この素晴らしい世界に不死人を (ボンシュ)
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最悪の結果
この素晴らしい世界に祝福を……



 あのとき止めていれば……

 もう少し早く引き止めていればこんなことに…

 いつも通りと放っておかなければ良かった


 最初に火を継いだのはいつだったか。

 

 自分に課せられた使命と思ってがむしゃらにソウルを手に入れ続け、何度も死んでは学びを繰り返し続け、最後の王を倒し終わりと思いきや。

 

 これは何度目の火継ぎだろうか。

 

 最後の王がソウルとなって霧散していく中を火に近づいていく。

 

 考えても無駄か。

 

 火を継げばまた繰り返される。全く同じ世界を無限に繰り返し続ける。それでも止まれない。止まるわけにはいかない。火継ぎをやめれば世界は闇に包まれる。

 

 だから、続けるしかないのだ。

 

 これは罰なのではないか。ただの不死人が王を殺したことへの罰ではないのか。あの時牢獄を出ずにいればこうなることはなかった。世界の終わりが来るのをじっと待っていれば良かった。

 

 消えそうな火に身体を差し出す。

 

 あとはソウルが燃えていく。火は身体を燃やし、魂までも燃やして世界を光で照らす。そして私は牢獄の中にいる。避けられない運命。変えることのできない結末にただ従う。

 

 世界が照らされた。牢獄の中へ戻る時だ。

 

「………?」

 

 なんだ。ここはどこだ。緑…草原だ。そしてなんだ、明るい。空に太陽がある。空…青い空だ、あの白いものは雲か。なんだこの景色は?

 

 騎士は狼狽えた。青い空と白い雲、そして優しく大地を照らす太陽の存在。しかし騎士は考えるのをやめた。

 

 考えても無駄だ。自分に課せられた火継ぎの使命を全うしなくては。

 

 歩いた。ひたすらに歩いた。亡者どころかデーモンも存在しない世界で、騎士は警戒しながらあてもなく進んでいく。

 しばらく歩けば街が見えた。騎士は一層警戒を強めた。ロングソードと紋章の盾。なんども使ってきた組み合わせの装備で騎士は街へと近づいていく。

 

「ああああああああ!!! よくもぬけぬけと現れられたわね!でも運の尽きね、亡者ごときこの水の女神アクア様の手にかかれば!」

 

 青い髪の女が走ってきた。杖を持って一直線に向かってくる。すぐに紋章の盾を構えてガードした。そのまま自分も距離を詰める。魔法を撃たれたらガードしてやり過ごしすぐ反撃。

 何度もそうやってきた。だから繰り返す。

 

「セイクリッド・ターンアンデッド!」

 

 瞬間、騎士の姿が消えた。移動したのではない。これも彼が何度も繰り返してきたことだ。

 

 浄化魔法で倒された騎士はその場から跡形もなく消え去った。

 

「呆気なかったわね、てか何あの装備!完全に見掛け倒しじゃないですかプークスクス!」

 

 勝利の花鳥風月と言って水を出す青髪の女だが、彼女は気づかない。冒険者カードの討伐一覧に騎士の名前がないことに。

 

 騎士は目を覚ました。

 

 問題ない。何度も繰り返してきたことだ。

 

 浄化魔法で倒されたことを理解した騎士は街の方角を向いてもう一度歩き出す。

 

 あの魔法は食らってはならない。当たれば即死だ。一撃で殺さなくてはならない。

 

 騎士は装備を変えた。牢獄から出してくれたあの騎士の装備を収め、影の名がついた装備に変えた。指輪も変える。静かに眠る竜印の指輪を着ける。これで音は発生しない。タリスマン、あとはロングボウを装備して準備は完了だ。

 

 街が見えた。あの女が現れる前に奇跡を使う。

 

 《見えない体》

 《見えない武器》

 

 消失する一歩手前まで姿が消える。武器も同じように消えて見えなくなるが、感触でわかる。問題はない。

 

 少し進むとまた女が現れた。しかし、今度は1人じゃなかった。仲間が後ろにいる。

 

 透明になったロングボウを構えて青髪の女に狙いを定めて、限界まで引いたところで放った。矢は狙い通り青髪の女へ向かっていく。

 

「伏せろアクアああ!」

 

 かわされてしまった。茶色の髪の男が察知して援護したのか。こんな賢い敵は今まで居なかった。

 

「うわああああ! なにすんのよこのヒキニート! 顔が泥まみれじゃないの!」

 

 新しい敵に無意識で喜びを感じるが、すぐ別の弓を構える。浄化魔法が来る前に片付けなくてはならないからだ。

 

「バカかお前! 敵だよ、敵感知に反応があった!前方のどこかに隠れて狙撃してきたんだよ!」

「敵って、どこにも見当たりませんよカズマ。岩場もなさそうですし、穴とかも見えません」

 

 ロングボウではまたかわされるかもしれない。だったらこれがいいだろう。

 

「じゃあ、この矢はなんなんだよ。空から降ってきたとでも言うのか? 多分見えない敵だ、透明になって狙撃してきたんだ」

 

 取り出したのは身の丈ほどもある巨大な弓と矢だ。

 

「と、と透明人間だと!?」

「こんな時に何言ってんだ変態騎士! いいから逃げるんだよ、早くしろっての!」

 

 狙いを定めて弓を引く。力を込めてゆっくりと。

 

「いつまで泣いてんだアクア! 早く逃げ…って何してんだああああ!!」

「このまま舐められたまま逃げ帰るなんて、信徒たちに顔向けできないわよ! それにこの臭いはさっきのアンデッドに間違い無いわ、今度こそ浄化してやるんだからあ!」

 

 ギリギリと弓が音を立てる。限界まで引いた竜狩りの弓から手を離すと、極大の竜狩りの矢は青髪の女の身体に直撃する。

 

「えっ……?」

 

 矢の勢いは止まらず身体を後ろへ突き飛ばして地面に転がらせた。同時に杖が弾き飛ばされたようだ。これで一撃で殺されることはなくなった。

 

 弓矢からタリスマンに持ち替えて奇跡を行使する。同時に姿が現れるが、あの女を倒した今なら見えても問題はない。

 

「アクア?……おい、どうしたんだよアクア」

「よくも、よくもアクアをッ!」

 

 手を空に掲げると、雷が形を得て現れる。巨大な槍のようなそれは太陽の輝きを宿している。太陽の光の槍。かつて最後の王が使っていた竜のウロコすら砕いた槍だ。

 

 大杖を持った小さな女が呪文を唱えている。先に阻止しなくては。

 

「エスクプロー」

 

 大きく振りかぶって槍をまっすぐ投げた。まさしく光のような速さで投擲された槍は女に命中した。僅かなソウルが手に入る。これで一体は倒せた。危なかった。あと少しで攻撃されていたかもしれない。

 

「めぐみんっ!!!」

 

 もう一度槍を構えて、今度は男に向かって投げた。だが、横から割り込んできた女に弾かれてしまう。ダメージはあるが、倒せてはいない。なんて堅い敵だ。

 

「カズマ、お前だけでも逃げろ……」

 

 太陽の光の槍は威力が凄まじいが、その代わりに回数制限がある。

 

「ダクネス……おまえ…」

「早く逃げろっ!!」

 

 敵が一箇所に留まっている。このチャンスを逃すわけにはいかない。もう一度大槍を作り出した。そのとたんに騒がしかった敵が静まる。

 

 なんだ。反撃しないのか。まあ都合がいいか。

 

「………ふっ!」

 

 光の槍はまっすぐ飛び、敵を二体とも倒してくれる。二体分のソウルが手に入るが、やはり少ない。ここで気がついた。最初に狙撃した女のソウルが手に入ってない。

 

「まだ……」

 

 矢が刺さった状態で気を失っているが、まだ生きているようだ。辺りに敵の姿は見えない。あれで最後だろう。

 タリスマンを収めて黄金に輝く曲剣を構えた。黄金の残光はその名の通り、動いた後に美しい光を残していく。

 まだ距離がある。目が覚めたら魔術を使われる。すぐに倒さなくてはならない。

 

「むっ…」

 

 矢が身体に突き刺さる。すぐに盾を装備して防御すると、次の矢が弾かれた。どこか見えないところにいるやつにボウガンか弓矢で狙われたのだ。

 

「遅かった……そんな…」

 

 銀髪の女だ。ボウガンで絶え間なく攻撃をしてきている。このままでは青髪の女が起きてしまう。いつもの方法で突破しよう。

 

「ばっ……そんなっ…隙間を?」

 

 ボウガンの矢を避けるのは何度もしてきた。何発か当たるが気にせず駆け出して黄金の残光を振り下ろした。

 

「ぁ………え?」

 

 消えた。さっきまで持っていた黄金の残光がなくなっている。耐久限界ではない。なぜだ?

 

「スティール……ぎりぎり間に合ったな」

 

 声がした方を向けば、黄金の残光を手にしたさっきの男がいた。倒したはずだが、同一個体か?

 

 考える隙を作ってしまった。その隙を目の前のクリスが見逃すわけもなかった。短刀で急所を貫かれた男はガクンと身体の力が無くなり、蹴られて後ろへ突き飛ばされる。男の身体が消え去り、辺りにはしんとした静寂だけが立ち込める。

 

 カズマはまだ頭が混乱していた。仲間たちを一度に失って凄まじいショックを感じながら、冷静に敵を倒せたことを理解して安堵する。

 これから彼女たちの葬式が開かれるのだろう。今は混乱しているカズマも仲間たちの死を受け入れて悲しみにくれるのだろう。

 

 だが、不死人には関係のない話。

 

 また同じ場所で蘇った不死人は装備から黄金の残光が無くなっていることを確認する。しかしショックは無かった。使い勝手が良いだけでただの装備品だ。

 

 ここで不死人は初めて自覚する。新しい敵の出現に心が動いたことを。

 

 なんだったんだあの魔術は、武器を奪われてしまった、それにあの女の魔術は素晴らしいものだ、他にもいるのではないか?

 この世界にどれだけ居られるかわからない。

 

 しかし、まあ、火を継ぐまで少し寄り道をしてもいいだろう。

 

 不死人は自分の装備を見て考える。この影の装備よりあちらの方がいいだろうと。かつて王グウィンの四騎士の一人だったアルトリウス。深淵の闇に汚れてしまった彼の装備を身にまとって、彼の装備していた深淵の大剣を手にする。

 

 街へ着けば、今度は比類にならない数の敵がいた。

 見たことのない武器、防具。そして身に降りかかってくる未知の魔術の数々。

 

 何度も殺され、立ち向かってくる敵を倒し続ける。

 

 普通の敵とは違うやつもいた。見たこともない力で殺された。何度も立ち向かって倒せばまた別のやつが現れる。

 

 最後に火を継いだのはいつだったか。今だけは忘れよう。

 

 どうか、この素晴らしい世界に祝福を…

 





 もしアクアをカズマが引き止められなかったら。


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第1章 火継ぎ
この素晴らしい世界に祝福を!



 生存ルート


 最初に火を継いだのはいつだったか。

 

 自分に課せられた使命と思ってがむしゃらにソウルを手に入れ続け、何度も死んでは学びを繰り返し続け、最後の王を倒し終わりと思いきや

 

 これは何度目の火継ぎだろうか。

 

 最後の王がソウルとなって霧散していく中、火に近づいていく。

 

 考えても無駄か。

 

 火を継げばまた繰り返される。全く同じ世界を無限に繰り返し続ける。それでも止まれない。止まるわけにはいかない。火継ぎが止まれば世界は闇に包まれる。

 

 だから、続けるしかないのだ。

 

 これは罰なのではないか。ただの不死人が王を殺したことへの罰ではないのか。あの時牢獄を出ずにいればこうなることはなかった。世界の終わりが来るのをじっと待っていれば良かった。

 

 消えそうな火に身体を差し出す。

 

 あとはソウルが燃えていく。火は身体を燃やし、魂までも燃やして世界を光で照らす。そして私は牢獄の中にいる。避けられない運命。変えることのできない結末にただ従う。

 

 世界が照らされた。牢獄の中へ戻る時だ。

 

「………?」

 

 なんだ。ここはどこだ。緑…草原だ。そしてなんだ、明るい。空に太陽がある。空…青い空だ、あの白いものは雲か。なんだこの景色は?

 

 いいや、考えても無駄だ。自分に課せられた火継ぎの使命を全うしなくては。

 

 歩いた。ひたすらに歩いた。亡者どころかデーモンも存在しない世界で、騎士は警戒しながらあてもなく進んでいく。

 

 しばらく歩けば街が見えた。一層警戒を強めた。ロングソードと紋章の盾。初めて探索する時はいつもこの装備にしていたなと思いながら、街へと近づいていく。

 

「ああああああああ!!! よくもぬけぬけと現れられたわね!でも運の尽きね、亡者ごときこの水の女神アクア様の手にかかれば!」

 

 青い髪の女が走ってきた。杖を持って一直線に向かってくる。すぐに紋章の盾を構えてガードした。そのまま自分もじりじりと距離を詰める。魔法を撃たれたらガードしてやり過ごしすぐ反撃。何度もそうやってきた。だから繰り返す。

 

 

 わずかな違い。ほんの少しのズレが起こった。

 

 

 一向に魔術が撃たれない。警戒しながら盾の横から覗き込む。青髪の女は地面に倒れていた、否、倒されていた。後ろから頭を押さえつけられていた。

 

「すんまっせんしたあああああ!!」

 

 押さえつけた男が叫んで頭を地面に擦り付けている。見たことのない奇行に驚いて警戒しつつ動かない。

 なんだこの動きは。いや、見たことがある。どこだったか…。そうだ、灼熱の地下空間の中で遭遇した卵を背負ったやつらだ。なにかを懇願するようにいつも祈っていた。

 ならばと構えを解いた。

 

 敵にしても敵じゃないにしても、やつらに攻撃は逆効果だった。攻撃すれば卵が割れて、出てきた幼虫に卵を植え付けられた。

 それを見た(エンジー)に同族かと勘違いされた苦い記憶が蘇る。

 

 そんな勘違いをされているとはつゆ知らず、カズマは警戒心が薄れたと感じて頭を上げた。

 

 あっぶねぇ〜〜!! 絶対敵に回したらアウトだよあんなやつ!

 

 カズマは歴戦の猛者ではない。しかし目の前の騎士に喧嘩を売ってはいけないことは理解できた。雰囲気、オーラとでもいうのか。一目見て本能的な部分が戦うことを否定していた。

 

「なにするのよこのクソヒキニート! 早くあのクサレアンデッドを浄化するんだからーー!」

「ばっかお前、知らない人にいきなりターンアンデッドとか……え、アンデッド?」

 

 チラリと不死人の方を見る。まさかまさか。アンデッドといえば奇声を上げたり予測不能な動きをしたりどこか欠損してたり、何かしら異常が見えるものだ。雰囲気こそヤバいが……え?マジなのか?

 

 カズマが考えている間に不死人は目の前まで来ていた。

 

「なぁ、そこの……」

「えっ……ぁぁえ〜〜〜っと、ハイ」

 

 ホッとした。会話が出来る。敵じゃなさそうだ。だが油断できない。パッチ(ド腐れ野郎)のような男かもしれない。

 

 カズマはぎょっとした。しかし冷静なように取り繕った。ここへ来たばかりの彼なら、取り繕う余裕など無かった。良くも悪くも様々な出会いが彼を成長させていたお陰だった。

 

「あーっと、すみません。こいつが言ってるんですけど……あなたって、アンデッドですか?」

 

 あー、なんかもうなに言ってんだよ。初対面にアンデッドですかって質問どうかしてんだろ。

 

 カズマが自己嫌悪に陥りそうな時、不死人は考えていた、思い出していた。

 

 質問にどう答えるかで関係は変わってくる。今は大丈夫でもあとあと敵になるかもしれない。最初の選択肢は大切だ。

 

「いいや違う。私はアンデッドではない」

 

 嘘はついていない。私は不死人だ。アンデッドという種属ではないし、仲間ではない。どちらかといえば敵だ。

 

 カズマは安堵した。と同時に妙に静かなのに気がついた。手元が震えている。違う、震えてるのはアクアだ。

 

 アクアは恐怖していた。理由は歴然としている、目の前の騎士だ。アンデッドの臭いがしたので浄化してやろうと意気込んでいたが、近くに寄ってみて理解せずにはいられなかった。

 恐ろしい。そばにいるだけで命を削られていくような錯覚がする。それだけならまだしも、元とはいえ女神のアクアにはわかってしまった。

 

 何度も世界を巡り、その身に溜め込んだ王のソウルや様々な強者のソウルが不死人の身体には宿っている。中には神々に等しいソウルまで紛れているのだ。その濃厚すぎる気配だけなら、なんと畏れ多いことをしてしまったのかと思うだけでよかった。

 

 神々に等しい気配を己の物としている闇のような黒い存在。

 

 どこまでも無限に続く闇、逃れられない暗闇。

 

 ただ、恐ろしい。

 

「……ぃ……おい!」

 

「はっ! な、にかしらカズマ」

「何かって、さっきからどうしたんだよ? 妙に大人しいけどよ。いや〜、ごめんなうちの駄女神がさ〜」

 

 ポンポンと騎士の肩を叩くカズマを見て、アクアは色々なものがぶっ飛ぶかと思った。

 

「うわあああああああああああ!!!!何してんのよあんたはああああーー!」

 

 カズマに掴みかかって引き離す。よかった、自分はまだ生きている。ついでにカズマも無事だ。神様をぶっ殺してるような奴に正体を知られたら、それこそ命がない。

 

「ハァ……ハァ…………なんとか、間に合った」

 

 走って現れた銀髪の女に、不死人は警戒した。

 

 なんだこいつは。今度こそ敵か。武器はダガーと弓矢を装備している。一見弱そうだが、毒を使ってくるかもしれない。殺すとしたら盾で防御しながら太陽の光の槍だ。

 

 身構えた不死人を見て銀髪の女、もといクリスは両手を上げて言った。

 

「違うよ身構えないで! 私は貴方の敵じゃありません。どうか信じてください。落ち着いてくださいー!」

 

 なんだ、この女は。話せるということは敵じゃないのか。だが、まだ安心できない。それに若干感じる神の気配が決断を迷わせる。

 

「ぁあぁぁ〜、もう! これやりたく無かったのに……」

 

 肩まで上げていた両手を上に上げて、足を揃えて少し爪先立ちに……。目を疑った。が、同時に歓喜した。同じ格好をするのに躊躇は無かった。

 

「「 太 陽 万 歳 !! 」」

 

 顔を赤らめているクリスに対し、不死人はいつぶりになるかわからない清々しい気分になっていた。

 

 あぁ、どこかで彼は笑っているだろう。

 

 ウワハッハッハッハッ!

 

 どこかで彼が笑っている気がした。

 




 ウワッハッハッハッハッハッハッ!

 なんだか今日は気分がいいな! どこかで太陽を賛美してくれる友が現れたような気がしたが……気のせいかな! まあいい!

 今日は一段と太陽が輝いて見えるな……ウワッハッハッハッ!


 2020/05/18 更新しました


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この素晴らしい世界に太陽を!

 ウワッハッハッハッハッハ!

 見に来てくれて感謝するぞ!また来てくれるとは、貴公はやはり太陽が好きなのだな?

 みなまで言わなくていい、俺と一緒にどうだ?毎朝の太陽賛美は心地がいいぞ! ウワッハッハッハッハッ!!


 それは急だった。

 

 所有者の無くなった神器を探しているとき、私の本体であるエリスが降臨してきた。かなり慌てて、緊急事態と言っていた。別の世界から人がやってきた。それのどこが緊急なのか最初はわからなかった。でも、話を聞くうちにエリスの顔の青は私にも移っていた。

 

「なんなの、それヤバいじゃん」

「ヤバいなんてものじゃありません!! もし敵対するようなら、勝ち目なんてありません。しかもよりによって、先輩のいるアクセルの街のそばに…」

 

 あ、ヤバい。あの人の事だからアンデッド臭がするとか言って、絶対に考えなしに攻撃する。その確信がある。

 

「ですから、すぐにアクセルの街に戻ってください! 手遅れになる前にっ!」

 

 聞き終えるより先に身体は動いていた。神器の回収なんてしてる場合じゃ無い。少しでも早く、早く行かなくては!

 

 そして案の定、アクアはアンデッドと勘違いして攻撃しそうになった。カズマ君が止めなければ、この世界は終わっていたかもしれない。それを言うならカズマ君は世界を救った英雄になるのかもしれないね。

 

 その英雄(カズマ君)は私から聞かされた話で顔を青ざめさせていた。もちろん私の本体が降臨した部分を省いて、あくまで天啓ということにしている。私さっきまでこんな顔をしていたんだ、と唐揚げを口に運びながら考えていた。

 

 誤解を解いた私は、ひとまず話そうとギルドへ向かった。ここまで来るのも大変だった。まずアクセルの街の人々は敵では無いことを説明しなくてはならなかった。そして、どんなに欲しい装備を付けた人がいても殺してはいけないと伝えたときは焦った。多少渋っていたからだ。

 

「ダメなんです! ぜ〜〜ったいに殺したりなんかしないでください!」

 

 多少本体の喋り方になるくらいの必死の説得で、ようやく納得してくれた。でも納得の仕方が、全員敵対したら大変そうだからというのは不安が残った。

 

「すまないが……」

「は、ハイ!! なんでございましょう!?」

 

 カズマは思わず上ずった声で返事をしてしまう。クリスからの話を聞いてその挙動の一つ一つに敏感になっていた。不死人はゆっくりと指先をギルドの受付へ向けた。そこではクエストを終えた冒険者たちが報酬を受け取っているところだった。

 

「彼らはなにをしている?」

「あぁ、はい。あいつらはクエストっていう依頼を達成した報酬をもらってるんですよ」

 

 誓約ということか。

 

「では、彼らが誓約しているのはなんなんだろうか」

 

 不死人の質問の意味がわからずフリーズにかかってしまうカズマ君を見て、その辺りも不死人に教えなくてはならないのかと、思わず頭を抱えた。今頃自分の本体は天界でホッとしているのだろう。そう思うと腹が立つ。

 

 完全に塞ぎ込んで自分の世界へ逃げているアクアの、全てを諦めているような風貌にまた懐かしい人のことを思い出していた。北の不死院からロードランへ来た時に最初に出会った心の折れた男のことだ。

 

 そういえば、あの男は結局亡者になって襲いかかってきたな。そこまで思い出して、もう一度アクアを見る。

 

「私は……知らなくて…ダメ……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 今にも亡者になりそうだ。今のうちに殺すべきだろうか。

 

 いいや、“まだ”ダメだ。まだ敵対してないのに攻撃しては、なにをされるかわからない。それに、別に今殺さなくてもいい。

 

 亡者になったら殺せばいい。

 

 ゾワッ、と背中の毛が逆立つ感覚でアクアは無理やり正気に戻された。ギギギ、と不死人を見るや否や。

 

「あ、あの………先程はすみませんでした。急にアンデッドよばわりして攻撃しようとしてしまって…申し訳ありませんでした」

 

 椅子から転げ落ちるように地面に座って頭を下げる、見事な土下座だった。

 

 プライド?そんなものジャイアントトードにでも食わせておけ。この時ばかりは流石のカズマでもいつものようにアクアを貶すなんてことは出来なかった。むしろ激しく同情した。

 

 

 

 

 再度、クリスからこの世界の知識を粗方教えてもらった不死人は考えていた。この世界にいては火継ぎをすることができない。

 

 それでも、興味を惹かれるものがある。

 

 なんだ、あの魔術は。

 

 なんだ、あのアイテムは。

 

 ギルドに来るまでに見た魔術やアイテムの数々は、全てが未知の存在だった。

 不死人は考える。永劫に終わりのない火継ぎを終わらせられることができるのではないのか。もう同じことを繰り返さなくても良いのではないか。

 

「冒険者とは、私でもなれるのか?」

 

 問われたクリスはそれは驚いた。そして考える。どうして冒険者になろうとするのか。なんの理由があるのか。

 

 

「そうですね、貴方でもでもなれると思いますが、どうしてわざわざ? 充分強そうに見えるけど」

「この世界の魔法や技術を知りたい。知ることで私の望みを叶えられるかもしれない」

 

 私の望み……それは変わらない。火継ぎを終えて、無限に続く火継ぎの旅に終止符を打つことだ。

 

「あっ! それなら私にいい考えがありますよ! 魔王をぶっ殺しちゃえばいいのよ。魔王を殺した人はなんでも一つ望みを叶えてもらえるのよ!」

「うわっ、バカ!!」

 

 カズマがアクアの口をふさぐが、もう遅かった。

 

「じゃあ向かおう。魔王はどこだ?」

 

 口を塞がれていたので、指で方向を指し示すアクア。その方向を覚えた不死人はギルドから飛び出していってしまった。

 

 魔王とやらがどんな相手かは知らないが、とりあえず挑んでみよう。少なくとも絶対に倒せないことはないはずだ。かつて私は転送を使えるようになるまでは、自分の足だけでロードランやアノールロンドなどの地を歩いてきた。多少遠くとも、問題は無い。

 だが、門が見えてきた辺りで呼び止められた。さっきのクリスという女だ。

 

「待って待って! まさか一人で向かう気じゃないよね!?」

 

 そうだ、と答えたらクリスはため息をつく。なぜだろうか。私にとって距離など関係ない。歩いていれば着く。ただ真っ直ぐ進めばいい。

 

「魔王城には結界があって、それを解かないとまず入れないんですよ!」

 

 結界か、ならば無理だ。結界は越えることが出来ない。王の器を得るまで王へと続く道の途中にあった結界のように、あれはどんな方法を使っても越えられなかった。

 

「どうやったら解ける?」

 

 問われたクリスは言おうとするも、少し躊躇って周りを見渡した。ここでは人目が多すぎる。もっと話しやすい場所に移動しようと持ちかけた。

 

 少し離れた場所の、入り組んだ脇道を超えた先の袋小路。そこでクリスは座り、不死人は立っていた。神妙な面持ちで俯いていたクリスは顔上げて不死人を真っ直ぐ見据える。

 

「いいですか? 今から言うことと見ることは絶対に誰にも言ったらいけませんからね」

 

 なにをする気か、それを聞く前にクリスの身体が少し光ったように見えた。後ろに下がって警戒心を強めた。クリスの雰囲気が少し変わった。

 

「どうか、警戒しないでください。私の名はエリス、この世界を管理する神です。安心してください、貴方に危害を加えることは決してしません」

「本当か?」

「勿論です。太陽にかけて、誓います」

 

 そう言ってエリスが取り出したものを見て、私は目を見張った。エリスの手には太陽のメダルが握られていた。

 




 魔王軍幹部の寿命が少し伸びました。

 太陽のメダルをあげたのは、ソラールさんじゃないです、もっと上の人ですよ。ダレダロナー

 不死人さんのスペックは、プレイヤー基準で見ればとっくに全部カンストしてます。そしてまだ成長するという……。

 更新しました。2020/05/17


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この素晴らしい世界に改心を!

ウワッハッハッハッハッハッ!

評価が赤くなってるとは驚いた。これも貴公たちのおかげだ!

