インフィニット・オルフェンズ バトル創作短編集 (オルガスキー)
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団長VS悪魔

モンターク氏が協力、監修、アドバイスをくださいました!



「準備出来た?オルガ。」

 

「おう、バッチリだぜ。ミカ。」

 

「三日月くんとオルガくんの模擬戦だって。」

 

「どっちが勝つんだろー?」

 

「頑張れオルガーっ!」

 

「ミカ!しっかりだ!」

 

第三アリーナに集まっている一年生の生徒たちと、アリーナのド真ん中で準備運動をして相見える二人。

鉄華団のマークが入った緑色のジャケットを着ている二人の男子生徒。

片や、クラス代表でありクラスのムードメーカーでまとめ役。特殊な単一仕様能力を持つオルガ・イツカ。

片や、クラス最強でありクラスの悪魔であり誰よりも信頼される男、異形のISを持つ三日月・オーガス。

 

「まぁ、ハッキリさせておきてえよな。団長と遊撃隊長の力量ってのを。

ヘッ、ride on……」

 

「わかった。行くぞ―

【バルバトス】!」

 

模擬戦で二人の力を示し、三日月・オーガスとオルガ・イツカの差やIS学園における専用機持ちの強さ。

それらを示すために休日にわざわざアリーナに訪れた二人と、それを見ようと集まっている女子生徒たち。

 

「なんだよ……バルバトスで行くってこたぁ、手加減かぁ?ミカァ。」

 

「どの口が言うんだ……」

 

オルガの展開したIS、獅電改・王様の椅子。

これには複数の形態が存在する。

IS本来の第二形態移行とは違い、自由に形態変化が可能な物。

一つは通常形態、普通のフルアーマータイプとしてのIS。

もう一つは格闘戦形態、本来武装として持つライフルやパルチザンを捨て、ナックルガードのようなショートシールド搭載した超近接戦モード。

もう一つはフル装備、格闘戦形態と通常形態の武装を両方持つ獅電としての最強装備。

最後は、異世界に存在するガンダムと同様の武装を持つ、カラミティ獅電。エネルギー消耗が多すぎるために使用するのはほんの僅かな時間のみ。

三日月のバルバトス相手に、オルガは通常形態で挑むと言う事をしたために三日月からも手加減をされているのだ。

 

「よぉしミカァ!試合開始とい」

 

オルガは右手を上げ、試合開始の合図を送ろうとするも三日月には試合と言う言葉は抜け落ちていた。

三日月は合図によって試合が開始される前にオルガをレンチメイスで横薙ぎに殴り、先手必勝で吹っ飛ばしていた。

 

「ぐうっ!ミカお前……」

 

「別に、普通でしょ。実戦ならオルガはもう五回死んでるよ。」

 

「なんだよ……結構辛辣じゃねえか……」

 

「事実でしょ?」

 

「まあいつもならそうだがよ……今は違えぞ!」

 

オルガはあっさりと単一仕様能力、【希望の華】を発動させてしまっていた。

 

「さぁて……反撃開始と行こうかぁ!」

 

オルガは立ち上がり、もう一度ISを展開させてパルチザンを抜き放った。

そのまま愚直なまでに一直線に進み、三日月に斬りかかった。

 

「ふっ!」

 

三日月は先ほどのレンチメイスとは違う黒いメイスを取り出し、オルガに叩きつける―

が、オルガは獅電の武装である大型の盾、ライオットシールドでメイスによる攻撃を防ぎライオットシールドと引き換えに三日月のメイスをパルチザンで引っかけて引きはがした。

 

「うおおおおおあああああぁぁぁぁっ!」

 

オルガはいつの間にかフル装備になっており、ショートシールドで三日月を殴りつけ、スラスターを吹かして頭突き。

 

「チッ……邪魔だな……」

 

三日月は敢えて背中から転ぶように体制を崩し、レンチメイスで重心を支え、ヒールバンカーでオルガの顔面を蹴り飛ばす。

流石にそれだけでは致命傷にならないが、三日月は腕に装備している迫撃砲で装甲の隙間を的確に撃ちぬいた。

 

「ぐうっ!こんな所じゃ―」

 

オルガが反撃をしようと思った矢先に、先程三日月のメイスごと引っかけて剥がしたパルチザンを投げつけられていた。

 

「ぶっ……ぐ……ああっ……」

 

オルガはまた希望の華を咲かせ、立ち上がる。

が、希望の華を咲かせた直後は生身のために三日月は無情にもそこを狙い、背中から抜いた太刀を振り下ろしてオルガを一刀両断。

 

「オルガ!」

 

「おお、すげえ……」

 

「流石にオルガが不死身でも、隙はある。隙だらけなら立てなくなるまでやるまでか……ミカ、我が嫁ながら恐ろしいな」

 

「流石三日月さんですわね!オルガさんをあんなにまで……」

 

「うわ……三日月もえげつないわね……」

 

「感心してる場合か!下手すると前のセシリアのことみたいに……」

 

「……そ、そ、そうですわ!」

 

セシリアはあの最初のミカとの決闘でのトラウマを思い出してしまった

 

「早く先生を呼ばないといけませんわね……」

 

「なら俺が呼んでくるよ」

 

「ああ、頼んだぞ、一夏」

 

一夏は席を離れ、織斑先生を呼びに行く

 

 

一方の試合は相変わらず白熱していた。

 

「クソッ!やっぱすげえよ、ミカは……」

 

「ああそう」

 

オルガは再度ISを展開してパルチザンを振るい、攻撃の手を全く緩めない。

しかしバルバトスへの攻撃がクリーンヒットするのはオルガが一度死ぬ度であり、明らかにダメージはオルガの方が受けていた。

それでも食らいついてくるオルガに三日月は瞬きし、オルガを5度以上殺してからメイスを降ろした。

 

「……そろそろ終わらせようか、オルガ。」

 

三日月はバルバトスから形態を変化させ、新たなIS、ガンダム・バルバトスルプスを展開した。

 

「ミカお前……まだ本気でやらねえのか?

