さぁ!この世界の艦娘に幸せあれ!!! (荒北龍)
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ブラック鎮守府とブラック提督①

 

 

 

 

廃れた港町に静かに佇む「ソレ」は外観こそ鎮守府だったものの

その傍目から見ても分かる活気のなさは建物の迫力との差から何処か不思議な空間が広がっており

最早、廃墟といっても差し支えのないものであった。いや、廃墟と言った方がしっくりくる。むしろ鎮守府と言う方がおかしいだろう

そして

 

そここそは、所謂ブラック鎮守府であった

 

疲労状態での出撃など当たり前

ご飯や睡眠は最低限

入渠は禁止

大破艦は敵の盾として認識され

どんな戦果を挙げても返って来るのは暴言や暴力など他にも沢山の非人道的な行為が日常的に行われていた

 

しかし、海軍側はこれを黙認

まぁ、当たり前だろう。

世間では正義のヒーローだの、正義の下で戦う娘たち。

世界の救世主と言われているが、元帥以外のほとんどは

『艦娘は人ではない、化物の化身だ』

元帥は艦娘を義人思っているし、尊敬すらしている。ほとんどの提督だってそう思ってる者は多いいが、良く思わない提督も多い。

実際に、艦娘の売買を手引きしている提督は何人かいた。

しかし、それも海軍は世間一般に公表することはない。

そんなことをすれば、海軍としての立場が危うくなるからだ。だから、希望を、生きる意味を、死んだ方がましだと思う艦娘も居るし、なかには問題を起こす艦娘もいる。

そのなかでも、ブラック鎮守府の艦娘は別格。問題だらけだ。

なかには出撃を拒否する艦娘、命令を全く聞かずに出撃する艦娘、出撃しても使い物にならない艦娘、なかには提督を殺した艦娘もいる。

そして何よりブラックなのは、提督事態が問題なのだ。

内容は色々あるが、大々的な者が、海軍への反逆、国民からの信頼問題、艦娘を勝手な理由で解体、その他色々。

ここに集まるのは、希望を無くした提督と、その虐待や理不尽に絶える艦娘たちなとだ。

 

 

 

 

─────そして今日も一人、新しい提督が『ブラック鎮守府』に着任しました。

 

 

名前は名無(ななし)

 

姓なんてない。名前もない。

だから名無なのだ。

大きな特徴、それは両腕の義腕と、隻足に義足、そして隻眼の眼に、空っぽの目は義眼をつけ、片方の頬は引き裂かれたように裂けている。

 

そのため彼はいつも厚着に両の義腕には手袋をつけ、足はできるだけばれないように歩き、顔には長く黒いマフラーを巻く。

 

彼のこの傷跡は、艦娘につけられた物。

しかし、海軍はそれを報道しなかった、それどころか、彼を罰し、このブラック鎮守府に着任した。

理由は、名無は提督でありながら、提督を殺したのだ。

 

しかし、報道すれば、必ずこの大きな傷跡はのこともマスコミにバレる。艦娘がどんな理由であれ、提督にこのような深傷を負わせたとなれば、大問題だ。

 

そうして海軍は、事件を最小限に押さえ、提督をブラック鎮守府に着任させた。

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「はぁ……また新しい提督……ですか…………」

 

陰鬱げに、深々と溜め息を吐く彼女の名は、駆逐艦「雷」

 

主に提督の執務の補佐や任務の管理

そして新しく着任する提督の案内なども行なっている。

 

まぁ、平たく言えば、これまでの提督の非道的行動を一番近くで、しかも日常的に見てきたのだ

 

「どうせまた問題起こして一ヶ月そこらで辞めるんでしょうけど」

 

正門に移動しつつ、何度も溜め息を吐きながら提督や海軍のことで愚痴を吐く彼女の瞳は、世間で知られている【第六駆逐隊 雷】とはとうてい思えないほど「濁って」いた

 

しかし、それもそのはずだ。

彼女は、提督の非道的行動を一番近くで見ると同時に

 

 

一番多く非道的虐待を受け続けたのだ。

 

 

ここに来る提督は皆屑だ。

屑が密室で見目麗しい女性と二人きり

何があったかなどいう必要もなかろう。

 

殴られることもあった。

罵倒されることもあった。

理不尽な八つ当たりをされることもあった。

屈辱だったこともあった。

殺してやりたいことなど何度もあった。

 

しかし彼女は耐えた。

もしもそこで怒りに任せて殴りでもすれば、自分の負けだ。

それに、証拠の一つでもあれば、このクソみたいな状況も変わるだろうと、そう信じていたからだ。

 

だがそんなことはなかった

 

 

ある日彼女の必死の呼びかけが応えたのか大本営から調査員が派遣された

 

調査は一週間にも及んだ

最初こそ取り繕っていた屑野郎であったが3日もすればいつも通りだ

 

調査員の目の前で仲間達に理不尽な暴力を振るい、暴言を吐いてもいた

その一週間の間に汚されたりもした

普段より声を上げ

わざと気付かれるように仕向けたりもした

録音もしていたから決定的な証拠も抑えた

どんなに酷いことをされても耐えて耐えて耐え続け

 

そして調査の結果

 

 

次の日から、その提督は居なくなった

 

 

単純に嬉しかった!

嬉しくて嬉しくてたまらなかった!!

その時の嬉しさは本当に声にならなかった。

いや、例えようがないほどに、本当に!

 

 

そして——

 

 

———————次の提督が着任した

 

 

元の提督と全く同じ。

悲劇は、繰り返されたのだ。

 

 

彼女は嫌でも知ってしまった。

人の心の、否、この世の理不尽を

 

そして、彼女は諦めた

否、諦めざるを得なかった。

 

絶えず行われる暴力にも目を背け

毎日聞こえてくる暴言を聞き流し

汚されたとて、最早何とも思わなくなった

 

変えられない

逆らってはいけないのだ

逆らっても、何一つ変わりはしない

いつだって、世の中は理不尽で

弱者がなにを叫んでも

強者には何も届かない

 

だから、諦めるしか、できないんだ

 

こうして、彼女は大切な何かがガラガラとガラスが崩れ落ちるかのように、壊れていった。

そして、その音すら聞こえなくなった時

 

 

彼女は完全に壊れた。

 

「チ、もういる」

 

そして、壊れてからと言うもの、ブラック鎮守府の艦娘以外の、全てが屑だと思うようになった。

 

「どうも、駆逐艦 雷です。貴方が今日からこの鎮守府に着任する提督で…………ぇ?」

 

「ん?あぁ、いかにも俺が今日から新しく着任する名無だ」

 

同じ、いや、それ以上に、彼の目は、「黒く濁って」いた。

いや、正確には彼の目は死んでいた。

こう、死んだ魚のように。

 

生きる希望、夢、欲、人として欠けてはいけないような何かが、欠けているような、そんな目だ。

 

マフラーで隠された口元で、見えるのは、長く、左右に跳ねた寝癖の悪い髪の毛と、目元の大きなクマ。

それはより一層目付きを悪くする。

 

傍から見れば、目付きの悪い、少し難いのいい男。

 

しかし、彼女は違った。

 

この目をよく知っているからだ。

 

 

見たくない、知りたくもない、目を背けても、瞼を閉じても、耳を塞いでも、どれだけ泣いても、脳裏に刻まれ、その空っぽの心に刻まれて決して離れない

 

 

私たち艦娘達《仲間達》の眼だった────

 

 

 

────────しかし、もう一つ気づいた。

 

 

彼の孤独に。

私たちの目が濁っているなら、彼の目はより「ドス黒く」濁っていた。

 

どれだけ叫んでも許してはくれない

 

どれだけ助けを求めても誰も助けてくれはしない

 

どれだけ抗っても、この世の理不尽にはどうしようもないことを

 

 

あぁ、もしも彼が

私達のように

抗いようもない理不尽を受けてきたなら

人に、傷つけられてきたというならば

 

 

私は初めて願った

神でも仏でもない

私たち以上の苦しみを知っている

貴方にお願いします。

 

 

私達《仲間達》を、どうか、どうか

 

 

助けてください

 

 

 

捨てたは筈の、壊れた筈の、諦めた筈の

小さな、ほんの小さな

希望の灯が

彼女を抱いたのであった。

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

鎮守府、集会場

 

名前の通り集会をするために創られた場所であるそこは

広々とした、とても殺風景なところだった

 

木造の床に壁、鉄の天井に取り付けられたちょっと大きめのライト、それ以外にはちょっとした舞台とがあるだけだ

 

特徴的な特徴はほとんどない

と言うかない

 

まぁ、簡単に言えば、中学校か小学校の体育館、とでも言えば良いだろうか

 

ただ一つ違うと言うのなら、

直立し舞台上の俺を見上げている艦娘達がいる事であろうか

 

「新しく到着した提督による艦娘達への挨拶」…………だ、そうだ

 

鎮守府に入ってすぐ雷から

「提督着任の挨拶があるから、ちゃんと来てください」

と言われ、今に至る訳だが

 

俺は、集まった艦娘達の顔を見るが、噂通り

いや、それ以上に、この世に愛想をつかしたような

とても正義の下で戦う者達には思えない雰囲気を漂わせていた

 

そうして、俺は艦娘達の顔を見ながら、今の状況を確認していると

真横にいた雷が俺にマイクを渡した。

俺は、義手の手で雷の持っていたマイクを受けとる

 

どうやら俺が義手だと言うことにはか

まぁ、気づかれたところでどうと言うことはないだろう。

 

さて、久しぶりの挨拶………………たしか俺が前の鎮守府での挨拶はどうやったか…………まあいい。

俺らしく挨拶するか。

 

───さぁ、このブラック鎮守府に提督様が着任したぜ。

 

 

 

「こんにちわぁ、俺の名は名無、姓はねぇ、まぁこの際名前なんぞどうだっていい。先に手違いが無いように言っとくが、俺は【殺人犯】だ」

 

その一言で、集会場が騒めく

 

しかし、俺はそんなことはどうだっていい

 

「まぁ、どうせクソの塊だ、死んで当然のやつだ。だが今はそんなことどうでもいい。正直てめぇらがどうなろうとどうでもいい、実際ここはこう言う所だと聞いたしな」

 

「しかし!!!」

 

軽く息を吸い、さっきよりも圧をかけるように大きく太い声で

 

「勝手にくたばる事だけは許さんし、俺はてめぇらを不幸にはさせねぇ」

 

彼は何様だ

彼は私達の命を管理する権利があるのか?

そんなに私達と彼は深い関係か?

私達に同情でもしているのか?

 

何度も裏切られ、希望を打ち砕かれ、終いには「くたばれ化物」、いつも提督たちが最後に残す言葉だ。

いつから諦めたか、そんなことさえ覚えていないほど前から

 

心が砕け、崩れ去り、全てを諦めたか自分達の空っぽの心に、どうしてだろう。

 

彼の声は、自分達の空っぽで、なにもない心に響き渡った。

 

同じ、それ以上の苦しみを知っているから?

 

私達に同情しているから?

 

そんなことはどうだって良かった。

 

この人は、この壊れた私達に、生きて欲しいと願っているのか?

 

分からない、分からないほど、初めてだった。

自分達に生きてくれと願っている者に合うのわ。

だが彼の言葉は嘘かもしれない

本当かどうか何て分かりはしない

結局は皆死ぬのが怖い

自分の命が最優先で、私達の事なんて食い物にしか思っていない。

 

それが「人間」なんだから。

 

「それじゃぁ俺は掃除があるから」

 

 

 

『………………は?』

 

その場の全員が、これでもかと言うくらい息ピッタリに答えた。

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

今の俺の状況と言えば、自分の部屋の掃除ですかね。

 

「ゴホゴホ、ぐぼぇ、にしてもきったねぇな」

 

 

「当たり前です、誰も掃除してないんですから」

 

 

「…………えっと雷(かみなり)だっけ?」

 

「雷(いかづち)です」

 

提督が、叩きで本棚などのたまったホコリなどを払っていると、雷が山のような書類を持ってきた。

十中八九漁師達からだろう。

深海棲艦達のせいで漁師達の漁ができる範囲が急激に減ってしまい、その分の駆除は数知れずと言ったところだ。

 

「わりぃ、それとそろそろ水拭きするから少しの間入ってくんなよ」

 

「…………」

 

どんどんと要らないものは捨てられ、汚かった部屋は整えられえ行く。

 

来てまだ少ししかたっていないと言うのに、もう部屋の半分以上が綺麗になっている。

 

そして、綺麗にされた机の上には、7割以上が判を押された書類

この分だと、雷の持ってきた書類もすぐに終わるだろう

 

そして、艦娘の疲労の事を考えられた遠征表が張られ

 

しっかりと着込まれた皺一つない軍服

その黒く長いマフラーと、少し左石足を庇うような歩き方を抜けば

目線と手だけを動かし休みなく働く提督

 

多々疑問に思うことは多いいが、今は気にしないでおこう

 

彼は、真面目なのだろうか?

 

しかし、真面目だからといって、彼も男

きっと女の子の前だからかもしれないが、そう言う邪な思考や欲はあるはずだ

 

そう思っていると、司令官は部屋の片付けを終えて、椅子に座っていた

 

彼も私達にセクハラをしてくるのだろうか?

 

いや、司令官も男なんだから、そう言う邪な欲があっても仕方がない、うん!

 

(ってこれじゃぁセクハラされるのに期待してるみたいじゃない!!)

 

雷は自分の思考に自分でツッコンだ。

 

「なにやってんだよ、早くそれ渡してくんねぇと判押せねぇんだけど」

 

いつまでたっても書類を渡さない雷を不思議に思いながら、司令官が話しかける

 

「ぇ、あ、はい!それと入電です提督…………」

 

「ん、ああ、どうも」

 

そうして提督は書類を受け取り、書類に判を押し始める。

 

雷はそれをずっと立って見るばかり

さすがに退屈になってきたのか、雷が自分の前に近づいてきて、目の前で止まったり話し掛けてきた

 

「どうした?」

 

「私も手伝う?」

 

「退屈なんだな」

 

顔を見れば分かる程に退屈そうな顔をしていた

しかし、もうすぐ判も押し終わるし

さてどうしたものか……………

あ、そうだ

 

「雷」

 

「何か手伝うこと、ありましたか?」

 

「俺の膝の上に乗れ」

 

「?はい」

 

今までいろんなセクハラを受けてきたが、膝の上に乗れと言われたのは初めてだったので少し戸惑いもあったが

そんなことを考えても無駄なことは知っているので、特に深い疑問を思うこともなく、提督の膝の上に乗った

 

「あの、これは?」

 

「手伝うんだろ?」

 

「いや、そうだけど…………」

 

…………まぁ温かいから良いか。

 

誰かに甘えたことや頼ったことは一度もない

頼ってもらったこともないし、優しくされたこともない

ただ、この人の膝の上に居て悪い気はしない。

 

雷は提督に変わって提督の膝の上で書類に判を押す

 

「そう言えば」

 

「あ?」

 

「今日はいい天気ですね」

 

少し試したかった。

ここに来る提督であれば、こんな下らないはなしをすれば時間の無駄だと言って叱るなり、無視するなり、殴るなりする

しかし、提督は一体どんな反応をするのか、少し気になった

 

「………………」

 

(…………あれ?無視?)