赤といえば、太陽は夕方になると赤くなって更に美しくなるな。

太陽万歳!ウワッハッハッハ


 

「それは……」

「貴方に信用してもらえるようにと、“あるお方”から授かったものです。もしまだ信用できないのなら、あのお方の御名前を…」

 

 大丈夫だ、その先の言葉を手で遮った。自分の持つ太陽のメダルとは比べ物にならない神聖さを纏ったそれを見て、私はエリスを信頼することにした。

 

「それは良かったです。早速ですが、本題に入らさせていただきます」

 

 エリスは、事細かに現在のこの世界の状況を説明した。

 

 魔王城へ行くには幹部を全て倒さなくてはいけないこと。

 

 幹部の一人はカズマたちのパーティーがすでに倒したこと。

 

 そして最後に。

 

「魔王を倒したとしても、貴方の願いは叶えられないのです」

「なぜだ?」

「本来であれば叶えなければいけないのですが、貴方の存在は異例中の異例。本来ならこの世界にいる筈はない存在だからです。天界規定で禁止されていて、これを破ったら怒られるどころか……」

 

 台詞がしりすぼみになっていくエリスを見て考える。何か方法はないのか。ダメだ、やはりこの世界の魔法などの知識を得ていくしかなさそうだ。一人で旅をしてもいいが、下手に敵対しては情報を得られる人間が減っていってしまう。どうしたものか。

 

 悩む不死人にエリスが声をかける。

 

「そういえばさっき言ってた貴方の望みは、やはり火継ぎでしょうか?」

「そうだ。だが少し違う。火継ぎを行い、無限に続く世界からも抜け出すことだ」

「無限…ですか?」

「そうだ、無限だ」

「そうですか…」

「ああ」

 

 

 短い問答の中で聞いた言葉にクリスは思考を巡らせる。無限ってどういうことなんでしょうか。質問は出来そうな雰囲気でもないし。

 エリスは話題を変えようかと思ったが、託された任務を思い出してやめた。少しでも彼の事を教えてもらわなければ、自分の面目は丸潰れだ。しかし下手なことを言って攻撃でもされたら…。エリスは不死人が腰に刺した剣を見る。一見するとただの剣だが所持者がこれだ。

 

「なあ」という短い呼びかけに意識を引き戻された。

「はい。なんでしょうか」

「さっき言っていた冒険者には、どうやってなるのだろうか」

「……冒険者? ああ、冒険者!はい、なれますよ。貴方でしたらきっと、転生者の方々より素晴らしい冒険者に!」

 

 失言を悟り口を閉ざした。兜に遮られて表情はわからなかった。しかしいつも通りのくぐもった声で彼ははっきりと問いかけた。

 

「転生者とは……なんだ?」

 

 手遅れだった。

 

 

 

 エリスから粗方の情報を得た不死人は元に戻ったクリスと共にギルドへ戻ってきた。カズマたちはもう居なかった。すれ違いでクエストに出発してしまったようだ。

 受付に来た不死人はクリスに手伝ってもらいながらギルドの登録を済ませると、最後に水晶玉でのステータス確認が行われた。

 

「はい、これで登録は完了しました。えーっと、あれ?」

 

 受付嬢は首を傾げた。目先にはたったいまステータスが刻まれた冒険者カードが置いてある。しかし、全ステータスの表記がおかしいのだ。どれも平均値を大きく下回っている。一番高いのは幸運だが、それも雀の涙ほどの差。クエストどころか土木工事ですら役に立つかわからないレベルだった。

 

「あ、あの……騎士さんのステータスなんですが、全てのステータスが大幅に低く、これでは冒険者にオススメはできません。土木工事もままなりません…考え直されてはどうでしょうか……」

「わかった。じゃあ冒険者で頼む」

「いえその、これではクエストに出てもすぐ死んでしまって」

「大丈夫だ、冒険者で頼む」

「すぐに死んじゃうんですよ!」

 

 思わず身を乗り出した。しかし

 

「承知した。冒険者で頼む」

 

 私は人間と話しているんだろうか。何かの魔道具と話していると言われた方が納得できるほど、彼は頑なに同じ事を繰り返した。助けを求めるように同伴者のクリスさんを見ると首を振って諦めろと伝えてくる。

 

「はぁ〜〜、わかりました。ではこちらをどうぞ」

 

 もうどうにでもなれ。少し投げやりになった説明を聞き終えて彼が立ち去ると、どっと疲れが背中にのしかかってきた。同僚に後を任せて少し休憩に入った彼女を、誰が責められようか。

 

「じゃあ、私はそろそろ用事があるので失礼します!」

 

 クエストの受け方など基本的なものをレクチャーしたクリスは、元々の用事であった神器探しへと戻っていった。不死人は掲示板に張り出されたクエストの中からジャイアントトードのクエストを選んだ。

 

 平原に出た不死人は手に持った剣と、少し先に鎮座するジャイアントトードを見比べていた。

 

 デカいな。近づくのは危険か。剣を収めてタリスマンを構えた。様子見に手にソウルの矢を構えて投げる。カエルに見事に命中した。しかし、少しぐらついただけで全くこちらを見ない。ならば次の攻撃をとソウルの大矢を構えた、そこで動きが止まった。何度も経験したあの感覚がした。

 

 もしやと思い冒険者カードを見れば、先ほどまで何もなかった場所に数字が現れていた。ジャイアントトードはすでに事切れていた。

 

 なんと脆い生き物か。きっとこの蛙は冒険者のストレス発散用の生き物なのだろう。残りのジャイアントトードをソウルの矢で倒し終えても達成感は無かった。

 

 とんぼ帰りするようにギルドへ戻ってクエスト完了の報告をした。あまりの早さに受付嬢が感嘆する。やはり嬉しさは無かった。亡者程度、ひょっとしたらそれ以下の者を倒して褒められても何も感じない。報酬の金を受け取った不死人はそういえばと思い出した。自分のやるべき事があるではないか。

 

 受付嬢に詰め寄って魔法について問うた。しかし彼女は狼狽えてしまって会話にならない。つい先ほどまで元気だったのに、亡者になりかけてるのかもしれない。倒すのは容易だったが、人目が多かった。どうやって倒そうかと考えていた不死人の肩を誰かが叩いた。

 

「お困りのようだな」

 

 振り向くとそこには、金髪赤目の男がいた。

 

「もし良かったら、俺が魔法を教えてやるぜ」

 

 なんだこいつは。顔は似てないがパッチ(クソカス野郎)と似た雰囲気を持っている。

 

 咄嗟に剣を構えようとして不死人は思いとどまった。彼はエリスに言われた事を思い出していた。ここにいる人は亡者にはならない、だから出来るだけ殺さないでくれと。

 

「本当か?」

「もちろん! 今日の飯を奢ってくれるなら大感激だぜ。もし気に入らなければ、飯代もいらねぇ」

 

 ますます胡散臭い。パッチと似た臭いが強まった気がした。エリスは出来るだけ殺さないでと言っていたが、もし奴のような事をしたなら、敵対するようなら、殺してもいいだろう。

 

「ああ、頼む」

 

 そう答えた不死人に、ダストは内心でガッツポーズをしていた。実は先ほどの冒険者登録の際にダストもその場に居合わせていた。そして不死人のステータスは壊滅的だということを聞いていた。

 

 ステータスはともかく結構いい身なりしてるよなぁ、貴族のお坊ちゃんか?あの盾とか結構金になりそうな装備だし。鴨がネギ背負ってきた。そう確信していたダストは、できる限り人に見られないようにと歩いていく。人通りの無い小道に来たところでダストは振り返った。

 

「そんじゃあ、早速レクチャーを開始するぜ! まず魔法は、一度見たら冒険者カードに取得可能魔法として登録される。そんで、レベルアップした時にもらえるポイントを使って覚える。たったこれだけだ」

 

 そんじゃ、まず俺がやるぜ。ダストが片手を前に出した。

 

「スティール!」

 

 男が魔法を発動させた。自分の身に何か起こったのか。しかし、身体に異常はない。

 当たらなかったのか。そう聞くと更に連続で同じ魔法を使ってきた。そして何度目かで、何かを奪われた感覚がした。スティールとは、物を奪う魔法だったのか。

 

 何を奪うことが出来たのか、ダストが手を広げる。

 

「……ゴミじゃねぇか!!」

 

 ゴミクズだった。懐かしいな。あれを手に入れた時の私も同じ反応だった。

 

 ゴミクズを見つめて無言のまま動かないダストから冒険者カードへ視線を移す。たしかに書いてある、何もなかった空欄に“スティール”の文字があった。

 たしか…、とポイントをスティールに振り分けた。少しむず痒い感覚の後、冒険者カードの使用可能魔法の欄にスティールの文字が刻まれていた。

 

 本当に使えるのか。発動方法はクリスから聞いている。そして目の前にはちょうどいい的がある。

 

 ゴミクズは別にいらないが、しょうがないか。

 

 

 不死人は迂闊だった。今まで魔法などを使う時は杖やタリスマン、そして呪術の火を装備して使っていた。それを何万回と繰り返してきたのだ。無意識の行動だった。ウーラシールの白杖を装備して唱えられたスティールはダストの装備品や金銭を奪うことはしなかった。その代わりに、“ダスト本人”を引き寄せてしまった。

 

 ダストは仰天した。一瞬視界が真っ白になったかと思えば、首を不死人の手で捕まえられて持ち上げられていた。

 

「あ……ぁぁ……あああ!」

 

 パニックになるなという方が無理がある。首を掴まれたダストは見てしまった。否が応でも、兜のスリットの中を覗いてしまった。

 ダークリングの瞳と亡者の顔を見てしまったダストは、半狂乱になりながらもわずかに保っていた理性を稼働させて口を開いた。

 

「ご、ごめんなさいぃいいいいい!」

 

 騙そうとしたことへか、これまでの行いか、とにかくダストは全力で誤った。不死人は謝罪の言葉など聞いていなかった。新しく手に入れた魔法の効果を見て愕然としていた。

 

 首を掴んだ瞬間、致命の一撃を入れる前の感覚がした。盾で攻撃を弾いたときの感覚がしたのだ。魔法を学ぶことを選んだのは間違いではない。まだこの世界には私の知らない魔法がいくつも存在する。

 

 完全な火継ぎを行うことの出来る希望が見えた気がした。

 

「あぁ……」

 

 同時にダストの意識が途切れた瞬間でもあった。緊張がとうとう限界を超えてしまっていた。不死人が手を離せば力の抜けた身体が地面へ横たわった。

 

 飯をおごれと言っていたが……まあいいか。

 

 人気のない場所に気絶したまま取り残されたダストは、夕焼けの眩しさで目を覚ました。そして自分の命が助かったことを知り、これからは自重しようと心に誓ったのだった。

 




 まさか評価が赤くなるとは思いもしませんでした。ありがとうございます。

 

 更新しました。2020/05/17


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この素晴らしい世界に一日を!

ウワッハッハッハッハッハ!

なんと文字を間違えていたとは、不覚だったわ!

そしてなんという声援だ……これだけの太陽の信仰者が集まれば、きっとおれの太陽も……!




「今日もお疲れ様でした〜、こちらが報酬になります〜」

 

 ギルドの受付嬢はいつも通り冒険者のクエスト完了と報酬の受け渡しを行う。マニュアルに書いてある通りの対応だった。

 

 最初は嬉しかった。クレームも何もないし、受けたクエストはちゃんとこなす。モンスターの身体も傷もなく綺麗だから、食材の品質に困ることもないし、余った分を研究に回すこともできる。

 

 ただ、量が異常だった。なぜ初見殺しのクエストが半日も経たず終わってるのか。グリフォンとマンティコアの喧嘩を止めるクエストでは、目撃者の話ではモンスターが二匹とも我先にと逃げ出してしまう始末。あろうことか機動要塞デストロイヤーの視察から帰って来た彼に感想を聞けば、「壊せそう」と言って退けた。

 

 緊急対策会議が開かれ、ギルドとしてクエストの分配を平等にする為に、彼には高難易度のクエストだけしか受けられないようにした。しかしそれらも難なく達成してきた。途中から受付嬢のルナは、マニュアル通りに接すればいいとだけ考えた。私はただマニュアルに従っているだけ。私が悩むことではない。

 

 こうして表向きは普段通りのギルドに戻ったのだが、彼への報酬の支払いがあまりにも多く積み重なっているので、本部の財政面に多少の打撃があった。

 

 

 

 不死人は来る日も来る日もクエストをこなしていった。時にはクリスの神器集めについていくこともあった。

 

「いいですか? 神器の本来の力は所有者にしか引き出せないものなんです、だから見つけたとしても、ちょっと便利な道具に過ぎない。だから貴方が持ってても意味がないゴミクズ同然のものなんです」

 

 散策へ入る前にいつもの注意事項を聞かされた不死人は、わかったと短く答えて洞窟に入っていった。

 

 暗い洞窟内を進む内、巨人墓場の嫌な思い出が蘇った。即座に兜の装備を太陽虫にした。醜悪な見た目にクリスは顔を引きつらせていたので、「そのうち慣れる」とだけ言った。

 

 灯りに引き寄せられてモンスターが向かってきた。灯りに寄ってくるのは、クリス曰く“特性”らしい。数の多さから、速い方がいいだろうと思いロングソードから“黄金の残光”に持ち替えた。

 

 蹴散らしながら進むと、行き止まりになった。

 

「敵感知、そこです」

 

 クリスの言う通り壁に近づけば、そこに潜んでいたモンスターが飛びかかってきた。一匹だけなのを確認して、少し後ろへ下がってウーラシールの白杖を持った。

 

「スティール…」

 

 モンスターの首を掴む。すぐに杖を剣に持ち替えて致命の一撃を入れる。これもずいぶん慣れたものだ。

 

「ちょっと待ってくださいよ!」

 

 後ろからクリスの声がするも、不死人はこれを無視して魔法の壁の先へ向かった。

 

 懐かしいな。盾を装備して黄金の残光を光らせながら、不死人は城下町で迫り来る亡者をなぎ倒しながら進んだ時の記憶を思い出していた。

 

 向かってくる敵がいなくなったところで、少し開けた場所に出た。そこにあったのは、鋼鉄製の扉だった。錆びて赤黒く変色してるものの、しっかりと鍵は生きてるようで、役割を続けていた。

 

 だが、不死人はそんなこと御構い無しだ。

 

「アンロック」

 

 本来、スキルとは職人の技のようなものだ。何度も積み重ねることでレベルを上げていって、道具を使う器用さが上がったり解錠が早くなったりする。

 しかし不死人が使えば鍵は吹っ飛んだ。錠を失った扉は虚しく泣いていた。

 

 奥にはベッドに横たわった骸骨と遺書らしきもの、そして宝箱があった。宝箱を見つけた不死人はまず剣を振り下ろした。

 

「………違ったか」

 

 トラップではない。ひとまず安心した不死人は宝箱を開けて中のものを取り出すと、じっくり見ることもなく所持品として保管してしまった。どんなものかは後で調べればいい。

 

 クリスが走ってきた。ひどい剣幕だった。なぜ置いてけぼりにしたのか、進むのが早すぎるなどなど。

 

「もういいです、言っても無駄だろうし……。ところで神器はありましたか?」

 

「いいや、無かった。代わりにこれがあった」

 

 ゴミクズを差し出して嘘をついた。

 当たり前だった。彼の目的はあくまで元の世界に帰って火継ぎを完全に終わらせること。それをなす為には、「ちょっと便利な道具」でもそう簡単に手放すわけにはいかない。

 

「それじゃ、今日はありがとうございました!」

 

 クリスは90度の見事な礼をして去っていった。

 

 冒険者カードを取り出す。始めは白紙が目立ったカードも、今では取得スキル覧が賑やかになっていた。未取得一覧には爆裂魔法を始めとして多数のポイントが必要になるスキルがまだかまだかとごったがえしていた。

 

 神器をちょろまかした不死人は、クリスと解散したあとでそれを調べた。

 

 

 直死の魔レンズ。

 

 モノの死を見て、断ち切ることができるようになる。

 しかし現在は所有者が死亡しているため、よく見えるレンズとなっている。

 

 

 

「………」

 

 クリスの言う通りだった。たしかにこれはゴミクズと同じランクのものだ。騙してまで手に入れたのにとんだ無駄骨だった。

 

 

 

 

 

 これが最近の彼の生活だった。不死人に食事、就寝などの娯楽はない。趣味もない。あるとすれば新しいスキルを覚えることやソウルを集めることだ。

 

「緊急! 緊急っ! 冒険者の方々は急いで正門前に集まってください!」

 

 だからこのとき。

 

「敵か?」

 

 冒険者としてではなく。

 

「なんかヤバそうだな?」

 

 『不死人』として動いた。

 

 

 

 集まった冒険者は恐怖した。

 平野に佇む一頭の馬とそれに乗る騎士に恐怖した。頭だけがないそれらがなんなのか、始まりの街の住民でも理解できた。

 

「デュラハン……まさか、魔王軍幹部のっ!?」

 

 誰かが言った。不死人の地獄耳はそれを聞き逃さない。魔王軍幹部?……つまり敵か。殺していいんだな。

 

「ま、毎日毎日! おれの城に爆裂魔法を撃ってくる頭のおかしいヤツは誰だァァー!」

 

 

 




誤字報告ありがとうございます。

そして皆様、感想や評価などありがとうございます。これからも頑張って、頭マッサラタウンで作品を書き続けたいと思います。
苦情などはタケシに向けてどうぞ


 更新しました。2020/05/17


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この素晴らしい世界に死の宣告を!

太陽……おれの太陽……どうしたらいいんだ…どうしたら


 

 人々の耳に受付嬢の指示が届く。

 

 正門前に集まってください。感情が伝わってくる焦った声だった。その声に冒険者たちは動いて応えた。全員が正門前に駆け足で向かっていった。その勢いに呑み込まれて、カズマたちのパーティーも正門前に流れ着く。

 

「なんだあれ…デュラハンか?」

 

 黒い首なし馬と黒い首なしの騎士。異質な存在に息をのむ冒険者をよそに、デュラハンのベルディアは怒り心頭だった。

 

「毎日毎日、おれの城に爆裂魔法を撃ってくるは頭のおかしいやつは誰だああああ!」

 

 デュラハンが騒音に悩まされる住民のように叫ぶ光景はギャップを感じさせ、冒険者たちの張り詰めた空気が少し和らいだ。

 同時に、この騒動の犯人探しが始まる。

 

 お前か。 私じゃない。 誰だ。 お前じゃないのか。 君じゃないのか。 あいつじゃないか。 違う、あいつか。

 

 騒めく冒険者たちの中には、疑われて泣き出す者も現れだした。その中から一人、静かに群を抜けてまっすぐベルディアに向かっていく少女がいた。黒いとんがり帽子と黒い衣装、身の丈以上の杖を持った少女が、ベルディアの前に立ち名乗りを上げた。

 

「お前か……爆裂魔法をぶち込んでくる大バカ者はああ! このおれが魔王軍幹部と知ってのことなら、堂々と城へ攻め込んでくればいい! それが出来ぬ臆病者なら街で震えていればいいのに、どうしてこんな嫌がらせみたいなことするの? どうせ雑魚しかいない街だと思って放置していれば」

 

 ベルディアの怒りは留まることを知らない。次から次へと目の前の迷惑者に対する罵詈雑言を繰り出す。

 

 しかし、これは大いに間違いだった。

 

「うおっ!!」

 

 ベルディアの怒りにさらされた少女めぐみんが紅魔族として名乗りを披露しようとした瞬間、ベルディアが大きく仰け反って馬から転落した。

 

「ぷっ、あっハハハハ! ちょーウケるんですけど! さっきまで強がってた癖して、うおっ、って…うおっ!って!! プークスクス」

 

 馬鹿にされ笑われるベルディアだが、阿呆の戯れ言など気にしてる場合ではない。

 

 もし落ちなければ、殺されはしないにしろ大ダメージを受けていたことを感じていた。魔法で強化された鎧に傷跡がついている。引っかき傷など生ぬるい、金属がえぐり取られたような傷だ。

 

 そこかっ! 飛んできた方角をじっと見つめる。正門から離れた城壁の影。周りの景色と同化しているが、微妙に歪んだ場所を見つけた。

 

「コソコソとしてないで、出てきたらどうだ!」

 

 ベルディアが叫んだ。しかし冒険者たちはその存在にまだ気がつかない。魔法で隠れていた不死人はベルディアの言葉に対して魔法で応えた。

 

 弓矢では躱された。もしあの馬に乗ってこられたら接近戦になって面倒だ。

 

 太陽のような輝きが発生する。その光に、流石に冒険者たちも気がついた。身を隠していた魔法が解けてその姿が露わになる。

 

「いやああああああああああああ!!」

 

 駄女神が泣き出した。

 

「どうしたアクア!? もしや、あの人が例の騎士かっ!」

 

 ダクネスが食い入るように聞くがアクアに声は届いていない。鼻水と涙で顔を濡らして、一目散に逃走を図ろうとする。

 

 その小競り合いなど気にもとめず、不死人は太陽の光の槍を放った。ベルディアの乗ってきた馬へまっすぐ飛んだ槍は一撃で馬を屠る。

 

「へ?」

 

 馬が消えて残るはベルディアだけになる。これで急接近されることは無くなった。

 

 太陽の光の槍を構えてもう一度放つが、当たらない。ギリギリ避けられた。

 

「調子に乗るなぁ!」

 

 ベルディアは不死人との距離をひとっ飛びで縮めた。その手には大剣が握られている。

 

 すぐさま紋章の盾を装備して構える。ギリギリ間に合うが、それでもスタミナを一気に削られて体力も少し持っていかれた。

 

「まだまだ!」

 

 凄まじい連続斬りが襲いかかる。ジャンプ斬りほどではないにしろ、体力はどんどん消耗されていく。

 

 このままでは死ぬな。別に死んでもいいが………やっぱりここで死ぬのはもったいないな。

 

 後ろへ転がってほんの少し距離をとる。その距離を詰めてベルディアが再度斬りかかった。ここだ。

 

「は、弾いっ!?」

 

 何度もやってきたパリィだ。剣を弾かれて大きな隙を作ったベルディアに、不死人の攻撃をかわす術はない。

 

 不死人が右手に持った剣は、いつも使っている黄金の残光ではなかった。あちらが光とするならこちらは影。黒いというより暗い曲剣、暗銀の残滅。

 

「ふっ!」

 

 致命の一撃が入った。ベルディアの体力を大幅に削り、更に剣に仕込まれた凄まじい猛毒が、じわりじわりと体力を削っていく。

 

 突き飛ばされたベルディアは目の前の男のことを軽んじていたさっきまでの自分を恥じた。それは同時に、本気を出すべき相手と認識したということだった。

 

 ベルディアが起き上がってくることは、感覚でわかった。ならばと、タリスマンを片手に何度も世話になった神々の怒りを使おうとする。

 

「セイクリッド・クリエイト・ウォーター!」

「ガボッ!???」

 

 その瞬間、大量の水が二人を押し流した。

 

「いよっしゃあ!」

 

 アクアの水だった。目論見通り押し流した水は、ついでに城壁も押し流して被害を拡大させていく。それに気づかず、アクアはガッツポーズをとっていた。

 

「こんの馬鹿あああああ!! なんでお前はいつもいつも余計なことばかりしてんだ!」

「なんで怒られるの!? あんなの存在しちゃいけないに決まってるでしょ! ビクビクするのもう嫌なのよ! ついでに魔王軍の幹部を倒せたんだから一石二鳥じゃないの!」

 

 神々の怒りを使おうとして、本当に神々の怒りに晒されるとは皮肉だった。

 

 水が引いていき、2人の姿が露わになる。

 

 瀕死の状態で倒れたままのベルディア。

 

 そして身体が残ったまま倒れた不死人。

 

 双方ともに動かなかった。  




 不死人が死んだ!



 更新しました。2020/05/17


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この素晴らしい世界に爆裂を!

ウワッハッハッハッハッハッハ!!

爆裂魔法とやらの輝きは凄まじいな!まるで太陽のような眩しさだ!


 

 水が引いていって、その全貌が明らかになっていく。倒れていたのはベルディアと不死人の両方だった。実力者同士の戦いがこんな幕切れになってしまい呆然とする冒険者たちの中で、カズマは焦っていた。

 

 おいおいおいおいマジかよ! クリスの話が本当なら、不死人さんとは絶対に敵対すんなって事だろ! 忠告されてたってのにあのクソ女神がぁー!

 

 ………あれ、でも死んじまったら敵対も何もないじゃん。やったのはアクアだけだから俺には関係ない……て、こ、と、は。

 

 ジロリとアクアを見る。憎っくきアンデッド二体を倒したと息巻いて祝いの花鳥風月を披露していた。

 

「潜伏……」

 

 めぐみんとダクネスには、あとで説明すればいいさ。とにかくその場から脱出したかったカズマは気配を消して人混みの間をすり抜けていく。

 

 

 

 

 クリスは焦っていた。思考が絶望の一色に染まる中でこれからの算段をしていた。

 

 まずアクセルはもう滅ぶ。逃げるとしたら王都だろうか。今回のはアクア先輩の仕業だ。私は悪くない。しばらくは王都で静かに生活して、落ち着いた頃に不死人さんに会いに行こう。そして私は無関係だったと言おう。

 

「せんぷく〜」

 

 全く同じ方法でその場を逃げ出そうとしていた。後ろから聞こえるアクア先輩の笑い声が、ひどく儚く聞こえる。そしてしばらく進んだところで、ふと思い出した。

 

 不死人って死んだら篝火に転送されてそこから復活するんじゃなかったか。記憶が確かならこの世界にそれらしい篝火はない。そして死んだのに消えない不死人の身体。

 

 これらが導き出す答えは。

 

「本当に、死んだ?」

 

 

 アクアは笑って踊っていた。勝利の花鳥風月を披露して、それに魅せられてほかの冒険者もわいわいと人間の勝利に酔いしれていた。

 

「これでビクビクする生活とはオサラバよ!グッバイ、不死のバケモン! ハロー、マイライフ! アンデッドも倒して一石二鳥。今日は飲むわよ〜〜!」

 

 しかし、次第に盛り上げる声援が小さくなっていく。なんだと思い後ろを振り向けば、倒れていたはずのアンデッドが立ち上がってるではないか。

 

「よくも……よくも俺様にこんな、こんなァ!」

 

 執念を漂わせて大剣を構えるベルディアに対して、アクアは杖を再度構える。不死人(化け物)に比べたら魔王軍幹部程度、恐るるに足らず。

 

「これでとどめよ! ターン・アンデッ!?」

 

 最後まで言えずスキルは不発に終わる。眼前には信じられない光景があったからだ。

 

「グッ…ば、バカな!」

 

 ベルディアの腹から影が生えている。影のように見えたそれは剣だった。暗銀の残滅と呼ばれる曲剣は、黄金の残光とは対になる影の剣。凄まじい毒が仕込まれた剣で貫かれたベルディアは、最後の言葉すら言えず経験値を残して消えていく。

 

 我に帰ったアクアが不死人に向けてターン・アンデッドを放とうとするが、一手遅い。

 

「スティール…!」

 

 前にかざされた不死人の手から光が発せられる。眩しさに目を閉じたアクアが次に目にしたのはスリットの奥に光るダークリングだった。

 

 暗銀の残滅でアクアの腹部を貫いた。蹴り飛ばして地面に打ち捨てる。完璧な致命の一撃だ。

 

「……かっ…せ、セイクリ…ッド…」

 

 なんという生命力か。おびただしい出血をしながら震える声で回復しようとしている。だが、そんな時間を不死人が与えるわけがなかった。片手には暗月のタリスマンが握りしめられていた。

 

 神々の怒り。それは容易くアクアの命を散らして、身体を吹き飛ばす。

 

 地面に転がったアクアだったものを見ためぐみんは半狂乱に杖を掲げた。

 

「これは……爆裂魔法か?」

 

 大きく自分を中心に展開された魔法陣は、エリスから聞いていた爆裂魔法の特徴だった。避けるには威力が大きすぎる。かといってこのまま食らえば死ぬのは確実だろう。

 

「エクスプロージョン!」

 

 めぐみんの全力の爆裂魔法が不死人に命中した。瞬間、爆心地から周囲にとてつもない衝撃と熱風が吹き荒れる。街の外壁は更に崩れ、冒険者たちも幾人か飛ばされた。

 

「………アクア……」

 

 仲間の仇を打っためぐみんが感じたのは、虚無感だけだった。もう二度と聞くことができない仲間の声、一緒に過ごす時間はもう来ない。

 ひざから崩れ落ちためぐみんは、涙が頬を伝う感触で自分が泣いていることを実感する。ダクネスが近寄り慰めようとした。

 

「危なかった…」

 

 ダクネスが近寄り肩を抱こうと近寄った時、最も聞きたくなかった声がした。

 

 

 

 危なかった。あと少し装備を変えるのが遅かったら死んでいたろう。ハベルの装備でも死にかける威力は流石は爆裂魔法だと思った。

 

