魔源の禁龍を宿し者《リメイク版》 (ドラ丸2号)
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第1章 禁龍主の目醒め
第1話 日常の崩壊


ちゃんと原作を読み直しながら、自分で考えたオリジナル要素を出せる様にしていきますので、また読んでみて下さい。

それではリメイクされた1話目をお楽しみください。



 

『もっとだ……もっとチカラを求めろ』

 

 

『早くしねーと死ぬぞ?』

 

 

『直ぐに死ぬぞ〜オマエ弱ぇ〜から』

 

 

この3つの声が耳に入った瞬間

 

 

……あぁまたあの夢か……

 

 

眼に映る世界は

 

 

“真っ暗な闇の世界”

 

 

全く身動き1つも取れないのに

 

 

小さい頃からよく見る夢

 

 

そして夢の中でしか聴こえない声

 

 

3つの声の内2つは口が悪く、

 

内容はいつも違うが、

 

 

いつも俺を罵ってくる。

 

 

だが、何故かは分からないが、

 

 

この声は不思議と全く不快には感じなかった

 

 

本当に何故感じなかったのか

 

 

 

その理由は分からなかった

 

 

 

 

そして、俺“阿道(あどう) 黎牙(れいが)を6つの血の様な妖しく光る目が睨みつけて来た所で、その夢は醒める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

阿道黎牙は幼少期から定期的に見る不思議な夢の事を考えていた。

あの声の正体は何だ?

可笑しな幻聴か何か?

それとも悪霊か何かに取り憑かれているのか?

という様々なの事を考える。

何故、急にこんな事を考えているのかと言うと………単なる現実逃避である。

 

 

 

グオォォォォォォォォォォォォ!!!!

 

 

「ヤバい!ヤバい!ヤバい!」

 

 

全力疾走する黎牙の真後ろから熊に近い姿をしたバケモノに追われているからだ。

 

いくら人気は無いとは言え、鋭い棘をまるでハリネズミの様に生やす熊など居る訳もない。加えて、こんな熊など聴いた事も無い。

そんなバケモノに追われれば現実逃避もしたくなる。

 

 

何故彼が異形のバケモノに追い回されているのかは時間を少し遡る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

バキ!ボキ!グチャ!ぐべぇ!!

 

 

何かが折れる音と共に聴こえる悲鳴の正体は至極単純なもの。

俺“阿道黎牙”の足元に転がっている不良達の歯が折れる音、殴られたヤツの悲鳴である。

3人組の不良達を足元に転がらせてから、

 

「よし!オマエらに問題です!アレは何でしょうか?」

 

黎牙は電信柱の真下で倒れているあるモノ(・・・・)を指差した。

 

「えぇ……と、先月亡くなった子供のお供え物ですか?」

 

「正解!!」

 

「グバァ!!」

 

黎牙の指差した方向の先には、花が添えられた小さな花瓶が倒れていた。ちゃんと黎牙の質問に応えた足元に転がる不良その1は黎牙の踵落としを喰らわされ撃沈。

 

「次に何でそのお供え物が倒れているのでしょうか?」

 

続けてドスの利いた声で次の質問?をする。

 

「は、ハイ!俺たちが面白半分で倒しました!」

 

「正解!!」

 

「グベェ!!」

 

凶悪な笑顔を浮かべる黎牙にビビり倒しながら質問に答えた不良その2は黎牙の蹴りを顔面に喰らい撃沈。

 

「それじゃあオマエら、コイツ(・・・)に謝れ」

 

不良達の眼には黎牙が向いた視線の先にいる筈の相手はいない。いや、見えていない(・・・・・・・)

 

「あ、あの〜誰も居ないのですけーーー」

 

「あぁん?」

 

「ヒイィ!!」

 

勇気を振り絞った不良その3は黎牙に質問をするが、黎牙の威嚇で情けなく悲鳴を上げた。

 

「「「す、すみませんでした!!!!」」」

 

土下座をした後、不良達が一目散に逃げていったのを確認した黎牙は、彼等には見えていなかった(・・・・・・・・)第三者に話しかけながらお供え物の花を綺麗に直した。

 

「これで大丈夫だぞ」

 

『う、うんありがとう!お兄さん』

 

 

その人物とは、半透明な姿をした小学生くらいの男の子のだった。何故、半透明で、黎牙にしか見えていなかったのか。それは男の子が既に死した存在ーーーー幽霊だからなのだ。

黎牙は幼少期の頃から霊が見えているため男の子が幽霊である事を認識し、先ほどの不良達が倒したお供え物の送り主である親御さんの子供だとすぐに気づけた。

 

「あんまり長いはするなよ。彷徨い続けてもいい事なんて無いからな」

 

『う、うん僕地獄に行くのかな?』

 

 

怯えた様に身体を震わせる霊の少年に黎牙は優しく微笑みかけ、

 

「お父さんとお母さんが心配でここにとどまってるオマエを閻魔さまは地獄に送るかよ。大丈夫だ。オマエは優しくて、ご両親に愛されていたんだ。だから、大丈夫だ。もうお父さんとお母さんを安心させてやれ。いつまでオマエに心配されていたんじゃ、お父さんとお母さんも前にいけないからな?」

 

『……うん!わかった!!僕、もう一回だけお父さんとお母さんを見てから逝くよ!』

 

「そうか。なら生まれ変わったら、いつか逢おうな?」

 

『うん!!約束だよ!!お兄さん!!』

 

両親との本当の別れをする決意した霊の少年と黎牙は指切りの約束を行い別れた。

 

 

誰もいなくなった事を確認した黎牙は改めて周りを見渡すと、足元に落ちていた新聞の題目が眼に入ってた。

 

《未だに原因不明!ヘヴンリィ・オブ・アロハ号の沈没事故!事件には米国の影が!?》

 

これを見て黎牙は複雑な気持ちになる。

自分の元学校の陸空高校の修学旅行の内容は、ハワイ諸島を豪華客船でクルージングする10日間の海外ツアーというものだった。

しかし、それが思いがけないことに、修学旅行日から四日後に豪華客船が真っ二つに折れるという最悪な事故が発生し、教師生徒に加えて他の一般客共々海底に沈んだ。その時、黎牙の同級生である二百三十三名が行方不明とされているが、生存は絶望的であった。

いや、もう死んでいると考えるのが妥当と思った。

本来なら黎牙にとって初めてとなる海外旅行となる筈だったーーーが修学旅行日に運が良かったのか、悪かったのか、黎牙はその時体調を崩し休まざる負えなくなった。

そして、家でニュースを見た時には驚きを隠せなかった。

合同葬儀の際も自分以外に生き残った生徒の一人として参列したが、葬儀中のカメラのフラッシュは止む事は無かった。世間やマスコミから好奇の目を向けられ、ほとぼりが落ち着いた頃には新しい制服を着て新しい学校に通い始めた。

 

「もう二ヶ月ぐらい経つのか……」

 

沈没事故のことを思い出してはそうぼやく。

それでも、今の黎牙の生活は何も変わることはない。

もしかしたら、死んだクラスメイトがその内霊として現れるのではと言う自分でも不謹慎な事を考えてしまった自分に嫌悪感を抱きながら、人気の無い帰り道を一人で歩いて行くが、

 

「あれは、確かクラスメイトの……柊木?」

 

黎牙の足を止めた。

黎牙の視線の先には見覚えのある制服を着た男子生徒だった。

元陸空高校の制服を着た男子生徒は黎牙の同じクラスメイトだったことに気付いた。だが、黎牙は同時に不信感を覚える。

柊木は半透明ーーーーつまり霊体では無いという事に。

 

「どうしてあいつがここに……?」

 

合同葬儀の際に自分と同じ生き残った生徒の顔は全員見た。

その中に柊木の姿は存在しなかった。豪華客船の沈没事故で行方不明となったはずの彼がどうしてこんなところにいるのか?

霊体でなければ生きていると言うと事になる。

仮に運よく生き残って助かったとしてもここにいること自体がおかしい。どういった経緯で日本まで戻ってきたのか? 他の行方不明者はどうしたのか?という様々な疑問が飛び交う。

黎牙が1人で帰る際に好んで近道として使う人通りの少ないこの道は工場や廃屋ぐらいしか周囲にはない。

疑問を抱く黎牙を置いて柊木は廃屋の中へ入って行く。

 

「何をしているんだ?アイツは……」

 

彼がこれから何をするかは彼の自由であるーーーーが、黎牙の頭の中にモヤモヤする物があった。今の彼を見失うなと。

仮にも柊木が本当に霊体ではなく、生きているのならもっと多くの生き残りがいる可能性だってある。

向こうはこちらの事を覚えていなくても会話ぐらいはしてくれるだろう。

そう思った黎牙も廃屋の中へ入って行く。

わらながら霊体と人間の区別もつかなくなっているのかと自分に問いかけるーーーーそれでも生存していた彼を無視してまで帰る事は黎牙には出来なかった。

柊木にバレない様に隠れながら尾行続けながら廃屋の中を進んでいくと物音がする一つの部屋を覗き込む。

そこには柊木の姿があった。

 

「あ〜久しぶり……だな?柊木、俺の事を覚えーーーー」

 

あまり人と話さない黎牙は言葉を濁しながら言葉を飛ばすが、ソレを見て言葉を呑み込む。

彼の近くでハリネズミの様に背中から無数の鋭い棘を生やした熊が野犬を貪り尽くしていた事に理解が追いつかなかった。

眼前の現実が何なのかわからなかった。

バリバリ、グチャグチャと熊のバケモノが野犬を肉を引きちぎり、噛み砕く音だけが耳に入ってくる。

 

「……みつけた……」

 

不気味なほど無表情ハイライトを宿していない瞳で、まるで生気を感じさせない柊木は黎牙に近づくとそれに呼応するように野犬を喰らい尽くした熊のバケモノも柊木に並走するの様に近づいてくる。

眼の前から近づいてくる恐怖の対象に、恐れで体を震わせる黎牙は咄嗟に鞄を熊のバケモノに向けて投げる。

前脚でふるい落とされるーーーだが、その僅かな隙に黎牙は来た道へ全力疾走で逃げた。

 

 

 

 

ここまでが黎牙の回想である。

そして現在黎牙は絶賛追われてる。

 

 

 

 

「アレはなんだ!?…なんなんだ!?………日本にあんな熊なんていていいのか!?」

 

 

仮に今まで発見されなかったとしてもあのような熊が存在するなんて考えたくはなかった。

日常から離れすぎている今の現状で、黎牙はやや現実逃避しながら走り続ける。もっと速く、もっと速くとぼやきながら廃屋の外へ無事に出て行く事が出来たーーーーが、安堵する余裕はない。

いつのまにか熊のバケモノがすぐ目の前までやってきていた。

獲物を見つけた獰猛な捕食者の瞳がギラギラと妖しく輝きながら黎牙を見据えている。

 

「ふざけるなぁ!!」

 

咄嗟に叫んでしまった黎牙。

今更になって自分の行動を恥じ後悔した。

死にたくない。

こんな所で訳もわからず死んでたまるか、

と黎牙は迫り来る敵からあがく。

こんなふざけたものに殺されて堪るか、

と自身を鼓舞して奮い立たせる。

しかし、今の黎牙がいくら足掻いても圧倒的不利な現状は変わらない。純粋な殺気を向けてくる熊のバケモノは体そのものが武器だ。

噛みつかれても、捕まっても死ぬ。

見るからにゴツい腕で叩かれても、爪で斬り裂かれたら失血死は間逃れない。

加えてあの鋭い棘に突き刺されても死ぬだろう。

ヤバい無理ゲーだ。

武器が必要だ。

しかし、今の黎牙には武器なんて言う都合のいいものはない。

直ぐ近くの工場にいけば鉄パイプぐらいはあるだろうが、いくら剣道をやっていたとしても、それで勝てるとも思っていない。

例え、鉄パイプを運良く持てたとしても、あんな槍の塊にも見える熊には大したダメージは与えられないと思う。

今所持している物は携帯、家の鍵、暇潰しように持っている小説がポケットに入っているぐらいだ。詰んでいる。

逃げるという選択肢を思いつくが、今はそれも難しい。

というか熊の方が断然脚力が勝っている。

元々人気のない場所だが、今日に限っては人一人歩いていない。

誰も助けに来たり、助けを呼んでも来てくれたりはしてくれないだろう。

自力で逃げようにも眼前の熊のバケモノに背を向けた瞬間、勢いよく襲いかかっられて終わりのビジョンしか出ない。

睨み合うことで互いに牽制しているから黎牙はまだ死んではいない。

だが、熊のバケモノが今すぐにでも痺れを切らして襲ってくる可能性もある。

 

「っはは、やべーな」

 

人は絶望を知ったら悲しみよりも笑いが出てくるという言葉を聞いたことがあるが、まさかその通りだと、己が身を持って実感する事になるとは思わなかった。

逃げ切れない。

勝てない。

助けは来ない。

武器も防ぐ術もない。

ここで熊の様なバケモノに喰われて終わる。

もう絶望しか残っていない。

もし、もしも物語の主人公ならここで力の覚醒や未知の能力を発動などと御約束の展開があるのかもしれない。

だが、黎牙は物語の主人公ではない。

サブキャラでさえ怪しいモブキャラもいいところだ。

アニメで言う一話に数秒しか映らないキャラの方があっているとさえ思う。

モブキャラはモブキャラらしく孤独に死ぬ運命かもしれない。

もしかしたら、ここで主人公とやらモブを助けると言う展開もありえるが……流石にそれはないと思う。

 

「もっとコイツから逃げ切れる脚力が………きっと、いや違う。脚力だけでは足りない。もっとチカラがいる。智力、判断力と言った様々なチカラがいる」

 

それほどまでのチカラがもっとあれば、少なくともここで死ぬ運命ぐらいなら変えられる筈だ。

なんとなく呟いたささやかな願望を口にする。

 

『待っていたぞ黎牙』

 

『チョー遅ぇ!!』

 

『クソ鈍いんだよ!!』

 

夢でしか聴いた事のない声が何故か耳に入った瞬間、それは光と共に現れた。

光に包まれるソレはやがて巨大な剣の形となった。

色は禍々しい黒。そして不気味な碧い光放つ青黒い宝玉が埋め込まれた真っ黒な片刃の剣だった。眼前に姿を見せた物語に出て来る様な魔剣に近いほど不気味なオーラを出す剣を見て黎牙は、何故か自然と手に収まる剣を持って怪訝する。

 

非日常現象を二度も体験して、流石に頭が追いつけない黎牙にとうとう痺れを切らした熊のバケモノが鋭利な爪で振り下ろしながら襲いかかってくるーーーーが、ギリギリの所で剣を盾にした事で何とか初撃を回避する事には成功した。

だが、あまりの衝撃に吹っ飛ばされてしまった。

何とか受け身を取り、すぐ様起き上がった所で、熊のバケモノは大口を開けて噛み付こうとしてきた。咄嗟に右に飛び移ったお陰で熊のバケモノは廃工場の壁に激突した。

 

「剣だけじゃ無理だろ!もっと腕力が……チカラいる!」

『Enchant!』

 

「はぁ!?」

 

 

又もや自分のささやかな願望を口にした黎牙にまるで応えるかのように突然、剣の青黒い宝玉から機械音が発せられた。

そして、間の抜けた声を上げた黎牙は、自分の身体を巡る違和感に気づいた。

 

「チカラがみなぎる?どういう事だ??」

 

 

驚きを隠せない黎牙に御構い無しと言わんばかりに再度突進して来た熊のバケモノ。先ほどまでならギリギリでしか避けられなかった突進を今度は余裕を持って躱せた自分に驚いたーーーーが、がら空きとなった熊のバケモノの後ろ脚に不意打ちにと剣を力一杯振り下ろした。すると、ブッシャーーーーーーー!!!!という血が大量に吹き出す程深く斬り裂く事が出来た。

 

 

グオォォォォォォォォ!!!!

 

 

そして怒りで声を荒げる熊のバケモノは、背中の無数の鋭い棘を黎牙に向けて放ってきた。

 

「ちょ、ちょっと待てぇぇ!!」

『Enchant!』

 

 

先ほどの機械音が鳴り響くと同時に黎牙の身体をさらにチカラが巡った。何故か身体能力が向上した黎牙は、そのまま熊のバケモノに向けて剣を盾にして突っ込んで行った。棘を射出する熊のバケモノと黎牙の間には、僅かに棘が飛んで来ない場所ーーーつまり熊のバケモノの間合いを視認していた黎牙は、そこに向けて駆け出した。

しかし、無数の鋭い棘を避けるのは素人には難しく、いくつかのかすり傷を負う程度で済んだ。しかし、熊のバケモノの間合いに入ったのも同じな為、大口を開けて黎牙を喰い殺そうと迫ってくるーーーーが、相手が間合いに入ったのは黎牙も同じであった。

まだ身体能力が向上している今のうちにと、黎牙は目前に大口を開けて迫ってくる熊のバケモノの顔に剣を突き立てた。

熊のバケモノの血が顔にかかるが、黎牙は自分が生き残る為もっと深くにと剣を突き立ていく。

しかし、本来なら絶命しているはずの熊のバケモノは、残っている自身の武器ーーーー鋭利な爪を黎牙に振り下ろそうとした。

 

「オマエがサッサと死ねェェェ!!」

『Absorb!』

 

新たな単語が聴こえた瞬間、まるで熊のバケモノの生命()が剣に吸われたかの様に、熊のバケモノは瞬く間にミイラとなって生命活動を停止した。

 

いつのまにか柊木も居なくなっていた事に漸く気付いた黎牙は、その場に座り込んでしまった。

 

「あぁ危なかったぁ〜死ぬかと思った」

 

「本当に危ないところだったのです」

 

突然聴こえた第三者の声に振り向くと黎牙は思わず見惚れた。

真っ白いとんがり帽子と純白の綺麗なマントという出で立ちの魔法少女を連想させる金髪の美少女。

端正な顔立ちはこれまでに見たことがないほどに美しいかった。

 

 

神器(セイクリッド・ギア)を自力で発動するだけでも凄いのに、ウツセミを倒すなんて、とても凄いのです。ええっと〜あなたは陸空高校の元生徒なのですか?」

 

「あ…ああ……」

 

短い人生の中で1番とも言えるほど綺麗な美少女の登場に動揺しながらもなんとか頷く。

それを確認した彼女は黎牙の手を持って歩き出す。

 

「お願いなのです。ついて来てほしいのです。あなたが襲った化物やあなたの今の現状について話さないといけないのです。あ!あなたのお名前を教えて欲しいのです」

 

「黎牙、阿道黎牙………」

 

「阿道黎牙…牙……ファングなのですね。私はラヴィニア・レーニなのです。いちおう、魔法少女だったりするのですよ」

 

この自分の事を魔法少女と名乗るラヴィニアに黎牙は頭がパンクしかけて思考が追いつけなくなった。

助けてくれた彼女に手を引かれ、導かれるように黎牙はついて行った。

 

この時の黎牙はまだ知らない。

 

彼女とこれから出会う共に戦う仲間たちとの出会いが黎牙のこれからの運命を大きく変えてくれることに。

 

しかし、時計の針は進み続けている。

 

 

13の神を滅ぼす神器の中から、

 

 

その兇悪さ故に外された呪われた神器

 

 

強大なチカラを与えると引き換えに、

 

 

宿主の精神を喰らい、

 

 

その肉体を乗っ取ろうとする

 

 

三頭の邪龍が宿りし神器

 

 

それは正式な名称では呼ばれず、

 

 

こう呼ばれる様になっていた

 

 

消し去られし神滅具(ロスト・ロンギヌス)

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。
黎牙の容姿は、ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-に登場する神威で、cv:宮野真守さんをイメージした下さい。
黎牙の剣は、新妹魔王に登場する魔剣ブリュンヒルデのメインカラーの銀色→黒色。翠の部分→青黒い宝玉へとそれぞれ変えています。
何故、魔剣ブリュンヒルデをモデルにしたかは、単純にあの剣が好きだからです。

それでは近い内に第2話を投稿しますので、暇があれば読んで下さい。


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第2話 チーム

 

 

付いて来て欲しいのです……と正真正銘の魔法少女ラヴィニアは、黎牙を手を引きながら、日が暮れ闇夜の世界となった街を進んでいく。

そして、ラヴィニアが突然何かを発見したのか、小枝ほどのスティックを懐から取り出すと、その先端が赤い光を発し始めた。

目の前に起こる不思議な現象に黎牙は、眼を見開き、フリーズしてしまった。そんな黎牙の手を握りながら、スティックを軽く「えいなのです」と掛け声をかけながら振るった。

すると、ラヴィニアの視線の先に3人の人影がいた事に黎牙は漸く気付く事が出来た。

そして、3人の人影の近くには暗がりの路上でもハッキリと視覚に捉える事が出来るほどの明るい炎がナニカを燃やしていた。突然の発火現象を起こした人物は、自分の手を繋ぎ続けているラヴィニアであると容易に分かった。

対象が燃え尽きたのを確認したラヴィニアは黎牙の方を振り返り、明るい笑顔で、

 

 

「あの2人は、ファングの味方なのです。だから大丈夫なのです」

「あ、あぁ……」

 

 

曖昧な返事をしている中、いつの間にか3人の人影の内の1人は、足元に魔法陣の光に包まれて消えた。残る2人の近くには、鷹とツノの生えた子犬がいた。そして、改めて残った2人を確認すると男の方は、黒髪に整った顔立ちの少年で、女の方はアップにまとめた茶髪が特徴の美少女でどちらも見覚えがあった。彼女達は、どちらも元陸空高校で生き残った黎牙の同級生だ。合同葬儀の際に黎牙は顔を見ていたので、覚えていた。

ラヴィニアと茶髪の少女ーーー皆川夏梅は、現在の自分達に起こっている状況に理解が追いついていない黎牙と黒髪の少年ーーー幾瀬鳶雄に現在起こっている事を説明するため、

 

「2人とも行きましょう。彼らは人気のないところで襲ってくるの。逆に人気の多い場所では襲って来ないから、早く人気のある場所へ出ましょう」

 

夏梅の真剣な口調に、鳶雄と黎牙は頷き、ラヴィニアと夏梅の後を付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと現象は思っていたよりかなり危険だった。

 

まずはじめにウツセミと呼ばれる機関がある。

あるものを模して作った人工的な超能力者つまりは、異能使いとして識別されている者達がいる。

彼等は海上事故で行方不明とされている陸空高校二年生の生徒つまり黎牙、夏梅、鳶雄たちの同級生はその機関に拉致され、洗脳され、あの化物達を使役させられている。

化物と所有者をセットにして『ウツセミ』と呼ぶ。

機関は生き残った陸空高校の生徒ーーー黎牙達を問答無用で捕獲しようと同級生たちを使って襲いかかって来た。

何故、黎牙達が狙われるのか。

それは黎牙達が宿している神器(じんぎ)

セイクリッド・ギア。

聖書の神が人間に与えたチカラ。

生まれ持って宿す異能の力を欲しているのだ。

改めて、視線をずらして黎牙は自分と同じ境遇で元々は同じ陸空高校を通っていた同級生である幾瀬鳶雄と皆川夏梅を見る。

彼等は『独立具現型』と分類されている神器(セイクリッド・ギア)を保持しおり、『ウツセミ』はそれを模した人工物ーーー人工神器(セイクリッド・ギア)と言える。

故にウツセミと呼ばれている機関は天然ものである独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)を保持している彼等を手に入れようと躍起になっている。

 

「ちょっと待て。俺のコイツ(・・・)とは違うのか……?」

 

今までに聞いたこともない単語と説明を聞いて何とか理解を追いつかせている黎牙は手に持った巨大な剣を見ながら、ラヴィニアが説明してくれた独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)とは違うのではないのかと疑念を抱く。

鳶雄は犬、夏梅は鷹、そして黎牙は剣。

神器(セイクリッド・ギア)ではあるのは間違いない事に加えて独立具現型ではないことはわかる。

 

「ファングのは別のカテゴリーの神器(セイクリッド・ギア)なのです」

 

会ってからずっと黎牙のことを『ファング』と呼び、黎牙の事を助けてくれたラヴィニアについて行き、辿り着いたのが隣町の駅から十数分の位置にあったマンション。

ここで先程合流した鳶雄と一緒に状況などを教えて貰った。

そして同級生達は生きているという奇跡的な事実が判明した。

 

「で、話は変わるんだけど……私と組まない?」

 

笑顔で申し込んでくる夏梅。

 

「私と組むの。というか組んで、一緒にあのウツセミを、その背後の組織を倒すのよ。やっぱりさ、一人じゃ心許ないじゃない? 二百人以上もいるのよ? それに対して旅行に参加せずに生き残った生徒は十人もいない。単純計算でも、一人でノルマ二十人以上よ。ヘタをすると、それ以上かもしれない」

 

「『ヘタをすると』って、何さ?」

 

「何人か捕らわれてしまうかもしれないじゃない。私たち生き残りの中から」

 

確かにそれは合っている。

無表情で告げる夏梅の言葉に納得する鳶雄と黎牙。

この場にいる自分を含めて三人以外にもしかしたら捕まっている者もいる可能性もある。

知り合いが目の前に現れたら躊躇するのも理解はできる。

“皆を救う”

その強い意思を宿す瞳をする鳶雄も強く夏梅に同意する。

夏梅からの最大の申し出は二人に取っても心強い。

一人よりも二人の方が心強いし、戦力が増えるにもいいことだ。

その為の「力」もある。

 

「――――救おう、皆を」

 

力強く宣言する鳶雄を瞳に収めた夏梅は、今度は期待の眼差しを黎牙に向けられる。

 

「協力はする。だが、今の俺達で他の奴らの救出に行くのは賛成はしない」

 

しかし、黎牙は鳶雄達に協力はするが、ウツセミとなってしまった同級生の救出は拒否した。

 

「え!?どうしてなの!?」

 

険しい顔をする黎牙に戸惑いながらも問いかけてくる夏梅の質問に黎牙は冷淡に答えた。

 

「先にお前達には、今の現状、神器(セイクリッド・ギア)のことを教えてくれたことには礼を言う。 まずはじめに、俺が聴きたいのは、お前の口から出てきたその『総督』は何者だ? 話を聞く限り怪しさが満点だ。 自分の正体も明かさずに俺達に懇切丁寧に説明をしたり、どうしてお前達にはその『タマゴ』を渡した?  どう考えても今回の一連に関する重大なことを隠しているようにも思える。 いや、そもそも完全にソイツが敵の手の者ではないという確証も無い。此方の情報が漏れている恐れがある中で、無闇に突っ込んで行けば、確実に捕まる。いや、殺される」

 

「た、確かに私もまだ『総督』のことを完全に信用しているわけじゃなけど、近い内に会ってくれるみたいなのよ。その時に聞けば―――」

 

「それは何時だ? こうしている間にもウツセミは戦力を増強し、策を練っている。その間、俺達はここでただ待っているだけか? 神器(セイクリッド・ギア)を少しでも扱えるように鍛えたとしても精々付け焼き刃もいいところだ。俺達の戦力は明らかに不足しすぎている。自分達の身を守るだけで精一杯だ」

 

リスクが高すぎる賭けに出るのは危険だとして、救出に反対な黎牙に鳶雄は詰め寄る。

 

「待ってくれ。それなら阿道だって友達がいるだろう? 心配じゃないのか? 生きているなら例え危険でも助けたいとは思わないのか?」

 

「無闇に行っても、アイツらが助かるとも限らない。敵の隙を伺って時間をかけて敵の戦力を少しずつ減らすしか無いと俺は言っているんだ。誰も見捨てようとは言ってない」

 

「確かに阿道の言う事も最もだ。俺達は戦力が不足しすぎている。それでも、俺は一刻も早く紗枝を……みんなを助けたい!例え危険でも、助けに行きたいんだ!頼む!阿道、力を貸してくれ!」

 

 

ウツセミとなった皆んなが今、この間にも苦しんでいるかもしれないという事を考えている鳶雄は、黎牙に頭を下げ、懇願する。

 

「馬鹿か? 死んだら何もかも終わりなんだぞ。無闇に突っ込んで死ぬのなら勝手に1人で死ね!!」

 

これ以上話しても無駄だと判断した黎牙は、もう話は終わりだと言って部屋を出ようとする黎牙の手をラヴィニアが止める。

 

「トビー……ファングの言っている事は正しいのです。ファングは、最悪の事態を想定して私達が生き残る事を第一に考えてくれているのです」

 

「わかってるよ。でも俺はーーー」

 

「でもトビーの言う事も正しいのです。ウツセミとなった皆んなは、今も苦しんでいます。だからこそ、慎重に行動して、私達はちーむとして結束し合い、迅速に敵を倒すのです」

 

「はぁ?」

 

突然の言葉に黎牙は怪訝そうにラヴィニアを見る。

 

「私達とファングはもうチームなのです。チーム……いえ友達ならよりもっと結束し合い、トビーの欠点をファングが、ファングの欠点をトビーがお互いに支え合うのです。それでも足りないのなら2人を私達が支えるのです。それが友達なのです」

 

「ふざけいるのか?いつ俺とお前達が友達になった? 魔法少女ってのは出会った者全てが友達なるのか?」

 

「そうではないのです。このファングの手はずっと、とても暖かいままなのです」

 

優しく黎牙の手を握りしめながら突拍子な事を言うラヴィニア。

 

「ファングはとても心の優しい人だと私は確信しているのです。だからファングは私たち……チームを…友達を助けくれると信じているのです。そして、ファングが助けてほしい時は、必ず私達が助けるのです」

 

全く理屈が通っていない。

どうしてそんな理由で自分が命を賭けなくてはいけない。

訳が分からない。

馬鹿々々しい。

不条理だ。

理解不能にも限度がある。

黎牙がいくら振り払おうとしてもラヴィニアはその手ーーー黎牙の手を離さない。

綺麗な蒼い瞳は真っ直ぐに黎牙を見詰める。

 

「………クソっ」

 

小さく悪態をつきながら黎牙は大きくため息を吐き、

 

「分かった!分かった!そこの後先考えない馬鹿に死なれても寝覚めが悪い。だから、可能な限りはサポートとしてやる。これでいいだろ」

 

「はいなのです!!」

 

「だが、余りにも危険すぎると判断した時、それに賛成しない場合は引きずってでも撤退するからな。覚えておけ幾瀬」

 

「あぁ、ありがとう。俺のわがままに付き合ってくれて。もし、自分の身が危険な時は、自分を守る事を優先してくれ阿道」

 

「当たり前だ。死ぬのはゴメンだ」

 

黎牙の返答にパァーッと輝くほど満面の笑顔を見せるラヴィニア、危険な真似をしようとする自分を危険を犯してまでサポートしてくれると事に有り難みを隠さず笑みを浮かべる鳶雄、黎牙と鳶雄の意見の違いで一悶着あったが、何とかなったことに安堵する夏梅は胸を撫でおろす。

 

「それじゃ改めて私の名前は皆川夏梅! 夏梅って呼んでよね! 黎牙!」

 

「俺は幾瀬鳶雄。鳶雄でいい。俺も黎牙って呼んでもいいか?」

 

「………勝手にしろ」

 

歩み寄ってくる二人に面倒くさそうな顔を見せながら答えると夏梅が今後の方針について話す。

 

「さーて、これで私たち……いいえチームの次の行動は決まりね!」

 

「次の行動?」

 

「ええ、もうひとつの『タマゴ』を渡した男子と合流するの。その男子もいちおうこの隠れ家に転居しているんだけど、外を出歩いてばかりなのよ。って、ウツセミの同級生も生きているわけだから、私たちが生き残りってのも変な感じよね〜」

 

「それって、誰のこと?」

 

「鮫島鋼生。とにかく、このマンションを本拠地として動きましょう」

 

鮫島鋼生。その名前にも聴き覚えがある。

元・陸空高校一の不良だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * ** * * * * ** * * * *

 

 

 

『隠れ家』の一室を与えられた黎牙は熊のウツセミとの戦闘の際に発現した自身の神器(セイクリッド・ギア)の能力を確認を行っていた。黎牙が強く意識し、念じると容易にその剣は姿を見せた。

名称は今の所わからないが、能力は初戦である程度予想はついていた。

 

改めて軽く片手で振るってみたが、それなりの重さはあるが片手で振るえる分に申し分なかった。

剣をだらりと下ろし、能力の1つのチカラをイメージすると、

 

 

『Enchant!』

 

 

剣の宝玉が怪しく光ると同時に機械音が鳴り響いた。

そして、自分の身体の全身をチカラが巡るのを感じた。

試しにとして、一室に与えられたベッドを片手で握り、そのまま持ち上げようと試みた。

 

 

グラッ

 

 

本来なら2人がかりで持ち上がる筈のベッドが、丸々持ち上がったのだ。全く重くなく、コップでも持っているか様な感覚を覚える程チカラが俺に付加されていた。そして、10秒ぐらいで効果が切れた。

つまり、今の『Enchant』は俺の身体に様々なチカラを付加するというシンプルな効果とみて間違いないだろう。

それなりに応用は効きそうだ…と思い、もう一つの能力の詳細を知る為に刀身に手を添えてみた。

 

 

『Absorb!』

 

 

さっきとは違う内容の機械音に聴こえた瞬間、まるで身体からチカラが吸い取られる様な感覚を覚えた。

チカラが抜けた事に驚いたが、手を添えていた刀身には禍々しいオーラが纏わり付いていた。

つまり、もう一つの能力は、刀身に触れた対象からチカラを吸い取る事の様だ。なら、あの熊のウツセミがミイラ化したのは先程の機械音が鳴り響いた直後にウツセミの生命『力』という名のチカラを吸収したという事になる。

此方は中々使いどころを間違えると自滅しかけないようだ。

自分の神器(セイクリッド・ギア)の能力の『付加』『吸収』の使い方に頭を悩ませていると、

 

「やっぱりファングは凄い人なのです」

 

背後から突如聴こえたラヴィニアの声に驚く。

 

 

「お前、どうやって入ってーーーー」

 

安全に能力を確認するため部屋の鍵は、しっかりと閉めた筈だったーーーが、声がした方向を振り返った黎牙はすぐさまラヴィニアから視線を外す。

 

「おまえ!なんて恰好してんだ!?」

 

「何かおかしいのですか?」

 

白いワイシャツ一丁の姿で黎牙の言葉に可愛らしく首を傾げる。

白い肌の脚や今にも飛び出しそうなほど窮屈そうにしている豊満の胸。

同年の女性と比べて、明らかに発達している女体。

少なくとも黎牙が知っている限りの知識では、こんな夜中に男の部屋にこんな無防備な恰好でくる女などいない。断じていない。

加えてシャワーを浴びたばかりなのかシャンプーの匂いが此方にまで漂ってくる。

ゴンッ!!と自分の頭を剣の刃の付いていない方で殴った。

 

『Absorb……ww』

 

変態か、俺は……と煩悩を追い払う黎牙。

刀身に触れた際で、又もやチカラを吸い取られた。

そして、何故か無情の機械音から何処と無く、俺を嗤う様な音が僅かに聴こえた気がしたーーーが、気のせいであると決め付ける事にした。

 

「ファング、神器(セイクリッド・ギア)で自分を殴ってはいけないのですよ?」

 

「誰のせいだ……誰の………」

 

「?」

 

本気でわからないのか、首を傾げて難しい顔を作った。

天然か、天然(バカ)なのか………?

いや多分コイツはバカだ。

健全な男性として苦悶する黎牙の気も知らずにラヴィニアはベッドに座る。

 

「………それで、こんな時間に何のようだ?」

 

ラヴィニアと全く目線を合わせずに要件を促す黎牙にラヴィニアは口を開く。

 

「ファングとお話がしたいのです」

 

「明日にしろ」

 

 

自分の闘い方を模索するために頭を使おうとしたが、ラヴィニアが近くにいるため集中出来ず、部屋を出て行かせようとする。

 

「トビーの安全の為にファングはキツイことを言ったのは知っているのです」

 

「俺がいつあのバカにそんなことを言った?」

 

「敵はトビーたちを狙っているのは明白なのです。でも、トビーたちはまだ相手の戦力がどれほどなのか知らないことも把握出来ていなかったのです。だからファングはトビーにもっと警戒心を持ち、冷静に状況を把握し、迅速かつ慎重になれ。でなければすぐにでも死んでしまうぞと言ったのですよね?」

 

「バカか? 俺がいつそんなことを言った? 俺は自分の命を優先にしただけだ。自分の都合よく捏造するな」

 

「捏造なんてしていないのです。ファングは自分も狙われているのに自分のことだけではなくトビーたちのことも心配して、警戒を促すなんて……人に優しい人しか出来ない事だと私は思うです」

 

『人に優しい』

そんな言葉は親殺しの自分になど似合わない。

自分が生き残る為とは言え自分の親を殺す様な人間に。

自分にそんな言葉をかけてはならない。

そう思った黎牙はラヴィニアの言葉を否定するため振り返る。

 

「ふざけッ――――ッ!!」

 

「………(( _ _ ))..zzzZZ」

 

当本人であるラヴィニアはいつのまにか小さく寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ている。

 

「人に話しかけて置いて寝るな。ったく、寝るの速すぎるだろう………この女」

 

 

言いたいことだけ言ってこちらの話も聞かずに眠りについたラヴィニアに嘆息する。

 

「気持ちよさそうに寝やがって……襲われても文句言えねぇぞ…」

 

眠りについているラヴィニアを見てぼやく黎牙は毛布をかける。

その時、黎牙の表情はいつのまにか呆れ顔となっており、その口元はうっすらと笑みが浮かんでいた。

流石にあのままでは明日に支障を来す恐れもあるし、目の毒だ、と誰も居ないのに言い訳の様に呟きながら黎牙はあることに気付いた。

 

 

「俺の寝るところがねぇ…………」

 

 

ベッドをラヴィニアに占領されている為、流石に同じベッドで寝る訳にはいかない黎牙は、溜息を零しながら椅子に座って眠りたくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もっとだ……もっと強い…いや破壊の力を望め』

 

 

 

『もっと本能を出しやがれ!!』

 

 

 

『いつまで鞘付けた状態で戦う気だぁ!!』

 

 

 

 

 

夢に出てくる声が眠りつく前に

 

 

黎牙の耳に入ったが、

 

 

幻聴であると思考を停止させ、

 

 

眠りの世界へ堕ちていく

 



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第3話 鮫島鋼生

 

 

 

慣れない椅子で腕を組んで眠っていた際で、身体からバキバキと骨が軋む音が部屋に鳴り響く。

こんな不安定な姿勢で眠る事になった元凶がいるベッドを睨むが、そこにはラヴィニアはいなかった。どうやら、起きて自分に部屋に戻ったのだろうと勝手に決めつけ、軋む音を出す身体を伸ばしながら着替えて部屋を出る。

部屋を出た黎牙は、昨夜集まっていた部屋へ行くと既に鳶雄、夏梅、ラヴィニアの3人は起きていた。

 

「あ!おはよう。黎牙」

 

「おはよう。黎牙」

 

「おはようなのです。ファング」

 

夏梅、鳶雄、ラヴィニアの順に黎牙に挨拶してくるが、黎牙は無言でラヴィニアの方へ歩み寄ると、両手でガッシリとラヴィニアの頭を捕まえ、ラヴィニアの頭を高速シェイクし始めた。

 

 

「ふぁ、ファング!め、目が回るのですぅ〜!!」

 

「ダ・レ・の・際・で・椅子で寝る事になったと思っているぅーーーーーー!!!!」

 

 

目を回しながら訴えるラヴィニアに怨嗟に満ちた声音でラヴィニアの頭を高速シェイクし続ける。

目の前で繰り広げられる光景に呆然としていた鳶雄と夏梅だが、すぐに微笑ましい顔になる。

警戒心が強く、どこかで自分と相手との間に壁を創り、一定以上の踏み込みは許さないという雰囲気を醸し出していた黎牙を鳶雄と夏梅は少しだけ怖いという印象を抱いていた。

だが、今はラヴィニアで遊んでいる(本人は絶対否定すると思うが)黎牙を見てそれが少しばかり解消できた気がしたと感じている鳶雄と夏梅。

一通りラヴィニアの頭をシェイクし終えた黎牙は、トドメとばかりにラヴィニアのおでこに

バゴーンっ!!という打撃音を出す程のデコピンを喰らわされたラヴィニアは目に涙を溜めながら、おでこを押さえて「うぅ〜」と唸りながら黎牙を睨むが当本人は完全無視。どスルーである。

 

「………お前等の朝飯はそんなのでいいのか?」

 

用意されているのはお湯が入ったポットとカップラーメンのみ。

レトルト食品が朝食なのに疑問を抱くと女子二人は頷いた。

 

「…………」

 

昨日、一度自宅に戻り、必要最低限の物として食材を持って来てよかったと密かに思いながら台所に向かって黎牙は朝食を作る。

 

「え? 黎牙って料理作れるの?」

 

「当然だ。1人暮らしなのだから料理ぐらい作れないとマズイからな」

 

男子の料理発言にポカンとする夏梅に黎牙は淡々と調理を進めていく中、鳶雄が黎牙の隣に立つと、

 

「俺も手伝っていいかな?」

 

「お好きに。このキッチンは俺の物ではないしな」

 

鳶雄、黎牙の男子二人で調理を進めていく。

そんな光景を見てラヴィニア、夏梅の女子二人はその姿を呆然と見ていた。

そして瞬く間に料理男子2人によって卓に料理は並べられていく。

男子二人によって並べられた味噌汁、焼き魚、ご飯という見事なTHE和食朝食に騒ぎ出す夏梅はとびきり喜び、二人の手をつかんで上下にぶんぶんとさせた。

 

「すごいわ、幾瀬くん! 黎牙! ま、まさか、あなたたちがこんなにも料理男子だったなんて! いやー、私、いい拾いものしちゃったかも!」

 

その言葉の反応に困る鳶雄。

目を瞑りながらどこか照れ臭そうに焼き魚を頬張る黎牙。

 

「黎牙は和食、好きなのか?」

 

「朝はいつも和食だ。そこまで大それた物は無理だが種類として和・洋・中は作れる」

 

「レパートリーが広い!」

 

「凄いな!それは!」

 

自分達の予想以上の料理男子だった黎牙にに驚く夏梅、鳶雄。

 

「あ、それじゃあこれはファングが作ったものなのですね」

 

三人の前に並べられている料理の中に一つだけ場に馴染めていない料理がポツンと置かれている。

 

「ニョッキ。イタリアの軽食料理なのです」

 

料理名を告げられて三人の視線は黎牙に集まるなか、本人はプイッと目線を外しながら味噌汁を啜りながら、

 

「………材料が余っただけだ」

 

逃げた。

 

「「「(絶対嘘(なのです)だ)」」」

 

と三人は思った。

口は悪いが、根はラヴィニアが言っていた通りいい人なのだ。

 

「ふふ、トビーもファングもありがとうなのです」

 

微笑みながらニョッキを口に運ぶラヴィニアは、

 

「ottimo」

 

と口にしながら食べ始める。

 

「あ!カップ麺の袋を開けたままにしてしまったので、あとでヴァーくんにあげるのです」

 

「ヴァーくん?」

 

聞き覚えのない名前を出されて疑問符を浮かべる鳶雄。

夏梅が嘆くように息を吐く。

 

「………昨夜言ったこのマンションに住む生意気な男の子よ。カップ麺ばかり食べていてね。私たちのカップ麺もその子から貰ったの。全く成長期なのに不健康すぎだわ。今度、幾瀬くんか黎牙の料理を振る舞ってあげてね!」

 

「幾瀬に頼め。めんどくさいから俺は作らん」

 

きっぱりと拒否する黎牙に苦笑する鳶雄。

食事が終えた頃、夏梅はあらためて口にする。

 

「さてと、今日の予定だけれど、昨夜言ったように私達チームはまず鮫島くんと合流するわ」

 

「それはいいけど、彼の居場所はわかっているのかい? それとも連絡すれば、ここに戻ってくるとか?」

 

鳶雄の問いに夏梅はケータイを取り出す。

 

「連絡は………ダメね。いちおう、鮫島くんの番号は無理矢理にでも手に入れたけど、電源切っているみたいで繋がらないわ。まぁ〜偽の番号を教えなかっただけまだマシなのかしら」

 

「もしくは死んでいるか、又は捕まっているかだ」

 

「それは大丈夫なのです。シャークには私の術式のマーキングを施してあるので、位置と生存をバッチリ特定できるのです」

 

「さっすがー魔法少女!」

 

ラヴィニアは小枝ほどのスティックを懐から取り出すと、その先端が青い光を発し始めた。

その場で立ち上がって、ぐるりと一回りする。すると、ある一定の方向にスティックが一層光を放つことが見て取れた。

その方角を指し示しながらラヴィニアは言う。

 

「こっちの方向にシャークがいるみたいなのです。ただ、反応がいまひとつ悪いのです。おそらく、私の魔法が及びにくい場所ーーーつまり敵が敷いた力場に入り込もうとしているのかもしれません」

 

「どっかの誰かさんと同じでとんでもない程単細胞のようだな」

 

それを聞いた黎牙は鳶雄を見ながら呆れた様に溜息を吐いた。対する鳶雄は、バツが悪そうな顔になっている。図星である。

相手の有利な領域にわざわざ踏み込むなんて無鉄砲もいいところだ。

 

「………あんのヤンキー!敵を倒すことに夢中になって、相手陣地に誘われたんじゃないでしょうね………っ!!」

 

夏梅は歯ぎしりしながら、拳を震わせていた。口元は半笑いをしているが、その双眸は憤怒の色と化している。

 

「鮫島鋼生を捕まえるわよ! 戦闘覚悟でも、彼を放っておくわけにはいかない!」

 

それはウツセミとの戦闘を意味していたことに鳶雄も黎牙も気付いていた。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

隠れ家を出て、街中に着いたとき、夏梅は鳶雄、黎牙にそれぞれマイクロSDカードを手渡した。

夏梅から渡されたマイクロSDカードには、行方不明となった陸空高校2年生二百三十三名の顔写真などが自動に携帯にインストールされる様だ。鳶雄は、インストールされた写真を確認していると、

 

「俺はいらん。『総督』とやら信用出来ない以上。そんな怪しさ満点のブツは必要ない」

 

「た、確かにそれは言えてるけど、行方不明の皆んなの顔が確認できるんだから、持っていて損はないわよ」

 

「一々確認を取っている間に攻撃される。俺には不必要だ」

 

 

相変わらずの警戒心がバリバリ高い黎牙は、夏梅の提案を断るーーーが、ここに鳶雄の援護が入った。

 

 

「でも黎牙、コレがあれば見知らぬ怪しい人物を見かけたり、接近を許してしまっと時には便利だから、持っていて俺も損は無いと思う」

 

 

「俺の神器(セイクリッド・ギア)はお前らの神器(セイクリッド・ギア)と違って、自動防御が出来る訳では無い。敵からは目を離せば死ぬ」

 

 

しかし、鳶雄の提案も黎牙は斬り捨てる。

昨日同様に警戒心の強い黎牙とでは意見に喰い違いは避けられないものである。今の黎牙は姿を現さない『総督』は信用ならない人物としてカテゴライズされている為、信用ならない人物からの贈り物なぞ此方の情報を盗聴する者ではと疑ってしまっているのだ。有無を言わさぬ黎牙にラヴィニアがそっと黎牙の手を握りながら、

 

 

「安心してほしいのです。『総督』さんは、確かに人としてちょっと問題がある所があるのですが、これを戦闘以外の場で事前に目を通していれば、相手より先手を取る事も可能となるのです。それに、コレにはファングが考えている様な危ない物はないのです。安心して欲しいのです」

 

「………わかった。入れておけばいいんだろ。入れておけば」

 

「はいなのです!」

 

「全くぅ〜素直じゃ無いわね〜」

 

「よかった。何かあれば遠慮なく言ってくれ」

 

ぶっきらぼうながらも、黎牙はラヴィニアの言葉で漸く折れた。

その後から、黎牙は表示された写真を定期的に確認しながら、周囲への警戒を全く緩める事はせず、足を進めていく。

 

 

途中でタクシーを拾い、鮫島がいるであろう敵のテリトリーへ向かう。そして、タクシーを降りた四人は住宅街の端っこにある鮫島がいる廃業したデパートまでやってきた。

周囲を警戒しながら黎牙は、出現させた神器(セイクリッド・ギア)の刀身に手を添えてながら歩を進めていく。

そんな黎牙をラヴィニアはじ~と見てくる。

 

 

「ファングは何をしてるのです?」

 

「お前には関係ない」

 

 

そんなラヴィニアの問いをバッサリ切り捨てる。しかし、それでもなおじ〜と見てくるラヴィニアをめんどくさい奴だ…と呟きながら答えた。

 

「コイツは触れた存在の力を吸って、剣に威力を上げる。だから、俺の体力をほんの少し吸わせて、敵に先手として斬撃を飛ばすための保険だ。俺はお前達と違って出来る範囲が限られている。それに素人だ。なら、出来る範囲で備えをする」

 

 

黎牙の神器(セイクリッド・ギア)は、鳶雄達と違って独立具現型でもない。その上、自分の身体を直接使う肉体派だ。少しでも気を抜けば、死ぬ。

改めて、周囲への警戒心を強め、剣を強く握ろうとする。

 

しかし、黎牙の脳裏に両親を殺した光景が蘇ってしまった。

奇声を上げながら俺の首を絞めにきた父親。俺が生命の危機に瀕しているのに相変わらず何の反応も示さない。いや横目でこっちを見て薄く笑っている母親。2人の足元には、注射器が転がっていた。つまり、俺の両親は薬でイかれて、俺を殺そうし、逆に俺に殺された。

あの時の俺は、死への恐怖や諦めではなく両親に対する猛烈な殺意を持った。視界が赤く染まるほどに殺したいと思った。

そう思ってしまった後、気付いた時には両親はもう両親だったモノになっていたのだ。

例え、クズの親でも俺は……あの2人以上のクズだ。

人としてやってはいけない線を超えたのだ。

そして、2人を殺したのに悲しさも、殺人に対する罪悪感もなかった自分に酷い嫌悪感を抱いた。

あの時の事を思い出してしまった事で、また自分が気付かぬ内に鳶雄達を殺してしまうのではないかという自分自身に対する恐れで手が震え出し、剣に上手く力を込めれなくなった。

 

「クソ……」

 

震える手を止めようと必死で抑えるが、震えは止まらない。

これから向かう先では戦闘が起きる可能性が高いというのにどうして今更になって震えが出てくる自分に苛立ちを募らせる黎牙の手をラヴィニアがそっと握った。

 

「大丈夫なのです。ファングは強い子なのですから」

 

まるで子供をあやすように優しく話すラヴィニア。

 

神器(セイクリッド・ギア)を具現化させるには、一定以上の条件と力が必要になるのです。夏梅もトビーも力を淀みなく発現させる『タマゴ』を使って神器(セイクリッド・ギア)を覚醒したのです。でも、ファングは違うのです。自分のチカラだけで神器(セイクリッド・ギア)を覚醒させるのは何気に凄いことなのですよ?」

 

剣を持っていない方の手ーーー黎牙の左手をラヴィニアは優しく両手で包み込む。

 

「―――想いの力。神器――――セイクリッド・ギアは想いが強ければ強いだけ、所有者に応えるのです。ファングが強く想えばきっとその神器(セイクリッド・ギア)も応えてくれるはずなのです」

 

「想いの力………」

 

「だから絶対大丈夫なのです」

 

それが神器(セイクリッド・ギア)の力の根源なのかという疑問を抱いていた頃にはもう震えは止まっていた。

 

黎牙のココロにはもう恐れは無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鮫島鋼生がいるであろう廃業と化した人気の無いデパートの前では、黎牙だけではなく、鳶雄や夏梅も構えてしまう。

現在、置かれている立場を鑑みれば危険な場所に他ならない。

だが、ラヴィニアのスティックの光は、デパート内に向けていっそうまばゆく輝いている。

それはつまり、このデパート内に鋼生がいるということに他ならない。

 

 

「………ウツセミの巣になっていてもなんらおかしくないわ」

 

意を決して夏梅が言うと二人の付近には、いつのまにか独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)である鷹と犬が傍にいる。

剣を握りしめた黎牙は緊張を誤魔化す様に軽く息を吐いた。

 

「中に入るのです」

 

ラヴィニアは特に臆することもなく、裏の方に向かおうとしていた。正面の入り口はシャッターが降りて入ることは出来ないが、中に鋼生がいるのならどこからか入れるところがある。

四人は関係者用の入り口を探して歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、暗いわよね……」

 

夏江のつぶやきは小声でも店内に軽く響いた。

関係者用の入り口がこじ開けられていたおかげで容易に侵入することはできた。

だが、デパート内は流石に灯りはついておらず、ペンライトを頼りに進んでいるなかで夏梅の提案で散って捜索する。

ラヴィニアの魔法で定期的に相互連絡を取り合うという形で黎牙は鳶雄と共に鋼生を捜索を開始している。

 

『そっちはどうだ?』

 

『まだ何も。グリフォンに先を行かせているんだけど、特になしね』

 

互いに連絡を取り合って、状況を確認するが進展はない。

一階は何もなし、と思っていたその時に鳶雄の神器(セイクリッド・ギア)であるツノの生えた子犬が何かを感じ取って、柱を一点に見つめていた。

コレにより警戒を強いる黎牙と鳶雄。

鳶雄がペンライトをそちらの方に向けると柱の裏側から白い猫が一匹現れる。

 

「ウツセミ……なのか?」

 

そう思い、口にした黎牙だが、初めて出会ってウツセミであるハリネズミ熊とは明らかに違う。どちらかとでいうと鳶雄や夏梅が使役している独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)に近い感じがした。

すると柱の裏側からもうひとつの影が姿を見せる。

ペンライトに当てられたのは背の高い茶髪の少年。

 

 

それは目的の人物である―――鮫島鋼生だった。

 

 

鋼生は携帯電話を見てから少しすると嘆息した。

 

 

「………どうやら、このリストにない奴みたいだな。すると、生き残り組か? ったく、こんなところまで来やがってよ」

 

後頭部をかきながら文句を垂れる。

 

「おまえら、皆川や魔女っ子と一緒に来たのか?」

 

「………ああ、彼女たちも一階を捜索しているよ」

 

鋼生の問いに素直に応える鳶雄。

 

「………俺の動きを把握されたってーと、魔女っ子か、あの生意気な銀髪のクソガキに特定されたってところか。………ったく、当面勝手にやらせろと言ったのによ」

 

鳶雄の問いに1人でに毒つくように鋼生は言う。

 

 

そして、黎牙と鋼生は何かに気付いたようにエスカレーターの先に視線を送った。

 

子犬や猫も同じ方向を向いて、鳶雄も促されるようにそちらへ視線を送るが、暗がりだけでしか確認できず、何があるのか感じ取れなかった。

 

「やはり、何かいる……」

 

何処と無く核心を突く様にぼやく黎牙に鋼生は言う。

 

「へぇ〜そっちのお前はこういう経験あるのか?」

 

「何故かそういうのにはガキの頃から敏感なだけだ。それにこの気配は一度味わった……」

 

そうコレは熊のウツセミの時と同じ。

こんな背筋が凍る様な不気味なこの感覚は忘れようにも忘れられない。

否が応でも感じ取ってしまう。

二人の会話に鳶雄は鋼生の発見を二人に伝えようとしたとき―――耳から聞こえたのは夏梅の声だった。

同時に一階の奥から大きな音が鳴り響いてくる。

 

『幾瀬くん! 黎牙! ごめん! 襲撃されちゃった! いまラヴィニアと一緒に対応しているの! そっちは!?』

 

「こっちは鮫島鋼生を見つけたよ! 俺達はどうしたらいい!? 鮫島を連れて、そっちに向かったほうがいいよな!?」

 

その提案に鋼生は小さく笑う。

 

「魔女っ子がいるんだろう? なら、あの鳥頭でも心配するだけ損だぜ? 悪いが、俺は上で待っている奴らに用があるんでな」

 

そう言うなり、鋼生は白い猫を肩に乗せてエスカレーターを上がって行く。

 

「おいっ!」

 

制止させようとする鳶雄。

すぐさま黎牙はラヴィニアと連絡を取る。

 

「鮫島は俺の剣で力を吸って無理矢理拘束した方が良いか? 少なくとも動きを封じることぐらいはできると思うが」

 

『おそらくシャークはそれでも止まらないと思うのです。ですのでファングは、トビーと一緒に追って欲しいのです』

 

「わかった」

 

ラヴィニアと短いやり取りで終わらせると黎牙もエスカレーターを上がって行くーーー

 

「…………」

 

だが、黎牙は今から始まる命の奪い合いに緊張していた。

心臓の音も先ほどから激しく鳴っている。

これから自分が向かう先では戦いは避けられない。

命を賭して、己の力を振るい、勝たなければ死ぬ。

戦わなければ生き残れない。

死が隣合わせの戦場に足を踏み入れようとしている。

 

『ファング』

 

再び聞こえるラヴィニアの声。

 

『今日の晩御飯はファングの洋食料理を食べてみたいのです』

 

「はぁ?」

 

こんな状況で何を言っているのかと本気で思った。

 

緊張の欠片もないラヴィニアの声を聞いて少し呆れた。

 

『だから、ちゃんと戻ってきて欲しいのです』

 

「…………考えといてやる」

 

『約束なのです、ファング』

 

文句一つ言って通信を切るともう心臓の高まりは収まっていた。

まさか、俺の状況を分かっていて……と思ったがそれは考えすぎだと首を横に振る。

 

黎牙は鳶雄と一緒に鋼生の後を追う。

 

 



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第4話 敗北

黎牙は鳶雄、鋼生の後を追い、二階へ上がる。すると途端に周りの灯りがついた。突然の光明に目がくらむ三人だが、その灯りのおかげでフロア全体が見通せる。

そして、二階に待っていたのはーーー巨大なバケモノ達の群れ。蜘蛛、ワニ、亀、熊などの面影を残した異形の集団ーーーウツセミの群れだ。

見渡すだけでも十体はくだらない。

 

「ククク」

 

不敵に笑う鋼生は憶することなく、一歩、一歩と敵陣に踏み込んでいく。

 

「百砂、いくぞ」

 

肩に乗る猫にそう告げる。

すると、猫の長い尾がピンと立ってーーーなんと二つに分かれていった。

分かれた二本の尾はぐんぐんと伸びていき、その一本が鋼生の左腕にぐるぐると包み込んでいく。

主人の腕を包む白い尾っぽは形を変えていく。

そして、それは円錐形の巨大なランスと化した。

 

「ーーーー俺の猫はなんでも貫く槍だ。さぁ、ぶっ刺されてぇ奴からかかってこい」

 

その宣戦布告が開戦の狼煙となり、手始めとして前方から迫ってくる3メートル近い蜘蛛が飛び掛かってきた。鋼生は態勢を低くして超低空からのアッパーをする要領で見事に大蜘蛛を左腕のランスで貫いてみせた。

それを見て黎牙は密かに驚いていた。

鋼生の神器(セイクリッド・ギア)は独立具現型である白猫と共に戦うスタイル。

そういう戦い方もあるのだと納得していると大蛇のウツセミが黎牙を飲み込もうと大口を開けて迫って来たーーーが、黎牙は慌てる事はなく、

 

「『燃えさかれし焔よ我が剣に纏え』」

『Enchant!』

 

詩の一節を唱えるかのように黎牙が詠唱した。すると、剣の刀身に正に豪炎と言える程激しい炎が剣に『付加』された。そして、黎牙はそのまま炎が『付加』された剣を力強く振り下ろした。

振り下ろされた剣から放たれた豪炎の斬撃は、一瞬にして迫り来る大蛇を斬り裂き、跡形も無く焼き尽くした。

 

「まずは一匹……」

 

ウツセミに通じるまではよかった。

だが、コレで満足なぞしてはいられない。

まだまだ試行錯誤しなくてはならない。

黎牙は予め剣に『付加』させる属性は決めていた。それを発動させるための発動条件も加えることで自分の意思でその能力を使用することができる。

昨夜で能力を試し、思考錯誤を繰り返して考えて思いついたのが魔法だ。

単純な身体強化の付加だけでは、少々心許ないと感じていた。

それに中学時代に剣道をしていたとしても、敵を殺す剣は素人丸出しである。だからこそ、黎牙は魔法による『付加』で炎による炎撃と斬撃を組み合わせてみた。

想いを力に変える。

ならば、自分の強いイメージを浮かべ、それを形とする。

ぶっつけ本番だったが、上手くいった。

いや、上手くいく確信が何故かあった(・・・・・・)

そして、これは皮肉にもラヴィニアを見て閃いた。

魔法の力を付加してその力を剣と共に行使してみるのは?

