遊戯王~影に堕ちし者と魔法使い~ (ふみつき)
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影の始まり

「《デーモンの召喚》!これで俺の勝ちだぜ!」

 

「なんの、こっちは《コスモクイーン》を特殊召喚だ!そのまま《デーモンの召喚》を攻撃だ!」

 

春うららかなるお昼時、デュエルリングで行われている。そこそこに盛り上がっているようでデュエルリングの側や教室から観戦している者が多い。だが、その教室の一室で自席に座り、読書をしている人がいた。黒髪黒目、髪は一般的な長さで顔立ちも普通と言えるその少年、立花遊希(たちばなゆうき)は周りの騒々しさとは無縁とも言える過ごしかたをしていた。

 

『遊希、折角高校に入学したのに新しく友人を作ろうとは考えていないのですか?』

 

突如として遊希の隣に長身の女性が現れ、声をかける。白銀の長髪、周りの学生とは明らかに違う服装、誰もが一度は振り返りそうな美貌、見た目だけでなく突然と姿を現したにも関わらず誰も彼女のことを気にかけていないのは、彼女が実体ではなく霊体として出現し、遊希以外にはその姿が確認できないからだろう。

 

『別に。それに、最低限の話をして出来る限り目立たないように過ごしていきたいからね。面倒ごとはごめんだし』

 

遊希は声を発さずに隣の女性に伝える。それを聞いた女性は苦笑し、遊希らしい、と一言零して、彼の邪魔にならないように彼の読む小説を一緒に読んで昼の休み時間を過ごしていた。

 

✳︎ ✳︎ ✳︎

 

午後の授業も終了し、帰りのホームルームで担任の教師から襲われて意識不明になっている人が最近多くなっているから帰り道は気をつけろよー、と注意喚起を貰ってからの帰り道。遊希は近くのデパートで食材を購入してから真っ直ぐ自宅に向かっていた。

 

『今日の夕飯は何ですか?』

 

昼休みに話していた女性に再び話しかけられ、遊希は先程買った食材から何作ろうか軽く考える。野菜は人参に玉ねぎ、ほうれん草、キャベツ、ブロッコリー、ピーマンなど、肉のほうは豚肉、牛肉、鶏肉、それもバラ肉やヒレ、ひき肉と様々な食材買っていた。数日は買い物に行かなくて済むだろう、という量は買い込んである。

 

「…野菜炒めとハンバーグにでもしようかな」

 

周りに人がいないからか昼の時とは違い、声で伝える。ハンバーグと聞いたとき、女性の目が少し輝いていたのは気のせいではないだろう。

 

『遊希の作るハンバーグ、美味しいんですよね!焼き加減も最高ですし!』

 

「はいはい、ありがとう」

 

彼女のテンションの上がり方に苦笑し、遊希は歩みを進める。しかし、数歩進んだところで立ち止まり、歩いてきた道を振り返る。

 

『…どうかしましたか?』

 

「何か、妙な気配につけられてる気がするんだよね…」

 

遊希がそう言い、二人は辺りを見渡す。住宅街を歩いていた二人の周りには家という家が立ち並んでいる。すぐ近くには子供達の遊び場となる広場があり、いつもの登下校で見慣れた風景だ。

 

「…気のせい?」

 

遊希が一瞬首を傾げる。

 

次の瞬間、二人の足元に闇の瘴気が出現する。

 

「な!?」

 

『遊希!』

 

瘴気が出現したのも束の間、二人は瞬く間に瘴気に包まれていった。

 

✳︎ ✳︎ ✳︎

 

「サナ!」

 

「大丈夫です!ここにいます!」

 

遊希は女性、サナの腕を掴む。霊体化を解き実体化したサナは体制を崩しかけていた遊希を引っ張ってバランスを取る。

 

周りを見回してみると先程の住宅街の風景とは打って変わりドス黒い闇の雰囲気に包まれていた。建物などは一切見えていない。

 

「状況的に闇に飲み込まれた、てところか」

 

「どうやって抜け出しましょうか…」

 

何か打開策はないかと二人が頭を悩ませていたとき、ある一点に闇が集中してボンヤリとした人の形が形成されていった。

 

「ほう、デュエルモンスターズの精霊付きだったのか。これはいい食事が出来そうだ」

 

闇が意思を持ち、語りかけてくる。敵意を持っているのが丸わかりなのか、サナはすぐ様に持っていた杖にエネルギーを溜め、それを闇に放つ。闇は一瞬霧散するが直ぐにもとの形に戻っていく。

