境界線のハイウインド (こねこねこ)
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1.出会いから旅立ちまで(1)

1

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆらゆらと、水の中をたゆたうような感覚。

 

朧気な意識の中、見上げた先にあるものはいつも眩い"空"だった。

陽の光は勿論のこと、夜闇を照す月に星明かりに。

いつもいつも、見上げる全てに眩さを覚えていた。

 

俺が"俺"というものを認識してから、それはより一層強いものとなり。

馬鹿みたいな笑い声と共にいつもいつもよく俺を深層から苛んだものだ。

 

 

 

 

 

最後の記憶。

 

コロセコロセと喧しく反響する意識と共に、

 

俺の身体に剣を突き立てた"アイツ"の顔が

泣きそうな程に情けなく歪められていたのを、

 

やけに、強く憶えている。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.1》

 

 

 

 

 

 

 

ハイリア湖畔。

 

勇者の手により平穏を取り戻したそこは、朝特有の冷えた空気に包まれていた。

 

石碑の前に緑色の姿がひとつ。

 

昇る朝陽に向かい矢をつがえ、弓を引き絞る。

 

放たれた矢はしかし情けなくも勢いを無くし、かさの増えた・・・否、本来の水位を取り戻した湖面へと吸い込まれていった。

 

「・・・まぶしい・・・」

 

時の勇者、リンク。

務めのひとつを見事に果たし終えた筈の青年の顔は、未だに晴れなかった。

目に沁みる陽の光から逃げるように、背を向けて俯きその場に座り込む。

 

「もう!何してんの?早くしないと朝日のぼっちゃうヨ!」

 

そんな様子を見て、それまで辺りを漂うのみであった青白い光が声を上げる。

 

ふと再び東へ目をやると、今まさにその輝く太陽は東の山の稜線から完全に離れ、空に真円を描き出したところだった。

 

「あ~あ・・・」

「・・・ごめん、ナビィ」

 

ぐんぐん昇っていく太陽の強まる陽射しから再び逃れるように目を逸らす、その時。

 

ざわりと、肌が粟立つような悪寒。

 

「っ、リンク!あぶない!」

「・・・!?」

 

一瞬だった。

 

リンクの影から黒い何かが溢れ出し、伸びてきた手に喉元を掴まれそのまま地面に叩き付けられる。

 

「がッ・・・!」

 

息が詰まり、一瞬飛びかけた意識を引き戻せば目の前にあるのは

 

深紅。

 

見開かれた紅い眼だけが爛々と輝いて、逆光になった身体は背にした青空とも相まって黒一色。

・・・いや、元々黒いのだ。

 

勇者を片手で地に縫い止めた"それ"は、色合いを除けば勇者リンクそのものと全く同じ姿をしていた。

 

確かに神殿で倒した・・・この手で殺した筈の、自分の影。

 

至近距離にある鏡合わせのような瓜二つの顔。

その口元がニィ、と月弧を描いた。

その形相に勇者はただ驚きと息苦しさに思わず目を見開く。

 

(・・・どう、して)

 

何故、と疑問が頭を掠めると同時に、喉首を押さえ付けているのとは反対の手に握られた黒い剣がキラリと陽光を反射した。

 

キシッ、と軋むような笑い声が小さく響く。

 

「リンクーーー!!」

 

ナビィが叫ぶのと、勇者の心臓目掛けて黒い刀身が真っ直ぐに突き立てられたのは同時だった。

 

剣が抜かれ、傷から鮮血がどっと溢れ出し緑の衣を黒々と染めてゆく。

ようやく解放された喉からもごぼり、という音と共に血が溢れた。

 

動かなくなった勇者に興味をなくしたのか、引き抜いた剣を無造作に放り捨て影はドサリと岸辺に座り込む。

 

「リンク!リンク!!しっかりして!!」

 

傍らに寄り必死に呼び掛けるナビィの声。

それに呼応するが如く、やがてリンクの懐から光が洩れ出した。

 

粒子を振り撒きながら翔び去る薄桃色の小さな光の珠。

 

包む光が傷を癒し、やがて勇者は息を吹き返した。

 

「リンク!!」

「ゴホッ・・・!!かは、」

 

地に手を付いて上半身を起こし、気管に入り込んだ自らの血液に噎せ返る。

 

「ああ、よかった・・・!妖精持ってたんだネ!ナビィもうダメかとおもった・・・!」

「ッは・・・、はぁ・・・、」

 

息を整える間に安堵の声を掛けてくる相棒。

それに片手で応え、リンクはナビィに問い掛ける。

 

「ナビィ・・・アイツ、は?」

「、アソコ・・・」

 

見れば、やや離れた岸際に黒い影。

座り込む"それ"は、何をするでもなくただぼんやりと空を見上げていた。

 

「・・・!?」

 

予想外に近くに居た敵の姿に、思わず起き上がり体勢を整える。

 

・・・しかし、いつまで経っても影は動く気配が無い。

 

「・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・お、おい」

 

痺れを切らし、リンクが先に声を掛けた。

だが反応は無い。

 

「・・・・・」

「おいってば!」

「・・・あ"ァ?」

「!!」

 

しつこく食い下がれば、不機嫌な声と共にようやく顔と視線だけがリンクの方へと向けられる。

ギラリと睨め付けるその眼光に射抜かれたかのような錯覚をおぼえ、リンクはビクリと肩を震わせた。

 

 

「・・・・・」

「・・・お、オレ、復活したんだ、けど」

 

少しだけビビりながらも言葉を絞り出す。

 

「・・・だから?」

「!?」

 

返ってきた予想だにしない問いに、勇者は驚きただ困惑する。

人語を話すという点と、その内容に。

 

「た、戦わないのか・・・?」

「・・・ヤリてぇのか。」

「え!?あ、いや・・・えぇ?」

 

これではまるで自分の方が望んでいるかのようで。

混乱してしどろもどろになってしまった勇者を余所に、影は再び視線を天へ投げ掛けた。

 

それきり動こうともせず言葉も発しない"敵"の姿に。

リンクはどうすれば良いのか判らず、いつまでもただ呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

[つづく。]



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2.出会いから旅立ちまで(2)

2

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらリンク!頑張って!」

 

ナビィの声が辺りに響く。

 

「く・・・」

「あぁもうほら!しっかり狙わなきゃ!」

 

叱咤されるその姿は、前日の同時刻とほぼ同じだった。

朝日に向かい弓を引き絞る時の勇者。

 

「ちょ、ま・・・やっぱり無理、まぶしい・・・」

 

その目は時たま薄らと開かれるのみで、矢の狙いはどうも頼りなく覚束無い。

 

「もー!そんなに見たくないんだったら目瞑ったままあっちに向かって撃ちまくればいいじゃない!一本くらい当たるかもよ!」

「そんな勿体無いこと・・・あっ」

 

そうこうしているうちに、今日も矢が命中することなく朝日は昇ってしまう。

 

「貧乏性なんだから、もう・・・」

 

・・・幾度目とも知れないナビィの溜め息が小さく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.2》

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

近付いても何の反応も返さないことを確認し、岸辺に座り込む影の隣に勇者は腰を下ろした。

 

「・・・なあ、ホントにいいのか?」

「・・・・・」

「戦わなくて」

「うるせぇな・・・殺すぞ」

「もう殺されたよ、一回。妖精持ってなきゃホントに逝ってた」

 

妖精は、詰めたビンの蓋を開けない限りどんなに瀕死で辛い状態でも助けてはくれない。

自ら効力を発揮するのは持ち主が力尽きたその瞬間のみ、つまりリンクは間違いなくあの時の一撃で葬られたのだ。

服の左胸は未だに赤黒く染まり穴も開いたままである。

 

溜め息混じりに言えば、影は視線だけを勇者に向けた。

 

「・・・・・てめえがもうセコい真似しねぇってんなら相手してやってもいいが」

「う、・・・」

 

鋭い眼光に睨まれリンクは再び言葉に詰まってしまう。

 

「だって、あれは、その・・・!」

 

神殿で対峙したあの時、正直言って真っ向勝負で勝てる相手では無かった。

しかし負ける訳にはいかなかったリンクは持てる手段全てを使って応戦したのだ。

 

爆弾をぶつけ、弓矢で蜂の巣にするかの如く矢を浴びせ、ディンの炎で焼き払い。

さらにデクの実で目潰しまで狙い、薬と妖精をフルに使って体力を維持させ、メガトンハンマーで剣を叩き折り、そこまでして。

剣一本で戦う相手に対しそこまでしてようやく、リンクは勝ちを掴みとったのだ。

 

「つ、強すぎるんだよ・・・仕方無いじゃないか!」

「何が時の勇者だ、笑わせんなカス」

「・・・勝てば官軍」

「死ね」

「どわぁ!!」

 

首を狙って飛んできた剣先をスレスレでかわし、リンクは思わず仰け反る。

 

「ああああぶあぶあぶ危ない!!」

 

慌てて距離をとるが、舌打ちを溢した影はそれ以上追撃してはこなかった。

 

「・・・・・」

 

やはり、自分から仕掛けて戦う気は無いらしい。少なくとも今は。

 

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・なあ、」

 

影の手から剣が溶け消えたのを見て、リンクが再び声を掛ける。

 

「・・・・・」

「なんで襲ってきたんだよ」

「・・・・・」

「・・・神殿で」

 

何とか勝てたものの、あんなに後味の悪い戦いもそうないものだった。

自分と同じ顔を、姿をした相手を殺す。

自分の手で。

 

あの時の生々しい感触は、未だに消え去ってくれない。

 

暫くの間が空き、リンクが諦めかけた頃・・・空を見上げたままぽつりと影が呟くように溢した。

 

「・・・殺せ殺せって、喧しかったんだよ」

「・・・ガノンドロフ?」

「知るか」

「・・・、じゃあ、さっきは?」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・仕返し」

 

言われてリンクがふと思い返してみれば、さっきの自分の殺され方は神殿で影にトドメを刺した時とほぼ同じ方法だった。

 

・・・しかし、『仕返し』とは。

命令云々よりも、癪だったからやり返したという事なのだろうか。

 

「・・・オレ、今生きてるけど」

「・・・・・」

「いいのか、殺さなくて」

「もう殺した」

「え、いや、だから・・・」

「死んだ後の事なんざ知るか」

「・・・へ・・・?」

 

一度トドメを刺した後は復活しようがどうしようがどうでもいいという事か。

 

「・・・?ガノンドロフからオレを殺せって命令されてるんじゃ・・・」

「・・・しつこいなァ・・・死にてえなら正直にそう言えよ」

 

繰り返す質問にいい加減嫌気が差したのか、見開いた眼をギラリと輝かせて影は再び剣を手にした。

 

「うわ、ちょ!違う違う違う!!オレから争う気は無いって!!」

 

首と手をぶんぶか振りながら再び慌てて距離をとる。

アイテムも装備も残り少ない今、マトモにやり合って勝てる気なんて全くしないのだ。

下手をしなくても本当に死んでしまう。

 

完全に逃げの態勢に入っている勇者をしばらく追い回した後、相手をするのが馬鹿らしくなったのか影は再び剣を霧散させ元の位置に腰を下ろした。

 

意外に早く追撃が止んだ事に驚きつつ、勇者は三度影の近くまで寄ってくる。

 

「・・・・・」

「・・・オレ、そろそろ行くよ」

「・・・・・」

 

返事は無い。

 

「お前、これからどうするんだ?」

「・・・・・」

 

あくまで無視を決め込む影にリンクは一つ息を吐き、黙って踵を返した。

 

 

 

「・・・リンク、どーしてあんなに構うの?アレ一応モンスターなんだよ?」

 

つり橋を渡り距離がやや離れた頃、ずっと帽子の中に隠れていたナビィがおずおずと声を掛けてくる。

 

「んー・・・、何だろ。オレもよくわかんない。」

 

リンクは苦笑を溢し、片手で頬をポリポリと掻いた。

 

「でもさ、あいつ何だか神殿で戦った時と雰囲気違うと思わないか?もうあっちからは襲ってこないみたいだし」

「襲われたよきのう!ほんとに死んじゃうかとおもって心配したんだよ!?」

「あれは・・・仕返しだって本人も言ってたし、オレもまだ生きてるからまあいいじゃん」

「ナビィそういう問題じゃないと思う・・・」

「まあとにかく、・・・なんか気になってさ。ほっとけなかったんだ」

 

そう呟くように言いながら、リンクは足元に視線を移す。

陽の光に照らされているにも関わらず、そこに影は無かった。

それを見たナビィもふわりと舞いながらしみじみと言葉を溢す。

 

「・・・ホントにリンクの影なんだね、アレ」

「うん。・・・ナビィ、とりあえず村まで戻ろうか」

 

矢も無くなったことだし。

・・・と、そこまで言った所で急にリンクの足が止まった。

 

「?リンク、どうしたの?」

 

訝しげにナビィが問う。

 

「あ、あれ・・・?なんか、進めない・・・」

「え?」

 

体が動かない訳ではない。

しかし、リンクの身体は何かにつんのめったように先へは進まなかった。

 

「お、おかしいな・・・あ、でも頑張ったら行けそう」

「???」

 

後ろに引っ張られているような感覚にも似ているがよく解らず、無理矢理動かそうとリンクは思いっきり力を振り絞る。

 

「んぐぐぐぐ・・・ぬりゃあ!!」

 

そして、一歩。

 

「よし!」

「うおわ!!?」

 

踏み出したと同時に聞こえた悲鳴はリンクのものでは無かった。

 

「「・・・え?」」

 

勇者と妖精、顔を見合せてから揃ってゆっくり背後を振り返る。

 

その視線の先では、

岸辺で間抜けにもひっくり返っている影が居た。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ!]



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3.出会いから旅立ちまで(3)

3

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬何が起こったのか解らなかった。

 

後ろから何かに引っ張られるような妙な感覚を覚え、また勇者の馬鹿が何か始めたのかと思いながら放置していたが。

徐々に強まる"それ"に苛立ちが募り、振り向こうとしたその瞬間。

強烈な引力に引かれたかのように体が勝手に後方へ仰け反った。

 

「うおわ!!?」

 

我ながら情けない声を上げ、勢い剰ってそのまま派手に半回転。受身をとる隙もない。

 

反転した視界の中、奴と妖精が遠目にこっちを凝視しているのが目に入る。

 

・・・その瞬間、俺の中でブチリと何かが切れた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.3》

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

「だからっ!オレっ!何もしてない!んだっ!てっ!」

「うるせえ殺す」

「ちょ待っ!あっ!わ!うわああああ!!」

 

雨のような剣戟を盾で防ぎながら後退していたリンクは、終には足を踏み外し湖面へと落ちていった。

 

ざぼん、と水音と飛沫を上げ消えた緑色の姿に影が悪態を吐く。

 

「ッち・・・、・・・・・ぅお!?」

 

追うか否か瞬巡するうちに、再び強く身体を何かに引かれ影もその身を水中へと躍らせた。

突然の事に声は上げたものの、元より水魔である影は動じることなくすぐさま湖底を走る緑色を視界に入れる。

 

「(・・・あンの野郎ぉぉぉ・・・!!!)」

 

一瞬で頭に血が昇った。

 

彼が人間であったなら、今まさにその表現が相応しかっただろう。

 

血の通わぬその身を水に半分同化させ、殺気を隠しもせず影は勇者へと一瞬にして距離を詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、その勇者はというと。

 

水に落ちた際浮上しては逃げられないとヘビーブーツを履き、咄嗟に着替えられなかったであろうゾーラの服で口元を覆いながらひたすら水底を走っていた。

 

「(やばいやばいやばいアイツめちゃくちゃ怒ってた・・・!何でこんな目に遭ってんのオレ!!)」

 

わけわかんない、と涙目になりながら必死に走っていると。

何もない筈の場所で再び急にリンクの体はつんのめった。

 

「うわ!」

 

大きくよろけた体を起こそうとしたその矢先。

頭上を何か黒いものが猛スピードで前方へ過ぎていった。

 

「(へ・・・?)」

 

嫌な予感に恐る恐る視線を上げれば。

 

そこには、鬼のような顔で睨む、黒い、影が。

 

「・・・ヒィ!!」

「よぉ・・・ヒトの事散々引っ張り回してどこ行く気だぁ・・・?」

 

ニンマリと口元が弧を描く。

しかしその声色と紅く輝く眼はまったく笑ってはいない。

 

お前人じゃないじゃん、とか。

別に引っ張ってたわけじゃない、とか。

リンクの頭に次々と浮かんだ言葉は、どれも喉の奥で突っ掛かってしまい口に出すことは無かった。

 

・・・恐らく先程、もう少し身体を起こすのが早かったならその首は胴体から離れていただろう。

 

「(どどどどどうしよう・・・!)」

 

硬直する手で盾を構える。

利き手は口元に当てたゾーラの服の為に塞がっていた。

離せば息が続かないし、相手はどうか知らないが水中では剣も使えないのだ。

 

狼狽するばかりのリンクに影が剣を振りかぶった、その時。

 

「ねえ、待って!」

 

ずっと帽子の中に隠れていた青い妖精が二人の間へ割り込んだ。

 

「ナビィ!?」

「何か勘違いしてるよ!リンクほんとに何もしてないんだヨ!」

「・・・あァ?」

「リンクが引っ張ってる訳じゃないの!アナタと戦う気もないんだよ?どうしてこんなことになってるかアタシ達にも分からないの!」

「そ、そうなんだよ!俺のせいじゃないんだって!」

 

必死に訴えかける一人と一匹に、影は。

 

「知るか」

「がふッ」

「キャアアアリンクー!!」

 

考える素振りすら見せず即座に剣を振り下ろした。

切り裂かれたリンクの身体がよろめき、膝を着くその瞬間。

 

強烈な光が、影の眼を灼いた。

 

「・・・ッ!!?」

「キャー!!」

 

妖精の悲鳴と白く染まる視界。

堪えきれず腕で顔を覆う影もろとも、今なお強まる光はその場に居た者全てを呑み込んでいった。

 

 

 

 

 

「・・・ぇ、ねえ、しっかりして!リンク!ねえってば!」

 

キンと頭に響くナビィの声。

 

「・・・ぅ・・・あ・・・?」

 

やや顔を顰めて、リンクはゆっくりと眼を開けた。

水の中にいたはずなのに、視界に入ったのは一面の青空だ。

 

「リンクー!」

「ナビィ・・・?」

 

胸元に飛び込んできた妖精を抱き止め、はぁ・・・と溜め息を吐き呟いた。

 

「オレ・・・今度こそ死んだかと思った・・・」

「それはこっちの台詞だ」

「ぎゃあああああ!!?」

 

いきなり聞こえた声に思わず悲鳴を上げ後ずさる。

見ればすぐ傍らに先程まで剣を向けていた影の姿。

地面に胡座をかく彼はいきなり上げたリンクの大声にあからさまに眉を顰めて睨め付けた。

 

「うるせぇ」

「あ、ごめっ、え?てゆーか、え?なんで?」

「だから俺の台詞だっつってんだろボケ。なんで生きてんだ」

「えっ・・・いや、わけわかんないんだけど・・・」

 

困惑するリンクに、影は無言でスッと人差し指を向けた。

指された先は、リンクの胸元。

 

「?・・・え?あれっ?」

 

傷が、無かった。

体の傷は勿論のこと、服の穴まで塞がっている。

自分の体のあちこちを見回して全く問題がないことを確認した後、リンクは影に視線を戻してポツリと呟いた。

 