魔法ならアニメや漫画で良く出てくるためにイメージもしやすいし、近距離で対応するためには落ち着いて戦えられる様にしなければならない。

 

「『神速と化せ』」

『Enchant!』

 

 

次に脚力にだけ身体強化の『付加』をかけ、黎牙を左右から挟み撃ちにしようとしてくるゴリラとカマキリ型のウツセミ。

 

「黎牙っ!!」

 

咄嗟に鳶雄は黎牙にサポートへ回ろうしたが、それは無に帰した。

先にゴリラのウツセミによる豪腕の攻撃を最低限のステップで躱した後、次はカマキリの方へ『付加』された高速のスピードでいつのまにかカマキリの背後へと回っていた。

カマキリが黎牙の方へ振り返るよりも先に、黎牙がカマキリの背中に剣を突き刺すと、

 

「コレで二匹目………」

『Absorb!』

 

瞬く間にカマキリの生命『力』は吸い尽くされ、ミイラと化し生命活動を停止した。

そして、残ったゴリラのウツセミは、ミイラと化したカマキリごと黎牙を叩き潰そうと、豪腕を振り下ろしたーーーーが、それは空振りに終わる。

 

 

「チカラを解放しろ!」

『Liberate!』

 

既に黎牙の剣から『解放』されたチカラのエネルギー波によって、左右に真っ二つにされていたのだ。

この仕組みは、単純であった。

剣に先ほど吸い尽くしたカマキリの生命『力』と戦闘前にほんの少し黎牙自身の体『力』を合わせた力を一気に剣から『解放』したのだ。

コレにより、切っ先から放たれたエネルギー波ーーーー実態を持った飛ぶ斬撃は見事にウツセミを真っ二つにする程の威力を発揮したのだ。

コレこそが思考錯誤を繰り返して思いついた黎牙の戦い方だ。

どれほどの力を吸い取れるのかは黎牙本人の技量で大きく変化する。

付加されて闘える時間も短時間なため、付加の力は一撃で敵を屠るか、緊急回避時に限定するしかならない。

取りあえずはコレで戦える。

それだけでも大分前進した気がする。

最後に残った黎牙が初めて戦った熊とハリネズミのミックスのウツセミとは別のタイプの熊のウツセミは、鳶雄の子犬が串刺した事でこのフロアーのウツセミを全滅させることに成功した。

同級生たちが魔法陣に消えていくなか、鋼生が二人に訊いてくる。

 

「ひとつ訊きてぇんだが」

 

「なんだい?」

「……………」

 

「おまえら、ここに来たってことは逃げるのを止めたってことだよな? なんでだ? こんなわけのわからねぇ、頭がおかしくなりそうなほどの理不尽が来てんのによ、どうして動ける? なんでオマエらは戦おうと決心した?」

 

鋼生に問われて、鳶雄は天井を見上げた。

 

「………俺も怖いよ。でもーーー」

 

真正面から決意の篭った瞳で鳶雄は言った。

 

「どうしても救いたいヒトがいる。どうしても助けたい友達がいる。……俺にも戦えるだけの力があるのなら、せめて抵抗してから死にたい」

 

「………へぇ、ただの愚図じゃなさそうだな」

 

「最初に言っておく。俺は自分を襲ってくる相手をぶっ潰す為の戦力補強のためにオマエと幾瀬には、生き残って貰わないと困るんでな」

 

強面な表情を和らげた鋼生に間髪告げずに黎牙は口を開く。

 

「だから、無鉄砲に敵の懐に飛び込んで死に行くようなお前らを死なせねぇ様にサポートはしてやる。あんまり勝手に行動をするようならぶった斬るからな。肝に命じておけ」

 

「俺は俺のやりたい様にやるだけだ」

 

「だったら、黒幕に辿り着けず、死ね」

 

「……黎牙……」

 

このとき鳶雄は不審に思った。

鳶雄の耳には、『お前達をサポートしてやるから、もっと警戒を持て』という風に聴こえた気がした。

昨夜からの付き合いまでで、知り合ったばかりだが、根はラヴィニアが言った様にとてもいい奴だと思ってる。

だが、自分たちと一定以上の距離を保ち、何故繋がりを持つのを避けている様にも思えた。

まだ知り合ったばかりの鳶雄には黎牙のココロの底に抱えるているモノが何なのかはまだわからなかった。

 

「……はっ!悪りーけど俺は死なねぇ。ダチを助けて、黒幕をぶっ飛ばすまではな!」

 

「なら、死なねぇ様にサポートはしてやる。それでも死んだ時は、お前の遺体を綺麗に回収してやる」

 

「くくくっ!言うじゃねぇーか!面白いな、お前ら」

 

好戦的な笑みを浮かべる鋼生に口を閉ざす。

 

「だが、そういう奴は嫌いじゃねえぜ? 俺は鮫島鋼生」

 

「幾瀬鳶雄、よろしく」

 

「阿道黎牙」

 

三人は更に上へ目指してエスカレーターを上がって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * *

 

 

 

3人は三階、四階と上がっていき、五階へ辿り着いたときだった。

そこで3人を待っていたのはーーー三十人以上はくだらないウツセミの大群。各種様々な異形の怪物たちが、怪しい眼光で睨んでくる。

今までに見た動物や昆虫の怪物だけではなく、初めて見る巨大な植物の姿をした者までいた。

しかし、三人の視線が一点に注がれていた。

怪物達の中に明らかに場違いの男の姿があった。

背広を着た二十代後半の男性は不敵な笑みを見せながら近づいてくる。

その男性は嫌味な笑みを見せながら言った。

 

「やぁ〜これはこれは。三人も。いや、下の2人も入れて5人と言えばいいのかな?」

 

男性の視線が鳶雄と鋼生に向けられ、鋼生はドスの利いた声で問う。

 

「………黒幕か?」

 

「ーーーーの1人と言っておこうかな。私は童門計久という者だ。今回の『四凶計画』に参加している者だよ。楽しそうだからね、現場を見学しに来たんだ」

 

「………四凶?なんだ、そりゃ」

 

聞き覚えのない単語。三人の反応に童門は怪訝そうな表情となる。

 

「ほう、まだ例の『堕天の一団(グリゴリ)』からは話されていないのかな?」

 

「グリゴリ……? それは旧約聖書に記されている堕天使の一団のことか?」

 

問い返す黎牙に童門は感心した。

 

「ほぉ〜なかなかの博識だ。彼等とは違う異能を持つキミは機関には必要なしと判断されてはいたが、これまでウツセミを倒してきたキミには評価を改めなければならないのかもしれない」

 

彼等とは違う異能。

それは独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)であるか、ないかである事は間違いなさそうだ。

そして、童門との会話で確信が得たことが二つある。

1つ目は、目の前にいる童門とその黒幕が真に欲しているのは独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)を保持している鳶雄たち。

2つ目は、黎牙たちに手を貸しているのは堕天使達ということ。

何故、堕天使が自分達に手を貸しているのかはわからないが、コレで漸く夏梅とラヴィニアが話していた人として性格にちょっと難がある『総督』の正体が掴めてきた。

 

 

不気味な笑みを浮かべる童門は突然指を鳴らしたーーーすると、背後で待機していたウツセミたちが一斉に動き出す。

 

「何はともあれ、キミたちを奪取させていただくよ。我々はその猫と犬を持つキミたちが欲しいのだからね。『ウツセミ』など、そのための前座の実験に過ぎない」

 

「本物の神器――――セイクリッドなんたらだっけか? わけのわからねえことに巻き込みやがって! いいから、俺のダチを開放してもらおうか?」

 

「確か、キミは前田信繁の友達だったようだね。うむ、彼はウツセミと化しているよ」

 

その一言に鋼生は、憤怒の形相となる。それは打って変っての濃厚な戦意を二人も横で感じ取れるほどにだったが、

 

 

「落ち着け鮫島。返せと言ってソイツが返すわけがない。……奴の目は自分の欲望を満たすことしか考えていないクズの目だ」

 

 

剣を構え戦闘態勢を取る黎牙は淡々と告げる。

 

「ああいう手合いに言うことを聞かせるのは簡単だ。そのくだらない自尊心をへし折ればいい」

 

「つまり……力づくって事だな!」

 

鋼生の左腕に再度ランスが誕生する。

 

「下賤だ、実に」

 

「人を改造しておもちゃにするクズにはそれぐらいで丁度いい」

 

童門は吐き捨てるように口にしたーーーが、黎牙は侮蔑を持った言葉で吐き返した。

 

「……鳥頭と魔女っ子はまだ上がってこられないか? 黒幕をせっかく捉えたのにさすがにこいつは面倒だ」

 

鳶雄はうなづいて耳を押さえて二人に問いかける。

 

「皆川さん、ラヴィニアさん、そっちはどう? こっちは上階で大群と戦うことになりそうなんだ」

 

『こっちもね、外から侵入してきたウツセミと交戦中でなかなか抜けられないわ。ラヴィニアが燃やしても痺れさせても切りがないわ! たぶん、四十人ぐらい来てる!』

 

「……手回しは完了済みということか」

 

『いざとなったら「凍らせる」のです』

 

『そ、それは最後になさい! こっちも凍っちゃうかもしれないでしょ! この! 無差別氷姫(ディマイズ・ガール)!』

 

何かしらのラヴィニアにも切り札がある様だ。

 

「わかった。こっちも死なない程度に頑張ってみる」

 

『ええ、私達…チームみんなで生き残りましょう』

 

そうして、2人の連絡は途切れた。

恐らくはこのデパート内に侵入した時からどこかで監視をしていたのだろう。

ここに来て、散らばって捜索するのが今になって仇になってしまう事になった。

 

「………ま、あの鳥頭じゃ無理か。いいさ、やるだけやって勝てばいい」

 

鋼生は二人に言う。

 

「あの童門とかいう野郎だけは逃がすな。いろいろ訊きたいことがあるからよ」

 

「分かっている。お前も間違えて殺すなよ」

 

「ああ」

 

それだけを確認すると、三人は一歩を踏み出す。

それに呼応するようにウツセミの大群も動き出した。

 

 

「『穿て雷よ』!」

『Enchant!』

 

 

先制攻撃として黎牙は、剣による刺突による切っ先から放たれた轟雷は、童門目掛けて真っ直ぐ進むーーーーが、それは阻まれた。植物型のウツセミによって。

童門は、真っ直ぐ自分に向かって来た雷をウツセミで身代わりにし、その威力に観察した。雷を喰らったウツセミは、黒焦げとなり沈黙した。

 

「中々の威力だ。目醒めたばかりにしては凄まじいな」

 

 

あごに手をやり、興味深そうにこちらに視線を送ってくる童門。

こちらの戦いを観察していることに小さく舌打ちする黎牙。

そんな黎牙に背後から襲いかかって来た熊のウツセミ。鋭い爪を振り下ろし、無防備の黎牙を斬り裂こうとした。

 

 

「失せろ! 毛むくじゃら!」

『Enchant!』

 

 

しかし、熊のウツセミの両腕はバッサリと斬り落とされた。

それだけでは終わらず、続けて無防備の背中に浅く剣を突き刺すと、

 

「アイツの力を吸え!」

『Absorb!』

『Enchant!』

 

両腕を斬り落とされた熊のウツセミは、突然起き上がるとーーーー童門に襲いかかった。

 

「何っ!?」

 

それに驚愕する童門は咄嗟に懐から札を取り出して何やら呪文のような言葉をつぶやくと童門を包む結界のようなものが現れた。

熊のウツセミはそれでも執拗に童門を襲いかかる。

それに見て童門は笑みを溢す。

 

「うんうん、わかった。やはり、本物は違う。目覚めたばかりでも人工物ではとうてい及ばない差を見せつけてくれる。特にキミーーー阿道黎牙だったかな? 現状では鮫島鋼生が一番神器を扱えると思っていたが予想外のことをしてくれるよ。ウツセミに注がれている私のチカラを吸い、その上に自身のチカラを付加させる事で、命令主を自分に書き換え、ウツセミを操るとはね。驚いたよ――――――それでは、次に移行しようか」

 

 

再び懐から札を取り出して呪文をつぶやきながら、ほかのウツセミに熊のウツセミを処理させた。

 

「……土より生まれ出ずるもの、金の気を吐き、水の清めにより、馳せ参じよ」

 

札を手放すと、札が意思をもったかのように宙を漂い始め、五芒星を形成していく。札の全てが怪しい輝きを放ちながら、床に大きな影が生れて、その影が盛り上がり、形となしていく。

三人の眼前に現れたのは三メートルはあるであろう人型の土の塊。

童門は笑う。

 

「これでも由緒ある術士の家系でね、さ、私の土人形でキミたちを捕えよう」

 

童門が指を鳴らすとそれに応じて、土人形がゆっくりと動き出す。

 

「………おいおい魔女っ子の魔法といい、てめえのバケモノ召喚といい、なんでもありかよっ!」

 

「それでもキミたちの持つものに比べたら、矮小であるんだよ。まったく不愉快なことにね」

 

土人形が大ぶりにパンチを繰り出した。空気が振動するほどの勢い。直撃――――いや、かするだけでも大きなダメージが受けそうだ。

 

「『神速と化せ』!」

『Enchant!』

 

再び『付加』の能力を発動させて、動きを加速させる。

鋼生は後方に飛び退いて距離を取り、一気にランスを突き刺していくーーーが、カキーンッ!という音だけがフロアに響くだけで、ランスは土人形の体に弾かれてしまう。

今度は鳶雄の子犬が翼のように生やした背中の一対の刃で斬りかかるが、それでも土人形にダメージは与えられない。

物理攻撃が効かないのなら、と黎牙は土人形の脚に剣を突き立て、力を『吸収』しようと試みた。

 

「吸い尽くせ!!」

『Absorb!!』

 

剣の宝玉から眩い光を発させながら、土人形のチカラを吸収していると、別方向からの来るウツセミが攻撃を仕掛けてきた。その攻撃を避ける為に、土人形から離れるしかなかった。

その結果を見て童門は嘲笑する。

 

「ふふふ。どうやら、現時点では私の人形のほうがキミたちを上回っているようだ。では、仕上げといこうか」

 

童門は更に札を取り出して呪文を唱えた。札は三人の背後で展開して土人形を呼び寄せる。背後に現れた土人形と正面からも先ほどの土人形がそれぞれ鳶雄、鋼生、黎牙に詰め寄ってくる。

 

「…………くそったれ!!」

「……………くっ!」

「……クソっ!」

 

ほどなくして、鳶雄と鋼生は土人形によって取り押さえられてしまうーーーが、身体強化を付加していたおかげで辛うじて回避することに成功した黎牙。

 

「やはりキミは避けるか」

 

「なにっ!?」

 

突然聴こえきた新たなる声に驚き、声のする方向を振り返ろうとしたところで剣を握っている筈の右腕に違和感を覚えた。

 

「――――――――っっ!!」

 

視線を右腕に向けるとーーーー右腕が二の腕から先が無くなっていた。その致命的な隙を見逃さなかった土人形に取り押さえられてしまう黎牙。

 

 

「助かったよ。ギルバス君」

 

「クライアントのサポートは最低限させて貰う」

 

突然何処から来たのかは不明だが、童門の側には黎牙の斬り落とされた右腕を待っスーツを気崩して着ているた三十代前半の男が、いつのまにか立っていた。

 

右腕からドクドクと流れるモノと猛烈な痛み。

少しして冷静になった頭が漸く黎牙は自分が何をされたのか理解した。

 

 

あの男に右腕を斬り落とされたのだ。

 

 

 

「彼はこの少年達の中で最も冷静で、警戒心が強い。ならばその様な相手の武器を使えなくさせる事が1番だ」

 

突然現れた正体不明の男ギルバスは、見るからに童門の協力者である事は間違いない。腕が無くなり苦痛に顔を歪める黎牙に鳶雄たちの顔がしかめる。

 

「それでは私は戻らせて貰うぞ………」

 

「了解した。戻って休んでいてくれ。はてさて、これからどうしたものか」

 

「それでは阿道黎牙君、また逢おう」

 

正体不明の男ギルバスは、意味深な言葉を残し、足元に魔法陣を展開し消えていった。

残った童門は顎に手をやり、手元の携帯機器を見ながら何かを楽しそうに考え込む。

携帯機器をいじる手が止まった。鳶雄にいやらしい視線を送り、こう言う。

 

「ちょうど、この場にキミと縁がある者を連れていたようだ」

 

童門は背後で待機するウツセミに言う。

 

「後方にいる者は前に出なさい」

 

すると、後ろの列にいて正面からは確認できなかった者たちが複数現れる。

 

「………佐々木?」

 

それは鳶雄の友達だった。

 

「昨日、キミに一度倒された子だね。けれど、こちらの技術で、分身体を再生できるケースもあるのだよ。できない子もいるが、彼は幸運にも再生できるタイプだった。だから、パートナーを再び連れていける」

 

「やめろ!佐々木! 俺だよ!幾瀬だ!!」

 

呼びかける鳶雄。だが、佐々木は何も答えない。無表情のままその場に立つだけ。

 

「………無駄だぜ。こいつらを操る連中を叩かない限り、襲いかかってきやがるのを止めはしない」

 

童門は鳶雄たちの反応を楽しみながら、佐々木を捕われている子犬の前に立たせた。そこで佐々木の首を掴み、子犬が額に出している鋭利な刃に詰め寄らせる。

 

「まだ、ヒトを斬ってはいないのだろう?『四凶』とされるキミたちの神器がヒトの血を覚えたとき何が起こるのか、実に興味深いとは思わないかな?」

 

正に狂気に彩らされる童門の瞳。

自身の分身である子犬に友達を斬らせようとしている衝撃の行動に絶句して、土人形から抜け出そうともがくが、微動だにできない。

 

「………てめぇ!!卑怯にもほどがあんだろう……ッ!」

 

同様に暴れる鋼生が叫ぶが、童門は嘆くように息を吐くだけだった。

 

「何を言っている? もとはとえば、あの豪華客船に乗らずにいたキミたちが悪いのだ。まあ、それもキミたちのなかにいたその神器(セイクリッド・ギア)が、危険を察知して熱を出させたのだと思うがね。しかも忌々しくも堕天の一団が関与した際か、キミたちの不参加を事前に知ることすらできなかった。おかげで我々の計画は大幅に修正せざるを得なかった。よくもまあ我々を出し抜いて情報を操作したものだ、あの黒き翼の者たちめぇ」

 

そして今度は一転して苦笑する童門。

 

「いや、だからこそ、神の子を見張る者たちグリゴリと呼ばれるのだろうか。ふむふむ、神器(セイクリッド・ギア)は神からの贈り物とされるからねぇ」

 

佐々木が鳶雄に視線を送り、口を動かす。

 

「うらぎりもの」

 

「佐々木……」

 

切ない心情が鳶雄に押し寄せてくる。

 

「何が裏切り者だ!……操り人形の分際で……ッ!」

 

その際に苦痛に耐え忍びながら黎牙が言葉を投げた。

 

「おい幾瀬!!オマエも……裏切ったなんて思うんじゃねぇ!こんなのが、裏切りになるわけがあるか!………本当にそう思っているのか、その耳で聞け!!」

 

身体を抑えられているだけで、残った左腕はまだ動く。

利き腕を斬り落とされた黎牙に警戒を解いていた童門の隙を伺い、黎牙は消えていた剣をもう一度、左腕に呼び出し、鳶雄達のいる所まで投げつけーーー神器(セイクリッド・ギア)に命じる。

 

「佐々木を拘束している力を喰え!神器(セイクリッド・ギア)!!」

『Absorb!』

 

剣の宝玉から発した閃光は佐々木へ当たる。

そして、その光が佐々木の心を動かした。

 

「……………い………いくせ…………たす………けて………」

 

それは裏切ったことに対する憎しみの言葉ではない。

友達を名前を呼び、救いを口にした。

 

「そこのカス!さっきから話を聞いていたが、お前達の目的は幾瀬達であって今ウツセミになっている奴等じゃないはずだ」

 

「確かに。だけど、もともと『四凶計画』の実験体として多くの若者が必要だった。彼らの協力は必然だったのだよ」

 

どちらにしろ、結果的にはこうなっていた。

 

「なら、その『四凶計画』とやらの四凶は神器とされた四神の事か?」

 

黎牙の確信に満ちた言葉に童門の表情が一瞬強張む。

しかし、それは答えを言っているもの。

 

「キミがなかなか博識とは思ってはいたが鋭いな。何故その結論に辿り着いたのかその経緯を是非とも聞いてみたいところだが、止めにしよう」

 

「ぐぅっ!?」

 

黎牙を取り押さえている土人形の力が増していく。

 

「安心してくれ。キミが消えても『四凶計画』に支障はない。むしろ、キミという存在は邪魔だ。妨害される前に排除しておくとしよう」

 

「黎牙!?」

 

「クソがッ!!」

 

このままでは黎牙は殺される。

なんとかしようともがくが、土人形はビクともしない。

 

「…………あっけないなぁ」

 

剣をもう一度呼び出す力はもう無く、右腕を斬り落とされ、動きを封じられている黎牙は抵抗することもできずに、自身の頭がミシミシとなっている音を聞く。

このまま潰れたトマトのようになるのだろう。

奇しくもまた笑っていた。

鳶雄と鋼生は身動きが取れない。

チームのラヴィニアたちもまだ交戦中。

この場で黎牙を助けてくれる者は誰一人としていない。

 

「黎牙! 今助けるから!!」

 

「おい! さっさとどけよ!!クソ人形!」

 

必死に叫ぶ鳶雄と鋼生にうるさい奴らだと内心でぼやく。

助ける前に自分達のことを考えろと思いながら黎牙は諦めるように目を閉ざす。

 

『約束なのです、ファング』

 

走馬灯の中で何故か聴こえるラヴィニアの声。

死ぬ間際で聞く声が、何であいつの声なんだと思うとうんざりする。

死の間際くらい空気を読んでくれ。

 

所詮親殺しの俺には相応しい最期だ。

 

これでは約束は守れそうにないな。

 

何でラヴィニアの事ばかり頭に浮かぶだろう。

 

天然で無防備な恰好で男の部屋には来るし、人のベッドを占領するし、全く人の名前で呼ばず、『ファング』なんて妙なあだ名で呼ぶし、親殺しの俺の事も知らないで、勝手に優しい奴だの、強い子だの言いやがってといい迷惑だ。

 

それも…もう…それを聞くことはない。

 

死ねば何もかも終わり。

 

でもやっぱり死にたくない。

 

死にたくない…………まだ死にたくない。

 

生きて、あいつに文句の一つぐらい言いたい。

 

俺はお前の言う様な奴じゃないって。

 

双眸を開かせる。

 

その眼前には真っ暗な世界。

 

それは“あの夢の世界”

 

だが、今度はいつもと違う。

 

目の前に俺の剣がある。

 

『―――想いの力。神器――――セイクリッド・ギアは想いが強ければ強いだけ、所有者に応えるのです。ファングが強く想えばきっとその神器セイクリッド・ギアも応えてくれるはずなのです』

 

また、ラヴィニアの声が聴こえる。

 

なぁお前達は俺の想いに応えてくれるのだろう?

 

 

願えば、その力を発現させてくれるのだろう?

 

 

俺はまだ死にたくない。

 

 

チカラが欲しい。

 

 

あのクソ野郎をぶちのめすチカラが欲しい。

 

 

俺は物語の主人公みたいなスゲェ奴でもない

 

 

特殊な血統もない。

 

 

才能だってない。

 

 

平凡以下のモブキャラだ。

 

 

それでも自分の生きるのを諦めたくない。

 

 

 

俺にオマエたちの力を貸してくれーーーーー

 

 

 

 

 

『待っていたぞ。 その言葉を』

 

 

『欲望こそチカラだ!』

 

 

『さぁ! 絶滅タイムだぁ!」

 

 

 

 

最後に聴こえたあの声を最後に

 

 

 

黎牙の意識は闇に堕ち、

 

 

 

兇悪の邪龍が目醒めた

 

 

 

『GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』

 

 




一瞬だけ本作のオリジナルキャラクターを出してみました。
この後も着々出てきますので。
どう言うキャラなのかは現在は不明という感じです。

それでは次回もお楽しみください。

楽しみやすくなる様なキーワードは《アナザーリュウガ》です。
次回はそれに似たキャラが出ます!


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第5話 暴走

前回の後書きにあったキーワードのキャラが出ますので、姿をイメージして読んでみて下さい。

それでは第5話どうぞ!!


『GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』

 

 

耳を塞ぎたくなる程の獣いやーーー龍の咆哮が部屋中に鳴り響いた。

時を同じくして、黎牙と土人形のいた場所に、血の様赤色を含んだ黒い焔が立ち込め、黎牙の姿を確認する事が出来ない。

 

「おいおい!?」

 

「れ、黎牙なのか?」

 

 

鋼生と鳶雄は目の前に起きている現実に驚愕を隠せなかった。

彼等は、自分達のチームメイトーーー阿道黎牙が土人形に殺されるのを阻止しようと抵抗するも虚しく黎牙は殺されるーーーーそう思ってしまった。

 

しかし、現実は2人が喜ぶ様な結果ではなかった。

 

 

黎牙がいた場所には、既に焔は消えており、土人形の姿は跡形もなく、黎牙もいない。

 

 

 

 

そこにいる影は1つ………

 

 

 

その影は確かに人の形をしているが、全身を強固な黒い鱗と見るだけで寒気がする程の恐ろしい邪悪なオーラに身を包み、右腕は二の腕から先はなく、左腕には先ほどまで鳶雄の近くにあったはずの黎牙の禍々しい剣の神器(セイクリッド・ギア)が握られていた。

 

 

異形の姿をした人いやーーー邪悪なる龍

 

 

その言葉しか言い現れせれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

部屋中が静まり帰る中、童門は黒い龍人と化した黎牙を興味深そうに見ていた。

 

 

 

「あの土人形を一瞬にして消し飛ばす程のチカラが彼に残っているとは思えんがーーーー例え急激なパワーアップをしたところで付け焼き刃も良いところだ。やれ」

 

 

 

童門の言葉で背後で待機していたウツセミ達が一斉に黒い龍人へ襲いかかろうとするが、剣の切っ先を斬り落とされ黎牙の右腕へと向けーーーー怪しい光を放った。

 

 

放たれた光は斬り落とされた黎牙の右腕を双頭の龍へと変えた。

 

 

そして、心を持たない虚ろなる龍が産まれた。

 

 

『GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』

 

「ば、バカな!自分の腕を龍へと変えるなど聴いたこともない!!なんなんだ!お前は!!」

 

動揺する童門を置き去りにし、

黎牙の右腕ーーーーいや双頭の龍は耳を塞ぎたくなる様な咆哮を上げ、主人たる黒い龍人の敵ーーーウツセミの軍団へ向かっていく。

しかし、何十匹ものウツセミの軍団の内の数匹は双頭の龍の猛攻を避け、黒い龍人と化した黎牙へとその牙を抜いた。

 

鳶雄と鋼生は土人形からの拘束を抜け出そうと試みるが物体的質量差でビクともせず、拘束されたままとなっている。

 

 

「黎牙! 本当に黎牙なら、逃げてくれ!!」

 

 

鳶雄は必死になって叫ぶが、黒い龍人は全く動こうとしなかった。

鋭い顎をもつクワガタのウツセミが他のウツセミを置いて先に黒い龍人へ襲いかかるとーーー黒い龍人は手に持った剣を勢いよく振り下ろした。黒い龍人の剣から放たれた斬撃は目の前にいたクワガタのウツセミを左右に真っ二つに斬り裂き生命活動を停止させたーーーが、背後から来るオオカミ型のウツセミに左肩を噛み付いてきた。しかし、龍人は全く怯む事なく、四方から来る植物型、蝙蝠型、大蛇型、蜥蜴型のウツセミ……四体から迫り来る攻撃を最低限の動きで躱す。

そして、左肩にオオカミ型のウツセミが噛み付いている状態のまま横に一直線上の回転斬りで四方のウツセミを斬り捨てた。

そして一瞬の内に残ったのは肩に噛みついてるオオカミ型のウツセミだけとなった。龍人は、剣を地面に剣を突き立て、空いた左腕でウツセミの頭を掴みーーーー握りつぶした。

数十匹のウツセミと戦っている双頭の龍の元へ跳び、二の腕の先から無い右腕を双頭の龍の身体に押し当てた。

すると、双頭の龍はそのまま黒い龍人の右腕へと巻き付く様に身を寄せ、自分を新たなる姿へ変貌させた。

 

双頭の龍の新たなる姿ーーーーそれは黒い龍の顔をした手甲。

 

黒い龍人は、双頭の龍だった龍の手甲の口をそのままウツセミの軍団へ向け、黒い焔を放った。

しかし、放たれた焔はウツセミの軍団へ到達する前に、突然展開された魔法陣へと吸い込まれ消えた。

童門、鳶雄、鋼生は突然の事に全く反応出来ていなかった。そんな固まった3人を置き去りにし、いつのまにかウツセミ……一体一体の頭上に魔法陣が現れていた。そして、現れた魔法陣から、先ほど消えた焔が出現した。頭上からの攻撃にウツセミ達は反応する間もなく一瞬のうちに跡形も残さず、焼き尽くし、絶滅させた。

 

 

童門は驚愕と恐怖を抱いた。

たった1人のーーーついこの間まで裏の世界など全く知らなかったはずの子供に自身の操るウツセミの軍団を絶滅させられた。

 

「ばっ、馬鹿な! あり得ない! こんな事がっ!?」

 

敵を全て絶滅させた事を確認した黒い龍人は、次の標的を童門へと定めた。濃厚な殺意が自分に向けられた童門は、尻餅をつき、這うように逃げ出す。そこにさきほどの余裕は微塵もなかった。

 

 

「ひっ。くるなっ! こっちにくるなっ!」

 

まるで怪物を見るかのような目。

龍人は童門との距離を詰める為に剣を構えた状態で走りだそうとした所で異変が起きた。

 

 

黒い龍人の身体の至る所から血が吹き出し始めたのだ。

しかし、それでも黒い龍人の進みは止まらない。

 

“目に移るもの全てを殺す”

 

 

そう見えた鳶雄は決死に黒い龍人ーーーいや黎牙に叫ぶ。

 

 

「もういい!もういいんだ!!黎牙!このままだとお前の身体が持たないぞ!!」

 

「ハハハハハ!!やはり異常なパワーアップは身体に負荷がかかりすぎた様だね!!私の勝ちだ!!死ね!!」

 

 

童門の指示を受けた土人形は苦しみだしいる龍人と化した黎牙を殴り飛ばした。殴り飛ばされた龍人は、ボールの様に地面をバウンドしながら飛んで行きーーーー壁に激突する事で漸く止まった。しかし、黒い龍人は立ち上がり、童門を狩るために歩を進める。

ボロボロとなってもなお戦おうとする黒い龍人ーーーいや黎牙を止める力が無い事に無力感を感じる。

 

「黎牙……」

 

意見を衝突してばかりだったが、自分達の身を案じての言動であった事は鳶雄にも分かっていた。

黎牙は本当に優しい奴だということもわかっていた。

鳶雄は薄々気付いていた。

黎牙だけならこの場から切り抜けられたかもしれないということに。

自分には黎牙の神器(セイクリッド・ギア)の能力が何かはわからない。でも、自分達よりも警戒心が強い黎牙なら相手の隙を突き、腕を斬り落とされた状態でも、最後の力を振り絞って自分一人だけは助かることが出来たことに。

それなのに、残った力を自分の為に使ってくれた。

裏切ってはいないということを教えてくれた。

後先考えず、突っ込んで黎牙を苦しませた。

そして、あんな姿で身体に無理をさせながら他のウツセミを全滅させてくれた黎牙が今、自分の目の前で殺されてかけているのに、自分がどれほど無力なのかを痛感させられた。

しかし、童門は鋭い視線を黎牙に向けながら、懐から札を取り出し、新たなる土人形を召喚した。

 

「くくくっ、あんなにボロボロな上に理性が無いなら後は自滅しか無いな。いい様だよ、まったく。早く死に給え。」

 

新たに召喚された土人形は龍人状態の黎牙に拳を振り下ろした。しかし、ボロボロの龍人状態の黎牙は何とか二体の土人形の迫り来る攻撃の雨を避けているが、先ほどよりスピードが遅くなっていた。このままでは、黎牙が殺されるのは時間の問題となっている事に鳶雄は更に自分には力が無い事を思い知らされた。

苛まれる鳶雄を見た童門は、何かを思い出したかの愉快そうに醜悪の笑みを浮かべた。

 

「君は確か幾瀬……だったか。ああ、そういえば、キミは確か東条紗枝と懇意にしていたというデータがあったね。いいだろう、会わせてあげよう。彼女もいいウツセミとなっているよ。思い出した!」

 

そして童門は更に醜悪に笑んで続ける。

 

「彼女は、実験中にこう何度も呼んでいたね。『とびお、とびお』ーーーーとね。そうか、彼女はキミを呼んでいたんだね。納得したよ」

 

言葉もない鳶雄はーーーー奥歯を激しく噛み、怒りと悔しさのあまり、涙を止めなく流した。殺意に満ちた瞳で童門を睨むが、せせら笑うだけ。

 

「てめえええええええええええええ!!!!」

 

憤怒の形相で鋼生は叫ぶ。

しかし、抑えられている鋼生を嘲笑うかのように、童門はより醜悪の笑みで顔を歪める。

 

ーーーーー許せないーーーーー

 

こんな奴らを許せるはずがない……ッ!

 

俺を、佐々木を、紗枝を、そして黎牙を、己の欲――――悪意で満たそうとしている。

 

視線を黒い子犬に向ける。

子犬の双眸は赤く、赤く輝かせる。

ドクン、と自分のなかで静かに脈動する何か。自分と犬が繋がっているという感覚を、昨夜よりも強く感じさせる。

なら、俺のために、《刃》となれ―――

 

今も力に苦しんでいる友達(黎牙)を救う為に奴らを斬る《刃》となってくれ!

 

鳶雄のなかで何かが、

 

勢いよく弾けようとするーーーー

 

「俺に力を貸せェェェェェェェェェェェッ! おまえは《刃》なんだろうォォォォォォォォッ!」

 

オオオオオオオォォォォォォォォォ‼︎‼︎

 

鳶雄の絶叫に呼応して、子犬はフロア全体に響き渡るほどの咆哮を上げる。

刹那ーーー子犬の体から黒いもやのようなものが生じて、広がっていく。

それは鳶雄の体にも現れて、ついには土人形すらも包み込む。

鳶雄はゆっくりと起き上がろうとしていた。

強力なまでに押さえられていた土人形の腕力を、徐々に徐々に解いていき、ついにはその巨椀を破壊して解き放たれる。

鼓動はさらに高まる。

呼応するように黒い子犬も全身から無数の刃を生やして土人形の腕を破壊した。

童門の前に立つと、鳶雄は手を前に突き出して一言つぶやく。

 

「―――全部、刺せ!」

 

次の瞬間、童門の後方に防衛として待機していた土人形と黎牙と交戦している土人形は影より生じた無数の刃で串刺しになる。

 

「………な、なんだ、これは!? 影から刃!? 無数の剣だと!? どうしたというんだ!?」

 

あまりの光景に童門は激しく狼狽して、視線を後方と前方と配り、混乱の様子を見せていた。

 

「…………思い付いたよ、おまえの名前」

 

横に構える子犬に言った。

 

「―――――《(ジン)》。おまえは刃だ。すべてを斬り払うための俺の(やいば)だ」

 

そう、それが自分より生じた分身の名前。

鳶雄は子犬―――刃に命ずる。

 

「刃、斬れ(スラッシュ)

 

神速の速度で前方に飛び出して、残っていた土人形を一刀両断していく。

逃げようにも五階のフロアは、数え切れないほどの歪な形の刃が生える異様な空間と化していて、その刃によって成す術もなく、貫かれ、切り刻まれる。

突然の逆転劇に童門は狼狽え、首を横に振って顔をひきつかせる。

 

「バカな!? 私の土人形を、しかも10体も一瞬で始末したというのか!? なんだ! なんだ! その神器は!? 四凶ではないのか!? 影から刃だと!? 知らないぞ!? そんな能力はッ!」

 

童門に詰め寄る鳶雄。容赦するつもりはない。

人の命を弄んでいる男なのだから。

 

「あとはあんただけだ」

 

眼前に立つ鳶雄を見て、童門は先程同様に無様に尻餅をついて、這うように逃げ出す。

 

「ひっ。くるなっ! こっちにくるなっ!」

 

まるで異物を見るかのような目。

手を出しかける鳶雄だったが、その横でまぶゆい輝きが生じる。見れば、魔法陣らしきものが出現して、そこから人影が現れた。

四十代ほどの男性が、魔法陣の中央から登場して童門に向かって叫ぶ。

 

「計久っ! ここは退け!」

 

「姫島室長!」

 

その名前に鳶雄は反応してしまう。

一瞬、気を取られた隙に童門はポケットから筒の様な物を取り出すと、こちらに放った。刹那、閃光がフロアに広がり、鳶雄たちの視界を遮断させる。

目がくらむなか、魔法陣から現れた男の声だけが聞こえる。

 

「ーーーおもしろい。いずれ、相見えれよう。《狗》よ」

 

目が回復したときには、すでに男たちも絶命しているウツセミの姿は消えていた。

 

「……おい!いい加減に止まれ!もう敵はいねぇんだ!!」

 

鋼生の叫びでまだ今の黎牙が元の黎牙に戻っていない事に再確認した。

そして、鳶雄は黒いオーラを纏いながら自分の分身たる刃と共に、自らの浅はかさによりチカラに呑まれた友達(黎牙)を救う為に駆け出す。

 

「俺が必ずお前を連れ戻すよ!黎牙!!」

 

しかし、暴走を続ける黎牙は右腕の手甲を鳶雄へ向け、黒い焔を放ったーーーが、焔は鳶雄と刃へ届く前に魔法陣へと吸収される様に消えた。コレは先ほどのウツセミの軍団を絶滅させた時と同じ技。

鳶雄はすぐに頭を上げると、頭上には魔法陣が浮かび、黒い焔が迫ってきた。

 

「上だ!!幾瀬!逃げろ!!」

 

「刃、斬れ(スラッシュ)

 

鳶雄の指示を受けた刃は、影から刃を召喚し焔を魔法陣諸共斬り裂いた。鳶雄達が焔の対処に気を取られた瞬間を狙って、ボロボロになっても尚暴走を続ける黎牙は鳶雄に左手に持った剣を振り下ろしたーーーーが、鳶雄に剣が触れる前にランスを持った鋼生が割って入った。

 

 

ガキーーーーンッ!!!

 

 

激しい金属音が部屋中に鳴り響いた。

ボロボロの状態でも凄まじいチカラを持っていたためランスから伝わって来た衝撃によって鳶雄を巻き込む形で後ろへ吹き飛ばされた。

吹き飛ばされた鳶雄と鋼生を護る為に、ドクドクと血を流しながら戻れない黎牙に百砂と刃は立ちはだかる。どちらも毛を逆立て威嚇する。そんな二匹をまるで恐れなど全く感じておらず、手甲から焔を貯め放とうしたーーーーが、

 

 

「行って!グリフォン!!」

 

 

新たなる乱入者が手甲に激突した事で、焔はあらぬ方向へと向かい、目標を失った焔は壁に激突した。

 

「トビー!シャーク!大丈夫なのですか?」

「2人とも無事?」

 

「助かったよ2人とも!」

「ったく、余計な事しやがって」

 

ラヴィニア、夏梅の救援に喜ぶ鳶雄、2人が無事な事に内心ホッとしているが表面ではツンケンする鋼生。

 

「2人とも……あの剣って事は…」

 

顔を多少青くさせながら夏梅は視線を暴走する黎牙から外す事なく、2人に自分が考えている疑問を問いかけた。

 

「あぁ、アレは……黎牙なんだ」

「……そうなんだね。やっぱり」

 

顔をしかめながら鳶雄は夏梅の問いに答えた。

 

「それで、どうやってアイツを戻す。おとぎ話みたいにお姫様のアレで戻るなら、鳥頭やれよ」

「ちょっ!ちょっと!こんな時に何を言ってるのよ!バカヤンキー!!」

 

こんな時でも、冗談か本気なのかは分からないがこんな危機的状況にもかかわらず、とんでもない事を口走る鋼生と顔を真っ赤にしながら怒鳴る夏梅に何故か笑みを出てしまう鳶雄。

そして、今まで沈黙していたラヴィニアが等々口を開いた。

 

 

「そんな事をしなくても私が止めてみせますので絶対大丈夫なのです」

 

 

鳶雄、夏梅、鋼生は何処にそんな自信があるのか全く分からないのか、3人とも揃ってポカーンと口を開け、固まってしまった。

そんな3人に暖かい笑みを送り、スティックを懐にしまい、無防備の状態で変わらぬ笑みを浮かべ、黎牙を迎え入れる様に両手を広げた。

 

「ファング……ファングは私達……チームを傷つける人ではないのです。ファングは、優しくて、強くて、凄い子なのです」

 

「……Gu……Gu………AAAAAAAAaaaaaaaaaaa

aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

まるでワガママを言う子供をあやすかのような母性を感じさせるラヴィニアの言葉を目障りと感じたのか、ラヴィニアに剣を振り下ろした。

 

「やめて!!黎牙ァ!!」

 

「止まってくれ!!黎牙!!」

 

「いい加減に止まれ!!」

 

咄嗟だった為、2人に割って入ることが出来ず、決死に黎牙のココロに訴える。

 

 

そして、振り下ろされた剣はラヴィニアの眼前で止まった。

 

いや、止まらせたのだ。

 

「…Gu……guuuuuuuuuuu!!!!」

 

右腕の龍の顔をした手甲の口を噛み付かせるかように左腕を止めたのだ。

それを見て鳶雄は漸く気付いた。

黎牙はずっと戦っていたのだ。

自分達を殺そうとする自分と必死に止めようとしていたのだ。

あの黎牙が本気になれば自分などあっと言う間に殺されていた。

でも、自分は生きている。

黎牙が自分の命を危険に晒しながら戦ってくれていた事に。

 

 

そんな黎牙に暖かな笑みでラヴィニアは歩み寄り、龍人となっている黎牙の頰に両手で包み込んで語り掛ける。

 

 

「大丈夫…もう大丈夫なのです……私達を傷つけに来る敵はもういないのです………ファング…もう大丈夫なのです」

 

 

「……Gu……Gu………AAAAAAAAaaaaaaaaaaa

aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

 

ラヴィニアの言葉が届いたのか、黎牙は剣をこぼり落とし、両手で頭を抱え苦しみ出した。苦しみの声を上げながら、邪悪な黒いオーラは消え、鱗の鎧は次々とヒビが入り、ボロボロと崩れ始めた。

鱗の鎧の中から右腕が綺麗に繋がった黎牙が出てきた。

漸くチカラに呑み込まれていた黎牙は解放されたのだ。

血まみれの黎牙にはもう立てる力も残っておらず、前のめり倒れようとした。鳶雄、鋼生、夏梅は倒れる黎牙を受け止める為走り出した。

しかし、そんな3人よりも黎牙の1番近くにいたラヴィニアがそっと黎牙を自分の胸の中に受け止めた。自分の服に黎牙の血が付く事は全く気にしていないラヴィニアは、黎牙を横にするためゆっくりと黎牙を下ろし、膝枕をし、黎牙の意識がある事を確認していた。

いつのまにか黒いオーラが消え伏せた鳶雄は急にドッと体に疲れが出たため黎牙の側へ駆け寄るのが少し遅れた。

先に駆け寄った鋼生と夏梅は黎牙が息をしている事を確認できたので、ホッとしながら、肩を優しく揺すり、今意識があるのかを確認する。

 

「おい、聴こえてるか?」

「ねぇ大丈夫!生きてるよね!?」

「ファング……聴こえますか?」

「大丈夫か黎牙?」

 

 

4人が黎牙を心配していると、

 

「……う、うるせぇ………あ、頭の上で…………叫ぶな……キズに…ひ………びくだろ……」

 

相変わらずの黎牙の毒に4人はポカーンとする。

4人が固まっている間に黎牙は再び意識を失い、穏やかな寝息を立て始めた。最後の最後まで威張る黎牙に、鋼生、鳶雄、ラヴィニア、夏梅はお互いに顔を見合わせた。すると4人の顔には笑顔が浮かんでいた。

 

「ったく、最後まで威張りやがって」

「ははは、確かに。でも黎牙らしいけど」

「ホント、こっちがどれだけ心配したかも知らないでね」

「ファングは意地っ張りなのです」

「………(( _ _ ))..zzzZZ」

 

「それにしてもさっきまで暴れ回っていた奴とは思えねぇ寝顔だな?」

「寝ている時が一番、人は無防備だからね」

「ファングの寝顔はとってもカワイイのです」

「それ、黎牙が聴いたら絶対キレるわね」

 

 

しばしの休息を取ってから4人は、隠れ家のマンションへ戻っていった。

 

 

こうして、

 

 

 

鳶雄の中にいる《狗》と黎牙の中にいる《邪龍》は目醒めた

 

 

 

 

異端は異端を呼び、

 

 

 

 

深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいている

 

 

 

 

 

 

 




前回にキーワードにあった《アナザーリュウガ》とは、黎牙の暴走状態の事です。見た目もそのままアナザーリュウガにしていますので、改めて、読み直してみると結構戦闘描写がイメージしやすいかな〜と思い、後書きとして書きました。前書きに詳細を書くとネタバレ感があるかな〜と思いました。

次回も近い内に更新しますので、暇があれば読んでみて下さい。
第6話もよろしくお願いします。


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第6話 ココロの恐怖と暖かさ(改変版)

ちょっとユキシアさんの話と似ていると言う意見が出てきましたので、出来る限り似ないように変更をしました。別に読まなくても流れ的には本編には影響はありません。


 

『まだまだ、俺たちが乗っ取るには弱すぎる』

『マジでヨェー☆』

『マジでカース☆』

 

あの時と同じ声。

 

だからは分からないが、少々キレつつ呆れていることはわかる。

 

『さっさと強くなって貰わないと、俺たちの楽しみが無くなるからな』

『まーた、すぐに殺されるのはゴメンだぜ☆』

『まーた、ハズレを引かされるのもゴメンだぜ☆』

 

真っ暗な闇の中でしか聴こえない声を聞き流していると、コイツらとは違う俺を呼ぶ声に引っ張られる様に俺の意識は浮上する。

 

しかし、完全に意識が覚醒する前に、

 

『次に俺たちに会う前に、せいぜい死なないよう気をつけてることだな。黎牙!!』

『早くしねーと、小便ちびることになるぜ!宿主様よ!!』

『あんまし時間はねぇーからな!レイちゃんよぉ!!』

 

 

ボロクソに激昂?された。

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

 

「………よく生きていたなぁ」

 

 

無愛想な顔で窓の外を睨むように眺める黎牙。

しかし、今の黎牙の身体は至る所に包帯が巻かれている。

右腕が繋がった詳細は不明だが、ラヴィニアに診断してもらった結果綺麗に接合されていた。いや、元々キズが有ったのかと疑う程元に戻っていたのだ。

黎牙には、暴走状態の記憶は残っていたが、その内容はまるで映像を観ている様な他人感覚であった。自分ではない自分。その言葉が一番合っていた。しかし、この感覚には憶えがあった。コレは薬でおかしくなった両親を殺した時と同じであった。

廃業したデパートでの戦闘が終えた次の日の朝に黎牙は目を覚ました。

目覚めた直後にベッドに身を乗り出して寝ていたラヴィニアからそれからのことを話してくれた。

童門達……空蟬(うつせみ)機関とは、この日本を異形の者達から裏で守る陰陽師、異能者の集団ーーーー五大宗家から反旗を起こした者達の連中のようだ。

五大宗家とは、「百鬼(なきり)」を筆頭に、「櫛橋(くしはし)」、「童門(どうもん)」、「真羅(しんら)」、「姫島(ひめじま)」が名を連ね、各家が「黄龍と四神」の力と名を受け継ぐ。そして出身者は退魔師やそれに準ずる職につき国を裏から守護する。それぞれの家が、異なる五行の五大属性を得意とするようだ。

四凶計画とは、上記にあった五大宗家の霊獣達に対抗する為に必要な四凶の怪物ーーーー「窮奇(きゅうき)」「檮杌(とうこつ)」「饕餮(とうてつ)」「渾沌(こんとん)」を揃え、覚醒させ、使役する事が目的のようだ。

そして、『総督』が率いる組織ーーーーーー

神の子を見張る者(グリゴリ)》からも裏切り者が出ており、その落とし前のために鳶雄達に協力している。自分達が直接派手に動けば、均衡している他勢力が動き出す恐れもあるため動けないと言っている。

胸糞悪い話だ。組織を守るためだのと綺麗事を言い、当然のように弱い者を切り捨てて、御大層な組織のメンツを守る。

このいくつかの悪い要因が集まって今回の事件が生れたということまでも全てラヴィニアは話した。

これで事情も目的も狙いも今となっては全てが明らかとなった。

 

 

現在、黎牙は暴走による力の酷使によって身体はボロボロであったので現在黎牙は治療中である。ラヴィニアの魔法のおかげで痛みは引いて後に定期的に魔法をかけることで数日中には治ると言われた。

それでも身体のあちこちが痛む。全身が筋肉痛になったかの様で、上手く身体を動かすことが出来なかった。

この為、魔法という便利な力ならすぐに治せれるのではと思っていたのだが、魔法も万能ではないということだ。

加えて、黎牙自身の回復力に合わせて魔法をかけなければ悪化してしまう恐れがある。

不便ではあるが、自分が招いた不始末だ。これぐらいは別に何とも思わない。

 

 

それよりも抗議せねばならない事がある。

 

 

 

「ファングゥ〜あ~んなのです」

 

 

 

何故、看病しているのがラヴィニアなのか。

 

いや、百歩譲ってそれはいいだろう。

 

問題は何故ナース服を着ているのかだ!

 

やたら似合っている事は絶対言わないが。

 

なんで!ナース服なんだ!?

 

 

「………おい、その恰好はなんだ?」

 

 

「『総督』に相談したら看病にはこれを着たら男は喜ぶぞと言っていたのです」

 

 

頭を押さえる黎牙。

そして、いずれはその総督を殴り倒してやると心に決める。

 

 

「私は早くファングに元気になって欲しいのです」

 

 

鳶雄が作ったであろう食事ーーーーお雑煮を持って来てくれたラヴィニアの懇意に耐え、黎牙はしかめっ面で食べさせて貰っている。

先程まで、お雑煮を持って来てくれたラヴィニアが自分に食べさせようとして来たので、黎牙は自分で食べると抗議したのだが、身体が思うように動かない事を指摘されしまう。それでも尚1人で食べようとした際に妖しい笑みを浮かべたラヴィニアによって、ズキズキと痛む身体を小突かれることとなる。

小突かれた箇所から強烈な痛みが全身を駆け巡り、苦痛に顔歪めた黎牙はラヴィニアを睨むが、「ファングが、いいと言うまで小突くのです」と説得(脅迫)によって現在、ラヴィニアにア〜ンさせて貰っているのだ。

 

 

「しっかり食べて元気になってほしいのです。はい、あ〜んなのです」

「バカみたいに何度も同じ事を言うな。何度も」

 

「ムゥ〜そんなことを言う悪いファングには、オシオキなのです!」

「————ッ!!…て、てめぇ!!」

 

「そんなに睨むのでしたら、まだまだ続けるのですよ?」

「…………チッ、わかったから食べさせてくれ」

 

「はーいなのです!」

「………全く」

 

オシオキと称して小突かれた箇所から来る痛みに耐えつつ、口に入れて貰った米を味わいながらラヴィニアに視線を送ると、彼女の顔には明るい笑顔が浮かばられていた。

 

幼い頃から取り繕った笑みや、醜悪に歪められた笑みとはまるで違う悪意などが全くない暖かみを感じさせる笑み。

 

自分が苦手とする子供のように無邪気または無垢と言える眩しさを感じさせる笑顔。

 

どうして、どうしてなのか。こんな親殺しの俺なんかに彼女は、こんなにも構う上に、こんな暖かいモノを感じさせてくれる。他人なぞ敵としか、思えない俺も何故かは分からないが、彼女が持つ暖かさが気になって仕方がない。

 

これが鳶雄や夏梅ならまだケガに対する同情という意味合いがあると予測はできる。しかし、彼女の笑顔からはそんなものは一切感じられない。本当にココロから微笑んでくれているように思えてしまう。そんなはずはないと、何処か否定しようとする自分に対しても僅かな疑念を抱きながら食べさせ貰っていく。

そして、漸く地獄とも言える食事が終わると、ラヴィニアは空となった食器を片付けていく。

 

「………………………御馳走様」

 

そんなラヴィニアに対して、黎牙は何処か照れた様な素振りをしつつ、決して聴こえない程の食後の礼を述べてる。

 

「そうだ、ファング!私と一緒にシャワーを浴びるのです!」

「バカか、お前は!?一旦何を言ってる!?」

 

突然の爆弾発言に叫ぶも、黎牙の言動を聞いていないのかラヴィニアは着ているナース服を脱ぎ始める。

 

「ファングは昨日から体を洗ってないのです。でも、ファングの身体はガタガタなので私がくまなく洗うのです!!」

 

エッヘンと言いたげに下着姿のままダイナマイトボディとも言える胸を張る。あまりの事態に黎牙は耳まで顔を赤く染め、彼女に背中を向けてしまう。

彼女の言う通り、ボロボロな自分の体では、ハッキリと言って、自分一人では満足に全身を洗えないため、誰かに付き添いをしてもらう必要がある。

このため黎牙は、彼女の考えは確かに理解はできる。

 

だからといって、年頃の男女ですることではない!

 

「幾瀬か鮫島でいいだろう!?」

 

ずっと周りと壁を作り、他社を拒絶していた黎牙だが、今回は色々な意味で危機なので本気で二人のどちらかに頼もうと思う。自分の様な男の前で平然と下着姿となるラヴィニアに男女の羞恥心がないのか困惑を隠せないでいる。

 

「ファングのお世話は私がするとトビー達に言ったのです。ですので、私に任せて欲しいのです」

「ふざけんな!!明日の朝には、俺の身体もある程度は回復しているはずだ!だったら、明日自分で洗う!」

 

「明日もどうなるかは分かりませんので、今洗うのです!」

 

取りつく島もないとは正にこのことだな。

 

尚も胸を張るラヴィニアはとうとう下着も取り払り、魅惑的な裸体を露わにする。いくら、色々と面倒くさい性格をしているとは言え、年頃の男子である黎牙には刺激的なスタイルをするラヴィニアは色々大変である。そのため、逃げようと立ち上がるのだが、身体中に痛みが走った隙を突かれ、

 

「つーかまえたのです!さぁ、お風呂にlet's goなのです!!」

「ままま待て待て待て!!おい、おいおいやめろ!!マジで………頼むから!!大人しく寝ておくから、やめろ!!おい、バカや、やめ!あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

 

 

バスト100ものある未知の感触を背中全体に感じながら、黎牙は天然(ラヴィニア)の行動力の前になす術もなく、生まれたままの姿へされ、抱き抱えられる様にちょうど誰もいない浴室へと連行せていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。特訓中の鳶雄達は。

 

 

「何か黎牙の助けを求める声が気がしたけど」

「気のせいでしょ。気のせい」

「どうせ、あの魔女っ子とよろしくやってるだろぉ〜よ」

 

「そ、そうかなぁ〜」

 

ある意味で鳶雄の感は当たっていたが、鳶雄達には黎牙の叫びは届かなかった。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

綺麗にされた体、しかし、その瞳は虚ろ…まさに虚無であった。

昨日の戦闘よりも、激戦を繰り広げような気がする黎牙とは反対にラヴィニアは満足そうにしていた。

 

「…………アリガトウゴザイマシタ」

「はいなのです!!」

 

やり遂げた感のあるラヴィニアは、黎牙の虚な瞳に気づかず、カタカタの礼に対して眩しいくらいの笑みを浮かべる。そんな彼女を置いて、黎牙は両手で顔を隠しながら、答えのない自問自答する。

もし、自分が本能に忠実な性格をしていたら、きっと大変なことが起きていただろう。少なくとも、幾瀬や鮫島の様な普通の男性なら耐えることができないと断言できる。というか簡単に出来ないと言わせはしない。

 

「ファングは、自分の神器(セイクリッド・ギア)の事をどこまで把握しているのです?」

「オマエには何の関係がある」

 

「どうしても知りたいのです」

「………………」

 

「教えてほしいのです」

 

先程と打って変わり、まるで捨て犬の様な不安げな瞳をし始めるラヴィニアに耐え切れなくなったため黎牙の方が折れることとなる。

 

「分かったから、そんな目で見るな。あくまで大まかだぞ。まず基本的な能力として、『付加』『吸収』『解放』の3つなのは把握出来る。だが、あの暴走状態の俺が使っていた力はどれもよくわからない。肉体の変革か、魔法のチカラなのか」

 

 

黎牙は自身が抱く疑念を解消する為にも正直に話した。

 

 

「だが、俺は死ぬの間際、死にたくない。童門のクソをぶった斬るチカラがほしい。と神器(セイクリッド・ギア)に強く願った。その時、幼い頃から夢でしか聴こえない筈の3つの声が聴こえた」

 

「3つの声なのですか?」

 

「ウチの2つは口が悪いが、俺がチカラを望む待っていたかようだった。その後は、幾瀬達が話していたように黒いバケモノになっていた」

 

「ファング……チカラを強く望み過ぎると身体がついていかず、壊れてしまう恐れがあるのです。だから、無茶はしないで欲しいのです」

 

「俺の身体だ。俺がどう使おうがお前には関係ない」

 

「私は……ファングに消えてほしくないのです」

 

「何だと?」

 

 

心の底から黎牙の身を案じるラヴィニアに自分の奥底にある苛立ちを隠せる事が出来ず、顔を顰める。

 

「このまま、あのチカラを望み続けてしまえば、もうファングは、ファングではなくなってしまうのです」

 

「…………」

 

「ファングの力は、ファング自身が思っている以上に危険な力なのです。制御の効かない力を使い続けてしまうと、優しいファングはもう……いなくなってしまうのです」

 

真剣な声音で真っ直ぐに見据えるラヴィニアの青い瞳に黎牙は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減に俺にそんな言葉をかけるな!………ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

自分の中にある苛立ちの焔を爆発させた。

 

 

 

 

「自分が自分で無くなる事なんか、親を殺した時に味わってんだよ!!そんな俺に『優しい』なんて言葉をかけるな!! 」

 

 

 

 

ベッドから立ち上がり、痛む身体なぞどうでもいいかの様に黎牙は正面にいるラヴィニアに続けた。

 

 

 

 

「そんな親殺しのバケモノの俺なんて!消えた方がいいんだよ!!」

 

 

 

「ち、違うのです! 私はファングの事をそんな風に思ってないのです。ファングはバケモノではないのです!」

 

 

 

 

「知らない筈がないだろ!暴走した俺は、斬り落とされた腕が龍みたいなバケモノに変貌させてみせたり、お前達を何の躊躇もなく殺そうとしたんだぞ!!」

 

 

 

 

「それでも…ファングは無防備となった私を殺そうしたもう1人のファングから助けくれたのです。だから、ファングは優しい人なのです」

 

 

 

 

 

「ふざけるな!そんな優しい奴がいくら虐待し続けて来たとは言え、実の両親を殺し、殺した後に達成感しか感じなかった奴ではない!!いいか!俺は、自分が殺されないために両親を殺し、罪悪感も、殺人に対する嫌悪感も抱かないバケモノだ!!そんなバケモノに何でお前は構うんだ!!」

 

 

 

ココロの中にある今まで溜め込んでいた闇を吐き出し続ける黎牙。だが、ラヴィニアは黎牙の手を掴み、黎牙のココロと向き合おうと歩み寄る。

 

 

 

 

「ファングは絶対にバケモノではないのです!私は……もうこれ以上ファングが傷ついて欲しくないのです。友達を心配してはいけないのですか?」

 

 

 

黎牙のココロに語りかけるラヴィニアは掴んでいる手に力を込める。

 

 

 

 

 

「ファングは優しくてともていい人なのです。そして、誰よりも最悪の事態を想定して、周りの人間の事を考えてくれる凄い人でもあるのです!暴走した時も自分が助かりたいだけではなく、トビーたちを助ける為にチカラが欲しいと願ったのではないのですか? そんな人がバケモノではないのです!」

 

 

 

暴走の時にも見せた暖かな笑みを浮かべ、黎牙の頰を優しく撫でる。

 

 

 

「それにファングは……ファングのお父さんとお母さんを殺してしまった自分に、暴走し私達に剣を向けてしまった自分に、そこまで嫌悪を露わにするというのは、ファングの中に人を愛するココロがあるからなのです。だからファングは、優しい人で間違いなのです」

 

 

 

変わらない優しい微笑みのままラヴィニアは告げる。

 

 

 

「……なんで…なんで…………オマエは……そんな事を…………言うんだよ…………?」

 

 

「私達が友達だからなのです」

 

 

「……………俺は……俺は自分が怖いんだ…」

 

 

 

ラヴィニアの言葉は黎牙に響き、彼の瞳に涙を浮かべ始めさせた。

そして、黎牙は己の中に誰にも明かした事の無い恐怖を吐き出す。

 

 

 

「俺には分からない自分がいる事がいるんだ。あの時、気がつくと俺の手は両親の血で汚れていたんだ。いくらクズだったとは言え、何の躊躇もなく、殺人に恐怖を感じない俺が……怖いんだ。知らない間に手を汚していく俺が………恐ろしいんだ」

 

 

 

「ファング……もう一人で恐怖に耐える必要も、孤独に戦い続ける事も、抱え込む事も必要もないのです。だから、次にみんなが危なくなって暴走してしまったら、一番はじめに私を殺して欲しいのです」

 

 

 

「………いやだ…………オマエを…オマエ達を傷つけたく無い……」

 

 

 

普段の黎牙とはかけ離れているが、黎牙のその言葉はたしかに弱々しく、怯えながらではあるが、しっかりとした否定の言葉だった。

そして、優しく微笑みかけるラヴィニアは、そんな黎牙を胸の中に抱き寄せた。

 

 

 

「だから、その強くて優しいココロで、私を……私達…チームのみんなを守って下さい。それに、自分を制御出来なくなってしまっても、私達チームが止めてみせるのです」

 

 

 

氷のように冷たくなってしまっていた黎牙の心にラヴィニアの暖かさが伝わる。

 

 

 

 

「だからもう1人で自分と戦う必要はないのです。私は、1人で傷ついていくファングを見るのがとても辛くて悲しいのです」

 

 

 

その暖かさはとても優しさに満ち溢れて、居心地がよく、黎牙の苦しみを包み込んでいく。

 

 

 

 

 

「ファングはもう1人ではないのです……私達…チームのみんながファングを支えるのです」

 

 

 

「だから…絶対大丈夫なのです」

 

 

 

 

その暖かさは氷で覆われた黎牙の心を溶かす様に黎牙の双眸から涙が落ちる。

 

 

 

「………うるさいバカが」

 

 

その悪態にラヴィニアの微笑みの中に含まれる眩しさは一層、その輝きを増した。

そんな彼女の微笑みを受けた黎牙は、まるで幼子に戻ったかのように

 

 

 

「う、ううわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

大粒の涙を流し続けてしまう。

 

 

 

「よしよしなのです」

 

 

 

 

そんな黎牙を優しく抱き締め、黎牙の頭を撫でて続けた。

 

 

 

「大丈夫、もう大丈夫なのですよ」

 

 

 

黎牙の涙が止まる。

 

 

 

その時まで

 

 

 

 









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第7話 新たなる一歩

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そして、正太郎さん、Hiroki1208さん、評価登録ありがとうございます。

これからも続けていきますのでよろしくお願いします

それでは第7話どうぞお楽しみください!!