だったら俺も見せてやるよ!

真っ赤な薔薇咲かせても文句言うんじゃねえぞミカァ!」

 

オルガもISを変化させ、今までの装備を全て捨てた新たな形態を呼びだした。

カラミティ獅電。超短期決戦モードであり、オルガの希望の華がなければ使用はとても無理とも呼べるもの。

 

「オルガが言うなら、俺はやるよ。」

 

三日月はバルバトスルプスからも形態を変化させ、最終形態……

ガンダム・バルバトスルプスレクスを展開していた。

 

「それが新しいバルバトスか……」

 

「ガンダム・バルバトスルプスレクス。行くぞ……」

 

「コイツはどうかな?」

 

オルガは背部に装着されている2連装のビーム砲を放つ。

三日月は超大型のメイスを盾にしてそれを防ぐも、あまりの威力故に近づくことすらままならなかった。

 

「ぐっ!ISだとビームが……」

 

ISならナノラミネートアーマーもないためにビーム攻撃は有効打となる。

そのために三日月は近づけず、オルガのビームによる乱射を浴び続けるだけだった。

が、三日月も格闘戦ばかりが全てではない。

 

「まぁ、チマチマやるか。」

 

「尻尾かよ!」

 

三日月のルプスレクスにある武装、テイルブレード。

それは射撃のみでの戦闘を大前提とするカラミティ獅電には十分有効打を与える存在だった。

 

「ヴッ!」

 

それだけでなく、巨大な腕部にバルカン式で埋め込まれている20mm砲が更にオルガを襲った。

 

「パターンがわかってたら、対策くらいするさ。」

(……オリムラ先生が教えてくれたんだけど。)

 

「クソッ!俺は……俺は……「約束」のために……カッコいいオルガ・イツカでいるために負けられねえんだ!」

 

オルガはプラズマサボット・バズーカ砲を放って地面に煙を起こし、射撃オンリーのカラミティ獅電なのにも関わらず特攻。

胸部に搭載されている最大出力のビーム砲をチャージ。

 

「行くぜ……ミカァ!」

 

「これなら―

 

 

 

―――殺し切れる。」

 

超大型メイスのパイルバンカーがカラミティ獅電に、58mmのエネルギー砲が三日月のバルバトスルプスレクスに直撃した。

 

そして……。

 

 

「やりすぎちまったな……」

 

「だね……」

 

二人は気を失い、次に目を覚ましたのは保健室のベッドの上だった。

その目を覚ましたオルガとミカにシャルロットとラウラが駆け寄る

 

「オルガ!」

 

「すまねえシャル……色々とやらかしちまった……シャルにかっこ悪い所を見せたくなかったからよ……」

 

「もう……オルガったら……別にかっこ悪くても僕は……その……」

 

「お、おう?」

 

「な、なんでもない!」

 

 

 

「ミカ、また派手にやったな……」

 

「うん、ちょっとやりすぎちゃった」

 

「なに、これくらいがミカらしい……むしろよかったぞ!」

 

「……だけど、オリムラ先生に怒られるかな?」

 

「なに、その時は私も一緒に謝ろう。嫁の不始末は夫である私の不始末でもあるからな!」

 

「……ありがとう、ラウラ。」

 

 

この後、二人には千冬から反省文提出の宿題とアリーナ使用禁止令が出たことは言うまでもない

 



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シュミレーション

今回の話もモンターク氏の協力を得て完成しました。


オルガと三日月がアリーナでの激闘を繰り広げてから一週間程経ったある日。

千冬に呼び出されたオルガと三日月、そこには千冬、マクギリス、山田先生がいた。

 

「シュミレーション?」

 

「新しく出来たIS用のシステムだ。

尤も、まだ台数が少なくて専用機持ちしか使えないと言うのが問題だが……

ミカ、オルガ……それと、ファリド先生の三人で実験して貰うことにした。」

 

「バエル」

 

マクギリスなりの返事である。

 

「わかった」

 

「先生がやれって言うなら、俺はやるよ。」

 

「ではファリド先生、案内を頼む。」

 

「ふむ、私の出番と言うわけか。」

 

三日月とオルガも返事をし、マクギリスが先導してISを展開した状態で入る小さな部屋を示す。

五台設置してある内の三台に彼らは入っていく。

オルガは五番に、三日月は三番に、マクギリスは一番に入っていった。

 

「……さて、各自ISを展開しろ。

それとシュミレーション中は意識が切り離される。

用意はいいか?」

 

「わかった」

 

「よーし、実験だってんなら、景気よく行こうじゃねえか。」

 

「いいだろう。」

 

三人はそれぞれ自身のISを展開させ、シュミレーション用のケーブルへと繋がった。

マクギリスのガンダム・バエル、オルガの獅電改・王様の椅子、三日月のガンダム・バルバトスルプスレクス。

ケーブルに繋がったISから送られてくる情報、そのまま目を閉じて意識が消える三人。

目が覚めた時にはISを展開した状態で立っており、その場所は三人にとっては知っている場所だった。

三機のモビルスーツが並んでいたことのある場所……

 

「火星じゃねえか……」

 

「どうやらここは、鉄華団本部近くと見ていいようだ。

私が単独で包囲網を突破した時を思い出すよ。」

 

「バルバトスで最後に戦ったのもここだったなぁ……」

 

「まぁ、敵さんのお出ましだ。よぉしお前ら!気ぃ引き締めていくぞぉ!」

 

「「了解」」

 

オルガの指示で三人は一気に飛び出し、向かってくる無人ISと戦い始める。

向かってくるISすらかつて知っていた物で、三日月やマクギリスには戦ったことのある相手だった。

オルガは戦ったことは特にないが、それを見ていたために戦い方はわかっていた。

来ているISは三種類、レギンレイズ、グレイズシルト、グレイズ。

これらは集団戦で戦うことを前提としている機体のために、各個撃破をすることが重要。

 