 

提督は黙ってずっと雷の顔をジーーッと見ている

雷は自分の顔に何かついているのか、顔を手で触るが、なにもついていない

そう思っていると

 

「ついてこい」

 

「?」

 

提督が、雷を下ろしてから立ち上がり、提督室の出口の扉ではなく、寝室の扉を開けた

え?まさか…………と雷は思いながら提督のあとに付いていく

 

「ベットに入れ」

 

そう言って提督は、雷にベットに入るように命令した

雷は言われるがままベットに入り、枕に頭をおき、体に布団を被せた

 

「そこで待ってろ」

 

すると、提督は一度寝室から出ていってしまった

 

雷は言われたとおり、布団に横になって待っていると、二十分後

提督が小さな、鍋をお盆にのせて持ってきた

 

「粥だ、食え」

 

提督は、お粥が乗せられたお盆を、ベットの横にあった小さな引き出しの上においた

 

「え?あの、仕事は…………」

 

「てめぇ、寝不足だろ」

 

「ぇ、あ、はい」

 

雷、今だ混乱中

提督の言う通り、雷は丸々三日は寝ていない

それで居ても、ちゃんと寝たのがいつだかも覚えていないほどに寝ていない

 

提督は、雷の右目の目元を義手の親指でなぞった

 

「クマがすげぇぞ、それに飯もちゃんと食ってねぇだろ」

 

「…………はい」

 

「お粥食ったら寝ろ、寝て起きたら仕事だ、分かったか」

 

「あの」

 

「あ?」

 

提督が、寝室から出ていこうとしたとき、雷が提督を呼んで引き止めた

 

「いいんですか?」

 

「ガキ遠慮すんじゃねぇ」

 

雷の問いに、提督はそう言った

 

そう言えば、提督が来る前のベットは、埃が被っていてとても寝れるような状態ではなかった

それに部屋だって、シミや埃などで汚かったのに、まるですべてが新品にしたかのように綺麗になっていた

 

布団も真っ白で、ふかふかで温かくて、こんな柔らかいベットで寝るのは何年ぶりだろう

 

「兎も角今日はそれ食って寝ろ、明日から頼んだぞ」

 

そう言って出ていった。

 

「…………温かい」

 

 

 

 

 

 

初めて、優しくされ、初めて作ってもらった料理は、とても美味しくて、それ以上に

とても優しい温もりを感じました

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すぅ、すぅ」

 

「…………やっと寝たか」

 

提督は書類を半分以上まとめ終わると、一度休憩混じりに、雷が寝ている寝室を除くと

雷が、小さな吐息をならしながら寝ていた

 

それを確認した提督は、こっそりと食器を片付けて、起きないようにゆっくりと扉を閉めた

 

コンコン

 

すると、提督室の扉をノックする音が聞こえた。

 

「入っていいぞ」

 

「………………」

 

サイドに纏めた長い髪

内側は紫だが外側は銀の不思議な髪色

青緑色のリボンにストッキングとブーツ

そして一番の特徴なのは、駆逐艦なのに非常に男らしく凛々しい顔立ち

 

それは雷と同じ駆逐艦の…………たしか夕雲型十六番艦『朝霜』だったか?

しかし、どこかおかしい

 

朝霜と言えば男勝りなしゃべり方や態度で、戦闘好きだ

駆逐艦ながらもキモも座っていて、度胸もあり

 

相手が姫だろうが鬼だろうが恐れずに突撃するくらいの度胸と技量の持ち主で、短い生涯だが歴戦の戦士なのだ

こっちが弱みを見せたら「壁にてぇ付きなよっ!」と、ケツバットやらしなやかな脚でビシバシッやられてもおかしくない

 

「あ、あの提督」

 

しかし、この朝霜は弱々しい声で自分を呼んだ

 

「書類、まとめるの大変だろ?だ、だから手伝わせてくれないか…………です」

 

「そりゃぁ助かる」

 

やはり『世間』で知られてる朝霜ではない

 

まぁ当たり前か、艦娘の元は人間だ

性格は人それぞれ、つまりこの朝霜は、男勝りな性格ではなく、おとなしい性格なのだろう

 

そして、朝霜は手伝うために、俺の座っている机の向かい側にイスを置いて、書類に間違いがないか確認し始めた

 

 

~10分後~

 

 

「あ、あの、提督」

 

書類が四分の三程終わると、朝霜が俺に話し掛けてきた

 

「なんだ」

 

俺は書類に判を押しながら答える

 

「膝の上に…………乗って、よろしいでしょうか………」

 

「…………」

 

先に言っておくが俺は朝霜と今日初めて会う

つまり初対面なのだ

朝霜も自分で言ってて恥ずかしかったのか、顔を耳まで赤くしながら小さくプルプルと震えている

 

…………前の提督にもこんな感じだったのか?

 

「あたいがこうするのは、提督が…………初めて、です…………」

 

「…………あそ、まぁいいや。座っていいぞ」

 

「あ、ありがとう………ございます」

 

そう言って一度書類を起き、イスを元あった場所に戻して、俺の膝に座った

 

「………………」

 

すると、急に喋らなくなった

俺は少し不思議に思い話しかけることにした

 

「おい、どうした?」

 

「………………」

 

(…………あれ?無視?)

 

しかし、返事はいつまでたっても帰ってこなかった

すると

 

「………えへへ」

 

顔を赤くしたまま、嬉しそうに笑っていた

 

(まぁ嬉しそうで何よりか)

 

しかし、このままではいつまでたっても書類が終わることはない

そう思い、朝霜に仕事を手伝ってくれるようお願いしようとすると

 

「提督の膝の上、温かいな!」

 

すると、朝霜は提督の顔を見て、満面の笑みでそう言った

その笑みは、チラチラとギザギザな歯、所謂ギザ歯と言うものが見える

そして、その笑みはさっきまでの弱々しい朝霜ではなく、とても嬉しそうで、元気な笑顔だった

 

「ずっと座ってて良いからな」

 

「へへ………」

 

提督は仕事より朝霜を優先した

提督に、朝霜の頭をくしゃくしゃと強く撫でてやった

朝霜は『やーめーろーよー』ッと、笑いながら手をどかそうと抵抗して入るものの、満更でもない

 

その姿は、どこか父と娘の父娘に見える

 

 

 

 

数分後

 

 

 

「……すぅ、すぅ」

 

「寝ちまったか」

 

数分朝霜とじゃれてると、朝霜は眠ってしまった

俺は朝霜を起こさないよおに、そっと、近くのソファーに寝かせ、毛布を被せてやった

 

「やぁーっと仕事ができる…………と言ってももうちょっとあいつとじゃれてたかったなぁ…………」

 

そう言いながら、俺は山積みになった書類から一枚手に取り、書類内容を見た

 

『ここの鎮守府の提督が無能すぎんじゃボゲェ!!!!』

 

んだとゴラ!?!?

 

そう叫んで書類を地面に叩きつけようとしたが、そこはぐっとこらえた

そうすればやっと寝付いている雷や朝霜が起きてしまう

 

『戦争反対!!戦争反対!!!!』

 

「…………」

 

提督はその書類を見て、その書類をグシャグシャに丸めた後、無言で窓を開けると

 

「コオオォォォォォ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オオオオオォォォォォバアアアァァァァドラアアアアアアァァァァイブ!!!!!!!!」

 

そう言って提督は窓の外に丸めた書類を投げ捨てた

しかし、朝霜や雷は起きていないようだ。

まったくふざけやがって

 

なにが戦争反対だ艦娘のために補給や修理のための資材を手に入れる。戦績をもとに交渉するというのは、たしかに提督の仕事のひとつであるが、別に珍しいことじゃねぇ。

 

それに、そもそもこの戦いは戦争じゃねぇ。こんなのが戦争や訳がねぇんだ。『深海棲艦』という訳のわからねぇ正体不明の敵に、宣戦布告もなく、いきなり全世界的に、一方的に攻撃されている、非常事態であり、異常事態なのだ。

それなのに、戦争反対だの、なにふざけたことぬかしてやがる。

 

戦争反対?やめられることならやめてぇよ、逃げられるなら逃げてぇよ。誰だってそうだ。だが、それができねぇんだ!

……………………。

 

 

提督はそのままポケットからタバコを出し、夕暮れのオレンジ色に染まった空を眺めながらタバコに火をつけた。

 

「…………艦娘か…………」

 

そんな小さくこぼした言葉は、タバコの煙のように、消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

分かると思うが、言っておこう、この世界は劣勢に立たされている

 

提督の数だけでなく、艦娘の数は全く足りていない。文字通り人手不足なのだ。

そのうえさっきもあった戦争反対と言う言葉、それは、深海棲艦との行為を戦争と呼ぶにしては、あまりにも、あまりにも損害が大きすぎた

 

事実、小さな島国が深海棲艦に占領されたりもしている

 

そして、もちろんだが、独占された島国の人々は老若男女関係なく皆殺しだ

慈悲なんてありはしない

赤子、女子供だろうと問答無用で皆殺しにされた

 

…………こう他人事の様に話してはいるが、日本もかなり危険な状況に置かれている

実際一度だけ沖縄が深海棲艦によって陥落仕掛けたことがあった

 

そこで政府は提督の適性を持つ者、そして艦娘の適性を持つ者も探し始めた

 

もっとも艦娘の適性は若い女性ならほぼ誰でも持っている為

探すというその事自体は簡単だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

問題はその先にあったのだ

 

深海棲艦という謎の超危険生物

 

人型、魚型、怪獣型、ようわからん気持ち悪い型、人の言葉を喋る型、その姿は多岐にわたる

 

が、全てにおいて、確実に共通している事一つだけある

 

それは

人間に対して敵対関係にある事

 

しかも一体でも軍艦一隻分の攻撃力、にも関わらず何度も何度も湧いてくる

 

銃撃、砲撃、雷撃、爆撃、これらを用いてようやく足止め出来る相手に対し唯一太刀打ち出来る存在、それが艦娘

 

艦娘は、人々の希望であると共に

 

 

 

艦娘と言う名の“化け物”と言う恐怖の対象でもあった

 

深海棲艦が化け物であるなら、それを殺すことのできる艦娘もまた深海棲艦に並ぶ、化け物

 

そんな化け物に、誰が望んでなりたいと思うのか

 

そんな化け物と、誰が戦いたいと思うのか

 

誰が好き好んで化け物と呼ばれたいか…………

 

答えは火を見るよりも明らかであった

 

結局艦娘になったのは

 

売られた者

捨てられた者

騙された者

諦めた者

 

そして

 

人一倍、バカみたいな正義感をもった

 

 

 

偽善者か………………。

 

それとも憎しみに駆られた

 

 

復讐者か………………。

 

それだけだ

 

 

 

そして、この鎮守府にいる“彼女”もまた、救い用のない

 

 

 

 

 

 

 

 

筋金入りの【偽善者】である。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

彼女は、昔から一人倍正義感が強く、町の市民や家族たちから愛されていた

 

何時だって彼女は助けを求める人に手を差し伸べた

 

どんなに苦しいときがあっても、どんなに悲しいことがあっても、どんなに辛いときがあっても

 

 

 

彼女は“皆”の為に笑い続けたました

 

ある日彼女は【艦娘】になりました

 

自分が戦えば、大勢の人が助かるから

自分“未来”を捨てれば、大勢の未来が守られるから

 

 

 

 

彼女は笑いました

 

 

 

彼女は普通の艦娘より、多く戦いました

それこそ休む暇なく

 

自分一人が頑張れば、一人でも多くの艦娘を休ませることができる

自分一人が傷つこうと、大怪我をしようと、出撃し、深海棲艦を倒せば、一人でも多く守ることができるから

 

 

彼女は笑いました

 

 

彼女は戦い続けました

 

大怪我をしようとも

血反吐を吐こうとも

倒れようとも

 

彼女の足取りは次第にフラフラになり、立っているのがやっとのような状態だった

 

出撃する度に怪我をする回数も増えていった、しかし、彼女が止まることはなかった

 

次第に、家族も町の市民たちも、皆が心配した

彼女は支給された高速修復材を、頭からかけて、体におった多くの傷を治した

 

傷は、みるみると塞がっていき、あっという間にもとどうりになりました

 

そして、またすぐに彼女は出撃し、また大怪我をして帰って来ました

 

 

 

彼女は笑いました

 

 

 

次第に家族や町の市民は彼女を恐れました

 

どんなに傷をおっても、どんなにフラフラな足取りでも、どんなに無茶しても

 

体を自分の血と深海棲艦の血で染めて、笑いながら帰ってくる彼女に

 

家族は彼女の前で、大きな声でこう言いました

 

『こんなの私たちの娘じゃない!この娘は狂ってる!狂ってるわ!!狂った化け物よ!』

 

皆が彼女を指差して石を投げました。

彼女はもう昔のような“人気者”ではありません

皆から見たら、彼女は立派な“化け物”です

 

 

彼女は笑いました

 

 

皆が彼女を見て『化け物』『狂ってる』『恐ろしい』『悪魔』『気味が悪い』と呼んで恐れます

 

 

彼女は笑いました

 

 

次第に家族も皆も、彼女を見なくなりました

否、逃げたのです

彼女が恐ろしくなり、皆逃げてしまったのです

 

 

彼女は笑いました

 

 

彼女には、もう味方も家族もいません。

あるのは孤独

艦娘になる前はあんなに仲が良かった皆が、今では自分に指を指してこう言うのです

 

 

 

 

 

『化け物』

 

 

彼女は笑いました

 

 

しかし、その笑いはいつしか

 

 

 

 

 

狂っていました。

 

心がへし折れ、体は傷付き、文字通り心も体もボロボロのぐちゃぐちゃ

 

 

彼女は偽りの笑顔を作りました

 

 

彼女はもう“心”のそこから笑えなくなりました

 

 

 

そもそも彼女に

 

 

 

 

 

 

 

“心”なんて残っているのでしょうか?

 

 

そんな、本当の笑顔さえも忘れてしまった彼女は、機嫌よく鼻歌を歌いながら、執務室スキップしながら向かっていた。

 

まるで恋した男性に会いに行く乙女のような雰囲気だった

しかし、それは彼女以外の艦娘にとっては異状の他なんでもなかった

 

彼女はこの鎮守府でも一際“厄介”だ。

 

提督の命令なんて右から左、何を考えているのか誰にも分からない、提督の命令なんてそっちのけ

わかることと言えば、毎日毎日飽きもせず笑っている事だけ

 

それ以外はなにもかも分からない

そもそも彼女が執務室に向かっている事事態が異状だ

 

それは、そもそも彼女がこのブラック鎮守府に送られた理由は『命令違反』『命令無視』

暴力こそはしていないが、その命令違反の数々、そんな娘がなぜ執務室に?

 

答えは簡単だ

半分提督に呼ばれたから

もう半分は、好奇心

ただそれだけだ

 

もしも、前の提督のような野郎だったら前みたいに無視すれば良いだけの話だ。

 

そんなことを思いながら執務室をノックした。

 

『入って構わん』

 

そうドア越しから聞こえると、彼女はいつものように、無理矢理作った偽りの笑顔で、ブラック鎮守府の艦娘とは思えないほど陽気に満ちた声で挨拶した。

 

「ヘーイ!金剛デース!!貴方が新しい提督デスカァ?」

 

それは、

 

本当の笑顔の意味を忘れた娘、金剛と

この世の理不尽を目にした、提督の

 

 

 

“ある意味”一番最初の出会いだ。

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

俺が着任してから一日たった。

そろそろ遠征か出撃辺りさせようと思い、雷に駆逐艦を連れてこいとと、“お願い”した。

 

…………この鎮守府に来てから、俺は朝霜と雷以外駆逐艦を一度も見ていない

そもそも駆逐艦がいるかどうか怪しいくらいだ。

 

駆逐艦は主に幼女が選ばれることが多い、歳は…………小学生くらいの幼女だろうか?もしかしたら幼稚園児も駆逐艦のなかにはいるかもしれない。

 

駆逐艦は数が多いが、ここはブラック鎮守府。

ほとんどの駆逐艦は提督の虐待で殺されたり、イタズラに解体されたりして、ほとんど居なくなってしまったのだろう

 

そもそも居ても来てくれるかどうか定かでわない

そう思いながら、椅子に腰かけた。

 

「連れてきたわよ、司令官!」

 

そう思っていたときだった

雷が扉を思いっきり開けて、腕を組ながら仁王立ちをして、ドヤ顔で俺の目の前に立つ

雷の連れてきたのは

 

紫色の長い髪の毛を、右側に、花と鈴のついたヘアゴムで束ね、上は白とスカートは青のセーラー服を着た少女

 

そのあとに今度は、長く、黄色い髪を左右にヘアゴムで縛り、真っ黒のセーラー服を着た少女が入ってくる

 

そしてその後ろに、金髪に白が少し混ざったような紙の色に、血のような紅い瞳をしたセーラー服の少女が入ってきた。

 

「…………わた、私は……あ、綾波型駆逐艦八番艦、曙………です」

 

「ぼ、わた、私は…………陸月型駆逐艦五番艦、皐月、で……す」

 

黄色い髪の少女と、紫色の髪の少女は、俺を見るなり、すぐに敬礼して、緊張しているのか、少し震えながらも、堅苦しくも少し拙く挨拶を…………いや、これは緊張して震えているのではない

 

恐怖による震えによるものだと察した。

緊張などと、そんな生易しいものではない、体罰など、虐待、他にも道具を使いいたぶったのだろう。

まるで無理矢理教え込まれたような、そんな感じだった。

 

実際、黄色い髪の少女は、僕と言おうとしたのか、すぐに私に直したが、間違えれば何かあったのか、顔を真っ青にしている

 

「…………夕立、早くあんたも……じゃないとまた……」

 

そう言ってその夕立と呼んだ右横に立つ少女を肘でつつく

 

「あ、…………夕立、改二ぽ………です、よろしくお願いします」

 

ぽ?

