魔装姫士アマネ外伝~魔装姫士ユイナ (踊り虫)
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用語集


こちらは用語集でございます。


『魔装姫士』

 有事の際に『メテルドレス』と呼ばれる高次元装束を纏い、活動することを認められた女性達。

 その主な任務は『ゴーレム』を討伐することであるが、人命救助なども行う。一般にはエクィテスと呼ばれる。最低年齢は十三歳。退職年齢は三十歳。これは、『メテルドレス』適性が失われるのが三十歳である為。

 

『ゴーレム』

 実態は人の胎児の形をしたナニカ。動植物を含む物質に付着することでその存在を高次元体へと昇華させる。それにより生じた『ネフィシュ』と呼ばれるエネルギーを意のままに操ることで何らかの目的を果たそうとする。姿形は様々だが、どれも元の姿からは逸脱した見た目となる。しかし、完全な人型にはならない。また、人で言うところの怒りや悲しみ、憎しみといった感情のようなものを発露させることで『ネフィシュ』を増幅させることが可能。

 

『メテルドレス』

 上半身下半身、二つ一組の遠近距離武装をセットにした高次元装束。

 人類必死の防衛決戦の最中に、『ゴーレム』の遺骸を分析した高度自動演算システム『イエス』により提示された対『ゴーレム』の為の決戦兵装。

 適性を持つ女性にしか使用することができない。

 

 人の手により改良は出来るものの、根幹となるシステムは完全なブラックボックスであり、現状どの勢力も複製は愚か解析すらもしていない。その理由は、過去、複製の為に根幹システムに手を出そうとした国家及び組織がたった十分で存在からその痕跡まで跡形もなく消え去ったという事件があったため。

 

 現存するメテルドレスの数は10000機で留められており、修復不可能なレベルになると『イエス』により新しく精製される。

 各『イーヘリオス』(後述)によって分配される数が違う。基準は内部勢力の大きさと『ゴーレム』の出現数。過去、人為的にホムンクルスのような形で適合者を作ろうとしたものの、『イエス』がそれは不可能と断定した為、計画は抹消された。

 

 ※メテルドレスのイメージはインフィニット・ストラトスよりアリス・ギア・アイギスに近い。

 

『ネフィシュ』

『ゴーレム』及び『メテルドレス』の動力となるエネルギー。

 

『イエス』

 人類調停者兼高度自動演算システム。まだ『地球』が存在していた頃に生み出され、以降、人類の助言者として、そして調停者として活躍してきた。イエスの命令及び判断は絶対のものとして遵守される。本体は第一エルフロンティア及び第十三エルフロンティアまで分割して存在する。

 

『魔装姫士統制局』

 第一エルフロンティアに本部を置く『魔装姫士』の統制局。『魔装姫士』の統制の他、『メテルドレス』の管理や国家間の情勢の仲介、仲裁を行う。各『イーヘリオス』に支部が存在する。

 

『企業』

 メテルドレス開発産業に着手する企業群。昨今ではどの企業も、第四世代型メテルドレスの開発に注力している。

◇企業例 

 ・スペリオル・インダストリー

 日本フロンティア大手メテルドレス開発企業の一つ。フロンティア内圧倒的シェアを誇るが、第四世代機の開発に難航している。メテルドレス開発以外にも、様々な産業に通じている。

 

 ・あやかしや

 日本フロンティアに属するメテルドレス研究開発企業。典型的なロマン技術屋体質。独創性、発想力では群を抜いており、汎用性を犠牲に極端な性能を手にしたドレスが多い。本作主人公、千寿結奈はこの企業に所属している。

※私、踊り虫が考案した企業でございます。

 

 ・日本フロンティア政府開発機構

 日本フロンティア政府直轄のメテルドレス開発研究機構。利益を目的とせず、フロンティアの守護を目的としたメテルドレスを制作する。その性質上、技術力は高いが、生産数が極々少数。

 

『イーヘリオス』

 宇宙を浮かぶ宙島、コロニー。便宜上の表示はコロニー及び国家。サイズはコロニーによってまちまちだが、ほとんどのコロニーははるか昔に存在したとされる『地球』の地形をコピーしているとされる。イーヘリオス間の移動は宇宙艇及びテレポーターによって行われる。しかし、テレポーターは費用が莫大である為、個人での移動のほとんどは宇宙艇。

 ↪︎『日本フロンティア』

 本作の主な舞台であるイーヘリオス。2010年代の地球の日本とその周辺海域をイメージして建造された。

 

『地球』

 はるか昔に『ゴーレム』によって消失した。

 

 

 

篠宮(しのみや) 天音(あまね)

 原作「魔装姫士アマネ」の主人公。ゴーレムの襲撃により祖父を殺され、その復讐のために魔装姫士となった。原作では彼女を中心に物語は進む。原作では15歳。

 

 

千寿(せんじゅ) 結奈(ゆいな)

 本作の主人公。原作にも登場する予定。

 ゴーレムの襲撃により両親と、視力を失い、代わりに驚異的な反響定位能力を得てしまった少女。17歳。

 本作では彼女の過去のお話を投稿。

 

 



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過去編
ユイナ・オリジン


まずは読者参加企画「魔装姫士アマネ」の原作者、James6氏に感謝を。
私、踊り虫が投稿したキャラ「千寿 結奈」を使っていただけたことや、その設定の中で生まれた企業「あやかしや」の起用の他様々な面でお助けいただきました。
その上今回は作者様のキャラである「柴田愛弓」さんと「柏木京佳」さんも貸して頂きました。

そして、同企画にて私と同じくキャラを投稿していたダレイオス三世さん。
James6さんを介する形でメテルドレスの設定を無理に変えさせてしまったことへの謝罪とキャラ「鏡音 司」さんを私の作品でも使う許可をしていただけたことへの感謝を!

本当にありがとうございました!


※今回の話は結奈が魔装姫士になるまで、と結奈が専用機を手に入れた日の話が交互に語られる方式にしています。
というのも元々はこれ一話だけを執筆する予定だったためです。結局は気分が乗って魔装姫士になってからも書くことにしましたが()


 両親が死んだあの日を、光を感じることすら出来なくなったあの日のことを――最低最悪なバースデーを。今でも千寿(せんじゅ)結奈(ゆいな)は夢に見る。

 

 

 結奈の家はそれなりに裕福であった。そのために与えられた多忙な立場から家で顔を合わせることが極僅かな父親と、立場ある夫を支えるという大役のためにあちこちを奔走していた母。結奈は小さい頃から両親の雇った使用人や時折遊びにいく祖父母と過ごすことが大半だった。

 

 家庭を顧みずに働く両親と娘、と周囲は噂し、結奈には同情の目が向けられていたが、結奈は寂しいと思っていても、それを言葉にしたことは一度もなかった。

 

 結奈自身が妙に大人びた少女であったこともあるだろうし、雇われである使用人達は結奈に良くしてくれていたし、祖父母もよく気に掛けてくれていたのもある。だが一番の理由は――両親は、しっかり自分を愛してくれているのだと、理解していたからだ。

 

 重ねて言うが、結奈の両親は責任のある立場で、それこそほとんど毎日家に帰ることすら儘ならないほどに多忙なのだ。そんな二人の愛を最も感じたのは、家族の誕生日。両親は無理を通してでも毎年欠かさず家族の誕生日の日だけは私情を、家族への愛を優先してみせた。

 だからこそ結奈は誕生日の日が楽しみだった。他の祝い事も嬉しくないわけではないが、それでも大きな差があったのは間違いない。

 

 

 

 そんな楽しみな日が、ゴーレムの襲来という悲劇により砕け散った。

 ゴーレムの襲来を報せるサイレンが鳴り響く中を結奈は両親と共に走っていた。向かう先は避難所として指定されているシェルターだ。父が先導し、母は結奈の手をしっかりと掴んで、走り続ける。

 

 ――そっちは、ダメです!

 

 これは夢で、どんなに声を挙げても無駄だ。そうわかっていても、結奈は何度も訴えた。

 

 ――行かないでお父さん!そっちにいる!そっちにゴーレムがいるの!

 ――お母さん!お父さんを止めて!お願いだから!止まって!

 ――私!お願い!二人を止めて!お願い!お願いだからぁぁぁぁぁ!!

 

 だが、止まることは無い。これは夢であり、そして過ぎ去ったかつての物語だ。結末は変わらない――悲劇は変えられない。タイムマシンがあったところで、彼女達がソレと邂逅する運命を変えるなど、不可能だった。

 

 

 最初にそれに気付いたのは父だった。

 

『にげ――』

 

 何かを言いかけ、そしてそのまま、巨大な何かに押しつぶされた。

 母は絶叫し、当時の結奈は、何が起きたかわかっていないのか、呆然としていた。

 

 だが、すでにあれから3年以上が経過している。かつての状況を整理している()()の結奈には、あの時に見た醜悪な存在をきちんと認識することが出来ていた。

 

『■■■■■ァァァァァァ』

 

 獣。

 

 四足の巨大な獣。狼や犬に近いが、普通の犬や狼は大型トラック程の巨躯は無いし、何十個も不規則に並ぶ眼は存在しない。それに、父を押し潰している背中から生えた二対の人のような腕がある訳が無かった。

 

 ――ゴーレム。と呼ばれる胎児に似たナニかは、取り憑いた対象を醜い怪物へと変えてしまう。それは生き物も例外ではない。おそらくこの個体はゴーレムが犬に取り憑いた結果発生したのかもしれないが、そんなことを考える余裕は無い

 

 かつての結奈は母の手を引っ張って逃げようとして――母がへたり込んでいることに気がつく。

 

『おかあさん?……おかあさん!逃げなきゃ!逃げようよ!』

 ――お母さん!逃げて!

 

 幼い結奈と今の結奈。二人の思いは同じだが、それが母に届くことは無かった。それどころか、父の、夫の死を前にして気が触れたのか、そのまま、笑い出してしまったのだ。

 結奈はその結末を知っている、

 

『おか――』

 

 ドン、と、母に突き飛ばされ、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バクリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 食われた。母が、一口で、怪物の、がばりと開いた口の中に、消えていって――グチャグチャ、と咀嚼する音が。

 

『いやぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 ――ああァァァァァァァァァ!!

 

 夢の中の結奈に力は無い。母を食い終えたらしい怪物――その頭部にある無数の目がギョロリと、幼い結奈を捉えた―――

 

 

 ◇◇◇

 

「結奈、結奈。起きたまえ。到着だ」

 

 まどろみの中にあった結奈の意識を現実に引き戻したのは、女性とも男性とも取れる中世的な声だった。

 結奈は知っている。そもそも今日は()()と道中を共にすることになっていたのだから当たり前だった。

 

「――すみません司さん。(わたくし)はどれくらいの時間、眠っていたのでしょうか?」

「大体30分くらいだね。それと、私は当然のことをしたまで、謝罪は不要さ」

 

 彼女、鏡音(かがみね) (つかさ)はそう言って結奈に手を差し出した。手を取れ、ということらしい。結奈は悪戯っぽく笑った。

 

「エスコートをお願いしますね、司さん」

「任せたまえ。君の()()()を使わずに済むように案内しよう」

 

 司が笑顔を浮かべた――といっても、()()()()()()()()()ので、そう思っただけなのだが。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 最悪のバースデー、のその後を語ろう。

 

 まず、結奈は死なずに済んだらしい。

 らしい、という曖昧な表現に留めたのは、結奈が言うに、怪物の眼が彼女を捉えてから保護された先の病院で目覚めるまでの記憶が曖昧だからだ。

 なお、彼女を見つけて保護した人物が言うには路上の血溜まりの傍で膝を抱えて意識を失っていたのだという。

 

 次に彼女と家族を襲った悲劇の元凶、ゴーレムだが、それ以上の被害を出す前に魔装姫士により討伐されたそうだ。

 なんともあっさりと、そう告げられた結奈は何も言わなかった。ただ、しとしとと、涙を零すのみであった。

 

 最後に――千寿 結奈の眼は、病院で眼を覚ましたその時から、失明していた。

 

 一口に失明というが、ここ、日本フロンティアでは、かつての地球の日本で使われていた定義をそのまま流用しており、眼前の手の動きなら把握できる「手動弁」。光の明暗の区別が付く「光覚弁」、そして明暗の弁別すらつかない状態。と区別される。

 結奈は最後の明暗の区別すら付かない状態にあった。

 

 日本フロンティアが再現している2010年代の町並みとは裏腹に、医療技術の発達はそうした視覚障害などの身体的障害を障害があるまま日常生活を送れるようにするのではなく、障害を障害と思えないほどに補助する方向へとシフト。そのための技術や器具は数多く存在し、貧富の差に関わらず扱えるように様々な制度で保障されており、身体的障害を抱える人々の人口は大幅に減っている。

 

 全盲となった人には、視覚の再会得のためにカメラを内蔵した義眼に取り替え、脳にその情報を送る形で視覚の再会得を目指す手術を行える。

 

 しかし、結奈の場合はそれが危険である、と判断されたのだ。なぜなら、ゴーレムと遭遇した結果障害を残した例は他に無かったからである。

 結奈の話が本当ならば、彼女は()()()()()()()()()()ということになる。不気味なことこの上ない。

 

 しかも、彼女は目が見えないにも関わらず、介護してくれる人物の方向を正確に把握していたのだ。

 

 そんな少女が相手では医者も下手に手が出せなかったのだろう。前時代的ではあったが今も残る全盲となった視覚障害者が行う訓練を結奈は受けることになり――その際に、発覚した。

 

 彼女の視力を補ったのは、音、聴覚である。どういうわけか、目を覚ました後の結奈は細かい音すら聞き分けられるようになっていたのだ。それこそ音源と自身の距離すらも正確に把握することが出来ていたのである。彼女の入院現場で関わった者は今まで以上に不気味さを覚えたことだろう。しかし、担当した医師は彼女を見捨てようとはしなかった。

 

 実験的ではあったがある試みが行われたのだ。

 

 反響定位、もしくはエコーロケーション。

 蝙蝠やイルカが視覚に頼らず音の反響を利用して物の形や位置を把握する能力のことだ。

 

 実は人間も訓練をすれば少しはわかるようになるらしい――のだが、大抵は義眼による視覚の再会得を行うために今では眉唾物となっていたものである。

 

 医師は、その会得を目指さないか?と全ての事情を結奈に打ち明けた上で打診したのだ。

 

 そしてそれらの事情を聞いた結奈はその訓練を行うことにした。

 リハビリであると同時に、体のいい実験体(モルモット)扱いなのだが、結奈にはどうでもよかったのだろう。傍目に見れば自棄を起こしているようにすら見えたのかもしれない

 

 

 ◇◇◇

 

 

 こつこつ、と固い床を叩く靴の音が響くのを、結奈は聞いていた。いつもはそこに白杖を突く音も混じるのだが、杖の代わりを司が務めてくれている。その歩みは全盲の身を気遣ってか少しゆっくりとしていて、結奈はその気遣いに感謝しつつ歩を進めた。

 

「…それにしても今日もにぎやかですね。ここ」

「――わかるのかい?」

 

 ええ、と結奈は肯定した。

 

「小さく、ですが壁の向こうで多くの人々が仕事をしている様子がわかります。機械の駆動音に人が忙しなく歩き回る音、それに……口論もしていますね?」

「……防音設備は完備してるって話だったんだけどね。キミの耳の前じゃ機密も機密じゃなくなりそうだ」

 

 司は溜め息を吐く。無理も無かった。

 ここはゴーレムと呼ばれる怪物達と戦う女性達。魔装姫士(エクィテス)が纏う超兵器、メテルドレスの研究開発を担う企業が一つ、「あやかしや」の本社である。

 

 当然ながら社外秘の情報も存在し、下手をすれば結奈には筒抜けだ。

 ――まぁ、彼女もここの一員だし、問題は無い……はずだ!と司は自分に言い聞かせたが。

 

「それにしても驚きました。まさか目の見えない私に専用のメテルドレスを用意してもらえるだなんて」

「そうかい?ボクとしてはキミのこれまでの戦果を思えば少し遅いくらいだと思うよ?」

 

 そうなのですか?と結奈は返しそりゃそうさ、と司は答えた。

 

「キミの噂はあちこちで聞いてたからね。初陣での苛烈さや、それ以降のゴーレム撃破数もそうだけど、かの『進撃者』柏木 京佳の作戦に口答えしたうえ、自分の命を顧みず全てを救って見せたエピソードは今でも語り草になってるよ」

「あの時のことですか……あまり良い話ではないんですけどね」

 

 苦い記憶が呼び起こされ、結奈は顔を顰めた。

 