「フ……」

 

マクギリスはオルガと三日月のペースに合わせず、ジグザグな動きで敵の砲撃や銃撃を全て見切って避ける。

ウィングスラスターとブースターを吹かし、世界最強の合金で作られたバエルソードでISの装甲をフレームごと両断。

迫りくるISたちも意に介さず、頭部や胸部を狙って切り裂いて落とす。

 

「やはりバエルが頂点に立つ物として相応しいな……」

 

「やっぱアイツはアグニカバエル馬鹿じゃねえか……」

 

オルガはそう言いながら先程マクギリスが一瞬のうちに倒していたグレイズシルト三機と戦っており、ほぼ防戦一方であった。

バエルやバルバトスルプスレクスは単一仕様能力がわかっていない分、拡張領域やスペックは単一仕様能力に全てスペックを持って行かれている王様の椅子とは違った。

オルガはフル装備なのにも関わらず、攻撃を避けたり防いだりすることで精いっぱいだった。

 

「クソッ!ミカやマクギリスは実戦慣れてんだろうけどよ……

こっちは全ッ然慣れてねえんだっ!」

 

ショートシールドでハルバードを防いで、敵の持つ大型シールドを柄を最大限に伸ばしたパルチザンで真っ二つに斬る。

しかし根本からのダメージには至っていないためにそのまま攻撃の手を緩めないグレイズシルトからオルガはまた逃げ出す。

 

「こっちじゃ希望の華咲かせられるかどうかわかんねえから、ずっと逃げっぱなしになっちまう……」

 

『オルガは後方支援お願い』

 

「ミカ!?」

 

オルガが後退していると、三日月から通信が挟まれてバルバトスルプスレクスのテイルブレードが上空から降ってくる。

テイルブレードは眼前に迫ろうとしていたグレイズシルト一機を叩き潰し、そのままやってきた三日月の持つ超大型メイスに残りの二機も薙ぎ払われて破壊される。

 

「俺とチョコで潰すから、取り逃がしたのをカラミティでやっといて」

 

「仕方ねえな……そっちは頼んだぞ、ミカァ!」

 

「ああ、任され……たっ!」

 

オルガはカラミティ獅電を起動し、ルプスレクスやバエルと距離をとって砲撃の構えを取る。

マクギリスが斬る、三日月が潰す、オルガが撃つ。

 

「援護しよう、三日月・オーガス。」

 

「ああそう、じゃあお願い」

 

バエルとルプスレクスが並び立ち、軽く背中を合わせて通信をした二人はもう一度突き進んだ。

地面ごと薙ぎ払う超大型メイスで敵機は吹き飛ばされ、降ってくるかのように急降下したバエルのバエルソードで打ち上げられた敵を切り裂く。

三日月の動きに合わせて敵を確実に屠っていくマクギリス、その二人でも討ち漏らした敵を射撃で次々に大破させていくオルガ。

 

「アグニカ馬鹿つっても、強ええじゃねえか……」

 

 

 

 

 

「三人とも順調ですね。」

 

「ああ、いきなり頼まれた時は流石に焦ったが……この様子では目標通りのデータが取れそうだ」

 

外部からシュミレーションの映像をモニターから見ている山田先生と千冬。

彼女たちは戦闘データを取り、ファイルごとにまとめていた。

そんなことを知る由もなく、三日月たちはただただ目の前のISを倒し続けていた。

 

「どうやら敵は無限に来るようだね。」

 

「こっちはエネルギーに限界が来てるけど、向こうはそういうのがないのか」

 

「まぁ、仕方のないことさ。オルガ団長はもうエネルギー切れで倒れているからね。」

 

「単一仕様能力が使えないんじゃ、一夏やオルガはここ居てもあんま役立たないかな。」

 

三日月とマクギリスはそう語りながら目の前のISをひたすら破壊し続けた。

テイルブレードが穿ち、メイスが砕き、バエルソードが切り裂き、レクスネイルが抉る。

その行動はマクギリスと三日月のエネルギーが切れるまで続いた。

 

 

 

「シュミレーションの実験、ご苦労だった。」

 

「腹減った……」

 

「単一仕様能力が使えねえってのは、ちょっと不便じゃねえかぁ?先生。」

 

「エネルギーが切れるまで続けるためのシュミレーターだ。

お前のように、無限に回復し続けるような奴がいたら一向に終わらないからな。

それに、単一仕様能力に頼り切りの奴を矯正するのにも打ってつけと言うことがわかったしな。」

 

「さて、私はそろそろ戻らせていただこう。

バエルの戦闘データも取れただろうしね。」

 

「さてと……俺らも帰るか。」

 

「うん」

 

マクギリスはそう言いながら歩いてどこかへと行く。

三日月とオルガもそのまま食堂まで歩き、適当に頼んだメニューを平らげてから部屋で泥のように眠った。

そして数時間後、三日月の寝床に潜り込んできた人が約一名……ラウラである。

ちなみに当初は全裸であったのだが、同室の一夏からの苦情もあってか、今はシャルロットがラウラに買ってあげたパジャマを着ている。

 

「……どうしたの?ラウラ」

 

「いや……先程からミカが見えなかったのでな…どこに行っていたのだ?」

 

「うん、オリムラ先生に頼まれてシミュレーションの実験をしてたんだ」

 

「そうか……」

 

「……そういえばいつも俺のところに潜り込んでくるけど、どうして?」

 

「なっ……い、いけないか……?」

 

「そういうわけじゃないけど……なんか理由があるのかなって」

 

「理由か……嫁と夫は一緒に寝たほうが良いとどこかで聞いたのでな……」

 

「ふーん……」

 

「ミカは私と一緒に寝るのは嫌…なのか…?」

 

ラウラは不安からか、少し声が震えて縮こまっていた。

 

「ううん、ラウラが良いなら良いよ。俺もラウラと一緒なら落ち着くし」

 

「そ、そうか!」

 

