「あははは・・・・・・」

 

「油断はせぬようにな。手加減はしたら即負ける」

 

「ラルゴ元帥・・・・・・」

 

「そうじゃな。管理局に所属せんでも優秀な魔導師や騎士は星の数ほどいる。油断しておったら足元を救われるぞい」

 

「はい。なので初戦はチカラを見せつける為にも速攻で終わらせるつもりです」

 

「ほう」

 

「具体的にはどうするつもりなのです零夜くん?」

 

「はい。まずは術式を瞬間構築展開して複合魔法で倒します。さすがに死にはしないと思います。アレで防がれるので。ですが、速攻な為反撃はほぼほぼ無理かと。もちろんこれは初戦のみ有効です。二回戦からは速攻KOは不可能に近いですね。もちろん、相手の技量にもよりますけど」

 

「ちなみにだけど・・・・・・なにを複合するつもりだい?」

 

「上位魔法の炎系統と雷系統ですね。それによって科学反応の過負荷を発生させます」

 

「「「え、マジで?」」」

 

「え?」

 

正気かこの子とでも言いそうな表情に僕は怪訝をうかべる。

このくらい普通だと思うけど。でもかなり手は抜いてると思う。

 

「う、うん。まあ、頑張ってください」

 

「?はい」

 

その後日々の日常生活の話しやらをした。

その感覚は孫の話を聞いているお祖母ちゃんお祖父ちゃんのようだと他の人が見たら言うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

「うわぁー。すごい人の数だね」

 

「お姉ちゃん、あまりはしゃがないでよ・・・・・・」

 

「だって、私の大切なれー君の晴れ舞台だもの!これが落ち着いていられないよ〜!」

 

ミットチルダ中央区の総合格闘技大会、『インターミドル・チャンピオンシップ』が行われる会場に来ていた。

家族全員で。

 

「そう言えば明莉、昨日何を作っていたの?」

 

そうここには家族全員の名の通り、女神である明莉お姉ちゃんたちも勢揃いしているのだ!

知智お姉ちゃんが明莉お姉ちゃんのに問い掛ける。

明莉お姉ちゃんは少し大きめなバックを肩に下げている。

 

「零夜くんの戦闘装束は零夜くんの魔力によって構築されてるでしょ?だ・か・ら〜!!」

 

ムフフと笑みを浮かべると、明莉お姉ちゃんはバックから何かを取り出し・・・・・・・・・・・・・・・た。え?

バックから取り出されたものを見て思わず思考停止が数秒発生する。

 

「じゃじゃーん!!」

 

取り出されたものは学校の運動会などの行事で使われるような横断幕だった。

しかもご丁寧に(あか)い色で『零夜くんファイト〜!』と書かれていた。これはなんて言うか――――――

 

「・・・・・・恥ずい」

 

「・・・・・・恥ずいわ」

 

「・・・・・・恥ずいわね」

 

「・・・・・・恥ずかしいね」

 

「・・・・・・は、恥ずかしいかも」

 

である。

明莉お姉ちゃん以外全員の意見が一致した瞬間である。

 

「か、過保護も程々にしなさいよって月詠(ツクヨミ)に言われてなかった!?」

 

「あははは・・・・・・。この間、草須堺(スサノオ)にも呆れられてたわよね?」

 

「あー、こんな姉さんは見たことないって言ってたね」

 

「そう言えば月詠(つくよ)草須堺(そうすけ)の二人に零夜くんが申し訳なさそうに頭を下げていたわね」

 

「ま、まあ、天界じゃあんな真面目に率いていた明莉が実はブラコンって知ればね」

 

「実弟の草須堺も知らなかったみたいだし・・・・・・いや、実弟だからこそ出来なかったってのもある?人の目もあるし?」

 

「月詠に関しては零夜くんを溺愛してたわね」

 

「やっぱり姉妹」

 

「にしてもなんか他の神々や天使(わたしたち)下界(こっち)に来すぎてない?」

 

「あー、この間は焰羽(ミカエル)が来てたし、その前は聖火(ヘスティア)弓月(アルテミス)を尋ねてきてたし」

 

「うーん。あまりこの世界に影響がないといいんだけど」

 

姉たちの会話に僕は声に出さずに、既にある意味では影響があるとツッコんだ。

主に加護的な意味で。

現に僕や夜月の戦闘能力は日々ランクアップしてる。

しかも上限知らずだ。今もし僕らが本気も本気の、マジ戦闘を繰り広げたら次元断層を軽ーく引き起こせそうな気がする。ちなみに星一つ木っ端微塵にはならないけど、それに近いくらいはなるかもしれない。余波影響で。

そんなこんなで時は進み、観戦に来たなのは達とも合流。そこに一組の男女がやってきた。二人ともに首からスタッフの印を下げている。

 

「失礼致します。天ノ宮零夜様でよろしいでしょうか?」

 

「はい、そうですけど?」

 

「失礼致しました。私たち二人、当大会で零夜様のサポートをさせていただきます」

 

「そうですか」

 

「はい。では、零夜様はこちらへ。控え室の方にご案内致します。セコンドの方は・・・・・・」

 

「あ。夜月、凛華、美咲お姉ちゃんお願い」

 

「OK〜」

 

「はい!」

 

「了解だよ」

 

「では他の方はこちらのスタッフの後に着いて行ってください」

 

スタッフについて行き、控え室に着く。

 

「あの、それと申し上げにくいのですが」

 

着いて中に入るなり、畏まったように言うスタッフに怪訝の表情を浮かべる。

 

「零夜様には、お願いとして戦略級はまだしも、戦略級より上の魔法・・・・・・星戦級は使わないように何卒お願い致します!」

 

「へ?」

 

言われる迄もなく使うつもりは無かったのだが、唐突の言葉に思わず変な声が出た。

 

「ミゼット様から話は伺っておりますが何卒!!」

 

めっちゃ必死な懇願に僕達はえぇーー、となってしまった。

 

「あ、いや、あの、別に使わないので大丈夫ですよ?というか、そんな星戦級魔法を流石にここで使用する訳にはいかないので(というかそんなホイホイ使わねぇわ!一発撃つだけで魔力滅茶苦茶持ってかれるんだから!!)」

 

さすがの僕も呆れ答える。半分は心の中で言ったが。

その後、スタッフが出て行くなり、着ていた私服から戦闘装束である、黒衣のバリアジャケットを魔力変換によって素早く変える。

バリアジャケットに着替えるなり、異空間から二丁の銃型のデバイスと長剣型のデバイスを二振り取りだしそれぞれセットする。

さすがにここで『黒聖』や『白庭』は使わない。さらに特殊固有武装(アーティファクト)類も使わない。

 

「やっぱりそれを使うのね?」

 

「うん。さすがに凛華たちは使えないし・・・・・・・スペック面とかで」

 

美咲お姉ちゃんに凛華を見ながら言う。凛華は凛華でエヘンっと胸を張る。

 

「ま、まあ、凛華ちゃんたちを作製したのは明莉だものね」

 

明莉お姉ちゃんはこうなる事を見越していたのか、凛華たちのスペックは現存するどのデバイスよりもはるか上の性能を保持してる。あ、いや、単に天然なのかな?

明莉お姉ちゃんと過ごしてきて所々に天然が出ているのを知っているためそんな予感が走る。

それからしばらくして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――お待たせしました!!これよりインターミドル・チャンピオンシップ都市本戦を開幕致します!』

 

「準備は万端?」

 

都市本戦開幕一回戦の試合なためフィールドの袖で待機していると夜月が聞いてくる。

 

「もちろん」

 

服装や武装は控え室で変えたもので、黒衣のバリアジャケットに背中に二振りの長剣型デバイス。そしてジャケットの内側のホルスターには二丁の銃型デバイス。

黒衣のバリアジャケットのコート裾は膝丈まであり、ロングコートとなってる。

つまり、武装以外は何時もと同じだ。凛華たちならジャケットに若干の違いがでるけど。主に色で。

 

『―――それでは都市本戦開幕試合。第一回戦の選手の入場です!』

 

「さて・・・・・・行こうか」

 

アナウンスが聞こえると、僕はフィールドへと向かっていった。

フィールドに出ると観客席からは沢山の歓声の声が響く。

反対側からは僕らと同じように、対戦者がセコンドを伴って出てきた。

そしてほぼ同時に中央に設置されたフィールドに上がる。

 

「(相手の出で立ち、かなり熟練された武闘家だ。術式は多分近代ベルカ式。けど、ザフィーラや騎士シャッハに比べたらレベルは低いか?いや、油断は出来ないね。速攻でキメる)」

 

相手の姿勢、武装、服装などを観察して心に出す。

さすがにあの人たちと比べるのは練度が違うか。

 

『これより、IMCS(インターミドル・チャンピオンシップ)都市本戦第一試合を始めます!組み合わせはこの二人!!片や、ミッドチルダ出身の拳士(ファイター)、ルオン・イリゼリット選手!!ルオン選手はこれまでの試合全てを一ラウンドで制してる今大会の優勝候補の一人です!前回のインターミドルでは都市本線ベスト4の成績を残してます。

そして、そのルオン選手の相手はこの人!!若干10歳で時空管理局特務三佐の地位を得、史上初めての戦星級魔導師の称号を持ち、現時空管理局最強の魔導師として活躍中の魔導師!!《規格外》、《魔王》、《星皇》等など様々な二つ名が通ってる、管理外世界地球出身の魔導師!!天ノ宮零夜選手!!天ノ宮選手は初参加ながら全試合もルオン選手同様一ラウンド最短で制してます!さらに!彼の背中の双剣を両方とも抜かした選手は未だにいません』

 

実況者のかなり不本意な解説説明に苦笑いが出そうになるのを耐え、相手―――ルオン選手を視る。

 

「お手柔らかに。よろしく頼むよ」

 

「それは保証しかねますけど、よろしいお願いします。正々堂々、良い戦いを」

 

軽く挨拶を交わし。

 

「ふぅ・・・・・・始めよう」

 

それぞれ武装を展開し構える。

ルオン選手は両手にガントレット型のアームドデバイスを。僕は背中の剣も抜かず無手で、何時ものスタイルを。

 

『それでは両者位置について。―――READY・・・・・・FIGHT!!!』

 

やがて、カウントがゼロになるのと同時にルオン選手が飛び掛ってきた。

 

「ハアあぁぁっ!」

 

一瞬の内に間合いを詰められ、腹部に強烈な打撃を食らわせてくる。この間一秒。

が、それを受け流し。

 

「ぜりゃァっ!」

 

次々来るラッシュを捌き、見切り、受け流していき。

 

「よっと!」

 

「なッ!?―――クハッ!」

 

掴んだ右手を取って引き寄せカウンターの掌底を食らわせ距離を取らせ。

 

「準備完了」

 

足元に緋と白の魔法陣を構築展開し。

 

「―――術式解放(エーミッタム)奈落の業火(インケンディウム・ゲヘナへ)!and、白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!!」

 

発動術式を綴る。

無詠唱による速記術式(クィックスペル)二連。そして終術式の詠唱を繋げ。

 

魔法融合(コネクティブ)。合体魔法―――炎業迅雷(アルヴァーナ)白華(フラン)!!!」

 

高熱によって白き炎となった炎雷による攻撃。

中級クラス上位に入る炎系統と雷系統の複合魔法。

炎業迅雷(アルヴァーナ)白華(フラン)】。属性は炎と雷、そして光。

白華の名の通り、ルオン選手を中心に純白の焔の花園が次々に咲き誇り、雷電との連鎖反応により花火が発生した。

さすがに実戦使用は今回が初だが、結果はご覧の通り。

 

「ナニッ!?」

 

避けても避けても次々発生する焔の華についに捕えられ、ダメージ受け自身のライフポイントが物凄い勢いで削られ数秒後には。

 

『・・・・・・・・・・・え、え??ハッ!―――し、試合終了!?しょ、勝者、天ノ宮零夜!!試合時間僅か、じゅっ、18秒!?』

 

「よし」

 

『強いっ!速いっ!しかも魔法融合という一部の者しか扱えない超高等技法による一撃で相手をダウンッ!!?こ、これが現時空管理局最強と言われる魔導師の実力の一端なのかぁぁぁっ!!!??』

 

歓声と拍手が割れんばかりに響き、実況者も戸惑うような驚きを隠せずにいた。

 

『驚くべき事に天ノ宮選手!全くの無傷!しかも、背中の剣も抜かず、攻撃は無手によるカウンターと最後の魔法融合のみ!!これはとんでもない少年が出てきたァァァ!!!やはり時空管理局最強の名は伊達ではない!!!』

 

「あははは・・・・・・・。―――やりすぎよーレイくん・・・・・・」

 

実況者の声とともに小さく夜月の呆れ声が耳に入った。

まあ、確かにやり過ぎたかも。【炎業迅雷・白華】は。

でもまぁ、油断してやられるよりはいいよね?

そんなことを自問しながらルオン選手へと向かう。

 

「(彼の近接格闘術すごく良かった。的確に相手の急所を狙って来てたし、これにM・M式を組み込んだらどうなるのかな。いやぁー、凄いね!まさか一回戦から隠れた原石が見つかるなんて!!)」

 

どこかワクワクした様子で僕は歩く。

 

「(ルオン選手、ウチの課にスカウトしよう)」

 

そう決意して。

まずは第一候補で。

 

「対戦ありがとうルオン・イリゼリットさん」

 

「慰めはいらないよ。俺の完敗だ・・・・・・。まさか一撃も与えられずになるとはね」

 

差し出した手を掴みルオン選手は立ち上がりながら言う。

 

「いや、僕も危なかったよ。あなたの格闘術にはヒヤヒヤした。的確に急所を狙って来るからね」

 

「ははっ。それでもキミには当たらなかった。まだまだ世界は広いな」

 

「ルオンさん、よかったらウチの課に来ない?」

 

「?それはどういうことだい?」

 

「僕が率いてる部隊。特務0課にキミをスカウトしたい」

 

「!?キミには一撃も与えられなかったんだけど?」

 

「僕はあなたのその拳を気に入ったんだ。あなたのその武術、それをもっと色々な所で生かしてみない?」

 

「・・・・・・悪いけど、今は断らせてもらうよ」

 

しばしの沈黙の後、苦笑を浮かべながらルオン選手は断ってきた。

 

「魅力的だけど、今キミに甘えたら俺は納得出来ない。せめて、キミに一撃与えられるようなレベルにならないと」

 

「そっか・・・・・・。何時でも待ってるよルオン・イリゼリットさん」

 

「ルオンで構わないさ」

 

「なら僕のことも零夜で」

 

「そうか?なら、零夜。次キミと相見えるのは来年のIMCS(インターミドル・チャンピオンシップ)でかな?その時にはもっとレベルを上げとくよ」

 

「ええ。僕もレベルを上げとくよ」

 

「ははっ。キミにそれ以上上げられたら俺も追い掛けないとな」

 

「ふふ。そう簡単に追い越されてたまらないさ」

 

「それでこそ追い掛けがいがある。では、また次の舞台で会おう。我が好敵手よ」

 

「ああ。こちらこそ」

 

互いに握手をし、次への誓いを立て僕たちはリングを降りた。

次、僕とルオンが戦うのは来年のIMCS。楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが後の歴史に、特務0課所属にして《閃覇の魔拳(エクレール・フィスト)》と二つ名で呼ばれるルオン・イリゼリットとの最初の邂逅だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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零夜の嫁の座は誰のもの?―――って、皆まだ結婚できる歳じゃないよね!?