 ――柏木(かしわぎ)京佳(きょうか)。日本フロンティアでも屈指のゴーレム殲滅率を誇るエクィテスだ。だが、彼女の理念はどこまでも結奈と相容れないもの。彼女と自分を含む数人の新人エクィテスで任務に及んだ際に紆余曲折を経て結奈は猛反発し、無茶をした結果、生死を彷徨う羽目になったのだ。

 

 意識を取り戻した結奈の元に一度だけ柏木京佳は訪れ、二三の問答を交わし、その上でお互いに相容れないと確認して別れて以降。結奈は彼女と言葉を交わしたことは無い――

 

 そんな結奈からすれば得の無い苦労話をさも美談であるように語られることもだが、柏木京佳というカリスマエクィテスと対立した結果、彼女の教え子の多くから反感を買っており、地味な嫌がらせを受けている身としては失敗談とも言えた。といっても反省するつもりは無いが。

 

 それに、結奈自身は柏木京佳の強さやゴーレム殲滅への熱意は見習いたいと思ってはいるのだ。

 ただ一点。どこまでも致命的に結奈と理念が噛み合わなかった。ただそれだけのことなのだ。

 

 ◇◇◇

 

 結奈はただ言われるがままに訓練という名の実験を受け続けた。

 最初は音の発生源と自分の距離しかわからず。

 二ヶ月続けてようやく反響を把握できるようになり。

 三ヶ月目で杖を突いた音の反響で「何か物がある」ことがわかるようになった。

 四ヶ月目でおぼろげに像を結び始め。

 六ヶ月目でようやく音の反響から正確に物の位置や形を把握できるようになった。

 

 そして一年経つ頃には彼女を中心に200mの半径であれば杖で地面を一突きするか、(余り結奈はやらないが)舌を鳴らすだけで正確に把握するまでに至ったのである。

 

 リハビリに付き合った医者は「奇跡的だ」と喜び。研究者は「貴重なデータだ」と喜んだ。

 

 

 結奈は、それからすぐに祖父母に頼みこんで初めて、両親の墓参りをした。

 結奈は泣いた。泣いて、葬儀に参加しなかったことを詫びた。墓参りにすら来なかったことを謝った。そして、また来ることを墓前で約束した。

 

 第三者が文章にするならただこれだけ、この時の思いは、結奈という少女が胸に抱えるべきものであるが故に。

 ただ、一つ言えることがあるとすれば、彼女はこの時、ようやく、両親の死と向き合うことができたのだという事実だけだ。

 

 ◇◇◇

 

 司が足を止めた。どうやら目的の場所に着いたようだ。目の前に両開きの扉がある。

 彼女が扉をノックすると女性の声で返事があった。司が扉を開けて、さあ、と結奈に入るように促され、結奈はそれに従った。

 

 ――ふと、音が聞こえた。音源は目の前、5m先。そこからか細い音がする。それこそ結奈でなければ聞き逃すような、だけど不快感のない音。

 結奈は足を踏み出し、その音源へと近づいていく。その音の反響で自分の目の前に遮るものは何もないことを認識しているからだ。

 

「――ふむ、君のリハビリ研究のデータを見る限り、音を識別できると思っていたが……なるほど問題はなさそうだ」

 

 その音源の傍に立つ人物がそう言った。その声は女性のものだった。

 

「あなたは?」

「私か、私は穂ノ村(ホノムラ)という。魔装姫士(エクィテス)であり、ここ『あやかしや』の一研究者でもあり」

 

 穂ノ村、と名乗った女性はその音源に近寄り、その正体を告げる

 

「――今ここにある君専用の試作メテルドレス『姫夜叉』開発の責任者だ」

「姫…夜叉」

 

 再度、その魔装に顔を向ける。音源そのものがメテルドレスであるため、正確な形状は把握しにくいが…バイザーと角。そして和装に似た兵装。

 

 それがどういうものなのか正確に把握はできていないが、それでも結奈の声には万感の思いが詰まった。

 

「これが、私、専用の魔装――私の新たな力」

 

 

 ◇◇◇

 

 墓参りが終わってからの結奈は勉学に励んだ。流石に数学の図形問題や漢字の読み書きは点字や音声朗読の力に頼らなければならず。そのことで盲学校に移るまでの間に通っていた学校でいじめに遭ったがうっとおしいと思いながら全て無視した。

 

 祖父母に頼み込んで様々な武道や武術を習った。目が見えないと手加減しようものなら容赦なく叩き潰すぐらいの気迫で(事実そうした輩は同年代の男女問わず彼女に勝てなかったが)その全てを熟した。一時期、彼女を取り上げるマスコミも居たぐらいだ。

 

 だが、彼女は驕らなかった。これはあくまでも通過点だと淡々と言うだけ。その真意を問われても、彼女は秘密です、とだけ返し続けた。

 

 

 そうして、その日。結奈の13歳の誕生日は訪れた。

 

「お爺様、お婆様、お話があります」

 

 そう言って、彼女は切り出した――私は、魔装姫士になる、と。

 もちろん祖父母は反対した。祖母は息子と、義理とはいえ娘まで失った。その上、孫娘までゴーレムによって失いたくはないし、危険な目にも遭ってほしくはない。と訴えた。

 

「私は死にませんよ。エクィテスとしての力を失うその日まで、私は生き続けます。ですが危険は承知の上で、ですけど」

 

 祖父は、復讐など碌でもないことだ。仇のゴーレムは既に倒され、他のゴーレムは次から次へと出てくる。その復讐の道に終わりはない。と諭そうとした。

 

「これは復讐ではありません。私はただ、怖いのです」

「怖い?何が怖いというのだ」

「無力であることがです、お爺様。無力なまま、誰も助けられないことが私は私自身の死より恐ろしいのです」

 

 祖父母はこの時初めて、医者に言われたある言葉を思い出した。

 ――サバイバーズギルト。災害や戦争、虐待に遭いながらも生き残った人々が「周りの人が死んだのになぜ自分は生きているのか」という自身の生存そのものに対して覚える罪悪感のことだ。

 

 結奈は自分のやりたいことをずっと一生懸命にやり続けていたしその手助けもした。時には明るく笑う姿も見た。だから、安心してしまっていた。うちの孫娘は目が見えずとも普通に生きていけるのだと。

 

 まさか、こんなことになっていようとは、結奈の祖父母は自分達の考えの甘さを悔やんだ。しかも結奈が取り出した紙とその隣に置かれた名刺には絶句せざるを得ない。

 

「これ、は……」

「魔装姫士の適性検査の結果です。検査を担当した人曰く『今年度では最高のネフィシュ適性』だったとか」

「こ、こっちの名刺は?」

「私のリハビリ(実験)に付き合ってくれた研究者の中にメテルドレス開発企業の研究者の方がいまして、その人の伝を頼りに企業に所属しようと交渉中です。人事の人曰く『目が見えずとも構わない』と言ってくれたそうですよ」

 

 祖父は机の上にあるその名刺をひったくり、そして企業名を目にすると大いに慌てた。

 

「ま、待て!『あやかしや』だと!?やめろ!あそこだけはやめるんだ結奈!」

 

『あやかしや』

 日本フロンティアでも悪名高いメテルドレスの開発企業。かの企業を指して人々は言うのだ「頭がおかしい」と――だが、結奈は淡々と言う。

 

「お爺様。すでに賽は投げられたのです。例えあの企業の研究者の多くが頭がおかしいと言われていようと、目の見えない私にはあそこ以外に魔装姫士になれる可能性は無いのですから――この意志は変わりません」

 

 そこからも結奈と祖父母は言い争い、とうとう祖父が縄で縛り付けてでも、と縄を持ち出してきた瞬間。結奈は逃げ出した。説得は無駄だった。祖父と祖母が言い合う声が聞こえた。言わなければよかった。秘密にして置けばよかった。それだけが結奈の心にしこりを残した。

 

 ◇◇◇

 

「そのメテルドレス『姫夜叉』の扱いだが、まず装着してくれ、初期設定を行いながら直接君の脳に情報を送る」

 

 穂ノ村の言葉に結奈は大人しく従った。

『あやかしや』では癖の強い兵装や機能を搭載したメテルドレスが多く、本来はVR空間を利用した訓練でメテルドレスの機能の把握を行い、その後現実での訓練を行うことでより早く兵器に慣れるようにしていた。

 だがVR世界であってもどういうわけか彼女の視覚は働かない。そこで、負担こそ掛かるが脳に直接情報を送るという荒業に頼るしかなかったのだ。

 

 そして凄まじい酩酊間とともに情報が入ってくる――

 

 ――――――――

 

『姫夜叉』

 対ゴーレム拘束兵器搭載型第4世代防衛用メテルドレスの試作機。

 ゴーレムを拘束することで被害を少しでも抑え、他機との連携により撃破するというコンセプトの元開発された支援機。

 

 特殊拘束兵装『濡烏』:着物の袖を思わせる兵装。ゴーレム拘束用ネフィシュワイヤー生成機。袖の中からネフィシュをワイヤーに変換したものを多数射出、操作し、ゴーレムを拘束する。

 操作方法にIUI(イメージユーザーインターフェース)を採用しているが長期間の訓練が必要かと思われる。

 一度に射出できるワイヤーの本数は片腕ごとに10本。両手で20本となっており、伸縮自在かつ切り離しも容易。

 最大射程は理論上存在しないが制御可能な射程は個々人の空間把握能力やネフィシュ制御能力の才覚に左右される可能性が高い。長く見積もっても使用者から半径100mが制御限界と推測される。

 

 ネフィシュからワイヤーに変換する効率が悪く、燃費が悪いという欠点があるため、全力での戦闘は上述の予測を含めても20分が限界かと思われる。

 

 ――――――――

 

「―――うっぷ……」

 

 未だに慣れない感覚に結奈は吐き気を催すが胃酸を吐き出すのは寸でのところで抑え込んだ。このあとすぐにでも訓練を行わなければならない。試作機ということもあって情報は少ない。実際に使ってみてデータを増やさなければ、それに実戦では使い物にならない。

 

 しかし、支援機。しかもめぼしい装備は現状『濡れ烏』のみ。射撃はそもそもメテルドレスによる補正を受けられないので苦手だが、なんらかの近接武器は必要だろう。そのことも打診しなければ――だが、穂ノ村がそれに待ったをかけた。

 

「ふむ、今日はここまでだな」

「い、いえ、次は訓練――」

「代えの効かない貴重なサンプルをこんなところで使い潰すのは研究者として3流だ。無理はしないでくれたまえ」

 

 サンプル――この言葉は結奈にとって聞きなじみとなりつつある。あやかしやに所属する研究者のおよそ半数には所属する魔装姫士を人目も憚らずそう呼んでくる輩が居ることを知っているし、表立ってそう呼ばない人であっても裏では、なんてこともある。

 

 呆れた話だが、それがまかり通ってしまう職場なのだ。ここの社長である大神氏やその一人娘の雫ちゃんがそのことで憤慨する姿を多く目にしているが彼らが反省する様子は無い。しかもそういった連中に限って研究者としての能力が高く手放せないことを結奈は知っていた。

 

 近くで様子を見守る司が、そうした研究者の犠牲者であることも含めて――

 

「――わかりました。では、今日はここで泊まって、明日にでも訓練とデータを取りましょう」

「……やれやれ、被験者の方がやる気があるとは、恐れ入った。では部屋を用意しよう。君はドレスを解いてそこのベッドで休んでくれ」

 

 わかりました、と答えた結奈は魔装を外し、司に支えられて近くに用意してあったベッドに腰掛けた。用意周到なことですね。そんな皮肉を胸中でこぼし、結奈はベッドに背を預け――そのまま意識を失うように眠った。

 

 ――そんな結奈の様子を確認した司が、穂ノ村に声を掛けた。

 

「――お優しいことだね研究者さん」

「……というと?」

「彼女に与えられるメテルドレス。支援機じゃないか。噂に聞く彼女の自身を顧みない戦場での苛烈さ――死に物狂いさを思えばそれを抑えるのに最適だよね。支援機が前に出るなんて狂気の沙汰だ」

 

 穂ノ村は、沈黙で以って答えた。司は溜め息を吐く。

 

「まったく、色々と大変だよねこの会社。ボクのドレスに()()()()()を乗せやがったクソ共もいればあなたたちみたいにボクらをサンプル、なんて呼びながらどこまでも魔装姫士のことを考える人もいる…まぁ、組織が一枚岩ってこと自体が珍しいのか」

 

 結奈は知らないだろう。穂ノ村を筆頭に人目を憚らずに魔装姫士をサンプルなどと呼ぶ者たちの目を。彼らはどこまでも真摯に魔装姫士のためを思っている。ここはそういう場所だと伝え、自分のエゴを投げ捨てれず、それでも助けになろうと足掻く大馬鹿共(研究者たち)

 

「君のヤタガラスだが…あの兵器のプロテクトが未だに解析できていない。解析できるまで待ってほしい」

「できれば早くお願いしたいね。強くてもあんな欠陥品を長く使ってたら酷いことになりそうだ。ま、紡の医療費を全額負担してもらった上で給料払ってくれてるんだから中々なもんだけどね」

 

 そして、結奈は知らない。彼女が関わらないところで非人道的な兵器を押し付けられたエクィテス()を助けようと奮闘する人々もいることを。

 

「まぁ、代わりの何かを搭載すること計画も進行中だがな。ちなみに主導しているのは大神氏だ。少なくとも非人道的にはなるまいよ」

「…え、社長自らって…アレを外してもらうだけで良いんですけど」

 

 そんな司の要望を、穂ノ村はばっさりと切り捨てた。それも、童心に返ったかのように目の輝かせて。

 

「それはもったいないだろう。あれだけかっこいい機体だ。ならカッコイイ機能があってこそじゃないか」

 

 ああ、そうだった、と司は頭を痛めた。 ここはあやかしや。メテルドレスに妙なロマンやエゴを押し付ける研究者(大バカども)の集団だ。

 

「……せ、せめて使いやすい機能でお願いしますよ……ハァ、いつになったらボクのヤタガラスが帰って来るんだか」

 

 二人の会話はそれで終わり、二人は部屋を出て行った。

 司は愛する妹の居る病院にお見舞いに行くために、穂ノ村は結奈が泊まる部屋を準備するために。

 結奈はそんな二人のことすら知らずに眠っていたのだった。

 

 ◇◇◇

 

 ――君はなんで魔装姫士に?やっぱり両親の敵討ち?

 

 魔装姫士になる。そう決めて家を出た結奈が魔装姫士統括局での面接時に、面接官となった魔装姫士から聞かれたことだった。

 結奈は、敵討ち、という言葉に首を傾げる。はて?なぜそのような理由になるのだろうか?

 

 ――いや、君みたいに家族を殺された子がね、ゴーレムに復讐しようと魔装姫士になるって例はあまり珍しくないんだよね。だから君もそうなのかな?って。でも、違うのか。じゃあ、どうしてなのかな?

 

 その時、結奈は正直に言うべきか悩んだ。正直に話したことで最終的に祖父母は喧嘩を始めてしまった。また同じ轍を踏むのは――

 

 ――まぁ、君のお爺様とお婆様から大体の話はもう聞いてるんだけどね。

 

 聞いてたのか。じゃあなんで自分も聞かれたのか。そのことを少し拗ねながら聞くと、面接官の女性は苦笑いをこぼした。

 

 ――ごめんごめん、だけど二人も大慌てでね。君を魔装姫士にするな!って大騒ぎしてたんだ。まぁ、魔装姫士って死と隣り合わせだし、30歳の力を失う時まで生き残ってるのって極少数なのよ。だから私が君のお爺様とお婆様から聞いた理由と『あやかしや』からの推薦状だけじゃちょっとね。

 

 そうか、そういうことか。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うのか。結奈は逡巡し――しかし、話さなければ先に進めないことを察して話し始めた。

 

「……私、あの日が来る前にもニュースでゴーレムから被害を受けたって話や、同じクラスの子がゴーレムの所為でお爺さんが亡くなったって話を聞いても、何も感じなかったんです。どうせ他人事だから、って」

 

 面接官は結奈に続きを話すように促した。

 

 ――続き、話してもらえる?