三日月はラウラが安心するように優しい声でラウラの背中に手を回しながら答えた。

そのまま三日月はは自然な動きでラウラを軽く抱きしめた。

 

「な……そ、み、ミカ……っ」

 

「こうしててもいいかな?」

 

「も、もちろんだ!」

 

顔を赤らめながらもラウラは三日月にギュッ、と更に抱きしめ返した。

 

「……おやすみ、ラウラ」

 

「お、おやすみだ!ミカ!」

 

そのまま二人はかなり密着しながら眠りにつくのであった。

IS学園でのバトルは、まだまだ続く。



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乱戦

「今日はラウラが相手?」

 

「フフ、オルガ団長とミカがあそこまで激戦を繰り広げたのだ。

私も負けてはいられないからな……

どうだ、私とやってくれるか?ミカ!」

 

「いいよー。」

 

グラウンド……第三アリーナに立つIS学園の二強とも呼べる二人。

三日月とラウラ、この二人は劇的な戦闘から劇的な恋愛劇に転がり込んだ者たちとしても、IS学園で知らぬものはいなかった。

そんな二人が今日は相まみえて、ISを展開してお互いに構えた。

 

「では……行くぞ!」

 

「来い」

 

ラウラの展開したIS、シュヴァルツェア・レーゲンと三日月のガンダム・バルバトスがラウラの合図とともに飛び出す。

三日月はレンチメイスを振るい、重い一撃をラウラに叩きつける。

が、それはラウラの放ったA.I.Cに完全停止させられた。

 

「フフ、あの時と違って一夏はいないからな……

同じ手は何度も食らわんぞ!」

 

「うん、いいね。」

 

三日月は一度バックステップして離れ、ラウラは追撃にレールカノンを構えてエネルギーを銃口に溜める。

それを見てすぐに機関砲を腕に展開して、レールカノンに向けて発砲する三日月。

しかしその銃弾はA.I.Cに阻まれてしまう。

 

「二つの事を同時に……?」

 

「努力すれば、右脳と左脳で行動を分けることくらいは出来るとも!」

(と言っても、集中力がそれ以上に必要なせいで歩くことすら出来ないがな……)

 

「ああそう」

 

三日月は軽く返してからスラスターを吹かし、低姿勢で飛行してからレンチメイスをラウラに向けて投げつける。

展開しているA.I.Cに当たるが、その巨大なレンチメイスは身長の低い三日月の姿を隠すのには丁度良かった。

 

「捕まえたっ!」

 

「くっ……集中がっ!」

 

今度は左手に展開したワイヤークローで側面からラウラのレールカノンをガッシリとつかむ。

ラウラは途端にレールカノンをパージし、エネルギーを溜めたまま放置してからワイヤーブレードとプラズマ手刀を構える。

三日月も解除する手間を惜しんだのかワイヤークローをユニットごとパージ。

 

「フッ!」

 

「こんなもんかよ、お前の力は……っ!」

 

三日月は左手のガントレットでプラズマ手刀を受け、右手でラウラの腹部を思い切り殴りつける。

そのままレンチメイスとは別のメイスからパイルバンカーを起動し、地面に突き刺して重心を取ってからヒールバンカーでラウラを蹴り飛ばす。

 

「くぅぅっ!」

 

「そろそろ終わらせる……」

 

メイスを地面から引き抜き、パイルバンカーを収納してからラウラに向けて思い切り投与。

ISにはバリアがあるためにメイスが直撃したとしても防げるが、質量武器を叩きつけられればエネルギーは当然切れる。

ならばラウラの取る行動は。

 

(A.I.Cを発動しても同じことを繰り返すだけだ……

予めエネルギーを溜めておいてあるレールカノンも距離が離れた以上起爆も出来ない……

なら。)

 

「行くぞ―

 

 

 

アイン。」

 

ラウラの一言でシュヴァルツェア・レーゲンは形態変化。

黒く巨大なIS、三日月のバルバトスを見下ろすまでのサイズとなったそれは、飛んで来るメイスをガッシリと受け止めた。

そのまま左手に装着されている使い捨てパイルバンカーで硬度の高いメイスを一撃で粉砕した。

 

「またお前か……」

 

『私はボーデヴィッヒ特務三佐がいる限り不滅だ!

ボーデヴィッヒ特務三佐と私は常に一心同体!そして、お前の罪を祓う!』

 

「……面倒だな。」

 

支離滅裂な言葉を喋るその声。

声を発しているのはラウラではなく、ラウラのISの中に組み込まれたシステム。

アインシステム。それはラウラの合図でグレイズ・アインを呼び出して全く別のISへと昇華させることが出来る。

 

「さて……ミカ。

第二ラウンド開始だ。」

 

「そう来なくっちゃね、ラウラ。」

 

三日月はバルバトスの装甲を改めて展開しなおし、第六形態のバルバトスを呼び出す。

かつてアインと戦った姿。その姿はアインも三日月も己の血をたぎらせるには十分だった。

 

「行くぞ……バルバトス!」

 

「さぁ来い!」

 

『罪を祓う!』

 

レンチメイスを構えて一直線に飛び立つ。

アインはそれに対応するように二振りの大型バトルアックスを抜き放って左右上下正面背後どこからでも対応する形に構える。

三日月の地面をも巻き込んだ大振りの一撃が下から来る。

それを見たアインは当然ながらレンチメイスに反応し、レンチメイスの打ち上げに合わせるようにバトルアックスを振るう。

そのままレンチメイスが打ち上げるようにアインへ襲い掛かる―

前にレンチメイスは落ちた。ラウラは三日月の意図を読み取り、アインの動きを一度止めて真正面に構えなおす。

が、それは遅く間に合わなかった。

 

「遅いっ!」

 

三日月が背中から抜き放った黒い太刀が一閃。

肩口にかけてからの一撃を放ち、そこから三日月の回し蹴りが炸裂―

とはいかず、負けじとドリルキックで蹴り返したアインによって三日月は攻撃できずに数歩後ずさる。

 