 

〜三人称side〜

 

ある休みの日の天ノ宮家

 

「―――さてさてさぁーて」

 

優雅に紅茶を飲みながら目を瞑って言うのは、零夜の実姉である天ノ宮愛奈美だ。

そしてその愛奈美の視線の先にいるのは、なのはにフェイト、はやて、アリシア、すずか、アリサ、夜月。と零夜関連の女子ばかりだ。

ちなみに愛奈美の向かいには同じく紅茶を飲んでる零夜の幼馴染である華蓮がいる。

そしそのすぐ近くにはデバイスから人型形態になってる凛華たちが一緒にいた。

ちなみにだが、なのはたちは―――

 

「はやてちゃんは兎も角として、あなた達・・・・・・私のれー君のこと好きでしょ?」

 

「「「「「「うグッ!!!」」」」」」

 

正座をしていた。

 

「あ、はやてちゃんは良いのよ?一回挨拶しているし、元々れー君のこと任せてたから。それにれー君、はやてちゃんのこと結構気にかけてるからね」

 

「そうねー。はやてと零夜はこの中で一番、結構な時間を一緒に居るみたいだからね」

 

「は、はい、そうです」

 

零夜の中から観ていた二人は目の前の子たちの零夜に対する気持ちを看破している。

というか、実際この二人自身がそうだったのである。

 

「愛奈美お姉ちゃん」

 

「なぁに、華蓮ちゃん?」

 

「私の中で零夜の嫁候補ランキング、一位はやてなんだけどどう?」

 

「あらあら奇遇ね。私もよ?はやてちゃんなられー君を任せられるわね。・・・・・・と言っても、それだとなのはちゃん達が可哀想なのよねー」

 

「だよねぇー」

 

まさかの姉公認にはやては石像のように固まった。

 

「(ま、まあ、愛奈美さんからあの時アインスと一緒にお願いされたけど、まさか零夜くんのお嫁さん候補でわ、私が一番やなんて)」

 

固まりながらも、はやての思考は高速で巡っていた。

だがしかし、その内面は全く隠されてなかった。現にはやての顔は湯気が出ているかのように真っ赤だ。

 

「あ、あのー」

 

「?どうしたのフェイトちゃん」

 

「いえ、その・・・・・・。零夜は今日どこに・・・・・・?」

 

「ああ。零夜なら今日は地下に篭もって新魔法の開発をしているわ」

 

「ま、また!?」

 

「ええぇ・・・・・・!?」

 

「まあ、最後の相手が彼だからね」

 

苦笑しつつ手元に展開した空間ウインドウにはIMCS(インターミドル・チャンピオンシップ)地区本戦の最後の試合。決勝戦の選手が表示されていた。片方はもちろん天ノ宮零夜と表記されており、もう片方にはクロノ・ハラオウンと書かれていた。

 

「まさか彼が出てるなんてね」

 

「なんでもリンディさんとレティ本部長が参加させたらしいよ?息抜き?とかで」

 

「それ逆に息抜き出来なくない?」

 

苦笑しながらも表記ウインドウを見る。

 

「クロノくんも確か今アレ持ってるんだっけ?」

 

「ええ。零夜が渡してたわね」

 

言っているアレというのはこの家の地下にもある『ダイオラマ球』である。

本当は無茶ばかりするクロノを休ませる目的でエイミィに渡してあるのだが、東京支部の職員にとっての憩いの場としても使われてる。

そこに。

 

『あ、お姉ちゃん?』

 

「あれ、れー君?どうしたの?」

 

地下にいるはずの零夜から通信が入った。

 

『ゴメン。緊急の呼び出しが入ったからちょっとミッドの方に行ってくるから』

 

「そうなの?わかったわ。気を付けてね」

 

『うん。あ、夜ご飯ってなにか決まってる?』

 

「まだだよー。何が食べたい?」

 

『お姉ちゃんが作ってくれた物なら何でもいいよ!』

 

「あらら。それじゃあ、から揚げとかにでもしようかしら」

 

『よしっ!夕飯までには帰ってくるから!』

 

「はーい。行ってらっしゃーい」

 

華蓮たちが口を挟む間もなくトントン拍子で進んでいく二人の会話。

その様子はさすが姉弟。

 

「・・・・・・相変わらずね愛奈美お姉ちゃん」

 

「あらあら。うふふふふ」

 

優雅に微笑みながら、妖艶にティーカップに口をつける愛奈美。

その光景を見たなのはたちは零夜の姉だなぁと心の中に浮かべた。

そして、その頃転移した零夜はというと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜零夜side〜

 

ミッドチルダ中央区

 

 

「はぁ。さっさと終わらせようっと」

 

詳細情報を流し読みし。

 

「・・・・・・建物の中の人数は25。内5人は質量兵器持ち。魔導士は10人か。残りは人質・・・・・・。厄介だなぁ。極力無害化させるには、拘束魔法で捕らえるのが鉄則だけど」

 

情報では敵ははぐれ魔導士で、質量兵器持ちらしい。気配を確認した所、高レベルの魔導士3人に質量兵器持ちがいる。ランクは最高でB+って所だろう。

まあ、質量兵器なら使えないようにすればいい。幸いにも質量兵器封じの魔法は幾らかある。

今回の質量兵器は銃火器類。なら。

 

「―――凍焔(フリーズ・ブレイズ)黒華(ノクティス)

 

これで充分だ。

指定範囲凍結。

 

「さてと―――突入するので邪魔しないで下さいね」

 

背後で待機している局員に言って、内部へと転移する。

転移するなり、

 

魔法の射手(サギタマギカ)連弾(セリエス)風鎖の矢(アエリアース)

 

その場にいたはぐれ魔導士を魔法の射手の捕縛バージョンで捕らえる。

 

「「「なっ!?」」」

 

「あと7人」

 

すでに発動させていた身体強化によって自己加速術式を発動。さらに断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)を現出して右手に。瞬く間に他の場所にいた6人を捕らえる。

 

「あとひとり・・・・・・」

 

最後のひとりは恐らくコイツらの親玉だろう。そして、そいつがランクB+の魔導士という事になる。

 

「最上階か」

 

ゆっくり歩き階段を登り上に行く。

最上階に着くと。

 

「ほう。ひとりか」

 

こちらに背を向けた男が居た。

 

「下にいたあなたの手下は全員捕縛しました。無駄な抵抗は止めてその場に投降しなさい」

 

右手の断罪の剣の切っ先を向けて告げる。

 

「ふむ。まさか管理局最強の魔導士に相手貰えるとは。面白い」

 

「時間がもったいないのでさっさと捕らえます」

 

投降する様子が無いので問答無用で攻撃する。

 

「せっかちだなぁ」

 

「っ!?」

 

牽制攻撃ではなった連槍をいつの間にか躱し背後にいた事に目を見張り瞬時に距離をとる。

 

「今のは・・・・・・瞬動!?」

 

「これが出来るのはキミたちだけではない。それにひとつ言おう。私は彼らなどどうでもいい。ただの手駒だ」

 

「何!?」

 

「そしてもうひとつ。キミは私のランクを確認違えている」

 

男は耳に付けていたイヤリングらしきものを外した。

その瞬間、男から魔力量が溢れたのがわかった。

 

「魔力隠蔽!?」

 

最初はB+だったのに今はA++クラスになってる。

 

「魔力隠蔽などという魔導具、ただのはぐれ魔導士が持ってる訳ない。あなたの背後(バック)に誰がいる?」

 

「教えてどうする?意味が無いだろう?」

 

「そうだな。あなたを捕まえれば問題ない。捕まえた後すべてを謳ってもらいましょう!」

 

「ふっ。できるものならな!私の名はディミトリア・グェーリル」

 

「時空管理局特務0課、天ノ宮零夜。参ります!」

 

瞬動をして懐に潜り込み魔力込みの掌底。

しかし眼前に出された質量兵器。拳銃を見てすぐさま手順を変える。この間五秒。手順変更にはおよそコンマ五秒。

拳銃の射線をずらし。

 

「―――風花・武装解除(フランス・エクサルマティオー)!」

 

拳銃を持つ手元に武装解除魔法を放つ。

武装解除魔法によって強風が発生し拳銃が手元から離れる。

 

「チッ!」

 

舌打ちとともにディミトリアは下がる。

手元から離れた拳銃を左手に掴み、銃身をディミトリアに向け何時でも放てるようにする。

 

「ベレッタ92・・・・・・だと?」

 

拳銃の銃身に表示される名に眉を寄せる。

【ベレッタ92】よくアニメとかで使用される物だ。実際僕もこれをモデルとしてデバイスを創った。

最初、確認できた質量兵器は5。だが、これで6だ。恐らく隠蔽魔法によって知覚できないようにしていたんだろう。

だが、それを抜きにしても。

 

「(妙に手に馴染む)」

 

このベレッタ92。握ったのもつい今さっきだと言うのに何故か手にしっくりとくる。

 

「ほう。まさか武装解除が使えるとは」

 

「これ、どこで手に入れたの?」

 

「さてな」

 

「なら、捕らえて無理矢理唄わせよう!」

 

ディミトリアから奪った、情報強化した左手のベレッタ92で弾丸を放つ。

 

「っ!弾丸を情報強化しただと!?」

 

「こんくらいなら何時もやってる事だからね!」

 

連続で三発放つ。その何れも情報強化+属性強化を加えた弾丸だ。

情報強化など何時も戦闘でやってる。

 

「ふんっ!そんな使い始めたばかりの武装でよくそんな芸当を」

 

「ああ、確かに使い始めたばかりだよ。けど、これは僕に馴染む。まるで長年付き添ってきた相棒みたいだ」

 

「なに?」

 

「ベレッタ92の装弾数は15発。今4発撃ったから残りは約10発かな」

 

ベレッタ92を見ながら右手に断罪の剣、左手にベレッタ。と片手剣片手銃のスタイルを取る。

しかし。

 

「けど、悪いけどこのベレッタは仕舞っておこう。代わりにこっちを使う」

 

自分の異空間に仕舞い、そこから拳銃型デバイスを取り出した。

 

「行くよ、ディミトリア・グェーリル!」

 

デバイスの引き金を引き、魔法陣を構築展開する。

 

「ふん!」

 

ディミトリアの手元には槍型のデバイスが握られていた。

 

「それがあなたのデバイスか」

 

「ディアヴォロス、いくぞ」

 

刹那の間にぶつかる。

そこから槍と銃剣による接近戦が行われる。

狭い空間では上手く獲物が振り回されないからか窓を突き破り外に出るディミトリア。

 

「逃がさない!」

 

空へと上がる僕に地上から待機していた局員から通信が入る。

 

『天ノ宮特務官!?何事ですか!』

 

「残り一人を追跡交戦中。陸士103は中に入って拘束されてる魔導士の確保。人質救出後、人質はすぐに病院へ搬送。人質の護衛は陸士107が」

 

『了解!直ちに実行します』

 

通信を切りディミトリアへと雷の矢を飛ばす。

槍と剣をぶつけながら魔法戦闘を行い。

 

音撃(ゴスペル)!」

 

振動反響魔法を放つ。

距離に制限がない為、どこからでも放てる。

 

「うグッ!」

 

「音撃!音撃!」

 

「ガハッ!かハッ!」

 

避けることがまず不可能なためあまり使いたくないんだけど、はぐれ魔導士なら躊躇う必要は無い。

ブン殴られるように身体が揺れるディミトリア。

まず最初に三管器官を酔わせ、音の暴力を振るう。

 

「捕らえろ!―――戒めの楔(レージング)!」

 

捕縛系統魔法を放ちディミトリアを捕らえようとする。

しかし。

 

「――――――」

 

「ナニッ!?」

 

その鎖は何かに弾かれたように消えた。

 

「今のはまさか魔法消波(マジックミュート)?!管理局やいろんな世界の魔法研究者や魔導士が詮索して、いまだに理論だけで実用化できずにいる技術!?それを生身で使いこなしてるの!?」

 

「私の魔法特性は反滅(リクレクト)。任意の魔法を逆位相の魔力をぶつけて阻害する。そのため私にそのような魔法は効かない。ただし、この魔法にも欠点があってな。先程のような魔法には効かないのだ。そのため、この魔法は未だ未完成だ。だが、あの程度ならば問題ない」

 

「なるほどネ・・・・・・なら、対処はできる!」

 

逆位相の魔力をぶつけて阻害するなら、さらにその逆位相の魔力をぶつければいい。

もしくは逆位相出来ないほどの魔法を行使すればいい。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!―――魔法の射手(サギタマギカ)連弾(セリエス)雷の150矢(フルグラーキス)!――――――来たれ雷精、風の精!!雷を纏いて、吹きすさべ、南洋の嵐!!雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」

 

連続詠唱を行いディミトリアを攻撃する。

逆位相を行使するにはその魔力を丁度同じくしなければならない。力量にもよるだろうけど、これは逆位相の魔力をぶつけても相殺できない!