ぽってなんだ?ぽって

やべぇ、滅茶苦茶気になる、てかそもそも幼女に敬語使われるとなんか抵抗あるなぁ。

…………曙と皐月って言ったか?

…………隠しているつもりだろうが、手足のあちらこちらに青白い痣が見えるな………。

悪いが、俺は幼女に敬語を使われて喜ぶような変態じゃないんでな

 

俺は敬語をやめてもらうよう頼むことにした。

 

「そうかしこまらなくて良いぞ、俺の事は友達と思ってくれ」

 

「し、しかし、提督…………私たちは………」

 

 

 

「私たちは化け物ですから………それはできません………」

 

「「…………」」

 

ほぉ

 

夕立と言われていた少女が、皐月と言う少女が言いにくそうにしていると、割り込んで、かわりに夕立がその先を言った。

 

「…………化け物風情が、人間様に馴れ馴れしく話しかけるのは…………大罪ぽ…………です」

 

ふむふむ

 

「化け物なら仕方ないな、てめぇら化け物が人間様にため口なんて、確かに馴れ馴れしい」

 

「………ッ」

 

雷が少し俺の顔を見て驚いていた。

俺の発言ではなく、俺の“顔”を見てだ。

 

「だがそれは、化け物が人間様に対して…………だろ?」

 

「…………はい」

 

「嫌味かてめぇ」

 

「…………ぇ?」

 

そう言って俺は顔半分を隠しているマフラーをとった。

 

『ッ!?』

 

そこには、口の頬の肉を、無理矢理剥ぎ取られたような、右側の歯肉と、鋭い犬歯が剥き出しになっている。

その異形に近い傷跡を見て、夕立や雷たちは、ぶるりと震え、今までに感じたことのないような恐怖を体験した。

 

…………この先は悪影響か

そう思い、俺はすぐにマフラーで頬の傷跡を隠した。

 

「大人げなかったな、てめぇらには目に毒だッたか…………すまんな、飯の前に気持ち悪いもん見しちまって」

 

「そ、そんなことないっぽい!!」

 

「へぇ、尾語ってぽいなのか」

 

「…………ぁ……」

 

そう言うと夕立は、ハッとなり両手で口を押さえ、顔からみるみる血の気が引いていき、顔が真っ青になる。

 

そして、俺が近づくなり、ぶるぶる震え始める。

 

「……や、やめ……おねが………」

 

「おねが、夕立…………にげ……」

 

隣で一緒に震えている曙と皐月。

夕立を庇おうとしているようだが、恐怖心によるものなのか、体が言うことを聞かないのだろう

その場から動けなくなっている

 

俺はゆっくり夕立に手を伸ばした。

夕立の目からは涙すら出てきていた。もう声をあげて大泣きする寸前だった。

足も震えて動いてはくれない。

 

そして俺の手が目の前まで来ると、諦めたのか、ギュッと目を閉じた。

 

「…………?」

 

しかし、いつまでたっても襲ってくるはずの痛みが襲ってこない。

 

そんなことを思っていると、酷く乱暴な手つきで頭を摑まれ、前後左右にがしがしと揺らされた。

夕立はそんなこと初めてされたので、何がなんだか分からなかった。

 

でも、なぜだか、とても嬉しかった

 

「てめぇらが化け物なら、俺はどうなる?」

 

「どう……とは……?」

 

「てめぇら見てぇな可愛い可愛い女の子が化け物なら、この顔にクソ塗りたくったようなつらした俺はどうなんだよ」

 

「…………それでも……提督は………」

 

「アホゥ」

 

すると、提督は夕立を軽くこずいた。

 

「いたく、ない……ぽい………」

 

「てめぇらもだ、曙、皐月」

 

「いた……くない?」

 

「えっと……」

 

たくさん殴られた、毎日毎日殴られて、蹴られて、汚されて、酷いことをたくさんされた、たくさんさくさんされた。

いつしか、人が怖くなった。

自分達を平気で殴る、人が物凄く怖くて怖くて仕方なかった

 

話し方が気に入らないと言われ、何度も殴られた。

痛くて痛くて痛くて

殴ることは痛いこと、なのに、この人に殴られたのに、痛くない。

痛いはずなのに、全く痛くない。

 

「たく、口を開けば何を言うかと思えば、化け物だの人間だの言いやがって、じゃぁ“どこからどこまでが化け物”で、“どこからどこまでが人間”だ?」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

その言葉に、全員ただ下を見るばかり。

すると、曙が何か覚悟を決めたのか、思いっきり拳を握り締め、速歩きで、俺の目の前まで来ると、

 

 

 

 

 

 

思いっきり俺の頬を殴った。

 

「グッ…………!」

 

「「曙ちゃん!?」」

 

「提督!」

 

その場の全員が曙の行動に驚いた。

俺は、少女と言えど艦娘。そのまま尻餅をつき、自分より背の小さい曙と同じ目線になる体制になっていた。

殴られたときに、歯肉が傷ついたのか、血が垂れる。

雷は心配して止めに入ろうとしたが、手のひらを雷に見せるようにして腕をつきだし、やめろと合図した。

そして雷はその場で立ち止まった。

 

「いい加減にしなさい!“あんたら”は何様なのよ!?私たちを化け物化け物化け物化け物って!!私たちが何をしたってのよ!?ただ皆を守ってるだけなのに、苦しんでる人たちを助けてるだけなのに、何で化け物なんて言われなきゃなんないのよ!?」

 

「曙、落ち着い「うるさい!!」……ッ」

 

曙は、止めようとした皐月の手を振り払い、そのまま俺の首根っこを両手で掴んだ。

その曙の顔は、怒りと、後悔、そして悲しみの顔をしていた。

両目からは大きな雫をボロボロと溢し、俺を何かの仇を見るような目で見ていた。

その目は、俺を絞め殺してやろうと言わんばかりの目だった。

 

「なんなのよあんたらは!?口の聞き方が悪いだの態度が悪いからって言う勝手な理由で散々私たちの仲間を解体しといて、今度はまた言葉遣いを変えろって、私たちにどうしろってのよ!?あんたらはどうして欲しいのよ!?土下座して靴を舐めろっての!?夜の相手でもすればいいの!?それとも私たちに惨たらしく死ねとでも言うの!?ねぇ!!どうなのよ!?何で!たかが、たかが言葉遣いや態度で私たちが殺されなきゃならないのよ!?!?」

 

曙はそう言いながら、俺の胸を殴った、何度も何度も殴った。

痛くはない、全く力が入っていないから。

それでも痛かった、胸が締め付けられて、とても痛かった。

まるで茨(いばら)のツルで心臓をしめつけられる、そんな気分だった。

 

「何で、何で私たちがこんな目に遭わなきゃいけないの…………!」

 

「…………全くもってその通りだ」

 

「…………は?」

 

「お前の言っていることに何も間違いはない、それどころか全くもって正しいことだ」

 

「は?…………ぇ?」

 

なんだ?俺の発言がそんなにおかしいか?

皐月も夕立もなにポカンとしている?話はここからだぞ?

………………雷は雷でなに笑ってんだよ…………。

 

「お前らは人を守った、人を救った、“誰か”のために戦った!化け物?ふざけんな!!化け物だと!?それは俺たち人間だ!この理不尽を作り出した強者である大人だ!!何よりただ見ていることしかできない俺たち提督だ!!」

 

その言葉に、曙は黙って見ていることしかできない。もっと、もっと言ってやりたいことがたくさんあったのに、今では頭の中が真っ白だ。

 

すると、提督は自分の首根っこを掴んでいる曙の手首を掴んだ。

 

「俺が憎いだろ?提督と言う存在が憎いだろ?お前の仲間を奪った提督が憎いだろ?この世の理不尽が憎いだろ!?何より、お前は、目の前で“なにもできなかった自分”が一番憎いはずだ!!」

 

いつの間にか、提督の目の奥になにか、なにかに怒る、炎のようなものが見えた。

 

怒り、その言葉は彼、提督の為にあるのだろう。

 

それを断言できるような光景が、今正にこの四人の目に写っていた。

 

分かった風に言うな!!

 

と、腹の底から曙は言いたかったのだろう。

しかし、それは、その言葉は口に出す前に、腹のなかで消えてしまった。

 

当たり前だ。

彼のその声も、顔も、目も、全てが怒りに染まり、何よりその痛みを知っている、私たちの気持ちが分かる、そんな気がした。

 

「一つ聞こう」

 

「…………なによ」

 

「今でもお前の仲間を奪った“提督達”が憎いか?」

 

「憎いに、憎いに決まってるでしょ!!」

 

少女は叫ぶ。

 

「殺してぇか?」

 

「殺したいに決まってるでしょ!」

 

少女は叫ぶ。

 

「仲間の仇をとりたいか!?」

 

「当たり前よ!!」

 

少女は叫ぶ。

しかし、少女は知っている。

“少女達”は知っている。

この世の理不尽に、いくら叫ぼうと、いくら抵抗しようと、弱者が助けを求めても、強者に声が届くことはない。

 

「ならその憎しみを捨てんな。忘れんな。そして、そんな憎い相手にいちいち敬語なんて使うな、顔色窺うな、我慢なんてしてんじゃねぇ」

 

「うっさい、うっさい!うっさい!!」

 

「泣きてぇなら泣け!悔しいなら悔しがれ!嫌なら嫌って言え!言葉遣いくらい自分の好きにしろ!曙!てめぇは血も涙もない化け物か!?皐月!夕立!お前らもだ!」

 

男は叫んだ!

弱者に向け叫んだ!

 

「そんなもん俺は認めねぇ!化け物?ふざけんな!!」

 

男は吠えた!

か弱き弱者を見て吠えた!

これは男の怒りだ!

 

「そんな怯えた目をした!助けを求める目をした!てめぇらが!化け物なんて、世間が、国が、世界が、全ての人間が、お前らを化け物と言っても、俺は絶対にてめぇらを化け物何て言わねぇ!真っ向から否定してやる!“てめぇらは人間”だって、ハッキリ言ってやる!!」

 

男は弱者を助けるヒーローと言うには、とても化け物じみている。

何せ、男はヒーローなどではない。

彼は、このブラック鎮守府の提督なのだから。

 

「だから、俺を信じて、これからよろしく頼むぜ、曙、皐月、夕立、あと雷」

 

「えー、私はおまけ?司令官、て言うか物凄く臭い台詞ですね」

 

「うっせぇ………って曙、お前の顔すごいことになってるぞ?。それに夕立と皐月までどうした?」

 

弱者の声は強者には届かなかった

 

どれだけ弱者が叫んでも、この世の理不尽が変わることはなかった

 

弱者は強者に従う。それがこの世の理、それが全てなのだ

 

それ以下でもそれ以上でもない

 

それに、守ってくれる唯一の家族も、仲間も、全て強者に奪われた

 

だから諦めたはずなのに、皮肉にも、自分達弱者をそうさせた強者が、ようもぬけぬけと言うのだ。

 

「……………そんな小せぇ体で、そんな弱い心で、よくここまで頑張ったな」

 

私たちを化け物と呼び、迫害し、傷つけ、私たちの全てを奪った強者がこう言うのだ。

 

もう分からない、なにもかも分からない。

私たちは何を信じれば良いのか、何を頼ればいいのか

もう分からない

私たち三人は、もう訳もわからかいまま、泣き続けた。何で泣いてるのかも分からない、だけど泣いた

そんな私たちを見たクソ提督が、私たち三人を抱き締めた。

今まで感じたことのない感覚だった

なぜか暖かくて、気持ちよくて、物凄く嬉しかった

そのまま、私たちは目を閉じた。

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「そう言えば瑞鶴知らねぇ?」

 

俺は、三人を寝室のベットで寝かせた。

それにしても曙に皐月に夕立、これまた面白い組み合わせだと言いたいが、噂じゃぁ口の聞き方や、態度、他にも気に入らないことをすれば、“そいつ以外”の姉妹を全員解体処分にしたんだって?前の前の前の提督

 

いい趣味してんなぁ、まぁもちろん死刑になったが

………………こいつらは本当に“解体”の意味って知ってんのか?…………見た感じ知らないみたいだが………………知っても知らなくても結果は同じか…………

 

「あれ?司令官、瑞鶴さんのこと知ってるの?」

 

「あぁ、さっきお前が居ないあいだに資料を見てな…………特にあの瑞鶴、あれはまるで…………まぁいい」

 

「…………なにかようでもあるんですか?」

 

「今度の出撃に、この三人と、あと空母が必要でな、戦艦の方はそろそろ来るはずなんだが…………」

 

それを言うと、やけに驚いている雷がいた。

さっきまで笑っていたはずの雷は、急に笑顔がなくなっていた。

それは無表情に近く、俺は驚いて変な声が出そうになった。

 

「ど、どうかしたのか?」

 

「い、いえ、それより戦艦て、まさか金剛さんのことですか?」

 

「そうだけど…………てかこの鎮守府金剛以外居ねぇだろ。朝霜も言ってたぜ?」

 

「………………はぁ?」

 

「え?ほんとどうしたの?」

 

俺の発言てそんなに可笑しかったか?ぁ、やめて、その嘘つき者を見る目、なんか地味に俺の壊れたハートがさらに粉々にされる

 

すると、雷は呆れたように溜め息を吐いてから俺を見た

 

「いいですか司令官?あの娘はですね、物凄く危ない娘で、実際に前の前の司令官が「提督ー!」…………ふみぃう?」

 

扉を開けて入ってきたのは、朝霜だった。

朝霜は迷うことなく俺の腹に突っ込んで来て、そのまま抱きついた

そんな朝霜を見た雷は、あの芸能人の池崎さん顔負けの変顔をしていた

そして我に帰ったのか、今ある状況にツッコム

 

「ちょ、あんた本当に朝霜!?」

 

「…………あたいが朝霜じゃなかったらなんなのさ?」

 

「で、でも可笑しいわよ!あの朝霜が、こんな…………」

 

「うるさいぞ雷、あの三人が起きる」

 

「あ、はい」

 

雷は今だ混乱しているのか、頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

朝霜は相変わらず俺の腹に顔をうずくめる。でも、確かに可笑しいな。

どうやって

 

 

ブラック鎮守府の艦娘がこんな平和ボケできるんだ?