 

「でも、あの日が来て、何もかもが変わっちゃったんです。怖かった。すごく、怖かった。お父さんが殺されて、お母さんは食べられて、それが怖くてしょうがなかった――そして目が覚めて、目が見えなくなって……時間だけは一杯あったから、他人事だと思っていたことの当事者になって、いろいろと考えました。そんな時、私の目は治せないというお話を聞いて、そのままでも暮らせるように訓練すると言われて、そして私の耳がよくなってることがわかって。また別の訓練をするようになりました」

 

 面接官は何も言わなかった。何も言わずに先を促した。

 

「その訓練を聞いたとき、わくわくしていました。目を使わなくても物がわかるようになる訓練だなんて。まるで超能力者みたいだ!ってはしゃいだんです。両親が死んで数日足らずで――お父さんもお母さんも忙しくていつも居ないのが当たり前だったから、両親が死んだのは夢だろうって思いたかったんだと思います」

 

 だけど、と、結奈は一度、言葉を切った。

 

「訓練を続けて一年。一年も経てば、否が応でも居ないんだって理解しちゃいます――だから墓参りに行きました。お爺様とお婆様に頼んで。それで、泣いて謝りました、泣いてさよならを言って、泣いて、また、来るって言って――その時、他の場所でもすすり泣く声が聞こえました」

 

 その時初めて結奈の声が震えた。

 

「女の子の声でした。私が居た場所の少し奥。そこにある墓前で彼女は泣いていて、私は、私の置かれた状況が誰にでも降りかかるものだと知りました。知って・・・恐ろしくなりました。あんな目に遭うのが当たり前だなんてそんなの怖いです!悲しいです!腹立たしいです!だから・・・!」

 

 そこで、結奈はすみませんと謝った。興奮しすぎだと。面接官は大丈夫、と言った。結奈は締めくくる。

 

「私はゴーレムの所為でそんな目に遭う人がいるのが怖くてたまらない。そう思うようになりました。だけど、ゴーレムは居なくならないし、私みたいな目に遭う人が居なくなるなんてことはありえない。考えました。考えて考えて、考え抜いて――思いついたんです」

 

 ――それは、なんだったの?

 

「守り抜けばいいんです。そんな目に遭う人たちが、そんな目に遭わないように、ゴーレムから守り抜けばいい。でもそんなことが出来るのは魔装姫士だけです。だから祈りました。私に適正があってほしい…それだけを願っていました」

 

 ――……なるほどね。それが理由かぁ。

 

 はい、と結奈は肯定した。返事は無かった。

 なにやら、面接官の女性が唸っている。

 

 ――惜しいなぁ・・・うん、実に惜しい。

 

 そんな呟きに、ダメだったのか、と結奈は気を落として――あやかしやに渡すのが本当にもったいないなぁ――という面接官の呟きを聞いた。

 

 え、と顔を上げる。面接官の女性は続けた。

 

 ――正直、目が見えないってことがなかったら私の伝で政府直属になれるように掛け合ってるね。ネフィシュ制御能力も中々のモンだし。

 

「じゃ、じゃあ」

「うん、合格。そういう考え、私、嫌いじゃないよ。だから君のお爺ちゃんとお婆ちゃんの説得は私も一緒に行ってあげる」

 

 結奈は泣いた。嬉しかった。認めてもらえた。現役の魔装姫士に。お礼を言おうとして――ふと、手がそれを制していた。

 

「まずは、君のお爺ちゃんとお婆ちゃんの説得だね!やー大仕事だ!」

「あ、あの!」

 

 ん?と首を傾げた面接官に結奈は問いかけた。

 

「あなたの、名前は?」

「あ、私?ってそうか、ここに置いた名札は見えないか、ごめんごめん、自己紹介が先だったね」

 

 そういった面接官は悪戯っぽく笑ってみせた――結奈にはそんな風に感じられた。

 

「私は柴田愛弓!君たち、新しく魔装姫士になる子たちのお姉ちゃんだよ」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 結奈がメテルドレス『姫夜叉』を受領した翌日、あやかしやの演習場では――

 

「な、な!なんですかこれぇぇぇぇ!?」

 

 ――『濡れ烏』のワイヤーで雁字搦めになった結奈の姿があった。

 

「これは…………習熟にはだいぶ掛かりそうだな……」

 

 穂ノ村は自縄自縛(物理)に陥った結奈の姿を見て仮設定していた訓練カリキュラムの予定を二ヶ月から半年に書き換えたのであった。




 今回は千寿結奈という少女のバックボーンを紹介。戦闘に関しては・・・その、また今度に。

◇今回の登場人物の紹介

・千寿 結奈
 ゴーレムの襲撃により全盲となった少女。ゴーレムによる悲劇をなくすために奔走する魔装姫士。あやかしや所属。原作では17歳ですが、この話は11歳~15歳の頃のお話をさっくりとまとめています。

・鏡音 司
 あやかしやに所属する結奈の一つ上の先輩魔装姫士。中世的な容姿から小さい頃からいじめを受け、どうこうしようとするうちにいわゆる男装の麗人になってしまった女性。だけど実は・・・。

・桂木京佳
 名前だけの登場。原作者様オリジナルキャラ。原作主人公『篠宮天音』の師となる人物です。
 印象は上記本編にもありますが、結奈とは一生わかりあえない人物。彼女の詳しいことは原作で!

・柴田愛弓
 面接官として登場。原作者様オリジナルキャラ。
 実は、結奈を面接させることまでは考えていたんですが相手を名前もない人物にするかすごく悩みました。オリジナルキャラを増やすのはちょっとなぁ・・・と。
 ふと、そんな時に彼女の存在を思い出した訳です。
 彼女の詳しいことは原作で!

・穂ノ村千歳(ホノムラ チトセ)
 私、踊り虫考案のオリジナルキャラ。あやかしや所属の魔装姫士にして研究員であり、結奈のメテルドレス『姫夜叉』の開発責任者。
 なお、原作の時点では研究に没頭する余り魔装姫士としての職務を疎かにしたことでライセンスが剥奪されてるという裏設定が。

◇今後の更新
 本編の進み方次第ですが、まずは結奈の魔装姫士としての過去。つまり原作に至るまでを書いていく予定です。
 次は魔装姫士になって初めての初陣。結奈が13歳のときのお話になります。


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初陣その1

結奈の過去編、第二弾。
タイトルに初陣その1、とあるとおり初陣までの導入部です。戦闘は次回から。

それと、今回は原作投稿キャラのお一人、あやかしや社長令嬢、大神雫さんをお借りしております。
赤い人さん。使用許可をいただきまして感謝の極みです!

今回は結奈と雫の出会い、という部分も勝手に考えて描かれています。


 初陣。

 

 それは当事者にとって大きな意味を持つものだ。魔装姫士であれそれは変わらない。

 己の正義を信じる者、仇を定め憎悪を募らせる者、死の恐怖と争う者、慢心に溺れる者。

 

 いずれにしろ、戦場で初めてゴーレムと向き合う時、魔装姫士は試されるのだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 あやかしや、第二メテルドレス演習場。

 東京区内にある『あやかしや東京支社』に併設されている『あやかしや』所属魔装姫士専用の演習施設だ。

 他社や統括局直営の場所と比べて規模は小さいものの、あやかしや製の第三世代機を練習のために貸し出してもらえる施設となっている。

 

 そこに、魔装姫士となるための訓練課程を終え、晴れて魔装姫士となった結奈の姿があった。

 

 纏うのはあやかしや製の第三世代メテルドレス『かまいたち』。

 獣毛のような肩当や腰巻のなど一見するとメテルドレスらしからぬ装飾の目立つ魔装だ。なんでも、日本の伝承に伝わる妖怪、かまいたちをモチーフとしているらしい。

 その名に恥じない機動力、特に小回りの利く()()()()()()()()軽装型らしいメテルドレス……なのだが、専用の武装が一癖あった。

 

 大鎌である。それも今では古典作品と呼ばれる類のアニメや小説に登場しそうな刃と柄の比重を無視した大きさの物だった。

 

 名を『イチノタチ』

 結奈が聞いた所、刃の部分にネフィシュを纏わせてゴーレムを切ると傷口にネフィシュが残留して傷を拡げるという代物らしいのだが、その機能を使うだけでもそれなりのネフィシュ適性値が必要な上に、付随させる機構が大型化、しかも製作者の趣味で鎌の形状になってしまった武装なんだとか。

 

 この機体を愛用していた魔装姫士は、刃に纏わせたネフィシュを飛ぶ斬撃として使い、多くの研究者を歓喜させたとかいう与太話もついでとばかりに聞かされた。まぁ、ネフィシュの密度が足りず、中型ゴーレムの表皮に傷をつける程度のものだったそうだが。

 

 常識的な魔装姫士ならば初見でその扱い難いであろうことに顔をしかめる()()を、馬力面で問題のある『かまいたち』に持たせるという暴挙に出てしまっている。

「馬鹿か!?馬鹿なんだな!?そうだよここ頭のおかしい人が多いんだったよ!」という感想を抱かれるのは一度や二度どころか両手両足の総数すら当の昔に超えている。

 そもそもこれ、太刀じゃないよね?というツッコミはもはや忘れ去られた。

 

 しかし、この時の結奈は違った。その鎌を認識した時に「カッコイイ」と目を輝かせたのだ。わざわざ馬力の無い機体に持たせている、という点に顔はしかめても、その武器は気に入ってしまったのである。

 結奈には間違いなく『あやかしや』でやっていける素養があるのだろう。この説明を行った技師は「そうだろうそうだろう!」と喜んでいた。

 

 閑話休題。

 

 なんだかんだで今でも愛用する人はいるらしい魔装を自主練習の為にと借り受け、大鎌を振り回していた。

 周囲に人は居ないことは確認済み、ネフィシュを使った機能は切ってある。振り回しても刃が飛ぶなんて惨事にはなるまい。

 

「っ――ふっ!、はっ!」

 

 重い、というか重心のバランスが悪いその大鎌を結奈は苦心しながらも振るう。

 いや、武器を振り回す、という次元ではなかった。もはや、武器に振り回されているという表現の方が合っていた。小さい子供がおもちゃを振り回すような稚拙さ、と言えばわかるだろうか。

 ただ、習い事の関係か、振るう際の掛け声だけは堂に入っていた。

 

 無理も無い。彼女が武術や武道に力を入れ始めたのは一年前からだ。彼女自身のやる気もあってめきめきと上達はしたが、僅か一年そこらでこんな武器を扱えるようになるわけも無し。むしろメテルドレスというパワードスーツ込みとはいえ初めて使用して振り回されるレベルでも大した物だった。

 

 結奈は振るう。もう一回、もう一回、と振り回す。どう振るえば綺麗に刃を突き立てることができるのか。どう振るえばスムーズに振り回せるのか――どう振るえば、ゴーレムを断ち切れるのか。

 それ以外の雑念を切り捨て、ただひたすらに振るう。

 

 その時点で彼女は大量の汗を掻いていた。

 大鎌を振り始めてから既に30分。馬力の足りない機体でこれだけ振り回していればそうなるのも当然だったが、その不快感すら雑念として切捨てる。

 

 

 全てはゴーレムを倒す術を得るために――

 

 

 ――ふと、結奈がその動きを止めた。

 足音だ。この演習場へ足音が近づいてくる。おそらく大人のものではない。同じ魔装姫士だろうか?

 

 入り口に顔を向けると扉が開いた――結奈は迷うことなく鎌の柄。石突の部分で床を強く突く。甲高い音が響いた。反響定位のために音を鳴らしたのだ。

 

 反響を頼りに相手の正確な距離、背丈、輪郭を結奈は把握した。結奈自身も小柄なほうだが、入ってきた人物は更に小柄だ。少なくとも、同い年ではない。

 それと、その人物の驚いた声が聞こえた。おそらく少女だ。悪いことをした。

 汗に濡れて張り付いた髪の毛をどけて手で汗を拭うと、入ってきた少女に声を掛けた。

 

「――驚かせてしまってごめんなさい。私はここ、あやかしやの魔装姫士になった新人の千寿結奈です……あなたは?」

 

 そう訊ねると、少女は、腰に両手を当てた。心なしかふんぞり返っているような気がする。

 

「これはご丁寧に!私は『あやかしや』社長の娘!大神雫ですわ!」

 

 社長の娘、という言葉に結奈は聞き覚えがあった。

 若くして『あやかしや』を立ち上げメテルドレス研究開発企業として一定の成果を上げるにまで企業を引っ張り続けている英傑、大神(おおがみ)氏には似ても似つかぬお転婆な一人娘がいて、彼女を目に入れても痛くないとばかりに溺愛しており、よく会社に遊びに来るんだとか。この少女がそうらしい。

 

 ――社長令嬢を驚かせてしまった。結奈は顔を蒼くした。

 

「す、すみません!まさかお嬢様だとは思っていなくて!え、えええっとぉぉぉ!?」

 

 結奈はうろたえた。当然だ。社長の親族を害してしまった。この子が父親にそのことを言えば間違いなく自分は――やばい、初陣すらまだなのに追い出されかねない。だが、どうしたものか冷静さの欠けた状況では何も思い浮かばないので、

 

「――指を詰めます!」

 

 イチノタチの刃に指を添えた。

 

「何がどうしてそうなりますの!?」

「せ、せせせ責任を、とととと!」

「怖い!この人怖い!落ち着いてくださいな!なんでそんなに慌ててるんですか!」

「だ、だって!社長の親族を怯えさせ――」

「そんな理由で指を切られる方が恐いですわ!そんなスプラッター望んでませんし!」

「え、でもお爺様が責任を取る時は指を――」

「お爺様はヤのつく人ですの!?」

「失礼な!お爺様はそんな反社会的な活動はしてません!」

「逆切れ!?なんで私が怒られてますの!?」

 

 ――結奈の祖父、円蔵。趣味は任侠モノ映画の視聴である。

 

「ですが指は無しですし、そもそも結奈センパイにそんな態度をされたら悲しいですわ!」

 

 センパイ、と唐突にそう呼ばれ、結奈はピタリ、と止まった。結奈は学校に通っているが、それは2800年代の今では少なくなった盲学校である。大神社長の娘が視覚障害者だという話は結奈の耳をして聞いたことが無かった。

 ――少しばかり思考を巡らせ、自分が先ほどなんと名乗ったのか思い至るのに時間は掛からなかった。

 

「えっと……もしかして魔装姫士志望なんですか?」

「ええ!私も13歳になり次第、魔装姫士になるつもりですの!ですからあなたは私の先輩なのですわ!」

 

 そう、嬉しそうに語る雫の姿を見て、なるほど、と結奈は思った。その理論で言えば自分は彼女の先輩となるのは間違いない。

 そしてこれまでの自分の行動を思い返し、恥ずかしくなってイチノタチを背中に隠そうとした。しかし残念。イチノタチは結奈の背丈を越える。まったく隠せていないのだがそれに気付かない結奈であった。

 

「すみません、大神さ――」

「雫ちゃん、と呼んで下さいな」

「……では雫さん、と」

 

 悪戯っぽく言う少女の言は無視するわけにもいかず、とりあえず訂正する。今日初めて会う少女であり、しかも創業者の家族。無礼のないように振舞うのは当然だ。

 なので名前にさんを付けるというのは結奈なりの妥協点である。

 

 肝心のお相手はご不満のようだが。

 

「むぅ…皆さん私のことは親しみを込めて雫ちゃん、と呼んでくださるのに…私、あなたの後輩ですのよ?」

「それ以前に私のことを雇ってくださったお方の娘さんですから」

「……お父様のことを言わなければ良かったかもしれませんわね」

「その場合、部外者として警備に突き出していたかもしれないのですが……」

「グッジョブです私!」

 

 確かにグッジョブだ。結奈が彼女を社長令嬢と知らず警備に突き出すなんていう赤っ恥を掻くことを未然に防いだという意味で、本当に良かった、と結奈は安堵の息を吐く。

 

 そうじゃない話が脱線している。

 そもそも、なぜ彼女がここに来たのか聞きたかったのだ

 

「雫さんはどうしてここに?」

「あなたに会いに来ましたの!」

 

 結奈は困惑した。その答えは結奈の想像の範囲外だった。社長令嬢が自分にわざわざ会うために出向く理由が全然わからない。

 

 だが、雫の声は自分に会えたことへの喜びに満ちていて、そこまで嬉しそうに言われてしまうとむず痒いものがあった。

 だから、そんな嬉しそうに言う雫に、困惑していた結奈も釣られて微笑んでしまったのは何も問題ないはずだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 メテルドレスをガレージに戻してシャワーを浴び、服を着替えた結奈を連れて、雫は最寄の休憩スペースに来ていた。そこなら落ち着いて話も出来る、という雫の言葉を結奈が受け入れたのだ。

 そこは研究開発の区画から少し離れている為、極稀にしか使われない場所。雫にとっての秘密基地もどきの一つだ。

 

 休憩所に到着すると、近くの自販機から飲み物を買ってきて欲しい、と結奈から小銭を渡された。自分の分も買って良いらしい。雫は素直に小銭を預かった。

 

 ――目の見えない少女が魔装姫士として『あやかしや(うち)』に入った、という噂はすでに雫の耳に入っていた。

 

 であれば自販機から飲み物を買うことにも難儀するだろう。医療技術が発展した今の時代、視覚障害者は極々僅かだ。自販機に点字や音声案内といった物を付ける義務は無くなって長く経つ、とかなんとか。

 

 とりあえず運動の後、ということもあるので結奈にはスポーツドリンクを、雫はとりあえずオレンジジュースを選んだ。

 

「ありがとうございます雫さん」

「いえいえお安い御用ですわ!」

 

 スポーツドリンクを渡すと、結奈は手探りでキャップの位置を探し、そして手馴れた手つきで開けると、ごくごく、と飲み始めた。

 そういえば演習場での彼女は汗だくだった。よほど喉が渇いていたと見える。そんな目上の少女の姿を、雫は微笑ましく見ていた。

 

 彼女がペットボトルの半分を一息に飲んで口を離して「ふぅ」と息を吐いたところでふと思う。

 こういう時はなんと言うのだったか…と雫は考え、そして一つ思い至った。

 

「いい飲みっぷりですわね!」

 

 うぐっ、と結奈は言葉を詰まらせた。こちらに顔を向けると何かを言おうとしては考えるような仕草を見せたり、と思えば頬を赤くしたりと忙しない。表情豊かだが、なぜ喜んでくれないのだろうか?