 

「ちっ!」

 

「逃がすかぁァァァ!!―――封縛の鎖錠(グレイプニル)!」

 

紫の。ベルカ式に似た三角の魔法陣から紫の鎖を射出。

ディミトリアを捕縛しようと三鎖の紫鎖がディミトリアへと迫る。

 

「悪いけど、この封縛の鎖状は防げないよ」

 

封縛の鎖状は魔法無効果の効果を付与されてる、僕の持つ捕縛系最上位の捕縛魔法だ。いや、正確には封緘魔法の一種。

 

「なっ!厄介な!」

 

「逃げられないよ!この封縛の鎖状は相手を捕らえるまで追い掛ける!」

 

「おのれぇっ!ならば!」

 

「?」

 

隠者の静煙(ハーミット・オブ・フォグロール)

 

魔法陣を展開し魔法名を言うと同時に、ディミトリアの魔力と気配を探知出来なくなった。

 

「っ!?魔力反応に気配消滅?!」

 

空間転移とも違う、遮断系魔法。それもかなり高位の魔法だ。

注意深く周囲を探っていると、どこかからか声が響いた。

 

「また、どこかで会おう。天ノ宮零夜!」

 

「っ!!ディミトリア・グェーリル!!」

 

全方位に封縛の鎖状を飛ばすが反応は無く、完全に消えたようだった。

 

「くそっ!なんで最近こういう輩が多いの!?」

 

首魁を取り逃す。逃げられたのは最近多い。何故か僕が担当するのに限ってだ。

 

「いやな感じだ。なんか探られてる気がする」

 

背筋に寒気が走るような感じに僕は1人呟く。

周辺の索敵を行い、反応が無いのを確認して僕は他の局員が待機している場所に転移する。

待機場所に行くと、すでに自己処理が行われようとしていた。

 

「!天ノ宮特務官!」

 

「お疲れ。ごめん、首謀者を逃した」

 

「いえ、恐らく我々では相手にならなかったでしょう」

 

「だろうね。ヤツとの戦闘は最低Aランクでもなければ無理だ」

 

「は、はっきり言いますね・・・・・・・」

 

「あ、気に触ったならゴメン。戦闘に関しては正直にいうタイプだから」

 

「いえ・・・・・・」

 

そこから事後処理などをして、家に転移した。

家に転移してリビングに入ると―――

 

「―――なにしてるのお姉ちゃん?」

 

満足顔で胸を張っている我が実姉がいた。

そしてその前にはなのはたちがいる。

―――何故かメイド服を着て。

 

「お姉ちゃん、なんでなのはたちメイド服着てるの・・・・・・?」

 

「あ、おかえり〜、レーくん〜!」

 

いつもの様にスキンシップで抱き着いてくるお姉ちゃんに苦笑しつつ、お姉ちゃんに聞く。

いや、昔からお姉ちゃんこうだし。もう慣れた。

 

「うん。ただいま。それで、なんでメイド服?」

 

「あ、それはね〜。いま、レーくんのお嫁さんを決めることしてるの」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

 

お姉ちゃんの言葉に僕はポカンとなる。

お嫁さんって、結婚相手ってことだよね?はい?え?なんで?

頭がこんがらがる状況の中、お姉ちゃんは楽しそうになのはたちに話し掛け、それを少し離れたところから紅茶を優雅に飲んでいる華蓮。その華蓮も何故かメイド服を着てる。

 

「華蓮、これどういう状況?」

 

向かいに座って華蓮に訪ねる。

 

「見ての通り。愛奈美お姉ちゃんの暴走。そして、いつもの通り、私も楽しんでる」

 

「うん、わかりやすい解説ありがとう!」

 

詰まるところ、お姉ちゃんの悪いクセが出たということだな。うん。

 

「はぁー」

 

我が実姉ながらさすがにため息が出るほどだ。

そんな僕を他所に。

 

「ねぇねぇレーくん!」

 

「なにお姉ちゃん―――って、なんでお姉ちゃんもメイド服着てるのさ!?」

 

「ふふーん!どう!?可愛い?」

 

「うん。可愛いよ」

 

疲れた表情と声で返す。

 

「やった!」

 

「お姉ちゃん、お願いだから暴走しないでね?」

 

「分かってるよー。」

 

お姉ちゃんの返事に僕と華蓮は、絶対分かってない。ってかもう暴走してるから無理か。ともう慣れた感じで心の中でツッコんだ。

 

「さぁー!なのはちゃんたち!次々行くよーー!!」

 

そう言ってなのはたちに向かうお姉ちゃんに、僕はなのはたちへと黙祷を返した。

うん。頑張ってくれ、みんな・・・・・・!!

現在進行形で楽しそうにしてるお姉ちゃんを見て、そう切に願う僕であった。

 

 



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零夜VSクロノ

 

〜零夜side〜

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

『―――只今より、IMCS(インターミドル・チャンピオンシップ)都市本戦決勝を始めます!』

 

大会アナウンスが響く中、僕は目の前にいる親友に声をかける。

 

「来たね―――クロノ!」

 

「まさかこんな大きな大会で君と戦えるなんてな。零夜」

 

目の前にいるのは年上の親友クロノだ。

クロノの装備は、まさにフル装備と言わんばかりだ。

そしてそれは僕もで。

 

「それは僕もだよクロノ」

 

バリアジャケットは何時もの黒のロングコート。背中には双剣。コートの中のホルダーには二丁拳銃デバイス。まさにフル装備だ。まあ、凛華たちは使えないけど。

 

「―――思い返せばクロノと本気(マジ)の戦いはしてなかったよね」

 

「そうか?二年前のあの時は割とマジだっただろ?」

 

「ああ。あの時はね。―――けど、一対一での戦いはない。そうだろ?」

 

「そうだな」

 

二年前の闇の書事件の時、確かに僕とクロノは戦ったけどあれは本気じゃなかったしね。

 

「僕も全力で逝く。だからクロノ。キミも、キミの持てる力すべてを出して僕に掛かって来い!!」

 

「ふっ。ああ!そのつもりだ零夜!!」

 

互いに拳を前に突き出して言う。

クロノが相手だ。手加減なんか出来ない。いや、寧ろ全力でやる。

 

『今回決勝に進んだのはこの二人!!!片や、ミッドチルダ出身の時空管理局の若き執務官。現在は支局長を務めるクロノ・ハラオウン選手!!ハラオウン選手はこれまでの試合を危なげなく制しています!さすが現役の執務官といえます!そして、そのハラオウン選手の相手はもちろんこの人!!第一回戦のルオン選手との試合をたったの数秒で終わらせた、同じく時空管理局の魔導師!!《規格外》、《魔王》、《星皇》等など様々な異名が通ってる、管理外世界地球出身の魔導師!!天ノ宮零夜選手!!天ノ宮選手これまでの全試合もルオン選手同様、最短最速で制してます!さぁらぁにっ!!彼の背中の双剣を両方とも抜かした選手は未だにっ!!今大会の現時点ではいないっ!!ハラオウン選手とどう戦うのか期待が高まります!!なお、二人とも年は離れてはいますが親友同士らしく、この決勝は親友決戦ともいえます!!』

 

「親友決戦か」

 

「言い得て妙だネ」

 

「だな」

 

クスッと互いに苦笑し。

 

『両者スタンバイを!!』

 

アナウンスを聞き僕とクロノは構える。

 

『それでは、IMCS都市本戦決勝!―――開始!!』

 

開始の合図とともに。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!」

 

「リ・アルヴァ・エルアスト・リヴィライズ!」

 

同時に起動(キー)を唱える。

 

「来たれ雷精!集いきたりて、敵を貫け!」

 

「来たれ氷精!集いきたりて、敵を穿て!」

 

連槍(コンテンス)雷の投槍(トニトゥルス)×56!」

 

連槍(コンテンス)氷槍の投閃(フロストレイ)×56!』

 

同時に紡がれた詠唱により、同時に魔法が発動。

二種の魔法の槍が僕らの中間でぶつかっていく。

その間にも僕とクロノは絶え間なく詠唱をする。

 

「来たれ水精、爆ぜよ風精!」

 

「来たれ氷精、爆ぜよ風精!」

 

水爆(フース・カースス)!」

 

氷爆(ニウィス・カースス)!」

 

互いの領域に水と氷による爆散が起こり、僕とクロノをそれぞれ襲う。余波だけでも凄まじく、観客席にまで旋風が届いている。

だが僕らはそれらを視界にすら収めず、ただひたすら相手を視る。

 

「行くよクロノ!」

 

「ああ!零夜!」

 

互いの獲物を手に加速する。

僕は片手剣、クロノは槍を。

今の段階での全開。僕もクロノも全くもって全力じゃない。

だが、それでもこの戦いはほとんどの人から目を見張るものだろう。もっとも、武に優れてる人は違うだろうけど。

切り裂き、突き、体術。自分の持ちゆる全ての技能を使う。

 

「っ!バーチカル・スクエア!!」

 

縦切り四連のソードスキルを発動する。

高速で振られた四撃をクロノは受け流して躱してカウンターを繰り出す。

 

「はあっ!!」

 

連続突きをギリギリのところで捌き後方に下がる。

 

「ブースト!アクセル!」

 

自己強化・加速術式を発動させ着地と同時に地を蹴り加速する。

 

「っぐ!!」

 

槍の柄で突きを受け止めその勢いを利用して距離をとるクロノ。

 

『す、凄まじい戦いだ!!両者一歩も譲らない!!』

 

解説のそんな声が耳に入る。

だが、そんなの雑音だ。

次々と次の一手を考える。

 

「はアッ!」

 

鋭く突進してきたクロノの突きを障壁で防ぐが、真後ろの観客席の前に貼られる障壁にまで飛ばされる。

だが、障壁に脚をつけて逆にその勢いを利用してクロノに接近する。

 

「ちっ!」

 

「ぜりゃあっ!!」

 

神速もかと言うほどの速度で接近しクロノと鍔迫り合う。

そこから高速の接近戦。

片手剣と細剣(レイピア)、両手剣のスキルを駆使して戦う。

制限付きとはいえ、こうしてクロノと真っ向から戦えるのは心湧き踊る。

 

「ははっ!」

 

「ふふっ!」

 

僕とクロノは自然と笑みが漏れでる。

強烈な一撃を互いに浴び、僕とクロノはそれぞれ反対側へ滑った。

 

「は、ははは。あっははははははっ!!!」

 

「ふ、ふふふ。ははははははっ!!!」

 

互いに手を止め高々と笑う。

 

『ど、どうしたのでしょうか。天ノ宮選手とハラオウン選手。急に笑い始めました』

 

解説者の困惑した声と動揺が感じられる。

それは観客もで、一部を除き解説者と同じだった。

 

「いやぁ・・・・・・。楽しいねクロノ」

 

「そうだな」

 

「そろそろ全力でやろうか?」

 

「奇遇だな。僕もそう言おうとしていたところだ」

 

互いに肩を竦めて言い。

 

「零夜」

 

「ん?」

 

「本気でコイ」

 

「ああ・・・・・・そのつもりだよ」

 

僕は左手を背中のもう片方の剣に持っていき。

 

「キミ相手に手加減なんか出来ないからね!!!」

 

勢いよく抜刀し、いつもの戦闘態勢(スタイル)を取る。

 

『つ、ついに天ノ宮選手が二本目の剣を抜いたぁぁぁっ!!』

 

解説者の興奮した声と観客の歓声が響く。

 

「いくよ、クロノ!」

 

「来い!零夜!!」

 

「・・・・・・っ!」

 

瞬動で一瞬で距離を詰め。

 

「はあっ!」

 

クロノへ二刀流を振るう。

 

「っぎ!」

 

右突きからのコンマ一秒後に回転して右上からの左薙ぎ。

 

「っち!ダブル・サーキュラーか!」

 

「正解っ!続けていくよ!」

 

挨拶がわりのダブル・サーキュラーから流れるように様々なソードスキルを繋げていく。

『シャイン・サーキュラー』から『インフェルノ・レイド』、『カウントレス・スパイク』、『バーチカル・スクエア』、『サベージ・フルクラム』、『カドラプル・ペイン』、『オーバーラジェーション』、『ヴァルキュリー・ナイツ』、『デットリー・シンズ』、『ナイトメア・レイン』と。絶え間なく様々な分野のソードスキルが縦横無尽にクロノへ襲いかかる。

 

剣技連携(スキル・コネクト)の多重使用か!」

 

「そっ!結構疲れるけどね!」

 

基本僕が使うソードスキルは二刀流、片手剣、細剣の三種だ。

もちろん、両手剣や短剣、槍といったのも使うがやはり多く使うのは上の三種になる。

 

「さぁ~らぁ~にぃ~!!」

 

クロノの槍の一突きを上に避け。

 

「降り注げ、冰蒼の煉槍!幾千の滴となりて穿け!―――風雪の千槍!」

 

「なっ!?」

 

幾千の氷の槍が上空に現れる。

 

氷槍弾雨(ヤクレーティオ・グランディニス)に風属性を追加したオリジナルだよ!」

 

そう言うと同時に雨のようにクロノへと幾千の氷の槍雨が降り注いだ。

 

「まだまだ行くよクロノ!!」

 

そのまま上空から千変万化の魔法を発動させる。

 

「め、滅茶苦茶だなおいっ!?」

 

「クロノ相手に手加減なんか出来ないからね〜!」

 

「こっのっ!たたき落とす!」

 

「物騒だネ!?」

 

障壁で防ぎ、タイミングを見極めて避けるクロノ。

さすが、伊達に僕のライバルの一人じゃない。

 

「お返しだ零夜!」

 

今度はクロノが僕を囲むように周囲に蒼白い刃を現出させた。

 

「うおっ!」

 

「スティンガーブレイド!!エクスキューションシフト!!全刃掃射(フルバレット)!!!」

 

刃の弾丸が僕へと襲い掛かる。

 

「っく!術式解放(エーミッタム)―――時空の揺籃(クロノ・プレジディム)逆刻の反戟(リフレクトタイム)!!」

 

瞬時に周囲を囲むように時空魔法の障壁で防ぐ。

しかしその障壁のスキをついて飛んでくる蒼刃があった。

 

「なっ!?」

 

「零夜、そのカウンター魔法は一見最強クラスに見えるが弱点がある!」

 

「!」

 

「まず、一度カウンターした場所は次にカウンターするまでラグがあるということ。次に、全方位からの多段攻撃に弱いこと。そして、一点集中した箇所は脆いということだ!!」

 

「ぐっ!」

 

瞬時に術式の維持を破棄し空間転移でその場から離脱する。

 

「無駄だよ!その魔法はキミの魔力を追い掛ける!」

 

転移して瞬間に蒼刃による雨が僕を襲う。

確かにこれでは幾ら躱しても無駄だ。

なら。

 

「なら、すべて破壊しちゃえばいいよね?」

 

「なにっ?」

 

「―――音撃(ゴスペル)

 

一つの魔法がたった一言で放たれる。

鐘楼の鐘の音が響き、それだけで襲い掛かってきた蒼刃が崩れ消える。

 

「っ!?」

 