「やっぱり向こうも学んでるか……

けど……まだ負けられない……」

 

『その思い上がり!この私が正すッ!』

 

「夫を越える嫁などいないと言うことを、見せてやるぞミカァッ!」

 

目を閉じて感覚を研ぎ澄ます三日月、それにバトルアックスを振り下ろすアイン。

その刹那。

 

『なっ―

い、今の反応は……』

 

「ごめんラウラ、やっぱ俺もこうしなきゃね。」

 

「ミカ……お前……」

 

右手に握られていた太刀は更に強化され、バトルアックスを柄からパッキリと両断した。

刀を抜いた三日月の纏っているISは姿を変えていた。

ガンダム・バルバトスと言う一つの悪魔から、狼の名を持つ新たな悪魔……ガンダム・バルバトスルプスに。

 

「おい罪の人……見せてみろよ。お前の力……」

 

『特務三佐!』

 

「ああ、わかっている!来い!」

 

片手が開いたアインは飛び立ち、先程ラウラがパージしたレールカノンを拾い上げる。

三日月はバルバトスルプスの新たな刀を構えると同時に、スラスターへの出力を全開にする。

それに対抗すべくアインはバトルアックスを振るい、三日月は静かに、正確無比な一撃をバトルアックスに向けて放つ。

その一撃はグレイズ・アイン専用の大型であるバトルアックスすら真っ二つに切り裂いた。

 

『あっ……ISの武器を……一撃で……?

化け物がああああああああああああっ!』

 

バトルアックスを失ったアインは右手のマニュピレーターを高速回転させたスクリューパンチ。

更に両方の肩から展開した4mm砲を乱射しながらバルバトスルプスに肉薄するが、所詮豆鉄砲レベルの攻撃ではダメージを与えることが出来ない。

 

『ボーデヴィッヒ特務三佐!私は、私の………』

 

「少し黙っていろ!」

 

『そんな………』

 

慌てるアインに一度怒鳴って黙らせるラウラ、しかしそられを気にしない三日月の刀がアインを貫く―

 

前にレーザービームが三日月の肩をかすめた。

 

「ああっ!完全に死角から撃ったのに外れるなんて……野生の勘と言うのが凄すぎますわよ三日月さん!」

 

「へぇ……セシリアも来たんだ。」

 

「いいや違うぞ!」

 

三日月が空中から狙撃してきたセシリアを見上げているとレーザーを多数放ってくるその存在。

紅色のISを身にまとい、二本の刀を持つIS操縦者、篠ノ之箒。

 

「モップもいるんだ。いいね、面白くなってきた。」

 

「確かに私一人では……ミカに勝てないかもしれないが、私たちならどうだ?」

 

「いいね。それ。」

 

セシリアのインターセプターを投げ渡され、新たな武装を持って構えなおすラウラ。

三日月がそれを見てから箒に飛び掛かって刀で斬りつけようと肉薄する。

箒はそれを見てから受け太刀。

 

「よし」

 

三日月はアインとセシリアの射線に箒を被るような位置に蹴り飛ばし、そのまま武装を持ち換えて加速する。

ツインメイスを持った三日月のメイス乱打と箒の刀の打ち合いとなる。

 

「くっ……やはり強いな!

だが私だって負けてはいられないんだ!」

 

「あっそう」

 

右手のメイスでパイルバンカーを起動し、箒の左腕にパイルバンカーを突き立てる。

そのまま射撃を狙おうとしているセシリアに向かって投げつけ、一時的に牽制する。

同時に箒は攻撃のせいでで空裂を手から離してしまい、そのまま三日月が展開しなおした太刀を雨月一本で受けてしまう。

 

「そろそろ落ちろ」

 

三日月は太刀を間違えて使用していると言うのを体現したかのような動きで乱暴に太刀を振るう。

その勢いで箒は大きく吹き飛ばされ、三日月がメイスの感覚で太刀をもう一度叩きつける。

バキリ、と音を立てて三日月の太刀は砕けてしまうが箒の雨月は折れた太刀に引っ掛かって落ちてしまう。

 

「くっ!

まだ終わってな―」

 

三日月は空いた右手のクローで箒の胸部を突き刺し、腹部に膝蹴りを叩き込んでから背中へのかかと落としでアリーナの地面に叩きつける。

見事にクレーターが生まれ、箒はシールドエネルギーの全損及びダメージで戦闘不能となる。

 

「は、早いっ!」

 

「任せろ!」

 

今度は遠距離持ちのセシリアへ標的を切り替える三日月だが飛んできたラウラがインターセプターで左手のメイスの攻撃を防ぐ。

 

「うん、この距離なら……当てられる。」

 

「まさか……」

 

バルバトスルプスのまた新たに展開した武装。

左腕の20mm砲。箒との戦いでは邪魔になるため三日月は展開していなかったため、ラウラは気づかなかった。

高速で放たれる20mmの弾丸がアインのシールドエネルギーを削り、そのまま追撃のメイスで落とされる―

直前に、セシリアの放ったブルー・ティアーズの六機放ったビットによる射撃でそれは防がれる。

 

「チッ!また邪魔を……」

 

「三日月さん!今日はとことん足を引っ張らせていただきますわ!」

 

「まぁ……いいか。」

 

アクロバティックな動きでセシリアの放つビットによる攻撃をかわしつつ、ラウラの剣も防ぎつつ反撃を加える。

使い慣れていない小型の剣では思うようにも行かず、攻撃を当てられないラウラと避けながらでも攻撃を自在に当てられる三日月。

 

「どう言う動きをしているんだお前は……」

 

「慣れればラウラも出来るよ」

 

三日月はそう言いながらメイスでパイルバンカーを突き立てて右肩を刺し、そのまま殴りつける。

セシリアのビット攻撃を何発か受けながらでもラウラを落とすのには十分であり、三日月は背中のサブアームからまた新たな武装を展開する。

 

「そ、そんな武装がありましたの!?」

 

「隠してたからね」

 