 

「くっ…」

 

「サナの攻撃が効いてないのか?」

 

戸惑う二人。闇の方はクックックと笑う。

 

「さあデュエルだ!デュエルをしろお!」

 

闇がそう叫ぶと闇と遊希の間にデュエルフィールドが形成される。

 

「これ、まさかデュエルフィールドなのか?」

 

驚く遊希は闇のほうを見ると、闇の前にはカードが5枚既に展開されていた。闇の方はうわ言のようにデュエル、デュエルと呟くだけだ。

 

「…やるしかないか」

 

「そのようですね。私はどうしますか?」

 

「当然、力も貸してくれ」

 

「かしこまりました」

 

サナはまた後でと言いその場から消える。次の瞬間には、それまでつけていなかったはずのデュエルディスクが遊希の左腕に装着され、彼の前にも5枚のカードが展開される。

 

「さあ、デュエルだあ!」

 

「影に堕ちた禁断の呪術、その身をもって知るがいい!」

 

お互いに一呼吸置き、そして。

 

「「デュエル!」」

 

 

同時にデュエル開始が宣言された。

 

闇の瘴気 LP:8000 手札:5枚

立花遊希 LP:8000 手札:5枚

 

「オレのターン!」

 

先行は闇の瘴気。手札を確認し、薄気味悪く笑う。

 

「ククク…。完璧な手札だ!」

 

闇の瘴気がそう言うと遊希は身構え、対応策をすぐに投じれるようにした。

 

「先行は通常のドローが行えない。このままメインフェイズにいかせてもらう。手札から《ゲートウェイ・ドラゴン》を召喚!効果発動し手札から《スニッフィング・ドラゴン》を特殊召喚!特殊召喚した時の効果によりもう一枚の《スニッフィング・ドラゴン》を手札に加える!」

 

闇の瘴気の場に異なる2体の龍が出現する。遊希を睨む形で、どちらもグルルと唸り声を出していた。

 

「まだいくぞ!手札から《二重召喚》を発動!このターン、もう一度通常召喚を行える!それによりもう一度《ゲートウェイ・ドラゴン》を召喚し、効果発動!手札から《スニッフィング・ドラゴン》を特殊召喚する!そして効果発動し最後の《スニッフィング・ドラゴン》を手札に加える!」

 

先程と同じ龍達が再び出現する。こちらも同じように唸り声をあげていた。

 

「出でよ!我が最強のサーキット!召喚条件は効果モンスター3体以上!オレは2体の《ゲートウェイ・ドラゴン》と《スニッフィング・ドラゴン》でリンク召喚!現れろ、リンク4!《ヴァレルロード・ドラゴン》!」

 

闇の瘴気の前にリンクサーキットが出現し、4体のドラゴンが吸収され、そこから口に砲台をつけた巨大なドラゴンが出現する。

 

(攻撃力3000のモンスター…。他に何が来る?)

 

「オレはこれでターンエンドだ!」

 

「…え?」

 

攻撃力の高いモンスターが一体。他のモンスターも何か来るかと身構える遊希だったが、そのモンスター一体が出ただけで終わり、拍子抜けと言わんばかりの表情をする。

 

闇の瘴気 LP:8000 手札:5枚→2枚

場:EX→ヴァレルロード・ドラゴン(A:3000)

 

『遊希、警戒はした方がよいかと』

 

(わかってるよ、サナ)

 

「俺のターン!」

 

遊希の声と共にカードが1枚増える。6枚の手札を一通り確認すると1枚のカードを触り動き出す。

 

「《影依融合》を発動!お前の場にエクストラデッキから特殊召喚された《ヴァレルロード・ドラゴン》が存在するため、デッキから《シャドール・ヘッジホッグ》と《Emトリック・クラウン》を墓地に送り、融合召喚を行う!融合召喚!来い、レベル8!《エルシャドール・ネフィリム》!」

 

遊希の場に青い渦が出現し、そこに黒いハリネズミとピエロが飲み込まれ、闇の瘴気の《ヴァレルロード・ドラゴン》と対面する様に巨人、《エルシャドール・ネフィリム》が出現する。

 

「《ネフィリム》の効果発動し《影依の原核》を墓地へ、《ヘッジホッグ》の効果発動で《シャドール・ファルコン》をデッキから手札に加えて、《トリック・クラウン》の効果も発動し自身を特殊召喚して俺は1000ポイントのダメージを受ける。…っ」

 