 爆裂魔法が飛んできた瞬間ハベルの装備一式に切り替えて更にエスト瓶を連続で飲む。それだけで不死人は爆裂魔法を耐えきっていた。

 

 目の前には沢山の敵がいる。どれも雑魚だが、決して油断はしない。どれだけ弱くても、数の暴力に勝るものはないからだ。

 

 白杖を持って唱えるのは、追尾するソウルの結晶塊だった。

 

「なんだ、多いな」

 

 本来なら背後に滞空するソウルの塊は5つのはずだった。それが6つになっている。

 

 レベルアップが影響を与えているのか、不死人には理解することは出来なかった。だが今は気にしなかった。

 

「くるぞぉぉぉぉぉ!!!」

 

 冒険者の誰かが叫んだ。正気に戻った中の幾人かが、武器を投げ捨てて敗走した。あまりにも遅い決断だった。

 

 結晶の槍が先頭にいた一人の頭を潰した。辺りに脳漿と血が飛び散る。それを見た者、音を聞いた者、全員がそれでも走るのを止めない。全速力で逃げ続ける。

 

 不死人は窮地を脱したと思うと同時に、不味いと思った。このまま時間が経てば、爆裂魔法を食らってしまう。不意打ちで食らえば助かる道はない。不死人は追いかけた。追いかけながらソウルの矢で一人ずつ殺していった。

 

 

 

 ウィズ魔道具店。その名の通り魔道具が売られている。しかしそのどれもが役立たずの魔道具ばかりだった。転生してきた冒険者の1人曰く、ジョークグッズの方がまだ使える。

 その原因を作っているのが、店長であるウィズという女店主だった。通称貧乏店主と呼ばれるこの女店主は、人柄が良く人が困っていたらほっとけないタイプの人間だ。

 

 否、人間ではなかった。

 彼女はリッチーと呼ばれるアンデッド種の上位の存在なのだ。更には魔王軍幹部で、相当な実力の持ち主だった。過去に冒険者をしていた時の実力は、凄まじいという言葉が陳腐に思えるほどだった。

 

 閑古鳥の鳴く店の扉が悲鳴をあげた。お客さんかと出迎えたウィズの前には、酷い形相の冒険者が倒れこんでいた。それでも、ウィズを見た冒険者は最後の力を振り絞って足に縋り付いた。

 

 

「た、たす、助…たすけてくれ!!」

 

 伝えた冒険者は、事切れた。何があったのかと理解しようとしたウィズの耳に、人々の悲鳴が届いた。

 

 

 そのころ不死人は、ダクネスと鍔迫り合いになっていた。違う、正しくは不死人の剣をダクネスが腕で防いでいた。

 

「ダクネス!」

「早くめぐみんを連れて行けっ!」

 

 持ち前の防御力を活かして対峙するダクネスは、内心少し安心していた。防げない攻撃ではない。自分が盾になれば逃げる時間を稼ぐことが出来ると。

 

「はやく、いけぇ!!」

 

 腕を払って不死人を後ろへ下がらせた。カズマは呆然とするめぐみんを背負って駆け出した。必ず助けに戻ると言い残して。

 

 距離が少し出来た。そして相手は攻撃してこない。絶好のチャンスだった。不死人にとって。

 

 不死人を中心に衝撃波が発生した。衝撃波を食らったダクネスは吹き飛ばされる。

 

「な、……なんだ、、いま、のは」

 

「頑丈だな」

 

 剣を杖代わりの状態だが、立ち上がったダクネス。その防御力に不死人は驚くと同時に嬉しく思った。あの装備があれば旅がしやすくなるだろう。

 不死人の広げた手がダクネスに向けられた。

 

「スティール…!」

 

 まばゆい光が照らした。光が収まると、不死人の手はダクネスの首を掴んでいた。

 やはり駄目だったか。良い装備を目の前にして手に入れられないというのは悔しいが、しょうがない。反撃される前に致命の一撃で倒す。

 動かなくなったダクネスの身体を蹴り捨てて辺りを見回すが、周りには誰も居ない。辺り一面が草原………しまった。

 

「「エクスプロージョンッ!!」」

 

 赤く巨大な魔法陣が、不死人を中心に展開された。二重に詠唱されたエクスプロージョンの威力はとてつもなく、防御の暇を与えることなく不死人を跡形もなく消し去ってしまった。

 

「どこにも居ない……敵感知も反応なし、だ」

 

 爆音がこだまする中で、カズマは千里眼のスキルを使って不死人の完全消滅を確認する。しかし、喜びの感情は湧かなかった。それ以上の虚無感が感情を殺していた。残ったのは巨大なクレーターと、静寂のみだった。

 

 

 

 

「良かった、装備は無事だな」

 

 蘇った不死人は装備品が壊れてないことを確認して安心した。多少の損傷はあったが、気にするほどじゃない。

 

 今度はもっと気をつけて戦わなければ。まずはあの女二人を殺そう。爆裂魔法を阻止できれば、少なくとも即死は免れるだろう。

 

 しかしどうやって倒そうか……行きながら考えればいいか。

 




お久しぶりです。

このあとどうなったかは、ご想像にお任せします。皆様の思いつく戦法で自由にアクセルの街を破壊しちゃってください。


 更新しました。2020/05/17


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この素晴らしい世界に大剣を!

ウワッハッハッハッハッハッハ!

別の世界ではダメだったようだが、今度の世界はどうなることやら!

しかし、世界がどうなるとしても太陽は変わらず輝いているっ!

 みなも太陽を賛美しようではないか!ウワッハッハッハ

 太  陽  万  歳!!



 

 人々の耳に受付嬢の指示が届く。

 

 正門前に集まってください。感情が伝わってくる焦った声だった。その声に冒険者たちは動いて応えた。全員が正門前に駆け足で向かっていった。その勢いに呑み込まれて、カズマたちのパーティーも正門前に流れ着く。

 

「なんだあれ…デュラハンか?」

 

 黒い首なし馬と黒い首なしの騎士。異質な存在に息をのむ冒険者をよそに、デュラハンのベルディアは怒り心頭だった。

 

「毎日毎日、おれの城に爆裂魔法を撃ってくるは頭のおかしいやつは誰だああああ!」

 

 デュラハンが騒音に悩まされる住民のように叫ぶ光景はギャップを感じさせ、冒険者たちの張り詰めた空気が少し和らいだ。

 同時に、この騒動の犯人探しが始まる。

 

 お前か。 私じゃない。 誰だ。 お前じゃないのか。 君じゃないのか。 あいつじゃないか。 違う、あいつか。

 

 騒めく冒険者たちの中には、疑われて泣き出す者も現れだした。その中から一人、静かに群を抜けてまっすぐベルディアに向かっていく少女がいた。黒いとんがり帽子と黒い衣装、身の丈以上の杖を持った少女が、ベルディアの前に立ち名乗りを上げた。

 

「お前か……爆裂魔法をぶち込んでくる大バカ者はああ! このおれが魔王軍幹部と知ってのことなら、堂々と城へ攻め込んでくればいい! それが出来ぬ臆病者なら街で震えていればいいのに、どうしてこんな嫌がらせみたいなことするの? どうせ雑魚しかいない街だと思って放置していれば」

 

 ベルディアの怒りは留まることを知らない。次から次へと目の前の迷惑者に対する罵詈雑言を繰り出す。

 

 しかし、これは大いに間違いだった。

 

「うおっ!!」

 

 ベルディアの怒りにさらされた少女めぐみんが紅魔族として名乗りを披露しようとした瞬間、ベルディアが大きく仰け反って馬から転落した。

 

「ぷっ、あっハハハハ! ちょーウケるんですけど! さっきまで強がってた癖して、うおっ、って…うおっ!って!! プークスクス」

 

 馬鹿にされ笑われるベルディアだが、阿呆の戯れ言など気にしてる場合ではない。

 

 もし落ちなければ、殺されはしないにしろ大ダメージを受けていたことを感じていた。魔法で強化された鎧に傷跡がついている。引っかき傷など生ぬるい、金属がえぐり取られたような傷だ。

 

 そこかっ! 飛んできた方角をじっと見つめる。正門から離れた城壁の影。周りの景色と同化しているが、微妙に歪んだ場所を見つけた。

 

「コソコソとしてないで、出てきたらどうだ!」

 

 ベルディアが叫んだ。しかし冒険者たちはその存在にまだ気がつかない。魔法で隠れていた不死人はベルディアの言葉に対して魔法で応えた。

 

 弓矢では躱された。もしあの馬に乗ってこられたら接近戦になって面倒だ。

 

 太陽のような輝きが発生する。その光に、流石に冒険者たちも気がついた。身を隠していた魔法が解けてその姿が露わになる。

 

「いやああああああああああああ!!」

 

 駄女神が泣き出した。

 

「どうしたアクア!? もしや、あの人が例の騎士かっ!」

 

 ダクネスが食い入るように聞くがアクアに声は届いていない。鼻水と涙で顔を濡らして、一目散に逃走を図ろうとする。

 

 そのときズレが生じた。アクアの後ろの人混みが少しだけ少なかった。お陰で逃げ切る時間がかからず、アクアは正門前から完全に姿を消した。

 

 その小競り合いなど気にもとめず、不死人は太陽の光の槍を放った。ベルディアの乗ってきた馬へまっすぐ飛んだ槍は一撃で馬を屠る。

 

「へ?」

 

 馬が消えて残るはベルディアだけになる。これで急接近されることは無くなった。

 

 太陽の光の槍を構えてもう一度放つが、当たらない。ギリギリ避けられた。

 

「調子に乗るなぁ!」

 

 ベルディアは不死人との距離をひとっ飛びで縮めた。その手には大剣が握られている。

 

 すぐさま紋章の盾を装備して構える。ギリギリ間に合うが、それでもスタミナを一気に削られて体力も少し持っていかれた。

 

「まだまだ!」

 

 凄まじい連続斬りが襲いかかる。ジャンプ斬りほどではないにしろ、体力はどんどん消耗されていく。

 

 このままでは死ぬな。別に死んでもいいが………やっぱりここで死ぬのはもったいないな。

 

 後ろへ転がってほんの少し距離をとる。その距離を詰めてベルディアが再度斬りかかった。ここだ。

 

「は、弾いっ!?」

 

 何度もやってきたパリィだ。剣を弾かれて大きな隙を作ったベルディアに、不死人の攻撃をかわす術はない。

 

 不死人が右手に持った剣は、いつも使っている黄金の残光ではなかった。あちらが光とするならこちらは影。黒いというより暗い曲剣、暗銀の残滅。

 

「ふっ!」

 

 致命の一撃が入った。ベルディアの体力を大幅に削り、更に剣に仕込まれた凄まじい猛毒が、じわりじわりと体力を削っていく。

 

 突き飛ばされたベルディアは目の前の男のことを軽んじていたさっきまでの自分を恥じた。それは同時に、本気を出すべき相手と認識したということだった。

 

 しかし、本気など不死人に対しては最初から出してなければならなかった。

 

「ぬおおおおぉぉぉおぉぉぉ……」

 

 神々の怒りがベルディアの残り僅かな体力を削りきった。悲鳴を残してベルディアは完全に消滅する。

 

 あっという間の決着。死者どころか怪我人すら出ることのなかった状況にしばらく静かだった冒険者たちだったが、誰かが雄叫びを上げた。それに追従して叫ぶ冒険者たちは、ほぼヤケクソだった。

 

 冒険者たちの勝鬨は気にせず、不死人はベルディアのいた辺りを見ていた。浄化されたというのに、ベルディアが倒れた場所は淡く光っていた。

 

 なんだあの光は。違う、見たことがある。何度も何度も見た光だ。

 

「出たか!」

 

 思わず叫び、駆け寄って確認する。ソウルに変えて回収すると、その詳細が伝わってくる。

 

 

 首失騎士の大剣

 禍々しい魔力を帯びた両刃の大剣。魔王軍幹部デュラハンの得物。かなりの重量があり、人の身で十分に振るうのは難しいだろう。

 

 

 新しい装備を手に入れた事に喜びを感じずにはいられなかった。 




 とうとう不死人の手にアイテムが渡ってしまった。

 前の世界では手に入れられなかったものだが、この世界では……

 不死人の結末はどうなるのか、火継ぎは行われるのか

 そしてアクアは今度こそ自重するのか


 更新しました。2020/05/17


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この素晴らしい世界に二度目の死を!

死が恐ろしくないのかだって?ウワッハッハッハッ、貴公!恐ろしいに決まってるだろう!

 だが恐れて進めないのでは、ずっと影の中で生き続けることになってしまうではないか!そんなのごめんだ。

 死ぬなら死ぬで、太陽のように輝かしく死んでやろうぞ!ウワッハッハ!


 

 雪を見るのは初めてではなかった。絵画の中の世界で雪に覆われた美しい世界を見たことがあった。

 しかしここまで見事な一面の雪景色ではなかったな。不死人は眼前の光景を見てそう思った。そして至る所に、ふわふわと漂う小さな物体があった。否、それは雪精だった。冬になると現れて、一匹倒すごとに春の訪れが早くなる。そして一匹につけられた報酬は高い。

 

 

 冬場は弱いモンスターの討伐依頼はあまりなく、残っているのは強いモンスターだけ。それも、全て倒したことのあるモンスターであった。アイテムを得ることも出来ないモンスターたちに正直なところめんどくさいという感情が湧いてきていた。そこへ雪精討伐の依頼だ。

 

「いや〜、今回は同行させていただいてありがとうございます! 誠心誠意、頑張らせていただきますので、ハイ!」

「見事なまでのごますりですね」

「プライドのカケラもない男だな……」

 

 カズマたちとの合同任務になったのは、幸運だった。

 

「雪精の討伐は任せた」

「本当にいいんですか? 俺たちだけで雪精を討伐しちゃっても……」

「構わない」

「本当の本当にいいんですか?」

「構わない」

「本当の本当のほんとーーに!?」

「うるさいですね!! いいと言ってるんだからいいじゃないですか! それより早くしないと、全部私がいただきますよ」

 

 見かねためぐみんが杖を構えて爆裂魔法を唱え始めたところで、カズマが慌てて止めた。ダクネスは攻撃が当たらないというのに剣を振り回している。そしてアクアはというと……。

 

「そういえばアクアはどうしたんだ?」

「今朝から姿が見えませんね」

 

 今朝から姿を消したアクアを心配する二人。しかしカズマは知っていた。アクアは遥か後方に隠れていることを。そして密かに雪精を捕獲していることも。

 

 アクアは考えた。無い頭を振り絞って導き出したのは、不死人から離れて行動するというものだった。知力最低レベルといえど、成長したものである。だが、不死人が殺す気になれば距離など関係ない。その事を知らないアクアは、安心感に浸っていた。

 

 

 振り向くとアクアは地面に横たわり雪と同化しようとしていた。その奇行を見て不死人はこのまま寄ってきて後ろから致命の一撃が来るのではと若干警戒していた。

 

「エクスプロージョン!!」

 

 一箇所に集まっていた雪精に我慢できず、めぐみんがエクスプロージョンを放った。巻き込まれて雪精が何匹も散っていく。

 

 バレバレの擬態をしながら笑みを浮かべるアクア、それを黙って見守るカズマ、爆裂魔法を放って雪に倒れるめぐみん、そして一向に攻撃の当たらないダクネス。

 4人のパーティーはいつも通りだった。

 

 

 そもそも不死人はなぜ彼らに同行しているのか。

 

 正史ではアクアが城壁を破壊した事で借金を背負う事になり、それを返済するために冬にもかかわらずクエストを受けていた。しかしこの世界においては、不死人が原因だった。

 

 デュラハン戦で不死人の気に当てられたアクアは、それがトラウマになって塞ぎ込んでしまった。お陰で回復役のアクアがいなくなりクエストに行けず、食事代のツケが重なっていく。

 原因の不死人に金を払ってもらえないかクリスに聞いたところ、恐れ多すぎてそんなこと聞けないと言われた。

 

 ようやくアクアが回復したと思ったらすでに冬。流石のカズマも我慢の限界だった。ギルドの掲示板前で不死人を待ち構え、現れた彼に溜め込んでいた事をぶちまけた。

 

「あんたがとんでもないってのはクリスから聞いてるけどよ、そんな大物なら周りの事も考えろよ! アクアがトラウマ持って、お陰で俺たちは借金背負ってんだ! せめて俺たちのクエストに同行して、借金返す手伝いくらいしてくださいやがれ!」

 

 理由も何もめちゃくちゃだった。それでも結果的に不死人は受けたのだ。承諾されて喜んでいるカズマたちを尻目に、提示版に貼られていた雪精討伐のクエストを選んだ。

 

 

 

 

 

 

 雪精の討伐が始まってそろそろ半刻が経つ。時折振り向いてはるか後ろにいる不死人に、本当に雪精を俺たちが討伐してもいいのかと聞いてくる。そのたびに遠慮するなと返すやりとりが3回目を超えたころだった。

 

「来たな……」

 

 空気が変わった。明らかな強者の気配がする。不自然な雪煙が、迫って来ながら徐々に形を成していく。カズマは何が起こったのかわからないまま警戒して、聡明なめぐみんは倒れたままじっと動かない、ダクネスは待ち兼ねたぞと息を荒くし、アクアは木陰に更に隠れた。

 

 徐々に露わになっていく姿を見てカズマは目を疑った。雪と同じく真っ白になっているが、その姿は間違いなく鎧武者と呼ばれるものだったからだ。

 

「ようやく会えたな…“冬将軍”」

「冬将軍!? 冬将軍って、え!?」

 

 困惑するカズマの横にある茂みから、アクアがびっくり箱のように飛び出た。

 

「カズマさん!! そいつは冬将軍よ! 雪精の主で、転生者たちの『冬といえば冬将軍』というイメージから具現化した存在なの!」

 

 アクアが声を張り上げて教えてくれた。そんな下らない理由でポンポンとモンスターが生まれてたまるか。次いで降伏の意思を示せば許してくれる寛容なモンスターだとアクアから聞いたカズマは、即座に剣を捨てようとした。しかし金属同士がぶつかる音が動きを止めさせた。

 

「流石は冬将軍だ、これを防がれるとは」

 

 不死人が見覚えのある黒い大剣で冬将軍と鍔迫り合いになっていた。押し潰すような大剣を両手で握っている不死人に対して、冬将軍は片手で持った細い刀で受け止め切っていた。不死人の凄まじさをクリスから聞いていたカズマは、冬将軍の強さを思い知った。

 

 お互い一歩も引かない状況で、冬将軍は刀を少し傾けた。大剣を逸らされてガラ空きになった胴体に刀の袈裟斬りが入る。無理な体制のままで大剣を盾のようにしてそれを受け切る。動きが止まった不死人に、冬将軍は容赦ない量の斬撃で応えた。

 

不死人(ふしびと)さん!」

「手出し無用だ! 手を出したら殺すっ!」

「はっはいィィイイ!」

 

 助けようかとしていたカズマに声を張り上げた。不死人がこれだけ必死になる理由は、冬将軍との対決が本来の目的だったからに他ならない。

 

 新しい武器を手に入れた不死人は、それを早速試そうと思った。しかし、このあたりのモンスターではあまりにも呆気なさすぎて調べる事もできない。

 

 掲示板の前で唸る姿を見かねた受付嬢のルナが、冬将軍の事を教えたのだ。冬将軍なら相手になるかもしれないと知った不死人は早速雪精討伐に向かった。

 

 しかし雪精は不死人の濃厚な気配を即座に察知して隠れてしまう。これでは冬将軍を呼ぶどころではないと思っていた時に、声をかけたのがカズマたちだった。

 

 

 まったく私は幸運に恵まれている。こうして冬将軍と戦うことができたのだから、この未知の武器の性能を少しでも理解したい。

 

 雪に突き刺した大剣の先を不死人は思いっきり蹴り上げた。雪が舞い上がる中で感覚が鋭敏になる。致命の一撃(いつも)の感覚だ。かち上げた大剣をハンマー投げのように身体ごと回し、冬将軍の開いた脇腹に叩き込んだ。

 

 ガギッ

 

「んっ!?」

 

 冬将軍が真横に吹っ飛んだ。

 

「おっし当たったあ!」

「いや、冬将軍が当たる直前に真横に飛んだ!流石は冬将軍だな…凄まじい技術だ!」

 

 カズマとダクネスの声を聞きながら、不死人は手元を見た。たしかに命中した。致命の一撃だった。ダクネスという女騎士は横に飛んだと言っていたがそれは間違いだ。だのに、今の手応えはなんだろうか。

 

 まさか。嫌な予感がして不死人はデュラハンの大剣から別の装備に切り替えた。その大きな隙を冬将軍は見逃してくれない。もう一度、今度はジグザグに動きながら斜面を下ってくる。

 

「危ないっ!」

 

 カズマが叫んだ時にはすでに冬将軍の剣は不死人を捉えていた。だが、一向に不死人は倒れない。それどころか“黒騎士の大剣”を構えて振り抜いていた。

 

 

 

 拍子抜けだ。

 

 この世界に来て驚くことが多いと不死人は思っていた。亡者でももう少し手応えがあった。いま振るった黒騎士の大剣は未強化だ。冬将軍の身体を、まさに雪に刃を入れるように両断してしまった。

 

 冬将軍の上半身が地面に落ちて雪となって崩れた。

 

「………え? おわり? や、やったあ〜」

 

 呆気ない決着に戸惑いながら、喜びの声を上げるカズマ。反対にダクネスは少しがっかりしたように肩を落としていた。

 

「ぁぁ……せっかくの冬将軍が…」

 

 こいつ最初からそれが目的だったのか。カズマは仲間の醜態を見て同様に肩を落とした。

 

「なぁ、まさか冬のモンスターは……」

 

 冬のモンスターは全部冬将軍並みの強さなのかと、盛大な勘違いをしているカズマ。それをよそに不死人は落胆していた。

 

 弱い。あまりにも弱すぎる。

 

 全く鍛えていない黒騎士の大剣でたったの一撃。しかも力を込めてない(弱攻撃)のに倒せた。これなら魔王の結界でも破れるのではないのか。そう思った不死人はすぐ考えを改めた。

 

 嫌な思い出が蘇った。

 

 火継ぎの祭壇に行く前に、巨人墓地を探索していた。真っ暗闇の中、ランタンの小さな灯を頼りに進んで、時には足を踏み外し、時には巨大な獣の骸骨に殺され、やっと走破したと思えば謎の壁に阻まれた。

 

「………フッ」

 

 そのまま王の器に気付かずに、様々な武器での攻撃、魔法や呪術さらには奇跡も使って突破を試みた。なんとも無駄なことをしてたものだ。

 

 もうあの時の二の舞は御免だ。正規の方法で(幹部を殺して)魔王を始末しよう。

 

 

 

 雪の中で決意を新たにしていた不死人は気がつかなかった。

 

 冬将軍の崩れた跡が無くなっていることに。

 

 カズマの後ろに雪が積もっていってることに。

 

「ってなわけで、冬将軍は別格なんです。あんなのが何体もいるわけないじゃないですか」

「そりゃそうか…ところでめぐみんさん、冬将軍の報酬っておいくらほどで?」

「まあそうですね……国からたしか数千万エリスの懸賞金がかかってたかと」

 

 数千万という言葉に、カズマは落雷のようなショックを受けた。

 

 

 閃く…! カズマの脳裏に…! 突破口…!!

 

 打ち建てる…己の()…!!

 

 正しさ…!! 身勝手な理論…!! 

 

 自分勝手な理屈を並べていく…!!

 

「俺たちはパーティーを組んでいる…! クエストに同行してるということは、一時的にとはいえ俺たちはパーティーになってる…ッ!!」

「えっ、どうしたのですかカズマ」

 

 様子が変わり出したカズマにめぐみんは困惑する。

 

「つまり報酬は山分け……ッ!! 平等分配…! 借金も返せッ………」

 

 カズマの首が跳ね飛ばされた。吹き出す鮮血によって赤く彩られた姿は、まさに戦国の武将そのもの。

 目の前でそれを見てしまっためぐみんは、知能の高さ故にキャパシティオーバーで気絶することもなく、しっかりとその目に焼き付けてしまう。

 

 悲鳴を聞きつけた不死人は、首の無くなったカズマと涙を流し叫ぶめぐみんを見つけた。

 

「何を泣いているんだ…致命傷で済んでいるではないか」

 

 カズマの無事を確認した不死人は、とりあえずトドメを刺そうとソウルの矢を射った。それを自ら雪になって冬将軍は交わしてみせた。

 

「めんどくさいな……」

 

 もはや、冬将軍に価値はない。下手に近くに寄って致命の一撃を入れられるのは嫌だった。呪術の火を使おうにも、めぐみんの近くにいられては使えない。当たって敵対されても困る。

 

 物理攻撃も効かない。かわしたのなら魔法は効果があるはず。神の怒りならかわしようがない。それを理解してるように、冬将軍はめぐみんのそばを離れない。

 

 何か手はないか、そう考えた不死人はあるスキルを思い出した。

 

 黒騎士の大剣を消して右手をフリーに。左手にはウーラシールの白杖を装備した。

 

「スティール」

 

 不死人の右手が光った。光が収まればそこには、驚いた様子の冬将軍が。すぐに霧散して逃れようとするが、おそらくスティールの効果ですぐには抜け出せない。

 

「ふんっ」

 

 右手は掴んだまま、左手を暗月のタリスマンに切り替えて神の怒りを行使した。球体の衝撃波は冬将軍の身体を粉微塵に散らせた。討伐モンスターの欄に冬将軍の名が刻まれた。

 

 例のごとく装備品が手に入らなかったことを残念に思いながら、カズマの方を見ればアクアがカズマの首を元に戻していた。

 

 なぜめぐみんは慌てているのだろうか。ソウルはまだある。死んでないことはわかりきってるだろう。

 カズマもなぜずっと倒れているんだ。動けなくなる呪いでも受けてしまったのだろうか。

 

 倒れたカズマを見ながら、不死人はのんびりと考えていた。

 




 遅れましてすみません。どうにもバッドじゃないストーリーを書くのが大変になってきて……もう全部バッドストーリーにしてしまおうかなんて思ったりしてます。冗談です。

ところでフロムの新作出ましたね。皆さんやっぱり買うんでしょうか。私は様子見してからですね〜

追記、太陽の月光蝶さんありがとうございます。盛大なミスを訂正させていただきました。黒騎士の大剣→黄金の残光

 更新しました。2020/05/17


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この素晴らしい世界に強化を!

ウワッハッハッハッハッハッハ!