 

「あの…その言葉はどこで覚えたのです?」

「宴会でですわ!お父様が一気飲みしたときにそんなことを言っていましたの!」

 

 あの時はすごく盛り上がっていた。自分以外が酒臭くなったことや翌日になったら二日酔いになっていてその面倒を見るハメになったことを除けばとても楽しい時間だった、

 だが、それを聞いた結奈の様子が少しおかしい。そのことを訊ねると、

 

「いえ、そういえば社長はあなたを溺愛しているという話を思い出しまして…本当に愛されてますね」

 

 答えになっていない言葉で返された。

 どこか遠くの物を見るかのように、結奈はそう言った。

 その理由も感覚も、今の雫にはわからない。だが、何やら家族のことが彼女の琴線に触れたことだけは予想できた。

 

 ならば、話題をずらさなければ、そこで思いついたのは、

 

「それにしても、結奈先輩はなんでわざわざここに?」

 

 こんな話題だった。

 というのも、先ほどまで使っていた東京支社の演習場、実はあまり使われていない。

 魔装姫士の大半は設備の充実している統括局直営の演習場を使うことが多いのだ。なお、本社の演習場は演習場というよりも試作機のデータ取りを行うための実験場としての側面が強いので除外する。

 

 それはそれとして、事実、今日は休日だというのに結奈以外の魔装姫士の姿はどこにも無かった。

 だからこそ、なぜここなのか――結奈は言う。ここは、静かだからだ、と。

 

「静かだから、ですの?」

「ええ、私、大きい音が苦手で、あそこは魔装同士での模擬戦も行いますから、どうしても訓練に身が入らないんです。それにここなら出撃もできますから、いざという時に対応できますし」

 

 ほぇー、と雫は結奈を見た。すごく真面目だ。少なくとも雫はそこまで考えていない。だから、勉強になるなぁ、と素直に感心した。

 

「結奈先輩は真面目ですのね」

 

 だが、結奈は首を振り私はまだまだだ、と言った。

 

「出来れば毎日シフトを入れたいのですが…目のことを理由に断られてしまいまして――出撃するチャンスを逃したくないので習い事の日を除いて毎日来るようにしているのですが…儘ならないものです」

 

 雫は驚いた。大神雫はまだ9歳の小学生だがそれでもわかることはある。

 

 自分だったら放課後や休日は友達と遊んだり家でだらだらしたりもしたい。気まぐれにあやかしやでに遊びに来るのも良い。アニメや映画を見るのも悪くないだろう。

 そうした適度な娯楽は心の保養になるのだと、父は言っていた。

 だが、目の前の先輩は習い事の日以外、放課後はおろか、休みの日にも毎日ここに来ていたという。

 

「習い事は何を?」

「戦場に出るので、武器をある程度扱えるようにと祖父から紹介してもらった道場で剣と薙刀を少々。実戦で役立つかと聞かれると心許ないですが。知らぬよりはマシでしょう?」

 

 そんなことを言って微笑む目の前の少女に対し、雫は恐怖すら覚えた。

 普段からここで訓練しているにも関わらず、それだけでは飽き足らず、戦うための(すべ)を求める――それを、年頃の少女が自ら行っている。

 

 これではまるで、魔装姫士以外の生き方を捨てているようではないか。

 そんなのは嫌だ、と雫は思う。確かに自分は魔装姫士になりたいと思っているが、ただそれだけの為に邁進する様な生活は地獄とそう変わらない。

 

 今、この場で気付いてもらわなければならない――そうした認識すらも実は()()()()()()が残っているのだが――そんなことを考える大神雫、9歳であった。

 

「……た、たとえばですけど、他の方が非番の日も訓練をしていたらどう思います?」

「頑張ってるなぁ、と。ですが無理はしないようにして欲しいですね。体調管理第一です」

「それをあなたが言いますか……いえ、首を傾げられても」

 

 可愛らしく首を傾げた結奈に対し、アカン、この人、早くどうにかしないと、と雫は思った。

 そんな雫の様子が、どうやら結奈にも伝わったらしい。なにやら思案すると、

 

「あ、私は大丈夫ですよ?したいことをしてるだけですし、体調管理もバッチリです!それにあやかしやさんのメテルドレスってかっこいいから、こう、早く実戦で使ってみたいな~って思うとどうしても今日みたいに特訓したくなっちゃうんですよ」

 

 なんてことを言い出した。

 

「――っ!」

 

 いや、そういう問題ではない、ともう少し成長した雫であれば、苦言を呈しただろう。

 だが残念、ここにいるのは9歳の大神雫である。

 

「わかりますわ!あのお馬鹿さんたち、本当にいい仕事しますわよね!」

 

『頭がおかしい』と言われ続ける企業でも、雫にとっては大好きな父の会社だ。その研究成果を褒めて貰えて嬉しくないはずがない。

 これがただの社交辞令であっても雫は喜んだだろうが、その実、結奈のそれは社交辞令でもなんでもない事実だった。

 

「ですよね!今日使った『かまいたち』の鎌、『イチノタチ』!あれを十全に使いこなせたらカッコイイと思いませんか!?」

 

 ――この時の結奈はいわゆる中二心を持っていたのである!

 

「ええ、ええ、ええ!でしたら今度はこちらの――」

「まぁ!今度お願いしてみませんと!」

 

 まぁ、こうして初めて会った少女達は交友を深めていったのである。楽しんでいるようならそれでいいだろう。

 

「そうだ!今度私たちで考えた機能や武装の案を研究室に持ち込んでみませんこと?ほら、出来たものは結奈先輩が試しに使ってみればいいですし!」

「すっごい面白そうですね!やりましょう!」

 

 本人達が楽しんでいるだけに済まないのがこの二人だったが、この際、深く考えてはいけない。しかもこの時の約束の所為で結構な苦労をするはめになるのだが、二人は知る由も無い。

 

「「――!!」」

 

 けたたましいサイレン。ゴーレム襲来の合図が社内に響き渡ったのはそんな時だった。

 

 ◇◇◇

 

 あやかしやブリーフィングルーム

 そこに、なぜか非番であるはずの結奈が呼び出されていた。なぜ呼び出されたのか、という疑問はあるが、それでも待ちに待った初陣だ。結奈は緊張した面持ちで他に人が来るのを待った。

 

 ふと、人が入ってきた。人数は二人。ここに来たということは間違いない。結奈は立ち上がって頭を下げる。

 

「先輩方!至らないところはあると思いますがよろしくお願いします!」

 

 そんな結奈の言葉に、二人は苦笑した。何かおかしなことを言っただろうか?

 

「元気なのはいいけどよ。カタッ苦しいな、少し前のアキトみてぇ」

「少し前って…アズサさん、あれからもう2年経ってますけど?」

「こまけぇこと言うんじゃねぇよ」

 

 完全に蚊帳の外で言い合う二人だった。そもそも片方は男性だったらしい。

 

「あ、あのう」

「ああ、悪い悪い、色々と懐かしくてな。気にしないでくれ」

「は、はぁ」

 

 その後、どこか男らしい口調の女性は支倉(はせくら)(あずさ)、もう一人は男性で支倉のオペレーターを務める雁旗(かりはた)彰人(あきと)と名乗った。

 今回はこの二人と協力するらしい。先輩が同伴とは心強い。

 そんなことを思っていると、支倉がこんなことを言ってきた。

 

「しっかし、非番だってのに訓練してるたぁ、オマエさんも真面目だねぇ」

 

 真面目、という言葉は先ほど雫にも言われたが、そんなことは無い。自分はただやりたいことをやっているだけだ――だが、先輩がそう言ってくれたのを否定するわけにもいかないだろう。

 

「ありがとうございます。私も先輩方に負けないように頑張ります」

 

 なので無難な返事に留めておいた。

 だが支倉はむしろ困ったように頬を掻いた。なぜか雁旗もあーだのうーだの唸っている。

 

「あ、いや、褒めたんじゃなくてな……まったく、あやかしやに来るのはこんな奴ばっかか?」

「鏡音さんは少し違うと思いますよ?」

「あいつはあいつで重いもん背負(しょ)ってるじゃねぇか…ってそういう問題じゃねぇな、とりあえず肩の力を抜けよ新人。力みすぎると勝てるモンも勝てねぇぞ?」

 

 そう見えるのだろうか?と、結奈は驚いた。

 体の力みすぎは体の動きを縛り、心の力みすぎは視野が狭くなる、というのは習い事の中で教えられたことだったから知っている。だから常に自然体で力み過ぎず、緩め過ぎずを意識していたのだが、やはり自分は未熟ならしい。

 

 そのことを教えてくれた先輩に感謝すると同時に、今すぐそう出来ない自分に歯がゆく思いつつ、こう、返した。

 

「…はい、えっと、頑張ってみます」

 

 結奈の答えに、ポカン、とした顔を支倉は浮かべ、そして雁旗は頭を抱えた。

 

「……クハハハ!そこでどもるな頑張るなっての!」

「はぁ……」

 

 ミーティングルームには笑う支倉と、呆れたように自分と支倉を見やる雁旗、そして困惑する結奈の三者。ここにもう一名、結奈のオペレーターを務めた人物が彼女の初陣に関わるあやかしやの人間である――

 

「先ほど振りですわね結奈先輩!今回先輩のオペレートをする大神雫ですわ!」

 

 ――というか、先ほど別れたばかりの社長令嬢だった。

 

 

 確か、自分の担当オペレーターは緋金(ひかね)さんなる新人オペレーターだったような…とか、9歳の少女に何をやらせてるんだこの会社は、とか…色々と疑問点などは残るが、ひとまずそれは脇に置いておくことにした。というのも――

 

「疑問にお答えしたいところですが、今回は時間がございません。細かいことは出撃中にでも説明しますわ。雁旗さん、説明を」

 

 ――と、このように有無も言わせぬ口調で雫が言ったからだ。しかも時間が無い、とも。自分が呼ばれたのもそれ相応の理由があるらしい。

 

「わかったよ雫ちゃん、では、説明に入ります。――場所は東京北区、発生したゴーレムの数は四体、全て中型種でしたが、うち2体は殲滅。残り2体のうち一体は姿が視認できず、もう一体はあまりにも強固故に倒しきれないとのことでした」

「戦闘中の部隊ってのはどこの人員なんだ?」

 

 支倉の質問に雁旗は端的に答えた。

 

「スペリオルインダストリー所属が4名、政府所属が2名。いずれもベテランだ」

 

 ――それはおかしい、と結奈は思った。

 

 かつて、メテルドレスが第一から第二世代の頃は、中型ゴーレム一体に十数機の魔装姫士で対処しなければならなかった時代があったと聞くが、第三世代になってから劇的に性能が向上し、中型一体相手なら1~2名で十分事足りると聞いていた。更に、第四世代機が排出され始めた現代ではより戦力が充実し始めている。

 

 それが、ベテラン達が数の有利を取った上で救援を求めるとは、どういう事態なのか。本当に相手は中型ゴーレムなのだろうか?

 

「苦戦している理由ですが、その残った個体が特殊な能力を持っている、と報告されています」

 

 特殊な能力、と聞いて結奈は顔を顰めた。ここ近年になってから特殊な能力を持つゴーレムが稀に出現するようになったという話を結奈は簡単にだが耳にしていた。

 まさか初陣の相手がそのような強敵とは思ってもいなかった。

 不安を覚える結奈の隣で支倉が問う。

 

「能力持ちか、で、どんな能力だ?」

「逃走中の個体は高性能のステルス能力を持っているようです。原理は不明。こいつに不意打ちを受けてスペリオル・インダストリーの魔装姫士が一名負傷しました。命に別状は無いですが撤退しています」

 

 視覚で認識できなくなるステルス迷彩持ち。

 目に見えないが故に移動の痕跡を辿るしかないが、下手に深追いすれば返り討ちにされかねない。だが、戦域を離脱されようものなら民間人への被害は免れない相手だ。

 

「しかももう一体はメテルドレスのセンサー類を使用できなくするジャミング能力を持っているようでして、射撃時の照準補助機能が麻痺している上に、センサー類も機能しないと報告を受けています。幸いなことに攻撃能力が低いおかげでこの個体からの攻撃を気にせずに済みましたが、代わりに強固な外殻で攻撃が弾かれてしまう、とか」

「なるほどな、すっげぇ相性の良い二体ってわけだ」

 

 ステルス能力持ちを捕捉できる可能性のあるセンサー類を使えなくするジャミング能力で支援し、ジャミング能力持ちは攻撃に耐え抜き、ステルス持ちが奇襲をかけて魔装姫士を殺す。

 確かにこの2体は相性が良い。こちらにとって嫌な連係プレイだ。

 

「なら、堅物はオレの獲物だ。()()()()で叩き潰してやるよ」

 

 支倉はそう言って不敵な笑みを浮かべ――

 

「――で?新人はオレの手伝いか?」

 

 こちらを見ながら、問いを投げた。

 確かに攻撃性の低い個体が相手なら新人を見学という形で連れて行くのも一つの手だろう。先輩が戦っている周辺を見回ってステルス持ちの奇襲に備えるのも悪くない。

 結奈の意志として人任せにすることは不本意だが、この先輩と即席で連携が出来るのかと聞かれると無理だと即答せざるを得ない。

 

 故に、今回の経験が次のゴーレムの駆逐に繋がるのなら――そう考えて納得しようとした時だった

 

「いや、彼女はステルス能力持ちの捜索に加わってもらう」

「……へ?」

 

 雁旗の言葉に、支倉は呆けたような声を出した。結奈は首を傾げた。

 だが、両者の胸中は同じことを考えていた。何を言ってるんだこの人は、と。

 

「オイ、アキト、新人になんでそんな並の魔装姫士ですら梃子摺る相手の捜索をさせるんだよ!コイツが死んじまったらどうすんだ!」

「落ち着いてアズサさん!ちゃんと理由はあるんだ!むしろ今回に関しては()()()()()()()()()()()()()()

「要ってなんだ!新人に何をやらせようって――「えい!」ひゃあっ!?」

 

 支倉が突然上げた悲鳴に結奈は困惑した。今、何が起きたのか、目の見えない結奈にはわからない。

 だが、今、何かがひらり、とめくりあがったような音が聞こえた気が――ハッ!?

 まさかめくったのか!彼女の履くスカートを!

 

「し、雫ぅ!て、てめ!」

「落ち着いてくださいな、時間が無いのですわ」

 

 雫の言葉に支倉はぐぐぐっと呻いていた。だが、まだ治まる様子は無い。なので、結奈も声を掛けた。

 

「先輩、ここは話を最後まで聞きましょう」

「うぐぐぐぐぐ……後で覚えてろよ雫……アキト、説明」

 

 そう言って、支倉は一端矛を収め、またスカートをめくられたくないからか、椅子に座った。

 雫がくすくすと隠れて笑っているのだがそこは言わないでおくことにした。

 そして、雁旗はこほん、と咳を一つ。

 

「色々と懸念はあるかもしれないけど、簡単に言うよ。結奈ちゃん、君の耳を借りたい」

 

 そう、言われ、そういうことかと納得した。

 ステルス能力。目に見えなくなる能力。ジャミングによるメテルドレスのセンサー類の不調。

 そんなもの、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 懸念はあるが、それでも結奈を試す理由になる。

 

「耳?なんだよ新人。オマエ、なんか特技でも――」

 

 結奈の事情を知らない支倉は結奈に話しかけようとして――背筋を凍らせた。雫は怖気に襲われ一歩後ずさり、事情を聞いていた雁旗は顔を伏せた。

 

「それはつまり、もう一体は私の獲物と認識してよろしいのですね?」

 

 ――のちにその時のことを三人はこう語る。彼女の纏う空気が変わった、と。

 

「ああ、その通りだ。今回は君の耳だけが頼りです、千寿さん」

 

 結奈は微笑む――盲目の眼を爛々と輝かせて。

 

「ええ、見敵駆逐――見つけ次第、ゴーレムを殲滅します」

 

 これが、結奈の初陣。

 その始まりだった。




登場人物紹介
・大神雫
あやかしや社長令嬢。色々と裏が存在する少女。
原作本編では登場はまだまだ先になるものの本作では9歳の少女の姿で登場していただきました。
結奈との出会いに加え、初陣のオペレーターとして彼女を起用させていただいております。

今回新たに登場したオリキャラ2名に関してはまた今度、解説します。


肝心の戦闘は次回からとなります。遅筆ゆえ更新日は未定。1週間では足りない気がします。


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初陣その2

長らくお待たせいたしました。書いては消してを繰り返した結果3週間以上掛かってしまいました。

今回、新たに2名の投稿キャラを許可を頂き、登場していただいております。
パインさん、雪兎さん、ご許可頂き感謝します。

では、本編をどうぞ!