三日月が背中のサブアームに頼りながら展開した新たな武装。

大型レールガン。砲身がスライドし、サブグリップを握って発射準備を整えた三日月。

 

「よろしいですわ。そのレールガンと、私のスターライト・MkⅡの最大出力と勝負ですわ!」

 

「いやそんなのしないけど」

 

三日月はセシリアの言葉に応える気もなく、セシリアがエネルギーを溜め始めている矢先に容赦なくレールガンを近距離でぶっぱなす。

 

「きゃあああああっ!」

 

セシリアはモロにレールガンを受けてアリーナの壁に叩きつけられ、三日月はそのままレールガンで更に追撃を加える。

エネルギーをこれ以上無駄に出来ないために三日月は20mm砲とレールガンをパージし、ソードメイスを持ってラウラと対峙する。

 

「やれやれ……あの時みたいになれるかはわからんが……やってみるしかないな!」

 

ラウラは右手のマニュピレーターからプラズマ手刀を展開し、左手のマニュピレーターでレールカノンを構える。

 

「おお、出来た……」

 

「凄いな……あんなの、俺でも出来ないかも。」

 

形態の違うISの武器を呼び出すと言うラウラの力に驚きつつも、三日月はソードメイスを構える。

ラウラがエネルギーを溜め、レールカノンを一撃放つ。

 

「ふっ!」

 

三日月はソードメイスでそれを撃ち返し、ラウラのレールカノンにぶつけてレールカノンを破壊する。

そのまま近づいてソードメイスを腰に叩きつけ、アインごとラウラを倒す。

 

「丁度いい。これなら……殺し切れる。」

 

最後の一撃をラウラに叩きつける三日月―。

しかしバルバトスルプスは解除され、ラウラと共に生身の姿となる。

 

「あれ……バルバトス?」

 

突如としてISがお互いに解除され、生身に戻ったことを三日月は不思議に思いながらも疲れからかそのまま倒れてしまったラウラを担ぎ出す。

ついでで先程叩きつけてしまった箒とセシリアも三日月は一気に運び、三人抱えたまま保健室に来たために、翌日校内で大ニュースになったのは言うまでもなかった。

 

 

 

「あの時なんでバルバトスが動かなくなったんだろ……」

 

三日月が整備課の生徒たちにバルバトスを整備してもらいながら戦闘データのログを見て三日月はやっと気づいた。

高速の武器の切り替え、三日月の無理な扱い方や多数の攻撃を受けていたことでエネルギ―だけでなく機体側にダメージが出ていたと言うことを。

 

「ああ、また壊したってことなのか……

先生怒るだろうなぁ……ラウラ、一緒に謝ってくれるかな。」

 

三日月は結局千冬に怒られ、少し肩を落としながら教室に戻る。

 

「おはよ!ミカくんあんま元気ないね!どうしたの?」

 

「別に、ちょっと疲れた……」

 

三日月が椅子に背を預けて目を閉じると、三日月は何かの感覚に気づいて目を開ける。

 

「……何してんの?」

 

「疲れたのなら、ハグ健康法と言うものがあってだな……」

 

「そう。ありがとう、ラウラ。」

 

自分にいつの間にか抱き着いていたラウラを見て、三日月は千冬に叱られたことなど頭から抜け落ちていた。

それだけでなく、激闘をした翌日のために三日月の中でまだラウラへの熱が残っており―

 

「ちょ、ミカ待っ」

 

ラウラに思い切ったかのようにキス。

当然見ていた者たちは声をあげて驚き、三日月はラウラを離してから頭を撫でた。

 

「可愛いと思ったからやったけど……嫌だった?」

 

「お、お、おま、お前と言う奴はっ……」

 

ラウラはその一言で顔が真っ赤になり、パタン、と倒れてしまう。

その様子を一部始終やや遠くから眺めていたオルガは―

 

 

 

「何やってんだミカああああああああああああああああああああああっ!」

 

思い切り叫んだ。



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太刀

アリーナでの乱戦があってから数日後。

ラウラ・ボーデヴィッヒは三日月の事ばかり考えていた。

 

(あの流れるような太刀の使い方や、強引に攻めたりする姿……

アインを使っているせいかわからないが、私も使いたくなってきたぞ、刀!)

 

既に武装としてプラズマ手刀があるラウラだが、一夏や箒が持っているようなちゃんとした刀を使いたいと考えたラウラは整備課へ突撃した。

 

「たのもー!」

 

「ヴッ!」

 

「わっ!えーと、1組のボーデヴィッヒさん……かな?」

 

「そうだ。」

 

「何の用?あと扉でイツカくんが……」

 

「あ……すまない、オルガ団長。」

 

「こんくれぇなんてこたぁねぇ……今度から気ぃつけろ。」

 

勢いよく扉を開け放ってオルガを叩き潰しながら出てきたラウラ。

整備課生徒たちはラウラに驚きながらも用を聞き、ついでにオルガが希望の華を咲かせていることを注意する。

オルガは持ち前の器の大きさでラウラを許すが、鼻がぺしゃんこに潰れていた。

 

「まぁ、用と言うのはだな……私のISに武装を追加してもらいたい。」

 

「ん?まぁ拡張領域は空いてるから出来るけど……そりゃまたどうして?」

 

「私の気分だ。それに、扱える武器は増えた方が良いからな。」

 

(多分オーガス君に感化されたんだろうなぁ、あの超高速武器切り替え……ISを使う人なら誰でも痺れるよ、アレは……)

 

整備課生徒はラウラの心情に気づきながらもラウラから出されたシュヴァルツェア・レーゲンのデータを開き、拡張領域へ武装を追加するための操作を始めた。

 

「因みに、何の武器入れて欲しいの?メイスとか?」

 

「太刀だ。一夏や箒も使っているような……」

 

「オッケー、太刀ね。」

 

整備課生徒は早速操作を始め、仮揃えとして「打鉄」の武装である太刀の「葵」を導入した。

ついでで破損していたグレイズ・アインの武装も補充して追加しており、ポチポチポチポチと時間をかけて操作していた。

 