 

「大丈夫…もう大丈夫なのです……」

 

「………………もうかんべんしてくれ」

 

 

ラヴィニアの前で子供の様に喚き散らしながら泣いてしまった事に羞恥心でいっぱいいっぱいとなり、真っ赤になった顔を手で隠しているが隙間から丸見えであった。

誰にも相談など出来るはずもなかった自分の恐怖を彼女は、会った時と変わらない笑みで受け入れてくれた。

拒絶せず、ココロの叫びを聴いてくれた。

気付いた時には長年あった胸のつかえがなくなっていた。

そして、自分でも気付かぬ内に笑みが浮かんでいたーーーーが、ラヴィニアも黎牙の始めて見せる笑みには気付けなかった。

 

『絶対大丈夫なのです』

 

この言葉は自然と自分の耳にしっかりと残り続けてくれており、安心感と心地良さと彼女の暖かさを黎牙に与え続けてくれていた。

 

 

まだ恥ずかしいのか、顔を手で隠しながら黎牙は口を開いた。

 

「俺は……俺は自分への恐怖を一生払拭しきれないと思う。でも……………お前の…お前らの事はキズつけたくはない。だから、もう暴走しないためにこれから俺にチカラを貸してくれるか?」

 

「もちろんなのです。私達はチームなのですから助け合うのは当たり前なのです」

 

恐る恐る尋ねる黎牙に笑顔で応えるラヴィニア。

 

 

 

「その………あ、あ……ありがとう」

 

 

そして、そんなラヴィニアに黎牙はさっきよりも顔を真っ赤に染めれながらも、出来る限りの感謝の言葉を贈った。

こんな自分でも受け入れてくれる人間もいるんだな、と思っていると、不意に頭を掴まれて引っ張られる。

ラヴィニアが自身の胸元に黎牙の頭を誘導させて抱きしめ、又もや頭を撫でてくる。

 

「辛い時、泣きたい時、寂しい時は私がいつでもこうしてあげるのです」

 

「わかった!わかったから!もう十分だ!頼むから離してくれ……」

 

豊満なその胸に顔一杯に包まれるのは年頃の男の子として色々大変なことになってしまう。

やっぱり天然(バカ)だと思いながらなんとか脱出する事に成功する。ラヴィニアは本当に黎牙のことを信用しているのだが、ラヴィニア本人は無防備にもほどがある。

自分の容姿がどれほどいいのか知らずにこの前といい、今といい異性の前でこんなにも無防備なら別の意味で心配になってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく落ち着いてから黎牙が切り出した。

 

 

 

「……その…頼みがあるんだか…」

 

「お願いなのですか?」

 

「オレに魔法を教えてほしい」

 

 

突然黎牙はラヴィニアに対し、魔法の指導を懇願してきた。ラヴィニアも、突然の黎牙の懇願に驚いたのか、目を見開いていた。

そんな黎牙に改めて冷静になり、その理由を聞いてみた。

 

「教えるのは構わないのです。でも、急にどうして……なのですか?」

 

「教えてほしい理由は、俺の剣ーーー神器(セイクリッド・ギア)の『付加』の能力は、魔法の様な属性を剣に付加させる事や、身体能力を強化する事だ。身体能力を強化しても短時間しか持たずに、全身に強化の付加をさせた場合は、脚力強化に使った時よりも弱かった。今の俺が弱い際でまだ、同時付加が出来ない。それなら、魔法を覚えて、この『付加』と『解放』と『吸収』の力を組み合わせれば、前よりも戦法の幅が広がるからだ」

 

「なるほどなのです。確かにファングの神器(セイクリッド・ギア)と魔法の相性はベストマッチなのです。それにコレは、私個人の見識なのですが、ファングは魔法を扱う素質があるのです」

 

「頼んでおきながら、言うのも何だが、そんな簡単に憶えられるのか?」

 

率直な黎牙の疑問にラヴィニア頷きながら答えた。

 

「いいですか。魔法とは古代の偉大なる術師が、『悪魔』の魔力、『神』の起こす奇跡、超常現象などを独自の理論、方程式でできうる限り再現させた人工超常現象の様なものであるのです。そして、あらゆる現象に一定の法則があり、それを計測し、計算し、導き出して顕現させる技術こそが『魔法』になるのです」

 

手の平に魔法陣を出現させるラヴィニア。

 

「このように魔法陣はその超常現象を独自の方程式にして再現したものなのです」

 

「つまり、魔法陣とは計算式の答え。その答えに導きだすための方程式、自らの手で超常現象を再現するための途中式をどの様に構築できるかは術者たる自らの腕次第という訳か?」

 

「はいなのです。加えて、魔法陣を作り出すためには、自分にしか使えない公式、独自の計算式を作るのです。大事なのは、魔法を発現させる際に、どの様にすれば、こうなるのかという方程式の計算力と術式などの専門知識が必須なのです」

 

丁寧に魔法を知る為に必要不可欠の知識を伝えるラヴィニアにしっかりと聴く黎牙。

コレで戦闘時の戦法バリエーションは更に増える。

問題は素質があると言ってくれているがどこまで魔法を覚えられるかと言う事だ。しかし、それでも自分の神器(セイクリッド・ギア)の力は明らかに魔法に近いモノであるのは確かである。魔法という未知なるモノに触れれば少しは自分の強大な神器(セイクリッド・ギア)のチカラを制御する為の糸口になるかもしれない。だからこそ、やる価値はある。

 

「頼むラヴィニア、俺に魔法を教えてくれ……」

 

もう一度黎牙は頭を下げてラヴィニアに懇願した。

 

「任されたのです!」

 

ラヴィニアはそれを笑顔で応じ、手の平に小型の転移魔法陣を展開させて、数冊の辞典のように分厚い本を数冊取り出し、

 

「これは今のファングにとって必要なことが記されているはずなのです」

 

 

全てを黎牙に手渡した。

改めて本1冊1冊の分厚さに口元を引きつかせて少し開くと、文字がびっしりと刻まれていたのを見て、黎牙は石の様に硬直した。

 

 

「すまんが、読めない文字はどうすればいいんだ?」

 

なんとか硬直から脱したが改めて別の問題に頭を抱えそうになるが、ラヴィニアはそんな黎牙を予期していたかのように丸メガネをかけさせてきた。

 

 

「このメガネは、設定した言葉に合わせて解らない文字を見るとその設定した言葉に翻訳される魔法道具なのです。なので、これでファングは様々な文字を読めるのです!これで魔法の勉強も大丈夫なのです!」

 

 

 

「取り敢えず、時間もないので、基礎術式、魔法力の発現、基礎知識、初級魔法の構築式を学んだ後に実戦で使うための肉体強化の為の防御魔法を明日まで覚えて欲しいのです!」

 

 

 

パアーーッ!という眩しい笑みを浮かべながら、かなりスパルタな事を口走るラヴィニアに顔をひきつりながら、その日黎牙は眠れぬ夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

「あ、頭が割れそうだ………」

 

 

太陽の光がカーテンの隙間から見える。つまり、もう朝日が昇ったという証拠だ。一夜づけとは言え、膨大にも程がある魔法に関する知識を詰め込むのにはかなり骨が折れた。

最初の二、三冊は魔法を知る上で大切な基礎中の基礎だった。残りの数冊は、1冊1冊が、それぞれ一つの魔法を構築する為の方程式、魔法力の操作が事細かに書かれていた。全て一晩で何とか読み終え、一つの魔法は習得する事には成功した。

 

 

「まぁ、なんとか1つは物に出来たか」

 

 

そう言って、改めて覚えた魔法陣を左手な展開してみせた。すると、全身に力が巡るような感覚を感じた。最初として、覚えた魔法は防御魔法のお陰で身体のダメージカバーは少しはマシになったと言える。

やっとの思いで成功した始めての魔法に安堵の息を吐いて、椅子に寄り掛かって脱力する。そして、改めてラヴィニアの腕が一流であると痛感させられた。彼女は年が近いにもかかわらず、あれ程の膨大な魔法を難なく使えている。それは、彼女……ラヴィニアが産まれた時、もしくは幼い頃から魔法と共に触れて生きて来たという事になる。ラヴィニアに今までどんな人生を送って来たのかは分からない。しかし、生半可な人生を今まで送って来た訳ではない事は確かだ。

そんな彼女に自分はわがままを聴いて貰えない子供の様に怒鳴ったり、突き放したりした。でも、彼女はオレに怒るどころか、俺の叫びを聴き、俺に寄り添ってくれた。それだけでも彼女がどれだけ優しいのかも分かった。いや、出逢った時から彼女が優しい人間だと言う事には気付いていたのだろう。でも、それを無意識に抑え込み、拒絶される事を恐れて分かっていないフリをしていた。

改めて自分が幼稚な人間だと呆れながら、眉間を抑え、覚えたての膨大な魔法に関する知識を復習していく。

そんな黎牙の部屋の床には大量の計算式が記述された紙がばら撒かれている。1枚1枚には、スペースをギューギューに詰めて計算式を書いいた。それが何十枚も床にばら撒かれており、たった一晩とは言え、魔法1つを憶えるのに黎牙がどれ程に必死で頑張っていたのかが物語っている。

 

 

「そろそろ顔を洗うか……」

 

「では、ファングもみんなと一緒にご飯を食べるのです」

 

「え!?」

 

突如背後から声をかけられたことによって驚きの声を上げてしまう。

振り返ると自分の部屋で寝ていたため、黎牙の部屋にいなかった筈のラヴィニアがいた。

 

「お前!いつからいた!?」

 

「集中していたファングが魔法を成功させた所からなのです。ですから落ち着くまで声をかけてるのを待っていたのです」

 

昨日から変わらない笑みを浮かべ、床にばら撒かれていた紙の計算式を観て、黎牙の頭を撫でる。

 

「全く気付かなかった…………」

 

「それほどファングが頑張り屋さんのいい子なのです」

 

いい子…いい子と頭を撫でてくるラヴィニアを払いのけてそっぽを向く。

 

「ガキ扱いするな」

 

「朝ご飯の時間なのです。皆で食べるのでファングを迎えに来たのです」

 

呼ぶついでとしてどれ程出来たのか様子見をしにラヴィニアが来たのか、と納得する。

 

「わかった。これらを片付けたらすぐに行く」

 

「私もお手伝いするのです」

 

 

 

 

 

 

部屋を出た2人は鳶雄達が集まるリビングへ足を運んだ。

朝食の準備をしていた鳶雄は黎牙を見つけると何処か浮かない顔をしていた。

 

「その……身体は大丈夫なのか?」

 

「問題ない。もう身体の痛みは引いている。お前が気にする事じゃない」

 

「ごめん。黎牙があれ程忠告してくれていたのに俺は無闇に突っ込んでお前に死にかける原因を作った」

 

「はぁ、あの時俺はお前を止めなかった。その結果、ギルバスによる奇襲を許し、暴走し、お前達を殺そうとした」

 

「でも、本来なら黎牙1人でも逃げる事が出来た筈なのに、俺達を守る為に力を使って殺されかけ、暴走する原因を作ったんだ。本当にごめん」

 

「守った覚えは無い。俺達が協力関係である以上、貴重な戦力を減らされる訳にはいかなかっただけだ」

 

 

それが当たり前のように言う黎牙に苦笑する鳶雄。

本人は気付いていないのかもしれない。いや、実際には気付いているが、気付いていないフリをしているのだろう。

誰かを守るという行動が当たり前のようにしているということを。

それは暴走時にラヴィニアや自分達を殺そうとした自分から必死に護ってくれた事が何よりの証拠だ。

 

「彼が暴走して死にかけていた阿道黎牙か?」

 

ふいに第三者の声が屋上に響いた。

声の出先を探れば、屋上の壁に背中を預ける人影が一つ。

夏場なのに首にはマフラーを巻き、下は短パンというミスマッチの出で立ち、右肩には白いドラゴンを乗せていた。

小学校の高学年ほどの銀髪の少年に鳶雄は苦笑しながら頬を掻く。

 

「誰だ?このガキは」

 

「ああ、この子はヴァーリ。俺達と同じこのマンションの住人だよ」

 

怪訝する黎牙にヴァーリを紹介する飛雄。

ヴァーリは黎牙を見上げながら不敵に訊いてくる。

 

「朝食後に俺と一戦交えないか?」

 

子供とは思えない程の好戦的な物言いと、戦意を感じさせられる。

 

「待ってくれヴァーリ。黎牙はまだ身体が治り切っていないんだぞ。戦うのは無理だ」

 

黎牙の身を案じて制止を促す鳶雄だが、ヴァーリは不敵な笑みを続ける。

 

「だが、彼は既にどの様に俺と……いやこれからの闘いをどう戦うのか、策を練っているぞ。中々の戦意だ。同じドラゴンを宿す身として、彼がどれ程の実力なのかをぜひとも知りたい」

 

黎牙と視線をまじ合わせながら、ヴァーリは黎牙の考えを読んでいる。そんなヴァーリの言葉に気になるワードが出ていた。

 

「何?ドラゴンだと、どう言う事だ」

 

「成る程。キミはまだ自分のドラゴンと対話を行なっていないのなら、オレの口から言うのは早いな。忘れてくれ」

 

「話す気は無いか。なら、今の俺にできる範囲のところを確認したい。実戦形式でその挑戦を受けるついでに、話して貰うぞ」

 

黎牙の言葉にヴァーリは愉快そうに口の端を上げる。

 

「いいじゃないか。いいオーラをまとい始めた。キミにもまだ視認できないだろうけど、体からいい色合いの戦意が立ち上がっているよ」

 

 

2人の戦意がリビングでせめぎ合っていると、

 

 

 

 

ぐうぅぅぅぅぅぅうぅぅぅ〜〜〜〜〜っ!!

 

 

 

2人の腹から空腹の音が鳴り響き、リビングを静寂が支配した。

そんな状況の中で、2人を静観していたラヴィニアが入って来た。

 

「ヴァー君も、ファングもお腹がペコペコなので食べてからなのです。みんなでトビーのご飯を食べてから特訓なのです。だから、ヴァー君、特訓はもう少しおわずけなのです」

 

出鼻を挫かられたヴァーリの頭を撫でるラヴィニア。

そんなラヴィニアに年相応の顔をしながら払いのけようとするヴァーリ。

しばらくして、リビングに入って来た鮫島、皆川から身体の調子を聴かれるが、問題ないと答え、集まった6人で幾瀬が作った料理を食べる。

 

 

 

朝食後

見学と称する皆川、鮫島、幾瀬。

危険になったり、ケガをしたら治療すると称するラヴィニア。

と共にヴァーリと実戦形式の模擬戦をする為に屋上へと上がっていく黎牙。

 

 

これから病み上がりの黎牙とヴァーリによる邪龍と白龍による闘いが始まろうとしていた。



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第8話 魔王の血を継ぎし者

 

ヴァーリと名乗る少年と実戦形式の模擬戦をする黎牙。

屋上の壁際で、ヴァーリと黎牙の一戦を見守るのは、鳶雄、ラヴィニア、夏梅、鋼生の4人。

 

 

「それでは始めるとしようか?」

 

「あぁ」

『Enchant!』

 

無防備でいつでも来いかのように両手で広げるヴァーリ。

そんなヴァーリの出方を確かめる為に両脚に脚力強化の力を付加し、加速されたスピードでヴァーリに剣を振り下ろす。

振り下ろされた剣の軌道を先読みしているヴァーリは、難なく避ける。対する黎牙も避けられる事を承知の上であり、次は左から右へ横に一直線の薙ぎ払いを、その次は突きの連続攻撃を繰り出す。

ヴァーリは繰り出される剣撃による全く慌てず、余裕の表情で躱し続ける。そんなヴァーリに次なる一手として、

 

 

「この程度なのかい?」

 

「だったら試しみろよ?」

『Enchant!』

 

 

付加による強化された左脚よる蹴り上げを繰り出した。

しかし、ヴァーリは黎牙の蹴り上げを繰り出して来た左脚にタイミングよく乗り、回避の遠心力へと変えた。空中でクルクルと回転しながら、何処かカッコつけたかのようなポージングで着地した。そんなヴァーリに御構い無しと言わんばかりに体力を剣に吸収させ、

 

『Absorb!』

 

「放て神器(セイクリッド・ギア)!」

『Liberate!』

 

ある程度の体力が吸収した剣を振り下ろし、ヴァーリに剣から解放

されたエネルギー波を放った。

 

「ほぉ中々の攻撃だ」

 

迫り来るエネルギー波に関心するが、放たれたエネルギー波を銀色の輝きを纏った蹴りで消し飛ばした。

エネルギー波を消し飛ばしたヴァーリに追撃を加えようとしたが、目の前にヴァーリが居なくなっていた。

いなくなったヴァーリに驚き、周囲の気配を探るが、

 

「ここだよ」

 

「がぁっ!!」

 

 

突然消えていたヴァーリが眼前に現れた。

そして、突然現れたヴァーリの拳が黎牙の土手っ腹に入るーーーーが、ヴァーリはある違和感を覚えた。

 

 

「この感じ…まさか!?」

 

「そうさ!あのスパルタ魔女に教わった防御の魔法だ!」

 

 

ヴァーリが覚えた感覚は、まるで鉄板で殴ったかの様な感覚だったのだ。今度は、ヴァーリが驚愕する側となり、その出来た隙を逃さないため痛む腹に歯をくいしばりながらヴァーリの右腕を掴み、

 

「喰らいやがれ!!」

『Enchant!』

 

豪炎を付加させた剣を片腕でヴァーリに振り下ろしたーーーーが、ヴァーリは右腕を掴まれている状態にもかかわらず、先程と同じく銀色の輝きを纏った蹴りを振り下ろす剣を持っている右手に放ち、黎牙から剣を取りこぼさせた。

 

「しまっ!!」

 

「終わりだ!」

 

唯一の武器を失った事で作ってしまった隙に先程の拳よりも強力なヴァーリの蹴りを受けた。ヴァーリの蹴りを腹部にまともに喰らい、床を何度もバウンドしながら屋上の壁まで吹き飛ばされた。

 

「遠慮なしに攻撃を繰り出してくれた事、ダメージ覚悟で相手の隙を突く事、一晩で身体防御の魔法を覚えた事は中々のよかったよ。その応用さは及第点だ。だが、キミはまだ自分の神器(セイクリッド・ギア)の力を生かしきれてはいない。あの時、俺が消えた際に動体視力の強化の付加を行い、すぐにオレを見つけ、オレの拳を剣を盾にし防御し、オレの拳からチカラを吸えばよりもっといい闘いが出来た筈だ。それにもっとキミは付加を連発、または同時に使えばよりもっと戦法が広くなる」

 

「付加の同時はまだ出来ん」

 

「そうか、ならばこの数日で出来るようにするか、付加の連続のタイミングを見極める必要がある様だ。だが、一晩で防御の魔法を覚えるのはいい。覚えていなければ、オレの拳でノックアウトしていたのはキミ自身も分かっている筈だろ」

 

「まぁな。それと、お前のいうドラゴンというのは、夢で聴こえる3つの声の事か?」

 

「それはキミ自身で確かめることだ。だが、一度暴走したとは言え、これからキミはかなり面白くなりそうだ」

 

 

結果としてヴァーリは無傷で、自分は完敗となった。

そして、ヴァーリは不敵な笑みを浮かべながら黎牙の闘いについての感想を述べた終えた。

 

 

「キミ、名前は?」

 

 

不敵な笑みが一転して楽しげな笑みへと変え尋ねる

対する黎牙は負けたのが悔しかったのか、ちょっと不機嫌な顔を作っている。

 

「さっき自分で言っていただろ」

 

「改めて聴きたい」

 

「…………阿道黎牙だ」

 

改めて名前を教える黎牙にヴァーリは手を広げて自信満々に名乗った。

 

「俺はヴァーリ。魔王ルシファーの血を引きながらも伝説のドラゴン―――《白い龍(バニシング・ドラゴン)》をこの身に宿した唯一無二の存在さ」

 

予想外の名乗り方に目を見開きながらも怪訝する。

 

「ルシファーだと?それは黎明の子のことか、それとも明けの明星のことを言っているということか?それに白い龍だと。つまりはウェールズの伝説に登場する竜の傍のことか?」

 

黎牙の返しの言葉にヴァーリは感嘆した。

 

「ほう、ついこの間まで一般人だったキミが、この領域レベルの話についてこれるとは。なかなかじゃないか」

 

「昔、趣味として神話に関する知識を興味本位で集めただけだ。戦闘の役には立たない」

 

「それは謙遜さ。情報は武器だ。事前に知っていれば敵の分析を戦闘中にも行える」

 

こんな歳なのだ。そういう設定をしていたとしても不思議ではないが、この裏側の世界はそう言った神話の存在がいる。目の前の少年が世界にとってどんな存在なのかは、いまいち把握はしきれない。

だが、朝食の時に見せたラヴィニアに対する年相応の反応から見て、まだまだ歳下の子供である事は納得していた。

そんな黎牙達に鳶雄達が駆け寄ってきていた。

 

「大丈夫か黎牙?かなり吹っ飛んだけど?」

 

「中々の吹っ飛びっぶりだったぞ、阿道?」

 

「ちょっと大丈夫!黎牙!ていうか、本当に魔法を一晩で覚えたの!?」

 

「ヴァーくん。いい子いい子なのです」

 

「ええい!何度も言っているだろ!撫でるな!俺は子供ではないんだぞ!!」

 

「うるさいのがもう1人増えたか……」

 

 

「おい、幾瀬、鮫島、皆川」

 

「え?何?突然?」

 

「あぁ、どうした?」

 

「何処か痛むのか?」

 

声を上げながら何処かやたらとテンションが高い夏梅、突然の黎牙の切り出しに首を傾げる鋼生と鳶雄。そんな3人に何処か視線を別方向へ変え、目を合わせず、

 

 

「暴走した時は……そ…の…………助けてくれたお前達には感謝してる」

 

 

感謝の言葉を述べた。

 

 

 

「「「……………………」」」

 

 

 

「あの時、命がけで俺を止めようとしてくれた事には本当に感謝している…………ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黎牙がデレたぁぁぁ!!!!」

 

「うるせぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

6人には何処か穏やか時が流れた。

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

鳶雄達との神器(セイクリッド・ギア)の訓練を行い、何とか『付加』の能力の連発のタイムラグなど様々な面を知ることが出来たおかげでかなり自分の戦法が固まってきた。

 

そして、廃業したデパートでの戦いから3日目の朝、話にあった『総督』によるビデオを見た例の部屋にて、鳶雄と共に朝食を作った。

今日の献立は、目玉焼きにウィンナーとソテーしたほうれん草を添えたもの、焼いた鮭の切り身、色とりどりのサラダ、味噌汁、ブルスケッタと言ったメニューだ。ブルスケッタはイタリア軽食の1つであるためヴァーリ以外は、全員黎牙を見る。しかし、前と同じ様に黎牙は「材料が余っただけ」と言って逃げる。

そして、無言で箸を進めるヴァーリの姿を見て、夏梅がイタズラな表情を浮かべる。

 

「あ〜ら、ヴァーくんったら〜随分と夢中になって食べているじゃな〜い?カップ麺さえあれば食事なんてどうでもよかったんじゃないの〜?」

 

「……勘違いするな。この食事から得られる栄養分に興味があっただけだ」

 

「栄養分ときましたか。まったく、どっかの誰かさんと一緒で素直じゃないんだから」

 

カラカラと笑いながら黎牙とヴァーリに意味深な視線を向ける夏梅。黎牙は全くの無言で、ヴァーリは文句を言いながら、2人は箸を止めなかった。

 

「やれやれ、ルシドラ先生は生意気盛りだからな〜」

 

「むっ、鮫島鋼生。そのルシドラとはなんだ?俺のことか?」

 

「ああ〜ルシファーでドラゴンなんだろ?なら、略してルシドラでいいじゃねえか」

 

鋼生の言葉に機嫌を損なったのか、不機嫌となったヴァーリは口をへの字に曲げる。

 

「むむっ、違うぞ。俺は魔王ルシファーの血を引きつつも、伝説のドラゴン《白い龍(バニシング・ドラゴン)》をこの身に宿すという唯ぃーーーーー」

 

「あーはいはい。ルシドラルシドラ」

 

ヴァーリの『設定』を軽く流してしまう鋼生に少年もついに異を唱える。

 

「むむむっ、阿道黎牙。この不遜な鮫島鋼生に俺の貴重性をキッチリと言ってやってくれ」

 

「食事中に騒ぐなよ」

 

一々、ヴァーリの事を説明するのが面倒くさいのか、適当な理由でヴァーリに構わなかった。しかし、明らかに顔には完全に面倒くさいと物語っていた。

 

「ヴァーくんはいい子いい子なのです」

 

「だから、俺の頭をなでるな! 子供じゃないんだぞ!」

 

不機嫌なヴァーリの頭を撫でるラヴィニアに年相応の顔を見せる。

このようにヴァーリはクールぶってはいるが、少しからかうだけで年相応の顔となる。こんな非日常の中でも、この賑やかな食事風景は黎牙にとってラヴィニアが与えてくれた暖かさとは違う暖かさがある事に危うく笑みを浮かべそうになったが、飲み物を飲んだため口を隠す事に成功したためバレなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食後のミーティングにより、本日の方針は決まった。

鳶雄、鋼生、夏梅、黎牙、ラヴィニアの5人は同級生の遺族ーーーーーつまりウツセミとなった同級生の家族が、一斉に謎の引越しをし、姿を消した者達の動向や痕跡を探るために鳶雄の幼馴染みである東城紗枝の自宅へ足を運ぶ事となった。

罠を貼られている可能性を考慮し、前回よりも慎重に行動し、危険と判断した場合は即座に撤退するという事にはなっているーーーーが、最低でもなんらかの手掛かりが残っていると踏んで黎牙たちは行動していた。ヴァーリは、人としてちょっと難がある『総督』の個人的な頼みによりチームから離れている。

空蝉機関は鋼生と鳶雄の友人と幼馴染の名前を確かに口にしていた。よって、空蝉機関も口に出た者達関連のところから鳶雄たちは顔を出すかもしれないと予想を立てているはずである。情報が少なすぎる自分達では、このように敵の罠が貼られている巣に飛び込むという命のリスクを犯してでも情報を得なければならない。

考えている内に東城紗枝の自宅前に着いていた。まずはここから敵の痕跡を調べていく。おそらく激しい戦闘になる事は間違いなかった。

 

 

 

これから始まる空蝉機関との苛烈の戦いは、

 

 

 

 

鳶雄の《狗》と黎牙の《邪龍》の力を

 

 

 

 

より強く引き出す事になる。

 

 

 

 

しかし、それが2人とって

 

 

 

吉と出るか、凶とでるか、

 

 

 

 

わからない。

 

 

 

 

2人の運命の歯車はもう動き出している

 

 

 

 

戦わなければ生き残れない

 

 

 




『オレ達の出番はまだなのか?』
『いつになるんだ!コラァァァァ!!』
『早くしろやァァァァァァ!!!』

すいません。お3人の出番はもう少し先です。
少々お待ちを。

『『『ぶっ殺す』』』

すいませんでしたァァァ!!!

次回《消し去られし神滅具(ロスト・ロンギヌス)


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第9話 消し去られし神滅具(ロスト・ロンギヌス)

 

 

 

鳶雄、鋼生、夏梅、黎牙、ラヴィニアの5人は鳶雄とかなり親しい仲である東城紗枝の自宅へ来ていた。彼女の親族は既に謎の引越しによってここにはいない。昼間なのに、雰囲気は暗く、生活感が全く伝わって来ない。そして、玄関には鍵がかかっていない。

 

「……すでに誰も住んでいないとは言えよ、鍵ぐらいは閉めるだろうよ。じゃなきゃ、この土地の管理者はとんだ無能だ」

 

そう皮肉を口にしながら鋼生の肩には白い猫を乗せており、いつ何かが起きてもいいように警戒を強めている。

 

「いや違う。この家を中心に人払いの結界がかけられている。俺たちの様な異能者以外の一般人は認識できなくされている。で、合ってるか?」

 

念の為としてラヴィニアに確認を取る黎牙に答えるようにラヴィニアも口を開く。

 

「バッチリなのです。ファングの言う通り、私たちの様に異能の力を宿している人にしか認識は出来ないので、ある意味でこの土地は、管理されていると言えば管理されているのですよ。日本の方術、神道、陰陽道は、この手の『隠す』『退ける』といった『祓い』の力に秀でているのです」

 

「よく気づけたな、黎牙」

 

感嘆の声を出す鳶雄。

剣を構えながら家の中にウツセミ達の異様な気配が探る黎牙に、夏梅と鋼生も感嘆の声を出す。

 

「この三日間、魔法の勉強と神器(セイクリッド・ギア)の特訓を人一倍頑張ってたのもねぇ」

 

「中々勤勉ヤローだな、お前?」

 

「勘違いするな。また暴走状態を引き起こして、死にかけるのはゴメンなだけだ」

 

「ファングはツンデレさんなのです」

「うんうん、ツンデレね」

「ツンデレだな」

「ツンデレかな?」

 

「殺されたいのかオマエら?」

 

 

割とガチトーンで言ってくるので、気を引き締め直して捜索を再開する。

 

魔法、方術、神道、陰陽道も其々似た仕組みをしているもので、三日間とは言え、まだまだ付け焼き刃でもキチンと感知できた。

家の中は、物などはそのままとなっていて、人だけがこの家からいなくなっている。今のところ、怪しい物は発見できていない。

 

「俺、二階のほうを調べてみる」

 

鳶雄の提案により夏梅と鋼生は一階の捜索を続けて鳶雄、ラヴィニア、黎牙の3人は上の階に上がる階段を上がろうとした時、人影らしいものが視界に捉えた気がした。一旦離れるため互いに連絡を取り合う為ラヴィニアの魔法で連絡をとり合えるようにした。

鳶雄は二人に視線を配らせれば、同様に上に目を向ける。

 

「………夏梅、シャーク、警戒しておいてほしいのです」

 

ラヴィニアの言葉の意味は戦闘を覚悟しろという通告。

これにより一気に住宅内を緊張の空気が支配し始める。

 

「………刃……」

 

鳶雄は、静かにパートナーを呼び先導させる。子犬の後に続く様に鳶雄、ラヴィニア、黎牙は階段を上がって行く。

子犬からのジェスチャーにより危険は無い事がわかった。

そして、階段を上がりきると鳶雄たちは紗枝の自室へと足を向ける。

扉のノブを回して入ると整理整頓がされていた綺麗な部屋だ。

鳶雄は大切な幼馴染である紗枝の机を調べ、黎牙は周囲や窓側に異変がないか、または敵がいないかを調べていた。

ラヴィニアは魔法を床に刻み終えると、紗枝の部屋を後にし、今度は紗枝の両親の部屋に足を向ける。

紗枝の部屋に異常がない事が分かった鳶雄と黎牙はラヴィニアに続き、紗枝の両親の部屋にもそれらしいものが無いかを調べた。しかし、結果は何もなかった。半ば諦めかけていた時、キィという扉が開く音が聞こえ、振り返るとそこには一人の少女が立っていた。

 

「紗枝!」

 

名を呼ぶ鳶雄。

今すぐに駆け寄りたい気持ちを必死に堪える。

再開を果たした幼馴染だが、紗枝の表情は不気味な笑みを浮かべてジッと鳶雄を見ていた事に黎牙は警戒心を強める。

 

「紗枝、俺だ。わかるか?」

 

鳶雄の呼びかけても紗枝に変化はない。

紗枝は薄く不気味な笑みを浮かべるだけだった。

紗枝がウツセミとなっているが鳶雄には簡単に刃に命令を出す事が出来ない。ラヴィニアと黎牙は鳶雄の心情を察して、静観していた。おいそれと、神器(セイクリッド・ギア)で紗枝を操っている力を吸収出来ても、それは一時的な解放にしかならない。

 

「やはり、斬れないかね」

「そう簡単にはいくまいよ」

 

2つの声が廊下から聴こえてくる。部屋に入ってきたのは―――三つ揃いに背広を着た初老の男性と、スーツを着崩した金髪の三十代の男性。この2人には見覚えがある。童門に『姫島』『ギルバス』と呼ばれていた。

精悍な顔つきで『姫島』と呼ばれていた男が静かに口を開く。

 

「私は姫島唐棣というものだ。すでに知っているかもしれないが、『空蝉機関』という組織の長をやっている」

 

「続けて私はギルバス。姫島君達に協力者として覚えておいてくれ」

 

組織の長。

………いきなり親玉である姫島の登場に驚くも鳶雄がぼそりとつぶやく。

 

「………五大宗家」

 

それを聞いて姫島唐棣は興味深そうに顎に手をやった。

 

「ふむ、どうやら黒き翼の一団より情報は得ているようだ。ならば早い。ーーーー『四凶』を有するキミたち。それと禁龍主(・・・)の彼も迎え入れたいのだ」

 

「なに!?」

 

驚きの声を上げる黎牙に視線を向けているギルバスが黎牙の疑問を払うか様に唐棣に続く。

 

「キミの中にいる力の源は邪龍だよ」

「彼…ギルバス君の上司はキミの力を求めているのだよ。だからキミに危害を加える事はないよ」

 

「人の腕を斬り落としておいてよく言える」

 

鋭い視線を向け、剣を構える。

 

「むろん、私はキミのことも欲しいと思っている。幾瀬鳶雄ーーーーいや、姫島鳶雄と呼んだほうがいいだろうか?」

 

五大宗家の一つの宗家である『姫島』。

その名字を持つ鳶雄に黎牙は内心驚愕していた。

鳶雄は初めて耳にする情報に驚くも唐棣は続けた。

 

「キミは知らないだろうが、キミのおばあさんーーーー朱芭は『姫島』宗家の一員だったのだよ。残念ながら姫島の望む力に恵まれず家を出されてしまったが……」

 

「……俺は幾瀬だ。姫島は祖母の旧姓に過ぎない」

 

「キミがそう思っても、この国の裏で動く者たちにとっては姫島の血は大きい。しかし、皮肉だ。宗家を追われた者の系譜に『狗』が生じようとは……」

 

視線を下に下げて刃を捉えるとその瞳は暗く、感情が一切乗せられていない。

 

「…………正直言うと、私の本懐は半ば果たされたと思っているーーーーーー幾瀬鳶雄…キミの登場でね。あの姫島から『雷光』の娘以上の『魔』が生れた。しかも、正確には『雷光』の一件以前に誕生していたことになる。これほどの喜劇はないのだよ。神道と『朱雀』を司りし姫島が『朱』ではなく『漆黒』を生みだしているのだから。キミを認知したあとの『姫島』宗主の顔を思い浮かべるだけで、私は十分に満たされているだろう」

 

「なるほど、貴様の目的は自分を追放した姫島家に復讐するチカラを創り出すこためだけに組織を作り上げたのか」

 

「やはり鋭いな。童門が警戒する様に促すのも身にして分かったよ」

 

 

黎牙の言動に否定はせず続ける。

 

 

「だが、我が同胞たちの心中はそうはいかない……最後まで『計画』に準ずるのがあの組織を束ねる者のつとめなのだよ」

 

 

「幾瀬鳶雄、私たちに力を貸してはくれまいか?いや、仮に私たちを斬り伏せたとしても、そのときはーーーーーー私たちに代わり、五大宗家のバケモノたちを倒してはくれまいか?」

 

「……勝手な言い分だ。しかも意味のわからないことばかり………っ!!」

 

一方的な物言いに鳶雄は不快感を露にしていた。

この期に及んでまだ力を貸せとまで言ってくるとは……っ!

何より紗枝の隣でその様な戯れ言を宣うのが鳶雄の感情をより逆撫でてた。

今にも飛び出しそうな鳶雄を手で制しさせ、ギルバスに質問を投げかける。

 

「オマエの上司は何故俺の力を求めている?俺の力は幾瀬達の様に独立具現型神器(セイクリッド・ギア)でも無い。空蝉機関にとっては何の価値もない」

 

「ああだが、キミのチカラは非常にデリケートでね。彼等が覚醒していなければ神器(セイクリッド・ギア)自体にはまだまだだが。彼等が覚醒してしまえば、主であるキミの身体を乗っ取り伝説の邪龍ーーーーーーー

魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)》アジ・ダハーカへと復活する」

 

「アジ・ダハーカだと!?」

 

ギルバスの口から出た邪龍筆頭格の一体の名が出た事に驚愕を露わにした。アジ・ダハーカは既に英雄スラエータオナに滅ぼされた筈だ。

 

「『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』の氷姫。キミも彼の存在と力を知ったから、彼を監視していたのではないのかい?彼が力に呑み込まれたときは……………彼をアジ・ダハーカごと殺すために」

 

「「は?」」

 

その言葉に鳶雄と黎牙は驚愕した。

ギルバスの『ラヴィニアが黎牙が邪龍に呑み込まれた時は殺す』という言葉に。

黎牙は後ろにラヴィニアに振り返り問いかける。

 

「知っていたのか?最初から」

 

「……………ごめんなさい」

 

 

ラヴィニアは俯き申し訳なさそうに謝罪した。

 

 

「お前も……俺を………殺すのか…」

 

「それはーーー」

 

 

 

 

 

「彼女がそんな事をすると思っているのか……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

全てに裏切られたと読み取れてしまうほどの絶望の表情を浮かべいた黎牙を目の前に唐棣たちがいるにもかかわらず、鳶雄は会話に割って入り、黎牙を顔を殴った。

 

 

「……と、トビー!?なにを!?」

「おい、幾瀬……何のつもりだ!」

「バカな黎牙を殴っただけだ」

 

 

 

 

殴られた黎牙は怒りの感情を露わにし、鳶雄につめ寄ろうとしたが鳶雄が黎牙よりも先に詰め寄り、胸ぐらを掴んで、自分の言葉を黎牙にぶつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか!彼女は暴走したキミを救うために命を賭けたんだ!!ずっと1人で俺達を殺そうした自分と戦っていたキミに寄り添って、キミを信じて、自分の命を危険に晒してまで黎牙を信じたんだ!!

だから、奴らの様な言葉なんかより彼女の…………言葉を!意志を!ココロを信じろ……………っ!!

俺達ーーーー仲間を信じろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時、自分の際で黎牙を暴走させていた時何も出来なかった自分とは違い、暴走する黎牙に寄り添う様にして、黎牙を救ったラヴィニアを信じて。

鳶雄は黎牙に自分の心を伝えたーーーが、今度は鳶雄が殴り返された。

 

 

「ふぁ、ファングっ!?」

「何をするんだ!?」

「お返しだ。敵が目の前にいるのに殴ってくるな」

 

「あんな顔していた黎牙に言われたくないよ」

「あ゛あ゛ぁ!?」

 

「くははははっ!!あ〜久々に笑ったよ。真実を言って此方側に来やすくしようと思っていたが、中々うまくいかないな姫島君?」

「全くだよ。異端は異端を呼ぶとはよく言ったものだ」

 

 

お互いの顔に殴られた跡が付いていながら、敵意を宿した瞳で鋭く自分達の敵を睨む。

 

「さて、キミの神器(セイクリッド・ギア)は、その兇悪性ゆえに13ある神殺しの神器(セイクリッド・ギア)ーーーーー神滅具(ロンギヌス)から外され、歴史から忘れられ、各勢力のトップ陣のみしか正式名称を知られていない神滅具(ロンギヌス)。その別名は消し去られし神滅具(ロスト・ロンギヌス)

 

 

それ程なまでに自分に宿る邪龍の危険性と兇悪さを認識させられた。

そんな黎牙にギルバスは次々とラヴィニアが隠していた黎牙の神器(セイクリッド・ギア)の詳細を教える。

 

「まぁコレは私の上司の言葉を借りたに過ぎないがね。そして、その神器(セイクリッド・ギア)は、万物のチカラを吸い尽くし、極めれば、アジ・ダハーカの千の魔法をも操る事ができるーーーーが、チカラを極めれば極めるほど宿主の精神を、命を喰らって、復活しようとする。その兇悪さは全神器(セイクリッド・ギア)の中でもトップクラスを誇る。その神滅具(ロンギヌス)の名は《禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)》」

 

 

はじめて知った自身の神器(セイクリッド・ギア)の名称と本当の能力に目を見開く。

この神器(セイクリッド・ギア)にそんな力があるなんて思いもしなかった。つまり、あの声はアジ・ダハーカの3つの首が其々話しかけていたという事になる。

3つの内の2つはかなり口が悪いがそれは今は置いてく。

しかし、何故ギルバスの上司はそんな兇悪な邪龍が復活しかねないチカラを欲しているのかはわからない。

そんな黎牙の疑問を察したのかの様に唐棣は答える。

 

 

「わかるかね阿道黎牙?キミのチカラは確かに危険な物だ。使い方を誤れば自分の魂は喰われるか、各勢力のトップ陣による粛清の二択。だが、使い方を誤らなければ、神滅具(ロンギヌス)の中でもトップに変われるほどの可能性を秘めているという事だ。はてには、極め続ければ、神の領域の魔を統べる事も可能となるのだよ」

 

 

危険すぎるので私は手は出さないがねとつけて加えた唐棣の言葉に黎牙は黙り込む。あの時、暴走した時にはウツセミを一瞬で焼き尽くす炎の魔法、高位の転移魔法、斬り落とされた右腕の再生と変貌魔法。それぞれがアジ・ダハーカの力の一端に過ぎないのだ。

自分のちっぽけな魔法など足元にも及ばない程の強大な力をどうにかしようなどと無謀な真似をしていた事、ラヴィニアが何故自分なぞを生かしているのか……膨大な新情報に思考を停止させてしまいそうになるが何とか虚勢を貼るかの様に剣を構える黎牙。

そんな黎牙に何も言えず、パートナーたる刃にいつでも唐棣達に攻撃指示を出せるようにする鳶雄。

ずっと避け続けていたいつかは明かされる真実を知らされてしまった黎牙に何も言えず、俯いてしまうラヴィニア。

 

黎牙の虚勢を看破している唐棣はここに来て初めて感情の乗った笑みを愉快そうに浮かべ鳶雄に視線をむける。

 

「……キミを一本の禍々しい刃に仕立てあげるのが、私のつとめなのかもしれないな」

 

童唐棣が今まで静観していた紗枝に指示を出すと、紗枝の影は意思を持ったように蠢き、部屋全体へ広がっていく。広がった影は、やがて部屋の大半を埋め尽くすばかりの巨大な漆黒の毛並みの獅子へと変貌した。

肌につきささるようなプレッシャーから鳶雄と黎牙は思い知らされる……この獅子のウツセミは根本的な『作り』からしても桁違いのバケモノであると痛感させられた。

 

 

「……私達に協力してくれている魔術師の一団と共に開発しているものーーーー『勇気を失った獅子(カウアドリ・レオ)』と呼んでいる。我々の『四凶計画』の中核を担う実験のひとつだ。東城紗枝だけが唯一、この試験体に適応できた」

 

「これも《狗》が関係しているのかは私にも不明だがね」

 

唐棣が説明した黒獅子を横目で流し見ながら肩を竦めるギルバス。

そして、先ほどまで俯いていたラヴィニアが忌々しそうに獅子を睨みつけながら唐棣達に言う。

 

「……獅子…三体のうちの一本は既に顕現化できつつあるというのですか。彼女たち(・・・・)の実験は実を結ぼうとしているのですね?」

 

「…『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』の少女よ。伝える時間があるのなら、フェレス卿に伝えておくといいーーーーー彼女たちは本気だと」

 

それを聞いたラヴィニアは心底不快そうな声音で漏らした。

 

「………不愉快な限りなのです」

 

「キミが言うかね?彼を殺そうとも考えていたキミが?」

 

ギルバスの言葉を受けてラヴィニアは又もや俯いてしまう。彼女の沈黙は肯定を言っている様な物だった。

不穏な空気が立ち込める中、鳶雄の耳に夏梅からの声が魔法で届いた。

 

『幾瀬くん!この家、囲まれているみたい!』

 

既にこの家は何十物ウツセミの軍団に取り囲まらていたのだ。

唐棣は自分に視線を向けてくる鳶雄に提案を持ちかけた。

 

「キミ達がよければ、我々の研究施設に案内しよう。キミ達が求める同級生もそこで全て待機しているし、彼らの肉親も健在だ」

 

付け加える様にあの獅子とウツセミ全てとやり合うかと、脅してくる。

 

どうする…かなりの数のウツセミとあの獅子にギルバス達を相手にするとなるとはっきり言って、恐らく犠牲は1人出る。敵のアジトへと連行されても、勝てる道理は無く、八方塞がりとなった。

ここは全員生き残る為に連行されるしかないと黎牙は考えていると、唐棣は鳶雄に見せつけるように何かの術式の文字が書かれた桐箱を取り出し、

 

「そこの金庫に入っていたものだ。先に拝借させてもらった。何、まだ、私も見てはいないよ。どうかね、幾瀬鳶雄くん?この中身と彼女ーーーーどちらも欲しいだろう?」

 

紗枝を指さしながら、相手の神経を逆撫でさせる様な事を口にする。

 

「……ここの判断はトビーとファングに任せるのです。夏梅もシャークもわかってくれるのですよ。不謹慎かもしれませんが、彼らの施設に物凄く興味があるのです」

 

黎牙に対しての申し訳なさそうな目は変わらないが、鳶雄の心情を察してラヴィニアは言った。鳶雄は黎牙にも意見を求めようとしたが、

 

「………お前が決めろ」

 

鳶雄に任せた。

というか、黎牙には鳶雄がどの様な選択をするのかは既に分かっていた。任せられた鳶雄は、鋼生、夏梅に連絡し、撤退する様に伝え、夏梅は了承しかねていたが、鋼生に押される様に撤退を受け入れた。

 

「なるほど、自分達だけ残って、『四凶』を逃がすか。懸命な判断だ」

「禁龍主の彼もそれをわかっていたみたいだね。まだ、ココロの曇りは晴れていないようだがね?」

 

「…………ちっ」

 

ギルバスに考えを見透かされた事に小さく舌打ちをする黎牙。

黎牙はまだ、自分のチカラとどのように向き合うかを決めかねているのだ。

 

そして、唐棣は印を結び、自分達のアジトへ通ずる『門』を創り出した。

 

「さあ、くぐりたまえ」

「歓迎させていただくよ。氷姫、狗、禁龍主」

 

 

そのまま3人は『門』を潜る。

 

 

 

 

その門は、黎牙達にとって、

 

 

 

 

 

破滅への門か、救済への門か、

 

 

 

 

それともーーーーーーー

 

 

 

 

しかし、既に賽は投げられた。

 

 

 

 

漆黒の《狗》と《邪龍》の行く末は

 

 

 

 

絶望か、希望か、

 

 

 

 

その答えは、もうすぐそこまで来ていた

 

 

 

 

 

 




『『『まだなのかぁぁぁ!!!!』』』

すいませんでしたぁぁぁ!!
でも名前は出ましたよ?

『名前だけで納得するか!!』
『舐めてんのか? あ゛あん?』
『殺すぞ?コラァァァ!!』

次回に登場する予定ですので待って下さい!!

次回《邪龍の目覚め》


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第10話 邪龍の目覚め

すみません。
リアルが忙しくなってきたので更新ペースがぐっと遅くなります。
本当に申し訳ありません。
出来るかぎりチマチマ更新していきますので暇があれば、読んで下さい。

それでは今まで空気だった邪龍達が漸く登場です。


 

 

 

ウツセミの研究施設ーーーー『空蝉機関』の本部、いや、隠しアジトにやってきた鳶雄達は此方のチカラを封じる術式が施された手錠を嵌められ、刃は檻に入れられ、唐棣とギルバスによってどこかに案内されていた。

案内されていく中、唐棣の指示の元で拉致されてきたウツセミとなった肉親達が何かの液体が入った培養槽に眠らされた状態で入れられていた。唐棣達が言うには、ウツセミはまだ試験段階で所有者の身体と精神に変調をきたすようだ。そして、この拉致されたウツセミの肉親達は消耗したそれらを補うために拉致されて、この培養槽に入れられているようだ。そんな唐棣達が説明している中、黎牙だけは近くにいる鳶雄達でも聴き取れない程の声量で、ブツブツと独り言を口にしている。しかし、それはまるで鳶雄達には見えない(・・・・・・・・・)誰か(・・)と話しているようにも鳶雄にはたしかに見えた。

 

しばらくして、地下へと続くエレベーターに乗せられ、ぐんぐんと降下してついた先は広大な何もない一室。

照明以外は何もなく、白い壁と床がただ広がるだけ。

 

「ここは地下百メートルにある空間だ。核シェルターに転用できるほどに頑丈でね。ちょっとやそっとの衝撃で崩落することはない」

 

彼は、懐から平たいリモコンのようなものを取り出すと、ボタンをひとつ押すーーーーすると、刃が檻から解放される。

 

「つまり、ここで多少のいざこざがあろうとも、別段上の研究施設に影響はないということだ」

 

姫島唐棣は、袖から鉄の棒を出現させる。それを横に振ると、収納されていた分が伸びて錫杖の恰好となった。

 

「さて、幾瀬鳶雄。少しばかり、ここで戯れようではないか」

 

錫杖の先を鳶雄に向けながら姫島唐棣が言う。

 

「ーーーー私にその『狗』をけしかけてみなさい」

 

同時に鳶雄の手にされていた手錠が外れて床に落ちいく。

鳶雄の実力を探る為に戦闘を持ちかける唐棣に下手にラヴィニアが手を貸せば鳶雄の幼馴染である紗枝をけしかけてしまう恐れがあるだけではなく、神器(セイクリッド・ギア)を封じら、ココロが不安定な黎牙を守る必要がある。

唐棣の後方で優雅に観戦するのか、ギルバスは壁に寄りかかり鳶雄に視線を向けている。そんなギルバスを警戒しながらラヴィニアは黎牙と共に後方に下がる。

 

「いけっ!」

 

鳶雄のかけ声と共に戦闘が始まった。

 

 

 

鳶雄の戦いが始まったのを好機と見て、ラヴィニアが黎牙に自身の与えられた任務を話す事にした。もう既に手遅れかもしれないが、黎牙に知ってほしいとラヴィニアは思った。

 

「……ずっと隠していて本当にごめんなさいなのです。私は『総督』に頼まれてファングの中に眠っている邪龍の監視を言い渡されていたのです。もし、ファングの意思を喰らい、元の邪龍へ復活しようとする危険が確認出来たのなら、ファングを抹殺しろという指令を受けていたのです」

 

「…………………」

 

「この事件が終わり次第、ファングの中のチカラを厳重に封印して元の生活に戻って貰う予定だったのです。でも、私はファングを騙していた事には紛れも無い事実なのです。ファングを戦いに巻き混み、無茶な事をさせたのは私なのです。そんな私の事は信用できなくてもいいのです。………でも、どうか…今だけはトビーたちを護ってほしいのです。あの夜、私にファングの本心を聞かせてくれた強いココロで」

 

「…………オレはーーーー」

「お話はそこで終了とさせてもらおうかな?」

 

 

黎牙が何かを言いかけた所で先ほどまで、鳶雄達を静観していたギルバスが突然、瞬間移動でもしたかの様にラヴィニアと黎牙の前に現れた。2人は突然のギルバス乱入に驚きながらも、後方へ下がろうとしたーーーーーが、妖しい紅の輝きを放つ右腕を黎牙に胸部へと突き立てた。

 

 

「がはっ!?」

「ファング!?」

「!黎牙!?」

 

 

ギルバスの突然の攻撃で黎牙が膝から崩れ落ちる様に倒れた。鳶雄、ラヴィニアは、すぐ黎牙に駆け寄ろうとした。

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

「ぐががぁぁ………ううぅウゥ、ゥウゥゥウウウ――ウ゛あ゛あ゛あ゛あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

黎牙の苦しみの叫びと共に暴走の時よりも禍々しい力の波動が見境なしに放出され、駆け寄る事ができなくなってしまった。

 

ラヴィニア達は、それでもと、黎牙に駆け寄ろうとするが禍々しい波動の余波で近寄る事が出来ず、吹き飛ばされない様にするのが精一杯であった。その間にも、黎牙の苦しみの叫びはやまない。

 

 

「(どうやら、一気に阿道黎牙とアジ・ダハーカとの対話を行わせる様だね、ギルバス君は)」

 

 

先ほどまで、鳶雄と戦っていた唐棣には廃業したデパートでの戦闘時よりも禍々しい波動を放つ今の黎牙の状態を推察した。

 

ギルバスによって打ち込まれた禍々しい波動と黎牙の中の邪龍の波動が共鳴し合い、無理矢理だが、今まさに邪龍は目覚めさせようとしている。

 

その時、

 

重々しい音を立てながら、この空間の扉が再び開け放たれる。

通されたのは、紫色のローブを着た初老の外国人女性とその後ろにはゴシック調の服装をした外国人の少女。

そして初老の女性が言う。

 

「機関長殿、かなりベストなタイミングかい?」

 

姫島唐棣は錫杖を下げ、息を吐きながら言う。

 

「これは魔女殿。ここに来られるとは驚きましたぞ。それと魔女殿の言う通りあの邪龍が目覚めるようですよ」

 

老女は、淀みない足取りで鳶雄と暴走しようとしている黎牙のほうに歩を進める。

 

「そうかいそうかい。こちらとしても見たいのでね。―――『狗』と『禁龍主』を」

 

二人を興味深そうに視線を向けていると、ラヴィニアがかつてないほどの敵意を『魔女』と呼ばれた老女に向けている。

 

「貴女もファングの邪龍を求めているのですか?」

 

「確かに、龍の中で最も魔に長けた禁龍主は欲しいさ。だが、サタナエルの元に預けた方がかなり面白そうな事になるから、やめておくさ。それにしても『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』からの刺客がアンタとはね」

 

老女はラヴィニアの眼前にまで辿り、目を細め、愉快そうな顔で言う。

 

「久しいね、『氷姫』のラヴィニア」

 

「…………『紫炎』のアウグスタ、あなたが協力者だったのですね? なるほど、そちらの『大魔法使い』ならばあなたを送って当然なのかもしれないのです」

 

「それはこっちの台詞でもあるねぇ。メフィストも粋なことをするものだよ。『炎』を追うのに『氷』を寄越すなどと……………」

 

両者そのまま睨み合い、ラヴィニアからは水色の光、アウグスタからは紫色の光を体に纏う。

2人の異様なプレッシャーに圧倒されていた鳶雄だが、この室内の温度が徐々に下がっていることに気付いた。

 

「……………あなたたちを確認できれば、もう十分なのです」

 

迫力のある声音で告げ、底冷えするほどの冷気を発生しているラヴィニアの手錠にヒビが入り、亀裂が走り、四散して床に散らばる。

ラヴィニアの碧眼はーーーー暗く、深海のような色をしていた。

自由となった手首をさすり、今もなお、自分の中にいる邪龍の力の暴走を止めようと苦しみ続ける黎牙を一瞥し、ラヴィニアの小さい唇から、この世のものとは思えないほどに呪詛めいたものを漏らした。

 

《———悠久の眠りより、覚めよ。そして、永遠の眠りを愚者へ———》

 

冷気が――集う。ラヴィニアの横に、凍えるような空気が渦を巻いて集まっていき、何かの形になっていった。

 

「———これが私のお人形なのです」

 

ラヴィニアの横に生まれたのは———氷で作られた姫君だった。

全長は三メートルほどあり、ドレスを着たかのような女性のフォルムだが、その面貌は人のそれではない。口も鼻もなく、左半分に六つの目が並び、右半分はイバラのようなものが生えて突き出ていた。腕の数は四本あり、どれも細い。しかし、手の腕の細さに反比例して大きかった。

 

「……………十三のひとつ、『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』。まさか、このような少女が神をも滅ぼすという具現を有するとは……………アザゼルとメフィストも既に手に入れていたとは!」

 

「……………これでこの場に神殺しが四つ」

 

氷の姫君を顕現させたラヴィニアに唐棣は驚愕し身構え、ギルバスは黎牙から放出続ける力の波動に気持ち良さ気に意味深な笑みを浮かべいる。そして、哄笑を上げる老女の背後で突然紫色の炎の柱が巻き起こる。火力と熱量はどんどん上がっていき、部屋に包み込んでいた冷気に匹敵するほどのものになろうとしていた。

 

《———膏つけられし者をくくりつけるのは十字の呪具よ。紫炎の祭主にて、贄を咎めよ———》

 

老女もまたラヴィニアと同じく力ある呪詛を口にする。

アウグスタの隣に姿を見せるのは炎で作られた十字架を片手に担いだ炎の巨人。その大きさも四メートルに達していた。

お互いの分身とも呼べる物体を横に置いて対峙する恰好となる。

 

 

これでギルバスの言う通り神を殺す事ができる神器(セイクリッド・ギア)が四つ揃った事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

『チッ!あの野郎の介入の所為で初会合が、無理矢理とはな』

『胸糞わりぃーーゼ!!』

『ホントむかつくぜ!!』

 

 

 

“あの真っ暗闇の世界”とは違う夢の世界

 

見渡せば“白”

 

俺とコイツら(・・・・)以外何もない世界

 

それはまるで俺の心を表している様な空間だ

 

そして、俺の目の前に漸く姿を現せた三つ首の黒い龍————《魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)》アジ・ダハーカがそれぞれの首で愚痴っている。

 

 

『漸く俺たちと対面出来たなぁ〜黎牙?』

『やっとだぜ。ホント遅ェー宿主様だ』

『超ーノロマでヘタレだなぁ〜レイちゃんヨォ〜』

 

 

「夢の時同様、お前ら口悪いな?」

 

 

『気にするな』

『なんか文句あんのか?』

『一々めんどくせぇーな!』

 

 

「で、どうやったら現実世界に戻れるんだ?」

 

 

俺の問いにそれぞれの口からわざとらしい溜め息を吐きながら、俺を見下ろす。

 

 

『無駄な事だ』

『どうせクソ弱ぇー宿主様だとすぐやられるのがオチだ』

『チカラを全く制御できてねぇーしな☆』

 

 

「………………………」

 

 

『その上お前はオレ達を怖れている』

『ビビりだオマエは』

『あのクソ親共を殺した時と何も成長してねぇー』

 

 

『オマエは…………』

 

 

 

『『『弱い』』』

 

 

 

コイツらが言っている事は全て正論だ。

コイツらの言葉は酷く重く、俺の心の奥底を的確に抉っている。

何も言い返す事が出来なかった。

 

 

 

 

俺は弱すぎる。

 

 

「……………ッ!」

 

 

 

そんな俺を6つの眼全てに軽蔑、侮蔑 、偏見と言った眼を向けてくる。

 

悔しかった。

 

心をへし折らそうになり、胸に強い痛みが襲ってきた。

 

 

『そんな弱者は消えろ』

『邪魔』

『消えろゴミ虫』

 

 

『『『俺達の一部として消えろ』』』

 

 

 

その言葉と共に俺の影が突然底無し沼になったか様に俺を引きずり込んでくる。抵抗するが、凄まじいチカラで引っ張られてくるため逃れられない。

 

 

「クソがッ!!」

 

 

 

『じゃあな弱者よ。これでお前は俺達の一部だ』

『バイバ〜イ〜ヘッポコ野郎〜』

『チャ〜オ〜永遠に☆』

 

 

俺はコイツらに全く抵抗できないまま闇に呑まれた。

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

ラヴィニアと老婆がそれぞれの己の化身たる氷の姫君、紫炎の巨人を召喚し、今まさに闘いを始めようとした所で、

 

 

事態は最悪の方向へ向かってしまった。

 

 

 

それは、

 

 

『ア゛ア゛アァァァァァァァァァァ』

 

 

 

苦しみの叫びを上げる黎牙の身体が今まさに、以前と同様に黒い龍人へと変貌しようとしている。

 

 

 

「黎牙っ!!」

 

「一度暴走した以上、二度目は簡単に暴走する。やはり私の予定通りだ(・・・・・・・)

 

「ふざけるな!!黎牙がそんな簡単に呑まれたものか!」

 

 

変貌を続ける黎牙に視線を外さず、狂気が入った醜悪な笑みで顔を歪ませるギルバスに鳶雄はくってかかる。

しかし、鳶雄の想いとは裏腹に黎牙の黒い龍人への変貌の歩みは止まらない。また、自分の選択の際で黎牙が傷つける事になってしまったと心の内で自責の念と悔しさで、下唇から血を流すほど歯をくいしばっている。

 

 

「……ファング……っ」

 

そして、ラヴィニアは老婆と対峙しながら黎牙に申し訳無さ気な目を閉じる。自分が最初から黎牙を戦いから遠ざけておけばこうはならなかった。例え、戦いから逃れられないなら真実を言っておけばこうはならなかったと後悔する。

 

 

 

 

『ア゛ア゛アァァァァァァァァァァ』

 

 

 

 

 

そんな彼らを置いて、黎牙の歯車は狂い、捻れ、壊れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

深い、とても深い闇へと堕ちていく黎牙

 

 

 

 

 

 

“このまま消えるのか”

 

 

 

 

そう思っていると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『絶対大丈夫なのです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな時でもアイツの声が頭に響く

 

 

 

うるせぇな。

 

 

暴走していた時も同じ様に頭に響く様に言いやがって。

 

 

耳障りな奴だ。

 

 

 

 

でも、アイツの暖かさは心の中にある恐怖は消し、

 

 

 

 

闇に呑まれた俺に力を与えてくれる。

 

 

 

目を開けると、辺りは暗闇だが、目の前には神器(セイクリッド・ギア)が俺を待っていてくれていた。

 

 

 

剣を握り、強く想う、

 

 

“弱い俺でも闘う事を”

 

 

“力に呑まれる自分を怖れない事を”

 

 

“己の力の根源たる邪龍から逃げない事を”

 

 

“全ての過ちを受け入れる事を”

 

 

 

強く、もっと強く想い、願い、念じる

 

 

 

「お前達の力を使わせて貰うぞ!!」

 

 

 

その言葉と共に剣に埋め込まれている青黒い宝玉から凄まじい光を発し、暗闇の世界を打ち消し、先ほどの世界へ戻った。

 

 

 

闇から戻った俺を愉快そうに笑みを浮かべながら、俺のするべき事を今度こそ伝える。

 

 

 

『なるほど少しは俺達を受け入れる気になったか?』

「ああ。俺はもうお前達と俺自身から逃げない」

 

 

『じゃあ代わりに戦ってやるから身体を寄越しな』

「いや、俺が闘う」

 

 

『『『弱いくせに調子に乗るな』』』

 

 

それぞれの首から、各々の言葉と共に圧倒的な強者のプレッシャーを放ってくる。崩れ落ちそうになるが、剣を地へ突き立て、アジ・ダハーカと正面からぶつかる。

 

 

 

 

「俺が弱いのは認める!!俺はお前達に比べたらちっぽけな存在だ!!幾瀬やヴァーリの様な才能も無い只の弱者だ!!だがな!そんな弱者でも通さないといけない意地があるんだよ!!!!」

 

 

「それに俺はアイツらに護られる訳にはいかない!!お前達のチカラに呑み込まれる訳にもいかないんだよ!!俺は……以前までの弱い自分を殺す!世界中の神どもが俺達を滅ぼし来るのなら、其奴らを滅ぼしつくす!!俺も邪龍だ!!死ぬまで闘う!!」

 

 

『お前にそれほどの覚悟と力があるのか?』

『弱い事には変わりねぇーぞ?』

『いくら吠えても無意味だ』

 

 

 

「ああ、そうだ!俺は弱すぎる!!だから、邪龍のお前達にチカラを貸して貰うぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『断る』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言うと思っていたさ。だから、お前達が俺に力を使わせて貰う条件として!俺の身体をいつでも奪いに来い!!俺がお前達に完全に負けたら身体をくれてやる!!文句あるかァ!!!!」

 

 

 

 

 

『『『ギィハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』』』

 

 

 

俺の宣戦布告にアジ・ダハーカは心底可笑しそうに喉が潰れんばかりに笑いまくった。

 

 

 

『いいぜ!いいぜ!!それでこそ邪龍だ!!』

『前言撤回だ!気に入ったぜ宿主様よぉ!!』

『俺達に勝負を吹っかけるなんて最高だ!!』

 

 

 

 

 

『『『俺達はお前の一部だ!!』』』

 

 

 

『『『好きに使え!!』』』

 

 

 

『『『だが、気を抜けば俺達はいつでもお前を喰らいに行くぞ』』』

 

 

 

 

「ああ、俺もお前達も邪龍だ。自分の欲望に従え!」

 

 

 

 

『中々見所ありそうな眼になったな黎牙』

『いいね!いいね!邪龍ってるな宿主様』

『好き勝手にやれよ!レイちゃんよぉ〜』

 

 

 

「ああ、俺も邪龍だ。好き勝手に生きて、自分の考えを貫き通す!邪魔する奴、気に入らねぇ奴、俺達を滅ぼしに来る奴ら…は問答無用で殺しつく」

 

 

 

 

『いいぞ黎牙。それでそこ邪龍だ。俺達《禁龍主》アジ・ダハーカのチカラを使いこなせよ黎牙!』

『無理なら殺す☆』

『逃げても殺す☆』

 

 

 

 

「承知の上だ。改めてこれが俺達の初戦だ。敵を………滅ぼすぞ相棒」

 

 

 

 

『ああ。楽しい殺し合いだ!』

『殺しまくるぜ☆』

『暴れまくるぜ☆』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第11話 Evolution (エボリューション) Malicious Drive(マリシャス ドライブ)

これからは毎週土曜日に投稿していきたいと思っていますので、お時間が空いている時で構いませんので、ぜひ読んで下さい。
それでは、第11話どうぞ!!