「・・・なんで?」

「だから俺が訊いてんだよ」

「いや、オレも何がなんだか・・・てっきりお前に殺されたと思ってて・・・」

「何回斬っても変な光で復活すんだよてめえふざけんな」

「えっ」

 

固まるリンクにナビィがそっと耳打ちする。

 

「リンク・・・さっきまでメッタ刺しにされてたんだよ・・・」

「えっ」

「刺そうが斬ろうが刻もうが同じだ。一体何しやがった」

「えっ」

 

自分の知らない所でとんでもない目に遭っていたらしい、リンクはしばらく顔を引き攣らせて固まっていた。

 

「何とか言え」

 

幾分の間を置き痺れを切らした影が苛立ちを露にすると、ようやくリンクは口を開く。

 

「えっ・・・あの・・・えーと、とりあえず・・・気は済んだ?」

 

ごすっ、と鈍い音を立てて黒い靴底がリンクの顔面にめり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえリンク、アタシ思ったんだけど」

「・・・なに?」

 

ふよふよとナビィが辺りを翔び回る。

リンクは鼻血を押さえる手をそのままにくぐもった声で返事をした。

 

「リンクの影なんだよね?」

 

ナビィの視線の先には、どこか不貞腐れたような顔でそっぽを向いた影が居る。

 

「うん、そうみたいだね」

「だからじゃない?」

「・・・何が?」

「引っ張り合っちゃうのって」

「へ?」

 

ナビィの言葉が気になったのか、ちらりと影も視線を寄越した。

 

「だって、原因なんて今のところ他に思い付かないもん」

「・・・そうか・・・そうなのかな?どう思う?」

 

リンクは暫く考え込んだ後、影にそう訊いた。

 

「俺が知るか」

「うーん・・・」

「リンク、どうするの?」

「どうするって?」

「このままココに居るわけにはいかないんだよ?早く賢者探さなきゃ」

「そうだね。そろそろ出発しようか」

「でも、離れられないじゃない」

 

ナビィの困ったような声音に、リンクは何て事はないといった顔で言い放った。

 

「え?そんなの、みんな一緒に行けばいいじゃん。」

「「・・・はぁ?」」

 

ずっと黙って聞いていた影とナビィの声が綺麗に重なる。

その様子にリンクはキョトンとした顔で影に訊いた。

 

「え、お前何かココでする事あるのか?」

「そういう問題じゃないよ!!リンクのばか!!何考えてるの!?」

「馬鹿だろ。お前馬鹿だろ。なんでそうなるんだよ馬鹿だろお前」

「二人揃ってバカバカ言うなよ!バカって言った方がバカなんだぞ!!」

 

思わぬコンビの集中砲火に遭いリンクは思わず涙目で言い返した。

しかしナビィは尚も言いつのる。

 

「さっきまで殺されかけてたんだよ!?そんな相手と一緒に旅するの!?」

「でもオレ死んでないよ?」

「そうだけど!その理由もわかってないじゃない!危ないよ!」

「そうは言ってもさあ・・・実際どうしようもないじゃん。離れられないし、だからって戦っても勝てないし」

「それもそうだけど・・・!寝首掻かれたらどうするのさ・・・」

「それで死ぬならさっき死んでるよ、オレ」

「うぅー・・・」

 

ナビィの声は段々と弱まり、終いには何も言えなくなってしまった。

リンクの言う通り、現状では何も出来ることが思い付かなかったのだ。

 

「何とかなるよ、きっと。・・・な?」

 

ナビィを宥めて影に視線を移せば、解せぬという顔で眉間に皺を寄せたままじっとリンクを睨んでいた。

 

「・・・訳が解らん」

「それはオレもだけどさ。殺されないっぽい事だけはわかってるし、どうしても嫌だってんならそれこそ引きずって行くしかないんだけど」

「冗談じゃねえ」

「だろ?なら一緒に行けばいいんだよ」

「・・・・・」

 

これが先程まで殺されかけていた相手に言うセリフか。

二人はもはや呆れ返って言葉も出なかった。

・・・が。

 

影は暫し思案する。

どの道目的も何もなく無駄に生き延びた命だ。

神殿の中に居た時やけに煩かった頭の中は、勇者の傍らで目覚めた辺りから妙にスッキリしていた。

 

縛るものは何もない。

・・・この、目の前に居る阿呆以外は。

 

「・・・ちっ」

 

悪態を吐き、影はその姿を溶かしてリンクの足元へ潜り込んだ。

 

「お?なあコレ、同意したってことでいいんだよな?」

 

リンクの問いには答えず、一瞬の後には影は神殿に入る前とほぼ変わらない状態となった。

一見すると何の変哲もない。

 

リンクはそれをしげしげと眺めた後、地面に張り付いた自分の影をコンコンと叩いてみる。

 

「・・・もしもーし?」

 

するとふいに影から剣先がヌッと現れリンクの手をグサリと刺した。

 

「いってぇ!!!」

「叩いてんじゃねえよ」

「だからっていきなり刺すことないだろ!!ごめん!!」

 

相変わらず不機嫌な声が地面の影から聞こえてくる。

彼が確かにそこに存在することを確認したリンクは涙目で手を拭った。

それきり黙り込んでしまった影に、ふとリンクは思い出したように問い掛ける。

 

「あ、なあ、名前!何て呼んだらいいんだ?」

 

答えない影の代わりにナビィに顔を向けると、どうやら「ダークリンク」という名称らしい。

 

「ダークリンク・・・じゃあ、ダークな?いい?」

「・・・勝手にしろ」

 

もうすっかり旅の連れのつもりらしい、どこか嬉々としたリンクの台詞に影は・・・ダークはそう吐き捨てた。

 

「ナビィもうどうなっても知らないからね・・・」

「大丈夫だって!・・・たぶん。さ、行こう!」

 

呆れと疲れの滲むナビィの声にに明るく応え、リンクは湖を背に歩き出す。

 

 

 

・・・こうして、勇者一行の旅に奇妙な同行者が一名加わった。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]



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4.カカリコ村で

4

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンク~・・・大丈夫・・・?」

 

ナビィの心配そうな声音に、聞こえているのかリンクはガボゴボと泡を吐き出して返事をした。

 

川に頭を突っ込んだまま、なんとも情けない格好でしばらく清流に身を浸す。

ぶはぁ!とようやく顔を上げたリンクは、怒気を含んだ声で背後に向かい叫んだ。

 

「ダーク!!いきなり何てことするんだよ!!・・・って、アレ・・・?」

 

しかしそこに居た筈の相手の姿が見当たらず、面食らった顔で辺りを見回す。

 

「リンク、あっち」

 

ナビィの声に視線を移せば、川のやや上流で竿を振っているダークの姿があった。

 

「!?ちょ、おま!!何してんの!!?」

 

それまで見向きもしなかったダークは、走り寄り至近距離で叫ばれてようやくリンクへと顔を向けた。

 

「・・・ハァ?見てわかんねえのか、釣りだ釣り」

「それは判ってるよ!なんで今お前がそれ持ってるんだ!?」

 

ダークが手にしている釣竿はどう見ても、ハイリア湖畔を出る前に寄った釣り堀で使っていた物だった。

 

「なんで持ってきてるんだよおおお!持ち出し禁止だって言われてただろ!?怒られるのオレなんだぞ!!」

 

罰金取られるー!!と頭を掻き毟って叫ぶリンクに、ダークは冷ややかな視線を浴びせ「知ったことか」と冷たく言い放った。

 

「ギャーギャー喚いてんじゃねえようるせえな。テメエが起きるまでの暇潰しに丁度良い」

「じゃあ釣りして待つならあんな起こし方しなくても良かったじゃんか!尚更悪いよ!・・・はぁ・・・全くもう・・・」

 

段々叫び疲れてきたのか、溜め息を吐いてぐったりとうなだれたリンクの姿に・・・ナビィはやはり止めるべきだったと後悔した。

 

・・・時は数刻前に遡る。

 

「ダーク」

「何だ、妖精」

 

青白い光の珠がひらりと舞う。

薄羽を僅かに震わせ、ナビィは影に問い掛けた。

 

「・・・何してるの、さっきから」

「見てわかんねぇか?」

 

ダークは視線を前へ向けたまま、焚火の上でコポコポと音を立てるビンの中身を確認して充分に熱したそれを持ち上げた。

 

「それ、リンクの牛乳だよ・・・?そんなのあっためてどうするのサ?」

 

まさか飲むつもりではないだろう。温める必要は別に無いし、昨夜リンクが夕食を摂っていた際に人間と違い食物の類は必要でないと言ったのはダーク本人だ。

 

ビンの中を半分ほど満たす白い液体は、沸騰寸前まで加熱され薄い膜を張っている。

ビンごと火にかける事自体どうかと思うのだが、それよりもソレの使用用途がどうにも気になった。

 

「そこの馬鹿を起こす」

 

ダークはそれだけ言うと、いまだ地面に横たわり毛布を被って寝息を立てるリンクへと近付いた。

 

「え!?ちょっと待って!!まさかそれぶっかける気じゃないでしょうね!?」

 

嫌な予感がみるみる現実味を帯びたナビィは思わず光を明滅させ静止をかける。

 

「・・・は?かける?違うな。」

 

ダークは全く起きる気配の無いリンクの傍らにしゃがみこみ、

 

「こうすんだよ。」

 

手に持った牛乳をリンクの耳に流し込んだ。

 

 

 

人間離れした悲鳴を上げたリンクがもんどりうって地面を転がり、川の中へと頭を突っ込んで話は冒頭へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.4》

 

 

 

 

 

 

 

「あ"~・・・まだ片耳おかしい気がする・・・」

 

リンクはぼやきつつ、頭を傾けてトントンと横から軽く叩く。

 

道中妖精の泉へ寄ってきたため傷(?)は完治している筈なのだが、まだ違和感が残っているようでどうにもスッキリしなかった。

 

歩くリンクに合わせてふわふわと飛ぶナビィがポツリと溢す。

 

「・・・ダークが悪いのはモチロンだけど、あんなことされるまで起きないリンクもどうかと思うよ?」

「えー?ダークの肩持つわけ?」

「そうじゃなくて。旅に出てもう随分になるのに、何度モンスターに殴り起こされたと思ってるの?」

 

ナビィが初めてリンクの元へ訪れた際も、起こすのに一苦労したものだ。

七年経ち身体は大人になっても、寝起きの悪さは一向に直る気配を見せなかった。

 

「んー、分かってはいるんだけどなぁ・・・」

 

ぜんぜんわかってない!と憤慨するナビィを宥め、リンクは思い返す。

 

ハイリア湖畔を出て4日目。迎えた朝は3回。

習性の違いなのか単にリンクの寝起きが悪いせいなのか、目覚めるのは今のところ毎回ダークが先だ。

一度目は顔面にフルパワーの蹴りを食らい、二度目は重石付きで崖から川に放り落とされた。

暴力的な起こし方はやめてくれと再三繰り返し言った矢先の今朝のこの有り様なのだが、当のダークはとっくに地面に潜ってしまい全く出てくる気配を見せない。

 

「(まあ・・・コイツが言うこと聞いてくれるわけもないよな・・・オレに無理矢理連れて来られたようなもんだし当たり前か・・・)」

 

半ば諦めたようにはぁ・・・と溜め息を溢す。

 

その時、リンクの頭上でナビィが急に光を明滅させ声を荒げた。

 

「ねぇちょっと、リンク!あれ見て!」

「へ?・・・何だ、あれ」

 

このまま進めば程無くして一行はカカリコ村へ着く筈である。

今居る地点からは遠目に薄らと見えるだけの村の様子に、ある異変があった。

目を凝らしてそれに気付いたリンクの表情が変わる。

 

「煙だよ!村が燃えてる!」

「くそっ・・・!襲われてるのか!?ナビィ、急ごう!!」

 

戦闘があるかも知れない。住人の無事を祈りつつ、装備を素早く整え勇者は駆け出した。

 

 

 

 

 

「どうして、今更この村が・・・」

 

あちこちから火の手が上がる村の中をリンクは走り抜けていく。

既に避難したのか、逃げ惑う人々などの姿は一切無かった。

 

・・・静か過ぎて、不気味なくらいに。

 

「リンク、あそこ!」

「!シーク!?」

 

村の中央に位置する古井戸、その前に佇む後ろ姿。

これまで旅の中で幾度となく手助けしてくれたシーカー族の青年。

駆け寄ったリンクに、彼は振り向く事なく言い放った。

 

「さがってろ、リンク!」

「シーク!いったい何が・・・、」

 

リンクが事情を問い質そうとした矢先。

井戸を囲っていた板が吹き飛び、邪悪な気配が辺りに洩れ出す。

 

「何だ!?」

 

状況を把握出来ずにいるリンクの目の前で、構えたシークの身体が何かに絡め捕られたかのように宙を舞い・・・そのまま投げ出されて地に叩き付けられた。

 

「ぅぐッ・・・!」

「シーク!!」

 

倒れたシークへと駆け寄り辺りへ目をやれば、・・・居た。

漂う黒い靄のような"それ"は、盾を構えるリンクへと目標を定めると一気に迫ってくる。

 

「リンク!気を付けて!」

「ナビィは帽子の中に!くそ、何だこれッ・・・!うわぁぁぁぁ!!」

 

正面に構えた盾は意味を成さず、シークと同様に吹き飛ばされたリンクはあっけなく意識を手放した。

 

 

 

 

 

「・・・う・・・、」

「・・・気がついたか?」

「シーク・・・?」

 

意識が浮上し、痛む体を無理矢理に起こす。

傍らのシークの手には薬瓶。それを見たリンクは目を臥せた。

 

「手当てしてくれたのか・・・、ごめん。助けるつもりだったんだけど」

「・・・あまり無茶をするな。時の勇者に死なれては困る。」

 

咎めるようなシークの言葉だが、その口調からは無事を安心する様子が窺える。

それに対しリンクはあぁ、と少し皮肉に笑って見せた。

 

「・・・それは大丈夫じゃないかな。なんかオレ、死なないみたいだから」

「・・・何だって?」

 

訝しげに問うシークに、リンクはこれまでの経緯を話した。

 

 

 

 

 

「・・・ってわけ。ちなみにダークは・・・、え?あれっ?」

 

視線を下げたリンクは、地面に自分の影が無いことに気がついた。

 

「ナビィ!あいつは!?」

「リンクが倒れてからすぐにさっきの敵を追っかけて行っちゃったヨ。攻撃されたみたいだったから、頭にきたんじゃない?」

「え!?早く言えよ!!それってつまり、」

 

みなまで言い切る前に、座り込んだままのリンクの身体がズルズルとひとりでに動き出した。

 

「うわ、わ、わ!やっぱり!!ちょ、シーク!手!手ぇ貸して!!」

「あ、あぁ・・・」

 

シークがリンクの手をとりその場で支えると、動きはピタリと止まった。

限界距離を超えてダークが離れようとしていたのを、二人分の力で引っ張り留めたのだ。

 

「あーびっくりした・・・まぁ、とりあえずこーゆーワケなんだよ。」

「なるほど・・・」

 

安堵の溜め息を溢すリンクに、しかしシークは神妙な面持ちで何か考え込んでいるようだった。

 

「だからさ、多少は無茶しても平気かなって、」

「・・・リンク、よく聞くんだ。」

 

シークは正面からリンクを見据え諭すように言葉を遮る。

その声のトーンは少し低い。

 

「君は、不死身になったわけじゃない。」

「・・・どういう事?」

「恐らくだが・・・君の命を繋ぎ止めたという光の力が働くのは、そのダークという者に対してだけだ。」

「シーク、何か知ってるのか?」

「確証は無い。しかし、君が魔物にやられた場合そのまま死んでしまっては取り返しがつかないんだ。無茶してはいけないよ」

 

真剣な眼差しに圧され、リンクは記憶を反芻し視線を逸らした。

 

「・・・そう、なのかな?確かに今のところダークにしか殺されてないけど・・・」

「常に妖精を持ち歩くと良い。いざという時の助けになるだろう・・・何度も言うが、君はこの世界に残された唯一の希望だ。神殿の呪いを解ける者も君の他にはいないんだよ」

「・・・、わかった。気を付けるよ。」

 

リンクは一瞬表情を歪ませた後、ゆっくりと頷いた。

それを見てシークは井戸へと視線を移す。

 

「さっきのは、井戸の底に封じられていた闇の魔物だ。インパが再び封印を施す為に神殿へ向かっている」

「インパさんが!?」

 

久々に聞くその名前にリンクは立ち上がった。

王女ゼルダの乳母。シークと同様にシーカー族の生き残りである彼女も、無事でいたのか。

 

「元々封じていたのも彼女の力だからね。」

「そうなのか・・・神殿って、闇の神殿だろ?オレも行かなきゃ」

「ああ。彼女は六賢者の一人なんだ・・・助けてやってくれ。」

 

そう言うとシークはどこからともなくハープを取り出した。

 

「神殿の入口は墓地の下にある。そこへ行くための調べを君に伝えよう・・・今ボクに出来るのは、それだけだ」

「・・・わかった。頼む」

 

シークの奏でる曲をしっかりと記憶に刻み、リンクは時のオカリナを手に墓地へと足を向ける。

 

「村のことはボクにまかせてくれ。リンク、頼んだぞ!」

「ああ!」

 

シークはそれだけ言い残し、煙玉と共に消えてしまった。

 

「よし、行こうナビィ」

「うん!・・・ってリンク、アレ」

「え?」

 

ナビィの声に目をやれば、猛スピードで近付いてくる黒い物体。

それを見た途端リンクの肩が跳ね上がる。

 

「げッ!!戻ってきた!!うわあああ絶対怒ってる!!!」

「リンク!さっきの曲!はやく飛んでこ!!」

 

返事をする間も惜しんでリンクはオカリナを吹き鳴らし、光に包まれ神殿へとワープした。

 

 

 

・・・しかし当然その光はダークにも及び、着いた先で勇者はまず一太刀浴びるハメとなったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

[つづくー]



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5.闇の神殿(1)

5

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗いよー寒いよー怖いよー・・・」

 

ビクビクオドオド挙動不審になりながらもソロソロと歩く。

 

「もう!しっかりしなくちゃ!勇者でしょリンク!」

 

神殿内に足を踏み入れてから変わらぬリンクのその様子に見かねてナビィが一喝した。

 

「んなこと言ったって怖いもんは怖いんだよ!!明らかにオバケとか出そうじゃん!!」

「逆ギレしないでよ!それにオバケが何!?今までさんざんポウもリーデットも倒して来たでしょ!?」

「モンスターそのものよりこの環境がダメなんだよ!ポウだって倒したの明るい場所でばっかりだったし!!」

「あーもう!いいから進むよ!ダーク先に行っちゃったじゃない!!」

 

徐々に口喧嘩に発展しかけたところで、ナビィが言ったように先行していたダークが壁に凭れ掛かりながら立っているのがリンク達の目に入る。

 

「え・・・待っててくれたのか?」

「遅ぇよ」

「どうしたの?」

 

ナビィの問いにダークの指した先には大きな穴。

ジャンプでは渡れそうにない距離に、いかにもといった的が向こう側の端に付いている。

 

「ああ・・・なるほど」

「フック貸せ」

「え、これ?・・・あっ」

 

リンクが懐から取り出したロングフックを奪い、ダークはさっさと対岸へ渡ってしまった。

 