ここはブラック鎮守府、普通の鎮守府の艦娘ならまだしも、ブラック鎮守府の艦娘がこんな元気なのは異状だ。

気になったので、聞いてみることにした。

 

「朝霜、お前なんか「提督!」…………なんだ?」

 

「そんな“くだらない”こと聞くためにあたいを呼んだのかよ~?」

 

「…………あぁ、確かに“くだらない”ことだったな」

 

その言葉を境に、俺は朝霜の過去のことを一切気にならなくなった

と言うか気にしたくもなかった

 

「金剛見なかったか?」

 

「ん?金剛ならもうすぐくるぜ!」

 

「は!?“あの金剛”が!?」

 

「…………てめぇら金剛のことどうとらえてんだよ?」

 

俺は、このブラック鎮守府に着任して一日しかたっていないが、雷の様子が明らかに可笑しい

 

俺の知っている金剛と言えば、物凄く変な日本語を使い、元気を艦娘にしたような、例えるなら太陽みたいな娘だと記憶している

 

俺は確実に様子が可笑しい雷の反応に、金剛と言う娘への好奇心に似た感情が刺激された。

 

そう思っていた矢先

 

「ヘーイ!金剛デース!!貴方が新しい提督デスカァ?」

 

………………こりゃぁ確かに雷も驚くな。

 

どんな地獄を見れば、あんな“笑顔”作れんだろうなぁ?

 

俺はそう思いながら、よくわからん変なポーズをとっている金剛を見た。

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

「いったいどうなってるの?あの朝霜がなぜか司令官になついてるし、金剛さんが司令官の命令に従うなんて。まさか明日は雪?それとも隕石でも降ってくるのかしら?いや、そもそも何で金剛さんが司令官の………………」ブツブツブツブツ

 

なんか雷が壊れた

 

「お前が金剛か…………まずその変な作り笑いやめろ」

 

「バァニングゥゥゥゥラァァァァァブ!!」

 

「人の話聞けや」

 

…………この艦娘はどこか可笑しい

まぁこのブラック鎮守府の艦娘は大抵可笑しいのだが、この娘はなにか違う、ここの艦娘たちとはなにかが、全く別のなにかが違う

 

彼女の長く茶色い髪は、誰が見ても細かく手入れされた、美しくサラリと歩くごとに茶髪の髪が靡く

 

彼女の自己アピールはまるでどこかのアニメの主人公かヒロインのような、キラキラした性格を第一印象にさせ

 

その笑顔は、誰が見ても無邪気に笑う子供のように、心の底から笑う、そんな感じがする

 

初対面の者が見れば、とても美しく、元気で明るい、太陽のような美少女と言う第一印象が近いだろう

 

彼女はまるで、人形劇に出てくる操り人形の主人公のように

 

 

そう、彼、提督から見れば、魂や感情のない人形に無理矢理“魂”だけを入れたような、そんな感じだ

 

故に、提督からしてみれば、金剛の笑顔は一切の感情がない、人形の顔に描かれた絵のような笑顔のように不気味だった

 

そんな笑顔のまま彼女は走って俺に抱きついてきた

彼女の整った、また幼さを少し残したような可愛らしい顔立ちが眼と鼻の先だった

 

髪の毛や体からは、どことなく良い香りが漂い、この臭いはまるで紅茶のように甘い香りがした

 

「さて、お前を呼んだのは他でもない、明日出撃してもらう」

 

「あれ?無反応デスカ?」

 

「別に抱きつかれ減るもんでもねぇ…………あぁ、あとその無理矢理作った、絵に書いたような笑顔やめろ、見てるこっちが気分悪い」

 

「…………面白くないですネ、もう少し反応してくれても良いじゃないデスカ~!」

 

そう言ってつまらなそうに俺から離れた

 

やはり分からん、こいつの感情が

まるで色のない絵に、無理矢理色を塗ったような、どこか無理矢理作ったような感情が、こいつの得たいの知れないドス黒い感情が

 

「にしても提督ゥー!初対面の女性の顔見て気分が悪いなんて最低ネー!」

 

「事実てめぇの笑顔に一切の喜びも感じないが?」

 

「…………それでなんのようデスカー?」

 

金剛は話を急にそらした

この先は触れない方が良さそうだ

さっき俺がこいつの笑顔のことで一言いったとき、本当に、本当に一瞬だったが、こいつの笑みが消えていた

 

あのよく分からない表情、なんと言えば良いかすら分からないような表情

 

やはりこいつはいったい何を見てきた?

 

心の底からそう思った

しかし、知ったところでどうにもならないだろうと、そのまま俺もその話題に触れないことにした

 

「簡単だ、明日…………いや、今日、お前を旗艦とした皐月、曙、そして雷と出撃してほしい」

 

「私!?私はてっきり…………」

 

雷は驚いたようにブツブツまた言っている

まぁそれもそうか、雷を出撃させるなんて一言もこいつには言ってなかったから

 

俺は、そんな雷を見て、雷の頭に義手の手を乗せ、そのまま撫でた

 

「悪いな、頼りにできるのがお前しか居ないんだ」

 

「!」

 

それを聞いた雷は急に顔を赤くして、急に下をうつむいてしまった

 

「仕方ないわね!私に任せて!」

 

すると今度は満面の笑みでそう言った

 

心なしか頬が紅いのは気のせいだろう

 

「それで私たちはどうすれば良いんデスカ?」

 

「ん?あぁ、曙たちを直ちに起こして、………この近くだとたしか…………よし、この鎮守府付近の海域の哨戒行動に出撃してくれ」

 

「了解デース!」

 

「もうとっくに起きてるわよ」

 

「いつの間に!?」

 

擦ると、俺の真後ろに曙、夕立、皐月、そして朝霜が立っていた

 

「あ、あたいが起こしたんだ…………ダメだったか?」

 

そう言えばさっきっから居ないと思った曙たちを起こしにいっていたのか

そう思いながら、朝霜を見ていると、六人全員が、提督室を出ていき、勢いよく扉が閉まり、提督室には俺一人が残った

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥーー………」

 

俺は、両足を机の上に組んだまま乗せ、そのまま俺はタバコを吸う

俺は、タバコを口にくわえたまま、一つの資料と、クリップで止められた写真を見る

 

それは“一航戦 ”【瑞鶴改二】の写真と資料だった

俺の知る限りでは、瑞鶴は五航戦のはずだ

 

確かに加賀や赤城の後に瑞鶴は一航戦になっているが、あくまでそれは“歴史”の話であって、艦娘では五航戦のはずだ

 

しかも、瑞鶴と言えばツインテールの髪型が、瑞鶴はサードテイルと、雰囲気も凛々しさが感じられる

まるで『五航戦 瑞鶴』を見ているのではなく、『一航戦 加賀』を見ている気分になってくる

 

問題はそこだけではない

瑞鶴はこのブラック鎮守府でいつも単独出撃をしているらしく、しかも鬼クラスを倒せはしなかったものの、撃退まで追い詰めた実力派の艦娘だ

………………しかし、俺が気になるのはそこではない

 

この娘の……………いや、やめておこう

俺は写真で見ても所詮これは写真

実物を見ない限り俺の不振に思う点は解決されない

 

そう思いながら、吸い終わったタバコの吸い殻を灰皿に入れ、もう一本タバコを吸おうと、口にくわえ、ライターで火を付けようとすると

 

「一本までは見逃しますが、さすがに仕事中にタバコニ本は見逃せませんね」

 

「………………」

 

フリーズ

 

俺は、驚き声もでなくなった

俺からタバコをひょいと奪い、そのままゴミ箱に捨ててしまった俺の目の前にいる娘

 

それは、他の多くの空母系艦娘と同様の弓道着に加え、振り袖の巫女服をミックスし たような出で立ちの娘

灰色のような色をした髪、ロングヘアーの上側をポニーテールの様に結い上げている

見た感じ、軽空母勢の中では頭身が低めであり、服の隙間からは、華奢な腕が見え、貧乳慎ましやかな胸元、腹筋のかけらも見当たらないイカ腹、くびれのないウエストという完全な幼児体型であることから、ひときわ幼げな印象を受けるような体

 

彼女は、祥鳳型軽空母 瑞鳳改二だ

 

しかしここで三つの疑問

 

一つは、この娘、瑞鳳の資料はなかったはずだ

まぁここはブラック鎮守府だから艦娘の一人や二人くらい資料が無くても当たり前だ

と、一つめの疑問は消える

 

二つめどうやってこの提督室に入ってきた?

もっと言えばいつから見ていた?

俺の記憶が正しければ、提督室の扉が開いた記憶はないし、見た覚えもない

タバコだって瑞鳳の前で吸った覚えなんて全くないわけだ

なのに、瑞鳳は俺がタバコをすでに一本吸っていることは知っている

灰皿は一応隠して置いてあるし、窓も開いていて、タバコの臭いもしないはず

 

三つめ、これが一番の謎

なぜか全身深海棲艦の血で染まっている

顔にはもちろん、服にも、足にも、髪の毛にも、ドロリとしたねっとりとした、赤や緑の液体で瑞鳳の体は染まり、少し鼻につくような、鉄分の臭いもする

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?」

 

俺は驚いて、そのまま椅子から頭から落ち、頭を床にぶつけ、視界が逆さまになるも、深海棲艦の血で染まった瑞鳳を確認する

すると、瑞鳳は一歩一歩ゆっくりと俺に近づいてくる

 

「大丈夫ですか?」

 

「…………それは俺の台詞だ、て言うか女の子がそんな格好でうろちゃろすんな、入渠してこい」

 

俺は、扉の向こうを指差し、入渠するように言った

 

「?あぁ、あの露天風呂みたいなところ?あそこのお湯は止められてて…………」

 

確かに入渠のお湯は止められてて、風呂場?はお湯がすっからかんになっている

 

「昨日俺が再契約して入れてもらった、入ってこい」

 

「本当ですか?」

 

実際昨日、俺が元帥のもとにいって再契約した

書類が本当にめんどくさいことばかりだったが、それも終わって、もう入渠はもはや露天風呂になっているだろう

 

深海棲艦の血で染まった瑞鳳は、少し疑ったような表情をしていたが

 

「て言うか怖くないの?」

 

「てめぇよりも汗くさいBL本買ってる中年男性の方が千倍怖い」

 

「それは素直に喜んで良いの?」

 

瑞鳳は腕を組んで首をかしげた

 

「それより早く入渠してこい」

 

「…………それじゃァ提督も一緒に入ろ」

 

「何をどうしたら『じゃァ』なんだよ」

 

「さ、行こー!」

 

「おいまてや」

 

艦娘は艤装をつけていなくとも、その力は大人二人分の力があり、俺は抵抗しても無駄に終わり、そのまま、入渠まで連れていかれた

 

 

 

 

§

 

 

 

 

「瑞鶴ですか?瑞鶴ならいつも弓道場にいますよ」

 

「そうか」

 

俺は抵抗するのも面倒になり、一緒に俺も入渠することになった

 

入渠は普通の人間にも入れて、普通の温泉よりも肌の美容や予防にもよく、疲れもとれて、とてもいいと聞く

 

正直めちゃくちゃ入りたかった

 

すると、俺も瑞鳳も服を脱ぎ終わり、瑞鳳は体にタオルを巻き、俺は腰にタオルを巻いた

 

「うわー、これが入渠なんですか?」

 

「俺も始めてみた」

 

俺たちは扉を開けると、そこには広い広い露天風呂のような光景が広がる

奥には大きな、温泉で見るような浴槽に、なみなみとお湯が入り、左右には小さな浴槽がいくつも並んでいた

 

瑞鳳は始めてみる光景に女を光らせる、まるで純粋な少女のように

しかし、それはあり得ない

このブラック鎮守府に

 

 

 

 

 

純粋な少女がいるなんてあり得ない

 

さっきっから瑞鳳と一緒にいたが、全身深海棲艦の血で染まっていることを抜けば、ずっと提督である俺に殺意もなにもぶつけてこない、それどころかこのように俺を風呂につれていく始末

 

朝霜、あいつは俺になついてはいたが、少し俺に警戒心を抱いていた

他にも雷、あいつは大分俺のことを信用しているようだが、まだ少し俺への警戒心は解かれていない

 

金剛、あいつは例外

金剛の笑顔の中には殺意を乗せたものもあった

 

それに比べて瑞鳳

こいつはさっきっから心のそこから笑って嬉しそうにしている

俺への殺意や警戒心など一切感じないほどに俺への敵対心が感じられない

まるで平和ボケした艦娘だ

とてもこのブラック鎮守府の艦娘とは思えない、と言うかあり得ない

 

「にしてもすごいですね、提督の傷…………よく生きてられますね」

 

「自分でもビックリだよ」

 

俺の体の傷、それは腹に十回以上刺され、縫われた跡や、殴られ青紫になったた痣、切り裂かれた跡、裂けた左頬、失われた右目、拳銃で撃たれた傷跡、両手の義手、右足の義足、その他もろもろと

と言うかさっきっから俺のこの傷の数を見れば普通は悲鳴をあげて叫ぶなり、その場からすぐに逃げるなりするだろ

 

“普通の平和ボケした娘”なら

………………やはりこの娘はなにかが可笑しい

 

「提督、提督!」

 

「今度はどうした」

 

「お風呂ってこんなに大きいんですか?」

 

何を聞いてくるかと思えば、“そんなこと”か…………

 

「あれは普通のでかさじゃねぇよ、一般家庭にある風呂は左右にあるあれと同じ大きさだ」

 

そうして俺は、左右に設置されている入渠に指差した

瑞鳳は、「へーそうなんですか」と、頷きながらまじまじと見た

 

「と言うかお前もすごいよな……その傷」

 

「ん?あぁ、これですか?実はレ級を殺すときに半分持ってかれそうになっちゃいましてねぇ、あとちょっとで殺せたんですけど、やっぱり半分も持ってかれるのはちょっと…………ほら、私たち入渠できませんでしたし」

 

そこには、瑞鳳の横腹に、明らかになにかに食い千切られそうになった傷跡

それは話す限りレ級との戦闘時につけられた傷だろう

 

そうして俺たちは奥の大浴場に入った

 

「「ハアァァァァーーー、気持ちいいーー」」

 

俺と瑞鳳は、お湯に肩まで浸かると、息ぴったりにそう言った

そうして少しの間、お湯に浸っていると、俺は何故瑞鳳が深海棲艦の血で体全体が染まっているか気になった

 

「なぁ」

 

「はい?」

 

「なんであんなに血だらけだったんだよ」

 

そうすると、瑞鳳は少しの間俺の質問に考えてから、こんな質問を俺に投げ掛けてきた

 

「なんで“そんなこと”聞くんですか?」

 

質問を質問で返すな…………とは言えんものだな

 

その時の瑞鳳の顔は、まるで分からないことを知りたがる子供のような眼をしていた

 

その時、お湯で温まっていた体に、ゾッと悪寒が走り、温かった体は一気に冷え、ぶるりと体が震えた

 

あぁ、そう言うことか

俺は、このモヤモヤした違和感、何故このブラック鎮守府でこんなに笑っていられるのか

 

なんでこんなに生き生きとしているのか

 

なんでこんなに無邪気なのか

 

ここで起こっている【虐待】【陵辱】【苦痛】【悲劇】【絶望】【暴力】が

彼女にとって

 

 

 

“普通”なんだ

 

 

「提督は不思議ですね、“普通なら”皆あんな私を見ると怪物だの化け物だの言うのに、提督は怖がらないどころか、心配までしてる」

 

「まだ青臭い娘を心配してなにか可笑しいか?」

 

「はい」

 

瑞鳳は今だ笑いながらそう即答した

 

「皆さん提督は私たちのことを“人でなし”と思っているみたいでして、私なんかよく性欲処理に使われましたよ~、初めてなんてバイ○ですし。バ○ブですよバイ○!」

 

「わかったわかった、女の子がそんなはしたない言葉を使うんじゃありません」

 

「よくサンドバックにもされましたねぇ、しかもいくら作戦が成功しても罵倒の嵐ですよ、それや血だらけで帰ったら銃で撃たれるんですもん」

 

さっきっから普通に語っているが、それら全て本当にあった惨たらしい瑞鳳の悲劇の数々

 

瑞鳳だけではない

きっとここの鎮守府の皆がそうなのだろう

 

「そう言えば、前に改二になったとき、処女が治ってたんですよ。他にも身体中の傷も、良かったら提督の性欲、処理してあげましょうか?今らなら私の二度目の初めて奪えますよー?」

 

「それはまた今度にする」

 