 

まだ黎牙と親しい仲にはなってはいないが、共に助け合う友達だと思っている鳶雄の目の前で、驚くべき変貌を眼にすることになった。

 

先程まで凄まじく禍々しい波動を放ち、苦しみの叫びを上げていた黎牙の身体から今度は、深縹色に縁取られた漆黒の闇がこの真っ白な部屋を埋め尽くし、漆黒の部屋へと変貌させた。

部屋を変貌させた張本人たる黎牙は、いつのまにか正気に戻っているが、所々が暴走状態のながりが残っているため一部の肌が龍の鱗へ変わっていた。本来の鳶雄なら、暴走を止めた黎牙に駆け寄るのだが、自分の意志とは裏腹に身体の本能が鳶雄の意志を上回り、本の一歩、鳶雄を後退りさせた。

それは仕方がないことなのだ。確かに黎牙は自力で暴走を止めたーーーーーが、今の黎牙は暴走状態よりも深い…とても深く禍々しい闇を纏っていたのだ。黎牙の闇にある1人(・・・・)を除いて全員息を飲んで硬直していた。

前髪に隠れて黎牙が今どんな瞳となっているのか、確認はできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙と静寂がこの部屋を支配する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

「………キぃヒ……ヒヒヒヒヒヒヒヒ」

 

 

 

この沈黙と静寂を壊す者がいる

 

 

 

 

 

 

 

 

「キィヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

 

 

 

 

まるで狂った様に邪悪な笑みを浮かべ、嗤う者————ギルバスは今の黎牙を診て狂喜の声を上げる。

 

 

そんなギルバスに恐怖を抱く鳶雄だけでなく、本来なら協力者であるはずの姫島 唐棣(ひめじま はねず)やアウグスタですら今のギルバスには畏怖の念を抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

そんなギルバスの嗤いをやめさせる者達がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるさいぞ」

『黙れ』

『マジうるせえ〜超うぜぇ〜』

『マジ殺してぇ〜超ヤリてぇ〜』

 

 

 

 

 

 

瞳の色を深縹色へと染めた黎牙と、黎牙の神器(セイクリッド・ギア)である《禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)》に眠っていた邪龍———–《魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)》アジ・ダハーカの4人である。

黎牙たちによる介入により醜悪な笑みで顔を歪めながら、両手に剣を出現させながら、黎牙に問いかける。

 

 

「1つお聞かせください。今の貴方は(・・・・・)どちら(・・・)なのですか?」

 

 

 

ギルバスの問いかけの真意をはかれずにいる鳶雄は、自分の相棒たる刃が黎牙に対して、暴走状態の時同様に毛を逆立て威嚇していることに気づいた。

それはつまり今の黎牙は暴走しているのかと疑問に思ってしまう。鳶雄の目から見ても、今の黎牙は正気を保っている。保っているが、何故こんなにも今の黎牙を見て不安と恐怖を抱いているのか……それがわからなかった。

 

 

「その問いを答える必要はない」

 

 

黎牙の返答は、幾重にも魔法陣による魔法攻撃と共にギルバスに返された。ラヴィニアと鳶雄だけでなくアヴグスタ達ですら驚愕を露わにした。ギルバスが居た場所は黎牙の魔法攻撃によって煙で隠れていてギルバスの姿を確認することができないーーーーが、煙の中から幾多の剣が黎牙めがけて弾丸のように発射された。

しかし、これも黎牙は先ほどと同様に幾重にも魔法によって撃ち落とした。これはおかしいと思ってしまうラヴィニア、アヴグスタ、唐棣。

彼等がそう思うのは無理はない。いくら魔法を覚えたとは言え、黎牙がこの数日で覚えた魔法は、防御系の魔法が3つだけなのだ。だが、今の黎牙は、攻撃系高等の魔法を放った。コレは明らかに異常だ。

黎牙の魔法の仕組みを探ろうとする彼等を置いて、煙から飛び出してきた無傷のギルバスは、また新たに剣を両手に創り出し、剣を投擲しながら、黎牙に剣を向ける。

 

 

「加速(プラス)強化」

『Enchant Double!』

 

 

黎牙の一言に応えるように《禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)》は黎牙の両脚に神速の、両腕に強化のチカラを同時に付加させた。チカラを付加されたことによって黎牙は前回まで見えなかった筈のギルバスの動きを捉えることが出来た。神速と化した脚力を使い、剣による投擲を最低限の動きで躱し、ギルバスの眼前に迫り、剣を振り下ろした。振り下ろさた剣は、豪剣と言わんばかりの気迫を放ち、ギルバスの剣と鍔迫り合いでも負ける事はなく、せめぎ合っている。鍔迫り合いでは埒があかないと即座に判断したギルバスは、地面から無数の剣を生み出し、その刃を黎牙へ向けた。

対する黎牙は無数の刃を躱すため鍔迫り合いを辞めたことでできてしまった一瞬の隙をギルバスに突かれ、ギルバスの神速の剣によって左肩を斬られてしまった。しかし、今度の黎牙は攻撃された痛みに顔を歪めるよりもカウンターとして、剣の切っ先をギルバスへと向けて、

 

 

「放て」

『Liberate!』

 

 

刀身に闇を纏わせた後に黒い龍を形どる衝撃波を放った。

流石のギルバスも攻撃直後の奇襲に反応しきれなかったため剣で防御を取らざる負えなかった。そのためギルバスの剣の刀身は粉々に砕け、衝撃波を相殺しきれず、壁に叩きつけられたことで、ズルズルと壁から落ちた。

 

 

「立て。全くダメージを負っていない筈だろ」

 

「いえいえ。それなりはダメージを負っていますよ」

 

 

ギルバスと黎牙以外のこの部屋の住人はまるで時が止まったかのように硬直していた。そして、ギルバスは額から多少の血を流しはいるが屁でもないかのようにピンピンしている。そんなギルバスを見兼ねた黎牙は、溜息を吐きながら剣の宝玉へと視線を向け、

 

 

「やっぱりヤルしかないようだな?」

『当たり前だ。お前はまだ弱い』

『超弱ェ〜!マジ弱ェ〜!』

『超ゴミ〜!マジカス〜!』

 

 

自らに眠っていた邪龍———アジ・ダハーカに語りかける。

ここに来て漸く唐棣達は、黎牙の急激なパワーアップにアジ・ダハーカが関係していたことに気づいた。しかし、もう1つ疑問が生まれた。それは

『なぜ、アジ・ダハーカに憑依されていないか』という疑問だ。だが、その疑問を応える黎牙達ではなかった。

そして、ラヴィニアと鳶雄は心配気に黎牙を見つめる。だが、2人には今の黎牙を止める必要はないという確信が何故かあったのだ。2人は何故そんな確信を抱いているのかは、分かっていなかった。そんな複雑なチームの2人を一瞥もせず、黎牙は剣から埋め込まれていた宝玉を引き抜き、

 

 

 

 

 

 

《———千の魔を統べし三つ首の邪龍よ———》

 

 

 

 

 

 

 

 

ラヴィニアとアヴグスタが唱えていた呪詛よりも、

 

 

 

 

 

 

 

《———汝らに命ずる———》

 

 

 

 

 

 

 

《———我が肉体を依代とし———》

 

 

 

 

 

 

 

邪気と闇を感じさせる一説を唱え、

 

 

 

 

 

 

《———汝らが司りし魔の総てを———》

 

 

 

 

 

 

妖しく輝く宝玉を胸部へと強く撃ち込み、

 

 

 

 

 

 

《——我が身に付加せよ…アジ・ダハーカ——》

 

 

 

 

黎牙の影がその身を包み込んだ。

 

 

そして、部屋中を呑み込んでいた闇を打ち消すほどの深縹色の光が黎牙の剣から輝き出した。

 

 

 

 

Prohibit Hellish(プロヒビット・ヘェリィシュ) Evolution Malicious Drive(エボリューション・マリシャス・ドライブ)

 

 

 

ある時を境にして霧散する深縹色の光より人影が姿を現す。

そして、その姿を視認した鳶雄達は目を白黒とさせた。

 

前髪の一部が白く染まり、腰まで届きそうな長い黒髪。

黒コートと連想させる黒衣の襟と袖には、深縹色のファーが生えており、背中には三つ首の龍の装飾が加えられていた。

そして、凛とした面持ちの左目は、眼球は黒、瞳は黄色に変わり、服で隠れていて何処まで広がっているかは分からないが、首から両頬まで龍の鱗を思わせる黒い紋様が浮かび上がっている。

 

 

あの時とはまるで違う

 

 

比べられない程の闇を纏っている。

 

 

しかし、鳶雄は今の黎牙に全く恐怖の感情は込み上げ来なかった。

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * *

 

 

「ふぅ〜どうやら成功したようだなアジ?」

『ククク。中々のできだぞ黎牙』

『たいへん良くできまちたね〜パチパチ☆』

『何とかセーフとなりまちたね〜パチパチ☆』

 

 

先ほどまでずっと宝玉から聴こえていたアジたちの声が何故か背後から聴こえるため背後を振り返ってみると、俺の影から三つの龍の首が伸びいた。

 

「背後が煩いと思えば……お前ら出てこれたのか?」

『お前が俺達を自分の身体に付加させれば、俺達のお前の身体を支配する力は強まる。だが心配するな。今の所、お前の許可がなければ、お前の身体を支配することはできん』

『しゃーねぇーから影で我慢だぜ☆』

『しゃーねぇーから影で妥協だぜ☆』

 

「分かった。さっきも言ったが俺はやりたいようにやるだけだからな」

『構わんさ。面白いものを見せてくれた礼として、使えチカラは全部貸してやるさ』

『仕方なくだぞ☆』

『有り難く思え☆』

 

 

ああと返事をしながら、アヴグスタとその弟子、姫島唐棣、ギルバス、操られている東条佐枝を敵と定めて、改めて鳶雄、ラヴィニアに視線を向ける。

 

 

「さっきから随分と大人しいなオマエら?」

 

 

といつも変わらない声音で話しかける。

 

 

「色々と……頭が付いて来ないんだけど……黎牙のままなのか?」

「当たり前だ殺すぞ」

 

「ただの疑問で殺害宣告は辞めて貰えないかな…本気に聴こえて怖いから」

「…………で、オマエはいつまで俯いている気だ?」

 

 

先ほどから自分と視線を合わせないように……いや合わせるべきないかのように顔を背けつづけているラヴィニアに近づいて、数日前と変わらない威力のデコピンをラヴィニアの額に喰らわせた。

「あぅっ!」という悲鳴を上げながら額を抑えるラヴィニアに黎牙は、恨めしそうに眼に涙を溜めながら睨む形で、漸く黎牙の顔をきちんと見た。

 

 

「………悪かったな」

「えっ!?」

 

ラヴィニアは疑問の声を漏らす。

 

「……知っていて言えない者の苦しさは知らない者には分からない。分からない物を責めても何もならない。他にも言いたい事は山ほどあるが今は、自分の殺したい奴を殺す方が先なんでな」

 

「……でも…ファング……私はファングを殺そうとーーーーー」

「オマエ程度のヘッポコ魔法使いが俺達を殺せるわけないだろ。自惚れるな。俺を殺せるのは……神でも……魔王でも………堕天使でもねぇ……………俺を殺せるのはオレだけだ」

 

 

やっぱり黎牙は強くて優しい奴だ——と鳶雄は言いかけたが、グッと堪えた。どうせ言っても否定するのは眼に見えていた。なら、自分はこれからも彼の友達として、隣で対等に居続けたいと思えた。

 

 

「……ごめんなさい」

「謝る暇があるなら、あの暇人どもを殺す算段でも考えろ」

 

「……殺すのはダメなのです。情報を聞き出さないと」

「うるさい」

 

「中々言うねぇ禁龍主の坊や?」

「随分と空気を読んで、黙っていたなババア?」

 

 

此方を終始値段踏みする様な視線を向け続けるアヴグスタ達に殺意のこもった眼差しで睨む。

 

 

「ふふふふっ、坊やの生まれ持ってっていた霊力と、アジ・ダハーカによって引き出された坊や自身の魔法力を観察していたのさ」

 

「やはりですか、魔女殿。彼は生粋の霊能者ということですね?」

 

「その通りさ。あの坊やの才能は肉眼でも中々の才がある。弟子に欲しいくらいにね。それにあの形態も興味ぶかい」

 

 

唐棣とアヴグスタはそれぞれの見解の一致を確認しあっていると、突然唐棣が懐から携帯機を取り出し、誰かと数回言葉を交わした後、

 

 

「申し訳ないが魔女殿、上にいる者達と共に行かなくてはならなくなりました」

「そうかいそうかい。じゃあ〜私もあの『氷姫』と『禁龍主』の坊やと戯れてから退散するとしようかね?」

「私もご一緒にさせて貰いますよアヴグスタ殿?」

 

「年寄りの楽しみを取るものではないさね」

「良いではありませんか、私もある程度『禁龍主』のデータを取って変えなければなりませんから」

 

「仕方ないね」

「ありがとうございます」

「では、お二人共これでお別れです(・・・・・・・・)

 

 

今世の別れを告げ、唐棣はこの空間から脱していく。紗枝と共に。

鳶雄は、すぐにでも紗枝を助けるために追いかけたかったのだが、ラヴィニア達に視線を向けてしまい、歩みを止めてしまう。

このまま2人を置いていいのかと。

 

そんな鳶雄を置いて、既にアヴグスタとラヴィニアによる高度な魔法と神器(セイクリッド・ギア)による戦闘を、ギルバスと黎牙も鳶雄の眼では視認できないスピードで剣を交えている。部屋中に随時聴こえる剣の衝突音が鳴り響く。

既に十数回による剣戟を繰り広げる黎牙だが、ギルバスは先ほど同様に地面から数本の剣を出現させ、黎牙の隙を作ろうとした————が、黎牙は抜刀の構えのままギルバスへと突進していく。

 

 

『AbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorbAbsorb』

 

このアジトに着いてから漂い続ける者達のチカラを吸った事で先ほどより増長する闇。異様なまでに無数に鳴り響く能力発動音が黎牙の剣の宝玉から光と共に発する。

 

『Liberate!』

 

「死ね《禁龍波》!」

 

 

刀身に闇を纏わせた後に三つの黒い龍を形どる衝撃波を放った。

放たれた衝撃波はギルバスだけでなく、ラヴィニアと闘っていたアヴグスタをも巻き込む程の威力を発揮した。

黎牙から放たれた衝撃波が衝突した事で煙が巻き上がり、2人の姿を確認する事が出来ないうちに、

 

 

「いつまでそこにいる気だ」

「トビー行って欲しいのです」

 

「で、でも!」

 

 

未だに一歩を踏み出せない鳶雄に黎牙が苛立った表情で、鳶雄の顔を殴りつけた。流石にこれは予想外だったのか、ラヴィニアは驚いてしまう。

 

「いつまでそこにいると邪魔だ。お前の目的は、コイツらではないだろ。さっさと自分の女を取り戻し来い!いつまでもそこでウジウジするなら、本気で殺すぞ」

『いいぞヤレ』

『ヤッタれ!ヤッタれ!』

『斬殺!惨殺!』

 

「トビー行ってください。私の目的は、元々魔女達の撃滅なのです。彼女たちを見つけた以上、本来のお仕事に私は戻るのです」

 

 

再び所々血を流しながら立ち上がったギルバスに視線を戻す黎牙、そして、会った時と変わらない微笑みを鳶雄に向けるラヴィニア。

 

 

「私は人に手を出せないトビーの甘い考えに好意を感じるのです。けれど、いつか必ず大切な人を守るために、他の誰かを傷つけてなければならない場面に直面するのです。……彼女を救うということは、きっとそういうことなのです」

 

 

鳶雄と話すラヴィニアに向けてアヴグスタが放った魔法を相殺しつづける黎牙は扉を指差す。

 

 

「これで最後だ。さっさと行け」

 

 

鳶雄は苦渋の決断を下し、刃とともに扉の方へ駆け出した。

 

 

「………ゴメン、ラヴィニアさん、黎牙」

 

 

心からの謝罪を口にし、鳶雄は唐棣と紗枝を追うことを決め、確固なる意志で、刃と共に己が大切な人のために2人に背を向け、駆け抜けいく。

 

 

 

 

 

鳶雄達が、部屋から出た事を確認した黎牙は溜息を吐きながら、あの夜と変わらない暖かな笑みをこちらに向けてくるラヴィニアを横目で見ながら、

 

 

「今日はよく人に謝られる日だ」

 

「ファングも人の事を言えないのです」

『魔女っ子に一票』

『同じくボインちゃんに一票☆』

『同じくカワイ子ちゃんに一票☆』

 

「うるさい」

 

 

ラヴィニアはアヴグスタへ、黎牙はギルバスへとそれぞれの魔法を放ち、死闘を再開させる。

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
黎牙の新形態につきましては、元ネタはブレソル二周年記念のオリジナル形態の一護です。一目見て、ハートを射抜かれました。

それでは次回も楽しみください!!


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第12話 決死の一撃

平成最後の更新です!
これから始まる令和でも更新していきますので、
よろしくお願いします!!

それでは、第12話お楽しみください!!


 

東城紗枝の家から脱出した夏梅も鋼生は、追っ手であるウツセミを撃退しながら住宅街を抜けた先にある廃業した工場跡地に身を寄せていたーーーーーーが、童門計久(かずひさ)が操る前田繁信の妹を模倣したウツセミによって致命傷を受けた鋼生。

そして、童門によって夏梅のグリフォンもまた倒され、絶対絶命となったその時、夏梅の願い、鋼生の怒りに呼応するかのように、それぞれの神器(セイクリッド・ギア)は彼等の想いに応えた。

 

 

鋼生の白砂は3メートルを超えるサーベルタイガーを連想させる怒りの雷を纏いし白き獣–––––檮杌(とうこつ)

 

夏梅のグリフォンは4足の獣となり、2メートル級の体格をした頭部にツノの生えた上半身が鷹で、下半身が獅子のキメラとなった。それはまさに彼女が名付けた通りグリフォンの姿をした決意の旋風を纏いし幻獣–––––窮奇(きゅうき)

 

 

それぞれが四凶たる真の姿へと覚醒した。

 

この覚醒により、形勢は一気に傾き童門は追い詰められた。

 

 

「なんだ、生きているのか。アザゼルに怒られずに済みそうだ」

 

 

『総督』の個人的な頼みを聞き、チームを離れていたヴァーリの介入により、童門は一気に逃げ道を失った。

 

「どけっ! クソガキがっ!」

 

ヴァーリが世界にとってどれ程の存在なのかを理解していない童門は罵声を飛ばす。

 

 

 

「………どけ? それは—————俺に言っているのか? たかが人間の異能力者風情が」

 

 

今のヴァーリから放たれるプレッシャーは、白砂やグリフォンですら今まさにひれ伏しそうになってしまう程の圧倒的な重圧。

それはまさに神話の中に存在する魔王。

圧倒的な重圧に腰抜かした童門にヴァーリが手を出そうとした。

 

 

「………待てや」

 

 

白砂によって応急措置をされ、気迫だけで立ち上がった鋼生がヴァーリを止めた。出血量だけでも分かるように、とても立っていられるものではない。しかし、今の鋼生の怒りは、そんなものを覆すほど燃え滾っていた。それはまさに全てを溶解させるマグマのように。

 

「……そいつは、俺がぶっ飛ばす」

 

 

ヴァーリのプレッシャーで震え上がっている童門ほ襟首を掴み、無理矢理立たせる。

 

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!許してくださあぁぁぁぁいぃぃぃっ!!」

 

 

無様に泣き叫ぶ童門。

鋼生は怒りに顔を歪ませながら、一気に拳を—————ぶちかました!!

ぶっ飛ばされた童門は大きく後方へと飛び、そのまま地面に突っ伏した。

そして、鋼生もまた全ての気力を出し切り、彼の意識は途切れた。途切れた彼をヴァーリはタイミングよくささえ、彼の様子を心配気に見守る夏梅。

ヴァーリの見解により重症ではあるが、命に別状はないことが分かり、安堵の息を吐いた。気を失った鋼生を『神の子を見張る者(グリゴリ)』の施設で治療を受けさせるため、ヴァーリは鋼生を転送魔法で送り届けたのを確認した後、夏梅と共に五大宗家のエージェントによる攻撃を受けている童門達————–空蟬機関の隠れアジトへと向かう。連れ去られた同級生とその肉親、そして鳶雄、ラヴィニア、黎牙を救出するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

鳶雄を送り出した黎牙とラヴィニアのコンビは、アウグスタとギルバスの攻撃をそれぞれ相殺し合っており、闘いは苛烈を極めている。

 

中々決定打に欠け、時間と魔法力が流れ続ける。

 

「(不味いな。このモードの残り時間が……一気に決めるしかないな)」

「そろそろ終演と参りましょうかアウグスタ殿?」

「おや、禁じ手を使う気かい?」

 

「やはり彼の神器(セイクリッド・ギア)はどうやら魔剣創造(ソード・バース)で間違いないのです」

「めんどくさい相手にめんどくさい神器(セイクリッド・ギア)か……めんどくさい」

『同意見だ』

『超うぜぇー☆マジうぜぇー☆』

『超イラつく☆マジイラつく☆』

 

役者の様な両腕を広げたのを合図としたのか、ギルバスの周りから無数の魔剣が創造され、やがて魔剣たちは一つへと集まり、

 

「それでは最終幕と参りましょうか。

禁手(バランス・ブレイカー)魔劔の巨人(ディアボロズ・ブレイド・ゴーレム)。さぁ、劔の巨人よ。我が敵の血をその身に染み渡せろ」

 

 

ココロを待たない虚ろな剣の巨人へと姿を変えた。

 

己の身体の全てを剣で構成し、4本の巨大な片刃の剣を自らの脚へ、3メートル近い長さを誇る刀身を持つ両刃の剣を両腕へと変えた劔の巨人。全身が凶器の刃と化した兵器。

アウグスタの紫炎の巨人よりも巨大で凄まじいプレッシャーを放つ巨人を前にしても、ラヴィニアと黎牙は顔一つ変えてはいなかった。

 

 

「おや、少しは表情の変化を期待していたのですがね?」

「氷姫の方は分からんでもないが、禁龍主の坊やも無反応とはね」

 

意外そうな顔をするアウグスタとギルバスに向けての黎牙の返答は、

 

「撃て、アジ」

『仕方ない』

『ヤッちゃう?ヤッちまう?』

『撃っちゃう?撃っちまう?』

 

アジ・ダハーカの意識が付加(エンチャント)されている影による魔法光線による攻撃だった。

放たれた3つの光線は、そのままアウグスタとギルバス目掛けて一直線に進むが、その行く手を阻むのは主人たるギルバスによって創り出された虚ろなる剣巨人。

黎牙達の攻撃を傷一つとしてつかなかった剣巨人は、そのままラヴィニアと黎牙に鋭き魔剣たる自身の両腕を振り下ろした。

振り下ろされた両腕が、自分達に直撃する前にラヴィニアの氷姫により剣巨人の全身を凍らせることに成功した。

 

 

「……なら早く終わらせるのです!」

 

 

剣巨人が凍りつかされても余裕のある笑みを崩さないアウグスタとギルバスを不審に思いながら、地水火風の四属性の高位魔法でアヴグスタたちを屠ろうと魔法陣を展開したところで、ナニカが砕け始める音がした。

 

バキッバキッ!!

 

音をするのはすぐ近くであるためラヴィニアは容易に気付いた。

強力な氷で凍らせたはずの剣巨人が、数秒と待たずに氷の拘束を解いたのだ。振り下ろす途中だった剣腕の一撃は咄嗟に回避することに成功したが、ほぼタイムラグなど感じさせない速さで、四脚となっている剣脚の奇襲に反応し切れなかった。

 

 

避け切れない!!

 

 

焦って剣巨人の動きについて行けないラヴィニアの心臓を貫かんと言わんばかりの刺突は、

 

 

ガキィィィィィィィィンッ!!

 

 

「焦り過ぎた阿呆が」

 

 

黎牙の剣によって防がれた。

 

 

「ファングっ!?」

「真後ろで騒ぐな。煩いのはアジたちで充分だ」

『俺は無罪だ』

『お前も宿主様もうるせぇ☆』

『俺以外の全員超うるせぇ☆』

 

 

既に身体強化の付加を行なっていたおかげで、質量差で優っている剣巨人の攻撃を何とか防ぐことに成功したため、反撃としてアジ・ダハーカたちの口からドクロを形作る紫色の炎、呪詛にまみれた突風、暗黒色の雷による風・火・雷の禁術魔法を放たさせた。3つの強力な魔法を受けた剣巨人は、数メートル先まで後退させた後、もう少し距離を取るため、ラヴィニアを片手で持ち抱え後退する黎牙。

 

 

「さすがは禁龍主の坊やだね。氷姫が焦って剣巨人にやられてくれば、こっちとして気運なんだけどね」

「オホホホ、お師匠様残念ですね♪」

 

「お黙り」

「やれやれ私の剣巨人をこうもあっさり吹き飛ばすとは恐れいりますよ阿道黎牙」

 

 

箒でずっと傍観しているアウグスタの弟子であるヴァルブルガは、心底愉快そうに手を叩きながら師たるアウグスタをおちょくる。

おちょくられたアウグスタも少し不服そうにしながら、自分に鋭い視線を向けてくるラヴィニアと黎牙からは目を離さなかった。

 

 

 

「……ごめんなさいなのです」

「一々謝るな」

 

ギルバスの剣巨人の攻撃が予想より効いたため腕が多少痺れてしまっていたが、それを表情に出さなかった黎牙だが、突然口と眼から血が流れ始めた。口から血をペッ!とその場に吐き出し、いよいよ残り時間がないことに内心冷や汗を流し始めた。

 

 

「………まだ制御が効かないか?」

『始めて俺達の力を限界近くまで引き出しているんだ。あと1分も待たないぞ』

『超愚図だなー☆マジ愚図だぜ☆』

『超ヤベェーぜ☆マジヤベェー☆』

 

 

本気で余裕がなくなってきているため、黎牙はラヴィニアに苦虫を噛み潰したような顔で向き合う。

 

 

「………大丈夫なのですかファング?」

「………数秒だけ注意を引きつけられるか?」

 

 

心配気に尋ねるラヴィニアに、黎牙は苦肉の策として、時間稼ぎをラヴィニアに要求した。頼られたラヴィニアは、一瞬驚愕するが、いつにも増して真剣な表情で、

 

「………任されたのです!」

 

黎牙の頼みを飲んだ。

そして、頷くラヴィニアの周囲を埋め尽くすほどの魔法陣が出現し、あらゆる属性、精霊、黒、白、ルーンの術式が施されている。

それを見たアウグスタもまた、ラヴィニア同様に自身の周囲を埋めつくすほどの魔法陣を展開し、紫炎の巨人をラヴィニアの氷姫に対処させる準備を施した。

 

 

「やるぞアジ!」

『存分にやれ黎牙!』

『ヤッちゃう?ヤッちまう?』

『斬ッちゃう?斬ッちまう?』

 

オマエらも一矢報いさせてやる(・・・・・・・・・・・・・・)!!」

 

『Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb Absorb 』

 

 

凄まじい光を剣から発させる黎牙の周囲には、いつのまにか幾つのもの光の玉が集まり始めた。集まり始めた玉は、まるで喜んでいるかの様に、自ら黎牙の剣————禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)へと吸収されていく。

 

それを見たアウグスタとギルバスも黎牙が何から力(・・・・)を吸収しているのかに気づいた。

 

 

「まさか!?坊やは、この実験場で死んだ霊達から力を吸収しているのか!?」

「………ええ、どうやら私達には見えなかった筈の霊魂まで視認できるほどまで共鳴し合っているのですから間違いないはずです」

「…………やっぱりファングは凄い子なのです」

 

 

ギルバス達は、ラヴィニアの氷姫による氷結、ラヴィニア自身による本気の魔法によって黎牙に近づくことは出来ず、霊魂達から吸収した力の充填が完了してしまった。

 

 

 

「いくぞ……オマエら」

『僕たちの』『私達の』『チカラの』『全てを』

『『『『『『『『貴方に捧げます』』』』』』』』

 

『良い具合に溜まったぞ黎牙!』

『ぶちかませ!宿主様!!』

『存分にお見舞いしてやれ!!』

 

 

『Over The Liberate!!』

 

 

「蹂躙しつくせ!!霊纏(れいてん)・禁龍波ァァァァァ!!」

 

 

アジ・ダハーカ達によって引き出された自身の霊力とアジトに彷徨う霊魂達の力の2つを混ぜ合わされた光は眩い輝きを発し、刀身へと纏い、巨大な光の剣となった。

彷徨う霊魂達の怒りと憎しみを全て乗せた深縹色の光が全てを焼き焦がし、突き貫く怨嗟の声が具現する。

解き放たれた光の波流は、たしかにギルバスたちを呑み込んだ。

 

 

 

「ゴハッ!?…ぐ、クソ…時間切れかっ!?」

「ファング!?大丈夫なのですか!?」

 

 

自分の今まで使った事がないチカラ———霊力を無理矢理使ったことで身体が以前の暴走同様にズタボロになったため、口から先ほどよりも血を吐き出し、その場に膝をついた時には、もう変身が解けてしまった。前髪の一部は白髪のままだが、髪の長さも、瞳の色も全て元の黎牙に戻っていた。

崩れ落ちた黎牙に駆け寄ったラヴィニアは、すぐに治癒魔法を施した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、片腕を捥がれるとは思いませんでしたよ」

「すまないねギルバス。不肖の弟子をカバーしてくれて」

「ふぅー危うく死ぬ所でしたわ♪」

 

 

聴きたくない3つの声に顔を顰める黎牙を守る様にスティックを向けるラヴィニア。

全員が全員、ボロボロの状態で、ギルバスに至っては左腕がゴッソリ無くなっていたが、残った右腕には光輝く刀が握られていた。

 

「まさか私のもう1つの神器(セイクリッド・ギア)たる聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)禁手(バランス・ブレイカー)極めし聖なる一刀(エクセラム・オブ・ブレイズ・セイバー)を使う羽目になろうとは」

「ギルバスがその聖剣で防いでくれなかったら、危なかったよ」

「ギリギリセーフですわね♪」

 

「………しぶといな。さっさと死んどけよ」

 

 

痛む身体に鞭を打ちラヴィニアの制止も聞かずにアウグスタたちに剣を向ける。そんな黎牙にアウグスタは紫炎の巨人を消し、

 

「ここは退かせてもらうとしよう」

「それでは再び相見えましょう」

「ご機嫌遊ばせ♪」

 

 

足元に転移用の魔法陣を展開させて瞬時にこの場から姿を消した3人に黎牙は安堵の息を吐いた。

安息の時もつかぬ間に、天井がボロボロと崩れ始めた。

ボロボロと崩れ始める瓦礫に冷や汗をかき、本気で焦り出す黎牙。

 

 

「ヤベ、やりすぎたか」

「ありゃーなのです」

 

「んなこと言ってる場合か幾瀬の所に行くぞ」

「はいなのです。後、ファングはもう無茶はメッなのです!」

 

 

 

「うるさい。バカ魔女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ始める部屋から脱出に何とか成功した2人は、鳶雄が戦っている場所へと向かおうとしたーーーーーが、途中で黎牙は立ち止まった。

 

 

「どうしたのですか、ファング?」

「ちょっと用事だ」

 

 

立ち止まった黎牙は、剣の宝玉へそっと手を置き、誰かに語りかける様に、もういいぞ…の労いの言葉を述べた。

すると、剣の宝玉からラヴィニアも視認できるほどに黎牙と共鳴した霊魂たちが出てきた。

出てきた霊魂たちは、やがて半透明の人型の姿となり、穏やかな表情で黎牙に語りかける。

 

 

『私達』『僕達に』『語りかけてくれて』

 

 

 

『『『『『本当にありがとう!!』』』』』

 

 

『私達』『僕達の』『チカラを』

 

 

『『『『『受け取ってくれて』』』』』

 

 

『『『本当に!本当にありがとう!!』』』

 

 

「悪りぃーな、殺しきれなくて」

 

 

 

『貴方が』『私達に』『闘う意志を』

 

 

『伝えくれたおかげで』

 

 

『『『『闘うための一歩を踏み出せました』』』』

 

 

『『『『だから』』』』

 

 

『『『『『もう未練はありません!!』』』』』

 

 

「そうか、じゃあ生まれ変わったら逢おうな」

 

 

その言葉を最期にいくつもの霊達の魂は、眩しいほどの笑みを浮かべ昇天していった。

 

彼ら・彼女らが何処へ行くかはわからない。

 

しかし、そのココロには恐怖はなかった。

 

ココロの中にあるのはただ一つ。

 

自分達に語りかけ、

 

闘うためのチカラを与え、

 

共に剣を取り、

 

己が身もかいりみず、

 

戦ってくれた優しくも世界から存在を

 

否定されて続ける邪悪なる龍への感謝

 

そのたった1つの祈りしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼ら・彼女たちを見送った2人は、お互いに言葉を交わすことしなかったが、自分達が送り出した鳶雄の元へ行く道のりは一緒である。

 

 

 

空蟬機関との死闘は、確実に黎牙と鳶雄の歯車を狂わせた。

 

 

しかしコレは、いずれ来る運命の濁流にとっては些細なものであることは、鳶雄と黎牙は知る由もない。

 

 

はたして、

 

 

 

漆黒の《狗》と《邪龍》の行末は———————

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

余談ですが、霊纏(れいてん)・禁龍波の元ネタは、fateのセイバー軍の宝具ビームです。久しぶりにアポクリファを観ていて、あっ!出そうと思っていたら、そのまま出してしまいました。悔いはありません。ちなみに、ギルバスの剣巨人はS◯Oの剣巨人をそのままイメージして下さい。

それでは、来週も土曜の13時に投稿していると思いますので、お暇が空きましたら、読んでください。

次回もよろしくお願いします!!


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第13話 終演

ホントーーにすみません!!!!
毎週と言いながら、先週はリアルが忙しくて投稿日に間に合いませんでした。改めて謝罪させていただきます。

出来る限りは、土曜日の13時に投稿していきますが、投稿されていない場合は、リアルが忙しく更新できていないと思ってください。

漸く、堕天の狗神の第一巻目を書き切ること出来ました。
これからも続けていきますので、評価またはお気に入り登録、感想などをよろしくお願いします!!


 

アウグスタ、ギルバスたちの死闘を終えた黎牙とラヴィニアが鳶雄たちの元へ向かう中、鳶雄は空蟬機関の頭目である姫島唐棣と唐棣によって操られた紗枝と戦う事になった。すでに、空蟬機関の隠れアジトは『総督』が出したヴァーリのおつかいによって五宗家に情報をリークされたため袋の鼠状態となっている。そして、空蟬機関によって拉致された者達は『総督』の部下である『コカビエル』と名乗る男によって回収された。

 

 

鳶雄と刃は、圧倒的な経験の差によって唐棣、洗脳された紗枝が宿らされた『勇気を失った獅子(カウアドリ・レオ)』に追い詰められ、絶対絶命のピンチに陥ってしまった。

 

 

 

そんな鳶雄のピンチを救ったのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんと、操られていたはずの紗枝だった。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、鳶雄にとっては残酷すぎる現実だった。

 

 

 

 

 

 

なんとか紗枝は自らの意識を取り戻し、自分にとって大切な人である鳶雄を救うために刃のブレードで自らを刺し貫いた。

 

 

大切な人。救いたかった人。護りたかった人。

そんな人を目の前で失った鳶雄。

そんな鳶雄のココロを闇が深く染め上げるには充分すぎた。

 

 

ココロを絶望の色で染め上げた鳶雄と鳶雄のココロに強く反応した刃は、復讐の獣と化し、ヴァーリと夏梅の目の前で黒き獅子を倒し、唐棣の首を刎ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き獅子、姫島唐棣を破った鳶雄と刃。

それを見守っている夏梅とヴァーリだったが……。

 

「–——で、どうだ? ヴァーリよ、『赤』と出会う前の退屈しのぎなりそうか?」

 

そう言いながら、この場に現れたのは、あごに髭を生やした男性だった。

 

「……想像以上だよ、『総督』———いや、アザゼル。それにどうやら、阿道黎牙も自らのドラゴンを下し、新たなチカラを手に入れたようだ。ここにいても彼の凄まじい邪龍のオーラがビンビン伝わってくるよ」

 

ここに向かって来ている黎牙のことを思い浮かべている好戦的な笑みを浮かべるヴァーリの頭部を溜め息を混じらせながら撫でる『総督』いやアザゼル。夏梅に視線を移し、アザゼルは改めて夏梅に自らの正体を明かす。

 

 

「初めまして皆川夏梅。俺が『総督』のアザゼルだ」

 

 

ようやく正体を現したアザゼルに感慨にふけっているわけにもいかず、眼前の鳶雄をどのように止めるのかを思慮していると、

 

 

「少し遅れたのです、夏梅」

「……………」

「ラヴィニア!黎牙!」

 

ようやく追いついたラヴィニアと黎牙が、夏梅の横に姿を現した。

軽く再会の挨拶を交わす、ラヴィニアと夏梅の隣で、鋭い殺気をアザゼルへ向ける黎牙。

 

「………お前がアザゼルか」

「……ああ、その通りだ。阿道黎牙いや、禁龍主」

 

「こんな所に何にし来たクソカラス」

「ヒデェ〜言い方だな。色々サポートした相手に向かってよ〜」

 

「自分では手を下さず、こんなヘッポコ魔女を殺しに差し向ける様な腰抜け相手に敬意なんてもは必要ない。殺意だけでいい」

『腰抜けカラス』

『ゴミカラス☆』

『ヘタレカラス☆』

 

 

話の内容が読めない夏梅は、視線を混じり合わせるアザゼルと黎牙を交互に見ながらオロオロし始めた。

ヴァーリはヴァーリで、アジ・ダハーカの意識が付加された黎牙の影に興味津々なようで話を聴いていない。

 

 

「あ〜あ、耳がイテェ〜話だ。言い訳はしねぇーよ、確かにお前達…邪龍相手からすれば俺は腰抜けだろう。否定はしねぇーよ、まっ腰抜けのおかげで今まで生きてこれたのも事実だ」

「なら、俺達がオマエを殺しても問題ないな」

 

「やめとけ、やめとけ。今のオマエはさっきまでの戦闘で身体の内側がボロボロだろ? それに今のお前達じゃ〜まだ俺は殺せねぇーよ」

「………チッ」

『随分と調子に乗っているなカラス風情が』

『やっちまう?ぶっ殺しちまう?』

『斬っちまう?ぶった斬っちまう?』

 

「ちょっ、ちょっと!!早く幾瀬君を止めないとヤバイわよ!?」

「ファング、アザゼル総督、今はトビーを止めないとダメなのです」

 

 

何処までも余裕の佇まいを崩さないアザゼルに苛立ちを募らせながら、黎牙は六尾の犬のようなフォルムを持つ黒い人型の獣と化した鳶雄と、とてつもない闇を纏う狗と化した刃の対処に切り替えることにした。

 

 

——————————————————————–—

 

 

「早速で悪いが阿道黎牙、ヴァーリ、ラヴィニア。あれを止める。力を貸せ」

 

勝手に命令を出すアザゼルを背後から剣でぶっ刺してやろうかと物騒なことを考えている黎牙の心情を察したのか、ラヴィニアは『メッなのです!』という一言で苛立ち絶好調の黎牙を無理矢理沈静化させた。そして、アザゼルを後を追うように、ラヴィニア、ヴァーリ、黎牙はそれぞれが、一定の距離を取る。

 

「まったく、後始末ばかりだ。俺はいつ暴れられるんだか」

「トビー、帰って来てもらうのです。私はまだ話し足りないのですよ?」

「今の俺の状態でアレは10秒くらいは持つか?」

『いや5秒が限界だ。ただでさえ、俺達の知識、戦闘経験を無理矢理自分の身体に付加(エンチャント)させたんだ。これ以上身体に負担がかかれば、壊れるぞ』

『マインド and ボディー デーストローイ☆』

『精神崩壊☆身体崩壊☆ドMかよwwwww☆』

 

死ね……とアジ・ダハーカの特に口の悪い2頭に毒づきながら、ラヴィニア同様に魔法陣を展開し、魔法力を上げ、いつでもアジ・ダハーカを付加させられる様に構える。

 

 

「ファング、喧嘩はメッなのです!」

「うるさいポンコツ」

 

ラヴィニアの想いに呼応するかのように、ラヴィニアの神器(セイクリッド・ギア)である氷姫は部屋中に無数に生えるブレードもろとも辺りを氷の世界へ変えた。

 

続いてアザゼルは、教典のような物を取り出し、術を発動させるための詠唱を唱えた。唱えられた術から一本の強固な光の縄が放たれ、刃と鳶雄を捕らえ、身動きを取れなくした。

 

 

「今だ!ヴァーリ、阿道黎牙頼むぞ!」

「やれやれ、人使いが荒いな」

「行くぞ、アジ」

 

《——我が身に付加せよ…アジ・ダハーカ——》

『Prohibit Hellish Evolution Malicious Drive』

 

(FIVE)

 

ヴァーリは光輝く光翼を広げ、黎牙はもう一度自分自身にアジ・ダハーカを付加させ変身し、身体からブレードを生み出し迎撃態勢を取ろうとする鳶雄たちへ向かう。

 

「斬ル斬ル斬ル切ル切ル切ルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルki

killKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

「うるせぇな」

(FOUR)

 

狂ったように同じ言葉を発し続ける理性のない獣と化した鳶雄と刃によって創り出されたブレードの攻撃を巧みに避けたヴァーリは、黎牙より先に到着した。そして、ヴァーリは拘束された刃と鳶雄にワンタッチだけ触れた。刃と鳶雄に触れたヴァーリは、光翼を広げ天井近くまで飛翔する。

 

 

「半減だ」

Divide(ディバイド)

 

(THREE)

 

飛翔したヴァーリが指を鳴らすのを合図に光翼から機械音が発せられ、刃と鳶雄を纏っていた闇が半分以下まで無くなった。

ヴァーリに続くように、迫り来る無数のブレードの群れを掻い潜った黎牙は、鳶雄達と一定の間合いを取ると、剣を自分の影へ突き立てた。

 

(TWO)

 

「アイツらの力を吸い付くせ!!」

Absorb(アブソーブ)

 

 

剣から発した機械音と共に、黎牙の影から伸びていた3つの龍の首がそれぞれ鳶雄と刃に噛み付いた。すると、噛み付かれた鳶雄たちが纏っていた闇が凄まじいスピードで減少していった。

 

「とっとと戻って来い。クソ犬」

(ONE)

 

ヴァーリと黎牙によって鳶雄たちの黒い衣は剥がれ落ち、元のボロボロ状態の犬と青年へ戻った。経典による拘束を解かれるのと同時に、鳶雄たちはその場に崩れ落ちた。

 

 

TIME OUT(タイム・アウト)……REFORMATION(リフォメイション)

 

 

制限時間を過ぎたため、変身を解かれた黎牙も痛む身体に鞭を打ちながら、剣を杖代わりにし、アザゼルを睨みつける。

 

 

「……おい……ッ!アザゼル」

「無理してねぇーで休めよ、お前も」

 

「いいか……俺を殺してぇーなら!オマエが直接手を下しに来い!!コイツらみてぇーなヤツらに自分達の汚れ役を押し付けるな!!ヤルなら自分の手を汚せ…………ッ!!」

 

「……………」

 

 

「今は見逃しておいてやる。だがな!次、こんな舐めた事をすれば………俺はどんな手を使ってでもオマエたちの組織を滅ぼす!!………肝に命じておけ」

「ああ、そん時(・・・)が来たら、俺が必ず直接手を下しにいくさ黎牙」

 

 

アザゼルの返答を聞き入れたのを最後に黎牙もとうとう気力だけで保っていた意識を手放した。

黙って見守っていた夏梅とラヴィニアは、意識を手放した鳶雄と黎牙に駆け寄り、安全であることを確認できると安堵の息を漏らし、黎牙に宣戦布告をされたアザゼルは、アザゼルで色んな意味で疲れの溜め息を吐き出した。

 

 

 

 

 

これで漸く黎牙たちにとって長い闘いが1つ終演を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

あの時と同じで、何もない真っ白の空間で俺を見下ろす3つ首の邪龍であるアジ・ダハーカは心底可笑しそうにしながら、俺に語りかける。

 

 

『初戦にしてはギリギリ及第点だ』

『いやいや、赤点だ☆』

『いやいや、40点だ☆』

 

「40点満点だから問題なしだ」

 

『くだらねぇ屁理屈をこねるな黎牙』

『ホントめんどくせぇー宿主様だぜ☆』

『ホントくそウザいレイちゃんだぜ☆』

 

「うざいのは左右のお前達だろ」

『『んだとゴラァァァァァァ!!!』』

『一々気にしていたらキリねぇーぞ』

 

「そうだな。改めて聴くが、あのモードはお前達とより強くリンクする事でお前達の魔法力を俺自身に付加させ、俺の影にお前達が付加される事でお前達もある程度ではあるが闘えると考えていいんだよな?」

『あぁ、その認識で間違いはない。あの時、オマエは己に足りていない戦闘経験、魔法に関する知識といったチカラを俺達の意識諸共自分に付加させた。そのおかげ、オマエの中に眠っていた他者の魂に強く干渉することができる霊能力、魔法を行使するための魔法力を増大させることに成功したが………』

『10年分の寿命と〜』

『記憶の一部を〜』

 

『『『オレ達に喰わせた』』』

 

 

そう、オレはチカラを手に入れるために10年分の寿命、これまで生きてきた記憶の一部をアジたちに喰わせた。そのおかげ、オレの身体は邪龍としての龍の気によって身体能力が向上し、失った記憶の穴を無数の魔法に関する専門知識を植え付けたおかげで初っ端から高位魔法を行使することができた。その結果が、自分自身を無理矢理作り替………いや以前の弱い自分を殺した。

 

 

後悔は無い。

 

チカラを欲したのも、

 

闘うことを選んだ事も、

 

弱い自分を殺す事も、

 

全てオレが自分で選んで決めた事だ。

 

 

 

「契約通りオレの身体が欲しかったら、いつでも奪いに来い。ただし、オレは全力で対抗するからそのつもりでいろよ、アジ」

『ククク、やっぱり一皮剥けたオマエは面白いな』

『邪龍ってるな〜宿主様よ〜』

『喰いがいがあるな〜レイちゃんよ〜』

 

 

「改めて、これからも強くなっていくから宜しく頼むなアジ」

『精々死なねぇ様に気を付けなぁ!!』

『さっさと白トカゲに勝てよ!!』

『オレたちが宿ってんだからなぁ!!』

 

 

アジたちの激昂を最後にオレはこの世界から離れた。

もっと、もっとチカラがいる。

 

 

敵を破壊するチカラ

気に入らないヤツをぶっ殺すチカラ

ムカつくヤツを消し去るチカラ

どんな相手でも屈しないチカラ

己の意志を貫き通すチカラ

オレの邪魔をするヤツを蹂躙するチカラ

 

 

 

 

 

チカラが、もっともっともっともっと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイツらを護れるチカラが

 

 

アイツらを狙う全ての敵をコロスチカラが

 

 

 

 

 

 

 

 

例え、オレ自身が醜いバケモノになろうとも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイツを……いやアイツが護りたい物をオレが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その為にもオマエたち(・・・・・)はオレ色の呪いに染まってもらう。オマエたちがどれほどの深い…深い闇でオレを染めようとも…オレは…………

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、本格的に目醒めさせたかと思えば、初っ端からあれ程なまでにチカラを引き出すとは恐れ入ったぜ、なぁ〜メフィスト?」

 

 

 

黎牙によって引き出されたチカラを間近で見たアザゼルは、ラヴィニアから渡された報告を目を通しながら、画面の向こう側に映っているアザゼルの通信相手である赤色と青色の毛が入り乱れた頭髪はぴったりと固めて、切れ長の両眼は右が赤で左が青というオッドアイの中年男性————–メフィスト・フェレスもまた、肩を竦めながら今回の事件の結末をアザゼルから聴いていた。

 

 

『その事には大いに賛成だよ。ただでさえ、邪龍の中でもトップクラスの兇悪さを誇るアジ・ダハーカが宿っているのだから、僕たちの予想を大きく超える事は当然と言えば、当然かな』

「で、オマエは阿道黎牙をどうみる?」

 

『そう……だね。キミ同様に僕も彼の殺したいリストにランクインしていることは間違いないとして、直接会っていないからどうも言えないさ』

「まぁ〜そーだろな。俺の視点から言えば、アイツは幾瀬鳶雄と違って“愛”ってヤツを知らずに生きてきたからな。ナニカのキッカケで、歴代のヤツらの様にその身を滅ぼす恐れもある」

 

『数代前の禁龍主の怒りを買って、僕たち…悪魔の72柱の1つが領地諸共滅ぼされた実例もあるからね。でも、今の彼はまだ禁龍主として目醒めたばかりだから、僕自身としてはラヴィニアちゃんたちを通じて歴代たちとは違う道を歩んで欲しいと願っているよ』

「まぁ魔女ッ子とヴァーリのヤツが偉く気に入っちまっているからな無下にはできねぇーよ。色んなヤツに触れさせて、成長していって貰うつもりだ」

 

『子供たちの成長は、僕たちの様な年寄りには眩しすぎるからね』

「全くだぜ。アイツがこれからどうなって行くかは、分からねえーが、ラヴィニアはアイツをアイツとして繋ぎ止める大事な存在になり始めているみてぇーだしな〜」

 

『ふふふ、青春だねぇ〜。それが本来なら彼らにとって当たり前なんだけど、ね?』

「仕方ねぇだろ。死んだ聖書の神がどう言う意図で人間達にチカラを与えたのかは分からないんだからな」

 

『世の中は、ホント綺麗に廻らないモノだね』

「言い方が爺ぃクセェーぞ」

 

『キミも対して変わらないだろ、アザゼルお爺さん?』

「っるせぇ〜、また何かあったら連絡するからな」

 

『うん、その時は頼むよ』

 

プツン

 

通信を終了したため画面を切り、豪華そうな椅子で背中を伸ばしながら、これから巻き込んでしまったアイツらにすることを纏めていくアザゼル。

 

 

 

 

 

 

 

黎牙たちに降りかかってしまった闘いの火の粉は、次々と燃え移り、やがてソレは、業火として彼らに襲いかかる。

 

 

そして、忘れてはいけない。

 

彼らが巻き込まれた渦は、彼らが思うよりもずっと複雑で、巨大であることに。

 

 

 

 

 

 

『狗』と『邪龍』の1つ目の試練は終演を迎えた。

 

 

 

 

 

しかし、コレはまだ始まりに過ぎない。

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。

余談として唐突に思い浮かんだ第1章の絵の構成は、堕天の狗神の第一巻目に例えるなら、剣を持った黎牙と鳶雄を背中合わせにし、狗と化した刃と首だけのアジ・ダハーカをスタンドにした様な感じです。
あくまで、イメージとしてですので。
思いつきで、やっちゃいました。
絵心がないので私は描けません。

それでは次回も楽しみにしてください


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幕間 新たなる日常
第13.5話 事件後


少々駆け足ぎみになってしまったので、誤字があるかもしれませんがご容赦ください。
今回のキーワードとして、アポクリファのジークの竜告令呪(デッドカウント・シェイプシフター)をイメージしてください。何処かにそれっぽいモノが登場していますので。

それではお楽しみください!!