音撃(ゴスペル)音撃(ゴスペル)音撃(ゴスペル)

 

立て続けに三連。

音撃の三撃を放ち、周囲に浮かぶ蒼刃を消滅させる。

 

「振動反響魔法《音撃》。音とは、空気や物体の振動によって伝わり感じとれるものだ。僕らは常に音のある中で暮らしてる。 『聞こえる音』の普通の音から、『人間には聞こえない音』の高周波の音。僕らの生きている周りには必ず音が存在する。ヒトが不快に感じ取る音を『騒音』と言うけど、その感じ方の度合いはヒトそれぞれ違う。そしてこの音撃は音の塊をただぶつける単純な魔法だ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

僕の話にクロノも、解説者も、観客も静かになる。

 

「けど、音ゆえに射程距離というものは無く、不可視の為避けるのは先ず不可能。まあ、これの対処は幾つかあるけどね」

 

対処の仕方は僕の視界に入らないこと。視界に捕えられなければどんな魔法も相手にぶつけることは困難だ。もっともこれは簡単だろう。

次は『揺らぎを感じる』こと。風で炎が靡くのと同じ感じだ。どんな魔法でも、発動前には揺らぎがある。

次に感覚。魔法は魔力を使う。故に、魔力の流れを感知し対策を練る。けど、これは普通は難しい。なにせ、音撃は単純な魔法物理なのだから。

そして、第六感。

僕の話にしんと静かになる。

けど、その空気を破ったのがいた。

 

「は、ははっ。あはははははははははっ!!!!」

 

クロノだ。

大きな声で笑い僕を見る。

 

「いいね零夜!!確かにその魔法も一種の最強クラスだ!どんだけ僕を驚かせてくれるんだいキミは!!」

 

いつもの冷静沈着のクロノにしては珍しいくらい笑う。

 

「なら、僕もキミ相手に僕の全力を見せよう!!」

 

そう言うと、デバイスの槍をもうひとつ取り出した。

 

「っ!?」

 

「デュランダル、起動」

 

久しぶりにみたクロノのもう一振の槍【デュランダル】。

デュランダルは氷属性の魔法が組み込まれている。超注意が必要だ。

 

「デュランダルか。もしかして、エタコフィでも使う気?」

 

「エタコフィって・・・・・・エターナル・コフィンを変な風に略すな!てかんなの使わんわ!」

 

「おお、クロノのナイスツッコミ!」

 

「バカにしてるのかい!?」

 

「いや全然全く。微塵も」

 

「イラッ」

 

頬を引き攣らせて苛立ちを隠せずにいるクロノ。

うん、懐かしい。この感じは。

 

「ったく。キミと言うやつは・・・・・・」

 

「あははは。それが僕だからね」

 

「やれやれ」

 

「それで?デュランダルを出したわけは?」

 

「簡単さ。キミに見せてあげる。僕が君を倒すために編み出した魔法を!」

 

そう言うとクロノは右手のS2Uと左手のデュランダルを交差させ。

 

「我、今ここに門を開く者」

 

なにかの詠唱を始めた。

 

「幻想は永遠に。全てを凍てつかせる絶対零度。氷期は彼方に。来よ、氷結の王。光なき闇の彼方へ。大気に満ちし極寒の息吹、我に祝福を!悠久なる凍土、凍てつく世界の内にて、終わりなき氷国へ疾く誘おう!!」

 

「っ!!」

 

クロノから発せられる巨大な魔力に後ろず去る。

そして、クロノから最後の一文が発せられた。

 

永久なる氷碧晶の世界(エターナル・ダイヤモンドグラウス)!!」

 

最後の言葉が発せられるとクロノを中心に魔法陣が形成され会場全体を覆い眩い光が発した。

思わず目を覆い、次に目を開けるとそこは白銀に輝く氷雪の世界だった。

 

「こ、これは・・・・・・!?まさか!?」

 

会場からの転移ではない。ステージはちゃんとある。

ただ、世界(・・)が変わった。

 

「零夜、これが僕の最強にして最大の魔法」

 

目の前にクロノが現れる。

両手にデバイスの槍の二槍を携えて。

 

「氷層世界構築、『永久なる氷碧晶の世界(エターナル・ダイヤモンドグラウス)』」

 

「この会場という世界を、自分の世界に置き換えたのか・・・・・・!!」

 

冷や汗を流してクロノと話す。

小規模で限定的だが、これは一種の世界構築型結界魔法だ。

僕の特殊固有武装(アーティファクト)にもあるが、それをまさか個人が出せるなんて。

僕も使えるは使えるが・・・・・・。

 

「驚いた・・・・・・まさかここまでとは」

 

この会場の世界ではクロノにアドバンテージがある。

周囲を見渡し呟く。

まるで幻想世界のように雪結晶が降り、キラキラと水晶宮のように照らす。

 

『な、なんだこの魔法は!?フィールドが別の空間になった!?』

 

解説者も観客も動揺の困惑した、驚愕の声を漏らす。

 

「いくよ零夜」

 

「っ!」

 

クロノが一言言うと同時に、僕の足元から氷の剣山が生えた。

 

「ぐっ!」

 

慌てて飛び上がると真横から多重魔法攻撃が襲ってきた。

しかも認識できない速度で。

 

「(詠唱や魔法陣の構築がなかった!?まさか、略式詠唱!?)」

 

瞬時に体制を整え反撃に転じる。

だが。

 

「っ!?(魔力が上手く練れない!?まさか魔力操作妨害!?なんだよこの魔法・・・・・・!!面白い・・・・・・!!)」

 

すぐさま魔法を構築しクロノに接近する。

 

「この空間でそんなに動けるのか・・・・・・!」

 

クロノも二槍でなとかガードし至近距離から弾丸(バレット)系や投刃(エッジズ)系を使ってくる。

相性のいい炎系統の魔法で相殺し距離を取る。

 

「ふ。ミリア」

 

《やっと私の出番?》

 

身体の中にいる精霊のミリアに声をかける。

使うことは無いと思っていたけど、まさか使うことになるなんてね。

 

「ああ。全力だ!」

 

《オッケー零夜!》

 

途端、僕から凄まじい魔力暴風が吹き荒れ迫り来る攻撃魔法を吹き飛ばす。

 

「っ!来たか」

 

「《『魔法と精霊を統一しせし王の外套(マナスピリット・コンバーティオローブ)』!!》」

 

目を閉じバリアジャケットの上から白銀に光り輝く外套を羽織る。白銀に光り輝く外套は明るいも、キラキラしていてハデというわけでなく、落ち着いていて黒衣のバリアジャケットにマッチしている。

 

「穿て・貫け・吹き抜けよ!」

 

三節による風属性の連続行使。

術式破棄による根源魔法。

 

旋風の白雷砲(ライトニング・ストーム)!」

 

今度は詠唱破棄による風と雷、光の複合魔法。

 

「ブレイズカノン!!」

 

クロノは青い魔砲で迎え撃つ。

 

「スティンガースナイプ!」

 

「魔法の射手・連弾・精霊の568矢!」

 

クロノの誘導制御型射撃魔法をこちらも反撃して撃ち落とす。

 

「スティンガーレイ!」

 

「ちっ!音撃!」

 

直射型射撃魔法を振動反響魔法でぶつけ距離を詰める。

 

「アクセル!ブースト!」

 

瞬間的に強化魔法を発動してさらにギアを上げる。

 

「クロノ!」

 

「零夜!」

 

高速の近接戦闘に交え魔法を並行して放つ。

 

「白雷!」

 

上空から雷を落としクロノの動きを阻害。

だが同時に僕の動きも阻害された。

 

「(っ!?設置型拘束魔法か!)」

 

予め配置していた場所だろう。

すぐに拘束魔法を解く。

しかしその間にクロノも体勢を整え逆に向かってきた。

 

「っ!」

 

槍の一突きをしゃがんで避け。

 

「ぜあっ!」

 

下から掌底でクロノのS2Uを跳ね上げ飛ばす。

 

「な、にっ・・・・・・!?」

 

大きく目を見開くクロノ。

懐に潜り込んだ僕はそのまま。

 

「星破・一閃!」

 

右脚に魔力を込め、横蹴りでクロノを吹き飛ばす。

 

「ぐふっ!」

 

肺の中の空気が一気に出され壁際へ吹き飛ばされるクロノ。

だが、すぐさま飛ばされながら体勢を直し。

 

「リ・アルヴァ・エルアスト・リヴィライズ!」

 

「っ!」

 

「来たれ氷精!集い来りて敵を穿て!魔法の射手・拡散連弾・氷の471矢!!」

 

「なにっ!?」

 

広範囲拡散魔法に虚を突かれる。

 

「アクセルシューター&フォトンランサー!ファランクスシフト・ダンシングエッジ!!」

 

なのはとフェイトの魔法を改良アレンジで応戦。

 

「その魔法は!」

 

「彼女たちの魔法を僕が行使出来ないわけないでしょ!」

 

サラッととんでもないことを言う僕。

本来なら他人が自身の魔法を使うことは基本的には出来ない。人はそれぞれ固有魔法源(パーソナリティ)があり、真似てみせることは出来ても、原点(オリジナル)と比べるとどうしても差が出る。

だが、僕の場合は別だ。

以前、闇の書こと夜天の書になのはとフェイトはリンカーコアを蒐集されたから聖良経由で元々使える。だが、それでは不完全だと感じ僕は考え構築した。

その末、なのはやフェイト。はやて、アリシア、アリサ、すずかなどの魔法を原点そのまま行使できるようになった。

それが、僕の固有魔法源のひとつ。

―――始原天魔創幻(メモリアル・マギアレコード)

僕と、【絆のある人達の魔法を行使することが可能】なのだ。

ただし、術式の構成や特性などをすべて把握しなければならないが。

 

「ディバイィィン・・・・・・バスターーー!!!」

 

なのはの直射砲撃を続けて目の前に一門展開して放つ。

 

「なのはのか!?」

 

すぐに躱すクロノ。

そこに。

 

「彼方より来たれ、宿り木の枝。銀月の槍となりて撃ち貫け!」

 

ベルカ式の魔法陣を四門展開して白銀の魔力球にクロノに向けて振り下ろす。

 

「石化の槍!―――ミストルティン!」

 

「はやての石化魔法?!・・・・・・っ!滅茶苦茶だなホント!!」

 

「今更だよね!!」

 

クロノの悪態のツッコミに笑いながら返し続けて魔法を放つ。

 

「ただでさえこの魔法の中で魔力が練りにくいんだから!」

 

そう。

普段ならもう少し速いし威力もあるのだが、クロノが発動させたこの魔法空間の中では威力も速度も僕の遅いし、魔力が練りにくいのだ。そしてそれをカバーしてるのが、僕の発動した『魔法と精霊を統一しせし王の外套』だ。

精霊のミリアと同一化したしたことでなんとか補強してる。

そもそも、この大会は僕に不利なのが多数ある。

今だって制限を受けてるし、当然ながら魔法も最上位は繰り出せない。

だが、その今の僕でもクロノは全力で来てる。

だから、僕はその応えに返すしかない。

―――全力で!

 

「(クロノのヤツ、だんだん僕に追いついてきてる!不味いな・・・・・・このまま長引くと)」

 

無詠唱で放ってくる氷系統の魔法を避け、捌き、弾く。

 

《術式の解析は出来たよ》

 

「(オッケー。支配領域(インペルマジェスター)でなんとかなる?)」

 

《・・・・・・今の零夜じゃ無理ね。ていうかこの魔法、一種の世界構築クラスだからね。これを上書きすれば何とかなるだろうけど》

 

「(ふむ・・・・・・)」

 

クロノの攻撃捌きながら思考する。

これの対処を。

 

「(ミリア、例のアレ。いけるよね?)」

 

《アレのこと?まぁ、いけると思うけど、出来るのは一度のみよ?それ以上はカラダの方が持たないから》

 

「(了解!)」

 

すぐにやることを決め。

 

戒めの楔(レージング)!」

 

「っ!?」

 

クロノを拘束魔法で縛り上げる。

そしてすぐに発動準備に取り掛かる。

 

「(まずは一箇所目!)」

 

自分の立っていた場所の足元に魔法陣を隠して展開。

それが終わるとすぐに別の場所に移動する。

 

「(二箇所目!・・・・・・っ!)」

 

「氷槍!」

 

拘束から抜け出したクロノが氷の槍をこっちに向けて飛ばしてきた。

左手の剣を鞘に戻し、懐から銃型デバイスを取り出し。

 

術式付与(エンチャントスペル)!―――術式解体(グラムバニッシュ)!」

 

内部構築(インストール)している魔法を発動させる。

飛んできた氷の槍は目前で霧となって消える。

 

「っ!?―――来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を!!」

 

「―――来たれ炎精、大気に果てよ。極夜の国の焦土と熔岩を!!」

 

「―――こおる大地(クリュスタリザティオー・テルストリス)!!」

 

「―――もえる大地(エクスハーティオー・テルストリス)!!」

 

クロノの【こおる大地】と同時に発動した魔法は僕とクロノとの中間でぶつかりせめぎ合う。

 

「まだだ!」

 

「こっちも!」

 

「来たれ氷精、闇の精。闇を従え吹雪け常夜の氷雪!」

 

「来たれ雷精、風の精。雷を纏いて吹きすさべ南洋の風!」

 

フィールド内を移動しながら並行詠唱し、それそれの獲物をぶつけ合う。

 

「―――闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)×12!!」

 

「―――雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)×12!!」

 

12門の魔法陣から同時に吹雪と暴風が放たれる。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!」

 

この大会は競技試合だ。

そのため僕にもクロノにも、それぞれLP(ライフポイント)が設定されている。

両者ともにここまでの激しい戦闘の末、そうLPから半分以下にまで減っている。すでにレッドゾーンギリギリの領域だ。

 

「来よ星の精。蒼空(そら)より高く、宇宙(そら)から果てなき地へ。星の廻りは巡り、今ここに示す。果てなき高みの果てへ至らんとするものよ、契約に従いて我が元に集え。それは終わりなき地平の彼方に。天正白夜。千星極夜。神羅万象、降り注げ宙からの光。星の輝きよ!」

 

背後に幾重の魔方陣を現出させ。

 

流精群(ミーティア・スピリット・レイン)!!」

 

トリガーを引きクロノへと攻撃する。

 

「スティンガーブレイド!エクスキューションシフト!!」

 

対するクロノもお得意の魔法で迎撃する。

 

「(これで三箇所目!あと3つ!)」

 

移動速度をさらに加速させる。

 