「ところで、オルガ団長はここで何をしていたんだ?」

 

「俺かぁ?俺は獅電の調子悪いから見てて貰ってたんだよ。」

 

「そうか。」

 

ラウラはオルガと少しだけ会話をしてから整備課生徒から武装追加が終わった、と言うことを伝えられて早速シュヴァルツェア・レーゲンを取りに戻る。

ホクホクとした笑顔で自身のISを眺めた後、元の場所に装着しなおしてスタタタ、と走り出して早速寮に飛び込むラウラ。

 

「箒!刀の使い方を私に教えてはくれないか?」

 

「……すまない、私には無理だ」

 

「無理……だと?しかし一夏やミカには前に教えていたと聞いたのだが……」

 

「しばらくは私一人で稽古をしたいのだ。私にも色々な課題があるのでな……他を当たって欲しい」

 

「そうか……では仕方がない……」

 

刀、と言えば箒の印象が大きかったラウラは早速箒に頼んでみるが、丁重に断られてしまったので(仕方がないとはいえ)やや落ち込みながら三日月の部屋をノックする。

三日月の部屋には一夏もいるため、今度は一夏に頼もうと言うラウラの考えである。

 

(ミカに頼まないのは照れるとかそう言う問題ではない、秘密のトレーニングだからだ!

そう、これは決して照れてるとか恥ずかしいとかではない……)

 

「い、一夏!」

 

「ん?なんだラウラか。どうしたんだ?三日月ならセシリアや鈴音と一緒にトレーニングしてたぞ。

無理矢理誘われたって感じだけど……」

 

「刀の扱い方を私に教えてはくれないか?」

 

ラウラはギュッ、と胸を押さえながら一夏を呼び始め、先程の箒の様に頭を下げて頼み込む。

一夏はいきなりのラウラの頼みにキョトン、としながらも

 

「俺でいいなら、教えられることはキッチリ教えるよ。」

 

「本当か!」

 

「ああ。いつも三日月には世話になってる分、ラウラの頼み事くらい聞いてやらないとな。」

 

「恩に着るぞ、一夏……」

 

ラウラは一夏に感謝しながら一夏と共に道場に向かい、竹刀を持って二人で並び立つ。

 

「まず、竹刀は両手で持つ。

それと利き足を前に出して、なるべくすり足で動く……」

 

一夏が説明しながらラウラに見本を見せ、ラウラはそれを真似して竹刀を振るおうとすり足で動こうとする。

しかしすり足で動いたことのないラウラはすり足が上手く出来ず、足を滑らせてしまう。

 

「わ、わわっ!」

 

「っと、大丈夫か?ラウラ。」

 

「す、すまない……すり足と言う物には慣れていないからな……」

 

「そう謝るなって。まずはすり足の練習から始めようぜ。

剣道の、刀の基本だからな、」

 

足を滑らせてそのまま転びそうになるラウラだが、一夏が背中に手をまわして受け止めたため転ばずに済んだ。

ラウラはホッとしながら一夏に礼を言い、引き続き竹刀を振るうためにすり足の練習から始めた……

 

 

 

のだが、そんな二人を見つめる一筋の視線があったことを二人は知ることなどなかった。

その視線を向ける者の正体……三日月・オーガスであった。

彼はセシリアと鈴音を動けなくなるまで特訓と言う名の拷問にも近い実戦訓練で叩きのめした後、偶然にもラウラと一夏を見かけた。

ただ二人を見かけるだけなら普段の三日月なら気にしなかったであろう。

しかし、三日月が見てしまったのはラウラが転びそうになったところを一夏に支えられていた所だった。

ラウラが転びそうになった瞬間も見ていないため、一夏がラウラを口説いているようにしか見えなかったのだった。

二人が数言話してから何か始めたのを見た三日月はユラユラユラユラ、と幽霊……否、地獄から来た死神のような移動の仕方で道場に入り込んだ。

 

「一夏」

 

「おお、三日月。セシリアたちと特訓してたんじゃないのか?」

 

「アリーナに来て」

 

「ん?なんかあったのか?」

 

「俺と勝負して。」

 

三日月は坦々と自分の言いたいことだけを一夏に言ってからそのままアリーナに向かってしまう。

 

「ぜー……はー……し、死ぬかと思いましたわ……」

 

「奇遇ね……アタシも……」

 

ぜぇぜぇはぁはぁ言いながら動けない二人は息をつき、呼吸を整えている所だった。

因みに三日月が道場に向かってからアリーナに戻ってくるまで、五分以上は経っているのである。

 

「もう反則よアイツ!何であんな武器持ってんのよ……

動きも気持ち悪いくらい速いし……」

 

「おまけに射撃でも格闘でも私たちの得意分野にも匹敵……どころか、それ以上の強さを持ってますものね……」

 

「二人ともお疲れ、これ」

 

三日月はセシリアと鈴音に何を思ったかイチゴジュースを差し出し、二人の手に置いてからアリーナの真ん中に立ってISを起動した。

起動したISは先日ラウラと戦った際にも見せた、ガンダム・バルバトスルプス。右手にソードメイスを持って直立不動していた。

 

「一夏が来るから、二人はもう戻っていいよ」

 

「一夏さんとサシでやるんですの……?」

 

「一夏が死なない程度にね?三日月ー……」

 

二人は一夏が死ぬのでは、と思いながら三日月から貰ったイチゴジュースを片手に走り出して千冬の元に急ぐ二人。

その一方で一夏はラウラと共にアリーナに入ってきて、二人揃ってISを起動する。

 

「2対1?」

 

「一夏とミカでは戦力差に差がありすぎるだろう。

私は刀を使う分、足を引っ張るかもだが……戦力では五分五分だと思うぞ。」

 

「悪いな三日月、俺流石に死にたくないからな……」

 