空蟬機関との死闘の末に黎牙たちは誰一人として欠けるなく(・・・・・・・・・・・)生還した。

 

 

「おい、怪我人どもメシが出来たぞ」

「ご、ごめんよ。黎牙、手伝えなくて」

 

「だったら、早く傷を治せ。誰がオマエら、オンボロどもの食事を作ってんだ」

「むむっ、阿道黎牙。オレは彼らと一緒にしないでくれ。オレは無傷なのだぞ」

 

 

自分も入れて7人前も作らないといけないため、毎食毎食、黎牙は主婦のように家事を一人で行なっている。はぁ〜とワザとらしく溜め息を吐き出しながら、横目でテーブルに座っている重症四人組を見る。

チームの中で一番重症を負った鋼生は暫くの間は松葉杖生活を、そこまで酷くはない夏梅も同様に暫くの休息を、鳶雄もまたボロボロな上に神器(セイクリッド・ギア)の暴走によって疲労困憊に加えて、

神の子を見張る者(グリゴリ)》で定期的に検査を受けている。

 

 

そして、最後の一人は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刃のブレードで自らから命を絶った筈の、

 

 

 

 

東城紗枝だった。

 

 

 

 

 

なぜ、彼女が無事であったのかにはからくりがある。

鳶雄の祖母———である幾瀬 朱芭が一度だけ持ち主の負傷を肩代わりする効果を秘めた数珠を遺品として鳶雄に遺しており、これが後に紗枝の命を救うことになった。しかし、アレほどのケガを負い、その上、ウツセミの実験体を憑依させられていた。そのため、彼女は一日置きに検査を受けなければならず、現在は車椅子生活を余儀なくさせられている。

 

 

「おい、ヴァーリその皿を運べ」

「了解した。何処かの誰かさん達は、動けないからな。キミと違って」

 

「貧弱なだけだろ」

『オマエも人のことは言えんだろ』

『超弱ぇー!マジ弱ぇー☆』

『超ゴミー!マジゴミー☆』

 

 

あいも変わらず、アジたちの声は影からではなく、頭の上から聴こえる。それは、なぜか。理由は簡単だ。

アザゼルの野郎から渡されたヴァーリ同様のドラゴン型のぬいぐるみデバイスを通して、喋っている。

ちなみに、ヴァーリのは白いドラゴンで、オレのは黒い3つ首のドラゴン。

そのため、アジたちは現実でもデバイスを通して動き回っている。はじめて、幾瀬たちと会話した時は眼中にないのか、盛大に罵ってから戻った。そして、あの戦闘の後、俺の身体にも変化は起きていた。以前同様にラヴィニアがベットに身を乗り出して寝ていたことに驚いたが、左手の甲に黒い龍の刻印が浮かび上がっているだけでなく、前髪の一部が白く変色していた。恐らくは、アジたちをその身に付加(エンチャント)させる技———《邪龍礼装(マリシャス・ドライブ)》(命名はアジ・ダハーカと黎牙の論議のすえに決定)の影響で、強い邪龍の気が身体中を巡った結果のようだとアザゼルは言っていた。

 

 

その後、ヴァーリとラヴィニアたちが、皿を運び、食事の用意を整え、紗枝、ラヴィニア、夏梅、鋼生、鳶雄、ヴァーリ、黎牙の7人で朝食を食べた。鳶雄と紗枝は、料理を黎牙に任せっきりにしてしまっていることに申し訳なさそうだった。

 

そして、ヴァーリと黎牙は朝食を食べた後、食後の運動として修練場に来ていた。黎牙自身も、アザゼルからまだまだ休息が必要だと言われているのだが、聴く耳を持たない。ラヴィニアもラヴィニアで、何度も黎牙を止めようとしているが、止まらないためヴァーリとの戦闘の激しさを増そうとするなら、氷姫を使っての説得という名のお説教を行う。という形で、ラヴィニアは黎牙とヴァーリのドラゴンコンビのお目付役を全うしている。

 

 

 

 

「始めるぞ。ヴァーリ」

「あぁ、来い!阿道黎牙!」

 

 

 

ヴァーリと黎牙は、互いの神器(セイクリッド・ギア)を呼び出した。

ヴァーリは白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を、

黎牙は禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)を、

出現させる。

見学を希望した鳶雄達は、ラヴィニアが作った結界の中で、二人の闘いを静観している。

手始めとして、黎牙は台風並みの暴風魔法をヴァーリに放ちながら、

 

Enchan(エンチャント) Double(ダブル)!』

 

脚力強化を、剣に豪雷を付加させながらヴァーリに向かう。

対するヴァーリも迫り来る暴風を白銀の輝きを放つ蹴りで、消しとばし、光翼でより上空へ上がり、光翼から白銀の光弾の雨を黎牙に向けて放った。

 

「吸い尽くせ!」

Absorb(アブソーブ)

 

 

上空へ上がったヴァーリに追撃とばかりに、剣に付加させていた豪雷をそのまま雷のチカラを持つ斬撃として放ち、光弾の雨を半数近くまで減らし、残った光弾を剣に吸収させた。

 

「解放しろ!」

『Liberate《リベレイト》!』

 

 

そして、剣に吸収させたヴァーリのチカラを自身の内側に解放することで身体能力を更に強化させた。浮遊魔法を行使し、ヴァーリの目の前まで来た黎牙は、そのまま勢いに任せて剣を振り下ろすもヴァーリの真剣白刃取りに止められた。

 

 

「甘いぞ、阿道黎牙」

「だろうなっ!!」

Enchan(エンチャント) Trinity(トリニティ)!』

 

 

止められた剣を手放し、右腕左腕にそれぞれ強化の付加を、動体視力にさらなる強化の付加を行い、ヴァーリと激しい拳と蹴りの打ち合いを空中で繰り広げる。今の黎牙は、既に付加の同時発動を最大3つまで出来るだけでなく、剣を手放した状態でも、その効果を発動させ続けることに成功している。そのため、剣を手放した状態でも、ヴァーリと互角の拳の打ち合いを行えるのだ。

それはまるでアニメに出てくるような格闘キャラの様に高速で動き回り、拳と拳がぶつかり合うたびに、凄まじい衝撃波を部屋中に響き渡らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、すごい」

「どんどん強くなっていくわね」

「…………負けてられねぇな」

「早すぎて見えない」

 

 

鳶雄、夏梅、鋼生、紗枝の順に二人のレベル違いの戦闘に驚愕の言葉を漏らしていた。そんな彼らの背後から、アザゼルが面白そうな見つけたと言わんばかりの目をしながら現れた。

 

 

「おーおー、やってるなぁ。あのドラゴンコンビ」

「来ていたのですね。アザゼル総督」

 

「おう。それとお前ら先に言っておくが、強さを求めるあまり、あいつのように神器(セイクリッド・ギア)を酷使するなよ? 今のあいつは力を求める為に無理矢理自分の中にいる邪龍をその身に付加させたんだ。そして、アジ・ダハーカの戦闘と魔法の知識を自身の頭に付加させて、さらなるチカラを得たが、その分寿命が削られているに加えて、アジ・ダハーカたちの支配力を高まった影響でいつ乗っ取られるかがわからねぇ状態だ」

 

いつのまにか剣を回収していのか前よりも洗練された剣術と魔法を組み合わせた戦法でヴァーリと激闘を繰り広げる黎牙から視線を外さずに鳶雄達に忠告する。

 

「特に幾瀬鳶雄。お前はな」

「……………………はい」

 

 

お互いに戦意がより高まっていくため、戦闘はさらに激しさを増していったため、流石に止めなければまた、さらに身体を痛めることになると判断したラヴィニアは、二人に戦闘終了の知らせを伝えるが、

 

 

「ファング、ヴァー君、もう終わりなのです!今日はここまでなのです」

「「断る!もう少しヤラせろ!!」」

 

「驚く程息ぴったりだな。あのドラゴンども

(−_−;)」

 

 

ラヴィニアの制止も聞かず戦闘を続ける黎牙とヴァーリ。

そんな二人の息の合いように、若干ラヴィニア以外の全員は引いていた。そして、言ってももう聞かない所まで、お互いの戦意だ高まり合っているので、物理的に止めに入ることに切り替えたラヴィニア。

そんなラヴィニアは、自身の独立具象型の神滅具(ロンギヌス)である永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)を召喚し、

 

 

「言うことを聴かない悪い子にはオシオキなのです!!」

 

 

カキーーーーンッ!!

 

 

部屋中が氷の世界へと変えた。

鳶雄達は、アザゼルを盾にしていたのでダメージはゼロ。

アザゼルはアザゼルで、自身の光力で相殺したためセーフ。

 

 

 

しかし、ヴァーリと黎牙は、

 

 

 

 

 

 

 

 

見事に身体の半分近くを氷漬けにされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、半分近く氷漬けにされた二人はそのまま約1時間近くをその状態のまま、目が笑っていない氷のような笑みを浮かべたままのラヴィニアのお説教を受け続けた。

ちなみに黎牙の相棒たるアジ・ダハーカは、ドラゴンデバイスの状態で笑い転げていた。

 

 

まるでイタズラがバレた子供のようなバツが悪そうな顔をするヴァーリと黎牙を見て、密かに笑いそうに鳶雄たち。

ちなみに、バッチリと黎牙にバレていたので笑っていた組の夕食に激辛な一品が追加されていたのは余談である。

 

 

 

こうして、空蟬機関との死闘を終えた鳶雄たちは、変わってしまった日常の中でも、笑顔を失わず、各々が自身に宿るチカラと向き合い、さらなる道を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

阿道(あどう) 黎牙(れいが)

 

 

 

身長:171cm

誕生日:6月13日

体重:60kg

種族:人間

ポジション:魔法使い、霊能力者、付加術士(エンチャンター)、邪剣士

神器(セイクリッド・ギア): 禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)

異名:禁龍主

苦手なモノ:ラヴィニア、元バイト先の店長(ミルたん似)、子供

 

殺したいリスト:1位ギルバス=アザゼル、3位メフィスト

 

 

本作のオリジナル主人公。

禁龍主と呼ばれる《魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)》————アジ・ダハーカを宿した幽霊が見える少年。

物心ついた時から両親から虐待されて育ってしまったため“愛情”を理解しきれない所があり、自分の気持ちを素直には伝えられないツンデレな性格をしている。また、麻薬でおかしくなった両親に殺されかけるが、気がついた時には両親を惨殺していた。その時、自身には殺人に対する恐怖や嫌悪などがなく、憎い両親を殺せた事に対する達成感しかない事に気付き、それ以来、自身の知らない自分を密かに恐るようになっていた。その為なのか、人と一定の距離を保ち、必要以上に関わらないようにしている。しかし、実際のところは現代段階では不明。

そして、幼少の頃からアジ・ダハーカの声だけが夢を通じて干渉しており、既に幽霊も視えていた。また人間と接するよりも幽霊の方が気が楽である。第10話において、自分の奥底にいるアジ・ダハーカと強制的とは言え対話し、禁龍主として、邪龍として生きる覚悟として、以前までの自分———弱い自分を殺したため鳶雄達よりもワンランク上の段階へと上がった。

また、殺人に対する恐怖や嫌悪を持っていないため、殺し合いになると全く躊躇なしに敵を殺しにかかる。

ラヴィニアに対しては初めて自身の叫びを聴いてくれた人として、それなりに意識している。それがどういうものなのかは、自分でも理解しきれていない。しかし、彼女の傷つく顔は見たくないと心の奥底では思っている。

ヴァーリとは同じくドラゴンを宿す身として、共通する点が多いため意外と仲がいい。例えるなら喧嘩仲間。

アジ・ダハーカの事は、相棒であり自身の一部と思い受け入れている。愛称としてアジと呼び、良きパートナーとなりつつある。

アジ・ダハーカ自身も黎牙のことは、見所がある奴だと思っているが、邪龍なため隙を出せば容赦なく乗っ取りにいくと言っている。

アザゼル、メフィストの事は、自分の手を汚さない醜い大人としか思っておらず、いつの日かは殺しやると思っている。

また、第11話においても性格が若干邪龍よりの思考をするようになっており、会話でも余裕で殺すなどが出るようになっている。そのため、現在は邪龍として、欲望のままにより強いチカラを求めている。

 

 

 

 

禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)

アジ・ダハーカの魂が封印された剣。アジたちが封印された影響でドス黒い邪剣へ変貌。魔剣よりかーなーりヤバい剣に早変わり。

 

見た目は新妹魔王に登場する魔剣ブリュンヒルデ。

しかし、所々は原点とは違うため詳細は第1話にて。

 

《能力》

『解放』『付加』『吸収』の3つの能力を保有しており、それぞれが応用が利く能力をしているためテクニックタイプの黎牙とは相性がベストマッチ。

 

○魔法的な超常的なモノや、強化といった自身が強くイメージしたモノを剣、身体などに付加させる『付加』。ただし、効果時間は10秒。

能力発動音:Enchant(エンチャント)

 

○剣から周囲の『力』を吸い取る『吸収』。

シンプルな能力なため敵の生命『力』、魔法に使用される魔法『力』、自然に巡る自然『力』を奪い取り、自分のエネルギーに変える。

能力発動音:Absorb(アブソーブ)

 

○上記の取り込んだ力を放出する『解放』。

主に取り込んだ力を斬撃として飛ばしている。

また、今回の話で話で登場したように取り込んだ力を体内に解放し、身体能力を強化にも応用した。しかし、このやり方は一歩間違えれば、かなりヤバいやり方でもある。

能力発動音:Liberate(リベレイト)

 

 

 

《応用技》

●禁龍波

第11話にて登場。

刀身に闇を纏わせた後に三つの黒い龍を形どる衝撃波を放つ。

元ネタは犬○叉の○生丸の蒼龍波。

 

霊纏(れいてん)禁龍波(きんりゅうは)

第12話で登場。

彷徨える霊魂たちの力を吸収した強化された禁龍波。

宝玉から眩い輝きを発し、深縹色の光を刀身へと纏わせ、巨大な光の剣へと変えて敵に放つ技。見た目は宝具ビーム。

 

 




第2章《怒りし邪龍と奪われし氷姫》




『俺は黎牙のことを仲間で、友達だと思っているから』







『俺の………俺の前で…オマエ(・・・)が“愛している”なんて口にするなぁぁ!!反吐がでるんだよぉぉ!!』






『キヒヒ、いずれは、あなた方と彼は闘うことになるでしょう』








『悪いがソイツを拠り所にしたのはコッチが先だ。横から掻っ攫ってんじゃねぇよ。だから………ソイツは返してもらうぞ』









『黙って助けて貰うなんて都合が良すぎるぞ。助けて欲しいなら!!しっかり“助けて(・・・)”って言え!!』











『誰も信じられないなら、オレを信じろ。オマエを信じたオレを信じろ。邪龍として契約を果たすオレを信じろ』







『……はあ!?バカかよ、当たり前なことを聴くなよ。オレは……いや違うな……』









『『『『俺達たちは禁龍主だ』』』』





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第2章 邪龍の逆鱗
第1話 自分との死闘


何とか1話だけでも出来たので投稿します。
次はいつになるかはわかりませんが、早めに投稿します。


『ゴメンなさいゴメンなさい………』

 

謝っても謝っても、降り注ぐ暴力の雨。

自分を産んだ父と母から振るわれ続ける虐待の日々。

 

 

 

地獄

 

 

 

この頃から既にオレはこの世の人間の醜悪さを目にしていた。

近所の人間達は自分達とは関わりの無い世界または人間として、無視している。

そして、学校に行っても何かしらの難癖をつけてオレの物を奪い、壊し、貶す。

それを見ていながら、影で薄汚い笑みを浮かべるクラスメイト(くそブタども)。中には、オレを見てながら次は自分の番にならない様にと逃げる奴、要は我が身が可愛い奴。そもそも助け自体も期待などしていない。

流石に何十回も同じような暴力を振るわれ続ければ、ある程度の動きを読める。何回か、オレが手酷く反撃すると直ぐに自分の都合のいい様に親に伝えて逃げる奴、そんな奴を育てている親も親でまるで自分の子供が何もしていないという風にオレに怒鳴る。そして、見ていないフリをする教師に自分が助けようとしたとクソみたいな事を伝えるゴミが大多数なせいで、オレに暴力を振るうのは、当然のことだと勝手に認識する周り。

 

殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい

 

ドイツもコイツも殺したいと思った。

既にこの頃からオレは人間的には破格していた。

だが、自分に力がないことは分かっていたので、とりあえずは一人で生きていくためのスベを身につける事から始めた。

そこら辺のホームレス達に給食品を渡したりして、色々な事を学んだ。時には、霊達にも聴いた。

だが、そんなクソみたいな日々の中、オレは薬でおかしくなった両親に殺されそうになった。

死にたくないという生への渇望よりも、オレの中にあったのは、冷酷な迄の両親への殺意と憎悪しかなかった。

 

 

今、オレの目の前では、憎かった両親を、両親だった肉塊へと変えた幼い頃のオレがいた。

 

 

血の池へと変貌した床の上で、全身を返り血で真っ赤に染めたオレの顔には、

 

 

 

 

 

 

 

 

恐ろしい程の冷たすぎる笑み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかなかった。

 

 

 

 

 

幼い方のオレは、オレに向き合うと口を開いた。

 

 

『もっと、もっと血を求メロ』

 

 

 

 

 

オレたち(・・・・)の周りは敵しかイナイ。オレたち(・・・・)に必要ナノハ、肉塊ドモトノ繋ガリじゃない…………圧倒的ナ迄の殺戮本能ト狂気ダ!!』

 

 

 

 

 

 

『誰もオレたち(・・・・)も手ヲ差し伸べわシナイ!!

オレたち(・・・・)は何処迄行ッテモオレたち(・・・・)二人ダケダ!

もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモットモット——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————オレ(狂気)をモトメロ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オマエの真ノ理解者(・・・・・)オレ(自分自身)ダ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

「……ング!………!ファング!」

 

 

誰かに揺すられながら無理矢理意識を覚醒させられた。

 

「っるせぇぞ……ポンコツ魔女」

 

目を開けると視界に入ってきたのは、綺麗な金髪。

自身を叩き起こした張本人である彼女はいつのまにか黎牙のベットに潜り込んで来ていた。その張本人であるラヴィニアに黎牙は鋭い視線を向けるが、ラヴィニアの目には黎牙の身を案じる心配の感情しかなかった。

 

 

「……なんだよ」

「ファングが苦しんでいる様に見えたのです……」

 

 

どうやら、先ほど見た夢にうなされていた様だった。そのためなのか、自分が着ている上着は汗で濡れていた。

 

 

「勝手に人の部屋に入って、勝手に人を叩き起こすな」

「ごめんなさいなのです。でも……私は……ファングに何処にも行って欲しくないのです」

 

 

ラヴィニアはベットから起き上がった黎牙と真正面に向き合い、無意識なのかラヴィニアは顔を黎牙に近づけ、鼻と鼻が触れ合う程なまでに距離を詰めていた。

 

 

「…………///!!!!!」

 

 

 

純粋に黎牙を心配する今のラヴィニアの体制と服装は、寝起きの男子高校生には刺激が強いためか、黎牙は顔トマトの様に染めてしまった。

今のラヴィニアの服装は、前回(第2話)と同様に真っ白いシャツを着ているだけ。更に、壁にいつのまにか追い込まれている際で、後ろに下がることが出来ず逃げれない。そして、今のラヴィニアの体制は、四つん這いである。少々汗で髪が濡れたのか、所々顔に所々貼り付いており、四つん這いで黎牙と至近距離でいる際で白い肌の脚や今にも飛び出しそうなほど窮屈そうにしている豊満の胸がより強調されている。

同年の女性と比べて、明らかに発達している女体な上に、そんな体制で近づかれると寝起きの黎牙には刺激が強すぎる。

 

 

「大丈夫なのですか? 顔が真っ赤っかなのですよ? 熱でもあるのですか?」

「……////!!!! 何でもない! 男の部屋に勝手に入るなと何度言えば解る!!」

 

「むぅ、私はただファングが心配なのです」

「ハッ!余計なお世話だ!」

 

 

そんなラヴィニアから逃れるため黎牙は彼女の肩を掴み無理矢理退かした。退かされたラヴィニアは、チョウチンアンコウの様に頬を膨らませる。わかりやすく膨れるラヴィニアを少々冷静を取り戻したのか呆れた視線を向けながら、鼻で笑う。

 

「さっさと部屋から出て行け」

「むぅ、ファングは意地悪で乱暴さんなのです」

 

「ほっとけ……シャワー浴びてリビングに行くから先に幾瀬たちと食べていろ」

 

と、返事を待たずに黎牙は汗臭くなった身体を流しなが、先ほど迄見ていた夢について頭を整理していた。

 

「(アレはどう見ても、夢として過去を追体験していた。だが、あの時のオレは、普通ではなかった。何か、得体の知れない強いナニカ(・・・)を感じた。そして、奴は『オレを受け入れろ』と言ったあの意味はなんだ……?)」

 

 

 

 

 

シャワーで身体を流しながら、答えのない問題に対して頭を捻らせ続けていると、

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

 

後ろの扉が何故か開いた。

 

 

 

 

「おい! 誰d…○☆♪*▽◎♢☆///!!!!!!!」

※途中から文字で表現できない悲鳴

 

 

 

 

後ろを振り向くと、魅惑的な裸体をしたラヴィニアが何故かいた。そんなラヴィニアを視界に入れてしまった黎牙は声にならない声を上げてしまった。そして、ラヴィニアに怒鳴り散らす前に一旦冷静になるためにラヴィニアに背を向ける。何故、黎牙が自分に背を向けているのかが分かっていないラヴィニアは、首を傾げる。

 

 

「……おい、なんで入ってきている」

「私も汗をかいてしまったので、このままでダメなのでシャワーを浴びにきたのです」

 

「そんな事を聴いているんじゃない! なんで俺と一緒に入ってきているのかを聴いているんだ!!」

「……? 日本には『裸のお付き合い』という言葉もありますので、もっと親睦を深めるにはいい機会だと思ったのです!」

 

「色々と意味を間違えているぞ……はぁー俺はもうあがるから勝手にしろ」

「えぇ!? 私はアザゼル総督が言っていた『仲のいい男女はお互いの身体を使って、互いを洗い合う』というのをファングとしたかったのですが、もうあがってしまうのですか?」

 

「違うわ! 仲のいい男女でも一部を抜いてそんな事はしねぇ! 後、オマエは軽はずみに自分の裸を晒すな!!」

「そーなのですか!?!?」

 

 

鳩が豆鉄砲を喰らった化の様な表情をラヴィニアはしているが、今の黎牙にそれを確認することが出来ない。

なぜなら、

 

 

 

「それよりも何でファングはずっと後ろを向いているのですか?」

 

 

 

 

目を瞑った状態に加えて、背中を向けたままでずっとラヴィニアと会話を行なっていたのだ。

 

 

「うるさい俺の勝手だろ」

「むぅ、人と話す時は人の目を見て会話をするのですよ」

 

「だったら、もう話は終わりだ。俺はでる」

 

 

今度は薄目の状態で扉の向こうとするが、

 

 

「待ってほしいのです!」

 

 

 

ダキッ

後ろから抱きしめられる形で、歩みを止められた。

 

 

 

 

そして、魅惑的な身体をしているラヴィニアの豊満な胸が黎牙の背中に押し付けられる様にその形を変えた。背中全体に今までに体験したことのない感触を感じてしまった黎牙の頭の中は、

 

 

 

 

 

「(Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!)」

 

 

 

 

別の意味で暴走寸前である。

黎牙がそんな状態になっている事を全く理解していないラヴィニアは、おでこを黎牙に当てながら自分の心情を語る。

 

 

 

 

 

「さっきファングが起きる前に、私も夢を見たのです。その夢では、ボロボロのファングはさらに傷つきながら、ボロボロの私たち……チームのみんなを護ろうとしてくれていたのです」

 

 

 

 

内心パニック中の黎牙はラヴィニアの声が震えていたの感じたため幾らか冷静さを取り戻せつつあるが、今でも背中全体から伝わってくる感触に戸惑いまくり、どうすればいいのか頭を捻らせまくっている。

 

 

 

「そんな時、とても…とても怖い敵に殺されそうになったファングは、突然……………あの時(・・・)よりも邪悪な黒いモノを身体に纏わせたのです。黒いモノを纏ったファングの笑みは……コワイ…………とてもコワイものでした」

「…………………」

 

 

 

 

「でも、それ以上にファングのココロが泣いている様にも感じたのです」

 

 

 

 

 

「私はファングに傷ついても、悲しんでも欲しくないのです。 私は……………ファングが居ないと……

……………………とってもさびしいのです」

 

 

 

 

 

「だから……彼女(・・)やパパとママのように居なくならないでください」

 

 

ギュ〜

本当に寂しげなラヴィニアは黎牙のぬくもりを求めているのか、より強く黎牙に抱き着いてしまった。

 

 

 

 

 

そして、当本人の頭の中は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

察してあげて(懇願)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに彼の中の邪龍は、

 

『『『ギィハハハハハハ、ぐぅへぇ、ゔぉへぇえ、ヒィーヒィー、ギィハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』』』

 

三つ首揃って大爆笑なため笑い死にかけている。

 

* * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

何とか危機(笑)を脱した黎牙は、妙に気まずい朝食を食べていた。元凶である紗枝、鳶雄、夏梅を呆れた目で見ながら食事を続ける。何故、このマンションの女性陣(紗枝は例外)はこうも人の部屋に気配なく侵入し、一緒のベッドで寝れるのかと考えていたりしていると、またもや余計な事を口走ったのか鋼生は顔を真っ赤に染めた夏梅によって撃墜されていた。

そして、黎牙は黙って食べているとアザゼルの姿を確認した瞬間に目にも留まらぬ速さでアザゼルの顔面目掛けてドロップキックを喰らわせ、撃沈させた。鳶雄たちはまだ一言も喋っていないのに蹴りを喰らわせた張本人である怒りマークを浮き上がらせる黎牙を見て、『あっ、コレは総督が悪いやつだ』として、アザゼルを無視した。

そんな騒がしい朝食を終えた鳶雄たちは、今日からアザゼルが率いる『神の子を見張る者(グレゴリ)』が管理する異能者の学び舎『堕ちてきた者たち(ネフィリム)』で学ぶことになった。

 

 

 

そして、胡散臭い足臭い口臭いアザゼルに案内によってたどり着いた。

 

「おいこら、俺の口と足は臭くねぇぞ!」

「誰に言ってんだオマエ」

 

「いや何となく、悪意あるナレーションが聴こえた気がしてなぁ〜」

「もうボケが出ているのなら介錯してやろうか?」

『いいぞヤレ』

『ヤったれ!ヤったれ☆』

『killったれ!killったれ☆』

 

「どんだけ俺を殺したいんだよオマエらは」

 

あいも変わらず自分に嫌悪を露わにしている黎牙に深いため息をつきながら、鳶雄たちに裏の世界に関する知識を教え、戦闘訓練を行う教官であるグレゴリの幹部バラキエルに任せて何処かへ行った。

見た目は厳格な堕天使であるバラキエルとは、鳶雄たちは意外と早くに打ち解けた。黎牙自身もアジたちからの要らない情報(バラキエルがドM)を教えられたが、武人気質の性格であるお陰でバラキエルの信頼度はアザゼルよりも遥かに高かく、彼から剣術を学ぶことになった。

そんなバラキエルの元で、この世界に存在する神話の魔獣・神などの知識を学んでいると、あっという間に半月という時間が過ぎた。

 

 

 

ネフィリムの施設は黎牙たちが住むマンションの地下にあるのには驚いていたが、既にその環境に適応していた。

そして、鳶雄、鋼生、黎牙の男性陣は施設の屋内ランニングトラックで十五キロの長距離を終えていた。

 

「………ぜぇーぜぇーッ!…………ったく、毎回何キロも走らせやがってよ……………っ! 俺らにオリンピックでも狙わせる気かってんだ……………っ! こんなに走ったのは中坊の頃以来だぜ……………っ!」

「………か、かなりキツイね!……やっぱり……ッ!」

 

鋼生と鳶雄はゴール直後に座り込み、愚痴る。

現在最も必要とされるのは体力。

逃げるにも体力は必要であり、神器(セイクリッド・ギア)を使うにしても精神力のほかにも体力も必要であり、殺されない為にもまずは体力作りからと鳶雄達を指導するバラキエルはそう言っていた。

 

「……………………」

 

同じく走り込みが終えた黎牙だが、二人ほど疲労は無い。

邪龍礼装(マリシャス・ドライブ)》の影響で、身体には邪龍の気が巡回しているため、身体能力はかなり向上している。

アジたちの戦闘知識を自分の記憶に付加させたことで、人型状態での体術や魔法を使ったスタイルも知識として学べた。

しかし、学べたからと言って実践出来るとは言っていない。

少しでも強くなるためには何処までにも貪欲なまでに力を求める。

 

ランニングの次は場所変えての組手となる。

基本的の組手の相手は講師であるバラキエルが主なのだが、時折相手が変わる日もある。

そういう時は決まって進んで相手を勤めようとするのは、

 

「俺の出番のようだ」

 

不敵な笑みを浮かべるヴァーリ。

そんなヴァーリが鳶雄達の前に姿を現す。

ヴァーリの今日の相手は鳶雄と鋼生。

前回は黎牙が鳶雄と鋼生と戦った。

 

「なんなら三人同時でも俺は構わんが?」

 

自信満々にそう言ってくるが、それに応じる気は黎牙も鳶雄達にもなかった。

黎牙はいつのまにか来ていた夏梅達同様に壁際で待機。

そして、空いた時間を隣にいるバラキエルとともにヴァーリたちの組手を観戦する。

先の『空蝉(うつせみ)機関』との死闘の後、二人は次のステージに着実に進歩している。

鋼生は白砂に電撃を放てるようになり、鳶雄は影から創り出した大鎌を使い、刃と共に戦闘を行えるようにはなっている。

 

「阿道黎牙、キミから観て今の二人はどうかね?」

 

と、隣にいるバラキエルが意見を求めてくる。

 

「確かにレベルアップしているが、まだまだ動きが荒い」

「やはりそう思うか、だが、キミも急いで力を求め過ぎては動きにムラを作らせてしまうぞ」

 

「ああ、今のうちに総合強化に励むつもりだ」

 

お互いに意見を言い合っていると、力に目覚めたばかりの今の鳶雄達は予想通り、二人はヴァーリにこてんぱんにやられ、敗北した。

 

「さて、次は私とキミとの番だ」

「今日こそお前を叩き落とす」

 

「ふっ、既に堕ちた身だがまだまだ現役なのだよ」

「言ってろ、老いぼれ堕天使」

 

 

お互いに何の変哲も無い木刀を手に取り、組手の稽古を行う。

 









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第2話 内ならケモノ

ヤバいヤバい。気がつけば、半年以上も休んでしまっていた。なんとか、書き留めていた分が完成したので、今日と同じく19時に、後2話分投稿します。大変、お待たせてして申し訳ありません。それでは、どうぞ!!



バラキエルと共にアジ・ダハーカの力を使わず自身の力のみで力を最低限しか引き出すことが出来ない木刀を使っての剣術の修練を終えた後、黎牙は息を切らし大の字で寝っ転がっている。そんな黎牙の近くにバラキエルはタオルとともにスポーツドリンクを彼に手渡す。

 

「君は日に日に私の剣術を吸収し、己が剣技をめざましく昇華させている。私自身も君との剣の修行は心躍るものだ」

「それは……はぁ…はぁ、どう…も。まだ、一度も……ぜぇ…勝てたこと…………ないがな」

 

「それは年季の差という奴だ。まだ君は自身の力に完全に御しきれてはいない。そのような未熟者に負けてしまえば、『雷光』と謳われる私の立場はない」

「言ってくれるな。その内、地べたにアンタの顔面を擦り付けやる」

 

「いずれ、な。これからの闘いにおいて、君の力を狙う者たちの中に必ず君の神器(セイクリッド・ギア)————禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)の能力を無効化させくる相手は出てくる。そのためアジ・ダハーカの力を制御するだけでなく、君自身の成長が剣技、術、そして霊能力の修練を積まなければならない」

「無効化してくる敵には、あのクソゼルも含まれるから。俺としては、アンタ達に手の内を明かしたくはないんだがな」

 

ラヴィニアに自身を殺すように命じたアザゼルへの敵意を隠すことなく、黎牙はバラキエルに対して起き上がりながら皮肉を吐き捨てる。黎牙の嫌味に含まれている殺意にバラキエルは臆することも、逸らすこともせず、彼等を教える立場である大人として、そして、何処か自身を責める様な瞳で真っ直ぐ受け止める。

 

「君にそう思われても仕方ない。我々堕天使を信用などしなくていい……だが、彼らは君を仲間だと思っている。だからこそ、命を掛けて暴走して君を救おうとしたのだ。そんな風に君を心から信じている彼らをどうか護ってやってくれ。失ってからでは遅いのだ(・・・・・・・・・・・)

「…………ッち、皮肉も通じねぇーのかよ。クソジジィ」

 

「ふふ、そこまで元気なら、もうワンセット剣を交えようではないか」

「上等だ!ボロボロして、快感のあまり昇天させてやる!!」

『さっさと、そのドMを駆逐しろ』

『気持ち良すぎのあまりキショイ声を出させてやれ☆』

『いや、気持ち良すぎて声も出ないようにしてやれ☆』

 

「ふふふふふ、それは楽しみだ。さぁ来るがいい若き邪龍よ!」

『『『「上等だ!!腐れドM!!」』』』

 

ほとんど冗談ではあったのだが、黎牙たちの罵りによって別の意味で火がついてしまったバラキエルは両手を広げ、黎牙を迎え撃つ。

やがて、修練時間を過ぎているのに戻って来ないバラキエルを迎えに来たコカビエルだったのだが、彼自身も戦闘狂なため日頃のストレス解消として参加してしまう。そのため3人は直ぐに三つ巴となり、修練場は荒れまくってしまう。そして、堕天使陣営の中で最もまともかつ副総督であり、堕天使たちから影でオカンと言われているシェムハザによって3人揃って説教地獄へと移行したのは余談である。

 

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

時間はあっという間に過ぎ去り深夜。

シャムハザの説教タイムから漸く解放されたものの、これ以上の鍛錬の禁止を言い渡された黎牙は、1人黙々と自室で魔法に関する書物をラヴィニアから貰った翻訳メガネをかけて読み漁る。その理由は、今ある様々な術式と、アジ・ダハーカの知識から得た魔法を組み合わせて、新たなる魔法を創り出そうとしているのだ。アジ・ダハーカをその身に付加(エンチャント)させ、戦闘能力を飛躍的に向上させる邪龍礼装(マリシャス・ドライブ)は、あくまで禁じ手を使えない自分の切り札である。その切り札を早々使ってしまえば、後はバテるだけ。そんな自分の現状を変えるべく黎牙は、より一層効率の良い戦闘用魔法の研究に明け暮れていた。アジ・ダハーカの知識から得られた禁術級の魔法はどれもが強力であり、アジ・ダハーカ自身が創り出した物が多かった。しかし、それはアジ・ダハーカたちが使ってこそ真価を発揮する魔法。例え、アジ・ダハーカが自分の影に憑依していたとしても100%の力は発揮されない。そのため、数多くの書物や付加(エンチャント)して得た知識を組み合わせ、自分に合った魔法を見つけようと黎牙は虚蝉機関(うつせみきかん)との死闘後、ずっと研究を続けている。

 

「やはり、呪術系統と霊能力を利用した敵の魂を直接破壊するための術式はまだまだ未完成な点が多いな」

『それは仕方のないことだ。霊能力とは、人間だけが持つ力だ。俺たちの様な異形者達とは異なるものだ。早々に術式として組み込めるものではない。それにお前はまだ霊能力が完全に目醒め切れてはいない。あくまで、他の魂に呼びかけ、その者達から力を借りることしかできん』

『全然ダメダメだぜ☆』

『まだまだ弱弱だぜ☆』

 

もはや特等席と化した俺の頭に居座るアジたちの手痛いダメ出しが降り注ぐ。

 

「やっぱりか。そうなると、9割がた完成している『敵の細胞を焼き尽くし続けることで敵から生命エネルギーを喰らい続ける』半永続的攻撃魔法の完成を急ぐか」

『そうなるな』

『スゲーエゲツない魔法を思いつくぜ☆』

『中々おもしれぇー魔法を考えつくぜ☆』

 

「もう一踏ん張りと行くか」

 

アジ・ダハーカの意識が入った黒いぬいぐるみ龍型のデバイスを頭に乗せた状態のまま黎牙は作業を進めていく。そして、数時間で術式を完成させ、掌に魔法陣を展開させる。

 

「よし、これで完成だ」

「やっぱりファングは凄いのです」

 

「またか」

 

眉間にしわを寄せながら、声のする方へ振り返ると案の定ラヴィニアが興味深そうに此方を見ていた。

 

「何のようだ?」

「ファングとお話がしたくなったのです」

 

「話すことはない。帰れ」

「むぅ、ファングは意地悪なのです」

 

露骨に頬をフグのように膨らませながら、黎牙を机から引っ張り出しベッドに座らせる。黎牙も黎牙で、魔法の研究で疲れていたのか、抵抗するのが面倒になりなされるがままとなる。

 

「で、今度は何だ?」

 

余程疲れが出ていたのか、眉間を軽くマッサージを施しながらラヴィニアへ視線を向けると、まるで何かに恐怖を抱いているかのように彼女は顔を伏せている。

 

「………ファングは……自分のチカラが怖く……ないのですか?」

 

突然投げかけられた言葉に含まれる真意を図れずにはいるが、あの時自分の叫びを聴いてくれた時とは違う彼女がナニカに恐れ、嫌悪を抱いていることは察知する。

 

「…アジたちと対話を交わす前の俺は、確かにアジたちを恐れていた。だが、今はコイツらは、俺の一部だと断言できる」

「…………自分の身体を狙っているのにですか?」

 

何処か怯えても見える彼女に黎牙は嘘を一切交えず、本心を伝える。

 

「アジたちはドラゴンだ。ドラゴンは欲望のままにチカラを、闘争を求める。そのドラゴンたちの中でも邪龍は、頭のネジが外れた奴らだ。そして、そんなクレイジーなドラゴンを宿す俺も、殺人に対して全く嫌悪を持たないクソ野郎だ。だが、いつまでも自分にビビっていたら、また暴走するのだが関の山だ」

 

何か言いたげなラヴィニアを分かっていながらもワザと気にする素振りを見せず黎牙は話を続けることとする。

 

「アジたちのチカラを使いこなすには、以前までのビビリの俺は邪魔だ。だからこそ、今の俺は今までの弱い俺を殺し、邪龍として自分の欲望のまま敵を喰らい殺すことにした。この身体は、例え俺の一部であるアジたちだろうと渡さねぇ。アジたちが欲望のままに俺を喰らうと言うなら、俺はこれでもかって言うほど抗ってやる。そして、世界がオレを否定すると言うなら、神だろうが、魔王だろうが、殺し尽くすだけだ」

 

 

「世界の秩序のため?危険人物だから?知るか!!俺はオレのままに生きる。俺を殺しに来ると言うのなら、総ての敵を滅ぼすだげだ。それが俺の……邪龍として生きると決めた阿道黎牙の生き様だ」

 

 

黎牙の言葉を最後まで聴いて何を思ったのか、ラヴィニアはただ静かに頭を傾けながら、黎牙の肩へ頭を預ける。そして、眼を伏せながら黎牙の掌に自分の掌を重ねる。いつもとは違う弱弱しい彼女に何処か、幼い頃の自分の面影を重ねてしまったため何も言い出せない。

 

 

「私は、私のお人形が………氷の姫君が怖いのです。どれだけ強くなっても、多くの魔法を覚えても私は、姫君への不安と恐怖を消せないのです」

「………………」

 

「まるで私自身が、姫君の操り人形ではないのか…と思ってしまうのです」

「それは違うだろ」

 

絞り出すようにラヴィニアが告げた言葉を黎牙は、一刀両断に否定する。話した彼女も黎牙が、即座に否定してくれるとは思ってもいなかったのか、飛び起きるように彼の顔を覗き込む。

 

「俺の部屋に勝手に侵入したり、勝手に暴走した阿呆を命がけで止める様な馬鹿な指示をあの氷の塊が、すると思ってんのか?」

「なっ!?」

 

あまりの失礼な物言いにラヴィニアは一言文句を言うとする。しかし、彼女の口から抗議の言葉は出ることはなかった。

 

なぜなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにお前は、あの時自分に怯えていた俺に

『絶対大丈夫』。そう言ってくれたんだぞ」

 

 

 

一緒に行動するようになって、初めて見た黎牙の穏やかな笑みに何を話そうとしたのか忘れてしまうほど眼を奪われていたのだ。

 

 

 

 

「だから、お前も何とかなるだろ。もしもの時は、何でもぶった斬る犬っころがいるからな。お前を操る糸もぶった斬ってくれるだろ」

 

「…………その、トビー任せなのはどうかと思うのですが」

 

頬を僅かに赤く染めていくラヴィニアは、まるで厄介ごとを押し付ける様な言動の黎牙に困惑気味ながらも答える。すると、さっきまでの穏やかな笑みが吹き飛ぶ様な悪そうな笑みを浮かべ、カラカラと嗤いながら何処かにいる当人がいないのをいいことに言葉を続ける。

 

「知らん。お前の面倒なんか見切れるか。俺は邪龍だぞ、人助けなんて絶対にしない」

「むぅ、ファングはやっぱり意地悪さんなのです」

 

「はっ、邪龍はどいつもコイツもイカれてんだよヴァーカ」

 

さっさと帰れと付け加え、腫れ物でも扱う様にラヴィニアに向けてシッシッと手を振る。

 

「…えいなのです!」

「ちょっ!?」

 

黎牙が自分を露骨なメンド臭そうに見ることに少しでも仕返しをしおうと考えたラヴィニアは、両手を広げ黎牙の首へと素早く回す。咄嗟の反撃に驚いて行動に移すのが遅れた黎牙に追撃とばかりにラヴィニアは、抱きついた勢いを殺すことなく、自分の全体重を乗せ、彼をベッドへと押し倒す。

 

「おい!?どういうつもりだ!!」

「ふっふっふ、今日はファングを抱き枕にして一緒に寝るのです!!」

 

「ふざけんな!!お前の格好といい、身体といい色んな意味で俺にとっては毒なんだよ!!さっさと自分の部屋でも、ヴァーリの部屋にでも戻れ!!このポンコツ魔女!」

「聞こえまないのでーす。では、おやすみなさいなのでーす、優しい邪龍のファング♪」

 

ギャーギャーと怒る黎牙の胸の中で、相変わらずの白シャツ1着のままのラヴィニアは、露出している艶やかな美脚をそっと黎牙の足へ絡め、より一層密着していく。そして、怒っている黎牙の声が本当に心地よいのか気持ち良さげな笑みを浮かべながら、眠りについていく。このため今度は、黎牙自身が、別の意味とは言え、ラヴィニアが密着して来たことで形を変え潰れてゆく男性にはない感触に耳まで真っ赤に染め上げてしまう。また、ラヴィニアに抱き枕にされた黎牙は諦めて眠りにつくため湧き上がってしまう健全な内なら獣と闘うことになってしまう。

 

加えて、己の一部であるアジ・ダハーカは黎牙がラヴィニアに抵抗できないように、魔法力や神器(セイクリッド・ギア)の展開を阻害しつつ、黎牙の慌てっぷりに笑い死にかけるのは余談である。




「……むにゃ、ファングゥ〜」ムニュッ 
「(■■■■■■■■■■!!!!)」
(呼んだ?)

『『『ギィヒャハハハ…ヴォッへぇ!ゲホゲホ!!、は、はは腹が!腹が捻れる切れるぅぅぅぅぅ!!!!
ギィヒャハハハハハハハハ!!』』』


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第3話 決別の選択

明日も同じ時間に投稿しますので、お楽しみください


訓練が休みとなる土曜日の朝。

己の内ならケモノとの激闘?の果てに睡眠を手に入れたものの、睡眠時間と理性がゴッソリ減った黎牙は、いつもより少々遅れながら起床する。一言だけでは気が済まないため添い寝をしたラヴィニアに拳骨でも入れようとしたのだが、彼女はベッドにはおらず、イライラオーラを全開にしながら台所へ向かうと、自分以外の全員が既にいた。そして、彼はラヴィニアを発見するや否や、

 

「ふぁ、ファング!?痛い!?痛いのですぅぅぅ!!」

「……………(激怒)#####」ゴォォォォ!!

 

全力のアイアンクローで彼女を締め上げる。

 

「げ、限界!限界なのです!!ぎ、ギブ、本当にギブアップなのです!ファングゥ〜〜〜〜〜!!」

「……………(激怒)#######!」ゴオ゛ォォォォ!!!!

 

しばらくの間、ラヴィニアの悲鳴が早朝の台所に響き渡る。

ちなみに、その場にいた鳶雄、紗枝、夏梅、鋼生は今のブチギレた黎牙の迫力に当てられ、ラヴィニアを助ける勇気はなかった。また、ヴァーリはカップ麺が茹で上がる時間を測るのに集中しているので、どこの吹く風の如しで完全に無視である。

 

 

 

 

「うぅぅぅぅ!頭が痛いのですぅ」

「ご、ごめんね。ラヴィニアさん、助けてあげられなくて」

 

チームの皆で朝食を取りつつ、未だに目に涙を溜めたラヴィニアは隣にいる黎牙によるアイアンクローによって締め上げられた頭をさする。そんなラヴィニアに鳶雄は申し訳なさそうに謝罪を述べる。

 

「皆んな酷いのです。助けてくれないなんて」

「いや、なんと言うか……」

「ごめんなさい。流石に…アレは」

「あんなのに声かけるほど無謀じゃねぇー」

 

助けてもらえなかったことにふくれるラヴィニアに、夏梅、紗枝、鋼生の順にそれぞれの意見を述べる。そして、ラヴィニアを締め上げた張本人である黎牙は悪そうな笑みを浮かべたまま、まるで勝利の美酒でも味わうかのように鳶雄が作った朝食を食べて進めていく。加えて、ヴァーリはいつも子供扱いされているため、せめてもの仕返しと言わんばかりに悪ガキの様な笑みを浮かべ、カップ麺をすすっていく。ある意味で、似た者同士のドラゴンコンビでもある。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * *

 

 

ドタバタした朝食の後、

鳶雄達は『堕ちてきた者たち(ネフィリム)』の休日ということもあって彼らは揃ってショッピングのために外出している。そのメンバーの中には、ヴァーリだけではなく黎牙までいる。ヴァーリは、昼食にお気に入りのラーメン屋に行くため、黎牙は久しぶりに堕天使たちによる監視のない所へ出掛けるのがそれぞれの目的である。そのため黎牙は、鳶雄達から離れて何処かへブラブラと散歩へ行こうとしたのだが、ラヴィニアがそれを許さず彼の腕に身を預けるように腕を組む形で彼女に連れて行かれている。そして、腕を組んでいる黎牙に背後にいる鋼生は意地の悪そうなニヤニヤした笑みを浮かべ、からかいの言葉を飛ばす。

 

「おーおー役得だなぁ〜邪龍さま」

「………うるせぇ駄猫」

 

隙あらば何処へ逃げようとする黎牙を逃がさないラヴィニアの笑みに中には、今朝の仕返しが含まれているかは彼女のみぞ知ることである。加えて、今のラヴィニアの服装は、いつものとんがり帽子をかぶったまさしく魔法使いを思わせる装衣であるため周りの人間からは奇異の視線を向けられている。そんな視線を集める存在に腕を組んでいる?黎牙もまた、巻き込まれる様に奇異の視線を向けられる。しかし、今の黎牙は昨夜の死闘(笑)の際で少々寝不足なため目つきが悪く、夏梅にかけさせられた伊達眼鏡でも援和することが叶わず、悪人面がより一層酷くなっている。そのため、目があった者は全員目を逸らしている。

 

「今日は何をするのです?」

 

問いかけるラヴィニアに夏梅は指を突き付けて言う。

 

「まずはあなたよ、ラヴィニア!服!年若い女の子がこんな格好じゃ、ダメすぎるって!素材は最上級なんだから、オシャレしなきゃダメってもんよ!東条さんも手伝って!一緒にこの子をコーディネートするから!」

「えぇ?う、うん……」

 

夏梅の勢いに気圧されながらも紗枝は同意する。

 

「私は魔法使いなのだから、これでいいのです。この格好が一番魔法力を高めて、いざというときに———」

「あー、もういいからショップよ!ショッピング!!」

 

夏梅はラヴィニアの訴えなど退いて、繁華街の方を指さし向かっていく。

ショップを巡りながら女子3人組みは服を見てはキャッキャと年相応に嬉しそうにしている中、男子達4人組みは女子の買い物が終わるのを待っている状態だった。そして、黎牙は壁に寄りかかりながら仮眠を取ろうとしたが、

 

 

 

 

 

 

あんら〜レイちゃんじゃな〜〜〜い♡♡♡

ひ・さ・し・ぶ・り・ネ♡♡♡

 

 

 

 

自分が最も苦手とする人の声が耳に入ってしまう。

 

 

「て、店長……」

 

黎牙が顔を真っ青にし、何処か震えた様子に戸惑う鋼生と鳶雄とヴァーリは、目の前にいる人物に色んな意味で度肝抜かれる。

 

黎牙の身長を余裕に越すほどの高身長に加えて、服の上から判るほどの鍛え抜かれた屈強な肉体、そして頭につけたカチューシャで整えた腰まで伸びた黒紫色をした髪、最後に極め付けは化粧を施されたことで艶やかに輝くたらこ唇。それらの各パーツを兼ね備えつつ少々厳つい顔つきをした男性いえ、その身に女性のココロを兼ね備えたOKAMAが彼等の目の前にいた。

 

「「え゛ぇ!?」」

「……全く気配を感じなかった!?まさか、仙術使いか!?」

 

 

もぉー店長だなんて他人行儀ネェ。いつも言ってるでしょ。アタシの事はクルたんって呼びなさいって

「「「く、クルたん!?」」」

 

あまりの言動に鳶雄達どころか、あのヴァーリまでもが聞き返してしまうほどのキャラの濃い人物こそが、ラヴィニア以上に黎牙が苦手としている虚蟬機関(うつせみきかん)と闘う前まで働いていたバイト先である飲食店の店長Ms.クルたん。本名枢木(くるるぎ) 吟一郎(ぎんいちろう)

 

 

あら、あららららら???貴方達はもしかして………レ、レレレレイちゃんのお友達なのネ!!よかったわン!レイちゃんね、私以外に中々人付き合いが出来なかったから貴方達みたいなカワユイ子達が、お友達できてオネェさん嬉しいワン♪

 

「(いえ、俺はアンタが1番苦手です)」

『『『(相変わらずスラエータオナの奴よりオーラがヤベェーなコイツ)』』』

「「「(このオーラ、怪物級か!?)」」」

 

クルたんの人情を元から知っている黎牙や黎牙の中にいた時から感じ取っていたアジたちは兎も角、生意気なヴァーリ、ヤンキーの鋼生に加えて人当たりの良い鳶雄ですら、こんな感想を抱いてしまうほどのキャラを出す彼女?にこの場にいる全員が硬直する。

 

レイちゃんともっと色々話したいことはあるけど、お友達との時間を邪魔しちゃーだめネ♡

 

バァーイ♡と言いながら、ヴァーリ、鳶雄、鋼生、黎牙の4人へそれぞれ投げキッスを送り、潤んだ瞳に涙が溜めながらクルたんは嵐の様に人混みの中へ消えていった。身長2メートルもあるのにも関わらず、ヴァーリですら見失うほどの実力者?であった。

 

 

「…………その…中々、イイ人?だったな?」

「何も言うな」

 

 

「……お前よく、あんなのがいる所で働いていたな」

「だまれ」

 

 

「アレほどのオーラを持ちながら、一瞬で消える…………アレがニンジャという者なのか!?」

「違う」

 

 

男子たち全員が全員、疲れた表情を浮かべているいたことに女子3人組みは疑問に思うものの、4人とも目を逸らしはぐらかし続けるため聞くことを諦めるのであった。

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * *

 

 

時間は流れ、ヴァーリお気に入りのラーメン屋にて昼食を取り近くにある公園へ一行が歩き出していた所で異変は起きてしまう。

 

 

外部から弾き出されたように突然、周りにいた人はまるで最初からいなかったように消え、周囲の風景が何もない真っ白な殺風景なもの空間となる。誰よりも早くにこれは何者かによる結界で外部と遮断された空間だと理解したヴァーリは、自身の神器(セイクリッド・ギア)————白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を展開し、鳶雄達に警告を促す。

 

「どうやら、何者かの結界に閉じ込められたようだぞ!」

 

その一言によって漸く、鳶雄は紗枝を庇うように背中へ隠し、夏梅、鋼生はそれぞれ自身の相棒であるグリフォン、白砂を警戒態勢を強いるのだが、

 

 

 

 

「ファングが何処にもいないのです!!」

 

 

 

ラヴィニアの一言によって事態はより一層緊急事態へと一変してしまう。

 

ラヴィニアの言葉に鳶雄達は目を白黒させつつも、周囲に視線を配るが黎牙の姿だけは確認することが叶わない。そして、最悪の事態を予測する鳶雄達の前へ、魔法陣が展開される。

 

 

「彼のことなら、どうぞご安心ください。今の彼はスペシャルなゲスト(・・・・・・・・・)と会合しておりますので」

 

 

その魔法陣から現れた人物こそ、虚蟬機関の本部で黎牙と対決した2つの神器(セイクリッド・ギア)を持つ謎の多きし剣士ギルバスである。

 

「黎牙を何処へやった!!」

 

紗枝を背後に護りつつ、ギルバスへ威嚇する刃とともに影で創り出した大鎌の切っ先を構える鳶雄は、黎牙の所在を聞き出そうとする。しかし、ギルバスは自分への敵意が心底堪らないかのように、醜悪な笑みを浮かべながら向かってこようとする鋼生たちへ手を向ける。

 

「ですから、彼はお取り込み中であると申し上げているでしょう。もう少し待っていただけないでしょうか?」

「貴方が考えることはどれもロクでもないのです!」

 

「おやおや、言ってくれますね。彼を騙していた貴女がよく言えますね?」

「ファングは、私なんかよりずっと強い子なのです。だから、誰かにファングを殺されることになる様な未来は絶対にないのです!!」

「黎牙はお前たちの仲間だ!俺たちの仲間を返して貰うぞ!」

 

鳶雄の言葉を活気に、翼を広げたヴァーリ、白砂による槍で突撃をかける鋼生にギルバスはこことは違う何処かを見ているかのような口ぶりでそれぞれの攻撃を避けていく。

 

「おやおや、どうやら彼の選択が決定したようですね。コレはイイタイミングです。さて、最後に皆さまに断言してさせあげましょう」

 

ヴァーリとラヴィニアの魔法攻撃をゆるりと避け、空中で逆さに立ったギルバスは、口上をより一層上げた笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

「キヒヒ、いずれは、あなた方と彼は闘うことになるでしょう」

 

 

それでは…と言い残しながら霧の様に身体を消し、ギルバスは撤退していく。そして、続くように周囲の結界にヒビが入り、音を立てて崩れさると同時に周囲の景色は切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、目の前にはいたのは、

 

 

 

 

 

 

見知らぬ女性の頸を禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)で斬り落とす

 

 

 

 

 

 

憤怒と怨嗟に満ちた形相をした黎牙がいた。

 

 










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第4話 邪龍と青龍

書き留めは、コレで一旦終了です。ですが、今月中に最新話を投稿する予定ですので、お待ち下さい。ちなみに、クルたんさんの容姿は、BLEACHに出てきたあのオカマさんです。名前のほうも少々似せました。
それでは、どうぞ!



ラヴィニア達とはぐれさせられた黎牙は、結界によって遮断せれた人っ子1人いない街の中にポツンといた。自身の神器を呼び出し、結界を破壊を試みるが突然背後に展開された魔法陣から離れるべくバックステップで下がる。

 

そして、魔法陣から現れた人物に目を見開くほどの衝撃を受ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………お袋…」

 

「会いたかったわ。黎牙」

 

 

自分が殺した筈の母親———阿道(あどう) 美智恵(みちえ)がいたのだ。

 

 

一度として、見たことの無い笑みを浮かべながら歩み寄る殺した筈の母親に黎牙は後退りする様に距離を取る。

 

「おい、アジ!コレは幻術か!?」

『いや、お前は術にはかかってはいない』

『あのバストは間違いねぇーぜ☆』

『あのヒップも間違いねぇーぜ☆』

 

取り乱す黎牙は、相棒であるアジ・ダハーカ達に確認を取るものの、彼の期待を所々内容はアレだが、裏切る言葉を告げられていく。

 

「だが、お袋や親父は俺が殺したんだぞ!!」

『いや、おそらく肉体は本物を完璧に模倣した人形だ。だが、霊能力があるお前なら判る筈だ。あの魂は……』

『マジのヤツだぜ☆』

『オリジナルだぜ☆』

 

つまり、目の前にいる母親は人形に魂を入れられた存在という事になる。動揺が収まらない黎牙へと美智恵は、ゆっくりと両手を広げ歩み寄る。

 

「黎牙、お願い。そんな物を置いて、母さんの所に来て。貴方に謝りたいの」

「なん、だと…?」

 

「私は、お父さんに捨てられるのが怖っかったの。だから、捨てられないために黎牙に酷いことをしてしまった」

「…………………」

 

「お願い。母さんにもう一度チャンスを頂戴。黎牙とやり直したいの。本当の家族に戻りましょう」

「……………」

 

 

顔を伏せていて表情は確認できないが、剣を下げている黎牙へ美智恵は歩み寄り、両手で彼の顔を包み込み微笑ながら、ある言葉を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方を愛しているのよ」

 

 

 

 

その言葉を聴いた瞬間、黎牙の中でナニカが崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の…………俺の前で……オマエ(・・・)

愛している(・・・・・)” なんて口にするなぁ! 