「あ、ちょ!お前がそれ持ってったらオレどうするんだよ!」

「もう一本持ってんだろうるせえな」

「・・・あ、そうだった」

 

通常のフックショットを使いリンクも同じように渡る。

その間ダークは待っていたものの、フックを返せというリンクの要求には応じなかった。

 

「・・・ていうか、行き止まり?」

 

少し歩いた先には正面に壁。

訝しげに近付いたリンク達の耳に低く怪しい声がどこからともなく響いた。

 

『カカリコ村に伝わる真実の目を持つ者のみ闇は道を開くであろう』

 

途端にビクリと肩を震わせリンクが辺りを見回す。

 

「ななななななにいまのこえ」

「真実の目・・・何のことカナ?」

 

ビクつくリンクにはもはや構わず、ナビィは聞こえた単語を反芻した。

すると後ろに居たダークが痺れを切らしたように口を開く。

 

「おい何立ち止まってんだよさっさと行け」

「え?いやだって行き止ま・・・おわ!!」

 

背後から蹴りを食らったリンクは頭から壁に突っ込み・・・すり抜けそのまま床に顔面をぶつけた。

 

「んぶぇ!!」

「えっ、すり抜けた!?」

「・・・さっきから何言ってんだてめえら」

 

呆れたように言うダークに、ナビィは身体を半分壁に入り込ませ訊いた。

 

「ダーク、もしかして・・・ここの壁見えてないの?」

「は?んなもんどこにある」

 

実際すり抜けた訳だからここには無いようだが、リンクとナビィにはしっかりとリアルなドクロ柄の壁が見えている。

しかしダークにはどうやらそれが見えていない。

・・・これは、つまり。

 

ピンときたナビィはいまだ床で蹲るリンクに体当たりをかました。

 

「・・・い、痛い・・・・・」

「ほらリンクいつまで寝てるの!この神殿、多分ダークが居ればなんとかなるヨ!」

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.5》

 

 

 

 

 

 

 

『我がクチバシを真実のドクロと対面させよ』

 

拓けたフロアに着いた途端リンク達の耳に響いたのは、先程と似たような重々しい声。

 

「ダーク、"真実のドクロ"・・・どれか判る?」

 

ナビィがそう訊けば、ダークは部屋をぐるりと見回し口を開いた。

 

「真実も何も髑髏は一つしかねえぞ」

「・・・やっぱり。ダークにはこの部屋の本当の姿が見えてるんだね」

「なーどういう事?」

 

未だにわけがわかっていないリンクと、恐らくダークも視線で説明を求めている。

部屋の中央には鳥の像、その周りに立つ6本の柱。

ナビィはそれをなぞるように翔びながらリンクへ問い掛けた。

 

「この部屋にドクロはいくつあるように見える?」

「へ?・・・6コ。」

「・・・なるほど」

 

リンクの答えにダークの表情が変わる。

戻ってきたナビィは解説を続けた。

 

「アタシもそう。けどダークにはドクロはひとつしか見えてない。多分、この神殿にはさっきの壁とか今みたいな幻覚・・・幻術か何かが多く掛けられてるんだヨ。そしてそれが何故かは知らないけどダークには効かないんだわ」

「んじゃ、真実の目ってのはそれを見破る力のこと?」

「そうでしょうね。もしかしたら、この神殿に来る前に何か手に入れなきゃいけないアイテムか何かがあったのかも」

 

それを聞いたリンクの顔がぱっと明るくなる。

 

「なんだ!てコトはダークに道案内して貰えばこの神殿すぐ終わるんぅべふっ!!」

「・・・随分都合の良い話だなぁオイ・・・」

 

言葉の途中で頭を傍の柱に叩き付けられ、リンクは再び奇声を上げた。

すりおろさんばかりにゴリゴリと手でリンクの顔面を押し付けるダークは見るからに不機嫌である。

よりにもよってリンクに都合のいいように利用されることをそもそも彼が良しとする筈が無いのだ。

それはナビィも既に理解していた。

 

「・・・素直に手を貸してくれるなんてアタシも思ってないよ。でも奥に行きたいのはアナタも同じでしょ?どうせリンクが此処で詰まってたら皆動けないんだし、ココは協力してくれない?」

 

ふわりと舞い正面から見詰めてくる妖精を暫く凝視した後、ダークはようやく手を離した。

 

「・・・いってぇー・・・」

「足手纏いになるようなら殺す」

「・・・善処はするワ」

 

ナビィはひとつ溜め息を溢す。

・・・リンクの様子を見ている限り、そうはならないと言い切れないのが辛いところであった。

 

 

 

 

 

『聖者の足を得た者だけが死者の谷を越えるであろう…』

 

そう書かれた看板の立つ大きな穴は"聖者の足"に該当するアイテムが何処かに在るのだろうと判断し、ダークの指示の下他の隠し通路を進んでいく。

 

『真実の目を得た者のみ闇に隠されしものを見るであろう』

 

『闇の神殿…それはハイラルの血塗られた闇の歴史…欲望と怨念の集まりしところ…』

 

『闇に隠されしもの…悪意に満ちたワナ…そして進むべき道も見えない…』

 

「だあああああもうイヤだあああああ!!!!」

 

リンクは堪らず半泣きで声を上げた。

・・・いちいち進む毎に、脅しの如く例の声が聞こえてくる。

 

「うるせえとっとと進め阿呆が」

「そうだよ、今のところ実害は無さそうだから気にしなくていいってば!」

 

半ベソをかくリンクの尻を蹴り上げたダークの、言葉とは裏腹にその顔は笑っていた。・・・いや、嘲笑っていた。

何だかんだで怯えまくるリンクを見ているのは思いの外楽しいらしい。

反対にナビィは激励するものの、いい加減にしろと徐々に苛立ちが募っているようだった。

 

・・・勇者とは一体なんだったのか。

 

しかしそんなリンクも、明確に姿を現す敵に対しては果敢に立ち向かっていった。

辿り着いた小部屋の中で、気味の悪い白塗りのモンスターの顔面をマスターソードでこれでもかと斬り刻む。

 

「ッしゃああああ!!姿さえ見えてればこっちのもんだもんね!!」

「よく言うワ。・・・それだってダークが地面から本体引きずり出すまで散々ビビってたのに」

「結果よければ全てよし!!」

 

誇らしげに剣を掲げて胸を張るリンクにナビィが溜め息を溢したところで、光と共に宝箱が現れた。

中には金の装飾が付いた一足のブーツ。

 

「ホバーブーツね。地面に浮かぶフシギなブーツ。すべっちゃうのが玉にキズ。」

「これがもしかして、聖者の足?」

「そうじゃない?多分これがあれば、さっきの穴も越えられるヨ」

「よし、じゃあ戻ろう!」

 

真実の目と聖者の足の両方が揃い、一行は難なく神殿の奥深くまで入り込んだ。

 

流石に慣れてきたのかリンクが悲鳴を上げる回数も徐々に減り、見える見えないの問題を除けば仕掛け自体もさほど難しいものではない。

単純作業はリンクが担い、方向の指示はダークと主にナビィが出す。

 

「・・・あ、開いた!」

 

死神の鎌を潜り抜け銀のルピーを回収したリンクは、扉の格子が上がったのを確認してダークを振り返った。

 

「もうこの部屋、怪しい所とか無いか?」

「・・・そうだな、あぁ、そこの壁」

「えーと、この奥のトコ?」

「ソコを真っ直ぐ進めば、」

「うんうん」

「穴がある。」

「ッギャアアアアアアアアアアァァァァァァァ・・・」

 

遠ざかる悲鳴の後にドシャリと激突したような音が響き、さらにその後に「いってぇー!!」だの「ダークのばかやろー!!」だのと罵声が飛んでくる。

 

音のタイミングとダーク自身が引っ張られなかったところを見るとそれほど深い穴ではなかったようだが、やがて這い上がってきたリンクの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「・・・もうやだぁ・・・」

 

ダークは腹を抱えて笑い転げ、ナビィがまたひとつ溜め息を吐く。

 

 

 

・・・終着点へ至るには、今暫くかかりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]



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6.闇の神殿(2)

6

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆらゆら揺れる。

ぐらぐら揺れる。

 

「うぇぇ・・・気持ち悪・・・」

「酔っちゃった?」

「よくわかんないけど・・・この揺れ気持ち悪い・・・」

 

闇の神殿、地下深く。底の見えない河を渡る、船とも呼べない船の上にリンク達は居た。

 

「そもそもフネって何なのさ?」

「主に水の上を移動する為の乗り物。海に面してないハイラルでは殆ど見ることはないと思うヨ」

 

アタシも話に聞いただけ、とナビィはリンクの頭上で羽を休めながら言葉を続ける。

 

「・・・まあでも、コレは明らかに普通の船とは違うと思うけどネ」

「それはオレにもなんとなくわかる・・・」

 

この神殿にあるのはどれもこれも不気味な仕掛けや設備ばかり。

これまでの道すがら目にしてきたそれらを思い出し、リンクはひとつ身震いした。

そんな中ナビィがいち早く異常に気付く。

 

「あれ・・・?リンク大変!この船墜ちちゃう、早くどこかに降りて!」

「ぅえ!?わ、わかった!」

 

いつの間にやらダークは一足先に行ってしまったようで、リンクも慌てて後を追い横手に見える岸へと飛び降りた。

 

「あっぶねー・・・」

 

背後を振り返れば、船の姿は既にどこにも無い。

 

・・・あと少しでも降りるのが遅かったら。

 

背筋がうすら寒くなるのを感じ、リンクはそこで考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.6》

 

 

 

 

 

 

 

「えーと・・・」

 

目の前にはまたもや底の見えない谷。

フックの掛かりそうな的は見当たらず、ホバーブーツでも渡れそうにない距離だった。

 

「んー、あっちの扉っぽいけど・・・マップ見たら行き止まりだな」

 

リンクは地図を仕舞い、対岸をじっと睨んでいるダークの隣に立つ。

 

「なんか見えた?」

「鍵付きの扉」

「あーホントだ、向こうの方にうっすらと・・・とりあえずここ渡れないじゃん。足場とか的とかは?」

「ねえな。とっとと鍵取りに行け」

「へーい・・・」

 

となるとやはり横手の扉。リンクはナビィを連れて中に入り、・・・十秒ほどで顔を出した。

 

「一緒に来てよおおおお!!!」

 

涙目で鼻を押さえ訴えるリンクに舌打ちを溢しダークが部屋に入れば、そこは簡易的な迷路のようになっていた。

しかしその仕切りはリンクには見えず、何も考えずに進んでいきなり顔面を強打したらしい。

もう少し打ち所が良ければ死んでくれたかな等と物騒な事を考えながら、ダークはとりあえずルートを示した。

 

「・・・そういやさ、お前何で奥目指してんの?」

 

ふいにリンクが口を開く。

勇者として賢者を目覚めさせる為に神殿を巡るリンクはともかく、ダークが今ここにいるのはどうしてだろう。

自分が引っ張ってきた事は棚に上げ、リンクは傍らを翔ぶ妖精にも目を向けた。

 

「ナビィも言ってたじゃん。奥行きたいのはダークも同じだって。なんで?」

「え、・・・だって、」

 

ナビィが答えるより先に、ダークが口を開く。

 

「売られた、喧嘩は、買う。」

 

区切られた台詞の節々で、眼前に居たフロアマスターが黒い剣に切り刻まれた。

半ば八つ当たりのようなその剣筋にリンクが若干顔を引き攣らせる。

・・・これは多分、聞かなきゃよかったと。

 

「大体なぁ・・・あの時てめえがいつまでも動かずボサッとしてたせいで取り逃がしたんだろうがよぉぉぉ!!あ"ァ!?」

「んぐぇ!!ごめん!それはごめん!!」

 

案の定ダークの機嫌は急降下した。

リンクがシークと話していたあの時、魔物に追撃をかけていたダーク側にリンクが合流していればわざわざここまで出向く必要は恐らく無かったわけである。・・・少なくともダークは、だが。

リンクは首筋を掴まれてがっくんがっくん揺さぶられた挙げ句、地面に落とされ3回踏まれた。

 

その辺にしてあげて、というナビィの声にダークは悪態をつき扉を開く。

リンクは呻きながら起き上がり、首をコキコキ鳴らして溜め息を吐いた。

 

「・・・もっかい殺されるかと思った」

「リンクが再起不能になったらダークだって動けなくなるからネ。一応あれで加減はしてるんじゃない?」

「あんまり下手な事言わない方がいいな・・・」

「そーね。モンスターの御機嫌窺うってのも癪だけど。・・・リンクの影なだけあってホント我が侭」

 

最後にボソリと呟いたナビィの言葉にリンクの眉根が寄る。

 

「・・・オレあんなんじゃないもん」

「何だかんだで中身は子供なのヨ、二人とも。」

 

腑に落ちないリンクがさらに口を開いたその時、扉の先から轟音が鳴り響きダークが部屋からするりと出てきた。

 

「・・・何してたの?」

「ハズレだ」

 

恐る恐る訊くナビィに、幾分落ち着いたらしいダークは一言だけそう言うとさっさと次の扉へ向かってしまう。

顔を見合わせたリンクとナビィは、なんとなくやめておいた方が良い気がして扉の中を見ることなくその後を追った。

・・・探索はまだ続く。

 

拷問部屋としか思えない大量の血痕が残る部屋でカギを拾い、その次の部屋では迫ってくる刺付の壁に囲まれてビビったリンクがディンの炎を暴発させて敵ごと部屋中を焼き払った。

煤こけた宝箱からボス鍵を入手し、船から降りた場所まで戻ってくる。

 

「これといったアイテムも無かったし、どうにかしてあっちまで渡らないとネ」

「あそこに生えてるバクダン花怪しいよなー・・・どうにかして引火させられないかな?」

 

リンクが指す対岸には不自然に群生したバクダン花。

試しにディンを撃つリンクだが、炎は全方向に飛ぶものの対岸までは届かなかった。

ついでに前触れなく使った為に避けなかったダークにまで当たり、一発殴られる。

ボス戦まであと少しだろうに、リンクの体力は既に点滅状態だ。

 

他に何かないかと見回すリンクは、岸の端に数個置いてある壷に目を留めて近寄った。

 

「あ、壷あるじゃん。何か入ってな・・・あっ」

 

しかし触れる前にダークがそれをひとつ拾い上げる。

片手で持ち上げ重さを確かめているらしいダークを、何するんだろうとリンクが黙って見ていると。

彼は一旦距離を置き、大きく腕を振りかぶり助走をつけて勢いよく壷を遠投した。

ぶん投げられた壷はリンクの視線と共に弧を描き、群生するバクダン花のひとつに命中する。

 

「うぉぉストライク・・・って、うわ!わ!」

 

刺激を加えられたバクダン花は他の花もろとも派手に爆発し、側にあった巨大な柱を薙ぎ倒した。

慌てて移動するリンクが居た位置に、柱の像の鼻先が勢いよく突き刺さる。

 

「・・・避けんなよ」

「そりゃ避けるよ!!!」

 

心底残念そうに舌打ちを溢すダークにリンクが叫んだ。

とりあえず足場は出来たものの、どうにも心臓に悪い。

寿命が縮みっぱなしだとぼやくリンクに、ナビィだけが同情して柔らかな光で擦り寄った。

 

 

 

カギを使い先へ進めば、目の前にボス部屋と思わしき豪奢な錠前の扉。

見えない足場をダークの後に続いて渡り、リンクはようやく神殿の再奥に辿り着いた。

 

「やっとボスかぁ・・・長かった・・・」

「リンク、まだ気を抜いちゃダメだヨ。」

「わかってる。・・・この下、だよな?」

 

最後の部屋に入れば、狭い空間の床にさほど大きくもない丸い穴。

ドドンゴの洞窟もこんな感じだったなと下を覗き込んでいると、隣からダークが先に滑り降りた。

 

「あ、待てよ!」

 

慌てて追いリンクが飛び降りれば、そこは暗闇にぼんやりと青白く浮かび上がった奇妙な足場。

 

「・・・なんだここ?」

 

すると。

ふいに現れた巨大な"手"が、ドンッと足場を叩きリンク達の足元が大きく揺れた。

 

「うわ!」

 

ドンッドッドッドッ

ドンッドッドッドッ

 

一定のリズムで叩かれる足場がぽよんぽよんと揺れ跳ねる。

 

「わ、わ、わ、何だコイツ!」

「暗黒幻影獣ボンゴボンゴ!コイツが井戸の魔物だヨ!」

 

ナビィの声に目をやれば、足場を叩く両手の真ん中に首から先が大きな赤い一つ目になった身体が見えた。

しかしそれは一瞬の後に両手を残し掻き消えてしまう。

 

「身体が消えた・・・見えなくなっただけか?」

「ち、目ぇ閉じやがった」

 

ダークがボソリと呟き、剣を手に疾る。

掴もうと迫る掌を潜り抜け、身体があると思わしき空間を斬りつけるが硬い音を立てて弾かれてしまった。

 

「ダーク!・・・ああもうこの足場動きにくいな!」

「リンク、たぶん弱点は隠れてる身体だヨ!」

 

襲い来る両手を躱し、リンクはナビィのアドバイスにダークを振り返る。

 

「さっき見えた赤い目!?」

「・・・だろうな。前に墓石投げ付けたら当たった途端に逃げに入りやがったから間違いねえ」

「は・・・ハカイシ??何やってんのよアンタ・・・」

 

ナビィの言葉を無視し、ダークが今一度斬り付けるもやはり剣は弾かれた。

どうにかして眼を開かせないととリンクが思考を巡らせる。

 

ドンッドッドッドッ

ドンッドッドッドッ

 

両手は攻撃の合間にもリズムを刻みながら足場を叩き、その度にリンクとダークの身体は跳ね気が散って仕方がない。

 

ドンッドッドッドッ

ドンッドッドッドッ

 

「「ッうぜええええええええええええええ!!!!」」

 

叫び声が重なり、リンクの撃った矢とダークの撃ったロングフックが同時に左右それぞれの掌を射止めた。

不気味な呻き声を上げ、両手は暫く掌を振った後に握り拳を作る。

 

「!開いた!!」

「マジ!?でも見えない!!」

 

突進してきた両手の間に向かいダークは嬉々として上段に剣を構えた。

そして耳障りな悲鳴が上がり、リンク達の視界にダークの剣が深々と突き刺さった赤い目玉が現れる。

 

「よっしゃ見えた!!」

 

リンクはマスターソードを振りかぶり、揺れる足場の反動を利用して高く飛び上がった。

 

「うおおおおおおおおおお!!!!」

 

ダークが剣を抜きざまにもう一撃を目玉に加える。

その直後、痙攣する身体ごとボンゴボンゴを聖剣が両断した。

 

「やったー!!」

 

ナビィが喜声を上げ、身を捩るように暴れるボンゴボンゴは次第に闇色の液体へ溶けて消えていく。

 

「はー・・・なんとか倒せぶふッ!!」

「・・・てめえヒトの獲物横取りしてんじゃねえぞコラぁ・・・」

 

一息ついた所で、脱力したリンクをダークが後ろから蹴り倒した。

わざわざこんな所まで足を運んだ挙げ句にオイシイところを持って行かれ、元から沸点の低い彼が怒らない筈がない。

 

「いや仕方ないじゃん!この神殿オレ全然イイトコ無かったし別にいいだろ最後くらい!?」

「知、る、か」

「うぐぇぇぇ・・・」

 

ギリギリと首を絞めるダークの手は緩む事なく、リンクが力尽き眩しい光が一度辺りを照らしてからも改めて数発殴り付けた。

 

「・・・もう!いつまで喧嘩してるの?早くこんな所出ようよ二人とも!」

「うるせえ羽虫!!」

「誰が虫よ!!」

「・・・ナビィも止めてよぉ・・・」

 

ナビィが見かねて怒り出すまで暴行は続き、いつまでも騒ぐ二人と一匹をよそに青い光はどこか虚しく輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

[つづく!]