《トリック・クラウン》が出現するタイミングで爆発が起こり、その衝撃が遊希にダメージを与える。しかし、その衝撃の強さに遊希は顔を顰めた。

 

立花遊希 LP:8000→7000

 

(衝撃の痛みがが直に…?まさか、このデュエルは…)

 

遊希は考え、冷や汗を垂らす。嫌な予感がしたのか早めに終わらせようと遊希は次の一手に手を伸ばす。

 

「《影依の原核》の効果を発動して《影依融合》を墓地から回収する。《召喚師アレイスター》を召喚、召喚時の効果で《召喚魔術》をデッキから加える」

 

続いて遊希の場に現れるのはフードを被った魔術師。何処となく、知的な印象を与える。

 

「出でよ、禁忌の力のサーキット!俺は《エルシャドール・ネフィリム》と《召喚師アレイスター》を素材にリンク召喚!来い、リンク2!《暴走召喚師アレイスター》!」

 

遊希の場にリンクサーキットが出現すると《ネフィリム》と《アレイスター》はそれに吸い込まれ、そこから再びアレイスターが出現する。しかし、その姿は先程とは違いかなり禍々しい。

 

「《ネフィリム》の効果発動。《影依の原核》を手札に加えて、《暗黒の魔王ディアボロス》を墓地に送り《トレード・イン》を発動し、デッキから2枚ドロー。…お?」

 

遊希はドローした2枚のカードを確認する。ここまでの行動で遊希の手札は8枚。初期の手札より多い。

 

「《異次元の指名者》を発動し《スニッフィング・ドラゴン》を宣言。さあ、除外してもらおうか」

 

「…いいだろう」

 

闇の瘴気の手札からカードが1枚消える。しかし、まだ手札が残っているため油断できない状況だ。

 

「《召喚魔術》を発動し、墓地の《アレイスター》と《ネフィリム》を除外して融合召喚!来い、レベル9!光の《召喚獣メルカバー》!」

 

再び青い渦が発生し、そこに《アレイスター》と《ネフィリム》が吸い込まれると、今度は巨大な戦車に乗った鎧を纏った騎士が出現する。

 

「《アレイスター》の効果発動で手札の《シャドール・ファルコン》を墓地に捨てもう1枚の《召喚魔術》をデッキから手札に、《ファルコン》自身の効果を発動してリバース状態で特殊召喚される。そして《神の写し身との接触》を発動!場の《ファルコン》と《トリック・クラウン》を墓地に送り、融合召喚!再び現れろ、《エルシャドール・ネフィリム》!」

 

青い渦が三度発生し、遊希の場に再び巨人、《ネフィリム》が出現する。

 

「《アレイスター》の効果を再び発動。《サイレント・バーニング》を捨て《法の聖典》を手札に加え、《ネフィリム》の効果発動により《シャドール・ビースト》を墓地に送り、その《ビースト》の効果発動でカードを1枚ドローする。更に墓地の《サイレント・バーニング》を除外して効果発動し、デッキから《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》を手札に加える。そして、《召喚魔術》をデッキに戻し、効果発動。除外されている《召喚師アレイスター》を手札に加える」

 

遊希は淡々とプレイしていく。闇の瘴気は余裕のありそうな不敵な笑みを消さない。遊希の場のモンスターの攻撃力が《ヴァレルロード・ドラゴン》の攻撃力より下回っているからだろうか。

 

「頼むよ、サナ。《アレイスター》をリリースして《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》を特殊召喚!《アレイスター》がリリースされたことで墓地の《暗黒の魔王ディアボロス》の効果発動!自身を特殊召喚する!」

 

遊希の場から《アレイスター》が消えると先程まで彼の傍にいた女性、サナが出現する。その正体は《サイレント・マジシャン》だ。彼女の出現と共に暗黒の力を纏った龍王も姿を現す。

 

「《ディアボロス》自身をリリースして効果発動!お前の残り手札をデッキに戻してもらおうか」

 

「…ぬぅ」

 

《ディアボロス》が消えるのと同時に闇の瘴気の手札も消える。闇の瘴気にも若干の焦りが見えている。

 

「もう一度《召喚魔術》を発動!墓地の《暴走召喚師アレイスター》とお前の墓地の《ゲートウェイ・ドラゴン》を除外し、融合召喚!来い、レベル4!闇の《召喚獣カリギュラ》!」

 

先程遊希の場にいた《暴走召喚師アレイスター》の禍々しい部分が表立ったようなモンスターが出現する。

 

「バトルだ!《ネフィリム》で《ヴァレルロード》を攻撃!」

 