反吐がでるんだよぉぉ!!」

 

 

 

瞳を憎悪の炎で染め上げ、怨嗟に満ちた黎牙は、なんの躊躇もなく、激昂のままに目の前の人形の頸を斬り落とした。

 

 

 

 

そして、視界の中にユラユラと揺らめく人魂目掛けて、左手を頸を無くした人形の胸部へと突き刺し、引き抜く。

 

 

血で染まった手の中にある引き抜かれた人魂を一瞥し、

 

 

黎牙は感情を消し去った様な冷たい形相で、

 

 

「消えろ。亡霊が」

 

 

握り潰すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

鳶雄は目の前に広がる光景に対して、目を疑ってしまった。

 

 

仲間である黎牙が、人を殺したという事に。

 

 

目の前にいる広がってしまっている現実に紗枝と夏梅は真っ青になり、鋼生と鳶雄は武器を取りこぼしてしまいそうになる。そんな4人を置いて、ヴァーリは頸を斬り落とされた女性の身体を調べに、ラヴィニアは心配する様にそれぞれ近寄っていく。

 

「なにが、あったのですか?」

 

そして、氷の様な冷たい貌となっていた黎牙は、ハッとラヴィニアに声をかけることで漸く鳶雄達の存在に気づく。

 

「…………………お前達には関係ない」

「話して貰えないのでしょうか……」

 

「うせろ。もう俺に構うな」

 

心配げに見つめるラヴィニアの静止を振り払い、何処かへ行こうとする黎牙へ遅れて鳶雄も彼に駆け寄る。

 

「待ってくれ黎牙。この人は……敵だったのか?」

「………………お…だ」

 

肩に手をかける鳶雄に答えるものの、黎牙の声は小さく鳶雄はもう一度聞き返してしまう。返り血に染まった黎牙は、何を思っているのか判らないがもう一度鳶雄の問いに答える。

 

「殺した筈の母親…だ」

「え…!?」

 

その言葉を聞き、鳶雄は転がっている女性の顔と黎牙を見比べ、たしかに類似する点を見付けてしまう。あまりの事実に鳶雄は何も言えずにいたのだが、

 

「正確には阿道黎牙の母親の肉体を模倣した人形だ。魂は無理矢理人形に繋ぎ止めていたようだがな。放っておいても、魂もろとも人形の肉体も崩壊していた。つまり、阿道黎牙は人を殺したのではなく、人の形をした人形を壊したのに過ぎない」

 

ヴァーリは調べた現状を述べる。

 

「俺が二度親を殺した事実に変わりはない」

「…………黎牙」

 

静寂な時間が流れようとしたのだが、更なる乱入者がこの空間へ侵入する。

 

 

 

 

 

 

 

「その通りだよ。悪しき邪龍いや、禁龍主」

 

聞こえた声へ視線を向けるとそこには、自分たちと同じ年ほどの眼鏡をかけ、青を基調としたブレザーを身に付けている眉目秀麗な青年がいた。

 

「…………………誰だ、虚蝉機関の残党か、それともギルバスの仲間か?」

 

思い当たる敵に黎牙は問いかけるものの青年は首を横に振るい、否定する。

 

「いや、僕は彼等を追う側の人間さ。名前は櫛橋、櫛橋青龍」

「櫛橋…五大宗家の当主の一角か……」

 

「そ、君の言う通り僕はまだ櫛橋の次期当主。ま、キミに言っても実感も興味もないかもしれないけど」

「そんなことはどうでもいい。その次期当主が俺に何の用だ?」

 

突然現れた櫛橋を名乗る青年に対して黎牙は冷静に相手の目的を探る。

 

「———虚蝉機関、キミとキミの背後にいるキミたちはそれに関わった。いや、不幸にも関わることになってしまった。で、結果的にはあの組織を崩壊させてしまった。そうなると、あそこを生み出してしまった五大宗家としても無視するわけにもいかない。さらに加えて、あの『グリゴリ』に協力している。…………これが最も僕たちにとっては重罪だ。僕たちと彼らは敵対しているからね」

「つまりアレか?お前達は、自分の身内から出たノミムシどもよりもクソゼルに協力している俺たちを殺したいってか?」

 

「そうだね」

 

飄々とした態度で黎牙のトゲがある言動に青龍は肯定する。それと同時に、黎牙は青龍の間合いへ入り、邪剣を振り下ろす。

 

「だったら、殺される覚悟もあるよな!」

「流石は邪龍。クレイジーだね!」

「待ってくれ!黎牙!!」

 

鳶雄の静止を張り切り、殺し合いを始める黎牙に対して、青龍も好戦的な笑みを浮かべ、全身から言い知れないプレッシャーが解き放つ。加えて、この周辺一帯に不自然なほどの強風を青龍は発生させ、迎撃として黎牙を吹き飛ばして見せる。吹き飛ばされはしたもののダメージが全く入っていないため、空中で一回転し、近くの建物を踏み台にし、青龍へ詰め寄る。

 

「何度やっても同じだよ」

「それはどうかな」

Enchant(エンチャント)!』

 

もう一度強風で迎撃を行うが、付加によって邪剣に纏われた豪雷によって相殺される。しかし、青龍は慌てることもなく青い『気』のようなものをその身に纏い出すと、ソレはやがて半透明な東洋の龍と変貌させ、手で印を結んで口から力ある言葉を紡ぎだしていく。

 

「『四緑木星をもって、風と成せ』!」

 

すると、彼を中心に正に台風を思わせる突風が発生する。背後にいる鳶雄達は、黎牙の加勢に行こうとするべく飛び出そうするのだが、

 

「黎牙、今助けにいくぞ!」

「邪魔するな!!」

 

鳶雄達に加えて、ヴァーリまでも覆うほどの夥しい数の術式による結界によって行手を阻まれ、黎牙に拒絶される。

 

「とことん、一対一(サシ)でやる気なんだね。いいね。だが、安心してくれ。キミを倒した後、次は仲間である彼等を同じ場所へ送ってあげるよ」

「俺に………仲間なんかいねぇーんだよ!!」

Liberate(リベレイト)!』

 

自分の魔法力を一気に刀身へと流し、そのエネルギーを斬撃として黎牙は放つ。しかし、青龍も黎牙の魔法力が邪剣へ行ったのを察知していたため回避行動を取っていたため、ダメージを与えられなかった。

 

「…チッ!」

「ハハッ!凄いや。君の邪龍が上か、僕の青龍が上か試してみたくなるね!」

 

予想以上に肉体戦が出来る青龍によって黎牙は先ほどから胸の内にある虚無感による怒りが更に増大していく。対する青龍も、思っていた以上に自身がこの戦闘を愉しんでいることに少々呆れながらも攻撃の手を緩めない。

より一層戦意が高まる2人はそれぞれ術を出すべく、青龍は新たな印を結び、黎牙は昨夜完成させた魔法陣を展開する。

 

「『三碧木星をもって、雷と成せ』!」

「焼き殺せ…クルイオス・ハザード!」

 

言霊と共に青龍は青い雷撃に対し、術名を口にした黎牙から黒い獄炎がそれぞれの標的へ進撃する。まるで、この世の総てを焼き尽くすのではと思えるほどに凄まじい黎牙の豪炎は、青龍の雷撃と拮抗し合う。だが、どちらも同等の威力を持っているためか、数秒と待たずに何方も消えさった。

 

「はは、コレは凄い。流石は消し去られし神滅具(ロスト・ロンギヌス)と言われる神器の所有者なだけはあるね。大したもんだよ」

「てめぇのその余裕なツラが、クソゼル並みに気に入られないな!!」

 

そして、2人から出ている青い東洋の龍と、黒い西洋の三つ首の龍のオーラがそれぞれ鬩ぎ合っていると、

 

「そこまでにしてもらおうか、櫛橋の次期当主よ」

 

二人の間に突如巨大な光のような雷光が降り注ぐ。

 

声のする方へ視線だけ向けると、掌に雷を纏わせたバラキエルがいた。

 

「彼は敵ではない。剣を収めるんだ」

「知るか、今の俺は虫の居所が悪いだ。俺の敵は俺が決める。お前が指図するな」

 

青龍への戦意を収めない黎牙を鎮めようとするバラキエルが試みていると、この全域に火の粉が舞う。

 

「——青龍、止めなさい」

 

その一声を聞いて、櫛橋青龍は驚愕し、黎牙への戦意だけでなく身体に纏わせていた青い『気』は消し去る。青龍の後方から姿を見せたのは赤いや朱色を基調としたブレザーを着た少女を見て、青龍はため息を吐きながら少女に物申す。

 

「………キミが来ているなんて、聞いていなかったな———朱雀」

「だって、教えていないもの」

 

何処か呆れるような青龍の言動に、朱雀と呼ばれた少女は、小さく微笑む。朱雀の登場によって戦闘が鎮火しようとしている空気だったのだが、2人の頭上へ黎牙を魔法陣を展開させる。そして、展開された魔法陣の中からは、先程黎牙が青龍に向けて放った強力な黒い炎による対象の細胞を焼きつくすまで止まらない半永続的攻撃魔法が呼び出された。

 

「邪魔だ」

 

バラキエルが黒い炎に驚愕した隙を突き、黎牙は一気に駆け抜け邪剣で未だに好戦的な笑みを浮かべ迎撃に出ようとする青龍へ斬りかかろうとするのだが、

 

 

「ダメなのです!!」

「(マズイ!)ッ!!」

 

黎牙の前に結界を抜け出したラヴィニアが割って入る。

 

危うくラヴィニアへ刃を向けかけそうになるのだが、黎牙は咄嗟に邪剣を自身の内に閉まったことで空振りにさせ、最悪の事態は回避する。

 

「もう離さないのです」

「むぐっ!?!?」

 

しかし、邪剣の斬り払いによる勢いを殺すことは出来ず、ラヴィニアの胸元に黎牙は顔からそのままダイビングしてしまう。

そして、ラヴィニアも黎牙を捕まえるのに丁度良かったためそのまま彼の頭を更にギュッと抱き締め、胸の中へ顔を(うず)めさせる。

 

「言うことを聞かないファングにはメッ!なのです!」

「////は、は離せ!!ハナセ!このポンコツ魔女!!」

 

「むぅ、そんな口の悪い子はオシオキなのです!!」

「やめろ!!この、バカ女!!!!」

 

先程とは打って変わり色んな意味で黎牙が男子として大変なことになり始めているので、鳶雄は急いでラヴィニアから彼を救出する。助け出された黎牙は、最近やたらと遭遇してしまう感触に手一杯なのか、青龍と朱雀への戦意を霧散してしまっていた。

 

『い、いい加減……慣れたら…どうだww』

『やーい、ムッツリドラゴン(笑)www☆』

『やーい、チェリードラゴン(笑)www☆』

 

「………てめぇら、後で覚えておけよ」

 

アジ・ダハーカに煽られる黎牙を見て、鳶雄はある決意を密かに内に固め、ヴァーリもよくヤられるためなのか、顔を真っ赤に染め、膝をついている黎牙の肩をポンポンとやさしめに叩くのであった。




シリアスさんは頑張った。
でも、やっぱり天然さんの行動力の方が上回っているようです。本当にシリアスさんは頑張ったよ。


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第5話 二つの黒

よし、今まで書きたかったアツいシリアス展開の話がようやく完成しました。
皆さん、シリアスさんに盛大に拍手を!!
それでは、どうぞ!!




黎牙と青龍の戦闘を止めた朱雀と呼ばれる少女は、五大宗家の一角である姫島家の次期当主であり、また、驚くことに鳶雄の『はとこ』でもあることが判明した。

青龍と朱雀と話し合いをする前に、黎牙は母親の魂が入っていた人形を火炎魔法によって塵にする。紗枝や夏梅は、黎牙に対して何か声を掛けようとするものの言葉が見つからなかず、その場にいるラヴィニアだけがそっと彼に寄り添い、血に染まった左手を優しく自分の手を重ねる様に包み込んだ。その後、返り血を浴びている黎牙は青龍達の話を全員で聴くために自分に魔法をかけ、返り血を落とし、元の深縹色のジャケットの下に白いTシャツに加えて、黒いズボンへと戻す。また、夏梅がかけさせた眼鏡は青龍との戦闘の際に破壊されたため無しである。

 

 

そして、場所は変わり、朱雀から話し合いの場としてオフィス街———その一角にそびえ立つ巨大かつ、彼女達が管理しているビルの屋上に設けられた庭園にあるペントハウス———和の趣が強い和室で鳶雄達と朱雀と青龍は対面するように腰を落ち着かせる。

 

朱雀はまず最初に一言告げる。

 

「先に言っておかねばなりません。先の『虚蝉機関』とのこと、彼らの暴走は私たち五つの家の過失です。あなた方を巻き込んだこと、あらためてお詫び致します」

 

深く頭を下げる朱雀。

その後ろに控えている青龍も頭を下げるが、どこか素っ気ない表情であるため鋼生も怒り心頭の様子だったが、前もってバラキエルが事前に抑えるように言い渡されている為に耐えている。

 

「グリゴリ同様、我々のほうでも『虚蝉機関』の残党と、その協力者たる魔法使いの集団———『オズ』を独自に追っています。彼らは我々の追跡を避けながら、追っているものがあると判明しました」

 

朱雀の話に対し、バラキエルが口を開く。

 

「……………残りの『四凶』だな?」

 

堕天使の幹部であるバラキエルの言葉に朱雀は静かに頷き返す。

 

「はい、とある県境の山間にある村に逃げ込んだとされる元陸空高校の生徒二名を、残党の機関員とオズの者たちが、追い詰めつつあると聞いています。現地に派遣している私どもの密偵の情報では、すでに双方の小競り合いを確認しています」

「「「「—————————ッ!?」」」

 

二人の会話に顔を見合わせる鳶雄達、元陸空高校の生徒。

 

「その密偵たちも先日、連絡が途絶えました。おそらくは………もう……」

 

目元を厳しくし、最悪の事態が起きている可能性があることを朱雀の表情から物語っている。そして、彼女の口から鳶雄達が知らない事実を聞くこととなる。

 

「おじさま、グリゴリに凶悪な部隊があったと聞いております。希少かつ凶暴な神器(セイクリッド・ギア)を有する者たちで構成された部隊……………『深淵に堕ちた者たち(ネフィリム・アビス)』。あなた方は『アビス・チーム』と呼ばれているそうですが?」

 

鳶雄達が初めて耳にする単語に訝しげな表情となり、バラキエルへ疑念の視線を向ける。

 

「……………バラキエル先生、初耳ですけど?」

「……………頃合いを見てから話せとアザゼルに言われていたものだからな。すまない、彼女の言う通り、我々を裏切った幹部であるサタナエルは、グリゴリを去る際にある部隊を引き連れていった。『深淵に堕ちた者たち(ネフィリム・アビス)』、その別名がアビス・チーム。彼らは……………サタナエルの教え子でもあり、その上、凶悪な神器(セイクリッド・ギア)所有者で構成されている。人間世界にいては悪影響を与えかねない危険な能力ばかりだ。それゆえ、我々グリゴリが保護下に置いていた」

「凶悪と言えば、禁龍主である彼はもっと危険だけどね」

「言ってくれるな。青蛇如きが」

 

朱雀の話を素っ気ない感じで聞き流していた青龍であったのだが、バラキエルの話に含まれる凶悪という部分に続くように好戦的な笑みを浮かべ、黎牙を挑発する。対する黎牙も自分たち邪龍が危険であることは重々承知しているが、額に血管が浮かび上がるほど気分を害している。そのため黎牙は青龍の挑発に対し、彼のみに猛烈な殺気を放つ。

 

「事実だからね。それとその呼び方は不快だよ」

「なら、今のうちに殺し合っておくか?」

 

そんな高まる2人の戦意と殺意を鎮める者がそれぞれの側にいる。

 

「………………青龍?」

 

青龍へ振り返った朱雀は、名を呼びつつ何故か微笑む。

しかし、彼女の眼は全く笑ってはおらず、炎の使い手にも関わらず、寧ろその瞳には絶対零度の冷たさを放っている。

 

 

「………………………………………ハイ」

 

対にする黎牙は、

 

「ファング、大人しくしてくれないとまたオシオキするのですよ!!」

 

隣に座るラヴィニアが頬をフグみたいに膨らませつつも、その眼にある本気度が伝わって来たことに加えて、先ほどの感触を思い出してしまう。

 

「……………分かったから、構えるな」

 

そのため少々赤くなっていく顔を手で隠しつつ殺意と戦意を鎮火させていく。

 

 

そして、漸く話は戻り、初めて聞く情報に鳶雄達は頭を捻らせていく。

本来ならば、グリゴリは制御できない強力な神器(セイクリッド・ギア)は処分してもおかしくはないはずなのだが、組織としても一枚岩ではないことも事実である。加えて、残された最後の四凶とされている饕餮、混沌を持つ少年と少女。彼等の名は、七滝詩求子と古賀雹介。

どちらも陸空高校では有名だった生徒達である。

朱雀はそこまで話して本題へ移る。

 

「一時的に共同戦線を張りませんか?」

 

その提案に驚く鳶雄達に朱雀は続ける。

 

「私たちが最優先すべきことは、機関の残党を捕縛することです。現状、彼らに関与した四凶やオズの魔法使いについては、こちらに敵対するのであれば対処するという立場を取ることにしています」

 

互いの目的の為に共同戦線を張ることに提案し、鳶雄達も残りの元陸空高校の生徒達が助けられるのならと、その提案に頷いていく中でただ1人反対の意見を出す者がいた。

それは、

 

「俺は反対だ。お前らが、オズの奴らとの戦闘の最中に裏切り、事件の当事者である俺達の口封じとして殺さない確証は何処にもない。よって、お前らは信用に値しない」

 

人一倍警戒心の強い黎牙である。

 

「だよね。キミは反対するだろうと思っていたよ」

 

黎牙の反対の意思が来ることは青龍自身も分かっていたか、何処か黎牙を小馬鹿にした様に相槌を打つ。そんな態度の青龍にとうとう我慢の限界が来たのか、鋼生が身を乗り出し彼に喰ってかかる。

 

「おい!テメェ、さっきから好き放題ウチのツンデレ邪龍のことをグチグチ言ってくれるじゃねぇーか。喧嘩売ってんのか?」

「事実を述べたまでさ。それに君達は、虐待を受けていたとは言え、何の躊躇もなく母親の魂を握りつぶすことのできる彼に対して、よくそんな風に接せられるね?」

「青龍、しつこいですよ」

 

「止めないでくれるかな。ここではっきりさせておいた方がいいだろ。まだ御し切れてはいないとは言え、他者の魂を直接破壊できるほどの霊能力を持つ彼は危険すぎる。それに、彼は君達を心から信頼していない。その証拠に、援護に入ろうとした君達を彼は拒絶した。そんな風に、他者を否定する彼を君達は「うるさいよ」…口を挟まないでくれるかな、幾瀬鳶雄くん?」

 

青龍の容赦のない言動はどれも当てはまっており、黎牙が仮ものとは言え母親を殺した事実に対して、完全には受け入れ切れていない紗枝と夏梅は反論するための言葉が見つからず、俯いてしまう。そして、青龍の話に割って入るように青龍を憤怒の形相で睨みつけ、戦意を出す鳶雄に、この場にいる全員が驚きを露わにする。

 

「黙るのはそっちだ。危険なチカラを持っているから何ですか?凶悪な邪龍を宿しているから何ですか?そんなものは、黎牙の存在すべてを否定する理由には何一つとしてならない。それに、人を殺したというのなら、憎悪のまま敵を斬った俺も同類です」

「聴いていたかい?彼は実の両親を惨殺しても、平気でいられる異常者だよ?」

 

「例え、実の両親を手にかけたという取り返しのつかない過去があっても、今の黎牙は俺達にとってかけがえのない仲間です。それに、あなた方は黎牙が命をかけて、暴走した俺を止めてくれる程に仲間想いな奴であることを知っていますか?俺の軽はずみな判断の際で暴走させしまったとは言え、俺達を殺そうとするもう1人の自分からボロボロになりながらでも護ってくれる程強い人間であることを知っていますか?口では憎まれ口を叩きつつも、俺達の身を案じてくれる程に黎牙が優しい奴だってことを知っていますか?そんなこともろくに知りもしない癖に、黎牙の総てを知っている風に語らないでくれませんか?」

「さっき彼は、君達を拒絶した事実をどう捉える気だい?これは君達を信頼していない行為だよ」

 

朱雀自身も鳶雄から湧き出る青龍に対する怒りを感じ取り、自分が口を挟めば余計に話を拗れさせてしまうため静観をする。それに加えて彼女は、鳶雄自身が黎牙をどう思っているのかも知るため彼等の話を見守ることとする。

また、バラキエルも今の黎牙には自分などではなく、ラヴィニアの他に鳶雄も必要であることを以前から感じていたため、鳶雄の黎牙に対する親愛をすべて吐き出させる機会であるとして聞き手に回る。

 

「例え、黎牙が俺達を信用するのにまだ抵抗があるとしても、俺は黎牙に仲間として背中を預けるともう決めています」

「おい、ふざけるなよ駄犬。何で俺がお前のガラッガラな背中を護らないといけない。自分の命くらい自分で守れ」

 

「その代わり俺達も黎牙の背中を護るよ」

「何で、お前はそんなにまで俺に構う!何故、お前はアイツらの様に俺を否定しない!!」

 

真っ直ぐな瞳をする鳶雄に対し、黎牙は自身でも抑え切れない止めどなく溢れる怒りのままに鳶雄に向けて邪剣を呼び出し、突きつける。咄嗟に紗枝と夏梅が黎牙を止めに入るため立ち上がろうとするのだが、バラキエルが2人を止め、黎牙と鳶雄を見守らせるように伝える。加えて、鋼生とヴァーリは青龍に対して邪魔をすれば、容赦はしないと戦意のある眼差しを向け、警告している。そして、朱雀もはとこである鳶雄を護るべく立ち上がろうとするのだが、ラヴィニアから今の2人を見守ってほしい気持ちを汲み取り、鳶雄に黎牙を任せることとする。

 

「そんな決まっているだろ……」

 

止めどのない怒りが溢れ続ける黎牙から突きつけられる邪剣の切っ先に鳶雄は恐怖を抱くこともなく、ただ静かに黎牙と真正面から向き合う。そして、ギルバスとの会合後から決めていたある決意を自分に再確認させる。

 

「俺は黎牙のことを仲間で、友達だと思っているから」

 

「————ッ」

 

自分の邪龍として生きると決めたのとは、異なる覚悟を鳶雄から垣間見た黎牙は酷く狼狽始める。

 

訳がわからない。

不条理的すぎる。

そんな物が何になる。

倫理にかなっていない。

 

様々な思考を巡らせ、鳶雄の言葉を否定しようとするのだが、何故か言葉を発することのできない自分に戸惑いの念を抱く。

 

「だからこそ、友達の存在すべてを否定するというのなら、俺は絶対に許さない。例え、それが神さまや魔王であろうとも」

「傲慢だね」

 

戸惑い続ける黎牙から一旦視線を外し、黎牙に対しての罵倒の言葉を発する青龍を睨みつけるように鳶雄は、自身の決意をこの場にいる全員に表明してみせる。

 

「それが人間だ。貴方だって当てはまることだ」

「ふっ、面白いね。流石は朱雀のはとこなだけあるね」

 

参りましたと言わんばかりに青龍は両手を上げる。

 

「(どうやら、歴代の者達は明らかに違うほどにキミは仲間に恵まれたようだな)」

 

鳶雄の覚悟を聞き、自分が心配するまでもないほどに黎牙には頼もしい仲間がいることに改めてバラキエルは鳶雄によって理解させられる。そして、鳶雄はもう一度黎牙へと視線を戻し、彼に向けて手を差し伸べる。

 

「だから、改めてお願いする。黎牙、彼女達と俺達に協力してくれ。もしもの時は、俺達が黎牙を護るから」

 

その言葉に対して、黎牙は顔を俯かせつつ手を鳶雄へ差し向けると思いきや、握り拳を作り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせぇ、気色の悪いことを口走るな」

「アダッ!?」 ゴツン!!

 

苦虫を噛み潰したような表情で鳶雄の頭をぶん殴った。

 

「「「「「「えぇ—————!!!!」」」」」」

 

和解する流れの様に思えていたため、朱雀、鋼生、ラヴィニア、紗枝、夏梅は揃って驚愕する。青龍は青龍で、何処か予想していたのか、やっぱり…と小さく呟きつつも何処か呆れた様子でもある。また、ヴァーリも同様に予想は出来ていたのだが、2人の反応が面白かったのか珍しく噴き出していた。

 

「ヴァーカ、俺はお前程度に護ってもらう程弱くねぇ。ったく、こんな甘ちゃんに心配されるとか、邪龍として屈辱だ」

「でも、殴ることはないだろ」

 

「うるせぇ。おい、青蛇に赤鳥、協力はしてやる。オズのババァどもとの戦闘中に俺に攻撃して来てみろ。どんなことをしてでも、俺はお前らの家の奴らを皆殺しにすることを肝に命じておけ」

「あ、赤鳥!?……い、いいでしょう。ですが、此方も貴方が私達に刃を向けた時は…分かっているでしょうね?」

 

「お前らが、俺の獲物であるギルバスのクソ野郎を取らない限りはある程度目を瞑ってやる」

「分かりました。ご協力、感謝します」

「ちぇー龍対決は、また今度かぁ〜」

 

まるで駄々っ子に様にする青龍をもう一度朱雀は睨みつけ黙らせた後、バラキエルがいくつかのやり取りをした後で、この場の話し合いは無事に終わりを告げた。

 

また、その過程で何処までも素直にはなり切れない黎牙を夏梅や鋼生、紗枝がからかいつつも、鳶雄の決意表明によって先程まで黎牙と自分達に生じて溝が狭まったのを感じ、各々がいつもと変わらぬ様子で黎牙に絡んで行くのであった。ちなみに、以上に絡み続ける鋼生をウザく思ったのか、黎牙を彼の溝に付加(エンチャント)で強化した拳を撃つのであった。加えて、その時の黎牙はいつもよりも悪人面が似合う様な悪そうな笑みを浮かべたためラヴィニアにオシオキされてしまったのは余談である。




クソー最後の最後に油断した隙を天然さんに突かれたぁぁぁぁ!!
行動力ありすぎでしょ、あの天然さん。
どうやったら、シリアスさんは彼女に勝てるんでしょうかね。
諦めるしかないのか………………。


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第6話 七滝詩求子

今回も書き溜めた話を3話分ですが、連続で同じ時間に日にちごとに投稿していきます。
それでは、どうぞ!


残りの四凶を宿す元陸空高校である2人を助ける為に集まった鳶雄、鋼生、夏梅、黎牙、ラヴィニア、ヴァーリに加えて紗枝はバラキエルが運転するワゴン車に乗り出発した。戦闘能力が皆無な紗枝は、暴走する危険性を抱えた鳶雄の抑え役として同行することとなった。また、アザゼル自ら紗枝が同行する理由を話す際に、鳶雄を止めるのは紗枝が持つ鳶雄に対する『愛』であると称した。加えて、コレは黎牙にも当てはまることだとニヤニヤ顔を浮かべたためキレた黎牙がアザゼルに準備運動と称して斬りかかったのは余談である。

 

そして、鳶雄達はアザゼルから渡されたアビス・チームに関する資料に目を通していた。彼等の神器(セイクリッド・ギア)は多種多様の能力を持っており、それぞれが持つ異能は非常に厄介かつ、強力にして兇悪である。能力に必要となる条件が総て揃った時こそ彼等の神器(セイクリッド・ギア)の真価は発揮され、凶悪で残忍な牙が剥かれる。それらの能力の詳細が記された資料に目を通していく黎牙は、あまりの厄介性に舌打ちを打ってしまう。

 

自分達が闘うアビス・チームの能力は、一度食らってしまえば、どれも取り返しのつかない効果が持っている。そんな凶悪な敵にどう立ち向かうのか、鳶雄達は頭を捻らせていくことで緊張感が増す車内の中で、ラヴィニアが己の過去を打ち明けていく。

 

「目的の場所に行くまでに、少し私のお話をしようと思うのです」

 

この彼女からの言葉に皆が耳を傾けていく。

 

「……イタリアのとある海辺の街で私は生まれたのです」

 

ラヴィニア・レーニは霊能力を有してはいないが、黎牙たちと同じく一般家庭の出生で魔法の才を有してこの世に生を受けた。

しかし、彼女は生まれながらに異能を有していた。

幼少の頃から、彼女の傍には氷の人形———十三の神滅具(ロンギヌス)の一つである『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』を具現化していたのだ。

幼い頃はそれが何なのか知らず、自分以外には決して見えないその氷の姫君を彼女は「氷のオバケ」として恐れていた。

そして、九歳の時に両親を事故で亡くし、常々誰にも見ることの出来ない「氷のオバケ」を語る少女を親類縁者は薄気味悪がり、ラヴィニアの引き取り先探しは難航した。

 

「そのときの私は、自身のこれからよりも、パパとママを失ったことによる深い悲しみと———『氷のオバケ』への憎しみに包まれていたのです」

 

「氷のオバケ」を恨み、憎み、罵っても離れず、何も見えない人達から見れば、ラヴィニアは誰もいない空に向けて、大声をあげて暴れる厄介な娘にしか感じ取れなかっただろう。

その言葉に黎牙自身にも覚えがあった。誰にも見ることのできない魂だけとなった霊体たちに話す自分を君悪がる両親。それを思い出してしまったことで自分は改めて両親には憎しみしか抱いていないことを再確認する。

 

誰にも理解されなかった時にラヴィニアは彼女と出会った。

己の師である、南の魔女グリンダと。

心優しい恩師によって閉ざされていたラヴィニアの心は少しずつ氷解し、自らの異能の源である神器(セイクリッド・ギア)と魔法の扱い方を恩師から教わっていく。

森での質素な生活でも、ラヴィニアにとっては掛け替えのない幸せな一時だった。

彼女が十三歳になった頃、この世界の魔法使いとして生きるのであれば、他の魔法使いと交流を持った方がいいという恩師の判断に従い、ラヴィニアはメフィスト・フェレスが率いる『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』で研鑽を積んでいく。

 

それから数年後———ラヴィニアに凶報が届く。

 

第二の親とも言えるグリンダが、オズから来た魔女によって、襲撃を受けたという知らせが。

 

「その報告を受けた私は、第二の故郷であるあの森に戻ったのです。ですが———」

 

森の一軒家は、焼け落ちており、炭化した家の残骸を残すのみとなった。

グリンダの安否だけは不明だが、オズから来た魔法使いたちが関与していることだけは、その後の調査でわかった。

ラヴィニアはオズの魔法使いたちを追い、その中で、彼女は先日の『虚蝉機関』、『四凶計画』に関わることになったのだ。

 

「……お師匠さまの安否を問うために戦っているってこと?」

「……彼女たちは要領よく答えないのです。ですから、オズに直接乗り込むか、こちら側で彼女たちがしていることに首を突っ込むか、とにかく、徹底的に追うことに決めたのです。これは、私の事情ですから、皆さんは皆さんの目的を叶えてほしいのです。邪魔はしません。私は私だけでも、彼女たちを追うのです」

 

普段の時は違う、冷徹な様相を見せる。

ラヴィニアの目的が分かり、鳶雄、夏梅、鋼生、紗枝は協力してくれたラヴィニアの目的に対して協力し合うと告げ、元々、事情を知っているヴァーリも力を貸すと言う。そんな中で、1人だけ黙々と資料を読み続けている黎牙へと運転席にいるバラキエル以外の視線が集まる。

 

「一つだけ聴かせろ。お前がよく口にするあの言葉は誰の言葉だ?」

 

視線を鬱陶しく思っているのか、少々不機嫌そうな表情をしつつもラヴィニアに問いかける。黎牙の問いかけの意味がよく分からない鳶雄達は、頭を傾ける中で、ラヴィニアはニッコリと彼に微笑みかける。

 

「ママの言葉なのです。どんなに辛くても、苦しくて、前を向くための最強の呪文なのです」

「けっ、随分と何処かの誰かさんに似て、頭の中は花畑の様だな」

「ちょっと!そう言う言い方はないでしょ!!というか、黎牙はラヴィニアさんに協力してくれるの?」

 

「協力なんてするわけないだろ。俺は邪龍だぞ?」

「なっ!?」

 

黎牙のあまりの返答に後ろの席にいる夏梅が彼に飛びかかろうとするのだが、何処か呆れた様な形相で言葉を発していく。

 

「だが、俺はあのババァが持つ『神滅具(ロンギヌス)』の聖炎に、興味がある。あのババァが命乞いをする際に、お前の里親のことをゲロった際にはついでとして伝えてやる」

『あの炎は中々喰いごたえがある』

『炎を喰われた時のババァの顔がどうなるのか、楽しみだぜ☆』

『ご自慢の武器を奪われました奴の顔はどれも堪んねぇーぜ☆』

「それでも十分なのです」

 

「あくまでついでだ。ついで」

 

その言葉を聞いたことで誰もが頬を緩ませていく。ラヴィニアの返しの言葉に対して、溜め息を交えながら受け答えた後、再び黎牙は資料へ目を通していく。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * *

 

 

時間は流れ、

人気のない森の中、車のハイビームで暗闇の道を照らすが、少し先は暗黒の世界。

深夜の森の中で進むワゴン車。目的の場所までもうすぐのところで、

 

「前!!」

 

紗枝が叫び、ヘッドライトが前方の道に人影らしきものを映し出す。

バラキエルは急ブレーキをかけて、車を緊急停止させる。そして、鋼生は後方の席から身を乗り出す様に訊く。

 

「なんだ!?」

「人よ! 人みたいなのが前にいたのよ!」

 

その鋼生の問いに夏梅が答え、突然の事にバラキエルはシートベルトを外し、車から飛び出て、周囲を探る。しかし、周辺を調べるも人影、人らしきものは一向に現れない。

 

「どこにもいないわよ」

「いや、いる。おい隠れていないで出てこい」

 

見間違いと思う夏梅に対し、霊能力を持つ黎牙は否定の言葉を述べ一旦車から降りる。バラキエルは車から降りることを静止させるよりも前に、周囲に彷徨う霊から直接聴いた黎牙はそのことをバラキエルへ伝える。そして、隣にいるバラキエルからライトを貰い、ある一点に光を当てる。

 

すると、そこにいたのは必至な形相をした一人の少女であった。

 

西欧人と思わせる顔立ちに暗めの色合いであるブロンドに特徴的なオッドアイ。右目が青く、左目が黒。

眉目麗しい少女は陸空高校の中でも一番の美少女とされた七滝詩求子(ななだるシグネ)であった。

彼女は命懸けで逃げてきたかのように制服は所々破け、顔も泥が着いているが、知り合いである黎牙を視認したため目を見開く。

 

「………あ、阿道くん?」

「そうだ」

 

先程まで警戒していた詩求子であったのだが、黎牙の後から続く様に車を降りて来た鳶雄達に驚き、その場にへたり込んでしまう。

 

「ちょちょちょ! 大丈夫!?」

「安心して、七滝さん」

 

座り込んでしまう詩求子に夏梅と紗枝が駆けより、やさしく手を伸ばしていた。同時に降りてきた鳶雄と鋼生も、残る同級生が無事だったことを受けて、緊張をいくらか解けて軽く笑みをこぼしていく。

 

「黎牙って七滝さんと知り合いだったのか?」

「バイト先が同じだったからな」

「「あーアレか…」」

 

同じく陸空高校出身である詩求子と黎牙は互いにバイト先が同じなこともあり、クラスは違うが顔見知りである。黎牙のバイト先という言葉に、鳶雄と鋼生は数時間前にあった珍獣とも言えるOKAMAを思い出してしまう。その際か、彼等はどこか苦虫を噛み潰したような表情になっていた。コレは割と失礼である。

 

「……あれが、七滝の神器(セイクリッド・ギア)か?」

 

そう言う鋼生と共に、鳶雄と黎牙の視線が詩求子の両腕に向けられる。彼女の両腕には、仮面のようなものを顔につけた小型の四肢動物を抱えられていた。その頭部には二本の角が生え、仮面のほうには饕餮文という四凶の饕餮について表した文様が施されていた。

紗枝たちに介抱されている詩求子だったが、少しだけ緩ませていた気をすぐに戻して、鳶雄たち血気迫る勢いで言う。

 

「ここから離れたほうがいいわ! 変な技を使う人たちと———」

 

そこまで言いかけた詩求子だったが、鳶雄の横に現れた刃が唸り声をあげたため遮られる。暗がりの道に向けて威嚇する刃に鳶雄たちは身構えると、いつの間にか虫の鳴く音が消え、じわりじわりと肌に敵意と殺意だけが伝わる。

 

「ふっ、明らかな殺意だ。おもしろい」

「……………この気配、魔法の術式ではないのです」

「……霊体たちの気配も消えたか」

 

ヴァーリとラヴィニアも車から出て臨戦態勢を取った時、コッコッコッ、と奇妙な乾いた音が一定のリズムで前方から消えてくる。

 

そして、鳶雄達の前にそよ姿を見せたのは五十センチほどの一本足の不気味な石像であった。背中に小さい翼を生やし、頭部には一本の角、一つ目であろう目は閉じている。

黎牙は資料に出ていたアビス・チームが所有する神器(セイクリッド・ギア)の能力を思い出したのと同時にバラキエルは皆に叫ぶ。

 

「目を閉じろっ!」

「ちっ!」

『Enchant!』

 

突然震え出す石像。全員がバラキエルの指示のもと、目を閉じ、さらに腕で両目全体を覆う。

 

「…こ、コレは一体!?」

 

しかし、いつまで経っても何も起こらないことに不審に思い、鳶雄達は各々が目を開けた時、自分たちが漆黒の空間———影の結界によって包まれていることに気づかされる。

 

「光に対抗するのなら、影だ。俺の影に一時的とは言え、外部からの光を完全に遮断する効果を付加(エンチャント)させた」

「助かったよ、黎牙!」

 

「あくまで、コレは外部から身を護るものだ。加えて、今結界より外がどうなっているかは不明だ。全員失明をしたく無ければ気を抜くな」

 

鳶雄からの礼対しても相変わらずの態度で接しつつも、全員の身を護りなおかつより一層警戒を促す黎牙に内心で感謝の言葉を全員が送る。

 

「アレは輝失の呪像(ブライン・シャイン・スタチュー)。放つ光をまともに浴びると徐々に視力を奪われ、状況次第では完全に見えなくなる神器(セイクリッド・ギア)だ。阿道の咄嗟の行動は、正しい判断だ。彼が防いでいなければ最悪の場合、目蓋の隙間から光が入り、失明をしていた恐れもあるからな」

 

バラキエルの言葉から改めてアビス・チームの構成員の恐ろしさを痛感していると、

 

「ぷぷぷ、うぷぷぷ」

 

不快な笑い声を上げながら、鳶雄達の前に姿を現したのは自分たちと同じ『堕ちてきた者たち(ネフィリム)』の制服と似たものを着た痩せ型の男だ。

そして、その男の足元には先程の石像も鎮座している。

 

「……目がどんどん見えなくなってほしい……目が見えなくなっていく感想を聞かせてほしい………」

 

男は不気味な言葉を発し、足元にいる石像の目を開かせようとするが、

 

「スラッシュ!」

「行け!」

「伸ばせ!」

 

黙って攻撃をさせる鳶雄、鋼生、夏梅ではなく、反撃の狼煙をあげられる。自分が攻撃されていると言うのに、不気味な笑みを絶やさない男を不審に思っていると、

 

「阿道くん、石像は二体いるよ!」

「っ!ヴァーリ!」

「承知した!!」

 

その一声にヴァーリと黎牙は同時に振り返り、手元から銀色のオーラ、邪剣に漆黒のオーラをそれぞれ纏わせ、背後にいる目を開こうとする二体の石像をそれぞれ破壊する。

 

「ラヴィニア!」

 

そして、バラキエルがラヴィニアの名を叫ぶと、彼女は魔法陣を展開させ、相手の男に炎による攻撃魔法を放つが、ダメージはなかった。ラヴィニアの攻撃を受けてもノーダメの男に警告として、バラキエルは掌に雷光を顕現させつつ威嚇する。

 

「これ以上、私たちを相手にするほど、そちらも愚かではないだろう?」

 

数百年近くも生きる堕天使の組織———グルゴリの最高幹部であり、武闘派でもあるバラキエルの言葉に男は不気味な笑みを絶やすことなく、闇の中へと消えていく。

男が消えたことで、虫の鳴き声が再開され、殺意もなくるなると、鳶雄達は戦闘を終えて汗を手で拭う。息をつく鳶雄達チームに詩求子は思い出したかのように皆に切迫した様子で言う。

 

「古閑くん!皆、古閑くんが…………っ!あっちにある村の先で戦ってるの!」

 

この言葉によって、この場にいる全員がこれから起こるであろう戦闘に対し、より一層警戒心を上げてゆく。

 

この森での彼等の闘いは、まだ始まったに過ぎない。

 

そして、この闘いの中で黎牙に眠る“災禍の力”も

 

目醒めの鼓動を大きくさせ続けてゆく。




次回も17時00分に投稿しますので、よろしくお願いします!


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第7話 古閑雹介

最近、堕天の狗神がコミック化したようなので、割といつも以上にテンションが上がり、何十回も読み返してしまいた。正直言って、私は原作のハイスクールdxdより堕天の方が面白いと感じています。
でも、原作のアジ・ダハーカを含む邪龍たちは大好きです!!

後書きにヒロインアンケートを次回まで出していますので、ご協力ください。そのアンケートの結果を基にし、きちんと自分で考えた後、ラヴィニア以外のヒロインを決めようと思います。


詩求子の進言により鳶雄達は近くの静かすぎる村の近くへ来ていた。この際、バラキエルはヴァーリに村へ偵察へ行くように指示する。そして、めんどくさがっていたヴァーリが調べた結果、村にいる住民はすべて、その場で『オズの魔法使い』もしくは、『虚蝉機関』の術で眠らされているようであった。このため、詩求子が自分がいくら助けを求めても返事がない理由に納得する。また、この際にヴァーリと黎牙は眠らされている方が余計なモノを見られずにすむだけでなく、いざとなった時に始末しやすいようであると村の状態を見て判断する。その事実に詩求子を含む鳶雄達——元陸空高校生は背筋を凍らされるような感覚を覚えるほど戦慄する。

 

そして、村の状態を確認した際にバラキエルは裏切り者の幹部サタナエルのオーラを感じ取ったため、後1人の四凶の神器(セイクリッド・ギア)を宿す 古閑(こが) 雹介(ひょうすけ)の元へは鳶雄達に任せ、自身は其方の方へ向かっていく。また、その際にヴァーリと黎牙はサタナエルの元へ共に行こうとしたのだが、ヴァーリは禁手(バランス・ブレイカー)である鎧をまだ使いこなせていないため、黎牙はそもそも禁手(バランス・ブレイカー)にも至っていないためというそれぞれがまだ力不足であることを理由に同行を拒否される。本人達もそれは理解しているため不服げではあるが了承した。

 

そのため、バラキエルがいない状況の中で鳶雄達は緊張感に包まれる空気に、

 

グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜!!

グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜!!

 

2つの腹の虫が鳴り響く。

 

その音の元凶を黎牙は半目で呆れつつ、自分の携帯食料を渡す。

 

神器(セイクリッド・ギア)揃って大食いか……」

「////ありがとう、阿道くん…///」

 

黎牙からの携帯食料を手渡された腹の虫を鳴らせてしまった元凶———詩求子は顔を真っ赤にしながら、自身が知る黎牙と変わりないことに対する安堵と乙女として色々恥ずかしい羞恥が入り乱れた顔で礼を述べる。そして、黎牙に続くように鳶雄達もそれぞれの携帯食料を詩求子に渡していくのだが、

 

「ポゥッ!」

「フガッ!?」

「ポ、ポッくん!?」

 

何を思ったのか、腹の虫をなり続ける詩求子の神器(セイクリッド・ギア)である饕餮———ポッくん(詩求子が命名)が黎牙の顔面に向けて大口を開けて飛びついてしまう。突然のことでもあったため、黎牙は反応することが出来ず、視界のすべてがポッくんの口内で塞がれ、勢いのまま背中から倒れてしまう。

 

「ポゥ〜〜〜〜」

「フガフガフガ###フガァァァ###!!」

 

あまりの事態に顔面を甘噛み?され続けている黎牙を除く全員がその場で硬直するほどに驚愕している。

 

「こ、コラ!ポッくん、阿道くんを食べちゃダメ!!」

「そ、そうよ!!今すぐペッしなさい!!」

「お、おお腹壊すよ?」

「いや、それ以前に黎牙……キレてない?」

「ぜってぇーキレてるぞ、あのツンギレ邪龍」

「くくく、邪龍である阿道黎牙を恐れず食いにかかるとは……くく…」

「ファングはとってもポッくんと仲良しなのですね」

 

漸く再起動した宿主である詩求子は慌ててポッくんの後ろ足を引っ張りながら叱るものの離す気配はない。そして、時間と共にポッくんの口内の空気が減っていくにつれて、黎牙のイライラも募っていくのが見て分かったため、急いで他のメンバーが行動に移っていく。笑っているヴァーリを除いて鳶雄、鋼生、夏梅は詩求子と共にポッくんを引っ張る側へ、紗枝とラヴィニアは邪剣を取り出す程にブチ切れ始めている黎牙を抑える側へ、それぞれ回る。

 

そして、漸く解放された黎牙であったのだが、顔中はヨダレ塗れな上にポッくんの歯形がキレイに付いていた。

 

「「「「「「………ぷっ!」」」」」」

 

ポッくんを叱る詩求子と尚も笑い続けているヴァーリを除く鳶雄達は真正面から黎牙の惨状を目にしたため、全員が吹き出してしまう。

 

「…コロス」

 

その結果、ハイライトを失った瞳で、額に血管をいくつも浮かび上がらせる程にキレている黎牙は邪剣を取り出し、鳶雄達に猛烈な殺気を全開にする。

なんとか、全員で黎牙をすることで怒りを鎮静させることには成功したものの、全員が漏れなく拳骨を喰らうことになったのは、余談である。

 

 

 

 

* * * * * * * * * * *

 

 

詩求子の案内の元、雹介の救出へ向かう道中にて。

夏梅は詩求子に総督の助けを拒否した疑問を投げると、詩求子と雹介は『虚蝉機関』ではなく『カオスをもたらす者たち』に捕まり、実験みたいなことをされ、そこで雹介は組織の幹部とも思われる偉い人と『なんらかの取引』をしたと語る。

 

「その偉い人に何かされた古閑くんはね、怖いことになってて……………」

 

言い淀む詩求子の表情には、不安と恐怖が立ち込めていた。

 

「何だよ、古閑が怖いことになったってよ」

 

鋼生の問いに詩求子が答えようとするのだが、山の方から轟音が鳴り響き彼女の言葉はかき消されてしまう。尋常ではないその音に全員の視線が向けられる中、詩求子はポッくんを抱きしめ、近くにいる黎牙の服を掴んで声を絞り出す。

 

「…古閑くん、またなったんだ…………っ!」

 

震える詩求子は怯えているのを見た上に、前方から尋常ではないオーラを感じ取った鳶雄達はそのオーラの発生している場所へと駆け出す。

 

 

雹介がいる場所に向かうと、そこには森閑とした田舎風景からはおよそ想像できない物々しい炸裂音や破砕音が聞こえてくる。雹介が戦闘に巻き込まれているのは確かであるため、森の中に進んで行く一行だったが、走りながらヴァーリが独り言をつぶやいていた。

 

「何?どうした?……………何だと?それは本当なのか?」

「ヴァーリ、あれ何かわかるの?」

 

夏梅がヴァーリにそう訊くが。

 

『どうやら、ここにいる者たち全員に聞こえるように話したほうがいいかもしれないな』

 

聞き覚えのない声がヴァーリの方から聞こえた。

 

『皆と話すのは初めてだったか』

 

全員が視線を向けると彼の肩に乗っけているドラゴンのぬいぐるみの口が動き、声を発していたのだ。それを待っていたかと言わんばかりに、黎牙の頭の上にずっと乗っかっていたアジ・ダハーカの意思が通されている黒い3つ首のドラゴン型デバイスが口を開く。

 

『おいおい、漸く口を開いたか!アルビオン!!』

『ずぅーと無視ばっかしやがって!この白蛇が!』

『ずぅーとクソガキとしか話さねぇ糞ニートが!』

『えぇい!黙れ!アジ・ダハーカ!貴様達が居ては話が前に進まんではないか!!』

 

「…アルビオン……おい、ヴァーリ。そいつは、もしかして、ウェールズの白い龍。白龍皇の白い龍(バニッシング・ドラゴン)か?」

「あぁ、その通りだ。珍しく、出てきたかと思えば喧嘩のようだ」

 

『おいおい、釣れねぇーこと言うんじゃねぇよ。殺し合った仲じゃねぇか?』

『ヤンチャしまくったじゃねぇか?』

『気に入らねぇ奴も殺しまくったじゃねぇか?』

『とりあえず、貴様たちはもう黙れ!!……んんッ!改めて、阿道黎牙が説明したように私の名はアルビオン。ヴァーリに宿っている龍だ。今まで挨拶が遅れていたことに関して詫びよう』

 

『俺達を無視し続けたことも詫びろ』

『謝れ☆謝れ☆』

『ド☆ゲ☆ザ☆』

 

目の前で繰り広げられるプチドラゴン喧嘩に全員がどう反応していいのか、困惑している中で黎牙は唯一アジ達の性格を分かっているので、ヴァーリに同意を求めつつも、声の主たるアルビオンの正体を看破する。久しぶりの旧友?に会えてテンションが上がっているのか、アルビオンを煽るのを辞めないアジ達に対して、黎牙はデカイ溜め息を盛大に吐き、

 

「アジ、一旦黙れ。クソゼルの高い酒をくすねておくから、それで手を打ってくれ」

『『『まかせろ!!』』』

 

少しの間だけ神器の中へ戻って行ってもらった。

 

「話を続けてくれ、白龍皇」

『感謝する、阿道黎牙。では、改めて先ほど、前方の山から上がった巨大なオーラだが、あれはとある現象に非常に似ているのだ』

「…………とある現象?」

 

話の真意が見えて来ず、問い返す鳶雄にアルビオンは話を続ける。

 

神器(セイクリッド・ギア)は、所有者の力量、または体と心に劇的な変化が訪れたとき、別の領域に至ることがある。それこそが——』

『『『禁手(バランス・ブレイカー)だ!!!』』』

 

『えぇーい!!いい加減しろ、アジ・ダハーカ!!』

『『『無理☆』』』

 

そして、アルビオンの話の最後の部分を横取りする様に、またもやアジ・ダハーカが割って入る。

 

禁手(バランス・ブレイカー)とは、神器(セイクリッド・ギア)の力がある領域に達したとき発現するという、最終到達点とされる現象のことを指す。

 

その影響力は、基本的にあり得ないほどのパワーアップが起こるとされているが、所有者しだいで、その現象は異例な力を形になることもある。

 

『もういい!貴様らは無視する!!いいか、皆よく聞いてくれ。かのオーラの波動はその現象に非常に似ていた』

「似ていたとはどういう意味だ?古閑のあれほどのオーラは禁手(バランス・ブレイカー)に至っているんじゃないのか?」

 

アジ達にキレつつも腑に落ちないアルビオンに説明に尋ねる黎牙に対し、アルビオンは言葉を濁す。

 

『………わからない。私や、そこの邪龍は禁手(バランス・ブレイカー)をよくわかっている。しかし、あくまでアレは似ているのだ』

『どちらかと言えば、その一歩手前の『邪龍礼装(マリシャス・ドライブ)』に限りなく近い物とも言える』

『いやいや暴走状態も近いゼ☆』

『覇龍にも限りなく近いとも言えるゼ☆』

 

アジ達とアルビオンからの言葉を聴いても疑問しか出てこないこの状況で、ついに鳶雄達はオーラが発せられた場所まで辿り着き、ラヴィニアの魔法で作られた光明が、辺りを照らす。

 

「うっ!」

 

思わず言葉を詰まらせるたのは夏梅であった。そこには血に塗れた凄惨な光景だった。切り刻まれた者、腕や足を飛ばされた者、頭部をぐちゃぐちゃにされた者。むごたらしい死体がこの一帯に倒れ込んでいた。

紗枝や詩求子は悲鳴を無理矢理手で押し込めて、顔を背けていく中で黎牙は、

 

「(何が気持ちが悪いのか、全く理解ができない。あの時と対して変わらない。ムシや鳥が死んでいるのと同じようにしか思えないな俺は)」

 

改めて自分は人間的に破格しているのを1人感じている。

 

目の前に広がる目を背けたくなる場所の中で、唯一動く何かがあった。

 

鳶雄はそちらにライトの光を当てると、そこには四凶の最後の1人———古閑雹介がいた。

ボサボサ気味に所々金のメッシュを入れており、全身に言い知れない怪しいものを纏わせている。右腕に籠手らしきものを装着しているが、鳶雄達は気になったが、雹介は詩求子がメンバーの中にいることを知ると、まるでいつも変わらなぬ様子で軽い口調のまま話しかけてくる。

 

「おっ、七滝じゃんか。戻ってきたのか。どうかしたのかって—————これはまた」

 

詩求子の周りにいた鳶雄たちにも気づき、指で一人一人指して数えていた。

 

「えーと、幾瀬、阿道、鮫ちゃん、皆川と東城………それに外国人が二人と。もしかして、四凶揃い踏み……の割に、このままだと七凶になるか?」

 

首を傾げながらそう漏らす彼の傍らには、黒々とした毛の塊のような物体が存在していた。ソレに視線を集中すると、毛の長い犬種のような生物なのだが、その生物が纏うオーラは、不安を感じさせるほどに黒く淀んでおり、アジ・ダハーカが言っていた黎牙の暴走状態と酷く酷似するほどモノであった。

 

「ああ、こいつはブリッツ。俺のセイクリッド・ギアって奴という話だ」

 

四凶の最後の一角—————『混沌(こんとん)』。

別名、混沌はカオスとも言える。

鳶雄の刃と古閑のブリッツは互いに共鳴し合うかの様に目を合わせ、鳶雄達はそれを静観していたが、雹介は肩を竦めながらも、

 

「まぁいい。それより———」

 

視線が山中の奥を捉え睨む。

 

すると、山の奥より、闇と共に現れたのは紫色のローブという魔法使いの恰好をした初老の女性外国人が現れた。

 

その2人組に黎牙達は覚えがあった。

 

『虚蝉機関』のアジトで黎牙とラヴィニアが矛を交えた神滅具(ロンギヌス)所有者である紫炎のアウグスタと、闘いの際にずっと静観していた弟子のヴァルブルガが背後にいる複数人の魔法使いを引き連れて現れたのだ。

 

「囲まれたのです」

 

ラヴィニアはアウグスタを睨めつけながら、戦意を全開にする。

 

「『虚蝉機関』の連中が苦戦していると聞いたんでね、弟子たちとここに来てみれば——狗神に加え四凶どもと、禁龍主、白龍皇、グリンダの弟子もいるとはね」

 

愉快そうな声音でそう言うと、この場を冷気が支配し始める。季節違いの冷たい空気、その発生元であるラヴィニアは怖いほど冷たい表情となっており、白い息を吐きながらアウグスタを捉え続ける。

 

「ちょうどいいのです。トビーや夏梅たちのお友達を助けながら、あなたたちを一掃するのですよ」

 

ラヴィニアの挑発にアウグスタは不敵な笑みを浮かべていく。

 

「グリンダの弟子とは思えないほど、怖い眼をするね」

「……………あなたたちがそうさせたのです」

 

『Liberate!』

 

 

緊迫感が増す状況の中で、突然の能力発動音と共にアウグスタへ向けて、鋭いエネルギー波の斬撃が放たれた。真正面から攻撃を受けたのだが、アウグスタは自分の周りに防御の結界を多重に張っていたため無事である。

 

「おやおや、禁龍主の坊やは随分とせっかちだね?年寄りの話はきちんと聴くものだよ」

「うるせぇババァ。俺はな、クソゼルと長い話が大嫌いなんだよ」

 

こんな時でもアザゼルへの敵意を全く隠さない黎牙は、邪剣に深縹のオーラを纏わせつつ、静かに近くで死んだ虚蝉機関の構成員の魂を『禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)』へと吸収させ続けていく。

 

「やれやれ、最近の若い者は血の気が多いね。そう思わないかい?」

 

肩を竦めつつ横目で、相槌を打つ様に話しかけると、突然アウグスタの隣りから魔法陣が展開され、黎牙にとっての仇敵が現れる。

 

「いやはや、それには激しく同意しますよ。アウグスタ殿」

「…………ギルバス…っ!」

 

愉快そうな醜悪の笑みを浮かべながら現れたギルバスに対し、殺気を全開にし、邪剣の切っ先を向ける。そして、アウグスタは戦意を昂らせるギルバスと黎牙から視線を戻し、ラヴィニアへ向き合うと、

 

「グリンダのこと、教えてあげてもいい。ただし、私に勝てたらだけどね————ついてきな、氷姫」

「では、次なるステージで剣を交えましょう。禁龍主よ」

 

ギルバス共に別方向ではあるが、夜の山の闇に消えて行く。

 

「……………っ!」

 

この場から距離を取ったアウグスタにラヴィニアはどうするべきなのかの判断に苦しんでいたのだが、

 

「おい、ラヴィニア」

「は、ハイなのです」

 

黎牙が突然自身の名を呼んだため、返事をしつつ其方へ向きあう。

 

「お前は自分のやるべきをな果たしてこい。何のためにここまで来たのかを思い出せ」

「で、でも………」

 

追いたくも、仲間を置いてまでアウグスタを追う訳にもいかない彼女に、黎牙は珍しく背中を押すように告げると、笑みを浮かべる夏梅も彼女の背中を後押しをする。

 

「黎牙の言う通りよ!お師匠さまの手がかりが掴めそうなんだから、追わなきゃダメよ!ここは私達でなんとかするから!」

 

紗枝たちも黎牙と夏梅の意見に応じるように頷き、彼女に行けと促す。ラヴィニアは仲間の厚意に感極まった表情となったが、すぐに意識をアウグスタの去って行ったほうに向けて行く。

 

「俺達で弟子の方を捕らえておくから、ラヴィニアさんは自分の目的を果たしてくれ!」

 

そして、紗枝を背中に隠すように庇いながらも影から創り出した鎌を構えた鳶雄もラヴィニアの背中を押す言葉を述べる。

 

「ファング、夏梅、トビー、皆さん、ありがとうなのです!」

 

彼女が駆け出したのを確認し終えた後、黎牙もギルバスの元へ駆け出していく。

 

「俺達は信じてるぞ!黎牙!!」

「しっかりやれよ!ツンギレ邪龍!!」

「帰ったら、一杯ご飯作ってよね、黎牙!!」

「阿道君、私はまだ話してないこと一杯あるから帰って来てね!」

「阿道くん、せっかく逢えたのに、お別れするのは嫌だよ!」

 

後ろから次々に聴こえてくる鳶雄、鋼生、夏梅、紗枝、詩求子の言葉に小さくだが、うるせぇ…と受け答えつつ、ギルバスの殺気が来る場所へ向かっていく。

 

「待っていましたよ。禁龍主いえ、阿道黎牙。如何でしたか、櫛橋と闘う前の余興は?」

「………やっぱりアレを出したのは、お前か」

 

「えぇ、私も霊能力者でありますから、アレくらいはできますよ」

「お前、あの時の霊は視えていないというのは、やっぱり嘘か」

 

「はい。お察しの通りです」

「どうでもいい。お前を殺して、あのババァの聖炎を喰らうとするぞ!アジ!!」

『『『おうよ!!』』』

 

「キヒヒ、愉しい死のダンスと参りましょう」

 

自身の禁手(バランス・ブレイカー)である魔劔の巨人(ディアボロズ・ブレイド・ゴーレム)を背にし、愉快そうに両手を広げるギルバスと、強大に膨れ上がった黒い龍のオーラを纏った黎牙の死闘が始まった。




《コソコソ噂話》
アジたちが鬱陶しく、関わればロクなことがないのを知っているためアルビオンは彼らに話しかけられていても、
ずぅ————と無視し続けていました。
そのため、拗ねたり、駄々っ子の様にジタバタするアジ達に対し、黎牙は定期的にアザゼルの部屋からお酒を盗み、バラキエル、コカビエルといった幹部達には麻雀で勝ち取って、アジ達に渡しています。黎牙自身は飲みません。未成年でもあり、父親を思い出すため、飲んでいるアジ達の傍らで魔法の研究または素振りをしています。


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第8話 囚われし氷の姫君

いや〜中々接戦でしたが、アンケートの結果、大食い娘っことシグネさんをヒロインとして採用することに決定しました。しかし、現在の所ラヴィニアの方が圧倒的に有利!!さて、どうアタックするのか期待して下さい!!
そして、アンケートにご協力くださった78名の皆様ありがとうございました!!ラヴィニア一択という意見も多い状況でしたが、どうかこれからも楽しんでいただけたら嬉しいです。

さらに、第二章につきましては、あと3話くらいで終わります。
それではどうぞ!!