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7.砂漠へ~ゲルドの砦(1)

7

 

 

 

 

 

 

 

 

影は時折自問することがある。

 

何故自分は此処に居るのか。

 

何がしたいのか。

 

何処へ行くのか。

 

・・・何処へ行きたいのか。

 

 

 

それは得てして答えが見付かることもなく、その都度影は空を見上げた。

 

地を這うのみの"影"だった己には遠すぎた筈のそれが、今はもう眩くはない。

 

手を伸ばせば届くかと錯覚させるほどに、気が付けばごく自然に"同じ世界の中"に居た。

 

 

 

(―――・・・・・。)

 

 

 

キン、と澄んだ音がひとつ響く。

 

ふと隣へと視線を移せば、空色の瞳と目が合った。

 

"時の勇者"と呼ばれ、世界を救う使命を負うらしい、己の本体。

・・・否。今や完全に個の存在としての意識を持つ影にとって、それはもはや全くの他人でしか無かった。

 

だが、ならば何故。

 

その問いが誰に向けられるものなのかすら判らないまま、影の思考はそこで停まる。

 

一瞬の間を置いて破顔した勇者の、柔らかな笑みを浮かべるその顔へまるで吸い込まれるかのように。

 

 

 

影は拳をブチ入れた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.7》

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ダークってさあ、そんなにオレのこと嫌い?」

 

殴られた顔面を擦り、リンクは拗ねたように膝を立てて蹲る。

左ストレートが綺麗に決まった鼻先は折れなかったものの赤く腫れ、垂れた鼻血を拭った跡が何とも間抜けだった。

ダークは訊かれたその言葉を反芻し、数瞬の間を置いてから頭に浮かんだままを口にする。

 

「・・・?別に」

「「えっ」」

「は?」

 

リンクとナビィの声が思わず重なり、ダークは僅かに首を傾げた。

 

「えっ、だって、えっ、どういうこと?」

「死ねばいいのにとは常々思ってる」

「・・・なんだよそれ」

 

一瞬持ち上げられた直後に叩き落とされたような気分になり、リンクはげんなりと息を吐く。

ダークが何を考えているのか全く解らない。

 

「・・・それよりリンク、これからどうするの?」

「んー・・・そうだなぁ・・・」

 

微妙な空気の中ナビィがリンクの頭にぽふりと乗り、旅の続きへと促した。

リンクは手元の暗色のメダルを指で弾く。

キン、と独特の澄んだ音が再び耳に響いた。

 

「今はこれといった手掛かりは何もないんだよなぁ・・・」

「まだ一度も行ったことないのは西の砂漠の方だネ。ガノンドロフの故郷らしいけど・・・行けば何か見つからないかな?」

「砂漠か・・・暑そう・・・」

 

リンク達一行の現在地は夕暮れのハイリア湖畔。砂漠に向かえばきっと、水と緑に溢れるこの地とは正反対の渇ききった環境が待ち受けているんだろう。

うぇぇ、とリンクは再びげんなりした顔でその場に寝そべった。

 

「・・・まあ他に当てもないもんな・・・仕方ないか・・・。なーダーク、腹減ったからその魚少し分けて」

「断る」

「けち・・・食べないのにそんなに釣ってどうするんだよ」

 

ダークが竿を引き、針に掛かった魚がまた一匹地面に放り落とされる。

その足元では十数匹の魚がビチビチビチビチと草の上で跳ねていた。

ブーブー鳴きながら怨めしそうにそれを見るリンクにダークはちらりと視線を落とす。

 

「・・・欲しいか」

「えっくれんの」

「生で頭からいくならやってもいい」

「やっぱいいです」

 

項垂れたリンクは魚を全て湖へと投げ込み、ダークに追われながら全速力でハイリア湖畔を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

エポナの足を借り小一時間。

辺りの景色からは緑が消え、リンクの視界には赤茶けた岩肌と砂地ばかりが広がっている。

 

「"ゲルドの谷"・・・か」

 

突き立った看板の字を目で追いさらに進めば、そこには切り取られたような断崖が一行の前に立ち塞がっていた。

 

「ッええええぇぇぇぇ!!?」

 

絶壁に近い谷の縁に立ち思わず声を上げる。

リンクの視線の先には、"橋だったもの"が申し訳程度にぶら下がっていた。

 

「ちょ・・・!どうやって渡るんだこれ!?」

「下は・・・うん、無理そうだネ・・・」

 

ナビィは下を覗き込み、身震いしてすぐさまリンクの帽子へと潜り込む。

絶壁の遥か下方には川。水がある為落ちても死なないかも知れないが、気の遠くなりそうなこの高さにはどうしても気が引けた。

 

「へぇ飛び込む気か。勇気あるな」

「やだよ!!!」

 

嘲笑うダークに突き落とされかねないとリンクは縁から遠ざかる。

どうしようか迷っていると、端に待たせていたエポナがリンクへと鼻を擦り寄せてきた。

 

「ん、ごめんな・・・せっかく乗せてきて貰ったけど、足止めみたいだ」

 

鬣を撫でるリンクへと、しかしエポナは何かを訴えるかのようにぐいぐいと鼻先を押し付けるのを止めない。

 

「・・・エポナ?どうしたん・・・、え!?ぅえっ!!?」

 

流石にリンクも気付いたその時、エポナが襟首を咥えリンクを自分の背へと放り乗せた。

 

「んぉわ!!ちょ、どうしたんだってぅわあああああああああ!!!」

 

訳もわからず咄嗟に手綱を握る。

それと同時に、エポナはあろうことか谷へ向かい真っ直ぐに走り出した。

手綱を引くも止まる気配は全く見せず、再び暴れ馬に逆戻りしたのかと涙目になりつつリンクはしがみつく。

 

「ぎゃーーーーーー!!!」

 

更にスピードを上げ、橋に差し掛かったエポナは大きく跳び見事谷を飛び越えた。

 

「エポナすごい!!・・・リンク、大丈夫?」

「しししししぬかとおもった」

 

ナビィが感嘆の声を上げるもリンクは流石に肝を冷やしたのかぷるぷると震えたまま動かない。

悠々と着地したエポナはそのまま暴れるでもなく、背で縮こまるリンクを気遣うように静かに佇んでいた。

 

「・・・でも、すごいな。エポナ、よくやったよ」

 

暫く経ってようやく落ち着いたリンクがエポナの背を撫でると、彼女はひとつ嘶いた。

鞍から降りるリンクへとナビィがぽつりと声を掛ける。

 

「・・・ねえ、リンク?」

「ん?なに?」

「ダークは?」

「・・・あ"」

 

振り返れば、対岸でこちらをじっと見ているダークの姿。

 

「ああああ忘れてたどうしよう!!!アイツがあそこにいたら進めないじゃん!!」

 

焦るリンクがもう一度エポナで戻るかと鞍へ足を掛けたとき。

ダークは懐からロングフックを取り出し、橋の残骸にフックを掛け普通に谷を渡ってきた。

 

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・その手があったか・・・」

「お前馬鹿だろ。」

 

ダークの冷たい言葉と眼差しが突き刺さる。

寿命とメンタルを削られながら、リンクはトボトボと遠くに見えるテントへと足を向けた。

 

 

 

テントの前に居たのはカカリコ村の大工の親方だった。話を聞いてみれば親方の弟子は全員盗賊になるなどとのたまってゲルドの砦へ行ってしまい、人手が足りず橋が直せないらしい。

弟子達の様子を見てきて欲しいと頼まれたリンクは快諾し、親方にエポナを預け谷から更に奥へと続く道へと向かうこととなる。

 

そして。

 

「うおわああああああ!!!!」

 

砦へ差し掛かった辺りでいきなり見張りと出くわし、盛大に警笛を鳴らされ盗賊達に追い回される羽目になってしまった。

 

全速力で走るリンクの背後には追随する十人程のゲルドの戦士。

・・・数が多いのは勿論だが、相手が全員女性だというのもリンクにはどうしても気が引けてしまった。

かといって大人しく投降する気は無いし、どうするべきか迷いながらリンクは砦の敷地内をひたすら走り回っている。

 

「ナビィ!!これ!!どうしよう!?」

「とりあえず撤退したほうがいいと思うヨ!?」

「ダークは!回収しないと!」

「戦ってる!あっちも囲まれてるよ!」

 

ナビィの声に目をやれば、数人のゲルドと斬り結ぶダークの姿がちらちらと見え隠れしていた。

乱闘状態のその周りにはかなりの人数が倒れ伏しており、やはりダークは強いなと改めて認識させられる。

しかし流石に数に圧され始めているのを見て、リンクはダークの方へと合流するべく足を向けた。

いつまでも逃げ回っていられないし、第一スタミナが保たない。

しかし近寄ろうとしたその矢先、ゲルドの増援が行く手を遮った。

 

「くそっ・・・どんどん増えるな!」

「当たり前だよ本拠地なんだから!リンク、切り抜けられるの!?」

「なんとか頑張るしかなッぐぇっ!!」

「リンクー!!」

 

戦うしかないと剣を抜いた直後、後頭部に投擲を食らいあっけなくリンクは昏倒した。

 

 

 

 

 

「・・・うぅ・・・」

「リンク、気がついた?」

 

呼び掛けるナビィの声に意識が浮上する。

・・・こうやって起こされるのももう何度目だろうか。

 

「っナビィ!ここは!?」

 

がばりと起き上が・・・ろうとして、後ろ手に縛られていることに気付く。

上体を起こしたリンクが見渡せば、そこは薄暗い屋内だった。

 

「砦の中。捕まっちゃったんだヨ」

「・・・そうか・・・。情けないなぁ・・・」

 

はぁ、と溜め息を吐くリンクにナビィが擦り寄る。

 

「さすがに多勢に無勢だったヨ。いきなり出ていったリンクも迂闊だったけど」

「ありがと。・・・ダークは?アイツも捕まった?」

「まだ逃げてるみたい。敷地内のどこかにはいると思うんだけど・・・」

「そうか。とりあえずここから出よう、」

 

リンクが縄をゴリゴリと擦りながら辺りを確認する。

扉は無い。

見上げれば真上の高い天井に大きく開いた穴、恐らくあそこから放り込まれたんだろう。

壁には採光の為か窓がひとつあったが、これもかなりの高さがあった。

 

「・・・よし」

 

縄を解いたリンクはフックショットを出し窓の桟へと先を向ける。

装備が奪われなかったのは幸いだったが、敵も迂闊と言うべきか。それとも何かあるのだろうか。

考えても仕方ないと、リンクは窓へとフックを撃った。

 

・・・そして、戻ってきた。

 

「・・・・・ん?」

 

角度を変えて、もう一度撃つ。

バスッ、という音と共に発射された鏃は命中することなく戻ってきた。

 

今度は立ち位置を変えて、もう一度。

 

バスッ

 

バスッ

バスッ

バスッ

 

何度やっても、鏃は桟に届かず戻ってくる。

 

「・・・ねぇリンク」

「なに」

「一応訊くけど、ロングフックって」

「貸したまま」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

 

「「ダークぅぅぅぅぅぅ!!!!!」」

 

 

 

二人の叫びが影の耳まで届いたかどうかは、わからない。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 

 



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8.ゲルドの砦(2)

8

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・何か、聴こえた気がする。

 

夕闇に融けるようにして影に沈んでいたダークは、浮上した意識と共に身体を引き摺り上げた。

 

辺りは茜色から宵闇へと徐々にその姿を変え、東の空からは満月が淡い光を帯びながら顔を出している。

雲はない。これならば、外に居る限りは身を隠す場所に困らないだろう。

充分に身体を休めたダークは陰から抜け出し周りを探る。

 

・・・さて。

 

追手を振り切る最中、ゲルドの女共に担ぎ上げられ運ばれていく勇者の姿を見た。

正直安否なんぞどうでもいいが、奴が拘束されたままだと自分が十分に動けないというのが非常に面倒だ。

恐らく砦の敷地外に出るか出ないかのあたりで引っ掛かるだろう。

 

「・・・・・、」

 

ウンザリした顔で舌打ちを溢し、ダークは砦の内部へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.8》

 

 

 

 

 

 

 

「リンクまってて!アタシダーク探してくるから!!」

 

一方勇者の捕らわれた牢の中で、ひとしきり騒いだ後妖精ナビィが窓から飛び出した。

 

「・・・多分ダークもオレのこと探し・・・てくれてる、よね、たぶん?」

 

一人残されたリンクはそう呟いた後、見送った窓から目の前の壁に再び視線を移す。

 

「・・・どうにか出られないか頑張ってみよう」

 

頼ってばかりもいられない。

手持ちのアイテムを確認し、リンクは脱出の手立てを考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

砦の中に配置された照明の位置を確認し、影に紛れてダークが駆ける。

 

コソコソと嗅ぎ回るような真似は気に食わなかったが、相手の数が数だけに今回ばかりは極力気付かれぬよう注力した。

やむを得ず姿を晒す際には相手が単独で動く隙を狙い、声を上げる間を与えず当て身で意識を奪うか迅速に首筋へ斬り込む。

 

幾度目かに遭遇した見張りの女の喉笛を切り裂き、その場を去ろうとした時ふと光るものが目に入った。

 

「・・・鍵か」

 

倒れ込んだ女が腰に提げていたらしい、小さな鍵束。

捨て置こうかとも考えたが、ふと思い直し無造作に掴み上げて懐へと突っ込んだ。

 

そのまま踵を返そうとした瞬間、影は黒剣を上空に向かって流すように滑らせる。

それとほぼ同時に、鋭い殺気と共にギラリと光る白刃が真っ直ぐにダーク目掛けて落ちてきた。

金属の擦れるけたたましい音が鳴り響き、降り立った女戦士が傍らに倒れ伏す仲間を見て激昂する。

 

「貴様・・・!!よくも!」

 

それに対して影は特に反応も返すことも無く、ただ面倒臭そうに舌打ちを溢すのみだった。

女は二振りの曲刀を構え、渾身の力をもって斬りかかる。

凄まじい速度で突っ込んでくる女に対し、ダークは僅かに眼を細めふらりとその体を後方へと傾けた。

刃が鼻先ギリギリを霞め、そのまま背中から倒れ込み・・・地に付く寸前にその姿が掻き消える。

 

「!?」

 

踏み込んだ女が狼狽え、辺りに目を走らせたその時。

"床に映り込んだ女の影"に潜っていたダークの姿は、既にその背後へと飛び出していた。

 

「!・・・なっ!?」

「ばーか」

 

振り向いた女の瞳に映るのは高く振りかぶった黒い刃。

爛々と輝く紅い眼が残像を引き、翳された剣が女の首筋目掛けて勢いよく振り下ろされる。

・・・刹那。

 

「待ちな!!」

 

突如響いた、第三者の声。

呼び掛ける制止の言葉にダークは襲い掛かる剣先を寸前で止め、・・・なかった。

しかし一瞬でも気をとられたせいか僅かに軌道が逸れ、その黒い刃が切り裂いたのは首ではなく女の肩口。

甲高い悲鳴が響き、眉をしかめる影は仕留め損ねた獲物へと再度刃を向けた。

しかしその時、横からふいに別の女が遮るように間へと割り込む。

 

「もう止めな、勝負は既についただろう!」

「・・・?」

 

険しい表情で真っ向から凝視してくる女に、ダークは一瞬の後に構えた腕を一旦下ろした。

訝しげな視線を向けるダークに対し、他の者より幾分か上等な衣服を纏ったその女は乞うように言葉を続ける。

 

「アタイはこの砦を任されている者だ。・・・アンタの強さはもう充分に解ったよ。ここらで勘弁してやってくれないかい?」

「先に手ェ出したのはそっちだ」

「悪いがそれはアンタらが砦内に無断で立ち入ったからさ。・・・一体目的はなんだい?」

 

取引しようじゃないか。

そう持ち掛ける女に対し、ダークはピタリと動きを止めた。

 

(・・・目的?)

 

反応を待つ女をよそに、ダークはふと思考を巡らせる。

そして、気付いた。

 

・・・特に、無い。

あの馬鹿と離れられないが為に同行はしているものの、世界を救うだの魔王を倒すだのといった勇者の使命に関して自分は何ら関係が無い。

他の事柄に対してもさほど興味を抱いていなかったが為に、ダーク自身の希望をいざ訊かれたところで自分は何一つ答えを持ち合わせていなかった。

 

(目的・・・・・)

 

時々頭を掠めはしたものの、いつも何やらモヤモヤした妙な感覚に邪魔されてうやむやのまま今日まで来てしまったが。

今も再び思考に立ち込める靄に眉間の皺を深め、ダークは女へと視線を戻した。

剣を背中の鞘に収め、適当な言葉を探す。

 

「とりあえず、あー・・・時の勇者を解放しろ。」

 

話はそれからだ。

そう続けようとして、ふと気配を感じ背後へ目をやると。

そこには、驚いたように動きを止めて浮かぶ薄青色の妖精がいた。

・・・まさか、今の台詞だけ都合よく聞かれたのでは。

ダークのこめかみが思わず引き攣る。

 

「ダーク・・・!アナタ、もしかしてリンクのために・・・!?」

「それ以上ふざけたこと抜かしたらその羽全部むしってやるから覚悟しとけ」

「ちょ・・・!やめてヨ!!」

 

ギン!と視線で殺しそうな勢いで妖精を睨み付けたダークは女へと顔を向けた。

 

「・・・わかった。わかったからいい加減その殺気を収めておくれよ。勇者ってのはさっき捕らえたアンタの連れだね?」

 

女は諸手を挙げ、呼び寄せた部下に負傷人の救護と牢への伝言を命じる。

 

「見たところアンタ、人じゃないようだが・・・何やら事情がありそうだね」

「死にたくなけりゃ余計な詮索はしねえことだな」

「すまない、忘れておくれ。・・・場所を移そう。アンタの連れも含めて話をしようじゃないか」

 

ダークの高圧的な態度は変わらないものの、害意はひとまず無いことを確認し女は妖精にも目を向けた。

 

「よかった・・・何とかなりそうなのネ。ダーク、アナタがロングフックを持っていっちゃったからリンクが身動き取れなくて困ってたんだヨ?」

「は?そんなもん無くてもどうとでもなるだろうが」

 

・・・半ベソをかきながら喚く馬鹿の姿が目に浮かぶ。

 

「どうって?」

「・・・例えば、」

 

ダークは呆れたように、口角を吊り上げつつ口を開いた。

 

 

 

 

 

「アイツが今までケチって溜め込んできた爆弾で所構わずぶっ飛ばす、とかな。」

 

 

 

 

 

そしてその直後。

その言葉をそのまま実行に移したかのような凄まじい轟音と地鳴りが小一時間砦を揺らし、事態を知らずに逃走した勇者によって騒動は今しばらく続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 



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9.ゲルドの砦(3)

9

 

 

 

 

 

 

 

 

「軽傷14名、重傷38名、内致命傷にまで至っていたものが4名」

 