※追記
2019/5/15:描写や台詞の加筆修正。


 飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。

 

 

 あやかしや第三世代メテルドレス『かまいたち』をその身に纏い、結奈は空を翔ける。

 目が見えない結奈のために、支倉梓が先を行き、オペレートをする大神雫がコースを修正した。

 

 雫の指示は幼い年齢を感じさせないもので、結奈は驚いた。

 出撃前に支倉と雁旗から「雫は多才だ」「彼女ならまぁ、若手のオペレーターより頼りになるだろうね」という太鼓判を押され、当の雫本人はすごく照れていたが、それも身内びいきだと思っていたのだ。現在進行形でキーボードを凄まじい速度で叩き、なにやら作業をしながらこちらへ指示を出す雫に対し申し訳なさを覚えた。

 帰ったら謝罪と感謝をしなくてはいけない、と、結奈は決めた。

 

 ──その前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「見えたぞアキト!中型種、亀みてぇな見た目をしてやがる!」

『視認確認了解、攻撃を許可します!』

 

 よっしゃあ!と気合十分に、支倉アズサは()()()()()()()()()()に目掛けて飛び込んでいく。

 音の反響から感じ取ったその形はまるで亀のようだった。足が六つありはするものの、その見た目通り動きはのろのろとしている。

 

 そのことを確かめた結奈は、視線を別の方向に向けた。アレは彼女が倒す、と確約した。であればそれを信じよう。

 そもそも、自分の役目はアレの相手ではない。

 

「──すみません雫さん、私が顔を向けている方角には何がありますか?」

 

 そう告げるとキーボードを叩く音が止まった。

 何も言わず、結奈は待つ。

 

『少々お待ちくださいな。えっと……その方角ですと……あ、ありましたわ。まず商業区画ですわね。大型の商業施設が軒を連ねる場所で、今回の被害は少ないですわ。その奥には高級住宅街がありますの。そちらは報告によりますと討伐済みの二体が派手に暴れたそうで建物は壊滅状態らしいですわね。()()()()()()()()()()()()()()()()

「……人的被害は」

『それは……まだ確認できていませんわね。ですが戦闘開始時刻を考えても避難することの出来た住民以外の生存は絶望的でしてよ』

 

 そうですか、と結奈は返した。淡々と、事務的な声で、感情を一切感じさせない声で、返した。

 胸中には恐怖が渦巻く。

 逃げ遅れた家族を食い荒らす怪物。家々を容易く倒壊させる化け物。人々の悲鳴。そして、こちらを見る数多の眼。

 

 救えなかったという事実はそのまま、結奈の精神を蝕み──それすら飲み込んで我が物とする。

 痛かっただろう、苦しかっただろう、怖かっただろう。未練だってあっただろうに。

 救えなかった責はゴーレムを討つことでも注げはしない。死後の安寧を祈ったところで届きはしない。

 

 それでもゴーレムは討とう、死後の安寧を祈ろう。その恐怖に共感し、守れなかった罪すら引き連れて生きていこう。

 それだけが、千寿結奈に出来る、唯一のことだから。

 

「わかりました。では、捜索している部隊に急ぎ報告を、そちらのエリアから()()()()()()()()()()()()そのことを皆さんに通達してください。あとは──」

 

 ――予定通りに。

 

 ◇◇◇

 

 

 東京北区、商業区画。

 そこには大小様々な商業施設が密集するエリアとなっており、休日であれば買い物客で溢れていただろうが、ゴーレムが襲撃している現在、その機能は停止し、無人となっていた。

 

 その上空を黒い人型が凄まじい速度で翔けていく──魔装姫士だ。

 魔装(メテルドレス)名、セトルメイター。日本フロンティア政府開発機構という国営のメテルドレス開発機関により開発された機動性重視の近距離戦特化型メテルドレス。

 

 装着者、秋風楓。

 日本フロンティア政府直属の魔装姫士。『剣姫』と称される高機動近接戦のプロ。

 

 彼女は焦っていた。

 

 四体同時に発生した今回の襲撃。うち二体を仕留める事ができたものの、残りの二体に梃子摺っていた

 1体は動きが鈍く攻撃性も低い。

 しかし、堅牢な外殻がありとあらゆる攻撃を阻む不落の大亀。

 

 現状の人員では撃破不可かつ、避難シェルターからは距離が離れていたため、行動の監視のために一人付けたが、増援を待つ他なく──

 

「商業区画、痕跡発見できず、他はどうだ」

『居住区画B、こっちもダメね。動いた痕跡ぐらい残してると思ったけど、次はC区画に移動するわ』

『工業地帯、こっちも見つからない……どうしよう楓、早く見つけないと』

『シェルターA近辺、確認できません。避難者の安全確保に努めます』

 

 ──もう一方の個体は()()()()姿を消し、どこかに潜伏していた。

 そのため、残りの五人で捜索および避難シェルターの防衛に全力を尽くしていたのだが、人員が足りず、移動の痕跡すら見つけられない。

 

 楓は悪態を吐いた。このままではまた新たにゴーレムが発生しても対応出来ない上に、反乱分子が行動を起こす隙を与えることにもなる。この状況が長く続くのは非常に困るのだ。

 

 人員の補充も依頼したから早ければそろそろ誰か来る頃合だが、どこの誰が来るのか、などの情報はまだ来ていない。

 

『増援の人員データが届きました。『あやかしや』から二名。各機にデータを送ります』

 

 そんな時、オペレーターからもたらされたのは期待していた増援の情報だった。

 たった二人、という点に目を瞑り、即時データを確認する。

 

 一人は楓も知っている人物だった。

 

 支倉梓。

『あやかしや』所属魔装姫士の中でも指折りの実力者。粗野な性格で連携も何も無い一匹狼でも知られるが、彼女の駆るメテルドレスは現状の第4世代機の中でも3本の指に入る破壊力を備えている。

 確かに彼女と彼女のメテルドレスならば、あの頑強なゴーレムも討伐できるかもしれない。

 

 ──だが、もう一人は新人だった。千寿 結奈。今回が初陣になる、らしい。

 

 何を考えているのか。近年になってから極々僅かに発生が確認され始めた特殊な能力を持つゴーレム。それが2体もいる戦場に新人を連れて行くなど正気の沙汰ではない。

 技術やデザインで頭がおかしい、と言われるあやかしやとはいえ、実働現場(こんなところ)でソレを発揮するのは止めて欲しい。

 

『結奈ちゃんかー、なるほどねー』

「知り合いか?」

『少し前に話した子だよ。ほら、どうせならうちに欲しかったって言った子』

「……ああ」

 

 そういえばそのようなことを話していた気がする。急遽面接官を務めた上で気に入り、魔装姫士になることに反対していた保護者の説得も行ったとか。

 

『いや~、初陣が見れるなんて縁があるな~』

「気を抜いてる場合じゃないぞ」

『それはそうだけどさ。多分、残りの2体はあやかしやが持っていくよ』

 

 さすがに呆れる発言である。自分達六人ですら苦戦した個体をたった二人が持っていく?

 

「何を根拠に。支倉の火力はまだわかるが姿の見えない奴にはどうしようも」

『そのための結奈ちゃんなんだよ。見えない奴は、あの子が見つけてくれる』

 

 楓は眉をひそめた。愛弓が今の状況で嘘を言う理由は無い。故に、その言はおそらく正しいのだろう。

 だが、それが許される我々ではない。

 

「愛弓、発言には気をつけろ、私達は──」

『わかってるよ。日本フロンティア政府直属の魔装姫士、それが私達。その意味を立場を、責任をちゃんと、わかってる。本当ならこうなる前に討伐しなきゃいけないこともね』

 

 そうだ、と楓は答えた。

 政府直属。それは営利目的の企業所属の魔装姫士とは違う。国を背負って立つ魔装姫士。彼女達に敗北は許されず、ゴーレムに遅れを取るなどあってはならない。

 けど、と愛弓は続けた。

 

『現時点では見つけられないのをどうにかする手段は無いでしょ』

「開き直るな……それで、その新人はどうにか出来る、と?」

 

 うん、と愛弓の自信満々の返答に、そうか、と楓は返した。

 彼女がそこまで断言するのならこちらから言うことは一つだけ。

 

「では、その新人と合流するとしよう。その方が効率的だ」

『はいはーい。じゃ私もそっちに──』

 

 その時だった。

 空気を震わす轟音が、響き渡った。

 

「管制室、何が起きている」

『ぞ、増援の魔装姫士がゴーレムAを強襲!戦闘を開始しました!あやかしや製第四世代魔装『牛鬼(ウシオニ)』装着者は支倉梓です!』

 

 来たか、だとすればそちらは彼女に任せておけばいいだろう。問題はもう一人の新人だ。

 

「管制室に要請。もう一人の魔装姫士と連絡が取りたい、通信を」

 

 ──直後少女の声が割り込んできたのはその時だった。

 

『こちら、あやかしやオペレート室。こちら、あやかしやオペレート室。緊急の連絡ですわ!』

 

 

 ◇◇◇

 

 東京北区、居住区画C。

 

 

 所々に塗装の剥げが見受けられる蒼白いカラーリングに左腕に取り付けられた先端部に爪のある盾を携えた魔装──スペリオル・インダストリー社製第三世代メテルドレス『ソリッド・カスタム』──を身に纏う女性は、一方的に回線へと割り込んできた少女からの情報を聞き終えると

 

「この近くにいる、ということね」

 

 と、今回の任務が初めてとなる新人オペレーターに向けて通信機越しに確認した。

 

『は、はい、サトミさんはどう思いますか?』

 

 芦沼サトミ──スペリオル・インダストリー所属のベテラン魔装姫士は、一方的に与えられた情報に対して顔を顰めていた。

 現場にいる自分達やスペリオル・インダストリー本社の解析班が見つけることが出来なかった存在を到着してすぐにあやかしやが捕捉してしまったなど、そう簡単に信じられる話ではない。

 

 故にありえない、と頭ごなしに否定してもいいのだが、あやかしやというワードがそれを許さない

 

 色々と評判の悪いあやかしやだが、メテルドレス開発企業としての規模は小さくともその発想力はスペリオル・インダストリーはおろか、他社と比べても頭一つ飛びぬけている。

 

 ──その飛び抜け方が斜めになっているとかネジも一緒に抜けている、というのが大半の魔装姫士の共通認識だが──

 

 例え使()()()()()()()()()()、視認できない相手を見つけ出す何かやジャマーへの対抗策となる何かを秘密裏に創り出していてもおかしくはない。

 

 それに、嫌な予感がしていた。

 

「……映像から何か読み取れたりしない?」

『それがその、特に見つけられなくて……す、すみません』

「いいのよ。仕方ないわ」

 

 メテルドレスのセンサー類がジャマーの影響で機能しない以上、管制室に送られる情報は映像のみ。

 そこから映像解析でゴーレムの足がかりを得ようとしていたが、成果は芳しくなかった。

 

「……一度このエリアから離脱するわ」

『え、ええ!?良いんですか!?』

「流石に見えない相手に一人で戦うのは私でも厳しいもの。センサー類が役に立たないなら尚更ね」

『わ、わかりました。集合地点はどちらに』

「そうね──」

 

 ──瞬間、悪寒が芦沼の体を奔り抜けた。

 

「■■■■■■ィィィィ!!」

 

 通信中という隙を狙った死角からの強襲!

 

 振り向きざまに咄嗟に盾を構えることが出来たのはこれまでの経験の賜物か。

 構えた盾に何かがぶつかり、弾き飛ばされる。

 

「ぐっ────」

『サトミさん!?』

 

 直感に従い、すぐさま右手のマシンカービンを抜き放つも、どれも手ごたえなし。

 相手は中型ゴーレム──全長5mを越す巨体相手に一発も当たらないということはそこに最初から居なかったか、もしくは移動した後か、サトミは後者であることを悟り憤慨した。

 

「ハァ!?見えない上に速いってどうなってんのよコイツ!」

『サ、サトミさん大丈夫ですか!?』

 

 煩わしい、戦闘に入ってしまってはオペレーターの声が集中を切らせる雑音だ。

 

「そんなのバイタルをチェックすれば──

『ジャミングの所為でそれもわからないんですってば!』

 ──ああ、そうだったわね……」

 

 うっかりしていた、とサトミはこぼしつつ、体は戦線離脱──合流を目指して動く。

 このまま戦っても勝ち目は無い。ならば、胡散臭くともあやかしやの新兵器に頼るしかなかった。

 

「ひとまず大丈夫よ、片腕が痺れてるから次は防げそうに無いけど折れなかっただけ儲けモノね」

 

 そこだけが僥倖だった。相手の攻撃力はそこまで高くない。ステルス能力と機動性で翻弄するタイプのゴーレムなのだろう。

 そして捜索中に奇襲を掛けられたという話はこれまで無かった。もしかしたら臆病なのかもしれない。

 

 とすれば、ここで逃がすべきでは無かったか?──浮かんだその考えを即座に否定する。そもそも追いかけようにもどこに逃げたかすらわからないのだ。深追いは禁物、当初の予定通り合流を優先。

 

「まずはこの場から離脱して合流するわ。一番近いのは?」

『商業区画にいる秋風さんですね』

 

 了解、と返し方向転換した彼女の眼に二人の魔装姫士の姿が映った。

 

「あら?」

 

 一人は黒い装甲から秋風楓だろう。

 だが、もう一人には見覚えが無かった。あんな遠目から見ても分かるような長柄の武器を持っている人員は居なかったように思うのだが──

 

「右―よ―て!!」

 

 しかもその少女が何やら叫んでいる。しかし、メテルドレスの補聴機能もジャマーで死んでいて聞こえな──

 

『──右に避けろ!』

 

 それゆえに、唯一生きていた通信機能が、サトミの生死を別けた──

 背筋に奔る怖気で硬直しそうになる体を無理矢理動かし、スラスターを全力で吹かす。

 

「ぐ──―っ!」

 

 当然、あまりの負荷に一瞬意識が飛びかけたがそれでも命には代えられない。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 そうして空いた場所を何かが通り過ぎた──黒い影、秋風楓(セトルメイター)

 剣で切りつけ、すぐさまショットガンを撃ち放つ。ばら撒かれる散弾、その数200。至近距離で受けようものなら爆散するような強反動に高火力の一品。

 

 重い銃声とともに姿無きゴーレムが悲鳴を上げた。

 

「■■■■■■ィィィィ!?」

「浅いか」

 

 だが、致命打にはなっていない。しかも傷を受ければ体を構成するネフィシュが漏れ出すはずなのだがそれすら視認できないようだ。しかも声が急速に離れていき、すぐに消えた。

 

「どこに──」

 

 ──いったの、とサトミが続けようとして、大丈夫です、と初めて聞く声の少女に遮られた。

 獣のような装飾の目立つ軽装のメテルドレス、そして死神が如きの鎌を携えて、少女は言う。

 

「大丈夫です。姿も、動きも、声も、分かりました──あとは狩るだけです」

「……ね、ねぇ、秋風ちゃん、この子、誰?」

 

 なんか痛々しいことを言っていた。

 こんな時期が私にもあったのかしらー、と遠い目をし、唇の端を引き攣らせて秋風に問う。

 対する秋風は、淡々と答える。

 

「あやかしやの新人です。愛弓の言葉が正しければ、今回の相手に対する秘密兵器、といったところでしょうか」

「秘密兵器?愛弓ちゃんがそう言ったの?」

 

 再度、彼女を見た。前髪で目元がよく見えないことを除けば、普通の少女とそう変わらないように見える。サトミは首を傾げた。

 柴田 愛弓。今回の任務へと秋風とともに赴いた政府直属の魔装姫士。

 なぜ、政府直属の魔装姫士とあやかしやの新人ちゃんに接点があるのかはわからないし、信じがたいが、彼女が言うなら無碍にするわけにもいくまい。

 

「まぁ、いいわ。私は芦沼サトミよ。よろしくね」

「私は千寿結奈と申します。こちらこそよろしくお願いします芦沼さん」

 

 おや、と芦沼は少女を見た。言葉が淀みない。敬語でこそあるが硬さが無く、だが砕けている訳でも無し。先ほどの戦闘を目にした後だと言うのに驚くほど自然体だ。

 

「あなた、年はいくつ?」

「13です、四月で中学二年になります──あの、急いで追いかけませんか?」

「あ、そ、そうだったわね。ごめんなさい」

 

 サトミは眼を細めた。断言しよう、その歳でこのような非日常に放り込まれてもここまで冷静ではいられるような人間はいない。何かしらの感情の波があってしかるべきだ。怖がったり、気負ったり、高揚したり、そうした感情の発露がどこかに見られてしかるべきだ。

 

 この子、大丈夫なの?