「そうですか…………じゃァ提督のその傷はどうしたんですか?」

 

今度は瑞鳳が俺の体の傷のことについて質問してきた

 

「話せば長くなるぞ」

 

「体の傷跡治るの遅いみたいですし、ちょうどいい暇潰しになりますよ」

 

「あっそ」

 

俺もずっとここで静かに座ってるのは退屈だし、俺は少し自分の過去を語ることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

このブラック鎮守府には、筋金入りの【偽善者】が居るように

 

このブラック鎮守府にいる彼女は、その瞳に写る全てが憎くて憎くて仕方がない、筋金入りの

 

 

 

 

【復讐者】だ

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

少女はごく普通の家庭に産まれ、ごく普通に家族の愛を注がれて育った

 

ただ、その“ごく普通”の家族は、少女を嫌い、“ごく普通”の愛が、愛と言う名の暴力だったということ

 

 

少女は弱かった

 

 

少女はいつも一人だった

家にも入れてもらえず、家に入れてもらっても、ただ殴られたり、蹴られたり、八つ当たりや理不尽な暴力を受けたりの繰り返し

 

少女は何故こんなに自分が弱いのか、“自分の弱さ”を憎みました

 

そんな少女がいつものように、ごみ捨て場や、路地裏で小さく座っている時だった

 

スーツ姿の男たちが、『国のために戦わないか?』と誘ってきました

どうせ帰っても殴られるのが目に見えている

それに、もしかしたら強くなれると、そう思った

 

少女はそう思いながら、はいと、返事を返した

そうして男たちは、少女を海軍につれて行 き、“艦娘”に改造しました

 

それが少女の“悲劇”の始まりです

 

少女は憎かった

 

少女は艦娘になって一番最初に目にしたのは、弓道場だった

少女は空母型の艦娘として改造されたので、まず弓使えるようになる必要があった

 

しかし、少女はもともと弓道の筋がよかったのか、すぐに弓が使えるようになり、そこそこ弓道も上手くなった

 

少女は演習や、出撃の練習でもとてもいい成績だった為、すぐに出撃することとなった

 

初の実戦でも少女は大活躍、元帥も一目おいていた程の艦娘だった

そしてそのまま少女は勢いで前線で戦う主力艦隊の一人となった

 

そして少女は、ある女性とであってしまった

そしてその女性が、少女の運命の歯車が大きく動き出した

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「へー、正に恩を仇で返されたんですね」

 

「仕方ねぇだろ、あいつらなにも知らなかった訳だし、お陰さまで真実を知ってんのは一部の憲兵と提督、あと元帥」

 

俺は自分の過去を全て話した

俺の過去の話が終わる頃には、瑞鳳の傷も治り、俺も瑞鳳も体を拭いて、服を着た

 

瑞鳳は予め俺が用意した、新しい服を用意しておいた

 

「これ、少しサイズ大きくないですか?」

 

「マジ?」

 

「見てわかりません?」

 

俺は服を着て、後ろを振り向くと、血だらけだった服と同じ柄の服を用意したは良いが!サイズが全く違う

 

完全にブカブカな為、肩がさらけ出され、手のひらも裾から出ていない、胸のサラシも丸見えになっている

 

「あー、すまん」

 

「まぁ服を血で汚したのは私ですから、私の自業自得ってことですので文句は言いませんよ」

 

「ほんとごめんね?」

 

「いいですって。あ、それと弓道場案内しますね、ついてきてください」

 

「わかった」

 

そう言って瑞鳳はブカブカな服のまま提督を連れて弓道場に向かった

その後ろを提督は、瑞鳳のさらけ出された肌を少しチラチラと見ながらついていく

 

(やべぇ、一部の肌だけ出してるのが妙にえろい)

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

弓道場

 

 

海軍は鎮守府に一つ、弓道場を作っている

その理由は、空母の弓道を上手くなるための練習場であり、そもそも弓道ができなければ戦闘機を発艦させることができない

 

そもそも空母は、駆逐艦、戦艦、軽巡洋艦、重巡洋艦のように、砲がない為、その代わりに戦闘機を飛ばすことができるが、主に空母は、前線で戦う戦艦や駆逐艦たちのサポートが主な役割

 

前線で戦うには、砲もなく、接近戦で戦うにはとても不向き

その代わり、遠くから戦闘機を発艦させて、魚雷で敵を倒したり、艦載機を飛ばし、敵艦を見つけ、先手をうてる

 

つまり、空母は出撃では必要不可欠な存在なのだ

 

そして、少女もまた空母

しかも弓道の腕は一流と言えるだろう、何せ、十本の矢を撃ち、その内の十本を全てど真ん中に当てるほどの実力

 

それもそのはず

何せ、少女は一日のほとんど全てを弓道場し、居ないのは単独で出撃するときか、食事をするときだ

 

何故彼女が弓を引くのか、何故いつも弓道場にいるのか、これ以上何を上手くなるのか

 

それは誰にも分からないし、分かりたくもない

 

そして少女は、今日も弓を引く

 

 

 

 

 

──────………ダメだ………

 

──────加賀さんなら………

 

──────加賀さんならもっとうまく…………

 

そう言って少女は瞼を閉じ、視界を無くす

そして静かな空間が広がる

 

鳥が鳴き、林が風に揺れ、葉が中を飛び、草が揺れ、波の音が響く

 

すると、タァン、と音が響く

気づけば矢は的のど真ん中にビンッ、と突き刺さっている

 

しかし、少女は浮かない顔をしている

まるで的が外れたような、とても残念そうな、なにか物足りない、そんな気持ちなのだろう

 

「お見事、ずいぶんと様になってるな」

 

そんな思い空気のなか、一人の男の声が響いた

 

少女は気づいていたかのように、構えていた矢を下ろし、その鋭い眼光で男を睨む

 

どうやら睨み付けて失せろとでも言いたかったのだろう

 

しかし、少女は男を見て驚くこととなる

 

「でも、その髪型は似合わないな」

 

「ッ!?!?」

 

少女は目をぱちくりとさせる

少女の目にはどう写ったかは知らない

でも、少女の目から男は

 

「加賀さん!!」

 

そう見えたのだろう

 

いや、正確には姿形、それだけではない

 

言葉で表せないような、雰囲気?それとも目付きか?分からない、本当に自分でも分からなかった

 

しかし、それでも一航戦 加賀型 正規空母【加賀】の姿が重なった

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

少女はある女性に決闘を挑んだ

 

結果、少女は完敗

 

何故少女は女性に決闘を挑んだか、それは空母の中でも最強と謳われていた女性だったからだ

 

何より、その弓を撃っているときの姿が、今まで見た何よりも

 

 

 

 

 

美しかった

 

だが態度はとても酷い

 

上から目線で偉そうで、えむぶいぴーをとっても誉めてもらえず、嫌味ばかり

 

弓の引き方や、撃ち方にもケチをつける

 

少女と女性は物凄くなかが悪かった

 

少女は女性に勝ちたくて勝ちたくて、夜も努力した、寝る時間すら惜しんで努力した

 

 

 

 

 

 

本当は女性に勝ちたいから努力しているわけではないのに

 

 

少女の努力は報われ、とうとう一度だけ女性に勝つことができた

 

少女は喜びに満たされた、そして女性の悔しそうな顔を見ようと、渾身の決め台詞を言いながら、女性を見た

 

しかし、女性はどうだろう?

 

“笑っていた”

 

それはそれは嬉しそうに

 

負けたにもかかわらず、少女より何十倍も、何百倍もうれしそうに、女性は笑っていた

 

女性は滅多に笑わないし、泣かない

それどころか感情を一切顔に表さないような、言わば鉄仮面とでも言えばいいのか、不器用とでも言えばいいのか、なんと言えばいいのか…………

 

しかし、そんな不器用な女性は笑っていた

 

そうすると、女性はそのまま立ち去ってしまった

 

そして次の日の出撃で

 

 

 

 

 

女性は少女を庇い沈んでしまった

 

 

 

 

少女は弱かった

 

 

 

 

 

 




今日はここまで

次回ブラック鎮守府②です。

こっちも見てね

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ブラック鎮守府②裏切りと敵

 

 

 

 

「悪いな、俺は加賀じゃねぇ」

 

「ッ!…………」

 

瑞鶴は俺の声を聞いてハッとした

 

きっと名前を間違えたんだね

ほらようあるだろ?先生を間違えてお母さんて呼んじゃうのと同じあれだろ?

 

いやーまさかお母さんじゃなくて艦娘と間違えられるとは

俺ってそんな美男か?

 

…………ですめばどれだけ楽かねぇ

 

「…………単刀直入に言う。単独出撃をやめろ」

 

「…………」

 

無視

 

俺の言葉には一切反応しないどころか、すぐに的の方に体を向け、またやを引き始めた

 

…………綺麗だねぇ

 

その矢を引くときと瑞鶴はとても美しかった

本当にこれでは一航戦 加賀をみてる気分になってくる

 

昔、それはそれは強い、海軍の主力と言われた“加賀”が居ると聞いて少しだけ見に行ったことがあるが、その時見た加賀の姿そっくりだ

 

すると、タァンと音がなり、気づけば瑞鶴に見惚れていて矢は既に的のど真ん中に突き刺さっていた

 

すると、瑞鶴が弓を下ろしてから俺の方にゆっくりと振り向いた

 

「で、何でしたっけ?話は聞くけど、その前にここ片付けるの手伝ってくれる?」

 

「あ、はい」

 

そう言って俺は弓道場の床を雑巾がけをし、瑞鶴は慣れた手付きで雑草をむしり、的に刺さった矢を纏め、弓の糸を外し、まとめてから、弓矢を片付けた

 

今思えばこの鎮守府全体に比べ、この弓道場だけはとても綺麗だ

たぶんいつも瑞鶴一人でここを手入れしているのだろう

 

「いつもなら瑞鳳と一緒にやるんだけど、瑞鳳は今日は来なかったわね」

 

と、そんなことを呟いていた

 

そう言えば瑞鳳はやることがあると言って途中でどこかへ行ってしまった

 

すると、弓矢を片付けると、ゆっくりと俺に近づいてきた

 

「で?あんたも私を使ってどうするき?名誉挽回?出世?金?それとも性欲処理?」

 

「全部違います」

 

瑞鶴がさらっとえげつないことを平気で口にする

俺はそれを聞いてすぐに否定すると、瑞鶴は笑いながら「冗談よ冗談」と、ふざけた口ぶりでそう言う

 

「もしもさっきのどれかを選んだら、的の代わりにするけど」

 

「じょ、冗談だよな?」

 

あ、これ眼がマジだ

本気と書いてマジの眼だ

 

「それで?私を使ってどうするき?」

 

「…………そうだな、強いて言えば単独出撃をやめてほしい」

 

「嫌よ、私は強くならなきゃ。他のやつらが居たら邪魔で強くなるどこか、鈍る」

 

「加賀が沈んだ時のようにか?」

 

「…………えぇそうよ、仲間意識なんて………そんな人間みたいな情は必要ない。私は“加賀さんより強い一航戦”になるためにも…………」

 

 

 

 

 

「期待外れだ」

 

 

 

その時提督が放った一言に、瑞鶴は凍りついた

 

「さっきっから聞いていれば、お前はウソつきなのだな」

 

この提督の言葉に瑞鶴は言い返そうとするが、言い返すことができない

 

何故なら、自分は加賀の話になった時からずっと嘘をついている

その自覚があった

 

「…………それで?なんで私がウソつき呼ばわりされなきゃいけないわけ?私とあんたはさっき会ったばかり、そんな相手にいちいち本音なんて言ってられわけないでしょ?」

 

そう言って瑞鶴はどこかに行ってしまった

 

「………なにやってんだ俺は…………」

 

自分でも呆れ返りそうだ

本当はこんなこと言いに来たんじゃないだろう、全く、折角瑞鳳がここに連れてきてくれたと言うのに

 

「提督?さっき瑞鶴が提督を置いてどこかに行こうとしてたので捕まえてきました」

 

「ワーオ」

 

すると、瑞鶴が出ていった方向から、瑞鳳が瑞鶴を気絶させたままかついで来た

 

相変わらずニコニコしているが、瑞鶴はよだれを滴ながら白目を向いて気絶している

 

俺は改めて瑞鳳に恐怖を覚えた

 

「それで、提督と瑞鶴さんは何を話していたか聞きたいところですけど、悪いニュースです提督」

 

「なんだ」

 

「誰かがこの鎮守府を深海棲艦に教えたみたいです」

 

その言葉の意味

つまり、深海棲艦はすぐにでもこの鎮守府を攻撃しに来るだろう

 

ヤバイ、鎮守府近くの海には

 

「先程出撃した艦娘たちが危険です」

 

その時の瑞鳳は笑ってはいなかった

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

少女は本当は勝ちたかった訳ではない、ただ、ただ、

 

「ただ私は、認めてほしかった」

 

「褒めてほしかった」

 

「貴方と共に戦いたかった」

 

「貴方は私の

 

 

 

 

 

憧れだから」

 

鉄屑風情がそんなことを思うのは、高望みだったのか、瑞鶴は泣きじゃくった

憧れの女性、加賀は最後に自分にこう言い残した

 

「強くなったわね、“一航戦 瑞鶴”」

 

私は、歴史では加賀さんの後に一航戦になったらしい、だから、私は加賀さんのような一航戦になりたかった

 

五航戦なんて嫌だった

憧れの加賀のように、一航戦になりたかった、一航戦になって認めてほしかった

 

でも、こんなのって…………なんで、なんで

私は、貴方を尊敬していたのに、憧れていたのに、加賀さんは私よりずっと強いのに

 

私は泣くのをやめた

 

私は加賀さんに一航戦だと認められたんだ

 

だから、『一航戦の誇り』を受け継ぐ者として、もっと、もっと強くならなきゃ

 

そうして、瑞鶴は海に浮かぶ加賀が髪を結んでいた紐を手に取り、自分の両方に結ばれていた髪を程いて、自分の髪を加賀の髪型そっくりに結んだ

 

瑞鶴はその後、毎日のように出撃した

加賀のぶんまで戦い、加賀が護ろうとした者を、鎮守府を、提督を艦娘を、自分が変わりに………………

 

しかし、その思いはある“言葉”でカキ消された

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

「…………瑞鳳、あんたいきなり何すんのよ」

 

瑞鶴は瑞鳳に殴られた腹を押さえながら立ち上がる

 

瑞鶴は「許さないわよ」と言いながら睨み付けるが、その睨み付けた先にいたのは珍しく静かに怒りに満ち満ちていた瑞鳳だった

 

基本笑っているが、出撃時は一変して悪鬼羅刹のごとく深海棲艦を殺す

その姿はいつも笑っている瑞鳳からは想像できない

 

しかし、一番恐ろしいのは、心の底から怒った瑞鳳だ

瑞鳳は一度キレると何をするかはわからない

 

その瑞鳳から漏れ出している殺気を感じただけで瑞鶴は冷や汗が止まらない

姫クラスと殺り合ったとき、あれは死にかけたが、あの恐怖とは比べ物にならないくらい恐ろしい

 

「出撃準備をしてください」

 

「どうしたのよ」

 

「誰かがこの鎮守府の場所を教えました、このままでは先程出撃した金剛さんたちが危険です」

 

別におかしなことではない

この鎮守府はそのうちそうなることは分かっていた

 

ここの艦娘を恨む提督なんて何十人も居る

そんなことを思いながら、呆れた様子で回りを見渡すと、提督が居ないことに気がついた

 

あぁ、どうせ逃げたのだろうと思いながら、そんな分かりきった疑問を、瑞鳳に聞いた

 

「提督は逃げたの?」

 

「その事を教えたら走って行ってしまいました」

 

「やっぱ逃げ………」

 

「爆弾バズーカ接着弾片手に金剛さんたちの助けに」

 

「ハァ!?!?」

 

瑞鶴はその言葉に驚愕した

今まで艦娘を囮だのにしていた提督は何人も見てきたが、艦娘を助ける為に提督自ら助けにいくような命知らずは初めてだった

 