あれから夜通しの逃走劇が繰り広げられた後、空が白み始めた頃。

ゲルドの戦士と一緒になって追い回してきたダークに勇者が張り倒され、ナビィの説得によりようやく落ち着いた一行は砦内のとある一室に通されていた。

設えられた椅子に落ち着きなく座るリンクの前で、砦の責任者だという女が被害状況を読み上げる。

 

「・・・まあ、アンタのお陰で奇跡的に全員命は取り留めたけどね」

「それは良かったです・・・」

 

ダークが出会い頭に斬り捨てた人間のうち、危ない状態にあった者へ向けてリンクが保有していた回復用の妖精と薬は全て提供してある。

緊急用に特に効果の高いものを選んでいたことと、死亡時に復活出来るほどの治癒の力をもつ妖精のおかげでどうにか事なきを得たらしい。

 

「そっちの黒い兄さん一人で、なおかつあの短時間でここまでやられたんだ。・・・それだけじゃない。人的損害は今挙げた通りだが、あの後アンタが暴れてくれたおかげで敷地内のおよそ5分の1が半壊以上の状態にある」

「ご、ごめんなさい」

 

自分が悪かったとはあまり思わないが、こうまざまざと惨状を改めて突きつけられるとリンクは居たたまれない気持ちになってしまい思わず謝罪を口にしてしまう。

それを見て、女は小さく息を吐いた。

 

「・・・そこの妖精から聞いた通りだね。アンタ。別に責めたいワケじゃないよ。要は、アンタ達とマトモにやり合うのは正直現実的とは言えないってことさね」

 

こっちが全滅するのは目に見えてる、と女は部屋の隅へと視線を向けた。

その先には、壁を背にじっと二人を見るダークの姿がある。

何を言うでもなくはたまた影に潜ることもなく、彼はただ部屋の中を観察していた。

それを視界の端に捉え、リンクは目の前の女におずおずと問い掛ける。

 

「・・・ええと、ということは、つまり?」

「そうだね。・・・こうしようか?」

 

女は指をひとつ立て、企むような薄笑みを浮かべた。

 

「時の勇者なんてヤツは此処へは来なかった。」

「え??」

「今ここにいるのは、盗賊団に憧れてやって来た入団志望の風来坊が二人。ちょっとやり過ぎて騒ぎにはなったけど、実力は充分に見せてもらったからね。その腕を見込んで入団を許可し、砦内のどこを歩こうが自由だ」

 

どうだい?と片目を瞑る女にリンクはポカンとした顔を向けるのみ。

代わりに隣を漂っていたナビィがおずおずと問い掛ける。

 

「えっと・・・いいの?アナタ達ってガノンドロフの一味なんだよネ?」

「さっきも言ったろう?敵対したところでこっちの死傷者を増やすだけ。かといって、ただ見逃すだけってのもツインローバ様にでも知れたらただじゃ済まない。アタイとしちゃ、このあたりが妥当な落とし所だと思うんだが?」

 

それにね、と女は身を乗り出し声を潜めた。

 

「ガノンドロフ様に心から忠誠を誓ってるヤツなんて此処には殆どいないのさ。アタイを初めとして、皆が本当に慕っているのはナボール様だ。今はガノンドロフ様の片腕として魂の神殿においでになるが・・・」

 

神殿という単語に、リンクも真剣な顔で話に聞き入る。

 

「あの方はここ数年様子がおかしい。この砦にもすっかり顔を出さなくなって、今は人が変わったように神殿に篭りきりだ。・・・アンタ、神殿に向かうために砂漠を越えたいって言ってたね?どうかあの方が無事でおられるかどうか確かめてきちゃくれないかい?それが、こっちから提示する条件だ。」

 

女はそう言い、リンクを正面から見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.9》

 

 

 

 

 

 

 

一通り話を聞き終えたリンクはナビィと見合せ、ひとつ頷いた。

 

「わかった。・・・あ、でも盗賊団に入ったからって盗みとか悪いことをするつもりは無いから!」

「ああ、そこは体面だけの話だから気にしなくていいよ。その代わりこっちも行動の自由は許すが、積極的な支援を約束するワケじゃない」

 

女は笑って、何か文字が書かれた紙片を2枚リンクへと差し出す。

 

「よし、これで手打ちだ。こいつが許可証だよ、受け取りな」

 

リンクは一度ダークのほうへと振り返り、特に異存が無いことを確かめてからそれを受け取った。

 

「ありがとう」

「礼は要らないさ、貰うものもキッチリ貰ったしね。・・・まあ、報せは出したがアンタ達を歓迎しない者もまだ中にはいるだろう。その辺りはうまくやっておくれ」

「それにしたって、ずいぶん親切にしてくれてるよね?死にたくないから仕方なくっていう感じにはあんまり見えないヨ?」

「さっきの件、頼めるのがアンタしか居ないっていうのが大きいね。ゲルドの者が下手に動くとすぐにツインローバ様にはバレちまうし、砂漠を超えられる実力のある外部の人間ってのもそうそういない。・・・それと、アタイ個人としてはアンタ達を気に入ったってのもあるよ」

「・・・どうして?」

「単純なことさ」

 

ナビィの問いに、女は片目を瞑り悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「ゲルドの女はね、強い男が好きなんだよ。」

 

リンクはポカンとした顔をしていたが、視線を向けられたダークは嫌そうに顔を顰めて影の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 

・・・結局一睡も出来ていない。

話し合いを終えたリンク達は、ひとまず砦の中から外へ出た。

いつの間にかすっかり日が登り、辺りには乾いた風が吹き抜けている。

 

「よう、新入り!」

 

欠伸を噛み殺すリンクへ、門衛をしている女が声を掛けた。

 

「あ、こんにちは。昨日はお騒がせしました」

「ずいぶん派手にやってくれたねぇ!あたしも遠くからだけど見てたよ」

 

カラカラと笑う女は特に悪く思ってはいないほうの人のようだ。

丁度いいや、とリンクは砦の大まかな施設の場所や行くべき所を教えて貰った。

 

出立するのは明日へまわし、今日一日はこの砦で砂漠越えの準備と必要な情報を集めることにする。

明日までは自由行動だと伝えると、地面から姿を現したダークは徐にリンクへ片手を突き付けた。

 

「弓矢貸せ」

「・・・え?なんで???」

「いいから」

「いや・・・フックと違ってコレは替えがきかないから持って行かれるとオレ困るんだけど」

「明日には返す」

「えー・・・ホントに・・・??絶対?嘘じゃない??・・・あーもーわかったわかった!!」

 

訝しげに何度も聞き返すリンクは露骨にダークの眉間の皺が深まったのを見て、慌てて取り出した弓と矢筒を押し付ける。

 

「ちゃんと返してよ!?あと壊すなよ絶対!!」

「ああ」

「・・・ホントかなあ・・・」

 

そのままどこかへ立ち去ってしまったダークを見送り、リンクはナビィと共に聞き込みを始めるべく再び砦の中へと足を向けた。

 

 

 

情報を集めつつ、自分が壊してしまった場所の復旧現場を手伝ったり怪我をさせてしまった戦士達に謝ってまわったり。

リンクが一息ついた頃には、早いもので既に陽が傾き始めていた。

夕焼けに赤く染まる砂利道を歩き、敷地内の離れにある広場へ差し掛かったリンクは馬の嘶きを耳にする。

 

「??・・・なんだろ?」

 

奥へ進んで覗き込むと、そこにはまばらに人だかりが出来ていた。

 

「アレ?ねぇ、あそこにいるのってダークじゃない?」

「え・・・??何してんのあいつ???」

 

思わず呟くリンクが見る先で、見慣れた黒い姿が馬に跨がって弓を構えていた。

猛スピードで駆ける馬の上から放たれた矢は次々に的の中心へと吸い込まれ、命中する度に周りの見物人から歓声が上がる。

 

「すごーい!ダーク、あんなに弓矢使うの上手かったんだネ??」

「もしかして、今日ずっとあそこにいたのかな」

 

一周回り終えて道の傍らに居た女から何かを受け取ったダークが、遠目に見るリンクへ気付いたのか馬から降りて歩いてきた。

 

「よ。なんか楽しそうなことしてたんだな!」

「別にてめぇの知ったことじゃねえだろ。・・・ん」

 

相変わらずの仏頂面で、ダークはリンクへ弓矢を突き返す。

 

「あれ、もういいのか?」

「次。ハンマー」

「えぇ・・・?まあ、ちゃんと返してくれるならいいけどさ」

 

懐から取り出したメガトンハンマーと交換して弓矢を受け取ったリンクは、違和感を感じて首を傾げた。

 

「あれ、なんか矢筒大きくなってない?」

「景品だとよ。やる」

「わーいやったー!ありがとダーク!」

 

本来なら礼を言われるのは自分の筈だったのだろうが、喜ぶリンクは気にせずにはしゃぐ。

ナビィはふとダークの後ろに付いてきた馬に気付いて声を上げた。

 

「アラ?ねぇリンク、この子エポナだヨ」

「へ??あ、本当だ!何でここに?ダーク・・・あ、行っちゃった」

 

話しているうちにまたもや何処かへ立ち去ってしまったようで、既に影の姿は見えなくなっている。

 

「親方さんのところに預けといたはず・・・なのに・・・ん??」

 

エポナの寄せる鼻先を撫でて、リンクはそこで思い出した。

 

「あ!お弟子さんのこと頼まれてたのすっかり忘れてた!」

「そう言えばそうだったネ。お姉さん達に訊いてみる??」

「そうだなー、聞き込みもだいたい終わったし行ってみよう」

 

練習場に併設されていた馬小屋へエポナを預け、リンクは三度砦へと向かう。

 

 

 

そして、やがて解放された個性的と言えば個性的過ぎる腰をくねらせた中年の男達に囲まれて半泣きになりながら来たことを後悔するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]



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10.幻影の砂漠(1)

10

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁダーク、見てコレ」

 

とっぷりと日が暮れ、夜の帳が降りた砦の屋上で。

ふいに聞こえた声に、まるで木の棒でも扱うかのように両手で構えたハンマーを振り回していたダークが動きを止める。

片手で肩へと担ぎ直してチラリと視線を寄越した先には、意気揚々と弓を構えるリンクの姿があった。

 

「こんなの貰ったんだ。氷の矢だってさ」

 

その鏃の先はダークのほうを向いてはいないが、淡く蒼い光を帯びたそれに影が眉を顰める。

放たれた矢は当たった岩壁を中心に冷気を撒き散らし、見る間に即席の氷の壁を作り上げた。

 

「・・・てめぇそれ俺に向かって撃ちやがったらブチ殺すからな」

「しないよそんなこと。ダークじゃないんだから」

 

口を尖らせる勇者の顔に苛ついたのか下ろしたハンマーでそこら辺にあった石を弾き飛ばし、慌てて避けたリンクに対して舌打ちを溢す。

 

「でも、魔法の矢なんて貴重なモノよく貰えたネ」

「なんか、修練場ってトコに放り込まれてさ。神殿の謎解きみたいなやつがいっぱいあって、そこを速くクリアしたらご褒美だって凄い誉められてコレくれた」

「まぁ、リンクは流石に慣れてるもんネ」

 

大工の弟子達をどうにか送り返した後、聞き込みを再開したリンクは幾人かの団員に絡まれていた。

ダークと違い昨夜の逃走劇の際に逃げ回る姿しか見ていないという戦士達から実力を疑われたリンクは砦内の一部に設えられた訓練施設へと押し込まれ、ナビィのサポート無しで挑戦し見事クリアして見せたところ改めて歓迎の証として魔法矢を授かったのだという。

 

「とにかくこれで、だいたいの人には挨拶できたかな。思ったより怒られなかったから良かったよ」

「神殿の前に肩慣らしも出来て一石二鳥だったじゃない」

「見たことないタイプの仕掛けとかもあったから、同じ地域だったら魂の神殿も似たような感じだったりしないかな」

「どうかしら?そこは行ってみないとわかんないヨ」

 

話に花を咲かせてわいわい盛り上がる一人と一匹を尻目に、ダークはどこか考え込むように凍り付いた壁をただ見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.10》

 

 

 

 

 

 

 

砦内にあった宿舎の一角を借りて体を休め、明けた翌朝。

いよいよ砂漠へと出立するべくリンク達は連れ立って大きな門の前へとやって来ていた。

 

「よぉ新入り、いよいよ行くのかい?」

「はい、短い間だったけどお世話になりました」

「待ってな、今開けてやるよ」

 

昨日と同じ顔ぶれの門衛が合図を送ると、太い柵が重なったような造りの門がゆっくりと上がっていく。

 

「・・・おや、アンタ昨日の。どうだい、ちったぁ弓の扱いはマシになったのかい?」

 

待つ間に声を掛けた女の視線をリンクが辿ると、そこにはダークがいる。

面倒臭そうに顔を顰めた影は地面に潜ってしまい、キョトンと目を丸くしたリンクは首を傾げた。

 

「何の話?」

「昨日の昼頃、休憩しに戻ったらそこの黒いのが中をうろつきながらヘタクソな弓で悪戯してるのを見てさ。骨飾りなんて矢まみれになってたよ」

 

言われて思い返せば、変に矢が突き刺さったオブジェを昨日リンクも何度か目にした気がする。

 

「あれ、ダークの仕業だったのか・・・」

「それで構えも何もかもがなっちゃいなかったからね、見かねてちょいと直してやったのさ」

「えー!それからあんなに上手くなったの?半日で?」

「へぇ、その口振りからすると・・・まさか、流鏑馬の記録を更新した新入りってのはアンタじゃなくてそっちの方かい?そりゃ教えた甲斐があったってもんだ!」

 

女は気を良くしたようにカラカラと笑い、リンクは足元に向かって声を掛けた。

 

「ダーク、世話になったんだったらお前もお礼言っといたら?」

「別に頼んだワケじゃねぇ」

「いいさ別に、ただのお節介だ。まぁその代わりと言っちゃなんだけど、ナボール様のこと・・・よろしく頼むよ」

「・・・わかりました」

 

砦内で話を聞き回っていた間にも、幾度となくナボールの名前は耳にしている。

本当に慕われているんだなあと沁々思うリンクは少しばかり綻んだ顔で頷き返し、ナビィと共に門の外へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

吹き荒れる砂嵐に、豪々と音を立てながら流れる巨大な流砂の河。

側に置かれた大きな木箱の陰にひとまず隠れたリンクは口元を覆った布を一度弛めて息を吐いた。

 

「これが"砂の大河"か・・・話には聞いてたけどひどい砂嵐だな」

「リンク、大丈夫?」

「うん、ナビィもダークもしばらく隠れてて。さっき対岸にも箱があるの見えたし行けると思う。落ち着ける場所を見付けたら声かけるから」

「気をつけてネ・・・」

 

ナビィは帽子の中に戻り、ダークは言わずともこんな酷い状態の外にはわざわざ自分から出てこないだろう。

 

一息ついたリンクは改めて気合いを入れ、吹き荒れる嵐の中へと飛び出していった。

 

昨日ようやく返却されたばかりのロングフックを手に河を渡り、霞む視界の中で朧気に見える旗を頼りにひたすら歩を進める。

方向も一切掴めない中で唯一縋ることの出来るこの旗はゲルド族の人達が立てたものらしい。

リンクは砦での「積極的な支援はしない」という言葉を思い出しつつも、結局は手を借りっぱなしだと改めて"先輩達"に心の中で感謝するのだった。

 

 

 

 

 

やがて辿り着いたのは小さな祠のような石造りの建物。

入り口が下へと続き、地下に降りればそこへは全く風が入ってはこなかった。

 

「・・・此処ならひとまず大丈夫そうだ。ナビィもダークももう出てきていいよ」

 

暫く使われていなさそうな燭台に火を灯し、リンクはようやく腰を下ろす。

帽子から飛び出したナビィは伸びをするように羽根をはためかせ、リンクを気遣うように寄り添った。

 

「おつかれサマ。大変だったでしょ?」

「うん、ちょっと疲れたけど大丈夫。・・・まだ中間地点だから抜けるにはもう少しかかりそうだ」

 

とにもかくにもひとまず休憩だ、と保存食を囓るリンクはダークのほうへと目を向けた。

 

「ダーク、ここからは多分お前の力も借りなきゃ行けないと思う」

「・・・あぁ?」

「砦で話を聞いてきたんだけど、"幻の案内人"ってヤツを探さなきゃいけないらしい。"真実を見抜く目"を持たぬ者は戻るしかない、って」

「それならダークだけに見える筈だもんネ」

「うん、だと思う。ってワケだからよろしく頼むよ」

 

心底億劫だというような緩慢な動作で姿を現したダークは案の定眉を顰めて睨めつける。

 

「何で俺が」

「ダークじゃなきゃ無理だからだよ。お願い。ほら、色々アイテムも貸してあげたじゃん?何してたかは知らないけどさ」

「先に進まなきゃ帰るしかないヨ?それともこんなトコロでまた立ち往生したいの?」

 

ダークはしばらくリンクと睨み合った後、根負けしたのかウンザリしたように溜め息を溢した。

 

「・・・・・仕方ねぇ」

「ありがと!頼りにしてるよ」

「すんな」

 

にこやかに笑いかける勇者に影は舌打ちを返す。

そのままダークは再び地面の影に戻ってしまったが、それを見ていたナビィがふいに声を上げた。

 

「・・・アレ??」

「どうしたの?」

「いま、ダークが・・・ううん、なんでもない。見間違いだったかも」

「・・・そうなの?」

「うん、ごめんネ」

 

一旦何かを言いかけるもナビィはそれ以上言葉にしない。

リンクは僅かに首を傾げるも、特に気には留めず食べ掛けの乾物に再び囓りついた。

 

 

 

 

 

小一時間休憩し、気力と体力を補充。

充分に身体を休めたリンクは渋るダークを連れて外へと戻った。

砂嵐が弱まったのを見て、祠の上へと立ち辺りをぐるりと見回して声を掛ける。

 

「もうここからは旗も立ってないみたいだ。ダーク、何か変なものとか見えない?・・・って、え、何してんの」

 

振り向いて見ればダークが黒い剣を虚空に向かって振り回していた。

 

「クッソうぜぇ!!」

「え?なに?何かいんの?」

「リンク、この石に何か書いてあるヨ!誘いの霊っていうのが居るみたい」

「さっきから変な幽霊が一匹纏わりついて来てんだよ!」

「「それだー!!」」

 

ナビィの台詞に被せるように上げたダークの怒声にリンクとナビィは声を揃えて叫び、その場から離れようとする幽霊を追ってダークが駆け出す。

 

「てめぇ待ちやがれ!!避けんじゃねぇ!!」

「ダーク、倒しちゃダメだ!!そのままついてって!」

 

慌ててリンクも追従し、置いていかれないように走りつつダークを制止した。

一瞬冷や汗が流れたが、前を走るダークの速度はいつもの全力疾走にはほど遠い。

走るうちにやがてその手から剣も消えたのを見て、リンクは密かに胸を撫で下ろす。

 

すぐ目の前のダーク以外には一面の砂しか見えない中を暫く走り続け、いい加減息が上がり始めてきた頃。

ようやく砂嵐を抜けたのか、唐突に二人の視界が晴れ渡った。

 

「・・・消えた」

 

ボソッと呟いた不機嫌な声と舌打ちに、案内人とやらは役目を終えて去っていったのだろうと察する。

 

「ここが・・・神殿のある場所?」

 

茜色に染まる快晴の空の下、遠目に巨大な像が聳え立っているのが見えた。

 

「あれが神殿に繋がってるっていう例の女神像じゃない?」

「たぶんそうだろうな。とりあえずあそこまで・・・」

 

帽子から出てきたナビィの言葉に頷き、リンクが歩き出した直後。

ダークの隣を追い抜きざまに肩へ軽く触れたその時、ふらりと身体が傾いでそのままダークは砂の上へと力無く倒れ伏した。

 

「・・・え?」

 

呆気にとられたのも束の間、リンクは慌ててしゃがみこみ揺さぶってみるものの完全に気を失ったのかダークからの反応は無い。

 

「ダーク・・・!?」

「どうしたの!?」

「わかんない、急に・・・」

 

こんなこと、初めてだ。

 

リンクは当惑したようにナビィを見返し、周りにも視線を巡らせた。

辺りが徐々に暗くなる中、このまま放って置けば他の魔物も集まってくるかも知れない。

 

「・・・とりあえず、あの像の所まで運ぼう?」

「そうだな。・・・あれ、」

 

リンクは意識の無いダークの片腕を掴んで引き上げ、自分の肩へ回させて担ぎ上げた。

・・・途端に、明らかな違和感を感じて眉根を寄せる。

 

「どうしたの?」

「・・・おかしい。軽すぎるんだ、ダークの身体」

「どういうこと・・・?」

「・・・わからない。とにかく、このままじゃ危ないから連れていこう」

「うん・・・」

 

今は一刻も早く休めそうな場所へ。

表情に幾ばくかの不安を滲ませながら、リンクはダークの身体を支えて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 



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11.幻影の砂漠(2)

11

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・リンク、ホントにいいの?もうそれひとつしか残ってないんでしょ?)