 気がつけばこんなにも見てくれている者達がいるとは、感激だな。

 しかし、まだまだ太陽のように真っ赤にはなれていない。頑張っていつか、太陽のように素晴らしい作品になって欲しいものだ。ウワッハッハッハッハ


 不死人は眠ることはなかった。篝火で休憩することはあっても、じっと眠るなんてことはしたことがなかった。この世界に来てからは、試しに何度か眠ってみるものの、特に変化は感じられていない。こっちの方が落ち着く、とギルドの裏手に自分で作った篝火を、じっと眺めていた。

 

 

 

 少し前のことだ。

 

「これを鍛えてくれ」

「はいよ。………なんじゃこりゃ」

 

 武器屋に行って首無騎士の大剣を見せたが、店主はその剣を一瞥して言った。ここではダメかと、防具店に行っても答えは同じだった。

 

 首無騎士の大剣はその時点で素晴らしい切れ味と攻撃力を備えているだろう。しかし不死人にとってそれは弱すぎた。

 

 幸いなことに鍛えるための素材も腐るほど持っている。見た目だけの篝火を作って、試しに巨人鍛冶屋のところまで転送しようと思ったが、ダメだった。手頃な剣を地面に刺して、それらしいものを作っても効果はなかった。手詰まりだった。

 

「で、聞きにきたんですね」

「教えてくれ」

 

 クリスの内心はひどいものになっていた。本体(エリス)から話を聞いている身として、出来るだけ穏便に事を運ばなくてはならない。今はもらった太陽のメダルで仲間と思ってもらっているが、気に入らない答えだったら私は殺されて本体もソウルとして吸収されて、神々の世界まで崩壊させられるかもしれない。それくらいの覚悟をしていた。

 

 断ることは出来なかった。

 

「この武器を強化したい。この世界で出来る人物に心当たりはあるだろうか」

 

 机の上にどんと置かれたのはデュラハンの持っていた大剣だった。周りの冒険者たちがその剣を見てゾッとする中で、クリスは頭をフル回転させる。

 

「おそらく魔王軍の、それもかなり上位の存在でないと強化できないと思います」

「わかった」

 

 あっさりと、それだけ言って大剣をソウルに収めた不死人はギルドを去った。

 

 目の前で大剣が無くなるという珍事を見て、ゾッとしていた冒険者たちや職員は皆一様に気のせいだと思った。

 対してクリスは焦っていた。もっと何か聞かれると思っていたのに一方的に会話を打ち切られて、機嫌を損ねたのかと慌てていた。

 

 そんなことつゆ知らず、不死人は漠然と町内を歩いていた。そのときひとつの看板を目にする。

 

 “ウィズ魔道具店”

 

 ここにはまだ来てないな。ノックをせず扉を開けた不死人の眼前には、地面に倒された女とそれに馬乗りになっているアクア。そしてカズマの三人がいた。

 

「この武器を鍛えてほしい」

 

 余りにも脈絡のない頼み方にカズマがズッコケた。

 

 だが不死人からすれば、倒れている女が店主と判断したから首無騎士の大剣を取り出しただけなのだ。

 

「あばばばばばば」 

 

 突然現れた不死人、更に巨大な剣を持っている姿を見たアクアの頭脳は気絶することで現実から逃げる策を選んだ。

 

「うわっ、アクアさん!? どうしたんですかいきなり……えっ、その剣はベルディアさんの。どうして貴方がこの剣を持ってるんですか!? あぁ、アクアさん! 涙がピリピリして痛いです! 消えそうですー!」

 

 涙だけじゃなく鼻水を垂らして惨たらしく気絶するアクア。その下で浄化されそうになり慌てるウィズ。大剣を出して棒立ちの不死人。

 

「もうやだこの世界……」

「鍛えてくれないのか」

 

 カズマの心労は増えていくばかりだ。

 

 

 

 

 アクアを退かしてウィズの消滅が防がれ、落ち着いたところでカズマは紅茶を一口飲んで息を整える。そして一つ一つ状況を整理する。

 

「まずおれたち、っていうかおれはウィズにスキルを教えてもらおうとして来ました。そっちの要件は〜〜って、聞くまでもないですよね…」

 

 不死人の背中にある大剣を見て言った。完全にあのベルディアの剣だよな、と間近で見てよくわかった。禍々しい雰囲気がおれにもわかる。

 

 しかし、知らないとはいえ同じ魔王軍幹部のウィズに「お前の同僚を殺して得た装備だ。鍛えてくれ」ってお願いしてるようなもんだ。断られるに決まっている。

 

「あの〜、申し上げにくいんですが」

「なんだ」

 

 そら、やっぱりな。

 

「その魔剣はもうそれ以上鍛えられないんです。私が最大級まで強化してて、もう限界なんです。お力になれずすみません」

「そうそう、だから諦めて……今なんて言った?」

「えっ、ですからその魔剣はもう限界まで強化されてるんです。たぶんそこら辺の鎧なら難なく切れる大業物になってるはずですが……」

「いやそこじゃなくて! この剣を強化したのってウィズなのか!?」

 

 そんな馬鹿な、とカズマは立ち上がった。

 

「ひぇ! あ、はいそうです。ベルディアさんに頼まれて、私自身もどこまで強化できるか興味がありまして」

 

 照れて顔を赤らめるウィズは可愛いな、じゃない! 

 

「だったら俺たちの装備も強化してくれないか! 金なら払う!」

「本当ですか!! よかった〜これでようやく食べ物を買えます! あっ、でもアンデッド以外にはバッドステータスがかかっちゃいますけどいいですか?」

「すみません、忘れてください」

 

 椅子に座り直して頭を下げた。強くなる代わりにバッドステータスなんてお断りだ! あの中二病患者のめぐみんやド変態クルセイダーのダクネスなら喜びそうだが。

 

 

「ん? でもこないだ冬将軍と戦ってた時、その剣で弾かれてたよ。でも別の剣だと普通に切れてた。もっと細身の……なんて名前でしたっけ?」

「黄金の残光」

「なにそのカッコいい名前。……と、ともかくその剣でスパーって切ってた」

「ええええええええっ!?」

 

 ちょっとそれ見せてください!!と詰め寄るウィズに、もう片方の手に黄金の残光を出して見せると、目の色が変わった。

 

「な、なにこれ………こんなの知らないです……あ、あの! これ使ってて大丈夫ですか!?」

「いや、特にない。それより鍛えてくれないのなら…」

 

 帰ろうと立ち上がった不死人だが、そうはさせまいとウィズは止めようとする。

 

「あっ………」

 

 止めるために抑えようと両肩に触れた瞬間、ウィズの動きが止まった。瞳は正気を失ってるように見開かれ、ガタガタと全身が痙攣したように震えた。なんか映画で見たことある。

 

 弾かれるように不死人から離れたウィズは、玉のような汗を流して息を荒げていた。

 

 ありえない現象だった。肉体が死んでいるのに息を荒げて汗が出る。更にウィズの透けていた身体が元の状態に戻っていた。

 

「ウィ、ウィズ!?」

「だ……だい、じょうぶです。ちょっと、お…驚いただけで……」

 

 嘘だった。不死人に触れた瞬間に見てしまった。アンデッドだからかリッチーだからなのかはわからない。

 

 まるで海だった。

 

 人だけじゃない、獣のものや果ては神に近い存在の魂までもが大海のように蠢いていた。

 

 いったいこの人……いや、そもそも人なのか怪しい。なんですか……いったい何者なんですかこの人。

 

 

 

 不死人は何度も火継ぎを繰り返してきた。何度も…気が遠くなるなんて次元じゃない。繰り返すということは、薪の王グウィンのソウルや暗月の神のグウィンドリンのソウルを何度も何度もその身に吸収し続けている。他の王たちのソウルも吸収している。最初こそ、

 

 よっしゃ! あの装備を手に入れられるぞ!

 

 …と思っていた時期もあったろう。

 だが、全ての装備を手に入れてしまい、武器のレベルアップも全て終えると、それを消費することはなくなってしまった。あとは上限のない貯蓄だ。

 

 不死人からすればその膨大な(ソウル)は“使い道のない貯金”

 

 リッチーのウィズが見れば“気が狂うほどの怨霊”

 

 ゆらりと立ち上がったウィズは、おそるおそる口を開いた。

 

「ああああのぉ……そのた、魂の数は…」

「あぁ、随分と溜まっててな。武器を鍛えるには充分の筈だ」

 

 武器を鍛えるために魂を使っている。それならば納得がいく。禍々しいという言葉が可愛く思えるほどの力がこの目の前のちっぽけな片手剣にはあった。

 

「そ、そうですか……その剣をそこまで鍛えた人は凄いですね…ほんと、すごいですね」

 

 頭が考えるのをやめてきて、語彙力が無くなっていく。

 

「ウィズさ〜ん。お〜〜いウィズさぁぁ〜ん」

 

 気の抜けたカズマの呼び声に反応して、辛うじて元に戻ったウィズはいつも通りのお淑やかな風貌に戻っていた。

 

「その装備はとっても強いので、もう強化できません」

 

 ウィズの目が死んでいた。前時代のRPGのキャラクターのように、無機質に答えていた。

 

「で、俺の要件なんだけど……ウィズ? 戻ってこぉおおい!」

 

 カズマがウィズの肩を揺らして意識を自分に向けさせた。その先に揺れるウィズの胸を凝視していたことは、言うまでもない。

 

「リッチーのスキルで使えそうなのないかな」

 

「あ、あ〜そういえばそうでしたね。でしたら“ドレインタッチ”なんてどうでしょう?」

「ドレインタッチ? それってどんなスキルなんだ?」

「触った相手から魔力を奪ったり、奪った魔力を分け与えたりすることができるんです」

「へぇ〜、便利なスキルだな…」

 

 さすが魔王軍幹部なだけのことは…。そこまで言って慌てて口を閉ざす。が、不死人はもう聞いてしまっていた。

 

 不死人が動く前に、間に割り込んでカズマは必至の弁明を試みる。

 

「え、えーっとですね! この人は幹部だけども、結界の一部を任されてるだけのなんちゃって幹部なんです!! 敵対することもないし、魔王軍を倒すときにはきっと協力もしてくれますからッ! だから、そのぉ〜」

「わかった」

「は? わかったって……」

「敵じゃないんだろう?」

 

 不死人の問いに、ウィズが答えた。

 

「も、もちろんです!」

 

「わかった。ただ……ひとつだけ聞かせてくれ」

「はい、なんでしょうか」

 

 ウィズはなにを聞かれるのかと少し緊張した。

 

「特別な武器などは持ってるか?」

 

 特別な武器。一瞬、その質問の意味がわからなかったウィズだが、首を振って持っていないと答えた。

 

「そうか。邪魔したな」

 

 短くそれだけ言うと、不死人は店の扉を開けてそそくさと居なくなってしまった。

 

 最後の意味不明な質問に首を傾げる二人だった。しかしその質問の答えによって、ウィズが将来的に生きるか死ぬかを左右されていたことは知る由もない。

 

 魔道具店をあとにする不死人の後ろ姿は、がっくりと項垂れていた。

 

 

 

 

 

 

「おいそこのにいちゃん。そんなに落ち込んでどうした?」

 

 後ろからの声に振り向けばそこには、奇抜な髪型(モヒカン)の強面の男が立っていた。

 

「ああ、武器が強化出来なかったんだ」

 

「それでそんなに凹んでたのか…変わった奴だな。理由はさておき、そんなお前さんにイイ話があるんだが」

 

 不死人はいつでも盾と剣を装備できるよう考えていた。もはや条件反射だった。イイ話という言葉に反応していた。

 

「イイ話、か……どんなものだ?」

「来ればわかるさ。安心しな、騙そうなんて思っちゃいない。俺もそこまで愚かじゃねぇ。なんなら剣でも突きつけて行くかい?」

 

 男の眼光は鋭く、まっすぐに不死人の目を見ていた。といっても影になってるので、仮面の目の部分を見ていただけだが。

 

「いやいい。案内してくれ」

「そうこなくっちゃあな! すぐそこだぜ、着いて来な」

 

 無防備に背中を向けて先行する男の後ろを、不死人は警戒しながら進んでいた。たとえパッチ(ケツ穴野郎)の時のように突き落とされたりしなくても、死角から不意打ちされるかもしれない。

 

 だがそんな心配は杞憂で終わり、狭い路地裏に入ったところの扉の前で止まった。キスマークがついたチラシやチケットが、玄関付近に落ちている。妖しい雰囲気の店だった。

 

「っと…、そうだ」

 

 何か思い出したように振り向いた男は、不死人の甲冑姿を見て苦言を漏らした。

 

「流石にその格好は警戒されるかもしれんぜ。顔だけでも出しときなって」

「このままでいい。構わない」

「そうか? まあ気にしねぇなら別にいいか」

 

 そう言って扉を潜った二人を待っていたのは、1人のサキュバスだった。

 

「いらっしゃいませ、2名様ですね。ご案内させていただきます」

「すまねぇが、こっちのにいちゃんは初めてなんだ。色々説明をしてやってくれねぇか」

「フフッ……はい、かしこまりました。では奥へどうぞ、そちらのお客様は少々お待ちください」

「わかった」

 

 サキュバスがお店の内容について説明している間、不死人は別のことを考えていた。

 

 サキュバス……デーモンとは違うのだろうか。楔は手に入るのだろうか。今のところ一番確率が高そうだな。楔も腐るほどあるが、有限だからな。

 

「お判りいただけましたか?」

「ああ、わかった」

 

 なんとなく要点だけ理解した不死人は、サキュバスに連れられて店の奥のカウンターに連れて行かれる。

 

 もし楔が尽きたらここに来よう。

 

 

 この店はサキュバスが運営している「夢を見せる店」だ。

 紙に必要事項を記入して、どんな夢を見せて欲しいかを記入すればサキュバスが深夜にその者の元へ行き、望んだ夢を見せる。対価として男からは少量の精力を吸わせてもらうというものだ。

 

「…………よし、書き終えた」

「どうもありがとうございました」

 

 書き終えた紙を渡して、店から出た不死人は近くの宿屋に部屋を借りた。

 

 通常であればこのあと眠った男の元へサキュバスが来て夢を見せる。代わりに精気を少しもらう。

 

 しかし不死人の場合はどうなるのだろうか。眠るといっても見様見真似。更に精気なんてものはもう無く、代わりに膨大なソウルがある。

 

 夜は更けていく。

  




 次回、サキュバス死す。デュエルスタンバイ


まさかここまで見てくださる方々、評価してくれる方々がいるとは思いもしませんでした。でも、まだまだ頑張ってのんびりと投稿させていただきます!


 更新しました。2020/05/17


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この素晴らしい店にソウルを!


[ウワッハッハッハッハ! すまんが、今は別の場所に行っている。用があれば白いサインろう石で呼んでくれ!]


 

 石畳の上で横になっていた。どうやら眠ってしまっていたようだ。起き上がると、目の前には見慣れた燭台と火があった。王の器と彼らのソウルだ。

 開いていた扉を進むと、長い階段を降りる。その先に待っている黒騎士を倒すため武器を構えようとした。

 

「……!? なんだと?」

 

 武器を全く持っていない。防具も上級騎士の装備しか持っていない。エスト瓶すら底をついていた。急いで引き返そうとするもすでに遅いだろう、黒騎士はもう目の前だ。

 

「………なんだ?」

 

 階段の先に黒騎士は居なかった。どこかに隠れているのか? 

 

 探してみるがどこにも居ない。

 

 まさか、と不死人はこの先の黒騎士がいたであろう場所を見た。

 

 遠目で正確にわかっただけじゃないが、やはり居なくなっていた。

 

 それでも警戒しながら先を進む。しかしその警戒心も、最後の扉の前まで来ると無くなってしまう。そこは何度も訪れた扉だ。開けた先にいるのは薪の王グウィン。そいつを倒してソウルを奪い、自身を薪として『火継ぎ』を完了させる。

 

 何度もしてきたことだ。だが今回は違った。

 

 武器は持っていない。装備も粗末なものだけ。これでは殺してくださいと言ってるようなものだ。

 

 だが不死人には不思議な確信があった。

 

 ゆっくりと取手に手をかけて扉を開ける。中は洞窟のような開けた場所だった。

 

 しかし予想通り、グウィンはどこにも居なかった。その気配すら無い。

 

「こいつは、あるんだな」

 

 ただの燃えかすのように見えるそれ(始まりの火)は、健在だった。

 

 何度目の火継ぎなんだろうか。

 

 いいや、と頭を振って思考を止める。

 

 何も考える必要はない。

 

 ただ、火をつけるだけ。己を薪にするだけ。

 

 これで世界は照らされ。

 

 自分はまた牢屋の暗闇に戻る。

 

 ゆらりと火をつけた瞬間、そこを中心に景色が塗り替えられた。暗く肌寒い洞窟の中から、どこまでも澄み渡る青空の中心に不死人は立っていた。

 

 

 拍手が四方八方から送られた。何が起きたのかわからない不死人を囲んで立っているのは、かつて自分が殺してきた者たちだった。

 

「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「やったな貴公!」「おめでとう」「おめでとう…」「ウオン!」

 

 アストラの騎士

 

 アストラの火守女(アナスタシア)

 

 鍛冶屋

 

 ソラール

 

 イザリスの娘クラーナ

 

 騎士アルトリウスとその相棒のシフ……。

 

 皆が囲んで拍手を送っていた。

 

 わけがわからなかった不死人も、ゆっくりと、その意味を咀嚼していった。

 

「そうか……終わったのだな」

 

 アストラの騎士がうなづいた。

 

「もう、終わったんだな」

 

 火守女が笑顔で頷いた。

 

「そうか…そうか……っ! やっと終われたのだな!」

 

 震える肩に鍛冶屋のゴツゴツした温かい手が乗せられた。気づけば鎧は無くなり、姿も人間のものに戻っていた。

 

「貴公!! 貴公のお陰で世界は救われた! これからは、太陽のように輝かしい未来が待っているだろう!! ウワッハッハッハッハッ!」

 

 太陽賛美のポーズをとるソラールに苦笑して、しかし自分も同じポーズで応えた。

 

 それをみてクラーナは吹き出してしまった。大きな声で笑うほどに、私はおかしかったのだろう。

 

「ハッ、ハッ、クゥーン」

「後にしてやれ、彼は疲れているんだから、しばらくそっとしてやるんだ……あ」

 

 子犬ならいざ知らず、巨体のシフを止められるはずもない。後ろから突撃されて吹っ飛ばされた不死人は床に倒れる。

 

 上に覆いかぶさるようにして、シフはその匂いを嬉しそうに嗅いでいた。

 

「ウォン! ウオ〜〜ン!」

「や、やめろ! 勘弁してくれ!」

 

 その顔を思いっきり舐め回していくシフ。もちろん止められるはずもない。だが不死人、いや、彼の表情は楽しそうで穏やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 目覚めた不死人は夢を見ていたことに気がついた。

 

 決して有り得ない夢だ。

 

 だが、気分はとても清々しかった。

 

 

 

 

 一方、サキュバスの店は非常時につき閉店という看板が立てられ、中で全サキュバスを招集した会議が開かれていた。

 

 円卓に並んで座るサキュバスたちの中から、1人が書類を持って立ち上がった。

 

「え〜、昨夜はじめて来店したお客様のことでご報告です。全身を鎧で包んだこちらのお客様は、紙に特に書かずにおまかせということで承りました。そこで研修を兼ねて新人の子と付き添いで研修係の2人で向かったのです」

 

 サキュバスは周りの反応を伺いながら話を続ける。服装が際どい衣装でなければ、立派なサラリーマンだ。

 

「夢を見せるのは簡単でした。マニュアル通りに行い、望みに近いものを提供することができました」

 

 問題はここから、と手元の書類を見る。

 

「その新人のサキュバスですが、精気を吸収し始めた瞬間です。雷に打たれたように弾かれました。地面に頭から落ちたんです。もちろん、対悪魔のスキルかと疑いましたが違いました。そのサキュバスはすぐに起き上がったんです!」

 

 声に力が入る。

 

「心配して起こすと達観した表情で一言だけ『大丈夫』だと。それからそのサキュバスは出勤してきてません」

 

 新人サキュバスが音信不通になった。まさか消滅したか、または倒されたのではと様々な憶測が飛び交う。

 

「ご安心してください、無事は確認してます! ただ……その、信じがたいことなんですが」

 

 そのサキュバスは大きく深呼吸して自分を落ち着かせて、震える口から紡ぎ出した。

 

「一人暮らしをしてたんです。それも森の中でのんびりと」

「うそでしょ!!」

 

 勢いよく立ち上がって椅子が倒れる。それに構わずサキュバスの1人は反論した。

 

「私たちサキュバスってのは、生きていくために精気を吸い続けなくてはいけない。それなのに森の中でのんびりと!? もっとマシな冗談を言ってちょうだいっ!」

「本当です。私も聞きましたよ『何をしてるの!』って、そしたらその子は、落ち着いて言いましたよ」

 

 もう私は十分です。

 

「……はっ?」

「わかります。私もそうなりました。それで詳しく聞いたところ……ひょっとしたらもうお察しかもしれませんが。そのお客様から精気ではなく、別のものを吸収したのです。おそらくは…」

(たましい)……」

 

 サキュバスの全員が息を呑んだ。前例がないわけではない。男の魂を吸い取ったサキュバスが似たような状態になったことはあった。しかし。

 

「だとしたら不味いのでは!? このままだと私たちサキュバスは討伐対象にされてしまいます! せっかくここまでやってきたのに…」

 

 サキュバスたちが討伐されてないのは、精気という死に直結しないものを吸い取っていたからだ。だからギルドも黙認してきた。だが、もし人を殺したと判明すれば。自分たちはモンスターだ。討伐されないわけがない。

 

「それならご安心を、その方の無事は確認済みです」

「……いまなんて?」

「その方は生きてるんです。魂を吸われたというのに、平然と…」

 

 沈黙。誰も何も言えなかった。まったく未知の存在だった。

 

 協議の結果、またその人物が来店した時に直接聞くということで緊急会議は終了した。

 

 

 そんな会議が行われていると知らない不死人は、自分の中から1000ソウルほど無くなっているのを感じ取るも、「精気を吸うと言っていたが、これくらいなら大丈夫か」と、特に気にしていなかった。

 

 

 

 

 その数年後、とある森に関する言い伝えが広まった。

 

 遭難者を救い手厚くもてなしてくれる、まるで女神のような温もりと安心感を与えてくれる存在がいると。

 

 邪な気持ちでわざと遭難した者でも、その心を真っ直ぐに戻してくれるほどであるという。 




 サキュバスとしては死んだということで、予告詐欺ではないですよ。

 皆さん、いよいよお別れです!
 機動要塞デストロイヤーの出現に、アクセルの街を守る冒険者たちは大ピンチ! しかも、機能停止したデストロイヤーが爆発寸前ではありませんか! 果たして! この世界の運命やいかに!

 この素晴らしい世界に不死人を!
 最終回「不死人大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!」


 更新しました。2020/05/17
 


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この素晴らしい太陽に祝福を!

ウワッハッハッハッハッハ!

 とうとうここまで来たな! それも全て、評価してくれた貴公らのおかげだ!感謝してもしきれんわ、ウワッハッハッハ


 この世界に、この街に来て良かったと思えた。彼らの穏やかな姿を見ることが出来たのは、この世界に来たお陰であった。

 

 同時に、火継ぎの儀式を早く完全な形で終わらせなくてはという決意が固まる。

 

 何度も繰り返される悪夢のような世界を終わらせるためにも、この世界で魔王を討伐して願いを叶えるのだ。

 

 この街でまだ出来ることは多い。噂で聞いた魔剣使いのミツルギという男にも会いたい。その魔剣と装備があれば、これからの旅に役立つだろう。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

〈デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 市民の皆様は速やかに避難してください! 冒険者の方々は装備を整えて至急ギルドにあつまってください!!〉

 

 デストロイヤーは聞いたことがあった。正式名称を機動要塞デストロイヤー。強力な魔法防御壁と数多の魔法兵器、そして決して止まらない巨体。それが通った後は草すら残らないという。

 

 防御を固めた方が良さそうだ。鎧をハベルの装備に変えて、冒険者ギルドへと走った。

 

 これから不吉な事が起こる前兆のように、空はどす黒く分厚い雲がかかっていた。

 

 

 

 

 アクセルの街の外、まだ遠いが前からは土煙を上げながら機動要塞デストロイヤーが迫ってきていた。

 

 カズマの作戦はこうだ。

 

 まずアクア(亡者候補)のスキルで魔法防御壁を消し去ってめぐみんとウィズの爆裂魔法を食らわせる。

 

 良い案だと思ったが、万が一にも失敗したらこの街が引き潰されて跡形も無くなる。街が無くなれば人も居なくなる。まだ知り得てないスキルや知識も消えてしまうかもしれない。

 

 これは、魔法攻撃力を上げる宵闇の頭冠をめぐみんとウィズの2人に渡すことで成功率を上げることにした。

 

「おお! なんでしょうこの感覚はっ。これなら過去最高の爆裂魔法をお見せできますよっ!今ならデストロイヤーの防壁なんて屁でもありません!撃ちましょう、さあもう敵は目の前で痛ッ!」

 興奮していためぐみんは頭への衝撃にうずくまった。恨めしげに後ろを見るとカズマが手を振り抜いた格好でいた。

 

「なにをするんですかカズマ! よりにもよって頭を叩くなんて、これが壊れたらどうしてくれるんですか!」

 

「馬鹿かっ! せっかく攻撃力が上がっても無効化されたら意味ないだろうが!」

 

 騒がしくなりそうな二人組に背を向けて、今度はウィズの元へ急ぐ。めぐみんは壊れたらなどと言ってたが、多少の衝撃で壊れはしない。

 

(たとえ壊れてもいくらでもあるからな)

 

 無数にあるそれらの中からもう一つ取り出して、今度はウィズに渡した。

 

「こ、これ凄いです! 力が漲ってくるのがハッキリわかる……これほどのものをお借りして、良かったのですか?」

 

「問題ない。作戦を成功させるためだ」

 そう、問題ない。これを装備した目の前の魔王軍幹部が敵対したとしても問題はない。この頭冠は魔法攻撃力を上げてくれる以上に魔法防御力が低くなる装備だ。だから、装備してくれてる方が倒しやすいのだ。

 

 そうとは知らず、魔法攻撃力が上がるのを実感して機嫌を良くするウィズの下を離れる。

 

「あ、ちょっと待ってくれ!」

 カズマが去ろうとする彼を止める。

 

「なんだ?」

 

「いや、その、装備を借りてる立場から言うのもアレなんだけどさ……」

 

 何か言い淀んでいるのを見た彼は、続けてくれと促す。すると顔のそばまで寄ってきて小声で囁いた。

 

「この間デュラハンをやったアレって、遠距離にいる敵には……その、当たらないよな?」

「無理だ」

「即答かよ〜、それじゃあ何かないか? こう、遠距離にいる相手にドカーンとできる魔法とかスキルとか」

 カズマの言葉に思案する。遠距離ならソウルの矢が最初に思いつく。だが威力が足りないだろう。なら、アレで十分だ。

 

「あるな」

「(あるのかよ)そうか、じゃあ頼む! もしめぐみんとウィズが失敗したらそれをデストロイヤーに食らわせてくれ」

「承知した」

 

 元よりそのつもりだった。アレでどこまで抵抗できるかも知りたかった。

 

「来たぞぉぉぉー!」

 

 目標の位置まで来たことを見張り台の人間が伝える。それを合図に冒険者たちも緊張して身構えた。

 

 しまったと彼は思った。城壁を降りる前に現れてしまった。階段へ駆けていくが直前に、そういえばと思い直す。城壁の淵まで戻ってきた不死人は見下ろして地面までの距離を確認する。

 

 ここからなら飛び降りられる。

 

 せっかくならと、ローガンの杖を装備した。めぐみんの杖から装飾品だけを除いた曲がりくねった大杖だ。気づいためぐみんが興奮しそうな大杖だが、彼女は宵闇の頭冠で未だに身を悶えさせていた。

 

 落下制御という魔法がある。高いところから落ちてもその落下ダメージを抑えてくれるという便利な代物だ。しかし、不死人はあまり使ったことは無かった。

 

 使えそうなところは少ない上に、あの世界は落ちれば大体即死だった。いくら制御しても意味はなかったからな。

 

 落下ダメージを減らす為にも、ハベルの鎧からローガンの服へ装備を変える。

 

「えっ、いまどうやって着替えたの」

 

 落下制御の魔法を自分にかけて、城壁を飛び降りた。上から悲鳴が聞こえるが、大丈夫だろう。思った通り落下のダメージは無く、無事に着地できた。

 

 デストロイヤーまでは遠いな、走るか。

 

 魔術師の格好をした男が年季の入ったローブをバッサバッサとはためかせながら全速力で走る姿は奇怪に見えたことだろう。

 

 まだ遠い

 

 そうこうしてるうちにデストロイヤーに向けて極大の光が放たれた。これが防壁を消し去るアクアのスキル『セイクリッド・ブレイク・スペル』だ。僅かに耐えた防壁だが、突破されて魔法防御壁は跡形もなく消しとばされた。

「よっしゃあああー!!」

「貧乏店主さん! やっちゃってくれェ!」

「いっけぇぇぇー!!!」

 

 まだ遠い

 

 間を置かずに巨大な魔法陣が二つ現れた。めぐみんとウィズが城壁の上から爆裂魔法を撃とうとしている。

 

「いてっ、おい何やってんだお前!」

「死ぬ気か! 待てって!」

 

 まだ射程外だったが、呪文が長くて助かった。冒険者たちの間を無理矢理に押し通って、やっと一番前まで来ることが出来た。

 