自分はいつの間にか走り出していた

出撃準備を即済ませ、気づけば自分は海の上を駆け抜けていた

 

「待ってください」

 

「ッ!…………なに?」

 

「お守りを忘れてます」

 

「…………ありがとう」

 

それは、必勝と書かれたお守りだった

 

いつの間にか真後ろにいた瑞鳳がらそのお守りを受け取り、瑞鶴はお守りを首につけた

 

自分でもわからない

こんなのは初めてだった

…………いや、これで二度目か……。

なぜ自分があの提督を助けようとして居るのか、自分に何度問いかけても答えは帰ってこなかった、“あの時”のように

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ…………!」

 

金剛は今、立っていることすらやっとの状態だ

 

両手には今だ意識不明の駆逐艦の皐月と夕立が抱えられ、つい先程朝霜と雷、そして曙を逃がして助けを呼びにいくよう頼んだ

 

今金剛が逃げている相手は姫級クラスの深海棲艦

他の深海棲艦とら比べ物にならないくらい位ヤバイ相手、それを一部隊、しかもほとんどが駆逐艦の部隊に倒せるはずもなく、皐月と夕立は敵の砲撃が直撃、金剛は大破した状態で今も逃げている

 

海を浮くための艤装はほぼ機能しているのが不思議なくらいボロボロに破壊され、いつ自分が沈んでも可笑しくない状態

 

別に死ぬのが怖いわけではない

 

ただ、悔しいのだ

 

今金剛が抱えている、こんなに小さな子供たちが、こんな辛いめにあうのが、それを見ていることしかできない自分が

 

考えてみれば可笑しな話だ

 

なぜ鎮守府に迷い無くまっすぐと向かっていけるのか、なぜこの姫級クラス深海棲艦こと、戦艦棲姫がこんなところに居るのか

 

戦艦棲姫

 

他の姫級深海棲艦の例に漏れず、女性を象った人間体型。ただし、戦艦棲姫は今までの深海棲艦とは異なり、本体と艤装がそれぞれ独立しているのだ

 

実際は本体のうなじから伸びた太いコードで艤装の首の部分に繋がれているのだが、主従のように二体で一組と言った方がしっくりくるだろう

 

また、それに伴い従来の人型深海棲艦に比べてより人間らしク、見た目としては非常に長い黒髪と肩紐を首の後ろで縛ったネグリジェのような黒いワンピースを身に着けているのが特徴である

 

他の深海棲艦と同様に瞳は真紅であり、その額には鬼のように一対の角が生えており、胸元にも4本の小さな黒い角が生えている

 

巨人のような艤装部分はまさに猛獣さながらの意匠をしており、例えるならば軽巡ト級を戦艦クラスまで凶暴化させたような雰囲気である

 

そもそも、深海棲艦は、鬼級や、姫級クラスになると、どういうわけか人形が圧倒的に多い

 

それどころか、人の言葉を理解し、それを話す深海棲艦は多く存在する

 

それどころか、他の深海棲艦に比べて、“感情”が大きく現れている

 

特にその怨念と怒りは全ての艦娘や、人間を皆殺しにしてやると言わんばかりに

 

「…………ここまでデスカ」

 

せめて、せめてこの子達だけでも

 

そう思った矢先、敵が金剛めがけて砲撃する

 

なぜか金剛の目からは砲撃され、自分に向かってくる弾が、ゆっくりに見えた

 

そして金剛はもう諦めたかの、ゆっくりと目を閉じた

そして最後にこう願った

 

 

 

 

 

次くらいは、私を助けてくれる(・・・・・・)人に出逢えます様に

 

そう思った刹那、敵の弾は爆発し、その爆音と爆風で海を揺らし、黒い煙が視界を奪った

 

“自分ではない何か”にぶつかり

 

「…………ナゼ、ニンゲンガ………ココニイル………」

 

「てい、とく…………?」

 

そこには、船の乗った提督

 

片方の義手が提督からはずれ、ガシャンと音を立てながら船の床に落ち、提督の腹には敵の弾の破片が突き刺さり、血で船の床に水溜まりができていた

 

「…………ろ……」

 

すると、提督は血返吐を吐きながらも、金剛になにかを伝えようと必死に口を動かすも、血返吐が喉につまり、声は愚か、呼吸すら絶え絶えしい

 

金剛は急いで提督の傷の手当てにと、皐月たちを背負いながら提督のもとに向かおうとすると…………

 

「逃げろ!!!!」

 

血返吐を大量に吐きながらも、大きな声で金剛に言った

 

その言葉に、金剛は回りを見る

皐月と夕立は意識不明の状態で、自分は立っているのもやっとで、艤装もほとんどの破壊されている状態

 

金剛も今の状況を見て、提督がなぜここに来たのか、そしてなぜ身を呈して護ったのか

 

そして何より、今自分がとるべき行動を誤るほどバカでもない

 

金剛はすぐに敵に背を向け、即座に鎮守府の方に向かう

 

しかし、目の前にいる深海棲艦が、「ハイそうですか」と、金剛たちを逃がしてくるる訳もなく、逃げる金剛たちに向けて砲を向けた

 

そして、いざ砲撃しようとしたその瞬間だった

 

自分の顔に、“何か”がへばりつき、視界が黒一色になり、目の前のもの全てが見えなくなってしまった

 

これには深海棲艦も驚き、すぐに自分についている“何か”を引き剥がそうとするが、引き剥がそうとした手が、顔にくっついて剥がれない

 

仕方なく深海棲艦はそのまま砲撃したが、視界が見えない状態で砲撃したところで、逃げている金剛に当たるわけもなく、どこか別の方向に砲撃をし、もちろん弾は外れる

 

提督はバズーカで撃ったのは粘着弾と言い、強力な粘着力で相手の動きを封じる弾だが、提督があえて目を狙ったのは、多少の“時間稼ぎ”になるからだ

 

そもそも提督はこの戦艦棲姫を殺しに来たわけではない

そもそも艦娘の艤装や砲なしでは勝てない

 

人間の作った攻撃的な兵器では深海棲艦にダメージを与えることはできない

 

ならなば何しに来たか?

 

答えはかーんたん

 

 

 

金剛達を守りに来たのだ

 

今提督の持っているバズーカの弾も、爆弾も、全て殺傷ようではなく、時間稼ぎのために持ってこられたもの

 

姫級のクラス自分がたかが人間に侮っているのか?この自分が!?

 

と戦艦棲機はふつふつとこれまで感じた以上の怒りが込み上げてきた

 

許すまじ人間

 

許すまじ、と

 

戦艦棲姫の視界は晴れ、目の前にいる人間を脳内に焼き付けた

 

そして砲を提督に向けて撃とうとしたその直後、目の前に何かが飛んできたと思うと、それは短く「バンッ」と鳴ると、視界が真っ暗になった

 

いや、これは目に激痛すら走る

 

あまりの急なことに、戦艦棲姫は自分の意思ではなく、体が勝手に体を丸めた

自分でも意味がわからず、暗闇の中、視界が消え、そして目に走るこれまで感じたことのない激痛

 

自分の体には何も当たっていない

 

敵の爆撃ならばすぐに体の“外側”が痛いはずなのに、さっきのは目の“中から”激痛が走った

 

そしてその痛みを理解するときには、怒りと痛みの断末魔の混じった声で叫ぶ

 

そしていったい自分はこの人間に何をされたのか、この人間は自分に何をしたのか

 

皮肉にも自分が貧弱でもっとも憎む人間に聞くことになる

 

「キサマ、私ニナニヲシタァ!?!?」

 

しかし、返答は帰ってこない

そして、戦艦棲姫は怒りに任せ、砲を四方八方に撃ちまくる

 

しかしいくら撃っても、砲の弾がぶつかったような音は聞こえず

聞こえるのは撃った弾が海に沈む音だけだった

 

この時提督は新たな弾の準備をしていた

 

つい先程投げたのは、対テロ用の爆弾であるコンカッショングレネードと呼ばれる光の爆弾

 

これが爆発すれば、相手は少しの間視界が奪われてしまう

しかし、これはあくまで人間よう

 

先程投げたコンカッショングレネードは、通常の約50倍にも性能を上げた物

 

人間にこんなものを使えばまず間違いなく失明するだろう

 

しかし相手は深海棲艦、しかも姫級クラスのメチャクチャヤバイ化け物

失明はしなかったが、もって30秒

 

提督には一秒だって時間が遅れればそこでケームオーバーだ

 

そして提督は再びバズーカに接着弾を込めると、戦艦棲姫の目を狙う

 

そして戦艦棲姫の視界が戻り、提督に気がつくと、物凄い殺気を飛ばしてくる

常人ならば失神が良いところだろう

 

(ヤベェ、チビりそう)

 

そうして引き金を引いた刹那、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いにまぬかれざる客が乱入することとなる

 

 

 

§

 

 

 

 

 

一方その頃、瑞鳳と瑞鶴は、金剛と一度合流すると、金剛に瑞鳳が提督からもしもの時にもらった高速修復材をぶっかけて傷を直してから、再び提督を追った

 

「金剛のこと、送らなくてよかったの?」

 

「金剛さんには悪いと思ってますが、相手は姫クラスですよ?人間の提督が奇跡が起きたとしても5分‥‥‥いえ、1分が良いところでしょう」

 

1分

 

瑞鳳の言うとおり、人間が姫クラスという、深海棲艦の最上位クラスの化け物に出くわして1分も人間としての形を保っていられるかすら怪しいところだ

 

そんな考えの中、黒く立ち上る一筋の煙

その下には何かの瓦礫と、それに火がついているのが見える

 

恐らく‥‥‥いや、確実に提督の乗った船の瓦礫だろう

 

瑞鳳と瑞鶴はそれを確認すると、スピードを上げて、一秒でも早く提督の元へ向かう

 

数分後、煙が見えてからだいぶ近づいてくると、提督らしき人影が見える

 

そして、その近くには深海棲艦と思われる人影

 

「あんたは‥‥‥レ級!!」

 

瑞鶴の叫び声にも似た声に。、レ級は瑞鶴たちの存在に気づく

 

「ン?アララ、思っタヨリクルノガ早いねぇ。残念残念、また会えたらアオウゼ、提督様よぉ‥‥‥‥今度は邪魔がハイラナイトコロデ」

 

そう言ってレ級は海へ戻って行った

 

「あんた‥‥やっぱりあんたがここの鎮守府を深海棲艦に‥‥‥‥!」

 

すると瑞鶴は矢を提督に向ける

しかし、それを瑞鳳が止め、瑞鶴の矢を提督から下に向けさせた

 

「瑞鳳、あんたこいつの味方するつもり?こいつは深海棲艦に私達を‥‥‥」

 

「待ってください。提督の様子が‥‥‥」

 

その言葉に、瑞鶴は提督を見る

よく見ると提督はさっきっから全く動いていないどころか、一言だって返事をしない

 

燃え盛る船の上で、一歩も動かず、ただそこに立っていた

すると

 

「瑞鶴、瑞鳳か?」

 

「「!?!?」」

 

その姿に二人は驚愕した

 

白かったはずの提督服は、提督自らの紅い血で染まり、船の瓦礫や、敵の砲弾の破片と思われる物がいくつか刺さり、片腕の義手は壊れ、腹が少し、何か巨大な口を持った化け物に食い千切られた可能に‥‥‥‥‥

 

次の瞬間、提督はまるで、糸が切れた糸人形のうに、ドシャリと、血で濡れた肉が船の床に力なく倒れた

 

 

 




見ていただいでありがとうございます!

次回もやるので見てください感想待ってまーす

小説家になろうの方も見てね!

次回もお楽しみに



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ブラック鎮守府③

 

 

 

俺は気がつけば真っ暗闇の空間に一人寝転んでいた

無いはずの腕と足はあり、みょうに酷い眠気がする

 

いや、今はそんなことよりも、今自分が一番不思議に思っていることが口から漏れた

 

「なぜ自分はあの娘達を助けた?」

 

なぜ他人であるあの娘達を幸せにしようとしている?

艦娘が憎いはずなのに、何故?

 

正義感?

 

違う

そんな生易しい言葉では表せない何か………いや、それともただ死にたかっただけなのか?

 

………このまま何もわからぬまま眠ってしまえば楽になれるんだろうなぁ

 

もう苦労しないんだろう

 

もう苦しまなくてすむだろう

 

もう悲しむことも無くなる

 

万々歳じゃねぇか

 

『提督!』

 

「………るっせぇな、誰だよ人が今かららくーになれるって時に。空気よめよ」

 

『提督!!』

 

「あーうるせぇな!どこのどい……つ、だ……

 

龍驤?」

 

『いつまで寝とるきや!!』

 

それはかつて、この鎮守府に来る前の鎮守府に着任していた頃に出会ったかん艦娘

 

龍驤

 

「おま、沈んだ……なんで?」

 

話から察するに、龍驤はかつて沈んだのだろう

 

驚くのも無理はないだろう

何せ、沈んだはずの、死んだはずの者が目の前に立っているのだ

 

これを驚かぬものが居るだろうか?

 

『うるさい!そんなことより提督、あんたが“こっち”に来るのは早いっていっんとんや!』

 

すると龍驤はまるで息子を叱る母親のような大きな声で怒鳴りあげる

 

そして提督も負けじと大声で

 

「ふざけんな!!そんなことより俺がどんだけお前のこと心配『うっさい!!』んなっ!」

 

『眠っとる暇あったらさっさとあの娘達のところに戻りぃ!!またたくさんの娘不幸にする気か!このおたんこナス!』

「うるせぇな!誰がおたんこナスだ!」

 

『だったら女の一人くらい幸せにしてから“こっち”に来な!!』

 

それは子供の喧嘩と言えば良いのか、それともどこかの夫婦喧嘩とでも言えばいいのか、それとも仲良しの友達が初めて喧嘩するような、兎も角くだらない言い争いなのは確かだ

 

「上等だ!!一人と言わず、うちの娘一人残らず幸せにしてやらぁ!!」

 

『なら、それまで待っとるでぇ。ずっとずっと待っててやる、だからゆっくり来なぁ』

 

「…………あぁ」

 

『ほなさいならや!娘全員幸せにするまで戻って来るんじゃないでぇ!!』

 

その言葉を返そうとするも、さっきまで元気だったはずの体が急に動かなくなり、気づけばゴボゴボと音がすると、龍驤は笑いながら暗い暗い底の無いどこかえ沈んで行った

 

俺はそれを追いかけようとするも、体がどこか上へ上へと浮あかり、気づけば意識は消えていた

 

『なんや、随分とろかったなぁ、戦艦棲姫』

 

暗い暗い底の無い空間で、龍驤の目の前にたたづむ戦艦棲姫

 

しかし、その戦艦棲姫はどこか、どこか嬉しそうな顔をしていた

それは、やっと帰ってこれた……そんな顔だった

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

「…………知らねぇ天井だ」

 

提督は気がつけば見知らぬ部屋で、体中には包帯が所々まかれており、とめどなく血が流れた傷口は縫われ、左側の腕には点滴が刺さっていた

 

「……………」

 

「………お前が俺を手当してくれたのか?」

 

ビクッ

 

すると、提督が寝ている間、提督の体を拭いていたであろうお絞りを絞っている 女性

 

それは色素の薄い肌とプラチナブロンドの髪に、分厚い胸部装甲が印象的な少女

 

上半身にはビスマルクやプリンツ・オイゲンとは異なるデザインで、ボディラインのハッキリ出る白い軍服とインバネスコート、下半身には丈が極端に短い黒のプリーツスカートと黒タイツを着用しており、全体的に露出度はかなり少ないものの女性らしい色気の感じられる服装である

 

軍帽を被っているためわかりづらいが、髪型はツインテールであることが確認出来る

 

さて、この女性の説明も終えたところで、お気づきであろう

この女性は普通ここに居るはずのない、居てはならない艦娘

 

名を

 

グラーフ・ツェッペリン

 