 

(うん、だって仕方ないだろ?放っておけないし)

 

 

 

―――――揺蕩うように朧気な意識の中で、いつかどこかで聞いたような声が耳に届いた。

 

 

 

(リンクってホントに優しいネ。まだこれから先怪我もするかもしれないのに・・・うぅん、わかった。もう何も言わないヨ)

 

(また途中で何か使えるもの無いか探すよ。・・・・・これでよし。ダーク、飲めるか?)

 

 

 

何かが口に突っ込まれ、流し込まれた"それ"がじわりと染み渡っていく。

少しずつ少しずつ、いつまでも侵入し続けるドロリとした液体に若干の気色悪さを覚えて思わず呻き声が漏れた。

 

「・・・ぅ、」

「!ダーク、気が付いた?」

 

重い瞼をどうにか持ち上げれば、そこにあったのはいつしか見慣れてしまった勇者の顔。

思わず殴りたくなったが、全身どこにも力が入らず生憎指先ひとつすら動く気配を見せなかった。

 

「良かった。効いたのかな、薬」

 

 

 

・・・何が一体どうなった。

 

砂漠を走っていた途中から記憶も覚束ない。

 

 

 

混迷に襲われる中で、ふいにダークは再び知らない"声"を聞いた。

耳元で囁くような、しかしどこか機械的にも思える"それ"の内容はほとんどが理解出来なかったがひとつだけ。

言葉の中で唯一意味を汲み取れた単語をひとつ、ダークは確かめるようにぽつりと呟いた。

 

「・・・・・みず」

「え?水?水が欲しいの?」

 

聞き付けたリンクは荷物の中から飲み水を入れていた革袋を引っ張り出してダークへ差し出す。

しかし身動きの出来ないダークは受け取れもせず、リンクに手ずから飲まされる羽目になった。

心中で悪態を吐くが、飲み干したその時にほんの僅かに力が戻ったことを感じダークは目を剥く。

 

「・・・・・」

「どう?少しは楽になった?」

「・・・足りねえ、もっと寄越せ」

 

これだ。

ろくに回らなかった呂律も戻り、どこか確信を持ったダークはさらに水を要求するもリンクの表情が曇る。

 

「あ・・・ごめん。今ので最後だったんだ」

「ちょっとリンク!ぜんぶあげちゃったの!?」

「・・・うん」

「ここ砂漠なんだヨ!?リンクまで倒れちゃう!どこかで調達しなきゃ・・・!!」

「わかってるよ。ここに来る途中、すぐそこにオアシスっぽいものが見えたんだ。ちょっと行ってみよう」

 

流石に見過ごせないと声を上げたナビィを宥め、リンクは荷物を置いて腰を上げた。

 

「ダークはここで待ってて。まだ辛いんだろ?」

「・・・・・ああ」

 

癪ではあったが動けないのは事実であった為にダークはひとつ頷き、リンクがナビィと連れ立って外へ向かうのを目で追う。

そこで初めて、今自分が寝かされているのがどこか遺跡のような石造りの屋内だということに気が付いた。

 

いつの間にか神殿に着いたのか。

 

記憶が途切れたのはまだ砂漠に居た中だった。恐らくは勇者が動けなくなった自分をここまで運び込んだんだろう。

 

不甲斐なさと借りを作ったらしい事実に苛立ちながらも、視界が徐々に眩み再び限界を感じたダークはそのまま目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.11》

 

 

 

 

 

 

 

すっかり陽が落ちて底冷えのする中、砂を踏み締めながら歩くリンクへナビィがぽつりと溢すように呟いた。

 

「・・・やっぱり、さっきの見間違いじゃなかったみたい」

「それ、来る途中で言ってたやつ?」

「うん。リンクとダークって同じ姿をしてたハズでしょ?でもあの時、ほんのちょっとだけだけどダークのほうが小さく見えたの」

 

それを聞いたリンクも考え込むように顎へ手を当て思い返す。

 

「小さく・・・言われてみれば・・・。そういえばさ、運んでたときには気付かなかったんだけどいつもダークが背負ってた剣とか盾とかいつの間にか無くなってたよな?どこ行ったんだろ」

「落としてきちゃったなら後で探してきたほうがいいかもネ」

「・・・そもそも、ダークが戦うときっていつも影で作った剣みたいなの使ってたじゃん?いつも背負ってたアレって何だったんだろ。盾だって実際に構えてるところ見たこと無いし」

「そういえばそうだネ。あんまり気にしてなかったけど、ダークってわかんないことばっかり」

「まあ、元気になったらまた聞いてみるか」

 

話ながら歩いているうちに、やがてリンクはしばらく前に目にした木をようやく見つけた。

しかし駆け寄ってよく見れば、そこは泉のように大きく窪んだ穴になってはいても硬く渇ききってしまっており一滴の水も見当たらない。

 

「そんな・・・枯れてる・・・?」

「待ってリンク、ここに水が無いならこんなに元気な木が生えたままなのはおかしいヨ。それに・・・」

 

がっくりと膝から崩れ落ちたリンクにナビィが声を掛け、穴の周囲を探るようにゆっくり翔びまわる。

 

「ココ、微かだけどアタシの仲間の気配がするの。もしかしたらここも妖精の泉だったのかもしれない」

「じゃあどうにかして渇く前に戻せたら・・・うーん・・・時の歌で時間を戻すとか・・・」

 

ナビィの言葉に希望を見たリンクが記憶を頼りに考え込み、やがてひとつ思い当たったように顔を上げた。

 

「あ、待てよ・・・水・・・・・雨・・・?」

 

空を見上げるも雲はなく、そもそも砂漠という環境に頻繁に雨が降るとも考えにくい。

しかしリンクは懐からオカリナを取り出し、試すように息を吹き込んだ。

 

奏でたのは、以前カカリコ村で覚えたきり使い所の全く解らなかった"嵐の歌"。

 

音が響くと同時に星空に暗雲が立ち込め、やがて激しい雷と共に大粒の雨が辺りに降り注いだ。

 

「やった!当たりだ!」

「見てリンク!泉が!」

 

ナビィの声に空から視線を戻せば、降り頻る雨粒だけではなく底からまるで湧いて出たように澄んだ水が大きな穴をみるみる満たす。

瞬く間に泉は甦り、やがてそれを喜ぶかのように沢山の妖精がどこからともなく姿を見せ光の粒子を振り撒きながら幻想的な風景を生み出していた。

 

「・・・やっぱりココ、妖精の泉だったんだ」

 

リンクが手を伸ばせば、それに誘われたかのように妖精が数匹近寄ってくる。

砂漠越えの疲れが癒されていくのを感じながら、リンクが頼めば妖精達はすっかり空っぽになっていた手持ちのビンの中にも入ってくれた。

 

「やったね!これで回復もしばらく大丈夫そう!」

「うん。後で一応ダークにも効くかどうか試して貰おうか」

 

やがて雨が上がり、残っていた妖精はどこかへと翔び去っていく。

それを見送りながら、リンクはしみじみと呟いた。

 

「・・・それにしても・・・この歌、初めて役に立ったなぁ・・・」

 

悪天候を呼ぶ歌なんて、教えて貰った当初に試して酷い目に遭ったきり何に使えるのやらサッパリだったのに。

 

幸いなことに泉の水はそのまま残り、やがてリンクは持参した革袋に水を詰め始めた。

 

 

 

 

 

ふいに何かの気配を感じ取り、ダークはそれすら動かすのも億劫になっている瞼をゆるりと開く。

視線だけを傍らへ向ければ、そこには全く見知らぬ人物が立っていた。

 

・・・・・誰だ。

 

そこで初めて、自分が声すら出せなくなっていることに気付き若干の焦りが生じる。

 

「初めまして。ボクはシーク、シーカー族の生き残りさ。」

 

眉根を寄せるダークへ名乗った青年は膝をつき、横たわったまま投げ出されていたダークの左手をとった。

 

「君のことは以前リンクから聞いていたけど、会うのはこれが初めてだね。・・・随分と弱ってしまっているようだけど」

 

知らねえよ。何だてめぇ触んな。

 

喋ることすら出来ずにひたすら視線だけで抗議するも、その鋭い眼光を意にも介さずシークはダークの手に目線を落としたまま何かを探るようにじっと見詰めている。

 

「・・・やはり、君だったのか」

 

何の話だ。

 

ぽつりと呟いたシークの言葉は要領を得ない。

 

「自覚が無いのがせめてもの救いだった。・・・外はリンクがうまくやったようだね。君の状態も今は一刻を争うようだし、ボク達も行こうか」

 

困惑するばかりのダークへ一方的に告げ、シークは手を降ろすと代わりにダークの身体を抱え上げる。

その軽い衝撃だけで視界が暗転し、ギリギリで保っていた意識を飛ばしたダークは抵抗も出来ずにただ身を任せるのみだった。

 

 

 

 

 

持ち込んだ袋へたっぷりと水を満たしたリンクは、ふいに背後から聞こえた足音に目を向けた。

 

「あれ、シーク?どうして・・・うわっ」

 

歩いてきたシークを見て驚いたように声を上げたが、それよりもその腕に抱えられているものを見てリンクの顔が若干引き攣る。

 

最後に見たときから更にひと回り縮んだように見えるダークが横抱きにされていた。

意識は無いようでその瞼は固く閉ざされており、さらによく見ると今度は帽子とブーツまでが無くなっている。

 

「こちらのほうが早そうだったからね。嫌がってはいたが少し失礼させて貰ったよ」

 

・・・アレ、ダークが起きてたらめちゃくちゃ怒りそうだな。

 

心配よりも先にそんなことを考えてしまったリンクは、しかし次の瞬間には目を丸くして仰天した。

 

シークが、抱いていたダークを無造作に泉の中へと放り落としたのだ。

 

「ちょ、シーク!!?」

 

一瞬前までのどこか紳士的にも見える振る舞いから転じた雑すぎる扱いにリンクが慌てるも、「見ていてごらん」というシークの言葉に顔を泉へと向ける。

 

泉の中心へとダークが沈んでいったその直後、物凄い勢いで満たされた水が引き始めた。

 

みるみるうちに再び泉は枯れ果て、覗き込んだリンクの視線の先には大きく窪んだ穴の中心でひとつ黒い姿が倒れているのみ。

 

「だ・・・ダーク・・・?」

 

リンクが恐る恐る名前を呼んでみると、ゆっくりと手を付き身を起こす。

 

「彼は、水の神殿で創られた水の魔物なんだろう?このような乾ききった環境に長く居れば、力を失ってしまうのも仕方ないだろうね」

「えっ、そういうことだったの!?」

「・・・思ったより単純な理由だったのネ」

 

シークの言葉にリンクとナビィがそれぞれの反応で声を上げ、やがて立ち上がったダークは釈然としない顔をしながら岸へと歩いて戻ってきた。

 

「大丈夫か?」

 

リンクが声を掛けると、ダークは片手を翳しそこに見慣れたいつもの黒剣を生み出す。

ギョッと目を剥いたリンクだが、ダークはそのまま何度か確かめるように腕を振った後何も無かったかのようにそれを背中の鞘へ納めた。

見れば盾や帽子など、無くしていた装備の一部もいつの間にか完全に戻っている。

 

「・・・むしろ昨日までより調子が良い」

「あれだけの量の水を取り込んだんだ。油断は禁物だが、暫くの間は大丈夫だろうね」

 

ダークの言葉に付け足すようなシークの台詞に、リンクが安心したように息を吐いた。

 

「シーク、ありがとう。助かったよ」

「ボクは何もしていないさ。この過酷な環境でこれだけの水分を確保出来たのは君の力だろう?・・・ダーク、もしリンクが一緒で無ければ君は間違いなくあのまま朽ち果てていただろうね。彼に感謝するといい」

 

ダークは苦虫を噛み潰したような顔を何も言わずにただ背けるのみ。

 

「・・・聞いたところによると、君はリンクに対して随分と当たりが強いようだ。恩を返せとまでは言わないが、これを期にもう少しばかり対応を考える位は良いんじゃないかい?」

 

ちらりと視線を移せば、リンクは困ったようにただ苦笑いを溢していた。

 

「いいよ、別に気にしなくても。元気になったんだからそれで良かった、でいいじゃん?」

 

向けられた真っ直ぐな眼にダークは居心地悪そうに顔を歪めてリンクの足下へと潜り込む。

特に礼なども期待はしていないリンクは息を吐くが、ふと思い立ったように声を掛けた。

 

「・・・あ、でも神殿攻略は手伝ってくれたら嬉しいな!」

 

「・・・・・・・考えといてやるよ」

 

 

 

ダメ元での提案ではあったが、思いがけず返ってきた答えにリンクは顔を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 

 



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12.魂の神殿(1)

12

 

 

 

 

 

 

 

 

焚き火の弾ける音が冷えた空間に小さく響く。

 

夜も更け、神殿の探索は明日にしようと巨大な像のすぐ足元でリンク達は野営の準備を進めていた。

 

「それにしても、前もって言っておいてくれたら良かったのに。ダークも水くさいなあ」

「水だけに?」

「・・・オレ別にそんなつもりで言ったんじゃないんだけど・・・」

 

ナビィに余計な茶々を入れられたリンクが口を尖らせ、ダークに向き直る。

 

「そんなに重要なんだって分かってたらさ、もっとたくさん水持ってきてたよ?・・・まああれだけの量が要るんだったらどっちにしろ足りなくはなってただろうけど」

 

それでも、倒れてしまうようなことまでにはならなかったんじゃないか。

 

リンクの言葉にダークは何も言わず手元のブーメランを弄んでいた。

するとナビィがその周りをくるくる翔びながら声を掛ける。

 

「・・・もしかして、自分でも知らなかったんじゃないの?」

「え?そんなことある?」

「だってダーク、大事なことなのにちっともそんな素振り見せなかったじゃない。気を付けてるようにも見えなかったし。それに、リンクについてくるまではずっとハイリア湖畔にいてこんな地域に来たのも初めてだったんでしょ?」

「あー・・・・・そうなのか?」

 

リンクが視線を戻すと、ダークはどこか拗ねたように顔をそっぽへ向けた。

 

・・・知らなかったんだ。

 

その態度に一人と一匹は察したように苦笑いを溢す。

 

「じゃあさ、分かってることだけでも教えてよ。ダークのこと」

「・・・何を」

「なんでもいいよ?例えば・・・それ、最近なんかいろいろ借りてくけど一体何してるんだよ」

 

リンクは好奇心に満ちた目でダークの手元を指差した。

ダークは暫し迷うように視線を泳がせていたものの、身を乗り出して返事を待つリンクにやがてどこか諦めたように口を開く。

 

「・・・・・あの時、」

「うん?」

「お前が俺に勝てたのは、手数の多さがあったからだ」

 

ダークに勝てた時というと、一番最初の水の神殿でのあの戦いしか無い。

リンクにとっては苦い記憶であるためか、当時の辛勝を思い出したリンクは困ったように笑いながら頷いた。

 

「うん、まあ、そうだな・・・」

「だから、俺もそこは伸ばしておくことにした」

「それで、いろんなアイテムの使い方を覚えようとしてるのネ?」

 

ナビィの言葉に、ダークは空いていた左手を掲げてそこに剣を生み出す。

 

「使い方だけ覚えても大して役には立たねぇだろ」

 

そして手首を捻り、一瞬剣の形がブレたような気がした直後。

その手に握られていたのは、右手にあるものと全く同じ形をした漆黒のブーメランだった。

 

「えー何それ!?すごい!」

「コイツは俺の一部、・・・らしい。慣れればこうして形を模せる。同じ使い方も出来る筈だろ」

「えっ初耳なんだケド。一部って、剣とか盾とかぜんぶ含めてダークの体なの??」

 

ナビィは驚いたように明滅しながら黒いブーメランの周りを飛び回り、目を丸くするリンクは納得したように手を叩く。

 

「あーなるほど!昨日倒れてる間お前の装備がいろいろ無くなっていってたのってそのせいだったんだ?」

「水が足りないと体の体積自体が減っちゃうってことなのネ?全体的にも縮んでたし」

「・・・そういう事らしいな」

「らしいって、やっぱりアンタ自分でも把握してなかったんじゃないの・・・」

 

ナビィは呆れたように溜め息を吐くが、リンクは目を輝かせてダークの模造したアイテムへと食いついていく。

 

「えーでもいいなー、便利そうだなー。フックショットとかもコピー出来るのか?」

「あれは無理だ。仕組みが全くわからねぇから形だけ真似ても動きやしねえ。今度分解させろ」

「えぇ・・・そのまま壊されそうだからヤダよ・・・あ、じゃあこういうのは?」

 

リンクがごそごそと懐から取り出したのは、赤い宝石のようなものが埋め込まれた透明な結晶体。

大妖精から貰った魔法のアイテム、ディンの炎。

ダークも以前何度か目にしたことがあったそれを手渡され、試してみるも現れたのは右手にあるものと全く同じ形をしただけの真っ黒な物体だった。

 

「・・・駄目だな。あくまで形だけだ」

「そっか。ちなみにそれ、ダークでも使えるのかな」

 

言われてダークが集中し力を込めてみれば、透明な結晶が光を帯びて次第に淡く輝き出す。

 

「あっ、ちょ、実際に発動させなくてもいいって!色々燃えちゃうから!!」

 

慌てるリンクを見てダークはこのまま焼いてやろうかと一瞬考えたものの、ふいに先刻のシークの顔と言葉が頭を過り舌打ちを溢して結晶を投げ返した。

 

「・・・これだけ手の内晒してやったんだ、精々考えて攻略とやらに活かすんだな」

「あ、やっぱり手伝ってくれる気はあるんだ?ありがとうダーク!」

 