「何をするつもりだ!?」

 

「さぁ、ね!」

 

突撃してきたクロノをカウンターで蹴り飛ばす。

 

「(四箇所目!)―――っぐ!」

 

お返しのつもりか、クロノも僕の脇腹に回し蹴りを叩き込んできた。

痛みに顔を顰め、勢いよく飛ばされながら術式を構築する。

 

「来たれ風の精。颶風を纏いて疾く吹き荒べ!」

 

観客席に張り巡らさている障壁に足を着け。

 

「―――風精の息吹(スピリット・ストーム)!!」

 

「ぢっぃ!」

 

障壁で受け、LPがレッドゾーンに突入したクロノ。

動きを止めてる間に。

 

「(五箇所目!あと一箇所!)」

 

次の一手を考え。

 

「水雷!」

 

雷と水系統の複合魔法を短文で放つ。

だがそれをクロノは手を翳し、目の前に氷の壁を創り防いだ。

それを見てすぐさま別の術式を練る。

緋と白の魔法陣を構築展開し。

 

「―――術式解放(エーミッタム)奈落の業火(インケンディウム・ゲヘナへ)白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!!」

 

発動術式を綴る。

無詠唱による速記術式(クィックスペル)二連。そして終術式の詠唱を繋げる。

 

「っ!あの魔法は!」

 

クロノがヤバいと言った感じで攻撃してくる。

僕はそれを右手の剣と、左手の銃で防ぎ並行詠唱を唄う。

 

「―――魔法融合(コネクティブ)。合体魔法―――炎業迅雷(アルヴァーナ)白華(フラン)!!!」

 

高熱によって白き炎となった炎雷による攻撃。

中級クラス上位に入る炎系統と雷系統の複合魔法。

炎業迅雷(アルヴァーナ)白華(フラン)】。

属性は炎と雷、そして光。

第一回戦でルオンを倒した魔法だ。

白華の名の通り、相手を中心に純白の焔の花園が次々に咲き誇り、雷電との連鎖反応により花火が発生する。

だが。

 

「凍てつく氷壁よ、大気に満ちて、絶対零度の息吹を吹き荒れさせよ!―――グレイシアボレアス!!」

 

極寒の息吹のような氷風が炎雷の花園を防ぐ。

けどこれで!

 

「(六箇所目!これで魔法陣は設置できた!)」

 

六箇所すべてに魔法陣を設置し終え、残りのLPを確認する。

 

「(僕もレッドゾーンに入ってる。強力な魔法を四発も喰らえば終わり・・・・・・)!」

 

冷汗を脱ぐりながらクロノを凝視する。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

 

「ふぅ・・・・・・ふぅ・・・・・・」

 

互いに息を整え。

 

「リク・ラク・ヴィシュタル・ヴォシュタル・スキル・マギステル!!」

 

「リ・アルヴァ・エルアスト・リヴィライズ!!」

 

同時に起動キーを唱える。

 

「契約に従い我に従え、氷の女王!来たれとこしえの闇、永遠の氷河!我が眼前の敵に絶対なる氷焉を!」

 

クロノは最上級クラスの魔法を詠唱している。

制限があるとはいえ、恐らく上級クラスにまで落とされても最上位に近い威力はあるはずだ。

 

「契約に従い、疾く来たれ!すべてを燃えさす火の精霊の女王イグニース。原初の開祖なる水の精霊の女王アクエリア。生命の母たる地の精霊の女王テーラ。一にして全たる風の精霊の女王ウェニトゥス。根源たる陽の光の精霊の女王ルークス。暗黒たる陰の闇の精霊の女王デネブラエ」

 

僕は今まで一度も見せたことの無い、みんなの前で唱えたことの無い魔法を詠唱している。

 

「六元素の女王よ。我が契約を結びし原初たる始原の女王の代行者として今チカラを。疾く焚けれ、水天しせし地の息吹。星の光りを宿し、黒白の閃を駆けよ。素は讃歌の饗宴。祝福を与えし我に来たれ」

 

詠唱に従い、それぞれ設置した6つの魔法陣からそれぞれの属性の色が輝く。

クロノの詠唱はもう終わってる。

何時でも発動可能だ。

 

「―――今星は森羅万象。無限の生命に運命。無限に広がる果てしない夢幻の宇宙。それは幾千億全ての可能性の扉を開く。そこに有るのは光にして闇、それは混沌。太陽と月。陰と陽。聖と邪。善と悪。すべては表裏一体。時は停滞せず、幾度も止まることは無い。祖はゼロ。一にして全」

 

詠い紡ぐように奏でる高速の超長文の詠唱。

だが、それもあと少しで。

 

「これで終わらせるぞ零夜!―――絶対零度の氷雪よ、いまここに!!―――絶対なる氷幻世界の終焉(アポカリプス・コキュートス)!!」

 

クロノから放たれる極大魔法。

それはこの一撃に全てをかけると決めた魔法だ。

 

「星は瞬き、幾千も耀く。神天より降り注ぐ終末の柱!」

 

だから僕もこの一撃に全てをかける!

 

「いくよクロノ!!―――終焉の時は今此処に来たれり!!」

 

魔法陣の中央点に立ち、双剣を突き立てる。

それと同時に外縁の6つの魔法陣からそれぞれの属性の色の光の柱が立ち上り、巨大な複雑怪奇な立体魔法陣が構築される。

迫り来るクロノの魔法。

終の言葉を発する。

 

「―――天焦がす神滅の極焉(ヘブンズ・カタストロフ)!!!」

 

6つの属性が合わさり一つとなる。

合わさった6つの属性魔力は僕の頭上で星円形の魔法陣を創り、黒と白の魔法が放たれた。

クロノの氷結魔法と僕の神星魔法がぶつかりとてつもないエネルギー波を発する。

余波だけでLPが吹き飛ばされそうだ。

 

「はあああああああああああああぁぁぁっ!!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!」

 

互いの覇気がフィールドに響く。

視界が眩い閃光で被われるもクロノと切迫する。

やがて視界が開き―――

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

クロノの世界構築魔法も解け、元に戻っているステージで僕とクロノは互いに向き合っていた。

しばしの沈黙の後、僕は身体が崩れ落ちるのをなんとか踏み止まり、クロノは後ろにバタンと倒れた。

 

『け、決着ゥーーっ!!長時間に及ぶ試合の末、勝利したのは天ノ宮零夜選手だァァァァァっ!!!!』

 

解説者の声を機に観客席から破れんばかりの歓声があちこちから上がる。

 

「か、勝った・・・・・・?」

 

制限が有りとはいえ、限界も限界の強敵であるクロノとの戦いに僕は実感が持てなかった。

もし制限無しの戦闘なら圧勝はせずとも勝てただろう。だが、制限有りのこんな戦いではギリのギリだった。

逆に言えば、それほどまでにクロノが強かったと言うだけだ。

両手に握る双剣を軽く払いいつも通り鞘に納める。

それが終わると、僕もクロノと同じようにその場に背中から倒れた。

どうやら緊張と集中の糸が切れたようだ。

正直、今すぐ眠りたい気分。

そう思ってると頭上に影が差し。

 

「まったく・・・・・・キミがここまでやるなんてね」

 

「夜月・・・・・・」

 

セコンドの夜月が呆れ半分お疲れ様半分の顔で言ってきた。

 

「しかも最後の魔法。手加減してたけど切り札の一つだよね?使ってもよかったの?」

 

しゃがみこみ、耳許で小声で問う夜月。

さすがに夜月にはバレてたか。

 

「大丈夫。あの魔法はまだ未完成だから。正直、アレが出来るかどうか賭けだったよ」

 

「か、賭け!?は!?賭けでアレ使ったの!?レイくん最近脳筋になってきてない!?」

 

「そんなことないでしょ!?」

 

夜月の失礼な言葉に反論する。

僕は別に脳筋じゃないよ!?

 

「やれやれ。・・・・・・はい」

 

呆れたように肩を竦める夜月の手を握り起き上がる。

 

「ありがとう夜月・・・・・・っと」

 

バランスを崩し、夜月に倒れ掛かる。

 

「ちょっ!」

 

夜月がなんとか支えてくれ倒れる事はなかったが。

 

「・・・・・・レイくん、手」

 

「ぇ?」

 

他の人からは見えないが、夜月にはバッチリ見られていた。

手元を見ると、左手が夜月の胸辺りにあった。

てか、うん。バッチリ触ってる。

いや、その・・・・・・11歳だけど以外にあるんだ。

 

「あ!いや!その!」

 

慌てて手を離し弁解する。

 

「まあ、いいけど。レイくんなら別に構わないし」

 

「はい?」

 

「なんでもないわ。さ、行きましよ」

 

「あ、うん!」

 

夜月に手を引かれてクロノと、クロノに肩を貸してるエイミィさんのところへ向かった。

その後、拍手喝采の中行われた表彰式で僕は【ミッドチルダ中央部優勝】を勝ち取った。

次は都市ではなく、世界だ。

そこで優勝すれば次元世界最強の称号を手にすることが出来る。

この大会へは局からお願いされてエントリーしたけど、今はエントリーして様々な同世代の人と拳や剣、魔法をぶつけ合えられたことに感謝して良かったと思う。

だって、この世界は未だ見ぬ可能性で満ち溢れているのだから。

 

 

 

 

 



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Book of The Nightsky
夜の逢瀬と来訪者


 

〜零夜side〜

 

「・・・・・・・・・・」

 

IMCS都市本戦が終わり、世界大会へ半月ほどの猶予のあるとある日の夜、僕はあの時の約束通り、なのはと空の旅に来ていた。

 

「ふっふっふっふっふーん♪」

 

「楽しそうだねなのは?」

 

手を握って夜の空。星空の中を飛ぶ僕となのは。

鼻歌を楽しそうに漏らすなのはに僕はつられて楽しそうに聞く。

 

「そりゃそうだよぉ〜!だってやっと零夜くんと二人きりなんだもん♪!」

 

「あははは・・・・・・そう言えばレイジングハートは置いてきちゃって良かったの?」

 

今なのははおしゃれな私服姿でいつも持ち歩いてる相機のレイジングハートを持ってない。

ではどうやって空を飛んでいるかというと。

 

「あ、うん。リニスさんにメンテナンスしてもらう予定だったし、零夜くんがいれば大丈夫でしょ?」

 

「まぁ、ね」

 

「それに、零夜くんからもらったこれもあるし」

 

なのはの左手首には白と桃色の混色の腕輪型アクセサリー。ブレスレットが着いていた。

そのブレスレットは僕が造った魔法具で、フェイトやはやてたちにももちろん渡してる。

そのブレスレットには対魔法・物理障壁に回復魔法、外部からの状態異常無効、そして飛行魔法を付与してある。

ま、御守りみたいなものだ。

 

「よっ、と」

 

しばらく空を昇っていき目的地の高度に着いた。

 

「うわぁ・・・・・・!」

 

目下には海鳴市の街並みが。頭上には満天の星空と満月。

街は街明かりによる光が。空は星灯で照らされてる。

 

「昼間もいいけど、やっぱり夜の方が綺麗だね」

 

「うん」

 

一種の幻想的な時間。

しかも今日は満月で、雲一つない。

 

「なんか舞踏会の舞台みたい」

 

確かにこの場にいるのは僕となのはだけ。

二人きりのステージ。舞台は空だけど、わかる気がする。

 

「うーん、じゃあ、踊ってみる?」

 

「え!?」

 

「音楽はないけど、ね」

 

「・・・・・うん!」

 

「じゃあ―――」

 

なのはから少し離れ対面し。

 

「お嬢様、わたくしと一曲踊っていただけますか?」

 

ちょっと気恥ずかしくもあるが、こんな感じだろうと舞踏会でのダンスの誘いをやってみた。

アリサやすずかに聞けばもっとちゃんとしたのを教えてくれるのかもだが、生憎僕は社交界というのに参加したことない。てか普通は参加せんのだが。

 

「えっと・・・・・・はい。喜んで」

 

差し出した手を取りフォークダンスのような、音楽のないリズムを取り踊る。

音は風の吹く音だけ。

 

「っと」

 

バランスを崩すなのはを支え飛びながら舞い踊る。

もし背中に妖精のような羽があったら、妖精の舞踏(フェアリーダンス)になって観えていたかもしれない。

ゆっくりと、手を取り合って回る僕となのは。

邪魔するものがいない、僕となのは二人だけの舞踏会にして空間。

 

「そうそう、そのままゆっくり」

 

「えーと・・・・・・こう、かな」

 

「うん、上手い上手い」

 

笑みを浮かべるなのはを見てドキッとする。

 

「・・・・・・こうやって零夜くんと二人きりなの久しぶりだね」

 

「あぁ、そう言えばそうだね」

 

二人きりなのはあの時宇宙での戦い以来なのかな?

いや、でも、それは戦いだったしレイジングハートもいたから二人きりってのは少し違うかな。

 

「昔はいつも私と零夜くんの二人きりだったのに、今はフェイトちゃんやはやてちゃん。聖良ちゃんや凛華さん・・・・・・誰かがいるね」

 

少し悲しそうな眼差しで言うなのは。

 

「ねぇ、零夜くんにとって私ってなに?」

 

「え」

 

唐突の質問に動きが止まった。

 

「ただの友達?それとも幼馴染み?親友?クラスメイト?師弟?同じ魔導師仲間?」

 

なのはの問いに僕はすぐに返す。

 

「決まってる。大切な人だ」

 

「え?」

 

「確かに僕となのはは友達で、幼馴染みで、親友で、クラスメイトで、師弟関係で、仲間だ。けど、それ以上に、なのはは僕の大切な女の子なんだよ」

 

なのはがいたから僕がいる。

なのはがいてくれたから今ここに僕がいる。

なのはが友達になってくれたから一人じゃなかった。

この世界で初めての友達にして幼馴染み、師弟。そして大切な人。

これに嘘偽りはない。

 

「もしなのはがいなくなったらなんて、僕には想像できない。なのはがいない日常なんて僕の日常じゃない」

 

そう。

僕の日常にはもうなのはたちが組み込まれているのだ。

 

「零夜、くん・・・・・・」

 

「まったく・・・・・・なのはは相変わらず泣き虫だね」

 

「ちょっ!酷いよぉそれぇ!」

 

「あはは。ごめんごめん」

 

ポカポカと叩いてくるなのはに微笑みながら謝る。

 

「ねぇ、零夜くん」

 

「ん?」

 

「また、二人きりの時間一緒に取ってくれる?」

 

「もちろん。当然だよ」

 

なのは。僕のこの世界でできた最初の大切な人。

 

「約束、だよ?」

 

「ああ。もちろんだ。何度だって一緒の時間を取ろう」

 

「ふふ。少し恥ずかしいよそれ」

 

目尻に笑い涙を浮かばせて言うなのは。

確かに、今の台詞はちょっと小っ恥ずかしいかも。

 

「零夜くん」

 

「ん?」

 

なのはに呼ばれなのはを見る。

すると突然視界が暗くなり、なのはの顔が近くにあった。

 

「ん・・・・・・」

 

「んむっ・・・・・・!?」

 

なのはの唇が僕の唇に当たり、僕の身体になのはの柔らかい身体が接触していた。

え、もしかして今なのはにキスされてるの?