 

「戦場で何をしてるんですか……千寿、先導を。先ほどのでわかっただろうが君だけが頼りだ」

「はい!こっちです」

 

 動き出した千寿の後を秋風が追いかけていく。その動きはそれなりの速度でこそあるが、武装がよほど重いのか軽装型にも関わらず想像より遅いものだった。

 不安もあれば疑念もある。しかし、姿無きゴーレムを捕捉できるのは新人の少女だけ。

 

「……やれやれ」

 

 これはまた、気苦労が増えた、と胸中で溜め息を一つ漏らすのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 自身の耳に従い結奈はゴーレムを追う。

 

 対象はカラスに酷似していたが、鳥の翼は四枚も無いし、大きな翼爪なんか無い。背中に突起物も無ければ、そこから空気を噴出して推進力を得るなんてこともしない。

 

 ──■■■■■■ィィィ(コワイコワイコワイ!!)

 

 耳に響くノイズ(泣き声)

 怯えに怯え、怖いからと人間(私達)を殺そうとするその姿に、結奈は鏡を見た気がした。

 自分()ゴーレム(あなたたち)が怖い。怖いからその姿が見たくない。その願いを、神様は目を使えなくして叶えてしまったけれど、見えなくなってもゴーレム(あなたたち)は怖かった。

 

 ──■■■■■■ィィィ(キタ!コワイ、キタ!)

 

 その個体は人間を怖がっていた(あなたは私達が怖かったのでしょう?)

 おそらくステルス能力も(見つかりたくないから)その機動性もその恐怖が(誰にも見つからないように)生み出したのかもしれない。(なったのでしょう?)

 だとすれば捕捉されてしまうこと自体が(なら逃げていればよかった)奴の誤算か(誰も襲わずひっそりと)それとも不運か運命か(逃げて隠れて)奴はもう、逃げられない(誰にも不幸も与えないように)

 

 千寿結奈()が逃がさない。

 いや、千寿結奈()だけではない。

 

『距離140、3、2、1──今です!』

「芦沼さん一時方向に威嚇射撃!秋風さん真下に散弾!」

 

 オペレーター(大神雫)もまた、結奈から送られてくるデータを元に、凄まじい演算能力で以ってゴーレムの動きを先読みして見せた。

 

 間髪入れず、二人は指示に従った。奴を認識できない以上、二人にはこちらの指示通りに行動、射撃を行ってもらうことで相手の動きを誘導し、追い込んでいく。詰め将棋のように──しかし尋常ではない速度で指示を出し続ける。二人の口は止まらない。

 

『惜しい!今の陣形を維持ですわね』

「秋風さんはその距離を維持しつつ私の動きに合わせてください!芦沼さんは私の後ろを!」

「了解」

「忙しいわねまったく!」

 

 こうして間髪入れずに指示した方向への援護射撃と結奈の予測できない飛行ルートに着いていけたのはベテランと呼んで差し支えない二人だからこそ。いや、ベテランであってもこれが出来たかどうか……そういう意味では今回の戦場は恵まれていた。

 

 ──■■■■■■ィィィ(クルナクルナクルナクルナ!)

 

 悲鳴を上げて逃げ惑うゴーレムを結奈は逃がさない。

 彼女の耳は泣き声と銃声などの音の反響を元に奴の姿はおろか、周囲の状況すらも鮮明に脳裏へと映し出している。逃げ道は無い。だが、現状、決定打に欠けるのも事実だった。

 しかし、それももうじき整う筈だ。そう信じて獲物を追う結奈にちょうど、雫が朗報を齎した。

 

『準備ができましてよ!いつでもどうぞ!』

 

 待ち望んでいた決定打だった。

 

「ありがとうございます雫さん!」

『いえいえ、今回の相手はそれだけ厄介なお相手ですもの、これぐらいはお安い御用ですわ。統率は柴田さんという方がしてくれるそうですの』

 

 そうか、それなら安心だ。

 ならばこの追跡戦ももうじき終わらせよう。

 

 その後も続く牽制と誘導。

 全ては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 大鎌、イチノタチを握る両手に力が入る。握力はまだ残っている。いや、残っていてもらわなければ困るのだ。そうでなければ、ここまで無理を押してこの武器を持ってきた意味が無くなってしまう。

 

 指示は途切れず、声を枯れることも覚悟で続けた。

 

 

 ──待ち望んだその瞬間は通信を受けてから20分を過ぎようとしたその時だった。

 二人の精度が上がり、理想的な場所、立ち位置、その全てが会心と呼ぶに相応しい一瞬だった。

 

 

 (アタ)る。

 

 

「秋風さん左下5度!芦沼さん11時斜め下!」

 

 その指示に間髪従った二人の放つ銃撃──当たったことすら確認せず、今出せる最高の速度にまで瞬間的に加速、下に落ちてからの急速上昇!

 Gの負荷が酷いがそんなもの知らん、とばかりに奴の真下を陣取る──結奈は最初からこの状況を取れるチャンスを狙い続けていたのだ。

 

 正直な話をしよう、姿無きゴーレムを自分の獲物、と言った結奈であったが、独力でこの個体が倒せるか不安があった。

 万が一、自分が倒されてしまえば奴を捕捉する手段がなくなってしまい、自分以外にも被害が出てしまう──そのことを危惧し、独力での撃破は最終手段と割り切り、雫と一緒に作戦を考えた。

 

 見えない相手を見えるようにするにはどうすれば良いか──見えさえすれば、自分無しでも討伐できるだろうか……考えに考え、ふと、雫がある物語を思い出した。

 

 イソップ童話の一つ「ネズミの相談」。

 その物語の中でネズミたちはいつも猫のために酷い目に遭わされていて、猫をどうするか、という相談を始めたのだが、その中の一匹がある名案を思いついた。

 

 猫の首に鈴を付ければ良い!そうすれば猫が来ても鈴の音が鳴るから逃げられる!と

 

 その案に多くのものが賛成したが誰が猫に鈴を付けるのか、という段になると誰もやろうとしなかった。というお話だ。

 

 ならば、自分が鈴を付けるネズミになってやればいい。そうすれば万が一があっても鈴のおかげで他の人がゴーレムを倒してくれるはずだ。

 

 だが、鈴では足りない。

 戦場となる場所は広いし、銃声やら何やらで音が分からなくなる。ジャマーでメテルドレスの補聴機能も死んでいるから尚更。

 音だけではダメだ。もっと大きく、一目でそれとわかるくらい大きく無ければ──

 

 

 

 

 ──ああ、そうか、眼の見えない彼女達のためにゴーレムに()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『いっけぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

 

 

 その旗を、今、奴の腹に突き立てよう!この一瞬!真下を陣取れたこの一瞬に!

 

 旗の名はイチノタチ──射撃武器を抜いてでも、今回の出撃でカマイタチを選んだのはその日ちょうど着ていたから、だけではない。

 最大の理由は、追跡に向く小回りの良さと、旗代わりになる、この全長3mの大鎌にあったのだ!

 

■■■■■■ィィィィィ(ギィアァァァアァァァ)!」

 

 腹に刃が突き立ち、刃が食い込んでいく──だがまだダメだ、しっかり食い込ませなければ抜けてしまう──しかし、カマイタチ自体の膂力は期待できない。

 だがイチノタチの機能ならば、それすら覆す。

 

「おおおおおおおおお!」

 

 食い込んだ刃にネフィシュが纏わりつき、そして傷口を拡げ、刃が突き進む!

 

■■■■■■ィィィィィ(イタイイタイイタイイタイ)!」

「うる、さいん、ですよ!」

 

 じたばたと体を揺らし結奈を鎌ごと引き剥がそうとするがそれなりに深く食い込んだのか離れる様子も無く、そして結奈も更に確実に抜けないように、と動かそうとして──

 

『結奈先輩ぶつかる!ぶつかります!!』

「──え」

 

 瞬間、背後に壁があるのを認識した。いや、壁じゃない、地面だ。

 距離、30……20……今からでは離脱も間に合わない。

 やってしまった、欲を掻いて周囲の状況把握を忘れていた。このままではゴーレムと地面の間で押しつぶされてしまう。

 

 

 選択肢は二つに一つ。

 間に合わないことを承知でこのまま抜け出るか――この場合、運が良ければ助かるだろう。しかし、まだイチノタチをしっかり突き刺せていないため抜け落ちて倒せなくなる可能性がある。

 

 もう一つは自身が死ぬことを覚悟でイチノタチをしっかり突き刺し、後につなげること。まず、自分が死ぬ、という時点でダメだ。自身はまだ戦わねばならない。たった一度この個体を討伐できたところで、ゴーレムはまた現れる。それではいけない。いけないのだ――しかし、しかしだ。

 

 この個体すら撃破できなかったのでは、他の皆はどうなる?――蹂躙されるのだろう。この臆病で、しかし、怖いからと人間(私達)を殺そうとするこのゴーレムに。

 

 ダメだ。そんなの、ダメだ。

 

 

『何してんの!早く脱出しなさい!』

 

 

 この時、この瞬間、結奈は生存を捨てた。イチノタチを握る手は離さず、落下していく中で無理にでも、とより深く刃を刺し込む。

 

 

 ――あとは、任せました。そう、諦めた時だった。

 

 

『間に、合えええええ!』

 

 

 通信越しの女性の絶叫が、耳を焼き、横から何かがとんでもない速度でぶつかってきて──耳を焼かれた結果、力の抜けた手から鎌は離れてそのまま押し出された。

 

 ゴロゴロと体を地面に打ち付けた。色々な残骸にぶつかって体中が痛む。

 

『みんな総攻撃開始ィィ!』

 

 聞いたことのあるお姉さんの声が焼かれた耳に聞こえて──そこで、結奈の記憶は途切れている。

 




以上が結奈の初陣となります。
次はスポットの当たっていない先輩の戦いっぷりや、戦後の会話などを予定しています。


以下、登場キャラ紹介

・大神雫
 前回から引き続き続投。描写不足ゆえに分かり難いと思いますが彼女は今回のオペレーターとして同時に何個も仕事を任されていました。

 ・基本となる結奈のオペレート
 ・結奈自身から送られてくる音響感知のデータを元に透明化したゴーレムの移動ルートの先読みを高速演算
 ・更に物語の最後、ゴーレムを袋叩きにするために各魔装姫士への作戦説明及び応答。

 こんなことを大人顔負けで一手にこなす雫ちゃん9歳、まじジーニアス
 おまえのような9歳児がいてたまるか


・秋風 楓
 こちら原作にて「雪兎さん」さんが投稿されたキャラクターでございます。
 原作では未登場()原作者様、なんか申し訳ない。
 本編で説明したとおり政府に所属する魔装姫士で、原作時点では教導官としても活動している女性。
 裏設定が結構重め。原作本編でそのあたりは使われるのだろうか……

 本作では、通信機の扱いに慣れていない結奈に代わり機転を利かせて後述の芦沼さんの危機を救い、更に結奈と芦沼さんの三人で姿無きゴーレムを追い込んだりと結構な役割。
 口調が酷く淡々としてしまい彼女らしさが出せていないかもしれない、と怯えるばかり。


・芦沼サトミ
 こちらは原作にて「パイン」さんが投稿されたキャラクター。
 原作では原作主人公、篠宮天音の初陣に際し彼女を救ったのが彼女です。
 確かな経験に裏打ちされたベテランで原作ではメテルドレス適性が消える一歩手前の29歳ですが、原作4年前の本作では25歳ぐらいでしょうか。

 今回は2度、命の危険に遭いながらも一回目は自力で、二度目は秋風さんの機転で助かるという強運そもそも原作時点まで生きてないと辻褄ガガガを見せ、更に結奈と秋風さんの三人で姿無きゴーレムを追い込む役となって頂きました。

・柴田愛弓
 オリジン時の面接官であり、原作者様オリジナルキャラクター。今回は秋風さんとの会話や裏方として活躍していただきました(後半、雫の言っていた柴田さんとは彼女のこと)


なお、前回出てきた筆者のオリキャラの出番は次回になりますので紹介はまた次回に(オイ)


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初陣その3

お待たせしました。初陣編の最後になります。


 灰を基調とした顔以外の前面を覆う重装に背中には大型のスラスターとバックパック。手には丈3mを越す巨大なハンマー。

 ――あやかしやが誇る第四世代型高火力強襲特化型メテルドレス「牛鬼(ウシオニ)」。

 

 別名(あだ名)を『ロケットマン』。そのコンセプトは『早い!堅い!重い!』――つまり、超重量級の機体をとんでもない速度で飛ばすことを第一に考えられた機体。

 

 体全体を覆う重装甲に加え馬力もすごいが、燃費がすこぶる悪い上に小回りがまったく利かない。装備は推進ブースター付き()()()巨大ハンマー『ウチデノオオヅチ』のみ、という残念っぷり。

 

 そんな重量級メテルドレスの装着者、支倉アズサは、銃声が鳴り終わるのを確認すると、オペレーターである雁旗アキトに通信越しに話しかけた。

 

「あっちは終わったか?」

『みたいだね。そろそろこっちのデータ取りも終わりにするかな』

 

 ようやくか、とアズサはぼやき、ハンマーを担いでいない左肩をグルグルと回した。

 雁旗アキトはオペレーターであり、支倉アズサは魔装姫士である。

 

「しっかし思ったよりデータが取れねェでやんの。30発叩き込んでもぶっ壊れねェってことしかわかんねぇしよ」

『まぁ、ジャマー能力だってことは先に聞いていたからなんとなくそうなるだろうな、とは思っていたけどね。攻撃性の低い個体で助かったよ』

 

 だが、同時に二人は対ゴーレム研究者とその助手でもあった。

 任務はもちろんゴーレムの撃破だが、同時にその堅牢な外殻の強度確認およびその原理究明にあった。

 今回のような個体が今後出ないという保障は無い。故にその堅牢な外殻を打ち砕く破壊力を持つメテルドレスと、そのデータを収集することが可能な設備及び人材を持つ企業としてあやかしやが抜擢されたのである。

 

「オレからすりゃ、弱いものいじめみたいで好きじゃねぇ。お前だっていじめられたくなんてなかっただろうに、なぁ?カメ公」

 

 ポンポン、と腰掛けている()()()()()()()()()から同意を求めるように問いかけると、弱弱しい鳴き声が応えた。

 

「■■■■ァ■ゥ……」

「こいつも同意だってよ?」

『またゴーレムに仇名をつけてる…そもそもどうしてゴーレムの気持ちがわかるのさ』

「んなもん勘に決まってるじゃねぇか。よく言うだろ?女の勘はよく当たるってな」

 

 アキトは呆れ返っているようだが、もちろん戯言だ。自分が女らしくないなど重々承知している。

 

「あーあ、こいつがゴーレムじゃなけりゃ可愛がってやるんだがなぁ」

『……まぁ、研究者としては飼育できるなら試してみたいけどさ。檻が無いんじゃあね』

 

 アキトは惜しい、という思いを隠すことなく告げた。

 ゴーレムは高次元の存在であり、現状、彼らに対抗できる兵器はメテルドレスのみだ。低次元――つまりメテルドレスに関係しない物質はゴーレムになんの影響も及ぼせない。

 民間人が避難するシェルターすらも、ゴーレムの手にかかれば紙くず同然に打ち破られてしまうだろう。

 

 余談になるが、シェルターの存在意義はゴーレム出現の際に魔装姫士が優先的に守る拠点、戦闘に民間人が巻き添えになることを防ぐための避難先という二つの存在価値がある。

 

 閑話休題。

 

「さて、と」

 

 甲羅の上で立ち上がり、アズサは、ゴーレムに宣告する。

 

「そんじゃ名残惜しいがここでサヨナラだ。しっかり成仏させてやるよ」

「■■ゥ……」

 

 文字通りの死刑宣告。しかし、ゴーレムは弱弱しく鳴く(泣く)だけ、アズサは顔を顰め、やれやれと首を振った。ここまで好戦的ではないゴーレムをアズサとアキトは初めて目にしたのだ、倒しにくいったらありゃしない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

『周囲への被害が甚大になりそうなんだけどね……()()()()()()()()()()かな?』

 

 アキトの言葉を鼻で笑った。

 

「ま、流石に大型相手に使う三番、四番は必要ねぇだろうさ」

『そうであることを祈るよ……『牛鬼』装甲拘束、一番から十番まで解放』

「装甲パージ開始!」

 

 アズサの掛け声と共に全身装甲の上半身。腕部を除いた全ての装甲が弾け飛んだ。

 変化はそれだけで終わらない。

 

『解放した装甲をサルページ。武装接続シークエンスへと移行』

「『ウチデノオオヅチ』接続(コネクト)!――」

 

 弾け飛んだ装甲は一度空中で停止し、その後、全てがアズサの掲げた戦鎚へと引き寄せられていく――

 

 ――『ウチデノオオヅチ』には奥の手が存在する。

 通常は推進ブースターによって攻撃を加速させることで同時に破壊力を得るが、そこで終わらせないのが『あやかしや』クオリティ。さらなる破壊力を得ようと試行錯誤が繰り返された。

 

 しかし、牛鬼自体、コアからの出力と重量、そしてロケットのごとくかっ飛ばす推進力をギリギリまで突き詰めた設計ゆえにそれ以上機能を増やせなかった。もちろんウチデノオオヅチも含めての話だ。

 

 そこである技術者が思いついた。

 重量を増やせないなら装甲を武器に移してしまえば良いんじゃないか?