にこやかに笑顔を向けるリンクに、どこか落ち着かないダークは何とも言えぬ顔をしてさっさと寝る体勢に入り目を閉じてしまう。

 

「・・・照れなくてもいいのになー?」

 

 

 

笑うリンクの額へ、投げつけられたブーメランが直撃し鈍い音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.12》

 

 

 

 

 

 

 

翌朝早く、寝惚けた目を擦りながらリンクは神殿の入り口らしき像の中へと戻ってきていた。

 

「リンクー、やっぱりどっちの道にも進めそうにないヨ」

「そうか・・・じゃあ、やっぱりここに書いてある通りにするしかないのかなあ」

 

先を見てきたナビィの報告に、リンクは目の前にある大きな蛇の像を見上げる。

石碑のようにも見えるそれには、こんな文字が彫り込まれてあった。

 

 

"過去へ 進みたくば、

けがれない 幼き心のままで

再び ここへ 来るべし"

 

"未来へ 進みたくば、

過去より 銀の力を もって

再び ここへ 来るべし"

 

 

先にある道は左右に向かった二つ。

順当に考えればその片方が過去、もう片方が未来を表すのだろうが。

特別な事情を持つリンクにとって、それはさらにもう一つの意味を含んだ文章に思えた。

 

「どっちにしろ今はここに居ても仕方なさそうだし、一旦出て周りも見てみようか?」

「そうネ。昨日は暗かったから何か見落としがあるかもヨ」

「ダーク行こう、・・・どうかした?」

 

踵を返したリンクが声を掛けるも、出口のすぐ傍らでダークはじっと何処かを見詰めている。

 

「・・・昨日、俺がくたばってた時に寝かされてたのは此処だろ」

「うん、そうだけど?何か気付いたことでもあった?」

「あの時、お前らの他に誰か此処に居たか?」

「え?いや・・・あ、シークのこと?」

「違う」

 

アイツじゃない。

似た臭いはしていた気がするが、違う。

 

ダークは朧気な記憶の端に引っ掛かっているそれの正体が掴めずに眉根を寄せた。

 

「・・・誰か知らねえ奴の声がした」

「なにそれ・・・怖いこと言わないでよ」

 

顔を引き攣らせて明らかに狼狽するリンクを見やり、ダークは事も無げに呟く。

 

「ああ、そう言えば此処の名前"魂"の神殿だったな」

「ええぇぇぇまたそういう感じのやつ!?もうやだよオレ!」

「ちょっとダーク!!リンクが役立たずになっちゃうから脅かすのやめてヨ!」

「言い方がひどくない・・・!?」

 

ぎゃいぎゃいと騒ぎ出す一人と一匹を余所に、ダークは思い返す。

 

あの時、確かに誰かの声を聞いた。

アレが無ければダークが水を求めることもなく、リンクが外に捜しに行くことも無かったであろうことを考えるとダークの命を救ったのは実質あの声だったといっても過言ではない。

 

他に可能性があるのは砦での話に出てきたナボールとかいうゲルド族だろうが、特徴を考えればそれも違う気がした。

第一かなりの至近距離で聞こえたあの時、勇者と妖精はすぐ目の前に居た筈なのだ。それでいて気付かなかったとなればコイツらの目には見えない存在だった可能性が十二分にある。

冗談じゃなく幽霊の類いかもな、ともダークは思ったものの目の前の勇者の怯えまくる様子を見て口に出すのは止めておいた。

 

「・・・気のせいだったかも知れねえ。行くぞ」

 

からかうと面白くはあるが、妖精の言う通り足が止まってしまうとまた面倒だ。

挙動不審になるリンクを置いて、ダークはさっさと外へ出た。

 

 

 

 

 

出口をくぐって直ぐの所で、リンクがまず目にしたのは数刻振りの見覚えがある姿。

 

「・・・あれ、シーク?帰ったんじゃなかったの?」

 

出迎えたのは昨夜ダークが復活してすぐに行方を眩ませていたシークだった。

 

「一番重要な用がまだ済んでいなかったからね。・・・中はもう見てきたんだろう?」

「うん。今は進めそうになかったけど、なんか気になることが書いてあった」

 

何処からともなく取り出したハープを爪弾きながら、シークは謳うように語る。

 

「・・・そう。砂漠の邪神像を魂の神殿として再生させるには、時の流れをさかのぼらなければならない」

「それって、やっぱり・・・?」

「過去・現在・未来・・・。キミの持つマスターソードは、その流れを旅する舟。そして時の神殿にその港は存在する」

 

その言葉で予想が的中していたことを察したのか、リンクが盛大な溜め息を吐く。

明らかに乗り気ではない勇者の様子にシークは薄く笑みを溢し、やがてひとつの旋律を奏で始めた。

 

「さあ・・・幼き者を砂漠へ誘う調べ、魂のレクイエムを聞くがいい・・・」

 

渋々オカリナを取り出したリンクがそれに続き、もはや恒例とも言える短いセッションが始まる。

響き渡るメロディをしっかりと記憶に刻み込み、リンクはオカリナを仕舞い込んだ。

 

「・・・これで砂漠を越えなくてもいつでも此処に戻って来られるな。シーク、いつもありがとう」

「ボクに出来るのはこれくらいだからね。あとは君に・・・君達に任せるしかない。」

 

シークの見やる先には、リンクが話していた間ずっと辺りをウロウロと彷徨いていた影の姿がある。

 

「ダーク。」

「・・・何だよ」

 

声を掛けられたダークは訝しげな視線だけをジロリと向けた。

 

「あまり、リンクを困らせるようなことはしないで貰えると有難い」

「うるせえ。余計な口出しすんな」

 

そのまま目を背けてしまったダークを見て、二人が仲良くなるのは難しいかもなあとリンクは困ったように頬を掻いた。

 

「手を取り合うとまではいかなくとも、うまく助け合って乗り越えていってくれるようにボクも願っているよ。・・・君は運命を繋ぐ鎹なのだから。」

「は?」

 

どういう意味だと問い返す前に、何か含みのあるような笑顔を向けたシークは突如吹き渡った砂嵐と共に姿を消してしまう。

 

「・・・何なんだアイツ」

「シークって、絶対何か大事なこと知ってて隠してるよネ。」

「でも悪い人じゃないよ?助けてくれるし」

「言い回しが中途半端に分かり難ぇんだよ」

「あー、ちょっと独特ではあるよね。・・・でも必要なときに現れて必要なことは言ってくれるから、今はその時じゃないってことじゃないかな」

「・・・もう来なくていい」

「そういう事言わないの。・・・さ、助け合ってとっととこの辺調べちゃおう!」

 

リンクの言葉にダークが露骨に嫌そうな表情を浮かべ、ナビィに叱咤されながら二人はようやく周りの探索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 



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13.魂の神殿(2)

13

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数時間。

リンクは女神像周辺をくまなく調べてみたものの、大妖精の泉を偶然発見したこと以外にはさして目立った収穫は得られなかった。

 

「・・・えーと、それでダークはさっきから何をしてんの?」

 

洞穴から出て戻ってみれば完全に暇を持て余していたのか、外で待っていた筈のダークが砂の中から無限に湧いてくる緑色のモンスターをリズミカルに蹴飛ばして遊んでいる。

大妖精に会った精神的な疲労から気を取り直してリンクが尋ねれば、ダークは邪魔になったモンスターを回転斬りで一掃した後に巨大な像の中腹あたりを差した。

 

「いじめよくない」

「うっせぇ。・・・アレ見てみろ」

「んー・・・・・あ、あれ宝箱?よく見つけたな」

 

像はこの地方で信仰されていた女神が座る姿を模したものであるらしい。

その膝上で天へと向けた両掌。

よく目を凝らすと、確かに箱のようなものが置いてあるのが見てとれた。

 

「でも高すぎて登るのは無理そうだヨ?」

「だよなあ・・・」

「フックは」

「ちょっと待って。・・・あー、やっぱ駄目」

 

像の足元へ戻りギリギリの位置から発射したロングフックの鏃でも届かず、空振りで戻ってきたのを見てリンクは首を振る。

するとダークは手の中に黒い弓を生み出し、こちらもまた真っ黒な矢をつがえ上に向かって引き絞った。

 

「え?何すんの?」

「・・・・・昨日の話の続きになるが、コイツは俺の一部だ」

 

目を丸くするリンクに、一瞬面倒臭そうな顔をしたもののダークがぽつりと語り出す。

そして放たれた矢は、ゲルド仕込みの腕で寸分の狂いも無く宝箱の端へ突き刺さった。

 

「すげー」

「そしてあの矢もだ。俺の手から完全に離れればそのうち消えちまうが、あれは細く糸のようにしてまだ繋いであるから何かと使える。飛距離に限界は出るけどな」

「撃ったあとでフックショットみたいに回収できるってことネ?」

「それもアリだが、逆だな」

「逆?」

「・・・集約する先を向こう側にすれば、」

 

聞き返すリンクの目の前で、ダークが何かを引き寄せるような仕種をした直後。

 

「こうなる」

 

瞬きする間に、像の掌の上には先程矢が刺さった宝箱を足蹴にするダークの姿があった。

 

「・・・ずるい!!」

 

一瞬呆気にとられたリンクが叫び、ナビィは感嘆の声を上げる。

 

「すごーい!色々応用が利くのネ。・・・要はフックショットと同じコトでしょ。リンクだってやってるじゃない。」

「で、でも・・・なんか・・・」

 

諭されるものの、ダークの補助技能と利便性がどんどん向上しているのを目の当たりにしてなんだか色々と置いていかれている気がしたリンクは頭を抱えた。

 

・・・もし次に戦うことがあったとしたら勝てる気がほとんどしない。

 

そもそもダークはその為に身に付けているわけだが、不安に駆られたリンクはそんな機会が訪れないように願うしかないなと思いつつ自分も剣の練習は怠らないようにしようと決意を新たにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.13》

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしているうちにガスガスと物音が響き、何事だろうと再び顔を上げたリンクの視界に自分の方へ向かって勢いよく落ちてくる物体が映る。

 

「うっわ!!」

 

リンクのすぐ傍らへ落下したそれは、ダークが蹴り落としたらしき宝箱だった。

 

「もー!!あぶないだろ!!」

 

文句を言いつつ衝撃でひしゃげてしまったそれを開けると、中から出てきたのは鏡のように表面が磨き抜かれた盾。

 

「・・・よかった。中身は無事みたいだ」

「上にもうひとつあるみたいだヨ、宝箱」

「ダークー!!壊れちゃうかもしれないからそっちで開けて持ってきてくれよー!」

 

あちこち問題がないかどうか矯めつ眇めつ確認したリンクは、まだ上に残ったままのダークに向かって声を張り上げた。

命令すんなと文句が返ってきたものの、反対側の掌に飛び移りちゃんとその場で箱を蹴り開けたのを見てリンクは胸を撫で下ろす。

やがて飛び降りてきたダークがリンクに投げ渡したのは銀色の装飾のついたグローブだった。

 

「ほらよ」

「ありがとう!・・・なんだこれ?手袋?」

「銀のグローブね。力が強くなる装備アイテムみたい」

「・・・ゴロンの腕輪と何が違うんだろう」

「大人専用とかじゃない?サイズを見ても子供の手じゃつかえそうにないヨ」

「ふーん?」

「そっちの盾は光を反射することが出来るみたいネ」

「へぇ・・・面白そうだけど、ダーク使う?」

「いらねえよ」

「じゃあとりあえず両方オレが持っとこうかな。・・・何に使うんだろ?」

 

箱の大きさからして、重要アイテムのような雰囲気はしているが。

頭を捻るリンクに、ダークがぽつりと呟いた。

 

「・・・銀の力ってそいつじゃねえのか?」

「え?でもあれは過去にあるんだろ?」

「シークもそんなこと言ってたもんネ。神殿を再生させるって・・・これを使って7年前で何かしてくるんじゃない?」

 

そうかもしれないと盛り上がるリンクとナビィに、ダークは途中でさらりと聞こえた単語が気に掛かかり訝しげに眉根を寄せる。

 

「・・・7年前?」

「あ、言ってなかったっけ?オレ、この時代と7年前の時代を行き来できるんだよ。・・・あんまり向こうには戻りたくないんだけど」

 

説明しながらリンクはあまり気が進まないといった様相で困ったように笑った。

 

「元々はあっちにいたのにネ。・・・もうこの辺りには何も無さそうだし、さっそく行ってみる?」

「そうだな。・・・ダークにもついてきて貰わなくちゃいけないと思うんだけど、構わない?」

「嫌だっつったらどうするよ」

「うーん・・・嫌でも来て!」

「・・・結局そうなるんじゃねえか」

 

その辺りに関しては既に諦めているのか、ダークは溜め息混じりに睨み付けた後で素直にリンクの足元へ潜り込む。

何も言い返せないリンクは再び苦笑を溢して取り出したオカリナを吹き鳴らした。

 

 

 

 

 

時の神殿。

聖地への繋がる唯一の道と伝えられるその地は依然として静謐な空気に満たされている。

やがて光の帯と共に台座の上へ降り立ったリンクは、短く息をつくと足元の影に向かって声を掛けた。

 

「・・・ダーク、ちゃんといる?」

「お前が連れてきたんだろうが」

「あ、よかった。ここってなんか神聖な場所みたいだからダークだけ弾かれちゃったらどうしようかと思った」

 

先に言えと怒鳴りながら飛び出しざまに一発殴られ、顔を擦るリンクへナビィは思い返すように明滅しながら言う。

 

「トライフォースをとられちゃった時にガノンドロフもここに入ってるはずだし、そのあたりは緩いのかもネ。不用心だとは思うけど今回に関しては良かったじゃない」

「いてて・・・それもそうか。入れなきゃ他の手段探さなきゃいけない所だったしな」

 

ダークを宥めてから奥へ向かうと、石造りの開いた扉の先には高窓から陽光が射し込む大きな部屋がひとつ。

中央の台座以外には何もない、どこか殺風景なその場所でリンクは背にした鞘から聖剣を抜いた。

 

「じゃあ行くよ?」

 

オレの肩掴まっとく?とリンクが振り返るも、嫌だったのかダークは足元へ再び潜って影と化してしまう。

 

「・・・この状態でも大丈夫なのかな」

「イイんじゃない?アタシだってリンクの横で飛んでるだけだけどちゃんとついていけるみたいだし」

「そっか。・・・まあ何かあったらその時はその時だ!」

「オイ待て何かって何だ!」

 

 

 

逆手に持った両腕を振りかぶり、せーの!という掛け声と共にリンクは勢いよく剣を台座へ突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 



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14.魂の神殿(3)

14

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りに満ちた蒼い光が消えた時、台座の上にはひとりの少年の姿があった。

 

剣の柄から手を離し、軽く飛び降りるようにして着地したリンクは自らの手足の短さに思わず嘆息する。

大人の姿なら、丈が届くどころか少し腰を曲げるくらいの余裕すらあったのに。

すっかり向こうの姿に慣れてしまっていたせいで、時折こちらの時代に戻らなければならなくなるときには決まって憂鬱な気分に陥ってしまっていた。

 

「ちゃんと戻れたみたいネ」

「うん。・・・ぁ」

 

自分の声の高さにすら違和感をおぼえ、リンクは思わず顔を顰めてしまう。

 

「やっぱりやだなぁ・・・」

「こればっかりは仕方ないヨ。・・・ところでダークは?」

「あ!・・・ダーク?いる?」

 

足元へ目線を移せば、そこには変わらず床に張り付いたままの影があった。

・・・しかし少し待ってみても何の応答も無く、リンクは首を傾げながら覗き込んでみる。

 

「どうしたの?・・・いるなら返事してくれよー、おーい」

 

それでも応えは無く、リンクがどこか不安に駆られ始めたとき不意にポツリと声が聞こえた。

 

「・・・出られねぇ」

「え?」

「さっきから試してるがそっち側に出られねぇんだよ」

「なんで!?」

 

驚いたリンクが地面の影にぺたりと手をついた、その時。

急に辺りを強烈な黄金色の光が覆った。

 

「うわっ!?」

「キャー!」

 

ゴスッ!

 

「「いってぇぇぇ!!!」」

 

悲鳴、悲鳴、衝突音の後にまた悲鳴。

 

光はすぐに消え去るも、リンクは訳もわからず痛む額を押さえて床に転げ回った。

 

「いででででで」

「もー!何なのよ・・・アラ?」

 

目が眩みフラフラとよろけるように翔んでいたナビィが持ち直し、辺りに目を向け声を上げる。

 

「リンク、ダーク出てこれたみたいだヨ」

「え!?」

 

思わずリンクも起き上がって見れば、すぐそこにリンクと同じく頭を押さえて悶えながら座り込むダークの姿があった。

 

「いってぇ・・・この石頭が」

「こっちの台詞だよ!!っていうか、何で!?どうして!?何があったんだよ!?」

 

恨めしそうに呟くダークへ叫び返す。

色々と聞きたいことが重なってまとまらないリンクだったが、まず真っ先に。

"大人の姿のまま"現れたダークを見て、思わず地団駄を踏んだ。

 

「ダークだけずるい!!」

「・・・さっきも思ったんだケド、もしかしてダークには7年前の姿自体が無いのかしら」

 

キーキー取り乱すリンクを尻目に、ナビィが冷静に予測を立てる。

ダークは軽く頭を振って立ち上がった。

 

「・・・出られなかったのもそのせいか」

「かもしれないネ。でも、どうして急に?」

「知るかよ」

 

聞いてみるとこちらの時代に着いてすぐ、ダークは見えない"壁"のようなものに遮られ閉じ込められていることに気付いたらしい。そしてムキになってひたすら下から押していたところ、突然箍が外れたように"壁"が無くなりほぼ全力のまま飛び出して頭をぶつけたとのことだった。

 

「・・・さっきの光、いつもの感じとは少し違ってた気がする」

 

なんとなくだけど、と幾分落ち着いたらしいリンクは左手を翳して仰ぎ見る。

気のせいだったかもしれないが、地面に手をついたあの一瞬何か見えた気がした。

 

「リンクが死んじゃったときの白い光とは別物なのかしら?」

「・・・わかんない」

 

リンクは首を振り、ダークへ視線を移す。

丁度そのときダークもこちらを向き、目が合った途端にいきなり噴き出して笑われた。

 

「・・・ちっせ」

「うるさいなー!!こっちが元々なの!!ダークのほうがおかしいんだってば!!」

 

近寄ってみれば今のリンクはダークの胸元あたりまでしか身長が届かない。

放っておけばまた喧嘩でも始めそうな二人を見てナビィは溜め息を吐き、憤慨するリンクの頭にポヨンと軽く体当たりをかました。

 

「はいはいもう文句言ってても仕方ないでしょ!背が高いならそのぶんダークに色々頑張って貰えばいいじゃない!ダークもいつまでも笑わないの!!」

 

さすがにダークの方へはぶつかりに行かなかったが一声叱り飛ばし、ぐぬぬと唸るリンクを落ち着かせる。

小さな勇者はぶーたれながらも取り出したオカリナを吹き鳴らし、響く音色と共に一行は光の帯となってその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.14》

 

 

 

 

 

 

 

巨大な女神像のもとへ戻ってきたリンクは、遺跡の入り口をくぐってすぐに見覚えのない人影を見つけた。

 

「・・・あれ、誰かいる」

 