遊希の宣言により《ネフィリム》は《ヴァレルロード》に突っ込む。その2体がお互いを捕まえるとそのまま取っ組み合いとなる。だが、闇の瘴気は笑っていた。

 

「バカめ!《ネフィリム》の攻撃力では我が《ヴァレルロード》には勝てぬ!そのまま消えるがいい!」

 

闇の瘴気がそう言うと《ヴァレルロード》は口の砲台を開きエネルギーを充填し始める。しかし、それは発射されることなく《ヴァレルロード》は爆発して消えていった。《ネフィリム》は全くの無傷であり、遊希は口角を釣り上げた。

 

「バカな!?何が起きた!?」

 

「《ネフィリム》の効果だよ」

 

「何!?」

 

「彼女の効果は特殊召喚されたモンスターとの戦闘を行うとき、ダメージ計算を行わないでそのモンスターを破壊する効果があるんだ」

 

「なんだと!?」

 

《ネフィリム》はつまらない、と言いたげに《ヴァレルロード》がいた所を見る。彼女としてはもう少し取っ組み合いを楽しみたかったのだろうか。

 

「だ、だが我が《ヴァレルロード》の効果により貴様の《メルカバー》の攻撃力は500ポイント下がっている。これで貴様の残りのモンスターが全て攻撃してきたとしてもオレのライフはまだ残る!」

 

「…なるほど」

 

遊希が《メルカバー》のステータスを確認するとそこには確かに攻撃力が2500から2000に下がっていることがわかる。

 

「まあ《カリギュラ》の効果でそもそもお互いに一体のモンスターでしか攻撃できないんだけど…」

 

「クックック、なら貴様にできることはなにも…」

 

「それでも、このターンで決着はつくかな」

 

「…は?」

 

遊希の言葉に呆然とする闇の瘴気。先程のターンまで焦りを覚えていた遊希と強気だった闇の瘴気の立場が逆転していた。遊希は残りの6枚の手札のうちの1枚に触れる。

 

「そもそも《カリギュラ》の効果はフィールド上に存在する限り続くけど《カリギュラ》がいなくなればその効果も消える。《カリギュラ》をリリースして《法の聖典》を発動!地の《召喚獣メガラニカ》を特殊召喚する!」

 

《カリギュラ》が消え、そこに現れるのは大地の巨人。隣にいる《ネフィリム》も巨大なのだが、《メガラニカ》は更にその上を行く巨大さである。

 

「な、な…」

 

「《サイレント・マジシャン》は俺の手札1枚に攻撃力が500アップする。俺の手札は5枚だから合計で3500だ」

 

サナは攻撃の指示を待ちながら杖にエネルギーを溜め、《メルカバー》と《メガラニカ》も攻撃準備に入る。

 

「これで終わりだ!《メルカバー》と《メガラニカ》、《サイレント・マジシャン》でダイレクトアタック!」

 

遊希の宣言に《メルカバー》が剣で切りつけ、《メガラニカ》が拳を振り下ろし、サナが杖に貯めたエネルギーを発射する。すると、闇の瘴気は大きな悲鳴を上げて消滅していった。

 

「う、うわ!うわあああ!」

 

闇の瘴気 LP:8000→6000→2700→0

 

闇の瘴気の消滅とともに辺りの闇が消えていく。周りの景色が見えてくるとそこはいつも通りの住宅街、変わらない通学路だった。デュエルの終了とともにサナ以外のモンスターも消えていき、サナは霊体化して遊希に近づく。

 

『遊希!大丈夫でしたか!?』

 

「…なんとかね」

 

二人は辺りを見回す。闇の瘴気の気配は消えたのか辺りにはそれらしき存在はもういない。

 

「…なんだったんだ」

 

『…さあ?』

 

二人は不気味に思いながらも再び帰路につく。空は紅く、しかし夕日が何処か不気味に暗くなっていた。

 

✳︎ ✳︎ ✳︎

 

「なん…だと!?」

 

遊希が闇の瘴気に勝利した時とほぼ同時刻。何処かのビルの一室で一人、驚いている人がそこにはいた。

 

「闇が一つきえた…。まさか、闇に耐えられる人がいるというのか!?」

 

焦りからか高級そうなカーペットに汗が滴り落ちる。目の前に広がっているディスプレイの数々は地図とともに赤い点が幾つも広がっていた。その中で一つ、他の赤とは違い薄い赤の点が点滅していた。

 

「場所はここか。確認せねば…」

 

人がその部屋を出る。静けさだけがその部屋を包んでいた。



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