「お前は! なぜここにいる!? 城壁で待つのでは無かったのか!」

 

 一番前ではなかった。ダクネスがいた。面倒だ。もし巻き込まれてダクネスに当たったら敵対してしまうではないか。

 太陽の光の槍は正確に目標を貫くが、それの余波がダクネスにあたってダメージを食らわせてしまっても敵対してしまうだろう。

 

………まあその時は知られる前にダクネス(証拠)ごと消し飛ばせばいいか。

 

 

 

 

 

 この世界の太陽は、ロードラン以上に希望の光を浴びせてくれる。彼がこの世界にいればどれほど歓喜したことだろう。

 

 不死人は装備を変えた。

 

 太陽を賛美し続け、いつか自分も太陽になろうとしていた男がいた。太陽に焦がれるあまり、モンスターに付け入れられて変わり果てたこともあった。

 

 何度も繰り返して、救ったはずが彼は太陽を手に入れられなかったと凹んでしまっていた。

 

 しかし、と不死人は思った。

 

 その存在は、その言葉は、まだ人間性を失う前の絶望した彼にとってまさに太陽のように光を差し込んでくれていた。

 

 そして今、この世界の冒険者たちは絶望のどん底にいる。デストロイヤーという巨大な絶望の塊を前にして身を震わせて立ち向かおうとしている。

 

「ソラール……貴公の力を借りるぞ」

 

 左手に握りしめた暗月のタリスマン。

 胸には希望の象徴、太陽のマーク。

 特徴的なバケツ頭。

 

「おぉ……なんだあの光」

「なんか、気持ちいい感じだな」

 

 そして空へ伸ばされた右手からは、太陽の光が溢れ出して周囲を照らす。

 

「ふんっ!!」

 

 放たれたそれは、正確にデストロイヤーの足を貫き粉微塵に破壊した。

 

 動きを止めたデストロイヤーへ、強化された爆裂魔法がとどめを刺す。とてつもない爆風と爆音が、アクセルの街を揺らした。次いでデストロイヤーも轟音をたててその巨体を沈めた。

 

 決して止まらないと言われてきたデストロイヤーがついに倒れた。自分たちの力でデストロイヤーを倒したのだ。

 

 冒険者たちは狂喜乱舞した。迫ってくる巨体を見たときはもうダメかと思った。正直、勝てるわけがないと思っていた。などと安心して本音をぶちまけたり、パーティーメンバーで喜びを分かち合う姿がそこにはあった。

 

 カズマも同じだった。作戦立案者とはいえ、不安は感じずにはいられなかった。めぐみんが緊張して誤爆しようとした時は焦った。だが、こうして見事に倒すことが出来た。肩の荷が降りたと思った。

 

 だがウィズは気づいていた。直前に感じ取った神聖な気配がデストロイヤーの足を吹き飛ばしたのだ。

 

 誰かは見当がついた。不死人以外に考えられない。少しゾワっとしたが、それでも爆裂魔法を討つために集中できた。凄腕の冒険者として名を馳せていただけはあった。

 

 デストロイヤー討伐に喜ぶ人々の中で、不死人だけはスリットの内側で機能停止したデストロイヤーを睨みつけていた。

 

 

 まだソウル化していない。つまりまだ倒せてないのだ。

 

「俺、この戦いが終わって帰ったら結婚するんだ」

「今日は祝杯だー!」

「やったか!?」

 

 冒険者たちの歓声に混ざって、様々なフラグが立っていく。それと同時に、機械の音声でデストロイヤーからアナウンスが流れだす。

 

〈被害甚大につき、自爆機能を作動します。乗組員は直ちに避難してください」

 

 思った通りだ、と不死人は予感が的中したことで次の行動へ移った。

 いままでの人生の中で、はしごを登ったことはあるが段差をよじ登ったことは無かった。だから目の前のデストロイヤーに登れそうな場所が無いことを確認して、『打開策』を行使した。

 

「なんだよ、あれ………」

 

 ダストの言葉が妙に響いた。

 冒険者として数々のクエストをこなしてきたダストは、時には強大な敵と遭遇して戦うこともあった。

 だから、目の前の光景が信じられなかった。

 

「穴が…デストロイヤーに馬鹿でかい穴が開きやがった」

 

 間近で見ていたダクネスは、その威力に興奮するでもなく畏怖するでもなく、見惚れていた。エリス教徒として神を信仰する彼女は、太陽の光の槍が帯びる神聖な気を感じていた。

 戦場の最前線にいながら穏やかな心持ちになっているダクネスだったが、カズマの声で我に帰る。

 

「ダクネス!避難するぞッ!」

 

 動けないめぐみんを背負って、カズマは叫ぶ。

 

 しかしダクネスは、一歩も引かない。それどころか抜刀して突き進んでいくのだ。

 

「カズマ、騎士である私が逃げたら誰が皆を守るというのだ。それに先ほどの騎士殿の一撃、彼ならきっとなんとかしてくれるかもしれない」

 

「そうだ! だからあの人に任せて、俺たちは避難を…」

「だが、彼には恩がある。この街に住む者として返しきれない恩があるのだ。だから少しでも、彼の役に立って恩を返さなくてはならない!」

 

 ここで変態発言の一つや二つかますと思っていたカズマはその正論に押し黙らせられた。逃げると言い辛い空気になったのを感じ、なんとかこの場を逃げ出す手段を考えていた。

 それを見透かしたように、笑みを浮かべてダクネスは言う。

 

「案ずるな。ここから先は私だけが行く。万が一爆発しても、私の防御力なら耐えられるだろう。お前たちは逃げろ!」

 

 更に言い辛くなった。逃げ出す道がどんどん狭まっていくのを感じながら、カズマは目の前の頼もしい背中をしたダクネスを見て、こいつらわざと言ってるのではと疑う。

 しかしダクネスは本心で言っていた。自分の防御力がどれほどかは自分で知っている。爆発したらまず助からないだろう。だから少しの間だったが、仲間として共に過ごした彼らを逃さなくてはと心から思っていた。

 

「……行ってくるッ!」

 

 それだけ叫ぶと、ダクネスは剣を構えて不死人の開けた大穴に突撃していった。

 止めることもできず、まさしくクルセイダーの鑑のような行動をしたダクネスに、カズマは逃げると言う考えを捨てた。

 

「しょぉぉおおがねぇなああああ!!」

「えっ、ちょっと待ってくださいやぁぁぁぁあ!」

「ちょっと!!待ちなさいよー!」

「皆さん、待ってくださーい」

 

 大穴に消えていったダクネスたちを見て、逃げ出していた冒険者たちが足を止めた。

 自分たちは何の為に戦っているのか。なぜこの街に住んでいるのか。なぜレベル30超えてるのに街を離れてないのか。

 男性冒険者たちは、その紙を握りしめて闘志を燃やす。サキュバスの店の割引券を手に、デストロイヤーへ立ち向かっていく。

 

「行くぞ野郎どもー!」

「絶対にこの町を、店を守るぞォォォォ!!」

 

 意思が一つになって、冒険者たちはデストロイヤーへと突き進む。

 

 爆破まで残り時間は、あとわずかだ。

 





 ここまで続けられたのも、皆様の感想や評価があってこそです。
 本当にありがとうございました。

 後編の次にエピローグがあって、この話は終わりにさせていただきます。


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この素晴らしい世界に終炎を!






 

 デストロイヤーの中には機械が張り巡らされていた。千切れたケーブルが火花を散らして、圧力をかけられていた空気が壊れたパイプからとめどなく溢れ出す。その間を縫うように、不死人は奥へ進んでいく。

 

 今まで敵を倒したらソウルが手に入っていた。しかし、このデストロイヤーに爆裂魔法が当たった瞬間も、太陽の光の槍が貫いた時も莫大な量のソウルを手に入れることは出来なかった。

 それは、まだ息があることの証拠だった。

 

 アイアンゴーレムのような質感だが、それよりも無機質で生きてる感覚がしない。この巨大な姿は見せかけで、どこかに本体がいるのだろうか。それともセンの古城のように、巨大なレバーを動かせばいいのだろうか。不死人は様々な憶測を並べていく。

 

「ここは……」

 

 最奥を目指していた不死人のまえに、木造の美しい彫刻が刻まれた扉があった。鋼鉄の壁や扉だらけの中で、木造の扉は違和感を感じさせた。見事な彫刻が彫られている扉は、長い年月の積み重ねと爆裂魔法の衝撃で朽ち果てていた。

 歪んだ蝶番を扉ごと外して中に入った不死人が見たのは、いつしか訪れた書庫にも負けないほどの本の壁だった。

 

 瞬間、不死人は左手に盾を出して構えた。

 

「……………」

 

 そうだ、ここはあの書庫ではなかった。忌々しい記憶が蘇り、反射的に構えてしまった。壁にくっつけるように並んでいた本棚は倒れ、数多くの本が散乱していた。

 不死人にとって書物はなんの意味もない。それでも歩き回っていたのは、隠し扉を見つけるためだった。公爵の書庫に隠し扉があったから、そしてその世界を何度も繰り返した結果、書庫には隠し扉があるという歪んだ常識を植え付けてしまった。

 

 だが、その探索は無駄ではなかった。

 

 朽ち果てて本が散乱した書庫の中に、不自然な箇所を見つけた。先ほどの衝撃でも倒れず、これほどの時が経っても朽ち果ててもいない本棚があった。この先に何かがあるのは間違いないだろう。

 

 レバーかスイッチがあるはずだと不死人は探すが、見つからなかった。内側にあるのだろう。だが、そこへ向かう時間の余裕は無かった。

 

 そこで一か八か、強硬手段にでた。

 

 両手の装備を外し、取り出したのは身の丈以上の大槌。

 それはかつて処刑人として犠牲者の骨肉をその槌ですりつぶし自分の精にするという残忍酷薄な者ゆえ、太陽の王であるグウィン王に四騎士として選ばれなかった男の武器だ。

 

 その巨大な槌を持った不死人は、自分の身体をバネのようにしならせて跳躍すると、その落下する力をハンマーに乗せて重い一撃を本棚にぶつけた。

 

「よし、なんとかなったな」

 

 バゴン、というまず聞くことがない金属が潰れる音がして本棚は歪んだ一枚の鉄板になってしまった。

 

 それを踏み越え奥へ進むと、小さな部屋の中に宝箱がぽつんと置かれていた。

 間違いなく、罠が仕掛けられている。何度も身をもって体験した不死人の直感が、警戒度を引き上げさせた。

 

 床、異常なし

 

 壁、異常なし

 

 天井、異常なし

 

 目の前、宝箱……。

 

「ソイッ!」

 

 最も攻撃距離の長いデーモンの槍を装備した不死人は、勢いよく(強攻撃)宝箱を攻撃した。

 

 宝箱はその中身ごと、木片を散らせて無残に破壊された。

 

「よし、貪欲者(ミミックに相当する)じゃなかったな………しかしこれは…」

 

 安心した不死人は破壊された宝箱を見る。無残に壊された宝箱は、中身ごと潰れていた。壊れた剣や装備品らしきものの残骸と、隙間から本の表紙らしきものが見えた。

 

 これは日記だろうか。全く読めない本だが、誰かに読んでもらえば良いだろう。本を懐に収めて、思った成果を得られなかったことに少し悲観しながら書庫を後にする。その後も様々な部屋に入るが、宝箱すら見つからず空振り続きだった。

 

 次の部屋で弱点らしきものが見つからなければ、外からこのデストロイヤーを破壊するのを試してみよう。

 太陽の光の槍は制限がある。何度も撃てるものじゃない。スモウハンマーで試してみようかッ!!?

 

「あ、騎士さんここにいたっ……」

 

 その時、冒険者が曲がり角から突然現れた。反射的に剣を振り回し、その男は苦痛に叫ぶことすら出来ず倒れ臥す。

 しまったと考えるより先に、不死人は左手に灯した呪術の炎で『大発火』を行使した。巨大な炎は隠れているであろう敵を燃やそうと角の先まで襲いかかった。炎はすでに事切れた冒険者の死体を燃えカスにして、なおもその勢いは収まることを知らない。

 

 悲鳴が聞こえない。慎重に体を壁に貼り付けて向こう側を視認する。今しがた殺した冒険者の死体跡以外には、焼死体も、燃えカスも見つからない。

 

 

 

 ああ、なんてことだ。不死人は後悔していた。なぜあんなことをしてしまったのか。己の行動を振り返り、取り返しのつかないことをしてしまったことに。今更気がついた自分自身に、嫌気がさしてくる。久々に感じた後悔の感情だった。

 

「さっき、なぜ『敵感知』を使わなかったのだろうか…そしたら………そしたら箱を壊さずに済んだのに!」

 

 この世界に来て得た新しいスキルという力。その中でも汎用性が高い敵感知というスキル。それを使えば宝箱になりすました敵を感知することができたのに。ひょっとしたら剣や装備品は貴重なものだったかもしれない。一々攻撃せずに確認できたというのに、己は何をやっているのか。

 

 まだスキルを使うことに慣れない不死人であった。

 

「………慣れておくか」

 

 幸いにも、スキルは魔力さえ回復すれば何度でも使える代物だった。盗賊の女に教わったように、敵を見つけることに集中して敵感知のスキルを使用した。

 

「『敵感知』……これは」

 

 その瞬間、不死人は自身の視界が劇的に変わったことに驚いた。物体を通過して、冒険者の姿が見えるようになったのだ。デストロイヤー全体の気配を見られる、デストロイヤーから少し離れた場所にいる冒険者の気配も見つけられた。

 

 なんとも便利なスキルだ。盗賊スキルとは便利なものと聞いていたが、予想以上だ。

 

「あそこだな……」

 

 敵感知スキルで見える視界の中でも、うっとおしい輝きを持った存在を見つけた。きっとそこが弱点だろう。周囲に何人かいるようだ。他の冒険者が弱点に攻撃を加えようとしているに違いない。

 

 不死人は走った。鎧を鳴らしながら、黄金の残光と紋章の盾を装備して走った。

 

「ぬぅぅぅ……」

 

 近づけば近づくほど眩しくなる。嫌な光だった。太陽のような優しさが無い。自分以外はどうでもいい、そんな感じがした。

 

おおおおおおお………おれは、手に入れた。やった……やったぞっ! どうだ、手に入れたんだ。おれの……おれが、太陽だ!

 

 不死人の脳裏に浮かぶソラールの最期の姿。偽りの太陽に魅入られた戦友は嬉しそうに、しかし苦しそうに言っていた。

 

 

 異形を貫いていた雷の槍が、自分の身を焼く。

 

 

 やめてくれ ソラール やめるんだ!

 

 

 数多の敵を共に屠ってきた剣がこの身を切り裂く。

 

 

 なぜだ なぜ貴方が どうして貴方だったんだ

 

 

 抵抗など出来なかった。

 

 

 すまない すまなかった わたしをゆるしてくれ

 

 

 とどめを刺されて消えていく最中、心が折れる音を聞いた。

 

 

「………はっ!」

 

 意識が遥か彼方に飛びそうになった。

 

 

「まだ……終わっていない…」

 

 

 足を動かせ。剣を握れ。心の折れた亡者になるな。

 

 光を消すのだ。偽物の太陽を消し去るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デストロイヤー最奥地の動力源の元へたどり着けたのは幸運だった。しかし、その様子を見た途端にカズマは抱いていた楽観的な思いを打ち砕かれる。

 

「なんだよあれ……」

 

 大小さまざまなコードや機械が繋がれた巨大な水槽の中に浮かぶ赤熱した球体があった。コロナタイトだ。素人目に見ても、どんどん赤くなるコロナタイトは爆発寸前ということがわかった。数値などを表していただろうメーターはとっくに振り切れてエラーを起こしていた。

 

「こんなのもっと後に来いよ! なんで始まりの街にこんな裏ボスみたいなやつがやってきてんだよぉー!」

 

「そんなこと言ってる場合!? 早くこの状況なんとかするズル賢い策を考えなさいよ! いつもやってきたことでしょ、ほら早くー!」

 

「うるせぇー! お前はちょっと黙ってろ!」

 

 泣きながらぶーたれるアクアを無視して、カズマは考える。この危機的状況を抜け出す策を考えるが、そんな都合よく思いつくわけもない。万事休すだ。

 

「とにかく他のみんなをすぐに避難させるんだっ! 少しでも遠くへ、急げー!」

 

「任されたっ!」

 

 不死人の奇跡(太陽の光の槍)の光に浄化されたダクネスが普段以上の実力を発揮して、カズマ、ウィズ、そしてアクアの三人以外を避難させる。

 

「急げッ! 死にたくなければ足を動かして走れっ! そこのお前っ、そいつを抱えるんだ! 早く逃げろっ!!」

 

 喉が裂けるような必死の声に、呆けていた冒険者たちは叩き出されるようにデストロイヤーの中から避難していく。それでも残ると融通の効かない奴らは首根っこを掴まれて放り投げられていった。

 

 部屋に残ったのはカズマ、アクア、そしてウィズであった。

 

 何か策はないかと問答をするうち、ウィズが発した転移魔法という言葉にアクアがそれだと言う。だが、発動するためには魔力が足りないというのだ。

 

「あの、カズマさん! お願いがあるのですが……」

 

「な、なんでしょう……」

 

 えらく改まって真面目な声色に、カズマも萎縮する。

 

「吸わせてもらえないでしょうか」

「喜んで」

 

 萎縮なんてしていられるか。俺はこんな所で「え、なに?」なんて聞き返す鈍感系主人公ではない。

 顔に手を添えられ、ウィズの顔が近づいてくる。目を閉じて、その瞬間を心待ちにしていたカズマであったが。

 

「ほわああああああああああああ!」

「ごめんなさい! ドレインタッチ!」

 

 カズマの顔に添えられた手から、魔力がウィズの方へと流れ込んでいく。それと同時であった。部屋の扉が木っ端微塵に吹き飛んだのは。

 

 

 

 

 

 見つけた。

 

 

 この光だ。

 

 

 消さなくては。

 

 

「いやあああああああ!!」

 

「な、何事ぉ!?」

 

「騎士さん!? どうしてここに……って、殺気!?」

 

 

 眩しい……身が焼かれるようだ…。消したい。だが、どうやって消せばいい。まあいい、切ればなんとかなるだろう。

 

 

 おお、光が消えていく。景色が元に戻っていく。よかった、偽物の太陽は消え去ったのだ。

 ん、なんだ? 『アクアのソウル』とは……そうか、あの光はアクアだったのか。

 亡者どころか、彼女はあと少しで(ボス)になっていたとは。未然に防げてよかった。

 

「ぐあっ!!」

 

 ウィズの放ったライトオブセイバーの魔法を、間一髪、盾で防ぐ。

 

 そうか、敵対してしまったのか。

 では、やられるまえに殺るだけだ。

 

 ウィズから放たれる魔法の数々を不死人は転がってかわし、近づいていく。接近してきた不死人に対して、ウィズは懐からナイフを取り出して、兜の僅かな隙間から差し込んだ。だが、それは意味を成さなかった。

 

 横一線に振り抜かれた黄金の光は、ウィズの身体を真っ二つに分断する。

 

 

 そうだ、忘れる所だった。アンデッドは聖属性でないと復活するんだったか。

 

 盾がタリスマンに切り替わり、その瞬間に辺りを強烈な衝撃波が襲う。それはウィズの身体を浄化して消し去った。

 

「ぐわばぁ!」

 

 巻き込まれてカズマも粉微塵に吹き飛ぶ。

 

 1人残った不死人は、荒れ果てた部屋の中で佇む。その様子は、敵対してしまったことを後悔しているようでもあり、虚無を感じているようでもあった。だが、全く違った。

 

 

 

 

 アクアのソウル……どんな武器ができるのだろうか。

 

 

 瞬間、デストロイヤーは激しい光に包まれて大爆発を起こした。

 

 

「アクセルの街……いい街だったのだが…」

 

 

 

 巨大なキノコ雲が立ち上る様を見て、復活した不死人は肩を落として歩き出す。

 

 次にたどり着く街は、もっと『持つ』街であってほしいと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクセルの街が焼失してから十数年後、ある言い伝えが旅をする商人たちの間で流れていた。

 

 

 黄金の光を振りかざす古ぼけた騎士を見たのなら、その街はもうすぐ滅ぶ。

 

 声をかけられたのなら、無視してはならない。

 

 武器を構えられたら、死を受け入れろ。

 

 助かりたくば、太陽を賛美するのだ。

 

 

 

 

 そびえ立つ城壁、検問所では完全武装した兵士が厳しく検査をしている。

 

 大きな街だ。中には人の気配がたくさんある。ここに魔王軍幹部はいるだろうか。これだけ人々が多いのだ、きっと知ってる人間くらいはいるだろう。

 

 

「ここが王都か……」

 

 

 

 不死人の旅は続く。魔王を殺し、完全な火継ぎの儀式を終えるまで。

 

 



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この素晴らしい世界に闇手を!


ウワッハッハッハッハッハッハ!

どうやら今はコミケの時期らしいな!しかし残念なことに、禁忌とされている徹夜をしている者たちがいるらしい。
彼らの元にはスモウが説得に向かったので大丈夫だろうな!任せておけばいいさ!ウワッハッハ

ちゃんと寝て、朝起きて、太陽を賛美して出発しようではないか!

 では今日も、太陽賛美ッ!


 デストロイヤーの中へ侵入した不死人は、困り果てていた。

 機動要塞として設計されたデストロイヤーの中には、親切に地図や道案内の標識などは無かった。たとえあったとしても読めないのだが。景色が変わらない道をあてもなく散策していた不死人だったが、後ろからの足音に振り向いた。

 

 何も見えないが、近くに来ている。警備システムが動いていたのだろう。幸い、ここは一本道だ。竜狩りの弓に矢をつがえて、出現に備える。

 足音が近づいてきた。頭らしきものが見えた。

 

 今だッ!

 

「うわっ! チクショー、なんなんだよこの道……少しは整備しとけよ。歩きづらいったらねぇ」

 

 運良く、床に伸びた配線に足を引っ掛けたカズマの頭上を豪速の矢が通る。

 

「間一髪だったわねカズマ」

 

「なにが?」

 

「なにがって、ほら」

 

 アクアの指差す方向、自分の頭上を見たカズマの顔に、汗が噴き出した。

 

「あとちょっとで、頭パーンって破裂してたわよ」

「カズマさん、ほんとに運がいいんですね」

 

 至極冷静に言うアクアに、カズマは若干引いていた。仲間が死にかけたというのに、こいつには心はないのかと。

 

「ああ、そういや無かったな」

「ねぇ、なんか馬鹿にされたような気がするんですけど。なに考えてたのよ」

「よし!気を取り直して進むぞー。まだトラップがあるだろうから、慎重に行こうか!」

「ちょっとカズマ! なに考えたのか言いなさい、言わないと神の鉄拳を食らわすわよ、言わなくても食らわす!」

「どっちにしろ殴られんじゃねぇか! こんなところで仲間割れしてる場合じゃねぇんだよ。早く動力源を探さないと…」

 

 カズマの頭を危うく破裂させそうになった不死人は、ちょうど良かったと、三人に声をかけた。

 

「ちょうど良かったカズマ、共に行動しよう」

 

「ひいやあああ!ぁ…って、騎士さんじゃねーか、心臓が止まるかと思ったよ。いきなり話しかけないでくれ!」

 

「ん、そうか。気をつけよう。ところでアクアはどうしたのだ? 倒れてしまったが」

 

 カズマが振り向くと、アクアが白眼をむいて倒れていた。

 

「あ〜、いつものことだから気にすんな」

「そうか」

 

 慣れとは恐ろしいものだ。

 

 散々の再会をしたカズマたちと不死人は、共にデストロイヤー内を散策する。

 残り時間が無くなっていき、焦りが強まってきた一行の前に他の冒険者チームが現れる。更に動力源を見つけたと言うのだ。

 

「案内してくれ!」

 

 案内されて入った動力室には、他にも冒険者がいた。その中にはダクネスやダストの姿もあった。

 こちらに気がついたダクネスが、駆け寄ってくる。

 

「カズマ、間に合って良かった。単刀直入に聞くが、この動力源…なんとかする策は思いつかないか」

 

 部屋の中央奥には、円柱型の水槽が置かれていた。その中で浮かぶ丸いものこそが、このデストロイヤーの動力源であり、爆弾そのもののコロナタイトなのだ。

 

「いくらなんでもいきなり過ぎだろ! だいたい、俺にそんなことできるわけないに決まってんじゃねーかこの駄クネスが!」

 

 いい加減にしてくれと、カズマは心の底から思っていた。こんな時だというのに、このド変態クルセイダーは貶されることをわかって、おかしなことを言っている。しかし……。

 

 

「そうだよな……すまない。自分でも馬鹿なことを言ってるのは理解できる。だが、お前の発想力ととんでもない閃きに私たちはいつも救われてきたから……つい、すまない。忘れてくれ」

 

「……………」

 

 一歩、二歩三歩とダクネスから離れる。いや、目の前の人物はダクネスなのか。悪魔に取り憑かれたと言われた方がまだ納得できる。

 

「アクア、ちょっとダクネスに浄化魔法かけて」

「ハァ? なんでダクネスにそんなことしなきゃいけないのよ。悪魔に取り憑かれてるわけじゃあるまいし」

 

 お前心読めてるんじゃねーのか。と内心思いながら、それを表に出さず冷静にアクアを諭す。

 

「どう見たって、いつものダクネスじゃない。多分、偽物か悪霊か何かが取り憑いてるに違いない。さあ早く浄化魔法を」

 

「悪霊とかだったら、臭いでわかるわよ。第一偽物だとして、どうして私たちを助けるようなことを言うのよ?」

 

 いつもは知能レベルがチンパンジー並みの癖に、変なところで勘を働かせやがって。その働きをいつものクエストに使ってくれたらどれだけ楽になることか。

 

 と、内心思いながら、それを表に出さず冷静にアクアを諭す。

 

「こんなところで最低レベルの頭を使う暇があれば、クエストで使えよ駄女神が。偽物じゃないとしても、絶対に普通じゃないだろ!」

 

 ことはできず、本音をぶちまけてしまう。それを聞いたアクアは、頬を膨らませ顔を真っ赤にして掴みかかった。

 

「いでででで!!! お前巫山戯ろよこんなところで喧嘩してる場合じゃねぇだろうが!」

 

「元はカズマが悪口言ったんじゃない!謝って!ねえ謝って!」

 

「お前ら痴話喧嘩もいい加減にしろよ〜」

 

 危機が迫っている状況でよくも喧嘩できるなと、ダストは呆れを通り越して感心した。ダストの制止の声に「どこが痴話喧嘩だッ!」と声を揃えて言う2人は周囲の冒険者に無理やり引き剥がされた。

 

 

 

 一連のやりとりがされてる横で、不死人はじっとコロナタイトを観察していた。これほどの巨大なものを動かすだけのエネルギーが、あの玉に内包されている。

 火継ぎの儀式であれを持っていれば、きっと完全な火継ぎができるだけじゃない。儀式を半永久的にしなくて済むのではないか。そんな期待を込めてウィズに取り出せないかと聞いた不死人だが、返答は期待したものとは違っていた。

 

「火継ぎ、がどんなものかわかりませんが…少なくともあのコロナタイトは無理だと思います。暴走してますし、もう爆発する直前ですから」

 

 出来ないのか、と落胆する不死人はそういえばと思い出して冒険者たちをかき分けてコロナタイトの前に来る。

 武器を2つともしまった不死人は、右手に黒い光を灯した。それを見たウィズと幾人かの経験豊富な冒険者が壁まで跳んで距離をとった。

 

「全員下がってください!」

 

 ウィズは臨戦態勢で、手の照準を不死人に当てていた。赤黒いナニカが不死人の右手で蠢いていた。少なくともあれが人に向けられたら死ぬよりも恐ろしいことになることは、容易に想像できた。

 カズマは、例のごとく泡を吹いて倒れたアクアを背負って不死人を見ていた。普通ならああいう秘められた力的なのは転生者の自分が持ってるべきだろう。邪気眼系中二病っぽいなどなど、くだらないことを思っていた。

 

 

 

『ダークハンド』

 

 闇のソウルによって人間性を奪うことのできる吸精の業をなし、さらに盾としても使える。

 

 その手を不死人は水槽に突き立てた。割れる、と頭を抱えた冒険者たちだが、ガラスは割れることはなかった。まるでその部分だけ()()()()()ようになり、水はチョロチョロと流れ出てくる。

 

「めぐみん。俺、もう何が起こっても驚かない自信あるよ」

「奇遇ですね、私もですよカズマ」

 

 そのまま不死人はコロナタイトを手に取り、勢いよく取り出した。爆発すると思われたそれは、次第に光を失っていく。代わりに不死人をとてつもない充実感が満たしていく。忘れていた何か。とっくの昔に捨て去った何かが不死人の全身を巡っていく。

 周囲の冒険者たちもそれを視覚で感じていた。コロナタイトを持つ手から全身へ広がっていく光の奔流は、美しく見えた。

 

「お、おおっ……おおおおおおおお!」

 

 喜びを雄叫びにして表す。血が沸き立つ感覚、高揚する感覚、歓喜の感情。これまで希薄だった感情は命のガソリンを入れられたように次から次へと取り戻していく。

 

 光は明るさを増して、部屋中を包み込んだ。

 





 勝った!このすば 完!