ここに居るはずのない正真正銘の、ドイツ艦である

 

提督は、日本の鎮守府に外国艦、しかもあまり技術を他国に見せない独立国家であるドイツの艦娘がいる理由は確実に二つある

 

一つ

 

ドイツと日本が友好関係だという証拠

 

二つ

 

両国の信頼

 

ようするに、このドイツ艦に傷ひとつでもおわせようものなら、ドイツと日本で戦争が起きます

 

「ヒェッ」

 

俺はそれを考えるだけで、あまりのことに驚けばいいのか、叫べばいいのか

迷ってるうちに、意識が朦朧となり、再び眠りについた

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

─────あの“捨て艦”作戦は成功した

 

その言葉は、瑞鶴を激昴させるには十分すぎる言葉だった

例えこれが嘘だとしても、冗談だとしても

 

─────正直俺加賀のこと嫌いでよぉ、大食らいで何考えてるかわかんねぇし、だいち無駄にうぜぇし。いっそ死んでくれねぇかなぁって思ってた所にこんな良い作戦があったなんてなぁ

 

例えこれが酒に酔ったり、軽はずみな冗談でも

 

─────死んでくれてほんとに良かったぜ

 

その時瑞鶴の中の糸のようなものが、こうブチッと引きちぎったような音が聞こえた

 

そして不思議と自分は言葉が一つも出なかった

 

怒りの叫も、なぜそんなことをしたのか?と言う疑問や、何もかも、不思議だった

 

その時ことはあまり覚えていないが、ハッキリと覚えていることはある

 

─────!?瑞鶴!何をぐがっ……ぐる、じ………しぬ、だ、誰か

 

ゴキッ

 

あいつの首を締めて、思いっきり首の骨をへし折った後、私は

 

■■■■■■ていた

 

私は多分私は加賀さんみたいな一航戦になれない

 

私は加賀さんみたいな人を守る立派な艦娘には絶対になれない

 

鎮守府のみんなも、私のことたくさん恨んでた

 

怒ってた

 

悲しんでた

 

翔鶴姉には見放されてしまった

 

もう私には居場所は無い

 

家族も居ない

 

仲間も居ない

 

私にはもう弓と、加賀さんからもらった『一航戦』と言うか名前しか、私には無い

 

それでも憎かった

 

全てが、何もかもが、目に入る全てが

 

もう元の私には戻れない

 

私の日常に“殺す”と言う選択肢が出た時点で私はもう加賀さんのような一航戦にも、立派な人を守る艦娘にもなれないのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰か、私を“見つけて”ください

 

 

 

 

 

 

 

 

「お見事、ずいぶんと様になってるな」

 

「でも、その髪型は似合わないな」

 

 

そんな独りぼっちの世界で、たった一人の人間が私を見ていた

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

「つまり、お前はドイツと日本の友好関係の証としてこの鎮守府にきた………と?」

 

「そうなるな」

 

「少し良いか」

 

「?」

 

すると、提督はポケットの中からスマホを取り出すと、ある番号に電話をかけた

その電話相手は元帥と表示される

 

「おいゴラァ!!このクソハゲサンタクロースもどき!酒の飲みすぎで頭ん中まで酔ってんじゃねぇのか!?!?」

 

その怒りに満ち溢れた叫びにも近い大声に、近くにいたグラーフは思わずビクッと驚いてしまった

 

『そう怒るなって、なかなか良い娘じゃろ?』

 

「んな事はどうでもいいんだよ!!!なにドイツと日本の友好関係の象徴とも言える艦娘をうちの鎮守府に寄越してんだよ!?まじで

ボケてんじゃねぇのか!?」

 

『いやーその娘は可愛くてのぉ、どこぞの馬の骨とも知らぬ馬鹿に預けるよりお主のようなヘタレ………優秀な提督にと』

 

「今ヘタレって言ったよな。ヘタレって言ったよね?言ったよね?」

 

『まぁそんなわけでヘタレ君』

 

「てめぇ老衰する前に海に沈めて海の藻屑にするぞ」

 

『グラーフ・ツェッペリンをよろしくね』

 

「あ!てめぇこら!!話は…………チッ、本当に切りやがった」

 

すると、提督はポケットにスマホをしまい、大きく溜め息を吐きながら、これまで体に無茶をさせすぎたリバウンドか、再び体に激痛が走る

 

提督は思わず跪き、傷を押さえる

 

すると、ピチャっと水が落ちる音が聞こえた

今日は晴天で雲一つ無いとても清々しい空だ

 

とても雨が降っているようには見えず、後ろをむくと

 

両目から涙を流すグラーフ・ツェッペリン

 

「す、すまない。土下座でも、ハラキリでもする………体も好きにしていい…………だから、ここに置いておいて……ください…………」

 

(ええええええええええええ!?!?!?)

 

それは、さっきまでのクールビューティな美しさの欠けらも無く、そこに居るのは静かに幼女のように泣くグラーフ・ツェッペリンだった

 

すると、今度は元帥から電話がかかってくる

提督はすぐさま電話にでると

 

『そうそう、言い忘れとったがその娘ドイツの大統領の一人娘の箱入り娘だから、間違いだけはないようになー』

 

「てめぇ絶対海の藻屑にしてやるから覚悟しとけ!!!」

 

そう言ってブチッと電話を切った

 

「さて………」

 

提督は手に持っていたスマホをポケットにしまうと、今度は急な目眩が提督を襲った

 

「んだ、これ………」

 

さっき馬鹿みたいに大きな声を出しすぎて、傷に響いたのだろう

体も上手く動かず、頭を押さえながらベッドに座る

 

すると、ギィと、木が軋むような音をたてながら扉が開く

 

「提督ーー、起きてますかーー?卵焼き作ってきましたよーー」

 

「よォ瑞鳳」

 

「あ、起きてたんですね……憲兵さんこっちです!」

 

すると、瑞鳳は部屋の外に出て大声でそう叫んだ

まぁ無理もないだろう、何せ部屋に入るとグラーフ・ツェッペリンが土下座して泣きながら謝罪しているのだから

 

「冗談です」

 

「思いっきり叫んでたよな」

 

すると瑞鳳が爽やかな笑顔で何事も無かったかのように戻ってきた

 

瑞鳳は絶対最初っから事情を知ってて叫んだんだと思うと、無性にイライラした

 

提督がイライラしている所を見て瑞鳳はさらに爽やかな笑顔を作った

 

「あ、それではグラーフさん、鎮守府を案内するのでついてきてください」

 

「は、はい」

 

すると、瑞鳳は半泣きのグラーフを立たせ、そのまま部屋を後にした

 

すると、提督は瑞鳳達が部屋から出ていくのを確認すると、立ち上がり、ベットに腰掛けると

 

「………金剛、何か用か?」

 

提督がそう言うと、扉から金剛が姿を表した

 

傷だらけだったからだは既に治り、解けていた髪の毛も元の髪型に戻され、ボロボロだった服も新しいものに変えられ、元の金剛に戻っていた

 

その不満そうな顔を抜けば

 

その時の金剛の顔はまるで疑問と不安が入り交じったような顔で、あの絵で描いた様な笑顔ではなくなっていた

 

「なんで、私を助けたんですか?」

 

「は?」

 

金剛の問いに、ベットに腰掛けていた提督は、大きなため息を吐いて立ち上がり、金剛のもとえゆっくりと歩み寄り、金剛の目の前で止まる

 

「ガキを守んのが大人の役目だろ」

 

そう淡々と言った

 

「………私はもうそんな歳じゃないデス」

 

「馬鹿野郎、俺からしちゃぁまだまだガキだよ。ガキは無茶しねぇで大人の俺に甘えてりゃァ良いんだよ!」

 

「…………血生臭いから嫌デース」

 

そう言って金剛はそっぽを向いてそのまま扉の方へ向かう

提督は「なっ!?」と驚きながら後ずさった

 

「このガキャァ!!」

 

「………!」

 

そう怒ったような大声で言うと、金剛の腕を掴み、無理矢理自分に寄せ、自分の胸板に金剛の顔を無理矢理押し付けた

そして逃げない様に金剛の細いクビレをガッシリと掴む

 

金剛はジタバタと暴れるが、次第に諦めたのか、抵抗しなくなった

 

「えーっと、確か、こんな台詞だったかな?」

 

「?」

 

すると、提督は何やらブツブツと独り言で何か言っていることに気づく

次に、提督は大きく深呼吸すると

 

「金剛!!バアアアァァァァァニングラアアアァァァァァァブ!!!!」

 

「!?!?!?」

 

その提督の告白にも等しい言葉に金剛は顔を真っ赤にしながらどんどんと力が抜け、提督にしがみつく形となる

 

全てが未体験

 

助けられるのも、守られるのも、こんなに愛されるのも、全てが全て未体験

 

金剛の自分の顔が真っ赤だと自分でも分かるほど熱い。まるでお風呂でのぼせているような、否、それ以上に熱く、何故だが今の自分の顔を提督にだけは見せたくなくて、せめてもの抵抗で顔を提督の胸板に押し付けて顔を隠した

 

それを見た提督は満足そうに笑い、金剛の頭を掴むと、左右前後、金剛の髪型が崩れるくらい乱暴に撫で回した

 

金剛は髪型が崩れるからやめて欲しいと言おうとするも、どうしても声が出ない

それに、内心喜んでいる

 

金剛はやり返しと言わんばかりに、提督の背中に手を回して、抱きつく

 

「そうそう、ガキはそうやって甘えてりゃァ良いんだよ」

 

しかし、提督には逆効果だったようで、嬉しそうに笑っていた

 

「……………臭い」

 

「なっ!」

 

金剛はボソッと言うと、提督はその言葉が心にきたのか、提督のハートの心に100000ダメージくらった

 

「あ、金剛さんと提督が抱き合ってる!」

 

「ホントっぽい!」

 

「金剛さんだけずる!」

 

「あ、あたいも…………」

 

「「あ」」

 

扉の方を見ると、そこには駆逐艦の娘達が羨ましそうに見ていた

金剛は何やら「ちが、これは……」と何かいいたそうだったが、その前に駆逐艦の娘達が先に一斉に抱きついてきた

 

俺は重さに耐えられずベットに倒れ込む

 

「重いわガキ共!」

 

「ガキだから大人の提督に甘えたいぽい!」

 

「俺は怪我人だゴラ!………つかさっきの会話聞いてたな!?」

 

俺の言葉に、駆逐艦達は笑ったまま離れることなくずっと俺に抱きついて離れない

 

金剛は相変わらず「あうあう」と顔を赤くして黙ったままだ

すると、入口の方に曙が自分を殴った拳を手で撫でながら少し気まずそうにしている

 

「………曙ちゃんもくるっぽい」

 

「え………でも……」

 

しかし曙は何か気まずそうに、断ろうとする

 

「……あーあー、どっかの可愛い駆逐艦の娘で紫髪のセーラー服を着た娘が俺に抱きついてくれりゃァ嬉しいんだけどな!どっかにそんな女の子居ねぇかな!!」

 

「……!」

 

俺は半場ヤケクソであからさまに大きな声でそう言うと、曙は少し驚いた顔をすると、次第に嬉しそうに笑って

 

「ど、どうしてもって言うなら仕方ないわね!」

 

そう言って抱きついてきた

 

 

 

 

「………なーんだかね、あの提督は」

 

すると、ドアの後ろで壁を背中に付け、腕を組んで中の様子を見ていた少女、瑞鶴少し呆れたように呟いた

 

そしてそのままその場を立ち去ろうとする瑞鶴

 

すると

 

「瑞鶴さんも一緒に提督にこっちに来よ!」

 

「!?………わ、私は良いわよ、そんなことより雷が行ってきなさい」

 

いつの間にかいた雷に誘われ、少し驚いたが、すぐに断わり、そのまま立ち去ろうとする

 

「本当に良いの?」

 

「………えぇ、私に………私が誰かに優しくされたら、私は嬉しすぎて、自分が自分が無くなっちゃうから」

 

酷く悲しそうな、寂しそうな顔でそう雷に言った

 

「そうなんだ、でもそれって辛くないの?私が言うのもなんだけど、今の提督だったら私たちを………みんなを助けてくれるかもしれないわ」

 

「……辛い、辛いけど…………」

 

瑞鶴は酷く言いにくそに言葉を続ける

その時の瑞鶴の顔は今にも泣きそうな少女のような顔だった

 

「これが“私”だから」

 

その時の瑞鶴の顔は本当に辛そうで、悲しそうで、泣きそうで、そんな顔を見てしまったら、雷は何も言えなくなってしまった

 

「はい 」

 

ただそう言って雷も提督の元に向かった

 

 

 

 

 

 

 

少女はいくら強くなろうと

 

数多の敵を殺そうとも

 

どんなに人を助けようとも

 

どれだけ努力しても

 

 

 

 

少女はか弱き少女のままだった

 

 

 

そうして少女は薄暗い廊下を一人寂しそうに歩き出す

 

今日も憧れの人に追いつくために

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「か〜ご〜め〜か〜ご〜め〜♪」

 

ある少女は歌う

 

そこは薄暗く、湿っていて、まるで地下牢のような場所で体育座りをして一人寂びく歌う

 

「か〜ごのな〜かのと〜り〜わ〜♪」

 

少女こそは海軍、いや

 

日本の誇り、日本そのものと言っても過言ではない程の少女

 

「い〜つ〜い〜つ〜で〜あ〜う♪」

 

そしてその少女、否艦娘は、どの艦娘の中でも随一と言っていいほど強く、そしてまた美しく、最も最強に近い艦娘

 

「よ〜わ〜け〜の〜あ〜とに♪」

 

日本で出撃させ、轟沈なんてさせようものならそれは日本は絶大な戦力を失うこととなる

 

つまりその提督は確実に死刑は免れない

 

「つ〜るとか〜めがす〜べった♪」

 

彼女こそは大日本帝国海軍の、日本の誇りそのものと言っても過言ではない、かの元帥は言う

 

『彼女が沈む時は、日本が沈む時だ』

 

だから、彼女は大事に、大事に、

 

 

 

しまわれた

 

「後ろの正面だ〜れだ♪」

 

日本の誇り、大和魂

 

その意味を込められた名前、彼女こそは

 

 

 

 

大和型一番艦 戦艦大和

 

人類最強の戦艦だ

 

 

 

 

一章ブラック鎮守府 END





二章 海軍の誇り



すみません!次回からは少しの間この話ではなく、別の鎮守府の話になります
本当に申し訳ありません!この続きは絶対に書くのでお楽しみに!

本当に申し訳ありません┏○┓


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今日も鎮守府は平和です

こっからはまた違う鎮守府の話です

暖かい目で見守ってください




 

 

「ご主人様のペットにしてっワン!」

 

「……………」

 

出だしがこんなのでほんとすんません、マジでごめんなさい

そこには金髪でロングヘヤーの、左右に大きく髪が跳ね、赤い真紅の様な瞳に、セーラー服を身にまとった駆逐艦、夕立が立っていた

しかも最近改二になったばかりの超絶美少女だ

 

首に犬専用の首輪とリードを付け、「ハァハァ」と息を荒らげながら、まるでご主人様に構ってほしそうな犬のように潤んだ瞳

 

「…………」(これはこれで………は!?)

 

俺はそう思った直後、思いっきり自分の顔面を殴りつけた

 

「て、提督!?」

 

ダメだ、それはダメだ絶対にあってはならん事だ

こんな純粋な少女をいかがわしい目で見るのは本当にやばい

マジで憲兵が拳銃持って俺のところに来るレベルだ

 

と言うかどうしてこうなったんだ?