一夏は雪片弐型を構え、ラウラは葵を構える。三日月は横薙ぎの構えに入り、スラスターを吹かし始める。

合図も何もないその空間、一夏の頬を伝う汗が静かに一滴地面へ落ちた。

その瞬間が戦いの合図かの様に、飛び出したバルバトスルプスがソードメイスを横薙ぎに払い、一夏を叩く……

が、一夏も三日月の手に反応してすんでのところで避け、左手につけられた雪羅を数発放つが三日月には当たることもない。

 

「やっぱり、コイツで相手するしかねえか……」

 

「ミカに射撃は当たらないと思っていた方がまだ気が楽だ。行くぞ。」

 

ラウラは頭の中で箒と一夏を浮かべ、二人が使っていた基礎的な型で三日月に向けて刀を振るう。

ただ黙って振るわれた刀を受けるわけでもなく、ソードメイスで弾いてから20mm砲でラウラに2発射撃を加えた後、背中から太刀を抜いてそのまま一刀両断……

かと思いきやA.I.Cに見事阻まれていた。

 

「ここだぁっ!」

 

「捕まえたっ!」

 

ラウラは一歩踏み込んでから太刀を前に突き出すが、三日月はいとも簡単にそれを受け止めてから太刀ごとラウラを―

とは言わず、ラウラは武器から手を離して距離を取り、ワイヤーブレードとプラズマ手刀を構える。

三日月がラウラの方に注意が向いている間に零落白夜を発動させて三日月に斬りかかる一夏。

完全に四角からラウラも予期せぬ一夏の動きで三日月を仕留める―

ことはなかった。

 

「なっ!」

 

「嘘だろ!?」

 

三日月の武器保持用のサブアームが突如背中から飛び出て、一夏の腕を掴んでガッチリと止めていた。

 

「作戦がわかってるのなら、対策くらいするさ。」

(……バルバトスが。)

 

「そろそろ終わらせるよ」

 

三日月の左腕に装着された外装式20mm砲がグルリ、と回転して一夏の方を向いた。

一夏は三日月に蹴りを入れてから逃げようとするも間に合わずに20mm砲が一夏へ一気に放たれた。

 

「くそっ!」

 

ラウラはワイヤーブレードを振るい、三日月に攻撃を加えるも三日月は空いている右手で防いでから今度は右手から20mm砲を連射した。

真正面にただ撃たれているだけなのでラウラはなんとか回避することが出来るが、近づいて行っても右手に握るソードメイスの餌食になるだけだった。

そうこう考えているうちに、一夏が撃たれすぎてシールドエネルギーが全損してそのまま倒れてしまう。

 

「じゃあ……行くかぁっ!」

 

スラスターをも破壊しかねない程の大出力で三日月はラウラに接近し、ソードメイスを一薙ぎした。

その一撃はラウラの防御も間に合わずクリーンヒット。

しかし出力を強めすぎたために三日月のバルバトスルプスの腰部のスラスターが悲鳴を上げて壊れてしまう。

 

「はぁぁぁっ!」

 

ラウラは倒れながらもワイヤーブレードを振るい、三日月の腕を縛り付けて軸にするように倒れるのを防いでレールカノンを構える。

当たる距離、当たる構え。

その一撃を今放つ、当たれ!と叫ぶまでに。エネルギーをチャージしたレールカノンが三日月の顔面に命中する―

 

 

 

前に、三日月の振るった太刀でラウラが体制を崩されて、レールカノンの方向がズレてあらぬ方向に飛んでいき―

 

「ふんふふんふ~……ヴウウウオオオオオアアアアアアアアアッ!」

 

偶然通りかかったオルガに命中して希望の華を咲かせた。

そしてラウラも三日月にトドメを刺され、そのままシールドエネルギーを全損してシュヴァルツェア・レーゲンを解除してしまう。

 

「流石は……私の嫁だな……」

 

「えっ?」

 

三日月はラウラの発言に驚いてついつい持っていた武器を落としてしまう。

ラウラは起き上がり、驚く三日月に首をかしげる。

 

「ラウラ……俺の事今嫁って……」

 

「何を驚いている?お前は私の嫁なのは今でも変わらないことだろう?」

 

「???」

 

頭の中でグルグルと駆け巡る記憶。

三日月は思っていたことを正直にラウラへ話し、ラウラはそれでようやく納得した。

 

「そうか。ミカが怒っていたようにも思えたのは……そう言うことだったのか。

だがまぁ、今度からはミカに直接教えを請おう。」

 

「……ありがとう、ラウラ。」

 

「嫁が嫉妬してしまったのだ、それを自粛するのは夫の役目だとも。」

 

ラウラは笑顔で三日月にそう言って、ISを解除した三日月の肩をグッとつかんでから頬にキスする。

 

「……」

 

「フフ、いつものお返しだ。どうだ?流石にいくらミカでも……ん!?」

 

頬にキスされただけでは足りないのか、三日月はラウラと口づけする。

 

「み……みか……ぁ…」

 

案の定顔を真っ赤にしてぷしゅー、と音を鳴らしたかのような声を出しながら倒れるラウラ。

三日月はそんなラウラをおんぶしながら倒れている一夏を立たせる。

 

「お、おう……三日月。凄かったな、あのサブアーム……やっぱすげぇよお前は。

俺も三日月みたいになれるよう頑張らねえとな……」

 

「そっか、ならなれるといいね。

そのためには色々頑張らなくちゃね。勉強とか。」

 

三日月は活き活きとした表情で一夏の目標を応援しながらラウラを運び、ラウラの部屋の布団に寝かせる。

今日は三日月が一夏に嫉妬と勘違いから起きた小さな戦い。

その戦いは特に噂されることはなかったが、後に専用機持ちメンバーの中では小さな話題となった。

 

「にしても三日月の攻撃が激しすぎて、俺死ぬかと思ったぜ……」

 

「俺は……余波に巻き込まれて死んだぞぉ……」

 

因みに、オルガが死んだことについては一夏以外は知る由もなかった。



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