 これで不死人は感情を取り戻したので、もうバッドエンドになることはないだろうな。もう安心だ、おれは部屋でぐっすり寝させてもらうぜ

 私にいい考えがある。不死人に魔王を討伐してもらうんだ。

 やったか!?


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この素晴らしい世界に人間性を!

ウワッハッハッハッハ

みんな今日も太陽賛美してるか!ソラールだ!

もし太陽のメダルなるものを見つけたら、ぜひ祭壇に持ってきてくれ。きっと素晴らしい恩恵があるぞ!ウワッハッハッハッハッハッ


 

 目が醒める。泥の中から這いずり出るように、混濁した意識が覚醒していく。

 いや違う。眠っていたのではない。気絶していたのだ。不死人となった時点で眠ることを必要としなくなった身体だった。じゃあこの状況はなんだ。まだ混乱する頭でひとつずつ整理していく。

 

 デストロイヤーがアクセルに攻めてきた。それに乗り込んだあとだ。そうだ、コロナタイトを見つけたのだ。そしてダークハンドでこの手にした瞬間……。そうだ、コロナタイトはどこだ。

 

 右手を見るとコロナタイトは握られていなかった。だが、気にしなかった。そんなことを忘れるほどの衝撃があった。

 

「手が……ある!!」

 

 まさか、と布団から飛び出した。部屋を見渡して鏡を探した。壁にかかっている姿見を見つけ、そこに立った。写っていたのは、亡者のように焼けただれて骨と皮だけになった悍ましい姿じゃなかった。肉体だ。健康な人間としての身体になっていた。

 

「なんという……ことだ…………」

 

 膝から崩れ落ちた。顔面蒼白で恐怖に震えているのが嫌でもわかった。

 

 不味い、不味い不味い。このままだと別の世界から闇霊に侵入されてしまう!!

 

 不死人のいる世界には、たまに闇霊と呼ばれる存在が別の世界から現れる。そいつは侵入した世界の不死人を殺すためにやってくるのだ。そいつらは死ぬか、自主的に帰らなければ消えることはない。

 嫌な思い出がいくつも蘇っては消えていく。中にはありえない力(チート)を持ったやつもいた。なすすべなく殺されたのは最悪だった。もうあんな思いは二度とごめんだ。

 

 だが、闇霊を回避する方法はある。人間の身体を捨てて、亡者のような身体になれば何故か闇霊たちは現れない。

 だから不死人は安心してこれまで生活できたのだ。というのにこんな身体になってしまった。

 

「死ななくては……一度死ななくては!」

 

 窓から飛び降りようと足をかけた。

 

 だが。いや待てよ、と思い出す。この世界に来てからのことをひとつひとつ思い出していく。窓にかけていた足はもう降ろされていた。椅子に座りゆっくり考える。

 

 そうだ。篝火がないじゃないか。

 途端に、先程の自身の行動に強烈な恐怖が込み上げてくる。もし蘇るのが、この世界ではなくあちらの世界だとしたら、また無限地獄に逆戻りだ。

 

「となると……備えなくてはいけないな」

 

 どこから現れるかわからない闇霊に対抗する為にも、もっと力をつけなくてはならない。闇霊に対して絶対的優位な立場に立つために、まずはこの世界のスキルを極めよう。

 

 鎧を装備して、兜を被ったタイミングで部屋の扉が開かれた。

 入ってきたカズマは一瞬驚くも、起きている不死人を見て安堵の表情を浮かべた。

 

「よかった、目が覚めたんだな………その格好なんだよ」

「ちょうどよかった。カズマ君、君にスキルを教えてもらいたいんだ」

「無視かよ……って、スキル? 別にいいけど、金は払ってもらうぜ」

 

 問題ない。そう言って不死人はソウルに変換されていたエリス金貨の入った袋を取り出した。手に収まらない大きさのずっしり重い金貨袋だ。

 いきなり現れた金貨袋に、カズマはなんだそれと驚き問おうとするが、投げ渡されたそれの中身を見た瞬間、カズマの目の色が変わった。

 

「細けえことはいいや、ついてきな!」

 

 案内されるがままに外へ出る。そこは街の中ではなかった。人の往来もない、広い敷地のど真ん中に建てられた屋敷だ。

 

「カズマ君、きみは貴族だったのか?」

 

「違えって。まぁ〜色々あって、あの屋敷には幽霊がいるらしくてもらえたんだよ。いまは浄化されてるけど」

 

「そうだったのか……すごいなカズマ君たちは」

 

「いや〜、それほどでもあるけどな。てか、騎士さんってそんなキャラだったっけ」

 

「む、そうだったか? そんな変わったようには思わないが」

 

「絶対に変わったって! 普通に話せているし、なんか前までのなんというか……近づいたら殺す、みたいな雰囲気もないしさ」

 

「そうか。それはきっと」

 

 そこまで言いかけて不死人は、やはりまだ黙っておこうと思い直した。

 

「きっと、必死だったからかもしれんな。早くレベルを上げようと」

 

「それにしては殺気立ってたけど……気のせいかぁ」

 

 なんとか誤魔化せた。そう安心していると。

 

 誤魔化したああー! やっぱ変だよこの人! 早くスキルを教えて早く離れよう。そして金輪際関わるのをやめよう。

 

 カズマは決心した。必ずやかの傍若無人なパーティーメンバーに言い聞かせると。

 

「よし、この辺りでいいだろ」

 

 カズマは、まず不死人に自身の持つスキルを見せた。それらの中から気に入ったスキルを、不死人に選んでもらおうとしていた。

 

「ドレインタッチというのはいいな。人に魔力を与えることやもらうことができるとは」

 

 真っ先に不死人が目をつけたのはドレインタッチであった。ダークハンドとは違って、自分の力を相手に分け与えることができるというのは魅力的であった。

 

 すぐさまドレインタッチを習得する不死人。

 

「カズマ君、すまないがこれを試してみてもいいだろうか。そちらに魔力を分け与えるのでな」

 

「えっ……」

 

 カズマは思った。この男が使う魔法はどれもとんでもない威力のものだった。つまり、内包する魔力は計り知れない。そんなものを一気に送り込まれたら、カズマの身体はあっという間にパンッとなるであろう。

 

「頼む! ちょっとでいいのだ! ほんのちょっとやってみたい。協力してくれ!」

 

 だが、不死人の強い押しとすでに報酬をもらっていることで断ることはできなかった。

 

「よ、よぉぉ〜し。いいぞ。けど、ちょっとな……ほんとにちょっとだけだからな! フリじゃねぇからな! ちょっとだからな!!」

 

 差し出されたカズマの手を握り、不死人は想像する。分け与える感覚。昔、なんどもしていた人間性を分け与えるあの感覚が近いだろう。あの感覚を思い出して、ほんのちょっとだけ魔力を流し込むのだ。

 

「いくぞ、『ドレインタッチ』!」

 

「お、おおお!! きてるきてる、いい感じ! すっげぇ、制御できてるじゃん!………って、なんだこれ」

 

 魔力が流れてくる中に、別のものを感じ取ったカズマは瞬時に手を離す。なんだ、何を流し込まれたんだ。うっ、頭が……

 

 しまった。不死人は想像しすぎてしまった。人間性を分け与える感覚を思い出しすぎて、間違えて人間性を少し(1個)分け与えてしまった。苦しそうにするカズマの肩に手を置くと、カズマは苦しむのをやめて振り向いた。

 

「なっ!! ど、どうしたんだカズマ!!?」

 

「心配をかけてごめんな! けど、もう大丈夫だ。騎士さんこそ、大丈夫か? スキルはちゃんと発動したのかな、もし俺に手伝えることがあるなら、気兼ねなく相談してくれ! もう僕と騎士さんは友達なんだからな!」

 

 なんということだろう。カスマだのクズマだのと街で言われていたカズマが、好青年のようになってしまったではないか。心なしか、目が光り輝いてみえる。

 

「あぁ、大丈夫だ。とりあえずもう大丈夫だ。用事を思い出したのでな、すまないがここで失礼する」

「そうか、残念だ。でも、よかった! それじゃあな騎士さん! また会おう!」

 

 逃げ出すようにその場を離れた不死人は、しばらく葛藤していた。戻すべきだったのではと。だが、僅かにかつての戦友を思い出せるような話し方は聞いていたかった。

 

 そんな葛藤をされていると知らないニューカズマは、仲間たちがまだ眠っている我が家へと意気揚々と帰っていく。

 

「そうだ、まだ朝食がまだだったな。みんなの分を作ろう!」

 

 どこからか取り出したエプロンを身につけ、台所へ立つカズマ。料理スキルを覚えていたカズマにとって、料理はお手の物だ。更に現在の性格が相まって、その料理に込められた仲間への愛情の深さはそのまま旨さへと変貌していく。

 

 そこへ、寝ぼけ眼でめぐみんが起きてくる。料理の音からして、ダクネスが先に起きていると思っていためぐみんは、台所を見て眠気が吹っ飛んだ。

 

「おはようござ………えええええええええええ!!」

 

「おはようめぐみん! 今日はいい朝だな! 顔を洗ったら席で待っててくれ、すぐ料理ができるからなっ!」

 

「か、かかかかかかかカズマッ!? どうしたんですかこんな時間に! しかもこんな料理まで…いや、そもそも顔もなんだか……」

 

 完全に意識が覚醒しためぐみんは、持ち前の観察眼と頭脳で現在の状況を分析しようと試みる。だが、どう頑張っても今の状況になる要因が思い浮かばない。

 

「ここは、一時撤退ですっ!」

 

 全力でその場から逃げ出しためぐみんは、真っ先に仲間たちを起こしに行った。まだ半分眠っている仲間たちをなんとか叩き起こして、背中を押して台所へと連れて行った。

 

「ああ! みんな起きてきたんだな。もうすぐ料理ができるから、みんな席についてくれ」

 

 輝くような笑顔と、手に持った美味しそうな料理。そして若干デッサンの違った顔があった。

 

「か、かかかかかかかカズマーー!!!??」

 

 このカズマ好青年化事件は、アクセルの街の七不思議として伝えられるようになるのだが、それはまた先の話。

 

 このあと、不死人にスキルを教えていたことを知っためぐみんが、街の隅で焚き火にあたっていた不死人を見つけ出してカズマを元に戻してもらうのであった。

 





俺は一度死んで生き返った

俺も一度死んで生き返った

俺も一度死んで生き返った

以下エンドレス

これがダークソウル


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この素晴らしい世界に亡者を


 もしもコロナタイトによって不死人が死んでいたら……ではなく

 これが正史であり、前話がもしもの話。

 不死人がいる時点で、GOODENDは有り得ないのだ


 

 

 嗚呼………渇く…渇く……どうしようもなく渇く

 

 あれは……湖か?

 

 ゆらゆらとゾンビのような足取りで近づいた

 

 

 水に頭を突っ込んで飲み続ける。

 

 ダメだ………渇きは治らない。

 

 

 何か……なんでもいい…この渇きを止めたいのだ。

 

 

 ガサッ

 

 

 茂みから音がした。

 ぐるんと首だけが回ってその方を見る。

 

 ウサギがいた。

 

 そのウサギは一撃兎と呼ばれるなかなか強い部類のモンスターであった。だが、相手が悪すぎた。

 

「光が……」

 

 

 この者にとってそれは、暗い洞窟の中に灯った微かな光に見えた。

 

 刹那。

 

 一撃兎が認識するより早く短剣が兎の胴体を貫いていた。

 

 亡骸となった一撃兎から彼へと、ソウルが流れ込む。

 

 

 しかし……

 

 

 ああ……足りない…………少ない……なんて矮小なソウルだ。

 

 

 焼け石に水とはこのこと。砂漠に水滴を垂らすようなものだった。地面に落ちる前に蒸発してしまう。

 

 それどころか逆効果だった。ソウルを得る感覚は、彼の飢えに拍車をかけた。

 

 

 その時だった。

 

 

 

 このソウルは………!!

 

 そんなに遠くない場所から、とてつもなく濃厚なソウルを感じ取った。

 

 これほど神聖なものは滅多にない。

 

 この飢えを、このソウルで埋めることができたら、それはどれほど甘美なことだろう。

 

 

 ゆらゆらと、ゆっくり、しかしその足先はまっすぐアクセルの街へと向いた。

 

 

 

 

 

 

 そのころアクセルの街では不死人の墓が作られ、慎ましやかな葬式が行われていた。

 

 参列者はカズマ、アクア、ダクネス、ギルドの職員、そしてデストロイヤー討伐に参加していた冒険者の一部だった。

 

 地面に埋められてゆく簡素な棺桶には、誰も入っていない。それは不死人の壮絶な死に方が原因だった。

 

 コロナタイトを掴んだ不死人はどんどん輝きを増していき、眩しさが限界まで達した瞬間、その身体の内側から爆発したのだ。

 

 幸いだったのは、全員が眩しさで目を閉じていたことだろう。

 

 だが、耐性のないものやカズマやめぐみんはそれが何か理解した途端に吐き気を堪えきれなかった。

 

 アクアがすぐに浄化して綺麗になったが、一度見て嗅いでしまったそれを忘れることはできない。

 

 ダクネスや他のベテラン冒険者に介抱してもらい若干落ち着いたと思ったら、今度はデストロイヤーが爆発するというアナウンスが流れるではないか。

 

 仲間を失った悲しみに涙を流す暇もなく、冒険者たちはデストロイヤーの外へと避難した。

 

 デストロイヤーはカズマの機転で、ドレインタッチを使いアクアの魔力をめぐみんに移して特大の爆裂魔法を放ってもらい、消滅させた。

 

 これまでで最高規模の爆裂魔法に関わらず、めぐみんの顔はまるで苦虫でも噛み潰したようにしていた。

 

 冒険者たちの歓声が響くも、カズマたちの心は沈んだままだった。

 

 アクアは不死人に対していい思い出はあまり無かった。だが、街を救った人物の魂を女神として少しでも良く弔ってやりたかったのだろう。女神としての力を込めた祈りを捧げた。

 

 そして、カズマは街を救った英雄として不死人の墓を作り、葬式を開いたのだった。

 

「カズマが人の為にお金を使うなんて、そういう一面もあったのね」

 

「お前、俺のことなんだと思ってんだよ」

 

 いつもなら更に一言二言罵倒するが、今はそんな気は起きなかった。それにわかっていた。アクアが自分を元気付けようとしていることを。

 

「めぐみんの様子はどうだった?」

 

「まだ眠ってるわ……無理もないわよ、あんなものを目の前で見ちゃったら」

 

 そう、めぐみんは家で寝込んでいた。不死人が死んだという悲しみもあったが、なにより壮絶な人の死を目の前で目撃してしまったのだ。体調も芳しくなく、しばらくは自宅療養だろう。

 

 だが、きっといつかは元に戻るのだろう。いつも通りの喧しい仲間たちに振り回される日々が待っているのだ。

 

 だから今は、ゆっくりと過ごそう。

 

 傷は時間が治してくれる。

 

 

 

 

 しかし、現実は甘くなかった。

 

 

 葬儀が終わって屋敷へ戻ったカズマ、アクア、ダクネスらはそこで信じられないものを目の当たりにする。

 

「そ、そんな………まさか!」

 

 屋敷の玄関を開けた時、そこにいたのは不死人だった。目の前で爆散死した筈の不死人が生きて立っていた。

 

「いったい……何がどうなってんだ……確かに死んだと思ったのに。わけがわかんねえ、なあ説明してくれないか?」

 

 そう言って近寄ろうとするカズマを、ダクネスが引き止めた。いつもの彼女らしくない鬼気迫った表情で、腰の剣を抜いていた。

 

「下がれカズマ……。騎士どの、なんだそれは。返答によっては……」

 

 

 その手に持った剣には……見覚えのある帽子が血塗れて突き刺さっていた。

 

 

「嗚呼なんと……なんと美しいソウルだ…美しい………美しい……」

 

 アクアを見た瞬間、不死人は剣をソウルに収めてうわ言のように繰り返しながら、渇望するように両手を伸ばして近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 ぬちゃり、とめぐみんの帽子が落ちた。

 

 

 

 

 

 

「逃げろおおおおーーーーーーッ!!」

 

 

 ダクネスが叫んで、目の前の二人を担いで走り出した。止まらない冷や汗、背中に氷柱を突っ込まれたような気分だった。あのままあの場にいたら確実に死んでいた。

 

 一方、獲物を逃した不死人は。

 

 

 

 

 なんと……なんと美しいソウルだろうか…先程の少女も大きなソウルを持っていたが、それとは比べものにならないほど神聖で巨大なソウルだ。

 

 しかし………逃げられてしまった……

 

 

 

 

 問題はない

 

 

 

 ゆらりと片手に弓を取り出した。

 

 【ファリスの黒弓】

 弓の英雄ファリスの愛用した黒い弓。通常の弓よりも飛距離が長いが使用難度が高く、能力の低いものが使用すると、むしろ普通より威力が下がってしまうだろう。

 

 これなら………仕留められる………

 

 

 不死人は弓の照準をダクネスに合わせた。どれほど遠くへ逃げようが、ここからアクセルの街までは平野だ。隠れられそうな木も道中にはない。

 

 たとえ隠れたとしても、この弓は木ごと貫いてしまうだろう。

 

 ゆっくりと矢を取り出して構えた。限界まで上げた筋力が、弓を折れそうなほどしならせる。

 

 

 

 

 

 今だ。

 





 あーん!めぐみんが死んだ!


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この素晴らしい世界に逃走を!


         この先、ギャグ補正なし
    この先、絶望あり





 

 もしも不死人が所持していたものが拳銃だったら、カズマたちは逃げ切れたかもしれない。弾丸は決められた以上の力を発揮しない。

 

 不死人のいる世界には、盲目というのに弓矢で飛ぶ龍を落とした男がいた。不死人にあれほどの芸当は不可能だ。

 だが不死人が無限の地獄の中で得たステータスは、たった一本の弓矢を一撃必殺の兵器に昇華させる。それが射程距離最長の代物であれば、逃げ場など存在しない。

 

 

 ギリギリとしなる音がして弓がしなる。狙うのは2つのソウルを抱えて走る1つのソウル。

 

 この距離なら外さない………

 

 

 そして射抜こうとした瞬間、不死人の上空にとてつもない魔力が集う。

 

 

 これは……かわせないか

 

 

 その魔力は赤い陣となって幾重にも積み重なり、屋敷を覆って余りあるほどの大きさに成長した。

 

 

耐えられないな……

 

 

 あっさりと不死人は観念して弓矢を下ろした。

 そしてその時、陣に込められた魔力が炸裂する。

 

「エクスプロージョン!!!!」

 

 爆発する寸前、不死人は見た。遠い丘の上の茂みの中に、先程の少女が杖を構えて立っていた。

 

 

 そこにいたのか………次は気をつけよう

 

 

 屋敷を飲み込んだ爆裂魔法は、デストロイヤーを消滅させたものを除いて過去最大級の代物だった。屋敷ごと食らった不死人はあっという間に蒸発し、チリも残さず消え去った。

 

 爆発の影響は逃げていたダクネスにも及んだ。爆風と轟音に足をすくわれて転びそうになりながら、鍛え上げた筋肉で押し留めた。

 その爆発は放心状態のカズマとアクアの目に光を戻させた。

 

「今の…爆裂魔法!!」

 

「いるの!? めぐみんいるのー!?」

 

 じたばたと腕の中で暴れ出した二人に、たまらずダクネスは離して腰を下ろした。疲労困憊のダクネスに構わず、カズマとアクアは爆裂魔法を放ったであろう仲間を探した。

 

 死んだと思っていた仲間が生きていた。その事実は、屋敷の消滅を頭から吹っ飛ばした。

 

 落ち着け落ち着け! めぐみんならどこから撃つ? 撃った後は倒れるから、平地とか簡単に見つかる場所じゃない……怪我をしてるからそこまで遠くじゃないだろうから、近くの岩とか茂みのどこか……よし、じゃあどこだ?

 

 カズマは辺りを見回した。あった。屋敷からそう離れていない場所に、丘がある。そしてその上には岩は無かったが、人が隠れられるほどの茂みもある!

 

「めぐみーーんッ!!」

 

 走った。なりふり構わず走って、丘の上まで登った。

 道中、クレーターから丘の上まで続く血痕を発見して背筋が凍りつく思いをした。急がねば間に合わなくなる!

 

「めぐみーん!! 返事しろおおお!」

 

 声をかけ続けた。めぐみんの微かな声をかき消すほど声をかけ続けた。血痕を頼りに茂みを進むと、いた。

 

 めぐみんがお腹から血を流して倒れていた。

 

「っ!! めぐみん! しっかりしろめぐみん!! アクア早くしろ!回復、回復魔法を!」

 

「ゼェ……ゼェ…わ、わかってるわよ!! ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」

 

 追いついたアクアが、全力の魔力を込めた回復魔法を連発する。

 

「ダメだ、目を覚まさねえ! そうだ、アクア!魔力をめぐみんに移すからこっちこい!」

 

「ま、またなの!? もうヒールをかけたから大丈夫よ! 私の魔力もかなり少ないんですけど」

 

 勿体ぶるアクアに、カズマはそっとめぐみんを横たわらせて近づき、頭を思い切り殴った。

 

「いったいあああ! 殴った! カズマが思い切り殴った!」

 

「バカかお前!! 今日めぐみんはすでに二度も爆裂魔法を撃ってんだぞ! それに十分回復してねぇのにあんだけの爆裂なんて、魔力どころか命削ってるかもしれねぇんだぞ!」

 

 アクアがはっとする。

 言い終わると、カズマは無理やりアクアをめぐみんの近くまで連れて行き、左手はアクアの首根っこを掴んだまま、右手はめぐみんの胸に当てた。

 

「うわああああ! カズマさんがセクハラしてるー!」

 

 と、いつもならアクアは叫ぶだろうが、カズマの必死の形相にその言葉は喉の奥へ仕舞われた。

 

「めぐみん!!」

 

 遅れてダクネスが到着する。

 

 その声に引き戻されるように、めぐみんのまぶたがそっと開いた。

 

「ん……私は…ここは…………」

 

「「「めぐみん!!」」」

 

 目を覚ましためぐみんに、3人が抱きついた。

 

「いったああああああああああい!!!!」

 

 ダクネスの鎧の痛みと3人分の重量に、悲鳴が響いてこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、復活した不死人は平地でぼうと突っ立っていた。

 

 

 渇きは一層強まった

 

       邪魔さえなければ

 

 

  爆裂魔法………強いな

 

 

 爆裂魔法の対策を考えていた。たとえアクアを殺してソウルを得たとしても、爆裂魔法を食らえばそのソウルも失うことになる。

 

 どうしたものか

 

 

 

 不死人が動き出すまで、まだ時間はある。

 

 

 

 

 

 

 

 めぐみんが無事だったのは嬉しいが、家を失ってしまった。いつもならスケベ心からカズマがめぐみんを背負うが、今はそんな状況ではなかった。めぐみんはダクネスに背負ってもらい、一行は冒険者ギルドに急いだ。

 

 受付まで来たカズマを見て、先程の爆音がまた爆裂魔法によるものとわかっていた受付嬢は呆れた顔で対応する。

 

「カズマさんまたですか? 街が救われたと思ったら早速問題を起こして………カズマさん?」

 

 目の前からカズマが消えた。すると周りの冒険者たちや彼のパーティーメンバーが信じられないものを見る目で『下』を見ていた。

 

 まさか、と受付から身を乗り出して下を見ると、そこには土下座をするカズマがいた。

 

「ど、どどどどうしたんですか一体!?」

 

 天変地異でも起きるのかと、ギルドが騒ついた。それもそのはず、カズマはクズマやカスマなどの悪名が轟く男だ。ひん曲がった性格の持ち主だ。それが今、地面に頭を擦り付けて土下座をしている。

 

「頼む!! 俺たちを助けてくれ!」

 

 

 

 

 

 受付などで話ができるものではないと察した受付嬢のルナは、奥の応接室にカズマたちを通して、これまでの事情を聞いた。

 

「まさかあの騎士さんが……」

 

 ルナは信じられなかった。騎士はこれまでギルドで様々なクエストを受けていった実力派の冒険者だったからだ。

 それになにより。

 

「生き返ったというのは……そもそも本当に彼だったんですか? 見間違いということも…」

 

 

「いいえ、間違いないです! 格好といい、なんか風格っていうんですかね、間違いなくあいつでした」

 

 頑として同じことを繰り返すカズマに、ルナはでは、と応接室の角にある棚からベルを取り出して机の上に置いた。

 

「これは、嘘を見抜く魔道具です。試しにやってみましょうか。ゴホン  私は男です」

 

  チリーン

 

「こんなものが……」

 

 カズマは目の前の魔道具に冷や汗をかいた。もしこれを使われていたのがこういった場ではなく、取り調べなどだったらどれほどキツい状況だったことか。

 

 だが、今はこれが頼もしい。

 

 カズマはもう一度、不死人に襲われた事実をルナに聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドの出した結論はこうだった。

 

 

  『騎士  指名手配  賞金1億エリス』

 

 

 顔はわからない為、似顔絵は鎧だけになってしまっているが、これで少しは安心できるものだ。

 

 賞金の1億エリスは、カズマたちがデストロイヤーを討伐したことに対する報償金の中から出すことになった。

 まだ賞金を渡されていなかったことが幸いした。屋敷は失ったが、財産は残っていたのだ。

 

 しばらく宿屋に泊まることになるだろうと、いい場所はないか探していたカズマは、突然つまづいて顔面から地面に倒れてしまう。

 

「ぶべら!」

 

「ぶべらって! 今どきぶべらって、プークスクス!」

 

 二人のいつも通りのやりとりを見て、少し気が楽になってきたダクネスはそのつまづいた場所を見て駆け寄った。

 

「ウィズ! どうしたんだ!」

 

 助け起こされたウィズは疲れ果てたようにぐったりしていた。カズマたちはウィズを彼女の魔道具店に運んでいった。

 

 魔道具店に入った一行は、奥の部屋にあるウィズの寝室に運んで一息ついた。布団の中で苦しそうにうなされるウィズの様子に、カズマは

 

「おいアクア、まさかなんかやってねぇだろうな」

 

「やってないわよ、てか出来ないのよ。この子の身体にとてつもない量の魂みたいなのが入ってて、それに阻まれちゃってるの」

 

「魂みたいなの、それって………ん?お前いまなんて言った?」

 

 アクアを白い目で見るカズマ。

 

 その時、ウィズの目がゆっくりと開いた。

 

「おおウィズ、気がついたか」

 

「ダクネスさん…えっと、ここは……えっ!? なんで皆さんが私の部屋に!」

 

「落ち着いてください、あなたが道端で倒れてたからここまで運んだんです。  にしてもなんでまたあんなところに」

 

 めぐみんの問いに、ウィズは思い出したのか眉をひそめる。

 

「あれは……ちょうど新しい商品を探しに歩いてた時です」

 

 商品探しに街へ繰り出していたウィズは、突然幾億もの魂の暴風雨にさらされた。周囲の人々は全く気がつかない。常人なら気が狂ってしまいそうな量の奔流だったが、ウィズは仮にも魔王軍の幹部、そして元アークウィザードのリッチーだった。それらの要因が重なり、ウィズは気絶寸前で留まることができた。

 

 それはちょうど、めぐみんが特大の爆裂魔法で屋敷ごと不死人を倒した時と重なる。

 

 不死人がデストロイヤーの中で死んだ時、その場に留められていた大量のソウルがもう一度死んだ時に解放されたのだ。

 だが、ソウルのことを知らないカズマたちにこれを理解することはできない

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 否! 一人だけいた。

 

 知能指数の高い紅魔族の中でも、更に賢い少女がいた。

 

「その魂の奔流が襲いかかってくる前、我が爆裂魔法の音は聞こえてました?」

 

 めぐみんは、顎に手を当てて難しい顔をしながら問いかけた。それにウィズは首を縦に振る。

 

「ええ、ちょうどそのすぐ後でした。でも、それが何か」

 

 

 

 

 死んだはずの騎士の復活

 

   襲いかかってきた騎士の異様な雰囲気

 

 

 しきりに呟いていた『渇く』という言葉

 

  ウィズの気絶

 爆裂魔法

        魂の奔流

 

 爆裂魔法を食らう寸前の騎士の落ち着き様

 

「……うそ…まさか」

 

 最悪の展開を想像してしまっためぐみんは顔を青ざめさせた。もしこれが本当なら……

 

 

 

 

 

 その頃、アクセルから離れた平野では

 

 

 

ふむ、これならいけるか……

 

 

 ゆっくりと不死人が立ち上がった。

 

 

 

 

 





 お前は! 死んだはずの!