そう思い、今朝のことを思い出す

 

 

 

§

 

 

コンコン

 

今朝、俺は確か新聞とコーヒーを飲んでいたら、朝から俺のところに誰かが訪ねてきたので、俺は快く迎えた

 

「入ってまーす」

 

それだけ言うと、扉を開けて入ってきたのは夕立改二だった

夕立は凄い勢いで俺の方にっこんできた

 

「提督さん!」

「おうおうどうした」

 

そう言うと、夕立はどっから出したか分からん首輪とリードを出して俺に見せつけた

もしやペットを飼いたいとでも言うつもりかこのぽい犬

しかしまぁ改二にもなったし、結構こいつは駆逐艦なりに活躍してくれてるし良いか

 

事実こいつは相当演習も出撃も頑張ってくれた、このくらいのご褒美は必要だろう

 

「………ちゃんと責任持てるか?」

 

「ハイっぽい!」

 

しかし時雨や鳳翔ママには怒られるかなぁ………いいや!これはこれまで頑張った夕立へのご褒美だ、誰にも文句は言わせん

 

「良いだろう!今回だけだ!誰がなんと言おうと俺が味方してやるからな!」

 

「提督さん、嬉しいっぽい!」

 

そう言うと、夕立は俺を強く抱き締めた

にしても夕立がこんなに笑うなんていつぶりだろうか?この頃の夕立は難しい顔ばかりしていて少し心配したが、まぁこんな夕立の顔を見れんなら鳳翔ママや時雨達にどやされるのも軽い軽!

 

そう思っていると、夕立は一度俺から離れ、“自分”の首に犬専用の首輪をハメ、両手を床につけたまま膝を床につけず、まるで『犬がお座り』したような体制をとり、夕立は舌を出して、その紅い真紅の美しい瞳をハートにさせて、「ハァハァ」と息を荒らげながら

 

「これから『ご主人様』のペットとしてよろしくお願いします♡︎ワン♡︎」

 

「………………ごめん今なんて??」

 

 

 




ブラックから今度は平和ギャグ的話です

次回も見てください!

感想待ってます!



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今日も鎮守府は平和という言葉の鬼畜プレイ

 

 

 

そして俺から導き出された四つの回答

 

答え1:飼う

答え2:正気に戻す

答え3:明石に夕立の頭の修理をお願いする

⇒答え4:へっへっへ、この俺様が立派な雌犬に調教して、俺無しじゃ生きられない体にしてやる

 

 

グヘヘヘヘ、それじゃぁお望み通り可愛がってやろう

まさか朝からこんな上玉が手に入るなんてなぁ、まずはそこに裸になってから四つん這いになって……………って何考えてんじゃ

 

「すまん、もう一度言ってくれると助かるんだ」

 

「分かったぽい!」

 

白露型四番艦 駆逐艦 夕立改二

 

彼女はかつて、ソロモンの狂犬とまで恐れられた夕立のプロトタイプ

まぁ簡単に言えばコピーのようなものだ

そもそも艦娘とは、女の子なら誰でも言い訳だが、稀に、本当にごく稀に適合者が現れる

元々女の子なら誰でもなれる艦娘だが、普通の女の子に艦としての力は強すぎるため、リミッターと言い、力を制御される

まぁ普通の艦娘が使ってる力は100分の10くらいかな?

しかし、適合者は、ほぼ全ての100%を使うことが出来る

とまぁ小難しい長ったらしい話はここで終わりとして

夕立の話に戻ろう

 

彼女は本当に人懐っこく、優しくて、まるで自分の娘のように可愛がって育ててきた

彼女も自分のことを本当の父親のように懐いてくれた

戦場でも数々の島を取り戻し、人々を助けてきた、実際彼女の火力も実力も駆逐艦を大きく上回る

 

ついでに言えば、そう言ったR18の知識は全くと言ってもいい程無く、俺も、そんな無知で可愛い娘の細い首に、犬の首輪を付け、リードで散歩なんて言う俺の趣味はありません

 

「これからご主人様じゃないと満足出来ないほどメチャクチャに壊して全てをご主人様の色に染めてくださいワン♡︎♡︎」

 

「なんかもっとヤバくなってない!?」

 

「どうかこの雌犬をメチャクチャにしてワン♡︎♡︎♡︎」

 

「体を俺に押し付けながら体をくねらせるな」

 

ヤバい、何がやばいって?まずは夕立の柔肌が俺に当たってて気持ちいいから俺の息子がヤバい

もう1つは夕立の目が♡︎マーク浮かべながら俺に顔を近づけているのがヤバい

もう1つは夕立がどこか遠くにいってしまった様な気分で自我が保てん

もうやばいことだらけだよ

 

「そもそもなんで夕立はいきなりハード&鬼畜プレイを強いる結果になったんだ?まさか!俺の知らないところで他の奴とこんなプレイを………!」

 

「ご主人様?」

 

「あ、そう言うNTRプレイは知らないのね」

 

「ねと、何に・・・?」

 

夕立は提督の言ってる意味が理解出来ておらず、可愛らしく子首を傾げながらハテナマークを浮かべる

 

「お願いだ夕立、そう言うのだけは覚えないでくれ」

 

「分かったっぽい!」

 

夕立は可愛らしく返事を返すと、再び提督に体らを擦り付けながら、まるでご褒美をねだる子犬のような期待に満ちた目でリードを提督に渡そうとする

 

その瞳の奥にはピンク色のハートが写っているようにも見え、左右はねた寝癖がどこか犬の耳の用で、その白く、白雪の様な肌に細い首に付けられた犬用な首輪に繋がるリード

 

それを自分に握ってくれとねだる夕立

まるでそれは自分を襲ってくれと言わんばかりに、また誘っているようだった

 

「・・・・はぁ」

 

提督は知っていた

夕立は一度言い出すと絶対に実行するまで辞めることはなく、こうなると回避方法はなく、絶対に夕立のゆうことを聞いてあげるまで辞めることは無い

 

しかし、元は夕立に頑張っているからと、日々夕立に甘い自分にも非はある

だから提督はわけを聞くことにした

 

「なんで夕立は俺のペットになりたいんだ?」

 

「提督さんは夕立の頭を撫でてくれたっぽい!」

 

「・・・・・・え?それだけ?」

 

「ほ、他にも褒めてくれたっぽい、一緒にご飯を食べてくれたっぽい、優しくしてくれたっぽい!」

 

夕立は続けたが、どれもこれもにちじょうてきに日常的におこなっているものばかりで、これと言って夕立がこんなあられもない姿になる理由がいっこうにでてこない

 

「夕立、みんなに怖がられてたっぽい」

 

「そういやそうだったなぁ」

 

昔の夕立は元々戦闘の素質があったらしく、物凄い勢いで敵を倒し、海域を取り戻して行った

 

しかし、駆逐艦である夕立のその戦闘は駆逐艦ではなく、また別の何か・・・それはまるで化け物の様だったと聞いた

 

そのせいで鎮守府の仲間とも馴染めず、ずっと一人で今の今まで生きてきた

鎮守府の仲間とも馴染み始めたのが本当に最近なのだ、だから夕立にとってはこんな些細な日常的なことでも嬉しかったんだろう

 

「提督さんはとっても優しくて、夕立のことをいっぱい褒めてくれたっぽい、優しくてくれたっぽい」

 

「・・・・そうか」

 

「だからご主人様のペットにしてワン♡︎」

「まて、そこでだからはおかしい、と言うかどうしてそこで道を踏み外した」

 

提督はともかく体を自分に擦り付けながら抱きつく夕立を拒む

もしも今の状態で受け入れてしまったら自分は社会的にも現実的にも死んでしまう

というか憲兵さん待ったなしなだからな?今状況

 

「・・・・・怖いっぽい」

 

「・・・・?」

 

正気に戻ったのか、さっきまで強かった力は緩み、一度夕立は提督から離れる

 

「提督さんがいつも夕立を連れていこうとする変な人達から守ってくれてるって、私知ってるっぽい」

 

「・・・・・・」

 

夕立を連れていこうとする変な人達、それは海軍で機密に動く研究部隊

今人類は、深海棲艦は愚か、艦娘のことまで、何も明かされておらず、分かっているのは、艦娘の中に、稀に適合者がいて、その適合者は艦の力を100%使えることだけ

そしてその部隊はかつて“絶対にありえない”とまで断言された艦の適合者が見つけた

 

大和型戦艦 一番艦 大和

 

プロトタイプだけでも大和の力は絶大だ

しかし、その大和が100%の力を使ったのならば、それは正しく最強の“兵器”と言っても良いだろう

 

しかし、適合者には一つだけ欠点がある

 

入渠しても、高速修復材を使っても傷が治らないということだ

つまり、大和は一度出撃し、傷を負ったならば、治るまで待たなければならい

ましてやその大和は人類最最強の兵器であり、日本そのもの、それを沈めたとなれば、その提督は孫の第まで罰せられるだろう

 

そして何より、他国が大和をほうっては置かなかった

他国の者たちは喉から手が出るほどその大和を欲しがった。

しかし、初代元帥は他国に大和を渡そうとせず、轟沈したと偽りの情報を流し、どこかへ隠した

その場所は誰にもわからず、今も大和が生きているかすらわからない

 

そしてその日を境に、適合者がめっきり消えてしまった

 

しかし、これはあくまで噂話であって、本当に大和の適合者がいたかどうかは未だ分かっていない

 

さて、話を戻そう

その機密部隊が夕立を狙っているのは、うちの鎮守府は艦娘は結構多い方で、その中でも夕立は性能が断トツで良かったらしい

難しい専門用語や国家だの天皇だのよく分からんことを並べても、俺は馬鹿だから俺にはそんなことは理解出来ん

しかし、何を言いたいかは分かる

性能のいい夕立を実験体のモルモットをよこせとでも言いたいのだろう

 

無駄に愛想のいい笑顔が、俺には汚ぇクソ塗りたくった顔にしたか見えなかった

 

『すまないが君の所の夕立さんを私たち預けてはくれないだろうか?』

 

『だが断る』

 

『なーに、心配するな。夕立さんを私たちに預けてくれるなら、それ相応のお礼をしようじゃないか』

 

あの時は怒りを押さえるのがやっとだった

まるで遠回しに金をやるから夕立をよこせと言っているようなもので、そのイケすかねぇ顔に拳を叩き込みたくなった

 

所詮他人の、人類の為だと言っているが、こいつらの頭ん中には自分のことしか入っていない

そんなクソ共には死んでも絶対に夕立を渡さない

 

と言うかそんな汚ぇ手で夕立に触れようとしたらぶん殴る

 

そして何より

 

『・・・提督、さん・・・』

 

本人の、夕立のいる目の前でそれを簡単に言ってのけやがるこいつらが心の底から生簀かねぇ

 

すると、男たちは夕立に手を伸ばした

夕立は自分の顔に近づいてくる男の手を見ると、強く俺にしがみつき、顔を真っ青にしながら、目尻に涙を浮かべて震えていた

 

『さぁ、おいで』

 

そう言って男が夕立に触れようとした直後

 

 

 

 

そいつの顔面を思いっきり俺がぶん殴ってやった

男はまるでバスケットボールのように床をバウンドしながら、壁に叩きつけられた

男たちは数秒ほど何が起こったのか理解出来ず、今の目に映る状況を必死に理解しようとする

 

『き、貴様!何をしたか分かっているのか!?』

 

『てめぇらこそ分かってんのか?』

 

俺はその時の俺はびっくりするほど低い声がでた

男たちに関して小さく「ひっ」と小さな悲鳴を上げていた

 

『俺の夕立に次近づいてみろ?深海棲艦の餌にしてやるから覚悟しとけ!!!』

 

それを聞くと、男たちは尻尾を巻いて倒れた男を連れて逃げていった

 

あの時は懐に隠しておいた拳銃、もしくは刀を出さなかった俺偉くね?褒めて欲しいくらいだぜ

 

だが、殴るならまだもみ消せるがら、やっぱり相手は味方なので、殺すのはさすがにマズいと俺でもわかる

 

そのあと憲兵から事情聴取を受けて、元帥に叱られたのは言うまでもない

 

 

 

 

§

 

 

 

「その時の提督さんは本当にかっこよかったっぽい」

 

「まだ覚えてんのかよ」

 

出来れば今すぐにでもこんな話は忘れて欲しかった。あんな胸糞悪い話は

 

「嬉しかったっぽい。あの時提督が私を守ってくれて、本当に、嬉しかったっぽい」

 

「そうか」

 

「だから私は提督のペットになりたいっぽい!」

 

「まて、その理屈はおかしい」

 

夕立は提督の言葉は理解している

だが話が通じない

 

「なんでっぽい!?私は提督さんのために頑張りたいっぽい!!提督さんはいつも一人で頑張ってるから、だから夕立にはこれくらいしかできないっぽい!」

 

「馬鹿野郎、俺はお前らが幸せならそれでいいんだよ」

 

夕立は両目から少量だが涙を流し、提督の手を掴んで話さない

一方提督は、そんな夕立の頭を小さく微笑みながら撫でる

 

 

※これは夕立をペットにするかしないかの話です

 

「でも、それじゃぁ提督さんが・・・・」

 

「俺は大丈夫だ、何度も言わせんな、お前らが幸せならそれでいいんだよ」

 

「提督さん・・・・・」

 

※これは夕立をペットにするかしないかの話です

 

「そもそもお前もいい年頃だろ?そんなはしたない格好するな」

 

今思い直せばこれはマジでヤバい、ヤバすぎる

 

他人がみたら変態の中年男性が幼い少女に、しかも結構鬼畜でハードなプレイをしている光景にしか見えない

と言うかそれ以外のなんでもない

 

「そもそもそんなもんどっから持ってきた」

 

「時雨がいつも山城に使ってるのを借りたっぽい」

 

「よーしあのバカップル、後で覚悟しとけよ」

 

山城と時雨はこの鎮守府では定番のバカップル(時雨の一方的な愛だが)2人ともところ構わずイチャイチャしている

 

 

だからって妹に犬の首輪はまずいだろ!?

 

「ねぇ、ダメっぽい?」

 

夕立は俺の服を強く掴みながら、上目遣いで提督を見つめる夕立はまるでご主人様にすがりつく子犬のようだった

その姿が酷く愛おしく、気がつけば提督は夕立の頭を優しく撫でていた

 

「ん、気持ちいいっぽい·····」

 

そう言いながら提督の手をその小さな手で掴み、そのまま俺の手を、夕立のとても柔らかく、雪のように白い肌で、俺の手を犬が甘えるように顔に擦り付けた

 

────ああ、ヤバい

 

俺は心の中でそう呟き、理性の糸がさっきっからギチギチと千切れる一歩手前まで来ていた

もしもこのまま俺の欲に従って夕立を襲い、このまま自分だけのものにしてしまおうか、そう思う自分もいて、夕立を俺だけのものにしたいという独占力も芽生えている

 

夕立もそれを望んでいる

 

「夕立、手を離せ」

 

「········はい」

 

夕立は聞き分けが悪く、俺のお願いをなかなか聞いてくれない

しかし、提督である俺の“命令”ならば直ぐにそれを実行する

 

夕立はどこか寂しそうな、悲しそうな、もっと触れていたいと言いたそうな顔でゆっくりと手を離してくれた

その顔を見ていると、胸が痛い

 

俺も大概夕立や、ここの艦娘には本当に甘いな

もう少し厳しくなるべきか?いいや、こんな可愛い娘たちにこれ以上厳しくなんてできるか?出来るわけないだろう!!

さて、話はそれたが、

 

「夕立、首輪を外せ、これは"命令"だ」

 

そう言うと、床にペタンと座り込んでいる夕立は、涙目になりながらも、首輪に段々と手が伸びていき、そのまま首輪を外そうとした時だった

 

暁「提督ーー!朝ごはん一緒に食べましょーー

!!」

 

「··········OMG(オーマイガー)

 

そう言えば今朝の八時だった。

暁が入ってきたタイミングは、夕立が泣く一歩手前で、しかも首輪のリードは俺が持っており、しかも、夕立は首輪を外そうとしていたタイミングで、俺は椅子に座り、夕立は床に座り、その高さはちょうど俺の股の近く。言わば、『へっへっへっ、さーて俺の息子を可愛がってもらおうか?』とか言うエロ同人でよくありありな状況である

完全に鬼畜プレイをしている提督の絵面にしか見えなくね?

 

 



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