暗い森の中。

激しくぶつかり合う金属音とともに、雷でも落ちたかのような爆発音が鳴り響いていく。

鳶雄たちと別れた黎牙は1人、魔剣創造(ソード・バース)聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の異なる二つの神器(セイクリッド・ギア)を持つギルバスと剣を交えていた。迫りくる幾つもの聖剣の雨を躱し、真上から振り下ろされる劔でできた巨人の凶刃に対し、

 

「舐めるな!!」

『Enchant Trinity!』

 

筋力強化を三重に付加(エンチャント)させ、迎え撃つ。

本来なら押し潰されてもおかしくないのだが、黎牙は身体強化の魔法も両脚に施していることもあって、全長5メートル近くあるギルバスが持つ神器の亜種の禁手(バランス・ブレイカー)である魔劔の巨人(ディアボロズ・ブレイド・ゴーレム)の片腕である凶刃と拮抗している。

 

「くらいやがれ!禁龍波!!」

『Liberate!』

 

先程まで吸収させておいた霊体たちの力を刀身へ付加(エンチャント)させていたため、より一層威力が上がったことで、刀身の闇はより強くなり、三つの黒い龍を形どる衝撃波は劔の巨人を押し返す。技を放った隙を狙い、ギルバスは黎牙の懐へ入り、聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の亜種の禁手化(バランス・ブレイカー)である極めし聖なる一刀(エクセラム・オブ・ブレイズ・セイバー)で鋭い袈裟斬りを放つ。

 

斬り裂かれた箇所から血飛沫を撒き散らし、黎牙はその場に倒れてしまう。

 

「がはっ!?……く、くそ…」

「………おかしい」

 

明らかに手応えの無さを感じたギルバスは、起き上がった劔の巨人へ倒れ伏した黎牙に対し、3メートルもある刀身をした両腕を振り下ろすように命じる。すると、倒れ伏した筈の黎牙は急に爆発し、その場を黒い霧で支配する。

 

「やはり、幻覚による偽物」

「気づくのが、遅れたな」

 

声のする方へ視線を向けると、無傷の黎牙が空中に浮いていたのだ。しかし、それだけではなく黎牙の更に真上に巨大な魔法陣が展開されている。あの時、禁龍波を放った際に黎牙はワザと隙をできた様に見せかけて、斬り掛かってくるであろうポイントに罠として、幻覚魔法を聖剣の雨を掻い潜りつつ足元に描いていた。このため、黎牙はギルバスが攻撃して来たのと同時に高度の幻覚魔法を展開させ、一瞬のもの間ギルバスから本体である自分を隠すしてみせた。

 

「しまっ!」

「焼き殺せ!クルイオス・ハザードォォォォォ!!」

『Enchant Double!』

 

そして、禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)で炎の強化、魔法展開の速度倍増の付加(エンチャント)を行なったため、青龍と交戦した時よりもパワーアップさせた自身が考えたオリジナルの獄炎魔法———

《クルイオス・ハザード》を放つ。魔法陣から展開された黒い獄炎は、まるで龍のように形作られ、標的であるギルバスへ一直線にその牙を剥く。

人間にとって死角とも言える真上からの攻撃によってギルバスは回避することも出来ず、劔の巨人諸共黎牙の獄炎をその身に受ける。劔の巨人と獄炎の衝突によってとてつも無い爆煙が立ち込める。自身の最大魔法を放ったため黎牙は、一旦地上に降り立ち、近くの木に邪剣の刃を突き立てると、

 

「吸い付くせ」

『Absorb!』

 

吸収の力を使い、木から生命『力』を奪い取った。

これにより、木は一瞬にして枯れ果てさせ、消費して魔法力を多少回復させていると、

 

「さ、流石ですね…はぁはぁ………これほどの魔法を創り出した上に、神器で強化させるとは…恐れ入りましたよ」

「ちっ、しぶといな」

 

右腕と右脚を焼き尽くされても尚、何とか生きているギルバスが現れる。背後には劔の巨人の残骸と思しき、刃が幾つもあり、その全てが黒い獄炎によって焼かれ続けているところを見ると、巨人を身代わりまたは、燃え続ける部分を切り落としたとしか思えない。加えて、少々息は絶え絶えではあるが、彼の顔には、醜悪な笑みが絶やされてはいない。

 

「そう言わないでくれませんかね。もうじき、アウグスタ殿がそちらの氷を司る姫君を手に入れるところなのですから」

「何っ!?おい!どういうことだ!!」

 

「おっと、私としたことが口が滑りました」

 

拙い演技かのようにワザとらしく口元を、細かい小さな魔剣で作った義手で隠すギルバスの意味深の言葉に黎牙は訝しむ。

 

俺達の中にいる氷使いはラヴィニアただ1人。

だが、彼女が強いことは魔法の修練の際に嫌というほど分かっている。そんな彼女が捕らえられる様な事態はまず起こらないだろう。なら、師匠であるグリンダを人質にしたとしても、ラヴィニアが素直に従うとも考えにくい。加えて、ギルバスは『手に入れる』と言った。

 

 

つまり、洗脳ではあくまで操り人形となる。だが、アジ達の様に肉体を乗っ取るということならば。

そして、それほどなまでに精神が弱らせることのできる手札はオズの魔法強いたち————アウグスタは有している。

 

「まさか!?」

『Enchant!』

 

「キヒヒヒヒヒ、行っても既に手を遅れですがね。

さて、貴方が私以上の存在であるかどうか確かめさせて貰おうか

 

敵であるギルバスに無防備にも背を向け、焦る黎牙は神速の魔法とともに、脚力強化の付加(エンチャント)を行い、暗い森を尋常では無い疾さで駆け抜けてゆく。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

もう何も信じられない

 

 

 

 

 

もう何を信じていいのかも判らない

 

 

 

 

『■■■■■』

 

 

 

 

かつて、大好き母が口にしていた言葉も

 

 

 

 

凍り付き思い出せない

 

 

 

 

あの時と同じ今の私は一人ぼっち

 

 

 

 

氷に閉ざされはじめてゆく“私の世界”

 

 

 

 

この氷に閉ざされた世界へ

 

 

 

来てくれる人はもう何処にいない

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * *

 

 

 

アジ達から教えられたラヴィニアの気配のする方向へ駆け抜けていく黎牙であったが、ギルバスの言葉通り時すでに遅し。

 

「ラヴィニアァァァァァァァァァァ!!」

 

呼びかける黎牙の言葉も虚しく、漆黒の魔法陣の上で光となったアウグスタがラヴィニアの中へ入っていってしまった。

 

「アイツに何があった!?」

「分からないんだ。ラヴィニアさんの師匠さまから通信があって、それを聞いたらラヴィニアさんが……ッ!?」

 

近くにいた鳶雄達も一部だけを見ていたため、黎牙は鬼気迫る勢いで問いただす。黎牙の様子に困惑しつつも鳶雄はその問いに自分が見たままのことを伝える。

 

「内容は何だ!?」

「……『あなたと話すことは、無い』って」

「クソッタレがぁ!!」

 

予想する最悪の事態が起きたことに黎牙はこれ以上ないほどのの怒号をあげる。

 

周りから拒絶され、ずっと1人であった時に救ってくれた存在であり、ずっと探し続けた恩師からの拒絶の言葉を聞けば、ココロは乱れ、闇に呑まれる。彼女のココロの拠り所であるグリンダによる拒絶の言葉は、どんな魔法や神器の攻撃よりも攻撃力を持っていると断言できる。そして、アウグスタの目的はラヴィニアの肉体を手に入れることである事実に気づくことが出来なかったことに自分の考えの甘さに黎牙はとてつも無い憎悪を抱いていると、

 

『あっはっはっはっは!!』

 

今まで下を向いていたラヴィニアが突然不気味な笑い声を上げる。普段の彼女からは考えられない声量での哄笑は悪意が支配されている。

 

『残念だったね。この娘の体は貰ったよ。さて、どうしてくれようかね?』

 

ラヴィニアの口調がアウグスタのものになっていることに驚愕する鳶雄達はこの言葉でようやく確信する。紫炎のアウグスタはラヴィニアの恩師であるグリンダを利用し、狡猾な手段を用いて彼女の体を乗っ取ることこそが目的だったことを。

 

《———千の魔を統べし三つ首の邪龍よ———》

 

 

 

 

《———汝らに命ずる———》

 

 

 

 

《———我が肉体を依代とし———》

 

 

 

 

《———汝らが司りし魔の総てを———》

 

 

 

 

《——我が身に付加せよ…アジ・ダハーカ——》

 

 

激情に染まった形相の黎牙は、邪気と闇を感じさせる一説を唱えると、妖しく輝く左手の痣から出現させた刻印を自らの心臓へと撃ち込んだ。

 

Prohibit Hellish(プロヒビット・ヘェリィシュ) Evolution Malicious Drive(エボリューション・マリシャス・ドライブ)

 

すると、影がその身を包み込んでいく。

やがて、深縹色の光によって包み込んでいた影が打ち消されると、自らの最強形態である『邪龍礼装(マリシャス・ドライブ)』へと変身した。

 

「お前らは邪魔だ」

「待ってくれ!黎牙!!」

 

そして、手を伸ばす鳶雄諸共、夏梅、紗枝、鋼生、夏梅、詩求子を離れているヴァーリと雹介の元へと転移させる。

 

『おやおや、お優しいね。仲間を逃すなんて』

「……バカか?今の俺はブチギレてんだ。巻き込ませない様にできるほど気を回せてやれないだけだ!!」

 

激昂する黎牙は、3桁とまではいかないが夥しいほどの魔法陣を展開し、魔法をラヴィニアを乗っ取ったアウグスタへ向けて放つ。

しかし、アウグスタはなんと、ラヴィニアの神滅具(ロンギヌス)である永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)を操り、黎牙が展開した魔法陣の半数を凍り付かせ、残りの半数を自身の紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)で焼き尽くし、黎牙の攻撃を不発に終わらせた。

 

「な、に!?」

 

驚愕を露わにする黎牙にアウグスタは不敵に笑みを浮かべる。

 

『あっはっはっは、どうする気だい?神滅具(ロンギヌス)を2つも相手に』

「うるせぇよ。老害風情が!!」

 

傍らに氷姫と十字架を背負った紫炎の巨人から繰り出される氷槍の雨と炎の十字架に対し、黎牙は幾つもの防御結界に加え、

 

「アジ!!」

『『『おう!!』』』

 

影に付加(エンチャント)させたアジ・ダハーカによる影の防御を行う。しかし、氷と炎の攻撃にアウグスタの魔法が加えられてしまったため衝撃波までは殺し切ることが出来ず、十数メートル吹き飛ばされてしまう。

吹き飛ばされ、大木に背中を強打してしまう黎牙は、口内を切ったのか口から血を流し始める。

 

「…ぐ……ぅ……」

 

しかし、黎牙は全身を襲う激しい痛みに歯を噛み締めながら耐え、憤怒の炎を宿す瞳のまま立ち上がる。

 

『言っておくが、ワザと手加減してやったんだよ。坊やに死なれちゃ、サタナエルが煩いだろうから』

「…い、言ってくれるな………寄生虫のぶんざい…で」

 

『今の言葉は聞き流してやるよ。コレが最後の警告だよ。投降しな、アザゼルの所にいるよりも私らの所にいた方が坊やはもっと強くなれる。それに、この娘が恋しいのなら、私が———』

「それ以上、そいつの…ラヴィニアの声で喋るな!!」

 

威嚇する様に周囲に吹雪を吹かせ続ける氷姫と、十字架を振り上げる紫炎の巨人を侍らせるアウグスタの言葉を遮り、黎牙は深縹色の光を発し始める邪剣の切っ先を向ける。

 

『なんだい。本気で、惚れているのかい?』

「そんなんじゃねぇ。俺はラヴィニアに助けて貰った借りを返して無いだけだ!」

『Enchant Trinity!』

『『『(ベタ惚れじゃん)』』』

 

展開した魔法に対する魔法力に加えて、脚力、動体視力の強化の付加(エンチャント)を行い、最速最短で振り下ろされる十字架を躱す。そして、反撃として強化された豪雷の魔法を氷姫に放ち、氷姫が雷撃の対処を行った一瞬の隙を突くべく、アウグスタの懐へ駆け出す。しかし、黎牙の行動を先読みしていたアウグスタはトラップとして、彼の足下から魔法陣を展開させる。対する黎牙もアウグスタが罠を張っていることは予想していたため、冷静に足下の魔法陣へ邪剣を突き立て、

 

「吸いつくせ!」

『Absorb!』

 

魔法力を吸収させ不発にする。

 

『ほぅ、やるね』

 

関心する様なアウグスタの言葉に黎牙は内心舌打ちつつも、決定打に掛ける自分の無力さを痛感する。

 

「だったら、コレはどうだ!」

『『『くたばれ!アバズレ!!』』』

 

返答の返しとして、黎牙は左手を掲げると頭上に巨大の魔法陣を展開させ、豪炎に燃え盛る巨大な岩石をアウグスタへ振り下ろす。加えて、影にいるアジ・ダハーカ達は、それぞれの首から呪詛塗れの豪雷を氷姫と紫炎の巨人へ放つ。

 

『はっ!子供騙しだね』

 

しかし、アウグスタは黎牙が生み出した巨大な岩石の正体が幻覚であることをすぐに看破し、アジ・ダハーカの攻撃のみを防御障壁を何重にも張り巡らせ防ぐ。アウグスタのせせら笑いに対し、作戦が成功がしたことに確信する。

 

『『『「それはどうかな?」』』』

『なんだい?』

 

「『暗天に輝きし12の光よ

 我が敵を滅殺する我が矛とし、

 この地へ星々の裁きを齎せ』!」

 

「天体魔法《トゥワイライト・フォース》!」

 

アウグスタを中心に立ち上がる12もの光の柱たちから齎される様に、アウグスタへ向けて巨大な天体の星光が周りの光の柱を呑み込むように降り注がれる。コレはアジ・ダハーカが自分の知識の中で最も黎牙に合うため教えた魔法。展開時間に難がある上に、この魔法は暗天の星空の下でないと使えないという凄まじくクセの強い魔法でもある。

 

「はぁ…はぁはぁ、どうだ、クソッタレが」

『いやはや驚いたよ。あんな魔法を放つとはね』

 

光が止むとそこには、ボロボロの氷姫がアウグスタの身代わりにおり、本体であるアウグスタは黎牙の背後にいた。咄嗟にバックステップで後退するのだが、紫炎の巨人が振り下ろす十字架をモロに受けてしまう。

 

「ぐあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『Absorb!』

 

しかし、何とか邪剣を構えていたこともあって多少とは言え、当初の目的通り紫炎の聖炎を吸収することには成功するのだが、左腕に大火傷を負い、ダラリと力なく下がってしまう。

 

「(アジ、まだなのか?あの術式の解析は)」

『(今の俺達では、もっと時間がかかる。相手は今のお前より格上の存在だからな)』

『(お前の力不足が問題だぜ☆)』

『(お前が弱すぎる際だ☆)』

 

『諦めな。今の坊やじゃ、私に勝つことは不可能さ。それにこの娘はもう私のモノだよ』

「…る…ぇ」

 

何とか、時間を稼ぎつつもアジ・ダハーカたちにラヴィニアを乗っ取っている術の解析を任せているのだが、封印されている上にまだまだ自分とアジ・ダハーカ達のシンクロ率がそこまで高くないので、彼らの魔法力を引き出せないでいる。そんな圧倒的に不利な状況にも関わらず、黎牙は火傷によって全身が痛む身体に鞭打つ様に奮い立たせる。

 

『なんだい。諦める気になったのかい?』

「うるせぇって言ってんだよ!!さっきから好き勝手に諦めろばっか言いやがって。何が『絶対大丈夫』だ、全然自分が大丈夫じゃないだろーが!簡単に乗っ取られて好き勝手にされている癖によ!それに散々、好き勝手に人の頭ん中掻き乱すクソ天然が!!」

 

日頃の鬱憤が溜まっていたのか、途中からアウグスタではなくラヴィニアに対しての愚痴が止めどなく出続けていく。

 

『そんな呼び掛けで、この娘が目醒めるとでも思っているのかい?もういい、サタナエルには仕方なく殺してしまったと伝えておくさね』

 

 

失望したと言わんばかりの氷の様な冷淡な顔になったアウグスタに同意するかの様に、いつのまにか完全修復された氷姫は無数の氷槍を、紫炎の巨人は十字架をそれぞれが構え、全力で黎牙をで殺そうとする。

 

しかし、黎牙は深縹の炎を宿す両眼には一切の恐怖はなく、寧ろ先ほどよりも濃厚な戦意と憤怒が昂らせていく。

 

 

 

「うるせぇよ。悪いがソイツを拠り所にしたのはコッチが先だ。横から掻っ攫ってんじゃねぇよ。だから……ソイツは…ラヴィニアは返してもらうぞ!!」

 

 

 

そして、黎牙の欲望(やりたいこと)に呼応するかの様に禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)に埋め込まれている深縹の宝玉から発していた碧い光が一際のその輝きが増し始める。

 

『ま、まさか!?その輝きは!?』

 

驚愕のあまりアウグスタは攻撃の準備を停止させてしまう中で、何処か呆れた様に、そして、何処か待っていたかと言わんばかりにアジ・ダハーカたちは黎牙に告げる。

 

『おいおい、マジで至りやがったぜ』

『マジでおもしれぇーゼ☆』

『やっぱりサイコーだぜ☆』

「アジ…まさか、コレが禁じ手なのか?」

 

『『『その通りだ!!さぁ、俺達にお前の…その覚悟を見せつけてみせろ!!』』』

 

こんな時でも邪龍らしく、自分の愉しみを優先するようにしつつも自分の背中を押してくれる様な相棒の言葉に悪そうな笑みを浮かべいく。

 

「バカか?お前らも一緒に決まってんだろ!!

さっさと準備しやがれ!アジ・ダハーカ(相棒)!!」

『『『ギィヒャハハハハハハハハハハ!!!イイゼ!イイゼ!!とことんまで、付き合ってやるぜ!!だがな、俺達が面白くねぇと感じた時には即見限るからな!せいぜい気をつけるんだな黎牙(相棒)!!』』』

 

 

全身から流れる血など全く気にもせず、

彼等は自らの欲望(やりたいこと)を貫き通す

 

 

 

例え、存在を否定されようが、

 

 

 

 

例え、殺さそうになろうが、

 

 

 

 

例え、敵が自分より格上であろうが、

 

 

 

 

ただただ自らのココロに従うのみ

 

 

 

 

それこそが世界から危険視され続ける邪龍

 

 

 

 

『『『「禁手化(バランス・ブレイク)!!」』』』

 

 

 

Diabolism Thousand Dragon

Balance Breaker!!

 

 







《NGシーン》

『『『「卍解!!」』』』
ドラ丸2号「カットォォォォ!!いくら、構えが一緒でもパクんないで!!作品違うから!!」

『『『「後悔も反省しない」』』』
ドラ丸2号「反省して!何回もNG出しているんだから」

ちなみに次回の連想キーワードはラグナロードモンです。
そして、次回は18日の17時00分に投稿します!!


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第9話 禁手化

前回に後書きで登場させたラグナロードモンを頭の片隅に置いていただければ、今回の話はそれなりに面白く感じれると思います。多分!!




『『『「禁手化(バランス・ブレイク)!!」』』』

 

 

 

Diabolism Thousand Dragon

Balance Breaker!!

 

 

 

 

 

 

アウグスタは眩い光に対し、目を両手で覆い隠し、自らの(しもべ)と化した氷姫と紫炎の巨人を前方に配置し、奇襲に備える。

 

そして、碧い光が晴れると、そこには1人の邪龍騎士がいた。

 

全身を龍を想起させる様な漆黒の鎧で身を包み、背には3つ首の龍の紋章を施した深縹のマントを羽織っていた。加えて、鎧の至る所には、マントと同じく深縹の宝玉が埋め込まれいる。そして、黎牙が大火傷を負っていた左腕には、鎧だけでなく妖しく瞳を輝かせる龍の頭部の形をした手甲を身につけられ、右腕には、自らの神器————禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)が握られていた。

 

静かに禁じ手へと至ることができた事を実感していた黎牙は、沈黙のまま左腕の手甲の口を開かせ、アウグスタへと照準を合わせる。

 

「果てろ」

『Liberate!』

「なにっ!?」

 

すると、龍の頭部をした手甲の口から自身の持つ神滅具と同じ聖なる紫炎が放たれてきた。

驚愕するアウグスタは咄嗟に自分が持つ最硬の防御障壁を貼るだけなく、氷姫の氷壁、紫炎の巨人の十字架で迎撃する。

 

しかし、手甲の口から放たれた紫炎は十字架と氷壁を撃ち破り、アウグスタの防御障壁を幾つも破壊し、最後の一枚を崩壊寸前にする程の威力を見せつけた。

 

『何故だ!?何故、坊やが神滅具(ロンギヌス)の聖炎を再現できる!?』

「うるさい、簡単なことだ。さっきまでの戦闘で俺はお前の紫炎を一部とは言え『吸収』させた。そして、今まさに禁手(バランス・ブレイカー)へと至ったことでアジたちとのシンクロ率が限りなく上昇した為、アジたちの魔法力がより一層俺にプラスされた。その恩恵により、取り込んでいた紫炎を解放し、付加(エンチャント)で強化させ、お前の炎と同等いやそれ以上の威力を発揮させただけだ」

 

『だ、だが至ったと言っても、所有者の坊やはボロボロな上に、魔法力はもう殆ど残っていない筈。私の勝利は揺るがないさね!』

「そうだな。今の俺では(・・・・・)…な」

 

 

鎧によって顔が見えていないことを良いことに、黎牙は不敵な笑みを浮かべつつ、氷姫と巨人の修復を待つアウグスタに向けていた邪剣を地面へと突き立てる。

 

 

「行くぞ……アジ(相棒)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dead of Absorb

 

 

 

 

 

 

 

先ほどまでの能力発生音とは明らかに違いすぎるほどに不気味な声とともに、突き立てられた邪剣を中心に闇が広がっていく。

咄嗟に黎牙から噴き出す『闇』に背筋が凍えつく様な寒気を感じたアウグスタは空中へ浮遊魔法を使用し、回避する。

 

『なっ!?』

 

すると、広がり続けていく『闇』は自分達の周りを囲っていた木々が次々と枯れ果て塵と化し、闇に生命力の総てを喰い尽くし始めていく。アウグスタは、目の前に起こっている事象に恐怖感を覚えるほどに黎牙に対する警戒レベルを引き上げる。数秒と待たずに、半径十数メートルにある総ての存在からあらゆる現存するための『力』を喰い尽くされた森は、更地と化してしまった。

 

まさに、災害とも言える黎牙たちの力を目の当たりにしたアウグスタは、ただただ目の前にいる存在が本当に自分と同じ人間であるのか、疑いを隠せなくなっていく。そんなアウグスタを置いて、黎牙は広げた『闇』からあらゆる『力』を吸収し切ると、一気にその力を解放する。

 

その全ては、自分の欲望(やりたいこと)のために。

 

 

『Over The Liberate!!』

「うおォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 

回復した力の全てを解き放ったことで黎牙から溢れ出る『闇』はやがて、天へと届き、暗天の夜空を自らの『闇』の空へと変貌させていく。

 

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

同時刻。

黎牙によって、ヴァルブルガが率いる『オズの魔法使い』の精鋭たちと交戦していたヴァーリと合流した鳶雄たちは、急いで黎牙が闘っている場所まで駆け抜けていると、鋼生が突然、自分達の真上の異変に気づく。

 

「おいおい、なんかヤベェのが空覆ってないか?」

「何アレ!?」

 

戸惑いの叫びを上げてしまう夏梅をはじめとする全員が、空を覆い隠していく『闇』と前方から来るオーラの波に警戒心を抱いていく。

 

『ハハッ、よりによって初っ端からここまでの力を引き出すのかよ』

 

ヴァーリの肩の乗っているドラゴンデバイスから驚きの声を発するアザゼルも動揺を隠しきれていない。いち早く、空を覆い隠してしまった『闇』を出した者の正体をヴァーリは看破するもアザゼル同様に驚きを隠せないでいる。

 

「まさか、アレをやっているのが、阿道黎牙いや禁龍主だというのか?」

『あぁ。アイツに持たせているはずのデバイスには、監視様のとか色々術式を組み込んでいたが、アジ・ダハーカと協力して早々取っ払っていているから詳しくは分からねぇが。コレは確実に至りやがったのは間違いない』

 

どこまで信用してねぇんだ…と付け加える様に呆れるアザゼルの言葉にいち早く鳶雄は聞き返す。

 

「それってつまり、黎牙は……」

『お前の思っている通りだ。神器(セイクリッド・ギア)は、宿主の想いと身体に劇的な変化が生じた時こそ———禁手(バランス・ブレイカー)へと至る』

 

さっきまで呆れてはいたものの、何処か安心した様に笑い始めるアザゼルに、紗枝は真意を測れずにいるので、その疑問を払うため尋ねる。

 

「阿道君は、大丈夫なんでしょうか?その、暴走とか」

『安心しろ。明らかに、このオーラの波長は暴走状態とは異なるものだ。だが、今でもアイツらがヤバイ状況なのは明白だ。早く行ってやってくれ」

 

黎牙たちの下へ行く様に促すアザゼルの言葉に従い、駆け出そうとすると、

 

「それは困るな。カラス」

 

黎牙に見せていた時の笑みが消えた冷徹な表情をしたギルバスが彼等の行手を阻む。所々、黎牙との戦闘によってボロボロではあるものの焼失した右腕と右脚は、どういうことなのか何事も無かった様に生えていた。しかし、服も元どおりとはいかなかったため、右半身から病的なまでに色白な肌が露出していた。

 

『テメェ、何者だ?アレほどに神器を二つも同時に使いこなせる程の使い手はグリゴリの記録には存在していないぞ』

「貴様の様な下賤なカラスに話すことなど何もない。私はただ、我らが禁龍主の闘いに手を出さないで欲しいだけだ」

「お前達が何を企んでいるのかは、知らない。でも、友達の元へ行くのを邪魔するというのなら、俺達は押し通るだけだ!」

 

全身から刃を出し、唸る(ジン)と共に鎌を構え、戦意を露わにする鳶雄に同意するかの様に、槍を向ける鋼生、銀色のオーラを纏うヴァーリ、グリフォンに攻撃の準備をさせる夏梅たちにギルバスは慌てることなどせず、醜悪奈笑みを浮かべ始める。

 

「申し訳ありませんが、今の状態で貴方方と正面からやり合うほど、私も馬鹿ではないのでね、ヒヒヒッ」

 

飛び出そうとする鳶雄たちよりも早く、印を結び終えたギルバスを中心に緑色の霧が立ち込め、彼の姿を隠していく。

 

「ちっ!どうやら、あの時と同じで結界に阻まれた様だな」

 

苛立ちを露わにするヴァーリは、忌々し気に吐き捨てる。そして、そんなメンバー達の前にギルバスが操る『魔劔の巨人(ディアボロズ・ブレイド・ゴーレム)』が現れる。

 

「コレは、黎牙が言っていたギルバスの禁じ手!?」

「マジかよ!デカすぎんだろ!」

「こんなの闘ってたの黎牙って!!」

 

驚愕する鳶雄、鋼生、夏梅たちをカバーする様に光翼をはためかせるヴァーリは銀色のオーラを纏った手の平からいくつもの光弾を劔の巨人へと放つ。

 

「早く、このデク人形を始末し、2人の元へ急ぐぞ」

「行こう!みんな!!」

 

 

 

 

 

「(待っていてくれ、2人とも。すぐに迎えに行くから)」

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

「ソイツを大人しく返すと言うのなら、見逃してやる」

『ふざけるなよ。たかだか、鎧を纏った程度で調子に乗るなよ、ガキが』

 

黎牙の挑発を屈辱の感情に顔を歪ませるアウグスタは、傍らにいる氷姫を数十メートルにまで巨大化させ、黎牙の頭上に氷山とも言える氷塊を出現させる。しかし、頭上に浮かぶ氷塊など眼中にないのか、黎牙は一瞥もすることなく、もう一度手甲の口を開かせる。

 

『二度も同じ手を喰らうと思うな!!』

 

黎牙の攻撃モーションを先読みしたアウグスタは、彼の周りに何十もの魔法陣を展開させ、反撃に出る。そんなワザらしく思うこともなく、黎牙は漆黒のオーラを纏わせた邪剣で全ての魔法陣を斬り捨て、手甲の照準を氷塊へと向ける。そして、侮蔑を含む言葉とともに、先程の紫炎とは違い、手甲の口から黒みをよく含む深縹色のレーザーを放ち、氷塊を粉々に撃ち砕いてみせる。

 

「お前がアイツの氷を使っているのにも、心底うんざりだ」

『なら、死んでくれるかい。坊や?』

 

黎牙が氷塊を粉々にするのを待っていたかと言わんばかりに、アウグスタは氷姫に新たなる命令を与える。すると、更地と化した周囲が突然猛吹雪に包まれていく。吹雪を鬱陶しく思い、手甲の炎で焼き払おうとするのだが下から感じる猛烈な冷気を感じ、視線を下ろすと、

 

『アッハッハッハ!愛しい女の力で凍りつけ!!』

 

下半身が一瞬にして、凍りつかされていた。

勝利を確信しつつも、無理に氷姫の力を引き出したためなのか、肩で息し始めるアウグスタは、黎牙の背後に出現させた紫炎の巨人が持つ十字架に更に聖なる紫炎を纏わせる。前方に氷、後方に聖なる紫炎、動きを封じられた状況にも関わらず、黎牙は特に慌てる素振りを見せることもなく、何処か達観したような仕草をみせる。そんな黎牙に業を煮やしたアウグスタは、冷淡な表情で最後の命令を巨人と氷姫に与える。

 

『やれ』

「我が影を依代とし顕現せよ!アジ・ダハーカ!」

『Enchant Trinity!!』

『『『任せろ!!黎牙(相棒)!!』』』

 

しかし、黎牙の言葉と共に、影の中から以前とは比べ程がないほどのオーラを纏った黒き3つの龍の首が出現し、巨人に絡みつき動きを止める。残った氷姫は動けなくなった巨人に構うことなく、空中に創り出した無数の氷槍を放とうとするのだが、『闇』で支配された空から伸びてきた黒い鎖によって、氷槍は総て破壊された上にその身を封殺される。

 

『ば、馬鹿な!?』

「気を抜きすぎだろ。もう、この空間全てが俺の……いや違うな……」

 

 

『『『「俺達の支配下だ」』』』

 

 

あまりの状況にアウグスタは驚愕し、恐怖のあまりなのか、一歩…無意識とは言え後退りした瞬間、足下から漆黒の魔法陣が展開され、氷姫と同じように黒い鎖で拘束される。それぞれの動きを封じたことを確認した黎牙は、下半身を凍らせていた氷を砕き、空を支配する『闇』と同じ、ドス黒いオーラを邪剣へと纏わせる。そして、今も尚鎖から抜け出ようとする氷姫目掛けて、邪剣を投げつける。投擲された邪剣は見事、氷姫の胸に突き刺さると、宝玉から碧い光を放ち始める。

 

「『主を奪われし氷姫よ

  我が声、我が願いを聴き、

  我が力の一部と成りて、

  自らの怨敵を駆逐する(つるぎ)と化せ』!!」

 

まるで詩の一説を読み解くかの様に、呪文を唱えると、氷姫と邪剣から眩い光が放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Cross Longinus

 

 

 

 

 

眩い光が晴れるとそこには、

 

 

邪剣と氷姫の姿はなく、

 

 

一際(ひときわ)美しい、氷の様な水色をした宝玉が埋め込まれた氷白の十字剣が『闇』に染まりし空を舞っている。

 

 

 

あまりの事態にアウグスタは言葉を失ったに加えて、拘束を解こうことも辞めていた。そんな彼女を現実に引き戻したのは、格下と侮り続けていた黎牙の声であった。

 

「名付けとするならば『氷姫の天剣(ディマイズ・ディグナティ)』って所が無難だな」

『悪くないな。あの姿には邪剣は似合わんからな』

『邪龍要素が一切ねぇーゼ☆』

『付けてたら、殺してたゼ☆』

「あ、ありえない!こんなこと、あり得るわけがない!神滅具(ロンギヌス)が所有者ではない者に従うというのかい!?』

 

「馬鹿か、従わせてはいない。氷姫は自分の意志でお前から叛逆しただけだ。俺はただ、氷姫に対し、きっかけを与えただけだ」

『ま、まさか…霊能力で、氷姫の…神滅具(ロンギヌス)の魂に語りかけたと言うのかい!?』

 

激しく狼狽るアウグスタを心底愉しげに見下ろしつつマントを吹き荒れる冷風に揺らめかせる黎牙は、邪剣と一体化した氷姫に語りかける様に、願いを伝える。そして、言葉を発さない天剣と化した氷姫は、黎牙の行手を阻む敵である紫炎の巨人に、自らを突き立てる。すると、巨人は自らの身体が聖なる炎で構成されているにも関わらず、一瞬に十字架諸共巨大な氷像と化す。

 

『お、お前は一旦何なんだ!?』

 

力を奪わられていく絶望と未知なる力を振るう目の前の存在に対する恐怖に染まりゆく中で、アウグスタは震えるように叫ぶ。

 

そんな魔女に対し、まさに災禍と言える力を鎧として身に纏った黎牙と、彼の影に自らの意志と力の一部を付加(エンチャント)させたアジ・ダハーカは、侮蔑したかように言葉を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ!?バカかよ、当たり前なことを聴くなよ。

俺は……いや違うな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『「俺たちは禁龍主だ」』』』

 




と言う訳で、黎牙の鎧はラグナロードモンを左腕以外ベースにしています。
更に、左腕の手甲に関しては同じく合体デジモンであるオメガモンのウォーグレイモンを想起させる手甲です。
正直に言ってオメガモンズワルトにするか、クローズエボルにするのか迷っていた時にラグナロードモンの画像を見つけたので、一発で其方に決めました。でも、手甲も付けたかったのでオメガモンを採用しました。






《NGシーン》
『『『「俺達はヴェノムだ」』』』
「カットォォォォォォォォ!!!!」

「本当に元ネタ出すやめて!!お願いだから!!」
『『『「嫌だ」』』』

「ですよねェェェ!!貴方達邪龍ですものねェェェ!!」
「やりたい放題だね。黎牙……」
「鳶雄、止めてあげなよ。友達になったんでしょ?」

「いや〜黎牙達が生き生きしているかさぁ〜止め辛いんだよ」
「ファング、ドラ丸ちゃんを困らせてはメッ!なのです!!」

「俺達も何か考えようか、アルビオン」
『やめてくれ。アレらと同じになるのは』


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第10話 崩れゆく“氷の世界”

この話を読む上での注意事項!!

必ずブラックコーヒーを片手に!!

でなければ、胸焼けします!!

それではどうぞ!!


 

 

 

『『『「俺たちは禁龍主だ」』』』

 

 

この言葉を聴いて、アウグスタはようやく先程まで追い詰めていた筈の少年は、もう既に存在せず、目の前にいる存在こそが、

 

 

世界に否定され続ける災禍の邪龍であることを理解する。

 

 

 

「アジ、悪いが俺の身体を預けるぞ(・・・・・・・・・)

『あぁ、行ってこい黎牙』

『あんまり(おせ)ぇーと奪うからな』

『約束なんてものは破る為にあるからな』

 

紫炎の巨人を拘束し続けていたアジ・ダハーカの意識を先程までとは違い、付加(エンチャント)された影から禁手(バランス・ブレイカー)によって創造された鎧の各宝玉へと移しかえる。

 

『ヒッ!』

 

まるで目の前から死が近づいて来るかの様な錯覚を覚えるアウグスタは、恐怖で顔を歪ませていく。そして、そんなアウグスタなぞ眼中にない黎牙は、全身を駆け巡る痛みを堪え、左腕に纏われた龍の頭部の形をした手甲の口から半透明の劔を顕現させる。

 

『Enchant!』

 

『わ、わたしごと、グリンダの弟子を殺すというのかい!?』

「俺が誰を殺すかは俺が決めることだ。お前程度の存在が口を挟むな。俺はただ、簡単に乗っ取られたポンコツ魔女をシバきに行くだけだ!!」

 

精一杯の虚勢を張るかの様に劔を向ける黎牙に叫ぶのだが、余計に彼の中の怒りの炎は大きくさせる。劔を構えた黎牙は、ラヴィニアの身体を乗っ取ったアウグスタごと、怪しげな文字が施された劔で刺し貫いた。

 

 

しかし、アウグスタは劔で貫かれたにも関わらず一滴も血が出るどころか、痛みすらないことに疑念を抱いていると、黎牙と自分を中心に漆黒の魔法陣が展開された。

 

『こ、コレはまさか!?私がグリンダの弟子に使ったのと同じ魔法陣!』

『そう言うことだ、ババァ。どうだ、自慢の魔法も俺達の宿主に模倣された上に、神器ですら奪われた気分は?』

『どうだ、自分の計画がことごとく破壊される気分は?』

『どうだ、なす術もなく自分の死が近づいて来る気分は?』

 

『あ……あぁ……ぁ!』

 

自分……いや彼女の中へと侵入していく“存在”を認知し、目の前にいる伝説の邪龍の言葉によって恐怖と絶望が入り乱れた表情へと染まっていくアウグスタ。

 

 

『『『どうだ、俺達によって絶望の淵へと叩き落とされていく気分は?』』』

 

 

その言葉を最後にアウグスタの意識も暗い闇へと沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

魂だけとなった黎牙はアジ・ダハーカ達に自らの身体を託し、ラヴィニアの魂に語り掛けることで彼女の意識がいる精神世界へ来た。そして、瞳を開けると、そこは正に“氷の世界”が広がっていた。

 

何とかアウグスタの魔法を解析し、それを霊能力に利用し、ラヴィニアの魂に干渉するまではよかった。だが、思っていた以上に、ラヴィニアのココロの現状は酷いものだった。

 

辺りを見渡すと、森の中にいることは確かなのだが、草木や岩だけでなく地面までもが氷ついていた。

 

加えて、今の自分の現状は『邪龍礼装(マリシャス・ドライブ)』の形態のままであるのだが、先程までアウグスタにつけられた傷が総てキレイに残っていた。その上、何故か自分の真横には鼻と口がなく6つ目で4腕という異形の姿を持つ、身長3メートル程の氷の姫君の形をした“永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)”がいた。

 

あまり時間を掛けてもいられないため、

 

「おい、お前の主は何処にいる?」

「……………………」

 

この氷姫に聞くこととする。

口がない氷姫は黎牙の問いの答えとして、4本もある腕を使い、ある方向を指差す。

 

「……あっちにいるのか、アイツは?」

「……………………」コクン

 

神妙な表情をしつつも、指差した方向にラヴィニアがいることに対する確認を取ると、黎牙はそのまま走り出していく。

そして、氷姫はまるで安心したかのように6つの瞳を静かに閉じ、光となってラヴィニアの“心の世界”から消滅していく。

 

 

 

 

 

 

………ドウカ…我ガ主ヲ………オスクイクダサイ………

 

 

 

 

………………サイカノジャリュウ…ヨ……………………

 

 

 

 

走り出すのと同時に聴こえた声を聞き流していると、氷の森の中で唯一凍りついていない一軒家を見つける。

 

 

「わかりやすっ!?」

 

小屋を見つけや否や、珍しく声を上げるようにツッコミを入れてしまう。

 

『…………コナイデ…』

 

そして、小屋を前にした黎牙にとても弱々しい声音ではあったが、拒絶の言葉を家の中から放つ。その言葉をトリガーとするかのように、突然地面から氷で出来た鋭い薔薇が無数に出現する。やがて、その薔薇達は家の中にいる“彼女”の意志を黎牙に見せつけるかのように、薔薇の壁を創り出していく。

 

しかし、自らの欲望(やりたいこと)を阻むモノを許さない邪龍(黎牙)は、右手を大きく広げ鋭い刺を持つ薔薇の壁を掴み、引き剥がしにかかる。刺によって、血が止めどなく出て続けるにも関わらず、黎牙は次々に氷の薔薇を着々と砕き、小屋への歩みを止めない。

 

『オネガイ…コナイデ……モウ…ダレニモ………アイタクナイ!ココカラデデイッテ!!』

 

彼女”の不安と恐怖に呼応し、砕かれ続ける薔薇の壁を形成する氷の薔薇から数本だけ黎牙へ向けて、その鋭い刺が彼を射殺さんばかりの勢いで放たれる。

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!文句があるなら、面と向かって言え!!そんな過去の虚像に縋りやがって、もうやめだ!さっきからデリケートしてやったら調子に乗りやがって、このクソポンコツ魔女が!!」

 

しかし、“彼女”の態度に対して、とうとう我慢の限界が来たのか、黎牙は迫り来る無数の刺どころか薔薇の壁すら漆黒の獄炎を纏った右腕で焼滅させた。これで、自分の往く手を阻むモノは消えたためドスドスと凍った地面が陥没しかけないほどの足取りで進撃する。

 

そして、とうとう小屋の前に来た黎牙は、中にいるであろう“彼女”の返事を待たずに扉を引きちぎり、あらぬ方向へと投げ飛ばしてしまった。すると、中にはトンガリ帽子を深く被り目元を隠した幼い少女がいた。

 

「あ゛ぁ?」

「…………っ!」

 

部屋の中心で蹲り、ビクビクと震え続ける幼女には、僅かだが“彼女”の面影を残していることを確認する。

 

「で、いつまでお前はビクビクと震えている気だ?」

「か、帰って下さい!!」

 

「答えになってないぞ」

 

今にも泣き出しそうな声音で、拒絶の言葉を言い放つ“彼女”を面倒くさそうに見下ろす黎牙。

 

「もう……誰も、誰を信用していいのか……分からないのです……だから———」

「だから、こんな過去の虚像に縋るってか?そんなことに何の意味も無いのは………お前が1番わかっているはずだろ、ラヴィニア」

 

彼に名を呼ばれた少女————ラヴィニアは、不安と恐怖の念によって今にも泣き出しそうなほどに瞳に涙をためた顔を上げる。

 

「で、では…どうすれば、どうすればいいの…ですか………?」

 

まるで捨てられた子犬のように弱々しい彼女は、まさに救いの手を求めるかのように動かない足の代わりに黎牙へ手を伸ばす。

 

 

しかし、黎牙は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知るか」

 

「えっ?」

 

彼女と同様に拒絶の言葉を放つ。

 

優しい彼の言葉によってラヴィニアは伸ばしていた手を止めてしまうほどのショックを受ける。

 

「お前、何か勘違いしているようだから言っておいてやるが、俺は邪龍だ。人助けなんてモノはしない!その上、今のお前は何だ!信じていた者の拒絶の言葉を一方的に告げられただけで、こんな偽りの場所に閉じこもり、過ぎ去った思い出に縋り、現実から、戦うことから逃げたオマエは何だぁ!!」

 

「た、たたかう……?」

 

黎牙にも拒絶された今の彼女は、この世の終わりを見ているかの様な表情となり、彼の言葉の中の真意を測れず、一方的に言葉の雨を受ける。

 

「確かにお前は恩師に切り捨てられたかもしれない。だか、グリンダはなぜ、お前を神滅具を抜き取らずそこまで育てた?なぜ、お前を腰抜けのメフィストの下へ行くように薦めた?なぜ、お前に自由を与えた?」

「そ、そ……それは………」

 

彼の言った様に恩師であり、育ての親とも言えるグリンダの行動には幾つもの疑問点が生じる。洗脳も、実験体にするこもせず、本当の親子のように過ごした“あの日々”なんだったのか。絶望によって止まっていた思考がいくつも彼女の頭の中を駆け巡っていく。真実がわからない彼女にとっては答えれるはずもなく、口を噤むように黎牙から目を逸らそうとしてしまう。

 

「逃げるな!!」

「っ!!」

 

しかし、幼いラヴィニアは真正面から来る怒気が含まれる言葉によって、まるで金縛りに合ったかのように目を逸らされないようにされる。

 

「真実を確かめるための闘いから逃げるな!恩師からの拒絶の言葉が何だ!オマエはそんな戯言を信じるのかぁ?面と向かって会ってもいない者の言葉を信じるのかぁ?」

「…………そ、そんなこと……」

 

黎牙の盛れ出す穢れとも言えない見る者総てを圧倒するほどの邪龍のオーラに当てられた幼いラヴィニアは、喉が枯れてゆく様な感覚になっていく。

 

 

「応えろ!ラヴィニア・レーニ!!」

 

 

身体中から流れ続けていく血など眼中にない彼は、喉が裂けんはがりに、咆哮とも言える叫びを上げる。

 

「私は——」

 

信じたくない。

 

会ってちゃんとグリンダと話したい。

 

でも、会うのがとてもコワイ。

 

両親を失い、周りに誰もいなくなった

“あの時”のように孤独となるのが、トテモコワイ。

 

でも、それでも………やっぱり。

 

 

 

「信じたくありません!!」

 

 

 

ココロの中にある彼女との思い出が、

 

目の前の現実を否定したい、

 

彼女を最後まで信じたいという気持ちがあった。

 

 

「なら、どうする気だ?一歩踏み出すことにこれ程なまでに恐怖を抱くお前に何ができる?どう闘う?」

「わかりません……真実を知るのがコワイです。1人ではコワクて震えが止まらないのです!!」

 

一歩踏み出すことはできても、まだ身体の中に巣食う不安と恐怖を拭えない自分を抱くように奮い立たせようと試みるも、瞳から勝手に流れ続けていく涙が彼女の道を阻む。

 

「黙って助けて貰うなんて都合が良すぎるぞ。助けて欲しいなら!!しっかり“助けて(・・・)”って言え!!」

 

まるで背中を押すように部屋の前にいる黎牙が、凍りついていたはずのココロに暖かさを感じさせる言葉を贈ってくる。

 

「俺はあの時のお前の言葉に救われちまった!もうオマエを拠り所に俺はしてしまったんだ!!その借りを俺に返させろ!何も信じられないのなら、オマエを信じ続けている俺を信じろ!!そして、こんな俺を信じているアイツらを……仲間を信じろ!!」

「ぅ……うぐ…………側に…いてくれるのですか?」

 

彼女の頬を滴る“冷たい涙”とは違う“熱を帯びた涙”が止めどなく溢れて続け、彼女の凍っていたココロを、世界を、氷解させはじめる。

 

そして、

ラヴィニアが大好きなこの小屋もまた例外ではない。

 

朽ち果てるように、音を立て崩れ去っていく屋根。

急いで小屋から出なければ、崩壊に巻き込まれて圧死する。しかし、涙が止まらないラヴィニアには、立ち上がるほどのチカラはなく、次々と崩れ落ちる瓦礫によって道を塞がれていく。

 

そんな危機的状況でも黎牙は、涙を流し続けるラヴィニアを待ち続ける。

 

彼女の口から直接“助けて”という言葉を聴くまでは、黎牙は梃子でも動かない気はない。

 

「………けて」

「いつもみたいに人の頭の中をかき乱す様な声を出せぇ!!ラヴィニア!!」

 

いつのまにか、元の、ダイナマイトボディへと戻っているラヴィニアに、黎牙は背中を押すように叫ぶ。その間も、小屋の崩壊は止まらず、どんどん彼女の道を塞ぎはじめる。それはまるで、この小屋から逃がさないという意思が働いているかのように。

 

もう、この……彼女との思い出が詰まった家はない。

 

 

ここは、“今の私”の居場所でない!!

 

 

叫べ!彼に、

 

 

自分の様なダメな女のために、こんな“凍りついた世界”に来てまで、手を差し伸べてくれている優しい邪龍である彼に、

 

 

 

信じ、そして叫べ!!

 

 

 

「助けて……私を助けて下さい!!!!

 

「あぁ、完膚なきまで救ってやるよ。ポンコツ魔女が」

 

 

気がついたときには、私は崩壊した家の前におり、彼の————優しくて、強い邪龍のとってもアタタカイの胸の中に、私はいた。

一歩踏み出すことが、こんなに、こんなにもコワイものだなんて………。

 

不安と恐怖が未だにココロに巣食うっているが、もう泣いてはいられないと言い聞かせようとするが、

 

「今だけは、もう一回思いっ切り、みっともなく、煩いくらいに泣け……ラヴィニア」

 

まるで駄々っ子をあやすように髪を撫で、もう離さないと言わんばかりに力強く抱き締められたことで、その決意も崩壊する。

 

 

「うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

「ったく、本当に煩い…な。お前は」

 

 

胸の中で泣き叫び続ける姫君に対し、呆れた顔をしつつも、あの時彼女だけに見せた穏やかな笑みを浮かべる。

 

そして、彼女の涙が止まるまで、

 

黎牙は優しく抱き締め、

 

安心させるかのように髪をそっと撫で続ける。

 

 

あの時、自分の叫びを聴いてくれた“あの夜”の彼女の様に

 





一方その頃。
『『『暇だ』』』

黎牙の邪魔をさせないようにアウグスタの意思を封じ込め続ける以外やる事がないアジ・ダハーカであった。


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第11話 宣戦布告

更新を再開して以降、増えていくお気に入り登録者数と感想にめちゃくちゃテンションが上がりっぱなしで、第3巻を読み直すよりも此方の方に時間を割いている自分に、かなり驚きです。
最近は、厄介な感染症が広がり続けていますので、皆さん体調管理を大切に!

それでは、どうぞ!


時間は黎牙がラヴィニアの精神世界で、彼女のココロの傷を癒し終えるよりも少し前。

 

ギルバスによって創り出された結界内では、

 

 

『貴方は誰にも愛されてはいない!!魔王の血を引く貴方は、老い果てる彼等を置いて、永劫の時間を生きる!そして、強くなり続ける貴方は、かつての仲間から、世界から、その力を持つ故に拒絶される!!』

 

 

友である黎牙とラヴィニアを救う決意と紗枝の想いによって禁手を制御することに成功した鳶雄の(やいば)を全身に受けながら、同じく禁手による鎧を身に纏ったヴァーリにギルバスは怨嗟と狂気に満ちた呪いの言葉の刃を突きつける。他の者達とは、種族が違うことによって絶対に訪れるであろう『愛する者達の別れ』を悪意ある敵から改めて告げられてしまったことで、まだ幼いヴァーリのココロは嵐の様に酷く荒れ狂っていく。

 

 

 

『貴様を誠に愛する(・・・)存在など何処にもいない!!』

 

 

 

その言葉を最期に鳶雄達を嘲笑うかの様にギルバスは自らの身体を炎で燃やし、自滅する。

 

呪いの様な敵の言葉が頭に残り続けている中で、ヴァーリは表面上は鳶雄達に平静を装う。しかし、ココロまでは偽らず、彼のココロを敵の悪意が穢す。

 

鳶雄達がヴァーリを心配し、駆け寄ろうとするのだが、ギルバスが貼った結界崩れ落ち、ラヴィニア達の下へ光翼を広げ、ヴァーリが1人で急行してしまったため言葉すら懸けることが出来なかった。

 

そして、時間が少し流れていく中で、森を駆け抜けていくと鳶雄達は辺り一面が更地と化した場所に到着する。

 

だが、彼等の見たものは、

 

 

見たこともない“漆黒の鎧を纏う者”によって串刺しにされているラヴィニアの姿だった。

 

 

先に進んでいたヴァーリですら、余りの光景に動くことを止めるほどの衝撃を受けていた。しかし、鳶雄は咄嗟に“謎の鎧を纏った者”を敵と判断し、鎌を振り下ろそうとしたのだが、突然上空から現れた氷白の十字剣によって阻まれる。

援護として、鋼生が白砂による槍で別方向から攻撃を仕掛けようとするが、龍の首の形をした『影』によって槍ごと拘束される。更に、先程まで固まっていたヴァーリも激情に駆られたかの様に射殺さんと言わんばかりの鋭い眼差しで銀と黒のオーラが混じり合った拳を振り下ろす。

 

だが、コレももう一体の『影』で形成された龍と空中に展開された魔法陣から放たれた鎖によって不発に終わらせる。

 

『やれやれ、黎牙がまだ帰って来ていないから暇とは言え、こんな面倒くさい事態になるとはな』

『全く、ロクでもねぇーぜ!』

『全く、超有り得ねぇーぜ!』

「「「「「えぇっ!?」」」」」

 

聴き慣れた3つの声に全員が度肝抜かれたように間抜けな声を上げる。

 

『全員、落ち着くのだ。ラヴィニア・レーニの身体には何処にも外傷は無い。おそらく、彼女をあの魔女から取り戻すべく、阿道黎牙が自らの霊能力を利用し、彼女の魂に彼の意識を直接付加(ダイレクトエンチャント)させたのだろう』

『『『全部ネタバレするんじゃねぇー!!』』』

 

アルビオンの推察と、アジ・ダハーカの怒号によって、この場にいる全員が鎧を纏っているのが黎牙であることをようやく理解する。

 

そして、眠りについているかの様に瞳を閉じているラヴィニアに外傷どころか、怪我が全く見られないところを確認し、全員はほっと胸を撫で下ろしていると、

 

「………ったく、アジ以外にも煩いのが来た様だな」

 

鬱陶しい気な声音で、ラヴィニアから半透明の劔を引き抜くのは、身体を預かっていたアジ・ダハーカでもなく、自らの欲望(やりたいこと)に従い、彼女のココロを救った黎牙であった。

 

「黎牙っ!!」

「おいおい、背中を護るどころか、攻撃しに来るとはどういう了見だ。コラ?」

 

「い、や…あ、あの……そ、それは……」

 

頭部の鎧を解き、いかにも悪そうな笑みを浮かべている黎牙は、数時間前に言った鳶雄の言動に対し、意地の悪い問い掛けを送る。黎牙の悪意を分かっているものの、動揺していて正体もわからないまま斬り掛かってしまったのは事実であるので、居心地が悪そうに口を噤む。

 

「ふっ、まぁ良い。とりあえず、攻撃を仕掛けて来た奴らは全員半殺しの刑の処すとして。アジ、そろそろアイツ(・・・)も戻ってくる頃だから、拘束を解除してくれ」

『『『めんどくさい。自分でやれ』』』

 

「はいはい、ったく。わがままな邪龍だよ」

『『『お前よりはマシだ』』』

 

うるせぇ…と反論しながらも、黎牙は『影』で拘束していた鋼生、ヴァーリを自力で解放し、鳶雄共々、先程までその場に崩れ落ちていた紗枝達の所に戻る様に促す。

 

「そろそろ、来るか」

 

そう言って黎牙はもう一度頭部を鎧で覆い、下を向き続けるラヴィニアから一歩離れる。すると、ラヴィニアを中心にあの時と同じ漆黒の魔法陣が展開され、彼女は苦しそうに身体を震わせ始めていく。

 

「……わ、私の…ココロ…から……出て行って下さい!」

 

全身を駆け巡る苦しみに耐え、意識を取り戻したラヴィニアは、自分の中にいる浅ましき魔女を追い出す。

 

そして、ラヴィニアの身体から光の球体が排出され、その光の球体の正体であるアウグスタを元の姿である老婆へと戻る。

 

「ば、馬鹿なっ!?」

 

アウグスタを追い出すことには成功したが、ラヴィニアは全ての力を出し尽くしたかのように、気を失いその場に倒れそうになる。しかし、すぐ近くにいる黎牙は優しく精神世界と同じようにラヴィニアを抱き留める。

 

そして、殺意の篭った瞳のまま吠える。

 

「やれ、永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)!!」

 

黎牙の問いに応えるかのように、氷白の十字剣——— 氷姫の天剣(ディマイズ・ディグナティ)は、それぞれの元の姿である氷姫と邪剣へと分離する。十字剣の正体にアウグスタ以外の全員が空いた口が塞がらないほどの驚愕する中で、冷徹な殺意と怨嗟に満ちた憎悪の眼差しで睨み付ける。

分離した氷姫は、黎牙と同じ深縹のオーラを纏い、彼の怒りに呼応するかのように、紅く光る6つの目を向け、自らの主を辱めた怨敵へ、その牙を抜く。

 

憑依が解かれた上に、ラヴィニアの抵抗に遭い精神的に、魔法力的にも消耗したアウグスタは、何とか転移魔法を展開させる————だが、怒れる氷姫によって、魔法陣諸共、顔だけを残して全身を凍り尽かされる。

 

「死ね」

 

ラヴィニアを右腕で優しく抱き締めながら、アウグスタへトドメを刺すべく左腕の手甲の照準を忌々しい魔女へと向ける。

 

「ま、まて!坊や、取り引「黙れ」っ!」

 

近づき続ける“死”に恐怖し、アウグスタは黎牙へと命乞いをするべく取り引きを持ちかけようとするが、目の前にいる“災禍の邪龍”の殺気によって言葉を発することが出来ないほどの重圧を受ける。

また、それは鳶雄達も例外ではなく真正面から受けているアウグスタほどでは無いが、今までにない黎牙の殺気に当てられ、ヴァーリ以外はその場に崩れ落ちかている。

 

 

「もうお前は、

 

 俺の逆鱗(・・・・)に触れたんだ

 

 お前程度の存在が、

 

 生きる希望を抱くことすらおこがましい

 

 お前の魂は、この場で跡形もなく消えるんだよ」

 

『EnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchantEnchant!!!!』

 

そして、全身に埋め込まれた宝玉から眩い光を発光させ、付加(エンチャント)による強化を止めど無く発生させる。先程まで、神器の中にいたアジ・ダハーカ達は、その意識をもう一度『影』へ移し替える。

 

 

『『『「消えろ、この世の総てから」』』』

 

 

『ディアボリック・ディストピア!』

 

 

手甲に集約させたエネルギーを、影で形成されたアジ・ダハーカ達と共にアウグスタへと放つ。

 

黎牙とアジ・ダハーカ達が放った4つのレーザーによって、凍り尽かされていて身動き一つ取れないアウグスタは断末魔を上げる間もなく、一瞬にして跡形もなく身体を消し飛ばされる。

そして、黎牙の霊能力が付加(エンチャント)された攻撃によって、アウグスタの魂は輪廻の輪に入るどころか、結びついていた肉体諸共、滅却される。やがて、彼女がいたという事実だけが残り、彼女の魂の痕跡は完全に消え去る。彼女が、何を感じ、何を考え、何を知ったのかも、魂を管理する冥府の神ハーデスでさえも知ることは永劫にできない。黎牙(禁龍主)によって完全に滅ぼされた魂は、どんなことをしても戻ることは永遠に無かった。

 

 

 

 

そして、アウグスタがいた場所を中心にクレーターを作り出した黎牙であったのだが、纏っていた鎧に次々とヒビが入り、数秒と待たずに光の粒子となって消滅する。

禁手(バランス・ブレイカー)が完全に解けた黎牙は、ギルバスとアウグスタによって待たされた無数の傷を負ったことに加えて、ボロボロの状態で無理にアジ・ダハーカの力だけでなく、完全な制御ができていない霊能力を乱用したため、瞳、鼻、口、耳と言った顔中の穴という穴から血を流し始める。

 

「れ、黎牙!大丈夫なのか?」

「うるさい。一々騒ぐな」

 

心配気に鳶雄達が駆け寄ってくるが、黎牙は胸の中で眠っているラヴィニアをヴァーリと共に一旦横に寝かせると、ヴァーリのデバイスを通してアザゼルの声が会話に入る。

 

『おい、お前ら。喜ぶのもいいが誰か、アウグスタの紫炎を早く確保しろ。それは、主を渡り歩く神器(セイクリッド・ギア)でな。見逃すな』

「渡り歩く?」

 

初めて聞く情報に皆が眉をひそめていると、アウグスタがいた場所に見覚えのあるゴシック調の衣装を着た少女—————ヴァルブルガが現れる。雹介と闘っていた筈の彼女は、アウグスタがやられたことを察知し、他の魔法使いたちに雹介の足止めを命令し、自分は疲弊している黎牙達に気づかれない様に様子を伺っていたのだ。そして、隠れていたヴァルブルガの手には紫色の火が灯っていた。

 

『―――――――っ!』

 

その光景に一息吐いていた面々は驚くしかなく、咄嗟に黎牙は邪剣を呼び出し駆け出そうとする————だが、度重なる怪我と疲労によって足が思う様に動かず、その場に崩れ落ちてしまう。しかし、倒れる前に詩求子が黎牙の右側から何とか支えることに成功する。そんな彼らにヴァルブルガはイタズラな笑みを見せて言った。

 

「んふふ♪この炎はあげないわよん!回収回収ってね!」

 

言うなり、ヴァルブルガは素早く去って行く途中、一度振り返り、

 

「ごめんあそばせ〜勇ましき邪龍しゃま♡」

「あ゛あ゛ぁ?」

 

最後にとんでもない爆弾を置いていく。

ワザとらしいほどのウィンクとともに投げキッスを放ち、ヴァルブルガは転移魔法で離脱する。

 

「おい、手を離せ、七滝。あのクソビ◯チをブチ殺しに行かせろ」

「だ、ダメ!阿道くん、酷い怪我してるのに!」

 

1人。完全にブチギレた黎牙は、青筋を血塗れの額にいくつも浮かび上がらせ、ヴァルブルガを追うとする。慌てて、鳶雄と紗枝は黎牙を何とか怒りを鎮めることには成功するが、代償として鳶雄は腹に一撃を黎牙に喰らわされる。完全な八つ当たりである。理不尽。

 

『くそっ、手の速いことだ。仕方ない。お前達はバラキエルと合流後、すぐに撤収しろ。あとのことはこちらでどうにかする。五大宗家と一悶着あるのは面倒だからな』

 

アザゼルの命令を聞き、鳶雄たちは携帯電話でバラキエルと連絡を取り付ける。撤収状況になったとき、離れた所で黎牙達を傍観していた返り血を浴びた雹介だけは自身の神器(セイクリッド・ギア)————ブリッツと共に森の奥へと姿を消した。

 

そして、バラキエルとの合流地点へ行く中で、鳶雄は雹介を保護することが出来なかったため気落ちしていると、突然最後尾にいる血塗れの黎牙に蹴りを入られたり、ボロボロの黎牙の頭の上をアジ・ダハーカとポッくんが取り合ったりといった悶着を含みながら、歩を進めていく。因みに、最前列がラヴィニアを背負った鋼生、夏梅で、その後に紗枝、鳶雄、詩求子で、最後尾がヴァーリと黎牙という配置になっている。しかし、黎牙は自身に肩を貸そうとした詩求子と鳶雄の善意を黎牙は拒絶したため、今にも倒れそうなフラフラな足取りをしている。

 

そんな中で、

 

「お前が何を悩んでいるのかは、知らんし。興味もない」

「……………………」

 

視線を合わせず、鋼生が背負っているラヴィニアを心配気に見ている黎牙は、何処か表情に影を落としているヴァーリにだけ聴こえるように、ぶっきらぼうながら話かける。

 

「だがな、俺が超えたいと思っている“男”がウジウジした顔をするな。お前が、いつまでもそんな顔をしていると……ラヴィニア(アイツ)が哀しむぞ」

「—————っ!?」

 

この黎牙の言葉によって、頭に強い衝撃を受けたかのような感覚をヴァーリは受ける。

 

「それにいつの日か、俺は…いや、俺達はお前たちを超える。負けたくないのなら、いつもみたいに堂々としていろ。それが、俺が超えたいと思わせてくれた過去未来において、最強となる白龍皇ヴァーリ・ルシファーだろ?」

「ふっ、それは宣戦布告と受け取っていいのかい?