僕の驚きを他所になのははキスを続ける。

少しししてなのはが僕から離れ。

 

「・・・・・・・・・・」

 

湯上りのような真っ赤に顔を染めていた。

 

「え、えっと・・・・・・な、なのは?」

 

心臓が破裂しそうなほどドキドキしながらなのはに訊ねる。

顔はなのはと同じく真っ赤だ。

 

「えっとね・・・・・・あの時も私の意思でしたけど、今のは私の気持ち」

 

「き、気持ち・・・・・・?」

 

「うん。私はね零夜くん。零夜くんのことが・・・・・・!」

 

なのはが顔を近づけて告げる。

その瞬間―――

 

「「―――!?」」

 

ピキっ!と音が空から鳴り、ガラスが割れたようなヒビ割れが目の前の夜空に現れた。

 

「なっ・・・・・・!」

 

「そ、空が割れた!?」

 

突然の事態に僕となのはは警戒態勢を取る。

 

「い、今いいところだったのにぃぃっ!!」

 

なのはは怒りマークを出して殺気立ってる。

割れた中心辺りからなにか出てきた。

目を凝らすと人影のようなものだ。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

その人影みたいなものから幼い少女の声が響いた。

 

「っ!?」

 

空に放り出されたと言った感じで絶叫を出す人影に僕は慌てて近寄り。

 

風よ(ウェンテ)!」

 

その人影―――二人の少女に風の魔法を掛けて落下を防ぐ。

 

「女の子!?」

 

月明かりに照らされて視えた人影を観て驚く。

どちらも僕らと同い年のような感じで学校の制服らしいもの着ている。

 

「君たち大丈夫!?」

 

慌てて近寄り少女たちに問う。

 

「は、はい。ありがとうございます。助かりました」

 

「ありがとうございます。急に空にいて驚いたもので」

 

少女たちはそれぞれ金髪に長い髪。瞳は左右の色が異なる虹彩異色(オッドアイ)で右目が緑、左目が赤。歳は多分僕らと同い歳。

もう片方は碧銀の髪を特徴的なツインテールに結い、左の大きな赤いリボンが印象的な青系の虹彩異色。右目が紫、左目が蒼。こちらも多分僕らと歳が近いと思う。

金髪の少女の近くにはうさぎ。碧銀の少女の近くには猫?トラ?のようなぬいぐるみみたいなのがあった。

 

「割れた空から堕ちてきたから驚いたけど・・・・・・君たちどこの出身?」

 

そう。

この子達から魔力を感じる。

つまりどこか違う世界から来たと考えるのが当然だ。

 

「え、えっと・・・・・・それは・・・・・・って、えっ!?」

 

「あ、あなたは!!」

 

「ん?」

 

答えにくそうにする少女たちだったが、僕の姿を見て何故か驚いた顔をしている。

はて、僕の顔になにか着いているだろうか?

不思議に思っていると。

 

「ぱ、パパ!?」

 

「マ、師匠(マスター)!?」

 

それぞれ上が金髪の子。下が碧銀髪の子が言う。

 

「え、は?ぱ、パパ?マ、師匠?」

 

意味がわからない二人の言葉に疑問符が浮かぶ。

そこに。

 

「れ、零夜くん!」

 

なのはが遅れて飛んできた。

 

「なのは!」

 

「零夜くん大丈夫!?―――って、この子たちは?」

 

「あのヒビ割れから堕ちてきた子たちだと思うんだけど・・・・・・」

 

なのはの問いに言いにくそうに言う。

少女たちもなのはを視る。

すると。

 

「ええ!?ま、ママ!?」

 

「ヴィヴィオさんのお母様!?」

 

なのはを見てまたしても少女たちが驚いたように言う。

てか。

 

「え、なのはいつの間にお母さんに・・・・・・!?」

 

なのはいつの間にお母さんになっていたんだ!?

あれ?てか、なのはまだ結婚できないよね?

 

「なのはその歳で子供いたの!?」

 

「そんなわけないでしょ!?それに私まだ子供いないよ!?」

 

「だ、だよね!?」

 

「そ、そうだよ!!それに結婚するなら零夜くんと・・・・・・ゴニョゴニョ・・・・・・」

 

後半部分は小声で言っていたが、それは置いといて。

 

「えっと、君たち一体・・・・・・」

 

あまりの情報に戸惑う。

少女たちも何故か動揺している。

そんな中。

 

「っ!―――最大障壁(バリエース・マキシマム)!!」

 

新たに開いたヒビ割れた空から雷が落ちてきた。

瞬時に障壁を五重展開し防ぐ。

反応出来ないでいたなのはと少女たちの前に出て、空を睨む。

 

「誰だ!!?」

 

固有空間から黒聖を取り出し切っ先を突きつける。

ヒビ割れている空間を視るとそこから。

 

「――――――」

 

一人の女性が出てきた。

 

「な、にっ!?」

 

「え!?」

 

出てきた女性を見て僕となのはは目を見開く。

だって出てきた女性はとても見覚えがある。

いや、親友の母親だったからだ。

 

「え?」

 

「あの方は・・・・・・」

 

少女たちも驚いている。

何故かはわからないが。

だが、僕となのははそんなハズないと思う。

何せ今その人はこの海鳴市の自宅に家にいるのだから。それにあの人がこんなことをする必要性もなにもない。

なのに何故―――

 

「な、何故あなたがここに!?―――プレシアさん!!」

 

そう。攻撃を仕掛けてきた女性はフェイトとアリシアの母親にして僕の特務0課の仲間プレシア・テスタロッサだったからだ。

さっきの魔法の雷は恐らくプレシアさんの得意魔法サンダーレイジ。手加減無しの威力だった。

僕の問いに目の前のプレシアさんは何も答えない。

 

「――――――」

 

返答は問答無用の魔法だった。

 

「!霧散せよ!」

 

魔法解散で無効化し。

 

「ちっ!なのは、先に帰ってて!」

 

「えっ!れ、零夜くん!?」

 

なのはと少女たちに結界型の障壁を展開させ転移魔法で帰らせる。

シュンと消え転移した三人を見て浮いているプレシアさんを凝視する。

プレシアさんの格好はあの時の格好。あの時の悪の魔女という風貌だ。それに何か黒い靄みたいなものがプレシアさんを被ってる。

 

「プレシアさん、きこえてますよね!!」

 

「――――――」

 

僕の声にプレシアさんはまるで反応しない。

意識がない感じだ。いや、そもそもあれは本当に僕らの知っているプレシアさんなのか?

なにか様子がおかしい。

そう感じるのと同時に光球(フォトンスフィア)による攻撃を反撃して防ぐ。

 

「――戒めの楔(レージング)!!」

 

紫の楔がプレシアさんを縛り付ける。

無抵抗のまま捕えられたプレシアさんを僕は視る。

 

「っ!?この人プレシアさんじゃ、ない・・・・・・!?」

 

身体はどう見てもプレシアさんだが、魔力が違う。

この魔力は―――

 

「夜天の書の断片・・・・・・?」

 

旧闇の書にして現夜天の書の魔力だった。

魔力質を視るとプレシアさんのニセモノはスゥと虚空に消えた。

 

「何故また闇の書が・・・・・・」

 

闇の書。いや、夜天の書に関係することはこの間の『エルトリア事変』でカタがついたと思ってたのに、また夜天の書関連のことが起きた。

見上げる空はヒビ割れもなく、すっかり夜天の空に戻ってる。

 

「はやてたちがまた・・・・・・・・・・」

 

はやてやシグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、アインス、リインたち。そして、聖良をまた巻き込ませる闇の書関連。

僕は黒聖を握る右手がギュッと強くなる。

 

「ユーリたちにも連絡した方がいいのかもしれない」

 

もしこれが『エルトリア事変』の際の後遺症なら夜天の書に関連のあるユーリやイリス。ディアーチェにシュテル、レヴィ、キリエ、アミタさん。彼女たちにも協力を仰がねばならない。

イリスは今管理局にいるが、アミタさんたちはエルトリアだ。

一応通信装置などは渡してあるが。

 

「クロノにも相談しないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何もなかったかのように照らす月明かり。

 

 

 

それは闇の書と呼ばれた夜天の書に関する、夜天の書最後の事件の始まりだった。

 

 

 

 



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未来からの来訪者

 

〜なのはside〜

 

零夜くんとの夜のデートから一転。突然の緊急事態に私は混乱していた。

私のことをママって言う子や、零夜くんのことをパパ、師匠って言う子。そしてフェイトちゃんとアリシアちゃんのお母さん、プレシアさんが襲ってきたこと。

プレシアさんがどうして襲ってきたのか分からない。

ジュエルシードの時ならいざしれず、今ではあの時の悪の魔女って感じは全くなく、フェイトちゃんやアリシアちゃんのとっても優しいお母さんなんだもん。それに、技術者としてもとっても優秀で私たちのデバイスの調整もよくやってくれるとてもいいお母さんだ。

アリシアちゃんが言うには昔のお母さん。それこそアリシアちゃんが一回亡くなった時より前のお母さんらしいけど。

零夜くんは私と割れた空から堕ちてきた子たちと一緒に結界で覆い、泊まりに来ていた零夜くんの家に転移させた。

転移させられて目を開けると、そこは零夜くんの家の自宅玄関前。

すぐそばには堕ちてきた少女二人。二人とも何処かの学校の制服を着てる。そして、何かぬいぐるみみたいなものが傍にある。

 

「こ、ここは・・・・・・?」

 

「今のは空間転移・・・・・・?そんな高等技法をあの歳で・・・・・・!?さすが師匠(マスター)です!」

 

「アインハルトさん、こんな状況でも凄いですね・・・・・・」

 

「当然です!ヴィヴィオさんのお父様は私の憧れなんです!」

 

「あー、なんかジークさんやヴィクターさんもそんなこと言っていたような・・・・・・」

 

「ええ!師匠の名を知らない選手なんてIMCS参加者にはいませんから!」

 

「うーん・・・・・ホント、ウチの家庭凄いなぁ・・・・・・」

 

な、なんかよく分からないけど、碧銀の髪の子が目を輝かせている。隣の金髪の子は『そうなんだ』的な感じだ。

そこに。

 

「・・・・・・えーと、そろそろいいなぁ〜?」

 

「あ」

 

いつの間にか玄関の扉が開き、零夜くんの実姉である愛奈美さんがゆったりとした声で聞いてきた。

 

「おかえりなさいなのはちゃん。れー君とのデートどうだった〜?」

 

「ま、愛奈美さん!!」

 

うふふ、と微笑む愛奈美さんに私はアタフタする。

 

「それで、そっちの二人の女の子は・・・・・・だれ?」

 

ゾクッ!一瞬冷たい感触を感じた。

それは二人の少女もで。

 

「え、えと・・・・・・その・・・・・・」

 

「わ、私たちは、その・・・・・・」

 

互いに抱き合い言い淀む二人。

その二人に愛奈美さんは視線を向け。

 

「・・・・・・この二人・・・・・・どこかで・・・・・・いや、まさか未来から?」

 

愛奈美さんが二人に視線を向け何か呟く。

未来?どういうことだろう?

 

「・・・・・・なのはちゃん、れー君はどこ?」

 

「え、えっと、実は・・・・・・」

 

愛奈美さんにさっきのことを話す。

話すと愛奈美さんは視線を空に向け。

 

「・・・・・・・・・・なるほどね」

 

と呟いた。

 

「取り敢えず、なのはちゃんはフェイトちゃんたちが待ってるよ」

 

「あ、はい」

 

「そこの二人も上がって。ちょっと話を聞かないといけないみたいだし、ね?」

 

「「は、はい」」

 

愛奈美さんのあとに続いて私たちは天ノ宮家の中に入った。

 

〜なのはside out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜零夜side〜

 

 

プレシアさんの偽物が消えた後、僕は周辺の空間を診ていた。

 

「確か最初は空間が割れたんだっけ?で、次も同じ感じだったけど少し違ったか」

 

空間が割れた場所を魔眼で視る。

 

「っ!?これ、時空乱流の痕跡!?」

 

最初に起きた空間の割れ目に僅かだが時空の乱れを感じた。

 

「まさかあの子達、どこか別の時間と空間から飛ばされてきた?」

 

さらに詳しく視るため魔眼を強くする。

 

「・・・・・・っぐ!?」

 

視た瞬間とてつもない頭痛が襲い、検分を中断せざるを得なくなった。

 

「魔力磁場か・・・・・・さすがにこれ以上は無理だな」

 

目を押さえ魔眼を解除する。

この魔眼は空間など何かあった際に魔力の流れを良く視るための魔法だ。だが、強い魔力磁場などの場所では負荷が大きすぎるため使えない。

 

「時空乱流となると僕の専門外だからなぁ・・・・・・時空魔法は使えるけど、それは僕個人のだし、そういうのはなぁ・・・・・・」

 

思い当たる中でこういうのに專通しているのは、プレシアさんぐらいだろう。あとは・・・・・・

 

「ジェイルさん、かなぁ・・・・・・」

 

ジェイル・スカリエッティ。

僕と夜月の協力者にして、僕のシスコン同盟の仲間である。

ジェイルさんならこういう時空乱流のようなものは得意だろう。だってあの人天才だし。

たまに連絡とってるけど、連絡する度にウーノさんがやつれてるのは何故だろう・・・・・・

まぁ、取り敢えず後で連絡しますか。

周辺に何かないか一通り観て空間転移で自宅へ帰還する。

家に転移して帰るとリビングに全員集結していた。

てか、アレ?なんか二人増えてない?