近寄ってみればどうやらゲルド族の女性が一人、通路の穴を何やら調べているところらしい。

彼女はリンクの気配に気付いたのか、後ろで束ねた長い髪を揺らしながら振り返った。

 

「ん、誰だい?」

「・・・こ、こんにちは」

 

敵意が無いことを示すために片手を挙げて挨拶してみたリンクを見て女は瞠目し、その隣に居たダークとナビィにも視線を向けたあとでリンクに向かって口を開く。

 

「・・・驚いたね。こんな辺鄙な場所にアンタみたいなボーヤ達が一体何の用だい?」

「え?えっと・・・」

 

何の用、と言われてしまうと返答に詰まる。

最終的な目的は賢者の解放とナボールの安否確認だがそれは7年後の話。ここでの用件というと神殿の中に進むための手段の確保だが、一見したところこの広間の様子は7年後で見たものと全く変わりないようだった。

強いて言うなら今まさに目の前にある穴くらいしか新たな行動範囲は無さそうだが、それを正直に言っていいものだろうか。リンクは何と答えるべきかわからず困ったように苦笑いを溢して頬を掻いた。

 

「・・・そこの穴の先に行こうと思って」

「何だって?・・・アンタまさか、ガノンドロフの一味じゃないだろね?」

「へ?・・・まさか!」

 

訝しげにジロリと睨む女にリンクは目を丸くして手と首をぶんぶん振る。

よりにもよって魔王の仲間だと勘違いされるなんて。

 

「むしろガノンドロフはオレが倒さなきゃいけない奴なんだ!」

「へぇ、見かけによらず言うじゃないか!・・・冗談だよ、アンタみたいなボーヤがガノンドロフの仲間な訳ないだろ!そっちのニーサンは逆にヤル気無さそうだしねぇ」

 

女がカラリと表情を変えて笑うのを見て、リンクはホッと息を吐いた。

隣を見ると、ダークは心底どうでもいいといった顔でそっぽを向いている。

 

「・・・あぁそうだ、丁度いい!ボーヤ、ついでで良いからちょいとアタイの頼みを聞いちゃくれないかい?」

「なに?」

「このちっこい穴をくぐった先にあるっていう、あるお宝をとってきてほしいのさ。アタイじゃ狭すぎて無理だからね」

 

そう言って女が差したのは、先程まで調べていたらしき壁にあいた穴。

7年後のほうでも見たそれはこの広間から通じる道のうちのひとつのようで、その大きさは今のリンクが屈んでようやく通れる程度のものだった。

どうせ今から入らなければいけない場所だ。ついでに済ませられる用なら断る理由もない、と特に悩みもせずにリンクは頷いた。

 

「うん、いいよ」

「おや、二つ返事とは気前がいいね!アタイはナボールってんだ。アンタ達は?」

 

・・・彼女が、例のゲルド族。

ナボールという名前に思わず反応するリンクだが、砦で頼まれたのも7年後での話だ。

口に出すことはなく、リンクはひとまず名乗るついでに隣のナビィとダークを指す。

 

「リンク!それでこっちがナビィと、ダークだよ」

「へぇ、ハイリア人ってのはヘンな名前が多いんだねぇ・・・アンタ達そっくりな顔してるけど、兄弟か何かかい?」

「うーん・・・違うけど、まあそんな感じ」

 

笑顔で答えるリンクへダークが微妙な顔を向けるも、文句を言われる前にナビィが話題を切り替えた。

 

「それで、とってきてほしいものって一体なぁに?」

「ああ、銀のグローブっていうやつでね。重い物でも押したり引いたりできる便利な道具だよ」

「「・・・え??」」

 

ナボールの言葉に、思わずリンクとナビィの声が重なる。

 

「ねぇ、それってもしかしてコレのこと?」

 

リンクは荷物の中から銀の装飾のついたグローブを引っ張り出して差し出した。

受け取ったナボールはグローブを様々な角度から一通り眺めると片手に嵌め込み、何かを確かめるようにして驚きの声を上げる。

 

「・・・あぁ間違いない、コイツだよ!アンタ、どうしてコレを!?」

「それね、この大きな像のてのひらの上に置いてある宝箱に入ってたんだ」

「外から丸見えだったヨ」

「何だって?」

 

出口を指差すリンクとナビィの言葉にナボールは更に目を丸くするも、穴を振り返り顎に手を当てて呟いた。

 

「ということは、この穴は巡り巡ってそこに繋がってるってワケかい。・・・にしても、かなりの高さがあっただろう?」

「うん。オレは無理だったけど、ダークが登って取ってきてくれたんだ!」

 

リンクは自分のことのように胸を張って隣のダークを見上げた。

話に入らず暇だろうに、今日は珍しく地面に潜る様子の無い彼は心なしか眠そうな顔をしている気がする。

 

「へぇ!やるじゃないか。このグローブ、恐らくニーサンなら装備出来るだろうけど・・・アタイが使っても構わないかい?」

「俺は興味ねぇよ。勝手にしろ」

 

欠伸を溢しつつダークがそう返すと、ナボールはグローブを両腕に嵌め込んで拳を軽く打ち付けた。

ぱん、と小気味良い音が軽く響いて赤い装飾が光を反射し煌めく。

 

「よっしゃ、恩にきるよ!コイツさえあれば神殿の奥まで潜り込める。」

「向かい側のブロックをこれでどかすってことかな?」

「あぁその通り。・・・この魂の神殿はガノンドロフの手下どもがアジトに使ってるんだ。そこにあるお宝をごっそりいただいてヤツらの鼻をあかしてやろうって寸法サ!ボーヤ達はどうする?」

 

ナボールが振り返ると、リンクとナビィは顔を見合わせて頷いた。

 

「一緒に行ってもいいかしら?あの穴は上に繋がってるって判ったし、アタシ達も奥のほうに用事があるの」

「仕掛けも手分けしたほうが早いよきっと!オレもダークも戦えるから魔物は任せて!」

「俺を勝手に頭数に入れんな」

「そりゃ頼もしいねぇ!よし決まりだ、アタイとボーヤ達でガノンドロフ一味にひとアワ吹かせてやろうじゃないか!」

「「おー!」」

 

ナボールの鼓舞にリンクとナビィがノリノリで声を合わせ、ダークはうんざりした顔で溜め息を吐く。

それを見てカラカラと笑うナボールは、ふと思い付いたように片眼を瞑り愉しげに告げた。

 

 

 

「もし、無事にお宝を手に入れられたら・・・イイことしてやるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 



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15.魂の神殿(4)

15

 

 

 

 

 

 

 

 

新たに加えた仲間と共に神殿の中を進む。

その道中ふと気になったことを思い出し、リンクは前を行くナボールへと訊いてみた。

 

「ナボールさんはゲルド族なのにガノンドロフのことが嫌いなの?」

 

行程はすこぶる順調だ。こうして時折雑談を挟む余裕もある。

ナボールも特に嫌な顔をせず、部屋にあった大きな鏡を回し終えると休憩てがらに答えを返してきた。

 

「ああ、どうもいけ好かないね。アタイは一匹狼だけど、アイツは同じ盗賊でも大勢で弱い者から奪ったり・・・殺しだってやる。一緒にされたくないよ」

「ナボールさんはいわゆる義賊ってやつなのネ」

「そんなに胸張れる立場でもないんだけどサ。・・・アンタ達は知らないだろうけど、アタイらは女ばかりの民族でね。百年に一人生まれる男はゲルドの王になれるって掟がある」

「へー、そうなんだ」

「確かに実力はあるだろうが、あんな奴アタイは認めないよ」

 

そう吐き捨てたナボールは忌々しいと言わんばかりに顔を顰める。

 

「・・・そういや、アンタ達はどうして一緒に旅をしてるんだい?ハイリア人の子供に魔物と妖精だなんて、また奇妙な取り合わせじゃないか」

「あー・・・ダークが人間じゃないってやっぱりわかる?」

「見た目は人に近いけど、ここまで見てきて流石に察したよ。人間業じゃない動きだってしてたしね」

 

ダークはそもそも素性を特に隠そうとしておらず、人の目があっても基本的に普段のその行動を変えるようなことはしない。

ちなみにナボールが同行したことにより人手が増えたからかサボってはいるものの、今いる部屋に居た見えない敵の対処など嫌な顔をしながらも時々は手を貸してくれている。

 

「んー・・・何て言えばいいかわかんないんだけど、オレ達一緒に居なきゃダメみたいなんだ」

「ああ、話し難い事なら別に構わないよ。無理に詮索する気は無いからね」

 

困ったように言葉を濁すリンクへ、ナボールは笑いながら小さい頭をぐりぐりと撫でた。

 

「誰だって事情ってもんはある。けど、その歳でその剣捌き・・・アンタもそれなりに苦労はしてきたんだろ。詳しいことは訊かないけど、アタイも今すごく助かってるんだ。ありがとよ」

「・・・ナボールさん、いいひとだね」

 

まだ多くを話したわけではないけれど、一緒に過ごしてみて砦であんなにも慕われていた理由も少しは解った気がする。

 

撫でられる頭をぐらぐらと揺らしながら、リンクは少し照れ臭そうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

《境界線のハイウインド.15》

 

 

 

 

 

 

 

銀の宝石を集め、蛹のようにも見える変わったモンスターを倒し、動く石像を押し留めて。

どんどん探索を続ける一行は、赤い絨毯の敷かれた大きな部屋へ辿り着いた。

 

「・・・何かいるね」

 

並ぶ石造りの柱と、一番奥の玉座のようにも見える椅子。

そこには重厚な全身鎧を身に纏った誰かが腰を降ろしている。

 

「アイアンナック!人型のモンスターだよ。斧の攻撃力がとても高いから気を付けて!」

 

辺りを翔んで様子を見ていたナビィがいち早く正体を見抜き、全員に向かい警告した。

 

「アイツを倒さなきゃ先へは進めないようだね」

「なんか、ぜんぜん動かないけど・・・こっちに気付いてないのかな」

 

視界には入っている筈だが、アイアンナックは座り込んだまま微動だにしない。

 

「よーし・・・じゃあ今のうちに・・・っ!」

 

飛び出したリンクはこれ幸いと、懐から取り出した爆弾をありったけ放り投げてその場を離れた。

轟音が響き渡り、雄叫びを上げたアイアンナックは斧を構えてリンクのほうへと向かってくる。

 

「わざわざ怒らせることなかったんじゃない!?」

「オレもやってからちょっと思った!ダークー!今のうちだよー!」

 

逃げ回るリンクとナビィを追いながらアイアンナックは斧を振り回し、それに当たった石柱は粉々に砕け散った。

確かにあれを食らってしまえば大ダメージは避けられないだろう。

 

手を出す気は無かったらしいダークは水を向けられ舌打ちを溢すと、闇色の剣を手に走り抜けて背後をとったと同時に激しく斬りつけた。

 

「遅ぇよ」

 

鎧の一部が剥がれ落ち、悲鳴を上げたアイアンナックは背後に向かって斧を横薙ぐもダークはその刃先に乗り上げてさらに追撃をかける。

 

「強い・・・!」

 

思わずナボールが呟き、リンクも逃げていた足を止めて踵を返すが加勢するまでもなくアイアンナックはその場に崩れ落ちた。

 

「うわー・・・やっぱりすごいなあ・・・オレほとんど何もしてないや」

「アンタが注意を引いてくれたお陰だろう?充分頑張ってたじゃないか。ありがとよ二人とも。」

「・・・大した強さでもなかっただろうが。多分ボスはコイツじゃねえな」

 

息も乱さずダークは事も無げに言うが、リンクは苦笑いを溢す。

・・・もし自分独りだけだったとしたら、無事で済んでいたとは到底思えない。

仮でもダークが味方で良かったと内心安堵すると共に、子供の姿とはいえ再認識した実力差をどう埋めるべきかリンクは悩ましげに頭を捻るのだった。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、先に進もうか」

 

格子の開いた扉をくぐってみれば、そこは外へと続く道なのか陽光が射し込んでいる。

 

しかし先頭にいたナボールは一歩踏み出した途端、顔色を変えて慌てたように声を上げた。

 

「リンク待ちな!来るんじゃない!」

「え!?」

 

目を丸くするリンクの前で、ナボールの身体が宙に浮いてどこかへと引っ張られていく。

響く悲鳴を追いかけるようにリンクが飛び出すと、そこは以前外観から見た巨大な像のてのひらの上だった。

 

「ちくしょう!放しやがれ!!」

 

辺りを見回すと、見つけたのはやや離れた場所に浮かぶナボールと周りを翔ぶ二つの人影。

 

「やれやれ・・・何やら騒がしいと思ったら、とんだ鼠が入り込んでいたようだねぇ」

 

ホッホッホ、と奇妙な笑い声を上げるそれはホウキに跨がった老婆だった。

 

「ナボールさん!」

「ダーク、リンクを連れて早く逃げろ!こいつら、あやしげな魔法を・・・!」

 

言い終わる前に、ナボールの身体はどんどんと引き込まれて地面に開いた奇妙な穴へと消えてしまう。

 

「おや、まだ残っているようですよコタケさん。」

 

赤と青の装束と奇妙な髪を靡かせる二人の老婆は、程無くして気付いたのかリンク達のほうへと目を向けた。

 

「どうしよう・・・連れていかれちゃった・・・!」

「リンク、ここは分が悪いヨ!・・・ダーク?」

 

狼狽えるリンクとナビィの前に、無言でダークが歩み出る。

どうしたんだ、と声を掛けようとしたリンクは思わず目を見開いて息を呑んだ。

 

ダークが、これまでにない位に殺気立って空を翔ぶ二人を睥猊している。

 

「おやおや。こいつは・・・」

「どうしたね、コウメさん?」

 

対するコウメと呼ばれた老婆もダークへと視線を向けていたが、ふいに驚いたように表情を変えた。

 

「どうやらこやつには呪いの効果が無いようだ・・・どうしたもんかねぇ?」

「使えそうにないなら始末するしかないだろうよ。」

「それもそうだ。まとめて灰にしてやろうか」

 

ニンマリと口角を上げる二人の魔女はヒッヒッヒと声を響かせながら翔びまわる。

それを聞いたダークはギリリと牙を剥くように歯を鳴らし、手の中に剣を生み出した。

 

「・・・殺す!!」

「ダーク、待って!相手は飛んでるんだよ!?」

 

ナビィの制止の声を聞かず、ダークは勢いよく狭い足場の上から駆け出す。

剣の届かない相手にどうするんだとリンクが何も出来ずに見る先で、像の指先から跳び上がったダークは背にした盾を掴み魔女へ向かって勢いよく投げ付けた。

 

「ハッ、こんなものわざわざ当たるわけが・・・」

 

鼻で笑い易々と身を翻したコウメのすぐ隣を盾が虚しく通り過ぎる。

その次の瞬間、空中に突然ダーク本人が現れ黒い剣を薙いだ。

 

「何!?」

「死ねええぇぇぇ!!」

 

しかし一撃を与えるには僅かに及ばず、赤い装飾の端を切り裂いたのみ。

盛大に舌打ちを溢すダークは落下するも、再び盾を放り投げて上空へ瞬時に移動する。

 

「なるほどね、そういうカラクリかい」

 

次々に位置を変えるダークを見て早々に看破したのか、コウメは投げられた盾の先へと魔法を射ち出した。

ダークは出現先へ真っ直ぐに伸びてきた赤い光を避けられずに、手にしていた盾を咄嗟に構えて仕方なく正面から受ける。

ジュウウゥ、と派手な音と蒸気を噴き上げながらみるみるうちに盾の表面が窪んだ。

 

「ぐぁ・・・!」

 

苦痛に表情が歪み、僅かな瞬巡の後でダークは盾を捨てる。

次の瞬間には赤い光が貫通した盾が霧散し、そのまま墜落したダークは地面へと叩き付けられた。

 

「ダーク!!」

「ホッホッホ・・・鏡の盾ならともかく、そんな紛い物で防げるほどあたしの炎は甘くないよ」

 

足場を伝って降りようとしていたリンクが思わず叫び、コウメは至極愉快といったように笑い声を上げる。

 

倒れ伏したままのダークはその場から動けず、ただ睨み上げながら苦しげに呻くのみ。

 

「さっさとトドメを刺しちまいなよ、コウメさんや」

「わかっているよ。あたしの服を駄目にしてくれたんだ、許すつもりはないさね」

 

斬られた装飾の端を忌々しげに見やり、コウメが再びホウキの先から魔法の光を放つ。

それが届く前に、地面へとようやく降り立ったリンクが駆け寄りダークの前へ立ち塞がった。

 

そのまま両手を掲げたリンクを蒼い光の結界が包み込み、襲い掛かる赤い光を弾き散らす。

 

「・・・な、」

「ダーク、大丈夫!?」

 

目を見開いたダークの見る先でリンクが叫ぶ。

その手の中には、つい先日手に入れたばかりの結晶が握られていた。

 

大妖精から授かった護りの魔法、ネールの愛。

 

ごく短時間だがどんな攻撃も通さない絶対の守り。

 

「・・・その力、大妖精だね?人の身でそんなものをいつまで扱えるもんかねぇ・・・?」

 

コウメも驚いたのはごく僅かの間だったようで、力の正体を見破った魔女は攻撃の手を緩めずに炎を放ち続けた。

 

強固な守りではあるが、それをいつまでも維持するにはコストが高すぎる。

現に、みるみるうちにリンクの魔力は目に見えて減っていった。

 

「リンク、長くは持たないよ!どうにかして逃げないと・・・!」

「わかってるよ・・・!でも、手が離せないしダークを置いてくなんてイヤだ!!」

 

叫ぶナビィとリンクの後ろで、ダークがどうにか身を起こす。

しかしその動きはいまだ頼り無く、ふらつく身体を支えにした剣もやがて消え失せた。

 

「・・・畜生」

「!ダーク、動ける!?」

 

ナビィの問いには答えず、ダークは荒く息を吐き出すのみ。

彼にとっては身に付けていた装備も身体の一部であり、その利便性と引き換えにそこへ受けたダメージも全て本体へとのしかかる。

あの瞬間一か八かでかなりの体積を圧縮し盾へまわしたにも関わらず、あっさりと撃ち破られダークの受けた総ダメージはかなりのものとなっていた。

 

「このままじゃ全員やられちゃう・・・!何か手はないの!?」

 

やがて業を煮やしたのか、辺りを翔ぶのみだったコタケまでもが別角度から青い魔法を撃ち込んでくる。

リンクは結界の範囲を拡げ、魔力の減る速度がさらに増した。

 

「うわ・・・!!ごめん、もうダメかもしんない!!」

「頑張ってリンク!!」

「無理いぃぃ!!」

 

喚くリンクとナビィを余所に、ダークは周りへ視線を巡らせる。

 

すぐ傍にあるのは遺跡の石柱くらいのもので、辺りは砂漠の拓けた空間だ。

神殿の入口は見えてはいるもののやや距離があり、そこへ走って逃げるのをみすみす魔女が許すとも思えない。

 

何より、もう時間が無かった。

 

揚々と宙に浮かぶ老婆を睨み上げ、そして目の前の自分を守る小さな勇者と妖精に視線を移す。

舌打ちを溢して手を伸ばし、その首根っこと明滅する丸い光をひっ掴んだ。

 

驚いて仰け反るリンクの魔力がついに底を尽く。

 

 

 

そして次の瞬間、襲い掛かる炎と冷気に耐え切れずネールの愛は虚しく砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

[つづくよ]

 

 



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