阿道黎牙(禁龍主)よ」

 

続く黎牙の言葉によって、ヴァーリは先程までココロに残り続けていた曇りが嘘のように晴れ、いつも以上に好戦的な笑みを浮かべ始める。ヴァーリから高まる戦意を感じとり、同様に好戦的な笑みを黎牙は送り返す。

 

「当たり前だ。俺は死ぬまで、お前に挑み続ける。覚悟しておけ、ヴァーリ・ルシファー(白龍皇)

 

互いが互いを“超えるべき存在”であることを認知した2人には、まるで本当の兄弟の様な笑みが浮かび上がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、そんな2人にあの男の凶刃が迫る。

 

 

「実に美しい“ドラゴン同士の友情”ですね———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————————————————反吐が出そうだ」

 

 

 

警戒心を解いていたヴァーリは振り返るのだが遅く、目の前には聖なる波動を纏った剣が飛来してきていた。

 

 

 

そして、彼の視界は飛び散る血飛沫によって赤く染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の奇襲に数瞬遅れて、鳶雄、鋼生、夏梅、紗枝、詩求子が振り返るとそこには、

 

 

 

 

 

 

「ゴイ゛ヅは……はっ…はっ!……オレの獲物だぁ!!」

 

 

 

 

ヴァーリを庇い、無数の剣に貫かれた邪龍(黎牙)がいた。

 

 

「オ゛マ゛エ゛……程度の、はぁっ!はぁっ……存在が、手を出すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

『Over The Liberate!!』

 

瀕死の身体にも関わらず黎牙は、邪剣を呼び出し、刀身にいつもより強い穢れを持つ『闇』を纏わせ、目の前に現れた怨敵(ギルバス)に向けて、三つの黒い龍を形どる衝撃波を放つ。

 

凄まじい衝撃波によって目の前は、土煙に包まれてしまい敵を見失ってしまった黎牙は背後から決死の形相で駆け寄ってくる鳶雄達の声を聞き取れないまま倒れてしまう。

 

 

「(くそっ………マジで、コレは死ぬなぁ)」

 

 

自身に近づいてくる“死”を感じながら、黎牙の意識は闇へと落ちていく。

 

 




もう後、1、2話で二章は終わります。
その後、第3巻を読み直したり、リアルでのゴタゴタを片付ける必要があるので、たぶん数ヶ月くらいはお休みします。


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第12話 災禍の鎧

一言だけ宜しいでしょうか。
何があった!!2月22日!?
UA数とお気に入り登録者数に思わず悲鳴を上げてしまいました。
本気でびっくりしました。
でも、ありがとうございましたぁぁぁ!!嬉しすぎます!

さて、気を取り直して次回で二章は終わりますので。
第12話お楽しみください!


自滅した筈のギルバスによって創り出された剣によって、黎牙は倒れてしまう。そして、いつのまにか突き刺さっていた剣は全て消え去っており、黎牙の身体から湧き出る血は勢いよく流れ続け、血だまりを作り始める。駆け寄った鳶雄達はヴァーリと共に黎牙の治療を施そうとするが、血の勢いは止まらず、焦り始めていると、

 

 

「……………………」

 

 

自らの意志で現れた氷姫が黎牙の傷を全て凍り付かせる。

 

 

「あ、阿道くんの……傷口が…全部凍ってくれた!」

 

 

涙を流しながら、必死に血を止めようとしていた詩求子は、突然黎牙の傷口が氷結されたと言え、止血されたことに驚愕と安堵が入れ乱れた表情となる。

 

「どうして、ラヴィニアさんの神器が……?」

「セイクリッド・ギアは…所有者にしか動かせない筈だよね!?」

「そういうと、さっきの十字剣も色々と辻褄が合わねぇーぞ」

「だが、コレで阿道黎牙の止血は完了したことには変わりはない」

 

鋼生に背中で眠っているラヴィニアに疑念を鳶雄たちは抱くのだが、誰よりも冷静に黎牙の容態を念入りに診断しているヴァーリは、最悪の事態を避けることができた事実を述べる。

 

 

「………やはり、他者の神滅具(ロンギヌス)までも霊能力を駆使して融合させるとは。私の目に狂いは無かったようだ」

『——————っ!?』

 

 

聴きたく声がする方向へ全員が視線を向けると、

そこには、

 

「だが、まだ貴方の狂気(・・・・・)は目醒めないか。やはり、貴方の狂気を呼び起こすには、彼の狂気が必要ですね」

 

口元に手を当てて興味深そうに止血された黎牙を眺める無傷のギルバスがいた。

 

「貴様ぁ!!」

 

黎牙を傷つけられたことに加えて、またしても彼に何もしてやらなかったことに対する無力感による怒りがふつふつと湧き上がっていく鳶雄は、影から妖しい光を発する鎌を取り出す。

 

「ふふふっ、心地よい殺気だ。やはり、君も素晴らしい逸材だ」

「鳶雄達に手出しはさせないわ」

 

まるで与えられたおもちゃではしゃぐ様な顔つきへとなっていくギルバスに向けて、神々しい炎が放たれた。放った術師————姫島朱雀は、鳶雄達の前へ降り立ち、彼等を守る様にして炎を構える。

 

「やれやれ、これだから五大宗家の当主は嫌いなんだよ。無駄に頭が硬いし、自分達が絶対的正義であることを疑わない所が」

 

朱雀の炎が払われると、そこには無傷のギルバスと漆黒の天馬がいた。加えて、黎牙と話していた時と違い、明らかに口調が変わっていることに鳶雄達は疑念を抱く。

 

「言ってくれるわね。狂剣士」

 

埃でも払うかなの様な仕草に加えて、露骨に侮辱した表情をするギルバスに内心苛つきながらも冷静に切り替え、彼の行動一つを見流さない様に警戒レベルを高める。

そして、新たに現れたギルバスの3個目の神器に鋼生はうんざりしたかの様に全員が思っていたことを代弁して叫ぶ。

 

「アイツ……幾つ神器(セイクリッド・ギア)持ってんだよ!?」

「アレは常闇に堕ちし天馬(アプセロス・ペガシス)か!?全員気を付けろ、アレは神滅具には及ばないが凶悪な能力を持つ独立型だ!」

 

鳶雄と並ぶ様に神器である光翼を顕現させ、自らを好敵手として認めくれた事に加えて、自身に超えたいと思わせてくれた黎牙を護るべく自身のオーラを限界以上に高めさせいく。

 

「やめておいた方がいい。もう闘うことのできない禁龍主や氷姫を庇いながら、私と殺し合うのは得策ではない。それに、魂に干渉する霊能力を持たない貴方達では私を殺し切ることは不可能だ」

『…魂…霊能力…………そうか!貴様は自らの霊能力を駆使して、肉体を何度も取り換えているか!だからこそ、貴様はそこまで肉体の欠損をすべて無かったことにしているのか!』

 

ギルバスの言動の中に含まれる僅かなワードから導き出したアルビオンの推察を心底愉快で仕方がないかのよう身体を震わせる。

 

「ふふふハハハハハハハハハハハ!!僅かな言葉で、私の憑依術を見破るとは。封印されていても、神々が恐れしドラゴンなだけはあるな。正解さ、私は自らの身体を自我を持たないクローンで何度も取り換えているのさ。おかげで、霊能力を持たない貴方達の攻撃を受けても大事には至らないのさ。と言っても、万物を斬ることができる狗神の幾瀬鳶雄は別だけどね」

 

今にでも怒りによって飛びかかってくるのでは…と思える程の戦意を露わにする鳶雄達にギルバスは、まさに狂ったように嗤い続ける。

 

「さて、私の事を知りたければ、五大宗家の老害達に聞くといい。私の正体には辿り着けなくても、私や阿道黎牙のように強力な霊能力者たちだけが持つことを許された

狂気の波動”は、魂を持つ者にとっては有毒なのだから」

「待てぇ!!」

 

転移魔法で離脱しようとするギルバスを逃がさないため鳶雄は朱雀たちの静止を振り切り刃とともに鎌で斬りかかるのだが、その行く手を漆黒の天馬が阻む。その天馬は剣を咥えてた刃の攻撃も、その名の通り常闇を想起させるほどの不気味なオーラを纏う翼で防いでみせる。そして、所有者であるギルバスは向かってくる鳶雄に左手の指先をまるで銃を形造るように構える。

 

「『ディエス・エル・グレス』」

 

呪詛を呟くようにギルバスは指先から高出力の魔法力の塊を放つ。

 

「(避けれない!ならば、斬る!)」

 

自分が避けてしまえば、紗枝達に向かっていくことを察知した鳶雄はすぐさま、自身のオーラを鎌へ集約させ迎撃にでる。

 

「もうこれ以上、仲間を傷つけさせはしない!」

 

と鳶雄は、自らの神器の力の一端である鎌で見事ギルバスの攻撃を断ち斬ることに成功する。しかし、鳶雄が迎撃に出ることを予想していたのか、ギルバスはこの場から退散していた。加えて、刃と対峙していた天馬も、時間稼ぎの役目を終えたため所有者であるギルバスの中へと戻るためにその場から消え去る。

 

 

かくして、アウグスタ率いる『オズの魔法使い』とサタナエル率いる『アビス・チーム』との激戦は辛くも勝利とは言えない結果となった。

しかし、この闘いによって四凶の内の1人である詩求子の保護には成功し、鳶雄は自らの禁手(バランス・ブレイカー)を制御し、黎牙は同じく至る結果となったのも事実である。

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

暗い森の中での死闘から早10日の時間が過ぎた。

 

そんな中で黎牙は、6日間眠り続けていたが、6日目の昼に目を覚ました。そして、禁じ手の影響で身体が万全とは程遠い状態であるので鳶雄に飯を作ることを要求した。目を覚ましたばかりであるのにもかかわらず、相変わらずの黎牙に鳶雄と紗枝は何処か安心してしまう。

しかし、腹ペコの黎牙によって冷蔵庫の食材を全て食い尽くされてしまうことには、口元を引くつかせてしまった。また、その時黎牙の傍らには何故かポッくんまでおり、黎牙に出した料理の三割を食べてもいた。所有者である詩求子は黎牙が目覚めたことに感涙の果てに眠ってしまったのは余談である。

 

そして、数日が過ぎて黎牙は病室で大火傷を負った左腕以外の包帯を全て取り払い、魔導書とともにヴァーリから渡された『術の書』を空中に浮遊させながら読んでいたいた。そんな様子の黎牙を呆れと諦めととも言える溜め息をつくのは、ベッドの近くに用意された椅子に腰掛けているのは、アザゼルである。

 

「で、何のようだ?」

「いやなに、お前まで『愛』って奴で至るとはな。半分冗談とは言え、マジで至るとは思わなかったよ。しかも、アレ(・・)はどうみても亜種だ」

 

「お前のそのニヤニヤ顔を整形させてやりたいが、やはりか。アジ達は、俺が霊能力を駆使して氷姫の力を使ったことに不満だったらしくて、神器の中でへそ曲げているから詳しくは知らないがな」

「くくく、あのイカれた邪龍がスネるって。随分と丸くなったな、アイツらも」

 

「さぁな。だが、アジ達は神器の融合にはテンション上げていた癖に、この手のひら返しだ。邪龍としての根っこは変わってはいないだろ」

「確かにな。だが、ここまでアジ・ダハーカと同調している所有者はまずいない。恐らく、ヴァーリ同様にお前も過去未来において最強の禁龍主になるのかもな」

 

笑うアザゼルに黎牙は一瞥することもなく、次なる魔導書を読むため浮遊させている本の位置を操作しながら話を進めていく。

 

「話を戻すが、お前の禁じ手は明らかに異常だ。一部とは言え、紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)を取り込み、その力を自らの神器で再現させた。更に、強化された神器を使い、より一層活性化させた自らの霊能力を駆使して、魔女っ子の永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)とお前自身の禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)を融合させるなんて、聞いた事もないぞ」

「知るか、俺は邪龍として自分の欲望(やりたいこと)に従っただけだ。文句を言われる筋合いはない」

 

「まぁーな。明らかにお前は歴代の奴らとは違う道を進んでいるのは確かだ。よし、あの亜種の名前なんだが——」

「災禍だ」

 

面倒な仕事をシェムハザに押しつけて考えた黎牙の亜種の禁手(バランス・ブレイカー)を伝えようとしたのだが、黎牙によって遮られる。

 

「アレの名前は『禁龍主の(プロヒビット・ヘェリィシュ・)災禍鎧(ディザスメイル)』だ」

「………なるほど。確かに災禍の名前は、お前達にピッタリかもな。だが、気を付けろ。お前の力を以前よりも強くなったが、同時にアジ・ダハーカ達の支配力も強くなっている。コレは、誰よりもアジ・ダハーカを警戒するゾロアスターの善神たちも察知している筈だ。恐らく、近い内に刺客が送られてくる筈だ」

 

「その前にオレに消えろ…と?」

 

漸く本から視線を外したかと思えば、以前よりも鋭い殺気をアザゼルへ向ける。しかし、アザゼルはその殺気をそよ風のように受け流し、黎牙に向き合う。

 

「いや、もうお前はヴァーリにとって兄貴と呼べる存在だ。そんな奴を益々追放なんてしねぇーよ。それにヴァーリだけじゃねぇ、アイツらはもうお前を本当に信頼しているんだ。だから、アイツらは何があってもお前を助けるさ」

 

真剣な表情で話すアザゼルの視線を受けていたが、黎牙は聴こえるように舌打ちをして、又もや本へ視線を戻してしまう。

 

「しっかりいてくれよ。お前はもうヴァーリにとって“超えるべき存在”なんだがらな」

「………………………」

 

自分がヴァーリに放った言葉は自分にも当てはまることでもあるためアザゼルの言葉に黙って頷くように応答する。

 

 

 

 

「黎牙いるよね!?」

 

そんな病室の扉が勢いよく開けられた。病室へ大声を上げて入って来たのは、夏梅であった。加えて、その後ろには紗枝、鳶雄、鋼生までもいる。

 

「吉報だぜ。ツンギレ邪龍」

「ラヴィニアさんが目を覚ましたんだ!」

「意識もハッキリしているよ」

 

アザゼル同様にニヤニヤ顔をする鋼生に青筋を立てかけるのだが、鳶雄と紗枝が知らせた内容によって、黎牙は内心ホッと安堵の息を撫で下ろしつつも表面上は「あっそ」と素っ気無く答える。

 

「さぁ!男子達、黎牙を連行して!!」

「はぁ!?」

 

黎牙の言動には慣れ始めているため夏梅も掴みかかることは全くせず、悪そうな笑みを浮かべ鳶雄と鋼生へ指示を出す。

 

「という訳だ。お姫様が、お呼びだぜぇ〜」

「ラヴィニアさんが呼んでいるから我慢してくれ」

 

困惑する黎牙を差し置いて、鳶雄と鋼生は黎牙を背中から持ち上げ病室から連れ出していく。

 

 

「おい!ふざけんなよ、どういうつもりだ鮫島!幾瀬!!

降ろせェェェェェェェェェェェェ!!!!」

 

 

自分たちの真上で、ひっくり返った亀の様にジタバタさせる黎牙の叫びを無視して、鳶雄と鋼生は脱兎のごとく廊下駆け抜けていく。その前方を駆ける紗枝と夏梅に対し、アザゼルは苦笑いを浮かべながらも面白そうなことになると予期し、ついて行くのであった。





ちなみに、アジ・ダハーカの意識が出入りするデバイスは紗枝が預かるのであった。


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第13話 居場所

第二章最後の話です。
みなさんの感想の中には、チラホラと四年後の成人となった黎牙の姿を予想してくれていることが書かれているのを見て、「黎牙がここまで皆さんに愛されているなんて……」と泣きかけました(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

それでは、第13話どうぞ!!


アウグスタを黎牙の助けを借りてとは言え、追い払ったラヴィニアは、そのまま眠りついた状態のままグリゴリの医療施設に運び込まれ、『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』の関係者が見守る中で、各種検査と治療を受けることとなった。その間に、アウグスタの魔法の影響が残らない措置を幾重にも受け続けていたのだが、十日間眠り続けていた彼女はようやく目を覚ました。

 

夏梅の指示の下で、ラヴィニア専用の病室の前で降ろされた黎牙は何とか受け身を取り、邪剣を取り出そうとしたのだが、いつのまにか紗枝が預かっている黎牙のデバイスに意識を移し替えたニヤニヤ顔のアジ達が遠隔で黎牙に干渉する。その結果、まだボロボロの黎牙は神器を展開できないようにされる。そして、早くラヴィニアがいる病室へ行くように夏梅と紗枝に言われる。内心ではラヴィニアが心配な黎牙は表面上は舌打ちをしつつも、言われた通り病室のドアを開けて入っていく。またその際には、鳶雄、鋼生、夏梅、紗枝、アザゼルが親指を立ていたことに黎牙がブチギレかけたのは余談である。

 

「ようやく起きたか。また、あの世界に引き篭もっていたのかと思ったぞ」

 

相変わらずの無愛想な物言いにもかかわらず、ラヴィニアは穏やか笑みを黎牙へ送る。

 

「ファングのおかげで……もう大丈夫なのです」

「よく言うぜ。あんなにビィービィー泣いていた癖」

 

「うぅ……そ、それは…ファングが抱き締めてくれるから…涙が出てしまっただけで…私は泣き虫では…ないのです」

 

精神世界での出来事を思い出してしまったのか、ラヴィニアは視線をキョロキョロとさせ、口元で指をツンツンと合わせ、言葉を濁す。

そんないつもと変わらない彼女の様子に黎牙は内心安心しつつも、ワザとらしい溜め息をついてベッドの近くに用意された椅子に座る。

 

「ヴァーリだけじゃなくアイツら全員、お前を心配していたぞ。後で、謝っておけよ」

「はいなのです。本当にありがとうございました。ファングのおかげで、今の私はこうして皆んなの所に……“今の私”の居場所に帰ることが出来ました」

 

「俺は勝手に乗っ取られたアホに自分の言いたいことを言いに行っただけだ。あのクソババァを追い払ったのは、お前自身だ」

 

闘っていた時と違い、あまり素直にはなりきれない黎牙にラヴィニアは柔和な笑みを送りつつも、首を横に振る。

 

「いいえ、あの時。お師匠さまの言葉を聴いて、何も分からなくなって、誰を信じていいのかも分からなくて、自分のココロを総て氷に閉ざしてしまった私に貴方は語りかけてくれました」

 

ずっと捜し続けていた恩師であり、育ての親でもグリンダからの痛烈とも言える拒絶の言葉を聴き、ショックのあまり敵であるアウグスタに隙を突かれ、肉体を乗っ取られ、黎牙を傷つけてしまった。

 

「でも、私はそんなファングを傷つけてしまった」

 

瞳からでも判るほどに深い哀しみを感情を露わにするラヴィニアはそっと、黎牙の包帯で巻かれた左手を自身の両手で包み込む。

 

「お前が気にする事じゃない。コレは弱かった俺が勝手にあのクソババァにやられただけだ」

「でも、私がやったことには…ムグッ!?」

 

今にも涙を流しそうになるほど悔いるラヴィニアの頬を黎牙は空いている右手を使って摘み上げる。

 

「うるさい。一々終わったことを蒸し返すな」

「いひゃい!いひゃいれぇす!!ファンフ!?」

 

「ぷっ!はっはははは!!ヤベェーおもしれぇ!」

 

アワアワと慌てながら、頬を引っ張られ続けるラヴィニアは黎牙に辞めるように言うものの上手く発音することが出来ず、きちんと伝わらない。そんな彼女の言動と慌てっぷりが滑稽に見えたのか、黎牙は噴き出してしまう。

 

「うぅ〜〜〜〜〜ファングはやっぱり意地悪なのです」

「はぁーはぁーはぁ…あ゛ぁぁ笑った笑った。今更だろ」

 

ラヴィニアは引っ張られた頬を摩りつつ涙目のまま黎牙を睨むものの迫力のはの字もなく、意地悪そうな顔をする黎牙には全く効果がない。そんな黎牙にはぁーと息を吐くものの、ラヴィニアの顔には何処か呆れつつも安心したような表情が浮かび上がる。

 

「でも、本当に私は、ファングに助けて貰ったのです。あの時、前へ踏み出す為に必要な一歩を踏み出せないでいた私に勇気をくれたのは、紛れもなく貴方なのです」

「………それは………勘違いだろ」

 

何処か照れ隠しなのか、ラヴィニアの視線から逃げようとする黎牙の手をもう一度包み込み、自分の胸元へと持っていく。

 

「本当に私は嬉しかったのです。氷に包まれていった“私の世界”を貴方は、この暖かさで溶かしてくれた。あの時、私はファングの想いを感じ取ることができた。その想いが、私を助けてくれた」

「……………………………」

 

先程までの有理であったはずの黎牙はもう存在せず、彼女の話を黙って聴くしかできなくなっていく。

 

「そして、私の居場所が、ファングやヴァーくん、トビー、シャーク、夏梅、シャーエ、皆んながいる“ここ”がもう私の居場所なのだと気づかせてくれました。でも、やっぱり私は…………彼女に逢いたい。逢って真実を知りたい。でも、やっぱりコワイのです」

 

何処か震えているラヴィニアの瞳には不安と恐怖が存在していた。その瞳のまま、ラヴィニアは先程から黙り続けている黎牙を見据える。

 

「本当に…………信じて、いいのですか?」

「そんな目で見えるな。ったく、どっかの手のひら返しばかりする邪龍とは俺は違う」

 

ハッキリと言えないのか、黎牙は何処かはぐらかしてしまう。

 

「ちゃんと……言葉にして聴かせてください」

 

氷の世界にいた時の様に弱々しく、声を不安で震わせるラヴィニアを見かねてしまい、黎牙はデカイ溜め息を吐く様に、根気負けしたかの様に、不安気な彼女に視線を戻す。

 

「誰も信じられないなら、オレを信じろ。オマエを信じたオレを信じろ。邪龍として契約を果たすオレを信じろ。そして、こんなオレを信じているアイツらを……仲間を信じろ、ラヴィニア」

 

何とか黎牙はきちんと最後まで言い切ったが、言い終えた瞬間、頬を赤く染め彼女から逃げるように視線を外してしまう。自分から逃げるようにあらぬ方向へ視線を向ける黎牙の言葉を聴き、ココロから安心したように暖かみを感じさせる笑みを送る。

 

「ありがとうございます。そ、その、できれば……真実を知るための闘いでは、ファングにも側に……いてほしいの…です」

「………なんで俺が」

 

「だ、だってファングは、あんなにも……私を抱き締めてくれた………のに…ダメなの…です……か?」

 

さっきとは打って変わり、又もや不安気な表情になるラヴィニアに対し、黎牙は計画的にやっているのかと疑うものの、それほど繊細なことを出来る彼女ではないので、もう一度大きな溜め息を吐く。

 

「わかったわかった!また、勝手に乗っ取られて戻すのもメンドクサイからついて行ってやる!コレでいいだろ!!」

「はい、本当にありがとうございます。ファングはやっぱり、とっても優しい邪龍なのです」

 

素直に側にいるとはまだ言えない黎牙の言葉にラヴィニアは、先程よりも柔和な笑顔を溢れさせる。

 

 

「……もうオマエは、俺にとって拠り所(必要な存在)なんだ。だから、もういなくなられたら困るんだ。いてほしいなら、お前も俺から離れるな」

「えっ?」

 

 

ラヴィニア自身は流石に予想していなかったのか、自分の耳を疑いかけるが、黎牙が真剣に言葉にして伝えてきてくれていることに驚いてしまう。

 

 

「………………あの時、俺はお前のあの言葉に安心させられたし、ギルバスの奴に暴走させられそうになった時、チカラを貰ったんだ。だから、その借り…いや、お前が助けてくれた恩を返させろ」

 

 

大好きな母から教わった言葉によって自分の知らない所で黎牙の助けになっていたことに嬉しく思う—————だが、黎牙のココロから伝えて来てくれている一言一言が自分のココロにも深く響いていくことに困惑する。

 

「は、はぃ…////」

 

そして、気付いたときには自分まで顔だけでなく耳まで赤く染まってしまったため慌てて、黎牙から逃げるように視線を逸らしてしまう。互いに照れているのか、2人とも頬を朱色に染めて視線を合わせないが、互いに繋いだ手は離さない。

 

言葉を発さず、静かな時間が2人の空間に流れようとしたのだが、

 

「…ちょっと!押さないでよ!?」

「ば、バレちゃうよ…」

 

夏梅と紗枝の騒ぐ声が黎牙の耳に入ってしまった。

 

 

ブチっ!!

 

何か切れるような音が鳴るのだが、黎牙は気にもせずラヴィニアと繋いでいた手を離し、邪剣を無理矢理自分の中から呼び出す。頬をまだ染めているラヴィニアは離されてしまった手を物欲しそうな目で眺めつつ、残っている“ぬくもり”をもう一度感じ取りたいのか、繋いでいた手を胸元まで持っていき、もう片方の手で包み込む。

 

そして、あふれ出る『闇』を出している黎牙は、問答無用で扉をバラバラに斬り裂く。

 

「「「きゃっ!?」」」

 

紗枝と夏梅以外にも詩求子までもが、斬り捨てられた扉から雪なだれようになだれ込んできた。

その他にも彼女たちよ背後には、

何処か嬉しそうな表情をする鳶雄、

ニヤニヤ顔をしながら卑猥な表現を指でする鋼生、

何処か不満げなヴァーリ、

顎髭を触りつつ悪オヤジ風のニヤニヤ顔をするアザゼル、

鳶雄の頭の上で腹を抱えて嗤い続けているアジたち、

といったメンバー全員が勢揃いしていた。

要は、全員でさっきの会話を盗み聞きしていたのだ。

 

「……………」ゴォォォ

 

そのことに気づいた完全なる無の表情となる黎牙か、無言でまるで何かの準備運動をするかのように腕をパキポキと音を鳴らしていく。

 

「ち、違うの!コレは偶々というか、ちょっと聴こえてしまったと言うか……とにかく違うから!!」

 

慌てて弁明する夏梅。

 

「その、阿道くん。もう少し、気持ち伝えれないの?」

 

こんな状況でも何処か残念そうに素直にはなれない黎牙を指摘する紗枝。

 

「う、うらやま…ごごごごめんなさい阿道君!!」

 

危うく恋する乙女としての本音がバレかけるが、慌てて謝罪する詩求子。

 

「……黎牙、俺は嬉しいよ。俺たちのこと……『仲間』って言ってくれて!!」

 

黎牙の口から自分たちを認めてくれている事実を聞けたことに対して、嬉しさのあまり黎牙の殺気が分からなくなっている鳶雄。

 

「いやーイイもん見れたぜ。邪龍さま?」

 

ケッケッケッと言いたげな笑みをする鋼生。

 

「いや〜青春してるなぁーオジサンは嬉しいぞぉ〜」

 

先程よりもニヤニヤ度を上げ、いやらしい笑みを出すアザゼル。

 

「阿道黎牙、君の禁じ手と俺の禁じ手をどちらが上が白黒ハッキリつけようじゃないか?」

 

まるで姉に男の影ができたことを不服に思う弟のような不満げな表情をするものの、強くなった黎牙に挑戦を申し込むヴァーリ。

 

「……おい、アジ。どちらに着くか1秒で決めろ」

『『『ふっ、仕方ない。(死にたくないから)当然オマエについてやる』』』

 

ハイライトが消えている黎牙の言動にずっと神器の中でヘソを曲げていたアジたちだが、一瞬にして定位置である黎牙の頭の上に避難する。

 

「弁明も謝罪もいらん。全員…………今すぐに俺の手で

地獄に叩き落としてやらァァァァァ!

 

 

『『『「禁手化(バランス・ブレイク)!!」』』』

 

 

 

Diabolism Thousand Dragon

Balance Breaker!!

 

 

「「「「「それはシャレになってない!!」」」」」

「死に晒せェェェェェェェェェェ!!!!」

 

 

翼を広げて一目散に逃げているアザゼルと、アザゼルに首根っこを掴まれてしまっているヴァーリを置いて、廊下には、ダッシュで走る鋼生、鳶雄、夏梅、紗枝、詩求子の5人の叫が響き渡るのであった。

 

 

まだ、病み上がりでもあるためか、1分と待たずに禁手(バランス・ブレイカー)は解かれてしまったが、一日中鳶雄たちは目が座っているガチの黎牙と追いかげっこをすることとなる。そして、バラキエル、頭にタンコブをいくつも作ったアザゼルを引き摺ってきたシェムハザなどのグリゴリの大幹部たちによって色んな意味で暴走している黎牙を鎮圧するのであった。後日、鳶雄、鋼生は半殺しに遭い、紗枝、夏梅、詩求子は身体中の水分が抜けるのではと錯覚するほどの激辛地獄を、ヴァーリには残りの『正典』を一時渡すように言いつつも模擬戦を半日ほど付き合い、アザゼルには持っている酒をアジ達に樽クラスで渡すように要求しつつも、仕事をサボっていたことをシェムハザにバラしたのであった。

 

ちなみに、ラヴィニアは自分の未知なる感情に戸惑いつつも、黎牙に握られていた手の感触を検査に来る職員に話しかけられるまで感じ続けていたのであった。




《オマケ》

「待てやゴラァァァァァァァァァァ!!」
「「「「「死ぬ死ぬ死ぬ絶対死ぬ!!」」」」」

「おい、貴様ら何を!?」GAME OVER

『『『巻き添えを喰らったコカビエルであった』』』

「コカビエルさんが死んだぁ!?」
「「「「この人でなし!!」」」」
「俺たちは邪龍だ!ゴラァァァァァ!!」


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幕間 IFの未来(ハイスクールDxD版)
第13.5話 邪龍師弟


皆さんお待ちかねの四年後の黎牙です!
因みに、タイトルの通り私のヴァーリと同じくらいに好きなキャラを出します!!


拝啓、天国にいる父さん、母さん。

貴方達の息子である俺こと匙 元士郎は、シトリー会長の眷属悪魔となりました。そして、近い内に兵藤たちグレモリー眷属とのレーティングゲームをすることとなり、その試合に向けてある人?の下で修行しています。

 

「おい、何現実逃避している気だ。殺すぞ?」

 

上空より飛来してきた魔法弾と共にとてつもないほどの殺気を飛ばしてくる師匠。もうヤダ!帰りたい!!会長達のいる所に帰りたい!!助けてェェェェェ会長!!

 

「師匠ー!!もう死にそうでヤバいです!!俺、本当に会長とできちゃった結婚する前に師匠に殺されそうです!!」

「よーし、そこまで元気があるなら休憩はなしだな。おい、ニーズヘッグ!もうコイツ追い回していいぞ。ただし、死の一歩手前でな」

「わわ、わがった。さささ匙、はじめるぞ? れれれれ黎牙、ぢゃぢゃぢゃんと手加減ずるから…」

 

「わーてる。タンニーンの奴の所からくすねたドラゴンアップル特製のアップルパイを10個だろ?」

「おおおお、おう!!おおお、おで、れれれ黎牙のあああ、アップルパイだだだ大好ぎだがら!もも、もっどぐいでぇ!」

 

さっきまでそこでとてつも無いほどの異臭のある涎を垂らして昼寝していた伝説の邪龍ニーズヘッグさんがギラギラした目で構え始めてしまったぁぁぁぁ!

 

「有り難く思えよ。お前の王がチェスで俺に勝ってまでお前のレベルアップを望んでいるんだ。伝説の邪龍であるニーズヘッグと、俺いや違うな」

 

『『『「俺たち禁龍主が師匠になってやっているんだからな」』』』

「カッコよく声揃えてまで、魔法構えないでくださいよ!!アジ・ダハーカさん!!師匠!!」

 

影でできている3つ首の龍と一緒に獄炎と言えるほどの黒い炎を構えるのは、俺こと匙元士郎の師匠————阿道黎牙さん。

年齢はたしか21歳の筈だけど、見た目は完全に悪人面が似合うほどの目付きの悪さに加えて、羨ましいほどのガタイの良さを持つ悪系のイケメン。そして、その身体から漏れ出るオーラはあのコカビエルが可愛く思えてしまうほどに半端ない。まさに龍の王。

この人こそが最強の邪龍アジ・ダハーカを宿す人間?でもある。

 

『『『テメェのためにあの子娘が俺たちに勝ったんだ。“漢”を見せろ!』』』

「そう言うことだ。いつまでも女の影に隠れるな。闘え!!元士郎!!」

 

そうだった。

俺なんかのために会長は、この人にチェスではとは言え勝負を挑んでまでこの人たちに修行相手を頼んだんだ!

 

俺が、俺がちゃんとやらないでどうする!!

 

このままだと、会長の、いや俺たちの夢は一生叶えられない!!

 

「師匠!!よろしくお願いします!!」

「よし。死ぬ気でこい」

 

殺気全開する師匠とニーズヘッグさんを目の前に、俺がすることは一つ!!

 

「逃げます!!」

 

ダッシュで逃げて隙を窺うことのみ。

 

「…………ニーズヘッグ、やっぱり殺していいぞ」

「わ、わわわがった!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!助けてェェェェェ!会長ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

後に、こんな俺が師匠達との地獄の修行のおかげで、格上である赤龍帝である兵藤に勝つことになるなんて思いもよらなかった。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

数日前。

シトリー領地にて、匙の主であるソーナ・シトリーが眷属悪魔である生徒会メンバーを呼び出す。

 

 

「それぞれの修行メニューは、アザゼル先生が考えてくれた資料の下で行って貰います」

「あ、あの〜会長?俺だけ、何も渡されていないんですけど?」

 

「それは————」

「それは、俺が説明してやろう」

 

会長の言葉を遮るように登場したのは、つい最近和平を結んだばかりの堕天使の総督アザゼル先生であった。そして、何故か頭にタンコブが無数についていた。

 

「イッセーの奴には、タンニーンを修行相手を務めているのに、同じドラゴンを宿すお前にもドラゴンの師匠をつけて貰うことでお前たちとの眷属修行の公平にすることをセラフォルーに提案してたんだ。普通にOKサイン貰えたけどな。と言っても、俺の知り合いの中でもタンニーン以外に強ぇー奴なんてヴァーリの奴以外1人しかいなかったからな」

「え、俺の師匠って兵藤と同じドラゴンなんですか!?」

 

「いや、人間なんだけど。そいつ、気まぐれつーか、自分勝手というか。中々人の頼みを聴いてくれない奴だからなー」

「じゃー無理じゃないですか!!」

「いえ、私が直に逢いに行き。匙の修行相手をして貰う約束を取り付けましたよ」

 

結局修行相手がいないことに落胆しかけるものの、ソーナの一声で匙は輝かせたように明るくなる。しかし、ソーナの瞳には酷く疲れた様な、少し死んだ目になっている。

 

「よく、アイツに言うことを聴かせたな。俺が頼んでも魔法弾の雨降らせてきたのに」

「チェスで勝負して、なんとか勝利して契約しました………殺気全開の状況下で気絶しかけましたが」

「すみません、俺なんかの為に………」

 

「構いません。私達の目標のためには、リアス達との闘いはなんとしても勝たなければなりませんから」

「か、会長ぉ……」

 

ソーナの覚悟に感涙の涙を流す匙であったが、突然猛烈なプレッシャーとも言える重圧が身体に乗しかかり、崩れ落ちてしまう。周りをなんとか匙は見渡すと、他の生徒会のメンバーだけでなくソーナも同様に滝の様に冷や汗を流し膝をついている。唯一、無事であるアザゼルはある一点の方向へ視線を向け、呆れた様に誰もいないはずの壁に話しかける。

 

「おい、いい加減に辞めてやれ。コイツらはまだお前たち(・・・・)の殺気耐えれるほど強くないんだぞ」

「やれやれ、この程度も耐えれない奴を鍛える俺の身になれ、クソゼル」

『お前が、そこの蝙蝠にチェスで負けるのが悪い』

『マジであり得ねぇーぜ☆』

『マジでクソ弱味噌だぜ☆』

 

やがて、ガラスが割れた様に突然アザゼル先生が向いていた壁を中心に空間が崩れ落ち、まるで最初からいたかのように壁に寄りかかるように黒コートを着た人相の悪い青年がいた。さらに、その手にはドス黒いオーラを感じさせる漆黒の剣が握られていた。

そして、膝をついて息を荒くしている俺たちを残念なモノを見るかの様な目をしながら、指を鳴らすと、先ほどのまでの重圧が消えた。

 

「はぁ…はぁ…わざわざ冥界まで来ていただき…ありがとう……ございます。阿道さん、お待ちしていました」

 

1番早く立ち上がった会長は、深々と阿道と呼ばれる人に頭を下げた。そんな会長の言葉をどうでもいいかのようにまだ立ち上がれない俺の前まで足を運んだ。

 

「で、お前が鍛えてほしいって言ったのはコイツか?」

「はい。私の眷属匙です。匙、挨拶しなさい。この人が貴方の修行相手を務めてくれる阿道黎牙さんと、其方の剣の中にいるのが、伝説の邪龍であるアジ・ダハーカさん。貴方や兵藤くん、そして白龍皇と同様にドラゴンを宿す方です」

「…し、シトリー眷属兵士(ポーン)の匙元士郎です!よろしくお願いします!!」

 

「……………契約上、どんなヘタレでも期間中は鍛えてやる。だが、無理だの、辞めたいだのとぬかしたら。そこで終わりだ」

 

俺を見て何か思ったのか、口は悪いけど何処か呆れた様な目をしつつも修行を受けさせてもらえる。

 

「は、はい!!どんな地獄でも耐えてみせます!!」

「へぇ〜どんな地獄にも……ねぇ。だってさ、アジ。これならニーズヘッグの良い遊び相手になるな?」

『『『イイ悪い貌だな!!』』』

 

この時、俺はとんでもないことをテンションのあまり言ってしまったことを修行開始と同時に後悔する。だって、コレ聴いた後の師匠の貌……子供がガチ泣きするほどの怖すぎる笑みが浮かんでいたんだよぉぉぉぉ!!

 

俺のバカァァァァァァァァァァ!!

 

 

「おい待て!黎牙!?今、ニーズヘッグって言ったか!?」

「さぁーて、行くぞ。ヘタレ悪魔、別れの挨拶は無しだぞ」

「ちょっ!?まだ、心の準備がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

とんでもないビッグワードに慌てる会長やアザゼル先生を置いて、俺の首根っこを掴んで、物凄いスピードで飛んでいくため、会長達に一声もかけさせてもらえなかった。

 

というか、風圧がァァァァァァァァァァ!!死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

 

 

 

その後、師匠に拉致られて着いた場所は、なんでもある悪魔が数代前の禁龍主の怒りを買って一族諸共滅ぼされて更地と化した領地であった。そして、その更地にはとんでもない程の呪いが充満している際で耐性がない生物は呪殺されるため立入禁止とされているのに、師匠はそんなことお構い無しに侵入した。そんな場所に俺は踏み込んだ瞬間、死ぬほど息が苦しく、身体が何倍にも重くなった様な感覚を覚えてしまった。

 

そんな状況下でも師匠は、全く屁でもないかの様に欠伸をかけるくらい余裕であった。

 

呪いの際で、上手く立てない俺に向かって師匠は、

『レッスン1。定期的に呪いを解いてやるが、3日でここに適応して貰う。別に逃げてもいいが、その時は自力で帰れ』

ヤベェーくらいの無茶振りをしてきた。

しょーじき、この時俺はふざけんな!と思ってしまった。

 

でも、会長が俺のために頑張ってくれたんだ。

その会長の為に逃げる訳には行かない俺は自分を奮い立たせ、修行を受けることを叫んだ。

その後、危うく4日目に突入しかけたが、レッスン1はなんとかクリアできた。死ぬかと思った。

クリア報酬と称して、師匠が舌が蕩けるのではと思ってしまうほどの飯を食わせてくれた。また、その時の料理は全て師匠が俺の身体の巡りを良くする為に考えてくれたモノだというのを、師匠に弁当を届けに来た師匠の恋人であるラヴィニアさんと、シグネさんに教えて貰った。後、スゲェー美人が2人も恋人だなんて……師匠、羨ましいすぎます!!

その時、本音が出てしまい、師匠に半殺しにあったのは余談である。理不尽だぁぁ(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

 

師匠による治療と料理のおかげで全開になった瞬間に次の課題として、

『レッスン2は暇なニーズヘッグと鬼ごっこしろ。反撃してもいいぞ。攻撃を当てることが出来たら、次に進む。あと、ニーズヘッグも余裕で攻撃する様に言ってあるから死ぬ気で避けろ』

という理不尽な内容であった。

 

そして、時間は戻り現在、大口を開けたニーズヘッグさんに俺は追いかけてまわされています。

 

「師匠の鬼!悪魔!!大魔王!!」

「残念だな、悪魔はお前だ。そして、俺は邪龍だ」

『オラオラ、しっかり逃げて反撃してみせろや』

『玉砕に1,000だぜ☆』

『いやいや修行から逃げるのに10,000だぜ☆』

「ぐぐぐうぅぅぅぅぅ!!お、おで、おおおおまえぐ、ぐう!」

 

「喰わないで!ニーズヘッグさぁぁぁぁん!!」

 

 

 

そんな修行の中でも匙は投げ出すことはせず、かつての黎牙に迫るほどの根性を見せ、黎牙たち邪龍を驚かせるほどの成果を見せるのは、もう少し先の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

レーティング当日。

 

 

アザゼル、サーゼクス、セラフォルー、オーディンと言った首脳陣とともに黎牙はシトリー眷属とグレモリー眷属による試合を拝見していた。

 

そんな中で両者の拮抗していた流れは、満身創痍の匙の手によって崩れることとなる。

 

『俺は、俺たちは……負けるわけにはいかねぇーんだよ!!会長の夢を……もぅ…誰にも笑わせない…だめにも!!オレは……お前に勝たなきゃならねぇーんだよ!!』

 

自身の神器によって自分の身体と相手である赤龍帝である兵藤一誠を繋いでいる状態のまま、殴り合いによるタイマン。

禁じ手である鎧を着た一誠の方が格上であり、優勢。

そんな状況にもかかわらず、匙の瞳には諦めの感情はなく、瞳にあるのは勝利に対する絶対的な渇望ただ一つであった。彼との修行を最後まで付き合っていた黎牙以外の首脳陣の誰もが、赤龍帝の勝利を確信していた。

 

しけし、その期待は粉々に打ち砕かれることとなる。

 

 

『兵藤…わりぃーけど………この雷(・・・)は…はぁはぁはぁ……一度しか使うなって師匠に言わてるんだ…だから、もうコレで終わりだぁぁぁぁ!!』

 

 

黄金に輝く神聖を帯びた雷を右手に収束した元士郎は、そのまま赤龍帝に、その拳を撃ち込んだ。

その結果、雷を喰らった赤龍帝は敗北の判定を下され、この試合が離脱させられる。また、続くように匙も力尽きるが、彼が格上の赤龍帝に勝ったという事実には違いはない。その結果、ボロボロの匙によって、誰もが予想することができなかった赤龍帝の敗北によって、一気にグレモリー眷属の連携を崩し、シトリー眷属はその士気を高め、見事チームとして勝利を勝ち取ることに成功する。

 

「おいおい!黎牙、まさかアレは……」

「お前の予想通りだ。アレは、元士郎の奴が俺たちとの修行中に俺に一矢報いるために発現した。ヴリトラを滅ぼしたとされる『ヴァジュラの雷』だ」

 

「はっはははは!!マジかよ!!神の雷を発現させるなんてアリかよ!!」

「アリもクソもあるかよ。アイツは、禁龍主(オレたち)の弟子だぞ。いずれは、ヴァーリやオレがいるステージまで来るさ。あぁー楽しみだ!」

 

首脳陣が度肝抜かれている中で号泣するセラフォルーにハグされている黎牙は、アザゼルとともに匙の勇姿に対して心底嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「さて、俺は帰るからな。いい加減に帰らないとアイツらがうるせぇからな」

「くくく、定期的にガス抜きしてやれよ。女ってのは放っておかれると面倒くさいことになるからな〜」

 

「知ってるわボケが」

 

心の底から、匙の成長を嬉しそうな笑みを浮かべる黎牙は、ニヤけてしまった貌のまま、自分を恋しがっている2人の元へ戻るのであった。

 

 

その夜、テンション上がりが止まらない黎牙によってラヴィニアとシグネは色んな意味で彼と眠れぬ夜を過ごすこととなるであった。しかし、2人の顔には久しぶりの黎牙との一時に愉しめる嬉しさしかなかったのは余談である。




駆け足でしたが、如何でしょうか?
黎牙と師弟関係となった匙との修行風景を書いてみました。
ちなみに、ニーズヘッグは復活したばかりの頃、世界を放浪していた黎牙によって見つけられ、密かに黎牙に匿われつつ黎牙の料理の虜になってしまい居候しています。アザゼルには内緒で。


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第3章 狂龍の回帰
第1話 狂気の兆候


生存報告です。
まだまだ第3章は出来上がってはいませんが、構想は頭に入っていますのでひょっこり更新していきます。
後、堕天の狗神コミックはやっぱり面白いですね!


カノ者ノ断片ソロイシ刻

 

カノ者ハ眼醒メ

 

無ノ森羅万象ヲ齎ス

 

五ノ断片満チシ刻

 

ココロ弱キ者狂気ヘ誘ワレル

 

心アル者ハ皆等シク狂気ヘ堕チル

 

総テハ名モナキ王ノ導キノママニ

 

 

 

 

「総ては、我らガ王の盟約のままに」

 

「さて、そろそろ彼を泳がせておくのに既に十分すぎますからね。貴方が我らが王の元へ来る日を我らが王も待ち望んでいますよ、阿道黎牙」

 

キミ(・・)もそろそろ愛しい彼と殺し合たい(愛し合たい)でしょうし。次のステージに行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

**************************

 

 

『オズの魔法使い』の幹部の1人である東の魔女ことアウグスタを倒してから数ヶ月の月日が流れたことにより季節はガラリと変わった。

 

激しい闘いを終えた現在の鳶雄達バラキエル教室の面々は、深夜の郊外で任務に当たっていた。

 

任務として、サタナエルが従えている深淵に堕ちた者たち(ネフィリム・アビス)ことアビス・チームのメンバーの行方を鳶雄たちは追っている。

アビス・チームが持つ神器(セイクリッド・ギア)は黎牙が持つ最悪の神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる禁龍主の邪剣(プロヒビット・ヘェリィシュ)よりはマシだが、厄介な代物であることは変わらず、時と場所または条件が揃ったとき凶悪で残忍な性能を発揮する。一度食らってしまえば、取り返しのつかない効果が多い能力の持ち主を集めた組織がアビス・チームである。何かと文句を言いつつも、鳶雄たちと行動を共にしている阿道黎牙は、最近になってかなり懐いているヴァーリと共にアビス・チームの一人を追い詰めていた。

 

「さっさと投降しろ」

 

何処かめんどくさそうにしつつも一切の油断のなく黎牙は相手に最後の警告する。追い詰められた相手である女性は己の異能を解き放つ。

 

「誰がお前達の言うことなんて聞くわけないでしょ!」

 

彼女の隣から現れたのは後ろから見れば、一見かわいい熊の縫ぐるみに見えるが、正面から見てしまえば、その考えは間違えであることに気付かされる。熊の口元には、ギラギラと輝く鋭利な牙に加えておびただしいほどの血がベッタリと付着している。さらに、その腹からは臓物が飛び出ているというかなりグロテスクな見た目をしている。

彼女の持つ独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)———暴生の呪熊(バラゲデス・ベアード)

その能力とは、裂けている腹を飛び出ている臓物を自らで傷つけることで、吹き出る血飛沫から無数の分身体を生み出し、敵を喰らい尽くすまで分身体を生み出し続ける増殖系の力を有している。また、本体の熊も普通の人間では到底太刀打ちできない怪力を持っている。

自らの腹を抉り、分身体を数十体も創り出す暴生の呪熊(バラゲデス・ベアード)と同様に口元に嘲笑を見せる彼女だが、溜め息を吐きながら黎牙は自らの神器である邪剣を一振りする。すると、邪剣から放たれた斬撃は一瞬に紫炎の斬撃へと変化し、周りにいた無数の熊達を瞬く間に消炭にして見せた。

 

「……………………はっ?」

 

あまりにも一瞬の出来事で脳の理解力が追いつかず、置いてきぼりになっている彼女の間合いへ黎牙はすぐさま踏み込むと同時に邪剣の柄頭で強烈な衝撃を与え、彼女の意識を刈り取った。そして、意識を失った彼女に特殊な拘束の術が施された手錠を嵌めていると、

 

「やはり、俺の出番はなかったか」

「どんな敵だろうとオマエの手は借りん」

 

彼の背後から戦えなかったことに不満そうに口にするヴァーリがいた。そんなヴァーリに相変わらずの素っ気無い言葉を送りつつも、同じドラゴンを宿す者としてリスペクトしている部分がお互いにあるため2人の間には亀裂は全く見受けられない。

 

「目標を捕縛した」

『わかりました。鳶雄君たちの方も戦闘を終えた所なので、そのまま合流して下さい』

 

「了解した」

『そ、それから…お疲れ様、阿道くん』

 

「別に疲れていない。大したことないのザコだ」

『そう……なんだ』

 

後方支援役を担っている七滝詩求子から連絡を取り、捕縛した彼女を雑に抱えて黎牙はヴァーリと共に移動する。

 

 

場所は変わり廃墟の外で合流する鳶雄たち。

黎牙andヴァーリ組のほかに、鳶雄and夏梅組、鮫島andラヴィニア組がそれぞれ顔を合わせ、今回のターゲットであったアビス・チームの構成員に異能を発揮させないように施してから、転移型の魔法陣で本部に送り届ける。

オズの魔法使いやギルバスという謎の多き霊能力者との戦いの後、鳶雄たちは以前よりも入念なバラキエルの師事によって基礎から鍛え直し貰うことで、あの頃よりまた一つ強くなった。

その為、現在バラキエル教室での実力序列は、 禁じ手を使える阿道黎牙と幾瀬鳶雄がトップである。現在の黎牙は霊能力を意図的に行使することはまだ不完全であるため鳶雄と同列扱いとされている。

 

そして、アビス・チームの下位構成員掃討の任務を正式に与えられるほどになってから、鳶雄達はより実戦を積んで飛躍的に実力を伸ばしていく。そんな中で、詩求子が自身の神器(セイクリッド・ギア)であるポッくんを抱きしめながら言う。

 

「やっぱり、夏梅ちゃんたちってすごい。私なんて連絡役がせいぜいで………………………」

 

彼女は短期間で戦闘までこなすようになっていく同級生に敬意を払っていた。

 

「自分のペットの手綱を握れない奴が戦場に来ても足手まといだ」

「ちょっと黎牙!なんで、いつもそういう言い方しかできないのよ!!」

 

アウグスタとの戦闘から鳶雄達のことを仲間と呼んでいたのだが、どういう訳かまだ彼らに対して冷たい言葉は変わらず、そんな態度の黎牙に夏梅は声を荒げるも、冷静に返す。

 

「事実だ。四凶の中でも饕餮の力は凶悪だ。覚醒した饕餮が暴走して宿主すら喰われた記録もある。そんなアジ達ほどではないにしろ、いつ爆発するかわからん爆弾を近くに置いておくほどバカでは無い。使えん力を振るうよりも、現状の連絡役を全うできてからにしろ」

 

最後にそれだけ告げると、黎牙は一人転移魔法で一足先に帰ってしまった。黎牙の言葉に思う所がある詩求子はポッくんを強く抱きしめる。しかし、その表情には僅かばかりの影が落ちていた。

 

「もう!どうしてあんな言い方するのよ!!」

「まぁまぁ阿道くんのアレはいつものことだよ」

 

落ち込む詩求子を見て、改めて黎牙の態度に憤る夏梅を紗枝は宥める。アウグスタの一件から鳶雄達のことを仲間と称すほどに距離が縮まったと思っていたのだが、黎牙はまだ鳶雄たちのことを完全に対して素直にはなり切れない部分がある。ラヴィニアのおかげで人嫌いが緩和されても根っこの部分はまだ変わらず、こうして冷たい態度と発言をしてしまうことがしばしばある。

 

「シグネ、元気出すのですよ。ファングはきっとシグネを気遣って言っているのです。無理して戦うよりも自分のできることを頑張ってほしいとファングは言いたかったと思うのです」

「………うん。それはわかるけど…やっぱり……」

 

ラヴィニアの励ましに小さく頷きつつも力に慣れない現状を誰よりも重く見ている詩求子の反応に見て、鳶雄は思わず思ったことを口に出してしまう。

 

「七滝さんって、もしかして黎牙のことが…」

 

途中ではあるものの、そこまで言うと詩求子の顔は赤く染まり、饕餮であるポッくんで顔を隠すも完全にバレバレであった。

 

「ケケケ、どっかの誰かさんと一緒で、あいつも隅におけねぇ〜なぁ〜」

「えぇ!?そ、そうなんだ…………セーフ

 

意地悪そうな笑みを浮かべつつ楽し気に言う綱生から視線を向けられていつつも、意外な事実に目を丸くするほどの衝撃でそれどころではない紗枝。

 

「えぇ!?マジ!?そうだったの!あの黎牙のどこがよかったの!?やっぱり、あのツンからデレのギャップにキュンってきたの!?」

「………キュン??」

 

年頃の女子高校生故に恋話に盛り上がる夏梅だが、恋愛のれの字も理解していない現代魔女っ子ことラヴィニアはよくわかっておらず首を傾げる。

 

「えっと、その、前にも話したと思うけど、私と阿道君は同じバイト先だったんだけど、私が接客で阿道君はキッチンだったから話したことは一度もなかったの」

 

人とは決して関わらず霊体たちですら最低限の交流をする黎牙はいつも一人でいた。そんな黎牙をバイト先の店長クルたんが気に入っていたが、詩求子は関わることは殆どなく、まだ異性として意識したわけではなかった。

 

「でも、お店が忙しい時に私が慌てているとソッと分かりやすく、お料理を分けてくれていたりとか、お料理を持っていく時も手伝ってくれたりとかしてくれたんだ」

 

お店が忙しく何処からどう手をつけていいのか分からず、詩求子が慌てていると分かりやすく時間が経ちかけている料理を分かりやすい位置や指示を黎牙は的確に出してくれていたおかげで、お客様を待たせずに済んだことも多々あったのだ。

 

「それで阿道君、お礼を言おうと思ったら『店に迷惑をかけないためだ』って言ってすぐに帰っちゃって…………」

「「「「「ツンデレだ(なのです)」」」」」

 

黎牙がいないことをいいことにヴァーリ以外の全員が声を揃えて黎牙をツンデレだと答えた。ちなみに黎牙がこの場に居れば、アジ・ダハーカも3つ首揃えてツンデレと答えに違いない。

 

「でも、一番助かったのは、怖い人達から助けてくれた時なんだ」

 

それはまだ陵空高校の学生で一年生の頃、店先でのストーカーに悩まされていた詩求子はある日、無理矢理襲われそうになった時、何故かザリガニが一杯入ったバケツを手に持った黎牙が偶々近くにいたおかげで助かったのだ。

自分もそれなりの怪我を負いながらも必死に守ってくれたものの黎牙は、夜食用のザリガニを持って、詩求子からのお礼も受け取らずに去って行った時の後ろ姿を彼女は今でも鮮明に憶えている。

後日、学校で礼を言っても『ウザいからボコっただけだ』としか答えなかった。それから詩求子は、次第に時折見せる黎牙の優しさに惹かれていったのだ。今思えば、このめぐり合わせもまた神器(セイクリッド・ギア)による必然だったのかもしれないが、黎牙に惹かれた詩求子からすればそんなモノは関係なかった。

 

「なるほどね〜。要するに、詩求子にとって黎牙は白馬に乗った王子様ってわけね〜。まぁ、乗っている邪龍で、本人は王子様どころか暗黒卿みたい奴だけどね〜」

 

所々黎牙への不満が溜まっているのか、毒のある物言いをする夏梅の言葉に恋する乙女である詩求子は恥ずかしそうに小さく首を縦に振った。

 

「それにまた助けてくれたのに、お礼もきちんとしたいの………」

「今の阿道くんなら……アレ…どうなんだろう?」

「ん〜ん、難しいわね。アレはツンデレ大王なんだし」

 

助けて貰ってばかりで少しもお礼をしていない詩求子はこれまで助けて貰った礼をきちんとしたかった。だけど、それを本人が受け取るかはわからないが、あるいは……と鳶雄達は思っている。何せ、彼は自分たちのことをハッキリと『仲間』と言ってくれたのだから。

 

「あー、盛り上がるのもいいがそろそろ本拠地に戻ろうぜ」

「そうだね。続きは帰ってからで」

 

綱生や鳶雄たちは撤収の準備を始める。そんな中で、夏梅が白い息を吐きながら、暗天の夜空を眺める。

 

「もう年明け寸前だもんね………なんだか、早かったわね」

 

 

鳶雄たちが裏側の事件に巻き込まれ、

 

自身が持つ異能の力を覚醒させてから、

 

初めての年越しを迎えようとしていた。

 

だが、コレは恐ろしい宴の幕開けが

 

近づこうとしていたことには、

 

誰もが思いもしなかった。

 

その結果、彼らはミテしまう。

 

狂気の波動を持つ者の恐ろしさを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************

 

 

 

第3章《狂龍の回帰》

 

 

「はじめまして、私の愛おしい禁龍主(宿敵様)

 

相対するのは、世界から否定され続けられる邪龍を討ち取った英雄の子孫。

 

「あぁ、愛おしい愛おしいわ…同じモノを持ちながら、貴方の邪龍の力と、私の竜殺しの力は互いに相反する!コレ程、素晴らしい運命はないわ!!」

 

「ごちゃごちゃ、うるせぇ女だ。とっとオマエの竜殺しを俺達に喰わせろ!」

 

自分にとって毒でしかない相手に、黎牙はさらなる進化を貪欲なまでに求める。

 

 

 

 

 

「おんし達の狂気はおんし達自身で決着をつけねばならぬ。儂やあのギルバスのようにのぉ」

 

五大宗家に座する同じ波動を持ちし者を前に、漆黒の狗と龍の刃を意図せず混じり合っていく。

 

 

 

 

「オマエは……ッ!!」

 

「やっと…やっとコレでオマエを壊せるぜ!阿道ぉ!!」

 

そして、迫りくる妖たちの中にかつての怨敵が現れる。自らに異常な執着を見せる狂人を前に、彼の魂は摩耗していく。

 

 

 

 

 

「ヒャハァハハハハハハハハハハハハ!!久しぶりだぜ!オレが表に出て来れるなんてよぉ〜やっぱり表はたまんねぇーぜ!!なぁ、お前もそう思うだろ俺の黎牙ぁ!!」

 

摩耗をした彼を糧に、もう1人の彼が仲間達に牙を抜く。

 

 

 

 

 

「私は……私は黎牙くんが好きです!!だから、返して貰います!!皆んなを大切にする優しい彼を!!」

 

果たしない狂気を前に、すべてを喰らうモノを宿す少女は燃えるほどの想い(好意)をぶつける。誰よりも欲望に忠実な邪龍である彼のように。

 

 

 

 

 

「いくぞ、黎牙……俺と一緒に戦ってくれ!!」

 

万物を斬り裂く狗神は、与えられた邪龍の断片と共に新たな刃を研ぎ澄ませ、新たな鎧をその身に纏う。




ちょいとネタバレですが、鳶雄が亜種化します!
どんな姿になるのか乞うご期待下さい!!
それでは、また次回にて!


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