明莉お姉ちゃんたちは今天界の方だし、今家にいるのはお姉ちゃんたちに、泊まりに来てるなのは、フェイト、アリシア、はやて、アリサ、すずか。あとは、夜月がいるね。

で、例の少女二人。なんだけど、なんかもう二人いるし。

 

「お姉ちゃん、そっちの二人誰?」

 

なんか凛華たちと同じくらいの歳の人が二人いる。どっちも女性だけど。

片方は黒っぽいフード付きパーカーを着ていて、もう片方はいかにも貴族のお嬢様ってのが合ってる人だ。

僕の問いに夜月が。

 

「こっちのザ・お嬢様なのがヴィクトーリア・ダールグリュンさんで、こっちのパーカーを着ているのがジークリンデ・エレミアさんだって」

 

「はい?」

 

夜月の言葉に僕は呆然とする。

いや、名前を言われても・・・・・・。

 

「じ、ジーク、あの男性まさか・・・・・・!」

 

「う、うん。見間違えなんかとちゃう・・・・・・!零夜さんや・・・・・・!!」

 

なんか僕を見て驚いた表情を浮かべてる。

なんで?まぁ、確かにミッドでは結構有名になってるけど。

 

「でね、なんでもこの二人、そっちのヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんと同じ時代の。今から10年くらい先の人なんだって」

 

「は?同じ時代?しかも10年後?いや、それどういう・・・・・・って、まさか・・・・・・」

 

ヴィヴィオとアインハルトと呼ばれたこの二人が時空乱流から飛ばされてきたのを思い出し。

 

「はぁ!?まさか、こっちの二人も時空乱流に巻き込まれたの!?え!?いや、なんで!?時空乱流なんて基本めったに起こらないはずだよね!?」

 

立て続けに時空乱流の被害者がいることに頭が痛くなった。

 

「まさかこの四人以外にもいるんじゃ・・・・・・」

 

とてつもなくイヤーな予感がした。

二度あることは三度あるっていうし。

 

「いや、この子たちに非がないのはしってるけど、こうも立て続けに起こられると頭痛い」

 

はぁー、とため息を吐いて取り敢えず未来から来たらしい四人に話を聞く。

 

「えーと、取り敢えず自己紹介するね。僕は天ノ宮零夜、時空管理局特務0課所属の魔導師だよ」

 

立ったまま四人に自己紹介をする。

夜月たちはもう済ませたみたいだし。

 

「あ、はい!高町ヴィヴィオです!St.(ザンクト)ヒルデ魔法学院初等科五年で10歳です!」

 

「アインハルト・ストラトスです。ヴィヴィオさんと同じくSt.ヒルデ魔法学院中等科一年に在籍してます。よろしくお願いします」

 

(ウチ)はジークリンデ・エレミアといいます。よろしくお願いします」

 

「私はヴィクトーリア・ダールグリュンですわ」

 

「よろしくね。それでなんだけど・・・・・・なんで、そんなに眼をキラキラさせてるの?」

 

何故か知らんがヴィヴィオ以外の三人の眼が、憧れの人物に会えたとでも言いたげな眼差しなのだ。

 

「れー君、未来では結構有名みたいだよ?」

 

「は?え、えと、具体的には?」

 

恐る恐る未来組に聞くと。

 

「ま、師匠(マスター)はIMCSで史上初十年無敗のチャンピオンなんです!」

 

「はい?」

 

え、来年もIMCS出ないといけないの?

アインハルトの言葉にえぇー、と声が洩れる。

てか、今10歳だからIMCSは最大で10回出られるんだよね?それで十年無敗のチャンピオンって・・・・・・未来の僕やり過ぎてない?(自分の事である)

 

「それに最強の魔導師として何度も取材など特集もされてますわ」

 

「そうやねぇ。来月には零夜さんたちの映画の二作目も公開されるし」

 

「は!?」

 

ジークリンデとヴィクトーリアの続けて言われた言葉に目が点になる。映画って何!?しかも二作目!?

未来では一体僕はどうなってるのよ・・・・・・。

 

「未来の僕ってどうなってるの・・・・・・?」

 

恐る恐る聞くと・・・・・・

 

「えっと、私の師匠で」

 

「私のパパ」

 

「IMCS出場する全選手の憧れですわ」

 

「史上最強の魔導師です」

 

「あとは、絶対に怒らせちゃダメ?」

 

「無敗の帝王?」

 

「最強の魔導剣士?」

 

「えーと、色ボケ?」

 

と、四者八様であった。

うん、四人の言ったこと全て気になるけど・・・・・・。

 

「えーと、ヴィヴィオ?」

 

「は、はい!」

 

「僕がヴィヴィオのパパって・・・・・・どういうこと?それになのはをママって言ってたし・・・・・・。あれ、でも苗字は高町って言ってたけど・・・・・・」

 

「え、えーと、それはですね・・・・・・」

 

「???」

 

言いにくそうに口淀むヴィヴィオ。

 

「あ、そう言えばお姉ちゃんは原作知ってるんだよね?」

 

僕は隣でニコニコしている実姉に訊く。

 

「あの子たちのこと?」

 

「うん」

 

「知ってるよ。全部読んだから」

 

「読んだ?視たじゃなくて?」

 

「視たのもあるけど、あの子たちの物語は読んだの方が正しいから」

 

生憎僕はリリなのの原作を全く知らない。

逆に、お姉ちゃんは知っている。お姉ちゃん結構リリなの好きだったから。

 

「だからあの子たちを今見られて滅茶苦茶嬉しいねん」

 

関西弁になるほど興奮してるらしい。

お姉ちゃんの様子に苦笑しながらヴィヴィオを見る。

歳は10歳って言ってたから僕らと同い年のはずだ。仮になのはがあの子を産んだとしても計算が合わない。

出産までの時期とか色々計算しても、産むとしたら多分12歳とかだと思うし・・・・・・てか、他人になのはを渡したくない。

さっきのこともあってか、なのはに対し独占欲が強く出ている。

いや、なのはだけじゃない。フェイトやはやて。アリサ、すずか、アリシア、夜月。お姉ちゃんや華蓮も、誰にも渡したくない。

僕ってこんなに独占欲が強かったんだなぁ、と今にして思った。

 

「まぁ、今知っても意味無いか」

 

多分だけど、あの子たちが元の時代に戻ったら僕らのあの子たちと出逢った記憶は消去(デリート)封印(ロック)されるはずだ。

そうでなければ未来にどんな影響を及ぼすかわからない。

この世界の法則がどんなのなのかは知らないが、神である明莉お姉ちゃんたちが降りてきているとはいえ、それは神に対する法則。女神の眷属であるとはいえ、この世界の住人である僕らには神の法則は恐らく通用しない。

そう思考していると。

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

アインハルトが手を挙げて発言してきた。優等生か!

 

「なにアインハルト?」

 

「わ、私とひとつ、お手合わせ願いませんでしょうか?!」

 

「へ?」

 

お手合わせということは試合をするってこと?

 

「ハルにゃんズルいで!私が申し込もうとしとったのに!」

 

「え?」

 

「じゃあ私も!今のパパと闘ってみたい!」

 

「はい?」

 

え?この子たちもしかして戦闘狂なの?

 

「落ち着きなさいな三人とも」

 

あ、まともな人いた。

 

「それは私もですわ!」

 

あ、ダメだった。

 

「まぁ、いいけど、多分だけど君たちの知ってる僕より結構弱いよ?」

 

10年後の僕の強さがどのくらいか分からんが、たぶん今の僕より結構強いと思う。

 

「いや、今の零夜でも十分強いでしょうが!」

 

アリサのツッコミに何故かなのはたちが頷く。

夜月は苦笑してるし。

 

「まぁ、闘ってみるのはいいけど、それは明日ね。もう夜遅いし」

 

時間は既に23時を過ぎてる。

 

「えーと。夜月、そっちになのはたち泊めてもらってもいい?」

 

お隣且つ、家がこの家と同等の大きさの桜坂家。

夜月になのはたちを泊める事をお願いする。

 

「それはいいけど?(こっち)も部屋は空いてるし。けど、この子たちはどうするの?」

 

「彼女たちはこっちに泊まってもらうよ。その方が僕が対処出来るしね」

 

万が一何かあった際、僕ならなんとか対処できるはずだ。

 

「オッケー!―――封解主(ミカエル)!」

 

夜月は自身の天使の一つ、封解主を顕現させ空間を繋げた。

隣なのにわざわざ封解主使うのかよ!?

まぁ、いいけど。

夜月がなのはたちと行ったのを確認し、封解主による空間の穴が消えたのを見て。

 

「お姉ちゃん、凛華。この子たちを部屋に案内してあげて・・・・・・ってその前にご飯とお風呂かな?」

 

苦笑しながらお姉ちゃんたちにお願いする。

 

「あ、四人とも何かあったらお姉ちゃんたちに言ってね。女の子同士の方がいいだろうし」

 

うん。お姉ちゃんたちがいてくれてほんと助かった。

男同士なら気兼ねなく出来るんだけどなぁ。

 

「零夜、どこか行くの?」

 

華蓮が聞いてくる。

 

「ん?ああ、ちょっと地下のラボにね。クロノとかにも話さないといけないから」

 

「わかったわ。あまり無理すんじゃないわよ?」

 

「わかってるよ」

 

軽く手を合わせ僕は地下のラボエリアに降りた。

降りるなり施錠をし。

 

「クロノ、今いい?」

 

デスク前の椅子に座り込みクロノに通信を繋ぐ。

 

『なんだ零夜?何かあったのか?』

 

通信相手のクロノの他にエイミィさんがいる。

 

「・・・・・・もしかしてお取り込み中だった?」

 

『っな!?』

 

『ち、違うよ零夜くん!?ただクロノくんとご飯を食べてただけだから!』

 

顔を真っ赤にして言う二人。

あー、うん。いい加減さっさと付き合って欲しい二人だ。

見ているこっちが恥ずかしいよ。

 

「まぁ、いいけど。話を戻すけど、クロノ。さっき大きな時空振動を観測しなかった?」

 

『時空振動だと?ちょっと待ってろ』

 

少し待っていると。

 

『待たせたな。確かに二回程海鳴市上空で発生してる』

 

「あー、やっぱりかァ」

 

『おい、まさかまた変な事件に首を突っ込んでんじゃないよな!?』

 

「それ僕が好きで事件に巻き込まれてるように聞こえるけど」

 

『頼むから面倒なことはしないでくれ!前回の『エルトリア事変』の後始末が終わったばかりだぞ!?』

 

「僕だって好きで突っ込んでるわけじゃないからね!?―――で!クロノ、エイミィさん、これマジだから」

 

『『ん?』』

 

「―――未来から来た子がいる」

 

『え?』

 

『は?未来?何を言って――――――って、おいまさか!!』

 

クロノの問いに僕は無言で頷いて返す。

 

『はぁー。時空乱流による時空間転移者か・・・・・・』

 

「Exactly」

 

僕の返答に、僕もクロノもエイミィさんも思わず溜め息が出てしまう。

 

『なぁ、前から思ってたんだが』

 

「なに?」

 

『いや・・・・・・海鳴市って、魔境かなんかなのか?』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しらん」

 

クロノの海鳴市への言葉に僕は即答できなかった。

うん。この地球で海鳴市を中心に事件ばかり起きてる気がする。前から思ってたけど!

そこから先、一応他にも時空転移者がいないか捜索して貰えるようお願いし、万が一の時のことを頼む。

それと闇の書の断片についても話、通信を終えたのは1時を回ろうとしている頃だった。

その後、エルトリアにいるアミタさんに連絡しアミタさんたちにも協力を要請。

そして―――

 

 

 

 

 

 

「―――そんなわけだから、キミにも手伝って欲しい」

 

「・・・・・・わかったわ。もしそうなら、私にも原因があるし」

 

翌日、管理局の一室で僕はとある人物と二人きりでいた。

 

「それに、上司の命令には逆らえないのでしょ?」

 

「あはは。上司部下の関係なんか無視でいいんだけどなぁ」

 

皮肉を言ってくる目の前の人に苦笑する。

 

「それと、これ」

 

「これ・・・・・・私の」

 

「キミに返却するよ」

 

「そう・・・・・・」

 

僕からあるものを受け取り目の前の人物はそれをしまう。

 

「今日この時を持って、キミを正式に特務0課に歓迎するよ」

 

「ええ」

 

手を取り出し握る。

 

「ようこそ、特務0課へ。―――イリス」

 

目の前にいる人物は、管理局に拘束せれ『エルトリア事変』の重要参考人であるイリスだ。

イリスの裁判はつい先日終わったばかりであり、操られていた事もあり情状酌量を与えられ、イリスの監督権をミゼットさんが行うこともあり今ここにいる。

以前から勧誘していたが、今この時をもってイリスは特務0課へ加入した。

 

「何か必要なものはある?」

 

「いえ、特にないわ」

 

「わかった。それじゃあ行こうか。みんなが待ってる」

 

「ええ」

 

「掴まって。直接転移する」

 

イリスとともに部屋から直接地球の自宅の庭に転移した。

庭には既に今回の事件を解決するための戦力が勢揃いしていた。

てか、この戦力・・・・・・軽く星一個制圧出来るんじゃない?