    モハメド・めぐみん!!

「YES! I AM! チッ チッ」




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この素晴らしい世界に安楽を!

「フロムはアメリカで生まれました。日本の発明品じゃありません、我が国のオリジナルです。しばし遅れをとりましたが、今や巻き返しの時です。」

「ダークソウルは好きだ」

「ダークソウルがお好き? けっこう。ではますます好きになりますよ。さぁさぁ、どうぞ。ダークソウルの二次創作です。……爽快でしょ? んああぁ、仰らないで。
 クロスがこのすば。でも原作なんて見かけだけで、展開は滅茶苦茶だし、よく死ぬわ、すぐ不死人が殺すわ、ろくなことはない。
絶望感もたっぷりありますよ。どんなフロム脳の方でも大丈夫。どうぞ見返してみてください。
……いい不死人でしょう? 余裕で亡者だ、フロム感が違いますよ」

「一番気に入ってるのは……」

「何です?」

「……全滅オチだ」


 あり得ない。その単語が何度も頭を過ぎる。でも同時に、一番確率が高いのがそれだという答えは変わらない。

 

「あの男は、不死なのかもしれません」

 

 ………ちょっと、なんですかその何言ってんだみたいな顔は。しかも、よりにもよってアクアにまで馬鹿にするような目を向けられました。

 

「いやいやいや、めぐみん。あいつ死んだからな? 生き返ってきたのはビビったけど、死んだのは……その、お前も見ただろ?」

 

 私に気を遣ってか、ちょっと言いにくそうにカズマが言う。たしかに私たちの目の前であの男は爆散して死にました。だから私も違うんじゃないかと思ってました。

 それを確信に変える為にも、ウィズに問いかけた。

 

「ウィズに突然質問なんですけど、死んでも生き返れるような魔法とか、それに近いことができる生き物って心当たりありませんか?」

 

「ええ!? 死んでも生き返るってまるでバニ、あああなんでもないです!」

 

 誤魔化してるつもりなんでしょうか……。

 

 どうやら心当たりがあるようだけど隠されてしまいました。そういえば、以前ウィズが言ってましたね。私は城の結界を維持しているだけで普段は中立、だと。

 

 ならば、聞き方を変えるだけです。

 

「じゃあ質問を変えます。その生き物は複数いますか?」

 

「あの〜、私は先程から何の事を聞かれているんでしょう。できれば説明していただけませんか?」

 

「いいえ、今は時間が惜しいです。すぐにでも吐いてもらいますよ! じゃないといくらパワーアップした貴女でも一瞬で消滅するほどの浄化魔法を、アクア大先生がぶちかましますからね!」

 

 後ろにいたアクアを前に押し出す。

 

「お前、真顔でえげつない脅しすんなよ。ウィズが可哀想じゃねーか」

 

「何言ってんのよカズマ! こいつはリッチーよ、倒すべき敵よ。それなのに今こうして見逃してあげてるだけでも異常なんだから!」

 

「お前もお前で調子に乗んな! 宴会芸しか能のない駄女神がっ!」

 

「ああああーーー!! またカズマが言っちゃいけないこと言ったああああ! 謝りなさい! 女神を侮辱してすみませんでしたって! ほら早く謝って!」

 

 ああもう、今は一分一秒でも時間が惜しいと言うのに。

 

「うるさあああーーーーーーーいッ!!!」

 

 ビクッと二人の肩が跳ねて、顔をこちらに向けた。なんですかその顔は。今はこんなことしてる場合じゃないんですよ。緊急事態かもしれないんですよ。

 

 この剣幕のままウィズに向き直る。

 

「とにかくすぐ答えてください。いいですね!!」

 

「は、はいイイイー!」

 

 気圧されたウィズはガクガクと首を縦に振った。

 

「ねえ……どうしちゃったのかしらめぐみん」

 

「ああ、あんなに怒ったところは見たこともない」

 

「オレに聞くなって。わかるわけねぇだろ?」

 

 

 

 なにやらこそこそと話し声が聞こえますが、それも無視です。でないと手遅れになってしまうかもしれない。

 

 

 

 

 数分後、ウィズから確認したいことを全て聞いた私はそれらの情報のピースを頭の中で一つずつ、しかし迅速に組み立てていった。

 

 

 

 

 

 そして、結論が出た。

 

 

 

 

 

 

「あ…………勝てないですね」

 

 

 

「何が?」

 

 カズマが聞いてくる。

 

 そんなの、決まってるじゃないですか。

 

「あの不死の男にですよ。多分…いえ絶対にここにいる全員でかかっても無理です。勝てません。全員殺されてしまいます」

 

 

「「「……………え?」」」

 

 

「そもそも、おかしいと思いませんでしたか? あの男が術を使うとき、例えばあの巨大な光る槍です。あれだけ強大なものなら、私だけじゃなくカズマにだって凄まじい魔力の流れがわかる筈です」

 

 でも、何も感じ取れませんでした。

 

「カズマがわからなかったならまだしも、私にも全く感じ取れなかったのはどう考えてもおかしいです」

 

 なので。ここで仮説を一つ立てます。

 

「あの男が使っていた魔力に代わるエネルギーは魂の集合体のようなもの。だとしたら、他の人間に目もくれずウィズにだけ魂の奔流とやらが来たというのも頷けます」

 

「ちょっと待ちなさい。だったらどうして女神である私に寄ってこなかったのよ」

 

「日頃の行いの差じゃね?」

 

「いいわカズマ、表に出なさい」

 

 ボキボキと拳を合わせるアクアを無視して、話を続ける。

 

「次に私を襲いにきた時の様子ですが、あれはまるでアンデッドでした。そして、しきりに呟いていた『渇く』という言葉……まるで、そう、魂が抜けたようでした」

 

「魂………っ! そ、それじゃあまさか!!」

 

「そうです。一番考えたくなかったですが…」

 

 口の中が乾く。反対に汗は気持ちが悪いほど流れ出た。認めたくはなかったが、私が認めなくても現実は変わらない。

 

 意を決して、私は伝えた。

 

「あの男は、魂のエネルギーを身代わりにして何度でも復活できるんです!」

 

 

 

 

 

 

 めぐみんが言った言葉が、一瞬わからなかった。アクアとの喧嘩とかそんなことは吹っ飛んだ。代わりにそれを頭の中で咀嚼して、理解した。

 

「はああああああ!? なんだよそれ!」

 

 おれの言葉はその場にいた全員の気持ちを代弁した。

 

 だってそうだろう。ついこの間まで一緒に冒険していたやつが死んだと思ったら生きていて、命を狙われているってだけでも大変だってのに。この上さらにその男が不死なんて聞かされたら誰だってこうなるさ。

 

 ん? いや待てよ。

 

「なあめぐみん、その仮説だとおかしい点があるぜ。魂を身代わりに復活したってんならそりゃ一回だけだろ? あいつはお前の爆裂魔法で吹っ飛ばしたじゃねえか」

 

「私もそう思います。でも、同時にこれで終わってないっていう直感があるんです」

 

「直感って……大雑把すぎるだろそれ。なんの確証もないってのに、ビビってんのか?」

 

「ええ、ビビってます」

 

 思いもよらない返しに、黙ってしまう。

 

 めぐみんは真剣な目で見てくる。たまらず目を伏せると、めぐみんの手が視界に入った。杖を握る手は震えていた。

 

 それを誤魔化すように、めぐみんは帽子を目深に被っていつもの中二臭いポーズを決めた。

 

「それでも! 例え相手が不死の化け物だとしてもっ! たった一つだけ残された策がこの我にはある!」

 

「おい、逃げるとか言うなよ」

 

 嫌な予感がして真っ先に言った。めぐみんは勢いを挫かれたことに不満気な顔を上げる。

 

「なんですかそれ。ビビってるのはカズマの方じゃないですか」

 

「お、おれはビビってねえし! じ、じゃあその策ってなんなんだよ」

 

「フッフッフッフッ、それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、不死人は

 

 

 

 

「足りない…………もっと…………………ぜんぜん…」

 

 身体を蝕む飢餓感は消えない。

 

 モンスターをどれだけ屠ろうと、この飢えは減るどころか増す一方だ。

 

 あのソウルだ。あのソウルだけがこの苦しみから解放してくれる。

 

 唯一の救いを求めて不死人は歩き続けていた。

 

 あのソウルの気配はもう覚えた。どこへ行こうと決して逃しはしない。それこそ深淵に逃げようとも追いかけるだろう。

 

 その時、前方の茂みが揺れた。

 

 足を止めて不死人は黄金の残光と暗銀の残滅の曲刀二振りを構えて警戒する。確実に何かがいる。それが何か把握するまでは下手に動けなかった。

 

 その気持ちを察してか、ゆっくりとそれは茂みから出てきた。

 

「アナタ……ボウケンシャ、サン?」

 

 出てきたのは、とても愛くるしい緑髪の少女だった。服はボロボロで、傷も負っているようだ。庇護欲を感じさせる少女は潤んだ瞳で不死人を見る。

 

 不死人は安心した。どうやらモンスターではないようだと、構えていた両手を下ろした。

 

 怪我をして、フラフラと今にも倒れそうな少女に不死人は近づいていく。

 

「オネガイ、タス…ケテ、ホシイノ。ホウシュウ……コレシカ、ナイケド」

 

 そう言って少女は懐から実に旨そうな果実を取り出して差し出した。

 

「うまそうだ………」

 

 そう言った不死人の手が、熟れた果実に伸びていく。

 

 そして少女の首が飛んだ。

 

「エ………」

 

 

 ゴロンと転がった頭は、驚愕の表情のまま固まっていた。

 

 傷口から赤い血ではなく薄緑色の液体が流れる。この少女はモンスターだったのだ。

 しかも危険度が非常に高い安楽少女というモンスターである。

 

 不死人は死んだ安楽少女の顔を見て思った。

 

 ソウルが若干多い人間と思ったが、まさかモンスターだったとは思わなかった。

 

 

 以下、冒険者ギルドのモンスター情報の記述である。

 

『安楽少女。その植物型モンスターは、物理的な危害を加えてくる事はない。……が、通りかかる旅人に対して強烈な庇護欲を抱かせる行動を取り、その身の近くへ旅人を誘う。その誘いは抗い難く、一度情が移ってしまうと、そのまま死ぬまで囚われる。一説には、このモンスターは高い知恵を持つのではともいわれているが定かではない。これを発見した冒険者グループは、辛いだろうが是非とも駆除して欲しい』

 

 死んで植物化が始まってきた姿を見て、不死人は自身の身体にこれまでよりも多くのソウルが入ってきたのを感じた。だが、それでもほんの僅かな差だった。

 

 まだ飢えは治らない。




 原作キャラは無事だ大佐。少なくとも今のところはな。

 この先どうなるかはあんた次第だ。

 無事ハッピーエンドを迎えたければ、俺たちに協力しろ。OK?


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この素晴らしい世界に反撃を!



 ウワッハッハッハッハ!!

 久しぶりだな諸君、少し用事があって離れていたのだ。いやすまん。

 用事はなんだって? まあまあそんなことはどうでも良かろう! 太陽を賛美するのだ!


 

 

 街のそばまでようやくたどり着いた不死人は、鎧を揺らしながら進む。両手の剣先からここへ来るまでに殺したモンスターの血がまだ滴っていた。鎧も返り血で染め上げられ、その姿に以前の面影はなかった。

 

 途端、街からやかましい鐘の音が何度も響いた。やって来たのが知られたのだろう。

 

 それでも歩みは止めない。

 

「敵感知……」

 

 ソウルの技を使えない不死人だが、スキルは使用できる。レーダーを使っているように、建物すら透過していくつものソウルが見えた。

 

 

 見つけたぞ…

 

 

 幾つもの小さなソウルの中に、あの巨大なソウルを見つけた。

 

 剣を振り、血を払い落とす。

 

 周囲を見回す。もう爆裂魔法を喰らわないように要注意して、丘のような場所も念入りに観察した。だが、ソウルは見えなかった。

 

 隠れていないことを確認した不死人。しかし彼は用心深かった。『見えない体』を発動させて身体を透明にした。

 

 一歩、また一歩とアクセルの街の入り口へと近づいて行く。ガラ空きになった入り口…へ……。

 

 

 ………してやられた

 

 

 

 

「セイクリッド・ターンアンデッド!」

 

 アクアの光の柱が不死人を捉えた。

 

 透明なはずなのに、なぜ攻撃されているのか。光は不死人にかかった『見えない体』を弾き飛ばして、姿を露わにした。

 

 眩い光に落ち窪んだ目を焼かれながら、紋章の盾を構えるも、退魔の光は盾を越えて不死人の肉体へ直接突き刺さった。

 

 たまらず膝をついた。それでも尚、盾を構える腕が下がることはない。体力が削られていく感覚を味わいながら、もう片方の手に杖を構えた。

 

「いけえええーー!」

 

 静まり返っていた街に響いた声を合図に、隠れていた冒険者たちが一斉に姿を現した。杖を出した隙を逃すまいと、大小様々な杖が全て膝をつく不死人に向けられた。

 

 間に合うか!

 

「「「ターンアンデッド!」」」

 

 セイクリッド・ターンアンデッドの威力が徐々に落ちてきたのを補助するように、次から次へと退魔魔法が放たれる。

 不死人という動かない一つの的に、前から、上から、様々な場所から魔法が放たれる。

 

 だがあくまでも人間の、しかもただのターンアンデッドでは僅かな時間しか稼げない。

 

 攻撃の中、アクアの元へカズマが駆け寄った。

 

「アクア、まだいけるか!」

 

「私を誰だと思ってるのよ。水の女神を舐めないでよね、セイクリッド・ターンアンデッド!」

 

 再度、動かない不死人へ向けて光の柱が突き刺さる。

 

 その光景を見た誰かが、思わず叫んだ。

 

「やったか!?」

 

「うおい誰だフラグ発言したやつ! マジで今はやめてくれっ!」

 

 カズマが叫んだ次の瞬間、ゆっくりと、動かなかった不死人が盾を構えながら立ち上がって歩き出した。

 

「え、ちょっと嘘でしょ? 全力込めてるのよ? 女神の全力の一撃なのにどうして歩けるのよォー!」

 

「くそっ、作戦失敗だ。みんな逃げろー!」

 

 セイクリッド・ターンアンデッドを放ち続けるアクアの肩を引っ張りながら、カズマはみんなに逃げるよう促した。

 

 カズマの作戦は完璧だった。

 

 めぐみんから不死人についての予測を聞いたカズマは、まずどうやって居場所を察知するかを考えた。それは簡単に解決できた。アクアは不死人の雰囲気を酷く恐れている。遠くにいようと、ムカムカするような感覚でどの方向に居るか大体の見当がつくというのだ。

 

 そして攻撃もアクアが主砲となって強力な一撃を放つというもの。次の一撃までの時間はこの街中の冒険者の魔法で時間稼ぎをすればいい。

 

 そして見事に、不死人はその策にかかった。

 

 だが、今はどうだ。立ち上がってじわりじわりと迫ってくる姿は恐怖でしかない。

 

 

 

 アクアの『セイクリッド・ターンアンデッド』が切れた。立ち上がっていた不死人の持つ盾は、青く光っていた。

 

 

 『強い魔法の盾』

 使命を帯びた魔法剣士にのみ伝授される魔法

 一時的に大盾クラスの強靭さを実現する

 

 

 二度目のセイクリッド・ターンアンデッドの直前、一瞬の隙に不死人は発動していた。

 

 

 

 鬱陶しい光が治まった。随分と体力を消耗してしまった。

 

 巨大なソウルの感覚はどんどん遠ざかっていく。

 

「敵感知」

 

 建物越しにソウルが見える。やはりあの大きなソウルは遠くへ逃げてしまった。

 

 

 追いかけようとして、ふと視界の端に小さなソウルが見えた。木箱の中でゆらゆらと揺れているそれは、魔物のそれより小さい。

 

 

 念の為にそっと近づいて耳をそばだてる。

 

 

お願い……お願い……気づかないで…お願い……たすけてエリス様………

 

 

 声が聞こえた。助けを求めている。

 

 ゆっくりと離れて、あの巨大なソウルの方へと歩き出した。

 

 

 目的はあの女神のソウル。この飢えを止める為にも、早く殺さなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 木箱の中に隠れていた少女は、離れていく足音に安堵した。ゆっくりとずっと握りしめていた手を開いた。

 

 まだ震える手の中で、エリス教の十字架が光っていた。良かった。本当に助かって良かった。

 

 作戦失敗の号令の後、慌てて転んでしまったが為に、こんな木箱の中に隠れる羽目になった。お陰で杖もほっぽり出してしまったが、生きていることに比べれば些細なこと。

 

 

「はぁ………よかっ」

 

 

 

 

 

 

 矢が木箱に命中したのを確認して、弓を収める。ソウルが手に入るも、それは僅かなソウルだった。

 

 

 だめだ、全く足りない。

 

 

 木箱を壊した途端に襲いかかってくる可能性を考慮して、弓で攻撃したが結局出てくることはなかった。

 

 考えすぎたか。いや、今はそんなことどうでもいい。

 

 

 街の中心へと、不死人は足を進める。

 

 






  犠牲者が出てしまった。

 でもこの時に攻撃していたのは数十人だったから、たった一名の犠牲なら小さいもんだ。

 たった一名……まだ一名です。



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この素晴らしい世界に封印を










 

 

「ちくしょう! なんなんだよあんなの!」

 

「化け物なんて呼び方が可愛く思えるぜ…」

 

「生きてる……わたし生きてるわ!」

 

「もうやだ…おうち帰りたい」

 

 

 油断してたであろう相手への一斉攻撃。めぐみんの立てた作戦は見事だった。普段からパーティーメンバーに振り回されている故に、生き残る策を立てるのがうまいカズマも思いつかない策だった。

 

 

 ギルドの椅子に横たわりぼんやりと天井を見ていた。これからどうすればいいのだろうか。

 泣き声がして、首だけを動かしてそちらを見ると女の子が泣いていた。それをパーティーメンバーが背中を撫でて慰める。

 

 仲間が死んだのだと察した瞬間、カズマは目を見開いてそれ以上そちらを見るまいと首を動かした。

 それでも泣き声や慰める声だけは聞こえてくる。なんとか出来ないのか。だが、そんな都合のいいことが。

 

「そうだ、アクア!」

 

「うわぁ! いきなり大声出さないでよ!」

 

「お前、たしか俺が一度死んだ時に蘇らせてくれたよな? あれって他のやつにも使えないのか?」

 

「リザレクションのこと? それなら、もう試したわよ」

 

「もしかして…」

 

「何人かは復活できたけど、残りはダメだったわ。蘇らせようとしたけど、そこにはもう魂はなかった。残滓すらもきれいさっぱりね」

 

 残滓すら残っていないのは変だ。天寿を全うしたのならともかく敵に殺されて死んだのに成仏したとでもいうのか。

 考えるカズマの脳裏に、不死人が持つ禍々しい剣が過ぎる。

 

「もしかしてそいつらって、あの男にやられたのか?」

 

「ええ、あの男にやられた人はみんな魂が無くなっていた。復活できたのはあの男にやられたのじゃなく、余波で死んじゃった人だけよ」

 

 泣いている冒険者たちの方を見て言った。いつもの駄女神と言われている彼女とは思えない表情だった。まさしく化け物だ。

 

「だから、これ以上犠牲を出す前にあの男を倒す相当の作戦を考えないと」

 

「不死人…」

 

 突然割り込んできたのは、めぐみんだった。杖に寄りかかり目元にはいつもの爛々とした覇気がなかった。まだ安静にしてないといけないのに無理をして出てきたのだ。

 

「おいめぐみん、まだ動かない方がいいだろ」

 

「そうよ、あなたは充分やってくれたんだから、ゆっくりしてなさいよ」

 

 寝室に戻るよう説得するも、めぐみんには届いていなかった。

 

「さっきから聞いていればあの男あの男あの男…だからこの私がわざわざ呼び名を付けてやったんですよ。不死人(ふしびと)です、もう決定です。確定です」

 

「おぉ、めぐみんにしては普通にいい呼び名だ。ってそうじゃねえだろ、お前は寝てろって!」

 

 前言撤回。いつも通りのめぐみんだった。自信たっぷりなその肩に、引き戻しにやってきたギルド職員の手が置かれた。抜け出してきためぐみんは病室へ強制連行された。

 

 倒すのは難関、倒したとしても復活して体力全開で追い詰められる。浄化魔法も生き返るのを阻止できないどころか普通に防御される始末。

 

 

「やっぱ、この街から逃げ」

「あっ、ここに居たんですねカズマさんとアクア様! やっと見つけましたよ〜」

 

 街からの逃走を考えた時、ウィズが手を振ってやって来た。

 

「貧乏店主さんだ!」

 

「店主さんが来てくれたぞ!」

 

 さっきまで諦めムードだったギルド内に、僅かなやる気が灯った。それはカズマも同じだった。すがり付くようにウィズの肩を掴んで引き寄せる。

 

「きゃっ」

「ウィズ! 相手を殺さずに戦闘不能にすることってできないか!?」

 

「なっ、なんですかいきなり!! そ、それでしたら封印ぐらいかと……」

 

 

 

「それだああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 カズマたちが作戦を練る間、不死人は僅かながら理性を取り戻しつつあった。

 

 少なくない犠牲はソウルとなって不死人へと注がれていく。

 

「『敵感知』ーーーーーもう、この辺りにソウルはないか」

 

 周囲を見回してみても、敵感知にひっかかる生き物は無かった。

 

 不死人が殺したのは冒険者だけじゃない。

 

 興味本位で近づいて来た子供をそれを守ろうとした親ごと刺し、仇だと迫って来た者は斬り払い、隠れる者は敵感知で見つけ出して糧としていった。

 

「これだけ殺して、やっとこの程度……やはりあの巨大なソウルを……」

 

 なんだ、肌がピリピリするような強いソウルだ。だが、あの女神のソウルではない。別のソウルだ。この感じはどこかで……。

 

「そうだ、あの魔道具店の女か! だが強い……なんと強く大きなソウルだ。隠していたのか、小賢しい真似を!」

 

 口元がつりあがった。ソウルの輝きに目を奪われた。罠があるかもしれない。その可能性も頭から抜け落ち、一直線に不死人はギルドへと駆け出した。

 

「ハッハッハッハッハッ! なんと凄まじいソウルの光か! あの女神とやらが霞んで見えるわ!」

 

 徐々に語気を強めていき、半狂乱の不死人が街道を走る。時には脇道を通り、時にはすれ違いざまに住民を斬り捨てる。

 

 不死人が通ったあとに淡い光の軌跡が現れた。ソウルが身体の内側から滲み出すように、鎧も剣もソウルの光を発してソウルへと戻っていく。あるべき場所へ帰ったソウルとは別に、新たなソウルが不死人の全身を包んだ。

 

 

 猛々しい鎧と獅子を模した兜には雷の力が宿り、未だ幽鬼のようであった不死人の動きが洗練される。

 

 空いた右手で虚空を掴めば、身の丈を超えた十字槍が姿を現した。それを少し振るえば空気は切り裂かれ衝撃波が周りを吹き飛ばす。

 

 

『竜狩り』の騎士 オーンスタイン

 

 

 グウィン王の四騎士の長にして、その身一つで『竜狩り』を成した伝説の存在。

 

 だが、いまその鎧を纏った不死人はソウルへの渇望に溺れ、高尚であった彼には似ても似つかない『何か』に堕ちていた。

 

 

 雷の力で高速移動を可能にした不死人は、目にも止まらぬ速さで駆ける。

 

 

「待っていろ、そのソウルを我が糧としてくっ……なに!?」

 

 

 兜の下の顔が歪んだ。足を地面に突き刺して街道を抉りながら止まり、再度ギルドの方角を見た。

 

「消えよったぞ……消えよった! どこに消えた!!」

 

 

 つい先ほどまで迸るほどのソウルがあったのに、それがなんの前触れもなく消え去った。もはや周囲の細かなソウルなんて気にもとめていない。

 

 ただあのソウルがほしい。自分のものとしたい。見つけなくては。見つけなくては。

 

「『千里眼』!」

 

 冒険者が使えばはるか遠くを見ることができるスキル。それは不死人が使うことでまさしく千里を見透す眼になった。

 眼だけが移動して縦横無尽に動き回る。景色が移り変わり見慣れた建物が増えていった。その中にギルドを見つけて突入させる。

 

 冒険者ギルドの中には、ウィズの姿もアクアの姿も見つからない。

 

 ではどこに消えたのか。

 

「覚悟ォ!」

 

 千里眼に集中している隙だらけの背中を狙って物陰から飛び出した冒険者が、決死の覚悟で切っ先を突き立てようとしていた。千里眼を発動したまま不死人は振り返りもせず槍を振った。

 剣が半ばで真っ二つに折れて、短い呻き声を残して冒険者は横へ吹っ飛ばされた。

 

 

 ーーーかつて訪れた洞窟

 

 

 ーーー冬将軍が現れた雪山

 

 

 ーーー爆裂魔法を食らった館

 

 

「見つけたぞ……」

 

 これまで訪れた場所をしらみつぶしに探してついに見つけた。爆裂魔法を撃たれた館跡地のど真ん中にウィズはただ一人で立っていた。罠かもしれないなど考えなかった。

 

 雷が落ちたような音がしたと思えば、もうその場にいなかった。加減をすることなく全力で走った不死人の後ろの地面は一歩ごとに割れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カズマたちが出した結論は、不死人を封印することだった。

 

 

「だが、それを実現するとなれば成功率は格段に落ちるぞ」

 

 ダクネスの言うことは間違ってない。

 

 不死人の脅威はその不死性だけではない。爆裂魔法をギリギリとはいえ耐えられる防御力、装甲など無いかのように相手を斬り裂く攻撃力と射程距離。謎が多いスキルの数々。

 

 それらを掻い潜ってはじめてダメージを与えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 ソウルを求めて走った不死人は半刻で爆心地に着いた。館の面影すらも消し飛んだ光景は、爆裂魔法の凄まじさを物語っている。だが不死人にとってそれは重要じゃ無い。

 

 目の前の巨大なソウルの塊、ウィズを殺して己のソウルへと吸収。その後にアクアのソウルも得たのならこの世界の魔王を屠って元の世界に帰り、火継ぎを終わらせるのだ。

 