 

 そこからウシオニは大幅な改修が行われた。

 本体上半身の装甲をパージし、ウチデノオオヅチへと装着させることで防御力の低下と引き換えに武器の重量及び強度を強化する一番。

 本体のスラスターをパージしウチデノオオヅチへと接続することで追加の推進ブースターとして使用。本体の機動力の低下と引き換えにスイングの破壊力を高める二番。

 

 そこから更に対大型種用の可変形態を持つ武装であり、メテルドレス、それが現在のウシオニであり、ウチデノオオヅチだ。

 

 こんな武装を使って大丈夫なのか?という疑問にはNO、と答えるしかない。

 この武器を与えられた当初、色々と試していたアズサは推進ブースターに振り回され、危うく腕を持ってかれそうになった、と言えばその危うさがわかるだろうか?

 

『武装パラメーター異常なし(オールグリーン)――叩き込んでやってください!』

 

 ――そうして掲げられたウチデノオオヅチは、一回り以上――推定4m越えの獲物へと姿を変え、そしてアズサの魔装、牛鬼は元の姿からかけ離れた軽装型がごとき矮躯へと変貌していた。

 守りと機動性を犠牲にし、更に生半可な扱いでは自滅しかねない唯一無二の武装。だが、支倉アズサに不安は無い。

 

「応ともさ!」

 

 瞬間、とんでもない熱量を発し、彼女の姿が掻き消えた。

 

 ――確かにウチデノオオヅチのこの形態は本体の機動性が犠牲になる。

 

 しかし、しかしだ。

 

 これは本体のスラスターがウチデノオオヅチの推進ブースターに回されているからであって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 はっきり言って無茶である。メテルドレス本体と接続されている場合、飛行を感覚的に行うようにAIが組まれ、自動的に推進力の最適な向きなどを割り出して制御してくれている。

 だが、ウチデノオオヅチにそのような機能は存在しない。そもそも攻撃の威力を高めることだけが目的の推進ブースターにそのような物を載せる理由は無い。

 

 だから、これはアズサ自身が長時間の訓練やこれまでの実践を通して研鑽してきた技術――彼女は、ウチデノオオヅチで空を翔る。

 

 

 考えはとてもシンプル。高いところから推進力込みで落下し、コイツ(ウチデノオオヅチ)を叩き込む。

 

 

 そのためには上へ、ひたすら上へ。そしてゴーレムがギリギリ視認できる高さまで飛び上がり、そのまま急降下。

 推進ブースターが唸り、空気が押し出されて轟音を響かせる。

 

 落下速度、武器の強度、外殻の強度、これから腕に掛かるであろう負荷――そんなもの、アズサの頭には(はな)っから存在しない。

 

 あるのはただ一つ。自ら仇敵と定めた化け物を討ち果たすこと。

 

 ただ、それだけだ。

 

 

 「オォォォォォ――――」

 

 40――スラスターの熱と落下時の空気摩擦で体が焼けつくほどに熱い。

 30――否、それだけではない。彼女は高揚している。これまでに居なかった凶悪なまでの堅牢さ。それを打ち破ったその先。

 20――支倉アズサの強み、それは。

 10――どこまでも揺るがない戦意にこそある。

 

 「――ラァッ!」

 

 ――0。

 

 大気を震わす轟音。ウチデノオオヅチは寸分違わず大亀の背中、罅割れた甲殻へと吸い込まれ――その下の地盤ごと、ゴーレムを粉砕した。

 

「――――」

 

 

 

 ゴーレムの断末魔は、轟音に紛れ、聞こえなかった。

 

 

 

「――殲滅完了ってか?」

『ネフィシュ反応消失。ジャマーの解除を確認。お疲れ様でした。それじゃあ千寿さんと合流して――』

「……んあ?どうしたよアキト」

 

 途中で言葉を切ったアキトに対し怪訝な顔をしてアズサは問いかけた。

 

『千寿さんが戦闘の途中で気絶したみたいだ』

「お、死んでなかったか、上々じゃねぇか」

 

 ハハハ、とアズサは笑う。

 

『いや心配しようよ!』

「いやいや、ここは喜んでやるところさ、アキト。普通ならこんな現場に新人を連れてくる方がおかしかったんだ。生き残ってくれたことにこそ喜んでやるべきだろうよ」

『……いや、まぁ、そうなんだけどさ』

 

 今回は異常だった。

 救援とはいえ、2体とも能力持ち。そんな現場に呼ばれた二人の内片方は非番の新人。このような選定をした上の意図が気に掛かる。そのことに思考を向けようとして、アキトの言葉がそれを遮った。

 

『でもそれって、彼女が生き残らないって思ってたってことです?』

()()()()()()()。ありゃ、あっさり命を投げ出せる類の奴だぞ?」

 

 アズサは呆れたように言ったがアキトからすればむしろ理解できない話だったのか、彼は要領を得ないという風に唸った。

 アズサが結奈と今日が初めて会った訳で、彼女の事情も出撃前に軽く聞き流した程度。深く理解出来る方がおかしい。なんて考えているのだろう。

 だが、そう思わせる情報は随所にあったのだ。

 いいとこのお嬢様が目が見えないってのに非番でも飽きずに訓練していて、その上初陣だってのに()()()()()()()()()()()()()()()()

 極め付けにはブリーフィングの時のあの雰囲気だ。あの雰囲気を、支倉アズサは知っている。ゴーレムは必ず殺さねばならない、そう言っていたあの女性に――そういえば彼女がこれほどの現場に居ないというのも珍しい、とアズサは思った。

 

「ま、勘でしかねェけどな」

『……また女の勘、ですか?』

「そういうこった。ま、信じるも信じねェもお前の勝手さ

『信じますよ。好きになった人の言葉なんですから』

 

 ときめいた。不覚にもときめいた。

 

「この女たらし」

『あなた以外にはこんなこと言いませんよ』

 

 支倉アズサは自身を女らしくない、と常々思っている。化粧っ気など微塵も無くアクセサリーの類は邪魔と切り捨てる。服だって普段はジャージ姿で過ごしているしずぼらだ。

 

 だから、そんな自分を異性として扱われるのに慣れていないし、そんな風に扱う男などいないものだと思っていた――プロポーズされた一ヶ月前までは。

 仕事でも見せない真剣な顔で結婚を前提にお付き合いを、なんて言われた日のことをアズサはよく覚えている。

 そして返事を保留にしてしまったこともしっかりと。

 

 確かに喜んでいる自分が居ることも事実。だが、それ以上に怖いのだ。なぜ自分のような女を好きになるのか、男の気が知れない。

 アズサは内心を悟られぬように鼻で笑った。

 

「どうだかな……そんじゃ、新人を回収してくる」

『お願いします。ああ、それと』

「……なんだよ」

『顔を真っ赤にしたアズサさん、本当にかわ――』

 

 ぷつり、と最後まで聞くことなく通信を切った。

 とりあえず帰ったら一発ぶん殴る。そう決めた瞬間であった。

 

 

◇◇◇

 

 

 目を覚ました結奈は、そこが医療機関、もしくはそれに準じた場所であることを消毒液特有の匂いから推察した。

 喧騒から察するにおそらく一般病棟――いや、妙な機械音も聞こえてくる。もしかしたら医務室といったレベルの場所なのかもしれない。

 

 自分の体を確認する。何か点滴を受けているわけでもなく、痛みも軽いものだ。とすれば軽い脳震盪か。

 

 自分が意識を失う前に何をしていたかはすぐに思い出せる。鎌を腹に突き刺すことはできたがそのままゴーレムに押しつぶされそうになって、そのあと誰かの通信で耳をやられてそれから――そうだ、突き飛ばされた。そこから先の記憶が酷く曖昧だが、気を失ってしまったか。

 

「……」

 

 情けない、と思った。

 少し前に生き残ることを祖母に約束して魔装姫士になった。そして今日、ゴーレムに蹂躙された人たちの恐怖を自分が引きずっていくのだと決めた。だというのにいざとなったら生きることを容易く諦めてしまった。

 

――間に合ええええ!

 

 焼きついたのは、通信越しに自分に手を差し伸べた女性の叫び。あれは、多分、芦沼さんだ。そして、助けてくれたのも。

 なら、お礼を言わなければならないだろう。生き残ることを諦めた自分に、生きる道を与えてくれたのだから。

 

 むくり、と起き上がった結奈に声が掛けられた。

 

「あ、起きたのね新人ちゃん」

「あなたは……芦沼さん、でしたよね?」

 

 ええ、と芦沼サトミは答えた。

 

「中々いい記憶力ね」

「これまで声で人を判別しなければいけなかったので」

 

 事実、これが出来るようになるまで中々に大変だった。人が人を判別する際、大抵は視覚情報に依るところが大きいようで、目が見えなくなってすぐの頃は祖父母の声を聞いても誰なのかわからなかったことを覚えている。

 そういう問題かしら、とサトミは零したが。

 

 その後、痛みの有無や意識レベルの確認等を芦沼はてきぱきと行った。手馴れているらしく、その動きは淀みなく行われた。魔装姫士になったら必要なことなのだろうと結奈は思った。

 

「そういえば、ここはどこなのでしょうか?」

「スペリオル・インダストリー魔装姫士(エクィテス)詰め所の医務室よ。あ、あなたの保護者さんには連絡してあるわ」

 

 ああ、やっぱり病院じゃなかったのか。病院の物とは違う機械類の音はおそらくガレージ、そこでメテルドレスの修復を行っているのかもしれない。結奈は納得した。

 

「今日の戦いはどこまで覚えてる?そうね……現場に到着してからの動きを説明できるかしら?」

「えっと……はい」

 

 結奈は素直に応じて一つ一つ話していく。

 支倉さんと別れたあと、声を頼りにゴーレムを探しながら秋風楓、芦沼サトミと合流。

 三人で協力して他の魔装姫士が集合するまでの間、居住区画C内からゴーレムを逃がさないように時間を稼ぎ、他の人にもわかるように鎌を突き刺した。

 だが、鎌を突き刺すのに集中するあまり離脱しそこね、そのままゴーレム諸共落下して潰されそうになったのを、おそらく芦沼さんに助けられたのだ、と。

 

 静かに結奈は語り、その間、サトミは口を挟むことなく聞いていた。

 

「そういえば、支倉さんは?」

「アズサちゃんならあなたのメテルドレスを回収してあやかしやに戻ったわよ。お大事に、ですって」

 

 そうか、それは迷惑を掛けてしまった、と思ったところでふと、疑問が沸いた。

 なぜ、自分はあやかしやではなくスペリオルインダストリーに運び込まれているのか。

 そのことを言うと、彼女はあっさりと答えた。私のわがままだ、と。

 

「わが、まま?」

「ええ、ちょっとお説教しなくちゃいけないことがあったものだから。もちろん一対一で」

 

 お説教。と聞いて少し呆けてしまった。そういうことは先輩(支倉)がするものだと思っていたからだ。

 

「まず、なんで下から狙ったのかしら?上から鎌を刺したほうが皆から見えたでしょうし、何より押しつぶされる心配も無かったと思うのだけど」

 

 ああ、そのことか、と結奈は納得した。あれにはきちんと理由はある。そもそも、結奈も最初の内は背中に突き立ててやるつもりだったのだ。

 しかし、あのゴーレムの背中には複数の突起物があって、そこから大量の空気を噴出させていた。もしも背中から切り掛かろうものなら突風に巻き込まれ吹き飛ばされていたかもしれない。

 そのことを説明すると、サトミは納得したようだった。

 

「なるほどね。そういうことなら仕方ないか」

「今になって思うと失敗したな、と思っているんです。押し潰される事までは想像していませんでしたから」

「ま、初めての戦いだもの。しょうがないわ。私の初陣なんて死にたくない一心で他の事に気を配る余裕なんてなかったしね」

 

 そう言ってサトミは肩を竦めた――そうだ。この人もベテランの一人なのだ。それも自分の出した無茶な指示にも応えられるほどの。

 

「でもそこまで冷静に反省できてるとは思ってなかったわ……ねぇ、あなた本当に13歳?」

「年齢詐称をする理由はありませんよ?」

 

 そういうことじゃないんだけど、とサトミは疲れたように言った。じゃあどういうことなんだろう、と思ったが、最近の若い子はこんな感じなの?と頭を抱えているのが分かってしまうと何を言っていいかわからなかった。

 わからなかったので愛想笑いを浮かべておいた。

 

 ジト目で見られたので謝ると、溜め息を吐きつつサトミは次の問いを口にした。

 

「――じゃあ、なんで押しつぶされそうになった時に逃げなかったのかしら?私から見る限りギリギリ助かったと思うのだけど」

 

 そうとは思えない。確かにあのタイミングで逃げていれば命は拾えただろう。だが、無傷では済まなかった筈だ。

 それではダメだ。あのゴーレムを捕捉できる自分がいないのでは戦いが長引き、より大きな被害を与えていた可能性があったのだ。それを結奈は見過ごせなかった。

 

「……あのゴーレムはあの場で何が何でも倒す必要がありました。私の命を賭けてでも」

 

 だから死ぬことを前提で残った、残ってしまった。祖母との約束を破ってしまった。

 

「そうね。あなた以外には認識できない以上、あそこで取り逃がしたら大変なことになっていたわ。それだけは認めてあげる」

 

 ――けどね、とサトミは続け、突然、結奈の胸倉を掴み上げた。

 目が見えない結奈であっても、彼女の背後に鬼の姿がチラつくほどの迫力があった。

 

「死に急ぐのは勝手よ……ただ私の目の前でそういうことされるとムカッ腹が立つの!昨日会った相手がいつの間にか死んでることなんて珍しくないこの世界だけど!だからって目の前で死なれたくなんて無いのよ!」

 

 ああ、そうか。結奈は思う。この人も、目の前で誰かが死ぬのが怖かったのだ。

 自分に対し怒りを顕わにする女性の過去に思いを馳せる。

 魔装姫士として生き残るということは、仲間の死を身近に知るということ。この人はそれを何度も経験しているのかもしれない。

 

「だから!魔装姫士になったんなら生き残る道を模索しなさい!人間生きてればどうにでもなんのよ!」

 

 結奈は魔装姫士の死を聞くことはできても()()()()()()()()()。故にその情景を知ることは無い。だから芦沼サトミの感じる恐怖を正確に理解することはできないだろう――それがすごく苦しかった。

 この人(芦沼サトミ)の恐怖を共有してあげられないことが、とても、とても、苦しい。

 

「心臓に悪いのよ!あなたがゴーレムの下から抜け出さないのを見てどれだけ怖かったことか!作戦を聞いて、あなたと会って、最初から死ぬつもりなんじゃないかって気が気じゃなかったわよ!」

 

 父は容易く殺されて、母は丸呑みにされてしまった時の恐怖を今も覚えている。そんな誰にも見ないで欲しいと願った恐怖を、他の人に植え付けるところだった。

 

「ごめ………い」

 

 ――心配させてしまったことに。怖がらせてしまったことに。

 ぽつり、と掠れながらも声が出た。目が、熱い。

 胸倉を掴んでいた手が離れた。

 

「泣かないでよ。これ以上、怒れないじゃないの。もっと、色々叱ってやらなきゃいけないのに」

「……んな…い」

 