そう思ってしまったのは秘密だ。

そうして、今ここに現在と未来の邂逅による行動が始まった。

 

 

 



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闇の断片

 

〜零夜side〜

 

イリスとともに管理局から転移した僕は、眼前に広がる今回の対策班の人数を見る。

なのはたちは勿論のこと、お姉ちゃんに華蓮。凛華たちに、天雲と羽切。エルトリアからアミタさんたちもいる。

それにユーノやアルフ、リニスさん・・・・・・と軽く星一個制圧可能な戦力だ。

 

「お待たせ、最後の一人を連れてきたよ」

 

僕の隣にいる人物を見て夜月や凛華以外の全員が驚きの声を上げる。

 

「い、イリス!?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

キリエとユーリを視たイリスは気まずげに視線を逸らして隠れる。

 

「えーと・・・・・・アミタさん、遠い所来てくれてありがとうございます」

 

「いえ。前回は私たちエルトリアがご迷惑をお掛けしましたから」

 

「お父さんの様子は・・・・・・?」

 

「大丈夫です。零夜さんから貰った薬の効果で少しづつですが元気になってます。今は母さんが見てくれていますから」

 

「そうですか」

 

アミタさんの言葉に安堵する僕。

アミタさんたちには親しい人を後悔して亡くして欲しくないからね。

 

「クロノ、支局からは何人寄越せる?」

 

「約15人ってとこか?不確定だからな、そう人材を回せない。もっとも、この人数でそんなに居るかってとこだがな」

 

「ふっ。なるほどね」

 

僕らだけでも過剰なのに、さらにアミタさんたちもいるので過剰も過剰の戦力だ。

 

「取り敢えず手分けして捜してみよう。範囲は、海鳴市全域から、前回の事件のオールストン・シーまでのエリア。4人一組で組み分ける」

 

「ああ、問題ない。だが、組み分けはどうする?」

 

「大丈夫、すでに決めてある」

 

「相変わらず早いな・・・・・・」

 

クロノの皮肉にフッと笑みを返し、それぞれ組み分けをする。

まず一組目。なのは、シュテル、ヴィヴィオ、星夜。

二組目。フェイト、アリシア、アインハルト、澪奈。

三組目。アリサ、すずか、レヴィ、紅葉。

四組目。はやて、ディアーチェ、ヴィクター(ヴィクートーリア)、華蓮。

五組目。夜月、アミタさん、ジーク(ジークリンデ)、天雲。

六組目。シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、羽切。

七組目。ユーリ、キリエ、イリス、アインス。

局員の方は局員で固め、クロノにそこの陣頭指揮を取ってもらう。

後方支援及び医療班として、シャマルを筆頭に聖良や愛菜美お姉ちゃんはこっちに待機してもらう。

ユーノ、アルフ、リニスさんは管理局の無限書庫でなにか手がかりがないか探してもらってる。

凛華には全体の指揮を取ってもらうつもりだ。

それぞれ班ごとに分かれ各地を捜索しに行く。

で、僕はと言うと―――。

 

「―――」

 

魔力回復のため、ダイオラマ球のなかで休んでいた。

クロノ曰く、目に見えて隈とか出来てるから寝て休んで来いだそうだ。

お姉ちゃんにも言われ、さすがにこの二人に言われては言い返せるはずもなく、僕は不本意ながらダイオラマ球のなかで休息をとっていた。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「あぁ、うん、大丈夫」

 

ダイオラマ球の中には聖良もいる。

聖良は僕に治癒魔法を掛けてくれている。

今の僕は疲労により、満足に動けない状態だ。さっきまでは身体能力強化で補っていたけど、解除するとグデーとなってしまう。

 

「外では約一時間しか経ってないけど、こっちには一日だからね」

 

一日もあれば体力も魔力も回復するはずだ。

 

「癒しの風よ、彼の者に安らかな温もりを。暖かな光に包まれ傷を癒せ。―――光風の癒し(ヒーリングベール)

 

聖良の光系統の回復魔法により、僕に癒しの光の風が包まれる。

効果としては、肉体・疲労回復上昇。魔力回復上昇。自己治癒力上昇などだ。

聖良は戦闘系より、サポートや回復系の魔法が得意のため基本的には後方支援だ。もっとも、僕とのユニゾンにより前線に出ることもあるが。

回復魔法を掛けてる中、聖良が震えているのを感じた僕は、回復魔法を掛け終え僕の横に寝てきた聖良に。

 

「聖良、なにか悩みでもあるの?」

 

と聞いた。

僕の問いに聖良はビクッと震えた。

 

「あのね。昨日のプレシアさん、夜天の書の断片だったって言ってたでしょ?」

 

「え?あ、うん。戦闘能力は今のプレシアさんより低かったけど」

 

病気も全快し、家族がいるプレシアさんの魔導士ランクは再測定の結果、なんとSSランクになっていたのだ。

しかも条件付きならSS++ランクに近いほどだ。

病気前は条件付きでSSランクだったのに、凄い快復だ。まぁ、今のプレシアさんは常時親バカ絶賛発動中なのだが。

 

「お兄ちゃんにとっては誰でもそうだと思うよ・・・・・・」

 

苦笑いで返す聖良。

いやいやいや。僕にだって危ういところはあるよ?現になのはやフェイトたちの実力は底知れないし、場数を踏んでる熟練の魔導師では負けるかもしれないし。

夜月との模擬戦では1寸も隙が抜けないしね。

 

「多分それは闇の書の闇の。ナハトヴァールの能力のひとつだと思う」

 

「え?」

 

聖良からナハトヴァールの名を聞き僕は間の抜けた返事をする。

ナハトヴァールの能力だということも驚きだが、なにより聖良が自分でナハトヴァールの名を口に出したことに驚いた。

聖良にとって、ナハトヴァールとは自身の罪であり闇。消えることの無い業なのだから。

 

「闇の書の自動防衛運用システム《ナハトヴァール》は元々夜天の書の主が外敵から攻撃を受けた際に作動する防衛プログラムだったの。これは知ってるでしょ?」

 

「うん」

 

「はやてちゃんの前。今までの歴代の主が『己の欲望のままに夜天の書を改竄』した結果、周囲に存在するもの全てを破壊し、喰らい尽くすモンスターへと変貌し、これまで数々の惨劇と悲劇を引き起こしてきたプログラム。たぶん、その中のひとつ[写篇(フラグメンツ)]だと思う」

 

「写篇・・・・・・」

 

「うん。過去のお兄ちゃんたちを再現したものだよ」

 

「過去の・・・・・・僕ら」

 

その過去というのが、どこまでの過去なのかによって対処レベルが変わってくる。

もし『エルトリア事変』までの記録ならヤバい。

だが、『闇の書事件』までの記録なら、余程のことがない限り充分に対処可能だ。僕はもちろん、なのはたちもあの頃とは比べものにならないほどレベルが上がってるからね。

『エルトリア事変』まで記録なら僕らだけでなく、イリスたちも再現されてる可能性がある。

 

「もちろん。オリジナルより性能は劣るけど数に限りがないから」

 

「物量攻撃か」

 

性能が劣っても、それが1人や2人ならいい。だが、10人や100人とにったらもう手が付けられない。

 

「対策は?」

 

「・・・・・・分からない」

 

「どういうこと?」

 

「私がいた場合だったら、私を何とかすれば止められたけど、今は私がここにいるから」

 

聖良は元々ナハトヴァールの意思だ。

つまり中枢核。現在は僕とリンクしているためナハトヴァールとしてのチカラはなくなっている。いや、手放した方が正解か。

 

「それに、なんで今そのプログラムが動いているのか分からないの」

 

確かに不可解だ。

何故今になって出たのか。何故、『エルトリア事変』が終わってからなのか。考えられるとすれば、ユーリが解放されたから、という事だが。

 

「まぁ、今考えても仕方ないよ。わかんないことはね」

 

あれこれ考えてたらキリがない。

 

「大丈夫。聖良は絶対に守るから」

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

「言ったでしょ?聖良を助けるって。家族はもう喪いたくないから」

 

聖良をギュッと抱き締めて言う。

この子はもう充分苦しみ、哀しみ、傷ついてきた。これ以上、この子にも。アインスやユーリ。はやてたちにも哀しみを味わせたくない。

 

「それに、もしなんかあっても命に変えて助けるから」

 

笑みを浮かべて言う。

自分の命と家族なら、僕は家族をとる。

絶対に喪いたくないから。

 

「うん・・・・・ありがとう、お兄ちゃん」

 

僕の服の裾を掴んで言う聖良。

聖良を抱き締めながら僕は聖良とともに眠りに落ちた。

起きたのは眠ってから約9時間後の事だった。

 

〜零夜side out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜なのはside〜

 

各チームごとに分かれて探索を始めて30分。

特に手がかりというものはなく、メンバーであるシュテル、ヴィヴィオちゃん、星夜ちゃんと話していた。

 

「エリアサーチに反応ありませんわね」

 

索敵をしていた星夜ちゃんが目を閉じながら告げる。

星夜ちゃんのエリアサーチに反応がないということは、私やシュテルが同じことしても意味無いね。

 

「ほぇぇー・・・・・・」

 

ヴィヴィオちゃんは感嘆した声を漏らして星夜ちゃんを見る。

今の星夜ちゃんの格好は、どこかのお嬢様と言った感じだ。

白いブラウスにベージュのカーディガン。黒のロングスカートと、そこまで高い服でもないのに見事に着こなしてる。

 

「ん?ヴィヴィオさん、どうかいたしました?」

 

「い、いえ!その・・・・・・星夜さんカッコイイなぁって」

 

「そうですか?」

 

自覚無いのか、星夜ちゃんはヴィヴィオちゃんの褒め言葉に首を傾げる。

 

「ヴィヴィオちゃんの世界での星夜ちゃんはどんななの?」

 

「えっと・・・・・・冷静沈着の美人秘書で、後方支援のエキスパートとして有名です」

 

「さ、さすが零夜くんの家族・・・・・・」

 

なんというか、ホント無茶苦茶だよね。

そう思っていると。

 

「―――」

 

急に結界が張られ、目の前の空間が歪んで、そこから二人の少女が現れた。

 

「アリサちゃんとすずかちゃん?」

 

出てきた二人は私の大親友のアリサちゃんとすずかちゃんだった。

 

「っ!全員下がりなさい!」

 

星夜ちゃんの声に私たちは驚きながらもすぐに後ろに下がった。

 

「出ましたわね、闇の欠片」

 

右手を前に出して魔法陣を展開する星夜ちゃん。

って!

 

「は、早いよ!?攻勢が早すぎるよ!?」

 

「?」

 

何を当たり前のことを?とでも言いたげに首を傾げる星夜ちゃん。

星夜ちゃんはすでに自身の武装の双翼を展開している。

私たちがそんなやり取りをしていると。

 

「ふふふ。燃えなさい!」

 

「さっさと凍てつけ」

 

「「「「っ!!」」」」

 

アリサちゃんとすずかちゃんの影が魔法攻撃を仕掛けてきた。

しかも。

 

「ふ、二人の性格が反対!?」

 

あの闇の欠片の二人は本当の二人と正反対な性格だ。

アリサちゃんのホンモノは活発なのだが、闇アリサちゃんは妖艶というか、不気味な感じで。すずかちゃんはお淑やかなんだけど、闇すずかちゃんは、粗雑というか、冷たい感じだ。

ホントの二人が見たら気絶しそう。

 

「ふふふふ。さぁ、さっさと消えなさい!」

 

「凍てつく闇を持って砕け散れ!」

 

炎と氷の魔法攻撃は二人の得意とする攻撃だ。

それにすでに魔法陣が構築出来てる。逆に私達はまだだ。

万事休すと思ったその時。

 

「―――爆ぜなさい」

 

「「っ!?」」

 

星夜ちゃんのたった一言によって、二人の魔法が消えた。

 

「撃ち放て、ギャラクシーレイ」

 

立て続けに星夜ちゃんの背後に浮かぶ双翼から光の砲撃が放たれ、闇アリサちゃんとすずかちゃんに当たり、二人は何もいなかったように消えた。

 

「ホンモノの二人とは比べ物になりませんわね」

 

あっけらかんに告げる星夜ちゃん。

その星夜ちゃんに私もシュテルもヴィヴィオちゃんも唖然としていた。

 

「三人とも、気を抜きすぎですわ」

 

双翼を収めて言う星夜ちゃん。

確かに少し気を抜いていたかもしれない。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「すみません」

 

「ごめんなさい」

 

星夜ちゃんに私たちは素直に謝る。

 

「さて・・・・・・」

 

視線を上に向ける星夜ちゃん。

つられて私たちも空を見上げる。すると。

 

「団体さんのお出ましのようですわね」

 

空には漆黒の鳥や動物などの怪奇がいた。

すぐさま星夜ちゃんが結界魔法でこの辺り一帯を封鎖する。

 

「なのはちゃん、ヴィヴィオさん、シュテルさん、行きますわよ」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

「分かってます」

 

そこから、星夜ちゃんの指揮の下私たちは特に危なげもなくその動物たちを排除することが出来た。

そして、改めて実感した。

零夜くんだけでなく、その家族の星夜ちゃんも私たちより能力が遥かに高いということを。

 

〜なのかside out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~零夜side〜

 

ダイオラマ球の中で魔力・体力ともに回復した僕は聖良とともに現実世界へと戻り凛華に状況を聞く。

 

「あちこちでなのはちゃんたちのニセモノが現れて戦闘になっているみたい」

 

「強さは?」

 

「ホンモノより劣ると。けど、ニセモノに加え、何か怪奇な動物までも出てきているらしいわ」

 

「動物?」

 

スクリーンに映った画像には、兎や狼、鳥など様々な動物らしき黒い物があった。

らしき、ってのは単純にそれらが普通の動物じゃないからだ。

禍々しいってのもある。

それを見て聖良が。

 

「っ!?[断篇(ラルヴァ)]!?」

 

目を見開いて声を上げていった。

 

「ら、断篇?」

 

「ラルヴァって、確か悪霊とかそんな意味だったような・・・・・・」

 

思い出しながら言う。

確かに、あの見た目は悪霊と言っても過言では無いかもしれない。

 

「アレは魔法とか使わないけど、数がほぼ無限に出てくるの」

 

「無限?発生源は」

 

「[写篇]」

 

「つまり、[写篇]を何とかしないとダメってことか」

 

「う、うん。でも、多分だけど、[写篇]本体は別の時空にいると思う」

 

「マジかァ」

 

まさかの情報に頭を悩ます。

別の時空にいるということはコチラから手が出せない。

 

「?零夜くん、あの[断篇]たちなにか探してません?」

 

「え?」

 

よく観てみると、積極的に戦闘を行っている[断篇]に加え、何かを探しているような[断篇]が結構いる。

 

「ホントだ。何探してるんだろ」

 

不思議に思いながら観る。

 

「聖良は何かわかる?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「聖良?」

 

「聖良ちゃん?」

 

反応しない聖良の方を見る。

聖良はウインドウに視線をやったまま何か考えていた。

 

「聖良?」

 

「っ!」

 

再び声をかけると、聖良はハッとしたようにこっちを見てきた。

 

「あ、ゴメンお兄ちゃん!な、なに?」

 

「いや、[断篇]たちが何を探しているのかわかる?」

 

「う、ううん。私にも分からないよ。魔力とか・・・・・・じゃないかな?」

 

「ふむ」

 

「魔力・・・・・・・」

 

「闇の書の闇を復活させるために必要だからだと思う」

 

「っ!それは・・・・・・厄介だネ」

 

あの戦いは当時の総員揃ったからこそ攻略出来た。

もちろん、今の戦力なら問題ないだろうけど。

 

「・・・・・・・・・・」

 

僕が物思いにふける中、ただ一人聖良は顔を青ざめていた。

なにか嫌な予感がしているようだったのを、この時の僕は気づいてなかった。

 

~零夜side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???side〜

 

 

「ドコニイル・・・・・・?ドコニ・・・・・・イル・・・・・・!!!

 

 

       ナハトヴァール!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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