 

 突進してくる不死人に気圧されることなく、ウィズは作戦を開始した。

 

 

「『ボトムレス・スワンプ』!!」

 

 

 ウィズに目掛けてまっすぐ突っ込んでくる不死人の目の前に、巨大な沼が現れる。少し前までの不死人ならばひっかかることはない単純な罠だった。

 

 だが、目の前に極上のソウルがあっては不死人の目は盲目になる。見事に沼に足をとられた不死人は、しかし依然として前へ前へと進もうと足掻く。

 

 力自慢のモンスターですら動くことも満足にできない沼で、それでも徐々に進んでいるのは執念の為せる技か。

 

 

「今ですアクア様!」

 

 ウィズが叫んで後ろへ駆け、入れ替わるように岩陰に身を潜めていたアクアが飛び出した。その場所は以前にめぐみんが隠れていた岩陰であった。

 

 

「リッチーのくせに指図しないでっ! 『セイクリッド・ターンアンデッド』ォォ!」

 

 神々しい光を孕んで、浄化魔法が不死人に降り注ぐ。今度は防がれることもなく、アクアの浄化魔法が命中した。

 

 全身が蒸発させられるような苦痛も意に介さない。不死人は浄化魔法を受けながら沼を歩いて進んでいた。

 

「決して逃さない……決して……!!」

 

「なんなのよ!? 浄化魔法が全然効いてないんですけどォー! カズマ! 逃げるわよ! もう逃げてもいいでしょー!」

 

「ばっかおまえこっち見んな!! こっちに来たらどうすんだあ! 効いてるからお前はそのまま浄化魔法を続けてろ!」

 

 アクアの視線の先の茂みから、カズマが顔だけ飛び出させていた。

 

 不死人はあと少しで、沼地から出そうになっていた。

 

「ウィズッ! いまだああああ!!」

 

「はい!! 『カースド・クリスタルプリズン!』」

 

 平地へ上がろうとした不死人を中心にして、青い色の巨大な魔法陣が現れた。辺りに冷気が漂う。

 

「…………っ!!」

 

 まさかと不死人は気がついた。だが全てが遅かった。

 

 足が凍らされ、それを壊すために振り上げた腕も凍りついた。

 

 氷に閉じ込められたその姿は彫像のようにも見えた。不死人の必死な形相もオーンスタインの兜によって隠され、伝説の騎士の姿だけがそこにあった。

 

「止まった……のか?」

 

 それでも不死人はまだ何か仕掛けてきそうで、恐る恐る柱に近づいたカズマは不死人をじっと見つめた。

 

 作戦が成功したことをやっと受け入れたカズマは、その場にへたり込んだ。ウィズも、アクアも、誰も声を上げなかった。

 

 あまりにも失いすぎた。その喪失感は、不死人を止めたことより遥かに大きく重く彼らにのしかかっていた。

 

 

 

 

 

 ウィズの魔力で固められた氷の柱とはいえ、いつまでも続くことはない。その柱は地面ごと移動させられ、アクセルの街にあるエリス教の教会の地下に収められることになった。

 

 

 アクセルの街を訪れたエリス教の魔法使いは、ぜひ教会の地下へ来て欲しい。

 

 

 そこにはひどく寒い部屋があり、その中心には一本の氷柱があるだろう。

 

 

 その柱に触れてはならない。溶かしてはならない。割ってはならない。

 

 

 命が惜しいなら、ただ氷魔法を詠唱して欲しい。

 

 

 未来永劫、世がどれほど変わっても、それは守らなくてはならない

 

 





みなさん、いよいよお別れです!
アクセルを守るカズマ連合は大ピンチ!しかも!デビルウィズ最終形態へ姿を変えたウィズが、めぐみんに襲い掛かるではありませんか!
果たして!全宇宙の運命やいかに!
機動武闘伝Gダクネス 最終回「Gゴッドブロー大勝利!希望の未来へレディ・ゴーッ!!」


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この素晴らしい世界は世代を超えて


 話をしよう

 あれは今から36万……いや、1万4000年前だったか

 まあいい。私にとってはつい昨日の出来事だったが、君たちにとっては多分、明日の出来事だ。




 

 人の寿命は短い。

 

 だからこそ人は文字や絵を使って文化や歴史を後世に伝えてきた。

 

 しかし時間が流れるほど、伝えられるものは歪み、廃れていく。

 

 魔王が猛威を奮っていたこの世界は、とある冒険者達の手によって救われた。

 

 それから何十年か経ち、世界を救った冒険者達の生涯にも幕が下りた。

 

 世界は繁栄した。何十という世代を経て技術が進歩した世界からは、魔法などの概念が薄れていった。

 

 それでも、技術がどんなに進歩しようとも人々は伝えた。地下にある柱を溶かしてはならないことを。その言い伝えだけは守り続けられた。魔法が消えようと、進歩した技術で氷漬けにされ続けた。

 

 

 結論から言おう。封印は解かれた。

 

 それは誰のせいでもなかった。

 

 技術の進歩によって魔法が衰退し、技術力が進歩しきる前だった。氷を敷き詰めた箱に入れる、などといったずさんなものになった。

 

 

 ピシィ

 

 

 氷にヒビが入った。それは蜘蛛の巣のようにどんどん広がり、あっという間に氷が砕け散った。彫像のように静止していた不死人の瞳に光が戻った。

 

 ゆっくりと体を起こそうとして、何か狭いものに閉じ込められていることに気がついた。まるで墓地で棺桶の中に入った時のようだ。

 

 ソウルに魅せられていたこともあるが、これほど簡単に封印されてしまうとは思いもしなかった。今は何年経っているのだろうか。いや、そんなことを考える必要はない。

 

 なぜ敗北したのか。あの時もっと警戒を払っていたらよかった。

 

 兜をソウルへと戻して、右手に短剣を持ちそれで勢いよく自分の首を掻き切った。乾き切った肉が裂けて僅かな血がこぼれ出た。

 

 

 次こそは……必ず手に入れてやる

 

 

 

 

 

 

 不死人は、見慣れた平地に立っていた。

 

 以前はゆっくりしていたから、相手に作戦を立てさせる結果につながった。

 

 そこからの行動は早かった。雷の如く地を駆け、爆裂魔法で消失したばかりの屋敷跡地までやってきた。だがそこにカズマたちはいなかった。すでにギルドへ向かった後だった。

 

 面倒だが、時間を与えるつもりはない。

 

 不死人は駆けた。地をえぐり飛ばしながらアクセルの街へと走った。

 

 その途中、カズマたちを視界に捉えた。即座に左手にタリスマンを装備した不死人は、そのスピードのままカズマたちの懐までロケットのように飛んだ。

 

「なっ!!」

 

 気がついたカズマたちが急いでそこから離れようとするが、遅かった。すでに射程範囲内だった。

 

 『神の怒り』がダクネス以外のパーティーを一瞬にして屠った。唯一生き残ったダクネスは、突然の出来事に脳が処理する時間を有した。それが命取りだった。

 

 不死人の前で止まっているなど、殺してくれと言っているようなもの。後ろに回り込まれたダクネスの腹をオーンスタインの槍が貫いた。ソウルが吸収された物言わぬ肉塊を蹴飛ばして槍を引き抜く。

 

「『敵感知』………見つけたぞ」

 

不死人は油断を捨てた。ウィズという獲物を仕留めるために最善最速のルートを進むことに決めた。吹き飛んで物言わぬ亡骸になったカズマたちに目もくれず、地をえぐり飛ばしてアクセルの街へ向かった。

 

 門が見えた。猛スピードで突っ込んでくる不死人に対して二人の門番が槍で十字を作った。

 

 そんなものは全くの無意味だ。

 

 門番を巻き込んで街へ突っ込んだ不死人の姿に悲鳴が上がった。舗装された地面が一歩ごとに砕け散って不死人の通った跡になる。道の真ん中を歩いていた者は運が良ければ吹き飛ばされ、悪ければ踏み潰されて地面の染みになっていた。

 

 時折体に入ってくるソウルは僅かなものだったが、それはまるでメインディッシュ前の前菜(オードブル)のように不死人の心を湧かせた。

 

 魔法具店が見えた。もう油断もしない。必ず仕留めて「カースド・クリスタルプリズン!」

 

 

 地面を踏み込んだ足に全体重をかけて、真横に吹っ飛んだ。民家が壊れたが関係ない。先程までいた場所は忌々しい氷の柱が立っていた。

 

 

「どうして……どうして街のみなさんをッ!!」

 

 

 崩れた民家の壁を越えて、怒りに顔を歪めたウィズが現れた。

 

 まずい。この女は想像以上に強いぞ。家の外から『墓王の大剣舞』で仕留めようとしていたが予定が狂った。

 

「『カースド・———」

 

 あの魔法を使う気だ。まずはそれを阻止しよう。

 

 左手に握ったタリスマンが穏やかな気を発し、それを中心に紫の波紋が辺りに広がった。

 

「クリスタルプリズン!!』」

 

 足元に展開されていた魔法陣からは、氷は発生しなかった。それどころかどんどん消えていく。

 

 よかった、間に合ったか。

 

 『沈黙の禁則』魔術・奇跡・呪術の全てを範囲内の自分を含む全員が使えなくなる奇跡だ。

 

 突然魔法が消えたことにウィズは驚いた。生前はアークウィザードとして名を馳せていたウィズだからこそ、魔法に絶対の自信があった。

 

 その魔法が封じられたことで手数が大きく減った。だが、まだ体は動く。リッチーのステータスなら、格闘戦でも申し分はない。

 

 

 目の前に大剣の切っ先が迫っていた。

 

「えっ…………」

 

 まさしく一刀両断。聖なる光を帯びた『アルトリウスの大剣』を振るった不死人の体に、とてつもない数のソウルと人間性が入った。普通の人間より、リッチーが人間性をこれほど持っているのはまさに皮肉だった。

 

 人間性の戻った不死人は、左手に持った『アルトリウスの大剣』をまじまじと見つめた。つい今し方ウィズを葬った技は、アルトリウスが遠距離から一瞬で間を詰めてきたジャンプ切りを真似ていた。

 

 小っ恥ずかしい気分がして、鎧の頬をポリポリとかいた。

 

 

 

 

 

 






 そんな封印で大丈夫か?


 大丈夫だ、問題ない


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この素晴らしい世界に宝玉を!

 この話は「この素晴らしい世界に太陽を!」の生存ルートです。
 こっちが正史です



 貴公、もう十分であろう

 俺や他の不死人たちの分までここまで頑張ったのだ

 永遠に続く火継ぎをする必要はない

 だから、もうゴールしてもいいのだ




 街の長閑(のどか)な空気が、喧しいサイレンの音で塗り替えられた。

 

〈デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 

市民の皆様は速やかに避難してください! 冒険者の方々は装備を整えて至急、ギルドにあつまってください!!〉

 

 受付嬢の慄然(りつぜん)とする声が拡声器で広がった。サイレンで虚脱(きょだつ)していた者も事態の深刻さに走り出した。

 

「デストロイヤーか………」

 

 恐怖に駆られた人が入り乱れる通りのど真ん中で、不死人はじっと立っていた。

 

 機動要塞デストロイヤー。強固な魔法防壁や数多の魔法兵器、そして身体自体も凄まじい強度を誇るまさに歩く要塞。

 

 万が一にも魔王軍を倒す際に邪魔されたら面倒だ。更にそれを手札にでもされたら、そちらに魔法や時間を割くことになる。下手をしたらデストロイヤーに構ってる隙を狙われて、袋叩きということも考えられる。

 

 そう考えると、これはチャンスではないか。デストロイヤーに集中して戦うことが出来るのは実にやりやすい。

 

「これと……あとはこれでいいか。『敵感知』」

 

 装備を確認した不死人はその駆け足で街の外へ向かった。デストロイヤーの居場所をスキルで特定すると、その方角へ向かった。

 

 上級騎士の鎧で走る姿は、戦地へ赴く勇敢な騎士に見えたことだろう。しかしパニックを起こした住民たちは目もくれていない。更に本人は騎士とは程遠かった。

 

「この辺りでいいか…」

 

 人気(ひとけ)がなくなり、門番も居なくなって伽藍堂になった門から平原に出た。巻き込まないよう、周囲に人がいないことを確認して鎧を変えた。上級騎士はいなくなり、騎士オーンスタインが現れる。

 

 バチンッ

 

 空気が爆発したような音を立てて、不死人が消えた。右、左と手を大きく振らして走っていた。一歩毎の間隔は大きく、あっという間にデストロイヤーの全体が視認できるほどの距離まで近づいた。機動要塞デストロイヤーは脚を止めることなく進んでいる。

 

 もう少し近づいたら頃合いだろう。不死人は慌てることなく暗月のタリスマンを構えた。

 

 デストロイヤーの脚が目の前の塵を踏み潰さんと迫る。

 

 

「もう少し、もう少し………。ここでいいか」

 

 暗月のタリスマンが紫の光を帯びた。『沈黙の禁則』だ。

 

 

 デストロイヤーの脚が不死人の目の前に振り下ろされた。黒く光沢した脚が不死人の姿を反射する。

 

 ゆらゆらと波のように漏れていた光が解き放たれ、不死人の体を魔法陣が拘束具のように包んだ。しかし動けないわけじゃない。即座に踵を返して、オーンスタインの鎧の効果で底上げされた走力は不死人をデストロイヤーから遠ざけた。

 

 金属が擦れた音が、咆哮のように響いた。暴走してから何年も地上を蹂躙し続けていた怪物が足を曲げ、地面へ身体を下ろした。

 

 大きな土煙を上げて静止したデストロイヤーを見て、感嘆の息をついた。

 

「危なかった……っと、落ち着いてる場合じゃないな」

 

 デストロイヤーの魔法に関する部分を完全停止させたとはいえ、それは時間制限付きだ。次の作業へ移らなくては。

 

 オーンスタインの細身の身体に似つかわしくない大振りの剣が、右手に構えられた。

 

 それは剣というにはあまりにも大きすぎた

 

 大きく ぶ厚く 重く そして大雑把すぎた

 

 それは 正に 鉄塊だった

 

 

 黄金の残光を扱っているかのような軽さで『古竜の大剣』を試し振りした不死人は勢いよく走り出した。

 

 流石に古竜の大剣ほど重いものを持っていては、先ほどのような速度は出せない。走りながら、まずは目の前の脚を一閃した。飴細工のように変形してちぎれ飛んだ脚が大地に突き刺さる。

 

 先を無くしたデストロイヤーの脚が倒れる。苦痛の叫びのように、付け根から金属音が発生するが、そんなことにいちいち反応している暇はない。その勢いのまま時計回りにデストロイヤーの周りを走って、大剣を振り回し続ける。2本目、3本目と斬り捨てたところで、不死人は足を止めた。

 

 膝に手を当てて深呼吸をする。死なないとはいえ不死人も疲れるのだ。

 

「不味いな……」

 

 息を整えて立ち上がった時、体に纏わりついていた魔法が薄れていることに気がついた。まだ3本しか切ってないというのに。

 

「しょうがないか……」

 

 しぶしぶ暗月のタリスマンを取り出して、タイミングを待った。魔法陣がどんどん薄れて、目視するのも難しくなったところで胸の前に掲げた。

 

 紫色の波紋が広がり、『沈黙の禁則』がかけられた。動きかけていたデストロイヤーはまたしても沈黙する。

 

 早く終わらせよう。その一心でまた走り出した。『沈黙の禁則』はその効果ゆえに回数も大きく制限されている。1日に2回が限界なので、もう使えないのだ。

 

 4本、5本———早々と脚を切り飛ばされダルマになっていく様子は、無邪気ゆえに残酷な子供に足をちぎられていく昆虫のようだった。

 

 最後の一本が切り倒された。これでたとえ沈黙の禁則が無くなろうとも、デストロイヤーは二度と動くことはできない。

 正面に戻ってきた不死人は大剣を収めて、大きくジャンプした。その先はデストロイヤーの本体に開いた入り口だった。

 

 中に入ったところで、沈黙の禁則が切れた。光を取り戻したデストロイヤーが動き出そうとするが、付け根がくるくると空回りするだけに終わる。

 

〈被害甚大につき自爆機能を作動します。乗組員は、ただちに避難してください。乗組員は、ただちに避難してください〉

 

 なんてことだ。思わず膝をついた。欲を出し、動けなくしてから中を探索していい武器などを探そうと思ったのがいけなかった。

 

 予定を変えよう。早急にこの機動要塞を破壊してやる。懐から冒険者カードを取り出した不死人は、未取得だったスキル一覧に指を這わせた。

 

 力強く立ち上がった不死人は、兜を消して醜悪な顔を表に晒し、ウーラシールの白杖を持った。

 

 ダークリングが浮かび上がった瞳に力がこもった。

 

 

「『敵感知』『宝感知』『罠発見』『罠解除』———『千里眼』」

 

 怒涛の重ねがけで、デストロイヤーの内部を丸裸にした。仕掛けられていた罠が探知されたと思えば全て解除されていく。それでも、所々にもやがかかったように見えづらくなっていた。

 

 流石に重要な箇所はそう簡単には見えないか。仕方ない、その場所をしらみつぶしに回ってみよう。

 

「………………いや、待てよ」

 

 踏み出しかけた足を止める。そうだ、あったじゃないか。お(あつら)え向きの道具が。

 

 いつか、クリスと散策した洞窟で手に入れた神器だ。見た目は虫眼鏡のようだが、その元の能力はモノの死を見て断ち切れるという凶悪なもの。所有者のいなくなったそれはよく見えるレンズと成り果てたが、今はそちらの方がありがたい。

 

 スキルを発動したまま、今度はレンズ越しにもやのかかっていた部分を覗いた。

 

 見えた。『宝感知』に引っ掛かったものがある。何かわからんがとにかく手に入れよう。手を伸ばして、照準を定めた。

 

「『スティール』!」

 

 光が手元へ瞬間移動した。

 

「あづッ!? なんだこれはッ!!」

 

 球体だ。それも尋常ではない熱を帯びている。取り落としそうになったそれを拾おうと、左手に持っていたレンズを落としてしまった。神器が砕け散った。だが今はこの球体だ。

 

 熱い。熱すぎて直接触れている手の鉄が溶けてきた。このオーンスタインの鎧も長くは保たない。まるで指輪もなく溶岩の中を歩いていた時のようだ。

 

「———ッ! そうか!」

 

 閃いたアイデアを即座に行動に移した。片手に持ち直して、空いた手に指輪を2つはめた。『炎方石の指輪』と『黒焦げた橙の指輪』だ。するとどうだろうか。あれほど熱かったコロナタイトの熱を感じなくなった。いや、熱は感じるが僅かなものだ。

 

 落ち着いたところで、ようやくそれをソウルに変換して収納する。

 

 

 

『コロナタイト』

 

 これ自体が高熱を発する宝珠。存在自体が幻といわれるほど希少であり、その希少な宝珠1つで永久機関を作れるほどのエネルギーを秘めている。機動要塞デストロイヤーの動力源として組み込まれていた。

 

 

 

 デストロイヤーのアナウンスが止まった。エネルギーを失った為だ。ヒヤヒヤしたが、無事に止められたようで何よりだ。振り向くと、魔法壁も消えていた。入ってきた穴から外に出れば、空は雲ひとつない晴天だった。

 

 その空に力が吸い込まれたように、仰ぎ見たまま膝をついた。このコロナタイトを使えば、火継ぎを終わらせるだけじゃない。未来永劫、火の時代は続くことだろう。

 

 ロードランは………世界は救われた。

 

 不死人が感じたものは達成感ではなかった。無限に等しい火継ぎの旅がようやく終わるという虚脱感だった。

 

 足元へ視線を落とせば、デストロイヤーの体が赤熱していた。籠もった熱が爆発しそうなのだろう。きっとアクセルの街は吹き飛ぶだろう。自分も爆発に巻き込まれて死ぬだろう。

 

 だが、もう構わない。あの街に行く必要はなくなった。あとは魔王を討伐して元の世界に帰ればいい。

 この爆発で死んだら、偶然元の世界に帰れるなんてのはどうだ。いいや、そんなうまい話は無い。魔王を倒すのも一苦労だろう。

 

 

「いまは……少し………休ませてくれ」

 

 

 デストロイヤーの体表に横たわった

 

 

 重い装備を外す

 

 

 視界一杯に広がった青空も、瞼を下ろして遮断する

 

 

 チリチリと体が焦げる音も消える

 

 

 私——いや、俺だけの時間だ

 

 

 

 

 

 耳をつんざく爆音と衝撃で体が木っ端微塵に吹き飛ぶまで、不死人は安らかに横たわったままであった。




  この素晴らしい世界に不死人を! シーズン1 完



 そして、不死人の伝説はひとまず幕を下ろします。


 しかしそれはまた、新たな冒険の始まりでもあったのです


 To Be Continued


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第二章 不死人の選択
この不死の男に爆裂を!


 


 不死人の進む先には、厳重な警備が敷かれた建造物があった。石造りの厳格な建物は犯罪者が入れられる施設だ。目視で確認できる見張りは4人。門の前に2人、建物の上に1人ずついた。中にはもっといるだろう。

 

「おい、最近捕まった奴のこと知ってるか?」

「ああ、魔王軍の関係者らしいな……あんな子供が手先なんて信じられん」

「尋問を見てた書記の話だと、魔道具が鳴ったそうだな」

「嘘を見抜くという魔道具か、ってことは本当なんだな……手先とはいえ子供をこんなとこに入れなきゃならねえのは、嫌だな」

「よせって、勇んでも俺たちじゃ何もできない…それよりそのガキの事だ。どうやらあいつ以外のパーティーメンバーは女だけらしいんだ、それも美女揃い」

「早く死刑にならねえかな」

「…………全くだな」

 

 

 兵士の話が本当ならカズマは魔王軍の手先らしい。だが、そうは思えなかった。普段彼らと接点がなくても、カズマの事は噂で聞いていた。目的のためなら手段を選ばない男だと。何をしたのかと聞いてみれば、下着を剥ぎ取ったり仲間を囮に使ったりなど。

 その程度か。不死人の率直な感想だった。パッチ(クソッタレハゲ野郎)と比べてもまだ可愛いと思える。

 

 兵士の会話を聞きながら、正門を堂々とくぐる。見つかってはならないので、静かに眠る竜印の指輪で音を消して霧の指輪で姿を隠していた。更に念には念を入れて影の装備を付けていた。

 

 脱走対策だろう、中は外観と同じように石造りで、壁にランプがあるだけで目印も無い。このまま当てもなく進んでは迷うのは必然だ。

 

 敵感知のスキルを使えば青白い人の形がゆらゆらと視界に映った。これで鉢合わせする危険は無い。念のために鎧貫きとバックラーを装備して先へ進んだ。

 

 ソウルがたくさん並んでいる場所に着いた。敵感知スキルを解除すると視界が戻る。牢屋が規則正しく並んでいた。不死院を思い出させる光景の中で囚人達の寝息が聞こえて来る。その中にはすすり泣く声も混ざっていた。警備兵は居ないようだった。この幸運が逃げないうちにカズマを探し出さなくては。

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 カズマは自分のよく回る舌を呪った。どうして自分はこうも調子に乗ってしまうのだろうか。これじゃアクアと同じじゃないか。

 

 デストロイヤーがアクセルの街に来た時、自分たちも含めて他の冒険者達は水晶に映った光景に顎が外れるほど口をあんぐりさせた。

 

 警報が鳴ってそれほど経ってないにも関わらず、デストロイヤーの目の前に獅子のような鎧をつけた人がいた。その人の周りが光ったと思ったら、デストロイヤーが急に止まって地面に蹲った。

 

 そのスキルについてめぐみんに聞いても、鎧がカッコいいと目を光らせて役に立たない。ダメ元でアクアに聞いたらあんなスキルは無いと言われた。

 

 となると残った可能性は一つだけだ。

 

 あの化け物騎士さんだ。

 

 そこから俺たちは騎士の化け物さを見せつけられた。

 

 両手で持つような大剣を片手で軽々背負うと、電気のような光を出しながら軽快に走り出した。棒切れを振り回しているように大剣を振り回して、次々にデストロイヤーの足を根本から断ち切っていく。

 

「なあ、デストロイヤーの体ってひょっとして柔らかいのか?」

「なわけないでしょ。デストロイヤーの身体は、それこそ爆裂魔法でもない限り壊せないくらいかたいのよ」

「なんですと!? あのちっぽけな剣ごときが、私の爆裂魔法に匹敵するとでも言うんですか!」

 

 めぐみんはあっというまにギルドから走り去っていった。その無駄に早い脚を普段の戦闘にも役立てて欲しいと思ったけど、そもそも爆裂魔法しか使えない上に使ったら動けなくなるので意味はなかった。クソッタレ。

 

「くそっ、しょうがねぇな。連れ戻して来るから、2人はここで待っててくれ」

 

 アクアとダクネスにそう言ってめぐみんを追いかけた。もう見えなくなっていたけど、行く場所はわかっている。十中八九デストロイヤーの見える場所だ。となると、平地よりも高台の方を選ぶに違いない。

 

 街の中を走り回ってたどり着いたところには、高台がふたつあった。このどちらかにめぐみんはもう登り始めている。迷っている時間はない、俺は右の高台に賭けた。

 

 結論から言うと俺の予想は外れた。右どころか左にもめぐみんの姿はなかった。どうやら俺が早く来すぎたようだ。

 

「しまったぁあぁぁーー!!」

 

 ここへ来ておれは自分のミスに気がついた。めぐみんを見失っただけじゃなく、何をしでかすかわからない駄女神と敵に突っ込むド変態クルセイダーから目を離してしまった。こうしてる内にもめんどくさい事態になってるかもしれない。だからといってめぐみんが来るかもしれないここを離れるわけにもいかない。

 

「何を叫んでいるんですかカズマ」

 

「うおおっ!! ってめぐみんっ! お前勝手に走り出しやがって、面倒ごとを増やすんじゃねーよ!」

 

 めぐみんの頬を思い切り引っ張る。涙目でやめてと言ってるがやめてやるもんか。こっちがどれだけ焦ったと思ってるんだ。

 

「爆裂魔法は私の誇りなのです! それを下に見られて黙ってられるわけがないでしょう!」

「あっ、馬鹿!」

 

 めぐみんは俺の手を振り払うと、高台を飛び降りて城壁の上に着地した。そのまま隣の高台によじ登ると、詠唱を始めた。

 

「光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。他はともかく、爆裂魔法のことに関しては私は誰にも負けたくないのですっ!行きます!我が究極の破壊魔法、エクスプロージョン!」

 

「こんの馬鹿があああああああ!!」

 

 俺の静止も聞かず、めぐみんの爆裂魔法はデストロイヤーに命中した。

 

「お前何やってんだ! とうとう頭がおかしくなったのか爆裂馬鹿女がっ!」

 

 めぐみんのいる高台によじ登ると、めぐみんは満足そうに倒れていた。

 

「フフッ、それは私にとって褒め言葉です……それでカズマ、どうでしたかいまの爆裂は」

 

 自分のしたことの重大さに気づいてないめぐみんに、おれはマジでキレた。

 

「0点だ。お前が撃った場所に何があったかもう一度考えてみやがれ」

「な、何を怒ってるんですかカズマ……デストロイヤーは倒せましたよ。急に走り出したことは謝りますが……」

 

「いいからよく考えろ!」

 

 しばらく黙って考えていためぐみんは、ようやく自分のしでかした事に気がついて顔を青くさせていた。

 

「ど、どどどどうしましょうカズマ………わわわわたしはとんでもないことをッ!」

 

 涙を流して後悔しても遅い。あれだけの威力の爆裂魔法を受けて、あそこで戦っていた騎士が無事なわけが無い。その証拠に爆心地には何も残っていなかった。

 

「やっと気づいたか………」

 

 うろたえるめぐみんを背負いながら、おれはどうやって誤魔化そうかと考えていた。

 

 




 爆裂魔法で不死人を吹っ飛ばしてしまっためぐみん

 果たしてセーフなのかアウトなのか

 なんだって、本人が気づいてない? なら  ヨシ!


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