 ――あなたの苦しみを正しく理解することができないことに。

 サトミの声は呆れたようでいて優しかった。抱きしめられた。

 

「――生きてて、本当によかったわ」

「ごめん、なさい」

 

 ――生きることを諦めてしまったことに。

 

「そうじゃないでしょ?こういう時はお礼を言うの」

「たすけてくれて。ありがとう」

 

 結奈は泣いた、静かに泣いた。それをサトミは見守ってくれていた

 結奈は誓う。誰かを守るために無茶もするし、死に掛けもしよう。それぐらいのことは魔装姫士になると決めた時点で覚悟はしていた。

 だからそこに一つ、より強く刻み込むのだ。絶対に生き残る、と。

 

 命の恩人の傍で、泣いて、泣いて、そして誓ったのだった。

 

◇◇◇

 

「「失礼します」」

 

 上官への報告を終えた秋風楓と柴田愛弓は、共に帰路に着く運びとなっていた。

 まったく疲れを見せず、凛とした立ち姿の楓と対照的に愛弓はだいぶ疲れたのかあくびをかみ殺しているが、楓は特に何も言わなかった。

 戦闘は結局長時間に及んだ上にジャミングの影響で実際に取れたデータが少ないこともあって報告の内容が普段より多くなったのだ。

 魔装姫士は鍛えているとはいえど人間である。戦闘後に休みなくノート一冊分はあるであろう普段よりも分厚い報告書を書き上げるハメになったのだ。疲れないはずもないだろう。

 

「やれやれ、中々に厄介な個体だった」

「ホントだよ。しかもどちらも守りや逃げに特化した個体だったしさ。おかげで時間がかなり掛かっちゃったよ」

 

 せめてジャミングが無かったらなぁ……とぼやく愛弓に言葉には出さないが同意せざるをえない。

 そもそも今回の場合組み合わせが非常に悪かったと言っていい。スペリオル・インダストリー社の機体は汎用性に重きを置いている部分が多く、ジャミング能力持ちを倒す火力は持ち合わせていなかった上に、先に駆けつけた楓と愛弓でも破壊が困難だった。もしもあの場に破壊力の高い装備を持つ魔装姫士がいたのなら先にジャミング持ちを撃破した上で姿無きゴーレムをセンサー類で捕捉し討伐できていただろう。

 

「それにしてもよくあの二人をどんぴしゃで呼び出せたよね」

「まったくだ。あの二人が当番だったのは僥倖だったな」

 

 そんなことを話す二人だったが、本来なら結奈は非番であったことなど知る由も無かった。

 

「それはそうと、結奈ちゃんはどうだった?」

 

 少し前に世話をした縁があるからかやはり気になるのか。

 訊ねてきた愛弓に対し、楓は淡々と応えた。

 

「悪くは無いな。オペレーターの助けもあったようだが、例のゴーレムを捕捉できない私と芦沼さんを上手に使っていた。危険な作戦にも関わらず怖気づくことなくこなしたのも評価できる。正直、年齢や初陣であるというのが信じられない」

 

 思ったより評価が高いんだね、と愛弓がぽつりと呟いた。

 楓自身は淡々と事実を話していただけだったのだが、そんなに意外だっただろうか?

 

「まぁ、咄嗟に通信機能を使えなかったり、最後に詰めの甘さはあったが、それは生きてさえいれば幾らでも直せる部分だ。総評するならば魔装姫士としては十二分に期待できる人材、だな」

「だよねだよね!あーあ、目が見えていたらなぁ……」

 

 その言葉にまったくだ、と楓も同意した。

 一見、差別とも取れる言葉だが、おそらく無理を通して千寿結奈を政府直属の魔装姫士として受け入れていたならいつか世間を騒がせるニュースとなっていたに違いない。

 

 タイトルは『身体的障害を持つ少女を怪物退治に――政府、これを黙認』といったところだろうか。そういう意味ではあやかしやは自ら爆弾を抱え込んだことになるのだがそれを呆れるべきか――それとも一人の少女の願いを聞き入れた懐の深さを褒めるべきか。

 

 いや、後者は無い、と自分の考えを改めた。どうせあのあやかしやだ。碌でも無い思惑あってのことだろうが、それが任務とされることが無いことを祈るばかりだ。

 

「やれやれ、ひとまずどこかでご飯を食べて帰るとしよう」

「あ、イイネイイネ!どこがいいかなぁ!和、洋、中、どれも捨てがたいしなぁ」

 

 そうして二人は帰路に――

 

『秋風楓、柴田愛弓の両名はただちに局長室へと出頭せよ。繰り返す、秋風楓、柴田愛弓の両名は――』

 

 着けなかった。

 

「え、ええ~」

「ぼやくな、任務だ」

 

 楓は踵を返し、それに倣って愛弓も着いていく――ちらりと見た愛弓の目が死んでいたのを確認して、終わったら何か奢ることを考えた楓であった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ただいま~、いやはや、到着が遅くなっちゃったよ」

「おかえりなさいお父様!」

 

 場所は変わり大神家。

 長身痩躯の男――あやかしや創設者、大神相馬(おおがみそうま)は娘である大神雫に出迎えられていた。

 

「一ヶ月も留守にしてごめんよ。大丈夫だったかい?」

「ええ、おばさまの助けもありましたからなんの問題もありませんわ」

 

 それはよかった。思ったより元気そうだ。ふと、おばさま――血縁の叔母、ではなく相馬が雇ったお手伝いさん――の姿が見えないので話を聞くと雫曰く、今夜は家族水入らずで、という雫の要望なんだとか。

 あちらの職務怠慢になるんじゃないかと思いはしたものの、それは言わないでおこう。

 

「あ、先にお風呂に入りたいんだけどできてるかな?」

「できてますわよ!もちろんご飯の用意も!」

 

 えっへん、と胸を張る娘。

 相馬はその姿に安堵し、顔を綻ばせて頭を撫でた。

 

「本当にすごいなぁ雫は、その歳で家事を全部やれちゃうなんて。いつでもお嫁さんになれるよ」

「えへへへ、お父様、気が早いですわ」

 

 気が早い、と言う雫だったがとても嬉しそうだった。

 

「それよりもお父様の食生活の方が不安でしたわ……今回の出張はアメリカ。食事量が多いことで知られる国ですもの。ヒョロヒョロのお父様が肥満体になって帰ってくるのではないかと心配しましたのよ?」

 

 そう言われて、相馬は自分が太った姿を想像してみるが、元々小食であまり食べない人間だったからか全然思い浮かばない。

 

「それはさすがに考えすぎだよ。確かに体重は2キロ増えたけど……」

「むしろもう少し肉を付けた方が良いですわね。もちろん運動や栄養バランスも考えてですけど」

 

 そう言いつつ雫はいつのまにか取り出したノートに何やら書き込んでいた。

 そこには雫の筆跡で「お父様健康ノート」なんて書かれている。そんなものいつのまに作っていたのやら。父の健康を気遣ってくれる娘を褒めるべきか気にしすぎだと言うべきか迷ってしまう。

 

「――まぁいいか、先にお風呂貰うよ」

 

 答え。保留。いつか来る反抗期のことを思えばこれほど父思いの娘の姿をあと何年拝めるかもわからないのだ。今の内が花である。

 

「はーい!あ、背中を流しましょうか?」

「それより料理を温めといてくれるとうれしいなー」

 

 娘の気遣いを嬉しく思いつつ、事案という言葉が思い浮かんだ自分はダメな気がした相馬であった。

 

 

 

 

 入浴後、すでに夕食を食べていた雫の前で相馬もまた夕食にありついていた。鯖の味噌煮に肉じゃが、ほうれん草のおひたしに浅漬け。味噌汁はわかめに豆腐とねぎという純和食。一応アメリカでも和食が食べられないこともないのだが、久しぶりの和食ですわ!という雫なりの気遣いを無碍にするつもりはなくそのことは黙って食べることにした。

 

「うまぁぁぁぁい!!うまいよぉぉぉぉぉ!」

 

 それに一ヶ月ぶりの愛娘の料理である。喜ばないわけが無かった。

 

「お、お父様、そんな泣きながら食べるものではありませんわよ?」

「何を言うんだい雫!一ヶ月ぶりの雫の手料理だよ!涙無しに食べれるわけが無いじゃないか!」

「何を言ってるんでしょうこの人……」

 

 なんか小声で罵倒された気がするがそんなことは些事だ。これでまた一ヶ月頑張れるゥゥゥ!と感涙にむせび泣く相馬だったが、ふと雫にこんなことを問いかけた。

 

「そういえば臨時でオペレーターになったって聞いたけどどうだった?」

「と、唐突ですわね」

 

 口の端を引き攣らせていた雫に、はて、と首を傾げた相馬だったが、雫が話し始めたので傾聴することにした。

 元々は非番だというのにほぼ毎日メテルドレスを借りて訓練している新人の魔装姫士に会いにいったこと。

 その少女は千寿結奈という名であること。

 色々と話して仲良くなったこと。

 そんな少女が非番にも関わらず厄介なゴーレム相手に初陣に出ることになったこと。

 彼女の手伝いをしようと思って、ちょうど空いていたオペレーターを臨時で務めたこと。

 その少女と話し合って作戦を立案し、実際に戦場で戦う少女とその作戦を成功させたこと。

 だけど、その少女は気絶してしまって、彼女が書くはずだった報告書もすべて雫が書き上げたこと。

 しかも、多くのセンサー類が使えなかった所為でメテルドレスから読み取れるデータが少なく、その解析やら何やらで時間が潰れたこと。

 

「た、大変だったね」

「そうですのよ!芦沼さんが居なかったらどうなっていたことか!熱意は買いますけども死んでは元も子も無いでしょうに」

 

 今度会ったら説教ですわ!と息を巻く雫に相馬は苦笑をもらす。

 千寿 結奈という少女のことは知っていた。そもそも、彼女をあやかしやに入れることを許したのは自分だ。それに、彼女の事情もちゃんと知っている。それにしても今日が初陣だったのか、と胸中で呟いた。

 

「――お父様?」

「ん?ああ、なんでもないよ。よくやったね雫。その、結奈ちゃんだっけ?彼女が生き残ったのはお前の頑張りがあってこそだ」

 

 雫はえへへ、と照れ笑いをうかべたが、なぜかすぐに真顔になった。

 どうしたのか、といぶかしむ相馬だったが、続いて雫が口にした言葉に絶句することになる。

 

「ですけど、もしも彼女が居なかったらお父様も無事に帰ってこれたかどうか……」

「……え?」

 

 いきなり何を言い出すのか。そこまで考えて、ふと、自宅に帰ってくる途中で目にした惨状を思い出した。

 

「まさか帰ってくる途中に見たあの残骸ってもしかして今日の戦いの!?」

「ええ、帰ってきたら家が無かった、という事態は防げましたの」

 

 自分の知らないところで救われていた事実に相馬は顔を青くした。

 さらに詳しく聞いてみると、なんでもその厄介なゴーレムの内一体は彼女以外には見つけることもままならないステルス能力を持っていたらしい。ゆえに彼女なしでの撃破はできなかった、と雫は語ったのだった。

 

「……奇妙な縁もあったもんだよ」

「お父様、何か言いました?」

「いや、なんでもない」

 

 そう言って、相馬はごまかした。これは雫はまだ知る必要の無い話だ。

 話すのであればまず……あの少女であるべきだろう。と、胸に秘めて。

 

「それで、どうだい?オペレーターとしても十分やっていけそうだけど心変わりとかは」

「ありませんわ」

 

 雫は断言した。断言してみせた。だめかー、と相馬はしょんぼりとした。

 

「私は魔装姫士になる。これは決定事項でしてよ」

「自分の娘だからこそ戦って欲しくないっていう親心もあるんだけどなぁ……」

「……そこはすごく申し訳なく思ってますわ。ですけど、今日、あの人のオペレーターを務めてその気持ちがより強くなりましたの」

 

 どういうことか聞くと、まるで雫は

 

「だって、結奈先輩ってば、ゴーレムと戦うことしか考えてないような生活をしてますのよ!魔装姫士だからってそれではあまりにもかわいそうですわ!ですから、彼女が少しでも楽になるように手助けをしますの!」

 

 もちろん、彼女だけではありませんけど、と雫は付け加えた。

 だが、相馬はそれどころではない。娘の成長を喜ぶと同時に娘に数奇な運命を与えた神を恨みそうになる。

 例え、この世界に機械仕掛けの救世主はいて、神様はいないのだとしても、だ。

 

「――僕は何度でも問うよ雫、例え君が魔装姫士になった後でもね」

 

 それだけがこの情けない父にできることだ、という()()()()()()()()に対し雫は答えた。

 

「では、私は何度でも魔装姫士になるのだと答え続けますわ」

「――はは、あ、そうだ、料理が冷める前に食べきらなきゃね」

 

 そう言って話を切り、相馬は食事を再開する。

 娘は、そんな父の姿を申し訳無さそうに見ていた。




や、やっと初陣編が終わりました。長かった。本当に長かった。
今後はこれまでの話の文章の推敲や原作の進みに合わせて小話を書いていこうかと思っています。次回更新は未定です。


登場人物紹介。

・支倉アズサ
 本作オリジナルキャラ。あやかしやの先輩魔装姫士。年齢はこの話の時点で19歳。大学には行っていない。
 戦闘ではかなり頼もしいが私生活はかなりだらしないタイプ。
 しかも戦闘は単独での行動も多く、直感だけで生き残ってきた戦いの天才。
 この話の時点では出撃数及び撃破数であやかしやTOP。原作開始の四年後も生存している予定。

 専用メテルドレス持ちで名前は「牛鬼」
 本編で説明したとおりの強襲を前提とした短期決戦用のメテルドレス。近接戦闘での破壊力はピカイチだけど最速の座はFADの機体に取られてそうだなぁ、なんて。

 彼女を作ったのは投稿キャラにベテランを名乗れるあやかしやの魔装姫士が居なかったため。
 なんで唐突に恋愛要素を入れたんだと言われそうだけど恋愛にへっぴり腰の男勝りなお姉さんと好きな女性には一途な優男を書きたかったんや()

・雁旗アキト
 本作オリジナルキャラ。上述の支倉アズサの専属オペレーターであると同時にあやかしやの若き研究者。専門は対ゴーレム。アズサさんにぞっこん――なんだけど実はその経緯まではまとまってない(オイ)

 彼を作ったのは上述した恋愛要素を書きたかったこともあるけど、原作ではオペレーターが基本的に女性だったので違いを出したかったというのも少しありました。原作開始時点でも存命予定。

・大神ソウマ
 本作オリジナル…とは言えなさそうだね。うん。
 あやかしやの一番偉い人。創設者にして取締役かつ技術開発部のトップ。その実態は……ドタコンのお父さん。
 『赤い人』さん考案のキャラクター『大神雫』ちゃんの父親として設定したキャラです。
 実は父子家庭、というか元々雫ちゃんが養子なんですが。
 あやかしやのTOPとして世界中を飛び回っていて毎日娘とのテレビ通話が欠かせないとか何とか。反抗期が来たらへこみそう。
 当然彼も原作開始時点では存命。

・芦沼サトミ
 前回に引き続き続投。前の話で結奈を助けたのも彼女でしたが、戦いの中で生きるのを諦めようとした結奈を叱咤する役を担ってもらいました。
 結奈の命の恩人、というのは原作の主人公の窮地を救った場面が印象的だったからですね。
 ただキャラ間のつながりを勝手に作ってしまった面もあるんですよね……James6さんなんかすみません()
 それと、今回の話を思いついたのは投稿されていた掛け合いの台詞「死に急ぐのは勝手よ……ただ私の目の前でそういうことされるとムカッ腹が立つの」を見た結果ですね。あれのおかげで叱責役を勝ち取りました。バインさん本当にありがとう!

・秋風楓
 前回に引き続き続投。後述する柴田愛弓さんと一緒に結奈の評価と、結奈の立場について話すちょっとした解説役として使わせていただきました。
 たぶん、結奈は気付いていないだろうけど彼女自身が爆弾だよな、という考えがあり、それを語っていただいた形でございます。

・柴田愛弓
 こちらも前回に引き続き(ry。
 結奈と縁を作っていたこともあって彼女から切り出す形で結奈の評価云々を話し合わせることができました。

・大神雫
 こちらも前回に(ry。
 父親との団欒を絡めて結奈が居ない間に色々と面倒な仕事を引き受けていたことなどを話していただきました。しかも家事万能スキルまで追加(こちらの独断)うーん、無理せず家政婦さんを用意するべきだったのだろうか……という悩み。
 それはそうとあとがきを書いている今になって目の見えない結奈に書類って書けないよな……ということに気付くなど。


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